- 1 名前:海 投稿日: 2007/05/02(水) 23:56:55
- 愛する人のために」 谷川俊太郎
保険にはダイヤモンドの輝きもなければ、 カラーテレビの便利さもありません。 けれど目に見えぬこの商品には、人間の血が通っています。 人間の未来への切ない望みがこめられています。 愛情をお金であがなうことはできません。 けれどお金に、愛情をこめることはできます、 生命をふきこむことはできます。 もし愛する者のために、お金が使われるなら。 ------------------------------------------------ 「初めての児に」 吉野弘 お前がうまれて間もない日。 禿鷹(はげたか)のように そのひとたちはやってきて 黒い皮鞄をふたを あけたりしめたりした。 生命保険の勧誘員だった。 (ずいぶん お耳が早い) 私が驚いてみせると そのひとたちは笑って答えた。 (匂いが届きますから) 顔の貌(かたち)さえさだまらぬ やわらかなお前の身体の どこに 私は小さな死を わけあたえたのだろう。 もう かんばしい匂いを ただよわせていた というではないか。 ------------------------------------------------
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