- 1 名前: あずみ 投稿日: 2004/10/21(木) 19:52
- 第一話 (天才軍師の孫)
蒼月国は大陸南部に南部に位置する国である。すぐ隣国の尭安国にはおよばないが、温和な気候のため穀物は豊富で民はよく忠節をつくしている。蒼月国はそれほど大国ではないが、この国が大陸の三大国である尭安・天祐・柳江から一目おかれている。賢君といわれる現君主の桐祐宗重も呼び名は高いが、三国がもっとも一目を置いているのは宗重の軍師として用いられる立花清茂である。清茂はその才を振るい、三国の圧力のかかるなかでこの蒼月を三国に一目置かれるほどに成し遂げた。 立花家は主君である桐祐家と縁が深い。蒼月を立ち上げた初代当主・桐祐宗安と立花家初代当主の立花清成は親友であり、宗安の旗揚げを助けた。また、清茂の子の清忠と宗重の妹が結婚し、縁戚関係でもある。 清忠は三人の子を授かった。長子・清治、次子・清澄、そして末っ子の清光である。天才軍師は三人の孫を授かったのだった。 「よし!この手で行こう。ユウとテルはあそこの草むらに伏せてて。リュウ従兄上は中央で敵をさそいこんでね!」 「さすがだなヒカル。みんなこの作戦で行くぞ!」 草原では数人の子達が合戦遊びをしていた。 黒くつやのある髪でパッチリとした瞳の子が軍配をもって指揮をとっている。かわいらしい顔だが、作戦を立案する顔は清茂そっくりだった。この子こそが清茂が孫で末の子の清光である。 清光のことをヒカルと読んだ少年は強靭な体躯をしており、きりっとした目は威厳を感じさせる。合戦遊びをする前の顔は笑みを浮かべて優しい表情だったが今は違う。この子は現君主・宗重が子の宗隆である。宗隆は正室の子ではないが、宗重は宗隆をとてもかわいがっている。 清光がリュウ従兄上とよんだように二人は従兄弟同士である。幼少より二人はこうして仲良く遊んでいる。 清光が軍配を振り下ろす。両陣からいっせいに模擬刀槍を持った子らが打って出る。 「俺についてこいよ!」 宗隆も合図とともに中央に向かって走りだした。宗隆の隊は強かったが、相手のほうが数は多く次第に旗色が悪くなる。 「もういいでしょう。リュウ従兄さん!」 清光が合図を送る。 「おう!みんなさがれーっ!」 宗隆の隊は散り散りに逃げた。 「今だ!今日こそ宗隆たちに勝てるぞー!」 追うほうはそういって散った宗隆たちをわかれて追い始めた。先ほどまで数の多かった相手は追っ手を分けたためにそんなに多くない。宗隆たちは清光が残りを伏せた草むらのほうへうまく誘い込んだ。 「今だ!みんなうちかかれー!」 清光の合図とともに伏せていた残りの子がいっせいに討ちかかり、敵は混乱に陥った。 「それ!みんな反転だ!」 宗隆隊も追っ手に向かって反転して散々に討ちかかった。 「ま、まいったよぉ!まったく、リュウなんかにゃあ天才参謀がいるもんなぁ。」 清光の作戦が大成功して勝利をおさめてこの日はお開きとなった。 「ヒカル。またしても成功だな!さすがは俺の従弟だ。」 「ありがと従兄上。ぼくなんかまだまだだよ!」 帰り道は従兄弟同士で仲良く話しながらかえる。都門が閉まる前に二人は蒼月の都・玄城についた。宗隆は宮殿に帰り、清光は玄城の一の郭内にある立花家の館に帰った。
- 5 名前: あずみ 投稿日: 2004/10/27(水) 00:22
- 「・・」
(緊張するなぁ・・それにしても静かだ・・) 清光は緊張した表情でそのときを待っている。 (あれ??そういえば・・僕の元服には必ず出るっていってたリュウ従兄さんは城中でも会わなかったなぁ・・どうしたんだろ?) 清光はふと宗隆のことを考えた。 そのとき、上座のふすまが開かれた。諸官は皆平伏しようとしかけたが、上座より現れた者が制す。 「そのままで結構。諸卿らのご列席まことに痛み入る。しかし、今日の儀は中止となった」 そう切り出したのは九条忠明。諸官がどよめき始める。 「困惑されたことはよくわかり申す。実は・・昨夜殿が、宗重様が殺害された」 室内はうってかわってしんとなる。 (う、うそだろ・・宗重様が・・) 清光も同じく驚きを隠せない表情になっている。清茂はじっと目をつむりその表情は窺えない。 「もちろん犯人は捕らえました。しかし・・その犯人というのもまた問題でした・・その犯人は宗重様が妾、側室のお子・宗隆様でありました」 「まさか!!」 清光はついに耐え切れずに静寂をやぶって声をあげた。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 6 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/01(月) 00:06
- 第五話 (下された裁断)
翌日も宗隆・清茂の反逆の知らせが広まった街では、騒然となっている。英雄とあがめられた清茂を非難する声もいたるところで聞こえる。宗隆に対しても主君殺しの大罪人として非難されている。公表によると今日、処断が決められる。 裁きの間は畳敷きで腰ほどの柵によって罪人の場と傍聴人の場が区切られており、上座の一段ほど上がったところが裁き役奉行の位置となっている。その城内の裁きの間にはすでに文武諸官が詰め掛けている。その中には清光の父・清忠、次兄・清澄、清光の姿もある。長兄・清治は任地が北の国境の県と離れているために間に合わない。立花父子の表情は険しい。そんな立花父子に諸官らは興味の目や哀れみ、怒り、憎悪といった様々な視線を送っている。 裁き役が室内に入ってきた。その後に続いて忠明も入る。 「皆、おあつまりいただき感謝する。さっそく罪人を召喚する。連れてこよ」 入り口付近に待機する警士はすぐさま外にいる宗隆と清茂をお裁き役の前に引き出した。 「うむ。さて、そのほう達は許されぬ大罪を犯した。しかし、申し開きは聞くとしよう」 はじめから犯人と決めたような様子で裁きは始まった。 「ふむ。申し開きとな?飾りだけのこととはいえご苦労じゃの。白に黒を塗るのがおぬしの仕事のようだのぉ。左官屋にでも転職したらええのにのぉ」 清茂はちっとも悪びれずに強烈な皮肉を言い放つ。裁き役の顔がゆがむが、ここはがまんして聞き流したようだ。 「清茂殿。まじめにしてくださらないと潔白が証明できませんぞ」 冷たい口調で忠明が言う。 「おや?裁き役でもないおぬしが口をだすのか?まったくもって不思議な茶番じゃ」 それでも毅然とした口調はやまない清茂。 「清茂殿は裁判を侮辱しておられるのか?このような態度だと罪を認めるということですかな?」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 7 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/01(月) 00:06
- 二人の沙汰を聞いてどよめく諸官らを制して裁き役が言う
「静まれ。さて、二人への沙汰は決まったが・・法度には罪人の御家にも罰を課するとある。だが・・宗隆殿は国主である桐祐家であるのでこれに罰を加えることはできん。なので・・育ての親としてきた但馬安房殿。その方をかわりに一の郭内の屋敷にて蟄居を命じる。」 宗隆のことが気になり裁きの間へ詰めていた安房はこの沙汰を神妙に受けた。 「次に立花家。その方達は宗重様のお膝元の封地をもらいながらこのような罪人が出るとは、許しがたし。現在の封地・玄州12万石より南端の永越3万石への転封を命ずる。これにてこの件の裁きを終わりとする」 清忠は顔をしかめていたが、安房同様に神妙に承るしかなかった。 清茂と宗隆が警士に引っ立てられていく。これまで二人を見守っていた清光は会えなくなるという思いに抑えきれずに、柵をこえて二人のもとへ駆け出した。 「あっ!ヒカル!!」 隣にいた兄・清澄が止めようとしたが手をすり抜けていった。 「こらっ!小童がこのようなところへくるんでない!」 警士が出てきて止めようとする。 「よいよい。ふふふっ・・もう宗隆殿やお爺さまと会えなくなるからなぁ」 忠明が冷笑を浮かべながら言う。 「あにうえ従兄上!じぃ様!絶対にまた会えるよね??僕が絶対に二人の潔白を証明するよ」 「やっぱりヒカルはいい子じゃ。うむ、いつまでもまっとるからの!」 「ヒカル・・俺はしばらくこの国を離れる。お前と一緒にいれないのが残念だ。いつかまた会おう」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 8 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/04(木) 22:21
- 第六話(出国)
立花父子が館につく頃、忠明邸では和幸ら側近を招いて小さな酒宴を行っている。 「このたびはすべてうまくいきましたようで何よりでございます」 和幸が忠明へ酌をする。 「ふふふ・・皆もよう手を回してくれたのぉ」 薄明かりの部屋に忠明の冷笑が浮かぶ。 「明日あのこせがれが国をでるようで」 和幸の隣に座する爽炎和尚が言う。爽炎は書の名人であり、清茂の文書を偽造したことに助力している。和幸と同じく忠明の謀臣として重宝されている。 「影を放て。しかと後をつけさせよ。いずれ・・闇へ葬ってもらう」 「御意・・」 右目から頬にかけて鋭い切り傷がある隻眼のこの男は、忠明の隠密・影組の頭である壱岐幽才。 「うるさい立花も僻地へ左遷できましたのでご安心ですな」 「立花が封地・永越に落ち着いた頃尭安に攻め取らせ、立花を討ち滅ぼす・・我が願望が成就するのももう少しじゃ」 月の出ぬ夜に忠明邸でのひっそりとした酒宴は夜通し続いた。
(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 9 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/04(木) 22:22
- 宗隆達が出発する前に立花の屋敷を出た清光は、一行が通る予定の中央街道にある茶屋についた。宗隆達が来るまで一休みに茶と団子をほおばっている。
(日が高くなったからそろそろかな・・) 最後の団子を口に入れたとき、街道に隊列を組んだ集団がやってくるのが見えた。茶で流し込んで代金を置いた。 中央街道の北には尭安国に続くが、宗隆が送られる先は街道の南の外れで、その先は獣や蛮族の住む未開の地である。清光が休んだ茶屋の近くに小さな砦があるほかには南には関所はない。そのため清光は人に見られることなく一行より先に国境を越えることができた。清光は宗隆が来るまで岩陰に伏せる。 隊は国境の近くで止まった。 「さあ、わしらはここまでだ!あとは好きに行くがいい。こっちに戻ってくる以外はな!おっと!馬はここまでだ。ここからは徒歩でいくんだ」 頭が嫌なものを放り出せたことでうれしそうにいう。堀部源蔵が用意された旅道具の入った袋を渡す。 「ありがとう。いずれまた」 源蔵がうなずいて手を差し出した。宗隆も手を出して固く握手して別れを告げた。 「ふん!源蔵!とっとと行かせろ!」 頭の怒鳴り声が聞こえたので宗隆は足早に南の森へ向かった。 (宗隆様・・どうかご無事で) 源蔵は小さくなる背中に向かって静かに祈った。
森に入った宗隆は木陰を見つけて腰をおろした。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 10 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/08(月) 23:53
- 第七話(湯煙の中)
木陰で元服の儀をとりおこなった後二人はひらけた道を探して進んだ。中央街道から先は道がないと聞いていたが、小さくではあるが人が切り開いた道があった。きこりや森の住民が使う道のようだ。 「従兄上、どこへ向かっているの?」 やや疲れた様子で清光がたずねる。 「そうだな・・確かこの森にすむ人々のことを聞いたことがある。まずはそこにいってみようと思っているんだがな・・」 「道はこのままであってる?なんだかさっきから同じ風景だから心配・・」 清光は不安がっていたが、宗隆も実は不安であった。 しばらく二人は同じような道を歩いていたが、川に出ることができた。その川にそっていくと小さな小屋が見えてきた。 「あ!従兄上、人がいそうだね!」 疲れが見えてきた清光は顔を輝かせていった。 「そうだな。いってみるか」 二人は小屋に向かって歩いた。 小屋にたどりついたがどうやら無人のようだった。 「あれ?誰もいないのか・・」 気落ちしたように清光が言う。 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
- 11 名前: あずみ 投稿日: 2004/11/08(月) 23:54
- 「あ・・従兄上、だれかいるよ?」
「だよな・・?」 二人の間にも警戒の表情がただよう。 「あれれ?こんなところに他の人が??」 湯煙の向こうからあらわれたのは少し日に焼けた褐色の肌で、肩まで伸びたやや茶色がかったしっとりした髪を揺らし、利発そうな顔でくりっとした瞳にも茶色がまじる女性、いや歳は二人と同じぐらいであろう少女だった。 「わっわわわ!?」 湯から上がりかけていた二人は慌てて湯の中に戻る。 「このへんでは見かけない人たちだね?」 対して少女は不思議がっていたが、ちっとも怯まない。 「す、す、すまん・・ここは女湯だったかな?」 さきほど清光をからかっていた宗隆も赤面しながらたずねた。 「ん?ああ・・別に私は気にしないわ」 「僕たちは気にするよね・・」 小さく清光がつぶやく。 「あら?あんたは女の子みたいに綺麗な顔だねぇ!髪も肌も綺麗だね。もう少し髪が長かったらわからないよ」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
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