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合唱部支援用空き教室

40支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:15:54
 どうやら、俺を探しまわっていたらしい。よく見ると、額には汗が滲み出ていた。そこまでしてくれていたのかと思うとちくりと胸が痛んだ。
「…中庭にいたんだよ。卒業式の雰囲気なんて、あまり好きじゃないんでな」
「…だから卒業証書授与のとき呼ばれなかったんですね。さぼるなら、私にも言ってくれれば良かったのに…」
「言って、どうするつもりだったんだ」
「私もさぼります」
 真面目な仁科らしくない返答だった。どうして、と俺が問うと、
「だって、先輩のいない卒業式なんて面白くもなんともないですから」
 あまりにも真剣な顔で言うので、驚くよりも申し訳ない気持ちに駆られた。
『まったく、お前達という奴は…お前達の卒業を、祝ってくれる者もいるというのに』
 幸村の言葉。そこまで思っていてくれていたとは思わなかった。俺は、何と失礼なことを彼女たちにしていたのだろう。
「…悪い」
 だから、それだけしか言えなかった。
「今回は謝るだけでは許してあげません。謝罪の気持ちがあるのなら形になるものに表して誠意を示してください」
 いつになく強気な仁科。相当に怒っているらしい。
「…分かった。後で俺が何でも好きなものをおごってやる。それで勘弁してくれないか」
「本当ですか」
「この状況で嘘なんてつけるかよ…」
 すると、仁科は少し表情を崩して、
「分かりました。それで手を打ちましょう。ふふっ、期待してますよ〜」
 いつものような柔らかい笑みを浮かべた。それに俺は少しほっとする。
「それじゃあ、ちょっとここから移動しましょう」
 くいっ、と仁科が俺の手を引っ張っていく。
「ちょっ、移動ってどこに…って言うか、手を握るなっ、恥ずかしいだろ」
「嫌です。手を握ってなかったら、先輩どこかに行っちゃうじゃないですか」
「そんなことしないっての…」
 とは言いつつもしっかりと仁科の手を握っている俺。ああ、意志薄弱。



「そう言えば、ほかの奴らはどうした。杉坂とか原田とか」
「あ、はい。春原先輩を探しに行くって言ってました。すーちゃん、春原先輩のこと好きみたいですね。いつも仲良くしてますし」
 それは勘違いだと思うぞ、仁科。
「それにしても、言ってみるもんですね」
「ん、何が?」
 俺が返事すると、仁科は舌をぺろりと出しながら意地悪く言った。
「りえちゃんがちょっとでも怒れば、岡崎先輩何かおごってくれるわよ、ってすーちゃんが言ってたんです。だから、儲け物です」
 怒っていたのは、杉坂の差しがねだったらしい。俺は苦笑いするしかなかった。
「でも、少しだけ怒っていたのは、本当ですよ」
 そう言って、再び仁科は俺の手を引っ張っていった。

 連れて行かれたところは合唱部の部室だった。先程とは打って変わった、静寂が辺りを支配している。俺と仁科はそこで手持ち無沙汰に座っていた。
「来ませんねー、すーちゃんも、はっちゃんも、春原先輩も」
 仁科が呟く。かれこれもう一時間は経過している。
「あいつ、さっさと帰っちまったのかもな…多分、杉坂も原田も町の中を探しまわってるんじゃないか?」
「だとしたら、もう少し時間、かかるかもしれないですね…」
 再び沈黙。黙って待つというのもあまり好きではないので適当に話を振ってみる事にした。
「なあ、そろそろ教えてくれないか? ここで何をするんだ?」
 仁科はちらりを俺の方を見て、「喋ってもすーちゃん、怒らないよね」と言ってから照れ臭そうに言った。


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