したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

合唱部支援用空き教室

1名無しさんだよもそ:2006/09/18(月) 23:00:12
仁科 りえ(CLANNAD)

            渚シナリオに登場する合唱部所属の少女。
    _       ものすごい和みぱうあ〜を持つが、実はその陰には、事故のために
   '´  ̄ ヽ     ヴァイオリンが弾けなくなり、海外留学やヴァイオリニストへの夢を
  ノ .jノノリノ))     奪われ、失意の日々を過ごした過去があった。
 ( ノ! ゚ ヮ゚ノ) 〜♪ しかし、杉坂に励まされ、彼女と共に合唱部を設立、『脅迫状事件』の
  ) γつと))     後は渚達に協力し、創立者祭の演劇を成功に導いた。
 ( ( く/_l〉(     ことみシナリオやアフターにも登場するなど、ヘタな立ち絵あり脇役を
  ` (ノ J      凌ぐほどの出番を誇り、コミック版で念願の立ち絵(?)もゲットした。


そんな仁科さんや、杉坂、原田といった合唱部の三人組のために……!?

39支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:15:39
330 名無しさんだよもん sage 2006/07/12(水) 22:02:56 ID:Pntl0Mso0


 三月。桜の花がようやくつぼみをつけてきた頃に俺達の学校が卒業式を迎えた。しかし、俺と春原はそれに加わることなく中庭で手持ち無沙汰にだべっていた。
 俺と春原の間には特に会話もなかった。する話もなかったし、する必要もないからだ。この卒業式が終われば、俺も春原も社会人として働く日々が始まる。
 結局、面白くもなんともない学生生活だったが、唯一良かったと言えるのが合唱部の、仁科りえとの出会いだった。仁科からは、色々学んだ気がする。
「こりゃ…卒業式くらい、真面目に参加せんか」
 何時の間にか幸村が俺達のところまで来ていた。俺達を探していたのだろうか? 微妙に肩が上下している気がする。
「なんだ、ヨボジィかよ…うるせ、あんな堅苦しいもん行けるかっつーの」
 春原が幸村に話しかける。俺も頷いて賛同の意を示す。
「まったく、お前達という奴は…お前達の卒業を、祝ってくれる者もいるというのに」
「あん? 誰それ」
「お前な…多分、合唱部の連中のことだと思うぞ」
 合唱部と聞いた瞬間、春原の目が吊り上がった。
「ふん、合唱部なんてロクな思い出がないねっ。むしろ願い下げだね」
「そうか、春原杉坂にやられっぱなしだったもんなっ」
 ぽん、と肩を叩いて慰めてやる。杉坂と春原は目が合うたびにケンカばかりしていた。とは言っても傍目には痴話喧嘩にしか見えなかったので放っていたが。
 ちなみに、いつも最後は春原がボコボコにのされていた。
「ちげーよっ! やられてなんかいません。普段のアレはな、その、相手が女だからね、やられたフリをしてただけ。フリだよ、フリ」
 ふふん、と精一杯の虚勢を張る春原。
「その割には、随分痛そうな叫び声を上げてたな。ひぃ! とかうひぃ! とかクケーーッ、とか」
「最後の、やった覚えないんですけど」
「前の二つはあるんだな」
 途端に、しまったという顔をする。それからごまかすようにはははと笑った。



「…ともかく、もうすぐ式も終わるからの、最後に顔くらいは見せてやれ」
 そう言い残すと、幸村は足早に去っていく。
「なんだ、帰るのか」
「馬鹿者。わしも一応教師なのでな。席にいないとまずい。他の教師には黙っておくから、後で顔を見せてやれ」
「おっ、ヨボジィにしては気が利いてるじゃん。サンキュー」
 まったく、と呆れた顔をしつつも穏やかな顔で幸村は去っていった。
 それからさらに数十分くらいが経ったとき、体育館の方からざわめきが聞こえてきた。どうやら式が終わったらしい。
「終わったみたいだな。…で、春原は行くのか」
「まさか。行くわけねぇだろ。誰が杉坂なんかと」
 どうして杉坂の個人名が出てくるのか。と思ったところで俺はある一つの結論に達した。どうやら、春原にとって杉坂は大きな存在になりつつあるらしい。
「そうか…頑張れよ。お前にも、ようやく春が巡ってきたんだな。生暖かく応援してるぞ」
「…何言ってんの?」
 何も分かっていない春原を一人残して、俺は校門の方まで向かった。

 校門はすでに人で一杯だった。別れを惜しむ声、友達同士卒業を喜び合う声、先生と最後の会話をする声…いずれも、およそ俺とは縁遠いものだった。
 何となく気が滅入ってくる。いっそ、このまま帰ってしまおうか。俺には、あまりにも場違いすぎる。
 そう思い外へと足を向けようとしたとき、服の裾を引っ張られる感触がした。
「先輩。どこに行くんですか」
 仁科だった。何故かは知らないが肩が激しく上下していた。
「もう、探したんですよ。どこにもいませんでしたから」

40支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:15:54
 どうやら、俺を探しまわっていたらしい。よく見ると、額には汗が滲み出ていた。そこまでしてくれていたのかと思うとちくりと胸が痛んだ。
「…中庭にいたんだよ。卒業式の雰囲気なんて、あまり好きじゃないんでな」
「…だから卒業証書授与のとき呼ばれなかったんですね。さぼるなら、私にも言ってくれれば良かったのに…」
「言って、どうするつもりだったんだ」
「私もさぼります」
 真面目な仁科らしくない返答だった。どうして、と俺が問うと、
「だって、先輩のいない卒業式なんて面白くもなんともないですから」
 あまりにも真剣な顔で言うので、驚くよりも申し訳ない気持ちに駆られた。
『まったく、お前達という奴は…お前達の卒業を、祝ってくれる者もいるというのに』
 幸村の言葉。そこまで思っていてくれていたとは思わなかった。俺は、何と失礼なことを彼女たちにしていたのだろう。
「…悪い」
 だから、それだけしか言えなかった。
「今回は謝るだけでは許してあげません。謝罪の気持ちがあるのなら形になるものに表して誠意を示してください」
 いつになく強気な仁科。相当に怒っているらしい。
「…分かった。後で俺が何でも好きなものをおごってやる。それで勘弁してくれないか」
「本当ですか」
「この状況で嘘なんてつけるかよ…」
 すると、仁科は少し表情を崩して、
「分かりました。それで手を打ちましょう。ふふっ、期待してますよ〜」
 いつものような柔らかい笑みを浮かべた。それに俺は少しほっとする。
「それじゃあ、ちょっとここから移動しましょう」
 くいっ、と仁科が俺の手を引っ張っていく。
「ちょっ、移動ってどこに…って言うか、手を握るなっ、恥ずかしいだろ」
「嫌です。手を握ってなかったら、先輩どこかに行っちゃうじゃないですか」
「そんなことしないっての…」
 とは言いつつもしっかりと仁科の手を握っている俺。ああ、意志薄弱。



「そう言えば、ほかの奴らはどうした。杉坂とか原田とか」
「あ、はい。春原先輩を探しに行くって言ってました。すーちゃん、春原先輩のこと好きみたいですね。いつも仲良くしてますし」
 それは勘違いだと思うぞ、仁科。
「それにしても、言ってみるもんですね」
「ん、何が?」
 俺が返事すると、仁科は舌をぺろりと出しながら意地悪く言った。
「りえちゃんがちょっとでも怒れば、岡崎先輩何かおごってくれるわよ、ってすーちゃんが言ってたんです。だから、儲け物です」
 怒っていたのは、杉坂の差しがねだったらしい。俺は苦笑いするしかなかった。
「でも、少しだけ怒っていたのは、本当ですよ」
 そう言って、再び仁科は俺の手を引っ張っていった。

 連れて行かれたところは合唱部の部室だった。先程とは打って変わった、静寂が辺りを支配している。俺と仁科はそこで手持ち無沙汰に座っていた。
「来ませんねー、すーちゃんも、はっちゃんも、春原先輩も」
 仁科が呟く。かれこれもう一時間は経過している。
「あいつ、さっさと帰っちまったのかもな…多分、杉坂も原田も町の中を探しまわってるんじゃないか?」
「だとしたら、もう少し時間、かかるかもしれないですね…」
 再び沈黙。黙って待つというのもあまり好きではないので適当に話を振ってみる事にした。
「なあ、そろそろ教えてくれないか? ここで何をするんだ?」
 仁科はちらりを俺の方を見て、「喋ってもすーちゃん、怒らないよね」と言ってから照れ臭そうに言った。

41支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:16:08
「えっとですね…先輩達の卒業を祝って歌の贈り物をしよう、って決めてたんです。発案者は私ですけど」
 えへへと笑いながら話を続ける。
「先輩には色々と助けてもらいましたから。創立者祭のときも、他にも、たくさん」
 言われるほどのことはやってない。俺じゃなくても、他の誰でも出来ることだ。だが、それを仁科にいうのははばかられた。
「ですからせめて、先輩達が少しでも気持ち良く前へ進めるように、ってこれを計画したんです。自分で言うのもあれですが、結構練習もしたんですよ?」
 仁科が立ち上がり、発声練習だろうか、きれいな音階の整った声を発する。最初に歌声を聞いたときよりもはるかに上手になっていた。
「上手くなったもんだな」
「ありがとうございます」
 照れ臭そうに答える。俺は小さい拍手を送りながら、少し日の傾きかけた外の世界を背景にして立つ歌姫を見た。その姿を単純に、美しいと思った。
「…なあ、仁科。一つ頼みがあるんだが」
「はい? なんでしょう」
「歌を歌って欲しいんだが」
 俺の言葉が分からないと言った風に首をかしげる。
「合唱じゃない。仁科だけの、仁科一人の歌を聞いてみたい。最初に出会ったとき、お前歌を歌ってたよな。あれが何かは分からないけど」
 あれが最初で最後の、仁科一人が歌う姿だった。あれ以来、俺は仁科の歌を聞いた事がない。
「あのときの仁科の声さ、俺が今までに聞いたどんな音楽よりもすごく綺麗に思えたんだよ。だから、今聞いておきたい。俺が、まだ学生なうちに」
 仁科は少し迷ったように手を頬に当てた後、意を決したように言った。
「分かりました。先輩きってのお願いなら…ですけど、曲は私が決めていいですか」
 ああ、と俺は返事する。仁科が選ぶ歌なら、どんなものでも美しく聞こえるに違いない。
 仁科は目を閉じて選曲に入る。少し経ってから、彼女はゆっくりと目を開いた。
「それじゃあ、いきます。あまり有名な歌ではないですけれど。私の好きな歌です」



あの始まりの日 強がってた 幼い出逢いに 背伸びをしていた
同じ風を受け 笑いあった ああ、振り返れば 懐かしい日々
その足音が 耳に残る 君の声はどこにいても届く ほら
もう一人じゃない 影二つ 高く遠く響く調べ 大事に抱いて
育んだ思いを言葉に変えよう どこまでも温かな手をつないで
君との未来 語り続ける…

 長い余韻を残して、仁科が歌い終える。俺は仁科の語った調べの一つ一つを心に刻む。この歌声を背に、前へ進めるように。
「どう…でしたか? おかしくはなかったですか…?」
 少し不安そうな声。俺はゆっくりと首を振って「いや、最高だった」と賛辞を送った。
「良かったです。この歌、間違ってたり気に入らなかったりしたらどうしよう、って思いましたから」
 そんなことあるわけないだろ、と言おうとしたとき、廊下から大きな物音が聞こえてきた。
「りえちゃーん、待たせてごめんねー。こいつをとっつかまえるのに時間かかっちゃってね」
 杉坂と原田だった。その脇には、なぜかやつれた顔の春原が。
「春原先輩、見つかったの?」
「いやー、探すのに苦労したわよ。こいつ、とっとと帰っちゃうからねぇ。ねぇ、春原?」
「ひいっ、お、お待たせして申し訳ありませんでしたっ!」
 一体どんなことがあったのか。まあ容易に想像はつくわけだが。
「それじゃあ、みんなそろったから始めよっか。すーちゃん、はっちゃん、準備はいい?」
「大丈夫。体力ならまだまだあるから」
「余裕です」
 杉坂と原田がそれぞれ答え、俺達の前に並んだ。俺の横には春原が。
「岡崎…女の執念ってさ…恐ろしいよ…ね…」
「ごくろうさん」
 春原はそのまま気絶するように倒れこんだ。それを尻目に合唱部のコーラスが始まった。
 俺は、ゆっくりと目を閉じて、その世界に身を委ねた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板