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合唱部支援用空き教室

1名無しさんだよもそ:2006/09/18(月) 23:00:12
仁科 りえ(CLANNAD)

            渚シナリオに登場する合唱部所属の少女。
    _       ものすごい和みぱうあ〜を持つが、実はその陰には、事故のために
   '´  ̄ ヽ     ヴァイオリンが弾けなくなり、海外留学やヴァイオリニストへの夢を
  ノ .jノノリノ))     奪われ、失意の日々を過ごした過去があった。
 ( ノ! ゚ ヮ゚ノ) 〜♪ しかし、杉坂に励まされ、彼女と共に合唱部を設立、『脅迫状事件』の
  ) γつと))     後は渚達に協力し、創立者祭の演劇を成功に導いた。
 ( ( く/_l〉(     ことみシナリオやアフターにも登場するなど、ヘタな立ち絵あり脇役を
  ` (ノ J      凌ぐほどの出番を誇り、コミック版で念願の立ち絵(?)もゲットした。


そんな仁科さんや、杉坂、原田といった合唱部の三人組のために……!?

36支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:14:54
263 名無しさんだよもん sage 2006/07/12(水) 17:21:57 ID:Pntl0Mso0


たまには春原とのからみも

 空を見上げると、雪が降っていた。この町にしては珍しい。春原陽平は羽織っていたコートをより深く羽織り直した。とはいっても安物のコートなので気持ちくらいしか暖かくならなかったが。
「それじゃあ、失礼します、岡崎さん」
 別れの挨拶を交わして、一緒に来ていた仁科りえと杉坂が春原の所へと来る。彼らは学生時代の友人、古河―今は岡崎姓だが―渚が子を身篭ったと聞いてお祝いに駆けつけたのだ。
 最初に連絡が来たのは春原だった。初めは信じられなかったが渚が本当のことです、と言っていたのでこれは本当のことなのだろう、と春原は思った。それで、朋也が何か持って来い、というのでベビー用品を実家から持って来ることにした。父母からは何事かと騒がれたが。
 自分一人だけでは癪なので他の友人にも連絡を取ってみることにしたが、あいにく仁科と杉坂しか来る事が出来なかった。
「お待たせしました、春原さん。それじゃあ行きましょう」
「あたしは電車の都合があるから、早く行かなきゃいけないんだけど…りえちゃんと春原はどうするの?」
 春原より暖かそうなコートを羽織りながら杉坂が言う。春原は時計を見ながら言った。
「僕は東北だからね…もう特急にのるには遅いから今日はここで一泊することになるな。仁科は?」
「私はここの大学に通っているので…戻るのはいつでもいいんですけどね」
 あははと笑いながら仁科が白い息を吐き出した。それはすぐに冬の曇り空へと溶けていく。
「すーちゃん、ご飯くらいは食べていけないの? 久しぶりなんだから色々お話とかしたいなぁ」
「…本当はもうちょっと早く出る予定だったんだけど。何だか居心地がよかったからついこんな時間までいちゃったのよ。だからホントに時間が危ないわけ。…ってか、りえちゃんとはいつも電話とかして話してるじゃない」
「えーっ、でも会って話すのと電話で話すのとは全然違うよ。…でも時間がないならしょうがないよね」
「また今度ゆっくりと、ね。…じゃああたし急ぐから。りえちゃん、またね。ついでに春原も」



「また今度ゆっくりと、ね。…じゃああたし急ぐから。りえちゃん、またね。ついでに春原も」
「僕はついでの扱いっすか…けっ、てめぇなんて就活に失敗すりゃいいんだ」
「何か言った? 言いたい事があるなら正直にいいなさいよ」
 拳を握りなおしながら杉坂が詰め寄る。
「ひいっ、なっ、何でもねぇよっ!」
「まぁまぁ、すーちゃんも落ちついて。別れくらい気持ち良く、ね」
 仁科が二人の間に割って入る。杉坂は「甘いんだから」とぶつぶつ言いながらも改めて別れの挨拶をして去っていった。後には仁科と春原の二人が取り残された。
「…で、行かないのか。家は近いんだろ?」
 春原がゆっくりと歩き出しながら仁科に尋ねる。
「近いですけど…このまま帰っちゃうのもちょっと寂しいかな、って」
「…食事くらいなら付き合ったげるけど? でも金はないからな」
「大丈夫です。割り勘ですから」

「…で、居酒屋っていうのもどうかと思うんだけど」
 春原はコップに注がれたビールを飲みながら仁科に言い放った。
「えーっ、ここ結構美味しいんですよ。友達ともよく飲みに来てるんです」
 つくねを頬張りながら仁科も反論する。
「お酒飲んでないじゃん」
「お酒弱いんです。一度飲みに来たときひどく酔ったらしくて大声で第九を歌ってた、って」
 酔って第九を歌うというのもどうかと思ったが特に何も言わない事にした。代わりに仁科が尋ねてくる。
「春原さんは今日どこにお泊りになるんですか」
「さぁね。適当にそのへんのホテルに泊まるだろうね。金ないからカプセルだろうけど」
 はぁ、とため息をつきながらまた春原はビールをあおった。
「それにしても、岡崎の奴がガキ持つなんて夢にも思わなかったね。ついこの間まで一緒にバカやってたと思ってたのにさ。ホント、あっという間だ」
「そうですね…私も初めて聞いたときは驚きました。…古河、じゃなくて、渚さん幸せそうでしたね」

37支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:15:10
「まったくだ。あーあ、僕にも渚ちゃんみたいな出来た彼女が欲しいもんだね。
 そうすりゃ、あっちでのつらーい辛い職場生活にも胸張って行けそうなんだけどさ。誰かの為に働けるってのは、すげぇ誇らしいことだと思うしな」
「向こうでのお仕事、そんなにきついんですか」
 ああ、と返事して焼き鳥をつまむ。
「上下関係は厳しいし、給料は安いし、休みもほとんどないし。けど、今の日本じゃ僕のような高卒の人間を雇ってくれるようなところなんて、ほとんどないしね。なんつーか、社会の厳しさを知ったって感じだよ」
 春原はそこで一息置き、またビールを注ぎ足して一気にあおった。
「…だからさ、たまに不安になるわけよ。もしかしたらずっとこんな辛い生活が続くんじゃないか、って。まだニ年そこそこしか働いてないからそう思うのかもしれないけどさ。
 でもな、家…っても寮なんだけど、そこに帰ってきたとき、誰も出迎えてくれないわけよ。学生んときはなんだかんだ言って美佐枝さんが声をかけてくれたしね。
 …だから時々、僕って何のために働いてるんだろ、って思うときがあるんだよ。…やっぱさ、独り身、って悲しい。嫌になるよ…」
 そこまで一気にまくしたてると春原は机に突っ伏す。相当に酔っていた。
「悪いな、せっかくの食事なのに愚痴ばっか…」
「いえ、そんなことないです。愚痴を言ってくれる、ってことはそれだけ信用して話してくれる、ってことですから。私でよければいくらでも聞いてあげますよ」
 ちらりと頭を動かして仁科の顔を見る。朦朧としていて良く分からないが微笑んでいるように見えた。
「優しいな…仁科は。僕もこんな彼女が、いたらなぁ…」
 それきり春原は黙り込んでしまう。いつまでたっても顔を上げようとしないので仁科は春原を揺さぶってみた。
「春原さん? どうなさったんですか?」
 少し経ってからいびきが聞こえてきた。どうやら眠ってしまったようだ。
「そちらも、色々大変だったんですね…今は、ゆっくり寝てらしてください」
 いびきをかく春原の頭をやさしく撫でる。しばらくそうしていると、カウンターの向こうから声がかかってきた。



「お客さん。そろそろ閉店なんすけど、お連れの方まだ起きないんですかねぇ」
 居酒屋の店長だった。カウンターから身を乗り出してまだ寝ている春原の頭をつつく。
「すみません店長さん。もう少し、そっとしておけませんか?」
「とは言ってもねぇ。こっちだってそろそろ切り上げないとカミさんが厳しくてね。もう十五分くらいなら、待つけど?」
 仁科が時計を確認する。すでに日付は変わり、深夜と言うには十分過ぎる程の時間帯だった。
「…いえ、結構です。遅くまですみませんでした。このひとは私が連れて帰ります。お勘定、おいくらですか?」
「お客さん。そいつを背負ってくのかい? 大丈夫かね」
 お代を受け取りながら店長が心配そうに言った。
「これくらい大丈夫です…う〜んっ………」
 春原を背負おうとするのだが腕力がないうえ片手に力が入らないのだから大の男を背負うなどどだい無理な話だった。引きずって行こうとしても微動だにしなかった。
「はぁ…見ちゃいらんねぇよ。お客さんの家までおぶってってやるからそいつ、よこしな」
 店主が無理矢理春原を引っぺがす。そして軽々と春原を背負った。
「どうもすみません」
「いいって。お客さんにはよく来てもらっているしな。それよりこいつ、お客さんの彼氏かい?」
「えっ!? い、いえ、そんなのでは…が、学生時代の友達…です」
 彼氏と言われ顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。店主は意地悪く笑った。
「そ、それより早く行きましょう。もう遅いですからっ」

 春原を自宅まで送ってもらった後、仁科は自分の部屋に春原を寝かせた。よほど心労がたまっていたのだろう、その寝顔もよいものではなかった。

38支援SS(ブロック三回戦):2006/09/19(火) 20:15:23
 春原は社会の厳しさを知った、と言った。それは春原だけではない、仁科本人にさえあり得る事なのだ。
 仁科は事故で力が入らなくなった自分の手を見る。一度、こぶしを作ってみようとしたが思うように力が入らなかった。
 この後、私はどんな人生を送るのだろう――そう思った時、隣からううん、という唸り声がした。覗き込んで見ると、そこには僅かに目を開けた春原がいた。
「あれ…僕、何してんだろ…てゆーか、ここ、どこだ」
 呂律の回らない舌で喋る。春原はしばらく周りを見まわした後、理解したように仁科を見た。
「…ひょっとして、仁科が連れてきてくれたのか」
「はい。あまりにも気持ち良く寝ていらしたので、つい家まで」
「ああー…そうか、やっぱりな…悪いな、大変だっただろ」
 体を起こしながら言う。その姿は、ひどく頼りなげに見えた。
「やっぱさ、僕ってダメな人間だわ…ひとに、迷惑ばっかかけてさ」
 春原らしからぬ発言だった。仁科は、笑みを絶やさず言った。
「そんなこと、ないですよ。春原さん、いつも面白いことして楽しませてくれるじゃないですか。ひとを楽しませる才能って、なかなかないです」
「そうでもねぇよ…それにさ、僕の話聞いて、仁科、不安になっただろ?馬鹿だよな、酒の勢いでいたずらにひとを不安にさせるようなこと言って…」
 仁科はどきりとした。不安という事が、顔に表れていたのだろうか。ときどき、春原には人の心を見透かしたような発言をすることがある。本当にまれではあるが。
「僕、どうしたらいいんだろな…仕事も出来ない。親にだって楽をさせてやることさえ出来ない。…僕だって、親に一つや二つ、孝行してやりたいのにさ…ちくしょう」
 春原が目を覆う。昔からは想像もできない姿。それを見ていられなくて、仁科は思いつくままに言ってみた。
「似合わないです」
 え? といった感じで春原が目を上げた。



「全然似合わないです。そんなシリアスな春原さんなんて。私の知ってる春原さんは、いつもヘンなこと言って、ヘンなことして、すーちゃんや岡崎さんにどつかれて…それで、みなさんで笑って」
 慰めの言葉としては、あまりに滑稽な言葉だった。それでも仁科は言葉を止めることはない。
「ですから、元気を出して下さい。春原さんに元気がなかったらみんな、元気がなくなると思います。…私もです」
 仁科の目には小さな涙の粒が浮かんでいた。
「…女の子泣かせるなんて、やっぱ僕って男としては最低、かもね。…でもさ、今の言葉で目が覚めたよ。確かに、僕からバカを取ったら、何も残らないもんねっ」
 ぱんっ! と春原は自分の両頬を思い切り叩く。乾いた爽快な音が部屋に大きく響いた。それから、春原は夜中だというのに笑い始めた。バカなくらいの勢いで。
 そのうちに、仁科もつられて笑い始める。涙はどこかへと飛んでしまっていた。ひとしきり笑った後、春原はいつものように調子のいい顔をして言った。
「よっしゃあ! 景気付けにもう一杯飲みに行くかぁ! どうせ明日に戻りゃいいわけだし。今日は思いきり羽を伸ばすかっ!」
「えっ、ちょっと、春原さん、今夜中の三時ですよ?」
「だったらコンビニで酒を買ってくんだよ。今日は逃がしゃしねえぞ、仁科」
 どうやら、まだ酒は残っていたらしい。陽気な顔で仁科に絡む春原。
「あはは…どうしましょう」
 誰にともなく、苦笑いする仁科。しかしその心中は晴れやかなものだった。
 そして、二人だけの宴会が、再び幕を開ける。


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