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最萌トナメ用支援貼り場

140保科智子支援 『思い出の街、始まりの朝]』:2007/10/05(金) 02:54:29
 今更不思議に思う。転校したばかりの時は、あんなに戻りたかったはずの街。孤独な
 日々の中、この街を懐かしんでばかりいた私。それなのに、今夢見ていた故郷で、心
 が晴れなくて。そう、もう私の居場所は、神戸ではなくて……。
 終わってしまった淡い想い。それと引き換えに手にした、新しい想い。
 わけもなく意地を張り続けて、心が痛むほど壁を作って、友達も作らずに勉強を頑張
 って、周りから爪弾きにされても、どんなに温もりが欲しくても、クールな委員長を演じ
 て、弱音一つ吐かずに心の中だけで目を腫らして。
 もう今では、どうしてあんな孤独で我慢できたのか、不思議なくらいだけれど……。

「明け方まで、ベッドで色々話したの、覚えてるか?智子が初めてオレの家に泊まって、
 日付変わった頃に、『なして、こんなに優しくしてくれたん?』って」
 がっしりした胸板に顔を埋めて、泣いて、両思いになったこと。忘れるわけない。
 過去の色々な記憶の中でも、一番幸せだった夜。
「ぎゅうって抱きついてる智子の髪撫でながらさ、『こんなに可愛くて、綺麗な人が困っ
 てて、放っておくヤツなんていねーだろ。まして、それが好きな人なら』みたいな」
「もう、思い出させんといてよ、あんな恥ずかしいセリフ……」

「いや言わせたのはそっちだろ。オレだってくそ恥ずいんだぞ、ちきしょー。けど……」
 つい昨日のことのように、あの日の残像が浮かぶ。
 もう幸せ過ぎて、痛みも、悲しみも、全部忘れて真っ赤になった、初々しい記憶。
「傍にいたくて堪らない位好きだった人で、あんな本心聞かせてもらって……やっぱオレ
 にはうまく言えねーけど、とにかくあれからずっと好きで……こんなんじゃダメか?」
「いまいち伝わらへんかったけどな、ま、辛うじてオッケーかな」
「て、顔は照れまくってるよーな気がするけど……相変わらず素直じゃねーな、お互い」

 ずっと憧れ続けた街を、ふたり笑い合ってからもう一度見下ろす。吹き抜ける風に乗
 って運ばれてくる春の匂い。陽の光を受けて金色に染まる海。それは、直視するには
 とても眩しいけど、同時にずっと見つめていたくなる、そんな最高の景色だ。

「素直に……なった方がええか?」
「直せるなら直した方がいいんじゃねーの?出逢った頃に何度も言ってただろ、『神戸
 に戻った時は、普段の私に戻れる』って。その割にはさっきから……」
 変わってしもたんやから仕方ないやろ……そう、心の中で呟く。
 わいわい騒いだり、時には遊びに行ったり。そんなことが自然にできるようになってか
 ら、私の中での『神戸』の意味が変わっていった。シェルターのような、絶対に欠かせ
 ぬ存在から、普通の懐かしい故郷へと。
 二人一緒で、その絆を確かに感じられる世界。ありがちで馬鹿馬鹿しいけど、好きな
 人と過ごせる場所――それが、今の私の『神戸』になってしまったから。

 信じられないほどに、この場所から見下ろす街並みのように、移ろい変わりゆく自分。
 じんわりと、心の底から溢れてくる不思議な気持ち。
 ただの同級生から友達に、友達から恋人になるように。小さな頃は広く見えた景色が、
 いつしかビルに覆われ、古い家々が新興住宅へ姿を変えるように。でも、それは。


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