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最萌トナメ用支援貼り場

138保科智子支援 『思い出の街、始まりの朝]』:2007/10/05(金) 02:53:26
 偶然出逢えた誰かのお陰で、あんなに張り詰めていた自分が、信じられないくらい自
 然体で居られるようになったこと。
 がむしゃらに、頑なに、ただ故郷の街に帰ることだけを考えて勉強してきた自分が、
 いつしか友達と気兼ねなく過ごせるようになったこと。
 くり返し思いを馳せてきたこの場所で、そんな『奇跡』を、改めて実感する。
 つかの間の帰郷。見慣れた景色から新しい景色へと、着実に移りかわる街。それは
 もう、幼い頃――友達と遊んだり、走り回ったりしていたあの景色ではない。でも。

「かなり前から、藤田君に見せたかった……私の好きな景色や」
「さすがいいんちょ♪オレとのデートのために、こんな場所教えてくれるなんてさ」
「なっ、何調子乗っとんねん。私はただ入学式までの時間潰しに、思い出の景色をふた
 りで見ながら、適当な話でもしよかって……せやから……」
 あの運命の夜から、季節がもうすぐ二巡りになる頃。私は藤田君と、朝陽の橙に染ま
 った神戸の街を眺めている。誰も知らない植え込みの裏側。小さいころから何度も見
 てきた筈なのに、今日の街は、今までのどの思い出とも違う眩しい色だ。

「あれがオレ達のホテルで……ってことは、夜景見ながらキスした公園はあの辺か?」
「なんやの、その『オレ達のホテル』って。それに、あの辺はちゃう、もうちょい右や」
 ただ、輝く景色の中で、他愛もない話をする。すぐ下には全国有数の大都市が拡がる
 というのに、邪魔な喧騒や車の音は、不思議なほどに聞こえない。
 出会ったばかりの時は、なんやこいつ!と思ってた。
 会って早々、知った風な口を聞いてきて、変な親切押し売りしてきて、いじめよりもず
 っと嫌だった。正直、一時は学校に行くのも嫌になった筈だった。……なのに、どうし
 てなんだろう。ある時不意に、自分が藤田君を求めてるって気付いた。

 恋はいつだって唐突――そんな言葉を聞いたことはあったけど、本当にあっという間
 に、家でも塾でも学校でも、藤田君のことばかり考えるようになってた。
 落ちて、惹かれて、勢いのままに一線を越えてしまった私。
 ちょっと恥ずかしい素顔も、飾らない本音も、全てを曝け出せる二人の時間。
 ただこうやって、他愛もない話をするだけでも、心から幸せって言える。だけど……。


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