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【お気軽】書き逃げスレ【SS】

1名無しさん:2004/11/03(水) 14:07
ここはなんでも書けるスレです。初心者、エロエロ、ムード系、落ち無し、
瞬間的モエ、特殊系、スレ内SS感想等なんでもщ(゚Д゚щ)カモーン!!
どんなカプでもお気軽にドゾー!!
投稿ルール、スレ説明は>>2、その他意見・質問はまずロビスレへ。

※もちろん個人での派生スレ設立は、さらに大推奨※

581名無しさん:2017/09/19(火) 23:50:42
ラブラブな尚六ありがとうございます!わーい六太可愛い!素直!素晴らしい!( ´ ▽ ` )

582帰山その後話(1/5):2017/09/23(土) 21:30:13
結局ラブい延主従の話。だと思います。。

 利広と離れて宣言どおり尚隆は柳から雁へと向かう。
 騎獣の調子はよく、主の様子から帰還とわかったのだろう。
 待ち望んでいた家へようやく帰れるのだと、たまはグルグルと嬉しそうに喉を鳴らしながら街よりはるか上空を颯爽と駆けていく。
(あやつも中々鋭い推察をする。流石は六百年を治める大国の太子は違う)
 先ほどの宿屋で交わした会談を思い出して尚隆は自然と口と手が締まった。
(だが、推察と想像を繰り返すだけでは憂いは晴れはしない。まだまだ利広も餓鬼だということだ)
 大国を長く治めると誰もが罹る病に利広は憂いていたと思う。
 いつか必ずくる国の終焉に怯えることは、神でない人の子なら当然の帰結だ。
(この俺だって二百年ほど前はそれなりに悩んだのだ。…それを早々と抜け出せると、抜け出そうと思うなど青臭く足掻く内は病など完治はすまい)
 まるで自分はそこを抜け出たとばかり尚隆は思考するが、そうではないことは本人がよく知っている。
(大事なのはそのことを忘れぬこと。恐れること。何の為に国が、王があるかと考えること。それらを原点に戻ってじっと見つめていれば、自然とその恐怖や憂いは薄れていくものだ)
「それを、宋王は太子にはあえて教えず自分で見つけだせと放蕩を許すのか…」
(実の家族なのに、案外酷な対応をする)
 ぽつりとたまの上で尚隆は独り呟く。
 すると、斜め上より見慣れた金の鬣が見えた。
 珍しく悧角に乗ったそれはグングンと勢いに任せこちらに向かってくる。
 そしてそれは見えたと自覚するより早く獣からさっと身を投げ出すと、躊躇なくこちらに向けて飛び落ちてきた。
「しょお、りゅう!この、莫迦ー!」
「ち、たま。すまんがこらえよ」
 くおんと主の意向を酌むと可愛らしくたまが鳴く。
 と同時にドサッと米俵並みの思い何かが、尚隆の胸の中に飛び込んできた。
「こら、餓鬼。なんと危ないことをする。落ちていたら厄介なのだぞ」
 言いながら尚隆はささっと落ちてきた六太の体勢を前に抱えなおす。
「へーんだっ。お前が長らく王宮を留守にしていたのが悪いんだ。なー、たま?お家に帰れなくて寂しかったよなー」
 王の小言には返事せず六太はたまの首を優しく撫でる。
「…まあいい。お前が迎えにきたという事は朱衡らはカンカンなのだろう。まったく、たまの遠出くらい伸び伸びと行かせてむらえぬとは…」
 尚隆はたまらず溜息をつく。
「遠出じゃねえだろ。申請してない『お遊び』じゃん。…で、柳はどうだった?」
「あれはもう駄目だな。戻る頃合いは過ぎた」
「っ!…そっかあ。けっこう、もったのになあ…」
 六太は利広と同様、尚隆から告げられた事実に表情を曇らせる。
 その落胆と比例するように腕の中の緊張が溶け、脱力したように尚隆の腹に六太の重みが加わった。

583帰山その後話(2/5):2017/09/23(土) 21:32:31
「なんだ、お前も利広のような事をいう。そんなに国が長く続いてほしいのか?」
「は?利広も一緒だったのか?いやそれより、国が長く安泰に続く事は万国共通の民の願いだろ、何寝ぼけたこと言ってやがる!」
 六太が頭一つ低い位置から振り返つつ尚隆に噛みつくような返事をした。
「それは民からの視点であろう。それを下から支える王は、その安泰を支えるが故に安泰と思う暇はない」
「それはわかってる。でも、それが『王』だっ!」
「……」
 慈悲が本性の麒麟の六太が、今にも泣きそうな表情をしながら王である尚隆を見つめる。
 その透き通るような紫の瞳に見つめられた尚隆は、勢いに押されたのかしばし口を閉ざした。
「お、おい尚隆…?なんか言えよ。…言えって…なあ」
 いつもは口うるさいのに今だけは死んだように黙る尚隆は、六太に不安をもたらす存在になっているのだろう。
 沈黙は解決にならないと、何とかして主の言をもらおうと六太は怖気づきそうな心を奮い立たすと、再度傍らの男の顔を見上げる。
 そこには治世五百年を立派に治めた一人の男がいた。
 あるいは当極当時は枯れた黒い国土とたった30万しかいない民から国を支え続けた精悍な男の面が六太の目前にあった。
「尚、隆…」
 その漆黒の瞳に今何が映っているのだろう。
 ただ目前に存在する麒麟の金の鬣が反射してるだけではないはずだ。
「なんか、言えって…」
 六太が続く沈黙から耐えきれず俯こうとした瞬間、顎に尚隆の手がかかる。
「あ、…んっ!?」
 どうしたと驚く暇もさせぬ程自然に尚隆から接吻を受ける六太は、存外固まってしまう。 
「んぅ…ふ…っ」
 ドンドンと場違いだろ、止めろと六太は尚隆の胸を強く叩く。
 その意を知らないように無視してなおも尚隆は接吻を続けた。
 戯れにしては悪質な悪戯は、六太が根負けをして腕の力を抜くまで続けられた。
「…は、あ…っ。はあ。お前、最低…!接吻でごまかすなよ…」
「そうか?それは悪かった。次はどこでやって欲しいか教えるんだな」
「莫迦。そーゆー事じゃねえって。もう…なんなんだ莫迦尚隆…」
 六太はあまりの尚隆の行動に力が抜けてしまう。
「なあ六太。お前の言ったとおり俺は死ぬまで王だ。それは知ってる。お前とて、死ぬまで麒麟の本性から離れられぬようにな…」
「ああ。そういやそうだったな…」
 ようやく話し始めた尚隆とは反対に、六太にその言葉は不快らしく顔を前方に向けてしまう。
 その逸らした視線の先にある雁への道は、ただ雲の白に覆われ形さえも見えなかった。
「俺は死に際にお前からもらったこの国が大事だ。…自分の命より大事で愛しく思っている。だが、それと国が永遠に続くことに直結するわけではない事も、知っているだろう」
「…知ってる。だから、麒麟がいる」
「そうだな。いつか失道する為に、お前がいる」

584帰山その後話(3/5):2017/09/23(土) 21:35:17
 確認するそれがひどく穏やかなのは、気のせいではないだろう。
 けれど手綱を引く手はたくましく、背を支える体は大きく、そのいつだって飄々とした態度と声は六太に力と希望を。滅茶苦茶な状態であったとしても、何とかなるんじゃないかと自然と前を向かせてくれた。
(そんな稀代の名君と今では言われるようになった尚隆でも、罹る病があるって知ってる。知ってたよ…)
 けどこうも六太は思った。
 それでも、滅亡の時までこの男の傍にいると。見つめ続けると、支えると誓う。
 それがお前を王に選んだ麒麟である自分の責任と、内側から声が自分に告げるのだ。
(お前がニ百年ほど前に失道しようとしてた事、俺は知ってるんだぜ?お前がほっといたあの碁石、持ってるの俺だもん…)
 その期間の尚隆は表向きは何の変化もみられなかった。何もおかしい事はなかった。
 いつものように朝儀はさぼり、政務は休み、下界に変わらず出奔していた。
 ただある一点だけが変わっていた。碁を誰彼ともなく仕掛ける事が増えた。
 今は碁にはまっているのだろう。呑気なことだ。まあそれもよかろう。誰もがそう思った。
 だが、六太だけは何故かそう思わなかった。
 最初は皆と同じで時々碁の相手をしていた。
 けれど勝負の終わりに碁石をさっと掠め取る尚隆の行動に、ふと疑問をもった。
 勝った記念に一つ取るのだと彼は言う。
 本当か?お前そんな可愛らしい性格かよ。
 六太は聞いた当初笑って受け流した。が、同時に何かがひっかかる感触を受けた。
 その碁石を掠め取る尚隆の行動はしばらく続いた。
 一つ記念に取った碁石が五になり十になり、二十、五十に徐々に増えていく。
 律儀に勝つ度に碁石をためる尚隆に、いつしか漠然とした不安と恐怖を六太が抱え込むようになった。
(あれはなんだ?あれはただの碁で勝った記念の行動なのか?)
(何の意味のない行動のはずなのに、なんで俺はここまで不安に思う?恐怖を尚隆に抱く?)
 漠然とした形のないものを心に抱え込むには重すぎるそれを、六太はそっと愛想笑いに隠し尚隆を冷静に見つめ続けた。
 そしてある日露台での官吏を交えたたわいない会話で、その形のない不安と迷いの答えにたどり着いてしまった。
(ああ。尚隆は失道しようと天と話をしているんだ)
 何故?やどうして?とか裏切りだとかは、その時六太の胸中にはわかなかった。
 ただ漠然と、これが答えなんだと麒麟の勘が告げているのに過ぎなかった。
 けれど、だからこそそれは本当の内の一つだと思えた。
(治世は何年になった?もうすぐ三百年か。国内はどうだ?いやまだ安泰だ)
 去年も今年もほどほどに豊作だった。
 乱はどうだ?それもボツボツ起こってはいるが尚隆が出るほど大きなのはここ数十年起きていない。
 だからなのか?だからなのだろう。
 国に緑も民も何もない時はやることがある。混乱がある。豊かにせねばならない責務がある。
 しかし国を興し緑を増やし、官を整理し民の希望どおりの飢えない豊かな道筋をつくった後はどうだろう?

585帰山その後話(4/5):2017/09/23(土) 21:38:03
 ただただ飢えに天災に苦しんだ日々が王と政(まつりごと)によって穏やかに健やかに過ごせる国造りかえられた事は素晴らしいことで、喜ばしく望んだことだった。
 けれどこの状態は長く続く事を求められると、途端にその色を変えてしまう危ういものでもあった。
 水は流れがあるからその清さを保てるように、安泰というゆるやかな国の停滞は王である尚隆の心に影を植え付けてしまう。
 尚隆はそれを『是』として楽しめる男であっただろうか?
 十二国がこの世に出来てから永遠に倒れぬ朝があっただろうか?
 いや、ない。あったことなどない。
 あるのは何百年と続いた朝があり、失道した王と麒麟があったと今までの歴史が語っているだけだ。
 そうだ。この世に、永遠などない。
 蓬莱が素晴らしい世界とこちらで言われるように、人は望まずとも変わってしまう本性なのだ。
 だから永遠を、安泰を望まずにはいられない。
(知ってた癖に…俺。尚隆が朱衡が、政を頑張り過ぎるからその現実をしばらく忘れていただけだった)
 その時の六太はその可能性にいきついて漠然と絶望したことを覚えている。
 そして、尚隆がしたいのなら仕方ないと即座に受け入れてしまったことも覚えている。
 いつか絶対に王と麒麟はこの世での終わりを迎える。
 それがこちらの世界に根を下した王も麒麟も民も巻き込んだこの世界の真理だった。
 だから尚隆がそれを自らの手で始めようと画策しても、仕方ない。
 不思議なほど穏やかな気持ちでそれを受け入れた六太は、思考を中断してまた後ろを振り返る。
「なあ尚隆。だから俺は何度でも言ってやるよ…」
 ニカっと主譲りのふてぶてしい笑みを浮かべ六太は告げる。
「延は『まだまだだ』ってな。技術じゃ範。治世の長さじゃ奏。文化じゃ恭に、延は負けてるじゃねえか。お前には緑豊かな国を欲しいって願ったけど、そろそろ二つ目のお願いとか、叶えてくれてもいいんじゃねーか?」
「なんだと?近年の延国周辺の荒民達に足を引っ張られてるこの状況で、お前はそれを言うのか?」
 尚隆が思いのほか眉間に皺をよせながら六太に文句をいう。
「だからだろ、尚隆。お前にはこれくらい面白い問題がないとつまんないんだろ?なあ」
 六太がその難儀な問題を実は尚隆が求めていると見抜いたかのようなはっぱのかけ方をする。
 自然、顰め面した尚隆もその真の意味が伝わったのだろう。
 六太以上に悪い笑みを浮かべ応えてきた。
「すかした口をききおって。まあいい。…どうせ俺一人の力など精々たかが知れてる。なので周りを巻き込んで問題を解決に導くしかあるまい」
 何も偉い事を眼前の男はいってない。なのに尚隆は胸をはった。
「お前それ、他力本願っていうんじゃねえのか…。ふ、まあいっか!尚隆のやる事だし、こんなもんだ」
 六太も調子が上向きに変わった主に安心したのか、柔らかな笑みを浮かべた。
「こんなもんとはなんだ。この、いつまでたっても可愛げのない餓鬼め。こうしてやる!」
「きゃー。やめてー。王様、お戯れはおよしになってー」
 棒読みも交え、たまの上で延の主従はそれまでの空気をかき消すかのように、じゃれあいはじめる。

586帰山その後話(5/5):2017/09/23(土) 21:41:50
 六太はそれでも麒麟として個人として、尚隆の傍を離れない事を誓い。
 尚隆はそれでも王として個人として、六太を終わりの時まで傍にある事を心中で望んだ。
 互いに表立った誓いはせずに胸中に強く望んだ希望は、ぼんやりでも伝わっているのだろう。
 そうでなければ五百年の治世などもつはずがない。
 言葉足らずだがそれでもと淡々と刻んだ歴史が、彼らと彼らが興した国を彩り表し続ける。
 そしてそれは紛れもなくいつか彼らの治めた延が、有史以来稀代の大国と言われる事を難なく予想させた。
 二人の破天荒な王と麒麟をのせた騎獣は、徐々に暗闇を引き連れる夕暮れの中、王宮へ帰るべくつき進んでいった。



 了

587名無しさん:2017/09/23(土) 22:20:04
シリアス尚六ご馳走様です!
口付けシーンもめっちゃ萌えたけど、仲良くじゃれてる二人も可愛くて萌え
300年目の碁石の賭けは、色々妄想ポイント多いよね

588名無しさん:2017/09/24(日) 10:04:49
帰山SS書いた者です。感想ありがとうございます!( ´ ▽ ` )
どんな怖い尚隆と利広の話なんだろうと恐る恐る読んだんですが、思った程怖くなかったのでこんなん出来ましたww

589蘭雪堂の夜(尚六)1/5:2017/09/25(月) 20:20:03
>>577です。前作萌えたと言ってもらえて嬉しいです。そしてまた尚六書いてしまいました。最近滾り過ぎてやばい。
最初はシリアス、最後はラブラブです。
泰麒捜索中、廉麟が「王のものなんだもの…」という名言を残して蓬莱へ渡った後。

ーー
廉麟は呉剛環蛇を使って蓬莱へ渡った。
蘭雪堂にひとり残った尚隆は、椅子に座り、卓上に置かれた地図を眺めていた。

地図上の塗り潰された部分は麒麟たちが捜索し、泰麒はいないと判断した場所だ。しらみ潰しに探す作戦は体力が必要だったし、傲濫の気配を捉えてからは、強大な妖魔を怖れる獣の本能に抵抗しながらの捜索となり、更なる精神的な苦痛が麒麟たちを苦しめていた。

尚隆は額を押さえて溜息をついた。
氾王に言われなくとも、麒麟たちに負担がかかっているのは重々承知している。ただ見ているだけで何も出来ないのが歯痒かった。
六太もかなり疲れているのは明らかだ。今日も夕餉の後、臥室の榻で倒れるようにして眠ってしまった。尚隆は六太を牀榻に運び、そのままひとりでここへ来たのだった。

扉の開く音がしてそちらを見ると、六太が入ってきた。相変わらず疲れたような表情だったが、先刻臥室で眠る前よりは、ましな顔色をしていた。
「大丈夫か、六太。疲れているんだろう、寝ていた方がいいぞ」
「うん……。なんか目が覚めて、眠れなくなった。……尚隆は戻って来ないし」
あまり力のない声で言いながら、六太は卓へ歩み寄って来る。
「なんだ、独り寝が寂しかったか?」
敢えてからかうように言ってみると、六太は微かに笑った。
「ばーか」

六太は卓上の地図を見て、首を傾げる。
「まだ誰か渡ってるのか?」
「ああ、廉麟がひとりでな」
「……ひとりで?」
六太は奥の戸口へ顔を向ける。その先にある孤琴斎という建物から、廉麟は蓬莱へと渡っていった。
「……廉麟、大丈夫かな。ひとりだけ全然休めないのに……」
そう言って戸口の方へ向いたまま、六太は卓上に座る。
「廉麟は、泰麒のことを考えると眠ることが出来ないそうだ。だから休む前にもう一度だけ、と言って渡った」
「そうか……」
六太は表情を曇らせて、戸口の先を見やる。その横顔を尚隆は見つめた。

六太もあまり眠ることが出来ていないのを、尚隆は知っている。疲労で毎晩気を失うように寝入るのに、必ず夜中に目を覚ますのだ。そしてそっと牀榻から抜け出して、窓から外を眺めていたりする。
最初は「どうした」と声をかけていたが、「別になんでもないから、お前は寝てろよ」と返されるだけなので、今は気付かぬふりをしている。

「廉麟は、泰麒のことを心底案じてる。……それに、あいつは臥室に戻ってもひとりだしな」
呟くように、六太が言った。
「廉麟も独り寝は寂しいだろう、ということか」
軽く言ってみたものの、六太は笑わなかった。ごく小さな溜息をこぼす。
「独り寝っていうか……。廉麟だって、廉王のそばにいたいだろ。でもここではひとりだ。心身ともに疲れて辛い時なのに、王がいないんだ。……でも、泰麒のそばには、六年も泰王がいない。……それを考えたら––––」
六太はそこで言葉を途切らせ、少し俯いた。これは廉麟のことを言いながら、六太自身のことを言っているのだろう。

590蘭雪堂の夜(尚六)2/5:2017/09/25(月) 20:22:05
「同じようなことを、廉麟も言っていたな」
「……同じようなこと?」
六太は首を傾げて尚隆を見る。
「麒麟が王と離れるのは不幸なことだ、自分たち麒麟は王のそばにいないと生きていられない、とな」
六太の視線は、尚隆から戸口の方へと戻った。
「……その通りだろ。王のいない麒麟は三十年くらいで死ぬ。そういうふうに、天が作った」
いかにも六太らしい答え方だと思い、尚隆は苦笑する。

「こっちに来い、六太」
「……なんで?」
「いいから来い」
六太は少しためらう素振りを見せてから、卓から降りて椅子に座る尚隆の傍らに歩み寄って来た。
「なんだよ」
訝しげにそう言った六太の腰を掴んで、その軽い身体を自分の膝の上に横向きに抱き上げた。
「ちょっ……よせよ、こんなところで」
そのまま抱き締めると、六太は身を捩って逃れようとする。
「動くな」
尚隆が低く言うと、六太の身体は動きを止めた。無言のまま抱き締めていると、小さな身体から次第に力が抜けていき、尚隆の胸に少し凭れるような体勢になった。
「……お前もあまり眠れていないだろう、六太」
尚隆が囁くように言うと、逡巡するような気配の後、六太は頷いた。
「俺が隣にいるというのに」
ぼやくように言ってみると、六太はほんの僅か、唇に笑みを浮かべた。だがその微笑みは、すぐに消えてしまった。
「俺のそばでも眠れないか」
今度は真剣な声音で問う。沈黙が降りた。
長い沈黙の後、ようやく六太は低い声で話し始める。
「……毎晩夜中に目が覚めて、尚隆が隣にいて……おれは安堵するんだ。でも、すぐに泰麒のことを思い出して、あいつはひとりなんだ、と思ったら……居た堪れなくなる」
尚隆が口を開きかけると、六太は首を振った。
「分かってる、無意味な感傷だって。そんなふうに泰麒を憐れんでも、誰のためにもならない」
尚隆は無言でそっと金色の髪を撫でた。六太は目を閉じる。
「……おれは、泰麒のためにまだ何も出来てない」
「そんなことはない」
尚隆は即座に否定したが、六太は力なく首を横に振った。
「おれ達の努力は、泰麒にはまだ届いてない。使令の気配はあるのに、麒麟の気配が見えない。真っ暗闇の中を灯りもなく探しているみたいだ。泰麒は……もう六年も、ずっとそこにいるんだ」
震える声でそう言ってから口をつぐんだ六太の頰に、透明な雫が滑り落ちていった。それから堰を切ったように、六太の閉じた瞼の隙間から次々と雫が生み出されては落ちていく。
思うように捜索が進まない焦燥、泰麒に対する憐憫、何度も蓬莱へ渡る肉体的な負担。多くのものが六太を苛んでいる。
もっと早く弱音を吐かせるべきだった、と尚隆は悔やんだ。愚痴は色々言ってはいたが、意地っ張りな六太はいつも平気なふりをする。それは分かっていたのに。

591蘭雪堂の夜(尚六)3/5:2017/09/25(月) 20:24:21
頭を抱き寄せると、六太は尚隆の肩に顔を押しつけるように身を預けてきた。六太の細い肩は震えていて、浅く不規則な呼吸が伝わってくる。
暫くの間、尚隆は黙って六太を抱き締めて、その背を撫でていた。やがて身体の震えは収まり、六太は尚隆の肩から少しだけ顔を離した。

「……大丈夫だ、六太。泰麒は泰王のそばに戻れる」
六太の背を軽く叩いて、尚隆は言い聞かせるように言葉を発した。
「……なんでそんなこと言える」
「泰麒は泰王のものだろうが。持ち主の元に戻るに決まっておる」
わざと軽薄な口調で言った。
「そんなの、根拠になってねぇよ」
文句を言いながらも、六太は少しだけ笑った。
「そうか?俺の麒麟はすぐどこかに行ってしまうが、必ず戻って来るぞ」
「それとこれとは話が別だろーが」
顔を上げた六太は、泣く前よりも随分明るい表情をしていた。
まだ濡れている頰を尚隆が指で拭うと、くすぐったそうに目を閉じた。
尚隆は惹きつけられるように、六太の唇に口づけた。触れるだけの軽い口づけを、二つ。
六太の瞼が上がって、深い紫色の瞳が尚隆を見つめた。
尚隆は六太の後頭部を手で支えて、再び口づける。六太の唇を舌でなぞり、ゆっくりとその間から侵入する。六太の舌の柔らかい感触を舌先に感じた瞬間、思わず抱擁する腕に力を込めていた。六太の口腔内を、貪るように隅々まで舌を入れて味わう。
「…ん……は…ぁ……しょう…りゅ…」
合わせた唇の隙間から漏れる六太の上擦った声が、尚隆の劣情を煽った。
頭の片隅の冷静な部分で、まずいな、と考える。金波宮での泰麒捜索が本格的に始まってから、一度も六太を抱いていない。疲れている六太の負担になるだろうと、自重していた。ましてや最近の六太は臥室に戻ると倒れるように寝てしまうので、手を出す暇もなかった。
同じ牀榻で眠っていても、深く触れられないという禁欲状態は、どうやらかなり尚隆の精神を抑圧していたらしい。

唇を離すと六太が荒く息をついて、戸口の方を気にする素振りを見せた。
「もう……よせって。もうすぐ廉麟戻ってくるだろ」
「そうだな」
尚隆はそれだけ言うと、六太の唇をまた自分の口で塞いだ。六太の頭を手で押さえて更に深く口づけた。六太の手が尚隆の胸を押し、逃れようと無駄な努力をしている。
思うさま堪能して唇を離した尚隆は、六太の頭を抱き寄せて耳元で囁いた。
「抱きたい」
「……!」
六太の身体が硬直する。
「いいか?」
「いや、ちょっと待て、落ち着けよ」
「もちろん臥室に戻ってからだ。お前が疲れているのは分かっているが、今夜抱きたい」
「……」
「いいか?」
尚隆は六太の頭を抱き寄せたまま、返事を待った。六太が何かを言いかけた時、部屋の奥の戸口に淡い光が射した。呉剛環蛇の光だ。
弾かれたように六太が顔を上げ、尚隆の腕を振りほどいて膝から飛び降りたのとほぼ同時に、廉麟が曲廊の先から姿を見せた。

592蘭雪堂の夜(尚六)4/5:2017/09/25(月) 20:26:43
延麒、と微笑んで、廉麟は軽やかな足取りで戸口から部屋へ入って来た。
「麒麟の気配を見つけました」
「本当か?それは泰麒の気配か?」
六太が勢い込んで訊ねる。
「はい。とても細い糸のような気配の残滓です。病んでいるような暗い光でした。間違いなく、泰麒です」
廉麟は卓に歩み寄ると、地図を見ながら泰麒の気配を見つけた場所を説明した。六太はいくつか質問をしながらその説明を聞き、明日の捜索範囲や方針についての意見を述べた。
詳しいことは明日、皆が集まってから話すことにして、それぞれ臥室に引き上げることになった。
廉麟は微笑んで尚隆と六太を交互に見る。
「お二人を見ていたら、なんだか主上が恋しくなりました。––––それでは、お休みなさいませ」
ふふふ、と微かな笑い声を残して、廉麟は蘭雪堂から立ち去った。

少し引きつった顔で廉麟を見送っていた六太が、隣に立つ尚隆を見上げた。
「えーと、じゃあ……おれ達も戻るか」
そう言って歩き出そうとした六太の腕を、尚隆は掴んだ。
「さっきの返事を聞いてないぞ」
「え……」
六太は気まずそうに視線を逸らした。
誤魔化そうとしてもそうはいかない。無理強いする気はないが、無視される気もない。
六太の顎に手をかけて上を向かせ、顔を近づけていくと、六太は焦ったような声を上げた。
「ちょっ……尚隆!だから、ここではやめろって」
「では牀榻でならいいか」
至近距離で見つめると、見つめ返す六太の頰にほんのりと赤みが差した。
「……うん」
尚隆は笑みを浮かべて、六太の唇に軽く口づけを落とした。
「久しぶりだからな、覚悟しておれ」
笑い含みに六太の耳元で囁くと、六太は両手で尚隆の胸を押し返して抗議の声を上げる。
「お前、さっきおれが疲れてるのは分かってるとか言ってたじゃねーか!やるのは一回だけ、それ以上は無理!」
「一回か……。まあ、箍が外れぬよう心掛けよう」
くつくつと尚隆が笑うと、六太は溜息をついた。
「あー、なんかすげー不安……」
尚隆は六太の肩に手を回して、前に押し出しながら言う。
「では急いで臥室に戻るぞ。善は急げと言うからな」
「善、って……」
呆れたように言いながら、六太も歩きだす。二人は寄り添いながら臥室へと戻って行った。

・・・

593蘭雪堂の夜(尚六)5/E:2017/09/25(月) 20:28:51
情事の後の倦怠感に包まれて、六太は目を閉じていた。尚隆の腕に乗せた頰には、心地よい暖かさが伝わってくる。
尚隆はあんなふうに言っていたが、かなり抑えた優しい抱き方をしてくれた。初めての夜のように。尚隆が自分の欲求よりも、六太の身体的な負担に配慮してくれたことが、素直に嬉しかった。

泰麒捜索が始まって毎日蓬莱へ渡るようになってから、六太は常に疲労困憊で、尚隆と同じ牀榻に寝ていても、全く欲求は感じていなかった。それどころではない、というのが本音だった。
触れるだけの口づけを交わしたり、頭を撫でられたり、軽い身体的な接触はあったが、尚隆もそれ以上は触れてこなかった。
その事についてあまり考えていなかったが、今まで尚隆は欲求を抑えてくれていたんだと思うと、言葉に出さない尚隆の優しさが胸にしみた。
先程は、素直に弱音を吐けない六太から弱音を引き出して、泣かせてくれた。

「……ありがとう」
微かな声で呟くと、尚隆は笑った。
「礼を言われるとは思わなかったな。そういうことなら、これから毎晩抱くぞ」
「いや、そういうことじゃないって」
六太も笑った。何に対する礼か分かっているだろうに、尚隆はいつもこんな言い方をする。
「六太」
尚隆が身体を少し起こして、六太の顔を上から覗き込んだ。
「夜中に目を覚ましても、ひとりで牀榻から出るなよ」
「……」
六太は返答に詰まる。毎晩牀榻から出ていくのを尚隆が気付いているのは分かっていたが、ここまで率直に言われるとは思っていなかった。
尚隆は六太の髪を撫でながら、囁く。
「俺のそばにいろ」
「……うん」
尚隆は微笑して頷き、六太の頭を抱き寄せて髪に口づけた。
それから尚隆は、わざとらしい溜息をついた。
「あと二、三回目やりたいところだが、一回の約束だから仕方がない。もう寝るか」
「当たり前だろ、明日からもおれは忙しいんだから」
尚隆は笑って、もう一度六太の顔を覗き込む。
「今夜は眠れそうか?」
「うん……、たぶん」
六太が頷くと、尚隆は微笑してから褥に身体を横たえて、六太の身体を抱き寄せた。
弱音を吐いて泣いたからか、尚隆が優しく抱いてくれたからか、それとも泰麒の気配が見つかったと聞いたからか。いつもより六太の心は軽かった。朝まで眠れそうな気がした。
包み込んでくれる暖かさに安堵と幸福を感じながら、六太はそっと目を閉じた。




594名無しさん:2017/09/25(月) 21:14:06
小説増えてる!幸せな尚六小説ありがとうございます!
シリアスだけど、尚隆が優しくて六太を甘やかしてるところがすごく素敵です

595名無しさん:2017/09/26(火) 23:14:57
あまーい!そして尚隆優しーい!いい男!素敵な尚六小説ありがとうございます!こんな素敵で甘い尚六を読めるなんて幸せ…そりゃ滾りますわ…

596名無しさん:2017/09/27(水) 21:19:43
>>593です。感想ありがとうございます。滾る萌えをここの方々と共有できて幸せです。
尚隆は普段ふざけたことばかり言ってても、六太が本当に弱ってる時は、とことん優しくするはずだ!と思ったのでこんな感じになりました。

あと、>>577赤い果実のちょっとした後日談。

路木に願って卵果は生ったが、やはり雁では普通に育てることができなかった。玄英宮の温室で一本だけ木が育ったものの、果実が生るのは真夏に三つだけ。というわけで、尚隆はその果実が生るのを、毎年それはそれは楽しみにしていたという。

小説にする程ではないので、ネタだけです。あんまりたくさん果実が生ると、六太が大変そうなのでw 年に一度のお楽しみ、という感じです。

597名無しさん:2017/09/27(水) 22:39:24
真夏に三つwww 六太公認食べる精力剤ですねwww 猫にまたたび、六太に果実w
後日談ありがとうございます!三つ実った実を大事に食して頂かないと( ´ ▽ ` ) 尚隆よかったねー。

598名無しさん:2017/09/28(木) 21:38:12
>猫にまたたび、六太に果実
この例え可愛いなあ、六太は性格的にも猫型な麒麟な気がする
供麒は犬型なイメージ

599壁一枚、尚六(1/3):2017/10/03(火) 12:35:20
利広が風漢で出会い、うっかり宿屋の壁を通じて情事を盗み聞きしてしまったお話。



 その男との出会いは三度目だったと思う。
 初めて出会ってから90年は経っていた。
 二度目で普通じゃない男と確信したので、話ながらもどの国の人物かと探ること数回。
 合わない間に消去法で可能性を順々に消していった後、三度目の邂逅が起きる。
 利広は男が初めて連れてきたお供を見て該当国とその人物像がわかった。
(もしやかの大国、延王と延麒…か)

「…久しいね風漢。おまけに珍しい。その可愛らしい子どもはどうしたんだい?」
 まだ騶虞を連れたまま街ですれ違った時、利広は彼にきずき声をかける。
 すぐにはわからなかったが脇に見慣れないこどもを連れた風漢は、不思議に柔らかい雰囲気に見えた。
(連れにしては小さ過ぎるな…彼の子どもか兄弟、は若すぎる。もしかして孫かな?)
 利広は彼が子供を引き連れるような殊勝な性格じゃない事を知りつつ、失礼じゃない程度に連れをじとりと見る。
(服装は民に合わせてるけど質は上等。顔も中性的で綺麗だ。頭を頭巾で覆っているけど…まさか麒麟か?)
「なんだ利広。そんなにジロジロ見おって。そんなに気になるか?よかったな六太。お前生まれて初めて可愛いと言ってもらえたぞ」
 けらけらと風漢が連れをじっくりと観察されて面白げにからかう。
 すると傍の子どもは赤く顔を染めながら彼を怒った。
「ざっけんなよ尚隆!…あっ。い、いいから早く家に帰ろうぜ、なあ早く!」
「なんとせっかちな。そう急くな。ん?雨が降ってきたか…」
「え?雨?」
 尚隆に言われたるまま上を見れば頭上には灰色の雨雲が浮かんでいた。
 その雲よりポツポツと冷たい滴が降り始めていることに一同が気が付く。
「流石に雨の中でたま達を走らせるつもりはないよな、六太?」
「うー、ちくしょうっ。わかったよ尚隆。なら舎館(やどや)まで走って帰るぞ!」
 言って六太と言われた子供が彼の袖を強く握って舎館に向けて誘導し始める。
「くっくっく。待て待て、ちゃんと行くからしばし待て。…と、いう訳だ利広。俺は舎館に帰る。お前は?」
「え。あ、私?うーん、私も同じかな。雨の中うろうろする趣味はないよ」
 言って利広は肩をすくめた。
「そうか。それは賢い選択だ」
 風漢もつられて苦笑した。
 利広はそのまま風漢と談笑しながら先に彼らが泊まっている舎館に歩いていった。

600壁一枚、尚六(2/3):2017/10/03(火) 12:38:11
 そのまま本泊まりと決め、早めの夕餉を共に取る。
 風漢は相変わらず飄々として、自分と同じように様々な街や黄海を放浪しているらしい。
 その彼が話す土産話はなるほど面白く、ただ聞くだけでも時間を忘れるほど楽しいものだ。
 連れもいるので辺り触りのない話を入れつつ、ほどほどに美味い料理を平らげる。
 酒も多少嗜んだ後、二人と一人は就寝を機に堂室に戻る。
 雨は小雨になり、いまだ降りやまない。だが秋の始めなのでそれほど冷たくもなかった。
 しかしそれでも肌寒さを感じたので、利広は手早く荷物を纏めると被衫に着替え牀榻に入った。
 ふう。やれやれ。
 考える事はたくさんあるけれど、とりあえず今日はここまで。明日また考えよう。
 利広が風漢と会った事で沸き立ってしまった好奇心。
 それを心中でそっとなだめつつ、うとうとと眠りの淵にかかりかけた頃、壁からひそひそと音が漏れた事に気が付く。
 『ちょっ!?尚隆まてって…やっ…尚隆、おい!』
 『待てぬ。何か月ぶりだと思っている。お前とてそのつもりで迎えにきたのだろ?大人しくせい』
 『そのつもりって…まあ考えなかった訳じゃねえけどっ、んん…っ。だから、ちょっと…待てって!』
 (ん?なんだこの男女のような甘い会話は?隣の堂室から漏れているが…は?)
 丁度利広が横向きに身体を壁をくっつけていたせいだった。
 壁一枚を隔てた向こうから、何より色っぽい会話が聞こえ始め、利広の意識を再度浮かび上がらせる。
 (確かもう一つの堂室は空だったはず。となると隣は風漢。え?もしや、その相手って…)
 出歯亀はよくない。利広もそれはわかっていた。
 が、そうと頭ではわかっているのだが、いかんせん人より多い好奇心が聞き耳を立ててしまう。
 ついつい声の聞こえる壁側に神経を集中し始める事、数分。
 どうやら久しぶりの逢瀬に一方は同衾を望み、一方はただの共寝を望んでるような会話だった。
 (うわー。風漢も隅におけないねえ…あの子は綺麗だけど男の子なのに。彼はどっちもいけたのか。なるほどなるほど)
 利広は他人事ながらほうほうと耳を澄ませ、事の成り行きに耳をさらに立たせる。
 (中々聞けないものだし、ちょっと頑張って起きて聞いてみるか…)
 利広は風漢とその連れに悪いと思いつつも、ゆっくりと身体を壁に向け直す。するとより一層会話が彼の耳に入ってきた。

601壁一枚、尚六(3/3):2017/10/03(火) 12:41:19
 ようやく朝を迎えた。
 雨は止み、爽やかな空気、晴れやかな朝だった。
 結論を言うと、利広はあれから満足に睡眠を取らず妓楼にも行かなかった。
 (正しくは、行けなかった。だけど…ふぁっ…ねむ、い…)
 まさかあれから風漢が、彼の『許し』を得るために延々とお触りをし続けたなんて予想外だった。
 (お触りだけで四刻は経過していたからね…。それから、本番だもの。小さな彼も可哀想に。彼だって風漢が早々『諦める』と予想していたはず…)
 時待たずして、『許し』を賭けた攻防はすぐにおさまると利広もそう予感していた。
 が、何が風漢のやる気を起こしたのか、彼の攻撃は止むことなく続き。
 二刻を過ぎた頃からは抑えても抑えきれない少年の嬌声が絶えず響くようになってしまっていた。
 (案外彼はねちっこい本性を持っているんだなあ…意外だよ。ふぁ…)
 まんじりとも眠れもしなかった昨夜を恨みつつ、利広が寄せた壁より渋々身体を離す。
 「まあ面白いものを聞かせてはもらったから…いいか」
 (中々聞けない王と麒麟の情事だったし。悔しいけどこれはご馳走様と礼を言うべきは私の方かも)
 利広は止まらぬ眠気を振り払いつつも、身支度をし始める。
 そしてあと一刻ほどで会うだろう二人の人物に、どんな言葉をかけたら楽しいか驚くのか。
 それについて一人愉快そうに欠伸をしながら考えはじめたのだった。



 了

602名無しさん:2017/10/03(火) 15:25:04
思わずニヤニヤしちゃいました
利広うらやましすぎるww
その部屋かわってくれw

603名無しさん:2017/10/03(火) 18:06:04
安宿は壁が薄いからねw

604名無しさん:2017/10/04(水) 09:20:13
尚隆、触ってるうちに面白くなったんだろうなあww

605名無しさん:2017/10/04(水) 22:07:32
壁話を書いた者です。ねちこい尚隆とデバガメ利広、楽しんで頂けたようで光栄です( ´ ▽ ` )

606不機嫌な王(尚六)1:2017/10/05(木) 19:33:21
尚隆が「雁を滅ぼしてみたくなる」と言った理由が実は焼きもちだったという妄想。尚隆の心が狭いですw

ーー
陽子と楽俊は二人で話したいと言い、連れ立って玻璃宮から去って行った。

それを睨むように見送っていた尚隆に、六太は声をかける。
「なあ、尚隆。お前なんであんなこと陽子に言ったんだよ。あいつ、すげーびびった顔してたぜ?」
尚隆は六太を横目で見て、皮肉げな笑みを浮かべた。
「……ほう、よく見ていたな」
なぜだか尚隆は機嫌が悪そうに見える。六太は顔をしかめた。
「なんだよ、おれが見てんの分かってたくせに」
雁を滅ぼしてみたくなる、などと尚隆が言ったところで、今更六太は動じたりしない。雁は尚隆の国だから、思うようにすればいいのだ。自分はただ、そばにいて見届けるだけだと思っている。
だが陽子はそうは思わないだろう。唯一頼りにしている隣国の王の、国を滅ぼしてみたくなるという言葉を聞かされて、困惑と動揺と恐怖の入り混じった表情を浮かべていた。
「隣国がいつ滅ぶか分からないから心構えしとけっていう忠告か?いずれはそういう心構えが必要になるかもしれないけどさ、いま陽子には雁しか頼れる国がないんだ。あんなこと言うなよ」
面白くなさそうにそれを聞いていた尚隆は、六太に向き直るといきなり顎に手をかけ顔を上げさせた。尚隆の顔が近づいてきて、思わず六太は手を払い除けて後ずさった。
「なんだよ!?」
「そんなに陽子が心配か」
「……は?」
尚隆が距離を詰めてくるので、六太はじりじりと後退する。
「いや、だって、隣国の王を心配すんのは当然だろ?お前だって、できる限り手助けしようとか言ってたじゃねーか」
尚隆はまた皮肉げに笑った。
「これ以上慶からの荒民が増えては困るからな。雁のために手助けすべきだと判断しただけだ」
尚隆に詰め寄られて後ずさった六太の背が、四阿の柱にぶつかった。
「お前は随分と陽子を気に入っとるようだな」
六太の頭上、四阿の柱に尚隆が左手をついた。
「……気に入ってる?なんで?」
「別嬪な王だと言ったろうが」
六太は唖然として尚隆の顔を見上げた。口元は笑んでいるが、目が笑っていない。明らかに怒っている。
確かに別嬪な王と言ったとき尚隆に窘められたが、あんなのはただの軽口で深い意味などないのに。
「そんなんで怒ってんのかよ」
「怒っているわけではない」
「嘘つけ。あんなこと言ったのは陽子への八つ当たりか?」
尚隆が低い笑い声をたてた。
「八つ当たりか……。確かに陽子を脅したのは筋違いだったかもしれんな」
尚隆の右手が六太の顎を掴んだ。
「仕置きが必要なのはお前のほうか」
尚隆の親指が六太の唇の間に入り込んできて、歯列をなぞられる。六太は歯を食いしばってそれ以上の指の侵入を拒み、尚隆を睨みつけた。尚隆は人の悪い笑みを浮かべながら六太の顔を眺める。

不意に尚隆は六太の顎から手を離した。
「帰るぞ、六太」
耳元で低く響いたその声に、六太は逆らうことができない。
「……楽俊は?」
「とらを残しておけば、楽俊ひとりで戻れる。お前は俺と一緒にたまに乗れ」
「……ほんと勝手な奴だな、お前は」

607不機嫌な王(尚六)2:2017/10/05(木) 19:36:43
それからすぐに、その辺にいた天官に帰る旨を伝えて楽俊への伝言を託すと、尚隆はさっさと禁門へ向かって歩き出した。

前を歩く尚隆の広い背中を見ながら、六太は心中で溜息を連発していた。
大概のことは笑って受け流す尚隆だが、ごく稀に急に不機嫌になることがある。その原因が分かっても、何故そんな些細なことで怒るのか、六太にはいつも理解不能だった。普段の鷹揚な尚隆は幻かと思う程の狭量さを見せるのだ。尚隆の逆鱗が何なのか、長くそばにいるのに未だに掴み切れない。
確実に言えることは、尚隆の気が済むようにさせなければ絶対に機嫌が直らない、ということだった。

雲海の上を飛ぶのかと思っていたら、尚隆は山の中腹、禁門前の岩棚へ騎獣を準備させた。季節は冬、雲海の下の空気は冷たかった。
「なんで雲海の上を行かないんだよ?下は寒いし、時間かかるじゃん」
六太は頭に布を巻いて金髪を隠しながら、尚隆に問う。
「もう夕刻だ。雲海上を飛んでも今日中に雁に戻れんだろうが」
「……だから?」
尚隆は意味ありげに笑って、それには答えない。
「いいから乗れ」
そう言って六太を抱え上げてたまの鞍に乗せ、自分もその後ろに騎乗した。

たまを飛翔させ、北西へ進路を取る。冬の冷たい空気で六太の手はかじかんできたが、背中は尚隆と密着しているので暖かかった。
暫く無言で手綱を握っていた尚隆が、六太の手を取って手綱を持たせた。
「お前に手綱を任せる」
「……分かった」
なんで、と訊きたかったが今の尚隆は答えないだろうと思い、素直に従うことにした。
手綱を握って前方に注意を向けていると、後ろから尚隆が抱きすくめるように腕を回してきた。六太の耳に尚隆の吐息がかかる。
「動きにくいし、気が散るんだけど」
六太の文句を無視して、尚隆が六太の耳朶を軽く噛み、舌を這わせてくる。背筋にぞくっと痺れが走り、六太は身を強張らせた。
尚隆の右手が六太の上衣の裾から入り込んできた。更に衿の合わせから侵入した右手は、六太の左の鎖骨を指先でなぞりながら下へ移動しようとしている。六太はその手の冷たさと指先の動きが気になり、手綱どころではない。
「やめろよ!手、冷たい」
「手が冷えたから、お前の肌で暖めようとしているのだ。我慢しろ」
「……じゃあ、せめて動かすなよ」
それに対する返答は無かったが、とりあえず尚隆の右手は動きを止めた。
六太は少しほっとして手綱を握り直し、尚隆の右手の存在と耳にかかる吐息を意識の外へ追い出そうとした。

608不機嫌な王(尚六)3:2017/10/05(木) 19:40:43
やがて尚隆の右手と六太の肌の温度差は無くなり、六太はその手をあまり意識することなく前方を注視していた。
しかし唐突に、それは動き出した。大きな掌が肌をゆっくり滑って下へと移動を開始する。
「ちょっ、お前!動かすなって言ったろ!?」
「お前の言うことを聞く義理はないな」
意地悪げな含み笑いが耳をくすぐる。
「お前、ほんと根性が悪……あっ…ん…」
尚隆の指先に胸の突起を摘まれ、六太は思わず喘いだ。
「ちゃんと手綱を持て。たまが困っておるぞ」
手綱を持った六太の手に変に力が入って、たまは困惑したのか鞍上をちらりと窺ってきた。
「ごめんな、たま。尚隆のせい…あ…は…ぁ…」
また敏感な所を弄ばれて、まともに喋れない。六太はもう黙っていようと心を決めた。
尚隆の右手は遠慮なく胸をまさぐり続ける。どこをどうすれば六太が感じるか知り尽くしている尚隆は、容赦なく敏感な場所を攻めてくる。耳に尚隆の吐息がかかり、舌が侵入してきた。たまらず六太は甘い吐息を漏らした。
六太の呼吸は次第に浅く早くなる。上半身を支えていられなくなり、尚隆に凭れかかった。
「どうした、六太」
耳元で囁く低い声に、六太は微かに身を震わせて唇を噛んだ。身体の奥が熱い。
どうした、などと尚隆は訊いてくるが、六太が今どんな状態か手に取るように分かっているだろうに。わざわざ訊ねて六太の反応を見て楽しんでいるのだ。本当に根性が悪い。
「前を見ろ」
なんとか前方に視線を送ると、隔壁に囲まれた街が夕暮れの中に見えた。
「今夜はあの街に泊まる」
そう言うと、尚隆の手はようやく動きを止めた。
やっと解放された六太は、前方を見据えながら大きく息を吸って吐き、ゆっくりと呼吸を整えた。
尚隆は服の中から右手を抜いて、六太の手から手綱を取り上げる。眼下に広がる街の門へ向かって、たまを降下させていった。

ーー

とりあえず書き上げたところだけ投下。
続き書きたいんですが、なんか恥ずかしくて筆が止まっています…
エロ書ける人、ほんと尊敬ですわ…
書く勇気が湧いたら書きます。

609名無しさん:2017/10/06(金) 12:30:06
不機嫌な尚隆萌える・・・・w
続きぜひお願いします!六たんオシオキしちゃってください

610名無しさん:2017/10/06(金) 17:54:08
続きが読みたい!

611名無しさん:2017/10/06(金) 20:51:12
わ、私も!!(*'ω'*)

612不機嫌な王(尚六)4:2017/10/09(月) 06:49:32
途中までですが>>608の続きです

ーー
閉門直前の街に入り、広途を歩いて厩のある舎館を探した。以前来たことがある街なので、尚隆は迷いなく歩を進める。六太は少し俯いて、黙って後ろからついてきていた。
程なくして見覚えのある舎館に到着した。たまを預け、宿の者の案内を断って二階の部屋へと向かった。

扉を開けて、六太を先に部屋の中へ入れる。六太は観念しているようで逃げ出そうとはしなかったが、憮然とした表情で衝立の奥へ入って行った。尚隆は敢えて扉を閉めずに部屋の中へ入った。
さほど大きくない窓には玻璃が入っており、その近くに卓と榻がある。部屋の隅には牀榻があった。貧しい慶国にしては高級な宿といっていいだろう。
案内を断ったため、部屋の灯りは点いていない。日没後の残照と月明りが窓から差して、部屋全体をぼんやりと浮かび上がらせていた。

尚隆は荷を置き、防寒用の上衣を脱いでその上に放った。
榻の近くに佇んでいる六太に背後から歩み寄る。斜め後ろから覗き込むようにして、六太の顎に右手をかけ自分の方を向かせた。六太は不機嫌そうに尚隆を睨む。
「機嫌が悪そうだな、六太」
「……機嫌が悪いのは、お前のほうだろ」
「俺の機嫌を損ねるようなことをした自覚があるのか」
「……ない」
「だろうな」
何が決定的に自分の機嫌を損ねたのか、実は尚隆自身にも分かっていなかった。ただ、六太の言動にひどく苛立ったのは確かで、そんな時には我慢して溜め込むことは絶対にしないと決めている。すぐに発散させるほうが、長い目で見れば互いのためになるだろう。
六太が他人に好意を示すのは珍しいことではない。麒麟だから誰のことでも心配するし、世話も焼く。それは麒麟の本能のようなものだと尚隆も承知している。
だが所詮それは理性の上でのことだ。おそらく無意識下では快く思っていないのだろう。ごく僅かな不満の積み重ねが、今日臨界点を超えたのだ。尚隆は自身の感情を、そう分析している。
六太からしてみれば、ほんの些細なことで不機嫌になった尚隆のことを理解できないだろう。

「……おれが悪いっていうのか」
「いや。……だがお前のせいだな」
「なんだよ、それ。意味分かんねえ」
「分からずとも良い。だが責任は取れ」
六太は唇を噛み、尚隆を睨む瞳が強さを増した。反抗的な目だ。この目が涙に潤むところが見たい、という嗜虐心が頭をもたげる。
左手で六太の頭の布を取って床に落とす。金色の髪が広がり細い肩を覆った。窓からの淡い光に照らされたそれは、薄闇の中では眩しいようにさえ感じられる。尚隆は金糸を一房すくい取って、そこに唇を寄せた。
「泣かせてやる」
ことさら意地悪く聞こえるように囁いた。

613不機嫌な王(尚六)5:2017/10/09(月) 06:54:34
何かを言い返そうとした六太の口を、噛み付くようにして塞ぐ。開きかけていた口は易々と尚隆の舌の侵入を許した。
逃れないように六太の後頭部を手で押さえ、柔らかい舌を乱暴に吸い、容赦なく口腔内を蹂躙する。六太が苦しげに呻いたが、尚隆は荒々しい口づけをやめなかった。

廊下を歩く人の話し声と足音が、衝立の向こうから聞こえてきた。六太が焦ったように首を振って、必死で逃れようとした。
「どうした」
少しだけ唇を離して低く訊くと、六太は荒い呼吸の合間に囁くように言う。
「扉……」
「開いているな」
「……わざとかよ……閉めろよ」
「断る」
紫色の瞳が、また尚隆を睨んだ。
「上衣を脱げ」
六太は何か言いたげな表情をしてから、顔をふいと前へ向け、帯を解いて上衣を脱ぎ始める。尚隆は肩から落ちかけたその上衣に手をかけ、床に落とした。
後ろから六太の身体に左腕を回す。六太の着ている袍は、先程騎獣の上で戯れを仕掛けた時のまま、衿元が乱れていた。尚隆はその衿の間に右手を滑り込ませ、胸の尖りを指先で弄った。腕の中の身体はびくっと震えて、六太の手が尚隆の左腕を、すがるように掴んだ。
尚隆はそこを指先で転がすように弄ぶ。手加減なしに攻めていると、六太の呼吸はすぐに乱れ始め、足に力が入らないのか、尚隆の胸と左腕に全ての体重を預けてきた。
「もう立っていられないのか。お前のここは本当に敏感だな」
耳元に囁いてから、耳朶から首筋へ舌を這わせる。六太は逃げるように頭を引いたが、もちろん逃げられるはずもない。
「…だれ…の…せい……だよ」
掠れた声だが反抗的な口調。尚隆は低く笑った。
「俺のせいだな」
閨事の全てを六太に教えたのは自分だ。
腕の中で六太の身体を反転させ、榻の上に押し倒した。
袍の帯を解いて前をはだけさせる。六太の袴に手をかけ、膝の辺りまで引き下ろした。むき出しになった両脚の間に右膝をつき、六太の顔の横に左手をついた。
尚隆の愛撫で既に硬く勃ち上がっている六太のものを、右手で握り込んで上下にしごく。六太は息を飲み、六太の右手が尚隆の左袖を掴んだ。
緩急をつけて中心に刺激を与え続けると、六太はきつく目を瞑り、空気を求めるように口を開けて、微かな喘ぎを漏らした。
「随分と興奮しているな。俺に触られるのがそんなに嬉しいか?」
耳元で囁くと六太は顔を背け、左手の袍の袖を口元に当てる。声が出るのを抑えようとしているのだ。
尚隆は六太が呼吸を乱して快楽へと昇りつめていく様子を見極めながら、徐々に愛撫を強めていく。そして絶頂に至る寸前で手を止めた。
「まだ出すな」
六太の陰茎の根元を掴み、耳元で低く命じる。吐精の欲を強引に抑えられた六太は、震える手で尚隆の右手を掴んだ。
「出したいか?」
わざと意地悪く訊くと、六太は唇を噛んで顔を背けた。
「まだだ。我慢しろ」
六太の膝に引っかかっていた袴を、尚隆は右足で蹴って床に落とした。太腿の内側を右手で撫でながら膝を持ち上げた。
六太の亀頭の先端に滲んだ、とろりとした液体を中指に絡める。その指で六太の秘所を探り、一気に根元まで押し込んだ。六太は息を飲み、また左手の袖で口を覆った。
熱い内壁を指で擦り、幾度か出し入れすると、六太の腰が物欲しげに動いた。無意識なのだろう。尚隆は口元に笑みを浮かべる。
指を二本に増やし、六太の内部を搔きまわすように刺激する。六太は袖を噛んで声を殺そうとしている。尚隆は六太の耳元に口を寄せて囁いた。
「いい声を聞かせてみろ、いつものように」
衝立の奥の開いた扉からは、廊下を歩く物音が先程から何度も聞こえる。夕刻の宿屋は人の出入りが多く、声を出せば誰かに聞かれてしまうだろう。
だから六太は必死で声を抑えている。それを分かって言っているのだ。

614不機嫌な王(尚六)6:2017/10/09(月) 06:58:05
六太は一瞬尚隆を睨んだが、直後に三本に増やした指を奥まで押し込むと、ついに耐えきれず声を漏らした。
「––––あっ、…くぅ……はあ…ぁ」
尚隆は口の端を歪めて笑う。
「いい声だな、六太」
押し込んだ指をそのまま止めて、六太の反応が落ち着くのを待った。このまま攻め続けたら嬌声が止まらなくなるだろう。声を聞かせろとは言ったが、それに耐える六太を見たかっただけで、他人に聞かせたいわけではない。

六太の呼吸が少し落ち着いたのを見計らって、三本指で六太が最も感じる場所のまわりの肉襞をゆっくりと撫でまわす。袖で覆われた六太の口から吐き出される息が、甘みを帯びて響いてきた。
「…あっ…ぁ…ぁ」
一番感じる場所は敢えて触らず、緩慢に内壁を愛撫すれば、やがて六太の腰が自ら快楽を求めるように淫らに動き出した。
六太はもう理性が飛びかけている。それを見定めて尚隆が指を抜くと、六太は荒く息をつきながら左手で顔を覆った。
その手首を掴んで手を上げさせると、紅潮した顔に恨めしげに睨まれる。
「もっと欲しいんだろう」
「……そういうこと、聞くな」
尚隆は六太の身体を引き起こして、榻から立ち上がらせた。脚に力が入っていない六太は、尚隆に凭れてしがみつく。
その軽い身体を抱え上げて、牀榻へ向かった。寝台に降ろすと六太はぐったりと倒れ込んだ。
「まだまだこれからだぞ、六太」
そう六太の耳元に囁いてから、尚隆は身を起こす。
「扉を閉めてくる」
尚隆は衝立の奥の扉へと向かった。

ーー
中途半端ですみません…
エロ初めてなんで羞恥に悶えながら書いてます
次回こそは本番書きたいんですが…

615名無しさん:2017/10/09(月) 13:10:23
続きありがとうございます!エーロ!エーロ!///
尚隆ってこうゆう焦らしと恥辱を与える役目ほんと上手そう…ww

616名無しさん:2017/10/10(火) 00:05:14
続き来てたああ
やきもち尚隆いいよ

617不機嫌な王(尚六)7/10:2017/10/11(水) 11:10:57
>>614の続きです。

ーー
尚隆は厚みのある木製の扉を閉めて、錠を下ろした。廊下からの物音はほぼ遮断され、部屋の中は静寂に包まれた。
尚隆は踵を返して牀榻へ戻る。
寝台に身を横たえた六太は、目を閉じて浅い呼吸を繰り返していた。火照った身体を持て余しているのだろう。

尚隆は衣服を脱ぎ捨てて寝台に乗る。
六太が羽織っていた袍を脱がせて細い裸体を抱え上げ、自分の膝の上に跨らせた。
「尚隆……」
六太は目を開けて、尚隆の首にしがみついてきた。六太の腰が動いて、尚隆の猛ったものの先端に、六太の後孔が当たる。そこを擦り付けるように動かされ、その中の心地よさを知り尽くしている尚隆は、今すぐ犯してやりたい衝動に駆られる。
「そんなに早く欲しいのか?淫乱な奴め」
尚隆は自分の情欲を抑えながら、低く囁いた。
「まだだ、六太」
尚隆は右手で六太の秘所を探り、指を一気に三本押し込んだ。充分にほぐれていたそこは、難なく指を受け入れる。
「あ…はぁっ……」
六太は顎を仰け反らせて甘い吐息を漏らす。指で緩慢に内部に刺激を与えながら、左手で六太の勃ったものを柔く握り上下に動かした。
「あ…あぁ…」
尚隆にしがみつく六太の手に力が入る。せわしない呼吸を繰り返しながら、六太は金色の髪を振り乱した。
「感じているな」
尚隆の言葉には、六太は何も答えない。六太の腰は、指を奥へ受け入れようとするかのように淫らに動く。
尚隆は右手の指の動きを止めると、左手を六太の陰茎から離した。
「…は、ぁ…、尚隆…」
六太は紅潮した顔を上げて、潤んだ目で尚隆を見つめた。
「どうして欲しい?」
六太は尚隆の首にしがみつき、耳元で掠れた声を出した。
「……もっと、奥に…欲しい」
尚隆は口の端で笑って、六太の中から指を引き抜いた。六太の身体が震えて、荒く息をつく。尚隆の首にしがみついたまま幾度か呼吸をした後で、六太は顔を上げる。すがるような目で尚隆を見つめた。
「自分で動け、六太」
六太は微かに頷いて、尚隆の首に回していた右手を下ろす。そして尚隆の股間で猛るものにその手を添えた。六太は腰を少し持ち上げて、導くように右手を動かし、そこに腰を沈めた。
「あぁ––––は…あ…ぁぁ…」
ようやく尚隆を受け入れた六太は、目を瞑り長く甘い吐息をついた。六太の中はいつもより一層熱く、尚隆を待ち望んでいたかのように肉襞が脈動している。
六太はすぐに腰を動かし始めた。尚隆が寸前で与えなかった絶頂を、自ら求めているようだった。
六太の腰の動きはあまりにも淫らで、尚隆の中心にも快楽の波が押し寄せる。思い切り六太の中を突き上げたい、という欲望が滾る。
「あ…はぁ…ぁん…」
喘ぎながら目の前で金色の髪を振り乱す六太に、尚隆は見惚れた。薄闇に沈んだ牀榻の中でも、そこにだけ淡い光が集まっているようだった。
なんて淫らで美しい生きものだろう。
この神獣を犯せるのは自分だけだ。快楽を与えるのも、自分だけだ。

618不機嫌な王(尚六)8/10:2017/10/11(水) 11:13:53
唐突に尚隆は六太の腰を掴んで持ち上げ、自分の腰を引いた。
絶頂へ向かっていた六太は、突然引き抜かれたことに驚愕したように、尚隆の顔を見た。
「尚…隆…やだ、なん…で…」
上擦った声で言いながら、六太は駄々をこねるように首を振る。華奢な身体はぶるぶると震え、涙が頬を伝った。
「もっと欲しいか、六太」
「はや…く…尚隆…も…う、やだぁ…」
ぽろぽろとこぼれる六太の涙を、尚隆は唇を寄せて舐めとった。
「すぐに俺が犯してやる」
六太の耳元で囁いてから褥の上に押し倒し、震える身体にのしかかった。細い腰を持ち上げて狙いをつけると、一気に奥まで突き上げた。
「あぁぁっ…!」
六太が絶叫した。
尚隆は激しく腰を動かして、六太の中を蹂躙する。六太は尚隆の腕を掴み、喘ぎながら腰を振った。
一切の手加減をせず、尚隆は六太を攻め続けた。尚隆の腕を掴む六太の指に、食い込むほどの力が入る。絶頂が近いのだ。
激しく乱れる六太を眺めながら、ああ、これは失神するだろうな、と尚隆は思った。
容赦なく幾度も最奥まで突き上げると、やがて六太はひときわ大きな嬌声を上げて、痙攣したように全身を震わせた。六太の身体から力が抜けるのを見定めて、尚隆は六太の中に精を放った。射精の快感が全身を貫き、尚隆は六太の身体の両側に手をついて、大きく息を吐き出した。
暫くそのままの体勢で呼吸を整えてから、尚隆は繋がっていた身体を離した。

尚隆は、ぐったりとした六太の身体を褥に横たえて、金色の睫毛に残った一粒の涙をそっと親指で拭う。
「六太」
返事がないのは分かっていたが、微かな声でその名を囁いた。

王を慕い絶対服従するのに、他の誰にでも心を配る仁の獣。決して尚隆の意のままにならない生きものに、時折ひどく苛立つ。
六太を追い詰めるようなやり方をしたのは、自分の手で意のままに乱れるさまを見たかったからだ。六太に快楽を与えられるのは自分だけだということを、確認するためだ。
まったく幼稚な独占欲だと、我ながら呆れる。これでは景麒に恋着した予王を笑えない。
これは六太に対する甘えだろうか。おそらくそうなのだろう。自分だけは何をしても許されることを、全てを受け容れてもらえることを、確かめたいのだ。

尚隆は微かに苦笑を浮かべながら、涙の跡の残る六太の頰を撫で、そっと金色の髪に手を滑らせた。

619不機嫌な王(尚六)9/10:2017/10/11(水) 11:17:00
六太の意識は緩やかに覚醒へと向かう。
目を開けるより先に、規則正しく耳を打つ鼓動を感じた。力強く響くその音は、六太に不思議なほど安堵感をもたらす。
ぼんやりと目を開けると、仄かな灯りがゆらゆらと揺れているのが見えた。
「目が覚めたか」
僅かに身じろぎすると、頭上から低い声が降ってくる。そちらを見上げると、尚隆が覗き込んできた。
揺らめく灯りに照らされたその顔には、先程までの不機嫌そうな雰囲気は微塵も感じられない。大きな手が六太の髪をそっと撫でた。
「大丈夫か?」
優しい声音で訊かれて、六太は苦笑した。自分で散々追い詰めておいて、よくもそんなことを言う、と可笑しくなる。
「大丈夫じゃねーよ。誰かさんのせいで」
わざと不満げな言い方をすると、尚隆は笑った。
「そうか」
まわりに意識を向けると、尚隆は牀榻の壁に凭れて寝台の上に座り、六太はその腕の中にすっぽりと収まっていた。身体の右側を尚隆の胸に密着させるように凭れていて、右耳に尚隆の鼓動が聞こえている。六太の肩には掛布がかけられていた。

「おれ、どれくらい寝てた?」
外は暗い。気を失ったのは日没からさほど経っていない頃だ。長く眠った感じはしないから、まだ夜中ではないだろう。
「半刻も経っていない。お前、腹が減ってないか?」
「……言われてみれば、減ってるかも」
「夕餉を食いに行くか」
「えー……」
確かにいつもなら夕餉を取る時分だろうが、六太はまだ情事の疲れで起き上がる気力がなかった。
「……まだ、起きたくない」
「そうか」
尚隆は微笑して、六太の身体を抱え直した。
「では、もう少し休んでからにするか」
穏やかに言う尚隆は、何事もなかったかのようにいつも通りだ。いや、いつもより優しいかもしれない。
「機嫌は直ったみたいだな」
皮肉を込めて六太は言う。ちょっとは文句をつけておかないと気が済まない。
「まあな」
さらりと言ってのける尚隆は余裕の笑みで、本当に憎たらしい。
「お前、ほんと自分勝手だよな。急に不機嫌になっておいて、もう忘れたみたいにしてさ」
「不機嫌なままのほうがいいのか?」
「そういう意味じゃないって。……分かって言ってるんだからタチ悪いよな」
だが六太の文句を一向に気にしたふうもなく、尚隆は笑った。六太は大げさに溜息をついてみせた。

不機嫌な尚隆は、なんだか子供じみている、と六太は思う。持て余した感情をぶつけてくるなんて。でも結局いつもそれを許してしまうのは、尚隆が王で六太が麒麟だからなのだろうか。それとも、王も麒麟も関係なく、六太個人の心が尚隆の全てを受け容れることを望んでいるのだろうか。
どちらでもいいことかもしれない。答えは決して出ないのだから。

620不機嫌な王(尚六)10/E:2017/10/11(水) 11:19:03
六太は少しだけ身を起こし、左手を伸ばして尚隆の頰を思い切りつねった。尚隆はわざとらしく顔をしかめ、その手を握る。
「なんだ、いきなり」
「仕返し」
尚隆は軽く吹き出した。
六太の左手を放した尚隆の右手が、頰に触れてくる。つねられるかと身構えていると、不意に口づけられた。
「なんだよ、いきなり」
触れただけですぐ離れた唇が、少しだけ名残惜しい。尚隆は微笑して、右手を六太の頭の後ろへ回す。また唇が重ねられた。
尚隆の湿った暖かい舌が六太の唇を這い、ゆっくりと侵入してきた。六太は目を瞑ってそれを受け入れ、舌先に絡む感触に意識を集中させる。尚隆の舌に優しく口腔内を犯される心地よさに身を委ねた。
やがて唇が離れていき、六太は目を開ける。すぐ目の前にある尚隆の顔が、困ったように笑った。
「もう一回やりたくなってきたな」
「え?」
六太は焦る。今はそんな気力はない。
「おれはやだからな。もう、無理」
「俺はまだ足りていないんだがな」
尚隆自身が満足することよりも、六太を追い詰めることを優先するようなやり方をしたせいだろう。
「そんなの、自業自得だろ。おれはもう充分だって」
「つれないな。さっきは泣いて欲しがったくせに」
意地悪げに尚隆は笑い、六太はかあっと顔が熱くなった。
「うるさい!そういうこと言うな!」
六太は拳で思い切り尚隆の胸を叩く。もちろんその程度ではびくともしないのだが。
尚隆は笑って六太の髪を撫でる。
「そう怒るな」
六太はむすっとして尚隆を睨んだ。
「お前って、ほんと根性悪い」
「そんなことは今更だな」
六太の抗議を尚隆は全く意に介さない。
ぷいとそっぽを向いた六太の頭を、尚隆が軽く叩いた。
「夕餉は何を食いたい?好きなものを奢ってやる」
「……お前さ、食いもんで機嫌取ろうとしてねえ?」
「いや、機嫌を取ろうとは思っていないぞ。お前にもう一回やる気になってもらいたいだけだ」
「なんだそれ」
あまりに莫迦莫迦しくて、六太は吹き出した。くすくす笑いながら、尚隆の胸に頭を凭せかける。
「……まだ、もう少し休みたい」
六太がそう言うと、尚隆はずり落ちていた掛布を引き上げて、その上から六太の身体を抱き締めた。
「仕方がないな。お前がやる気になるまで待とう」
ぼやくような尚隆の声を聞きながら、六太は笑って目を閉じた。
夕餉に好物を奢ってもらえるのは、単純に嬉しい。その後のことは……まあ、なるようになるだろう。




ーー

細切れ投下になりましたが、なんとか最後まで書けました…
携帯で小説書いているので、自分が書いたエロい文章を常に持ち歩くという辱めに耐えきれずw書いた分はすぐ投下して手元のデータを速攻消去してましたσ^_^;
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

621名無しさん:2017/10/11(水) 16:50:10
わー姐さんさんきう!ベリーマッチ!不機嫌な王様の続き読めて幸せです!エッロ!
…理不尽なエッチでも結局許してしまう六太が好き( ´ ▽ ` )

622名無しさん:2017/10/11(水) 20:43:35
にやにやしちゃうなあ
嫉妬尚隆もの、大変美味しくいただきました!

623不機嫌な王 おまけ:2017/10/13(金) 17:22:45
楽しんで頂けたようで嬉しいです。
焼きもち尚隆が六太をいじめるけど、結局許しちゃう六太が書きたかったのですw
ふと思いついて軽い気持ちで書き始めたのはいいけど、ちゃんと話を成り立たせるためにはガチエロ必須じゃないか!と気付いた時には戦慄しました…
最後まで書けて良かった…T^T

不機嫌な王のこぼれ話を少々
尚隆と六太が帰った後の陽子と景麒の会話です。

ーー

「即位式のあと延王と二人で話をしていた時に、延王が、きっと俺は雁を滅ぼしてみたくなる––––と言ったんだ。楽俊は、ただの冗談だろうから気にするなって言ってたんだけど……。延王はそういう冗談を言う方だろうか?」
「………」
「……景麒?」
「………」
「……何か思うところがあるなら言ってくれ、景麒」
「冗談、かどうかは分かりませんが……」
「……が?」
「私が主上を捜しに蓬莱へ渡る前、延台輔に助言を求めて玄英宮へ伺ったことがあります」
「へえ。……それで?」
「……延台輔が席を外して、私と延王の二人きりになった時に、延王が仰ったのです」
「……何を?」
「予王の気持ちは分からんでもない、と」
「……それって、民を虐げ国を荒らす王の気持ちが分かるってことか?」
「延王の真意は私には分かりかねますが……。自嘲するように仰っていました」
「そうか……。なんか恐いな、延王は……」

ーー

陽子も景麒も、尚隆がただの嫉妬深い奴だとは気付いてない、という話w

624初詣(尚六)1/6:2017/12/26(火) 19:15:43
尚六の別スレ立てて一話目も途中だというのに、ふと思いついた話を先に書いてしまいました…
ちょっと早いですが初詣デートの話
皆様も素敵な新年を迎えられますように(*^ ^*)

ーー
大晦日の深夜、間もなく年が明ける頃のこと。
関弓山の中腹にある禁門が、内側から少しだけ押し開けられた。門番が訝しんでそちらを見ると、門の隙間から一つの騎影が飛び出した。
三本の尾を持つ狼の背に、二つの人影。
止める間も無く騎影は跳躍し、岩棚の向こうへ降りていく。
二人の門番が騎影の飛んだ方へ走り、岩棚の端から下を見渡した。しかしそこには暗闇の中、街の灯りが散りばめられた星のように輝くのが見えるだけ。三尾の狼の姿はどこにもなかった。

「……やられた」
「五年……いや、六年振りか?」
「確か六年振りだな、大晦日の逃亡は」
「最近なくて安心してたんだがなあ」
「まあ、明日は式典もあるし、夜明けまでにはお戻りになるだろう」
二人の門番はどこか楽しそうに、下界の灯りを眺めた。既に深更だが、大晦日の夜は起きている民が多いのだろう。普段よりも街の灯りは多く、冬の澄んだ空気の中で美しく煌めいている。
「街に降りたくもなるよなあ……」
ぽつりと呟いた言葉にもう一人の門番の男が静かに頷いた。
その時、新年を告げる鐘の音が、凍えるような空気を震わせて厳かに鳴り響いた。


悧角で王宮を抜け出した尚隆と六太は、街の片隅の目立たぬ場所に降り立った。広途の方向からは、さざ波のような喧騒が聞こえる。
「早く早く」
六太は待ちきれないように言いながら、広途の方へ足早に向かう。
「待て六太、もう少し落ち着け」
尚隆は苦笑しながら六太に声を掛け、後ろからついて行く。
「置いてくぞー」
六太は振り返って言い置くと、ぱっと駆け出した。その後ろ姿は、すぐに曲がり角の先に消えた。

尚隆が歩いて広途に出ると、そこには多くの人々が同じ方向へ向かって歩いていた。
道端には一定の間隔で篝火が焚かれ、通りを明るく照らしている。普段この界隈は夜中になると殆ど灯りがないのだが、今夜だけは特別だ。
はしゃぐ子供達が尚隆の前を通り過ぎて行く。夜中まで起きていることは滅多にないのだろう。
街路の先を見やると、幾つか先の篝火の近くに六太の姿があった。尚隆はゆっくりと歩み寄って行く。
揺れる炎に照らされた六太の横顔には、微笑みが浮かんでいる。民を見守る慈愛深い麒麟の表情だと、尚隆は思った。
「……みんな浮かれてんなあ」
呟いて、六太は笑みを深くする。
浮かれた民を見ることが、最上の幸福であるかのように。

625初詣(尚六)2/6:2017/12/26(火) 19:18:13
少しの間、尚隆はその横顔を見つめてから、軽い口調で声を掛けた。
「浮かれとるのはお前だろうが。勝手に先に行くな、迷子になるぞ」
「ならねぇよ。おれはお前の気配わかるし」
六太はそう言ってから、はたと尚隆を振り仰いで、にっと笑った。
「あーそうか。おれじゃなくて尚隆が迷子になるって話か」
尚隆は笑って、拳で六太の頭を小突く真似をする。
やめろよ、と笑って頭を庇おうとした六太の手を、尚隆は掴まえた。そのまま手を下ろして、六太の冷えた手を繋ぎなおすと、六太は少し驚いたように尚隆を見つめてから、悪戯っぽく笑った。
「……お前が迷子にならないように?」
「そうだ。手を離すなよ」
尚隆が念押しするように言うと、六太は楽しそうな笑い声をたて、手を握り返してきた。

人々の波は神社のある方向へと流れて行く。その流れに乗って、尚隆と六太も神社へ向かって歩き出した。
こちらの世界で初詣の風習があるのは、蓬莱の影響を色濃く受けている雁だけだろう。
鳥居へ続く街路には幾つか出店があり、食べ物や玩具などが売られていた。六太は尚隆の手を引っ張りながらふらふらと店を覗いていく。
「甘酒の匂いがする」
鳥居の少し手前で、六太が呟きながらきょろきょろとあたりを見回し、人だかりのある方向に視線を止めた。
「あ、あそこだ。お前の分も貰ってきてやる」
そう言うと六太は繋いでいた手を離し、尚隆の返事を待たずに駆け出した。その後ろ姿を見送りながら、尚隆は微かな笑みを零した。
数百年も生きているくせに、ああいうところは全く変わらない。

人だかりの近くまで歩み寄り、尚隆はそこから六太の姿を眺めた。
甘酒を振舞っているのは年配の男だ。確かあれは酒屋の店主だったはず。六太は笑顔で言葉をかけ、男も笑って何かを言う。そして甘酒の入った小さな杯を二つ六太に手渡した。
六太が両手の小杯の中身をこぼさないよう慎重に歩いて戻って来る。
「あのおっさん、今年のは特別うまいぞって言ってたぜ。なんか前来た時も同じこと言ってたような気がするけど」
六太は可笑しそうに笑いながら、右手の杯の差し出した。尚隆は右手を伸ばしてそれを受け取り、六太の空いたその手を左手で掴んだ。
「手を離すなと言ったろう」
「そっか、忘れてた」
屈託なく六太は笑い、甘酒に口をつけた。うまい、と言ってまた六太は笑う。

626初詣(尚六)3/6:2017/12/26(火) 19:20:17
今夜の六太は上機嫌だ。本当に楽しそうに笑っている。
数日前に初詣に行きたいと六太が言い出した時、尚隆は正直なところ、面倒だなと最初は思った。ここ数年は閨で新年を迎えていたから、今年もそうするつもりだったのだ。
元日は慶賀の式典があるので、準備のため早朝から起こされる。さすがに新年初の重要な行事をサボるわけにはいかないので、
「深夜に抜け出したら閨で過ごす時間がないではないか」
と尚隆が言うと、六太は、
「そんなのいつだっていいだろ。初詣は年に一度の特別なことだぞ。ここ何年か行けてないんだから、今年は絶対に行きたい。お前が行かなくても、おれ一人で行くからな」
などと言い出した。
どうしても譲らない六太に結局尚隆が折れて、初詣に来ることになったのである。
そんなことを思い出して、尚隆は軽く溜息をつきながら六太の笑顔を見やる。
浮かれた様子の民を見るのも、楽しそうな六太を見るのも悪くはないがな、と内心で呟きながら、自分の頰が緩んでいることは十分に自覚していた。

尚隆と六太は手を繋いだまま、他愛のない話をしながら歩いていく。鳥居をくぐり、神社の境内に足を踏み入れた。
凍えるような冷たい空気の中、吐き出される息は白い。境内のあちこちに、赤々と燃える篝火がある。
石畳の参道を参拝客の群れが進む。社殿が近づくにつれ人の密度は増していく。動きが緩やかになり、やがて殆ど動かなくなった。
蓬莱と違って、こちらの人は基本的に神頼みはしない。子や家畜を授けてくれる里木には熱心に祈るが、特に見返りのない神に何かを願うのは無意味だと考える者が多いらしい。
だからこんなに大勢の人々が神社を訪れるのは不思議な気もするのだが、おそらく新年を喜ぶ民が、祭りに参加するような気持ちで参拝に来ているのだろう。

少しずつ列は進み、本殿の前の石段を一段ずつ登る。ようやく尚隆と六太が最前列になった。
賽銭を箱に投げ入れて、垂れた鈴緒を振って鈴を鳴らす。蓬莱の作法に則って拝礼し柏手を打った。
隣に立つ六太が手を合わせて目を閉じるのを、ちらりと見やってから、尚隆も目を閉じた。

初詣の願い事は、こうなったらいいなという夢を語るためのものではない。もちろん、民は自由に夢が叶うことを願えば良いのだが、王である尚隆にとっては、自らの決意を新たにするためのものなのだ。
己の民と半身に、緑豊かな国を渡し続けることが出来るように。

627初詣(尚六)4/6:2017/12/26(火) 19:22:32
六太の願い事はいつも同じだ。
手を合わせて心の中でそれを唱えてから、六太は目を開ける。最後に一礼をしてから隣を見上げると、尚隆はまだ目を閉じたまま、いつになく真剣な様子で手を合わせていた。
何を願っているのだろう。神頼みの御利益など、全く信じていないだろうに。

その横顔を少し見つめた後、ちょっとした悪戯心でその場からそっと離れた。人混みの中に入ってしまえば、小柄な六太を見つけるのは難しいだろう。逆に背の高い尚隆を見つけることはたやすいし、六太には王気が分かる。圧倒的に有利なかくれんぼだ。

尚隆が一礼してから六太が居た場所を見て、それからまわりを見渡すのを、六太は人混みの中から眺めた。慌ててはいないだろうが、きっと呆れているだろう。なんだか可笑しくなって、六太は小さく笑う。
周囲に目を配りながら歩き出した尚隆を、六太はこっそりと追いかけた。ゆっくり歩く尚隆に気付かれないように、慎重に背後から近付いて行く。
三歩程の距離から尚隆の袖を引こうと右手を伸ばした瞬間、不意に尚隆が振り返った。
「あ」
袖を引くより先に気付かれて、六太は思わず声が出た。伸ばしていた手を尚隆の左手に掴まれる。その手は大きくて暖かい。
「まったく、少し目を離すとお前はすぐにいなくなるな」
わざとらしい溜息をついてから、尚隆は笑った。
「迷子になったと思ったか?」
六太はそう言ってくすくす笑いながら、三度目だ、と思う。年が明けたばかりなのに、もう三度も尚隆につかまえられた。
「今度こそ手を離すなよ」
「うん」
尚隆に念を押されて、六太は笑って頷いた。

参拝を終えた人々が、参道から外れた境内の篝火の外側を通り、戻って行く。二人も同じように歩き出した。
広途へ戻ると、神社へ向かう人と戻る人が入り混じって、先程よりも雑然としていた。
「……さっき、何を願ってた?」
手を合わせていた時の尚隆の真摯な横顔を思い出しながら、六太は密やかな声で訊いてみる。
問われた尚隆は少しの間、六太を真顔で見つめた。何かを言いかけてから思い留まったように、人の悪そうな笑みを浮かべる。その表情を見た瞬間、六太は問うたことを後悔した。
「知りたいか?」
「いや、知りたくない。今の質問は無かったことにしてくれ」
尚隆が本当の願い事を教える気がないのは明らかだ。六太をからかうための、碌でもない答えを思いついたのだろう。
「遠慮せずに、聞け」
「聞きたくない」
六太は両手で耳を塞ごうとしたが、右手は尚隆に掴まれていて、左耳しか塞げなかった。これでは全く意味がない。

628初詣(尚六)5/6:2017/12/26(火) 19:24:34
尚隆は六太の右耳に口を寄せると低く囁いた。
「––––六太の性欲がもっと強くなるように」
予想以上に、碌でもない願いだった。
「お前…!ほんとに莫迦だろ?くだらない願い事するんじゃねーよ!」
六太が声を上げると、尚隆は真面目くさった顔を作って首を横に振った。
「いや、これはかなり切実な願いだぞ。どうもお前は俺と比べると、そういう欲が弱い」
「お前と比べんなって、この色欲魔が。……あぁもう、ほんと訊くんじゃなかった」
六太は深い溜息をついたが、尚隆は楽しそうに笑った。
「お前は何を願ったんだ」
「教えない」
「せっかく俺の願い事を教えてやったのに、つれないな」
どうせ本当の願い事じゃないくせに、と六太は心の中だけで言い返しながら、尚隆に指を突きつけた。
「初詣の願い事ってのは、人に言ったら叶わないんだぜ?つまり、さっきおれに言ったお前の願い事は、叶わないってこと」
人に言ったら叶わない、というのはよく聞く噂だが、六太はそれを信じているわけではない。きっと願い事を他人に教えたくない誰かが考えた言い訳だろう。今の六太のように。
「……ほう、それは残念だな」
さして残念でもなさそうに言ってから、尚隆はにやりと笑った。
「神頼みが通じぬのなら、自分でなんとかするしかないか」
「……へ?」
繋いだ手を唐突に強く引かれて、六太は近くの路地に連れ込まれた。篝火の届かないその場所は、濃い闇の中に沈んでいる。
「どこ行くんだよ」
六太が訊ねたのとほぼ同時に、尚隆は突然立ち止まった。咄嗟に止まれなかった六太の身体は、尚隆の右腕に受け止められ、そのまま胸元に抱き寄せられた。
唖然としていると、大きな手に顎を持ち上げられた。尚隆の顔が近づいてきて、六太は驚いて逃れようと身を捩った。
「ちょっ、やめろよ!お前、急に何なんだよ?」
「お前が挑発してきたんだろうが」
「してねぇよ、挑発なんて」
「俺の願い事が叶わないと言ったろう」
「言ったけど、それがどうした」
「あれは『だからお前がその気にさせてみろ』という挑発だろう?」
「はあ⁉︎」
なんでそうなる曲解し過ぎだろう!と出かかった言葉は、尚隆の口に塞がれた。きつく抱擁され頭を押さえられて、逃れることはできない。
歯列の間から入り込んできた尚隆の舌が、執拗に六太の舌に絡みついてくる。その器用な舌は、口腔内の隅々まで丹念に愛撫を繰り返した。
情欲を煽る濃厚な口づけに、六太の手は次第に抵抗する力を失っていく。これでは尚隆の思う壺だ、と考えながら、諦めるように目を瞑った。
六太が口づけに応じ始めると、頭を押さえていた手の力と、苦しい程きつかった抱擁の腕が、少しだけ緩んだ。
自由に動かせるようになった腕を、尚隆の広い背中に回した。全身に広がっていく甘い痺れに浸りながら、今年最初の口づけだ、と六太は思った。

629初詣(尚六)6/E:2017/12/26(火) 19:26:35
舌が溶け合ったのかと錯覚するくらい、長い口づけだった。やがて尚隆の唇は離れ、陶酔感の余韻が、六太に吐息をつかせた。
六太が瞼を上げると、間近に尚隆の笑みが浮かんでいる。
「その気になったか」
「……」
沈黙していると、尚隆は意地悪げに目を細めて、六太の首に巻いてある襟巻きをするりとほどいた。露わになった六太の首筋に、尚隆が顔を埋めた。
尚隆の冷えた鼻先が首筋に当たり、思わず首を縮める。そこに暖かい舌が這い出して、首筋からうなじへとゆっくりと移動し、そして耳朶に至った。
「あ…ん、やめ……尚…隆」
舌が耳に侵入してきて、ぞくぞくと背筋が泡立ち、声が上擦った。
「その気になったと言うまで続けるぞ」
尚隆の含み笑いと低い囁きが、耳をくすぐった。無駄な抵抗と知りつつも、六太は抗議する。
「……今夜は、そういうことしないはずだろ」
「誰がしないと言った」
う、と六太は言葉に詰まる。しない、とは確かに言ってない。
だが閨で過ごす時間がないと文句を言って、初詣に来るのを渋っていたのは尚隆だ。散々揉めた末に尚隆も初詣に行くと言ったのだから、閨事は諦めたと思っていたのに。
「でも、戻ったらどうせ夏官が待ち構えてて、それぞれ臥室に連れ戻されるだろ」
これまで夜中に初詣に行った時は、毎回そうだった。各自の臥室に連れ戻され、早朝の起床時間まで牀榻に押し込まれて、抜け出さないよう見張られるのだ。
新年の重要な式典に差支えないよう、ちゃんと寝ろということだ。それはもっともな言い分だし、まあ夜遊びした後だから仕方がないと、これまではおとなしく従っていたのだ。
「街の宿に入ればよかろう」
「え……いや、でも」
「それとも玄英宮に戻って、勅命を出すか?」
「勅命?」
「姫初めの邪魔をするな、と」
六太は一瞬、言葉を失う。なんでこいつは、こんなくだらない勅命を思いつけるのだろうか。
「––––阿呆!新年早々、莫迦な勅命考えるんじゃねえ!絶対、そんな勅命出すなよ!」
「では宿に入るか」
「う……」
答えに詰まる六太に、尚隆は軽く溜息をつく。
「まだその気にならんのか。強情な奴だな」
そう言ってから尚隆は、再び耳朶に舌を這わせ始めた。
「あっ…や……、分かっ…た、宿に、入るから…!もう、よせって」
上擦った声で言うと、尚隆は舌を離し、その大きな手が六太の頰を包むように優しく触れてきた。
そして尚隆は、至近から六太の顔を覗き込んで囁いた。
「その気になったと、ちゃんと言え」
「……その気に…なった」
顔が熱くなるのを自覚しながら、六太は囁き返した。
満面の笑みを浮かべた尚隆は、六太の唇に軽く口づけを落とす。次の瞬間、六太の身体はひょいと抱え上げられた。
「では行くぞ」
六太が慌てて尚隆の上衣を掴むと、路地の奥に向かって尚隆はすたすたと歩き出す。広途は通らず、裏道から宿に向かうつもりのようだ。
いつものことながら本当に強引な奴だ、と六太は溜息をつく。今年もこんなふうに尚隆に振り回され続けるのだろう。
でも、と六太は微かに笑む。
それでもいいか、とも思う。いつまでも尚隆のそばにいることが、六太の願いだから。
六太は、自分を抱え上げる男の首に、腕を回してしがみつく。そいつの耳朶を甘噛みして、ぺろりと舐めてやった。
尚隆が笑った振動が、触れた唇に直接伝わる。
「待ちきれないのか?」
「……ばーか」
小さく笑いながら耳元で囁くと、六太の身体を抱き締める腕の力が強くなった。
ひとつの影となった二人の姿は、密やかな笑い声を響かせながら、深夜の路地裏の暗闇へ溶けるように消えていった。



630名無しさん:2018/01/16(火) 19:15:44
かわいいろくたんをありがとう!


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