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【お気軽】書き逃げスレ【SS】

627初詣(尚六)4/6:2017/12/26(火) 19:22:32
六太の願い事はいつも同じだ。
手を合わせて心の中でそれを唱えてから、六太は目を開ける。最後に一礼をしてから隣を見上げると、尚隆はまだ目を閉じたまま、いつになく真剣な様子で手を合わせていた。
何を願っているのだろう。神頼みの御利益など、全く信じていないだろうに。

その横顔を少し見つめた後、ちょっとした悪戯心でその場からそっと離れた。人混みの中に入ってしまえば、小柄な六太を見つけるのは難しいだろう。逆に背の高い尚隆を見つけることはたやすいし、六太には王気が分かる。圧倒的に有利なかくれんぼだ。

尚隆が一礼してから六太が居た場所を見て、それからまわりを見渡すのを、六太は人混みの中から眺めた。慌ててはいないだろうが、きっと呆れているだろう。なんだか可笑しくなって、六太は小さく笑う。
周囲に目を配りながら歩き出した尚隆を、六太はこっそりと追いかけた。ゆっくり歩く尚隆に気付かれないように、慎重に背後から近付いて行く。
三歩程の距離から尚隆の袖を引こうと右手を伸ばした瞬間、不意に尚隆が振り返った。
「あ」
袖を引くより先に気付かれて、六太は思わず声が出た。伸ばしていた手を尚隆の左手に掴まれる。その手は大きくて暖かい。
「まったく、少し目を離すとお前はすぐにいなくなるな」
わざとらしい溜息をついてから、尚隆は笑った。
「迷子になったと思ったか?」
六太はそう言ってくすくす笑いながら、三度目だ、と思う。年が明けたばかりなのに、もう三度も尚隆につかまえられた。
「今度こそ手を離すなよ」
「うん」
尚隆に念を押されて、六太は笑って頷いた。

参拝を終えた人々が、参道から外れた境内の篝火の外側を通り、戻って行く。二人も同じように歩き出した。
広途へ戻ると、神社へ向かう人と戻る人が入り混じって、先程よりも雑然としていた。
「……さっき、何を願ってた?」
手を合わせていた時の尚隆の真摯な横顔を思い出しながら、六太は密やかな声で訊いてみる。
問われた尚隆は少しの間、六太を真顔で見つめた。何かを言いかけてから思い留まったように、人の悪そうな笑みを浮かべる。その表情を見た瞬間、六太は問うたことを後悔した。
「知りたいか?」
「いや、知りたくない。今の質問は無かったことにしてくれ」
尚隆が本当の願い事を教える気がないのは明らかだ。六太をからかうための、碌でもない答えを思いついたのだろう。
「遠慮せずに、聞け」
「聞きたくない」
六太は両手で耳を塞ごうとしたが、右手は尚隆に掴まれていて、左耳しか塞げなかった。これでは全く意味がない。


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