したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【お気軽】書き逃げスレ【SS】

626初詣(尚六)3/6:2017/12/26(火) 19:20:17
今夜の六太は上機嫌だ。本当に楽しそうに笑っている。
数日前に初詣に行きたいと六太が言い出した時、尚隆は正直なところ、面倒だなと最初は思った。ここ数年は閨で新年を迎えていたから、今年もそうするつもりだったのだ。
元日は慶賀の式典があるので、準備のため早朝から起こされる。さすがに新年初の重要な行事をサボるわけにはいかないので、
「深夜に抜け出したら閨で過ごす時間がないではないか」
と尚隆が言うと、六太は、
「そんなのいつだっていいだろ。初詣は年に一度の特別なことだぞ。ここ何年か行けてないんだから、今年は絶対に行きたい。お前が行かなくても、おれ一人で行くからな」
などと言い出した。
どうしても譲らない六太に結局尚隆が折れて、初詣に来ることになったのである。
そんなことを思い出して、尚隆は軽く溜息をつきながら六太の笑顔を見やる。
浮かれた様子の民を見るのも、楽しそうな六太を見るのも悪くはないがな、と内心で呟きながら、自分の頰が緩んでいることは十分に自覚していた。

尚隆と六太は手を繋いだまま、他愛のない話をしながら歩いていく。鳥居をくぐり、神社の境内に足を踏み入れた。
凍えるような冷たい空気の中、吐き出される息は白い。境内のあちこちに、赤々と燃える篝火がある。
石畳の参道を参拝客の群れが進む。社殿が近づくにつれ人の密度は増していく。動きが緩やかになり、やがて殆ど動かなくなった。
蓬莱と違って、こちらの人は基本的に神頼みはしない。子や家畜を授けてくれる里木には熱心に祈るが、特に見返りのない神に何かを願うのは無意味だと考える者が多いらしい。
だからこんなに大勢の人々が神社を訪れるのは不思議な気もするのだが、おそらく新年を喜ぶ民が、祭りに参加するような気持ちで参拝に来ているのだろう。

少しずつ列は進み、本殿の前の石段を一段ずつ登る。ようやく尚隆と六太が最前列になった。
賽銭を箱に投げ入れて、垂れた鈴緒を振って鈴を鳴らす。蓬莱の作法に則って拝礼し柏手を打った。
隣に立つ六太が手を合わせて目を閉じるのを、ちらりと見やってから、尚隆も目を閉じた。

初詣の願い事は、こうなったらいいなという夢を語るためのものではない。もちろん、民は自由に夢が叶うことを願えば良いのだが、王である尚隆にとっては、自らの決意を新たにするためのものなのだ。
己の民と半身に、緑豊かな国を渡し続けることが出来るように。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板