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【お気軽】書き逃げスレ【SS】

625初詣(尚六)2/6:2017/12/26(火) 19:18:13
少しの間、尚隆はその横顔を見つめてから、軽い口調で声を掛けた。
「浮かれとるのはお前だろうが。勝手に先に行くな、迷子になるぞ」
「ならねぇよ。おれはお前の気配わかるし」
六太はそう言ってから、はたと尚隆を振り仰いで、にっと笑った。
「あーそうか。おれじゃなくて尚隆が迷子になるって話か」
尚隆は笑って、拳で六太の頭を小突く真似をする。
やめろよ、と笑って頭を庇おうとした六太の手を、尚隆は掴まえた。そのまま手を下ろして、六太の冷えた手を繋ぎなおすと、六太は少し驚いたように尚隆を見つめてから、悪戯っぽく笑った。
「……お前が迷子にならないように?」
「そうだ。手を離すなよ」
尚隆が念押しするように言うと、六太は楽しそうな笑い声をたて、手を握り返してきた。

人々の波は神社のある方向へと流れて行く。その流れに乗って、尚隆と六太も神社へ向かって歩き出した。
こちらの世界で初詣の風習があるのは、蓬莱の影響を色濃く受けている雁だけだろう。
鳥居へ続く街路には幾つか出店があり、食べ物や玩具などが売られていた。六太は尚隆の手を引っ張りながらふらふらと店を覗いていく。
「甘酒の匂いがする」
鳥居の少し手前で、六太が呟きながらきょろきょろとあたりを見回し、人だかりのある方向に視線を止めた。
「あ、あそこだ。お前の分も貰ってきてやる」
そう言うと六太は繋いでいた手を離し、尚隆の返事を待たずに駆け出した。その後ろ姿を見送りながら、尚隆は微かな笑みを零した。
数百年も生きているくせに、ああいうところは全く変わらない。

人だかりの近くまで歩み寄り、尚隆はそこから六太の姿を眺めた。
甘酒を振舞っているのは年配の男だ。確かあれは酒屋の店主だったはず。六太は笑顔で言葉をかけ、男も笑って何かを言う。そして甘酒の入った小さな杯を二つ六太に手渡した。
六太が両手の小杯の中身をこぼさないよう慎重に歩いて戻って来る。
「あのおっさん、今年のは特別うまいぞって言ってたぜ。なんか前来た時も同じこと言ってたような気がするけど」
六太は可笑しそうに笑いながら、右手の杯の差し出した。尚隆は右手を伸ばしてそれを受け取り、六太の空いたその手を左手で掴んだ。
「手を離すなと言ったろう」
「そっか、忘れてた」
屈託なく六太は笑い、甘酒に口をつけた。うまい、と言ってまた六太は笑う。


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