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ザ・ワールド
1
:
Sa
:2004/04/22(木) 14:59
またまた、お邪魔しに来てしまいました
自分でもどう転ぶのか、わかっていない作品なのですが
書きたい気持ちに負けて、スレ立てしてしまいました
よろしければお付き合い下さい
2
:
序章
:2004/04/22(木) 15:00
夢を、見た
3
:
序章
:2004/04/22(木) 15:01
大きな大きなまるい月が出てた
発光して輝く白い月
その下で、コンクリートの灰色が鈍く浮かび上がって見える
黒い影が・・・
疾風のように走って行く
乱れることのない規則的な呼吸音だけが、総てを包み込む様に
流れ続けて、響いている
見たい、もっと近くで・・・
願う声が聞き届いたと言う様に、黒い影は四本の足の動きを止めた
4
:
序章
:2004/04/22(木) 15:01
月が照らし出す・・・その姿
眩い純白の毛皮に包まれたまるで狼の様に、大きな大きな犬だった
瞳は侵すことを許さない誇りと、強い意志を持ち黄金に輝いている
一目見ただけで、心を奪われるほど・・・
それは美しい、美しい姿だった
5
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:02
今日はなんだか、ぼぅーとしてる
6
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:03
朝から調子が悪かったのよね、石川梨華は、ふぅと息を吐いた
朝方、夢を見てた気がする
とても、とても大事な夢、忘れてはいけない何か・・・だけど、思い出せない
梨華は眉を寄せた、自分でも気がつかない間に唇が尖っていく
7
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:03
朝のHRで担任が緊張した面持ちで、梨華のクラスに今日、転入生が
来る予定だと言った
一時限目が始まって少しすると、廊下をせかせかと急ぎ足で進む音がして
教室のドアが、ガラリと開けられた
そして、一時限目は自習になった
後ろの席のクラスメートがたてる、噂話は声だかで、聞く気は無くても
梨華の耳まで届いた
「ねー? 転入生の噂、聞いた?」
「なんか、すっごくお金持ちの子なんでしょ?」
「その子が来ないから、先生達、慌ててんのかな〜?」
「まっさか〜 うちら、高校生じゃんっ?」
転入生・・・ね?
しばらくは話題の的だろうなぁ〜
お金があろうと、無かろうと、転入生とはそう言うものだ
梨華は頬杖をつきながら、窓の外を見た
8
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:04
窓が、自分を映し出すもっとも効果的なスクリーンだと、言わんばかりに
五月の樹木は活き活きとして見える
窓ガラスに隔たれて感じることは出来ないが、そよそよと吹く風が
うららかな春の光で歌を奏でるように緑が揺れた
梨華を誘う様にゆらゆら揺れていて、時折、光を放つ緑の濃淡
「ね、ごめん
わたし保健室に行ってくる、朝から頭が痛くって・・・
先生、来たらそう言っておいてくれる?」
自習とは名ばかりで、思いもよらないプレゼントのような自由時間を
ファション雑誌を捲りながら、顔をつき合わせてるクラスメイトに
そう言うと、梨華は静かに教室から出て行った
9
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:05
梨華の通う学園の周りは、このご時世では贅沢すぎるくらいの
緑に囲まれていた
外は気持ちいい・・・、梨華の髪がさらさらと風に揺れる
梨華はそのまま裏庭に抜けると、古い教会の前に出た
この教会、前から不思議だったんだけど・・・?
今はカトリック系じゃないけれど、昔はそうっだったのかしら?
梨華は思い立って、扉を押してみた
ビクともしなかった
「・・・開かないよ・・・たぶんね
いまはまだ、その時じゃないから」
10
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:05
頭の上から突然声がして、梨華は空を仰いだ
大木が広げる枝に、青々と瑞々しい葉を広げざわざわと揺れている
緑が眩しい・・・
洩れては零れる木漏れ日を、片手で遮るように目をこらした
ザザザーッと、連なる葉が大きな音を立てた瞬間
梨華の目の前にひとりの女生徒が立っていた
・・・まるでいま、空の上から落ちてきたみたい
色素があまり濃くない、日の光をそのまま閉じ込めて着色した様な
短めの髪をさらりと振ると、女生徒はまっすぐ梨華を見た
うちの生徒?・・・知らない、見たことがないよ
こんな目立つ人
11
:
リアル・ワールド
:2004/04/22(木) 15:06
梨華もまっすぐに、女生徒の顔を見つめ返した
その瞬間、声が聞えた
・・・やっと・・・会えたね
梨華は驚きに目を見開いた
女生徒の唇は薄く微笑む様に、引き上げられているだけで
言葉を発していなかったから・・・
その声が梨華の頭の中で響いた刹那
女生徒の瞳が金色に輝くように見えた と、梨華は思った
12
:
Sa
:2004/04/22(木) 15:07
まだ頭の中で、全てがまとまってないので
長さが自分でわかっておりません
更新は不定期で、作者の今までのペースから考えたら
かなり遅くなりそうです
とても我がままで、申し訳ないのですが
それでも読んで下さる方がいらっしゃれば光栄です
管理人様
ご無沙汰しております
作者自身で話の長さが掴めないもので、またまたスレを
立てさせて頂きました
お世話をおかけしますが、よろしくお願い致します
13
:
JUNIOR
:2004/04/22(木) 23:07
わぉ。Saさんの新作だ!!
楽しみにしてます。Myペースで更新頑張ってくらさい。
その女生徒って・・・。多分あの人ですよね。
絶対最後まで読みます。(何があっても)
14
:
54@約束
:2004/04/23(金) 01:36
おぉ〜、新作が始まりましたね!
お待ちしておりました。ヒサブリにお邪魔してビンゴ!で嬉しいです。
いきなりのドラマティックな導入部に引き込まれました。
速度は気になりませんので、まったり進めていただければ・・と思います。
15
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:00
最近・・・マジおかしーよ
吉澤ひとみは、これから自分が新しい高校生活を送ることになる
教室へと、教師に連れられて廊下を歩きながら首を傾げていた
今日だってさー・・・
朝のHRに間に合うはずだった
こんな時期はずれの転校で、ただでさえ目立つっていうのに・・・
目立つことは嫌いではない、むしろ好きなくらいだ
だけど・・・
ひとみは頭を軽く振ると、渡り廊下から見える緑の絨毯を
敷き詰めたような中庭を見た
16
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:01
ひとみは年老いた祖父と二人暮らしだった
祖父は寡黙で、とても慈悲深い目の色をしていた
現役を退いたと言っても、その発言はいまだ誰よりも
所有するグループ、またはその傘下の子会社に絶大なる
影響力を持っている
ひとみは子供の頃のことを、あまりよく覚えていなかった
物心がついた時には、広い屋敷で祖父と二人で暮らしていた
自分には何故この人しかいないのだろう?
子供のひとみは、そんなあたり前の疑問を持った
そして聞いてみた
祖父は子供のひとみが、思わず手を差し伸べたくなるほど
悲しい目をして言った
すべて私のせいなのだと、許して欲しいと
それ以上聞くことは、ひとみには出来なかった
ひとみはそう学校の成績が良い方ではなかったけれど、それ以上
年老いた祖父に詰め寄るほど、頭の悪い子供ではなかったから
17
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:01
それから時が経つにしたがって、自然と耳に入ってくる噂で
ひとみは自分の置かれている境遇を推測することが出来た
それは笑えるくらいお決まりの恋愛話だった
ひとみの母親は一人娘で、箱入りのお嬢様だった
そして、どんなロマンスがあったかは知らないが、ひとみの父親と
恋に落ちた
それは祖父の逆鱗に触れ、二人は駆落ちした
そしてひとみが生まれる
どういう状況だったのか、今となってはわからないことだけど
あまり上等とは言えない生活の果てに両親は死んでしまったらしい
会社の業績は飛ぶ鳥を落とす勢いで、娘は今に泣きついてくるに
違いないと高をくくってた祖父が、年老いて娘を捜し出した時
そこには孫にあたる自分しか残されていなかった
・・・そういうことだ
18
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:02
そんなことはひとみにとってはどうでもいいことだった
薄情だと言われるかも知れないが、顔も覚えていない両親の事で
目の前にいる祖父の顔が、悲しく歪むとこなど見たくはなかったから
あまり寂しいと感じたこともなかったし・・・
祖父はひとみに対して、けして甘くはなかったけれど
いつでも穏やかで優しかった
そんな祖父が、ちょうど一年前、現役を引退した
そして今年の春、ひとみが高校の二年に上がる頃、こう言い出したのだ
「私はもう年寄りだし、もう少し緑の多い場所で暮らしたい
ひとみも、もう十七になった 何も私に付き合うことはないのだから
お前はこのままここで暮らしなさい」
そう言われて、自由になれて嬉しい、などと単純に喜ぶほど、ひとみは
もう子供ではなくなっていた
祖父に、この場所が候補地の一つだと連れられて来た時
ひとみは心の中で、すでに決めていたのだ
自分もここで暮らそう、と
そして問題なのはそんなことではなく、どういう訳か自分自身が
知らない間に、この学園を選んでいたと言うことだった
19
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:02
・・・今朝もそうだ
充分時間があったのだ、ひとみにしてはめずらしい程
だからこそ、春の日差しに誘われてフラフラと散策を始めた
そして古ぼけた教会を見つけて・・・そこまでは確かに覚えていた
・・・だけど
「吉澤さん、今日からここが貴女のクラスよ」
そう言われて、ひとみは我に返ると反射的に頷いた
そして教師の後について教室へと足を踏み入れた
ひとみが教室に入ると、ザワザワしていた教室がつかの間
しん、と静まって、またざわめきに包まれた
「見て見てっ すっごぉい、あの子金髪だよ〜」
「目も茶色いよね?ハーフとかかなぁ?」
「でもでもぉ すっごく格好いいぃ〜」
新しくクラスメートになる女生徒達が口々にする言葉は
ひとみにとっては聞きなれたものばかりだ
20
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:03
誰も信じはしないだろうが、ひとみは髪を染めてはいなかった
まだ今より幼くて、自分に向けられる視線に耐えられなかった頃
何回か、黒く染めたことさえある
けれどあっさりと落ちてしまい、結局面倒になったひとみは
開き直ることにしたのだ
「吉澤ひとみさんです
吉澤さんは引っ越して来たばかりで、ここら辺には不慣れなのよね?
皆さん、仲良くしてあげてね・・・さぁ、吉澤さん・・・」
教師に急かされながら、ひとみは、わざとゆっくり髪を掻き揚げた
「吉澤ひとみです・・・以後、よろしく」
教室のあちこちから小さな悲鳴が上がって、教師は咳払いをした
「吉澤さんの席は、あそこよ・・・窓際の一番後ろ」
ひとみは小さく頷くと、教師が示す机に向かって殊更ゆっくりと
教室を後方に進んで行った
21
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:04
・・・リ・・・カ・・・
ふいに誰かがひとみに囁くように言う
・・・リカ?
ひとみが足を止めて、声の主を確かめようと辺りを見回した時
真っ直ぐに自分を見つめる視線とぶつかった
22
:
リアル・ワールド
:2004/04/24(土) 18:04
漆黒の宝石のような美しい瞳が驚いたようにひとみを見ていた
情感豊かそうな淡く色づく唇が、何か言いたげに開かれている
おやまぁー これは、なかなか・・・
ひとみは教室中の注目が自分に集まってることを意識しながら
自分を見つめる女生徒に向かってニッコリと微笑んだ
「初めまして、リカちゃん」
ひとみがそう声をかけると、その女生徒は一瞬身体を小さく震わせ
信じられないと言うように、更にその目を見開いた
なんだよ?
いま自分でそう言ったくせに・・・
ひとみは白けた気分になって、片眉を小さく上げるとそのまま
自分の席に着いた
23
:
Sa
:2004/04/24(土) 18:05
更新致しました
JUNIOR様
ハイッ!!!またまた登場してしまいました(汗)
ですねぇ〜 作者は基本的にこのCP以外
書く気がないので(w
これからもどうぞご贔屓に♪
54@約束様
HNが変わられて、時の流れを感じました(w
新作など始めて、作者よ大丈夫なのか?ってのが
ありますが・・・(汗
引き続きのお付き合い切望っす♪
24
:
JUNIOR
:2004/04/24(土) 19:07
更新お疲れ様です。
いしよし大好き人間なんで嬉しい限りです。
2人ともどんなキャラなんでしょうか?
他の出演者も楽しみにしてます。
頑張ってくださ〜い!!
25
:
54@約束
:2004/04/25(日) 00:25
更新、お疲れ様です。
メチャイイです。この時点で名作になることを確信いたしました。
川o・-・)ノ<今回わたくしは出番が(ry 完璧です!
運命に導かれた二人・・
某所の作品とのあまりにテイストの違いに感心しまくりですw
26
:
ちゃみ
:2004/04/28(水) 04:57
はい、こちらにもへばり付かせて頂きますよ。
導入部からこのタッチ、どうなるのか楽しみでたまりません。
>作者は基本的にこのCP以外書く気がないので
私はこのCP以外読む気がないので、どんどん書いてください。(w
27
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:11
梨華は授業が終わると、いてもたってもいられず
ひとみの席に向かった
なんであなたは、わたしの名前を知ってるの?
やっと会えたねってどう言うこと?
それに・・・
さっき会ったばっかりなのに、初めまして、だなんて・・・
ひとみは自分の席の回りを、すでに女生徒に囲まれながら
寛いだ様子で、清潔そうな笑顔を浮かべていた
そして梨華と目が合うと、素早くウィンクしてみせ
その後、傍にいる女生徒に申し訳なさそうな顔をした
「悪いけど・・・
彼女に案内してもらう約束なんだ・・・ね?リカちゃん」
28
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:11
そんな約束した覚えないわよっ!
梨華は、喉元まで出かかった言葉をどうにか飲み込むと
曖昧に微笑んで、頷いた
彼女には聞きたいことがあるのだ
それも出来れば、こんなにざわついた教室などではないとこで・・・
「そう・・・なの
さっき・・・さっきね、先生に転校生だからって頼まれたから・・・」
「そう言う訳なんだ
ごめんね、次はキミにお願いするよ」
ひとみが気障にそう言って立ち上がると、傍にいた女生徒は
恨みがましい目をして梨華を見た
な、何なのこの人・・・
梨華があっけにとられてる間に、その横にスッとひとみは立って
自分達に向けられる視線の意味になど、まるで気がつかないと
言うように朗らかに笑った
「で、どこから案内してもらえるんですかね?」
29
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:12
梨華は取りあえず、必要だと思われる場所を次々案内していった
ひとみはどうでもよさそうな顔で、黙ってついてくる
最後は音楽室だった
教室の中を覗き込んだひとみは、ふいに何かに興味を引かれた様に
その中に入っていく
そして窓際に立つと振り返って、梨華を呼んだ
「ねぇ・・・」
呼ばれて梨華も教室に入ろうとすると、ひとみが囁く様に
小さな声で言った
「あたしに用があるんでしょ
・・・ドア、閉めた方がいいんじゃないの?」
やっぱりこの人・・・わざとなのね?
やっと会えた、の次が初めましてだなんて・・・
人のこと、からかったつもりかしら?・・・悪趣味だわ
梨華は小さく息を吐くと静かにドアを閉めた
30
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:13
梨華が傍まで行くと、ひとみは窓の外の教会を見ていた
「ねぇ?さっき・・・」
梨華がひとみの視線の先を追いかけて、そう口に出した時
遮るように、ひとみが言った
「あのさ、名前・・・何?」
「え?・・・だって、あなた知ってたじゃない」
「リカちゃん?・・・どんな字?苗字は?」
「石川梨華・・・いしかわは普通に石に川
りかは果物の梨に、華・・・あ、はなは華道の華よ」
「そ・・・あぁ、あたしはね
あなたって名前じゃないんだよね・・・聞いてた? 担任の話」
ひとみは窓から梨華へと視線を移すと、唇の片側を上げ
皮肉げに笑った
「あな・・・吉澤さんって、いい根性してるわねっ」
「そう?・・・なんにも知らない転校生に、そっと自分の名前を囁いて
アプローチして来るのも、いい根性だと思うけど?」
囁いた?・・・わたしが自分の名前を?
この人、なに言ってるの?
身に覚えのない言葉に戸惑って梨華が眉を寄せると、その片頬に
ひとみの手が、そっと添えられた
31
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:13
「今さらそんな顔しないでよ?
・・・梨華ちゃんさ、かなりイケてるから、転校初日にも拘らず
お誘いに乗ることにしたんだし」
「やめてよっ」
梨華は自分の頬に当たるひとみの手を振り解くと、その顔を
睨みつけた
「あ、あなた 頭おかしいんじゃないのっ!
わたしはあなたに自分の名前なんか教えてないわよ
教室でも、教会の前で会った時もっ」
「・・・は?」
それまでどこか、高見から梨華を見下してる様に浮かべてた
薄笑いが、ひとみの顔からスゥーと消えた
「・・・あたしと会った、だって?」
ひとみは恐ろしいほどの真剣さで、窓の外を見た
そこには、忘れられることだけを望んでいると言う様に
ひっそりと佇む教会があった
「・・・いつ?」
「え?」
「いつ会ったの?・・・あたしと」
「朝よっ それも今日のっ・・・あなた、もう忘れたって言うの?」
32
:
リアル・ワールド
:2004/04/28(水) 11:14
梨華の投げつける様な強い言葉に、ひとみは顔を歪めると
天井を見上げた
「忘れるもなんも・・・」
そして、そのままズルズルと座り込むと俯いた
「・・・知らねーっつーの」
膝を抱えて丸まるひとみを、梨華は息を呑んで見ていた
・・・なによ、なんなの?
この人、本気でやばいんじゃないかしら?
「・・・あのさ」
くぐもった声に梨華が身構えると、ひとみはゆっくりと
顔を上げた
「わりーんだけど、話してくんない?」
「・・・何を?」
「だからー あたしと会った時のことを、だよ」
「な、なんでよ?」
「ヘンなこと言ってるのはわかってるよ
けど・・・頼むよ、マジで・・・」
33
:
Sa
:2004/04/28(水) 11:16
更新致しました
JUNIOR様
うぅ〜む・・・どんな二人なのでしょう?(w
この作品は作者にとって、ある意味冒険なんで
どうなることやら・・・(汗
トコロで昨日、バースデーだったそうで、一日遅れですが
お誕生日おめでとうございましたぁ〜♪
この一年が貴方様にとって素晴らしい日々になる事を
心より願っております
54@約束様
イヤ・・・先物取引はキケンなので、気をつけて下さいませ(w
書ける限りはいろんな作風にチャレンジしてみたいなぁ〜と
今回ワタクシ出番なさそう、と、許すまじ作者>φ(・-・o川
ちゃみ様
無事お着き頂けたみたいで、ホッとしております
まだ作者の中で混沌としてるハナシなので
なんだか時間がかかりそうですが(w
34
:
ru-ku
:2004/04/28(水) 15:25
こんにちは、はじめまして。
少し前から小説読ませていただいていたのですが、
約束を今日やっと読み終えました。
今更な感じではありますが、感動しました。
病気絡みのものは、悲しい結末が多い中、
本当のハッピーエンドいうものを見せて頂けたと思いました。
こちらの方は、まだ話が動き出す手前なので、
これからの展開を楽しみにしています。
それでは、長文となりましたが、
これで失礼させていただきます。
35
:
54@約束
:2004/04/28(水) 15:49
更新、お疲れ様です。
先物買いはそのリターンこそが何よりの魅力でございますよw
チャラ男(?)と繊細さが混じっていそうな吉のキャラがイイですねぇ。
このふたりの運命はいかに・・
次回も楽しみです。
36
:
JUNIOR
:2004/04/29(木) 23:02
更新お疲れ様です。
吉澤さんイイ!繊細っぽい所がイイ!
あぁ〜続きが気になって仕方ない。
はい、無事に14歳になりましたです。
もうすぐ受験生・・・・・_| ̄|○
1年がいかに素晴らしくなるかはSaさんに結構かかわっております。
これからもSaさんの素敵な文章が読めると嬉しいです。
37
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:41
・・・やっべ
マジ、わかんねーよ
それが自分のしたことだなんてさー
なんか、笑える
ひとみは渋る梨華から、今朝の話を聞き終わると、肩と唇を
引きつる様に細かく奮わせた
梨華が怪訝な顔で自分を見ている、その視線を痛い程、感じる
けれど、ひとみは今度は身体までもが小刻みに震え出すのを
止める事が出来なかった
「・・・ねぇ、大丈夫? なんか・・・顔色悪いみたいだよ?」
「いま冬だっけ?・・・なんかさー さみーんだよ」
ひとみは梨華を見上げて、唇の片側を僅かに引き上げた
あたし、上手く笑えてねーよなぁ?・・・正直、ビビッてるし
・・・あ〜あぁ 格好わりぃ
「・・・春だけど? 寒気がするの?」
梨華は憮然とした顔の中の瞳にだけ、僅かに心配するような色を
覗かせた
ひとみはぼんやりと、その瞳を見ていた
38
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:42
このまま見続けていたら、梨華の瞳には、今ここにいる自分以外の
誰かが映る気がする
目を逸らしてしまえばいい・・・そう思うのに、何故だか出来ない
ひとみの身体がブルッと大きく震えた
「・・・大丈夫?」
ひとみが返事を返さないで、ただ梨華を見つめて返していると
梨華は腰を屈めて、ひとみの額にそっと手を当てた
その瞬間
ひとみの身体の中に熱風が吹き上がる
そして自分でも、訳がわからないうちに梨華の身体を抱き寄せていた
「ちょっ、ちょっとーっ!」
「・・・このままでいてよ・・・お願い」
「そ、そんなぁー だって」
「なんもしないから・・・ほんとに・・・さみーんだよ」
「・・・もうっ、なんなのよぉ」
「・・・なんなんでしょ?」
ひとみは梨華を抱きしめる腕に力を入れた
39
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:42
・・・ほんとに、なんだって言うんだよ
梨華が自分の腕の中にいる
それを感じているとひとみは、自分の頭の中や身体中の全て、心の内部にまで
今まで経験した事のないくらい、温かい何かが流れ込んでくる
それは陶酔する程、心地よい感覚だった
トクトクトク・・・
梨華の心臓の音と、自分の心臓の音が重なると、あまりの幸福感に
ひとみは眩暈を起こしそうになった
怖えーーっ ヤバイってマジで、こんなん・・・さ
・・・ありえねーよ
なにがなんだかさっぱりわからない・・・けれど
一つだけ、はっきりしたことがある
自分はこれから、梨華なしでは生きていけそうにもない
・・・違う、そうではない・・・たぶん
梨華と会う為だけに生まれてきたのだ
理由なんてわからない、それでもひとみはそう確信していた
40
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:43
リカ・・・は、ワタシのモノ
ワタシだけのモノ
41
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:43
ふいに、鼓膜が直に振動する様にして、頭の中に誰かの声が響いた
すると、ひとみの身体中を流れる血液が沸点を超えた様に熱くなって行く
違うっ!
この子はあたしのもの
誰にも、渡さない・・・
いきなり身体の芯に火を点けられ暴風に煽られて、直、消える事無く
ひとみの内で脹らみ続けていく熱い塊は、他の全ての思考を薙ぎ払い
一つの強い想いだけをひとみに残した
そう・・・
なぜかなんて考えるだけ無駄・・・きっと、理由なんてものは無いのだ
少なくとも今の自分には
梨華を手に入れたい・・・心も身体も、その全てを・・・
ただ、そうしたい・・・それだけのことだ
・・・なにもしないなんて、言うんじゃなかったな
42
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:44
ひとみに預けられた梨華の身体は柔らかく、どこか甘い果実の様に
匂いたち、唇を寄せたい衝動を抑えるのが難しく思える
・・・やっちゃう?
ハァ〜 いきなりそれはヤバイだろ?
普通、嫌われるよなぁー・・・んなことしたら
地道に行くか?・・・面倒だけど、仕方ねー
「・・・あ」
「ん、どした?」
「空・・・変なの、さっきまで晴れてたのに・・・」
梨華のどこか恐ろしいものを見た様な声音に、ひとみは梨華を
抱きしめたまま、首だけ回して窓の外を見た
広がる空は、灰色を通り越して禍々しい程、どす黒く染まっている
「・・・帰ろう、送ってく」
「・・・え?・・・なんでよ?」
ひとみが梨華の身体に回していた腕を解きながら、そう言うと
梨華は困惑した様に眉を寄せる
43
:
リアル・ワールド
:2004/05/06(木) 21:44
「帰りたくねーの? もしかしてぇ、あたしと一緒にいたい、とか?」
「そんな事、ある訳ないじゃないのっ・・・送る、なんて言うから・・・」
「・・・ぁあ あのさぁ〜・・・あたし・・・あたし、さ 梨華ちゃんに
惚れちゃったんだよねー」
「・・・は?」
「運命感じちゃったんですよ つーか、大事にするからさぁ〜
・・・あたしのもんになってくんない?」
「なっ・・・なに言ってるの?自分が言ってることわかってる?
それ・・・冗談のつもりなら全然面白くないわよ?」
「マジもマジ、超マジ!・・・スゲーお勧めなんですけど?」
「・・・信じられない」
梨華は、どこか自信ありげにニヤついた顔をするひとみを睨みながら
立ち上がるとドアに向かって歩き出した
「ちぇっ・・・置いてくなっつーの」
ひとみは梨華の後姿を見ながら、僅かに耳にかかる髪に指を通して
掻き揚げた
そして、ゆっくりと立ち上がり、一度、窓の外に視線を投げると
そのまま真っ直ぐに音楽室を後にした
44
:
Sa
:2004/05/06(木) 21:45
更新致しました
ru-ku様
初めまして♪
前作をお読み頂けたそうで、さぞお疲れになった
ことでしょう・・・結構、長いですよね?
こちらも、お付き合い頂けるなら光栄でございます
54@約束様
アハハッ! 通なオコトバですなぁ〜
その上、吉澤さんのキャラ考察も参考になりまする〜
運命(w・・・どうなるコトやら
JUNIOR様
イイっすか? それなら良かったデスわ(w
続きが気になって仕方ナイっつーのは嬉しいオコトバですなぁ〜
お読み頂けるのは嬉しゅうゴザイマスが、多大なご期待は・・・(汗
45
:
JUNIOR
:2004/05/07(金) 18:14
更新お疲れ様です。
ココの吉澤さんは軽い人!?
これからの行動に期待(・∀・)大!
がんばってくださ〜い。
46
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:41
「梨〜華ちゃんっ」
「・・・・・」
「あれれぇー? 梨華ちゃん、口が聞けなくなっちゃったみたーい」
能天気なひとみの声が、急ぎ足で歩く梨華を追いかけてくる
梨華は振り向かずに、足を運ぶスピードを上げた
・・・なんなのよぉ〜
この人も・・・この空も・・・
ほんとに今日は変な一日だわ・・・
梨華が重くなりそうな足に力を入れると、ひとみが追いついて来て横に並んだ
腰を折る様に、梨華より高い背の上体を傾けて顔を覗きこんでくる
「あのさー?
あたしって、そこらの男よりずぅーっと格好いいと思わない?
スポーツも得意だしぃ〜 その上、お金持ちだしっ
・・・勉強は得意じゃないけどさ、頭の回転は悪くないよ
って、あのさぁ〜 聞いてる?」
「・・・自惚れてるのね」
「んー? さっきまではねぇ 自分が一番好きだったもんで・・・けど
いまは梨華ちゃんが一番っ!」
47
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:41
目の前に人差し指を立てて見せるひとみに、梨華は溜息をついた
「それで?・・・また、明日になったら忘れてるのかしら?」
「そんなこと気にしてたんだ? かーわい〜」
「き、気になんてしてないわよっ 振り回されるのは今日だけで
たくさんなのっ!」
「・・・それは無理っしょ? 言ったじゃん、あたし
運命、ってヤツ? 感じちゃったって、ねぇ?」
「勝手に感じてれば?・・・わたしには関係ないわ」
「つれないなーぁ」
ひとみは梨華の冷たい態度にも、怯む様子は全くなかった
それどころか、どこか愉しんでいるようにすら見える
おかしな人・・・やっぱり、からかってるつもり?
けど、残念ね? もう、その手には乗らないわ
梨華がひとみを斜めに見上げると、何?と言うように眉を上げて見せる
梨華は唇を強く引き結ぶと、真っ直ぐ前を向いて一層早足で歩き出した
48
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:42
ビュッーーーゥウ、と、強い風が吹いた
制服のスカートが強い力に抗って翻る
通学路を彩る優しげな緑の樹木が、空一面に広がる不吉な色を映して
なぜだか影のように暗く平坦に伸びて見える
風に煽られ、…ギィ…ギシィと悲鳴じみた音をたてた
なに?・・・なんなの?・・・気味が悪い
梨華は思わず足を止めて、大きく揺れる樹木を見上げた
「・・・うっ!!!」
唐突に耳に飛び込んできたうめき声に横を向くと、ひとみが頭を抱えて
膝から崩れて倒れこんで行くのが見える
「やぁっ・・・やだぁーっ ね、ねぇっ!どうしたのっ?」
梨華が膝を付いて、ひとみの顔を覗きこむと、その目は宙を彷徨った後
苦しげに閉じられた
「・・・あぁっ・・・止、めろ・・・い、やだ・・・」
「・・・えっ?なにっ?苦しいの?」
梨華がひとみの唇から微かに洩れる呟きを聞き取ろうと、さらに
顔を近づけた時、ひとみが目を閉じたままゆらりと上体を起こした
49
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:42
梨華が呆然とその様子を見ていると、ひとみは静かに瞼を開けた
「・・・来る」
ひとみが並木道を見上げた瞬間
連なる木々は、広がる枝をまるで鞭のように撓らせると、一斉に
その先を梨華へと向けて伸ばしてきた
梨華は目を見開くと、両手で口許を押さえた
唇からは押さえようとしても押さえきれない悲鳴が上がる
「…っ…やぁぁぁーーーっ!!!」
ひとみの両腕が素早く伸びてきて、梨華を抱き上げた
梨華は驚きで見開かれたままの目で、ひとみの横顔を見上げると
息を呑んだ
金色・・・吉澤さんの目の色が・・・目の色が・・・
「落ちるぞ・・・つかまってろ、ワタシに」
ひとみは駆け出した
梨華を抱えたままで、軽々と
背後から襲い掛かる枝葉さえも見えているかのように・・・
それはあまりにも速く、まるで空を飛ぶようで
梨華はひとみの首に回した腕に力を込めながら、自分の意識が遠のいて
いくのを感じていた
50
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:43
春独特のどこか甘い宵風に、頬を撫でられて梨華は静かに瞼を開けた
ゆっくり起き上がると、自分へと掛けられていたらしい制服の
ブレザーがぽとりと落ちた
辺りを見回すと、ビルの屋上らしい
身体の脇に置いた手の平から、コンクリートの硬質な冷たさが
伝わってくる
「・・・お目覚めかい?」
・・・えっと・・・あっ
背後から声がして振り返ると、ひとみが制服の白いシャツの裾を腰の上で
はためかせ、顔にかかる髪を掻き揚げて立っていた
梨華はとっさにひとみの顔を、目の色を、見た
そこには色素は薄いけれど、金色の輝きは無く、ライトブラウンに
染まって、優しげに揺らいで見える
・・・けど・・・どこか違う、みたい・・・
音楽室で一緒にいた吉澤さんと・・・どこ?・・・わからないわ
それに・・・
51
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:43
常識では考えられない異常な体験をしたというのに
自分が落ち着いていられることの方が、梨華の思考を混乱させる
いくらわたしより身体が大きくても、吉澤さんは女の子なのよ?
あんなに軽々とわたしを抱き上げて・・・
景色が飛ぶほどのスピードで駆け抜けてた
どう考えたって普通じゃないわ
けれど、梨華の胸中にはひとみに対して恐怖心というものが
湧き上がってきそうな気配はまるで無かった
あれは怖かったけれど・・・まるで影が意志を持ったような樹木
でも・・・この人は怖くない
・・・わたしは知っている気がする・・・この人のこと
「・・・あなたは誰?」
「・・・ヒトミ」
「吉澤さん?」
「・・・そうだね、でも・・・違うのかな?」
ひとみの微笑む目許は謎めいていて、そのまま吸い込まれそうな程
魅惑的だった
52
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:44
・・・やっぱり・・・違う
吉澤さんはこんな表情をしない
・・・見たい・・・もっと近くで・・・
梨華はひとみの前に立ち上がった
ひとみはこの上なく愛おしげに目を細めると、梨華の身体を
ふわりと包んだ
「リカ、お前を愛している・・・永久の愛しい人」
ひとみの温かい腕に包まれると、梨華の心の奥底に甘やかな
花の香が匂いたつ気がした
さっきは・・・吉澤さんに運命だって言われた
・・・同じ声なのに・・・同じ腕なのに
この人に言われると・・・抱きしめられると
・・・何かが違う・・・それは何?・・・それは・・・
それこそが吉澤さんが言っていた運命ってものなの?
梨華は躊躇いがちに口を開いた
「・・・それは・・・運命?」
「・・・違う」
ひとみは梨華に回していた腕をはらりと解くと、強い光を宿す眼を
熱く煌かせた
53
:
リアル・ワールド
:2004/05/08(土) 15:44
「宿命さ」
「宿命?」
「・・・運命など変えられるモノ、ワタシとリカは・・・
同じように、互いの命を宿す場所を選んだ」
「・・・え?」
「お前は覚えていなくともかまわない・・・ワタシが覚えているから・・・
リカ・・・お前はワタシのモノ、それは不変だ
そしてワタシは・・・この命さえも、全て、お前だけのモノ」
ひとみの白く長く美しい指先が、梨華の細い顎を持ち上げると
ひとみの唇はゆっくりと梨華の唇に近づき、そのままくちづけた
梨華の胸は高鳴り、身体の芯から今まで感じたことのない悦びが
湧き上がり、体中を駆け巡る
・・・待ってた・・・あなただけを・・・ずっと・・・ずうっと
悦びに震える梨華の、胸のずっと奥底で誰かが溜息のような息遣いの
声を漏らすのが聞えた気がした
54
:
Sa
:2004/05/08(土) 15:45
更新致しました
JUNIOR様
軽いッスか?・・・うぅ〜ん、軽いか?(w
これからの行動は・・・ガンバレーーーッってなカンジですかね(汗
55
:
レオナ
:2004/05/08(土) 16:54
更新お疲れ様です。
う〜ん?なんか、謎ですね。
いい感じです。
次回も、たのしみにしてま〜す。
56
:
JUNIOR
:2004/05/08(土) 17:45
更新お疲れ様です。
よっすぃ〜の目が金色?かっけー!!
結構好きなタイプの話かも・・・・・・・。
でも、Saさんの話は今までどれも当りだったから
ハズレなんてないのかも・・・・・・・。
これからもがんばってくださ〜〜い。
57
:
ちゃみ@あっちこっち
:2004/05/09(日) 06:11
更新、乙でーす。
私このタイプの物は余り読まなかったのですが
ひじょーに読みたくなってます。
『宿命』良い言葉ですね、今度誰かに使ってみます。(w
58
:
54@約束
:2004/05/09(日) 18:41
更新、お疲れ様です。
おぉ〜、劇的ですねぇ〜!一気に加速しましたね。
いやぁ〜、先物買いしといてヨカッタですw
壮大なスケールのお話に負けていないいしよしが素敵すぎです。
嫉妬するほどこういった展開が似合いますね、このふたりはw
「本能」の部分に目覚めたふたりのこの先、すごく楽しみです。
59
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:09
エア・ホースはいつでも気まぐれだ
60
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:10
風のタミが生み出した天空を翔る馬
それなのに、風のタミの中でも、上手く乗りこなせるのは怖いもの
知らずの子供くらいのものだ
透明なカラダは突風の様に止まることを知らず、ヒトを乗せることを嫌う
けれど、ヒトミが女王との謁見を終え、天空の塔の最上階の窓から
身体を乗り出し、両手を天に向かい差し上げ、果てることなく広がる
その懐に抱かれるがごとく、目を閉じて全身に風を受けていると
声をかけてきた
・・・光の守護を持つ子よ・・・お前は空を飛びたいのか?
ヒトミは静かに閉じた瞼を開けた、その瞳は陽光の輝きそのままの金色
光のタミの中でも、その瞳に宿る光の強さ、気高さは類を見ない
61
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:11
エア・ホースをまじかで見たのは初めてだ
透明なカラダの輪郭がおぼろげに浮き出して見える
真っ直ぐにヒトミとぶつかる眼差しは、淡い、とても淡い
アイスブルーに縁取られていた
「あぁ、飛びたいね」
ヒトミは媚びることなく高飛車に言い捨てた
・・・私に乗るか?
「・・・乗せてくれんの?」
エア・ホースのアイスブルーの目が愉しげに細められた
・・・飛び降りろ・・・その窓から・・・自ら身を投げるのだ
62
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:11
「ふーん、いいけど?・・・落ちるワタシが見たいのか?」
・・・そうだ・・・愉しめそうだろう?
「・・・そうだね、で、オマエはワタシを拾う?」
・・・わからんな・・・私は気まぐれだ
「フッ、アハハッ・・・別にかまわないよ」
ヒトミは笑いながら窓の柵を飛び越えた、ささやかな躊躇も見せずに・・・
そして大きく両手を広げて、落下していく
空に抱かれてる・・・なかなかの気分だ
違うか?ワタシが空を抱いているのだ
ヒトミのカラダにかかっていた風の圧力がフッと消えた
大きく遠のきながら、縦へと広がり続けたヒトミの視界の空は
いまは横へとスピードを増しながら流れて行く
63
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:12
ヒトミはカラダを起こして、エア・ホースに跨ると肩から首へと続く
細い絹糸の様な毛並みを撫でた
・・・お前は・・・傷を負いたいのか?
「さぁ、どうかな?・・・どっちでもいいよ
・・・どうせ、このアナザではヒトは死ぬことはないからね」
・・・それはそうだ・・・しかし、体に傷を負えば痛みを感じるだろう?
「痛み・・・ね、 どんなモンだっけ?・・・忘れたよ」
エア・ホースの喉が上下に細かく振動してる、笑っているのだ
・・・お前は変わっているな?・・・光の子、名はなんと言う?
「・・・ヒトミ」
・・・ヒトミ、どこに行きたい?
「・・・どこでもいいよ・・・たださ、帰りは送ってよね?」
エア・ホースの喉がまた振動した
64
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:12
エア・ホースは自由だ
それから時折、唐突にヒトミの前へ現れてその背に乗るかと聞いた
縛られることを何よりも嫌い、群れることもしない
だが、たまには誰かとコトバを交わしたくなるのかも知れない
次があるのかがわからない、エア・ホースとの一時をヒトミは
気に入っていた
今日もそうだった
ただ、いつもと違ったのは、ヒトミが風の谷に行きたいと
言ったこと、それだけだ
エア・ホースは、止めておけ、と言った
今日は風の機嫌がかなり悪いらしい
それでもヒトミが行きたいと言うと、エア・ホースは言った
落ちるぞ、と、ヒトミは、かまわない、と返事を返した
65
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:13
そしてヒトミは落ちたのだ、エア・ホースから
高度が低かったので、大怪我はしなかったが、どうやら気を
失っていたらしい
エア・ホースは戻ってくるだろうか?
・・・たぶん、来ない・・・少なくとも明けの明星が消えるまでは
まずいな・・・
天空に在る太陽は光を無くし、その姿の全てが隠れてしまえば
闇の時間だ
闇の中に身を置くことは、ヒトミの力をかなり消耗させる
第一、月が浮かべばヒトミはヒトの姿を保つことも出来ない
やれやれ、足をやってしまったらしい
自由にならない片足を叩きながら、ヒトミは溜息をついた
光のタミは治癒の術を使うことが苦手だ
ましてや、ヒトミは今まで成功した試しがないのだ
どうするかな・・・
ヒトミはそのままごろりとカラダを横たえて、沈み行く太陽を
見ていた
66
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:14
ヒトミの住むアナザは、光と闇、水と火、風と土、それぞれのタミが
共存している
光のタミが居る場所は天空に浮かび、沈まない太陽と共にある
その下には風の谷、火の崖、水の島、地の丘が広がり、その上を
太陽が照らす光の時間と、月が昇る闇の時間、その合間にある
星の時間を繰り返し送っている
闇のタミは月の時間になると姿を現して、光の時間になると
眠れる城跡に帰って行くらしい
それが何処にあるのか、光のタミであるヒトミは知らない
そもそも闇のタミと光のタミは顔を合わせることなど無いのだから
67
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:14
アナザを統べる女王はその核になっている、この六つ総ての要素を持っている
もともとはどの種族だったのかヒトミにもわからない
そして語り継がれる話では、このアナザの反対側にはリアルという
もう一つのワールドがあるらしい
アナザのヒトビトは無限なる精神体で、カラダは精神の姿を投影して
造り出しているにすぎない、なので死という概念はないのだ
けれど、アナザと反対側に在るリアルには有限の命しか持たない
ヒトビトが住むのだと言う
姿形はアナザのヒトビトと変わらないらしいが、能力にはかなりの
差があり、ヒトビトは二種類に分けられ、違う特徴を持っているらしい
この二つのワールドの間には、夢の道という通路があり、何処かで
繋がっていて、その場所への道筋は女王だけが示せるのだという
ややこしい話だな・・・けれど、一度行ってみたいものだ
68
:
アナザ・ワールド
:2004/05/13(木) 21:15
まずは、それよりも・・・
今日は闇のタミをこの目で見ることが出来るかも知れない
ヒトミは自分自身のカラダの輪郭が霞んで、小さく姿を変えて
いくのを感じながら思った
この姿になるのは久しぶりだな
幼い頃は遠出して走り回ることが面白くて、この姿によくなった
ものだけど・・・
天空の頂上に大きな白い月が昇った
・・・この姿は嫌いではないが、疲れやすいのが問題だな
ヒトミは白い犬の姿に変化した体を丸めて、静かに目を閉じた
69
:
Sa
:2004/05/13(木) 21:15
更新しました
今回分をお読みになって、は?と思われたか、来たな・・・(ニヤリ)と
思われたかが、結構気になったりする作者です(w
レオナ様
ハイ♪謎ですねぇ〜 そしてそれに作者自身が埋まってしまいそうですが(w
これからも楽しんで頂けたらよいのですが…
JUNIOR様
アハハッかっけーっすか?チト怖かろーと思っておりましたが(w
イヤ、毎回ハズしやしないかと内心ヒヤヒヤ・・・
ちゃみ@あっちこっち様
あっちこっち・・・(w←ツボ、うけましたっっっ♪
このよーなコトバをあっちこっちでお使いにならないで下さいませねん☆
54@約束様
加速しすぎでしたか?全体図は考えてあるのですが、どこから書いていったらよいものか(w
そーですね、ベタも大掛かりもホントに似合うカッポォ〜です♪
70
:
JUNIOR
:2004/05/13(木) 23:43
更新お疲れまっす。
キターーーーーーーーって感じっすね。
そうっすね、こういう手の作品
結構好きで好きで、しょうがなくて
マンガも立ち読みしまくってたり(w
これからもがんばってください。
71
:
ちゃみ@うろちょろ
:2004/05/14(金) 06:18
何か壮大なスケールの話になってきましたね。
私の8086クラスの脳内変換機能でついて行けるか心配です。
光り輝くよっちゃんの姿までは何とか・・・・。
72
:
54@約束
:2004/05/14(金) 17:36
更新、お疲れ様です。
ロマン溢れる大叙事詩という感じです。
脳内再生はプラズマテレビですw
なるほど、こう繋がって来るんですね・・
ただただ圧倒されておりますが、次回も楽しみです。
73
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 18:05
うとうとしていたらしい
ヒトミはゆっくり頭を上げると、天空から柔らかい月の光が落ちて
くるのを感じた
・・・おかしなものだ
ヒトミは初めて味わう、どこか儚い月の光に魅入られたように
月を仰ぎ続ける
ワタシを守護し、ワタシの内にある、日の光はいつでも力強く傲慢だ
けれど、淡く柔らかい月の光に抱かれたこの気持ちは、なんと言えば
いいのだろう?
ヒトミは三本の足に力を入れて立ち上がると、言うことをきかない
一本の足を引きづりながら、歩き出した
74
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 18:05
・・・喉が渇いた
エア・ホースに跨り上空から見た時は、水の島はすぐ近くに見えた
けれど、一本の足を引きづりながらだと、いったいどのくらい
かかるのか?
重く圧し掛かり、熱く主張し続ける場所
その上、引き攣れるような感覚
・・・そうか、これが痛みと言うものだっただろうか?
ヒトミは何故か笑い出したくなってきた
光のタミは首座の位置にある、タミは皆、自意識が強く自信家だ
日の光と共に、輝き続けることは何処か乾いて殺伐としている
誰もが皆、自分が一番優れているという誇りを胸に抱き、好戦的だった
けれどこの薄闇の中、力ない姿で彷徨っていると、そんなことに日々
囚われている自分達が、言い様もなく悲しい存在に思えてくる
このままの姿でここに留まり、いくつかの闇の時間を越えたなら
ワタシの精神体は絶え切れずに消滅してしまうだろうに・・・
75
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 18:06
「・・・お前、どうかしたの?」
ふいに、今ヒトミへと降り注ぐ、月の光そのものを思わせる柔らかい
声が響いて、ヒトミはその体を固くした
黒くしなやかな布を纏った声の主が、ヒトミへと近づいてくると
腰を屈めた
「足を怪我してるのね・・・引きずっていたでしょう?」
フードを目深に被った顔から覗く口許が、気遣うような優しげな声を出す
たやすく折れそうに細い指を伸ばしてきて、ヒトミの後ろ足にそっと触れた
「・・・ここね」
その時、風がヒュゥゥゥと吹いて、声の主は目深に被っていたフードを
はらり、と落とした
あらわになった、その顔と・・・その中で、黒々と憂う眼差しとが
ヒトミの体を、心を大きく揺さぶった
これが・・・闇のタミ、なんだろうか?
76
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 18:06
声の主は長い睫を伏せて、胸元で細い指を組み、小さく呪文を唱え始めた
その濡れたように艶かしい唇から、ヒトミは目が離せないでいる
そして
美しい・・・ただ・・・美しいと、そう思った
声の主の組んだ手の隙間から、白銀の光が零れて溢れ出す
淡く浮かび上がるように発光する両手を開くと、ヒトミの傷口に
優しく触れた
その手が触れると、ヒトミの傷口は見る間に塞がり、疼くような熱も
消え、折れたらしい足に力が漲ってくる
声の主はヒトミに向かって微笑んだ
「・・・もう、痛まないでしょう?」
その密やかな微笑みは、アナザに咲き誇るどんな花を見た時よりも
ヒトミの心に安らぎを運んだ
77
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 18:07
「お前は、狼かしら?・・・真っ白だなんて、珍しいこと・・・綺麗ね」
声の主はヒトミの背をゆっくりと撫でた
ヒトミは目を細めて、その手の感触を楽む
こんな自分の姿を光のタミが見たなら、なんと思うだろう?
タミの中でも腕に覚えがあり、幼い頃から女王の側近なのだ
いつも醒めた目でヒトビトを見下してる、このワタシ、が・・・
ジブンが望む時にだけ、快楽の相手を求めることはあるけれど
素性もわからない相手に、この身に触れることを許すなんて・・・
おまけに・・・どうやらワタシは嬉しいらしい
ヒトミは小さく、・・・クルルと喜びの声を上げていた
78
:
Sa
:2004/05/17(月) 18:08
更新しました・・・ちと短いですが(w
この後に及んで、話をどう進めて行くか、今だ迷っておりまする
JUNIOR様
お好きなんですか? ソレは良かった!
がっかりさせるような展開にならないようガムバりまする(w
ちゃみ@うろちょろ様
アハハッ!所詮作者の書いてるモンなんで壮大ぶってるダケかと…
ココまではよろしいでしょうか?(w
54@約束様
プラズマ・・・素敵♪
作者も才能があったなら画像付でお送りしたいトコなんですよん(w
79
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 21:30
水の島の中間に位置する、森林に囲まれた大きな湖のほとりに出ると
ヒトミは足元に落ちている小枝を踏んだ
大きな森の木々達は静かで、ヒトミが立てた小さなパチンという音を
湖の水面にまで響かせる
「お前・・・また来たのね?」
闇のタミは水面に向けていた視線をヒトミへと変えると、優しく微笑んだ
ヒトミはその傍まで寄って行くと、甘えるようにわき腹を足元に寄せた
「・・・しょうのない子」
闇のタミは呆れた声を出したけれど、その眼は笑っている
ヒトミは、足元まで流れ落ちるローブの裾を咥えると、思いっきり
引っ張った
80
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 21:31
闇のタミの全体を覆っていた、大きな漆黒の布が滑り落ちた
その下に纏っているのは、薄く柔らかな布
なだらか肩、しなやかな腕・・・そして、優美な身体の曲線が露になった
ヒトミがお気に入りの、憂う眼差しと同じ色をした、濡れるように
艶めく髪も薄闇の風を孕んで、しっとりと揺れる
「もうっ 悪戯っ子なんだから!返してちょうだい?」
ヒトミはプイッと横を向くと、ロープの上に乗って体を丸める
ように座り込む
闇のタミは小さく溜息をついた
「・・・お前は本当に頭がいいわね?」
そう言ってヒトミの横に座ると、温かな手でヒトミの頭を慈しむように
撫で始めた
81
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 21:31
「私・・・お前と会ってから遊んでばかりよ?・・・どうしてくれるの?」
闇のタミはクスクスと楽しげな笑い声を立てた
「・・・お前は本当に綺麗ね?・・・純白の体も、金色の瞳も・・・
羨ましいくらいだわ・・・」
溜息のような声が頭上から聞えてきて、ヒトミは顔を上げると首を
小さく傾げてみせた
・・・おかしな事を言う
お前ほど、美しいものを、ワタシは見たことがないと言うのに・・・
ヒトミはジッと闇のタミの瞳をみつめた
「お前のその目・・・まるで、私の言葉がわかっているようだわ・・・
それとも・・・わかっているのかしら?」
闇のタミはヒトミの首に両腕を回すと、そっと頬を寄せた
「私ね?・・・お前といる時が一番幸せだわ
こうしているとね・・・なんだか、すごく安心するの・・・」
82
:
アナザ・ワールド
:2004/05/17(月) 21:32
ヒトミは首を傾けて、闇のタミの鼻先をペロリと舐めた
「ふふっ くすぐったい!」
闇のタミが上げる、高くはしゃいだ甘い声音は、ヒトミの心を
とろりと溶かしてゆく
そして、闇のタミがその身体を・・・その心を、ヒトミへと添わせる時
ヒトミは自分の全てが満ちて行くのを感じる事が出来た
このまま闇の時間を過ごすことを続けていれば、ヒトミの光を主と
する精神体は、輝きを失い消滅してしまうだろう
・・・けれど
この、闇のタミとの逢瀬を止めてしまえば、ヒトミがヒトミでなくなる
ような気がしていた
自分以外の魂を、自分の為に必要とする事
それは・・・どこまでも甘くヒトミを酔わせて・・・
そして初めて恐怖した
自分が光のタミであることを、このかけがえのない命を宿す者が
闇のタミだという事を・・・
83
:
Sa
:2004/05/17(月) 21:34
もそっと続きを更新してみたりしました(w
84
:
名無し(0´〜`0)
:2004/05/18(火) 02:28
2回更新お疲れ様です!1回目はPDAで読みました。
2回目は何故か、また見に行ってみようと思った時間帯でした。
突然エスパーになったのかもしれません(笑)
静かな情景ともに、真っ白いヒトミの毛並みまでがくっきりと頭に浮かびます。
相当嵌ってきました!
85
:
54@約束
:2004/05/18(火) 15:42
更新、お疲れ様です。
おぉ〜、何とも素敵な逢瀬ですねぇ(うっとり)。
絵になるなぁ・・
(昔「レディ・ホーク」って映画があったんですけど、ふとそれを思い出しました)
美しい情景とストーリーにワクワクしております、ハイ。
次回も楽しみです。
86
:
JUNIOR
:2004/05/19(水) 00:36
更新お疲れ様です。
大×∞大好きっす。こういうの。
お二人方の戯れる姿を想像してると
なんだか切なくなってしまいました。
がんばってください。
87
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:16
ひとみはHRが終わると、梨華の机へと近づいて行った
「梨華ちゃん・・・昨日さ・・・」
梨華は肩をビクッと震わせると、振り返り、取って付けた様な
ぎこちない笑顔を浮かべながらひとみを見た
「・・・ん、なぁに?」
「あたし・・・覚えてないんだけど・・・
気がついたらさー 自分の部屋で普通に寝てた、なんで?」
「・・・なんでって言われても・・・吉澤さん、自分で帰ったのよ?」
梨華がひとみの顔から目を背けた時、その頬がうっすらと
染まって見えた
・・・おかしい
いや、あたしの記憶が曖昧になるのはよくある事だけど・・・
てか、よくあるってのも、かなりマズいんだけどさ
それより今、気になるのは梨華ちゃんの態度・・・変だ
まるで照れてるみたいじゃん?
なんでだよ?・・・昨日はあんな迷惑そうだったのに・・・
・・・何かあったんだ・・・たぶん・・・あたし、と
88
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:17
自室で目覚めた時、その刹那まで見ていた夢の名残を、ひとみは
覚えていた
黒い小さな猫を肩に乗せていた・・・あれは、自分だった
夢の中のひとみは、その黒猫を溺愛していた
そして、ひとみ自身もそれはわかる気がした
何故ならその黒猫は、とても愛らしい顔をしていて、闇夜を
思わせる瞳は小さな宝石のように輝き、その全体が醸し出す雰囲気は
あどけなさとしなやかさを兼ね備えた、まるで美しい少女・・・
そんな、イメージだったから・・・
これなら溺愛するよな、と思えたのだ
そこまではいい、と、ひとみは思い出しながら考える
問題なのは・・・
月の光を浴びると、その黒猫が・・・黒猫が・・・人間になったのだ
それも・・・今まさに、ひとみの目の前にいる
・・・石川梨華に
ヤバイだろ? あたし・・・
とうとう・・・夢までおかしくなりやがって・・・
ったく、あたしにどうしろって言うんだよっ
89
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:17
ひとみが頭を掻き毟りたくなる衝動と戦っていると、梨華が
ためらいがちな声をかけてきた
「・・・また頭が、痛むの?」
「今んとこ、大丈夫」
・・・梨華ちゃんが傍にいてくれれば、なんつって
ダメだ、あたし・・・
軽口をたたく気にもなんねぇー
ひとみが梨華の顔を見ていると、見上げてくる眼差しが不安定に
揺れてるように見えた
・・・梨華ちゃん・・・何か知ってるんだ・・・絶対に
ひとみが梨華の眼の奥に映る何かを探るように、目を細めると
梨華は、そっと視線を外した
「・・・吉澤さん、まだ体調がよくないんじゃないの?
早く帰って休んだ方がいいよ?・・・わたしも帰るし・・・」
「じゃぁさ〜 一緒に帰ってよ?」
「・・・いいけど」
「決まりっ!・・・んじゃ、帰ろ〜ぜぇ」
ひとみは明るい声を出してみたけれど、それは自分の耳にさえ
上滑りに聞えた
90
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:18
並木道を並んで歩いていると、時折、チラチラと梨華が自分の顔を
盗み見ているのを、ひとみは感じた
・・・昨日、記憶を無くしたのも確かこの辺り
ひとみの足は自然と止まった、つられた様に梨華の足も止まる
午後の陽射しは強く、梅雨もまだだというのに、こうして日の光を
全身に浴びていると、衣替え前の重い制服の下で地肌が汗ばんでくる
ひとみは、瑞々しい葉を太陽に向かい、大きく広げている樹木を
見上げた
そして、その下に濃く浮かぶ、樹木達の影に視線を移した
「・・・日の光が強いとさ、その下に出来る影も濃く感じるよね?」
ひとみが何気なく言った一言に、梨華が隣りで息を呑む気配がした
そしてポツリと呟いた
「・・・ほんとうに覚えてないの?」
「残念ながら・・・」
「・・・そう」
91
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:18
ひとみの口許を見ていた梨華は、安堵と落胆の狭間にいるような表情を
つかの間浮かべて、慌てたように俯いた
その黒髪に包まれた、小さな頭にひとみは聞いた
「・・・昨日のこと、覚えてないってことは・・・いいこと?悪いこと?
梨華ちゃんは、どっちだと思う?」
梨華は顔を上げると、何かを思い出し考えるように視線を動かした後
ひとみを見た
「・・・わからない・・・わからないわ、吉澤さんにとって、どちらが
いいことなのかなんて、わたしには・・・ただ・・・」
「ただ?」
「生まれ変わり・・・って言うのかしら?
・・・前世の記憶・・・とか、そう言うのって信じられる?」
突拍子もないことを言い出す梨華にひとみは笑おうとした
けれど、梨華があまりにも真面目な顔をして、自分を見ているので
笑顔はひとみの顔に浮かぶ前に消えてしまった
92
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:19
ふっと、ひとみの脳裏に誰かの影が浮かぶ
小さなひとみ、膝を抱えるひとみ、孤独なひとみ
その前に突然現れて、話しかけてきた誰か・・・
薄く笑った唇が、幼いひとみに何かを言い聞かせている
まるで体そのものが発光しているようで、よくわからない全体の
シルエット・・・
・・・誰だよ?・・・あんた、誰なんだ?
ひとみは小さく頭を振った・・・これ以上、思い出せそうになかった
「・・・ごめんね?変なこと言って忘れて?」
小さな声が聞えてきて、ひとみは彷徨いそうになる意識を、目の前に
いる梨華へと戻した
「・・・梨華ちゃんは・・・どう思ってんの? そーゆうの信じてるタイプ?」
「・・・んー・・・・・・」
93
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:20
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・なんだよー? 深刻な顔しちゃって・・・ひょっとして
うちらが前世で恋人同士・・・だったりして?」
ひとみがふざけて言ったつもりの言葉を聞くと、梨華の薄く色づく唇は
色を無くし、頬が強張っていく
うっそ?!・・・ビンゴ?
てか・・・なんで梨華ちゃんはそんな風に思うようになっちゃったわけ?
あたしが記憶を無くしてる数時間の間に?
・・・前世?・・・生まれ変わり?
・・・記憶にない、だけどあたし自身の行動
・・・昨日とあきらかに違う、梨華ちゃんの態度
ひょっとして・・・?
「・・・口説かれちゃった?・・・もう一人のあたしに・・・」
梨華の目が驚きで見開かれ、次第に開かれていく唇は何かを
訴えるように小さく震えた
94
:
リアル・ワールド
:2004/05/21(金) 21:20
・・・わかりやすっ
しっかし、なぁー・・・記憶無くしてる間もやってることが変わんねーって
とこが我ながら、情けなっ・・・
その上、恋敵は自分ですか?・・・シャレになんねっーつーのっ
・・・けどそいつは、この、あたしでいる時の記憶もあったりする?
そう思いつくとひとみは、自分自身が消えて行くような恐怖を感じた
いつか乗っ取られちゃったりして・・・?
・・・はぁ・・・もっとシャレになってねーじゃんっ
ひとみは不吉に広がっていく、自分自身の影を笑い飛ばそうと
したけれど、上手く出来そうにもなかった
95
:
Sa
:2004/05/21(金) 21:21
更新しました。
84様
エスパー降臨?!・・・てか、もっとチガウ能力がイイっすよね(w
嵌って頂けるとは嬉しい限り!二回もチェックしに来て下さるとは
さらに嬉しさ倍増中!!!
54@約束様
キターーーッ!てか、バレターーーッ!!!・・・その映画、昔、作者も
見たんですよ・・・昔すぎてあんま覚えてナイんですが・・・
このハナシを思いついた時、その映画がアタマを掠めたのでした(汗
JUNIOR様
大好きっすか?・・・作者も結構好きです♪
んで、いつか書いてみたいなぁーーーって、書いてるじゃんっ(w
・・・と、今に至るワケでございますよ(・・・汗
96
:
54@約束
:2004/05/21(金) 23:54
更新、お疲れ様です。
覚醒しない吉はちょっと脆くて、そこがまたイイ感じですね。
自分であって自分でないもどかしさと、戸惑う石がもうまさに「いしよし」ですw
いやぁ〜、読むごとにどんどん引き込まれます。本当に毎回楽しみです。
てか、Saさんもあの映画ご覧になってたんですか!?いやぁ〜、奇遇ですね。
(あれは究極のラブストーリーではないかと思ってるんですが・・確かにちと古い映画ですがw)
宿命で結びついてるふたりのこの先、ワクワクしてお待ちしております。
97
:
JUNIOR
:2004/05/22(土) 23:55
更新お疲れ様です。
自分自身の記憶がないって
シャレになんないっすよね。
自分もあるのですが・・・(何か問題でも?
そんな思いがあったんですか。
思ってたことを実行できるなんて、すんげーカッケーっす。
尊敬します。(などと、いってもSaさんの小説読んだときからSaさんのことは尊敬してました。w)
これからも楽しみにしてます。(深夜の楽しみになりつつありますw)
98
:
名無し(0´〜`0)
:2004/05/23(日) 00:09
更新お疲れ様で〜す。
”エスパー”の命名者はSaさんですよ、某所にて。
この能力はすごく欲しいかも。
だって1日2回じゃきかないくらいチェックしに来る日あるし。
ここ最近は偶然更新時に見に来れてるから、かなり幸せです!
99
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:00
なんだか元気がないみたい・・・
放課後
机の上を拭く手を動かしながら、梨華はひとみの横顔を盗み見た
ひとみはさっきから箒を持つ手を止めて、ぼんやりと窓の外に
視線を向けていた
金色の髪に午後の明るい陽射しが反射して、その強い輝きに縁取られた
表情は、なぜだかとても儚げで脆く見える
あんな事がいきなり起こった、ひとみの転校初日
その前と後では、ひとみは何年かの歳月を飛び越えた人のように
醸し出す雰囲気が変わって見える
その姿はあの日、梨華があなたは誰なのだと言う問いかけに、ヒトミと短く
答えた誰かの面影が重なって見えた
ひとみが時々、自分の記憶がなくなると音楽室で聞いた時、ただ
からかわれてるのだと思った
けれど、その後の出来事を考えると、梨華はひとみの言葉をそのまま
信じることが出来た
自分の記憶がなくなるって・・・どう言う気持ちがするのかしら?
100
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:00
・・・想像出来なかった
けれど、普通では起こりえない物事が起こった時
人は不安に思うものだ、それぐらいのことは平凡に過ごしてきた梨華にもわかる
梨華が雑巾を洗いに行って戻ってきても、ひとみはまだのろのろと
同じ場所で箒を動かしていた
「・・・いつまで同じとこ、掃除してるつもり?」
梨華がおどけた声をかけて、塵取りを手にしゃがみ込むと
ひとみは夢から醒めたばかりの人のように、瞬きをして梨華の顔に
目の焦点を合わせた
そして梨華の手にある塵取りを見て、・・・ぁあ、と掠れた声で答える
梨華が塵取りのゴミをゴミ箱に落とすと、後ろから長い腕が伸びてきた
「・・・あたしが捨ててくるよ」
「場所、わかるの?」
「・・・わかんねー・・・かも?」
ひとみはばつが悪そうな笑顔を浮かべながら、梨華の顔を見た
101
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:01
ひとみがゴミ捨て場の大きな容器に、ゴミ箱を傾けながらポツリと言った
「・・・どんなヤツ?」
「・・・えっ?!」
梨華がひとみの後姿を見ていると、ひとみはゴミ箱を傍らに置いて
振り返ると梨華の顔を真っ直ぐに見た
「・・・もう一人の、あたし」
「・・・ぁあ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・えぇーと・・・」
・・・どんな?・・・どんなって・・・
あの感じはなんて言えばいいのかしら?
梨華は目の前のひとみと、もう一人のヒトミとの違いを考えてみた
眼の色が違う・・・
それはそうだけど・・・そういう目に見えることじゃなくて
別人だと思ったのは・・・
纏う空気が違うからだ、と梨華は思った
102
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:02
このひとみは、普通なのだ・・・変な言い方だけど
見かけが目立とうとも、自分と対等の高校生の女の子だと思える
けれどあのヒトミは・・・
威厳・・・というのだろうか?
ただ自分に自信がある、と言うのとは違う
制服を着ていても、およそ十代の女の子には見えない
顔はこのままなのに・・・まるで世の中に自分の知らない事柄など
一つもないと言うように物語っていた眼の色
あの普通では考えられない能力も、超能力者と言うよりも
もっと現実離れしていて・・・そう、あれは
あれはまるで・・・まるで空想の世界とか神話に出てくる人みたいだった
梨華はあの魅惑的な微笑みを思い出すと、体温が急に上がって感じた
あの眼で見つめられて乞われたら、どんなに無理なことでも頷いて
しまいそうだった
103
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:02
ひとみが溜息をつく音が聞えて、梨華はハッとした
「・・・会いたい?・・・もう一人の、方に」
・・・会いたい?・・・・会いたいの?わたし?
梨華が言葉に詰まると、ひとみは子供が泣き出寸前のように顔を歪めて
笑った
「・・・梨華ちゃん・・・あっちのがいいんだ?」
「・・・そんなこと・・・」
「いいよ、無理しなくて・・・顔に書いてある」
その時、梨華の身体は自然に動いていた
ひとみを自分の腕の中に抱きしめる
「・・・そんなこと、思ってないよ?」
「・・・嘘だ」
「嘘じゃない」
梨華は急に自分の胸の内に、このひとみへの愛おしさがどこからか
湧き出て、胸一杯に溢れてくる事に戸惑った
けれどなぜか、この目の前のひとみを自分が守ってあげなければ
いけない気というがした
守る?いったい何から?・・・わからない、けれど・・・
けれどそれは、自分にしか出来ないことのように思えるのだった
104
:
リアル・ワールド
:2004/05/25(火) 14:03
「・・・誤解しちゃうんだけど?」
「・・・誤解?」
「んー こんな風にされちゃうと・・・期待するでしょ?フツーに・・・」
梨華が腕を放して、ひとみの顔を見るとひとみは照れくさそうに
笑っていた
「・・・あたしが・・・あたしが梨華ちゃんを好きになったことに
理由があるのか、ないのかなんてわからない
・・・けどそんな事、どーでもいいってゆーか・・・だってさ
もうこんなに・・・どーしょうもないくらい好きになっちゃってるんだから・・・」
今度はひとみが、梨華を自分の腕の中に抱きしめた
「・・・だから、だからあたしを繋ぎとめておいてよ?
梨華ちゃんが呼んでてくれてれば、あたしはきっと、あたしで
いられる・・・そんな気がする」
「・・・ん・・・わかった」
「あたしのこと・・・呼んでみて?」
「・・・ひ、とみ・・・ちゃん?」
「オッケー 最高!」
梨華はひとみの腕にギュッと力が入るのを感じた
そして、ひとみの軽やかに笑う吐息が梨華の髪を、そっと揺らした
105
:
Sa
:2004/05/25(火) 14:03
更新しました
最近、新しく聞えて来る事柄や、一昨日の出来事に我を失いそうな二日間でした
けれど、作者の真実は一つだと再認識致しましたので、それを固く信じて
作者の書くものにお付き合い頂ける方がいらっしゃるなら、変わらずに書いて
行こうと思っておりまする
54@約束様
今回、自分であって自分でないというのはナニも記憶を失くさなくとも
あることなのではないかなぁ〜と思ったりする作者です
ワクワクして頂ける、愛の物語を描ける様、精進致しますね?
JUNIOR様
シャレにならない問題につっこんでいいのか、迷ったりする作者です
そんな思いと言うほど、大層な事ではないのですよ?
ただの見境のないセッカチなので、こんなオトナになってはいけません(w
98様
やはり・・・そうでしたか?!
頭をよぎったのですが、頂いたレスの雰囲気が違うように感じたもので…
こんな未熟者の書く物を楽しみに来ていただけて、作者こそかなり幸せです!
106
:
54@約束
:2004/05/25(火) 16:02
更新、お疲れ様です。
う〜ん、ここのふたりは自分が思ったように、やっぱり運命に導かれて出会ったふたりです。
何があろうと「離れないで」欲しいです。
自分はSaさんについていきますよ!
次回も楽しみにお待ちしております。
107
:
名無し(0´〜`0)
:2004/05/25(火) 19:05
毎回楽しみにしています。
これからもヨロシクです。
108
:
JUNIOR
:2004/05/25(火) 23:05
更新お疲れさまです。
2人は別々の道を歩んでいきますが、
運命で出会った2人です。
なにがあっても「いしよしは不滅!」と信じています。
たとえどんなことがあっても
自分はSaさんについていきます。
今、ここで「約束」します。
109
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:06
ここの所、ひとみにとって眠るという行為は憂鬱以外の何物でも
なくなっていた
夥しい数の夢を見るのだ
全ては繋がっているようで、脈絡がなく、目覚めた時には
忘れている
それなのに、長い時間どこかを彷徨い続けていたように
翌朝は、眠る前よりも身体に疲れを蓄積し続けていた
それならば、眠らなくてもよさそうなものだが、結局は引きづられる様に
眠りに落ちて行くのも毎晩のことだった
110
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:06
・・・この光景は何度も見たことがある
どこか懐かしいような部屋・・・誰もいない部屋
抱えた膝に、顔を埋める子供
・・・そう・・・あの子はあたし、だ
111
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:07
ひとみの前に、小さく発光する白い粒子が集まると、それはやがて
人の姿になった
・・・ひとみ、と呼びかけられて、ひとみは涙に濡れた顔を上げると
驚きに目を見開いた
「・・・だあれ?」
・・・誰だと思う?
ひとみは、知らないと言う様に左右に首を大きく振ってから
発光する人物を見上げて、口を開いた
「でも、きれい・・・きらきらしてる・・・おそらのおひさまみたいだ」
光の粒子が柔らかく煌いた・・・まるで笑っているように
112
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:07
・・・そうか・・・お前の目には、ワタシが美しく見えるのか?
ひとみは、さっきまで泣いていたことなど忘れたように
その声の人物に魅入られている
・・・ワタシのようになりたいか?
ひとみは小さく頷いた後、小首を傾げた
「・・・なれるの?」
・・・もちろん
・・・けれど、今のままではダメだ・・・亡くしたものの大きさで
お前は生きることを諦めようとしている
・・・ワタシの言うことがわかるか?
「・・・だってぇ・・・うっ・・・うぇ・・・ぐ・・・」
ひとみはその人物が言う言葉を理解出来た訳ではない
けれど自分が、いなくなってしまった父母の所へ行きたいと思っていること
そう思うと、不思議と食べ物はおろか、飲み物さえも口にしたくなくなってしまうこと
それを言っているのだ、と感じた
113
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:08
・・・泣くな、ひとみ
・・・お前は一人ではないのだ・・・なぜなら
・・・ワタシは・・・お前、なのだから
「・・・え?」
ひとみは訳がわからくなって、瞬きを繰り返す
・・・ワタシはお前の内に在る
・・・お前が望むなら、ワタシはお前の声に答えよう
・・・だから、けして生きる事を諦めてはいけない
「・・・いまみたいに、ひとみとおはなし、してくれるってこと?」
ひとみは思いついて聞いてみた
・・・そうだ
114
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:08
「・・・ひとみ・・・ひとりぼっちじゃないの?
ほんとに?・・・そばにいてくれるの?」
・・・あぁ
・・・お前が抱えた孤独を乗り越えられる時がくるまで傍にいよう
・・・そして、ワタシを必要としなくなったのなら、全てを忘れるのだ
・・・なぜなら・・・お前がワタシなのだから
・・・いいな
ひとみは不思議そうな顔をしながら、それでもコクンと頷いた
発光する人物のシルエットが一際眩く輝くと、それは小さな光の粒子に
姿を変え、ひとみの中に吸い込まれるように入ってくる
なんだか・・・げんきがでてきたみたい?
ひとみの涙で濡れていた目が金色に輝いて、微笑んだ
そしてそれは、一瞬でもとの薄茶色に戻っていった
115
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:09
ひとみが閉じていた目をゆっくり開けると、辺りはまだ暗闇に
包まれていた
目覚める刹那まで、誰かと話をしていた気がする
懐かしい誰かと・・・
そのせいだろうか、自分以外誰もいないはずの部屋に人の気配を
感じるのは・・・
・・・ヒトミ
ふいに、懐かしげに優しく名前を呼ばれて、暗い部屋を見回すと
壁の隅が白く輝きだして、ひとみは大きく目を見開いた
それは見る間に人に姿を変えていく
子供の読む絵本に出てくる天使のような笑顔を浮かべた小柄な女性へと
・・・まだ寝てんの?・・・あたし?
てか、夢だろ?・・・これ?・・・
116
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:09
薄い蝶の羽を何枚も重ねたような豪奢なドレスに身を包んだ女性は
優しく微笑んだ
それは・・・女神のように神々しくてひとみは息を呑んだ
・・・ヒトミ?
・・・忘れてしまったのね?・・・ワタクシのことを・・・
・・・いくらアナタでも、これだけ転生を重ねたら無理もないこと
転生?・・・何言ってんだ、この人・・・
ひとみは見開いたままだった目をゆっくりと瞬きさせた
・・・時間がないのです
・・・ワタクシの力は、もう・・・あまり時間は残されていない
・・・ストーンを探して、ヒトミ
・・・そうしないと・・・アナタは・・・アナタだけではなく・・・
117
:
ホワイト・ナイト
:2004/05/26(水) 18:10
そこまで言うと、発光した美しい幻の女性は力尽きた様に
フッと消えてしまった
光をなくして、暗闇へと戻った室内で、ひとみは自分の身体中の血液が
やけにドクドクと大きな音を立てて流れているのを感じた
・・・夢だ・・・夢だよ?
ただの夢に決まってる、なのに重大な秘密を打ち明けられた後の様に
興奮しているのはどうしてだ?
今、あたしは・・・眠りの中にいる筈なのに、眠れそうにもないと
感じてるのは、いったい何故なんだ?
・・・ストーン?・・・石?
・・・何かが胸に引っかかった
背中をツッーと、汗が流れる
その感触は不気味な程、リアルだった
118
:
Sa
:2004/05/26(水) 18:11
更新しました
54@約束様
もちろんっ!何があろーとなかろーと離すつもりはありませんっ
てか、離れない二人なので♪
ついてきて下さるんですか???うれすぃ〜なぁ〜!!!
107様
楽しみにして下さってると言う言葉をかけて頂けることが
作者には最高の喜びですので!
こちらこそ、これからも宜しゅうに♪
JUNIOR様
いしよしは不滅!!! 作者にも、それ以外ありえませんっ
例えどんなことがあっても・・・ですか?
・・・そのお言葉に恥じないでいられる様に前進、努力致しますね
119
:
JUNIOR
:2004/05/27(木) 01:30
更新お疲れ様です。
やっぱし話しに吸い込まれていきます。
う〜ん。天使のような女性はあのお方ですか?
その人が出てくれば少し感激かも。
えぇ、例えどんなことがあってもです。
自分も恥じないように頑張りますので、よろしくです。
120
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:08
梨華は部屋の窓を開け放ち、夜空にぽっかりと浮かぶ
クリーム色した月を見ていた
昔から、月を見るのが好きだった
月を見上げていると、その柔らかい光を全身に浴びていると
自分が慈しまれ、守られている様な気さえした
夜の闇は怖いものではない、と、梨華は思う
それは万物を休息させ、明日への活力を蓄える為に必要な闇なのだ、と
そして、その夜の闇は真の暗闇な訳ではなく
いつでも空から控えめに届けられる、一筋の月光に見守られているのだから・・・
ふっと、ひとみの顔が梨華の頭の片隅に浮かぶ
最近、よく眠れないんだ、と、ひとみは言っていた
そう言った、ひとみの青い程に白い顔・・・
梨華は月に向かって、心の中で願ってみた
どうか・・・ひとみちゃんが、ゆっくり眠れますように・・・と
121
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:09
梨華が就寝の支度を整え、ベッドに横になると、間もなく
コトリ、と安らかな眠りが梨華のもとに訪れた
122
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:09
・・・明るい月だった
どこまでも優しく、控えめな光
けれど、暗いことはない
美しい場所・・・梨華は回りをぐるりと見回した
注ぐ月光を浴びて、見上げる樹木がまるで寝息を立てている様に
さわさわと揺れている
目の前に大きな・・・いったいどのくらいの大きさなのかわからない
くらい大きな湖が見える
まるで湖自体が島みたい・・・
梨華は近づいて行こうとして、僅かに戸惑った
それはその水面を覗いている先客がいたからではなく、その湖を
間近で見なくても、そこに張っている水がどれだけ澄んでいるのかを
自分自身がよく知っている気がしたから・・・すると、その時
静かな水面を覗いていた人影が梨華へと振り返った
・・・いらっしゃい
その人物は梨華に微笑みかけた
梨華は思わず、身構えて立ちすくんだ
呆然と開けたままの唇から言葉にならない声が漏れる
123
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:10
「・・・ぁ・・・あ、ぁ・・・」
自分に向かって微笑んでいるのは・・・それは、まぎれもなく
・・・梨華自身だった
うそぉ〜〜〜?!
・・・夢だから?・・・そう、夢なんだからっ
一つ大きく息をつくと、ざわめく心を落ち着かせる為に、梨華は
自分自身に言い聞かせる
そう、だから・・・
何が起こったって不思議じゃないじゃない?
梨華は、それでもざわめき続ける心の内と向き合う様に
ぎこちなく、目の前にいる自分自身に微笑み返してみた
わたしって・・・他の人が見たらこんな感じなのかしら?
けれど、なんだか・・・鏡で見る印象と違うものだな、と、梨華は思った
・・・座らない?
もう一人の梨華は湖のほとりに腰を下ろすと、自分の横に
ふわり、と手を置いた
梨華が頷いて、その横に腰掛けると、彼女−もう一人の梨華−は
クスクスと面白そうに笑った
124
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:10
・・・あの人が、昔・・・言っていた通り
・・・私は案外、腹が据わっているって
・・・アナタを見て、少しわかった気がするわ・・・自分のこと
彼女は美しく微笑んだ
自分の顔に見惚れるなんて、変な話だけど・・・
この梨華の微笑みは、あたりが薄闇だからそう見えるのだろうか?
艶めく色を纏っている・・・と、梨華は思った
彼女はその微笑みをひっそりと浮かべたまま、梨華を見た
・・・ほんとうはね?
・・・私、アナタの前に現れる気はなかったの
・・・けれど一度、あまりにあの人が懐かしくて
・・・思わず、表層意識に出てしまったわ・・・ごめんなさいね
・・・ちゃんと謝りたかった・・・アナタを混乱させてしまった事
・・・だから少し、お話をするべきかな?って思ったの
・・・それにこれから・・・これから起こるだろう事があったし・・・
彼女の美しい微笑みに、僅かな影が落ちた
その影は、梨華の胸の奥底に小石を落とし、波紋を呼んだ
これから、起こる事?
始めは小さく、そして次第に大きく広がるそれは・・・漠然とした
・・・不安、というものかも知れなかった
125
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:11
・・・私、とあの人は・・・彼女はそこで言葉を止めて、わかる?と
言う様に小首を傾げて見せた
梨華はゆっくりと頷いた
金色の眼を持つ、もうひとりのヒトミ
ひとみであって、ひとみではないと言っていた人
・・・私達は昔、ここではないアナザというワールドにいたの
・・・けれど私達は、ここで生きて行く事を望んだ
・・・アナザには万能の女王がいて、ある条件と引き換えに
私達がリアル・・・ここのワールドに転生出来る様にしてくれたの
彼女の眼差しが愛しいなにかを懐かしむように、揺れた
何もかも現実離れしている、と梨華は思った
美しくどこか悲しみの色に染まった景色、自分と同じ顔をした彼女
・・・そして転生、だなんて
夢なんだから当たり前だわ・・・
そう自分を納得させたいのに、どこか懐かしんでる自分がいる事が
梨華を落ち着かない気持ちにさせた
それに・・・彼女が言うあの人を梨華は知っているのだ
・・・その条件とは・・・ストーンを探すこと
126
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:12
「・・・ストーンって・・・石・・・のことですか?」
梨華が初めて口にした問いかけに彼女は、その顔に浮かべた微笑みを
一際柔らかく開かせると頷いた
・・・私とあの人は、ここでそれを見つけたわ
・・・そして、転生を許された
・・・けれど、また同じことが繰り返されているみたいなの
・・・たぶん貴女が・・・現世の梨華、貴女と現世のひとみが、失われた
ストーンを探すことになるかも知れない
な、なんなの?!・・・石を探すって、いったい?
深刻な表情で、自分の目を見据える彼女に気圧されて、梨華は
身体を後ろへと仰け反らせた
・・・シャドーが貴女達を襲ったでしょう?
・・・それはアナザの女王の力が失われつつあるというサインなの
・・・だから気をつけて梨華
・・・アナザの女王の力が弱まるとリアルも均衡を崩してしまう
・・・けれど梨華、私は貴女と共にある
・・・だから、私の力が必要になった時・・・貴女が望めば
・・・きっとアナザの力を使う事が出来る
127
:
ホワイト・ナイト
:2004/06/01(火) 22:12
・・・それを忘れないで
・・・それを忘れないで・・・
梨華が混乱している間に、彼女は薄いグレーの霧に次第に包まれる
様に姿が消えて行こうとしている
「ちょ・・・ちょっと待ってよーーー!」
梨華は半分泣きそうになりながら、消え行く彼女に手を伸ばした
けれど、その指先はただ、くうをもがくように何も捕まえる事は
出来なかった
なんなのよ?・・・いったいなんなの
訳のわからない事ばっかり・・・聞きたいことは山ほどあるのに
違うっ これは夢でしょう?
わたしは何をむきになっているの?
そう思いなおそうとしても、梨華の耳には最後に彼女が言った
言葉がいつまでも木霊のように繰り返されていた
128
:
Sa
:2004/06/01(火) 22:13
・・・それを忘れないで
・・・それを忘れないで・・・
梨華が混乱している間に、彼女は薄いグレーの霧に次第に包まれる
様に姿が消えて行こうとしている
「ちょ・・・ちょっと待ってよーーー!」
梨華は半分泣きそうになりながら、消え行く彼女に手を伸ばした
けれど、その指先はただ、くうをもがくように何も捕まえる事は
出来なかった
なんなのよ?・・・いったいなんなの
訳のわからない事ばっかり・・・聞きたいことは山ほどあるのに
違うっ これは夢でしょう?
わたしは何をむきになっているの?
そう思いなおそうとしても、梨華の耳には最後に彼女が言った
言葉がいつまでも木霊のように繰り返されていた
129
:
Sa
:2004/06/01(火) 22:16
更新しました・・・がっ
す、す、すみませーーーんっっっ!
最後に同じ文章二回上げてしまいました・・・寝ぼけてるのかっ?!
JUNIOR様
引き込まれるというのはとてつもなく作者の心に
響くオコトバです♪
・・・あのお方?・・・ダレかしらん???・・・タブン違うと思われ(w
130
:
JUNIOR
:2004/06/01(火) 23:41
更新お疲れ様です。
当った・・・・・・・・(ニヤニヤ)
それは、もう一人のお方ですよ。
だって、もう一人の自分が現れれば感激でしょ。
ブラックだった自分の心をSaさんが
ホワイトにしてくれました。
ありがたや、ありがたや。(キャラ違いますね自分)
131
:
アナザ・ワールド
:2004/06/02(水) 11:54
ヒトミは、地の丘の外れにある洪水のような深い緑の中に沈む
カオリの家にいた
カオリは風変わりなタミだった
属性も分からず、誰とも係わらず、いつも一人で深い森の中にいる
けれど強い予知能力があり、時折訪れる迷いビトをむげに追い払ったりは
しなかった
ヒトビトがたてる、無責任な噂では現女王ナツミが選ばれた時
もう一人の女王候補だったと伝えられていた
ヒトミはそのことについて確認したことは無かったし、カオリの
過去について詮索する気もなかった
ただ、誰とも係わろうとしないカオリといることは、ヒトミにとって
とても気楽だったのだ
132
:
アナザ・ワールド
:2004/06/02(水) 11:55
「ヒトミ・・・お前、闇の時間をうろついてるそうじゃないの?」
「・・・・・・・・・・」
「何かいいものでも見つけたの?
まさかお前が、闇のタミに恋をしたなんてバカなこと言わないでしょ?」
カオリは普段、無口だった
姿はそこにあっても、源である精神体がどこかへ浮遊しているのでは
ないかと、時折疑いたくなるほど・・・
そして、反動のようによく話す日もあった
今日はどうやら数少ない方の日にあたったらしい
ヒトミはカオリに軽く視線を投げて、どうでもよいことのように
投げやりに答えた
「・・・もう行くことはないさ」
ヒトミの脳裏に闇のタミ−リカ−のひっそりとした微笑が浮かんだ
133
:
アナザ・ワールド
:2004/06/02(水) 11:55
あの日、いつものように水の島で闇のタミと逢っていた
ヒトミの純白の毛皮に寄りかかるようにして、おしゃべりを楽しんでいた
闇のタミが小さな寝息を立て始めた
その安らかな鼓動を聞いている内に、ヒトミまでも眠りに落ちて
しまったのだ
気づいた時には星の時間になっていた
天空は濃い蒼を過ぎ、眩しく輝く太陽が昇りだす前特有の朱を
ぼかし始めた白に染まっていた
ヒトミは自らの身体が変化を始めて、唐突に目覚めた
そしてヒトの姿に変化し終わったヒトミの前には、驚きに目を
見開いた闇のタミが身体を硬直させていた
「・・・あ・・・お前・・・光の、タミだったの?」
ヒトミは闇のタミの顔を見て、薄く笑いながら殊更そっけなく
言葉を返した
「・・・それがなにか?」
134
:
アナザ・ワールド
:2004/06/02(水) 11:56
「・・・なにかって・・・知らないわけではないでしょう?」
闇のタミは目を見開いたまま呆然と呟くと、信じられないと言うように
首を横に振った
「・・・タミが死ぬことのない、このワールドでの唯一の禁忌じゃないの?
光のタミが日の光のない闇の時間を過ごすなんて・・・
お前は自らの消滅を願っているとでも言うの?」
「・・・まさか・・・けれど、まあそれも、そう悪くはないか・・・」
「・・・なんの為に?・・・なぜ、こんな無謀なことを・・・」
「・・・なんの為?」
困惑の表情で自分を見る闇のタミの頬に、ヒトミはそっと手を伸ばした
「お前の為だ・・・違うな・・・お前に逢いたいと願うワタシの為に
・・・この姿のワタシが嫌いなのか?」
「・・・・・・・・・」
闇のタミは俯くと小さく首を横に振った
「・・・そういうことではないでしょう?」
「ではどういうことだ?
・・・お前、名はなんと言う?ワタシはヒトミ・・・」
「・・・リカ」
135
:
アナザ・ワールド
:2004/06/02(水) 11:56
ヒトミは俯いたままのリカの顔を上げさせると、そっと唇を寄せた
リカはヒトミの唇が自らの唇の上に届く前に顔を背けると
静かに立ち上がった
「・・・もう帰らなくては・・・光の時間になってしまう」
ヒトミは軽く頭を振って立ち上がると、歩き出そうとするリカの
腕を掴んで引き寄せると抱きしめた
「・・・ワタシは・・・お前が・・・リカが欲しいのだ」
ヒトミの腕の中でリカが大きく息を呑んだ
そして震えるように小さく息を吐きながら呟く
「・・・それは無理なこと・・・貴方、ヒトミもわかっているでしょう?
もう・・・もう、ここには来ないで・・・」
リカはヒトミの腕の中からするりと抜けると、そのまま走りだした
ヒトミは俯くと唇を噛んで、ただその場に立ち尽くすことしか
出来ずにいた
136
:
Sa
:2004/06/02(水) 11:57
更新しました。
JUNIOR様
もう一人の自分・・・怖くないっすか?
夢なら笑えるけど(w
キャラ違うかな?・・・そんなこともナイよ〜な・・・
ヒトは皆、混沌と矛盾のナカにありますからなぁ〜って、ナンジャソリャ・・・(w
137
:
54@約束
:2004/06/02(水) 16:03
更新、お疲れ様です。
いやぁ、何とも美しいお話ですねぇ(うっとり)。
新しいキャラが登場ですね。女王も自分のイメージにピッタリですw
ふたりを結び付けるキーになりそうな探し物は一体どこにあるのか・・
じっくりと見守らせていただきます。
138
:
JUNIOR
:2004/06/02(水) 22:01
更新お疲れ様です
>もう一人の自分・・・怖くないっすか?
いえいえ、全然恐くないです(大笑)
会えるものだったら会ってみたいです。(霊感あるけど会った事ないので
全くキャラ違いますよ。(w
もっとなんか、アホ炸裂な人なんで。(バカでもあります
139
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:02
ヒトミは次の日も、そのまた次の日も闇の時間に水の島を訪れた
けれど、何度足を運んでみても、あのお互いの名前を知り合った日
以降、リカを見つけることは出来なかった
逃げられたか・・・ヒトミは自嘲的に笑った
リカを責めることは出来ない
自らの魂を削ってまで、闇のタミであるリカに光のタミである自分を
選べとは、さすがのヒトミも言うことなど出来はしない
ただ許して欲しかった
ヒトミが禁忌を犯し、自らの消滅が進む道の先に待っていようとも
それでも止めることの出来ない、逢いたいと言う気持ちを
リカの傍にいたいと願う想いを・・・
ワタシが誰かに許しを乞うなど・・・
なんと愚かで馬鹿馬鹿しい・・・ワタシは首座に位置する光のタミの中でも
比類なき誇りの宿るモノだと言われていたではないか?
それほど、リカが必要か?
あのモノが、いったいワタシに何をしてくれたと言うのだ?
140
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:02
ヒトミは自分自身に問いかけた
けれど、どれ程、自分の内に問いかけてみたところで、その答えは
返ってはこなかった
そしてヒトミは自堕落な日々に溺れて行った
ヒトミは自分に色目を使うタミと次々に肌を重ねてみた
自分が与える快楽に反応する身体
自分の全てを褒め称える隠微な唇
自分に奉仕することに恍惚となっていくその表情
相手が自分との関係にのめり込めばのめり込むほど、ヒトミの
体温は下がり続けていった
141
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:03
そしてヒトミは気づかずにはいられなかった
リカが何かをしてくれるかどうかなど、自分には問題ではないことを
ただ自分がリカにとって、必要な存在でありたいと望んでいたことを
望まれるのであらば、自分の全てを捧げてもかまわないと思っていることを
・・・そう、この魂さえも・・・
だからこそ、ヒトミにとってリカに望まれないということは
何よりも耐え難い仕打ちなのだった
そしてヒトミはその痛みに耐える為に、次々に新しい誰かと
肌を重ね続けた
142
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:06
女王の側近という全貌の位置でさえ、今のヒトミにはどうでもよい
事のように思えた
ヒトビトの目が煩わしくなったヒトミは、少し前にカオリのもとを
現れて、こうしてまた、違った意味で無意味な毎日を送っていた
フフッとカオリが笑った
「お前に遠まわしな事を言っても仕方がないわね?
・・・ヒトミは魂を奪われてしまった
それが運の悪いことに相手は闇のタミだった・・・それだけの事
けれどさすがのお前も、今度ばかりはどうにも出来ないようね」
「カオリ・・・お前、ワタシを怒らせたいのか?」
「フフッ・・・まさか、ヒトミと戦いたがるほど、カオリは物を
知らなくはない・・・戦闘術も剣も得意ではないのよ」
「・・・なら、余計な事を言うな」
「余計なこと?・・・そうかしら・・・」
眼の色をギラギラと苛立たせるヒトミの顔をカオリは覗き込む
何もかも承知しているという表情が、尚更ヒトミを苛立たせた
ヒトミがプイッと顔を背けた時、カオリの声が水面を震わす振動の様に
ヒトミの頭に直接、響いた
143
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:07
・・・もうすぐ、その時がくる
144
:
アナザ・ワールド
:2004/06/04(金) 12:07
「・・・その時?」
ヒトミが背けた顔をカオリへと移すと、カオリの眼には何も映って
いなかった
まるで水晶のように、意志の感じられない空虚で透明な眼差しとぶつかる
予知の術を使ってるのか?
ヒトミがカオリの目の前にあるものを何も映さない、虚無の眼差しを
食い入るように見つめていると、また声がヒトミの頭の中に響いてきた
・・・ストーンが失われた
・・・女王ナツミはお前に乞うだろう、探して欲しいと
・・・お前がそれに答えた時、お前の願いは叶えられる
「・・・ワタシの願いが、叶う?」
ヒトミが呆然と、そう繰り返した時
カオリの家のドアを少し乱暴に叩く音が聞えた
145
:
Sa
:2004/06/04(金) 12:09
更新しました。
54@約束様
ウットリ・・・だなんて、うれすぃ〜なっ♪
女王の方は作者の話、初登場ですわ(w
今回、暗中模索な作品なので、この様にご感想を頂けると
大変、励みになりますです(ペコリ)
JUNIOR様
もう一人のジブンと言うか、前世というモノを
もしも知るコトが出来たなら、知りたいですな〜
作者も、しょっちゅうキャラ変わりますですよ(w
まぁ、根本は変わりませんが・・・
146
:
54@約束
:2004/06/04(金) 13:53
更新、お疲れ様です。
ふ〜む、こう繋がって来るのですか・・まさに「浪漫」全開ですねw
そういえば女王は作品初登場ですよね。
Saさんがこの人をどう描くのかも、今回は楽しみのひとつでもあります。
(シャドーの存在も結構気になっていたりもしますがw)
次回も楽しみです。
147
:
JUNIOR
:2004/06/04(金) 22:51
更新お疲れチャン。(バカ丸出しです
ぬわー!続きが激しく気になる。
女王きましたねぇ。この方は要注目ですよね?
がんばってください。
148
:
アナザ・ワールド
:2004/06/05(土) 15:17
遣いの者に急かされて、カオリの家を後にしたヒトミは
女王との謁見の為に、天空の塔の最上階の部屋で、方膝を付くと
頭を垂れていた
音もなく、ナツミが入ってくるのが気配だけでヒトミにはわかった
それは何もヒトミが剣の使い手だからではなく、ナツミの周りは
いつも、眩い光のヴェールで包まれているからだ
「・・・ヒトミ、顔をお上げなさい」
「・・・ハッ」
ヒトミは顔を上げて、一瞬、その眩しさに目を細めた
ナツミの纏う豪奢なドレスは、その布の一枚一枚がまるで生を宿している
ように、光を放って見えた
「・・・久しぶりね?」
「・・・はい」
ナツミが一番、女王らしく見える臆することのない微笑みが、今日は
何故だか寂しげに見えた
149
:
アナザ・ワールド
:2004/06/05(土) 15:18
「ヒトミ・・・お前、随分、派手に遊んでいたそうではないの?」
「・・・お耳に入りましたか?」
「ワタクシを誰だと思っているの?
・・・ワタクシの知らない事など、ありはしないわ」
「そうですね?・・・失礼」
ヒトミが口許を歪めて、ニヤリと笑うと、ナツミも顔に浮かべた微笑みを
明るいものに変えた
けれど、ナツミの微笑みはあっという間に曇り、温和なようでいて、その内に
強い志を秘めた眼差しに影が落ちた
ナツミはヒトミの顔から、そっと視線を外して呟いた
「・・・ストーンが盗まれたわ」
「・・・はい」
「驚かないのね?」
一度外した視線を、もう一度ヒトミの上へと戻しながら、ナツミは言った
「知っていたのね?・・・そう・・・ヒトミはカオリのところにいたのですものね?
カオリは・・・あの子は元気だった?」
「はい・・・カオリは・・・カオリの周りはいつでも、何も変わらなく見えます」
「・・・そう」
ナツミの眼差しが、何かを懐かしむように優しく揺れた
けれど、次にヒトミへと向けられたナツミの視線は揺るぎない女王の
ものへと戻っていた
150
:
アナザ・ワールド
:2004/06/05(土) 15:18
「ではもう、わかっているかも知れないけれど・・・
お前に頼みがあるのです
ストーンを探しなさい・・・ストーンはリアルに持ち去られた」
「・・・いったい誰が?何の為にです?」
「わからない・・・けれど恐らくシャドーの仕業でしょう
お前はストーンの本当の意味を知っていますか?」
意味?・・・あれに意味などあるのか?
ヒトミは僅かに眉を寄せた
ストーンは何度か、この目で見たことがある
美しい四つの宝石
「・・・ワタクシは、アナザを治める全ての力を持っている
もともと資質はあったのでしょう・・・けれど万能な訳ではない
四つのストーンは、あの石はそれぞれがアナザの意志の結晶なのです
ワタクシは・・・もともとは光のタミでした
ワタクシが女王に選ばれた時、共に女王候補として学んでいたカオリは
その力のほとんどをワタクシへと譲ってくれました
カオリは闇のタミだったのです
アナザを形成している残りの力、風と炎、水と大地は、それぞれの
大いなる力をストーンに込めて、ワタクシに力を貸してくれていたのです」
151
:
アナザ・ワールド
:2004/06/05(土) 15:19
「ワタクシの力だけでは、そう長い間アナザを支え続けるのは不可能
なのです
ストーンは莫大な力を持っている、けれど持つ者を選びます
シャドーには、それを持つことも力を使うことも出来ない・・・」
「・・・なら、なぜ盗まれたのです?」
「シャドーとは・・・影
光の傍らに常に在るもの・・・日の強い光の下には濃く
月の柔らかい光の下には控えめに・・・
生、宿るものは、全てその内に光と影を持っている
その内服された影が光を超える時、その者はシャドーに操られてしまう
そしてリアルのタミはワタクシ達アナザのタミよりも精神が脆いのです
それがストーンに魅入られたら・・・」
「・・・魅入られたら?」
「扱いきれない強い力と、己が隠し持っていた影に・・・おそらく
食い潰されてしまうでしょう・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ワタクシがアナザを支えきれなくなれば、その不満はタミ達の心の内の
影を広げ、そしてリアルでもストーンに魅入られたものが、その大いなる
力を使えばリアルの均衡は崩れてしまう
アナザとリアル、この二つのワールドの崩壊をシャドーは目論んで
いるのだと、ワタクシは思います
その意志だけが、実態の無いシャドーそのものなのだ、と・・・」
152
:
アナザ・ワールド
:2004/06/05(土) 15:19
ヒトミは気付かぬうちに奥歯を噛締めていた
・・・だからヒトミ、とナツミが自分の名を呼んだ時
知らずに垂れていた頭を上げて、ヒトミは強く頷いた
ナツミも力強く頷き返した後、言葉を続けた
「けれど・・・ワタクシの力は、弱まっているのです
リアルではお前を庇護する光の時間と、お前の力を奪う闇の時間が
交互にやってきます
今のワタクシでは、闇の時間までも今のお前を留める事は無理でしょう
だからヒトミ、闇のタミの中から力ある者をお前と共にリアルへ
送り出そうと考えています」
ヒトミはナツミの強い視線をしっかりと受け止めながら、もう一度
大きく頷いた
「わかりました・・・女王ナツミ
ワタシの存在全てにかけて、必ずやストーンを見つけだしましょう
けれど、条件が二つある・・・それを叶えて下さいますか?」
ナツミは、ほんの少し小首を傾げた
ふいにあどけない、子供のような表情を浮べたナツミの顔を見ながら
ヒトミは自らの望みを口にした
153
:
Sa
:2004/06/05(土) 15:20
更新しました
54@約束様
うぅ〜ん、そうですねー 今回キャラのイメージを書くのがとても
ムズカシイんです・・・作者の頭の中では繋がる部分がある方に
お出まし願っているのですが・・・ホントムズいッス(w
JUNIOR様
バカ丸出しとゆーよりも、作者が自分に年を感じますな(w
激しく気になって頂けてうれすぃ〜限りですわ
きましたねぇ〜女王・・・注目なんですか?
154
:
JUNIOR
:2004/06/06(日) 00:20
更新お疲れサマー。
はい、すげぇ〜気になってます。(w
勉強が手につかなくなるほど(ダメじゃん
女王、注目ですよ。自分の中ではですけど。
なにしろSaさんの小説初登場ですから。
155
:
54@約束
:2004/06/06(日) 00:36
更新、お疲れ様です。
光あるところに影は出来るもの・・深いですね。
(フロイトのシャドーを思い出しましたw)
登場キャラが少ない分、キッチリと内面を描き出すという、Saマジック
を今回も堪能させていただいてます。
ここまで繋がって来た今、リアルのあの二人が待ち遠しくなりました。
続きも楽しみです。
156
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 14:42
ずっと・・・考えてた
考えずにいられなかった
考えずにいられない私自身の事、また、なんでなの?って
考え続けてた
157
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 14:43
あのコが、あの美しい真っ白な獣が・・・光のタミだったなんて・・・
確かにショックだった・・・けれど、それよりも・・・
一度見ただけで、瞼に焼き付いてしまった・・・あの姿・・・
何度も何度も思い出した
・・・逢いたかった
何故逢いたいのかわからないけれど、逢いたくて逢いたくて
仕方なかった・・・けれど、逢いに行く事はしなかった
・・・出来なかった
夢も見た
夢の中では自由に、あのコと遊ぶ事が出来た
けれど、あのコはあのコのままでヒトの姿に変わってはくれなくて
それが少し、残念だった
158
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 14:43
「・・・リカ、真面目にやる気ある?」
カオリの呆れた声にリカはハッとして、カオリの顔を見た
リカはもともと治癒の術のレベルを上げようと、気を高める為に水の島に
行き、ヒトミと出逢ったのだ
ヒトミを避ける為に、水の島に行くことが出来なくなったリカは
カオリの下に通って、浄化の術を学ぼうとしていた
カオリは昔、比類なき力を持っていたという噂を、リカは聞いた事がある
けれど、今は乞われればこうして教えてくれるのだか、自分が
術を使う事はなくなってしまったらしい
それはなぜなのかしら?・・・ふと、リカはそう思った
予知の術だけは使うみたいだけど・・・
あればっかりは、教えて貰って出来るようになる訳じゃないし
カオリについて色々噂はあったけれど、リカにはどれが真実なのか
知るすべはなかったし、それを不満にも思っていなかったのだ
不思議なカオリ・・・掴み所のないヒト
リカは改めてカオリの過去というものに、一瞬想いを馳せると
今、自分を雁字搦めにしている事柄について、話をしてみようかと思った
159
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 14:44
「・・・ねぇ?カオリ・・・カオリは誰かを忘れられなくなった事、ある?」
「・・・は?」
「一目見ただけなのに・・・頭から離れなくなった事ってある?」
思いつめた顔をするリカをマジマジと見つめて、カオリはブッと
噴出した
「・・・な、なにが可笑しいのよ〜」
カオリはムッとするリカを横目で見ながら、なんでもない、と
言う様に手を顔の前で振りながら、笑い続けた
「もぉ〜〜〜」
「いや・・・ごめん
笑いごとではないのか?・・・けれど、簡単な事だよ、リカ・・・」
「・・・?・・・」
眼差しで、なぁに?と問いかれるリカに、カオリは優しく微笑んだ
「リカ・・・お前は恋に落ちた、それだけの事だ」
「・・・・え?」
リカは目を驚きに見開かせると、首を小さく横に振った
160
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 14:44
「違うわっ!」
「・・・何故違うと思う?」
カオリの穏やかな眼差しに見つめ返されて、リカは・・・だって、と
口ごもった
「・・・一度しか会ってないのよ?
どんなヒトかもわからない・・・それに・・・それに・・・そのヒト
光のタミなんだもの・・・」
「恋とはそんなに親切なモノではないのだよ・・・
訳のわからない内に魂をわし掴みにされて、気づけば相手を
想う事に、時間ばかりを費やしてしまう」
「・・・でも」
困ったように眉を八の字に寄せるリカに、カオリはフフッと
小さく声に出して笑った
「相手が闇のタミならば、お前は納得するのか?
いや、せめて、光のタミ以外のものならば・・・と願うのか?
相手がこうだから、恋に落ちたなど、自分を納得させる為の
言い訳にしか過ぎないのだよ・・・」
「・・・・・・・・」
「リカ・・・お前が、そう思えないのならば、無理する事など何もない
全てはお前の・・・心が、魂が決めることなのだから」
161
:
Sa
:2004/06/09(水) 14:45
更新しました
JUNIOR様
アハハッ 気になって頂けるのは光栄ですが、この作品の更新は
気まぐれですので、あまり期待なさらないで下さいませね?
54@前作様
54@前作様は博学そうで羨ましいですな〜
内面ですか?今回まだヒトが増えるのでご期待に添えるかどうか(w
162
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 18:34
リカはこの間、カオリに言われた事がずっと心に引っかかっていた
そのせいで、カオリの家からも足が遠のいてしまっている
ぼんやりとそのことで、また物思いに耽りそうになる頭を
軽く振ると、リカは歩き出した
水の島へと向かって・・・
悪戯に時間を過ごしても仕方の無い事・・・
多分、あのコはもう来ない・・・そう望んで口にしたのは
自分自身なのだから
水の島へ向かう途中の深い木立の間で、ふいに辺りが明るく
なった気がして、リカは闇夜を仰いだ
そこには満月に、まだ時間がある月がひっそりと浮かんでいる
その傍らに、天空の彼方から光の柱が裾を広げ、ゆっくりと降りて
来るのが見えた
163
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 18:35
光の柱は、細かい粒子を撒き散らしながら、リカのすぐ目の前で
輝く円陣を作った
そこに、一際眩しい何かが、天空から降りてくる
あまりの眩しさにリカが目をギュッと閉じると、閉じた瞼の先から
穏やかでいて、威厳に満ちた声がした
「・・・リカ
月の光に愛される闇のタミよ、瞳を開けなさい」
リカがそっと瞼を上げていくと、目の前には響く声、そのままに
全てを慈しむような中に、とても強固なものを覗かせる眼差しをした
ヒトが、少し寂しそうに微笑んでいた
「ワタクシはアナザの女王ナツミです」
「・・・?!・・・」
アナザの女王っ?!
うそ・・・女王様?!
・・・いったい、私になんの用が?
口を開いてはみるものの、あまりの驚きでリカは言葉を発する事が
出来なかった
口だけではなく、瞬きするのも忘れたように、目までも大きく
見開いたままのリカに、ナツミはフッと表情を和ませた
「恐れる事はないのよ?
・・・ワタクシは・・・リカ、お前に頼みがあって、こうして会いに
来たのですから・・・」
164
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 18:35
ナツミの話を聞けば聞くほど、自分とは縁遠い大きな事柄な気がした
リカは術の腕が、さほど悪くないと自負しているが、アナザや
見たことも無いリアルという、二つの大きなワールドの大事に
係われるほどの使い手であるなどど、自惚れるほど自信家な訳ではなかった
リカは躊躇いがちにナツミに言葉を返した
「・・・女王様、なぜ私なのでしょう?」
「それは・・・ヒトミが望んだ事だからです」
その名前を聞いた瞬間、リカの心臓がドクンッと大きく波打った
「・・・ヒトミは・・・ワタクシの側近
あのモノ以上の適任者は光のタミの中にいないでしょう
ヒトミは必ず、ワタクシの願い通りに働いてくれるはずです
けれど・・・」
ナツミは遠い目をして、何かを懐かしむような表情を浮かべた後
また寂しげな微笑みを浮かべた
「・・・交換条件を出されてしまったのです
共に行く者を、リカ・・・お前にすること
そして、ストーンを持ち帰ったその時には、もう一つの望みを
叶えて欲しい、と
リカ・・・無事、ストーンがワタクシの手に戻ったならば、お前の
望みも一つだけ叶えましょう」
「・・・ヒトミは・・・光のタミは何を願ったのですか?」
165
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 18:36
ナツミは目を細めて、ほんの僅かにどこかが痛むような顔をして
リカを見た
「・・・それは・・・ワタクシの口から言うべき事ではありません
ヒトミと行動を共にする内にいずれわかる事でしょう・・・
リカ・・・どうしますか?
ワタクシの願いを聞き入れてくれますか?」
リカはすぐに頷くことは出来なかった
出来れば、逃げ出してしまいたい
見知らぬリアルと言うワールドに行かなくてはいけない事も
途方もない探し物からも・・・ヒトミという名の光のタミからも
けれど、それは出来ない事だということもわかっていた
自分は必ず行くだろう・・・あの光のタミの行く所ならば・・・
リカはそっと目を閉じると、ゆっくりと頷いた
そして次に顔を上げた時は、頑なささえ感じさせる真っ直ぐな
眼差しでナツミを見つめ返した
「・・・どこまでお役に立てるかわかりませんが・・・私の出来る限りで
女王様にお答えします」
166
:
アナザ・ワールド
:2004/06/09(水) 18:36
ナツミは一瞬、僅かに目を見開いた後、少し眩しそうな表情でリカを見た
「・・・ありがとう
ワタクシ達には、あまり時間が無いのです
明日、星の時間に、カオリの家へ行きなさい
ストーンを見つけ出す、なんらかの知恵を授けてくれるかも
知れません
その後、ワタクシがリアルへの道、夢の道を開きましょう」
そう言い終わると、ナツミの身体自体が発光を始めて、光の粒子に姿を
変えると、パッと弾ける様に消えてしまった
穏やかな月光だけに戻った薄闇の中で、リカは震える口許を開いて
大きく深呼吸した
考えても仕方がないわ・・・
行けばわかる・・・わかる気がする
私の心の行方が・・・取るべき行動が
きっと・・・すべてが・・・
あの光のタミがいる処へ・・・
167
:
Sa
:2004/06/09(水) 18:38
あまりに更新量が少なかったので、キリのいいトコまで追加で行かせて頂ました(w
168
:
JUNIOR
:2004/06/10(木) 21:29
更新おつかれさんです。
気まぐれでも気になってしまうものは仕方がないのです(w
『好きなことにはとことん、嫌いなものにはさっぱり』
と、いうのが自分の性分ですので(w
Saさんの小説は好きだからとことん読むのです。
169
:
54@約束
:2004/06/11(金) 00:16
更新、お疲れ様です。
今回、いしよし以外のキャラにもかなり注目しておるのですw
これだけの壮大なお話の中で、キャラたちがどう動いて行くのか・・
あくまで自分の中でですが、女王は脆さと強さが共存しているイメージがあったので、
今回はスっと入り込めるような気がしてます。
もうひとりの人とはある意味「宿命」を感じますねw
次回も楽しみです。
170
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:06
心ここにあらず、という顔つきで黙々と足を前に出し続ける
ひとみを横目で見ながら、梨華は、ふぅと小さな溜息を付いた
梨華は朝があまり得意では無いけれど、起きて時間が経つにつれ
いつもだったら、はっきりしてくる頭も、今日は一日中ぼんやりと
鈍く霞ががっているようだった
いつも通りの道をいつも通り歩く
見慣れた学園からの帰り道
隣りを歩くひとみの存在も、今では梨華の日常の一コマだった
なのに一日中、梨華は自分の意識というか、存在自体さえもが
ここに在る様でここに無い、というなんとも心もとない気持ちに
襲われていた
理由はわかってる
昨夜の夢のせいだ、と梨華は思った
171
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:07
いまだかつて、あんなに生々しく覚えていた夢などない
自分と同じ顔をした彼女が、移り変る眼差しを梨華に向けていた
薄闇の湖面の上から、滑るように吹いてくる風に、同じ長さの髪が
肩先で揺れていた
そして何よりも、台本を丸暗記した芝居のように、彼女の口から出た
言葉の一つ一つを、はっきりと思い出すことが出来た
ひとみちゃんにも話してみようかな?
何度か口にしかけて、止めてしまったことを梨華はもう一度考える
昨日の彼女の話は、ただの夢と笑え無いほど、今の自分達とシンクロ
してる気がしたから
「・・・あのね、ひとみちゃん?
わたし昨夜、夢を見たの・・・それが・・・」
梨華は足を止めると、上目遣いでひとみを見上げた
ひとみはぼんやりしたままの視線で梨華に顔を向けた
「・・・?・・・それが?」
172
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:07
梨華が話終わると、俯いていたひとみはゆっくりと前髪を
掻き揚げてから顔を上げると、梨華を見た
「・・・あのさ」
「ん?」
「・・・今日・・・今日さ、うちに泊まりに来ない?」
「・・・はい?」
ひとみの脈絡なく感じるいきなりの誘いに、梨華が驚いて
目を見開くと、ひとみはフッと目を細めて笑った
その大人びた表情に、梨華の心音がドクンと上がった
ここのところ、ひとみは思慮を廻らすような表情ばかりしていて
初めて会った日と比べると、別人のようだった
よく眠れないと言っていたし、白い頬の丸みも削がれたみたいに
細くなってみえる
それはそうだよね・・・
自分よりも、ひとみの方が心中は複雑に違いない
「・・・あたし、ずっと考えてたんだけど・・・
ま、考えても仕方ないじゃん?ってのもあるんだけど
やっぱさー 考えずにいれねーってゆーか・・・」
ひとみは自嘲的にニヤリと頬を歪めた
173
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:08
「・・・なんつーか、格好わりーけど、ぶっちゃけ怖かった訳よ
どー考えたって普通じゃねーじゃん?
けど、ま・・・目ぇ逸らしてても仕方ないかな、と
この状況からは逃れられないみたいだし?
・・・運命?・・・転生?・・・んなの知んねーけど、とりあえず戦って
みますかーとか、思ったりしてね
もともとバトル系嫌いじゃないし〜
守らなきゃいけないお姫さまがいるんなら、そこそこ楽しめるかな・・・と」
お姫さまのところで、自分をちらりと見て、少し照れくさそうに
笑って見せるひとみを見て梨華は思った
ひとみという人は、自信ありげに見せていても、実はとても脆いのかも知れない
だからこそ、色んな表情を持っているんじゃないか、と
そして、誰かを守れると言うことだけが、自分を強く見せる、その誇りみたいものを
支えていけるすべなのかも知れない、と
それなら、わたしは・・・
わたしはひとみちゃんの傍にいて、頼ることが大事なのかな?
それがひとみちゃんに力を与えて、最後にはひとみちゃんを守ることに
繋がって行けるのかな?
いつでも寄り添い、その時々で姿を変えていく月のように・・・
174
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:08
梨華がそんなことを考えながら、ぼんやりとひとみの顔を見ていると
ひとみはニヤニヤと笑った
「なんだよー 人の顔、じーっと見ちゃってさー
そんなに格好いい?」
「・・・バカみたい」
「むーかーつーくー」
ひとみは梨華の首に腕を回すと、軽く握った拳で梨華の頭を
グリグリと押した
「やぁだ〜 止めてよぉ」
梨華がクスクス笑いながら、首を竦めるとひとみも声をたてて
笑った
自分達には、こうやって笑い合うことが、とても大切なんだと梨華は思った
大きすぎる、正体のわからないことに負けない為には・・・
ひとみが首に回していた腕を、頭へと動かして、梨華の唇に
自分の唇を軽くあてた
それはくちづけと言うよりも、軽く掠りあった場所が、たまたま
唇だったというような、他愛無いキスだった
175
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:09
あまりに突然だし、そんなことをされる雰囲気でもなかったしで
梨華は、どんなリアクションも返せないで、ただボケッと立ち
竦んでいた
「・・・・・・・・」
「・・・傍にいてよ・・・離れないで」
思いつめたような声が頭上から落ちてきて、梨華がひとみの顔を
見ようと、顔を上げかけた時、ひとみの手の平が梨華の頭を上から
押さえて、髪の毛をグシャグシャと、少し乱暴に撫でた
梨華は急に切なさに襲われて、ただ、コクンと頷いた
梨華が頷くと、頭の上に置かれていた手が下りてきて、梨華の片手を
しっかりと握ると、ひとみは歩き出した
「・・・家、帰ったら、キスの続き・・・しよっか?」
「・・・はぁ?!」
梨華が足を止めると、腕を後ろに引っ張られながら、ひとみも立ち止まり
振り返ると、仏頂面をする梨華を見て、ニヤニヤ笑った
「冗談だってー
・・・あたしもさ、夢見たんだ
けどあれ、夢じゃなかったかも知んない
もし・・・今晩もあの人が現れたら・・・二人で見ることが出来たら
それはもう、夢じゃないじゃん?
それを、試してみたい・・・あの人、なんか言いたそうだったし」
「・・・あの人?
もう一人のひとみちゃん?」
176
:
日と月のリング
:2004/06/17(木) 12:09
「違うよ
見たことも無い人・・・小柄でオーラあって・・・
微笑んでるんだけど・・・なんつーか、寂しそうな人」
「・・・そう」
梨華が視線をひとみの顔から、足元に落とすと、ひとみは
豪快な笑い声をたてた
「アハハッ!暗い顔すんなよー 大丈夫だって!
あたしもう、腹括ったからさ
梨華ちゃん、そんな顔してると・・・あたし、忘れさせて
やりたくなっちゃうじゃん?」
「・・・・・・?」
「あーんなこととか、こーんなこととかして〜♪」
梨華の頬がボッと赤く染まると、ひとみは意地悪そうにニヤリとした
「・・・何、想像しちゃってんのかなー?
あたしはほら、ゲームとか?そーゆうつもりで言ったんだけど?」
「・・・わたし、自分の家に帰るっ
ひとみちゃんちになんて、絶っ対行かない!」
自分の手と繋がれていたひとみの手を振り解くと、梨華は湯気が
上がりそうな真っ赤な顔で、サッサと歩き出した
「うそうそっ!
ごめんって、梨華ちゃんっ もうからかったりしないからー」
ひとみは梨華と歩調を合わせると、片手で拝む真似をした
177
:
Sa
:2004/06/17(木) 12:10
更新しました。
JUNIOR様
アハハッ! 好きになって頂けて嬉しいですわ〜
作者もとことん書かなければ・・・(w
54@約束様
女王ともうひとりの人は内面的ライバルですね、作者の中では(w
今回、話の性質上、まだまだ人数増えるんですよ〜
霞そうになるかも知れませんが、基本はいしよしですんで!
178
:
54@約束
:2004/06/17(木) 22:21
更新、お疲れ様です。
現世のふたりは何か可愛いですねぇ。特に吉はさすがSaさん!って感じですw
何かが動き出しそうな予感が・・
キャラがまだ増えるんですか?
これだけ壮大なドラマになると、誰がどんなキャラなのか考えるとワクワクします。
次回も楽しみにお待ちしております。
179
:
JUNIOR
:2004/06/17(木) 23:28
更新お疲れ様です。
吉の言動に笑ってしまいました。
石は何を考えてしまったのでしょうか?
キャラが増えるんですか・・・・・・・。
がんばって頭で整理しときます。
180
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:27
ひとみの部屋に入ると、梨華は心ここにあらずという感じで
天井を見上げながら、盛大な溜息をついた
ほんと、びっくりしちゃった・・・
お嬢様なんて呼ばれてる人、わたし見たの初めてだよ・・・
毎日、あんなコース料理みたいなの食べてるんだ・・・
梨華の口から零れ出る言葉は、自分に話かけてると言うよりも
独り言めいた早口で、ひとみは返事を返すタイミングが掴めないでいた
ひとみはベッドにごろりと横になって、高い天井をなんとなく
見上げてから、梨華の方に向き直り頬杖をついた
まるで迷子みたいに、辺りをキョロキョロしてる梨華にひとみは
苦笑いを浮かべる
「なんか面白いもんでもあった?
座んなよ?・・・落ち着かねーじゃん?」
「・・・何よぉ〜」
梨華は、少しムッとした顔をしてから照れたように笑うとベッドに
浅く腰掛けた
181
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:27
「・・・なんか緊張しちゃう、この部屋」
「そ?・・・フツーじゃん?なんもねーし・・・」
「・・・だって、やたら広いし・・・置いてある物がいちいち高そうなんだもん」
梨華が小さく肩を竦めるのが見えて、ひとみは、広いか?と首を傾げた
見慣れた自分の部屋を改めて見ながら、なんだか素っ気無いよな、と思う
この部屋・・・いったいどれくらいなんだっけ?
十四?十六?十八だっけ?・・・二十はないよな?
覚えてないや・・・どーでもいいし・・・
だいたい家具たって、このベッドと机とテレビ台を兼ねたローチェスト
くらいしか無いじゃん?
壁一面のクローゼットとか、シャワールームが部屋についてるのは
そりゃ、あんま無いかも知れないけどさ
それだって別に自分が望んだ訳ではないと、ひとみは思う
会社の人間や、祖父の知り合いが、夜遅くに尋ねてくることがあるから
年頃のひとみが自分の部屋で、ある程度プライベートなことは、済ませ
られるように配慮してくれたに過ぎない
人より金があるってことは、いつでも面倒なのだ、と、ひとみは思う
182
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:28
ひとみが物心がついた頃、回りには大人しかいなかった
そして誰もが皆、腫れ物に触るように自分を扱った
幼いひとみの言葉で、人の見方を変える程、祖父は愚かでは
なかったけれど、周りの大人達はそれに気づかないくらい
祖父が放つ富の光に目が眩んでいたらしい
幼いの頃から、本音と建前を使い分けて、上辺を作ろう大人達に囲まれた
ひとみは、子供独特の勘の良さで、ある種の人嫌いになって行った
だからこそ、心の内でバカにしようとも、誰とでも摩擦なく、いい加減に
見える適度さを持って、失礼にあたらない程度の無関心さと、最低限に
他人を尊重しながら、人と接してこれたのだ
心の内をあかせるほど、誰かと親しくなったこともない
寂しいと思ったことがあったのかも知れないけれど、そんなことは、もう
とうに忘れてしまった
何かを余計に持っていると、当たり前の物がなくなっても気が付かなく
なるものなのかも知れない
それくらい鈍感にならなければ、バカバカしくてやっていられないのだ
ひとみは一時期、バレーボールに夢中になったことがあった
レギュラーに抜擢された時、コーチにお金でも払ったんじゃないか、と噂がたった
・・・バカバカしい、ひとみは、嘘みたいに熱が冷めた
183
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:28
梨華ちゃんも贅沢?とか、そーゆうの?したいって思うのかな?
ひとみは半ば呆然とした表情のままの梨華の顔をちらりと見た
何が贅沢かなんてホントはわかちゃいないけど、物質的に恵まれてることを
贅沢と言うのなら、自分の暮らしは人より贅沢なもののはずだ
そして、選ばれた特別な人間のように扱われてきた
けれど、他人に羨まれれば羨まれるだけ、それに比例して、ひとみは
空虚さを胸の内に広げて行った
それは、変わることのない毎日だと思っていた
吉澤ひとみ、である限り・・・なのに
人生つーか、そんな大袈裟なモンじゃなくっても
明日って、いつでも今日の続きみたいなもんだと思ってた
簡単に想像出来るくらい同じようで代わりばえしなくって
あらかじめビデオにセットされてんのをただ流してる、作られた映像
みたいに平和でなんもない感じ
けど・・・何が起こるかなんて、わかんねーんだ、ホントは誰だって・・・
今回の摩訶不思議な出来事で、ひとみは自分自身が少しずつ変わって
きているのも感じた
自分の感情を隠さなくなった・・・隠せなくなった?隠す必要のない
相手に会えたから?
予測なんて出来ない状況にビビッてるあたし、とか
格好つけきれないで、中途半端で情けねーあたし、とか
醒めた顔で、冷静な振りして大人ぶってたけど、たかだか十数年分の
経験値しか持ってない子供なんだって、こんなことに巻き込まれて
初めて気づく事が出来た、自分の甘さ
184
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:29
ひとみは手を伸ばして、梨華の手の上に自分の手をそっと乗せた
梨華の小振りな手が、自分の手の下にすっぽり隠れると、ひとみの
胸の内に、メラメラと闘志みたいなものが燃え上がってくる
それでも、あたしには・・・この子がいる
吉澤グループの総帥の孫娘じゃなくって、ただの吉澤ひとみっていう
あたしときっと繋がってるって思える梨華ちゃんが・・・
運命とか前世なんて関係ねーよってか、どーでもいいんだ
何があっても、梨華ちゃんを守るのはこのあたしだ
だから、訳わかんなくっても戦うって決めんじゃん?
あたし・・・
ひとみがギュッと力を入れて梨華の手を握ると、梨華は落ち着かない
様子で立ち上がり、ベランダへと出るとひとみを振り返った
「ねぇ!ひとみちゃんっ来て
今日は月がとってもキレイ・・・すご〜いまん丸だよ!」
ひとみは梨華の月明かりを浴びて輝く笑顔に、口先では面倒臭そうに
やれやれ、と言いながら、満更でもない表情を浮かべて立ち上がった
「ホントだ、すげ・・・」
梨華と並んで、月を見上げると青々と投げかけられる月光が
ひとみの身体に突き刺さる様で、微かな痛みを感じた
185
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:30
・・・え?
ゾクゾクゾクとひとみの背中に寒気に似た不快な感覚が駆け上がる
ひとみは弾かれたように仰け反ると、ギュッと眉を寄せた
「・・・ちっくしょう、なんなんだよっ」
「ひ、ひとみちゃん?」
梨華が心配そうに自分を見てる
大丈夫と言いかけて、骨が軋むみたいな痛みにひとみは膝を付くと
固く目を閉じた
口許を歪めてハァハァと苦しげにあえぎながら、身体を捩るように
反転させた
「ど、どうしたの?!ねぇ!ひとみちゃんっ!!!」
梨華の泣きそうに揺れる声がやけに大きく耳に響く
泣くなよー・・・大丈夫だって・・・
脂汗がひとみの額を流れ落ちた
口を開くどころか呼吸さえも怪しくて、ひとみは背筋を引きつらせながら
意識が遠のきそうになるのを感じた
・・・やべ、大丈夫じゃねーかも
186
:
日と月のリング
:2004/06/29(火) 21:30
ビリビリッと何かが破られた音がして、ひとみを象る骨格の全てが
形を変えようとしてるみたいに、ギシギシと鳴った
体中がビクンビクンと激しく痙攣した直後、唐突に痛みが消えた
・・・ありゃ?
・・・なんだ?・・・治まった?
「・・・や、や、やだーーーっ!!!」
梨華の悲鳴のような絶叫が聞えて、やっと、こっちが治まったのに
今度はなんだよ?と、ひとみは思った
気づくと、ひとみの目線では、なぜか梨華の足しか見えない
ひとみは、首を傾げながら梨華を見上げた
随分と背の高くなった梨華が顔を引きつらせて、青くなった唇を
わなわなと震わせながら、何か言いたそうにひとみを指差した
・・・へ?
恐る恐る自分自身を見て、ひとみは我が目を疑った
な、な、な・・・
なんだこりゃーーーっっっ!!!
187
:
Sa
:2004/06/29(火) 21:31
更新しました。
少し、お待たせしてしまったような・・・???
54@約束様
そうですねぇ〜
総ては緩やかに動き出している、といった所でしょーか?
壮大ぶるなんて浅はかだったかも・・・(w
JUNIOR様
そりゃ〜、作者の書くいしかーサンはある意味、エロいですから
しかも自覚ナシで・・・コレもお約束なんで(w
作者も頭整理出来ておりません・・・
188
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:32
梨華は、目の前にいるひとみの信じがたい姿を見て、立ちくらみを
起こした様に、フラフラと後ずさるとベランダの手すりに、背中を
ぶつけた
あまりに見開いたままの目の奥がジンと痛んで、涙が湧いてきそうに
なって、慌てて瞬きをした
ダメ、ダメよ・・・梨華
しっかりしなきゃっ わたしがしっかりしないと!
こんなことになってしまうなんて・・・
ひとみちゃんは、きっとすごく心細い思いをしてる
梨華は、真っ白な美しい毛皮に包まれたひとみの全身と、星が落ちてきた
ように輝いてる金色の眼をしっかりと見つめて微笑んでみせた
「ひとみちゃんっ格好いいよ!
う〜んと・・・すごく立派な毛並みとか、高級な感じでっ」
189
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:32
ひとみは狼にも、大型の犬にも見える四本足で立っていた体を座らせて
不可解そうな色を瞳に浮かべると、梨華をジッと見返してきた
まさかっ?!・・・言葉がわからなくなっちゃった、とか?
どーしよっ・・・どーしたらいいのーーーっ?!
梨華は唇をギュッと引き結んだ
そして、ひとみの傍で膝立ちになると、そっと腕を伸ばして、ひとみの
毛皮に包まれた体を抱きしめた
「・・・大丈夫、大丈夫よ、心配しないで
わたしが、わたしがなんとかして見せるから・・・」
・・・いい匂い
え?
頭の中に、突然ひとみの声が響いてきて、梨華はひとみの体を抱きしめて
いた腕を放すと、その顔を見た
ひとみは鼻を鳴らしながら、鼻先を梨華の肩から項へと上らせる
・・・なんか、すげー甘い匂いがする、梨華ちゃんの身体って
「・・・よかった
ひとみちゃんの声・・・聞えるよっわたし・・・ほんと、よかったぁ〜」
190
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:33
取り合えず、意志の疎通が出来そうなことに安堵した梨華は、腰が抜けた
ように、その場にヘナヘナとしゃがみ込んだ
・・・あんま、よくはねーと思うけど?
・・・ま、仕方ないよね
梨華の頭に響いてくるひとみの声は落ち着いている
どうしてそんなに冷静でいれるのかがわからなくて、梨華が眉を寄せると
ひとみは梨華の唇を長い舌先でペロリと舐め上げた
・・・そんな顔すんなって、しょーがねーじゃん?
・・・もうさ、何か起こってもいちーち驚いてらんねーよ
・・・フツーありえねーとか?そんなんとっくに超えちゃってんだから
・・・けど、ま、少しはビビッたけどね それにさすがにこのままっつーのはマズいし
・・・今晩はじーちゃん帰って来ないから、まだいんだけどさ
・・・そだ、鏡見てー あたしって、今、犬かなんかな訳?
・・・鼻が利くっつーの?すげー匂いがよく判る
ひとみはクルリと体の向きを変えると、無駄のない美しい身のこなしで
部屋の中へと入って行く
首を梨華の方に振り返させると、しゃがみこんだままの梨華について来いと
言うように顎を上げて見せた
梨華も慌てて立ち上がるとひとみに続いて、部屋へと戻った
191
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:33
クローゼット扉の半面の鏡貼りになっている前で、ひとみはくるくると回り
ながら、自分の変わり果てた全身をチェックしている
・・・なんか、面白くね?
・・・体がやけに軽いよ
・・・それに、不思議と違和感がないっつーか、動きやすい
「・・・ひとみちゃんって変」
梨華が、呑気なひとみの様子に呆れた声を出すと、ひとみの憮然とした
声が頭の中に響いてきた
・・・しょーがねーだろっ
・・・ヘンなことばっか起こるんだから、マトモでなんかいられっかよ
・・・だったら、こっちも楽しまなきゃ損って思うじゃん?
「ふぅ〜ん・・・ひとみちゃんって大物だよね」
梨華の溜息交じりの声に、ひとみの眦に力がこもる
・・・なんだよ?それ・・・嫌味?
・・・それか、喧嘩売ってんの?
梨華とひとみが睨み合うと、部屋のどこからかクスクスと小さな笑い声が聞えた
192
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:34
・・・どこだっ!
ひとみが全身を緊張させて、辺りを素早く見回すと、ベッドの端に
腰掛ける人影が淡く浮かび上がってくるのが見えた
それは次第にはっきりと、漆黒のロープを纏った、長い黒髪の整った顔をした
女性の姿へと変わって行った
一見、重そうにみえるロープは実は軽く、柔らかそうな光沢を放って
その下にある女性のすらりとした肢体のバランスのよさを示している
「ひとみちゃんっ!」
梨華が怯えた声を上げると、ひとみはサッと体を動かし、梨華を庇うように
その前に立った
・・・あんた、誰だよ?
女性はなおもクスクスと笑い続けたまま、ひとみの方を見た
・・・リアルのヒトミは随分と子供っぽい
・・・けれど、好戦的なとこは変わらないようだね?
・・・私はカオリ、もうわかっているだろう?アナザから来たのだよ
193
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:35
ひとみの喉の奥から、ウゥーッと威嚇に似た、唸り声が洩れた
カオリは大袈裟に驚いた顔をして、どこか空ろに見える大きな目を
さらに大きく見開いた
・・・ヒトミ、随分酷いじゃない?
・・・それともこのカオリが怖いの?
・・・そう、ね、変化して気が立っているのかも知れない・・・今夜は満月だから
・・・心配することはないよ、月が沈み、日が昇れば、お前はもとの姿に戻れる
・・・まあ、そんなに時間をかけなくても変化を解くくらいカオリがしてやれるから
・・・それとリカ、お前は朝日を浴びてはいけない
・・・変化してみたいと言うのなら、止めやしないけど
ひとみの後ろで固唾を飲んでカオリを見ていた梨華が小さな声を出した
「・・・ひとみちゃんの言ってたの、この人?」
・・・違う
カオリはどこかかが痛むのを耐えて、それを誤魔化すかのような曖昧な笑みを
浮かべながら、目線を宙に浮かべた
・・・ナツミは・・・アナザの女王は、もう、リアルへ幻影を映す力が無いのさ
・・・アナザを支えるだけで、精一杯なんだ
・・・だからストーンを探して欲しい・・・二人に
194
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:35
「・・・あのっ
いろいろお聞きしたいし・・・わからないことばっかりでっ
ストーンを探すって言われても、どんな物で、どこを探せばいいか全然
わからないし・・・それに・・・そもそもなんで、わたしとひとみちゃんがって
言うのもあるし・・・
・・・それにっ・・・それよりもまず、あなたの言うことが本当なら、ひとみちゃんを
もとの・・・もとどおりの姿にして下さいっ!」
ひとみの体の脇から、前へ一歩出ると、自分の胸元で拳を握り締めた梨華が
真剣な顔をして、一気に捲し立てた
カオリは感情の感じられない表情で梨華の話を聞くと、一つ頷いた
・・・わかった
・・・カオリもリアルにこれるのは、これ一回きりだと思う
カオリはゆらりと揺れる、頼りない蝋燭の炎のように立ち上がると
梨華の聴覚では聞き取る事の出来ない、暗号のような言葉を唱えながら
瞼を下ろすと、両手の指先を一本づつ絡ませた
カオリの唇の動きが熱を帯びたように力強くなると、梨華の耳の奥に
直接響く呪文めいたものはグワングワンと、頭の芯を揺さぶるようだった
カオリの組まれた指先の中から凝縮された白光の粒子が、飛び出そうと
暴れているように見える
カオリが閉じられていた目を、カッと開いた瞬間、組まれていた指先が
解かれたらしく、ひとみの部屋自体が目が潰れてしまうかも知れないと
思われるくらいの白さの光量で輝いた
195
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:36
梨華はとっさに目を閉じていた
真夏の太陽が目の前にあるように、閉じてもなお眼球に熱を感じる
瞼の先にチラチラと白い点が夥しい蝶々の大群のように舞い狂っていた
数匹残された光の蝶々が、消えた時、梨華は少しずつ瞼を上げていった
目を開けると、そこにはもとどおりの姿になったひとみが、慌てたように
ベッドカバーを引き寄せて、身体に巻いているのが見えた
あ・・・さっき
梨華はひとみの変化の途中で、それまで身につけていたひとみの制服が
ビリビリと破けていたのを思い出していた
あまりにも豪華な純白の毛皮に気を取られていたから忘れていた、と
梨華はひとみに申し訳ないような気がして、おずおずと隠しきれてない
透き通るように白い肩先に声をかけた
「・・・あ、あの
大丈夫?・・・その・・・ひとみちゃん?」
「んー? 全然、オッケ!」
ひとみはカオリの方を向いたまま、僅かに首を捻って、梨華に横顔を
見せると、少し照れくさそうに笑った
そして頬を引き締めると、カオリに向き直った
「んじゃ、話、聞かせてもらいましょー」
196
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:36
カオリの話を聞き終わると、梨華はファンタジー小説を読み終わったような
錯覚をおこした
それくらい現実離れしていて、話を聞く分にはいいけれど、慎重な梨華は
その主人公になりたいなどとは、思えなかった
話の途中で、カオリは何度か消えかかり、その声音は目に見える無表情さとは
裏腹に切羽詰ったように聞えてきた
困っているなら助けて上げたい、などど、他人事ではなく、このままでは
自分は朝日が上る瞬間の光を、ひとみは満月の月光を浴びると変化して
しまうと言うのだ
気を付けてさえいれば、そうそう起こる事では無いとはいえ、やはり梨華は
不安だった
さっきのひとみの苦しげな様子を目の当たりにした後では、変化を経験した
ひとみには申し訳ないけれど、自分は出来ればしたくない、と感じていた
その為には不本意でも、ストーン探しは避けては通れないと言うことが
梨華にもわかった
「で・・・具体的にさ、どうやって探せばいい訳、うちらは?」
197
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:37
ひとみがかったるそうに、前髪を掻き揚げながらポツリと言った
カオリがこちらに向ける瞳は、水晶のように透明感があって美しいけれど
何かを失くしてしまったような空虚さが漂っていて、梨華は少し怖かった
・・・ストーンはアナザの光に下におのずと集う
・・・お前たちの失ったはずのアナザの力が覚醒したことも
・・・このリアルであるはずのない、アナザの力が持ち込まれた事に
・・・共鳴を起こしているからなのだよ
・・・お前たちの回りで、普段起こらないような事柄が頻繁に起こった時
・・・ストーンの力が係わっていると思えばよい
・・・そしてそれは、風や火、水や大地に関係しているはず
ひとみが噛締めるように顎を引いて見せる背中が、梨華を少し安心させた
わたしは一人じゃないもの
ひとみちゃんがいるわ
梨華が、ひとみの背中から手をそっと伸ばして、剥き出しになったままの
肩に触れると、ひとみは前を向いたまま肘を曲げて、梨華の手の上に自分の
手の平を重ねた
よかった・・・ひとみちゃんで
梨華は、例えばこの先に困難な事が待ち受けていたとしても、ひとみと共になら
乗り越えられそうな気がしてきた
今、自分の前に立つひとみを心から信用出来る大事な人だと感じることが出来た
198
:
日と月のリング
:2004/06/30(水) 21:37
カオリはひとみの肩の上で、重なり合う二人の手を見ながら、その上に
自分の手の平をかざすと、大きく指を開いた
一瞬、梨華の身体の中から、何かエネルギーのようなものが吸い取られた
ように感じて、ビクッと引っ込めようとした自分の左手の薬指に、今まで
なかった筈の、白光する丸い石がついたリングが嵌っている事に気がついた
梨華が驚いた顔をして、ひとみの方を見ると、ひとみも自分の薬指に
嵌っている、静かな闇夜のような黒い石のついたリングをしげしげと
見ていた
・・・日と月、お前達の力の源を結晶化したリングだ
・・・体内の気を集中させることは、リアルに生きてきた者には難しいだろう
・・・ストーンに魅入られた者を見つけ出したなら
・・・そのリングに集結させた、自らの力を解放するのだ・・・よいな?
解放?・・・どうやって?
梨華が、リングに向けていた目線を上げた時、そこにいたはずのカオリは
すでにいなくなっていた
199
:
Sa
:2004/06/30(水) 21:38
更新しました
200
:
54@約束
:2004/07/01(木) 00:54
更新、お疲れ様です。
おぉ、いよいよ核心へと進み始めていますねぇ。
ついにあのお方が姿を現しましたか・・
まさにいしよしは「半身」なんだなぁと実感する展開ですね。
最早どちらが欠けても存在出来ない二人、ハマリすぎますw
次回も楽しみです。
201
:
JUNIOR
:2004/07/01(木) 00:58
更新お疲れさまっす。
話がかなり動きましたね。
真っ白の美しい毛皮の動物・・・乗りてぇ。
頭が落ち着かず焦って眠れないときに
Saさんの作品を読んだので落ち着いて眠れると思います。
202
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:08
バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ・・・
バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ
バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ・・・・・・・・・・・・
203
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:09
希美の親指は老練された職人のような正確さで、携帯の画面を次々に同じ
言葉で、素早く埋め尽くしていく
呪詛のように繰り返し、繰り返し
生在るものが呼吸すると、その胸が意識せずに上下するように、自然に
繰り返されるべき仕草だと言う様に
送信方法選択で通常を選ぶと、相手先入力画面が電話番号を聞いてくる
090で始まる11の数字を適当に選ぶと、希美は送信した
イナクナレイナクナレイナクナレイナクナレイナクナレ・・・
090・・・・・・・・そして、送信
キエチマエキエチマエキエチマエキエ・・・
希美は自分が打ち出した文字の羅列を見て、ふと指を止めた
「・・・さっきとおんなじよーかぁ?
のの、センスないんかい? ま、いっしょ、どーせ送んの違うとこだし?」
また指を動かしかけた時、メールが届いたサインが点滅した
希美の脳裏にあの子の笑顔が浮かぶ
作りかけの文面はいったん削除して、受信ボックスを開くと、非通知の
番号からのものだった
希美はメールを表示せずに、サブメニューを開くと、到着したてのメールを
そのまま削除した
204
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:09
希美の左耳で風に揺れていたピアスがピタリと止まった
振り返らなくても、自分に近づいてくるのが誰だかわかる
・・・待ったぁ?
自分と揃いのピアスで、やはり片耳を飾るあの子の声を
希美は聞いたことがない
その声が、風に流されて外から耳へと運ばれる時
どんな音になるのか希美は知らない
甘いかな?・・・冷たいアイスが舌の上で溶けるみたく?
それとも、温ったかい?・・・喉を流れ落ちるホットチョコみたく?
でも、きっと優しい・・・すごく優しい音に違いない
・・・のぉーの、まぁたその遊びしてんのかぁ〜
・・・うち、それあんま、好きやないねん
希美はジャングルジムの上から下を見下ろした
あの子の声が頭に響くと、希美はなんだかくすぐったくて、ついつい
顔が笑ってしまうのだ
そのことが恥ずかしくって、少しだけ悔しくて、初めにいつも
むっつりと不機嫌そうな声を出してしまうのだった
「あいぼんっおっせー!」
205
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:10
希美は携帯を制服のスカートのポケットに、無造作に押し込めると
するすると、身軽な動作でジャングルジムから下りた
そこら辺に放り投げておいた、リュックを探してキョロキョロすると
目の前にヌゥ〜と探し物が差し出された
あいぽんがしかめっ面した顔を希美の顔に近づけて、唇を蛸のように
尖らせた
希美は、へへっと誤魔化すように笑った
・・・のの、今日クレープ屋行こ、言うてたやん?
・・・そやけど、暑うないか?
・・・うち、冷たいもんがええ、パフェにせえへん?
あいぼんのおっとりとした、優しげな目許がキラキラと輝いた
それを見てしまったら、希美も嫌とは言えない
「ま〜いいですけど? どっちにしろ、駅前出よーぜぇ」
希美はリュックを肩に背負うと、片手を差し出した
あいぼんが希美の手をギュッと握った
206
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:11
しっかり握られた手の先に、希美は自分と同じくらいの重みを感じた
それでも、時折振り返って、あいぼんの手と、自分の手が繋がっている
ことを確かめずにはいられなかった
なぜなら・・・あいぼんはしゃべれないから
あの日、急に聞こえるようになった、あいぼんの音のない声が、いつ
また聞えなくなってしまうかが希美にはわからなかったから
そうあの日・・・ジャングルジムの上でいつものように、携帯のメモ機能を
ノート代わりに会話していた時、真昼の空の上を星が流れて行くのが見えた
のの、流れ星☆☆☆
あいぼんは携帯の画面を希美に見せると、空を指差した
昼間に星って見えたっけ?そう思いながら、空を見上げたら、小さな小さな
光の粒が見えた
あいぼんの声が出るようになるといいのに・・・
希美は光の粒を見ながら、漠然とそう考えた
せめて・・・せめて、ののにだけ、あいぼんの声が聞えますように
希美はいつの間にか、光の粒を睨みつけ、必死にそう願っていた
207
:
風のピアス
:2004/07/01(木) 22:11
すると、光の粒が角度を変え希美たちのいる方へと流れ始めた
目の錯覚かと思った
近づいてくる光の粒に、希美が触れようとするみたいに高く手を上げた時
強い風が吹いて、希美は思わず目を閉じた
希美の耳元でピアスが、落ちてしまいそうに大きく揺れた
とっさに手で押さえながら、薄く目を開け、隣りにいるあいぼんの耳元を
見ると、あいぼんのピアスはチラとも揺れていなかった
ただ、一瞬、ピアスの先についた偽者の石がまるで本物のように光輝いた
ように見えた気がする
・・・めっちゃ驚いたわ〜
・・・なんやの?
唐突に頭の中に声が響いてきて、希美は驚きのあまり、ジャングルジムから
落ちそうになった
そしてそれから、星に託した希美の願いが、取り合えず今のところ叶えられた
ままになっているのだった
208
:
Sa
:2004/07/01(木) 22:36
更新しました
54@約束様
ついに作者初挑戦!新たなる人物達登場!!!
うぅ〜ん「半身」ってイイな〜字面も響きもっ♪
コレをタイトルに使…(ry
JUNIOR様
乗っちゃダメですっ!叱られますから(w
落ち着いてお休み頂けるとは嬉しいお言葉♪
今宵はいかがでしょうか・・・(汗
これから先はメインカッポーが出てこない更新がありそうなのでビクビク
いしよし以外書く気なかったんだろっ?!
おんどりゃーーーっナメとんのか?!
と、お叱りを受けそうでビビッておりまする・・・それよりも
読むの止ーめたってのが作者には、一番堪えますんで、切に切に
変わらぬお付き合いを頂けたらと願っておりますです
209
:
54@約束
:2004/07/01(木) 23:52
更新、お疲れ様です。
おぉ、新たなキャラが来ましたねぇ。この人たちも非常に好きです。
(ある意味「半身」だと思いますねw)
最初におっしゃっていたように、今回はいろんなキャラが登場するので
かなり嬉しいです。
また新しい展開になりそうな予感がしてますので、思い切り
楽しみにさせていただきます。
210
:
JUNIOR
:2004/07/02(金) 01:31
更新お疲れ様っす。
なんかこの人が出てくると、いいなぁ〜。
なんかほのぼのする。
>いしよし以外書く気なかったんだろっ?!
おんどりゃーーーっナメとんのか?!
いえいえ、全く怒りませんよ。
前にも言ったとおりSaさんにはついていきますんで(笑)
これからもよろしくです。(ペコリ)
211
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:39
亜衣はののに手を引かれて、繁華街を歩いて行く
前は人込みが苦手だった 今でもけして好きになれない
たくさんの人が渦を巻く中を、自分が上手く渡って行けるのか
と、思うと、いつでも亜衣の胸の鼓動は少し早くなる
けれど、ののと手を繋いでいると、一人の時よりも胸を張って
歩けている気がした
携帯をいじりながら歩く、自分達と同じ年頃の女の子が
亜衣とすれ違う
あ、と思った時には、その子の鞄が亜衣の腕にぶつかった
亜衣はあまり動作が機敏な方では無いから、あ、と思う時には
たいがい人とぶつかっているのだった
ドンッと意外な程の衝撃があって、驚いた顔をした女の子が
立ち止まると亜衣を見た
「あっ ごっめ〜ん・・・」
212
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:39
少しも悪いと感じてるふうもなく、どこかバカにしたような声が
聞えてきた
亜衣は俯くと、小さく首を横に振った
「・・・ちょっとぉ〜なぁーにぃ あんた何様ぁ〜?
こっちは謝ってんじゃんっ そっちもなんとか言えばぁ〜?」
ののと繋がれた指先を伝って、亜衣は微かに風が吹くのを感じた
・・・ダメ、ダメや、のの
亜衣はののに呼びかける
そして、こちらを睨むように見ている女の子に向かって
口を大きく開きながら、ご・め・ん・な・さ・い、と唇を動かした
「ハァ〜?
聞こえないんですけどぉ〜」
女の子がおどけた風に自分の耳に手をあてて亜衣に聞き返すと
連れの女の子達がクスクスと笑い声を立てた
その瞬間
のの、の身体の中から、大きな風のうねりが飛出て行くのが
亜衣には見える気がした
213
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:40
目に見えない風の動きは、細く紙縒りを捻るように、渦を巻きながら
その先を鋭く尖らしていく
女の子の耳へと当てていた指先をピシッと撥ねつける音がした
「痛っ!・・・な、何っいまの?! ヤだぁーっ」
女の子は自分の指先から、真っ赤な血が一筋、二筋と伝うのを
見て、顔を青くした
ぎゃぁぎゃぁ騒ぎ出す、女の子達を尻目に、ののがボソリと言った
「・・・バカオンナ」
そして、クスリと笑うのの、の横顔が喜んでいるように見えて
亜衣の首筋がゾクリと粟立った
何ごともなかったかの様に歩き出すののに、亜衣は話かけた
・・・のの、うち、ダメや言うたのに
「・・・なにが?」
・・・人を傷つけるんは、よくない
「・・・なんで〜?」
214
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:40
のの、の前を向いたままの呟くような声が、二人の間を流れる風に
乗って、亜衣には雑踏の中でもはっきりと聞える
・・・なんでって、そんなん当たり前のことやん
のの、の肩が小さく揺れた
鼻先で笑う息遣いがして、硬質な声が返ってくる
「んならさぁ、みなさん、なんで簡単に使うんですかぁ〜?
・・・言葉の暴力ってヤツ
血が流れちゃったりしなきゃ、キズつけてないってかぁ?」
・・・そやけど・・・そやけどな、のの、そんなん言うてたら・・・
「もーい〜じゃん?
あいぼんは言葉で戦えないんだからぁ
人の心を簡単にキズつける言葉を使っちゃってるクセに、それをわかっちゃない
バカヤロードモに、ののが教えてあげてるのでぇす
目に見えるようにしてやってるだけっす・・・ののってば、しんせつーぅ」
215
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:41
ののはいつでも本当は怒っているのだ、と亜衣は改めて思った
何に怒っているのかなんてわからない
世の中とか、理不尽なもの全てに怒っているのかも知れない
ハンデなんて言葉は本当は使いたくないけれど、ある一部分でだけは
人と対等だと言えない自分といることで、その現実と向き合うことで
のの、の怒りは日増しに大きく育っていってしまってる気がした
それが、とうとう、ののにこんな不思議な力を与えてしまったのだろうか?
始まりはいつからだっただろう?
のの、の怒りが目に見えない風の刃へと姿を変えて、人をキズつけ出したのは?
最初は、相手が身につけている装身具だったり、衣類の裾だったりした
ネックレスのチェーンがとんで、さっきまでキツかった女の人の眉尻が
情け無さそうに下がった時には、亜衣だって笑ったものだ
それだけなら、度が過ぎる悪戯で済まされたかも知れない
それが髪の毛を落としたり、いまでは、ののは血を流させることにさえ
なんの躊躇いもないように亜衣には見える
216
:
風のピアス
:2004/07/02(金) 14:54
このままいったら、ののはどうなってしまうんだろう?
のの、の小柄な身体の中にはまるで嵐のような爆風が吹き荒れてるようだった
不吉な想像が、亜衣の頭の中でどす黒い雨雲のように広がって行く
そんな、のの、の姿は見たくないと亜衣は、頭を小さく振って、忌まわしい
雨雲を散らそうとした
それでも亜衣の胸は重く沈んだままだった
しかし例え、どんな場面を目の当たりにしても、ののから離れるわけには
いかないと、亜衣は思った
出来るなら、誰かにののを止めて欲しかった
けれど、それが出来るのは、やっぱり自分だけだと亜衣には
思えるのだった
217
:
Sa
:2004/07/02(金) 14:54
更新しました。
54@約束様
沢山のレスありがとうございますっ励みです、感謝しております!
新しい展開ですか?…そー言えば今回のストーリー構成は、小さな物語の
寄せ集めの様ですな(w
JUNIOR様
沢山のレスありがとうございますっ励みです、感謝しております!
他の作者様方がお書きになるこのコンビは静と動のチャラ設定が逆の
パターンが多いように感じるので違和感はナイですかね?
218
:
JUNIOR
:2004/07/02(金) 17:53
更新お疲れっす。
ははは、逆だ・・・・・。
でも結構違和感ないのでイケると思います。
あいぼんがんばれ!
219
:
読者
:2004/07/06(火) 01:15
実は、Saさんの書く文章のファンです。
話の流れ、文章表現がとっても好きです。
石吉大好き兼4期好き人間としては、これからも楽しみにしています。
220
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:47
「・・・しっかし、コレ
面白いなー ね、梨華ちゃん?」
ひとみは日の光をそのもののような白光でテラテラと輝いてる
自分の薬指のリングに嵌った石を見た
まるで日時計みたいなその石は、朝日が昇る頃、ぼんやりと
輝き出し、日中は燦然とした光を放ち自己主張し続け、日暮れ時には
頼りない灯火となり、日が沈むと、闇夜のように真っ黒に染まるのだった
一方、梨華の指に嵌った石のサイクルは一日の内で映し出す形を
変えることはなく、月の満ち欠け表すようで、日々序所に変化する姿を
映していた
今は、半分より欠けてもっとも美しい弓形に淡くぼんやりと発光している
と、言うことは、今夜は月が浮かぶ時間帯に、外出していたとしても
ひとみにはなんら不安を感じる要素は無いと教えていた
「ねー ひとみちゃん・・・
なんにも起こらなかったら、わたし達どうしたらいいのかしら?」
梅雨が明けて、日差しが夏のものへと変わりつつある午後の喫茶店の
店内で、梨華が憂鬱そうにグラスに入った氷をストローでつついた
221
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:48
「・・・さぁ〜ねぇー」
ひとみの気のない返事に梨華は大袈裟に溜息を付いて見せた
「・・・ひとみちゃん、もうちょっと真剣に考えてよ?
そんないい加減な態度ってないと思う」
「え〜?」
ひとみは頬杖をつくと、ニヤニヤして梨華を見た
「梨華ちゃんみたくピリピリしてたら持たねーよ
状況がわかんねー時はジッとしてるのが一番だって・・・」
「・・・ひとみちゃんって頼りになるのか、ならないのか全然
わからないわ・・・」
「およ? 褒められちった♪」
「褒めてないのっ」
「あははっ!」
ひとみの明るく屈託のない笑顔に、梨華もついつい苦笑してしまう
二人が黙ったままなんとなく笑い合っていると、空いた並びの席の向こうの
テーブルで自分達と同じような制服に身を包んだ、女子高生のグループから
大きな声が聞えた
222
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:49
「あーーーっ!知ってる知ってるっ
あたしの友達も見たんだってーーーっ」
「最近さ〜 よくそういう噂、聞くよね?」
「カマキリだっけ?イタチ???」
「バーカッ!カマイタチー」
梨華がハッとしたように、ひとみの顔を見た
ひとみは軽く頷いてみせると、耳に神経を集中させた
「こんな街中でヘンだよねー?
あれって、なんでなるんだっけ?」
「知らないよ〜
風の圧力とか?そんなんなんでしょ?」
「あたしの友達ぃ〜 男子のズボンが落ちちゃったの見たってー」
「えーっ!それ違くない?・・・けど、マヌケ〜」
「ギャハハ!スカート落ちたらどーするよ?」
「チョー最悪ぅ!!!」
「・・・なんかぁ電車ん中でこないだ血ぃ流してるオッサンいたってよ?」
「オッサン? エロいことしよーとしたんじゃん?んで天罰!」
「オッサンはいーけど、流血コワイじゃん!」
「まぁ〜ねー けど、うちらにはカンケーないって」
223
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:50
澄ませたままの二人の耳に、この会話に飽きたらしいグループが
今度は芸能人の噂話を始めるのが聞えた
梨華は俯いてた顔を上げて、自分の両腕を抱えると不安げにひとみの
顔を見た
「ひとみちゃん・・・」
ひとみは頬を乗せていた手を外しながら、軽く拳を握ると顎を叩いた
「・・・あ〜〜〜 臭うねぇー」
ひとみがそのまま考えこむように、視線を窓の外に向けると
中学生くらいの女の子二人と、やはり同じ年か少し上に見える女学生の
グループが、道の真ん中で何やら揉めているのが見えた
なんとなくぼんやりと、そのまま見てると、女学生のグループが笑い出した
その時
自分の網膜に映し出される映像が、ひとみはつかの間信じられなかった
二人連れのポニーテール風に髪を上げて、項の脇に細い三つ編みを垂らした
女の子の身体から、細くうねるような力が、対向するグループの中で
一番前に立っている女の子に向かっていったのだ
まるで小さな竜巻が意志を持つように・・・
映画の特殊映像みたいな光景に、ひとみはゴクリと唾を飲み込むと
掠れた声を出した
「・・・梨華ちゃん、ラッキー・・・あれ、だ」
224
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:51
ひとみはガタリと椅子から立ち上がった
その時、窓の外では数人の女の子のグループの輪が崩れザワザワと騒ぎ出した
ひとみが三つ編みの子を探して目線を彷徨わせると、気がかりそうに後ろを
振り返る、色白の柔らかそうな少しクセのある髪を、片側に纏めて垂らした
もう一人の少女の手を引っ張るように、その場から立ち去ろうとしていた
「梨華ちゃんっ行くよ!」
「あ、うんっ」
セミオーダーの店だったのが幸いした
ひとみが返却カウンターに乱暴にトレーをガタンッと乗せると、咎めるような
人の視線を感じた
梨華を気づかって振り返る余裕もなく、ひとみは自動ドアから外へと
飛び出した
225
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:51
不思議だった
午後の繁華街は人で溢れていて、小柄な二人連れは人波にかき消されていた
けれど、ひとみが慌てて、左右に視線を廻らすと、二人が通った道筋だけが
自分の前に淡く浮かび上がるように、広がって見えた
発光し、誘うようなその道筋を、ひとみはそのまま走り出した
ぶつかりそうになる肩を避けながら進み、脇道へ曲がろうとして、ひとみは
そのまま手前の電柱の影に隠れた
ひとみが追っている二人の少女が、天井の高いガラス張りの店の前に立ち
止まっている
そして、入っていくのが見えた
素早くショーウィンドウをチェックすると、カラフルなアイスが涼しげで
繊細な器に盛り付けられていた
「・・・ひ、ひとみちゃんっ」
背後から梨華の息を弾ませた声がした
「・・・あの店、入ったよ
あそこなら見失うことないと思う」
「・・・どうするの?」
ひとみは店の入り口を見据えながら、曲げた人差し指を無意識に噛んでいた
「友達の子・・・一緒だったろ?
あたしにも、何が起こるかわかんねーから巻き添えにしたくない」
梨華が身体を固くして頷いたのが、ひとみには気配でわかった
226
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:52
「・・・梨華ちゃんも見えた?・・・あの子らが歩く道、光ってた」
「・・・うん」
「てことは、まちがいない・・・ぜってーアタリなわけだ
あれも見た?・・・プチ竜巻」
「・・・ううん、それは・・・けど、通り過ぎる時、あの子たちと向き合ってた
女の子が手を押さえてるのが見えたの・・・なんか
・・・血が流れてるみたいだった・・・」
「そっか」
背中にジリジリと日差しを感じた
ひとみの額に汗がじわりと浮かんだ
「・・・待とう梨華ちゃん、二人が店、出んの
んで、あの子が一人になったら近づく」
「・・・わかった
それでどうするの?ひとみちゃん・・・」
「声、かけてみるか?・・・ちっくしょーわかんねーよっ!
どうしたらいい?・・・けど、どうにかしなきゃ・・・」
「・・・ん」
ひとみは吸い寄せられるように、店のドアを凝視し続けた
時間の流れさえも、もはや気にはならなかった
227
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:52
どれくらいそうしていただろう?
いつの間にか、少しぼんやりとしていたひとみの目の焦点の先でドアが動いた
梨華がハッと緊張するのを背中越しに感じた
行きますか?ひとみは、おどけた声を出したつもりだったけれど、声が
喉に引っかかって、梨華の耳に届いたのかわからない
それでも、梨華がひとみの指輪の嵌った指にそっと指を絡ませてくると
・・・頑張ろうね、そう言われた気がして、ひとみはその指先に、一度唇を
落として外し、そろりと電柱の影から身体を出した
二人の少女が歩き出すと、慎重に距離を取ってひとみも歩き出した
その横に緊張のあまりか表情を失くした梨華が並んだ
前を歩く少女は、時々笑い声をたてた
あまり近づけないので会話の内容まではわからないが、醸し出す雰囲気で
二人がとても仲が良さそうなことはなんとなく伝わってくる
どうやら駅に向かっているようだ
電車に乗られたらやっかいだな、ひとみはそう思いながら、スカートの
ポケットの中の小銭を探ると、黙々と後をついて歩き続けた
改札前で、目当ての三つ編みの女の子は友達と別れた
隣りで梨華が大きく息を吐く音がする
しばらく、改札の先を見ていた女の子はクルリと横を向くと真っ直ぐ
歩き出した
228
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:53
二度、三度と曲がり角を曲がって、どんどん人気のない道に入り
まずいな、とひとみが思いはじめた時、目の前に神社が見えた
まさか、というひとみの考えと裏腹に、女の子は迷いのないしっかりと
した足取りで、大木に挟まれた鳥居の先に進んで行く
近道?それとも・・・気づかれてる?
ひとみはゴクリと喉を鳴らすと、梨華を見た
梨華が上目遣いで頷いた
ひとみは一度、瞼を閉じて大きく深呼吸すると目を開けた
「・・・行こっか
梨華ちゃん・・・絶対、あたしの前に出ないで」
ひとみは自分の声を、恐ろしく低く感じた
けれど震えていないことが、せめてもの救いだと思った
229
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:53
ジャリジャリと自分が立てる足音がやたらと耳障りだった
辺りの様子を伺いながら一歩一歩足を前へと運ぶ
足元が境内へと続く、コンクリートうちされた歩道に変わった
その先を目線で辿ると、賽銭箱の下に座り込んだ少女がジッとこちらを
見ている視線とぶつかった
「・・・ののになんか用っすか?」
耳に、よく響く声だった
小柄な身体、健康的な肌の色、投げ出された足は俊敏そうに引き締まっている
顔の作りは手放すのが惜しいと言うように、ほんの少しのあどけなさを残していて
微笑んだなら子供のように可愛いことだろう
けれど、その眼の色はただ穴のように暗く、こちらを向いてる顔には感情の揺れと
言うものがない
「オタクら何もん?・・・悪いヤツなら、のの、やっつけちゃうよぉ〜」
楽しい計画を話すかのように言う、のの、と名乗った女の子に、ひとみは
フッと挑発するように鼻先で息を漏らした
「へぇ〜 やっつけるねぇ〜・・・んで、どーすんの?おちびちゃん」
「いいのぉ〜 オタク、そんなこと言っちゃってぇ
・・・ののってさぁ すっげく、強いかもよぉ〜?」
ののは口許に拳を当てて、クックックと笑った
そして、ゆっくりと立ち上がるとアハハハハと大声で笑い出した
「・・・一度、試してみたかったんだぁ
のの、の力・・・あいぼんに止められることなく、ね」
230
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:54
・・・あいぼん?
ひとみは、ののがそう口にした時だけ、その瞳に何かの感情の
波が浮き立って見える気がした
それに気を取られていると、のの、の唇は音を立てずに、バカにしたように動いた
た・の・し・も・う・よ
そう言ったんだと、ひとみの頭が一歩遅れて理解した刹那
ヒュッヒュッヒュッと耳元で風が唸り、剃刀の刃のようなモノが
ひとみの頬の上を滑って行った
「ひ、ひとみちゃぁんっっっ」
梨華の金切り声に、ひとみはハッとして目を大きく見開いた
カッと熱くなった頬の上を、雨粒のように何かが滑り落ちていく
ひとみは手の甲でそれを拭った
そのまま口許に持って行くと、鉄の味がした
眼球の奥がカッと熱くなって、ジリジリと身体中の熱が集まって
くるようだ
それは、鏡で日の光を反射して屈折した光をためた熱で、あてた場所を
焦がしていくように、ひとみの身体の芯を熱で焼いていくようだった
何も考えられないまま、ひとみはその熱を放出させた
それは眩い白い光の矢のように、四方にと飛んで行く
231
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:55
「・・・おっどろいたぁ〜」
ののは、ひとみが放出させた力の行き先を目で追いながら肩を竦めた
「オタク、ノーコンだぁね・・・ダメダメじゃぁ〜ん」
そして、ひとみに向き直ると首を回して、音を鳴らした
「・・・けど、遠慮はいらないってワケっすね?」
ののが力を溜めるように拳を握る
その眼の奥に渦が巻いている・・・大きな力の流れ、あれは風だ
のの、の耳をピアスが飾っていることに、ひとみはたった今、気がついた
嵐風に弄られるように大きく揺れるピアス、その先に魂が宿ったように
輝きだす石
のの、の小さな手の平の中に漂う風が吸い寄せられて行くのが見える気がして
ひとみは叫んだ
「逃げてっ梨華ちゃん!・・・後ろの木の影にっ!!!」
ひとみには振り返って、梨華の安全を確認する暇はなかった
ののが握った拳を大きく開きながら、ひとみへと突き出す
ひとみの身体は見えない風圧に、撥ねられ後ろへと飛ばされた
232
:
風のピアス
:2004/07/08(木) 22:57
ザザッと摩擦を起こしながら滑る下半身を立て直そうとする、ひとみの
頭の奥で唐突に声が響いた
・・・ワタシと変われ
いやだっ!
ひとみは片膝をつきながら、首を激しく横に振って、自らの胸の内に
大声で答えた
・・・無理だ・・・今のお前に、何が出来る?
・・・わかるだろう?
・・・リカが血を流すことになっても、かまわないのか?
その言葉に、ひとみの背中は冷水を掛けられたみたいにヒヤリと凍る
けれど、胸に宿ってしまった熱い滾りを持て余してひとみは奥歯をギリリと噛んだ
目の前では狩りを愉しみ、手のうちに入りつつある獲物をどうやって
いたぶろうかと思案する二つの目がひとみを見据えている
ひとみはギュッと瞼を閉じると、投げやりに呟いた
勝手にしろっ・・・
233
:
Sa
:2004/07/08(木) 22:58
更新しました
JUNIOR様
作者のナカではこのほ〜がしっくりくるんですね、ナゼか(w
( ^▽^)人( ‘д‘ ) 人 ( ´酈` )人(^〜^0)
読者様
告白のレスありがとーゴザイマス♪
書くコトっていいな、と再認識させて頂けますね
234
:
JUNIOR
:2004/07/09(金) 23:43
更新お疲れ様です。
対決ですか。(・∀・)ニヤニヤ
楽しみっすね。期待してます。
235
:
54@約束
:2004/07/10(土) 14:25
更新、お疲れ様です。
おぉ〜、こう来ましたか。
こちらの人たちも何やらワケありな感じが・・
どちらかと言うと、この二人組はキャラがこことは逆のパターンが多いように
思うので、新鮮です。
大切な人がいるのはどちらも同じなんですよね。
そして石を守る吉がカッケーです。これぞいしよし!
次回も楽しみにしております。
236
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 14:59
梨華は自分を背中に庇うように立つ、ひとみの頬から
使い終わった絵筆が暫くの間、名残惜しそうにポトリポトリと
落とす赤い絵の具のような血の滴りを見た
たまらず上げた自分の叫び声が、どこか夢の中にいるように
グワァングワァンと鼓膜に響く
ののと名乗った少女と対峙するひとみの背中は小さく震えていた
それが恐怖からなのか、傷つけられた怒りなのからか梨華には
わからなかった
怖い・・・
剥き出しの敵意を込めた眼差しに晒されて、相手は自分より
小さな女の子だと言うのに、梨華は身体が竦み上がって、何も
出来ずにいる
ひとみが何か叫んだ
ピリピリと緊張し続ける事を強いられた梨華の神経は、とっさに
何を言われたか、わからないくらい動揺していた
・・・?・・・逃げる?・・・木の影に?・・・なんで?
ひとみちゃんがこうして戦っているのに?
237
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:00
それとも邪魔なの?・・・わたしが傍にいることは?
梨華は感情の波が喉許まで、せり上がってくるのを感じた
それは、ひとみに頼りにされてない自分の不甲斐なさに対する
悲しみなのか、これから起こることへの恐怖なのか、ひとみの
傷つけられた身体の心配なのか、自分でもわからなかった
梨華はひとみの背中を凝視し続けながら、二歩三歩と後ずさった
その梨華の目の前を、ひとみが後方へと飛ばされて行く
うそっ?!ひとみちゃんっっっ
声さえ出なかった
梨華は、ひとみの腰が地に付いてなお、ズズーッと滑っていくのを
見て、その身体に受けた衝撃の強さを知った
ひとみは頭を軽く振って、片膝を付きながら立ち上がろうとしてる
梨華が、ののへと視線を廻らすと、ギラギラとした光を放ちながら
ひとみを捕らえていた眼差しが、ツーと移動し、梨華の前で止まった
「・・・こっちのおねーちゃんは、えっらいかわいーじゃぁん?
アンタも、のの、の敵なのぉ?・・・さて、どおすっか?」
ののが小首を傾げると、突風が梨華に向かって吹きつけてくる
梨華は顔の前で手首を交差すると、飛ばされないようにググッと
足に力を入れた
238
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:01
「・・・止めろ 悪戯のしすぎだ」
感情を押さえた声が、ゴウゴウと鳴る強い風に晒されている
梨華の耳に届く
その声には、押さえようとしても押さえ切れない程の強い自信と
力を感じさせた
・・・ひとみちゃん?
梨華が首を回して振り返る
形の無いはずの風が、粗い粒子になって目の中に飛び込んで
きそうだ
梨華の細めた目線の先で、ゆらりとひとみは立ち上がった
「なんだぁ〜?なっまいき!」
のの、の声がして、ふいに梨華を囲っていた風圧が解けた
と今度は、ひとみの立ちあがったあたりで、ボムッと爆発音がする
足元に敷かれたコンクリートが、砕かれ、砂嵐のように舞い上がって
ひとみを覆い隠そうとしていた
ひ、ひと・・・や・・・やぁぁぁ
梨華が声にならない叫び声を上げると、頭の中にひとみの声が
返ってくる
・・・リカ・・・何も心配するな
え?
239
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:01
灰色の砂煙の間から、ひとみの髪が風で逆立っているのが見える
そして、ひとみの顔の中で、その眼の色が・・・変わった
あ・・・
梨華は、目の粗い、画像の悪い昔の映画のように、見えずらい
ひとみの姿に目を凝らした
ひとみは指先を口許に持っていくと、小さく呪文のように何かを
唱えながら、薬指の指輪を抜き取った
と、その時、天空から白い一本の光の柱がひとみを囲んでいた灰色の
幕の中に誘われるように落ちていく
砂煙が止まった
弄る風が、そこにある空気が、空から投げかけられる光の角度まで
動くものの全てが止まった
その中心に立つ、ひとみの手にはお伽話で騎士の持つような長剣が
握られていた
「チッ!」
小さな舌打ちがシンと静まった境内に響く
ののはスッと目を細めてひとみを睨みつけた
その目が大きく見開かれた時、その目を彩る色が無くなった
ひとみを睨んでいた黒目が、透けるように無色になっている
けれどその中に、淡く色づく何かの力が流れていくのがわかる
名前の無い色・・・あれこそが風の色だと梨華は思った
240
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:02
ズゥッ・・・キュゥンキュィーンキュィーン
風が咆えている、ひとみに向かって
弾丸の連射のように、咆哮を迸らせて
その一筋の流れが、辺りの様子を伺うように漂う風を孕んで膨らんで
いた梨華のスカートの裾を掠めていった
風が抜けて、ぺタリと足に張り付いたスカートは切れて、梨華の
腿を露に見せている
梨華はゴクリと喉を鳴らすと、震え出しそうになる足の上で、だらしなく
垂れ下がりそうになる破けた布をギュッと掴んだ
ひとみちゃんが・・・危ないっ
梨華がバッと振り返ると、顔の前で剣をかざしたひとみが一歩
一歩と前へ進んで来るのが見えた
向かってくる風の弾丸を払うように、ひとみは自分の足の長さ程もある
剣を右へ左へと軽々と回している
す・・・すごい・・・
梨華は呆然とその姿を見ていた
こんな大変な状況で、こんなことを考える自分をどうかと思うけれど
ひとみの存在を梨華は眩しいと感じていた
強くて、美しい・・・そう神々しいほど・・・けれど、それは・・・それは
だって、いまのひとみちゃんは・・・
本当のひとみちゃんじゃないもの・・・
241
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:02
静かに歩を進めてたヒトミが、梨華の横に並んだ
ヒトミはチラリと横目で梨華を見て、金色の瞳を微笑ませる
・・・そこで待ってろ、リカ
・・・もう、遊びは終わらせる
すぐ隣りに立つヒトミを、今だ呆然と見ていた梨華は慌てて頷いた
ヒトミは口許の片側を引き上げニヤリと笑うと、走り出した
近くで見てみると、ヒトミの掲げた剣は風を払っているのではなく
向かってきた風をその刀身に吸い込んでるようだった
そして、のの、の放つ風の力を吸収すればするほど、ヒトミの剣は
燦然と輝きが増していくようだ
けれど、梨華はヒトミがののに対して防戦だけで、応戦しようと
しないことに安堵していた
他人に・・・それも自分たちより幼いであろう女の子に斬りつける
ヒトミの姿など、やはり見たくはないのだ
ヒトミは僅かながらだが、頬から血を流している
なのに、こんな風に思う自分は甘いのだろうか?
今や、のの、の目の前に迫ったヒトミが剣を高く振り上げた
まさか、と梨華の身体が戦慄で強張る
ヒトミは迷うことなく、のの、の上に剣を振り下ろす
剣先が沈み往く太陽を反射して、どこか残酷にギラリと光った
梨華はとっさに目を閉じた
瞼の裏で、ヒトミの剣先が描く半円が見えたような気がした
242
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:03
ドサッと誰かが倒れた音がして、恐る恐る梨華が目を開けると
賽銭箱の下の階段の前で、ののが倒れている
・・・ヒィッ!
想像通りの光景だったにも係わらず、梨華は信じ硬い驚きで
息を吸い込んだ
倒れたのの、の傍らで膝をつくヒトミの手が、剣を握る指先の力を
抜くと、支えを失った剣はクラリと揺れて、掻き消すように消えた
そして、ゆっくりと立ち上がったヒトミが、俯く
軽く首を傾げて、掻き揚げた髪に通す指先には呼吸するように
まだ輝きを宿すリングが嵌っていた
ヒトミは梨華の許へと歩いてくると、鷹揚に微笑んだ
「リカ・・・久しぶり、だな?
・・・まぁ、ワタシはいつでもお前を見てはいるのだが
こうして言葉を交わし・・・お前に・・・」
梨華はヒトミがそう言いながら、自分へと伸ばしてきた指先に顔を背けた
そう、わかってた
今のひとみちゃんは・・・あの、ヒトミという人
ひとみちゃんであって、ひとみちゃんじゃない人
243
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:03
「・・・ひとみちゃんは・・・いつものひとみちゃんはどうしたんですか?」
「つれないな・・・リカ
お前を救ったのは、このワタシ・・・なのに、労いの言葉もないのか?」
ヒトミは気を悪くした風もなく、からかいの色を滲ませた眼で
梨華の顔をジッと見つめた
「あ・・・あのっ それは・・・ありがとうございますっ!」
梨華が慌てたようにペコリと頭を下げると、頭上でクックックと
笑い声がした
「敬語など使う必要はない
随分他人行儀ではないか?お前とワタシの仲で・・・」
「・・・そう言われても」
梨華がおずおずと顔を上げて、困惑したようにヒトミを仰ぎ見る
ヒトミは僅かにその眼を曇らせた
「・・・この、ワタシは嫌いか?」
「そんなっ・・・そんなことはないけど・・・
ただ、あなたがこうしている時、ひとみちゃんはどうしてるのかな?って
思って・・・
わからないだけです・・・だって、あなたもひとみちゃんなんでしょう?」
ヒトミは深く溜息を付いた
244
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:04
「・・・ひとみは・・・ワタシを自分と同一の者だと認めない
それはワタシの過ちかも知れない
ひとみの自我が芽生える時期に、迂闊にも他の姿を持って
話しかけてしまったのだから
それはいまの己の姿と同一だなどとは、今更わからないだろうしな
融合しなければいけない時期に、長い間、他者として接し過ぎて
しまったワタシに非があるのか?
けれど、あの頃、そうしていなければ、今お前にこうして逢えなかった
かも知れないというのに?
それでも、ワタシは間違っていたのだろうか?」
どういうことなのか梨華には、ますますわからなかった
梨華が小首を傾げると、ヒトミは寂しげに笑った
「お前には関係のないことだ
ひとみは眠っているだけだ、何も心配することはない
ワタシが眠れば、ひとみが目覚める
ただ・・・このまま、ひとみがワタシを受け入れないのであれば
いずれ・・・」
「・・・いずれ?」
ヒトミは梨華を見ているようで、実は見ていない
そんなどこか空ろな目をして、その後、焦点を結ぶように
梨華の顔を見据えた
245
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 15:04
「・・・リカ・・・今生のお前には、ワタシの長き想いなど
いらぬものなのかも知れない
・・・ならばリカ、ワタシはどうすればいい?
ワタシが愛したリカ・・・その姿はお前そのもの
その魂はお前と同化し、お前の中で眠っているのであろう?
そのお前をワタシが望むのは間違っているのだろうか?」
ヒトミが泣いている
涙など零せないほどに、胸の痛みは全て抱え込んだままで・・・
永い永い久遠の時の流れの中
たった一人きりで、その想いを抱え続けた人
かつての転生の中で二人が結ばれたことはなかったのだろうか?
・・・多分なかったのだろう
だからこそ、このヒトミは苦しんでいる
アナザの女王は二人を転生させることは出来ても、生まれ落ちる
場所や、時間の経過の単位までは干渉出来なかったのかも知れない
梨華は自分の内に眠ったままらしい、一度だけ夢で逢った彼女を想った
なんで出てきてあげないのかしら?
わたしなら・・・構わないのに・・・
このヒトミの想いを遂げさせてあげたい、と梨華は思う
けれど、その相手は自分で、ヒトミの身体は一つ
そう、ひとみちゃんのものでもあるのだ
なんて答えればいいのかわからない・・・
梨華の心は空一面に流れる無数の雲よりも千々に乱れた
246
:
Sa
:2004/07/12(月) 15:05
更新しました
JUNIOR様
対決・・・どっちのだろ?(w
この話のナガレから行ってご期待通りかしらん???
54@約束様
ハハッ!偶然という名の必然で話を進め…(ry
二人組のこのキャスティングは作者の中でハナから決定だったので(w
247
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 18:24
梨華は何度か口を開きかけては閉じた
その顔を見ていた、ヒトミがフッと表情を和らげて、目許を薄く
微笑ませる
そしてゆるりと首を振ると優しい声音を出す
「・・・いいんだ、リカ
お前が答えるべきことではないのだから・・・
それより、ワタシも疲れた・・・ひとみの家に帰ろう
こんなところでワタシが意識を手放して、ひとみがすぐに
目覚めなければ、お前が困るだろう?」
軽く笑いを滲ませた声に、梨華はハッとする
そうっ!大変な問題が・・・
梨華は、少し怯えた様子で倒れたののを見た
「あ、あのっ
あの子・・・死んでしまった・・・とか?」
恐々という感じで語尾を震わす梨華に、ヒトミは呆れた様子で
大きく瞬きをした
「リカ・・・お前、見ていなかったのか?」
「ご、ごめんなさいっ!・・・あの、途中までは見てたんだけど・・・」
248
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 18:25
ヒトミは鼻先でフンと笑った
「リカ・・・先が思い遣られるな、お前は
ワタシは、あの少女に一度も刃は向けていない
あれは己の気を放出しすぎて、意識をなくしたのだ
暫くすれば、自然に目覚める」
梨華がほぅ〜と安心したように、大きな息を吐くと、ヒトミは
目を意地悪く細めた
「・・・それで、安心していていいのか、リカ?
お前のするべきことは何だ?」
「あ・・・ストーン・・・」
ヒトミは片足に重心をかけるようにして、だるそうに頷いた
「ワタシが・・・いや、リカお前もだが、アナザの力として使っているのは
己の中にある、気の力、意志の強さ、なのだよ?
それは風の石に魅入られた、あの少女も同じこと
ワタシ・・・と言うよりも、日のリングが剣に姿を変えるのは
ストーンとそれに魅入られた者を切り離す為
そして、依代となっていた偽りの石を砕く為」
「・・・・・・・・・・・・」
「わからないか?
ワタシは、あの少女の耳についていた飾り、あれを砕こうと思った
そもそも、この剣では生命あるものを斬ったりは出来ない
リアルの生の営みに係わることを、変える訳にはいかないのだから」
249
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 18:25
おぼろげながら、梨華にはひとみのするべきことが見えてきた
けれど、自分はいったい何をするのだろう?
梨華の疑問を察したように、ヒトミは話を続ける
「リカ、お前の成すべきことは、切り離されたストーンを・・・
依代を失った風の意志を封印すること、だ」
梨華は絶句した
封印?・・・そんな・・・どうやって?
溺れかけ喘ぐように、口をパクパクさせる梨華にヒトミは
諭すような静かな声を出す
「ワタシの知る言葉は、アナザのものだ
リカに教えたところで、意味のわからない呪文を唱えるようなもの
口にする言葉に、魂が宿らないのであれば、そこには何の力もない
だからリカ、自分の言葉で願うのだ・・・心から
そうすれば、ストーンは答えてくれるだろう
・・・そして、それはひとみにしても同じこと」
ヒトミの身体はぐったりとしていて、力が入らないようだった
そして、そのままズルズルと座り込む
「すまない・・・リカ
ワタシは疲れた・・・そう・・・風の意志は二つに分かれてしまったらしい
もう一人を見つけなければ・・・封印は出来ない
風には吹くことと、止まること・・・二つの意志がある・・・」
250
:
風のピアス
:2004/07/12(月) 18:26
ヒトミは閉じそうな瞼と格闘しながら、梨華を見た
「・・・ひとみに伝えてくれ
ワタシは・・・次には出てはこない
どんな窮地に立たされていようと・・・ひとみ自身がワタシを
呼ばないのであれば・・・
・・・だから、力の限り・・・やってみればいい、と・・・」
ヒトミは腕を伸ばすと、愛おしそうに梨華の頬をサラリと撫でて
瞼を閉じた
「・・・ひ・・・ひと」
梨華は口にしようとした、その名の途中で口篭る
自分が呼びたいのが、今、眠りについたヒトミなのか
それとも、眠っていたひとみなのかが、わからなくなっていた
251
:
Sa
:2004/07/12(月) 18:27
モソ〜リと追加してみたりして(w
252
:
54@約束
:2004/07/12(月) 21:59
大量更新、お疲れ様です。
対決シーンは情景が浮かぶようでしたよ。
どんどん劇的な展開になって行きますねぇ。
そしてヒトミがせつない・・(気高い戦士って感じでイイです)
二人(?)の間で揺れ動く石が何ともハマリ過ぎですw
次回も楽しみです。
253
:
JUNIOR
:2004/07/13(火) 02:28
2度の更新お疲れさまっす。
そりゃ〜もう、期待通りです。
意思っていくつまで分かれられるんだろう?
なんて疑問に思ったりして。
254
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:28
イライラする
希美は、いま自分が打っていた文面を削除して、携帯を折りたたむと
スカートのポケットに押し込んだ
ガードレールに軽く寄りかかりながら、通り過ぎる人々の群れに
見るとはなしの視線を投げた
ちょうど、金髪のショートカットと、黒髪のセミロングの二人連れが
希美の目の前を、通り過ぎる
心臓がドクンッと鳴った
違うってぇー・・・あんな顔じゃぁなかったし〜
・・・アイツら、なにモンだったんだ?
暫くの間、早鐘のように鳴り続ける胸の鼓動が落ち着かなくて
希美は、親指の爪を噛んだ
255
:
Sa
:2004/07/16(金) 22:28
あれは・・・いつだっけか?
あいぼんとアイスを食べた日
たぶん・・・次の日、学校が休みだったような気がした
んなら、先週の金曜日?
今度会ったら・・・やっつけてやる
アイツらは敵だ
のの、の邪魔をする
・・・邪魔?
あれ?・・・のの、何をするんだっけ?
256
:
Sa
:2004/07/16(金) 22:29
希美は最近、時間の経過の概念があやふやになっている
別に何かに熱中したり、考え事をしている訳ではない
寝てるわけでもないのに、ハッと目覚めたような感覚に意識が
はっきりすると、驚くほど時間が経っていたりするのだ
そして時には、自分の取っていた行動がわからなくなる
きっかけはいつでも些細なこと・・・なのに
押さえがたいほどの憤りと湧き上がる焦燥感・・・その後には決まって
嵐が・・・強い風が降りてくるのだ
希美の意志など吹き飛ばすように
そして、その勢いは日増しに強くなっている
257
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:30
希美は高くうねる波に浚われそうな小船のようだ
そんな中で、あいぼんの声だけが聞える気がする
耳の奥で繰り返し、繰り返し
ほの暗い影のような海を照らす、灯台の明かりのように
近づいたり、遠ざかったりしながら、投げかけられる声
・・・ダメや、のの
・・・そっちに行ったら、あかん
・・・ダメや、のの・・・あかん・・・
激しい流れに巻き込まれた小船
舵を取られて、流されるだけ
すっぽりと何か大きなものの影に隠れてる航路
その先に何があるのか、目を凝らしても見えそうにもなかった
・・・のの?
・・・ののっ!
・・・ののっっっ
希美はハッとした
目の前に立つ人影に、顔を上げると、表情を曇らせた、あいぼんが
心配そうに立っていた
258
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:30
亜衣は、のの、の自分に向けられた視線の温度の低さに鳥肌が
たちそうになった
自分を真っ直ぐに捕らえているけれど、自分を見ていない眼
どうしよ?・・・うち、どうしたらええ?
見慣れたはずの、のの、の顔が、見知らぬ他人のように見える
ののがどこか遠いところへ行ってしまうのではないか?
予感と言うには強すぎる不安を、亜衣は抱えていた
それがいま、実感に変わろうとしていた
のの、の眼差しが放つ、異質な強い力
それとは裏腹に、影のように存在感が薄くなっていくのの、の姿
無鉄砲なくらいの無邪気さも、思わず笑ってしまう言動も、自分という
他人に向けるには、あまりに同化しすぎる真っ直ぐな感情も、亜衣が
大切に思ってきた、ののを象る全てが、今、亜衣の手の届かないところへ
吹き飛ばされそうになっている
こんなん、ののやない
まるでなんかに、とりつかれてるみたいや
259
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:31
亜衣はゴクリと喉を鳴らした
そうや!
亜衣は自分を、どこかぼんやりと見ているのの、の腕を掴んだ
・・・のの、行くで!
頭の中で、ののに向けて言葉をかける
「・・・どこぉ〜?」
面倒臭そうに返事をする、ののには答えず、亜衣は考えていた
耳から聞える声、亜衣の心に直接訴えかけるような声の質
そこだけは、なぜか変わらない、と
260
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:32
亜衣は神社の鳥居をくぐる
のの、の手を強く握り締めたままで
気が乗らなそうに、ズルズルと亜衣に引っ張られていた、ののが
ふいに繋がれた手を振り解く・・・亜衣は振り返った
「・・・ここ、ヤだー」
ののが、拗ねたように唇を尖らせていた
御祓いしてもらお思たんが、バレたんやろか?
亜衣は感情の乱れを出さないように、慎重に声を返す
・・・なんで?
「だってさ〜 食べ物ナイじゃぁんっ」
食べ物?
261
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:32
見ると、ののが人懐っこい笑顔を浮かべてる
お腹がすいたっお腹がすいたっ♪
変な節をつけて、歌うように言うののに、亜衣は一瞬力が抜けた
なんやろ?いつもの、ののや
うちの考えすぎやったん?・・・そやけど、なぁ
拭いきれない違和感に、訝しげにのの、の顔を見ていると、フッと、のの、の
顔から笑顔が消えた
それは、あっと言う間の早さで、被った仮面を外すくらい、その笑顔の下からは
違う顔が出てくる・・・残虐な影を宿す眼
「・・・オタクら、まぁーた来たんだぁ〜」
ののは、目の前に立つ、亜衣が急に見えなくなったとでも言うように
その横を通り過ぎると、境内の奥へと進んで行く
262
:
風のピアス
:2004/07/16(金) 22:33
亜衣は傍らを、ゆっくりと歩くのの、の歩調に合わせて、その先を見た
そこには、自分達より、わずかに年が上であろう女の子の二人連れが
立っている
二人からはピリピリとした緊張感が、離れて立つ、亜衣のところにまで
共用する、この場の空気を伝って流れてきた
だれやろ?
ののとなんかあったんやろか?
二人は目立つ容姿をしているから、会ったことがあれば覚えているはずだ
亜衣は自分の記憶を辿った
うちは、知らん人達や
亜衣がそう確信した時
二人に近づく、のの、の中から風のうねりが上げる産声が亜衣には聞えた
大きい・・・
亜衣は叫んだ・・・心の中で
亜衣の言葉を聞く、心の耳を持たないであろう二人に、それでも
声の限り叫んでいた
逃げて、と
263
:
Sa
:2004/07/16(金) 22:38
更新しました
54@約束様
情景が浮かぶと言って頂けるのは嬉しゅうございます♪
ヒトミ、というか、アナザの人々には性別って意識は無いので硬いとゆーか
人間味カケるイメージなんです、それでもヒトミは・・・(ry
JUNIOR様
今は書き溜め出来てないんで、書いてて、おりゃ?コレはモソッと…みたいなノリになり
つい二回更新とかに・・・(ニガワラ
意志は一つにして、無限ってトコですかね、作者ん中では(w
なにやら途中で、題名が名前に変わっておりました(汗
お見苦しくて、すみませんっ
ところで今回、一回の更新で登場人物の視点が変わってますが、読み辛くなかろーかと
気になってみたり…
この後、視点がコロコロ変わる書き方になってしまいそーなんですが、ヨイでしょーか???
ひとみは・・・から始まったら、よしざーサンなのね?等々
生あたたか〜く見守って頂けたら幸い、と…(発汗中
264
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:00
逃げてっ
声にならない風の叫びを、ひとみは聞いた気がした
一歩一歩と自分に近づいてくる、ののという少女
僅か一週間で、その眼を占める影が驚く程、濃くなってることに
ひとみは、少なからず衝撃を受けた
のの、の傍らにいた少女
この間も一緒にいた子だ・・・ひとみは確信する
あれが、片割だ・・・分かれてしまった風の意志を秘めた存在
ビリビリと張り巡らされた、大声で破りたくなるような緊張の輪
そんな中で、背後にある梨華の少し荒い呼吸音だけが、ひとみに
冷静さを保たせる
ひとみちゃんの言葉で・・・
梨華から聞いた、自分の成すべきこと
意志の強さ、心の真ん中に宿る強い想い、ひとみは軽く目を閉じて
一心に集中した
見えない風が今、目の前の少女の魂を食い荒らし、無数の刃に変わろうと
しているのがわかる
265
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:01
あたしは願おう
大切な者を守るだけの強さを、何があっても負けない力を・・・
この手に・・・下さい、と
266
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:02
ひとみは左手の指輪を、唇に持っていくと、想いを込めてくちづけた
そのまま指輪を、右手で抜き取る
指輪が強く白光しだす
眩い閃光を放出させて、その姿を・・・今、変えようとしている
主の意志に添う為に・・・主の願いを叶え、その大切な者を守る為に、と
そして
ひとみの右手には、煌々と白い光を放つ剣が握られていた
267
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:03
ズドォォオンッッ
漂う空気を、大地を、立ち並ぶ木々達を、そして、遠い空までを、揺るがす
激しい振動
ひとみはとっさに、両手で支えるように剣をかざした
そのまま、荒れ狂う風に押されて、ひとみの身体がズズズッと、後ろへ
押されていく
ビリビリと、その余波で刀身が受けた力の大きさを、ひとみに伝えた
猛る風は、その力の手を緩めない
強烈にかかる圧力に、ひとみの両腕が悲鳴を上げる
梨華が背後から、吹き荒ぶ風に抗うように細い腕を伸ばし、ひとみの
肘を支える
ひとみちゃんひとみちゃんひとみちゃん・・・
梨華に、自分の名を呼び続けられてる気がして、ひとみは気力を
振り絞ると、剣を前へと押し出した
268
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:03
なんやの?
亜衣は一人、凪いだ空間の中にいた
目の前で起こってることは、いったいなんなのだ?
のの、の中から、次々生まれ出ては、二人連れの女の子達に向かって行く風
容赦なく、執拗に、送られ続ける悪意にみちた風流
亜衣の、喉の奥がキリキリと絞られて、目に映る信じられない光景が
次第に霞んでいく
・・・止めてーーーーーっ!!!
亜衣は身体中で叫んでいた
悲しい悲しい悲しい、のの、の、そんな姿
亜衣の瞳の上に、透明な膜が幾重にも張っては流れていく
・・・止めて止めて止めて・・・お願い、お願いや、のの・・・
・・・そんなことせんといて・・・
・・・うち・・・うちの、声が聞えるなら
・・・止めてぇや
・・・止めてーーーーーっ!!!
269
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:04
ふいに、風が唸り声を潜め、哀しげに鳴いた
「・・・なんで・・・止めんだよー
あいぼんの為だよ?・・・あいぼんの為じゃん?
・・・なんでぇわかってくんないのぉ?」
のの、が、その身体の回りに風を侍らせながら、ポツリ、ポツリと言う
帰る場所を見失ってしまった、どこか幼子のような、のの、の姿
それは亜衣に、また新たな悲しみを抱かせる
・・・違う、違うんや
・・・のの、間違うとるで?
・・・うちな?・・・そんなん望んでないんよ
「・・・なんでだよっっっ
いーじゃんっ!・・・邪魔なヤツらは全部やっつけるんだ
ののには、力がある・・・それは・・・それは・・・いつも、いっつも
イヤな目にあっても何も言えないから、言葉を返せないからって
我慢ばっかしてた、あいぼんを守る為に、誰かが、ののにくれたんだっ!
・・・だからっ・・・だから、ののはやっつける
みんな、みんなっ!あいぼんの声が聞えないヤツらはっ!」
のの、の周りを囲む風が、その激情に煽られて、天へと吹き上がる
のの、の髪を、制服の袖を、スカートの裾を巻き上げながら
亜衣は、違う、と、もう一度強く思いながら、ゆっくりと瞬きをした
270
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:05
・・・うち・・・うち、な?
・・・ののから、どう見えてたんか知らへんけど
・・・幸せもんやと思うてた、自分のこと
・・・のの、なんでか、わかる?
「・・・幸せ?
・・・わかんないよぉ?
わかんねーーーよっ・・・なんでなんだよー?
誰も・・・誰も、あいぼんの声を聞こうとしてないのにっ・・・」
・・・あのな?
・・・うちが幸せやったんは、ののがいたからや
・・・そりゃ、うちは話せへんから、たいがいの人はうちの言葉なんて
・・・わざわざ聞こう、思わないやろな
・・・そやけど、ののは違ごた
・・・いつでも、言葉の表側だけじゃなくて、その裏側にある、うちの気持ちを
・・・心の声を、ちゃんと聞こう、聞き取ろうって、してくれてたんがわかるから
・・・うち、思うんよ
・・・世の中の大多数の人達は毎日、言葉を口にしとる
・・・会話してる、思うてはるのや
・・・そやけど、うちには、それが耳の上を素通りしてるだけに見えるんよ
・・・相手の言葉を、何を伝えようとしてるんか聞こう、て、そう思う心がなければ
・・・どんなに言葉をやりとりしたって、そこにはなんもないんや
・・・そんなん、ほんまに言葉を交わしてるって言えるんやろか?
271
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:05
今や、シン、と静まった境内の中、一筋の風が吹く
穏やかな風が、そっと、そっと、のの、の頬を撫でて行く
擦り切れた心を労わり、全てを、その内に包み込む風が・・・
亜衣の本当の言葉、心の声を、のの、の心の耳まで届ける為だけに・・・
・・・うちな、今のが辛いんや
・・・うちの声が聞えるようになったら、ののが変わってしまったから
・・・いくら話が出来てもそれは違うんや
・・・そこに、あったはずの、のの、の・・・のの、の心が無うなってしまった
・・・それが辛いんや・・・そやから、うち
・・・戻って欲しいんよ・・・うちがよう知ってる、ののに
・・・ののを違ごう人にしてしまう力なら・・・そんな、力、いらないねん
・・・うち、ほんまに、いらないねんよ
272
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:06
亜衣の耳元でピシッと何かにひびが入る音がした
ポトリと足元に何かが落ちて、それがののと二人で分け合ったピアスだと
気がついた
亜衣は、ただ、ののを真っ直ぐに見つめていた
ののは魂を抜かれ、捨てられた人形のように、立ち尽くしている
大きく目を見開いて亜衣を見ていた目が、微笑むように揺れた刹那
のの、の耳朶からもピアスが滑り落ち、そして、その場に崩れるように
ののは倒れた
273
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:06
梨華の耳にも亜衣の言葉は届いていた
それは梨華の心に直接響いて、どこまでも温かな色の音を残す
ようように姿を変える、捉えどころのない風
吹く場所で、色も音も変わる風
けれど、互いを想いあう二人な間を流れる風の音は、心に染み入る音をしている
今、自分の中に流れ込む旋律、これがきっと・・・風の音
ジンとした想いが梨華の中で大きく膨らんでいく
梨華は、胸の前でそっと指を組んだ
そしてその、心を満たす慈愛の音は、自然に梨華の唇を開かせた
274
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:07
お願い、お願いします
風の意志よ
二つに分かれることは、もう止めて・・・
在るべき姿に戻って下さい
そして・・・あなたの還る場所に・・・どうか
どうか・・・戻って下さい
275
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:07
その時
梨華の指に嵌められた指輪から、楕円の温かい色を灯した光が
溢れ出て、広がっていった
上空に立ち上るその光に向かって、辺りを漂っていた風の流れが
次々と注ぎ込んでくる
木々の緑を揺らし、空の青を駆け抜け、流れる雲の白を映して
全ての景色を、その内に透かしながら流れ込む、それはうっすらと
七色に輝きながら・・・
276
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:08
七色の風の息吹を吸い込んだ指輪は、最後に一際眩い光をキラリと放つと
満たされた赤子のように、梨華の指先で静かな眠りについた
・・・綺麗やったなぁ・・・
・・・あかん・・・うち、めっちゃ眠いわ
・・・のの?・・・の・・・の・・・
梨華の頭の中に流れこんできていた、あいぼんの意識が、遠のいていく
のの、の名前を尾を引くように呼びながら
そして、あいぼんはズルズルとその場に座り込み、パタリと倒れた
梨華は、二人のことが僅かに、心配になりながら、ひとみの顔を
背中から覗き込む
「・・・ねぇ?ねぇ、ひとみちゃん・・・ひとみちゃんっ?!」
目の前で、今度はひとみまでもがストンッと大地に腰をついた
そしてそのまま、ひとみは大の字にひっくり返る
「・・・もうダメだーーーっ!つ、疲れた・・・」
277
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:09
日曜日―
駅前の雑居ビルの中から、本を読みながら出てくる女の子と、ひとみが
ぶつかった
女の子が手に持っていた本が、梨華の足元に飛んで来て、梨華はその本を
拾うと、軽く埃を落とすように叩いた
手話入門編
梨華は、そのタイトルを口の中で呟き、そっと笑みを零す
「あ〜〜ゴメンナサイッ!よそ見しててぇー」
ひとみに頭を下げている女の子の肩先で、細い三つ編みが
一緒になってペコンとおじぎをしている
「・・・いいよ 平気、平気!」
ひとみは朗らかに言いながら、チラリと梨華に目配せをする
その目に浮かぶ、安堵の色
梨華も目許を優しく和ませ、小さく頷いた
そして、密かに微笑み合う
278
:
風のピアス
:2004/07/17(土) 12:09
すまなそうに顔を上げた女の子は、そう簡単に忘れられないくらい
ピカピカに輝く目をしている
「・・・はい、落し物」
「あっ!すいませぇ〜んっ」
本を手渡す梨華の顔を見て、女の子は無邪気に笑う
その笑顔が、夏の日差しの中、咲き誇る向日葵のように輝きを増した
視線の先を辿ると、そこに柔和な微笑みを称えた女の子がこちらを
見ていた
「あ・・・あいぼんっ!」
女の子は、弾む声でそう言って、ひとみと梨華にちょこんと頭を下げると
駆け出して行く
二人の触れ合う肩が楽しげに揺れた
女の子が上げる笑い声を風が運んでくる・・・幸せな音色を
そして、風は流れていく・・・
また今日も、新たな想いを乗せて・・・
279
:
Sa
:2004/07/17(土) 12:14
え〜〜風のピアスの章、更新終了しました
勢いのみの更新です(ニガワラ
これからまた、違う章になるのですが・・・実は作者は
少々、スランプ気味でして(w
思うように、文章が書けないのです
今までも、たいしたモン書けてナイと言えば、そうな・・・(ry
なので思い切って、長めの夏休みを頂こうかと思っております
どれくらいになるかは未定ですが、夏休みと言うからには、夏が終わる頃には
書けるようになり、戻って来たいと思っております
放置は絶対にしないつもりなので、暫くの間、長い目で見てやって下されば、と
図々しくも、思っております
今年の夏は、エラく暑いですが、皆様、お元気で!
280
:
JUNIOR
:2004/07/18(日) 01:13
更新お疲れ様です。
やっぱりSaさんの作品はいいです。
心がじ〜んときます。あったかいです。
スランプ気味ですか……。
それでもこれだけ書ければすごいです。
Saさんにも夏休みは必要ですよね。(w
おもいっきり夏休みをenjoyしてください!
首を長くして待ってます。
Saさんこそお元気で!
281
:
名無し(0´〜`0)
:2004/09/04(土) 22:13
そろそろ、Saさん帰ってくる頃かな?
282
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:47
・・・・・流れ星だ
彼女は白い瞬きが、湖面に描く半円の姿を目で追った
よく、その星に願い事を三回唱えると叶うって言うけど
・・・けどさ?流れ星は流れてるから、流れ星であって
そのスピードの速さに、今まで三回も願い事を言えた試しが
自分には無い
例え心の中だけででも、それがどんなに願ってやまない事でも
また、星が瞬いた
今日は流れ星の当たり日だよ・・・
何回流れてくれたって、願いが叶わないなら、それに何の意味もない
彼女は白けた気持ちになりながら、アハッと口許を歪めた
283
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:47
けれど・・・
その星は天空の頂上で弧を描く事をプツリと止めた
そして、彼女を誘うようにまた瞬いた
願い事があるなら言ってみろと、今がチャンスだと
・・・ありえない
そう思いながら、それでも彼女は念じてみた
その輝きに魅入られたように
あの子に会いたい、あの子に会いたい、あの子に会いたい
彼女が唱え終わると星はまた滑り始めた
漆黒の空の上で白い光の尾を引いて、丸形の続きを描くように
まるで、彼女にゆっくりと頷いて見せるように・・・
284
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:48
夏休みになっていた
285
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:49
ひとみはパソコンの画面を次々変えながら、小さい溜息を
一つついた
「・・・梨華ちゃぁ〜ん 遊び行こ〜よっ!」
返事はない
その代わり、ジトーーーッと背中に睨むような視線を感じた
「梨華ちゃんの言いたい事、わかるさ?・・・わかるけど
うちらってなんなワケ?
あたしにとってもこの夏休みは大事なのよ?
セブンティーンのサマーバケーションは一回きりなんだぜ
もっと・・・もっとこうさ?有意義に過ごしたいと思わねー?」
「有意義?・・・ひとみちゃん、意味分かって言ってる?」
背後からそっけなく返ってくる声
取り付く暇もありゃしない
ひとみは頬杖を付いてた腕を、ズルズルと滑らせながら
横目でパソコンを操作し続けた
286
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:50
夏休みは学校へ通わなくてはいけないという、学生の本業が
免除される
制約なく行動出来る時間が増える事に、ひとみと梨華は喜んだ
ひとみは単純に、梨華と初めて共に過ごす長い休みを喜んでいた
のだが、梨華はひとみほど単純ではなかったらしい
梨華は燃えていたのだ
この長い休みの間に、一つでも多くのストーンを見つけ出すという
使命感、みたいなものに
そもそもさ、暑くて勉強さえも手につかない、だからこその夏休みな
訳じゃん?・・・なのになんでそーややこしい事したがるかね?
宿題じゃあるまいし・・・ま、宿題なんてやんねーけど
ひとみは、かなりうんざりしていた
だから、夏休みが始まると意気揚々と(これからの課題)を
話し出す梨華に、ひとみは意地悪く聞いたのだ
287
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:50
「そう言うけどさ〜 具体的にどーすんの?
なんのあても無いじゃん?・・・うちら」
「・・・そ、それは」
口ごもって、目線を泳がせていた梨華だったが、ひとみの机の上に
乗っていた、ノート型パソコンを見つけると、その目を輝かせた
「インターネットで調べようよ!」
「・・・えぇ〜〜〜っ」
そしてかれこれ三時間
ひとみはネットの情報社会を彷徨っていたのだった
こんなキーワードで何が引っかかるって言うんだよ?
ひとみは半ばヤケクソになりながら、キーボードに置いた指を
乱暴に動かした
「・・・流れ星」
「え?」
梨華の呟く声に、ひとみは動かしていた指を止めて、振り返った
「・・・願い事が叶うって言うじゃない?
あ、わたし達の場合は願い事っていうより探し物なんだけど」
288
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:51
ひとみは、ハイハイ仰せの通りに、と投げやり言って、また
パソコンに向かうと絞込み検索を続けていった
− 流れ星がたくさん映る湖 −
ふいに、その文字がひとみの目に飛び込んできた
この夏の私のお勧め!そんな口コミのページ
どこか幻想的な雰囲気が素敵で、運がよければ降るように星が落ちて
くるのが見れるられるという湖
夏の夜を過ごすのに、とてもロマンチックな場所
その湖は鏡のように澄んでいて・・・
その書き込みの最後に、湖の所在地が記されていた
それを読み上げ、ひとみは、・・・やっぱりそういうことですか?と
諦めに似た気持ちになった
289
:
水のブレス
:2004/09/13(月) 20:52
記された場所は、祖父が持つ別荘の近くだった
小さい頃、何回か連れられて行った場所
そう、確かにかなり大きな湖があった気がする・・・湖・・・水・・・偶然?
・・・違うだろ?やっぱり自分と梨華は招かれてしまうのだ
ストーンのある場所へ・・・
「梨華ちゃん・・・避暑しに行きますか?」
ひとみは苦笑いしながら言った
この夏の自分と梨華に、素敵なひと夏の想い出なんてロマンチックな
ことは、きっと一番縁遠いに違いない、と、思いながら
290
:
Sa
:2004/09/13(月) 20:54
更新しました
お待たせしてしまって申し訳ないです
見限られまくってて・・・なんてのが怖いっす
JUNIOR様
イヤ・・・実はまだ書けないんですけどね(ニガワラ
そんなコト、グチグチ言っててもしゃーないので地道にがんがりマス
作者の個人的なコトで、ご心配かけるようなことを書いてしまい
申し訳ナイです(ペコリ)
281名無し様
気にして下さってた方がいらっしゃるとは嬉しい限りです
ハナシを大きくしすぎたかなぁと、今さら反省・・・遅いっつーの
けど、書上げる気持ちはありますんで、これからもよろしく
お願いします(ペコリ)
291
:
名無し(0´〜`0)
:2004/09/13(月) 23:17
Saさん、お帰りなさい!お待ちしてました。
Saさんのペースでこれからも頑張って下さい!
292
:
読者@219
:2004/09/14(火) 00:49
Saさんお帰りなさい。リフレッシュできました?
あんまりカキコしないタイプなんですけど、
またSaさんの作品読めるの嬉しくてカキコしてみました。
Saさんの表現力と話の展開の仕方、本当に大好きです。
焦らずノンビリとSaさんのペースで書いていって下さい。
293
:
JUNIOR
:2004/09/18(土) 01:36
お帰りなさいませ。毎日enjoyしてますか〜?
そんなに悩まずに焦らずゆっくりと自分自身の
ペースでやっていってください。
自分は逃げも隠れもしませんよ(爆)
294
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:36
もぉっ!信じられない・・・ひとみちゃんったらっ
ここで待っててって言ったのに!
梨華は見知らぬ駅前で、一人大きな溜息をついた
避暑地として、わりあいと名前が知れてるらしいこの場所は
夏休みが始まったこともあって、そこそこの人出だ
あたりをキョロキョロ見回した梨華は、自分の置いておいた鞄が
ないことに気がついた
ひとみが持っていってくれたのだろうけど、いったいどこに行って
しまったのか?
確かにトイレは混んでいて、ひとみが待つことを嫌うのは知っている
けど、二十分は待たせてないと梨華は思う
そう言えば、別荘がある湖の方角と反対側には、ソフトクリームで
有名な牧場があり、少し先にそこのショップが出てるから、後で
食べようと、ひとみが言っていたのを思い出す
・・・買いに行ってくれてるとか?
295
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:37
梨華は、小首を傾げて考えながら歩き出した
取りあえず行ってみようかな?すぐ近くって言ってたし
いなかったら戻ってくればいいよね?
周りのショップをキョロキョロと見回しながら、梨華が歩いて
いると・・・ドンッと身体がはね返されて、梨華は危うく尻餅を
つきそうになった
目の前には、大きな茶色い紙袋を抱えた人が立っている
「ご、ごめんなさい!
わたしったら余所見してて・・・」
「あはっ!い〜よぉ こっちこそごめん
この袋って前が見えないんだよねぇ〜 観光地のスーパー
だから気取ってんのか知らないけど・・・
持ちづらくって困ってんだ」
茶色い紙袋の横から、どこか気の抜けたような笑顔が覗く
梨華はクスリと笑った
なんだか可愛い子・・・同じ年くらいかな?
その子は、あはっと小首を傾げて笑いながら、梨華の顔を
マジマジと見つめた
296
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:37
「・・・君、かーわいぃねぇ〜
観光客?・・・ねっねぇ、ごとーとお茶しない?」
梨華はギョッとして、目を見開いた
わ、わたしナンパされてるのぉ〜〜〜
それも女の子に?
「少し先にさ、雑誌とかによく載ってる、ソフトクリームが
あるんだー
店の前に席があって食べれるんだよ?
試してみない?結構イケるし、思い出になるよー」
あ!そこって・・・
「わたしっ、そこに行く途中だったんです!」
梨華は言ってしまってから、ハッとして口を押さえた
やだ!これじゃまるで連れてってって強請ってるみたい・・・
その子は、梨華の言葉を聞くと、すっかり打ち解けたように
微笑んだ
「うんうん、行こっ行こっ!」
297
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:38
そしてなんと、重そうな紙袋を片手で抱えて、開いた方の手を
梨華に差し出した
・・・え?
どうしよう〜〜〜 これって、これって手を繋ごうってこと?
えぇーーーっ・・・そんなぁ〜会ったばかりの人なのに?
梨華が上目遣いで顔を見ると、その子はふにゃりんとした
無邪気な表情で見返してくる
女の子だし・・・いいよね?
だって、断るのもヘンって言うか・・・
梨華はおずおずと片手を、中途半端に前へ出した
その子は、躊躇うことなく梨華の手をギュッと握る
その時・・・・・
とても不思議な感覚が梨華の身体の中に注がれてきた
298
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:38
他愛も無いことで、例えばひとみが自分を置いていってしまった
こととか、トイレが混んでて、汚かったとか、見知らぬ町で一人で
不安を感じていたとか・・・そんな自分ではそうと意識してないのに
僅かに不機嫌に粟立ちそうになっていた感情の波が、静々と引いて
いくような・・・
「名前なんて言うの?・・・ご、あたしはねぇ〜
後藤真希ってゆーんだ」
「・・・石川梨華です」
「梨華ちゃん?名前もかーいーねぇ?」
繋がれた手の平から、ゆるゆると流れてくる水音のような調べ
は小さな波になる、穏やかで慈しみ深い細波
それが梨華をひたひたと満たしていく
心地いい・・・それにわたし・・・この感じを知っている気がする
なんだか懐かしいよ
あれ?わたし・・・何をしてたんだっけ?
あぁ・・・あ、そうそう真希ちゃんと、ソフトクリームを食べに
行くんだ・・・え、違うよ?わたしは誰かを探してて・・・でも、でも
真希ちゃんはここにいるし・・・
299
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:39
梨華は混乱してきた頭を必死で整理しようと考える
と、真希が突然足を止めた
「ねー梨華ちゃん?
ソフトクリームは明日にしない?
今日はお店、メッチャ混んでるよ。せっかく梨華ちゃんが
ごとーに会いに来てくれたのに、もったいないっしょ?」
そう・・・そうだよね?
わたしは真希ちゃんに会いに来たの・・・
やっと会えた、ずっと会いたかったんだよ?
「真希ちゃん・・・・・」
「・・・ずっと待ってた、やっと戻ってきてくれたんだね?
ごとーのとこに」
「梨華ちゃんっ!!!」
300
:
水のブレス
:2004/10/07(木) 22:39
誰かに大きな声で名前を呼ばれて、梨華の身体がビクッと
反応する・・・声のした方を見ると
スラリと背の高い、色白の整った顔をしたボーイッシュな
女の子が自分に向かって手を振ってるのが見えた
あれ?・・・あの人・・・あぁダメッ・・・
・・・頭が割れそう・・・痛いよっ・・・ダメ、考えられない・・・
「ま、真希ちゃん・・・頭が、頭が痛いよぉ・・・」
「可愛そうに・・・梨華ちゃん、ちょっと待ってて」
頭の血管が切れてしまいそうな激痛に、梨華は目を開けている
ことさえ辛くなってくる
もう・・・もうほんとに・・・・・ダ、メ
梨華の意識があまりの痛みの高波に飲まれそうになった刹那
紙袋を足元に置いた、真希の腕の上を滑り落ちるブレスが
ギラリと光を放つのが、・・・見えた、気がした
301
:
Sa
:2004/10/07(木) 22:40
更新しました
夏休みどころか秋休みまで取ってしまいました
すっかりお待たせしてお詫びのしようもありません
ほんとに申し訳ないです!ごめんなさいっっっ
219名無し様
折角迎えて頂いて、また家出しちまいましたが、まだ待って
下さっているのでしょうか?(汗
作者のペース・・・カメよりのろくてすいませんっ(ペコリ)
読者@219様
いや〜リフレッシュのハズが遠出しすぎて、行方不明に
なるとこでした(汗
喜んで頂けてたのにすいませんっ(ペコリ)
JUNIOR様
作者が逃げ隠れしちまいましたね、もう夜逃げ同然(汗
色々考えてはみたのですが、なかなか書けなくて・・・
ほんと、すいませんっ(ペコリ)
302
:
JUNIOR
:2004/10/11(月) 01:38
更新お疲れさんです。
吉澤さんが待つのを嫌うのは分かりますね。(汗
うちの場合トイレだとかなり嫌ですからね。
異性に間違えらr(ry事が多々あるんで・・・(泣
次の更新も首を長〜くして待っております。
303
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:56
真希は、湖のほとりに足を投げ出して腰を下ろした
「ねー
今日さ、やっと見つけたよ?
今度は間違いないって・・・そりゃぁ瓜二つってわけじゃないよ?
けど似てる、似てるんだ」
湖面に映る少女の影が、からかうように揺れる
「・・・え?
いちーはここにいるだろ?って?
・・・わかってるよ・・・だけど、いちーちゃんは・・・
いちーちゃんは、そこから出てこれないじゃん?」
真希は湖面から目を背けた
そして、思い直したように笑顔を向ける
「今日会った子ね?スゲー女の子っぽいんだぁ〜だからパッと見は
似てないって思うかもしんない、けど・・・なんつーの?
ごとーには分かるんだ・・・魂とか?大袈裟なこと言っちゃうけど
そういうのが似てる感じ
だからきっと・・・いちーちゃんも気に入るよ?」
304
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:57
湖面に映る少女の影が、喜ぶように波立つ
「・・・待ってて
今度はきっと上手く行く・・・あの子が器なら、いちーちゃんきっと
きっと戻って来れるからね?
・・・昔、よくごとーを抱っこしてくれたよね?
これからはごとーがしてあげるから・・・」
真希は湖面に手を伸ばすと、そっと水面に指を滑らせる
そこに映っていた少女の影は、つかの間消えてはまた現れた
妖しい微笑みを称えた表情で、湖面を覗き込む真希を見つめる
− ほんとかな?
− またお前はいちーを置いてくんじゃねーの
305
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:57
真希は頭の裏側から響いてくる声に、必死で首を横に振る
「ごめんっごめん!・・・マジでごとー、知らなかったんだ・・・
許して?・・・ねぇ許してよ?いちーちゃん・・・
今度は離れたりしないよ?何があっても絶対、傍にいるから!
だからもう・・・ごとーを責めないでよぉ・・・」
青白い月の光が反射して、怯えるように頭を抱えた真希の腕を滑り
落ちるブレスを銀色に輝かせていた
306
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:58
ひとみは深く溜息をついた
ベッドサイドに引っ張ってきた椅子に腰掛けて、梨華の寝顔を
見つめ続けて、いったいどれくらいたっただろう?
あいつ・・・梨華ちゃんにいったい何をしやがった?
307
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:59
梨華と親しげに微笑みを交わしていた少女
二人は、ひとみのいるソフトクリームショップに向かっている
ようだった
あれ?梨華ちゃんだ・・・隣りのヤツ誰だよ?
友達?偶然?・・・あんなヤツ学校では見たことねーぞ?
ひとみが、二人の姿に目を凝らした時
あの少女がこっちを見たのだ 離れているのに、真っ直ぐに自分へと
注がれる視線をひとみは感じた
少女は足を止めると、梨華に何かを話かけている
今にも来た道を引き返しそうな素振りに、ひとみは慌てて梨華の
名を呼んだのだ
声に反応するように、ひとみを見た梨華の表情
あの顔は・・・
308
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 20:59
なんて言えばいいんだろう?
・・・そう
記憶を手繰るような眼差し
梨華の眼はひとみに聞いていたのだ
あなたは誰?と
ありえねーーー
一瞬、ひとみの頭は目の前で起こった事柄が受け付けられないと
言うように、真っ白になりかけた
梨華が見ている自分のことを・・・なのにこっちに来ようとしない
何故か見知らぬ他人を見るような警戒心を露にした眼の色で
ただ、ひとみを見ているのだ
けれど、その直後、梨華が頭を抱え出した
ひとみは我に返って、並んで待っていた列から飛び出すと二人のもとへ
駆け出したのだ・・・その時
ひとみの身体に異変が起こった
309
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 21:00
身体中を流れる血液が、まるで鉛に変わったように、重力を増した
自分の身体が、自分のものと思えない程、重くなり、ズブズブと
沈んでいくような錯覚
前へ出そうとした足が縺れて、ひとみはそのままつんのめると
方膝を地面につけた
頭で脈打つ血の流れも、ドロリと濃度を濃くしてそのまま止まって
しまいそうな気がする
ひとみは意識が遠のくのを感じた
・・・しっかりしろっ!
・・・アイツにリカを渡してはいけない
ひとみの体内の奥深いところから、響いてくる声
その声に反応するように、左手の指輪が淡く輝き出した
すると
310
:
水のブレス
:2004/10/28(木) 21:00
ひとみの指輪から、形のない風のうねりが噴出し、一直線に
少女へと向かい、その身体を吹き飛ばしたのだ
少し遠い位置からでも、凍えた水膜が張っているような、少女の
冷徹さを感じさせる目線が自分から外れると、ひとみの身体の異変は
何事もなかったかのように収まっていた
自由に動けるようになったひとみは、梨華に向かって駆け出した
少女はスッと立ち上がると、横に置いてあった荷物を手に
梨華から離れて行こうとしてる
少女の横顔が立ち去る間際に、何事かを梨華に囁いているのが
見えた けれど落ちてくる髪の流れでその表情は見えない
ひとみは、倒れた梨華を抱き起こしながら、大きな声を出した
「待てよっ!」
少女は、一瞬足を止めたけれど・・・振り返ることはしなかった
311
:
Sa
:2004/10/28(木) 21:01
更新しました
JUNIOR様
ボーイッシュ(?)なのですねぇ〜
貴方様がキリンさんになってないとよいのですが(ニガワラ
作者の中で、話が今だまとまってくれないので、暫くの間
この様な状態が続くかと思われますが、変わらず読みに来て
下さるのなら、こんなに嬉しいことはないです(ペコリ)
312
:
JUNIOR
:2004/10/29(金) 00:23
更新お疲れ様です。
うむむ・・・ごと−さんきになりますね。
キリンにはなってませんよ、まだ・・・・。(笑い)
え!?読みますよ、絶対読みますよ。
人間簡単に変われるものではないですよ!
安心してください。ウチ言われても説得力ないっすよね(ニガワラ
313
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:34
風が吹いている・・・
さわさわと
ひとみの額に流れ落ちた、一筋の髪で遊ぶように
ひとみは薄く目を開ける
レースのカーテンが夏の湿った夜気を払って、揺れている
うたた寝をしてしまったらしい
ぼんやりとした頭で、そう思ってから、ひとみはハッとしてベットを見た
そこには、薄い夏掛けの布団が抜け出した主を、待ちわびる忠実な僕の
ように丸まっている
そして枕元には、ほの白く揺らめきながら淡い光を放つ指輪が、ひっそりと
息づくように転がっていた
314
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
足を一歩、一歩と前へ出しながら
梨華は自分の前を、誘導するように進んで行く、影を見ていた
ふいに、闇が濃くなる
振り返ると、さっきまで静々と後ろから付いてきていた、プラチナの
細い月明かりが、流れる雲にかき消されていた
− 待ってるから −
誰かが、囁いた
あれはだあれ・・・?
知ってる、知ってる、あれは真希ちゃん
真希ちゃん?・・・って?
ふいに、梨華の記憶が、受信し損ねた映像のように大きく揺らいだ
すると体中の血液が、思い出せと言いたいみたいに、脳へとドクドク
その名を刻みながら、注ぎ込んでくる
真希ちゃん、真希ちゃん、そう、あの子は真希ちゃん
子供の頃、夏の避暑でここに来ていた真希ちゃん
人懐こい笑顔で、話しかけてきて、友達になった子
大きな湖のほとりで、毎日のように話をして、笑い合った相手
315
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
明日、会ったら返すから・・・だから今日だけ、これ貸して
真希ちゃんは、わたしの手からブレスレットを抜き取ると、夏の突き抜ける
ような青い空の下で、そう言って手を振っていた
ブレスは真希ちゃんの手元で揺れていた、空の青に輝きながら
夏祭りで買ったブレス、わたしの宝物
ちっちゃいガラス玉が、まるで本物の宝石のように
透明な日の光や、深い水底の藍色や、生い茂る濃い緑を映して色を
変える美しいおもちゃ
あの日、真希ちゃんは明日も会おうって、そう言っていたのに
なのに…どうして会わなくなったんだっけ?
梨華は頭の中で、読み聞かされる絵本のように、次々浮かんでくる
真希との思い出の先を、辿ろうとする
違うよ、それはわたしじゃない…
自分の鼓膜のずっと奥から、悲しげな呟きが震えるように伝わってきた
気がして、梨華はつかの間、足を止める
316
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:35
美しい夏の記憶、いまより幼い子供の真希
その姿は写真のように鮮明に思い出せるのに、その横にいるはずの自分は
切り取られてしまったように、姿が映らない
真夏の強い太陽の日差しが作り出す、大きな影に呑みこまれてしまった
みたいに、そこには、ただ黒いだけの人影がいて、それが自分らしいと
思えるだけだ
その自分へと目を凝らし出すと、急に全ての光景が色褪せて、薄ぼんやりと
してくる
まるで、誰かの幻想を盗み見しているようで、遠い記憶を手繰り寄せようと
顔をしかめて、梨華がまた歩きだした時
疎らだった木立が抜け、目の前に大きな湖が現れた
大きく傾いだ木の影から、のそりと誰かが寄り添っていた体を起す
「やぁ、待ってたよ・・・」
「・・・真希ちゃん?」
梨華の声に、真希は満足そうに目を細めると、そっと顎を引いた
「ここ・・・いつでも、待ち合わせしてた場所
憶えてるよね?・・・だからこうして来てくれた」
317
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:36
真希は、歌うように言いながら、梨華に近づいてくる
その足元で水辺の湿気を含んだ夏草が、キュッキュッと小さな音をたてた
真希は大きく片手を広げて、梨華の手を取ると湖のほとりに連れていく
「・・・ずっと変わらない、毎日ここで会ってたあの日から・・・
ごとーは・・・何も変わってないんだ」
ほら
真希は、梨華を促すようにそう言いながら、漂う影のような水面を
覗き込む
そこには、何かを堪えるように口許を歪めた真希の顔が映っていた
わたしは・・・知ってる・・・
ふいに梨華は強くそう思った
こんな風に自分だけ置き去りにされたみたいに、昔のことを話す人を
横にいる真希の顔を、梨華が覗きこむと、大きな喪失がそこで再現
されているかのように、哀しい眼の色で湖を見ていた
318
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:36
前にも何度か同じことがあった気がする
わたしは昔のことを覚えていなくて・・・そう、何故か、忘れていて
だから、とても哀しい眼をさせてしまった誰かを見ていた
あれは・・・真希ちゃんだったの?
だとしたらわたしは、その時なんで言ってあげれなかったんだろう?
わたしは目の前にいるのにって
真希は、まるで湖岸に秘めやかに咲く花のようだ、と梨華は思った
世の中には、まるで他の誰も存在していないと言うように
水面に映る姿だけが、いまここにいる自分との繋がりだと言うように
湖面を見つめ、一人で立ちつくし続ける姿
そんな真希を見てると、梨華は耐え難い切なさに襲われる
自分のことを想ってくれる誰かが、まるでその体の一部を切り取られた
ように、顔を歪め何かに耐える顔など、もう二度と見たくはないと強く
思ってしまう
「・・・真希ちゃん」
梨華の呼びかけに、真希が顔を向ける
319
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:37
「わたし・・・ここにいるよ?
ほら、真希ちゃんと並んで映ってる
ね?真希ちゃんは一人ぼっちじゃないでしょう?」
真希はハッとして、目を見開いた後
水面に少女が二人映っているのを見て、大きく息を吐く
見る間に、目許に透明な雫が湧き上がってきて、泣き笑いのように
その表情は崩れていく
「・・・やっぱり、やっぱりそうだった」
真希は感に堪えかねたように、言葉を漏らすと、振り返り両腕を広げて
梨華を思い切り抱きしめた
「・・・よかった
ごとーの前から、いなくなったりしてなかったんだね?
ずっとここで待っててくれてたんだ・・・昔みたいに
見た目は変わってしまったけど、こんなに待たせちゃったごとーが
悪いんだ
ごめんね?一人にして・・・ごとーは・・・ごとーは・・・ずっと、ずっと
探してたんだ、諦め切れなかった、諦めなくてよかった」
真希がずっと自分を探して、こんなに求めてくれていたことを
なぜ忘れていたのだろう?
320
:
水のブレス
:2004/11/18(木) 20:38
梨華は自分自身に疑問を感じながら、夜気に湿る真希の体に、躊躇いがちに
腕を回した
トクトクと真希の体から、その存在の源のような水音が伝わってくると
梨華は、全てのことが、思い出す必要も、考える意味もないような気持ち
へと、流されていく自分を感じた
それはまるで、忘れることでしか得られない癒しのようだった
「・・・やっと・・・会えたね」
吐息のような声が耳にかかった時
真希とは違う、他の誰かのシルエットが、頭の片隅に浮かんだ
・・・やっと・・・会えたね
鼓膜からではなく、頭のずっと奥から、その誰かの声が、リフレインして
自分に語りかけてくる
けれど、真希の涙で濡れ頬が、愛おしそうに、自分の頬へと頬づりされると
もう、その声さえも、忘れてしまえばよいことのように思えるのだった
321
:
Sa
:2004/11/18(木) 20:38
更新しました
JUNIOR様
もしや?!キリンさんに・・・ry
書きたいテーマも流れも頭にはあるのですが、それを文章にする力量が
ないのだと、この話で煮詰まって、つくづく実感している作者です
人は簡単には変われない、まったくもってその通り・・・ですが
そこには価値という付随項目があるのでは?と初冬なのにヤ〜な汗が・・・あはっ
322
:
読者@219
:2004/11/19(金) 01:38
お疲れ様です。
いつ読んでも良いですねー。
無理しないで、気長に書いて下さい。
しかし、これからどうなっていくのか興味津々です。
323
:
JUNIOR
:2004/11/22(月) 23:59
更新お疲れ様ですぅ〜。
気になるところで切るなんて・・・あなたも悪ですねw
あと、キリンにはなってないです。缶詰にはなってますが(笑)
お風邪に気をつけて。無理しないでください・・・ね。
324
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:09
梨華は真希の家につくと、疲れ果てたように眠りに落ちた
真希は、開け放った窓から入り込む夜の風に、さらりと揺れて
額へと落ちた、梨華の前髪をそっと梳いた
ふいに、梨華の口許が微笑むように、可憐に綻んで
つられて微笑みそうになった真希は、その後、梨華の唇が象った
自分以外の名に凍りついた
「……ひ、とみちゃん…」
夢見るように、優しく歌うように、真希の鼓膜の奥へと、運ばれた名前
…誰?
瞬きするような、ほんの僅かな間
真希の脳裏に、一人の少女の姿が浮かんで、消えた
昼間、見た…あいつ?
…待てよ!って、ごとーにそう言ってたっけ
威嚇するような口調、好戦的に放たれる眼の強い光
325
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
あいつはごとーと同類だ、なんとなくわかる
…渡さない、梨華ちゃんは渡さない
もう、ごとーのだもん、そうだよね?
真希は梨華の寝顔に、優しく微笑みながら語りかけた
「…忘れて?
全部忘れて…梨華ちゃん以外、ごとーはいらないから
だから梨華ちゃん?…みんな、みーんな忘れちゃってよ、ね?」
326
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
真希は子供の頃、軽い喘息だった
幸い、季節の変わり目や、梅雨の時期がくるたびに発作に怯えるほど
重症ではなかったけれど
治ったかと思いきや、秋になると過敏な粘膜は、真希の呼吸を
妨げようとするように、咳を繰り返させた
夏休みの間だけでも、空気のきれいな所で過ごした方がいいんじゃないかしら?
前年は秋口から、二ヶ月あまり、酷い咳に学校も休みがちになってしまった
真希に、母親はそう言った
幸い、空気の澄んだこの土地に、母方の祖母が一人で住んでいた
仕事を持っていた母親は、その年、真希が夏休みになると
祖母の家へ連れてきて、真希を一人残すと、家へと帰って行った
今から五年前、真希が小学校六年生の時だった
327
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:10
祖母は真希にとても優しかったけれど、真希はやはり寂しかったし
つまらなかった
ある日、散策に出た湖のほとりで出会った一人の少女
どこか少年のような佇まいと、か細い体の線、そして妙に大人びた瞳の色
いくつか年上だったのかも知れない
けれど、同年代の子供を見つけた真希は、嬉しくて、なんの躊躇もなく
近づいて行き、二人が親しくなるのにそう時間はかからなかった
その子は、自分のことを、いちーと呼んでいた
だから真希は、いちーちゃんと呼ぶことにした
「いちーちゃんのうちってどこ?」
真希が聞くと、いちーちゃんは笑って、適当な方向を指差すだけだった
二人でいると、話すのはいつも真希ばかりで、真希はいちーちゃんの
ことを何も知ることが出来なかった
だからこそ……知らなかったのだ、真希は…
いちーちゃんが、もう……
今も真希の腕のブレスだけが、いちーちゃんが真希と過ごした、あの夏の
日々を幻ではないのだと、真希を繋いで離さない
328
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:11
ごとーのせいだ、ごとーがあの日、約束どおり行きさえすれば…
…何度、思ったことだろう
いちーちゃんのブレスを、真希が付けて帰った翌日は、酷いどしゃぶりの
雨だった
それでも真希は、出かけようとした、約束通りこのブレスを返す為に
けれど、それを祖母に止められたのだ
お友達もこんな雨の日に、出かけやしないさ
そう、だよね…いちーちゃんもこんな雨だもん、来るわけないよね?
これのこと、いちーの宝もんだって言ってたけど
明日返すって言っちゃったけど、もう一日くらい、いいよね?
真希はバケツをひっくり返したように、ずぶ濡れの窓の先を見ながら
緩いブレスを、腕の上であやすように擦った
ところが雨は、次の日も、その次の日も止まず
雨脚は途絶えがちになっても、避暑地の清らかな空気は、一足早く
秋が訪れたように冷たいままで、真希の咳を誘発した
真希が一日中咳き込み、外出禁止となったのは、約束の日から五日たった後
で、あった。
329
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:11
次の日の夕方には母親が自分を迎えにきて驚いた
夏休みは、まだ十日ほど残っていたから
まだここにいたいと言う真希に、母親は今日以外、仕事で迎えに
来れる日はないから、明日帰るのだと言う
真希は、自分がいる祖母の家の話をいちーちゃんにしていた
遊びにおいでよ?と何回か誘ったこともある
そのうち、訪ねてきてくれるかも知れない、そう思った真希は
ブレスと手紙を祖母にたくして、この地を後にしたのだ
手紙には、自宅の電話番号もかいたから、暫くの間
家の電話が鳴るたびに、真希は期待したり、失望したりを
繰り返していた
夏休み明けまで待っても、いちーちゃんからは連絡がこなかった
何度か、祖母に電話をしてみたりもしたけれど、いちーちゃんは
ブレスを取りに来てはいないようだった
そして翌年、祖母は体調を悪くして入院してしまい、さらに次の年
に亡くなってしまった
その次の年は、真希は高校受験の為の夏期講習に追われて過ごした
そして
去年の夏前に、この土地は避暑地としてなかなか人気があるところ
だから、今は住む人のいなくなった祖母の家を売りに出そうかと
言う話が出て、真希は思い立って、四年ぶりに訪れてみたのだった
330
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:12
ついでに、少し荷物の整理をしてきて、と母親に頼まれて
真希は見つけたのだ、このブレスを
懐かしい記憶が、過ぎ去った時間に追いつくまでに少し時間が
かかった
その女の子の、あの子の名前を思い出した時
真希は懐かしさに、唇が綻んだ
…そうそう、いちーちゃん
ショートカットの黒髪が、湖面を渡る夏の風にそよいでた
真っ直ぐ前を、少し睨むように見つめてる涼やかな瞳の光
キュッと結ばれた、あまりしゃべらない口許
いちーちゃんは女の子だったけど、あの頃の、甘えを含んだ
あの子を慕う自分の気持ちは、少し恋に似ていたと、真希は
懐かしく思い出していた
真希はいちーちゃんが、この土地に住んでいるのか、自分と
同じように避暑にきていたのかさえ知らなかった
四年の歳月は、あの子を変えただろうか?
そして自分も変わってしまっただろうか?
331
:
水のブレス
:2005/01/19(水) 15:13
いま、もし偶然、道端で会ったりしたら、お互いわかるかな?
そんな想像をしながら、駅前を歩くのは、真希にとって心弾む
楽しい一時だった
332
:
Sa
:2005/01/19(水) 15:13
更新しました
またもやエラく時が経ってしまいましたが…cy
しかし今日は、石川さんの記念すべき二十歳のバースディですねっ!
おめでとう!心から、おめでとうっ!
今日は寒いから、貴女が温かさに包まれた一日を過ごせるよう
祈っております
読者@219様
不実なこの連載を待って頂いて、ほんとうに幸せに思います
興味を持って下さり、とても嬉しいです
時間がかかりそうですが、前進させて参りますので、これからも
お付き合い頂けたら、と思っております
JUNIOR様
変わらずに、お付き合いして下さること、ほんとうに幸せに
思っています
確かに、ある意味、悪ですよ?作者はw
いまはさぞかし、お忙しいことでしょう、あなた様こそ無理を
なさらないで下さいましね。
333
:
名無し
:2005/01/22(土) 03:26
すごくいいなあ・・・
続きも期待してます
334
:
JUNIOR
:2005/01/22(土) 14:45
お久しぶりです。
また、いいところで切られますねw
ちなみにまだ、受験生ではないので好きなだけSaさんの小説が読めますw
335
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:28:56
その日…
昼前から降り出した雨は、夕方にはあたりを白くけぶらせるほど、
激しいものに変わっていた
玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けた真希が見たのは、体中から
水滴を滴らせ、蒼白の顔をした中年の女性が立ちつくす姿だった
「こ…子供が来ませんでしたか?」
「…うちに、ですか?…いいえ」
真希は、困惑して眉を寄せた後、只ならぬ様子に言葉を続けた
「…何か、あったんですか?」
実は……その女性は、玄関先で、足元に小さな水溜りを作りながら
戦慄かせた唇を開いた
336
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:29:31
その女性は、この家から湖の反対側に位置する孤児院から来たのだと言う
子供が一人、戻ってこないので探してる、という話だった
自然に囲まれた土地柄だし、子供たちが敷地の外に遊びに出てしまうことにも
普段なら、そう慌てたりしないことらしい
けれどこんな天気の日に、たった一人で、と言うのが気になり、手分けをして
この辺りの家を、回っていると言うことだった
「…湖の傍は、雨が降るとぬかるんで危ないでしょう?
万が一、足を滑らせていたりしたら…
あの事件の後は、私どもも子供たちに再三注意はしているんですが…」
女性の表情が一層曇り、それを見た真希の目の前に、急に、言いようの
ない影が、ストンと落ちてきた気がした
「…あの、事件って?」
「あ…お嬢さんは、この土地の方ではないのかしら?
新聞にも載ったんですよ?…うちの子が、あの湖で亡くなったんです
もう、四年も前ことです……その子はとてもしっかりしていたし、もう
中学生でしたから…お友達の家にでもいってるんだとばかり思っていて
探しに出たのが遅かったのが、いまでも悔やまれて……」
337
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:29:59
真希に目隠しでもしてみるかと企みごとを謀ったような、影が…
広がって行く…淑やかな淑女のように、そっと、その腕の中に
足音一つ立てぬ間に、全てを抱え込んでしまおう、と
それは、あっと言う間に暗幕の中に、真希を閉じ込めた
その後女性と、どのような会話を交わしたか、憶えていないくらいには
一人になった真希の頭の中に、ぽっかりと浮かんでくる
あやふやな雲のような姿、見方によって、姿を変えるそれは、
次第に、いちーちゃんの顔を作り出して、真希を慄かせる
ち、違う…違うって!バカバカしい…
笑い飛ばそうとしたけど、顔が引きつって、上手く出来ない
名前……その子の、名前を聞けばよかった
真っ暗な洞穴の中に閉じ込められた、一匹の動物のように
落ち着きなく、リビングを彷徨い歩き出した真希は、震えだす唇に、
親指をあてがうと、爪をギリリと噛んだ
338
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:31:04
そして次の日
真希は図書館で、当時の新聞を探しあて、見つけたのだ
詳しい状況がわからないので、ぬかるみに足をとられて、湖に
滑り落ちてしまったのだろうと、事故死扱いで書かれていた文面と
イチイサヤカ……と言う名前を
…ごとーのせいだ
真希の頭に浮かんだのは、この言葉だけ、だった
339
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:31:36
真希はそれから暫くの間、毎夜、いちーちゃんの夢を見た
湖に沈んでいく姿を
助けようと差し出した真希の手はけっして、届かない
繰り返し、繰り返し…空を滑り落ちるだけ
水底から、自分を見据える二つの眼光、訴えてくる暗い影
…もうこれからは、ずぅーっと忘れさせないよ…一時もね
…いちーはさ?許せないから、約束を破って、平気で忘れてた
…ごとー、を、ね
おそらく、事件直後に知っていれば、真希はここまで囚われることは
なかったのかも知れない
大声で泣き、悼み、忘れてしまうことは叶わなかったとしても
時とともにその存在を、小さくしていく道はあったのかも知れない
けれど、真実を知らずに過ごした年月が、二重の責めとなり、余計に
真希を縛り、責め続けた
全ては…お前が悪いのだ、と
そして、日を重ねるごとに、その罪の意識は、どうにもならない
大きさに育ち、真希を雁字搦めにしていったのだ
340
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:32:06
夏休みが終わって、家に帰っても、真希はそのことにとりつかれ
他のことは、ほとんど、考えられなくなっていった
…ごとーは人殺し、だ
病的に思いつめ出した真希は、表情を失くし、ほとんどしゃべらなくなり
時折、狂ったように暴れたり、叫んだりを繰り返した
学校が冬休みに入る頃には、日常生活にも支障をきたし、見かねた
母親に病院に引きずって行かれた
医師の問いかけの全てに、ただ薄ら笑いを浮かべ、自分が悪いから、
と、繰り返す真希に
何らかの強迫神経症の疑いあり、と、診断を下された
現代社会は、ストレスの坩堝です
お嬢さんは繊細なのでしょう、幸い、学校もお休みに入る時期ですし
暫く静かな所で、ゆっくりと過ごされてはいかがでしょうか?
そして真希は、冬休みを、また祖母の家で過ごすことになった
341
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:32:43
毎日、湖を見て過ごした
磨き上げられた鏡のように、冴え冴えと凍った湖を見ていると、
真希の心は、シンと落ち着いていくのだった
真希が普段通りに戻ったので、家に帰ろうと母親が言うと
真希はパニックを起した
急に心臓が鷲掴みにされたように、苦しくなるのだ
そんな姿を見た母親は、真希をこのような状態にする要因が
学校にあると、解釈して、落ち着くまで休学させ、真希をこの地に
残して行くことを決めたのだった
真希は安堵した
もう学校など、どうでもいいのだ
すべてがどうでもよかった
342
:
水のブレス
:2005/01/26(水) 22:33:12
けれど死のうとは、不思議と思わなかった
真希にはしなくてはいけないことが、唯一つあったから
それは、いちーちゃんを思って、この地で過ごすこと
だからこの場所から、離れてはいけないんだ、もう二度と…
それに、ひょとしたら、たまたま苗字が同じだけで、湖に沈んだ
女の子と、あの、いちーちゃんは別人かも知れないから…
捜さなくちゃ、捜さなくちゃ、いちーちゃん、きっと待ってる
ごとーを待ってるんだよ…
強迫的な恐怖は、仄かな希望を真希に示した、けれどそれは虚構の淵へと
誘い込み、真希をこの地に縛り続ける楔になったのだった
343
:
Sa
:2005/01/26(水) 22:33:48
更新しました
名無し様
ほんとですか?嬉しいです
ご期待に添えるかはわかりませんが、突き進みますw
JUNIOR
ほんとにおヒサっすね〜…およ、イイトコでしたかw
そして作者は、一年勘違いしてるんですかね?
344
:
Sa
:2005/01/26(水) 22:37:17
わわっゴメンなさいっ!
↑呼び捨てかましてしまいましたっ
JUNIOR様ですっ!
毎回のレス、感謝してますよぉ〜JUNIOR様!!!
345
:
JUNIOR
:2005/01/27(木) 22:35:26
ごっちん(;´Д⊂)
とっても健気でこっちの心境が複雑・・・。
ぶっちゃけ呼び捨てでいいですよ(笑)
一年勘違いしてましたか。(笑)
いやぁ、Saさんは小説もレス返しも面白くて好きです。
346
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:14:00
わたしは知ってる…この景色、この感じ
微かな風に髪がなびいて、梨華の頬をそっと撫でる
しっとりと水分を含んだ風は、懐かしさと呼べるような淡く、甘やかな
気持ちを呼び起こしはしない
それは、湖面から流れてくる風が深く哀しみに濡れているようで
梨華の眼に映る、湖の姿さえもどこか痛々しい
美しいのに、幻のように美しいのに、ただ静かで、そして…孤独
真冬に吐かれた、生き物の吐息のように、あやふやな靄が、湖を包んでる
だけど、そこにはほんのささやかな温もりすら、感じられない
だから覗いてみなくても、梨華には、はっきりと見える気がした
冷たく凍えて、吸い込まれそうに透き通った水面が…
347
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:00
ふいに、人の動く気配がして、梨華は目を凝らした
薄く漂う靄の先に、温かな気配を感じて、梨華は近づいていく
なぜかはわからないけれど
ここに一人でいることは、とても危険なことのように思えた
あまりに寂しくて、だけどその寂しさは逃れることを許さないと
いいたいみたいに、自分を捕らえてしまいそうだったから
湖面を見ていた人が、ゆっくりと振り返った
……あ
・・・お久しぶり…で、いいのかしら?
振り返った人は、鏡で映したように、梨華と同じ顔で微笑んだ
348
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:30
茫然と立ち尽くす梨華に、彼女の唇が微笑みを広げていく
・・・忘れちゃったかしら?私とお話したこと
忘れるわけなんかない、梨華は唇を軽く噛んだ
忘れたくても忘れられない…だって、あなたはわたしだもの
ふっと頭にかかってたフィルターが外れたように、梨華の頭の中に
ヒトミの姿が浮かんだ
あなたのこと…ずっと忘れられない人がいるの
たったひとりで、、孤独な眼の色をして、あなたの存在をわたしの
中に見出そうとしてる人
とても哀しい空気を纏っているのよ?
それをあなたに教えたい
まるで、この湖の景色のようだから…
・・・貴女、大切なものを忘れてる
349
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:15:59
自分に向けられた言葉を、それはあなたの方なんじゃないの?
そう、梨華は言いかけたけれど、彼女のどこまでも優しく、包みこむ
ような眼差しとぶつかって、結局、黙ってしまった
彼女の目線が、梨華の顔から、流れるように落ちて、自分の指先の
上で止まった
梨華もなんとなく、その視線の後を追うように自分の手をみて
目を見開いた…指輪がない
外した覚えなんて、まったくないのに…
・・・違うわ、指輪のことなんかじゃないのよ?
・・・貴女が一番、大事だと想ってるものは、なに?
彼女の問いかけが、梨華の頭の中に響くと、ふいに目の前の靄が
少しずつ、晴れていくような気がした
天空から、温かい木漏れ日が、きらきらと、自分の上に落ちてきて
湖を囲む木立の輪郭に光があたって、影をつくる
その、頭に浮かんでくる姿に、自然と、梨華の顔が綻んでいく
そっと、その姿に呼びかけるように、名前を唇に乗せた
「……ひ、とみちゃん…」
350
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:16:25
梨華が、ひとみの名を呼んだ瞬間
梨華の頭の中で、歪な響きが大きな音をたてる
それは、キンキンと高い音を発して、何も考えられなくなるほど、梨華の
頭の中を占めて、エコーし続けた
─── 忘れて、忘れて、忘れて、全部忘れて、忘れて、忘れて
や、ぁぁぁ……
猛烈な頭痛に、梨華は声を上げることも出きずに、その場に蹲った
…大丈夫、労わるような、深く染み入るような声が、梨華の耳元で
囁いた
・・・身体の力を抜いて、構えてはいけないの
・・・その声に、抵抗しようとしないで受け止めるのよ?
・・・だけど、流されては駄目
・・・声に反応しないで、心を静かにして、ただ受け入れてあげる、それだけでいいの
そ、そんなことっ簡単にいわないで!
351
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:16:50
梨華の気持ちが、苛立ちに泡立つと、その声もその感情の波を
感知したように、浚う波を高くして、梨華を飲み込もうとする
…いけない
落ち着いて、落ち着くの
梨華は自分に言い聞かせながら、深い呼吸を繰り返した
すると、その声がとても悲しんでいるように梨華には感じられた
底のない暗い穴から吹き上がってくる、細い悲鳴のような嘆き
けれど同情を感じるには、梨華はその声が、なぜそこまで絶望している
のかがわからない
だから梨華は静かに受け止め続けた、その哀しい叫びを
352
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:17:17
梨華を浚おうとした波は、静々と引いていった
いつの間にか、瞑っていた瞼をゆっくりと上げていくと
目の前に、穏やかに微笑する、自分と同じ顔
・・・合格、彼女の声が梨華の身体に、張っていた緊張の糸を解いて
梨華は、顎を上げて、大きく息を吐いた
・・・人の身体は、そのほとんどが水分でしょう?
・・・水の意志は癒しと、同調だから、流れ込んだ先の感情の波と同調して
・・・それを繰り返して感じさせたり、体内を流れる水の気を狂わせたリするの
梨華は彼女の顔を覗き込むようにして見た
彼女は微笑んでいたけれど、なぜだか梨華の胸の中に響いてくる
声は泣いているように震えていたから
・・・貴女が、現世のひとみのことを忘れたがっていたとは言わないけれど
・・・思ってもいなかった数々の出来事に晒されて、少し疲れていたのでしょう
・・・どこかで、何も知らなかった頃に戻って、楽になりたいと
・・・そう、貴女が思ってしまても仕方のないことだと思うの
・・・だけれど、貴女が忘れてしまったら、ひとみは一人きりで戦うの?
・・・それは…それは、あまりに辛いわ
353
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:17:44
なぜか彼女も、深い哀しみを抱いている、と梨華は思った
ヒトミの前には、けして現れようとしない彼女
いつもひっそりと、自分を守ろうとしてくれる彼女
彼女は、わたしに何を託し、ヒトミに何を望んでいるのだろう?
・・・人は…忘れてしまう生き物なの、それが自然な姿だから
・・・だからこそ、忘れたくないと、想いを強く心に刻むのでしょう
・・・だけれど、記憶はあやふやなもので、長い年月の間に姿を変えてしまうから
・・・一人きりでいれば、いるほど、書き換えてしまうの
・・・失った哀しみや、寂しさに耐える自分の理由を見つける為に
やっぱり彼女は泣いている
ひとりきりで、涙を流すことさえも忘れてしまったように
梨華の頬に涙が流れた
ただ、哀しかった…そんな彼女の姿が、美し過ぎる湖の景色が
堪らなく哀しかった
354
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:20:07
- - - - -
355
:
水のブレス
:2005/02/03(木) 14:22:01
真希はふっと、目の前で眠る梨華の頬に、音もなく静かに流れていく涙に
気がついて、胸が…微かに痛んだ
ねぇ、梨華ちゃん?
あなたは忘れたくないの?…あのひとみって、子のこと…
……ほんとは、ごとーが…
真希は、そこで思考を止めた
梨華の頬を伝う涙に、指を伸ばしかけて、それがあまりに澄んでいて
美しかったから、真希の手は宙を彷徨って、結局、ぎゅっと握られた
356
:
Sa
:2005/02/03(木) 14:22:37
更新しました
JUNIOR様
健気…と言うか、器用に折り合いが付けられないのでしょう、現実と
作者の書く登場人物、お約束パターンっすね(ニガワラ
スッゲー計算ずく、冷徹なキャラとか書いてみたいと思うんですけど…
つい内面の脆さとか葛藤めいたコト書いちゃうんで、ワンパなのは諦めましたw
そんな作者の書くモノを面白いと言って下さる方がいるのはホント救いです
357
:
読者@219
:2005/02/07(月) 01:49:46
お疲れさまですー。
梨華ちゃんの中の人(←表現変ですね・・・)が出るのは久々ですねー。
これからが益々楽しみです。
マイペースで進めて下さいね。
358
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:03:12
ひとみは昨夜、僅かなまどろみから覚めた後、一睡も出来なかった
夢の中にいるように現実感の乏しい思考の中
追い立てられ続けているように、五感の感覚だけがピリピリしている
梨華が故意なのか、偶然なのか置いていった指輪を握り締めて
濃紺から蒼へ、そして白々と明けていく空を見ていた
BGMにさえ今はならないラジオを流し、…十時です。その声と共に
立ち上がると、キッチンで一杯の牛乳を喉に流し込み、町に出た
359
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:03:42
駅前を回り、土産物屋や、飲食店で声をかける
「こんな感じの女の子を見ませんでしたか?」
自分と同じ年くらいで、艶やかな黒髪は肩の下、背の高さはこの位
華奢な身体つきで・・・
何軒もで首を横に振られ、ひとみは梨華が帰ってきたら、絶対に
プリクラを一緒に撮ろう、そしてそれを、ダサかろうと携帯に貼って
肌身離さず、持ち歩くんだ
そう、心に誓った
午後になって、避暑地と言われるこの場所でも、歩き回ったひとみの
額にじんわりと汗が滲んでくる
都会で見かけるような、洒落た大型スーパーを通りかかった
ひとみは、隔てたガラスのドア越しの冷気に誘われるように
中に入って行った
360
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:04:23
自動販売機で炭酸の缶を取り出して、簡単な休憩コーナーのように
配置された椅子の一つに浅く腰掛けた
缶を両手で挟みながら、俯いて、頭を一つ大きく振る
自然に口からは大きな溜息が漏れた
梨華は土地勘がない…だけど、高校生だ
迷ったんだとして、人に聞くなりして、戻って来れるだろう
そう思ってみても、ひとみは落ち着かない
誘拐されたなどとは思わない
かと言って、あんな時間から自分になんの断りもなく、梨華が
一人で出て行くなどとも思えなかった
少なくとも梨華の意志じゃない…そんな気がした
361
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:04:50
こんな風に捜し回ることに意味があるんだろうか?
そうかと言って、一人あの広すぎる別荘で、ただ梨華が戻るのを
待っていられるほど、ひとみは辛抱強くない
あの、少女の面影が浮かんだ
自分と同じ年くらいの凍った水面のような目をした…
ふいに賑やかに誰かが近づいてくる声がして、ひとみはハッとして
顔を上げた
362
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:05:15
近所に住む主婦なのか、小さな子供の手を引いた女性が二人
自販機の前に立った
…どれにするの?子供に声をかけて、ジュースを選ばせている
ガタンッと缶が落ちる音がして、子供は歓声を上げながら
取り出し口に片手を突っ込んだ
二人の女性はひとみの斜め前のテーブルに子供と共に腰掛けて
…今年は暑いわねぇ〜などど声だかに話だした
席の間隔が狭いので、聞く気はなくても二人の話し声は、ひとみの
席まで響いてくる
何を見るわけでもなく、ぼんやりとしていたひとみは、自分の手の中に
缶が握られてたことを思い出して、プルトップを引いた
363
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:05:53
子供たちのキャッキャと笑う声の後
…そう言えば、あの女の子が行方不明になる事件
ふいにそう、聞えてきた言葉に、ひとみはギクリと固まった
「子供じゃなくて良かったわね?」
「夏休みに入ってからでしょう?何人…?三人だっけ?
旅行者ばかりだって言うじゃない?
…だけど、あの話、ちょっとおかしいわよね?
だから新聞にも載らなかったじゃない…きっと……」
ひとみは我慢出来なくなって、立ち上がった
気が焦ったせいで、椅子がガタンッと大きな音を立てる
二人の女性と目が合い、ひとみは、すみません、と頭を下げた後
その席に近づいて行った
「…あの、その話、詳しく聞かせて貰ってもいいですか?」
二人の主婦は顔を見合わせた後、曖昧に微笑んだ
364
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:06:28
「…あなたも旅行者?」
そう聞かれて、ひとみは小さく頷いた
「じゃあ、気を付けた方がいいかも知れないわね?
と、言っても何に気をつけてって言ってあげたらいいのか、私達にも
よくわからないんだけど」
困ったように、軽く目で合図を交わして、一人の女性は話し出した
彼女の友人宅はペンションなのだと言う
そこに来た泊まり客のグループの一人が夜になっても帰って
来なかった
相手は女子高生で、気まぐれにどこかに遊びに出たのかと
友人達も最初は思ったらしかった
それでも、携帯を持って出ていなく連絡手段がないこと
日付が変わっても戻ってこないこと
などから、事件に巻き込まれた可能性も否定出来ず
ペンション側に相談された
かと言って、開放的な気分になり易い夏休み、それも旅行先でのこと
過去にも、宿泊客が門限を過ぎても戻らないことはあったし
それが事件に繋がることはなかったのだ、だからとりあえず
今晩一晩は様子を見ようと言う話になったそうだ
365
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:07:04
そして次の日の昼間
問題の女子高生は、自分でペンションに戻ってきたのだと言う
どこに行っていたのか、と聞くと、…わからないと答える
何をしていたのか、と聞いても、…憶えていないと答える
話をしてみると、何故だか昨夜の一晩だけの記憶がすっぽりと抜け
落ちているようだった
そんなバカな話が…と、周りは、女子高生が何かを隠す為、嘘を
ついている、と、そう思った
ところが……
また、まったく同じことが起こったのだと言う
行方不明になるのは、旅行者の女の子
それもたった一晩、そしてその夜のことは覚えていない、と
「…おかしな話でしょ?ちょっと気味悪いわよね」
女性は眉を顰めてそう言った
もう一人の女性が大きく頷いて、…そう言えばと口を開いた
366
:
水のブレス
:2005/03/03(木) 15:07:32
「…一人の子は、水面に映る自分を見てた気がするって言ってた
らしいわ。
確かにここには湖はあるけど、だからって一晩中……」
そこでひとみは、自分の迂闊さに歯軋りした
そうだ、自分たちは何故ここに来たのだ?
そうたぶん、水の意志に導かれたのではないか?
だとしたら……
「ありがとうございましたっ!」
ひとみが叫ぶように言うと、突然の大声で話を遮られた女性は、ギョッと
驚いた顔をして、口を半開きにしてる
ひとみは小さく目礼しながら、その場から走り出した
367
:
Sa
:2005/03/03(木) 15:09:41
更新しました
読者@219様
またまたとんでもなくお待たせしてしまって……
申し訳ないとしか言い様がありません(汗
どうしようもない程、マイペースな更新状況ですが
多分あと一回か二回で、この章もどうにか終われそうです
ですので、次回は早目に!と思っております
368
:
スライム
:2005/03/04(金) 00:19:02
初めまして!! そして、更新お疲れ様です。
前作やseekの作品などSaさんの作品はたくさん読ませていただいておりますが、
話がおもしろい上に文章がとてもキレイでいつも引き込まれています。
(作家としてもかなり尊敬しています!!)
続きも期待していますが、あまり無理せずマイペースに頑張ってくださいね(^▽^ )
369
:
JUNIOR
:2005/03/04(金) 00:26:36
更新お疲れまです。
しばらく行けなかった間にたくさん更新されてる(;´Д⊂)
やっぱりSaさんの作品は読みやすくて好きです。
まったりとマイペースで、Saさんらしく頑張ってくださいね。
370
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:54:29
窓から、夕陽がまん丸に見えた
完璧な円球、優しくて懐古的な形
昼間、あんなに熱く燃えてたのに、沈もうとする今は、穏やかささえ
漂わせて、眩しすぎることはなく、見続けていると、美しすぎて
哀しくなる、と梨華は思った
371
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:54:56
目の前にいる真希も哀しい人
自分との、かつて過ごしたとっておきのひと夏の思い出を
目を輝かして、語ってる
…あんなことをしたね?…こんなこともあったね?
真希が、美しい連作の詩集を諳んじるように語る数々の場面は
確かに梨華の記憶の中に、曖昧に残っている…けれど
夢の中でアナザのリカに会ってから、梨華は知らずに回された
目隠しが外れたように、目の前の真実の風景と、刷り込まれた
偽の光景がはっきりと見極められた
372
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:55:54
梨華が目覚めてから、真希は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた
どこか夢見るような顔つきで、焼き立てのマフィンにたっぷりの
バターと蜂蜜を塗ったものや、目の前で、器用に一房づつ薄皮まで
とって、口許に運んでくれるグレープフルーツ
そして目の前にあるのは、真希の甘酸っぱいように微笑む眼差し
真希がかつてその傍にいた、大切な誰かの代わりを自分にさせようと
していることは、間違いない
だけど、その人はどうしたのだろう?
そして真希はなぜそこまで、哀しみの鎖で自らを思い出の檻に
沈めようとするのだろう?
それともう一つ、気になるのは……
ひとみのことを頭に浮かべようとすると、感情の波がとたんに
大きく揺れた
…いけない、心が揺れるとそれを見計らうように、大きな波が
遠くから押し寄せて、全てを浚っていこうとする
忘れてしまえばいいのだ…と
何も気にすることはない、なにもかもを忘れて楽になれ、と
…違うの、わたしは忘れたくなんかない
373
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:56:23
梨華はギュッと瞼を閉じて、気持ちを落ち着かせてから
静かに、開いていく
ひとみちゃんはいま、ここにはいない
それだけが本当のこと
不安な気持ちを誘ってくるのは、影だけしかない憶測みたいなもの
大丈夫、きっとすぐに会える…また、会える
…一人きりでどこまで出来るかわからない
だけど、大きな哀しみも忘れることだけが癒しの術じゃないはず…
自分は試されているのだろうか?
梨華はコクリと小さく、喉を鳴らした
374
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:56:53
細く弓状の月が青白く浮かび上がった
澄んだ夜気に信じられない程の星が瞬いている
夕食の途中から、心ここにあらずという顔つきだった真希が
思いつめた声を出す
「…これ、食べ終わったら、散歩に行こうよ?」
「……いいよ?」
梨華は承諾したのに、真希はなぜか哀しげな眼差しになる
まるで断って欲しかったとでも言うように
……外、暗いから
真希がおずおずと差し出してきた手を、梨華が握ると、その指先が
怯えるように小刻みに震えだしたのを感じて、梨華は繋がれた手に
そっと力を入れた
「…梨華ちゃん、ごとーは……ほんとは…」
何故だか泣き出しそうな声に、梨華は隣りを歩く真希を見た
「………なんでもない。
…湖を見せたいんだ……梨華ちゃんに
梨華ちゃんは綺麗だから、湖も喜ぶよ?…梨華ちゃんみたいな
子がきてくれたら…」
それから真希は黙りこくって、ゆっくりと歩き出した
375
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 17:59:41
湖が見えてくると、真希は何かに急かされるように足早になって
梨華を湖面の際まで連れて行く
「…ねぇ?梨華ちゃん、覗いてみて
この湖はね?鏡の水面って呼ばれてるくらい、水が澄んでるんだ
こんなに星が明るい夜は、きっと綺麗に映るから…」
言われた通りに梨華は湖面に映る人影を見た
けれど、いくらいくつもの星明かりが瞬いていたとしても
ここまでの漆黒の闇を払うほどには、その光は届かない
「…ね、見えるでしょ?
いつもと違う梨華ちゃんの顔が……だけど、梨華ちゃん?
怖がることなんてないんだよ?
…だってそこに映ってるのが、梨華ちゃんの本当の姿なんだから
早く、元に戻りたいよね?…ごとーが今、戻してあげるから」
…え?
そう思った時には、真希の片手は梨華の肩を掴み、もう片方の手で
腕を引っ張ると、もの凄い力で湖の中へと入って行こうとする
376
:
水のブレス
:2005/03/04(金) 18:00:09
「……やっ…やだ!…ま、真希ちゃんっ離して!」
「…大丈夫、怖くないよ?…ごとーも一緒だから」
「や、止めて……」
「…駄目だよ?梨華ちゃん、ほら…いちーちゃんが待ってる…」
真希の目は澄んでいた、哀しいくらい澄んでいた
だけどそこには、梨華は映っていない
何も映すものがない、凍えた水面のように、ただ冷たく澄んでいた
ズルズルと腕を引っ張られて、梨華はよろめくように前へと足を
進ませた、その時
背後から、低く怒気を含んだ声がした
「……人殺し」
377
:
Sa
:2005/03/04(金) 18:01:15
更新しました
スライム様
おぉ!お読み頂けてるとは驚き、そして喜び!ありがとうです
けれど尊敬などどはとんでもないっ(汗
作者もスライム様のスレを拝見させて頂いてますが、テンポのよい会話の進め方
お上手だと思います、何より、行間から書くことを楽しんでいらっしゃるのが
伝わってきて、読ませて貰うことを楽しく感じます
お互い頑張りましょーね〜♪
JUNIOR様
お忙しかったのですか?
それでもこうしてまた覗きにきて下さって嬉しいです
この章はあと僅かなので、頭に浮かぶ映像を早く文章化しないと
消えちゃったら、困るんでw
まったりしすぎて、真冬に真夏の描写を書く羽目に、何やらツケを
払っているような…(汗
378
:
JUNIOR
:2005/03/04(金) 21:43:15
2日連続の更新お疲れ様です。
よっすぃ〜早く梨華ちゃんをたすけて〜。間に合って〜!
テスト週間とかで覗けませんでした(^^;)
Saさんの作品大好きなのにヽ(`Д´)丿ウガーーーーー
Saさん焦らずに頑張ってください!
379
:
スライム
:2005/03/05(土) 00:07:41
更新お疲れ様です。
うわ〜なんて気になる展開!!
読みながら思わず「よっちゃ〜ん早く〜」とドキドキしてしまいました。
それから私の小説もお読みいただいているようで…そっちもドキドキですw
私もSaさんのように素敵なお話を書けるよう精進しますね(^▽^ )♪
380
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:25:29
────── 人殺しっ!
アァッ…ダレカガサケンデル……
ダレニムカッテ…?……エ、ゴトー?ゴトーナノ?
アンタハダァレェ……
真希は振り返り、目を細めた
自分を睨んでるのは、荒ぶる激情を押さえ込んだ二つの眼
ビリビリと見えない敵意を、発するように暗闇から浮き出て見える
人影が立っていた
真希は自然と肩に力が入って、自分の手が誰かと繋がれてることに
改めて気づいて、その先を見た
そして、眉を寄せる
コノコ…ダレダッケ?
……アァ、イチーチャンノタメニツレテキタコ
アレ?ダケドソノコハミズニシズメヨウトシテ……
────── 人殺しぃーーーっ! ……
381
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:26:00
尾を引くように、水中から上がってくる気泡
ボコボコと上がり続ける、脆い水球
自分をこのまま見殺しにするつもりか?
お前を許さない、絶対忘れない、そう訴えてくる広がっていく暗い穴
のような黒目
あの時……
その目に晒されることに堪らず、引き上げた
水中に押さえ込んでいた、腕を緩めて
…ごとーはちゃんと助けてあげたよ?
間に合ったよね?いちーちゃん?
ごとーは人殺しなんかじゃないよね?…ね?そうでしょう?
………違う、
そうじゃない、ごとーは間に合わなかったんだ
助けられたのは、名前も憶えていない女の子
だからごとーは、冷たく濡れた身体を引き寄せて、耳元で囁いたんだ
……ごめん、人違いをしたみたい
だから忘れて?…このことは、全部忘れて?
382
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:26:27
ふいに、真希の頬の上を滑るように、滴りが落ちた
真夏だというのに、湖面からさわさわと吹く風に冷えた頬が
熱く濡れゆくように感じて、真希は掌で頬を擦った
「……真希ちゃん?…どうしたの?大丈夫?」
心に染み入ってくる声がした、その声の温もりは、真希の鼓膜を震わせて
益々、熱い雫を溢れ出させるから、瞬きを繰り返しても、その声を出す
人の顔が滲んでしまって、真希にはよく見えない
誰?…ごとーのこと心配してくれるの?
……いちーちゃん?
…違う、
いちーちゃんは真希ちゃんなんて、ごとーのこと呼ばない
それに…いちーちゃんは水の中だ
一年中、冷たく澄んだ湖の底
…ごとーの、ごとーのせいで……だけど、もう…
……もう、嫌だよ…ほんとは、ごとーが…
一瞬、日が差したように辺りが明るくなった
ハッとして真希が首を廻らすと、さっき見えた人影が白光する長剣を
両手に携えいる、それは真希と同年代の少女で、固く唇を引き結んで
少しずつ、こっちに向かってくる所だった
383
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:26:55
「…こないでよっ!」
真希が大声で叫ぶと、その腕の上でいちーちゃんのブレスが
共鳴するように、小さく震えた
すると、こっちに向かってきていた少女が、急に重しをつけられて
身体のバランスを欠いたように、足取りがおぼつかなくなった
「……り、梨華ちゃん…」
少女が切なく、喉を振り絞るような声を上げると、真希の片腕が
強い力で、大きく振り払われた
「…ひとみちゃんっ!」
高く響く悲鳴のような声を聞きながら、真希は自分の振り上げられた
片腕から、ブレスがするりと抜けるのを見た
真希は、まるでスローモーション画面を見ているようだ、と感じたけれど
それはほんのつかの間のことで、緊張で強張った身体は咄嗟に動かなかった
ポチャン…ブレスが水面に落ちて……波紋が広がっていく
すると、どうしたことだろう?湖が…白く光りだした
真希は、膝下まで浸かった湖面が眩しいくらい輝きを増していくのを
呆然と見下ろしていた
水面の波紋は幾重にも、幾重にも広がりつづけ、次には寄せて波立ち
最後に、真希の目の前で高波のように、大きく持ち上がると、一人の
少女の姿を象った
真希は驚きで大きく両目を見開いて、息を呑んだ
384
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:27:38
・・・よぉ、ごとー
頭の中に直接響いてくる、だけど懐かしく感じる響きに、一度は
止まったはずの熱い雫が、温度を上げて真希の頬を伝っていく
…いちーちゃん、真希も名前を呼び返したけれど、それは音には
ならず、ヒューと息の洩れる音になった
それでも、いちーがニヤリと笑ったような気配がした
・・・ずっといちーのこと、忘れないでいてくれようとしたんだな?
真希が頷くと、・・・ありがとな、そう、記憶の中より、ずっと大人びてて
穏やかに響くいちーの声が伝わってきた、胸の、奥底にまで
・・・だけどお前、一番肝心なこと、忘れてる
え?…真希は、痺れて感じる程、重さを増した瞼をゆっくり動かした
・・・いちーはな、あの日、あのごとーと最後に会った日
・・・あいつを、あのブレスをお前にやるって言ったんだ
385
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:28:10
…嘘、真希は眉を寄せて、記憶を手繰るように思考を廻らす
嘘だっ!だって、あのブレスはいちーちゃんの宝物だって…だから…
その先を先回りするように、いちーは続ける
・・・だから、だよ…ごとー?お前はもう知っているんだろう?
・・・いちーには親がいないってこと
・・・あのブレスは、家族三人で最後に出かけた夜に買ったものなんだ
・・・だからいちーは、あれをずっと身につけてなきゃいけない気がしてた
・・・ブレスを外したら、いつか思い出の全部を失くしそうで怖かったんだよ
・・・優しかった父さん、温かかった母さんが、いちーにも確かにいたってことを
・・・だけど、どんなにずっと忘れないでいたって、二人はもう戻ってはこないんだ
386
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:29:01
・・・父さんの大きな掌に触れることも、母さんの笑顔をみることも出来やしない
・・・もうそれは無理なことなんだって、いちーはわかったんだ
・・・それに気づけたのは、ごとー、お前のおかげだよ
・・・ごとーがあの夏、いちーに笑いかけて、毎日、隣りにいてくれた
・・・そこに確かにいて、微笑み合うってことは、一方通行じゃなくって
・・・向き合う二人の間で温もりが通うもんなんだって、思い出したんだよ
・・・だからもう、ここにいない家族の思い出に縛られることは止めて
・・・それより、今そばにいるごとーとの思い出を作って行こうって
・・・無くした過去じゃなく、目の前の今を生きようって、そう思った
・・・だからあの日、ブレスはもういらない、いちーはそう決めたんだ
真希はぶるぶると大きく震える唇を大きく開いた
身体の奥から、どうしようもないほど強く競りあがってくる思いを乗せて
腰を折るようにして、闇雲に叫んだ
「じ、じゃっ…なんで、なんでいちーちゃんはいないのっ?!
そう思ってくれたならっ…なんで今、ごとーの傍にいないのっ?!」
真希の声の残響に、水面が哀しげに小さく波打った
・・・皮肉だよな?
・・・なんであの雨の中を出かけたかなんて、正直自分でもわからないんだ
・・・ただ、父さんと母さんの乗った車が事故にあったのが、ちょうどあんな雨の日で
・・・だから、決別したかったのかもな?…あの、雨の日に孤独になった自分自身と…
哀しげに震えるような漣が、真希を労わるように、穏やかに波打った
387
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:29:34
・・・なぁ?ごとー… いちーは気づくのがほんの少し遅かったんだ
・・・人の記憶は曖昧で、そんなもんに縛られるのはバカバカしいのさ
・・・お前は、思い出の中に生きてるんじゃない、そうだろう?
・・・だからいちーのことは、もう…忘れていいんだよ
・・・いちーはもう、お前の隣りにいてやれないから
・・・ごとーが哀しい顔してても、慰めてやれないから…だけどいちーは…
・・・お前の笑顔に救われたから、やっぱりごとーには笑ってて欲しいんだ
・・・そして、ちゃんとその目を開いて、いまを生きて欲しい
………うっう、うぅ…
真希は震えが止まらない唇を両手で押さえた
ほんとは……ほんとはずっと、ごとーが誰かに言って欲しかった
…もう、忘れてもいいんだ、と
けして、あの夏のいちーの全てを忘れたい訳ではない、だけど、失ったものが
大き過ぎると、たった一人で抱えつづけることは、時には重た過ぎるから
だけど、真希はこう答えた、その気持ちもけして嘘ではないから
「…忘れないよ……ごとーは、ごとーはいちーちゃんのこと…絶対に
忘れたりなんかしないっ!」
水面が小さく、小さく揺れた
くすぐったそうに、かすかに微笑むように
388
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:31:09
───
─── ───
─── ─── ───
389
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:36:51
────── …… 自由にしてよ?
ごとーを … いちーを ………
ひとみは、穏やかな笑いを含んだ声が、確かに聞えた気がした
だから大きく頷くと、一つ息をして呼吸を整えると剣を振り翳し湖に向かって
駆け出した、そして水面にそのまま、勢いをつけて振り下ろした
パァァァンッ……
まるで繊細なガラス細工が弾けるような音が辺りに響いた
湖全体が、真昼の太陽のように白く強い輝きを放つと、水が象る少女の姿が
支えをなくしたように、ユラユラと揺れた
「…い、いちーちゃぁぁぁんっ!?」
ひとみはその切ない叫びを抱え込むように、剣を押し刺し、その眩しさから
目を離さずに、梨華の名を叫んだ
「梨華ちゃんっ!」
そして、梨華を振り向き、月のリングを投げた
自分をどこか切なげに見つめ返してくる梨華に、しっかり頷き返した
390
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:37:23
梨華は指輪を両手で、包み込むように指を組むと、そっと瞼を閉じ
ぎこちなく唇を動かしだした
梨華が何を口ずさんでいるのかは、ひとみには聞きとれない
けれど、何かに祈りを捧げるようなその響きは、切なく、美しいと思った
組んでいる指先から、温かな色の光が溢れ出すと、梨華はゆっくりと目を
開けた、そして天を仰ぐと、掌に包まれた光を捧げるように指を開いた
無数の光の粒が静かに空へと舞い上がると、それは蛍のように、夜の闇の
中で、瞬いた
その瞬きに誘われるように、湖面がさわさわと揺れ、水飛沫がやさしい春の
雨が大地を濡らすように、宙へと降り注がれる
天と地が逆転したような、真夜中の湖は、なのに穏やかな光に溢れ、どこか
幻想的でありながら、新たな夜明けを示すような明るさに満ちていた
自分や梨華の存在はおろか、溢れる涙にさえ、気づいていないように、一心に
空を見上げたままの少女を、ひとみは気遣うように、盗み見た
391
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:37:49
その時、天空に一つ、星が現れた
まだほの白い明さが残ってる中、一際眩しいほどに輝いてから、流れゆく瞬き
その刹那、ひとみにも、その声が聞えた気がする…
────── さよなら
こんな風に、優しく別れを告げる声は聞いたことがない
ひとみはそう思った
バシャンッ…
何かが、水に倒れ込む音がして、その後、梨華が半泣きになりながら
自分の名を呼ぶ声がした
392
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:39:24
−− −− −− −− −−
393
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:39:53
夏休みの真っ只中だと言うのに、都会へ向かう電車は意外なことに、そこそこ
混んでいた
ひと夏の旅人は、僅かな非日常を謳歌すると、また日常へと還るのだ
ひとみはキョロキョロと、座席を見渡しつつ、向かい合わせの四人掛けの
席に、一人座り、窓辺を見てる少女に声をかけた
「…すんません、ココ、いいっすか?」
少女は、ひとみの声に振り返ると、人懐こそうな笑みを浮かべる
「あはっ…いいよぉ〜 ご、あたし、一人だし」
「…助かったぁ〜」
ひとみが微笑み返した時、電車がガタンと揺れて動き出した
片手に持っていたピンクのキャリーバックをひとみが乱暴に置くと、中から
まるで抗議するように、細く高い声が、ニァャンと一声鳴いた
少女は目を見開くと、ひとみの顔を見た
「…ね?もしかして、ネコいるの?」
「……ん、そう…ひょっとして、駄目な人?」
394
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:40:20
ううんっ!…少女は勢いよく首を横に振って、キャリーのドアの隙間から
中を覗き込むと目を細めた
「…うわっ、このコすっごい美形じゃない?…かっわいぃ〜〜〜!」
ひとみはキャリーの横に、少女を向かい合うように座りながら、照れたような
笑みを広げる
「…格好つけて、一人旅っての?しようかと思ったんだけどさ〜
なーんか、それもなぁ一人は寂しいか〜って、コイツ道連れ
…そっちは?一人なの?」
少女はキャリーから、目線を上げると、少し哀しげにまた目を伏せた
「……友達…友達にね、会いに来たんだけど…」
「ふぅ〜ん…で、会えたの?」
少女は首を横に振った後、フッと小さな笑みを漏らした
395
:
水のブレス
:2005/03/07(月) 18:40:48
「いなかった……会えなかったんだよね、だけど……
その友達とはあたし、楽しかった思い出が、いっぱいあるから…」
…それだけを憶えていればいいのかなって、そう呟くような声になった後
少女はハッとしたように、ひとみを見た
「あの…ごめん、訳わかんないこと言って」
ひとみは静かに首を横に振ると、目を微笑ませた
「もし良かったら、だけど、終点まであたしと話しながら行かない?
…こっちも一人だし、なんつーの?あたしも…ちょっと誰かとヒサブリに
話したいって気分なんだ」
少女は、ひとみを目を合わせると、ゆっくりと顔中に笑みを広げていく
「…あはっいいねぇ〜?…旅は道連れってゆ〜の?
んじゃ自己紹介しちゃおうかな〜 あたしの名前は……」
小首を傾げた少女の髪が、窓から差し込む光を受けてキラキラ光った
ちょうど電車が通過していく、外の景色の中で、明るい日差しを反射して
美しい湖もキラリと、輝いていた
396
:
Sa
:2005/03/07(月) 18:41:27
更新しました
やぁーっと水のブレスの章が終わりました
この一章にどんだけかかったんだ…作者(汗
JUNIOR様
おぉ!連チャンでおこし頂けて嬉しいっす♪
テスト…汗、その響きに現実逃避してたあの頃は遠い昔…
ずっと好きといい続けて下さって、喜びの極みw
次の更新はかなりお待たせしそうです、申し訳ありません(ペコリ)
スライム様
こちらも連チャンでレス下さって嬉しいでっす♪
ヤ〜〜〜作者も自分の書く物をこんなんで読んでくれる人がいるのかと
いつもドッキドッキしとります!スライム様の今のお話みたいに登場人物に
苦悩(?)はあれどアップテンポの楽しいお話はやっぱりいいな、とw
397
:
スライム
:2005/03/08(火) 02:29:57
更新&「水のブレスの章」の完結お疲れ様です!
最後はもう「いち〜ちゃ〜ん」と涙々で読ませていただきました・゚・(ノД`)・゚・。
これだけのお話をこんなにも素晴らしいラストで締められるってすごいです!
前章もそうですが今回も圧巻でした!
次の章も期待しつつまったりお待ちしておりますので、無理はしないでくださいね。
P.S
私は背景描写が苦手な分を会話で補って(ごまかして?)いるだけなんでw
褒められるとドキドキしてしまいます(^▽^;)
398
:
JUNIOR
:2005/03/11(金) 19:21:34
ぎゃ〜更新されてるっ!あ、取り乱してスイマセン(汗)
気を取り直して、更新&「水のブレス」完結お疲れさまです
もう、感動です。ごっちん、良かったね。といろんな意味で言いたいです。
はい、どんなに遅くても待ちますよ!でも、今ほど頻度にこれなくなると思います。
ウチのコメントがなくても、『もう、好きじゃないのかな。』なんて思わないで下さいよ!
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