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若者よ、恋をしろ!
1
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:43
はじめまして。
更新も少しずつになるかもしれませんがよろしくお願いします。
では。
2
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:44
高校時代の友達と飲みに行って、私は今最終電車に揺られている。
お酒が少し回っているのも手伝って、少し気分が悪いかも。
早く家に帰りたい。
「次は、…です。お忘れ物のないよう、ご注意ください。」
到着を知らせるアナウンスが流れ、私は降りる準備をする。
シャワーを浴びて、もう寝よう。
明日の講義は午後からだし、今日はゆっくりできる。
3
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:45
ゆっくりとドアが開いて、私はホームに降りる。
地下鉄のせいだろうか、ムッとした熱気に包まれる。
いち、にぃ……
私と同じ電車だったのは私を含めて4人だけだった。
会社帰りの中年サラリーマン。
大きな旅行かばんを持ったおばさんに、いかにもフリーターって感じの若い女の子。
いたって普通な、大学生の私。
―――最終電車。
なぜか悲しい雰囲気がするのは私だけだろうか。
4
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:45
私がやってきた方と逆方向の電車はもうすでに終電を過ぎている。
つまり、この駅にはもう電車が止まることはない。
この駅にはホームがひとつしかなく、線路に挟まれるような形でホームが存在する。
わたしはエスカレーターを上がり、改札口へと向かう。
「…行きへの最終電車です。お乗り遅れのないようご注意ください。―――ドアが閉まります。」
私は階下でドアの閉まる音を確認した。
ヴ――ンと、電車は何事もなかったかのように発車して行った。
5
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:46
改札に定期を通して出口から出ると、同じ電車だったはずのサラリーマンが、遠くを歩いていた。
さっきの若い女の子は私の10m程先を歩いている。
私って、歩くのが遅いのかな。
コツ、コツ、コツ、コツ………
女の子のブーツの音と、私のブーツの音が共鳴して、一定のリズムを刻んでいる。
それはなぜかとても心地よくて。
だだだだだだだだだ!!!!
6
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:46
遠くから、ものすごい勢いで駆けてくる足音が聞こえた。
静かな地下通路に、それはとてもよく響いていた。
けれど、姿は見えない。
足音からして、背は高そうだなと思った。
その人物は意外に早く姿を現す。
通路の角を曲がり、マラソン選手さながらのスピードで走っている。
肩より少し短めの髪の、金髪の女の子だった。
肌の色は透き通るように白く、金髪のせいもあって外人のような風貌だ。
―――服装はジャージだけど。
7
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:47
10m先を歩く、フリーターの子(勝手に決め付けている)の横を通り過ぎると、
フリーターの子は金髪少女を振り返った。
うん。確かに目を引く子だよね。
あっという間にわたしをも通り過ぎた。
私もつられて金髪少女を振り返る。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
規則正しい呼吸も、またマラソン選手を感じさせた。
ジャージなのは、トレーニング中だからかな。
「あれっ」
その声は、金髪少女の声だった。
低めの、アルトな声だけど、私の好きな声だった。
8
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:47
「すいませんっ!」
一段と大きな声を発した。
おそらく駅員さんを呼んでいるのだろう。
ざーんねん。終電はもう行ってしまったよ。
トレーニング中でも何でもなく、彼女は電車に乗り遅れてしまったようだ。
「すいませんっ!そこのアナタ!」
―――私?
私はゆっくりと彼女に振り返った。
大きく目を見開いて、真剣に私を見ていた。
9
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:48
ドックン。
心臓を鷲掴みにされるというのはこのことを言うのだろうか。
ひどく胸が高鳴った。
「もう言っちゃったんですかっ、終電!」
この人、語尾にいちいち『っ』をつけるのが癖なのかしら。
勢いが良すぎてこっちは萎縮してしまう。
「あ、ハイ。行きましたよ、さっき」
文法がむちゃくちゃで、単語をあるだけ並べたという感じだ。
私はおそらく、緊張、している。
10
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:48
「うあ―――」
金髪少女は両手で頭を抱え込み、うずくまってしまった。
ちょっとかわいそうな気がした。
「やっべぇ。帰れないじゃんかよ。っきしょー。」
私があっけにとられて突っ立っているのに気がついて、彼女は顔を上げた。
「あ、スンマセン。いっすよ、もう」
「うん」
私はくるりと背を向けると、再び歩こうとした。
―――歩こうと、した?
歩けなかった。
私はどうしても、彼女のことが気になった。
11
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:49
「どうしたんすか?」
一向に歩こうとしない私を不審に思ったのだろう、彼女は声を掛けてくれた。
「ね、ちょっと、どうしたの?」
ぐいと肩を引っ張られ、私は強引に彼女のほうに向けられた。
ご、ごめ、初対面なのに。
「ねぇってば―――」
「うえぇ…」
最悪だ。
12
:
大淀
:2004/03/19(金) 12:50
取り急ぎ、二人の出会いまで。
がんばって、早めに更新したいと思います。
13
:
管理人
:2004/03/19(金) 13:36
大淀さん。はじめまして管理人です。
連載スタート有難うございます^^
これからよろしくお願いします。
14
:
JUNIOR
:2004/03/19(金) 16:43
あぁーーーー!!新作!!
この話すごく面白いです!頑張ってください。
あと某版で「約束の丘」って作品を書いてるヒトですか?
15
:
名無し(0´〜`0)
:2004/03/20(土) 13:20
新作だぁぁぁぁぁぁぁぁ
面白い!!たのしみですぅぅぅぅ
作者さんがんばってください!!!!!
16
:
名無し(0´〜`0)
:2004/03/21(日) 01:35
久しぶりに来たら新作がぁーーー。
しかも大淀さんって大淀さんですよね?もしかして運命!?
某所からしっかり付いて来ちゃいましたよ(笑)
新作スタートマジでうれしいです。頑張ってくださいね!
17
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:25
「大丈夫すか?」
駅近くのコンビニで、介抱されている私。
お酒で失敗したことって、なかったのにな…
コンコンッ。
ドアがノックされて出てきた人物を見て、私は再び驚いた。
「はい、お茶。」
「あ、すんません…」
さっき一緒に下車した、『いかにもフリーター』な女の子だった。
肩まで大きく前が開いたニットに、ミニスカートから覗かせる足はとても綺麗だった。
18
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:26
金髪少女は『いかにもフリーター』な女の子からお茶を受け取り、
ペットボトルのふたを開け、私にお茶を飲ませようとした。
「ちょっとコレ、飲んだほうがいいと思いますよ。」
「ん、自分で飲める…」
金髪少女はとても心配そうに私を見つめてくれている。
その、まっすぐな視線が、余計につらかったりもするけど。
19
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:26
一方。
いかにもフリーターな子は、腕組みをして洗面所の壁にもたれかかってたり。
「………」
その、冷ややかな視線が、もっとつらかったりもするけど。
私は酔い潰れてしまったことをひどく後悔した。
同時にこの場から一刻も早く出たい衝動に駆られて…
「ごっちん。大丈夫そうだね…」
ごっちん?
この二人、知り合いだったのかな。
「あの、ほんとすみません…」
20
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:27
うえぇ。
もう何もでないけど、嘔気がこみ上げる。
「ちょっとアンタ、しっかりしなよ。」
「………」
「ご、ごっちん!動かなくなっちゃったよ!!!」
生きてます、生きてます。
「慌て過ぎ。」
ヒラヒラと手を振って、私は生きていることをアピールした。
うぃーあらいぶ。
21
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:28
金髪少女はずっと背中を擦ってくれている。
優しいなあ…
「もう少し、ここにいたほうがいい。」
そう言って『ごっちん』は出て行った。
ありがとう、見ず知らずの『ごっちん』。
もう駅で見かけても、話しかけたりしないから。
「あ…」
金髪少女はすでに閉まっているドアに向かってつぶやいた。
空を切る、頼りなさげな右手が悲しかった。
22
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:29
「大丈夫。ずっとそばにいるからね。」
私にそう言いにっこり笑うと、私の口元をハンカチでぬぐってくれた。
悲しくなるくらい、優しい彼女。
私もにっこり微笑み返した。
そのとき彼女の顔が一瞬硬直したけど、気のせいだろうか。
それは本当に一瞬で、すぐに元に戻ると、こう言った。
「お酒、飲んだの?」
「え…うん。」
23
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:30
「そっかあ。」
「え?」
「いきなり、『うえぇ…』ってうずくまったから、マジびっくりした。」
「…ごめんなさい。」
「や!いいから!ぜんぜん、ね?」
ぶんぶん首を振って否定する彼女。
何だか、すっごくかわいいんですけど。
24
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 04:31
「それよりちゃんと、水分摂って。」
ぶっきらぼうにお茶を渡されて、少し戸惑う。
彼女なりの、照れ隠しなんだろう。
それから、違う人がトイレを使おうとしたので、私たちはコンビニから出ることにした。
25
:
大淀
:2004/03/21(日) 04:40
今日はこのあたりで。
>管理人さま
はじめまして。お借りいたしますです。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
>JUNIORさま
そおです。なんか照れますね。
あっちも今がんばってる最中です。
早めに更新できるようにしたいと思っております。
>15さま
ありがとうございます!
もっとおもしろくできるように、がんばります。
うしゃ。
>16さま
すっげうれしい反応(照)
そんなたいそうなもんでもありませんが、もいっちょの方も読んでいただけているのなら、
これほど嬉しいことはございません!
途中から自分でageてますな。
まいっか。
ではでは失礼いたします。
26
:
16
:2004/03/21(日) 15:19
更新お疲れ様です。
某所では12月始めの「読んでます、読んでます」の者です(#^.^#)
自分の感想にセンスがないので本当はROM専なんです。すみません(^_^;)
のっけから引き込まれちゃってるんですけどぉ。ドキドキしちゃったし。
こっちも頑張ってくださいね!
27
:
JUNIOR
:2004/03/21(日) 21:19
更新お疲れ様です。
大淀さんの文章イイですね。
なんか、こう、その場その場の感じが解りやすいです。
某板ではROM専なんですがあの作品、好きです。
もちろんこっちの作品も好きです。頑張ってください。
28
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:26
「大丈夫?出れる?」
それでもちゃんと私の体の心配をしてくれる、優しい彼女。
「んー、これからどうする?」
「体も大丈夫だし、もう帰ります。」
「…ほんとに大丈夫?」
「もう、迷惑かけるわけにはいかないですから。」
「あたしのことなら、平気だよ。 それより、あなたのほうが心配なんだ。」
「私…?」
「あったりまえじゃん」
29
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:26
目を細めて、駅前のバスターミナルを見つめている。
もうすでにバスの姿はなく、迎えに来たのだろうか、乗用車で少し渋滞していた。
「で、やっぱり帰っちゃうの?」
私にどうしろというのですか。
見ず知らずの、しかもたぶん年下の女の子に、ここまで介抱されてしまったのだ。
早く彼女を帰してあげないと。
あ。
「ちょっと待って、あなたは?」
確か猛ダッシュで走ってきて、終電を逃してしまったはずだ。
帰れないようなことも言っていたはず。
彼女は、どうするのだろうか。
30
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:27
「あたしね。終電タッチの差で行っちゃって、今晩帰れそうにもないんだよね。」
ニカッと白い歯を覗かせて、笑っている。
まるでこういうアクシデントを楽しんでいるかのように。
「…どうするの?」
「そおだねぇ。あなたに朝まで付き合ってもらおうかな。」
「なっ…!」
「お互い女同士なんだし、心配ないっしょ?ね?」
なんだか大変なことになってきた。
そりゃあ、この子も大変だと思うけど、ちょっとそれは…
「ね、いーじゃーん。 気持ちワルイのも治ったんでしょ?」
「え、っと…」
31
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:27
「面倒見てあげたじゃん。お礼だと思って、ね?」
なんだこのコ。
さっきと随分雰囲気が違ってきてない?
さっきよりぐんぐん距離を縮めてきて、しっかり腕も掴まれてしまっている。
「何もしないから。お願いっ!」
ヤバイ。押し切られてしまいそう。
「朝まで…?」
「うん。朝になったら、帰るから。 そこでバイバイだよ。」
「でも…」
32
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:28
急に腕の力が強くなる。
顔はもう、ちょっと伸ばせばキスできそうなくらい近づいていて…
「何やってんだよ。」
「ごっちん!」
彼女は声のほうに振り向いて、少し腕の力が抜ける。
私はすかさずすり抜けて、『ごっちん』の後ろに隠れた。
「あっ」
彼女は私が離れてしまったことに声を上げた。
33
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:28
「何やってんだって。」
「別に。」
腕を頭の後ろにやって、彼女はそ知らぬ顔。
何よ。
朝まで一緒にいてって、迫ってきたくせに。
私はちょっと頭にきた。
「ウソ。」
「なっ…!」
私が『ごっちん』の後ろからボソッと呟くと、彼女は少し慌てた。
34
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:29
「アンタも、さっさと帰りなよ。」
『ごっちん』は顎で何かを指した。
見ると、コンビニの前に1台のタクシーが横付けされていた。
きっとそれも、『ごっちん』が用意してくれたものだろう。
「早く。」
私が何ずっと考えていると、早く乗れとばかりに急かした。
「え、あ…」
35
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:29
彼女の方を見ると、面白くないのか、口を尖らせてすねたような表情をしていた。
きゅんっ。
不謹慎、というのか。
私は悪いことをしてるわけでもなく、どちらかといえば迷惑している立場なのに。
彼女をほっておけない気になった。
「何、気使ってんの。」
「そんなんじゃないんだけど…」
「何が気になるの。」
『ごっちん』がだんだんと不機嫌になっていくのが他人の目からでも良くわかった。
私、どうすればいいの。
36
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:30
「彼女、終電なくなったみたいで、ね。」
「タクシーでも、歩きでも、何でもあるじゃん。」
自分がこんなに優柔不断だとは思わなかった。
それに、金髪少女がこんなに気になるのはなぜだろう。
「そうなんだけど…」
「はっきりしないの、嫌いなんだけど。」
「ごめんなさい」
「謝られる筋合いもないと思うけど。」
コワイ。
『ごっちん』はとてもコワイというのが、よーくわかりました。
「勝手にやってよ。あたし、暇じゃないんだからさ。」
「そうだよね。ごめんなさい…」
37
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:30
私は一体さっきから何に謝っているのだろう。
巨大迷路に迷ってしまったような不安に刈られ、視界が歪み始めた。
「ちょ!何泣かしてんだよ!」
つかつかと歩み寄り、彼女は私を庇った。
「そっちが勝手に泣いたんでしょ。」
「……」
「あたしには関係ない。」
「…のやろうっ…!!!」
38
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/21(日) 23:32
あっという間に彼女は『ごっちん』に馬乗りになり、殴りかかっていた。
私は「やめて!」としか叫ぶことができず、止めることもできず…
殴られっぱなしの『ごっちん』ではなかった。
上になり、下になり、二人は殴り合う。
何でこんなことになってしまったのだろう。
なんか…アタマ痛い。
確実に二日酔いではないその痛みに、私はため息をついていた。
39
:
大淀
:2004/03/21(日) 23:38
つづく。
>16さま
感想に扇子も何も!
やっぱ、反応があるとだいぶ嬉しいのです。
これからもよろしくです。
>JUNIORさま
ご購読ありがとうございます。
ROM専と言わずにじゃんじゃんカキコお願いしますっ!
解りやすいですか。めさめさ嬉しいっす。
こんなんでいいかな…もっとちゃんとキャラ立ててきたいんですけどね。
では、また。
40
:
名無し(0´〜`0)
:2004/03/22(月) 00:23
大淀さんの書かれる話の雰囲気大好きです。
つづきがすごく楽しみ。がんばって下さい。
41
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:17
―――で、何でボウリングなんですか。
ガコ―――ン!
「うしゃ!」
「……ヘタクソ。」
あれから、警察に通報された私たちは、交番でこってり絞られた。
友達同士の喧嘩ということで、事情聴取を少しした後、すんなり開放された。
「え、いいんすか?」
42
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:18
ポカンとした彼女(吉澤ひとみと名乗った)の表情がやけにおかしかった。
ごっちん(後藤真希)は相変わらずクールだった。我関せずといった感じで。
口元に付いた血がが少し乾いていたので、私は水で濡らしたハンカチでぬぐってあげた。
吉澤さんは素直に拭かせてくれたけど、ごっちんは「いい」ってハンカチを奪い取り、自分でごしごし拭いていた。
こんなところにも、二人の対照的な仕草が出て、とても惹かれてしまう。
43
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:19
「何なんだよ!さっきストライク取ったろ!」
「…マグレ」
「っか!スピードだってお前よか早いんだよ!」
「テクは中学生レベル。」
「うるさい!早く投げろよー!」
「石川さんの番」
「……いちいちムカつくヤローだな!」
「一人でカッカしすぎ。」
「黙れ!それと早く梨華ちゃん投げてっ!」
二人の小学生のような口喧嘩に、思わず噴出してしまう。
44
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:20
「あーっ!梨華ちゃんまで何笑ってんだよっ!」
「ゴメン。つい、おかしくて」
「梨華ちゃん、こうして手首を返して、ふつーに前に出せば真っ直ぐいくよ」
「違う。」
「何っ!」
「手首は少しひねったほうがいい。ちょうど握手するような感じで。」
45
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:20
「真っ直ぐだっつの!」
「ひねるんだよ」
「マッスグ!」
「ヒネル」
「マッスグ!」
「ヒネル」
「マッスグ!!」
「…石川さん、投げていいよ」
「んがー!ムシした!!殴ったろか!」
「勝手に吠えとけ」
「ごっちん!」
「……」
46
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:21
ガコーン。
「ありゃ。ガーターだった」
「「………」」
楽しい夜は続く。
47
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:22
2ゲームやって、結局ごっちんの勝ちだった。
吉澤さんは最後、追い込みがすごかったんだけど。
いいところで力んじゃって点数を稼ぐことができなかった。
「ね、梨華ちゃんて社会人?」
「大学生」
「ふーん。」
ゲーセン前の一角で、テーブルを囲んで話をした。
ごっちんは電話をしに行くとかでさっきからいない。
48
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:23
「吉澤さんは?」
「ひとみって呼んで。」
「ん、じゃあ…ひとみちゃん。」
「えー。ま、いいか」
「あたしは高校生だよ」
ある程度予想はしていた答えだったけど、やっぱりちょっと高校生ということがうらやましく感じられた。
私が講義を受けてバイトをしている間に、彼女は制服を着て、授業を受けているのだ。
「ごっちんは?」
「ごっちんのことは苗字じゃないんだ。」
「えっ?」
「ちょっと、妬ける」
こんな些細なことにさえごっちんにライバル心を持っているひとみちゃんがかわいかった。
49
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:24
「ごっちんのことは、何も知らないよ。今日初めて会ったし。」
「そうなの?」
「そーだよ」
へへ、と上目使いで私を見ながら、メロンソーダの紙コップに口をつけた。
「だから、ごっちん置いて、バックレよ?」
だから、の意味がわかんないんですけど。
このコは、どうしてもごっちんを除け者にしたいらしい。
50
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:24
「ごっちんが心配するからダメ。」
「えー。 梨華ちゃん、ごっちんのほうがスキなの?」
私の手の上にそっと自分のを重ねて、ギュってしてくる。
少し冷たかったお互いの手が、交わり暖かさが増していく。
「どっちも好きだよ。」
「あたしのこと、スキ?」
「好きだよ。」
初対面の、しかも年下の女の子に、素直にこう言える自分に驚いた。
女の子に好きだって言うこと自体、私はあまりしたことがなかった。
51
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:25
「よかったぁー」
ほんとカワイイ。年下の女の子。
「カップル誕生?」
冷ややかな言葉を背後から浴びて、私は驚いた。
振り返ると、ごっちんが私たちを見下ろしていた。
「あたし、明日バイトあるから、ここで帰る」
「どうやって?」
「アンタにも言ったとおり、歩いてでも何でも。」
「危ないよ!」
52
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:26
「いーじゃん、梨華ちゃん。ごっちんがそうするってんだから。」
ひとみちゃんはごっちんを見てニヤニヤしていた。
明らかに、ごっちんの怒りを誘っている。
「…じゃ。」
私が止めるのも聞かず、ごっちんはスタスタと帰ってしまった。
「変なヤツ」
「ごっちん…」
53
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:27
「あー!梨華ちゃん、あたしのことスキって言ってくれたのに、ごっちんの心配してる!」
「普通誰だって心配するでしょ。」
「ごっちんなんて大丈夫だよ」
「ひとみちゃん。」
少し声を低くして凄んだら、ひとみちゃんはシュンとしてしまった。
かわいそうかな、と思って頭を撫でてあげたら、嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃ、ごっちん送りにいこ?まだ近くにいると思うから」
「ウン…」
そうして、ひとみちゃんと一緒にボウリング場を後にした。
54
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:27
「どっち行ったかな?」
二人できょろきょろしていると、ひとみちゃんが叫んだ。
「いた!ごっち…ん…」
「どうしたの?」
ひとみちゃんの視線のほうへ目を向けると、ごっちんがいた。
道端に止まっている車の中へ、何やら話しかけている。
「ヒッチハイク?」
「きっとナンパだよ」
「ごっちんから行くわけないじゃない」
「そーかなぁ」
55
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/03/23(火) 21:28
やがて運転席のドアが開き、中から人が出てくる。
―――中年のオジサンだった。
「え?」
「なぁーんだ。オトコいるんじゃん。心配して損したぁ」
ひとみちゃんは諦めて、体を逆方向へ向けた。
オトコ?
果たしてそうだろうか。中年の、下手したら父親くらいの年齢の人に。
ひとみちゃんは背を向けたけど、私はごっちんから目を離せないでいた。
56
:
大淀
:2004/03/23(火) 21:35
つづく。
>40さま
ありがとうございます。嬉しいっす。
ふと外に行ったときにネタが浮かんだり。
何回も書き直すんですけどね。
え、と。
自分とこの場所も作りたくなってしまって。作っちゃいました。
でも、今から仕事行くので、明日から始動したいと思います。
ちょっとばかし寝ます。
57
:
名無し(0´〜`0)
:2004/03/30(火) 06:43
初めて読みました。正直おもしろいです
楽しみが増えました、作者さん有難う御座います。
58
:
名無し(0´〜`0)
:2004/04/10(土) 10:07
更新まだかなぁ・・・。この作品楽しみにしている読者の一人です。
59
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:20
『昨日はありがとう!また遊んでくれるよね? ひとみ』
午後から始まった講義の時間に、私の携帯にメールが届いた。
―――ひとみちゃんからだった。
もうこれっきり、会うことはないと思っていたけど…
「友達になって!」と笑顔で言うひとみちゃんの申し出も断れず…
携帯の番号を交換した。
60
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:21
ごっちんと男の人を見つけて、私たちは声を掛けることもせずに、黙ってごっちんを見送った。
そのあと一緒に朝まで一緒にいた。
何もしないと、ひとみちゃんは言ったけど。
その、キス―――された。
61
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:21
「ね、梨華ちゃん。お腹空かない?」
「うーん…ちょっと、空いたかも。」
時計は午前3時を過ぎていた。
「ほら、あそこに吉野家があるよ!」
「ほんとだ」
「あそこでいい?」
右手でオレンジの看板を指差し、私の顔を覗き込むようにしてひとみちゃんは言う。
吸い込まれそうな瞳。
だから、ひとみ…って言うのかな…
62
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:22
信号が青色の点滅をし始めた。
ここの信号、長いから―――と急いで渡ろうとした。
「危ないよ、そんなに急いだら」
ぐい、と腕を引き寄せられた。
「来てないじゃない。車…」
「まぁまぁ。慌てない、慌てない」
一休さんじゃないんだから。
「ひと休み、ひと休み?」
「そうそう」
カラカラと、上を見上げてひとみちゃんは笑う。
よく、笑う子だな。なんて思った。
63
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:23
「急がなくても、逃げないって。牛丼のない吉野家は。」
「そうだね」
「でも、久しぶりに行くなぁ。牛丼のない吉野家。」
「そうなの?」
「もう牛丼が食べれなくなる、って聞いたら行きたくなるっしょ?
それが、牛丼のない吉野家に行った最後かな。」
「いちいち牛丼のない吉野家、なんて言わなくても」
「モーモー牛さん?」
「なにそ、れ―――」
キスは、突然だった。
牛丼の話から、キス。
64
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:24
私は、固まるしかなかった。
「牛のこと考えてたらさ、梨華ちゃんにキスしたくなった」
ぺろっと唇を舐めて、怪しげに笑う。
信号はまだ、赤のまま。
いつもの何倍も遅い、赤信号。
車は一台も通らない。早く、歩きたかった。
ドキドキしているのは私だけで、ひとみちゃんはこんなのに慣れているのかと思うと、恥ずかしくてしょうがなかった。
「あたし、ウシ年だし。8日遅く生まれてたら、おうし座だし。モーモー。」
65
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:24
そのあと食べた豚丼は、何故か牛肉の味がした。
ぐるぐる回る、白と黒のコントラスト。
私の頭から二本生えた角。
私はいつの間にか、牛の着ぐるみを着ていた。
スペイン風の衣装に身を包んで、私の前に立つひとみちゃん。
オ・レ!
『赤を見るとね、ウワァーってなっちゃうの』
少し興奮気味に、赤い布をはためかせてひとみちゃんは言う。
「私も?」
私は赤い布に突進する。
止まれない。
信号は、赤なのに。
66
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/12(月) 23:25
幼稚園のとき、確かに習いました。
青は進め。赤は止まれ。
なのに、私の心は赤でもノンストップ。
赤でも進んで、交通事故にでもあったら…それは間違いなく、モーモー牛さんのせい。
67
:
大淀
:2004/04/12(月) 23:29
更新致しました。
遅くなってしまい…ごめんなさい。
>57さま
こちらこそありがとうございます。
今後とも楽しみ、といっていただけるように頑張りたいと思います。
>58さま
お待たせ致しました。
もっとマメに更新したいと思います。
お時間がありましたら、また読んでやってください。
68
:
JUNIOR
:2004/04/13(火) 23:21
更新お疲れ様です。
いけ、いけ!梨華ちゃん。赤でも突っ走れ〜!!
大淀さんMyペースで頑張ってください。
マターリまってま〜す。
69
:
大淀
:2004/04/14(水) 08:53
>JUNIORさま
マイペース♪マイペース♪
ありがとうございMAX!
レスを頂けて、とってもとっても嬉しいです。
70
:
大淀
:2004/04/14(水) 08:53
「ね、ね、梨華ちゃん。ピクニック行こうピクニック」
真夜中にかかってきた突然の電話。
前の晩に遅くまでレポートを書いていて、私はとにかく眠たかった。
「え…うん。」
「ホントに?!」
力なく耳に当ててる携帯の向こうから、ひとみちゃんのはしゃぐ声を聞いていた。
「天気予報見ないと!」
「…そうだね」
「日にちはまた連絡するから!」
「ハイ…待ってる」
71
:
大淀
:2004/04/14(水) 08:54
気がつくと、朝だった。
もしかして、昨日の電話は夢だった?
顔を洗っている間に、ふと思った。
「っ!!!!!」
勢いよく鼻に水が入ってしまった。
い、痛い。
ツーンと鼻が痛いまま、自分の部屋に戻る。
ベッドの上に置かれたままの携帯をそっと開く。
―――2:28 吉澤ひとみ
電話がかかってきたのは、確からしい。
72
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:54
うーん。どうなのかな。
大学に向かう途中も、電車に揺られながらひとみちゃんのことを考える。
つきあえばつきあうほど、ひとみちゃんは不思議な子だと思う。
思っていることも、突拍子のない行動も、何もつかめない感じ。
追いかけたって追いつけなくて、ぴんと伸ばした腕だけではつかめなかった。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
マナーモードにしていた私の携帯が、鞄の中で震える。
『今度の土曜日、晴れだって!10時に駅の改札で待ってる ひとみ』
ホントだったんだ。
嬉しさよりも、何だかホッとした。
友達に言わせると、その日の私は一日中ボーっとしていたらしい。
73
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:55
駅の近くの大きな書店に立ち寄った。
ピクニックといえば、お弁当だよね。
ひとみちゃん、喜んでくれるかな?
『はじめてのお弁当作り』
『幼稚園に持って行きたいお弁当』
『男の子のお弁当』
『胃・十二指腸潰瘍に効く料理』
『ピーマコ小川のダンシングクッキング』
あらゆる本を次々に手に取る。
どんなのがいいか分からないから、全部買っちゃおう。
『調理師読本』
調理師になる気なんてまったくないけど、これもいるのかな?
手を伸ばすと、もうひとつ手が伸びてきた。
74
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:55
「あっ、すみません」
ピュッと手を引っ込めた。
「別に…どうぞ。」
どこかで聞いた声がした。
見上げると…ごっちんだった。
「―――あんたしかいないよね、こんなアニメ声」
と言ってごっちんは小さく笑った。
75
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:56
「どうぞ」
渡された、一本の缶コーヒー。
「ごっちんは?」
「いい」
ごっちんと一緒に店を出て、近くの公園へやってきていた。
結局私は5冊買った。『調理師読本』はさすがに買わなかったけど。
ぷしゅ。
プルタブを開けて、一口飲んだ。
「お料理の勉強、してるの?」
「別に」
「そっか…」
「あんたは?」
私は、今度の土曜日にひとみちゃんとピクニックに行くことを話した。
76
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:56
「ごっちんも、行こうよ」
「無理。」
「予定があるの?」
「まぁ…そんなとこ」
残念。
ひとみちゃんはごっちんがいると、少し嫌かもしれないけど。
言い合いをしても、本当は気が合うって思ってるんだけどな。
しゅんとなってしまった私を、ごっちんは確かに横目で見た。
77
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:57
「家にいないといけないから。」
「え?」
「弟が、まだ小さくて。面倒みてんの。」
「連れておいでよ!」
「いいよ」
「人数多いほうが楽しいし!」
「………」
「弟くんも家にいるより喜ぶよ!」
「そう、かもね…んじゃ、行く。」
「やったあ!」
ごっちんの手を握って喜んだ。
ぶんぶん振り回す。
78
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/04/14(水) 08:57
「―――っ!」
ばっ、と音がするくらいその手を無理やり解かれてしまった。
「あ、いや。暑いから」
ぴゅうっ。
冷たい風が、ひとつ、吹いた。
79
:
大淀
:2004/04/14(水) 08:58
更新致しました。
タイトルのとこ、間違っちゃった。
あーあ。
80
:
名無し(0´〜`0)
:2004/04/17(土) 13:11
更新お疲れ様です。楽しみにしていました。
続きが、気になります。がんばってください
81
:
大淀
:2004/05/03(月) 11:02
>80さま
遅れてスミマセン。
これからもよろしくです。
82
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:03
よし。
お弁当は持った。
上手くできたか分からないけど、味はまあまあだった。
あの日、3人が始めてであった駅の改札で、ひとみちゃんとごっちんを待つ。
「早く、早く!おねーちゃんっ!」
「はいはい」
賑やかな声が聞こえてきた。
ちっちゃい男の子に手を引かれるようにして、ごっちんはやって来た。
細身のジーパンに黒のキャミソールを着て。白いシャツを無造作にはおっていて、とてもよく似合っていた。
83
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:03
「ごっちん!」
私が呼びかけると、一瞬だけ私を見て、ひょいと男の子を持ち上げた。
男の子はきゃあきゃあ喜んでいた。
「おはよう」
「おはよ」
無愛想だった口元が、少し上がった。
「例の、弟くん?」
「そ。ユウキ。」
84
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:04
ごっちんに抱っこされたユウキ君に近づいた。
ユウキ君は、ごっちんにそっくりな大きな目を真ん丸くして、私を見た。
「ユウキ君、おはよう。」
「お、おはよう・・・」
「私、梨華って言うの。」
ユウキ君は顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
「いくつ?」
「にさい」
「偉いね。自分でお年、言えるんだあ。」
85
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:04
ユウキ君ははっとしたようにごっちんに振り返った。
「おねえちゃん、ぼくおりる。」
「ん、わかった。」
すとんと地上に降り立ったユウキ君。
ほんとにちっちゃいなぁ。
「今日はいっぱい、遊ぼうね。」
「うん。」
シャイなところもごっちんそっくり。
思わず頭をなでなでしてあげたら、ユウキ君はうれしそうに微笑んだ。
86
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:05
「遅いね、ひとみちゃん…」
「うん」
時計はもう待ち合わせを15分を過ぎていた。
「やぁだぁ、よっすぃー…」
「いーじゃんか。今度はちゃんと遊んでよ?」
「遊んでくれないのは、よっすぃーだよぉ」
「んなことないって。」
ひとみちゃん?
誰か知らない女の人と歩いてきた。
私がさっきユウキ君にしてあげたように、とてもきれいな女の人の頭をなでている。
「じゃね、あたし約束があるから。」
「えー?そうなの?」
「そうなの。じゃね」
ひらひらと女の人に手を振って、ひとみちゃんは改札に切符を通した。
87
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:06
ごっちんを見ると、なんだか怖い顔をして唇をかんでいた。
「おー!おはよう、梨華ちゃん。」
「おはよう…」
「…どうしたの?」
「え、っと。それは…」
ぐいとひじの辺りをごっちんにつかまれて、切符売り場へと引っ張られた。
「イコ。」
「うん…」
「おいごっちん!なんなんだよ!」
「…自分に聞け」
ごっちん、怒っちゃってるよ。
ひとみちゃんのせいだと思う。
88
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:06
「おい、待てって!…お?」
「お?」
ひとみちゃんはようやくユウキ君の存在に気がついたみたい。
見る見るうちに無邪気な笑顔になっちゃって。
ホームで電車を待つ間、ひとみちゃんはユウキ君をずっとおんぶしていた。
子供にも、人気あるんだなぁ…
「ユウキ、電車来たよ」
「ほんとー?」
キャッキャとひとみちゃんの背中の上で、はしゃぐユウキ君。
「あ、コラ!暴れるなぁー。」
「でんしゃ!よっすぃー、でんしゃだよ!」
「あーもう分かったって。これに乗ろうな。」
「うん!」
止めろといいつつも、ひとみちゃんは嬉しそう。
89
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:07
ごっちん、ユウキ君、ひとみちゃん、私の順で座ることになった。
私はさっき、ひとみちゃんといた女の人を思い出していた。
ひとみちゃん、モテそうだもんね。
だけど、待ち合わせにまでつれてくることないじゃない。
って、私何怒ってんだろ。
別に、怒る理由なんて何もないのに。
90
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:07
何て流れる窓の景色を見ながら思っていたら、不意に膝の上の手があったかくなった。
ひ、ひとみちゃん?
「あの…」
「いーじゃん。手、繋ごうよ」
ひとみちゃんは右手をぶんぶん振り回す。
そこはユウキ君としっかり繋がっていた。
あ、そうゆうことですか。
私もきゅっと握り返したら、ひとみちゃんは少し顔が赤くなったような気がした。
一本一本指を絡めて、握り直された。
ちょっと…嬉しいかも。
そして、公園に着くまで、ひとみちゃんと手を繋いでいた。
91
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:08
「すっげー。梨華ちゃんが作ったの?」
「うん…おいしいかどうか、分からないけど。」
朝6時に起きて作ったお弁当を広げた。
「あたし、卵焼き好きなんだ。」
「…どう?」
「ん、うまいよ。」
「…ちょっとしょっぱいんじゃない?」
「そうかな?」
「塩はちょっとでいいと思う。」
気を使ってそれでもおいしいといってくれたひとみちゃんに、はっきりと感想を言ってくれたごっちん。
「あたしも、作ってきたんだ。」
ごっちんの作ってきたお弁当はきちんと栄養も考えてあって、すっごくおいしかった。
照れくさそうに笑ったら、今度教えてもらう約束をした。
92
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:08
「あー食った食った。」
ごろんとひとみちゃんはその場に寝そべった。
「おねーちゃん、ぼくトイレに行きたい。」
「はいはい」
軽くユウキ君のお尻を叩きながら、ごっちんはトイレに行ってしまった。
「…すぐ横になったら、牛になるよ?」
「牛、ねぇ…」
ひとみちゃんはニヤリと笑うと、体を起こして私を覗き込んだ。
93
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:09
牛=キス。
私の頭の中はそんな図式が成り立っていた。
「あー梨華ちゃん。キスのこと考えてんなぁ?」
「か、考えてないよ!」
「キス、したいなぁ」
ひとみちゃんは私の頬をなでた。
手つきはホント優しくて…
「梨華ちゃんは?」
「したくない」
ダメなんだから!あんな、女の子連れて歩くなんて、ロクな人じゃないよ!
94
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:10
「ふーん。じゃ、奪っちゃお」
「んん!」
強く、強く口付けられた。
何度も何度も口付けられた。
ダメだって思うのに…気持ちよくて…振りほどけない…
耳のあたりを優しくなでられて、何度も角度を変えてキスされた。
私もいつの間にかひとみちゃんにしがみつくようになってた。
優しく唇が離れたら、後悔が押し寄せる。
好きでもない人と…キスするなんて。
私、どうかしてるよ。
一瞬でも気持ちいいと思った自分が恥ずかしい。
95
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/05/03(月) 11:10
「かわいい。梨華ちゃん、かわいい。」
「何、急に…」
「いつも思ってるよ。」
「やだ…」
「好きだよ」
そう言って口付けられた。
激しさはない、子供のようなキス。
「梨華ちゃん、好きだよ」
その笑顔もまた、子供のようだった。
96
:
大淀
:2004/05/03(月) 11:11
更新いたしました。
やっちゃった。
97
:
JUNIOR
:2004/05/03(月) 14:44
更新お疲れ様っす。
よっすぃ〜やっちゃいましたか。
ユウキが2歳・・・・・。(・∀・)イイ!
頑張れ大淀さん
98
:
名無し(0´〜`0)
:2004/05/07(金) 00:04
なんでだろう・・・
いしよし板なのにいしごま応援したくなってしまつた・・・
99
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:15
「あっちぃ」
「…ホントに」
一通り公園を散歩し終えると、額には汗が噴出していた。
今日は、一段と日差しが強い。
空になったバスケットを持ち直す。
重くはないけどかさばって、持ちにくい。
すると急に軽くなったのを感じた。
そっとバスケットに伸びた手。
100
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:16
「…ごっちん?」
「いいから」
ごっちんの、こーゆう不器用な優しさも、知っていた。
会ったときから、知っていた。
半ば強引に奪われたけど、私は素直にその好意に甘えることにした。
だけど、この少年は…
「すっげー。あの恐竜、カッケー。」
「カッケー!」
大きな恐竜を模った遊具に、目を奪われている。
ユウキ君も同じように、『カッケー!』なんて言っちゃって。
ごっちんよりも、ひとみちゃんの方が兄弟のように感じる。
『お兄ちゃん』って感じだけど。
101
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:16
「こんなところに、喫茶店があるよっ!」
「ホントだ」
ひとみちゃんが指差したのは公園からも見える、小さな店だった。
赤い屋根で、さほど大きくない店構え。
だけど植えてある花だとか、窓から見える雑貨にさえ、こだわりがあるようだった。
「…休憩する?」
「「賛成!」」
102
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:17
カランカラン…
来客を知らせる鐘の音。
いかにも喫茶店、って感じで嬉しかった。
店内に広がるコーヒー豆の香り。
今では懐かしい、レコード台からは聞いたことのない洋楽が流れていた。
「いらっしゃい」
にこやかに招き入れてくれたのは、金髪のお姉さんだった。
ノースリーブから見事に露出した腕は、息を飲むほどに美しく。
きれいにまつげがカールされていて、化粧もとても似合っていた。
103
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:18
「ぅあー、カワイイっ!」
ひとみちゃんが駆け寄ったのは、二匹のチワワだった。
「花とタローって言うねん」
お姉さんは口を開けば、関西弁だった。
肩まで伸びた茶色の髪が、優しく揺れた。
「花って言うのか。よしよし。
…くすぐってぇよ、タロー。」
ひとみちゃんは2匹とじゃれあいながら、床に転げた。
お構いなしに2匹は胸の上を飛び回る。
キャンキャン言う2匹を見ていたら、
『ひとみちゃんて、なんか…子犬みたい』なんて思ってしまった。
104
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:18
「まぁ、座りぃや。」
ひとみちゃんから目線を外して、私とごっちんはカウンターに座った。
ユウキ君は犬が怖いのか、少し離れたところから2匹を見ていた。
「何にする?」
お姉さんは掛かっている布巾を取り出し、丁寧にグラスを拭き始めた。
「…こんにちは。」
私の席のひとつ隣には、女性が座っていた。
お姉さんに負けないくらいの金髪で、背は小柄だが私たちより年上なのは明らかだった。
105
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:19
「こんにちは…」
「こいつは矢口って言うねん。カワイイやろ。」
「ばっ…んなコト言うな!早く注文聞けよっ!」
「オレンジジュース二つ。」
「私も。」
「ひとみちゃんは?」
まだじゃれあってる。
ユウキ君も参戦していた。
「え、と。アイスコーヒーください。」
「かしこまりました」
106
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:20
「そこのお二人さん。名前、何て言うの?」
矢口さんは右手で頬杖をついて、話しかけてきた。
「石川梨華です。」
「梨華ちゃんかぁ。女の子、って感じでかわいいね。」
そういって、矢口さんは椅子から身を乗り出して私の顔に手を伸ばしてきた。
な、なに?
「…っこいしょ、と。」
「?」
107
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:20
矢口さんは、私との間に割り込まれて、驚いていた。
「ひとみちゃん!」
「べ、別にチワワに飽きただけだからね。ねーさん、コーヒーまだ?」
ひとみちゃんは喉が渇いているのか、水をぐいっと飲み干した。
私がひとみちゃんをいくら見つめても、知らん顔。
「あはは!まさか、ヤキモチ?かわいーねー。」
「んな訳ないじゃないっすか。」
そう、だよね…。
「おまたせぇ」
108
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:21
注文した飲み物が運ばれてきて、私たちは無言で飲む。
チラ、とまたひとみちゃんを伺うけど彼女は目を閉じたまま。
「でさ、ヤグチ思うんだけど。」
「なんすか?」
「あんたの顔、どっかで見たことあるんだよねぇ…」
「あたし?」
「名前、何て言うの。」
「吉澤です。吉澤ひとみ。」
「聞いたことないなぁ。」
109
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:21
「…どうせ、ナンパだろ。」
ふと、ずっと押し黙っていたごっちんが口を開く。
「んだよ!しねえっつの、そんなこと!」
「うわ!それ、失礼極まりないで!ウチの矢口に何言うねん!!」
「ウチの矢口って言うな!」
そこからぎゃーぎゃー矢口さんとおねーさんの言い合いが始まった。
矢口さんとひとみちゃんの関係、気になるなぁ…。
110
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:22
「やっぱヤグチ、よっすぃーのこと見たことあるんだけど。雑誌かなんかかなぁ。」
「…よくある顔なんすよ、きっと。」
ひとみちゃんのその横顔は私の見たことのない顔だった。
知らない、誰かのようだった。
111
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:23
「…寝ちゃったねぇ」
「うん」
ごっちんの膝の上には、ユウキ君がすうすうと寝息を立てていた。
はしゃぎすぎて、疲れたんだろう。
時間は夕方になろうとしていた。
「ごちそうさまでした。」
「うん、またおいで。」
「はい。きっと来ます、中澤さん。」
「元気でな。」
きっとまた来よう。
そう約束して、私たちは店を後にした。
112
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:23
「久しぶり!」
ピクニックに行って、2週間くらいたった日。
私とひとみちゃんはごっちんのうちに行くことになった。
今日はごっちんに料理を教えてもらう。
「…ごっちん、ほんとに料理、上手だね。お店出したら?」
冗談交じりに私が言うと、ごっちんは本棚に目をやった。
「一応、プロ目指してるから。」
そこにはあらゆる料理の本、栄養に関する参考書がずらりと並んでいた。
あの日、本屋で偶然会った日もそんな本を探していたという。
113
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:24
「ユウキを見ながらだから、今すぐって言う訳には行かないけど。
とりあえず、通ってる。予備校には。」
「すごいね…」
私なんて、なんとなく大学に通ってて、普通にどこかに就職できればいいかな…
なんて漠然と思っているのに。
自分のやりたいことがあって、それに向かって努力できるごっちんを尊敬した。
今日のごっちんは機嫌がいいらしく、よく喋る。
今まであまり、自分のことを話したがらなかったのに、今日は私たちに夢まで語ってくれた。
スズキをパンで巻いて揚げたものに、ゴルゴンゾーラと粉チーズを使ったクリームレモンソースのパスタ。
デザートはいちごとアプリコットのタルトだった。
114
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:24
ひとみちゃんはすごく気に入ったようで、
「ごっちん、お嫁さんになって!」とはしゃいでいた。
「冗談でもヤメテ。」と本気で嫌がっていたけど。
お礼に私とひとみちゃんが食器を洗うことになった。
ごっちんはソファーでくつろいでいた。
今日はお母さんとユウキ君は実家に帰っているらしい。
ごっちんはバイトがあるから、と帰れなかったようで、私たちが招かれたのだ。
「ごっちんには負けられないんで」とひとみちゃんはつまみを作った。
115
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:25
スズキのから揚げ。
しょうが汁と豆板醤がポイントというそのソースは、ちょっと味見をするとピリッとしてとてもおいしい。
オーブンからいい匂いが漂うと思ったら、鶏肉とブロッコリーをカルボナーラ風にアレンジしているらしい。
焼きあがるまでに、私とごっちんがお酒を買いにいくことになった。
「えー。ヤダよ、留守番なんて。」
「道、知らないじゃん」
「そこの辺は、こう…野生的カンで行くから」
「バカ。」
「あー!また言った!」
「ひとみちゃん、私が留守番するよ。行っておいで?」
「ダメだよ、それじゃ意味がナイー!」
116
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:26
「?」
じたばた暴れるひとみちゃんは子供のようで、カワイかった。
「ひとみちゃん、コドモみたい。」
ふふっと笑うと、ひとみちゃんは口を結んだ。
「…わかったよ。」
「始めからそう言えばいいのに。」
「くそう」
「寄り道すんなよ!」
「さぁ?」
「ごっちん!」
117
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:26
どこまでもいいように弄ばれるひとみちゃん。
この二人は、こうしながらも楽しんでいるんだろうな。
ちょっと、うらやましい気もした。
ベランダに出てまで私たちを見送るひとみちゃんは、ちょっと恨めしそうに見ていて。
ちょっとかわいそうな気もしたけど、『ちょっとくらい、いいじゃん』なんてごっちんが言うもんだから、
私も少し意地悪な気分になった。
118
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:27
「楽しい、かも」
今日も星が見えない東京の空を見上げながら、ごっちんはポツリと言葉をこぼした。
「そうだね」
今まで、こんな風に誰かと楽しく過ごす時間もなかったのかな。
なんとなく、そう思った。
クールな空気を持つ人だから、始めは少し近寄りがたかった。
だけど一緒にいるうちに、ホントは照れ屋な一面もあること、誰よりも人に気遣うことができて、優しいこと。
その優しさは油断してるとわからないところでくれていて、さりげないところがごっちんらしい。
119
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:28
「手、繋がない?」
私は気がつくとそんなことを言っていた。
まだちょっと夜は寒いから、なんていいわけをしたけど、ごっちんに触れたかったのだ。
もっともっと、ごっちんを知りたい。
あったかいものを、共有したい。
たくさんの時間を一緒にすごしたい。
私は確実に、ごっちんに惹かれていくのを感じていた。
「いいよ」
差し出されたごっちんの手は、ほっそりとしていてとっても女の子の手だった。
軽く力をこめると握り返してくれるのが嬉しかった。
やわらかくて、あったかい。
時々ごっちんが持ち直すワインの瓶が入ったビニール袋。
私はそれに気づいていながらも、『もう少しだけ…』と黙っていた。
120
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/12(土) 05:33
更新しました。
遅くなってしまい、本当にすみません…
>JUNIORさま
ごっちんにそっくりなチビユウキはすっげかわいいんだろうなぁ。
いいなぁ、ごっちん。
>98 名無し(0´〜`0)さま
応援ありがとうございます。
頑張りやす。
自分のHPで短編いしよしばっか書いてたらこんな事態に…
最後まで頑張りたいと思います。
121
:
JUNIOR
:2004/06/13(日) 00:56
更新お疲れ様っす。
吉が少し哀れっすね。お留守番・・・・・・・・。
大淀さんのHP見てますよ〜。
頑張ってください。
122
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:46
「ただいまぁ」
20分ほどして、私ちゃんとごっちんは帰ってきた。
ひとみちゃんに変に思われたくないから、マンションが見えてくると
私たちはそっと繋いでいた手を離した。
どちらからでもなく、自然に。
帰ってくると飛んでくるくらいの勢いで出迎えてくると思っていたひとみちゃんは、
部屋のテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。
まるで子供のように無邪気な寝顔のひとみちゃんを見て、
グラスを片手にごっちんは「ユウキみたい」と笑っていた。
123
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:47
ポンッとコルクの抜ける音がして、私は緊張した。
とくとくとグラスに注がれる濃い紫を見ている
と、それだけでクラクラしていくのを感じた。
交わされる言葉は一言、二言。
重苦しい空気が流れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
ごっちんがグラスを軽く持ち上げる。私も、それに倣う。
目だけで私に合図してくるごっちんが、すごくオトナに見えた。
124
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:47
「乾杯」
「乾杯」
チン、とグラスが共鳴し合って、何かの始まりを告げる。
なんだか胸騒ぎがする。
でもそれは決してイヤな予感ではなくてむしろ、嬉しい予感。
「ちょっと、飲みすぎだって」
「いいんらもーん」
呂律が回らなくなって、なんだかフワフワしてる。
気持ちいいよぉ・・・
125
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:48
【吉澤視点】
126
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:48
…ん?
やっべ眠ってた!
ごっちんは?梨華ちゃんは?
気がつくとあたしは床に寝転んでいて、どっちかがかけてくれた毛布に包まれていた。
なんだか急に身体を起こす気にもなれず、
とりあえず開けた目だけで状況を把握しようとする。
127
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:49
つけていた電気は消えていて、音の消されたテレビだけがついていた。
知らない日本人が、ビルの屋上で熱唱しているPVが映っている。
部屋の電気はテレビの明るさだけで、青白い光がぼんやりと天井を照らしていた。
「……え?」
ごっちんの声だ。
ごっちんと梨華ちゃんが向かい合って座っている。
梨華ちゃんはあたしに背を向けていて、
ごっちんは下を向いて胡坐をかいていたから、目が合うことはなかった。
128
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:50
「だからぁ」
梨華ちゃんの声がいつも以上に子供っぽく聞こえる。
酔ってんのかな。
ちょっとっ!
なに手握り合ってんのっ!
129
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:50
「………」
「………」
何の沈黙だよおっ!!!
寝返りを打つフリをして、見やすい位置に移動した。
見ると、梨華ちゃんがごっちんの手をとっていた。
人差し指で、ごっちんの手のひらに何か文字を書いている。
ごっちんはそれを読み取るのに苦戦しているらしい。
130
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:51
「……。わかるぅ?」
なに甘えた声出してんだよ!
「わかんない」
おい後藤、わざと言ってんじゃないだろーな。
いくら梨華ちゃんの手がやわかいからって。
だいたい、部屋には3人しかいないのに、わざわざそんなコトしなくたって!
あたしには聞かれたくない会話してんの?
131
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:51
『ごっちんがスキ』
『ひとみちゃんにはナイショだよ』
…とか?
あーっ!!!!
ムカツク!
あたしは思い切ってごろんと寝返りを打つ。
梨華ちゃんに身体をぶつける。
132
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:52
「?」
「おきちゃった、かな」
起きてるっつの!
それでもあたしは寝たフリをやめない。
寝ていた嘘を上手く突き通す自信がなかった。
…それに、ごっちんと梨華ちゃんのことを知るのが怖かったからだ。
133
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:52
怖い?
まるであたし、梨華ちゃんのこと好きみたいじゃんか。
そりゃ、好きだけど…
本気になるのって、何だかしゃく…だし。
今までもずっと、恋は遊びでやってきたわけだし。
134
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:53
「寝てるよ」
読みが甘い、ごっちん!
「そうだねぇ」
梨華ちゃんものん気に!
そっと薄目を開けると、梨華ちゃんの影が浮かび上がる。
梨華ちゃんの右側からはテレビの青白い光が彼女を照らす。
逆光になって、左側にいるあたしからは黒い梨華ちゃんしか見えなかった。
135
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:53
表情は暗いから見えないけど、黒と白のコントラストがくっきりと出ていて、あたしの目は釘付けになった。
薄く開いた唇が、色っぽくて。
昼間したキスをもう一度したくなった。
梨華ちゃんの影は、とても、美しい。
じっと正面を見つめている。
正面には、ごっちんがいた。
136
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:54
そして、視界から消えていたごっちんがあたしの目に映る。
ごっちんも同じように影だけが揺らめいていた。
少しずつ間合いをつめていく。
人のラブシーンを覗き見しているみたいだ。
実際、そうなんだけど。
137
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:54
?
だ、だめだって!
キスすんの?
だめ、マジやばい!!!
あたしの胸の音はサイレンのようにうるさく、早鐘のように狂い打つ。
「…へくしょい!」
138
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:55
何て下手な演技だと思った。
驚いた二人は異常な速さで離れた。
あたしが寝てたら、同じ部屋にいてもこんなことすんの?
ムカツク。
それに…すげーショック。
あたしは怒りと嫉妬、悲しみとショックでぐちゃぐちゃになる。
139
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/06/17(木) 11:55
こんなの、あたしらしくない。
こんな必死で、かっこ悪い。
一体、どうしちゃったんだよ。
気がつくと、ごっちんを突き飛ばしていた。
140
:
大淀
:2004/06/17(木) 11:59
更新っす。
読んでくれる方がいたらいいなぁ…なんて。
書かせてもらえるだけでしあわせ、かな。
>JUNIORさま
ありがとうございます。
HPをもっとちゃんとできるようにがんばり保。
もちろん小説のほうも。
ちょっと吉くんがかわいそうな気もします。
ごめんね。
141
:
JUNIOR
:2004/06/17(木) 23:33
更新お疲れ様です。
読んでる人いますよ〜。ほらココに。
吉かわいそうですけど、突き飛ばされた
後もかわいそう。怪我がないか心配・・・・。
次回も待ってます。
142
:
名無し(0´〜`0)
:2004/07/08(木) 23:40
よっちゃん切ないなぁ。。
続き楽しみにしてます。
143
:
大淀
:2004/07/12(月) 17:56
ごっちんはかなり驚いた様子で目を真ん丸くしていて、ずっと黙っていた。
あたしも、自分の行動に驚いて何も言わなかった。
気まずい空気が部屋中を満たす。
「あ、あの・・・ごっちん大丈夫?」
沈黙を破ったのは梨華ちゃんだった。
それでもごっちんを心配したことにあたしはすごく腹が立った。
144
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 17:57
「あたし、帰る。」
「えっ?!」
「梨華ちゃんは、ここに泊まれば?」
立ち上がって財布と携帯をポケットに突っ込む。
ラブシーンでも何でもやっちゃってよ、もう。
あたしはフラフラと玄関まで歩く。
それでもごっちんは何も言わなかった。
「ひとみちゃん!」
梨華ちゃんはあたしの名前を呼んだけどそれでもその場を動こうとはしなかった。
「お邪魔しました。…楽しかったよ」
145
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 17:58
アンタらのラブシーンを見るまでは、ね。
ドアノブに手をかける。
「…ごめん」
ドアが閉まる瞬間、ごっちんの一言を聞いてしまった。
―――謝るくらいなら、しなければいいのに。
しかも、何であたしに謝るんだよ。
イライライライラして、家に帰る気にもなれなかった。
146
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 17:58
【後藤視点】
147
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 17:59
「…泊まって、く?」
自然と口に出したそれは、飲みかけのワインにも溶けずに足元へ落ちた。
さっき、アイツが起きなかったら…
あたしはどうしてた?
石川さんのことは、決して嫌いじゃない。
だけど、あたしは、あたしには…
『待ってて』
最後の最後まで、欲しかった言葉をくれなかったアイツ。
その言葉さえもらえたら、あたしは今のようにはならなかったのかもしれないのに。
148
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:00
出口の見えない迷路。
きっときっと、夜は明けないだろうし、出口にもたどり着けない。
真っ暗で、寒くて、怖いよ。
アイツにもう一度出会ったら、少しは変われるのかな―――
今はどうしても次の恋には走れない。
石川さんがどうしたいのか分からないけど、あたしだって自分がどうしたらいいのか…
今のままの不安定な関係が楽なんだ。
石川さんが家に電話する声を背中で感じながら、そっと目を閉じた。
149
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:00
「…泊まっても、いいって」
恥ずかしそうに目線は落としたまま石川さんは言った。
「そう」
一言だけそう言うと、温くなったワインを呷った。
「シャワーでも、浴びてきたら?」
あたしに抱かれるとでも思ったのか、石川さんはかわいそうなくらい硬直した。
「え、でも…」
「…別に何もしないから。」
明らかにほっとした表情を見せたら、バスルームに駆け出して行った。
150
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:01
あたしは石川さんに行ったとおり、その夜は何もしなかった。
同じベッドで寝ることもなく、指一本だって触れなかった。
求められたら、それなりのことは出来たかもしれない。
誰の目から見たって、石川さんを欲しいと思うのは当然、みたいな部分があるし。
あたしは少し離れたベッドの上で上下するふくらみを見つめた。
だけど、思い出すのはアイツ。
何年たっても、思い出すのはアイツ。
それぞれの切ない夜は、更けていった―――。
151
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:01
【石川視点】
152
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:02
ひとみちゃんが怒ったようにごっちんの家を飛び出したあの夜。
緊張しながら、それでも少し切ない思いでごっちんの家に泊まったあの夜。
ごっちんは次の日少し目が赤くて、きっと一睡もしていなかったであろうあの夜。
それぞれが、それぞれに、きっと上手くいかなくて。
きっとあの夜のせいで、一緒に遊ぶ回数が減ったり、妙な空気が流れるんだろうと思っていた。
思いのほか私たちはずっと大人で。
あるいはそれを隠してしまいたいほど、精神的には成熟していないのか。
何も変わらずに、日々は過ぎてゆく。
153
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:03
ひとみちゃんは、フットサルをやっているらしく。
『試合を見に来ない?』と私たちを誘ってくれた。
「おはよう、ごっちん。」
「おはよ」
眠そうなのはいつもと同じ。
お隣のユウキ君が元気なのも、いつもと同じ。
ひとみちゃんのチームのベンチ裏に席を陣取る。
「結構、人入ってるじゃん。」
薄いブルーのサングラス越しに、ごっちんは辺りを見回した。
154
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:03
「ビールにお茶、アイスクリームはいかがっすかー」
「ヤグチぃ、休憩しよ」
「バカ裕子!今始めたばっかだろ!」
ヤグチ?
裕子?
「あー!梨華ちゃん!!!」
「矢口さん」
「た、すけて…暑っちぃ…」
猛暑にダウンする中澤さんと、それに鞭打つ矢口さんだった。
155
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:04
「なーに?梨華ちゃん達もフットサル観戦?」
「今日の試合に、ひとみちゃんが出るんです。」
「へぇ。ヤグチたちは選手まで見ないからさぁ、知らなかったよ。」
「…矢口さん達は?」
「オイラ達は、飲み物とかの売り子。」
「喉、渇きますもんねー。」
「でもさぁ、裕子が働いてくんないんだよ。」
「あはは。大変そう。」
「う〜。日焼けするぅ」
矢口さんからお茶を三つ買うと、
中澤さんを引きずるようにして販売に走り出した。
試合が終わったら、中澤さんの店で打ち上げをする約束をして。
156
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:05
「ひとみちゃん、お疲れ様。」
「うん、お疲れ。」
ひとみちゃんは2点も得点したけど、結局チームは負けてしまった。
唇をかみ締めて、すごく悔しそう。
『次は絶対勝つから』
なんて言って、とりあえず着替えるためにロッカールームへ消えていった。
「中澤さんがね、打ち上げの準備してくれてるんだよ」
「マジで?…おーい!残ってる人いねー?」
突然のことだったから、メンバー全員はムリみたいだったけど、5人くらい来てくれるという。
157
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:05
「でさぁ、ソイツ、審判の見えねートコで反則してくんの。
コスイって言うかさぁ、そのせいで負けたなんて絶対言いたくないけど。」
「うん…」
ほんとに悔しかったみたい。
試合のことを、熱く熱く語るひとみちゃんはとてもカワイかった。
「今夜は忘れてやるー!」
時々雄叫びを上げながら、ひとみちゃんはずんずんと歩いていた。
カラン、カラン…
鐘の音を鳴らせば、中澤さんと矢口さんの温かい笑顔に出迎えられる。
キッチンからは、何かを焼いている音と、軽快なビートルズの歌が流れていた。
158
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:06
「よっさん、お疲れ!」
「残念だったねー。」
『そうなんスよ!』
まるで男子部員のようにドカドカと入り込んでくるメンバーを、
中澤さんは嬉しそうに招き入れた。
全員に飲み物が行き渡ると、乾杯の音頭は中澤さんが取る。
「「「「「「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」」」」」」
今夜は、楽しくなりそう。
159
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/07/12(月) 18:06
ひとみちゃんや、みんなの笑顔を見てると、自然と私の顔もほころぶ。
「石川さん、だよね?」
静かな炎を背負ったような人が立っていた。
「あたし、藤本って言うんだけど。」
フジモト、さん…?
「ちょっと話があるんだけど」
まだ、1杯目ですよね?
カラまれるのは、ちょっと…ひとみちゃん、ごっちん…
ひとみちゃんは中澤さんと下ネタで盛り上がっているし、
呑み過ぎないようにと気を遣っている矢口さんが横にいた。
ごっちんは早速フットサル部員さんたちに囲まれちゃってるし…
えっと…石川が何かしましたか?
160
:
大淀
:2004/07/12(月) 18:14
ただいまです。大淀です。
えっと、ちょこっとですが更新致しました。
いつもレスをくれる皆々様、
ROMってるけど読んでくれているかもしれない皆々様、
よっさんねるの管理人様、いつもありがとうございます。
ヘボ駄文っすけどこんな風に書かせていただける環境にあることを
心より感謝しております。
>JUNIORさま
ありがとうございます。
お待たせしてすみませんでした。
いつも暖かいレスをありがとうございます。
吉くんは十二分に手加減をしています。
>142さま
お待たせいたしました。
のんびりペースでごめんなさい。
皆が皆、切ない感じになっちゃう、のかなぁ…
161
:
JUNIOR
:2004/07/13(火) 02:34
更新お疲れさまっす。
石川さん何かしてますよね。
当の本人は全く気づいてないようだけど・・・。
のんびり頑張ってください。
162
:
キトキト
:2004/07/20(火) 00:20
はじめまして。
一気に全部読ませてもらいました。
すごく好きな感じの話なのでこれからも頑張ってください!!
個人的には矢口さんがよっすぃ〜の事を見たことがあるって言ってたのが
気になりますが・・・
今後の展開楽しみにしています。
163
:
大淀
:2004/10/29(金) 12:42
時が経つのは早いもので。お待たせしてすみませんでした。
(0^〜^)<待ってくれてる方、いるのかな?
>JUNIORさま
遅くなってごめんなさい。
鈍い石川さんです。
>キトキトさま
嬉しいなぁ。ちゃんと気がついてくれた方がいらっしゃったんですね。
よっすぃーは秘密を持っています。
それはまたおいおいに。
そいではヒサブリの更新でーす
164
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:43
コワイです、はっきり言って。
ぐっと掴まれた左の手首が、痣になりそうだった。
体育会系の皆さんは、ほんとにコワイです。
ジャージ姿にビールジョッキを持っていて。
なんだかアンバランスで思わず笑いそうになる。
「あんた・・・ごっちんの何な訳?」
「何って・・・」
ご・・・ごっちん?
ひとみちゃんならまだしも、ごっちんと藤本さんに面識があったことに驚いた。
165
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:43
「・・・で、何な訳?」
何、って聞かれても・・・どう返事すればいいのか。
好きってわけでもないと思うんだけど日増しに大きくなっているごっちんの存在。
「ごっちんとはどういう・・・」
「昔っからいるんだよねぇ、あんたみたいな人が。」
全く話を聞こうとしないわ、この子。
「どういう意味でしょうか?」
ついついこっちまでケンカ腰になってしまう。
「だからいるわけよ。ごっちんがお金持ってるからって、遊んでもらおうとか思う人。」
「お金?!」
私はその後絶句した。
ごっちんがお金持ちなんて知らなかったし、それにお金持ちだから友達なわけじゃない。
何を言ってるんだろう。
驚きと怒りで、何も言えなかった。
166
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:44
「美貴はさ、小っちゃい時からずっとごっちんと一緒だったんだ」
「幼馴染ですか」
「父親同士が親友でね。会社も一緒だったんだ」
「だった・・・?」
「だから美貴が一番ごっちんのことを知ってるの」
「はぁ」
「ごっちんには好きな人がいるんだ・・・・・・・ずっと、好きな人が」
ある程度予想はしていたことだった。
時々、周りのものを何一つ映さない瞳。
遠く誰かのことを想っている瞳だった。
167
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:44
「美貴でも、無理だったから。」
「え?」
「昔のごっちんを、取り戻そうともしたけど・・・ダメだった。」
「藤本さん・・・」
「よく笑う子だったんだぁ・・・本当に。嫌なことぜーんぶ忘れさせてくれるような、そんな笑顔だった。」
「それが、どうして?」
「二度も置いて行かれたごっちんの心の傷は、美貴には治せなかった。」
「二度?」
「・・・・・・・・・」
「お願い、藤本さん。話して!」
168
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:45
私は気づけば藤本さんの肩を掴んで、大きく揺さぶっていた。
驚き見開かれた藤本さんの瞳に、ごっちんの真実を探す。
あんな寂しい顔は、もうさせたくない。
私も、ひとみちゃんも、藤本さんだっているじゃない。
ひとりじゃないんだよ、ごっちん。
「美貴と、ごっちん、そして紺野は・・・仲の良い幼馴染だったんだ」
ぐいっとビールをあおる藤本さん。
「ずっと、仲のいい関係が続いてくと思ってた」
「でもそれは、父親たちによって潰されちゃったの」
169
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:46
「美貴たち三人の父親は、同じ会社に勤めてた。
休みの日は家族みんなでバーベキューをしたり、正月旅行は毎年一緒だった。
ホントにみんな、家族のように仲が良かったんだ・・・」
「けど・・・紺野のお父さんが昇進してから、少しずつ変わっていった。
前のように休みの日に紺野のお父さんだけは来なくなって、何だか寂しかった。
子どもには関係のない話だから美貴たちは変わらずに仲良しだったけど・・・」
「とうとう正月旅行もなくなってしまった・・・その年」
「ごっちんのお父さんがリストラにあったんだ」
「しかも、直接ごっちんのお父さんに命令したのは紺野のお父さんだった」
170
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:46
藤本さんは、そこで私の顔色を伺った。
私はただ、藤本さんの目を見ていた。
ふっと笑って視線を逸らして、話は続いた。
「ごっちんのお父さんは何も言わずに会社を辞めたけど。
はじめは脱サラとか言って店を始めるようなことも言ってたんだけど。
・・・ある日、ごっちんのお父さんは失踪したの」
「その後かな、ごっちんのお母さんはユウキを妊娠しているのが分かったのって」
「そんな・・・」
「あれだけ仲良くしてた紺野もその後すぐに進学してこの街を出て行った」
「まぁ、紺野は頭良かったからね」
171
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:47
「おい」
背後で聴きなれた声を耳にした。
ごっちん・・・。
「余計なことをベラベラベラベラ喋りやがって・・・」
「ごっちん。この子は」
「ふざけんな」
「ごっちん、藤本さんは悪くないの!私が勝手に・・・」
「・・・ミキティだけは、分かってくれると思ってたのに」
「ごめん、ごっちん」
「許さない。絶対に。お父さんも・・・紺野も」
172
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:47
ふたりとも、ナイフで傷つけられたように痛そうな顔をしてる。
「あれ、どうしたんだよ・・・みんな怖い顔して・・・?」
小皿にいっぱい料理を乗せ、口いっぱいに頬張ったひとみちゃんがやってくる。
その横を避けるようにしてごっちんは走り去っていった。
「ごっちんっ!!!」
藤本さんは呼び止めるけど、届かず・・・ごっちんは店を飛び出していった。
「・・・トイレか?」
ひとみちゃんはフォークを咥えながら、暢気な声を出していた。
173
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:48
「梨っ華ちゃーん!!!」
両手をぶんぶんと振りながら、制服姿で駆けてくるひとみちゃん。
小さく手を振って、応えた。
「梨華ちゃんから誘ってくれるなんて、初めてじゃん?嬉しいなぁ」
「とりあえず、どっか入る?」
私は、どうして藤本さんが初対面の私にあんなことを話してくれたのかが、
ずっと気になっていた。
そして、あれからずっとずっとごっちんのことを考えていた。
174
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:48
「・・・梨華ちゃん?」
「え?・・・あぁ、ゴメンね。何?」
「さっきからずっと、上の空じゃん」
「ゴメンね・・・」
ひとみちゃんはつまんなそうに、アイスティーの氷をさくさくとストローでいじった。
「何か、気になることでもあるの?」
「そ、それは・・・」
「ごっちんか」
175
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:49
私は、ひとみちゃんを呼び出して何をするつもりだったんだろう。
ひとみちゃんなら、ひとみちゃんだったら、何か助けてくれるかもしれないって。
そう、心の中で思っていたのかもしれない。
こんなときでも、一番大切にしたいのはごっちんの笑顔だった。
目の前のひとみちゃんのことよりも。
「そう、だよ」
「・・・・・・・・・」
ひとみちゃんの表情に明らかに落胆の色が見えた。
それがどうしてなのか私にはよくわからなかった。
176
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:49
「つまり梨華ちゃんは、ごっちんのことが好きなんだね?」
「ええっ?!」
まっすぐと見据えられながら問いかけられると、私は硬直するしかない。
だって、そんなことちゃんと考えたことがなかったから。
ちゃんと、改めて人に問われたことがなかったから。
「・・・やっぱりひとみちゃんも、そう思う?」
「はぁ?」
「私、ごっちんのこと・・・好きなのかなぁ」
「そんなの知らないよ」
ふいっと私から顔を背けて、ひとみちゃんは通りに目を向けた。
177
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:50
「やだぁ。意地悪しないで教えてよ」
「意地悪とか・・・そんなんじゃないし」
手を伸ばすと、甘く香るミルクティー。
『紅茶がいい。ミルクたっぷりのやつ。』 彼女はいつもそう言っていた。
私はオーダーする飲み物にさえ、ごっちんを求めていたのかと気がついた。
「わかんないよ!そんなの言われても」
「わかるでしょ。自分のことなんだからさ。」
いつのまにか、ひとみちゃんはイライラし始めていた。
「わかんないよ!好きとか嫌いとか自分の気持ちって、一体いつ気がつくのっ?!」
「じゃ、もういい」
「ちょっと、ひとみちゃん?!」
178
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:50
ひとみちゃんは会計の紙を引っつかむと、レジに向かっていった。
違う。そうじゃない。
ひとみちゃんと、喧嘩をしに来たわけじゃない。
もっとみんなで笑い合っていたいから・・・
好きとか嫌いとか関係なく、ただ楽しく笑い合っていたいのに・・・!
「ひとみちゃん・・・」
私が甘いだけなのかな。
ちゃんと、友達である以上気持ちの線引きはきちんとしておかないといけないのかな。
でもその前に、私たち 『友達』 じゃない・・・
でも初めからわかっていた。
ひとみちゃんとごっちんに対して、違う感情が芽生え始めていたことに。
179
:
若者よ、恋をしろ!
:2004/10/29(金) 12:51
どうして気になるんだろう
どうして思い出すのだろう
どうして悲しくなるのだろう
どうして嬉しくなるのだろう
どうして幸せな気持ちになるのだろう
様々な思いが混在して、私を惑わせる。
たぶん、これを恋と呼ぶのだろう。
そして私は、どうやってもひとみちゃんが怒って出て行ってしまった理由がわからなかった。
私と同じミルクティーを頼んだはずなのに、ひとみちゃんはミルクを入れていなかった。
その理由さえも・・・。
解けた氷の音が、からんと大きく響いた気がした。
180
:
大淀
:2004/10/29(金) 12:51
ひとまず終了です。
181
:
JUNIOR
:2004/11/04(木) 00:15
更新お疲れ様です。
この後が気になりすぎて涙が止まらない・・・・。
マターリと今度の更新待ってます
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