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想いは時代(とき)を越えて…
1
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:30
お邪魔しま〜す。
それと、時間が無いので
一気に書かせていただきます。
2
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:30
「ひとみ!あんたも黙って座ってないでこっち来て手伝いなさい!」
「あたし、今忙しいんだぁ。」
高校生活最後の夏休み―。
あたし達、吉澤家ご一行様は
おばあちゃんの家にただいま里帰り中。
そしてあたしは、西瓜片手に弟達とゲームに夢中である。
そーいえば去年の今頃は、閉めきった体育館で汗だくになりながら
みんなで必死に白球を追いかけてたっけ…。
「お姉ちゃん!」
「え…?あぁ。はいはい。」
そーいえばゲーム中だったんだっけ。
大好きなガッツさん似のゴリラがあたしのキャラ。
よっしゃぁ!牧場パンチのコンポをお見舞いしてやるか♪
って…あたしの選んだガッツ似死んでんじゃん!
隣に座ってる弟をチラリと見ると…ニヤニヤ笑っていた。
こ憎たらしいヤツめ。
「きったねー!無抵抗な人をむやみやたらに殴んじゃねーよ!」
「油断したそっちが悪いんじゃないかよぅ。」
「油断じゃない!ちょっと考え事して…って痛ってぇ―――!!」
「ひとみ!何が忙しいのよ!お母さん、明後日のお供え物の仕込とか
買い物とかで手が回らないのよ!って、あんたその西瓜!
何処からもってきたのよ!ひとみ・…こら!待ちなさい!!」
くっそー!別に殴らなくたっていいだろ!
これ以上、バカになったらどーすんだよ!
手に持ってる西瓜を舐めとるように、一気に口の中に入れ、
種を弟めがけてぶっ飛ばす。
ざまーみろ!
そしてあたしは逃げるように家から飛び出した。
3
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:31
「ぅあっちぃ…。」
今日もピーカンだ。
一歩外へ出ただけで、日ざしは槍のようにあたしの白い肌に
突き刺さってくるようだった。
フーっと息を吐く。
そして吸う。
喉が熱い。
おばあちゃんの家は、人里離れた場所に位置し、
山と川に囲まれた自然豊なところ。
なんて昔話みたいな説明だけど、本当に辺鄙な場所にあるんだ。
暑いことは暑いけど都会のように、ジメジメした湿気の強い
暑さじゃないからまだいいかな。
流れ出る汗を、首に巻いていたタオルで拭いながら、
あたしは山道を歩く。
あちこちでは蝉の声。
…夏だねぇ。
「あ…。」
4
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:31
目の前に大きな樹が、あたしの行く手を阻むように立っていた。
上を見上げると、緑の葉がサワサワと揺れていて、
何だかあたしが来た事を歓迎してくれてるように感じた。
なんだかそれが、凄く嬉しくて。
「…カッケー...。」
太い幹に手をあてがい、瞳を閉じる―。
ふんわりと...何か温かいような気がした。
「こんにちわ。こんな所に立派な木が立っていたなんて知らなかったよ。
って…ここに来たのも初めてだもんなぁ…。」
サワサワサワ―。
あたしは静かに目を開け、上を再度見上げた。
葉の隙間から零れる日の光がやけに眩しくて
真っ直ぐ見られなかった。
5
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:32
「…こんにちわ。」
「…え。木が…おまえ…喋れるのか…?」
「うふふ…。お話出きるよ。」
「…すっげぇ...!カッケーなぁ!おまえ!!」
「ねぇ?まだ気づかない?木がお話してるんじゃなくて…」
「え…?」
あたしはそのままの体制で、顔だけ動かし後ろを振り向いた。
そこには真っ白い帽子の下に、髪を三つ編みにした
薄いピンクのノースリーブワンピースを着た
女の子が立っていた。
「あれ…君が話しかけてたの?」
「そう。私だよ?ゴメンね、騙しちゃって。あなたがあまりにも
その木に見惚れてたから…ついつい驚かしたくなっちゃって。」
そう言って、彼女はクスクスとはにかんだ。
その笑顔が、なんだかくすぐったくて
あたしの頬が熱くなっていくのが
自分でわかる。
6
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:33
「そーだよねぇ,..。樹が喋ったりなんかしないもんな。あはは。
あ!あたしはひとみ。吉澤ひとみって言うんだ。あなたは?」
「私?私は石川梨華。つい最近、こっちに越してきたばかりなの。」
「そっかー。石川さんかぁ。え?越してくる前は何処に住んでたの?」
彼女はゆっくりと歩き、あたしの隣に来ると
その大きな樹に両手をあて、静かに瞳を閉じる―。
その仕草に、あたしの視線は釘付けとなっていた。
一瞬、彼女が樹の中に吸い込まれそうに見えたのは
なぜだろう。
「私、横須賀に住んでた。…吉澤さん、身長高いね。」
「ウチ?そーかなぁ?バレーやってたんだ。」
「やってた?」
「うん。ウチ3年生で―
石川さんとあたしは、他愛のない話に華を咲かせていた。
大きな木の木陰の下、ずーっとずーっと。
―――――――――
7
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:33
「うげ!もー6時かよ!ウチ帰らなくっちゃ!
石川さんと話してたら楽しくて時間がたつの早く感じるね〜。」
「私も吉澤さんとお話しててすっごい楽しかったよ!
…久しぶりだな。誰かとこんなにお話するの…。」
「え?何か言った?っつーかさぁ…梨華ちゃんって呼んでいい?
ち、ちがくて、あの、何か、呼びにくい…どわー!呼びにくいとか…
つかワケわかんないよね!あはは…」
「いいよ。ひとみちゃんって面白いね!…またここで会ってくれる?」
「え…も、勿論!!ぜってーまた会ってよ!梨、華ちゃん…」
あたしは恥かしくなって、梨華ちゃんの顔をまともに見れない。
でも。静かにクスクスと笑っている彼女の小さな笑い声が
揺らめく草花と一緒に耳の中に入ってきていたー。
真っ赤な太陽が 静かに沈んでいった。
―――――
8
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:33
「ひとみ!!あんた口からご飯粒こぼすんじゃないの!!」
「うへ?うあ!!何やってんの!あたし!!」
あたしはあれから家に帰って、みんなでご飯を食べていても
風呂に入っていても、寝床についてからも。
梨華ちゃんのことを考えていた。
考えていたんじゃなくて、知らず知らずのうちに
浮かびあがってくるんだ。
何でだろう…。
「…梨華ちゃんかぁ。可愛かったなぁ。明日もいるのかなぁ。」
「姉ちゃん、何か言った?」
「何も。さて。寝るか。」
「うん。また、明日ゲームやろうぜ!」
「明日も明後日も、ここにいるうちはやんねーよ。」
「え?!何でだよ!わかったよ!俺、絶対、無抵抗な人
殴らないからさぁ!!…って。寝てんじゃん。」
梨華ちゃん―。
明日、ウチ…起きてすぐには行けないけど、
ご飯食って身支度したら、ぶっ飛んでいくよ。
だから…また明日。
―――――――――
9
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:34
「あっちぃ…。」
あたしはあの樹の下で
梨華ちゃんを待っていた。
首から下げたタオルで汗を拭い
脇に抱えていたペットボトルのお茶を飲みながら
彼女が来るのをひたすら待っている。
あたしは待つとゆーことが大嫌いで。
マジで嫌いで。
ここだけの話し…担任の中澤先生より嫌いで。
でもなぜか梨華ちゃんを待っているこの時間だけは
嫌いじゃない。いや、むしろ楽しい。
「ひとみちゃん。おはよ。」
「梨華ちゃん!おはよ!今日も暑いね。」
「そーだね。昨日、怒られなかった?」
「全然余裕!!あ、でもね…」
「でも…?」
梨華ちゃんがあたしの顔を覗きこんだ。
10
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:34
「うわ!」
「ひ、ひとみちゃん!」
あたしは大きく仰け反り、後ろにあった樹に
頭を思いっきりぶつけてしまっていた。
ゴツっと鈍い音がする。
…だって、梨華ちゃんがいきなり覗き込んだと
同時に…あの
胸が見えたんですが……
「だ、大丈夫?」
「…全然OK牧場…。」
ああ。
梨華ちゃん。
君に罪はないよ。
無いけど…
ああ―――――――――!!!!!!!!
ビビったぁ―――――――!!!!!!!!
でっけ―――――――!!!!!!!
11
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:35
「さ、さて。茶番もこのくらいで…梨華ちゃん、良かったら
コレ飲む?今日も暑いと思ってウチさ、お茶持ってきたんだ。」
「うわ…嬉しい!私、喉カラカラだったの!ありがとう!」
「全然余裕っす。」
もう一本のお茶を彼女に手渡すと
コクコク音を立てて、彼女はお茶を飲む。
キレイな首筋。
スー...っと流れる汗。
ずっと見ていたかったけど、恥かしかったから
あたしもスクっと立ちあがり
負けずにお茶を飲み干した。
「…あー。美味しかった。ありがとう、ひとみちゃん。」
「いいよ。ホントに。また明日も作ってこようか?」
「…明日は 来れないんだ。お家にね…ずっと居なきゃいけないから。」
「あー...そうなんだ。そーだよね!毎日ここここ来れないもんね!」
…明日は一緒に居れないのか。
…残念。
…マジで残念だなぁ…。
12
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:35
「あ、あのね!明後日なら来れるよ!あ…。ひとみちゃんは
大丈夫かなぁ…。」
「う、ウチ??ウチ、毎日ヒマ!!何もすることないし!
明後日も勿論何もすることなし!!」
一気にあたしが捲し上げるもんだから
梨華ちゃん、ポカンと口を開けたまま、あたしを見てる!!
バカみてーじゃん!!ひとみ!!
「プ……あははは!ひとみちゃんって面白いよ!」
「そ、そう?」
梨華ちゃんが喜ぶなら、あたしは何でもやっちゃうよ。
さっきからあたしの胸がドキドキしてるのは
きっと恋ってやつのせい。
梨華ちゃんの喜ぶ顔、笑った顔、あたしがちょっと
意地悪して、プーって怒った時の顔、
いちいちあたしの心が騒ぐんだ。
13
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:36
「…あのね。」
「うん?」
いつになく梨華ちゃんは、ちょっとマジメな顔をして
あたしに話しかけた。
「…私ね。好きな人がいたの。」
「…え」
「…凄く好きだった。」
いきなりの告白。
グラりと視界が歪んで、あたしは立っているのが
精一杯だった。でも何とかその場に踏みとどまって
ゆっくりと腰を降ろす。
「…その人とは、結婚の約束もしていて…凄く優しくて
面白くて…。笑った顔が…ひとみちゃんに似てたわ。」
「…そーなんだ。」
あたしに似てたのか。
…フ―ン。
14
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:36
「…でもね。私がその約束を破っちゃったの。」
…梨華ちゃんやるなぁ…。
あたしがもし、ひとむだったら泣いちゃうだろうな。
…泣くだけじゃすまないな。
…でもひとむじゃないし。
「..,.風の噂で、ひとむさんは隣のお家のお圭ちゃんと結婚したって
聞いた。凄く幸せな家庭を築いて…今も元気に暮してるって。
でもね…。お圭ちゃんはひとむさんを取っちゃったみたいで悪いからって…
今でも気にしてるらしいの…。私、そんなコト,,,全然気にしてないのに。
むしろ、良かったと思ってる。だって…ひとむさんもお圭ちゃんも
幸せになれたんだから…。」
「…そっか。」
蝉の声が、まるであたしの心を劈くように鳴っていた。
何で梨華ちゃんはあたしにこの話なんかしたんだろう。
あたしがその「ひとむ」に似てたから?
あたしなら聞いてもらえるかと思ったから?
…あたしは聞きたくなかったな。
そんな話。
15
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:36
…あたし、失恋しちゃったのかな。
自慢じゃないけど。
あたしは凄くモテる。
あたしに真っ赤な顔をして告ってくる人達は
こんなに苦しい想いをしていたのかぁ…。
実際、自分で体験しなきゃ,,,わかんないもんだ。
「…ご、ごめん!こんな話しちゃって…!」
「…ううん。梨華ちゃんも辛かったんだね。」
あたしはそっと、梨華ちゃんの華奢な体を抱きしめた。
ビクって、梨華ちゃんは最初ビックリしてたみたいだけど、
ゆっくり あたしに体を預け…声を上げて泣いたんだ。
―――――――――――
16
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:37
「ひとみ!今日は墓参りだからね!準備してなさいよ!」
「…あーい。今日はおもいっきり拝みたおしますよー。」
「…倒さなくてもいいから普通に拝みなさい。
…まぁ!しっかり準備してくれたのね!母さん嬉しいわ…。」
「って!!泣かなくてもいーじゃん!!」
家族全員+おばあちゃん。
吉澤ご一行様、今日はご先祖様の御墓参りに参ります。
…明日梨華ちゃんと会う約束をしてたけど…
何か会いずらくなっちゃったなぁ。
でも…梨華ちゃんと当分会えなくなっちゃうし。
失恋したって好きだもんなぁ、まだ…。
情けない。はぁー...。
「ひとみ。ボーっとしてないで線香つけなさい。」
「うん。…って、ほら!お前も手伝えよ!何笑ってんの?」
隣で弟は口に手を宛がい、声を殺して笑っていた。
不謹慎な奴め!
17
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:37
「…だって。ププ…!ほら、姉ちゃん。あそこのおばあちゃんさぁ、
ハロモニ。に出てくる保田ばあちゃんにソックリなんだもん!」
「え…?」
…ぐわ!
ホントだ!!ソックリさんだ!!
ホクロの位置といい、髪の形といい、何をとってもソックリ!
ププ!笑っちゃダメだと思っても…弟がマネすんもんだから。
「…石川。今年もひとむさんと一緒に墓参りに来れたわ。」
「…梨華。なぜじゃろうなぁ…。何でわし等を迎いに来てくれんのじゃ…。」
え?
石川…?
梨華…?
ひとむ…?
あたしの中で梨華ちゃんの顔が浮かんだ。
18
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:38
「ちょ…!姉ちゃん!!本物じゃないって!!」
あたしは線香を持ったまま、二人のトコまで近づき
ぺコリとお辞儀する。
「すみません。あたし、吉澤ひとみって言います。
すみませんが…あなたはひとむさんで…お圭さん…ですか…?」
胸が熱くなった。
胸だけじゃなく…
燃えるように全身も熱い。
二人は凄く驚いていて、お互いの顔を見合わせていた。
「…お嬢さん。確かにワシ等はひとむに圭じゃ。はて…。
何処かでお会いしましたかのぉ。」
「あんれまぁ…このお嬢さん、若かった頃のひとむさんにソックリじゃのぉ。
苗字も一緒で、ひとみにひとむじゃとは…。」
偶然もここまでくるとはおもしろい。
ありえないよね?
梨華ちゃん。
あたしは心の中で葛藤していた。
梨華ちゃんの…
名前をここで出してしまったら、あたしは永遠に
彼女に会うことが出来なくなるんじゃないかって…。
19
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:39
「…石川梨華っていいましたよね。本当に失礼だとは
思います。…今日は誰のお墓参りに…。」
考えていることとは裏腹に―。
あたしの口は勝手にベラベラ動き出す。
やめてくれ!…頼むから…!
ゆっくりとおじいさんはお墓を見たあと
「…ワシの許婚。石川梨華の…墓参りです。」
石川 梨華
「…本当にごめんなさい。何か…写真…みなさんで写っている
写真とか持っていたら..見せてほしいのですが……」
(だめだ!見ちゃ…!あたし…何言って…)
20
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:39
「…ここで会ったのも何かの縁…。おじいさん…」
「…そうじゃな…。」
大事そうに、手提げ袋の中から
紫のハンカチに包まれた古ぼけた一枚の写真―。
軍服を着て、敬礼をしてるひとむさん。
右隣に…お圭さん。
そして―
左隣には 確かに梨華ちゃん。
恥ずかしそうに…
そして嬉しそうに笑う梨華ちゃんの顔は…
凄く幸せそうで…
あたしが会った…
そして好きになった…
梨華ちゃん…その人だった。
21
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:40
「…梨華ちゃん…お二人が幸せなんで嬉しいと思ってます。
お圭さん…。梨華ちゃんは取ったなんて思ってません。
むしろ、ひとむさんを大事にしてもらって感謝の気持ちで一杯だと。
あたしが口だしするなんて本当に失礼ですが…。
信じてもらえないと思うけど…あたし、梨華ちゃんに会って…
そんで…そのお話…聞いて…」
ボロボロ涙がこぼれ、あたしは言葉に詰まりながらも
二人の顔を見つめていた。
そんなあたしを、二人は『ありがとう。ありがとう。』と
言って、とっても嬉しそうに、そして優しく笑いかけてくれた。
手に持っていた線香をあたしにもあげさせてくれて…
ひとむさんは、最初からゆっくりと…
あたしに話してくれた。
22
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:40
ひとむさんと梨華ちゃんは許婚で、1週間後の
1月19日には式を挙げるはずだった。
しかし…ひとむさんに赤紙がきてしまって。
必ず帰ってくるからと言い残し、ひとむさんはお国のため、
愛する梨華ちゃんを残し、日本を飛び立った。
梨華ちゃんは来る日も来る日もひとむさんを待った。
あまり体の強くない梨華ちゃんは、心の支えを失い、
肺病にかかってしまって。
そんな梨華ちゃんを必死に看病してくれたのが
お圭さんだった。
幼馴染だったお圭さんは、両親のいない
梨華ちゃんを毎日毎日看病してくれて。
しかし。
思ったより梨華ちゃんの体は弱っていた。
丁度、ひとむさんが帰ってくる1週間前に息を引取ったらしい。
そして。
ひとむさんが帰ってきた日は…
式をあげる予定だった1年後の1月19日だった。
『…ありがとう…』
遠くの木の陰から…梨華ちゃんがニッコリ微笑んでいたのは
きっとあたしにしか見えなかっただろう。
―――――――――
23
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:41
「ひとみ、今日の午後には帰るから。どこにも行くんじゃないのよ。
お父さんね、明日から仕事なんだって!」
「はぁ?だって,.,.,!お父さん明後日からって…」
「すまんなぁ。ひとみ。何か勘違いしてしまってなぁ…。」
そんな!今日は梨華ちゃんと会う約束してんのに!!
「ちょっと出かけてくる!!」
――――――――――
24
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:42
今日しか会えない!
…もしかしたら今日は会えないのかもしれない。
でも梨華ちゃんが約束を破るなんてこと…するわけがない!
焼けつける太陽の下、あたしはじゃり道を必死に走った。
小川のせせらぎも、蝉や鳥の声、草花の音―。
いつも心地よく感じるはずの周りの音が、今日のあたしには
全くの雑音にしか聞こえなかった。
大きな樹の下で
あたしの愛しい人は…
薄いピンクのワンピースを着て待っててくれてる。
そう信じたい。
「…い、ない」
呆然と立ち尽くした。
ダラダラと流れ落ちる汗を、あたしは乱暴に拭き取る。
ヒューヒューと、喉の奥から息が漏れ
熱く騒ぎ立てる体。
ゴクリと乾いた喉を鳴らし、
あたしは叫んだ。
「…ねぇ!梨華ちゃん!今日約束したじゃんかよぉ!
昨日はダメだから…今日は会えるって!そぉ…約束…
したじゃん…。何で…!ねぇ、何で!答えてよ!梨華!!!」
25
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:42
ザワザワザワ―
寂しそうに樹の葉っぱが答えるだけで。
子供が泣きじゃくるみたいに、鼻水も涙も垂れ流して
泣き喚いた。
「梨華ちゃん!梨華ぢゃん!!石川―――――!!」
暑さのせいもあってあたしの声はすぐに枯れた。
ゴホゴホと何度も蒸せ返りながらも、必死で
彼女の名前も呼び続けた。
喉が貼りつき、唇も乾き。
ピリリと裂ける音と痛み。
汗ばんだ肌から汗と血が、
一緒になって流れ落ちる。
もう一度だけ―。
会って話がしたいよ。
お願いだよ。
ちゃんとお母さんの言う事聞くし、
弟の相手もする。
勉強だってしっかりするよ?
お手伝いだって
鬼の中澤先生の授業も受けるからさ。
だから梨華ちゃん―。
出てきてよ!―
26
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:43
「…うっク。…ひ、とみ…ちゃん…」
「梨華ちゃん!!」
梨華ちゃんが出てきたと同時に大きく
周りがざわめいた。
あたしは彼女を抱きしめる。
彼女もあたしを抱きしめた。
「…もー...会えないかと思ったよ…!」
「…私…これ以上、ひとみちゃんに会っちゃいけないような気がしたの」
「そんなことない!」
あたしは抱きしめた手を離し、梨華ちゃんを
見つめた。
「あたし…梨華ちゃんがこの世にいない人でも…あたしにとって
梨華ちゃんは梨華ちゃんなんだ!だから…そんな悲しいこと言わないで。」
「…ひとみちゃん…」
27
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:43
どれくらい二人で泣き合ったんだろう。
あたし達は何か無償に恥かしくなって
顔を見ないまま、ストンとその場へ腰を降ろした。
「…ひとみちゃん、私…前に横須賀に住んでたって言ったよね。
あれは…ウソなんだ。ただ…横須賀は私の…思いでの場所なんだけど。
ホントはここが私のお家があった場所なの。
お盆でこの世に帰ってきてね、初めてひとみちゃんをこの樹の下で
見つけたとき…ひとむさんかと思った。それで…本当は話しかけたり
接触したりするのはダメなんだけど…。おもわず…。」
「ん…。」
…やっぱり梨華ちゃんはこっちの人じゃないんだ。
心のどこかで、あたしはもしかしたらって小さな期待をしていた。
けど…梨華ちゃんがこう言うんなら信じて…そして受けとめなくっちゃって。
28
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:44
「…私…。幽霊なのに…ひとみちゃんのこと、好きになっちゃってた。
違うの!ひとむさんに似てるとかじゃなくて…
ひとみちゃんを…好きになってたの。
一緒にいて楽しいし、こんなことありえないはずなのに…
心がポカポカ温かくなって…。
気持ち悪いね!…迷惑だよね…。」
「迷惑じゃない!梨華ちゃん、ウチの気持ちも聞いてよ…。
あたしも梨華ちゃんが好き。会ったときから好きだった。
だから…気持ち悪いとか言わないでよ…。」
「…ひとみちゃん」
あんだけ泣いたあとだったのに。
あたしの目からは大粒な涙が零れ、
それを優しく梨華ちゃんが拭きとってくれていた。
そして梨華ちゃんは、ちょっと背伸びして
あたしにキスしてくれた。
唇が…
柔らかくって…
温かくて…。
あたしの記憶はそこから無い。
『…ありがとう…』
心の奥に響く、梨華ちゃんの感謝の言葉。
ただそれだけが…ずーっとずーっと
あたしの中で、心地よく響き渡っていた。
そして目覚めたとき…
なぜか、おばあちゃんの家の布団で寝ていたんだ。
―――――――――
29
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:44
「…お母さん。頭が今朝起きたときから痛くてですね…。」
「痛い人が朝から卵を10コも食いますか?さっさと
学校いきなさい!今日から大学生でしょ?」
「ちぇ!いってきまぁ〜す!」
真新しいスーツに身を包み、
あたし、吉澤ひとみは無事に
大学生になれたわけでして。
「ダリぃなぁ。」
自転車をゆっくり漕ぎながら
あたしは桜のトンネルをくぐる。
その先にあたしが今日から通う大学があって。
しかし。
何故だろう?
誰もいないじゃん。
ホントなら人でごった返してんのに。
だって今日、入学式だよ?
おかしく思い、パンフレットを見る。
『入学式 13時 』
「はい?今…って10時?」
…これ以上、何も言いますまい。
あたし…時間間違ってお母さんに教えてた。
30
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:45
「アフォだ…あたし。ま、いっか。」
自転車を降り、あたしは一番大きな桜の木の下の
ベンチに腰かけた。
今もこうやって
木の下で座ってると…
梨華ちゃんを思い出す。
フワリと笑う梨華ちゃんの顔は
あたしの心に焼き付いて…
いまだに取れないままだった。
「…梨華ちゃん」
あたしは桜の花びらが顔につかないよう
パンフを広げ顔に乗せたまま、
あの暑かった夏の日を思い出す。
「…あの。すみません。お隣、座ってもよろしいですか?」
「んー、どうぞ。」
なんて律儀な人だろう。
このベンチは別にあたしのでもないのにな。
…きっとこの人も早く来ちゃったんだろう。
って、んなワケないか。
いやいや、たぶんこの人もあたしと一緒の
おバカさんで。
どれどれ…
ちょっと顔でも覗いてやろう。
31
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:45
「あ…。こんにちわ。ここ桜凄いですよね。私…今日から
ここの大学に通うんです。
…でも、何かお家にいても落ちつかなくって。
あなたもスーツ来てるから…同じかな?」
え...。
「…あ、あたし。吉澤ひとみ!な、名前…!」
「私?」
「うん!」
桜の葉が舞いあがり、その子はサラサラな
ちょっと茶色がかった髪を、かきわけ…
「私はね…」
「私は…」
「…梨華。石川梨華だよ。よろしくね、ひとみちゃん。」
― END ―
32
:
名無し秘密
:2003/08/17(日) 20:46
おそまつ。
33
:
名無し(0´〜`0)
:2003/08/19(火) 01:37
すごく良かったです。
この作者さん誰だろう?知ってるような…。
次回作はあるんでしょうか?
34
:
名無し(0´〜`0)
:2003/08/21(木) 15:57
。・゜・つД‘)・゜・。いい話だ…。
続きが合ったら続き読みたいなぁ〜。
なんか、久々にいい作品読みました。ありがとうございました。
35
:
名無し(0´〜`0)
:2003/08/24(日) 22:14
いい作品だ!胸をうたれた。
続編がほしいです。
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