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MAGIC OF LOVE

1ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:27


小さい頃の大きな夢

かわいいお姫様と、かっこいい王子様

王子様はお姫様の為に、色んな障害を乗り越えるの



でも大きくなって、こう思うようになった

お姫様や王子様にいつも手を差し伸べてくれるのは魔法使いさんなの

2ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:27

ガラスの靴のシンデレラでだって、綺麗なドレスとかぼちゃの馬車をくれた

眠れる森の美女でだって、王子様にお姫様の事を教えて手助けしてくれた

人魚姫でだって、声を引き換えにしたけど望む物を与えてくれた



魔法使いさんがいたから、お姫様は王子様と結ばれたんだよ

魔法使いさんがいなかったら、お姫様と王子様は結ばれなかったんだよ


すごいね、魔法使いさん

えらいね、魔法使いさん


でも


かわいそうだね、魔法使いさん

3ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:28




ネオンが輝く街の中。一台の高級リムジンがさっそうとそこを走り抜ける。
いかにも金持ちといったその風貌は、周りの者の思考を一致させる。
車内にはお抱えの運転手。
正装した小太りの男。
その隣にはきらびやかな衣装に身を包んだ一人の少女の姿があった。
少女のその露出した褐色の肩よりやや下まで伸びた髪は、緩やかなウェーブが
かかっており、少しばかり大人びた一面を垣間見せる。
ぴっちりとしたピンク色のドレスは、その誰しもうらやむ様なスタイルをより
いっそう際立たせていた。
「梨華」
男が自慢のひげをさする。

「なぁに?お父様」
梨華と呼ばれた少女は顔だけを動かした。
「緊張してるのか?さっきから一言も話さないじゃないか」
大事な大事な一人娘を心配し、優しく言葉を投げかける。
けれどそんな思いも空しく、娘は笑って誤魔化し視線を自分の膝に戻した。
「…まぁそれは彼もお前と同じだろう。だがあまり緊張しすぎると、彼も
 困ってしまうからな」
「…はい」

4ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:28

窓の外を眺めながら、梨華は一人考えていた。
過ぎ去っていく歩道には、幸せそうな恋人達の姿がちらほら。
手を繋いだり肩を抱いたり、寄り添って歩く男女の姿を身ながら、ほんのり頬
を染めたりしている。
車に乗っていた間ずっと、羨ましいという想いが心の中を8割以上占めていた。


――――いいなぁ…。


夜の街を二人で歩き手を繋いだり肩を組んだりキスしたり。
ファーストフードで胃を満たした後は、映画、カラオケ、そして最後はどちら
かの家へ……なんていうのは、梨華には憧れの無縁物。
夜の街を車でクラシックのCDを聞きながら移動。
三ツ星レストランで胃を満たした後、楽しくもないバレエの鑑賞、眠たくなる
ようなオーケストラの演奏。
最後はいつもと同じ、自宅まで“安全”に送り迎えされて、終了。

つまんない…。
そんな事がまた今日も繰り返されるのかと思うとため息が出ざるを得ない。

5ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:29

「お着きになりました」
「ごくろう」
そこは大きな会場。
年に2〜3度行われる、大企業のお偉い方が集まって行うパーティ。
今回初めてこの行事に参加した梨華だが、別段、何も思う事はなかった。
あるとすれば早く帰りたい、というような事ばかり。

車から降りる。
目前に広がる大きなその入り口の華やかさには目を見張るものがある。
けれど、梨華にとってその豪華さはただの見せ掛けにしか思えなかった。


「梨華さん」
聞きなれた声が耳に入った。
「こんばんわ」
いつものように愛想笑いで返す。
それに相手は嬉しそうに「こんばんわ」と付け足す。
「いやぁ、今日も綺麗ですね」
「ありがとう」
そうして彼は恥ずかしそうに頭を掻くと、今度は父の方へ挨拶に向かった。

6ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:29

父に薦められて、「会うだけなら」と仕方なく受けたお見合い話。
すると厄介な事に、相手が自分を気に入ったらしく、意見も聞かれずに
トントンと会う機会は増えていく。
名前も知らない大病院の、一人息子。
初めて会った時、照れて顔を真っ赤にしていたのは今でも記憶に新しい。

顔を会わす度に笑顔で迎えてくれる彼に、うっとおしさと少しの罪悪感を持ち
ながらいつも作った笑顔を見せていた。

彼に好意は持たない。
ただ双方の親たちが相互の利益の為にその子たちを合わせただけで、
向こうはどう思ってるのか知らないが、梨華本人にしてみれば迷惑なだけだ。

彼はどうすれば自分を諦めてくれるだろうか。
彼を傷つけずに別れるにはどうしたらいいものか。

梨華は彼を前にしてそんな事しか考えられなかった。

7ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:29

後ろから父と彼の話し声が聞こえる。
「梨華も相当緊張してるらしいから、リード頼むよ」
大きなお世話だ。
そんな事今までだって一度もした事もないくせに。

恋人になって3ヶ月、のはずなのに堅苦しい敬語。
そういう環境で育ったのだから仕方ないが、心の広い梨華であってもいいか
げんイライラしてくる。
梨華の方が年上ならばまだ話は分かる。
けれど、相手は梨華より4も年上のりっぱな成人。
なのにどうして年下の、しかも将来の妻になるかもしれない相手にペコペコし
なくちゃならないのか。
「おまたせしました。梨華さん、行きましょうか」
「ええ」
差し出された手に気がつかない振りをして、さっさと先に進んだ。
男性にエスコート、なんていうものは梨華の憧れには一切入っていなかった。

8ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:30




会場に足を運ぶと広いホール。
そこにあるいくつか丸いテーブルにはワインやウィスキーなどの瓶がそれぞれ
置かれ、とてつもなく長い長方形のテーブルには色取り取りの料理が並べ立て
られていた。
辺りに人はほとんどいない。
「早く来すぎたのかな?」
「かもしれないですね」
一人呟くと、求めてもいない相槌を打ってくる。
こうなったら答えるしかない。
「時間を確かめなかったの?」
「いやぁ…梨華さんと少しでも一緒にいたかったから…」
そうしてまた頭をポリポリと掻いた。
また苛立つ理由が増えた。
言うことやること、全てが矛盾している。

9ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:30


「パーティが始まる前に、何か飲みましょうか」
「そうね…」
「あ、ちょっとそこのキミ」
彼はホールの端で、何やら一人作業をしている者に声をかけた。
色あせたヴィンテージ物のジーンズにシャツ。
短い髪の金髪と対称な銀色に輝くピアス。
やや少年らしさが残るどう見てもこの場にはそぐわない服装と、雰囲気を
持ち合わせた少女。

「あたしですか?」
その少女は自分を指差しちょっととぼけた口調で尋ねた。
「そうだ、何か飲み物をもってきてくれ」
自分や父に対するものとは全く違った態度で、彼は偉そうだった。
それを梨華は横目で見ながら、また一つ小さくため息をついた。

10ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:30


「悪いけど、あたしここのウェイトレスじゃないんです」
「そんな事はいい、飲み物をもってきてくれと言ってるんだ」
随分な言葉。
上の者に対する時と、下の者だと感じた者への態度がガラッと変わる。
元から期待はしてないが、所詮はこんな人だったんだと諦めもついてしまう。
「こっちも仕事がありますんで、他の誰かに頼んでください」
そんな彼に、少女は変わった素振りも見せずに淡々と話を進めている。
ただその大きな瞳は明らかに邪魔者を捕らえているような瞳だった。
くっ、とその瞳が細まると、少女はいよいよ敵対心を示した。

11ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:31


「それとも、一人でおつかいはムリですか?いいとこのおぼっちゃん」
「なっ…!?」
馬鹿にした様な目つきと笑みを見せたかと思うと、途端悪態をつき始めた。
「それくらい自分で出来なくてどうするんです、ただ婚約者やそのお父さんにペコペコしてたって何の意味もありませんよ?」
会場の入り口での出来事を見ていたのだろうか、少女は梨華やその後ろで
どこかの社長達と挨拶を交わしている父に視線を向け、最後に鼻で笑った。
顔を真っ赤にして怒る彼。
けれど少女の悪態は尽きる事はない。
「初対面の人に偉そうな口を聞く事は習っても、物の貰い方は教わらなかったの?」

「ははっ…そうか、そういうことか」
そう言うと彼は胸元から分厚いサイフを取り出し、
さらにそこから一万円札を取り出して少女に差し出した。
「チップとして受け取ってくれていい」

「他の人に頼んでください」
少女はそれに冷ややかな視線を送り、そして付け加えた。
「その紙一枚でワインを持ってくるどころか、オマケに芸もしてくれそうな奴はたくさんいますよ」
「なっ…」
「じゃ」
金髪の少女は凛とした態度を最後まで崩さなかった。

12ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:31

ここの従業員ではない事は、さっき自分で言っていた。
今日ここに集まってきているのはどれも大会社・大企業の上を司る者ばかり。
会場の参加費だけでも一人最低何十万とする。
梨華の様に社長令嬢に近い器なのであれば、それは叶えられる。

けれど少女の服装はどう見ても、単なる一般人
こんな所に軽々しく来れるようには到底考えられない。
そして彼女が運んでいた大荷物。
キィキィ車輪が揺れて、ギシギシ床が鳴る。
相当重そうだった。

「なんなんだ…アイツは…」
歯を噛み締めて少女の背中を睨み続ける彼。
どう見ても相手の方が年下だ。
アンタこそ一体なんなのよ、と言葉が喉から飛び出そうになるが、うやむ
やの内に飲み込み彼を残してその場を去る。
「あ、梨華さん!」
追ってくる足音が聞こえても完全無視をした。

13ななしのどくしゃ:2002/12/21(土) 23:32
はじめまして、小説書かせていただきます。
駄文ですが、よろしくしてくださるとありがたいです。
意見・感想なぞありましたらどんどんレスしてください。
なんならツッコミでもよいです。(笑
お願いしま〜す。

14管理人:2002/12/22(日) 00:17
ななしのどくしゃさん。
はじめまして&ありがとうございます!!
早速よまさせていただきました。
すっごい面白そうですね。
管理人は、お嬢様梨華ちゃんが、大好きなんですよぅ。。。
楽しみにしています。ガンガってください!!

15名無しハロモニ:2002/12/22(日) 14:52
お!新作だ!!
おもしろそ〜期待期待。

16ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:31




時間が過ぎてパーティが始まろうとしている頃、
段々と会場に入ってくる者たちも多くなってくる。

「やぁ石川さん、お久しぶりです」
「その節はどうも」

偉そうに着飾った大人達が踏ん反り返って挨拶。
何度も聞いたことのある飾り立てた会話。
父と共にその輪の中へ会話を促す。
けれど毎回うんざりする。
「彼女は娘さん、ですか?」
「ええ」
「いやぁ、お美しい」
そう言われる度に父の手前、恥ずかしそうに微笑み返す。
そうすれば父も相手の人も喜んでくれるから。


散々きれいな格好をして、話し掛けられれば笑顔になる。
人から見られて誉められるのならばその辺のビスクドールと変わらない。
綺麗な、きれいな、キレイな人形。
愛想笑いのできるお人形さん。
いっそ人形であったのなら感情を持たない分、楽だろう。

17ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:31

「梨華、彼はどうした?」
「え?」
話し掛けられてニンゲンに戻り言葉を返す。
「見た所ここにはいない様だが…」
「…多分テラスじゃないかしら、暑がっていたから…」
本当はウソ、そこにいる。
さっき一人取り残した時、彼は一人テラスに向かいそれ以来、ここには出て
きていないから。
「呼んできたらどうだ?話もあるし」
「話?」
「いや、彼と私の話だ、とりあえず呼んできてくれ」
「…はい」
ぺこりとその場でおじぎして、聞き分けのいいお人形は渋々彼のいるテラス
へと足を運ぶ。

18ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:31

ホールの一番奥にある小さなテラス。
そっと顔を覗かせると、うな垂れている彼の背中。
こんな彼の姿を見るたびに「カワイそうかな…」と思う。
静かに彼の横について外を一緒に眺めた。
「梨華さん」
梨華の存在に気付き、パァッと顔を輝かせる事は分かっている。
しかし梨華は目を合わせずに気付かない振りをした。
「お父様が呼んでるわ」
「あ、あぁ…そうですか…」
何を思っていたのか知らないが、彼が自分に何かを期待をしていたと言う事
がバレバレだった。
もしかして心配して追いかけてきてくれたとでも思ったの?
ちょっと酷いかなと思いながら、梨華は言えなかった。
「行きましょう」
彼の言葉も待たず、梨華は先に歩いていった。

19ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:32


「お父様、連れてきたわ」
「おぉ、ちょうどよかった、これからショーをやるという話だ」
梨華は父の指差す方に視線を向けた。
向こう側のステージに見たこともない色々な道具が出揃っている。
「梨華は初めてだろう、マジックショーを見るのは」
「マジックショー…」
梨華はポツリと呟いた。

梨華は今までろくにテレビなんて見なかった。
暇があれば勉強や習い事に精を出し、見るといっても日本経済や政治につい
てなど、世界情勢を把握するための番組などしか見せてはもらえなかった。
ドラマや歌番組なんて夢のまた夢。
アーティストや芸人の顔なんて一人も知らない。
ましてや、マジックなんて見たこともなかった。

「外国で有名なマジシャンらしいぞ、一度くらい見てみてもいいだろう」
「へぇ、梨華さんそういうの見たことないんですか」
彼が微笑みながら問う。
「えぇ…あんまり」
「こういうのって絶対タネがあるんですよ、結構単純な」
さっきまで凹んでいたくせにもう立ち直っている。
自慢げに話し続ける彼を余所に、梨華はステージを見つめ初めて見る『マジッ
クショー』に少し胸を高鳴らせた。

20ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:32


フッと会場の明かりという明かりが消え、一つのスポットライトが司会者
の男の姿を照らし出す。
『皆様、本日はこのパーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます。
 私どもゼティマ社は皆様に心より楽しんでいただける様、恐れながらちょ
 っとした催し物などを企画いたしました次第でございます』
軽い口調でダラダラと話し始める司会者。
梨華は何だか今までにない高鳴りを胸に感じ、グッとステージだけを見る。

『それでは皆様、楽しいショーをご覧下さい』
司会者に向けられたライトが消え、再び辺りが真っ暗になったかと思うと、
いきなりの爆音と共に大きな火柱と花火がステージにたった。
「キャアッ!」
「おぉぉ…!」
それには皆釘付けになり、もちろん梨華も息をのんでそれを見ている。
「すごぃ…」

21ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:32

火柱が止み、カカカッ、とスポットライトがステージを照らす。
その中央にいつの間にか、タキシードを着こみ顔の上半分だけある仮面をつ
けた人物が腕を組み立っていた。
そしてまた司会者の声がする。
『アメリカのニューヨークにその名を知らしめた齢17歳にして天才マジシ
 ャン、ヒトミ・ヨシザワ!』
一斉に拍手が沸き起こる。
合わせるかの様に、ステージの上の手品師はぺこりと軽くおじぎをすると
自らの背中につけていたマントを脱ぎ、その後ろに置いてあった4つ足のテ
ーブルに静かにかけた。

拍手が止むと、手品師はそのテーブルを右へ左へと動かし、会場にいる全員に
確かめさせる様にその場でテーブルをぐるっ、と回した。

そして手品師は、おもむろにそのマントを手に取り、テーブルの上で広げる。
そしてカウントダウンをし始めた。


「ワン・トゥ・スリー!」


バッ、と取り除かれたマントの後ろにはいつの間にか、ミニスカートの白いワ
ンピースを身につけた美しい少女と二人の小さなカワイらしいピエロの姿。
オーッ、と歓声が沸き起こる中、手品師は少女の手を取り、二人のピエロは
ピョンッとテーブルの上から降りる。
どこからとも無く現れたその三人は揃っておじぎすると、新しい技を見せる為
に準備をし始めた。

22ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:33




それからいくつものマジックを披露された。
手品師がシルクハットを逆さにし、ステッキで叩くとハトやウサギが何羽と
なく溢れ出したり。
ピエロたちが入った箱が手品師の合図で急に炎を上げて燃え出すが、完全に
箱が燃え尽きた時にはピエロたちの姿は無くて、いつの間にか客達の中に紛
れ込んで料理を頬張っていたり。
南京錠で閉じられた透明な箱に少女が納まり、一瞬のうちに外へと出てしまう
水中大脱出など、笑いと興奮が織り成す奇想天外なマジックが次々と現れた。

これには会場の客達も、思わず拍手をしてしまう。
あれだけ手品を豪語していた彼も、目を点にしてショーに夢中になっていた。
梨華自身もワクワクしながらそのショーに見入っていた。
次は何か、次は何かと、幼い子どもに帰ったかの様にはしゃいでいた。

23ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:33



そろそろショーも終盤に近づいてきた頃、赤いピエロがマイクを取って言う。
『それじゃ次は誰かステージに上がって、一緒にやってもらうで!』
今度は黄色いピエロがマイクをひったくり
『それじゃあお客さんをステージにお招きするのです!』
そして二人は見つめあい頷くと、そろってカウントダウンを始める。


『ワーン・ツーゥ・スリー!』


言い終わると同時に、会場の明かりがまた消えた。
しかしそれは一瞬ですぐに明かりは元通りになる。
何が起こったのかと、客達はザワザワと騒ぎ始めた。

―――――なんなのかしら…
と梨華はあっけに取られていると、トントン、と肩を叩かれた。
「?」
振り返ると、あのステージにいた筈の手品師が梨華の肩を叩いていた。

24ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:33

「キャッ!」
突然目の前に現れた手品師に梨華は驚いて後ずさる。
すると手を取られ甲にキスをされ、梨華は少し頬を赤らめさせた。
手品師はニコッと微笑むと梨華の手を引いてステージへ導こうとする。
『おっとゲストが決まったらしいなぁ』
『ピンクのおねーさん、ステージに上がってきてください』
「えっ、わ…私?」
周りからの視線を一斉に感じ、梨華は躊躇した。
「急に言われても…」
無理強いはしない手品師に目で訴える。
気付いた手品師はフッ、と柔らかく微笑むと
「大丈夫、怖くないよ」
と、梨華にだけ聞こえるように囁いた。

『大丈夫』

その言葉が、固まった梨華の体を解した。
どこかで聞いた様な声は魔法の様に梨華の耳に染み渡り、ついには体中へと回る。
そして梨華は手品師に連れられ、ステージに上った。

25ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:34


『ようこそおねーさん!』
『ほなこの上に仰向けに寝てなー』
さっきこの少女達が現れたテーブル、その上に寝転がる。
ピエロ二人は去り、少女が白い布を寝そべった梨華の上にかける。
梨華のドキドキは収まる事を知らないでいる。

手品師が梨華の横に立ち、テーブルを挟んだ向かい側に少女が立つ。
そして手品師がパチッ、と指を鳴らすと今日何回目かの歓声が起こった。
―――――こ、これどうなってるの?!
少しづつだが梨華の体は宙に浮き、高さを増していた。
手品師の手の動きにあわせて、梨華の体も段々と上がっていく。
―――――すごい…!
梨華の胸のドキドキは最高潮に達した。

そして最高の高さになったのか、床から2メートルくらいの高さまで上がる
とそこで動きは止まった。
少女が梨華の体にかけてあった布を取り去り、フラフープで使う様な輪を出
して、それを受け取った手品師は宙に浮いたままの梨華の体を何度も何度も
色んな角度からくぐらせた。
仕掛けは施していないと言う事を照明するためだった。

26ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:34

パチパチパチ、と到る所から大きな拍手が聞こえる。
そして再び布がかけられると、梨華の体は下がっていき、元の位置に収まる。
『おねーさんおつかれさまでしたぁ!』
手品師が手を差し伸べてきて、梨華はそれを掴んで立ち上がる。
『皆様ぁ〜、今一度このねーちゃんとマジシャン・ヒトミに盛大な拍手〜』
赤いピエロに促されるがまま、会場は一気に沸き立った。

『おねーさんは何色が好きですか?』
唐突に黄色いピエロが問う。
「えっ?色?」
『はぃ、好きな色、なんでもいいですよ』
「えっと…ピンクです…」
梨華がそう言ったのを確認すると、横にいた手品師が梨華の前に立ち手の平を
下に向けパチン、と指を鳴らした。

するとそこからピンク色をしたチューリップの花が一本。

手品師はあの柔らかい笑みを見せてそれを差し出す。
「え?」
『手伝ってくれたお礼やでー』
ふっ、と手品師に顔を合わせると、また微笑んで花を差し出してくる。
梨華はそこに見てしまった。
自分に向けられている、仮面では隠せていない優しい瞳を。
仮面をしていても分かる、優しい笑顔を。
「あ…ありがとう」
小さく揺れるチューリップを手に、梨華の胸はまた高鳴りを取り戻した。

27ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:34




ショーが終わって帰りの車の中、梨華の体は未だ熱を持っていた。
壮大なマジックショーは、たった一度の観覧で梨華を虜にしてしまった。
あんなに興奮したのは生まれて初めてなのだから。
「どうだ梨華?すごかったろう」
「えぇとっても」
「なんと言ってもあのヒトミ・ヨシザワだからな、超一流のマジシャンだぞ」

ヒトミ・ヨシザワ…。

名前からして日本人だろうか?
日本語も、少量だけど話していたし。
男性だろうか、女性だろうか。
どっちにしろその“ヒトミ”が梨華の心を掴んだのは間違いない。
「また…見たいな…」
梨華は心の底から楽しめる物を、一つ見つけた気がしていた。


「そうだ梨華、来週の金曜日は空けておきなさい」
「何かあるの?」
「彼が一緒に食事をしたいと言っていたぞ」
またか…、どうして自分で言えないのだろう。
照れているのか知らないが、子どもにだってできる事をできないのか。
「よほどお前の事が好きらしいな」
あっちがそうでもこっちはそうじゃないのよ。
そう大声で叫んでやりたかったが、終始嬉しそうな父の顔を見てしまっては
どうもその気が失せてしまう。
「…分かりました」

聞き分けのいいお人形は、ただ頷くばかり。

28ななしのどくしゃ:2002/12/22(日) 16:35
レスありがとうございます。

>管理人さま
ワタクシもお嬢様梨華ちゃん『どゎい好き』です(笑
これからよろしくお願いします。

>名無しハロモニさま
ありがとうございます〜。でも期待しちゃいけませんぜ。(笑

29名無しハロモニ:2002/12/22(日) 18:41
吉が、マジシャンで、ピエロがあいぼんとのの。
最高の組み合わせです!!
めちゃめちゃ続きが読みたいです。
作者様がんばってください。

30名無しハロモニ:2002/12/22(日) 19:30
作者この他にどこかでかいてる?

31夏蜜柑:2002/12/22(日) 22:11
楽しく読ませて頂きました!
手品師よっすぃ〜にお嬢様梨華ちゃん!
最高です〜!!
よっすぃ〜の優しい笑顔には、誰でもノックダウン!ですよね(笑)
続きが待ちきれないです〜。
作者さま、がんばって下さい!!

32ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:39




梨華は6:00きっかりに目を覚ました。
目覚ましをかけていた訳でも、起こされた訳でもない。
もうすっかり習慣づけられて、体内時計がそう告げたのだ。

一人では広すぎるセミダブルのベッド。
おかげでベッドから落ちた事は一度も無い。
かといって大きすぎるのも困りものだ。
過ぎたるは及ばざるが如しということわざもあるとおり。

「梨華様、朝食の時間でございます」
ドアの向こうで家政婦さんの声がする。
「今行くわ」
学校の制服に着替え、身支度を軽く済ませると食堂へ向かった。

「あ、そうだ」
くるりと踵を返してトタトタと机に歩み寄る。
机の上には、昨日のチューリップ。
「お水取り替えなくっちゃ」
チューリップを生けた花瓶を持って、梨華はドアをくぐった。

33ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:39


「梨華様、あんまり遅いと学校に遅れますよ」
「ちょっと待って、今お水入れ替えてる所なんだから」
ピンク色のチューリップ。
その花を見るだけで、何故か頬が緩む。
昨日の事が思い出されてまたあの高鳴りがやってきそうだ。
―――――今度お父様に頼んでまた連れて行ってもらおうかな…
丁寧に花を扱い、花瓶の水を新しい物にして再び自分の部屋へと持っていく。
少し水が当たったチューリップは、水滴が反射してキラキラ輝く。

「そう言えば…花なんて貰ったの初めて」
特にキライではなかったがスキとも言えなかった。
ただ道端や学校の花壇なんかの花を見ても、「キレイ」くらいにしか思わず
部屋に飾る事なんてなかった。
梨華の家にも花を生けた花瓶は何個もあるが、それは父が色んな人たちから
もらった物であって、梨華が貰ったわけではない。
彼がくれるという事も、ある訳が無い。
やっぱり「花がスキ」という感情は生まれない。

「梨華様、お早めにお食事を済ませてください」
家政婦の口調にも苛立ちが見え始めてきた。
どうもあの人は苦手だ。
「今行くわ」
梨華は今度こそ、食堂に向かった。

34ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:39


「おはよう、お父様」
「おはよう、梨華」
二人では広すぎる食堂に大きな四角いテーブルと二人分の料理。
父の向かいに置いてある椅子に梨華が座ると、次々と料理が並べ立てられる。
香ばしく焼かれたパン、新鮮なグリーンサラダ、それに添えられたベーコンエ
ッグ、暖かい紅茶、デザートにフルーツ。定番の朝食メニューだ。
「いただきます」
父はというと、コーヒーを口に運びながら新聞を読んでいる。
特に会話も続かない中、カチャカチャと食器の音しか聞こえない。
毎朝だけでなく、夕食もいつもこんなカンジだ。
二人きりになると会話がなくなるのだ。

5年前に母が亡くなってからというもの、石川の家は火が消えた様だった。
人当たりもよく明るかった母が梨華は大好きだった。
ただでさえ口数の少ない父も、母といる時はよく喋る。
それは梨華も同じで、母の明るさにつられてついついお喋りをしていた。

35ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:40

母は体があまり丈夫な方ではなかった。
心臓が弱く、ちょっとした事ですぐに発作を起こし病院にも何度も行き、
石川家に嫁いでからも専属の医者をつけられた。
そんな事だから、当然梨華を産んだ時も母体は危うかった。
けれど母はそれを乗り越え、無事梨華を出産した。

体が弱かったから。
だから母は明るく生きていた。
「病は気から」と母がよく口にしていた事を覚えている。
気が落ちると体にまで影響するのよ、と無意味にいつも明るかった。
だから出産も無事だったのかもしれない。
明るい母の心が、出産の危険を打ち払ったのかもしれない。

強かった母。
もう何度思い返しているだろう。


「…ごちそうさま」
食事を終え、梨華は席を立つ。
ついに父も梨華も何も話さなかった。
どうやら梨華は父の血を色濃く受け継いでいるらしい。

学校指定のカバンを持って、
「いってきます」
と梨華は玄関に向かう。
「あぁ」
と小さく聞こえた父の声を背に受けて、梨華は車に乗り込んだ。

36ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:40




黒く照り輝くリムジン。
お嬢様特有の送り迎えの車、お抱えの運転手。
豪華な皮のシートに腰をおろし、跡は学校につくのを待つだけ。
毎日これの繰り返しだ。

歩道には、たくさんの女子高生たちが笑いながら歩いている。
梨華の高校のとは違う制服。
―――――うらやましい…
友だちと一緒にお喋りしながら登校する。
梨華はいつも車で送り迎えされている。

楽しそうな女子高生たちを横目で見ながら、車はそこを通り過ぎて行った。

37ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:40

梨華の高校は名門私立の女学院だ。
ここに通う者は皆、梨華のような社長令嬢や重役の娘など、大金持ちがほと
んどで、一般の家庭ではここに入る事はできない。
入学金も並大抵の額ではない。
よっぽど成績が良いか、よっぽどの金持ちしかここには通っていなかった。
「お着きになりました」
「ありがとう」
運転手にドアを開けられ、そのまま降りた。
「3:30ごろに迎えに来ますのでそれまでここにおいでください」
「ええ」
運転手がそう告げると車はもと来た道を戻っていった。

「おはよう、石川さん」
「おはよう」
通り過ぎていく学友達。
同じ挨拶を繰り返して通り過ぎていく。
皆のその姿はあくまでもしとやかだ。
梨華とて例外ではない。


女性は清楚・可憐で慎ましくあるべき。
女学院の学生手帳にしっかりと綴られてある。
淑女としての行き方を常日頃から学び、心に置いておかなくてはならない。
礼儀作法・言葉づかい・身の振り・挨拶。
どれもこれも皆、決められた中で実行されている。

バカじゃないだろうか、と叫んでやりたい。

38ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:41


「ねぇ」
背後から声をかけられた。
この学校内で「ねぇ」と言うのはめずらしい。
ほとんどは皆「すみません」やら「もしもし」なんて言うものだ。
もし教師に見つかったら、長いお小言を聞かされるというのに。
「はい?」
「職員室まで案内して欲しいんだけ、ど…」
振り返って硬直した。
相手もそれは同じだったらしい。
「あ、あなた…」
「あ」

間違いない、あのパーティで彼に悪口雑言吐きまくった勝気な少女だ。

制服に身を包んでいるが、少年っぽさは健在している。
「なんで、ここに…」
「成金男の婚約者」
「なっ…」
暴言も健在だった。

「なんであんたここにいるの?」
少女は相変わらずな口調で言った。
「それはこちらの台詞です!ここは私が通ってる学校なの!」
「あ、そうなんだ」
そりゃ失礼、と少女は頭を掻いた。

「あなたこそ、ここの生徒だったの?」
「いーや、今日から転入してきた」
ヒラヒラと転入手続きの書類を見せる。
「つーわけで、職員室まで案内してくんない?」

39ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:41




生徒玄関から校舎に入り、職員室までの道を行く。
「やっぱ私立は違うなぁ」
少女はキョロキョロしながら梨華の後をついて来る。
「すっげー所々にモニターなんかついてる、金もあるトコにゃあるんだ」
どこか子どもっぽい所も、梨華のの印象に残った。


「………ぃ」
「………ぁ」

―――――ほらぁ、キョロキョロするからみんな見てくるじゃない…
廊下でおしとやかとはほど遠い彼女に、他の生徒達も珍しいのだろう。
梨華と少女が通り過ぎるとヒソヒソと後ろから話し声が聞こえる。
―――――まぁ転校生なんて珍しいからね…
梨華は、顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。

「はい、ここよ」
「あ、どーもね」
少女は職員室の前に立つと、勢いよくドアを開けて

「失礼しまッす」

と元気よく言った。
おそらく小等部の通知表に「大変よくできました」と書かれるくらいに。

―――――し、信じられない…
きっと彼女は転入の説明の前に、生活指導の先生からキツク注意される
事だろう。
そうして梨華は彼女の背中を気の毒そうに見送ると、今日の日直当番は
自分である事を思い出して、教室へと急いだ。

40ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:42


「おはよう」


いつもの様に挨拶し教室に足を入れると、噂好きなクラスメートたちはザ
ッ、と梨華の周りに集まってきた。
「え?え?何?何?」
思わず後ずさるが既に四方八方囲まれていて、逃げる事もままならない。
「石川さん、さっき一緒にいた人誰なの?!」
「は?」
噂が広まるのは相当早い。
「ほらあの金髪でピアスしてた人!」
教室に入って、教師の目が届かない場所に来ればこんなものだ。
しとやかにしている生徒はほとんどいない。
普通の女子高となんら変わらない。

「で?誰なのあの人!」
「え、転校生だってことしか…」
「なんで石川さん一緒にいたの?」
「職員室に案内してくれって言われてそれで…」
何やら皆の目が怖い。
「それじゃ石川さんとあの人は無関係なのね?」
あまりの迫力に、梨華はこくこくこく、と頷くしかできなかった。

41ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:42


「そっかぁ」

―――――あ、あらら?
ぞろぞろと梨華の周りにいた者たちは、自分の席へと戻っていった。
―――――何?どういう事?

「皆さん目をつけてらっしゃるのではないかしら?」

まだ梨華の横に一人残っていた。
「柴ちゃん、その喋り方、変」
「おはよう梨華ちゃん」

柴田あゆみ、高等部3年。
この高校に通う梨華の親友で同級生。
もちろん資産家の娘だ。
小等部から大学まで、エスカレーター式のこの女学院で、梨華とあゆみは
小学生からの幼馴染だった。

「朝からごくろーさま、梨華ちゃん」
「もう、なんなの?」
梨華は一息ついた。


「あの転校生がなんだって言うの?」
「あはは、みんな狙ってるんじゃない?」
―――――狙ってる?
あゆみの言葉に訳が分からない、という顔をする。
「だって女の子だよ?」
「女子高でありがちなことじゃない?男っぽい女はもてるわよ、
 それになかなかカッコよかったしね、あの娘」
「そうかな…」
「ま、みんなどこの誰だか気になる訳」
そう言えば、あの少女は何年生なのだろう。
同い年の様にも見えたし、それ以上にも以下にも見えた。
―――――でも、ま、あんまり関わり合いになりたくないのは確かだわ
「人の事、成金だとか言うし…」
自分の席について鞄から授業道具を出す。
一時限目は苦手な数学。
今日も謎の公式に悪戦苦闘するのだろうか。

42ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:42

「あ、ちょっと、梨華ちゃん!」
「痛っ」
いきなりグリッ、と首を90°に無理やり曲げられる。
「何よ柴ちゃん」
「あれ!あれ!」
「あれ、ってだから何………あ゛」
梨華は目が点になる。


「石川さーん」


後ろの入り口からこちらに向かって手を振っているのは、さっきの話の
中心となった、朝の転校生。

「なっ!」

梨華のその声に教室中の視線が集まる。
しんと静まり返り、皆、梨華と転校生を交互に見る。

そんな事にも気付いていない転校生はベラベラと大声で話し出した。
「ここの先生口うるさいね、別にいーじゃんスカートの長さくらい」
「ちょっ…こっち来て!」
やはり叱られたのかと思いながら、状況をまったく把握していない転
校生の腕を引っ張って、教室から出た。
「え、ちょっと石川さん?」
―――――これ以上イザコザを起こしたくないのよ…!

43ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:42




「はいこれ」
と、歩いていく途中手渡されたのは『石川梨華』と書かれた学生手帳。
思わず足も止まってしまう。
「どこで、これ…」
「秘密」
意地悪い瞳でこちらを見てくる。
「石川さんのクラス知りたかったから」
一瞬その言葉に驚くが、それに怯みはしない。
「盗ったの!?」
「秘密」
肩を落とした。

そんな梨華に少女は少し首を傾げて様子を窺っていたが、しばらくすると
梨華を残して一人歩き出す。
取り残されて梨華はハッとする。
「ちょっと…待って!」
少女は振り返りもせず、曲がり角を左に曲がった。
「待ちなさいったら!」
彼女が入ったろうドアを勢いよく開いて、その姿をとらえる。
少女は怪訝な顔をして
「別にトイレまでついて来なくたっていいじゃん」
「そういう事言ってるんじゃないのっ」

44ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:43

少女はますます眉を潜めながら、とりあえず一番手前の個室に入った。
梨華はそのドアの前に立って講義を始めた。
「どこで手帳拾ったのよ!」
「それじゃネタ晴らしになっちゃうよ」
「何訳の分からない事言ってるの!ちゃんと答えて!」
ザーッ、という水の流れる音がしばらく続くと、すぐに少女は出てきた。

「だから、秘密なの」
「意味分かんない…」
少女は頭を抑えて苦悩している梨華の横を通り水道で手を洗う。
梨華もその横について、鏡から少女の顔を睨んだ。
「…なんてゆーか、そうだなぁ…」
手についた水滴をどこからか取り出したハンカチで拭き始める。
「朝のお礼も兼ねて、昨日の事もあるし…」
「昨日?」
「うん、はい、ハンカチありがと」
「いいえ…って、えっ!?」
少女が使っていたハンカチは梨華のハンカチだった。
ポケットに入れておいたままで、出した覚えはない。
―――――い、いつの間に…!
「こうやった」
驚きを隠せない梨華に少女はまた意地悪い瞳になる。

45ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:43

―――――なんなの、この娘…
梨華は正体不明なこの少女に、少し気味の悪い物を感じた。
「分かんないかな」
「分かる訳ないじゃない…」
怯える梨華に少女は「んー」と唸り、スッ、と近寄る。
そして

「ジャーン」

梨華の前にヒラリ、と何かが舞う。
少女の手によって吊るされているそれには何やら記憶がある。
それは確か、今日の朝に、梨華の苦手なあの家政婦が、身に付ける様
にと持ってきた着替えの中に...。
そして同時に感じる違和感。
胸が異常な開放感に包まれていて、おそるおそる手をあてると
“ぷにょん”
という、あまりにも柔らかすぎる感触。


「…………ッキャアアアアアア!!!」


バッ、と少女の手からそれを奪い取る。
梨華は顔を真っ赤にしながら、少女を睨みつけた。
「まさかブラジャーまでピンクとはね」
「なんなのよあなたぁ!!」
「まだ分かんないの?」

46ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:43

「チューリップまだちゃんと持ってる?」
「え…」
チューリップ。
その花が表わす意味は。
「あたし吉澤ひとみ、って言うんだ」
「よし…ざわ、ひとみ…」
よしざわひとみよしざわひとみよしざわひとみよしざわ………。


『天才マジシャン、ヒトミ・ヨシザワ!』


昨日のパーティの司会者の言葉が浮かんだ。
「う…うそ…あなた、あの…」
「あ、思い出した?」
それは梨華の心の内を半分は占めている。
梨華が感動を見たマジックショー。
もう一度、あのマジックを見たいと願っていた。
軽快なステップを刻むピエロ二人と、少女ながらにして大人顔負けの
色っぽさを演出していた助手を引き連れ、ステージで幾多ものマジック
を披露した、あの手品師。

それが今、自分の目の前にいる。

しかも変な手品を見せられて。

47ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:43

「あ、もうそろそろ授業始まる」
時計に目をやって、ヒトミはバイバイと手を振った。
「一応教えとく、あたしのクラス2−Cだから」
年下だったのか...、と呆然と考えるまま去っていくヒトミの背中を見つめた。
パタン、とドアが閉じられ、梨華はトイレで立ち尽くす。

「そだ」
再びドアが開かれ、ヒトミが顔を出す。
それをありったけの負の感情をこめて睨んでやる。
「…何」
ヒトミはニヤッ、とどこかイヤらしい笑みを見せると

「石川さん、胸おっきーね」

ボンッ、と梨華の顔から一気に上気が噴出す。
「じゃーねー♪」
「こっ…の…」
と去っていくヒトミの背中を再び見つめながら
ピンク色をしたブラジャーを、ギュッと握り締めた。


「変態マジシャンッ!!」


あの笑みが頭から離れなくなっていた。

48ななしのどくしゃ:2002/12/23(月) 10:44
>名無しハロモニさま
�堯福檗檗─妨世錣譴撞ど佞い辛措未里曚箸鵑匹覆ぐ貎諭帖�
まぁ…後で出すから、いいか。(爆 
ありがとうございます。

>名無しハロモニさま
飼育の方に書かせてもらっております。が、ただいまスランプ中、
よって恐れながらこちらで書かせてもらっております次第です。。。

>夏蜜柑さま
ありがとうございます。
もうKO勝ちですね吉澤さんは。秒殺できるんじゃないかしら。

今日の更新、ちょっとあるお話(マンガ)から引用した部分もありますが、
気付いた人は… (0^〜^)<秘密♪
気付かなかったらそのまま気付かないでいてください。(笑

49名無しハロモニ:2002/12/23(月) 13:09
とーーーっても、続きが気になります。
久しぶりにおもしろい作品に出合えた気がします。
ガンがてください。

50名無しハロモニ:2002/12/24(火) 17:18
描写のほとんどない少女、誰なのかちょこっと気になってますw
う〜ん、あの子かなぁ・・
>「変態マジシャンッ!!」
ウケますたw


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