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ベタという名の短編集。
1
:
501
:2002/08/16(金) 03:23
要所要所の展開は常にベタベタを目指して。
かなりお約束なお話をいくつか書かせて頂きます。
のんびりマターリな更新になるかと思いますが、
お付き合いいただけたら幸いです。
29
:
名無しプッチ
:2002/08/30(金) 19:09
だ、だれか?「救心」ください。。。。。。。。
30
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:12
よっすぃーのお葬式は、彼女の実家近くにある斎場の特設式場で行われた。
よっすぃーの家族、親戚、知人、学校のお友達、仕事関係者、ハロプロメンバー。そして、私を含めたモーニング娘。のメンバーが式に参列していた。
斎場の周りには、よっすぃーのファンの子達が、突然の彼女の死に信じられない様子でよっすぃーの名前を何度も呼んでいた。
マスコミも、当然のことながら大勢やってきた。
モーニング娘。のメンバーの一人が子供を助けるために身を挺して助けた。自らの命を投げ打ってまで―――。
それは、ここ最近活気のない芸能ゴシップにおいて、恰好のネタだったに違いない。
悲しみの表情を浮かべながら次のゴシップを虎視眈々と探している姿には、正直言って同じ人間の血が流れているのだろうかと嫌悪感を抱かずにはいられないけれど、それが芸能界というところなんだと諦めるしかない。
私は、そんな風に考える自分が嫌になって、ふと空を見上げた。
上を向く癖はよっすぃーのもの。
「下を向くと嫌なことしか思いつかないよ」と、ニコニコしながら教えてくれたよっすぃー。
真っ青に澄んだ空に白い入道雲。
爽やかな風が辺りを包む。
真夏にも関わらず、爽やかで穏やかな今日の天気は、まるでよっすぃーのようだと私は思った。
31
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:13
式は、滞りなく、進んでいった。
棺の中にいるよっすぃーに別れの献花をした。
よっすぃーのご両親は、突然の娘の死に泣き崩れていた。
『死』という現実を突然突き付けられて、けれどそれがどういう意味を持つのか、まだはっきりと認識出来ていないらしいよっすぃーの弟たちも、ピクリとも動かない姉の姿に不安そうな眼差しで見つめていた。
そして、とうとう、私たちの番。
涙を拭うことも忘れて泣き続けていたメンバーたちは、必死に涙を堪えて、よっすぃーに最後のお別れを囁いていた。
私は、メンバーの一番最後に彼女に花を上げた。
棺の中にいるよっすぃーは、薄っすらと化粧が施されていて、花にうもれて、とても、とても、可愛かった。
32
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:14
もうすぐ、よっすぃーと本当のお別れをしてしまう。
斎場の外で、大声で何度も何度もよっすぃーの名前を叫んでいたファンたちも、次第にすすり泣きへと色変えていた。
大勢の人たちがよっすぃーを想って泣いた。
けれど、私は、彼女の死に顔と対面しても、ちっとも悲しくなかった。
涙も出なかった。
……それは、私のそばには、いつだってよっすぃーがいるから―――。
◆
33
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:14
あの日、よっすぃーが事故に遭ったあの時。
「お願いだから目を開けて! いつものように抱きしめて!」
野次馬がいることなど関係なく、私はよっすぃーの体を抱きかかえて無我夢中で彼女を呼んだ。
「よっすぃー! よっすぃー! よっすぃーっっ!!」
ピクリとも動かない彼女の体が徐々に冷たくなっているような気がして、私は狂いそうな悲鳴で彼女を呼び続けた。
「体を動かすな!」
会社員らしい30代ぐらいの男性が、泣き叫びながらよっすぃーの体を揺らす私を無理矢理止めた。
そして、抱きかかえていたよっすぃーを引き剥がすように奪い取り、ゆっくりと横たわらせた。
私は、それでも、何度も何度も彼女の名前を呼んでいた。
34
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:15
このまま、よっすぃーがいなくなってしまったら…きっと私は私でなくなる。
打ち寄せる波に抗うことなく崩れ落ちる砂の城のように、私もきっと消えてしまう。そう思った。
最愛の人…よっすぃーの死。
それは私にとって絶望的な恐怖だった。
「よっすぃー…よっすぃーが死んだら…私も追いかけて死ぬからね!」
そう叫んだその瞬間、私の背後でドサッと何かが落ちる音がした。
その大きな物音と共に、信じられない声が、私の耳に確かにはっきりと届いた。
「いってー……あれ、梨華ちゃん? 何泣いてんのぉ?」
力も気も間も抜けたような、のんびりしたその声…。
私は信じられない思いで、ゆっくりと、その声のするほうへ体を向けた。
「……よっ…すぃ…?」
そこには、私の愛しい人が、いつもの優しい笑顔で私を見つめていた。
◆
35
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:16
…そして、今、私の横にはよっすぃーがいる。
「なんかさー、自分の葬式に出るって、すっげー不思議な気分だね」
相変わらずの間の抜けたコメントは、紛れもなくよっすぃーそのものなんだけど…。
よっすぃー曰く「アタシ、幽霊になっちゃった」…らしいけど、そののんびりした口調と愛くるしい優しい笑顔はあまりにも幽霊然としてなくて、これは私の見ている夢なのではないかと疑ってしまう。
「夢じゃないって言ってるじゃん」
「ちょ、私の心を読まないでよ…」
私は小さい声で隣のよっすぃーに言う。
36
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:17
「……石川、どしたの?」
隣にいた矢口さんが私に気付いて、声を掛けてきた。
正確に言えば、私の右隣には矢口さんが立っていて、私と矢口さんの間によっすぃーが立っている。
ごくごく小さな声でよっすぃーに話したつもりでも、矢口さんに聞こえてしまうのは仕方ないのかもしれない。
私は、信じてもらえないだろうと分かっていつつ、
「……あの、今、よっすぃーと話してたんです…すみません」
矢口さんは、一瞬怪訝そうな表情を見せたけれど、すぐにほんの少し寂しげで切なげな瞳を浮かばせて、「そっか…」と俯いたまま、後は何も言わなかった。
おかしい、と思われたかもしれない。
狂った、と思われるかもしれない。
それでも、確かによっすぃーはここにいることを、誰かに知ってもらいたかった。
幽霊でも妖怪でもなんでもいい。
よっすぃーがそばにいるってことが、私の夢でもなんでもないことを、……その確証が欲しかった。
37
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:18
「ねぇ…梨華ちゃん。アタシの姿、誰にも見えないんだから、信じてもらえないよ?」
やんわりと話すよっすぃーの顔もほんの少し寂しげだった。
…そう、誰もよっすぃーの姿に気付く人はいなかった。
病院に運ばれたよっすぃーの体は、医師の懸命な処置にも及ばず、意識を戻すことはなかった。
事故を知らされて駆けつけてきたご両親も、メンバーたちも、何回よっすぃーが声を掛けても、気付くことはなかった。
よっすぃーの瞳からポタリと落ちた一滴の雫は、床に触れた瞬間、昇華した。
38
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:19
「それに、夢じゃないって何度も言ってるでしょ? その証拠にほら」
よっすぃーはいつもしてくれるように、私の背中からそっと抱きしめてくれた。
抱きしめられる感触はないけれど、ふわりと私の体を包む優しい温度は確かに彼女のもので、ほかの誰のものでもない。
よっすぃーが私の髪をすくように撫でると、柔らかい風が一瞬吹いたように、私の髪が小さく揺れた。
もしかしたら、私は壊れてしまったのかもしれない。
…でも、それでもいいと思った。
今、私が感じている彼女の温度だけは、よっすぃーのものだと確信出来るから。
39
:
彼女の温度
:2002/09/02(月) 02:27
更新しました。
誰もが見当ついていたであろう、ベタな展開に鬱(苦笑
それと、訂正といいますか…今回の更新分が −3− となります。
>27 名無し( `.∀´)さん
ホントにすみませんでした。
吉ヲタなのに、あんな展開にさせて…(^^;)ゞ
>28 胡麻べいぐるさん
最初に目指したのは「ほのぼの、ちょっと切ない」だったんですが…(苦笑
どうもこういうのがワタシは好きみたいです(^^;)ゞ
お気遣い、ありがとうございます♪
完全復活して、馬車馬のように働く日々でございます(苦笑
>29 名無しプッチさん
救心は持ってませんが…養命酒なら…(w
(0^〜^)ノ□<ハイ、ドウゾ
40
:
胡麻べいぐる
:2002/09/04(水) 16:22
すっごく切ないのに、ヨシコの台詞
(0^〜^)<自分の(ry
に、不覚にもワロタ。
確かに彼女なら言いそうですね。
続き、ハラハラしながらお待ちしてます。
41
:
名無しプッチ
:2002/09/04(水) 20:27
救心いらなくなりました。(w
幽霊でも、アフォな吉が(・∀・) イイ!
一心同体とは、こういうことをいうのでしょうかね?
42
:
総長@さわやか。
:2002/09/08(日) 22:26
ぐはっ!そうきたか(笑)。
ヲレの涙を返せーーーーーーーーーーーーー!!!!
とうそぶいてみるテスト(笑)。
続き、楽しみに待ってます♪
43
:
名無し( ´ Д`)
:2002/10/01(火) 02:03
続きまだですかね。お忙しいのかな?
44
:
501
:2002/10/02(水) 05:13
私とよっすぃーは、これまでと変わらぬ生活を送っていた。
朝になると、寝ぼすけな私を起こすために、起きて起きてと変なメロディをつけて歌う。それも、近所迷惑なくらい大きな声で。
そう文句を言ったら「アタシの声は梨華ちゃんにしか聞こえないから大丈夫でーす」なんて、いたずらっ子のように目を輝かせて言う。そんなところもいつもと変わらない。
私が漸く目を覚ますと、よっすぃーはニッコリ笑ってチュッとキスをくれる。
唇をあわす感触は、そっとそこに温もりを感じるだけのもの。だけど、彼女の優しい口付けは変わらないままだと、そう思っていた。
夜になれば、私が夢の中に落ちるまで、優しく頭を撫でてくれる。
壊れ物を扱うような優しげな手付きもこれまでと変わらない。
確かな手の感触は感じないけれど、彼女の手の温もりだけは私の心にダイレクトに伝わってくるような気がした。
45
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:14
食事は…さすがに幽霊なだけに、私の作ったものを食べる事が出来なくて、それがとても切なかった。
私は、無意識に寂しそうな表情を見せてしまっていたのかもしれない。
よっすぃーは心の底からすまなそうに「一緒にご飯食べれなくてごめんね」と謝った。
ほんの一瞬浮かべた、よっすぃーの悲しみに沈んだ表情は、きっと一生忘れられない。
優しすぎる彼女のことだから、きっと、私が望む事を叶えられない自分に歯痒さを覚えていたのかもしれない。
そう思うと、私は鼻の奥がツンと痛かった。
よっすぃーは私が食べ終えるまで、ニコニコと微笑みながら私を見つめる。
私が「恥ずかしいから見ないでよ」と文句を言うと、「美味しそうに食べる梨華ちゃんが可愛い」と臆面もなく言う。
そんなよっすぃーに、私はいつだって照れてばかりだった。
幽霊のような素振りをまったく見せず、いつも大らかで自然体の彼女は、今までのよっすぃーと、なんら変わらない。
何ひとつ変わらないと、私は自分にそう思い込ませていた。
46
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:14
仕事に行くときだって、私たちはいつも一緒だった。
テレビ局に向かおうとした時のこと。私たちはいつも通り、他愛のない会話を楽しんでいた。
電車に乗ると、よっすぃーは突然会話を止めた。
「よっすぃー」と声をかけると、彼女はニコッと笑い、人差し指を唇に当てる。
…あ、そっか、また忘れてたよ。
よっすぃーは幽霊で誰にも見えない。そこに存在している事すら気付かれない。
私がよっすぃーと喋ってたら、単なる独り言をしているアブない女の子って思われちゃうよね。
私はなんとなしに中吊り広告を見上げた。ふと目に止まったのは「吉澤ひとみ」の文字。
女性週刊誌の中吊り広告の見出しに、若くして逝ったよっすぃーの記事があげられていた。
ワイドショーや雑誌を見るたびに、隣にいる彼女はもうこの世の人ではないのだと、むざむざと気付かされる。
今もそばで感じる、彼女の優しい空気が、すべてまやかしなのだと言われているようで、悲しかった。
そう思ってしまう自分が、とても悲しかった。
47
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:15
よっすぃーは私の視線の先を追って、中吊り広告の自分の記事をぼんやりと眺めていた。しばらくすると、ポツリと独り言のように呟いた。
「今はこうやってマスコミも取り上げてくれてるけど、いつかはアタシも忘れ去られるんだろうね」
何気ない会話の一つのように、事も無げに。
私はそんな風に言うよっすぃーが許せなくて、ここが電車の中だというのも忘れて、声を荒げていた。
「何でそんなこと言うの!? 私は忘れたりしない! 誰も忘れたりしない!」
「ちょ、ちょっと梨華ちゃんっ!! ここ電車の中だってば! 落ち着いてよ、ね?」
よっすぃーは慌てたように私を諭す。
慌てた顔でキョロキョロと辺りを見回し「ヤバイなぁ」なんて小さく呟く。
「よっすぃーのこと…忘れるわけないじゃない……よっすぃーのことを知っている人はみんな……絶対、忘れないもん」
私は独り言のように小さく呟く。
忘れない、忘れないもんと、駄々っ子のように、繰り返し、繰り返し。
48
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:16
「…そう、だよね。……ごめんね、梨華ちゃん。変なこと言っちゃって」
よっすぃーは何かを言いたそうにも見えたけど、そうニッコリ微笑むと、私の頭を優しく撫でて話題をすり替えた。
「梨華ちゃん、きっと怪しい人だと思われてるよ〜」
私は彼女が何を言っているのか気付かずに首を傾げた。
するとよっすぃーは、私を奇異な目で見つめている乗客たちを指差して、「まぁ、帽子とサングラスで顔隠してるからバレてはないと思うけど」と苦笑した。
訝しげな表情で私を見つめるサラリーマン。
クスクスと笑いながら小声で話す女子高生。
私が振り向いた途端に目を逸らしたオバサマ。
沢山の目が私に向けられている事に漸く気付いた。
あ…ここ、電車の中だったんだ…。
…すっごい怒鳴り声の独り言をしてるアブない女の子って思われちゃった?
すごいショック…って言うか、恥ずかしいよ…。
私はあまりの恥ずかしさに、その場にいることも耐えられなくて、隣の車両に移動した。
_
49
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:17
「もう…恥ずかしいったらないよぅ…よっすぃーが変なこと言うからいけないんだからねっ」
私はテレビ局内に入った後も、ブツブツと小声で文句を言いながら廊下を歩いた。
すれ違う番組スタッフや局員の人たちには、笑顔を絶やさず、挨拶を交わしながら楽屋へと向かう。
「悪かったって言ってるじゃん」よっすぃーはそんな私に苦笑しながら言う。
「乗客の中には“石川梨華”だって気付いた人もいるかも……」
「……あー、その高いチャーミー声で気付いた人いるかもねぇ」
よっすぃーはクックッと笑いを堪えながら言う。
反省の色なんてどこ吹く風。
私が凹んでいるのを見て楽しんでいるみたい。
「もう、笑わないでよっ、よっすぃーなんて知らないんだから!」
「ごめんごめん、梨華ちゃんだって気付いた人、いなかったっぽいから大丈夫だって」
そんな事を話しているうちに楽屋に辿り着いた。
私はよっすぃーに「みんなの前では話ししないからね」と釘をさす。
よっすぃーも「その辺は心得ています」と親指を立たせてポーズを決めた。
50
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:18
楽屋に入ろうとドアノブに手をかけたその瞬間、矢口さんの怒声が廊下にまで響いた。
「そんな言い方ないんじゃないですかっ!? 人の気持ちをなんだと思ってんですか!?」
矢口さんがののやあいぼんのことを怒っているのは、何度も耳にしたけれど、今の彼女の声には、やりきれない悲しみが含まれているような気がした。
飯田さんや保田さん、そして安倍さん、ごっちんも続けて何かを言っている。何を話しているのかは聞き取れない。
私はドアの向こうの緊迫した雰囲気に気圧されて、楽屋の中に入れなかった。
「梨華ちゃん…」
彼女にはドアの向こうの会話が聞こえていたのか、それとも、緊張感が走った私の表情を見て心配してくれたのか、よっすぃーが心配げな表情で私を見た。
「……矢口さんのあんな怒鳴り声、初めて聞いたね」
よっすぃーは「そうだね」と短い返事を返すと、それ以上何も話さなかった。
51
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:18
「―――とにかく、決まったことだから、みんなよろしく」
気がつけば、ドアのすぐ向こう側で、マネージャーの声が聞こえた。
それと同時にドアが開く。目の前にはプロデューサーとマネージャーが立っていた。
「……あ、あ…あの、おはようございます…」
立ち聞きをしていた罪悪感なのか、なんとなく気まずくて、伏目がちに挨拶をした。
「あ、お、おはよう。…もうリハまで時間ないから、早く支度しなさいね」
マネージャー自身も気まずさからか、早口で捲くし立てると、プロデューサーと二人、そそくさと楽屋を後にした。
無造作に開かれたままのドアの向こうでは、矢口さんとごっちんがポロポロと涙を流していた。安倍さんはそれを慰めるかのように、二人の肩をポンポンと叩いている。
保田さんと飯田さんは、やはり泣いている中学生組の頭を撫でてあやしていた。
「……あ…の…何が、あったんです…か?」
この雰囲気のなかで発言するのも憚れたけれど、何ひとつ状況を把握していない私は、恐る恐る口を開いた。
けれど、誰もそれに答えようとはしなかった。
ただシクシクと、切ない泣き声が楽屋の中を占拠していた。
_
52
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:19
その日の収録は散々なものだった。
何も分からない私はともかくとして、他のメンバー達がニコリともしなかった。
ディレクターから何度注意をされても、誰ひとりとして、笑顔を作る事が出来なかった。
これでは放送できないと、この日の収録は先送りされる事になった。
ののとあいぼんを含む5期メンバー達は先に帰され、私たち年長メンバーはそのまま残る事になった。
曲がりなりにも、私たちはプロのアイドル。
中学生組たちはともかくとして、プロ意識の高い保田さんや、いつだって笑顔の矢口さんまでもが笑顔を隠してしまうほどのことって一体なんなんだろう。
どうしても気になった私は、その理由を聞こうと口を開きかけたその時、先ほどのプロデューサーとマネージャーが楽屋にやってきた。
その瞬間、みんなの表情が固まった。
_
53
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:20
……蓋を開けてみれば、話は単純なもので、よっすぃーの追悼番組を放映することが決定したということだった。
よっすぃーの加入から亡くなる前までの映像を流しながら、私たちメンバーが想い出話を語る。
懐かしさに微笑んだり、もう二度と会えないよっすぃーを思って涙を流したり―――。
それは、ありふれた追悼番組だと思った。
これは社長もつんくさんも了承済みだと聞かされると、矢口さん達はガックリとうな垂れて、それ以上何も話さなかった。
54
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:20
「今日はもう帰りなさい」とマネージャーが言い残して出て行ったあとも、みんな席を立とうとしなかった。
誰も口を開こうとしない、その重圧に息が詰まりそうになる。
…あれ…そう言えば…よっすぃー…?
全く気配を感じない彼女の姿を探す。
ごちゃごちゃあって気付かずにいたけれど、考えてみれば、ずっと彼女の姿も声もしなかった。
……まさか…よっすぃー……いなくなっちゃったってことは……
ガタンと勢いよく席を立ち、もう一度楽屋内を見渡すも、彼女の姿はやはりない。
「よっすぃーっ!!」
もう一度、彼女の名前を呼ぼうと息を吸い込んだその時、よっすぃーが慌てて楽屋にやってきた。
「はいはい、梨華ちゃん。アタシはちゃんといるから、心配しないで」
「よっ―――」
よっすぃーは人差し指を唇に当てて私を止めた。慌てていて周りが見えていない私に、メンバー達がいることを目配せて気付かせてくれる。
私はハッとして、言いかけた言葉を飲み込んだ。
55
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:21
「……梨華ちゃ…ん…どうしたの?」
よっすぃーの名前を突然大声で叫んだ私に訝しがることなく、ごっちんが泣きそうな顔で尋ねてきた。
「……あ、あの……なんて言うかね…、…その…よっすぃーはどう思ってるのかなぁって…思って……あの……」
しどろもどろにオドオド答える。
まともな嘘もつけない自分が嫌になる。
けれどごっちんは、それに優しく答えてくれた。
「そっか………うん、よしこなら…笑うかも、ね。自分の特番なんてオイシイじゃんって」
あは…と力なくごっちんは笑う。
それを聞いていたよっすぃーは「さすがごっちん、分かってるねぇ」なんて、のんびりと頷いた。
「…そうだよ…ね、よっすぃーならニコニコしながらそういうこと言うかもね」
私はよっすぃーを見ながらそう答えた。
保田さんもそれに頷く。
56
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:21
「……確かにね、製作者側の見え透いた数字稼ぎのネタにされるのは悔しいけど…追悼番組を放送してもらえるってのは、タレントにとってはある意味嬉しい事かもしれないわね。そのタレントの需要がなければ供給もされないんだし……」
「私だって、番組が放送されること自体に異論は全然ないよ。……また、ホントによっすぃーが死んじゃったんだって再確認させられちゃうのが辛いけど。……ただ…プロデューサーの言い方がさ…あんな言い方ってないじゃん? 「君たちは悲しそうな顔をして、たまに涙を流してくれればオッケーだから」って……………なんだよっ! ふざけんなっ!」
矢口さんは怒りのあまり、机を叩いた。バンッと大きな音が楽屋に響く。
彼女の小さい体にこれほどのパワーがあったのかと吃驚するほど、その音は大きかった。
「番組に出演するってことは仕事ってことだけど。でも…仕事だからって言ったって…割り切れないものがあるじゃん…」
矢口さんはそう言うと、またポロポロと涙を流した。
安倍さんが矢口さんの肩を抱いて「泣くな矢口」と言いながら、彼女も涙を零していた。
57
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:22
これで、みんなの怒りの理由が漸く分かった。
製作者側が意図的に私たちの涙を狙っていたこと。よっすぃーへの純然たる想いを単なる数字稼ぎのネタとして扱われたことに腹を立てたんだ。
……それでも、芸能界にいる以上、不条理な想いと戦いながら、結局それに従わなくてはならないこともみんな分かっている。
だから、悔しかったんだ…。
私自身、大切なよっすぃーを物のように扱われたことに、不愉快が頭を翳った。
「梨華ちゃん…大丈夫…? あのさ、…辛かったらさ、いつでもごとーたちに言うんだよ?」
私の表情が翳ったのを敏感に察してくれたごっちんが、心配そうに声を掛けてくれた。
メンバーのほとんどが、私とよっすぃーが付き合っていた事を知っている。
きっと、ずっと、気に掛けてくれていたんだと思う。
58
:
彼女の温度
:2002/10/02(水) 05:23
「…ごっちん…ありがとう。…でも、私は大丈夫だよ」
私はにっこりと微笑んでそう答えると、よっすぃーが私の横にやって来て、私の肩を優しく抱いてくれた。
大丈夫。
よっすぃーが私のことを見守ってくれる。
ずっと、ずっと…。
だから大丈夫だと、私は自分にそう言い聞かせた。
59
:
501
:2002/10/02(水) 05:35
大変遅くなりまして、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
ひとまず、更新しました。
何を書きたいのか、自分でも何がなにやら(苦笑)
それと、相変わらず間が抜けてますが…
今回の更新分が −4− となります。
>40 胡麻べいぐるさん
レスありがとうございます♪
ここの(0^〜^)は色んな意味でほんわかしてる気がします。
あの台詞も、すごく自然に出てきたものだったんですよ(笑)
>41 名無しプッチさん
動悸息切れは治まったようで何よりです♪(笑)
今の二人はどこまでもぴったりと離れない、
まるでコバンザメの様な二人です(イヤな例えだな/笑)
>42 総長@さわやか。さん
レスありがとうございます♪
この展開は予想外だったんでしょうか?(笑)
これからも良い意味で読んでくださってる皆様の予想を
覆していきたい、今日この頃です(笑)
>43 名無し( ´ Д`)さん
気が付けば一ヶ月も更新できずにいて、本当にスミマセンでしたm(_ _)m
今後はなるべく早め早めに更新できるように頑張りますので、
最後までお付き合いいただけたらと思います。
60
:
名無し○い○ん
:2002/10/04(金) 20:20
色々大人のしがらみって、大変ですよね。
でも、現実にこうゆのってあるんでしょうね。
続き楽しみにしています。がんばってください。
61
:
名無しヌード
:2002/10/05(土) 20:38
う〜ん。なんていっていいのか分からないですが、
泣いちゃいました。
最後の梨華ちゃんのセリフが気になります。
続き楽しみに待っています。
62
:
\1980
:2002/10/06(日) 11:29
|-・) チラッ
切ないですね・・・
でもとても目が離せません。
期待待ちです。
|彡サッ
63
:
名無しお尻
:2002/10/24(木) 21:35
まだかな〜忙しいのかな〜
64
:
ごーまるいち
:2002/10/26(土) 20:11
相変わらず更新が遅くて大変申し訳ございませんm(_ _)m
どれだけ時間をかけても、必ず最後まで仕上げますので、
マターリお待ちいただけたらと思います。
レスはまた後ほど…。本当にすみません…(T▽T;)
65
:
名無しよっちぃ
:2002/10/30(水) 23:49
いつまでも待ちます!!(0^〜^0)
マターリマターリ作者様ペースでガンガッテください!!
66
:
ごーまるいち
:2002/11/15(金) 22:59
大変ご無沙汰してしまい、本当に申し訳ございませんm(_ _)m
自サイトの方ではお知らせしましたが、
体調不良で入院することが決まってしまいまして、
しばらく更新作業が出来なくなりました…(つ〜T)
こんな私の駄文をお待ち下さっている奇特な方が一人でも
いらっしゃる限り、必ず最後まで仕上げますので、
今しばらくお待ち頂けたら幸いです。
67
:
ごーまるいち
:2002/11/15(金) 23:15
>60さん
お返事が遅くなってしまい、本当に申し訳ございませんでした。
実際問題、色々あるんだろうなぁと思いますね。
せめて物語の中だけではどうにかしてやりたいと思っているんですが。
復帰次第、完結させますので、待ったりお待ちいただけたらと思いますm(_ _)m
>61さん
こんな駄文で泣いてくださるなんて…ありがとうございます(T▽T)
どういう結末を迎えても、骨の髄までいしよしなのは確かです(w
今しばらく、お待ち頂けたら幸いですm(_ _)m
>\1980さん
期待してくださっているのにも関わらず、放置気味で本当にすみません(汗
必ず、最後まで仕上げますので、お待ちいただけたらと思いますm(_ _)m
>63さん
ああぅ…お待たせしてしまい、本当にスミマセンスミマセン(T▽T;)
また更にお待たせしてしまう事になりますが、必ず完結させますので(汗
>65さん
温かいお言葉、本当にありがとうございます(0T〜T0)
しばし、お待たせさせてしまう事になってしまいましたが、
必ず完結させますので、マターリお待ち頂けたらと思いますm(_ _)m
68
:
名無しひょうたん島
:2003/02/14(金) 17:05
緊急特別と称したよっすぃーの追悼番組は、たった一つのことだけ除けば、実に滞りなく放送されたと思う。
…と言うのも、生放送でオンエアされた番組内、それも一番クライマックスの、涙を誘う大事な場面で、あのいけ好かないプロデューサーが見事にコケたのだ。
それもカツラが吹っ飛ぶオプション付きで。
不謹慎だと知りつつも、目の前で偶然起きたハプニングに、メンバーはみな吹き出した。
そして、スィッチャーのミスか、はたまた神のイタズラか。偶然にもその迷シーンがしっかりと電波に乗って全国に放送されてしまった。
しめやかに終わるはずだったよっすぃーの追悼番組は、どこかよっすぃーらしい『間抜けさ』を醸し出しながら終了した。
69
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:2003/02/14(金) 17:06
そして今はその帰り道。
マンション近くのコンビニで降ろしてもらった私(もちろんよっすぃーも一緒)は、買い物を手早く済まし、店を出た。
今日はやけに暑い。夜道に時折に吹きこまれる風も、まるでエアコンの通風孔から出てくるような、熱を帯びた風だった。
ふと、横に歩くよっすぃーを見た。
熱っぽい気温など、まったく気にも留めていない様子で、むしろ、ふわふわと気持ち良さげに歩いていた。
メンバー同士で今日の収録について「よっすぃーの番組らしいよ」と、一応納得したけれど、よっすぃー自身はどう思ったんだろう。
あんなプロデューサーのせいで番組を駄目にされたこと、内心は快く思ってないかもしれない。
と言うよりも、結局は私自身が納得し切れてないだけに過ぎない。
誰よりも大切で、誰よりも愛しているよっすぃーのための番組を、あんなことで台無しにされて悔しかっただけ。
70
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:2003/02/14(金) 17:06
「…今日の放送、どうだったんだろうね」
「どうだったんだろうって?」
よっすぃーは私が何を言わんとしているのか分からない様子で、小首を傾げて聞き返す。
「…プロデューサーのあんな姿がオンエアされちゃってさぁ…」
「ああ、あれねー。スカッとしたでしょ?」
「…スカッとって?」
「あれ、アタシの仕業」
「えぇっ!? どうして?」
私は思わず大声で聞き返していた。
こう言ってしまうのは悲しいけれど、自分の追悼番組なのに、なぜそんなことをする必要があるのだろう。
けれど、よっすぃーはまったくのはてな顔で、私に質問を仕返してきた。
71
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:2003/02/14(金) 17:06
「どうしてって?」
「だって…よっすぃーのための番組なのに…あんなコントみたいなこと…」
「みんなのことを泣かせた悪い奴だからさぁ、なんかイタズラしてやろうって思ってたんだー。そしたらカツラだってのが分かったからさ、なら全国放送でバラしてやるかぁって」
「それにしたって…わざわざ追悼番組でやることも…」
「だから意義があるんじゃん。あんな間抜けな構図、なかなか見れないよー」
「確かに見れるもんじゃないけどさぁ…」
「スカッとしたでしょ?」
「…まぁ、ちょっとは、ね」
「だったらそれでオッケー牧場!」
「イタズラ好きな幽霊がいたって良いじゃん」なんて、よっすぃーはやんちゃな子供のように、得意げな顔をして笑った。
72
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:2003/02/14(金) 17:07
いつだってよっすぃーの行動は予測がつかないし、理解しきれない。
こうやって突拍子もないことをしでかして私たちを驚かす。けれど、それが決して不快なものじゃないだけに始末が悪い。
それは、私たちが望んでいたことを代わりにしてくれたからなのかもしれないし、単に子供っぽい彼女が微笑ましいからなのかもしれない。
「やっぱりよっすぃーっておかしいよね」
クスクスと笑いながら言うと、よっすぃーは「なぁんでだよー」と口を尖らせて、そして笑った。
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73
:
501
:2003/02/14(金) 17:12
ぬ゛ぁぁぁ!! あげてしまった…。
ほんのちょびっとだけひっそりこっそり更新していこうって思ってたらやっちまった…。
こんな駄文をあげてしまってスミマセンスミマセン(T▽T;)
やっと中盤まできました。
一応、次回から展開が変わるような変わらないような。
駄文は駄文なりに、最後まで頑張ります。
管理人様、代理様。
スペースをお借りしていて、長らく放置ですみませんでした。
そしてまたしばらく、放置することをお許しください(T▽T;)
それでは、ひとまず。
74
:
名無しひょうたん島
:2003/02/14(金) 19:17
おかえりなさ〜い。ってまだですね(0T〜T0)
この作品をさいごまで読めるなら、いくらでも待ちます!
501さん。ガンガッテください!!
75
:
名無しひょうたん島
:2003/02/16(日) 21:04
501さんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
はじめっから読み返しました!
私も待ちマース!
76
:
名無しひょうたん島
:2003/04/20(日) 15:14
待ってるよ。
がんがって!
77
:
名無し( `.∀´)
:2003/05/31(土) 22:44
501さん、お昼ご飯なに食べたんだろう?
78
:
名無し(0´〜`0)
:2003/06/20(金) 19:44
501さん、お元気になられたと聞きました。
楽しみに待っています。無理せずがんばってください。
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