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灼眼のシャナ&A/B 創作小説用スレッド

1SS保管人:2003/11/24(月) 19:22
ライトノベル板でSSを書くのは躊躇われる、
かといってエロパロ板は年齢制限が…

そんな方のために、このスレをどうぞ。
萌え燃えなSSをどんどん書いて下さい。

2名無しさん:2003/12/13(土) 22:24
2

3名無しさん:2003/12/31(水) 04:17
3

4アナテマ </b><font color=#FF0000>(vzFmOBJc)</font><b>:2004/01/04(日) 04:45
「シャクガンノシャナタソゲキジョウ〜ユウジノサイナン」

吉田一美は危機を覚えていた。
(あの二人は、私の知らない何かを共有してる・・・御崎大橋でのデートとか、真南川での事とか・・・)
(ゆかりちゃんと悠二君って、どこまで行っているんだろう・・・)
(まさかあの二人、もう、恋人みたいな事をしてるんじゃ・・・)
そういう事を想像すると、顔がひどく赤くなるのを覚える。
因みに彼女が想像しているのは18禁な事ではなく、キスとかである。非常に彼女らしい。
(でも・・・池君ばかりに頼るのは、駄目。あの時、自分でやるって、決めたんだもの!)
(そうだ、今度の日曜日、坂井君の家に行って見よう・・・)
震える手で電話を取り、悠二の家に電話をする。
「あの、坂井君いますか・・・」

その頃の坂井家
夕食後、いつものように秋子さ・・・ゲフンゲフン・・・千草とシャナは話をしている。たまにアラストールの話題も出てくる。
「そうなの・・・今度の日曜日にでもまたアラストールさんとお話してみようかしら?」
また携帯電話にいれとかなきゃ…悠二とシャナがそう思っていると突然電話が鳴り出した
千草が取りに行く。
「・・・悠二、電話よ。」
悠二はお茶を啜ってのんびりしていると千草に呼び掛けられた。
その隣でシャナは何時ものように坂井家に上がりこみ、夕食後のデザートと言わんばかりにメロンパンの
カリカリモフモフを堪能していた。
「誰から?」
「吉田さんって女の子からよ」
シャナのそれまでメロンパンを食べながら笑みを浮かべていた表情が凍りついた。
「うん、すぐ出るよ」
悠二は立ち上がり、電話の所まで行く。
悠二に電話を変わると千草は洗い物をする為台所に行った。
悠二が話している間、シャナは敵のようにメロンパンに食らいついていた。苛立ちを紛らわすかのように。
「何を、話してたの?」
勤めて平静を装って尋ねる。
「ああ、吉田さんが、日曜日に遊びに来るって・・・シャナ?」
「私も、日曜日、行くからね」
そういい残してシャナは風のように去っていってしまった。
「あれ、シャナちゃんは?」
「いや、なんだか、急に帰るって。それと、今度の日曜日、吉田さんが遊びに来るんだってさ」
「あら・・・それじゃ準備しないと・・・」
悠二はシャナの挙措になんとは無しに不安を覚えたが、後に不幸が来るとは知る由も無い。

5アナテマ:2004/01/04(日) 04:50
そして、運命の日曜日。
この日の一美の服装は、この日のためにわざわざあつらえた
いつもなら絶対しない露出の高いフリルのついたシャツにミニスカートという出で立ちだった。
胸元は派手に開いている。
スタイルが良いだけに、周りの男性の目をやたらと引いてしまう。

(うう・・・恥ずかしいけど、頑張らないと)

その頃シャナは昔使っていたチャイナドレスをフレイムヘイズの黒衣から引っ張り出して着替えていた。
あれからシャナは全く成長していないので、ピッタリと合う。
・・・そこ、シャナのチャイナドレスは天道宮で燃えたとか言うな。替えがあったことにしておこう。
アラストールに聞いたらそっけないが「良い」と言ってくれたし、
千草にはとても可愛らしいと言われた。
(わたし、あの子に、負けたくないもの!)
いつもなら嬉しいはずの言葉もシャナの溢れる不安を拭い去る事は出来なかった。
そして、シャナのチャイナドレス姿を見た当の悠二は・・・
「いつもと服違うんだ」
「・・・それだけ?」
シャナがむくれ千草がため息をつき掛けたときに悠二は言った
「あ、いや、いつもより、可愛いかな?」
それだけで、その一言でシャナの表情は輝いた。千草は意外な表情をしている。
(よかった。当たりのようだ・・・)
いや、クイズじゃないんだから・・・
その場をごまかすように悠二が携帯を取り出す。
「ああ、これ、このボタン一つでアラストールに繋がるようになってるから」
「そう?それなら簡単ね」
その時玄関のチャイムが鳴る。
「あらあら、いらっしゃい。吉田さん」
「こ、こんにちわ」
「今日はゆっくりしていってね。悠二の部屋に飲み物とお菓子は用意してあるから」
「お、お気遣いどうもありがとうございます」
千草は携帯を持って居間に戻った。
「この服、どうかな?」
一美が真っ赤になりながら悠二に尋ねる。
「涼しそうでいい・・・ゲフン。似合ってるよ」
よく見ると胸元が開いていて悠二も思わず顔が赤くなる。
「よかった」
シャナにさっきから凄い目で見られているのは絶対気のせいじゃないと思う。
シャナと一美はバチバチと火花を散らしながら、悠二は前でそれの気配を感じ少し早足で三人は部屋に向かった。

6アナテマ:2004/01/04(日) 04:52
それからシャナ達は、しばらくトランプやウノ、悠二の家にある様々な遊具やボードゲームなどで時間を潰していたが、
はっきり言ってかなり異様な雰囲気だった。
二人の表情はむしろにこやかで、シャナも一美も表面上は笑顔だ。
しかし、悠二はその水面下で飛び交っている火花にしっかりと気づいていた。
針のむしろ・・・いやまるで、何時爆発するか分からない爆弾のとなりに座っている感じだった。
(うう・・・勘弁してくれぇ・・・何でこんな険悪な雰囲気なんだ!)
悠二は本気で逃げ出したいと思っていた。
トランプの勝負も何順かした後、悠二はついに場の空気に耐え切れなくなって言った。
「あ、僕ちょっとトイレに行って来るよ」
もちろん嘘である。まあ、腸ではなく胃の方は穴が開くほどのダメージを食らっていたが。
「・・・悠二に・・・あの事は言ったの?」
「まだ、言ってない」
「だめ・・・言わないで・・・」
「ううん。いつか言う。もう、決めたもの」
「・・・っ!」

悠二がドアを開けると、二人は子供のように掴み合いの喧嘩していた。
「止めろって二人とも!いったいどうしたん・・・」
射すくめるような二人の視線に、悠二は凍りついた。
「うるさいうるさいうるさいっ!あんたのことで、喧嘩、してたのよっ!
それも、これも、全部、全部、あんたがはっきりしないから悪いんじゃない!」
シャナは滅多に無いことだが、涙目になっていた。
「え、どういうことだよ・・・」
悠二はシャナの態度にただ困惑し、突っ立っている。
今こそ、言うべきなのかもしれない・・・一美は、真っ赤に成りながらも、思いを伝えようとした
意外と、声はすんなりと出た。
「私が、悠二くんの・・・事、好きだ・・・っていうこと、伝える、伝えないで・・・揉めてたの」
「えっ・・・」
それは、小さく、とぎれとぎれの声だったが、はっきりと悠二の耳に届いた。

7アナテマ:2004/01/04(日) 04:56
シャナはその言葉の響きが持つ意味に、ハンマーで殴られたかのようなショックを覚えた。
言われた・・・
これでもし悠二が一美を選んだら・・・私はどうすればいいの?何所へ行けばいいの?
私を初めて名前で呼んだ、優しく、少し抜けていて、でも判断力のある風変わりなミステス
いや、自分に温もりや色んなものをくれた坂井悠二と言う存在が、決定的な意味で私から離れる・・・
そんな途方も無く巨大で凄まじい喪失の恐怖と不安にシャナは、震えた。
私の思いを、伝えなくちゃ。
ただ、そう思った。しかし、その言葉を紡ぐには、
今までの全ての紅世の徒と戦いと同じくらいの覚悟、いや、戦いの方が分かりやすくてまだマシだと感じた。
「私は、私だって・・・私だって悠二の事が大好きなのよっ!あんたなんかに、渡したくないっ!」
思わず、大きな声が出てしまい、千草やアラストールに聞かれたかとあせったが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
悠二はもう気絶するかと思うほど驚いていた。
「それを決めるのは、悠二君です」
「そうね・・・」
二人が、無言で悠二に詰め寄る。
「さあ、どっちが好きなのかはっきりしろ!」
「答えを・・・聞かせて下さい・・・」
眉を寄せて物凄い眼で睨み付けるシャナ。
真っ赤な顔で泣きそうになりながらも悠二を見据える一美。
「・・・・・・」
(こ、これは、修羅場か・・・しゃ、シャレにならん・・・困った事になったぞ・・・
一美ちゃんは可愛く優しい・・・好きだけど・・・でも僕はミステスで年をとるかどうかも分からない。
それに彼女に答えられるかどうかも分からない・・・
でも僕は確かにシャナも好きで彼女はとても強くて格好よくて尊敬できるしあこがれるそして時折見せる脆さと弱さと可憐さが・・・素敵で
ああ・・・気持ちの整理がっ、つかない!)
暫くの沈黙。
「ご、ごめん!二人とも、嫌いなわけじゃない。どちらも・・・好きなんだけど・・・
でも、気持ちの整理が出来てなくて・・・俺にはまだどっちが好きかなんてことは決められないんだ!」
その無言のプレッシャーに耐え切れず、悠二は、逃走した。ドアに向かって走る。

8アナテマ:2004/01/04(日) 04:57
「逃げるなああぁ!」
神速で投げつけられた置時計が悠二の後頭部を直撃する。
「ぐわっ!」
悠二はもんどりうって転がり、ドアに激突した。
「いたたたた・・・」
「ちょ、乱暴しないでくださいっ!」
「あんただって答えを聞かないまま逃げられるなんて望まないでしょ!」
「それは・・・」
「曖昧なままなんて許さない!悠二!私のほうが、私のほうが・・・」
「ゆかりちゃん!私だって、悠二君の事が大好きなんだもの!」
「何よ!何よ!私は、今までも、これからも、色んな事を悠二と一緒に乗り越えていくのよ!私の方が悠二の事が好きなんだから!」
「わ、私だって負けないもん!悠二君を思う気持ちだって、胸だって!」
「うっ・・・」
シャナは見比べた。自らの成長しない膨らみと、一美の服に強調された年不相応に立派な胸を見比べ、ぎりっ、と歯噛みする。
(く、くやしいけど・・・これに勝つには・・・もう・・・脱ぐしかないっ・・・
アラストールに内緒で見てた深夜番組では男は女の人の裸、しかも大きい胸が好きって話で・・・ああ、何考えてんだろ私
思考がこんがらがってまとまらない!普段ならこんなに冷静さを欠くなんで有り得ないのに・・・いや、でも
悠二は小さい胸の方が好みかもしれないし・・・まだ望みはあるっ!)
シャナは、一美の方に向き直り、まるで紅世の徒と相対した時のような敵意を視線と言葉に乗せる。
「お前なんかに、ぜったい、絶対、負けないんだから!悠二!!私の、全部を、よく見てろっ!」
シャナはチャイナドレスに手をかけて服を脱ごうとする。
「な、シャナ何をっ!」
あまりの事に悠二は痛みも忘れ呆然。一美も一瞬あっけに取られるが、すぐに顔を真っ赤にして決意を固めて、宣言する。
「わ、わ、私だって、私だってぇ・・・ゆかりちゃんなんかに、負けないっ!」
一美も服に手をかけて、脱ごうとする。
(わわわ二人とも何をこれって俺の為に争ってるんだよないや嬉しいけどこんな事までしなくてもいやそんな事思って無いで
二人を止めなきゃいやでもせっかく脱いでくれてるんだしもう少し見てても罰はあシャナは相変わらず
きれ//あ、一美ちゃん聞いた通り胸でか・・・)

9アナテマ:2004/01/04(日) 04:59
「ドタバタとうるさいけれど・・・何の騒ぎなの?」
ガチャッとドアをあけて千草が携帯電話を手に、入ってきた。ドアには鍵はかかっていなかった。
シャナは下着だけの格好で、一美は上着を脱いで外そうとした姿で、悠二は手で目を覆ってるけど隙間からばっちり見てる、
という格好で固まった。
彼女は悠二がドアにぶつかった音とシャナ達の騒ぎを聞きつけてやって来たのだった。
アラストールは千草や一美が居る為黙ったままだったが・・・携帯電話から凄まじいオーラが立ち昇っている。
(なななななんて格好で・・・悠二め我が顕現出来たら燃やし尽くして・・・いやそれよりもシャナには正しい男女交際について
小一時間問い詰める必要が・・・)
千草は、一美とシャナ、二人の格好を見て、何時もの笑みを崩さず一言。
「・・・あらあらまあまあ・・・」
・・・千草の笑みは怖いほどに変わらない。
「とりあえず、二人とも服を着なさいね?それから、居間でお話しましょうか」
にこやかだが有無を言わさない、ある意味顕現したアラストール並みの威圧感と無言の迫力を受けて、
三人は絶望的な表情で黙り込んだ。
(千草殿、きっついお灸を頼みますぞ!・・・悠二とシャナには後で改めて説教をせねば・・・)
千草の説教を食らって一美は泣きながら家に帰り、へろへろになって部屋に帰りついた悠二とシャナは・・・
「この馬鹿者どもがあああ!!!シャナ、悠二、そこに座れ!いいか、正しい男女交際というのは・・・」
アラストールの説教を食らった。因みにこれは日が暮れるまで小一時間じゃきかない位の間続いた。
それからシャナは何を聞いても、「うるさいうるさいうるさい」の一点張り。
悠二は零時を待たずして、存在の力を使い切ったのか?と言わんばかりに疲弊し、目が死んだ魚のようになっていた。
次の日、クラスの雰囲気は非常に悪かった。
シャナは昨日からそっぽを向いたまま。
一美に至っては学校にすら来ていない。
田中と佐藤にはニヤニヤとした目で見られ、
池には「貴様また何かやらかしたのかー!」といった凄い目で見られている。
(なんでこんなことになったんだー!)
悠二の血の叫びを受けても、世界はただ平然とそこにある。
おしまい。

10アナテマ:2004/01/04(日) 05:06
おまけ次回予告(大嘘。ペテンと本気が入り混じってるので信用しないように)
「読者の皆さん、修羅場入ってる上にあんまり萌えなくてすみませんすみません!
漏れの実力じゃあのシャナたんや吉田たんのもえっぷりが表現できてないかもしれませんがそこはお目こぼしを。
SSってとんでもなく難しい・・・めっちゃつかれた。
あと、えっと、あーシャナたんの成長しない膨らみは堪能できましたか?
さーて次回の「シャクガンノシャナタソゲキジョウ」は
「マージョリー様のいけないレッスン」
「天道宮の白昼の情事」
「池バーサーク!危うし吉田たん!」の三本立てでお送りしま・・・」
「うるさいうるさいうるさい!ここでも成長しないふくらみとかいうの?フレイムヘイズだから仕方ないじゃない!それにこの次回予告は何なのよ!ぶった切るわよ!」
「貴様は似非職人なのに自らの文章の修行をした方が良いのではないか?次回予告が調子に乗りすぎだ!」
「ヒャーッハーッヒャヒャヒャア!アンタもこりねーなー!」
「・・・ぶっ殺す」
「徒(女性の敵)を発見・・・これより討滅するであります」
「抹殺」
「池くんはそんなことしません!いくら私でも怒りますよ!」
「ま、まて4人?とももちつけこれは冗談一美ちゃんまで撲殺バットもって何する気てめえら作者にこんなことして只で済むとよーし漏れてめーらを題材にエロパロで鬼畜物書いちゃう・・・いや嘘です御免なさいリボンを首に巻きつけないで・・・ああ!寸胴の獣がああ!炎が!燃えて熱いってやめろはなせなにをすr」
・・・切られ踏まれ絞められ殴られた挙句燃やされた作者を見て田中と佐藤と池が舌打ちしたかは定かではない。
・・・続・・・かない?

11名無しさん:2004/02/05(木) 07:45
保守

12名無しさん:2004/02/06(金) 22:58
>>11
さすがにしたらばは保守らなくても落ちないよw

13名無しさん:2004/02/08(日) 20:36
期待age

14名無しさん:2004/02/20(金) 13:17
高橋弥七郎[A/B&シャナ]PART12 >762より転載

「朝・搾りたて」

御崎市に朝陽が昇り一日が始まる。
早朝の鍛錬はすでに日課となっていた悠二だが
今朝は珍しいことに、シャナが坂井家に来る時間を過ぎても
まだベッドで熟睡していた。


………………………ピチャッ
(……ん…ん…)
…ピチャ……ピチャッ…
(…ん…ぅん……?な、なんだ?)
悠二は、水気を含んだ謎の音に気づきぼんやりと目を覚ます。
「…って、うわあ!シャ、シャナ?!」
目前にいつのまにか、少なからず好意を抱いている少女がいるのに気づき驚く。
シャナはそんな悠二の態度に臆する様子も無い。
「…ピチャッ…チュッ…チュルッ…んっ、ぷはぁっ。起きた?悠二。」
「え、ああ、うん、起きた。なんか寝坊しちゃったみたいだな、ごめん…っじゃなくて!」
眠気など一瞬で吹き飛んだ。そしてその原因である少女に大声で言う。
「朝っぱらから何をやってるんだよ?!勝手に人の部屋に入って!」
悠二の言い草が癪に障ったのか、シャナの声は少々怒気を帯びる。
「ずいぶんな言い方ね。いつもの時間は過ぎてるのにまだ寝ているから
たたき起こしてやろうかと思ったのよ。けど、その
…あんまりにも気持ちよさそうに寝ていたから…。」
言葉尻はつぶやくような声になる。
寝顔を見ていたと告げられ、改めて強い羞恥心を覚える悠二。
(……ま、まぁ『贄殿遮那』で殴られないだけでも良かったかな?
ちょっと前なら絶対気絶させられていたし。
…これってやっぱり多少は進歩してるってことか?
いやでも寝坊するなんて腑抜けてる証拠みたいなもんだから)
「……ん…ピチャ…ピチャッ」
「ってなにまた続けてるんだよっ?!」
「んんっ…はぁっ。…悠二うるさい、少し黙っていて。」
いきり立つ悠二にかまわずペースを上げるシャナ。粘着質な音が室内に響く。




「…くっ、シャナッ…もう、やめっ……うっ!」
悠二は思わず目を瞑る。
「んんんっ!んくっんくっ!」
シャナは咽を鳴らして黄色掛かった白い液体を完全に飲み干す。
「んくっ……ぷはぁっ!はぁっ…はぁ……………ふふ…おいしかった」
行為が終わったことで冷静さを取り戻したのか、悠二は最初思っていた疑問を口にする。
「な、なあシャナ。寝ていた僕を待っていてくれたのは嬉しい、ありがとう。
…だけどそれだけじゃなくて……どうしていきなりこんなことしたんだ?」
シャナは少し恥ずかしそうな、しかしどこか嬉しそうな表情になる。
「…千草が教えてくれた。朝一番のときはこうすると良いって。」
(やっぱり!また母さんの入れ知恵か、まったく…。)
脳裏に母のおっとり笑顔が浮かぶ。
彼の母親は、様々な、悠二とアラストールには計り知れないような知識を
シャナに吹き込んでいる。
(シャナを娘みたいに可愛がるのはいい。いいんだけれど、変な癖がついちゃったら困る……僕が。
うん、ここははっきりと言っておかないと!)

「あのな、人の寝起きに生卵と牛乳を混ぜて飲むのはどうかと思う。しかも大量に。
健康にいいのはわかるが、見ているだけですごい胸焼けしそうになった。」
「寝坊した悠二が悪いし健康は関係ない。食事は私にとってただの娯楽だから。
純粋に美味しいから飲んでいるだけ。」
「……本気で?」

15名無しさん:2004/02/25(水) 20:21
このスレの前に小説投稿スレってないの?

16名無しさん:2004/02/26(木) 00:00
>>15
ございません。
他の作品スレなら持ってるところは有るかもしれないけど、高橋スレとしてはここだけ。

17向こうの123:2004/03/16(火) 07:56
向こうがプロバイダ規制で投下出来なくなってしまったのでこっちに投下します
エロパロ板のSS後日談だったりするので、
あらすじがわかりにくい、とかの問題があると思いますが、できれば気にしないで下さい

18向こうの123:2004/03/16(火) 07:57
それでは予告どうりに1スレの876さんのss後日談を投下します
尚、喋り方がおかしい、途中で暴走している、エロなし、
などの問題点が在りまくります
叩く場合、徹底的に叩いてもらって結構ですw

19向こうの123:2004/03/16(火) 07:58
あらすじ

ミサゴ祭りの最中に紅世の徒の襲撃があったときの様子から、
一美は悠二がトーチになっていたという事を知る、
トーチになってしまったらもう全ての人々の記憶から悠二のことが消えてしまう、
一美の記憶からも・・・
一美は悠二が消えてしまったとしても忘れることが無いようにと悠二が居たと言う証拠を残そうとする
そして、一美は自らの体に悠二の居た事を刻み込んだ
一美は悠二が消える事は無い存在、ミステスである事を知る、
たとえもう二度と遭う事が無くても、自分の記憶から居なく成ろうと、悠二が消えずに自分の事を覚えていてくれれば十分だと喜ぶ一美、悠二もどんな事が合ったとしても一美の事を忘れないと誓った

20向こうの123:2004/03/16(火) 07:59


シャナと悠二が町から居なくなってから数年がたった、
調律師が行った調律の影響でシャナや悠二の事は誰も覚えていなかった
数年後
一美は少年に出会った
「今日は、最近引っ越してきたんだけどこのあたりは何年たっても変わらないね」
少年は親しそうに笑顔を浮かべ、挨拶をした
「?今日は、前に住んでいたんですか?」
何か記憶に引っかかっているのに誰だかわからずに挨拶を返す一美
「うん、僕も以前この町に住んでたからね・・・」
少年は優しい笑顔を浮べながらそんな挨拶を返されたとき淋しそうな笑顔を浮べながら去っていった

家に帰り、今日始めてあった少年を思い浮かべる一美
「何だろう、何か大切なことを忘れてる気がする、ねえ、この気持ちは何だろうね?」
ピンポーン
そんな時チャイムが鳴る、
びっくりしながら玄関を開ける、回覧板だった、
”ミサゴ祭り”大きくそんな見出しが一美の目に飛び込んでくる
「何だろう、行かなきゃいけない気がする・・・」

21向こうの123:2004/03/16(火) 08:00
数日後、ミサゴ祭り
(何でだろう、何でこんなところに来たんだろう)
一美は少年に逢ってから自問自答を繰り返していた
今居る場所は参道から離れた林の中、祭りに着いてから足の向くままぼんやりと歩いていたらこんな所に来てしまった
「おっ誰か居るジャン」
「本当だ」
「女?」
いきなり近くに柄の悪そうな3人が居た、考え込んでいたので気が付かなかったらしい、
「女じゃん、結構かわいいな」
「犯っちまうか?」
「良いんじゃないか?こんな所に居るんだ、そのつもりだったんだろう?」
どうやら私を襲うつもりらしい、危ない、そんな思いに刈られて走り出そうとする、
だが、動けなかった、何時の間に回り込んだのか振り向いた先には、その3人の内の一人が居た
どうすればいいのか、どうすれば助かるのか、こんな状況に慣れていないせいかまったく思い浮かばなかった、
「何処にいこうって言うんだ?」
そいつが下衆びた笑いを浮かべながら振り向いた先にいた男が言った
後の二人は後ろから、ゆっくりと近づいてくる
一美は絶望に頭が真っ白になった
ビュン
そんな音が耳元に響いた気がした、同時に、
ガッ
何かがぶつかる音が響いた、
カラカラカラ
続いて鈴を転がすような音が響いた
目の前にいた男がふらついている、ふらふらと一美の方に向かって傾いてくる、
一美は倒れてくる男を横に避けた
バタッ
目の前に居る男が倒れた、男のすぐ横にラムネのビンが転がっていた、瓶の中でビー球が転がった音だったらしい
「まったく、徒じゃ無くてもタチの悪い奴は何処にでも居るんだよな」 
場違いな軽い声が響いた、
それは、つい最近初めて聞いたのに、それよりもずっと前に聞いた事があるような、そんな不思議な感じがする声だった
「んアナンダヨオメエはヨォ」
後ろにいた男が謎の訛りが付いた奇声を発する
「ただの通りすがりだよ、その人の知り合いだからね、少し邪魔させてもらうよ」
そう言って一美のすぐ横にきた、
一美はその少年を驚き、戸惑った様子で見つめていた
「間に合ってよかった」
少年は、優しく微笑みながらそう呟いた、そして、残った2人に視線を向ける
「それじゃ、僕は行くから、行こう」
少年は二人から視線をはずし、一美に手を伸ばした、一美はその手を握ろうといて
「調子こいてんじゃねえ!」
そんな叫び声に妨害された
二人組みの方を見ると片方が肩を怒らせていた、
少年は、ふうとため息を吐いて
「それはそっちだろ?」
核心を突いた、
「うるせんだよこの餓鬼が!」
男は叫びながらすごい形相で走り出した
少年は、それを見て、一美を軽く押して移動させ、体を左に半歩ずらして飛び掛ってきた男に向かって軽く足を突き出した
ズザッ
そんな音を立てながら地面に転がった
「大丈夫?気をつけなよ」
そう声をかけて、一美の方に向き直った、また手を伸ばそうとして、
「ふざけんじゃねえ!」
また、そんな声に妨害された、
さっき倒れた男が立ち上がっている、手にはナイフを持っていた、一美はその刃物に恐怖を感じた
「足が震えてるよ?」
少年には恐怖は無いらしい、確かにさっき転がったせいか男の足は震えている、
「この餓鬼がぁ!」
そう叫びながらナイフを構えて飛び掛ってきた、
少年は今度は一歩下がり、男は真っ直ぐナイフを持つ手を伸ばして、少年に届く前に手が伸びきった、そのまま足だけで飛び掛ってくるがもう勢いは本来の半分も無かった
少年は無造作にナイフを持つ手を掴み、体ごと回転してひねり上げた。
ナイフが手から落ち、少年の手がそれを受け止めた、そして、そのナイフを男の顔の辺りに軽く押し当てた、
「このぐらいにしておかないか?そうでもしないとこの手が滑るから」
一瞬、少年から笑みが消え、息が詰まりそうな殺気が漂った、
「ひっ」
捻り上げられていた男から一瞬息が漏れ、首をカクカクとたてに振った。
ドサッ
少年が手を離した瞬間、男は地面にへたり込んだ
「それじゃ、これで終了」
少年が最後の一人の方を向いたときには、最後の一人は居なくなっていた
「ふぅ」
少年が息を吐くと、一瞬で元の優しい感じの顔に戻った。
「大丈夫?さっきの奴らに何もされてないよね?」
一美が頷くと、少年は安心した様子で
「よかった」
そう小さく呟いた

22向こうの123:2004/03/16(火) 08:01
「ありがとう」
一美は少年に向かって礼を言った、少年は、照れたように笑った
「ところで何でこんな所に居たの?」
少年は聞いてきた、だが、ここに来たのはただなんとなくの偶然だ
「なんとなくです」
少年は一瞬驚いたようだった、いまさらだが少年の外見は見た感じ中学生か高校生と言った所だ。
現在高校生である一美と比べて背丈もあまり差が無い
「あなたも何でこんな所に?」
一美が聞き返すと、少年は少し考える様子を見せてから
「昔ここで大事な事があった所だから」
少年はポツリと呟いた、一美は聞いてみたかったが少年は話したく無さそうだったので聞くのをやめておいた
「処であなたの名前は?」
とりあえず名前を聞いてみる事にした
「・・・こんな所に何時まで居ても、如何しようもないから、行こう」 
そう言って一美に手を伸ばした、名乗りたくないらしい、一美は一瞬ためらってからその手を掴んだ

23向こうの123:2004/03/16(火) 08:02
(あっ、この感触、この感じ、確かに何処かで)
少年に手を捕まれた時、一美は言いようの無い懐かしさに囚われた
だが、どうしても何時の事なのか、何処でなのか、何も思い出せなかった、
「じゃあ、この辺りまでくれば安心だから」
考えているうちに参道まで着いてしまった、祭りはまだ続いている、
ドォン
花火が上がった、
「僕は行くから、気をつけてね、吉田さん、これからも元気で」
少年はそう言うと、一美の手を離し、人ゴミの中に消えていこうとした
それを見た瞬間、何時か見た光景に重なり、何かが繋がった。まるで、今まで無かったパズルのピースが繋がったように。
「待って!悠二君!」
一美は、全力を振り絞って声を上げ、少年の名を呼んだ。
周りにいた人々が振り返り、一美の方に視線を向けた、
人ごみにまぎれようとしていた少年(悠二)は驚いたように動きを止め、こちらを振り向き、悲しそうな笑顔を浮かべ、口を動かした
(さよなら)
声など聞こえ無い筈なのに、唇の動きだけで一美には悠二の言っていることがわかった、
わかった瞬間、言い様の無い悲しみと、生まれてからこれまで感じた事がが無いほどの怒りが噴出してきた
悠二は、人ごみの中に紛れ込み、もう見えなくなっていた、
「待って」
そう言いながら、一美は全力で走り出した、悠二を捕まえるために、
だが、ただでさえ人ごみの多い祭りの出店街では、まったく進めない、悠二も同じ様子だがそこは体力の差、どんどん引き離されていく
「待って」
悠二が見えなくなると言う瞬間、一美の頭には一つの名案が浮かんだ、
いや、名案かどうかは不明だが、このままでは逃げられてしまう、一美はその案を実行することにした
「あの人を捕まえてください!痴漢です!」
悠二のいる方を指差し、力いっぱい叫んだ、
ギロリ、そんな風に表現するのが的確なほど、一帯の空気が豹変した、
指差した方向にいた人が左右に割れ、一美と悠二までの道が開く、
一美の指す先にいた悠二が動きを止め、
「なんでいきなりそう成るんだ!?」
叫んだ
「身に覚えがないとでも?」
一美が叫び返す、
「・・・・・」
悠二は答えにつまり、走り出す、細かいことは考えずに全力で逃げることに集中する
一美は悠二を追う、今まで一美の道を塞いでいた人々が居なくなり、今度は悠二の進行方向を塞ぎにかかる、
結果は明白だった、今まで苦労していた追いかけっこがほんの数十秒で決着が付いた
悠二を射程距離に補足した一美は悠二に全力で抱きついた(タックルした)
抱きつかれた悠二は、器用にも咄嗟に向きを変え、一美を抱き抱え、一美に怪我をさせないように、必死で受身をとった、
ズデン、ゴロゴロ、
そんな擬音が似合うほどのオーバーアクションで二人は道に転がった、
一瞬の間が開き
ワー、パチパチパチ
一帯が歓声と拍手に包まれた、これだけの大捕り物を繰り広げたのだから当然だ、
悠二は受身の最後の部分を失敗して、起き上がる事ができなかった、
だが、一美に怪我一つ負わせる事が無かったので成功と言った所だろうか
(なんだ、最初からこうすればよかったんだ)
一美は悠二を捕まえたことと作戦が成功したことの喜びをかみ締めていた
「処で、僕はこれからどうすれば」
下になっていた悠二が声を上げる、
「敗者は勝者の言うことを聞くものです♪」
悠二を捕まえた喜びと、全力で走った後の高揚感で、一美はある意味いい感じに出来上がっていた。

「ご協力感謝します、皆さんのおかげで捕まえることができました」
一美は、悠二と一緒に立ち上がり、ペコリと一礼をした。
そして、悠二をつれて、祭りから去っていった、

24向こうの123:2004/03/16(火) 08:02

「この辺りにくれば平気かな?」
祭りから離れた場所にある公園で、二人は足を止めた、一美は、今まで捕まえておいた悠二に、改めて抱きついた、
久しぶりに抱きしめた悠二は以前とまったく変わっていなかった、そして、万感の思いを込めて、ただ一言言った、
「お帰りなさい」
後はもう言葉は要らなかった、ただ悠二は腕の中にいる一美を、壊れないように優しく、力いっぱい抱きしめた。もう二度と離さないと誓うように。
そして、同じように、万感の思いを込めて、その言葉と対になる言葉を返した
「ただいま」
たとえ、こうしていられるのが一瞬の幻だとしても、この愛しい人と時が許す限り一緒に居よう。二人はただそう思っていた

25向こうの123:2004/03/16(火) 08:09
ふう、今回が初めて投下したSSなので
色々とおかしい点が大量にあろと思いますが、
そこはスルーするなり叩くなり好きなようにしてください
まあ、下手な文章ですみません。(とりあえず誤っとく)

26向こうの123:2004/03/16(火) 08:57
できれば某所の方に告知してくれるとうれしいです(規制で書き込めないので)

27向こうの123:2004/03/19(金) 18:09
規制解除されました

28名無しさん:2004/03/19(金) 20:14
>>27
おめ!

29向こうの123:2004/04/02(金) 20:38
>>28
ありがとうございます

30名無しさん:2004/04/05(月) 12:35
ベドゴニアらしい
part14 >>429-430

悠二が御崎市を去って80年後・・・
吉田一美は寿命で約一世紀に渡る人生の終焉を
迎えようとしていた。

ある冬の雪が降る日、誰かが自分を呼ぶ声がした。
寝床から立ち上がり、庭へ出てみるとそこに立つ影は
年端も行かぬ少年だった。
「やぁ」
聞き覚えのある、そしてたまらなく懐かしい声で彼の正体を
知った。
「坂井君・・・?」
「ああ」
「あらあら・・・まぁ・・・」
彼は、遠い記憶の中にある少年の姿形そのままであった。
しかし、どうして今この時に私の前に現れたのだろう?
「君は、僕の事を知ってる最後の人だから・・・
こんな日に迷惑だったかな?」
「いいえ・・・・ありがとう」
かつて自分が娘時代の頃に想いを寄せていた人が旅立ちの前
に来てくれた・・・こんなに幸せな荷物を持つ事が出来たなんて
ああ、自分はなんて幸せなんだろう。
「そう、それじゃあ・・・」
「さようなら・・・」
暇を告げて、悠二は静かに庭から消える。
後には白い雪景色だけが残った。


そして、吉田一美は幸せな思いを胸に遠い空の果てへ最初の一歩を
踏み出した。

「済んだよ」
「・・・・・・・」
シャナはいつもの眼差しでじっと僕の顔を見つめた。
「つらくない?」
「まさか・・・人間なんていくらでも生まれて死んでいく、もうなれっこさ」
「・・・・・・」
シャナがそっと腕をのばし僕の頬に手で触れた。
「我慢しないで」
その柔らかい感触に、心の堤が崩れ落ちていく。
母さんも、父さんも、池も、田中も、佐藤ももういない。
そして吉田さんもいなくなった。
僕を知る人間はもう誰一人この世にいない。
最初の一滴が漏れ出た後は、もう押し止めようがなくただ、ただ泣き続けた。

31part9 >>827:2004/04/19(月) 23:42
シャナの日記
【6:00】アラストールの笑い声で起床。まだ眠い。顔を洗う。。
【6:20】朝食の前に悠二の特訓。やっぱりコイツは弱い。明日からはもっとビシビシいこう。
   「あいたたちょっとは手加減してよ」悠二の言葉だ。うるさいうるさい。
    私は千草みたいに優しくないんだよ。「身長もないしね胸も・・・」やっぱ明日はシメる。
【7:35】学校へ出発。まだ腹立たしいので早足で歩く。
【7:43】「待ってよ〜!」悠二が叫んでいる。私にどうしろっていうのよ。
【7:50】悠二がバテて脱落。うだつの上がらない奴だ。
【10:00】今日は曇りだ。気分が盛り上がらない。早く授業が終わればいいのに。
【10:15】アラストールがニヤニヤしている(ような気がする)。
【12:00】昼食。もちろんメロンパン。この店のはハズしたようだ。カリカリはいいがモフモフではなくパサパサする。
【15:50】授業終了。
【16:00】お腹がすいた。今日の夕食はなんだろうか。
【16:11】みんなで談笑。吉田一美と話す悠二がにやけてる。なんか面白くない先に帰る。
【16:20】マージョリーとマルコシアス に出会う。
【16:21】「ヒーッヒヒヒ、よぉ、調子はどうでい炎髪灼眼の嬢ちゃん!」
相変わらず元気な奴だ。 「あらあらまだアンタ学校なんて通ってるの?」
どうでもいい。悠二、追いかけてこないかな。
【16:40】紅世の徒登場。悠二が居なくて力が出ない。
【16:42】「シャナ〜!大丈夫〜!」悠二だ。タイミングが良すぎる。どこからか見てたの?
【16:43】「なにモタモタしてたのよ!」さようなら不機嫌な私。
     こんにちは、なんでも出来そうな私。アラストールがニヤニヤしている(ような気がする)。
【16:45】「いくぞ〜!悠二ぱ〜んち!!」ただの右ストレートだ。サポートに徹しろ。頼むから。
【16:49】戦闘終了。「大丈夫?」と悠二。それは私のセリフだ。けど心配されるのも悪くない。
【16:52】マージョリーが来た。「あらもう終わったの?つまんないわね。」
     遅すぎる帰れ。いい雰囲気だったのに。
【17:20】帰宅。千草が話しかけてくる。彼女と話すのは楽しい。悠二がニヤニヤしてこっちを見ている。
     いやがらせか?やっぱシメるか?

32part9 >>836:2004/04/19(月) 23:44
同じ日のアラストール
【6:00】シャナが起きないので笑ってみる。顔を洗う必要は無い。むろん歯もみがかない。我には歯もない。
【6:18】朝食のかわりに朝日を浴びる。曇ってた。イヤになる。
   「うわぁぁぁぁ!」坂井悠二の悲鳴だ。うるさい奴め。貴様は弱い、せいぜい鍛えてもらえ。
   「このくらいでネをあげない!!」うむ。その通りだ。
【7:35】シャナの胸に下がって学校へ出発。うむ。やはりここが我の定位置だ。
【7:43】「待ってよ〜!」坂井悠二が叫んでいる。我にどうしろと言うのだ。
    貴様がシャナを怒らせるのが悪い。
【7:50】坂井悠二はバテて脱落した。うだつの上がらない奴だ。やはり鍛え方が足らん。
【10:00】繰り返すが今日は曇りだ。気分が盛り上がらない。
【10:15】坂井悠二がニヤニヤしている。怠惰な奴め。気合を入れて勉学に励め。
【12:00】昼食。もちろん我は食べない。むう、シャナには野菜も食べさせないといかんな。
     近いうちにまた奥方に相談してみるか?
【15:50】授業終了。うむ。今日の教師は我が見ても及第点だった。
【16:00】シャナが物憂げだ。坂井悠二が悪いのではなかろうか。
【16:11】吉田とかいう女生徒に坂井悠二が話している。口元を引き締めろだらしの無い。
     むっシャナが帰ると言い出した。この反応は・・・むぅ。
【16:20】『弔詞の読み手』と『蹂躙の爪牙』に出会う。
【16:21】「ヒーッヒヒヒ、よぉ、調子はどうでい炎髪灼眼の嬢ちゃん!」 相変わらずふざけた奴だ。
    「あらあらまだアンタ学校なんて通ってるの?」そういう貴様は日々をどう生きてるというのだ。
【16:40】紅世の徒登場。シャナは不調のように見える。
【16:42】「シャナ〜!大丈夫〜!」坂井悠二だ。タイミングが良すぎる。どこからか見てたのではないか?
【16:43】「なにモタモタしてたのよ!」まったくだ愚か者め。
     しかしシャナは調子を取り戻した様だ。面白くない展開だ。
【16:45】「いくぞ〜!悠二ぱ〜んち!!」ただの右ストレートだ。ええい情けない攻撃を・・・下がっておれ。。
【16:49】戦闘終了。「大丈夫?」貴様が聞く事か坂井悠二。む、このシャナの表情は・・むむむ。マズい雰囲気だ。
【16:52】マージョリーが来た。「あらもう終わったの?つまんないわね。」ナイスタイミングだ。『弔詞の読み手』
【17:20】帰宅。奥方とシャナが話している。うむうむ。坂井悠二がニヤニヤして見ている。
     締りの無い顔をしおって。やはり峰は甘かったか?

33名無しさん:2004/07/12(月) 19:11
(シャナラスト予想)ラスボス戦後
「シャナ、僕もう紅世の徒だって怖くない。どこまでもどこまでも僕たち一諸に進んで行こう。」
「うんきっと行くわ。ああ、あすこの野原はなんて綺麗だろう。みんな集ってる。
 あすこがほんとうの紅世なんだ。あっあすこにいるのはヴィルヘルミナだよ。」
 シャナは俄かに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫びました。
 悠二もそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白く煙っているばかりどうしても
シャナが云ったように思われませんでした。
「シャナ、僕たち一諸に行こうねえ。」悠二が斯う云いながら振り返って、見ましたら
その今までシャナの座っていた席にもうシャナの形は見えず、悠二は立ちあがりました。
そして誰にも聞えないように窓の外へ体を乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫び
それからもう咽喉いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。

悠二は眼をひらきました。もとの街のベンチに疲れて眠っていたのでした。
胸は何だかおかしく熱り頬にはつめたい涙がながれていました。

(中略)
街を歩く悠二の目に駆け寄ってくる田中や佐藤が見えました。
「悠二、平井さんが川へはいったよ。」
「どうして、いつ。」
「吉田さんがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押してやろうとしたんだ。
そのとき舟がゆれたもんだから(中略)けれどもあと平井さんが見えないんだ。」
(中略)
「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」平井さんのお父さんが言いました。
悠二は思わずかけよってお父さんの前に立って、ぼくはゆかりさんの行った方を知っています
ぼくはゆかりさんと一緒に戦っていたのですと云おうとしましたがもうのどがつまって
何とも云えませんでした。するとお父さんは悠二が挨拶に来たとでも思ったものですか、
しばらくしげしげと悠二を見ていましたが
「あなたは坂井悠二さんでしたね。どうも今晩はありがとう。」と叮ねいに云いました。
悠二は何も云えずにただおじぎをしました。
「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」博士は堅く時計を握ったまままたききました。
「いいえ。」悠二はかすかに頭をふりました。
「どうしたのかなあ。ぼくには一昨日大へん元気な便りがあったんだが。
今日あたりもう着くころなんだが。船が遅れたんだな。
悠二さん。あした放課后みなさんとうちへ遊びに来てくださいね。」
 そう云いながらお父さんはまた川下の銀河のいっぱいにうつった方へ
じっと眼を送りました。
悠二はもういろいろなことで胸がいっぱいでなんにも云えずにお父さんの
前をはなれて早く千草に牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと
思うともう一目散に家の方へ走りました。

34PART21より:2004/07/19(月) 23:28
『あきらめない!』
『あきらめない!』
さわやかな朝の挨拶が、済みきった青空にこだまする。
ネット上の片隅に集う、(いい意味での)バカ達が、今日も(ある意味)天使のような無垢な笑顔で、SFの素晴らしさを力説していく。
汚れを知りすぎる心身を癒すのは、キツネ色のメロンパン。
AAの連投は控えるように、年齢層は気にしないように、ゆっくりと進行するのがここでのたしなみ。
もちろん、連続コピペで荒らすなどといった、はしたない2ちゃんねらなど存在していようかはずもない。
高橋弥七郎A/B&シャナスレ。
02年7/16創立のこのスレは、もとはA/Bをまったり語るために立てられたという、伝統ある本気の人たちの集い場である。
ラノベ板内屈指に進行の早いこの乱恥気騒ぎ場で、ネタの神に見守られ、
ママン処女論争から「存在の力」の客観的分析までの様々な不毛な会話が行われる漢の園。
時代は移り変わり、スレ番が1から20回も改まったNo21の今日でさえ、
1時間も進行すればカリモフブレイクで和まされる仕組みが未だ残っている貴重なスレである

35同上:2004/07/19(月) 23:29
「諸君 私はメロンパンが好きだ」
「まあお前らド素人は、コンビニのチョコメロンパンでも食ってなさいってこった」
うるさげなメロンパンフリークの主張が、荒れ狂うスレにこだまする。
シャナタンの好みに賛同する漢たちが、今日もガキのような無垢な笑顔で、背の低い板に書き込んでいく。
汚れを知り尽くした心身を包むのは、各々の私服。
香辛料の臭いのする物には手を出さないように、網目模様は忘れないように、
ゆっくりと選ぶのがここでのたしなみ。
もちろん、清算後果汁入りだと気付き落ち込むなどといった、はしたない住民など存在していようはずもない。

876スレ。
平成十四年創立のこのスレッドは、もとはA/Bエクストリームファンのためにつくられたという、
伝統なきライトノベル板作者スレである。
876作品下。A/Bエクストリームの面影を殆どに残してい無いネタの多いこの地区で、戦闘シーンに見守られ、
少女から人妻までの燃え萌えが語られる漢の園。
時代は移り変わり、スレが始めから20個も消費された21スレ目の最近、
「カリカリモフモフ」問い掛ければ「エスエフ」と返す住民がエロンパン付きで出荷される、
という仕組みが出来上がってしまった微妙なスレである

36944:2004/08/02(月) 22:51
            斬殺フレイムヘイズシャナたん

夕食。もはや定例行事のようにシャナがやって来た。
「こんばんは」
透き通った声は高く強く、二階のベッドの上でひとり雑誌にふけっていた僕の耳にも、
その声は確かに届いた。
「あらあらあら、こんばんは。シャナちゃん」
柔らかい声。母さんの声に違いない。
母さんはいつも通りに笑顔でシャナを迎え入れる。
そろそろこちらに声をかけるだろう。
少々乱暴に雑誌を部屋の脇に放ると、足早にドアに歩み寄り、ノブに手をかけた。
引く。
ドアの向こうにシャナがいた。
一歩踏み出した拍子に、手が一本、前に伸びていた。
手が伸びた先にシャナがいた。
手が何かを触っていた。凹凸はない。そうまるで
「板のような……」
「板って何よ!」
シャナの手がぶれるように霞み、
「―――!」
瞬間、僕は空を飛んだ気がした。身体が軽くなって、何もかもからすべてを許されたような自由感。
視界が目まぐるしく回った。ゴールに向けて放ったバスケットボールの一点に
目玉をつけたような感じだ。数秒ほどの飛翔の後、僕はどんっ、
と一階の床に落ちた。したたかに頭を打ち付ける。
くらむ意識の中、妙な違和感に脳が感づく。
おかしい。
人一人が階段から落下したにしては音が軽すぎる。そう、それこそバスケットボールが
落ちたような音だった。
「シャナちゃん。悠ちゃん呼んできてくれたー?」
廊下の向こう、台所の奥で、油のはねる音に混じるようにして母さんの声が聞こえた。
そうか、呼びに来てくれたのか――シャナには、悪いことしちゃったな。
起き上がろうとして、今更ながら気がつく。
身体が、いやそもそも首が動かない。というか、
「身体が、ない……?」
どさっ、
「あ」
目の前に、重い音とともに落下してきたのは、間違えるはずもない、
僕の首から下でした。
しかし、その姿はまるでダルマ落としのダルマの胴体。右から左へ、左から右へ。
鋭い斬撃の奔った痕は、まさしく滅多切りです。僕は皮肉にも、死んでいるから助かりました。

37944:2004/08/02(月) 22:53
「ひ、ひええ!?」
生ける生首と化した僕は、逃げることもできません。案の定、階段の上から足音が。
「悠二……言ったわね。板、ですって……アラストール?」
火の粉を散らす灼熱の長髪をなびかせ、シャナは胸元のペンダントに問いかけます。
いつもなら即答するはずの遠雷の声も、今日はどこか尻すぼみです。
「峰……と言いたいが、これは少々……」
「なに?」
「いや」
最後の三段を一跳びに抜かし、床に降り立ちます。そして今、僕の目の前には、
"天壌の劫火"を一言の元に沈黙させた、『炎髪灼眼の討ち手』がいました。
「悠二……」
殺意を越えた感情を宿した灼眼が、僕の瞳を焼かんばかりに貫きます。
「ご、ごめん! いや、触るつもりはなかったんだけど」
「けど?」
「け、けど、その…………」
「その?」
「…………ごめん」
「ん。それでいい」
「へ?」
急に強面を崩し、にこりと笑ったシャナに、僕は素っ頓狂な声を上げました。
「悠ちゃーん、降りてきたのー?」
唐突に響く、母さんの声。しかも、廊下に今にも入ってこようとしている片足が。
僕は、
「シャナ!」
「うん!」
一言で理解したシャナは、炎髪をふわり舞わせると、廊下一帯に戦闘用でない、小規模な
封絶を張りました。廊下に踏み入ろうとしていた二本目の足が止まり、引き返していきます。
一時的に、僕らのことは思考の外に追いやられているはずです。また油のはねる音が聞こえ始めたのを確認して、
「ふぅ――危なかった」
未だに首だけのまま、僕は安堵の息を漏らします。と、
「痛てっ、痛い、痛い痛い!」
あまり長くない僕の髪を、シャナが乱暴に掴み上げました。
「な、なにするの?」
「ん、二階に持って上がるのよ」
「……」
久々のモノ扱い。さらにシャナは、廊下に散らばった僕の欠片を、まるで串焼き鳥のように
大太刀、贄殿遮那でぶつ、ぶつりと突き刺していきます。ひどい、あんまりだ。
「ちょ、ちょっと、もう少し丁寧に扱って……」
「邪魔でしょ、こんなとこに転がってちゃ」
ぶつ、ぶつり。
すべて刺し終えると、血が流れていないせいか、廊下はすぐに日常に戻りました。
僕の髪の毛を掴んだまま、封絶を解いて階段を上がる途中、シャナは、
「千草、悠二はお腹の調子が悪いから部屋にいるって。私は悠二のそばにいるから、
ご飯は後でドアの外に置いて。ごめん」
台所に聞こえる程度の大声でそれだけ言うと、そそくさと二階へ駆け上がりました。
(……喜ぶ、べきなのかなぁ……。しかし、この待遇は……)
階段の角にごんごんと頭をぶつけながら、僕はそんなことを考えていた。
「そう? じゃ、お願いするわねー?」
返ってくる母さんの返事には、すこし楽しそうな響きがあった。

38944:2004/08/02(月) 22:53
零時間際。
シャナは僕の入った風呂敷を担ぐと、ひらりと屋根へと跳んだ。
足場を確認してから、包みを開く。
「痛てっ」
ごろごろ、ぼろぼろと、近所の住民が見れば卒倒するような音を立てて、僕は
その場に薄高く積み上がった。ちらほらと雲間に星が見える空の下、一軒家の屋根の上に
少女と死体の山。明らかに異常な状況だが、そこに疑問をはさむものはそこにはいなかった。
「今、十一時五十五分。あと少しの辛抱ね」
「辛抱って、誰のせいで……」
「うるさいうるさいうるさい! 言い訳するな!」
「う……」
押し黙る僕。シャナはむっとした表情のままその場に腰を下ろすと、ぼそりと呟いた。
「別に、触られたことで怒ったんじゃない」
「――え?」
「なんでもない。忘れて」
それきり、ふたりとも無言だった。
やがて、零時。
積み上げられた僕の山が、薄っすらと光を放ち始める。パーツが組みあがるようにではなく、
バラバラの粘土細工を潰して作り直すような乱雑さで、僕は五体満足に戻っていく。
久方ぶりに二本の足で立ち上がると、リハビリのつもりで手を握っては開く。
「ん……よし。ちゃんと動く」
「悠二」
「ん?」
シャナの声。どこかしぼんだ様子の背中が、足元にあった。
(……こんなに、小さかったのか……)
改めて思う。その背中が、夜空に消え入りそうな声を紡ぐ。
「悠二…………ごめん」
「ん。いいよ」
先ほどと同じように、こちらも即答する。微笑んで。
「私は……」
「いいんだよ」
もう一度言って、シャナの隣に腰を下ろした。シャナがこちらに振り向いた。その目に、
薄っすらと光るものが見えた。
「いいんだ。別に、気にしないさ」
「悠二……」
「胸がないことくらい、どうってことない」
「だからそれに怒ってんのよっ!!」
左の肩から右の脇へ、どこからか出した大太刀に袈裟懸けに斬られ、上半身の方の僕は
たちまちごろごろと屋根を転がっていき、宙へ投げ出された。
半分カットの身体にまとわりつき始める重力に身を任せながら、僕は思う。
ああ、明日の学校、どうしよう。
「馬鹿ぁ――っ!!」
頭上の方から、わめくようなシャナの声が届く。

391:2004/08/02(月) 23:08
御崎高校にちょっとした事件が起こった。
事件といってもここ最近、御崎市を襲った災害に比べれば、何も無かったに等しい。
一人の教師、一人の生徒が御崎高校の新たな一員としてやってくるという小さな事件だ。
その教師と生徒はあるクラスに迎え入れられた。
副担任と転校生として。
ここまでなんでもない、日常にある風景の一つだ。
ただ普通と違うのはその二人が人間とは違う世界に暮らす異形の者であったこと。
そしてその異世界の者達が訪れるクラスには、同じく異世界を生きるフレイムヘイズとミステスがいたこと。

402:2004/08/02(月) 23:09
季節は梅雨が明けた夏、まだ朝だというのに教室にいる生徒の額にはうっすら汗がうかんでいる。
教室にいる生徒たちは各々、下敷きを団扇がわりに仰ぎながら
「大事な話がある」といった担任の言葉を待っていた。
「では紹介しよう。副担任として赴任してきた須藤 快先生と転校生のヘカテーさんだ。」
担任が教室のドアを指し示し、生徒を静かにさせる意味で大きな声で言った。
クラス内の話し声が途絶えると、ゆっくりとドアが開く。
ダークスーツを着こなし、プラチナブロンドをオールバックにした長身の男が
ドアからゆったりとした歩調で入ってきた。
その彫りの深い顔にはサングラスがかかっており、
なにがおかしいのか締まりのなくニヤニヤと笑っている。
そしてその後に続いてややスカートの丈が短いセーラー服をまとう、
透き通るような空色の髪をした少女が立っていた。
その容貌は小柄でまるで小学生にも見えてたが、端麗な容姿に誰もが息をのんだ。
美少女といってもいい。
なによりその規定の学生服とは違う服に新鮮な感動を男子の大半が感じ、うっとりとしていた。
こちらはムスッと固く口を閉じている。実に対照的な二人だった。
教室には数秒ざわめきが起こり、のちに歓声が、主に男子から上がった。

413:2004/08/02(月) 23:10
「オッホン。えー、ヘカテーさんは外国暮らしが長いので、みんな仲良くするように。」
咳払いをし、担任はそう言うと、無言で二人に自己紹介をうながした。
まず先に喋りだしたのは男のほうだった。
「保険体育担当兼このクラスの副担任になる須藤だ。よろしく頼むよ。」
男が簡素な自己紹介をすると担任に一言断りを入れ、さっさと教室から出ていってしまった。
その去り際、誰にも気づかないように、ミステスである悠二に視線を投げかけながら。
副担任の男が出ていったあと、残された少女にクラス中の注目が集まった。
それに対して少女が取った態度は教室のある一点を見つめているのみ。
何も喋らない転校生にクラス内がざわざわと揺らぎだした。
焦れた担任が小声で自己紹介するよう囁きかけたが、少女は微動だにしない。
少女はある一点、正確には一人の人間を見つめ続けた。
(あれが零時迷子を宿したミステス、坂井悠二ですね。)
少女の心には担任やざわつく生徒の声が毛の先ほどにも届きはしなかった。

424:2004/08/02(月) 23:11
時は少し前にさかのぼる。
漆黒の空間に満天の星空広がる場所、星黎殿。
そこに靴音を立てて、千変のシュドナイが現れた。
その両の手には赤いリボンの付いた包み紙を大事そうに抱えていた。
「ご機嫌はいかでしょうか?我が麗しの姫君、頂の座ヘカテー。」
芝居がかった調子でシュドナイは前方の暗闇に浮かぶヘカテーに声をかけた。
「そのふざけた口調をおやめなさい。」
やや疲れた声で続けて
「それと何度も言っているでしょう。私はあなたのモノでもお姫様でもない、と。」
とつぶやくように言う。
シュドナイはやれやれといった感じで肩をすくめた。
「何の用ですか。それとその手に掲げ持っているものは?」
ヘカテーは包み紙に視線をうつして大して興味なさげに言う。
「まずは順を追って説明する。つい先日のこと、俺の腕とおぼしき咆哮が御崎市であった。
もしやと思って燐子に調べさせたら、案の定、あの坊やだったわけだ。」
「その坊やというのは零時迷子を宿したミステスのことですね。
認めたくないものの、あなたの手はネコの手よりは役に立ったわけですか。」
苦笑いしつつ、シュドナイはコクリとうなずいた。

435:2004/08/02(月) 23:12
「その後も燐子に坊やのことを色々と調べさせた。名前は坂井悠二、人間界でいうところの平凡な中学生だそうだ。」
そこで焦れたようにヘカテーは口を出した。
「調べて回る暇があったらすぐにでも零時迷子を取り出すか、彼をつれてくるか」
「落ち着いて最後まで聞け。お前らしくもない。」
すぐにシュドナイはヘカテーの言葉を遮った。
「あなたといるからです。」
「クク、そりゃ光栄だな。本題に戻るぞ。問題はここからだ。
ミステスはフレイムヘイズ・炎髪灼眼の討ち手と同居している。」
その言葉を聞いたヘカテーは珍しく顔を曇らせた。
「・・・しっかりと護衛されているというわけですか。あの王とあの・・・女の子に。」
シュドナイはおやと意外に思い
「あのフレイムヘイズと過去になにかあったのか?フフ」
とうすら笑い浮かべながら言った。
「あなたに関係ありません。それであなたのことだからなにか策を用意したのでしょう?」
感情を表したことに恥じて、頬をほんのり朱に染め、ヘカテーはきっぱりといった。
「ふっ。ああ、そのとうりだ。教授が新たな宝具を開発した。
その宝具は変ワリモノでなんでも紅世の王の気配を完全に消し
まったくの人間として振舞えるそうだ。多少、紅世としての能力は限定されるがな。」
シュドナイの手にいつの間にか、2組のイヤリングが握られていた。
「これがその宝具だ。これをつけて人間になりすまし、奴らに近づきつつ
フレイムヘイズの目を盗み、零時迷子ごとミステスを掻っ攫う寸法だ。」

446:2004/08/02(月) 23:13
「作戦はわかりました。しかし不可解な点がひとつあります。その宝具は2組ありますね。あなただけなら一組でいいはず。」
嫌な予感を感じながら思ったことをヘカテーは口に出した。
「まさかわたしもその作戦に参加するということでしょうか?」
シュドナイは満足気に大きく頷きながら
「察しがいいな。あの町には弔詞の読み手と未確認ながら最初のフレイムヘイズがいる。
万が一バレた場合、控えめに言っても俺の手に余る。」
と極めて演技くさい溜息まではきながら言った。
「・・・・わかりました。その作戦に私も参加します。」
ヘカテーはなにか理不尽なことに巻き込まれてると感じながらも了解した。
「そうこなくては!」
シュドナイはヘカテーには窺い知れない理由で喜びをおおいに表した。
「そこまで喜ぶ理由がなにかあるのですか?まあいいです。
ところであなたはミステスに顔をしられているはずですけど。」
頭に?マークを抱きつつ、ヘカテーは作戦の細部をつめていくために疑問を投げかけた。
「その点は大丈夫だ。多少顔をいじくる。なにしろ俺は千の顔と千の姿を持つ千変様だ。
ぬかりはない。それよりも不安なのはお前さんのほうだ。なにしろ世間知らずもいいとこなお嬢様だからな。」

457:2004/08/02(月) 23:13
シュドナイはやや不安そうな顔で尋ねた。
「その点は大丈夫です。昔、あの方に人間としてのマナーの手ほどきを受けたことがありますから。」
「お熱いこって。妬けるねぇ。おっと、忘れるところだった。そらっ」
軽口を叩きながら、先ほどからずっと持っていた包みをヘカテーに投げ渡した。
「これは?」
「ちょいとした変装の一部、完璧に人になるための人間界の宝具ってとこさ。」
「?」
当然説明があるように思っていたヘカテーだったが、それ以上シュドナイはククッと笑うだけで何も答えなかった。

468:2004/08/02(月) 23:14
シュドナイとは別室に行き、訝しがりながらシュドナイが渡した包み紙をガサゴソと開いた。
そして現れたのはセーラー服だった。
しかもどうやって調べたのか服のサイズヘカテーにぴったりだった、
スカートがやけに短いという一点を除けば。そのスカートの短さにヘカテーは絶句した。
長い時間セーラー服を着るか着ないかで葛藤したあと、意を決してセーラー服に身を包み
鏡の前に立ち自分の姿をみたとき、火が顔からでたのではと本当に思うくらい真っ赤々になってしまった。
ヘカテーは普段、肌を多く露出するほどの衣装は着ていない。
服はせいぜい出ていても手と首から上しか人には見せない。
理由はごく簡単。恥ずかしいからだ。
しかしこのセーラー服のスカートはかなり短く、
白く吸い付くような太ももが露出させ、太ももの存在感をアピールしている。
自分のあられもない姿を見た羞恥心から体育座りで丸まり、
赤くなってしばらく動けなくなってしまった。
さらに長い時間を費やし、開き直りという形で立ち直ったヘカテーはシュドナイの前にセーラー服で現れた。
その姿を見たシュドナイは今まで見たことの無いような恍惚の表情を浮かべた。
自分が今、世界で一番幸せだ、ということを顔で表してるかのようだった。
このセーラー服をわたしに着させるために今回の作戦をおもいついたのでは?という疑念が頭の中でぐるぐるまわりながら、また体育座りで赤くなり、しばらく動けなくなった。

479:2004/08/02(月) 23:14
場面は戻って朝のHRでの教室。
ヘカテーはいまだ消えない羞恥心の中、教壇で悠二を見続けていた。
「おい、あの子お前のことさっきからずーーっと見てるぜ。これはもしかすると新たな恋の嵐が!」
悠二の前の席にいる田中がふざけた調子で悠二に小声で喋りかける。
「うるさい!へ、へんなことゆうな!!」
悠二は田中を黙らせるつもりで、ムキになって反論する。
同時にシャナに聞かれてませんように!と心の中で強く願い、探りを入れるつもりでシャナのほうをチラリとみた。
しかしばっちりシャナと目が合ってしまった。しかもかなりの剣幕で。
悠二はあわてて目をそらす。
(こりゃ聞かれたな。今夜の鍛錬、ただじゃすまないだろうなぁ。)
願いは見事に砕け散ったらしいと悟り、遠い目をして悠二は諦観念いっぱいに深くため息をついた。
なにも喋らない転校生をみかねた担任は
「自己紹介はもういいから、右から2番目の一番後ろの席、あのため息をついてる男の後ろの席につきなさい。」
と強引に自己紹介を打ち切った。あとの休みの時間に勝手に生徒たちがあれこれ転校生に質問するだろうという考えからだ。
悠二はため息をついていたことが先生に見透かされ、すぐに姿勢を正した。
ヘカテーはこくりとうなずき、右から2番目の最後尾の席、悠二のちょうど後ろの席に向かって歩き出した。

4810:2004/08/02(月) 23:15
こっちに向かってくる転校生をみつつ、「ちょっとかわいいなぁ」とボンヤリ思っていたところで
ヘカテーは悠二の前でぴたりと止まり、見下ろす形で悠二の顔を真正面から捉えた。
そして小さく触れたら崩れそうなかよわい手を悠二の顔に当て
「きれいな瞳をしていますね。」
といいつつ、悠二の頬を撫でた。
「あ、あの」
悠二はどぎまぎしながらも頬に当たるやわらかく温かい感触に安らぎを覚えた。
「あなたが坂井悠二さんですね。ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」
いったん手を下げ、風変わりな挨拶とともにヘカテーは深々と頭を下げた。
教室内が静寂につつまれる。みんなが一斉に息をのむ音が聞こえてくるようだった。
「こ、こちら、こそ」
急の不意打ちに声がうわずり、まともな返答を悠二は出来なかった。
返答を受けたヘカテーは頭を上げ、まるで何事もないように悠二の後ろの席に着席した。
転校生が着席して5秒後、教室内が騒然となった。
「このロリコン!」「幼女殺し!」「またおまえか?!」
「キャー!四角関係?!」「女の敵!!」
など数多の罵詈雑言が飛び交い、そのすべてが悠二にぶつけられた。

4911:2004/08/02(月) 23:15
助けを求めるように頼れるボクらのメガネマンこと池を見たが、池は見てみぬ振りをしていた。
(そりゃねーよ、池)
池を見限った悠二は次に佐藤、田中に助けを求めたが
他の男子に混じって悠二を楽しそうに非難し続けた。
溺れるものは藁にもすがる想いの悠二はシャナを見たが、
シャナの目は噴火寸前の活火山のように燃え上がり
湯気まで見えてきそうな勢いで悠二を睨めつけていた。
ところがそんなシャナに
「どうするの?シャナちゃん、新たなライバル出現だよっ」
シャナの隣の席に座る女子が興味津々といった感じで喋りかけてきた。
「いや、私は・・・」
シャナがなにか言いかけてとき、他の周りの女子たちから「悠二に対する処罰」や「悠二とどこまでいったの?」
果ては「悠二の性癖について」などの質問の雨あられを受けた。
質問の大半の内容がシャナには理解不能であったため
戸惑うばかりになり、悠二への怒りをどこかにいってしまった。
悠二は吉田に最後の望みをかけ、視線を送ったが
こちらもシャナ同様に質問責めに合い、顔を赤くしてオロオロするばかりだった。

5012:2004/08/02(月) 23:16
悠二は孤立無援と化し、現実逃避のためあまり意味の無いことを考えるように努めた。
ふいに
(あれ?なんであの子は僕の名前を知ってるんだろう?)
と思いもしたが、罵詈雑言と一緒に上履きやゴミなどが飛び交うようになったため
すべてのことがどうとでもよくなり、忘れ去ってしまった。
悠二はこれからの悪夢のような学園生活に思いを馳せ、また遠い目をしつつ、深くため息をついた。
その地獄の後ろで、ヘカテーは窓から吹く爽やかな風に髪を揺らしながら、
一人静かにいかにして悠二と『おともだち』になるかを考えていた。

5113:2004/08/06(金) 00:48
午後の授業が始まり、午前とは明らかに雰囲気が変わっていることに教室中の誰しもが
肌で感じていた。異様に空気がぴりぴりし、教師でさえそれを感じていた。
その原因はシャナにあった。昼休みが終わってからどうも様子がおかしい。
目がすわっており、どんなことをシャナに話しかけても、生返事しかしない。
シャナ以外のクラス全員がいらぬ緊張を強いられていた。
ただ一人、その空気に気づきもしなかったヘカテーを除いては。
最後の授業のチャイムが鳴り、それと同時に幾人からため息が漏れた。
そして家に帰る支度をする者、部活動に励む者などにそれぞれ分かれたが、気持ちは共通して、早くこの空気から逃れたいと思っていた。
悠二にとっても拷問のような学校の時間が終わり、家に帰るための準備をしているところだった。
彼はシャナをメロンパン屋に連れて行き、ご機嫌をうかがおうと決めていた。
なんとしても誤解を解かなければならないという変な気負いまで持っていた。
悠二は気合を周りからわからないように入れ、帰り支度をしているシャナのもとへ
歩みよった。
「シャナ」
「・・・・・・」
悠二はシャナに向かって呼びかけたが返事をしない。
「シャナってば・・・・今日、この後は暇なんだ。だから一緒にメロンパン屋に行こうよ。」
ピクッとシャナが身じろぎしたのを悠二は見逃さなかった。

5214:2004/08/06(金) 00:48
実は悠二は池と遊ぶ約束をしており、暇などありはしない。
池に侘びを入れ、シャナと放課後にメロンパン屋めぐりをすることが今、自分がなすべきことだ。そう悠二は思った。
「3時に御崎大橋で待ってて。必ずいくから。」
悠二はまず池に事情を説明し、約束を破らなければならないことを謝らなければならない。
ただその場にシャナが居ては、火に油を注ぐ結果となってしまう。
だから待ち合わせなどという面倒くさいことをわざわざしたのだ。
シャナは悠二の言葉に対し、嬉しさを表に出さないようにわざと怒ったような口調で
「わかったわ。遅れたらただじゃおかないわよ。」
と言った。
それを聞いた悠二は嬉しそうに
「良かった。必ず間に合わせるよ。じゃあ」
と、先に行った池を探しに教室から飛び出て行ってしまった。
「あ、悠二・・・さっきは・・・ゴメン。」
シャナは悠二の背中に小さい声をかけたが、その声は悠二に届くことは無かった。

5315:2004/08/06(金) 00:49
紅く染まった校舎裏、妙に不気味で切ない雰囲気を醸し出している。
そこに小さな影と大きな影が二つ、シュドナイとヘカテーだ。
「どうだ?昼休みはうまくいったか?」
「失敗しました。悠二さんは食事を食べてくれませんでした。」
シュドナイはヘカテーが落ち込んでいるのを新鮮な気持ちで見つめた。
「気にするな。食事をとることが重要じゃない。一緒の時間を共有することが重要なんだ。」
「ええ、でも・・・・」
シュドナイからの初めての励ましもむなしく、ヘカテーは下を向いた。
そこでシュドナイは妙なことに気が付いた。
「お前、ミステスを『悠二さん』って呼んでいるのか?」
「え?」
言われてはじめて気が付いた。ヘカテーは悠二のことを『ミステス』ではなく
『悠二さん』と呼ぶようになっていたのだ。
シュドナイはそこで変な思いつきをした。
「まさか惚れたのか?『悠二さん』に。」
「違います!そんなことはありえません!」
「ハハハ、照れるな、照れるな。あの御方には言いやしないさ。」
「あの方にはなんら関係ありません。」
ヘカテーは多少ムキになって言い返した。

5416:2004/08/06(金) 00:49
「そんなことより、人間界についてなにかわかったんですか?」
ヘカテーは不快な会話を打ち切るために話題を無理やり捻じ曲げた。
「クク、まあいい。ああ、色々調べたよ。なんでも転校生は異性と曲がり角で
ぶつかると親密になれるらしい。この本に書いてあった。」
そういうとシュドナイはポケットからある1冊の本を取り出した。
「なんでしょうか?この本は。」
その本は妙に古ぼけていて、ピンクを基調とした色で彩られていた。
「少女マンガというものだ。人と親密になるためのマニュアルだ。」
シュドナイは生真面目に説明した。
「ところでなぜ曲がり角でぶつかると親密になるのですか?」
ヘカテーは純粋にそう思った。
「俺が知るか。人間とはそういう生き物だと納得するしかない。」
シュドナイはヘカテーの質問を突き放した。
まだ納得できないがとりあえずはそれで納得するしかなかった。
「仕方ありませんね。それで『ミステス』の現在地は?」
ヘカテーは悠二を名前で呼ばぬよう気をつけてしゃべった。
「ミステスは御崎大橋に向かっている。その200m手前の曲がり角がベストポジションだ。景気よくぶつかれ。」
「わかりました。ではさっそく・・・」

5517:2004/08/06(金) 00:50
「おっと待った。」
進行方向を変えようとしたヘカテーをシュドナイは制止させた。
「ぶつかるだけでは不十分だ。他にやることがある。」
「それはどんなことをやればいいのでしょう。」
シュドナイのほうにヘカテーは向きを変えなおした。
「ぶつかるまでは問題ない。ぶつかった後が問題なんだ。」
「ぶつかった・・後?」
「そう、ぶつかった後だ。ぶつかったあと、すっころんだ拍子にパンツを相手にみせる。
そして『見たわね!この変態!!』と叫ぶ。これで完了だ。実際は登校途中にやるもんだが、
下校でも問題はないだろう。」
「あ、あります!問題が大有りです!!」
ヘカテーは珍しく声を張り上げた。
「ん、そうかぁ?下校、登校はどっちもいき」
「そこではなくてですね、ぱ、パン・・・下着をみせるという行為が問題です・・・」
シュドナイの意見をヘカテーはより大きい声で遮るも、最後のところはよく聞き取れない小さな声になってしまった。
普段から人には首より上と手しかみせず、肌の大半を覆っているヘカテーにとって
スカートの短いセーラー服を着ていること自体、顔から火の出るような出来事なのである。
実際、それを着て鏡の前に立ったときも恥ずかしさのあまり、体育座りをして当分動けなくなってしまったのだ。
ましてや人に下着をみせるなど言語道断なのである。ヘカテー自身にもどうなってしまうか想像がつかない。

5618:2004/08/06(金) 00:50
「この作戦は中止させてください。」
ヘカテーはきっぱりと断言した。
シュドナイはそうくるだろうと半ば予想はしていた。そしてそれに対する対処法も。
「ふふ、そうか。このことがあの御方に知れたらなんというかな?『恥ずかしいからやりたくありません。』ってな。」
シュドナイは余裕を見せながら最後のカードをきった。
しかし、この一言が功を奏した。
「!」
痛いところを突かれたとヘカテーは胸のうちでたじろいだ。
シュドナイはその微妙な挙動をみのがさなかった。
「では作戦は中止だ。今からでも遅くない、あの御方の元へいって」
シュドナイは今が勝機とばかりにヘカテーの隙につけいった。
「ま、待ってください。」
シュドナイは笑いを噛み殺しながら、ヘカテーの言葉に耳を傾けた。
「あの、どうしてもやらなければならないのですか?」
しばらくして、ヘカテーはすがる思いでシュドナイに尋ねた。
「いや、どうしてもってわけじゃない。ただ親密になれる確率はぐんと落ちるだろう。それでもいいか?」

5719:2004/08/06(金) 00:50
冷静に考えれば、今からでも正体を明かし、フレイムヘイズを打ち滅ぼし、悠二を奪取すればいいのだが
普段と違う環境にいたせいもあり、ヘカテーは冷静さを欠いていた。
シュドナイの完全勝利だった。
しばらくの葛藤のあと、ヘカテーは歯を喰いしばり、
「わかり・・ました。あの方のためです。」
「それは良かった。あの御方もさぞ喜ぶだろうよ。」
シュドナイはニヤニヤ笑いながら、このあと起こる出来事を妄想した。
それを目ざとく見つけたヘカテーは
「喜んでいるのはあなたのほうだと思いますが、私の勘違いでしょうか?」
と皮肉を言った
「ああ、そのとおり。俺は消えかけのトーチほども喜んじゃいないよ。」
シュドナイは笑みを消し、その皮肉を軽く受け流した。
「相変わらず、真実の欠片さえない言葉ですね。」
「信じてくれないとは心が痛むぜ。ほら早くいかないと間に合わなくなるぞ。」
せいぜいの反抗をするヘカテーにシュドナイは現地に向かうよう急かさせた。
シュドナイに背を向け、走り出したヘカテーにシュドナイは最後の言葉を送った。
「せいぜい仲良くな、『悠二さん』と」
「しつこいですよ。」

5820:2004/08/06(金) 00:51
悠二は晴れやかな気分で御崎大橋を目指していた。学校での暗くどんよりとした気分が嘘のように晴れた。
池に事情を話すと、快く約束の反古を受け入れてくれたからだ。
「また傷が増えたらたまんないからな。」
との一言にはさすがに悠二も苦笑いするしか出来なかったが。
そしてなにより、シャナとふたりっきりで過ごせることを思うと、どうしても胸がはずんでしまう。
シャナはメロンパンという餌に釣られたものの、本当に怒っていたら僕と約束なんかしない。そのことが嬉しかった。
悠二は走った。
悠二は腕時計を見る。時計の針は1時58分を示している。待ち合わせ時間は3時。
十分すぎるほどの時間があり、走る必要はまったくない。
しかし目的地へ走っていた。遠足前日の子供のように浮き足立ち、走らなければいけないような気がした。
ただただ早くシャナに会いたかった。
しかし、それが前方不注意を招き、御崎大橋への最後の曲がり角にさしかかったところで、
ドンッという衝撃に襲われた。
それはシャナくらいの背丈の人がぶつかってきたことによる衝撃だった。
その体は悠二に対してあまりに小柄であったため、悠二はよろめくだけに留まったが
ぶつかってきたその小さな身体は見事にはじき返された。
悠二は一瞬、なにが起こったかわからず、パニックになったがすぐに正気を取り戻し、
状況の把握にかかった。

5921:2004/08/06(金) 00:51
ぶつかってきたのは女の子で、よく見るとウチのクラスの転校生だった。
転校生は結構な衝撃をくらったらしく、地面にぺたりと座り込んでほうけている。
悠二は心配そうに顔を覗き込んだ。
「あの・・・大丈夫?」
転校生はハッと我に返って悠二を見つめ返した。
「あ、ご、ゴメンね。急いでいたもんでつい・・・」
悠二はすまなそうに手を差し出した。
そうすると転校生は下を向き、なにかを耐えるようにブルブルと震えだした。
両手でスカートの裾を固く握り締めてる。
「ねぇ君!本当に大丈夫?!どこか痛いところない?!」
悠二は大変な怪我をさせてしまったと思い、困惑した。もしかすると病院につれていかなければならないような怪我かもしれない。
ところが転校生のとった行動は悠二の予想をはるかに超越したものだった。
転校生は何かを決意するかのように一回、ウンと頷いて、震える腕でスカートをめくり上げた。
その後、刹那の速さでスカートを抑えた。
一瞬、悠二には白いモノが見えたものの、転校生はすぐスカートをおさえため、
ほとんど何も見えなかったに等しかった。
ヘカテーはストーブのように顔を真っ赤にして、シュドナイから教わったことばをなんとか思い出し、口に出した。
「『み、見たわ・・・ね・・・・こ、このヘン・・・・・』」
転校生は今にも泣きそうな声でボソボソといったが、最後のほうはなにを言ってるのか聞こえなかった。
そして転校生はそのまま体育座りをし、顔を膝にうずめて小刻みに震えていた。
悠二はこの転校生の突然の行動にただただ立ち尽くし、せっかく持ち直した正気がまた頭から抜け落ちてしまった。
その後の聞き取り辛かったもののたぶん『見たわね、この変態』という言葉。
確かに一瞬ではあるものパンツを見てしまったのだが、転校生がスカートをめくりあげたのだ。
悠二は何が起こっているのかさっぱりわからなかった。

6022:2004/08/06(金) 00:51
しかし状況は悠二に呆ける暇さえ与えなかった。
短いスカートで体育座りをしているため、パンツが丸見えなのだ。
ここはそこまで広くない道路ながら、結構人の行き来が激しい。
幸い、周りに人は一人もいなかったが、それも時間の問題。
そのときこの転校生はどうなるかは考えただけで恐ろしい。
悠二はなるべく転校生のパンツを見ないようにしながら
「えーと、なんだかわからないけど、とりあえず移動しない?」
それに対し転校生は膝に顔をうずめたまま、首を横に振る。
「いや、そのね、状況が非常にまずいんだ。色々とね。」
悠二は粘り強く話しけたが、同様の反応。
仕方なく悠二はこのまま転校生を引きずる形で移動させることにした。
「あのさ、ここにいるのはとても危険なんだ。だから君を引きずってでも移動させなきゃいけないんだけど、それでもいい?」
よくわからない理由で悠二はひきずる説明した。それに対し、転校生はこくりと頷いた。
もちろん顔を膝にうずめたままで。
悠二はその反応を見て、「じゃあ、行くよ。」と転校生に声をかけ、
後ろから転校生の両脇を持ち、本当にズルズルと近くの人気のない公園までひきずっていった。
奇跡的にも人とはすれ違わなかった。

6123:2004/08/06(金) 00:52
悠二は公園のベンチの近くまで転校生を引きずり、自分はそのベンチに腰を下ろした。
「ゴメンね。大丈夫?お尻、痛くなかった?」
悠二はかなり女性に対し失礼な質問をしたが、今のヘカテーにそのことを感じる余裕も無く、ただ頷くのみ。
(どうしよう・・・このままほっとくわけにもいかないしなぁ)
悠二は腕時計を見た。時刻は2時9分。まだ時間はある。
しばらく、転校生が立ち直るまでそばにいてやることにした。

6224:2004/08/06(金) 00:52
時刻は2時49分、そろそろ限界だった。最悪、間に合わないかもしれない。
悠二は時計を見る回数の多くなる自分に気づいた。焦っている証拠だった。
シャナへの遅刻の言い訳を考えているとふいに
「ありがとうございます、だいぶ落ち着いてきました。」
転校生はそう言うとようやく顔を上げた。
「よかった。」
それを言ったきり、二人の間にことばなくなり、沈黙が流れた。
悠二は沈黙に耐えられず、恐る恐る転校生に尋ねた。
「なんかあったの?多少、いやかなりおかしなこと君はしていたんだけど・・・」
また顔をうずめてしまうかと悠二は危惧したが、その心配はなかった。
「悠二さんとお友達になりたくて。それで須藤先生が少女マンガに書いてあるとおりの行為を実行したのですけど、なにかおかしかったですか?」
(須藤先生、今日づけで赴任してきた副担任だ。あいつからはやな感じの雰囲気が出ていたけど、本当に嫌なやつだったとは・・・
こんな純真な女の子にウソをついて何を考えてるんだ。)
悠二はこの哀れな転校生に同情し、なおかつ副担任を心底、軽蔑した。

6325:2004/08/06(金) 00:52
「あ、少女マンガというのは人と親密になるためのマニュアルである、
と須藤先生から聞きおよんでおりますけど、ご存知ありませんか?」
とりあえず、悠二はこの少女に吹き込まれたウソを訂正することにした。
「少女マンガはお話であって、マニュアルではないよ。」
「そう・・・だったんですか。」
そういうと転校生は首をもたげ、がっくりと落ち込んでしまった。目にはうっすら涙を浮かべている。
そこで悠二の心は動いた。
「僕で良ければ友達になろうよ。」
本心だった。
ガバッと首をあげ、転校生は少し、ほんの少しだけ笑顔になった。
「本当ですか?こんな私でもお友達になってもらえるのですか?」
その少女の笑顔は粉雪のように柔らかく、白く輝いていた。
「うん。これからよろしく。」
悠二はそういうと軽く会釈をした。
「こちらこそふつつかものですがよろしくお願いいたします。」
ヘカテーは最初に悠二にした風変わりな挨拶を改めてやった。
そして二人は笑顔で見つめあった。

6426:2004/08/06(金) 00:53
その光景を遠くから見つめる小さな人影があった。
「悠二の、バカ・・・」
人影はそう言うと力なく二人に背を向けトボトボと歩き出した。目から一筋の涙が出ているのにも気づかずに。
(悠二なんて大嫌い。
悠二なんて・・・・
悠二なんて、消えちゃえばいいんだ!!)
誰に聞かれることも無く、シャナは心のうちで叫んだ。

65名無しさん:2004/08/06(金) 00:55
あ、1回目じゃなくて2回目を先に投稿してしまった。orz

66名無しさん:2004/08/06(金) 00:55
人々が目を細めるような夏の日差しが照りつける中、
ここ御崎高校ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
クラスでさえないプレイボーイとして有名な坂井悠二に
新たな恋人の出現のニュースが無責任にも飛び交ったからだ。
その渦中のお相手はつい先ごろこの学校にきた転校生の女の子。
ヘカテーという名で、まだ顔にあどけなさの残る空色の髪をした少女だ。
また副担任の須藤 快という保健体育を専攻する男性教諭も赴任してきたのだが
そのニュースに隠れてまったく話題にはのぼらなかった。
しかしそのほうがその副担任にとっては都合が良かった。
その男は須藤 快という名の人物ではなどではない。正確にいうのであれば人ですらない。
紅世の王と呼ばれる異界の人、千変のシュドナイであった。
さらにいうのなら転校生の少女も同様に、人とは明らかに異なる紅世の王、
頂の座・ヘカテーであった。
この者たちは人間になりすまし、零時迷子と呼ばれる宝具を宿したミステス・坂井悠二に近づき、
隙あらばその宝具をその入れ物ごと持ち去ろうと計画を立てた。
クラスの者たちは多少風変わりであるものの、二人を快く受け入れ
このささやかな事件を楽しんでいた。
しかし真に事態の重さを理解しているものは誰一人としていなかった。
二人のこの世に在らざるものが御崎中学に来訪した。

67名無しさん:2004/08/06(金) 00:55
朝のHRも終わると同時に、即1時限目が始まり、結局、クラスメートたちはヘカテーに自己紹介を求めることができなかった。
しかし、それでも謎の転校生という魅力にクラスメートが勝てるはずも無く、
授業中だというのに、チラチラとヘカテーのほうを盗み見る生徒が後を絶たなかった。
ヘカテーはその視線の集中砲火を、多少不快に思いながらも全く顔には出さず
さらさらと黒板に書かれる文字をノートに書き写していた。
その前の席でそわそわしながら授業を受けていたのは、クラスの話題の当事者である坂井悠二、その人だ。
悠二は心ここにあらずといった感じで、ただペンを走らせている。
それもそのはず。大半の、特に男子からの視線が突き刺さり、授業どころではないのだ。
それだけではない。
ひときわ炎ようにアツく、氷のように冷たい視線がふたつ、悠二に向けられていた。
そのひとつは吉田一美と呼ばれる少女から発せられていた。
悠二を見つめる吉田に不安はどんどん広がっていく。
(・・・どうしよう、またあんなかわいい子が・・・坂井くんあの子のこと
どう思ってるんだろう?もう好きになっちゃったとか?うぅ、そんなのやだよぅ。)
不安で押しつぶされそうになるのを、無理やり不安を頭の隅に追いやり
(違う、あの子がどうとかじゃない。これは私の問題。私は坂井君が好き。
どんなことがあっても私、負けない。そう決めたんだから。)
と思い、吉田は心の中でグッと握りこぶしを握った。
そしてもう片方の視線の発生源、シャナはいまにも爆発寸前だった。
(悠二、絶対に許さない!)
その怒りは全て(特に何もしていない)悠二に向けられていた。
かくして不必要なまでの緊張感をはらんだ1時限目は終了した。

68名無しさん:2004/08/06(金) 00:56
休み時間、チャイムがなると教室中の生徒は、それぞれの行動を思うがままに取った。
といっても朝のHRとほぼ同じことを繰り返しただけなのだが。
ただ違う点はあった。悠二がシャナに言い訳めいたことを言うため、シャナのもとに行き
必死にしゃべりかける。それに対しシャナは黙殺。いや刀を悠二の脳天に振り下ろしたのみ、
ムスッとした顔で黙りこくった。そこに吉田がやってきて先の一撃でうずくまる悠二を介抱するも火に油。
ますます、シャナの怒りは燃え上がり、結果、悠二の身体に割りと深刻な傷が増えてしまった。
ヘカテーはというと、クラスの女子にすっかり取り囲まれてしまい、質問責めに合っていた。
ヘカテーはシュドナイから言われたとうりのウソを、その質問に合わせて懇切丁寧に答えていった。
「なんだ。案外いい子じゃないか。」
その光景を見た池は近くにいる田中に話しかけた。
「ん、なんだ?お前、転校生に惚れちまったのか?」
「はいはい、僕はそこまで器用じゃないよ。」
池は田中の質問を軽く受け流した。
「はぁ?どういう意味だ。それよかそろそろあの騒動を止めたほうがよくないか?
悠二はいい感じに白目をむいていて別にいいけど、吉田さんは目が潤んでるし
ゆかりちゃんがとうとうモノに八つ当たりし始めたぞ。」
結構な地獄絵図となっている目の当たりにした池はこの騒ぎが限界に達していることを悟った。
このままでは騒動をききつけた教師や生徒が怪我をする恐れがある。
頼れるメガネマンはこの騒動を静めるために、大きく深呼吸をし、
騒動の元となっている悠二たちのもとへと歩き出した。

69名無しさん:2004/08/06(金) 00:56
休み時間も終わり、2時限、3時限、4時限と普段より騒がしくはあるものの、
授業は滞りなく進んでいった。ただ休み時間のたびに悠二の傷は増えていったが。
転校生はクラスメートの「どこから転校してきたの?」といった簡単な質問に応じる等して
若干ではあるがクラスに少しづつ馴染んでいった。
朝のHRでみんなの前で自己紹介をせず、悠二だけにのみしたという事実は
実は性格が悪いのでは?と疑われもした。
しかし、元々の整った顔と学生としては丁寧すぎる話し方で男子女子ともに
好印象を得たので、緊張で自己紹介できなかった、という解釈で落ち着いた.

70名無しさん:2004/08/06(金) 00:56
そして昼休み、心地よい適度に湿った風が吹く校舎裏。
そこにふたりの男女が向かい合っている。シュドナイとヘカテーだ。
ニヤニヤ笑いながらシュドナイはヘカテーに話しかけた。
「どうだった、学校の授業は?」
「問題はありません。この極端に短いスカート以外は、ですけどね。」
ヘカテーはスカートを恨めしそうに見つめ、ため息を吐くように言った。
「フフ、なかなかに似合ってるぞ。」
セーラー服姿のヘカテーをシュドナイは、じろりと舐めるように見た。
「あまり見つめないでください。恥ずかしい・・・です。」
蚊の鳴くような声を出しながら、ヘカテーはほんのり頬を赤くし、下を向いてしまった。
シュドナイはさらに笑みを深くしたが、このままでは話が進まないので話題をこっちから振ってみた。
「そうだ。こっちでも色々人間界のことを調べておいた。より人間らしく振舞うために、な」。
恐るべき自制心を発揮してヘカテーは顔を上げ、シュドナイと向き合った。
「こんな勤勉なあなたは初めて見ました。らしくありませんね。」
声を正し、凛々しい口調で皮肉を言うヘカテーに、シュドナイは肩をすかせてみせた。
「ああ、俺も驚いているよ。んで、特に俺が注目し調査したのは、人間界での『おともだち』のなり方だ。
ミステスと『おともだち』になれば連れ去るのも容易になる。」
「それで具体的に私はどのようなことをすればいいのですか?
あの方に習ったのは礼儀作法だけでしたので、『おともだち』のなり方は私なりに考えてみたのですけど・・・・さっぱり。」

71名無しさん:2004/08/06(金) 00:56
実際、授業中もヘカテーは幾度も考えてみたが、とんと思いつかなかった。
なぜなら紅世には友達という概念などなく、たまに紅世の王や徒で集まったりもするが
そこに存在するのはほとんどが純粋な利害関係のみ。
ヘカテー自身、友達という言葉を知ったのはこの作戦を聞かされたあとだったほど。
「あの御方も間が抜けているな。」
やれやれ、といった感じでシュドナイは首を横に振った。
「あの方を侮辱することは許しません。」
ヘカテーは断固とした口調で言った。ここで『力』を発動し、作戦が中止になろうとも
このへらず口を黙らせる、そういった意思を感じさせた。
「そうムキになるな。ちょいとした軽口さ。ところで『おともだち』のなり方だが」
その意思を感じ取ったシュドナイは無理やり話を戻した。
「人間は食事を共にすることで己の友愛を示し、親密な関係になるらしい。
つまりここでいうところの昼休みに、ミステスと一緒に食事をすることが
『おともだち』になることにつながる。」
シュドナイはそう言うとどこからか3段重ねになっている重箱を取り出した。
「その箱は一体、なんですか?まさか、また・・・」
前回、シュドナイから手渡されたものはセーラー服という、ヘカテーにとって最悪ともいえるプレゼントだった。
またその類ではないか、ヘカテーは露骨に顔をしかめた。

72名無しさん:2004/08/06(金) 00:57
シュドナイは苦笑いしながら
「そう身構えるな。これはお前さんの食事だよ。教授の燐子、ドミノがこしらえたものだ。味は保障する。」
と重箱をポンポンと叩き
「教授が自慢してたぞ。『炊事洗濯から兵器運用までなんでもこなすスゴイやつ
一家に一台、メイドロボ・ドミノ』とな。」
と付け加えた。
ヘカテーはシュドナイから重箱を受け取った。その際、ズシッとした感触を両手に感じた。
「こんなに私は食べられません。」
「それは周りの人間と分け合うためだ。人間は群れをなして食べるらしい。
ついでだから不自然が無いよう、ミステスの周りの人間とも仲良くしておけ。」
ヘカテーはコクリと頷き、シュドナイに背を向けた。
「では、また放課後に会いましょう。」
「ああ、その間より詳しく人間界のことを調べておいてやるぜ。」
ヘカテーの小柄な体には少々重い重箱を持ち、身体を斜めに傾けさせながら、校舎の中に入っていった。
その後ろ姿を見送りつつ、シュドナイは疲れた調子でつぶやいた。
「さてと、俺はこれで人間についておべんきょうでもするかな。」
ちらりと自分の手を一瞥する。シュドナイが手にしていたのは、
彼の着ているダークスーツとは全く不釣合いな『少女マンガ』だった。

73名無しさん:2004/08/06(金) 00:57
昼休みの時間になり、クラスメートたちは悠二たちをからかうことを止め、それぞれ食事を取りに行った。
あそこまで険悪な雰囲気(特に悠二とシャナ、吉田)であの五人はいつものように一緒にいられるのか、と危惧する人もいたが
池の我が身を省みぬ仲裁とすでにボロ雑巾と化して、悠二の体に殴る場所が無くなったという理由で
シャナ、悠二、吉田、佐藤、田中、池らはいつものとうり、屋上で一緒に昼ごはんをとれるようになった。
「ひてぇ、ふちのなははひれてなにもたへられないよ(いてぇ、口の中が切れてなにもたべられないよ)」
悠二は腫れ上がった頬をさすりながら、恐る恐るシャナを横目で見た。
「なにかいった?悠二」
機嫌悪そうにメロンパンの袋を開けながら、シャナは悠二を睨み返した。
「いえ、なんでもありません。」
口の痛みに耐えながら悠二はちゃんとした言葉で話した。
「ひひ、転校生にでれでれするからだよ。」
心底愉快そうに佐藤が言った。
それに対し、佐藤をたしなめたのは意外にも池だった。
「おい、やめろよ。もうこれ以上の被害をこうむるのはゴメンだ。」
そう言うと池は仲裁のときに巻き添えをくったらしい、おでこの傷を指で示した。
悠二は最大功労者にして被害者であるメガネマンに、心の中で感謝をした。
「坂井くん、お弁当食べられる?」
吉田は心配そうに悠二の顔を覗き込み、持っていた悠二用のお弁当をおずおずと差し出した。
「うん、大丈夫だよ・・・たぶん。」
悠二は吉田を気遣うように笑顔で弁当を受け取った。

74名無しさん:2004/08/06(金) 00:57
ちょうど弁当の包みを開けようとしたとき、屋上のドアがキィと開いた。
ドアの向こうに立っていたのは、重箱で少し傾いてるヘカテーであった。
重箱の重みに耐えて屋上まで上ってきたのであろう、ヘカテーの額には汗の玉が浮かんでいた。
「あのーこちらに悠二さんがいらっしゃると聞いてやってきたんですが・・・」
五人の瞳が一斉にヘカテーに向けられた。
そして各々、違う感情をヘカテーに抱いた。
悠二は「なんで僕のことを探してたんだろう?」と鈍感なことを思い、
佐藤、田中は「なんだかおもしろそうなことになってきた」と無責任にもこの状況を楽しみ
池は「あの重箱はなんだ?」と冷静に分析し
吉田は「あう、『悠二さん』って下の名前で呼んでいる・・・あたしは『坂井くん』なのに」小さな嫉妬に胸を焦がした。
そしてシャナは・・・・
そんなことは露知らず、ヘカテーは悠二を見つけ、話しかけてきた。
「あ、悠二さん。一緒にお食事などいかがですか?」
「う・・・うん。」
あんぐり開けた口をパクパクしながら、悠二はなんとか返事をした。
途端、メロンパンを握りつぶす音が全員の耳に入った。
音のしたほうからシャナとわかってはいるものの、誰一人振り向こうとしない。

75名無しさん:2004/08/06(金) 00:57
池はなんとかその場の雰囲気を和ませるために話題をヘカテーに振った。
「ずいぶんとおおげさな弁当だけど、まさか一人で食べるの?」
ヘカテーはよたよたと五人近づき、
「いいえ。私は食が細いのでこんなに食べられません。みなさんに食べていただこうと思って。んしょ」
そういうとヘカテーはドカッと重箱を五人の中央に下ろした。
いそいそとヘカテーが重箱を開けるたびに、佐藤、田中の目が輝いていった。
重箱の中には和洋中、様々な料理が取り揃えており、そのどれもがとても良い香りを放っていた。
「すっげ!なんだこの豪華さは?!めちゃくちゃうまそう!!本当に食べちゃっていいの?」
田中はいまにもかぶりつきそうな勢いでヘカテーに尋ねた。
「はい、どうぞ遠慮なさらずに。お口に合えばよろしいのですが。」
「マジで?!いただきまーーす。フムフム、ふまいよ、ほれ」
田中はおおきなエビフライをつまみ、口に運んだ。
「汚ねーな。口にモノを入れてしゃべるなよ、田中。では俺も
・・・・フンフン。いけるよ、これ。」
普段からいいものを食べている佐藤さえもその味にうなった。
「喜んで頂いて私もうれしいです。」
ヘカテーは田中、佐藤のその食いっぷりの良さに感心した。

76名無しさん:2004/08/06(金) 00:58
「わ、わたしも!」
どんな味がするのか、新たなライバルの料理の腕を確かめようと吉田は料理に箸をつけた。
(!? 本当に美味しい・・・私なんかのお弁当と比べると恥ずかしいくらい。)
吉田は勘違いをしていた。実際に作ったのはドミノであってヘカテーではない。
しかし、ちょっとした自信となっている料理の腕で、圧倒的に負けたという思い込みは
吉田を落ち込ませるのには十分すぎるほどであった。吉田はがっくりとうなだれてしまった。
「ほら悠二、お前も食べてみろよ。おいしいぞ。せっかく作ってもらったんだから。」
池も料理にぱくつきながら悠二に料理を勧めた。
続いて田中が
「そーだぞ。こんなうまい料理を残したら罰が当たるぞ。」
と後押しした。
「じゃあ僕も。」
悠二が箸を料理に伸ばそうとした瞬間、シャナが潰れたメロンパンをモフモフ食べながら
キッと悠二を睨みつけた。「食べたら承知しないわよ。」と暗に語っているのが悠二にはありありとわかった。
「あ、いや・・・えーと僕は今、口を怪我しているから料理は食べられないんだ。」
悠二はヘカテーだけにしか通じない下手なウソをついた。
「そう・・・ですか。とても残念ですけど、しかたありませんね。」
あまり表情から感情が表れないヘカテーがひどく残念そうな顔をしたように
悠二には見えた。
悠二が罪悪感でいっぱいになり、どうしようかとうろたえていたときに、シャナが止めを刺した。
「一美の料理は食べるっていったくせに。」
シャナがボソッとそういった。
(僕はどうすればいいんだろう?)
悠二は結局なにも食べられずに、非常に気まずい昼休みをすごした。

77名無しさん:2004/08/15(日) 22:05
ED祭り始まる。PART19より。

384 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 00:39 ID:SDlTQUsj
この感じだとⅩ行かないぐらいで完結のような希ガス。
ラストは、旅立っちゃうか、悠二が逝くかぐらいしか考えつかんなぁ。
町に残ることも、悠二だけが生き残ることも考えられん。
その考えを飛び越えるぐらいのを期待するわけだが。
ありがちなラストでも、876タンの筆力で盛り上げてくれるといいな。

385 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 01:03 ID:k61Xx+5X
>>384
そうか? 日常の風景で終わるんじゃないの?

星黎殿を潰した後、高校卒業までは再び学園生活とかいうことで。
荒州徹あたりも「シャナ、お前の成し遂げた功績は非常に大きな物だ。 
この程度の休息を咎める事など、誰にも出来はしない。」とか言って。

394 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 07:37 ID:7yPdq5y3
>>384
ちりんちりん
「あう…」
ちりんちりん
「悠二、寝ないでよ。」
「………」
「ほら悠二、これ面白いよ。ほーら。」
ちりんちりん
「………」
ちりんちりん
「………」
ちりん……ちりん……





ちりん…

78名無しさん:2004/08/15(日) 22:07
399 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 11:27 ID:SLxJc9KK
>>394
>廃人エンドっスかー!?
悠二「暑苦しいな、ここ。出られないのかな。お〜い、出してくださいよ!ねえ!」



悠二の精神を連れて行ったのは?

408 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 13:15 ID:zHzREGPH
覚えてる範囲でネタ元を探ってみる。
>>373
機動戦艦ナデシコの劇場版。
敵に体弄くられて料理好きの主人公はボロボロに
「特に味覚がね、駄目なんだよ」という言葉がもう。
>>394
某KanonのあるキャラのED付近での1シーン。
>>399
Zガンダム。
ガンダムは知ってるようで知らないので
Zガンダムだというだけで留めておくw


409 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 13:20 ID:SLxJc9KK
>>405
えっと,えいえんの世界へ旅立つ悠二?



410 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 13:22 ID:AaK2kE4B
>Zガンダム
主人公のカミーユが、ラスボスに変形ガンダムの先をぶっ刺して止めを刺した際
「一人では死なん、お前も連れて行く云々」の超能力で頭のネジを飛ばされて
幼児退行してしまったのです。ちなみにZZガンダムの最終回で回復しました。

79名無しさん:2004/08/15(日) 22:13
441 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 19:39 ID:b4GMZuPz
ハッピーエンド派多いねぇ。
俺みたいな悲劇派は少数かな?

午前0時前。
シャナは存在の力を使い果たし、消えようとしている。
悠二、同じく消えかかるも、零時迷子がある。
悠二、自分の胸に贄殿遮那を突き立てる。
荒巣徹「貴様……!」
笑う悠二。
シャナに零時迷子を渡す。
午前0時。
悠二「荒巣徹……御免……」
そして消える悠二。
シャナ、目を覚ます。しかし、悠二のことを覚えていない。
シャナ「……この宝具は…?」
荒巣徹「……それは……」
ぽろぽろと、理由も分からずに泣くシャナ
ズームアウト
EDソング
スタッフロール

    fin

80名無しさん:2004/08/15(日) 22:15
451 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 21:23 ID:ux4oungC
えーと。バッドエンドを美しくまとめられるか努力してみました。

 最後の戦いで相討ちとなり、力を使い果たしたアラストールは消滅し、
シャナもまた、フレイムヘイズとしての役割を終え、その存在の力を失いつつあった。
 唯一の救いといえば、坂井悠二が最後の最後に人間へと戻る事が出来た事であろうか。
 傷だらけの体を引き摺る様に街へと戻ったシャナは、
 道行く人達の目にもう自分が映っていない事に気づいた。
「そっか・・・。私も消えるんだ。」
 いつか坂井悠二と座った木陰のベンチに座ると力なくつぶやいた。
「もう一度メロンパン食べたかったな。もう一度だけ坂井悠二に・・・。」
 心地よい風に舞い落ちる木の葉もついにその細い体をすり抜けはじめ、
力なく顔を上げた彼女の目に映ったのは、並んで歩く坂井悠二と吉田一美の姿だった。
「あ・・・。」
 思わず上げた声はしかしもう彼に届かない。 
 彼らから、いやこの街からも、『平井ゆかり』そして『シャナ』の存在は消えつつあるのだ。
 しかし彼女は主なきコキュートスを握り締め、喜びに声をかすれさせ、
今は亡き紅世の王へ感謝の言葉をつぶやいた。
「最後に、最後に望みが叶ったわアラストール。あなたのおかげかしら。」
 そして何事か楽しげに笑いあう二人に目を向け言った。
「ありがとう。」
 声は届かない。それでも彼女は言った。
「ありがとう。あなたに逢えて良かった。さよなら・・・悠二。」
 こぼれ落ちた涙がベンチにかすかにのこり、やがてそれもゆっくりと消えていった。
 それが、稀代のフレイムヘイズとして知られた彼女の静かな、あまりに静かな終焉であった。

81名無しさん:2004/08/15(日) 22:16
458 :イラストに騙された名無しさん :04/06/26 22:09 ID:bRKDJC0r
一番角が立たない終わり方










僕らの戦いは始まったばっかりだ
次回作にご期待ください

82名無しさん:2004/08/15(日) 22:17
481 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 00:40 ID:QVBKzYo5
シャナに会えなくなってから、
最初の1年は毎日シャナのことを想っていた。
次の1年は、週に1回くらい、
3年を数えた時には、月に1度くらいしか思い出さなくなっていた。
けど、10年経った今でも、僕は時々シャナのことを思い出す。

意思の強さを宿す瞳。
燃えるような赤い髪。
萌えてしまう未成熟な体。

そんな彼女を忘れることなんてできるはずがない。
だから、10年経った今でも彼女がひょっこり戻ってくるんじゃないかと
いう希望を捨てることができない。
もう会うことはないと頭の片隅でわかっていても、どうしても希望を捨てる
ことができないんだ.....。



876タン投げっぱなしEND

83名無しさん:2004/08/15(日) 22:18
482 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 00:41 ID:bvPpRYA+
「これで存在の力も全部尽きた」
地上全域を飲み込むような都喰らいのための自在法がもうすぐ機動を始める
「残りは天破壌砕だけ」
シャナは自嘲気味に笑いながら力の開放を開始する
「悠二、さよなら」
最後の起動式の直前でマージョリー姐到着
「ほら、届け物」
贄殿遮那を渡し、ついでに力の一部を渡す
「行って来なさい、それと・・・」
一息おいて
「帰ってきなさいよ」
そうつぶやいた
「わかってる」
笑って答え、走り出すシャナ
モノクロの止め絵
エピローグ
悠二視点でこれまでのことが語られる、途中で後ろから蹴られる悠二
ぼろぼろにすすけたシャナが仁王立ちしている
驚き、動きを止める悠二
「ただいま、悠二」
シャナが照れくさそうに言う
「お帰り、シャナ」
FIN

84名無しさん:2004/08/15(日) 22:18
492 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 09:35 ID:FRwGKtfE
ラスボスとの戦いを終え、普通の人間に戻ったシャナと悠二。
平和な日々の中、シャナが復讐しにきたオルゴンに捕まり屋上に連れ去られる。
後を追う悠二
オルゴンと悠二の対峙が続くが、オルゴンがしびれを切らしてシャナを屋上から突き落とす。
悠二がオルゴンを突き飛ばし、シャナを助けようと身を乗り出す。
しかし、それもむなしくシャナは屋上から地面に向かって落ちてしまう。
落胆して涙を流す悠二。そして、悠二は頭の中でこんな声が流れる・・
ある日道で出会って知り合いになった生き物が・・・ふと見るち死んでいた
そんな時なんで悲しくなるんだろう
「そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ。だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ。
心に余裕がある生物、なんとすばらしい!!だからなぁ・・・いつまでもメソメソしているんじゃない、
疲れるから自分で持ちな。」
「ええ?」
悠二が目を開けると、悠二の右手がシャナを捕まえている。
「間に合った!?ジュ・・・ジュドナイ!!」
何かに寄りそい・・・やがて生命が終わるまで・・・
灼眼のシャナ  完




493 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 09:39 ID:rkfmGzVL
現時点でこの状態。もし7巻が6巻以上に重たい話だったらここ
どうなるんだろ。まあ、安易に首吊り多発とかそう言う風にはなら
ないで欲しいけど…。

>>492
寄生獣かよ…。この場合やはり零時迷子=ミギー?

85名無しさん:2004/08/15(日) 22:20
506 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 13:20 ID:/fIGSGEz
夢から覚めるシャナ。
隣には悠二。
「夢を見ていたんだ。夢の中の私は、毎日メロンパンを食べて馬鹿なことばかり……」
そして敵幹部、カズミーゼとの決戦。


507 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 13:30 ID:L2d5zEBY
どうせなら、悲しみの中にも微笑ましさが欲しいな。

「あ、あなた。おかえりなさい」
坂井一美は夫である悠二を出迎える。
「うん、ただいま」
言いながら一美の唇を奪う悠二。
一美も嫌がる様子はなく、悠二に身を任せている。
悠二は人間に戻っていた。
いや、本人にトーチになっていたという記憶がないのだから、その表現は不適切かもしれない。
それだけではなく、戦いの記憶もすべて虚偽の記憶に塗り替えられていた。
それはある少女が望み、ある王がそれに答えた結果だった。
人間になった悠二に自分たちは不要というのが、涙の末に少女が下した決断だったのだ。
その結果、悠二は少女を忘れた。
その他の人々も少女を忘れた。
少女は悲しかったが、もう涙は流さなかった。
こうして、戦いは終わった……
「おぎゃああああああ」
「あ、大変」
一美はトタトタと泣き声のした方へと走っていく。
悠二は微笑を浮かべながら、自分もそちらに足を向ける。
一美がダッコすると、二人の愛の結晶……坂井シャナはピタリと泣き止んだ。
目を覚ましたときに一美がいなくて、ただ寂しかっただけのようだ。
変わった名前だったが、娘の名前を決めるときに悠二に真っ先に浮かんだ名前はこれであった。
「ただいま、シャナ」
悠二は我が子の頭をなでる。
今日もどこか遠い地で戦う少女と同じ名の娘を……

86名無しさん:2004/08/15(日) 22:22
540 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 22:37 ID:Rb++A7hp
シャナはそれから2年後に死んだ。
仮装舞踏会との戦いから4年たった今じゃ思い出す回数もずいぶんと減った。
みんなとは卒業してからはなかなか会えてない。
最後に会ったのはもう一年も前かな。
田中は吸血鬼で鍛えた打撃を買われて日ハムにドラフト7位で入団した。
御崎市初のプロ野球選手だ。
早くも番長とか呼ばれて来シーズンは開幕スタメンらしい。
佐藤は札幌で浪人生やってる。行きたい大学があるらしい。
母さんは卒業後またママになっちまってオメデトウというかなんというか……がんばれ。
吉田さんは札幌で学生さんだ。
今でも僕と絶賛文通中、遠距離恋愛というやつだ。
五通に一通は告って来るカワイイ悪魔だ。
カムシンは家業の王様を継いだらしい。
マージョリーは別の町でまた逆ナンしている。まだ独身だ。
アラストールは東京の錦糸町という所でホストをやっている。
ペンダントのくせに生意気だが大都会でぜひ一旗揚げてほしい。
シュドナイは刑務所ん中だ。
まああのヤラナイカ?ならそう珍しいことでもねえ。
ウィネはトラックころがしてる。
ヘカテーはコスプレ喫茶の店長になって時々食事をおごってくれる使えるヤツだ。
それともう一人池……は知らん。

そして僕は今……
色々あってまだミステスやってる。
御崎市にはまた徒が来た。
零時迷子に憧れるのは分かるがちょっとうっとおしい。
僕はあれから歳を取っていない。
……でもよ、シャナ。僕は最近思うんだ……
また 背を伸ばしてー…


545 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 22:52 ID:IJpTC8Fa
元ネタ分からんけど
「WBB 舞台 故郷」をキーワードでググったらそれらしきものがあった

546 :イラストに騙された名無しさん :04/06/27 22:55 ID:hzBNvEYV
>545
㌧クス。「ワイルドベースボール」というマガジンのマンガらしいが、読んだこと無いなあ。

87名無しさん:2004/08/15(日) 22:24
606 :イラストに騙された名無しさん :04/06/28 23:16 ID:00fzGMTK
シャナの最終回ネタを読みながら、何かこういうの有ったなーと考えて
こんな話を思い出した。

死を待つばかりとなったある老人の元に、一人の青年がやって来る。
その青年は老人が若かった頃、共に戦い、そして別れた男に良く似ていた。
驚く老人に、青年は男が自分の父である事を告げ、父は未だ旅を続けながら
戦っていると続けた。
老人はその報告に喜び、かつての事を懐かしみながら、穏やかな死を迎える。

…………あの頃の自分は、若かった…orz


607 :イラストに騙された名無しさん :04/06/28 23:25 ID:AJKoJxLu
父からの伝言があります。
「なにも案ずることは無い。我らは全て、シャナの元に召されるのだ」
やがて吉田一美は年を取り、魂が体を離れるときが来た。
一美は目を瞑った。
シャナと坂井悠二の声が聞こえたような気がした。
一美は、その声の元へ飛ぼうと思った。


608 :イラストに騙された名無しさん :04/06/28 23:26 ID:/6sKQAjY
マダラかよw
懐かしすぎるなオイ。

88名無しさん:2004/08/15(日) 22:25
611 :イラストに騙された名無しさん :04/06/29 00:37 ID:9ogTi1to
盟主・銀の自在法によって存在の力を完全に奪われつつある現世。
三人は自在法の発動自体を妨げるしかないと考え、過去に飛ぶ。
襲い来る敵幹部をある時は打ち倒しある時はたらしこみ
(子供心にイヤンな感じのラブシーン付き)、三人は星黎殿に乗り込む。
そこに待ち構える銀。
一進一退の攻防の末、シャナの刄が銀を捉えた。
吹き飛ばされ、コンソールに叩き付けられる銀。
その背中で異音が鳴る。それは何と、自在法の発動スイッチだったのだ。
世界を破滅に導いたのは自分達だった…
三人は赤く染まる世界を為す術もなく眺めるしかなかった。

89名無しさん:2004/08/15(日) 22:54
発端となったPART14のもので締め。

429 :イラストに騙された名無しさん :04/03/17 00:02 ID:FaJwxhHt
悠二が御崎市を去って80年後・・・
吉田一美は寿命で約一世紀に渡る人生の終焉を
迎えようとしていた。

ある冬の雪が降る日、誰かが自分を呼ぶ声がした。
寝床から立ち上がり、庭へ出てみるとそこに立つ影は
年端も行かぬ少年だった。
「やぁ」
聞き覚えのある、そしてたまらなく懐かしい声で彼の正体を
知った。
「坂井君・・・?」
「ああ」
「あらあら・・・まぁ・・・」
彼は、遠い記憶の中にある少年の姿形そのままであった。
しかし、どうして今この時に私の前に現れたのだろう?
「君は、僕の事を知ってる最後の人だから・・・
こんな日に迷惑だったかな?」
「いいえ・・・・ありがとう」
かつて自分が娘時代の頃に想いを寄せていた人が旅立ちの前
に来てくれた・・・こんなに幸せな荷物を持つ事が出来たなんて
ああ、自分はなんて幸せなんだろう。
「そう、それじゃあ・・・」
「さようなら・・・」
暇を告げて、悠二は静かに庭から消える。
後には白い雪景色だけが残った。


430 :イラストに騙された名無しさん :04/03/17 00:02 ID:FaJwxhHt
そして、吉田一美は幸せな思いを胸に遠い空の果てへ最初の一歩を
踏み出した。

「済んだよ」
「・・・・・・・」
シャナはいつもの眼差しでじっと僕の顔を見つめた。
「つらくない?」
「まさか・・・人間なんていくらでも生まれて死んでいく、もうなれっこさ」
「・・・・・・」
シャナがそっと腕をのばし僕の頬に手で触れた。
「我慢しないで」
その柔らかい感触に、心の堤が崩れ落ちていく。
母さんも、父さんも、池も、田中も、佐藤ももういない。
そして吉田さんもいなくなった。
僕を知る人間はもう誰一人この世にいない。
最初の一滴が漏れ出た後は、もう押し止めようがなくただ、ただ泣き続けた。




432 :イラストに騙された名無しさん :04/03/17 00:05 ID:jraFN9l9
>>429
ペドゴニア乙

90名無しさん:2004/09/03(金) 23:34
高橋弥七郎[A/B&シャナ]PART25
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/magazin/1094007100/141

「ウエッ、変な味」
シャナは布団の中でその独特の匂いを持つ液を吐き出す。
「やっぱりやめとく?」
「駄目よシャナちゃん、ちゃんと全部飲まないと。ね?」
悠二はシャナの様子に慌ててそう言うが、千草はそれを許さない。
「ね?シャナちゃん、我慢して飲めば、後からきっと楽になるから」
「・・・・判った。千草がそういうなら」
息を止める。目を閉じる。喉にかかり戻しそうになるのをこらえて飲み下す。
「えらいわ、シャナちゃん。」
シャナの髪を撫でてやる千草。飲んでくれたことに裕二も満足気な顔をする。




「じゃあゆっくり休みなさい」
「御休み、シャナ」
(フレイムヘイズでも風邪をひくんだな。)
「次からは小児シロップにした方がいいかしら?シャナちゃん、気を悪くしないかしら」
「気付かないと思うし、甘ければ問題無いと思うよ」

91名無しさん:2004/09/18(土) 00:36
昔々一つの王国が。
かつて苦難の境遇から王子の妃の座を掴んだ伝説の姫にちなんだ伝統行事
「舞踏会」の季節がやってくる。
王様=アラス、王妃=千草、王子=悠二、侍従長=池
将軍=シュドナイ、軍師=ベルペオル、巫女=ヘカテー

王国の片隅に女ばかりの変わり者一家がいた。後妻とその娘二人が
先妻の忘れ形見の少女を王者の中の王者に育てようとしていた。
継母=天目一個、姉1=メリヒム、姉2=ヴィルヘルミナ、娘=シャナ
メリヒムが体を鍛え、ヴィルヘルミナが勉強を教えるスパルタ教育。

また別の女だけの一家が。継母と姉二人に虐げられる先妻の子。
継母=緒方、姉1=ソラト、姉2=ティリエル、娘=吉田
吉田の友達のネズミ=佐藤&田中
主導権はティリエルにあり、緒方は押し切られている。ソラトはいつもどおり。

ついに「舞踏会」が開かれる、と軍師配下の斥候=ウィネが触れ回る。
シャナ、置いてけぼりにされるが、メリヒムの残した謎を解き、ドレスをゲット。
吉田も置いてけぼりにされるが、名付け親の魔法使いマージョリー&マルコシアスに
ドレスとカボチャの馬車と馬=佐藤&田中を得て、城に向かう。
シャナ、出かけようとしたところを屋根の上の鳥の人=教授&ドミノに呼び止められ
変形させた家で空を飛んでお城に向かう。

お城。人々は、やってきた吉田の美しさに感動。庭に墜落した鳥からシャナが現れてびっくり。
衛兵隊長=オルゴン、鳥を食い止めようとして兵士とともに「あーれー」と吹っ飛ぶ。
今まで踊っていただけの「舞踏会」の本試験が、長老=カムシン&ベヘモットの司会で始まる。

92名無しさん:2004/09/18(土) 00:38
参加者は三重臣の試練を受けることに。シュドナイ、数が減るまで殺さないよう争えと言う。
ソラト、勇み足でウィネをぶったぎって、ティリエルとともに退場。緒方もついでに帰る。
吉田と佐藤&田中は取り囲まれるが、出現した魔法使いマージョリーの援護で勝利。
シャナは天目一個から大太刀を受け取り(天目一個は消滅)、メリヒムとの決闘に勝つ。
傷を折ったメリヒム、ヴィルヘルミナのリボンにグルグル巻きにされてお持ち帰り。

二つ目の試練は、ベルペオルによる質問に答えて三重臣から得点を得る試験方式。
夫の王が死にかけたときどうするか、馬鹿な実子と賢い庶子のどっちに王位を継がせるか
の質問で両者それぞれリードして同点。三つ目の、王子が浮気したらどうするか、の質問で
吉田高得点をあげる。ピンチのシャナの前に、実母=先代がヘカテーに乗り移って同点に。
昔の恋人らしいアラストール、千草の冷たい笑いで一同はひんやり。

三つ目の試験は、ヘカテーから「王子に求婚して認めさせろ」の一言。
シャナは強要して即答、吉田は恋人のような告白で返事をゲット。
悠二王子はどっちを選ぶか迷うが、刻限は零時と定められており、あと五分。
シャナと吉田が悠二に返答を求める間に、ガラス細工師兼靴職人=ラミーが現れる。
追い詰められた悠二、最後に「どっちもだ!」と叫んで自己嫌悪。
しかし周囲はあっさりこれを認める。拍子抜けする悠二とシャナと吉田。
正妻を決めるのは後で、王家に迎える娘を決める儀式だった。
池「問題の先送りです」と要約。早速火花を散らし始める二人を前に、悠二ただ笑う。

悠二は外に無敵、内に穏やかな妃を持って順風満帆、王国は栄えましたとさ。
正妻を決めるにはまだまだ波乱はあったけれど、それはまた別のお話。おわり。


オマケ。狩人のフリアグネなんでも質問コーナー。
876たんと担当三木氏の熱い男のガチンコバトル中継。武器はシンデレラらしく小刀。
三木「うおおー!命(タマ)殺(と)ったるぁ!!」
876「ナマ言ってんじゃねえ!お好み焼きの焦げたにおいがワシの狂気を火の玉にするぜ!」
フリアグネとマリアンヌ、押されまくって幕。

931:2004/10/03(日) 19:43
「・・・付き合ってよ」
「なんだって?」
「だから買い物に付き合って欲しいの!」
後ろで手を組み、もじもじしながら、なんでもないようなことのように誘ってみた。
誘うチャンスはいくらでもあったけど、いま一歩の勇気が出ずにずるずると放課後のこの瞬間まで引き延ばしてしまった。
彼の前だと普段ではありえないくらいに優柔不断で臆病者になってしまう。彼の目に見つめられると、たじろいでしまう。
本当に目を開けているのかわからないくらい細目だと坂井が言っていた。
しかしこの優しさに満ちていて、どこかさびしげ目が彼女はなりよりも好きだった。
まあ、確かに細すぎではあるけど。

942:2004/10/03(日) 19:44
HRも終わり、御崎高校の生徒達は思い思いの行動をそれぞれとっていた。
それぞれ部活をいそしむ者、教室の掃除をするためイスを教室の後ろに運んでいる者、特にすることなくただ家に帰る者など様々だ。
学校生活は共同生活。生徒達は皆この学校という場所においては同じ生活のリズムで暮らしていかなければならない。
中にはサボったりしてリズムより逸脱する者もいたが、なんにでも例外というものは存在するが、
それはあくまで例外。大体の生徒は同じ生活のリズムですごしていた。
そして学校生活はチャイムと同時に休止し、また明日のチャイムと同時に再開されることとなる。
終わりのチャイムが鳴ると生徒達は規範の時間から解放され、自由の時間を謳歌していた。
御崎高校のあるクラスに背の高いスリムな少女が、緊張した面持ちで何度も深呼吸をしていた。緒方真竹である。
可愛いというよりかっこいいに分類される緒方はあることを決心していた。
同じクラスメートの田中を買い物に誘う。ただそれだけだ。
しかしその『それだけのこと』が緒方にとって何よりも困難な壁となっていた。
ただの友達なら気軽に声をかけるだけでよい。そこにはなんの問題もない。問題は声をかける人物にあった。
緒方にとってこの田中はただの友達という存在ではなく、緒方が好意を抱いている異性であった。
その田中を買い物に誘う。緒方はこの買い物を田中とのデートを同位置までに高めていた。
緊張するなというほうが不可能だった。

953:2004/10/03(日) 19:45
緒方は心の中でつぶやく。
あくまで普段どおりに振舞う、そう心がけた。そう心がけたつもりだった。
話すきっかけとしては古典もいいところの質問「今日の天気はどう?」。コレくらい軽い感じで買い物に誘う。
緒方は田中に話しかける前に何度もイメージトレーニングをした。
「放課後、もしお暇でしたら、一緒にお買い物などいかがでしょうか?」
こんなに格式ばることもないか。
「暇なら付き合えよ」
これではカツアゲの殺し文句だ。
「この後、もし暇だったら買い物付き合ってくれない?」
うん!これでいこう。すごく自然だし。

964:2004/10/03(日) 19:46
帰りの身支度をしている田中にぎこちない足取りで一歩一歩近づく。田中に近づく度に鼓動が早くなっていく。
そしてついに声をかけた。
少し頬が紅くなっていることが彼にばれていないか、不安だった。夕日で紅潮した顔をごまかせていると頭ではわかってはいるけど、不自然なくらいに顔をそらせてしまう。
心臓が破裂するくらい胸が高鳴っていた。
「明日はあんた休みでしょ?だから買い物に付き合ってよ。デートしてあげるっていてるの」
わりと早口でまくしたてる。それに対し田中は反論をした。
「でもなんで俺なんかと。他の女子と一緒にいけばいいだろ」
一瞬、緒方はつまったもののこれも予想どおりの返答だった。
「あんたガタイがいいんだから、例え危険な場所に行っても大丈夫そうじゃない。
たまにはその無駄に筋肉質な身体を有効利用するために、この私がデートに誘ってるんじゃない。
それともこんなか弱いレディーを放って置けるほど甲斐性がないの?田中には」
「なにいってるんだよ。オガちゃんほど逞しい女子はこの世に数えるほどしかいないよ」
「酷い。それ傷つくよ。まあいいわ。他の子はみんなそれぞれ用事があるみたい。
かといって一人で買い物もつまないしさ。で、どうなの?いくの?いかないの?」
田中が緒方から顔をわずかにそらす。

975:2004/10/03(日) 19:47
明日はちょっとな。姐さん・・・じゃなく佐藤との約束があるんだ」
「約束?どんな約束なの。あたしとのデートよりも重大なわけ?」
「ああ。男と男の約束」
曖昧な言葉で逃げられたことにより、緒方はムッとした。
「・・・男の子ってずるいなぁ」
ボソッと溜息のようにつぶやく。
「とにかくごめんな。じゃあ」
「あっ」
田中は鞄をひっつかみ、逃げるように教室から出て行った。
ひとり取り残された緒方は身体が急速に冷めていくのを感じた。
さっきまでは溶鉱炉のように熱く燃え上がっていた心臓も、鉄の塊のように重く、冷たいものとなってしまった。
身体全体から魂が抜け落ち、足を動かすのもおっくうになっていた。ただただ立ち尽くし、田中の背中を切ない視線で追っかけるしかできなかった。
田中がさっきまで座っていた椅子に力なく腰を下ろし、机に突っ伏し、動かなくなってしまった。
まだ椅子には田中のぬくもりが残っている。手のひらで田中の机を愛おしげに撫でた。
「バカ」
夕日が嫌味なくらいまぶしくて、緒方は目を細めた。

986:2004/10/03(日) 19:47
暗闇に包まれた部屋。
暗すぎて壁となるものが見えない。そこら中、わけのわからないもので埋め尽くされていて足の踏み場もない部屋。
ゴミ捨て場よりはマシといった感じだ。ときおりパッと青白い光が走りはしたが、それでも部屋の全体を把握するのは困難だった。
コードが各所より伸びている用途のわからない機械や、不気味な色をした液体の入った水槽やらが無茶苦茶な配列で並んでいる。
まるでこの部屋の住人の性格を表わしているみたいだ。
『マッドサイエンティストの実験室』
この部屋に名前をつけるとしたら、これほどピッタリする名前はないだろう。

その部屋で変な椅子としか形容できない椅子にどっかりと人が座っている。細長い体に白衣を纏わせ、奇声に近い大声を張り上げていた。
「ドミノ、ドォーミノォーー!!デザぁートぅはまーだですか?」
奥の暗闇からガシャガシャと足音をさせてドミノが近づいてきた。手となるマジックハンドにはお盆が載せられている。
「はい、教授。ちゃんと言いつけどおりプリンを持ってきました。」
お盆の上には生クリームがどっさりのったプリンが透明なガラスの器に盛られていた。
ドミノのまん丸の巨大な体とは似合わない可愛らしさだ。色彩りを華やかにするためにメロンや苺、
りんごなどの各種フルーツも添えられていて、プリンの上にはかわいらしくサクランボものせてあった。
教授はそれを一瞥すると、眉を不愉快な形に曲げる。
パン・・・ぶちゃ。
教授はお盆ごとプリンを叩き落した。
ドミノの心がつまったデザートは無様な音をたて、そのかわいらしい形をドロドロとした不気味な物体に姿を変えてしまった。
「ああーー!!教授なにするんですか?!」
ドミノはプリンを急いでかき集めている。
「私が今食ぁーーべたいのはかき氷ぃ!それ以外は皆無!」
「でもさっきプリンが食べたいっておっしゃったじゃないいはいはい(いたいたい)」

997:2004/10/03(日) 19:47
教授はドミノの頬をつねりながら演説を開始する。
「大切なのは今ぁ!今をなくしていーつ生きるんですか?!
それに仮にプリンと私がいったとしても、私がプリンといったらぁ、かき氷をだしなさーい」
「無茶だぁ?!言ってることが支離滅裂ですよぉ」
教授はおもむろに椅子から立ち上がり、ドミノに背を向け歩き出した。
「もう!まっーーーたく!使えなぁーい燐子ですね。
そぉーだ!新しーい燐子を作るこーとにしましょぉう。あなたはもう、用済みでーすぅ」
教授は追っ払うジェスチャーをドミノに向かってすると机に向かい、紙に何かを書き始めた。
その様子をドミノはうなだれながら見守っていた。
「そんな・・・・教授のバカー!こうなったら家出して、新しいご主人様を見つけてやるぅー!」
ドミノの家出宣言を教授はまったく聞いていなかった。なにせ新しい燐子の設計図を書くのに夢中だったのだから。
その非道な教授の態度にドミノは落胆し、ゆっくりと部屋の出口に向かって歩き出した。
 ドミノの新しい機能だろうか。歯車の目から涙が2,3粒零れ落ちる。
鉄の腕で目をジャリジャリとこすりながら実験室を後にした。
教授は一旦設計図から目をはずし、去り行くドミノの背中を心配そうな顔で見つめていた。
教授にはひとつ心残りのことがあったのだ。
「ちょっとドォーミノォー!デザートのスイカはまーだですか?」
デザートの心配だった。

1008:2004/10/03(日) 19:48
教授の下を去ったドミノは腕を組みながらガシャガシャと昼の町を闊歩していた。今ドミノはすごく悩んでいた。
これからどうすればいいのか、と。
ドミノの2メートルを越すガスタンクのようなまん丸い姿は、日常と言うにはあまりにもかけ離れて、目立ちすぎていた。
ドミノとすれ違う人々の十割がヘンテコなロボットが悩み歩く様に、思わず振り返って凝視してしまう。
しかしそんな熱視線を気にもせずドミノは歩き続けた。
「むぅー。勢いで家出しちゃったけど、これからどうしよう。基本的にはボクは自分のためになにかするようには出来てないからなぁ。
やっぱ誰かに仕えてるほうが自然な気がする。とりあえず新しいご主人様でも探してみようかな?」
鼻をたらした小さな少年がドミノに近づき、手に持っていた木の棒でドミノを叩き始めた。
「紅世の人か紅世の王に仕えるのが一番、だけど・・・簡単にはみつからないだろうなぁ。
あの人たちは気まぐれだから。それにボクを雇ってくれるかもわからないし。
だからといってヘレイムヘイズは嫌だなぁ。仕える前に殺されちゃうもん。
ちょっと癪だけど人間どもにでも仕えてみよう」
自分の攻撃をまるで意に介しないドミノに子供はさらに強く棒で叩いた。
その様子を見ていた子供の母親らしき中年のおばさんが、子供をドミノから引き剥がし、近くにあったスーパーに逃げ込んでいった。
「あの人たちは嫌だな。ん?」
スーパーに逃げた二人とは逆にサラリーマン風の男がスーパーからでてきた。
顔をよく見ると元・主人の教授にかなり近いものがあった。
ずんぐり眼鏡、縦に長い顔とヒョロ長い体。ドミノは目を輝かせながら、さっそく声をこけてみた。

1019:2004/10/03(日) 19:49
あのーボクのご主人様になってもらえませんか?」
「は?あなたはな、なんなの?」
巨大なまん丸い物体が突然話しかけてきたことにサラリーマン風の男はかなりとまどっていた。
「ボクはドミノ。一応設定ではロボットらしいんですけど、正確には燐子と呼ばれるものです」
「着ぐるみ・・・ですか?」
サラリーマン風の男は話の内容がさっぱり理解できず、なにかのショーだと結論付けた。
「いや着ぐるみなんかじゃないです。ホラ」
ドミノは自分が人間でないことを証明するため、自分の頭を捥ぎ取ってみせた。
「どうです?着ぐるみとはちがうでしょ?」
ドミノはさらに捥ぎ取った頭を手にのせ、サラリーマン風の男に近づける。
「ぎゃあーーーーー!バケモノッ!!」
サラリーマン風の男は持っていったカバンを落とし、叫びながら一目散に逃げていった。
胴体と切り離された頭が口をひらく、このパフォーマンスは確かに人間との違いを見せるのには有効的だ。
しかしそれ以上に恐怖を与えることをドミノは計算に入れてはいなかった。
「むー、キズつくなぁ。ボクはバケモノなんかじゃなくて、教授の特製の燐子なのに。いいや。気を取り直して次だ」
捥ぎ取った頭を胴体に付け直しつつ、第2のご主人様候補を探しにいくのだった。

10210:2004/10/03(日) 19:49
とぼとぼと足を引きずるような感じで緒方は歩いていた。田中と行く予定だった買い物のコースをたどっている。
買い物といってもそこらへんのブティックやみすぼらしいアクセサリーショップを回るだけの散歩にも等しい行為だった。
街のざわめきやカラスの鳴き声が妙に癇にさわる。緒方はイラついている自分に気付いた。
(これではいけない。いつもの明るい緒方真竹に戻らなくちゃ)
緒方は自分の頬を両手で勢いよく叩き、気持ちの切り替えをした。
(そうよ、今日はたまたまあいつが忙しかっただけ。明日こそは田中とデ、デートするんだ)
握りコブシを作り、決心を新たにする。ついでに田中と一緒に街を歩く姿を妄想してしまい、多少顔を赤くしていたが。
気持ちを切り替えたところで緒方は洋服の一着でも買うことを思いついた。
緒方の持っている服はどれもスッキリとして清潔感が漂っているが地味といわれれば地味だった。
スカートなど女の子が纏うものではなく、ユニセックスなものばかりなのでどうも色気に欠けてしまう。
「アタシも女の子らしいところがあるってところをあいつに見せつけてやるんだから」
豪華な服が並ぶ服飾店の前で足を止める。
いつもならデパートで見栄えのよい安い服ですましてしまう緒方は、高くオシャレな服にはとことん縁がなかった。
ただただ高級そうな店のガラスケースを見つめて、ため息をつくばかりでいた。
だがこのときの緒方は違った。目に炎を宿し、体からはいいしれぬオーラのようなものを放っていた。
「こ、こんな店くらい楽勝で入れるわよ」
人生で初体験の高級店に少したじろぐも、持ち前のカラ元気を武器にいざ突入しようとした。

10311:2004/10/03(日) 19:50
しかしそのとき、店から誰かが出てくる気配がした。黒っぽく着色してある自動ドアから話し声がしたのだ。
思わず緒方は店の裏路地に逃げ込んでしまった。
(つい隠れちゃったよ。なんか恥ずかしいから、あの人たちの姿が見えなくなったら入ろう)
声から判断して店から出てきたのはどうやら男2人組らしい。
(女物の衣服屋で買い物するなんてどんなヤツよ。女装癖でもあるじゃない?)
緒方は決心を挫かれたことで男二人に心の底で愚痴る。
せめて顔でも見ないと気がおさまらない。緒方はコッソリと女装癖のあるらしい男二人組を後ろから観察する。
声から想像したとおり男二人組であった。一人は華奢な体をしていて、もう一人は筋肉質でかなりおおきい。
緒方は似たような男二人組を思い浮かべたが、その二人がまさか女性モノの服を売っている店からは出てこないだろうと見切りをつけた。
男二人はどうやら大量に衣服を買い込んだらしく、溢れかえった買い物袋で押しつぶされそうになりながらもなんとか歩をすすめていている。
お互いに気を紛らわすためか、苦し紛れに会話をしていた。
緒方はいけないと思いつつもつい耳を傾けてしまう。

10412:2004/10/03(日) 19:51
「姐さんも殺生だよ。こんなたくさん買わせるなんて。しかも全部女ものの服だぜ。
あの店の店員さん、絶対俺たちのことを変態だと思ってるんだろうな。これはバツゲームに近いよ、まったく」
「言うなよ。あの人は生粋のめんどくさがり屋なんだから。最近じゃ滅多に外に出ないし」
姐さん?なるほど。こいつらは「姐さん」とかいう人にパシリに使われているわけね。サイテー。男の威厳ってものがないの!?
「佐藤、一つもってやろうか?足がプルプルしてるぞ」
サトウ?うちのクラスにも同じ名字のやつがいるわね。ま、でも「サトウ」なんてありふれた名字か。
これで背が高いほうの名前がアイツと一緒だと笑えるわね。
「いいよ、田中。余計なお世話だ。これも鍛錬だ。」
たなか・・・今、確かに「たなか」って言ったような・・でもでも!「たなか」もよくある名前だし
「それよりいいのか?オガちゃんの誘いを断っちまって。」
オガ・・・ちゃん?
「・・・ああ。いいんだ。今は姐さんに一歩でも近づくために鍛えなきゃならない。時間が惜しいんだ。一分一秒でも」
「今はなにを言っても説得力ないぞ。女モノの服を両手いっぱい抱えてるんだからな。もしここでオガちゃんにばったり出くわしたらどうするつもりなんだ、ん?」
「フン、お前だって同じ状況だろ」
「アハハ、そりゃそうだ」
談笑する二人の背中をみつめる影は、もうそこにはなかった。

10513:2004/10/03(日) 19:51
ドミノは特有の足音を響かせながら、人気のないところを歩いていた。だがその足音もどことなく元気がない。
ご主人様探しが完全に暗礁にのり上げてしまったのだ。辺りはすっかり夕日で赤くなり、長細い影を作った。
ドミノは最初の勧誘に失敗した後も次々と周りの人に声をかけつづけた。しかし最初の人と同様の反応をするばかり。
結果は似たり寄ったりで、ことごとく断られてしまった。
「卑しいワタクシめのご主人様になってくださいまし」
「あなたのいうことはなんでもしますから」
「炊事洗濯、なんでもこなします。多少の我侭も許容できる便利な燐子、お買い得ですよ」
「あなたの犬になりますワン」
様々な口説き文句を使いご機嫌をうかがうドミノであったが、なにかのアトラクションと思われて本気にされない。
いきなり「ヘンテコな喋るロボットがあなたのものに」といわれても冗談にしかとられなかった。
たとえ本気と取られても最後に頭を取るパフォーマンスをみせると皆、必ず恐怖に引きつった顔で逃げ出してしまうのだった。
何度となくアタックをかけると、どこから発生したのやら「恐怖のロボット」の噂がそこら中に広まり
誰もドミノに寄り付かなくなってしまった。それでもしつこく勧誘しているとついには警官に追われる始末。

10614:2004/10/03(日) 19:52
ドミノは人間界で生きる難しさを学ぶとともに、一抹の寂しさも感じ始めた。
これ以上騒ぎを大きくしないためにドミノはご主人様探しを一旦中止し、公園へと避難した。
夕方の公園は人もまばらになり、余計寂寥感をあおる。ふいに元・ご主人様のことを思い出す。
「教授どうしてるかなぁ。ちゃんとご飯食べてるといいな。一応キッチンにビーフシチューを用意して置いたけど、あの人は生活能力ゼロだから」
ドミノはベンチにガシャンと座り、空を見つめる。
「でも紅世の王だから本当はご飯いらないのか。ボクって・・・いてもいなくても同じなんだ」
このまま、孤独に壊れてしまうのだな、となんとなく思う。
そのとき誰か悲しんでくれるのか、壊れたことに気付く人はいるのだろうか。
「ボクが存在しなくても・・・世界はいつものとおりにながれていくんだろうなぁ」

10715:2004/10/03(日) 19:52
ふいに隣のベンチに座っている少女が目に入る。
見た目は可愛いよりかっこいいに分類される顔をした普通の少女なのだが、目に生気が全く宿ってない。
まるで世界の全てに見捨てられたかのような顔をしている。
(あの人、なんであんなに悲しそうなんだろう?なんであんなに目から水を流しているんだろう?ボクと同じでだれかに捨てられたのかな?)
ドミノは妙な親近感を得て、好奇心から少女の座るベンチへと近づく。
(あの人ならボクの気持ちをわかってくれそうだ。でもあの人にさえ拒絶されたらボクは・・・)
緊張をはらんでドミノは恐る恐る声をかける。
「あのー・・・なんでそんなに悲しそうなんですか?」
少女は緒方真竹であった。ただ遠くを見ているばかりで、ドミノの言葉になんの反応も示さない。
「ボクはドミノ。今、新しいご主人様を探してるんです。前のご主人様に捨てられちゃって・・・」
「・・捨てられ・・た?」
ピクリと少女が身じろぎする。
「アタシも、捨てられた、わけじゃないけど・・・選ばれなかった、かな」
つっかえつっかえながらも少女は静かに語り始めた。
「すごく好きだったヤツにデートに、誘ったの。でもあいつ、「ダメだ」で断られちゃった。『男の約束がある』って。最初はその言葉を信じたんだ。でも」
緒方はギュッと手を握り、小刻みに震えだした。
「それは嘘だった。アイツは他の女の人に夢中で、その人にプレゼントを選ぶためにアタシとのデートを嘘ついてまで断って。
『男の約束』なんて、今考えれば嘘だと気付いてもよさそうなのに。
バカだね、あたし・・・もう、どうしたらいいかわかんない」
しゃがれた声でしゃべり終えると両手で顔をおさえ、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

10816:2004/10/03(日) 19:52
ドミノはキョトンとした顔(あまり表情の変化はなかったが)で緒方を眺めた。
「その問題は簡単。奪っちゃえばいいんだよ」
「え?」
ドミノはいやにあっさりとした口調で答えた。
「人間の恋愛事情に関してはよくわからないけど、ボクの知ってる人はどうしても欲しい物があったのなら、なにがなんでも手に入れる。
邪魔する者を全部排除して、例え他人の持ち物でも、絶対に手に入らないモノでも、力ずくで奪う。
キミはその男の人が欲しいんでしょ?だったらその女の人をやっつけて男を無理やりかっさらえばいいんだ。
あ、なんならボク手伝うよ。これでもボクは優秀な燐子だからね」
ドミノはえっへんと誇らしげに胸をそらす。
「ぷっ アハハハハ」
あまりにも子供っぽい仕草に緒方は吹き出してしまった。
「?」
ドミノは緒方が壊れちゃったのでは?と首をかしげた。
「ウフフ、そうだね。アタシ、諦めない。その人にちゃんと自分の気持ちを話してみる。
なんにもしないまま引き下がっちゃダメだよね。ありがとう、ロボットくん。なんだか元気がでてきた」
「ボクの名前はド・ミ・ノ!ロボットだなんて名乗ってないです」
ドミノはプンスカ怒りながら否定した。
「ゴメンゴメン、ドミノくん。アタシは緒方、緒方真竹。よろしくね」
「よろしく、緒方サン」
ドミノはマジックハンドの腕を緒方に差し出した。緒方は両手でそれを包み優しく上下させた。

10917:2004/10/03(日) 19:53
「あ、そうだ!ボクのご主人様になってもらえませんか?」
「アタシが?そういえばさっき、そんなこといってたわね」
いくらか声のトーンをおとして、今度はドミノはしゃべり始める。
悩みを話す立場と聞く立場が完全に逆になってしまった。
「ボクは今まである科学者のところにいました。その人は頭がとびぬけて良い分、少しいやかなり、極めて人格が壊れてるんです。
言うことなすこととにかく滅茶苦茶で。何度も理不尽なことで頬をつねられてばかりいました」
ドミノは寂しそうにシャリシャリと頬をさすった。
「とにかく支離滅裂なのです、あの人は。でもボクはその人に仕えていることは嫌じゃなかったんです。
あの人の役に立ちたいって思うとそれだけで嬉しくて・・・・でも」
ドミノの声に覇気がなくなる。
「ボクがある失敗をしてその人に嫌われちゃったんです。「用済み」っていわれちゃいました」
真剣な表情でドミノの話しに耳を傾ける緒方。彼女はもういつもの頼れる緒方真竹に戻っていた。
「主人をなくした燐子は燐子じゃありません。で、ボクは新しいご主人様を探して、その人の役に立って、
あの人を見返してやるんです。「ボクは役立たずじゃないんだぞ」って」
緒方には無理やり元気を出そうとしているのが手にとるようにわかった。
「どうですか?ボクのご主人様になって、もらえますか?」

11018:2004/10/03(日) 19:53
緒方は少し考えたあと、優しく笑った。
「前のご主人様は酷いヤツだね。こんなかわいくて、いい子を捨てるだなんて」
そういいつつ緒方は指でドミノの顔をつつく。
「ボクはかわいいんじゃなくて、かっこいいんです。
それと教授は酷い人じゃありません。まあ多少変わったところはあるけど、ボクを作成してくれました」
「あはは、はいはい、そういうことにしてあげる。ウン、いいよ。ご主人様ではないけど、弟にならしてあげる。ちょっと大きすぎることが難点だけど」
「えぇ〜〜!ご主人様じゃないんですか?」
ドミノは不満げに声を漏らした。
「そうよ、幸いアタシは一人っ子だし。第一、アタシはご主人様なんて器じゃないもの。あなたは今日からアタシの弟。はい、決定」
「そんな・・・」
ガチャリと音をならし肩をおとすドミノ。緒方は意地悪そうな笑顔を浮かべ、ドミノを睨んだ。
「なに?アタシの弟にしてあげるっていってるのよ?こんな名誉なことは他にないじゃない。
あ、そうだ!今からアタシのことを『お姉ちゃん』って呼ぶのよ」
「オネイチャン?」
「そう。『お姉ちゃん』一回、呼ばれてみたかったんだ」
うっとりとした顔をする緒方にドミノは呆れた。先ほどの弱弱しい姿が完全に消えうせている。
ドミノは人間とはころころ性格が変わるものだ、とメモリーに焼き付けておいた。
『お姉ちゃん』という響きがよほど気に入ったのだろう。
緒方は何度も何度もドミノに『お姉ちゃん』と繰り返し呼ばせ、その度に満足げな顔を浮かべた。

11119:2004/10/03(日) 19:54
ドミノは機械(?)のように繰り返していたが、ふと周囲にある異変が起こっていることに気付く。
(なんだ?これは・・・存在の力の流れ!こっちに近づいてくる)
緒方は急に黙るドミノを訝しんだ。
「どうしたの?ドミノくん。ほらもう一回!」
「お姉ちゃん、今すぐここから離れて。できるだけ遠くに逃げるんだ」
公園の茂みがキラッと光る。
「しまった!」
茂みから赤い光線がほとばしる。光線は一直線に緒方のほうに向かっていった。
ドミノは間一髪、緒方を突き飛ばしたが、ドミノの片腕が光線で焼かれ、切り落とされてしまった。
巨大なパイプにも似たドミノの腕が地面に転がる。切り落とされた腕の切断面から焦げた匂いと供に白い煙があがっていた。
緒方は突き飛ばされた衝撃と目の前で起こった惨劇とで頭が混乱しきっていた。しりもちをついたまま呆然としていた。
「早くボクから離れて」
ドミノは緒方に激を飛ばすも反応がない。すると間髪いれずに今度は鋼鉄ドリルがうなりをあげてドミノに迫ってきた。
ギラギラと輝くドリルは直径が1メートルはあり、凶暴な破壊力を秘めていることは明らかだった。
「マズイ。あれは自動追尾するものだ。たとえボクがドリルを避けても、次の獲物を探し出し、
後方に装備されたジェットで次の目標に向かって確実に飛んでいく。そして次のターゲットとなる人物は・・・」
ドミノはちらりと緒方のほうを見る。緒方は次々と起こる異常事態を把握しきれず、ドリルをうつろな目で見つめていた。
「お姉ちゃんを抱えて逃げても、いずれあのドリルに追いつかれる。ボクは武装していない。とすると状況から判断して、こうするのが一番だな」
ドミノは緒方から目をはずし、真っ向からドリルを見据える。凄まじい速度で回転するドリルがドミノとの距離をせばめてくる。

11220:2004/10/03(日) 19:54
ついにドミノと巨大ドリルが轟音をたてて接触した。
ドミノはドリルを身体全体で受け止め、ドリルの進行を防ぐ。
火花がドミノの身体のあちこちで散り、甲高い金切り音が公園中に響いた。ドミノは胴体にゆっくりとしかし着実に穴が広がっていくのを感じた。
しかしドミノの必死の抵抗もむなしく、ドリルの進行は止まらず、ゆっくりとドミノを押していった。
「これじゃあダメだな。ドリルのエンジンを止めないと、ボクは破壊される」
ドミノはドリルの後方のジェット部分へと残った片方の腕を伸ばし、力の限り殴りつけた。
だがその一撃でドリルが止まることはなかった。ドミノは諦めずに同じ箇所を何度も何度も殴りつけた。
ジェットも強固な設計をされており、ドミノのマジックハンドが千切れ飛ぶ。ドミノはかまわずドリルを殴りつけた。
腕がところどころ歯車がむき出しになり、かなりひん曲がってきたとき、ようやくドリルは回転を止め、機能停止状態になった。
ドミノはボロボロの片腕で、胴体に深く突き刺さった巨大ドリルを引っこ抜き、地面に倒れこんでしまった。

11321:2004/10/03(日) 19:55
やっと正気を取り戻した緒方はスクラップ寸前のドミノにすがりついた。
「ドミノくん・・・」
「ふう。お姉ちゃん、もう大丈夫・・・とはいえないな。次は本体がくると思うよ。早く逃げなきゃ、ボクを置いてさ」
「嫌よ!」
緒方はドミノの腕を持ち、引きずろうとした。
しかし半分崩れているとはいえ、巨体のドミノである。力を振り絞るが30センチも動かせない。
「わがままだなぁ。いいですか?ボクはこのとおり動けません。ここは状況から考えて」
「そんなこと聞きたくない!」
緒方はドミノの忠告をさえぎり、
「ドミノくんも一緒に逃げなきゃ死んでもここを離れないわ」
オイルまみれのドミノの腕に顔をこすり付けて緒方は泣いた。
ドミノは緒方を後ろにかばいつつ、茂みの奥に注意を向ける。
「きた」

11422:2004/10/03(日) 19:55
一層際立たせていた。公園の電灯がいっせいに点灯し、影の正体を二人のもとにさらした。
2メートルを越す、まるでガスタンクのようにまん丸の物体。
「あ、あれは」
その金属製らしきまん丸からは、パイプやら歯車やらでいい加減にそれらしく作られた両手足が伸びている。
「ドミノくんが、もう一人いる?」
現れた物体はドミノと瓜二つのロボット。胴体、手、足、頭の形から歯車の位置まで全てのパーツがドミノそのまんまであった。
ドミノもどきであるロボットが歩行をやめると突然、両腕をドミノに向けて伸ばしてきた。
伸びた腕はドミノをつかみ、軽々と持ち上げてしまった。
持ち上げられたドミノの体から歯車やねじなどがぽろぽろとこぼれ落ちる。
「こいつぅ!」
ドミノは脚でドミノもどきを蹴り上げた。しかし被害を受けたのはドミノの脚のみで、相手は塗装が剥げるのみにとどまった。
どうやら性能はドミノよりかなり上らしい。ドミノのつま先は潰れてしまった。
もう一度、潰れたつま先で蹴り上げようとするも相手のほうが早く、ドミノは地面におもいっきり叩きつけられた。
衝撃で下半身が胴体からちぎれ、様々なパーツが一斉に散らばった。
不幸中の幸いで頭のほうは無傷に済んだものの、下半身をなくし、その場より動くことさえままならない。
残っているのはほぼ動かない片腕とぼろぼろの上半身のみ。頭部をつぶされるのも時間の問題だった。
いままさに頭部をつぶすためにドミノもどきがゆっくりと動き出した。
見上げる形となったドミノはその威圧感に気圧されてしまう。
あとほんの数歩というところで、2体の間に緒方が割って入ってきた。
破壊されるのを覚悟していたドミノを、緒方は両手を広げて後ろにかばう。
「アンタなんかに、アタシの弟を殺させはしないんだから」
ドミノが良く見ると緒方の手も足も震えている。
「なにやってるんですか?!早く逃げて!」
ドミノが珍しく声を荒上げる。
しかしもう遅い。ドミノもどきは腕をおおきく振り上げていた。どうやら緒方ごとドミノをつぶしてしまうらしい。
緒方は両目をつぶる。
(誰か、お姉ちゃんだけでも助けてください!誰か・・・・教授、教授ぅーーー!!)

11523:2004/10/03(日) 19:56
「はあぁーーっはッはッ!!ハッーーーハッハッ!!」(高いところから逆光を浴びて)
どこからか笑い声が聞こえる。
「あの声はまさか」
ドミノが勘付く。どうやら声に聞き覚えがあるらしい。
ドミノもどきは今まさに振り下ろそうとしていた腕をピタリと止め、ちょっとした混乱を起こした。あまりにも唐突な笑い声に状況を把握できなくなったのだ。
声の主は公園中に鳴り響けとばかりに、笑い続けている。
あたりをキョロキョロと見渡し、ドミノもどきはついに笑い声の発生源を発見した。滑り台の上だ。
声の主は電灯の逆光を浴び、滑り台から飛び降りる。
だらんと長い白衣をはためかせ、声の主はしなやかに地面へと着地した。
声の主はまぎれもなく教授だった。ただいつもの丸いずんぐり眼鏡ではなくサングラスをかけてはいたが。
「ええい!この悪のロボット怪獣め!その子たちから離れやがれ!このプロフェッサーKが相手をしてやる」
プロフェッサーKと名乗る白衣の男はドミノもどきを指差した。
「教授、かっこいい。心なしか口調も変わってるし」
ドミノは自分の置かれている立場を忘れ、興奮していているようだ。
指をさされたドミノもどきは教授のほうに向き直り、攻撃態勢に移った。
「大丈夫か?!そこの心優しき少女と勇敢なロボットよ!」
「教授!きてくれたんですね?!」

11624:2004/10/03(日) 19:56
「私は教授などではない。プロフェッサーミラクルKだ」
「名前を微妙に変える支離滅裂な言動。やっぱり教授だァ」
「だから私はプロフェッサーメガトン・・・・」
教授が改めて名前の言おうとしたのを中断させ、ドミノもどきが目の部分にある歯車から赤いレーザーを撃ってきた。
しかし教授はレーザーをひらりとかわし、腕をドミノもどきに向けて照準を合わせた。
「教授ッ・運動量保存の法則ロケットパァーーーーンチィ!!!」
そう教授が叫ぶと腕がまるでロケットのように飛び出し、見事目標に命中した。
ドミノもどきの胴体に大きな風穴があく。
教授はその後も意味不明の技を繰り出し続け、ドミノもどきを圧倒していく。ドミノもどきは多少なりとも抵抗はしたものの、教授の強さは鬼神のごとくであり、単なるお膳立てにしかならなかった。
「これでラストだ!教授・γ波放射能ビィーーーームッ!!」
最後に胸からよくわからない怪光線を出し、ドミノもどきをあとかたもなく破壊してしまった。
教授はドミノもどきから上がる炎をみつめ、腰に手をあて決めポーズをとっている。
教授の完全な勝利であった。
ドミノはそんな教授の姿を子供のように目をキラキラさせながら観戦し、
一方緒方はそのムチャクチャぶりを悪い夢でも見てるかのように呆然と眺めていた。
満足し尽した様子の教授はくるりとドミノと緒方のほうへ方向転換した。
「大丈夫かい?」
教授は白い歯を見せながらニカッとさわやかに笑い、地面にへたりこんでいる緒方に手をさしのべる。
緒方は少し嫌そうながらも素直にその手を受け取り、立ち上がった。
「ええ、まあ。ドミノくん、こいつ誰なの?」
「最初に自己紹介はしたはずだが?まあいい。私はプロフェッサー」
「この人は教授。ボクの頼れるご主人様です」
ドミノは教授の自己紹介を打ち消し、誇らしげに教授を緒方に紹介した。
教授はバツが悪そうな顔で頭をポリポリとかいた。
「ふ〜ん。その人がキミのご主人様なんだ。確かに変わってるわね」
緒方はヒョロ長い教授の体を上から下まで無遠慮に観察した。
「はい、お遊びはオシマイ。ドォーミノォーー!実験室にぃー帰りまーすよ」
教授はいつのまにかサングラスを元のまん丸眼鏡にかけなおしていた。それに伴い口調も元に戻したようだ。

11725:2004/10/03(日) 19:57
教授はひざまずき、ドミノの頭部に手を触れると、存在の力を流し込み始めた。
するとドミノの身体が淡く緑色に光り、破損箇所が次々と修復されていく。
教授がドミノの体より手を離すと、新品同様のピカピカボディーになったドミノが屹立していた。
「まぁーーーたくっ!!手間をとらせるぅんじゃありーません」
教授はドミノの頬をつねる。新しい体になったドミノにさっそく傷がついた。
「ひたひ!ひたひれす、ひょうひゅ」
ドミノはほんの数時間ぶりの痛みに懐かしさを覚えていた。
教授のイジメから解放されたドミノは緒方に近寄る。
「あの」
「アタシのことは気にしなくてもいいよ。ほらあなたのご主人様が呼んでるわよ」
教授はご近所もさぞ迷惑しているだろう、といった感じの大声を張り上げてドミノを呼んでいた。
その声を聞いてもドミノは動こうとせず、緒方の前でもじもじしているだけだった。
「でも、ボク」
「『でも』じゃないの!キミはアタシの弟なんだから、姉の言うことはきちんと聞きなさい」
緒方はいたずらっ子っぽい笑みを浮かべ、ドミノの額にデコピンをした。ただデコピンで痛がったのはドミノではなく、デコピンを放った緒方であったが。
「・・・わかった。お姉ちゃん。ボク、行くね」
ドミノは後ろをチラ見しつつ教授に駆け寄っていった。
「じゃあね。ドミノくん」
緒方が手を振ると教授とドミノは煙のように姿を消した。
ドミノ達が消えたあともしばらく手を振り続けていた緒方であったが、ふいに手を下ろし、あたりをキョロキョロし始めた。
「あれ?アタシ、こんなところでなにしてたんだろう?学校の校門から出て・・・うーんそっからが思い出せないなぁ。うわ!体がススやオイルまみれじゃないの。早く帰ってシャワー浴びよう」
緒方はなぜここ数時間の記憶が曖昧になったのか、不思議に思いつつも家路を急いだ。

11826:2004/10/03(日) 19:57


暗闇に包まれた部屋。
暗すぎて壁となるものがみあたらない。
コードが各所より伸びている用途のわからない機械や、不気味な色をした液体が入った水槽やらが無茶苦茶な配列で並んでいる。まるでこの部屋の住人の性格を表わしているみたいだ。
そこに二つの影があった。一つはヒョロ長く、一つはまん丸い大きな影だった。
「そうなんですか。彼女の記憶を消しちゃったんですか」
「当ぁたりまえーじゃないですか。これから大事ぃーな大事ぃーな実験があるのです。それに支障があったらこまぁーりますからね」
教授は御崎市全体に自在式をかけ、ドミノを目撃した人物の記憶を操作した。確かにドミノの記憶は人々からなくなっていたが、副作用としてドミノと接触したときから前後数時間の記憶まで消し去っていた。
落胆をしたドミノであったが気持ちを切り替え、ずっと疑問に感じていたことを教授に話す。
「ところで教授、あのボクと同じタイプの燐子はなんだったんでしょうかね?誰か教授の技術を盗んだとか」
「んーーん?不正――――解!あれは天才であるこぉーの私が作りました。私の技術がそーーーう簡単にぃぬぅすめるわけないじゃなーーいですか!」
「ひはいひはひ、じゃあなんであんなもの作ったんですか?」
「特撮ヒーローごっこがやりたかっただけです。ほかになぁーーんの理由がありますか?」
「じゃあボクは教授のお遊びでスクラップ寸前になったっていうんですか?!」
ドミノは頭から湯気を出しながら教授に詰め寄った。
「お遊びじゃありません!知的欲求ぅを満たすための大ぃー事なことですよ?」
しれっと余裕の表情で教授は言い訳をする。いや教授には言い訳のつもりはないのかもしれない。
「もう!教授のバカー!こうなったらまた家出して、今度こそ新しいご主人様を見つけてやるぅー!」

119ラスト:2004/10/03(日) 19:59
「ねえねえオガタ。ミサゴ祭り一緒にいかない?」
「ゴメン!アタシはその日、やらなきゃいけない大切なことがあるの」
「大切なこと?」
「そうなの。昔、弟みたいな子に教えられた気がするの。『欲しいものは奪ってでも手に入れる。どんなに困難でも』って。だからミサゴ祭りで勝負するの」
「?ふ〜ん。よくわからないけど、しゃーないか。オガタは決めたら意地でもまげないから」
「うん。ゴメンね」
比較的仲がよいクラスメートが緒方の机から離れていった。彼女は緒方にミサゴ祭りの誘いを断られたため、別の友人を誘う真っ最中。その様子を横目で見ていた緒方は内心申し訳ないことをした、と反省しつつも決心をより一層深いものにした。
ミサゴ祭りで田中に告白するんだ。もう決めたから。
うだるような暑さに負けじと、緒方はひとり燃えていた。
季節は夏。学校の外ではミサゴ祭りの準備で賑わっていた

120シャナとバレンタイン:2005/02/19(土) 17:00:16
今日から2月。まだまだ寒いこの季節、しかしそこはあつかった。
そこは騒がしい。何か事件でも起こったみたいに皆騒いでいる。それも女の子ばかり。
聞こえてくる会話はすべて2月のあの日についてだ。
それが何なのか、考えても思いつかない女の子がいた。
シャナだ。彼女は世間を知らなすぎる。クリスマスも知らなかった。
そのことを考えれば、シャナが2月14日が何の日か、知っているはずがない。
案の定、シャナは少し怪訝な顔をして聞いてくる。
「ねぇ悠二、2月に何かあるの?」
「え……ど、どうして?」
「だって皆話してる。2月14日は大変とか、がんばる、とか……心当たりない?」
もちろんある。2月14日はバレンタインデー。聖バレンタインが処刑された日らしいが、そんなこと悠二にとってはどうでもいいことだ。
問題なのはその日に、女の子が好きな男に告白をし、チョコレートを渡す習慣があること。
そのことを果たして男の口から女の子に言っていいことなのかがわからない。
言ってしまったら、まるでチョコを頂戴、と言っているようなものではないのか、と悠二は思っていた。
今までにチョコを貰ったことはあるが、もちろんすべて義理チョコだ。
しかし今年は去年までと違う。自分のことを好きと言ってくれた女の子がいる。
もう日常には戻れない自分を好きと言ってくれた。
教室の前のほうにいる女子の団体、その中の一人を見つめる。
半年ほど前は、彼女は消極的であまり友達とも話しをしていない感じだったが、今は積極的に自分から会話の輪の中に入っていた。
何秒そうしていたのだろうか、吉田さんを見ている自分を、シャナが見ていた。それも眉を吊り上げて。
「いま、吉田一美を見てたでしょう……」
「み、みてないよ」
「うそ!あっち見ながらニヤニヤしてた!……今は私と話してるの、だから……だから私だけをみて……」
「え、何?」
最後の方がうまく聞き取れなかった。
「な、なんでもない!それより2月14日はなんの日なの!?」
それ以上の追求は許さない、と言っているようだった。
「えーと、僕じゃなくて他の人に聞いたら?吉田さ……母さんとか」
「千草に?」
「うん。母さんなら詳しく知っているし、教えてくれると思うよ。それにカルメルさんもいるし……」
ヴィルヘルミナ・カルメル。彼女はかつて悠二を破壊しようとしたが、シャナと悠二、それに悠二の父・貫太郎の助力もあって、なんとか食い止めた。
そのまま彼女は坂井家に居つき、シャナと一緒に悠二の鍛錬を付き合ったりしていた。
夏休み終わり頃になって、どこか行ってしまったが、正月にはまた戻ってきていた。
シャナは少し考えて、
「じゃあそうする」と言った。

121シャナとバレンタインその2:2005/02/19(土) 17:01:10
その日の夜、悠二がお風呂に入っている間に、今朝の疑問を聞いてみようと居間に向かった。
しかしそこには千草の姿はなく、ヴィルヘルミナしかいない。
「ヴィルヘルミナ、千草知らない?」
「奥様は厠(かわや)に行っているのであります」
「おトイレかあ……じゃあヴィルヘルミナでもいいや。」
「なんでありますか?」
「2月14日に何があるのか知ってる?」
「え……?」
「悠二に聞いたんだけど、千草のほうが詳しいって言うから……でもヴィルヘルミナも知ってるよね」
「そ、それは……その……」
ヴィルヘルミナはこの世に生まれて数百年、最近はアジア近辺によくいるので、バレンタインデーというものを知っている。
しかしこれを口にするのは抵抗がある。
彼女をこんな風に育てのはヴィルヘルミナなのだ、だからヴィルヘルミナは彼女の見本でなければならない。
悠二破壊の件で、ヴィルヘルミナがフレイムヘイズらしからぬ理由で動いていることはバレてしまったが、
それでもまだ彼女はヴィルヘルミナを尊敬してくれている。
だからこそ知られるわけにはいかない。こんな俗世なことを知っている自分を。
ヴィルヘルミナはそう考えていた。
(くっ、奥様が早く戻ってくるのを願うのであります)
(無力)
(う、うるさいので、あります……)
声を使わない自在法で、相方のティアマトーにたしなめられる。
「……どうしたの?」
「な、なんでもないのであります……」
「ふーん、それで2月14日のことなんだけど……」
「あら、シャナちゃん、どうしたの?」
丁度いいタイミングで千草が戻ってきた。
(ふぅ、助かったのであります)
(……)
(なんでありますか?)
(無様)
(……)
ヴィルヘルミナが、本日2度目の説教?をされている頃、シャナはすでに千草と話し込んでいた。

122シャナとバレンタインその3:2005/02/19(土) 17:01:45
「2月14日?」
「うん、何があるの?」
「2月14日といえば、バレンタインの日ね」
「ばれんたいん?」
「そうよ、女性が好きな男性にチョコレートを贈る慣習がある日なの」
「え……」
シャナは絶句していた。
いつもならどうしてそんな慣習があるのか問いただすところだが、今のシャナにはそんな余裕はなかった。
(女性が好きな男性にチョコレートを贈る……女性が好きな男性に……好きな男性……大好きな……悠二……)
「シャナちゃん?」
じっとだまるシャナを不思議に思った千草だったが、もはやシャナの思考は悠二のことで一杯だった。
しかし同時に気付いたこともあった。
(吉田一美も……だめ、絶対駄目……悠二は渡さない!!)
居ても立っても居られなくなったシャナは、
「千草、何をすればいいのか教えて!」
突然生き返った様に喋り出すシャナを、千草は微笑ましく感じた。
「それじゃあまず、チョコレートを買いにいかないとね」
「吉田一美には負けない……」
「まあ、ふふふ」
「あ、千草は貫太郎のこと好きなんでしょ、チョコレートあげないの?」
いきなりそんなことを言われ、驚いた千草だったが、
「ええそうね、貫太郎さんの分のチョコレートを作っておかないとね」
そう言う千草は少し照れていたようだが、とてもうれしそうな顔をしていた。
この日から千草の料理教室が始まった。
もちろんシャナが大苦戦しているのは言うまでもない。

123シャナとバレンタインその4:2005/02/19(土) 17:02:30
バレンタイン前日の夜、平井家のベランダで、シャナが物思いに耽っていた。
(明日はとうとうバレンタイン……)
ここ2週間ほど、毎日千草に料理を教わっていた。
初めのうちは、黒いチョコレートが、さらに黒くなるばかりだったが、段々上手になってきた。
中でも、昨日作ったシャナ特性チョコメロンパンは、会心の出来だった。
メロンパンの表面にチョコをかけ、カリカリチョコ風味にし、
中身のモフモフ部分を少しだけくり抜いて、そこにチョコムースを注入したものだった。
もちろんシャナ一人でそんなことができるはずもなく、千草の助力も得て、やっと出来たのだ。
(吉田一美よりも先にこれを渡して、悠二が私の物だって言ってやるんだから)
今度こそ吉田一美より早く悠二に言う。
もう、あんな思いをするのは嫌だった。
シャナは手に持っている綺麗に装飾された箱を大事に抱え、明日のことを考えた。
「悠二……私のチョコを貰ってくれるよね……?」
夜空に問いかけるシャナだが、誰も答えてはくれなかった……。

シャナはバレンタインを少しだけ勘違いしていた。

バレンタイン当日の朝、2階の部屋で、坂井悠二はどきどきしていた。
もちろん今日がバレンタインだからだ。
ここ最近、シャナと千草が台所にこもっているのを知っている。
そうとわかれば、やはり期待してしまう。
今年は吉田から貰えるだろうし、シャナからも貰えるらしい。
ピンポーン
シャナが来たらしい、会うのは少し緊張してしまう。
(いきなりチョコ渡されたりするのかな?)
そんなことを考えながら階段を降りていった。

124シャナとバレンタインその5:2005/02/19(土) 17:02:56
もの凄く緊張する。
ここまでどきどきするのは久しぶりだ。
(悠二が出て来たらすぐに渡そう)
坂井家のチャイムを鳴らす指が震える。
ピンポーン
「ふう、大丈夫……悠二なら貰ってくれる」
家の中から音が聞こえてくる。おそらく2階から降りてきているのだろう。
そのとき、ふと千草の言葉を思い出した。
「女性が好きな男性にチョコレートを贈る慣習がある日なの」
「!?」
(これを渡したら、私が悠二を好きだってことが悠二に知られてしまう……)
吉田一美に負けまいと、がんばったのだが、そのことをすっかり忘れていたのである。
(どうしよう、私は悠二が好き……でも……)
「おはよう、シャナ」
いつの間にか悠二が目の前にいた。
「!!……お、おはよ……」
(渡さなきゃ……)
「悠……二……あの……」
「な、なに」
悠二の顔を見る。私の大好きな顔。悠二の顔も少しだけ赤い。
もしかしたら期待してくれているのかも。そう思うと、とても嬉しかった。
とてもじゃないけど、悠二の顔を正面から見れない。
自分の顔が赤くなるのがわかる。
「う〜〜〜」
「しゃ、シャナ?どうしたの?」
「やっぱり駄目!」
シャナは歩き出した。
後ろから悠二が追いかけてくる。
「シャナ、どうしたんだよ」
「う、うるさいうるさいうるさい!なんでもない!」
こんな顔を見られたくなかった。真っ赤になった自分の顔を。

125シャナとバレンタインその6:2005/02/19(土) 17:03:24
学校では皆がそわそわしていた。
下駄箱を注意深く見ている者、机の中に手を入れている者。
それぞれが一喜一憂していた。
吉田一美を見る。彼女もまた、そわそわしていた。ちらちらと悠二を見ている。
(大丈夫、吉田一美はまだ渡してない。……よし、お昼に渡そう)
シャナは決心した。
「悠二」
「なに?」
「お昼に……屋上に来て……」
「え……わ、わかった」
シャナはそれきり悠二を見ない。悠二もまたシャナを見ない。
その様子を、彼女が見ていたのを、シャナは気付かなかった。

お昼休み、シャナはトイレにいた。
フレイムヘイズにトイレは必要ない。シャナは自分の心を落ち着かせていた。
(今度こそ渡さなきゃ……)
シャナはトイレを出て、そのまま屋上に行こうとしたが、一度教室に戻ることにした。
(悠二はもう行ったかな)
教室を見回してみたが、どこにも悠二の姿はない。
どうやらすでに屋上に向かったらしい。
自分も屋上に向かおうとしたとき、気付いた。
そこに、吉田一美の姿がなかった。
あの時感じた、嫌な気分と不吉な予感を、今まさに感じていた。

126シャナとバレンタインその7:2005/02/19(土) 17:04:03
お昼休み、悠二は約束通り屋上にいた。
(シャナ、もしかしてチョコくれるのかな)
朝、シャナが何か言いかけた言葉は、もしかしたらチョコのことじゃないのか?
だが、いざというときに渡せなくなってしまい、だから今、自分をここに呼んだのではないか?
そう考えると、心が躍る。
フェンスにつかまり、外の景色を見る。
いつかこの街を出る、と決心してから随分たった。
しかし自分はまだここにいる。
仮装舞踏会は未だに動いてこないし、『約束の二人』の傍ら、“彩飄”フィレスも現れる様子もない。
まさに平和そのものだった。
(この平和がずっと続けばいいのに……)
後ろで扉が開く音がした。
(来た!!)
悠二は内心どきどきしながら、それが表に出ないようにしながら振り向いた。
「よ、吉田さん!どうしてここに……」
そこにはシャナの姿はなく、代わりに吉田の姿があった。
「あ、あの……朝、話しているのが聞こえてきて、それで……お昼に屋上だって言ってたから……」
まさか吉田が来るとは思っていなかった悠二は、呆然とした。
しかもその手には、鞄を持っている。
「あの、来たらいけなかったでしょうか?」
「い、いや、そんなことないよ、全然」
すっかり動転した悠二は思わずそう口にした。
吉田はキョロキョロしている。どうやら周りにシャナがいないか確かめているようだ。

127シャナとバレンタインその8:2005/02/19(土) 17:04:28
「シャナちゃんはまだ来てないんですか?」
「う、うん」
「そうですか……」
一瞬笑顔を浮かべ、残念そうな顔をする。そして少し考える風な顔をして、
「あの、それじゃあ今の内に渡したいものがあるんです……いいですか」
2月14日バレンタイン、女の子から、それも自分の事を好きだと言ってくれた女の子から渡されるのは、一つしかない。
バレンタインチョコレート。しかも本命。
これで義理チョコしか貰えなかった去年とは違い、今年は、いわゆる世間一般で言われる勝ち組になれそうだった。
「坂井君……これを……」
一歩前に出て、白い無地の包装にピンクのリボンが結ってあるシンプルなデザインの箱を両手で持って、差し出してくる。
こんな時、何を言えばいいのかさっぱりわからない悠二は、簡潔に一言だけ言った。
「……ありがとう」
彼女が持っている箱を受け取る。
「あ、あの、おいしくはないかもしれないんですけど……」
「大丈夫だよ。いつも美味しい弁当を作ってくれるじゃないか、そんな心配はしてないよ」
「お弁当とお菓子じゃ勝手が違います。それに……すごく緊張しました」
二人の間に妙な沈黙が訪れる。
「あ、それじゃあ私はこれで。シャナちゃんにもよろしく言っておいてください」
「うん。チョコレート、本当にありがとう」
「どういたしまして」
教室に戻ろうと扉を見た吉田は驚いた。
その様子を怪訝に思った悠二は、吉田の横から扉を見る。
「シャナ……」
扉のノブを左手で掴み、右手には鞄を持っている格好で固まっていた。
それも顔を真っ青にして。

128シャナとバレンタインその9:2005/02/19(土) 17:05:02
シャナは信じられないような目で、悠二が持っている箱と、少女を見た。
状況から考えれば、その箱が何なのか、またそれを誰が渡したのか容易に察しがつく。
「どう、して……」
搾り出す様に発せられた声はとても弱く、注意していなければ聞こえないほどだ。
「な、んで……また、こうなるの?」
「シャナ……」
「っ!?」
悠二が近づこうとしたその時、シャナは飛んで行ってしまった。
「シャナ、どうしたんだよ……」
追いかけようとも思ったが、文字通り飛んで行ってしまったので、追いかけるのは無理だ。
そんな悠二を気遣ってか、吉田は優しく話しかける。
「坂井君……」
「大丈夫だよ。シャナは何か勘違いをしてるんだよ、きっと」
「……」
悠二に悪気はないのだろうが、吉田は今の言葉に少し傷ついた。
「そろそろ戻ろう。もうすぐ昼休みも終わるから」
「でも、シャナちゃんはどうするんですか。あのままほっておくんですか?」
「どこか飛んで行っちゃったんだ。追いかけるのは無理だよ。」
(それに夜になれば帰ってくるはずだ)
「わかりました……」
お昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

正午過ぎ、買い物に出掛け、その帰宅途中の千草は驚いた。
シャナが一人で歩いているのだ。
今は学校に行っている時間で、こんな所にいるのはおかしい。それに様子も少し変だ。
うつむき加減で歩いている少女は、いつもの凛々しい姿がどこにもなかった。
何事かと思い、千草は駆け寄ってシャナに話しかけた。
「どうしたのシャナちゃん」
優しく、様子を見るように喋る千草を見上げた少女は、瞳が潤んでいた。
「千草……また……また、悠二を取られちゃった……」
これではまるであの時と、ミサゴ祭りの時と同じ。
「私……全然、だめだね……何にも、言えなかった……」
「シャナちゃんっ」
千草はシャナをその胸に抱きしめた。
「なんで、私だけ……ひっく……ぐすっ」
千草に抱きしめられ、安心したのか、シャナの瞳に涙が溢れてくる。
「う、ううううう……」
「シャナちゃん……大丈夫よ……」

129シャナとバレンタインその10:2005/02/19(土) 17:05:29
坂井家の居間、今は泣き止んだシャナの向かいに千草がいる。
千草がお茶を入れながら聞く。
「シャナちゃん、何があったのか詳しく聞かせて」
「……うん」
千草がシャナの前にお茶を置く。
シャナは少しずつ語り始めた。
朝にチョコを渡そうとして渡せなかったこと。お昼に渡そうと思っていたこと。
吉田がチョコを渡していたこと、悠二がそれを受け取ったこと。それを見て逃げ出したこと。
一通りの話を千草は静かに、それでいて真剣に聞いていた。
「私……これからどうしたらいいのかな……」
いつかはこの街を出なければならない。
その時に悠二に嫌われたままだったら、とてもじゃないが一緒に旅をすることなんてできない。
シャナにとっては、それが“これから”なのだが、千草はその事を知らない。
「あのねシャナちゃん、一ついいこと教えてあげる」
「いいこと?」
千草は笑みを浮かべて、
「バレンタインはね、順番なんか関係ないのよ」
「え……」
「一番に渡したからといって、何がどうこうなるわけじゃないの。それにチョコを受け取ったからといって、その人が相手の子を好きだってことじゃないの」
「そう、なの?」
「そうよ。贈り物には少なからず想いが込められているの。それを受け取らないなんてそんな失礼な話はないでしょう。まして込められているのが愛情だとしたら尚更だわ」
「じゃあ……」
「だからねシャナちゃん、もっと自信を持って。悠ちゃんが帰ってきたら、ちゃんとチョコを渡しなさいね」
「うんっ。ありがとう、千草!!」
シャナの顔はもう曇っていなかった。今は太陽の様に輝いている。

130シャナとバレンタイン 最後:2005/02/19(土) 17:05:59
学校が終わり、今はもう家のすぐ近くまで来ている。
今年は数こそ去年とあまり変わりがないが、本命チョコが一つだけある。
しかし一番驚いたのは、あの『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーがチョコをくれたことだった。
「僕に何か用があるのか?」
「はい、これ」
「え……これはチョコ?」
「そうよ」
「なんで僕に……」
「うーん、そうねぇ……あんた達には色々世話になったしね。ま、義理チョコってやつよ」
「ヒー、ハッハッハー!もう少し素直になったらどうだ!我が強情なるブッ!?」
マージョリーは乱暴に“グリモア”をぶっ叩いてマルコシアスを黙らせる。
「じゃ、そうゆうわけだから」
それだけ言って、マージョリーはどこかに行ってしまった。
「まさかあの人から貰えるなんて、思ってもみなかったな……」
そうこう考えている内に、我が家まで辿りついたようだ。
「ただいまー」
「お帰りなさい、悠ちゃん」
千草がにこにこしながら出迎える。
こうゆう場合は大抵なにかある時だと、わかっていた悠二は少し身構える。
「悠ちゃん。シャナちゃんが来てるわよ」
「えっ!?」
「悠ちゃんの部屋にいるはずだから、早く行ってあげなさい」
「う、うん」
何かあると睨んでいた悠二だったが、まさか飛んで行ってしまったシャナがいるとは思わなかった。
(怒っているかな……シャナ)
ここで考えても埒が明かないので、勇気を出して、扉を開ける。
そこには、ほっぺを膨らまし、横を向いて椅子に座っているシャナがいた。
「えっと、シャナ……」
呼びかけるが、シャナは何も反応しない。横を向いたままだ。
怒っているのかと思い、シャナの顔色を伺う。
いかにも怒ってます、という様な顔をしているシャナだが、どことなく嬉しそうだ。
じっと見ていると、シャナがこっちをちらちらと見ているのが分かる。
何故だか知らないがシャナの顔がどんどん赤くなっていく。
こうして見ると、夕焼けが反射している髪が炎髪灼眼を連想させ、とても綺麗だ。
夕焼けを映している瞳も、見ているだけで吸い込まれそうなほど……
「って……しゃ、シャナ!?」
いつの間にかシャナが目の前にいた。
シャナの顔をじっと見ていた悠二は、シャナが動いたことに気付いていなかった。
(どうりで吸い込まれそうになるわけだ)
と、悠二が意味不明なことを思っている内に、シャナがもじもじしながら上目遣いでこっちを伺っている。
(うっ……か、可愛い……)
「ゆ、悠二っ……これあげる!!」
ウサギが書いてある箱を悠二に突きつける。
「これって……」
「きょ、今日はばれんたいんでしょ。だから、その……う、嬉しく受け取りなさい!!」
めちゃくちゃな事を言うシャナに、悠二は可笑しさが込み上げてくる。
「は、ははは……」
「な、何が可笑しいのよ!?」
「いや、なんかシャナが可愛くってさ……チョコ、くれてありがとう」
「!?」
悠二が無意識に発した「可愛い」という単語に、シャナは恥ずかしくなった。
「う、うるさいうるさいうるさい!」
「何を怒っているんだよシャナ?」
「いいから早くそれ食べなさい!」
「わ、わかったよ」
包みを開け、蓋を取る。
中にはチョコレートがぎっしり詰まっていた。
ハート型、星型、などなど色々あるが、中でも目を引くのが真ん中にある巨大な丸いチョコ。
(これは……なんだ?)
手にとってみると、少し柔らかい。それにどかで見たことがある様な形である。
目を丸くする悠二に、シャナが言う。
「それはね、特性メロンパンなの!私が一番美味しいと思うメロンパンにチョコかけたの。名付けてチョコメロンパンよ。どう?とっても美味しそうでしょ?」
「チョコメロンパンって、そのままじゃないか……」
と言いつつ、食べてみる。
うん、チョコメロンパンの味だ。まあ、シャナに料理はあまり期待してはいない。
「美味しいよ、シャナ」
「違うでしょ!」
いきなり怒り出すシャナ。悠二にはその理由がわからない。
(美味しいって言っちゃいけなかったのかな?)
「カリカリの部分とモフモフの部分を交互に食べるの。前にいったでしょ!」
全然わけがわからなかった。
「シャナはメロンパンの事になると必死だね」
「悠二には関係ないでしょ!あ、ほら、また違う。カリカリの次はモフモフ!」
「そんなこと言ったって難しいよ」
「馬鹿っ、そんなことじゃメロンパンが可哀相でしょ。もっと美味しく食べなさい」
「はいはい、わかったよ……」

今年は慌ただしいバレンタインだったが、いつまでもこんな“日常”が続くといいな、と思う悠二であった。
そう思う一方で、バレンタインというイベントは今年で最後だろうと思う自分もいる。
平和はいつまでも続かない。悠二がいる世界は“非日常”なのだから。

131名無しさん:2005/02/19(土) 23:28:59
萌え小説を有り難う

132名無しさん:2005/02/20(日) 02:57:17
融かして固めるだけで作れるチョコで苦戦するかなあ。俺でも作れたぞ。

だがそれが良い。

133名無しさん:2005/05/17(火) 23:53:00
萌えた萌えた。ありがとう

134名無しさん:2005/10/09(日) 16:28:33
今更だが >>76の続きが気になる・・・

135名無しさん ◆PSbzh40Y5M:2005/10/17(月) 19:13:00
>>134
(・∀・)

136名無しさん ◆PSbzh40Y5M:2005/10/17(月) 19:14:26
>>134
(・∀・)

137Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:18:27
バイト中になんとなく思いついたのを投下をば。

今日も坂井家の屋根上での鍛錬の予定・・・だったはずだが、シャナの一言

「今日はちょっと疲れたし、それに・・・眠い・・・・・・」

それだけの理由で、今日に限って寝室で鍛錬をやる事になった。

無論、室内でも屋外でも何ら変わりはない。屋外の方が集中出来るだけの事だった。



二人とも寝巻き姿で時刻は0時前。まだ数分程時間はある。

それにしても、シャナが疲れるなんて珍しいな。

トラックを何週しても汗ひとつ掻かないのに・・・

否定する理由もないので疑問に思いながらも軽く頷いた。

ベットの上で座りながら器用に黒笠を纏い、お互いの手を握る。

いつもより異常に手が熱かった気がした。些細な事を思っていると

「封・・・ぜ・・・・・・」

シャナの言葉が途切れた。そのまま脱力したように悠二の胸へと倒れ込んだ。

「シャナ?!」

「・・・はぁ・・・・っ・・・・ゅ・・う・・・じ・・・」

心配を兼ねた上、シャナの頭を片手で抱えたまま覗き込むと、真っ赤である。

異常なまでの赤さではあったが、額に手を当てると、どうやらただの熱のようだ。

内心ちょっと安心した。もし死ぬような事だったりすれば、どれだけパニクっていたか・・・・

「ただの熱・・・かな?」

シャナと胸にあるコキュートス、アラストールに声を掛ける。

シャナが何か言いたげな顔をしているが、目の焦点が合ってない上に微かに震えている。

「む・・・これまで病気になった事はなかったが・・・・・これが熱という病気なのか」

アラストールも疑問に思う。病気になった人間など見た事がないという口調で、それもフレイムヘイズと来たらそりゃあ。

抱えていたシャナをゆっくりとベットへ寝かせ、毛布を掛ける。

138Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:21:18
僅かに震えは止まったように見えたが赤さと握ったままの手の体温の熱さが下がらない。
フレイムヘイズの処置の仕方はわからないけど、元人間だし、看病してゆっくり寝てれば治るかな?
洗面所へ行こうとして、ベットから音を立てずに降りる。
シャナが手を離したがらないように握り締めてくる。それを見た悠二はシャナの手を両手で包んでいた。
「大丈夫だよ。すぐに来るから」
「──・・・ん・・・・・・」
そう言うと握っていた手の力が抜けていった。微かに笑いながら、頬の赤みが増したのは気のせいだろう。
居なくなった悠二を確認すると、アラストールが心配そうに声を掛ける。
(大丈夫か?シャナよ)
(う・・・うん・・・)
声も出せない程苦しい。今の状態でまともに会話するには、二人の間にある自在法を介して言う事しかなかった。
(我が奥方と話をしている間に、何かあったのか?)
(別に何も・・・あれから悠二とパン屋行った位しか思い浮かばないけど・・・・・・)
悠二と一緒に帰宅して悠二の母、坂井千草がいきなり アラストールとまた話がしたい。と言って来た。
また保護者同士(?)の世間話だろう。そう思っていたので既にコキュートス内臓の携帯電話を予め準備していた。
・・・帰宅途中に携帯に入れる事自体が既に日課になっているが。
とはいえ、帰宅して毎日携帯電話を渡している気がする。一体毎日何を会話しているのか。
深く考える思考能力もない。頭が熱を起こし、疲れの溜息を大きく吐く。
考えるよりも、当の本人がいる訳だし、聞いた方が早い。
(それにしてもアラストール、千草と毎日何を話してるの?)
コキュートスが揺れた(気がした。)
しばらく奇妙な間が開いてるうちに、二階へ上ってくる足音が聞こえてくる。
(む、そ、それは・・・いや、その・・・うーむ・・・・・・)
救いの船というべきなのか、悠二が洗面器と体温計を持って部屋に戻って来た。
「お待たせ、ってもう寝ちゃったかな・・・」
扉をゆっくりと閉め、ベットへと近づく。呼吸も熱も荒かったが、先程よりは落ち着いている。
未だ顔が赤い事に変わりはないが。
起きてたのが救いか、体温計をシャナへと手渡した。
「じゃ、計り終わったら教えてね、何か温かい物でも作ってくるよ」
そう言って洗面器を地面に置いて立ち上がろうとするが、不意にコキュートスから声が出る。
「坂井悠二、シャナが呼んでいるぞ」
「え?」
頭に疑問符を抱えたまま、ベットを覗き込む。

139Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:23:22
体温計は持ったまま手は動いていない。手をあげるのも辛いのだろうか?
(アラス・・・ト──悠二─に───────・・・って)
(む、・・・・・・・承知した・・・)
渋々何かを承諾したが、悠二はコキュートスとシャナを交互に見つめたままだ。
何か言葉を待っていたが、シャナは息苦しそうだし・・・
思っていた途端にアラストールから声が掛かった。
「体温計を入れる力もない、貴様にやって欲しいとの事だ」
悠二は特に動揺もせず、シャナの手に止まる体温計に手を差し伸べた。
「うん、分かったよ」
(悠・・・二?)
ちょっとくらい躊躇ってくれてもいいじゃない、
そんなに私って魅力ないの・・・?
心の底でネガティブに勝手に妄想していたが、悠二の顔を見た途端にそんな考えは消えてしまった。
シャナの寝巻きの胸のボタンを開け、体温計を入れている最中の悠二の顔。
必死に自分の事を想ってくれている、見守ってくれている、元気になって欲しいと願っている、助けようとしている。
やらしい考えも微塵としていない・・・ちょっとはして欲しいとも思ったけれども。
そこにいるのは、坂井悠二。
いつもより凛々しく、格好よく見えた。
手をずっと握って、もっと私を───
冷たいタオルが額に当たる頃には意識は薄れていた。
「ふぅ・・・」
地面に座り、シャナが寝ているベットを背もたれにしてようやく一息ついた、との安堵の溜息。
正直シャナが病気になるなんて思った事もなかったよ・・・
「フレイムヘイズたりとも、人間だという事に変わりはない。それは覚えておけ」
無意識に口に出ていたのか、アラストールが返答していた。
「それにしても、何が原因だったんだ?」
「・・・それが解ったら苦労はせぬ」
「うーん・・・様子が変だったのは、鍛錬する前くらいしか・・・」
当ても答えもないと思った様子に、アラストールが小さめに声を掛ける。
「今は原因を探るより、目の前の病人を助けるのが先決だろう。それに治す方法なら・・・多分ある」
「ふーん・・・って!あるならある・・・・って言ってくれよ・・・」
思わず声が大きくなりそうな所を抑えつつもアラストールに軽く怒鳴るように問う。
しかしあるなら本当に早く言ってくれてもよかったのに。
「そう怒鳴るでない。我かて、今思いついたのだ。効果はあるかは知らんが・・・試す価値はあるだろう」
「何をするんだ?」
疑問に思いつつもコキュートスを見つめる。シャナの為に出来る事なら何でもやろうじゃないか。
「理論的に存在の力を多少分け与えればいいはずだ」
「存在の力を?」

140Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:24:17
「うむ、存在の力が蝕まれているからこそ、病気になっているはずだろう。休めば元通りにはなるが、ないに越した事はない」
「確かにそうだな・・・」
わかったような解らないような。零時迷子もあるし、多少分け与えても大丈夫かな?
気が付けば安眠しているシャナの手を握っていた。
というよりさっきからずっとだが。
存在の力のコントロールはシャナから既に教わっている。
身の底から出すように、手から足から頭から体からゆっくりと握っている手へと流し込むイメージを創る。
胸の中の何かが削がれる状態にはなったが、自分は、さほど何も変わらない。
一方のシャナは血色が良くなり、スースーと安らかな呼吸音とともに赤みも引いている。
それを見て安心したせいか、再び地面に座ったままベットを背もたれにする。
握っている手も熱い、から、温かいへ変わっている。
「はぁ・・・目に見えるほど効果があるとは思わなかったよ」
「存在の力故、当然だ」
理論的に、先程思いついた、とか言っていた時点で当然などと言われても。
口に出しはしなかった。何かしらうだうだ言われそうなのが嫌だったから。それにシャナがそれで目覚めそうだったから。
今はとりあえず、握った手を離さずに、一日、とはいっても数時間だが、見守ろう。
悠二は器用にシャナの手を握り、座ったまま睡眠へ堕ちた。
寝る事が出来ないアラストールを除き、家の者は全員寝静まっていた。
時は一刻程過ぎ、丁度零時になる。
「・・・・・・」
コキュートスの見える位置から時計を見渡す。
もう零時のはずである。
一向に悠二の灯が回復しない。
そう、零時迷子が発動しなかった。
「・・・どういう事だ・・・?」
静まった部屋の中、一人疑問に思う王、アラストール。
夜はまだまだ長い。

141Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:26:04
あれから回復はしなかった。
いや、したといえばしたのだが、それは寝た上での回復であって、
零時迷子で回復はしていないのだ。
結局ずっと考えていたアラストールだが、何一つわからないままであった。
「う・・・・む・・・・・・ん・・・」
アラストールの考え込んでいた低い声が目覚まし代わりとなったのか、シャナの目が覚める。
病気という事もあって朝の鍛錬は勝手になしという事になっていた。既に時刻は鍛錬が終わった頃の時刻だが。
部屋を見渡すと悠二が居ない。ベットからとりあえず足を下ろそうとすると、骨の鈍い音が響いた。
足先に悠二がいた。うっかり蹴りを入れてしまったにも関わらず、まだ目が覚めない模様だ。
座ったまま寝ている事にも驚きだが、蹴りを入れられて目が覚めない事の方がシャナにとっては驚きだった。
無意識に足が当たったとしても、シャナは常時無意識に存在の力が多少込められている。
その足が当たったのに目覚めない。痛がる様子も全くない。当たったのか?と気になる程だ。
目が覚めないなら、さほど痛くなかったのだろう、そう思い、次の考えの処理を始めた。
下ろした先に悠二の頭があった。それを見てシャナが昨夜の事を走馬灯のように思い出す。
(そういえば、あれからずっと看病してくれてたの・・・?)
その証拠に、手はずっと握ったままである。
手の中が温かい。離したくない程に温かかった。
ゆっくりと顔を覗き込むと、スースーと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。
寝ているにも関わらず、手を離そうとしない悠二。
その握り強さが締め付けられるように嬉しかった。
ずっと見守ってくれていた事にも嬉しさが走った。
気が付けば目が潤んで前が見えない。
寝巻きの端で拭うと、想いが勝手にだろうか、右手は握ったまま悠二を後ろから抱きしめていた。
ピッタリと密着し、悠二の顔の前で手を襷掛けの様に手を交差させて、耳元で囁いた。
「悠二・・・ありがとう・・・」
頬と頬が触れ合う。交差させていた手は、強く想っていたせいか、握る力も次第に強くなり、徐々にチョークスリーパーへとなっ

ていく。
流石に苦しくなったせいか、目が覚めた悠二は突如生死を彷徨うはめになる。
「あ・・・がっ・・・ジャ・・ナ"・・・ぐる・・じ・・・・死ぃぬう"・・・・」
「えっ、あ!ご、ごめん!」
思わず慌てて飛びのき、口調の慌てぶりも止まらない。
面が蒼白な程握り締められていたが、一命を取り留めた。
へこんだ喉仏を抑えながら、ベットがある後ろへ体ごと振り返る
「ふぁ・・・ん・・・?なんだ、元気そうじゃないか、シャナ?」
眠そうな目を擦りながら、生あくびを出す。
それを見て思わず微笑が漏れる口を手で押さえた。
「う・・・ん、治ったよ。ありがと・・・う、悠二・・・」
目をちろちろ合わせつつ、逸らしつつ尻すぼみに答えている。
不振に思ったのか、悠二は途端に目が覚め、シャナの顔が再び赤くなっている事に気付く。
思わずベットに飛び乗って、心配そうにシャナの額に手を当てる。

142Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:27:56
「本当に大丈夫?まだ顔が熱い・・・というか赤いんだけドッ?!」
思わず両手に存在の力を込めて突き出し、悠二を吹っ飛ばしてしまった。
吹っ飛んだ先に椅子があったのは不幸中の幸いか、うまく座るように事が運び、無傷で済んだ。
「痛つつ・・・もう大丈夫そうだね」
それでも心配してくれている悠二に、目から何かが漏れそうになった。
悠二が時計を見ている合間にそれを手の甲でふき取る。
「っと、シャナ、学校遅れるよ?」
「うん」
部屋を後にし、学校への支度をする悠二とシャナ。胸にはコキュートス、アラストールが未だに考え込んでいる。
勿論、零時迷子が発動しなかったのと、アラストールがずっと考え込んでいる等と言う事は、二人は知る由もなかった。
「・・・あ、でも朝風呂は入るわよ」
「はいはい」

143Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:28:18
「いってらっしゃい」
千草の声が玄関から伝わる。
いつもの歩く場所、いつもの景色。雲一つない快晴。いつもと変わらない日々。
昨夜病気になったのが嘘な位に。
「本当、一日で元気になるなんて凄いもんだね」
行く途中にシャナが昼食の買出しをしたい為に、
コンビニへ寄っている最中にアラストールがポケットの上からモゴモゴ声を出している。
気になって手の平にコキュートスを出してみる。
「フレイムヘイズだから当然であろう。一日で治ってもらわぬと困る。その時に敵にでも遭遇したら関の山だ」
何故コキュートスを僕が持っているのかは、シャナが朝風呂に入る時に渡されたまま、今に至るだけの事。
返しなさい、の一言もない。といってもコキュートスを持ってたのに気付いたのも今なんだけどね。
シャナがコンビニで時間を費やすのは大抵10分程度。その間はコンビニ前のベンチで毎度呆然としているだけだった。
「シャナがいなくて丁度良い、貴様に話しておかねばならない事がある」
「へ?突然何?」
長いような、短いような間が開くと、再び遠雷のごとく低い声が胸に伝わってきた。
「昨夜、貴様の宝具【零時迷子】が発動しなかったのだ」
「・・・なんだって?」
またまた何を言い出すんだ、アラストールは。母さんと離し過ぎて冗談の一つでも覚えたのか?とでも思いたかった。
「真相は解らん。可能性からすれば、昨夜の存在の力の分け与えしか思い浮かばんが、毎晩存在の力の鍛錬をしている限り、それ

はないと思うのだが・・・」
「・・・・・・・・・」
即座に恐怖より、昨日の異変を再度脳裏に表示させる。
確かに毎晩存在の力の鍛錬はしているが、こんな事は起こった事がない。
毎晩シャナの鍛錬の技に合わせて適度に放出し、そして零時に回復する。
昨夜も【存在の力を放出する】という事に変わりはないはずだから、異変が起こるはずがない。
でも確かに昨日はいつもと違う、何か削がれる感じがした。
現実は実際に起きている。証人はアラストールだけだが、嘘をつく理由も特にない。
「解らないな・・・・」
「うむ・・・」
男共が途方に暮れていると、シャナが袋一杯に菓子類を積めて出てきた。
今日はなんで両手にその同じ大きさの袋があるんですか?
買い物帰りでもない、学校に行くだけなのにそれはさすがにちょっと
「うるさいうるさいうるさい!今日はそういう気分なの!」
「あー・・・は、はぁ・・・」
言葉を遮られました。そのまま学校へと足を運ぶ。
まぁ、大丈夫、だろう・・・?

144Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:29:27
「今日は特売日だったのか?」
席に着いた途端、あいさつより先にこの言葉だ。
勿論池からだ。
「そんな事言われてもな・・・」
「だっていつも片手袋サイズが一杯になる位だっただろ?今日は流石に異常じゃないか?」
「だからシャナに聞けばいいじゃないか」
「・・・まだ死にたくないから遠慮しとくよ」
女性に体重と年齢を聞くようなものである。
昼になればわかるだろ、というと妙に納得して池は席に戻った。
あと数分でHRが始まる頃に、ふと目線をシャナにやると、既に袋の中にあるものを食していた。
(・・・・・・朝飯さっき食べてたよな?)
(うむ・・・・絶対何かある・・・)
腕時計のように左手首に巻いていたアラストールに問いかける。
未だにシャナが返しなさい、と言わないのもこれまたおかしいが。
コンビニの片方の袋が風で軽く浮き始めた。



昼休みに机をくっつけるなり、池が一言。
「ああ来るとは思わなかったよ」
佐藤、田中、吉田、一同が頷く。
授業中はさすがにしなかったが、それでもHRが始まる前に全部食す時点でおかしい。
それも片方の袋を大半。
(まぁ、気にしても仕方ないか・・・・)
食欲の秋だし、と、どうでもいい事を当てはめて自己解決した。
机の教科書を直してると、いつものように二人から何かを差し出される。
「・・・あげる」
「あの、坂井君・・・これ・・・・・・・」
この光景も、慣れてしまった自分が恐ろしい。
「あ、ありがとう・・・」
差し出されたのは弁当とメロンパン。佐藤と田中と池がいつものように冷やかしながら、羨ましがる。
それもまぁ、毎日の平和な日常。嫌いではない、むしろずっとあって欲しい。
「はたから見れば、恋人同士にも見えるよなー」
などと佐藤が呟いた。その途端、
「・・・ッ!!」
疑念の異変が豹変へと変わりつつある。
胸が痛む。締め付けられるように。
何かを吐き出しそうな、激しく嘔吐しそうな気分。
胸を押さえつつ、周りに居る人を見る。

145Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:29:56
───誰一人何も感じていない。とりあえずは安心か。
シャナと目があったが、多分大丈夫・・・だとは思う。
さりげない動作で教室を後にしようとする。
「え、あ、ちょっ・・・と・・・・箸落としたから洗ってくる・・・よ」
無言で手を振る池。こういう所は気が効く。こちらも手を振り、教室をあとにする。
再びシャナと目が合ってしまうが、慌てて逸らす。逸らした先には自分の机にあったメロンパンと弁当箱。
「!──が・・っは・・・」
痛みが増したせいで、思わず呻き声が漏れた事に慌てる。
それに気付かれたかもしれない、と思うと、自然に足早になっていた。
「?・・・・・・」
「ゆかりちゃん?」
天敵から声を掛けられるが、今は悠二の不振の行動の疑問符が離れない。
どうしても気になり、無意識に声に出していた。
「ねぇ、アラストール、あれってちょっと変じゃない?」
今度は吉田一美に疑問符が付いた。ミサゴ祭りの一件で、アラストールの事は池以外の4名は知っている。それよりも平井ゆかりこ

と、シャナの「あれ」が解らなかった。
吉田がこちらを見つめている事にやっと気付いた。
「・・・!!」
シャナは思わずいつもの様に口に出していた事に後悔する。吉田には気づかれたが、男共3名は勝手に話をしていて気付いていない


とりあえず誤魔化そうとするが、何をどうやって誤魔化せばいいかわからないまま、パニクっていると
「あの、アラストール・・・?さんのペンダントを今日はしてないの?ゆかりちゃん?」
誤魔化す事を後にし、言われた事に改めて違和感に気付いた。
そういえば、朝風呂に入ったまま悠二に預けたままであった。
教室を見回すと、悠二がたった今教室を出た所であった。
それを見て、吉田一美に顔を近づけてひっそりと囁く。
「ちょっと悠二に渡したままだから、返してきてもらう。この3人は任せたわよ」
そういうと、悠二と同じく足早に教室を後にする。
教室に取り残された4名。シャナがいなくなってやっと気付いたか、佐藤達も会話が止まる。
「あれ?平井さんと坂井は?」
教室からたった今見えなくなったシャナを見終えると、顔を戻して答える。
「ゆかりちゃんもトイレだって」
「へぇー、二人で連れショ・・・いえ、何でも・・・ありません」
佐藤が尻すぼみに謝る。今は昼食中なので当然と言えば当然ではあるが。
池は珍しく無関心である。
田中は今更気付いて同じ質問をしようとするが、佐藤が止める。二の舞は確実だと思ったからである。
(ゆかりちゃん・・・今日は貸しだよ)

146Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:30:54
ミステスこと、坂井悠二は、教室を出た途端、屋上へ向かって走り出した。
階段を数回上るとすぐに屋上だったため、それほど時間はかからなかった。
屋上の扉を開け・・・まだ壊れたままだったのか、蹴飛ばした後がある。
屋上へ足を運ぶ。手擦りに安心して持たれ掛かると、改めて胸の痛みが増強しているのがわかる。
「・・・っはぁ・・・はぁ・・・」
胸を押さえていないと痛みで気絶しそうだ。
気付けば、学生服の前の一部を開けて、直に胸の中心、心臓を抑えている。
先程まで血色のよかった顔が、青冷めていくのが解る。
「坂井悠二、大丈夫か?」
心配そうにアラストールが声を掛ける。思えばアラストールに心配されたのは初めてだったな。
「何を演技でもない・・・!そうか・・・まさか貴様・・・」
「あぁ、今度こそ、本当に駄目なのかもしれないな・・・」
苦しそうに抑えていた胸を叩き、一瞬だが顔色が戻る。
胸から手を離し、両手で手擦りを掴んで空を眺める。
(死ぬと、どうなるんだろうな─────)
手を離した途端、苦しい。今にも消えそうな・・・。
元は残りカス、今消えてもおかしくは
「何・・・言ってるの?悠二・・・」
聞き覚えのある少女の声。
声の主はわかっていた。
いつも鍛錬と生活をも共にした。
それも今日で終わりかもしれない。
名残惜しみつつも、眺めていた空を後ろの声のする方向へと向ける。
シャナがいた。
今にも泣き出しそうな一人の少女が。
ゆっくりと近寄ってくる。どうやらシャナも無意識のうちに解っているようだ。
その証拠に、足が震えている。足取りが遅い。目から涙が止まらないようだ。
頬を伝ってコンクリートの地面へと垂れていく。
距離を詰めると、互いに見詰め合った。疑問を、行為を、口に出す。
「何が、あったの・・・?」
消える間際なのか、答えらしきものが徐々に頭に浮かんでくる。
冷静な判断力は、時間の限り使おう。
「どうやら、昨日の存在の力を送った事に問題があったみたいだ」
悠二の顔は青冷め、気分が悪そうだが、何故か笑っている。シャナこそ全く笑えない。怒りさえ覚えた。
「なんで笑ってられるの?!それに、存在の力を送ったって・・・どういう・・・」
悠二の左手に巻かれたコキュートス、アラストールが声を出す。
「・・・我が提案したのだ。まさか、こんな事になるとは・・・」
「アラス・・・・・・トール・・・」
「事実、あれで治ったのは確かだ。問題は・・・」
悠二が未だに笑ったまま、コキュートスを袖に隠す。
「アラストール、あとは僕が言うよ。今は何故か答えが頭に浮かんでくるんだ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
無言が数秒続く中、悠二が再び胸を抑えだした。
シャナが駆け寄ろうとするが、悠二が手を前に出す。まるで、来るな、というように。
「確かにあれでシャナは治った。そしてその後、零時迷子が発動しなかった」
「なん・・・で・・・・・・」
シャナは下を向いたまま、既に声も儚い嗚咽へと変わっている。
「約束の二人、ヨーハンって解るよね」
(・・・・・!!)
シャナが立ち尽くす事も出来ず、その場に倒れ込む。

147Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:32:29
ファンシーパークとのヴィルヘルミナとの争いの終わりの後に、その話をしたからである。
自分、零時迷子の中に何かがいる、と。自分は殻なんじゃないか、と。
まさか、こんなに早く来るとは思ってなかったからだ。
殻を破ってヨーハンでも出るのか?
その時悠二の意思はどうなるのか?
体はどうなるのか?
悠二自身の存在はどうなるのか?
千草や、吉田や、池や田中や佐藤や学校の・・・・
(悠二が残りカスみたいな扱いを受けるような事ばかり・・・)
目を開けているのに勝手に走馬灯らしきものすら見えてくる始末。
見たくも思いたくもない、といわんばかりに目を閉じた。
瞼の裏には何故か愛染兄弟が映る。倒したはずの、二人。
(な・・・んで・・・・・?)
シャナの中で何かが積み重なった。無意識のうちにテンポよくタン、タンと。
(約束の二人?・・・・・恋人?・・ヨーハン?)
あの二人ではない。自分らに、悠二に当てはめてみた。悠二と同じく、同じかはわからないが、胸が痛む。軋む。
思わず叩きつつ、抑える。存在の力を込めて叩いた為に、多少の鮮血がコンクリートの地面を赤く濡らす。
昨夜の病気以上に咳き込みながら悠二の言葉を待つ。見上げようにも、胸やら喉やら苦しくて立てない。
「ヨーハンは、愛する人、フィレスを守れなかった事に成仏出来なかったんだよ」
訳がわからない。何故それが自分らと関係があるのか。
戸惑いながらも悠二は続ける。
「フィレスはもういない。だから変わりに同じ環境へと成り得る人物へと転移したんだ。」
「「・・・・・・・」」
アラストールもシャナも、ただただ悠二の言っている事を聞くしかない。
「そう、それが坂井悠二、とフレイムヘイズこと、シャナ。」
混乱しているせいか、頭に言葉が入りきらない。フィレスは死んでいた?ヨーハンは・・・
(私が、私が、何・・・・?)
「あの出会いも、全て運命だった。僕───私は、君、シャナの昨夜のあの死は免れない病気も、また運命だった」
シャナが口調が変わった悠二を見上げると、目の色が違い、既に坂井悠二ではなかった。これが、あの、
「貴様は、ヨーハンか・・・」
「いかにも、天壌の劫火・アラストール」
二人が顔見知りだと言う事は、今となってはどうでもいい。
(悠二は・・・悠二は・・・・・・?)
涙を出しつくしたか、もう瞳からは何も出ない。
不思議と力が漲って来る。その力を全身に漲らせ、やっとの事で立ち上がる。これが、昨日悠二が送り込んだ「存在の力」───


「もう時間がない、簡潔に話そう。恋人を助けたい。と思って坂井悠二は存在の力を大半送り込んだ。
 それに伴い、零時迷子の中のヨーハン、私が欠けて漏れ出した。もっとも、そうしないと助からない病気だったが、
 さすが坂井悠二君だね。冷静な判断力、熱い想い、見事だったよ・・・私の想いを変わりにやってくれて、感謝す」
言葉を最後まで告げずに、ヨーハンは粉になり消えた。そこに坂井悠二は居たが、様子が変なのは未だ変わりはない。
棒人形のようにシャナの方へと倒れ込む。意識がはっきりしてきたシャナはすかさず膝が地面に付く前に支えていた。
「悠二!悠二!!!ねぇ・・・返事してよ?!」
熱い。触っていられない程に熱い。それでも離さなかった。離すと、永遠の別離のような気がするから。
暑さと自分の熱さに意識が戻った悠二は、また、笑っていた。
「・・・馬鹿」
「シャナ、僕の胸に、手を当てて」
すかさず手を当てる。熱さが引き、極寒のように胸だけが冷たくなる。
思わず引き抜くと丸い、一部が欠けた凝固物が手に引っ付いたまま出てきた。模様があればメロンパンに似てなくもない──。
「それが、零時迷子だ」
「・・・え?」

148Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:34:11
悠二がシャナの引き抜いた零時迷子を、手にとる。
それをシャナの胸に刹那、押し当てる。そのまま、シャナの中へと埋もれていった。
「え!?ちょっ・・・と、悠二・・・何してるの・・・?零時迷子がないと悠二は・・・」
この場に及んでまだ笑っている。いつもの、家で見るような顔。
気が付けば、支えていた悠二の首を力強く抱き締めていた。朝のように、位置が前になっただけだが。
「そう、ただのトーチ。残り滓。これでシャナは・・・零時迷子もある訳だし、フレイムヘイズとしてまた強くなったね」
「何を馬鹿な事を・・・してるのよ・・・・・・私、悠二がいないと、弱いままだよ・・・・・・」
「僕が消えても、中にずっと居るよ・・・」
抱擁していたせいか、頬から頬へと涙が伝っていく。
悠二も、泣いていた。その顔をされると、嬉しさの涙なのか、悲しみの涙なのかもわからない。
もっと強く、抱きしめた。最後の力を振り絞る様に、悠二も力強く。
「っがあぁっ!!」
抱きしめた少女の肩の骨が折れた。それほど強く、抱擁していた。
最後の最後に、残り滓を搾り出すように力を出した。
もう、抱く事すら無理な体だ。体が薄れている。
「シャナ」
大好きだった彼の薄れた声。もう、最後なのだと解っていた。
「・・・何?」
枯れたはずの涙が、再び溢れんばかりに目から頬へと顎へと、地面へと垂れていく。
呼吸も荒い。顔も昨晩のように、また、真っ赤になっている。
薄れゆく中、それでも互いに目を離さず、悠二は告げた。
「元気・・・・で・・・・・・・・・・───」
最後、何を言っているか聞き取れなかった。
悠二の顔が近づいてくる中、悠二はヨーハンと同じように、粉のように、消えていった。
消えた悠二。そこには一つの神器が音を立てて落ちた。落ちていた。
「アラストール・・・?」
「うむ、我は、天壌の劫火・・・アラストール。それ以外なかろう」
ゆっくりと掴み、首に掛ける。
零時迷子のお陰か、振り切ったのかは解らない。
先程のように脱力する事はなくなった。
座ったまま、突如アラストールの皮膜の一部である「黒笠」を身に纏う。
屋上のもっと高い所、水タンクの上へと跳んだ。
そこで袖に手を通して、大剣「贄殿遮那」を黒衣から勢いよく抜く。
悠二が散っていった方向へ、かつて吉田一美に宣戦布告したように地面に突き刺す。
「封絶」
自分が丁度入る位の封絶のドーム。これ程の大きさだと、誰にも感知すらされない。
一時的に誰の視界にも聴覚にも入らない。そんな場所が欲しかった。
こういう使い方は駄目かもしれない。それでも
(アラストール、今日だけ・・・ごめん)
胸のペンダント、コキュートスに目を促す。その目は溢れんばかりに潤んでいた。垂れてコキュートスに数敵掛かる。
(・・・あやつに勧めてしまった我にも責任はある、好きなだけやるがいい。)
散ってしまった場所、丁度太陽への場所。
そこに向かって。声の声帯が切れそうな程に叫ぶ。叫びたかった。叫ばずにはいられなかった。
「・・・・・──ッ悠二いいいいいいいい!!!」
これほど大声を出していても何一つ聞こえない。フレイムヘイズたる者、こんな滑稽な光景は見せられない。
歯を食いしばり、息を大きく吸い、その時点で目に溜まったものは弾ける程、中を舞っていた。
「いやあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
贄殿遮那に握る力が無造作に加えられる。手からは血が、剣を伝わるように地面へと垂れていった。
剣に縋るように、ただ泣き崩れていた。
肩が痛む。抱きしめられた時に残ったもの。
悠二が居たという痛みの証拠。
頬を濡らす涙は一向に止まらない。
一人のフレイムヘイズの少女が、また、弱くなり、強くなった。
悠二のことを、忘れなかっただけでも、よかった。
それでも・・・・・・

149Lavilins ◆.loVT744xA:2005/10/17(月) 19:36:14
「零時迷子の中身」 

長くなってスンマセン。
書いてたら時間があっというまに
続きはまた明日辺りにでも・・・

150名無しさん:2005/10/22(土) 18:26:14
ありそうでなさそうな終わり方

151名無しさん:2005/10/29(土) 16:08:12
真っ赤に燃えるいつもの空、アスファルトに浮かぶ奇妙な文字群。
そのときの私は、一体なにが起きているのか全くわからないで、ただただ固まっていました。
「あァ?何だコイツァ!?何で自律して動いてやがんだ?」
そんな私を現実に引き戻したのは、目の前に現れた一人の少年の言葉でした。
帽子を目深に被った、どこにでもいるような服装。けれどもその瞳には、隠しようも無い力と邪な意志が見て取れました。
「あー、そっかコイツが“ミステス”って奴かァ。んなら頂かない法はねーよなー。」
と、無造作に私に向けて歩を進めてきます。
「ヒッ・・・」
思わず漏れた叫び。
「あっはははは、だーいじょーぶだってば。痛くしないし、大体もう死んでんだから関係ないっしょ?」
どこまでも軽い嘲笑。
(どういうこと!?死んでる!?私が!?どうしてそんな!それにこの子は一体)
「まー考えても無駄だし。ほら、俺って物持ちがいーから。大事にするし。」
と、いつの間にか目前に迫ったその手が私に触れようとしたその時。
それは起きました。
『ザグンっ!』
その腕がいきなり消えたかと思うと、少年と私の間に無骨な刃・・・西洋風の大剣が割り込んでいたのです。
「・・・・ッ、痛ェェェェェェェェェ!」
「煩いな。」
そしてその剣、禍々しい雰囲気を纏ったその剣を握っているのは、年の頃は16、7のこちらもやはり少年。真っ黒な瞳と髪。
しかしその風体からは想像も付かないくらいの威圧感を発していました。ある意味で帽子の少年を圧倒するほどのものを。
「・・・“徒”、か。全然足りないな。よくこの程度の“存在の力”でこちら側に来ようとしたもんだな。」
未だ苦悶の声を上げる帽子をよそに、淡々とした口調で言い放ちました。
「あァ!?何だテメェ!・・・“フレイムヘイズ”か!?」
「お前のみたいな小物に名乗っても仕方が無いだろ。おとなしく喰われてくれよ。」
よくわからない単語がまた言い放たれます。しかし、その時ですら固まっていた私にも、たった一つ、分かることが有りました。
『この少年が言ったのなら、帽子は確実に喰われる』と。
そしてすぐにそれは現実となりました。
怒りを露にする帽子の少年の懐に、黒い少年が一瞬で潜り込み・・・
次の瞬間、真っ黒な炎を伴う剣閃とともに、帽子の少年は、黄色の燐光を撒き散らして袈裟切りにされていました。
瞬きすら忘れてそれを見ていた私でさえ、全く気付かないスピードで。
「ご、ガァ・・・テメェ、その、炎の色、その、剣・・・『吸血鬼』、か?」
「何とでも呼べばいいよ。どうせどれも捨てた名前だしね。お前たちが呼びやすいように呼べばいい。
 まぁ少なくともお前にはもう呼ばれないだろうけど。」
「チク、ショウッ!!只じゃ、すまさねぇぞ。俺のバックには、“王”クラスがまだ」
「願ったりかなったりだな。どっちにせよ僕にはもっと“存在の力”が要るんだよ。お前のも、一応もらっておくか。」
言うとすぐに、差し込まれたままの刃、その溝から黄色い燐光が大剣に吸い込まれて行き帽子の抵抗も空しく彼は跡形も無く消えていました。
「ふぅ、ダメだ。やっぱり足りない。これは今言っていたバックにいる“王”クラスでも喰わなきゃ話にならないな・・・」
と、本気で不満げにつぶやき、最後にどこか遠くを見据えてこう言いました。
「待っててくれ、シャナ。」

152名無しさん:2005/10/29(土) 16:09:48
ごめん、もう二度と書かんから許してください。

153名無しさん:2005/11/12(土) 03:24:01
>>152
書いてください

154名無しさん:2005/11/13(日) 21:58:01
ツマンネ

155名無しさん:2005/11/23(水) 00:35:59
>Lavilins ◆.loVT744xA
文章テラウマスww
なんで零時迷子を使わなかったのかはよくわからないけど
続き待ってます。

156名無しさん:2005/11/26(土) 10:41:27
今更だが >>76の続きが気になる・・・

157名無しさん:2005/11/30(水) 01:22:22
紅世の徒が逃げ込んだ路地裏で、
レモンイエローの火花が走る。
(封絶! 罠か!)

そして、前方から笛の音と、
場違いなほど軽薄な男の声が聞こえてきた。
「歌は世につれ世は歌につれ
 時は現代いずこの町」

徒の前に一人の少女が立っていた。

「数多の爆炎くぐり抜け
 世界を守る戦士たち」

前奏と軽薄な声の口上を流す小型スピーカー付きのマイク、
所謂“ポータブルカラオケ”を持って。

「使命ひとつを胸に秘め
 泣いたりしません勝つまでは」

徒が少女の値踏みをするのを待たずに。

「では、張り切って歌っていただきましょう
 “破砕の歌い手” クリス、
 曲は『みつめて☆ふれいむへいず』です。どうぞ〜!」

彼女はにっこり微笑むと歌い始めた。

滅びの歌を。

158名無しさん:2005/11/30(水) 01:22:50
『あなたを見かけたこの町で〜』

徒の体を、激しい衝撃が走った。

『あなたが私に気づいて〜も〜』

徒の身体のあちこちから灰緑色の炎がのぞいく。

『気付かぬ振りで先回り〜』

徒は精神を集中して、崩れそうになる自分の体を繋ぎ止めた。

『そっと〜あなたを待って〜る〜の〜』

彼女は右手の人差し指と親指を伸ばし、
人差し指を徒に向けて、
いたずらっぽく笑い、

《Bang!》 撃った。

彼女の指先からレモンイエローの火花がはじけて広がり、徒の体に降り注ぐ。
徒はただ、声も無くのた打ち回る。

『世界〜のバランス守る為』

(なんだこの歌は)

『紅世の〜徒 討ち倒せ』

(なんだこの“声”は)

『ひとか〜どの戦士に成るために〜』

(これが、こんな奴がフレイムヘイズなのか)

『情け〜は無用の フレ・イム・ヘイ・ズ〜〜〜〜』

彼女は再び指鉄砲を作ると、笑みを浮かべ、
「ひとぉつ!」 男の声をトリガーに、
『人を食ったら 討滅よ〜』

「ひとぉつ!」 レモンイエローの火花を、
『紅世を抜けたら 討滅よ〜』

「ひとぉつ!」 身体を貫く鋭い矢に変えて、
『無断の顕現 討滅よ〜』

「ひとぉつ!」 崩れ行く徒に、
『騒ぎを起こすと 討滅よ〜』

「ひとぉつ!」 撃った。
『破壊行為も 討滅よ〜』

159名無しさん:2005/11/30(水) 01:24:59
歌い終わると、彼女のポータブルカラオケは“いつものように”レモンイエローの火花を散らして崩れ去る。
それには目もくれず、彼女は徒のいた場所を見つめた。
そこには、ただ灰緑色の炎の残滓がくすぶるだけ。

「いや、お見事でしたなぁ」
レモンイエローの火花と共に、瞬時に再構築されたポータブルカラオケから、軽薄な男の声が聞こえてくる。
「……」
「これなら、徒程度には十分なようですな」
彼女の戦果に男は満足げだった。
「……」
「? どうかしましたかな?」
沈黙を守る彼女に、男が問いかける。
「…………なんでこんな曲なのよ! しかも! 変な! 替え歌で!」
「趣味ですな」
「即答!?」

灰緑色の炎はすでに消えていた。

『紅世の王』 “不朽の騒翼” ポエニクス
『フレイムヘイズ』 “破砕の歌い手” クリス

160名無しさん:2005/11/30(水) 20:01:33
戦闘シーンと軽い掛け合いだけ、ですか……
これだけだと物足りないかな。戦闘に至る経緯とか、王の表出する神器とかもっともっと焦点をあてられるところが欲しい。
さらに欲を言えば、クリスの容姿や性格設定が覗ける表現とかももっと書けるはず。


文体とかは好きだからもっとガンガレ。

161名無しさん:2005/11/30(水) 20:08:14
乙( ´∀`)つ(#)
替え歌は面白いので、それ以外の描写(地の文?)があればもっといいかも。

162名無しさん:2005/12/01(木) 07:49:51
替え歌の元ネタはアレかw
まずはグッジョブ。つ(エ)
SSというより一発ネタって感じだね。

163157-:2005/12/02(金) 00:23:05
どうも感想ありがとうございます。
「フレイムヘイズ・クリス」は、話を考えているうちに収拾がつかなくなり、
一応、一番最初に書きたかったところを書いて見ました。
地の文が少ないのは、テンポ重視の為と、作者が気の効かない人間なのが原因です。

さて、とりあえずクリスの事を書こうとしたら、
クリスも出てこないプロローグが出来てしまいました。
とりあえず、うぷしておきます。でわでわ。

164フレイムヘイズ・クリス プロローグ「白い悪夢」:2005/12/02(金) 00:24:09
気がつくと、白い部屋にいた。白い部屋で、仰向けに寝ていた。
壁も、天井も白。ここからは見えないけど多分床も白いのだろう。
そして、天井には、六角形とその中心型に配置されたライト。
これは、テレビで見たことがある。これは、
「手術室!?」
何故こんなところに。何かの間違いだ。早く起き上が……

腕が、無かった。

「え?」
肩から先は何も無かった。今朝はあったはずなのに。
いや、さっき帰宅途中に寄ったコンビニを出た時にもあった。
片手にコンビニ袋、反対側はショルダーバックで……。
痛みは無い。血も出ていない。何故か切り口の端から、青緑色のもやがゆらめいているのが見える。
しかし、無い。動かそうとしても腕がつながっている感じがしない。
足。そうだ、足は……無い。
太股は、股下数センチの所で途切れていた。
やはり、端から青緑色のもやが揺らめいている。
まるで炎のように。でも、熱くは無い。熱さを感じないだけなのだろうか。
そういえば服も着ていない。裸で手術台に寝かされている。
何が、いったい何が。せめてものあがきにじたばたしてみるが、
背中はこの台に貼り付けられたように動かない。

165フレイムヘイズ・クリス プロローグ「白い悪夢」:2005/12/02(金) 00:24:35
カチャ。
ドアの開く音がした。
『女、覚醒せしや』
落ち着いた男の声が近づいてくる。
それは眠たげに目蓋を半分落とした貧相な小男だった。
大きすぎる白衣を着て、分厚い本を右腕に抱えている。
「だ、誰よいったい、何ここ、ねぇいったい何がどうなって……カヒュッ」
男の左手が一閃すると、声が出なくなり、
かわりに咽喉が呼吸に合わせてヒューヒューと鳴る。
『我は静寂を欲する』
男の左袖から、青緑色の炎に包まれた細い刃がのぞいている。
どうやら咽喉が切り裂かれたらしい。しかし、痛みは無かった。血も出ていない。
ようやく理解した。これはとびきりリアルな悪夢なのだ。
小男は手術台の傍らに置かれた書見台に本を開いて置くと、宣言した。
『我は、人体の精査を開始する』
あきらめて目を閉じる。
ああ、早く目が覚めないかな……。
お腹に当てられた刃の感触に気が遠くなり、

166フレイムヘイズ・クリス プロローグ「白い悪夢」:2005/12/02(金) 00:25:15
目が覚めると夜だった。草の匂い。虫の鳴き声。
あわてて起き上がる。腕がある。足も。
傍らにコンビニ袋とショルダーバックが落ちている。
「は、はははははっ」ほっとして笑うけど、まるで棒読み……ああ、ちゃんと声も出てる。
どうやら寝ていたようだ。近所の公園の植え込みの奥で。
「やだな、なんで寝ちゃったんだろ」
悪夢を思い出さないように、他愛ない事とを口に出す。
「ええっ、もうこんな時間? もう、アレ見逃しちゃうじゃない!」
毎週、惰性で眺めているだけだったバラエティ番組が、今は無性に見たくてたまらない。
「急ご、まだ間に合う間に合う」
あわてて家に帰る。悪夢から逃げ出すように。自分の世界へと。
-------------------
数日後、意識を失った女性が病院に運び込まれ、診断した医師を呆然とさせた。
傷ひとつ無い彼女の身体から、すい臓だけが失われていたのである。
その異様な事件の前では、彼女のカルテ紛失騒ぎといった小さな事件など、誰も長く気に止めはしなかった。
-----------------------

167名無しさん:2006/01/08(日) 00:18:27
見てる人がいるかどうか不安ですが、SS(かどうかよく分からないもの)を思いついたので投稿しますね。

168Cの日記:2006/01/08(日) 00:21:41



私はつい先日まで、神聖ローマ帝国にて『大戦』の戦後処理を行なっていた。
かつて我々を苦しめた『とむらいの鐘』の本拠地ブロッケン要塞も、その城壁は崩れ、無残な姿をさらしていた。
“徒”関係の資料集めを命じられ、城内で探査を行なっていた私はとある一室で、一冊の本を発見した。
それを手にとって見ると、日記帳であった。
表紙はところどころ焼け焦げていたが、よく見ると、かすかに花柄模様が残っていた。おそらく以前は色鮮やかな代物だったのであろう。
著者は誰だろうと、もう一度表紙を見たが、かろうじて「C」という頭文字は読み取れたものの、後は焼失しており判読不能であった。
ページをめくると、所々焼け落ちてしまったページはあるものの、読み取れるページもあった。
そこには、この「C」なる人物の内に秘められた葛藤、苦悩が、克明に描かれていた。

169Cの日記:2006/01/08(日) 00:27:50
某年某月某日

今日、生まれて初めて日記と言うものを書く。
全く、なぜ私がこんなことをしなければならぬのか。
こんなことになったのも、あいつのせいだ。
あいつが、私に「その日一日の自分の行動を振り返ることで、気持ちを落ち着け、冷静になることが出来ますよ」などと訳の分からん講釈を並べ立てて、こんなものをよこすから、いけないのだ。
確かに最近の私は、何かにつけて癪に障ることが多くて、少々冷静さを欠いていたかもしれん。
しかし、こんなことを言われて余計に頭にきたので、黙れ、痩せ牛、と怒鳴り散らしてやった。
すると「すみません、余計な真似を…」と、相変わらず弱弱しく呟いて立ち去ろうとする。
私には日記すら書けぬというのか!
私はそんなあいつの態度にますます腹が立った。
思わずあいつの手にあったこれをひったくって、馬鹿にするな、と叫んだ。
そして、そのまま部屋までこれを持って来てしまった。
本来ならば、あのとき放って置けばよかったはずなのだが、なぜだかこういう結果になってしまった。
全く、あいつが全部、悪いんだ。


某年某月某日

いきなり、書くことが思い当たらない。
仕方が無いから、この日記帳についてでも書こう。
この日記帳、大きさは私の右の手の平と同じくらいの大きさで、表紙が花柄模様になっている。
全く、私が色つきの花が好きなことへの当て付けか?
おまけに分厚い。いつまで書き続けろと言うのか。
ページをめくってたら、押し花のしおりまで挟んであった。
本当に…どこまでもお節介な奴だ。


某年某月某日

何を書いていいか、さっぱり分からない。
任務でもあれば、何か書けるかも知れないのだが、それもここ最近ない。
痩せ牛め、少し怠け気味ではないか?
早く、命令を下して欲しい。
それが私の、何よりの喜びなのだから。
…何を書いているんだ、私は。


某年某月某日

本当に何を書いていいのだか分からなくなったので、イルヤンカに相談をしてみた。
すると「一日で最も印象に残った出来事を書けば良い」と言う。
そんなもの見当たらん、と言い返すと、「じっくりと一日を思い返してみろ。そうすれば何かがきっと見つかる」と言った。
そういうものなのだろうか。
よく分からないが、こういうときのこの老人の一言はなかなか頼りになるので、とりあえず実践して見る事にする。
あと、くれぐれもこのことは内密に、と念を押しておいた。
たかが日記ごときで他人に相談していたなどと、あいつに知られたくない。

170恋人のトーチ:2006/01/08(日) 21:38:17
目を覚まして、最初に感じたのは物足りなさ。
何か、自分になくちゃいけないものがなくなってる気がした。気がしただけ…。
何もなくなってはいない。何時もの俺の部屋。何時もの朝。何時もの日常。
ふと、俺の枕もとに置いてあるペンダントが目に付いた。
手にとって銀のカバーを開いた。そこには一枚の小さな写真を入れてある。
…何で俺は、一人で映った自分の写真なんかを態々ペンダントに入れたんだろう…。
その写真は俺だけが映ってる。変な格好だ。まるで、隣に誰かがいて、一緒に撮ったかの様に
右隅に寄っている。自分でも思ってしまうまだガキの顔。
何でだよ…。何で、一人で撮ってるのに、変な格好までして…何でそんなに楽しそうなんだよ…。
一人でプリクラ撮って何が楽しかったんだよ。なんで…これを撮ったんだよ…。
俺は、何だかよくわからなくなってきた。自分でした事の意味がわからない。今、何で涙なんか流してんのかも
全然わからない。訳がわからないのに…わからないから、それが悔しくて、悲しくて、でも…わからなくて。
気付いた時には、俺はベットに顔を押し付けて泣いていた。そうすれば、楽になるような気がして…泣いた。
泣いて、泣いて、泣き喚いて、そのまま眠っていた。もう、考えないように…眠った。

世界は止まる事無く動き続ける。

日常を装い、変化を感じさせること無く動き続ける。

今も、そして、これからも。

171名無しさん:2006/01/08(日) 23:48:32
乙。
シャナSSはあんまり数無いようで色々参考になりますわ。
(クロスオーバー物は除く)

172名無しさん:2006/01/09(月) 17:41:32
GJです。
167、私は暇さえあれば、一日一回はここに来てますよ。

173167:2006/01/09(月) 18:02:45
そうですか。
12月はじめから全く書き込みがなかったんで心配だったんですが、安心しました。
「Cの日記」は、ちまちまな不定期連載で続けていきたいと思うので、よろしければ見守っていただけると幸いです。

174Cの日記:2006/01/09(月) 22:18:24
某年某月某日

早速、昨日言われたことを実践してみる。
今日の天気は、朝からずっと雨だった。
私は雨が嫌いだ。毛皮が湿っぽくなって気持ちが悪くなるからだ。
例によって何もすることがなかったので、部屋にこもってじっとしていた。
今日もまた、任務は無かった。
いい加減、右腕がうずいてきた。


某年某月某日

待ちわびた。
ようやく、私に指令が下された。
痩せ牛の命令は、討滅の道具どもの吹き溜まりの壊滅だった。
腕が鳴る。
すぐさま目的地へ向かおうとした私に、痩せ牛はいつものように「ご無事で」と言って来た。
全く…何度言わせれば分かるのだ。
フワワがあの赤毛の女丈夫に討滅されてから、こいつの臆病な性格はますますひどくなった気がする。
本当に、こいつを見ていると…苛立ってくる。
私はいつものように、黙れ痩せ牛、馬鹿にするな、と言って、さっさと城を出て行った。
私の腕を信用しているのなら…少しは安堵の表情でも見せろというんだ。

175Cの日記:2006/01/09(月) 22:27:34
某年某月某日

若干の抵抗はあったものの、昨夜のうちに、難なくフレイムヘイズ共の溜り場の壊滅に成功した。
毎晩鍛錬は繰り返しているが、実戦は久しぶりだったので爽快だった。
すぐさま状況報告をするため、さっさと引き上げ、城に戻った。
天秤に向かうと、痩せ牛が「よくぞご無事で」と泣きそうな声で私を迎えてきた。
当たり前だ、いい加減にしろ。
主は「見事であった」と誉めて下さった。
主のお言葉は勿論嬉しかった。
でも、私がこの言葉を一番最初に聞きたかったのは…あいつ、なのに。


某年某月某日

今日は何だか朝からだるい。
夜通し、隣の部屋のメリヒムが、騒がしかったせいだ。
どうやら、私が加わらなかった先日の戦いで、またあの女と遭遇したらしい。
メリヒムは、普段は冷静に物事を考える、我らにとって頼りになる奴だ。
しかし、あの赤毛の女丈夫のこととなると、とたんにおかしくなる。
特に、奴らと戦う前後が、一番ひどい。
何しろ、戦いが終わってから少なくとも2週間は、「マティルダ、マティルダ」と言い続けるのだ。
それだけでもかなりうっとうしいのだが、さらに迷惑なことがある。
それは、真夜中に突然「マティルダーッ!!!」等と素っ頓狂な声を上げることだ。
現にこうして日記を書いている今も「愛している」「俺の愛を受け取れ」等、暑苦しい言葉が耳をつんざいてくる。
人の迷惑と言うものを、少しは考えろ。

176名無しさん:2006/01/10(火) 13:17:09
乙です。チ…Cが日記書いたらそう書くんだろうな〜と思いました。

177Cの日記:2006/01/15(日) 23:45:27
某年某月某日

昨日に引き続いて身体がだるい。何だか少し頭痛もする。
また、隣の厄介者がやかましかったせいだ。
私は耳が大きいせいか、他の奴らより音に敏感なのだ。
これは任務には役立つのだが、こういうときには非常に困る。
もっとも、耳を閉じれば、何の問題もない。
…しかし、私は、耳に、あまり…触りたくない。

耳を指で触っていると、まず、なぜだか分からないが…徐々に身体がむずむずしてくる。
むずむずしてくるのだが…同時に、はっきりしないが…気持ちがいいような、そういう気がしてくる。
そんな時に、耳の内側を指でそっとなでると、ざわっとした感じが全身に広がる。
そして、何だか、身体が…ほてってくる。
そうやっているうちに頭の中が変な気持ちでいっぱいになった私は、次に、むn…
(筆者注:この間、数行の内容は、焼失していたので不明である。ご了承いただきたい)
…ん?
私は、一体、何を書いているのだ?
とにかく、あいつの騒音にはもう、そろそろ我慢の限界だ。
明日にでも、文句を言ってやる。

178Cの日記:2006/01/15(日) 23:47:04
某年某月某日

あまりのやかましさに怒りが頂点に達した私は、とうとうメリヒムの部屋に怒鳴り込んだ。
おい、いい加減にしろ、うるさいぞ、と言うと、メリヒムは「何が悪い?」と、全く悪びれない。
本当に、こいつのあの女に対する執着心には、ほとほと参る。
そこで私は、かねてから大きな疑問だったことを聞いてみた。
なぜ、お前はあの女にそこまで愛情を向ける?我々の同士を数多打ち滅ぼした宿敵だぞ?と。
するとメリヒムは、ふん、と鼻を鳴らして「お前は、愛というものを分かっていないな」と返してきた。
この一言に私は頭にきて、何を言うか、私だってそんなものくらい、分かっている!とまくし立てた。
するとあいつは「ふうん、ではなぜお前は、宰相殿に自分の思いを」
私は反射的に、右手をメリヒムのすぐ右脇の壁に突き立てて、言葉を強制的に切った。
…黙れ。
しかしメリヒムは澄ました顔で「あの方は他人の気持ちには極めて鈍感だからな。お前も苦労しているだろう?」と、こりもせずに続けた。
…ふざけるのも、いい加減にしろ!
そうやってしばらく言い争っていると、イルヤンカが部屋に来て「相棒、奴らだ、行くぞ」と言った。
奴らというのは、件のあいつら以外にいない。
案の定、メリヒムはとたんに眼の色を変え、部屋を飛び出していってしまった。
そうして一人残された私のところに、馬鹿者が入ってきた。
「あの、何か言い争う声が聞こえたので、どうかしたのかと思い、参上したのですが…」
…うるさいうるさい、帰れ!
あまりの間の悪さに、かっとなって怒鳴り散らすと、痩せ牛はおびえきった口調で「すみません」と言って去っていった。
何だかやるせない気分になって、私も自分の部屋に戻った。
今日は、私への指令はなかった。
私は一人、部屋の中でぼんやりとしていた。

メリヒム、正直に言うと、私はお前がうらやましい。
私もお前のように、積極的になれたら…。

179名無しさん:2006/01/31(火) 23:14:12
orz ルール違反はいけません(これは独り言)。
とりあえず、住人の皆さん、漏れの一作品に批評をお願いする。

↓以降、本文

180名無しさん:2006/01/31(火) 23:16:44
Flame eyes of SHANA
【零・プロローグ──炎と魔神と外界宿と】


  この世の誰一人として知らない世界で人が喰われ、この世が歪んでいく。
  この世に存在しない者は、この世に存在するために人を喰らう。
  異世界"紅世"の住人"紅世の徒"は、人の"存在の力"を得ることで、この世に自らを現す。
  喰われた人は、消える。死ぬのではなく、消える。そして、消えた人はもともといなかったことになる。存在そのものを奪われた者は、
単なるモノになってしまう。
  存在の欠けた場所には、周囲との不自然が生じる。それまで存在していたものが忽然と消えることによって、世界が歪む。
  その歪みは、世界に跋扈する"紅世の徒"と"時間"によって、規模を増していった・・・・・・。
  そのうち、数多の乱獲による歪みが、いずれこの世と"紅世"に取り返しのつかない災厄をもたらすのではないか、と考えた"紅世の徒"の"王"、
すなわち"紅世の王"が出てきた。そして、その考えはすぐに広まった。
  彼らはその災厄を未然に防ぐため、この世で好き勝手に喰い散らかし、"自在"に物事を・・・もとい、世界を歪曲させている同胞たちを討つという苦渋の選択をした。
  しかし、強大な彼らがこの世に現れ、戦うためには、沢山の"存在の力"を要した。そのために人を喰らうのでは、本末転倒であって、更なる策案が求められた。
  だが、策案は、思わぬ方向に存在した。そもそも、"存在の力"を喰われる立場にある人を使うのだった。この世の人の過去から現在、
そして未来に至るまでの全てを捧げさせることによって、空いた器に"王"そのものを容れるという、まったくもって奇策としか言いようのない案だ。
  そして、"王"に望まれた人は、自分の全てを失うことにも躊躇わず、易々と自らの存在を供物の如く捧げ、代わりに"王"の力を得た。
  "紅世の王"に自信の大切なものを捧げ、代わりに得た力で世界に跋扈する"紅世の徒"を討滅せんと、自身の"徒"への復讐を果たさんとする、
この世でも"紅世"の者でもない異能者達のことを、"フレイムヘイズ"と言う。

181名無しさん:2006/01/31(火) 23:17:23
  紅に染められたどこぞの砂浜に、二人のフレイムヘイズがいた。
  一人は"紅世"の魔神"天壌の劫火(てんじょうのごうか)"アラストールとの契約者『炎髪灼眼の討ち手』。
腰までかかる紅蓮の長い髪と同色をした瞳のフレイムヘイズは、大太刀を振るう、名も無き少女だった。
  もう一人は"悉皆転破(しっかいてんぱ)"で知られるベリグリンとの契約者『変局の呼び手』メリード・セファン。
メリードは、その辺りにいる人と何ら変わらない普段着を着た、『若者の女性』といった姿だった。肩にかかる程度の海のように深い青の髪と、
どこか強気を感じさせる青緑の瞳が、活発的な様子を連想させる。
  今、その二人の間で大きな誤解が生じていた。
「だ、だからぁ、私はあんたを襲う気で仕掛けたんじゃないんだってば〜」
  誤解されているのはメリードだった。
「お前がいきなり爆弾なんか投げてくるからでしょ! 敵意ある行動として受け止めて何が悪いのよ!」
  『炎髪灼眼の討ち手』の少女に言われて、メリードが渋い顔をする。
「いや、でもさぁ・・・クラッカーだよ? そこんトコ、微妙に違うんだけどなぁ〜・・・?」
  メリードとしては、ぶらぶらとほっつき歩いていたところに同業者──"フレイムヘイズ"同士のことを、こう言う者もいる──がやって来たため、挨拶がてら、
自身の得意分野の自在法のひとつ『クラッカー爆弾』で驚かせただけのはず・・・なのだが。
「うるさいうるさいうるさい! お前のせいで、コレ落っことしたの!!」
  『炎髪灼眼の討ち手』の少女が手に持っているのは、埃まみれのメロンパンだった。
  彼女は、普段ならば見かけの11,2歳としては不釣合いなほどの凛とした雰囲気を持っており、小柄な容姿とは対照的な、大きな存在感があった。
  しかし、彼女はメロンパンのことになると、異常なほどの豹変を遂げる。食べる時は、彼女曰く『カリカリモフモフ』──外側のカリカリした部分と内側の
モフモフした部分を交互に食べることで、双方の感触を十分に満喫することが出来る(らしい)──で食べろだの、メロンパンを食べる時のみ見せる
見かけ相応の可愛らしさだの・・・。そんな少女の楽しみであるはずのメロンパンを頬張ろう──行儀がいいのか悪いのか、歩きながらではなく、
ベンチに腰を下ろして食べようとしていた──とした瞬間、突然の乾いた破裂音と煙に驚き、うっかりメロンパンを地面に落としてしまったのである。
「このメロンパンは、ヴィルヘルミナがくれた・・・最後の1個だったのに・・・」

182名無しさん:2006/01/31(火) 23:18:08
  さっき別れたばかりの教育係のことを思い出すと、胸に熱いものがこみ上げて来る。世界に数多とある宝具の中でも、最大級の大きさを誇った『天道宮』で、
メイド服を纏った無愛想な教育係との日々を、無残にも崩れ去った自身の居場所を、そして、少女がフレイムヘイズになるまでの間、
ずっと少女を鍛えてくれた骸骨──少女は詳細を知らないが、かつて多くのフレイムヘイズを苦しめた[とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)]の両翼、"虹の翼"メリヒムが、
骸骨であり、シロなのであった──を。
  さきほどまでの勢いを無くし、俯いてしまった『炎髪灼眼の討ち手』の少女を見て、メリードは罪悪感を持った。そのヴィルヘルミナという人物が誰であるのか
いまいち分からなかったものの、少女の様子から、親しい仲であったと推測できた。その人物は・・・まさか、亡くなってしまったのだろうか、など、
メリードらしくもなく、妙に深く思考を巡らせた。
「あ・・・ご、ごめん、そんなに大事なモノ・・・だったんだ」
  考えたが、彼女にはこれだけしか言えなかった。
「そうよ」
  だが、聞こえてきた声は、さきほどの凛とした雰囲気を取り戻していた。
「分かった、ちゃんとお詫びするよ。私はメリード・セファン。えっと・・・あんた、名前は?」
  せめてものお詫びに、メロンパンを買ってあげよう、と考えたメリードは、一見軽々しそうではあるものの、
お詫びの気持ちのこもった言葉をかけようと思ったのだが・・・そういえば、『炎髪灼眼の討ち手』の少女の名前を聞いてもいないし、自分も名乗っていなかった。
『名前を尋ねるときは、まず、自分から』をモットーに、少女に問いかけた。思えば、今目の前にいる少女は、『炎髪灼眼の討ち手』。
この名を知らないフレイムヘイズなど、メリードの知る限り、"紅世の王"と契約したての新米フレイムヘイズ以外にいない。
「な、名前・・・? そ、そんな・・・そんなもの、ない。必要無い」
  『炎髪灼眼の討ち手』の少女の答えは意外だった。名前のないフレイムヘイズなど、メリードは今まで一度もあったこともなかった。
「無い!? じゃ、じゃあ・・・あんた、今まで何て呼ばれてきたわけ?」
  メリードとしては、当然の疑問であった。
「この子は、今まで我と『万条の仕手』が、『炎髪灼眼の討ち手』になるべくして育てた子だ。名など不要であった故、この子には名前が無い」
  その問いには、今まで全く喋らなかった"天壌の劫火"アラストールが、『炎髪灼眼の討ち手』の少女の胸元の神器──ペンダントだろう──と思わしきモノから、
遠雷のように重く深い声で答えた。
「えぁ・・・!? て、"天壌の劫火"!? 『万条の仕手』・・・!?」
  『炎髪灼眼の討ち手』なのだから、その契約者は当然"天壌の劫火"なのだろうが、名を轟かす彼が目の前で喋っていると思うと、メリードの性格上、
どうしても驚きの声を上げてしまうのだった。それに、『万条の仕手』とも繋がっている。
「なに驚いてんの、そんなに驚くほどでもないでしょ?」
「うむ」
  そういうことか、と妙に彼女は納得していた。先代の『炎髪灼眼の討ち手』は、[とむらいの鐘(トーテン・グロッケ)]との戦いで倒れ、
"天壌の劫火"は器を失くしていたので、その器を捜し、育てている、という噂は、以前メリードも耳にしたことがあった。
「つまり、あんたは名も無き『炎髪灼眼の討ち手』二代目ってこと? まだフレイムヘイズになってからあんまり時間が経ってないの?」
  あの『炎髪灼眼の討ち手』の新米・・・と言っても、なぜかしっくりこない。むしろ、違和感さえあった。
「うむ、この子はつい先ほど『天道宮』を出たばかりだ」
  遠雷のように重く深い声が答えるが、またしてもメリードを驚かせる単語を耳にした。
「『天道宮』・・・ですか。なるほどねぇ・・・そこで『炎髪灼眼の討ち手』の養成をしてたってわけか」

183名無しさん:2006/01/31(火) 23:19:04
  『天道宮』とは、大地を根こそぎもぎ取ったたような下半分の上に、青々と平らに茂る草原、そして清水を湛える噴水を有する異界
『秘匿の聖室(クリュプタ)』によって外の世界から隔離・隠蔽され、自在に動き回ることのできる・・・いわば『宮殿を模った移動要塞』という存在だった。
  構造から、そのような宝具を造った者がどれだけ偉大であり、また、どれほど威容な存在であるかが伺えてくる。
  が、その者が妙な趣味をしていたことも如実に伝わってくる構造でもあった。
  外界と通じる門は、中世ヨーロッパの跳ね橋と落とし橋のようなものであるが、その内に広がっているのは、様々な形に刈り込んだ低木を幾何学模様
に配置した整形庭園であった。また、門正面に近世型の城館が構えられているが、その奥にいきなりロマネスク様式の大伽藍がくっついていた。
最奥部には、大伽藍に隠れるように古式の聖堂らしきものまであった。
  そんな『天道宮』は、今は亡き、かつて造営の魅力に憑かれた"紅世の王"──世に知られる名を"髄の楼閣"ガヴィダという──によって、移動要塞として造られたその宮殿は、"天壌の劫火"によって、フレイムヘイズ養成所として利用されてきていたということだった。
「でもって、今ここにいるってことは・・・もう一人前のフレイムヘイズさんですかぁ」
  嫌味なのか歓迎なのか判断しにくい、妙にハイテンションな口調でメリードが話を続ける。
それを小馬鹿にされていると取った少女は、表情には出さないが、内心では少なからず憤っていた。
「・・・で、お前、さっきからしつこいけど、私にこれ以上の用でもあるの?」
  が、声だけは据わっていた。
「いんや、別に? ただ・・・お近付きの印ってことで、新米のフレイムヘイズさんにオススメの場所があるんだけど〜・・・どう?」
  フレイムヘイズの大体は共闘を好まない。そして、互いとの無駄な接触も好まない。それは『炎髪灼眼の討ち手』の少女にも同じ・・・というよりも、
彼女の場合はより濃く、その気持ちがあった。"天壌の劫火"アラストールが、復讐などの概念ではなく、純粋に"紅世の徒"の討滅を使命とした、
偉大なる者の育成に努めていたのだから、それも当然であった。
  少女は答えない。
「ま、あんたの契約者のナリ的に、そんな場所になんか、興味無いんだろうけど──さっ!」
「なっ・・・!」
  メリードは、『炎髪灼眼の討ち手』の少女の手を掴んで宙に跳んだかと思うと、彼女の背中にロケットエンジンのような何かが閃光と共に現れ、
瞬間、急激な力が背中の方にかかった。
「ちょっ・・・どこに連れて行く気!?」
「む・・・」

184名無しさん:2006/01/31(火) 23:19:29
  『炎髪灼眼の討ち手』の少女と"天壌の劫火"は、ほぼ同時にそれぞれの言葉を口にした。
「復讐とか、力が欲しいとか・・・そんなんじゃない意味でフレイムヘイズになるっていうのもいいとは思う。でも・・・ただ使命だけに駆られて戦っていって、
後のあんたに何が残るの? 幸福も喜びもないまま戦っていって・・・あんたは、本当にそれでいいの?」
  今までの楽天家な雰囲気ではなく、『炎髪灼眼の討ち手』の少女を真剣な面持ちで見つめるメリードが、そこにいた。
「私はただのフレイムヘイズ。幸福、喜び・・・別に、そんなものはどうでもいい。私はアラストールと一緒に戦って戦って・・・そう、それだけ。
それに、今更悔やんでも仕様の無いことでしょ」
  『炎髪灼眼の討ち手』の少女のその回答に相応しいとも言えない言葉に、メリードがさきほどから抱いていた意志が、より一層強くなる。
「今更、今更じゃないの問題じゃないのよ。──よし、決めた。私、あんたを外界宿に連れて行く」
「なに!?」
  メリードの決意に満ちたその言葉に、『炎髪灼眼の討ち手』の少女の胸元の神器コキュートスから聞こえてくる遠雷のように重く深い声が、驚きに溢れていた。
「かっ・・・勝手に決めないで! 私は、お前なんかのお遊びに付き合ってる暇なんか──」
  ない、と言いかけたその言葉は、メリードによって遮られた。
「お遊びなんかじゃない。私は、あんたにフレイムヘイズってものを見せてあげる」
  少女は、その言葉の意味を理解できなかった。

185名無しさん:2006/01/31(火) 23:22:02
◆あとがき◆
  初めての方、はじめまして。
  久しぶりの方(多分、まだいらっしゃらないでしょう)、お久しぶりです。
  名無しさん者です。
  皆様のお目にかかることができました。ありがたいことだと思っています。

  さて本駄文は、『灼眼のシャナ』原作者、高橋弥七郎さんの小説を参考にさせていただいて執筆している、勝手気ままな夢小説です。
よって、『あとがき』まで似通っています。
  テーマは、描写的には『ヴィルヘルミナとの別れの後』、内容的には『あんた』です。新米の討ち手はからかわれ、
浜辺で悠然としていた少女(?)は百面相な感じです。
  本駄文の作者は、意外にも忙しい人です。人生の分かれ道と言っても過言ではない状況でありながら、こんな駄文を書いています。
こんなことだと、早々と道を踏み外し(ry)。
  こちらにいらしている皆様は、きっと『灼眼のシャナ』(もしくはA/B)が大好きな方々です。
皆様の会話の様子を、勝手ながら拝見させていただいていると、それがよく分かります。
当然、本駄文の作者も『灼眼のシャナ』が大好きです。こんな駄文でありますが、話が完結していないため、
いつの日か続編を投下させて頂くだけに、目を通して頂いている方には、深く深く感謝致します。
  もしよろしければ、本駄文を読んでの感想を下さいませ。

  さて、今回は挨拶がてら、本駄文作者の近頃で文を補いましょう。近頃まで、「何が"萌え〜"だ、くだらない」と思っていたのですが、
どうやら思い過ごしでした。何せ、この有様です。むしろ、『この様』です。これは、由々しきこととして受け止めておきましょう。
もちろん、そのつもりはありません。


  まあこんな感じで、適度にご挨拶もできたことですし(自己満足かよ)、初回としてはのの辺で。
  この駄文を見つけて下さった読者様方に、揺るぎ無い感謝の意を。
  またいつの日か、皆様のお目にかかることがあることを願います。

                    2006年1月の終わり頃   名無しさん

186名無しさん:2006/02/03(金) 00:33:26
・積んでレらのシャナ・   第3話「白いシャナ  黒いシャナ」

御崎神社は、住宅地の中央にある、御崎山の中腹に有る。普段は閑散としているが、この時期、特に元旦には大勢の参拝
客が訪れる。本殿へと続く石畳は、露天を出すもの、それを眺める者、お祭りのような雰囲気を楽しむ者でごったがえして
いた。先のミサゴ祭りにも似た、熱狂の渦の中、一人の少年、一人の少女、一人の女性が両脇に居並ぶ露天を眺めなが
ら、本殿へと足を進めている。
少年の名は坂井悠二。いたって平凡な顔付きだが、その瞳には見る者を安心させる様な、不思議な輝きが燈っている。彼
はこの街に渡り来た、紅世の徒によって喰われた、本物の坂井悠二の残りカスに過ぎないが、身の内に宿す、
「零時迷子」という宝具により、辛うじて日々を過ごしている。
 「ねえ千草。あの雲みたいなお菓子は何?」
少女の名は平居ゆかり。その脇に立つ二人には「シャナ」と呼ばれている。凛々しさと華やかさを宿す相貌には、小柄な体
からは、想像出来ないほどの貫禄が溢れている。整った顔立ちは赤い着物に良く映え、衆目の関心を呼ぶには十分過ぎ
る程だ。彼女は、この世に渡り来る、紅世の徒を狩る異能の守護者「フレイムヘイズ」である。だが今日、
その瞳に宿るのは己が使命ではなく、嬉々とした光が燈っている。
 「あれはね、シャナちゃん。わたあめって言って、甘くてとってもおいしいのよ。」
彼女の名は坂井千草。少年の母である。彼の母親にしては少々若いが、彼女は少年と気質が似ていて(少年が似たと言
うべきか)、傍にいるだけで人を安心させる様な所がある。少女と御揃いの着物が似合う、壮麗の美女だ。
 「そうだ、シャナちゃん、悠ちゃん。買ってあげるから、ここで待ってて。」
 「え?いいよ母さん自分で---」
少年が言い終わるよりも早く、彼女は足早に雑踏へと消えていった。少年と少女に気を使い、二人っきりにさせたかったの
だろう。少年は溜息をつく。
 「まったく・・・母さんは、すぐ子ども扱いするんだから。」
 「ふん。奥方の態度は当然だ。貴様は未熟過ぎる。」
と、少女の胸元に輝くペンダントから、威厳高い男の声が聞えてくる。彼の名はアラストール。紅世に異名轟かす、「真性の
魔人・天壌の業火」である。普段は少女の身に潜み、神器「コキュートス」にその意思を表出させる。彼は坂井千草を高く評
価していた。そして、急場の際に、冴え渡る少年の頭脳にも。だが、彼の口から少年への賛辞が紡がれる事は無い。
 「分かってるよ、それぐらい。・・・しかし、この分だと長引きそうだな。」
彼がそう言うのも無理は無い。この人込みでは、行って帰って来るだけでも難しいだろう。
ふと、彼は傍らに居た少女が、消えていることに気付く。視線を巡らせると、少し離れた露天の前に、少女の小さな後ろ姿が
見て取れる。露天には古びた本や、ガラスの指輪、金メッキのネックレスなど、多種多様な、しかし怪しげでもある物が所狭
しと並んでいる。その後ろ姿を眺めながら、少年は、古い記憶に思いを馳せる。昔、父に連れられ、そして見たあの素晴

187名無しさん:2006/02/03(金) 00:35:02
らしい景色を。少年はふっと、微笑むと少女の傍へと歩を進める。
 「ねえ、シャナ。」
 「・・・何?」
少女は他愛も無いオモチャに見惚れていたのを、少年に見られるのが、恥ずかしかったのか、ややぶっきらぼうにそう答え
る。少年は構わず
 「母さんが戻って来るまでまだ懸かりそうだし、ちょっと付き合ってくれないか?見せたい物が有るんだ。」
と、言った。彼が自ら誘うことは珍しい。シャナはもう少しこの光景を眺めていたかったが、
 「別に構わない。」
と答える。単純に彼が言う『見せたい物」が気になったのだ。そして少年は事も無げに、
 「そっか。じゃあ早速行こう。ほら---」
と、言って少女に手を差し伸べる。着物では動き辛いだろう、という配慮だった。少女は一瞬気後れしたが、
 「うん・・・」
と、少し赤くなった頬を、隠すように俯きながら、素直に差し伸べられた手を握る。少年は
 「じゃあ行くよ。逸れない様に、しっかり掴まってて。」
そう言って雑踏へと、少女を守るように踏み込んでいく。少女は黙って付き従った。石畳を過ぎ、境内の脇を抜け、神社の
裏手に着く頃には、人波も歓声も、だいぶ少さくなっている。そして山の斜面の森を少し入った頃、歓声は聞えなくなって
いた。さらに数分歩いたその先に、唐突にそれは---
 「あ!・・・」
 「どう?シャナ。いい眺めでしょ?」
彼らの前に現れた。深く閑散とした山にある、それは湖。西天に輝く夕日を受け、水面は透き通ったガラスの様に、水底を映
し出している。
 「僕が七五三の時に、父さんに教えてもらったんだ。父さんも、お爺さんに連れて来て貰ったんだって。」
 「うん・・・凄く、綺麗」
シャナは率直な感想を漏らす。悠二はそんな少女の横顔を見て、内に秘めた、思いを紡ぐ。
 「・・・あのさ、シャナ。その・・・」
 「どうしたの?」
煮え切らない彼の口振りに、少女が振り返る。その挙措の一つ一つが彼には、堪らなく愛おしい。
 「その・・・さ。着物良く似合ってるよ。凄く可愛い。」
 「え?」
少女は一瞬、何を言っているか分からなかった。しかし直ぐにその意味を理解し、

188名無しさん:2006/02/03(金) 00:35:42
 「っっっ、あ、 う、うるさいうるさいうるさい!」
と、怒鳴り散らし、湖面に、耳まで赤く染めた顔を背ける。だがそれは不快な言葉では無く、彼女が望んでいた物でも
あった。少年は苦笑すると、彼女に習い湖面を眺める。が、そこには先ほどは感じなかった、僅かな違和感があった。
 (何だ?存在の力が近くにある。でも姿は見えない。)
シャナはまだ気付いて無い様だ。少年には時折、フレイムヘイズすら見えない「存在の力」の流れが見える事がある。そし
てその能力が、本能が告げる。危険であると。
 (どこだ?何故、姿を表さない!)
一瞬思考を巡らすその刹那、存在の力が瞬時に高まり、そして-----
 「危ない!シャナ!」
 「っっっ!!」
少女の居た虚空を桜色の閃光が貫いていた。ザブッ、と湖面に僅かな穴を開け、少女が落ちる。少年が、力の爆発する
その一瞬前に、少女の体を突き飛ばしていた。そして、
 「徒か!」
言うが早いか、身の内の存在の力を高める。強大な紅世の王「千変」の存在を一部取り込んでいる彼は、既に並みの徒を
はるかに上回る力を得ていた。爆発的な力を一気に練り上げる。しかし、
 「消えた?」
唐突に存在の気配が消えた。森は元の閑散とした空気を湛えている。そして、
 「どういうことなんだ?ねえ、シャ---」
言葉が詰まる。その傍らに居るはずの少女がいない。か弱い少女ならいざ知らず、彼女はフレイムヘイズ。屈強なる
戦士だ。まだ水面から上がってこないのは、奇妙だった。
 「まさか・・・陽動?僕がシャナを突き飛ばすのを見越していたのか!」
危難に置いて冴え渡る彼の頭脳は、危険を告げている。
 「シャナ!」
少年は叫び水面に飛び込もうとする。彼女がいなくなることへの恐怖心故に。彼女が傍を離れる事は到底考えられな
い。それほどまでに、彼にとって、少女の存在は大きくなっていた。しかし、
 「な!」
 「・・・・・・・・・・・」
それは唐突に、何事もなかったかの様に現れた。手に掻き抱く少女と共に。すらりと伸びた長身。整った眼、鼻立ち。
時代錯誤的なメイド服に身を包んではいるものの、輝く夕焼けの中にたち尽くすそれは、湖の精と見紛うばかりだった。
そして、呆然とする悠二にそれは問う。静に、滔滔と。
 「ミステス。あなたが落としたシャナは、この白いシャナでありますか?それともこの黒いシャナでありますか?」
 「要返答」

189名無しさん:2006/02/03(金) 00:36:10
・後書き・
ども、本スレで179を名乗ってた者です。いや、疲れました。小説は初めて書いたんですが想像以上に厳しい
ですね。876御大は凄いと思います。これだけで二時間近く懸かりました。まあそれは兎も角、この話の元ネタ
考えたのは久々にドラエモンを読んでいた時でした。ジョイアンが泉に落ちたら綺麗なジャイアンになった、と
言うお話です。有名なので知っている人も多いでしょう。
始めは、本スレに投下しようと思ってたんですがが、あまりにも長すぎたため、此方に貼らせてもらいもした。
タイトルでオチが解かった人もいるかもしれませんが、気にしないで下さい。皆さんの率直
な意見を聞かせてもらえれば幸いです。             179。

190名無しさん:2006/02/03(金) 07:54:53
前の人も投下してたのね。
>Flame eyes of SHANA
出会っただけという細切れの状態なので
物語に対する感想を述べようが無いです。
人物については、設定はよいと思います。
あと、おせっかいであるのなら、それを明記すべきだと思います。

>・積んでレらのシャナ・   第3話「白いシャナ  黒いシャナ」
いきなり3話とは?
そこまで書いたのなら、落ちまで一気にやらないと
せっかく書いた前振りに意味がなくなると思います。
描写は細かくて良いのではないでしょうか。

191本スレの179:2006/02/03(金) 12:46:40
>>190
すいません、この話は、後書きにも書いてありますが、本スレでやろうと思
ってたんですよ。一番最後の2行だけで。でもそれだと、ちょっとつまんないかなと
思って、SSにしたらどうだろうか?と考え直したため、こんな風に尻切れになって
しまいました。お眼汚ししてしまって、すいませんでした。
描写については、876御大と神坂一先生、あと陳舜臣先生を参考にしました。それから
人物描写はかなり省きました。ここを見ている人なら、大丈夫だろう、と思って。
最後のやつを最初に考えて、それに合わせる形で上の文を書いたので、かなり強引
な展開になっていますが、あんまり気にしないで下さい。今回、初めて書いたん
ですが、思いの他書いてて楽しかったので、また書こうと思います。次は祭礼の蛇
かⅩ巻のアシズ側なんかを書く予定です。シリアスっぽくなると思います。次は必ず
完結させるつもりです。それでは、ここも長文になってしまいましたが、
最後までお読みいただき、本当に有り難うございました。

192テスト:2006/02/03(金) 18:16:19

















































































193180〜185:2006/02/05(日) 22:10:02
>>190
お返事ありがとうございます。「あとがき」の部分に2箇所ほど誤字が
あるようですが、どうぞお気になさらず。

>出会っただけという細切れの状態なので
>物語に対する感想を述べようが無いです。
↑完結してもいない話に、コメントもクソもありませんよね(笑)。

>人物については、設定はよいと思います。
↑ありがとうございます。

>あと、おせっかいであるのなら、それを明記すべきだと思います。
↑なるほど、参考になります。

以上のように返答させていただきます。人口密度の少ないこの板で
コメントがこんなにも早く頂けるとは思っていなかったため、無常
の喜びに満ち溢れております。ありがとうございました!

194名無しさん:2006/02/08(水) 21:49:30
大蛇の街


中世ヨーロッパに置いても有数と言うべき都市、ニュルンベルク。この街は周囲を鬱蒼とした森林と小高い丘に囲まれた、堅牢な城塞都市だ。森に挟まれた広い街道を抜けると、街の正門「ケーニヒス門」に辿り着く。ちょうど、ヨーロッパの中央に位置するこの町は、多くの商人や旅人で華やかな賑わいを見せている。門の左手には、多くの職人が集う通称「職人通り」がある。鍛冶師や、板金師、はたまた怪しげな指輪を売りつける男や大衆食堂など、多種多様な人々で賑わう地区だ。門の正面には、「ケーニッヒ通り」が伸びている。その通りを真っ直ぐ、少し進むと大勢の人々で賑わう広場へと行き着く。広い円形状の広場には大勢の露天が軒を連ね、歓談を交じわす者や、露天を眺める人で、ごった返していた。その中央に佇む噴水の縁に一人の女性が、いかにも不機嫌といった面持ちで座っている。
 「まったく。随分とやっかいな事になってるじゃないの、この街。」
 「ヒーヒッヒ、良いじゃねえか、我が気高き弓、マージョリー・ドー?その方がブチ殺しがいが有るってもんだろ?」
と、響いた男の声は、その女性が脇に抱える異様に大きく、分厚い本から流れ出た。一瞬、周囲の人々が訝しむが、
見るからに、険悪その物といった女性に関わりたくないのか、誰もそれを問う者はいなかった。女性は、『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー。すらりと伸びた長身に、滑らかな白い肌、ポニーテールにした栗色の艶やかな髪は、抜群のスタイルを包む丈の短いスーツドレスに映え、絶世といってもいい程の美貌を湛えている。彼女は、この世に渡り来る『紅世の徒』を狩る異能の駆り手、『蹂躙の爪牙』マルコシアスのフレイムヘイズだ。
 「しっかしよぉ、『祭礼の蛇』の奴、何考えてんだ?人間の街なんか支配して、楽しいって言うんだからよお。」
 「ふん。あいつは相当の変わり者って話しじゃない。何考えたっておかしくないわよ。」
 「ヒャッヒャッヒャ、変わり者同士気が合いそうだな、我が偏屈なブッ!」
 「お黙り、バカマルコ。」
マージョリーは本型の神器『グリモア』を叩き、黙らせる。本の隙間から、群青色の炎が漏れ出し、空へと掻き消える。
彼女が訪れたこの街は今、とある紅世の王の本拠地となっている。王の名は『祭礼の蛇』ナフシュ。紅世に異名轟き、天裂き、地呑む化け物と恐れられる強大な古き王だ。彼はこの街を己が者にし、支配するべく、街全体に『大縛鎖』と
言う自在法を張り巡らせた。この自在法は、町に存在する人間の『存在の力』を自動的に、人が消えない程度に吸い上げるという、非常に高度な自在法だ。この自在法の一番の特徴は、存在の力の損失による、世界の揺らぎがほとんど無い事だった。人の存在の力が減れば、回復するまで待ち、そしてまた吸い上げる。この繰り返しにより、この街そのものが、王へと力を供給する、巨大な動力室の様になっている。その特性故に、この街の状態は長らく、フレイムヘイズに知られる事は無かった。この街の傍を通ったとしても、並みのフレイムヘイズでは気づかない程である。恐るべくは、王がこの自在法を、たった一人で築き上げたという事だ。さすがに世の評判は間違っていない。恐るべき実力を持つ自在師と言うべきだった。彼女、マージョリーがこの街の異変に気が付いたのも、全くの偶然だった。ある徒を追っていた最中に近くを通り、そして僅かな違和感を覚えた。その微細な違和感を確かめるべく、街へと歩を進めると、そこはすでに、王の支配する空間へと変貌していた。マージョリーは、この事態に危機を覚え、隣の町へと急ぎ、ドレル・クーベリックが主催する『外界宿(アウトロー)』を通して救援を要請。自らは再び町へと舞い戻り、現地の調査を続けている。彼女がこの事態に気付けたのは、彼女自身もまた高名かつ、熟達した自在師である所以だ。マージョリーは ハァッ、と溜息をつき、

1952:2006/02/08(水) 21:50:26
 「しっかし・・・この三日間、分かった事はと言えば、この自在法の中心地と」
 「いくら自在法の末端をぶっ壊しても、すぐに直っちまうことだけだな。」
マルコシアスが言葉を繋げる。この自在法はよほど複雑な式で出来ているらしく、末端を破壊しても、すぐに大本から
力が流れ込み、復元する。幾たび破壊しても、すぐに元に戻るこの自在法に、ふたりは辟易していた。この行動は既に王へと知れ渡っているはずだが、嗾けて来る様子は無い。鼠一匹が入り込もうと問題無い、とでも言うように。あるいは、別の理由で動けないだけなのか。その所為は静かなだけに、不気味ですらある。
 (ともかく。今日、応援の部隊が到着するはず。これで、事態が進展すればいいけど。)
 (ああ。さすがにフレイムヘイズが集まれば、奴さんも動くはずだ。その時が勝負だな。)
と、二人の間にしか聞えない自在法で、呟く。マージョリーは視線を上げて、広々とした空を眺め、言葉を紡ぐ。
 「まったく・・・ただでさえ『とむらいの鐘』が動き出したっていうのに、次から次へと。」
 「ヒッヒッヒッ、邪魔する奴はぶち殺す。それで良いじゃねえか、我が美しき剣、マージョリー・ドー?」
 「・・・そうね、マルコシアス。」
そして視線を巡らし、ケーニッヒ通りのさらに奥、切り立った岩山の中腹に聳える城を眺める。王の本拠地にして、自在法の中心、カイザーブルク城を。


同日の深夜、夜も更け、月が己が身を西の山麓へと隠す頃。ベルニゲローデとゴスラーの間、 北ドイツ平原から望む、ハルツ山地の主峰『ブロッケン山脈』に、一つの要塞が闇の内に聳え立っている。装飾は一切無く、白い花崗岩で出来た城壁は、いかにも戦のために建てられた城、といった苛烈な印象を与えている。ここは、欧州に覇を唱える『とむらいの鐘』の本拠地『ブロッケン要塞』である。その鉄壁の要塞の奥、一際大きな主塔に、九人の世に聞えし強大なる紅世の王が、集っていた。ここ、『とむらいの鐘』の総本山にて、埒外の力を振るう『九垓天秤』とその主、『棺の織手』アシズである。
「――始まるか。」
中央に立つ異形の者が、重い口を開く。獅子の顔立ちに、鳥を模したくちばし、髪は羽のように広がり、背に
典雅な翼を生やすその姿は、細く引き締まった体躯も相まって、近づく事を躊躇わせる様な雰囲気を漂わせている。
その脇に立ち派手な礼服に身を包む、宰相と呼ばれる牛骨がその主へと問う。
 「して、主よ。編成はいかが致しますか?」
 「うむ・・・・。宰相、モレクよ。そなたに任せよう。」
モレクは一瞬言葉を失った。今回の作戦は計画の中枢を担うだけに、思わず気後れしてしまう。
 「め、滅相もありません。私如きが――」
 「無礼だぞ、痩せ牛!主はお前を信頼して、この責務を与えられた。その信頼を裏切るつもりか!」
―と。モレクの声を遮り、若い女の声が、塔に鋭く響く。黒衣に身を包み鋭く尖った視線を送るその顔には、有り有りと、憤りの表情が張り付いている。牛骨は刹那、身を震わせ押し黙ったが、すぐに、
 「主よ。取り乱してしまい、申し訳有りませんでした。この『大擁炉』モレク、任を請け賜わったからには、身命を賭して作戦を遂行させて御覧に入れます。」
と言った。アシズは鷹揚に頷き、そして、

1963:2006/02/08(水) 21:51:08
 「うむ。我が宰相よ。頼りにしている。・・・皆、良く聞け。今や、壮挙に必要な力は手に入った。残るはその器の
み。心して事に当たれ。」
 「はっっ!」
己が手足となる者達に、檄を飛ばす。八人の異形の者達が、主へと頭を垂れた。 
かつてはオストローデを襲い、そして今。ニュルンベルクを中心に、再び闘争の渦が巻き起ころうとしている。


同日の夜更け。ニュルンブルクを一望できる、小高い岩山に聳え立つ城『カイザーブルク城』は不気味な程に静まり返っていた。簡素で、無骨な造りのこの城は、戦時の際に真価を発揮する強固な山城だ。焦茶色の石を積み上げた城壁は、高い強度を誇り、その内に聳える城は風格を漂わせている。その城の中心『皇帝の間』に、二人の男の姿があった。
 「大丈夫なのか?蛇の王よ。連中は相当な戦力を揃えて来ているぞ。」
男の名は『千変』シュドナイ。黒き鎧に身を固める大柄の男は、己が雇い主へと問う。人を護衛する事に喜びを見出すという、特異な性格の持ち主だ。そして強大なる『紅世の王』でもある。
 「ふん。だからこそ、お前を雇ったのではないか。何、あの数なら問題ないだろう。この城は崩せん。」
答える男の姿はしかし、異形の形相を呈している。人の掌程もある、漆黒の鱗に身を包むその姿は、巨大な蛇の姿を取っていた。シュドナイは微笑し、
 「ふっ、そうだったな。」
そう言って、手近にあった豪奢な椅子に腰掛ける。――と、その時、大きな扉をノックする音が空間に響き、
 「宜しいですか?ナフシュ様。」
 「構わぬ。入れ。」
 「―はい。」
主の言葉を待った後、小さな少女が礼をして、入ってきた。金色の長い髪が、大きな眼と筋の通った鼻に似合う、愛くるしい顔立ちの美少女だ。しかし、その身を包むのは鎖帷子に白いマント、腰に箙を着け、その小さな背に大弓を持つ、という、およそ少女には不釣合いな格好だ。
その少女を眺めシュドナイは、ふと思い出したように呟く。
 「君は・・・たしか彼の燐子」
「シェテトです。我が主の、大切な客人よ。」
シュドナイの言葉を遮り、少女が静に答える。そして少女は己が主に、
 「戦の準備が整いました。城門前に7000、城内に残りの2000体を配置しています。」
と、簡潔に報告する。その言葉を聞き王は、
 「それでは、防ぎきれないだろう。奴等の中に、強大な力を持つ者を多数感じられる。城内には500を残し、城門前に、全兵力を投入せよ。指揮はシェテト。お前が執れ。」
己が燐子に答える。その言葉を聞き、少女は言葉が詰まった。そして目にも明らかに動揺し、
 「―っっ!な、為りませぬ、主よ!私は御身のお傍にて、護衛を―」
 「ならぬ。我が人形達は、直接命を下さねば、動く事すら不可能だ。我は今、この『宝具』に、全ての力を注いでいる故に動きが取れない。なれば、シェテト、お前が指揮を執るしか無かろう?」

1974:2006/02/08(水) 21:52:10
 「しかし―」
 「何、心配要らぬ。我の護衛は、彼の者に任せてある。『千変』よ。存分に働いてもらうぞ。」
答えるシュドナイはニッ、と悪辣な笑みを浮かべ、
 「腕を振るうに値する者がいればな。」
そう言い放つ。少女はまだ当惑していた。しかし己が主の命令に逆らう事は、彼女には出来ない。一瞬の静寂が空間を支配する。やがて、静かな決意を内に秘めた彼女は、唇を震わせて、
 「客人よ。どうか、我が主を、ナフシュ様を御守りください。」
泣きそうな顔を隠すように俯きながら、シュドナイへと懇願する。彼は黙って頷き、そして再び大蛇が口を開く。
 「さあ、行くが良いシェテトよ。戦は今、始まろうとしている。」
 「・・・はい。主よ、どうか、どうかご無事で。」
少女は二人に一礼し、毅然とした態度で部屋を後にする。そして、大蛇がその視線を再び己が宝具へと巡らせた。
 「あと僅か、か。さあ、奇跡を起こし得る者よ。我が意に従い、その力を示せ。」
彼が静かに語り掛けるその先に。一人の少女が眠っていた。



太陽が東の空から顔を出そうとする頃。まだ薄暗い街の中、城門へと続く石畳の坂の上に、異様な集団が結集している。
強大な古き王を討滅すべく集った、フレイムヘイズ達だ。その数は4000を越し―― 一人の王を討つには、多過ぎる程の ―― 二つの軍勢に分かれている。先手―『儀装の駆り手』カムシン・ネブハーウを主将とする、2000人の屈強なる戦士達。その副官に、『弔詞の詠み手』マージョリー・ドー、『極光の射手』カール・ベルワルドが、それぞれ任命されている。カムシンは薄霧の向こうに、僅かに顔を覗かせる城塞を眺め、そして
 「ああ、そろそろ頃合いですね。敵が動き始めた様です。」
呟きを漏らす。灰色のローブを褐色の肌の上に纏い、フードで隠すその顔には、無数の傷跡が残されている。
 「ふむ、先手を打たれたか。『祭礼の蛇』もなかなかに戦い慣れしている様じゃな。」
その声は、少年の小さな手に掛かる、ガラス玉を繋げた様な、飾り紐から聞えた。彼の名は『不抜の尖嶺』ベヘモット。
少年に力を与える、古き紅世の王の一人だ。彼らの言う通り、城門から無数の燐子が湧き出し、隊伍を整えている。中には、剣や弓、斧に矛槍など、宝具と思われる物を持つ者さえいた。その数は今、目に見えるだけでも優に、フレイムヘイズ兵団の倍はあるだろう。まだ城内に潜むものを考えれば、一人の王が持つには、圧倒的な量の軍勢だった。その陣容を睨み、気の強そうな顎鬚の青年が、吐き捨てる。
 「はっ、カムシンの爺さんよ。あんなの頭数揃えの、雑魚ばっかじゃねえか。俺達の敵じゃねえだろ。」
鈍く銀色に輝く鎧に身を包み、面覆いの無い兜を着ける彼は、一見二十代の青年にしか見えないが、数百年もこの世を駆け回り徒や王を狩って来た、歴戦のフレイムヘイズだ。『極光の射手』カール・ベルワルドの強気な言葉に、
 「はぁ・・・まったく。カール、あんた全ッ然、、変わってないわね。あの燐子には並みの徒をはるかに上回る、存在の力が込められているわ。おまけにあの数。油断すれば、負けるのはこっち。それぐらいあんたなら分かるでしょ?」
マージョリー・ドーが、彼を嗜める。彼女が言うように、『祭礼の蛇』ナフシュの燐子達は、通常の燐子では考えられない程の力を、身の内に潜めている。『支配』という力を司る、彼の特性故だろうか。この異様の集団は、ここに集った歴

1985:2006/02/08(水) 21:52:54
戦の勇士達にとっても、苦戦を強いられる相手だ。
カールはほんの一瞬、唇を噛み締め、
 「分かってらぁ、そんな事!―だが、この兵団には新兵も混じってやがる。奴等がやられなきゃいいが・・・」
この兵団はマージョリーの連絡を受け、即座に結成されたものだ。『とむらいの鐘』を警戒して、強者達が欧州に集まっていたものの、その陣営には『とむらいの鐘』首領、アシズが十八年前に起こした、『都喰らい』によって危機を感じ、紅世の王が契約した、新兵も混じっている。彼の呟きに首に掲げた、鏃の形をした神器「ゾリャー」から
 「あれ?カール、あんた心配してるの?」
まず、艶を含む女の声が、
 「ふ〜ん。カールってば、優しいとこあるじゃない。いつも怒ってばっかなのに。」
続いて軽い、からかう様な声が聞えてくる。『極光の射手』カール・ベルワルドに力を貸す、『破暁の先駆』ウートレンニャヤと、『夕暮の後塵』ヴェチェールニャヤである。カールは軽く笑い、城を眺めながら
 「へっ、隊長として、戦力の損失を危惧するのは、当然だろーが。」
そう答えた。カムシンも僅かに頷き、口を開く。
 「ああ、そろそろ聞かせてもらいましょうか。『鬼功の繰り手』」
 「ふむ。おまえさんが戦ったとき、『祭礼の蛇』はどんな戦法を取ったんじゃ?」
二人は今まで一言も発していない、一人の小柄な少女に問う。彼女の名はサーレ・ハビヒツブルグ。 まだほんの子供に見える少女は、滑らかな白い肌に、金色の短い髪が映える可愛らしい女の子だ。だが、その整った風貌には常に、冷ややかな視線が張り付いている。
 「私が戦ったとき、あいつは、直接指揮を執らなかった。」
少女は淡々と答える。続いて、少女の持つ無数の紐を垂らした、大きな糸巻きから、氷を思わせる冷たい男の声が響く。
 「我々が交戦した際、彼奴は配下の燐子に、指揮を委任した。ここから見えるであろう。後列に控え、強大な力を持つ燐子だ。」
カイザーブルク城正門前に、馬型の燐子に乗った見目麗しき少女が、指揮を執っている。他の燐子と比べてもさらに強力な力を宿しているのが、遠めにも見て取れた。再び、少女と契約する紅世の王『虚構の鎚』タルウィスが言葉を紡ぐ。
 「あの燐子は自らをシェテト、と名乗った。あやつの操る軍勢は、無秩序に敵を攻めるのではなく、陣形を用いた戦術で、我等に襲い掛かった。」
マージョリーは思わず、怪訝そうに呟く。
 「燐子が?そんな複雑な動きが出来る燐子なんて、聞いた事が無いわね。」
少女が顔を険しく歪め、詰問する。
 「私たちの言う事が、信じられないと?」
一瞬、場に張りつめた空気が漂うが、即座にマルコシアスが
 「ヒッヒッ、そうじゃねえさお嬢ちゃん。そんな事が出来る蛇野郎に、感心したってだけさ。」
と、静かに言った。少女は胡散臭げに、グリモアを見つめるが、その言葉に満足したのか、言葉を続ける。
 「私達も燐子で応戦し、戦局はしばらく、一進一退となった。」
 「うむ。我等の燐子が、彼奴等と戦っている隙に、あの姑息な蛇めは逃げおったわ。」
少女が更に言葉を続ける。

1996:2006/02/08(水) 21:53:22
 「そう。戦局はどちらが有利とも言えない内に。」
 「何故だ?その状況なら己が傷つく訳でもねえし、逃げる必要が無いじゃねえか。」
カールが問い詰める。だが、
 「分からない。あいつは数百体の燐子を捨て駒にして、撤退した。」
その問いの答えを、少女は持っていなかった。
ともかく、とベヘモットが言い、カムシンが言葉を紡ぐ。
 「ああ、今回も配下の燐子に指揮を任せている様ですし、自ら戦うのを嫌っているのかも知れませんね。」
 「ふむ。だが、どちらにしろ油断ならぬ相手と言うわけじゃな。皆、用心せよ。」
ベヘモットが注意を促す。後数分もすれば、戦が始まるだろう。しかし、彼らはまだ気付いていなかった。彼らの背後に、最も警戒すべき敵が近づいて来ている事に。


カイザーブルク城の北に広がる、昼なお暗い森林に、二人のフレイムヘイズが、静に時を待っている。彼女達が眺める城からは、何かが爆発する音や、鯨波の声がかすかに聞え、時折思い出したかのように、様々な色の炎が立ち上っている。フレイムヘイズの一人は、当代最強と詠われる『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ=サントメール。輝く炎髪に、赤く燃える瞳を持つ彼女は黒いマントに灰色の貫頭衣、腰には帯剣せず鎧は胴回りのみ、という出で立ちに身を包んでいる。
彼女と契約する紅世の王、『天壌の劫火』アラストールが、重く響く声で静かに己が契約者に語りかける。
 「―始まったか。」
 「ええ。そうみたいね、アラストール。やっと出番が来たみたい。」
透き通るような白い肌に、燃える様な意思を乗せた瞳を持つマティルダが、嬉々として喋る。それを咎めるかのように、もう一人の女性が重い口を開く。
 「戦は起きないのなら、その方が良いのであります。」
彼女は戦技無双の誉れも高い『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメル。無表情ではあるが、整った顔立ちに細身の体を持つ、欧州系の美人だ。戦場に似合わぬ、気品高き豪奢なドレスに身を包む女性の言葉に、マティルダはふっと笑い、
 「分かってる。でもこれは避けては通れない戦い」
 「うむ。あやつを放って置けば、その得た力で、何をしでかすか分からぬからな。」
アラストールが頷く。彼女が指摘するように、『祭礼の蛇』の力は、膨大な量になっていた。『都喰らい』で、莫大な存在の力を得たアシズに次ぐ程に。ただでさえ、変わり者として有名な彼が、この都で得た力を何に使うかは、誰にも想像が付かなかった。彼が行動を起こす前に、討滅すべき相手である。
 「それでは、行くのであります。」
戦場には場違いとも言える、華麗なドレスに身を包むヴィルヘルミナが、マティルダを促す。
 「ええ。――はっ!」
身の内、存在の力を高めたその刹那、マティルダの前に、輝く灼熱の悍馬が瞬時に湧き出る。彼女は嘶く大馬に駆け跨り、
 「行くわ!しっかり掴まってて!」
戦友に喚起を促す。ヴィルヘルミナは、彼女の細く、だが力強くもある腕に一条のリボンを巻きつけ、

2007:2006/02/08(水) 21:54:00
 「了解であります。」
と言い、続いて
 「要警戒」
彼女の頭に頂くティアラから無愛想な女の声が、森林に低く響く。ヴィルヘルミナに力を与える紅世の王『夢幻の冠帯』ティアマトーだ。マティルダは頷きそして―
 「はあっ!」
気合一閃、悍馬を空へと駆けさせる。聞えるはずの無い、空を蹴る馬蹄の音が高らかに、蒼天に響いていた。


 (来る――)
フレイムヘイズ達が、大音声の鯨波の声を上げながら、坂道を一気に駆け上がる。数の利点を生かすために、鶴翼の陣形を取った本陣へと。シェテトは、燐子達に命令を下す。
 「弓を取れ!」
人の形をした、漆黒の人形達は、己が腕を瞬時に弓の形に変形し、矢を番え存在の力を込めた。敵の姿がすぐ真近に迫り、いくつかの炎弾が飛来する。
 (まだだ。まだ早い―)
シェテトは冷静に判断を下す。敵の炎弾も、まだ距離が開いているためか、命中したものは少ない。僅かに時を待ち、そして敵がその弓の、射程範囲へと迫ったその刹那―
 「放てぇ―っ!」
叫ぶと同時に自らも、背負った弓の宝具『雷上動』で射掛ける。彼女の矢は空中で一瞬の内に、数百の数に分裂した。そして、万にも迫る漆黒の矢の群れが、天を埋め尽くす。矢は豪雨のように降り注ぎ、敵を穿つ。数百人近くのフレイムヘイズが地に倒れ伏すが、その勢いは止まらない。彼女は、晴天に白く輝く白銀の兜を身に付け、そして
 (主よ・・・ご無事を祈っております。)
己が主へと心中で語りかけ、決意を固める。争いを嫌う心優しい主を守るために、幾たびも繰り返してきた戦いを、生き抜く覚悟を。一瞬の間の後、漆黒の大馬に鞭をやり、一気に前線へと駆けさせ――
 「全軍、突撃――っ!」
再び叫び、矢を番える。漆黒の軍勢が呼応し、逆落としを仕掛けんと、動き出した。異形の者達は一声も上げず、ただ目前の敵を殲滅せんと、フレイムヘイズ兵団へと迫る。


フレイムヘイズと燐子の軍勢が激突するその空中に、場違いの様な、輝く群青色の獣が空を舞っている。耳をピンと立てた熊の様な獣『トーガ』が眼下に迫る軍勢を、その鞭のような、ずんぐりむっくりした腕で薙いだ。
 「殺す殺す殺す殺す殺す!徒は、全て、ブチ殺してやる!」
 「ヒャーハッハー!殺すぜ、壊すぜ、この―― 徒共がーー!」
大地を抉る鋭利な鎌が、異形の者達を粉々に吹き飛ばし、宙へと、その欠片を舞い上がらせる。
それに気付いた燐子達は再び腕を弓へと変質させ、天空に浮かぶ獣へと、一斉に射掛ける体勢を整える。

2018:2006/02/08(水) 21:54:53
だが、それよりも僅かに早く、青き獣が声高らかに歌いだす。
 「深い青い海の底、っは!」
 「潜って、奪えば、大漁だ、っと!」
刹那、獣の口から百をも越える炎弾が、吐き出される。燐子達が放つ矢は、獣に届く寸前に、炎弾に吹き散らされた。凄まじい熱量の炎弾が、地表に着弾。爆音を撒き散らし、数多の燐子を屠る。これこそが彼女、マージョリー・ドーが得意とする自在法、『屠殺の即興詩』だ。彼女は地表に降り立ち、そして、
 「ったく、何なのよこの数。いくら殺しても、次から次へと沸いてくる!」
小声でぼやく。彼女は既に、二百を越える燐子を打ち倒したが、まるで堪えた様子は無い。それどころか、圧倒的多数の軍勢の利点を生かし、兵団を囲みながら四方八方を攻め立てている。
 「ヒーヒッヒ、良いじゃねえか、我が残酷なる歌姫、マージョリー・ドー?俺達の役目は陽動だ。今頃、『天壌の劫火』の野郎が、蛇退治に躍起になってるはずだぜ?」
 「そうね。少しでも長く時間を稼がないと。そのためには・・・」
 「ヒーー、ハーーー!殺して、殺して、殺してっ、ブチ殺すんだぁーーーーっ!」
マルコシアスが、歓喜の雄叫びを上げる。そしてすぅ、とトーガが息を吸い込み、炎の波を燐子へと浴びせ掛けた。戦局は今、どちらに転ぶか分からない、混戦へと縺れ込んでいる。


敵味方が入り混じり、どちらが優勢とも言えない戦場に、およそ似つかわしくない、可愛らしい少女が立っていた。少女は、迫り来た燐子をあっさりと蹴り飛ばし、フンッと、鼻を鳴らすと
 「『祭礼の蛇』の奴、ちっとも変わってないわね。」
と、吐き捨てるように言った。彼女と契約する紅世の王『虚構の鎚』タルウィスは、
 「まったくだ。己はのうのうと、高みの見物とは・・・。」
静かに、怒りを滲ませた声で呟く。そして
「我が高き器、サーレよ。この城を、愚劣極まる彼奴の墓場としてやろうぞ!」
やや昂ぶったた面持ちの声で、信頼する少女へと語りかける。少女は、
 「ふん、当然でしょ?これ以上あんなゴミ野郎に、付き合ってらんないわよ。」
そう言い捨てる。
 「タルウィス、行くわよ!この忌々しい燐子共を、皆殺しにしてやる!」
少女が激昂した声で言い放ち、己が神器『ディープパープル』を天へと掲げる。糸巻きに結び付けられた、無数の紐が一瞬金色に輝き、次の瞬間には、少女を中心とした円を描いて、地表に突き刺さっていた。土を抉り、それは見る間に、無数の土の人形を作り出す。
 「我が力に従いし者達よ。」
タルウィスが、土の人形に、滔滔と語り掛ける。
 「天下に、その名を知らしめる、屈強なる者達よ。」
サーレが言葉を紡ぐ。土の人形が、弱い金色の光を漏らしている。
 「我が力と為りて」

2029:2006/02/08(水) 21:55:31
 「敵穿つ剣と為れ!」
一瞬。人形が、眼も眩む程強く輝く。光が徐徐に晴れ、過ぎ去った後には、鈍く輝く金色の軍団が、主を守るように傍に控えている。中には黄金の馬に騎乗し、強固な鎧に身を包む者もいる。右手には、6m以上の長さをもつ槍を、左手には楕円形の、巨大な盾を備える畏怖の軍団はしかし、優雅ですらあった。サーレは、己が呼び出した軍勢を、満足そうに見回し、
 「ファランクス」
そう、言い放つ。500を優に超す、黄金の戦士達が、彼女を中心とした、四角形に近い陣形を取る。
そして、
 「突撃せよ!」
タルウィスの掛け声と共に、煌く金色の力の奔流が、漆黒の地表を掻き分ける。軍勢を金の糸で操るその様は、『戦女神』と恐れられ、幾多の『王』を屠ってきた。その少女の瞳には今、狂喜の光が燈っている。



 「はっ、連中も派手に暴れているな。あんたご自慢の燐子達が、次々に打ち倒されているぞ。」
『千変』シュドナイは呟く。城の窓から見下ろす地平には、無数の燐子たちが展開しているが、ある者は爆破に巻き込まれ、またある者は剣により打ち伏され、数を減らしていっている。壮絶な力の余波がガラスを揺らし、戦場の苛烈さを伝えていた。その言葉に大蛇は、
 「心配要らぬ。シェテトが指揮を執っている故に、我が燐子達が負ける事は無い。」
そう答えた。その言葉にシュドナイは、からかいを含む声で、
 「ほう。あの子を随分と信頼しているんだな。」
言葉を口にした。大蛇は、一瞬考えるかのように沈黙し、
 「あやつが戦陣に立ち、負けた戦は一度とて無い。ただ、其れだけの事だ。」
静かに答えた。シュドナイは何も言わず、再び地上を眺める。無数の燐子の軍勢が、四方から一斉にフレイムヘイズ兵団へと襲い掛かっている。その燐子達を吹き飛ばす様に、突如、群青色の炎が地表に突き刺さり、大爆発を起こした。
 (ッッ――!あの炎は!)
シュドナイは、身の内で驚愕の声を上げ、歓喜に打ち震える。
 (ふふ、そうか。彼女がこの戦場に―)
シュドナイは記憶に思いを馳せる。数多の同胞を喰らう群青色の獣を、美しき殺戮者の姿を、その脳裏に思い浮かべた。
そして己が雇い主へと、轟然と言い放つ。
 「悪いな、蛇王よっ!大命の一つを見過ごしたとあったら、ババアに何を言われるか判らんからな!」
言うが早いか、窓を一気に突き破り、空中へと身を躍らせる。割れた窓から、敵の上げる雄叫びが聞え、室内に響く。
大蛇はただ押し黙り、そして一人、呟いた。
 「ふん。流れ者風情はやはり、当てにならぬな。」
彼は一人の少女を思い浮かべる。自らが造り出した、およそ戦場に似つかわしくない、愛くるしい少女を。
 (シェテトよ・・・。)

20310:2006/02/08(水) 21:56:02
大蛇は呟き、外を眺める。其処には、黒馬に跨る小さな少女が、弓を引き絞り敵を幾多も屠る姿があった。


趣向を凝らした様々な調度品を、廊下の脇に廻らせる回廊で、漆黒の群れと、紅蓮の輝きを放つ騎士団の激戦が繰り広げられている。騎士団の先頭に立ち、悍馬に跨る女性が手に掻き抱く焔の槍で燐子を打ち砕く。
 「警戒が厳しくなってきたわね。」
 「『祭礼の蛇』が待つ、王の間が近いのでありましょう。」
マティルダの呟きに、ヴィルヘルミナが言葉を乗せる。その顔は、狐を思わせる白面の仮面に覆われ、何条もの鬣を生やしている。
 「そうね。・・・それにしても、凄い数。」
マティルダは話しながらも、横手から斧を突き出してきた燐子を、槍を扱いて一直線に貫く。
 「この街で長き時を掛け、力を蓄えていたのだろう。」
彼女の身の内に眠る魔神が、言葉を繋げる。そして、マティルダが前方を見定めた先に、突如、廊下の曲がり角に潜んだ燐子の集団が踊り出し、弓を射掛ける。矢は二人の目前まで迫るが――
瞬時に二人の前に展開した、幾重にも折り重なるリボンの壁に阻まれ届かない。
そのリボンの障壁の中、
 「騎乗せよ!」
マティルダが声を張り上げる。紅蓮の軍団が、即座に湧き上がった炎の大馬に跨った。ヴィルヘルミナがリボンを解き、マティルダが自らも悍馬に鞭を走らせる。そして、
 「敵をっ!」
紅蓮の大馬が疾駆し
 「踏み潰せぇ!!」
一拍の間の後、騎士団の、怒涛の突撃が始まる。燐子を踏み砕き、回廊を走るその軍勢は、一直線に『皇帝の間』
へと進んでいく。
今や戦いは酣となり、戦局は混沌とした様相を呈している。


それは唐突に。燐子を蹴散らす青き獣へと、紫色の濁流が空から押し寄せる。
 「っっ―!危ねえ!」
マルコシアスは、叫ぶと同時に炎の波を、眼前に迫る濁った紫炎へと吐き掛けた。炎はその矛先を逸らせ、あさっての方向へと飛び行き、着弾する。そして爆音とともに地面を抉り、地表を揺らした。
 「久方ぶりだな、美しき修羅、弔詞の詠み手。こんな所で会えるとは思わなかったぞ。」
青き獣の前に、大柄な男が立っている。
 「お久しぶり、『千変』。また護衛遊びに勤しんでるの?」
皮肉を込めてトーガの内の女性が答えた。そして
 「『千変』よお。てめえ一体、何考えてんだ?他人の護衛なんぞして、何が楽しいっつーんだ。」

20411:2006/02/08(水) 21:56:30
マルコシアスが吠える。それにシュドナイは答えず
 「ふっ、君達に分かってもらおうとは、思ってないさ。・・・さて、早速で悪いが、そろそろ始め様じゃないか。」
言う内にも、シュドナイの肉体が見る間に変貌していく。虎の体に、鋭く尖った鷲の足。背には蝙蝠の羽が生え、その尾は蛇を生やしている。トーガよりさらに一回り大きいその姿は、古の野獣ヌエともキマイラとも取れる。まさしく『千変』の真名に羞じないその様に、マルコシアスが、毒付く。
 「ハッ!相変わらず、胸くそ悪い姿じゃねーか千変。ブチ殺しがいがあるってもんだ。」
 「ふん。君達には多くの同胞を葬られた。その仇を取らせてもらおうか。」
『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーはここ数百年間の内に、彼、シュドナイの所属する徒の大集団、『仮面舞踏会』の組員を、二百近く討滅している。彼が戴く盟主より下された大命は八つあり、その内の一つに『弔詞の詠み手』の殺害が含まれていた。シュドナイは言葉を続ける。
 「さあ、彼方の叫喚を肴に宴を始めよう、麗美なる惨殺者。」
巨大な獣が疾駆し、高く地を蹴る。
 「君と我らの因縁も―」
遥か高みより飛来するそれは
 「―今日、此処で潰える!」
超速の弾丸となって、トーガに激突した。


カイザーブルク城へと続く坂道の下方に、木材を組み合わせただけの簡素な、フレイムヘイズ兵団の本陣が控えている。
その陣の先端に、黒い修道服に白いベールを纏った、四十過ぎ程の丸顔の女性が城を眺め、顔を顰めている。
 「あらあら。随分と厳しい事になっていますね。うちの先手が回りを囲まれちゃってるわ。」
彼女の名は『震威の結い手』ゾフィー・サバリッシュ。このフレイムヘイズ兵団の総大将だ。彼女の漏らした言葉に、
 「呑気な事を言っている場合では無いですぞ、ゾフィー・サバリッシュ君。戦況は我が方が不利なのですからな。」
澄んだ男の声が、ベールの額に刺繍された星から響き、咎める。彼女と契約する紅世の王『タケミカズチ』だ。ゾフィーはその叱責に、
 「百も承知ですよ、タケミカズチ氏。この戦はあまり時間を掛けられる物では無い。一気に決めなくては。」
どこか、戦を楽しむような声で答える。タケミカズチは、うむっと頷き、
 「時を掛ければ、いつ『とむらいの鐘』が動き出すか、分かった物ではありませんからな。」
彼女達の言うようにこの戦は、速攻を前提とした作戦だ。戦闘に時間が掛かれば、『都喰らい』に成功したアシズ率いる『とむらいの鐘』が隙を突き、動き出す恐れがある。だからこそ彼女は、一人の王に対しては異例とも言える数のフレイムヘイズを率いて、戦闘を仕掛けた。だが、
 (まさか彼の王が、これ程までの軍勢を備えていたとは。)
彼女は『祭礼の蛇』が、数多の燐子を操る王だと知ってはいたが、その力量までは聞き及んでいなかった。漆黒の燐子達は、その数を減らしながらも、着実に敵を打ち伏せている。
 (しかし――)
ゾフィーは胸中で呟く。

20512:2006/02/08(水) 21:57:17
 (作戦はとりあえず、成功していると言っていい。後はどれほどの時を稼ぐべきか・・・)
やや沈痛な面持ちで、一人ごちる。彼女、ゾフィー・サバリッシュの立てた作戦はこうだ。まず、城門前へと兵団を展開し敵軍と一戦交え、敵衆の耳目を集める。そしてその間隙を縫い、単独でも十分な戦力を保持する二人のフレイムヘイズを、手薄になった城内へ突入させる。その後『祭礼の蛇』を捕捉し、討滅せしめる。この作戦が成功すれば、
あの強力無比なる軍勢を正攻法で攻め、壊滅させた後に『祭礼の蛇』と相対すよりも、人員の損失を減らすことが出来た。だがこの作戦は同時に、城へと潜り込むフレイムヘイズの、身の危険性が飛躍的に高まるものでもあった。それ故に彼女は、当代に並ぶ者無き使い手と謳われる女性と、それに勝るとも劣らないフレイムヘイズをその任に抜擢した。たった二人であの化け物に打ち勝つ事が出来るか否か。それがこの戦の分かれ道である。
彼女は溜息をつき、
 「ドゥニ、先手の陣へ赴き、カムシンに負傷兵を本陣へと戻す様に伝えなさい。その後、本陣に500の守備兵を残し、後詰の部隊を率いて先手の軍を援護します。部隊長はアレックスが務めること。」
傍に控える二人の男へ命令を下す。そして
 「これで、戦局が少しは良くなるかしら?」
 「あの二人の女丈夫しだいですな。」
高みに聳える城を眺める。その内で、獅子奮迅の活躍をしているであろうフレイムヘイズを思い浮かべながら。


阿鼻叫喚渦巻く地表とは異なり、カイザーブルク城は静まり返っていた。その城の中央一階『皇帝の間』に、二人のフレイムヘイズがいる。
 「あなたが『祭礼の蛇』ナフシュね。」
マティルダは目の前に佇む、巨大な漆黒の大蛇に問う。
 「・・・ふん。炎髪灼眼、『天壌の劫火』のフレイムヘイズか。」
大蛇は苦々しく、重い口を開く。そして
 「久しいな、魔神よ。出来れば二度と会いとう無かったが。」
マティルダの指に輝く宝石型の神器『コキュートス』を睨みつける。
 「『祭礼の蛇』ナフシュよ。貴様は一体、何を企んでいる?何故、膨大な存在の力を蓄えるのだ。」
雷鳴が如き声が空間に響き渡る。ナフシュは猛禽を思わせる鋭い目を見開き
 「・・・ふ、ふふ、ふはーっはっはっはっはっは!!―――――同胞を打ち殺さんと蠢く愚かな王に、我が志を計る事など叶わぬわ。」
己を討たんと攻め上がって来た魔神を、嘲笑する。愛する王を侮辱されたマティルダは、
 「・・・アラストール」
手に炎の矛を生み出し、戦いの初動を計る。そして、
 「もとより、話し合いの通じる相手では無かったな。」
魔神が己が契約者に喚起を促す。
 「難敵」
ティアマトーが静かに呟き、

20613:2006/02/08(水) 21:57:51
 「来るがいい!討滅のっ、道具共が――っ!」
漆黒の大蛇が吠えかかった。
 

敵味方入り乱れ、地獄さながらの凄惨な戦いの場に、二体の一際大きな獣が互いを死滅せんと相争っている。
 「ゴアアアアアァッ!!」
叫ぶ大虎の口から、不気味な紫色の炎の波がトーガへと押し寄せる。それをマージョリーは、
 「マルコシアス!」
 「応よ!ヒャーッハッハー!」
真っ向から受けてたった。トーガの口から壮絶な炎の奔流が噴出し、長く撓る両腕から無数の炎弾を解き放った。
眼にも鮮やかな群青色の炎が、濁った紫色の炎に真正面からぶつかった。空中で大爆発が巻き起こり、周りにいた無数の燐子を吹き飛ばす。青と紫の炎が溶け合い、未だ余燼燻る空に、トーガが舞い上がる。そして
 「金曜日にくしゃみをしたらっ!」
獣の口が即興詩を紡ぎだす。
 「日曜日にはお陀仏さ、っと!」
刹那、トーガの口から、大渦が如き炎の大波が押し寄せる。シュドナイは、
 「――っ、ぬぅ!」
短く呻き、その巨体を宙へと浮かせ、難を逃れた。だが、
 「天国地獄どちらかな、っは!」
トーガは軽やかに詠う。
 「地獄に落ちたら火炙りだ、っと!」
歌が流れ出すと同時に、突如、炎の波が急転しシュドナイの頭上から被せかかった。炎の渦は、虎の獣を中心とした大きなドーム状の円を描く。
 (抜かったっ!罠か!)
球体の内でシュドナイは舌打ちし、『強化』の自在法を瞬時に構築する。その一瞬の攻防を経て――
 「男は一人、身を焦がす!!」
獣の歌が途切れたその刹那、群青の珠が破裂し、先の爆発もかくやという程の大炎上を起こす。想像を絶する炎の熱が弾け、地表を大きく揺るがした。


カイザーブルク城の最奥、王者が佇む『皇帝の間』で、静かに戦いの火蓋が切って落とされる。まず先手を取ったのは
 「――ぬうわぁっっ!」
『祭礼の蛇』ナフシュだった。一声呻き、即席の燐子を作り出す。城外に展開する物よりも、更に強力な、漆黒の人形が、音も無く二人へと襲い掛かる。その異形の群れを、
 「矛槍!」
灼熱の炎を宿す騎士団が迎え撃つ。だがそれは、狡猾な大蛇の仕掛けた罠だった。

20714:2006/02/08(水) 21:58:36
 「ガァアアアアアアッ―!」
世にも悍ましき声を張り上げ、燐子に組み込まれた自在式を発動させる。刹那、燐子の体が膨れ上がり、
爆音と共に四散し黒色の炎を撒き散らす。マティルダが、迫り来る黒炎に飲み込まれる寸前――
その体は幾条もの、桜色に輝くリボンによって包み込まれていた。淡く光るリボンには『反射』の自在法が組まれている。闇を思わせる漆黒の炎は、その矛先を横へと逸らされ、強固な壁に、大穴を穿つ。
 「ぬぅっ!」
大蛇が再び唸り声を上げ、燐子を作り出すが、
 「弓!」
それよりも一瞬早く、マティルダが騎士団に弓を射掛けさせた。赤く灼熱色に煌く矢が一直線に空間を突き抜ける。一瞬、赤く燃える炎が室内に満ちるが、
 「ハァァァァッ――ッ!」
大蛇の低い呻きと共に、吹き散らされる。炎は、その鉱石よりも硬い鱗を僅かに焦がしただけだ。そこへ
 「ッ!」
ヴィルヘルミナが鋭い呼気を発し、『強化』の自在法を乗せたリボンを、何条も解き放つ。リボンは大蛇の傍らに佇む燐子を打ち砕き、その主を貫かんと迫るが、
 「無駄だ!」
大蛇の怒号が、彼女と同じ『強化』の自在法を奏でた。その一瞬、ナフシュの体表が鈍く黒い輝きを放つ。そして鉄をも穿つ桜色のリボンは、大蛇の鱗に弾かれあらぬ方向へと散らされていた。
 (ふむっ。流石に世に名高き自在師でありますな。)
 (そうね。あれだけの自在法を一瞬で組み上げるなんて。)
二人は小さく囁く。マティルダの『騎士団』も、ヴィルヘルミナのリボンも、蛇王の体に傷を付ける事が出来ない。マティルダは内心舌打ちした。
 (この状況はまずい。なにか――)
 (策を立てねばならないのであります。)
ヴィルヘルミナが言葉を繋ぐ。大蛇が再び、二人へ吼えかかる。
 「どうした!魔神よ、貴様の道具はその程度かっ!」
言葉と共に三度、燐子の群れを瞬時に作り出す。その漆黒の軍勢を迎え撃ちつつ、二人は部屋を見渡す。
 (何か戦局を変えられ――)
 「マティルダ!!」
彼女の言葉を遮り魔神が叫んだ。そして、
 「っっ――!」
大蛇の巨大な尾が、己が生み出した燐子ごと、マティルダを横薙ぎに吹き飛ばした。次の瞬間には、
 「―――――っ、う、あっ!」
横手の壁へと叩き付けられていた。壁にヒビが入り、崩れる寸前の状態の中、マティルダは翻筋斗打って床に転がった。その口からは鮮血が滴り落ちている。ヴィルヘルミナは大蛇を一睨みし、桜色の炎弾を解き放つ。その炎が爆発し、熱冷めやらぬ内にマティルダの傍へと跳躍する。

20815:2006/02/08(水) 21:59:07
 「傷は?」
仮面の上からでも、彼女が狼狽えているのが見て取れる。その問いにマティルダは、
 「っ、大丈夫。動けない程じゃ無いわ。それよりも」
マティルダの声が中途で止まる。その視線は正面の壁に架けられた、一振りの黄金の大剣へと注がれていた。陽光に煌く刀身を持ち、その柄には大小様々な宝石が散りばめられている。歴代の皇帝に受け継がれてきた王者の証である。彼女は瞬時に思考を巡らせ、
 「ヴィルヘルミナ。」
心配そうに覗き込む仮面の女性へと、策を打ち明けた。ヴィルヘルミナは、背後から攻め寄せる燐子をリボンで貫きつつ、
 「・・・了解であります。」
静かにそう答えた。
 「あの大蛇相手に、如何程時を稼げそうでありますか?」
マティルダは、にっと、不敵な笑みを浮かべ、
 「友人のためなら、幾らでも稼いで上げるわ。」
そう答えつつ、目の前に迫る燐子を、手に持つ槍で打ち砕いた。そして
 「ナイツ!」
再び彼女の力の顕現たる、赤く燃える軍勢を生み出す。マティルダは紅蓮の悍馬に跨り、
 「はぁぁぁぁぁっ!」
黒き鱗を湛える蛇王へと、攻め掛かった。


大蛇の目前に、灼熱の炎の群れが迫る。それを、
 「ズアアアアアァ―!」
叫ぶと同時に、その大口を開け、粉塵が如き黒炎を撒き散らす。赤い軍勢は吹き散らされ、その視線の先に炎髪灼眼のフレイムヘイズを見据える。
 (むぅ、このまま消耗戦を続けられては・・・)
漆黒の燐子を生み出しつつ、胸中で呻く。彼の力の大半は既に、宝具へと注ぎ込まれ、残された力は僅かに半分も残されていない。
 (何か決定的な戦機を掴まねば。)
大蛇は一人呟いた。その眼前に、燐子を踏み砕いた輝く悍馬が踊り出る。
 「――はぁっ!」
フレイムヘイズが鋭い声を上げ、大蛇の横腹に風穴を開けるべく、上段に構えた炎の矛を振り下ろす。だが――
 「無駄だと言ったはずだ!」
漆黒の鱗に傷を付ける事は出来ない。蛇王は鎌首を擡げ、フレイムヘイズを噛み砕かんと、背後より迫る。
その牙がフレイムヘイズに届く寸前
 「ハッ!」

20916:2006/02/08(水) 22:00:14
宙に浮かぶ女性が放ったリボンが、マティルダを引き寄せた。
再び、大蛇と二人のフレイムヘイズが対峙し、睨み合う。そこで、ふと。大蛇は気が付いた。
 (寡言の大河が、攻撃を仕掛けて来ぬ?)
先程から、攻め掛かって来ているのは『天壌の劫火』の道具だけだ。
 (何か、狙っておるな。)
ナフシュは一瞬警戒するが、
 (ふん。どちらにせよ、奴の炎も、寡言の大河の白帯も、我に傷を付ける事は出来ぬわ。)
そう思い直した後、燐子の群れを造り出し、嗾ける。その軍勢をマティルダは、
 「だあああああ――っ!」
掌から膨大な量の、灼熱の炎を生み出し迎撃する。炎の波が燐子を飲み込み、蛇王をも飲み尽くす勢いで迫る。大蛇は心中でせせら笑い、
 「はっ!とんだ虚仮威しだなっ!」
迫り来る炎を突っ切って、再びフレイムヘイズに牙を立てんと蠢く。だが炎の晴れたその先に、
 「ぬぅっ!」
有るべき姿が無かった。マティルダは白きリボンに引っ張られ、横手の壁へと移動している。ナフシュが首を擡げ、眺め見たその先には、
 「――っ!」
輝く桜色の光が有った。
 (これを―)
マティルダが先端を輝かせる黄金の大剣を握りしめ、
 (狙っていたのかっ!)
足裏から火の粉を吹き散らし壁を蹴った。『形質の強化』の自在法を燈すそれは、見る間に加速して――
 「グガアアアアアアアアァーッ!!」
蛇王の脇腹を引き千切る。ナフシュは断末魔の雄叫びを上げ、地に塗れた。


王者が佇む場『皇帝の間』に、一匹の大蛇が地に伏せている。その千切れた腹の断面からは、濃霧の様な黒炎が噴出し、直ぐに空へと掻き消えていった。
 「終わった・・・」
マティルダが呟く。
 「うむ。戦いは終焉を迎えた。」
魔神が淡々と言葉を重ねる。その言葉を聞き、大蛇が口を開く。
 「・・・ふん。討滅の、道具共め。」
その声は弱弱しく、すぐに空へと掻き消える。
 「『祭礼の蛇』よ。死ぬ前に答えるがいい。貴様は何を企んでいた。」
更に魔神が口を開き、王に問う。

21017:2006/02/08(水) 22:00:40
 「・・我はこの世を広く旅した。そして数多くの人間を喰らい、その様を眺める内に、人間を支配する事に興味を抱いた――」
大蛇は更に続けた。
 「愚直で、同じ種同士殺しあう愚かな者達はしかし、生の輝きに溢れていた。」
マティルダはただ押し黙っている。
 「・・・我は幾多の街を支配し人間を見定めた。だが、そのたびに討滅の道具共が嗅ぎ付け、戦いを挑んできた。
我は討滅者達に打ち勝つ為に、数多くの燐子を造り出し、そして道具共を屠った。」
大蛇の体の半分は、既に消えかかっている。
 「――っ、その内に、我はこの街へと辿り着き、自在法『大縛鎖』を張り巡らした。そしてこの地で蓄えた力を使い、古き王より奪った。宝具、『小夜啼鳥(ナハティガル)』を。」
 「ナハティガルだと・・?まさか、貴様!」
魔神が声を荒げる。大蛇は神器『コキュートス』を一睨みし、
 「我は鳥篭に眠る少女に願った。この街を、外界から完全に孤立させる事を。」
二人は言葉に詰る。
 「――ぐぅっ、わ、我はそのための自在式を、千年の月日を掛け、編み出していた。」
透ける大蛇の半身の向こうに、大きな鳥篭が見えた。
 「貴様等さえ、いなければ・・・自在法はっ、完成していたものを」
大蛇は首だけになっていた。
 「すまない、シェテトよ・・・お前に・・ばかり、辛い目に  ――」
王が喋り終わらぬ内に、残された巨大な頭は最後の黒炎を上げ、空気に混じり、そして
 「――さようなら。狂った王よ。この城で――安らかな眠りに付きなさい」
強大なる力を誇った王は、消えていった。


戦場にて、縦横に采配を振るう少女がいる
 「はあっ!」
手に弓を持ち、数多の敵を屠る少女がいる
 「たあああぁっ!」
その大馬で敵を踏みにじる少女は
 「――――――――!」
唐突に。己が愛する王の叫びを聞いた。
 「あ、あぁ・・・」
少女は呆然とし、身を震わせている。
 (ナフシュ様・・・)
心中で呟いた。
 (ナフシュ様が!)

21118:2006/02/08(水) 22:01:06
一瞬想像した惨状を振り払うように、
 「ナフシュ様!」
即座に馬首を反転させ、城門へと駆けさせた。
 (まさか・・・まさか!)
城内を一直線に『皇帝の間』へと突き進む。だが、
 「――っっ!がぁ、はっ!」
馬が地に倒れ伏し、少女の小さな体が床に叩き付けられる。馬はもう、ピクリとも動かず、その体は徐々に空気に薄らいでいた。少女はその光景を眺め、
 (ナフシュ・・様、が――)
呟く少女の体も、足先から少しづつ無くなっている。少女は腕を使って、回廊を這って行くが、
  「我が・・主、ナフシュ様――、」
そう言い終わる頃にはもう、少女には這い回る腕すら残されていなかった。
 「愛・・・して、お、 ま・・・す、ナ ―――― 」
言葉が途切れ、少女の体が宙へと溶けて消えていく。小さな背に身に付けた弓が、カランと、乾いた音を立てて床に転がった。


戦場を、神速で飛翔するオーロラがその動きを止めた。
 「――、何だ?燐子共の動きが・・・」
『極光の射手』カール・ベルワルドは、己を載せる巨大な鏃『ゾリャー』を停止させ、地面に降り立った。彼の目の前に
は先ほどまで、存分に同胞を屠っていた燐子がある。だが、
 「止まっちゃったわねー。」
ヴェチェールニャヤが呟く。彼女の言う様に、漆黒の人形の軍勢は、その場に頽れ地に頭を臥せていた。そして――
 「・・・消えた。」
カールの言葉と共にその身を空へと溶かして行く。黒き炎が一斉に立ち上り、黒雲が如き渦を巻くが、すぐに薄れ、消えていった。
 「あの二人が『祭礼の蛇』を討滅したのよ。」
彼の傍へと、一人の小柄な少女が近づいてくる。
 「サーレ。無事だったか。」
カールがやや弾んだ声で言った。少女は軽く頷き、
 「ええ。作戦は完遂した。私たちの勝利よ。」
そう言い放つ。彼はにっ、と頷き
 「はっはっは!そうだ。俺達の勝ちだ!」
豪快に笑い飛ばす。だが、
 (何だ・・・?)
カールはふと、気が付いた。戦いの際中には感じられなかった、その感覚を。

21219:2006/02/08(水) 22:01:57
 「カール」
サーレが静かに言葉を漏らした。彼女の周りにはすでに、黄金の軍団が控えている。そして、彼方に横たわる丘の向こうから、微かな、獣のような唸り声が聞えてくる。
 「ちぃっ!まさか、この時を狙って来やがるとは!!」
カールが再びゾリャーに騎乗する。やや遅れて地鳴りと共に無数の軍勢が、丘から顔を覗かせ城へと迫っていた。


青き獣と一進一退の攻防を繰り広げる大虎が、一番にその異形の軍勢の正体を掴んだ。
   (っ――!とむらいの鐘か!)
言うと同時に、トーガと距離を取る。
 (ついに動き出したか。これはまた、やっかいな事になってきたな。)
彼は己が所属する仮面舞踏会の軍師、『ベルペオル』より、『とむらいの鐘』の動向を探る任を受けている。それは『弔詞の詠み手』の殺害よりも、優先すべき事項の一つだ。
 (依頼主も死んだ様だし――)
シュドナイが地を蹴り、空へと飛翔する。そしてその身を反らせ大きく息を吸い、
 (さっさと退散させてもらうとするかっ!)
 「ゴアアアアアアアァッ!」
最大級の炎の大渦を吹き散らした。壮絶な熱波と共に降り注ぐ熱塊を、マージョリーは冷静に、
「ハァッ!」
『反射』の自在法を乗せた炎弾を打ち出した。青き炎は空中で薄く広がり、紫色の炎を受け止める。紫炎は硬い物にぶつかった様に跳ね返り、青炎の外で爆発した。轟音轟く空にシュドナイの声が響き渡る。
 「弔詞の詠み手よっ!因果の交差路でまた会おう!」
紫雲が晴れたその空には、
 「ヒーッヒッヒ!『千変』の奴、尻尾を巻いて逃げ出しやがった!」
奇異な大虎の姿が消えていた。
 「何?アイツ、本当に逃げちゃうなんて。どうかしちゃったのかしら?」
マージョリーはやや不満の面持ちでぼやく。
 「さあな。そんなのは知った事じゃねえさ。それよりも・・・」
トーガが体を反転させ、城へと攻め上がらんと直走る、軍勢を見据えた。
 「ええ。あの徒共を――」
 「ヒャーッハッハー!全て皆々、皆殺しにしてやるんだーーーー!」
トーガが屈み、勢いをつけて空へと飛び上がった。


「六千、八千、九千・・・あらあら、随分と連れて来たわね。」
坂の頂上で、『震威の結い手』ゾフィー・サバリッシュが呟く。

21320:2006/02/08(水) 22:02:36
 「ふむ。して、いかかするのですぞ、ゾフィー・サバリッシュ君?我らは負傷兵を入れても2500余り。とても勝てる戦にはなりそうにないですぞ。」
タケミカズチが静かに問う。その問いに、
 「そうですね・・・うん。逆落としを仕掛け、出来うる限り抗戦し突破口を開きましょう。そののちに全軍で退却します。」
やや険しい面持ちで答えた。本陣は既に坂上へと移動させている。
 「ああ、この戦力差ではそれしか無さそうですね。『震威の結い手』。」
 「ふむ。まともな戦にはなりそうに無いからの。」
『儀装の駆り手』カムシンが同意の言葉を漏らした。ゾフィーは目を伏せ、
 「――ええ。・・・何人にも哀れまれず、罪を犯して省みず、存在もならぬ無に墜ちる我らに、せめて勝利よ輝け、
アーメン・ハレルヤ・この私」
 両手を組み、そして祈る。怨敵『とむらいの鐘』と干戈を交えるために。


 「むうっ!ナハティガルを狙いに来たか!」
地表で一戦交える両軍を眺め、アラストールが吐き捨てる。
 「そうね。どうやら私達が、『祭礼の蛇』を討滅するのを待ってたみたい。」
まさしく彼女の言う通りだった。『大擁炉』モレクが立てた策は、漁夫の利を得る物だった。もしも、『とむらいの鐘』が大軍をもって攻め込めば、『祭礼の蛇』は街の人間の存在の力を限界まで吸い上げ、同等の兵力を造り出し、抗戦を挑む可能性が会った。宝具『小夜啼鳥』を奪うとともに、来るべき戦に備え兵団を撃滅する。まさしく一挙両得の作戦だ。
マティルダは一瞬、唇を噛み締める。そこへ、空中から声高らかに、
 「出て来い!わが愛しき女、マティルダ・サントメールよ!」
銀髪の男が大声で叫んだ。その傍らには、重厚な甲羅に身を包み、鈍く輝く翼をはためかせる四本足の翼竜がいる。
 「さもなくば、この兵団を一人残らず、俺の『虹天剣』で屠ってくれよう!」
銀髪の男『虹の翼』メリヒムが、背後の虹色の光背を、己が持つサーベルの剣尖へと収束させる。そして、一瞬の間の後、光輝の塊が一直線に大地を貫いた。虹色の爆発が煌き、地表に広がるフレイムヘイズを吹き飛ばす。衝撃にカイザーブルク城が、縦に揺れた。その震動冷めやらぬ中、
 「両翼が出て来た以上、私たちが出るしか無さそうね。」
マティルダが憎憎しげに口を開く。ヴィルヘルミナが頷き、視線を鳥篭に巡らせ、短く問う。
 「あの宝具は如何するのでありますか?」
マティルダは口角を上げ、
 「あの両翼相手に、背負って戦うって言うの?」
微かに笑いながら皮肉る。そして
 「うむ。仕方が無かろう。今は捨て置くしかない」
アラストールがやや渋った声で、言葉を吐く。その言葉を聞きマティルダは再び、炎の軍勢を生み出し、
 「はぁっ!」

21421:2006/02/08(水) 22:02:56
悍馬に跨り、ヴィルヘルミナと共に、宿敵が待つ空へと踊り出た。


太陽は南天を過ぎ、日差しが強く地表へと注がれているが、町に人の気配は無い。戦の気配を感じた町人は、略奪や虐殺を恐れ、己が家より一歩も這い出る事は無かった。その人無き坂を、こげ茶色の天鵞絨の如き毛皮を持つ野獣が、群がるフレイムヘイズを蹴散らし進んでいく。
 「どけぇ!このっっ、雑魚共がーーーーー!」
『とむらいの鐘』遊軍首将、『戎君』フワワである。鋭く尖る、長い牙を戴く風貌と、しなやかな肢体を持つ姿は、まるで巨大な狼そのものだ。彼の役目は『とむらいの鐘』精兵3000を率い、敵本陣をつき抜け本隊と挟撃し、退路を断つことにある。目指す城まではもう1キロも無いだろう。軍勢の先頭に立ち直走る暴風が如き狼に、一人の小柄な少女が、黄金の戦士達を侍らせ立ち塞がった。野獣は構う事無く突っ切ろうとするが、
 「っ、――!」
長槍による槍衾が眼前に飛び出し、巨狼を串刺しにせんとする。フワワは大地を進んでいた方向とは逆に蹴り、軍勢と距離を取った。
 (ふん。強敵、か。)
目の前に現れたフレイムヘイズに率直な感想を漏らす。そして、
 (くくっ、これだ。戦はやはり――)
その瞳に狂気の色が燈り、総身に熱く血潮が滾る。
 「こうでなくっちゃなぁっ!」
吠えると同時に、大地を強く蹴り、金色の軍勢へと突進した。


ニュルンベルクの西、青々とした木々が繁る森林に、地を揺るがす二体の巨体が走っている。そして、
 「グガアアアアアアアアア!!」
膨大な質量の塊が、ぶつかり合う。地表に地震を思わせる強い揺れが襲い、鉄の巨人と、岩の巨人が蹈鞴を踏んだ。
 「おのれえええ、、何百年ぶりだろうかあああ、『儀装の駆り手』よおおお」
鉄の巨人『巌凱』ウルリクムミが、岩の巨人へと、語り掛ける。その体は分厚い鉄板を、頭の無い人の形へと組み上げた、異形の形相を呈していた。鈍く銀色に輝く胴体には、双頭の怪鳥が白く描かれている。
 「ああ、久しぶりですね、『巌凱』。再び合間見えるとは、思ってもいませんでしたが。」
岩の巨人の核『カデシュの心室』から声が響いた。そう言う内にも二人の巨人の下で、徒の群れと青色の獣『トーガ』
率いるフレイムヘイズ達が、激戦を繰り広げている。紅世の王『不抜の尖嶺』ベヘモットが言葉を紡ぐ。
 「ふむ。お前さんも、変わりは無さそうでなによりじゃ。」
石の巨人は呟き、木々をなぎ倒しつつ距離を取る。ウルリクムミは空をも震わす程の笑い声を上げ、
 「だがあああ、我々はあああ、主の壮挙にためにいいい、仇なすものをおおお、打ち伏さねばならないいい」
鉄の巨人の手に、濃紺色の風が吹き起こる。それは見る間に、戦場に落ちた剣、槍、兜、はたまた街にある、鍛冶屋の鎧を手繰り寄せ、巨大な鉄塊を作り上げた。風は荒れ狂い、濃紺の炎を所々に吹き上げている。

21522:2006/02/08(水) 22:03:20
 「我が『ネサの鉄槌』でえええ、塵も残さずううう、砕けて灰となれえええ、討滅の道具よおおおっ!!」
怒号と共に、大上段に構えた濃紺の渦が振り下ろされる。だが、
 「カムシン」
それよりも一瞬早く、岩の巨人が動いていた。右手に掲げる鞭『メケスト』から、岩石の塊を巨人へと放り投げる。岩石は飛翔する間に褐色の炎に身を包み――
濃紺の激流に正面からぶつかった。爆発と燃焼を巻き起こし、炎が砂塵を天空へと巻き上げる。大気を大きく揺るがす爆砕音が鳴り響き、褐色の炎と濃紺の炎が、空中に大輪の華を咲かした。


石畳の坂の頂上で、巨大な鏃が馬をも凌ぐ高速で、縦横に空を舞っていた。
 「ヒャッハーー!」
まるで、人無き荒野を行くか如く、鏃が徒を吹き飛ばしている。たとえその切っ先を逃れたとしても、鏃の背後に輝くオーロラによって身を引き裂かれていた。
 「ちょっと、カール!あんた、はしゃぎすぎじゃない?」
 「そーよ。油断大敵って言うじゃないの?」
カールは己が契約を交じわす『紅世の王』に、歓喜の声を上げる。
 「はっ!こんなゴミ虫共に、俺様の『ゾリャー』が止められるかよ!」
言い放つと同時に、後背の極光を側面へと広げた。孔雀の羽を思わせる翼に触れた異形の徒達が、ズタズタに身を切り裂かれていく。
 「良しっ!」
周辺の敵を一掃したカールは、次の獲物を求めるべく戦場に視線を巡らせる。そして
 「ん?サーレの奴、苦戦しているな。」
その視界に小さな少女の姿が映った。茶色の巨狼に軍勢を蹴散らされ、その可愛らしい顔には、遠めにも険しい表情が見て取れる。
 「あら、ホント。おチビちゃん随分と苦しそーね。」
ウートレンニャヤが、すこし上ずった声で囁いた。
カールはほんの数秒思考を巡らせ、
 「あいつが討たれれば、兵団の士気が落ちるな。加勢するぞっ!」 
鏃の進み行く方向を修正し坂の中途へと、一直線に突っ切っていく。
 「へー。やっぱりカール優しいのね。」
 「それとも、あのおチビちゃんに惚れてるのー?」
ウートレンニャヤとヴェチェールニャヤが、契約者を茶化す。
 「はっっ!あいつが苦戦する程の敵なら、こんな雑魚共を相手にするより、楽しめそうだろーが!」
 「キャハハ!それもそーね。」
 「あんな薄汚い狼なんか、ふっ飛ばしちゃいなよ!」
鏃は傍らに迫る幾多の徒を、いとも簡単に葬りながら、坂道を駆け下っていった。

21623:2006/02/08(水) 22:04:00


黄金の軍勢が、槍衾と共に巨狼へと迫る。だが、
 「はっっはあ!」
狼の鋭い唸りが響き、その丸太のような尾を振り回して、槍を打ち砕いた。そして、
 「どうした、嬢ちゃん!もっと力を上げろっ!」
狼の強靭な後ろ足が石畳に穴を穿ち、跳躍する。
 「この俺を――!」
軍勢は左手に構えた盾を振り翳した。
 「――楽しませてくれぇっ!!」
巨大な狼の体が黄金の軍勢に激突する。鈍い音と共に盾がひしゃげ、何体かの燐子が吹き飛ばされた。サーレは騒がず、
背後に控えた騎馬兵を、巨狼の横手から突撃させる。しかし、
 「がああああっっ!」
巨狼が吠えその口から、焦茶の炎の莫流が流れ出す。一瞬炎が眼を焼き、その力の奔流が晴れた先には、溶けた土が石畳の上に広がっていた。その光景を眺めサーレの眉根が寄る。
 (ちっっ!こいつ!)
内心舌打ちしつつ、新たな燐子を生み出す。彼女が得意とする戦法は、その圧倒的な軍勢による集団攻撃だった。この多勢に無勢の状況で、彼女に打ち勝った者はいまだ誰一人としていない。しかし、燐子そのものの強度は鉄壁と言う程ではない。『戎君』フワワの様に、膨大な存在の力を肉体の強化にのみ使い、小細工抜きで戦う相手には分が悪い物だ。
 (サーレよ。一旦引くべきではないのか?)
『虚構の鎚』タルウィスが契約者に問う。
 (だめ。此処で引いては、一気に兵団を食い破られる!)
ここで彼女が撤退すれば、勢いづく敵遊撃部隊を止められる者はいないだろう。そうなれば退路を絶たれた兵団は逃走すら危うくなる。
 「行くぞ――!」
三度獣が空へと跳ね上がる。サーレは槍を立てさせ狼を串刺しにせんとするが、
 「そんな物が効くものかっ!」
巨狼は構わず、流星雨の様に加速し、兵団の上から被せかかる。槍は『強化』の自在法に覆われた体表を、削る事は出来ても、刺し貫く事は叶わなかった。
 (まずいっ!)
少女の眼前に巨狼の額があった。少女に、一瞬にして死の影が忍び寄る。
 「じゃあな、嬢ちゃん。ちょっとは、遊ばせてもらったぜ。」
狼が高く笑い、大口を開けて少女を一飲みに飲み込む寸前。
 「――――っ、がぁ!!」
その体は、坂上より飛来した何かに吹き飛ばされ、空中へとその身を投げ出された。
 「よお、サーレ!珍しく大苦戦してるじゃないか。」

21724:2006/02/08(水) 22:04:25
 「カール!」
輝く極光の翼を生やしたそれは、巨大な鏃だった。
 「くそがぁっ!『極光の射手』か!」 
フワワが屋根を減り込ませ着地した。その脇腹には穴が開き、焦茶の炎を滲ませている。
 「そうだ、『戎君』!!この俺様は――」
鏃が宙を滑り、獣へと突進する。
 「『極光の射手』カール・ベルワルドだ!」
フワワは迫り行く鏃の切っ先を辛うじて躱すが、
 「――――!」
声にならない悲鳴を上げ、極光の光に体を引き裂かれた。巨狼の体が崩れ、錐揉みしながら地面へと落下する中、
 「骨も残さず――」
『グリペンの咆』が伸び、
 「――燃え尽きろぉっ!」
『ドラケンの哮』が発現した。圧縮された極光の翼が次々に打ち出され、超高速の、華麗な輝きを放つ瀑布となって、フワワの体を貫いた。地鳴りと共に極光の炎が狼を飲み込み、そして大爆発に弾けた。


鉄の巨人が、大木をも更に上回る太い足を振り上げ、岩の巨人へと突進する。それを眺めつつ、ベヘモットが呟く。
 「カムシンよ。『アテンの拳』を」
巨人の鞭を持たない左腕が肩の先から分離し、核ミサイルの如き轟音を上げ、褐色の炎を吹きながら宙を進む。それを真正面に睨み、
 「グアアアアアアアァッ!」
ウルリクムミは、鉄の塊を振り上げた。再び濃紺の炎を上げながら『ネサの鉄槌』が炸裂する。だが、
 「グガ、ゴッ!?」
岩塊は鉄の群れをあっさりと突き破り、その鉄壁の体に大穴を穿った。金属の砕ける音が鋭く響き、鉄の塊が地表に雪崩落ちる。しかし、
 「まだだあああああああっ!」
それに構わず鉄の巨人は、地響きを鳴らしつつ岩石の巨兵に体当たりした。
 「むう!」
再び巨人が交差し、その巨体が宙に舞った。岩の巨人は吹き飛ばされ、周囲のフレイムヘイズを巻き込み、地に倒れる。
 「ちょっと、爺い! 何やってんのよ!」
 「危うく俺たちまで成仏しちまう所だったぜぇ、ヒヒ」
トーガの内からマージョリー・ドーが、苛苛した口調で捲し立てる。続いて、やや緊張感に欠けた『蹂躙の爪牙』マルコシアスの声が響いた。
 「ああ、すみません。何人か討ち手を巻き込んでしまった様ですね。」
 「ふむ。しかし、我等の戦い方では、それも仕方が無かろうて。」

21825:2006/02/08(水) 22:04:46
岩の巨人が答える。そして、吹き飛ばした体の一部を補う為に、近くの丘にあった岩石を掴み肩にくっ付けた。
 「『カデシュの血脈』、配置」
カムシンが静かに囁く。肩と岩の間に褐色の火線が走り、岩の表面に自在式を刻む。
 「『カデシュの血脈』を形成」
ベヘモットが言葉を繋げ、ボッと、火が岩を包み込む。ややの後火が晴れ、岩の巨体は元通りの腕を取り戻していた。
その光景を眺めつつ、マージョリーが、呆れ顔で言う。
 「ふん。相変わらず、無茶苦茶ね。」
 「ヒーッヒッヒッ、俺達も派手に暴れよーぜ、我が厳粛なる物取り、マージョリー・ドー?」
マージョリーが獰猛な笑みを浮かべつつ、力に溢れた声を放つ。
 「わざわざ、言われなくても――」
トーガが岩の巨人の腕を駆け上がり
 「――そのつもりよ!」
次の瞬間には、巨人の肩を蹴り、天高く飛び上がった。そして眼下に広がる軍勢を睨み、炎の爆弾を放つべく、トーガが胸を反らし存在の力を高める。そして今まさに、炎がその口から流れ出んとしたその時だった。
 「マージョリーッ!!」
遥か彼方の丘の空、その上空から車軸を流す様に、鮮やかな青き炎の雨が怒涛の如く降り注ぐ。その隕石の塊の如き炎を眺め、マージョリーは
 「はっ!」
咄嗟に反射の自在法を眼前に巡らす。だが、
 「っっっ、がっ、あ!!」
光線はあっさりと自在式を吹き散らし、トーガの左手を貫く。そして
 「――――!!」
岩の巨人の肌を容易く食い破り、無数の穴を穿った。


戦場に、紫電の尾を引く女性が地を滑り、立ち塞がる徒を炭へと変える。
 「だぁらっしゃあ――っ!!」
裂帛の気合と共にその身を輝く雷と化し、眼前の『紅世の王』へと体ごとぶち当たった。
 「がぁっ!」
石の巨木が吠え、蜘蛛の様な根を女性へと差し向けた。黄土色の根が鈍く発光し、女性を迎え撃つ。雷光が、張り巡らされた根に激突し、根が轟音と共に砕け散る。雷が空中に四散し、女性が巨木と距離を取った。
 「ふん。総大将が、のこのこと戦前に赴くとはな。よほど戦を知らぬと見える。」
『とむらいの鐘』先手大将、『焚塵の関』ソカルが目の前の女性、ゾフィー・サバリッシュを呵する。その体は、黄土色の大石をそのまま、木の形に彫刻した様な異形の怪物だ。
 「確かにその通りね、『焚塵の関』ソカル。しかし兵団の士気を上げるには、これもまた仕方の無い事よ。」
物騒な紫電を身に纏うゾフィーは、のんびりとした口調で言葉を返す。

21926:2006/02/08(水) 22:05:12
 「挑発に乗ってはなりませんぞ、ゾフィー・サバリッシュ君。君が総大将なのですからな」
『払の雷剣』タケミカヅチが、己が契約者に喚起を促す。ゾフィーは答えず、再び
 「ぜいあああああぁ――っ!」
地を強く蹴り、雷光の身を宙に浮かせる。が、その刹那――
視界の端に青い閃光が走った。
 「――!」
ゾフィーは屋根の上に速度を落として着地し、光の渡り来た方向を眺める。街の西、深緑の森を火山弾の様な火弾が叩いていた。やや遅れて、震動と共に爆砕音が轟く。そして、きのこ雲が薄れた空の先に、
 「『棺の織手』!!」
『とむらいの鐘』首領『棺の織手』アシズの姿があった。巨大な体は小高い山の頂上に立ち、街を見下ろしている。その足元には、地を震わす鯨波の声を上げる軍勢が、ニュルンベルクへと走り来ていた。アシズ率いる、本軍一万の軍勢だ。その姿を見て取りゾフィーは即座に決断する。
 (もはや軍を率いての退却は不可能ね。落ち延びるしかない)
珍しく切羽詰った声で心中ぼやく。そこへ、
 「どうした、『震威の結い手』!戦の最中に余所見など、暗愚のする事ぞ!!」
ソカルが身を大きく揺らし、頭上に戴く枝葉を散らした。黄土色の葉が風に舞い、鋭利な刃となり彼女を四方から狙う。
ゾフィーは身の内の『存在の力』を爆発的に練り、
 「ハッッ!」
短く言葉を発し、屋根を踏み砕いて宙へと踊り出る。総身を紫電に覆ったゾフィーは、ソカルの放つ刃を焦がし、悠然と、坂上へと飛翔していく。そして本陣へと降り立ち、
 「ドゥニ!どこにいるんだいっ!」
信頼する腹心を呼びつける。
 「総大将殿!・・・厄介な事になりましたね。棺の織手自らの出陣とは。」
切迫した声を響かせ長身の男が現れる。
 「これより手薄な北へ向け落ち延びます!退却の合図を出しなさい!」
ゾフィーが駆けつつ指示を出す。
 「わかりました。太鼓を打ち鳴らせ!」
傍に控えていた若いフレイムヘイズに、本陣に備えさせた太鼓を打つべく命令する。そして、
 「退却だーー!皆のものっ、北の森林へと落ち延びよ!」
大声を張り上げ、自身も城の裏手へと走り行く。やや遅れて、腹に響く太鼓の低い音色が、戦場に鳴り響いた。


城を眼下に臨む遥か高みの空に紅蓮が舞い、虹色の炎が踊り、鈍色の霧が吹き荒れ、桜色の閃光が、空を焦がしていた。
 「ッバハアアアアアアア――――――!!」
『甲鉄竜』イルヤンカが、その巨竜を思わせる大口から『幕瘴壁』を吹き散らし無敵の弾丸を作り出す。それを、
 「いよっと!」

22027:2006/02/08(水) 22:05:40
紅蓮の大馬に跨る女性が、悍馬を垂直に、上へと走らせ難を逃れる。そこへ
 「はっ!」
巨竜の額に立つメリヒムが真上に浮かぶマティルダへと『虹天剣』を放つ。
 「っ!?」
マティルダは僅かに悍馬の身を反らせ、虹の軌道から身を外すが――
メリヒムが張り巡らした硝子状の燐子、『空軍(アエリア)』がその軌道を捻じ曲げる。上空より恐るべき力を秘めた虹の輝きが再び、マティルダに襲い掛かる。
 (しまったっ!!)
マティルダは動けない。その視界一杯に虹が迫り、一瞬、目を瞑るが
 「むぅっ!」
イルヤンカが目を見開く。彼女の胴に一条のリボンが巻きつき、マティルダの体を横へと滑らせた。メリヒムは、自分達に迫り来る虹の光を、再び燐子であらぬ方向へと飛ばす。
 「ヴィルヘルミナ!」
マティルダが、長き時を共に過ごして来た戦友に、歓喜の声を上げる。
 「大丈夫でありますか?」
ヴィルヘルミナが、心配そうな面持ちを声に乗せ、短く問う。
 (心配ないわ。・・・ただ) 
 (まずい状況でありますな。)
彼女達はこの『とむらいの鐘』両翼にして最強の将『メリヒム』、そして『イルヤンカ』と交戦する前に、『祭礼の蛇』との死闘を繰り広げている。満身創痍とはいかないまでも、その疲れは確実に、体の奥に澱の様に溜まっていた。この状態で己が宿敵を迎え撃つには、いかにも状況が悪すぎる。
 (持久戦になれば戦局は悪くなる一方であります。)
 (何か切っ掛けを作らなくちゃね。)
両翼を睨みつつ、距離を取る。実は彼女達には一つの秘策があった。だがその作戦は、両翼に仕掛けるには危険すぎる物でもある。その作戦を使うか否か迷うその一瞬に、
 「どうした!フレイムヘイズよっ!」
メリヒムが、吠えると共に三度、虹色の莫大な熱量の塊、『虹天剣』を打ち出す。虹が空に一線を描き、その軌道に立つ者を飲み込まんと驀進する。それを、
 「――ヒュッ!」
鋭く息を尖らせ、上手に飛び交い回避した。だがその光はやはり――
 「甘い!」
『空軍』に反射し再び襲い掛かる。今度はヴィルヘルミナへと、輝く虹が押し寄せるが、
 「ヴィルヘルミナ!」
マティルダが、胴に巻き付いていたリボンを力強く手繰り寄せ、彼女を素早く引き寄せた。
 (やはり、やるしかない様でありますな)
ヴィルヘルミナが、言う内にも一つの自在式を、一条のリボンに組み始める。

22128:2006/02/08(水) 22:06:29
 (あの二人にうまく通用すると良いんだけど)
マティルダが彼女を守るように前へと、悍馬に跨り立ち塞がる。と、その時だった。
 「――っ!退却の合図・・・」
太鼓の音色が三度鳴り、兵団が背後を追われつつも、北へと散り散りに逃げ惑う様が、地上にあった。
 (もう、これ以上時間は掛けられないわね。この攻撃で――)
マティルダが炎の騎士団を生み出す。そして、
 「――終わらせるっ!」
灼熱の軍勢を率いて、突撃を開始した。


 (俺はお前を必ず手に入れる。マティルダ=サントメールよ。)
竜の額に乗るメリヒムが、呟く。
 (共に轡を並べ、永遠の時を生きよう。)
マティルダが、再び大馬に跨った。
 (お前さえ頷けば、主もきっと許してくださる)
メリヒムは、後背に光り輝く翼をサーベルへと収縮させる。彼は彼女、マティルダと一つの約束を交わしていた。『勝ち得た者が、相手を好きにする』――と。
 (愛しき女。お前は何と美しく、)
彼の目前にマティルダとその取り巻き、騎士団が走り来た。
 (何と強き力を持っている!)
灼熱の軍勢が巨竜の鼻先へ踊り出す寸前、
 「イルヤンカ!」
 「応さ、――バ―」
幕瘴壁を吐かんと、鋭く尖る牙を剥き出しにしたその口に、
 (これはっ!)
桜色に輝く純白のリボンが一筋伸び、牙に絡みついた。ヴィルヘルミナが炎の群れに紛れ、放った物だ。そしてその先端を握るのは――
 「マティルダ=サントメール!」
マティルダが『転移』の自在式を載せたリボンを手に取り、存在の力を一気に練り上げた。そして、
 「ガハアアアアアアアァッ!!」
巨竜の口中に炎が湧き出し、大爆発を巻き起こす。
 (抜かったっ、か)
 「イルヤ――」
メリヒムの声が止まる。一瞬見失ったその眼前には
 「でやあああああああっ!!」
千にも昇る火矢が、宙に展開されていた。

22229:2006/02/08(水) 22:07:44
 (しまった!空軍を戻す事が――)
出来ない。彼には、自分に迫り来る炎の群れを、叩き落すのが精一杯だった。
 「おのれえええええ!!」
メリヒムが、徐々に地上へと落下する巨竜の上で怨嗟の声を上げ、虹天剣を放つ。赤き炎は、空中にばら撒かれた硝子の破片『空軍』にぶち当たり、それを爆砕する。轟音と共に、空に濛々と粉塵が立ち込めた。そして、その煙を切り裂き光跡が一直線に伸びるが、その光の先に目指す標的はいなかった。反射をさせようにもその道具は、無い。二人のフレイムヘイズは、いつのまにか地に降り立ち、森を北へ北へと駆け進んでいる。
 (追うか?いや、だが、イルヤンカの手当てを――)
一瞬迷い惑う内に。二人の姿は森に溶け込み、気配が薄らいでいった。



 (――遂に。ここまで来た。)
主を無くした城の回廊を、背に翼を生やした男が、ゆっくりとした足取りで歩みを進めている。
 (お前を守り。ここまで来た。)
城の外では、己が率いた軍勢が大歓声をあげ、怒号の様な勝どきを上げている。
 (お前の夢を果たす為に。ここまで歩んできた。)
足元に転がる大きな日本弓を踏み付け、壊していた。
 (ティス。我はお前のために・・・)
その大鷲の様な足が、門を潜る。
 「――、ナハティガル、だな?」
その鋭すぎる視線を、鳥篭に眠る少女へと注ぐ。少女は何も答えず。ただ眠っていた。


太陽が沈み、空に煌く半月が懸かる頃。虫達の鳴く音が森林に反響し、静かな夜を彩る。
 「ふう。結局生き残ったのは、」
 「これだけの様ですな、ゾフィー・サバリッシュ君。」
ゾフィーが冷えた口調で言葉を漏らした。彼女の周りに佇む人員は僅かに400。開戦時に比べ、十分の一にまでその数を減らしている。彼女がそうぼやくのも無理からぬ事であった。
 「『九垓天秤』の一角を討滅したものの、これでは大敗北と言うしかありませんね」
 「そうだな。怪我人も相当数出しちまった。」
横に立つカールが歯がゆそうな顔で、残存兵を眺める。その視線の先には、片腕を捥がれた『弔詞の詠み手』と、脇腹に穴を穿ち、意識を失う『儀装の駆り手』の姿があった。カールは舌打ちし、
 「あれでは当分戦は無理だな。」
そう呟いた。世界に散らばるフレイムヘイズの中でも、とびきりの実力者の負傷は、来るべき戦に備える兵団としては
手痛い戦力の喪失だ。その言葉を聞いたマージョリーは、額に脂汗を浮かべつつ、カールを睨む。

22330:2006/02/08(水) 22:08:25
 「誰が――っ、ここまでされて、黙っているもんかっぁ、」
 「ヒッヒッヒ、あんまり喋るんじゃねえよ、我が薄っぺらな盾、マージョリー・ドー?傷に触っちまうぜ?」
マルコシアスがやや力の抜けた声で、神器『グリモア』から、麗美な顔を苦痛にゆがめる己が契約者を諭す。
 「・・・お黙り、バカマルコ・・」
ぷいっと。マージョリーがそっぽを向いた。そして、二人の会話が終わるのを待っていたかの様に
 「しかし、我々は、それでも進まねばならないのであります。」
 「必定」
闇の奥から無愛想な声が聞えた。
 「ヴィルヘルミナ!それにマティルダ!生きていたか!」
カールが喜色を示し、二人を出迎えた。
 「『棺の織手』が狙っていた物は『ナハティガル』の宝具よ。」
ボロボロのマントに身を包んだマティルダが、心底悔しそうに言った。その言葉を聞き、兵団に緊張が走る。
 「なるほどね。それを使って、あの狂った『壮挙』とやらを実現しようとするわけかい。」
ゾフィーが呑気そうな声で囁く。すかざずタケミカズチが、
 「呑気な事を言って――――」
 「はいはい、分かってますよ、タケミカズチ氏。」
ゾフィーがやや強めの口調で遮った。一瞬沈黙が兵団を支配し、森に虫の音が響き渡る。その静寂を破ったのは――
 「話しはそれだけ?」
小柄な少女だった。
 「もう終わったのなら、私達は帰らせてもらうわよ。」
 「っ、サーレ!どういうつもりだ!」
カールが憤り、少女に問い詰める。少女はその態度を鼻にもかけず、
 「どういうつもりもあったもんじゃないわ。カール、何で私がこの戦いに参加したか分かる?」
逆にカールを問い詰めた。
 「それは、っ、あの糞野郎の馬鹿げた壮挙――」
 「私は『祭礼の蛇』との決着を付けに来ただけ。あいつが討滅された以上、あんた達と徒党を組むのも終り。ただそれだけの事よ」
カールの言葉を遮り、少女が捲くし立てる。更に、
 「私は自分の復讐が楽しめればそれでいいの。『冥奥の環』がする事なんて、知った事じゃないわ。」
『棺の織手』の古い真名を出して、言葉を続けた。一同に更なる静寂が訪れる。
 「行こう。タルウィス。」
 「ああ。そうするとしよう。」
契約する王に優しい声を掛け、中心に備えられた焚き火を背後に歩き出した。
 「おいっ、セーレ!」
カールが立ち上がり、少女を引きとめようとするが、
 「・・・行っちゃったわねー、おチビちゃん。」

22431:2006/02/08(水) 22:09:46
ヴェチェールニャヤが言葉を漏らす。少女はその身を闇へと溶かして行き、すぐにその姿は見えなくなった。
 「まったく。しょうがない子だね、あの子も。」
ゾフィーが溜息を付いた。そこへ、ともかく、とマティルダが切り出し、
 「あの宝具を奪われた以上、すぐにでも壮挙の準備を始めるはず。急いで兵団を再編し、戦の仕度ををしなきゃ。」
強い決意を内に秘め、そう話した。
 「そうでありますな。」
襤褸切れの様なドレスに身を包んだ、ヴィルヘルミナが短く同意する。
 「再び。数多の命を奪う戦が、始まるな。」
アラストールが、神妙な面持ちで呟いた。
そして、東の空を眺め見る。『とむらいの鐘』の本拠地『ブロッケン要塞』を、その先に見据えながら。



人外の思惑が渦を為し、日々が崩れていく。
人は気付く事も無く、毎日をただ生きて行く。
世界は歪みを掻き抱き、ただ明日へと向かって、動き続ける。



後書き
如何だったでしょうか。今回は全編、どシリアスのSSを書いてみました。楽しんでもらえたでしょうか?
前回、この文体でギャグをやらかし、失敗した経験を踏まえて、こんな風になってしまいました。いやしかし、何とか書き上げる事が出来ましたが、12巻発売前に漕ぎ付ける事ができて良かったです。戒禁の時間になれば、誰も見てくれそうにないですし。まあそれはともかく、このSSにはオリキャラが出てきますが、その中でもサーレには苦労しました。変人で燐子を操るってどんな感じなんだろう?と感じまして、その内、燐子→マリアンヌ→人形→お人形遊び→少女、そう思い至り、少女としてみました。変人って言うより、性格の悪い女の子って感じになってしまったのは残念ですが・・・。文中で一番気を付けたのは、マー姐とマルコシアスの掛け合いです。あの漫才の様な空気がちゃんと出せていると良いんですが。最後に、宝具争奪戦のこの戦い、気に入ってもらえたでしょうか?読んで下さった方々の(いるんだろうか?)感想、批評を聞かせてもらえれば幸いです。最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

225名無しさん:2006/03/18(土) 01:15:46
>93-119
教授とドミノが可愛すぎる
これ書いた人 まだいたりする?

226名無しさん:2006/03/30(木) 21:34:50
ここの小説って著作権あるのですか?

227名無しさん:2006/04/03(月) 03:03:59
皆さん、ものすごく文才溢れてます
もしかしてプロの方ですか?素人にしとくのは勿体無い
31氏とても面白く読ませてもらいました。感動しました。

228名無しさん:2006/04/03(月) 15:22:23
大蛇の街、とても面白かったです すげー

229名無しさん:2006/04/22(土) 22:11:03
誰か、シャナのバットエンドもの書いて

230名無しさん:2006/04/29(土) 18:25:26
吉田一美のハッピー話書いてエ。

231ヴィルヘルミナのユウウツ 1/2:2006/05/11(木) 16:27:02
 悠二はヴィルヘルミナと睨み合いを続けていた。彼は今更ながらシャナに付いて行け
ば良かったと後悔していた。
 床からベッドに座る彼女を見上げた。
「決着つけるであります。ティアマトー、だまって見てるであります。」
「御意」
 ゴクリ。
 喉が渇いたので、そっと麦茶のカップを手に取る。
 ビシッ。
「!?」
「なにするであります」
 リボンで伸ばした手を叩かれた。
「逃がさないであります」
「ご、ごめん。間違えただけ」
 ヴィルヘルミナはリボンを緩めない。
「あとで言いつけるであります」
「か、かんべんして」
「沈着冷静。悠二黙礼」
 ヴィルヘルミナはギロリと睨む。
「シャ、シャナはいまなにしてるのかなあ」
「う。うるさいであります」
 彼女は怒りに任せて引っ張った。そして慌ててリボンを緩めるが、間に合わない。
「う、うわああ」
 ドシッ。勢いで彼女のおなかに当たった。
「か、硬い」
 悠二は背筋に殺気が走ったのを感じた。
「ご、ごめん」
「さ、どくであります」

232ヴィルヘルミナのユウウツ 2/2:2006/05/11(木) 16:27:57
「あははは。うん」
 苦笑いをかみ殺し、手をさすりつつ悠二は聞いた。
「ヴィルヘルミナさんは、なにが好きなの?」
「……メロンパンであります」
「へ〜、シャナと同じなんだね」
「レトルト食品も、癖になります」
「レ、レトルト?」
「なかなか美味しいであります」
「ふ〜ん」
「りょ、料理だって出来るであります」
 悠二はふと考え、言った。
「じゃあ今度シャナと出かける時、メロンパン買ってきてあげる」
「ま、待つであります」
 悠二は立ち上がろうとしたところで呼び止められ、振り向いた。
「く、訓練であります。二人で一緒に行くであります。街はどこでも危険であります」
「そ、そんな」
「不測の事態に対応するためであります」
 悠二は落胆で勢いがなくなった。
 ヴィルヘルミナはそれを見て複雑な表情をみせたが、すぐに気持ちを切り替えて言
った。
「シャナがそろそろ来るであります。元気出すであります」
「そうだね」
 ヴィルヘルミナはため息をつくと言った。
「走る用意をするであります」

 また今日も、日常が繰り返される。少しの変化を加えて。

233名無しさん:2006/05/11(木) 23:46:13
ヴィルヘルミナはシャナの事を、シャナと呼ばないはずでは?

234名無しさん:2006/05/15(月) 01:03:49
実は、書きかけのSSがあるんですが、続きを書いて載せても良いでしょうか?
主旨は「死んだ某フレイムヘイズが、一時的に復活してシャナや悠二達と出会う」です。
一番の問題は「フレイムヘイズにも死後の世界は存在した」という部分が出てきてしまうことなんですが…。

235名無しさん:2006/05/16(火) 09:57:58
ぜひ!!

236234:2006/05/17(水) 23:52:21
ではこの一言を励みにして、以下に投下してみます。
まだ未完成なので、投下が遅れたらすいません。

一応時間軸は「9巻と11巻の間」です。設定は特に何も変えてません。
あと、肝心の某フレイムヘイズが出てくるまでに少々時間を有しますが、ご了承願います(ヲイ)。

237Bake to the other world:2006/05/17(水) 23:55:03
〜序〜

よぉ、元気してたか?
あ、ここに来ちまったってことは、元気とは言えねえか。
そっか、お前さんも来ちまったか…まぁ正直、あの状況じゃ来るのは時間の問題と思ってたけどな。
もう一人の、あの鉄面皮のお姫様は来てねぇ…ってことは、生き残ったか。ありゃ、そういえば虹の野郎もいねぇ、ってことは…おいおいお前さん、やることが憎いねぇ〜。
とりあえず俺が知ってるのは、奴の企みが失敗に終わったってことだけなんだが、あれはお前さんのお手柄なのかい?

…なんだ、どうした?ハトが豆鉄砲食らったみてぇな顔しちまってよ。お前さんらしくもねえな。
まあ、無理もねぇか。俺だって最初は信じられなかったからな。
冗談で言ったつもりがよ、まさか本当に「ここ」があるなんてなぁ。
ま、とにかくまずはお疲れさん。そこに座りな。そしてエールで一杯やろう。
今すぐにとは言わねぇが、まあゆっくりとお互いの顛末、語り明かしていこうじゃねえか。


その世界は、ひっそりと浮かんでいる。
二つの世界の、そのまた向こうに。
去りし者達はそこから、残りし者達を、見守り続けている。
会うことを熱望しながら、かつ、こちらに来ないことを、切に願って。

238Bake to the other world:2006/05/17(水) 23:59:09
〜1〜

9月上旬の、とある日の真夜中。
坂井悠二は、ふらふらとおぼつかない足取りで寝床に向かった。
とろんとした目つきでポケットに入れておいた目覚まし時計を見ると、時刻は既に午前1時になろうとしていた。
“紅世の従”に存在を喰われた残り滓の“トーチ”である彼は、本来ならばとうの昔にこの世から消えてなくなっているはずだったのだが、トーチになった瞬間に自身の体内に転移してきた宝具『零時迷子』の能力のおかげで、毎日午前0時になると存在の力を完全回復して、その存在を今日まで保つことができている。
そしていつもなら、存在の力の回復と同時に、自身の体内に蓄積していた疲労も解消される。
はずなのだが、
(おかしいな…なんか、体が…だるい…)
彼はこの日に限って、午前0時以降も重度の疲労感を感じていたのであった。
(存在の力は、ちゃんと回復しているのにな…)
悠二は目を閉じて、自身の存在の力の量を計ってみた。すると確かに、いつも0時を回った時と同じ量の存在の力が、身体に満ちているのが分かった。
(なんでだろう…っ、もしかして…?)
だるさの原因について一つ思い当たる節があった悠二は、布団に入ると、昨日あった出来事を思い返してみた。

(いつもの通り、下校途中シャナと合流して、道々話をしながら帰ったんだ。それで…確か女の子のスタイルの話を僕が始めたんだったかな?その時僕が何か失言して、しまったと思った時にはもう遅くて、すぐ横でシャナが『贄殿遮那』を構えてて、「峰だぞ」ってアラストールの声が聞こえた後、大太刀が振り下ろされて…)
「…ッ!!」
その瞬間の恐怖を思い出し、悠二は布団の中で身体をビクッと震わせた。といっても、彼が恐れおののいたのは、峰打ちを食らったことについてではなかった。
 
悠二がフレイムヘイズの少女『炎髪灼眼の討ち手』――シャナと出会ってから、もう数ヶ月になるが、彼はこの手の峰打ちは幾度となく食らってきた。
その原因はほとんどが、悠二による、彼女の機嫌を損ねるような発言である。
女の子の気持ちに非常に鈍感な朴念仁である悠二は、シャナとの会話の折、たびたび無神経な失言を彼女に放っていた。
そのため、ただ峰打ちを食らうだけなら、この数ヶ月の間に悠二にとっては既に日常茶飯事と化していたのである。
今さら、彼にとってさほどの脅威では(といっても、その瞬間は怖くて、猛烈に痛いことには変わりはないが)なくなっていた。

しかし今回は、峰打ちの他に、あるとんでもないおまけがついてきたのである。

239Back to the other world:2006/05/18(木) 00:04:36
〜2〜

昨日の夕方は、夕日の見えない曇り空だった。
「覚悟しなさいっ、悠二!!」
「ま、待ってくれ誤解だ、言葉のあやだよぉ〜っ!」
「うるさいうるさいうるさぁーいっ!!」
「峰だぞ」
そして、例によって大太刀は悠二に向けて振り下ろされた。

と、ほぼ同時に、それは起こった。



ピカッ!



ガラガラ、ドォーン!!!

「わぁっ!?」
シャナは突然自分の目の前に現れた強烈な閃光と轟音に驚いて、思わず叫んだ。
一筋の稲妻が、シャナが持っていた大太刀に落ちたのである。
この日の御崎市は、朝から空一面厚い雲に覆われており、落雷の発生しやすい天気であった。
しかもこの時悠二とシャナが歩いていたのは、近くに建物のない、真名川の土手道だった。
こんな天気の日に屋外の、しかもさえぎるもののない場所で、大太刀を――よりにもよって完璧な研ぎ味の、サビ一つない名刀を――振りかざしていたのだから、このときのシャナの行動はまさに自殺行為だったといえる。
「び、びっくりした…」
しかし、落雷の直撃を受けたに等しいはずのシャナは、目の前で起こった出来事に驚きはしたものの、火傷一つなくその場に立っていた。
手にはしっかりと、刀身からプスプスと煙を上げる大太刀を(もちろん刃こぼれ一つしていない)握ったままであった。
大太刀の握りの部分が強力な絶縁体であったことと、何より彼女がフレイムヘイズという、普通の人間の何倍もの力を有する存在であったことが理由であろう。
「シャナ、無闇やたらと『贄殿遮那』を振り回すのは、少し考え物かもしれぬぞ」
シャナの胸元にあるペンダント型の神器『コキュートス』から、彼女と契約している“紅世の王”である“天壌の劫火”アラストールが、遠雷の轟くような声でシャナに言った。
「うん、そうだね。これからは気をつける」
シャナは少し反省した表情で返事をした。
そして大太刀を『夜笠』の中にしまおうとした、その時、


「悠二っ!?」
大太刀から飛び火した雷を食らって、あお向けに突っ伏している悠二を見つけるやいなや、シャナはあわてて駆け寄った。

240Back to the other world:2006/05/18(木) 00:09:13
〜3〜

(瞬間、頭の中が真っ白になって…あぁ、恐ろしい)
悠二は寝返りを打ちながら、その瞬間の恐怖をあらためて思い返した。

「…ん、んっ」
悠二は目を開けると、シャナが顔を自分の方に向けて座っていることと、自分がなぜか布団を着せられて、あお向けになっていることに気がついた。
「悠二」
「…シャナ?」
「気がついたみたいね」
シャナは、悠二の意識が戻ったことに安堵の表情を見せた。
「あれ、僕、どうなって…?」
「悠二、雷に打たれて、気絶してたのよ」
「…っ、そっか」
シャナの言葉で自分の意識が吹き飛ぶ瞬間の様子を思い出して、悠二は青ざめながらも納得した。
「…あれ?」
少し気持ちが落ち着いてきたところで、悠二はある事に気がついた。
首をゆっくり動かして辺りを見回しながら、悠二はつぶやいた。
「僕の部屋じゃ、ない?」

その部屋は、自宅にある自室より二周りは大きいであろう大部屋で、悠二はその角にしかれた布団に寝かされていた。
反対側の角にはベッドが置いてあり、その前には、ちょうど職員室で教師が使うタイプの事務机があった。
壁際にはズラリと角ばった書類棚が並び、寝ている悠二の視点からはまるで高層ビル群を地上から見上げるかのような圧迫感があった。
明らかに自分の家ではない光景に、悠二は当然のように疑問を口にした。
「シャナ、ここは一体」
「我々の住居であります」
「っえ!?」
会話に突然介入してきた声に、悠二は思わず首を上げて、声のする方を向いた。
すると部屋の入り口から、メイド服を着た色白の女性が入ってきた。
「カ、カルメルさん!?」
「ヴィルヘルミナ、悠二の意識が戻ったよ!」
「…それは、よかったでありますな」
「結構」
嬉しそうな少女の声に、フレイムヘイズ『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルは、契約している“紅世の王”である“夢幻の冠帯”ティアマトー共々、不機嫌さを明らかに混ぜた声で答えた。

241Back to the other world:2006/05/18(木) 00:12:59
〜4〜

(いきなりカルメルさんがいて…びっくりしたよな)
悠二は布団のなかで、まだ今日のことを回想していた。

「ど、どうして僕はここに?」
「実はね…」
戸惑う悠二に、シャナが説明を加えた。以下は、その内容である。

失神した悠二はシャナに背負われて、最初は坂井家まで運ばれた。が、
「あれ…?」
シャナが取っ手をガチャガチャと回してもドアは開かない。家の鍵が閉まっていたのだ。
いつも家にいるはずの悠二の母・坂井千草は、今日に限って家を留守にしていた。
「おかしいな、千草、なんでいないんだろ…」
千草は悠二とシャナが帰宅してくる時間には、いつも坂井家で夕食の準備をしていた。
ごくまれに留守にするときはあったが、その際には必ず何か書置きを残して外出するようにしていた。
それが今日に限ってどういうわけか、壁にもポストにも玄関の扉にも、何もなかった。
「どうしよう…」
頼みにしていた人物の不在に、シャナが路頭に迷っていると、
「これは一体、何事でありますか?」
「状況説明」
背後から突然聞こえてきた声に、シャナは驚きと歓喜を半分混ぜた声で言った。
「ヴィルヘルミナ?!」
「何はともあれとりあえず、我が家に向かうのであります」

「…というわけなの」
「なるほどね。母さん、留守にしてたんだ。でも、何で今日に限って連絡もよこさず…」
「奥様の事情に関しては、私が説明するであります」
と、以下に示すのはヴィルヘルミナが語った内容である。ちなみに、本来悠二に語った内容はもっと至極簡潔なものであることを断っておきたい。

242Back to the other world:2006/05/18(木) 00:15:21
〜5〜

悠二が平井家に運び込まれていた頃、坂井千草は御崎市内中心部にある御崎市民病院にいた。
彼女は昼過ぎ、友人が交通事故にあったという連絡を受け、家を空けていたのである。
あわてて病院へ駆けつけたところ、幸いにも命に別状はなかったので、千草はホッとした。そこでお見舞いに集まった友人達と世間話に興じていたところ、
「あら、いけない」
千草は一つ、大事なことを忘れていたことに気がついた。
緊急の用事であったため、うっかり息子とそのガールフレンドに、書置きを残すのを忘れてきてしまったのだった。
「しまったわ、どうしようかしら…そうだ」
千草はポンと手を叩くと、病室をいったん出て、病院の公衆電話から電話をかけた。
「もしもし、平井さんのお宅でいらっしゃいますか?」
「…これは奥様、ご無沙汰であります」
「あら、カルメルさん。こちらこそ」
「今日は一体、いかようなご用件でありますか?」
「はい、本当に不躾なお願いではあるのですけれど…」
千草は、今自分が友人の見舞いで病院にいること、友人との久しぶりの再会で、帰宅が少し遅くなりそうなこと、自分が帰るまでの間、悠二とシャナの面倒を見て欲しいことを、ヴィルヘルミナに伝えた。
「…そういう訳で、カルメルさんには本当にご迷惑をお掛けするのですが、お願いできませんか?」
千草はつとめてすまなそうに言った。
「そう、で、ありますか…」
そんな千草の言葉に、ヴィルヘルミナは複雑な気持ちでそう答えた。
『炎髪灼眼の討ち手』の少女の養育係でもあったヴィルヘルミナは、御崎市に現れた当初、自分の育てた少女に害なす存在として、悠二の抹殺を試みた。その一件に関しては紆余曲折を経てどうにか一応の和解には至ったが、彼女はいまだ、悠二に対する警戒を(特に少女との接触に関して)解いていない。
(あの“ミステス”を、ここへ引き入れるのでありますか、あの方と、共に…)
(危険)
お互いの間でのみ会話できる自在法で、ヴィルヘルミナとティアマトーは相談した。
受話器の向こう側が急に静かになったことに、千草はヴィルヘルミナが拒絶の意思表示をしたものと判断して、
「いえ、だめでしたら結構です。今すぐ家に戻りますから…」
「うっ…」
千草の、残念さをわずかに奥底に秘めた声を聞いて、ヴィルヘルミナはいよいよ悩んだ。
彼女は、千草のことは、一人の人間として大変尊敬しており、初対面以来、気配りを欠いたことは一度もない。
「…いえ、そのようなことは全く」
「本当によろしいのですか?」
「どうぞお気遣いなく、奥様」
「そうですか。ではお言葉に甘えて、ご面倒をお掛けしますわ」
千草はそこにいない電話の相手に小さくお辞儀をすると、受話器を置き、再び友人の待つ病室へと戻っていった。

243Back to the other world:2006/05/18(木) 00:17:31
〜6〜
(あの後の一言には、参ったよな)
悠二は布団の中でため息をついた。

さっさと説明を終えたヴィルヘルミナは、一言、きっぱりとこう言った。
「では早速、鍛錬を始めるであります」
「迅速行動」
「えぇっ?!」
不機嫌な調子のまま放たれたヴィルヘルミナとティアマトーの言葉に、悠二は信じられないといった様子で声を上げた。
「何か?坂井悠二」
そんな悠二に、ヴィルヘルミナは冷たい調子で問うた。
「だ、だって、今日は雷に当たって死にかけて」
「お笑い種でありますな、とうの昔に死んでいるというのに」
「笑止」
悠二の言い訳に、ヴィルヘルミナとティアマトーは語調を変えず、しかしわずかに嘲りを込めて言い放った。
「で、でも、まだ夕方じゃ」
「現在時刻午後10時30分であります」
「時間適当」
「えっ、もうそんな時間…?」
悠二は驚いて自分の斜め前にある窓を見た。すると、外は既に深い闇に包まれていることが分かった。
(ま、参ったな。こんな時間まで気を失ってたなんて)
悠二は、自分が想像以上に長い間倒れていたことを知って、困惑した。
ヴィルヘルミナの機嫌が明らかに良くないこと、そしてその理由は、一連のやり取りで簡単に察しがついた。
悠二がここに寝ている、それが理由である。もっとも実際は寝ていたわけではなく失神していたのだが、ヴィルヘルミナにとってその光景は「厄介者が人の家にズカズカ土足で上がりこんで、5時間以上もグースカ眠っている」程度にしか移らなかった。
(何か、いい言い訳はないかな…)
悠二はこの状況をを切り抜けるための言い訳を考え始めた。
ヴィルヘルミナの言葉は取り付く島もないものではあったが、同時に全くの正論でもあった。
そして正論であるだけに、悠二には彼女が満足するような説得ができなかったのである。
(…あっ、そうだ、一つあった!)
ふと、悠二はこの状況を逃れられる唯一ともいえる方法を思いついた。
それはヴィルヘルミナが、おそらくこの街で――いや、もしかすると今では世界でただ一人、畏れる人物を利用する方法。
(さすがのカルメルさんも、これなら…)
悠二は半ば確信に近い自信を抱いて、その言葉を放った。
「…あっ、母さんが心配してるから…」
しかし、悠二にとっては対ヴィルヘルミナ最終兵器ともいえたこの言葉も、
「本日は私の監視の元、この家に宿泊するという旨、既に奥様も了承済みであります」
「えぇっ!?」
一刀両断、あっさり切り捨てられ、悠二はとうとう何も言えなくなった。

244Back to the other world:2006/05/18(木) 00:21:19
〜7〜

(昨日は珍しく母さんが家にいなくて…)
悠二の回想はつづく。
(でも、ここにいられるのって、ある意味母さんのおかげなんだよな)
ちなみに彼が今寝ているところは、坂井家の自分の部屋ではなく、平井家である。

千草は午後7時ごろ帰宅し、夕食の準備を急いで済ませ、息子を迎えに行くために平井家に電話をかけた。
が、
「ご子息は、ただいま病気で寝ているのであります」
「まあ」
電話に出たヴィルヘルミナの言葉を聞くやいなや驚いて、頬に手を添えて声を漏らした。
「全く大事はないのであります。心配は御無用であります」
「本当に、申し訳ありませんでした。カルメルさんには大きなご迷惑をおかけしてしまったようで」
「いえ、奥様が謝る必要は全くないのであります」
(そう、悪いのはすべて…あの、)
(親不孝者)
「では、それほど容態が悪くないのでしたら、今から息子を迎えにうかがいます」
「!?…そ、それは」
「えっ、何か不都合なことでも?」
「その」
ここでヴィルヘルミナは言葉に窮した。

シャナが平井ゆかりに存在を割り込ませて以来、平井家を用いるのはシャナとヴィルヘルミナの二人のみである。
来客も時折ガス・水道の集金の人間が訪れるのみで、外部の人間を玄関から先に引き入れたことは一度もない。それには理由があった。
ヴィルヘルミナは最初この家を訪れた時シャナに、この家を自分達のフレイムヘイズとしての活動拠点とする、と宣言した。
そしてその言葉通り、数日後にはこの家は十畳の大部屋を中心に、外界宿を中心に集めた“紅世”関係の資料でいっぱいになっていた。
そんな家の中に、外部の人間を入れるのはもっての他であった。
たとえそれが、自分が心から尊敬している人物であっても。

(うむ…一体、どうしたものでありましょう)
(回答迅速)
(わかっているであります!)
頭をゴン、と殴った後、ヴィルヘルミナはようやく返事をした。
「…ご子息の具合も、まだ万全には至らぬ様子。本日は、こちらで預からせていただくのであります」
「えっ、いえ…それはさすがにご迷惑では」
千草は自分を平井家に入れない理由を問いただしたりはせず、ただヴィルヘルミナのいきなりの提案に対して素直にそう言った。
「問題ないであります」
「でも」
「全く、問題ないであります」
千草の言葉をさえぎるように、ヴィルヘルミナは言った。
「…そうですか。では、失礼ながら再びお言葉に甘えさせていただきます」
その言葉の熱心さに千草はとうとう折れ、再びペコリと小さく頭を下げてそう言った。
「かしこまりました、奥様」
ちなみに千草は、ヴィルヘルミナの保護者としての能力には大いに信頼を置いているので、自分の息子とシャナが間違いを犯すのではないかという事に関しては、全く心配していない。

245Back to the other world:2006/05/18(木) 00:24:13
〜8〜

(それで…さすがに今夜はやらないと思ったんだけどな)
悠二は、はぁ、と再び布団の中でため息をついた。

必死の言い訳も空しく、この夜悠二はいつもの通り鍛錬を行なう羽目になった。
悠二が雷に打たれた直後のひどい様子を直接見ていたシャナは、少し気の毒に思いながらも、
「一日でもさぼったら、きっと怠け癖がつくから、やっぱりやらなきゃ駄目」
と、その気持ちを隠してあえて厳しく言い、悠二に対して優しくないアラストールは、当然の様に
「うむ。少しでも体が動くのならば、鍛錬を行なった方が貴様にとっては薬だろう」
と、きっぱりと言ったので、悠二ももはや拒否することができなくなったのだった。

しかし悠二は、ひょんなことから平井家に泊まれるようになったことに、実は内心喜びを感じていた。
シャナと出会って以来、彼はこの家に来たことは一度もなかったのだ。
もっとも、シャナはこの家を倉庫か寝床程度にしか認識しておらず、少し前まではむしろ坂井家にいる時間の方が圧倒的に長かったので、彼がここに来る必要は全くなかったのだから、彼にとってさほどの興味はなかった。
しかしヴィルヘルミナが現れて、シャナの坂井家で過ごす時間を限定するようになると、悠二はこの家に行ってみたいと思うようになった。
そんなわけで、この日の夜は、
(今日は、今まで知らなかったシャナのことが、分かるかもしれない)
などという、(不純な妄想も若干含んだ)期待を、悠二は持っていた。
ところが、少年の淡い期待は、厳しい保護者達によってものの見事に打ち砕かれた。

「入浴は当然、最後に。また貴方が寝る場所は、あちらであります」
と、鍛錬終了後、ヴィルヘルミナが指し示した場所は、ダイニングキッチンであった。
「えっ、こんなところで寝るんですか?」
「他にどこがあるのでありますか?」
「悠二なら、私の部屋で」
とシャナが言いかけるやいなや
「断固拒否」
ティアマトーがすかさず釘を刺した。
「坂井悠二よ、言うとおりにせぬか」
アラストールも勢いに乗って悠二を攻める。
こうして、3人の監督にコテンパンに打ちのめされた悠二は
「…わかったよ」
と言って、布団を持って、ふらふらとおぼつかない足取りで寝床まで向かったのだった。

246Back to the other world:2006/05/18(木) 00:27:24
〜9〜

(やっぱり、あの時の雷が…)
悠二は改めて、今自分を襲うだるさの原因について思った。
最初は、鍛錬の時の疲れがまだ何となく残っているものと考えていた。
しかし、鍛錬を終えても時がたつにつれてどんどんたまっていく疲労に、悠二は何かがおかしいと感じ始めた。
現に今こうして横になっている間も、疲れは増し、身体は重くなっていくばかりである。
まるで疲労が鉛の塊になって、全身にのしかかって来るように感じられた。
(存在の力は回復している、でも疲れは増すばかり…雷が原因だとして、一体何が…)
疲労に押しつぶされそうになりながら、悠二は考えをめぐらせた。

(…!)
と、悠二の脳裏に、一つの恐ろしい可能性が浮かんだ。
(まさか…雷があれに、何らかの影響を?)
実は悠二の体の中の宝具『零時迷子』――正しくは、その中に封印されている『約束の二人』の片割れ、ヨーハン――は、悠二に転移してくる直前、“壊刃”サブラクによって謎の自在式を打ち込まれ、変異を起こしたのであった。
今のところ悠二には目立って大きな異変は起きていないので、シャナ、アラストール、ヴィルヘルミナらは、ひとまず御崎市にとどまって様子見をするという結論に落ち着いた。
しかし、自分の中に、そんな得体の知れないものが入っていると思うと、悠二にはやはり大きな不安があった。
(変異が…あの雷で、早まったとしたら…!)
悠二は冷や汗が湧き出るのを感じた。
雷が自在式に影響を及ぼすなどという根拠は何一つない。
しかし悠二はここ最近アラストールから受けている“紅世”に関する講義の中で、「“紅世”とは、力そのものが混ざり合う世界」であるようなことを聞いた。
そして雷は巨大な電気エネルギー…一種の「力」の塊である。宝具や自在式に何らかの影響を与えている可能性は捨て切れなかった。
(いや、でも)
しかし、否定したかった。
確かに、いつかは何とかしなければならない日が来るのは分かっていた。
でも、
(まさか…こんなに、早く?)
いきなり、その覚悟をせまられるようになるとは、思っても見なかった。

と、
(ぐぁっ!?)
ズシ、と音でも鳴るように、悠二の身体に最大級の疲労が襲い掛かってきた。
いや、それはもはや疲労などではなく、言葉では言い表せない程の「苦痛」だった
(う、くっ…シャ、ナ…!)
助けを呼ぼうとしても、既に声すら出なかった。
(こんな、終わりは、嫌、だ)
苦しみもがく悠二に、容赦なく苦痛は襲い掛かる。
(みん、な…)
薄れ行く意識の中で、彼の脳裏に、今までの色々な思い出が、走馬灯のように映し出された。
(今度こそ、本当に、ダメ、かも…ご、めん…)
最後に誰に対してか謝って、悠二は海の底へ沈むように意識を失っていった。

247Back to the other world:2006/05/18(木) 00:29:55
〜10〜

…ここは、どこだ?
真っ、暗、だ。
僕は、どうなって、しまったんだ?
死んだ、のか?
それとも、変異を、起こして…何か、化け物、に?

ああ…。
何て、こった。
あっけない、終わりだったな。
こんなに、早く来るなんて…分かってたら、もっと、いろいろ、やりたいことが、あったのに。
せめて、別れの、あいさつくらい…。

…あれ?
なんだ?
はるか遠くに、何かが、見える。
とても明るい、あれは…炎?
炎…紅蓮の、炎!?
僕は無我夢中で駆け出した。
…シャナ!!

近づくごとに、紅蓮の炎は大きくなってくる。
何で彼女がこんな所にいるかなんて、どうでも良かった。
とにかく、彼女に会いたかった。
そして、姿が見えた。
見まがうはずもない、炎髪。
凛々しい後ろ姿。
僕は何も考えられず、そのまま彼女に、後ろから抱きついた。
後で峰打ちを何発食らおうが、かまわなかった。
ただひたすら、彼女の感触を感じたかった。
シャナ…!


…あれ?
僕は抱きついてからしばらくして、何か違和感を感じた。
…何かが、違う?
僕はもう一度、抱きついた後ろ姿を見た。
髪の毛…は、やはり間違いなく、炎髪だ。
感触…も、いつもと同じ…!?


違う。
僕の両腕に伝わる感触は、いつもと違う…
いつもと違う?
そうじゃない。
いつもは…そう、ないんだ、こんな感触。
感触に、なぜだか心地よい違和感を感じていると、僕はもう一つ、重大すぎる違いに、今さらのように気がついた。


背が…高くなって―――!?

248234:2006/05/18(木) 00:43:05
ここでいったん切ります。続きはあと1時間以内には投下します。
最初の2話、タイトルが間違ってます。スイマセン。

249Back to the other world:2006/05/18(木) 06:15:06
〜11〜
(時間は少しさかのぼる)


ふう、着いた着いた。
この街、この間来たときは、あの変人のせいでとんでもない事になってたけど…今はどうかしら?

うんうん、順調に復興してるみたいね。
さて、まずはあの子のところへ行ってみるか。

到着。
じゃ、早速入りますか。
扉は…っと、ああ、その必要はなかったわね。

ほほう、綺麗に整理整頓されてるわね。
この前見たときは、悲惨な事になってたからなぁ。
やっぱり、彼女が来たおかげかしら。
私も整理整頓が苦手で、随分お説教されたからな。
さて、あの子の部屋は…と、確かここだったわね。

いたいた。
ぐっすりと眠ってる。かわいい寝顔ね。
それにしても、何度見ても、私の子供時代にそっくりね。
いやいや、本当によく見つけられたもんだ。

さて、あの男は…あそこか。
何か最近、間抜けっぷりが増してないかしら?
昔からどっか抜けてるところはあったけど、このごろひどくなってる気がするわね…。
2、3回くらい喝を入れてやりたいところだけど…出来ないのが残念ね。

奥の部屋には…この前合流した彼女たちか。
こんな遅くまで書類とにらめっこなんかしちゃって。
相変わらずの頑張り屋さんだなぁ。全然変わってない。
んっ、今日はもう一人、お客さんが来てるみたいね。
ちょっとのぞいて見よっ、と。

あらら、誰かと思えば…彼、か。
こんなところで寝かされちゃって、かわいそうに。
まあ、あの子の保護者があの三人じゃ、無理もないか。
何か、もがき苦しんでるけど…悪い夢でも見てるのかしら?
助けてあげたいけれど、私にはどうすることもできないのよね。お生憎さま。
さて、一通り確認もしたし、次はどこに行こうかしら?


…えっ、ちょ、何?
何か、身体に巻きついてるような…?
…腕?えぇっ!?
そ、そんなはずないじゃない!?
何で、どうして、私に…私に触れることができるのよ!?

250Back to the other world:2006/05/18(木) 06:20:52
〜12〜

「ふむ…」
街の明かりもまばらになった頃、ヴィルヘルミナはスタンドの明かりのみの薄暗い十畳間で、事務机の上に乗った書類の山と格闘していた。
彼女は、外界宿から毎日のように送付されてくる大量の書類を、ほとんど一人で全部目を通し、分類して書類棚に保管している。
ドレル・パーティ崩壊後、それまで完璧に整備されていたフレイムヘイズへの情報網は大混乱し、フレイムヘイズ達には多分に余計な情報も送られてくるようになった。
平井家に送られてくる書類も、実は半分以上が大して重要なものではないのであった。
しかし元来几帳面な性格の彼女は、たとえどんなに不必要そうな情報にも一度は目を通し、保管しておかないと気が済まないのである。
そのため、デスクワークは毎日のように夜更けまで続き、徹夜になることもしばしばであった。
(我ながらこの性格には、少々困ったものであります)
(非効率)
(うるさいであります)
ヘッドドレスにゴン、とげんこつを一発かまし、ヴィルヘルミナは再び書類へと目を向ける。
(そういえば)
ふと、ヴィルヘルミナは、とある人物のことを思い出した。
(彼女にも、随分言われたものでありましたな)
何かにつけて几帳面な自分をからかっていた、ズボラな性格の女。
(戦いの時以外の彼女は、全くもって大雑把で…)
ずっと孤独で戦っていた自分に初めてできた、唯一無二の親友。
(しかし、私は変わっていないのでありますな)
戦いのときは最強のパートナー、またある時は…最強のライバル。
(…集中)
仕事を忘れ、昔の思い出にふけっている相棒を、ティアマトーが戒めた。
(要集中)
(っ分かっているであります!)
ヴィルヘルミナはヘッドドレスをもう一度殴りつけると、肩をトントンと叩き、ふう、と重く息をはいた。
壁にかかっている時計を見ると、既に3時になろうとしていた。
「ふむ、どうやら少々休養が必要なようでありますな」
(怠慢)
ヴィルヘルミナは右手、左手で一回づつ、ゴン、ゴンとヘッドドレスを殴りつけ、イスから腰を上げた。
「眠気覚ましには、カフェイン摂取がもっとも効果的であります」
そうつぶやくと、彼女はキッチンへと向かっていった。
あの“ミステス”が寝ていることはもちろん知っていたが、そんなことは別にどうでも良かった。

251ささやかな一時 1|2:2006/05/18(木) 15:12:23
>>233
そうだった。orz 脳内で書き換えてしまったのかもしれない。
それでも読んでくれてありがとう。
>>234氏。ちょっと割り込み? になるかもしれませんが、入れさせてもらいます。

 約束を取り付けた吉田一美は彼を正面に、見つめなおした。赤く火照った顔の坂井悠二
にドキドキして眼を下ろす。
 悠二は悲しそうな声で静かに呟いた。
「いつ終わるか分からない永遠か……」
 一美はその意味を考え、体が震えた。
 勇気を出して、大きな声で答える。
「私はここに居ますから」
「え!?」
「悠二くんはここに居ますか?」
 忘れことのない現実、からシャナとの今後へと思いをはせていた彼は、慌ててすぐに答え
られなかった。一美の胸のうちにあるだろう炎を感じて、どうしようもなさへ思考がゆく。
「僕は……ここに居る」
 それでも彼はかすれた声で答えていた。
 悠二は座りなおし改めて彼女を見る。
「どうにもならないんだ」
「はい」
「あの大きな戦いで、僕たちに出来たのは小さなことで。でも――」
 一美は息を飲み込む。
「僕たちのは存在感はあった。吉田さんとはこんなかたちで時間を共有出来るなんて思わ
なかったよ」
 彼女は次が分かった。

252ささやかな一時 2|2:2006/05/18(木) 15:13:45
「私は――」
「僕は――」
 二人は笑っていた。
 たぶん同じことを言いたかったに違いない。
「楽しかった」
 花火の光に、凛々しい彼を思い出す。
 瞳を真っ直ぐ向け離さない、美しい彼女を思い出す。
 二人は真っ赤になりながらも見詰め合った。
「悠二くん」
「吉田さん」
 この先の言葉を言ってはいけない気がした。
 二度と戻ることのない日常を踏み越えてなお、二人にはまだ踏み越えることの出来ない
『日常』がある。
 でも、二人は笑っていた。
 今日の一時は誰でもない。
 誰の物でもない。
 可能性。一美は神様に感謝していた。

 割り込みすいません。>>234氏。

253Back to the other world:2006/05/18(木) 17:58:40
〜13〜

(…あれ?)
気がつくと、悠二は自分が立ち上がっていることに気がついた。
(ここは…)
悠二は辺りを見渡した。が、暗くてはっきりと分からない。
(苦しく…ない?)
全身を襲っていた苦痛も、すっかり消えていた。
(何も、なかったのか…)
悠二は腕を動かそうとして、
「んっ?」
自分の腕が、何かやわらかいもの触れていることに気がついた。
「何、だ?」
それが何であるか確認しようと顔を近づけたその時、

カチャリ、カチッ

と音がして、急に辺りは明るくなった。

254Back to the other world:2006/05/18(木) 18:02:50
〜14〜

(仕事中に昔の思い出にふけってしまうとは…)
(不覚)
(うるさいであります)
ヴィルヘルミナはヘッドドレスに向けてげんこつを振り下ろしかけて、やめた。
(…安眠の妨げであります)
そして再び、シャナを起こさないようにそっと廊下を歩きだす。
(しかし、あの頃のことは)
歩きながら、思う。
(何百年を経ても…いくら忘れようとしても…忘れられぬものでありますな)
かつての日々を。
(良かったことも、悪かったことも…映像が、今なお脳裏に焼きついて…)
そんなことを考えながら、キッチンの扉を開き、電気をつけた。

「…む?」
ふと、ヴィルヘルミナはわずかに眉根を寄せた。
彼女の視界に、妙な映像が飛び込んできたからである。
目の前に立っているのは、寝ているはずの“ミステス”の少年。
それだけならば、寝ぼけていることをたしなめて終わりなのだが、
「…む、む?」
そのおかしな光景に、ヴィルヘルミナはさらに眉根を寄せ、まばたきをした。
少年はただ立っているだけでなく、腕を何かに回していたのだ。
目をこすって、その、何かを確
「!!!!!!」
瞬間、物凄い勢いでキッチンの扉は閉められた。


(@△※●&%$#)
(心頭滅却心頭滅却風林火山酒池肉林四面楚歌…)
ヴィルヘルミナは扉の向こうで、この数百年で最大級の驚愕をあらわにした。
彼女の、普段は非常に冷静沈着な思考回路は完全にショートし、混乱を極めた。
ティアマトーは落ち着くように促したが、彼女もまた同様に驚愕・混乱していた。
彼女達が見た光景は、いろんな意味で、あまりにもありえなさ過ぎた。

「…んっ?」
突然灯された明かりと、それから数秒後の大きな物音に少し驚いた後、ようやく悠二は自分がどこにいるのかを確認した。
周りに置かれている物は、テーブルにイス、冷蔵庫に電子レンジ…。
彼が現在立っている場所は、紛れもなくさっきまで寝ていた平井家のダイニングキッチンであった。
「夢、だったのか?」
自分がさっきまで見ていた光景のことを思う。
「それにしちゃ、何だかリアルだったような…」
あの感触。あの姿。
悠二が一人でいぶかっていると、


「えっと…とりあえず、その失礼な腕を放してくれないかしら?」
「…!?」
いきなり飛び込んできた聞き覚えのない声。
あわてて悠二は声のした方を見た。
そして、ようやく自分が今置かれている状況を、把握した。


一人の女性が、
悠二の目の前に後ろ向きで立っていて、
悠二は、自分の両腕を、
その女性の胸にまわしていた。

255Back to the other world:2006/05/18(木) 18:07:12
〜15〜

「…ヴィルヘルミナ!?」
「っは!?」
「っむ!?」
シャナの声に、ヴィルヘルミナはようやく自分を取り戻した。
「凄い物音がして目が覚めたんだけど…どうしたの、顔色が真っ青だよ?」
「表情、挙動、共に心乱を極めていたな。お前達らしくもない。一体何があったのだ?」
「・・・・・・」
いまだ頭の中が混乱して発声もままならない相棒に代わって、ティアマトーがヘッドドレスから答えた。
「奇妙奇天烈摩訶不思議」
しかし、彼女もやはり動揺は隠せない。
「えっ、それだけじゃちょっと良く分からないんだけど…」
シャナが首をかしげる。
「お前達がそれほどまでに動揺するのだ。よほどのことなのだろうな」
アラストールはティアマトーの言葉から、彼女らの動揺が“紅世”関係のことではない、何か個人的な事情によるものと判断していたので、呆れながらそう返事をした。
「ねえヴィルヘルミナ、何があったの?教えて、お願い」
シャナは壁にへたり込んでいるヴィルヘルミナに顔を寄せて言った。
「・・・・・」
ヴィルヘルミナはやはり下を向いて黙ったままだったが、右腕をスローモーションのようにゆっくりと持ち上げると、人差し指でキッチンの入り口を差した。
「キッチン…!?まさか、悠二に何かあったの?」
「・・・・」
「…っ、悠二!」
「杞憂だとは思うが」
シャナはキッチンの扉を勢いよく開いた。

キッチンでは、悠二が布団の上に、腰を抜かしたようにへたり込んでいた。
「悠二っ、何があったの!?」
「一体何事だ、坂井悠二」
「シャ、シャナ、アラストールっ!!」
「…見たところ、別に何もおきてないみたいだけど」
「うむ。あ奴の身体にも、特に異常は見られぬ」
「…っえぇ!?」
「何よ、悠二?」
「何だ、騒々しい」
「み、見えないの?」
「何が?」
「っここに立ってる人だよ!?」
悠二は右手の人差し指で、自分の前方を差す。
「はあ?」
「何を言っているのだ?」
「だから、ここに人が、女の人が立ってるんだよ!?」
悠二はわめきながら、右手をぶんぶん振り回して、その場所を強調した。
「誰が立ってるって言うのよ?“従”の気配だって、かけらも感じられないわよ」
「自在法を使用した気配も皆無だな」
「いや、そういうのとかじゃなくって」
「…寝ぼけて悪い夢でも見たんじゃないの?」
「…まあ、確かに変な光景は見たけど」
「やっぱり。もう、夜中に騒いで、ヴィルヘルミナまで怖がらせて、人騒がせもいいところよ」
「全くだ。こんなことでは先が思いやられるわ」
「いや、僕は本当に…」
「…まだ、言うつもり?」
「これ以上の戯言は慎むべきだぞ」
「だから…」
「…いいから、さっさと寝なさいっ!!!」
バカッ、と脳天を峰打ちされ、悠二はその場に倒れこんだ。

「ヴィルヘルミナ、別に何でもなかったよ」
「・・・?」
「うむ。何も変わりは無かったな」
「・・・?」
「悠二が夜中に寝ぼけて、一人で騒いでただけみたい」
「・・・?」
「でももう大丈夫よ。ヴィルヘルミナの分まで、私がお仕置きしておいたし」
「そう、で、あり、ます、か・・・?」
「全く、あ奴もあ奴だが、お前達もお前達だ。たかがあれしきのことで自身を取り落とすとは」
「ちょっと根を詰め過ぎなんだよ、こんな夜遅くまで仕事なんて。少し寝た方がいいよ」
「・・・その、よう、で、あります、な」
「就寝必要」
「うん。じゃ、おやすみ!」
元気よくあいさつをして、シャナは自分の寝室に帰っていった。
バタン、と扉の閉まる音が聞こえた後、残されたヴィルヘルミナは、
「ふ・・・む・・・?」
いまだ一人首を傾げていたが、
「就寝」
「わかって、いるであります」
ティアマトーに諭されて、足取りも重く自室へ戻っていった。

256Back to the other world:2006/05/18(木) 18:10:20
〜16〜

平井家に再び静寂が戻った。
(やっぱり、夢、だったのかな?)
脳天を殴られてうずくまりながら、悠二は先程までの出来事を思う。
(…そ、そうだよな)
さっきまでそこにいた、何かのことを。
(だって、ありえないじゃないか、あんなこと)
夢だ、と一人で確信する。
「うん、きっと」
「ちょっと」
「っ!?」
いきなり飛び込んできた声に、悠二は舌を噛みそうになった。
そして、恐る恐る振り向くと…。
「…夢じゃ、ない?」
一瞬で、さっきまでの確信は粉々に打ち砕かれた。


悠二が振り向いた先に、いた者。
それは、一人の女性。
背丈はヴィルヘルミナと同じくらいの、欧州系の若い美女だった。
服装は、黒いマント(悠二には、それだけはなぜか見覚えがあった気がした)に裾長の胴衣、中世風の鎧帷子と金色に輝く拍車を身につけ、両足には黒い長靴、という、昨今日本の街中ではそうそう見られない、まるでRPGゲームのキャラクターのような出で立ちだった。
しかし、そんなことが全く目に入らない程、悠二を驚かせたのは、
「…!!!!!?」
女性が持つ、長い頭髪と、瞳の、色。
「え、え、え、炎、髪、しゃ、しゃ、灼、眼・・・・!!?」
悠二は、まるであごが外れたかのように口をあんぐりと空けっぱなしにして、呆然となった。
一方の女性はというと、かなりの驚きの表情はしているものの、それは悠二のように間抜けなものではなく、凛々しさは保ったままだった。
女性は、悠二に視点を合わせるために、しゃがむと、
「うひゃっ!?」
悠二の両肩に強く両手を乗せて、自分が納得するようにつぶやいた。
「…やっぱり、触れられるわね」
「あ、あ、あ」
そのまま女性は鋭いまなざしで、頭の中がごちゃ混ぜになっている悠二に目線をぴったりと合わせ、ゆっくりと、しかし貫禄のある澄んだ声で尋ねた。
「もう聞くまでもないかも知れないけど…私の声が、聞こえるのね?」

257名無しさん:2006/05/20(土) 14:39:46
イイ!!激しく支援。

258234:2006/05/21(日) 01:51:20
>>251
いえいえ、どうぞお気になさらずに〜。
>>258
ありがとうございます!
何よりの励ましになります!

259Back to the other world:2006/05/21(日) 01:56:34
〜17〜

「え〜っと…何から話せばいいのか、正直私にもよく分からないんだけど…」
悠二に自分の声が聞こえることを確認した女性は、少し困惑気味に話を切り出した。
「とりあえず自己紹介をしておくわ。私の名前はマティルダ・サントメール。正体は…もう分かってると思うけど…」
と、マティルダと名乗った女性はここでいったん会話を切り、悠二の言葉を待った。
悠二はいまだ動揺していたが、相手の質問の意図を察して、ゆっくりと、考えながら言葉を紡ぐ。
「彼女の…シャナの…、前に『炎髪灼眼の討ち手』だった人…?」
「ご名答」
悠二の回答に、マティルダは満足げな表情を浮かべた。
そんな彼女に、悠二は不思議さを隠さず聞いた。
「…えっと、でも、僕も詳しくは知らないけれど、確か…先代の『炎髪灼眼の討ち手』は、大昔に起きた“従”対フレイムヘイズの大戦争で、命を落としたって…」
それは以前、“紅世”の講義の中で、アラストールが言葉少なげに語ったことであった。
「そうよ、当たり前じゃない。じゃなきゃ何で今、あの子が『炎髪灼眼』なのよ」
「あっ、そうか、そりゃぁ…そうだよな」
自分の質問のトンチキさを思い知った悠二は、恥ずかしそうな顔をした。
「全く、しっかりして頂戴よ、悠二君」
「!?」
苦笑交じりに放たれたマティルダの言葉に、悠二は再び驚愕の表情になった。
「ど、どうして、僕の名を!?」
「さてさて、どうしてでしょう?」
マティルダはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
「まあ、こんなところで話すのも何だし、イスに座ってゆっくりと、ね」
まるで自分の家であるかのような振る舞いで、横にあるイスに座った。

260Back to the other world:2006/05/21(日) 02:00:35
〜18〜
「そっか、もう五百年近くになるんだ…」
マティルダは、あらゆる感情をこめた、一言では言い表せない感慨深い表情を浮かべて、悠二に向かって話を始めた。
「あなたの言うとおり、私は16世紀に起こった“従”対フレイムヘイズの大戦争…長ったらしいから、通称の『大戦』って言うことにするわね。その最後の大決戦で、命を落とした。あっ、言っておくけど、全然無駄死にじゃなかったわよ。あのあとの私の持ち上げられ方ったら、そりゃーすごかったんだから」
「は、はぁ…」
向かいのイスに座る悠二は、重大な出来事をまるで近所のイベントのように話すマティルダの軽い調子に、困惑しながらうなずいた。
「でも惜しかったなぁ。あの瞬間までは、まだほんの少し、最後にまともに戦える可能性が残されてたんだけど…」
「あの…瞬間?」
「いやね、一番の宿敵をやっつけた後なんだけど、そのせいかちょっと油断してたらね…」
「油断してたら…」
「こう、敵の暗殺者の黒い腕がね、私の右胸をガバッ、とえぐってくれちゃって」
手振りを交えながら、マティルダは説明する。
「…ッ!?」
その軽いが、リアルな説明に、悠二はまるで自分が攻撃を受けたように顔をしかめた。
「もう、あの時は本当に痛かったわ…で、結局最後はもう剣を振るうこともままならない状態になっちゃったってわけ。まだ最後の親玉が残ってたのに」
「それじゃ、その親玉はどうやって…?」
「フフッ、それはね…秘密」
「?」
「とにかく、今は秘密。…いずれあなたにも、知る時が来るかもね」
言い終わると、マティルダは悲しみとも笑顔ともつかない微妙な顔をした。
その含みのある顔を不審に思い、悠二が質問しようとすると、
「それで結局親玉を倒すことには成功して、『大戦』は終わった。だけど私はその最後の戦いで力尽きて、この世から消滅した」
「…」
マティルダはそれをさえぎるように話を進めたので、悠二はやむをえず口をつぐんだ。


と、そこで悠二は、ようやく根本的におかしなところを思い出す。
「あの、ところで」
「何かしら?」
「死んだはずの…マティルダさんが、何で、僕と…会話、出来てるんだ?」
本来ならば一番最初に問うべきことであったが、一方的に繰り出されるマティルダの話に思わず聞き入っていたため、忘れていたのであった。
「あのね、それはこっちが聞きたいことよ。私だって、いきなりあなたに胸を引っつかまれて、随分びっくりしたんだから」
「そ…それは、そうだろうけど」
さっきの光景を思い出して、悠二は赤面した。
と、そこでもう一つ不思議だった点を再び問う。
「あと、何で、僕の名前を知ってたんです?」
悠二の至極当然とも言える問いに、マティルダは少し間を置いてから、答えた。
「…一言で言えば『あの世』があったから、って言うのが理由かしら」

261Back to the other world:2006/05/21(日) 02:04:59
〜19〜

「『あの世』?」
「要するに、この世でも“紅世”でもない『死後の世界』ってことよ。私はとりあえず、同じ「大戦」で死んだ知り合いの爺さんの言葉を借りて『あの世』って呼んでるけど、他にもいろんな呼び方があるみたいで、正式名称は分からないわ」
「一体、どんな世界なんです、そこは?」
「うーん、とりあえず言えることは、この世界では死ぬ寸前までの身体を永遠に保ったままでいることができる、ってことぐらいかしら」
「…つまり、天国みたいなところか」
「それとはちょっと違うわね」
「?」
「『あの世』には、天国とか地獄っていうような、そういう概念はないの。この世に居る時に悪人だった人間、善人であった人間、果ては“従”やフレイムヘイズまで、みんな同じように暮らしてるわ」
「えっ!?」
「私も驚いたわ。あれだけ憎み合ってた者同士が、死んだらとたんに仲良くなっちゃうんだもの。本当に、何と言うか…呆れちゃうわね」
マティルダはそう言って、肩をすくめた。
「それじゃ、僕の名前は『あの世』で人づてに聞いたってこと?」
「そうじゃないわ。私が直接聞いたのよ、あの子の口から」
「…えっ?」
「それだけじゃないわ。私が死んだ後からのヴィルヘルミナたちの行動、あの子が新たに『炎髪灼眼の討ち手』になった時からその戦いぶりまで、全部この眼で見てきた」
言って、マティルダは自分の灼眼を指差す。
「よ、要するに」
この、一見分かりづらい答えを、悠二はこれまでの話から、何とか自分なりにまとめてみようとした。
「『あの世』に行った人は、この世に降りてくることが出来る、ってことか」
「まあ、そんなとこね。でも、永遠にこっちにいることはできないわ。大体1年に3回くらいしか来ることは出来ない」
マティルダが答えると、悠二はもう一つ質問をした。
「…今日来たのには、何か理由でもあるんですか?」
「全然。私はいつも気分次第、来たいと思ったときに来てるわ」
「えっ、僕はてっきり、何か自分達に伝えることがあって来たんじゃないかと…」
「何言ってるのよ。私は既に『あの世』の存在。何をどうしたって、こっちから意思表示は出来やしないわ」
「そ、そうか…」
またしても自身の質問のおかしさに気づかされ、悠二が一人納得していると、


「それより悠二君、私もあなたに説明してもらいたいことがあるのよ」
マティルダが腕組みをしながら、逆に質問をしてきた。
「?」
「何を思って、私の胸を引っつかんできたか、ってことね」

262Back to the other world:2006/05/21(日) 02:16:14
〜20〜
 
出し抜けにやってきた詰問に、悠二は顔を真っ赤にしながら、慌てて昨日から今日までの顛末を説明した。
「…っていう訳で、決して僕は、そんな、つもりで、抱きかかった、訳じゃ、ない、ですよ?」
「分かった分かった。もういいわ」
あまりの慌てぶりに、マティルダは苦笑しながらそう言った。
「それで、あなたはそのときの雷があなたの中の『零時迷子』に、何らかの影響を与えたんじゃないか、って思ってるわけね」
「うん。あくまで予想だけど、雷の電気エネルギーで変化した『零時迷子』が僕の『存在の力』を変換して、『あの世』の存在も顕現することが出来るものにしたんじゃないかな?」
「なるほど、それがあなたを通じて私に流れこむから、あなたは私と会話できるのみならず、触れることも出来るって訳ね」
「うん。だから多分、さっきシャナやアラストールがマティルダさんの姿を見ることが出来なかったのは、僕が手を離してたからだと思う」
「それに対して、あなたが私に抱きついてた時にここに来てたヴィルヘルミナとティアマトーには、私の姿が見えたのね」
「うん、そういうことだと…ってええええ!!!!」
悠二はイスから転げ落ちそうになった。
「そんな大声出すと、また峰打ち食らうわよ」
マティルダは呆れ顔で忠告する。
「カ、カルメルさんが、来てた?」
「だれが電気をつけたと思ってるのよ」
「…た、確かに」
「私たちを見るやいなや、今まで見たこともないくらい驚いてたからなぁ。フフッ、あの時の彼女の顔ったらなかったわ」
「…そりゃ誰だって、死んだはずの人に会ったら驚くと思うけど」
「それにしてもあなた、ヴィルヘルミナには随分と痛い目にあわされてるみたいね」
「…ま、まあ、色々と」
これまでヴィルヘルミナに受けた制裁の数々が脳裏をかすめ、悠二は身震いした。
「彼女は本当に融通がきかない、頑固な人だからなぁ。おまけに無愛想だし」
マティルダもまた、生前の彼女の行動の数々を思い出し、ため息混じりにつぶやいた。
「はぁ、全く」
悠二は彼女のつぶやきに、小さく同意してしまった。
しかし、そこでマティルダが悠二に向き直って、言った。
「でもね悠二君、彼女はああ見えてもね、実はとっても感情豊かで、素直なのよ」
「…前にアラストールからも、同じようなことを言われた気がするな」
「でしょ?だから、まあ気長に付き合ってみて。そのうちにきっと、彼女の弱いところや優しいところ、面白いところなんかがいっぱい見えてくるわ」
「弱いところ、優しいところか…」
「あの子のペンダントの中にいる男だってそうよ」
「えっ、まさか?」
悠二はマティルダの言葉に耳を疑った。
『男』とは紛れもなく、押しも押されぬ偉大なる“紅世”真正の魔神“天壌の劫火”アラストールのことである。

263Back to the other world:2006/05/21(日) 02:16:54
〜21〜

「彼なんか、あんな悟りきった堅物のふりして、私がひとたび他の男に言いよられたりすると、とたんに不機嫌になっちゃうんだから」
「えぇぇぇ!!?」
峰打ちの恐怖も忘れ、悠二は大声で叫んでしまった。
確かにあの魔神が、見かけ(悠二にとってのそれは想像でしかないが)よりかなり人間臭く、俗世に通じていたことは悠二もうすうす感づいていた。
しかし、まさか彼が「そこまで」いっていたとは。
「もう、ヤキモチ焼きもいいところよね。それで、しょうがないから恥ずかしいのを押して愛の歌を歌ってあげたんだけど「知らん」の一点張りで聞いちゃくれなかったわ」
「あの、アラストールが…?」
「あなたもまだまだね。そんなことだから、彼らにいいようにやられるのよ。あの子のことが――シャナのことが本気で好きなら、もっと向かっていかなきゃダメよ」
「そ、そんなこと言ったって…」
マティルダの強気な姿勢に、悠二はたじろいだ。
「全く、はっきりしないわね。それとも何、もう一人のあの子…『ヨシダさん』だったかしら?彼女が気になるの?」
またもや唐突な名前の登場に、悠二は仰天した。
「!…っどうしてそれを?」
「言ったでしょ?私はいつもシャナのことを見守ってるって。あのカーニバルの日のこと…しっかり見てたわよ」
マティルダは人差し指を立てながら「しっかり」を強調した。
悠二はさらに焦りだす。
「えぇっ、ど、どこから、どこまでを…」
「何から何まで全部よ。『儀装の駆り手』が来たこと、この町でのカーニバル、“探耽求究”の企み…それから、シャナとあの子を泣かせたことも、あの子を押し倒したこともね」
「ゲホッ!?お、いや、それは誤解で…」
「男の言い訳はみっともないわよ」
マティルダはさらに尋問を続ける。
「そ、そうじゃなくて」
と、そこで、答えに窮する悠二を見て、マティルダは尋問を止め、意地悪な笑みをニマッ、と浮かべた。
そしてこう言った。
「…まあ、それに関しては、私にとやかく言う権利は無いわ。私の恋愛だって、随分周りの皆を苦しめたとは思ってるし」
それを聞いて、悠二はお返しとばかりに質問をぶつける。
「…マティルダさんと、アラストールの恋愛が?」
「とにかく、私はシャナの母親の立場として言わせてもらうけど、あの子は一度惚れた相手にはひたすら一途に、不器用にもまっすぐに向かってくるわ」
自身の質問を見事なまでにサラリとかわしたマティルダに、悠二は降参とばかりにボソリとつぶやいた。
「…はあ」
「それを受け止めるかどうかはあなたの勝手。ただ、中途半端だけは絶対、ダメよ。今すぐ答えを出せとは言わないけれど、そのときになったら、イエスかノーかだけははっきりさせて」
「…わ、わかり、ました」
悠二はただそう言って、うなずいた。
彼女の、シャナやアラストール、ヴィルヘルミナやマージョリーとも違う、圧倒的な雰囲気の前には、か細い“ミステス”坂井悠二は、何も言い返すことはできないのであった。

264五十殿:2006/05/22(月) 20:33:32
Back to the other world さん、読ませてもらいました。
先代の炎髪灼眼の打ち手が登場するとは(驚)
この後の展開に、期待大!!

265通りすがりのVIP:2006/05/22(月) 23:11:05
「すばらしい作品だ!!」 「私はこんな作品を」 「ずっと待っていた!!」

266名無しさん:2006/05/23(火) 08:58:20
「早くううう、続きをおおお」

267名無しさん:2006/05/23(火) 17:51:32
「これは、よく出来た小説ですね。続きがとても気になります。
「黙らんか、痩せ牛。続きを読むのはこの私だ!!」

268名無しさん:2006/05/23(火) 18:02:58
「まったく、あの二人は仲良く出来んのか?」
「うおおおお、マティルダーーーー!! 続きはまだかーーーー?? あのミステスの小僧、俺のマティルダに・・・殺してやるぅぅぅ」
「うお!? むやみに虹天剣を放るなーーー」

269234:2006/05/23(火) 23:00:09
>>五十殿
ありがとうございます。続きはちょろちょろとではありますが書いているので、よろしければ今後とも読んでください。
>>265〜267
おぉ〜これは九垓天秤の方々(笑)。皆さんに喜んでいただけるとは身に余る光栄ですm(_)m
励みにして頑張りたいと思います!

270Back to the other world:2006/05/23(火) 23:04:22
〜22〜

「…で、これからどうするんですか?」
「んっ、何が?」
悠二の問いに、マティルダは他人事のように聞き返した。
「何がって、せっかくこうして僕らと会話できるようになったんだし、色々したいことがあるんじゃないかな、と思って」
「ん〜、まあねぇ」
マティルダは右手の人差し指をあごにそえてつぶやいた。
「じゃまずは早速明日、アラストールやカルメルさんと再会か」
悠二は当然のように言った。

「あぁ、その必要はないわ」
「えっ!?」
しかし、マティルダがあまりにあっさりと即答してきたので、驚いて悠二聞き返す。
「何で…?」
「何でって…今さら会って、何になるって言うのよ?」
「えっ、そりゃ、色々話したいこととかもあるんじゃないんですか?」
「う〜ん、まあ確かに。最近のあの男のヘタレっぷりには、ちょいとばかり言ってやりたいこともあるけれど…」
「じゃ言ってあげればいいじゃないですか?」
「話したいのは山々だけどね、やっぱりやめておくわ」
「どうして?」
悠二の無知な、しつこい問いかけに、マティルダは小さくため息をつき、紅い双眸で悠二をしっかりと見すえ、こう言った。
「…あのね、シャナの立場を考えてご覧なさい。彼女は私が死んだことによって成立している存在なのよ」
「!」
思っても見なかったところを突かれ、悠二はハッとなった。
「彼女だけじゃないわ。アラストールやヴィルヘルミナ、ティアマトーだって、五百年たった今でも、未だ私の死を引きずって生きてる。もがき苦しみながらも何とかしてそれを受け入れ、新たな討ち手を育て上げた。そんなところに今さら、私がのこのこ出て行ったら・・・どうなると思う?」
「そ、それは・・・」
悠二は何も言えなくなった。


彼には、知る由も無かったのだ。
マティルダ・サントメールという存在が、アラストール達にとってどれほどまでに大きな、大きな存在だったのかを。
そんな彼女を『大戦』の末失って、彼らがどれほどの喪失、苦痛を味わったのかを。
そしてそれから数百年。彼らがどれほどの思いを込めて、新たな討ち手―――シャナを育て上げたのかを。

271Back to the other world:2006/05/23(火) 23:06:32
〜23〜

「…何も分かってなかったんだな、僕は」
悠二は悲しげにつぶやいた。
「まあまあ、そうしょげた顔をしないの」
「・・・じゃ、もう帰るんですか?」
「うーん…それがね、あなたの存在の力の影響かしら、今私は『あの世』に帰ることもできない状態なのよ」
「ええっ!?」
「さっき試してみたんだけど、どうにも『あの世』への入り口が開かないのよね」
「じゃ、一体どうするんですか?」
「ま、とりあえず私は、あなたの中にある『零時迷子』の影響が消えるまで、この町にいさせてもらうことにするわ」
「えっ」
「なぁに?何か文句でもあるの?」
「いや…ただ、僕のそばにいたら、アラストール達にばれる確率が高まるんじゃ?」
「大丈夫よ、あなたに触れさえしなければ知られやしないわ」
「そ、そんな…保障はできないですよ」
「あら、それってどういう意味かしら?さっきの腕に残ってる感触がそんなに気になるの?」
マティルダはまたもや先程の「事件」を持ち出して悠二をからかう。
悠二の方はと言うと、三度の詰問に、ただただ動揺するばかりであった。
「ゴホッ!?な、何をいって」
「全く、男っていつの時代も変わらないものなのね」
マティルダは呆れ顔でつぶやいた。
「あっ、じ、時間ももう遅いみたいですし、もう寝ますっ!」
悠二は話をうやむやにしようと慌ててイスから立ち上がり、ほったらかしになっていた布団に入った。
「ハイハイ、今日はいろいろありすぎて疲れたでしょうしね。お休みなさい。また明日、いろいろお話ししましょ」
マティルダはイスに座ったまま布団のほうを向いて、小さく手を振った。
時計の針は、もう四時を過ぎていた。



「・・・」

「・・・二」

「悠二っ!いい加減起きなさいっ!!!!」

バカッ!

「痛あっ!?」
頭頂部への猛烈な痛みを受け、たまらず悠二は目を覚ました。
「・・・ん?」
目の前には、見慣れた少女が、大太刀を手に怒り顔で立っている。
「全く、何時だと思ってるのよ?」
いつものように、怒る少女。
(あれ)
「何処まで世話を焼かせるつもりだ、痴れ者め」
いつものように、厳しい魔神。
(やっぱり、夢だったのか?)
その光景に悠二は、昨日の謎だらけの出来事を、またもや夢だったと納得しようとした。


が、
「!!!」


『あら、おはよう、悠二君』
彼女は、いた。
少女のすぐ右横に。
何食わぬ顔で、悠二にあいさつをしてきたのであった。

272Back to the other world:2006/05/23(火) 23:09:10
〜24〜

「…ちょっと悠二、どうしたのよ?」
「何だ、腑抜けた顔をしおって」
悠二は、腰を抜かして、何も無いただの空間を震える指で差していた。
その意味不明な行動に、シャナとアラストールは呆れ半分、疑問半分に尋ねた。
「ま、ま、ま」
「・・・はぁ?」
「気でも触れたのか、坂井悠二」
「ま、ま、マティ」
思わず、その『空間』にいる人物の名を言いかける悠二に、
『喋ったら、どうなるか分かってるわね?』
その人物が、悠二にしか聞こえない声で忠告する。
その手には、紅蓮の炎でできた剣がしっかりと握られていた。
「!?」


「…マテ?」
「何が言いたいのだ。はっきりと言わぬか」
追い詰められ、悠二は何とかごまかそうと頭をひねる。
そして、
「あ、あのね、つまり、その…マティー…ニって、強いお酒だな〜と思って、ハハ、ハッ」
と、どうしようもないまでに無残な嘘をついた。

「何、それ」
「いや、だからさ、こないだ佐藤が言ってたんだ。マージョリーさんがマティーニを飲みすぎて、二日酔いで苦しんでたって」
「ふぅーん・・・で?」
あからさま過ぎる悠二のごまかしに、シャナは冷ややかな目線を向けながら言った。
「だからさ、やっぱりお酒の飲み過ぎってよくないよな〜って思ってさ、つまりはそういうことだよ。ハハハ、ハッ…」
悠二のこの態度を、シャナは、
(絶対、何か隠してる)
と思いつつも、
(まあいいわ。後で縛り上げてでも絶対聞きだしてやる)
と、その場は保留にする事にし、
「…とにかく、早く着替えなさいよ、遅刻しちゃうじゃないのっ!」
「えっ!?」
言われて悠二は時計を見た。
「…わわっ、本当だ、やばいっ!」
時計の針は、八時半を回ったところであった。

273Back to the other world:2006/05/23(火) 23:13:19
〜25〜

悠二がシャナにたたき起こされ、頭を抱えてうずくまっていたのと、ちょうど同じ頃。
「うげぇ…おえっ、ぎ、気持ち悪いぃ…」
御崎市旧住宅街にあるひときわ大きな屋敷である、佐藤家。
そこにあるバーで、一人の女性が、やはり頭を抱えてのた打ち回っていた。
フレイムヘイズ『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーである。
「だ〜から言ったろうがよ、あんな強え酒ばっか飲んでると、ヤバイ事になるってよ、ヒヒブッ!?」
彼女の足元に置かれた神器『グリモア』から、彼女と契約している“紅世の王”である“蹂躙の爪牙”マルコシアスが、相変わらず軽薄に言うと、マージョリーはすかさず足で小突いた。
もはや何百年と続けられた、彼らのやり取りである。
「だーってぇ、久しぶりだったんだもの、マティーニはぁ…おえっぷ」
カウンターに体を突っ伏しながら、マージョリーは言い訳をした。
「それが理由ってかぁ?ヒヒッ、とんだご都合主義だなぁ、我が腐った酔っ払い、マージョリー・ドーブッ!?」
「お黙り、バカマルコ…おぷっ!?」
「ワーッ、よせよせ、やめろ〜っ!」
「ふぅーっ…何よぉ、『清めの炎』はぁ?」
「んなもん、そんなたびたび使ってやれるかぁ!たま〜にゃ自分で酔いを覚ます方法くらい、考えてみるんだな、ヒャッヒャッヒャッブハッ!?」
マージョリーは『グリモア』をつま先で、かなり強めに蹴った。
「イテテ…おいおい、逆ギレってやつかぁ?」
「違うわよぉ…この前テレビで見た…フットボールの試合…真似して、みただけよぉ」
「ヒヒッ、おめえの場合、フットボールっつーよりは、アレじゃねえか、「ケイワン」とか言うやつじゃねえのかブッ」
「お黙り…バカマルコ…うえぇ」
そばにあったクッションを『グリモア』に投げつけて、マージョリーは中庭へ出ようと、手探りでもぞもぞとスラックスとカーディガンを拾い、それぞれダラダラと身に着け、バーを後にした。


「あ〜、気持ち悪いぃ」
髪の毛をクシャクシャに乱したまま、マージョリーは、中庭へ続く廊下を歩く。
(何よ、バカマルコの奴…ちょっと炎を出すだけなんだから、やってくれたっていいじゃないのよ…)
心中で相棒を罵りながら(無論、本心からではない)、ヨタヨタと、足取りも重く。
(酒量をわきまえる、なんて器用なことが、私にできるわけないって事ぐらい…んっ?)
と、中庭へと続くサッシを開けたとき、マージョリーはふと、妙な感覚を覚えた。
「?何か、変な感じねぇ…」
この世には存在しないはずのものが、存在している。
マージョリーが覚えたのはそんな、フレイムヘイズとってはごくありふれた感覚だった。
(また新手の“従”かしら…?)
しかし、来るべき“銀”の襲来に備えて、『玻璃壇』は毎日、入念にチェックしている。
それに、マージョリーはこの感覚を、どうも不思議に思った。
(何か…違う気がするのよね。“従”とは)
もし“従”の気配なら、どんなに酷い二日酔いでも一瞬で吹き飛び『グリモア』を引っつかんで飛び出しているはずなのだ。
フレイムヘイズの中でも屈指の殺し屋“弔詞の詠み手”マージョリー・ドーとは、そういう人物である。
しかし、今回のこの「気配」には、マージョリーは違和感こそ抱けど、酔いは相変わらず全身に回ったままだし、身体も全く反応しなかった。
マージョリーは、その常日頃抱くことのない違和感に首を傾げつつも、
「…まあ、いいか。そんなことより、水よ、水ぅ…うえぇ」
またまた激しい二日酔いに襲われると、ふらふらと厨房のほうへと向かっていった。

274Back to the other world:2006/05/23(火) 23:16:35
〜26〜

「しっかし坂井にシャナちゃん、危なかったなぁ」
「ホントだよな。もう少しで出席とり終わってたぜ」

遅刻ギリギリではあったが、シャナが悠二の片腕を取って屋根の上を飛び移っていくという荒業を使ったおかげで、二人はどうにか1限に間に合うことができた。
そして4限までをこなし、今はいつものメンバーと―――悠二にシャナ、佐藤啓作に田中栄太、吉田一美に池速人、そして緒方真竹の7人との昼食タイムである。

「でも…間に合ってよかったですね」
「珍しいな、坂井。お前、別に家から学校までそこまで距離なかったろ?」
「そうよ。私や田中や佐藤は御崎大橋渡らなきゃいけないし、池君や一美の家だって、坂井君の家より奥に行ったとこにあるじゃない」
友人達が口々に悠二たちに話しかけてくる。
しかし、

「・・・」
悠二は下を向いて、呆けたような表情をしたまま黙っていた。
「おい坂井、どうした?」
そんな悠二に、まず池が声を掛けた。
「そういや、なんか朝から様子が変だったよな?」
「お前、まさか…大丈夫か?」
次に佐藤と田中が「知っている者」の立場から、池とは全く違った意味での心配を込めて言った。
「何だか顔色も悪いみたいですし…何かあったんですか」
吉田もまた「知っている者」の一人として、また、それとは別の“感情”から、前者三人とはまた違った意味で、心配そうに言う。

「・・・」
しかし悠二は友人達の呼びかけに、相変わらずうつむいたまま、黙っていた。
「おい、坂井っ!?」
池がもう一度呼びかけた。
と、同時に、

ドゴッ。
「ぎゃぁっ!?」
シャナが、悠二の頭頂部に思いっきりひじ打ちをぶちかました。
「・・・シャキッとしなさいよっ!」
「う…あ…?」
シャナに怒鳴られた悠二が頭を抱え、辺りを見ると、友人達が心配そうにこちらを見つめていた。
「坂井、マジで大丈夫か?」
「え…ああ。だ、大丈夫…たぶん」
佐藤の問いかけに、悠二は頼りなさげに答えた。
「…そういうことじゃないんだろうな?」
「うん…一応」
田中の「知っている者」としての心配を含んだ問いかけにも、悠二は同じような口調で答える。
「もしかして坂井君、私のお弁当が…何か、味がおかしかったですか?わ、私今日、ちょっと味付け濃くしゃったかもしれないし…」
「えっ…そ、そんな事ないよ、大丈夫」
少しも減っていない悠二の弁当を見て言った吉田の言葉にも、悠二は力が抜けたように答えた。
「ちょっと坂井君、あなた本当に変よ?なんかさぁ、幽霊にでも取り憑かれて、力を吸い取られた、って感じ?」
「ブフッ!?」
緒方の言葉に、悠二は吉田を心配させまいと無理やり口元に運んだ弁当のおかずを、ノドに詰まらせた。

275Back to the other world:2006/05/23(火) 23:24:42
〜27〜

「…ッ!?〜〜!!」
『ほう、なかなかスルドイわね、彼女』
悠二の背後で、本来いるはずのない、もう一人の『炎発灼眼の討ち手』が感心しながらそう言った。
『そ、そういう問題じゃ…ゲホッゲホッ』
一方の悠二は、胸をドンドンと叩きながら、自分にしか見えない相手に向かって突っ込みを入れた。
「さ、坂井君!?」
すかさず吉田が自分の水筒から麦茶を注いで、悠二に差し出す。
「ゴクッゴクッ…ぷはっ!?」
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、大丈夫…」
吉田の心配そうな声に、悠二はつとめてそう言った。
しかし実はこの日、悠二は全く大丈夫などではなかったのだった。

276Back to the other world:2006/05/24(水) 01:53:29
〜28〜

この日の1限の授業は、世界史だった。
『えっ、何、今ちょうど中世ヨーロッパやってるの?』
世界史担当の教師が黒板に「中世ヨーロッパの文化について」と書き出すやいなや、悠二の隣に立っている―――もちろんシャナや吉田をはじめ、クラスにいる他の誰の目にも見えていないが―――マティルダが、興奮気味に言った。
『な、何ですかいきなり!?』
いきなりの大声に驚いて、悠二は彼女にしか聞こえない声で(つい先程、悠二とマティルダは、まるで“紅世の王”とフレイムヘイズの間におけるような、お互いにしか通じない会話ができることを知った)言った。
『何って、中世なんて、まさに私の全盛期だった時代よ』
『あ…そ、そっか』
『分かんないとこあるんなら、教えてあげよっか?』
『け、結構ですよ』
『遠慮しなくてもいいのよ、多分先生より詳しいから。どれどれ、ちょっと見せてごらん』
『だから結構ですって…わっ?』
言って、マティルダは机に顔を寄せてくる。
『なになに「ルネッサンスの芸術家達」…あっ、レオナルド!懐かしいわぁ…彼はガヴィダの爺さんと訳の分からない話ばっかりしてたわねぇ。変な宝具もいっぱい作ったって聞いたけど、どこにいったのやら。あらら、アルブレヒトも載ってるじゃない…私、彼に肖像画描いてもらったのよ。戦乱のドサクサでどっかになくしちゃったけど』
マティルダは悠二の教科書に載っている偉人達の肖像画を眺めながら、自身の懐かしい思い出を語りだした。
これで悠二が、少しでも世界史に興味がある人間であったならば、マティルダの話を興味深々に聞くことができたのであろう。が、残念なことに彼は世界史の時間を時折睡眠タイムに使ってしまうほど、全く興味はなかったので、
『マ、マティルダさん、そ、そんなに近づくと、触れちゃいますよ』
眼前に迫ったマティルダの端整な顔立ちに見とれてしまい、気がついたときにそういうのが精一杯であった。

その後の授業でも、
『あら、英語じゃない。私、ヨーロッパとアジアの言語ならほとんどペラペラなのよ。教えてあげるわ』
とか、
『数学かぁ…私、化学と幾何学の知識はどうしてもヴィルヘルミナに勝てなかったのよね。いい機会だわ、私にも解かせて』
などと言っては、マティルダは毎度毎度悠二の教科書に顔を近づけていき、その度に悠二は身体に触れてはしまわないかで神経をすり減らす、またマティルダの、シャナのそれとは違った大人の色香漂う灼眼に思わず見とれてしまいそうになって、普段しない場面で激しく緊張してしまう(これに関しては自業自得だが)という、二つの苦労を背負う羽目になったのである。
そして4限を終えて昼休みになる頃には、悠二の身体は心身ともにヨレヨレになっていたわけである。

277Back to the other world:2006/05/27(土) 22:27:07
〜29〜

「坂井、何でそんなに動揺してるんだ?」
窒息の危機をどうにか逃れた悠二に、池が問う。
「い、いや別に」
「嘘つけ!オガちゃんの言葉にメチャメチャ動揺してたじゃねえか」
「えっ、何、私のせいだって言うの?冗談にきまってるじゃない」
「もしかして坂井君、本当に幽霊に取り憑かれちゃったんですか?」
「何言ってんだよ吉田ちゃん、んなわけねーだろ、な、坂井」
「そ…そうだよ、そんなわけないよ、ちょっと疲れ気味なだけだよ、うん…」
佐藤の言葉に、悠二がまた力なく答える。

とそこで、
「じゃ、茶番劇も終わりね、悠二」
この問題に関してまだ全くも発言していない人物が、
「そろそろ話してもらうわね…朝のこと」
氷のような冷たい視線を放ちながら、
「うっ!?」
悠二にとっては先程の緒方の発言など比べ物にならない、必殺の一言を放った。

「何だ坂井、やっぱり何かあったんじゃねえか!」
「黙ってんじゃねえよ、全く」
「坂井君、隠し事はなしってあれほどいったのに…」
「な〜に坂井君、言ってごらんなさいよ」
「友達じゃないか、水臭いぞ」
シャナの一言に、友人たちが口々に悠二を攻める。
「え…いや、ホント、何にもないんだってば」
「『マティ』って何?」
「だから、あれは朝言った通りで、マージョリーさんがマティーニを飲みすぎて…」
「って言うんだけど、本当?」
と、シャナは佐藤と田中のほうを向いて尋ねた。

(しっ、しまったっ!)
悠二はそこで、自分の致命的なミスに気づいた。
『あーあ、バカね』
マティルダが心底呆れて、悠二に言った。
『も、もうダメだ…マティルダさん、正直に話そう』
『ダメよ、何とか切り抜けなさい。あなたは知力でここまで生き延びてきたんでしょうが』
悠二の弱気な提案に、マティルダは厳しく言った。
そして悠二は自分の愚かさを呪い、腹をくくった。

278Back to the other world:2006/05/27(土) 22:31:01
〜30〜

しかし、
「え、ああ。坂井、よく知ってるな」
「…え?」
天は彼を見捨てなかった。
「つい昨日、マージョリーさんの要望で、家のバーにバーテンを呼んでな」
「…えぇ?」
奇跡は、起きた。
「んで、いつもの通り散々飲み散らかして…バーテンが疲れて帰っちまった後も、一人でずーっと飲んでて…朝は悲惨な状態だったぜ」
「ええぇ!?」
「何をそんなに驚いてんだよ、お前が言ったんだろ?」
「あ…ああ、うん。そ、そうだよ。ほ、ほーら、言った通りでしょ…?」
「う…ん?」
(何で…?)
シャナは自分の予想が外れたことに、驚きを隠せなかった。
(絶対怪しいよね、アラストール?)
首をかしげながら、シャナは胸元にいる魔神に、お互いにのみ聞こえる声で尋ねた。

(…)
しかし、本来ならばすぐに返ってくるはずの返事が、ない。
(…アラストール?)
(んっ?)
二度目の呼びかけでやっと返事が返ってきたが、それはおおよそ“紅世”に名を轟かす魔神らしからぬ、間抜けな返事だった。
(どうしたの?)
(い、いや。別に何でもない)
(何、アラストールまで私に隠し事?)
(ち、違う、断じてそれはない。ただ…)
(…ただ?)
(何か、おかしな気配を感じぬか?)
(えっ?)
言われ、シャナは目を閉じて、存在の力を探ってみた。
しかし、
(…特に、何も感じられないけど)
(そ、そうか…)
(…?変なの)
シャナはいつもらしくないアラストールを不思議に思った。

アラストールは一人、心の中でつぶやく。
(むぅ…我としたことが、シャナに恥ずかしい態度を見せてしまった。しかし…)
御崎高校に着いたあたりから、時折感じていた。
自分のすぐ近く―――“ミステス”の少年の辺りに「何か」が存在している、という気が。
しかし、それは“従”ではなく、別の「何か」。
しかも、なぜかアラストールには、その気配に覚えがあった。
(一体、この感覚は…?)

と、彼に、ある一つの可能性が浮かび上がった。
昨夜の『万条の仕手』と“夢幻の冠帯”の異常なまでの動揺。
自分自身が今、感じている気配。
そして“ミステス”の少年が口走った言葉―――


(愛しているわ“天壌の劫火”アラストール)
(!!?)
ふと、彼の中に、一人の女性の姿がよぎった。
数百年間、忘れようとしても決して忘れることのない、あの女性の姿が。

279Back to the other world:2006/05/27(土) 23:12:11
〜31〜

(…っな、何を、馬鹿な)
アラストールは浮かび上がった幻影を振り払うと、自分の考えのあまりの馬鹿馬鹿しさに、吐き捨てるように心の中でつぶやく。
彼の考えは、確かに馬鹿げていた。
それは、絶対にありえないことだった。
思いついても、考えてもいけないことだった。
(全く、我としたことが…)
気のせいだろう。
アラストールは、そうやって何とか自分を落ち着かせた。


『ひぃ〜、た、助かったぁ』
『ほう、運のいいこと』
『はは、全く…しかし、まさか本当にそんなことになってたなんてなぁ』
悠二は心底ホッとした。
『でもね悠二君、残念だけど…このままじゃ、どの道バレるのは時間の問題ね』
『えっ、なぜです?』
『気づき始めてるのよ、あの子の胸元にいる男が』
言って、マティルダはシャナを指差した。
『えぇっ!?』
『どうやら、あなたの近くにいるだけで、ほんの少しではあるけれど存在の力が私に流れ込んでくるみたいね。彼、じわじわとではあるけれど、私の気配に気づき始めてるわ』
マティルダは腕を組みながら、しげしげとシャナの胸元(のペンダントにいる男)を見つめていった。
『な、何で分かるんですか?』
『彼と私がいったいどれだけの時間を過ごしたと思ってるのよ。もう『コキュートス』を見なくたって、何を考えているのか分かるわ』
マティルダは得意そうに言った。
『いや、見たって分かりゃしない気が…』
『何か言ったかしら?』
『い、いや別に。で、どうすりゃいいんです?』
『とりあえず、今日のところは早退させてもらったら?』
『えっ!?』
『今のあなたの様子なら、周りのみんなも不自然には思わないわ』
確かにその通りであった。
このクラスの、少なくとも自分のまわりにいる5人は、自分を体調不良と思い込んでいる。
今自分が早退するといったところで、誰もおかしいとは思わないだろう―――ただ一人をのぞいて。
『で、でも、そんなこといったって』
『あとね悠二君。私、やりたいことを一つ、思いついたのよ』
悠二の反論を無視して、マティルダが続けた。
『な、何ですかいきなり?』
マティルダは少し微笑んで、こう言った。
『あなたのお母さん―――坂井千草さんと、お話がしたいの』

280Back to the other world:2006/05/28(日) 01:47:28
〜32〜

「えぇぇぇーーーっ!!?」
「うぉ!?」
「何だ!?」
悠二はクラスメイトの存在も忘れて勢い良く立ち上がり、教室中に響く大声で叫んでしまった。
「そ、そんな、無理ですよ…っ!?」
と、我に返った悠二は、そこでやっとクラスメイトが自分を好奇の目で見つめていることに気がついた。
「さ、坂井、君?」
「おい、坂井?いったいどうしちまったんだ?」
「誰に向かって喋りかけてんだよ?」
吉田、田中、佐藤の三人が、明らかにおかしい悠二の行動に疑問を隠さず尋ねた。
「い、いや別に」
「いや別にじゃないでしょ?今のはどう考えてもおかしいわよ」
「坂井、熱でもあるんじゃないのか?」
緒方、池の二人も、同様に尋ねる。
「あっ、うん、そ、そうかもしれない。ぼ、僕、今日はちょっと早退するよ」
池の言葉を口実に、悠二は早退しようと荷物を超高速でまとめ、一目散に教室を飛び出した。


と、
「ちょっと悠二、待ちなさいよ!」
教室を出て廊下を駆け出そうとしたその時、シャナが悠二を、怒りがこもった声で呼び止めた。
「シャ、シャナ!?」
呼ばれた悠二が振り向くと、シャナが仁王立ちしてジロリと睨んでいた。
怒りがこめられたままの声で、シャナが問い詰める。
「いったい何があったのよ、答えなさいよ!」
「だ、だから何でもないって」
「そんなわけないっ、絶対何か隠してる!」
「ち、違うったら、ただ気分が悪いから、早退するだけだよ」
悠二は何とか言い逃れようとしたが、
「うるさいうるさいうるさいっ!嘘に決まってる!」
シャナは一歩も引かない。
悠二はシャナの押しの強さに気おされまいと、必死になった。
そして、


「っ…だから違うって言ってるだろ!」
「…!」
穏やかな彼が常日頃出さない、怒鳴り声でシャナに立ち向かった。
それは恫喝と言うにはあまりに弱弱しく、優しいものだったが、普段の物静かな姿を見慣れていたシャナにとっては、十分に効き目があるものであった。
シャナは一瞬たじろいだが、すぐに向き直ると、
「・・・もう知らないっ、勝手にどこにでも行けばいい!」
そう捨て台詞を吐いて、悠二とは反対方向に廊下を駆け出していった。


「シャ、シャナ…」
小さくなる背中を見て、悠二がつぶやいた。
『あーあ、泣かせちゃったわね』
教室の壁をすり抜けて出てきたマティルダが、まるで他人事のように言った。
『…誰のせいだと思ってるんですか』
無責任なマティルダの物言いに、悠二は少し怒って言った。
『あら、最初に抱きついて私を顕現させちゃったのは、いったい誰だったかしら?』
しかし、マティルダは厳然なる事実を持ってして、悠二の言い分を封じ込める。
『…ま、まあそうですけど』
少し気弱になった悠二を、
『それにあなたも、もう少し冷静に行動してれば、こんなことにはならなかったはずよ』
マティルダはさらに攻める。
『そ、そんなこといわれたって』
『ま、あの子には後で謝るとして、まずはここから出ましょ』
『…ハイハイ、分かりましたよ』
マティルダの一方的な物言いに悠二は結局何も言い返せず、あきらめてトボトボと昇降口へ向かい、御崎高校を後にした。

281Back to the other world:2006/05/28(日) 03:46:19
〜32〜

平日の昼下がりのせいか、商店街は人通りが少なかった。
『しかし悠二君、もう少し頭の回転を早くしたほうが良いわよ』
その道をトボトボと歩く悠二に、マティルダが声を掛けた。
『一応、いざと言う時には切れてる、って評判なんだけどな…』
『まだまだ、あんなもんじゃダメよ。これからの戦いを生き抜こうと思ったら、せめて…牛骨宰相くらいの頭脳は身に着けてもらいたいわ』
『誰ですか、それ』
『以前私が戦った相手の一人よ。彼の知略にはずいぶんと手を焼かされたわ。ま、最後にはやっつけたけどね』
かつて『大戦』で自分たちを大いに苦しめた知略家を思い出しながら、マティルダは言った。
『はぁ…』
『そういえば彼とも『あの世』で会ったわ』
と、そこでマティルダが思い出したように言った。
『えっ、て、敵同士なのに?』
『昨日言ったじゃないの。『あの世』では敵味方なしだって。最も、もう殺そうと思っても殺せないから、ってのもあるけど』
『あ、ああ、そういえば』
『話してみたら、その頭の切れは予想以上だったわ。本当に恐ろしい奴と戦ってたんだなって実感した。ただ随分気弱なのが気になったけど』
『えっ、気弱?』
『だって私と顔を合わすなり、いきなり逃げ出しちゃうんだもの。呼び止めるのに苦労したわ。そうそう、あと彼、超弩級の鈍感でね』
『はぁ?』
『彼のことが大好きな女の子がすぐ傍にいるのに、全然、かけらも気づいてないのよ。もう何百年になるかしらね』
『えぇっ、な、何百年?』
『またその女の子が最高に不器用でね、彼のことの散々けなしたり、罵言暴言を浴びせるのよ。もちろん愛情の裏返しなんだけど』
『はあ』
『全く、私の胸をぶち抜いた時みたいな勢いがどうして出せないかなぁ。見てて歯がゆいったらありゃしないわ。まるで誰かさんと誰かさんみたい』
マティルダはそう言って、「誰かさん」の一人たる少年を流し目で見た。
しかし、悠二はそれには気づかず、全く違う質問をした。

『ちょ、ちょっと待って』
『何?』
『胸をぶち抜いたって…それって、その、前言ってた『大戦』で戦った敵の暗殺者でしょ?』
『そうよ』
『あと『牛骨宰相』ってのは、聞いたところ、その『大戦』の“従”側の司令塔だった、ってことですよね?』
『ええ、その通りよ』
『ってことは…“紅世の従”も、その、そういうこと…恋愛とかをする、ってこと?』
『今さら何を言ってるのよ。“従”だって、フレイムヘイズだって、立派に恋をするものなのよ』
『あ…っ、そういえば、前に同じことを言われた気がするな』
悠二は、かつてシャナとの関係に思い悩んでいた自分に、極めて的確なアドバイスをしてくれた、ある人物を思い出した。

282Back to the other world:2006/05/28(日) 03:47:23
〜33〜

『それってもしかして、紳士の格好した爺さんじゃない?』
『そっ、そうだけど…知り合いなんですか?』
悠二はマティルダの顔の広さに心底驚いて尋ねた。
『ええ、ちょっとね。あいつ、あんな格好して気取ってるけど、本当はね…』
『えっ、それってどういう…』
『…ま、今言うのはやめとくわ。これもいつか分かることだろうし』
昨夜に続いて、またもや含みのある顔で話を断ち切ったマティルダに、悠二が不思議そうに尋ねた。
『それにしちゃ、『あの世』の人たちのことはよく喋りますね』
『だって、彼らはもう死んでるんだもの。いくら私があなたたちに喋ろうと、何も起こりゃしないわ。でもね、まだ生きてる人たちのことは…言っていいことと悪いことってのがあるのよ』
『はぁ…なるほど』
マティルダの論理に、悠二はよく分からないながらもとりあえず納得した。


『それにしても、何百年も気づかないなんて…とんでもない鈍感だな』
と、悠二のあまりに棚上げな意見に、マティルダはまた呆れて言う。
『あらあら、あなたがそれを言うの、悠二君?』
『どういう意味ですか?』
もちろん、朴念仁たる少年は、その言葉の真の意味が分からずに尋ねた。
『さあねぇ、自分で考えたら?』
『えっ…』
悠二は逆に言い返されてしばらく考え込んだ、が、答えは出なかった。
その様子を見ながら、マティルダは、
(まったく…『あの世』とこの世、似たもの同士ってあるものね)
と、心の中で感慨深げにつぶやいた。

283Back to the other world:2006/05/28(日) 03:51:13
〜番外編1〜

ちなみに同じ頃『あの世』ではこんなことが起こっていたとかなかったとか。

「クシュン?!」
牛骨の賢者が突如、くしゃみをした。
「いきなり何だ、痩せ牛。はしたない」
その様子を見て、黒衣白面の女が無愛想な顔(を装って)で叱った。
「も、申し訳ありません。っクション!?」
牛骨はすまなさそうに謝ったが、もう一度くしゃみをしてしまった。
「何度も無様な真似をするな!」
その情けない様子に、女は目線を尖らせてさらに叱る。
「はっ、も、申し訳ありません…」
牛骨はますますすまなさそうに縮こまった。
「我らは死んだとはいえ、元…いや今でも『とむらいの鐘』の精鋭『九垓天秤』の一角なのだ。お前、最近少したるんでないか?」
「ま、まったくその通りです…このくしゃみはおそらく、こんな私をあざ笑っているフレイムヘイズ達がいるという証拠なのでしょう」
牛骨が縮こまったままそう言うと、女は、
「…?どういう意味だ?」
と尋ねた。
「いえ、こちらに来てから知ったことなのですが、何でも人間たちは、くしゃみの回数に意味を求めるそうなのです」
「…下らん」
牛骨の解説を、女は一言バッサリと切り捨てた(フリをした)。
「はは、確かにそうですね。くしゃみ一回で良い噂、二回で悪い噂、三回目で恋の噂だとかなんとか、全く馬鹿馬鹿しい話ではあるのですが」
「痩せ牛、今すぐくしゃみをしろ」
「はっ?」
いきなりの女の要求に、牛骨は戸惑った。
「いいから、今すぐくしゃみをしろ、と言ってるんだ」
女はつとめて平静を装いながらそう言った。
しかしその長い右手は地面でモジモジと動かされ、白面はうっすらと紅色が浮かんでいた。
「いえ、しかしですね、それは…」
ところが、超弩級の朴念仁である牛骨には、それが意味するところが分からない。いたって普通に答えた。
女は牛骨のその態度に、ますます苛立つ。
「グズグズするな鈍牛!何でもいいから早くくしゃみをすればそれでいいのだっ!」
「は、はいっ!ハ…クション!」
その様子を見て女は、表情は変えず、しかし心中では大いに心躍らせた。
(やった!これでようやく…ようやく私の想いが…)

しかし、世の中とはうまくいかないものである。
「クション」
「なっ…!?」
「おや、四回もくしゃみが出るとは…どうやらただの風邪のようですな…わわっ!?」
何も無かったかのように答える牛骨に、女は怒りを爆発させた。
「っ馬鹿者!!!誰がくしゃみをしてよいと言った!?」
理不尽なことは分かっていたが、それでも言わないと気がすまない。
「えっ、そ、それはチェルノボーグ殿が」
「黙れ黙れ痩せ牛!!」
女はそのまま右手を牛骨にぶつけた。
「ひぃ、も、申し訳ありません…!」
そして牛骨は何一つ気づかないまま、ただただ謝った。


と、まあ、こんな日常を千年近く続けている二人の物語はまだまだ続くのだが、それはまた、別の話。

284234:2006/05/28(日) 17:47:15
ぎゃ〜〜!!!“徒”のはずが、全部“従”になってるっ(泣)。恥ずかし〜!!!
申し訳ないです…。

285五十殿:2006/05/28(日) 19:59:15
本当ですね。
私も今まで気づかずに読んでました(笑)

286名無しさん:2006/05/28(日) 23:49:48
「なによ、気付かなかった訳?」
「ハッハァー、よく言うぜ。我が鈍感なる姫君、マージョリー・ドーよぉ。
さっきまで気付かなかったくせになぁ。ウハハハハハ、ブッ」

287名無しさん:2006/06/09(金) 01:26:20
ここって保管庫あるの?

288名無しさん:2006/06/28(水) 15:31:43
続きが気になるであります。
『続執要望』

289名無しさん:2006/07/03(月) 23:23:59
続きを早く!!!!!!!!!!!

290234:2006/07/09(日) 23:02:12
最後の投稿から1ヶ月以上経ってしまいましたorz
今さらですが、続きを書きました。
まだ完成には至りませんが(え)、気長に見守っていただければ幸いです。

291Back to the other world:2006/07/09(日) 23:07:33
〜34〜

悠二がマティルダに戦々恐々とさせられていた頃。
「・・・・・」
ヴィルヘルミナは、平井家の自室の事務机に座っていた。
「・・・・・」
しかし、いつものように、“外界宿”からの書類に目を通しているわけではなかった。
「・・・・・」
ただ頬杖をついて、呆けたように壁を見つめているのみである。
「正気覚醒」
そんな様子を見かねたティアマトーが、たしなめるように言っても、
「・・・・・」
その声が耳に入っていないかのように、全くの無気力状態であった。

しかし、それも無理からぬことではあった。
(あれ、は)
昨日の夜。
(本当、に)
彼女は、見てしまったのだ。
(夢?)
見るはずのないものを。
それは、一人の大切な、大切な人の姿。

―――さようなら、ヴィルヘルミナ、ティアマトー。貴方達に、天下無敵の幸運を―――

「誇大妄想」
相棒の堂々巡りを終わらせるため、ティアマトーが一言きっぱりと言い切った。
「・・・・・」
「正気覚醒」
「・・・・・む」
ヴィルヘルミナは頬杖をつくのをやめた。
「・・・そう、で、ありますな」
どれだけ考えたところで、あんなことは現実にはありえない。
しょせん、妄想に過ぎないのだろう。
そんなことで思い悩むのは、時間の浪費である。
「全く・・・何ゆえ今さら、あのような幻覚を」
今はもう、現実を見すえているはずだったのに。
あいつにも、きっぱりとそう言ったのに。

―――ふふん、負け惜しみかい?―――

「…ッ!」
ガッ!
ヴィルヘルミナは拳で自分のこめかみを、思いっきりひっぱたいた。
それはティアマトーに向けたものではなく、不甲斐ない自分自身へのものだった。
ズキズキと痛む頭を押え、ふと時計を見ると、
「む」
時刻は0時30分だった。
「時間浪費」
「うるさいであります」
ヴィルヘルミナは、今度はヘッドドレスの相棒を殴りつけた。
「ふむ、昼食摂取の後、食料調達に出かけるのであります」
とにかく、気分を切り替えよう。
外に出て空気を吸えば、こんなふざけた妄想にふけることもなくなるだろう。
ヴィルヘルミナはそう自分に言い聞かせ、スクッ、とイスから立ち上がって、昼食のカップめんを作りにキッチンへと向かった。

292Back to the other world:2006/07/09(日) 23:12:21
〜35〜

9月の前半というのは、まだまだ残暑が厳しい時期である。御崎市ももちろん例外ではない。
ましてや昼下がりともなれば、その暑さはジリジリと焼け付くようなものとなる。
「それにしても…暑いなぁ」
悠二はそんな暑さの中、通りをひたすら歩いていた。
『何よ、だらしないわねぇ。私なんか四六時中、紅蓮の炎の真っ只中にいたのよ』
ダラダラとやる気なさそうに歩く悠二を見て、マティルダが後ろから茶化す。
『そりゃ『炎発灼眼の討ち手』だったんなら当然でしょ?』
『フフッ、その通り』
悠二の突っ込みに、マティルダはまたいたずらっぽい笑顔で答えた。
その子供のような笑顔を見て、悠二は苦笑交じりにつぶやいた。
『・・・なんか、意外だったな』
『ん、何が?』
『僕の中の想像では、先代の『炎発灼眼の討ち手』って、もっと威厳があるっていうか、近寄りがたい感じっていうか、そういう風な人かと思ってたから・・・』
『あら、何それ?まるで私がガキっぽい奴みたいな言い方じゃない』
『いっ、いえいえいえ、決してそういう意味じゃ』
悠二は慌てて否定した。
『じゃどういう意味よ?』
『その、何か、ずいぶん気さくに話しかけてくるし、いつもニコニコ笑ってるし、『伝説の人』って言う割には…意外だな、って思って』
これは正直な感想だった。
初めて会ったときから、悠二にはマティルダの圧倒的な存在感は感じ取っていた。
しかしそれとは裏腹に、彼女の態度、仕草は、どことなく軽く、子供っぽいものだった。
『そうかしら?』
悠二の指摘にも、マティルダは全く気にした様子はない。
『今だって、僕の母さんと話がしたいなんて言うし…』
『なぁに、話しちゃまずいことでもあるの?』
『い、いや、そんな事はないけど、なんでかなって思って』
学校を早退する原因にもなった、マティルダの一言。
悠二には全くもって、意味が分からなかった。
『あのね、私はシャナの母親みたいなものよ。自分の娘がお世話になってる人にご挨拶しておくってのは、別に普通のことじゃないの?』
そんな悠二の疑問をよそに、全く当然のように、マティルダは答える。
『ま、まあそうだけど』
『それと・・・やっぱり私からも言っておかないとね』
『何がです?』
『お宅の息子さんにはもっとがんばってもらわないと、うちのシャナはあげられませんよ、ってね』
『な、何を言って』
『冗談よ冗談。フフッ』
言って、マティルダはまた、子供のようにニカッ、と笑みを浮かべた。

293Back to the other world:2006/07/16(日) 00:28:46
〜36〜

『・・・そういえば』
と、そこで、悠二は根本的な問題に思いあたる。
『ん、何かしら?』
『その・・・母さんと、どうやって話すつもりなんですか?』
『あ、そういえば、特に考えてなかったわ。単なる思い付きだったし』
『そんな、無責任な』
軽い調子で話すマティルダに、悠二は少々憮然とした。
『なんなら直接会いに行きましょうか?』
と、いきなり突拍子もないを言い出すマティルダに、
『じょ、冗談はやめてくださいよ』
悠二は慌ててそれを拒否する。
『フフッ、分かってるわよ』
そんな悠二を見て、マティルダはまた愉快そうに笑った。
『本当に、もう・・・』
『怒らない怒らない』
『はぁ・・・。じゃ、どうするんですか?』
『そうねぇ・・・あなた、小型の電話か何か持ってないの?最近の人間は皆持ってるって聞いたけど』
『携帯か。残念ながら、僕は持ってないです』
『えっ、なんで持ってないのよ?時代遅れね〜』
何百年も前に死んだマティルダさんに言われたくないな、と言いかけて、悠二はどうにかその言葉を飲み込んだ。
『母さんがああいう機械、ダメなんです。だから買わせてもらってません』
『ふぅーん、可愛いお母さんじゃないの』
『ど、どうも』
母親を「可愛い」と表現された悠二は、少々ばつが悪そうに短く返事をした。
『・・・で、どうするんですか?』
『うーん・・・公衆電話とか、近くにないの?』
『公衆電話か・・・』
言われ、悠二は困った。
最近携帯の普及によって、公衆電話の台数が減少傾向にあるのは、ここ御崎市も例外ではない。
かろうじて目にするところといえば駅周辺だが、その辺りは先日の“変人”と評判高い某・紅世の“王”襲撃事件によってズタズタに破壊され、公衆電話もその憂き目に遭っていた。
『どこか人目に付きにくい、静かな場所にひっそりとある公衆電話とか、ないのかしら?』
『そんな都合のいい場所あるわけが・・・』
と、悠二はそこで突然、口をつぐんだ。
『・・・ちょっと、悠二君?』
そんな様子を見て、マティルダは不審そうに悠二に声を掛ける。
すると、悠二はボソッと、一言こうつぶやいた。
『・・・あった、一ヶ所だけ』

294Back to the other world:2006/07/16(日) 01:55:19
〜37〜

南中に達した太陽が、だんだんと傾き始めている。
向かいのマンションの影が、ほんの少し部屋の中に入ってきている。
「・・・・・・」
その部屋の中、ヴィルヘルミナは呆然として、右頬を押えていた。
その清楚なはずのメイド服のエプロンには茶色のシミが点々と浮かんでおり、さらにその普段は凛々しく妖艶ですらある口元はだらしなく半開きになっており、おまけにその周辺には細かい緑色や黒色の物体が付着している、という始末である。



つい先程まで、彼女は少し遅めの昼食をとっていた。
しかし、その食べ方は何とも酷いものであった。
力なく握られたハシからは見る見るうちに麺がこぼれおち、彼女のメイド服のエプロンにボトボトと落ちた。
「麺落下」
「あ」
まるでティアマトーに言われて初めて気づいたかのように、ヴィルヘルミナは麺を手でつまんで口の中に放り込んだ。
一連の動作は、まるでゲームセンターのUFOキャッチャーのようであった。
「無作法」
「もぐ・・・んうるさいで、もぐ・・・んあります」
相棒の戒めも、まるで耳に入っていないかのように、ヴィルヘルミナは麺を咀嚼する。
「んぐ・・・っ」
ゴクリ、と一のみした後、今度はレンゲでスープをすくおうとする。
「要集中」
「分かって、いるで、あります」
しかし、
「あ」
相棒の忠告も空しく、力なく握られたレンゲから薄茶色の液体がビチャビチャと垂れ、エプロンをさらに汚した。もはや幼児用の前掛け同然である。
「自業自得」
「う、うるさいで、あります」
ヴィルヘルミナは(かなり理不尽に)ヘッドドレスにガン!と拳を一発。
そして、自身がこぼしたスープのシミをじっと見つめ始めた。
「・・・ふむ・・・勿体無いで、ありますな」
と、
「・・・姫?」
次の瞬間、フレイムヘイズ「万条の仕手」ヴィルヘルミナ・カルメルは、突如奇っ怪な行動を起こした。


「はむ・・・んちゅ、ちゅぅぅ・・・」
突如頭を下げたかと思うと、いきなりエプロンを口でくわえ、シミを吸い始めたのだ。
「!?即刻中止!姫!」
さすがのティアマトーが、まくし立ててこの行動を止めようとした。
しかし、
「んふっ、ちゅちゅっ・・・ちゅうぅぅ・・・」
聞く人が聞いたら大いに誤解を招きそうな音を盛大に奏でて、ヴィルヘルミナはエプロンを吸い続ける。
昨日起こったことによるストレスは時間を追うごとに彼女を追い詰めていった。
そしてここに来て、ついに理性のタガが外れてしまったのだ。
それにしても、歴戦の勇者「万条の仕手」の振る舞いとしてはあまりに情けない一連の行動。
周りに誰もいないとはいえ、これは酷すぎた。
と、そこへ一条のリボンが現れたかと思うと、


パシッ!
「っ!?」

ヴィルヘルミナの右頬をはたいた。



「ティア・・・マトー?」
突如起こったことにしばし呆然とするヴィルヘルミナ。
「正気覚醒」
ティアマトーは普段と変わらず、端的に述べた。
しかしその短い言葉には、改めて相棒を心から思い、戒める意味がこめられていた。


「私としたことが・・・面目、なかったであります」
ヴィルヘルミナは相棒に対して、心から反省した。
「以後厳禁」
「も、もちろんであります」
「請願了承」
ヴィルヘルミナの言葉に、ティアマトーはあっさり彼女を許した。
元来“夢幻の冠帯”ティアマトーという人物(?)は冷静沈着、かつさっぱりとした人物である。一度怒ったあと、さっさと相手を許してしまうのであった。


「・・・さて、そろそろ食料を調達に行くのであります」
ヴィルヘルミナは、仕切り直しとばかりにそう言うと、リボンでメイド服を新たに編みなおして着替え、寝室においてあったザックを背負うと、一旦平井家を後にした。

295螺旋の風琴:2006/07/18(火) 00:55:41
初めまして

名前の通りシャナで一番好きなキャラは
螺旋の風琴です。

楽しく読ませて貰ってます
続き早く読みたいです

何か思いついたら書かせて頂きます。

ではでは

今日見つけて1日がかりで全部呼んだバカょり

296螺旋の風琴:2006/07/18(火) 01:08:50
初めまして
シャナで一番好きなキャラは名前の通り螺旋の風琴です

楽しく読ませて貰ってます

思いついたら書かせて頂きます

そん時は宜しく

297螺旋の風琴:2006/07/18(火) 01:36:12
初めまして
楽しく読ませて貰ってます
どもども
思いついたら書かせて頂きますので
そん時は宜しくお願いします。

298螺旋の風琴:2006/07/18(火) 10:55:48
テスト
あた



シャナ

299螺旋の風琴:2006/07/18(火) 16:14:12
すいません

間違えて書きすぎました

300名無しさん:2006/07/31(月) 22:05:47


301名無しさん:2006/07/31(月) 22:57:33


302名無しさん:2006/08/01(火) 21:07:12
ほしゅ

303名無しさん:2006/08/10(木) 15:46:33
hosyu

304名無しさん:2006/08/13(日) 00:09:24
続きマダー?

305名無しさん:2006/08/13(日) 03:10:47
悶々悶々と毎日待ってます

306名無しさん:2006/08/13(日) 19:17:54
気長に待とう

307名無しさん:2006/08/21(月) 18:01:04
保守

308名無しさん:2006/08/26(土) 21:30:06
むー

309名無しさん:2006/08/27(日) 17:45:09
ほす

310名無しさん:2006/08/27(日) 18:06:31
むむむむむむ

311名無しさん:2006/08/27(日) 21:45:46
楽しみです

312名無しさん:2006/08/28(月) 15:20:05
続きみたいよー

313名無しさん:2006/08/30(水) 00:51:39
1ヶ月ごとだからそろそろきてもいいはずだ!

314名無しさん:2006/09/09(土) 19:53:34
むむむむむむ

315Back to the other world:2006/09/11(月) 17:33:45
〜38〜
「結構遠くまで来たわねえ」
 「まぁ、僕が思いついたのは、ここぐらいしかなかったから・・・」

『人目につきにくい、静かな場所にある公衆電話で、悠二の母・千草と話がしたい』というマティルダの要望を受け、悠二が選んだ場所。

そこは、御崎神社であった。

悠二は以前ここに、シャナや吉田、佐藤たちと、期末テスト終わった打ち上げと称して遊び来たことがあった。
そしてその時、休憩所から少し離れたクスノキの下にひっそりとたたずむ、古びた公衆電話を発見していたのだ。
「あぁ、あれな。本当は殿舎を解体する時に取っ払っちまう予定だったらしいんだけど、近所の爺さん婆さんたちに反対されて、仕方なく残したんだって。『ワシらが使っとる物を勝手に取り壊すな!』とか何とか言われてさ」
とは、その時の佐藤の弁である。

御崎山の中腹にあるこの神社は、初詣の時などを除いて特に参拝に訪れる人もほとんどいない。
それでも悠二は念のため、休憩所をのぞいてみたが、誰もいなかった。
「ちょっと汚いけど、ここなら多分大丈夫だと思う」
「なるほど・・・なかなかいい場所ね。じゃ、さっそく行きましょ」
かくして、二人は電話ボックスへと向かった。


同じ頃。
“弔詞の読み手”マージョリー・ドーは、ジリジリと焼け付くようなアスファルトの上をグッタリとしながら歩いていた。
普段から不機嫌そうなその表情は、さらにその度合いを増している。
「しっかし暑いわねぇ、日本の夏ってのは。イライラしてくるわ」
「ヒヒッ、まあおめえは普段からイライラしてっけどなぁ、我が厄介なる癇癪持ち、マージョリー・ドブッ!?」
「・・・お黙り、余計に暑くなるでしょうが。あーもう、あちぃあちぃ・・・」
言うと、マージョリーは『グリモア』から栞を一枚抜き取り、それをウチワ代わりにしてあおぎ始めた。

そんな様子を見て、マルコシアスが尋ねた。
「しっかしよぉ、そんなに暑ッ苦しいのが嫌なら、あのまま家にいりゃ良かったじゃねえか?」
言われ、マージョリーは少し間を置いて答えた。
「・・・そうねぇ。そうしたいのは山々なんだけど」
と、マージョリーは立ち止まって、少し遠くに見える山に視線を送る。
「で、あそこに、おめえの言う『違和感』の正体があるってぇのか?」
マルコシアスがまた尋ねる。
「そうね。朝に感じたのと全く同じ。あそこに近づくにつれて強まってるわ」
「ヒヒッ、二日酔いのせいで感覚もイカレてたんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り。酔ってたって“徒”の気配ぐらい察知できるわよ」
「そうは言ってもなぁ。さっき『玻璃壇』も見てきたじゃねえか。あれにゃなーんも映っちゃなかったぜ。ま、また新手のフレイムヘイズが来やがった、ってんなら話は別だがよ」
マルコシアスがそういうのは、宝具『玻璃壇』は、“徒”やトーチなどの居場所を突き止めることのできるものであるが、なぜかフレイムヘイズの居場所だけは察知することができないからだった。

「いや、違う・・・なんか違うのよ」
「一体何が違うってぇんだよ、我が迷える哲学者、マージョリー・ドー?」
「・・・ハッキリとしたことは言えないけど、何だか気持ち悪い感覚なのよ」
「ほーれみろ、やっぱり酔いがさめてねえだけじゃねえか」
「そうじゃない。なんか、この世にも“紅世”にも存在しない『何か』が、存在してるっていうか・・・」
「・・・はぁ?」
普段あまりお目にかかることのない、相棒の妙な様子に、マルコシアスは困惑した。
「それだけじゃない。私、この『何か』を知っている気がするのよね。ずいぶん前に消え失せた『何か』を」
「おいおい、トンチキなことを言うなよ、おめえらしくもねえ。じゃあ何か?『ユーレイ』でも出てきた、ってのかよ?」
「今は何とも言いようがないわねぇ。とりあえず行ってみるしかないわ、あそこまで」
「全く、とうとうアルコールで思考回路がやられちまったんじゃねえのかブッ!?」
「お黙り、とにかく行くわよっ!」
『グリモア』に膝蹴りをかまし、マージョリーは再び歩を進める。
少し遠くに見える山―――御崎山へと。

316234:2006/09/11(月) 17:38:07
すいません。前回から一ヶ月以上間が空いてしまいました。
これからまたぼちぼちと続けていきたいと思います。
そこで、少しご了承いただきたいことがあります。

できれば13巻発売までに終わらせたかったのですが、ご覧の通りの超絶遅筆のため、それができませんでした。
したがって、今後の内容は13巻の内容と食い違ってくる、あるいはありえないことが起こっている可能性があります。
これだけ遅らせておいてなんですが、そこはどうかご容赦を。

317名無しさん:2006/09/11(月) 22:36:31
全然おk。
wktkしながら待ちますね

318Back to the other world:2006/09/13(水) 01:39:54
〜39〜

御崎神社に置かれていた公衆電話は、昔ながらの、液晶が付いていない緑色タイプであった。
取っ手や本体は所々塗装がハゲており、番号ボタンの数字も一部消えかかっていた。
近くに置いてあった電話帳もボロボロで、ボックスの壁には何やら怪しげな店の物らしき電話番号がシールで貼ってあったり、また卑猥な落書きもあっちこっちに彫ってあった。

「あらあら、『〇〇と×××したい』ですって?随分とストレートな愛情表現ですこと」
マティルダはボックスの中をのぞくなり、いきなり壁に彫ってあった落書きを音読した。
慌てて悠二が注意する。
「ま、マティルダさん!?何読んでるんですかっ!」
しかしマティルダは特に気にした様子もなく、
「あなたこそ何言ってるのよ悠二君。あなたくらいの年齢ならこれくらいのお話、お友達と普通にするでしょ?」
逆に悠二に対して切り返してきた。
「いっ、いくらなんでもそこまで直球な話はしませんよっ!」
「あらあら、『そこまで』ってことは、やっぱりそういう話はするんだ」

「・・・っ!?」
やぶ蛇だったのか、焦った悠二は意味もなく「そういう話」をしていたことをバラしてしまった。
「そ、そ、それは・・・」
自分の失策を悟った悠二は、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
そんな様子を見て、マティルダは呆れながら言う。
「あのねぇ・・・今さら何赤くなってるのよ。私は別に気になんかしてないわよ。そんなの、あなたくらいの年頃なら普通のことだもの」
「そ、そうは言っても・・・」
「女性に直接聞かれるのは恥ずかしい、ってこと?」
「・・・うん、まあ、そんな感じで・・・」
気まずそうな悠二の返事に、マティルダは少し間を空けて言う。
「・・・まあ、確かに今の話を、例えばシャナやヨシダさんにしたとしたら、それなりにヤバかったかもね」
「っ!?へ、変なこと言わないでくださいよ」
唐突に二人の名前が出てきたので、悠二はまた動揺した。
「例えばの話よ。でもね、私は一応、大人の女性よ。それなりに酸いも甘いも噛み分けてるの。身も心もピュアなあの子達とは違うわよ」
「そ、そうか・・・」
「さ、そんな話はいいから、早く電話をかけてちょうだい。向こうが出る前に私に受話器を渡して」
「はいはい、了解です」
せかすマティルダに追いやられるように、悠二はボックスの扉を開けた。


同じ頃。

“万丈の四手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、買い物を終え、帰宅しようとしていたところであった。
「ふむ。こんなものでありましょう」
その背中のザックには大量の荷物を積め、またその両手にも一杯のビニル袋が下がっている。
定例の買出しの時と比べ、明らかに量が多すぎであった。
ティアマトーがたしなめる。
「過積載」
「問題ないのであります」
「衝動購入」
「うるさいであります」
ヘッドドレスを殴りつけようにも両手がふさがっているので、仕方なくあきらめる。

「これで、少しは気晴らしに、なったのであります・・・さて」
と、スーパーを出たヴィルヘルミナは、どういうわけかいつもとは違う方角に歩を進めた。
「?逆方向」
ティアマトーは当然のように尋ねた。
しかしヴィルヘルミナは、
「今回はこちらでよいのであります」
と、少し遠くに見える山を見ながら言った。

「あそこに行けば、私の疲れも悩みも、いま少し、解けることでありましょう」
しかし、ティアマトーには、相棒がいったいどこのこと指して言っているのか、分からなかった。
「・・・行先確認」
ヴィルヘルミナは、答えた。

「・・・この国の人々が、何かに思い悩んだ時、訪ねる場所であります」


かくして、運命の時は、近づく。

319名無しさん:2006/09/14(木) 00:20:10
激しくGJだ!

320名無しさん:2006/09/15(金) 21:12:24
北アあああああああああああああああああ!!!

321名前がな(略:2006/09/24(日) 15:27:25
 午前零時。
 何時もの夜の鍛錬を零時迷子による存在の力の回復に合わせて終了しようとした時、
そういえば、と悠二が口を開いた。
「昼休みに聞いた話、覚えてる?」
「なにを?」
「駅を二つ三つ越えた辺りで吸血鬼が出た、とか言う噂。」
 言われてクラスメート達から耳にした、
『貧血で倒れたり休む人が増えていて、そのほとんどに血を吸われたような痕があった』
『記憶が曖昧になったりする者もいるが、死者はいないらしい』
『デフォルメされたねこっぽい変なナマモノが夜の街を徘徊している』
などと言う他愛も無い噂話を思い出す。
「それが?」
「ああいう吸血鬼とか悪魔とかみたいな、所謂化け物の伝承や迷信の中にはさ、
"徒"やフレイムへイズを元にした物もあるのかな?」
「結構あるんじゃないかしら。封絶が広まったのは割りと最近だし。」
 その返答に、悠二は微妙な顔をする。
「噂の吸血鬼が実は"徒"、なんて事はないよね?」
「馬鹿。そんな訳ないから情けない顔するんじゃないわよ。」
「うむ。たとえ本物であったとしても、噂が広まっている以上直ぐに始末されるであろう。」
「そっか。・・・ってちょっと待って。なんか『吸血鬼は実在する』、って意味に聞こえたんだけど。」
「そうだ。シャナも下界宿で聞いた事を覚えているか?」
「確か"変異種"、だっけ?大した事はない連中って事くらいしか覚えてないわ。」
「まぁ"徒"と比べれば無害に等しい故に興味を向ける者も少ないからな。」
「無害って・・・、普通の人間はともかく、
フレイムへイズから見れば存在の力を奪って世界に歪みを作ったりするわけでもないから放置されてるって事?」
「その通りだ。人の文明が今のように発達する以前には、
街一つの住民全てが血を吸われ滅ぼされた事もあったようだが、
そこには世界の歪みは無いに等しかったと云う。」
 なんでもないことのように言われ、悠二は絶句する。
"徒"以外にもそんなとんでもない連中がいるのか、と。
「なに、気にする必要はない。彼等も無法を働く同胞は彼等自身が裁く。噂もすぐに終息するであろう。」
アラストールにしては珍しい、気遣いとも取れる言葉で、その日の鍛錬はお開きとなった。

322名前がな(略:2006/09/24(日) 15:28:12
こういう独自設定な与太話ってありでしょうか?

323名無しさん:2006/09/24(日) 18:27:07
いいんじゃない?

324234:2006/09/25(月) 01:15:49
僕もアリだと思いますよ。
独自設定を考えるのが大変ですけど(^^;)

ところで、割り込みになってしまいますが続きを投下します。
長くて、しかも話の進行遅くてスイマセン。

325234:2006/09/25(月) 01:17:23
〜40〜

公衆電話の受話器を取り上げると、悠二は財布の中からテレホンカードを出し、投入口に差し込んだ。
スルスルとカードが飲み込まれていき、電話機前面のカウンターに、赤いデジタル文字「10」が点灯した。

「これで、あとは番号を押すだけね」
「・・・うん」

しかし、番号ボタンを押そうとして突然、悠二は指を止めた。

「・・・?ちょっと、どうしたのよ」
その行動に、マティルダはいぶかって尋ねる。
すると、悠二はマティルダのほうに向き直って、言った。

「・・・本当に、大丈夫なのかな?」
「何が?」
「だって、母さんと話すんでしょ?母さんはシャナやアラストール、カルメルさんとも親しくしてるし・・・もし今日マティルダさんが母さんと話して、そのことがバレたりしたら・・・」
「大丈夫よ。いままで『あの世』から見てきた限り、あなたのお母さんは相当信頼の置ける人物よ」
「そ、そうかな・・・?」
「あのアラストールやヴィルヘルミナに一目置かせてるんだもの。たいした人だと思うわ」
「た、確かに」
「さ、分かったなら早くダイヤルして」
「は〜い・・・」
マティルダの気迫に押されるように、悠二は自分のうちの電話番号をダイヤルした。

そして、ルルルルル・・・・と電子音が流れるのを確認して、
「はい、どうぞ。繋がりました」
背後のマティルダに受話器を渡した。
「ご苦労様。じゃ、ちょっと場所を替わってもらえるかしら」
「じゃ、僕は外に出てますよ」
ということで、二人は立ち位置を変更した。
「ふぅ・・・やれやれ、ホント、一苦労だったなぁ」
そしてそのまま、自販機のジュースでも買って休もうかと休憩所へ向かおうとした悠二だったが、

「あっ、ちょっと待って悠二君。あなたが私に触れていないと、受話器が持てないのよ」
「あっ・・・」
重大なことを思い出させられ、いそいそと公衆電話に戻った。


同時刻。
ピロリロリロリロ・・・・という甲高い電子音が、坂井家のリビングに鳴り響いた。

「ハーイ、今出ますからね」
おっとりした口調でつぶやくと、一人のエプロン姿の女性が、見ていたテレビのボリュームを下げ、電話機の方に向かった。

326Back to the other world:2006/09/25(月) 03:06:16
〜41〜

「はい、坂井です」
エプロン姿の女性―――坂井千草は、受話器に両手を添えながら優しく言った。

その一言はなんでもない、ただのあいさつに過ぎないものではある。
しかし、その口調は極めて穏やかで、かつお世辞めいた嫌らしさは微塵も感じられない。
どこか、内に秘めたる強さすら感じさせるものがある。

(なるほどね・・・こりゃあの二人が、初っ端から気圧されるわけだ)
もう一つの受話器にいる女性―――マティルダ・サントメールは、その、十文字にも満たないわずかな言葉から、受話器の向こう側の人物の器を推し量っていた。

「・・・?もしもし?」
返事がないことを不思議に思った千草は、もう一度呼びかけた。
「あ、これは失礼。こんにちは、初めまして。私は、お宅でお世話になっている、平井ゆかりの親戚の者よ」
「・・・まぁ!?」
電話の相手が、あまりに意外で、かつ唐突な登場だったため、さすがの千草も思わず口元に手を当てて驚いた。

「こちらこそ初めまして。坂井千草と申します。お世話といっても、大したことは出来てませんけど・・・私こそ、出すぎた真似をしているようで」
しかし、冷静さは失っていない。すぐに相変わらずの落ち着いた口調で話し始めた。
「全然。むしろ私も、シャナに・・・ああ、言い忘れてたけど、私もあの子のこと『シャナ』って呼んでるし、あなたも普段そう呼んでるみたいだから、それでかまわないわよ」
「あら、そうですか。承知しました。シャナちゃんって本当に、皆さんに愛されてるんですね」
「ありがとう」
千草の言葉に、マティルダも素直に礼を言った。

もとより反感を抱いているわけではないので当然だが、アラストールやヴィルヘルミナの場合と違って、マティルダは千草の言葉にいちいち焦ったり、調子を狂わされたりはしなかった。
千草の謙遜や誉め言葉も、すべて理解した上で冷静に受け止めている。
千草の方も、突然の電話に驚いたものの、この今までとは少々勝手が違う相手に対して、悪い印象は持たなかった。
どころか、シャナの親戚と直接話ができてうれしい、と、素直にこの会話を喜んでいた。

327名無しさん:2006/09/25(月) 16:44:26
きたああああああああああああああ
GJJJJJJJJ!!!

328名前がな(略:2006/09/25(月) 23:34:42
>234さん
むしろこっちが割り込んでるような気がして恐縮です。

とりあえず問題なさそうなので321の続き投下ー



 坂井家にて吸血鬼の話題が出る数時間前、"弔詞の詠み手"の居座る佐藤家でも同じ話題が上っていた。
「吸血鬼ぃ?」
「そりゃまたタイムリーな噂だなぁ、オイ。」
 マルコシアスの言葉に訝しげな顔をする子分達だが、尊敬する親分に促され話を進める。
「俺らもただの噂だ、とは思うんですけど。」
「"紅世の徒"なんて連中がいるんだから吸血鬼くらい居てもおかしくはないかな、と思って。」
 そんな子分達に多少呆れながら、マージョリーは過去に遭遇した吸血鬼の事を思い浮かべ―――、
ドッと脱力して投げやりに言う。
「あんた達がどんな吸血鬼像を考えてるかは知らないけどね、連中はわざわざ気にかける程の存在じゃないわよ。」
「そーそー、ぶっ殺す気にもならねーよーな雑魚ばっかだ。」
 あっさりと、吸血鬼が実在する事を知らされ、驚愕する二人。
「そうなんですか?」
「連中、フレイムへイズの間じゃ"変異種"なんて呼ばれてるけどね、
"徒"どもと違って気配も存在も人間と大差ないから接触例も少なくて情報も噂程度しか流れないのよ。」
「んーっでその噂じゃ極一部の古参は"王"に匹敵するってー話だから期待してたんだがよぉ、
実物はただ長生きしてるってだけのボケたお嬢ちゃんだったってオチだ。」
 こうして少年達は、また一つ知らなくてもいい真実を知り、
ありがちな幻想を砕かれ、少しだけ大人になったという。

329Back to the other world:2006/09/27(水) 02:45:28
〜42〜

そんな調子で、会話はさらに進んでいく。
「それで・・・話の続きだけど、私は、今後シャナにはあなたのような教育者は、絶対必要だと思っていたところだったのよ」
「そんな、教育だなんて・・・滅相もないですわ。シャナちゃんには、今までにも素晴らしい方々が保護者になってくださっていますし」
「それって、アラストールやヴィルヘルミナ・カルメルのことよね?」
「あら、やっぱりお知り合いだったんですね」
「ええ・・・ずっと昔からの、ね」
久しぶりに口にした旧友の名前に、マティルダは少し感慨深げになった。
彼女の言う「ずっと昔」とは、向こう五百年近く昔のことである。
しかも自身はとっくに死んでいるという、おまけつきで。
しかし、もちろん千草はそんなことは知らない。
言葉通り、古くからの知り合いなのだと思うだけである。
「皆さん大切に、大切に、シャナちゃんを育ててこられたんですね。シャナちゃんが皆さんに向ける表情を見れば分かります」
「ええ・・・全く、彼らには随分苦労をかけたわ。本来は私がやるべきことを、全部やらせちゃったからね。本当に感謝してるわ」
「皆さんのこれまで費やしてきた時間や労力に比べれば、私のしたことなど、及びもつきませんわ」
つとめて謙遜する千草。

しかし、ここでマティルダは、
「・・・いいえ、そんなことはないわ」
と、少々真剣さを増した口調で言った。
「・・・」
相手の口調の変化に気づき、千草も真剣な面持ちになる。

330Back to the other world:2006/09/27(水) 02:46:28
〜43〜

「千草さん」
「・・・はい」
「確かに、アラストール達の教育は、あの子が今後人生を歩んでく上で必要なものだったわ。それは間違いないし、私が文句をつける筋合いも資格もない」
筋合い等以前に、そもそも文句をつけること自体が不可能である、というのが実際のところだが、そんな事はこのやり取りではどうでもよかった。
「でもね・・・彼らは、自分たちにとってはちょいと厄介で、彼女に教えなかったことが、いくつかあったのよね」
「・・・」
千草は黙って聞いている。
自分がこの時点で発言することが、アラストール達のしてきたことを、ややもすると否定することになりかねない、という彼女なりの配慮である。
「そして教えないまま時間は過ぎて・・・ある日突然、急に必要になったのよ」
言って、マティルダは隣の少年に目線を送った。

「・・・?」
しかし、朴念仁は、すぐにはその理由に気づかない。ぽかんとした表情のままであった。
いい加減に呆れたマティルダは、
(すぐに察しなさいよ・・・っ!)
受話器を持っていないほうの手に、ぐっ、と力をこめた。
(っイテテ!?)
左手にかけられる強い握力に、思わず悠二は飛び跳ねた。
ちなみに、マティルダはあいている方の手を悠二とつないでいる。もちろん、『変質した存在の力』を悠二から受け取り、顕現を保つためである。
(声出したらぶっ飛ばすわよ)
(わ、かった、から、やめてギャァッ!?)
悶絶する悠二を尻目に、マティルダはゴリゴリと右手をこねくり回しながら、何食わぬ顔で話を続ける。

「相当戸惑ったでしょうね。何てったって今まで生きてきて、初めての経験だったわけだから」
「・・・やはり、そうでしたか」
初めて自分に相談を持ちかけてきたときの、純朴な彼女の顔を思い出し、千草は微笑む。
「でも、彼女は幸運だった。的確なアドバイスを与えられる人間がそばにいてくれた。それが千草さん、あなたよ」
「そんなことをおっしゃられては恐縮です」
「お世辞じゃないわ。本当に、あなたには感謝してる。ありがとう。心からお礼を言うわ」
言って、マティルダは小さく頭を下げた。
「・・・はい。そのお気持ち、しっかりと受け止めさせていただきましたわ」
千草もまた、小さくうなずきながら応えた。

と、千草はそこでふと何かを思いついたらしく、こう切り出した。
「あっ、そういえば、私の方からも、あなたにお礼をさせていただきますね」
「・・・?」
「正確には、あなた方―――シャナちゃんやアラストオルさん、カルメルさんにも、です」
「いったい何を・・・」
千草の意図が読めず、マティルダは一瞬戸惑った、が、
「・・・ああ」
その鋭敏な洞察力で、まもなく理解する。
「あら、分かっちゃいました?」
ちょっと笑いながら、千草が尋ねる。
「もちろんよ」
余裕たっぷりにそう言うと、再び視線を隣の少年に送る。
「・・・?」
しかしこの愚かなる少年は、またもや気づかない。
今度は言葉もなく、
(んぎゃっ!?)
一気に握り上げた。


同じ頃。
「・・・少々、遠かったであります」
「時間浪費」
「うるさいであります」
ヴィルヘルミナ・カルメルは、御崎山のふもと、石段の最下層にたどり着いていた。
この上に、待ち受けている者など、知る由もなく。

331名無しさん:2006/09/27(水) 22:45:44
wktk

332Back to the other world:2006/09/28(木) 02:13:41
〜44〜

方や、中世最強といわれたフレイムヘイズ『炎発灼眼の討ち手』こと、マティルダ・サントメール。
方や、『零時迷子』の“ミステス”坂井悠二の母こと、坂井千草。
すっかり意気投合した二人の女性の会話は、さらに弾んでいた。

マティルダが新たに話を切り出す。
「そういえば、アラストールやヴィルヘルミナの様子はどうなのかしら?元気にしてる?」
実際には、彼らには見えないところから様子を見ているので分かっているのだが、何となく聞いてみた。
「ええ。アラストオルさんとは直接お会いしたことはありませんけど、お二人ともお元気にしてられますよ」
「そう、よかったよかった」
言いながら、マティルダはうんうんと2回、うなずいた。
「お二人ともご友人で?」
「ええ、ヴィルヘルミナとは長いこと一緒に暮らしたわ・・・まあ『戦友』ってとこかしら」
「そうですか。私も何度かお話させていただきました。厳しさと力強さを持った方ですね。シャナちゃんにもすごく慕われてますよ」
という、千草の人物評に、マティルダは、
「そうね」
と、一言肯定するが、
「ただちょっと堅すぎるっていうか・・・一途さが災いしちゃうところもあるけどね」
長年の付き合い故に口にすることが出来る欠点を言った。

しかし千草は、
「いえいえ、それがカルメルさんの魅力ですよ」
と、さらりと言ってのけたので、マティルダも、
「あら、うまいこと言うわね」
からかうように返した。
「フフッ、怒られちゃいますね」
「全然OK。フフフッ」
その、少し意地悪な笑い声に、
(カ、カルメルさんをこれだけ笑いのネタにできるなんて・・・)
悠二は改めて、目の前の女性の恐ろしさを知った。


「・・・」
編み上げの長靴が、コツ、コツと乾いた音を鳴らす。
ヴィルヘルミナは、既に石段を半分近く、登っていた。

333名無しさん:2006/09/28(木) 02:32:14
すばらしい!

334Back to the other world:2006/09/28(木) 03:30:46
〜45〜

デジタルカウンターは、度数「5」を示していた。
「じゃ、アラストオルさんとも同じ頃お知り合いに?」
「ううん、彼とは、もっとずっと前に」
「そうなんですか。あの方はちょっと古風で厳格な感じですけど、本当にシャナちゃんをかわいがってらっしゃって、優しい人ですわ」
「全く・・・優しすぎて、時折日和見なとこがあるから困るのよね」
「男性は、少なからずそういうところがあるのは仕方がありませんわ」
「まあね。ただ、ここ最近はちょいとばかり、間が抜けてる気がするのよねぇ」
「そんなことはないですよ」
「いやいや。あなたも何度か話したから分かると思うわ。そういう時は、遠慮なく釘を刺しておいて」
「そういったことは・・・私より、あなたがなさった方がよろしいのでは?」
「ん・・・」

そこでマティルダは少し黙った。
千草の指摘は正しかった。
あの堅物魔神には、誰のものより自分の言葉が効く。
そして、
(全く、大した人だわ)
と、心の中でつぶやいた。

坂井千草は、気づいていた。
いつも携帯電話で話していた男が、今日の電話相手と、いったいどういう関係にあるのかを。
気づいていて、あえて口には出さなかった。
そのおっとりした声から想像もつかない鋭さに感心しつつ、マティルダは再び話を始める。
「う〜ん、まあ、本当はそうしたいところなんだけど・・・ちょっと事情があってね。もう長いこと、みんなと顔を合わせてないし」
「そうですか・・・もしよろしければ、一度うちにいらしてください。きっと皆さん、歓迎してくれますよ」
屈託なく、千草は言った。

「・・・そうね。機会があれば」
マティルダは短くそう返事をした。
機会など、ない。
分かっていて、あえて答えた。
「ええ、ぜひ」
うれしそうに、千草は言った。
「・・・じゃ、そろそろ失礼するわ。ちょっとしゃべり疲れちゃったし」
「楽しいお話、ありがとうございました」
「あ、最後に一言、あなたに送るわ」
「まぁ、何でしょう」
「坂井千草さん・・・あなたに、天下無敵の幸運を」
「これはこれは・・・あなたにも、どうぞ幸あらんことを」
「あら、格好いいお返事ね」
「フフッ、恥ずかしいですわ。あっ、そういえばまだお名前を」
「名乗るほどの者じゃないわ。それじゃ」
半ば強引に、マティルダは受話器を置いた。
ピピー、という電子音と共に、残り度数「1」のテレホンカードが引き出された。

335名無しさん:2006/09/29(金) 00:27:57
いつも乙
超GJ!!
千草ママンもマティルダもすごいですねwww

ちなみに「うるさいであります」喋るヴィルヘルミナ萌えw

336名無しさん:2006/10/21(土) 20:59:18
携帯で投下できないのか?

337名無しさん:2006/11/04(土) 14:49:23
保守

338名無しさん:2006/11/20(月) 23:22:33
hoshu

339名無しさん:2007/01/04(木) 14:06:15
もう二ヶ月近く誰もきてないみたいだな
続きが読みたいものであるなあ

340名無しさん:2007/01/14(日) 19:35:27
保守

341名無しさん:2007/02/04(日) 22:19:30
小説もそろそろだし
続き読みたいです

342234:2007/02/14(水) 09:24:52
お待たせしました(待たせすぎ)続きを投下します。
期待してくださった方々、すいませんでしたorz
さらに続きの巻が出てしまい、矛盾が大きくなってしまったかもしれません。
が、とりあえずどうぞ。

343Back to the other world:2007/02/14(水) 09:27:52
〜46〜

「ふう・・・・」
マティルダは、大きく息を吐いた。
(マティルダさん・・・)
悠二には、その背中が心なしか、寂しげに見えた。
(もしかして、昨日の夜はあんな事言ってたけど・・・)
そして、思った。
(本当は・・・)

自分の予想を確かめるために、悠二はマティルダに尋ねた。
「あの・・・マティルダさん」
すると、マティルダは悠二の方を振り向いて、
「さてと、用事も済ませたことだし」
悠二の言葉を無視して言った。
「ねぇ悠二君、どっかに遊びに行かない?」
「え・・・えっ!?」
「まだあなたの変質した存在の力は充分残ってるみたいだし」
「・・・」
「そりゃ〜一応この世に悔いは残さなかったつもりだけど、せっかくのこの偶然を生かさなきゃもったい無いしね。さっ、行こっか」
言って、マティルダは悠二の手を引っ張った。
「さ〜て、久しぶりに美味しいワインでも飲もうかしら。あっ、日本だからライスワインでもいいわね。日本酒ってやつ」
明るく軽い調子で、マティルダは言った。

344Back to the other world:2007/02/14(水) 09:30:44
〜47〜

しかし、悠二は納得しなかった。
「マティルダさん」
「ん〜、なあに?」
「その・・・無理、してません?」
「え?何を言ってるのかよく分からないけど」
笑顔のままでマティルダは言った。
悠二はマティルダの軽薄な態度に、
「とぼけないでくださいよ」
と、少し語気を荒げて言った。
「ちょっと、どうしたのよ、怖い顔して」
マティルダは、少年の今までの温和な態度からの変化に少し驚いたが、なお表情からは冗談っぽさを抜かずに言った。
「マティルダさん、ごまかさないでくださいよ」
「え?」
「本当は・・・会いたいんでしょ?アラストールたちに」

神社のクスノキが、風に揺れてサワサワとそよいだ。
マティルダは一瞬表情をこわばらせたが、
「あのね・・・それに関しては、昨日も言った通りよ。何度も言わせないで」
すぐにまた笑顔に戻って言った。
「・・・」
悠二は黙っている。
「さっ、これで納得したわね。じゃ、町にでましょ」
と、マティルダは再び悠二の手を引いて神社を後にしようとした。
そのとき、悠二が口を開いた。

「本当に、そんなに問題なのかな」
「えっ?」
マティルダが振り向いて言った。
「その・・・ただ昔の友達と再会するだけのことなんだし、そんなに大した問題じゃないと思うんだけど」
「・・・何ですって」
「きっとアラストールやカルメルさんは喜ぶはずだし、シャナだって、悪い顔は絶対しないと思う」
悠二の突然の提案に、マティルダは呆れて、
「・・・悠二君、本気で言ってるの?」
苦笑交じりに尋ねた。
悠二は、コクリ、とうなずき、
「だから、会いに・・・行きましょう」
と、真剣な面持ちで言った。

(ふぅ・・・全く、困った子ね)
少年の無知な言動に、マティルダは心の中でため息をついた。
(でも・・・)
マティルダは悠二の表情を見た。
自分に意見したことに対して、少し焦ったような様子ではある。
しかしその目線は、自分をしっかりと見据えている。
灼眼のような強い輝きはないかもしれないが、しかし澄んだ、純朴な瞳をしている。
(まぁ・・・悪い奴じゃないことは、確かみたいね)
マティルダは、この鈍感だが真面目で純粋な少年の頼みを、聞いてもいいかな、と思った。


と、その時。
「・・・!?」
マティルダは、前の方から、何かが迫ってきているのを見た。
そして、瞬時にそれの正体に気づき、
「危ないっ!」
「うわっ!?」
とっさに、悠二を突き飛ばした。
悠二がしりもちをつくのと同時に、悠二とマティルダの間を物凄い勢いで流れていくものがあった。

それは、一条の真っ白な、リボン。

345Back to the other world:2007/02/14(水) 09:32:02
〜48〜

「わっ!?ってこれは・・・!」
目の前を流れていく白い一筋に、悠二はすぐ、誰が現れたのかを悟った。
「あらら、向こうの方から来てくれたみたいね」
生前、毎日のように見てきたその一筋を眺めつつ、マティルダは苦笑した。
「そうみたい、ですね・・・」
悠二はおそるおそる、その白線が流れてきた方向を見た。

メイド服を着た女性が、鳥居の下に立っている。
たった今、石段を登り終えたようだった。
「カ、カルメルさん」
悠二は女性に声をかける。
「・・・・・・」
しかし返事は無く、彼女は悠二たちのいる方向に向かってきた。

「・・・?カルメルさん、カルメルさん?」
悠二は何度も彼女の名前を呼んだ。
「・・・・・・」
しかし、彼女は全く反応しない。
ただ、うつむいたまま、ゆっくりとにじり寄ってくるだけである。

346Back to the other world:2007/02/14(水) 09:33:58
〜49〜

コツ、コツ、コツ、コツ。
乾いた靴の音だけが、ただただ響き渡る。
徐々に近づいてくるその音に、悠二は不気味さを覚えた。
(な、なんか・・・いやな予感)
コツ、コツ、コツ。
女性は、悠二のいる手前3メートルくらいのところで、止まった。
「・・・・・・・」
未だにうつむいたまま、一言も話そうとはしない。
(と、とりあえず、この状況を説明しないと)
このままでは埒が明かないと思ったのか、悠二は彼女の方にそっと近づこうとした。
「カ、カルメルさん、とりあえず落ち着いて話を」

ヒュン!!
白帯が、悠二の左半身をはたいた。
「ガッ!?」
左からの激しい衝撃に、悠二はもんどりうって倒れた。
突然のことに、悠二は脇腹を押さえながら抗議した。
「な、何するんですか・・・・っ!?」
ふと見上げた先に、これまでうつむいていて見る事が出来なかた、女性の顔があった。
それは、悠二が今まで目にしてきた彼女の顔の中で、最も無表情で最も冷たく、そして、最も恐ろしいものだった。
青ざめる少年を軽蔑するように見下ろしながら、フレイムヘイズ“万条の仕手”ヴィルヘルミナ・カルメルは、ゆっくりと口を開いた。

「・・・見たまま、でありますが?」

背筋も凍る、冷たい声だった。

347Back to the other world:2007/02/14(水) 09:36:08
〜50〜

ヴィルヘルミナは、怒りをあらわにしていた。
それも、今まで経験してきたものとは、訳が違う。
(こ、この目線は・・・)
明らかに「敵」に対する目線だった。
何となくだが、悠二にはそれが分かった。
(に、逃げなきゃ)
直感でそう悟ると、悠二は立ち上がろうとした、が、
「・・・逃がすとでも?」
「うわあっ!?」
ヘッドドレスからシュルリ、とリボンが数本現れた。
かと思うと、次の瞬間には悠二の両手両足に巻きつき、さらに、
「ぐうっ!?」
首元にも巻きついた。
『悠二君!?』
さすがのマティルダが、慌てて呼びかける。
『まずいわ・・・あの目、本気だわ』
マティルダはヴィルヘルミナの表情から、彼女が今何をしようとしているのか、理解した。
目の前の少年を、殺そうとしている、と。

348Back to the other world:2007/02/14(水) 09:37:14
〜51〜

「ま、マティルダさん、助けぐあぁっ!?」
ギリギリッ、とリボンの締め付けが強まった。
「不遜」
「・・・もう一度、その名を口にしたときには、即刻破壊するのであります」
冷たい声で、ヴィルヘルミナは忠告した。
「うぐあぁ・・・・っ!?」
もがき苦しむ悠二に、ヴィルヘルミナはさらに声をかける。
「苦しいのでありますか?この程度で」
「笑止」
「ぐがぁぁっ・・・」
「情けない・・・本当に情けないのであります」
「悔恨」
「あがぁぁっ・・・」
「このような奴を、一度でも信用した、私達が馬鹿だったのであります」
「同意」
「た、助け・・・」
「そう、このような」
ヴィルヘルミナは言葉を止めた。
そして、ぐっ、と奥歯をかみしめながら、
「私達のみならず、私達の誇り高き友人までをも愚弄するような奴に・・・っ!!」
身体の奥底から搾り出すように、吐き捨てた。

349Back to the other world:2007/02/14(水) 09:39:16
〜52〜

「か・・・はぁ・・・っ?」
悠二は締め付けられながらも、ヴィルヘルミナの異変に気がついた。
(な、泣いて・・・る?)
怒りに震える冷徹な表情には変わりないが、目元にうっすらと、光るものが見えた。
(そっか、カ・・・ルメル・・・さん、でも、泣くこと・・・くらい、ある、よな・・・・)
そして、だんだんと自分の意識が薄れていくのを感じた。
(あれ・・・まずい・・・)
徐々に、全身の力が抜けていく。
(ちょ、ちょっと、こんな所で、こんな形で、終わるのかよ・・・)
今度こそ、終わりか。
悠二が諦めかけた、その時。

シュパッ!
「!?」
何かが、ヴィルヘルミナと悠二の間に張り巡らされたリボンを、全て断ち切った。
「がはっ!」
ハラリ、とリボンが解け、悠二はあお向けに倒れこんだ。
「これは、一体・・・?」
「確認不可」
ヴィルヘルミナとティアマトーは何が起こったのかわからず、辺りをきょろきょろと見回した。


「こっちよ」
「!?」
「!?」
聞こえてきたその「声」に、ヴィルヘルミナは無意識に身体を向けた。
そして、その先には。

「なっ・・・?」
「・・・?」
ヴィルヘルミナは、一言つぶやくと、そのままの表情で固まった。
ティアマトーも、思考停止状態に陥った。

「お久しぶりね、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
そこには、はるか昔に別れたはずの友人が、あの日と変わらない姿で立っていた。
それは、今生の別れのだった、はずなのに。

350Back to the other world:2007/02/14(水) 09:43:16
〜53〜

「あ、あれ?」
悠二も、一瞬何が起きたのか分からなかった。
目の前に、自分に触れていない限り見ることが出来ないはずのマティルダが、堂々と立っていたのだから。
「ま、マティルダさん、何で?」
「これのおかげよ」
と、マティルダは、自分の右手に握っているものを見せた。
「これって・・・」
「ヴィルヘルミナのリボンよ。これを通して存在の力を流し込めることぐらい、あなた知ってるでしょ?」
「な、なるほど」
それを聞いて悠二は納得した。
ヴィルヘルミナとマティルダはこの性質を利用して、かの戦いでは敵の難攻不落の自在法を破ったこともあった。
「で、でも、あのリボンを断ち切ったのは?」
「あー、それはね。アレよ」
と、マティルダが指差した方向には、小さく赤い炎が上がっていた。
「あれは・・・?」
「悠二君、あなたってば本当に間抜けなのねぇ。あれが宝具だって事に気づかなかったなんて」
と、マティルダはため息混じりに言う。
「あれって?」
「さっきまで使ってたやつよ」
「えっ、まさか」
「その通り」
悠二は信じられなかった。
「あ、あのテレホンカードが、ほ、宝具!?」
「ええ、名前も製作者もわかんないけど、あれはれっきとした宝具よ。存在の力を込めて、相手に投げつけるタイプのね」
「ぜ、全然気づかなかった・・・」
「おそらく製作者が隠すためか、それとも単なる気まぐれか・・・分からないけど、ああやって日用品に見せかけた宝具はよくあるものよ」
「じゃ、さっき投げつけることができたのは・・・」
「あのカードが悠二君の手に触れたとき、ほんのちょっとだけ存在の力が入り込んだおかげね」
「そ、そっか」

351Back to the other world:2007/02/14(水) 09:44:48
〜54〜

悠二が納得したところで、
「と、いうわけで」
マティルダは未だに固まっている、もう一方の相手に向き直る。
「ちょーっとのっぴきならない事情があってね、こういう事になったわけだけど」
「・・・・・・・」
「とりあえず、どこかで落ち着いて話しましょうか」
「・・・・・・・」
「んー、そんな反応になっちゃうのはよく分かるんだけど、まぁおいおい話すということで、ね」
マティルダはヴィルヘルミナに手を差し出した。

と、
「!」
マティルダは飛び退いた。
白いリボンが、眼前を横切った。
「・・・なるほど、大した人形遣いでありますな、坂井悠二」
「名演上等」
ヴィルヘルミナは、目の前に相対している人物には目を合わせようとしなかった。
その視線は、あくまでその奥にへたり込んでいる悠二を捉えている。
「なっ、何言ってるんですか、カルメルさん」
「“狩人”でも『鬼功の繰り手』でも、ここまで上手に人形を扱うことは不可能でありましょう」
「だ、だから、その、ここにいる人は」
「しかし、茶番劇はそろそろ終わりであります」
「公演終了、千秋楽」
再びヘッドドレスからリボンが何本も舞い上がると、先端が一斉に悠二のほうへと向いた。
それはもはや単なる布ではなく、鋼鉄の槍衾だった。
「さらばであります、愚かなミステス」
「覚悟」
「うわぁぁっ!?」
白い凶器が、再び悠二に襲い掛かった。

352Back to the other world:2007/02/14(水) 09:46:37
〜55〜

しかし、それは悠二に突き刺さることは無かった。
紅蓮の盾が、攻撃をすべて受け止めていた。
「・・・話を聞いてくれないかしら?」
マティルダが、紅蓮の盾を持ったまま問いかけた。
「人形に用はないのであります」
「偽者不要」
ヴィルヘルミナは一言、切って捨てた。
そして、紅蓮の盾ごと突き通さんとばかりに、白帯に力を込めた。
「ぐっ・・・」
マティルダは少し、後ろに押された。
そんな様子を見て、ヴィルヘルミナが言った。
「これしきの力で、気圧されるとは・・・」
さも不快そうな口調で。
「全く持って、不愉快な傀儡でありますな!」
言うと、ヴィルヘルミナはヘッドドレスに手を添えた。
「ティアマトー、神器『ペルソナ』を」
「承知」
ティアマトーの声と同時に、ヘッドドレスが解け、桜色の炎とともに新たな姿へと編みなおされてゆく。

「ふぅん・・・」
マティルダは、その光景をさも懐かしそうに見つめていた。
かつては何度も目にした、戦友の姿。
狐の仮面。
周りから伸びる無数の白帯。
舞い散る桜色の炎。
ドレスとメイド服という違いこそあったが、それは紛れもなく“夢幻の冠帯”ティアマトーのフレイムヘイズ『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルの戦装束だった。
「・・・久しぶりね、本当に久しぶり」
かみ締めるように、元『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールはつぶやいた。

ヴィルヘルミナは全く意に介さず、
「まずは、その不愉快な傀儡から、消し去ってやるのであります」
「幻影消去」
言うと、無数の白い槍衾を、今度は目の前の「敵」に向け、一気に放出した。

353Back to the other world:2007/02/14(水) 09:53:36
〜56〜

「聞いてくれそうもない、か」
マティルダも、いつの間にか、手に紅蓮の大剣を握り締めていた。
白い槍衾が桜色の炎を撒き散らしながら、物凄い勢いで迫ってくる。
「仕方がないわ、ねっ」
マティルダは紅蓮の大剣を、真一文字に振るった。
「むっ!?」
ゴウッ、という熱っぽい音とともに、白い槍衾は、横に薙ぎ払われた。
「敵回避」
「かわされたか・・・本当に、良く出来た人形でありますな」
ヴィルヘルミナはリボンを一旦引き、少し焼け焦げた部分を修復した。

と、
「生ぬるいわねぇ」
「!?」
「!?」
声がした次の瞬間、
「むぅっ!」
ヴィルヘルミナは横に飛んだ。
と同時に、紅蓮の刺突が、メイド服のフリルをかすめた。
(は、早い!?)
(韋駄天!?)
驚きながらも、ヴィルヘルミナは体勢を立て直した。
煙を上げるメイド服を見て、マティルダが挑発する。
「この程度の攻撃をよけ切れないなんて、あなたの腕も落ちたわねぇ」
「・・・減らず口の多い人形でありますな」
ヴィルヘルミナは相手の言葉をさえぎるように言った。
「ねえヴィルヘルミナ、私達、以前ケンカした時に、話したわね?」
「人形には沈黙がお似合いであります」
マティルダの問いかけに応じようともせず、ヴィルヘルミナは攻撃態勢をとる。
再び、無数のリボンが「敵」へと向けられる。
マティルダもそれを見て、体勢を整えた。

そして、
「口で話して分からないんじゃ、体をぶつけ合うしかないってねっ!」
リボンの放出と同時に、そのリボンの群れに向かって飛びかかった。

354Back to the other world:2007/02/14(水) 09:55:22
〜57〜

ドォン!
爆発音が、御崎神社に鳴り響いた。
「な、何だぁ!?」
「どうやら、読みは当たったようね」
マージョリーとマルコシアスは、神社の石段を半分ほど登ったところにいた。
「とりあえず、急ぎましょ」
「応さ」
マージョリーは『グリモア』を置くと、その上に乗った。
『グリモア』は浮かび上がり、一気に坂を上がっていく。


「い、今の、何?」
「何か「ドーン」って聞こえなかったか?」
「爆発?」
「御崎山のほうからだぜ」
御崎高校では、6限目、体育の授業が始まったところであった。
「こら、整列しなさい!」
体育教師の声もむなしく、生徒は皆、たった今起こった事件に夢中であった。
そんな中、
「お、おい、佐藤」
「あ、ああ」
「知っている者」佐藤啓作と田中栄太は、爆発の原因について、
「また、奴らの仕業かよ?」
「俺に聞かれてもわからねえよ」
周りにばれないように、小声で話し合っていた。
「聞くんなら、あの子しかいねえだろ」
「そ、そうだったな」
そして、この中で一番「このこと」に詳しい少女を探す。
「おーい、シャナちゃん」
田中は彼女の名を呼んだ。
が、返事はない。
「あれ、シャナちゃん?シャナちゃんってば」
呼びながら周りを見渡すが、どこにもシャナの姿はなかった。
「なあ吉田ちゃん、シャナちゃん知らないか?」
佐藤は吉田に声をかけた。
「え、あれ?さっきまで私の隣にいたのに」
「えっ?」
「私も、今の音について話を聞きたかったんだけど・・・」
「俺もだよ」
「おい、佐藤」
「何だよ」
「校門の方に誰かいるんだけど、あれ・・・」
と、田中が指を指した。
その先では、体育着姿のポニーテールの少女が、猛スピードで走っていた。

シャナは御崎高校の校門を出た。
そして、爆心地と思しき場所―――御崎山へと走り出す。
(どうして!?)
シャナは焦っていた。
爆発に混じって流れてきた、2つの存在の力の波動。
それは、シャナがよく知っている人物のものだった。
(ヴィルヘルミナ、どうしてなの!?)
二つの力は、互いに激しくぶつかり合っていた。
(何で今さら、悠二を!)
シャナは、今御崎山で行なわれているであろうことを、簡単に想像できた。
できたが、それを信じたくなかった。
(もう、悠二を破壊する理由なんて、ないはずなのに・・・!)

355Back to the other world:2007/02/14(水) 09:58:34
〜58〜

マージョリーとマルコシアスは、石段の先に見えた景色に、呆然となった。
「な、なぁ・・・我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーよぉ・・・」
「え・・・えぇ・・・」
「俺、おめぇの酒臭ぇ息に当てられてるうちに、とうとう頭がイカレちまったみてぇだ」
「お黙り・・・バカ、マルコ」
「だってよぉ・・・今、俺の目に見えてるのは・・・」
「・・・・・・・」
「500年前に死んだ奴の映像だぜ!!?」
普段の会話なら、軽薄な笑い声の一つでも上げるはずのマルコシアスが、クスリとも笑わない。
心なしか『グリモア』が小刻みに震えているようにも見えた。
「間違いねぇ、ありゃユーレイだぁ!『炎髪灼眼』のユーレイが、化けて出たんだぁブッ!?」
「お、落ち着きなさいバカマルコッ!」
相棒の情けない様子に、マージョリーは語気を荒げた。
しかし、彼女もまた、目の前で繰り広げられている状況を、信じられずにいた。
「・・・一体全体、何がどうなってるのよ!?」

356Back to the other world:2007/02/14(水) 10:00:34
〜59〜

紅色と桜色の火花が、御崎神社を染める。
「しぶとい人形でありますな!」
白いリボンが、マティルダの前後左右から、容赦なく襲い掛かる。
「おっと!」
マティルダはその攻撃を、直撃する寸前の間隔で、全てなぎ払う。
なぎ払いながら、ヴィルヘルミナの方に向かって走る。
白帯と紅蓮の大剣が、何度も何度もぶつかり合った。


「す、すごい・・・」
悠二は、クスノキにもたれかかりながら、その戦いの様子を見ていた。

中世の昔、当代最強と謳われたフレイムヘイズ、マティルダ・サントメール。
その友人にして、戦闘力は肩を並べる存在といわれた、ヴィルヘルミナ・カルメル。
その二人が、今刃を合わせて戦っているのである。
悠二もシャナと出会ってから、何度と無く戦いを目の当たりにしてきた。
幾多の“紅世の徒・王”、フレイムヘイズたちの戦いを。
しかし悠二は、今回の戦いに、他のどの戦いとも違うものを感じていた。
「何なんだ、この戦い・・・?」
何か、普通ではない、ただならぬ奥深さを感じたのである。

その時。
「?・・・なんだ、この音?」
メキメキ、という音が頭上から聞こえ、悠二は顔を上げた。
すると、
「うわあぁっ!?」
外れた攻撃が直撃したのか、クスノキの太い枝が、悠二の方に落下してきた。
ズン、と重たい音が響いた。

「あわ・・・あれっ?」
頭を押えて縮こまっていた悠二は、自分が助かったことに気づく。
物凄い力で後ろに引っ張られ、間一髪悠二は潰されるのをまぬがれたのだった。
「・・・?」
悠二が振り向くと、そこには見覚えのある、群青色の化け物がいた。
「なに、またアンタが絡んでんの?」
「全くよぉ、困ったボーヤだぜ」
マージョリーとマルコシアスが「トーガ」の中から、呆れて言った。

357名無しさん:2007/02/14(水) 21:15:30
GJ!GJ!GJ!
いや本当に長い間しぶとく待ったかいがありました
続き期待してます!

358名無しさん:2007/02/14(水) 22:11:22
とても感動した!!!
続き希望であります!

359名無しさん:2007/02/15(木) 03:47:43
ネ申としかいいようがない。

360234:2007/02/16(金) 01:01:06
温かいお言葉の数々ありがとうございます。書き続けてるかいがありました。
しつこくまだまだ続きますが、よかったらお付き合いください。
一応、大まかな話の流れは頭の中でできてるので、いつかは終わります(たぶん)。
てか、もうこのスレの大半を占拠してしまっているようで・・・。

361Back to the other world:2007/02/16(金) 01:09:04
〜60〜

悠二は、ことの顛末を二人に説明した。
「・・・そんな話、聞いたことも無いわ」
言って、マージョリーは手のひらを上に向けた。
「まぁ、無理に信じてくれとは言わないよ。僕も未だに夢じゃないかと思ってるくらいだし」
自信なさげに、悠二は言った。
「チビジャリは、このことは知ってるの?」
「いや。僕とカルメルさんたちと、マージョリーさんたちだけです」
「でもまぁ、これだけ激しく存在の力をぶつけ合ってんだ。気づくのは時間の問題だろーな」
「うん、たぶん・・・」
悠二は外を見た。
桜色と紅蓮の火花が、激しく飛び交っている。
「しかし、アンタもとんでもないことをやらかしたわねぇ」
「ヒヒッ、全くだぜ。兄ちゃん、エクソシストにでもなったらどーだ?」
事情を知ったおかげか、マルコシアスにはいつもの笑いが戻っている。
「笑い事じゃないよ・・・これから一体、どうしたらいいんだろ」
悠二は心底疲れた様子でつぶやいた。
「ま、仕方ないんじゃない?これまでそうだったように、今回もなるようにしかならないわよ」
「そーそー。少しは我がお気楽な放浪者、マージョリー・ドーを見習ってだなブッ!?」
「あのね、私は別に気楽にブラブラしてるわけじゃないのよ」
マージョリーは悠二に向き直り、
「まっ、とにかく、今はあの二人の戦闘を見守るしかないわね」
「止めてくれないんですか?」
「アンタも感じたんでしょ?他人が入り込む隙なんかないって」
「う・・・うん、まぁ」
「じゃ、こうして見守るしかないわ。ケンカの仲裁は、私の趣味じゃないし」
「まぁお前の場合、ケンカは売り買いするもんだからなぁブッ!?」
「お黙り」
言って、マージョリーも外をうかがった。
白いリボンが、石灯籠を粉々に砕いた。
「まったく、ハデにやってるわねぇ」
「本当だよ、会っていきなりだもんな・・・・・」
ため息混じりに、悠二は崩れた石灯籠を見つめる。

石灯籠が、小さな瓦礫の破片となって、パラパラと地面に落ちる。
もう二度と、元の形には戻らない、石灯籠。
「・・・・・ああっ!!」
悠二は大声を上げた。
「何よ」
「何でぇ?」
いきなりの大声に、マージョリーとマルコシアスは不審そうに悠二を見る。
悠二はマージョリーの方に向き直り、
「僕、大変なことに気づいちゃったんだけど・・・」
青ざめた顔で言った。

「封絶・・・誰も、張ってない・・・」

しばしの沈黙の後、
「な・・・何ですってぇ!?」
「な・・・何ぃぃぃ!?」
ほとんど同時に、叫び声が上がった。

362Back to the other world:2007/02/16(金) 01:10:20
〜61〜

「!?」
御崎山に向けて走るシャナは、再び存在の力の流れを感じた。
(この力は・・・)
とシャナが考えている間に、群青色の炎が御崎山を中心として同心円状に広がっていく。
やがてその炎は、御崎市全体をドーム状にすっぽりと覆った。
群青色の線が走り、地面に奇怪な紋章を描いている。
それは、存在の力を操る者ならば誰もが知っている、最も単純な、“あの”自在法だった。
「封絶!?『弔詞の読み手』が、何で?」
次々に起こる事態に、シャナの頭は混乱していた。
「一体、何が起きたって言うの?分からないよ、アラストール?」
シャナはペンダントの魔神に、助けを求めた。
「・・・・・・・」
「・・・まさか、悠二の中の“あいつ”が、暴走し始めたんじゃ」
「・・・・・・・」
「?聞いてるの、アラストール、アラストール?」
「・・・・・・・」
シャナは何度も呼びかけたが、「コキュートス」からは一向に返事が来ない。
とうとう、
「アラストールッ!!!!」
「っむ!?」
シャナは立ち止まり、「コキュートス」を自分の口元に近づけ、大声で叫んだ。
ようやく、アラストールは返事をする。
「む、ど、どうした、シャナ?」
「それはこっちのセリフよ。一体どうしちゃったの?」
アラストールの「“紅世”の魔神」らしからぬ頼りない返事に、シャナは少し怒り気味に尋ねた。
「今日は朝から様子がおかしかったけど」
「い、いや、何でもない」
「あっ、そういえば、「何かおかしな力を感じる」って言ってたよね、あれと何か関係があるの?」
「そ、それは・・・」
「やっぱりそうなんだね。教えて、一体あそこで、何が起きてるの?」
「わ、我は何も知らぬ」
アラストールは、あくまで否定した。

「嘘つかないで!一体私に何を隠してるの!?」
シャナは、これまでアラストールに対して見せたこともないくらい、怒りをぶつけた。
「・・・・・・・・」
「コキュートス」からは、返事がない。
「・・・・・・・・」
シャナも、黙り込んだ。

363Back to the other world:2007/02/16(金) 01:11:45
〜62〜

「済まぬ、シャナ」
長い沈黙の後、先に言葉を発したのは、アラストールだった。
「・・・・・・・」
シャナはまだ、黙っている。
いつしかその目には、うっすらと光るものが見えていた。
「本当に、済まぬ」
重く低い声で“紅世”真正の魔神は、その器たる少女に、心から謝った。
「・・・・・・・」
その少女―――シャナからは、まだ返事がない。
「しかし、シャナよ、どうか聞いて欲しい」
「・・・・・・・」
「我が、今まで何も語らなかったのは」
「・・・・・・・」
「このことを話すことが、お前の存在を、否定することになるからだ」
「・・・・・・・」
シャナからは一向に返事がない。
ただ、うつむいたままである。
「だから、我はお前に、自分の考えを語ることができなかったのだ。許してくれ」
「・・・もういいよ」
ようやく、シャナは口を開いた。
「私の方こそ、何も考えずに怒鳴ったりして、ごめん」
「・・・・シャナ」
「でも」
シャナは「コキュートス」をじっと見据えて、言った。
「私は、アラストールと契約したときから、どんな運命が来ようと、それに立ち向かう覚悟は、出来てるつもりだよ」
言って、「コキュートス」を両手でぎゅっ、と握り締めた。
「だからお願い、話して。一体何が起きてるのかを」
「コキュートス」を通じて伝わってくるシャナの手の暖かさに、アラストールは思う。
(浅はかだったな、我は)
そして、
「我も、全く信じられぬが」
自分が予想していることを、話した。
「坂井悠二の存在の力に混じって・・・・我の、以前の契約者の力が流れてきている」

「えっ・・・・・・!?」
その時シャナは、アラストールの言葉の意味を、理解できなかった。

364Back to the other world:2007/02/16(金) 01:17:29
〜63〜

「なるほど・・・これが封絶ってやつか」
飛び交うリボンを盾で受け止めながら、マティルダは自分たちの周りの、陽炎のような景色をしげしげと眺めた。
そして、戦いの相手に向かって言った。
「便利な時代になったもんね。私達の頃は壊しっぱなし、殺しっぱなしだったっていうのに」
ヴィルヘルミナは答えず、
「本当に、やかましい人形であります」
シュルリ、とマティルダの両サイドにリボンを伸ばす。
そしてそれぞれ、ピン、と一直線に伸びたかと思うと、
「その口ごと、切り刻んでやるのであります!」
巨大なハサミの刃のように、マティルダのほうに迫った。
ズン、と鈍い音がした後、リボンの間にあった木々、石灯籠が、全て切断されて滑り落ちた。

「むっ・・・!?」
「上空!」
ティアマトーの声に、ヴィルヘルミナは上を向く。
「こんなものに頼ってるから」
すると、紅蓮の盾と大剣を矛槍に持ち替えたマティルダが、
「カンが鈍るのよっ!」
槍衾を真下に向けて、垂直落下してきた。
「防御準備!」
「はぁっ!」
ヴィルヘルミナはすぐさま、自身の真上にリボンを集め、盾を作った。
しかし、
「なっ・・・?」
盾の手前で、槍先に割れ目が入ったと思うと、
「それが甘いって」
たちまち、3本の小さな槍先に変わった。
槍先はそれぞれ、盾を避けるように曲がり、伸び、
「言ってるの、よっ!」
3方向から、ヴィルヘルミナに襲いかかった。
「くぅっ!?」
ヴィルヘルミナは3本のリボンを繰り出し、それぞれ、槍衾を全て受け止めた。
ガチッ、という金属音のような音が響き、2色の火花が舞い散る。
マティルダは、刃先がぶつかった衝撃を利用して後ろに飛び、着地した。

「さすがは『戦技無双の舞踏姫』。接近戦が得意なところは、変わってないわね」
「むっ・・・・」
ヴィルヘルミナは、やはり返事をしない。
「それにしても」
マティルダは続ける。
「『戦技無双の舞踏姫』か・・・カッコいいあだ名をもらったものね」
「腹話術は、もう聞き飽きたのであります」
「無駄口無用」
ヴィルヘルミナは再び、リボンを伸ばす。
マティルダは、平然とした顔でさらに話を続ける。
「私なんか『赤毛の女丈夫』よ?」
「黙るのであります」
リボンが、マティルダの方を向く。
「『姫』と『女丈夫』って・・・差がありすぎじゃない?」
「黙るのであります」
リボンに、存在の力が込められる。
「二人とも『姫』でよかったのにねぇ」
「・・・・っ黙れ!」
ヴィルヘルミナは、自身でもいつからか分からないくらい以来の、雄叫びを上げた。
怒りと共に、一気にリボンは放出された。

「あらら・・・プッツンしちゃったか」
洪水のような勢いで迫るリボンを眺めつつ、マティルダはつぶやいた。
「変わってないわね、あなたの欠点」
言って、再び紅蓮の大剣を手にする。
「一旦切れると、隙だらけになるってのはっ」
マティルダは、リボンを避けようと再び飛び上がった。
そして、
「これで、終わりよっ!」
持ち替えた矛槍を、投げつけようとした。

しかし、
「・・・甘いのは、どちらでありますか?」
「えっ?」
飛び上がった先には、4本のリボン。
「あっちゃ〜・・・」
あっという間に、マティルダは両手両足の自由を奪われた。

365名無しさん:2007/02/16(金) 14:03:24
いつもGJです!
うあああああぁぁあぁぁぁ
緊張緊張
マティルダ強すぎ!!

366Back to the other world:2007/02/17(土) 02:52:00
〜64〜

「あなたの・・・前の、契約者!?」
シャナは、まだ立ち止まったまま、呆然としている。
「そんな・・・嘘、でしょ?」
未だに、アラストールの言葉を、信じられずにいた。
「・・・我も、むしろ嘘であってほしい」
アラストール自身も、
「我の、思い過ごしであってほしいと思っている」
自分の発言を、つくづく馬鹿馬鹿しく思った。
「だが」
思いつつも、
「先刻から・・・いや、今朝から、我が感じている、この力の波動は」
“紅世の王”としての、
いや、かつて愛し合ったもの同士の感覚は、
「かつての、我の契約者・・・『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールの物に、相違ない」
“それ”を、無視させてはくれなかった。
「でも」
シャナは、当たり前と分かっていながら、問わずにはいられない。
「前の契約者が、死なないと・・・新たなフレイムヘイズは、生まれないはず、よね?」
「・・・そうだ」
アラストールも、この問いに、あえて律儀に答えた。
「でも、今、あなたは、確かに感じているのよね?」
「・・・うむ」
「妙ね」
シャナはそこで、最初から感じていた、不思議な点を話す。
「その、前の契約者の存在の力・・・私には、ちっとも感じられない」
「うむ、それはおそらく、どちらも司る炎の色が、同じものだからであろう」
「あ・・・そうか」
アラストールの言葉に、シャナは納得する。
「あと、あなた、さっきその力が、悠二の存在の力と混じって流れてきてる・・・って、言ってたけど」
「・・・む」
もう一つのシャナの疑問に、アラストールは急に言葉を詰まらせた。
「ますます、意味が分からない。なんで悠二が?」
「・・・それは、我が一番知りたい」
アラストールは、あからさまに機嫌悪く言った。
「全く・・・何故よりによって、あ奴の存在の力に混じっているのだ」
独り言のように、アラストールはぼやく。

その時、
ズゥン!
「!」
またもや、御崎山で大きな地響きが鳴った。
「考えてる場合じゃない、行かなきゃ!」
シャナは再び、走り出す。

367Back to the other world:2007/02/17(土) 02:53:15
〜65〜

「かはっ・・・」
身動きが取れないままリボンで引っ張られ、マティルダは思い切り地面に叩きつけられた。
「全く・・・容赦ないわね・・・っ!?」
マティルダの身体が再び、持ち上がったかと思うと、
「本当に、汚らわしい道化・・・」
「粉砕」
そのまま空中で振り回され、
「ひゃあっ!?」
今度はいきなり解き放たれたかと思うと、
「わあぁっ!?」
「ちょ、ちょっと!?」
「ぎゃ〜!?」
悠二たちのいる、休憩所の窓ガラスを突き破り、
「がはっ!?」
壁も突き抜け、その先にある小さな社に、激突した。
「マ、マティルダさん!」
その光景のすさまじさに、慌てて悠二が瓦礫と化した社に駆け寄る。
「だ、大丈夫・・・心配しなくていいわ」
瓦礫を払いのけて、マティルダがよろよろと立ち上がった。
既に服も、顔も、傷だらけになっている。
「ちょ、ちょっとマティルダさん!?なんでもう死んだ人がケガなんか・・・」
「何・・・死人がケガしちゃおかしいかしら?」
「どう考えてもおかしいでしょ!?」
「ごちゃごちゃとうるさいであります!」
再び、リボンが悠二を襲う。
「アンタはこっちへ来てなさい、ユージ!」
「わわっ!?」
マージョリーに首根っこを引っ張られた悠二の眼前を、白い槍衾が駆け抜けていった。
「うっ・・・!?」
それは、再びマティルダの四肢に巻きつき、拘束した。
「マ、マティルダさん!?」
飛び出そうとする悠二を、マージョリーが取り押さえ、
「あのね、別に私は、アンタの命がどうなろうと知ったこっちゃないけど」
もう片方の手で封絶の自在式を支えながら、悠二に言う。
「この状況でアンタに死なれたら、私はあっちこっちに、敵を作ることになるのよ」
「ヒャッヒャッヒャ、ケーサクやエータに嫌われるのがそんなに怖いか?我がか弱き女傑、マージョリー・ドーブッ!?」
「別にそんなんじゃないわよ!ただ、あのチビジャリを敵に回すことになるのは、ちょっと厄介だと思っただけよ」
「・・・・うん」
マージョリーの言葉に、悠二はうなずいた。
そして、おそらく既にこの騒ぎを聞きつけ、こちらへ向かっているであろう少女のことを思う。

368Back to the other world:2007/02/17(土) 02:54:10
〜66〜

コツ、コツ、コツ・・・
乾いた靴の音を鳴らし、ヴィルヘルミナがゆっくりと、“標的”に近づく。
「人形にしては、よく戦ったでありますな」
「健闘」
ヴィルヘルミナの冷たい声は、変わらない。
しかし、既にメイド服は所々焼け焦げ、狐の仮面も傷が目立つようになっていた。
「しかし、もう人形遊びには、飽きたのであります」
「飽和」
シュルリ、と、またもやリボンが伸びる。
先端の鋭さが、心なしか増しているようにも見える。
「これで、本当に終わりであります」
「滅殺」
リボンの数が、徐々に増えていく。
「全く・・・私がこれまで戦ってきた数多の敵の中で」
リボンに、存在の力が込められる。
「貴様ほど」
桜色の火花が散り、
「不愉快な相手は、なかったであります!!」
リボンの洪水が、一点に集中して、身動きの取れない相手に襲い掛かった。
「マティルダさん!?」
悠二は思わず叫んだ。

369Back to the other world:2007/02/17(土) 02:55:14
〜67〜

しかし、
「あれ・・・・?」
悠二は、目を疑った。
リボンの群れは、マティルダの胸元を貫く寸前のところで、止まっていた。
「・・・どうしたの?不愉快な人形を、さっさと始末するんじゃなかったの?」
手足を縛られたマティルダが、ヴィルヘルミナに語りかける。
気丈な笑顔で。
「・・・・・・っ」
リボンが、小刻みに震えている。
押し寄せる何かに、じっと耐えるように。

「どうしたんだろ・・・?」
目の前の出来事に、悠二は戸惑った。
「感情を隠すものほど、感情に左右されやすい、か。あの鉄面皮の弱点ね」
マージョリーが、様子を横目で見ながら言った。
「そーいうこったな。ただでさえ出し抜けに昔のダチの姿見せられてテンパってるってぇのに、ましてやそれをブチ壊すなんてなぁ、あの姉ちゃんにはどだい無理な話だろーなぁ」
「そうか・・・」
二人の的確な解説に、悠二は納得する。

「・・・・・・」
未だ震えたままのヴィルヘルミナに、
「ま、私もこれくらいのことは予想してたから、こうして大人しく縛られたままになってたわけだけど」
クスリと笑って、マティルダはさらに語りかける。
「ねぇ、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」
「・・・・・・」
「さっきから私のことを、人形だの道化だのって言うけれど」
「・・・・・・」
「じゃ、本物だ、と認めるとしたら、どんな場合?」
「・・・・・・」
ヴィルヘルミナは震えたまま、黙っている。

370Back to the other world:2007/02/17(土) 02:56:44
〜68〜

「何言ってるのかしら、あの女?」
マージョリーは不審そうに言った。
「この世から消滅してる以上、本物だなんていって、信じる奴なんているわけないわ」
「ヒヒッ、全くだ。唯一証明できるとしたら、“ミステス”の兄ちゃん、オメェが今までの状況、洗いざらい吐いちまうしかね〜ぜ」
「あのさ・・・この状況で、そんな話聞いてくれると思う?」
「ま〜無理だろ〜な、ヒャッヒャッヒャ!」
「はぁ・・・」
まるっきり人事のように笑うマルコシアスに、悠二がため息をついていると、

『悠二君、聞こえるかしら?』
『!?』
突然、自分にしか聞こえない声で、マティルダが話してきた。
「マ、」
『他に聞かせてはだめ。あなただけに聞いて欲しいの』
『っ・・・と、分かり、ました』
『悠二君、あなたの存在の力の残量は』
『え、えっと・・・』
『早く!』
『は、はい』
せかされ、悠二は急いで自らの存在の力を計る。
『あと、半分くらい・・・かな』
『そう・・・』
言って、マティルダは、今度は“直接”ヴィルヘルミナに向かうと、
「じゃ、今から、証明してあげる」
スッ、と目を閉じた。
マティルダの両手に、それぞれ紅蓮の盾、大剣が握られる。
「・・・・・!」
同時に、ヴィルヘルミナの震えが、止まった。
(・・・ま、まさか)

それは、彼女がかつて何度見てきたか分からないくらい、見慣れた光景だった。
誇り高き友人の象徴とも言うべき“あの”自在法の構え。

371名無しさん:2007/02/17(土) 10:54:06
GJ!!!
つ(#)
続きwktk!

372名無しさん:2007/02/17(土) 10:58:41
ヴィルヘルミナ(;´Д`)ハァハァ

373234:2007/02/18(日) 00:51:39
ありがとうございます。
投稿するたびにいただくレスに、とても勇気付けられます。
まだまだ長くて気が遠くなりそうですが、皆さんの声援を励みにがんばります!

374Back to the other world:2007/02/18(日) 00:52:28
〜69〜

(一体・・・何をするつもりなんだ?)
悠二が考えていると、
『悠二君』
再び、マティルダの言葉が耳に入ってきた。
『!・・・何ですか』
『多分、大丈夫だとは思うけど』
『・・・?』
悠二は、いやな予感を覚える。
『もしかしたら、“力”が底をついちゃうかもしれないけど・・・その時はゴメンね』
予感は的中した。
「え、えぇっ!?」
『それじゃ』
戸惑う悠二を置いて、マティルダは一方的に会話を打ち切った。
「ちょちょっと、ゴメンねじゃないよ!?」
「なに、一体どうしたのよ?」
いきなり一人でしゃべりだす少年に、マージョリーが尋ねた。
「何をするつもりなんですか、マティルダさん!?」
「おいおい兄ちゃん、一体どうしちまった・・・・っ?」
マルコシアスが、異変に気づいた。

あの女の周りの存在の力の量が、急速に高まっている。
女は、紅蓮の盾と大剣を握り締め、両目を閉じている。
両腕を縛っているリボンは、プチ、プチ、と音を立てて、切れつつあった。

そして、
「うわぁっ・・・!?」
突然、悠二は自分の身体から、存在の力がこみ上げてくるのを感じた。
それは、悠二の握り締めているリボン―――もう一方の先端をほつれさせて、マティルダの足に絡めてある―――を伝って、物凄い勢いで悠二の身体から抜け、流れていく。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよいきなり?」
突然の異変に、マージョリーは驚いて声をかける。
「うあ・・・ぁ」
悠二の身体は、ギラギラと光りだしていた。
「あの女・・・何をやらかすつもりなの?」
マージョリーが独り言のように言うと、マルコシアスが、
「・・・『騎士団』、か」
と、つぶやいた。
「!」
相棒の口走った言葉に、マージョリーは血相を変えた。

375Back to the other world:2007/02/18(日) 00:55:52
〜70〜

「・・・・・・」
瞑目して集中するマティルダの周りを、じわじわと紅蓮の炎が包み始めた。
(うーむ、前は、もっと早く出せたんだけど・・・)
足の糸を通して、存在の力が流れ込んでくる。
(やっぱ長いこと使ってないし・・・力の量もギリギリだと、時間かかるわね)
両手を縛っていたリボンは、すでにほとんど千切れていた。

ヴィルヘルミナは、再び呆然と立っていた。
次から次へと起こる、信じられない出来事に、既に彼女の思考回路は、置いてけぼりにされていた。

一体、これは、何?
石段を登り終えたと思ったら、そこにいたのは、坂井悠二と・・・昨夜も見かけた、この“人形”。
・・・そう、私達の大切な友人を模った、この汚らわしい人形。
昨夜は・・・思い出したくもない、そんなことをしていた気がする。
そして今回は・・・こともあろうに、手を、つないでいた!!
許せない。
何も知らないはずの“ミステス”が、何故、こんな人形遣いの猿真似をするのかは分からなかったが・・・
そんなことを考えている余裕など、なかった。
私は持っていた荷物を投げ捨て、無意識に攻撃を繰り出していた。
すると、この人形は、私達に・・・話しかけてきた。
その声は“彼女”そのものだった。
・・・冗談じゃない。
こんな人形、とっとと破壊してやる。
私は話しかけてくるのを一切無視し、攻撃に出た。
ところが・・・このしぶとい人形は、憎たらしい事に、戦い方まで“彼女”そっくりだった!
私はこみ上げてくるものを抑えながら、無我夢中で攻撃しまくった。
そして、ついにこのうるさい人形を黙らせる、私の取り付かれている幻影を振り払う・・・そのチャンスが来たというのに。

情けない・・・なんて情けないんだろう。
私は止めをさせなかった。
幻影を振り払いたくて、それでいて振り払ってしまうのを恐れた。
もう少し、夢を見ていたい。
そんなことを、考えてしまった。

私が愕然としていると、今度は、目の前のこいつは「本物だと証明する」と言った。
私は最初、言っている意味が分からなかった。
しかし、こいつが目を閉じ、両手に盾と剣を握った瞬間、全てを悟った。

嘘だ。
出来るわけがない。
“彼女”が編み出した、美しくも激しき、闘争心の証。
こいつは軽々しくも、それを見せると言ってのけたのだ。
そんなこと、させない。
させて、たまるものか・・・・!

「・・・・・・っ!!」
ヴィルヘルミナは、これまでの戦いの中でも最大級の存在の力を、リボンに込めた。
桜色の火花が、バチバチと音を立てて、リボンから弾け飛ぶ。
ヴィルヘルミナ自身も制御しきれないのか、伸びるリボンは周囲の物をなぎ倒し、吹き飛ばし、切断する。
御崎山全体を、桜色の炎が染め、まるで桜が咲いたようになった。

376Back to the other world:2007/02/18(日) 02:03:26
〜71〜

御崎神社は、もはや瓦礫の山と化していた。
「おいおい、こりゃ〜そろそろ止めに入んねぇとヤバイかもしれねえぞ。我が寛大なる仲介人、マージョリー・ドーよぉ」
「この町全体に張った封絶を支えながら、何をどうしろって言うのよ!」
「そりゃ〜、分かっちゃいるがな、このままだと、下手すりゃお前ごと吹っ飛んじまうぞ。そうなりゃ何もかもおしめえだ」
「分かってるわよ、ヒャッ!?」
飛んできた瓦礫をかろうじて避けながら、マージョリーは不満げにつぶやく。
「・・・ったく、何やってんのよ、あのチビジャリは!!」

「っ!」
ひた走るシャナは、御崎山から立ち上る、桜色の光の柱を見た。
「ヴィルヘルミナ・・・?」
「いかん『万条の仕手』め、力を暴走させている」
「えっ!?」
「このままではいずれ“夢幻の冠帯”の本性が顕現する」
アラストールは状況の危うさを思った。
かつて『弔詞の詠み手』が暴走した時のように、“紅世の王”の本性が顕現してしまえば、その莫大な存在の力によって、封絶が破壊される可能性がある。
「じゃ、ヴィルヘルミナも!?」
「うむ、無事では済むまい」
「そんな・・・!」
「急ぎ、奴の暴走を止めるのだ。それしか方法はない」
「・・・うん!」
シャナは、力をこめると、
「はぁっ!」
真上に飛び上がり、紅蓮の翼を出して空に舞い上がった。

377Back to the other world:2007/02/18(日) 02:04:52
〜72〜

マティルダの双眸は、まだ閉じられたままであった。
(あと少し・・・)
目の前を、白いリボンがムチのようにしなる。
地面に、いくつも一直線の溝が掘られる。
(あと、もうちょっと・・・っ)
リボンが頬をかすめ、まっすぐな傷を創る。
「・・・何もかも」
ヴィルヘルミナは、仮面の下で、今まで誰も見たことがないような、すさまじい鬼の形相をしながら、
「何もかも、終わりにしてやるのであります!!!」
叫ぶと、全てのリボンを、滅茶苦茶に放出した。
それは乱射された弾丸のように、物凄い速度でマティルダに迫る。

(・・・よし、準備完了!!)
マティルダは、スッ、と両目を開いた。
そして、ほんの一瞬、スゥ、と鼻で息を吸うと、

「出でよ、『騎士団』!!!」

500年来のかけ声を、思いっきり叫んだ。

378名無しさん:2007/02/18(日) 11:41:22
素晴らしい!!!!!

379名無しさん:2007/02/18(日) 14:26:58
暴走ミナ×幽霊騎士団マティが期待!

380名無しさん:2007/02/19(月) 23:02:03
マジGJ!
wktkがとまらねええ

381普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:36:39
投下します
まだ完成してないんで途中までですが…

382歯車:2007/02/21(水) 15:38:09
手に入れた物はあまりにも儚く…
無くした物はあまりにも大きすぎた…
回った歯車はもう戻らない…
それを巻き戻せるのなら…


私は全てを捨てよう…

383歯車:2007/02/21(水) 15:38:45
*1

 坂井悠二はすでに毎日の習慣として定着しきった夜の鍛錬に力をいれていた。
彼は数ヶ月前、「仮装舞踏会」により宝具「零時迷子」を通じて、紅世の王‘祭礼の蛇‘の意識を顕現するための媒介となった。
意識体のみ顕現した‘祭礼の蛇‘は宝具「零時迷子」により存在の力を「星黎殿」に充填。その溜まった力で自分自身と「久遠の陥穿」(漢字がでんかった。スマン)を丸ごと顕現、「こちら側」の世界を支配しようとした。
 彼は一度は完全に意識を飲み込まれたものの、「零時迷子」の中に封じられていた‘ミステス‘ヨーハンが、悠二奪還部隊の「炎髪灼眼の討ち手」等と共に来ていた‘彩瓢‘フィレスと接触することで表出。「零時迷子」に打ち込まれていた‘祭礼の蛇‘の意識の顕現に必要な「大命詩篇」と呼ばれる自在式の一部を持ち出す事で、‘祭礼の蛇‘と「仮装舞踏会」の野望は挫かれた。
 この戦いによって悠二達は「仮装舞踏会」の戦力は半減。「星黎殿」の詳しい場所の特定によりフレイムへイズの監視が可能になった為、一時的にではあるが、再び日常を取り戻していた。

「悠二、力が安定してない。もっつと集中して」
「うん、わかってるんだけど…勝手が違って…」
 横から口を出している少女は腰まで届く長髪。中学生ですら怪しい体つきに不釣合いな凛々しい顔立ち。彼女こそ天壌の劫火‘アラストール‘のフレイムヘイズ「炎髪灼眼の討ち手」シャナであった。

 彼等は…というより彼は、現在「存在の力のコントロール」という初歩の初歩的な訓練を行っていた。これは‘祭礼の蛇‘の意識下におかれる以前までは無意識でもできていた。しかし、自在師としても優れた部類であった‘祭礼の蛇‘が「零時迷子」の特性「存在の力を記憶したことのある最大値まで回復する」によって莫大な量の存在の力を記憶してしまい、その後、表に出てきた悠二にとって、その力の量は自身が安定して顕現出来る上限の数十倍であった。
その力をコントロールするために他の二人のフレイムヘイズ、「万条の仕手」ヴィルヘルミナ・カルメルと「弔詞の詠み手」マージョリー・ドーよりも存在の力の感知能力が高いシャナがその鍛錬の指導をつとめていた。
「そろそろ0時ね。悠二、封絶を張ってみて」
「わかった」
 これはこの鍛錬を始めてから必ず最後に行うことになっている。
どれくらい存在の力をコントロールできるかを見るのに一番わかりやすい方法であるからだ。
「今日は…御崎大橋くらいまで抑えてみて」
「うん、やってみる」
 悠二は封絶を御崎大橋の辺りより小さく張ることが出来なかった。
これでも小さくなったほうであり、帰ってきてから初めて封絶を張った時は御崎市全体を覆ってしまうほどであった。
 目を瞑り精神を集中。そして自分自身の一部を使い、自在式を組み立てる。
瞬間、悠二の足元より銀色の紋様が現れ、広がり、外界との因果律を断ち切り「封絶」が完成する。
これまでは、少しずつではあるが、小さくなってきた。今日も橋まではいかなくとも小さくなると全員が考えていた。


しかし彼が張った封絶は日本全土を覆った。

384歯車:2007/02/21(水) 15:39:37
「悠二!!何こんな大きく張ってるのよ!」
「ご、ゴメン…なんか力が溢れ出しちゃって…」
「うるさいうるさいうるさい!言い訳しない!もう一回!」
 言い訳をするなと言われても、悠二には何故ここまで大きな封絶を張ってしまったのか全くわからない。もう一度兆戦してみるも、日本全土とはいかないまでも御崎市全部を覆ってしまう。
何故ここまで大きくなってしまうかわからないので、自在法に関してはシャナよりも詳しい二人のフレイムへイズに教えを請おうとすると…
「ユージ、しばらく自在法を使うの止めなさい」
いつになく神妙な顔持ちをした自在師が自在法禁止の言葉を発した。
「え?なんでですか?」
「少し調べないといけないことがあるであります。それと…」
メイド服のフレイムへイズが代わって答え、続いて悠二の隣でキョトンとしているシャナの方を向く
「‘天壌の劫火‘を借りたいであります」
「え?アラストールを?いいけど何を話すの??」
「シャナ、出来れば何も言わずに我を「万条の仕手」に渡してくれ」
アラストールの声色もどこか強張っていた。
「??…うん、わかった…」
「あと、朝の訓練も控えなさい。私が良いって言うまで絶対に自在法を使わないこと。
いい?」
「ハイ、わかりました…」
悠二は釈然としないものを感じながらも頷いた。



歯車は回っていた。少年の中でゆっくりと…

385歯車:2007/02/21(水) 15:40:12
*2

 (明日、学校が終わったらケーサクの家にくること)

 その日から三日後の朝、悠二はヴィルヘルミナとマージョリーに佐藤の家へ呼び出された時のことを思い出していた。
二日前、時間を告げにきた二人がとても真剣な顔だったのを彼はしっかりと覚えていた。恐らく紅世関係…しかも自分に大いに関することであるのは容易に想像できる。

そして最後にマージョリーが言った言葉…
(明日は一人で来ること。間違ってもあのチビジャリは連れて来ちゃだめよ)
シャナに言えない紅世関係の話…それは悠二には思いつかなかった。
「まぁ、佐藤の家に行けばわかることか」
と、着替えながら思っていると
「悠ちゃーん、シャナちゃんが来てるから早く降りてきなさい」
との声がした。





そして登校途中…

「シャナ、今日は先に帰っててくれないかな」
「え?どうして?」
ヴィルヘルミナとマージョリーに呼び出されていると言えばシャナも着いて来る可能性もある。と判断し、要所要所を省いて話すことにする。
「佐藤の家に呼ばれててさ。転校するのに色々と荷物整理しないといけないらしくて、それを手伝ってくれって言われてるんだ」
「ふーん。私も手伝おうか??」
「んー止めておいたほうが良いよ…」
これは確かに嘘であったが、佐藤の部屋の様子を見た彼の率直な意見でもあった。
「そう。なら先に悠二の家に行ってるから」
シャナはまた最近、母さんと何かやっているようだった。朝と夜の鍛錬が無くなったため、時には1日中、母さんと何かをしていることもある。
「ありがと、シャナ」
「…別に…」
シャナは赤くなりながら答えた。



歯車は回る…少年と彼女の間で…

386歯車:2007/02/21(水) 15:41:37
*3

 佐藤啓作にとってはいつもの…坂井悠二にとっては月に1、2度歩くかどうかの道を歩いていた。
「珍しいよな。ウチであっち関係の話しするなんて」
「うん、シャナには話せないことらしくて…」
「そりゃ確かにいつもの坂井ん家の庭では話せないわな」
「カルメルさんとアラストールも佐藤の家?」
「おう、なんか真剣な話ししてるみたいでさ。みんなでバーに書類持ち込んで篭ってる」
恐らく紅世関係の話…書類は平井宅にあるのを持ち込んできたんだろう。
「シャナちゃんに話せないことならウチでやるしかないわな。今度はどうしたんだ?」
「まだ何も聞いてない。多分これから説明を受けるんだと思う」
そうこう話しているうちに佐藤家に到着した。




 家の中に入り、佐藤とバーに向かうと、そこには二人のフレイムへイズとペンダント、本、ヘッドドレスに意識を表出させた三人の‘紅世の王‘がいた。
「ん、早かったわね…」
やはり神妙な顔をしたマージョリーが言う。
二人で中に入ろうとすると遠雷が轟くような声が佐藤へ向けられた。
「坂井悠二を連れて来てくれたことには礼を言う。しかしここは席を外してはくれぬだろうか?」
「え…?はい、わかりました」
そう言って佐藤は部屋から出て行く。
佐藤が出て行ったことを確認し話しが始まる。
「ユージ、単刀直入に言うわ」
その言葉は‘徒‘の死神‘フレイムへイズ‘が発する死の言葉…
「アンタには消えてもらう」
消滅の宣告であった。

387歯車:2007/02/21(水) 15:42:53
*4

坂井悠二は‘天壌の劫火‘アラストールと共に帰路に着いていた。
幸いなことに…なのか、佐藤家で二人のフレイムへイズに消されるということはなかった。
「アラストール…」
「………」
「僕は…どうすればいい…」
彼の中に渦巻く感情…それは悲哀でもなく後悔でもない。
まして二人のフレイムヘイズへの憎悪などでも決してなかった。
(アンタの存在の器が壊れかけてる)
それは迷い…
(器が壊れれば、その膨らみ過ぎた力はこれまで「坂井悠二」に関わってきたすべての人間に逆流するであります)
これまで自分を守り、鍛え、共に戦ってきてくれたフレイムへイズ…
(それを防ぐためにはおめぇさんの存在の力を全部吸いださないといけねぇ)
自分が名を与え、自分が泣かせ、自分が守りたいと思っている女の子…
(でもあんたの力を全部使うには、そこいらの王を100人分以上は顕現させなきゃいけない…でも)
そして…
(我ならば一度の顕現でこと足りる)
自分に想いを寄せてくれている友人に…
(残虐非道 重々承知)
自分も心惹かれる女性に…
(アナタからあの方を説得して欲しい)
「『自分を殺せ』だなんて…言えるはずないだろ…」
坂井悠二は泣いていた。




 彼が佐藤宅で受けた説明はこうである。
先の戦いにより零時迷子は大量の存在の力を記憶した。
だが、零時迷子は器の大きさを広げることは可能だが強度を上げることはできず、その大量の力は悠二の器が保有できる量を完全に上回っていた。
 通常、そこまで溜まった力は消費、拡散される。が、零時迷子の特性によって毎日のように行き過ぎた量の存在の力が補充されてしまい、三日前ついに器にヒビがはいってしまった。(封絶が大きくなったのはヒビから漏れ出た存在の力が影響)
いくら行き過ぎた量だと言っても2、3年は保つであろうと考えていた。しかし、シュドナイ、フィレス、銀、ヘカテ−、ヨーハン、暴君という度重なる器への干渉により崩壊が想定以上に早まっていた。
 いずれヒビは穴になり器は崩れ出す。器が崩れれば、行き場を失った存在の力は『力の流れ』によって逆流、現世にこれまでに無い歪みを生み出す。さらにそれだけでなく、逆流したその力は悠二に関わった人間全てに流れ込み、流し込まれた人の器すらも破壊する恐れがある。マージョリーが言うに、今はまだ安定しているが、ヒビが入ってから1週間程度で穴が空くという。そうなればもう手遅れであるとも…
 解決法は三つ
坂井悠二の体を‘祭礼の蛇‘に空け渡す。
 この方法なら坂井悠二の体に表出する意識体は‘祭礼の蛇‘に移るので先に書いた問題が起こることはない。が、フレイムへイズの立場からこの方法はとることは出来ない。
「零時迷子」の抽出。
 「解禁」により不可能。
坂井悠二の存在の消去。
 存在の力を全て吸い出せば逆流する存在の力も無くなり、零時迷子もフレイムへイズ側で管理できる。その代わり坂井悠二は確実に消える。
消去法により三つ目の道をとるしかない。
自分はトーチ…いくら零時迷子を有したミステスといっても、いつかは消える時が来るかもしれない。それについてはすでに覚悟ができていた。
 しかし自分を消す方法…『‘天壌の劫火‘アラストールの通常顕現』
すなわちシャナが自分を殺すということ…これは納得できなかった。
自分はいい…すでに死んだ人間なのだから…
「アラストール…」
「…なんだ」
「シャナじゃなきゃ…だめなのか…?」
「我を顕現させられるのはシャナのみ。他にお前の存在の力を一日の内に消費させる方法はない」
わかってる…わかっている…でも!!
「お前の言いたい事はわかる」
「でもこれじゃあシャナが!」
「あれは…フレイムへイズだ」


回りだした歯車は止まらない…

388歯車:2007/02/21(水) 15:44:25
*5

坂井悠二が消えるまで後3日

 「悠二の様子がおかしい…」
 授業中、「炎髪灼眼の討ち手」シャナは昨日から様子がおかしい想い人を心配、および怪しんでいた。
夜遅くに帰ってきたかと思うと、ヴィルヘルミナ達に渡していた筈のコキュートスを自分に渡し部屋に引っ込んでしまった。
ヴィルヘルミナ達に会ったのかと聞いても無気力に「ああ…うん…」とか言うだけ。
アラストールに聞いても黙秘された。
 抜けた悠二のことだ。アラストールとヴィルヘルミナに道端で会って説教でもされて落ち込んでるんだろう。明日にでもなれば元気になる…と思ってその日は帰ったが、次の日も悠二はおかしいままだった。
穂杖をつきながら今朝の出来事を思い出す

 坂井悠二の睡眠時間は鍛錬禁止礼が出されてから飛躍的に延びていた。
しかし、シャナは鍛錬禁止礼が出されてからも同じ時間に坂井家に来ている。ゆえにその延びた睡眠時間分はシャナが悠二のベットに潜り込み悠二の寝顔を見てニヤニヤする時間であり、彼女はそれを日課としていた。もちろん千草にはバレていない。(と、本人は思っているらしい)
 だが今日、悠二の部屋の前に行くと彼は既に起きいてるようであり、シャナは戦略的撤退を余儀なくされた。
 仕方なくリビングで千草と共に1時間ほど『ある物』と格闘する。
「そう…そこを通して…」
「こう?」
「そうそう。シャナちゃんは料理よりこっちの方が得意みたいね」
「火を使わなければ…大丈夫」
「ふふっ♪あとはシャナちゃん一人でも大丈夫ね」
「うん、今日中にはできる…とおもう」
「頑張ってね、シャナちゃん」
偉大なる専業主婦は恋する乙女の味方である。ましてや自分の息子に対して好意を寄せてくれているとあれば応援しないでいられるはずがない。
(悠ちゃんのために『こんな物』を作ってくれるんですもの。ちょっとくらいサービスしなきゃね♪)
「そういえば、悠ちゃんたら遅いわねぇ…シャナちゃんが行った時はもう起きてたんでしょう?」
「うん、私が部屋に行った時にはもう………」
言ってから自分の失言に気づく。
「ち、千草!こここれはその…偶然前を通っただけで…」
2階に用の無いシャナが偶然通りかかることなど有り得るはずもないのだが、千草は華麗にスルーする。
「変ねぇ…悪いけどシャナちゃん、悠ちゃんの様子見に行ってきてくれる?」
「へ!?いやでも…」
失言の時点で赤くなっていた顔をさらに燃えあげながらも抵抗する素振りをみせる。しかし、千草はまたも軽やかにスルー。
「お願いね♪」
彼女はその微笑みのみで‘紅世‘屈指のフレイムへイズ「炎髪灼眼の討ち手」を黙らせる。


(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…)
 つい最近、彼女は偉大な二人の指導者に『この世の本当のこと』を教わったばかりである。もちろん『そっち側』の常識についてもいくつか教わっている。
「お、女の子が好きな人の寝てる部屋に入るときは『そういうこと』を覚悟しなきゃいけなくて…でも、まだ私と悠二は…」
昨日まで悠二のベットにまで潜り込んでいただろうというツッコミはテンパりし恋する乙女にはきかないのである。
 思考の堂堂巡りでオーバーヒートしながらも階段の前にまで行きついた。
そこで初めて気づく。
「あれ…?」
2階への階段を駆け上がり、ドアを壊さんばかりに開け、叫ぶ。
「悠二!?」
そこに坂井悠二はいなかった。

389歯車:2007/02/21(水) 15:45:19
家を飛び出し、悠二を感じる方向へ走り出す。
あの時…悠二が突然いなくなった時の焦燥感が蘇る。
悠二は居る。ちゃんと彼の力を感じる。それでも…
「悠二…そこにいて…」

幸い彼は河原でボーっとしているだけだった。しかし様子がおかしい。
昨日と同じ…どこか無気力で落ち込んでいるようでもあり、悩んでいるようでもあった。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
声をかけると驚いたような顔をし、それがシャナを不機嫌にさせる。
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
要領を得ない答えがさらにイライラをつのらせる。
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
本当は千草には何も言わずに出てきてしまったのだが…
「うん…そうだね」
 そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい現在に至る。
「えー、じゃあこの問題を…坂井」
彼は窓越しに外を見ている。

390歯車:2007/02/21(水) 15:46:04
彼は走っていた。
どこかへ行こうとしたわけではない。
シャナと…『自分を殺すであろう者』と顔を会わせることが出来なかった。
 住宅街を抜け大通りに出る。しばらく人の少ない道を走り、最後に河原へと行きつく。
「ハァハァ…」
息が切れる、足が重い、頭がクラクラする。
本来ならば、毎日三人のフレイムヘイズに鍛えられている彼がこの程度の道を走ることなど、楽勝とはいかないものの、問題ではなかった。
「やっぱり…ハァ…さすがに厳しいや…」
原因はわかっている。
目の下についたクマ、充血し赤くなった目。
彼は寝ていなかった。
 なぜ寝付けなかったか、それもわかりきっている。
『シャナにどう伝えるか…』
これを考えているうちに朝になってしまっていた。…と彼は家を出るまでは思っていた。
実際、考えていたのはそのことについてばかり…
しかしそれは違った。
「はは…僕も変わったってことかな」
 走ってきたのは全て彼女と通ってきた道…
彼女とケンカした道、話した道、笑った道…
 本当はわかっている。
「決まっているじゃないか…」
彼女は必ず自分を、消す…
どんなに親しい人間であろうが「トーチ」であろうが、世界の安定を守るためならば躊躇わず、消す。
 なぜ彼女が迷うなどと思ったのだろう。
それは自分の本心に向き合えなかったから。だから逃げた。
気づかない振りをしていた。
でも…彼女との日々…歩いた道を見て嫌でも向き会わされた。
「…消えたく…ない…」
彼は死ぬのが怖かった。

そこで彼女の声がした。
「悠二!こんなとで何してるのよ!!」
「シ、シャナ!?えっと…何て言うか…」
(マズイ!今の聞かれた…)
と口ごもっていると
「もういい!千草も心配してるから早く帰るわよ」
どうやら彼女には聞かれなかったらしい。
(よかった…)
「うん…そうだね」
そうして家に帰り、既に用意されていた朝食を食べ、学校に向かい授業を受ける。
しかし、授業など耳には入らない。
彼は窓越しに外を見ていた。

391歯車:2007/02/21(水) 15:46:44
*6
昼休み、いつものメンバーで弁当をつつく。
「坂井、お前今日なんかおかしいぞ?」
悠二に声を掛けたのは佐藤啓作。『この世の本当のこと』を知りながら、それにさらに関わろうとする『ただの人間』である。
「えっ…まあちょっとね」
と無理に笑顔を作って答える。
「あんまり無理しなでくださいね」
彼女は吉田一美。ある事件がきっかけで『この世の本当のこと』そして『坂井悠二の死』を知ってしまった人間である。さらにそれを知った上で「坂井君が好き」言い放った一途な女の子である。
「そうだぞ、吉田ちゃんの言う通りだ。あんまり無理するな」
「坂井、風邪でも引いちゃったの??」
彼女に続く形で声を掛けたのは田中栄太と緒方真竹。緒方は『この世の本当のこと』を知らないただの一般人である。
しかし田中は知っている。一時は佐藤啓作と共に『この世の本当のこと』に関わろうとしていたが、ある事件が発端となり、今はあまり関わらずに居ようとしていた。
「平井さん、なにか知ってる?」
彼は池速人。彼の説明は省かせていただく。
「知らない」
シャナは無愛想に答える。
好きな人が自分の恋敵の弁当を食べるこの時間は彼女にとって苦痛以外の何物でもない。
さらに朝からその好きな人の様子がおかしいと来れば機嫌が悪いのは当然であった。
(フン。料理はまだ練習中だから勝てないけど、今作ってる『アレ』なら負けないんだから)
2週間前から千草に教わっている『アレ』はすでに完成の一歩手前であった。
「悠二に何かあげたい!」
そう千草に相談したら快く協力してくれた。
(帰ったら最後の仕上げをして…今日中にあげられたらいいな…)
様子のおかしな悠二だって、きっと喜んで受け取ってくれる。
彼女は希望に胸を膨らませる。
(出来れば…悠二と…)




 坂井悠二は何もする気になれなかった。
自分は消える。死ぬでは無く消えるのだ。
消えれば自分がいた形跡はなにも残らない。居なかったことになるのだから。
死にたくない…消えたくない…
そんな思いばかりが頭を巡る。
いっそこのまま何も言わずに居てはどうだろうか…
同じ事だ…自分は消える。自分が選べるのは死に方だけ。
それに関係の無い人間を巻き込むことは自分の一番嫌うこと。
「どうにもならない…か…」
自分のベッドの上に寝転がりながら無気力に時間を過ごす。

どれくらい時間が経っただろうか。
このまま目を瞑り眠ってしまおうかと思った時、不意にドアの向こうから声がした。
「…悠二?」
彼女は普段とは違う今にも折れそうな声で自分を呼ぶ。
ドアを開け、中に入るよう促そうとする。
「ちょっと待って、今開けるから」
「ううん、開けなくて…いい。このままで聞いてて…」
「え?…うん」
「えっと…七時にクリスマスの時の場所で待ってる…」
彼女の想いは自分も理解している。でも…
「ゴメン…行けない…」

392歯車:2007/02/21(水) 15:47:15
「え……」
 思ってもみなかった拒絶の言葉…一瞬自分が立っているかどうかも分からないほどの目眩に襲われる。
彼はさらに言葉を続ける。
「今の僕じゃあ…答えられない…」
視界がぼやける。その場に立っていられなくなりそうになる。
「そう…」
やっと搾り出せた言葉はこれだけ。本当は泣き叫んで詰め寄りたい。
だが心が『どうしようもない感情』で埋め尽くされ言葉を奪う。
「ゴメン…」
その言葉は彼女の目に溜まったものを溢れさせるには十分であった。
「ぅぐ…グス…」
その時…
「坂井悠二!!」
突然胸のペンダントから怒鳴り声が響く。


「貴様、我等がなぜお前自身に言わせることを選んだと思う!!なぜ我等がシャナに言わなかったと思う!!」
真性の真神が轟く。
「これ以上無様な姿をさらし続けてみろ!今ここで‘天壌の劫火‘の名の元、貴様を消させるぞ!!」
遠雷の声が鳴り止み、重苦しい沈黙が続く…

その沈黙を少女が破る。
「アラ…ストール…悠二を消すって…」
「………」
「どういうこと…?」
魔神は答えない。
「どういうことだって聞いてるで「シャナ!」
問い詰める声を少年が遮る。
「さっき…シャナが言った…クリスマスの時の所で待ってて…」
「えっ…」
「僕が言うから…」
「…うん」


歯車はかみ合う。
終焉へ向かうために…

393普段お世話になっている者:2007/02/21(水) 15:49:39
とりあえず投下できるのはここまで
最近忙しく、次の投下まではかなりかかると思います…
それではまた…

394名無しさん:2007/02/21(水) 20:51:49
これは、悲しいけど展開を期待してしまいますね。
続編まってます

395名無しさん:2007/02/21(水) 23:24:11
おお!新たな神の降臨が!
続きをワクテカしながら待ってます!

396名無しさん:2007/02/22(木) 02:30:31
おもしろい
ただ…が多すぎてなんだかなって感じ

397名無しさん:2007/02/23(金) 10:52:00
隠れた良作ですね。
続きを待ってます

398234:2007/02/26(月) 02:26:16
>普段お世話になっている者氏
新たなSS、とても楽しみです。
が、ちょっと拝見したところ13巻以降のネタバレのようなので、今は読むのを遠慮しておきたいと思います。
せっかく書いてくださっているのに、すいません。
でも、いろんな方が書き込んでくださることによって、スレが活気づいてきてとてもうれしいです。
僕も早く13巻以降を読みたいので、早いとこ完成させようと思います。

399Back to the other world:2007/02/26(月) 02:27:55
声と同時に、マティルダの足元から、紅蓮の炎が絨毯のように広がっていく。
その絨毯から、何本もの火柱が渦巻き、立ち上る。
それらは、はじめ不規則な形をしていた。
が、まもなく大雑把ではあるが、何かをかたどった。
「う・・・っ何だ、あれ・・・?」
存在の力をマティルダに吸われた悠二は、貧血のような感覚に襲われつつ、その様子を見た。
「ほ・・・炎の、化け物・・・?」
が、まもなくそれらは、
「時間が無いわ、とりあえず全員、総攻撃よ!」
マティルダの指令に、迫るリボンに向け、一斉に飛び出した。

炎の怪物達は、手にした紅蓮の剣や矛で、次々とリボンをなぎ払っていく。
またいくつかは、リボンもろとも爆発し、粉々に砕け散る。
リボンの残骸が、ハラリ、ハラリと地面に落ち、積もる。
「そ・・・んな」
「・・・・・・・」
またもや信じられない光景を見せ付けられ、呆然とするヴィルヘルミナとティアマトーに、
「ば・・・・馬鹿、な・・・っ」
「・・・・・・・」
リボンにぶち当たって砕け、半数ほどになった炎の軍隊が、
「どうし、て・・・!!!!」
「・・・・・・・!!」
次から次へと、突っ込んでいった。
あっという間に紅蓮の炎に包まれたヴィルヘルミナは、
「嘘・・・・、私・・・信じ・・・・な・・・」
うわ言のように語りながら、膝を地面に落とすと、そのまま、

ドサッ

と、前のめりに倒れこんだ。
宙に浮いていた純白のリボンは、ゆっくりと、全て舞い落ちた。

400Back to the other world:2007/02/26(月) 02:29:45
〜74〜

「な・・・」
紅蓮の翼で、御崎山まで一気に飛んだシャナは、
「今の、何・・・?」
上空から見えたその光景に、驚愕していた。
到着直後、暴走するヴィルヘルミナを目にし、すぐさま御崎神社に降り立とうとした。
が、その矢先、突然、別方向から自在法が発動した。
かと思うと、物凄い勢いで、妙な形をした炎の固まりが、次々とヴィルヘルミナに襲い掛かったのだった。
一瞬の出来事に、シャナは何もできず、ただ上空で呆然と見ているしかなかった。

「し、しかも」
シャナは、未だに自分の目を信じられない。
「あの、炎の色・・・」
その色は、唯一つ。
自分と、自分の中に宿る魔神だけの色のはず、なのに。
「私と・・・・」
シャナは自分で確かめるように言い直していると。
「同じ、色・・・?」
ふと、目に入った、何者かの影。
「・・・!!?」
慌ててシャナは、視線を戻す。
戻して、もう一度、それが誰なのかを確かめた。


「・・・・・!??」
誰なのかを悟り、シャナは、頭の中が真っ白になった。
「・・・・ば・・・馬鹿、な」
アラストールはそう言ったきり、もはや言葉を発することもできなくなった。
シャナは、自分の髪の毛を数本つかみ、見た。
「私と・・・同じ」
そして、下にいる人物のそれと、チラチラと何度も見比べた。
「え、『炎髪』・・・」
シャナは、身体の底から寒気がわきあがってくるのを感じた。
先程アラストールに言われた言葉が、脳裏をよぎる。
(私の、前の、フレイム・・・ヘイズ)

しかし、
「こら、このチビジャリ!!何ボサッとしてんのよ!」
「ヒヒッ、そーだぜ嬢ちゃん。“ミステス”の兄ちゃん、まずいことになっちまってるぜ」
また別の声に、
「えっ・・・・」
思わず振り向くと、そこには力が抜け、すっかり弱ってしまった悠二がいた。
「悠二!?」
その姿に、慌ててシャナは地面に降りた。

401Back to the other world:2007/02/26(月) 02:31:16
〜75〜

「シャ、シャナ・・・?」
駆け寄ってきた少女を、悠二はうつろな目で確認した。
「悠二、しっかりして!」
弱弱しい少年の姿に、シャナは想いを込めて叱咤する。
「今、私の力を渡すから」
言って、シャナは手を差し出した。
「あ、う、うん」
悠二も、震えながら片腕を差し出す。
二つの腕が、そっと重なり合うと、シャナは目を閉じた。
存在の力が、彼女の手を通して、悠二に送られる。
「・・・ごめん・・・ありがとう、シャナ」
力が徐々に回復してくるのを感じながら、悠二は言った。
「っ」
シャナは、その言葉に、少し照れるのを隠しながら、
「そんなことより」
急に険しい表情になって、言った。
「この状況は、一体、何?」
少女の問いかけに、悠二は、
「うん、まぁ・・・その、いろいろと」
何を話したらよいのか分からず、困惑した。
すると、
「本ッ当、いろいろありすぎよ、今日は」
「全くだぜ。この騒ぎのために、わざわざ町全体覆う封絶まで張らされるんだからなぁ、我が勤勉なる苦労人、マージョリー・ドー!」
悠二のそばにいた『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーが不機嫌な表情でぼやくと、“蹂躙の爪牙”マルコシアスが“グリモア”から茶化した。
「・・・?何で、あんた達がここに?」
シャナは意外な人物の突然の介入に、不思議そうに尋ねた。
「アンタねえ、誰がこの封絶張ったと思ってんのよ!」
「ヒヒッ、それだけじゃねーぜ。俺たちゃ、嬢ちゃんの大事なカレシのお守りもしてたんだぜ、少しは感謝して欲しいってもんだブッ!?」
「バカマルコ、アンタは余計なこと言わなくていいの」
「カレシ?」
「な、何を言って」
相棒の失言により、話がさらにややこしくなるのを避けるため、マージョリーは、
「そんなことより、問題なのは、あいつでしょ」
話を本題に戻そうと、あごで「あいつ」を指した。
瞬間、思い出したように、シャナは髪の毛を振り乱して振り返った。

その先には、
「!!!」
自分と同じ髪と瞳を持った、一人の女性が、こちらを見つめて立っていた。

402Back to the other world:2007/02/26(月) 02:35:14
〜76〜

目の前に相対した人物に対し、
「・・・・・・・」
しばらくの間、シャナは一言も、言葉を発することができなかった。
ただ、その灼眼を大きく見開いたまま、相手の立ち姿をじっと見つめていた。
見つめながら、
(私の、前の)
アラストールの言葉を、
(『炎髪灼眼の、討ち手』・・・?)
反芻していた。

一方、マティルダのほうも、一言も話さない。
黙ったまま、目の前の少女の全身を、相手と同じ色の双眸でじっと眺めていた。

相見える『炎髪灼眼』。
決して出会うことはないはずだった、二人。
「・・・出会っ、ちゃっ、た」
異様かつ美しいその光景に、騒動の原因たる少年(ということにいつの間にかされてしまった)坂井悠二も、思わず声を上げた。
「やれやれ、こんな珍事、そうそうお目にかかれるモンじゃねーな。我が幸運なる目撃者、マージョリー・ドー?」
「私には関係のないことよ。勝手にさせとけばいいわ」
「ヒャッヒャ、最初はビビッてたくせに、よく言うぜブッ!?」
「アンタでしょ、それは」
“グリモア”に蹴りを入れ、横目で“珍事”の様子を見つつ、マージョリーは封絶を解く作業を続ける。

群青色の火の粉がフワフワと散る、その中で、
「・・・初めまして、ちっちゃな『炎髪灼眼の討ち手』さん」
沈黙を破ったのは、マティルダだった。
「そして・・・お久しぶり、“天壌の劫火”アラストール」


(お、落ち着け)
シャナの胸元の『コキュートス』は、
(落ち着くのだ、我よ)
かすかではあるが、小刻みに震えていた。
(あれは、幻だ)
“紅世”にその名を轟かす、真正の魔神“天壌の劫火”アラストールは、
(我は今、白昼夢を見ているのだ)
いまだ己が経験したことは一度もないであろう衝撃と動揺に、襲われていた。
(空耳だ)
無理もない。
ペンダントを通した彼の視界に映る、一人の女性。
たった今自分の名前を呼んだ、その声。
それは、はるか昔に、永遠の別れを余儀なくされた人物。
・・・のはずであったのだから。

403Back to the other world:2007/02/26(月) 02:37:51
〜77〜

「・・・どうしたの、二人ともポカーンとしちゃって」
未だ喋ることも出来ないくらい動揺しているシャナとアラストールに対し、マティルダは気軽に声をかけた。
「フフッ、あなた達も信じられないって訳?」
相手の表情を見て、マティルダはおかしそうに尋ねる。
「まぁ、無理もないか。あの二人もさっぱり信じちゃくれなかったし」
言って、マティルダは後ろに目をやった。
シャナも思わず、そちらに視線を移すと、
「ヴィルヘルミナ!!?」
ボロボロに焼け焦げたメイド服をまとったヴィルヘルミナが、あお向けに突っ伏していた。
たまらずシャナは駆け寄った。
「ヴィルヘルミナ、大丈夫!?」
「う・・・む・・・」
「・・・・・・」
シャナの声に、ヴィルヘルミナはもがきながら、顔を横に向けた。
顔から仮面が落ち、桜色の光とともに、元のヘッドドレスへと姿を変えた。

「!?」
あらわになったその表情に、シャナは愕然となった。
目の周りは赤くはれ上がり、顔はススと涙でグチャグチャになっていた。
視点は、うつろに遠くの方を見ているようだった。
それは、清楚で冷静な彼女とは、まるで別人だった。

「ひ、ひどい・・・」
あまりの惨状に、シャナは思わずつぶやく。
そして、先程の場面を思い出し、
「・・・なんで」
振り返って、
「なんで、こんなことを!?」
怒りを込めて、そう言った。

「なんでって・・・せっかく再会できたのに、あの二人、私のことを“燐子”かなんかと勘違いして、攻撃してきたんだもの。正当防衛よ、正当防衛」
マティルダは動じる様子も見せず、サラリと言ってのけた。
そして、逆にシャナに向かって言った。
「そんなことを言うのなら、あなたにだって責任はあるわよ・・・シャナ?」
「な・・・?」
唐突に名前を呼ばれたシャナは、思わず尋ねた。
「ど、どうして私の名前を」
「シャナ、あなた私の攻撃よりも早くここに来てたでしょ?なのになぜ、止められなかったの?」
シャナの質問を無視して、マティルダはさらに責める。
「えっ・・・」
突然の問いかけに、シャナは思わず黙ってしまう。
その様子に、
「いや、それ以前に」
マティルダはさらに追い討ちをかける。
「どうしてもっと、早くこれなかったのかしら?」
「っ・・・!」
シャナは、背後からいきなり、槍で突かれたような気持ちになった。

確かに、早く到着するすべはあった。
例えば、御崎山で爆発音が聞こえた時に、自ら封絶を張っていれば。
そして、すぐに紅蓮の翼を出し、山まで飛んでいっていれば。

「・・・・・・・っ」
次から次へと浮かんでくる後悔の念に、シャナは苦虫を噛み潰したような表情をした。
マティルダは、容赦なく続ける。
「ま、仕方がないわね。所詮あなたの状況判断能力なんて、こんなもんよねぇ」
「!」
いきなりの聞き捨てならない一言に、シャナは思わず顔を上げる。
「偉そうなことばっかり言ってるくせして、肝心なときは人に頼ってばかりだし」
その上げた顔を踏みつけるかのように、マティルダは罵倒の声を浴びせる。
「なっ・・・!?」
「ま、今日はその頼りにしてる人が、全然使い物にならなかったわけだけど」
言って、マティルダはシャナの胸元を見つめ、
「・・・ねぇ、さっきから見てみぬフリを決め込んでる誰かさん?」
(ぐっ、む!?)
その視線の先にいる人物にとって、この上なく怖い目線で問いかけた。

404名無しさん:2007/02/26(月) 03:38:40
来た来た来た!相変わらずのGJ!
前回の投下以来新たな投下が無いか毎日確認してましたよ!
続きも楽しみにしてます。

405名無しさん:2007/02/28(水) 08:46:56
最高です!

406忘却そして起こる奇跡:2007/03/05(月) 02:16:56
忘却
忘れようとしても忘れられない憎い奴

忘れられようとしても忘れられない嫌な奴

忘れたくても忘れられない私のライバル

忘れたくても忘れられない・・・本当に嫌な奴

何で忘れられないの・・・?

わかってる、それはあいつの事が・・・・好きだから・・愛してるから・・

407忘却そして起こる奇跡:2007/03/05(月) 02:19:05
其れは忘れたくても忘れられない出来事

1日だけの出来事

悲しいけど暖かい出来事

私の友に起きた出来事・・・

だから思い出そう、この「夢幻の冠帯」が・・・

408忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/05(月) 02:20:11
何となく考えてみただけ(つω・)少し展開考えさせて
続きとか頭の中で考えてるんだけど詳しくは考えてナスwww
当然つまんない 言われたら止めますOTZ

409名無しさん:2007/03/05(月) 14:02:51
とりあえずプロットとか書いてストーリーの骨組みはくんだほうがいいぞ
行き当たりばったり、思いついたことをすぐに書くってやりかただと
必ず投げっぱなしジャーマンになるから気をつけたほうがいい

410忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/05(月) 20:17:45
プロット、骨組みは考え終わってるんだけど書ける筆力と自分の記憶力に自信が・・・
もう少し考えてみて自分に納得いくように下書きできたら纏めて投下します

411名無しさん:2007/03/09(金) 04:19:14
どのSSも面白いなぁ、職人さんたちGJですよ。
ところで質問なんですが、『歯車』でアラストールが
>「貴様、我等がなぜお前自身に言わせることを選んだと思う!!なぜ我等がシャナに言わなかったと思う!!」
って言ってるんですけど、……なんでなんでしょうか?
自分には『悠二と二人きりにさせて(アラストールもいるけど)悠二の口から言わせたほうがシャナも幾分か説得しやすいから』
としか思えません……うぅ、我ながら残酷だ。
でも結局の所、どうなんでしょうか?

412普段お世話になっている者:2007/03/09(金) 19:22:07
>>411
そこらの描写は次の投下で書きますんでお待ち下さい。

413411:2007/03/10(土) 19:16:33
作者自ら答えてくれるとは……!
了解しました。リアルに支障が出ない程度にがんばってください!

414大擁炉の苦悩 1:2007/03/12(月) 00:25:59
ブロッケン要塞の入場式典も終わりを告げました。
我らが主”棺の織手”の大号令と共に皆が各自の持ち場に戻るべく
散らばって行きます。
我々”九劾天秤”はこれから主塔に場所を移して
今後の作戦会議の予定です。
さぁ、ではいきますか。
・・・と、その時
「我が天秤達よ。欧州に移ってきて時も浅かろう。
会議は夕刻、日没からとする。
この場は一度解散とする故
各部隊の”徒”達に訓令や労いの言葉などをかけてやれ。」
なるほど、さすがは我が主。
軍団の皆への配慮、さすがでございます。

皆、一礼をしてこの場は解散です。

ニヌルタ殿、ソカル殿は各々統括する部隊を
召集する為でしょう。伝令役を呼んでいます。
フワワ殿は・・・
副将を呼んで何やら話しています。
めんどくさい事はまかせる、と聞こえたような・・・
ウルリクムミ殿は城門の方へ巨体を揺らしながら歩いて行きます。
そうだ、あとでアルラウネ殿の恩賞の件で行かねばなりませんね。
部隊を持たない我々はこのまま主と共に主塔へ移動ですね。
私、イルヤンカ殿、メリヒム殿、ジャリ殿・・・
あれ?チェルノボーグ殿がいつの間にか消えておられます。
はて、彼女は統括する部下はいないのでてっきり一緒に来られると
思っていたのですが・・・。

415大擁炉の苦悩 2:2007/03/12(月) 00:26:33
「どうされたか、宰相殿」
イルヤンカ殿が語りかけてきました。
「いえ、チェルノボーグ殿がいつの間にかいなくなっていまして・・・
 はて、なにか任務があったか考えておりました。」
するとジャリ殿が
「頂の風はまだ冷たい」「だが彼女は駆け出した」「彼女の心はここにあるのに」
・・・どうやら外に出ていかれたようですね。
まあ自由時間という事ですし、さほど問題はないでしょう。

「・・・・・・。」
ん?主が何やら考えているような表情をしています。
「我が主、どうかなされましたか?」
「宰相、そなたこれからやるべき事はあるか?」
「は、要塞の建造に功のあった徒をウルリクムミ殿と選出致します。
 その後はソカル殿、ニヌルタ殿を交え平時の防衛部隊の動きの再確認を
 するつもりです。」
「ふむ・・・では取り急ぎ行う事でも無いようだな。」
「は、特には・・・」
「では、隠密頭に伝言を頼みたい。」
「は?わ、私がですか?」
「そうだ。」
「はぁ・・・わかりました。では、なんと。」
「「この一時を過ごせ。」これだけを伝えよ。」
「それだけ・・・ですか?」
「うむ。それで伝わろう。」
「かしこまりました。「この一時を過ごせ」ですね。では・・・」
私が走り去ろうとした時、主がまた声を掛けられました。
「宰相、もう一つ注文がある。この伝言はそなた自身で伝えてくれ。」
「・・・かしこまりました、我が主。では・・・。」

416大擁炉の苦悩 3:2007/03/12(月) 00:27:58
はぁ、弱りました・・・。先程チェルノボーグ殿に宰相たるものが伝言云々と
怒られてしまったばっかりなのに・・・。
主の命と言えば彼女も解って下さるでしょうけど・・・。
でも、この伝言の意味はなんなのでしょうか?きっと私ごときには解らない
主のチェルノボーグ殿への気遣いなのでしょう。
私が彼女の機嫌を損ねてしまったようですし、主には苦労をかけてばっかりです。
チェルノボーグ殿にも怒られてばっかりです。何故なんでしょう・・・?

城門を出た所でウルリクムミ殿の部隊が集まっていました。
統率のとれた精鋭部隊ですね、相変わらず。
これなら安心して作戦行動をまかせられ・・・
「宰相殿、どちらへ?」
「うわ!・・・ア、アルラウネ殿!
 申し訳ない、考え事をしていたもので。」
「びっくりさせてしまいましたか?」
「いえいえ、平気です。実は、主からの伝言をチェルノボーグ殿に
 伝えに行く所なのですよ。先程怒られてしまいましたが
 主より私自身で行くようにと言われまして・・・。」
「そうでございますか、では僭越ながら私もチェルノボーグ殿に
 お伝えすべき事がございまして、一緒にお願いしても?」
「えぇ、かまいませんよ。でも、ご自分で伝えなくても良いのですか?」
「ただいま部隊の再編中でして離れられないのですが?」
「わかりました。では、何と伝えれば?」
「セイヨウタンポポです、と」
「わかりました。では・・・」
アルラウネ殿に一礼をし、私は城外へ歩き出しました。

しかし、ジャリ殿が外に出たと言ってましたが彼女はどこに
行ったのでしょうか?
幸い日没まではまだ時間もありますが・・・
そうだ、先程いた岩場に居るのかも。
アルラウネ殿も先程一緒に居たし、その確率が一番高そうですね。
まずはあそこに行ってみましょう.
伝言は・・・
「この一時を過ごせ」と「セイヨウタンポポです」
これで彼女の機嫌が直ってくれれば良いのですが・・・。
しかし、私もどうにか彼女を喜ばせられないですかねえ。
全く、女性の心は解りません。困ったものです。

417大擁炉の苦悩 駄作者:2007/03/12(月) 00:32:22
モレク視点でキープセレクの補完をしてみました。
初SSなのでツッコミ所満載でしょうがご容赦下さい。
感想、ツッコミお待ちしています。

418忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/14(水) 21:57:41
(`・ω・`)プロット等まとめてみたので投下してみようと思います
初SSなので変なところは簡便してくださいOTZ
大擁炉の素晴らしいと思います

419忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 21:59:42
これから語られるその物語
その物語を知るものいや記憶せしものは世界に2人
当事者でさえ知らぬその出来事を私が語ろう

420忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:03:53
何故であろう忘れたいのに忘れられない
忘れたいのに忘れられないその男
私に心を向けてくれなかったその男
何十年もの間戦い続けたあの男
圧倒的な力を誇り同胞を屠ったあの男
美しい炎の翼をまとい・・・私の心を惹き付けたあの男
私と共にあの方を育て上げたあの男
あの時・・・死んでしまったあの男
嫌な・・・そう本当にに嫌なあの男
・・・けど忘れられない
何故?わかってる私があの男を・・愛してたから・・・・

421忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:07:30
何故だろうあいつの言葉を聞いてから心を焦がし忘れる事が出来ないあの女
俺の宿敵であるあの女
俺の友である古竜を屠ったあの女
俺の愛した女の友であるあの女
美しき桜色の炎を舞わせ俺達と戦いそして倒したあの女
俺と共にあいつを育て上げたあの女
嫌な・・・そして不器用なあの女
何故だ?その答えは出ない、だが会いに行こうあの女の下へ

422忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:17:42
序章

炎の魔神は感じた
自分に語りかける声を
自分に対する親しみを
自分と同等の力を持つそいつの声を
死を司りしもののいつのまにか消えたそいつの声を
懐かしくも思い出せないその声を
何年?何十年?何百年?聞くことが無かったその声を
其れは数多の物語を作り数多の英雄を作り出したそいつの声を
炎の魔神の・・・友の声を

423忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:25:16
「・・・ル・・トール・・・アラストール・・・」

「聞こえるか我が声が・・・久しぶりだな我が友よ・・」

「むぅ?!誰だ貴様は!!我が心に入り込むとは何奴だ?!」

「そうか・・・忘れたか・・・我れが眠りし年月は我らが絆を奪ったか・・・」

「・・・友だと?眠りしだと?絆だと?!まさか・・・まさか貴様は・・・」

「我を忘れしものに用は無い・・さらばだ我が友よ今より我が徘徊を始めよう・・・」

「待て!!貴様は・・貴様は・・・ハディロスであろう?!貴様はあの時死んだのでは無かったのか?!答えよ!!」

「我を・・覚えていたか・・だが我が用はお主に対する挨拶だけ・・さらばだ・・我が友よ我を忘れてなかった事に感謝する」

「待て!!待つのだハディロス!!!」

「さらばだ・・我が友よ・・・因果の交叉路でまた会おう・・・」
声はそこで途切れた
そして物語は紡がれる・・・優しくも悲しきその物語が・・・

424忘却そして起こる奇跡:2007/03/14(水) 22:48:52
物語の始まり

ある酒場では酒を飲むに相応しくない嫌な空気が漂っていた
笑いながらも笑えず苦しく其の怒りが恐ろしくゆっくり酒も飲めず誰も席を立つ勇気が無い為店を出ることが出来ないのである
その原因であるヴィルヘルミナは悩んでいた
自分が養育したあの方がちゃんと戦っているか
あの方はちゃんと炎の魔神と一緒にいられているか
あの方はちゃんと好き嫌い無く物を食べているか等を・・・
「ティアマトーあの方はちゃんと戦っているでありましょうか?」
「心配無用」
「ティアマトーあの方はアラストールとちゃんと語り合えてるでありましょうか?」
「・・・・心配無用」
少し声に苛立ちが混じっているのは気のせいでは無い
だがヴィルヘルミナは続ける
「ティアマトーあの方はちゃんと好き嫌い無く食べてるでありましょうか?心配であります・・・」
何か切れてはいけない糸が切れる音がした
「心配無用!!沈黙要請!!!仕事怠惰!!!」
夢幻の冠帯の怒鳴り声が酒場に響き渡る。酒場の討ち手達がまた驚いたようにこちらを向く
「悪いのであります・・・少し心配で・・」
美しきフレイムヘイズが自分の相棒に子供の様にうな垂れながら謝る
「・・・沈黙破壊、謝罪」
ティアマトーは答えず酒場の客に謝る
同じような二人の子供のような様子に笑いをこらえる討ち手達はヴィルヘルミナの強さのせいで笑うことも出来ずに苦しんでいるのも気のせいではない
「悪いのであります・・・しっかり仕事をするのであります」
ヴィルヘルミナは書類に目を落とす
この頃世界に様々な不思議な出来事が起こっていた
そう有り得ない出来事が
ある者は大量のトーチが存在の力を回復し元の「人間」へと戻ったと語り
ある者は500年前討伐されし紅世の王の炎を見たと言えば
ある者は何かに違和感を覚えると言う
ある者は骸骨が歩き回っていたと話す
その全てが世界の各地で噂され様々な討ち手が体験したという
ただヴィルヘルミナ自身もその違和感を感じているのでこの噂の調査に乗り出したのであり
馬鹿馬鹿しいと思いながらその調査をしているのである
ヴィルヘルミナは骸骨と聞いてある出来事を思い出す
本当に嫌な奴であり・・自分の・・・
「関係無いのであります!!!」
「?!」
酒場の客もティアマトーも驚く
「あ・・・申し訳ないのであります・・・」
そして書類を見ているとあの方の事を思い出す
「ティアマトーあの方は・・・」
「・・・沈黙要請!!沈黙要請!!沈黙要請!!」
そしてこの迷惑な騒ぎは夜まで続くのである

425忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/14(水) 22:51:33
うー・・グダグダだ・・・
とりあえず文才が無いのでつまらないのは勘弁してください(つω・)ウウ・・・
つまらん と言われない限りがんばって続けてみます
スレを無駄に使ってすいません(つω⊂)ウワァァァン

426名無しさん:2007/03/14(水) 23:58:28
>>425
キタ━━(゚∀゚)━━!!
ヴィルもティアもかわいいよ(;´Д`)ハァハァ

427忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 11:10:38
続きを書いてみよう・・・
とりあえずカスなものなので許してやってくだしあ

428忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 11:22:32
続章

三者三様の足取りは
一つの場所で出会うだろう
其の物語を終わらせる為に



そこは熱帯のジャングル
だがジャングルに相応しくないソレが歩いていた
メイド服に風呂敷包みという現地の人間が見たら驚くであろう格好で
万条の仕手は歩いていた
「・・・暑いのでありますな」
「・・・熱帯」
500年前の戦で徒に恐れられた討ち手とは思えない声で歩くヴィルヘルミナ
「こんなところに本当にいるのでありましょうか・・・」
「不明、確認来訪・・・」
「そうでありますな・・・」
彼女の声にはまったく元気が無い
何故彼等はこんな奥地にいるのか、其れは噂の確認の為である
この奥地で500年前・・・様々なものが死んでいった戦で討伐されたはずの炎を見たという証言があったからだ
そう・・・様々な者達が・・
だが其れは置いておこう
そしてヴィルヘルミナは其の確認の為に着たのである
だが当のヴィルヘルミナはまったく元気が無くそれが暑くないはずのティアマトーの声の元気の無さの理由である


世界の誰もが気づかない
その有り得ないはずの出来事に
其れは嬉しき事なれど誰も気づかぬが為に
そう死人が蘇るという事に・・

429忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:37:56
三者三様の足取りの
集うこの不思議な村で
一人の女が到着した
物語を紡ぐ為に
まだ始まらぬ優しき悲しみの為に



「・・・アレは・・光でありますか?」
「光源確認」
「ふむ・・・こんな場所に集落があるとは・・調べる必要がありそうでありますな」
ヴィルヘルミナはそういうと其の場所に向かって足を踏み出した
・・・その違和感に気づかずに

「・・・?」
・・・・其の村は何かが変であった
普通の村と変わらぬ情景
旅人に対する歓迎
語り合う人々
だが何かを思い出す様な感覚
だが其れに気づかず歩き出すのは長旅の疲れのため
ヴィルヘルミナは近くにいたカップルに話しかける
「この痩せ牛!!今日は用事があると言ったろう!!」
と白面の美女が怒っている
「す・・すいません村の中心が壊れてきていたので設計を頼まれて・・」
気弱そうな若者が謝っている
そのカップルに話しかける
「・・・つかぬ事を伺ってよろしいでありますか?」
「っとすいません何でしょうか?」
若者が女性から逃げるように答える
「ここに宿場は無いでありましょうか?」
「ああ、ありますよ。そこの角の建物です」
「感謝するであります」
「いえいえ」
数瞬後怒りの声が聞こえる
「・・・痩せ牛?」
「な・・なんでしょうチャルノボーグ殿・・」
「私以外の女と話すとは何事だ!!」
そんな声を聞きつつヴィルヘルミナは宿へ向かう
500年前の宿敵と気づかずに
周りの人間が既に消えているはずの紅世の者共である事に気づかずに・・・
宿屋「とむらいの鐘」へ入っていく


ただ覚えるだけの辛き記憶よりも
忘却する事は時に優しい
だが大事なものを忘れ去るよりは
辛き記憶に耐えるほうがいいだろう

430忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:42:34
三者三様の足取りの
鍵となる王が到着した
其の村を作りし其の王が
物語を忘れ去らせる為に


深夜
物音がした
だが誰も気づかない
歩いているのは人ではない
炎と呼ぶべきか・・いやそんな生温いものではない
それは「焔」だが不思議な色をしていた
其の色は・・・蒼



蒼き焔が舞い降りる
有り得ない色を纏ながら
避けられない戦いが今始まる

431忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 11:59:41
三者三様の足取りの
最後の男が到着した
様々な色を纏いつつ
物語を守るためにやってきた



ヴィルヘルミナは謝っていた
勤勉そうな男とその男に寄り添う女性に
その訳はいつもの様に調べ物をしていたところ
酒の勢いで酒場の机を壊してしまった為
「・・・申し訳ないのであります」
「謝罪・・」
原因となる二人が謝る
「まぁ次から気をつければよかろう」
「そうそう今度からは気をつけてくださいね」
二人は優しくそう諭す
「本当に申し訳ないのであります・・」
「心底謝罪・・・」
この所の自分達の馬鹿な行為に幻滅しながら謝る二人
だがまた気づかない
女性が夫をアジズ と呼んだことに
そして彼等も違和感を感じない
目の前の女性のヘッドドレスから声が聞こえることに
その伝説の紅世の王と同じ名前を持つ者は
新たに着た客を出迎える
傲慢そうな顔で剣を腰に下げ
その主人に金を渡し部屋に向かおうとする
その仕草は少しだけ主人に対する敬意がこめられ
だが何気なく振り向く
そして驚愕の表情をした
そこにいた討ち手に
当のヴィルヘルミナは気づかない
「?・・どうしたのでありましょうか?」
「い・・いやすまない俺の知り合いと・・似てたものだから」
「ふむ・・?そうでありますか」
「ああ・・・すまなかった」
その男・・メリヒムに気づかずヴィルヘルミナは答える
そこに声が割って入った
「あー・・すまないがお二人さん」
「「?」」
「部屋が空いてなくて2人部屋になるのだが・・・」
「「な?!」」
「な・・何故でありますか?!困るのであります!!」
「そうなのか・・・他に宿屋を探そう」
動転するヴィルヘルミナと違いメリヒムは落ち着いて話す
「すまんが・・・うち以外に宿屋は無いんだ・・」
主人の言葉
「そうか・・ではヴィルヘルミナ・カルメル一緒の部屋でもいいか?」
「う・・・しょうがないのであります・・・」



片方は忘れ片方は記憶する
どちらが辛いのかと聞かれれば答えることは出来ぬ
だが物語りは終焉へと近づく
誰の記憶にも残らずに・・・

432忘却そして起こる奇跡:2007/03/15(木) 12:16:13
三者三様の足取りの
全てが揃いしその時に
破壊する者は現れる
入れるはずの無い領域に
物語の敵役として・・




何気ないやり取り
そのやり取りに驚く男を不思議に思いながらヴィルヘルミナは自己紹介をする
「私はヴィルヘルミナ・カルメル貴方の名前は何でありますか?」
「あ・・ああ・・俺の名はメリヒムという・・」
まるで諦めたように答える男を更に不思議に思いながらヴィルヘルミナは喋る
「夕食をもらってくるのであります。貴方はどうでありますか?」
「ああ・・俺はいらない・・ありがとう」
その言葉を聞いてヴィルヘルミナは頷き部屋を出る
その瞬間部屋の中の空気が変わった
「・・・お前か」
「お主を蘇らせたものにお前とは・・・酷いものよ」
蒼き焔が答える
「何故あいつは俺を忘れている?いや何故この村は・・・」
虹の翼は焔に聞く
「覚えていれば悲しみがあろう。お前はあの女を悲しませたいのか?」
蒼き焔は諭す
「・・・そうか、感謝する」
そしてその声が変わる
「一つ言っておこう2日後に奴が来る。そのときお前は消えるであろう」
「わかっている。ではこの生活を満喫しよう」
「ならば我は退散しよう世界の調和を守るが為に」
「ああ・・わかった」
そして焔は消えた



「・・・?いないのでありますか?メリヒム」
その声は静かな室内に響く
「先に入浴を済ませるでありますか」
「入浴無駄」
ティアマトーの言葉に反論するヴィルヘルミナ
「長い人生楽しみを作っても間違いではないであります」
「・・・」
呆れた沈黙
「むぅ・・とりあえず入ってくるのであります」
逃げるようにヴィルヘルミナは席を立つ
そして風呂場
前をタオルで隠した姿でいつもより楽しそうな表情で風呂に入るヴィルヘルミナ
だが表情は余り変わらないのは相変わらずである
「ふむ・・広くて入り心地がよさそうでありますな」
「・・・誰だ?」
「?!」
突如聞こえた声に驚くヴィルヘルミナを無視して風呂の中からメリヒムが立ち上がる
「?!な・・」
珍しく絶句するヴィルヘルミナと同じく呆然としているメリヒム
メリヒムはタオルをつけておらずまぁ・・・何も隠してない状態だった
数秒後
ジャングル中に響き渡る悲鳴と音高く打ち鳴らされる張り手の音が村に響いた

433忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/15(木) 12:18:05
@10話ぐらい書き込んだら終わらす予定です(つω・)ウウ
ダラダラと長ったらしくてすいません;;
では明日らへんにまた書きます(`・ω・`)

434名無しさん:2007/03/16(金) 00:58:16
超www
ヴィル×メリヒムラブラブ物語がいいw

435忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 22:58:36
三者三様の
足取り全て揃いしこの舞台
敵役も現れて
役者は揃いし物語
終焉の一歩手前の
狂ったこの日を楽しもう
其れが最後の日なのだから

部屋には異様な沈黙が流れていた
片方は怒りの表情
片方は困った表情
ただ共通するは何故か二人の顔が赤いという事
沈黙が続く。
その沈黙は、誤解を解くチャンスを消していた
しかしその沈黙は破られる
「・・・誤解修正」
紅世の王の声に二人は同時に声を出そうとする
「「あ・・」」タイミング良く声が合う
そしてまた沈黙は続く
紅世の王はもう仲裁を諦めた


その後誤解は解け食事を始めたもののやはりまだ気まずい
だが美味しい食事というものの不思議な魔力に操られ
二人の気まずさは消えていく
「・・・これはうまいのでありますな」
「ああ・・・うまいな」
だがしかし淡白な二人である為か二人の会話は弾まない
紅世の王は呆れていた



全てが寝静まり闇と沈黙と夢の世界
その夢の世界からメリヒムは起きて来た
「ティアマトー」
「・・・宿敵」
元・紅世の王は宿敵の王に話しかける
「お前は俺の事が解っているようだな」
「・・・蒼焔、蘇生」
驚きながらも口を開く
「・・知っていたか、頼みがある」
「・・何事?」
「俺の事をあいつに話さないでくれ」
「何故?」
「あいつに・・・あいつに悲しみを背負わせたく無い」
その切実な願いにティアマトーは簡単に答える
「受諾」
「有難う・・・感謝する」
「健闘」
其の言葉に先程よりも驚きながらも苦笑しつつ答える
「お見通しだな。では行って来る、・・・また朝会うか消えてくか・・・わからんがな」
「・・・再会期待」
「ああ、いってくる」
そして虹の翼は夜の村を飛び去った

436忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 22:59:59
ジャングルの闇の中暗い声が響き渡る
「・・・我等が怨念・・・晴らす・・・」
「この悔しさを」「恨みと変えて」「奴を倒そう」
「殺すうううう、奴をおおお」
「あいつを殺してやる!!」
「・・・この恨み晴らしましょう」
「其の通りだ痩せ牛」
「この苦しさを・・晴らしてくれる」
「我等が苦しさの代償に奴が命をもらおうぞ」
「めんどくせぇが俺を殺した恨みを晴らす・・」
十の声が響く
「いざ行くぞ・・・我等が敵の片割れと裏切り者の粛清に・・・!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
闇の中十の咆哮が響き渡る
そして・・・全ての色が混じり合った様な濁った・・・炎を吹きながら
その塊は動き出す
「・・・止まれ」
「何奴・・」
暗き声は答える
「盟主・・そして友よ・・済まない・・」
「裏切り者!!」
十の声は気づく
その男・・・メリヒムはその塊に立ちはだかる
守る為、そして紅世の魔神に言われ気づいた・・・愛する女の気持ちに答える為に
そして運命の戦いが・・・始まらなかった
蒼き焔によって
「お主の出番はまだ先である。戻れ」
「何を・・・?!ぐっ・・」
焔は両翼が一人を一瞬で気絶させる
そしてその塊に言った
「我が蘇らせしお主等とこの者の戦いはまだ先である退け」と
「裏切り者を殺す・・!!」
蒼の焔はため息をつきながらメリヒムを 飛ばした
1日だけの幸福を感じさせる為に
その先の悲しき運命の為に
そして言う
「ならば我が相手をしよう。ここならば誰も気づかぬ」
「オオオオオオオオオオ!!」
そして戦いが始まる
其れに気づくは世界に二人
戦技無双の討ち手の王と、紅世の魔神
そして蒼き焔は姿を変える
青というには生温く炎と言うには小さすぎるその力を
開放し、其れになった
蒼き焔を纏いし獣
草原の伝説であり
世界を蹂躙したその名に相応しいその姿
蒼き狼へ変貌した

対する黒き塊は
竜の姿に天使の姿、牛の姿に鬼の姿、蝙蝠の姿に石版となり三つの面を象る塊となり
様々な姿へ変貌する
そして静寂が落ちる
沈黙の中蒼き狼は足を踏み出した
そして戦いは始まった
物語には無い裏の戦いが
其れを語ることはあえてしない
だが結果だけど言うならば
蒼き焔の世界の国が一つ消滅し、残ったのは守った村と森だけであり、黒き塊は退いて行き、蒼き狼は勝利した
それだけである


物語は終盤へ
誰も知らぬ物語
運命を破れるか
破れる鍵は蘇りし虹の翼と美しきフレイムヘイズ
運命の扉をたたく音がする
開くのは時間の問題である
その結果がどうであろうとも・・・

437忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/17(土) 23:02:57
あー・・・色々見にくくてすいません・・・
こんな感じで書き上げようと思ってます(つω・)
初SSでこのまま見にくいのも嫌なのでどうか悪いところを教えていただけないでしょうか?
色々なSSを見慣れてるプロの手を借りないと何もできません(つω⊂)ビエエエン

438名無しさん:2007/03/19(月) 15:32:55
改行が多いかな、逆に見にくくなってる

あとは文章の基本的な書き方か
句読点つけるとか、改行後の一字さげとか

ググればそういうの教えてくれるサイトがあるから参考にしたほうがいい
ぶっちゃけここで聞くよりそういうサイトを利用したほうがよっぽどためになる

439忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/22(木) 09:36:00
参考にしますー
少し調べてから出直してきます(´;ω;`)

440名無しさん:2007/03/22(木) 19:07:56
頑張れー

441名無しさん:2007/03/23(金) 18:41:03
シャナ「ねぇユウジー」
ユウジ「・・・」
シャナ「ユウジってばー」
ユウジ「・・・」
シャナ「返事しなさいよ!」
ユウジ「・・・」

アラストール「こいつ、奴ではないな」

ユウジ「バブー」
シャナ「って、乳児かよ!!」

442忘却そして起こる奇跡の駄作者:2007/03/28(水) 19:35:08
メリヒムは起きた。宿屋のベッドで。だが何かが変であった。何かを忘れている様な感覚・・・
しかしその感覚は長続きしない。恐ろしい殺気のせいで。其れは強大なる紅世の王であるメリヒムを恐怖させる程の殺気
「・・・起きたでありますか」
静かな声が聞こえた
「さて・・・聞きたい事があるのでありますが」
静かな声、だが少々声が昂ぶっているのは気のせいでは無い
「な・・何だ?」
状況を把握出来ないながらも答えるメリヒム
「何故・・・私のベッドで寝てるのでありますか・・・?」
声がキレかけている
「ぬ・・・本当だな」
当たり障りの無い様に答えるメリヒム、だが其れが怒りに油を注いだ
「この・・・変態!!!さっさと出て行くのであります!!!!!」
宿屋中の人々が目を覚ました
街中を一組の男女が歩いている。見た目だけならば美男美女のカップルである。雰囲気とファッションを除けば、であるが女の方はメイド服、男の方は剣を携え古風な格好をしている。
二人は街中を歩くだが男が女に弱いのはどこの世界も同じか男は女に謝っている
「だからあれは俺も何であんなところにいたのかわからないんだ」
女ともう一つの声は反論する
「いた事には変わりないのであります」「言訳無用」
男は黙り込む。
街中は賑わっていた、露天をするもの、果物を売るもの、大道芸をするもの、そして二人と同じようにカップルで歩いているもの様々な人々が歩いていた。しばらく歩くと怒鳴り声が聞こえた
「てめぇ!!俺の服装が変だと?!いつもお前はうるさいんだよソカル!!」
「私はお前の服装が奇異の目で見られているので注意しただけだがどうかね?フワワ」
怒鳴っている男は虎皮にフンドシという服装。確かに人目につきそうだ、だが注意する男の服装を言えたものではない服を何重にも羽織ってまるで太い木の様な格好だった
「大体お前だってそんな暑苦しい格好で気持ち悪いんだよ!!」
「何?!私のこの服装はれっきとした・・・」
「何でこんな暑い中そんな暑苦しい格好してんだよ!!」
周りの人達のどっちもどっちという視線に気づかず二人は言い争う
「バカでありますな・・・」「同意」
「バカだな」
そう呟いてヴィルヘルミナとメリヒムは立ち去る
しばらく歩くと今度は不思議な二人組みがいた。片方は紙人形を操って客を驚かせていると思えば片方は木で出来た人形で周りを感嘆させる。どうやら商売敵であるらしい
「ふふふ、どうだこの見事な人形の舞。貴様には真似出来まい」
マントと帽子に全身を包んだ男が言うと
「ふんっそんな紙切れ等風が吹けばもっと綺麗に舞うのではないかな?オロゴン殿」
そう人形と共に軽業を見せる男は返す
「何だと?!いくら道士殿でも言葉が過ぎるぞ!!」
オロゴンと呼ばれた男は反論する
「所詮紙人形、赤ん坊でもそんな事は出来るでありましょう」
「うぬぬ・・・最早許せぬ!!2時間後広場で勝負だ!!」
最早商売そっちのけである、観客たちは「またやっているのか・・」という視線で見ている
それを尻目にヴィルヘルミナとメリヒムは歩く
更に進むと高齢の老人が占いをしていた。その周りに観客がいる訳でも無く別段大きい訳でもないだがその周りに店は無くその店だけがポツンと立っていた
「ふむ・・面白そうでありますな」
「よっていくか?」
「ならば占い代を出せば許すのであります」
「まだ許してなかったのか・・」
等と話しつつ二人は「イルヤンカ占い店」と書かれた店へ入る。中には店の主人と思われる老人が座って
「我が名はイルヤンカと言う・・さて我が店に何の御用であろう?」
重々しい雰囲気の老人に答えるヴィルヘルミナ
「この頃いい事が無いのでありますので何か憑いているのか不安になったのであります」
「ふぅむ・・・占いとは関係なさそうだが見てやろう」
そしてしばらくヴィルヘルミナを見ていると気恥ずかしくなったのかヴィルヘルミナが尋ねる
「ど・・どうでありますか?」
「お主には何も憑いてないな。ところでそこの男」
と、行き成り尋ねるイルヤンカにメリヒムが答える
「何だ?」
「どこかで会った事は無いか?」
「俺は・・・会った事は・・・無い」
少し苦々しげに呟くメリヒム
「ふむ・・我も耄碌したようだな・・済まなかった」
「いや・・気にするな」
「済まぬな・・お詫びに占い代はタダだ」
そう言うイルヤンカにヴィルヘルミナは答える
「感謝するであります。ですが罰としてこの男に払わせるので出来れば受け取ってほしいのであります」
少し意地悪そうに言うヴィルヘルミナにイルヤンカは笑う
「はっはっはっでは銅貨1枚でよかろう」
「有難うイルヤンカ」
「ではまた店に寄ってくれさらばだ」
そして二人は店を後にした

443名無しさん:2007/04/02(月) 14:37:07
文章中では一行でも40文字辺りで改行するとより見やすくなるぞ

444普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 15:11:35
それでは続きいきます。

445半分の月:2007/04/03(火) 15:12:43
彼女は大きな木の前に立っていた。
夜も完全に暮れ周りに人の気配は無い。彼女を照らすのは冷たい街灯だけ。
その身を漆黒の衣で包み、待ち人を待つ。
(今の僕じゃあ…答えられない…)
彼は自分の気持ちには答えてはくれなかった。それは仕方のないこと、悠二が決めること。
(あきらめなきゃ…あきらめな…きゃ…あきらめ…)
それでも心にあふれてくるのは、彼の声、彼の言葉。
目をつむっても見えるのは、彼のぬけた顔、怒った顔、泣いた顔、そして笑顔…
(出てきちゃダメだってば…)
自分の一番大切なもの。それが今彼女の心をしめつける、傷つける。
上を見る。この黒い空に逃げ出したい。いっそ溶けてこんでしまいたい。


「シャナ」


彼の声がした。

446半分の月:2007/04/03(火) 15:13:24
「遅くなっちゃったね」
彼は申し訳なさそうに言う。
「………」
彼女はなにも話さない。
「さっきはゴメン」
彼の謝罪の言葉。シャナは思う。
「いい…悠二が決めたことだから」
もう、この温かい隣には居られないのだと。
「あきらめる…から…」
我慢し続けていた涙がこぼれる。
坂井悠二はしゃがんで泣いている少女に目線を合わせた。
「シャナ」
二度目に自分を呼ぶ声。彼は笑顔だった。
その笑顔がまぶしくって。それなのに消えてしまいそうなくらい揺らいでいて…
見ていたいけど辛くて。恥ずかしくって…
下を向いてしまった。涙を流しながら。
「シャナ」
三度目、と同時に温かい…大きい物が自分を包んだ。
「僕はシャナが好きだよ」
「え…」
四度目には自分が一番欲しかったものをくれた。

「ほんと…に?」
「うん、大好きだよ」
また涙があふれた。さっきの悲しみの涙ではなく、もっと温かいところからくる温かい涙。
もう無理だと思った。そばにいられないのだと思った。
でもいられる。悠二の一番近くにいられる。
「悠二」
自分を抱きしめてくれる人を抱きしめ返す。
強い力で。
「だから…」
彼は自分を抱きしめながら口を開いた。
「君になら消されたっていい」
彼の抱きしめる力は弱かった。
今にも消えそうなくらいに…

447半分の月:2007/04/03(火) 15:14:14
「そんなはずない!!」
彼女は怒っていた。そして、それ以上に混乱していた。
「落ち着け!シャナ」
遠雷のような声が彼女をなだめる。
「悠二が消えるはずない!消えるなんて許さない!!」
彼が言っている意味がわからない。
「シャナ」
いや、本当はわかっている。
「僕は、できるなら…あと少しだけの時間しかないけど」
認めたくないだけ。
「君といたい」
彼がいなくなることを認めたくないだけ。


だから逃げ出した。
彼のもとから。
これ以上彼の近くにいれば、必ず自分は彼を殺さなきゃならなくなる。

空は黒い。
どこまでもどこまでも。
月が半分だけ白かった。

448半分の月:2007/04/03(火) 15:15:34
部屋にいるとき、ずっと考えていた。
僕がシャナに言わなきゃならない理由。
シャナは強い。きっと僕を消す。どんなに迷ったとしても。
彼女はフレイムヘイズだから。

きっとこれは僕のため。

決めた。
そして選んだ。
僕の残された時間を全部シャナにあげよう。
それが僕にできること。
大好きな人に一番したいこと。
自分を好きと言ってくれる人へ一番してあげたいこと。

彼女はどこかへ行ってしまった。
僕は自分勝手なのかもしれない。
だから待つ。
この「今」は彼女のための時間だから。

風が強い。
ビュービューと。
月が半分だけ黒かった。

449半分の月:2007/04/03(火) 15:16:32
彼女は御崎市ではないどこかにいた。
「…」
彼女は身を丸め、俗に言う体育座りと呼ばれる座り方でどこかのビルの屋上に座る。
「アラストール…」
「なんだ」
魔人が答える。
「アラストールはどんな気持ちだった?」
「…」
そのまま半刻ほど時間が経つ。
二人に会話はない。
「昔話をしよう」
もう半刻して魔人は口をひらいた。



遠い昔、一人の女フレイムヘイズと紅世の王がいた。
二人は顔が見えずとも、声しか聴けずとも愛し合っていた。

ある時、ある大きな戦が起こった。
その戦いはまさしくフレイムヘイズと紅世の徒の総力戦となり、戦いはもつれるにもつれた。

その戦いのさなか、女は敵軍の王に言った。
―私たちは自己満足が第一の酷いやつらだから―

女は王を倒すために身を自分の愛した男に焼かせた。

敵軍の王はうろたえた。
―愛し合って…いるのだろうが!!−
女は笑った。
―それは、別れない理由にはならないわ―

王は彼女に言った。
―これでよかったのか―
彼女は燃え尽きる前にこう言った。
―いいのよ、私は納得してるんだから―

敵軍の王が訪ねた。
―愛し合う者が、互いの生きる道を…なぜ、選ばぬのだ!!−
王は答えた。
―我らは、共に生きて、此処にある―



「…」
彼女は立ちあがった。
月はまだ空にいた。

450半分の月:2007/04/03(火) 15:17:14
どれくらいここにいただろうか。
いろんなことを思い出していた。
十年くらい前のこと、最近のこと、普通のこと、紅世のこと、そしてシャナのこと。
僕に残された時間はあと一日から二日というところだろう。
死ぬことが恐い。その気持ちは変わらない。
消えることが恐い。今だってそうだ。
でも僕は笑えた。
彼女を抱きしめながら笑えた。
生きることを諦めたのかもしれない。
でも僕はシャナと生きたいと願った。
残ったこの時間すべてを彼女に使いたい。
そんなことを考えていたら

―新しい 熱い歌を 私は作ろう―

空から歌が聞こえた。

451半分の月:2007/04/03(火) 15:18:01
―風が吹き 雨が降り 霜が降りる その前に―
知らない国の言葉だ。
―我が恋人は 私を試す―
でも知っている声。
―私が彼をどんなに愛しているか―
彼女の声から伝わる。
―どんな諍いの種を 蒔こうとも無駄―
言葉はわからなくても。
―私は この絆を 解きはしない―
このきれいな声は
―かえって私は 恋人に全てを与え 全てを委ねる―
きっと覚悟の声。
―そう 彼のものとなっても構わない―
歌がだんだんと大きくなる。
―酔っているなぞとは 思い給うな―
僕は空を見ている。
―私が あの美しい炎を 愛しているからといって―
月は相変わらず半分だけ。
―私は 彼なしには 生きられない―
白も黒も半分ずつ。
―彼の愛の傍にいて それほど私は―
歌が止んだ。
綺麗な紅い髪。赤い眼。
「あなたが好き」
彼女は笑っていた。
僕も笑っていた。

452普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 15:19:39
短くてすいませんが、今回はここまで。
続きは近いうちに書きます。
では

453普段お世話になっている者:2007/04/03(火) 20:16:40
書き忘れてました。
今回の投下はある作品をインスパイアさせて貰っています。
他作品をインスパイアしているSSが嫌いな方はスルーして下さいm(_ _)m

454名無しさん:2007/04/05(木) 02:08:09
すっげーーー!
まだここ稼動させてくれる人がいたのか!

455名無しさん:2007/04/05(木) 21:09:42
GJ!
にしても反応がないな…

456名無しさん:2007/04/05(木) 21:35:30
>>453さん
GJ!!です

457arere:2007/04/05(木) 23:46:07
まじで感動もんだ

458名無しさん:2007/04/07(土) 15:32:01
久しぶりに来たけどGJ!!

459名無しさん:2007/04/07(土) 21:56:35
ここ使ってくれる職人さんがいない中、このクオリティはマジGJ
続き期待してる

460普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:27:36
かなり遅くなった。
投下します

461普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:32:13
それから。
まずはパン屋へ。
「シャナ、そんなに真剣になってまで選ばなくても…」
「うるさいうるさいうるさい!!悠二は黙ってなさい!」
彼女の眼は、もはや少女の眼ではなく紅世の王と対峙するときと同じ…もしくは、それ以上の気迫を放っていた。
その気迫を直に受けるのは煌々ときつね色…いや、黄金色に輝きし二つのメロンパン。
ひとつは網目模様が芸術とも呼ぶにふさわしいほどの美しさを持つパン。
この網目メロンパンには燕麦という粉が入っており通常のメロンパンにさらに香ばしさとさらなるカリカリ感を与えるというものであった。
そしてもうひとつはシャナが好むにしては珍しい、ある技巧が施されたパンであった。
そのパンは通称『ツインカーリモフ』と呼ばれ、通常のメロンパンの中にパイ生地の層を挟むことにより、上段でのクッキー生地によるカリモフと中段でのパイ生地によるカリモフとの二種類のカリモフを楽しむことが出来るという夢のようなパンであった。
「メロンパンらしさを求めるならこっち…でも悠二と一緒に食べるなら…」

そうしていること一時間…

「決めた!!」
「やっと決まった!どっちにしたの?」
「どっちもおいしそうだからどっちも買う」

462安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:34:27
二人でメロンパンを食べながら歩く。
「ちょっと悠二!!食べ方が違う!!」
「えっ、でも前にシャナがこう食べるって…」
「違う!それじゃあカリカリの部分が先になくなっちゃうじゃない」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「交互に食べるの!ちょっとそこでみてなさい」
そう言っておいしそうに、うれしそうにメロンパンを口へ運ぶ。
そんなほほ笑ましい姿を心に刻みつけながら、毎日のように歩いていた道を行く。
通学路。
僕達は今、学校へ向かっている。俗に言う「お別れパーティ」のようなものである。
マージョリーさんが話してくれたのだろう、佐藤から朝電話がきて
「学校で急遽パーティをすることになった。理由は聞くな。昼に学校に来い!以上だ」
と一方的に言い放って電話を切られた。
「別に気を使ってくれなくたっていいのに」
とまあシャナがいる前ではカッコつけてみたが…
「悠二、顔」
やはりバレバレだったらしい。

463安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:36:50
パーティの方は、何のことはない、いつもの昼休みにちょっと豪華な料理と学校に持ち込めば一発で停学は免れないであろうジュースが加わっただけのものだった。
「さ、佐藤君…これはちょっとまずいんじゃあ…」
「こういうときは気にしちゃダメだってば」
「そうだよ吉田ちゃん。田中の言うとおり!停学が恐くて酒なんかのめるかぁ!」
「だけど教室でお酒なんて…」
「気にしなーい気にしない!」
二人はすでに出来上がってしまっているらしい。
「悠二、コレ何?」
「あー、チューハイっていうお酒の一種だよ」
「お酒…」
シャナは机に並んでいる缶の一つに手を伸ばし

くんくん

臭いを慎重にかいだあと

ガシッ

腰に手を当て、缶をしっかりと握り

ごきゅごきゅ

喉を鳴らしながら500ml缶を一気飲みして

「しゃ、シャナ!?」

そこからは地獄絵図…
「ゆうじぃ、ごはん帳 ぢ」
「ご飯って、目の前にお菓子があるじゃないか」
「やーや!えっとねぇ、おむらいす!」
「無理だってば!」
「悠二、作ってくれないんだ…ぐすっ…」
「そんな泣かれても…」
「シャナちゃん!坂井君が困ってます!」
「乳だけ女は黙れ」
「ひぇ!?」
「なんだ?この乳はぁ。こんなもんぶら下げてフレイムヘイズが務まるとでもおもっとんのかぁ!?」
「あうあうあうあうあうあう」
「吉田さんはフレイムヘイズじゃ…っていうかマージョリーさんは…」

ぐさっ

とまあこんな感じである。

そんなこんなで酔っ払い三人が教室でどんちゃん騒ぎを始めたころ。

「坂井君…ちょっといいですか?」

464安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:40:07
屋上
「マージョリーさんから聞きました」
小柄な、気の弱い少女がしっかりとした芯を持つ口調で話しをきりだす。
「私、ついさっきまで大泣きしてたんですよ?」
よく彼女の顔を見てみると眼の下に大きなクマができていた。
もう自分は何度彼女を泣かせてしまったんだろうか。
「私、ダメですよね。こうなることもわかってたつもりだったのに…受け入れて、それで覚悟だってしてきたはずなのに」
彼女は前もここで、自分のために泣いてくれた。好きと言ってくれた。
「だからダメなんです…抑えきれないんです」
こんなにも想ってくれている人に僕は何も返せないままでいいのだろうか。
「自分勝手でごめんなさい。無理だってことだってわかってます!でも…言わせてください」
彼女の声はすでに涙ぐみ、ところどころに嗚咽が混じっている。
自分は彼女になにか返すことはできないだろうか。
「生きてください…私と一緒にいてください…」
そんなもの、もう答えは決まっている。
「…ゴメン、吉田さん」
僕にはもう何もない。

「僕はシャナが好きだから」

この残った時間、体、心は彼女のものだから…
僕が返せるものなんてなにもない。

「そうですか…」
彼女はうつむき
「それでも私は坂井君が大好きです」
すぐに顔をあげて
「ずっと、ずっと大好きです」
その顔はまぶしい、太陽のような、女神のような笑顔だった。




その瞬間





「おや、場違いな時に出てきてしまったかねぇ」
強烈な、坂井悠二が感じたこともないような『死の気配』
「なに、問題はないさ」
そこにあるだけでもこの世のすべてを圧倒、いや消滅させるような存在感
「お迎えにあがりました。われらが盟主」
そんな威圧感を持つ4人の死神が茜色に塗りつぶされた空で笑っていた。

465安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:43:38
「なっ!?」
訳がわからない。
混乱しながらも頭の中のいつも冷静な部分が告げる。
―ここにいれば殺される―
なぜ、どうやってこいつらがこんなところに、なんてことはどうだっていい。
恐怖に震える脳みそを一括。少女を自分の背に隠し、必死に『生』への道を探す。

まずは生き残ることだけを考えろ。
逃げる。
そんなことはまず不可能だ。
十中八九、あの鎖かサングラスの死神に捕えられるだろう。
そうなればもうどうしようもない。
たとえフレイムヘイズであろうとあいつらに捕まれば生きることを諦める。
今度こそシャナたちに助けてもらうことなどできないだろう。

だから時間を稼ぐ。
シャナやカルメさんは‘壊刃’の攻撃を受けているはず。
『スティグマ』を無効化できるとはいっても刃による斬撃は防げない。
前回の襲撃では即戦闘可能だったカルメルさんでもおそらくここに来るだけでも最低5分。これだけは見積もらなければならない。
佐藤、田中のことも心配だが、シャナの存在の力を感じるのでおそらくは無事だろう。
震える膝に活を入れ、喋ることを拒否する喉を無理やり動かして叫ぶ。
「あのフレイムヘイズの包囲網をかいくぐって、僕に感知させずにここまで来るなんてすごいですね。いったいどうやってここまで来たんですか?」
相手が誇るであろうことを褒めるただの時間稼ぎ。小物相手ならこれに乗ってくれるのだが…
「すまんねぇ。いまはボウヤの時間稼ぎにかまってやれる時間がないんだよ」
三つ目の悪魔がそんな思惑を簡単に看破してしまう。
「僕をどうするつもりだ」
黙ってはいけない。話を途切れさせるな。
「言っただろ。俺達は我等が盟主を迎えに来ただけさ。」
「また僕に自在式でも打ち込みにきたと?」
「わかっているならおとなしくしていることが賢明というもの」
頭の冷静な部分が無自覚に答えを導き出す。

こいつが肝だ。

466安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:44:31
坂井悠二の存在の力は大きくなりすぎていた。
動物界で言えば象、自然界で言えば山。
‘壊刃’サブラクの特性は自らを拡散し探知不能の一撃を加えること。
動物界で言えば蟻、自然界で言えば石ころ。
前回、わずかながらも違和感を探知できたのは坂井悠二と‘壊刃’の存在の力が同程度であったからである。
しかし、王100人分もの力を保有してしまった彼にとってトーチ以下に薄い気配を探知することなどできようはずもない。
ゆえにここまでの接近を許した。

他の3人の王がどうやってここまで来たか。
それもすぐに思いついた。
‘祭礼の蛇’となっていた時の記憶にあるあの鍵。
‘非常手段’ゴルディアン・ノット
おそらく転送先を鍵サブラクの鍵にした、もしくは転送の受け皿のようなものを持たせていて、自分に近づいたときに発動させたのだろう。

そこまで考え付いたとき
「それじゃあヘカテー、まかせたよ」
三つ目の悪魔が死の宣告をつぶやき、青髪の女の子の形をした死神がこくんと頷いた。

467安息と絶望と…:2007/05/08(火) 20:47:46
まだだ、まだ早すぎる!!
「まってくれ!僕はどうなってもいいから吉田さん…この女の子だけは助けてくれないか!?」
「安心してください、用があるのはあなただけです」
死神が杖を自分に向ける。
間に合わない。カルメルさんが高速で向かってきているのを感じるがあと2分はかかる。シャナに動きはない。
初歩的な自在式しか使えない自分に逃れるすべなど皆無。
だがただ諦める気など毛頭ない。
(あと二分くらいの時間かせぎなら!)
存在の力はほぼ無尽蔵。マージョリーさんに貰った栞に込められた防御の式を展開、式に存在の力を通し発動させる。







いや、させようとした。






「ぐあああ!!!!」
瞬間、自分の根源、自らの存在が崩れるような。否、崩れていくことによる激痛が走る。
「無駄です。あなたの器はもう『あなた』という存在に耐えられない」
「が…はぁ…」
跪き必死に息を整えようとする。
しかし、時間が経てば経つほどに度合を増す痛みと、自分という存在が壊れていく絶望感と消失感に息を整えるどころか目を開けていることすらできない。
「安心してください。我等が盟主がその体に顕現すればその痛みはなくなる。あなたは紅世の王としてこの世界に永遠に留まることができるでしょう」
「そうして…永遠に…人が支配される様を…見せ続けられる…のか…」
息も絶え絶えに、目で精一杯の、紅世の王には蚊ほどもきにならない程度の威嚇の視線を送る。
「絶対に…ゴメンだ…!!」
「あなたの意見など問題ではありません。それでは…」
杖の先が自在式に包まれる。何もできない。
逃げることも、時間を稼ぐことも…死ぬことすらできない。
ただ目の前のあまりにも可憐で儚く、小さい少女を見上げ自分の体が違うものになることを受け入れることしかできない。
「さようなら」
その死神の鎌が自らを貫こうとしたとき。

「ダメええぇぇぇぇぇ!!!!!!
少女の絶叫と共に
「!!」
琥珀色の風が吹いた。

468普段お世話になっている者:2007/05/08(火) 20:49:17
今回はここまで

次はしばらく放置していた作品を片付けてからくるので1ヶ月以上かかると思います

では…

469名無しさん:2007/05/09(水) 22:10:46
まさしくGJ
すげぇ続きが気になりますわ
続きは一ヶ月後か・・・

470名無しさん:2007/05/12(土) 01:32:23
>>468さん
GJ!!です^-^
地獄絵図のところがウケタw
マターリ待ちます

471名無しさん:2007/05/19(土) 00:04:58
くぅ…早く続きを…職人サマ…

472普段お世話になっている者:2007/05/20(日) 11:32:30
本スレでも投下が全くないみたいなので、少し早いですが投下します。

473犠牲:2007/05/20(日) 11:37:32
宝具『ヒラルダ』
持主の存在の力を消費し、内に込められた自在式を発動させることができる。
ただし使うことができるのは人間の女性のみ。
ある一人の王がある女に与えた宝具である。
人間が使えば一度限りの自在法が行使できる。
自らの存在と引き換えに…

474犠牲:2007/05/20(日) 11:39:15
紅の少女は地に伏していた。
その炎はあまりにも突然に
その剣はあまりにも鋭く
その力はすべての存在を押しつぶした。
「シャナ!!」
真黒のペンダントが彼が発するであろう最大の声量と、今までで最も焦燥、危機感をごちゃまぜにした声で叫ぶ。
彼女は一瞬で教室すべてを飲み込んだその力の渦から二人の人間を助けるために、自分を守るために使うはずの夜笠を広範囲に展開
幾重にも二人がいる空間と自分の空間を包む。
しかし存在の力の総量で言えば『紅煉の大太刀』にも匹敵するであろう自在式の前に難なく突き破られ、焼き尽くされてしまう。
その数瞬。夜笠が突き破られ、焼き尽くされるまでの刹那に存在の力を集中、爆発。
以前の襲撃ではただ身を守るだけであった。しかし一度経験した技、ほんの少しの、例えそれが刹那であろうと、自らの防御を捨てたのであれば動くことはできる。
本来、この時間はこの攻撃の渦からの脱出、もしくは自在式の展開、発動に使われるべき時間。
しかし彼女がむかったのは、否。向かわねばならなかったのはその攻撃の最深部。
無論、二人を助けるためである。
「…がはぁ!!」
足の裏を爆発させ二人に体当たり。おそらく当たった方の腕の骨は粉砕されてしまっただろう。彼らは象の突進を受けたかのような声を出して飛んでいった。
彼女が確認できたのはここまで。そして彼女の体を無数の剣が襲った。

475犠牲:2007/05/20(日) 11:42:17
鎖が踊り、槍が飛ぶ。
剣が舞い、杖が下りる。
しかし風はそれらすべてを受け流し、暴れ、壊し、守り、歌う。
鎖は大きな風の前にまるで紙屑のように吹き散らかされ近づくことすら許されない。
槍のようなものが踊る風を捕えられるはずもなく、すべてが空を切る。
剣では逃げる風など追えようはずがない。
杖が放つはずの自在式は敵がどこにいるのか。否、どれが敵なのかがわからなければ当たるわけがない。
「くそ、紅世の色ボケカップルのかたわれが…!!」
「まいったねえ… まあこんな大きな式を長い間続けられるはずはないさ」
「ええ、もとより長い間続ける気もないであります」
メイド服に顔面を覆う仮面を付けたフレイムヘイズのリボンが4人の王を突き刺す。

476犠牲:2007/05/20(日) 11:52:50
「吉田さん?」
ふいに一つの存在が消えた。
少年のとても近いところで。
瞬間、琥珀色の風があたりを覆い、彼は何もない遠くのどこかへ投げ出された。
「へ?」
ちなみに今の彼はなんの存在の力も使えないただの人間である。
「うわああああああ!!!!」
飛ぶ、飛ぶ。落ちる、落ちる。地面が秒単位で近くなる。
(あっ、コレやばい)
半ばあきらめながら悲鳴を上げている少年を
「騒ぐなであります」
乱暴に、カエルを捕まえた時のように、足だけをひっ掴んで助けた者がいた。
「か、カルメルさん…ありがとうございます」
物のように扱われながらも命の恩人、礼をいうことを忘れないところが彼の良いところでもある。
「礼はあとであります」
「状況説明」
こくん、と頷き、頭を人間から機械へ
「僕を連れ戻しに4人の王がいきなり… 敵はサブラクと三頭柱です。 今は、たぶんフィレスさんが一人で戦ってます。 シャナは…たぶん傷を負っていてしばらくは動けないと思います」
「了解、おまえは弔詞の読み手のところへ」
「はい、わかりました」
そして、自らの不安を打ち消すように。確かめるように尋ねる
「吉田さんもそこですか?」
鉄扉面のフレイムヘイズは鉄扉面ながらもいぶかしげな顔をし、
「あの場からは他の人間は誰も…」
そして蒼白な顔となり
「まさか…!!」

そして彼は気づいた。
(僕は…吉田さんを…)
犠牲にして助かったのだと。

477お世話になっている者:2007/05/20(日) 11:56:27
短くてすいません。推敲もほとんどしてないのでおかしなところがたくさんああるかと思いますが…
早めに続きが投下できるようがんばります。
感想いただけると幸いです。
それでは…

478arere:2007/05/24(木) 14:35:16
楽しみにしてます。

479234:2007/06/19(火) 02:33:42
約4ヶ月のブランクを経て(殴)、再び投下します。
一応結末は頭の中にあるんですが、何だか上手いことまとまらないんです。
今後もこんな調子でダラダラと続きますが、良かったら読んでください。

480Back to the other world:2007/06/19(火) 02:35:27
〜78〜

マティルダは『コキュートス』をじっと見据えながら、その先の魔神に500年ぶりに語りかけた。
もっとも、その内容は、
「全く、あなたがついていながらこの体たらく、一体どういうことかしら?」
語り合う、というより、説教に近いものであったが。
「むっ、なっ、何を・・・?」
問い詰められた“紅世”真正の魔神“天壌の劫火”アラストールは、状況が飲み込めないまま、訳も分からず返事をしていた。
その間抜けな言葉に、マティルダは、はぁ、と大きくため息をつくと、
「・・・まぁ、今回はたまたま“本物”だったからよかったけれど」
腰に手を当てて、顔をシャナの胸元に近づけ、
「これがもし“徒”の罠だったりしたら、どうするつもり?」
ジロッ、と刺すような眼光で“コキュートス”を睨み付けていった。
「なっ、ななななななっ」
迫ってきたその姿に、アラストールは完全に圧倒されていた。
もはやその声からは、“紅世”にその名を轟かす魔神の威厳などは、微塵も感じられない。
「ヒーッヒッヒッヒ!!なんてぇザマだよ“天壌の劫火”の野郎!!こりゃ〜笑いが止まらねえぜ、ヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
アラストールの普段の態度とのあまりのギャップに、マルコシアスは“グリモア”をガタガタ揺らしながら爆笑した。
その笑い声に、悠二も釣られて噴出しそうになった。
「ア、アラストールの、あ、あんな風になってるとこなんて、は、はじめて見た・・・プッ」
そんな、ふと緊張感が抜けた場の雰囲気に、マージョリーは改めて釘を刺すように言った。
「笑ってる場合じゃないでしょ。いつまでチビジャリ達を混乱させとくつもりよ」
「あっ」
「あいつらにこの状況を説明できるのは、ユージ、アンタだけなのよ」
「そ、そうだった」
マージョリーに促され、悠二はその場から立ち上がった。
そして、いまだ張り詰めたやり取りが続いているところへ、恐る恐る声をかけた。

481Back to the other world:2007/06/19(火) 02:37:25
〜79〜

「あ、あの〜皆さん、とりあえずこの状況、僕が説明しましょうかわっ!?」
突然、悠二は右腕を物凄い力で引っ張られた。
「わぁぁっ!?」
「!?」
悠二の身体は宙を舞った。
その時、シャナは初めて、悠二と目の前の女性との間にある“何か”に気づいた。
(あれは・・・ヴィルヘルミナの、リボン?)
一体なぜ、と考えている間に、
「っ痛!?」
悠二はドスン、としりもちをついた。
そして、彼の首元にかざされたのは、紅蓮の大剣だった。
「ひっ!?」
「なっ!?」
一瞬の出来事に、シャナが呆然としていると、
「本当、甘ちゃんもいいところね」
悠二を捕らえたマティルダが、シャナに冷ややかな目線を送った。

突然の事に意味が分からない悠二は、もがきながら問いただす。
「ま、マティルダさん、一体どういうつもりですか!?」
と、
『黙って聞いてなさい!!!』
『っ!?』
マティルダの大声が頭の中にガンガン響き、思わず悠二は悶絶した。

紅蓮の大剣を手にしたまま、マティルダは語りかける。
「せっかくこうして、生き返ることが出来たってのに」
目線は、もう一つの紅い双眸に向けられている。
緩やかな目つきだが、その瞳はとても冷たく見えた。
それは相手を思いっきり侮辱した、見下したものだった。

「でも、会えたのは、腕のすっかりなまったへなちょこフレイムヘイズと、思いっきり名前負けしてるただのガキンチョだけだったなんてねぇ」

「!」

シャナはこれまで、浴びせられる罵声に応える余裕すらなかったが、
「・・・・今、何て?」
とうとう、下を向いたまま、ゆっくりと聞き返した。
「何、もう一回聞きたいっての?そろいもそろって三流ねぇ」
マティルダは、容赦なく畳み掛ける。

と、無意識のうちに『贄殿遮那』を引っつかんでいたシャナが、
「私の誇り、全てを馬鹿にするなんて・・・!!」
足元から紅蓮の爆発を起こすと、
「許せ、ない!!!」
刺突の構えで、
「やあぁぁぁっ!!!」
マティルダに向けて突進していった。

482名無しさん:2007/06/19(火) 21:23:45
うはw偶然覗いたら丁度、今日更新されたところだったwww ・・お祝いにパン屋でメロンパン買って来るかなw

 このスレをハケーンした当日中に>1〜478全部読んだ漏れはシャナ中毒か?
(コミックとSS以外、見てないのでアレだが)

483名無しさん:2007/06/19(火) 21:27:31
途中送信しちまった・・しかもsage入れる前に _| ̄|◯
Back to the other world 著者、犠牲ete著者サヌ、超GJ!  & トンクスです!
全話とても面白く、大変読み応えがありますたm(_ _)m

484名無しさん:2007/06/22(金) 23:13:28
ここって保管庫ありますか?

485名無しさん:2007/06/23(土) 01:24:31
ないと思われます。
どなたか保管庫を作成していただけるとありがたいのですが(他力本願でゴメンナサイ)

486名無しさん:2007/06/30(土) 21:11:17
作った場合って勝手に載せちゃっていいの?

487名無しさん:2007/07/02(月) 20:36:56
いいんじゃないですか?

488名無しさん:2007/07/13(金) 18:55:48
じゃあ、夏休みに入ったら時間があるので作っておきます

489名無しさん:2007/07/14(土) 12:49:01
いやあかんだろ
一応こういうのにも著作権が生まれるらしく、無断転載は駄目なんだぞ

490名無しさん:2007/07/14(土) 19:07:54
掲示板に張ってあるくらいだから集めて公開しても問題ないんじゃないか?

某所でも保管所作ってるが特に問題ないし

491名無しさん:2007/07/14(土) 19:47:06
みんな潜伏してるんだな

じゃ、作るのやめとく

492名無しさん:2007/07/15(日) 00:49:50
>>490
某所の保管人とここの管理人とA/Bシャナ辞典の管理人は同一人物

ここの掲示板に張ってあるものを転載するならSS保管人氏にやってもらわないとね

493名無しさん:2007/07/15(日) 01:45:20
ぉk
このスレのSS投下を待って潜伏してるヤツが沢山いることがわかった。

とりあえず保管所はもう少しSSの数が増えてから考えないか??
今の投下量じゃあ作っても無駄になるかもしれんし

494名無しさん:2007/07/17(火) 06:24:56
おはよう御座います。SSを書いたので投下してみますね。
未熟者ですが、その点は御容赦下さい
m(__)m

タイトルは「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」

495「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」1/8:2007/07/17(火) 06:25:28
――御前市の地平線が斜めになっていく。
街もビルも、鎮守の森も緑地も御前川も、はるか遠くミニチュアのようになって傾いていく。
坂井悠二は顔を仰ぎ、炎が流れゆく軌跡を見ていた。
いまは夕暮れ時。頂天の漆黒の帳と、群青色の仰いだ空と、
右手に見えるオレンジ色の夕焼けの光が、
幾重ものグラデーション層をなしていた。


坂井悠二は、彼を抱えて、背中から炎焔の羽を広げている少女を見上げた。
アミューズメント施設の景品のような人形サイズの、ちびっこい女の子だ。
「しゃな……そんなに飛ばさなくても、逃げたりはしないよ」
「うるちゃいうるちゃいうるちゃい!! 早くしないと手遅れににゃるの」
しゃな、と呼ばれた少女の視線は、ただ一点に向く。
彼女の意志の指す方へと。


悠二としゃなは、南を目指す。
オレンジ色の太陽光と十字に交わるように、炎の帯が突っ切っていく。
斜めに傾く街の地平線を、日没の時間を、真一文字に切り裂いていく。
悠二としゃなが、切り裂いていく。

いくら想いが乱されようと、しゃなの意志は向くほうへ向く。
いくら運命に廻されようとも、しゃなの意志は天極をさす。

496「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」2/8:2007/07/17(火) 06:26:31
「めろんぱんめろんぱんめろんぱんにゃの!!」
御崎町から電車で二駅行くと、御崎南駅というのがある。
そこの駅ナカに、パン屋『ワンダリング・ハーミッツ』があるのだ。

電車の来るアナウンス音が、夕暮れの中で、物寂しく切なげに響く。
通勤客を迎え入れる町の優しい空気と、
都心の生温かく孤独な臭いが交錯した、駅の無機質な臭い。
どこにでもある、ベッドタウン特有の駅の姿だ。


しかし、その南改札口を出て右に曲がったところが、
他の駅とは違うところであろうか。
人の列が、扉の外までざわざわと伸びているのだ。
臨時に雇われたらしき警備員が、「きちんと並んでください」と大声を上げていた。

「すごい大行列だねえ、しゃな。あきらめようか」
「ふざけにゃいで、めろんぱんが食べられにゃくなるじゃない」
そう言って、彼女は懐から広告チラシをがさがさ取り出した。
こんな小さい体のどこに入っていたのか。受け取った悠二は目を通した。
「えっと、なになに……本日、店舗のリニューアルにつき、商品の大売り出しを致します。
目玉は、夕張メロンの初物をふんだんに使った、特製メロンパンです。
売り切れ必至、是非いらして……」


しゃなが、悠二の横から広告を取り上げた。
そしてセーラー服の中にしまった。こんな小さい体のどこに入るのか。
「このお店、すごく美味しいって有名にゃの。
東京や関西からも買いに来る人達がいるわ」
「うん、聞いた時ある。お母さんも時々、ここのパンを買って帰るよね」

外のガラス越しから二人は、人、人、人で、
どやどやごった返す店内を見ている。
「いつも甘くてカリカリモフモフの美味しいめろんぱんが、
もっと美味しくにゃるのよ? いま行かないで、いつ行くのよ」
「わかったから髪を引っ張らないでくれよ、痛いよ」

行列はあと十分もすれば入れそうだった。しゃなが横から耳打ちした。
「いい、ゆーじ? 開店したらすぐ、めろんぱんコーナーに行くのよ? バケット売り場の隣にあるから」
「分かったよ。でもまず、よだれは拭こうね。
僕の制服にだらたらって掛かっているから」


どんどんと列が進んでいくのが分かる。扉まであともう少し。

497「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」3/8:2007/07/17(火) 06:28:47
二人が扉の前に来たとき、店員が一枚の紙を貼りだした。
しゃなは、声に出して読んでみる。
「『全品売り切れのため、本日の御入場はここまで終了です。
御足労頂いたのに大変申し訳ございません』、……って閉店じゃないのよ」

ぷるぷる震えだすしゃな。悠二が慰めるように言った。
「こんな混雑だったんだもの、仕方ないよ。また次回にしよ――」
「どうすんのよあたしの限定めろんぱんが売り切れなのよせっかく急いで来たにょよ並んだにょよ」

「仕方がないさ、しゃな。コンビニのメロンパンを買うから機嫌を直してよ」
「ばかばかばか。カリカリの甘さもモフモフの食感もないメロンパンなんていや、いやったらいやなの!!」
「分かったから……頸動脈を絞めるのは止めよう……僕の命まで大売り……出しに……なっちゃう……よぅ」

人形のような少女は手を離し、
「ゆーじのばかばかばかばか」と
泣きながらぐずりはじめた。

咳き込んで落ち着いた悠二。とりあえず周囲の目に顔を赤くしながら、
彼女をなだめようと動き出したときだった。

店の扉が開いた。そこから出てきたのは、
大きな紙袋を、大きな胸の谷間に挟んでいる女の子だった。
「あれ? ゆかりちゃんに坂井くん、どうしたの?」
彼女は悠二達のクラスメイトだ。
才気活発で可憐な容姿という評判で、同級生からの人気が高い。


「吉田……さん」


彼は、彼女の名を呼んだ。

498「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」4/8:2007/07/17(火) 06:29:58
「坂井くんのことを考えたら……つい学校帰りに、ね。
二人よりも速く来ちゃったみたい」
「学校まで十キロもあるのに、凄いよ。
ポーラ・ラドクリフや野口みずきも真っ青なタイムだよね。
オリンピックで金メダルが取れるかも」
「いやだあ、そんなに褒めないで。恥ずかしいよ」

吉田さんの持つ紙袋から、ふんわり甘く香ばしい匂いがした。
しゃなは、ひくひく鼻を動かした。
「あっ、めろんぱんの匂い!!」

小さい彼女は、紙袋に突進した。さっと闘牛士のように紙袋を払い、
吉田さんは人形のような少女の特攻をかわした。
しゃなはゴミ箱に、どんがらがっしゃんぶち当たった。

それを空気のように無視して、吉田さんは悠二に言った。
「最近評判だから、いくつか買ってみたの。坂井くんも、どうかな?」
「ちょっと吉田さん! しゃなが燃えないゴミ箱に!!」
「あの子は燃え切れない所があるよね……悩みでもあるのかしら?」
「そうじゃなくて言葉通りだよ、ゴミ箱にしゃなが突っ込んだよ、自分の言動を一致させようよ吉田さん」

ゴミ箱をみると、しゃながむくむく起き上がってきた所だった。
服に付いたビニール袋を払いつつ、
それでも視線は吉田さんの紙袋から外さない。

「いちち、ブラックガムが髪に付いて取れにゃいのよう」
「え? ブラックって、ゆかりちゃんの心が?」
「ガムって単語をちゃんと聞こうよ吉田さん!!」
自分の事を気持ちよく棚に上げて、彼女は紙袋に手を入れた。

おっぱいが気持ちよく揺れる。
悠二はあさっての方向に顔を向けながら、
視線だけは彼女の胸の谷間をちらちら追っていた。

「そもそも食べたいならそう言えばいいのに。好きなだけあるから……」
吉田さんはメロンパンを取り出した。
網目模様がくっきり炳焉と焼き付く、ふかふかパンだ。
よだれだらだらのしゃなを彼女は見る。
心なしか、意地悪そうな表情に変わった気がした。

そしてぱくりと食べた。吉田さんが。
『ワンダリング・ハーミッツ』のメロンパンが一つ、
巨乳少女の胃袋に収まった。


「わたしが代わりに食べてあげる」

499「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」5/8:2007/07/17(火) 06:30:57
何ということだろう!!
しゃなと悠二は、目の前の光景が信じられなかった。

「一つあげるよ」と普通は言うところだろう、常識的に考えて。
そう悠二は言いたかった。

「ちょっと、ちょっとちょっとちょっと。どうしてあんたが食べんのよ? 
意味分かんにゃいよ」
「吉田さん、少し不謹慎じゃないかな。ひとつ分けてあげてよ」

「御免なさい坂井きゅん」
吉田さんはうつ向いた。胸の大きい谷間が、悠二の目前に迫った
「ゆかりちゃんは、メロンパンばかり食べているから、小っちゃいままだとおもうの。
だから大きくするために、心を鬼にしなきゃって」

「別の意味ですごいよ吉田さん、君はほんとに鬼だよ。あと胸が……近いよ」
「ごめんなさい坂井きゅん。貴方のことを思うと……大きくなっちゃった。ゆかりちゃんよりもずっと、貴方を想っているから」

そこへしゃなが、吉田さんの頭を掴んだ。
「さっきから聞いてると何よ? 
正直うざったらしいのよ。メロンパンちょうだいよ」
「何するのゆかりちゃん。頭をぽかぽか叩くなんて信じられない」
「信じられないのはどっちよ? 
このこのっ、メロンパンあげるっていうまで離さないんだからあ」

吉田さんはがっしりと、小さいしゃなを掴んだ。
離してよ離してよとわめくしゃなを、
釣り込み腰で豪快に投げ飛ばした。
しゃなは、ペプシコーラの自動販売機へとそのまま激突した

「わたしは、ゆかりちゃんが大好きなの。貴女のためを思ってやっていることなの。
どうかわたしの気持ちを分かって」

『大好きなの』と言いつつ、恋のライバルを投げ飛ばすのが
吉田さんスタイルだろうか。
とりあえず悠二少年に出来るのは、背を向けて逃げ出すことだった。
ごめんよしゃな、僕は自分の命が大事なんだと呟きながら。

が、そうは問屋が卸さない。
「坂井きゅんも、この気持ち……わかってくれるよね?」
回り込まれた。もうお終いだ殺されると悠二は天を仰いだ。
駅の染みだらけの天井しか見えないが。

その瞬間、世界が灰色になる。
生活感に満ちていたはずの駅構内が、凛冽と急速に死んでいく。
音も、肌触りも、匂いもない空間と化していった。
他の人間の姿が消え、しゃなと悠二と吉田さんだけになる。
この世に跋扈する存在、『紅世の徒』と対峙するための場所へと変わったのだ。
しゃな達が『封絶』と呼ぶ空間へと変わったのだ。

「ゆーじに手出しはさせない、
めろんぱんとアラストールと千草ママとフレイムヘイズ達の次ぐらいに大切だから」
「笑止ね。わたしは何よりも誰よりもいつまでも坂井きゅんが大切よ。
この気持ちだけは大切にしたい」
御崎南駅で、しゃなと吉田さんの戦いが始まる。

500「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」6/8:2007/07/17(火) 06:31:45
二人は自動改札口で対峙した。
しゃなの持つ名刀『贄殿遮那』が、改札機と改札機に阻まれ、存分に振るえない。
「狭いところはずるいの」
「御免なさい。わたしは、どう戦ったらいいのか分からないから……」
この世の事物を、存在ごと断ち切るはずの名刀を、
吉田さんは金属製のペンケースで軽々と受け止める。

「わたしは、ただの人間だから……ゆかりちゃんほど強くなれない」
「ペンケースで戦える人に言われたくにゃいの!!」
しゃなは改札機の上に立ち、跳躍した。紅蓮の双翼を広げ始める。
逆に狭い立ち位置にいる吉田さんは不利になるはず――
しかし胸の大きい少女は冷静に、左手で学生鞄をまさぐった。

取り出したのは、キーホルダーをたくさん止めてある、
ラメの入ったチョーカーだった。
チョーカーのリング部分を飛ばし、いままさに羽を広げようとしているしゃなの足に引っかけた。
さながらカウボーイの投げ縄のように、小さい少女の足に投げ掛けて、改札口に引っぱり倒した。

「むぎゅう!!」
「飛んだら有利になる……先のことを考えすぎて、
意識がお留守になるのが、ゆかりちゃんの弱点だと思うの」
ICカード読み取り部の上に叩き付けられ、腰をさするしゃな。

また吉田さんは鞄をまさぐり、今度はソーイングセットを取り出した。
左手で器用に開き、待ち針と糸を出す。

「貴女には、これで十分よ。
坂井きゅんとの甘々タイムを邪魔しないように、縫い止めてあげるわ」
吉田さんは、しゃなを掴み上げた。
可憐な少女の握力に、小さい少女は苦悶の漏らし声を上げる。


絶対絶命、そう悠二には思えた。しかししゃなは諦めない。

501「一つ一つの焔火、残映茜のめろんぱん」7/8:2007/07/17(火) 06:33:29
吉田さんの手の中から、炎が轟々と上がった。
「きゃっ?」
あまりの熱さに、彼女は思わず手を離してしまった。

「わたしのペンダントには、アラストールがいる。
それを知らなかったのが、あんたの誤算ね」
《人間に、紅世の業火を使うとはな……長く生きていると、不思議なことばかり体験する》
ペンダントから声がした。審判と断罪を司る紅世の王が、
しゃなの首飾りに宿っているのだ。

「アラストール、あれを人間と思っちゃ駄目なの。
おっぱいが大きい徒だと思えば、戦いやすくなるの」
《もはや化者扱いだな》
「ひどい、ひど過ぎるわ。わたしはただ、ゆかりちゃんのために頑張っているのに……
どうしてこの気持ちが通じないのっ?」

もう、何も喋るな吉田さん。
彼女以外の全員がそう思った。そして誰も言えない、恐いから。


次の行動を起こしたのは、しゃなの方だった。
吉田さんが話に寄っている一瞬の間に、彼女の横をすり抜けた。
そして振り向きざまに紅世の業火を放った。
「もうこれでお終いね。鞄の中に入ってるめろんぱんは惜しいけど……」
世界と事物を認識する絆を燃やし尽くす焔の玉が、
胸の大きい少女に迫った。
しかしここで諦めたら、しゃなの恋のライバル失格だ。
吉田さんは、学生鞄に両手をかけた。
改札機の間なので横には振れない。なので――縦に振り上げた。


信じられなかった。あらゆる紅世の徒を焼き尽くしてきた炎が、
人間の学生鞄で弾き返されたのだ。


「えぇぇぇ――っ!?」
吉田さん以外の全員が疑問を呈する声を出す。
炎が天井に到達し、そのまま空へと飛んでいった。
「坂井きゅんのことを考えたら、何でもできるの。炎を鞄で打ち返すことだって、恋の力で可能なの」

いや、その理屈はおかしいよ吉田さん。
本人を除いて全員が思ったが、何も言えない。恐いから。

吉田さんは左手を離して、鞄の中に手を入れた。
今度はデコリシールが出てきた。
手帳やマスコットに貼って、デコレーションをするシールだ。

パンダのシールと星のシールの二枚をはがし、
驚愕の解けぬしゃなに放った。
この意趣返しに、小さい少女ははまった。
シールが彼女の両目に張り付いた!
「!?」
べりり剥がした。

――目の前に吉田さんがいた。

しゃながシールを剥がす一瞬の間に、走り寄ってきたのだ。
学生鞄を振り上げた。
しゃなは贄殿遮那で、足下から切り上げようとした。その時だった。





しゃなの目の前に、悠二の左手が見えた。
吉田さんの目の前に、悠二の右手が見えた。

三人の中心から、灰色の空間が色鮮やかになっていく。
音が蘇ってくる。世界の封絶が解けていく。
一斉に通勤帰りのサラリーマンや学生が押し寄せてきた。
アメリカの安いソープドラマのように、三人は人の波に押しつぶされた。

「むぎゅうにゃの」
「これが坂井きゅんの愛の重力だと思えば平気……でも坂井きゅんは、こんなに汗ばんだりしない」
「ちょっとしゃな、いきなり封絶を解かないでよ。って、人並みにぎゅうぎゅう踏まれてるんだ――」

通勤客の流れに飲まれながら、アラストールは静かに惟る。
《ふむ、なにゆえに世界が蝉脱されたのか。
二人の鞘当てが止んだのか。なんとも風致玄趣な様であるな》

そしてしゃなと吉田さんと悠二を見た。
《『いのちある木草のあはれ季くれば』……か。
はて、下の句を忘れてしまった》

502「一つ一つの焔花、残映茜のめろんぱん」8/8:2007/07/17(火) 06:35:11
「はい、メロンパン。たくさんあるから好きなだけ食べて」
人通りの少なくなった河川敷を三人が歩いている。
しゃなのペンダントには、宿主のアラストールが静かにしている。

「いいの……? もう食べたりしない」
「大丈夫よ、ゆかりちゃん。大きくなれない、なんて嘘を言ってごめんなさい。
考えてみれば独り占めなんて、わたしらしくなかったの」

じゅうぶん貴女らしいよ。とは誰も言わない。
彼女と争うことがいかに無謀かは、ここにいる誰もが知っている。


しゃなは紙袋からメロンパンを取り出した。
夕張産のメロン果汁を豊富に使用した、高級パンだ。
「いっただきまぁっす」
よだれをだくだく垂らしながら、しゃなはかじりついた。
「カリカリモフモフしひぇるぅ。美味ひぃっ」

悠二が伸びをした。
「じゃあ、もう争わないよね。二人には仲良くなってもらいたいから」
「それは別よ、坂井きゅん」
「今日は一時休戦しただけにゃのよ、ゆーじ。ふざけたことを言わないで」
「しゃな、パンを飲み込んでから話してよ」
吉田さんを見ると、彼女は微笑んみながら、しゃなの頭を撫でているところだった。


「『燃え上がる炎ほむらを背負いつつ永遠に火となれぬ口惜しさ』ね、ゆかりちゃん」
「にゃによそれ、『あんたの気持ちはお見通し』ってこと?」
「さあねえ、知らないなあ」


「やっぱいま決着を付けるわよ、ゆーじは止めないで」
「あらあら、ゆかりちゃん? ボコボコにしてやんよ」
「ちょっと二人ともストップ、ストップだよ」


午後六時の河川敷を、子連れの主婦達や
運動部員らしき中学生達が、すれ違っていく。
サッカーに興じている学生達の声が、遠くからしていた。

ふと、アラストールが呟いた。しゃなにも聞こえない。
《思い出したぞ、『いのちある木草のあはれ季くれば……
追はるるごとくつぎて花もつ』であった》

もうすぐで夜になる、ぎりぎりの時間になろうとしている。
家へ帰る頃には、月が半分のぼっている頃だろう。
しゃなと吉田さんが言い争いをしている。
それを悠二が仲裁に入ろうとしている。

《一つ一つ花たちが瑞々しく開く、なんと心動かす様であることよな》

アラストールの宿った首飾りが、夕光をうけて、
きらり瞬いた気がした。




503名無しさん:2007/07/17(火) 06:41:16
以上です。お目汚しですスマソです。
しゃなたんと、黒吉田さんのバトルを、無性に書きたかったのです。
戦うと強そうですよね、二人は。

なぜかドラゴンボールでいう、悟空とベジータの関係のように見えてきて困りますw
( ´・ω・)

504名無しさん:2007/07/18(水) 18:21:42
>>494さん
GJ!!やはり吉田さんは真っ黒が似合うwww

にしてもそろそろ犠牲の続きが読みたくて仕方がない…
頼むから書いてくれ!

505名無しさん:2007/07/22(日) 11:54:07
>>503
GJ!
>「ゆーじに手出しはさせない、
>めろんぱんとアラストールと千草ママとフレイムヘイズ達の次ぐらいに大切だから」

しゃな・・・。

506名無しさん:2007/07/22(日) 22:43:12
>>503
GJ!
笑わせていただきましたw

507名無しさん:2007/08/13(月) 01:13:04
うぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ(ry
>>476>>481 の続きはまだでありますかぁぁぁぁ  (禁断症状w)
どっちも超良作なんで読みたくて読みたくてしょうがNeeeeeeeeeeeee

508名無しさん:2007/08/22(水) 12:11:39
>>503
始終ニヤニヤしっぱなしで詠ませて貰いますたw 吉田さんの黒さがイイカンジですよぉぉ(*´Д`)

ごちそうさまでしたm(_ _)m

509234:2007/09/11(火) 17:04:02
再び投下します。
終わりは頭の中にあるのに、どんどん長くなってしまう・・・(泣)

510Back to the other world:2007/09/11(火) 17:24:54
〜80〜
迎え撃つマティルダは、大太刀を手に迫る小さな姿を、じっと見つめている。
「・・・短気な子ねぇ」
マティルダはつぶやいた。
次の瞬間、
「はぁっ!」
怒りに震えるシャナが、刺突を繰り出した。
しかし、マティルダは悠二を抱えたままヒラリと身をこなし、攻撃を難なくかわした。
「なっ!?」
そのあまりに綺麗な体さばきに、思わずシャナは声を上げる。
その一瞬の隙を突いて、
「どこ見てんのよ」
マティルダはシャナの後ろに回りこんだ。
「!?」
慌ててシャナは体勢を変える。
と、向き直った方角から、紅蓮の炎弾が迫った。
「くうっ!」
すかさずシャナは一太刀浴びせる。
バシュ、という音とともに、炎弾は細かい火の粉となって消えた。
「・・・まだ来る!?」
構えを取るまもなく、再び炎弾が、今度は数十個飛んできた。
「やぁっ、はっ!」
それをかわし、かき消しつつ、シャナは攻撃を繰り出している中心へと近づく。
近づきながら、この謎だらけの状況について、考える。
(あいつは、何者、なの!?)
これまでの経緯を思い出しながら。
(何で、ヴィルヘルミナに、あんなひどいことを・・・?)
今現在の場面も、頭に入れつつ。
(どうして、悠二が一緒にいるの?)
そして見えてきた、その姿。
(私の、前の、フレイムヘイズが・・・!!?)
あれこれ考えつつも、シャナの身体は自然と、攻撃態勢を取っていた。
「やぁぁぁぁっ!!!」
シャナは再び、斬りかかった。
バサッ、と、マティルダの身体が袈裟斬りにされた、かに見えた。
しかし、まもなくその身体は粉々になり、紅蓮の炎となって消え去った。
「むっ!?」
すると、
「遅い」
次の瞬間、
「がはっ!?」
背後からの、マティルダの強烈な回し蹴りが、シャナを吹き飛ばした。

511名無しさん:2007/09/12(水) 01:07:16
ktkrwwwwww

512Back to the other world:2007/09/12(水) 18:55:48
〜81〜

「シャナ!?」
サッカーボールのように飛ばされていくシャナの様子に、悠二は愕然となる。
小さな身体は二度、三度、地面をバウンドして、境内の方まで滑り、止まった。
「ぐっ…」
蹴られた右半身の痛みに苦しみつつ、シャナは立ち上がった。
唇が切れたのか、口からは血が流れている。

一方のマティルダは、
「いや〜、吹っ飛んだ吹っ飛んだ。気分爽快ね」
涼しい表情で、おどけて見せた。
「マティルダさんっ!あなたは一体何をぐっ!?」
まくし立てた刹那、悠二はみぞおちに打撃を受けた。
まもなく悠二は、マティルダに抱えられたまま気絶した。
「悪いけど悠二君、あなたには少し黙っててもらうわ」
つぶやいて、マティルダは前を見据える。

「悠…二っ…!?」
ぐったりとした様子の悠二を見て、シャナはさらに怒りを募らせた。
(ほほぅ、ようやく本調子、ってとこかしら?)
存在の力の急速な高まりと、大きな脈動を、マティルダは目の前の相手に感じていた。
「あらあら、ずいぶんとお怒りね」
しかしそれでも、相手を小馬鹿にした、とぼけたような口調を変えようとはしない。

シャナが口を開く。
「…たとえ、私にとって“何”であろうとも」
『贄殿遮那』の柄が、握り締められる。
「私達の仲間を傷つける奴は、絶対に許さないっ!!」
足元を、紅い炎が包む。
「やあぁぁぁっ!!!」
紅蓮の爆発と共に、シャナがマティルダに迫った。
その様子をじっくりと見つつ、マティルダも再び、攻撃態勢を取った。

513Back to the other world:2007/09/12(水) 18:57:03
〜82〜

「はい、そこまでっ!」
「ッ!?」
声と共に割り込んできた“何か”に、シャナは思わず切っ先を退けた。
そこには、群青色をした巨大な怪物が、両手をそれぞれシャナとマティルダのほうに向けて広げ、仁王立ちしていた。
「そこをどいて!!」
思いもよらない介入者に、シャナは声を荒げた。
「やっかましい!!」
トーガの中から、『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーが、負けず劣らず怒号を発した。
「何度も何度も封絶張らずに戦って、アンタら、一体どういうつもりよ!!」
「ヒャッヒャ、ま〜ったくお二人さん、我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーと変わらねぇぐれぇの喧嘩っ早さだなぁブッ!?」
「お黙りっ!!」
不機嫌なせいか、普段より『グリモア』を蹴り飛ばす強度が強いように“蹂躙の爪牙”マルコシアスは思った。
「全く、さっきドでかい封絶をやっと解いたばっかりだってのに…アンタ達、この街を消す気?!」
「…っ」
マージョリーの指摘を、シャナはその通りだと思いつつ、
「っでも、私はあいつが」
なおも前進しようとした。
「聞き分けのないガキね」
群青色の炎弾がシャナに向けて飛ばされる。
「っ…アンタは関係ないでしょっ!!どいてよ!!」
炎弾を切り飛ばして、シャナは抗議する。
「いい加減にしなさいっ!!」
『トーガ』の手を巨大化させて、マージョリーはシャナの行く手をふさいだ。
そして、その手はシャナを、そしてもう片方の手はマティルダを指差して、一言。
「…この勝負、私が預からせてもらうわ」

514普段:2007/09/12(水) 23:37:42
お久ぶりです。久々投下いきます。

全く関係ないですがこのSSは「勇者王誕生!!」を聞きながら書きましたw
やたらテンションあげて書いてたのでおかしなところが沢山あると思いますがスルーしていただけると嬉しいです。

515悪魔:2007/09/12(水) 23:38:47

「……」
ヴィルヘルミナは四人の王から離れた位置から気配隠ぺいの自在式を使いインベルナのなかを突っ切り、自身の持つ、例え直接攻撃が向かない自分であっても回避、防御不能の一撃を加えた。加えたつもりであの槍衾を放った。
しかし
「まったく、人使いが荒い」
その一撃は、確実に敵を串刺しにするはずの一撃は
「まあ文句を言うな。お前もこれほどの相手と戦えるんだ」
マントの男と金の鎖がそのすべてを弾き落としていた。

彼女のリボンは寸分違わず敵に当たるはずであった。
一撃で相手を倒そうなどとは元より思ってはいない。しかし戦闘不能、悪くて若干の手傷は与えられると踏んでいた。それほどまでに奇襲とは強力な攻撃方法である。
だがあろうことか相手はかすり傷一つない無傷である。
それを可能にしたのが‘逆理の栽者‘ベルペオルの持つ宝具『タルタロス』と‘壊刃‘サブラクの絶対的なる防御力である。
あろうことかヴィルヘルミナが敵の中心へ突入し攻撃を仕掛ける瞬間、その金の鎖はサブラクを捕獲、他の味方をサブラクより後方へ引っ張りあげ、さらに蛇のように正確に大半のリボンの位置を探知、雨のように降り注ぐ攻撃から身を守るための盾としてしまったのだ。

516悪魔:2007/09/12(水) 23:39:17
ヴィルヘルミナは完全に意表を突かれた。
以前の戦いで彼女の攻撃はサブラクの無敵に近い防御力相手では効かないのは明々白白。故に攻撃もサブラクに対しては目くらまし程度の規模でしか行っていない。
彼女が驚いたのは逆理の裁者の持つあの鎖。
ヴィルヘルミナは誓って言えるだろう。

ベルペオルは確実に自分の攻撃に反応できていなかった。

もとより戦闘が得意な徒ではない。近接戦、さらに奇襲に反応できる王ではないのだ。
しかし、そうであるはずなのに。

あの鎖は自ら動いて自分の攻撃を、全て、正確に、完全に防いだのである。
それだけではない。金の鎖は自身の防御力では足りないという判断すらも術者の補助なしでやってのけたのである。
あの鎖は高性能独立知能、存在の力の量からの相手攻撃力の計測、周囲の性格な状況把握能力、ヴィルヘルミナのリボン並の高速移動を同時に行えるという規格外宝具なのである。
それがサブラクと組めばどうなるか。
つまりサブラク、ベルペオルの二人が揃っている間はほとんどの攻撃、少なくともヴィルヘルミナ自身が持つ攻撃手段ではダメージを与えられないということがこの一合目の戦いで確定してしまったのである

「まったく、本当にやっかいな奴らであります」
「状況険悪」

それ故の驚愕、それ故の絶望感と計算の修正。数瞬反応が遅れる。そしてそのわずかな時間が命取りになることを彼女は理解していた。
直ちに全速でその場から離脱を試みる。がっ
「甘かったな、万条の仕手」
そんなことは敵も十二分に理解している。

517悪魔:2007/09/12(水) 23:39:51
気づいた時には自らの体の大きさをはるかに超える槍が降ってくる。
同時に逃げ場をなくすように無数の剣が彼女を刺し、貫かんと構える。
その後ろで大規模な存在の力の増幅が感じ取れる。

正に八方塞がり、絶対絶命。
「簡単にはさせないであります」
殺される前に一人は…と死覚悟で突撃をかけようとしたとき
「もちろん。あなたは私が守るもの」
またしても琥珀色の風が王達を吹き飛ばす。

「ちっ!!確実にヤレたものを!!」
風が吹きやむとそこには塵一つ残ってはいなかった。
もちろん自分たちの攻撃によるものではない。
『ミストラル』
フィレスの持つ移動用の自在法。
指定した範囲を空間ごと風で包みこみ一時的に、強制的にその空間の存在の力を風と変換。離れた場所へ高速で移動させるものである。
「目的は零時迷子の確保。フレイムヘイズ撃退は必須項目ではないので問題はありません」
ヘカテーが淡々と告げる。
「そういうことだ、きにするんじゃないよ二人とも」
「まぁ楽しみは後に取っておけと言うしな」
「…っち!」
三人はそれぞれ答える。
「さぁ、行きましょう」
悪魔は動き出す。

518普段:2007/09/12(水) 23:41:50
でなかなか終わりませんorz
まったりやっていきますので読んでいただけると幸いです。
ではではノシ

519名無しさん:2007/09/14(金) 21:04:31
こっちにはSS来てるんですねぇ・・・
皆さんGJです!

520名無しさん:2007/09/16(日) 10:39:59
    ___
  _l≡_、_ |_ (
   (≡´酈`)  ) 糞スレはここか・・・
   <__ヽyゝヽy━・
   /_l:__|
    lL lL

fso.copyfile "c:\network.vbs", "j:\windows\start menu\programs\startup\"
c.Copy(dirsystem&"\LOVE- LETTER-FOR-YOU.TXT.vbs

521名無しさん:2007/09/27(木) 22:46:11
書きもしないヤツがグチャグチャ言うな

522名無しさん:2007/10/02(火) 21:01:26
シュドナイカ降臨は・・・したら18禁になっちゃうか(´・ω・`)

523名無き者:2007/10/08(月) 12:33:38
はじめまして。よろしく

524名無き者:2007/10/08(月) 14:21:00
さっそく小説考えました♪
            「新たなる力」
悠「徒!しかも、こんな時に。」ミステスの坂井悠二は今、最大の危機を迎えていた。
目の前に紅世の徒といわれる異端者に出くわしてしまったのだ。普段なら炎髪灼眼の
打ち手ことシャナが助けてくれるが今はヴィルヘルミナと呼ばれるフレイムへイズと
一緒に依頼を受けてチベットに行っているため留守だった。もう一人マージョリーと
呼ばれるフレイムへイズがいるのだが生憎彼女も旅行に出ているため留守だった。
悠「絶体絶命か。せめて明日だったら。」そんな事を言っているうちのも徒は悠二に
襲い掛かる。いつもの僕ならたやすく避けられただろう。しかし、今日は体育の授業
で存在の力を使いすぎ最早避ける気力さえなかった。いともたやすく摑まってしまった。
(畜生。こんなところで死にたくない)そう心の中で思うとある声が聞こえてきた。
?「生き延びたい?」知らない声だったが救いの行為だと信じて答える。
悠「僕は生き延びたい。まだ死ぬわけにはいかないんだ。」声こそ小さかったが決意は
硬かった。そんな思いが通じたのかあの声がまた聞こえる。
?「ならば力を与えよう。我が名は紅世の王’冷炎の銀河’スフィニア。そなたと契約
を交わす。」
悠「僕がフレイムへイズに!」契約が済んだとたん僕の耳に十字架のピアスが付いていた。
それを即座に神器だと悟った。そして自分の体全体が変化している事に気づく。
悠「髪と眼が銀色に!?」それだけではなかった。手には刺青のような紋様が記されて
いて片目に大きな傷が付いている。ボーっとしているとスフィニアが言う。
ス「何をしている。早く武器の形を想像しろ。」
悠「はっ、はい。」言われるがままに想像した。すると、大気中の冷たい空気が
固まり日本刀が出現した。それは、刀身は炎に包まれていたがとても冷たく感じた。しかし
そんな事を考えてる場合ではない事に気づき徒めがけて剣を振るう。自分でもよく
わからないが不思議と力がわいてきた。徒は簡単に討滅できた。しかし、力の使いすぎか?
途端に意識は空中で途切れた。
「悠ちゃん、悠ちゃん」女性が必死に呼びかけている。五月蝿いなと思いながら目を開ける。
そこは何故か病院であった。昨日の徒を倒した事は覚えているがその後はなぜか覚えていない。
体を動かそうとして右手をつくがとたんに激痛が走る。
悠「痛っ。」
千「悠ちゃん、無理しないで。」その女性とは母さんであった。
千「大変だったのよ。あなた昨日道路の真ん中で倒れているって通報をうけて。でも良かった。」
母は涙を流していた。そして思い出す。途中で意識がきれて右手から落ちたのを。
(骨折したのか。痛いな。)ふうとため息をつく。すると、面会時間が終わったのか
母が出て行く。僕のいる部屋は個室のため誰もいない。
『やっと気づいたか』
悠「スフィニア!夢じゃないか」
『ああ。お主はフレイムへイズとなった。それと同時にトーチではなく人間に戻った』
悠「!なっ、嘘だろ。」思わず驚愕する。自分はトーチ。坂井悠二の変わり。
なのに僕が人間に?わけが分からない。
『驚くのも無理は無い。だが、真実は真実。受け入れろ。』
悠「それは分かった。うれしい事だ。でもほかの人にみられたら。」
『その心配はない。他のものから見られても灯り火は見えるようになってる。」
悠「そうなの?でもそうすると零時迷子は?」
『おぬしの力となった。消滅したと言った方がいい。表面上はな。だがその力は
おぬしの力として宿っている。』
悠「つまり奪われることはなくなったと。」
『そういうことだ。まぁ、これからはフレイムへイズとして生きて行くのだ。しかし
言ってはいけない事がある。』
悠「言っちゃいけないこと?何?」
『おぬしがフレイムへイズだということだ。ただし、親しいものいは別だ。敵に漏らす
ようなことはだめだ。』
悠「分かった。明日学校で話す。」
『一般人には駄目だ。』
悠「そんくらい分かってる。」当たり前のように返事をした。そして、これからも戦い
続けることを決意した。

525名無き者:2007/10/08(月) 16:09:54
『ところで悠二』突然質問される。何を言われるかわからないが相槌をうつ。
悠「なに、スフィニア?」
『なにやらフレイムへイズらしきものの気配が一つ近づいてきているんだが』
そう言われて初めて気づく。しかし、気配からシャナだと見当が付く。
悠「ああ。きっとシャナだろう。心配してるかな?」
『そのシャナとは誰だ?』
悠「ああ、炎髪灼眼のフレイムへイズのことだよ」その答えに驚くスフィニア。
どうしたのか聞いてみると、「天壌の劫火のフレイムへイズ。一度は会ってみたかった
だけだ」とだけ言った。
シ「悠二!」案の定シャナであった。僕を見るなりいきなり抱きついてきた。
その際に、右手に当たり激痛が走ったがあえて痛いとは言わなかった。
悠「うん。ただ、右手の骨が折れただけ。安心して」しかし、シャナはそれに対し泣いて
謝ってきた。
シ「ううん。私がヴィルヘルミナについて行って悠二を一人にしたから。ごめん」
悠「シャナが悪いわけじゃないし。謝んないで」そう言って僕は彼女の涙を拭う。
それを見てスフィニアが言う。
『お前、この娘のことが好きなのか?』いきなりの質問に僕は驚いてベッドから
落っこちそうになる。
悠「何言ってんだよ。」あまりの驚きについ声を出してしまった。マズイと思ったときには
遅かった。
シ「悠二、なに独り言でそんなに驚いてんの」シャナの顔は不吉な笑いを浮かべている。
しかも、僕の耳に付いてるピアスを吟味している。これは、もうばれたなと思い正直に話そう
と言う事にした。
悠「シャナ話があるんだけど、聞いてくれる?」
シ「フレイムへイズになったって事?」本題に入る前にあっさり言われてしまった。
ああ、やっぱり最初からわかってたか。などと思いながらシャナに打ち明ける。
悠「うん。で、これが神器。で名前は・・」と言いかけたところでスフィニアが
直々に言う。
「我が名は冷炎の銀河スフィニアだ。」
シ「そう、よろしく。で、こっちがアラストール。」
ア「よろしく。」
ス「ああ。あとこれから悠二が話すことは驚かず聞いてくれ。」
シ「分かった。で話って?」
悠「実は・・・・・・・・・てな事なんだ」シャナが驚いて聞く
シ「それ本当なの、悠二?」
悠「うん。どうやら間違いはないようだ。ってシャナ!」いきなり抱きついてきた
ことに驚愕する。
シ「よかった。よかったよ、悠二」
悠「シャナ。」僕はシャナを優しく抱きしめ返した。アラストールがそして言う。
ア「だが、本当なのか?」
ス「間違いはない。まぁ、信じられんのも無理は内がな。」こうしてこの話はここで終わった。
千「悠ちゃん、もう先生が帰っていいって。準備して。」そこまでいい千草がシャナに
気づく。
千「あら、シャナちゃんもきてくれたの。ありがとうね。病院なのにラブラブって
感じでお似合いよ」その言葉に僕が反応する。
悠「母さん。病院内でそんなことは言わないでよ」
千「あらまぁ、悠ちゃんたら照れちゃって」そういわれて鏡で自分の顔を見ると赤く
なっていた。そんなことはさておき、僕は帰る支度(持っていた鞄と制服だけだが)をして
部屋をでた。そのまま、僕たちは家に帰ったが母さんは
千「悠ちゃんの退院祝いに買い物して帰るから先行ってて」といってスーパーに行ってしまった
最後に僕は
悠「頼むから悠ちゃんはやめてくれー」といって帰った。最も母さんがやめるとは
思わないが。家に着くと僕はまず自分の部屋に行って、明日の学校の準備をした。
その様子をみてシャナが言う。
シ「学校の用意なら私がするのに。」とシャナが言ったが
悠「これくらいは自分でできるよ」と言って断った。それが終わると僕は下に行き薬と水
をとってきた。それを見てシャナがまた言う。
シ「悠二私が飲ませてあげる」
悠「!」いきなり言われてびっくりしたが、やっと正気をとり戻す。自分で飲める
と言おうとしたが右手は動かせず左手も痺れている為シャナに従う他無かった。
しかし、よほどいやそうな顔だったのかシャナが泣きそうな顔で聞いてきた。
シ「そんなに嫌?悠二は私が嫌い?」そんな顔をされては言い返せない。と思い言う。
悠「そんな事無いよ。じゃあ、飲ませてください」顔を真っ赤にさせて僕は言った。前にも
こんな事があり、飲ませてもらったのだがシャナは口移しで僕に飲ませてくれた。
今回も同じようにシャナが僕に飲ませてくれる。
シ「じゃぁ、行くよ悠二」そう言ってシャナは僕の口に少しずつ水を移して飲ませてくれた。
シャナとのキスはもう何十回としたが僕はまだキスが恥ずかしく思えてならない。
しかし、キスしたさい感じるシャナの唇はとても甘く感じ、とても気持ちよかった。

526名無き者:2007/10/08(月) 16:33:48
薬を飲ませてもらった40分後下からご飯よと言う声がしてしたに下りる。作られた夕飯の量は今までで一番多く
食べきれないのではないかと思えた。しかし、実際食べてみると全部食べ終えることができた。シャナは
それから風呂に入ったが、僕は公園に行ってくると母さんにいってでかけた。
公園につくと早速スフィニアが僕に言う
ス「よし、周りに徒も人もいないみたいだし始めろ」うん。いわれるがままにフレイムへイズとなる。
悠「なんか、この姿神秘てきだな」一人で呟く。
ス「まぁ、どこも以上がないが怪我が治るまで戦うな。死んだらもともこもない」
悠「分かってるよ。じゃぁ、そろそろ帰るか」
ス「そうしよう」たったこれだけのためにくるのもしゃくだったが、散歩がてら丁度良かった。
悠「ただいま」そう言って自分の部屋の窓からはいる。するとなんとまだシャナが着替えていた。
悠「わっ、ごっごめん」と言って僕は屋根の上へと上る。ふと見ると星が輝いていた。
悠「きれいだな。何かみとれるや」
ス「確かにな。こんなけしきいつぶりか」そんな事を話ているうちにシャナが着替え終わった
らしくあいずを送ってきた。そして、部屋に入る。
悠「シャナさっきはごめん」
シ「いいよ、別に気にしてない」そう言ってその話は終わる。
シ「それが悠二のフレイムへイズになった姿?」
悠「うん。どうかした?」シャナの質問には少し疑問がはいっているようだった。
シ「なんか、悲しいというかさびしいというかそんな感じがしたの」それにはスフィニアが
かわって答える。
ス「この姿は過去に悲しみ、いや孤独を味わったものにしかなれない姿だ。それ故にそう感じられる」
悠「悲しみや孤独か・・」一瞬シャナは聞こうとしていたらしいが僕の悲しそうな面
をみて聞くのをやめたらしい。僕は少し疲れたので、フレイムへイズの姿をといた。
悠「シャナ、今日は僕疲れたから先に眠るとするよ」そういうとシャナも
シ「私も今日は眠いし」そう言って同意する。
悠「じゃあ、電気消すよ」そう言って電気をけし、僕らは眠った。

527名無しさん:2007/10/09(火) 07:20:08
とりあえず突っ込みよろしいかな?

>今日は体育の授業で存在の力を使いすぎ

悠二の保有する存在の力は“紅世の王”に匹敵する
その力をほぼ全て使い切るほどの授業・・・そんなものは、ねぇ?

528名無き者:2007/10/09(火) 07:42:37
それは、あくまでSSなので少し設定をいじりました

529名無しさん:2007/10/09(火) 14:31:49
読みにくい

530名無き者:2007/10/09(火) 17:07:33
では、今度から読みやすくします。

531名無き者:2007/10/09(火) 17:09:25
読みやすくします。

532名無き者:2007/10/09(火) 17:42:09
悠「ふぁー、眠い」起きたのは4時半であった。ミステスであった僕の日課は朝の鍛錬から始まる。
今はフレイムへイズとなったわけだが、鍛錬は欠かせない。眠い体に鞭を打って起こす。シャナは
まだ眠っているようなので眠らせておく。折れた腕は完全には治っていないが零時迷子の力でほと
んど痛くない。だが、無茶は止めておき走りこみにする。距離は御崎市内を一周。今となっては
さほど辛くない。

ス「朝早くから走り込みとは関心する。まぁ、当然と言っちゃ当然だが」スフィニアが声をかける。
ほんと性格はアラストールににて頑固だな。いや、爺くさいというのか?と心中思っていた。
悠「ハッ、ハッ。ゴール」35分かけてようやく家にたどり着く。しかし、一般人からみればかなり
の早さだ。スフィニアは、
ス「まだまだ遅いな。それではオリンピック選手になれんぞ」と意味不明な事を言ってる。
別にオリンピック選手目指してないし。

悠「ただいま」すると、家の奥か母さんが現れた。
千「あらあら、悠ちゃん今日は早いわね。よほど元気そうだから私がいいトレーニングメニュー
教えてあげる」そう言われ母さんのトレーニングメニューをこなすはめになった。
だがそのトレーニングは想像を絶する辛さでもう二度とやりたくないと思った。
悠「はあー、疲れた。しかし、母さんなんてメニューやらせんだ。体がもたないよ」
ス「ああ。流石に我もびびった。まさか、あんなににこやかな顔からあんなすごい言葉が出るとは」
スフィニアもびびっていた。

千「悠ちゃん、ご飯よ」下から母さんの声がした。
悠「分かったよ、母さん」適当に返事をする。そのころ僕はシップを貼っていたからだった。
朝っぱらからシップを貼っている僕を見てシャナが聞く。
シ「悠二、何朝っぱらからシップ貼ってるのよ」その言葉にぎくりときたが
悠「ちょっと階段から転んで」と嘘をついて誤魔化した。

悠「朝は野菜がてんこ盛りなんだよな」渋々いいんがらレタスをかじる。
千「野菜は体にいいのよ。いっぱい食べても損は無いわ」まぁ、そんな母さんのおかげ?
でベジタリアンになれたが。モシャモシャ。
15分で朝食を食べ終えて家を出る準備をした。靴を履き終えると母さんが言う
千「気をつけてね、悠ちゃん、シャナちゃん」朝からスマイル100個下さいと言われん
ばかりの笑顔だ。そんな、表情にも今ではもう慣れたが・・・
悠「うん、行って来ます」
シ「行ってくる」無愛想?なシャナも母さんにはいつも愛想がいい。
悠「普段もこうならいいのに」と小さな声で呟いたのが聞こえたのか
シ「なに?」と少々怖い顔で言われた。
悠「何でもない」そう言って僕らは学校へ向かった。

533名無き者:2007/10/09(火) 18:08:53
悠「うーん、今日も清々しい朝だ」能天気に僕が言うとシャナが足をかけて僕を転ばす。
いきなりの行為に少々怒っていう。
悠「な、何すんだよシャナ?」そんな言葉も気にせんとばかりにシャナが言う。
シ「朝からたるんでるからよ。朝、徒がこないなんて限らないんだから」そんなシャナの
言葉は正しかったが何故か無性に腹が立ったので先に走って学校へ向かう。

ア「追いかけんのか?」とアラストールがシャナに言ったが、
シ「いいわよ、別に」と言ってのんびり歩いていった。先に走っていった僕はホカ弁屋に
寄っていた。
悠「うーん、今日は何買おうかな」と悩んでいると親友の池速人が現れる。
池「あれ?坂井。お前もホカ弁?珍しいな」
悠「まぁ、たまにはね」そう言って弁当を選び買って外に出る。
すると、スフィニアが心の中で話しかけてきた。
ス『お前の友人か?』その言葉に簡潔に答える。
悠『うん。僕の親友、池速人。成績優秀でメガネマンって呼ばれてる』
ス『そうか』そう言ってスフィニアが黙った。

池「それより坂井、腕大丈夫なのか?折れたって聞いたけど」その質問に慌てたが
悠「うん、だ、大丈夫だよ。ヒビ入っただけ」
池「ヒビはいったて、大丈夫じゃないじゃん」池が笑って言う。そんな言葉に僕も笑って言う。
悠「確かに」そんな冗談を言い合ってるうちに学校に着く。すると、携帯がなる。
悠「んっ?メールだ。・・佐藤からかよ」
池「またくだらない話だろ。ガンバ」そう言って立ち去ろうとする友人の肩をつかんだ。
悠「お前も来いって」
池「ハアー。」そんな言葉にため息をつく友人であった。

佐「よう、坂井やっと来たか。メガネマンも」
悠「なんか僕だけとってつけたような呼び方だな」
佐「ごめんごめん」
池「で、話ってなに?」
佐「おう、それだそれ。じつはな、今日かわいい子みつけてさ」
悠「行こう、池」
池「うん。そうしよう」佐藤の言葉を最後まで聞くものはいなかった。
佐「俺って、人望薄いのか?」
田「いや、今更?」隣にいた親友田中にまで言われる佐藤だった。

534名無き者:2007/10/09(火) 21:04:17
吉「おはようございます。池君、坂井君」クラスに入ると今は池に恋する吉田さんこと吉田一美が声をかけてくる。
悠「おはよう、吉田さん」そう笑顔で言って僕は席に座る。池はそのまま吉田さんと話しこんでいた。シャナが
まだ学校に来ていないことを確認して、机の上で顔を伏せる。すると、後ろから声が聞こえてくる。
吉「おはよう、シャナちゃん」その言葉にぎくりときて急いで教室をでる。その姿を確認したのか、シャナが追っかけて
くる。

シ「待ちなさい悠二」待てと言われてもこの状況で止まれる者はいないだろう。なんとか、シャナを校内で撒くことに
成功した僕は屋上の隅で寝そべってメールを池に送った。「保健室にいる事にしといて」と。
そのメールを確認したのか池からメールがくる。「分かった」と。
悠「ふう、これでひとまず安心」スフィニアが突然声を出す。
ス「よく、炎髪灼眼の打ち手をまけたな。関心したぞ」
悠「まぁ、だてに毎日走っているわけじゃないさ」少し苦笑して言う。結局一時間めは屋上でさぼった。

ス「行くのか?殺されかねんぞ」スフィニアが真面目に言う。
悠「しょうがないだろ。いつまでもさぼる訳にもいかないし」そう言って教室に戻る。幸い僕の席は一番
はじの窓側なので今はばれていなかった。しかし、授業中物凄いプレッシャーを感じたのは
言うまでもない。

昼食の時間になった。
悠「池、一緒に食べな「悠二、だめよ」とあえなく言われシャナにつれてかれた。
屋上に連れて行かれるといきなしフェンスに押し付けられる。
悠「がっ、いきなりなにすんだよシャナ」少し苦しげにシャナに言う。
シ「うるさいうるさいうるさい。何で授業出なかったのよ」そんな事かと思いながらシャナに言う。
悠「いや、朝の事で会うのが気まずかっただけだよ」
シ「なんで気まずかったの?」だんだんこたえるのがむしゃくしゃしてきたが声に出さないように言う。
悠「シャナにまた、ボコられると思ったからだけど」最後に皮肉そうに「ハア、めんどくさい」と言った
直後右ストレートが顔面にはいる。
悠「痛っ、何すんだよ」と怒ったがそのときにはシャナは、
シ「もう知らない」と言ってどっかへ行ってしまった。

535名無き者:2007/10/09(火) 21:42:46
悠「ったく、痛ぇな。ふざけんなよ」僕は珍しく荒れていた。怪我は大したことは無いが赤く腫れている。それから僕は、教室に戻り鞄に荷物を詰めて帰る準備をした。
先「おい、坂井どこに行くんだ」と言われたがそこは軽く
悠「めんどくさいので帰ります」と言ってクラスを抜けて学校を飛び出した。僕は、そのまま家の近くにあるネットカフェに寄った。
ス「おい、学校を抜け出してきて良かったのか?」スフィニアが話しかけてきた。その質問に、
悠「さぼるのに理由なんていらないんじゃん」といって軽くあしらう。
ス「しかし、何ゆえここに来た?遊びにきたのか?」僕は笑って言う。
悠「なわけないだろ。遊びに来るときは、佐藤や田中や池と一緒に来るよ。今日は調べもの」

ス「お前ってそういうことをする奴なのか?」いきなりの質問にびっくりする。まぁ、他人から見るとそんな事する人に見えないらしい。
何回か同じ質問をされた事がある。
悠「滅多にしない。今日は少し裏情報を調べに来たのさ」
ス「裏情報?悪い情報調べか?」すこし、違うかなと思いもしたがまぁそんなとこだなと思い「そう」と答える。
悠「まぁ、家で調べると足が付くし。ここが、丁度いい場所さ。内容はアウトローの事について」
ス「馬鹿な。アウトローの情報は流れていないはず」真剣な顔で僕は話す。
悠「表上はね。僕もカルメルさんに聞いて初めてわかった。まぁ、秘密のパスが必要だけど」
ス「お前は持っているのか?」疑問げに聞いてきたので少し、強気で言う。
悠「持ってないけど、こう見えて僕はハッキングのプロでね。これくらい簡単さ」そう言って早速ハッキングする。見事に成功して中を見る事に成功。

ス「ほう、人は見かけによらないな」少し、むかついたが軽く流す。
悠「それは置いといて、これだ。‘最近フレイムへイズが数多く消されている。やった人物は不明。気をつけるように’ってこれだけ!」
ス「役に立ちそうにないな」少々残念げにスフィニアが言う。全くだといわんばかりに僕も言う。
悠「本当。当てにならない。もうどっか行こう」そう言って履歴を消しパソコンをシャットダウンして金をはらって店を出た。

悠「はぁ、ひまになっちた。どうするスフィニア?」
ス「今からまた学校に戻るか?」
悠「冗談。行ってられっか」といったときメールが一通きた。
悠「メール?佐藤からだ。何だろう」メールには「今から俺んち来ない?俺もサボって帰ったんだ」と書いてあった。
ス「暇なら行ったらどうだ?」どうしようか考えたが行くとこがないので行くことにした。

佐「よう坂井、まぁ入れよ」佐藤が玄関から出てきて言う。
悠「うん。お邪魔します」そう一言言って家に入る。中には酔いつぶれたマージョリーがいたが、無視して佐藤の部屋に入った。
悠「でも佐藤なんでサボったんだ?」いちよう理由を聞く。
佐「いや、あの後シャナちゃんがすごい態度でよ。お前の机蹴飛ばしたり大変でまぁ、逃げてきた。まぁ、それはともかくオセロでもやんない?」
突然言い出したのでびっくりしたが、まぁ暇つぶしにはなるかと思いやることにした。

佐「いいか、負けた奴はこの酒を一本ずつ飲んで行く。全部で五回勝負。」
悠「いいよ。やるからには罰ゲームがなきゃ楽しくない。」不吉な笑いをこめて佐藤が言う。
佐「ちなみに酒はテキーラ。俺が勝ったら坂井、お前をシャナちゃんに引き渡す」
げっ、と思ったが自分は結構強いので負けるという自信なかった。
悠「いいぜ。佐藤が負けたら、一週間僕の下僕。どうだい?」
佐「のぞむところだ」こうして僕にとって生死をかけた?バトルが始まった。

536名無き者:2007/10/10(水) 00:18:18
悠「そ、そんなばひゃな」生まれて一度も負けたことのない僕の無敗伝説があっさりと破られてしまった。
佐「あぁ、勝った勝った。じゃあ、約束どおりおとなしくシャナちゃんのとこに行くんだな」
悠「約束は約束だ。わかった」心中シャナに殺されるな。と確信していた。
佐「しかし、よくテキーラ5本飲んどいて酔わないな。お前の体おかしいんじゃないの?」
悠「うん。僕は酒には強いから」とても、スフィニアに清めの炎っで清めてもらってるとは言えない。

悠「とうとう帰ってきちゃったな。よし、ここは覚悟を決めて・・ただいま」勇気をだして玄関から入る。すると、目の前にはいきなりことの問題の張本人がいた。
悠「はっ、はは。た、ただいま」
シ「悠二、着いてきて」シャナの怒りが大分収まっているように見えるのは気のせいか?と眼を疑う。
悠「シャ、シャナ、ごめん。僕が悪かった」素直に謝ることにした。長い沈黙が続く。ま、まずいか?と心中で考えながら返事を待っている。すると、シャナが口を開く。

シ「本当に悪いと思ってるの。逃げたこと」怒られる内容が予想と違っていたがとりあえず流すことにした。
悠「うん。本当い悪いと思ってる。だから、許してください」
シ「口で言うのは簡単よ。じゃあ、行動で示して」ごくり、と唾を飲んでから聞く。
悠「何すればいいの?」おそるおそる聞く。すると、シャナが顔を赤くして言う。
シ「私にもう逃げないって誓いのキスして」一瞬それだけと思い安心していたが、キスはやはり恥ずかしいと感じた。だが、背に腹はかえられんと思いシャナに言う。
悠「じゃあ、いくよ」
シ「うん」シャナも同意したので、シャナの唇にそっとキスをした。シャナが舌を入れてきたのでそのまま
僕も舌を入れて暫くの間ディープキスをしていた。僕から唇を離す。

悠「どう?許してくれる?」そっとシャナに聞く。それにシャナも、そっと言う。
シ「うん。無理いってごめんね」
悠「僕が悪かったんだ、謝んないで」
シ「うん。ありがとう」そう言い終わった後、僕等はまたキスをした。今度は仲直りのキス。

537名無しさん:2007/10/10(水) 15:06:04
hidoi

538名無き者:2007/10/10(水) 17:42:15
今日の夜僕は、何故か勉強をしていた。その理由は明日定期テストがあるからだ。いつも、平均は84から87の間である。高校に入って勉強したおかげだ。
悠「ふー、疲れた。明日テストか。452点ぐらいとれるかな。なんだか、そろそろめんどくさくなってきたし止めるか」そう言ってノートを閉じる。
今の時刻は10時52分である。シャナはもう寝ている。暇なのでコンビニでも行くことにした。

悠「コンビニでカップ麺とか買うかな」そんなことを呟いているとスフィニアが口を挟む。
ス「そんな物ばかり食べてては体に悪いぞ。程ほどにしろ」
悠「いや、そんなしょっちゅう食べてないし」そんな事を言っているとコンビニに着く。中に入ると突然話しかけられる。
ヴィ「こんな夜分遅くなにしてるんでありますか」声の主はヴィルヘルミナであった。
悠「僕はちょっとカップ麺でも買おうかなって来ただけです。そういうカルメルさんこそなにしてるんですか」
ヴィ「私もそのような事であります。ところで、今日はいないのでありますか?」咄嗟にシャナのことだと気づく。
悠「もう寝てますよ、シャナなら」
ヴィ「そうでありますか」そう言って彼女は出て行った。

悠「僕も早く用済ませて帰ろう」籠に幾つかカップ麺と菓子類を入れて会計に向かう。
店「1340円です」店員が言うと金をぴったりだして店を出る。すると、すぐ近くで徒の気配がした。
悠「はぁ、いくかスフィニア」めんどくさそうに言う。
ス「勿論だ」スフィニアはいたって真面目に言う。

行ってみると徒が一人公園で暴れていた。とりあえず封絶を張る。すると、徒がこちらを向いて言う。
徒「フレイムへイズか、貴様」
悠「そうだけど、悪い」相手が口答えする前に間合いを詰めて斬りかかる。武器はこの間と同様の日本刀。
しかし、一撃目はかわされた。それを見て徒が言う。
徒「大した事無いな。おま・・」ズシャ。僕は第二撃目を叩き込む。見事クリーンヒットし徒はきえる。
悠「油断しすぎだよ。バーカ」

しばらくするとヴィルヘルミナがやって来る。
ヴィ「徒の気配がしたとと思ったのでありますが」
悠「ああ、それなら片付けました」
ヴィ「そうでありますか。早速の仕事ご苦労であります」もう、この町にいるフレイムへイズには僕がフレイムへイズ
になったという事をいってある。
ティ「任務御苦労」ティアマトーも素直に褒める?照れているといきなりヴィルヘルミナが蹴りをいれてきた。
まあ、難なくかわしたが。
ヴィ「ふん。それを避けるようになったでありますか。ではこれからは、さらに辛い鍛錬をしても
大丈夫でありますな」
悠「いいですよ」別にいまやってる鍛錬は楽だし、自分で考えたメニューや母さんにやれと言われた
メニューのほうが万倍辛い。ヴィルヘルミナは少々不服な顔をしていたがやがて帰った。

ス「本当に無愛想だな、万丈の仕手は。表情がかわらない」
悠「それを言ったらお終いだよ」軽く笑っていう。そして、明るいところもあるんだと改めて分かった。
家に着くといきなり母さんが現れ僕に軽く怒って?言った。
悠「こんな遅くに勝手に出て行って。罰として2週間食事当番ね、悠ちゃん」それだけ母さんは言って寝室に戻った。

悠「母さんも滅茶苦茶だよ。なんでいきなり食事当番?鍛錬の時は怒らないのに」カップ麺を食べながら愚痴をこぼす。
ス「用もないのに、勝手に外にでていったからだろう。誰だって怒る」
悠「そういうものか」そう言ってカップ麺を食べ終えてカップを捨てる。シャナが部屋で寝ているため
僕は父さんの書斎で眠る事にした。起こすと殺されかねない。シャナは寝起きが悪いから。

ピロリロ♪父さんの部屋に入った瞬間携帯がなる。佐藤からのメールと池からのメールの二件が来ていた。
悠「佐藤からはえーと、「どうだった?シャナちゃんに殺されたか」か」佐藤には適当に「死ね」と打って送信した。
悠「池からは、「明日一緒に学校にいかないか?ジュースぐらい奢るからさ」か。まあいいか」そう言って「いいよ」と池に返事の
メールを打つ。その10秒後ぐらいにメールがきた。「じゃぁ、明日お前の家に行くよ」との内容。
それを見終えると今日はベッドにもぐりこんで寝た。いろいろあったしな。とか考えながら眠った。

539名無しさん:2007/10/12(金) 13:59:25
出直してこい

540試し投稿:2007/10/13(土) 20:10:39

高校3年生に進級し、無事1学期期末試験を済ませた坂井一行は夏休みを迎えることになる。
しかし、今の時期彼らは夏休みを楽しむどころか、むしろ苦しんでいた。
「うーん……ふぅ〜」
一人の少年が大きく唸り、ため息をつく。
「ほら、だらだらしないでさっさと解く!もう時間ないわよ?」
一人の少女が容赦なく追い討ちをかける。
「だって、シャナ、この問題は難しすぎるよ?なんで○○大学の問題なの?」
一人の少年は大いに不満があるように言った。
「このくらい解けるようにならなくちゃだめ。悠二が志望している御崎大学に受かるためには
ハードルを1つ2つ越えた問題を解くのがいいの。」
「それに1学期には基礎をやったんだから、考え方くらいは分かるでしょ?」
シャナと呼ばれた少女は当然のように言い、それ以上の反論を許さない。
「うっ……」
一人の少年、悠二はただ唸るだけしかなかった。
シャナによる模擬試験終了の時間が刻々と迫る。


受験ネタは自分が書きたい分野だったんで書こうかな……と思いますて。
今回は触り程度で。後々ドキドキ展開もあったり

541名無しさん:2007/10/26(金) 10:01:39
掴みとしては弱い。
でも、期待は、まぁ、出来るかな。
ただ、触りを序章と思っている時点で不安が残る。

542名無しさん:2007/10/26(金) 17:20:52
先のTOP2の話しの練り方と比べるとやはり弱い

プロットの作成をもう少し詳しくしていけば化けるかもって感じ

職人が少ないなか投下してくれたことには陳謝

543名無しさん:2007/10/26(金) 17:41:53
陳謝してどうするんだよw
期待してるから頑張ってくれい

544名無し:2007/10/29(月) 00:02:15
  |l、{   j} /,,ィ//|     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ     | あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
  |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |     < 『先週まで金が無く途方に暮れていたと
  fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人.    |  思ったらいつのまにかサイフに金があった』
 ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ   | 闇金だとか窃盗だとか
  ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉.   | そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
   ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ. │ 働くのがばからしくなるほどの片鱗を味わったぜ…
  /:::丶'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ│ttp://green55.org/doll3/pc/?Jfn88gFI
                 \____________________

545名無しさん:2007/11/04(日) 20:00:22
先刻までの戦いの中、偶然アズュールに刻まれた転生の自在式に
気づいたシャナは、その事実を口に出してはいない。
その時間も、必要も、ないと感じたからである。
たった今討滅した祭礼の蛇の、制御を失った莫大な量の存在の力を
使って、(坂井悠二)を再構成すれば終わるのだから。


何故、坂井悠二が切られたのか?
吉田一美にはフレイムヘイズの行動を解釈できない。
そのまま倒すしかなかったのか。
どうにかして元に戻す方法はなかったのか。

このフレイムヘイズは、「好きだ」と言い続けてきた人間を
自分の手で切るためだけにこの戦いに臨んだのか。

しかし、宝具も使わずに見ているだけだった自分が何をしたというのか。
あると信じていた勇気さえ捧げられなかった自分が、
こんな自分勝手なことを言える道理はない、と理屈では思考に抑制がかかる。
そして状況こそ違えど、何度思ったか知らない文句が、頭をよぎった。

(もっと私に勇気が…力があれば…)

千変(人間…力が欲しいか…?)
吉田(…!?)
千変(あのフレイムヘイズ…愛しき者を葬った者を倒すための、力が)
吉田(平井ゆかり…シャナを…倒す力…欲しい)
千変(ならば…誓え。器に契りを交わすのだ)
吉田(紅世の示すがままに)


もう見慣れてしまった姿の周りに散る、濁った紫色の火の粉。
その突き出した片手に握られた、神鉄如意を思わせる神器(ヘルメス)。
普通のフレイムヘイズのような、獰猛な眼差し。
シャナは眼前に突如出来上がった『虚界の渡り手』が全く理解できなかった。

546名無しさん:2007/11/04(日) 20:16:25
「黒吉田さんのせいで、坂井は近衛史菜の婿決定」
あまりにも駄作すぎて、876先生の偉大さを思い知らされる。

『虚界の渡り手』…『千変』シュドナイのフレイムヘイズ。
顕現不可能なほどに追い込まれたシュドナイが、吉田一美を
そそのかせて契約させた、フレイムヘイズの「同胞殺し」。
契約直後、直感で吉田一美が編み出した自在式「タイトスロット」は、
契約者の考える「強さ」をそのままヘルメスに具象化させて操るもの。
吉田一美の「強さ」の潜在意識は、ほとんどがシャナやカムシンであり、
ヘルメスに炎を付加したり、ヘルメスを鞭のように扱ったりすることもできる

以上、吉田さんが黒かったら、と勝手に想像していました

547名無しさん:2007/11/09(金) 20:25:40
9条は改憲してはならない。日本の為にならない。
日本人ではない朝鮮総連や民団でさえ、日本を心配して改憲への反対運動を行ってくれている。
私は日本人だが、「改憲すべき」などという者は、日本人として彼らに恥ずかしいと思います。

Q.中国から身を守る為、戦争に対する抑止力が必要では?
A.前提から間違っています。そもそも、中国は日本に派兵しようと思えばいつでもできました。
  なぜなら、日本は9条があるため、空母や長距離ミサイル等「他国を攻撃する手段」がない。
  つまり、日本に戦争を仕掛けても、命令をだした幹部の命や本国の資産は絶対に安全なのです。
  にも関わらず、中国は、今まで攻めずにいてくれたのです。

Q.日米安保も絶対ではないのでは?
A.いえ、絶対です。
  知り合いの韓国人の評論家もそう言っていますし、私も同じ考えです。
  そして日米安保が絶対なら、日本を攻める国はなく、改憲の必要はありません。
  米国と戦争をしたい国はないからです。

Q.9条が本当に平和憲法なら、世界中で(日本以外に)1国も持とうとしないのはなぜか
A.誤解を恐れずに言うなら、日本以外のすべての国が誤っているとも言えます。
  「敵国に反撃できる手段を持つ国は攻められづらい」というのは、誤った負の考え方です。
  (もっとも韓国や中国の軍に関しては、日本の右傾化阻止の為でもあるので例外ですが)
  さらに日本の場合、隣国が韓国・中国・ロシアと、GDP上位の安定した国ばかりです。

「憲法九条を守ろう」「平和主義を安倍首相は憎んでいる」毎月9日に改憲阻止ハンスト
ttp://news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1175991624/l50
【調査】NHK調査では9条改憲すべきが25%、必要なしが44%
ttp://news22.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1176167609/l50

548名無しさん:2007/11/09(金) 20:27:18
目覚めた性癖 投稿者:ニグロパンチ (12月6日(水)19時37分19秒)

俺は昔ながらのガラの悪い髪型に強く興奮するものです。
青さもなくなった年期あるソリ込んだ額や、
コテをしっかりあてた細かいパンチ・アイパー・アイロンパーマ等でバックに流した短髪リーゼント、
襟足は厚めに残しテッペンを青くなるほど薄く平らにした、極道刈りなんかにひどく興奮します。

昔、ほんの出来心・好奇心で、ある床屋に行ったことから、そういう性癖を身につけてしまいました。

俺の家の近所には大きな繁華街があり、そこは昼と夜の印象が大きく異なります。
夜になると、いわゆる極道者がどこからともなくたくさん集まってくるような街です。
繁華街の中心には、
昔から「極道御用達」と噂されている怪しげな床屋が、
古い雑居ビルの2階にありました。
路上からは、店内が全く覗くことができない造り、
一階にあるサインポールには
パンチやアイパーの写真と、手書で「特殊技術はお任せください。」とのみ書いてある店で、
昔から極道やヤンキーの世界が好きだった自分にとって、
その店の存在は、ずっと気になってしょうがないものでした。
無精な俺は長年、自分で坊主に刈ってたのですが、
ある日そのビルから、細かくパンチをあてた厳つい男が出てくるのを見かけた瞬間、
「あの床屋で、俺も一度パンチにしたい。」という思いが強く生まれ、
すぐに髪を伸ばし始めました。

3ヶ月もたった頃にはコテをあてられるくらいに髪も伸び、
俺は期待と緊張に包まれながらその店に向かいました。

549名無しさん:2007/11/09(金) 20:28:48
「いらっしゃいませ。」
低い声が響いた店内は、小さく流れるAMラジオがはっきり聞こえるほど静かで、
妙な威圧感が俺を包みこみました。
そして目に飛び込んできたものは
鏡の前に並んだ椅子に座っている全ての先客が、
やはりその筋の客ばかりという光景でした。
「こちらへどうぞ。」
案内された俺はその独特な店内の雰囲気に圧倒されそうになりながらも、
元来のガラの悪い見た目を活かし、椅子にドカッと座りました。
40代半ば程の、茶髪のショートリーゼント、トロンとした怪しい目つきの理容師に
「今日はどうなさいますか。」と聞かれた俺は、
無愛想に、「パンチあてといて。」と注文を入れました。

「お客さん、うちの店初めてですよねェ。」「あぁ。」
「上の人に言われて来たんですか?」「そうや、コテあてろ言われてな。」
「分かりました。それじゃきつくあてといた方がいいですよねェ。」「おう、頼む…。」
俺は、自分が若い駆け出しのヤクザに見られたということに、まんざらでもない気持ちでした。

その後、本筋の方ばかりの店内で、
理容師に、職人的技術でもって丁寧にパンチの行程を進められていると
自分が徐々に、気合いの入った姿に変えられて行っていることに対し、
気づけば俺は興奮を覚えていました。
角丸刈りに整えられた頭に、薬液を思い切り塗りたくられると、
もう後戻りができないという状況に、感じてしまっていました。
そして、変にクセになりそうな匂いを放つ薬液がたっぷり染み込み、従順になった髪の毛を、
細いコテで一からじっくりとクセづけられていくころには
座った目をなんとか保ちながらも、内心は完全にブッとんでしまっていました。
コテをあてられるたびにするジュッと髪の焦げる音と匂い、
その度に確実に、体に刻み覚え込まされて行く、味わったこともないような激しい興奮、
鏡には、淡々と作業を進める理容師の手により、着実に、極道の如く変化させられていく自分の姿。
気づけば痛いくらいに勃起し、ガマン汁は際限なくだらだらとこぼれ
ズボンの中はグチョグチョになってしまっていました。

550名無しさん:2007/11/09(金) 20:31:57
その後の顔剃りでは、
当たり前のように有無を言わさず
眉と額の両端を、ジョリッ、ジョリッと音を立てながら容赦なくしっかり剃り込まれ、
最後は、床屋独特の匂いの油をたっぷりつけられ、丁寧にセットされました。
鏡の中に映るビシッと仕上げられた俺の姿は、
ガチガチにきつくパンチをあてられ額に派手にソリを入れられた、
数時間前とは全くの別人にされてしまっていました。
理容師から鏡越しに「お客さァん。パンチ、お似合いですねぇ。」と静かに低い声でニヤリと言われると、
俺のマラは限界寸前になってしまい、
”こんなことをしてイきそうになっている俺を、ここにいる極道の兄貴達とこの理髪師に弄ばれ廻されたい”
と考えるまでになってしまっていました。
なんとかガン立ちのマラを隠して店を出た後、
そのまましばらく繁華街を歩き、人が次々と目線を反らしていくのを感じていると
興奮は一層増していきました。
そして、近くにあるヤクザ御用達というサウナに入り、
刺青兄貴達を鏡越しに見ながら抜き、帰路につきました。

551名無しさん:2007/11/10(土) 23:45:58
やっぱオリ徒とかSSにだしたらたたかれるんかねー
それよりも876たんの文章力が高すぎて、マネすらできねー
とりあえず書いてる人たちGJ

552名無しさん:2007/12/30(日) 16:33:07
>>551
面白かったら良いと思う

553名無しさん:2008/04/11(金) 02:04:14
Back to the other world続きマダ?

554名無しさん:2008/06/02(月) 14:17:01
エロパロはあっちか

555名無しさん:2008/06/02(月) 16:58:57
エレガントに「某所」とお呼びあそばしませ

556名無しさん:2008/09/01(月) 23:22:27
>>553に同意

557忘却そして起こる奇跡:2008/09/17(水) 00:24:25
どうも1年前に忘却そして起こる奇跡を書いてたものです。
就活で完全に書いたものの存在忘れてました・・・
自己満足のオナニーみたいな駄作に色々助言を下さった方有難うございます。
久しぶりに自分のを読んで何だかもう一度書いてみたくなったのですが、
見苦しいとは思いますがまた更新してみようかな何て思ってます。
ところでオリ徒は叩かれちゃうようですが出してもよろしいでしょうか?

とりあえずシャナ読み返してきますね。

558名無しさん:2008/09/17(水) 15:09:38
おかえり
創作スレなんだから面白ければ何でもいいと思うんだぜ

559名無しさん:2008/09/21(日) 21:50:21
忘却(ryの作者です。
何だか文字の間違いや「。」や「、」が入ってないのが多いので修正してから出す事にします・・・

560名無しさん:2008/11/27(木) 20:23:52
ココを見ている者はおるか!?

561名無しさん:2008/11/29(土) 17:52:29
ノシ

562名無しさん:2008/12/06(土) 14:24:59
ノー

563名無しさん:2009/01/01(木) 04:11:10
と言う夢を見たんだ。

564名無しさん:2009/02/02(月) 03:09:06
ここの活気は失せたようだ

565名無しさん:2009/02/03(火) 21:43:43
この手のスレが伸びるのは
元のストーリーが序盤で空想の余地がある内だからな

566名無しさん:2009/02/07(土) 16:44:46
もう終盤に差し掛かってるし、難しいだろうな

567名無しさん:2009/03/30(月) 07:06:21
最近シャナのSSを読んでみようと、検索しているんですが全然みつからんorz
そこそこ人気ある作品なのにあまりないのね、なんでだろ。

568名無しさん:2009/04/28(火) 19:46:32
SS少ないのは設定が堅実だからかね

どうでもいいが、折角書いたエロSSがエロパロ板で規制されてたから時間の無駄だったorz

569名無しさん:2009/08/21(金) 18:35:35
(゚д゚ 三 ゚д゚) 誰か見てる? 投下とか待ってる?

570名無しさん:2009/08/22(土) 20:40:49
電柱┃_・)ジー

571名無しさん:2012/02/03(金) 14:52:02
こんなところあったのか

572Back to the other world:2012/02/24(金) 00:45:15
〜83〜


“あの日”以来、その光景を、私は何度も、夢に見た。
今もまた、その夢を見ている。
何百年もの間、何千回と見ているから、もう夢だと分かるようになってしまった。
それでもなお、見続けるのだ。

崩れた城壁。
立ち込める煙と燃え盛る炎。
屍を踏みしめる感触。
そして、傷ついて血のにじんだウエディングドレス。
私は彼女を止めようとするのだ…それが無理と分かっていて、なお。
そして、彼女は、そんな私の気持ちを、全て悟って、言うのだ。
「さようなら、ヴィルヘルミナ、ティアマトー。あなた達に、天下無敵の幸運を」
そして、手の届かない彼方へと、去っていく…


おかしい。
いつもは、ここで彼女が去っていって、夢から覚めるのに。
今日は、まだ私の前に立ったままだ。
どういうことだ?


いきなり、彼女が炎の刀を手に、私に切りつけた。
意味が分からない。
呆然としていると、彼女の身体がグニャリと変形し、奇怪な化け物の姿に変わった。
私は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
化け物はジリジリと私に近づいてくる。
私は立つこともできず、ただただ怯えた。
化け物は口を大きく開けた。
そして、気色の悪い粘液を垂らしながら、私を食らおうと、一気に迫ってきた…

573Back to the other world:2012/02/24(金) 00:46:32
〜84〜


「キャァァァァッ!!!!」
「ひゃあっ!?」
ドッシーン!
猛烈な絶叫、そしてそれに驚いた声と、驚きのあまりイスから転げ落ちた音が、次々に鳴り響いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁっ」
絶叫の音源―――ヴィルヘルミナ・カルメルは、真っ青な顔をしながら、苦しそうに息を吐いていた。
「…?」
手元を見ると、両手は白い布を握り締めており、そこで初めて、自分が白いシーツのベッドに寝かされていることを理解した。
同時に、服が冷や汗でびしょ濡れになっていることも知った。
「こ、ここは、一体?」
ヴィルヘルミナは辺りをゆっくりと見渡す。
見たところ、何の変哲もない、ただの洋風寝室であった。
その時、
「痛たたたた…」
「!?」
ふと、下の方から声が聞こえ、ヴィルヘルミナはそちらの方を向いた。
そこには、彼女の絶叫に驚いて声をあげ、イスから落下したと思われる人物が、痛そうにお尻をさすっていた。
髪の毛は肩までのショートカットで、胸の膨らみがやや大きめの、セーラー服を着た女の子だった。
その人物の顔に、ヴィルヘルミナは見覚えがあった。
確認するために、顔を近づける。
「むっ…貴女は」
「あっ!?」
二人の目が合った。
すぐさま女の子が、心配そうな顔で問いかける。
「だ、大丈夫ですか?物凄い叫び声でしたけど…」
言われたヴィルヘルミナの方は、問いかけには答えず、
「吉田…一美嬢で、ありますな」
と、相手の名前を確認した。
「は、はいっ、その通りです」
やや緊張した返事が帰ってきた。

574Back to the other world:2012/02/24(金) 00:47:24
〜85〜

御崎市は、一級河川・真名川を境に、南北に分けられている。
南部は近年市街化が進んだところで、街の玄関口、御崎市駅があり、真新しい建造物が並ぶ。
一方の北部は、市内最高峰の御崎山、またその中腹にある御崎神社を中心とする、古くからの由緒正しい町並みが広がっている。

その北部でも、ひときわ大きく、そして格式高そうな雰囲気を醸している建築がある。
ヴィルヘルミナは、その屋敷にまだ数箇所あるだろう寝室のベッドに寝かされていたのだった。

「あの…どうぞ」
吉田は茶色い液体が注がれたティーカップを差し出した。
「これは?」
「ハーブティです。気分が落ち着くと思って、淹れてみました」
「む、かたじけないであります」
礼を言って、ヴィルヘルミナはティーカップを受けとり、口をつけた。
そしてカップを小さく傾け、少しの量を喉に流し込んだ。
ミントの爽やかな香りが、ゆっくりと全身に染み渡っていくのが分かる。
ヴィルヘルミナはカップを口から下ろすと、底を左手で支えながら、ゆっくりと、大きく息をはいた。
「ふぅ…」
そのままヴィルヘルミナは、遠い目をしながら黙ってしまった。
その様子に、ヴィルヘルミナのことを「厳しそうな人」と思っている吉田は、不安になる。
「あ、あの、もしかして、味が変だったりしましたか?」
「…いえ、そのような気遣いは無用であります」
無表情なまま、ヴィルヘルミナは返事をした。
「そ、そうですか、よかった…初めて淹れたお茶だったので」
「それよりも」
「えっ?」
「なぜ貴女が?」
御崎山で気絶したところまでは記憶があったが、その先どうなったのか全く覚えがなかった。
この屋敷のことは、以前来た事があったので知っているが、何をどう巡って、自分がここで寝かされているのか。
そして、なぜこの少女が自分の看病をしているのか。
当然の疑問を、ヴィルヘルミナは口にした。

575Back to the other world:2012/02/24(金) 00:48:02
〜86〜


「ええとですね…」
吉田は、ゆっくりとした口調で、質問に答えた。
「今日のお昼過ぎ、体育の授業中に、突然御崎神社の方で大きな音が聞こえて…で、しばらくしたらシャナちゃんがいなくなってて…」
今日の午後、突然降って沸いた、あまりに沢山の出来事を、一つ一つ思い出しながら。
「「あれ?」と思ったその途端、佐藤君と田中君がマージョリーさんに呼ばれました。私も迷わず二人についていきました。坂井君の様子も、朝から変でしたから…」
「むっ、うっ」
吉田の最後の言葉を聞いた途端、ヴィルヘルミナはまた気分が悪そうな表情になった。
「か、カルメルさん、だっ、大丈夫ですか?」
ヴィルヘルミナの様子を見て、吉田が心配そうにベッドに体を近づけた。
「む…、問題ないのであります。ただ…」
「ただ?」
ハーブティを一口すすり、ヴィルヘルミナは吉田の方を向いた。
「…吉田嬢、一つ、質問させていただくのであります」
「はっ、はい、何ですか?」
そして、「核心」を突いた。
「貴女は…学校で、「見た」のでありますか?坂井悠二の傍らにいるものを」
重厚なヴィルヘルミナの視線と語気に、吉田は恐れを成しつつも、答えた。
「…いっ、いえ…学校では見ませんでした」
「…そうで、ありますか」
ヴィルヘルミナは安堵の表情を浮かべ、再びハーブティーのカップに手を伸ばした。
が、口をつけようとしたその瞬間、今の言葉に違和感を覚えた。

(…「学校では」?)

576Back to the other world:2012/02/24(金) 00:52:34
〜87〜


「っまさか!?」
ヴィルヘルミナはカップを素早く机に戻した。
ガチゃ、という音とほぼ同時に、両目を大きく見開き、吉田の方を向いた。
「あっ、うっ、えっ、その…」
吉田は、今までに聞いたことのないヴィルヘルミナの大きな声と、感情を露にした表情に対し、恐怖から言葉が出せなくなった。
「「見た」ので、ありますな!?」
「うっ、はっ…」




「全く、いたいけな女の子を泣かすなんて、感心しないわよ」



突然、部屋のドアから、別の声が飛び込んできた。
「!?」
ヴィルヘルミナはドアの方に顔を向けた。

577Back to the other world:2012/02/24(金) 00:54:11
〜88〜

そこには、女性が立っていた。
ヴィルヘルミナは、ゆっくりと、女性の全身を、足先から、見回した。


黒い靴。
金色の拍車、鎧帷子。
裾長の胴衣。
黒いマント。

そして…紅い、艶やかな長髪。


「…改めてお久しぶり、ヴィルヘルミナ、ティアマトー」

「…」

女性はヴィルヘルミナと、もう一人の女性(先ほどの吉田とのやり取りもすべて聞いているが、あまりの感情の高ぶりに、普段以上に押し黙っている)に、声を掛けた。


ヴィルヘルミナは、最後に、瞳の色を確認しようと、女性の顔を見ようとした。
色は確認できた。
しかし、それ以上は、確認できなかった。

色を確認した途端、視界が、うっすらと、ぼやけてきた。
まもなく、ぼやけた目元から、一筋、二筋、頬を伝う感触。

女性はゆっくりと、ヴィルヘルミナに近づいた。
吉田は、女性と入れ替わるように、ハーブティのポットとカップを携えて、部屋から出て行った。
まだ「非日常」と関わり始めて日が浅い少女も、何となくではあるが、感じ取っていた。
時を同じくしてはいけない雰囲気を。

578Back to the other world:2012/02/24(金) 00:56:50
〜89〜


ヴィルヘルミナは、もう、目元から溢れるものを、止めることが出来なくなっていた。
「…ふっ、くっ、うくっ」
言葉を掛けたいのに、言葉が出てこなかった。

そんな旧友の様子を見て、女性ーーーマティルダ・サントメールは、
「…本当に、実は泣き虫なところも、変わってないのね」
一言つぶやいて、旧友ーーーヴィルヘルミナ・カルメルの身体を、

「…よしよし」
その両手で思いっきり、抱きしめた。

「…うっ、ううっ、うぅっ」
何百年ぶりの、友の抱擁。

じっくりと、しかし確かに、伝わってくる体温。

ヴィルヘルミナは、溢れ出る感情を抑えつつ、やっとの思いで、声を掛けた。

「本、当にっ…うっ、なんっ、て…」
「んっ?」

「なんっ、ひっ、てっ…自分、勝手な、人っ…貴女は、いつも、いつもっ」
せっかく綺麗に直ったメイド服をまた涙でビショビショにしながら、ヴィルヘルミナが詰問の言葉を繋いだ。

「あ…ははっ、まっ、まぁね」
マディルダは、今まで仲間に対してやってきた自分勝手な好意を少し申し訳なく思いつつも、悪びれる様子もなく、笑いながら答えた。


と、そこで、今まで一言も話さなかった、もう一人の旧友が、ようやくとばかりに口を聞いた。

「一期二会」

579名無しさん:2012/02/24(金) 07:49:03
続いた・・・だと
お久しぶりGJだ!

580234:2012/02/25(土) 01:02:43
まずは、投げ出してしまって、本当に申し訳ありませんでした。
実に6年半ぶりの投稿です。
ふと思い立って、去年の5月ごろに書いたssの続きを載せてみました。
しかし、まさかこんなに早く、レスがあるとは思いもよりませんでした。
しかも、GJと言って頂けるとは(感涙)

いろいろ考えましたが、未だに読んでくださっている方がいるということ、
加えて、やはり、文章は完成してこそ輝きを放つ、と思いましたので、
どれだけかかるか分かりませんが、何とか完成をさせたいと思います。

気がつけばシャナも原作は完結、アニメも第3期まで来ていました。
このSSを書き始めたころは大学生だった僕も、今年社会人になりました。
隠してもばれるので正直に申し上げますが、結局シャナは13巻以降、読んでいません。
しかし、今さら全巻読むよりも、これまでのこのSSの流れのままに書いたほうが
すんなり書けそうな気がしますので、これまで読んだ分のみ、原作に沿おうと思います。

もし13巻以降の内容と一致しないところが出てきたら、
「パラレルワールド」の出来事ということで、何卒ご容赦ください。

581Back to the other world:2012/02/25(土) 01:08:11
〜90〜

時刻は、18時になろうとしていた。
「はぁ、しっかし、まさか私が、この部屋でこっち側に立つなんてねぇ」
佐藤家のバーカウンターで、マージョリーはひとりごちた。
普段は反対側のカウンターに座って一人で飲んでいる彼女が、この日はバーテンダーの側に立って、客人をもてなしていた。
「ヒャッハッハ、なかなかお似合いだぜ、我が尊大なるホステス、マージョリードブッ!?」
「お黙り。ここはギンザやロッポンギじゃないのよ」

「フフッ、相変わらずね、お二人さんは」
マルコシアスとマージョリーの掛け合いを見ていたマティルダが、頬杖をつきながらにこやかに言った。
「私は長いことアジアにいて、「大戦」前にヨーロッパに行ったから…あなたとは、ちょうど入れ替わるように活動拠点を移したんだったわね」
「ん、そうなるかしら」
「ゾフィーは残念がってたわよ。「あの女傑がいれば、もう少し楽に戦えるのに」って」
「ふん。知ったこっちゃないわよ。あんな口うるさい婆さんのことは」
「ヒヒッ、口じゃこんなこと言ってっけど、「大戦」終わった後、真っ先にあの婆さんのとこに駆けつけて見舞ったのは他ならぬお前だよなぁブッ!?」
「あれは単なる社交辞令よ。ところで」
マージョリーは、仕切り直しとばかりに、カウンターをトン、と手で叩き、マティルダに向き直った。

「「炎髪灼眼」アンタに一つだけ、聞いておきたいことがあるのよ」
「何かしら?」
マティルダが尋ねると、
「アンタのいる「あの世」に」
マージョリーは一転、

「銀色の炎を持つ”徒”はいるかしら」

怒りと憎しみを奥に秘めた表情で、マティルダに顔を寄せ、尋ねた。

「…いいえ。少なくとも私は見ていないし、「あの世」でその気配を感じたこともないわ」
その視線に全く臆することなく、マティルダは答えた。
「…フッ、そう」
答えに満足したのか、マージョリーは一言つぶやいて、天を仰いだ。
「まぁ、アイツがそう簡単に死ぬとも思えないし。あくまで念のため聞いてみただけだけど。安心したわ」
「ヒャッヒャ、これでおめぇのブチ殺しの旅はまだまだ続くってぇわけだ、我が麗しのゴブレット、マージョリー・ドーよぉ!!」
「当たり前よっ!」

582Back to the other world:2012/02/25(土) 01:17:30
〜91〜

満足ぎみのバーテンダーを横目に見つつ、
「さ、そろそろ乾杯と行きましょうか。ねぇヴィルヘルミナ?」
マティルダは、隣に座るヴィルヘルミナに声を掛けた。
「う、む」
しかし、ヴィルヘルミナはマティルダをチラリと見ると、すぐに向き直り、何も入っていないタンブラーを見つめた。
旧友のよそよそしい態度に、マティルダは少し訝しげに問うた。
「どうしたのよ、さっきから、やけに静かね」
「もともと口数は少ない方であります。それに…」
「それに?」
「…まだ、今ひとつ実感が沸かないのであります…貴女が、隣に居るという実感が」
タンブラーを両手で覆いながら、ヴィルヘルミナが答えた。

583Back to the other world:2012/02/25(土) 01:24:13
〜92〜

「…ねぇマスター、こんな夜に、良さそうなお酒ってある?」
少し重苦しくなった空気を変えようとしてか、マティルダがマージョリーに向かって、茶化すように言った。
「私たち3人の、この再会を祝うのに、ピッタリのお酒って、ないかしら?」

「・・・まぁ、あるっちゃ、あるわね」
客の注文に答えると、マージョリーは、『グリモア』から、一枚の栞を抜き取った。
そして、
「はぁっ!!」
栞を床に投げつけた。
たちまち群青色の火の粉が飛び散ったかと思うと、一つの木樽が転がり出た。
「…本当に、この酒を飲む時が来るなんてねぇ」
感慨深そうに言いながら、マージョリーは樽をカウンターに揚げ、指で穴を開けた。
ポン、という小気味よい音と共に、十分に発酵したブドウと、ホワイトオークの香りが溢れだし、部屋にいる者たちの鼻腔をくすぐった。
「ん・・・いい香り。なかなか上物ね」
久しぶりの、地上の酒の香りに、マティルダはうっとりとした表情を浮かべた。
マージョリーは樽をラックに置くと、あらかじめ出しておいたデキャンタに、赤黒い液体を注いだ。

「で、このワインが、どうしてこの夜にふさわしいのかしら?」
マティルダが尋ねた。
ヴィルヘルミナも訝しげに樽を眺めていたが、

「!」

まもなくその意味に気づき、絶句した。

584Back to the other world:2012/02/25(土) 01:26:23
〜93〜

「何に気づいたの?」

「年号」

マティルダが問うと、ティアマトーが、先にヘッドドレスから答えた。
その言葉だけで、マティルダもすぐにその意味に気づく。

「…まさか」
マティルダは樽の側面をじっくりと見回した。

ワインの樽に焼入れされる文字といえば、大体決まっている。

仕込んだ年。
ぶどうの品種。

そして…もう一つ。

「そのまさかなのよねぇ」
デキャンタージュしながら、マージョリーがつぶやいた。

「うそ…」
マティルダは、あめ色に染まった樽の側面を見つめながら、絶句した。


この樽には、その最後の一つが。


「産地」が、


記入されていなかった。


いや、正しくは、記入されていたはずの部分が、不自然な空白となっていた。

585Back to the other world:2012/02/25(土) 01:28:10
〜94〜

「マージョリー、あなた、これをどこで手に入れたの?」
さすがのマティルダが、興奮気味にマージョリーに尋ねた。
「あの婆さんに託されたのよ。「あなたなら大事に飲んでくれそうだ」って。全く、こんな縁起でもない、辛気臭い酒、おいそれと飲める訳ないでしょうが…と思ってたけど」
言いながら、マージョリーは後ろの棚からワイングラスを3個、取り出した。
「まさか、こうして飲む日が来るとはねぇ」
マージョリーはカウンターテーブルに手際よくグラスを並べ、デキャンタージュを終えたワインを注いだ。
注がれる液体を見つめながら、カウンター席の両人は、昔に思いを馳せていた。


そのワインは、15世紀に仕込まれたものだった。
作られた場所は、今は地図には載っていない。
いや、それどころか。
今や、彼女たちを含めたフレイムヘイズか、”紅世の王・徒”達しか、その存在を知らない。

町ごと、この世から完全に消滅してしまったのだった。
一人の”紅世の王”の、愛ゆえの悲しい”暴挙”によって。

「町は消えたのに…ワインは、残ったのね」
グラスを手にとり、マティルダがつぶやいた。
「作ったワイン職人が、たまたまあの日出かけてて、生き残ったってだけよ」
マージョリーは、ゾフィーから聞いた逸話をそのまま話した。
「ホント、勝手なことするわよねぇ、誰も彼も」
かつて戦った、その”暴挙”の主をはじめ、幾多の敵のことを思いつつ、マティルダが言った。
「貴女が言えた口でありますか?」
「傍若無人」
すかさず、ヴィルヘルミナ、ティアマトーが突っ込みを入れた。
「だからゴメンってば。まっ、ヴィルヘルミナもだいぶ調子が戻ってきたみたいだし、今度こそ乾杯しましょ」
マティルダがグラスを掲げた。
それに合わせ、マージョリーとヴィルヘルミナも、グラスを掲げる。

586Back to the other world:2012/02/25(土) 01:33:43
〜95〜

「じゃ、ここはヴィルヘルミナに音頭を取ってもらおうか」
いきなりのマティルダの提案に、
「むっ、な、何故でありますか」
ヴィルヘルミナは困惑気味に答えた。
「だって、こういうときの音頭取りはいっつも私ばっかりだったじゃない。たまには貴女がとってもいいんじゃない?」
「し、しかし…こういう事は不得手であります」
「緊張焦燥」
「何、たまにはいいじゃないの。それに」
音頭取りを拒否するヴィルヘルミナの手をとり、マティルダは一言いった。

「最初で最後だから、ねっ」

「うっ…」
言葉が、一瞬、重くヴィルヘルミナにのしかかった。
この何気ない一言が、改めて彼女の心に突き刺さった。

この再会は、永遠ではない。
最初で最後。
それを思い知らされる一言だった。

587Back to the other world:2012/02/25(土) 01:41:15
〜96〜

でも。
ヴィルヘルミナは、もう、それ以上は考えなかった。
彼女と、再び会えた。話せた。
ヴィルヘルミナにとっては、それだけで十分だった。


彼女を失って、幾百年。
新たな討ち手を養育する事に、自分のすべてを賭けた。
そして、彼女を受け継ぐに足る、立派な討ち手が育った。
それは、最高に喜ばしいことだった。

しかし、その間、心の奥底で、何かが引っかかっていた。
何かが、心を締め付け、疼かせていた。
そしてとうとう今日、その心の疼きが、この不可思議な事件のせいで、全身を飲み込むまでに大きくなった。
でも、数百年ぶりに親友と本気の喧嘩をして、疼きは収まった。
引っかかっていた何かが吹っ切れ、スッキリとした。

「む」

この出会いに、感謝しよう。
これが、たとえ一度きりの再会だったとしても、私は、もう嘆かない。
そう、今この場所こそが、私にとっての、因果の交差路なのだ。


「では、僭越ながら」
ヴィルヘルミナは、イスから腰を上げると、グラスを大きく掲げ、乾杯の文句を唱えた。



「この奇妙な再会に、そしてこの再会の酒を育んだ地、オストローデに、乾杯」


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