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【SS】コスモス文庫&秋桜友達【宮廷社】

1開設者</b><font color=#FF0000>(GCE9hnmM)</font><b>:2003/05/14(水) 11:26 ID:TxRQj2tQ
ごきげんよう、みなさま。
ここは今野作品周辺のSSをまったりと愛でるスレです。SSの投下および感想は
こちらでどうぞ。

・書き手さんに対する感謝とねぎらいの言葉を忘れずに。
・他サイトや他板からの転載、部分改変(盗作)は厳禁です。
・リクエストするだけでなく、みなさまもSSを書いてみましょう。
・エロ作品は自粛を。原作のイメージを壊さないようご配慮願います。

87(7/9):2003/10/31(金) 01:26 ID:ymHL6AKQ
「・・・ぶはっっ」
何かを吹きだしたような音がした。
その音は、誰であろうか、他ならぬ祥子さま自身からだった。
祥子お姉さまは口とお腹を押さえたまま、うつむいて肩を小刻みに揺らしている。
・・・・・・。
・こ、これは、ひょっとして、笑っているのだろうか?
気づいたら、後ろから祐巳さまが私を羽交い締めにして祥子お姉さまから引き離していた。
私は動くことが出来ずに棒立ちのまま、ずるずると祐巳さまに引きづられていく。
「ゆ、ゆゆ、祐巳さま、こ、ここれは、ど、どどど、どういぅことですかぁ!」
パニックになった私は、しゃべることすらもうままならない。
「と、瞳子ちゃん、全部、ぜ〜んぶ説明してあげるから、ね、ね。」
そのまま私は、ずるずると祐巳さまに薔薇の館までひきづられていったのだった。
一体、何が、何が、何が?

88(9/9):2003/10/31(金) 01:28 ID:ymHL6AKQ
昨日のことだった。
薔薇の館の作業が一段落し、休憩と言う名のお喋りが始まっていた。
そんな中で話題には文化祭の準備の時の瞳子のことが上がっていた。
祐巳が言うには、瞳子はきちんと仕事をこなすしっかりした子だったという。
「そうね、仕事はしっかりとこなす子だったね。」令が肯定し、
「ただ少し小言が多かったけど」と付け足した。
「そうなんです、私よりも、よっぽどしっかりしてて」
祐巳は、令の前半部だけ受け取って話を続ける。
由乃ちゃんも続く。
「・・・髪のセットもしっかりしてるしね、あれは普通じゃできないわ。」
祐巳は黙ってうなずいた。
若干、今の台詞には瞳子への皮肉も混じっていたことに祐巳は気づいただろうか。
「そう、しっかりしてるよね。あの髪型、あの、何と言うか、えーと、縦ドリル」
運悪くちょうど紅茶を口に含んだところだった令は、豪快に紅茶を吹き出してしまった。
由乃ちゃんは右手で激しく机を叩きながら、左手でお腹を押さえ笑いころげている。
乃梨子はうつむいたまま全身が小刻みに揺れていて、殺しきれない笑いがこぼれていた。
志摩子でさえ両手で口を押さえたまま下を向いて笑っていた。
あぁ、あのとき私もいっしょに笑い転げてしまえばよかったんだ。
あの時変に我慢したせいで、瞳子を見るたびに祐巳の言葉が頭の中で繰り返されてしまう。
縦ロールのどこをどうすれば縦ドリルになるのだろう。
ごめんなさいね、瞳子。
全部、全部祐巳のせいなんだから。

8980-88:2003/10/31(金) 01:32 ID:ymHL6AKQ
拙い上に長くなってしまいました。
読みづらい上わかり辛かったりする点については予め謝らせて頂きます。
・・・ごめんなさい。
それでは失礼します。

90ごきげんよう、名無しさん:2003/10/31(金) 02:01 ID:PbqF4h4Y
>>89
乙。
これはエロどころかギャグじゃないかw
しかし81のところ。乃梨子の乃が及になっていたよ。
あと祥子さまは瞳子ちゃん、だと思う。

91ごきげんよう、名無しさん:2003/10/31(金) 02:42 ID:MeO6glsc
>>89
乙ー!本当、エロどころかw
とても楽しく読めました。ありが㌧!

92ごきげんよう、名無しさん:2003/10/31(金) 06:02 ID:9Ap6PjFk
>89
乙。これは確かにエロくしようがないな。
あんまり突っ込むと新刊のネタばれになっちゃうけど、文化祭後も
瞳子が薔薇の館の住人になってない設定なのかな?

練習がてらでもいいので、よかったらまた投下して下さい。

93未来予想図 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/03(月) 22:47 ID:qwonjRHQ
「象徴的な光景だったわね」
段ボール箱にカメラを埋めていると、真美さんが話しかけてきた。
「『棒引き』の棒が誰かさんのロザリオとか?」
中指に『花の舞』をセットし、連れ立って入場門へ向かう。
「それもそうだけど、乃梨子ちゃんを含めたトリオがね」
ああ、そういうことか。
「さっきの写真。その時がきたら使わせてくれない?」
どちらにしろ、本人たちの承諾が前提になるけれど。
「その時がくると思ってるわけだ?」
「さあね。何しろ紅薔薇のつぼみ自身がもたもたしてるんだもの」
苦笑する編集長の視線の先に、緑チームの応援席がある。
ああ、あの絵も撮りたかったな、と蔦子は思った。

94未来予想図 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/03(月) 22:47 ID:qwonjRHQ
「祥子さん、何であんなに打倒赤チームに燃えてるのかしらね」
臨時編集会議を兼ねた昼食会の席上、前編集長がつぶやいた。
「真美、あなた何かつかんでないの?」
「はあ、その件については特に何も」
早くお昼のネタを拾いにいきたいが、情報交換も大切である。
「だらしないわね。何のために引退した私が出張ってるのよ」
薔薇ファミリーの半数と同チームの真美を極力フリーにする為だ。
その点は抜かりない。さっきも有力な情報をきっちりキャッチしていた。
「薔薇の館と仲良くするのはいいけど、御用記者になっちゃだめよ」
なかなか鋭い。お姉さまはやっぱりあなどれない、と真美は思った。
「それはそうと、あなた、自分の妹はどうなってるの」
興味津々の態で聞き入っていたルーキーが、ついと視線を逸らした。

95ごきげんよう、名無しさん:2003/11/03(月) 22:49 ID:qwonjRHQ
とり急ぎという感じで、いつも以上に原作依存で申し訳ないです。
なんか、前巻からのネタをまだ消化しきれてないみたいで・・・。

96椿事の予兆 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/10(月) 22:10 ID:kRunXO/w
「瞳子の様子がおかしい?」
体育の授業前、着替えの最中にそっと耳打ちされた。
お馴染みの聖書朗読部コンビ、敦子さんと美幸さんだった。
「何かね、最近イラついていらっしゃいますのよ」
「乃梨子さん、お心当たりはございませんこと?」
いつも一緒のふたり。普段はもうひとり加わってトリオを組む。
もう着替えたものか、あの独特の髪型は教室になかった。
「薔薇の館に関係のあることではないのかしら?」
第二体育館へと移動しながら、美幸さんがなおも言い募る。
「最近は、瞳子あまり来ないし」
演劇部が忙しいらしい。代わって足繁く通ってくるのは・・・。
つまりは、そういうことなのかな?と、乃梨子は思った。

97椿事の予兆 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/10(月) 22:10 ID:kRunXO/w
「今週は、乃梨子さん、外のお掃除でしたわね」
彼女の方から話しかけてくるのは珍しいことだった。
「ええ、何かご用でも?」
笑顔(!)で首を横に振って、機嫌よく去っていく長身の少女。
「???・・・何なんだ」
ふと振り返ると、見るからに不機嫌そうな少女が立っていた。
視線に気付いて、わざとらしく雑巾を取り出す縦ロール。
「瞳子。あんたも素直になった方がいいんじゃない?」
「何のことですの?」
舞台女優の貫禄でお姫様然と問い返す。何やってんだか。
「まあ、いいけどね」
今度はお節介を焼いてあげる番かな?と、乃梨子は思った。

98ごきげんよう、名無しさん:2003/11/10(月) 22:13 ID:kRunXO/w
なんというか、いっつも言い訳ばっかりで見苦しいので
今回は止めておきます。お目汚し失礼しました。

99ごきげんよう、名無しさん:2003/11/16(日) 11:13 ID:ZpBluuLc
お節介を焼いてあげる乃梨子に(;´Д`)ハァハァ

100ある祝祭日 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/24(月) 00:03 ID:3XBpV8iM
「あ、紅薔薇さまだ。ごっきげんよー」
こういう脳天気な挨拶をかましてくる知己はひとりしかいない。
こめかみを押えるポーズを取りつつ、どこかホッとしていた。
「つれないなあ。無視しないでよ」
「そのハイテンションに合わせるには心の準備が必要なの」
チェシャ猫みたいにニッと笑うと、ポケットから何やら取り出す。
「じゃーん。すごいだろう、一発合格」
今日交付されたばかりの運転免許証が誇らしげに握られていた。
「ハッピー・バースデー、聖」
胸に去来するものが多すぎて、見当違いの祝辞を口走ってしまう。
「ありがとう、蓉子。助手席第1号の栄誉は君のものだ!」
それは、謹んで辞退した。

101ある祝祭日 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2003/11/24(月) 00:03 ID:3XBpV8iM
「よくお似合いですよ」
いまどき、髪を切るのに理由なんかいらない。
選りにも選ってこの日に、なんて思う人も多分いないのだろう。
「ありがとうございました。お気をつけて」
愛想の良い声で、イルミネーションあふれる街に放り出される。
この日を選んで髪を切った理由は、少女だけのものだった。
「もう一年になるのね」
わざわざ口に出して確認するまでもない。
あの人の髪が一年分伸びるのを見守ってきたのだから。
「今度こそ、あなたは私を見てくれるかしら?」
決意に固く結ばれた歌姫の唇が、いつしか優しくほころぶ。
聖なる歌をそっとハミングしながら、静はゆっくりと家路をたどった。

102ごきげんよう、名無しさん:2003/11/24(月) 00:08 ID:3XBpV8iM
そんなわけで、メリー・クリスマス。って、一ヶ月も早いですが・・・。
また勝手な設定を作ってしまいまって、申し訳ないです。
多分原作では書かれないということで(大丈夫かな?)何卒ご勘弁を。

103ひみつの鍵 その2:2004/02/02(月) 23:30 ID:xpd1navs
「あの。先輩?」
たしかリリアンでは、上級生には名前にさま、同級生には名前にさんづけがルール
だった。でも、名も知らない上級生に声をかけるにはどうしたらいいのだろう? 
とにかく私は先輩と続けた。
「ちょとまって、いまいいところなんだから」
「でも、もう、だれか二階から降りてきますよ」
その人は血相を変えた。静かな足音が二つ聞こえてくる。

「にげるわよ! ついてらっしゃい!」
というがいなや、その人は私の腕をつかんで、疾風のごとく中庭を北に抜け、クラ
ブハウスのあたりへと連れて行った。ーーいや、むりやりに引っ張られてかれたの
だけれど、どうやら、館の住人には気がつかれなかったようだ。

薔薇の館からは、おそらく薔薇さまのおひとりと思われる三年生の方、そして、も
うひとり、一年生の生徒の姿が見えた。清楚な印象の良く残る、緩やかなウェーブ
をかいて落ちる長い髪と、色素のうすい表情。なんだかマリア様そのものを連想さ
せるような・・・なんてこの学園にふさわしい人なんだろう。

三年生の方も優しく、ともに談笑されていた。・・・と、思ったら、一年生の髪を
撫でられて、顔をよせあってるではないか。キャー!!すてき!!

「ロサ・フェティダに、それにもう一人の一年生。あの方はどなたかしら? あな
た一年生でしょ? 彼女のことご存知?」

一瞬、我を忘れた私に、水を差すようにその人は声をかけてくる。そりゃ、二年生
にもなれば見慣れた光景かもしれないけどさ。おちつけおちつけ。これからはこん
なのは日常茶飯事なんだから。

104ひみつの鍵 その3:2004/02/02(月) 23:34 ID:xpd1navs
「さぁ。私のクラスでは、見かけたことはありません。こんなところで何をしてい
るんですか?」

「あの二人は校舎に向かうようね。このまま追いかけてもいいけど。どうも、そん
なムードじゃなさそうねぇ・・・。薔薇の館に残っているのは、ロサ・キネンシス
とロサ・ギガンティアのお二人・・・。どんな話をしているのか、大体の想像はつ
くけどね。」

・・・人の話を聞いてくださいよ、先輩。と思いつつ、私には、なぜだか、この人
の話の続きがもっと聞きたくなったのだ。

「ロサ・ギガンティアも先代が卒業なさってから、さすがに不安を隠せないようね。
一時期に比べればずいぶん、持ち直されたようだけど・・・」
「なにかあったのですか?」
「今ここで話せるのは、ロサ・ギガンティアにはつぼみがいない、ということだけ。
さっきの一年生がその候補かと思ったのだけど・・・あなた、続きをもっと知りた
い?」
・・・ええ。と答えたのが、幸運だったのか、運のつきだったのか、今でもわから
ない。

105ひみつの鍵:2004/02/02(月) 23:45 ID:xpd1navs
その人は、私をクラブハウスまで案内してくれた。校舎裏にある二階建ての建物で、
文化系の部活がここを根城にしている。でも、すべての文化部がそうなのではなく
て、演劇部なんかは体育館を使うし、ここは単に荷物置き場としてつかっているら
しい・・・そんなようなことを、その人は話してくれた。言われてみれば、ここは
リリアンにはめずらしく、雑然としていた。

私は運動はだめだから、部活に入るなら文化系と決めていた。だから、今、クラブ
ハウスを案内してもらうのに異論はない。けれど、いまさら美術の心得もないし、
音楽のたしなみも知らない。リリアンの多くの生徒は、幼い頃から稽古ごとにはげ
んでいるそうで、茶道や華道、書道にいたっては、家元の子女というのもめずらし
くないという。こういうのは除外。

入学案内のパンフレットには、あと弁論部と新聞部というのがあった。私はこのう
ちのどちらかに入るつもりでいた。ただ、新聞部が、ただの学級新聞のレベルで終
わっているのなら、興味はなかった。

「あなた、お姉さまはいるの?」
ふいに、その人が声をかけてきた。
「はい。います」
「あら、そう。最近の子ははやいのねぇ・・・」

「大学生になる姉が一人います」

「まぁいいわ。お入りなさい」
その人は、なにか苦笑というよりは安堵というような顔をされて、私を部屋の中に
案内してくれたのだった。

106ごきげんよう、名無しさん:2004/02/02(月) 23:47 ID:s9TS5gFc
>103-104
乙。過疎スレにようこそw
別に名前出してもイメージ壊れないと思うけど、これはこれで雰囲気が
あってよろしいかと。ぜひ、またいらして下さい。

107ネタスレの160:2004/02/02(月) 23:58 ID:xpd1navs
こんなマリみては嫌だスレの160の続きです。ご笑読ください。
ブラウザから書き込めず、サファリから入力しているとはいえ、いろいろ間違えました。
sageなくてごめんなさい。あと、上のやつは「ひみつの鍵 その4」です。

108ごきげんよう、名無しさん:2004/02/03(火) 22:49 ID:nLqC1onc
続きキボン

109ごきげんよう、名無しさん:2004/02/08(日) 23:08 ID:KEo5oVsE
2chで「びっくりチョコレート」ラストシーンで祥子があたりかはずれを食べたのかって議論になったので、
漏れ的脳内補完で「祥子視点のラストシーン」。

NGワード『choko sage』です。

110祥子視点で:2004/02/08(日) 23:09 ID:KEo5oVsE
私は思わず笑ってしまった。
「・・・これ、何かのパフォーマンス?」
「はい。びっくりチョコレートっていいます」
「びっくりチョコレート?」
「口が曲がるほどすごい味のはずれが混じっています。それでびっくり」
『びっくりチョコレート』そのままのネーミングだな、と思った。即興で思いついたのが祐巳の顔に現われている。
全く、この子は考えている事が直ぐ顔に出るんだから。
「馬鹿ね」
私はテーブルに落ちたチョコレートの一つを拾い上げて口に運んだ。
「あっ!」
「大丈夫よ。テーブルの上だもの」
それに、せっかく祐巳がプレゼントしてくれたものを食べない訳にはいかない。
味はというと――すごく不味かった。
不味い。何の味だ。マヨネーズの味がするのは気のせいだろうか。舌は肥えている方だと思うのだけど。
すごい味のはずれが混じってるのは本当だった。
運がない。昨日祐巳を泣かしたことをマリア様が咎めたのか。
「・・・どうですか」
祐巳が聞いてくる。
「おいしかったわ」
私は答えた。
どうして「おいしい」と答えたのだろう。
自分が天邪鬼だからか。無意識のうちに祐巳を気遣ったのか。意地悪なマリア様への抗いか。
でも、祐巳の安堵した表情を見れば、それは正しい選択だった。
「よかった。じゃ、それはあたりです」
満面の笑みで答える祐巳。この子は私を全く疑っていない。
それから祐巳は机の上に散らばったチョコレート集め出した。
「あたりだと、何かいいことがあるのかしら?」
私はからかいがてら祐巳に尋ねた。『びっくりチョコレート』は祐巳がとっさに思いついたものだから、景品なんてないはず。

111祥子視点で:2004/02/08(日) 23:09 ID:KEo5oVsE
「えっと」
案の定、祐巳は答えられなかった。
でもいいのだ。チョコレートをプレゼントされたこと。それが私にとっての最高の景品だから。
そういえば、蓉子さまには一度もチョコレートを渡さなかったっけ(正確には先ほど渡した新聞部提供一口サイズチョコがあったが)。
渡された方はこんな良い気分になるのに。少し後悔する。
祐巳はテーブルから零れ落ちたチョコレートまで拾い出した。
よく見ると、どうもチョコレートを仕分けしているようだ。
9個のチョコレートが2グループ。計18個のチョコレートがテーブルに置かれる。
そして祐巳は、アイボリーの箱にひっかかった最後のチョコレートを拾い上げた。
ブラウンの箱は私から取り返そうとした箱。アイボリーの箱は後から慌てて出した箱。
ならば――
「お姉さま」
複雑な表情の祐巳が尋ねてくる。
「あたりを引きますと、もれなく私との半日デートがついてくるんですけど――」
最後の方の声が小さくなり、軽くうつむいて紅くなった祐巳は、とても可愛いかった。

※補足:祥子が蓉子にチョコを渡していないというのは「紅薔薇さま、人生最高の日」で蓉子が
マリア像の前でチョコを渡す姉妹を見て、おととし自分がお姉さまに渡した事を思い出した。
逆に去年祥子から貰った事は思い出さなかった。ということから「祥子は渡していない」という推察です。
本編に記述があるわけではないのであしからず。

112ごきげんよう、名無しさん:2004/02/08(日) 23:26 ID:3W7JWu2.
乙。また気軽に投下してくらさい。ここはNGワード要らないと思うな。

113巨頭会談:2004/02/13(金) 01:25 ID:HpUdMaJI
「後悔しないのね」

「後悔は、ずいぶん前に済ませたわ。もう、なにも行動しないで、いなくなりたくないの」


「あの時はごめんなさい。一年生の時といえ・・・あのアンケートの記事を止めることが
できなかたわ。あなたの気持ちを考えずに・・・」


「その時は、あなたは、私の気持ちを、知らなかったのだから、しかたないじゃない」

「・・・でも、あなたにもーー、ロサ・ギガンティアにも深い傷を負わせてしまったわ」


「大丈夫よ。ロサ・ギガンティアは噂の一つや二つで動じられる方ではないわ」

「でも本当に、いいの?」

「ええ。私はね、ごういう普通の学園生活も送ってみたかったのよ。あなたの情報のおか
げ。祐巳ちゃんともお近づきになれたし。私は今、本当に充実しているの」

「新聞部としては、これ以上、特定の候補者に肩入れすることはできないけれど」

「新聞。送ってね。とくにロサギガンティアと志摩子さんのことは」

「またあなたの歌が聴きたいわ」

114ひみつの鍵その5:2004/02/13(金) 02:22 ID:HpUdMaJI
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」

 新聞部部室。この部屋には、意外と多くの方がいらっしゃった。

 新入生説明会もおわり、ヒマな時期なのだろうか、

 クラブハウスに出入りする生徒の、主立ったメンバーは、よくここに集まっては、
お茶を飲みながら談笑されているという。

 新聞部という名前のイメージから、関係者以外出入り禁止かと思っていたが、案
外そうでもないらしい。

 あの人は、この部屋の主だけあって、ここのサロンの中心的な人物のようだった。
ーーロサ・クラブハウス・・・なんちゃって。


「ごきげんよう。私、武嶋蔦子です」

 ちょうど、となりの席に座った方が、話しかけてくれた。ご挨拶しなければ。
 ネガネをかけているのだけれど、本当によく似合っている。知的で聡明って感じ。
 私はコンタクトなんだけど、ネガネの似合う人って、ほんとうらやましい。

「ごきげんよう。蔦子さま?」
「ふふ。あなたと同じ一年生。だから、さまは、奥の席にいらっしゃる方につける
 べきね」
「ああ、そうなんですか。蔦子さん」
「素直な人ね。それに、可愛い。写真を一枚いかが?」

 え? えええ? でもなんて高価そうなカメラを持っているんだ!
 しかも、デジカメじゃない銀塩フィルムのフルマニュアル。通だ・・・。

 私がしどろもどろしていると、蔦子さんはいったものだ。

「・・・写真を撮られるのが。本当に嫌いな人はわかるわ」
「どう意味ですか?」
「カンね。でも、そうなんでしょう?」
「・・・はい」
「あなた、新聞部に向いているわ。一年生同士。仲良くしましょう。言い忘れたけ
 れど、私、写真部に入りました。こんど一枚だけでいいから、撮らしてくれない?
 現像は暗室でして、ネガは差し上げるから。それに、いろいろ、あなたの知りた
 いことを教えてあげるわ」

「交換条件ですか? でも写真を撮られるのは本来イヤなことですから、貸し一つ
 ですね」

 ひゅう! 蔦子さんは口笛を吹いた。

115113と114:2004/02/13(金) 02:30 ID:HpUdMaJI
省略されてしまった・・・精進せねば。。。114は前の三奈子、真美の続きです。
113は最近ロサ・カニーナTV版をみた影響です。
そのうち、ひみつの鍵シリーズの複線になるかも?(裏で糸引いていたんかい!みたいな)
実はなにも後先のことは考えていないんですけどね

116幕間 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/03/04(木) 01:34 ID:3SivHn2.
「何だって私が宅配便みたいな真似しなくちゃいけないのかしら」
二つの長い三つ編みを翻し、昼休みの廊下を行く少女。と、そのお供。
「結局、令ちゃん宛のチョコなんて、“これ”が目当てなんだから」
不機嫌の元をたっぷり詰め込んだ紙袋を苦々しげに掲げて見せる。
「だいたいホワイトデーに女の子がお返しするなんておかしいわよね」
先日、嬉々としてお返しデートの計画を練っていたのは何処のどなた?
「潔癖なお姉さまをお持ちのどこかのプティ・スールが羨ましいわあ」
どこかのやさしすぎるお姉さまは、お返しも自分で配ろうとしたらしいけれど。
「せめて同学年のライバルたちは、思いっきり事務的に扱ってやるんだから」
大人気ないなあ。というか、それってすごく不毛な気がする。
「全く、何だって私がこんなことしなくちゃいけないのかしら」
じゃあ、つきあわされてる人間の立場って・・・。祐巳は考えないことにした。

117幕間 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/03/04(木) 01:34 ID:3SivHn2.
「とか言って、由乃がいちばんパクパク食べてるじゃない」
楽しそうに笑う新・黄薔薇さまを新・黄薔薇のつぼみがにらみつける。
「当然ですわ、お姉さま。これは労働に対する正当な報酬ですもの」
令さまお手製クッキーの差し入れで、薔薇の館は午後のお茶会。
「だから祐巳さんも遠慮しないで、もっと食べていいのよ」
何でも卒業した三年生へのお返し分も作ってしまったとかで。
「ゴメンね、祐巳ちゃん。湿気ちゃうともったいないから、たくさん食べて」
はーい、と手を伸ばしたプティ・スールに新・紅薔薇さまからひと言。
「太るわよ」
ピキンと固まった新・紅薔薇のつぼみの百面相に笑いの泡がはじける。
自分はいつまで、この心地よい場所にいていいのだろうか・・・。
新・白薔薇さまこと藤堂志摩子は、密やかに吐息を漏らした。

118幕間 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/03/04(木) 01:35 ID:3SivHn2.
「志摩子さん、なんか寂しそうだったね」
天然ボケの見本のような祐巳さんだが、時として妙に鋭いことがある。
「三年生が卒業して寂しいのは、みんな同じなんだけどね」
学年末の薔薇さま方は結構ご多忙で、つぼみふたりでたどる家路。
「あんまり、お姉さまと仲良くしてるところ見せない方がいいのかな」
「そんな風に気を遣ったら、かえって居心地悪いじゃない」
新学期になって、志摩子さんに妹が出来れば様子も違ってくるだろうし。
「どんな子が志摩子さんの妹になるんだろう。想像できないなあ」
「祥子さまと妹の板ばさみでオロオロしてる祐巳さんなら想像できるけどね」
「ひっどーい!由乃さん」
今のところの最重要課題は、妹作りよりも目前に迫った期末テスト。
ふたりがふたりとも、妹なしで学園祭を迎えるなんて思ってもいなかった。

119ごきげんよう、名無しさん:2004/03/04(木) 01:36 ID:3SivHn2.
あちこちで過疎地呼ばわりされてますが、こういう駄作を臆面もなく
投下できる場所は貴重だったりします。(勝手言ってすみません)

120革命的家庭事情 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/03/09(火) 21:49 ID:kCGUNxI2
「おっ、肉じゃがか!美味そうだな」
道場主はご満悦だったが、いちおう釘をさしておく。
「おふくろの味がどうとか、義姉さんに余計なこと言わないのよ」
「ん?甘いのも辛いのも好きだぞ」
はいはい、クッキーとお煎餅の区別もつかない人なんだから。
「令ちゃんは、お母さん似ね」
「そうか?お前の若い頃に似てるんじゃないか」
この唐変木の奥さんがつとまる人というのは、つくづく偉大だと思う。
「お父さん、お風呂わきましたよ」
奥から現れた道場主の妻が、「ごきげんよう」と微笑む。
「ありがとう。おふくろの味ね」
親友でもある兄嫁は、昔から他人の良いところしか見ないのだった。

121革命的家庭事情 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/03/09(火) 21:49 ID:kCGUNxI2
「令ちゃんには、いつ話すの?」
洗濯物を手際よくたたみながら、お母さんがきいた。
(病院ずれした家族だなあ。でも、生まれ変わるんだから!)
「すぐ話す。二、三日中に」
日程が決まった以上、隠すことは出来ないし、隠すつもりもない。
(問題は、どうやって伝えるかよね)
今はまだ会えない。だけど、家族に頼むのも違う気がする。
江利子さまを対象から外した理由は、自分でもよくわからない。
「お母さん、私電話してくる」
「ちゃんと仲直りするのよ」
(令ちゃんに電話するんじゃないもん)
いちばん新しいアドレスが、由乃にはこの上なく貴重に思えた。

122ごきげんよう、名無しさん:2004/03/09(火) 21:50 ID:kCGUNxI2
あまり書かれてない人というのはオリキャラっぽくなってしまうのですが
このご両家は妄想の余地がありすぎて・・・。長沢版ではどうなるか?

123ごきげんよう、名無しさん:2004/03/18(木) 17:49 ID:5gEVliwg
>119=122
乙。相変わらずの良作で嬉しいな。
ここブックマークから外しちゃってたんで新作うぷしてたの気が
つかなかったよw
誰かさんが何処ぞの21禁スレに入り浸ってる間に過疎化が一段と
進んだ気がするが…。
これからも時々は顔出して欲しいな。

124From the bathroom </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/04/06(火) 19:50 ID:COQiO/jI
「ふう、きもちいい」
頭のてっぺんから熱いお湯が体を伝って浴槽に流れ落ちる。
昨夜はあのまま眠ってしまったから、30時間ぶりくらいのお風呂。
本当はゆっくり湯船に浸かりたいところだけど、あまり時間がない。
「めんどくさいなあ」
シャワーが外せないので、いちいち体の向きを変えなければならない。
振り返った視線の先にヒヨコ柄のハンドタオルが干してあった。
「魔法のタオルも、そろそろ卒業しないと・・・」
ピンク色の線がひと筋、うっすらと浮かび上がった右胸の下に手を当てる。
「もっと、強くなるんだから」
もう、ほとんど目立たなくなってしまったけれど、これは由乃の勲章。
世界一大好きな人と肩を並べて歩く証し。

125From the bathroom </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/04/06(火) 19:50 ID:COQiO/jI
「あ、祐巳さん起きた」
何かあせった声に続いて、ドンドンドンと扉が叩かれる。
ノックは優しく。福沢家では、そういうルールはないのだろうか。
「ダメよう、ふたりで入るには狭いんだから。順番、順番」
鼻歌まじりにシャンプーを洗い流す。
心配してくれてるのわかってるのに、自分ながら人が悪い。
「すっかり祐巳さんに甘えちゃったなあ」
濡れた体を拭いて、バスローブを手に取る。
「でも、いいよね。令ちゃん以外では祐巳さんだけだから」
僅差だけど、世界で二番目に大好きな無二の親友。
「妹にするなら、祐巳さんみたいな子がいいな」
令ちゃんがくれた大切なロザリオを首にかけながら、由乃は優しく微笑んだ。

126ごきげんよう、名無しさん:2004/04/06(火) 19:54 ID:COQiO/jI
新刊も美味しいネタと埋めたい隙間てんこ盛りで、妄想が爆発してますが、
いかんせん筆力が追いつきません。精進せねば。
>123
過分なお言葉、痛み入ります。一時期、発想が完全にあっち方向に逝って
しまって・・・。こんな駄作でよろしければ、時々投下させていただきます。
>過疎化
うーん。会話のキャッチボールが欠けているせいかも知れないですね。
自分の場合、駄作以上にダラダラ語るのは潔くないというか、スレの私物化
という気がして、書込みは控えているのですが、折角いただいた感想への
お礼レスぐらいは、ちゃんと返すべきかなあと反省しております。

127In the next room </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/04/08(木) 00:46 ID:8jvxMbGY
「で、どうよ?231号室」
真剣な表情で隣室の気配を探る七三分けの少女に声を掛ける。
「だめ。完全防音だわ」
当たり前だって。コップなんか壁に押し付けて、どこで覚えたんだか・・・。
「やっぱり、抵抗すべきだったかなあ部屋割り」
未練たらたらの顔で、敏腕記者はベッドに身を投げ出した。
「野暮言わないの。いっしょに回れるだけでじゅうぶんじゃない」
今日使い切ったフィルムを整理しながら軽く受け流す。足りるかな?
「わかってるけど、こんな有利なポジションで裏話ひとつ取れないんじゃ」
編集長の名がすたるという。前任者に何を言われるやらってところかな?
「もっと純粋に旅行を楽しんだ方がいいなじゃないかなあ」
自分のことは棚に上げてルームメイトを見やる蔦子だった。

128In the next room </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/04/08(木) 00:46 ID:8jvxMbGY
「いい写真とれた?」
真剣な表情でカメラを手入れする銀縁眼鏡の少女に声を掛ける。
「まあ、ボチボチってとこ」
撮影現場にはほとんど立ち会ってるんだけど、何かご不満のようで・・・。
「新聞部さんには、ご満足いただけると思うんだけど」
難しい顔で、敏腕カメラマンは椅子に掛けたまま伸びをした。
「ベタな写真いっぱいとれたんでしょ?」
取材メモを整理しながらそれとなく探りを入れる。ああ、これはボツと。
「そうなんだけど、学園祭の目玉になるようなのは、なかなか、ね」
会心の出来が来ないという。去年以上の傑作をモノにってところかな?
「まあ、まだいくらでもチャンスはあるって」
自分自身に言い聞かせるようにルームメイトを励ます真美だった。

129ごきげんよう、名無しさん:2004/04/08(木) 00:50 ID:8jvxMbGY
ちょっと思うところあって連投。

130ごきげんよう、名無しさん:2004/04/09(金) 01:02 ID:0e5HF6s2
カワイイ
本編が急ぎ足で薄い印象だったので
余計楽しめました

131緒戦 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/05/18(火) 19:45 ID:TgVeVW4I
「ちょっと時間をもらえないかしら?」
絶え間ない妹訪問の波の中でも、紅薔薇のつぼみの注目度は格別である。
呼び出された方も、また然り。ましてや、それがふたりとあっては・・・。
「「ふう」」
思わずもらした溜息が相手のそれと重なり、少女たちは顔を背けた。
「何してるの?早く早く」
最近の祐巳さまは開き直って、全然人目なんか気にしないので困る。
クラスメイトたちの「そういう視線」を振り切って、天然な二年生の後を追う。
たぶん「そのとき」までセットで語られるのは避け得ないのだろう。
ちっとも、「そんなこと」期待していないのに。
「「まったく、もう」」
微苦笑まで写し取ったような互いの声に顔をしかめる瞳子と可南子だった。

132緒戦 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/05/18(火) 19:46 ID:TgVeVW4I
「誰が見たってマッチレースよね」
結局、祐巳ちゃんは両方にお土産を渡したそうな。
「そう?学園祭前に運命の出会いというのもあるかもよ」
祐巳ちゃんというより、由乃にこそ言ってるって、わかってるだろうか。
「うちは、もう去年のパターンから外れてるけどね」
残念ながら、一年生に島津・支倉両家の血縁者はいない。
「この際、祐巳ちゃんにひとりゆずってもらう?」
「実際問題として救済措置ってのはアリかとも思ってるんだけど」
出来の悪い冗談に本気の表情。これは釘をさしておかないと。
「由乃・・・」
「冗談よ。もしやるなら、祐巳さんの鼻面から掻っ攫ってやるわ」
先手必勝。従妹のモットーが殊更に危なっかしく感じられる令だった。

133ごきげんよう、名無しさん:2004/05/18(火) 19:50 ID:TgVeVW4I
また、えらい間が空いちゃいました。
その割に練れていないし・・・。精進します。
>130
ありがとうございます。・・・って、もうご覧になってないか。
割とすぐ見たんですけど、レス返しだけじゃなんだしと思って
いるうちに、どんどん時間が経ってしまって。すみません。

134再会 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/06/20(日) 09:50 ID:nBpXAi/o
「ごきげんよう」
このところ、口に出して使うことのなくなった古風な挨拶。
そもそも、日本語を使う機会があまりないのだけれど。
「ごきげんよう」
文字に書かれた言葉としては、最もよく触れている気がする。
自分が綴った6文字。遥か故国の少女が綴った6文字。
「ごきげんよう、志摩子さん」
あの人がいなければスールになれたかもしれない少女。
「ごきげんよう、静さま」
でも、あの人がいなければ向き合うこともなかった少女。
もどかしくものんびりとした距離感が似つかわしい関係。
ペンフレンドという名の年少の友と半年ぶりに再会した。

135再会 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/06/20(日) 09:50 ID:nBpXAi/o
「お元気そうですね、静さま」
少女の視線が半年分伸びた髪に向けられている。
少女が契りを交わした頃のあの人と同じくらいの長さだろうか。
「ありがとう。志摩子さんもお変わりなく」
静の視線の先、少女の右手首にロザリオはなかった。
あの人のスールの証は、少女の妹の首にかけられたという。
「座らない?」
手紙に書かれない程のことは、逢って話す程のことでもない。
何人かの知己の消息の後は、ふたり黙って景色を眺めていた。
芝生を吹き抜ける風が気持ちいい。ふと、一点に目が止まる。
「待ち人来る」
新たに、懐かしい深い色の一群が近づいてくるのが見えた。

136ごきげんよう、名無しさん:2004/06/20(日) 09:52 ID:nBpXAi/o
また間があいてしまいました・・・。
本日、都内某所で開かれる某イベントで某サークルさんに
使っていただいたネタです。・・・また落ちがないなぁ。

137能ある鷹の目 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/09/16(木) 05:53 ID:qq87rfo.
「もう、間違いないわ!」
思わず漏れた声にあわてて口を押さえ周囲を見回す。
≪館内ではお静かに≫
図書委員自らが禁を破っては示しがつかない。
逸る心を抑えつつ、あらためて貸し出し記録を検索する。
小笠原祥子さまから始まって、福沢祐巳さん、二条乃梨子さん・・・
「藤堂志摩子さん、そして今日、島津由乃さんか」
自分のものでない声で読み上げられる名前に、思わず顔を上げる。
「なかなかいい着眼点ね。日本古典文学全集か」
カウンター越しに、きれいな七三に整えられた頭が乗り出していた。
「あなたの推理を聞かせてもらえる?」
巧みにプライドをくすぐられ、少女はあっさり口を割った。

138能ある鷹の目 </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/09/16(木) 05:54 ID:qq87rfo.
「記事にしていい?」
このところ仲良し4人組をやっていて、つい忘れていた。
「もちろん第一報で演目を晒すような野暮はしないわ」
真美さんが凄腕の報道記者であることを。
こうして筋を通してきた以上、無下には拒否出来まい。
「わたしたちの一存では決められないけれど・・・」
祐巳さんの言葉は、事実上のGOサインだった。
「しかし、よくもまぁ突き止めたわね」
「私の手柄じゃないわ。推理したのは図書委員の彼女」
由乃さんが露骨に顔をしかめる。
「図書館は鬼門だわ・・・って、ちょっと蔦子さん!」
あら、なかなかいい表情だったわよ?

139ごきげんよう、名無しさん:2004/09/16(木) 05:57 ID:qq87rfo.
ああ、あんまりにもご無沙汰だったんでsageるの忘れてた・・・。
いや、新刊出ちゃう前に書いときたいなぁと思ったもので。

少しは進展を期待していいんですかね?

140ごきげんよう、名無しさん:2004/09/29(水) 00:02 ID:/D/DDCn2
test

141魚スープ屋出張中:2004/10/24(日) 23:59 ID:LOAbm7j6
萌えBBSがお休み入ってる様なので、ここに投下させて頂きます。

 草が覆い茂る荒れ果てた丘で一人の老婆と小さな女の子がいた。
女の子「ねぇ、おばぁちゃま。ここは何ですか?」
老婆「ここはおばぁちゃんの思い出の場所よ…。」
   大河ドラマ〜リリアン太平記〜第一話『祐巳ひとりでできるもん』
祐巳「私がんばります。お姉さまの分も」
 それは昨日の事だった。夜も遅い時間に祥子様のお母様清子さまからの電話が
掛かってきた。清子さまは祥子様が交通事故に遭い危篤なので会いに来て欲しい
とおっしゃった。私は急いで祥子様の搬入されている病院に行くと既に山百合会
全員と蓉子様や聖様、江利子様の前三薔薇様達やギンナン王子様と瞳子ちゃんも
いた。ベッドの上の祥子様のお顔は綺麗なままだったが首から下の怪我が酷いら
しく、うっすらと血の滲んだシーツが掛けられていた。
祐巳「あぁぁっ!!…お姉さまぁ…」
泣き出し、気がふれそうなった私を聖様がそっと抱き寄せた。
蓉子「祥子…祐巳ちゃんが来たわよ。」
祥子「ここに呼んでくださいませんか?」
蓉子「えぇ…祐巳ちゃん、いらっしゃい」
祥子様の傍に来ると蓉子様は『顔を近付けて』と云うジェスチャーをとった。
祐巳「お姉さま…わたくしです。」
祥子「…会いたかった。祐巳……私の可愛い祐巳…」
消え入りそうな、か細い声で祥子様は話しかけた。そして左手で私を求めた。
私は祥子様のお手をしっかりと握った。
祥子「…やま…ゆ…」
祐巳「えっ?」
祥子様は閉じていた瞳を開け、そして私を見つめてこう言った。
祥子「…山百合会を…名誉ある紅薔薇の名をあなたに任せた…わよ」
祥子様の瞳が閉じ左手が私の手からするりと落ちた。
祐巳「お姉さま?お姉さま!!お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
蓉子「目を覚ましなさい!!!祥子!! 祥子!!お願いだからぁ!!うぁぁぁ…」
王子「さっちゃん!!」
瞳子「祥子おねえさまぁぁぁ」
江利子「何をしてるの!! 早く先生呼んできなさい!!」
 あれから一週間が経った。あの後、病室に入って来た医者が脈を取ると『寝ている
だけです。』と言い、皆がほっとした。蓉子様は安心した様に「よかった。祥子」と
おっしゃり祥子様のお名前を繰り返しながら泣いていらしたらしい。『らしい』と言
うのは後から由乃さんに聞いた話だからで、私も安心してしまい大泣してしまったの
で全然覚えていなかったからだ。
女学生「ごきげんよう」
祐巳「ごきげんよう」
 さわやかな朝の挨拶が澄み切った青空にこだまする。マリア様の前で私は手を合わせ
『どうか私をお守りください』と祈った。お姉さまがいない分、私が頑張らなくては。
『山百合会を、名誉ある紅薔薇の名をあなたに任せたわよ』とお姉さまは私に託した。
祐巳「がんばらなくっちゃ!!祐巳ひとりでできるもん!!」
 今思えば、この日が後世の歴史家に『リリアン太平記』と言われる戦乱の幕開け
だったのかもしれない。

142魚スープ屋出張中:2004/10/25(月) 00:13 ID:AmswRDN.
四話までスープが出来ているのですが、不評でしたら店を畳みます。
 祥子様はあの日(第一話参照)からずっと眠っていらした。いわゆる、こん睡状態と
言われるものだ。祥子様が一命を取り留められてみんなは安心し、心の底からマリア様
に感謝した。けれども一向にお目を覚まさない祥子様に、その安心と喜びが不安と悲し
みに変わるのはそう時間が掛からなかったと思う。私は祥子様がお目を覚まされるまで
ずっと側にいたかったのだけれど女子高生という立場上、『そういう訳にはいかないで
しょ』と前三薔薇様達にたしなめられてしまった。そこで蓉子様が「大学生はちょっと
休んでもレポートとか写せば大丈夫だから」という理由で祥子様の看病に当たられる事
になった。何時だっけか蓉子様が「私は一生あの子の姉なのよ」と私におっしゃった事
を思い出し、ずっと看病に当たられる蓉子様のお姿に一つの救いを見たような気がした。
それでもその頃の私は不安と絶望の中にいた事には変わりは無かった。そんな私を励ま
そうと乃梨子ちゃんから手彫りの仏像(本人談)をプレゼントして貰い、令様の一人
ごっつと由乃さんの腹芸、志摩子さんの北○鮮の少年律動体操を見せてもらった。
でもみんなも祥子様が大好きだから本当は私と同じ気持ちなのに無理に励まそうとし
ている姿は色々な意味で痛々しかった。
   大河ドラマ〜リリアン太平記〜第二話『賛成の反対なのだ』
 祥子様が入院してから一週間たったのある日の放課後。何時もの様に薔薇の館で会
議が行われた。議題は花寺の学園祭について。私が一番遅れて来たらしく、山百合会
幹部全員と瞳子ちゃんが会議室に揃っていた。みんなが来たら、そそくさと居なくな
る筈の可南子ちゃんもいた。
由乃「祐巳さん。辛かったら会議お休みしても良かったのよ」
祐巳「うん。ありがとう。大丈夫だから」
令「それじゃ今日の会議を始めます。議題は花寺の学園祭についてだけど…日程
とか大体の事は既に決まっているから改めて話し合うことじゃないんだけれど…」
志摩子「花寺の学園祭のメインゲストとして三薔薇が行くことになっていたのだけれど
祥子様がご入院されているので三薔薇が揃わなくなってしまいました。」
 そう志摩子さんが言い終えると私の気を遣うようにみんなが私の顔を見てきた。
ありがとう大丈夫だよ。
祐巳「なんとか花寺に相談して、令様と志摩子さんだけで花寺の学園祭に行くって
いうのはダメなのかな?」
乃梨子「それがベストな結論なんですけど花寺の学園祭に三薔薇様が揃わないって
いうのはリリアン内部では問題があるんですよ」
令「リリアン生独特の内面的な問題って言うのかな。薔薇様は三人揃って当たり前
だったから。」
志摩子「花寺の学園祭には三薔薇様が揃っていく事が伝統なの。祥子様のことで
ただでさえショックなのに、リリアン生は特に伝統とかにこだわるから…」
祐巳「…私わかるよ。みんなの気持ち。なんか…本当に居ないんだなって…寂しく
なっちゃう気持ちが…」
令・志摩子・乃梨子「……」
由乃「祐巳…」
しばし重い沈黙がその場を支配したがそれを破る様に今まで黙って成り行きを
見守っていた可南子ちゃんが口を開いた。
可南子「ならば祐巳様がロサ・キネンシス代理に就かれればいいのですわ」
祐巳「ちょっ…ちょっと可南子ちゃん?!いきなり何を!」
令「それ…。妙案かもしれないね。いいんじゃない。」
志摩子「そうですわね。」
由乃「確かに妙案。決定。」
 可南子ちゃんの爆弾発言で度肝を抜かれアタフタしている私を置いてけぼり
にして代理就任なんてトンデモナイ事を勝手に決定しようとしていた。
祐巳「わっ私に祥子様の代理なんて無理です!!!」
 私が言い終わるか終わらない内に『そんな事ありません!』と言わんばかりにテーブル
を叩きながら可南子ちゃんが立ち上がり、そして何時もの熱弁を振るった。
可南子「祐巳様は充分、紅薔薇様の代理としての才覚をお持ちでいらっしゃいますわ!
むしろ祥子様を凌駕していらっしゃる!!!容姿端麗で頭脳明晰!!なによりも生徒達に
信望があります!!要らぬ心配をする必要はありませんわ!!本当は男などという薄汚く
て低知能で存在する価値も無い害獣がたむろしている花寺人外魔境高校などには行っ
て頂きたくないのですが紅薔薇様不在の時に祐巳様の存在をアピールし『福沢祐巳
ここにあり!!』と…」
令「コホン!!ともかく祐巳ちゃんは今まで祥子や蓉子様達の事を見てきたんだから
別に無理じゃないと思うよ。それに来年になればロサ・キネンシスとして公務に付
かなくちゃいけないんだし。修行だと思ってさ。」
 髪を振り乱すように拳を突き上げ一人でヒートアップした可南子ちゃんの話を咳払い
で遮ると令様はそうおっしゃった。

143魚スープ屋出張中:2004/10/25(月) 00:32 ID:AmswRDN.
祐巳「…」
志摩子「私達全員で祐巳さんのバックアップをするわ。だから心配しないで。」
由乃「そうよ私達、知らない仲じゃないんだから。代理になっても、いっぱい甘えていいんだよ」
可南子「不肖この細川可南子!!祐巳様の為に誠心誠意ご奉仕させていただきます!!」
 ご奉仕って…ちょっと違うんじゃないかなぁと思いつつ、みんなの励ましは心の底から単純に嬉しかった。
だけどやらなくちゃいけないというプレッシャーも感じた。
祐巳「…私、ロサ・キネンシス代理になります…」
 私の決意にみんなの顔はぱっと華やいだ。可南子ちゃんなんかはうっとりとした顔で周りをキラキラさせていた。
令「じゃ。全会一致ということで祐巳ちゃんの代理就任決定。」
瞳子「ちょっと待ってください!!」
 珍しくずっと黙っていた瞳子ちゃんが大きな声を出したので、みんなはびっくりした。
乃梨子「いきなり大声で何よ!! 瞳子。」
瞳子「誰が全会一致ですって!! 瞳子は反対です。賛成の反対なのだっ!!」
令「反対って祐巳ちゃんの代理就任に?」
瞳子「当たり前です!! 祐巳様には祥子お姉さまの替わりは務まりません!!」
 …瞳子ちゃん。わかってるよ。そんな事。
由乃「失礼よ!!瞳子ちゃん。祐巳さんにあやまりなさい!!」
可南子「その通りですわ!!」
瞳子「あやまりません!! 瞳子は事実を言っただけです」
志摩子「初めから何が出来て何が出来ないかなんて決まっている人間は居ないわ。」
令「私だっていきなりロサ・フェティダとして公務ができるようになった訳じゃないよ。」
瞳子「それは皆様がブゥトンだった時の話でしょう?それにそんな理屈は薔薇の館の中でしか通用しませんわ!!
代理であっても薔薇様は薔薇様。リリアンのシンボルで憧れなんですよ!! その薔薇様が半人前では全校生徒の
信頼を裏切る事になるんですよ!!半人前の方が薔薇様としてトップとして立たれている組織を誰が信頼しますか?
だれが敬い一目を置いてくれるんですか?」
令「そっ…それは…」
 私の素質について瞳子ちゃんは怒っているのだけれど、令様や志摩子さんを前にして、これだけ噛み付く
瞳子ちゃんは本当に凄いなと、他人事のように感心してしまった。そんな事を思っている内に瞳子ちゃんは
ズイズイと私の隣にやってきた。
瞳子「祐巳様にはそんなご自信があるのですか?」

144魚スープ屋出張中:2004/10/25(月) 00:37 ID:AmswRDN.
祐巳「…」
瞳子「それに代理に就かれるという事は祐巳様の一挙一動が祥子お姉様のお名前に関わるのですよ!!
そんな事、祥子お姉様がお許しになると思います?」
可南子「異議有りですわ!!」
 可南子ちゃんは立ち上がりみんなを見回し、一息ついて話し始めた。
可南子「ロサ・キネンシスつまり祥子様は『全てを祐巳様に託す』とおっしゃられましたわ。
極論を言わせていただければ…祐巳様ならば万に一つもありえないでしょうが…もし祐巳様が
失敗をされ祥子様のお名前を傷つけるような事があっても祥子様は構わないと云う事じゃない
のですか?」
瞳子「それは違うわ!!」
可南子「違うとおっしゃるのなら理由をお話ください。」
瞳子「くっ…」
可南子「それに祥子様が『全てを祐巳様に託す』とおっしゃられた以上、祐巳様には代理就任の
権利がありますし山百合会の方は祐巳様の就任を容認しなければいけない義務がありますわ。
それを否定する権限や権利は瞳子さんにあるのですか?」
 みんながあっけにとられた中で瞳子ちゃんは「どうぞ皆様でご自由に」と言い残しビスケット扉を
すごい勢いで開けて出て行ってしまった。
由乃「すごいわね可南子ちゃん。それにして瞳子ちゃんは言い過ぎだったわね。祐巳さん大丈夫。」
祐巳「うん。私ね瞳子ちゃんの気持よく分かるよ。瞳子ちゃんは祥子様の事が大好きだから私なんかの
せいで祥子様に迷惑が掛かるのが我慢できなかったんだよ」
乃梨子「それは違うと思います。」
えっ?という顔でみんなは乃梨子ちゃんを見た。
乃梨子「多分、瞳子は祐巳様の為に言ったんだと思います。」
志摩子「どうして乃梨子はそう思うの?」
乃梨子「多分祐巳様がお辛そうな顔をしてらしたから心配して。腐れ縁というかあの子とは一緒に居る事が
多いんでなんとなく分かるんですよ。瞳子っていつも祐巳様の話をしてるんですよ。今日の祐巳様はだらし
が無いとか、もう少し落ち着いて欲しいとか。」
祐巳「うわぁぁぁぁぁ」
乃梨子「最初は祐巳様の事が気に入らないからと思っていたんですけど…瞳子が祐巳様の話をする時は
『何々が悪かったからこうするべきだ』って感じて言うんですよ。母親ができの悪い子供を心配する
みたいに…あっ!!」
祐巳「……」
由乃「うわぁぁぁぁぁ」
乃梨子「すっすいません。べっ…別に祐巳様の出来が悪いだなんて思ってませんよ!!あの…その…ほら!!
出来の悪い子ほど可愛いって!!」
祐巳「……」
志摩子「乃梨子…」
令「…フォローになってないよ」
乃梨子「つっ…つまり瞳子は代理就任を皆さんに迫られ祐巳様が辛そうだったから祐巳様のかわりに
断ろうと思ったんじゃないですかね。あはははは。」
 どっちが涙目になっていたか分からない様な状況の中で可南子ちゃんが口火を切った。
可南子「それでも私は瞳子さんを肯定できませんわ。祥子様の一件で祐巳様はお辛いのにあの様な辛辣な
言葉は仮に祐巳様の為だとしても許されざる事ですわ」
由乃「…可南子ちゃんの言う事も一理有りだね。もう少し言葉を選んであげても良かったかもね。」
可南子「どの道、祐巳様の代理就任は避けられざる道ですわ。」
 可南子ちゃんは私が代理になるのは避けられないと言った。そして可南子は私の手を両手で握ると
「私はこの身を捧げて祐巳様をお助けしますわ」と言った。こうして私はロサ・キネンシス代理に
就任した。その頃、薔薇の館の外で築山三奈子様と山口真美さんが居た事をその時の私達は知る由が無かった。
三奈子「聞いた真美!!」
真美「ええ。聞こえましたわお姉さま。」
三奈子「松平瞳子さんと細川可南子さんの口論。しかも二人はロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの代理就任がどうとか。」
真美「祥子様の一件でこの手のネタは不謹慎って云う事で控えてきましたけど、全校生徒の関心は限界点に来てますからね。」
 どうやら瞳子ちゃんと可南子ちゃんの口論は外に聞こえていたらしい。
三奈子「これは超特大スクープよ。しかも大事件の幕開け。記者の勘がそう教えているわ。真美!!ひとまず松平女史に
インタビューして!!」
真美「わかりました!!お姉さま!!」
     騒乱の足音が近づいてきた。

145ごきげんよう、名無しさん:2004/10/26(火) 22:54 ID:B6ZCd8gM
続きまだ〜。チンチン(AA略)

146魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 20:27 ID:7rLWUyNY
スープのおかわりです。
 私の代理就任が決まった日の学校の帰りに私は祥子様を訪ねた。そこには看病に
当たっていた筈の蓉子様ではなく江利子様がいた。聞けば蓉子様は祥子様の看病で
日に日にやつれていき、このままでは蓉子様も倒れられてしまうという事で前三薔
薇様三人が日替わりで看病に当たられることになったのだ。それで今日は江利子様
が居るという訳だったのだ。江利子様に代理の件を話すと「がんばりなさい」とだ
けお答えになった。外が暗くなってきたので祥子様と江利子様にお別れを言うと、
去り際に江利子様が「祥子は世界一の恵まれ者ね」とおっしゃっていた。
 その次の日。なぜか一般生徒が私の事をチラチラと良く見てくるなと思った。
昼休みに由乃さんに「ちょっと来て」と誘われ私は体育館裏にお弁当を持って
いく事になった。そこには乃梨子ちゃんもいた。
由乃「これ見て。」
由乃さんが差し出したのは校内新聞「リリアン瓦版」。そこには『一番萌えるのは
スクール水着か!!ブルマーか!!』と書かれていた。
祐巳「うーん。やっぱりスク水かな?夏だけにしか見れないドキドキ感がなんとも…」
由乃「どこ見てるのよー。ばか!!」
 傍らで乃梨子ちゃんが大爆笑していると、由乃さんはリリアン瓦版の一面記事を私に
見せつけた。
祐巳「こっこれは…」
由乃「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン代理就任。松平女史と細川女史の大論争だって。
やってくれるわ、あの人達。何処でそんなネタ仕入れてきたのかしら。」
乃梨子「内容もかなり強烈なんですよ。瞳子と可南子が取っ組み合いの喧嘩をしたとか
喧嘩する二人を止める為に祐巳様が号泣したとか。悪評はかねがね聞いていたんですけど
まるで見て来たかの様な誇張は悪意こそ感じませんが脅威ですよ。」
 リリアン瓦版には何度泣かされてきたことか。ここに居る由乃さんもそうだった。
由乃「一番問題なのは最後よ。『ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの代理就任に強く
反対した松平女史が我々に投げかけた波紋。それはロサ・キネンシス・アン・ブゥトン
は小笠原祥子の後継者たり得るのか?』ですって。」
   大河ドラマ〜リリアン太平記〜第三話『ありえないすごい反対』
 放課後、蔦子さんに「今日、真美さんは音楽室の掃除当番よ」と教えて貰い真美さん
が帰って来ない内に由乃さんと私はそそくさと薔薇の館に向かった。二階会議室に行く
と瞳子ちゃんと私達以外は揃っていて、令様や志摩子さんが例の瓦版を見て頭を抱えていた。
令「どうしてこんな事に。」
可南子「誰かが喋ったとしか思えません!!多分、瞳子さんですわ!!」
乃梨子「可南子!!」
志摩子「それはありえないわ。可南子ちゃん。」
 その場に居る全員がうんうんと頷く。

147魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 20:33 ID:7rLWUyNY
 ↑上野つづき★
乃梨子「ともかく犯人探しは置いといて。問題は話が漏れちゃったってことですよね。」
令「うん。公式発表前にすっぱ抜かれると『既に決定済み』という強行採決が出来ないからね。」
志摩子「しかも祐巳さんが適任か不適任かという問題提起までしているから…騒ぎにならなければ
いいけど。」
可南子「騒ぎなぞ起きる筈がありませんわ!!皆様はご自信が無いのですか?」
令「ここにいる誰もが祐巳ちゃんは絶対適任だって自信があるよ。」
志摩子「ただ、リリアン生の中には年功序列とか手順とかに厳格な方々が多いので
そういった方々が反対するのではないかと心配しているの。」
 分かる気がする。伝統と格式に守られてきて、それを誇りにしてきたリリアン。
あとで令様に聞いた話では薔薇様の代理なんて前代未聞らしい。立ち聞きしていた
由乃さんが会議室の古い椅子をギシッといわせながら座ると志摩子の話を続けた。
由乃「それに祥子様には熱狂的なファンがいるのよ。殆ど教祖様状態で崇めたて奉っている人達が。
この人達もどう騒ぐかと…」
乃梨子「なんで祥子様のファンが反対するんですか?」
由乃「言い方が悪いかもしれないけど祥子様のファンで、祐巳さんに寝取られたとか、祐巳さんが
スールになった事は認めてない。とか、思ってる人達がいるの。」
可南子「逆のパターンもありますわ…」
 私も椅子に座ると結論を話した。やっぱり私じゃ祥子様の替わりなんて無理だから。
祐巳「じゃ。私が代理から降りれば問題解決になりますよね。」
令「それは却下。」
あっさりと令様は私の提案を断った。
乃梨子「今ここで降板したら余計回りが騒ぎ始めますよ?」
祐巳「え?」
令「そうだよ祐巳ちゃん。ここで祐巳ちゃんの代理降板を認めたら、私達にその気が
無くても生徒達は私達が祐巳ちゃんは不適任だと認めたと思われてしまう。それに
発表前に重要議題をリークすれば可否が自由にできるという悪い前例が作られてしまうから。」
志摩子「それはどういう事か祐巳さんにはわかるでしょ?」
 私の降板が決定した事を全校生徒が知れば、私が不適任だと山百合会が判断したと思うだろう。
それは山百合会の混乱というイメージを与えてしまう。特に新聞部なんかは飛びつくだろう。
それに重要議題をリークできれば、決定前に何らかの圧力を外部から加え、議決が自分達の思う通
りになると思われてしまう。それは山百合会の崩壊だけではなくリリアンそのものの崩壊を招きか
ねない。そう思うと身震いがした。
令「脅すわけじゃないけど、降板は認めま…」
 令様がそう言い終わる前にドタドタと足音が聞こえ、たくさんの人達がいきなり会議室に乱入してきた。
小西「失礼します!!これどういうことですか!!」
石田那津子「私達にもご説明願えるかしら?」
 このお二方は『LOVE★さちこ★君のためなら死ねる』と書かれた鉢巻とはっぴを着た祥子様ファン
クラブ会長の小西様と令様より長身の空手部部長石田那津子様だ。その後ろには祥子様ファンクラブ会員
と体育会系部員でごった返していた。

148魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:02 ID:7rLWUyNY
  ↑上野つづき★
令「これは何なの那津子!!」
那津子「これを見てもらえるかしら。令。」
 令様と那津子様は運動部という関係上お知り合いらしく、那津子様が差し出された今日
の瓦版号外を見て令様は黙り込んでしまわれた。
小西「私達の祥子様を出し置いて二年生の方がロサ・キネンシスになられるっていうのはどういう事ですか!!」
 由乃さんが「なんの事ですかネェ?」とはぐらかすと小西様とファンクラブの人達から「ごまかさないでよ!!」
というブーイングが沸き起った。
那津子「ともかく二年生が手順を踏まないでトップになるというのはどうかしらね。先輩後輩の序列を無視した
今回の人事は後輩に対して示しがつかなくなるわ。」
乃梨子「志摩子さん…つまり私のお姉さまは二年生でロサ・ギガンティアですよ。」
那津子「それは去年、前ロサ・ギガンティアのブゥトンで、しかも選挙で信任されたから、きちんと序列と手順
は踏んでいるわ。」
 また。ドタドタト足音が聞こえてくると今度は別の人達が乱入してきた。先頭には小さなかわいらしい子がいた。
前田かなみ「皆様のお言葉、聞き捨てなりません!!祐巳ちゃんはロサ・キネンシスにふさわしいです!!」
可南子「お久しぶりですわ隊長!!」
前田かなみ「お・ひ・さ★可南子ちゃん!!」
 この人誰と可南子ちゃんに聞くと「祐巳ちゃん親衛隊の隊長。三年生の前田かなみ様ですわ。」
と教えてくれた。そんなのあったんだ。というか三年生なんだこの人…
小西「祐巳ちゃん親衛隊は黙っていなさい!!」
那津子「三年生としては看破できない問題よ!!」
かなみ「祐巳ちゃんのこといじめるな!!ヒステリー女!!筋肉ガール!!」
安達&那津子「だれがヒステリー女!、筋肉ガールですって!!」
 もうだめだ。私のせいでこんな大事になっている。私のせいでみんなが争っている。
祐巳「みなさん!!私代理降ります。皆様に大変ご迷惑をかけました。だから…だから」
 ここまで言い終えて言葉が出なくなってしまった。自分でも気づかない内に涙がこぼれてきた。
可南子「祐巳様!!!!」
由乃「祐巳さん!!!!」
かなみ「よくも私達の祐巳ちゃんを泣かせたわね!!許さない!!」
後ろに控えていた親衛隊の人たちが一斉に入ってくると負けじとファンクラブや運動部の人たちが一斉に入ってきた。
「祐巳ちゃんにあやまりなさいよ!!」「私達が何故あやまらなくてはいけないの!!」「祐巳様!!ロサ・キネンシスを
降りないでください!!」「あなた達の言っている事は理屈が通らない!!」「ロサ・キネンシスの座は祥子様だけの物
ですわ!!」「カレー食えカレー!!」「萌え萌え」
令「黙りなさいっ!!!!!!」
親衛隊「!!」ファンクラブ「!!」運動部「!!」
 令様が大声で一喝をするとその場の全員が緊張し、喧騒が納まった。
令「この件は時期が来たら皆様に発表します。今日の所はお引き取りください」
 乃梨子ちゃんがビスケット扉を開けると親衛隊やファンクラブの人たちは帰って
行った。令様が可南子ちゃんと由乃さんに抱かれていた私を撫でると「私達は何が
あっても祐巳ちゃんのそばに居るから」とおっしゃった。その頃。リリアンの正門
近くにいた瞳子ちゃんを三奈子様が呼び止めた。
三奈子「ちょっといいかしら。松平瞳子さん。」
瞳子「なんですか?築山三奈子様。」
三奈子「薔薇の館には行かないのかしら?」
瞳子「どうしてそんな事聞かれるのですか?」
三奈子「だってあなた。放課後は毎日、薔薇の館に行ってたでしょ?」
瞳子「お答えする必要はありません…そんな事でしたら帰りますよ。」
三奈子「ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの代理就任の件で松平さんのご意見を利かせて貰えるかしら?」
瞳子「空々しいですわ!!今朝の号外にそれらしき記事が瞳子の意見としてもっともらしく書かれていた
ではないですか!!」
三奈子「うふふ。あれは半分が伝聞によって作られた推測よ。腕の見せ所ね。」
 瞳子ちゃんは「この人は自覚があってあんな事やってたんだ」と腹を立てた。
三奈子「でも、代理就任に反対した事には変わりは無いわよね?どうして?祥子さんの替わりを
祐巳さんには勤められないから?それとも二年生が代理という事に反対だから?」
瞳子「なにもお話する事はありません。」
三奈子「う〜ん…祐巳さんの事が嫌いだから?」
瞳子「!!とっ…瞳子は山百合会のために言っただけです!!!!」
そして瞳子ちゃんは走り出し、そのまま帰ってしまった。
三奈子「ちょっと待って松平さん!!ふぅ。行っちゃった…それにしても、あの子泣いてたわね」
   次回、大河ドラマ〜リリアン太平記〜第四話『瞳子暁に散る』

149魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:16 ID:7rLWUyNY
 もういっちょお待ち。
 親衛隊やファンクラブの人達が帰った後、夕方六時ちょっと前に薔薇の館の構内電話が鳴った。
下の階まで由乃さんが受けに行って、しばらくすると青ざめた顔の由乃さんが帰ってきた。
由乃「大変よ!!親衛隊と祥子様ファンクラブが衝突して怪我人が出たって!!」
令「ホント?!」
乃梨子「何やってるのよ!!あの人たちは!!」
志摩子「それで怪我人はどれくらい?」
 由乃さんの「20人から30人くらいだって」という話に全員が衝撃を隠しきれなかった。現状
を把握すべく現場に行くことになった私達を待っていたのは凄惨な光景だった。木片やガラス
が飛び散り、何かが焦げた跡もあった。そこにいたのは親衛隊の人達だけだったが、頭から血
を流している人やうずくまっている人、皆なにかしらの怪我を負っていて無傷な人は居なかった。
異様だったのは彼女達全員が一人を取り囲みすすり泣いていた。
令「どうしたの!!」
かなみ「千夏ちゃんが…千夏ちゃんが…死んじゃったの!!」
 えっ?死んだ?私達が意味を分かりかねていると、令様が彼女達の輪の中心に入っていった。
そして一刻程過ぎるともどっていらした。
令「親衛隊の一年の子らしい。」
由乃「どうだったの?!」
令「…死んでる。」
由乃・志摩子・乃梨子「!!」
 冷たい衝撃が走った。女子高生の喧嘩で人が死ぬなんて…きっとこれは学園祭に向けた
お芝居で前座なのかなと?楽観な一人合点していると、私の所にかなみ様がいらした。
かなみ「おねがい祐巳ちゃん…千夏ちゃんに会ってあげて…」
 私が令様の方を向くと『行ってあげて』という表情をなされていた。その千夏ちゃんと
いう人は他の親衛隊の子に膝枕されながら横たわっていた。千夏ちゃんの手を握ると彼女
の手は氷の様に冷たく、脈が無かった。千夏ちゃんは本当に死んでいた。
祐巳「えっ?嘘?どうして? …どうして死ななくちゃいけないの…」
 今思えばすごい事だと思う。この子が死んだことに対して可哀想とか悲しいという気持
ちよりも単純に「どうして」という疑問が頭の中で渦巻き、正常な情緒を感じられなかった。
それでもかなみ様達は私が千夏ちゃんの事を悲しんでいると思ってくれたらしい。
かなみ「皆さん!!千夏ちゃんのあだ討ちに行くわよ!!」
「焼き討ちよ!!」「皆殺しだわ!!」「絶対にゆるさない!!」
令「なに馬鹿なこと言っているの!!!!落ち着きなさい!!」
祐巳「ねぇ?志摩子さん…警察呼ぼうよ」
乃梨子「私もそう思うよ!!」
志摩子「……」
祐巳「どうしたの?人が死んでるんだよ!!由乃さんも早く!!」
由乃「……呼んでも多分こないよ。」
祐巳「え?何言ってるの?だって人が死んだんだよ!!」
由乃「ねぇ。リリアンってどんな学校?」
乃梨子「は?」
由乃「超が付くほどのお嬢様学校。大企業の役員やテレビに毎日出ている大物政治家
高級官僚の孫や娘。ここに通っている人達の家族ってそんな人ばっかりだよ。」
祐巳「それはどういう?」
由乃「…そんな人達の子供が通っている学校で問題があったらどうなる?出世とか
社会的な評価とか。政治家だったら進退問題。政治家の場合、その人が辞めただけ
で日本がピンチになる事もある…だからね。…ここでは人が死んでも警察は来ない。
どんな問題があってもリリアンの事はリリアンだけで解決しなくちゃいけないんだって。」
乃梨子「そっ…そんなの…」
 そんなのおかしいよ…
        大河ドラマ〜リリアン太平記〜第四話『瞳子暁に散る』

150魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:21 ID:7rLWUyNY
↑上野つづき★
『ここでは人が死んでも警察は来ない』初めて知ったリリアンの暗部。昨日の事でまともに
朝食をとれないで祐麒に心配されていると、こんな朝早くの時間にインターホンが鳴った。
私目当ての来客らしく、不意の来客に会いに行くと玄関には三人のリリアン生がいた。
彼女達は剣道部員であると名乗ると、私は面識の無い彼女達に来訪の理由を尋ねた。
彼女達は先輩である令様に「迎えに行くように言われた」と話してくれた。後ろに
控えているタクシーは、これで一緒に通学しろという意味らしい。来客を待たせな
い為に進まない朝食を切り上げると彼女達とタクシーに乗り、学校に向かった。
タクシーが朝の通学時間帯の生徒でごったがえしているリリアン正門を通り越し
人気の少ない通用門に着くと、彼女達は「私達に決して離れない様に付いて来て
下さい」と言った。通用門をくぐり、第一体育館の森を抜けると薔薇の館の玄関
についた。彼女達は「ロサ・フェティダ達がお待ちです。」と私に言い、周りを
気にした後、風のような速さで立ち去った。このエキセントリックな体験で気付
かなかったが周りから焦げ臭い匂いがした。二階の会議室に入ると、疲れきった
ご様子の令様と志摩子さんと例のごとく瞳子ちゃん以外の全員がいた。昨日は
令様と志摩子さんの薔薇様達は親衛隊とファンクラブの仲裁の為、結局帰らずに
薔薇の館で一夜明かしたらしい。
祐巳「ごきげんよう。みなさん。」
令「ごきげんよう。剣道部の子達、ちゃんと迎えに来た?」
祐巳「はい。どうしてあの方達を迎えにこさせたのですか?」
令「昨日の事がこじれちゃって大変な事になったからね。今回は新聞部の号外無しに
全校生徒に事が広まってるの。もしかしたら祐巳ちゃんに直接危害を加える様な事態
が起らないとも言えないから、警護にと思って。」
 昨日の一件(第三話参照)の後、親衛隊とファンクラブの人達も帰らずにリリアン
に篭城したらしい。令様と志摩子が目を光らせている内は彼女達は目立った行動を
とらなかったが、令様達が仮眠をとられた深夜三時頃、親衛隊の人達が大挙して
礼拝堂裏のファンクラブ部室に押しかけ、火を付けてしまった。幸いに死人は出な
かったがファンクラブ部室は焼け落ちてしまった。だから焦げ臭かったのだ。
由乃「親衛隊とファンクラブだけならいいけど那津子様達みたいな人達もいるし
祐巳さんや祥子様の熱狂的なファンって潜在的に沢山いるから…この人達が今回
の騒ぎでどう出るか…あっ! !ごめん…」
祐巳「…」
令「祐巳ちゃんのつらい気持ちは分かるよ。だけど、先に言っておくけど代理降板
は絶対に認めないからね。」
 やがて午前の授業開始10分前のチャイムが鳴ると、みんなは解散した。去り際に
志摩子さんが「今日は一人で出歩かない方がいいわ」と言った。私も薔薇の館を出る
準備をしていると可南子ちゃんが二人で話したい事があると言い、私を呼び止めた。
祐巳「どうしたの可南子ちゃん?二人で話したい事って?」
可南子「…今回の騒動。祐巳様はどうお考えですか?」
 可南子ちゃんは何時には無い、思い詰めた表情だった。
祐巳「…本当に…酷い事だと思うよ…焼討ちや人が死んじゃうなんて…」
可南子「祐巳様のお気持ちは良く分かります…祐巳様ひとりが背負うのは辛すぎます。」
 可南子ちゃんの優しい言葉で今まで不安や悲しみ、重圧に耐えてきた私の心が爆発し
泣き出してしまった。可南子ちゃんはそんな私を見て両手を広げ、包んでくれた。
可南子「…お辛いでしょう?……祐巳様のせいで人が死んだのですから。」
 私のせいで人が死んだ。冷たく衝撃的なこの言葉に私は怯え、彼女から飛び退いた。
可南子「お辛いかもしれませんが私の話を最後までお聞きください。今回の騒動は
祐巳様の代理を巡って起きた。」
祐巳「可南子ちゃん…」
可南子「けれど祐巳様は代理を降板できない。だから騒動を静める為に誰かが責任を
とって今回の騒動に幕を引かなければいけないのです。」
 可南子ちゃんはしばらく黙り、私の表情を見て話した。
可南子「…瞳子さんを処刑しましょう。」
しょ…ショケイ?意味が分からないよ…可南子ちゃん。
可南子「薔薇の館の住人である瞳子さんが反対した為に賛成派、反対派に分裂し騒動
が起きた。全ての発端は瞳子さんであり、反対派の象徴は瞳子さんなのです。」
祐巳「だっ…だから。」
可南子「だから瞳子さんを処刑して反対派を黙らせるのです。」

151魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:25 ID:7rLWUyNY
祐巳「そんな! !」
可南子「逃げてはいけません!!このままでは第二、第三の犠牲者が出ます!!!
もしかしたら一人や二人ではないかもしれません!!祐巳様がご自身で決断を
下さらなければもっと人が死ぬのですよ!!」
祐巳「私はリリアンのみんなを守りたい!!瞳子ちゃんも!!」
可南子「祥子様は『山百合会を任せた』とおっしゃいました。」
 お姉さまとの約束。『山百合会を…名誉ある紅薔薇の名をあなたに任せた…わよ』
可南子「全ての人を同時に救おうなんて幻想に過ぎません。何かを守る為には
何かを捨てなければならない。祥子様との約束を守れるか否か。今がその時では
ありませんか?」
祐巳「そんなの私には…私には出来ないよ!!」
 私に課せられた重く冷酷な役目。恐怖を感じた私はその場から逃げ出した。
後ろからは「ご決意が固まりましたら何時でもここへ」という可南子ちゃん
の声が聞こえた。授業に出る気は起きなかった。もう私には何も出来ない。
リリアンを救う事、祥子様の約束を守る事も。森から森を抜け、私はあの人
を求めて、がむしゃらに走った。何時も私を支えてくれた優しい先輩。
リリアン女子大学へ行った大好きな先輩。やがて大学部の校舎が見えた。
そこにはあの人がいた…佐藤聖。
祐巳「聖さまぁ!!」
聖「祐巳ちゃん?!」
 聖様を見つけると私は彼女の胸に飛び込んだ。暖かい私の安心できる場所へ。
聖「祐巳ちゃんどうしたの?授業は?」
祐巳「助けてください!!聖様!!」
聖「たったすける?」
祐巳「私…もう自分ではどうする事も出来ません。ぐすっ。お願いします…お願いします…」
聖「…どうする事も出来ない事って何?」
祐巳「山百合会の事…私のせいで皆が争っている事…」
聖「ふ〜ん。………で。私にどうしろと?」
 えっ…聖様? ?
祐巳「だっ…だから聖様に助けて欲しいと…」
聖「何でわたしが?」
祐巳「だって聖様は先代ロサ・ギガンティアで…」
聖「わたし大学生で無関係だよ。もう白薔薇じゃないから無関係。だからね…」
祐巳「だから…」
聖「もう、頼らないでね。」
 聖様は何時も私を思ってくださった。私に危機があると助けてくれた。だから根拠も無く聖様
なら何とかしてくれると考えた。でも、私はこの人に甘え過ぎていた事を始めて思い知った。
私は心の底では「他の薔薇の館の人より私は頼りないから」と、自分の不甲斐無さを免罪符に
甘ったれていたことにも気付いた。リリアンの皆に辛い思いをさせて、今度は聖様を巻き込もう
としていた自分の愚かしさにも今、気付いた。私は誰にも甘えてはいけない。頼ってはいけない!!

152魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:30 ID:7rLWUyNY
↑上野つづき★
祐巳「すいませんでした!!じゃ私は授業がありますので失礼します!!」
 私は無理に笑顔を取り繕ってその場を走り去った。聖様から見えなくなるまで。
聖「…祐巳ちゃん…ごめんね…本当は助けてあげたい。支えてあげたい。だけどね…」
 私が教室に入った時はもう一時間目が終わろうとしていた。先生に遅刻を謝罪すると
あっさり許してくれて理由を聞かれなかった。クラスメート全員が奇異と心配の目で私
を見た。自分では平静を保っていたつもりだったが、そうでは無かったらしかった。
 やがて昼休みになると、一人で体育館裏で食事を採っていた瞳子ちゃんに乃梨子ちゃん
は二人分のいちごミルクを持って来て、瞳子ちゃんの隣に座った。
乃梨子「瞳子。何やってんのよこんな所で。」
瞳子「見れば分かるじゃないですか。お昼を食べているんです。」
乃梨子「はい。いちごミルク。」
瞳子「何ですか?」
乃梨子「あんたの為に買って来たのよ。」
瞳子「瞳子はお茶を持って来てるからいりません。」
乃梨子「せっかく買ったんだから飲みなさいよ。お茶は水筒でしょ?後でも飲めるよ。」
瞳子「…じゃあ頂きます。プチッ!!ちゅ〜ちゅ〜。ごくごく」
乃梨子「瞳子…薔薇の館に来なさいよ。みんな心配してるよ。」
瞳子「ちゅ〜ちゅ〜ごくごく…ぷはっ。……瞳子は嫌われてますから。」
乃梨子「そんな事無いよ!!私は瞳子の事、好きだよ!!」
瞳子「!!…乃梨子さんに告白されてもどうしようも無いですわ。」
乃梨子「ばか!!可南子だって瞳子が嫌いだからじゃないよ。祐巳様も!!」
瞳子「鈍感ですからね…あの方は」
 不機嫌そうだった瞳子ちゃんの顔が少し笑ったのを乃梨子ちゃんは見逃さなかった。
乃梨子「瞳子…あれ?あれは…火事よ!!敷地内だ!!」
瞳子「!!」
 同じ頃。由乃さんと一緒に教室で食事を採っていた私に蔦子さんが駆け込んできた。
蔦子「大変よ?祐巳さん!!由乃さん!!また親衛隊とファンクラブが衝突したって!!」
由乃「うそ!!」
蔦子「今度はお互いのシンパが合流したから、もっと大事になってるわよ!!」
 だれかが火事だと叫ぶとその場の全員が廊下の窓に集まった。北の方に黒煙と炎が上
がっているのが見えた。親衛隊とファンクラブがもめている所だった。
蔦子「行った方がいいんじゃない?いや!!むしろ行かない方がいいのかも。」
由乃「祐巳さんどうする? ! …祐巳さん?」
 しばらく呆然としていた私は歩き始めた。薔薇の館へ。『リリアンだけで解決しなく
ちゃいけないんだって。』『代理降板は絶対に認めないからね。』『祐巳様がご自身で
決断を下さらな下さらなければもっと人が死ぬのですよ!!』『もう、頼らないでね。』
『山百合会を…名誉ある紅薔薇の名をあなたに任せた…わよ』…私がやらなければ…私が
決断しなくちゃ…私が強くならなくちゃ…大切な物を守れない!!騒然とする中を私は歩いた。
そして薔薇の館着くと、そこには可南子ちゃんが一人でいた。この中だけは場違いに静かだった。

153魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 21:39 ID:7rLWUyNY
↑上野つづき★
可南子「…ご決断なされたのですね…」
祐巳「……うん。瞳子ちゃんを捕まえてきて。」
可南子「わかりました。では。」
祐巳「待って。可南子ちゃん。」
可南子「…はい。」
祐巳「私達二人だけじゃ心許ないでしょ?だれか協力者を見つけないと。」
可南子「…親衛隊を呼びますか?」
祐巳「あの人達は当事者でしょ?第三者がいいわ。そうね…人に言えない事を影でこそこそ
やっている。それをばらそうとしたら尻尾振って付いて来る人達。こんな事に着き合わせ
ても罪悪の欠片も生まない様な子悪党を。ねっ。」
 可南子ちゃんは一瞬、怯えた表情を見せたが、直ぐに何時もに戻った。
可南子「それでしたらライフル部が適任ですわ。あの人達、学校の申告よりも多く銃を隠して
いますから。部長の小早川元子様のお父様が陸上自衛隊の師団長という事で、軍用銃なんか
隠していらっしゃるみたいです。」
祐巳「普通でも銃刀法違反。弁護する価値も無い人達ね。適当に脅して連れてきて。」
可南子「わかりました。」
祐巳「処刑は夕方4時。私はみんなをその時間に来るように呼んでくるから。」
 午後の授業が終わり、4時になるとリリアン生の殆どが校庭に集まり始めた。私が
パフォーマンスをすると言ったら新聞部や写真部が嗅ぎ付け、生徒達は興味をそそら
れて集まってきた。
志摩子「これは?」
由乃「一体、何を始めるの?」
令「祐巳ちゃん。パフォーマンスって?」
祐巳「もうすぐ始めますから。」
三奈子「私達の同席を認めるというのはどういうおつもり?福沢さん。」
祐巳「新聞部の方にはこれから起きる事を記事にして頂きたいのです。」
 89式とかという自衛隊の銃を持ったライフル部の人達と可南子ちゃんが、布に覆われたモノ
の前に横一列に整列すると、周りはどよめいた。視線が一点に集まると私は一気に布をはがした。
そこには十字架に掛けられ目隠しをされた瞳子ちゃんがいた。
瞳子「やめてください!!離してください!!」
令・志摩子・由乃・乃梨子・三奈子「?!」
 呆気にとられる山百合会幹部と生徒達の前に私は躍り出た。
祐巳「わが親愛なる生徒諸君!!リリアンにおいて痛ましい出来事があった!!私達は愛する後輩を
失った!!そして私達の心の拠り所でありマリア様のお庭たる、学び舎が炎に包まれた!!」
志摩子「なっ何を仰ってるんですか?祐巳さん。」
由乃「なにかのお芝居よね?」
祐巳「私達はこの悲劇に涙を流し、戦慄した。なぜこの様な惨禍が起きたのか?!それは
山百合会の議決を覆そうとするリリアン生にはあってはならぬ所業から始まった!!ここ
に居る松平瞳子は、リリアン生は粛々として受諾しなければならない、リリアンの総意
とマリア様の御意志たる山百合会の議決に反対したばかりか、それを吹聴して周り
貴女方を惑わし、汚れなきリリアンを混濁の渦へと突き落とした!!その結果は貴方達の
知るとおりです。故にわたくしロサ・キネンシス・アン・ブゥトンは学園の安寧を犯した
反逆者松平瞳子を処刑する!!」
瞳子「…」
令「なにをふざけているの!!祐巳ちゃん!!」
三奈子「何よこれ…こんな馬鹿げた事、新聞に出来ないわよ…」
可南子「ライフル部の皆さん。松平瞳子を撃ってください。」
小早川元子「えっ?撃つって松平さんを…ですか?」
可南子「そうです。生きた人間を撃てる絶好の機会ですよ。」
ライフル部A子「そっ…そんな生きた人をだなんて…」
可南子「あら?次は貴女があそこに行く番になりますよ?」
ライフル部「ひぃ!!」
 可南子ちゃんは瞳子ちゃんの前に行き、「最期に言い残したい事は」と聞いた。
瞳子「乃梨子さんをここへ…」
乃梨子「瞳子!!」
瞳子「…」
乃梨子「?!」
 何かしらの会話が二人の間でやり取りされたようだったが私達の耳には入らなかった。
元子「うっ…撃ち方構え!!」
瞳子「祐巳様…」
祐巳「さようなら瞳子ちゃん。」
 秋空に乾いた銃声が響いた後、瞳子ちゃんは動かなくなり、天に召された。
可南子「父と子と聖霊の御名によりて安らかな眠りを。アーメン。」
令「あっ…うっ嘘…そんな…」
志摩子「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
由乃「祐巳!!福沢祐巳!!」
祐巳「お姉さま達から受け継いだリリアンの理と法を乱す者はわたくしロサ・キネンシス
アン・ブゥトンが断罪する!!」
   武蔵野を紅蓮の炎と血に染めたリリアン太平記と言われる戦乱の幕開けだった
      次回。大河ドラマ〜リリアン太平記〜第五話『二条乃梨子』

154魚スープ屋出張中:2004/10/28(木) 22:37 ID:7rLWUyNY
どこでもそうだったけど、マリみての板って人が少なくて(いない)マターリしてますね。

155ごきげんよう、名無しさん:2004/10/29(金) 01:41 ID:XbnworzE
>154
人がいたらいたでかならず荒れるからな。

156魚スープ屋:2004/10/29(金) 22:12 ID:ckXkUX8E
>>155 禿同(古いかな?)
緒雪先生の文体は巻を重ねるごとに独特の風合いが増してきて、
マターリしていて、いい味出してきた。書いていて楽しいんでしょうね。

157魚スープ屋:2004/10/30(土) 22:28 ID:38OmqbAs
可南子「最期に言い残したい事は」
瞳子「乃梨子さんをここへ…」
乃梨子「瞳子!!」
瞳子「…祐巳様をお頼みします。」
乃梨子「?!」
 女の名前は二条乃梨子。趣味は仏像鑑賞という何処にでもいる普通の少女だった。二条
乃梨子は自分の趣味が原因で第1希望の高校を受けられず、大叔母二条菫子たっての希望
で受験したリリアンに主席で合格した。しかし芝居を現実にした様な、浮世離れした
リリアンに二条乃梨子は馴染めなかった。リリアン生との付き合い方が解らなかった
二条乃梨子は自然と彼女達と距離を置くようになり、次第に一人でいる事が多くなった。
そんな二条乃梨子に二つの転機が訪れた。藤堂志摩子と松平瞳子との出会い。特に山百合会
幹部となった二条乃梨子にクラスメートであり、小笠原祥子を慕って山百合会に出入りする
松平瞳子は何かと二条乃梨子に付きまとった。
瞳子「今から薔薇の館へご一緒しません?というか行きますわよ。」
乃梨子「うん。」
瞳子「お昼ご一緒しません?というか既に一緒に食べてますわ。」
乃梨子「うんうん。」
瞳子「科学の実験、瞳子と班を組みません?というか既に同じ班ですわ。」
乃梨子「うんうんうん。」
瞳子「体操服の新調のついでに吉祥寺へご一緒しません?というか既に来てますわ。」
乃梨子「うんうんうんうん。」
瞳子「今から…」
乃梨子「もぅ!!今度は何よ!!うっとおしい。」
瞳子「乃梨子さんはどうして瞳子と遊んでくれないのですか?!泣いちゃいますよ?!」
乃梨子「別に泣けば。」
瞳子「えーん。えーん。」
 二条乃梨子は自分の事を棚に上げて、松平瞳子を変わった女だと思っていた。別に友人
が少ない訳ではないのに、彼女は何故、私なんかを好き好んで構うのかと。そんな松平瞳子
を理解するきっかけがゆっくりと彼女に訪れた。
瞳子「聞いてくださる乃梨子さん!!祐巳様は本当にだらしないですわ!!ロサ・キネンシス・アン・
ブゥトンがあの様では先が思いやられます。いくら上級生相手でも祐巳様は薔薇の館の住人。
もっと泰然として悠々と構えればよいのですわ。」
乃梨子「うん。」
瞳子「聞いてくださる乃梨子さん!!何故、瞳子が祐巳様にオドオドして、「ごめんね。」
なんて言われなくてはいけないのですか?会議の場で上級生が下級生に謝るなんて前代未聞
ですわ!!祐巳様には上級生らしくしっかりして貰わなければ、祐巳様の為にならな…」
乃梨子「ねぇ瞳子?あんた優しいね。」
瞳子「なっ、何をおっしゃるのですか?!どうかしてるんじゃ無いのですか?乃梨子さん」
 この時、二条乃梨子には松平瞳子がどんな人間なのか分かった。松平瞳子はいわゆる
『お節介焼き屋さん』。困っている人や駄目な人を見ると何かをせずにいられない子。
だが、感謝されるのがくすぐったく、裏目な行動をとる子。そんな松平瞳子をちょっと
好きになった。だが、残酷な運命が松平瞳子を二条乃梨子の目の前から奪い去ってしまった。
松平瞳子がいなくなり、二条乃梨子は彼女が友であった事に自分の気持ちが始めて気付いた。
腐れ縁なんかでは無かった。当たり前だった物が目の前から消えてしまって初めて気付いた。
瞳子「…祐巳様をお頼みします。」
 繰り返し聞こえて来る友の声。
乃梨子「瞳子…あんたの願い、確かに受け取ったよ!!」
大河ドラマ〜リリアン太平記〜第五話『二条乃梨子』
 松平瞳子の処刑は全校に衝撃と恐怖を与えた。福沢祐巳と細川可南子と他の幹部の
間では一時、対立が見られたが、校内の騒乱が収まるにつれ、福沢祐巳と細川可南子
の見方は幹部達の間で変わっていった。いつの間にか親衛隊を山百合会の勢力に取り
込み、反対意見を武断で処理する福沢祐巳の政治手腕に支倉令や島津由乃は頼もしい
とすら思っていた。だが、二条乃梨子には武断で事を解決する事が、何を生むのかを
知っていた。ある日の午後の会議で二条乃梨子は福沢祐巳の腹づもりを探った。
乃梨子「親衛隊とライフル部の山百合会における処遇はどうするおつもりですか?」
祐巳「とても頼りになる人達だからね。何かしらのポストは設けたいと思うわ。」
乃梨子「それは手放すつもりが無いという意味ですか?」
令「混乱は一応、収まったみたいだけど、どうなるか分からないからね。」
由乃「武力がこちらにある限り、常に安全。」
祐巳「そういうことよ。乃梨子ちゃん。山百合会は常に全校生徒の指導的立場に立たなく
てはいけない。だから私達は反対という雑音に惑わされてはいけないの。その為の親衛隊
とライフル部よ。」
乃梨子「あなたは!!」
祐巳「なに?乃梨子ちゃん。」
乃梨子「いいえ。何でもありません…」
志摩子「乃梨子…」

158魚スープ屋:2004/10/30(土) 22:31 ID:38OmqbAs
 ↑上野つづき★
武断は恐怖で人の表面を支配するに過ぎない。だから武断で解決する人間は流血の道を
選ばざるを得なくなる。そして流血の道を選んだ人間は二度と抜け出せない。友から
福沢祐巳の事を託された二条乃梨子はその不幸を黙って見てる訳にはいかなかった。
灰色の脳細胞を全回転させ、友の願いを果たす計画を考えた。だが、ロサ・ギガンティア
である姉を共謀させるわけにもいかず、部活や委員会というコネクションを持たない
二条乃梨子が、花寺生徒会を利用する事を思い立つのにそれ程、時間は掛からなかった。
アリス「なに乃梨子ちゃん。話って?」
乃梨子「お呼びしてすいません。今、リリアンで何が起っているか知ってますか?」
アリス「うん…大変な事になってるんだよね。」
乃梨子「単刀直入に言います。花寺生徒会の方に解決をお願いします。」
アリス「わっわたしに?」
乃梨子「アリスさんだけじゃありません。花寺生徒会の方々全員です。」
アリス「けれど他校のことに口出しを出来ないよ…」
乃梨子「祐巳様は力でリリアンを抑えようとしている!!けれど力で何時までも抑えられる筈が
ない。それは何時かリリアンや祐巳様に不幸な結果をもたらしてしまう。だからそうなる前に
花寺生徒会が協力を約束してくれるだけでも大きな前進になるんです!!お願いします。アリスさん!!」
アリス「うん!!協力するよ!!山百合会の人達は大切な友達だもん」
乃梨子「ありがとうございます!!アリスさんには福沢会長以外の生徒会の人達に協力を募って欲しいんです。」
アリス「ユキチはどうして除外なの?」
乃梨子「最終的にどうなるか分かりませんが、祐巳様が抵抗する様な事があれば、そんなお辛い場面に姉弟で
ある福沢会長を巻き込みたくないんです。それに、ご家庭でばらされてしまったら元も子もありません。」
アリス「乃梨子ちゃんの言うとおりね。あとは任せといて。」
 好感触を感じた二条乃梨子は運を天に任せた。だが、親衛隊にキャッチされ福沢祐巳達
に報告されていよう事なぞ、その時は知る筈も無かった。
親衛隊員A「隊長。…」
かなみ「わかったわ。」
可南子「どうなさったのですか?」
かなみ「二条さんが花寺生徒会と接触しているようね。」
祐巳「どういうつもりで。」
かなみ「わからない。マークする?」
祐巳「お願いします。」
可南子「意図が判明したら乃梨子さんの処遇はどうします?」
祐巳「乃梨子ちゃんは山百合会幹部の人間だから、内々にもみ消すことはできるわ」
可南子「祐巳様!!」
祐巳「処罰すれば山百合会の内紛が明るみに出る。それに志摩子さんの悲しむ顔は見たくないから」 
 翌日の放課後、二条乃梨子は期待を胸に花寺学院に向かった。しかしそこで二条乃梨子を
待っていたのは、思いがけないアリスの一言だった。
乃梨子「協力できない…のですか」
アリス「…ごめんなさい。みんなに当たったんだけど。この件には関わりたくないって」
乃梨子「そうですか…」
 二人が密談を交わしていると不意に人影が近づいてきた。花寺生徒会長福沢祐麒。
祐麒「二条さん!!それに、アリス!!最近おれを除け者にして、こんな所で何やってんだよ!!」
アリス「あ…ユキチ」
乃梨子「やば…」
祐麒「リリアンと花寺生徒の密会…アリスの事だから恋絡みじゃないとすると
何やってるのか教えて貰えます?」
乃梨子「うーピンチ。何とかしないと…あっ!!…じっ…実は私…ポッ★」
 二条乃梨子は顔を赤らめ福沢祐麒を見た。二条乃梨子、恐ろしい女である。
祐麒「えっ?えっ?なに?」
アリス「ナイス乃梨子ちゃん!!女心がわからないなんて。ユキチのばか!!」
乃梨子「ひどいわ!!」
強烈なビンタが福沢祐麒に浴びせられると二条乃梨子は心の中で仏に許しを乞うた。
祐麒「ひでぶ!!」

159魚スープ屋:2004/10/30(土) 22:45 ID:38OmqbAs
 ↑上野つづき★
 花寺から走り去ると二条乃梨子は軽い目眩を覚えた。花寺生徒会という圧力が使えない
とすると如何すれば良いのか? 花寺生徒会という外部だからこそ圧力は政治的な力となり得た。
しかし校内から圧力を掛けるとすると、福沢陣営を刺激し、弾圧が強まるという逆効果に終わる。
確実に福沢陣営を沈黙させる方法…クーデター。我ながら恐ろしい考えが急に浮かんだと、二条
乃梨子は戦慄した。しかし、それ以外に方法はあるだろうか?だが、失敗したら確実に処刑される。
しばし自問した二条乃梨子は決意を固めた。クーデターを実行すると。繰り返し聞こえてくる友の
声が女に勇気を与え、決断させた。それからの二条乃梨子の行動は迅速だった。リリアン校内に戻る
と、祥子ファンクラブと空手部を初めとする反体制派がたむろしている部室へ向かった。
乃梨子「すいません。お取次ぎお願いします。」
反体制A子「あなたは二条さん?!ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンが何の御用かしら?」
乃梨子「那津子様と小西様に会いに来ました。」
反体制A子「わかったわ。ここで待ってなさい。」
 しばらくすると部室の扉が開けられ、中へ入った。明らかに敵意の目
が二条乃梨子に向けられているのを感じた。
那津子「山百合会幹部がここへ来るなんてどういうつもりかしら?」
乃梨子「幹部としてではありません。一リリアン生としてここに来ました。」
小西「一リリアン生としてねぇ。」
乃梨子「皆様にしかお頼みできない事を頼みに来ました。」
那津子「?!」
乃梨子「山百合会へのクーデターに協力していただきたいのです。」
小西「クーデター?!あなた正気なの?!」
乃梨子「現状を変えるのはそれしかありません。親衛隊とライフル部で武断政治を敷く、
ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンを降ろすにはそれしか方法がありません!!」
那津子「福沢さんへの不満を持っているという点で、私達にクーデターを
持ち掛けるのは理解できるわ。だけど、あなたの真意が見えないわ。」
小西「クーデターを持ち掛けといて、山百合会に反乱罪で密告しないとも限らないからね。」
乃梨子「私の真意?別に私はリリアンや祐巳様がどうなろうと知ったことじゃありません。」
那津子「じゃあ何故?」
乃梨子「私の親友が…松平瞳子が最期に『祐巳様をお頼みします』と私に託しました。私は
親友の為に、力で押さえつける政治の流血と憎悪から祐巳様を助けたい!!その為のクーデターです!!」
小西「…」
那津子「…友を想う気持ち。その心に偽りは無いわ!!協力しましょう!!」
乃梨子「ありがとうございます!!」
小西「策はあるのかしら?」
乃梨子「みなさんに同志を募ってもらい、薔薇の館を包囲して貰いたいのです。包囲が成功しましたら
私が山百合会幹部として祐巳様の不信任を突きつけ、祐巳様を解任させます。クーデターに成功した後
生徒に人望のある人物をロサ・キネンシス代理として推薦し、選挙で代理に就任させます。」
那津子「人望のある人物…図書委員会で三年藤組の鍋島直子さんが適任ね。
あの人は三年生だし、真面目で頭も良く、公正明大な人だから。」
小西「でも計画自体は完璧だけど、親衛隊やライフル部が邪魔ね。」
乃梨子「親衛隊やライフル部は明後日の放課後に訓練をするそうです。ですから明後日は
薔薇の館の警備が手薄になる。」
小西「またとないチャンスね。」
那津子「やりましょう!!」
 クーデターの密談は夜遅くまで続けられた。そして運命の日がやって来た。山百合会の定例会議中
二条乃梨子は落ち着かなかった。決行は午後4時15分。その時間に石田那津子達がここを包囲する。
二条乃梨子の手の中には拳銃が握られていた。
那津子「私達が包囲したら、これを使って福沢さんに辞意をせまるのよ。」
乃梨子「ピストル…」
小西「持っていた方が素手より、やりやすいでしょ。」
 それは、一昨日、石田那津子達から渡されたドイツ製の小型拳銃だった。
乃梨子「できれば、使う様な事態には、なりたくない…」
志摩子「乃梨子どうしたの?さっきから落ち着きが無いわよ。」
可南子「何か考え事でもしていらしているのですか?乃梨子さん」
乃梨子「なんでもない。なんでも…あはははは。」
 二条乃梨子は腕時計を見た。時計の針は4時5分を指していた。あと、10分。
令「文化祭の出し物についてなんだけど、とりかえばや物語とリア王と
由乃コスプレショーが候補に上がっているのだけど、みんなはどれがいい?」
由乃「最後の却下。」
令「あぅ!!」
志摩子「うふふふふ」

160魚スープ屋:2004/10/30(土) 22:50 ID:38OmqbAs
↑上野つづき★
乃梨子「あれ?そんな…おかしい。なんで何も起きないの?!」
 時計の針は4時15分を大きく過ぎて、4時45分になろうとしていた。
その時、薔薇の館に一人の親衛隊員が駆け込んできた。
親衛隊B「祐巳様…」
祐巳「たった今、親衛隊と生徒達の間で小競り合いがあったようです。」
乃梨子「えっ?」
令「状況は?」
可南子「テロを企てている組織があるという情報を以前から察知していましたので、
該当団体の部室に、親衛隊を踏み込ませました。該当団体は以前から反体制的だった
石田那津子と小西の組織で、彼女達が抵抗しましたので銃撃戦となったようです。」
乃梨子「うそ…」
由乃「で、結果は?」
可南子「銃撃戦の末、石田那津子と小西ら全員が自決しました。」
乃梨子「!!」
 頭を殴られた様な衝撃とは、この様な状況をいうのだろうか。
祐巳「だ、そうよ乃梨子ちゃん。いくら待ってもあの人達は来ない。」
乃梨子「…知ってらしたんですね」
志摩子「どういうこと…乃梨子?」
可南子「ここ数日、乃梨子さんが不審な動きをとってらしたので親衛隊にマークさせておきました。
一昨日、乃梨子さんが石田那津子一派と密会し、テロの企てをしていた時に書いたと思われるメモ
を押収してきました。どうそ。」
令「カチカチの字に大仏様の落書き…」
由乃「乃梨子ちゃんの字ね…」
乃梨子「確かに私が書いた物です。スパイまでいたんですね。凄いですよあなた達。」
志摩子「どうして…教えて乃梨子」
乃梨子「私達が考えていたのはテロなんかじゃない!!クーデターです!!」
令「なんでそんなことを!!」
乃梨子「全校生徒の怒りが爆発する前に祐巳様をクーデターで
失脚させる!!それが私達の計画だったんです!!」
可南子「愚かな…」
乃梨子「あの人達が自決するとは思えない!!あなた達が全員殺したんですね!!」
祐巳「その通りよ乃梨子ちゃん!!でもね…それは乃梨子ちゃんの為なの。
あなたは志摩子さんの妹であり、私達の大切な仲間よ。本来ならクーデター未遂は重罪。
でも仲間内なら秘密裏にもみ消すことが出来るわ。だから口封じの為にも、あの人達
には死んで貰ったの。」
乃梨子「救いようが無い馬鹿ですよ!!あなたはっ!!」
 二条乃梨子は立ち上がると、手に持っていた拳銃を島津由乃の頭に突きつけた。
由乃「乃梨子ちゃん?!」
乃梨子「すいません由乃様!!」
令「由乃ぉぉぉぉ!!」
志摩子「止めて!!乃梨子!!」
可南子「見苦しいですわよ!!乃梨子さん!!」
祐巳「どうせ、おもちゃでしょ。悪ふざけはよしなさい!!」
 二条乃梨子は拳銃を天井に向かって一発撃つと、本物である事を見せ付けた。
その銃声を聞いた、警護の親衛隊やライフル部員が慌てて駆け込んできた。
可南子「祐巳様はあなたの事を助けようとしているのですよ!!なぜ、それが分からないの!!」
乃梨子「クーデターを計画した時点で覚悟は出来ていた!!それよりも、どうして私がこんな事
をしているのかお解りですか祐巳様!!私は瞳子にあなたの事を託されたから、こんな事を
しているんです!!流血の政治は憎悪と怒りしか生まない!!あなたがその手で殺めた私の親友
松平瞳子が死ぬ直前にその不幸からあなたを救って欲しいと私に懇願したんですよ!!」
祐巳「瞳子ちゃんが…」
乃梨子「瞳子やあの人達を殺めた様に、貴女はどれ程の血を流させるつもりなんですか?
こんな事が何時までも続けられると思ってるんですか?…何時か貴女の命を落とす羽目になりますよ。」
令「乃梨子ちゃんの言いたい事は良くわかった。だからそれを降ろしなさい。」
 二条乃梨子は姉、藤堂志摩子の顔を見た。その顔を何時までも見ていたかったと思った。
乃梨子「……志摩子さん…ごめんなさい。」
志摩子「えっ?」
乃梨子「祐巳様。こんな馬鹿な事、私で最後にしてくださいね。」
 一発の銃声が薔薇の館に響いた。女の名前は二条乃梨子。どこにでもいる普通の少女だった。
  次回、大河ドラマ〜リリアン太平記〜第五話『志摩子の願い』

161魚スープ屋:2004/11/06(土) 11:44 ID:MzzeQPXA
       平成16年9月7日PM12:45 高等部ミルクホール
三奈子「女子高生のスキャンダル追っかるのが、私達の本分なんだけどねぇ。」
蔦子「右に同じ。ピリピリした女の子なんて撮っても面白くないです。」
最近の騒乱で、芸能レポーターよろしく、新聞部長をやっている三奈子様と女子高生命の
カメラちゃんこと蔦子さんはちょっと不満だった。この人達はこの人達で、被害者なのだ。
真美「けれど、気になりませんか?二条さんが亡くなった原因。
山百合会は閑口令を敷いているみたいですけど。」
三奈子「分野を問わなければ、私も記者としては興味があるわ。でもねぇ。」
蔦子「あら? あそこにいるのは、志摩子さんじゃありません?」
 お昼休み中、ミルクホールでお喋りをしていた三人の前を、志摩子さんが、歩いていった。
蔦子「志摩子さんに、直接聞いてみるっていう手はどうです?ってもう既に…」
三奈子「ごきげんよう。ロサ・ギガンティア。」
志摩子「ごきげんよう。三奈子様。」
真美「二条さんの事は大変お気の毒に思います。」
志摩子「ありがとう。真美さん。」
三奈子「失礼なのは、承知なのだけれど、二条さんに何があったのか教えていただけないかしら?
私達は二条さんと知らない仲じゃないのだし、出来れば、で構わないわ。」
志摩子「全ての顛末は、あの子の意志だったんです。」
三奈子「全ての顛末?」
 志摩子「それでは、授業がありますのでこれで…」
真美さんが言葉の意味以外の疑問を感じていると、午後の予鈴が鳴った。
三奈子「全ての顛末ってどういう意味かしらね。」
真美「顛末…意志…。原因は事故って事じゃないみたいですね。」
蔦子「なんで?」
ミルクホールのおばさん「ちょっと…」
真美「顛末という事は、原因と結果があって二条さんが亡くなった。それは事故という偶発では
顛末という言葉が成り立たないわ。それに意志という事は、二条さんが望んだ事…」
三奈子「確かに、そうね。この件の裏付けは真美に任せたわ。大仕事よ。」
真美「わかりました。」
蔦子「私はこの件には不関旗を揚げさせてもらいます。」
ミルクホールのおばさん「ちょっと、あんた達。授業始まってるよ!!」
三奈子&真美&蔦子「あ…」
大河ドラマ〜リリアン太平記〜第6話『志摩子の願い』前編
         同日PM16:10 薔薇の館
祐巳「志摩子さんには辛い思いをさせちゃった…」
可南子「ええ。ですがロサ・ギガンティアは山百合会の為に決起が未遂に終わって良かった
と思われていますわ。それに、乃梨子さんが望んだ結末。今はお辛いですが、時が解決
してくれます。」
祐巳「本当に可南子ちゃんは頭がいいね。」
可南子「えっ!!わっ私の頭が良いだなんて…自分でもビックリしているんですよ。こんなにポンポン
考えが出てきたり、積極的に人と関わろうだなんて。祐巳様のお傍に居るからかも、しれません。」

162Dancing all night </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/11/17(水) 21:21 ID:uBWHZlFA
「そんな気の抜けた腰つきで、感動が伝えられるか!」
鋭い激が飛ぶ。
「はい、コーチ!」
気合を入れなおすように己の頬をパチンと叩く。
深夜に及んだ特訓の眠気覚ましの意味もあっただろう。
「動きばかりなぞっても意味などない。魂で舞え!」
「もう駄目・・・限界」
少女は、その場にへたり込むと、身体を小刻みに震わせ始めた。
「馬鹿もん!お前の情熱はその程度のものか?根性を見せろ!」
厳しい叱責に耐えかねたかのように、少女はついに・・・爆笑した。
「最高!祐麒、あんた・・・面白すぎる!」
睡眠不足のハイな精神状態で、止め処なくケタケタと笑い転げる。

163Dancing all night </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/11/17(水) 21:21 ID:uBWHZlFA
「何だよう、急に素に戻られちゃ、俺が馬鹿みたいじゃないか」
全身全霊で鬼コーチ役を熱演していた弟が口をとがらせる。
「ごっめーん。だってツボに入っちゃったんだもん」
大昔のスポ根ノリでいこうと提案したのは姉の方だった。
「ひょっとして、柏木さんにもそうやって指導されたの?」
・・・あ、黙り込んでしまった。そうなんだ。
「おかげで、だいぶつかめてきたみたい。ありがとね」
「どういたしまして。じゃ、も一回通しでやったら寝ような」
こいつは、素でもけっこう鬼コーチなのだ。
「一と二と三と四と」
この光景を見せた方が、よほど笑いが取れるんじゃなかろうか?
朦朧とする意識の中で祐巳は思った。

164ごきげんよう、名無しさん:2004/11/17(水) 21:22 ID:uBWHZlFA
割り込み失礼!箸休めということで、ご勘弁を。

165魚スープ屋:2004/11/20(土) 00:24 ID:.4eAQMvA
162さん乙。
自分も気晴らしに書いているので
気になさらず、続きを★

166魚スープ屋:2004/12/02(木) 16:48 ID:IeAZJfwY
(6話つづき)
祐巳「なにか欲しい物ある?」
可南子「え?」
祐巳「ごほうび。頑張ってくれてるから。私にあげられる物なら何でもあげるよ。」
可南子「そんな…勿体無いですわ。それに私の欲しい物は…」
「何?」と聞くと、可南子ちゃんは黙って俯いてしまった。しばらくすると、令様と由乃さんがお喋りをしながら
会議室に入ってきた。
令「遅くなってごめんね。祐巳ちゃん。可南子ちゃん。」
由乃「ちょっと剣道部の部室に寄っていたから。」
 令様と由乃さんが一緒に入って来た後、志摩子さんも到着し、全員集合した。
祐巳「全員揃いましたので、会議を始めます。私からの議題は風紀委員会についてです。」
 先日の一件で、一般生徒の行動力を思い知った私達は、何らかの対策を迫られた。
しばらく、頭を捻って考えついたのは、風紀委員会の設立計画だった。午後の会議は、その議題から始まった。
可南子「風紀委員に親衛隊とライフル部を内定して欲しいのです。」
令「うーん…委員の内定に付いては、また後でという事で。」
由乃「志摩子さんは何か意見ある?」
志摩子「…」
由乃「志摩子さん?…志摩子さん!!」
志摩子「あ…ごめんなさい。」
令「…」
祐巳「志摩子さん…」
令「今度は私の方からの報告。来週、文部科学省の人がリリアンを視察に来るから、山百合会がエスコート
するようにって、お達しがあった。リリアンの事は、お役所も気にしているみたいだから余計な事されない
ように、スムースに済ませなくちゃね。」
 エスコートの段取りが決まると、本日の会議はお開きになった。とぼとぼと正門に向かう私に「ねぇ祐巳
さん」と、由乃さんが耳打ちしてきた。
由乃「志摩子さん、最近元気ないよね。」
祐巳「そうだね…」
 乃梨子ちゃんが亡くなってから、志摩子さんは元気が無くなった。そんな彼女を見て私は、自分の妹ぐらい
ちゃんと面倒見てあげなさいよと、並木道の向こう側の大学にいる、能天気なあの人の事を私は少し思い出した。
            平成16年9月8日AM7:50分 薔薇の館
 私が朝一番で薔薇の館に入ったつもりだったが、既に可南子ちゃんと親衛隊の子が数人いた。ごきげんようと
挨拶を掛けると、可南子ちゃんが「これを見てください。」とリリアン瓦版を差し出した。号外らしく、白黒
刷りで、一面記事には『二条事件』と書かれていた。冷たい衝撃を感じた私はそれを、半狂乱になった様に
読んだ。それには『先日、勃発した石田那津子一派のテロ未遂事件、この事件の裏に山百合会幹部であり
白薔薇のつぼみである二条さんの影が?二条さんの死因は山百合会との確執か? ロサ・ギガンティア独白!!
【全ての顛末は、あの子の意志】我々はこの事件を【二条事件】と呼ぶ。』と書かれていた。
祐巳「二条事件…どういう意味よ!!可南子ちゃん!!」
可南子「私は新聞部員ではありません。落ち着いてください祐巳様。」
 私の声は外に聞こえていたらしく、令様と由乃さんが、心配しながら入ってきた。
令「どうしたのよ。二人とも。」
祐巳「これを読んでください!!」
 私が手渡した新聞を見るなり、二人の顔はみるみる内に青くなっていった。

167魚スープ屋:2004/12/02(木) 16:55 ID:IeAZJfwY
(6話つづき)
令「そっそんな…」
由乃「嘘でしょ…なんで新聞部が知ってるのよ!!」
 やがて、コツコツという階段を上がる音が聞こえてくると、私達は緊張し、耳をすませた。
志摩子「ごきげんよう。皆さん」
令「志摩子…」
祐巳「…」
 いずれ知ってしまうだろうが、今の私達には瓦版を志摩子さんに見せ、その後のフォローを
入れる余裕など無かった。適当な話題で、時間を潰すと、朝の会議は解散した。
              同日AM9:30 高等部二年松組教室
祐巳「真美さん。これ、何処でネタ仕入れたの?」
 私と由乃さんは一時間目の休み時間に、真美さんに瓦版の事を尋ねると「ほれ!!来ました。」
と言わんばかりの表情で、真美さんは私達を見てきた。
真美「よく書けてるでしょ?」
祐巳「親衛隊呼んで、いい?」
真美「それは勘弁。でもネタの出所は教えられないわ。」
由乃「志摩子さんが可哀想だと思わないの!!」
真美「私は記者よ!!記者の使命の前には感情はいらないわ!!」
由乃「瞳子ちゃんの件で騒動を起こしておきながら、ロサ・フェティダの温情で廃部になら
なかったのに、恩を仇で返す気?」
真美「騒動の責任を転嫁する気?それより恩を感じて貰いたいのは、山百合会の方よ。」
祐巳「どういう意味?」
真美「みんな真実を知りたがっている。その窓口に私達がなっているのよ。それに、野次馬
のガス抜きも私達の役目。結構、山百合会に貢献してると思わない?」
由乃「詭弁よ!!」
真美「二条事件は私の手で真相を掴むわ!!」
祐巳「怪我しないようにね。」
真美「新聞部の首を絞めれば、自分達が黒だって公表する様なものよ。」
           同日PM15:50 薔薇の館
令「祐巳ちゃん達も新聞部の子に直談判したんだ。」
祐巳「あー言えばこう言うって感じでしたよ。」
令「こっちも同じ様なもの。」
可南子「やはり、潰しておいた方が、よろしいのじゃありません?」
令「そうしたいのは山々なんだけど、彼女達潰したら色々弊害があるし、文科省の
視察前に問題起こしたくないよ。」
由乃「古今東西の権力はいつも新聞との格闘ね。潰せば世に悪徳を広める事になるし、こびれば
骨抜きになる。彼女達をなんとかこっち側に付けられないかしらねぇー」
 由乃さんがため息を付いていると、志摩子さんが遅れて入ってきた。覚悟を決めた
令様が瓦版について、志摩子さんに話しかけた。
令「ごぎけんよう志摩子…その…瓦版の号外読んだ?」
志摩子「いいえ。読んでいません。」
由乃「これ…読んで。」
 由乃さんに手渡された瓦版を志摩子さんがさらりと読み流すと、「よく調べましたね。」
と一言感想の様なことを言った。
祐巳「それだけ?」
志摩子「ええ。」
由乃「志摩子さんは頭に来ないの?人の死を興味本位で書き立てるなんて。」
志摩子「けれども、真実を知りたがっている人達がいる以上、彼女達の仕事はまっとうよ。」
令「ふう…ともかく、新聞部なり、生徒達の事後対応を考えましょう。」
祐巳「…はい」
由乃「…」
 この後の会議は事件について山百合会は一切公表しない事と、風紀委員会設立までの間継ぎに
親衛隊とライフル部で、警備強化を図る事が決まった。今後、騒動が起きるとしたら『二条事件』
関連で発生するだろうから、万全の態勢で臨んだが、『風紀委員会設立』と『リリアン視察』を
巡って後に『9月12日事件』と呼ばれる、大事件が起きるとは、誰もこの時は思っていなかった。
しかも、その結末が思いもよらない事になろうなぞ。
 志摩子さんは会議中、ずっと考え事をしている様に黙っていた。会議が解散すると、夕暮れの
会議室で、私は志摩子さんに二人きりで、話をしたいと言った。
志摩子「話ってなに?」
祐巳「乃梨子ちゃんの事…ごめんなさい!!」
志摩子「どうして祐巳さんが謝るの?」
祐巳「私は乃梨子ちゃんの事を助けたかった。言い訳じゃ無い!!本当だよ!!」
志摩子「私は祐巳さんを責めたりしてないわ。それにあの子の意志で、迎えた結末だもの」
祐巳「志摩子さん…」
志摩子「仮に祐巳さんに責任があるとしたら、私にも責任があるわ。白薔薇としてね。」
祐巳「…」

168魚スープ屋:2004/12/02(木) 17:02 ID:IeAZJfwY
(6話つづき)
 帰宅の途に付いた志摩子さんを、待ち構えていた真美さんが呼び止めた。
真美「志摩子さん。下校途中で悪いけど、お時間取らせて貰っていいかしら?」
志摩子「構わないわ。」
真美「新聞、読んでもらった?」
志摩子「ええ。」
真美「それで昨日の事なんだけど、志摩子さんは『全ての顛末は、あの子の意志』って教えてくれた
よね?という事は、二条さんの意志の結果、彼女は亡くなったという事に間違い無いかしら?」
志摩子「多分、その通りね。」
真美「多分って、志摩子さんも良く知らないって事?それとも、真相を教えたくないから?」
志摩子「どちらでもあるわ。乃梨子は意志が強く、行動力のある子。だから姉である私で
さえも置いて、遠くに行ってしまった。だから、遺された私は断片でしか知ることが出来ないのよ」
真美「そう。時間をとらせてしまったわね。ごきげんよう。」
志摩子「ごきげんよう真美さん。」
真美(その断片でもいいわ。志摩子さんの知っている全ての情報を聞き出す。彼女の心の隙を点いてね!!)
          平成16年9月9日PM12:30 麺食堂
真美(こういう事は相手を懐柔して、聞き出すのがセオリーってもんよ!!)
 この人は志摩子さんの愚痴を聞く振りをして、同情し、警戒が解けた所につけ入って、乃梨子ちゃんの話
を聞き出そうとしたのだ。なんともかんとも。
真美「さあ!!召し上がれ!!」
志摩子「えっ…どういうつもりかしら?真美さん」
真美「とんこつラーメンです!!是非とも私におごらせてよ。」
志摩子「そんな…悪いわ。」
真美「二つは食べられないわ。伸びちゃうから早く早く!!」
志摩子「ありがとう…でも、どうして私の隣で食べるの?席が一杯空いているのに。」
真美「志摩子さんの食べてる姿を近くで見たいのよ。」
志摩子「…いっ…いただきます。ツルツル。ゴクゴク。」
真美「ズズー。ゴクゴク。…ねぇ志摩子さん?何か悩みある?」
志摩子「悩みなど無いわ。順風満帆よ。」
真美「そう。…祐巳さん達のやり方、強引だって言ってる人達がいるのよ。志摩子さんはどう思う。
志摩子さんは、荒っぽい事、好きじゃないよね?」
志摩子「祐巳さん達は良くやってくれているわ。」
真美「そう。私達の周りで、志摩子さんに新しい妹を紹介したい人達がいるのよ。どう思う。」
志摩子「ありがたいわ。でも、妹を作る気は無いわ。」
真美「まだ、二条さんの事を妹だと思うから?」
志摩子「あの子のロザリオはまだ返して貰ってないから。」
真美「そう。二条さんの事、好き?」
志摩子「そうね。私達は喧嘩別れした訳じゃないから。」
 午後の予鈴が鳴ると、志摩子さんは真美さんにお礼を言うと、教室に帰って行った。
真美「う〜ん。そうそう隙は見せないか。さすが白薔薇。手強いわねぇー。」
ミルクホールのおばさん「ちょっと…」
真美「こっちから隙を作る様に仕向けるより、志摩子さんの後を付けて、彼女の隙を探すとか?
時間が掛かりそうね。でも、背に腹は変えられないかなー」
ミルクホールのおばさん「ちょっと、あんた。授業始まってるよ!!」
真美「あ」
同日PM17:45分 大講堂裏の桜の木
 『二条事件』の対策がある程度決まった今日の会議が終わった後、志摩子さんは大講堂裏
の桜の木に一人で向かった。親衛隊もびっくりの隠密行動で、ずっと志摩子さんをマーク
していた真美さんが、これを見逃す筈が無かった。
真美(こんな時間に講堂裏に来るなんて…何のつもりかしら?もしかして、誰かと密会!!)
 志摩子さんはすっかり、秋の色になった桜の木に、もたれかかった。
志摩子「もう秋ね。」
真美(うわ!!桜の木と、お喋りしてる!!これじゃ隙と言うより、病気発見だわ!!)
志摩子「あなたと初めて会った時は、桜が満開だったわね。」
真美(あなた?え?桜の木の事かしら?)
志摩子「その時、とってもびっくりしたわ。お姉さまが、ご卒業されて、気分が沈んでいた時に
乃梨子。あなたとここで会った。」
真美(あなたって、乃梨子さんの事ね。なるほど、そういう経緯で出会ったのか。)
志摩子「あなたと会えて、私は変われた。この学園に居てはいけないと思っていた私が、初めて
ここが自分の場所だと思えたのは、あなたのお陰よ。」
真美(気掛かりな情報満載だわ。居ちゃいけない理由って何よ。知りたい!!)
志摩子「ありがとう乃梨子…」
真美(あれ?どうしたのかしら?)

169魚スープ屋:2004/12/02(木) 17:08 ID:IeAZJfwY
(6話つづき)
志摩子「ぐすっ…乃梨子…うっ…ぐすっ…乃梨子…乃梨子…」
 そのまま志摩子さんはしゃがみ込んでしまった。真美さんは初めて自分が何を
しようとしていたのか、その時、分かったらしい。
真美(志摩子さんっ!!)
            平成16年9月10日AM8:03 新聞部部室
三奈子「中止するって、どういうつもり?」
真美「二条事件については、これ以上深入りしない事にします。」
蔦子「何でまた。」
真美「ガードが厳し過ぎます。これ以上、山百合会を刺激するのは上策じゃありません」
蔦子「新聞部と写真部は連動してるから、その点では、私は納得できるわ。」
三奈子「ふ〜。あなたがその気なら仕方が無いわね。せっかくの大事件なのに。」
真美「どうも、すいませんね。お姉さま。」
           同日PM12:05 第1体育館裏
志摩子「今日は何かしら?真美さん。」
真美「今日は、志摩子さんに謝らなくっちゃいけない事があるの。」
志摩子「? 私、真美さんに何かされたかしら?」
真美「実はね、二条さんの事が聞きたくて、志摩子さんを騙そうとしていたの。」
志摩子「あら?」
真美「志摩子さんにラーメンおごったり、優しい言葉で安心させて、不満を聞きだす。それに合いの
手を打って、同志だと思わせ、警戒が緩んだ隙を突く。最低ね。私って。」
志摩子「新聞記者の世界では常套手段でしょ?雑誌で見たわ。」
真美「そうね。常套手段ね。でもね、よく使う手だからとか、記者の使命だからとか、そんな事で
絶対的に許される事なのかって疑問に思っちゃった。」
志摩子「うふふふ。」
真美「何で笑うのよ?」
志摩子「真美さんって、一途な所があるから、以外に思って。」
真美「イノシシじゃないんだから。ちょっとは悩みますよ。」
 予鈴が鳴ると、二人は立ち上がった。
志摩子「じゃ。午後の授業があるから、これで。ごきげんよう真美さん。」
真美「ごきげんよう志摩子さん。」
志摩子「では…」
真美「待って!!志摩子さん。」
志摩子「なに?」
真美「私達、高等部になってから、同じクラスになった事ないじゃない。だからね…志摩子さんと
もっとお話したい。もっと知りたい。新聞部の山口真美としてでは無く一人の同級生、山口真美として」
志摩子「ええ。私も真美さんともっとお話がしたいわ。」
             同日PM16:45 薔薇の館 
 今日の会議と事務を終えて、解散しようとしていた私達に、親衛隊長前田かなみ様
が息を切らして、入って来た。
かなみ「大変よ!!生徒達の中で、風紀委員会に反対する人達が、文科省のリリアン視察
に合わせて、デモをするみたいよ!!」
 それが『九月十二日事件』の幕開けだった。(6話おしまい)
     次回。大河ドラマ〜リリアン太平記〜第7話『志摩子の願い』中編

170トップをねらう? </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/12/02(木) 21:17 ID:V0FaCf1Y
「ま、こんなもんかな」
期末テストの学年順位が張り出された。
勉強勉強の校風ではないが、こういうことはオープンだ。
成績上位者の名前は全校に知れわたる。
「さすがね、ひかりさん」
背の高い男の子のような少女に声をかけられた。
「令さんこそ、山百合会に剣道部とご活躍なのに」
文武両道を地で行くクラスメイトが眩しく思える。
「でも中高受験組の上位は動かないわね」
真純さん、浅香さん。今日子さんは受けていないけど。
「そうは言っても・・・」
トップの座は小ゆるぎもしないのだった。

171トップをねらう? </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/12/02(木) 21:17 ID:V0FaCf1Y
「やっぱり祥子さんには敵わなかったか」
長い黒髪をかきやって、口の中でつぶやく。
「試験勉強なんか必要ないって人だから」
直接きいたわけじゃないけれど、ありそうなことだ。
いつも真っ直ぐ前を見て、何かと戦っている。
別に彼女を負かしたかったわけではない。
「今回はちょっと頑張ってみたんだけどな」
何故?想い出を作りたかったから?
無意識に、自分がいた証を残したがってる?
覚えていて欲しい。そんな気持ちがあるのだろうか。
「誰に?」
一瞬、歌姫の口元に自嘲的な微笑が浮かんだ。

172トップをねらう? </b><font color=#FF0000>(e8uf1.O6)</font><b>:2004/12/02(木) 21:18 ID:V0FaCf1Y
「あー、何か面白いことないのかしら?」
不機嫌さを隠そうともしないお姉さま。
そんなに成績悪かったのかしら。
「そんな些細なことはどうでもいいのよ」
「リリアンかわら版の出来がお気に召さないんですね」
白薔薇さまの自伝小説ネタはガセだったし・・・。
「せめてテストの順位がもっと早く発表されてれば」
そういうネタは、面白い記事にできるものなのだろうか?
「だったら薔薇の舘のクリスマス・パーティーの方が・・・」
「そういうことは早く言いなさいよ!」
止める暇もなく飛び出していってしまった。
入れてくれるかなぁ。だいたい、いつ記事にするんだか。

173ごきげんよう、名無しさん:2004/12/02(木) 21:24 ID:V0FaCf1Y
あー、ここで一言書き込むと、魚スープ屋さんの一投目(166)が
見えなくなってしまうなぁ。新刊発売前に投下しときたくて・・・。
同日カキコ失礼!

174魚スープ屋:2004/12/03(金) 00:40 ID:idCN1xFE
>>173
お疲れ様です!
オンタイムの季節SS乙です。
コバルトの新作も確か、蟹名女史の聖夜ネタでしたっけ。
『割込み』とか本当に全く気にしていないのでマターリやってください。

175魚スープ屋:2004/12/03(金) 21:22 ID:idCN1xFE
(7話はじまり)
平成16年9月10日PM16:47 薔薇の館
令「何処で、そんな情報を!!」
かなみ「隊員がその噂話している二年生の話を偶然聞いたの。しかも、議事録を狙っているって」
志摩子「議事録を…」
由乃「でっ。取調べは?」
かなみ「もう済ませてある。けれど、その子も噂を聞いただけだって」
祐巳「出まかせじゃないのですか?」
可南子「出処が掴めない以上、油断出来ませんわ!!」
令「風紀委員会に反対する生徒がいたとはね。視察に合わせてデモをするなんて考えたね」
由乃「感心している場合じゃないでしょ!!視察の時にデモなんかされたら、お終いよ!!」
祐巳「文科省にも、生徒達にも私達の力量不足をアピールする絶好のチャンスですから?」
令「成功したらね。そうやって山百合会をおとしめて、否決させようと考えてるんでしょうね」
志摩子「議事録を狙うのは私達を批判する為の道具に使うんでしょうね。」
由乃「議事録は絶対門外不出!!昔からこれだけは守られてきたわ!!」
令「もし、記事録が暴露されたら代理就任や親衛隊参入、大久保一派、乃梨子ちゃんの事後処置
が全部明るみに出る。今までの事、全部攻撃されたら天地がひっくり返るわ!!」
可南子「けれど、こんな事をすれば山百合会が崩壊するのは目に見えていますわ!!山百合会が
無くなったら誰が否決するんですか!!」
祐巳「そこが疑問だよね。山百合会が無くなれば自然と否決になると思ってるのか?あるいは
本当は山百合会を潰すのが目的なのか?」
由乃「馬鹿なのか天才なのか分からない陰謀ね」
令「議事録の担当は志摩子よね?体と記事録の両方に気をつけてね」
志摩子「はい。令様」
ロサ・ギガンティアは伝統的に、議事録の担当だった。
令「どっちにしろ、視察まで、そんなに時間がある訳じゃないから、何らかの手
を早めに打っとかないと」
       大河ドラマ〜リリアン太平記〜第7話『志摩子の願い』中編
 取調べ対象者は全部で120名に及んだ。中には先生方やミルクホールのおばさんまで居た。
噂話を聞いた者から、その話をした者を取り調べた。取調べの度に「私は噂話を聞いただけだ」
が何度も繰り返され、堂々巡りが続いた。中には、複数の人間が一人の人間から噂話を聞いたと
いう証言が出て、色めき立つ事もあったが、その人は花寺の生徒で『私は噂話を聞いただけだ』
というつまらない結果に終わった事があった。苛立った私達は手当たり次第に、委員会の部屋
やら部室やら、めぼしい所を捜査したが、体育祭と文化祭で、色々小道具の準備をしている時期
に、これはかなり難しい事に気付いた。姿の見えない敵に翻弄されていた私達は、徐々に正常な
判断が、出来なくなってきていた。だが、一つだけはっきりしている事は、これだけ大勢の人間
が、色々な角度で、この噂を聞いているという事は、確実にデモは計画されているという事であった。
      平成16年9月11日PM12:30 リリアン女学園敷地内 某所
生徒A「ちっ。親衛隊が鵜の目鷹の目で探し回ってるわ」
ウザワミフユ(仮)「山百合会がどう動こうと、私達の計画は潰せないわ」
{本人のプライバシー保護の為、実名は伏せさせて頂きます。}
生徒B「けれど、計画を知っている以上、記事録はそうそう手に入らないわ!!それに
当日は警備が厳しくなるわよ」
ミフユ「全校生徒が注目しているのだから、あなた達にとって、むしろ好都合じゃない?それに
議事録が間に合わなかったとしても、計画自体に支障は無いわ。風紀委員会を廃案に追い込み
山百合会を丸裸にした後、記事録を手に入れ、彼女達に止めを刺せば良いわ。」
生徒C「そうね。あなたが立てた、この計画、きっと成功させて見せるわ!!」
ミフユ「同じ、リリアンを愛する者として、何時でも協力させて貰うわ」
生徒D「では、正統山百合会の本日の会議はこれまで。」
生徒A「リリアンを我が手に!!」
全員「リリアンを我が手に!!」
ミフユ(俗な人達。まぁ、私の望みを達成する為の捨て駒だから
適当に付き合っておきましょう。)

176魚スープ屋:2004/12/03(金) 21:28 ID:idCN1xFE
(↑7話つづき②)    
           同日PM12:35 第1体育館裏
 どす黒い欲望が渦巻いていた、ほぼ同じ時間、土曜の午後活動の合間に真美さんは志摩子
さんから、第1体育館裏で一緒にお昼食べようと誘われていた。ちょっと遅れたと思ったて
いた、真美さんはスカートのプリーツを翻しながら、人の間を走り抜けていった。
真美「ごめん!!志摩子さん。待った?」
志摩子「いいえ」
真美「志摩子さんに、いちごみるく買って来たの。飲んで」
志摩子「ありがとう。真美さん。」
真美「なんか、大変な事になってるらしいね。そっちは」
志摩子「デモが起きるとか何とかで。薔薇の館は、てんやわんやの大忙しなの」
真美「志摩子さんは、いいの?薔薇の館にいなくて」
志摩子「私は、こういう事は苦手だし、どうしたらいいか解らないから。」
真美「そうね。志摩子さんはひなたぼっこしてるお婆ちゃん猫みたいなキャラだから
そういうの似合わないかも」
志摩子「ほめられているのか、けなされているのか、よく解らないわ。」
真美「さぁ?どっちでしょう?」
志摩子&真美「うふふふふ」
真美「ねぇ志摩子さん。日曜、どっか遊びに行かない?」
志摩子「ええ。いいわね」
 真美さんは立ち上がり、うーんという声を出しながら背伸びした。残暑はまだまだ厳しかったけど
体育館裏の木立の影は、二人にはとても心地良かった。
真美「ずっと、新聞、新聞って一筋だったから、リリアンの景色をこんなにゆっくり見たのって
久しぶりかもしれないわ。」
志摩子「そうね…私も同じかもしれない」
 秋を告げる風が二人の間を通り抜けた。私は二人にとって、この時が終わらずに、ずっと続けば
いいと思った。
            同日PM12:50 薔薇の館
 その頃、薔薇の館では志摩子さんと真美さんという意外なコンビの話で持ちきりだった。
由乃「志摩子さんと真美さんが頻繁に二人で会っているらしいわね。まだ事件について、しつこく
付きまとっているのかしら?」
可南子「親衛隊の報告によると真美様は、事件の追究を中止したらしいですわ」
由乃「あの、思い込んだら一直線の真美さんがねぇー。猪突猛進は怪我をするって、やっと気付いた
のかしらね。良い事だわ。うんうん」
 由乃さん以外の全員が顔を見合わせたのは言うまでも無かった。
令「そう。じゃあ、二人の件は心配な無さそうだら、デモ対策を考えなくちゃ」
 みんなが頷いた丁度その時、噂の本人が、テクテクと帰ってきた。
令「遅かったね志摩子。お茶淹れる?」
志摩子「お願いします」
可南子「はい。どうぞ」
志摩子「ありがとう可南子ちゃん。みなさんに許可を頂きたい事があるのですが?」
令「何?」
志摩子「日曜の活動を欠席させて欲しいのですが、宜しいでしょうか?」
祐巳「うん。日曜は顔を出して解散する程度だから、気にしないで志摩子さん」
 由乃さんが『何、言ってるのよ!!』って顔で私を見てきたが、令様のフォローで状況を理解し
「私も欠席しよう」とわざとらしく言ってくれた。だって、そうでも言わないと真面目な志摩子
さんは、『やっぱり出席します』なんて言い出すに違いなかった。志摩子さんには少し休んで
貰いたい。それは、友達としてのお節介というよりか、罪滅ぼしに近かった。
             同日PM13:10 銀杏並木
 並木の下、真美さんを待ち構えていた三奈子様は「あ〜ら奇遇ね」と言うとニヤニヤしながら
寄っていった。嘘も方便というが、ばれている嘘を堂々とつけるのは一種の特技だと思う。
三奈子「一昨日から部室に顔を出さないじゃない。心配したわよ。」
真美「ご心配掛けてすいません。」
三奈子「デモがどうとかで山百合会が大騒ぎなの知っているでしょ?今から部室に行くわよ」

177魚スープ屋:2004/12/03(金) 22:01 ID:idCN1xFE
(↑7話つづき③)
真美「行きません。私は…もう記事は書きません。」
三奈子「もうって事は、二度と記事は書かないって事かしら?」
真美「そうです。山口真美はペンを折りました。」
三奈子「あっそう。部員はあなただけじゃないから、自由になさい。」
真美「お姉さま…」
三奈子「なに?」
真美「私はもう、お姉様のお役には立てません。スールの契りを解消してください。」
三奈子「それは、お断りね。別にあなたが部員だからスールになった訳じゃないわ。それに、三年の
この時期で、スールの契りを解消されても、どうしようもないわよ。」
        平成16年9月11日AM10:30 K駅
 日曜の混雑の中、オロオロしていた志摩子さんを呼ぶ声があった。その特徴的な元気の良い声
を頼りに人の波をかき分けて進むと、真美さんが待っていた。
真美「おはよう志摩子さん!!」
志摩子「おはよう、真美さん」
真美「ねぇ。お買い物の前に動物園行かない?私、好きなんだ動物」
志摩子「私も、動物さん大好きよ。行きましょう」
           同日 動物園AM11:00
真美「みて!!タヌキよ!! タヌキさん!!化かされそう。」
志摩子「タヌキは祐巳さんね。そっくりでしょ。」
真美「う〜ん。言われてみれば。タヌキネンシスって奴ね」
志摩子「うふふふ。」
真美「キリンだ!!おっきー」
志摩子「キリンは可南子ちゃんね。」
真美「うん。ぴったり」
志摩子「ゴリラは令様。」
真美「えっ?!ロサ・フェティダがゴリラ?!」
志摩子「見た目と違って、とても女性らしく、母性本能があるところが似ているわ。」
真美「ロサ・フェティダはゴリラか。あっ!!イノシシ。これは由乃さんね!!初めて一緒のクラスになって
由乃さんの正体を知ったからね。知らなかったら、リスとかペルシャ猫(*動物園にはおりません)って
言っていたかもしれないわ」
志摩子「うふふ。間違いないわね」
ヤマノベ「熊耳モード♥」
真美「ねぇ…志摩子さん。なんか、知ってる人が熊の檻の中にいない?」
ヤマノベ「熊耳モード♥」
志摩子「人が檻の中にいる訳無いわ。次、行きましょう。」
ヤマノベ「熊耳モード♥先生辞めたくなっちゃった♥」
      同日PM13:45 I公園
真美「ねぇ志摩子さん…わたしね、新聞部辞めようと思ってるんだ。」
 昼食を採った二人は、I公園の池のボートに乗った。ボートの上でとりとめも無いおしゃべり
をしていた時、真美さんは話を切り出してきた。
志摩子「どうして辞めるの?」
真美「私、今まで良い記事を書く為に全力疾走でやってきた。どんなに他人に迷惑が掛かろうとも
何が起ろうとも真実を知りたい人達がいる限り、立ち止まってはいけないと信じてた。けれど
ある人の悲しむ姿を見て、もう書く気が起き無くなちゃった。」
志摩子「真美さん…」
真美「だからね昨日、お姉さまにロザリオ返そうとしたの。」
志摩子「本当に?」
真美「うん。お姉様のお役に立てないから返しますって、言ったの。そうしたら、『部員じゃなくても
貴女は妹よ』だって。気持ちはありがたいんだけどね。私、部活辞めたら部室に行く事は、もう無い
じゃない。そうしたら受験で忙しいお姉さまのお役に立つ事が出来ない。だったら、あの人にとって
私って何なのかなって思って。」
志摩子「私と、同じね。」
真美「志摩子さんと?」
志摩子「そうよ。ロサ・ギガンティアだった、お姉さまにとって私は存在価値があるのか?私は何時
もそんな事ばかりを考えていた。けれど、私に妹が出来て、そんな悩みこそ、必要ない事だと解った。
何故なら姉にとって妹とは、いてくれるだけで有難いのよ。」
真美「志摩子さん…」
志摩子「それに、真美さんがあんなに生甲斐にしていた新聞部を辞めてしまうのは、私は不幸な事
だと思う。その人が真美さんの記事を見て、どんな気持ちになったかは、私は知らない。けれど私
だったら、私のせいで大好きな友達が生甲斐を無くしてしまった事の方が悲しいわ。」
真美「…」
志摩子(真美さんの姿が私と重なるのは、本当は過去の姿だけじゃない。リリアンの存亡を掛けた
この時期に、私は何も出来ないでいる。そんな私が、祐巳さんや令様の力になる事ができるの
だろうか?お姉さまと乃梨子がいない薔薇の館に私がいる意味は何なのだろう?)

178魚スープ屋:2004/12/03(金) 22:14 ID:idCN1xFE
(↑7話つづき④)  平成16年9月12日AM7:30 薔薇の館
 結局、昨日は帰れなかった。サザエさんが見られなかった。ご飯もまともに採れなかった。眠ることも
出来なかった。迫り来るデモの影と視察。何としても手掛かりを見つけたかった私達は、あの手この手を
尽くした。日が暮れ、夜の戸張が下りても、それは続いた。そして、いつの間にか日は昇った。けれど
こんなに根を詰めても何も進展が無かった。
令「いい。志摩子は何時も一番早く来るから、私達がこんな時間にいると、日曜から徹夜したって気付く
かもしれない。だから志摩子に気付かれない様に、一旦薔薇の館を出るの。」
祐巳「でっ、7時50分位になったら、また集合するんですよね。」
由乃「友達気遣うのも一苦労よね。ふぁぁ〜。…………眠い。辛い。帰りたい。」
 一旦、薔薇の館を出るというのは名案かもしれないけど、申し合わせた様に全員の目の下にあるクマは
どうするのだろうと、ボケボケする頭で考えた。
可南子「視察は、明後日です。体力が付きようとも私達は休む事は出来ません。山百合会が崩壊すれば
私達全員の命運は尽きるのですから。」
由乃「今度は私達が処刑されるかもね。あひゃひゃひゃひゃ」
 睡魔と疲労で弱気になった私達に、その言葉はどんな栄養ドリンクより効いた。ただし、励ましと
いうより、お尻に火を付けられる感じだが。その時、ギィという音と共にビスケット扉が開け放たれた。
出るのが、ちょっと遅かった。これで令様の目論みは露と消えた。
志摩子「ごきげんようみなさん」
令「えっ?あっ…ごきげんよう志摩子」
志摩子「みなさんお早いですね」
由乃「そっ…そうなのよ!!学校行こうとトイレに行ったら、うほっ!!良い令ちゃんが」
 24時間耐久レースを完走した由乃さんの脳味噌には、残念ながら、この緊急事態に当たるだけの力
は無かった。かといって、私も令様も可南子ちゃんにも上手に切り抜けるだけの余裕が無かったから
志摩子さんを除く全員が「えへへへ」と不気味な笑いを続けるしか、すべが無かった。
志摩子「うふふ。みんな揃って楽しそうですね。では、会議を始めましょうか」
 一同、志摩子さんが天然で助かったと胸を撫で下ろした。けれど、志摩子さんは全てを察していた事
にその時の私達は気付いてあげられなかった。
         同日PM12:30分 薔薇の館 外
 薔薇の館の周りをウロウロしていた真美さんは、今、一番会いたくない人の顔を見た。気付かれない様
にその場を立ち去ろうとしたものの、敵はさる者だった。
三奈子「あら?あららら?あら〜。こんな所で奇遇ねぇ。真美」
真美「……それはどうも」
三奈子「ところで、あなた。どうしてこんな所にいるの?」
真美「べつに良いじゃないですか。私が何所にいようと…」
三奈子「そう。じゃ、これは何かしら?」
 三奈子様は真美さんの左腕を掴むと、その手に握られた、メモ帳を取り上げた。
真美「ちょっとなにするんですか!!返してください!!」
三奈子「『9月12日、薔薇の館に動きなし』。あら?記事を書かない筈じゃ無かったの?」
真美「何、勝手に見てるんですか!!」
三奈子「質問の答えになってないわよ。じゃあ、答え易いように質問を変えようかしら?あなたは
何故、記事を書かないと誓ったの?そういえば理由聞いてなかったわよね?」
真美「…志摩子さんを悲しませるような事はしたくない。」
三奈子「そう。じゃあ、それならば何故、記事を書かない筈のあなたがこんな事をしているの?」
真美「私は…」
三奈子「うん?」
真美「私は本当は記事を書きたくない訳じゃ無い!!私の心が『使命を果たせ。真実を暴け。ペン
を捨てるな』と命令している!!だからといって書けるわけ無いじゃないですか!!私見たんですよ。
志摩子さんが、二条さんの事を思って泣いているところを!!大好きな妹を亡くして悲しんでいる
人を!!私が彼女の傷を広げたんです!!痛い思いをしながら、必死に耐えていた彼女の傷を、自分
勝手な野次馬根性で、ばい菌だらけの手でほじくったんです!!痛く無い訳ないじゃないですか!!
苦しくない訳ないじゃないですか!!」
三奈子「そうね。苦しいわね」
真美「でも、彼女は自分のせいで私が新聞部を辞める事の方が悲しいと言ったんですよ。
笑っちゃいません。あんなことされても、私みたいな最低人間の事を気遣ってくれるんですよ」
三奈子「あっそう。事情は解ったわ。自由になさい。」
真美「どうもすみません。」
 その場を離れようとする真美さんの背中から、三奈子様は話しかけた。
三奈子「ねぇ?志摩子さんは二条さんの事を、どう思っているかしらね?」
真美「はぁ?大好きに決まってるじゃないですかっ!!」

179魚スープ屋:2004/12/03(金) 22:19 ID:idCN1xFE
(↑7話つづき⑤) 
 振り返った真美さんは、無神経な姉を睨みつけながら、吐き捨てる様に答えた。けれど
姉の顔は、何時もの小馬鹿にした様な薄ら笑いでは無く、見据えた様な表情だった。
三奈子「そう。あなたが志摩子さんだったらどうする?彼女は全てを知っている訳じゃないのよね?」
真美「私だったら、真相を絶対に究明します!!」
三奈子「どうして?」
真美「大好きな人が、どうして死んだのか!!私だったら絶対知りたいです!!」
三奈子「志摩子さんも同じ気持ちじゃない?」
真美「え?」
三奈子「大好きだからこそ、真実を知りたい。大好きな人と、どうして別れなければいけないのかと?」
真美「…」
三奈子「けれど、その真実を知るまでの過程は、とても辛いかもしれない。志摩子さんにとって、それこそ
傷を広げられる思いかもしれない。だからとって、知らない方が良いのか?そうじゃないと思う。傷は庇う
だけじゃ治らないわ。手術なり、薬を付けるなりしないと、永遠に治らない。でも、手術は怖いわよね?
薬はしみるわよね?けれど、それを恐れていたら傷は永遠に塞がらない。醜くただれていく傷口が自分の目
に曝され続け、心を蝕む。その事の方が不幸だと思わない?」
真美「…」
三奈子「それに、もし真美がいなくなったら、私はどんな思いをしても真実が知りたい!!だって真美は私
の大切な妹だもの。世界に一人しかいない大好きな妹だもの…」
真美「ひっく…おっ…ぐすっ。おねえさまぁ…お姉さま…お姉さまっ!!」
三奈子「真美っ!!」
 二人は時の流れるのも気にせず、そのまま抱き合った。スールの形はいろいろある。けれど、愛の形は
皆一緒なのだろう。この二人を見て私は、とても羨ましくなった。何十年立たなければ会えない
お姉さまを想って。
              同日PM15:30 2年藤組
 ホームルームを終えた志摩子さんを待ち伏せていた真美さんは、手を引っ張ると走りながら
第一体育館裏まで連れて来た。プリーツやタイが翻っても、真美さんは気にしなかった。
志摩子「はぁ…はぁ…どうしたの?真美さん」
真美「私、新聞部に復帰するの!!」
志摩子「おめでとう真美さん!!良かったじゃない。」
真美「うん!!志摩子さんと、お姉さまが迷って、全てを見失った私を救ってくれた。
二人の言葉が、灯りになって私の進むべき道を照らして教えてくれた。だから
志摩子さんには感謝してるよ。ありがとう志摩子さん!!」
志摩子「うふふふ。どういたしまして」
真美「お礼に、今まで以上に迷惑掛けてあげる!!その変わり、志摩子さんの知りたい
事の全部、私が絶対暴いてみせる!!約束する!!」
志摩子「お手やわらかにね」
志摩子&真美「うふふふふふ」
 部活があるからと言って、手を振りながら真美さんは走り去っていた。
志摩子(真美さんは自分の道を見つられた。私も自分の道を行くしかない。迷っていては駄目。
今の私に出来る事。私だからこそ出来る事を。)
         同日PM16:12  薔薇の館
由乃「志摩子さん遅いわね。何してるのかしら!!」
令「教室を何時も通りに出たらしいけどね…」
 何時まで待っても志摩子さんは来なかった。そこに当直交代の親衛隊員が入って来た。
隊員A「ロサ・ギガンティアでしたら、1530時に薔薇の館に入っていくのを見ました」
祐巳「本当?!」
隊員A「はい。二分程経ったら、黒い表紙のファイルを手に何処かに行かれました」
由乃「それって…」
祐巳「議事録!!」
 私達は急いで、一階資料室の棚を探した。案の定、議事録は見つからなかった。
令「なんでよっ?!こんな時期に持ち歩いたりしたら危険じゃない!!」
祐巳「それよりも、議事録を反対派が狙っているのに、わざと持ち出すなんて…」
由乃「反逆行為…よね?」」       (7話おしまい)
        次回。大河ドラマ〜リリアン太平記〜第8話『志摩子の願い』後編

180魚スープ屋:2004/12/23(木) 23:18 ID:LLq6PUZM
一人称進行は難しいので、後日仕切り直しさせてもらいます。
アニメ第3期まで、SSを通じてマリ見てを盛り立てていきたいと思います。
ではでは。

181魚屋:2005/03/16(水) 22:40:17 ID:JuhKE.oE
1ページ目         『オレンジペコとスプーン』
 いまでも、はっきりと思い出す、あの日々の想い。楽しい。嬉しい。悲しい。寂しい。
関連の無い、それぞれ想いが複雑に混ざり合い、甘くて懐かしく、けだるい香りを私に
感じさせる。ティーカップに注いだ、一杯のオレンジペコのように。
  
 東京都M市の某所。通りから外れた場所に昭和初期から変わらぬ佇まいを見せる喫茶店。
そこに一人の女がいる。コチコチとやたら大きな音を立てる柱時計に目をやると、既に
時間は30分を超えていた。
蓉子「ふぅー」
 いつもの事だ、と軽いため息を吐いてみせる。しかし困った事に、あの二人の事を
考えると、この30分という時間を蓉子にとって愛おしく感じさせた。
 六年間の付き合い…。その幸せな時間は蓉子に、あの二人の長所や欠点さえも
愛せる様にしてくれた。
蓉子「すいません。オレンジペコもう一杯いただけますか?」
 オレンジペコにお砂糖を入れた蓉子は、少し考えてみた。10分先か20分先かは
分からない。しかし、確実にあの二人が、その時に取るであろう行動を予測すると
ちょっとニヤけてみせた。
蓉子「いけない」
 一人でニヤけているところを誰かに見られてはいないか。周りを見渡したが
老店主は何か嬉しそうにコップを磨いるし、蓉子以外の唯一の客は文庫本を
読みふけっていた。
蓉子「それにしても暇」
 あまりにも暇なので、この店が昭和何年に建てられたか?建築様式は
インターナショナルなのか?ドイツ表現主義なのか?と蓉子は、あれこれ
推測してみせた。やがて、天井の装飾を見つめていた蓉子は、したたかな
眠気に捕らわれた。瞼の重力に抗いつつ、しばたかせていると誰かの顔が
チラチラと浮かんできた。江利子だ。

182魚屋:2005/03/16(水) 22:41:10 ID:JuhKE.oE
2ページ目
 あれは、中等部の頃だった。何時も、けだるそうにしていた江利子が小躍りするように
私の元にやってきた。
江利子「聞いてよ!!蓉子!!上級生に天体観測が趣味の方が居るのだけれど、その方の話が
とても面白くて。」
蓉子「へー、そうなんだ。なんだか楽しそうじゃない?」
 変わり者が多いリリアンの中でも一際変わっていた天体マニアの上級生。彼女に感化
された江利子は瞬く間に彼女と天体観測の虜になった。それからというもの、江利子は
毎日の様に図書室に通い、宇宙の本を読み漁った。自称お節介焼きの私は、彼女に
くっ付き、彼女の幸せを全面に応援した。そんな日々が1、2週間程続いていたある日
のことだった。
江利子「やーめた」
蓉子「え?何を」
江利子「天体観測の調べ物よ」
 目移りが激しそうに見えて、意外に執着する江利子の割には、今回はかなり早いと
思った。なんで?と彼女に聞くと、本を置き、まざまざと私の顔を見つめてきた。
江利子「遠い星よりもっと素敵な物をすぐ近くに見つけた」
蓉子「え?何それ」
江利子「教えてあげないよ」
 江利子は図書室の本を返すと、また小躍りするように図書室から出て行ってしまった。
江利子って、よく分からない。
 
 しまったな、と蓉子は思った。どれ位寝てしまったのか確認する為に、例の柱時計に
目をやると、あれから一、二分も経っていなかった。
蓉子「それにしても、ここは本当に落ち着く場所ね。危険なくらいに」
寝まいと、湯気をたてるオレンジペコをスプーンで掻き混ぜていると、甘い香りと湯気
が蓉子の眠気を再び連れ戻してきた。

183魚屋:2005/03/16(水) 22:42:21 ID:JuhKE.oE
3ページ目
聖「強い貴女が嫌い」
 二年の終わりのある日、私は聖に言われた。それは、聖が心から求めていた女性
久保栞が居なくなってから、もう二ヶ月にもなろうとしていた日のことだった。
薔薇の館での放課後の活動が終わり、解散した筈の私は忘れ物を取りに、薔薇の館
に戻った。施錠されている筈の鍵が開いていたので、誰かが居る事を確信していた私
は、それに留意しつつ、二階の会議室に上がっていった。の筈だった。
会議室のドアノブに手をかけ、少し開いたところで私は手を止めた。いや。動けなか
ったと言った方が正直だろう。すすり泣いている聖の姿に、私は心臓を握られる様な
思いがした。
聖「だれ!!」
 本人の意思に関係なく、人間も生物であるという宿命にある限り、物音立てずに
静止するなぞ、無理がある。ましてやドアノブに手をかけたままの姿勢で。
蓉子「ごめんなさい。けど、覗き見する気なかったから」
聖「じゃあ、早く帰って」
聖はつっつけどんに言い放つと、目を制服の袖でごしごし擦り、窓の方を眺めた。
蓉子「うん…忘れ物取りに来ただけだから。」
聖「…」
 テーブルの上の忘れ物。ピンク色の小さな筆箱を鞄に仕舞うと、本来の目的を
果たした私は、確かに帰らざるをいけなかった。しかし、私の口はそうは思って
くれなかったらしい。
蓉子「…なにか私に言って分かる事だったら、話して。聖」
 明らかに癪に触られた聖は、肩をいからせながら私を振り返った。

184魚屋:2005/03/16(水) 22:59:43 ID:JuhKE.oE
4ページ目
聖「あなたに言っても分からないでしょ!!」 
 たしかにそうだ。私なんかに聖の気持ちはわからないだろう。けれども話
ぐらい聞いてあげたい。気持ちを共有して、彼女と一緒に悩みたい。友達
だから…大切な人だから…
蓉子「そうね。ごめんなさい、お節介だったかしら。…じゃあ帰るね」
 悲しい。辛い。泣きたい。本当の私が喚いている。けれど、私は聖の前で
本当の気持ちを言えず、強がる事しか出来ない。それがくやしかった。
 聖の顔を見ない様に会議室から出て行こうとしていた時だ。私の肩を聖が掴む。
聖「…ごめん。ちょっと感情的になり過ぎた。」
 私は振り返らずに聖の言葉を聞いた。少し間をおいて振り返らないと心の準備
が出来ない。
一呼吸か二呼吸をおいて、振り返る。
蓉子「いいのよ。私も無神経だったかな、と思ってるんだから」
 まただ、くやしい。
聖「聞いて貰っていい?」
蓉子「うん」
 聖は、悪戯を告白する子供のように、俯きながらたどたどしく告白する。
聖「もう、お姉さまが卒業しちゃうんだなって。そう思ったら無性に寂しく
なっちゃった…」
蓉子「ロサ・ギカンティアは、本当に優しくしてくれたものね」
聖「うん。だから、頭ではお姉さまが卒業するのは分っていても、どこかでそれ
を否定し続けてきた。そしてついに、後二日。」
 ロサ・ギカンティア。その人は聖の心の中に、確かな足跡を残し、この学園
を去ろうとしている。
蓉子「そうね…今は精一杯姉孝行でもしたらどう?」
聖「うん。でも春になったらお姉さまの居ない日々が始まる…どうなっちゃう
のかな、私」
蓉子「人は出会った限り、別れは必ず来る。それは皆、平等なことだから仕方
の無いことね… でも、春になって新しい出会いがあって、自分の全てを受け
止めてくれる人が出てくるかもしれない。だから私達は前に進めるのよ」
 新しい出会い。聖の全てを受け止めてくれる人。その人は果たして誰なの
だろう。祥子達の中からか。それとも、新しく私達の元にやってくる人達の中
からか。それは、私にも皆目検討がつかなかった。けれどその時、私は私の喉元
まで出かけた何かを言おうとしたのを、明らかにためらった。
 …だって言えるわけ無いじゃない。その人は、私では駄目なのか、と。
聖「…凄いな蓉子は。あなただって、お姉さまが卒業なさるはずなのに、私じゃ
敵わないよ。本当に羨ましい。…だからそんな強い貴女が嫌い。」
蓉子「そうね…私も嫌い」
 本当に嫌い。もっと別なことを聖に言いたいのに。

聖「でも、そんなあなたが大好き。」
   
          え?
          
聖「ありがとう。蓉子」
 私を見つめる聖の顔は確かに微笑みかけていた。私は、はたはたと涙が
足元にこぼれていくのを感じた。

185魚屋:2005/03/16(水) 23:01:22 ID:JuhKE.oE
5ページ目
 目が覚めた時には、柱時計の針はあれからさらに10分も進んでいた。よくもまぁ
こんなに居眠りができるものだと、蓉子は自分にあきれると同時に、感心したりする。
蓉子「この失態の責任はあの二人に取らせなくては」
 やがて、カランコロンと店のドアが開く音が聞こえ、やかましくあの二人がやって来た。
聖「ごめーん蓉子。遅れちゃったよ」
江利子「あら、怒ってない?」
蓉子「うふふふ」
 二人は一応、40分も約束の時間に遅刻した事を謝っている。しかし、それほど真剣さが
見えないのは、やはりこの二人ならでは。
聖「え?なに?なんで笑うのよー」
江利子「ちょっと、怖いわよ。蓉子」
蓉子「やっぱり、全部私の予測通りだったから。うふふふ」
聖・江利子「?」
 だらしなくて、マイペースで、楽しくて、大好きな二人。私はこれからも、ずっと
二人と一緒にいたいな。
 蓉子は飲みかけのオレンジペコを飲み干そうとしたが、もうやめた。

蓉子「じゃあ、行きましょうか!!」  (おわり)

186ごきげんよう、名無しさん:2005/09/05(月) 23:24:15 ID:SH8ndO1I
なぜ、感想レスがつかない?
たまたま、幸運にも迷い込んだのだが、魚屋さんの作品はクオリティー高いぞ。

P.S,
マリ見て歴2ヶ月です。
で、いま、かなり重症。
「遅くなってかかった麻疹(はしか)は重くなる」という諺思い出した><


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