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ビジュSS

13イスラ風ビジュ的16話(2/2):2004/09/02(木) 03:16
 窓から外を見る。
 風が吹いても雨が降っても、ラトリクスの景色は変わり映えがしない。
 が、その時は違った。
 深い影をまとった人型が、揺らめきながら立っていた。
 眉間に力を入れると、右手に大剣を握っているのが判別できる。
 立ち止まったまま、ぐるりと周りを見回して―――目が、合った。
 節穴のような瞳の奥に、純粋な憎悪と一掴みの恐怖をかいま見て。
 まずい。
 思ったその時、鋭い冷気を感じて身をそらす。
 一瞬前に頭があったところに鈍く光る鋼を認め、勢いを殺さず飛び退いた。
 目の前を行き過ぎた影はまともにベッドに突っ込んで、パイプのひしゃげる音が部屋に響き渡った。
(じょ……ぉだんじゃねぇぞオイ)
 胸中で悪態をつきながらも、身体は勝手に動くものらしい。
 三十六計逃げるにしかずとはよく言ったもので、気が付くと俺はドアに向かって全力疾走していた。
 必要なだけの力を込めてパネルに触れ、完全に開ききる前の隙間に滑り込む。 
 背中越しに、閉じた扉が衝撃に悲鳴を上げるのを感じた。
 浅く息を吐く。
 次に聞こえたのは、風を切る高い音。
 空気の動きを察知して上体をひねる。
 肩を掠めて何かが飛んだ。見るとシャツが破けている。
 体制を整えて顔を上げると、弓を携えた影が一人。
 次の矢をつがえて真っ直ぐに向けてきた。
 殴りかかるにも距離がある。
 廊下を反対側に逃げるにも、背を向ける方が危険だと脳内が告げる。
 悪寒が走ったのかそれとも剣士が追いかけてきたのかは知らないけれど。
 背後に冷気を感じて、反射的に隣の部屋の扉を開けた。
 確か此処は、隊長の部屋。

 飛びこんで、左右に目を走らせた。
 何かないだろうか。隊長が置いていった予備の剣でもあれば良いのだけれど。
 二、三歩進んだところで黒い棒状の物を見つけ、早足でそれに近づいた。
 持ち手らしいところに手をかけて、慎重に引いていく。
 音もなく刀身が姿を現した。
 光を反射して輝くそれは、この状況を打破する未来を暗示しているようにも思えて。
 完全に抜ききってから、扉へと向き直った。
 鞘は左手にもったまま。
 軍人だったのだから、俺は戦えるはずだ。言い聞かせて扉に向き直った。
 パネルに触れる。自室を出た時よりも鼓動は落ち着いていた。

 開けていく視界に一抹の曇り。
 大きく踏み込んで、腰を落として右腕に力を込める。
 力任せに振り回すのではなく、斬れる部分が斬れる角度で当たるように。
 横に薙ぐ。
 声にならない悲鳴が上がった。割かれた脇腹が、空気に溶けていくのが見えた。
 降ろされてくる大剣の速度も大幅に落ちて、飛び退いた俺の前で影は崩れ落ちた。
 動けなくなるまで構ってもいられない。
 矢をつがえたもう一つの影に真正面から向き合い、歩を進めた。
 確実に一歩ずつ、相手を凝視したまま。
 なぜだか、避けられる自信があった。
 ギシ、と弓がしなうのを聞き、膝に意識の半分をよこして。
 矢が放たれた瞬間、頭一つ分だけ左へ飛んだ。
 顔のすぐ横を過ぎゆくそれには目もくれずに、走りながら少し上に構える。
 首を切り落とすと、今度は悲鳴も聞こえなかった。
 唯一知っている外への道は、そこから4部屋分進んだ先にあった。

 いつもは洗濯物が干されているテラスに、今は何もない。
 端まで駆けて下を一瞥。動くものは何も見えない。
 高さはギャレオ三人分と目星を付けて、申し訳程度の手摺に手をかけた。
 手摺と地面とを同時に飛び越えて、外へと身体を投げ出す。
 自分でも呆れるくらいに迷いがなかった。


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