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リメイク作品専用スレ
1 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:06 [ DXWkv0hk ]
元ネタ
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwww04old.html>>619
リメイク
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwkakuri01.html#778

リメイク外伝
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwkakuri02.html#464
糞樽物語
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwkakuri02.html#969
リメイク外伝 〜猫狩〜
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwnobanashi.html#246
水の区レストランにて
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwnobanashi.html#726
リメイク完全版 −死人・樽ナ−
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/4042/1073454965/28-

2 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:08 [ DXWkv0hk ]
本人光臨待ちwwwwwwwwwwwwwwwww

3 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:18 [ isE3wwWE ]
うはwwwwwwwwついに出来たのかwwwwwwwwwww

[ DXWkv0hk ]おつwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

あとはリ神の作品を待つばかりwwwwwwwwwwwwwww

4 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:28 [ DXWkv0hk ]
言い忘れwwwwwwリメ氏へwwwwwwwwwwwwww
以前叩かれてたけどwwwwここではむしろトリップつけてコテハン名乗ってくださいwwwwwwwwww
壁に隠れて出てくるのもまだ気に入ってたら復活よろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

5 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:34 [ isE3wwWE ]
リ神ってトリップのつけ方知らないんじゃなかったっけ?wwwwwwwww

漏れはやり方知らないから誰か他の人教えて上げれwwwwwwwwwwww

もしかしたらもう知ってたりするかもしれないけどなwwwwwwwwwww

6 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:38 [ 4dEV/iH6 ]
コテのあとに  #任意の半角英数字8文字  で逝wけwるwぜーーーwww

7 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 18:41 [ DXWkv0hk ]
ちなみにコテハン練習場所はこちらwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/4042/1070070623/

8 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 21:19 [ jF5JQKKk ]
>>5
たしか、一度つけてた記憶があるよーwwwwwwwwwwwww
確かな記憶でもないし、まだ覚えてる保証もないけどwwwwwwwwww

9 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/09(金) 22:09 [ vgZxJW9k ]
ここは何かの作品をリメイクしたのを貼るのではなくて、リメイクの人の作品を張る場所
でいいんだよな?wwwwwwwwww
さすがにうざい粘着もここまで荒らしに来ないだろうし、どんどん書いてもらいたいねwwww

10 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/09(金) 22:41 [ hX6uDwmc ]
|w・`)今、気が付きましたwwwwwwwwwwwwwwww

[ DXWkv0hk ]さん、態々スレッドを立てて頂き有難うございますww

お礼は作品を書き上げる事で払わせて頂きますねwwwwwww

樽ナ&死人:すれ違い、踏み出す一歩
赤爺:過去の因縁、次の世代へ
文句&ガル姫:漢と漢女
のようなイメージで書いておりますwwwwwwwwww

現在赤爺の話が半分程出来上がっておりますのでもう少しお待ちをwww

11 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 01:14 [ sYb2u3Hg ]
さっそく後輪…じゃない、降臨キターかの?
楽しみに待っとるぞwwwwwww

>9
ふむ、ここまでやって、後予想できる荒らしの手口は『糞スレたてんな』系じゃのうww
まぁ、荒らしが着ても、うはwおkwwwwwwwwwwwwww
wwwwwwwの精神で放置じゃぞ、皆の衆wwwww

12 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 02:39 [ yeOgyfj6 ]
と言ってても粘着は必ず来るんだな〜wwwwwww

あ 俺じゃないよwwwwwwwwwwwwww

13 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 03:04 [ Pr7TL.f6 ]
まーね、アンチの人とか何でもいいから荒らしたい人とかはわざわざ来て
荒らしてく可能性はあるね。
でも、「スレ違い」とか「内藤スレの範疇じゃない」とか、そういう論議は避けら
れるだけでも有意義じゃないかな。

14 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 03:47 [ 7t3t/LQE ]
折角リメイクの完全版がこれから書かれるのだから樽ナと死人の話こっちにコピペした方がいいかのう?
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

15 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 08:02 [ mOQwZpus ]
>>14
一読者としてはwwwwwこのスレでまとめて読めると嬉しいwww
でも激しくスレと労力の無駄使いな気がしないでもないwww

該当カキコへのアンカー貼ってくれるのが一番美しくて嬉しいかもwwwww
ってそっちの方が手間な罠wwwww ゴメン好きにしてwwwww

16 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/10(土) 20:55 [ nOenoxq2 ]
おおwww何か出来てるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
うはwwwwwwwwww本人も光琳してるしwwwwwwwwww
完全版には糞樽のとこも勿論含まれるんだよね?wwwwwwwwww
蝶是津みwなwぎwってw来たぜ!!1!1!11!1!!!!wwww

17 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:39 [ UJcKvEK2 ]
|w・`)赤爺の話が予想以上に膨らんでいる為、書き上げた半分を投下しますwww
死人と樽ナの話とは全然違う調になってるのは仕様ですwwwwwwwwwwwww



あれからどれだけの年月がたったのであろう。

ザルカバードへの進行。
その最前線ズヴァール城への侵入。

若いワシはその荒れ狂う戦乱の真っ只中にいた。

ラングモント岬を抜け、吹雪の舞うボスディン氷河を越え
そして辿り着いた戦局の最終地ザルカバード。

戦いは辛いものであった。
傷付き倒れていく戦友、心半ば散っていく部下。

しかし、多くの犠牲と屍の山を越えながらもワシ等は徐々に敵の喉下へと詰めていった。

敵と仲間の阿鼻叫喚の声が木霊する。
そんな中、遂にズヴァールの硬き城門を破り外郭へと侵入を果す。

「皆の者、我等が悲願達成まであと少しだ!
母国サンドリアの土を踏む為にも必ず勝利をこの手に!」
握った剣を高らかに天へと突き上げ上がる雄叫。
続く様にして皆も同じ動作を行い自分の身体に鞭を入れる。
指揮は高まった。

「切り込み隊は先行し、後から来る援軍の為に敵を蹴散らすのだ
我等、王立騎士団第二小隊はこのまま外郭門前にて敵の進軍を防ぐ」
命令を告げ、夫々の役目と行動を起こす。

順調に事が運んでいた。
この時は、そう思っていた。

18 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:40 [ UJcKvEK2 ]
ズヴァール城内郭
ワシ等はその一角で休息をとっておった。
内藤達に言葉は無く今は少しでも多くの力を蓄えようとその身を休めている。
敵に発見されぬ様に見張りをしている孫を見てワシは先程までの光景を思い出していた。


「臼姫待て、何処へ行くつもりだ!」
道を引き返そうとする臼姫の肩を掴み内藤が叫ぶ。
「何処って・・・何を言っているの内藤
樽ナ達を助けに行くに決まっているじゃない、見殺しにする気!?」
その言葉に猫狩、獣様、赤魔子も同意を示す。
ガル姫と文句が雄叫びの様な声を上げ気合をあらわにする。

「だけどな、今更戻った所でどうにかなるものじゃないぞ・・・」
外郭の方を向き、通風が言葉を漏らす。

「・・・通風ちん、そんな言い方酷いにゃ・・・」
耳が垂れ下がり彼の意見に失望の意を示す。
臼姫は信じられないといった表情で通風を見た。
「通風見損なったわ、内藤こんな奴ほって置いて私達だけでも助けに行きましょう」
だが内藤は答えない。
跋の悪そうに此方を見て黙ったままだ。

「内藤まさかあなたまで・・・」
口に手を当て絶句。
「ワシも通風の意見に反論はないがのう」
髭を弄りながら答える。

獣様が非難の声を上げた。
赤魔子も此方を睨み軽蔑の眼差しを送っている。

「あなた達見損なったわ!猫狩行きましょう」
内藤の手を跳ね除け睨みつける。

道を戻ろうと門の方へと走る臼姫達。

糞樽の声が響いた。

19 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:41 [ UJcKvEK2 ]
「たくっ、これだからバカはタチが悪いぜ」
手を上げてヤレヤレといった表情を浮かべる。
「あの驕慢な死人が何も言わずに残ったんだ
樽ナもそれが如何言う事か理解してない訳ないだろ」
臼姫の足が止まる。
背を向けながらも糞樽の声に耳傾けた。

声の音量が上がる。
「これから先の道を進むのに今の疲労した状態で何ができるんだ!
それにそんな事してみな、それこそあいつらの覚悟が無駄になるってもんだぜ!」
臼姫達は無言で糞樽の方を向く。
彼は拳を痛いほど握り、微かに震えている。
「糞樽しゃん・・・(´・ω・`)」
赤魔子が獣様に頷く。

声の音量は下がり優しい口調へと変わる。
「あいつらの事を本当に思うなら、何をするべきかわかるよな・・・」
最後に独り言だから気にするなよと付け加えて。

「糞樽の言う通りだ、ここに来る時もう覚悟は済ませただろ。
臼姫、俺達は俺達のできるべき事やらなくちゃいけないんだ
それが死人と樽ナの答えへの精一杯の返答になるから」
優しくも、だがハッキリとした口調で言葉を紡ぐ。

「そうだぜ、振り返る訳には行かねえんだよ俺達は
この先、同じ状況になろうとも俺等は進まなきゃならねえだ
例え別れが起ころうとも立ち止まるわけには行かねえんだよ」

言葉を聞き終え臼姫が此方へと歩を戻す。
「そうね・・・私達は私達のできる最善の事をやりましょう」
唇を噛む様にして掠れる声。
内藤は臼姫を見つめ一言『すまない』とだけ言葉を紡ぐ。

「内藤あなたが謝る事なんてないわ・・・」
張り詰めた糸が解けた様に疲れた表情ではあるが彼女は答えた。
そして壁に凭れ、その身を休める。

「とりあえず女性陣が休息する間は俺等で見張りでもしておくか」
通風が糞樽に話しかける。
しょうがないといった表情で同意する糞樽。

「ワシも休んでいいかのう?年寄りには先程のマラソンが答えたわい」
ワザとらしく咳をし、弱々しそうな表情で通風を見る。
「爺さん、こんな時に年寄りである事をアピールせんでも」
内藤が微かに笑い通風の肩を叩き納得させる。

「僕等がしっかりと守るから安心してくだしゃい(`・ω・´)」
両の手で拳を作り力を込める獣様。
赤魔子は少し照れた様に獣様を見るとニッコリと微笑んだ。

20 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:41 [ UJcKvEK2 ]
臼姫に動きがあった。
ゆっくりと立ち上がる。
「私の魔力も、もう殆ど回復したわ。行きましょう皆」
握り拳を作り軽くガッツポーズをする臼姫。

「そうだな、何時までも止まっている訳には行かないからな」
少し心配そうな表情をしたが、立ち上がる内藤。
皆、その言葉に続き立ち上がり気合を入れる。
ただ一人、猫狩を除いて。

「どうした、猫!」
通風が慌てて彼女の元へと駆け寄る。

猫狩は両の手で自分を抱きしめガクガクと震えていた。
その顔は真っ青で何かに脅えているようだ。
「とってもイヤな気配がするのにゃ、すっごくすっごく嫌な感じにゃ…」
遅れて獣様も同じ様に身体を震わせている。
「うう…なんだか、息が苦しいでしゅ((_ _))」
彼の優しい顔が歪み苦しそうな表情を浮かべていた。
赤魔子はそんな獣様を見てオロオロしている。

邪悪な気配が空間一帯を包む。
すでに内藤達もその力に気付き剣に手を添え戦闘姿勢。
壁際に皆集まり意識を集中する。
彼等の顔に冷たい汗が流れ、地面に滴り落ちた。

「なあ、内藤。この気配を出してる奴ってよ――」
通風が意識を集中したまま話しかける。
「ああ、強いな・・・。しかも桁違いに・・・」
内藤の表情が強張り相手の強大さをより一層強めた。
「ゆっくり休めたのも敵さんの余裕だったのかもな」
「おいおい、糞樽。野暮な事は言わないでほしいぜ。
だが、望む所だぜ俺達を舐めた事後悔させてやるよ!」
滲む汗を拭いもせず彼等は言葉を続ける。
「ほんと、洒落にならない場所よね」
片手棍の柄を強く握った。

その時を刻一刻と待ちながら。

だが、そんな中。
赤爺だけは落ち着いた顔で来訪者を待ち構えていた。

「すぐそこまで来てるでしゅ!((( ・ω・;)))」
獣様の言葉が響く、それに続き猫狩も叫ぶ。
「来たにゃ!!」

全員に緊張が走った。

21 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:42 [ UJcKvEK2 ]
切り込み隊突入から三十分程の時間が経過していた。

「あ、赤爺様、大変です!」
肩までかかった白い髪が特徴的なワシの妻が慌てた表情で状況を報告する。
「まずは落ち着くのだ、そして冷静に状況を報告せよ」
ワシの言葉によって冷静さを取り戻した妻がゆっくりと言葉を紡ぐ。
「・・・先程、切り込み隊からLSにて連絡が入りました
我が王立騎士団第二部切り込み隊は壊滅したそうです・・・」
言葉を聞き驚愕する、一個小隊といえ我が軍の中でも最高突破能力を持つ猛者達があっさりと壊滅したのだ。

「・・・どうしますか?援軍が到着するまでまだ時間がかかりますし――」
言いかけて言葉が詰まる。
彼女の視界に仲間の首が転がり込んできたからだ。

強烈な殺意を背後に感じ、視線を其方に移す。
部下達も同じ様に此方を向いたが其処には誰もいない。

鮮血が舞った。
部下の一人の胸から大きな鎌が突き出ている。
その鎌の持ち主が姿を現す。
「聞け、愚かな人間共よ、我が名はデュークハボリュム。
我が主の全軍を束ねし元師なり、貴様等の有り余る無礼な行為に対し我直々に裁きを下しに来た!」

黒い悪魔。
その大きな黒い肌と大鎌を見て誰かがそう呟いた。
相手を仕留めるほんの一時のみ姿を現す。
その所業、正しく死神の如し。
次々と倒れていく仲間達。
圧倒的なその力は見る者の戦意を失わせるものであった。

「その程度の力量で我等が君主に逆らおうとは無礼極まりない
脆弱なる人の子よ、その罪、死を持って償うがよい」
そしてその刃は遂にワシの元にも届けられた。

22 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:44 [ UJcKvEK2 ]
「うぐっ!」
開戦は通風の苦悶の声。
皆の視線が一斉に同じ場所を見つめる。

そして見たのは奇妙な光景、壁から腕が生えていた。
その腕には大きな黒い鎌が握られており、その先端には真新しい血がついている。

その場から離れ、背中を抑える通風。
壁から突き出た腕を睨みつける。
その額に脂汗が滲んでいるが、彼の反射神経の良さが功を成したのであろう。
間一髪、致命傷だけは避けた様だ。

猫狩が通風に駆け寄り泣きそうな顔をする。
通風の横にしゃがみ癒しの術を唱える臼姫と赤魔子。

「姿を見せやがれ、この卑怯者が!!」
糞樽の掌から炎が生まれ壁から生えた腕に向かって迸る。
壁にぶつかった炎が収縮し爆発を起こし、煙が舞う。

「どうだ!?」
今だ集中を切らさず糞樽が言葉を放つ。
彼としてもあの程度の攻撃でやれるとは思っていない様だ。

煙が晴れ、敵の全容が姿を現した。

デーモン。
ただ彼等が此処までくる途中で見た敵よりも二周りほど大きく
右目には大きな傷痕が付いており、放たれる気配は身を震わせる程、邪悪な物であった。
その悠然と此方を見る姿は威厳さえも放っている。

内藤が駆け出す。
狙いは奴の死角となる右腹。
直線的に走り振るわれた鎌をステップで交わし腹を斬り付ける。

だが――。
まるで空を切るような手ごたえ
確かに斬り付けた筈の場所には傷一つ無かった。

「どけ!内藤!!」
糞樽の声が響く。
相手の身体を思いっきり蹴りつけその反動で横に飛ぶ。

敵の身体が光に包まれバチバチと音を立てている。
だがそれだけだった。

「パワーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
雄叫び。
ガル姫が地面を叩き衝撃が迸る
文句の身体から力を持った丸い球体が飛び出す。

爆音。
だが、この攻撃も奴には効いてはいないようだった。

悠然とその場に立っている化け物が口を開く。
「ふむ、中々素晴らしい力を持っている様だな、そこのタルタルの魔力も賞賛に値する」
何が可笑しいのか、愉快そうに笑う。

「だが、相手が悪かったな。我はあの方の配下の中で一番強いのだから」
自分の強さを証明する様に言葉を言い切る。

23 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 17:44 [ UJcKvEK2 ]
「へっ、だからと言って俺等を舐めすぎちゃいねえか。
幾らお前が強くても俺等全員に勝てるとは限らないぜ」
立ち上がり、短剣を相手の方へ突きつけ言葉を放つ。
猫狩は弓を構え、臼姫と赤魔子も立ち上がり武器を構える。

「確かに、貴様等全員を相手にしては流石の我でも敗北は免れんであろう」
あっさりと通風の言葉を肯定。
思いもよらない言葉に内藤達の表情が強張る。

その様子を心地良さそうにして言葉を続けた。
「だが、個人単体であるなら、赤子の手を捻るような物だがな」
手を回すようにして此方を挑発する。
其れは絶対の自信の表れであろう。

姿が消えた。

内藤の目の前にその巨体が姿を現す。
突然の出現に対し、咄嗟に盾を構える。
しかし、敵はお構いなしに鎌をぶつけ内藤を弾き飛ばした。

通風が背後から一撃を加えようと走る。
渾身の力で弓を放つ猫狩。

だが攻撃が相手に命中する事はなく空を斬った。
姿を見失った敵に戸惑う。

「まずは、一人」
言葉の方に皆の視線が集中する。
糞樽の背後に大鎌を構える敵の姿。

振り下ろされる。

血が辺りに舞った。
だがその血の主は糞樽ではなく
「ほう、よくぞ我の動きを見切ったな」
彼の敵の腕から滴り落ちていた。

刃を抜き対峙するは老年のエルヴァーン赤爺。

「随分と久しぶりじゃのう、ハボリュムよ」
再会を懐かしむかの様にゆっくりと話す。
だが糞樽は見た、赤爺の瞳の奥に秘められた強い決意を。

24 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/11(日) 23:38 [ QXg8UcQc ]
リの人来てたのね!wwww
赤爺話の続き、期待してますよー!wwwww

25 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/12(月) 00:14 [ PE.i0sA2 ]
キターーーーーキターーーーーーキテターーーーーーーwwwwwwwww
続きが気になるwwwwwwwどんどん書いてwwwwwwwwwww

26 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/12(月) 22:19 [ E6Qs5qy2 ]
続き着たいアゲ

27 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/12(月) 23:21 [ PbgixctA ]
続きすごく読みたい。
けどサゲ

28 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:29 [ YEHURIKM ]
|w・`;)大幅に書き加えた結果wwwwwwwwww
最初から張る行為をお許し下さいwwwwwwwwww



これは二人の男と一人の女の昔話。

ロンフォールの森林にある大きな泉の辺。
俺は何時もの様に剣の素振りを行っていた。

騎士になりたい
立派な騎士になる為には常日頃の修練が必要不可欠だと自分に言い聞かせていたからだ。

そこに一人のエルヴァーンの男が姿を見せた。
「なんだ、騎首」
慌しく、俺の元へと走り寄ってくる。

騎首。
黒い肩までかかった髪が特徴的な男。
幼い頃から何かとよく遊んだ俺の友。
剣技の腕も良く、知識も上々、顔も良い方でイザという時は必ず頼りになる男
なのだが――

彼は俺の目の前まで来るとヌッと顔を近づける。
「なんだは無いだろう親友、この前新しく入学して来た子が可愛い子かどうかをチェックしようぜって予め言っておいたじゃないか」
言われてみれば確かにその様な話を言われた様な気がした。
だが、その時は他にやらねばならない事があった為軽く返事を返していたのだが・・・。

「すまない、完全に忘れていた」
涙を垂れ流しながら俺に向かい絶叫する友。
肩を掴まれ思いっきり揺すられる。

黙っていれば良い男なのである。
だが、少々エルヴァーンとしては性格が軽くそこら辺が彼自身の欠点であると言えよう。
本人はまったく気に介してはいない様ではあるが。

このまま揺すられ続けては埒があかないので手を前に出して騎首を制す。
「約束を忘れていたのは謝る、だがその様な行為は俺には必要のない事だ。
このサンドリアの大地を、国を愛する国民を守る為、少しでも立派な騎士にならねばならんのだからな」
手を胸に当て敬礼し言葉を放つ。

それは志。
自分が騎士学務に入ってから―
いや、子供の頃からの夢であろう。
夢を叶える為には努力を惜しむ訳にはいかない。
ましてや女に現を抜かす事などもっての他だ。

「まったく、赤騎よ、お前は相変わらず固いんだよ。
まあ、そこがお前らしいって言えばお前らしいから良いんだけどな」
俺の言葉に納得し溜息を吐きながら頷く騎首。

何にせよ、約束を破った事実は変わらないので俺は素直に友に頭を下げた。
だが騎首は俺の行為を、真剣になるなと反対し頭を上げさせる。
くるりと一回転し此方に振り向き指を俺に指す。
「でもな、お前も早いうち誰かに目をつけておいた方がいいぞ
他人の幸せを望む精神は立派なものだが、その為に自分自身を御座なりにしたら勿体無いからな」
この言葉の意味を俺はまだ理解できなかった。

・・・結局、友の強引さに負けて連れ出されてしまったのだが・・・。

29 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:30 [ YEHURIKM ]
噴水のある庭に出ると騎首が柱の影に隠れて此方に手招きをする。
「赤騎、アレが噂の女の子だぜ」
柱からそっと顔を出し、目標の女子を見る。
エルヴァーンにしては身長が低い方だろう。
顔はまだ幼さを残しており銀色の髪の毛が綺麗な女の子がベンチに腰掛けていた。
本を読んでいるらしく此方にはまるで気付いていない。

噴水に小さな虹が出来ていた。
吹く風が少女の髪を揺らしている。
一心に自分の書物に目を通す彼女に少しだけ不思議な感覚を覚えた。

感傷に浸っていた所を騎首の声で現実に戻された。
小声で歓喜の声を上げる騎首。
「噂通り!かなりの美少女だな、ハッキリ言って俺の好みだぜ」
下品な声を上げながら俺を肘で突付く。
「で、どうよ?流石のお前もときめいたりはしないのか?」
騎首の問いを否定する。
すると騎首は背筋をピンと伸ばし敬礼をした。
「赤騎殿!自分は幸せを掴みに行ってくるであります!」
飛び出そうとする騎首。

俺は一先ず親友が罪を犯さない様、持っていた剣の鞘で首を叩いた。
ぐぇ!と間抜けな声を上げて気絶する。

「誰?」
倒れた音に気付いたのだろう、彼女が此方に視線を向ける。
視線が重なり合う。
大きな銀色の瞳に俺の姿が映っていた。
その瞳に吸い込まれる様な感覚に陥り、思わず声を失ってしまう。

だが、そんな不可思議な感覚も彼女の言葉で直に現実へと戻された。
「あの、そこの人倒れていますけど大丈夫ですか?」
「コイツの事なら気にするな。何処でも眠れる奴だからな、君が心配する事は何もないぞ」
我ながらヘタな嘘ではあるが、彼女の問いにマジメに答える訳にも行かなかったので仕方がない。
当の彼女は大変だとベンチに騎首を寝かせる為に席を空けてくれた。


騎首が目を覚ます間俺はこの少女『赤女』と話をしていた。
折角の好意を無駄にする訳にもいかなく、ただ黙って友の目覚めを待つには余りにも退屈だったからである。
「赤騎さんは立派な騎士になりたいのですね。立派な夢があって羨ましいです」
手を合わせ賞賛の声を上げる。
話してみてわかったが見た目通り性格は大人しいのだが不思議な空気などは自分の杞憂だったようで。年相応の元気な少女である事に変わりはなかった。

「赤女も騎士団に入る為にこの学務に入学したのであろう?ならばお前も十分に立派だ、謙遜する事はない」
自分の思った事を素直に話す。
「私はそこまでハッキリとした志を持っていたわけではありませんでした
ただ、自分の力が少しでも他の人のお役に立てればと思いまして」
相変わらず謙遜的に話す。

よく考えてみれば女人と話した事など今まで殆どなく、こうした意見の譲り合いも男女間では基本的な事なのかもしれない。
だから俺は話をそのまま続ける事にした

「――だから俺は立ち止まらずひたすらに真直ぐその道を進まねばならないのだ」
熱く語る俺に赤女が頷く。
そして俺の話を聞き終えると彼女が口を開いた。
「赤騎さんの真直ぐな生き方はとても立派だと思います。
でも、たまには寄り道するのも良い事だと私は思うのですよ」
思ってもいない答えに興味を持ち彼女の言葉の続きを待つ。
「例えば、寄り道をした時にしか見えない事や体験できない事というのが私はあると思います。
ですから時には前へ進む事を休めて周りを見る事が、後々自分にプラスになりうるかもしれないと思うのですよ」
遠くを見る様に語る彼女を横目に、この様な考え方をする彼女に自分は少し興味が沸いていた。
俺は興味深く頷くと赤女の方を見て微笑んだ。
彼女もそんな俺をみてニッコリと微笑んでくれていた。

ベンチに寝かせている友人の事をすっかり忘れて――。

30 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:31 [ YEHURIKM ]
ズヴァール城内郭
ワシ等はその一角で休息をとっておった。
内藤達に言葉は無く今は少しでも多くの力を蓄えようとその身を休めている。
敵に発見されぬ様に見張りをしている孫の姿。
ワシは休みながらも先程までの光景を思い出していた。


「臼姫待て、何処へ行くつもりだ!」
道を引き返そうとする臼姫の肩を掴み内藤が叫ぶ。
「何処って・・・何を言っているの内藤
樽ナ達を助けに行くに決まっているじゃない、見殺しにする気!?」
その言葉に猫狩、獣様、赤魔子も同意を示す。
ガル姫と文句が雄叫びの様な声を上げ気合をあらわにする。

「だけどな、今更戻った所でどうにかなるものじゃないぞ・・・」
外郭の方を向き、通風が言葉を漏らす。

「・・・通風ちん、そんな言い方酷いにゃ・・・」
耳が垂れ下がり彼の意見に失望の意を示す。
信じられないといった表情で通風を見る臼姫。
「通風見損なったわ、内藤こんな奴ほって置いて私達だけでも助けに行きましょう」
だが内藤は答えない。
跋の悪そうに欝向きを見て黙ったままだ。

「内藤まさかあなたまで・・・」
口に手を当て絶句する臼姫。
「ワシも通風の意見に反論はないがのう」
髭を弄りながら答える。

獣様が非難の声を上げた。
赤爺を軽蔑の眼差しで見る赤魔子。

「あなた達見損なったわ!猫狩行きましょう」
内藤の手を跳ね除け睨みつける。

道を戻ろうと門の方へと走る臼姫達。

糞樽の声が響いた。
「たくっ、これだからバカはタチが悪いぜ」
手を上げてヤレヤレといった表情を浮かべる。
「あの驕慢な死人が何も言わずに残ったんだ
樽ナもそれが如何言う事か理解してない訳ないだろ」
臼姫の足が止まる。
背を向けながらも糞樽の声に耳傾けた。

声の音量が上がる。
「これから先の道を進むのに今の疲労した状態で何ができるんだ!
それにそんな事してみな、それこそあいつらの覚悟が無駄になるってもんだぜ!」
無言で糞樽の方を向く臼姫達。
彼は拳を痛いほど握っていた。
「糞樽しゃん・・・(´・ω・`)」
赤魔子が獣様に頷く。

声の音量は下がり優しい口調へと変わる。
「あいつらの事を本当に思うなら、何をするべきかわかるよな・・・」
最後に独り言だから気にするなよと付け加えて。

「糞樽の言う通りだ、ここに来る時もう覚悟は済ませただろ。
臼姫、俺達は俺達のできるべき事やらなくちゃいけないんだ
それが死人と樽ナの答えへの精一杯の返答になるから」
優しくも、だがハッキリとした口調で言葉を紡ぐ。

「そうだぜ、振り返る訳には行かねえんだよ俺達は
この先、同じ状況になろうとも俺等は進まなきゃならねえだ
例え別れが起ころうとも立ち止まるわけには行かねえんだよ」

言葉を聞き終え此方へと歩を戻す臼姫。
「そうね・・・私達は私達のできる最善の事をやりましょう」
唇を噛む様にして掠れる声。
内藤は臼姫を見つめ一言『すまない』とだけ言葉を紡ぐ。

「内藤あなたが謝る事なんてないわ・・・」
張り詰めた糸が解けた様、疲れた表情であるが彼女は答えた。
そして壁に凭れ、その身を休める。

「とりあえず女性陣が休息する間は俺等で見張りでもしておくか」
通風が糞樽に話しかける。
しょうがないなと同意する糞樽。

「ワシも休んでいいかのう?年寄りには先程のマラソンが答えたわい」
ワザとらしく咳をし、弱々しそうな目で通風を見る。
「爺さん、こんな時に年寄りである事をアピールせんでも」
呆れる通風の肩を内藤が叩き納得させる。
その表情は柔らかく密かに笑みを浮かべていた。

「僕等がしっかりと守るから安心してくだしゃい(`・ω・´)」
握り拳を作り、力を込めている様子を表す獣様。
赤魔子は少し照れた様に獣様を見るとニッコリと微笑んだ。

31 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:31 [ YEHURIKM ]
あれ以来、俺は騎首と赤女と三人で行動する事が多くなっていった。

騎首は彼女に対しとても好感的で話のネタの大半は彼が持って来る話題だった。
俺自身彼女と出会ってから色々と変わっているらしい。
視野が広がったとでも言うのだろうか、それまで生きてきた中で興味をまったく持っていなかったものにも目をやるようになっていると騎首が言っていた。

三人は無事学務を卒業し、騎士団の見習いへと入団する事に成功する。

俺達は三人一緒に揃う時間が少なくなっていった。
それ故か自分の気持ちを再認識する事ができたのであろう。
だから俺は行動を起こす事にした。
後悔はしたくないから、ケジメはつけなくてはならないのだから。

月日は流れ、サンドリアの港にて泉を背に立つ男二人。

ゴツゥ!!
鈍い音が鳴り響き頬に衝撃が走った。
地面に倒れ込み冷たい石の床が背中に当たる。
口の中に鉄の味が広がった。

「お前の気持ちは知っていた、だけど俺自身も自分に嘘はつけない・・・」
口から出た血を拭い立ち上がる。
騎首はそんな俺を見て背を向けた。
「フン…そんなこったろうと思ってたぜ。赤女ちゃんと出会ってからお前、ずっと様子が変だったから」
空を眺めながら言葉を紡ぐ。
果たして今友が考えている事はなんであろうか、俺に裏切られた怒りかそれとも哀しみか。
どちらにせよ、こういう事態になる事は分かっていた。
一人の女に二人の男が同じ想いを抱えていたのだから、言わなければ保てていたであろう均衡。無理に壊す必要性などなかったのかもしれない。

だが俺は、自身の気持ちを、親友を騙し続ける事など出来なかった。
だからこそ自分の想いを伝えてケジメを付ける事にしたのだ。
隠し続ける安所よりも騙し続ける罪悪感が俺には我慢できなかったから。

騎首が此方を向く。
ゆっくりとした足取りで此方に歩み寄ってくる。

絶好を言い渡されるであろう、まだ殴られるかもしれない。
だがその覚悟は当に済ませていた。
今、俺の胸にあるのは昨日までの友との思い出。
やはり悲しかった。

騎首が俺の目の前に立つ。
俺は目を瞑り、好きにしろと手を後ろにやった。

だが、俺の予想は見事に裏切られた。

肩に質量を感じた。
目を開けると、そこには何時もの顔で笑みを浮かべる騎首の姿。
「赤騎、お前の気持ちはよくわかったぜ、普通の奴ならここで絶好を下すだろう」
その通り、そして俺はそうなると思っていた。
「だけどな俺は友情と恋愛、どっちをとるかと言われれば俺は友情をとるぜ」
ニヤリと笑い親指を立てる騎首。
「正直、俺はホッとしてるぜ。何せお前と来たら女なんて必要ない、自分は剣一本に生きるみたいな感じだったからよお。
だから俺は嬉しいんだ、親友がちゃんと自分自身の幸せを見つけた事がな」
嬉しかった、俺は自分の知らない騎首の心の強さを知った。
それと共に猛烈な罪悪感と謝罪の念が浮かび上がる。
「済まない・・・」
一言。
どうしてもそれだけは言いたかった。

騎首は気にするなと笑顔で笑う。
それが、強がりである事は容易に感じ取れたが。

何かを思い出したように手をポンと叩く。
そして真顔に戻り真剣な目を俺に向ける。
「・・・ただな、彼女を泣かせる様な事をしたら・・・・・・わかってるよな?絶対に幸せにしてやるんだぞ」
その言葉だけを呟き、彼は元の笑顔に戻った。
首に腕を回され軽く絞められる。
「とにかく、頑張れや!お前には暗い顔は似合わん、似合わん」
「いや、少し力を入れすぎだぞ騎首。く、首が伸びる!」

彼が親友で本当に良かった。
一生親友でいてくれと俺は心の底から思ったのだった。

サンドリアの港にて泉を背に立つ男二人
二人の顔は笑顔だった。

32 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:32 [ YEHURIKM ]
臼姫に動きがあった。
ゆっくりと立ち上がる。
「私の魔力も、もう殆ど回復したわ。行きましょう皆」
握り拳を作り軽く胸に置く。

内藤は少し心配そうな表情をしたが、臼姫がウインクを送ると息を一つ吐き立ち上がった。
「そうだな、何時までも止まっている訳には行かないからな」
皆、その言葉に続いて立ち上がり軽く屈伸などを行っている。
決意を胸に表情を固めていた。
ただ一人、猫狩を除いて。

「どうした、猫!」
慌てて彼女の元へと駆け寄る通風。

猫狩は両の手で自分を抱きしめガクガクと震えていた。
その顔は真っ青で何かに脅えているようだ。
「とってもイヤな気配がするのにゃ、すっごくすっごく嫌な感じにゃ…」
遅れて獣様も同じ様に身体を震わせている。
「うう…なんだか、息が苦しいでしゅ((_ _))」
彼の優しい顔が歪み、苦しみの表情を浮かべている。
そんな獣様を見てオロオロしている赤魔子。

邪悪な気配が空間一帯を包む。
溢れる邪気に備え得物に手を添え戦闘姿勢の内藤達。
壁際に皆集まり敵の姿を探す。
彼等の顔に冷たい汗が流れ、地面に滴り落ちた。

「なあ、内藤。この気配を出してる奴ってよ――」
通風が意識を集中したまま話しかける。
「ああ、強いな・・・。しかも桁違いに・・・」
内藤の表情が強張り相手の強大さをより一層強めた。
「ゆっくり休めたのも敵さんの余裕だったのかもな」
「おいおい、糞樽。野暮な事は言わないでほしいぜ」
「望む所だろ?俺達を舐めた事後悔させてやるよ」
滲む汗を拭いもせず彼等は言葉を続ける。
「ほんと、洒落にならない場所よね」
片手棍の柄を強く握った。

その時を刻一刻と待ちながら。

だが、そんな中。
赤爺だけは落ち着いた顔で来訪者を待ち構えていた。

「すぐそこまで来てるでしゅ!((( ・ω・;)))」
獣様の言葉が響く、それに続き猫狩も叫ぶ。
「来たにゃ!!」

全員に緊張が走った。

33 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:33 [ YEHURIKM ]
友に自分の赤女に対する想いを伝えて一週間が過ぎていた。
彼とは演習などのすれ違いにより一週間一度もあってはいない。
今日はサンドリアの祭り毎の一環行事が行われており俺達下級の騎士には各々休みが与えられていた。
そして、今日俺は赤女に自分の想いを伝える事を決心し、ロンフォールの泉へと彼女を誘ったのだ。

「赤騎様、私と一緒に祭りを見て回りませぬか?」
街を出ようとした所を見知らぬ女性達に話しかけられ呼び止められる。
どうやら自分の後輩らしく、彼女達には俺が憧れの存在らしい。
だが、俺は約束事もある為丁重に彼女達の誘いをお断りしその場を後にした。
一つ、彼女達が去り際にやっぱりもうダメだと軽く言葉を漏らしていた事が気になったのだが。

木々が生い茂るロンフォールを歩く。
流石に本国が祭毎を行っているので人気は殆どない。
彼女との待ち合わせ場所へと近づく毎に色々な思い出が去来していった。

目的地の直傍まで到達し、俺は思わず自分の足を止める。
自分でも緊張しているのが手に取るように分かる。
果たして今この心境のまま彼女と会いまともに会話が出来るのか不安であった。
そんな俺に一陣の光が差し込めた。

「よっ、一週間ぶりだな赤騎」
大木に凭れかかり此方に軽く手を振るう。
「騎首、どうして此処に?」
言葉の通り何故彼が此処にいるのか分からなかった。
その疑問を察したかの様に彼は答える。
「まあ、お堅いお前の事だからな。こういう事は本番ギリギリになってびびっちまうんじゃないかと思ってよ」
正にその通りだった。
「だからな、いっちょ景気付けに来てやったんだよ」
此方に歩み寄り軽く肩を叩きそのまま通り過ぎる。
そして一言
『がんばれ』
親指を立ててそれを空に高く突き上げる。

ただ、それだけの事ではあったが俺には十分過ぎる程の励ましだった。
泉の方へ向き直り同じ動作を返したのだった。

34 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:33 [ YEHURIKM ]
草木を掻き分け大きな泉に出た。
その畔の一角に赤女の姿を見つけ、歩み寄る。
彼女が俺に気付き此方を振り向く。
銀色の長い髪が揺れ、その瞳が俺を映すと優しく微笑む。

「済まない、待たせたな」
「いいえ、私はこういう風景を眺めるのが大好きですから」
それから暫くの間、軽い雑談を繰り返す。
最近の出来事や訓練の厳しさ、楽しかった事や辛かった事等。

何時話を切り出そうか、何時この溢れんばかりの想いを伝えようかと
その気持ちが膨れ上がり会話の半分も頭に入ってはいなかった。

一通り話しを終え、一息吐いた後に赤女が言葉を漏らす。
「そう言えば赤騎さん、あの娘達の誘い断っちゃったのですね」
「ああ、あの時か。なんだ、近くにいたのなら声を掛けてくれればよかったものを」
俺の言葉に軽く頷き彼女は視線をそらす。
「あの娘達、赤騎さんのファンらしいですよ。
ですから邪魔しちゃ悪いと思いまして。
唯でさえ変な噂が立っていますのに」
「噂?」
言ってしまって慌てる彼女。

俺の答えに困ったような顔をすると苦笑いをしながら言葉を続ける。
「本当に根も葉もない噂なのですよ、
皆さん、私と赤騎さんが付き合っているとお思いらしいのです。
そんな筈ないですのにね・・・・・・」
遠くを見つめる様な彼女の瞳。
まるで出会ったときの様なその光景が俺の想いを強く押し上げる。

風が吹いた、彼女の銀色の髪がサラサラと靡く。
その彼女の横顔は何時もの幼さを消し去った様に美しかった。
「あの…私に話しってなんですか?」
彼女がこちらを向き視線が合う。

顔が自分でも赤くなるのがわかった。
目を反らし気持ちを落ち着かせる。
「自分は、幼少の頃より騎士になる事を夢見て生きてきた」
心臓の鼓動が痛い程脈打つ。
「自分の命はサンドリアの人々を守る為に与えられたのだと信じてやまなかった」
喉は渇き掌に汗が滲んだ
「その気持ちは今も変わらない、たが、いつかお前が言っていたな寄り道をする事も良い事だと、その時にしか得られない物もあるのだと――」
いつしか彼女の頷く声も聞こえなくなり俺の話しを真剣に聞いている。
「俺はその寄り道先で一輪の花に心を奪われたのだよ、他者の為だけにあると思われた我が人生において、初めて自分からその花を欲しいと思った」
振り向き見つめ合う。
浮かび上がる思い出は彼女との出会いから現在に至るまで。
「赤首、私と一緒に時を歩んでは来れないか?」
告白。
精一杯の言葉。
心臓の鼓動が更に激しさを増す。
掌は既に汗に塗れている。

答えを待った。
一秒一秒が永遠とも取れる程長く感じる。
いっその事、これは全て冗談なのだと言い逃げたくもあった、だが私は返答を待つ姿勢をやめなかった。

「――しい」
動きがあった。
「嬉しい・・・です・・・」
俯きながら目には涙が滲んでいる。
「私、そんな風に思われているなんて思いませんでした。
だから、私の想いは永遠に叶わないのだと、そう思っていました。
だから、私は今、とても幸せです」
愛しい彼女を抱き締めた。
もう二度と離すまいという意識の現れの様に
彼女も同じ気持ちなのか優しく抱擁を反す。

泉に静かな時間が流れる。

彼等は抱擁を緩めると距離を少しとり見つめ合う、口付けを交わした。
静かな森林の辺にて
彼、彼女はお互いの愛を確かめ合った。
いつしか二人は交じりあい、心と体を一つに重ね合わせる。
二人はこの日初めて結ばれた。


太陽が赤く染まり泉が昼とは違う姿を見せている。
まどろみと気だるさが身体に残っているが、今は逆にそれが嬉しかった。
彼女と一つになった事を強く感じられるから。

俺の胸に身体を預けていた赤女がゆっくりと起き上がり此方に顔を向けた。
そして、気恥ずかしそうな表情を浮かべる。
「あの、今更言うのも変なのかもしれませんが、これからも幸せにして下さいね」
「ああ、勿論だ」

二人見つめあい微笑み合うと再び彼等は口付けを交わした。

35 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:34 [ YEHURIKM ]
「うぐっ!」
開戦は通風の苦悶の声。
皆の視線が一斉に同じ場所を見つめる。

そして見たのは奇妙な光景、壁から腕が生えていた。
その腕には大きな黒い鎌が握られており、その先端には真新しい血がついている。

地面を転がり距離をとる通風。
壁から突き出た腕を睨みつけ、激痛の走る背中に手をやる。

その額に脂汗が滲んでいるが、彼の反射神経の良さが功を成したのであろう。
間一髪、致命傷だけは避けた様だ。

猫狩が通風に駆け寄り泣きそうな顔をする。
通風の横にしゃがみ癒しの術を唱える臼姫と赤魔子。

「姿を見せやがれ、この卑怯者が!!」
糞樽の掌から炎が生まれ壁から生えた腕に向かって迸る。
衝突した炎が収縮し爆発を起こして煙を舞う。

「どうだ!?」
集中を切らさず糞樽が言葉を放つ。
彼としてもあの程度の攻撃でやれるとは思っていない様だ。

煙が晴れ、敵の全容が姿を現した。

デーモン。
ただ彼等が此処までくる途中で見た敵よりも二周りほど大きく
右目には大きな傷痕が付いており、放たれる気配は身を震わせる程邪悪な物であった。
その悠然と此方を見る姿は威厳さえも放っている。

内藤が駆け出す。
狙いは敵の死角となる右腹。
直線的に走り振るわれた鎌をステップで交わし腹を斬り付ける。

だが――。
まるで空を切るような手ごたえ
確かに斬り付けた筈の場所には傷一つ無かった。

「どけ!内藤!!」
糞樽の声が響く。
相手の身体を思いっきり蹴りつけその反動で横に飛ぶ。

敵の身体が光に包まれバチバチと音を立てている。
だがそれだけだった。

「パワーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
雄叫び。
ガル姫が地面を叩き衝撃が迸る
文句の身体から力を持った丸い球体が飛び出す。

爆発が起こり、轟音が鳴り響く。
しかし、この攻撃さえも敵に効いてはいない様だった。

悠然とその場に立っている化け物が口を開く。
「ふむ、中々素晴らしい力を持っている様だな、そこのタルタルの魔力も賞賛に値する」
何が可笑しいのか、愉快そうに笑う。

「だが、相手が悪かったな。我はあの方の配下の中で一番強いのだから」
自分の強さを証明する様に言葉を言い切る。

「へっ、だからと言って俺等を舐めすぎちゃいねえか。
幾らお前が強くても俺等全員に勝てるとは限らないぜ」
傷が癒えた早々立ち上がり、短剣を相手の方へ突きつけ言葉を放つ。
猫狩は弓を構え、臼姫と赤魔子も立ち上がり武器を構える。

「確かに、貴様等全員を相手にしては流石の我でも敗北は免れんであろう」
あっさりと通風の言葉を肯定。
思いもよらない言葉に内藤達の表情が強張る。

その様子を心地良さそうにして言葉を続けた。
「だが、個人単体であるなら、赤子の手を捻るような物だがな」
手を回すようにして此方を挑発する。
其れは絶対の自信の表れであろう。

姿が消えた。

刹那、内藤の眼前にその巨体が姿を現す。
突然の出現に対し、反射的に盾を構えた。
しかし、敵はお構いなしに鎌をぶつけ内藤を弾き飛ばす。

通風が背後から一撃を加えようと走る。
渾身の力で弓を放つ猫狩。

だが互いの攻撃が相手に命中する事はなく、空しく虚空を斬るのみ。
姿を見失った敵に戸惑う内藤達。

「まずは、一人」
言葉の方に皆の視線が集中する。
糞樽の背後に大鎌を構える敵の姿。

振り下ろされる。

皆が各々の行動で助けようと走る。

だがしかし、鮮血が辺りに舞った。

絶句。
何故なら、その血の主は糞樽ではなく
「ほう、よくぞ我の動きを見切ったな」
彼の敵の腕から滴り落ちていた。

貫いた刃を抜き対峙するは、老年のエルヴァーン赤爺。

「随分と久しぶりじゃのう、ハボリュムよ」
旧友との再会を懐かしむかの様にゆっくりと話す。
だが糞樽は見た、赤爺の瞳の奥に秘められた強い決意を。

36 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:35 [ YEHURIKM ]
あれからどれだけの年月がたったのであろう。

俺達は無事立派な騎士となり夢を叶える事が出来た。

騎首とはその後も一番の親友であり互いを競い合うライバルとなり
赤女との交際は続き、結婚の約束も誓った。

幸福の時間が過ぎていた。

だが、そんな俺等の幸せを運命は非常にも打ち砕く。

闇の王と名乗る者の出現。
それに伴う世界を巻き込む戦争への発展。

だが、その戦いも遂には終わりを見せる。
大戦が終結を見せる頃。

ザルカバードへの進行。
その最前線ズヴァール城への侵入。

俺達はその荒れ狂う戦乱の真っ只中にいた。

ラングモント岬を抜け、吹雪の舞うボスディン氷河を越え
そして辿り着いた戦局の最終地ザルカバード。

戦いは辛いものであった。
傷付き倒れていく戦友、心半ば散っていく部下。

しかし、多くの犠牲と屍の山を越えながらも私達三人は生き残り徐々に敵の喉下へと詰めていった。

敵と仲間の阿鼻叫喚の声が木霊する。
そんな中、遂にズヴァールの硬き城門を破り外郭へと侵入を果す。

「皆の者、我等が悲願達成まであと少しだ!
母国サンドリアの土を踏む為にも必ず勝利をこの手に!」
握った剣を高らかに天へと突き上げ上がる雄叫。
続く様にして皆も同じ動作を行い自分の身体に鞭を入れる。
指揮は高まった。

「切り込み隊は先行し、後から来る援軍の為に少しでも敵戦力の減少に務めよ
我等、王立騎士団第二小隊はこのまま外郭門前にて待機、敵の進軍を防ぎ援軍を誘導する」
命令を告げ、夫々の役目と行動を起こす。

「それじゃあ、行って来るぜ赤騎。お前の手柄がなくなる位の働きをしてやるよ」
親友が俺に手首を翳す。
そこに巻かれているのは祈りを込めた赤い布。
この戦いに勝てる様、三人が無事生き残れる様祈りを込めた赤い布。

「期待している、お前の強さは俺が一番知っているからな。だから心配なぞ少しもしない」
「言ってくれるね、じゃあな赤騎また後で――」
その顔はとても晴れやかで
力強く
この後の悲劇など微塵も感じさせる事がなかった。

順調に事が運んでいる。
この時は、そう思ってやまなかったのだから――

37 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:35 [ YEHURIKM ]
切り込み隊突入から三十分程の時間が経過していた。

作戦通りならそろそろ状況報告が来る時間。
俺の心に小さな不安が生まれ出ていた。

「赤騎さん、大変です!」
赤女が慌てた表情で此方に走り寄ってくる。
その表情は涙さえ浮かべそうでとても儚く見えた。
「まずは落ち着くのだ赤女、そして冷静に状況を報告するんだ」
俺は取り乱す彼女を冷静に落ち着かせ、ゆっくりと言葉を紡ぐ様促した。
「・・・先程、切り込み隊からのLSにて連絡が入りました
我が王立騎士団第二部切り込み隊は・・・」
小さな不安が大きくなるのを実感する。
そして言葉は紡がれた
「・・・壊滅したそうです・・・」
言い切り手で顔を隠す赤女。
「どうしよう・・・騎首さんが・・・騎首さんが・・・」

彼女の震える声が何度も頭の中を木霊する。
信じられない、信じたくなかった。
つい先程までの騎首の姿が脳裏に浮かび上がる。
頼もしい表情を向け力強く進んで行った親友の姿。

俺の軍の中でも一対一なら最高の能力を持った騎首が・・・・・・

そして俺は自分の手に巻かれた布を見やる。
思いのこもったそれを見て少しだけ心を落ち着かせた。

そうだ。
まだ、自分はこの目で友の死を確認してはいない。
あの男が、殺しても死なない様なあの騎首がそう易々とやられる筈はないと心に強く思う。
「・・・どうしますか?援軍が到着するまでまだ時間がかかりますし――」
言いかけて彼女の言葉が詰まる。
視界に仲間の首が転がり込んできたからだ。

強烈な殺意を背後に感じ、視線を其方に移す。
部下達も同じ様に此方を向いたが其処には誰もいない。

鮮血が舞った。
部下の一人の胸から大きな鎌が突き出ている。
その鎌の持ち主が姿を現す。
「聞け、愚かな人間共よ、我が名はデュークハボリュム。
我が主の全軍を束ねし元師なり、貴様等の有り余る無礼な行為に対し我直々に裁きを下しに来た!」

黒い悪魔。
その大きな黒い肌と大鎌を見て誰かがそう呟いた。
相手を仕留めるほんの一時のみ姿を現す。
その所業、正しく死神の如し。
次々と倒れていく仲間達。
圧倒的なその力は見る者の戦意を失わせるものであった。

「その程度の力量で我等が君主に逆らおうとは無礼極まりない
脆弱なる人の子よ、その罪、死を持って償うがよい」
そしてその刃は遂に俺の元にも届けられた。

火花が散った。
俺に襲い掛かった筈の刃はその身に届かず空を斬る。
「ほお、我の動きを読んだのか女よ・・・」
目の前には剣を構えハボリュムと対峙する赤女の姿。
額に沢山の汗を掻き、鎌の軌道をずらした所為であろうか肩が軽く切れていて出血していた。

「あなたの動きのカラクリは分かりました。空間転移魔法の応用だと思われます。
ですから私は魔力を自身の周りに張って出現を感知した、ただそれだけです」
赤女の言葉を聞きハボリュムが大きな声で笑う。
「まさか、こんな小娘如きに我の動きを悟られるとはな。いや、その才能は賞賛すべき物であろう。
先程戦った相手の中にも一人だけマシな男がいたがその者でさえ我が動きの前に呆気なく散ったものなのだが。敬意を示そうぞ」
その言葉に俺の心臓が大きく跳ねるのを感じた。
飛び出そうとする俺を赤女の声が留める。
「騎首さんを・・・先程其方に向かって行った私達の仲間を倒したのはアナタですか?」
笑いが止まる。
それと共に空気が張り詰める。
顔を挙げうっすらと笑い一言。
「その通りだ」

駆け抜けた。
俺と赤女の二人は左右に展開し攻撃を繰り出す。
奴は笑いながら此方の攻撃を受け流していく。

俺は合図を送り赤女に魔法を使用させる。
二人の息の合った攻撃でなんとか戦う事が出来ていた。

しかし、勢いは長くは続かない。
敵の底なしのスタミナが徐々に此方を押していく。
そして――

無常にも奴の鎌が俺の身体を捕らえ
熱くなる背中と共に力が抜け地面に平伏す事となった。

自分の命が終わる瞬間を俺は感じ取る。
だが、その鎌は俺の命を狩り取る事はなかった。

38 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:36 [ YEHURIKM ]
時が立ち今ワシはあの時と同じ舞台に立っている。
対峙するのは、皮肉にも我が友の命を奪いし悪魔。
ワシは運命と言うものに余程縁があるのだと思わずにはいられなかった。

「下等な人間が我が名を知っているとは、貴様何者だ?」
「随分な言い草じゃのう、お主に忘れられない夜と傷痕をつけた者を忘れてもらっては困るぞい」
奴の姿が視界から消える。
ワシは目を閉じ魔力を蜘蛛の糸の様に自分の周りに張り巡らせる。

奴が魔力の糸に触れる。

あとはその箇所を目掛けて剣を振るうのみ。

手ごたえはあった。
だが、浅い。

ハボリュムが姿を現す。
「ふむ、如何やら貴様にはこの攻撃は通用しない様だな
ただの老いぼれかと思っていたがこれは意外であったぞ」
手を顎に当て見直した様な声で話す。

「赤爺、アイツの動きがわかるのかよ」
孫が驚きの声を上げる。
「移動魔法の応用じゃ、カラクリを知っておるワシには通用せんよ」
ワシは微笑しながら自慢げに語った。
手首を回し剣先に付いた血を振るい払う。

「そうか、貴様あの時の騎士か、これはすまない
人と言う種が短命である事をすっかりと忘れていたよ」
賞賛の声を上げ、愉快そうに笑う。
その仕草一つ一つがワシに過去の思い出を鮮明なものへと昇華させる。

「なんだ、あの物騒な奴と知り合いなのか赤爺」
思った疑問を投げかける通風。
「昔の因縁と言うやつかのう、あ奴には借りがあるんじゃよ」
髭を弄りながら答えを返す。
「まさか、こんなに早くお主に再会出来るとは思ってもいなかったぞい。
先の大戦で地位を降格でもさせられたのかのう」
ワシは嫌味を込め、相手を品定めする様な目で見た。

「これは我が御心のままに動いたまでの事、我が主の命ならず」
「ほほう、火の出を手早く潰すという事か」
相も変わらず抜け目がない。

「さて、内藤。ここは、ワシに任せてもらえんかのう」
ワシの言葉に驚愕の声を上げる仲間達。
だが、その声に耳を貸さずワシは呪文を詠唱する。

ハボリュムが面白いといった顔でワシを見る。
どうやら本人ワシの誘いに乗り気の様だ。
「何のつもりなの、赤爺!」
臼姫が大声で叫ぶ。
だが、もう遅い。
魔力の光がワシ等を包む。

最後にワシは内藤の方を向き言葉を紡ぐ。
「若者の未来は若者の築くもの、老いたるものはただ去るのみじゃ
糞樽、・・・孫よ頑張って幸せを掴むのじゃぞ、けしてワシの様にはなるな」
「赤爺、待て――!」
「おじいちゃん――!」
最後の言葉は上手く聞こえなかった。
だが、ワシにはその言葉は不要なのであろう。

もう、彼等に会う事は二度とないのであろうから――

39 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:37 [ YEHURIKM ]
誰かの声が聞こえた。
だが、意識が朦朧とする俺にはその声は聞こえない。

鎌が振り下ろされた。
だが思った様な痛みはなく、恐る恐る目を開ける。
「・・・赤騎さん・・・」
最初に視界に映ったのは愛しい赤女の顔。

震える手を動かし彼女に触れる。

ヌルリとした感触。

温かみを持ったそれが血だと彼は直に気が付いた。
それが何を意味しているかという事も当然の如く。
血とは違う温かみを持った雫が俺の頬に当たる。
「・・・ごめんなさい・・・私・・・失敗しちゃいました・・・本当にごめんなさい・・・」
よくわからない、頭が真っ白になっていく。
現実味がなかった。
「私・・・もうダメです・・・でも・・・赤騎さんは生きて・・・これが私の精一杯・・・」
背中に温かい光が当たった。
だが其れも直に消える。

俺は思う。

何故謝るのだと?

何故泣くのだと?

――何故そんな辛そうな顔をする?――


彼女の目が閉じ身体に掛かる重みが増した。

彼女の銀色の瞳が目の前にあった。
だが、彼女の目は二度と開く事はない。
彼女の小さな唇が見えた。
だが、そこからはなんの吐息も発してはいない。

意識が朦朧としている。
何故、彼女は眠っているのだろう。
何故、親友の姿が見えないのであろう。

視線をずらす、其処には黒い悪魔が佇んでいる。

その時、俺の中で何かが音を立てて切れるのを感じた――

――お前の所為か――

一本の線がハボリュムの視界に入った。
次の瞬間、彼の視界の半分は閉ざされ熱を持つ。
残った視界に先程まで瀕死だった男が立ち上がり此方に殺意を向けている。

大きく口を開き、笑い声を上げた。
「面白い、面白いぞ、人の子よ。我にこれ程の傷を負わせる事ができるとはな」
傷を負った目を撫でるようにして、実に愉快そうに笑う。
瞬間、何本もの線がハボリュムに襲い掛かった。
それは、神速の剣の軌道。
予想もしなかった、人の子の実力に歓喜の声を上げる。
「フ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
怒れ、悲しめ。そしてその憎悪を我にぶつけよ。
それこそが我等、闇に生きる者には最高の糧となる」
その声に反応して雄叫びを上げる赤騎。

手首に巻かれた布は血を吸い込み黒く変色している。

怒り、悲しみ、後悔、無力感。
その全てが圧し掛かるも赤騎の体を動かしていった。


目の前の黒い悪魔へ矛先を向けて――

40 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 17:37 [ YEHURIKM ]
雪が降る。

多くの時を得て。

今もワシは此処にいる。

ここはズヴァール外郭の一室。

目の前にはあの時と同じ黒い悪魔。
「粋な真似をしてくれるな、あの時つかなかった決着をつけようという事か」
ワシの外見を見て失笑する。

「知れたことを、貴様を倒すのに余計な損害を被る訳にはいかんでの
内藤達の手を煩わせんでも、ワシだけで十分じゃ」
剣を構え言い放つ。
「この地が貴様の墓標となるのだ、我の手で貴様の仲間の所へ送ってやろうぞ」
あの時のドス黒い感情が自分を支配する。
「滅ぶのは貴様の方だ!沢山の部下の、親友の、愛すべき妻の敵を今ここで!」
空気が張り詰める。

「さて、それでは見せてもらおうか、その枯れ木の様になってしまった身体で我が力に何処まで対抗し得うるのかを――」

「見せてやるわい、人の力と言うものを――」

古き日の思いを胸に彼は駆け出した。

41 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 18:58 [ YX2QhysQ ]
きたーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
お疲れ様ですwwwwwwwwww続き期待して待ってますwwwwwww
あ、wwwwwww一箇所ミスを見つけたのでご報告をばwwwwwwww

>>34
>振り向き見つめ合う。
>浮かび上がる思い出は彼女との出会いから現在に至るまで。
>「赤首、私と一緒に時を歩んでは来れないか?」
赤女の名前が赤首になってますwwwwwwwwwwwwwwww
でしゃばってゴメソwwwwwwwwwwwwwww

42 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 18:59 [ f6iUxNIs ]
赤爺きたーーーwwwwwww
感動・・・やはりそういう過去の持ち主だったのね・゚・(ノД`)・゚・ 
続き期待、超期待wwwwwwwwwwwwww

43 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 19:13 [ CMYkdKks ]
でしゃばってすみません、ぜっこうは絶交と書きます。

リメ神の作品はとても好きなのでこれからも頑張ってください。

44 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/13(火) 19:13 [ EtwsYutE ]
おぉwwリメイク専用スレ本当に作ったんだwwwwww
とりあえず赤爺の話GJ!wwwwwwwwwww
続き期待AGE!!wwwwww

45 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/15(木) 17:11 [ N1AkAAZw ]
>>41さん
>>43さん
|w・`)<指摘、有難う御座いますwwwwwwwwwwwww
感想以外にもミスの箇所を教えてくれるのは助かりますよ〜wwwwwwwww
赤爺の話は土曜までには終われるwwwwwと思いますwwwwwwwwww
文句とガル姫の話を書きつつ赤爺の〆を現在書き込み中ですwwwwww

46 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/18(日) 20:08 [ KKYw9z8o ]
降臨マダー?・゚・(ノД`)・゚・

47 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/19(月) 08:40 [ Ck.lin0s ]
論洌?
論淌桧?
詑涎嶄晴岼

48 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/19(月) 08:58 [ /Kh0zTKM ]
>>46
催促とかはしないほうがいいと思うぞ
プレッシャーになるだろうし書く義務があって書いてるわけでもないだろうしな
作者さんのほうも都合あるだろうしね
俺らの役目は黙って待って読む、そしておもしろかったら書き込みだ

49 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/19(月) 17:31 [ I5TQIV0s ]
催促が全然ないのも寂しいと思うけどな

>俺らの役目は黙って待って読む、そしておもしろかったら書き込みだ
すげえプレッシャーだなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

50 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/19(月) 21:41 [ /Kh0zTKM ]
>>49
たしかにそうだorz
どう書き込めばいいかわからんかったもんで

51 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/20(火) 01:12 [ /vwGzwBM ]
お前ら・・・いい奴だなwww
最初のうちに一気に書いて盛り上がって。粘着沸いて荒れてアボンは嫌だし、
こんな感じのマッタリ進行がいいかもねー

52 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/21(水) 19:25 [ KKI90FlY ]
まだ新しいのが貼られないのは推敲していると思いつつも
期待してますagewwwwwww

53 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/21(水) 21:05 [ LSv6Yr.2 ]
> 赤爺の話は土曜までには終われるwwwwwと思いますwwwwwwwwww
そうかwwwwwwwwwww今週の土曜のことだったのかwwwwwwwwwwwwwww

54 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:32 [ A0fCfWsw ]
|w・`;)<急用の為、暫く留守にしてましたすいません。
一先ずエピローグ前まで書きましたので投下致します。
待たせて、すいませんでした

戦いは終わった。

戦争の結果は我等人間の勝利として幕を閉じた。

だが、俺に残されたものは深い絶望。

奴との決着はつける事が出来なかったから。

俺は戦場後を眺めながら哀愁に更けている。

沢山の大事な者を失った。

勝利の宴が開かれるも俺の心は満たされる事はなく
ただ、何時も傍らにいたあいつ等が
自分の半身とも言えるべき存在まで大きくなっている事を今更再認識するだけだった。

夜。
見回して見えるはここまで戦い、そして生き延びた戦友達。
彼等に一礼をし、その場から立ち去る。

帰国すれば地位と名誉が約束されるであろう。
だが、今の俺が欲するのはそんな物ではないのだから

守れなかった。
自分の最も大切な物を
後悔の念は消え去る事はない。

このままでは自分は壊れてしまう。

明日と言う道を
明日と言う希望を
明日と言う未来を

失ったのはそれらを共に歩む筈だった者
自身を呪った。

俺は騎士団からその身を引く事にする。
今の俺には民を守る志を感じられない。
つまり、赤騎は死んだのだと。
最後に、目を閉じたままの二人に一言だけ伝えた。

『さようなら』と

55 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:33 [ A0fCfWsw ]
対峙する赤爺とハボリュム。
その距離は秒を追う毎に短く狭まっていく。

先に動いたのは黒い悪魔。
繰り出される斬撃を薄皮一枚で避け、反撃を加える赤爺。
神速で放つ突きを大鎌で受け止めるハボリュム。

雷鳴が走る。
若き日の腕力には到底及ばない、だからこそ魔力を付加する事によってそれを克服した。
それでも力では明らかに此方が不利、だからこそ数で対抗を示す。
瞬間動きが止まる、その隙を見逃す筈などない。

一気に畳み掛け様と刃を更に早く振るう。
その数十二撃、中七発の攻撃が黒い悪魔を貫く。

緑色の液体が辺りに舞う、彼の敵の表情が苦いものへと変わり、重く硬い塊が軽く崩れた。
勝機と定め、止めを刺さんと刃に込める魔力を増大させる。
瞬間ハボリュムの口元に笑み、地面が赤く光った。

立ち上る炎の柱を辛うじて魔法障壁で防いだがダメージはかなりでかい。
所々に火傷を負っている、特に左腕は酷く爛れぶらりと垂れ下っていた。

立ち上がりハボリュムが指を此方に向け中空で印を描く。
途端、顕現された炎の塊達が此方目掛けて襲い掛かる。
その炎の大きさ、ガルカでさえ有々と包み込めるであろう。

防ぎきれないと判断し回避に専念する。
鈍い痛みが走るが知った事ではない。
スレスレでかわす炎の熱量に痛みを覚えるも意識を乱さず練り上げる呪文。
地が刃と化しハボリュムを襲う。

難なくかわされる、だがこれも予想済みの動き。
ほんの数秒の目暗ましの間に自身に魔法をかけ、治癒能力を増大させる。

二人の距離が開き再び対峙状態に戻った。
「お主に一つ聞きたい」
赤爺の周りに氷の塊。
「我に答えられる範囲ならばな」
ハボリュムの左手に炎の渦。

衝突し、視界を汚す。
「あの二人に、お主は一体何をした?」
姿が見えぬ代わり振り絞る様な声が辺りに響く。
その言葉を聞きハボリュムの声が嬉しそうなものへと変わる。
「そうか、気付いていたのか」
晴れた視界に映ったその表情なんと嬉しそうな事か。

56 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:34 [ A0fCfWsw ]
二人は生きていた。

援軍の到着により、その事実を知らされた。

俺は心底から喜んだ。

だが、二人は目を覚ます事無く。

治療を行ったタルタルが言った。

この人達は大事な物を失ってしまったのだと、だから目を覚ます事が出来ないのだと。


「この鎌は少々特別製でな、貴様等と同じ様に生きているのだよ」
聞きながら降りかかる攻撃を回避し、距離を取る。
「そして生きているからこそ餌が必要なのだ、魂と言う人間の餌がな!!」
叫び、追撃を加えようと前進するハボリュム。
身体を捻り何とか地に足をつける、視界には死への刃。
それを、瞬時に練り上げた魔力の土壁で防ぎ、その場から離れる。
轟音と共に崩れ去る土の塊を見て冷や汗が流れた。

「ならば、お主を倒し、その鎌を破壊すれば二人は元に戻ると言うのだな!?」
剣先を向け叫ぶ。
しかし、相手は此方をバカにする様に頭を振るのみ。
「そんな昔に食した魂が――

『他人の幸せを望む精神は立派なものだが、その為に自分自身を御座なりにしたら勿体無いからな』

『赤騎さんは立派な騎士になりたいのですね。立派な夢があって羨ましいです』

今も残っていると思うのか?――

『俺は友情と恋愛、どっちをとるかと言われれば俺は友情をとるぜ』

『今更言うのも変なのかもしれませんが、これからも幸せにして下さいね』

もう手遅れなのだよ――

『・・・ごめんなさい・・・私・・・失敗しちゃいました・・・本当にごめんなさい・・・』

『言ってくれるね、じゃあな赤騎また後で――』

だが、悲しむ事はないであろう。我が鎌の養分となれたのだからな」
弾き出された言葉に頭が熱に侵された様な感覚に支配された。

息を付く暇もないと言える魔力の波。
凡そ考えうるであろう全ての自然現象がハボリュムに襲い掛かった。
だが、彼はその場から離れるのではなく魔力に飛び込む様に前進する。
「これだ、これを待っていたのだ。
最高の憎悪と悲しみを乗せた自身の全てを解き放つのを!!」
辺り一帯が光に包まれた。

57 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:35 [ A0fCfWsw ]
「勝負あったな」
ハボリュムが勝利の声を上げる。

体が鉛の様に重い。
視界はぼやけ奴の表情を見る事が叶わなく、ただ首元に置かれた冷たい刃だけはそれが何であるかを感覚で理解できた。

「貴様の負の感情。実に美味であったぞ。礼を言おう」
煽る様な奴の声が癪に障る。
今直ぐにでもその身をズタズタに引き裂いてやりたい、だが指一本動かない自分の体はその行為に拒絶を示す。

決められた運命と言うものがあったのならば残酷である。
友を失い妻も奪われ、そしてその敵討ちすら果たす事ができないとは…。
これが予め定められたものであるならば神と言うものを恨まずにはいられない。
最後は自身の力を相手に捧げるなど、滑稽も良い所だ。

情けない。
自分の力不足が、不甲斐なさが、遣る瀬無い思いが体中を支配する。

もはやボロ雑巾の様なワシを奴は愉快な笑みを浮かべて見ているのであろう。
だが、もう何もできない、感覚のない身体は存在している事すら分からない。
意識が遠くなった。

旅は続いていた。
あれからどれだけの月日が流れたのだろうか。
泉に映った自分の顔が、過ぎた年月の多さを実感させる。

終わりの無い旅
先の見えない道
目的地も分からず当て所も無く

生きる意味も志も、黒い感情は吐き捨てる場所も相手も得る事が無く
ただひたすらに、無力感に苛まれる。

俺は如何すればいいのだろう。
最近そればかりを考えている。
実に味気のない毎日、まるで物語を読んでいるかの如く薄っぺらに他人事の様に過ぎ去っていく。

あの戦争から各国々や村も復旧を遂げている。
新しい時代に向け皆、頑張って生きていた。

だが、俺は今だあの時に縛り付けられている。
何の興味も示さない。
否、示せない。

このまま終わり朽ち行く人生なのだろうかと考えていた。
その筈だった――

58 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:36 [ A0fCfWsw ]
ある日の事。
セルビナの酒場で酒を煽っていると昔の部下に出会った。
部下はどうやらかなり前から俺を探していたらしい。
最初は部下の話を聞く気などなかった。
だが、部下の口から赤女の言葉が出ると俺は飲んでいた酒をほっぽりだし話を催促する。

話を聞き終えた部下に感謝と礼を述べ急いでサンドリアへと戻った。
話の内容は予想もしていなかった事。

赤女は子を宿していた。
彼女の意識は今だ戻ってはいないが、宿した新しい命は成長を続けていたらしい。
普通と違い腹にいる時間は長かった様だがそれでも無事にこの世界に身を煎じた様だ。

目頭が熱くなった、俺の心に何年ぶりかの熱が呼び起こされた。
久しぶりに帰ってきたサンドリア。
昔と変わらず今も伝統的な佇まいを残している。

昔の知り合いが俺を見つけ声をかけて来た。
そして息子の元へと案内される、生まれて8ヶ月といった所であろうか
力無くとも必死に生きているその姿を見て俺は涙を流した。

後の話は多くを語るまい。
昔と変わらない姿で眠る赤女と騎首の前に立ち俺は旅に出ると告げた。
部下達は反対をした、だが俺の決心は揺るがない。

今の俺は余りにも腐りすぎている。
だからこそ生まれ変わろうと思った。

子供には不憫な思いをさせるであろう。
自身としても辛い十字架を背負う覚悟。

サンドリアの地を後にする。
ただ、一つだけ
昔とは違っていたのは
後ろを決して振り向かないという事。


果たして、自分は何の為にこの場にいるのであろうか
何も成し遂げられず、無念を抱いてこの世界から消え去る為か
そもそも過去の怨念を浮かび上がらせる為に来たのであろうか

違う!!
断じて違う!!
ワシが此処に来た理由は目的は――

――まだまだ死ねんのじゃ、例えこの命燃え尽き様とも、ワシは貴様を倒す!!――

59 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:36 [ A0fCfWsw ]
「貴様は中々楽しめたぞ。
さあ、死の世界へ行くがいい」

鎌が赤爺の首を切り裂いた。
筈だった…。

だが、彼は何事も無かったかの様に立ち上がる。
ハボリュムが困惑の声を上げた。

「済まなかったのう…そんな所に閉じ込められたままにして…
今、開放してやるぞい…」
ゆっくりと、スローモーションの様に赤爺が剣先を鎌に合わせる。
ピシリ。
小さな音を立てた後で鎌に無数の亀裂が入った。
光が亀裂から溢れ出し粉々に砕ける。

「な、何事だ!?」
不可解な出来事に慌てるハボリュム。
すぐさま鬼の様な形相で赤爺を睨み付けた。

「貴様、何をした!!」
身の毛もよだつ様な声で叫ぶ。
赤爺はそんな声など聞こえていないかの様に佇んでいる。

光が彼の周りに舞っていた。
「ようやく…救えたわい…」
誰にとも無く言葉を呟く彼が癪に障ったのであろうハボリュムが豪腕を振るう。
それを、流れる様にかわし脇を切りつける。

苦悶の声を上げ赤爺を見る。
沢山の傷を負い。
立っているのもやっとの様な老いぼれが自分の傷つけている。
その思いがハボリュムの神経を逆撫でしたのであろう、数え切れない炎が周りに出現した。
「我を本気にさせた罪、死を持って購うがいい!!」

今だ遠くを見つめる赤爺。
「…そうか…こんなワシに少しだけ時間をくれるのか…」
「耄碌爺が、骨も残さず消えうせるがいい!!」
沢山の炎がぶつかり合い巨大な柱となる、その様を見て大きく笑うハボリュム。
しかし、その笑みも直に消え去ってしまう。

不可解な物を見た。
炎の中に一つの影。それはゆっくりと此方に近づいてくる。
影が揺れた。
次の瞬間炎は風に煽られたかの様に消えうせた。
そして其処に立っていた赤爺は若かりし日の姿。

60 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 17:37 [ A0fCfWsw ]
「バカな!貴様一体――」
言葉を言い終わる前に胸に衝撃が走った。
見ると赤騎が刃を深々と突き刺している。
「相も変わらず人間というものが分かっていない様だなお前は
何も修練を重ねる事のみが強くなる為の事柄ではない
一つの出会い、別れ、決意、そんな些細な事でも人は強くなれるのだ」
剣に稲妻が迸りハボリュムの体から光が迸る。
「た、例え、貴様が力得ようとも…怒りや憎しみで我を倒すことは出来ぬ!」
「…怒りでも…………憎しみでもない……!!」
鋭くも真直ぐな瞳がハボリュムを見る。
「…では何だと……」
「お主には永久にわからない事じゃよ…」
魔力が一気に膨れ上がり、ハボリュムの身体に亀裂が広がっていく。
今だ信じられないと言った表情で上を向くハボリュム。
「…まさか、こんな老いぼれ爺一匹にこの我が…
だが…例え我が滅びようともあの者達では我が主には勝てぬ…」

雷が落ち雷鳴が迸った。
辺りは光に包まれ何も見る事は叶わない。

雪が降る外郭の一角に赤爺が佇んでいた。
手足は色を失いまるで石の様に外見を変えている。
空を見る、そして先程の言葉に答えるかの様に言葉を紡ぐ。
「…今は確かに小さな一つ一つの光じゃ…
だが彼等は何時か一つの大きな光となり…この世界を導いて行く…」
力無く崩れ落ちる。
倒れた拍子にまるで食器を落としたかの様な音が響き赤爺の腕と足が砕けた。
「…ワシにはもう戦える時間も幾分もない…枯れる寸前じゃ…
だからこそ内藤達に…今の世代の若者へと橋渡しをしなくてはならないのじゃ
それがこの老いぼれの最後の役目よ…ワシ等の時代はもう終わったのじゃ…」
石化が進行し崩れた身体は土となり風に流されていく。

「…赤女…騎首…これで…孫よ…内藤を…」

最後に呟いた言葉、誰にともなく放った言葉は風の中に消えた――。

61 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 18:08 [ ibj7pzJM ]
・゚(ノД`)゚・

62 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 18:45 [ BdtJjkMw ]
・゚(ノД`)゚・グッジョブ

63 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 19:10 [ 7uXguX3U ]
GJだコノヤロー!!・゚(ノД`)゚・

64 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 21:01 [ p1T7lDwg ]
漢字読めません・゚(ノД`)゚・

変換で出るから楽なんだろうけどこんな字使うか普通? 耄碌爺

65 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 21:02 [ p1T7lDwg ]
書き忘れた もうろくじじい

66 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/23(金) 22:27 [ H9O6oSV2 ]
GJ!!!!!!!!!wwwwwwwwwwww
www付けまくってるのに目からフラッドがwwwwwwwwww
赤爺かっこよすぎwwwwwwwwwwwwwww

67 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/24(土) 12:05 [ x5yu/DI6 ]
赤爺かっけeeeeeeeeeeewwwwwwwwwwwww
そして言わせてくれwwwwwGJ!!wwww

68 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/25(日) 02:15 [ 9dvkREM2 ]
完結してた・゚・(ノД`)・゚・もう最高

69 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/27(火) 03:31 [ Wr2G9tb2 ]
|w・`)<エピローグ、これにて赤爺編完結です


闇の中に光。

一粒の光が見えた。

漂う様な感覚の闇の中、一握りの小さな光の粒。

光はやがて大きさを増しワシを包む。

何故だか、懐かしい。
母親に抱かれた胎児の様な心地の良さにワシは意識を預ける事にした。



誰かの話し声が聞こえる。

だが、何を言っているのかさっぱり分からない。

声がどんどん大きくなっていく。

耳に痛みが走った、そして――。
「赤騎!何時まで寝てるんだ、さっさと起きろ!!」

耳に痛みが走る程の大声を受け俺の意識は現実へと戻された。

目が覚めて一番最初に見えたのは騎首の顔。

相当の大声であったのであろう、耳鳴りは続き頭がクラクラする。
もっとも状況を把握出来ずに混乱している所為もあるが。
「おはよう、騎首」
とりあえず目の前の友に挨拶。
そして、今一上手く働かない頭で周りをキョロキョロと見回す。
そんな俺の反応を見てか、呆れた顔で溜息を一つ。
「赤騎…、寝惚けてるなら今から水ぶっかけて起こしても言いんだぞ?」
流石に言っている意味が解ったので頭を強く振り強引に意識をハッキリとさせる。
「それは、勘弁してくれ。もう大丈夫だ」
腰掛けていた椅子から立ち上がり手を上に伸ばす。
「まったく、毎回俺の事を非常識だとか色々言ってる癖にお前も相当の根性してるぜ
こんな大事な日に堂々と眠りこけるなんて――」
また、溜息を吐く騎首を見ると確かに行事的な服装を着込んでいる。

大事な日?
俺の中に疑問が浮かんだ。
視界に見えるは自分の部屋ではない、ましてや騎首の部屋でもない。
自分が着ている衣服も普段着とは違う。
顎に手を当て必死に思い出す。

俺の行動が相当不可思議であったのだろうか騎首が俺の方を軽く叩く。
「おいおい、勘弁してくれよ赤騎。折角の結婚式の日に新郎のお前がそんなんじゃこの先上手くやっていけねえぜ」

ああ、そうか。
だんだんと記憶が鮮明になって来た。
今日は俺と赤女の――

70 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/27(火) 03:31 [ Wr2G9tb2 ]
扉が音を立てて開く。
俺達の視線が音の方へと向けられた。
「騎首君、大きな声を出してどうしたの?」
少し慌てた表情の赤女。
先程の声はそれほどまでに大きかったと言う事か、耳を押さえて騎首を睨む。
「何でもないよ赤女ちゃん、こいつがあんまりにも起きないもんだからついつい声のボリュームを上げすぎちゃっただけだから」
俺の視線を逸らして赤女に先刻の事を説明する。
騎首の言葉を理解しニッコリと微笑む。

「赤騎さん、この格好どうですか?」
落ち着き彼女の姿を見る。
赤女は純白のドレスを着込んでおり、スカートの裾を軽く持ちクルリと一回転して見せた。
何時もとはまた違った綺麗さを見せる彼女の姿に声が詰まる。

「…綺麗だ…」
振り絞るように短く、小さいながらも強く意識を持った声。
意外な反応だったのであろうか、はたまた赤女の性格か顔を真っ赤にし俯く。

二人の間に静かな時間が流れる。
その時間も嬉しそうに口笛を吹く騎首によって元に戻された。
「お二人さん、初々しいのは宜しいんだが主役の二人が早く式に出ないと祝ってくれる皆に申し訳ないぜ」
「何っ!もう、そんな時間なのか」
「そうですね赤騎さん、急ぎましょう」
スカートの裾を持ち小走りに走る赤女、彼女が扉を出るのを確認して騎首が俺を呼び止める。
「なんだ、騎首。急げと言ったのはお前自身だぞ」
「まあ、そんな冷たい事言うなよ赤騎。親友としてお前に一言、な」
改まった様な彼の顔に思わず不思議がる。
「今更言う事でもないけどよ、これからも彼女を幸せにしてやるんだぞ」
掌を差し出す。
その意味を理解し赤騎が騎首と握手をかわす。
そして彼の言葉に強く呼応する様に一言だけ――。
「任せろ」
その頼もしい声に満足したのだろう何時もの顔に戻り騎首の背中を強く叩く。
「おっし、それじゃあさっさと行こうぜ!!」
背中は痛んだが、その事は気にならなかった。
彼と言う親友がいたからこそ今の自分と赤女はいる、そう思うといくら感謝しても足りないであろう。
だから彼は彼なりの思いを込めて――

『ありがとうな…騎首』

誰にも聞こえぬ程小さな声ではあるが感謝の言葉を述べたのだった。

71 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/27(火) 03:32 [ Wr2G9tb2 ]
沢山の人に見守られ、俺達の結婚式は進んでいく。

大聖堂へと続く道を部下や戦友達が祝福してくれた。

ヴァージンロードを歩きながら小さな声で赤女が話しかける。

「赤騎さん、私は今とても幸せですよ」
言葉通りの幸せ一杯の微笑を彼女が向ける。

その女神の様な笑顔に思わず顔が赤くなった。

赤騎の反応を見てクスクスと笑いを抑える。

少しムスっとして赤騎が言葉を返す。
「これからは夫婦なのだから、さん付けでは少し他人行儀だぞ」
その言葉に一瞬呆気に取られた赤女だが直に笑顔に戻ると
「そうですね、アナタ」
嬉しそうな声で彼女は答えた。

あの、アナタ

ん、なんだ赤女

先程まで、グッスリお休みになられていたと言う事は良い夢でも見てらしたのですか

殆ど覚えてはないのだが、少し悲しい夢であった気がする

すいません、気を悪くさせてしまって…

いや、その様な事はないぞ。たしかに悲しい夢だった気がする。
だがそこにあったのは悲しみだけではなかったのはたしかだ

アナタ、少し変な話をしても良いですか?

お前の変な話は今に始まった事ではないからな、遠慮なく話せ

もしも覚めない夢と言うものがありましたら

その夢の中では自分は夢だと気付かずに生活をしているんですよね。

その様な夢がありましたら

それは夢ではなく一つの世界

一つのちゃんとした現実なのだと言えるのではないのでしょうか。


――もし、そうだったら素敵だと思ったのですよ
彼女が照れた顔で此方を見て軽く舌を出す。
そして俺は柔らかく微笑む。
そうだな。そんな考え方も面白くて良いかもな

式は進む、お互い誓いの言葉をかわし神父の声が響く。

「それでは誓いの口付けを」

赤女と赤騎が向かい合う。
彼女の柔らかいに手を回し身体を引き寄せる。


俺は彼女とこれからの長い生涯を共にするであろう

それは、全てが幸せであろうとは思わない。

辛い事、悲しい事にもきっと出会うであろう。

だが、俺は恐れない

赤女と

そして親友の騎首と

だから、何も恐れる事などない。


――老年なる騎士よ、貴方の行いは先を作る若者達への希望と未来を与えたでしょう。ですから今は幸せに浸かりなさい、失ってしまった時間を最愛の人達と共に――

72 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/27(火) 04:41 [ 1rd947.2 ]
|w・`)<隔離スレ4の>>304さんへ
今さっき読んだので此方で答えます見ていたら幸いに存じます
自分としては流用おkです。
此方を使ってもらっても構いませんよ。自分としても良い刺激になりますので。
(内部ネタ:リメ外伝のエンドは実は二種類書いてたり…

73 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/27(火) 12:02 [ KVNMyKPE ]
マルチエンディングが可能なら、リメさんにお願いなのですがラストはリアル世界
の人間への転生したというものが見たいと思いました。
そして彼らは何も気付かぬままFFを通じてヴァナディールで再会したと。

74 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/27(火) 14:07 [ e/Y3mFaE ]
流用可能なら糞樽と白樽の話を書いてみたかったり。。
文才無いから時間かかるけど許可出れば一度やってみたいwwwww

75 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/28(水) 01:53 [ fmp8679A ]
赤爺編完結お疲れ様!
ところでこのスレってageといた方がいいのだろうか・・・
さすがにここまで荒らしも来ないと思うんだけどどうかな?

76 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/01/29(木) 02:03 [ uE6/6M8s ]
>>73さん
ある程度考えた事はありますが難しいですね
>>74さん
むしろ、是非書いてください。
自分としても読みたいです

77 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/01/30(金) 02:24 [ DGTTtLC. ]
次回作激しく期待age

焦らせちゃったらゴメンネ(´・ω・`)

78 名前: 隔離スレの304 投稿日: 2004/01/30(金) 13:57 [ KrfUXDmk ]
 リメの方へ

 ありがとうございます
返信が送れて申し訳ありません、私情でここ一週間ほどネットの出来ない
状況でしたが、作品はほぼ完成し手直しをしている状況です。

週明けにも投下できると思いますので今しばらくお待ちください

79 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:13 [ 7qHZ61jI ]
隔離スレの304、改め78です。
お待たせしました(待っていたのかどうかはおいておいて)、
ようやく完成したので、リメの方のお言葉に甘え、早速UPさせていただきます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

春の訪れを告げる強い風が南から北へと駆抜け、
高原を覆った雲を払う。

天頂へと差し掛かろうとする太陽から放たれた光が
高原一面を覆い、草花に寄りそう朝露を大気へと誘う。


数多くの冒険者たちによって踏み固められた山道を
今日もまた、数多くの冒険者たちが辿る。



高原の坂を登り終えた道端に立てられた土塁に、


 エルヴァーンの詩人と
  タルタルのナイト


二人の姿があった。


彼ら二人を知るもの達は、二人が共に行動する事に気にも止めないだろうが、
その姿を見ると少し驚くかもしれない。


彼らが普段良く目にする鎧姿ではなく、
駆け出しの冒険者とおなじ服装だったから。


「ここだね・・・」
「あれから3年ですか。ここの景色は時がたっても変わらないものですね。
 もっとも、あの日は今日のような晴れた日ではなく、雨が降っていましたが」

死人はそう答えると樽ナの方へと視線を向け、
樽ナは黙って頷くと、空を見上げた・・・

80 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:15 [ 7qHZ61jI ]
敗北感、嫌悪、虚無、挫折
劣等感情にまみれた土砂降りの雨の中、
行く当てもなく、流れる景色に目を向けることもなく走りつづけ・・・
気がつけばここに座り込み、空を見上げていた
心の奥底からあふれる感情が、降り注ぐ雨に共に大地へと流れた・・・

長雨だったのだろうか?
人の往来は全くなく、辺り一帯には気配すら感じられなかった・・・

どれだけの時が流れたのだろうか?
それとも、それほど流れていなかったのだろうか?

雨音とは明らかに異なる人の足音が
1歩また1歩と近づいてくる・・・

足音の持ち主を見つめると無意識に言葉がこぼれた

『・・・貴方・・・誰?』



ここは初めて出会った場所
この服装は初めて出会ったときと同じ服装

ここには何度でも訪れた事がある
一人で
仲間と共に
そして二人だけで

事前に着る服を決めたわけではない
あらかじめ行き先を決めたわけではない
ただ、無意識にこの服を手に取っていた
ただ、無意識に足が二人をここへと運んだ
なぜなら
 ―――今日は二人が初めて出会った日―――
  ―――ここは二人が初めて出会った場所―――


「次の場所に行きましょうか?」
沈黙を破るしかし静かな死人の問いかけに
「うん」
樽ナは声に出して答え、先に歩き始めた
小さな籠を手にして

81 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:18 [ 7qHZ61jI ]

一人先を歩く樽ナの後姿を見て
「やれやれ・・・ 『重いから代わりに持ちましょう』
そう言っているにも関わらず・・・」
苦笑いをしながら、死人はジュノを立つ前の朝の光景を思いだした・・・




『その籠は貴女には重過ぎます。私が代わりに持ちましょう』
『いいよ、貴方はその竪琴を持っているのに、この籠まで持たせられない』
『この竪琴は私にとって大切なものです。貴女が気にする必要はありません。
 しかし、女性の貴女にその籠を持たせるのは、
エルヴァーンとして、男子として私の誇りに欠けます』
『そんなの私の前で気にする必要ないよ。
それに貴方にとってその竪琴が大切なものなら、
私にとってこの籠は大切なものだから私が持つよ。
ほら!もうじきサンドリア行きの飛空挺が出るよ!乗り遅れても知らないよ!』
『あ!こら樽ナ!待ちなさい!』




「何してるの?置いてくよ?」
樽ナの一声が、死人の回想をかき消す
「そんなに慌てなくても、まだ時間はありますよ」
そう言い終えると、竪琴を肩に担ぎ死人は樽ナの後を追った


山道の両岸には低地が広がり、その先を南北へと山並みが連なる
遠くにはMad Sheepの群れが牧草を食べ、
群れの主Battering Ramが付近の警戒をしている
山道が途絶え林の中へと足を踏み入れるとakababのさえずりが響き渡る
林を抜けしばらく進むと眼前にホラの石塊が姿を現す
ここまでくると、バルクラム砂丘がちかく潮の香りが微かに鼻に感じる

そして、惜別の場所

82 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:20 [ 7qHZ61jI ]
辿りついた二人を沈黙が包む
「ここ・・・でしたね・・・」
今度は死人が先に言葉を放った
「・・・うん・・・」
静かに、そして小さく答える




『貴女とはもう一緒に旅はできません』
あの時の言葉が、克明に脳裏に過る

偽りの言葉ではない
ただ、大切な人を守りたい為に
そして、傷つけたくない為に

あの言葉は貴女に向けた言葉ではなく、私に向けた言葉

私の過ちを貴女はどれほど救ってくれただろう?
私の過ちで貴女をどれほど傷つけただろう?
私の過ちが貴女にどれほど危険な目に会わせただろう?

あの冬に貴女をかばったのは貴女が仲間だからではない
かけがえの無い、私にとってすべてだったから

貴女を私の過ちのためにこれ以上傷つけたくない
貴女が私の過ちのために傷つく様をこれ以上見たくない

―――私は貴女にふさわしい詩人ではない―――

『分かっていないようですね、タルタルがナイト?
 馬鹿にするのも大概にしてください!!
 貴女の様な非力な身体を持っている人に命を預けるなど無謀としか思えませんよ』

心とは裏腹の言葉が樽ナへ浴びせていた

離れたくなかった
ずっと傍にいたかった
これからも一緒にいたかった


『でも・・・でも。私は――』


かろうじて聞き取れる小さな、しかし必死な樽ナの言葉に
背を押されるかのように、私は足を進めた



風に流される木の葉のように・・・
気がつけば私は見覚えのある場所にいた
―――貴女と出会った場所に―――

土塁に腰をかけ、呟く
『これで良かったのです。貴女にも私にも』

意を決し天を仰いだ私の瞳に
悲しいほどに鮮やかに蒼い空が映った


一筋の輝きが
頬を滑り落ちて大地へと吸い込まれて行く

意を決した私の心の堰をいともたやすく乗り越えて

一筋
また一筋
新たに築かれる涙跡を
防ぐ術も抑える術も私には無かった

83 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:23 [ 7qHZ61jI ]
「今ならあの時の貴方が言った言葉の意味がよく分かる」
回想から覚めた死人の視線が樽ナへ注ぐ
「あの時の貴方の言葉は貴方自身に言った言葉。
  貴方が悩みに悩んで言った言葉だった。
  でも、あの時の私はまだ言葉の意味がわからなかった。
  ただ、私の事だけを考えて、貴方の事を考えていな―――」

言葉を続ける樽ナを死人が無言で抱き寄せ
「私も同じです。
 貴女の事を何も考えずに、私の事だけを考えていました。
 貴女が傷つく様を見なければ、それで事が足りると思っていました。
 それが間違いだと気がつくのに、かなり時間が掛かりましたが」
無言のまま死人の背中に手を回した樽ナが、小さく頷く

「さて、場所を移動して昼食を取る事にしませんか?
  この先に人がいないものの、景色の良い場所がありますし」
立ちあがった死人の問いかけに、樽ナも元気に応え籠を手に後を追う



「この辺りにしましょうか?」
「そうだね」

敷布を広げ、籠を開けると光が降り注ぐ


「ふむ、見た目は美味しそうですね。
  果たして、味の方はいかがでしょうか?
  以前より上達しているとよろしいのですが」
前置きを置いてから、手を籠へと伸ばす死人の姿を見て
樽ナは思わずクスリと笑う

「どうかしましたか?」
「なんでもない」

二人の脳裏にはあの秋の日を思い出していた



思わず素顔を見せ慌てて隠す死人
思わぬ一声に身を乗り出し再度問う樽ナ
予想外の事に少し混乱する死人
予想外の様相を見せる死人を見て微笑む樽ナ



「あの日よりもだいぶ上達しましたね。
  ですが―――」
「『ですがまだまだ改良の余地はあります。
  これに満足せずもっともっと精進を続けると良いでしょう』
  でしょ?」

口にしようとした言葉を全て先に話し少し得意げな顔をするな樽ナ
口にしようとした言葉を全て先に話され少し悔しげな顔をする死人
しかし、
「そうですね。
  ですが、本当に上達しましたよ。
  私が気を使う必要がないほどに」
心から素直に誉める


少し遅い昼食を取り少し休む二人
少し離れた場所に
少し前に目を覚まし、その身に光を浴びる三色スミレ
少し小さいWasp Stingが降り立ち、空腹を癒す
少し小さな春の一幕が見うけられる

84 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:25 [ 7qHZ61jI ]
『臼姫。新しく紹介したい人がいるんだけど?』
『あら?奇遇ね?私も一人紹介したい人がいるけど?』
『じゃ、これからそっちに向うから』

『あ・・・』
『え?』
『知って・・・』
臼姫の言葉は私の耳には届かず
ただ、樽ナをみつめていた

心の奥底に封じ込めたはずの
記憶が、思い出が、そして想いが
体の中を駆け巡る

幾度と無く忘れ去ろうとした
幾度と無く振り払おうとした

しかし

忘れ去ろうとすればするほど
振り払おうとすればするほど

心に深く刻み込まれ

一日として貴女を思い浮かべない日はなかった


『・・・えてる?自己紹介してほしいんだけど?』
『あ、ああ、私とした事が。
死人です。以後御見知り置きを・・・』
『はじめまして、樽ナです・・・よろしく・・・』

再会の場は辺りの喧騒を遮るかのごとく、重い空気に包まれていた

85 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:25 [ 7qHZ61jI ]
数々の冒険者たちの来訪を待つ酒場が軒を連ねるジュノ下層の歓楽街

あの日、私もそして樽ナもぎこちなかった
酒場にいつもの顔ぶれが誰もいなかったからかもしれない
他の仲間たちはすでに出かけており、私達二人しかいなかった
重い沈黙が続いた

しばらくすると、見知らぬ一人の冒険者が酒場を訪れ私に声をかけた
「パーティーに参加されませんか?」
と・・・

しばらく思案した後
私は参加する事を伝え、酒場を出口で足を止めて声をかけた
「樽ナ、貴女はいかがしますか?」
貴女は席を外して参加する事を伝えた

再会して、初めて
そして、2年の月日を経て再び私達はパーティーを組んだ



お互いの補助が微妙に遅れていた
幸い致命的なミスにはならなかったけれども
まるで噛み合いの悪い歯車のごとく
二人の間を漂う空気はまだ重かった
交わされる言葉もなく

そんな雰囲気を一声の悲鳴がかき消した
「ゴブリンに追われています、助けて」

声のする方を向くと、冒険者の一団がこちらへと走ってきて、
その後方をゴブリンの大群が迫っていた

―――私達も戦闘を終えたばかり・・・しかし・・・―――
先ほどまで無口だった死人から
解き放たれたかのように矢継ぎ早に指示が繰り出される
「私達が敵を食い止めます、貴方達は回復が整い次第彼らの介護を」
言い終えると前方へと駆けだし、樽ナも後を追う


「行きますよ」
「うん」

86 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:26 [ 7qHZ61jI ]

奏でる旋律が獣人に降り注ぐ

「あぶない!!」
放たれた一閃の矢に
後方で介護をしていた仲間から悲鳴が響く

気がつかなかったわけではない
叩き落とそうと思えば叩き落とせた
しかし、気にせずに死人は次の旋律を奏で始めた
向けられた矢が自身に達する前に
樽ナに叩き落とされることを確信していたから


気負っているわけではない
だが、旋律がいつも以上に力を帯びていた
いつも以上に演奏に集中できたから




盾を構え剣を振り下ろす敵を突き放す
次の瞬間、一閃が首を捕らえる

回り込んだ敵が背後から斬り掛かる気配を感じる
しかし、気に留めずに他の敵へ向う
背後にいた敵の気配は感じない
死人が斬り倒していた

普段と同じ使い慣れた武具
でも、体が軽い
まるで羽が生えたかのように
敵の次の動きが見える
いつも以上に敵に集中できたから



触れ合わないはずの背中に
力強いぬくもりを感じる

―――貴女しかいませんね、私の背中を任すことのできる人は・・・―――
―――貴方だけ・・・私の背を任せられる人は・・・―――

先ほどと変わらず一言も交わさない二人
しかし、絆が結ばれていた
以前よりもはるかに強固な信頼の下に

87 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:26 [ 7qHZ61jI ]
ゴブリンの群れも腕が立つ
気がつけば二人は包囲されていた
しかし、それ以上に攻めてこない


―――おかしい―――
異様な雰囲気に
死人が辺りを見まわすと
ゴブリンの群れのリーダーが
懐に隠し持っていた爆弾に火を灯しはじめていた


囲んでいたゴブリンが一斉に距離を取る

爆弾を放り投げようとしたその瞬間
腕に強烈な痛みを感じ
放たれた爆弾はただ大地へと引き寄せられる

呆然と大地に横たわる爆弾と自身の腕を見つめ、後方を見つめる

死人の放ったレイピアが地面に突き刺さっていた


ゴブリンの断末魔と肉体が
閃光と大音響にかき消される


作戦の成功を確信していたゴブリン達は
主の最後にしばらく放心したものの
再び襲いかかってきた

しかし、主を失った為
ただ闇雲に突っ込むだけで精細を欠いている



死人は戦列に復帰した仲間に指示を下すと
一匹、また一匹とゴブリン達は地へと姿を消していった

大勢は決していた


最後の一匹を樽ナが斬り伏せる


刀の血を払い鞘に収める
兜を取り外し
「ふぅ・・・」
ため息をつき、歩み寄ってきた死人を見つめる


仲間たちを集め、沈静の旋律を奏でる
「しばらく休んでいてください」
そう声をかけると、兜の脱いだ樽ナの下へ歩み寄り見つめる



二人の視線が交錯し、互いに微笑む

「あとで、少しお時間をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「うん」
死人の問いかけに、樽ナは小さく頷いた

88 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:27 [ 7qHZ61jI ]
休憩をとり狩を再開したパーティーは終幕を迎え
「ラテーヌのホラの岩屋まで送って頂けますか?」
「私もラテーヌまでお願いします」
二人が頼んだ


光が岩屋へと集い、ゲートが開く

二人はパーティーを離れ、転移する彼らを見送ると
歩き始めた
言葉を交わす事もなく


出会ったあの日と同じあの場所を訪れ
二人は並んで座った

沈黙が二人を取り囲んでいた


沈黙を破ったのは死人が発した言葉
しかし、話す内容は普段通りでも、心は普段通りではなかった
「きょ、今日は
 す、すばらしい活躍でしたね。
 だ、だいぶ修行をされたようで
 か、感心しました。
こ、これからも今日のようにして頂けると、
 わ、私としてもありがたいです」


悔しさで、苛立ちで下唇をかむ
言いたい言葉ではない
伝えたい想いではない
もっと大切な言葉が言い出せない
もっと大切な想いを伝えられない

苛立ちと、焦りと、緊張が心を締め付ける

気を紛らわす為に、竪琴をかき鳴らそうとする
しかし、奏でられた旋律は
脳裏に描いたそれとは大きくかけ離れ宙を舞う

「は、はは
 わ、私としたこ―――」

立ちあがった樽ナが死人を抱きしめていた

死人の手から竪琴が離れ
地面へと転げ落ちた

89 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:28 [ 7qHZ61jI ]
寒くもないのに体の震えが止まらない
暑くもないのに咽が乾く
胸を打つ鼓動が全身に強く響き渡る

言いたい言葉がここまで来ているのに
伝えたい思いが溢れ出ようとしているのに

思うように口が動かない

死人を抱きしめた自分の腕を強く握る

不意に背中にぬくもりを感じた
死人が樽ナを抱きしめていた


「た、樽ナ・・・」
死人の言葉はまだ上擦っていた

ふと感じる
自分を抱きしめている樽ナの腕の震えを
しかし、その震えが心に落ち着きを取り戻した

瞳を閉じ、樽ナの背に腕を回す

「伝えたい言葉があります。
 聞いて頂けますか?」

普段と同じ落ち着いた口調で言葉が放たれた

無言のまま頷く樽ナ

「あの日言った言葉は
 貴女ではなく、私に向けて行った言葉でした。
 貴女が傷つく様を見ていられなかった。
 私の無力さを許せなかった。
 それ故、私は貴女と袂を分かつ決意をしました。
 そうすれば貴女を傷つけずに済むと思い・・・

しかし、貴女の下を離れた翌日から
 いえ、貴女の下を離れた直後から
 後悔に打ちひしがれた日々が始まり、
この1年間、貴女のことを想わぬ日は、1日としてありませんでした」


貴女を守りたい     それ以上に貴女の傍にいたい
 貴女に守られたい    それ以上に貴女に傍にいてほしい


樽ナ貴女のことを愛しています他の誰よりも


「わたしもだよ・・・
 わたしもだよ・・・
 あの日から1日として貴女の事を忘れた日は無かったよ」
想いが言葉となって口から溢れるのと同じように
想いが涙となって瞳から溢れていた
「ずっと・・・ずっと・・・ずっと・・・大好きだったよ・・・
 ずっと死人のことが大好きだったよ・・・
 誰よりも一番死人のことが大好きだったよ・・・

心の奥底からあふれる想いが
無我夢中の樽ナに抱きしめられる死人の瞳から零れ落ちた
しかし、それは1年前のあの日とは異なっていた


「・・・ねえ・・・私達もう離れ離れにはならないんだよね、ずっと一緒なんだよね?」
「不器用な私ですが、もう二度と離しませんよ・・・例え迷惑であろうと」

西の彼方へと姿を消そうとする夕日の中
二つの影が一つに重なりあった

90 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:31 [ 7qHZ61jI ]
あの日と同じように、辺りは夕日に赤く染められていた

二人並んで腰をおろしていると、
ふと樽ナが一言言ってきた
「ねぇ、あの曲を歌ってほしい」


先の大戦は各地に大きな傷跡を残した

今は無いかつての繁栄と、眼前に広がる荒廃
そして、人々の心に巣食う虚無

その光景を目にした一人の流浪の吟遊詩人が
「少しでも人々の心の再建の力にはなれれば・・・」
と綴った一つの調べ

―――ヴァナ・ディールに住む者でこの曲を知らないものはいない―――
今日ではそう言われるほどに名の知られた曲



静かに竪琴をかき鳴らし歌い始める死人
その調べに声を合わせる樽ナ
しかし、しばらくすると咽ぶ

樽ナの様子を見ながら死人は心の中でつぶやく
―――そうでしょう―――

先の詩人が心の赴くままに作った曲は
世の吟遊詩人たちでさえ歌いこなすことが難しいと言われている曲
死人の脳裏に苦労に終われた日々がふとよぎる


旋律を移調しようとした、その矢先に樽ナが口を挟んだ
「気にしないで、そのまま弾いて。
  歌えなくても、聞いているだけで十分うれしいから」
そういうと、瞳を閉じた樽ナは死人に持たれかり
しばらくすると寝息を立てはじめた・・・

演奏を中断し、上着を樽ナへかけ、また演奏にふける

91 名前: 78 投稿日: 2004/02/02(月) 13:32 [ 7qHZ61jI ]
樽ナが目を覚ました時には日はすでに沈み、
澄み切った空一面を星が覆っていた

「ごめんなさい。日が落ちたようだけど、だいぶ寝てた?」
すこし申し訳なさそうに尋ねる樽ナ


「そうですね、少し時間はたちましたが、気にする事はありませんよ。
 今日はあちこち歩いたのであなたも疲れたでしょう。
 そろそろサンドリアに戻る事にしましょうか?
 まだ、ジュノ行きの飛空挺がありますし」


「ねぇ、1年前の約束覚えてる?」
死人の問いかけに頷いた樽ナが
ふと顔を覗きこみ尋ねる



「この私が忘れるとお思いですか?
 無礼を聞くにもほどがありますよ」
こたえる言葉と裏腹に、死人の顔は笑みに満ちていた







まだ肌寒い風が駆けるラテーヌ高原
闇に染められた空を一条の光明が流れた

92 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/03(火) 06:27 [ 62KOI8CU ]
ほのぼのしてていい話だねぇ(*´д`)
作者さんGJ!

93 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/02/03(火) 11:57 [ EXJROfOU ]
読んでるとスラスラと物語にのめり込めてとてもよかったです。
特に樽ナと詩人の感情とそれを盛り上げる風景描写等勉強になりました。

78さんお疲れ様です、素晴らしい作品をありがとう!

94 名前: 78 投稿日: 2004/02/04(水) 13:24 [ nl3yy6dk ]
92様、リメイクの神様
お褒めの言葉、ありがとうございます。

 隔離スレで「良い話しだけど悲しすぎwwww修正するねwwww」などと大口を叩き、
大まかな流れは既に決まっていたので、その流れに沿って文章を書き始めたのですが、しばらくすると腕が硬直。
電源の入ったノートPCを目の前に音楽を聞いたり、本を読んだりと創作活動は完全に止まり、休日の散歩や仕事の合間の休憩にネタを考えメモに控え、文章を書いていると語彙の少なさに頭を抱え、見直しをしていると億劫になり、掲載後に作品を見ると技量の低さに赤面する羽目に。
 流用してさえこのような有様なだけに、ここリメイクスレ、そして他のスレで作品を書かれている方々は、さぞや苦労されているのでは?と考えるとそうした中で作品を作り、掲載される事に頭が下がります。

95 名前: 78 投稿日: 2004/02/04(水) 13:34 [ nl3yy6dk ]
 話は変わりますが、垢爺のスレの中でも糞樽との祖父、孫関係が出ていますが、
この二人には血縁関係が有るのでしょうか?
ご存知の方に教えていただけましたら幸いなのですが。

96 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/04(水) 16:11 [ PqcnRCNw ]
たしか最初の設定じゃ血縁関係は無かったかな

97 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/04(水) 18:18 [ LKRK5Z0s ]
垢爺がぼけて孫と呼んだような気が

98 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/04(水) 19:28 [ swDDEO3I ]
各個人の脳内設定でおkkkkwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

99 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/04(水) 22:33 [ Ah/a3zsk ]
そんなことより垢爺のスレってどこだ?

100 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/06(金) 02:49 [ 2bnyQrWI ]
赤爺の(設定について、wwwww)スレの中でも(ry
みたいに脳内保管汁wwwwwwwwwwww

101 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/06(金) 02:50 [ 2bnyQrWI ]
ついでに100get

102 名前: 78 投稿日: 2004/02/06(金) 13:30 [ aqOHvNzI ]
>>95-100
ありがとうございました

この赤爺スレをみて
頭の中で糞樽と赤爺話が動き始めたのですが・・・
如何に結びつけるか?・・・

先は長そうです・・・

103 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/06(金) 19:18 [ i0KnauIU ]
>>102
真性?wwwおkkkkwwwwwwwww

104 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/06(金) 21:42 [ e2OpKKK6 ]
>>102
そういうことなら情報提供。
もともとは、赤爺の方が糞樽を孫呼ばわりして、糞樽がそれにノリツッコミして
たってのが最初。本スレだと、現在でも大体そんな感じ。

で、リメイク氏の書いた外伝の糞樽のお話の中で、糞樽の祖父として、いかに
も赤爺っぽい人物が出てきてる場面があった。
それが赤爺って確定するような話でもないけど。

どんな話を暖めてるかは知らないけど、リメイク氏の世界観を参考にした物を
書くなら、チェックしておくといいかとー。


えーと・・・・・・あった、隔離の2の一番下だ。
ttp://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwkakuri02.html#969

がむばれ(・ω・)ノシ

105 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/11(水) 18:10 [ BNixlkFQ ]
保守

106 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/02/13(金) 18:04 [ fNlZ.R/U ]
最近忙しくて中々書けなかったですがなんとか明日までには文句編書きあがりそうです。

107 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/13(金) 18:51 [ uwIL50JI ]
うはwwwおkwwwwwwwwwww

大人しく待ってます…。(´・ω・`)

108 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/13(金) 19:42 [ P8iMRMl2 ]
そう言って本当に明日読ませてくれた記憶がほとんどないのは俺だけだろうかwwwwwwwwwwwwwwwww

109 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/13(金) 23:26 [ 1WueOKeY ]
>>108
今までのを全部見直せば結構予定通り書いてくれてるぞwwwwwwwww

110 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 04:32 [ peIxtNiA ]
文句編期待agewwwwwwwwwwwww

111 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 04:33 [ peIxtNiA ]
と見せかけて下げてしまったのは内緒orz

112 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:48 [ XHbgqf0Y ]
本当にギリギリに貼る自分に対しもう少し早く書けないかなと幾度となく思う次第です。
では、投下!


強さとは何か。

俺が求めし強さとは。

この風穴を埋める為には。

答えてくれる者などいる筈も無く彼は今日も当て所も無い旅へと歩を進めるのであった。



コンシュタット高地に風が吹く。
風車がその風を受けゆっくりと動きを刻んでいる。
その周りには放牧された羊達が羊飼いとのんびりと昼食をとっていた。

そんな平和に見える光景を打ち破る如く鈍い音が辺りに響き渡った。

岩場が密集した一角に立ちずさんでいるは一人のガルカと一匹のクダフゥ。

互いに隙を探っているのであろうかその場から動かず、強い視線を送っている。
一体どれだけの時間彼等はこうしているのだろう、数秒か数分かそれは分からない。
だが両者の身体に浮かぶ汗は戦いの緊張から来るものだと容易にしれるものだった。

汗が地面に滴り落ちる。

ガルカの方に動きがあった。
その巨体からは思いも寄らぬ速度で近づくと自身の拳を目の前に立ち塞がる敵に対し撃ち込む。

三撃。

あまりの速さに相手は自身が何をされたのか気付いていないのだろう。
ただ身体が鉛の如く動かず、つま先まで走る痛みが自身が攻撃を受けた事を教えてくれた。
ガルカはよろける敵に対し猶予を与えるつもり等毛頭なく止めの一撃を加える。
彼の拳には何も装備されてはいない、それは自身の拳に絶対の自信を持っているのであろう。

固い表面の筋肉を突き破り柔らかい感触が手の甲にハッキリと伝わると、巨体が二、三度痙攣し絶命した。

113 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:49 [ XHbgqf0Y ]
空が真っ赤に染まる夕刻
彼は岩に腰掛け、先程倒した敵をどこか空虚な目で見つめていた。

満たされない。

自我が芽生え始めた時からすでにあった心の空洞。
今だ埋まる事のない大きな穴。

力求める意とは何か。

今日も自慢の豪腕を振るい障害となる敵を葬った。
悪名高いと称される程の敵を打ち倒しても、想いは一向に満たされる事無く空虚な想いは募っていくばかり。
それはダムに小さな亀裂が入り少しずつ崩壊へと近づく予期の様に蝕む焦りを生み出している。

「こいつでも俺を満たす事は出来ないのか――」

想いは戒めの様に強く彼を束縛している。

だが、最近解らなくなって来た強さの意

そもそも自分は何故力を求めるのであろうか
戦いに生きる運命に決められた者としてか
はたまた漢に生まれて者としての宿命か
どれも的を得ていそうで得ていない。

求める強さと力とは一体なんなのであろうか

述べるならうっすらと頼りなく、だが想いは余るほど力強い。
だから俺はこう思う、きっとこれは転生前から引き継がれた想いなのであろうと。

「…俺は何故強さを求める」

自分の拳を見つめ呟く、無論拳が言葉を発する事などなく、湧き上がる考えは行き所を求め彷徨い巡るのみ。

手を伸ばし風に舞い上げられた僅かな砂を掴む。
この砂はどこから来たのであろう、自身の近くから巻き上げられたものであろうか、はたまた遠くバルクルムから運ばれたものかもしれない。
自由気ままな風によって運ばれていく砂達は果たして同じ自由と言えるのであろうか
砂には意志などなく自身の力で動く事などある筈も無い、なんの介入もなくばそこに在りし時から永遠とそこに在り続けるのであろう。
砂は砂として風は風として。

「それらが新たな地へと踏み入れる為には他者の力が必要か…」

自分も案外この砂と同じなのかもしれない。
生まれた時から一つの想いに縛られ続け今尚それに従い動いている
果たしてそこに明確な意思はあるのであろうか、俺は予め決められた運命の風に身を委ねた一粒の砂なのかもしれない。

思って苦笑する。
何れにせよ自分は頭を使う性分ではないのだ、自身の本能に従い今まで生きてきたのである、だからこれからもその生き方を変える事などないのであろう。

夕日は沈み闇が世界を支配する。
彼は立ち上がりその場を後にした。

探した答えが分からぬまま朽ちるかもしれない
だが、立ち止まっていては得るものも得られる筈がなかろう
彼には地を踏みしめる二本の足があるのだから
だからこそ何時か答えが出る日を信じ彼は歩を進めるのであった――。

114 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:50 [ XHbgqf0Y ]
邪気漂う暗い場内。
立ち塞がる敵を蹴散らし進んでいく内藤達。

初めから分かっていた、誰かの犠牲なしに進むのは困難な道だという事。
仲間の全てを抱えながら戦い抜ける事等不可能な道だと。

屍を乗り越え、意思を受け継ぎ闇の王の身元へ辿り着く事こそが重要なのだ。
例えこの先また誰かが倒れようとも、想いを受け継ぎ前に進む者がいれば俺達の戦いは敗北ではないのだと。

糞樽が内藤達の先頭を走る、魔道士である彼に先頭を走らせるのは無謀とも言えるだろう。だが、今の彼は自身の表情を見られる事を嫌う故の行動である。
それに彼の実力は皆承知している、故に彼が先陣を切る事に誰も異論を唱えようとは思わないであろう。

俺には初めは少しの不安があった。
なんだかんだ言いながらも仲間関係を最も大切に思っている糞樽。
樽ナと死人、祖父と呼び親しんでいた赤爺との別れはあいつの中に戸惑いと動揺を生み戦いに支障をきたすのではないかと。
だが、そんな考えは杞憂の様だった。
その怒りを糧として先陣をきり獣人達を薙ぎ払っていく糞樽の姿は正に鬼気迫るものがあり、結果俺達は今現在まで順調に事なきを得ている。

ただ、この猶予も長くは続かぬ事など容易にしれていたが

「猫、獣様、敵さんの状況はどんな感じだ!?」
「後ろからいっぱいの怖い気配を感じましゅ、僕達の方に向かって追いかけてきているでしゅよ」
「それと、この先からもっと恐ろしい気配を感じるにゃ…それも一匹二匹じゃないにゃ」
獣様も当然感じていた気配であろう、曇る表情がそれを物語っている。
ただ、この先どのような敵が来ようとも俺達に後退の選択肢などあろう筈がないのだが。

だが、流石に大将の本丸であるこの場所は配備されている者達も一筋縄ではいかぬ強敵揃い。
「後ろの奴等が追いついてきやがったぞ!」
進行のペースは嫌がおうにも減少を余儀なくされ、その結果挟み撃ちとなってしまった。
「ちっ、どこまでも鬱陶しい奴等だぜ」
迫る敵を対処しながら糞樽が舌打ちする。
「結構いるわよ、どうするの内藤!?」

PTに困惑の声があがる。
状況は悪くなっている、このままではジリ貧な展開は免れない、なれば俺がやれる最善の行動を起こすのみ。

「パワーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
あらん限りの声を出す。
咆哮とも言える声を聞き獣人達の動きがほんの刹那止まる、内藤達も耳を痛そうに押さえているのもあるのだがそれは一先ず置いておこう。

「内藤、先に行け!俺が殿を務める!」
「文句一人じゃ辛いじゃろうけん、わしがサポートに回るけん安心しんしゃい」
ガル姫を見ると拳を鳴らして意気込んでいる。
まったく頼もしい限りだ。

「ガル姫、文句!?――」
此方を心配する様に内藤が見る。
だが俺達は言葉を紡がず拳を構えると内藤も無用な心配だと理解し、何も言わずに走り出した。

115 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:51 [ XHbgqf0Y ]
こちらを見つめる幾つもの視線。
一つ一つに感じ取れるほどの殺気が込められ、今にも飛び掛ってきそうだった。
待ち伏せされていたのであろう、敵の数が予想外に多い。
不測の事態に舌打ちをする、もはや逃げる事も叶わぬ状況であろう。
もっとも敵に背を向けるつもりなど毛頭ない訳だが

敵の数は三、四十といった所か、自身の実力は自分が最も理解している。
結果を考えればこの状況は俺には絶望とも言えるであろう、だが勝って当たり前の戦いに身を投じていては何時まで立っても限界を超える事など間々ならない筈。
つまりはこの展開を乗り切れなければ俺自身そこまでの男だったと言う事だ。

「面白いじゃねえか、掛かってきなよ豚共」
腕を回すようにして挑発する。
相手もそれを理解したであろうとても分かりやすく怒りを露にした。

「パワーーーーーーーー!!!!!」

開戦まじかな刻に雄叫びの様な声が上がったと同時に、鈍い音が辺りに響く。
その音と同時に何か大きな物が宙を待っていた。
グシャリと嫌な音が鳴りそこへ視線を向けると一匹のオークが痙攣を起こしている。

俺に限らず敵にとっても予想外の出来事であったのであろう、向けていた視線が一斉に音の出所へと移動するとそこにはローブを身に包み両手棍を握るガルカの姿。

敵が視線を移している中、俺は自分の足元に転がってるオークをじっと見る。
余程強い一撃であったのであろう、頭が陥没し絶命寸前の姿。
聞こえた音はただ一つ、つまりはたったの一撃でタフな豚をこの様な姿に変えたのだ。
それだけで相当の実力者である事が容易にしれる。

「そこに転がる骸の如き身体になりたいんは遠慮せずにかかってくるがよけん
わしは逃げも隠れもせんとよ!!」

その声を開戦の合図としてか一斉にオーク達が襲い掛かる。
思いもよらぬ来訪者の御蔭で敵の数が半数に割れ俺にとって勝機の見えた展開となった。

「わしの名前はガル姫、立場上不利極まりない状況と見受けた故助太刀致そう」

自身を姫と名乗り訳の分からないなまりの喋りをする同族だが実力者である事には間違いない。
助けられたと言う事実は不服であったが、すでに俺には別の思いが浮かび上がっており余り気にはしていなかった。

「ふん、誰も助けなんぞ求めちゃいなかったがな」
それでも声に出して言うのは性分なのだろうが。

視界内に迫るオーク三匹に拳を撃ち込む。
巨体から繰り出されたとは思えぬ拳速は十分な重量も備わっており相手は吐捨物を撒き散らしその場に倒れ伏す。
それは先程の彼の芸当に対抗する様に自分の力を誇示しているかの様にも見えた。
その様子を横目で見ていたのであろうか襲い掛かる敵を蹴散らしながらも先程の言葉を訂正するように新たに言葉を紡ぐ。

「なら言葉を訂正するけん、わしは通りすがりの正義の味方じゃ
自分の意思でこの場に介入し、自分の意思で力を振るうのみよ」
大声で叫ぶように喋りながらもきっちりと敵を撃退する。
何時の間にか俺の傍まで来たガル姫と言う者は実力者特有の気配と言うものを纏っており俺の興味をそそる。

「その言い方もある意味、嫌味に思えるがな」

互いの口元がニヤリと笑う。
最も俺と奴では笑った意味が違うのであろうが。

オーク達は完全に困惑しており統率は乱れ雑になった攻撃などもはや俺には何の危険はなかった。
狩る者として現れた者達が狩られる者へと変わった瞬間である。

勝利はもはや安易なものとなっていた。

そして俺は既にこの戦いに興味などなく浮かび上がる思いは唯一つ。

――この漢と戦いたい――

ただそれだけだった。

116 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:52 [ XHbgqf0Y ]
それは生者の行進。
勝利し生きたる者は前に進み、敗北し絶命した者はその場に朽ち果てる。

後方から迫り来る敵達を一身に引き受け自身の拳を思う存分に振るう。
ガル姫の援護があってか敵の数は確実に数を減らしもはや数える限りとなっている。

残るは後方支援の射撃者のみ。
接近を許さぬ様矢を放つ敵に対し俺は眼前の屍の頭を掴み、それを投擲の如く敵に投げつける。
完全に不意をついた行動に敵の攻撃が一時的に止り、ガル姫の接近を許してしまう。
敵の接近に慌てて矢を射るがもはや全ては遅かった、眼前に迫る棍をまともに受け果てる事となった。

「文句、ガル姫、こっちだ早く来い!!」
通風の呼ぶ声が耳に届き視線を送ると扉が見えた。
手を回し此方を急かす様にしている獣様と赤魔子。
扉を閉じて敵の進行を少しでも妨げようと言う事なのであろう。

自分達を待っていてくれたのであろう、その心意気は嬉しかった。
だが、敵の全てを倒してはいない事は俺にも分かっている。
また、先程と同じ状況が起こりうる可能性は十分にあった。
だからこそ俺は自分の行動に後悔などしよう筈もない。

重い扉が閉まる音。
だが、俺達は扉を潜ってはいない。
「なっ!?文句、ガル姫何のつもりだ!?おい!!」
俺達の行動に理解を示さない通風の声。
「いいから、さっさと闇の王ブン殴ってこい。俺の分も頼む」
「こっから先はまかせたぞい、内籐どん達」
扉に背を内藤達に意思を託す。

「文句、ガル姫、いいから開けなさい!!」
「そうにゃ、二人でそんな所にいたら危ないにゃ!!」
なんとかして俺達の考えを訂正しようと声を上げる臼姫と猫狩。
その心遣いは普通なら嬉しくとるだろう、だが現在は状況が違う。

「…行こう臼姫、此処で立ち止まる事自体が文句達に失礼だ」
「何言ってるのよ、文句とガル姫でもあの数を相手にして無事で済む訳ないじゃない!!」
「だからこそ行くんだ!!それを承知の上で俺達に道を開けてくれたんだから」
扉を叩く臼姫の腕を掴み此方を向かせる。
哀惜を必死で押さえた様な内藤のその表情を見て言葉を失う臼姫。
「樽ナ、死人、赤爺が自身を賭けてまで繋いでくれた道だ
 それをこんな所で終わらせる訳にはいかないだろ…」
徐々に小さくなる声は内藤の心境を簡単に知らせてくれる。

117 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:52 [ XHbgqf0Y ]
相も変わらず優しくも強いその意志。
普段は散々鈍い様な素振りを見せる癖に現状を見る限り鋭いとしか言いようがない。
もしかしたらそこまで深くはよんでいなく思ったとおりに行動しているのかもしれないが。

「内藤の言うとおりだぜ、俺にも格好つけさせろや…」
俺にも、その言葉が彼等に意味を理解させるには十分すぎる程の言葉。

軽い嗚咽の様なものが聞こえるきっと獣様であろう。
だが、獣様ならきっと前に進める筈、赤魔子がそれを手助けしてくれる。

床を走る音が聞こえる、どうやら俺達の願いは聞き入れて貰えた様だ。
「内藤!!」
意思の篭った強い声。
最後に彼に伝えたい言葉があった。
その声を受けて内藤の足が瞬間的に止まる。
「信じてるぜ」
唇を強くかみ締め止めた足を再び動かす、彼等の想いを断ち切らぬ様に。


足音が遠ざかる、それを確認して俺はガル姫に言葉を紡いだ。
「…ガル姫お前も内籐達と一緒に行っても良かったんだぞ…」
彼女が一緒に戦ってくれるのはとても心強い。
だが、それでも勝ち目のない戦いである事はガル姫自身も分かっているであろう。
「水臭いじゃけん文句、わしとおんしの仲じゃろうが」
「…そうだな、ありがとう」
全てを承知して残ってくれた友に精一杯の言葉を送る。
俺の珍しい反応がくすぐったかったのだろうか照れた様に顔を背ける。

「おうおう、大量に来おったのう。
こうして大勢の敵相手に二人で戦うのは久しぶりじゃけん腕がなるわ」
「お前と初めて会った時もそうだっからなあ、あの頃から何も変わっていないかもな俺は」
「ふん、可笑しな事をいうんじゃなか、あの時のおんしと今のおんしでは比べる事態が無駄な事じゃけん」
「そう言って貰えると嬉しい限りだぜ」
ゆっくりと構える。
もう二度とこの様な会話は交わせぬであろう。
そして内藤達と会う事はけっして叶わぬ現実。
だからこそ俺は最善を尽くせるのだ。

「行くぞガル姫、最後の最後まで気を抜くんじゃないぞ!!」
「おうよ、一匹でも多く地獄に送ってやるけん!!」

「パワーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」

信じていると放った言葉の答えは聞けなかった、だが俺にはあいつの声など聞こえずとも返答を知る事が出来た。

『任せろ』と決意の篭ったその言葉の意思が俺にはしっかりと届いていたから―――

118 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:53 [ XHbgqf0Y ]
刹那の出来事。
最速で繰り出した拳は見事に空を切り自身に隙を生み出す。
腹部に強い衝撃を受け俺の動きが一時的に停止する。
それを始まりとして起こる怒涛の連打を体中に受けると俺は地を踏みしめる事ができずその場に倒れ伏した。
「…何故だ…何故勝てないんだ!貴様と俺との間にはそれ程実力の差があるというのか!?」
倒れた自分の肉体は思う様に動かず、僅かに動く頭だけをなんとか傾け言葉を放つ。
「単純な力も技もおんしのが上じゃ、だがおんしはわしには勝てんばい」
訳が分からない、強い者が勝ち弱いものが負ける。
これは自然の摂理、単純な計算式。
二が一より大きい筈もなくまた逆も然り
ならば俺が負ける道理などない筈、ガル姫の性格上気遣いの言葉などかける筈がないと分かっているから尚更だ。

だが起こった結果は俺の敗北、それも既に複数回と回を重ね俺の自信を見事に砕いてくれている。
「迷いのある拳でわしに勝てると思うな青二才が」
動けないのを良い事にすき放題言葉を紡ぐ。
最も俺の体調が万全でも言いかねないが。
俺の身体を動けるまで回復させるとガル姫は何時もの様に自分のキャンプ地へと帰っていった。
俺を嘲笑うかのように高原に風が吹く。


迷いがある。
確かに俺には力の意を悩む事で迷っていると言えるであろう。
だが、勝負時にそれを持ち込む程俺は器用ではない。
戦っている時の俺はその瞬間が全てで無用な思い等何一つ持ち込んではいない筈。

自らを漢女と言い放つガル姫と出会い既に十日の月日が流れていた。
オーク共を蹴散らした後、俺は勝負を挑んだ。
戦いの最中見たガル姫の実力は俺が出会った中でも群を抜く実力者と言える。
魔道士でありながら並みの戦士を遥かに卓越した力と見た目にそぐわぬ魔法のレパートリーの多さは俺の戦いへの好奇心を煽るものでしかなかった。

勿論勝負を断った所で俺は諦める積もりなどはなかったが、ガル姫はその願いをあっさりと承諾してくれたのだ。
だが、結果はご覧の通り敗北。
大よそ記憶にある限りでは始めての敗北だった。
俺は意地になり倒れたまま再戦を申し込むと、自分に付いて来るなら好きなだけ相手になってやると言い俺の傷を癒したのだ。

それからガル姫の旅に同伴しながらも戦いを挑んだ、だが回数を重ねる毎に何か分からぬガル姫の強さを感じ惨敗していく。
悔しさが身体を支配しそれを発散させる様に拳を地面に叩きつける。

日はすっかり暮れ夜が訪れている。
俺は明日こそと強く思いながら大木を寝床として睡魔に身を委ねる事にした。
風はすっかり止んでいた。

119 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/14(土) 23:54 [ XHbgqf0Y ]
日の光を遮る木々達。
昼間だと言うのにそこは薄暗く、時々鳴り響く雷は侵入者を追い払うかの声の代わりの様なものだろうか。

人が通りやすい様な道もあったが俺達はあえて草が生い茂る困難な道を歩んでいた。
不意にガル姫の動きが止まり俺に手招きをする。

屍。
まだ息絶えてそれ程間もないのか肉体の損傷は少なく獣達に食い荒らされたような傷口もない。
傷口の少なさと肉体の変色具合から毒等で身体を蝕まれ帰還途上に力尽きたと考えた。

「この仏さんがどうかしたのか?」
命なき哀れな屍を指差し答える。
「おんしはこの者を見て如何思う」
ヒュームの男で年は若い方であろう、血色のなくなった肌ではあるが幼さの残ったその顔は若さを伝えるには分かり易いものだった。
しかし身に包んでいる装備を見てもこの男には此処らを徘徊できる程の実力など到底もってはいないであろう。

適者適応。
自分の実力もわきまえず好奇心で来たのであろうか、その上で命を落とすとは愚かな事この上ない。
「愚か者だな、自分の実力をわきまえず欲でも出したのだろう。これは当然の結果だ」
思ったままを伝えると何の反応も見せずガル姫は視線を屍へと移す。
「おんしはそう思うか、わしは違う答えじゃ」
そう言うと徐にその屍の首かかったペンダントを指差す。
冒険者が身に付ける様な物ではなく何か思い品であろうか。
そこには小さな文字が彫られていた。

愛する貴方へと――。

「恋人か親の遺品か、何れにせよ他者の為に危険を侵しこの地に赴いたのであろう。
 結果はもう二度とそれらに会う事が叶わぬ事となってしまったがのう」
立ち上がり此方を見る、その目は何かを悲しむ如く思いを訴えている様だった
「おんしは何故強さを求める
 そして強さを得て何を果たしたい」
その言葉は俺の心に強く響いた。
想い悩んでいる事を他人に指摘されるとは思ってもいなかったからだ。
ガル姫が俺の内心を知っている筈などないのだが彼の質問は俺を動揺させるには十分すぎるもの。
その問いに答える事など出来よう筈もなかった。

夜。
ガル姫が屍を埋葬した御蔭で余計な時間を繰い手合わせ願う事はできなかった。
最も今の俺には彼の言葉が強く残っており十分に戦う事ができなかったであろうから幸いであったが。
あれから俺達はずっと無言だった。

パチパチと火の粉が舞う。
ガル姫がゆっくりと顔を上げると口を開いた。
「おんしに合わせたい漢がいる」
いきなりの言葉。
何を思って言っているのであろうか、理解できず興味を持っていない様に見える俺に彼は言葉を続けた。
「その漢はわしより強い、無論おんし等足元に及ばぬ程にな
そしてその漢ならおんしの探している答えのヒントを掴めるかもしれんぞい」
ニヤリと意地悪そうに微笑む。
だが、俺の心を動かすには十分過ぎる言葉。
コイツに此処まで言わせ自身より強いと言い放った程の者。
そして先程の問いに答えられなかった俺への道しるべ。

もはや考える必要などなく俺は思ったままの言葉を口にした。
「面白い、会わせて貰おうか、その漢とやらに」
ずっと埋まる事がなかった穴。
森林に強い風が吹く、それにより煽られた火の粉は勢いに消されぬ様にしてより強く燃え上がる。
俺の空洞を塞ぐ事が出来うるかもしれぬ強者に俺の心はその炎の如く猛っていた。

120 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 04:17 [ D6wuMS4E ]
薄暗い場内に血しぶきが飛び交う。
群れをなした獣人達に対抗しているのは小さな灯火とも言える二人のガルカ。
その戦力差は誰の目にも無謀な行為としか思えぬものである。

この絶望的な差は常人ならば闘志を薙ぎ戦意を喪失させるには十分過ぎるであろう。
そもそも常人はこの様な行い自体をする筈もないが、だがそこにいる二人は自ら進んでその道を選び意思貫き拳を振るっている。
その心意気は数で優位に立っている獣人達に少なからず困惑を呼ぶものであった。

だがその勢いも長くは続かないであろう。
時間を置くことにより敵の思考はまとまり落ち着きを取り戻す。
立ちはだかる敵は自分達を越える兵である、だがこの圧倒的数の優位の前にはそれすら薄らがせるのに十分なのだ。

勝敗の行方を決めるのはほんの些細な出来事である。
ハッキリと分かる苦悶の声、獣人達とは違い聞き慣れたその声の主に視線を移す。
そこには彼の脳裏に浮かんだ通りの光景があった。

ガル姫の肩口には何か鋭利な刃物で切りつけられた後があり酷い出血を伴っている。
流れ出した血は彼女の白いローブを真っ赤に染め同時に体力を奪っていく。
「畜生、貴様等邪魔だ!!どけぇ!!」
幸いと言って良いのであろうか此方の声に反応を示した彼女を見る限り最悪の結果は免れている様だが此処は場所が場所である。
ガル姫自身治癒魔法を会得しているがこの様な乱戦ではとても唱えている時間などある筈もない。

文句が無防備となっているガル姫の元へと必死に向かう。
距離自体は大した事はない、だがそのほんの少しの距離を邪魔する障害物は疲労している自分を易々とは通してくれはしない。

事態が焦りを生み魔物の攻撃がモンクの横腹を突き抜けた。
吐血する俺に対しニヤリと笑うデーモンが酷く癪に障る、いたぶり楽しむつもりだろうか態々傷口に狙いを定め追撃をする。
「舐めるな!!」
分かりきった攻撃など予測しやすい事この上なく、俺は敵の攻撃に合わせ一歩踏み込み顔面を撃ち抜く。
そして左右から襲い掛かるゴブリンとクダフゥに足払いをかけてガル姫の元へと一気に跳躍すると、止めを刺そうと得物を振りかぶったオークの腹部に渾身の一撃を加え絶命させた。

「ガル姫…大丈夫か!?」
「…ふんっ…そう言うおんしも…相当辛そうに見えるがのう…」
歯を痛いほど食いしばりなんとか立ち上がるガル姫、出血はなお続き白かったローブは既に真っ赤に染まりきっている。
俺自身も似たようなもので無理な動きをした所為であろう腹部の傷が広がり出血が増し、視界ぼやけてきていた。

121 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 04:18 [ D6wuMS4E ]
だが、敵からしてみればこの様な好機を逃す筈もなく俺達の命を摘み取ろうと容赦なく襲い掛かってくるであろう。
奴等の目は完全に勝利を確信しネズミをいたぶる猫の如く輝いていた。

治癒魔法を行う時間など到底ないであろう、またそれを許す程奴等もバカではない。

敵の数はまだ半数も減らせてはいない、普通に考えればこの絶望下でここまでやれたのだから大したものだと思える筈であろうが俺には物足りない。
俺達の賭けた命はこの程度で使い切る程安い筈などないのだ、何よりも残った奴等は容赦なく内藤達の下へと走り抜け、彼等を襲うだろう。

だからこそ俺は友に対してのその死刑宣告と言える言葉を躊躇う訳にはいかなかった。
「…ガル姫、こんな事頼むのは酷かもしれないが…」
「…それ以上は言わんでもいいぞい…元よりわしは内藤どんに命を託したんじゃ
今更惜しむものでもないけん…後は任せたぞい…文句!!!!」

次の瞬間、ガル姫と俺の肉体を強力な癒しの光が包みこみ重傷だった傷を瞬時に癒していく。

女神の祝福。
獣人達にとって忌むべき存在であるその光は全ての魔物の矛先を術者へと強烈に引き付けるものであり、この状況下でその行為を行えばどうなるかなど言わずとも分かる事だった。

まるで文句の存在そのもの忘れたかの様にガル姫に対し集中的な暴力が振るわれる。
その狂気ともとれる圧倒的な攻撃の前に彼女はあっという間に飲み込まれる事となった。

「ウオオオオオオオオオォォォ!!!!!」
深い悲しみを吹き飛ばすように叫ぶ彼は決して振り向かなかった。
最高の友の、最高の贈り物を無駄にしない為に――

一つとなった灯火はもう一つの灯火を分け与えたかの様に強く燃え上がる。
まるで消えてしまう寸前の蝋燭の様ではあるがその輝きの力強さは美しいとも呼べるものであったのだろう。

122 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 04:18 [ D6wuMS4E ]
「お前が、ガル姫の言っていた漢か…」
ガル姫が連れてきた者は俺の思っていた想像とはかけ離れている優男だった。

金髪の髪にまだ少年の面影を残す顔は二十歳前であろう。
スケイル装備に身を包み腰に刺さった片手剣と手に持った大型の盾を見る限り、騎士の職を得ている者であると予想された。

しかし――。

「えーっと、ガル姫。俺には状況がよく理解出来てないのだが…
 これは如何いう事で如何してこうなったのか分かりやすく話してくれないかな
そして、そこの人。出来れば穏便に事を済ませたいのだが、…駄目?」
内藤と呼ばれる男から放たれる言葉は弱者を彷彿させるとしか思えない様な言葉ばかり、俺と戦う気などまるで感じられぬその態度はバカにされているとしか思えない。
猛っていた思いはそのまま怒りは炎の様に強く燃え上がる。

「内藤〜、とりあえず死なない様に頑張りなさい〜」
「手加減はしなくていいぞい、軽くぶっ飛ばしてやりんしゃい内藤どん」
そんな俺の思いなどまるで露知らずな言葉が飛び交う。

「そんな遠くから死刑宣告の様な言葉は酷いよマイハニー!!
そして無駄に相手を煽る言葉は止めてくれガル姫、本気でやばいって!!」
眼前で騒ぐこいつが俺を満たす漢とは到底思えない。
それどころか、仲間の女に助けを求める情けなさ。
分かり易いほどの軟弱振りは俺の怒りを煽るだけでしかなかった。

「ふんっ、貴様が言うからどれ程の強者かと思えばこの様な…」
言葉を吐き出し少しでも気持ちを落ち着け様とするがそれは全て無駄な行為におわる。
腕を鳴らし目の前の男を威嚇する、命が惜しければ立ち去れと言う意味も込めて。

「俺を侮辱するのもいい加減にしろガル姫!!
そこの弱者が痛い目を見ないうちに俺と戦え!!」
誰が聞いても分かる怒気の篭った声。
もはや、頂点に達しかねない怒りは言葉となり、この様なふざけた事を起こしたガル姫にそのままぶつける。

「痛い目を見るのは果たしてどっちじゃろうな〜」
そんな俺を嘲笑うかの様なガル姫の言葉。
まるで間違っているかの如きその態度と言葉は俺の逆鱗に触れるものだった。

「いいだろう、この男と戦ってやろう。
 ただし身の保障は一切しない、後悔するんだな!!」
言葉の通り、俺は一切の手加減をするつもりはなかった。
それはこの男が絶命する可能性の意味も含んでいたのは言うまでもない。

「コイツの次はお前だぞガル姫」
「ふん、いいじゃろう。
全てはおんしが勝てたらの話じゃがな」
最後に約束を取り付け俺は目の前の男を倒すべく飛び掛った。

123 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 04:19 [ D6wuMS4E ]
先手必勝。
何時もの様に最速で拳を繰り出す。
相手は今だ剣も抜いておらず無防備な体制のまま俺の拳をまともに受けた。

軽い。
吹き飛ぶ内藤を見て俺は自分の拳に違和感を感じた。

「ぬあぁ、痛い!!頭が割れる!!」
地面に激突したが男は直さま立ち上がり頭を抑えて叫んでいる。

普通に考えればあれだけ吹き飛ばされればまともに立てる筈がない、だが結果は自分の視界にあるとおり余裕のある内藤の姿。
そして何より、今まで数ある物を撃ち砕いてきた拳の感触がおかしかった。
まるで中身の入っていない箱を殴るような手応えなき感触。
あれだけ派手に飛んでおきながら元気この上ない内藤に俺は一つの答えを浮かべたがそれを認めたくはなかった。

俺は何か言葉を放つ内藤を黙らせる為に拳を振るう。
だが、先程とは打って変わり尽く俺の攻撃を避けていく。
「ガル姫、臼姫、本気の本気でやばいって。
俺このままだと死んじゃう、助けて!!」
俺の攻撃を避けながらも五月蝿い口は黙らない、これはもはや俺の拳を、武道家としての俺自身をバカにしている以外何者でもなかった。

「まだその様な戯言をほざくか!!」
大気に漂う力を肉体に取り込み爆発させる。

緑色に発光した拳を内藤に撃ち込む。
攻撃を受けた内藤の体が風に流された木の葉のように宙を舞う。
ガル姫を倒す為に会得した俺のとっておき一撃。

しかし、仕留める事は出来なかった様だ。
立ち上がる内藤、そして今の一撃で疑惑は確信に変わった。

この男は攻撃の威力を抑える為に自分で後ろに飛んでいたのだから。
攻撃が当たる瞬間自分で後ろに飛び威力を殺す。
言ってみれば簡単な事ではあるが実際にやる為には深い洞察力と良質な反射神経がいるものである。

確かに防御の技術は認めよう、だが手を出さずして勝負に勝てる筈などないのだ。

再び攻る俺の攻撃を交わすがここまでの戦いから相手の動きをある程度把握した俺は攻撃をまとめ相手を追い詰めていく。

左フックを交わし右腹部がガラ空きになったのを逃さない。
それに反応してか後ろに飛ぼうとする内藤の腕を咄嗟に掴む。
「あっ、やば…」
小さく呻く様に呟いた後、鈍い音が響き内藤の顔が歪んだ。
今のは間違いなく手応えがあった。その威力を表すかのようにその場に蹲り吐血する内藤。
タネが分かってしまえば如何という事ではない、要は攻撃を流せぬ様に身体を固定してしまえばよいのだ。

初めのうちならここまでで止めていたであろう、だがコイツの行動は俺の怒りに触れすぎたのだ。もはや止める事は出来ない。
蹲る内藤の顎を蹴り上げ、浮いた身体に追撃を加える。

124 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 04:20 [ D6wuMS4E ]
「ちょっとガル姫、本気でやばいんじゃないの!?」
最初とは違いあきらかに苦しんでいる内藤を見て臼姫が叫ぶ。
だが、そんな臼姫の言葉を無視するかの様にガル姫は黙ったままである。

「いいわ、私が止めてくる!!」
何も答えぬガル姫に業を煮やし顔を背ける内藤の下へと向かい走っていった。

「そこのガルカそれ以上の暴力は止めなさい!!
勝負はもう着いてるわ!!」
戦いの制止を呼びかける声が響く。
だが文句はその言葉などに耳を貸さず内藤に攻撃を加えていく。
襟元を掴まれぐったりとしている内藤、そして止めを刺そうと拳を振りかぶったモンクを光が襲った。

バニシュ。
完全に内藤へ意識を配ってい所為であろう、まともに神聖魔法を受けその場に倒れこむ文句。

文句から開放され倒れこむ内藤に駆け寄りすかさず癒しの術を唱える。
「…臼姫…体中すっごく痛い…なんとかして…」
なんとかまだ意識があったのを確認し安所の息を漏らす。
「大丈夫よ内籐、今直してあげるから――」
自分の怪我を見て悲しませてしまったのであろうか何時もの強気なイメージが消えた様な彼女を見て罪悪感が胸に宿る。

「…女が男同士の戦いに手出しするな!!」
攻撃を受けた事実より、勝負を邪魔された結果に怒っているのであろう。
拳を強く握り締め臼姫に殴りかかる。

「臼姫!!」
内籐が今までにない声を上げる。
「…痛たた、もう危ないじゃない!!」
「良かった、無事か…」
咄嗟に盾で防御したのであろう、吹き飛びはしたが怪我などは特に負ってはいない様だ。
「無事じゃないわよ、背中打った御蔭で結構苦しいのよ!」

会話のやりとりを中止させる様に地面に拳を撃ち込む文句。
「俺を無視するな!!」
コイツはとことん人をコケにするのが上手い様だ。
今度は邪魔などさせない、勝負を止めようものなら容赦なく排除する。

立ち上がる内籐。
どうやら先程の女の回復魔法が効いたのであろう、完全とは言わぬが体力を取り戻したようだ。

「…お前さ、何で臼姫に手を出したんだ?」
俺に対し問い掛ける内籐。
その声は先程までの軽い口調とはうって変わり重く鋭さを持っていた。

「これはお前と俺との決闘だ、それを邪魔する者を排除して何が悪い!!」
「…そうか…」
今までとは違う強い覇気。
それを感じ取ってか不覚にも体が震えた。

どうやら女に手を上げた事でやる気を起こしたようだ。
俺としてはこの男の本気を見れるのだから嬉しいものであった。
無論負ける気などまったくない。

「…来いよ、俺をぶちのめすんだろ」
冷ややかな声と手招きする様に手を動かす内籐。
俺はその言葉に答えるよう、拳を振るう。


二人の戦いなどお構いないしの様な風が辺りにゆっくりと吹き渡っていた。

125 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/15(日) 16:45 [ w76DtFEY ]
終わりじゃないよね???????
早く続きお願いします!!!!!

126 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 02:56 [ uL0B2Exg ]
うああああああああああ!!!
続き気になって眠れねeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!

127 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:44 [ TiU1aVHY ]
決して勝てない勝負。
長い人生において、その様な事態に見舞われる事もあるかもしれない。

圧倒的な実力者を前にした時。
覆す事の出来ない、数の暴力に襲われた時。
その事態に偶然出会った時、出会いし者はそれらに畏怖し己の身の不幸を呪うのであろう。

だが、時として。
それらに自ら身を委ね戦い抜こうとする者は果たして愚か者なのであろうか。
その絶望の淵に置かれし者が予想を覆す奇跡を起こす事が可能なのであろうか。

もし、その様な絶望的な状況下でも屈せず、最後まで己が意志を貫く者がいるならば
我々の予想外の偉業を達してくれるかもしれない。


荒い息が体から常に吐き出される。
腕を一振りするだけで体中の軋む音。
冷たい石の床は自身と敵から流れ出た血溜まりが出来ている。
すでに気を抜けば刹那に意識を失ってしまう程に肉体は衰弱していた。

倒れてしまえば、この様な苦しみから解放されるかもしれない。
抵抗などしなければ、これ以上の苦しみを身に受ける事など必要なくなるかもしれない。
それでも尚意識を保ち戦い続ける彼の姿勢は、ある種の拷問と言っても過言ではないのであろう。

昔の自分ならば当の昔に果てていた。
昔の自分ならばこの様な無意味な戦いなど挑みはしなかった。
だが、彼はある日を境として教えられたのだ。

誰かの為に力の振るう意を
その戦う姿勢と強さを

託された想いが彼の瀕死の身体を突き動かす。
託した者達の為にと両の拳に力を宿し、踏ん張りの利かぬ両の足を大地へと縫い付ける。

「どうした貴様ら!!その程度の攻撃など幾ら繰り出そうとも俺は倒せぬぞ!!」
鬼気迫るその雄叫びに畏怖する獣人達。

だが、彼等とて自身のプライドがあるのであろう。
目の前の、瀕死の男に背中を向ける訳も行かず飛び込みその命を散らしていく。

128 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:45 [ TiU1aVHY ]
戦いの最中それは起こった。

グシャリと何かが砕ける音。
敵を撃ち砕いた時とは違い内部から響いたその音は容易に分かるものであった。
砕けたのは俺の拳だった。

皮膚を破り、骨が露出し、指があらん方向へと曲がっている。
もはや使い物にはならぬであろうそれは誰の目で見ても明らかだった。

無理もない事だ。
強固な外皮を持ち、尚且つ鎧まで着込む多数の敵を相手にしていれば自身の耐久値を超えてしまうのも無理もない事である。
そして、それは俺に残ったもう一つの武器の残り時間を教えるものでもあった。

先程と同じ音が左拳を通じて全身に響き渡る。
遂に両の拳は砕け、ダラリと垂れ下がった拳からはまるで力が抜け出るように血が流れ落ちている。

敵が凶器を失った事を確認し獣人達の目に歓喜の表情が浮かぶ、それは強者が弱者を見下すそれと何等変わらぬものであった。

手に持つ得物を握りなおしゆっくりと距離を詰める。
その行為は今までの鬱憤を晴らすつもりであろう事と容易に読み取れた。

制空権に達し、勝利を確信した者は満面の笑顔を浮かべる。

獣人の誰もが文句の死を予想したであろう。
だが、その予想は見事に覆されるものとなった。

悲鳴が辺りに一体に木霊する。
彼は諦めてはいなかったのだ。
その声は襲い掛かった者の苦悶の声。
その場に転がり首元から勢いよく血を噴出していた。

動脈を噛み千切ったのだ。
その行為にそれまでの歓喜の表情が消え一斉に飛び掛る獣人達。
だが、眼前の男は彼等の予想をとことん裏切ってくれた。

飛び掛る彼等に対し腕を振りかぶる。
腕力によって叩き付けただけの拳に従来の威力はないが敵を怯ませるには十分過ぎるものであろう。
体制を崩した者は踏み砕かれ、動きの鈍ったものは皮膚を食い千切られ血を撒き散らす。
その常軌を逸した戦闘本能は彼等の表情から徐々に余裕を奪っていった。

129 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:45 [ TiU1aVHY ]
恐怖に奮い立たされ襲い掛かる敵の攻撃は彼の視界を奪い更なる傷を増やしていく。
それでも倒れず反撃を止めないこの男、一体如何なる化け物であろうか。

何故、動ける。
何故、それだけの傷を負いながらも力強くいられる。

力を主としてそれらを己の誇示として振るってきた彼等には決して分からぬ事であろう。

「…貴様等には分からんだろう…所詮…肉体など魂の器に過ぎんのだ…
 この身体を支えているのは…俺の…ガル姫の魂に他ならない…
 さあ…俺の魂毎…砕いて見せろ!!!」

新たにこの世を去った獣人の喉元に深々と突き刺さっているのはガル姫が使っていた両手棍。
彼はそれを口で加え振るったのだ。

彼が言った言葉の意味など分かる筈がない。
ガルカと言う種がいかに他の人間種族に比べタフだからと言っても限度がある。
拳は砕け、視界を奪われ、体中到る所に傷に負った傷は今も耐えまず血を流し続けている。
当に絶命していてもおかしくないその肉体で彼等闇の王の精鋭を前に達を立っているその異常に畏怖しない筈がない。

どんなに攻撃しても止まる事のないそれを一体なんと表現すれば良いのであろうか。
自身から流れ出た血と獣人の返り血を浴びて染まった体。
必死に両手棍を噛み締めるその表情。
その姿は彼等が言うには御幣があるかもしれないが正しく悪魔と呼べるものであった。

人に恐怖を植え付けてきたのが彼等獣人。
ではそれらを恐怖させる目の前のこの者は一体如何なる異常であろうか

元来ここに配備されている獣人達はデーモン族を除けば心の底から闇の王へと忠誠を誓っている訳ではない。
彼等を支配しているのは力の誇示によるもの。

減少していく同属達。
それに伴い近づいてくる次は自分の番ではないかという恐怖。
刷り込まれていた恐怖とは違う新しい恐怖に脅えるように彼等は動きを鈍らせていった。


俺は死地を決めている
そこに後悔などはない

体はとっくに限界を超えている
それでも動くのであれば休む訳にはいかないのだ

もう余分な事など考えている暇はない
今あるのは目の前の敵をどう殺すかだけだ
そしてそれさえもいずれ頭の中から消え去るであろう

後は――
俺の体が朽ち果てるまで――

130 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:46 [ TiU1aVHY ]
バタリアに風が吹く。
俺はその切り立った崖沿いから海を眺めその風を身に受けていた。
勝負で追った傷に潮風が当たり少々痛んだが特に気にはしない。

内藤との勝負から三日が経過していた。

「こんな所に追ったのか、探したぞい」
「…今更、何の用だガル姫」
探したと言ってはいるがただの口並べに過ぎないであろう。
勝負以降毎日同じ場所で何をするでもない俺に会いに来ているのだから尚更だ。

「何の用とは失礼じゃのう、勝負に勝ったら戦えと言ったのはおんしじゃろうが」
その言葉に強く反応し立ち上がる。
「…バカな事を言うな、あの戦いの勝利者はあいつだ」

三日前の戦い。
別人の様な覇気を纏い挑発する内藤に拳を振るう。
先刻までの戯けた様子など一切感じさせず繰り出される攻撃の数々は明らかに俺の予想を覆すものであった。

だが、俺とて意地がある。
手数に圧倒されながらも反撃を繰り出す。
しかし、幾ら攻撃を喰らおうとも奴は倒れず前に出続け次第に俺を下がらせていく。

そして俺が問題とする決着の時。
攻撃をかいくぐり懐に飛び込んだ内藤は下から切り払いそのまま跳躍し無防備となった俺を貫くはずだった。

しかし、結果は俺の勝ち。
破れかぶれで出した拳がカウンターとなったのだ。

だが、俺に理解できた。
あのまま振り下ろしていれば俺の命はなかったであろう。
そして内藤はそれを恐れ軌道をそらしたのだ、俺の命を助ける為に…。

「だが、勝負で勝ったのはお前じゃぞい」
考えに耽っている俺にガル姫が言葉を紡ぐ。

満たされてはいない
だが、何時もとは違う何かが俺の中に沸きあがっているのは確かだった。
「…分からない」
思わず俺は思っていた事を口に出していた。

「何故、あれ程まで強さを持っていながら隠していた」
後半のまるで別人の様な勢いの動きに俺は恐怖していたのだ。

「何故だ!!教えてくれ、このままではやり切れない…」
叫びガル姫に答えを求める。
俺の言葉に理解を示してくれたのだろう、悟ったような表情で此方を向くとゆっくり口を開く。

131 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:46 [ TiU1aVHY ]
「守るべき者の為の力、守るべき者がいる故の強さ
それがあの漢の強さの結えんじゃけん」

「内藤に会わせる前、おんしは力なき弱者はただ地面を這いつくばって生きる宿命と言った。たしかにどのような弱者でも牙を持てるじゃろう。
だがな、その牙には大小があるんじゃ。その者には越えられぬ壁、阻む障害。
なればどんなにもがき足掻こうとも歯が立たない者達はどうすればよいんじゃ」

その言葉の一つ一つが俺の心に響く。

「わし等の鍛えし牙はそんな力なき者達を守る為にこそあるんじゃなかか?
ただ振るうだけの牙に何の意味があるのじゃろう、それでは獣人達何ら変わらんけん」

力の意。
何故に力を求めるのか。

それは今まで自分自身の為にだけ考えてきた。
だが、こいつらは違のだ。

自身の力は誰かを守る為にある。
そしてそれこそがこいつらの強さであり力なのだ。

俺達ガルカは記憶を引き継ぐ事のできるのは語りべただ一人。
だが、記憶の様なハッキリとしたものではなく強い思念などなら如何であろうか。

守れなかった。
守りたかった。
その様なやり切れぬ強い想いが肉体に執着し残っていたとすれば。

もしかしたら俺にも誰かを守りたいと思っていた時があったのかもしれないな…。

132 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:47 [ TiU1aVHY ]
「文句、わしらと一緒にこんか?」
物思いに耽る俺にガル姫が言葉をかける。
「嬉しい誘いだがそれは叶わぬ願いと言うものだ。今更――」
今更どの面下げて内藤に会えと言うのか。

そんな俺に対し口笛を吹き含み笑いをするガル姫。
その意味は直に理解できた。

何時の間にかガル姫の後ろに内藤の姿。
隣にいる臼姫の御蔭であろう、俺の負わせた傷はすっかり完治しているようだ。
「今の話はしっかりと聞かせてもらったぜ」
何故か親指を立てて満面の笑顔を浮かべている。

俺は内藤の意図が分からず不可思議な表情を浮かべていると臼姫が身体を乗り出し答えてくれた。
「鈍いわね〜、別にあんたが旅に着いて来る事に特に不満はないって事よ
むしろ私に手を出した償いとオマケで内藤に怪我させた事でしっかりと働きなさい!」
「マイハニー、俺はオマケなのか〜」

その言葉とやり取り。
少し前の俺なら下らないと思っていたであろう。
しかし、今の俺には何故か心地よく思わず笑いが零れた。

そして大笑いする俺の肩をガル姫が掴むと俺にこう教えてくれる。
「いかん、いかん。嬉しい時や気合を入れるときはこうじゃけん。
しっかりみんしゃい」
するとガル姫は両手を高らかと上に挙げ大声で叫ぶ。

「パワーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
余りの音量に耳を塞ぐ内藤と臼姫。
そして俺にもやる様に催促を進めるガル姫に従い同じように声を上げる。

「パワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「うほ、良い声じゃのう。
わしも負けてられんわい!!」
「あ〜、ガル姫出来れば止めて欲しいんだけど。
 耳がすっごく痛いんだけど俺…」
結局、内藤の願いは空しく空回りしたのだったが。

133 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 18:47 [ TiU1aVHY ]
先程までの喧騒が嘘の様に止まり静かな刻が流れている。

文句の動きは止まっていた。
仁王立ちのまま息絶えたのだ。

だが、獣人達は自信が勝利者だと思う者は誰もいないだろう。
本来憎むべき対象とも取れる文句に触れようとする者は誰もいなかった。

二百近くいた彼等の数はもはや数える程しか残ってはいない。
恐怖を心に刷り込まれた彼等の表情にはすでに覇気がなく、もうまともに戦う事等できはしないであろう。

果たして
この戦いにおいて真の勝者とは一体誰であったのだろうか。

状況だけ見れば生き残った獣人達であろう。
だが、彼等の心に刻まれしものは決して拭う事の出来ぬもの。
戦う力を失った彼等は死んでいるも同然であるだろう。

そして、その場にいる者は誰一人として気付かなかったであろう。
何かをやり遂げたような満足した笑みを浮かべた文句を
恐怖の虜となった彼等には決して



一頻り叫び終えた俺に少し疲れた様な顔をした内藤が此方に歩み寄ってくる。
だが顔を振り、また直に満面の笑顔。

「まあそういう事だから、これからも宜しくな文句」

差し出される掌。
俺はそれをしっかりと掴んだ。


きっと、彼等は俺にとっての風なのであろう。

縛られた想いはもう存在しない、楔から放たれた開放感。

俺は彼等に付いて行く風に乗る砂の様に、自由に生きる彼等を見てみたい。

そして俺は彼等の行く末を、結末を見てみたいから

拳を見つめる
俺に器用な生き方は出来ない、この先もこの拳で道を切り開いていくであろう。

だが――

それは壊す為ではなく
誰かを守る為に振るう

守るべき者が今の俺にはあるのだから
だから俺は彼等の為にこの拳を振るおうと

風が

ゆっくりと

吹き始めていた。

134 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/16(月) 23:18 [ nxzFZMtQ ]
GJwwwwwwwwwww

でもリメイク世界の内藤ってもっとクソ真面目な奴じゃなかったっけwwwww
マイハニーとか言わないようなwwwwwwwwwww
最近隔離スレに降臨してる小説風作者の影響か、今回ちょっと笑いが入ってるねwwwwww

135 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/02/17(火) 01:14 [ FaXk7reo ]
>>134さん
感想どうもです。
内藤ですが真面目な時はとことん真面目で普段はお馬鹿さんな感じで書こうと思っていますwwww
なので今後回想の入ってる所で変な台詞を言わせると思いますがそこは仕様と言う事でお願いしますwwww

笑いは出来ればもっと入れたいのですが自信の未熟さと話の内容上難しいですねorz

136 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/17(火) 12:05 [ E.MCbcfM ]
おおおおおおお・゚・(ノД`)・゚・
文句カコヨスギ!!!!!!!!
ロドオブザリングの戦争シーンを見ているようでした!!!
リメネ申ありがとうありがとう・゚・(ノД`)・゚・

これからもがんがってくれ!
パワーーーーーーーーーーーーーーー

137 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/17(火) 13:15 [ ZcjqQnLY ]
パワーーーーーーーーーーーー!!!!!
グッと来た。 最高だ 。・゚・(ノД`)・゚・。

会社なのに涙腺が・・・が、ガムテープどこーーーーーー目が目があああああ
GJ!!

138 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/18(水) 06:51 [ rxD3kDF2 ]
相変わらずSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!
ただ文を読んでるだけなのにまるで映像が流れてるかのようにその場面を想像できる。
ほんと書き方うまいなぁと思いますた。
GJ!!!

139 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/18(水) 22:29 [ pG3hbArg ]
GJ!面白かったです^^

読んでてすごく気持ちよかった。
まぁパターンは王道系で目新しいわけではないけれど。
描写が回を重ねるごとに、豊かになっていってますねぃ♪

閑話休題。
ここだから描写あんなこんなで「うぉ、かっけ〜〜」って感じだけど。
以下台詞抜き出し。

ぱわ〜〜〜〜!
パワ?パワ・・・パワァァァ-----!
パワーー(以下略

と、文句とガル姫の台詞ぜんぶこれで、話中の台詞を字幕に脳内変換
して、すげぇ笑えたのはまた別の話^^;

うはwwwwwおkkwwwwwww

140 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/02/20(金) 00:56 [ yOoc062Q ]
>>136>>137>>138さん
感想、有難うございます。
皆様がもっと楽しく読んで頂ける様、頑張りますね。

>>139さん
新しい視点の見方を教えてくれた彼方はGJ!!!



密かに74さんがお話投下してくれるのではないかと楽しみにしているのは内緒です。

141 名前: 78 投稿日: 2004/02/20(金) 13:19 [ uI68M0pY ]
 ガル姫と文句読みました。
今まで他の作品で読んだとき
「パワーーーー!!」と「ウホッ、やらないか?」
この二言しか聞いたことが無かったのですが、
それとは異なる会話内容に、新鮮さを感じました。

>密かに74さんがお話投下してくれるのではないかと
 楽しみにしているのは内緒です。

自分じゃなかったことに胸を撫で下ろしているのも内緒です・・・
・・・煮詰まってます・・・

142 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/20(金) 19:29 [ myXeV2b. ]
>>78
君って自己顕示欲の固まりだねwwwwww

143 名前: 78 投稿日: 2004/02/24(火) 13:04 [ WjTClNEw ]
 うはwwwwおkkwwww

144 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/02/24(火) 20:17 [ U8IG2HtI ]
4日間wwwリメ氏にすら擁護してもらえずwww泣きながら>>143を書き込んだ78に萌えwwwwwwwwwww
がんがれwwwww物書きは叩かれて成長するwwwwwwwwwwwwwwwwwのはリメ氏くらいだと思うwwwwwwwwww

145 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/01(月) 17:05 [ 4j5YVvlc ]
たまにはage

146 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/08(月) 12:48 [ RkpRCiwI ]
保守age

147 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/12(金) 19:47 [ WwABCPXA ]
誰も言わないから失礼かとは思いますが言わせてもらいます

次回作の予定とかどうなってますでしょうか
楽しみにしておりますのでよろしくお願いします

148 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/15(月) 22:32 [ gO6aPyao ]
|w・)<最近忙しくて時間が取れませんでしたがなんとか緩やかな状況になってきたので近々続き上げれると思います。

149 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/17(水) 13:41 [ kHsVPGvA ]
リメ神を宿にてまちつつ


age膳据え膳まち!

150 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/18(木) 09:51 [ EoJ03H/k ]
予告キターーーーーーーーーーーーー!!!
激しく楽しみにしております(`・ω・´)


ところでちと提案があるんだが・・・

このスレって現状、書き手が2人しかいないんだよね。
しかも2人とも忙しいみたいであまり作品もアップされないしそれ故このスレの存在を忘れてる人も少なくないと思う。

んでさ、ちょっとでも盛り上げるためにもリメ氏専用スレじゃなくて
「wwwww関連小説スレ」って感じで使わないか?
隔離スレの方にもまた小説風の書き方をしてる人がいたし、結構こういうのが好きな人も多いと思うんだよ。

せっかくおもしろいスレなんだからもっと盛り上がってほしいなぁ(´・ω・`)

151 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/18(木) 12:32 [ 3nskiNko ]
ここはリメ神専用のスレだ!
wwwwww関連スレは別に立てろ!

…ってな反論きそうなんだが。
リメ神の作品が好きでここを楽しみにしてる香具師
結構いるんじゃない?
漏れも毎日の巡回コースに入れてるYO

152 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/18(木) 13:02 [ qniHUBcY ]
もれもー

153 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/18(木) 13:02 [ qniHUBcY ]
もれもー

154 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/18(木) 20:35 [ 13kdJpdI ]
ここはリメ神専用のスレだ!
wwwwww関連スレは別に立てろ!

いやダメだwwwこれ以上乱立させてどうすんだwwwwwwwww
小説形式で書きたければ隔離スレに書けばいいだろwwwwwwwwwwww

155 名前: 150 投稿日: 2004/03/19(金) 05:19 [ dG05mTGQ ]
おれもリメ神の作品は楽しみなんだがそんなに頻繁に投稿されるわけでもないし
他の職人達にも書き込んでほしいなぁと思ってね。
最近書き込みも少ないしなぁ・・・
まあマターリ進行で悪くはないんだけどね。

156 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/20(土) 13:40 [ psvBf7wE ]
|w・`)<半分投下!!
ただ単にまだ書き終わってないからなんですけどねorz



薄暗い通路に松明の僅かな灯りが陽炎の様に浮かんでいる。
この短時間で見慣れてしまった光景。それは思い出してしまえばなんとも心苦しい刻であった。

「俺って奴はやっぱり何かと運がないんだよな…」
額を押さえ肩を落とし嘆息する。
もう一度確認する様に辺りを見渡すが自分以外誰の姿も見当たらない。

ほんの数時間前。
彼の周りには十一人の仲間がいた。

非業の刻と言うものなんとも残酷なものだ。
一人、また一人と彼の周りから仲間を奪い取っていく。

そして先刻。
仲間達の踏み台を乗り越えた六人の仲間と一緒だった。

だが、現在の彼は紛れも無く一人身となっている。
少しだけ前の記憶を辿る。
文句とガル姫と別れ彼等は見慣れた未知の通路を駆けていた。
単純な一本道の行き止まりはちょっとした広間になっておりその真ん中には転送装置。
そこまでは一緒だったのだ、つまる所装置自体に一工夫施されていたようだ。

「……ランダム転送か、厄介だぞこりゃ」
あまりに単純だがそれでいてどうしょうもない罠に見事に引っ掛かった自分にやり切れない思いを感じ舌打ちする。

彼自身見ず知らずの場所で一人になる事自体は珍しい事ではなかった。
むしろ内藤達に会う前はよくこうして一人でいる事は多かったかもしれない。
一人の時間と言うものは普段の刻よりもずっと遅く感じるものだ。故に湧き上がる思いは何時もよりも強く、この様な場所では悪い方向へとばかり考えがいってしまう。

嫌な想像を振り切る様に頭を振るう。
ともかく此処でじっとしていても意味がない。

「皆、無事でいてくれよな」
誰にとも無く呟いた言葉は彼の想い。
切にそうである事を願って。

無事に皆と合流出来る事を思い彼は駆け出した。

157 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/20(土) 13:41 [ psvBf7wE ]
深々と雪が降る。

乱れる息に高揚感を感じる事なく温まった肉体。
肌に当たる小雪は今の身体には心地よい冷たさだ。

体が軽く震える。
それは寒さによるものではなく自分達の置かれている状況を肉体が示している故であろう。
不快感のみが募る状況ではあるがこの感覚さえ生きていればこそ味わえるもの。
失ってしまえばもう遅く、それでいてそれを知ることは即ちこの世界から去る事を意味していた。

「―――父上、流石にこの状況は少々辛いものがあると思うのじゃが」
「何を言うか娘よ、追い込まれた時こそ不適に笑うのが真の強者ぞ」
鼻息を荒く好戦的な姿勢のイ寺に対し溜息混じりの巴姫。

彼女が頭を悩ませるのも至極当然であろう。視界内に収まりきらないほどの獣人達。
背後は崖が壁の役割をしてこれ以上の逃避を許さない袋小路である。

無論彼女等も並の実力者ではないので抵抗の証と見られる敵の屍が辺りに転がっている。
何にせよ十や二十斬った所で如何しようもない状況。
現に敵も此方に対し一気に襲い掛からず消耗する様をじっと鑑賞して楽しんでいるようにも見えた。

「無駄に命を散らしたくなくば糞樽殿から貰った呪符で退散しても良いのだぞ」
唐突にイ寺が囁く様に言葉を発する。この父の性格上退散と言う言葉がでるのはなんとも珍しい事であったが。

呪符。
この戦に出向く前、糞樽から渡された緊急用品。
元々少人数での誘導にも限界があるのでそれは至極当然の物ではあったのだろう。

だが――。

「――内藤殿達が決死の戦に身を投じていると言うのにわらわだけ身の保身を得るなど出来ませぬ、糞樽殿には悪いが処分させてもらいましたわ」
「ふんッ!良くぞ言った。それでこそ我が娘よ。死地へと向かうにあのような物邪道に他ならぬ。生死と常に隣合わせでいる事こそ己が潜在能力を存分に発揮できる事と繋がる。拠り所を得てしまっては刀が鈍ってしまうわ。故に即刻焚き火の燃料として使ってやったわい」
ガハハハッと高笑いをするイ寺。
そんな此方の様子を見てか獣人達がゆっくりと距離をつめる。

「絶対絶命ですのう父上」
額に冷たい汗。
刀を構え小さく息を吐く。

「臆したか娘?」
まるで何かを試すかのような口調。
心を落ち着けると不意に一人の男の顔が思い出された。

それは焦がれ切望した男の顔ではなく、彼女にとって馴染みの強い家臣の一人。
間抜けな仮面の奥の顔は終ぞ見る事は出来なかったと場違いな事を思い浮かべる。

まったく今の自分はどうかしている様だ。
不意に可笑しくなり不適に笑みを浮かべてみる。

その表情に満足したかイ寺は状況に見合わぬが彼らしい笑みを浮かべた。

158 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/20(土) 13:41 [ psvBf7wE ]
金属音。
踏みしめる地は赤い雪。
沢山の屍の山の上に動く二つの影。
対峙しているのはオークの騎士と隆起の姿。
隆起が槍を振るい相手の片手剣を弾き飛ばすと一気に距離をつめる。

殺気。
左方から感じたそれに反応し一歩退く。
途端に鼻先スレスレを刃が通り前髪が焼けた。

視界内に亀の姿。
隠れて隙を伺っていたのか血に塗れてはいるが目立った外傷はない。

追撃を繰り出そうとする亀。
腰を落として攻撃をかわすと腹に槍の柄を撃ち込み距離を開ける。
そして、そこを狙い撃とうとしたオークの繰り出される刃を少しの動きでかわすと右脇腹を狙って槍を突き出す。
固い鎧と皮膚を突き抜け柔らかい臓器を貫く感触が手に伝わる。
だが此処までの戦闘の疲れが出たか、敵の意思の強さか二、三度痙攣するも絶命せずその手はしっかりと槍を掴み、離さんとしていた。

(仕留め切れなかったか)
爪の甘さに内心舌打ちをするとその心境を察したようにオークの顔が嫌らし気に微笑む。
意識せず条件反射的に身体を反らすと刃が頬を掠り熱が生まれた。
鼓膜に届く風切り音が生死の瞬間を強く実感させる。

勝利を察したか嬉しそうに笑みを浮かべる亀。
刹那。亀に光が走りその姿勢が僅かに傾くのを彼は見逃さなかった。
手に力を込め、槍を回し強引に引き抜く。
壮絶な悲鳴を上げオークの身体が地に沈み亀の視野から隆起の姿が消えた。

身体の芯に鈍い音。
そしてその姿を確認する事無く彼の敵は生涯を終えたのだった。


「危ない所だったなご主人」
背に生える翼を羽ばたかせて話しかけるは隆起の子竜蜜柑。
「蜜柑たーん。危ない所をありがとう。御蔭で助かっちゃたよ」
此方に抱きつこうと跳躍する隆起をヒラリとかわす。
「そんなに照れなくてもいいのに〜」
本当にこれが先程までの人物と疑いたくなるかの豹変ぶり、これが自分の主人なのかと思うと毎回頭が痛くなる思いだ。
「ご主人、いい加減その頭のネジが三本外れたセリフ如何にかならないか?」
なんとかなるなら苦労はしないのだろうが言ってしまうのはもはや習慣だろう。
呆れた声もこの男にはまるで伝わらないのか輝きさえとれる笑顔を此方に向けた。

「それにしても良くこれだけの数を相手に生きてたなご主人。その無駄に高い生命力だけは褒めといてやるよ」
蜜柑の見渡す限り数えるのも億劫になる屍の山。それだけの敵を相手にして生き残った隆起の力は賞賛に値するのは確かだろう。
「それはもうあれだ、蜜柑たんと俺の愛の力に決まってるじゃないか。俺は蜜柑がいる限り何時までも何処までも戦えるぜ!!」
親指を高らかに上げ絶妙なスマイルを放つ隆起。

だが、そのポーズも長くは続かなかった。
辺りに無数の殺気を感じ隆起の顔が真顔に戻る。
まだまだ戦いは終わらない事に蜜柑はさらなる頭痛の種を覚えて嘆息した。

159 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/20(土) 13:42 [ psvBf7wE ]
「なんでや、なんでウチがこんな目にあうんやー!!イ寺はん、巴姫はん、隆起はん何処やー!!」
ザルカバードを一心不乱に走り抜ける歌樽。
その後方にはチョコマカと動く歌樽に対し業を煮えたぎらせた獣人の群れが出来上がっていた。

「ホンマ堪忍しといてやー!!」
助けを請う為に大声を上げているのだろうがそれが敵に位置を知らせているのだと果たして気付いているのか否か。

耳が痛くなる様な大声を上げながらまるでシーフの如き速度で走る。一体あの身体のどこにこれだけの体力があるのやら。
その意外な韋駄天的脚力で徐々に相手との距離を離していく歌樽だったが世の中それ程甘いものではない。
まるでお約束と言わんばかりに豪快に転ぶ。

苦労して追い詰めた獲物を前にし喜びの態度を見せる。
「も、もう駄目や〜。この世には神様なんていないんや〜」
恐怖に目を瞑り耳を抑える。
だが、何時まで立っても覚悟した痛みも無くおそるおそる目を開けようとしたその時。

轟音。
それと共に眼前のオークの頭が吹き飛ぶ。
続く轟音。
その音に合わせて次々と倒れ伏していく獣人達。
目の前の光景に驚き呆然とした。

「うぃーっス!!生きてるっスか?」
少し山になった位置から此方を見下ろすように声が響く。
場に似合わない軽い口調と共に見慣れた顔の男が姿を見せた。
「とうッ!!」
掛け声を発し飛び降りる。
着地までに一回転、二回転と前方宙返り。
二回の捻りを加えて見事に着地した。
だが、回転最中も銃を命中させる辺りこの男の腕前はどういうレベルなのだろうか。

「は、廃狩はん!?」
あまりに意外な登場にアングリと口を開ける歌樽。
むしろ呆れているのかもしれないが。

「誰かと思えば団長の昔の女じゃないスか。しかも一人しかいないし。残念、巴さんとかなら良かったのにぃ」
歌樽だと姿を確認するや否やあからさまに不満げな顔をする。
「あんさん今さり気にすっごい失礼な事言ってへんか?」
「いやいや気のせいッスよ気のせい。それよりも俺が来たからにはもう安心ッスよ」
意外な迫力にたじろぎ慌てて話題を摩り替えようとする廃狩。

「まあ、不満は残るけどともかく助かったわ早いとこ逃げるでぇ」
一刻も早くこの場からトンズラしたいのだろう。言葉を放ち背を向ける。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、何言ってるんスか。戦うんスよ、戦い。その為に来たんスから」
逃げ出そうとする歌樽の襟首を掴む。
グエッと鈍い声が聞こえたかも知れないがその変は気にしないでおこう。

廃狩の言葉を聞き歌樽が目を点にして此方に向き直る。
「あんた馬鹿か!?この状況でどうしたらそんな言葉が吐けるんや。大体、内籐はん達はちょっとだけ誘導してくれれば美味しい物たらふく食わしてくれるゆうさかいこんな寒くて遠くて危険な場所まで来たさかい。ほんでもし危のうなったら呪符デジョンで逃げる筈やったけど気付いたらウチどっかにおっことしてもたん。しかもオマケに巴姫はん達とも逸れるしウチもう駄目やーと嘆いてた所でようやくまた助かる見込みが出来たのに何で戦わなあかん?ウチらの仕事はここの敵全滅する事のわけやないんやで!?」
耳元で大声を出された所為か廃狩は耳を押さえている。
「それにウチら二人が足掻いてもどうにもなるもんじゃないやろ!!」
その言葉を待っていたかのようにニヤリと笑う。

「確かに――二人なら無理っすね」
明らかに意味有り気な表情を表に出す。
歌樽からしてみれば一刻も争う事態にもったいぶる行為は受け入れられず胸倉にぶら下がり催促を求める。
「何か宛があるんならさっさと言いや。ウチ今、余裕ないねん」
何か言い知れない凄みを感じ首を縦に振ると胸元からリンクパールを取り出し何かの合図を送った。

途端。
空を何かが遮った。
後方の獣人達から悲痛の声が上がりそれが何か判断する。

沢山の矢と黒魔法。
その出所から沢山の人影が姿を現した。
高価な装備を纏い鋭い視線と独特の雰囲気を投げかける者達は一目で相応の実力者と気付かせてくれる。
殆ど面識のない人間ばかりだったがチラホラと何処かで見たような顔も見受けられた。

事態が飲み込めず混乱している歌樽に廃狩が得意げに説明を施す。
「分からないッスか?団長のHLSに現存する討伐シェルの殆どをこの地に集合させた訳ッス。まあ言うなれば連合軍って奴ッスね」

声を高らかに上げ開戦の合図を行う猛者達。
少々混乱気味ではあるが一つだけハッキリと理解出来る事があった。

これはこの絶望化にさした希望の光だと言う事が――。

160 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/20(土) 13:43 [ psvBf7wE ]
「――で、用があるなら姿を見せて欲しいんだけどな」
長い通路を抜けた先にはこれまた何度も見たような広い部屋が広がっていた。
部屋に入るや否や糞樽は足を止めると誰にともなく話しかける。

「それで隠れてるつもりなら俺も随分と安く見られたもんだぜ、それとも単にお前等が予想以上にヘタレなのか気配でバレバレなんだよな」
ヤレヤレと手を動かし呆れたように頭を振るう。
そんな様子を見てか気配はハッキリとした形を成し、二匹のデーモンが姿を現した。

「多少は出来るようだな。流石に此処まで来ただけの事はあると言う事か」
「だが、我々の実力も理解できぬ辺り頭の方は良いとは言えないな」
放つ気配は明らかに強者のそれ。自分の身の丈を超える大鎌とそれに対照的な短剣を所持した二匹の悪魔が語りかける。

「弱いと思う相手に二人がかりとは随分だな」
二匹の猛者に囲まれてはいるものの平然と毒舌を返す糞樽。
その心意気は大したものである。
「例え相手が弱者であろうと全力を持って潰すのが我等の信念でな」
「故に卑怯とは思っておらぬ、戦いとはそう言うものであろう」
あからさまに此方を見くびった面。
それが酷く癪に障る。

内心こんな所で足止めを食っている訳にもいかない。
だから彼とて手加減をする気など毛頭なく、これ以上余計なセリフを吐くつもりもなかった。

「まあ、口だけの輩がギャーギャー騒ぐのを聞いてるほど俺も暇じゃないんでね。道を開けて貰えないかな?邪魔をするなら強硬手段に取らせてもらうぜ」
手を寄せるようにヒラヒラと動かし挑発めいた行為を行う。
それを見てかデーモン達の表情が怒りのそれに変わり殺意を前面に押し広げる。

「ふッ!!良いだろう数刻先貴様は後悔するだろうな。自分の言ってしまった愚かな過ちを!!」
「外でたむろしている貴様の仲間も時期に同じ運命を辿るから、寂しがる必要はないぞ」
片方のデーモンの言葉に反応し失笑する。

「―――お前ら、何か勘違いしてないか?あいつ等の事を最も理解しているのは他ならぬこの俺だ。だからこそ、俺はあいつ等を心配なんざしちゃいねえ、俺がやる事は結果を成す事。あいつらに示さなくちゃいけないんだからな!!」
言葉と共に辺り一体の空気が張り詰める。
糞樽から放たれた覇気であろうか。

その重みはデーモン等の表情を変えるほどのものであった。

辺りが静寂に支配される。
だが、それも長くは持たないであろう。

互いに睨み合い火花を散らす。
先に動いたのはデーモン。
糞樽はそれを迎え撃とうと呪文を詠唱する。

戦いの火蓋は切って落とされた。

161 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/20(土) 17:31 [ g460y4WU ]
新作きてたーーーーーーーーーーーー

お疲れ様です。
続き待ってますwwwwwwwwww

162 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/21(日) 12:26 [ IWcOq2Uw ]
新作GodJobwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
毎度の事ながらスンバラスィ文章使いで御座いますwwwwwwwwww
じっくり続きをお願いしますwwwwwwwwww

163 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/22(月) 13:16 [ wp88sQVA ]
廃狩が登場した時
連合軍が登場した時
BUMPのセィリングデイが丁度始まったんだ
鳥肌がたつほど感動した
今wwwwwwwwこkにwwwwwwwwwwwwGODJOBwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

164 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/22(月) 18:50 [ jH.kjVvc ]
|w・`)<これで半分ちょいだと思います…投下!!


獣人達の群れ。
その中の一角にまるで焚き火を囲うようにして空いた一つの穴。
白の大地に赤の色を染め上げているそこで戦う二人の人。
物体を斬る鈍い音が響くと群れの一匹がその場に倒れ伏した。

荒い息と上下する身体は深々ともに疲れきっているのであろう。
目に見えて疲労する巴姫。それと背中合わせの大男イ寺。

たった二人がこれ程の勢いを見せるとは予想し得なかったであろう。
だが、状況は彼女らにとっては最悪で。もはや敗北は目に見えていた。

数秒先か数分持つのか。
どっちにせよ死を間近に感じる彼女らは己の刀を力の限り振るうしかなかった。


「後方黒魔道士、狩人部隊一斉射撃―――放て!!」
聞き慣れない声が辺りに木霊する。
何気なく顔を上げると空を何かが覆った。

それは矢軍と黒魔法。
獣人達に向けて放たれたそれは彼等にとって予想外であり破壊的な力だったのであろう。
貫かれ身を焦が、氷結、切り刻まれる等様々な物理力が勝利を満喫していた彼等を襲った。

「前衛班進撃!!白魔道士部隊は前衛を援護、敵は全て前衛が抑える!!各自、全力で自分の仕事をこなせ!!」
新たに声が上がる。
大地を揺らすは戦士達の雄叫びと力強き前進。
不意打ちの体制を整えようとする獣人達にその屈強な肉体を魔法の補助を受けた猛者達が次々と襲いかかる。

先程までたった二人で戦っていた景色が一転し多人数対多人数の白兵戦となる。
体制を整えるのも間々ならず浮き足立った獣人達は突然の来訪者達に次々と薙ぎ倒されていく。
その光景に触発されたのであろうイ寺も負けじと雄叫びを上げ人の群れへと消えていく。
彼にとって傷や疲労などなんとも無いのであろうか。あれが父親だと思うと頼もしいのか悲しいのか分からず嘆息を吐いた。

だが、希望の光だったのだが実際の所何故この様な事になっているのか分からず頭を傾げる。
そんな彼女の身体を優しく暖かな光が包みんだ。

165 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/22(月) 18:51 [ jH.kjVvc ]
「こんばんは」
背後から声が聞こえ振り向く。
そこには一人のヒュムの姿。
どうやらこの光はこの者から放たれた回復の術らしい。
とりあえずお礼をと頭を下げようとした自分を制すると此方に軽く会釈をし丁重な口調でこう言った。

「自分は糞樽HNMシェルの副団長を務めている真黒と申します。あなた方の事は兼ねてより団長から聞かされています。暫くは俺達に任せて貴女は少し休憩してください。その身体で戦うのは流石の内籐LSの方でも無謀です」
制する真黒。
だが、その声色はあくまで優しく此方を気遣うもの。
この様な状況下でこの様に感じてしまうのは場違いかもしれないがどこか気品を漂わせる真黒は女である自分でさえ綺麗だと感じてしまう。

年は二十代前と言った所か。自分達と余り差のないように感じた。
上品に短く切られた金髪が風に靡く。
連邦軍士の支給品を着込んだ真黒はパッと見ると戦いには無縁とも言えそうな物腰と表情をしているがあくまでそれは第一印象のみであった。

その優しささえかもし出す瞳の奥には強い情熱と闘争の本能を感じ、何気ない仕草一つ自体もまるで隙と言うものが伺えなかった。
もっとも自分が対面時に隠蔽されてもいない実力を見抜けなかった事自体が真黒の実力なのであろう。
何にせよあの天才である糞樽が自分の補佐として認めた人物だ。それ相応の実力を有しているに違いない。

光が止む。
処置が終わったのであろう身体が軽く傷も塞がっている。

そんな自分を見てニッコリと微笑むと背筋を伸ばし此方に対し敬礼をする真黒。声のトーンが上がり敬礼している拳に力が込められる。
「我々HNMシェル連合軍は只今を持ってあなた達を全力で支援致します。この戦いに勝ち平和をこの手に掴み取りましょう」
真直ぐに此方を見つめる瞳。
凡そ初対面である自分達に対しここまで真剣な想いを表面に出してくれる人物にこの様な状況下で会えるとは夢にも思わなかったであろう。
それ故にその言葉。どれ程頼もしいものか。

お礼と、共に戦う心強い仲間に対し右手を前に差し出す。
此方の意図を察し真黒も手を差し出すとしっかりと握られ力強く握手を交わした。

166 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/22(月) 18:51 [ jH.kjVvc ]
「ヒャッホーーーーーーイ!!」
上空から聞きなれた声が聞こえ何かが此方に飛来する。
衝突音と共に姿を現したのは隆起と蜜柑。
槍が突き刺さり地面に貼り付けられるようにしているのはアーリマン。

「隆起殿。無事だったか!?」
つい先程までまさか再会出来るとは思わず声を上げる巴姫。
「おッ。巴姫じゃないか無事だったんだな」
「ご主人如きが生き残ってるんだ当然だろう?」
まったくこの二人はこんな状況下でも何時もと変わらない会話をする。それが今は嬉しくもあり無事会えた事を実感させた。


「ところでイ寺は如何した?てっきり一緒だと思ったが」
「父上ならあっちじゃ。援軍が来た途端疲れも傷も吹っ飛んだように一緒になって突っ込んで行きおったわ」
何か疲れたような巴姫の言葉を聞いて笑う隆起。

「イ寺らしくて良いじゃないか」
「そう言うもんなのか?それで良いのか人として?」

会話途中思い出したかのように巴姫がハッとする。
「う、歌樽殿は?」
だが、此方の心配を裏切るように口笛を吹く隆起。
そのまま右手を軽く上げ崖の上を指差す。

「ウチの事呼んだかー?」
崖の上にまるで遠足途上であろうかの様にクッキーを口に頬張り満面の笑みの歌樽。
「まだまだ、俺様も忘れてもらっちゃ困るぜ巴さん!!」
何故か微妙にポーズを付けて此方に絶妙な微笑を送る廃狩。

皆が。仲間が無事な姿を見せ再び巡り会えた事と予想外の援軍。
希望が彼女を包み込み思わず涙ぐんでしまう。
そんな巴姫に指を鳴らし、まだ何かある様に含み笑いを零す隆起。
歌樽と廃狩を見ても同じような表情を浮かべている。

何事かと思うと皆一斉に此方を指差している。否、あえて言うなら自分の背後か。
不意に気配を感じゆっくりと。
ゆっくりと顔を向ける。

167 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/22(月) 18:52 [ jH.kjVvc ]
「姫、暫くぶりでござる」
聞きなれた声。
何時もの黒い装束ではなく赤装束を身に包み一礼している男。
顔は面妖な仮面を被っており相変わらず素顔を覗くことは出来ない。
だが、そんな事は如何でも良かった。

今目の前にあるのが現実でそれが真実の光景である事を彼女自身が何処かで否定しようとしているのであろう。
それは決して否定概念から来るものではなく現実的な光景が信じられずそれが幻想であった時の事を頑なに拒む事為であった。

しかし、今は現実。夢現の世界では在るまい。だからこそ目の前に映る光景は真実。
思わず言葉が零れ身体が動いていた。

「……姫」
「…任者…なのか…?」
答えずゆっくりと頷く。

吐息さえ感じられるほどに近づく巴姫。
そっと手を任者の頬へ当てると。

「こんの、大馬鹿者!!!!!!!」
ゴスリ。
鈍い音と鼓膜を裂くような大声が響く。
それと共に見事な曲線を描き宙を舞う任者の姿。

その思いもよらぬ光景に隆起一同口をアングリと開け呆然と見つめている。
尚、歌樽のみは呆然としようとも手に持った菓子を落とすような愚公は行わなかったが。


ズブリと忍者の身体が雪の大地に突き刺さる。
その地点にズンズンと足音を立ててゆっくりと近づく
感じられる気配はまるで鬼の如し。

辺り一体の喧騒が一瞬止み此方の様子を伺っている。
雪から脱出した任者は身体を小刻みに震わし脅える子羊の様な様子。

(殺される!!)
真剣にそう思ったであろう。
初めて見る鬼の如き主君に対し恐怖で足に力が入らず大地をペチペチと叩く。
その姿何とも情けなし。

再び巴姫の顔が近づくと目を背けて思わず死を覚悟した。

瞬間。

168 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/22(月) 18:52 [ jH.kjVvc ]
何か少量の液体が自分の左腕に当たった。
一度それが触れた後同じように止め処なく振ってくるそれ。
宛が外れ戸惑うが直にそれが何かと察しって巴姫へと目線を戻す。

それは大量の涙。
普段の気丈な彼女からは創造も――

否。生まれてこの方彼女がこの様な大泣きをしているのを見るのは初めてではないのであろうか。
幼き頃より仕え彼女と共にいた彼でさえ見たことない彼女はそれほどまでに涙していた。
涙でグシャグシャになった顔。
口元に手を当てて彼女はしゃくれる様にこう言った。

「…大馬鹿者…」
話したい事は沢山あった。
だけど想いとは裏腹に如何でも良い言葉だけが漏れた。

コツンと胸を叩かれる。
肉体的な痛みはなかったが心が酷く痛んだ。
鼻声で擦れる様な小さな小さな声ではあったが彼には確かにハッキリと聞こえた。

主君と使いの関係上この様な事はあまり行ってはならないのだがゆっくりと背中に手を回し巴姫の顔を胸にうずくめると囁く様に、しかし力強く一言だけ謝罪した。

「…済みません姫。済みません――」


何度も何度も繰り返すように囁く。
また巴姫も言葉と温もりを感じ彼が生きている事を強く感じていた。

優しくあやす様にゆっくりと巴姫の頭を撫でる任者。
そこには主君関係などなく一般的な幼馴染の様な関係を感じるような光景であった。


「良くぞ戻ったな任者」
何時の間に此方に戻ったのであろう。背後に凛として立つイ寺。
腕を組み仁王立ちで此方に視線を送る。

「と、殿――――!!???」
先程までのシリアスさは何処へやら。
一転して恐怖に脅える子羊に戻り震え高速で後ずさり。
必死で土下座し許しを請うようにしている任者。


そんな様子を見てか外野から声が漏れる。

「チッ、余計な邪魔しやがって」
「おっさん雰囲気読めよ」
「ええとこやったのに」
「俺的にあのままってのもなんか釈然としないッスけどね」


周りが何かを口走っているがそんなものはイ寺は聞こえない。否。聞いちゃいない。
「こ、これはですな。その、なんと言いますか。不可抗力、いや自然の摂理でして故に――」
恐怖で呂律が回っているのであろうか何を言っているのか理解に苦しむ。

だがそんな任者などお構いなしにイ寺は事態に置いてきぼりを食らった巴姫に近づくと言葉を告げた。
「娘よ、何を呆けておる!!戦いはまだ終わってはいないのだぞ。協力してくれたこの者達への礼。それは我等の刃で返そうぞ!!」
凛とした風格を醸し出す声。

そうだった。
戦いはまだ終わってはいないのだから。

「はい、父上!!」
立ち上がりハッキリとした声で答える。腕で顔を拭いそこには一戦士としての巴姫が戻っていた。

聞きたい事、知りたい事。
話したい事は山ほどあるが今はまだ取っておこう。
今はこの場を切り抜ける事が最も重要なのであるから。
だから彼女は刀を取った。
「任者!何をしておるか。そなたの役目は主君であるワラワを守る事であろう。その様な所におらず早く此方に来い。そしてワラワを精一杯守るのじゃ!!」
任者も何時もの表情を取り戻し(と言っても仮面だが)巴姫の元へと駆け出した。

「俺達も行くぜ蜜柑!!」
「もう少しだけご主人の我侭に付き合ってやるかねぇ」
「フッフッフ。腕が鳴るッスよ」
「おーし、皆はんやる気になってんねんな。ウチもいっちょ気合を入れてこの機会にゆっくりと休みを――」
腰のポーチから新しいお菓子を取り出し、その場に腰を下ろそうとする。
そこにギロリと睨む幾つもの視線。

「じょ、冗談やがな、本気にせんといてや」
渋々お菓子をしまう。
「さあ、皆はん。うちの華麗で優雅な演奏をとくと聴きや!!!」
何かヤケクソな様な感はあったが、ともかく彼等彼女等の戦いは再開された。

169 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 09:33 [ InJDFA6. ]
タイマンも良いけどやっぱ集団戦闘っていいよな( ´ー`)

170 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 09:54 [ 04vwhrCI ]
燃える展開キターーーーーー!!!!
続き激しくキボンヌ!!wwwwwww

171 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/23(火) 16:53 [ h3QftvJk ]
荒々しくも力強い雄叫び。生死を交差する者達の遊戯が大地を揺らす。
人の群れ。
それを先行するは髭を蓄えたヒュムの男。
討伐シェルの一つを統括し個人の力量に置いても名が知れた漢。髭戦。
その強者特有の風格と体中に見える傷痕は今まで戦い抜いた歴戦の証であろう。
元々肉体派である彼は見た目通り血気盛んな勢いで獣人達が率いる軍と真正面からぶつかり合った。

斬撃音。金属音。爆音。轟音――
幾つもの不協和音が織り成す生死の舞踏。
白の世界に幾つもの赤い染みが出来上がる。
その一つ一つは敗者が世界に残した無念の証であろうか。

彼はこの戦い。否、戦いと言うものの焦燥に心地よさを感じていた。
それは自身の生きる場所。戦いの舞台こそが自分の存在概念を最も強く誇示出来る場所だと強く実感している為である。

幾度となく戦ってきた。
悪名高い化け物達を追い求め、人々が触れる事を恐れる巨獣との戦いを切望する。
そんな事を続けているうちに一人。また一人と同士が募り何時の間にかこの様な討伐シェルが出来上がっていた。

今まで見て戦い抜いてきた化け物共に比べれば眼前にいる獣人達群れなど何と可愛い事か。

戦いの高揚に意識を載せて身体を躍らせる。彼の手には彼等を殺す確かな重量を持った古い黒き両手斧。
彼がそれを一振りする毎に敵は何も言う事のないただの肉塊へと姿を変えた。

姿勢を落とし両の腕に力を込めて大気に散らばる小さな力の欠片を内へと取り込む。
髭戦の動きが刹那的に止まったのを見逃さず我先にと飛び掛る獣人達であったがその攻撃は髭戦の周りにいた仲間達の手によって物の見事に防がれてしまった。

「死にたくない奴は退きやがれ!!」
カッと目が見開き大声を上げる。
その声に反応し一斉にその場から離れる友軍達。

それと共に繰り出される両手斧の一撃。
それは手加減など微塵もなく只目の前の敵を粉砕する為だけに用いる正しく必殺の一撃と呼べるもの。
彼が斧を振るった場所から金属が砕け散った様な音が聞こえ粉塵が巻き上がる。
そして彼の周りには空前とした隙間が出来上がっていた。

地面を割り突き刺さった斧をゆっくりと持ち上げ敵を睨みつける。
その眼光でさえ力を持っているのかのように獣人達の動きがほんの僅かだが鈍った。

「野郎供!!敵は臆病風に吹かれてやがる。この機会に徹底して叩け!!容赦はするな。相手がものを言わぬ肉塊になるまで決して油断するんじゃねえぞ」
彼の声に合わせて辺りから声が次々と挙がる。
そんな髭戦の蛮勇ぶりに回りの者達も勢い付き活気盛んとなり颯爽と敵を押し寄せた。

だが、勢いづく彼等にこのまま押されっぱなしで済まそうと敵も思ってはいない。
頭上から弓と魔法が此方を狙い降ってくる。
もう遅いとは分かっているが咄嗟に仲間達の進行を止めようと合図を送ろうとした。

瞬間。
それらは友軍が放った魔法によって只の燃えカスとなり髭戦達は咄嗟の防壁魔法を掛けられ被害は最小限で済んだ。

172 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 16:54 [ h3QftvJk ]
後方にいた真黒が彼の横に並ぶ。
「髭戦さん、出過ぎると危険ですよ――」
「へっ、心配事の尽きねえガキだな。だが礼はしておくぜ、ありがとよ!!この戦斧でカリは返すぜ」
すぐさま真黒をすり抜け駆ける髭戦とその仲間達。
そんな彼等を見て溜息を吐きつつも彼等を援護せよと後方に指示を送った。

彼等連合軍の率いている数は敵に比べれば明らかに不足気味ではあった。
だが、人と獣人達には軍を率いた祭決定的に違うものがある。それは信頼関係と絆にある。
所詮力で支配された彼等にお互いを助け合う動きなど最低限のものでしかなく結局は個人の力をその場その場で発揮しているに他ならない。
元々肉体構造上の問題で劣る人が自分よりも高き存在に勝つ事が出来るのはその為である。
まあ、例外として髭戦や内籐LSメンバーは個人の実力が桁外れているのはこの祭目を瞑っておこう。

騎兵隊の様に髭戦の軍が真正面から白兵戦へと移る。
彼等の一振り一振りが襲い掛かる獣人達を葬り去る。その中でリーダーであるのに先陣へと立ち敵を圧倒していく髭戦は華麗とはかけ離れているが素晴らしき戦いぶりを演じ見せてくれた。

「真黒!貴様の隊は左右から敵を挟撃しろ!輪形の陣で敵を殲滅するぞ!」
「了解しました――」
言い放ち自軍の者へ指令を発する。
真黒自身実は糞樽LSの全権の指揮を取ることは決して少ない事ではなかった。
それ故だろう。
彼が発した軍令による統率力は侮れないものがあった。

真黒の軍が包囲陣を敷き、髭戦の軍が敵を誘発した。
そのまま引きずり込まれる様にして敵の戦力の大半が包囲陣の内側になだれ込んだ。


「イヤッホーーーーーーイ!!!!」
隆起が空より飛来し敵を貫く。
「流石、糞樽が見込んでる連中だな。俺達も動きやすいぜ。――ッと!!」
慢心している隆起に向かって斬撃を放とうとしたオークに対しブレスを吐き制する蜜柑。
「ご主人、行くらんなんでも油断しすぎだぞ」
「大丈夫、大丈夫。俺の穴は蜜柑がいる限り埋めてくれるからな」
「―――ケッ。手抜いてやられてもしらねえぞ」
そうは言いつつも満更悪い気分はしなかったのは秘密だ。

彼等内籐LS面々の動きは素晴らしく、糞樽LSのメンバーは絶賛の意を挙げる。
元より彼等の事は幾度となく聞かされてはいたが実際目の辺りにすると聞くとでは大きな違いだ。
『あいつら一人一人の力はそこらの討伐シェルのリーダークラスを軽く凌駕する――』
そんな言葉を改めて思い出していた。

「斬!斬!斬!斬!斬!!!!!!」
人為らざる剣の軌道を描きながら敵を肉塊へと変えていくイ寺。
「わらわの前に立ち塞がりし無礼なる者共。死してその罪購うが良い!!」
「激しく!!空蝉!!我、誰にも触れる事無駄なり」
彼に巻き込まれぬ様距離を置き、敵を華麗に一閃していく巴姫。
その彼女の背後を守る様、敵を翻弄し妖の術と二刀の刃で息の根を止める任者。

そして―。
『――とまあ、此処までは良いのだが個人個人の個性が強すぎて生半可な輩が入ると多分逆に危険とも為り得るがな』
腹を抱えながらそう言った糞樽の言葉も今は全てが納得のいく形で目の前に形成されていた。

「皆はん良い感じやでー。そうやってドンドン頑張るんやー。ウチには指一本触れさせへんに気張ってやー!!」
彼等の活躍の中迅速に安全圏を割り出し援護する歌樽。
時折菓子を食す余裕も見せるその動きは素晴らしいの一言としか言えない。ある意味で。


皆、勝利を確信していたであろう。
殆ど全ての者が負ける要素など一切ない。
そう――思っていた。


一部の者を除いては。



全体の様子を見渡せる崖の上に廃狩はいた。
別段サボっている訳ではなくこれが彼の腕と特注の銃による適正的な位置であったからだ。
あくまでこんな神技は彼にしか出来ず、故の周りには誰もいない。
そして全体を把握し易い位置であるので彼には流れを伝える情報役も担ってもらっていた。

弾倉に入った銃弾が尽きるまで撃ち。オープンスライドさせて弾丸を補充する。
これらを繰り返し自分が何にやられたか分からず命を散らしていく仲間を見た獣人達はさぞ驚愕の表情を浮かべてくれている事だろう。
最も此方からその表情を伺う事など出来はしないし。また、その表情を楽しむ趣味が廃狩にある訳ではないので彼にしてみれば如何でも良い事に他ならなかった訳だが。

新たに弾丸を補充する時。
何かに耽るように空を仰ぎ見つめて小さく呟いた。
「俺の勘的にこのまま楽に終わるなんて虫が良すぎると思うッスけどね」
誰にも聞かれる事のない様な小さな声。
その声は吹く風によって打ち消され無限の空へと飲み込まれていった。

173 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 17:06 [ T1YDrNoE ]
隔離スレから誘導されてきますた(・ω・)

と思ったらちょうど続きキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!

174 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 18:28 [ ALa6PkLM ]






175 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 18:51 [ h3QftvJk ]
魔力と魔力の本流。
鼓膜を震わす金属音。
それらがぶつかり合う度に薄暗い室内に刹那の光が生まれる。
その力のぶつかり合い、頂きに立つ者達にこそ相応しいと言えた。

糞樽と対峙するデーモン二匹はマーキス アロケンとマーキス アモン。
彼等は戦いながらにして糞樽の予想を超える実力に戸惑いを感じていた。

肩で息をし肉体に出来た無数の傷が痛む。
此方は二人がかりだと言うのに、目の前のこの男はそれ位如何とでも言う事は無いと言わんばかりに平然と受け流している。

化け物。
それは人間が自分達に冠した称号とも呼べるもの。
だが、獣人の中でも上位のデーモン種。
そのエリートである自分等を凌駕しているこの異常者に対してこそその言葉は当て嵌まるのではないのであろうか。


「どうした、最初の威勢がなくなって来た様に見えるぜ」
冷静でいて明らかに上の存在として下を見下す感覚。
そんな糞樽の様子を見ても彼等は言葉を返す気にはならない。
何よりそんな安い挑発に乗るほどの余裕が今の彼等には全く無いからだ。

「だんまりかよ。つまんねえな――」
言葉の途中で糞樽が動く。
軽快なフットワークと此方に迫る速度は魔道士のそれとは明らかにかけ離れたものだ。

「―――」
彼の唇がそっと動くとそれに呼応し辺りに彼の魔力の顕現が姿を現す。
今回放たれた呪文は水と雷。両者、相反する呪文を殆ど同時に詠唱される。

幾度となく放たれたそれは彼等の反応を過剰にし即座に対応を急かす。
アモンとアロケンがその場から左右に飛ぶ。
この男の魔力の前には防御魔法など何の意味も持たないからだ。


赤魔道の者は常人よりも素早く魔法スクロールを詠唱する事が出来るが目の前のこの黒魔道士は正にそれであった。
正し常人のそれよりも遥かに素早く威力も高度ではあったが。

破壊力と詠唱速度の両者択一。糞樽はこの偉業でさえ平然と成し得てしまっている。


程なくして爆音。
それと共に互いに牽制しあう。
アロケンの鎌を素早い動きで交わしアモンの魔法を自身の魔法で押し返す。

弾かれるデーモン二匹。
距離が離れ、再び対峙の姿勢。
一体これで何度目であろうか、分かる事は数を繰り返しただけ出来た自らの傷のみ。
辺りに静寂。

176 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 18:52 [ h3QftvJk ]
「――何故だ」
その沈黙を破るようにしてアモンが重い口を開く。
「おっ。やっと喋りやがったか、何か言いたい事があるなら今のうちに聞くぜ。お前らが生きていられる時間はもう長くはないんだからな」
軽い口調ではあったがハッキリとした死刑宣告。
普通ならば無礼極まりなく死をもって償わせるべき問題だが今は自身の中に生まれている疑問を解凍するのが何よりも優先させられた。

自信満々の笑みを浮かべて此方の言葉を待つ糞樽。
靴で軽くタップを鳴らす辺りどれ程余裕を持っているのか。

「貴様の戦力は既に分析済みだった。此処に到るまでの動きは全て見ていた」
「だが、我等と戦っている貴様は予想を遥かに覆している。何故だ、此処まで本気ではなかったのか?」
それが彼等の疑問。
故に出会った時の彼等の余裕があった。

質問を終え糞樽の答えを待つ。
だが、返ってきた答えは彼等を更に悩ませた。

「いや、本気だったぜ。正しそれはあくまで内籐達と一緒にいる時に出せる全力だったがな」
言っている意味が理解できない。
その意味を考察する前に糞樽の口が動く。
「お前ら獣人には分からねえだろうから教えといてやるよ。まあ、最も言った所で理解するかしないかは保障出来ねえがな。例えば一人の男が小さな泉位蒸発させてしまう程のファイアが撃てたとするぜ。実際それだけの威力の魔法を仲間が戦っている最中に撃つと一体どうなるのか?答えは言わなくても分かるよな」
言い終わりにニヤリと口元を歪ませる糞樽。

余りにも。余りにも単純な答え。
だが、それでいて身震いさえ起こす程ハッキリとした確信を得る。

「強すぎる力ってのは不便だよな。ただ使うだけじゃ敵も味方もない。だから調整が必要なのさ、その時その場の状況に合わせた最高の力を割り出して使用する。今の俺は一人身だ、もちろん辺りには気遣う仲間もいない。力を抑える必要性なんか何処にもありゃしねえ」
何かを思い出すかのようにして嘆息する糞樽。
此方から視線を逸らしクルクルと回す自分の指を見つめている。

「貴様等はその様な実力を隠し持っていたと言う訳か!?」
「此処に到るまでの道のりは全てフェイクだったと言うのか!?」
思わず声を上げてしまう。
信じられるが信じたくない。
信じたくないが信じられる。
相反する想いが何重にも積み重なり当たり前の答えを求めるが彼等のプライドは決してハッキリと答えを出す事許さない。

そんな彼等の問いに答えを与える。
「他の奴等は本気だったと思うぜ。まあ、内籐達は潜在能力を自己の意思で発揮出来ねえからしょうがねえがよ。もしも実力を発揮出来れば俺でも危うい女が一人いるがこいつは性格上の問題と力の制御の二重挟みで最後までその力を使えない可能性もあるからな。つまる所単純に言っちまえば俺はあいつ等の中で一番強いって事よ――おっと、こいつはどっかで聞いた科白だったな」
笑う糞樽。
ハッキリとした実力宣言。
だが、そこには微塵に疑う気さえも起こらない。
彼等がその目で視覚し肌で感じた現実は決して否定できるものではなかったから。


「――いけねえ、すっかり話しこんじまったぜ。先を急がなくちゃないけないんでね」
此方に向き直る。
足で刻んだリズムはもう聞こえてはいない。
話は此処までだと言う事だ。

177 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/23(火) 18:53 [ h3QftvJk ]
再び対峙する。
もうアモン達には少量の余裕さえ見えない。


認めよう。
この男、明らかに自分達より上の存在だと。

それは覚悟。
彼等の高いプライドを傷つけてまで得た強き決意。
敗北を得る位ならプライドなど喜んで踏み台にすると言う表れだ。

糞樽も彼等の表情に感じるものが在ったのであろう。
背中に携えていた両手昆を手に握りしめた。
杖の先端についた青色の宝玉が美しく光を発している。
その光は確かな力を感じさせそれでいて糞樽の心構えも察知させてくれた。

『短期決戦』だと――。


先に動いたのはアモン。
身体の周りからバチバチと音を発し頭上に巨大な魔力の塊を出現させた。

一呼吸置いて魔力の顕現を次々と生み出す。
それは炎、水、氷、雷、風、土―――。
様々で、ありとあらゆる。
そして彼自身が得ている全ての魔法を全速全力で撃ちこむ。

もはや相手など見てはいない。視覚する必要性すら全くない。
自分の視界内に入っているものを根こそぎ破壊する行為。
魔力が尽きるまで決してやむ事はない暴力の嵐がそこにはあった。

それがアモンの取った行動。


アモンの取った行動に対し回避と防御の姿勢を見せる糞樽。
だが、そんな彼に対しアロケンが割り込む。

無論彼の背後からは此方を滅する力の渦が止め処なく放たれている。
そこで糞樽は悟る。
普通では勝てない敵に対し異常を行い相手を討つ事を。
犠牲の上に立つ勝利。

彼等はその道を選んだのだと言う事を。


事実、流石の糞樽も絶え間なく襲う魔法と死を覚悟したアロケンの猛攻に動きを封ぜられ危うい場面を多く見せる。
明らかに自分よりも多くの攻撃を、しかも味方の攻撃で被弾しているアロケンは虫の息の筈。しかしそれでも此方を逃がすまいと言う執念は賞賛に値するものだった。

だが、糞樽とて獣人と仲良く心中など全くの御免。

低い姿勢を取り相手の腹部を渾身の力で殴打する。
それと共に動きの止まったアロケンを刹那的な盾とし瞬間的に魔法障壁を展開し飛翔した。

天井近くからアモンを確認する。
既に頭上に浮かんでいた魔力の渦は姿を見せない。
止め処なく放たれていた魔法の連撃は止んでいる。

アモンの背後に着地し呪文を詠唱。
一撃で勝負を着けるつもりだった。

だがそんな糞樽の動きが止まる。
そして彼は自分の勝手な思想に腹を立てた。


バインド。
単純に動きを封じるだけの呪文。
しかし相手との力量差は明白。
更には之こそが最後に振り絞った魔力の一欠けら。
この様な子供だましは一瞬にして破られるであろう。
だがしかし、その一瞬こそが此方の唯一の勝機。
予めその自体を想定していた此方には刹那の時間糞樽が無防備になれば仕留めるには十分過ぎる時間であった。

アモンの横をアロケンが通り過ぎる。
手に持つ大鎌を強く握り、勝負を決める為に。

「――終わりだ!!」
アロケンの大鎌が無防備な糞樽に向かい振るわれた。







|w・`)<今日は此処までです!!

178 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/23(火) 19:55 [ zcgo0Ah6 ]
この祭→この際

179 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 09:59 [ CKzUsG/g ]
もう明日になりましたよ
いつでもどうぞ!
(`・ω・´)シャキーン

180 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/24(水) 12:45 [ KRIx7TWc ]
>>179
|w・´)<了解しました!!17時までにはアップします。

181 名前: 179 投稿日: 2004/03/24(水) 13:15 [ CKzUsG/g ]
ヽ(´∀`)ノわぁい リメ神氏と会話したぞ〜

182 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 13:55 [ TjFwYkiM ]
キモッ!

183 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 16:53 [ GvtWVUnc ]
後10分無いぞ(゚Д゚三゚Д゚)

184 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/24(水) 16:58 [ KRIx7TWc ]
|w・´)<お待たせしました!!


異変。
それは余りにも突然で衝突的に現れた。

敗走する敵軍を追撃する一つの集団。
糞樽や髭戦とは違う討伐シェルの一隊。
包囲陣により敵戦力を大幅に削った彼等は波に乗っている。
この戦いに次は無く、したがって殲滅を目的とする為必要以上に追い込みをかけるという
思考が彼等にはあった。

最も普段ならば必要以上の追い込みはどんな状況であろうとも何らかのリスクを負う可能性を秘めている事は経験から分かっているのだが、もはや獣人側にこれ以上の力は無いと殆どの者が踏んでいたからであろう。

真黒と髭戦を除く討伐シェルは個人隊の思想の元に敵を追撃し滅していった。

このまま勝利出来る。
追撃する誰もがそう思っていたのだから。
そして、それが仇となった。

彼等が最後に見た光景。
黒い不自然な歪みが宙に幾つも派生していた。


その異変に逸早く気付いたのは廃狩だった。
リンクパールを通じて定期的に繰るはずの戦況報告が届かない。
一隊分の報告不届きなら気に留めなかったであろう。だが、それが二隊となれば話は別だ。
報告の届かないパールに声をかける。
だが、此方が幾ら叫ぼうとも何ら返答は帰ってこず耳に付くノイズ音だけが残った。

不足の事態に腹を立て返答の来ないパールを地面に投げつける。
胸の中の小さな不安がゆっくりと大きくなっていくのを彼はハッキリと感じ取り残った隊に詳細不明の部隊を報告した。



「―――了解しました。廃狩さんは引き続き状況の確認と此方の援護をお願い致します」
廃狩からの報告を受け真黒の額に冷たい汗が流れる。
確かに優勢ではあったが状況に乗り過ぎて全体が見えなくなっていたのは大きな誤算であった。

元々は別個のLSであるのだからこういう状況も想定できなかった訳ではない。
言うなれば自分の未熟、油断が招いた結果。
その結果に悔やみ自己嫌悪を感じるがともかくこれ以上の部隊の緩みを広げるのは確実に阻止せねばならない。
リンクパールを通じて全軍に召集をかけた。

185 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 16:59 [ KRIx7TWc ]
そんな真黒達の視界に沢山の気配が発生する。
やがて形を成したそれは何処に潜んでいたのかと思わせる程のアーリマンの群れ。
その中央付近に姿を見せるデーモン族の姿。
彼等が倒してきたそれより二回りほど大きく気配的にも全く別物であった。

「どうも皆様、今宵は良い満月で御座いますね。暗き闇夜に鮮血の如き月色は心が躍ります。私の名前はグランド デューク バティム。あなた達糞虫を殲滅する為に遣わされました」
丁寧な口調とは裏腹にヒシヒシと伝わってくる邪気は相当のもの。
一言一言に魔力がある様にその場にいた全員が言葉に耳を傾けていた。

「私達から贈る演劇。喜んでお受け取り頂ければ光栄に御座います。白き混沌の大地を舞台に織り成す遊戯、料金はあなた方の恐怖と血涙で――」
演奏を始めるかのように一礼し右手を高らかと挙げる。
それが何を意味するかは分からなかったが何か例えがたい嫌な予感だけはしていた。

視界に僅かな違和感が生まれる。
そっと目を凝らして見るとバティムの後方中空に何か黒い球体状の歪。
バチバチと不定期な音だけが響く。

刹那。
全身の毛が立つ感覚に襲われ本能的危険信号が脳にけたたましく鳴った。
バティム達の行動を確認せずに背を向ける。
確認など必要なかったのであろう。一刻も早く行動を起こさねば為らないと理解したから。
とても危く崩れそうな感覚を察し真黒と髭戦はあらん限りの声で叫んでいた。

『逃げろ!!』と―――。

186 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 16:59 [ KRIx7TWc ]
嫌な予感と言うものは当たって欲しくない時にこそ当たってしまうものなのだろうか。
真黒達の感じたものは直感というよりも殆ど予知に近かったのかもしれない。
歪の数が急激に増し膨張したかと思うとそこから灼熱の炎と地を割く雷鳴が吐き出された。

視界が一瞬白く染まる。
轟音が鳴り響き、辺りに粉雪が舞った。

何かがこげた嫌な臭いが鼻に付く。
辺りを見回すと雪が抉れ大穴を作り、雪が溶け地面が溶解している場所もあった。
無論その場所は空前とした空間になっておりその場にいた者など姿は見えない。
バチバチと不定期な音が今だ鳴り続き耳に障る。
歪がまた大きく動きを見せると実体を持った何かが姿を現す。
姿を表したそれの咆哮が耳を裂き。
その歩行は大地を揺らす。
ズラリと並んだ巨獣達。

この地に生息する魔獣ダークドラゴン。
二角の巨獣ベヒーモス。
その目は獲物に飢え焦がれている。
それは彼等にとって絶望以外何者でもなかった。


「踊れや踊れ哀れな子羊達よ、舞台はまだ始まったばかりです。どうか我々を存分に楽しませる様、僅かばかりの灯火たる輝きを存分に堪能させて下さいな」
何とも癪に障る声が辺りに響いた。
絶望をより強く強調させる様に。


「――戦況を報告しろ!!」
リンクパールを通して髭戦の声が響く。
その声によって金縛りから溶けた様に皆動きを見せる。
「先程の歪は召喚の為に起こったものらしくドラゴン種族十六体。他、合計五体のベヒーモス姿を確認致しました……。こちらの戦力は敵の増援と先ほどの戦いによって全体の四割程減少しています」
報告する男の声に力がない。
勝利を確信し慢心していた気持ちがこれに繋がってしまったのだろうか。
「やられました…。敵にまさかこんなジョーカーが残っていたなんて…」
今はとにかく情けなさで胸が張り裂けそうだった。
「どうするよ、ドラゴン複数に二角の巨獣が五体なんてとてもじゃないが適いそうにないぜ」
どう動くか問いただす様に敵から目を背けず此方に声を送る。
「――ええ、戦力差は圧倒的に此方が不利ですね……絶望的な程に」
必死に策を練ろうと頭を働かせるが敵も悠長に待ってはくれない。

「――殺れ」
手を下ろしそれだけ短く言うと巨獣達が唸りを上げて動き出す。
狂気の宴の開演を心地よく思い両手を挙げるバティム。

そんな彼の元で炸裂音が鳴り響いた。

187 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/24(水) 17:01 [ KRIx7TWc ]
(しくじったか!!)
絶対なる自信での失敗は廃狩を強く動揺させた。
確かに頭を狙い撃った筈が相手は倒れない。
どういうカラクリを使ったかは分からないが確かに此方の攻撃を防いだ事だけは事実だった。
急いでトリガーを再度引く。
だが、今ので弾倉が空になったらしい。
らしくないミスに胸中焦りが積もる。


「おやおや、これはこれは――」
手に握られた鉛の塊を握り潰し何かを思案する様に手の甲を顎に付ける。

急いで弾薬を補給する廃狩。
時は一刻を争う。

「私はまず舞台裏の邪魔者の始末でも致しますかね」
人差し指を中空に向ける。
指先に黒い雷の様なものが迸ったかと思うと一本の線が真直ぐ伸び軌跡を残した。


バティムの指が此方に向けられている。
それと同時に此方も弾薬を詰め終わりバティムに狙いを定めた。
そこからの彼は意識するよりも先に身体が反応していたのであろう。

狙いを定めた瞬間、嫌な感覚に教われトリガーを引くのを止める。
「あー、不味いなこりゃ…」
言葉を放つより早くその場に身を伏せた。
コンマ数秒遅れて廃狩の額があった位置に黒い線が通過する。
その際、彼の帽子に線が掠り焦げ後を残した。

もしもトリガーを引いてしまっていたら確実に殺られていたであろう事にゾッとする。

「こんな遠くから覗き見とは趣味が悪いですね」
背後から聞こえた声に反応し動きが止まる。
正直心臓が止まるかと思うほど驚いた。

「あんたこそ、丁寧な口調のわりに人を驚かせるなんて。良い趣味とは思えないッスね」
喋りながら銃を持つ手に力を込める。
強く脈打つ鼓動。
喉が異常に渇く。
トリガーに掛かった指が僅かに震えた。
そんな自分を落ち着ける様に冷静だと何度も頭の中で連呼する。

「規約違反のあなたにはそれ相応の罰を与えたいと思うのですが?何か言い残すことはありますか」
「――へっ、勝手に出てきて規約も何もあったもんじゃないと思うッスが」
相手の姿は確認できない。

汗が滴り染みを残す。
自分が今見えるは自らの腕と雪の大地。

聞こえる声で相手の位置を割り出す。
勝負は一瞬。
失敗は許されない。


廃狩が動きを見せた。
自分の出来うる最速の動きで腕を動かし銃を向ける。
まだ相手の姿をハッキリと確認してはいない。
力強くトリガーを引いた。

軽い炸裂音と共に弾丸が発射される。
相手の姿を確認。

狙いは正確だ。
頭をぶち抜いて自分の勝利。
の筈であったが――。

バティムは廃狩の予想を遥かに超える速度で目の前から消えた。

(――かわされた…嘘だろ)
胸中嘆息した時はすでに遅かった。
「――残念でしたね」
耳元に声。
吐息さえ感じられるほどまで近づいたバティムにようやく気が付く。
実に嬉しそうな笑みを浮かべ手に持った鎌を振った。

狙いは廃狩の首。
だが、意図していたそれとは異なり炸裂音が鳴り共に両者の体が吹き飛ぶ。

信じがたいがこの状況下で鎌の刃を狙い撃ったのだ。
勿論これだけ近距離で撃てば多少なりとも自分に被害も来る。
だが、何より刹那の命のやり取りの中この様な遊戯を見せてくれたのは賞賛すべきだろう。

「てめぇ、覚えてやがれ!!絶対後で後悔させてやるッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
吹き飛んだ勢いで崖から落下する廃狩。
落下しながらも銃弾を此方に撃ち放つ。
それをかわされたのを視覚したか此方に中指を立てている。

「それはそれは。楽しみにお待ちしております」
そう言ってからバティムは自分の右腕に液体の流れる感覚を得た。
先程の銃弾が掠っていたのか小さな傷が出来ている。
傷付いた腕を舌で舐めるとバティムは妖しく微笑みその場を後にした。





|w・;)<今までで一番長い話になりそうです。

188 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/24(水) 22:46 [ qmqsHXd2 ]
(・∀・)イイ!!(・∀・)イイ!!(・∀・)イイ!!(・∀・)イイ!!(・∀・)イイ!!(゚∀゚)神のヨカーン




続き待ってますwwwwwwwwwwww

189 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 00:37 [ edmnYdY6 ]
何だここ?延々と文だけで感想も殆どないスレなんて立ててんじゃねえよwwwwwwwwwwww
誰も読みそうにないし感想も全部ジサクジエンに見えるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

190 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 00:47 [ 5io5.bLQ ]
うはwwwwwwwwwwwおkkkwwwwwwwwwwwwwwwwwww

191 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 02:31 [ 0W4isF8E ]
廃狩のキャラが良すぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

192 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 09:32 [ KVE/5WQY ]
>>189
最初から全部読んでみろwwwwwwwwwww


続きが気になってくるwwwwwwwwwwwwwww

193 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 09:34 [ KVE/5WQY ]
あと煽りはこっちでよろwwwwwwwwwww


ttp://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/game/4042/1076323989/

194 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 10:29 [ jH5FBzZY ]
>>192-193
何で本スレに誘導すんだよwwwwwww
本スレで叩かれた粘着の奴か?wwww消えてwwwwwww

195 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 11:29 [ 6jbvkHM6 ]
隔離から誘導されたから、次は本スレってだけかとwwwwwwwwwwwwww

196 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 11:36 [ erkbT/dU ]
そして本スレから隔離に張れば完成wwwwwwwwwwwwww
うはwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwww


今日はリメタンの更新あるかな〜!?(゚∀゚)<廃狩&糞樽かっこeeeeeeee!!
でもこの後の展開上全員。・゚・(ノД`)・゚・。なんだろうな。
だが、それがまた(・∀・)イイ!!

197 名前: 192 投稿日: 2004/03/25(木) 18:33 [ KVE/5WQY ]
195の人正解!!wwwwwwwwwww


隔離→リメイク→本スレ→隔離→リメイク→本スr(ry

198 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/25(木) 19:54 [ xsz4iZlI ]
嘘っぽwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

199 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:05 [ PduUO90k ]
|w・`)<明日中に終わらせたい…

200 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/26(金) 18:27 [ D/6oLxbE ]
ガンガレ

201 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 17:11 [ vIPKRevE ]
|ω・`) リメイクの人来ないのかな・・・

202 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/27(土) 17:19 [ Cb2wcvBU ]
|w・;)<何故かページ数がエライ事になってますね…
    現在62P。参照として文句の話が30Pタルナが38P位でした…。
    一応19時前に一度アップしておきますが全部ではないのは勘弁してください。

203 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 17:31 [ M2vSAbB2 ]
おkwwwwww体壊さない程度にがんがれwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

204 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:46 [ Cb2wcvBU ]
投下!!!!!!!



自らの本能と欲望のまま暴れる魔獣と巨獣。
彼等の行動一つが人の命を無残に奪い、散らしていく。
「何をやっているのです負け犬共。折角私目が挽回のチャンスを与えたのですから死に物狂いで答えなさい。さあ、あの蛆虫共を一人残らず血祭りに挙げるのですよ!!」
さらに残った獣人達に活をいれるバティム。
その言葉に勢い付き波に乗る獣人達。
先程とはまったく逆の展開に連合軍は悪夢を見た。


「後方魔道士、狩人隊一斉射撃!!白魔道士班は傷付いた者の救護に全力であたれ!!前衛部隊は敵の注意を全力で引きつけろ。決して近づきすぎる事はするな!!」
必死で抑えようと戦力を振り絞る真黒達。
だが、どれもこれも圧倒的戦力差の前には風前の灯火。
何よりも本能から来る恐怖を受けた者達には思う様に体が動かなかったのかもしれない。
幾度となく繰り返す努力は無駄に終わるばかりだった。

狩る者から狩られる者へ。
反転した立場に焦る真黒。
如何にかして立ち直さねばと想いだけが先走る。
追い討ちをかける様にリンクパールからけたたましく声が上がった。

「…此方連合第三LS…前衛班…ダークドラゴン五匹により…半壊…防衛網を破られるのも時間のも…うわぁぁぁっぁぁあ!!!!」

「第五LS…もう駄目です…誰か!!助け………」

「…此方連合第七LSベヒーモスの猛攻止めれず…全滅は時間の問題です…」

「十三LS…もう長くは持ちません…生きている者は少しでも遠くへ…」

「…無理だ…救援を…救援を…」

次々と耳に入る戦況報告。
状況は悪い方向へと急速度で行進していく。
そんな完全不利の状況下で誰かが小さく囁いた。

「もう駄目だ」と。
言ってしまえば早いものだった。

発言した恐怖は伝染する。
それをハッキリと口に出した瞬間。爆発的に広まり感染を拡大させた。
恐ろしい程の速度で、味方全土に。

我先にと地獄から抜け出そうとする者達。
背を向けてその場から一刻も早く。
彼等から逃げ切れる筈と無駄な幻想を抱きながら。
そこには経験を積んだ冒険者ではなく一人一人の弱い人間としての部分が大きく強調されていた。

それでも諦めず必死で事態を整えようとする声。
「陣形を乱すな!!この状況で敵に背を向けるのは危険です!!止まって!!!」
それは背を向けた誰の耳にも届かない。
絶叫と大差ない声を上げ続ける。
その声が届く事を願って。
だが、全ては無駄に終わる行為でしかなかった。

205 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:47 [ Cb2wcvBU ]
辺りが恐怖に飲まれている中。
背を向けず果敢にも魔獣と戦う者達。
逃げ出す援軍には構わず攻撃を続ける。

彼等は戦わねばならない。
この状況、逃げて如何なるものか。
化け物達の向こうに聳える城の中では内籐達が死闘を繰り広げているのだ。

自分達にとってみれば彼等を残しほんの僅かな生を掴んだとしてもそれは後悔以外の何者でもない。
彼等は最初から背水の元に戦っていたのだから。

「あわわわわわわわぁぁぁっぁぁぁ、しゃれにならんでほんま!!」
恐怖で声が上ずる歌樽の悲痛な声。
「父上これは――」
目の前を闊歩する化け物達に思わず言葉が漏れた。
「今一度覚悟を決める時が来た様だぞ娘、任者よ」
刀を握りなおし気を引き締めるイ寺。
兜によってその表情は読み取れぬが焦りの色を浮かべているのは明白であろう。
「一度は捨てた命、惜しみはしないでござる」
精一杯に声を出し自らを奮い立たせる。
「まあ、何とかするしかねえもんな」

魔獣が瞳が此方を捉える。
その瞬間彼等は駆け出していた。
蜜柑の口から氷の吐息が吐き出され魔獣を襲う。
更に追撃を与えるように任者が氷の術を唱える。
幾多の獣人達の肉体を氷付けにしてきたそれもこの化け物の前には足止め程度にしか使えないようだ。
隆起達がブレスの合い間をぬって魔獣に突き掛かる。
だが、その硬い外皮は彼等の攻撃を中々受け付けてはくれず小さな傷を残すのみ。
「なんて硬い身体じゃ。刃物を跳ね返すとは!!」
「しょうがねえよ、そいつがドラゴン種族の特徴なんだからよ」
これ位の巨体を滅ぼそうとするならそれ相応の火力が必要なのは目に見えている事なのだが、彼等にはその手段が限られていた。

魔獣の大きく鋭い口が開く。
その辺り一体の外気温が上昇するのを触覚する。
本能が警告を鳴らす。
肉体がそれに従い全速全力でその場から飛び退く。

遅れて彼等の居た場所に灼熱の炎が通りすがる。
それの通り道は見事に溶解。
万が一喰らっていたらと考えを浮かべると背筋に寒気を感じずにはいられなかった。

「おいおい、やばいんじゃねーのかこれ…」
背中越しに蜜柑に話しかける隆起。
身体に沸く汗は冷たく演技の悪い事この上ない。
「ご主人の口からそういう言葉がでるとはねぇ、状況判断位は理解出来たんだな」
何時も通りの口調。
だが、そこには余裕が全く無い。
「そりゃあ、あんなもんが闊歩してればねえ。蜜柑、あれと話せたりしない?」
「無理!!」
隆起の言葉を強く否定し横に首を振った。

「歌樽殿。力の歌をお願い致す」
援護を求める巴姫。
だが、その言葉に返事はない。
見回してみると歌樽の姿は何処にもなかった。

「来るぞ娘!!」
魔獣の巨大な尾が迫る。
無駄な考えを思案している場合ではない。
「皆様方、長期戦になれば拙者等の不利は確実。かなりの危険を伴うで御座るが、一瞬で決めるで御座るよ!!」
任者が珍しく声を上げる。
皆、無言でその意見に賛同し首を縦に振るった。

206 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:47 [ Cb2wcvBU ]
真っ先に駆け出したのは提案者の任者。
意識を集中し術を詠唱。
そこに魔獣の前足が振るわれる。
左にステップし回避。
追撃で大口が迫る。
巨大な犬歯が任者を噛み砕こうとするが跳躍してそれを上手くかわした。

だが、そこで魔獣が巨体に見合わぬ速度で身体を振るう。
巨大な尾が中空の任者を狙い撃ちその肉体を真っ二つに切り裂いた。

「任者!!」
巴姫の悲痛の叫び。
だが、そんな彼女をイ寺が制する。
止めるな、と腕を振り払おうとする巴姫に対し任者がいた場所をもう一度見ろと促す。
見てみると彼の姿は無く一枚の人方の紙切れがゆっくりと舞っているのみだった。
「激しく。空蝉」
魔獣の眼前に姿を見せる任者。
完全に任者へと意識が向いた。
そこに上空から隆起と蜜柑が飛来してくる。
「ホーバル!!」
叫び、力の限り斬り付ける。
魔獣の皮膚を貫通。
「じっくり痺れな!」
そして蜜柑が傷口に雷を落とし激しい呻き声を上げた。

間髪いれず任者が短刀で追撃する。
「凍!!」
二刀の刃を高速度で滑らせて切り裂く。
彼の斬りつけた場所には冷気が宿り魔獣の動きを封ずる。
「今ですぞ!殿!姫!」
任者の声に呼応して魔獣に飛び込むイ寺と巴姫。
「合わせるぞ娘!!」
その声に顔を縦に振るうと足に力を込め地面を強く踏み抜いた。

隆起ほどではないが高く飛び上がる。
掲げた刀の先端は強い光を発し、それをあらん限りの力で叩きつけた。

硬い外皮が見事に砕ける。
その痛みにのたうち悲鳴を上げる魔獣。
正面のイ寺に矛先を向け口から灼熱の火炎を生み出そうとする。
だが、遅い。
「九之太刀・花車!!」
魔獣が炎を吐き出すよりも早くイ寺が刀で顔を一閃した。
鮮血がまるで舞う花びらの様に吹き出ると彼等の力の本流が交じり合い光を生み出す。
最初は小さく生まれたその光は急激に膨張し魔獣を包み込むと破裂し消える。
そこには巨大な魔獣の姿は跡形も無かった。

207 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:48 [ Cb2wcvBU ]
全員、肩で息を吐き目に見えた疲労。
彼等はまだ構えを取ったまま意識を集中している。
全力を尽くして魔獣を葬ったがそれは所詮多くのうちの一匹でしかないからだ。
だが、それでもほんの少しの気の緩みが生まれてしまったのか天命なのか。
悪夢が彼等を蝕んだ。
突如として空を割り落ちる雷鳴。
隆起が顔を上げる。
それが自分を狙っているものだと気付いた時には既に回避のしようがなかった。

爆音。
隆起の居た場所は抉れ舞い上げられた雪によって視界が閉ざされる。
隆起達の身を案じてか集中を乱した巴姫の背後に巨大な影が姿を表す。
二角の巨獣ベヒーモス。

「――姫!!!」
任者の声に咄嗟に反応し刀を構えるが既に時遅し。
紫色の体毛とそこから生える二本の巨大な角が彼女を吹き飛ばした。
吹き飛ばされる巴姫を辛うじて受け止める任者。
「姫!姫!しっかりするでござる」
ぐったりとしている巴姫に必死の言葉を投げかける。
彼女の甲冑と刀に大きなヒビ。
完全な直撃では無かった様だ。
呼びかける声を止めず続けるとその声が届いたのだろうか僅かに反応を見せた。

目を開け此方を見つめる。
唇が僅かに震えるているのを見てお礼を言おうとしているのだと察する。
だが、それは発声できずに咳き込み。代わりに赤い血が口から流れ出た。

アバラ骨を何本かやられている。
致命傷ではないがこのままでは非常に不味い。
任者の心臓の鼓動が急激に増し焦りの色を今までになく強く見せる。
巴姫を抱え救護できる人間の元へと急ごうとする任者。

だが、相手も此方を黙って見過してくれるほど甘くは無い。
その存在を強く示すかのように悠然たる足音を立てるベヒーモス。
並みの者がその眼で睨まれた日には一瞬で戦意を失ってしまうであろう。
しかし、一刻を争う事態に直面している任者にとって目の前の巨獣は邪魔者以外の何者でもなかった。

「其処を退け。化け物!!」
一切の脅えを見せずに巨獣と対峙する人の姿が其処にはあった。
だが、ベヒーモスにはそんな事など構う必要などない。
その巨体から繰り出される暴力を目の前の人に全力で振るうのみ。

巴姫を抱えた任者にその攻撃は辛いものだった。
だが、自分は此処で倒れる訳にはいかない。
自分の死がそのまま巴姫の死へと繋がるのだから。
そんな彼の決意が能力以上の力を発揮させ攻撃をぬっていく。
しかし、それにも限界があった。

再び雷雲が呼ばれる。
降る雷とベヒーモスの攻撃に体制を崩し動きが鈍った。
(不味い!!)
思った時にはもう目の前にベヒーモスの顔が迫っている。
巴姫だけでも助けようと彼女の身体を強く抱き襲い掛かる攻撃に備えた。

「その主を守る心意気。天晴れなり任者」
声と共にベヒーモスを一閃するイ寺。
上手く目を狙ったのか流石の巨獣も僅かに後退を見せた。
「此処はワシに任せろ!!」
決意を覚悟した一声。
巨獣を前として凛として佇む漢は強くそう命令を下した。

208 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:48 [ Cb2wcvBU ]
「旗色は最悪。何故お前等は逃げない?」
状況に苦悩していた真黒に髭戦が声をかける。
恐怖に支配され逃げ出していった者達の仲で糞樽のLSのみはその姿勢を崩す事がなかった。
それを見ればこの様な質問を投げかけたくなるのは当然であろう。
「お前らLSのモットー。『命を無駄にするな』とか言う討伐シェルに似つかわしくないふざけたものだと聞いている。だが、この現状は何だ?無知無謀者とも取れるこの姿勢は一体何なんだ?答えやがれ」
それは彼の中でのプライドから来るものか。
どんな絶望下に置いても諦めずに戦う部下達。
これ以上の強い兵隊は存在しないからだ。
髭戦の言葉に何か感ずるものがあったのか口を動かす真黒。
「そのモットーを決めたのは団長。糞樽さんなんですよ。団長は今、内籐さん達と共に敵の本丸を突き進んでいるでしょう。それは俺達よりも遥かに辛い戦い。そして後戻りの聞かない背水の陣。自分達のリーダーが命を懸けてまで戦っているのに俺達が逃げ出す訳にはいかないでしょう」
平然と。
それをまるで当たり前の様に答える。
「元々、今までだって危ない場面は何度もありました。討伐すべき手気を楽に倒せる戦いなんて殆どなかった筈です―――だけど俺達は勝利を続け今こうして此処にいます。その出してきた結果を今も此処で見せるだけです」
「はっ!!言うねえ。討伐すべき化け物の中でも最悪の部類に入るものが複数闊歩しているこの空間でも希望を捨てないのはその為か。己が団長の為なら命さえも投げ出せれる覚悟って事か」
「………そうです。我々は、団長――糞樽さんと出会ったからこそ、今の自分達があるのです。ですから、俺達は逃げません」
言葉を言い終えた所で勢いよく胸倉を掴まれる。

険しい形相。
そこにある想いは果たして如何なるものか。
辺りにいた者達が止めようと近づくがお構いなしに声を上げる。
「意義がってんじゃねえぞガキ。そんな言葉が何になる。どれだけの力を持つ。違うよな?言うだけじゃ何にもならねえ、状況を打破する確かな力をお前は見してくれると言うのか?俺達に示してくれるのか?」

飢えた巨獣は死を呼び寄せる。
近くに屍。
周りは地獄。
味方は恐怖し背を向けた。
勇敢は無謀。
腰抜けは微かな生を掴む。
彼が問いたのはそれを覆せる確かな道標と真黒自身の覚悟の存在だった。

209 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:49 [ Cb2wcvBU ]
振り切った鎌。
其処に身を斬る感触はない。
空を斬る感覚しか得られず床へと到達する。
岩の地面を砕く音だけが薄暗い広間を虚しく木霊した。

視界には誰の姿もない。
ただ、そこにある景色だけが広がっていた。
(かわされた?)
瞬間的にその様に思案したが、あの刹那にも満たない時間の中で術を解き回避するのは不可能だと十分理解している。
何よりかわしたにせよ自身の視界内にいないのは如何なる事か。
姿を追う様に首を動かす。
するとアモンが此方の方を見て驚愕の表情を向けている。
不可思議に思ったが直にその表情の意味を理解出来た。
急な気配を感じ自身の背後から声が聞こえたのだから。

「――ピンポイントでの短距離空間跳躍。やってみれば意外と出来るもんだな」
アロケンとアモンは自身の軽薄さを呪った。
言葉に反応し振り向こうとする。
だが、その間もなく彼の身体に強い違和感が生まれた。

胸に衝撃。
アロケンの体を杖の柄が貫いている。
自身の体から異物が生えているのは実に現実味の無い光景である。
「な…」
声を出そうとしたが上手く発生出来なかった。
杖に触れようと手を胸にやるとすぐさまそれは引き抜かれ辺りに鮮血が舞う。
噴出す鮮血の所為だろうか胸部の温度が急激に上がった気がした。
肉が焼けたような臭いもする。
それが自身から発せられているのだと気付くまで数瞬であっただろう。
だが、それに気付いた時には全てが遅かった。

視界が揺れ身体を支えられず地に伏せる。
全身の血液が沸騰するのを感じ自分が燃えているのだと理解し意識を闇に落とした。

灼熱たる炎に包まれて呆気なく朽ち果てるアロケン。
その炎が一瞬柱上になると瞬時に霧散し元から何も無かったかのように消えうせる。
アロケンが倒れた筈の場所に残っていたのは彼自身の影だけだった。

210 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:49 [ Cb2wcvBU ]
髭戦の問い。
その言葉に対し顔を縦に振った。

「――勝算、あるんだな」
「ええ、リスクはでかいですが確実に相手を迎え撃つ術が」
真黒の真直ぐな目は嘘偽りを感じさせぬ純粋。
そして何かを決意した覚悟の表情がそこにはあった。

真黒の口が小さく動く。
『メテオ』と。
思いがけない単語に驚きを隠せなかった。
「これだけ言えば分かりますね」


『メテオ』。
黒魔道においての最高峰にあたる呪文。
遥か宇宙に浮かぶ巨大な岩石を落とし対象物を砕くそれは辺りの地形を意図も容易く変える。
たった一つの星を落とすのでさえ莫大な魔力を消費し、未熟な者なれば魔法自体に命を奪われる禁呪的存在。
だが、それ故に常軌を越えた化け物に対しても十分過ぎる効果を約束されている。


「――使えるのか。お前に…」
「私が知っているのはスクロール。一人では到底撃てる様な術じゃありません。糞樽さんでさえ、星一つ落としただけで全ての魔力を吸い取られてしまう程ですからね」
あくまで含みを残した言い草。
続きを待つ。
「だから俺以外の他の魔道士達から力を貸してもらいます。これだけの数がいれば可能かもしれません」
辺りを見回してみる。
逃げ出さずに残った奴等の中から魔道士だけを見てざっと十四、五人と言った所か。
それでも疑問系で返してしまう程に莫大な魔力を欲する呪文と言う事だろう。
「きっとこの事を団長が知ったら俺は大目玉を食らうでしょうね」
笑いかける真黒の顔は何処か寂しげでそれが永久に適わぬ事を理解しているのだと容易に読み取れた。

だが、それ程のリスクを負ってまで勝利を得ようとする姿勢。
思わず溜息を吐いてしまう。
「――ケッ、馬鹿が。もう、知らねぇ。お前の好きにしやがれ」
力を緩め真黒を解放する。

「おい、お前――」
傍にいた仲間にリンクシェルを渡す。
「……リーダー、これは一体?」
「リンクシェルだ」
「そんな事分かってますよ!そう言う事じゃなくて、俺に渡して如何するんですか!?」
声を上げる部下に対し、めんどくさそうに頭を掻きながら答える。
「これからはお前がリーダーだ。俺はこいつのLSに加勢する。リーダーとしてではなく一個人の思想でだ。だからそいつはもういらねえ。討伐シェルの方はお前の好きにするがいいさ」
突然の言葉。
驚く皆を他所にシェルを受け取った男は言葉に対して何かを思案する仕草。
一呼吸置いて答えた。
「…リーダー、残念ですがその願いに答える事は出来ません」
キッパリと当たり前の様に答える。
「何だと?」
「偶然ですが俺も同じ気持ちでしてね。ですからコイツを預かるわけにはいきませんよ」
リンクシェルを髭戦に返すと肩を竦めて溜息を吐く。
唖然とする髭戦。
そんな二人のやり取りを見てか、辺りの仲間も何かを諦めたかのように嘆息した。

「へっ。まったく馬鹿野郎共だぜ、お前等」
背負った両手斧を力強く掴み振りぬく。
「まあ、俺も馬鹿だからよ。人の事言えないがな!!」
戦斧を握った手を大空へと高らかに挙げた。
「行くぞ野郎共!!腰抜けはいらねぇ!!命が惜しい奴は家に帰って震えてな!!それも分からない馬鹿野郎だけは俺に着いて来やがれ!!」
そんな彼に呼応して次々と声が上がる。

211 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:50 [ Cb2wcvBU ]
「――と、その前に」
品定めする様な目で真黒を見つめた。

髭戦の視線に対し頭に疑問符を浮かべる。
そんな真黒に歩み寄ると胸元に触れギュッと掴む。
「ひゃぁ!!」
突然の事に声を上げる。
辺りの仲間達も思わず時間が止まった様に固まった。

「…リーダー、そんな趣味が……」
行動を理解してない部下達の顔が引きつる。
髭戦の回りに微妙な隙間が生まれた。

「な、何を!!――」
涙目になり思わず身構えてしまう。
「まあ、どんな理由があって男の也してるか知らんがよ――」
勘違いしている部下は無視して。
「――あんた、いい女だぜ。今まで出会ったどの女よりも最高のな!!」
その言葉に表情を唖然とさせる部下と真黒。
「…な、何の事だか知りませんが褒め言葉として受け取っておきますね」
戦斧を肩に乗せて真黒に笑いかける。
そこには始めて見せる緩やかに優しい笑みがあった。
それも刹那的で直に視線を逸らし険しい表情に戻ると髭戦は決意を新たにする。

そのまま振り返らず駆け出した。



真黒の回りに立つ部下達。
一丸となって敬礼し先頭の一人が声を上げる。
「副団長殿。我々はこのLSに入り貴方や団長と共に戦えた事を誇りに思います」
真直ぐに見つめる。
その瞳に宿る思いは果たして如何なるものか。
自分の考えなどお見通しなのだろう、それだけ彼等の決意は固く。
また、簡単に崩れるものではなかった。
覚悟を決める。
「あなた達の命。私に預けてください」
一度だけ大きく背を曲げ命を預けてくれる仲間にお辞儀をする。
それと共に彼女は心の中でそっと糞樽に懺悔した。
手を大きく振るい声を上げる。
「各人、陣形を組め!これより最終作戦に入る。残った前衛班は髭戦さん達の元へ!時間を少しでも多く稼げ!」
この作戦が終了した時、全ての結果は出ているだろう。
自分達が勝つのか、負けるのか。
だが、そんな事は考える必要はないであろう。
それは神のみぞ知る事柄であるのだから。

212 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:50 [ Cb2wcvBU ]
ベヒーモスと対峙する者達。
鎧を着込んだ大男が声を上げる。
「任者!!」
「ハッ――」
主君の言葉に反応する。
「お主とワシ等が交わした掟を述べよ」
何故今になってその様な事を問うのかは理解しかねたが主君に対して口答えなど出来る筈も無く、またする必要も無い為口を動かす。
「この身滅び死を迎えるその時まで。主君を襲う刃の盾となり。また、主君の前に立ち塞がりし者への刃とならん。それらの事柄、我ここに誓わん――でござる」
それは契約。
生まれた時から刻まれし彼等の一族の運命。
これを変える事は未来永劫ありえないであろう。
「うむ、その通りだ」
答えに満足したか強く頷く。
「任者よ、そなたは一度死んだ身。よって掟に反り貴様との契約を無効とする」
思いもよらぬ突然の言葉。
驚きを隠しえる事など出来ずに言葉を発する。
「殿、それは一体…」
必死で答えを求める。
だが、イ寺は耳をかさず自分の言葉を淡々と続けるのみ。
「聞こえなかったのか任者よ。貴様との主従関係による契約は破棄されたのだ。故にわしはもう貴様の主君でも何でもない。無論、我が娘巴もな」
今まで任者が聞いた事の無い様な優しい声。
そこには普段の厳粛な姿は無く一人の娘を思う父としての姿があったのかもしれない。
目を閉じて荒い息を吐く巴姫。
果たして彼女に意識があり今の言葉が聞こえていたのであろうか。
その目からは一筋の涙が流れ出ていた。

「だが、任者よ。最後に一つだけ命令を下すワシを許してくれ。我が娘を頼んだぞ…任者!!」
最後。
それが本当の最後の科白。
巨獣に駆け出すイ寺の背中に一礼し背を向ける。
だが、別れる瞬間。
背中を向けたままで見る事は適わなかったが。
イ寺の口元が小さく微笑んだ。
そんな気がした。

213 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:51 [ Cb2wcvBU ]
巨獣達が人を蹂躙していく様を心地良さそうに見つめるバティム。
もはや絶対的勝利を確信していた彼に感覚的不安が過ぎった。

僅かい残った人の集落。
醜く抵抗を示す彼等は所詮時間の問題と踏んでいる。
だが、しかし何故だろう。

自身の本能が叫ぶ。
彼等が何か良からぬ事を行おうとしているのだと。
バティムはその感覚を信じ彼等の元へと飛翔した。


最後の希望を掴もうと懸命に魔力を練り上げる真黒。
そこに黒い死神が姿を表した。

悲鳴と共に仲間の一人が命を落とす。
その肉体を踏み台にしてバティムが此方を覗き込んだ。
「ふう。まさかこの様な大呪文をあなた方の様な蛆虫が使用できるなど思ってもいませんでしたよ。危なく私の舞台を汚される所でした」
その言葉一つ一つに絶望が圧し掛かる。
ゆっくりと歩むその様は彼なりの余裕であろう。
バティムを止めようと数人の部下が襲い掛かるが一瞬の名の下に帰らぬ人と成り果てる。
「だけど、あなた達蛆虫などに奇跡は必要ない。無残に死に蹂躙される運命だと思い知りなさい」
真黒へと襲い掛かる死神の鎌。
目を見開き世界が閉じる刹那。
耳を裂く轟音が鳴り響いた。

鎌の刃に強い衝撃が走り押し戻される。
この様な離れ業をやってのけるのは一人しか心当たりが無い。

続け様に何度も聞こえる炸裂音。
鉄の塊が軌道を描きながら高速度で発射される。
無論、その全ては正確に急所を狙って。
必死にかわすが堪らず後退するバティム。
その無数の銃弾の一つが彼の翼を貫いた。

「ぐぅがぁ…!!」
低い呻き声を上げて地に足を付ける。
機能しなくなった左翼に抱えて銃弾の発射元に目をやった。

「人様達がせっかく頑張ってるのに水を指すなんざ。紳士たぁ言えないッスね」
「廃狩さん!!」
それは自分を救ってくれた事による感謝か或いは生きていた事への喜びか。
思わず笑みを零す真黒だった。

「こいつぁ、俺に任せてそっちはそっちのやるべき事を全力で頑張るッスよ!」
「はい!」
視線をバティムに向けたまま声をかける廃狩。
油断せず銃口を向けたまま。
「懲りない蛆虫ですね。そのまま逃げていれば少しばかりの生にありつけたものを」
「逃げるなんて格好の悪い事、俺の辞書には書いてないんッスよ。それにしてもあんた。そんな口調疲れないんすか?まあ、偽善者ってのは本性出すと大抵醜いもんスから隠したがるのは無理ないと思うッスけどね」
先程の仕返しと言わんばかりに皮肉をたっぷりと込めて。
「その五月蝿い口、永久に黙らしてさしあげましょう!」
言い終わると同時に引き金を引いた。
片翼を破壊されたとは思えぬ速度で被弾を免れる。
そして片手で鎌の先端を器用に使い廃狩の銃を弾き飛ばした。

中空で弧を描きバティムの後方に落下する銃。
得物を無くした廃狩の息の根を止めようと再度鎌を振るう。
だが、そこでバティムの予想外の事が起こった。

214 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:51 [ Cb2wcvBU ]
金属音と共に廃狩が鎌の刃を潜りバティムの懐に潜り込む。
その手には不気味に光る短剣が握られている。
だが、咄嗟に後退された為胸元を浅く掠めるだけだった。
「こいつにゃ特製の猛毒が塗りこんであるッスからね。あんたでも斬られる所によっては致命的になりうるッスよ」
かわされた事に内心舌打ちするもそれは表情に出さず笑みを浮かべる。
姿勢を低くし刃を逆手に持って構える廃狩。
独特のリズムを刻み追撃のチャンスを伺っている。


先程の回避は短剣の刃を滑らして軌道を僅かに逸らしたと言う事か。
だが、それは此方の虚を衝いたからこその事で二度目はないであろう。
「まさか短剣を隠し持っていたとは意外でしたよ。しかし、その奇襲も失敗に終わった。その様な小さき刃物で私の大鎌を何度も受ける事など不可能でしょう。俄仕込みの武器など使った所で何も変わりはしませんよ」
再び駆け出す。
だが、廃狩の予想外の短剣捌きに先程の考えを訂正させられる。
素早く正確に刃を繰り出す。
振られる鎌に姿勢を低くして回避すると無防備になったバティムを刹那の時間で五度斬り付ける。
「はんっ!俺は元々シーフ出の狩人ッスからね。銃しか使えないと思ったら大間違いッスよ!!」
言葉どおり熟練したシーフでも目を奪われそうに成るほど華麗に短剣を使いこなす廃狩。
しかしバティムも自分の得物には絶対の自信があるのだろう重量に見合わない速度で鎌を振るう。
それに伴った巨体とは思えぬ速度が時折廃狩の動体視力を凌駕する。
視界外から振るわれる鎌。
本能的に顔を右に逸らして何とか回避した。

(目で追ったら駄目ッス。今まで培った感覚に身を委ねるッスよ)
バティムの右腕が左脇腹を掠めるとそれに怯まず一歩踏み出して右腕を斬りつける。
懐に入った廃狩を発達した爪で切りつける。
あくまで紙一重の回避。
小さな傷が幾つも生まれる。
だが、それでも攻撃の手を休める事はない。

瞬き一つで確実に命を落とす。
綺麗に勝てるなんて虫の良い事は考えてない。
相手は間違いなく自分より上なのだから。
一撃でもまともに喰らえば自分の負け。
そこには一握りの余裕もない。
例え傷を負おうと致命傷となる攻撃さえ外せば良いのだから。


バティムは戦いながら思案する。
確かに相手が武器を隠し持っていた事。
それに対する熟練度の見誤りは認めよう。
しかし、それは所詮そこまでの事でしかない。
理解してしまえば恐れる程でもないのだ。

しつこく喰らい付く廃狩に膝を入れる。
上半身の動きにばかり気を取られたのか完全に不意を衝かれた。
なんとか回避したが相手との距離が開く。

お互いの絶対的なリーチ差を考えれば廃狩は接近せざるおえないのは至極当然。
今の彼には接近戦しかないのだから。
必要以上に迫り来る廃狩のそこを狙い討てば良いだけの話。

案の定此方の懐を狙う廃狩。
振るった鎌をギリギリで回避しさらに踏み込んでくる。
予測した通りの動きに内心ほくそえみ笑みながらも空いた方の手で心臓を狙った。

だが、途中急ブレーキをかけるとバックステップ。
てっきり懐に来るのだと踏んでいた為、虚を衝かれた。

廃狩が左手を軽くスナップさせる。
するとバティムの視界に掌小サイズの丸い球体が視界に入った。
バチバチと音を立て火花を散らすそれを瞬時に理解すると顔面を覆い全力で後退する。
ズドムと、鈍い音を立てて球体が破裂。
それに伴った火力が生まれる。
咄嗟に飛び退き顔面を防御したが腕の表面に軽い火傷を負ってしまった。

続けざま手甲を火打石代わりとして導火線に火を灯し先程の炸裂弾を指で弾く。
「あんたにゃまともにやっても勝てる気しないッスからね。持ってる手札全部使って勝たせてもらうッス!!」
今度は五つ同時。
だが、流石に相手も馬鹿ではなく、二度も同じ手は喰らってはくれない。
しかし、廃狩の策は其処にあった。
飛ばす時の方向をさり気なく操作し右側に多く飛ばしている。
故に相手は無意識的に空いた方へと回避するだろう。
そこを狙い飛び込む。
破裂音と共に回避。
此方の動きを先読みされたのか対応に遅れるバティム。
勝機を逃さず最速で動脈を狙い刃を振るった。

硬い音と硬い感触。
皮膚に触れたとは違うその感覚に動きが止まる。
見ると自身の口で短剣をしっかりと咥えている険しい形相のバティム。
「…あちゃぁ〜。失敗したッスね…」
言葉と同時に腹部に強い衝撃が走り体が宙を舞った。

215 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/27(土) 18:52 [ Cb2wcvBU ]
信じられない光景に思わず後退するアモン。
勝利を掴みかけたと思った矢先の出来事に対し受け入れたくない想いなのであろう。
既に彼には抵抗する力を残しておらず、糞樽の些細な動きでさえ敏感に反応を示した。

糞樽の口が開く。
「最後のアレは中々良い手だった。流石にやばいと思ったぜ」
此方を褒める様にして感心する。
わざと音を出す様にして一歩だけ足を出す糞樽。
思わず反応してしまった自分が情けない。

ハッキリと自覚している。
自分はこれから滅ぼされる事を。
何の抵抗も出来ず弱者の如く。
それが理由か思わず口が動いた。
「我々は貴様を殺す事が適わなかった。だが、貴様の仲間は今頃我等の同士によって葬られている筈だ。貴様の様な異常は二人と存在しないだろうからな」
負け犬の遠吠えと言われても反論出来ないだろう。
だが、滅びる前にほんの刹那でもこの男の焦燥を見てみたかったのだ。
「流石に一人では我等の眷属と王を討つのは不可能であろう?」

そんな此方に対し表情を感じさせぬ顔付きで言葉を発っする糞樽。
「――相手が悪かった。ただ、それだけの事だ」
此方の話など耳に入っていなかったかの様に。

杖を握った右手を前に出し意識を細める糞樽。
背筋が凍るのを実感した。


糞樽の周囲。
杖の先端の宝玉を中心として魔力が集まるのを知覚する。
魔法が顕現される前からして溢れ出す力の泉に絶望を抱く。

それは自分には届かなかった魔力の高み。
戦ってる時でさえ糞樽は余力を持っていたのか。
絶対的な暴力の波が渦巻くのを連想させる。
その流れの前には自分など何の意味も成せないまま消えるのみ。

思わず笑いが零れた。
「…ははっ、そうか貴様が我々の死神だったと言うわけか。世界に形を成して四百と四年。まさか己より下等な生物に、しかもこの様な若造に滅ぼされる運命だったとは――。何とも愚かしくも虚しいものだ」
掌を顔に押し付け自暴自棄に笑う。
未だに何の感情も示さない糞樽。
もう、自分など見てすらいないのかもしれない。

「嗚呼嗚呼嗚呼アアアァァァァァァァァァ!!!!!!!」
悪魔の絶叫。
それは最後に残ったプライドか、恐怖によるものか。
アモンの中に黒く渦巻く感情が背中を押し、歩を進ませる。
もはや、如何にもならない現実を痛々しいほどに実感しながら。
自らを死神へと捧げる様に突撃する。

迫るアモン。
糞樽はそれを遠目に見つめるのみ。
辺り一体の温度が急激に下がった気がした。
それと同時に糞樽に集約された力が弾ける。
「さよなら」
最後にそんな声を聞いた気がした。

視界が白く染まる。
肌寒さを感じる事もなく。
血の一滴、魂に到るまでの氷結地獄。
その身に受けたアモンの意思は永遠の闇へと飲み込まれていった。


薄暗い広間に一人のタルタルの姿。
二匹の強敵を倒し広間を後にする。
糞樽は広間に背を向けたまま小さく呟いた。
「――俺の仲間はそんなに弱くねえよ」
駆け出す。
仲間の無事をひたすらに祈りながら。





|w・`)<次の更新がラストですね。今日は此処まで!!

216 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/27(土) 20:36 [ KHeQ008s ]
GJ!!!!廃狩&糞樽超かっこよさすぎ!!

217 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 00:33 [ LHzkEYwA ]
なんとなく、今回の話終わるまで観想書きたいのを必死で抑えてる人〜?




(・∀・)ノ

218 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 08:48 [ qp8bejC2 ]
>>217
(・∀・)ノシ

219 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 13:02 [ V/hc6aPE ]
>>217
(゚∀゚)ノシシシシ

220 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 20:24 [ rCG.qMGk ]
>>217
(・∀・)ノシシシ

221 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 21:35 [ l/pf1/P6 ]
(ノ∀<)ノシ
ところで今日は更新無いのかな

222 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/28(日) 21:46 [ TyOmtqXU ]
>>221さん
|w・`)<今、帰って来ましたが望む人も多いので今から一気にやってみます。



|w・´)<よし!目標午前三時までに完結!!(遅

223 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 22:41 [ PfhK.192 ]
無理しないでね〜〜

でも待ってるよ〜〜

224 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/28(日) 22:43 [ /C.T6oy2 ]
がんばってくださーい^^

225 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:08 [ /VhdivlM ]
最終・・・投下!!



「…あれ、俺は一体…」
朦朧とする意識。
視界がぼやけて揺れている。
身体を動かそうとすると軽く痛みが走った。

身体をゆっくりと動かし起こす。
段々と意識が鮮明になり視界が回復する。
それと共に先程までの記憶も浮かび上がった。

不意に生じた雷が自分の上に降りかかった。
反応が遅れた俺はそのまま――。
疑問点が生じた。

何故、自分は生きているのかと。
間違いなく直撃した筈。
かわせるものではなかった。
あれ程の威力なら即死しても何らおかしくはない。
多少の痛みはあるが傷はさほど重くはない。
それと対照的な焦げた鎧。

だがその疑問も直に氷解する。

腹部にかかる重みに気付いてそれを確認する。
見たくはない光景だった。

「蜜柑!!!!」
肌が黒く焦げ付き翼はボロボロ。
それだけで全てを悟った。
蜜柑が自分を救ってくれたのだと。

急ぎ抱きかかえる。
その身体は冷たく生を感じる事が殆ど出来なかった。
最悪の展開が頭を過ぎったが蜜柑の瞼がそっと動きをみせる。
傷の重さからとても無事ではないが生きていた事に喜ぶ。

隆起が安所の顔を浮かべていると蜜柑の瞳が此方を見る。
表情を確認して震える口を動かす。
「…よう…ご主人…しぶとく生き返ったか…流石に恐れ入るよ…」
「何言ってんだ蜜柑。お前が助けてくれなきゃ俺は今頃――。なんで、こんな真似を…俺なんか無視しておけば…」
蜜柑の身体に何かが当たる。
それは隆起の瞳から生まれた雫。
「馬鹿野郎…馬鹿野郎…馬鹿野郎…」
蜜柑を優しく抱きしめる。
「…そんなに馬鹿馬鹿言うなよ…全く…馬鹿なのはどっちだよ…最後の最後まで馬鹿だなご主人…そういう過剰なまでに過保護な所が駄目なんだよ―――でも今この時は………少しだけ……嬉しく思っちまったけどな………折角永らえた命なんだからさ…大事にしてくれよ………」
全てを言い終えて満足したのか。
その瞼をゆっくりと閉じる。
「待て!!蜜柑、目を閉じるな!!俺を残していくんじゃねえ!!」
必死で蜜柑を繋ぎとめようと叫ぶ。
だが、そんな隆起を置いて完全に目を閉じた蜜柑。
健やかな寝顔をして。
やがてその姿が辺りに溶け込み視界から薄れていく。
腕に掛かっていた重みが消える。

隆起は完全に悟った。
認めたくはなかった。
だが認めない訳にはいかなかった。

もう、蜜柑はいないのだと。

226 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:09 [ /VhdivlM ]
それは酷く曖昧で現実感のない感覚であった。
ただ、今自分の視界は酷く歪んでいる。
その事が現実と言うものを嫌というほど肯定している真実だった。

声も出ない程に壮絶な思いで彼は泣いたのだ。
失ってしまった重みはとても大きかったから。
決して手放したくはなかったのだから。

哀惜の念にひたすら苛まれる。
こんな自分を見たら蜜柑は呆れるだろう。
だが、今はそれでも構わなかった。
只もう少しだけこのまま感傷に浸っていたかったから。

しかし、運命は彼にそんな悠長な刻を与えてはくれなかった。


大きな地響きが身体に伝わる。
億劫に感じながらも振り向けばそこには巨角の獣の姿が見えた。

そこには傷付きながらも果敢に戦うイ寺の姿。
巨獣が咆哮を上げ雷鳴が天を裂く。
このままではやられるのも時間の問題であろう。


「…なんだよ。もう戦えって事かよ…恨むぜ神様…」
もう少し感傷に浸らせて欲しいと切に願う。
だが、今の自分にはこう言う展開の方がいいのかもしれない。
ほんの少しでもこの気持ちを紛らわせる事ができるならば。
このやり場のない怒りの矛先を突きつけるには十分過ぎる相手であった。

「ぐぅおぁ!!」
攻撃をなんとか防御するも留めきれない衝撃が容赦なく肉体を破壊する。
死を呼ぶ巨獣の遊戯が大地をイ寺ごと抉ろうとする。
ベヒーモスの巨角が容赦なく地面を砕く。
だが、そこにはイ寺の姿はなく前足に小さな傷が出来ていた。

「隆起殿。生きておられたか」
「ああ、俺にはまだやるべき事があるからよ」
寸前の所でイ寺を助けた隆起。
しぶとく生きている二人に突撃する。
その巨漢を飛び退きかわす。

攻撃後から少量の距離に隆起の姿を捉える。
仕留めそこなった事への不満か果たして只の闘争本能か。
先程とはうって変わり頭を振り積極的に隆起を襲う。
だが、彼はギリギリの範囲で交わす。

「墳!!」
隆起に照準を合わせたベヒーモスの空いた身体側面を全力で斬り付けるイ寺。
考える前に体が動いていた。
ともかく真正面から遣り合っては勝ち目はない。
足を使い敵の照準を狂わせての持久戦。

「掛かって来こいよ化け物!!」
相手を挑発する様に指を動かす隆起。
一撃でも喰らえば二度と動けない致命傷。
或いは即死もありえる。
だが、敵の耐久力は此方の攻撃を何度受け止められるのか。
しかし、覚悟を決めた二人にそんな事は関係なかった。

殺るか殺られるか。
ただ、それだけの事なのだから。

227 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:09 [ /VhdivlM ]
カクンと足から力が抜ける。
急激に負荷が跳ね上がった。

呪文を完成させようとするスクロールが容赦なく真黒から魔力を奪い取っていく。
周りの仲間の表情も険しい。
膝を付き意識を失いかけている者もいる。
「そんな、此処まできて……」
(体がバラバラになりそう…やっぱり…私には無理なの…)
必死に自分に問い掛ける。
(皆が頑張ってる。私を信じて…それに報いる事さえ出来ないと言うの)
非力な自分が悲しかった。
皆の期待を受けているのに。
それら全てを裏切ってしまう。
自分には糞樽の代わりは無理なのだろうか。
そんな思いでどんどん気弱になってしまう。

意識が薄れる。
必死で耐えようとするがそれも付け焼刃にしかならない。
薄れる意識の最中、彼女は自分の記憶の一欠けらを垣間見た。



『わ、私が副団長ですか!?』
突然の糞樽さんの申し出に私は驚きを隠せなかった。
思わず言葉が自に戻り咳払いを一つすると何時も通りの口調に戻す。
『あの、団長。何故、俺が副団長なんですか?実力面から言っても自分より強い人は沢山いますよ?』
生真面目に答える真黒。
そんな真黒に嘆息すると口を動かす。
『お前の言ってる強さってのは何だ?』
糞樽の問い。
言ってる意味を理解出来なかった。
『すいません。それは如何いった事でしょうか?』
『要はだ。強さっても色々あるわな。単純な腕力や頭脳、精神的な強さだったり。その中でお前が望む強さってのは何なんだ?』
『…望む強さ…ですか…』
『俺みたいな奴でもこうして団長なんて事をやれるんだ。お前に出来ない道理はねえよ』
肩を竦めて語る糞樽。
だが、その言葉に意識する所があった。
『それは、糞樽さんが特別ですから。糞樽さんには皆を引っ張り導く強さと力があります。私にはそんな才能も実力も到底ありませんですし…』
声がどんどん小さくなる。
それは自分の弱さだろう。
そんな真黒を見てまた大きく嘆息する糞樽。
表情を真顔に戻す。
『違うだろ。リーダー――団長なんてのは所詮只の肩書きでしかねえんだよ。その時その瞬間にそいつの元に誰かが集まった時そいつは立派な統率者だと言えるんだよ。意図せずともな』
糞樽が立ち上がり背を向ける。
『お前なら、信じられる。それだけだ』
そう良い残してその場を後にした。

228 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:10 [ /VhdivlM ]
「…ぐぅ…あ・・・」
咄嗟に後ろに飛び威力を殺したがそれでも悶えるような痛みが全身を駆け巡る。
「内籐さん見たいに上手くはできないッスね。やっぱり…」
そんな事を言いながら立ち上がる。
だが、地を支える足に力が入らない。
追い討ちをかけるように吐血し咳き込む。

散々威勢良く戦った結末がこれだ。
そこに追ってきたバティムの姿。
此方を観察するように見るその目は余裕に満ちている。
「随分顔が優れないようですね。休んだら如何です?」
「へっ!!心配無用ッスよ!!」
力の入らない身体で精一杯短剣を振るう。
だが、速度も威力もないそれは傷を付ける事はおろか触れる事さえも許さない。
此方の弱った様を見て非逆な笑みを浮かべるバティムが癪にさわった。
足払い。
力の入っていない足腰にまともに受け倒れこむ。
手に握った短剣が零れる。
攻撃を受けたからと言えども此処まで力が無くなるのは情けなくてしょうがなかった。
倒れて動けない廃狩を足で押さえつけ上から見下す。
「良い様ですねぇ」
鎌の柄を此方に向けそのまま下ろす。
それは鬱憤を晴らすかのようにジワジワと甚振る行為。
簡単に殺しはしないと言う意思がヒシヒシと伝わってきた。

反撃も間々ならず一方的に小さな攻撃を受ける中鈍い音が鳴る。
ボキ。
同時に凄まじい痛み。
「うあぁぁぁぁぁ!!!」
左腕を砕かれた。
此方が上げる悲鳴をまるで優雅な音楽をの様に聞きほれるバティム。
殺そうと思えば何時でも殺せる。
そう言った意味での見せしめ的行為。
其処にあるのは敗者と勝者の二択のみ。
最も、そんな事をしなくとも今の状況で十分に理解しているつもりだが。

そこには弱者を甚振る陰険な表情があった。
敗北感が押し寄せる。
だが、不思議と恐怖や絶望感はなかった。
ただ、一つ。
酷く腹が立った。
ムカツク面目掛けて唾を吐きかけてやりたかった。

「その目。一体どうした事でしょうね。この状況でそんな目が出来るあなたは酷く腹立たしい」
何かを思いついた様な表情。
指先を真黒の方に向ける。
その途端、廃狩の目が見開き驚愕のそれに変わった。
あまりにも分かり易いその反応に思わず笑いが零れる。
「やはり、そう言う事ですか。自分よりもあそこにいる雌が大事なのですか」
「何を!止めろ!!」
反応し足を掴む。
だが、自分の力ではビクともしない。
此方のもがく様を本当に楽しそうに見つめる。
「しつこいですね。まあ、良いでしょう。私が手を下さなくとも勝手に自滅するでしょうし」
「…なっ!?」
「先程、私はあそこにいた魔道士を六人葬りました。この意味が分かりますか?」
此方に問い掛ける。
勿論意味など分からない。
「あれ程の魔法となれば見返りも大きい。元々でギリギリの人数だったのですよ。それなのに望みを賭けて魔法を詠唱するなど全く持って愚か者ですね」
バティムの言いたい事を理解した。
悔しさのあまり歯が砕けそうな程強く噛み締める。
「そうそう、その表情。そう言うのが見たかったのですよ」
そう言って鎌を高らかと上げる。
また強く痛みつけるつもりなのであろう。
もしかしたら息の根を止められるかもしれない。
しかし、それでも自分の前で彼女等が殺されるのよりはずっと増しなのだと思う自分がいた。
「おいっ」
優越感に浸ったバティムの背中を叩く者。
すぐさま頬に強い衝撃。
不意な攻撃に敵意を露にし愚かな行為をした者を睨み付ける。
そこには拳を構えて此方に構える男の姿。

「――そうだな、お前みたいな奴はこの世から消えた方が良いぜ」
皮肉たっぷりに言いながら彼は此方を見下していた。

229 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:10 [ /VhdivlM ]
どれだけ攻撃を加えたであろう。
目の前の巨獣は確かにダメージを負っている。
だがしかし、自分たちの体力も限界を超していた。

ベヒーモスが動く。
此方がかわせないのを見越して身体毎押し寄せる。
(俺の命運此処まで……か……蜜柑、悪いな直にそっちに行くぜ…)
「まだじゃ。まだワシの刀と心は折れておらんぞ!!」
棺桶に半分足を入れながらもその言葉が吐ける事を尊敬したくなる。
諦めて目を閉じようとしたその時。
聞きなれた声と音楽が聞こえた。

「あんさんら!!何諦めとるん、しっかり気張りや!!」
身体に力が漲り咄嗟に回避する。
視界を向けると歌樽の姿。
「お前、逃げたんじゃなかったのか!?」
思ったことをそのまま口に出す。
「何言うてんねん。ちょいと、そこいらの腰抜け共を捕まえに行ってただけや。逃げただなんて人聞き悪いで。まあ、説得するのにちょいと時間食ってしもうたけどな」
歌樽の後ろには逃げた筈の連合軍の姿。
気のせいか顔色が悪い。
「ほらほら、あんさん方。此処まで来たら覚悟を決めて思いっきりいきなはれ。ビビッてばっかりやと格好つかへんで」
そんな彼等の蹴り飛ばし催促する。
それでヤケクソになったのか駆け出した。

折角追い詰めた獲物の邪魔をする小さき生き物に腹を立て目標を変える巨獣。
無謀ながらも果敢に挑む彼等。
歌樽は一体どうやって彼等を奮い立たせたのだろうかと如何でも良い事を考えたが直に頭振る。
ともかく、この勝機を逃す手はなかった。

一呼吸置いた後。
決意を固めた顔へ。
「…冥土の土産決まりだな!!」
刹那、隆起の姿が消え辺りの雪が抉れ、弾けた。
耳障りな音が体中に響く、足の骨が砕けたのだろう。
もう二度と自身を支える事は叶わない。
俺自身の全てを込めて、賭けた一撃。
その結果はほんの数秒先に訪れる。
視界にベヒーモスの姿を捉えた。
だが、巨獣も此方の接近に気付いたのか顔を上げ迎え撃とうとする。
「ウオオオオオオオォォォォ!!させるか!!雪・月・花!!」
イ寺の死力を振り絞った攻撃。
巨獣の大きな身体が傾き崩れた。
両方の前足が粉々に砕け散ったのだ。
ベヒーモスが咆哮する。
雷鳴を呼び辺りをなぎ払う。
攻撃を終えて無防備になったイ寺にそれを回避する手段はなくその生涯を終えた。
「隆起殿―――――!!!後はまかせ……」

「滅びろーーーーー!!!」
声と共に隆起がベヒーモスの頭上に飛来する。
轟音。
それと共に酷く嫌な音を立て、巨獣の頭は粉々に粉砕された。

崩れる巨獣。
頭を無くしたそれは力無く横たわるのみ。
そしての頭が在った筈のその場所には一本の槍だけが血溜まりに突き刺さっていた――。

230 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:11 [ /VhdivlM ]
負けられない。
皆が自分を信じてくれた想いを裏切る訳にはいかない。
必死の想いで呪文を制御しようと苦しむ真黒。

不意に負担が軽くなった。
目を開けて見ると其処には場を後にした筈の討伐シェルの姿。

「ははは、糞樽LSと髭戦のLSにばっかり良い所譲る訳にはいかないですよ」
「そうだぜ、俺達にもかっこつけさせろよ」
「まあ、今更かもしれねえがよ。後悔したくないんだ」

どうしてと聞く真黒。
駆けつけた一人が腰に入ったリンクパールを指差す。

「リンクパールからあなたと髭戦の声が筒抜けてまして」
「やる事は皆分かっています」
「元々俺達は戦い以外不器用だもんな。ここで逃げたら笑いもんだぜ」

次々と集まる力。
人の結束が力となり想いが通じた瞬間。
彼等の周りに魔力の柱が出来上がる。
白く光を放つそれは闇に包まれた空の一条の一欠けら。



「見てみろよ、人間てのはな。ああいう、愚か者の下に意外と集まったりするもんなんだよ」
幾人者想いが力となった光の柱を視界に入れながら語る。
狂わされた筋書きに一気に焦りの色が見せるバティム。
「邪魔だ、其処を退け!!」
バティムの表情から余裕が消えた。

長く強靭な爪が髭戦を襲う。
だが、彼はそれをかわそうともせず受ける。
「ははは!!どうやら立っているのが精一杯の様ですね。安心なさい、一瞬で殺してさしあげますから」
息の根を止めようと鎌を振り下ろした瞬間。
瀕死とは思えぬ速度で髭戦が動きバティムの後ろに回りこむ。
「何のつもりですかこれは?」
バティムを羽交い絞めにする髭戦。
人とは思えぬ力で押さえつけ流石のバティムも動きが取れない。
だが、彼はまったく動じず口を動かす。
「これで私の動きを封じたつもりですか。あなたのその出血量から考えてもこの行為にはなんの意味も持ちませんよ。あなたの力が緩んだ所で止めを刺してあの雌の息の根を止めるなど造作でもない」

「…そうだな。俺一人じゃどうしょうもねえよなぁ」
「分かっているなら無駄な抵抗はおやめなさい!!」
無駄な行為に腹を立て叫ぶ。
だが、そんな事をまったく気にしてないのか笑みを浮かべている髭戦。
「だってよ。どうする?」
誰かに語りかける声。

「…酷いッスね。俺の事、完全に忘れるなんて」
その相手に気付きハッとするバティム。
視界に廃狩の姿。
先程、散々痛めつけた所為で足取りはおぼつかないがバティムは驚愕の表情。
髭戦に気を取られていた間であろう、その手には銃が握られていた。

銃口が此方を向いている。
何時でも撃てると言わんばかりに。
「廃狩、勿体つけてないでさっさと撃ちやがれ」
容赦なく髭戦が言葉を放つ。
それに対し信じられないと言った表情のバティム。
「なっ!!馬鹿な、何を言っているのですか。この状況で撃てばあなたも確実に死にますよ!?」
必死にもがくが死を覚悟した髭戦の火事場の馬鹿力がそれを必死に抑える。
だが、その度に傷口から新たに血を噴出し苦しむ髭戦。
長くは持たない。
「早くしねえか!!」
必死で催促する。
廃狩は何も言わず照準をバティムの心臓へと合わせる
「止めろ!止めろ!止めろ!止めろ止めろ!止めろ!止めろ!止めろ止めろ!止めろ!止めろ!止めろ!!!!!!!」
絶叫めいたバティムの声。
その声を掻き消すかのように炸裂音が響いた。

発射される弾丸。
世界が酷くゆっくりと見えた。

弾丸がバティムを貫く。
後ろにいた髭戦と一緒に――
「ざまあみやがれ…」
二人の鮮血が辺りに舞い決着の証となって降り注いだ。

231 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:12 [ /VhdivlM ]
長く複雑なスクロールが完成し、真黒の上に集約される。
天を貫く巨大な光の柱。
それは急激に膨張し魔法の完成を意味した。

皆の想いを乗せて高く高く登って行く。
柱が消え一瞬の静寂。
やがて大気を震わす音と共に雲を割り巨大な岩の塊が幾つも姿を現した。
真っ赤に燃え上がり軌道を残すそれは正しく星の涙とも呼べるものであった。

それを見届け、意識が遠のくのを実感する。
体中の力が抜け指一本動かない。
身体の重みを支える事が出来ず地面に倒れ伏した。

彼女の周りにいた仲間たちは安らかに目を閉じて倒れている。
達成感と満足を噛み締めて悔いの無いような微笑さえも浮かべて。

真黒の瞼がゆっくりと閉じていく。
身体にあたる雪が冷たくて気持ち良いと場違いな事を思いながら。
彼女は目を閉じて意識を落とした。

最後に。
本当に最後の一瞬だけ。
一言の懺悔。
「御免なさい」と――。

232 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:13 [ /VhdivlM ]
不意に。
暗い世界に漂った自分に一条の光が見えた。

彼女は手を伸ばす。
そして僅かに漏れる光を掴んだ瞬間。
世界が色に包まれた。

「ん…」
想い瞼をゆっくりと開ける。
頭が重い。
体中に疲労が溜まっているのだろう。
それでも無理をして必死に身体を起こすと彼女の視界に一人の男の姿が見えた。

「おはようッス。気持ち良さそうに寝てたッスね」
気楽な声で語りかける廃狩。
ぼやけていた頭がハッキリとして鮮明になると彼女は辺りを見回した。
此方に向けて手を振る廃狩。
その周りには倒れ伏した獣人達。
自分が気絶している間ずっと守っていてくれたのだろう。
だが、見回しても廃狩以外の人の姿がまったく見えない。
「は、廃狩さん……皆は?」
布で自分の銃を磨いている廃狩がピクリと動く。
その問いに暫しの沈黙。
一呼吸置いた後ゆっくりと口が開かれた。
「―――死んじまった…ッスよ。」
言葉の意味に一瞬固まってしまう。
理解出来なかった訳ではないが理解したくなかった。
「簡単だけど周りにいた人は埋めておいたッスよ。野晒しよりは幾分かましッスからね…」
どこか呟くようなその言葉を聞いて涙が溢れた。

233 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:13 [ /VhdivlM ]
吹雪が舞うボスディン氷河。
邪魔をする障害者を突破し傷付きながらも必死で巴姫を抱える任者の姿。
不意に巴姫の指が動き服の裾を引っ張った。

唇を動かし此方に語りかける。
その言葉の意味を理解し足を止めた。

任者の顔を見つめる巴姫。
その美しき顔も今では血の気が離れ艶を失いかけている。
もう、長くはないのであろう。
それを感じてか力を振り絞り言葉を発した。
「…内籐殿は…わらわにとって憧れであった…だが…わらわはあの殿方にはつり合わなかった様じゃ…」
突然の言葉。
だが、動揺も見せず答える。
「…そんな事ないでござるよ…巴は人目に比べても美しい…」
フォローを入れてくれる任者に微笑む。
「だが…後悔は無いぞ…それが…儚く刹那の時であれな…」
震える手を任者の顔に当てる。
仮面によって隠されたその顔は拝めないがきっと彼は泣いているのだろう。
だから、それを止めたかったのかもしれない。
「任者…そなたは内籐殿とは違う…だが…こうしていると…何故か心が安らぎ落ち着く…まるで春の縁側にいる様じゃ…」
それは哀惜の念によるものか近すぎて見えなかったものが今そこにはあった。
「そなたの…その仮面の下…嘘偽りのない素顔を見せてはくれぬか…?」
「巴が望むなら――」
短く黒い髪が風に靡く。
片目に大きく傷痕を残してはいるがその顔は上質の者だった。
「アハハ……なんだ…男前な面をしておる…それを包み隠して…もったいないぞい…」
「拙者には如何とでも良い事でござる。巴さえいればそれで。それ以上は望まない…」
「…それは…わらわに対しての…愛吟の言葉と受け取って良いのじゃろうか…?」
答えず頷く。
一呼吸置いて唇を動かす。
「握り飯以外の料理は苦手であるぞ…それでもよいか?」
「はい」
「わらわは嫉妬深いぞ。わらわだけを見てくれるか…?」
「はい」
「わらわが目を覚ましたそこには何時もお主の顔がそこにあると良いのう…」
「――はい」
「任者…こんなわらわの…傍らに…何時までも…いてくれるか…?」
「はい、勿論で御座る」
「…よかっ…た…――」
最後にそう言い残して。
眠る様にして瞳を閉じた。

234 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:14 [ /VhdivlM ]
その顔はとても穏やかで。
呼べば眠そうにして目を覚ますかもしれないと想うほどに。
だけど、それは適う事がなくて。
それがどうしょうもなく悲しくて。
溢れる涙は抑えられず。
「――巴、巴!巴!!巴!!!」
愛する者の名を必死で呼び続ける。
幸せの終わり。
始まる時と同時の終焉。

周りから低い唸り声が聞こえた。
何時の間に集まったのだろう辺りは腹をへらし血に飢えた虎達が極上の餌を前に喉を鳴らしている。
狙いは勿論巴姫の亡骸であろう。
彼女をそっと地面に寝かすと短刀を握る。
「貴様等如き薄汚い獣が巴に指一本触れる事は許さぬ!!」

必死に抵抗を試みる任者。
此処までの戦いの傷と疲労。
それに吹雪の寒さも相まって衰弱している。
身体が思うようには動かない。
だが、巴姫の亡骸を獣などに渡す訳にはいかないのだ。
飢えた獣は必死の任者にお構いなしに数を増やし目の前の獲物を貪ろうと牙を立てる。

もう力が入らない。
視界は黒と白を繰り返し。
感覚は何処か漂う様にして心もとない。
巴姫に牙を付き立てようとする虎を跳ね除け彼女の身体を抱きしめる。
その際、爪で背中を大きく抉られた。

もはや、痛みなどまるで感じはしない。
何本もの爪と歯が彼を襲う。
最後に残った忍具を使ってそれらを一時的に後退させる。

巴姫の顔。
そこに自分の赤い雫がかかり汚れてしまう。
拭いて落とそうにも腕が動かない。
彼は目を閉じ覚悟を決めた。

「――巴。ずっと一緒だ。片時もそなたとは離れぬ」
そう言って口付けをする任者。
最初で。
そして最後の。
生のない冷たい亡骸を必死で抱きしめて。
彼は巴姫の後を追う。
「永遠の刻の中で静かに暮らそう――」
任者の身体から何本もの光の線が走る。
何かが脈動する様な音を立てて。
二人を中心として光が包みこんだ。
辺りの獣達を巻き込んで。

二人に近づく全てを消し去るように―――。
大轟音が響き渡った――。


光が収まる。
其処には獣の姿も任者と巴姫の姿もなく。
ただ、煤けた面妖な仮面だけまるで微笑んでいるように落ちていた。

235 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:15 [ /VhdivlM ]
歩きにくい雪の上をトボトボと進む。

グギュルルル。
お腹が鳴る。
今日は沢山頑張った。

だからそれに見合った食事を身体が要求している。
疲れた時は美味しいお菓子が回復魔法の何倍も効く。
ポーチに入ったお菓子を一つ手に取り口に運ぶ。
甘い味が口いっぱいに広がり腹を満たす。
また歩く。
それに合わせて食欲。
また一つお菓子を取り出し口に運ぶ。
幸せを噛み締めるように味を楽しむ。
歩を進める。

それらを何度繰り返しただろうか。
足がまったく動かなくなりその場に腰を下ろした。
「変やな。疲れてる時はお菓子いっぱい食ってれば元気になるんに」
ポーチを漁る。
だが、何もない。
逆さに振ってみるがお菓子の粉が少しだけ零れるばかりだった。
「うあ、なんやお菓子ないやん」
ともかく、疲れた。
身体を起こしているのも億劫だ。
雪の絨毯の上に寝転がってみた。
「お腹すいたな〜」
空を眺めながらぼやいて見る。
すると足音が聞こえた。
「――誰や?」
顔も動かさずに聞いてみる。
「もう、大丈夫ですよ」
聞き覚えのある声。
見てみると種族にしては珍しい魔道士の格好をしているガルカ。
ガ白の姿。
小さな傷などを所々に作った彼の姿を見て一緒に戦っていたのかと今始めて知った。
「あんたも悪運強い見たいやな〜」
「それ程でもないですよ」
照れた様に笑う。
とても分かり易い性格をしている。

近づくガ白を制す歌樽。
「如何したんですか歌樽さん」
「あ〜。ウチ回復は良いねん。なんか食べ物持ってへん?お腹すっからかんやねん」
荷物の中にジンジャークッキーが在った筈。
それを思い出して答える。
「あ、ちょっと割れて粉々になってないか心配ですがクッキーが確か在った筈ですよ」
その言葉に反応して顔を上げる。
「ほんまか。ウチは味に五月蝿いで〜」
手をヒラヒラさせて期待を促す。
自信の無さそうなガ白の表情。
歌樽に背を向けて荷物の方へと歩を歩める。

出来る限りに元気いっぱいに。
それでいて普段通りに。
何事にも気取られないよう精一杯話した。
ガ白の大きな背中がぼやけて見える。
それが少し悲しかった。


思ったよりも元気な歌樽の声を背中越しに聞き荷物を探る。
とにかく少しでも彼女を喜ばせようと。
程なくしてクッキーの入った箱が見つかるとさっきまでの状況を考えてよく割れていなかったものだと関心した。

「在りましたよ歌樽さん。あ〜、でも。味の方は保障できるかどうか分かりませんが」
背中越しに報告する。
だが、返事は無い。
振り向き歌樽の方を見る。
そこには安らかな表情で目を閉じている姿。
疲れて眠っているとしか見えない。
でも、彼は何処かで気付いていたのであろう。
現実の真実に。
淡い幻想を抱きながら歌樽の傍へと歩み寄る。
まるでやっと寝かし付けた子供を起こさない様にゆっくりと。

そして。
彼の手から箱がゆっくりと落ちた。
柔らかい地面の上に小さな音を立てて。

236 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:15 [ /VhdivlM ]
「団長じゃなきゃ駄目ッスか?」
涙も止まり。
俯いた彼女に突然の言葉。
「え?」
思わず声が出る。
此方を見つめる廃狩。
「俺じゃあ、団長の――糞樽さんの代わりにはなれないッスかね?」
普段あまり見ることの無い真剣な表情。
自分を思ってくれる一人の男としての彼が其処にはいた。
「一応、告白なんッスけどねこれ」
付け加えるように言う。
そして優しい表情を見せて此方の答えを待つ。

思案する。
彼の言葉への答えを。
だが、何度考えても答えは同じだった。
真黒の唇が小さく動き。
そして答えた。

「はは、そんなに気にしないで良いッスよ。俺って結構モテモテッスからね」
優しく嘆息する。
もしかしたら最初から結果は分かっていたのかもしれない。
空を喘ぐ様にして見つめる。
この空は暗い闇に包まれて光を見る事は適わない。

「…私、これから如何すればいいんだろう…」
表情を暗くする真黒の傍に腰を下ろすとこう答えた。
「ほら、何してるんすか行くッスよ」
リンクパールを手渡される。
それは髭戦のLSのもの。
それをしっかりと握らせる。
「真黒にはまだやる事があるッス。少数だけど生き残っている人も少なからずいる筈。それらを纏めれるのはあんたしかいないんすから」
優しく。
本当に優しく微笑む。
「必要とされているのなら行かなくちゃ―――俺にはあんたを止める権利は無いッスから…」
その言葉に彼女は力を得た。
立ち上がり駆ける。
見送る廃狩の視界から彼女が消えそうになった時。
真黒は歩を止め。
深呼吸。
そして背を向けたまま一言。
「ありがとう――」
そう叫びその場を後にした。


「ありがとう…か――玉砕。見事にふられちまったッスね」
惜しむ様に指で唇をなぞる。
「本気――だったんッスけどな…」
目から熱い雫が零れた。

「俺って不幸まっしぐら。あんたもそう思うッスよね?」
そう言って背中越しに声をかける廃狩。
其処に立っているのは険しい形相のバティムの姿。
息悶えに生きている事さえ不思議な状態だが何故か彼が生きている事を自分は気付いていたのかもしれない。

視線を合わせる。
その顔は嘗ての余裕に満ちた表情などまるでなく。
酷く儚いものであった。

「あー。その顔は仲良く話し合う気は無しッスか。残念、俺の失恋話を聞いてくれる人がほしかったのにぃ。あっ、そもそも人じゃなかったッスね」
バティムはその言葉などまるで聞こえていない様に鎌を振り上げる。

炸裂音。
バティムの右腕が吹き飛ぶ。
それでも此方へとゆっくり歩を進め残った左手を振るう。

引き金を引く。
何度も何度も。
やがて、弾が尽きた頃。
廃狩は腰を上げてその場から背を向けた。

「往生際が悪い奴は異性に嫌われるッスよ。最もあんたを好いてくれる奴なんていないと思うッスがね」
歩を進める。
振り向かずに。
一歩一歩。
そして、手を軽く上げ最後に一言だけ発した。
「借りは返したッスよ」

237 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/29(月) 03:19 [ /VhdivlM ]
|w・`)<外組やっと終了ーーーーーーーーーー!!
    まさかこんなに長くなるとは思わず大苦戦致しました。
    次の話は糞猫ですね。この辺りから初期のやつでも結構長く書いた様な気がするので
    また長くなりそうです。
    とりあえず今回の話は終わりなので終わるまで感想を溜めてた人などはどうぞです



|w・`)ノシ<では!!

238 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 04:02 [ UdENgsoI ]
み、みんなああああああああああああああ・゜・(ノД`)・゜・

239 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 04:03 [ UdENgsoI ]
言い忘れた、グッジョブwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww・゜・(ノД`)・゜・

240 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 04:07 [ JHNbCzF. ]


241 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 07:22 [ tIumI222 ]
グッジョブ!!!!!!!!
そして糞猫宣言キタ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!
激しく期待してます(=´∇`=)

242 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 08:18 [ AadgIl/s ]
真黒さんカッコイイ―――(゚∀゚)―――!!

243 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 08:51 [ sxSFxy9U ]
忍邪の微塵で涙が溢れ出た

息をするのも忘れていた


……
………グフェがふぇガふぅfげぇ
ハァ…ハァ…グッジョブ…(バタッ)

244 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 11:53 [ Tg6jVFTM ]
・゚・(ノД`)・゚・・゚・(ノД`)・゚・・゚・(ノД`)・゚・・゚・(ノД`)・゚・
ウワーー                         ーン
隆起がこんなにもカッコイイと思ったのは初めてです。
ウワーン!!!!

しかしやはりGGGGJJJJJJ!!!!!
次回もとてとて楽しみに待っております!!!

245 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 11:59 [ JTK60h72 ]
リメの人GGGGGJJJJJJJJJJ!!!!!!!!
やっぱ髭はいいね(*´∀`)

だが1点ただ1点だけ、個人的にちょー個人的に残念だった事。
出来れば巴姫と任者は戦いの中で果てて欲しかったorz

246 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 13:04 [ EDOtFcQw ]
会社で見るんじゃなかったぁああああああ

みんなぁ;;
やヴぁい、トイレ行って思いっきり泣いてきまつ

247 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 21:57 [ .wCLSKvE ]
しかし今回の話全体的に見る限り糞樽どんだけ強いんだ…wwwwwwwww

↓これって誰だろう?wwwwwwwww
もしも実力を発揮出来れば俺でも危うい女が一人いるがこいつは性格上の問題と力の制御の二重挟みで最後までその力を使えない可能性もあるからな。
最初は臼姫だと思ったんだけど違うっぽいwwwwwwwww

248 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 22:11 [ Cly2H90I ]
>>247
臼姫以外だと・・・赤魔子?

249 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/29(月) 22:16 [ .wCLSKvE ]
>>248
それだ!!wwwwwwww
きっと一ネタ仕込んでると妄想(=´∇`=)
廃狩も何気に生き残ってるしなあ…。wwwwwwww
続きが待ち遠しいね〜wwwwwwwwwwww

250 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 01:11 [ 0iJ5TcEA ]
>>247-249
いや、きっと娼館子だろ???
うはwwwwwマジレスしちゃったwwwwwwwwwwwwwwwww

251 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 09:45 [ ACwbRESE ]
目からウォタガ4・゚・(ノД`)・゚・・゚・(ノД`)・゚・・゚・(ノД`)・゚・

252 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 12:32 [ bPEoe7hg ]
>>250
あれ?娼館子って男だった様な…。
女キャラでまだ話終わってないのって。
赤魔子、臼姫、糞猫、猫狩、白樽だからこの中のどれかじゃないのかな?
うはwwwwwwwwwww俺様考えすぎwwwwwwwwwwwwwww

253 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 12:40 [ zJhzyuto ]
普通に臼姫だろ?
この世界の臼姫は凶暴キャラじゃないから力が発揮できないだけ

254 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 13:04 [ HfKk8wvc ]
>>1に載ってる糞樽物語で糞樽が臼姫を思いっきり恐れてるぞ
でもこれだと自分が最強って糞樽が言ったのもちょっと矛盾感じるな

255 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 13:19 [ 1fV9CWtA ]
シリアスシーンだと凶暴性が確かに下がってるからな臼姫。
でも回想とか昔話系列だと容赦なく糞樽ぬっとばしてる描写あったな。

糞樽の最強云々は真面目な戦闘面での総合能力じゃないのかな?
内籐とかに対して潜在能力云々で実力を常にフルで出せないって書いてあるし

256 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 13:24 [ 1zKIwb/I ]
いつの時代でも切れると怖いのは女性ですよ?

257 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 13:31 [ pYI5qGHE ]
本文通りだと特定の条件で最強は女になってるしなwwwww
やはり臼姫か…wwwwwwwwww

ピギャアアアアアアアアアアと叫ぶ糞樽見てみたいなwwwww

258 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/30(火) 14:03 [ fLGHO/ME ]
>>247-257
本文中に出てきた人を忘れたのか?wwwwwww

もしも実力を発揮出来れば俺でも危うい女が一人いるがこいつは性格上の問題と力の制御の二重挟みで
最後までその力を使えない可能性もあるからな。

ってのは、真黒のことじゃないのかと言ってみるテスツwwwwwwwwwww

なにはともあれ、リメ神様超長編乙でした&GodJob!!!!!!!wwwwwwwwwwwwwww

259 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/31(水) 05:46 [ bLEvhbj. ]
ともあれ最後まで生き残ったのは
廃狩
内藤
臼姫
餡刻
ガ白
白樽
娼館子

とまあこんな感じか

リメ人超長篇乙!w糞猫の次はぜひ戦死の事描いてほしい、、、orz
だって全ての中で唯一戦死だけがどのように戦ったか書かれて無いじゃんorz
Lsのリーダーなのにこの扱いって、、、、orz

260 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/31(水) 05:55 [ RLBtOhNA ]
戦死って一体どこで死んだんだっけ?と思ってリメイクを見直していたら
糞樽と餡刻とZeidと赤魔子と獣様のところあたりでちょっと泣けてきたな

ちなみに戦死は最初の時点で死んでたorz

261 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/03/31(水) 10:45 [ 4aJKrNSg ]
>>238-260
|w・`)<感想ありがとうございます。幾つか答えますと
    糞樽の科白の意味で正解してる人いますね。
    戦死は…昔、折角書いたのに全部消えちゃったんですよね…
    戦死がどうやって死んだかは書きます。残ったメンバーの内の一人の話の所で

262 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/31(水) 16:33 [ EUF0p.4Q ]
糞樽の科白の意味で正解・・・って言い方から考えたら>>255だろな
てことはやっぱ臼姫なのか

263 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/03/31(水) 16:43 [ ZMKBeXq6 ]
>>262
大穴で赤魔子ってのもあるぞwwwww

264 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 07:26 [ lw0eMzt2 ]
任邪って短髪黒髪だったのな・・・

265 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 12:28 [ 2rPyuHjU ]
漏れはハゲだと思ってたよwwwww

266 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/01(木) 21:59 [ m0VlNQhA ]
|w・´)<明日更新します!!

267 名前: 校正屋 投稿日: 2004/04/01(木) 22:09 [ 6q0ldgVY ]
一通り読み終え、非常に感動いたしました。
ただ、少々誤字脱字が多く、画竜点睛に欠くとはこのことだと思います。
多くの方は気付いても脳内補完してスルーしてるのでしょうが、
畏れながら、指摘させていただきます。

>>17 13行目 >>36 23行目
ラングモント岬→峠
岬というとテリガンですね

>>33 3行目、13行目
祭り毎、祭毎→祭り事
でもあまりそういう言い方しない様な。
祭事(さいじ)か、単に祭り、お祭りなどと言うのが
一般的だと思うのですが。

>>55 24行目
有々→悠々

>>112 21行目他
クダフゥ→クゥダフ
英語で書くとQuadav。

>>115 9行目
間々ならない→儘ならない
我儘(わがまま)の儘です。
【儘(=侭)】自分の思う(する)事が絶対のものとして許される事。

18行目
まじか→間近(まぢか)

>>119 17行目
適者適応→適者生存
造語だと言われればそれまでですが。

>>129 11行目
魂毎→魂ごと
一緒に、とか、それも含めて、という意味での「ごと」は
漢字を当てません。
24行目
御幣→語弊

>>131 2行目
結えん→所以

>>157 12行目、50行目
不適→不敵
38行目
絶対絶命→絶体絶命

>>159 40行目
摩り替え→掏り替え
60行目
宛→当て

>>160 30行目
時期に→直に
「すぐに」とも読めますが「じきに」でもこの字を当てます。
似たような意味なので「じきに」と読ませたいなら平仮名でよいでしょう。

>>167 26行目
愚公→愚行

>>168 6行目
創造→想像
54行目
呂律が回っている→呂律が回らない

>>171 44行目
活気盛ん→血気盛ん

>>172 24行目
誘発→誘導
【誘発】それがきっかけになって、他のかんばしくない事を引き起こすこと。

>>175 10行目
如何とでも言う事は無い→如何と言う事でも無い
39行目
両者択一→両立
【択一】二つ以上のものから一つを選ぶ事。
また、両者択一という言い方もあまりしません。
使うなら二者択一。

>>177 13行目
両手昆→両手棍
72行目
自体→事態

>>184 27行目
繰る→来る
32行目
不足→不測

>>186 38行目
適いそう→敵いそう
当てはまる、という意味で「適う」
匹敵する、という意味で「敵う」
望み、希望は「叶う」

>>187 26行目
教われ→襲われ

>>204 7行目
私目→私め
「め」は謙遜を表す接尾辞です。
「奴」の字を当てる事もありますが、これは誤用。

>>205 45行目
演技→縁起
46行目
状況判断位は理解出来た→状況位は理解出来た
「頭痛が痛い」と言っている様なもので。

>>206 20行目
ホーバル→ボーパル
英語で書くとvorpal
ここからは薀蓄になってしまいますがこの単語は辞書には存在せず、
『鏡の国のアリス』中の詩『ジャバウォッキー』に登場した剣
vorpal bradeが原点らしく、作者ルイス・キャロルの造語です。
このvorpalには確固たる訳がなく、複数の日本語訳者で
まったく違った訳を当ててるのが現状。
また、ウィザードリィというゲームにvorpal bannyという
一撃でプレイヤーを殺せる特殊能力をもった兎モンスターが登場し、
その流れでオルデール鍾乳洞にもvorpal bannyが居ます。

>>208 18行目
手気→敵

ついでに>>217
観想→感想

他にも助詞が抜けてたり、タイプミスしてたりと細かい部分はあるのですがきりが無いので。

これからの作品も期待しております。
このレスを書くために読み返してたら涙が・゚・(ノД`)・゚・

268 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/01(木) 22:20 [ m0VlNQhA ]
>>267
|w・`)<有難う御座います!!
    こんなにも細かく指摘してくれた上に使い方まで指南して頂き感謝まっしぐらです。
    少しでも良いものを作れるよう頑張りますね。

269 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 22:25 [ bV35Mtlw ]
リメの人凄く前向きな姿勢だな尊敬するぜwwwwwwwwww
明日の更新期待age!!wwwwwwwwwwwwwwwww
あれ?でも今日って四月一日だよな?wwwwwwww
まさかのまさかだったらorzなるぞwwwwwwwwwwwww

270 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 22:26 [ nRDbcqcc ]
>>校正屋
お前みたいな奴はいらん

271 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 22:41 [ IsO0efD6 ]
待てwww俺はこんな奴が必要だと思うwwwwww
どうしても誤字を見つけてしまうと萎えてしまうからwwwww
リメ氏が嫌がってないんだからいいじゃあないかwwwwwwwww

ところでwww
誤字指摘のあまりの多さに途中で笑っちまったwwwwwwwwwごめんなさいwwwww
じゃあ更新待ってますwwwwwwww

272 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/01(木) 22:56 [ crOjeoI2 ]
翌々考えたらリ神って十二月位に初めてwwww板に書き込んだのが始まりでそれまで全然文と書いてないとか言ってたよなwwww
誤字脱字はすぐには直らんと思うが焦っちゃ駄目だぞwwwwwwww

空き時間作って書くのは大変だと思うがwwwwwwww
とにかくガンガレ超ガンガレ!!俺は応援してるwwwwwww

明日の更新がエイプリルネタだったら・゚・(ノД`)・゚・てやるうwwwwwww

273 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 01:16 [ q0KfGeko ]
ぶっちゃけ、>>267は勉強になったwwwwwwwwwwwwww

274 名前: 校正屋 投稿日: 2004/04/02(金) 03:18 [ DvWVBqpA ]
×画竜点睛に欠く
○画竜点睛を欠く
自分が間違えて如何するんだか凹○

〜行目とか書きましたけどPCの環境などでずれてしまいますね。

あと、糞樽の科白は誰の事を指すか、という話ですが、
私は赤魔子に1票。

275 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 16:25 [ P4Di8d2Q ]
臼姫のまんこ

276 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:42 [ GW56EPSo ]
|w・`)<やや、暴走した感が強い話に……




それは夏の暑い日の出来事。
私は運命の相手と邂逅を果たした。


資産家の家で生まれた私。
そんな私が何故、冒険者になったのか。
万人が不満を抱き得る生活ではなかった。

そんな暮らしの中。
普通に育ち普通に恋をして普通に結婚し子供を持って普通に人生を終える事も出来たであろう。
だけど私はそんな人生を拒んだ。
自らの足で歩むことを決めた。
それはただ、平凡と言う色の無い生活が嫌だったのかもしれない。

たった一度きりの人生。

人生は冒険だ。
後悔はしたくないから。
悔いを残したくは無いから。
私は自分の運命は自分で切り開きたかったから。

安定した家庭。
だけど、其処は籠。
その中に住む雛の翼は大空を飛ぶ事を知らない。
其処には安全がある。
其処には安定がある。
身を襲う外敵もいない。

だけど代わりに自由を束縛する。
私は安心や安定よりも自由を選んだ。

自由は何処までも続く青い空。
籠は牢獄。

籠の中で一生を終える鳥に意味はあるのか
大空を羽ばたくのを忘れた翼は何の為にあるのか。

昔、家に兄がいた。
だけど今はもういない。
大空に羽ばたく事を押さえつけられた結果。
兄は自らの意思で自由へと羽ばたいた。
この籠の中と言う牢獄から。

私は自分の生まれた意味を知りたい。
私は自分の人生が費えるまでに何を果たせるのか試したい。

だからこの広い世界に自由と言う翼を広げた。
一度しかない人生を堪能するために―――――。

277 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:42 [ GW56EPSo ]
あれは夏の暑い日の出来事でした。
冒険者として駆け出しだった私。
少しだけ戦いのコツを掴んだ所為でしょうか。
無知の偉大さと言うものでしょうか。

この森はサンドリア王国を囲む様にして存在する森林地帯。
森を愛するエルヴァーンの民によって守られてきたようです。
だけど、今では保全してきた木々がオーク族やゴブリン族の格好の隠れ家となっている現実

自分の実力に見合わず少し遠くに来てしまった私。
気付き引き返そうとしたが木陰に隠れていた獰猛なオークに見つかってしまいました。

勿論、その頃の私には獣人に勝てる訳もなく。
傷付きながらも逃げるのが精一杯で。
人の何倍もの嗅覚を持つ彼等から逃げられる様にナルティーム瑚から流れ込むシュヴァル川沿いを必死に駆けました。
だけど、川を見つけるのが遅かったのか私の足が遅かったのか。
逃げ切る事が出来ず、徐々に追い詰められてしまいました。

目の前は自然の行き止まり。
逃げる際に負った肩の傷が熱かった。
苦しそうに肩を上下し呼吸をする。
もう逃げれないと理解した野蛮な獣人はゆっくりと歩み始める。
私を一振りで殺せる凶器を片手に持って。

ゆっくりと歩むその姿勢が怖かった。
オークが一歩近づく度に私は死へと一歩近づいていく。
普段気丈夫な私だがその時の顔には恐怖が色濃く映っていたであろう。
その様子をオークの捨兵は本当に嬉しそうに眺めていた。

遂にオークとの距離が無くなった。
振り上げる斧。
恐怖の為か思わず目を閉じた。

だけど、神様は私を見捨ててはいなかった。
そんな時、あなたは現れた。

オークの悲痛な悲鳴が森に響く。
私は恐る恐る薄目を開けて見る。
一人の男――ヒュームの姿。
勿論知らない人。
オークは地に平伏して息絶えていた。

あなたが此方に視線を写す。
男性にしては長い肩まで掛かる髪。
女性が見ても綺麗だと思う金色のそれが風に靡いている。
私はそんなあなたに御伽噺に出てくる騎士様を思い当てました。

あなたは長身で細身でしたが、ミスリル製の黒い鎧を着込んだその身体
か細いそれではなくむしろ鍛えられたものを思わせます。

あなたが私に視線を向けた。
視線が交差する。

お礼を言おうと急いで立とうとしましたが情け無い事に腰が抜けていました。
そんな私の様子に気付いたのかあなたは手を差し伸べてくれた。

近くで見ると思ったよりもずっと若かった。
まだ二十にも満たないでしょう。

触れ合う手と手。
しっかりと握られる。
あなたの固い掌は私より一回り大きく頼もしさを感じました。

「あ、あの。ありがとうございました」
「いやいや、大した事じゃないって」
必死でお辞儀をする私に謙虚に微笑む彼。
先程から心臓が痛いほど動いている。
そんな私の肩に彼の視線。
「それよりその肩。傷を負ってるみたいだな、血が出てる」
「いえ、これくらい平気です。掠り傷ですよこんなの」
大丈夫と叩いてみると流石に痛かった。
ちょっと後悔。
だけど、笑顔で大丈夫だと強がった。
「駄目だ。小さな傷でも侮ってると黴菌が入ったりして大変なんだからな。ちょっと沁みるけど我慢してくれよ」
少しだけ肌を晒すのが恥ずかしかったがそれよりも胸の鼓動が聞こえてしまわないかが心配だった。
薬を鞄から取り出し傷を負った部分に優しく塗ってくれる。
確かに少々痛みはしたが私の意識は全部彼に向けられていた所為で大した事はなかった。
「良し、これで終わりっと」
包帯を巻き終えて彼が言う。

「もう、こんな事がない様に気おつけるんだぞ。とりあえず帰りは大丈夫か?キツイなら送っていくが」
「だ、大丈夫です!!はい、もうこの通りばっちし!!」
手を前に出してガッツポーズ。
もはや自分でも何をしているのか分からない。
「そうか、良かった。それじゃあ、俺は用があるからよ」
背を向けて走り出す。
此方に軽く手を振って。
私は遠ざかっていく恩人の姿を名残惜しそうに見つめていた。
ハッと気付く。
「あの、せめてお名前を――」
私の最後の科白は届かなかった。

顔が上気して熱い。
胸の鼓動は痛い程に早く。
まるで熱射病に侵された様に身体が熱かった。

手当てをしてもらった肩をそっとなぞる。
あの人の手の感覚を思い出す様に。
ゆっくりと何度も。

異性をこんなにも強く意識したのは初めてだった。

278 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:43 [ GW56EPSo ]
固い石の床を走る二つの人影。
ヒュームの餡刻とミスラの糞猫。
二人は内籐達の通った後をなぞる様に進んでいた。

その途中。
獣人達の屍の中にタルナさんと死人さんの姿も見つけた。
既に息絶えた後だったけど、二人は何故か満足した幸せな表情だった。

更に進む。
獣人の屍は彼等の足跡。
そして一つの影が目に入る。
思わず手を当てて絶句してしまった。

その影は文句さんで。
仁王立ちのまま息絶えていた。
仲間の変わり果てた姿に餡刻様は顔を歪める。
溢れる想いを必死に抑えている様だった。

何故、私達が遅れてこの場にいるのか。
それは今を遡る事数時間前。


ボスディン氷河遺跡後。
焚き火の炎が揺れて陽炎を作っている。
皆、戦いに備えて身を休めていた。
様々な想いを胸に秘めて来るべき刻を待っているだろう。
じっとしているのも何だか息がつまりそうに感じて気分転換に出る。
勿論、飢えた狼達には見つからないように注意を払って。
夜空は曇っていて星一つも見えない。
雪が止んでいるだけまだマシなのだが気分は滅入る一方だ。

欝。
実に私らしくないだろう。
そんな釈然としないモヤモヤした想いを形成している。
でも、数時間先の事を考えると自然にそうなった。

くしゃみ。
耳と尻尾がピンと立ち身体が震える。
流石に寒い。
名前通りの場所である。

もう、寝てしまおう。
無理にでも寝てこんな想いを振り切ろう。
そう思って私は寝床へと戻ろうと歩を進めた。

その時、塔から出てくる影が一つ。
餡刻様。
私と同じで気分転換に来たのだろうか。
いや、違う。
暗くて顔は伺えないが何か真剣な表情の様。
直感的に嫌なものを感じて私は後を追った。

寝床から少し離れた場所。
其処は開けた空間で見渡しの良い所。
真ん中には餡刻様の師匠である黒い鎧を着込んだガルカが立っている。
名前はザイドと言ったか。
確かバストゥークの偉い人なのに何故か放浪している訳の分からない人。
あの人に呼び出されたのだろうか。

何かを言い合っている。
非常に気になる所だがこれ以上近づくと見つかってしまうだろう。
そもそも隠れる理由があまり感じられないが何となく出るに出られなかった。
そんな事を考えているといきなりザイドが剣を抜いた。

驚く餡刻様だったが何とか自分も武器を持ち構える。
互いに得物を振るった。

数分後。
雪の上に傷付き倒れ伏す餡刻様。
腕組みをしながら淡々と見下すザイドの姿が其処にはあった。

「その後ろで隠れている娘は如何いう事だ餡刻」
私に聞こえる声で叫ぶ。
如何やらあのガルカには私の存在を知られていたらしい。
流石は餡刻様の師匠と言った所か、隠れる意味を失ったので姿を見せる。
とにかく回復呪文をかけ様と餡刻様の元へと走った。

「…く、糞猫。何で!?」
「だって…こんな時間に一人で出歩くなんて心配じゃないですか」
驚いている餡刻様。
少し悪い気がして思わずシュンとしてしまう。
「何用か知らないが、この場から立ち去ってもらおうか小娘。これは、俺と馬鹿弟子の話し合いだ。無関係な者が首を突っ込んでよいものではないぞ」
その言葉にカチンときた。
「嫌です!これって稽古をつけてるとかそう言うのじゃないですよね?何でこんな酷い事するんですか!?餡刻様の先生なんでしょ?だったら、大事な戦いがある餡刻様を虐待するなんて酷いじゃないですか!それに、私は無関係者じゃありません!!」
傷を見たがそれは決して手加減などから出来る傷ではないのだ。
暗黒騎士特有の傷口は何か違和感の様なものを匂わせており回復も容易には行えない。
ザイドは本気で剣を振るっていた。
それが如何なる理由の元から来るのかは私には分からない。
だけど、それが間違った行いなのだとは強く認識できた。

279 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:44 [ GW56EPSo ]
此方の言葉を聞きながらも微動だにしないザイド。
表情は仮面に隠れていて伺う事は出来ない。
それがとても癪に障った。

「…兄貴が何と言おうと俺は行くぜ。大事な仲間達が戦ってる中、一人だけ安全な所にいるなんて俺には出来ねえ」
身体を地面に伏したまま声を絞る。
その目は真剣で。
真直ぐな瞳は一片の狂いも見えない。

「……そうか、お前の意思は固いか」
根負けしたのだろうか。
それとも呆れただけなのだろうか。
残念そうに背を向けた。

「娘、名を何と言ったか?」
「誰があんた何かに教えるものですか」
舌を出して嫌味なたっぷりに言う。
だが、此方を振り向きもしない。
「ふ、まあ良い娘よ。餡刻の事が大事ならそれ以上、深く接する事を止めるのだな。そうしなければ何時の日か餡刻に避けられぬ不幸が訪れる。そうなりたくなくば無駄な想いを抱くのを止めておけ」
「!?」
突然の言葉に驚きを隠せない。
思わず絶句してしまった。
「餡刻。お前もそうだ、これ以上周りの者に強く依存しようとは思うな。これは俺からの親切心で言っているのだぞ」
この男は一体何を言っているのだろう。
何が言いたいのだろうか。
訳が分からない。
溢れる想いはもう止まらなかった。

「な…。何よ、何よ!!あなた何様のつもりなの!?」
その場に立ち上がり怒鳴り声を上げる。
餡刻様が止めようと声をかけてくれたがそれさえ耳には入らなかった。
「意味わかんない。餡刻様の事が大事なら近づくなって如何言う事よ。知ってるんでしょ、餡刻様は何故か他人から無視されやすいのを。餡刻様の事を理解できる人は餡刻様の為に強く接するべきじゃないの!?」
肩で息をする。
悔しくて歯を強く噛む。
瞳にはうっすらと涙が浮かんだ。

私の言葉に何かを思ったか此方を向くザイド。
涙を浮かべているのを見られるのが嫌だったので直に腕で拭った。
「無視されやすい――か。やはり、その程度の事としか捉えていないのか」
明らかに含みのある言い方。
それはまるで――。
「兄貴、それは如何言う事だ!!」
「餡刻様!?まだ動いちゃ駄目ですよ」
突然起き上がる餡刻様を抑える。
まだ、傷口は完全に治ってはいないのだ。
その表情は強張り答えを必死に求めていた。
「答えてくれ兄貴。あんたは知ってるのか俺のこの体質の理由を!!」
そう。
それはまるで認識の不完全さを理解しているような。
「――答えた所で如何にもならぬ。知ればより深い絶望を味わうだけだ」
再び背を向ける。
足を進めその場から立ち去ろうとしていた。
「待ってくれ、兄貴!?」
「もう止めぬ、お前らの好きにするがいい」
悲痛な餡刻様の叫びも問答無用で聞いてはくれない。
最後にザイドは自分の我侭を押し通すように一言だけ叫びその場を後にした。
「待ってくれ、何を言ってるんだ。兄貴――!!」

叫び声は虚しく夜の闇に飲み込まれる。
その声は決して届く事無く。
やり切れない思いを胸に地面を叩く餡刻様。
雪がゆっくりと降り始めていた。


「でも、あの中年ガルカ許せませんね!餡刻様を戦いの除け者にしようとするし、おまけに『その程度の実力であの場へと足を運ぼうなどとは無知の蛮勇も良い所だ。恥を知れ!!』ですもんね!餡刻様が弱い訳ないじゃない!!もうとにかく、私許せませんね」
回想を終えて腹が立ち感情的になる。
とにかくザイドの事がムカついてしょうがなかった。
「まあ、兄貴の事だから何か意味があっての事だと思う。それに兄貴からしたら確かに俺はまだまだ未熟者だろうしな。全然歯が立たなかったし」
「うう…そんなぁ〜」
寂しそうに顔を俯けてしまう餡刻様。
そんな顔をされると此方まで落ち込んでしまう。
だけど、気になる事もまたあった。

足を止める。
「糞猫?」
不思議そうに此方を向く餡刻様。
「でも。でも、どうして餡刻様に来るなって言ったんでしょうね。客観的に見ても餡刻様の実力と内籐さん達を比べれて殆ど差がないと思うんですけど。あっ。勿論、私は餡刻が一番ですけどね!」
それは素直な意見。
餡刻様が駄目ならLSブーメラン全員に来るなと言っている様なもの。
その中で餡刻様だけを外す理由。
それは、弟子を心配する師匠の気持ちとかそう言うのではない筈。
「さあな。それは兄貴のみぞ知るって所だろうし。そんな事を考えている余裕も無くなったようだぜ」

武器を抜き構える餡刻。
それに併せて糞猫もロッドを手に掴む。

長い通路の出口。
そこは広く長方形の部屋。
巨体のデーモンが二匹佇んでいる。
その後ろに倒れている人影が二つと一個。
それは赤魔子と獣様と騎芋の姿だった。

280 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:46 [ GW56EPSo ]
「――って、ちゃんと聞いてる兄者?」
森での運命の邂逅を語る私。
聞き手は種族特有の長い耳を弄りながら興味無しの姿勢を見せている。
とても癪に触るがこれでも私の実の兄――名は糞樽。

「へぇーへぇー聞いてますよ――と言うかだ。その話に出てきた女は本当にお前なのか…。全然キャラ違うぞ」
「むう。兄者、それは恋する乙女に対して侮辱以外何者でもないわよ。可愛い妹の話しさえ信じられないんじゃ何時まで立っても一人身決定だよ!!」
「うるせー!!」
性格と口の悪さが目立つが、これでも若手の実力討伐シェルの団長を務めている。

私が幼い頃、家を飛び出して最近までずっと離れ離れだった。
生死の確認さえ出来ず親はかなり心配していた。
その御蔭だろうか私にはとことん優しく接してくれたのである意味良かったのかも知れないが。

そんな兄との再会は突然に唐突で。
冒険者となって直に耳にした若手のみが集まって出来た新しい討伐シェルを。
最初、私は特に興味もなくその場を通り過ぎようとした。

兄の名が挙がるまでは。
その話をしていた人達はどうやら兄のLS仲間の人達だった様で。
私が自分の身の上を話すと直に兄へと連絡を付けてくれた。

そして私はあっさりと自分の兄と再会を果たす。
何年越しに再会した兄との久しぶりの会話。

「暫く見ない間に随分縮んだね兄者」
「うるせー!!」

実に呆気ないものであった。


そして今現在に到る。
「それにしても本当に運が良かったな。その騎士様が通りかからなかったらお前、今頃お星様だぞ」
「でもでも、その御蔭で私は運命の人に出会ったのよ!!あぁ、私の騎士様。今頃何処へ――」
自身の妄想へとトリップする。
空を覗きながら祈り事の真似をする妹に嘆息した。

そんな此方の様子を気にも止めないで元気よく半回転する妹。
此方に向けてビシッと指を差す。
その顔は何かを企んでいると一目で理解できる。
頭が痛くなってきた。

「それでね、兄者。頼みがあるんだけどな〜」
猫撫で声で頼み事。
まあ、本人が猫な訳だが。
「兄者の権力と名声を使って私の運命の王子様を探してくれないかな〜?」
「権力と名声って…つーかな、めんどくせーよ。第一、俺はお前と違って暇じゃねーんだ」
正直に答える。
確かに自分の妹の恩人ではあるが一々探すとなると一苦労だ。
自分のLSを妹の下らない欲求に使う事など到底出来ない。

しかし、キッパリと断られた糞猫であったがまるで動じず糞樽をニヤリとした笑顔で見つめている。
「何だよ?言っておくが俺はお前の兄であると同時に一個LSの団長でもあるんだからなその辺はしっかりと理解してくれよ」
「…良いのかな〜。討伐シェルの人達に言っても良いんだよ。あ・の・事☆」
…あの事。
糞樽の脳裏に嫌な思い出が浮かんだ。
「勿論、可愛い妹の為だ。全力を尽くそうじゃないか!!」
そこには一個LSの団長はおろか兄としての威厳すらまったくなかった。

「流石、兄者。話が分かる〜」
手を合わせて喜ぶ糞猫。
そんな妹の様子を遠目に見ながら思う。

兄を脅迫する妹。
幼い頃はあんなに自分に懐いていたと言うのに。
一体、自分のいない間に何があったのやら。
今更ながら妹をほったらかしていた事に後悔の念を抱くのであった。

281 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:46 [ GW56EPSo ]
「――じゃあ、俺はもう行くから。今度はヘマすんじゃねーぞ」
勢いよく立ち上がる兄。
「えぇ〜。また、何か討伐しに行くの?この前、出かけたばかりなのに」
「いや、今回はそうじゃねえよ。もう一つのLSの方でな」

もう一つのLS。
兄は自分で作った討伐シェル以外に、もう一つのLSに所属している。
まあ、兄の実力上勧誘してくる人も少なくは無いと思う。
だけど、そのLSは兄の実力を買ったのではないらしい。
名前は確か『LS:ブーメラン』だったかな。
是非LSのリーダーにその名前の由来を聞きたいものである。

「変な人ばっかり集まってるって言ってたアレ?」
「そうそう、バカばっかり集まった集団なアレだ。んで、その中の一人と昨日待ち合わせしてたんだが遅れてきやがってよ。その落とし前として店で一番高くて美味いもんを鱈腹奢ってもらう」
酷い話だ。
「私もLS欲しいけどな〜。討伐シェルの方は流石に実力不足認めるけどさ、そっちのLSは駄目なの?私ちょっと興味があるな」
強請る様な目付きをして見る。
「無理!!駄目!!却下!!かえれ!!」
だが、この話になると何故かもの凄い勢いで否定する兄に頬を膨らまし拗ねてみせる。
「ふーんだ、ケチ!!兄者も人の事言えないと思うけどね」
ふて腐れて更に頬を膨らます糞猫。
だが、それ以上に追求しない様を見て内心落ち着いた糞樽だった。
(討伐シェルの纏め役としての俺しか知らない妹にあのLSでの俺の姿を見せてたまるかっての!!)
兄の余計で無駄なプライドであった。

「でも、何か急用でも出来たんじゃないのその遅れた人って?」
不意に糞猫が言う。
確かに言われてみれば何か言い訳してたなアイツ。
「ああ、言い訳では襲われてたミスラの女を助けたとかなんとか」
「アハハ。それじゃあ、まるで昨日の私じゃん――」
「まったくだよな。そんな偶然在る訳ねえよな――」

「…………」
「………」
「……」
「…」

暫しの沈黙。
俺は背を向けてその場を急いで離れようとする。
一刻も早く妹から逃げようと。

だが、遅い。
肩を掴まれた。
かなり痛い。
もの凄い力だ。

本当にコイツは魔道士なのかと疑いたくなった。
問答無用で引き寄せられる。
其処には何か得体の知れない力が働いていたのだろう。
視線を向けてみると糞猫の目がこれでもかと言わんばかりに怪しく輝いていた。
「……兄者。私をそのLSへ今直ぐ紹介プリーズ」
もう、逃げる事はできなかった………。


こうして。
兄者の優しい兄弟愛でLSブーメランの皆に紹介された私は餡刻様と運命の再会を果たした。
料亭で騒ぐ中、愚痴を零した兄者が臼姫さんの一撃で昇天した様子は中々見ものだった。だけど、餡刻様と再会出来た私には如何でも良かった。

282 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:47 [ GW56EPSo ]
「やらせるか!!」
倒れた二人の姿を見て駆け出す餡刻。
「何だ、お前!?」
声に気付きデーモンの一人が大鎌を振るう。
金属音。
二つの刃がぶつかり火花を散らす。
力負けして吹き飛ばされたのは餡刻。
空中で姿勢を整えて着地。
そこに追撃の鎌が襲い掛かる。
「チッ!!」
咄嗟に身体を逸らして回避。
だが、頬から血が流れる。
強靭な腕から繰り出されるその威力は空振りだろうと侮れないという訳か。
まともに受けたら一溜まりもないだろう。
だが、此方とてやられたままではない。
空振り後のがら空きの腹を狙い刃を滑らせる。
相手はそれを後方に飛び回避。
反射速度も中々のものだ。
只の力馬鹿ではないと言う事か。

「おいおい、俺の事を無視してもらっちゃ困るんだがぁよぉ!」
ロッドを持った口の悪いデーモンの魔法の詠唱。
糞猫が咄嗟に反応する。
感じる力の構成は冷たく質量のあるもの。
対応して炎の概念を構成し詠唱。
炎と氷が発現し混じりあう。
相殺。
跡形も無く消え去った。
「中々やるねぇ、穣ちゃん」
「あんたなんかに褒められてもちっとも嬉しくないですよーだ!!」
舌を出して挑発する糞猫。
その面を嬉しそうに眺めていた。

餡刻に向かい駆け出す鎌のデーモン。
「お前の無駄な馬鹿力を頂くぜ」
鎌を回避して詠唱。
それと同時に餡刻の手に緑色の丸い球体が出現する。
瞬間的にそれは消え、デーモンの身体から出現し餡刻の身体の中へと吸い込まれた。
「小賢しい!!」
怯まずに自慢の力で鎌を振るう。
またしてもぶつかり合う刃。
だが、今回は互いに拮抗。
餡刻が笑みを浮かべる。
「軽いね、吹き飛べ!!」
大鎌が弾かれた。
後退しようとするのを逃さずに両手剣を振るう。
空振り。
だが、餡刻にはそんな事は如何でも良かった。
振るった軌道に衝撃の波が生まれて巨体が弾かれる。

「ビフロン!!」
土煙を上げている方に視界を移す。
「あなたも一緒に吹き飛びなさい!」
その隙を見逃す訳もなく風の力を構成し発現。
切り裂くそれではなく圧縮した風の塊が放たれ吹き飛ばす。
先程のデーモンが吹き飛んだ場所と同じ位置に。
壁を破壊し、より多くの土煙を上げた。

283 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:47 [ GW56EPSo ]
「あ、餡刻しゃん!!助けに来てくれたんでしゅね」
気が付いたのか此方に歩み寄ってくる獣様。
赤魔子は俺と糞猫を見て驚くと同時に助けに来た事に対しお辞儀をした。
「助かりましたぞ餡刻殿。この騎芋、海よりも深くお礼を申し上げます」
器用に身体前半分を置き上げて下ろす。
騎芋なりのお辞儀なのだろう。

「糞猫。大変だと思うけど三人の回復を頼む」
「はい、餡刻様。これくらいお手の物ですよ」
袖を捲り上げてポーズを決める糞猫。
頼もしい限りだ。

呪文の力を高める印を中空に描き詠唱。
獣様の頭上を中心に癒しの光が降り注ぐ。
俺の頬の傷も治った所から俺も対象となっていたのだろう。
此方にピースサインをする糞猫。
その気使いに感謝した。

一仕事を終えて息を吐く糞猫。
それでも余力があるのを見る限り流石は糞樽の妹と言う事だろう。
「さてと、獣様。此処は俺達二人に任せて先に行きな」
「えっ!?でも、さっきのおじしゃん達は倒したんじゃ?」
驚く獣様と赤魔子。
意外にも騎芋は平然としている。
「あの程度じゃさすがにやられてはくれないだろうな。何で姿を見せないのかはわからないがこっちには好都合だ。今のうちに移動しておくんだ」
「それだったら僕も一緒に戦いましゅよ!!」
「そうですぞ餡刻殿。ここは力を合わせて撃退しましょうぞ」
張り切る二人に同意して首を縦に振るう赤魔子。
その三人の心意気は嬉しかったのだが。
「駄目だ!!内藤達がこの先で待っているんだろ?それにお前らの目標は闇の王の筈。こんな所で足止めくらってちゃいけないんだ。なぁに、あんな奴等簡単に倒しちまうぜ」
俺の言葉に戸惑う赤魔子と獣様。
悪いとは思っている。
だけど、二人が此処にいると言う事は内籐達も固まっている保障はないのだから。
「獣様、赤魔子。行くんだ、何時あいつらが起き上がってくるかわからねえ」
「でも、餡刻しゃんと糞猫しゃんを置いていくなんて…」
中々引き下がろうとはしない獣様。
赤魔子も同じ気持ちなのだろう。
胸に手を置き此方を凛として見つめている。
騎芋の表情は分からない。
流石に芋虫の微妙な表情は読み取れるものではないか。

俺は獣様へと歩み寄り目の前で止まるとその場に膝をつき、肩に手をやる。
「獣様、聞いてくれ。俺は糞猫を守る。だからお前は赤魔子を守ってやれ」
「赤魔子しゃんを?」
「そうだ。男ってのは女を守るものだろ?」
少し卑怯だったかもしれない。
だけど、嘘を言っているつもりはなかった。
「赤魔子も頼む、俺の一生のお願いだ。獣様に付いてやってくれ。この先にいる筈の内籐達の力になって欲しい」
俺をじっと見つめる赤魔子。
暫くすると顔を縦に振り、視線を獣様へと移してその手を握った。
「あ、赤魔子しゃん!?」
「若、ここは餡刻殿の言うとおりにすべきですぞ!!我々は我々に課せられた事柄に専念しましょうぞ」
「………わかりましゅた」
流石の獣様が重い首を縦に振った。

騎芋の背中に跨る二人。
「餡刻しゃん、絶対追いついてきてくだしゃいね!苛めるおじしゃん達をガツーンとやっつけて。僕も赤魔子しゃんも騎芋しゃんも待ってましゅから」
「ああ、約束だ。獣様も赤魔子をしっかり守ってやれよ。獣様は男の子なんだからな」
「約束しましゅ!赤魔子しゃんは僕が絶対守るでしゅ!!」
「さあ、若全速力で行きますぞ。しっかりと摑まっててくだされ!!」
「はいでしゅ!!」
赤魔子は獣様に力強く頷いていた。

視界から遠ざかっていく二人と一匹を見つめながら俺は感謝した。
自分の我侭を押し通してくれた事を。

(本当にありがとうな。獣様、赤魔子)

284 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:48 [ GW56EPSo ]
「兄者〜〜」
あからさまに頼み事がある面で話しかけてくる糞猫。
折角、疲れた身体を休めようとジュノに帰ってきた途端にこれだ。
俺がダルそうな表情をしようがお構い無しに擦り寄ってくる。
もはや、用件なんぞ聞かんでも言いたい事はわかった。

「…聞く前から大体何の用かは予想出来るが優しい俺は寛大な心で一応聞いておこう。何の用だ?」
「むぅ。なんか棘のある言い方だけど話したい想いの方が強いから気にしないでおくわ」
(何時もそれくらい寛大でいてくれ)
「………実は、餡刻様の事何だけど」
やっぱりな。と胸の中で付け加える。
「何故か餡刻様。私に対してこう、素っ気無いと言うか。避けていると言うか。とにかくこのままじゃ私と餡刻様の未来が不安でいっぱいなの!?」
(勝手に未来の進路を決定されてるのか……同情するぜ餡刻)
「もしかして私って餡刻様に嫌われてるんじゃないかな。最近そう思うの………」
「あっはははは、勝手に相思相愛だと思い込んでた女の末路だな」
ギロリと殺意の篭った視線が届く。

額に冷たい汗が沸く。
即座に悟った。
このままでは不味いと。

「あぁ、そんな事は無いと思うぜ。前に餡刻にお前の事を聞いたら『顔』は超が付く程好みだと言っていたしな。『顔だけ』は」
「餡刻様ったら。そんな、美しいだなんて……」
(耳、腐ってんじゃないのだろうか)
ともかく俺に向けられた殺意は解除出来たようだから良しとしよう。

「でも、それなら如何してあんなによそよそしいのかしら。助けてもらったお礼にペンダントをプレゼント時も何だか固まってたし。はあ、餡刻様に振り向いてもらおうとこんなにも積極的に接してるのにな」
腕を組みながら頬を膨らませる。
黙ってれば確かにそこそこ良い面だとは思うのだがな。

しかし、このままじゃ埒が明かないだろうからしょうがない。
話の相手をしてやるか。
「多分だが、それが原因じゃねえのか?」
「何が?」
(鈍い…)
この妹にはもう少し分かり易く説明すべきなのだろう。
「あいつはとことん女事が苦手そうだからな。そもそも人付き合いすら今まで間々ならなかった訳だし。そんな奴がだ、出会って間もないお前――見た目はそこそこで黙ってさえいれば一応可愛いと思われる部類の女にもの凄い勢いで好意的に接して来られたら戸惑うわな普通。むしろ平然と受け入れたらかなり凄いと思うのだが。てか、そうなったら餡刻じゃねえよな」
「そんな。餡刻様の事だから女の子の一つや二つはお手の物じゃないの?」
「………お前、自分で言ってる意味分かってるのか?」
笑って誤魔化す糞猫。
何にせよ餡刻を思う気持ちに偽りはないのであろう。
面倒くさいが一応可愛い?妹の為だ。

だから少しだけ深く話をしてやった。
恨むなよ餡刻。

285 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:48 [ GW56EPSo ]
「まあ、人間過去事で一つや二つ人には言えない様な事があるだろうしな……」
「そう。餡刻様……」
理解してくれた様だ。
アイツは俺達と出会うまでに色々と辛い事を経験したに違いない。
例え聞かなくともそういうのは纏った雰囲気で分かると言うものだ。

「私と出会う前に女に捨てられたのね!!」
(何故、そうなる!?)
まったくの見当違いに思わず絶句。
「そうよ!きっとそうだわ!!餡刻様程のお方が今までノータッチだと考える方がおかしかったのよ!!」
(ヒートアップして来やがった)
何故か背後に熱い炎の幻影を見た気がした。
如何でもいいが、この妹は一体誰に似たのだろう。
とりあえず俺とはまったく違う人種だとは声を大にして叫べる。

「きっと熟女の甘い誘惑で純粋な子供の頃の餡刻様を騙して散々弄んで裏切ったに違いないわ。可愛いそうな餡刻様、そのデリケートな心に深い傷を負ってしまったのね。でも、安心してください。私はあなたの過去が如何であろうと愛する想いは一片の揺らぎも見せません。私があなたの傷付いた心を癒します。癒して見せましょうとも!!」
(もう知らねえ……)
もはや止めようが無いと確信した俺は、ただ黙って暴走する妹を生暖かい目で見つめていた。
他人と思われる様に一歩退いて。


「それじゃあ兄者。私は暫くLSを外しておくわね。そして姿も晦ますわ!!」
一頻り言いたい事を言い終えたのかと思うとまた素っ頓狂な科白を吐く。
「何故に!?」
一々ツッコム俺はなんて優しい兄貴なのだろう。
是非、尊敬の眼を送って欲しいものだと無駄な考えを抱いた。
まあ、間が空いた所為で条件反射的に出たものだったんだがなツッコミ自体。
「悲しいけど今の私じゃきっと駄目なんだわ。愛する気持ちは誰にも負けない。でも、それだけじゃ私の心の声に気付いてもらえない!餡刻様の全てを優しく包み込む事の出来る立派な女性になる為に妹は旅に出ます。それはきっと辛い修行になると思うの。だけど愛する人の為に女は幾らでも強くなれる!!」
(妄想壁の強い妹を持った兄の苦労は解ろうとはしないらしいな)
空いた口が塞がらない。
もう、何も言っても無駄だろう。
むしろ何も言う気にはなれない。
だから今日は愚痴が心の声なのだろう。

「その為にはまず、女の基本美味しい料理ね。妻になる前の恋人関係からして重要なポジションに位置しているわ。目標決定。座標ウィンダス水の区!頑張れ私!!負けるな私!!餡刻様のハートを掴むその日まで!!」
(思いっきり、目的地を喋ってるじゃねえかよ!!)
自称、乙女の力で勢いよく駆ける。
夕日に向かって走っていく糞猫。
そんな暴走する妹を止める気にもなれず呆然と見送るのであった。


「まあ、滞在地は分かってるんだし大丈夫だろう…多分」
何だかんだで妹の事を心配している糞樽だった。

286 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:49 [ GW56EPSo ]
「良かったんですか、餡刻様?」
先程まで後ろで諦観していた糞猫が口を開き遠慮がちに質問する。
彼女の性格上珍しい事だと思う。
「何がだ?」
質問の意味が理解できず素直に聞いてみる。
すると糞猫は嘆息し、口を開く。
「赤魔子さん、獣様に託しちゃったのが良かったんですか?って事ですけど」
言葉が胸に突き刺さる。
やはり、そう言う風に取れたのだろうか。
だが、待て。
相手は獣様だ。
そう言う所まで深くは考えない筈。
「まあ、意味を理解してなくても。ずっと傍に居て守るとは聞き取ったんじゃないでしょうかね?」
思わず四つんばいの姿勢を取り落ち込んでしまった。
「未練タラタラですね」
「う、うるへえ。そ言う事言うな!!」
思わず目尻が熱くなる。
何か得体の知れない重みが背中に圧し掛かる。
それと共に何故か背中に風が吹く感覚もあった。

「まあ、良いんですけどね。例え、餡刻様が私ではない誰かに好意を持っていたとしても最後に勝つのは私ですから!」
「ちょ、ちょっと待て!?何の事だ糞猫」
イキナリの話題の針路変更。
「隠さなくても良いですよ。私、と言うか皆分かってるんですよ。餡刻様が赤魔子さんに対して、好意を抱いてる事を」
顔が熱くなるのと胸に針が何本も刺さる感覚が身体を襲う。
「だけど私は負けません!往生際が悪いと思われるでしょうがきっと赤魔子さんに勝利してあなたの瞳に私だけを写して見せます!!」
ポーズを決めている糞猫。
その背後に何か炎の様な熱いものを垣間見た気がした。

「いや、だからな糞猫。何度も言うが赤魔子と俺はそんな関係とかじゃなくて、どちらかと言うと仲の良い友人みたいなもので。もしかしたら俺に好意を持っててくれるかもしれないけど、それを言ったら獣様も当て嵌まるわけで。赤魔子の事は嫌いじゃないけどヘタに俺が如何こう言って赤魔子や獣様との関係がギスギスしちゃうと悲しいし。だから今のままでいた方が問題なくて良いんじゃないかなと―――」
喋りながらどんどん声が小さくなっていくのが分かる。
頭が混乱して自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

突然。
糞猫が俯きしおらしくなる。
俺はもしかしてとんでもなく悪い事を言ってしまったのだろうか。
「じゃあ、餡刻様。私の事嫌いですか?」
更に目に涙を浮かべてこんな科白まで言ってくる。
「な、何いってんだ。嫌いじゃない、嫌いなわけ無いだろ!!」
慌てて叫ぶ。
嫌いじゃない。
その言葉に嘘偽りはない。
むしろ好きな方だと思う。
ただ、そういう事をハッキリしろと言われるともの凄く困るのだが。

ともかく俯いている糞猫の方へと近づく。
「えへへ〜。じゃあ、大丈夫です。嫌われてなければ望みはありますからね。今の反応を見る限り好意の方が高いと理解できますからね」
そう言って抱きついてくる。
俺は恥ずかしくて直に離れた。

嘘泣きだったのか。
俺は試されたのか。
また落ち込みたくなった。
だが、糞猫を見るとさっきの言葉がそんなに嬉しいのだろうか。
耳と尻尾を元気よく動かしている。
そんな姿をみていると何だか励まされている様な。
その元気と明るさが羨ましかった。

287 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:50 [ GW56EPSo ]
「――さてと、最後の別れは済んだか?此方は何時でも良いんだが」
餡刻達の背後から声が聞こえる。
振り向くと二匹のデーモンが腕組みをして構えている。
「へえ、意外と優しいじゃねえか。一々待っててくれたのかよ」
「一つの余興として楽しんだだけだ。果たせない約束を無駄に交わし叶わぬ幻想を抱くお前等を見ていて面白かったぞ」
愉快そうに笑う。
それは自信の表れ。
「舐めるなよ、こっちは負ける気なんてこれっぽっちも無いんだからな」
「確かに先程の攻撃は中々のものだった。少し痛かったぞ」
餡刻の武器を見ながら首を鳴らす。
「予想通りとはいえ、そうまでピンピンしていられると少しヘコムけどな」

「おい、テメエ。よくもやりやがったな!!簡単にゃ逝かせねえぞ、たっぷりと苦しめて鳴かせてやるからな」
もう一匹のデーモンが叫ぶ。
最初から感じていたが、かなり口が悪い。
「うわぁ〜。もう少し効いてる素振り位してほしいもんだわ…」
どちらかと言うと態度の方にゲンナリしてしまう糞猫。

「ところでヴァピュラ。俺は其処の黒鎧の男と戦いたいのだが良いか?」
「いいぜ、ビフロン。おらぁよ、野郎の方は如何でもよいがそっちの女の方は興味あるねぃ。良い声で鳴いてくれそうだぜ、子猫ちゃん」
耳に纏わり付くような声。
気持ち悪くて思わず身震いをしてしまう。
「誰がアンタなんかに、気持ち悪い。私の身体は既に餡刻様に売約予定何ですからね!!」
餡刻様が此方を見て驚いた顔をしたようだが気にはしない。
「いいねぇ、いいねぇ。気の強い女の絶望的な顔ってのは想像するだけでグッとくるぜぇ。しっかりと俺を楽しませてくれよぉ」
此方としては逆に勝とうという意思が高まった。

「さてと、話せるのもこれが最後だろう。お前達の無謀さに敬意を示して名を聞いておいてやる」
「暗黒騎士ザイドの弟子の一人。餡刻」
「その恋人候補、黒魔道士糞猫です」

「ひゃはっはっは。穣ちゃん面白いぜ。俺はバロン ヴァピュラ。こいつはカウント ビフロンだ。偶然にも黒魔道士と暗黒騎士だ。その小さな頭にしっかりと刻み込んでおけよ」

「此処まで来たらもう後戻りはできないぜ糞猫」
「はい、私は餡刻様の行く所なら何処へでもお供いたしますよ。そう、例え其処が地獄であろうと」

288 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:50 [ GW56EPSo ]
「久しぶりのジュノだ。餡刻様元気にしていらっしゃるかしら」
半年ぶりのジュノ港に足を踏み出し背筋と尻尾を伸ばす。
「餡刻様の元を離れて早半年。糞猫は辛く苦しいウィンダスでの花嫁修業を見事乗り越えて参りました!!」
長かった、本当に長かった。
何度かこっそりと会いに行こうと思ったけどそれを我慢してようやく帰ってきました。
「新しく袖を通した王国の長衣もバッチシ決まってるわね」
ただ、調理の腕を磨いてきた訳ではない。
無論、冒険者としても経験を積んだのだ。
その上でこれ位の身だしなみは必須であろう。
確認する様に自分の服を見ながらクルリと一回転。
おかしい所は特に無い、完璧だ。
「そして、今日は二月十四日!そう、愛する乙女が愛するあの人へとチョコを送る日!!ウィンダスでの調理修行の成果を見せる効果もあって正に一石二鳥!!」
握り拳を作ってガッツポーズをしてみる。
手に握られているのは餡刻様への特性チョコレート。
様々な珍味を配合し、私が出来うる最高の味付けに仕上げた世界にたった一つだけのオリジナルチョコ。
薄く金粉なども巻いてあり見た目効果も抜群。
推定自価五十万ギル。

ちょっと張り切り過ぎた気もしないでもない。
「そう言えば最近になって調理ギルドに入った子。名前何て言ったっけ?」
悪い考えは忘れようと調理ギルドの思い出に浸る。
思い浮かんだのはつい半月前に新しく入ったエルヴァーンの女の子。
普段ならば他の女性の事等気にも止めないが彼女は中々如何してか構いたくなる性質の子だった。
「まさかミリオルコーンを五十回連続で爆発させるなんて。ある意味で凄い才能の持ち主だったわ。きっと記録は今でも更新中ね、うん」
そういえば、その度にギルドの人達が厨房裏で嗚咽していたっけ。
彼等が流す涙の量もきっと行進中であろう。
「でも、あの子って何か親近感みたいなのを感じるのよね。性格は正反対だったけど乙女の直感というやつかしら。大事な人の為に物事を頑張る精神が伝わってきたのよね」
手を組んで一人納得。
それが興味を持った一番の理由だろう。
何度失敗しようが諦めないその姿勢は私も学ぶ所が大いにあった。

そういえば、無口。というか喋れないのかなあの子。
翌々、考えてみれば喋ってる所を見た事がない。
今頃、気付く私も如何かと思うが。
「あの後どうなったかは分からないけど、きっと何時かはやり遂げる事が出来るわ。何故なら愛する乙女に不可能は無いのだから!!」
腕を天高く上げ力を込める。
何故か辺りの視線が痛いのはきっと気のせいだ。

「…何か、私。最近独り言多くなったな…」
余計な事を呟き転がっている兄の姿が浮かんだ。
ともかく、このまま此処で回想していても意味が無いので兄者から聞き出した情報通り餡刻様がいる場所へと足を延ばした。


冒険者達が集まるジュノの中でも最も賑わい見せる下層。
久しぶりに見たが競売前の賑わいは相変わらず凄いものだ。
その周りには個人でバザーを開いてる者も数少なくは無い。
中には売り物をそのままに寝こけている強者も多い。
盗まれたりはしないのだろうか。

それにしても昔よりも明らかに人の数が増えた気がする。
あまりの密集度に歩くのも困難だ。
近々には人数の分散も考慮して上層、港にも設置するとかなんとか。
そんな事を考えながらもなんとか人ごみを突破した。

「うぅ〜、最悪。髪の毛クシャクシャだし服はシワシワだよ〜」
人の波にもまれた結果からはどうしょうもないのだが、やはり悲しい。
乱れた髪と服を手で軽く整える。
チョコの包みは身体を張ってしっかりガードしていたから無事だ。

それにしても、ジュノの偉い人には真剣に人口分散の手をうってくれる事を祈る。
無駄に掛けられた税金は有意義に使ってほしいものだ。


「ええ!?これを俺に?」
魔法屋前を通りがかった時。
上から聞きなれた声が聞こえた。

私は勿論、その声の人が誰なのか理解してその場へ急ぐ。
階段を一歩、一歩進む度に胸が高鳴る。
久しぶりに会える嬉しさ。
まず、最初に何て言おう。
それよりも自分を見て驚くだろうか。
様々な想いを巡らせながら階段を上りきると餡刻様の姿が見えた。

だけど。
「いやいや、全然迷惑じゃないぜ!俺なんかの為に作ってくれた事に驚いただけだよ。本当、迷惑どころか寧ろ感動して涙が出そうだぜ!!」
嬉しそうにしている餡刻様。
その前にはエルヴァーンの女の子。

餡刻様、手に持ってる箱はチョコ?
あれ、あの子見た事ある様な…
あれ?あれ?あれ?

「ありがとう。赤魔子」

私は何故かその場から逃げる様に走り出していた。

289 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:57 [ GW56EPSo ]
戦いの最中。
ハッキリと気付いた事がある。

ビフロンと戦う餡刻様。
相手は明らかにこの場の強者の一人だろう。
それでも実力的に劣る事なく対等に戦っている餡刻様は凄い。
いや、どちらかというと押している様にも見える。
戦ってる相手もその事実に気が付いているのか顔色が苦い気がした。

ともかく餡刻様に何の問題も無い。
寧ろ問題があるのは私だった。

「おいおい、穣ちゃん。よそ見とは余裕だなぁ。ビフロンの奴の方が良かったか!!」
ヴァピュラの魔法詠唱。
感じる力は雷。
それに土の魔法で対抗する。
属性関係上、此方の方が有利。

だけど。
「ひゃっはっはっはは。無駄無駄無駄。その程度の威力じゃ止められねえよ!!」
私の呪文は相手の力の前に霧散。
貫通して来たそれを持ち前の反射神経でなんとかかわした。

相手は追って来ない。
追撃をかければあっという間に戦いが終わると知っているからだ。
それを解って尚遊ぶ理由は一つしかない。

奥歯を強く噛む。
明らかな実力不足。
敵と自分との絶対差。
それが露呈してしまっている。
「おーおー、そんな怖い顔しちゃってよ。だが、それが良いねぇ。もっとそういった表情を見せてくれよ。追い詰められていくその様をよぉ」
吐きかけられる言葉は酷く癪にさわる。
だけど、悲しい事に目の前の現実が何よりもハッキリとした真実だった。

詠唱速度、威力、魔法の豊富さ。
どれを取っても負けている。
先程から何度も試した結果だ。
そして、相手はそれを理解して私を弄んでいる。
ジワジワと追い込む事を楽しみながら。

「誰が追い詰められてるですって!!これを見てもそう言ってられるかしら!!」
詠唱。
私が使える中で最高の魔法。
その概念は全てを砕く風の暴力。
目の前の憎い相手を粉々にする為に。

しかし、それを見ても平然としているヴァピュラ。
まるで撃って来いと言わんばかりに指を動かして。
「舐めるなぁ!!」
声と共に相手の姿が確認できない程の人工的な竜巻が生じる。
確実に決まった。
回避は不可能。
ならば、あの中でバラバラに刻まれて出てくる筈。
私の頬に冷たい汗が流れた。

無意識に結果を予想していたのか。
自分の視界に映るものを見ても驚きが少ない。
ただ、自分の不甲斐なさを強く噛み締めただけで。

「――で、もう終わりかい子猫ちゃん?」
腕組みをしたまま平然としているヴァピュラ。
どうやって防いだのか傷一つ負っていない。
もう二度と見たくないその表情は優越感に浸っていて。
「なら、そろそろ。こっちも本気出さしてもらうぜぇ!!」
自分の頭上に強力な電気の塊を顕現させる。
先程までとはまるで違う相手の魔力の強さに足が竦んでしまっていた。

「そんなに落ち込むなよ、なぁ。一応これじゃあ死なない筈だぜ。ただ、まともに動けるかどうかは別だがなぁ」
此方に向かって放たれた。

私、目掛けて近づいてくる魔力の結晶。
まだ距離があるというのに身体全体が小さな針で刺された様な痛みが走る。

危ない。
逃げなきゃ。
かわして反撃。
それでどうするの。
どうせ通じない。
だったらこのまま。

私は何を考えているんだ!!
弱気な考えを吹き飛ばす。
とりあえず、かわさなきゃ。
ほんの一瞬の弱きだったけどそれが致命傷。
もうかわせない。
思わず目を閉じてしまった。

轟音が耳に響いた。

290 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 20:58 [ GW56EPSo ]
「テメェ、何しやがる!?ルール違反だぞ」
ムカツク声が聞こえる。
耳がその声に反応していた。
「何言ってやがる!!そんな事、俺は決めた覚えはない」
餡刻様の声。
多少痛みはしたが身体が動く。
目を開けた。

「糞猫、大丈夫か!?」
一番最初に視界に映ったのは餡刻様の顔。
ひどく心配した表情。
私が首を縦に振ると安所の溜息を吐く。
私が弱気な事を考えた所為で余計な心配と手間をかけてしまった。

「まあ、良いではないかヴァピュラ。あんな小娘何時でも殺れるだろう?」
「テメェは良いよな。押されてやがったんだから。だけどなぁ、俺からしてみれば焦らされた感があってどうしょうもなくムカついてんだよ」
何か敵同士揉めあっている。
「糞猫、立てるよな?」
「は、はい」
助けられた。
役に立ちたかったのに。
それなのに今の私は心配をかけただけ。

「とりあえず。これで、一対一でやる必要性はなくなった訳だ。ヴァピュラ、悪いがあのミスラを積極的に狙わしてもらうぞ敵のアキレス腱を狙うのは定石だからな」
「ケッ、楽しみ減っちまうがしゃあねえな。オラァ!!お前等、覚悟しろよ。こっからは手加減なしだ!!」
役立たず。
足手まとい。
その二つの言葉が重く圧し掛かる。
「糞猫、とにかく俺の後ろから離れるな。敵との距離を取りながら援護を頼む」
私を気遣いながら駆ける餡刻様。
実質、二対一の戦いだ。
しかも、相手は私を上手く狙い餡刻様の集中力を乱す。
悲しかった。

もしも、一人だったら涙ぐんだかもしれない。
私はなんて弱いんだ。
兄――糞樽ならこんな状況には決してなりはしないだろう。
血を分けた兄弟でもこんなにも違うものなのだろうか。
「危ない糞猫!!避けろ!!」
「えっ?」
餡刻様の言葉にハッとして視線を向ける。
石の床が変形し私を襲う。
咄嗟に避けようとするが気付くのが一瞬遅かった。
攻撃を防ぐ為に魔法を詠唱する時間もない。
只、自分に迫るそれを黙って見ている事しか出来なかった。

「糞猫――――――!!!!!!」
餡刻様の悲痛な声がやけに遠くで聞こえる。
そんな気がした。

291 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 21:00 [ GW56EPSo ]
「…お前、何でそんなにも要領が悪いんだ?」
兄のゲンナリした声が私の大きな耳に聞こえる。
むしろ今の言い方は明らかに聞こえる様に仕組んだそれだ。
「出来ないから教えてもらってるんじゃない、それでも出来ないんだからどうしょうもないでしょ!!」
思う様に魔法が覚えられず八つ当たりをする。
流石に少し悪い気もした。
「あぁ〜、お前は人にものを頼む態度を知らんのか!!逆切れすんなのよ、お前のそう言う所、直した方がいいぞ!本気で!」
前言撤回。
この兄に気遣いなど無用だ。
「ふ〜んだ。私が魔法教えてよって言ったら凄い勢いで飛んできた癖に!!」
そう言うと一歩後退して言葉が詰まる。
「…分かった。もう一度、もう一度だけ説明するからな。耳の穴、掃除してよおく聞けよ」
お節介な兄で良かったと切に思う。
私は兄の前に座りもう一度講座を受ける事にした。

「まず、魔法ってのは知識、媒体、触媒、結果から成り立ってる訳だ。此処までは分かるよな流石に!?」
「まあ、流石にね」
此処までなら何とか分かる。
だけど、問題は此処からだった。
「よし、オッケーだ。元から存在する概念を学び取る事で発現するのが魔法だ。いいか糞猫、どんな魔法にしてもそれは学問みたいなもんなんだよ。まあ、細かく言うと違うんだが大雑把に言うとそんな感じだ。あくまで魔法の概念を学ぶ事。これが一番重要なんだ」
「うんうん、概念?ね」
頭の中にハテナマークが浮かんだ。
それでも黙って聞く姿勢を崩さない。
「自身の内側に魔法の概念を形成する。そして、それを効率的に使う手段もまた重要だ」
「ふむふむ、効率的??ね」
「例えばだ。何もない空間に火を放つだの、多くの人間に暗示をかけて傀儡とするだのといった力は確かに驚異的な魔法なんだがそれ故に安易じゃねえ。もとよりある形から世界に干渉した方がよっぽど効率がいいだろ?既に世界という土台に存在している木材に火をつける、と言ったようにな。何もない状態から自分の概念のみに頼って世界に干渉するのは賢いとは言えないぞ。そんなやり方は人間には辛い所がある」
「ちょ、ちょっと待った。兄者って時々火の玉とか作ってるけど、あれは何なのよ?」
「俺をそこいらの凡人と同じにするな!あくまでやりづらいだけであって出来ない訳じゃねえんだよ!!」
言ってる事が滅茶苦茶だ。

292 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 21:01 [ GW56EPSo ]
「ふーん、まあいいや。とりあえず魔法は世界に干渉する力って事で良いのかな?」
「ああ、そうだ。だが、一個人の内側で形成された概念なんて外側に漏れなければ何の意味もない。そのままじゃ只の知識なんだからな。それをそうで無くす。只の知識でしかないものを現世に結果として残すんだ。という事は、何らかの引き金を用意するという必要があるんだよ」
「ほむほむ、引き金???ね」
私の発言があやふやになってきたのに気付いたのか何か悩むような姿勢の兄。
だけどその表情を一瞬で直に戻る。

「…一気にいくぞ。俺達魔道士は学んだ知識から魔法の概念を形成する。そして自身の中にある魔力を媒体にして魔法の概念、つまりそれを使った事で起こる結果を形成する訳だ。雷だったり炎だったり氷だったりな。そして次の段階、その形成した力を外部へと漏らす作業。重要なのは、その触媒対象を意味として強く認識する必要がある。一般的に広まってるのが詠唱―――スクロールだわな。それ以外にも洗礼、儀式、思念と色々あるんだが呪文に比べるとハッキリ言って面倒だ。何より詠唱が使いやすい理由として言葉は形こそないが意味に直接触れてるものだしな―――」
「兄者、兄者。ちょい質問」
「――何だよ。良い所なのに」
いきなり説明の量を増やされて混乱した所為もあるが一つ気になる事があった。

「洗礼と儀式が面倒なのはなんとなく分かるけど、思念ってのは如何なの?思念って考える事だよね?考えただけで出来るんだったらさ、一々長い呪文を唱えなくても手っ取り早く出来ちゃうんじゃないの?燃えちゃえー、ボォォーって感じで」
私がそう表現すると兄はやたら渋い顔をする。
「…なあ、糞猫。話、聞いてたか?」
「失礼な。ちゃんと聞いてましたよーだ」
何か言いたそうだったので手足をジタバタさせて見ると諦めたように嘆息した。

「外部に力を漏らす為の触媒を呪文じゃなくて思念に頼るってのは確かに良い。お前が言ったとおり使えるならそっちの方が遥かに便利だろう」
「でしょー」
顔を頷かせながら満足感に浸る。
自分の発言が正解していたのが嬉しかった。
「あくまで使えれば、だ!」
「むぅ!」
だが、直にその考えには異議が入った。
「触媒になり得るには対象の意味に強く触れなくちゃいけない。糞猫、お前は自分の頭の中で思い描いたものにハッキリと自信を持てるか?」
「へ?」
意味が分からなかった。
「頭の中で描いたものをあくまで想像だな、現実じゃない。それを確実に現実として捉えるってのは相当大変な事なんだぞ。例えばだ、目の前の相手が燃えている所を考えたとしよう。だけど、目の前にいる相手は勿論燃えてはいない。そこに燃えるという意味を取る事が出来るか?出来ないよな、想像でしかないんだから」
「当たり前じゃない!馬鹿にしちゃ駄目だよ兄者!」
「つまり、そう言う事だ。所詮は頭の中で描いた絵空事に現実性を持つ事なんて出来ないんだよ普通の人間は。だけど、それさえも超えて意味を捉える事が出来た奴が思念を触媒源に使えるんだ」

293 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 21:01 [ GW56EPSo ]
「それだったら呪文も難しいんじゃないの?所詮は言葉だし」
「お前と言う奴は…。いいか!!言葉って言うのはな。それ自身が力を持っている訳じゃない。だが、それを放った人間は意味に触れているし、聞いた人間自身には結果を持たせるだろう?要は炎と言えばそれは炎の意味でしかなく、相手が炎と聞いたら炎を連想するだろう。言葉ってのは意味に触れて結果を起こす現象なんだよ。放っただけで相手や自分に何らかの意味と結果を残す。頭の中で描いて不安定な部分を残す思念とは違う。はっきりと現世に意味を持って生まれた結果なんだ。市販されている呪文書の言葉なんてのは、所詮は結果と意味をどれだけ強くイメージ出来るかのものだしな。ベテランになれば自分自身でスクロール変えて使ってる奴いる」
「ふーん。でもさ、言葉だけじゃどうしょうも無いんだよね?あくまで言葉は頭の中で考えた魔法を外に出す為に乗せるものであって、それ以上でもそれ以下でもないんだね」
私の言葉を聞いて兄の動きが止まる。
あからさまに何か考えている姿勢だ。
「まあ、普通はな」
「うわっ、すっごい意味ありげな言い方。気になるからちゃんと言ってよね」
催促する声に悩みつつも吹っ切った様に嘆息する。

「あー。まー、何だ。つまる所、例外もあるって事だよ」
「例外?言葉だけじゃ何も出来ないって事の?」
「そうだ。本当に稀の話になるが、言葉だけで現世に物理力を発言する事が可能な奴も存在するかもしれない」
「兄者、言ってる意味がまったくこれっぽちも分からないよ」
「…いや、もうそのまま喋っちまおう。ツッコムのが面倒だ。要は生まれつき自分の中に様々な概念を形成して生まれてしまった不幸な奴がいればだ。概念を意識して形成する必要性がまったくない。本来は無く、得て覚える筈のものが最初から在るって事はそれがそいつの普通なんだ。此処まで来ると天才とかそう言うレベルじゃなくて異常の異常だな。ハッキリ言って同情するぜ」
「何で?便利じゃん?」
「理由は喋る言葉が物理力として働いちまう。概念→媒体→触媒=結果のうち概念が生まれた時から形成されてる奴は無意識化に概念→媒体を済ませてるんだ。と言う事はだ、そいつにとっての魔法は触媒=結果だけになるんだよ。相手に『燃えろ』とか言った日には如何なるかなんて、もう説明する必要もないわな。とにかく、無知の子供の頃から持つには危険すぎるものだ。迂闊に喋れば相手を傷つけちまう。世界に意思があるとするならばそいつの悪戯だな、酷く悪質な」
そう言った兄者の顔は何か寂しげだった。
まるでそう言う人を知っているような言い草だったのでもしかしたら会った事があるのかもしれない。
だけど、それは私には関係ない事でどうしょうもない事なのだろうけど。

294 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/02(金) 21:02 [ GW56EPSo ]
「かなり脱線しちまったな。話を戻すと媒体を用いなければ知識――概念に力はない。魔法を学び使用すると言う事はそういった事を全て自らの概念として置き換えることでもある」
「ほむほむ、分かったような分からなかったような。とりあえず兄者が魔法を使うのがやたら早い訳はなんとなく分かったよ。後は魔法の強弱はその魔法を撃つまでのどれかの過程が優れた人なのかな?」
「おお、中々良い所に気が付いたな。流石は俺の妹だ。魔法に長けた者ってのは、単純に魔力の多い奴は強い力を放つ上で有利だわな。魔力を媒体にする時の量を単純に増やせば良いんだから。魔法を多く覚えるかどうか、それが早いか遅いかは概念に触れやすい奴。というか、解析力が高い奴って事だな」
「ほぇほぇ。じゃあ、兄者はその両方とも優れてるんだ」
「ふふん、兄の偉大さを理解したか!!これからはもっと思いやり尊敬するんだな!!」
踏ん反りかえる兄。
その態度は腹が立った。
「そうだね。兄者が思い込みの激しい妄想野郎だったんだと強く理解したよ」
「テメェ、ぶっ殺す!!」


少し時間を置いて。
兄の言った事の断片をかじりながら何とかやってみる。
そうした所、前よりも上手く魔法が使えている気がした。
ただ、やはり兄の様に無茶苦茶な使い方は出来なかったが。

「それにしてもさ。魔道士やってる人は皆こんな面倒な事一々覚えてるんだね。私は今までそんな事考えず適当に使ってたよ」
流石に無知過ぎたのか少々考え込む。
正直、先程の説明は頭の容量を確実にオーバーしている。
だけど、そんな私を見て兄は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。

「へっ?一般の奴がこんな細かい所まで考えて使ってる訳ねえじゃん」
あっさり言う言葉に愕然。
空いた口が塞がらない。
「…兄者〜。それは如何言う事かな?」
出来るだけ笑顔を崩さないように聞いてみる。

「大抵の奴はある一定の経験積んで、それに見合ったスクロール暗記して使ってるだけだからな。お前と一緒でなんとなくの感覚が強いと思うぞ」
自信満々に言うその表情。
だが、まだ我慢が必要だ。

「…それじゃあ、今までの難しい講座は?」
「仮にも俺の妹だからな。兄の恥にならねえ様に人よりも深く知っておくのは義務だ!」
とりあえず、この兄に対して今までの講義代を渡す事にしよう。
実践訓練だと思いながら使える魔法を全部撃ち込む事にした。




|w・`)<続きは後日

295 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 23:50 [ PEWVhG.w ]
リメさんGJ!
なんか糞猫面白いwwww
てか糞樽の話マジわかんなかったwwwwwww
うはwwwww修正よろwwwww
でも糞樽より強い人がわかったかも
続き期待して待ってますwww

296 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/02(金) 23:54 [ xw2JNYQo ]
デーモンの「痛かったぞ」で脳裏にフリーザがよぎった漏れがDQN
その後デーモン2匹の顔がずーっとフリーザのままだったyp・・_| ̄|○

297 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 01:29 [ ikh/O/CQ ]
おもしれぇーwwwww話の流れがわかってるだけにワクワクしてきたwwwwwwwwww

そして今回の話でwww糞樽が言ってた「俺でも危うい女」はwwwwww
赤摩子にwwww決wwwwwww定wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwだよな?(´・ω・`)

298 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 01:33 [ ikh/O/CQ ]
赤「魔」子だった。校正屋に怒られる・゚・(ノД`)・゚・

299 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 17:15 [ 9JpCTubQ ]
>>297
糞猫のことじゃないの?wwwwwwwwwwww
てかリメさん、そろそろ答えクレクレwwwwwwwwwwww

300 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 17:41 [ 5747Mtdk ]
>>299
答え教えてもらったら面白くないじゃん
何が来るのか予想して
良い意味で裏切られたり、その通りだったりがまた楽しい
リメイク通常Ver.のラストだって最後までどうなるかわからないから倍感動出来たと思うしね
何はともあれ続き期待してます

301 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 21:26 [ igfqq9bc ]
>>リメイクの人
あなたはこのスレッドを立てた時、どれだけのレスがつくと思っていましたか?
500?それとも1000?
今現在、モニターの前でどきどきしながらリロードを繰り返していることと思います。
でも残念ながらこのままのペースでは、自作自演でもしない限り
レス100も突破することなく、数々の駄スレと同じ運命をたどって
奥深く埋もれていくことは確実でしょう。

「俺が立てたスレは他の奴らが立てた”駄スレ”とは一味違う!」
きっとあなたはそんなふうに思っているのでしょう。ですが、
客観的に見てあなたのスレッドは、残念ながら「低レベル」と言わざるを得ません。
あなたが立てた「一味違うスレッド」というものは、
普段あなたが一笑に付し軽蔑している「駄スレ」の正にそれなのです。

ちょっとした勘違いから生まれたスレッドによって、深く傷つくあなた。
そんなあなたが気の毒でなりません。
人は誰しも幸せになれるはずなのに・・・。

だからあなたにこのレスを書きました。sageも入れないでおきました。
私のこのレスが「レス100突破」に微力ながら貢献できるのならば、
そして私のこのレスによるageが、スレッド再燃に微力ながら貢献できるのならば、
こんなにうれしいことはありません。

2ちゃんねるという場所ですら、周りと噛み合うことができなかった
不器用なあなたに、両手いっぱいの幸せが訪れますように・・・

302 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/03(土) 22:25 [ QyGMwtOY ]
このスレ立てたのは本人じゃないでしょwwwwwwwwwwwww

303 名前: 校正屋 投稿日: 2004/04/03(土) 22:26 [ u/Nr0q2k ]

|ヽ∧ .。oO( コピペって格好悪いよね・・・・)
|・ω・).。oO( 校正屋としては「レス100突破」も直すべきだと思うよ・・・)
| :|ヽ
|))
""" """ """
>>277
捨兵→射兵

>>282
穣ちゃん→嬢ちゃん

>>285
尊敬の眼→尊敬の眼差し(まなざし)
妄想壁→妄想癖

>>286
諦観→傍観
【諦観】1、本質をよく見極める事。2、俗世に対する欲望を絶ち、超然とした態度をとること。
【傍観】第三者として何も手を出さずに見ている事。

>>288
自価→時価
ミリオルコーン→ミリオンコーン
million(100万、この場合は転じて”沢山”の意。)

>>290
安所→安堵(あんど)

>>294
「おお、中々良い所に気が付いたな。流石は俺の妹だ。魔法に長けた者ってのは、一つは単純に魔力の多い奴で、これは強い力を放つ上で有利だわな。媒体にする魔力の量を単純に増やせば良いんだから。二つ目は魔法を多く覚えられるかどうかで、それが早い奴は概念に触れやすい奴。というか、解析力が高い奴って事になるんだな」
たぶん>>295さんがわからなかったと言う部分を勝手ながら書き直してみました。
あと、思いやり→思いきり

>>298
/grin

あと>>267で書き忘れましたが最初の頃は「内藤」だったのに途中から「内籐」になってますwww

ついでにトリビア。
NMデーモンの名前に付いてるバロンとかカウント、デュークなどは貴族の階級、つまり爵位を表しています。(リメ氏はご存知のようですが。)
グランドデューク→大公爵
デューク→公爵
マーキス→侯爵
カウント→伯爵
ヴィスカウント→子爵(作品ではまだ登場してないけど)
バロン→男爵
バロネット→准男爵(これも未登場)
上に行くほど位が高いです。

個人的にはシリアスな世界でもorzになってる餡刻がツボに入りましたwwww
ところで糞樽と糞猫が実の兄妹ということは母親がミスラで父親がタル(・ω・)?

304 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 00:16 [ /b4gXl2o ]
種族間結婚に関しては、はっきりしないからねー。
とりあえず、この世界観だと垢爺と糞樽は血が繋がってて、
垢爺とたしかヨメさんもエルのはずだったから、糞樽の親の
どっちかはエルじゃないかなーと思う。
・・・本当に、ミスラと樽の血はどっからはいってきたのやらw

305 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 00:22 [ JRpHX0E2 ]
>>303-304
リメイク。糞樽物語より↓

親父はタルタルだった。
人望が厚く厳格で周りの皆のリーダー的存在、俺にはとても厳しかった。
お袋はミスラだった。
親父とは正反対でおっとりとした性格だったが自分からはあまり発言せず、親父の言う事に何でも頷いていた

予想としては赤爺の息子?娘?と結婚したのがタルタルかミスラでその子供が糞樽の父親か母親なんじゃないかな〜と予想。
まあ、結婚時期がやたら早くて子供が生まれたのも早ければ何とかつじつまあうかな?

306 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:34 [ rTK3AnAY ]
|w・`)<糞樽と糞猫の会話は書いてて楽しいです…ダケドソノブンページガ



あれ、私。
どうしたんだろう。

急な、意識の覚醒。
「うぅ…いたっ…い…」
身体を動かすと痛みが走る。
そこで初めて自分が倒れているのだと気付いた。

如何やら床に強く身体を打ちつけたようだ。
酷く痛む頭を手で押さえるとヌメリとした感触。
打ちつけた際に切ったのだろうか、軽く出血していた。

どおりで痛い訳だと一人納得する。
霞が掛かったように記憶がハッキリしない。
見た事の無い風景。
私はこんな所で何をしているのだろう。
さっきまでのは夢?
やけに懐かしい思い出。
そういえば、自分でも忘れている事だった。

何かが遠くで聞こえる。
いや、遠くと言うほどではないか。
聞いた事のある声。
「糞猫、危ない!かわせ!!」
「餡刻様!?」
一気に記憶の霞が霧散する。
反射的にその場から飛び退いた。

ワンテンポ遅れて、私がいた場所が丸ごと凍結して崩れた。

私が上手く回避したのを確認して餡刻様が安所の溜息を吐く。
「チィ、惜しい!!だが、まだ楽しませてもらえると考えれば別に良いやなぁ」
相変わらず癪に障る声。
そう言いながらも、ヴァピュラが腕を大げさに振りながら悔しがって見えるのは私の気の所為なのだろうか。

ともかく、今は戦闘中だったのだ。
先程の攻撃―――変形した石の床に押し潰されると思ったのだが何故か無事。
無傷とは言えないが、あの状況から考えて軽い打撲で済んでいるのは可笑しな話だ。
打撲自体も自分からぶつけた様な感が強い。
と言う事は、私はあの攻撃を無意識的に回避したのだろうか。
いや、回避では語弊がある。
何らかの防御手段を用いて威力を軽減したという方が正しいだろう。
でも、どうやって――。

そんな事を考えている間も時間は流れていく。
そして、相手はそれを待っていてくれはしない。
「はんっ!!どうやって防いだかは分からねえがなぁ、嬢ちゃん。もう一度喰らっても無事な程俺のテクは優しくないぜぇ」
こっちが聞きたい事だった。

飛んできた雷を回避する。
それに続き巨石が、水が、炎が立て続けに私を襲う。
それらを紙一重でかわす私。
正直、シーフが似合うのではないかと思ってしまう程だった。

「ちょっと待ちなさいよ!!こっちは考え事してるんだから!!」
「あぁん?テメェ、何言ってやがんだ勝負中によぉ!」
確かにその通りなのだが。
何だろう、何か変だ。

頭が痛い、強く打ったから?
頭が重い、出血の所為だろうか。
否、違う。
何処かスッキリしている感もある。
とにかくよく分からない。

ヴァピュラの落雷が目の前に落ちる。
思わず目を瞑った。
だけど。

目を閉じても視界に見えた映像がそのまま映っている。
これは如何言う事だろうか。
目を閉じているのに見えているのか。
そんな筈はない。
目を閉じているならば視覚する手段なんてないのだから。
ならば、何故。

「畜生、ちょこまかちょこまかと動きやがって。鬼ごっこは飽きたぞ!さっさと当たりやがれ!!」
無茶苦茶言う奴だ。
何度聞いても非常に癪に障る。
私の魔法で今直にでもその身を燃やしてやりたい。
また、頭が痛んだ。
目を閉じれば相手の燃える姿。
想像の中でのヴァピュラは炎に包まれていた。

その時。
ヴァピュラの足元から、地面が炎に包まれた。

307 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:35 [ rTK3AnAY ]
「えっ!?」
素っ頓狂な声を上げたのは私。
自分でも間抜けだったと思う。
だけど、驚かずにはいられなかった。

翼を大きく動かして炎を霧散させるヴァピュラ。
微妙に焦げ付いた肌を見て笑ってやりたかった。
「…テメェ、よくもやってくれたな。威力はチンケだったが不意を突かれた、おかげで少し熱かったじゃねぇか!!」
炎が消えた途端に、中指を立てて此方を挑発する。
本当に大した事はなさそう、溜息が出てしまう。

そんな態度が相手にとってムカついたのか。
「なめるのも大概にしろよなぁ…、もう如何でもいい。終わらせてやる」
一人で五月蝿く騒いでいる姿があった。

なめている?そんな余裕がある様に見えるのか。
そういえば、意識を失う前に比べればやたらと落ち着いている。
何で今の自分はこんなにも冷静なのだろうか。
まるで、自分の姿を第三者として捉えているような感覚。
ああ、そういえば随分前に兄がこう言っていたっけ。
戦いの場で魔道士は常に冷静であれと。

ヴァピュラの周りはハッキリと知覚出来る程に魔力が迸っている。
種族の壁というやつだろうか羨ましい限りだ。
だけど、それだけの事で使い方に無駄があり過ぎた。

自分の中にある疑問をはらす為に私は行動に移る。
頭の中に世界を描く。
そしてその中に吹く風の様を。
かまいたちを思わせるような鋭い風の概念に触れる。
目を閉じれば閉じる前の景色が広がっている。
風の矛先は勿論ムカツクあいつ。
たっぷりと念を込めると、私は頭の中に銃の引きがねを思い浮かべてそれを引いた。

発現する鋭利な風。
それらがヴァピュラを襲う。
いきなり起こった風に少々の戸惑いを見せるヴァピュラ。
だが、威力が弱い所為かあんまり大した効果は得られていないようだ。
何よりも怒りが優先されている。
それらを無視して強引に魔法を放つヴァピュラの攻撃は凄いもので喰らってしまったら死を意味するだろう。
だけど、当たらない。
強引に撃とうが風に集中を乱され、不完全な概念を用いたものなど威力は大きくとも速さがそれに見合ってはいなかった。

もう、終わらせよう。
今の自分にならそれが出来るのだから。
そこに迷いはない。
寧ろ確信めいたものが胸中に溢れて留まらないのだ。
自分の中にある魔法の概念の一つを湧き上がらせる。
それは生命の鼓動を絶つ冷たき棺。
それに込められるだけの魔力を込めて解き放つ。
呪文は唱えない。
必要ない。
視界内から迫る相手をハッキリと知覚して自分の脳裏に偽造の映像を作り上げる。
それは、絶対零度の氷に身を蝕まれるヴァピュラの姿だった。


不意な違和感を感じて足を止める。
突然、自分の辺り一帯の温度が急激に下がった。
否、これは下がるというレベルではない。
どうやら相手が魔法を使用したのだ。
その様な動作はまったく見受けられなかった。
もしも気付いていたならば対応の手段を容易しただろう。
だが、自分の身体を蝕んでいくこの氷は魔法のそれ以外にあり得ない。
防ごうと防御壁を展開しようとする。
だが、間に合わない。
相手の魔法に対して反応するのがあまりにも遅すぎた。
気が付いた時、彼は氷柱の中にいた。


「こんなもん、で良いかな〜」
いきなり使ったにしては上出来すぎるだろう。
目の前に兄がいたら思いっきり威張ってやりたいものだ。
まあ、あの兄の性格上難癖つけて自分を半人前扱いするのだろうが。
だが、勝利に浸る間もなく酷い頭痛が襲う。
思念を介して使用するリスクというものだろうか。
精神面に今まで感じた事の無い負荷が掛かっていた。

しかし、使用リスクに伴った価値はある。
戦闘時の魔法使用面においてマイナスとなる呪文詠唱の隙がないのだから。
相手は何を使われるか分からない。
半ば不意打ち的な攻撃だろう。
実力的に皆に劣る私だがこれなら戦える。
餡刻様の足手まといにならなくて済む。

でも、とりあえず。
今は少し疲れたので休みたい。
戦闘中場違いな事かもしれないが餡刻様なら大丈夫だろう。
そう信じて私は壁に凭れて目を閉じた。

308 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:35 [ rTK3AnAY ]
「餡刻様、幸せそうだったな〜」
バレンタインの次の日。
私はモグハウスで昨日の事を思い出していた。

「あんな表情した餡刻様、始めてみたよ…」
本当に幸せそうだった。
私には見せた事のないあの表情。
そしてそれを一心に受けていたあのお下げのエルヴァーンの女の子。
正直、かなり嫉妬している。
「うぅ〜。運命の神様は悪戯好きだよ〜」
本当にそう思う。
まさか、一緒に調理ギルドに通っていた子が餡刻様絡みだったとは夢にも思わなかったから。
「でも、あの子ってさ。良い子なんだよね…」
机に突っ伏し、目の前にある木彫りの人形に話しかける。
勿論、魔力の通ってもいない只の人形が喋る訳もなくそれを指で弾く。
耐える事もなく、あっけなく倒れて転がるそれを見て、私は何をやっているのだろうと虚しくなった。

「乙女心は冬の空。だわ…」
頬杖をついて溜息を一つ。
何か後ろで叫び声の様なものが聞こえるがきっと幻聴だろう。
餡刻様を思う悲しさでこんなものまで聞こえてしまうんだわ。
そんな自分がとても滑稽で儚く虚しかった。

「だぁーかぁーらぁー、無視すんじゃねえって言ってるだろうが!!」
そんな気分を一瞬で粉砕する大声。
クルリと視線を後ろにやると、肩で息をしながら興奮気味の兄。
とりあえずお疲れのようなので軽く声をかける。
「何だ、兄者居たんだ。落ち込んだ乙女を覗き見る兄なんて趣味悪いわよ」
「な・に・が、『何だ、兄者居たんだ。落ち込んだ乙女を覗き見る兄なんて趣味悪いわよ』何だよ!!大体、此処は俺のレンタルハウスだろうが、悩むなら自分の部屋で一人悩めよ!!」
「うるさいなー、昨日散々一人で悩んだから良いじゃないのよ!!」
何だか、プチンと言う音を聞いたかと思うと兄者の頭の血管から血が見事に吹き出ていた。

「そういう問題か、そういう問題なのか!?どっちみちなぁ、俺の部屋まで足悩んで来て俺を無視しながら悩む行為はおかしいだろうが!!お前の言う自称乙女って生き物訳分からんぞ、おい!!」
その言葉にカチンと来る。
椅子から離れ、兄に近づく。
ドスンドスンと足音を鳴らしながら。
「自称って何よ、自称って!!私は立派な恋する乙女なんですからね!!そりゃあ、恋愛無頓着な兄者が見ても分からないでしょうけど!」
ハッキリと言い切る。
所詮恋愛事に関わった事のない兄に私の深い悩みなど分かろう筈も無い。
だが、予想に反して不適な笑みを浮かべている兄の姿。
半開きの口がやたらと怪しい。
「はんっ、俺を何時までも同じ位置にいる男だと思うなよ糞猫!!」
今度は向こうがハッキリと言い切った。
目には力が溢れて自信に満ちている。
私の頭の中にある考えが過ぎった。

「え、何?まさか兄者…」
「ふっ、その通りだ妹よ。俺はもうお前の考えている様な低レベルな兄ではないのだ!!」
「そう、そうなんだ兄者…」
自信満々に鼻息まで慣らす兄。
どうやら私の考えは見事的中している様だ。
それはとても悲しい事であったけれども、妹としてはやはり受け入れなければならない事実なのであろう。
言葉を出すのが躊躇われる。
だけど言わなくちゃ、これも大事なたった一人の兄の為だ。

「…兄者。何時までも好きになってくれる人が出来ないからって、遂に頭の中の妄想と現実が区別付かなくなっちゃたんだね!!」
「おい、こら待て!!」
言い訳しようとする兄。
だけど、私はそんな兄の醜い姿など見たくはなかった。
「いいわ、それ以上言わなくても良いの。御免なさい兄者、私が悪かったわ。触れてはいけない大事な所に触れてしまったのね。あり得ない幻想を抱いてる兄でも兄者には変わり無い。妹――糞猫はそんな兄者を温かい目で見守ってるよ、勿論一歩離れて」
一通り言い終わると俯き黙りこくる兄。
どうやら私の思いは伝わったのだろう。
あり得ない妄想にから抜け出すのはさぞ辛い事だろうが、きっと兄者なら抜け出してくれると私は信じているわ。
「いい加減にしろ」
一人納得する私の首に手とうを入れられた。

309 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:36 [ rTK3AnAY ]
「ごふッ!!何するの〜、痛いよ兄者」
喉元を押さえて苦しむ私。
というか本気で苦しい。
「あ・の・なぁ〜、お前が暴走するのは今に始まった事じゃないし見慣れたから良いが勝手な妄想で話でっち上げるんじゃねえよ。俺にはちゃんとした普通の生身の健全な彼女が出来たんだよ!!分かったか!?」
「嘘!?物好きもいたもんだね。あ、そうか真黒さんでしょ?」
頭に鈍い痛み。
今度は殴られた。
しかも杖で。
「か弱い妹を二度も打った〜。この虐待兄、真性マゾの表面サド!!」
「杖じゃなくて、魔法でお仕置きされたいらしいな糞猫…」
やばい、目が本気だ。
沈静化を目指さないと命が危うい。
作戦実行。
作戦内容、暴力兄者の沈静化。
「やだな〜、冗談じゃない兄者。妹のちょっとしたお茶目なジョークよ」
アハハハハと空笑い。
やたら冷たい汗が流れる。
「…まあ、良いや。お前のその口の悪さと妄想具合は毎度の事だしな。兄としてもそのくらい目を瞑ってやれる寛大さが必要なんだろうな」
「うんうん」
ひたすらに首を縦に振るう。
(今だけはその寛大さに感謝するよ兄者)

「だが、何で彼女に真黒が出て来るんだよ。彼女ってのは女の事だぞ?分かってんのか糞猫?ついでに男を好む趣味なんぞ俺にはないからな」
(うわぁ、まだ気付いてないのか兄者…)
鈍い兄だ。
どうやら真黒さんが女なのだと今だ気付いてない様子。
ハッキリ言って同情する。
しかし、こんな兄に彼女が出来るとは。
物好きは何処にでもいるものだ。
世の中、不思議で満ち溢れているという事か。
一人世界の謎について考える私だった。


「――で、さっさと話せよ」
「何を?」
「…あのなぁ、何か聞いて欲しい事があったから俺のとこに来たんじゃねえのかよ?」
むう、図星。
なんか釈然としないな。
「ほれ、さっさと話せ。どうせ餡刻絡みでくだらない事だと思うがしっかりと聞いてやるよ」
くだらない…か。
確かに傍からみたらくだらない事かもしれない。
だけど、私にとっては切実な事だ。
大好きな餡刻様が私じゃない子に微笑みかけていた。
私の知らない優しい顔で。
それが、どんなに悔しかったか。

でも、一番悔しいのはその事じゃないのかもしれない。
不意に視界が曇った。
「ちょ、ちょっと待て!!何故に泣く!?らしくないぞ、糞猫」
兄の言葉を聞いて気付く。
私は泣いているのだと。
止めようとするが益々涙の量は増え、どうしょうもなくなる。
「な、何だ!?何か気に障ったのか。俺が悪いなら謝るから泣くのは止めろ!!」
兄が困った顔を浮かべている。
こういう時は優しい声をかけては欲しくないものだ。
余計に自分が哀れだと強く実感してしまうから。
だけど、何時までも泣いていては前に進まない。
私は涙ながらに精一杯話す事にした。

310 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:37 [ rTK3AnAY ]
「…だって、だってさ私。散々、餡刻様の事好きだとか信じてるって言ったけど、全然出来てなかったんだもん」
「はい〜?」
涙ながらにやっと喋り出した糞猫。
何だか俺の予想とは違う意味で涙していたのだと知り思わず間抜けな声がでた。
「私、馬鹿だよね。勝手に想い込んで、勝手に頑張って。餡刻様の事、殆ど何も知らないのにさ」
今まで散々、俺が言っていた事を今更ながらに言っている妹に果たしてどう答えれば良いのだろうか。
つまり、自分自身が相手を信じとおせなかったの辛くて泣いていると理解して良いんだよなこの場合。
「餡刻様、とっても幸せそうだった。あんな表情私、見た事ないよ…」
更に自分とライバルとの関係差を比べていると言うわけか。
「まあ、とにかく落ち着けよ。深呼吸しろ深呼吸。そうすれば少しは落ち着く筈だ」
俺の言ったとおり素直に深呼吸する糞猫。
正直、こんなに言葉通り動いた妹の姿は初めてじゃないだろうかとさえ思う。
最もこいつが泣く様なんてガキの頃以来だしな。
ともかく間を置いたおかげかしゃくりながらも一先ず落ち着いたようだ。
とりあえずこの困った妹を立ち直らせるか。
まったく、手間の掛かる奴だよ本当に。

「あー、つまる所。お前と一緒に調理ギルドに居たエルヴァーンの女が赤魔子だった訳か…」
一通り、今までの流れを聞いて俺は驚いた。
赤魔子とコイツが一緒に調理の勉強をしていた事と友達感覚が身に付く位の知り合いにまで発展してる事に。
まあ、翌々考えればあり得なくもない話ではあるがチョコを渡す相手が一緒だったのが凄い偶然だ。
「あの子の名前赤魔子って言うの?」
「知らなかったのかよ」
友達じゃなかったのかとツッコミたくなった。

「だって、あの子全然喋らないんだもん。だから深くは追求しなかっただけ」
ここら辺の話は出来るだけ早く区切りを付けてしまった方が良いな。
「…ああ、そう言えばそうだったな。あいつ喋れないんだった」
俺の答えに素直に納得する妹。
こういう時は素直モードになっていて助かったと思う。
「兄者、赤魔子さんの事知ってるの?」
「知ってるも何も同じLS仲間だぞ?三ヶ月位前かな入ったのは、勿論LSブーメランの方な」
「嘘!私、知らないよ」
驚く糞猫。
如何やら本気で理解してないようだ。
「花嫁修業だとか言ってLS外してたのは何処の何方さんで…」
「あうぅ…」
俺の言葉にシュンとする。
しかし、こうまで大人しいと張り合いがないと言うかなんと言うか。
ともかく居心地の悪さが拭えなかった。

311 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:38 [ rTK3AnAY ]
「私もああいう風に接した方が良いのかな。積極的に迫るのは餡刻様には合わないみたいだし」
「別に今までのままで良いと思うがな俺は」
俺の言葉に何でと言いたげな表情。
「良いんじゃねえの。赤魔子相手に餡刻が色呆けした表情しててもさ、お前自身の態度を変える程の事じゃねえだろ」
「…何でよ〜」
「だって、そうだろ。確かに赤魔子と一緒にいる時の様な表情はお前には無理かもしれねえ。だけどな、お前といる時にしかない表情ってのもあるんじゃねえか?」
「…赤魔子さんの時にはなくて、私といる時にしかない表情…」
俺の言葉をなぞる様に繰り返す。
ちゃんと言いたい事が伝わっているようだ。
「まあ、そう言う事だ。無理に自分を偽るなんて偽善者みたい事止めとけ、お前はお前らしくあればそれで良いじゃん。赤魔子にしかない良さもある、だけどお前にしかない良さだってある筈だ。好きなんだろ餡刻の事?だったらありのままの自分を見せないと振り向いてもらった時損だぜ」
「…でも、大丈夫かな〜」
「『餡刻様を信じる。だって、私はあの人の事が好きだから』だったっけか、お前があいつの為にウィンダスまで足を運んだ時の科白。その言葉通りのお前でいな、それがきっと糞猫――お前の一番良い所なんだからよ」
しばしの静寂。
それを吹き飛ばすかのように糞猫が顔を上げる。
何かを決心したかの様に立ち上がった。

背を向けて扉の方へと向き直り、背中越しに此方に話しかけてくる。
「礼は言わないからね兄者」
何とも素直じゃない言葉。
だけど、それが本来の妹の姿。
「へっ、こっちこそお断りだね。お前が礼を言う様なんざ気持ち悪くて見てられねえ。さっさと餡刻の所にでも行ってじゃれてやがれ」
「見てなさいよ兄者、絶対に餡刻様を振り向かして見せるんだから!!」
「はいはい、期待しないで待っててやるよ」
「ベー、だ」
舌を出して部屋から出る糞猫。
何時も通りの強気な声に我侭な態度。
どうやら迷いは吹っ切れたようだ。
その目にはもう涙はない。
何だかんだ言いながらも、まだまだ子供なんだなと自分の年も考えずに頷いてみた。

立ち上がり机の方を見ると綺麗にラッピングされた箱が一つ。
如何やら忘れていったみたいだ、おっちょこちょいめ。
そんな事を考えていると扉に糞猫の姿。
急いで取りに戻ってきたのだろう。
だけど、俺の予想とは違う言葉を言い放つ。
「だけど、やっぱり礼はしとく。特別にそこにある箱の中身食べる事を許す!これで全部チャラだよ」
それだけ言って扉を閉める。
素直じゃないねぇ、全く。
思わず含み笑いが零れた。

312 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:38 [ rTK3AnAY ]
「餡刻に上げる筈だったチョコか…」
手に取り眺めながらそんな事をぼやく。
そう言えば白樽ちゃんからチョコ貰えなかったんだよな俺。
家族の急用で仕方なかったとはいえ、回りの馬鹿共が幸せそうにチョコを口にしている様子は涙を浮かべずにはいられなかったぜ。
とりあえずポストに宛名不明のチョコがあっただけで俺はそれ以上貰ってないんだよな。

まあ、いいさ。
男の価値はチョコレートの数で決まるもんじゃない。
白樽ちゃんも急用がなければきっとチョコをくれていただろうし、好きでもない奴から沢山チョコ貰っても困るだけだしな。
とりあえず何時までも昨日の事に浸るわけにもいかず糞猫のチョコを拝見する事にした。

ご大層なラッピングを綺麗に外し箱を開ける。
そして、その中から出てきたチョコは。
「…うわぁ…これは…何というか…。渡さなくて正解だったと思うのだが…マイ妹よ」
器用に自分の顔の形に形成されたチョコ。
しかもご丁寧に『私だと思って食べて』なんて書いてやがる。
こんなん渡されたら絶対引くぞ。

「…まあ、しゃあないか。捨てる訳にもいかねえしな――」
捨てたら何故だかばれそうな気がしてならなかった。
そしてその後で酷い目にあいそうなので素直に食べる事にする。
一応調理ギルドで高弟に任命されている奴が作った物なのだから味の方は保障されてるだろう。
見た目は激しく危険だが、別の意味で。

意を決して食べようとしたその時。
扉の開く音がした。
「糞樽君、昨日はごめんなさい。用事が思ったよりも早く済んだから急いで帰ってきちゃった。一日遅れちゃったけど、チョコ持って来たよ――」
時間が止まる。
交差する視線。
白樽ちゃんの目線は俺の手にある物体に狙い撃ち。
そして、その手に握られている物はミスラの顔の形をしたチョコレート。
明らかに手作りだ、そこは言い訳のしようもない。
止めとして『私だと思って食べて』のメッセージ。
白樽ちゃんの目が悪かったらなとあらぬ期待を抱いてしまうが意味はない。

ともかく、この状況は非常に不味い。
俺は何とか白樽ちゃんに理解してもらおうと説明する。
「あ、あのね白樽ちゃん。これは違うんだよ、俺の妹が本命に渡す筈のやつでね。何故か色々あって渡せなくて、その後処理を頼まれたから仕方なく食べようとした所なんだよ。本当だよ!」
説明終了。
我ながら完璧だ。
嘘一片もない真実。

白樽ちゃんの動きが止まっている。
何故か俯き小さく言葉を発しているような。
「……樽君の…鹿…」
「…あの…白樽…ちゃん?」
声が裏返る。
汗が滝のようダラダラと流れ出す。
おそるおそる近づこうと足を踏み出したその時。
「糞樽君の馬鹿―――!!!!!!」
自慢の長い耳を裂く大声が脳内に響き渡る。
白樽ちゃんはチョコレートの入った箱を振りかぶるとその見た目からは予想も出来ない速度でチョコを投げつけた。

額に直撃。
箱自体の強度は然程でもないが飛んできた速度がしゃれになってない。
額を押さえてその場にのた打ち回る。
白樽ちゃん、一体何処にそんな力があったんだい。
「もう知らない!!」
その場から逃げ出すように走り去る白樽の姿を、強烈な攻撃を受けた糞樽には追う術がなく。
「待ってくれ白樽ちゃん!!これは違うんだよ!!訳を、訳をもう一度聞いてくれー!!」
悲痛な叫びは届く事なく、四角い部屋に虚しく木霊する。
「…違うんだよ…白樽ちゃん…」
四つんばいの姿勢で突っ伏す糞樽。
妹の身の上話を真面目に聞いた挙句の結果がコレ。
正直、己の身の不幸を呪わずにはいられない糞樽。
床に落ちたチョコレートを広い口に入れる。
甘さの中に塩の味がした。

それらの全てを見ていたモグは糞樽の背中を優しく叩いたのだった。

313 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/04(日) 01:45 [ rTK3AnAY ]
|w・`)<次の更新で糞猫編終了です。
>>296さん
その言葉で自分もそう見えるようになってしまったり…

>>校正屋さん
糞樽の家は父親タル母親ミスラにしていますね自分は。

>>312の床に落ちたチョコレートを広い口に入れる。
×広い→拾い○に脳内変換宜しくお願いします皆様方orz

314 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 02:30 [ rKdHuvco ]
すごいおもしろすぎwwwwwwwww
糞樽はやっぱこういうキャラじゃなきゃ

315 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 03:19 [ SDc0lbqA ]
俺、糞樽大好きwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
一番好きなのは白樽ちゃんだがなwwwwwwwwwwwwwww

え、聞いてない?wwwwwシラネwwwwwwwグッジョブwwwwwwww

316 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/04(日) 08:23 [ gUsKytrs ]
うはwwwww本スレでも使えそうなねたがwwwww
とにかくGJ!!
続きが気になる!
>>校正屋さん
丁度そこでしたwww
ありがとうwwwwww

317 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/05(月) 00:06 [ jr38xraU ]
まとめサイトで人気投票やってたのでリメイクに一票入れてきますた(・ω・)

318 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/05(月) 01:26 [ Czdhgefc ]
人気投票↓
ttp://vote3.ziyu.net/html/okkwwwww.html
みんな入れようぜwwwwwwwwwwwwwwww

319 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/05(月) 23:32 [ RiNYQWxU ]
|w・;)<人気投票!!何時の間に!?

結果が怖いので見たい様な見たくない様な…

とりあえず明日には糞猫編完結をあげますと予告でした。

320 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/05(月) 23:43 [ MiL86hls ]
>>リメたん
親切な俺様が超光速レスで教えてやろうwwwwwwwwアンタ今一位だよ!wwwwwwwwwwwwwwww
まだ始まったとこみたいだけどwwww2位の絆以外はかなり引き離してるwwwwwwwwww

この完全版が完成したら票が割れそうだなーwwwwwだいぶ先かwwwwwwww

321 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:29 [ AF/d4wSU ]
|w・`)<糞猫編、最終投下!!



「ヴァピュラ!!」
氷漬けとなった同胞に向けて声を上げる。
先の戦闘を見る限り、負ける要素はまったくと言って良い程ない。
だが今、目の前に広がっている現実は自身の予想を裏切るものであった。

一体、この短い時間の間に何が起こったのか。
それは知る事は出来ない。
だが、自分の同胞がやられた真実だけは否定のしようがない現実だった。

「貴様―!!!」
壁に凭れかかり気を失っている、糞猫を標的に向かい鎌を振るおうとする。
だが、駆け出そうとしたその瞬間。
地面が突起しビフロンを貫こうと襲い掛かる。
しかし、この程度の攻撃でやられる程落ちぶれてはいない。
それらを破壊し餡刻へと向き直った。

「おーっと、あんたの相手は俺の筈だぜ。ビフロンさんよ!!」
餡刻が挑発する様に剣先を向けて言葉を放つ。
表情が濁り険しくなるのを感じた。

様々な負の念が浮かび上がってくる、がそれらを振り払い得物を持ち直す。
そう、今は無駄な考えに浸っているべきではないのだ。
まずは、目の前の敵を滅する事。
それが最優先事項だ。
幸い、あのミスラは力を使い果たしたのか壁に凭れて目を閉じている。
目の前のこの男を葬ってからでも小娘の処置は決して遅くはない。
だが、この脳裏に過ぎる怒りの真実も決して変えられぬ現実だ。

眼前立ちはだかる敵は強者。
ヴァピュラの様に万が一の事態も作るわけにはいかない。
短期決戦。
それが彼の出した答えだった。
威嚇の様に鎌を振い刃に力を発現する。
自身の使用出来る最大の攻撃手段を。

「そういえば、同じ暗黒騎士だったもんな」
口笛を鳴らし、剣を構えなおす。
眼前に溢れる力は並々為らぬもの。
それ故に相手の切り札と見て間違いはないだろう。
同じ概念を持った者として、力の強弱が理解しやすいと言うのはある意味困りものである。
しかし、この力を使用出来るからには相手にも罪の意識が存在していると言う事か。
「大まかには同じだが正確には違うな」
「どう言う事だ?」
「貴様の様な人間の暗黒騎士と我等獣人の暗黒騎士ではランクが違うと言う事だ」
「へぇー、とても押されてた奴の科白じゃねえな。根拠はあるのか、そのランクの違いとやらの」
「今からそれを見せてやろう」
示唆的な表現と言うものは厄介なものだ。
だが、何となくなら意味を予想する事が出来る。

先に動いたのはビフロン。
鎌を餡刻目掛けて振り下ろす。
それは単純に力を込めた一撃であり最も強力な一撃。
床に亀裂が入り床石が弾け飛ぶ。
刃に付加された思念が一撃の威力を最大限にまで増大させているのだ。

「馬鹿力に更に磨きをかけやがったか!!」
その力、強力にして巨大で悲哀。
だが、それ故の違和感も感じた。

相手の刃から勢いよく離れる。
刃に触れていない柱が見事に砕け散る。
先程からも喰らえば、即死するような攻撃力ではあったが現時点の力は桁が違う。
それこそ受け流す事さえ間々ならぬ威力。
此方にある手段は回避のみ、隙あらば相手の懐に飛び込むだけ。
力を纏った刃には視覚上の間合い等、意味のないものだ。
相手の力を感覚的に察する事は出来る。
だが、それはあくまで抽象的にしか過ぎない。
紙一重の攻防では危険がでかすぎた。

しかし、不可解だ。
奴の使っている力が俺の知っている暗黒であるならば、あの乱用的な使用方法はあり得ない。
あんな行為は自滅以外何者でもない筈だ。
だが、しかし眼前の敵は平然としている。
これは如何なる異常なのだろうか。
俺の挙動に気が付いたのかヒブロンは動きを止めて此方に向かって口を動かす。
「お前にとってこの力とは何を指すのかな?」

322 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:30 [ AF/d4wSU ]
予想もしない質問。
だが、その答えは自分の中に常にあるもの。

暗黒。

それは業の開放。
業は善悪の所行によって現世に受ける応報の事を指すもの。

それは、意によってなす咎の所業。
それは、以前に行った罪悪。

それは、咎。
咎は罪の行為。

それは、罪。
罪は忌むべき凶事。

それらは無慈悲な執行。
つまり、自分が犯した罪の意識を概念化し現世の物理力として顕現、形成して他者の命を奪う。
「哀れな力だね、何とも罰当たりで愚かな行為。だが、それ故に使用者も無傷ではいられない」
「そう、貴様ら人の使う暗黒は実に非合理的で馬鹿げた存在だ。故に俺の暗黒は他者の思念を奪う力なのだよ!!」
「…そうか、そう言う事か…」
「今、この地は怨念に満ち溢れているからな。お前の仲間達が此処に来るまでに葬ってきた同胞達の思念が充満している。俺はそいつらの無念を代わりにはらしてやろうとしているだけなのだよ」
手を胸に当てて嫌味強く言い放つ。
「はんっ、ものは言いようだな。只単に一人じゃ勝てないから他人の力に頼っているだけだろう。そこのお仲間が負けた時は怒ってたのにその他の仲間は如何でも良いのかよ」
彷徨う思念を無理矢理自分の力へと変換させてぶつける。
自分が使う力とは明らかに異なるものだ。
あくまで自分の中の罪を物理に使用するのではなく
第三者の負念を刃に宿す力。
その力は自分を傷つけるものではなく彷徨う思念を破棄させるもの。
確かに暗黒と言う名に相応しい力だ。

「あのような低脳な奴等がヴァピュラと同じ訳ないだろう。それに、貴様等人間の行う行為に比べれば生易しいものだがな」
「…何っ?」
不意な言葉に興味を惹かれる。
その様子を見て嬉しそうに微笑むと言葉を続けた。
「異常なる力を保有する者を始め、自分より少しでも有能な者に負の感情を抱く愚かな生き物の正義とは果たして如何なるものなのだろうな」
「な、何を言ってやがる!!」
「理解できないのか?いいや、違う。理解したくないだけだ。人の本質と言うもの認めてしまいたくないから?それともお前自身がその様な人種だから?」
人間という種族は、何時たりとも異端という存在を忌み嫌うものだ。
確かに、俺達がこうして別の生き物を淘汰しようとする行為は所詮エゴでしかない。
異端者、異常者を徹底して断罪する考えも否定できるものではないだろう。
綺麗事だけが正義じゃない。
大まかな正義の定義とは万人の意見。
万人正義とは大衆の意に左右される。
そして、その中に異常は住む事を許されるものではない。
異常を背負った者は日の当たる世界を普通に生きる事さえも否定されるだろう。

だが。
そこにも各々の意思もあれば正義もある。
分かり合える者達も存在している。

意識を集中しなおしヒブロンを鋭く睨みつけた。
「…まあ、良いさ。勝負に戻ろうじゃないか。無駄話序でに一つハンデをやろう。この力の弱点をあえて言うならば怨念、思念も他者のものである限り有限と言う所だろうな」
「…そいつはつまり、充満した怨念が尽きるまでには俺を余裕で殺せるって意味なんだろ?性格悪いぜ、あんた」
此方の言葉を聞き口元を上げるビフロン。
だが、餡刻に動揺はない。
「長くはならないさ、この一太刀で決める」
そう言って構える。
やや腰を下ろして身体を捻り剣先を左に垂らしている。
一振りに全てを賭ける型。
その構えに二撃目は存在しないだろう。
どうやら言葉通り本当に一撃で勝負をつけたいようだ。

此方としても相手が動かず待っていてくれるのならば好都合。
面白い、その勝負のってやろう。
相手がいかに力を溜めようが関係ない。
簡単な事だ。
相手の刃より先に自分の刃を当てるだけの事なのだから。
駆け出した。

323 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:31 [ AF/d4wSU ]
自身に生えた翼を靡かせての低空飛行。
最速で最大の攻撃を相手に放つ。
コンマの世界で近づく二人の距離。
餡刻が動いた。

限界まで溜めた力で剣を振りかぶる。
早い。
予想を遥かに上回る速度。
だが、それ故にその行為は愚か、早過ぎるのだ。
振りの初速を考えれば自分との距離は離れすぎている。
故にその刃は決して此方には届かない。
相手は読みを誤ったようだ。
そして、それは此方の勝利を意味するものだった。

だが、変な光景を見る事になる。
腹部に衝撃。
不意に餡刻との距離が広がっていく。
何やら身体も軽い。
実に不可解な現象。
何故か意思に反して後方に向けられる視線。
そして理解した。

自分の半身が宙を舞っているのだと。
地に残された自分の半身が力無く横たわっている。
今の餡刻の手には何も握られてはいなかった。

彼は両手剣を投げたのだ。
重量級の武器を投げつけるなど、なんと言う奇天烈な行為だろう。
だが、それ故に見事引っ掛かってしまった。
剣は剣、飛び道具ではない。
その当たり前の考えの裏を見事に突かれた。

相手は初めから狙っていたのか。
それとも此方の動きに合わせて使ったのか。
今はもう知る術はない。
知る必要もない。
ただ、自分は負けたのだと。
それだけの結果を理解して。
それは、宙を舞っている間のほんの数瞬の時間ではあった。

だが、彼にはとても長い時間に思えた。
そして地面へと半身が辿り付いた時。
最後に自分を滅ぼした者の顔を目に焼き付けて。
彼の意識は永遠の闇の底へと沈んでいったのだった。

「ああ、認めるよ。それが人の多くだ。だが、人の全てじゃない。少数稀ながらも相互の理解を深めようとする奴は存在する。それはお前らにとっても同じ事が言えるんじゃないのか」
その呟きは誰にも聞かれる事なく、この陰湿な空間に飲まれて消えていった。

324 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:31 [ AF/d4wSU ]
「ふぅ、なんとか片づいたな」
勝負の決着がつき息を吐き出す。
正直最後の一撃は賭けの様なものだった。
我ながら、よくあんなふざけた技を使ったものである。
「はい、私と餡刻様の愛の力で楽勝って感じでしたね」
「うお、糞猫。もう起きたのか!?」
背後から聞こえた声に驚き振り向いてみると、笑顔に微笑んでいる糞猫の姿があった。

「流石は餡刻様、余裕の勝利ですね!!」
両手を胸元に置きグッと握ると片足でピョンと跳ねる糞猫。
思ったよりも元気そうで良かった。
「余裕、かどうかは微妙な所だけどそこまで消耗はしなかったな。それよりも糞猫の方が凄いじゃないか、詠唱もなしにどうやって古代魔法を使ったんだ?」
「ふふふ、それは企業秘密でーす。でも、でも、餡刻様がどーしてもって言うなら喜んでお教えしますよ!!」
そう言って腕に摑まってくる糞猫。
気恥ずかしくなり直に離れた。
「い、いや、折角だけど遠慮しとくよ」
「むう、残念」
頬を膨らまして残念そうにむくれる。
その残念はどっちの意味なのだろうなと考えてしまう。

「それにしても糞猫、その愛の力ってのはすんごく恥ずかしいだが…」
「つまり私の愛の力がヒシヒシと伝わってるんですね!」
そういう事なのだろうか。
何か違うような気もするが。
思わず首を傾げてしまう。
そんな困った俺の顔に何か面白い発見でもあるのだろうかじっと見つめられている。
正直かなり恥ずかしかった。

「ささ、早い所皆さんの後を追わなくちゃですね。餡刻様!!」
「ああ、そうだな。と、その前に両手剣回収しとかなくちゃな」
「そう言えば、何で持ってないんですか両手剣?」
「う…」
何か聞きたそうな眼差しの糞猫から笑って誤魔化し目を逸らすと、向こう側の壁に突き刺さっている両手剣の方へと視界を移した。
その際、ヒブロンの死骸が目に入る。
あまり見ていて気持ち良いものではないので直に視線を逸らした。

『理解できないのか?いいや、違う。理解したくないだけだ。人の本質と言うもの認めてしまいたくないから?それともお前自身がその様な人種だから?』

不意に先程の言葉が脳裏を過ぎる。
それと共に糞猫へと視線を向き直す。
「何ですか?」
俺が急に振り向いた事に疑問を浮かべている。
その表情は笑顔で、俺に対する警戒心というものがまるで皆無だった。

そして、疑問が浮かんだ。
それは迷う自分を支える言葉が欲しかったからかもしれない。
どうしてもその疑問の理由が知りたくなった。

「なあ、糞猫。なんで、お前は俺の事をそんなに好いてくれるんだ。好意を抱いてくれる事自体は嬉しいけどよ、やっぱり理由とか知りたいんだが……」

325 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:32 [ AF/d4wSU ]
キョトンとした目で此方を見る糞猫。
言ってから、後悔。
こういう事は、やはり聞いちゃいけないのだろう。
だが、俺の予想に反して糞猫は。
「ハッキリとした理由なんてないですよ」
ニッコリと微笑み、あっさりと言い放った。

目を閉じ胸に手を当てて、口を動かす。
「餡刻様の事を考えると胸が熱くなります。愛しく求めたいという感情だってあります。好きって言う感情に明確な理由なんて必要ですか?自分がそうだと思ったらそれで良いじゃないですか。私は好きになったからにはとことんですよ。人間、一度しか無いのが人生です。何もしないままで後悔するなんて、私は絶対嫌ですからね!だから私は自分に素直に生きるんですよ。私は餡刻様が好き。何と言おうとあなたを愛している。それで良いじゃないですか」
此方に優しく微笑む。
その微笑みは何と言ったら良いのだろうか。
小さな迷いから変な事を聞いてしまった自分が霞んだ。
そして、その言葉は俺の胸を熱くさせた。

「だから、今は私待ちますよ。餡刻様の気持ちが聞ける日を傍らで過ごしながら。でも、勘違いしないでくださいよ餡刻様。あなたが他の女の子の前で嬉しそうな顔をするのはやっぱり辛いものがあるんですからね。赤魔子さんだけはギリギリ我慢しますけどぉ〜」
「ううぅ!!」
じと目で此方を見る糞猫。
やたら胸が痛んだ。
「そこまで悩まないで下さいよ。餡刻様の性格上、そう簡単に答えを聞ける筈がないですからね。私、理解してますよ」
「それは、それで少し悲しいんだがぁ」
二人して笑う。
笑みの中に小さな涙が零れた。
俺が一番糞猫に惹かれる部分と言うものを挙げるとしたら、こういう所なのかもしれない。
「えっへん。こう見えても、お兄ちゃん――糞樽の妹ですからね、私は。少々の事でヘタレてたら長い人生やってけませんよ」
胸を張って堂々と言い放つ。

それにしても。何だかんだ言いながらも内心糞樽の事を尊敬していると言う事か。
今の科白を是非聞かせてやりたいものだ。

326 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:32 [ AF/d4wSU ]
癖のように自身の首元をなぞろうとした時、ある事に気が付いた。
「あ、あれ!?」
「どうしました餡刻様、そんなに慌てて?」
「いや、何時もつけてるペンダントがないんだ。と言うかチェーンが切れてる…」
さっきの戦闘中に斬られたのだろうか、かなり欝だ。
「あ、もしかして。それって私が昔お礼にあげた物ですか」
「お、覚えてたのか!?」
「勿論ですよ。それにしても嬉しいな〜、餡刻様ちゃんと大事に持っててくれたんですか」
「でも、今無いんだけどな…」
覚えていられた分、欝な気持ちが倍増する。
俺の困った顔を見てか、糞猫が何かを決意したように此方に顔を近づけた。
「探します!?」
「へ?」
素っ頓狂な声が出てしまった。
「反応から見て、この部屋の何処かにあるのでしょう?私、探し物得意ですよ」
「分かった。じゃあ、頼むよ。俺は剣を拾ってくるからさ」
意気揚々としている糞猫にペンダントを任せて俺は自分の得物を拾う事にした。


キョロキョロと首を動かしながら辺りを見回す糞猫。
自身の勘に任せてペンダントを探す。
そして、それは以外にも早く見つかった。
何の因果か氷漬けのヴァピュラの近くに落ちていたのだから。

餡刻様へプレゼントしたペンダント。
私はそれを見つけて喜んで手に掴んだ。
それは以外にも綺麗でとても冒険者が身につけている物だと思えなかった。

「大事に持っててくれたんだ…」
ペンダントを軽く両手で包み込むと目を閉じて餡刻に感謝した。

「それにしても、あなたも役に立つものね〜」
自分が立てた氷の棺を軽く叩く。
その中には先程まで自分を散々苦しめたデーモンの姿が見える。
「まあ、あなたも強かったけど所詮私の敵じゃなかったわね」
そう軽く言い放って背を向ける。

そして、悲劇は起こった。

「よっこいしょっと!!」
先程投げて壁に突き刺さっていた両手剣を引き抜く。
一々掛け声を言ってしまうのは癖なのだろうか。
内藤辺りに聞かれたら爺くさいと言われそうなので気をつけねば。

とりあえず、糞猫と一緒になくしたペンダントを探すとするか。
あまり長い時間留まれないからな。

そして振り向こうとした時、糞猫の声が聞こえた。

327 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:33 [ AF/d4wSU ]
「…あ…あれぇ…」
胸が苦しい。
体が動かない。
声が上手く出せない。
私はどうしてしまったのだろう。

口に嘔吐感。
吐き出されたのは真っ赤な血。

そして、理解する。
自分の身体から腕が生えている事に。

「…よくも…やってくれたなぁ…この糞雌がよぉ…」
耳に聞こえる声。
嗚呼、自分は何て馬鹿なのだろうか。
相手はまだ生きていたのだ。

「お前の…命を…よこせ!!」
意識が遠のいていく。
体中から力が抜けて指先を動かすのさえ億劫に感じる。
視界が揺れる。
悔しくて、悲しくて。
愛するあの人の背中を眺めて私は決心する。
迷惑はかけたくないから。
目を閉じた。

浮かび上がる想い。

餡刻様。

冒険者として兄と再会して。

ロンフォールで初めてあなたと出会って。

内藤さん達のLSに紹介してもらって。

私は我侭で沢山、迷惑をかけたかもしれないけど。

餡刻様、大好きです。

あなたの事が。

餡刻様、愛しています。

心よりあなたを。

私、あなたに会えて良かったです。

それは、短い時の間ではあったけれども。

色々な感情を私に与えてくれました。

笑って。喜んで。泣いて。悲しくて。
でも、それはあなたを想うが故で。

それは幸せの時間でした。

色々な想い。
様々な思い出。

本当は別れたくない。
離れたくない。
死にたくない。

だけど、あなたさえ生きていてくれるならば。
私は自分の命を。

だけど…。
残念な事が一つ。
とてもとても後悔する事が一つ。
それは、あなたの答え聞けなかったのが。

「餡刻様、離れてーーーーーーー!!!!!!!!!」
それを最後に。
もう声が出なかった。

だから心の中で懺悔する。
(私、悪い子です。約束、守れなくて御免なさい。
兄者――お兄ちゃん、御免ね。私…いっぱい迷惑かけてたよね。でもね。
もう、会えないんだ。よく喧嘩もしたけれど私、実はずっと尊敬してたんだよ…
もう少しだけ、お兄ちゃんにも素直に接するべきだったかなぁ…)

苦しいのは心。
痛いのは身体。
怖いのは自分。
そして、悲しいのはあなた。

私が浮かび上がらせる最後の概念。
それは、全てを砕く灼熱の炎。

涙が零れた。

328 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:33 [ AF/d4wSU ]
声に振り向いてみると変な光景だった。
自分を愛してくれている女性の胸から手が生えていたのだから。

思考が麻痺した。
その光景がまるで現実味のない夢のようで…。
それが夢である事を心の何処かで強く想いながら。
そんなあり得ない淡い幻想を抱いた。

やがてそこを中心として光が集まり膨れあがる。
光は熱を持ち、この辺り特有の肌寒さが消え少し熱い程だった。
そして視界は白く包まれ何も見る事は叶わなくなった。

何かが爆発したような音が耳に響き渡った。

最後に見た糞猫の表情は
何故か儚くて悲しそうで
だけど優しい笑顔だった。


思い出す。
ザイドが餡刻に放った最後の言葉。
ハッキリと耳にこびり付いている。

『だが、忘れるな餡刻。お前が世界に絶望し恨み拒絶した時。師としてお前にしてやれる唯一の情けだ。――俺がお前を殺してやる――』

329 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:36 [ AF/d4wSU ]
|w・`)<糞猫編終了です。(今回も予想を遥かに越えるの量に…
    
早く完全版を完成させてハッピーエンドな話や笑い話を書きたいと思った今日この頃でした。

330 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/06(火) 22:52 [ Rk3cUraY ]
お疲れ様ですwwwwww

結末わかっていても、読むと悲しくなりますね・・・

331 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 09:28 [ CYoObNrg ]
リメさん糞猫編良かったです
朝から泣きそうになってしまった(ノД<)゚.・。゚
これからも無理せず続きお願いします

332 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 09:36 [ DfD8bZNI ]
再び目からウォたが3!
・゚・(0w0)・゚・ヴァアアアアアアアン

続き楽しみに待ってるディス!!!

333 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 10:37 [ vtqELMt. ]
GJ!!
毎度毎度、いい話を書くねぇ

だけど・・・今回は、無理やり終わらせた観が強いのは
漏れの気のせいだろうか・・・??

334 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 20:59 [ X6OLSZeM ]
つまんねえ

長すぎて読む気しない

なんでこんなの票入れるんだ?(藁

もっと目を凝らせよ小さな作品でも面白い奴あるからよ

335 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 21:25 [ QJ2kOC96 ]
じゃくんな
票は入れる人の自由です、
少なくともアナタ以外の多数な方の
支持があるようですけど?
wwwwww【かえれ】

336 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 21:41 [ MEPMLNE. ]
>>334 は以下のように変換されますた


wwwww

wwwwwwwwww

wwwwwwwwwwwww?(W

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww







というか票はここに貼ってるやつじゃなくて旧リメイクに入ってるんじゃねーだろうか

337 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 21:43 [ MEPMLNE. ]
やってみて気付いたけどwwww変換後もなんかムカつくなこれwwwwwww

338 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/07(水) 23:06 [ RTLVtN3w ]
オウケイw俺様が>>336をクールに変換してやるぜ!!!www


<●><●>w

wwwwww<◎><◎>

www<○><○>wwwwww?(W

<●><●>ww<◎><◎>wwwwwww<○><○>w

339 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 00:12 [ l5D9qoLM ]
アンチ、煽りは放置

もう忘れたのかモマエラ

340 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 08:33 [ NRnq1lWg ]
飴黒やばいことになりそうですね
すごく期待してます!wwww

341 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/08(木) 13:29 [ OUesOH8w ]
>>330さん
書いてる途中、自分もorzな状況でしたw

>>331さん>>332さん
出来うる限り頑張らせていただきますねw

>>333さん
鋭い!!その違和感の通り、後半かなりの部分をカットしています。
最初は読んでる人がお話を知っている前提で書いていたのですが、今回新規で読んでくれている
人もいるかもしれないと思って削りました。上手く調整出来てなかったのは自分の未熟さですね。

>>340
凄い事になるので、その凄さを上手く伝えれるよう努力致します。

|w・`)<では!!

342 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 14:24 [ u5VTPbT2 ]
もつかれさまでつ
戦死編も首をダルメルの様にして待ってまつので
何時かはよろちくです(*´∀`)

あと、このストーリで完全に忘れられてる餡子ねぇさん・・・orz
やっぱ暗黒騎士てのが軸になってるから使いにくいのかな?(´・ω・`)

343 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 18:57 [ 0HZlZEv2 ]
餡子も登場したら良いなぁ
廃狩やら隆起が追加されてるしあながち無いとは言い切れないかと
ところでモトネタや隔離のリメイク見ずに
新規で読んでいる人ってどれぐらいいるの?

344 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 19:12 [ 9kEd5k3A ]
(*´∀`)n神気です。見たいけど先が楽しみだからあえて見ないwwwwwww

345 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/08(木) 22:33 [ .hC1blDQ ]
餡子だったら、元恋人の隆起絡みとか、死人絡みとかありそう
生きてればだけど・゚(ノД`)゚・

元ネタ込みで読んでますよ、これからもがんばってくださいまし

346 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/09(金) 19:18 [ HOJghVAY ]
ガーッと読ませていただきました
本スレとは違うけど廃狩かっこいい……でもさすがにサイボーグは無理だよなぁ…
でも左手折れてるし……でも無理だよなぁ

スパロボMXの影響か餡刻がアキトに見える

347 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/10(土) 00:20 [ BYOh6j/Y ]
|w・`)<あっさり風味に行きます。貼りまくりの複線は新章で。
    だから今は深く考えずに………思案するのは自由ですけどね。



それは夢。
自分は夢の中にいる。
毎日繰り返される。
同じ夢。

沢山の影。
賑わう人々。
沢山の笑顔
其処にある幸せ。
未来の詰まった少年達。
緑豊かな草原。
小さな泉。
隣に腰掛ける少年。
大切な誰か。
それは一体誰なのだろう。

赤い、赤い影。
声を上げる人々。
沢山の悲しみ。
其処にある絶望。
未来は閉ざされた。
豊かな草原は平野となり。
泉は枯れ果てて。
自分はもう動かない。
目の前に立つ少女。
敵対心の塊。
これは誰なのだろう。

この夢を見るようになったのは何時だろう。
生まれた時からか、それとも最近か
目を覚ますと全ては闇の中。
そして、また夢の中で思い出す。
この夢は何を指すのだろうか。
永遠とも思える繰り返しの中で。

自分はただ誰かを待ち続けている。
誰かも分からない誰かを。
ただ、ずっとずっと。
この身が朽ち果てるまで。

348 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/10(土) 00:21 [ BYOh6j/Y ]
気が付けば暗い穴の底。
何時も何時もこの暗い穴の中を彷徨う。

自分は芋虫。
人は我々をクロウラーと呼ぶ。

そんな事は如何でもいい。
何か大事な事を忘れてしまっている気がするから。
欠けてしまった大事な物がある様な。
何ともいえない感覚。
罪。
後悔。
無念。
罪悪感。
それは埋まる事無く。
そして理解する事無く。
時間だけがただ過ぎ去っていた。

ある日。
私の中で何かがざわめいた。

懐かしい気配がする。
誰だろう。
とても懐かしい。
誰だか分からない。
だけど身体は進む事を止めようとはしない。
狭い通路を抜けて大きな空間に出る。
其処には一人の幼い少年が立っていた。

タルタルと言う人間の種族。
敵対意識は持たなかった。

此方を見ても警戒などまるでしない。
まるで知人にでも会うかのように此方に近づいてくる。
足を止める。
お互いの距離は殆どない。
目と目が合うと少年は小さい身体を屈めた。

「僕とお友達になってくれましぇんか?」
差し出された小さな手の先には食べ物が握られている。
その顔は笑顔で恐怖は全くない。
人とそれ以外の垣根などは存在しない。

この感じ、何だろう。
自分はとても大切な何かを忘れている気がする。
それは―――遥か遠い過去の記憶―――
自分が、まだ―――。

自分の中にある靄のかかった記憶が晴れるのを感じた。
それと共に溢れ出す思い。

「若、若なのですね!」
言葉。
それは獣の中に必要なく、また発せられないもの。
今までの自分には必要なく、また必要としなかった。

「…随分と長い間、眠っておられましたね。おはようございます、若…」
歓喜の声。
喜びに震える体。

此方の言葉に驚きもせず顔を傾ける。
「よく、わかんないでしゅ」
言葉を聞き落胆の影を見せる。
だけど、直に向き直り笑顔を作った。

「私はあなたに仕える者。未来永劫、姿形は変われどその盟約は忘れません」
懐かしい言葉。
姿形は違えど、私達はまた出会えたのですね。
また、あなたをお守りする事が出来るのですね。
「う〜ん、難しい事は分かんないでしゅ。だけど、これで僕達お友達でしゅよね」
「若が望むのなら」
言葉に満面の笑顔。

「僕の名前は獣様って言いましゅ。糞樽しゃんがくれた大事な名前でしゅ。クロウラーしゃんの名前は何て言うんでしゅか?」
名前。
昔の名は意味をなさないだろう。
「名はありませぬ」
「じゃあ、僕は上げるでしゅ。糞樽しゃんに貰ったみたいに」
手を頭に当てて考え込む。
こんな自分の為に必死になって。

一度は失ってしまったものが今目の前にある。
神よ、若ともう一度再会させてくれた事を心より嬉しく思います。
そして、今一度使える事を許してくれた事に海よりも深い感謝を。
今度こそ、この命を若の為に尽くしましょう。

349 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/10(土) 00:22 [ BYOh6j/Y ]
「騎芋しゃん…騎芋しゃん…」
声に呼ばれて目を覚ます。
嗚呼、今までのは夢。
長い、長い思い出の中の一欠けら。

視界には涙を流す若の姿。
赤魔子様も一緒になって泣いておられる。
私の為にだろうか。
顔をゆっくり傾ける。
その後ろには倒れているデーモンの姿が見えた。

ああ、そうか。
自分は彼の敵と戦い、そして。
意識がハッキリする。
赤魔子様を庇い、倒れたこの身体。
そして意識を失った。

倒れている敵の姿。
なれば答えはたった一つだった。

「…若…ご立派ですぞ…立派な男児へと成長なされましたな…」
絞る様に声を出す。
身体が動かない。
冷たく、力が入らない。
大きな穴が空いている。
もう、長くはないのだろう。

「…僕だけの力じゃありましぇん…赤魔子しゃんが…騎芋しゃんが…手伝ってくれたから…僕…一人じゃ…」
「…涙を拭いてくだされ…そんな顔をされては…この騎芋めも悲しゅうございます…」
「でも…でも…」
そうは言っても溢れる涙を止める事は出来ない。
しゃくり上げるように嗚咽を漏らす若の声は何と悲しいものか。
この身体が動いてくれるのならば、その涙も少しは抑えられたのだろうか。

「…約束…餡刻様と約束されましたよね…赤魔子様を守ると…」
「でも…騎芋しゃんがいなかったら…」
「ならば尚更…これからはこの騎芋なしでお守りくだされ…」
若が顔を上げる。
それは餡刻殿との約束を強く意識している上であろう。
「…涙を…止めてくだされ…そうしなければ私は…心配で…心配で…ゆっくりと眠れません…若…若の…立派になったその笑顔を…この騎芋にお見せくださいませんか?…」
言葉に悩むように俯き。
だけど、ゆっくりと顔を上げて。
「…こ…こうでしゅか…」
必死で作る笑顔。
涙で顔はぐしゃぐしゃではあるけれど。
確かな想いが其処にはあった。

「…はい…とても…立派で…ございます…よ…」
もう、声は出ない。
視界は霞みよく見えない。
嗚呼、そうか。
自分は泣いているのだ。
それは悲しみではなく喜び。
そして、何処か寂しい想い。
若はついに私の手を離れ飛び立つのだ。
私はその旅立つ姿をこの目に焼き付けよう。
最後の命を振り絞って。
永遠の闇へと身を落とすこの魂を。
どんな闇夜にも負けぬ光を見るように。

350 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/10(土) 00:22 [ BYOh6j/Y ]
獣様が立ち上がる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を両腕で拭い。
強い意志をその目に携えて。
騎芋から背を向ける。
赤魔子が悲しそうな目で此方を見つめている。
だから笑顔。
必死で笑顔を作る。
それは精一杯の努力。
手を繋ぐ。
しっかりと握られた手。
その手を離さないように、失わないように強く。

「騎芋しゃん、僕は泣き虫でしゅ。直には直らないと思いましゅ。また皆を困らせるかもしれましぇん。
だけど、だけどきっと何時か立派な男の子になるでしゅ。赤魔子しゃんを守るでしゅ。
でしゅから、でしゅからゆっくりと眠ってていいでしゅよ」

『ありがたき、お言葉。騎芋めは幸せにございますよ』

最後の言葉は声には出なかった。
だけど想いは伝わったと思う。
「…騎芋しゃん…今まで…今までありゅがちょうごじゃいましゅたぁあぁぁ」

獣様が走り出す。
全てを振り切る様に。
残った大事な者をその小さな手で掴みながら。
決して離さぬ様に、強く、強く。

351 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/10(土) 12:35 [ VPQFIwPk ]
おkkwwwwwwwwwwwwwww
ゴッジョブwwwwwwwwwwwwwwwwwww

352 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/12(月) 00:26 [ EcopR11g ]
age

353 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/12(月) 00:26 [ EcopR11g ]
age

354 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/12(月) 00:26 [ EcopR11g ]
age

355 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/13(火) 20:45 [ co10XbEo ]
hage

356 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/13(火) 20:46 [ co10XbEo ]
ミスタwwwww

357 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/14(水) 02:51 [ LsYJEPpI ]
騎士芋しゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん(;´Д⊂)

358 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:42 [ zB.KokpQ ]
|w・`)<こっそり投下…!!





その日はバタリアに雪が降っていた。
僅かな吐息も白く染まり重く佇む雲の下で、冷たい雪を全身に浴びながら、俺達は何時もと違うその景色の中を歩いていた。

顔色が悪い。
皆黙り、俯き、重い空気が流れている。
それは疲れ、悲しみ、後悔、喪失感、色々なものが混ざり足取りを重くしていた。

其処にはいるべき筈の奴がいなくて、その現実を受け入れたくなくて、でもそれは変わらない真実で、もう会えないという事実をより強く実感してしまって。
普段は色あせている荒野も、枯れ木となった樹木達も、簡易に立てられた粗末な墓石も全ては白に包まれている。

白い世界。
まだ僅かに他の色も残した未完成な白。
だが彼等の胸に宿る気持ちは、脳裏に思い出される記憶は、その色自体を拒絶する様に。
もう過ぎ去ってしまった事だから、自分達は乗り越えなくてはならないのだから。
とっくに麻痺してしまった寒さを今更のように感じて、俺は『寒いな』と意味のない言葉を呟いた。

久しぶりに声を出した気がした。
乾燥して乾いた喉が痛んだ。
足を進める度に足元の雪が声を挙げた。
空を見上げる。
重く曇った空から雪が淡々と降り注いでいる。
常に振り続ける雪を見つめて、自分達の通った足跡は新しい雪に覆われて、今この時も時間が流れ続けているのだと気付き、不意に視界が歪んでいった。
「馬鹿野郎…」
彼等の目から熱い雫が零れた。


そして。
一つの戦いの終わりに、大きな悲しみを携えて、その心が休まる間もなく、新たな戦いへと身を委ねていく。
敵の本丸ザルカバード。
白の大地と黒の空。
実質最後となるかもしれない戦い。
決戦は三日後に決まった。

359 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:43 [ zB.KokpQ ]
風。

風が吹いている。


塩の香りを乗せた風。
辛い戦いを終えての初めての朝。
港から水平線を眺め、太陽がゆっくりと昇っていく様を見つめている。
肌を震わす寒さは残っているが、今日は良い天気になるだろう。
そんな事を考えて溜息。
昨日はあまり眠れなかったからだ。
それは皆も同じだろう。
人の弱さを色濃く現している。
身体の傷は魔法で直せても心までは直せない。
まったく、自分がこんな気持ちになるなんて笑わせてくれる。


俺の後ろを人が通り過ぎていく。
まだ朝も早いのに、忙しなく沢山の人が。
街道にはまだ僅かに雪が残っている。
競売からは相変わらずの喧噪。
其処には、朝も昼も夜も関係していないかのように、四六時中賑わいを見せている。

雪が挙げる沢山の音。
それを鳴らす沢山の人達。
それは何時もと変わらない光景。
世界は常に一定で動いている。
自分達には大きな出来事でも、世界にとっては如何でも良い小さな出来事。

また溜息が漏れた。


「糞樽君」
聞きなれた声が耳に届く。
呼ばれた事に反応して振り向くと少女の姿。
「白樽ちゃん」
何度となく呼んだ名前を口ずさむ。
その後に続く言葉はない。
それは何時もの自分からしてみれば奇妙な事であったかもしれない、だが今の自分はそんな事に気が付きはしなかった。

一瞬寂しそうな表情。だけど、直ぐに笑顔。

「糞樽君。隣、いいかな?」
上目遣いに訪ねる。
断る必要もなく黙って頷く。
想い耽る糞樽の横に並ぶと顔を90度横に動かして見つめる。
その顔は何時もの笑顔だけど、やはり何処か寂しそうな感じが拭いきれなかった。

彼女は知らない筈。
昨日の事を、あの戦いを、失ってしまった者達を。
だけど、彼女は何処かで気付いていたのかもしれない。
だからこそ自分を慰めに来てくれたんだと、都合の良い幻想を抱いている自分が少し悲しかった。


流れる時間。
二人は一言も喋らず、ただ水平線に昇る太陽を見つめている。
時間は午前七時を回った頃だろうか、不意に白樽が口を動かした。
「ちょっと、付き合ってくれないかな?」
彼女の正確柄、誘うのは珍しい事。
普段なら飛び跳ねる程喜ぶ事かもしれないが、今の自分にはその元気もなく『いいよ』と呟き頷く事しか出来なかった。

今日もジュノと三国間を巡回する飛空挺。
まるで、狙ったのかと思うタイミングでその姿を視覚する。
大きな風切り音が耳に届き、水飛沫と大きな音をたてて着水した。

「行こう、糞樽君。早くしないと置いていかれちゃうよ」
握られる小さな手と手。
冷えていた自分の掌に彼女の温かい温もりが伝わってきた。

360 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:44 [ zB.KokpQ ]
「遅いんだよ!!」
言葉と共に概念を浮かび上がらせる糞樽。
槍のように鋭い雷光が眼前を走る。
それらは襲い掛かろうとする獣人達の身体を貫き迸った。
精鋭揃いの部下達が、ただの一撃でものを言わぬ肉塊へと変えられ指揮を取っているバロネットは驚愕する。
「馬鹿な!!何をやっているのだ、ナイト、ウィザード、ポーン、ウォーロック達。敵はたったの一人なのだぞ!!」
声に押され威勢良く襲い掛かる獣人達。
だが、それも空回り。全ては徒労に終わる。
ある者は焼かれ、ある者は凍結し、ある者は切り裂かれ、そしてある者は貫かれ圧死する――。

「弱すぎるな、この程度で俺に挑もうなんざ百万年早いんだよ。命が惜しければさっさと立ち去りな!」
声を挙げてのそれは、警告。
これ以上の無駄を好まない彼なりの気遣いかそれとも力の温存か。
だが相手はそんな言葉を鵜呑みにする事は出来ない。
「馬鹿も休み休み言え!我等栄光ある闇の王様の精鋭部隊に逃亡の二文字はないのだ!!」
部下達の物陰にいるにしても何と威勢の良い科白だろうか。
「馬鹿の相手は疲れるぜ……」
嘆息する。
今の自分に負けはなく、少なくとも眼前にいる者達では相手にならない。
これ以上の戦いは無駄以外の何物でもないのだ。

相手が再び動く。
「あまり固まるな、出来るだけ的を散らしながら囲むんだ。接近戦に持ち込んでしまえば魔道士なぞ赤子の手を捻る様なもの!!」
どうやら、敵も頭を使い始めたようだ。
言葉通り散開し、糞樽の攻撃を少しでも回避しようとしている。
だがそれでも彼の魔法は容易にかわせるものではない。しかし、沢山の屍の、犠牲の果てに、彼等は糞樽を囲む事に成功した。
「へぇ、やるじゃん。で、どうするよ?――」
「放てー!!」
「なっ!?」
その言葉を最後まで聞く事なく、放たれる魔力の固まり。
自分の周りを囲んでいる獣人達を巻き添えにして。
轟音と共に土煙が舞い、視界は閉ざされた。

「我々を甘く見るからこうなるのだ。
さて、死体の様子でも確認するか、最も原型が残っていればだがな」
それは勝利を確信した者の威勢か、何とも虚しいものに聞こえる。
煙が晴れる。だがそこには糞樽の姿はなく、床が盛り上がり一本の柱の様なものを形成していた。
「…お前ら、滅茶苦茶するな。仲間を思いやる気持ちとか意識とか、そういうものはないのか?」
「!!!」
上を見るまでもなく、回避の行動を取るバロネット。
その瞬間、柱は砕け散り、岩の弾丸となって辺り一帯の者達を襲った。

地面に足を付ける糞樽。すかさず杖を握り敵に向かって接近する。
「接近しちまえば赤子の手を捻るようなもの、だったけか?そいつは如何かな!」
他の魔道士の者から見れば何と愚かな事だろうか。
だが、それでも糞樽の優位は変わらなかった。

本当に魔道士なのかと見紛う程の卓越した棒術は驚愕。
「接近間においての杖の扱い位出来て当然だ!」
「馬鹿な…、こんな事が!!」
何とも自分理論な無茶苦茶な言葉を吐く糞樽。
自身の身体の小ささを逆手に取りながら敵を翻弄し、次々と、そして確実に敵は数を減らしていく。
最後の一匹の顎を杖の柄で思いっきり跳ね上げるとバロネットに向き直った。

「はははっはは!!」
「……何が可笑しい?」
追い詰められて気が狂ったのだろうか、笑い出すバロネット。
呆れた顔の糞樽を見やり口の端を上げる。
「流石の貴様とて、その魔力は有限でなかろう。幾ら凡人よりも大量の魔力を保有していようが此処までの戦いと今の戦いで貴様の魔力は残り少ないと見た!!」
「…確かに、結構消耗してるな俺。このままじゃきついな」
肩を上げて頭を振る糞樽。
なるほど。今の笑みはその為か、ならばがっかりするしかない。
「今更泣き言をいっても遅い!!」
斧を握り締め接近するバロネット。
だが、糞樽はまったく動じた気配をみせない。それ所かその場から動こうともしなかった。

「だからな。お前らから頂かせてもらうぜ!!」
杖を立てる。頭の上に光の球体が顕現され、倒れているデーモン達から同じ様な小さな光が抜き出され集まる。

驚愕するバロネット。
だが、もう止まれない。勢いに乗り斧を振りかぶる。
「この……化け物が!!!!!!」
「――あばよ」

糞樽のその一言を聞き届け、彼の人生は終焉を迎えた。

361 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:48 [ zB.KokpQ ]
西サルタバルタの北方にある星降る丘。
その真ん中の大樹に身体を預けて空を眺める二人。
時間はもう夜中に差し掛かる頃だろう。
鮮やかなオレンジ色の太陽が沈み、夜の暗闇が空を包み込む。
そして、空に輝く沢山の星達がその闇夜を和らげている。
その景色を素直に綺麗だと思った。

「流石にちょっと寒いね」
自分を抱きしめるようにして身体を震わせる白樽。
辺りに人気はなく、季節がら虫の音も鳴り響かない。

一月も残す所後三日。
まだまだ、寒さが身に沁みる時だ。
だけど、今の自分は安息の刻。
そして、自分は一月の終わりと同時に安息を手放す。
「いい風――」
靡く髪の毛に手を当て自然を感じている白樽。
今、自分の目の前には幸せがある。
だけど、自分はこれを手放して旅立たねばならない。
それはとても悲しい事であり辛い事だった。

「星が綺麗だね」
そう言って微笑む彼女の方が自分には綺麗に見えた。
「ねえ、糞樽君もそう思うでしょ?」
「…うん、勿論だよ」
だけど今の自分にはその微笑が辛い。言葉がぎこちない。上手く話を合わせられない。
今の自分は最低だった。

だけど彼女は笑顔のまま。それがとても痛々しい。
「此処、懐かしいよね。
私達、此処で出会ったんだよね」
そう言って手を広げ、クルリと回ってみせた。

「糞樽君……。
楽しかったよね、今まで――」


意思を固めて立ち上がる。
「あ、あのさ白樽ちゃん」
「それ以上は言わないで!!」
手を口に添えられる。直に優しい表情へと戻り笑顔。

手を後ろに組み背を向ける。
空を見上げて、此方には顔を見せないように。


嗚呼、そうか
「私、糞樽君達みたいに強くない。一緒に居てもきっと迷惑をかけると思うの」

彼女は全てを知っていた。
「……だから、今は我慢する。
だって、帰ってきてくれるんだもんね。
また、普通に合える日が来るんだもんね」

自分の感情を押し殺してまで自分の事を思ってくれる彼女に俺は答えを求めた。

「白樽ちゃん、いいのかい?」

362 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:49 [ zB.KokpQ ]
「獣様!赤魔子!」
「糞樽しゃーん!!」
見知った顔を見つけ歩み寄ってくる二人。
無事な二人の姿を見て心の底から安堵した。

「良かった。獣様と赤魔子は無事だったのか」
「餡刻しゃんと糞猫しゃんに助けてもらったんでしゅ。
それと、騎芋しゃんのおかげでしゅ……」
最後の科白は小さくて聞き取りがたかったがあえて追及はしない。

だから助太刀に来た二人の方に話を合わせる。
「へっ、馬鹿妹が役に立ったか。
とりあえず餡刻が付いてるなら大丈夫だな。先を急ぐぞ!!」
「はいでしゅ!!」
獣様の言葉に合わせて首を縦に振る赤魔子。
転送装置の方へと進み、正に踏み出そうとした瞬間、足を止める糞樽。
不思議そうに獣様と赤魔子が見つめる。
「……獣様、赤魔子、後できっと追いつく。だからお前は振り向かず先へ進んでくれ」
「糞樽しゃん…?」
急な言葉に動揺を覚える。
だが、続きを言おうとする前に糞樽は言葉を遮り。
「ごめんな」
そう言って二人を突き飛ばした。
「糞樽しゃん、何するんでしゅか!!糞樽しゃん!!!」
如何して、と言う表情のまま姿が見えなくなる獣様と赤魔子。
その二人の姿を惜しむ様に見送り、ゆっくりと背後に視線を回した。

「……さーてと、化け物のお出ましか…」

363 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:50 [ zB.KokpQ ]
彼の視界に立っていたのは影。
正確には人の影の様なもの。
あくまで人の形に似ているだけのまったく異質なもの。
その言葉を説いたら影でさえあやふやなものになるかもしれないが。
影の手には歪で大きな鎌。

脳髄に警報が鳴り横に飛ぶ糞樽。
刹那の時間を置いて、彼の居た場所が抉れた。
斬るや砕くではなく、純粋に抉るという表現。それは、物理的な力だけではないのであろう。

「…本当に俺ってついてねえよ…こんな化け物に出会うなんてよ…」
身体が震える。
それは、武者震いのそれとは違い。
本能から来る恐怖のようなもの。
まったく、笑ってしまう。
自分がこんな気持ちになるとは。
圧倒的絶対者。
そんな言葉が彼の脳裏に宿る。
自分のあまりの不幸に身を呪いたくなるが今はそんな事を思う意味もないだろう。

死の世界へと誘う鎌が影の所為でユラユラと揺れて見えた。
逃げたい、今すぐここから逃げ出したい。
彼の脳は本能的にそう告げる、だが……。
「…お前の相手をするには他の奴等じゃ荷が重過ぎるしな…。
内藤達には、闇の王を討つ役目がある。ならば、俺はあいつ等の為に化け物――お前を倒す!!」
糞樽は覚悟を決めた。
魔力を解放する、今までのそれとは違いハッキリと知覚できる程に強力で濃厚な力。
頭上に魔力の塊が顕現されていった。
「だが、勘違いするなよ!!俺はお前相手に共倒れをする気はちゃんちゃらないね。
自分の命を犠牲にして他人を助ける。聞いているだけなら美談だ!!
だけど、俺はそう思わねえ。勝手に死んで、勝手に託す奴は大馬鹿なんだよ。
残された人間の気持ちを考えない大馬鹿なんだよ!!最後の最後になっても諦めない、諦めちゃいけねえんだ」
恐怖を吹き飛ばすかのような声を挙げる。

始まりは轟音。
糞樽の生死を賭けた戦いが今始まった。

364 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:51 [ zB.KokpQ ]
「――」


「白―さん」


「白樽さん!?」
声に驚き目を開ける白樽。
視界にはエルヴァーンとヒュームの姿。
辺りには粉々になり砕けた骨の破片が散らばっていた。

「大丈夫かしら、白樽ちゃん?」
「は、はい。大丈夫です娼館子さん、餡子さん…」
立ち上がり元気だと見せる様に握り拳を作ってみせる。
その姿を見て安堵の息を吐く娼館子と餡子。

此処は死者が眠りし神聖な寝室。
しかし今では亡者が住みかう危険な空間エルディーム古墳。
その最下層にある一室を彼等は目指していた。

「まだ、本調子じゃないなら餡子ちゃんが優しくマッサージしてあげるわよん」
そう言って手をワキワキと動かす餡子から一歩離れ苦笑いをする。
「…餡子さん、冗談はその位にして早く先を急がないと。
また亡者達に囲まれたら不味いですよ」
「あ〜ら、その時はまた今みたいに餡子ちゃんが処理して昇天させてあげるわよん」
「…」
「…」
思わず固まる二人。
その様子を見て舌を出す餡子。冗談よ、と付け加え先に進む。

「でも、白樽ちゃん無理はいけないわよ。私は前衛なんだから多少の攻撃くらいじゃ逝ったりしないから、もっと回復は抑えておかないとさっきみたいに囲まれて襲われちゃうわよ」
「…ごめんなさい」
俯き素直に謝る白樽にお手上げの姿勢を見せる餡子。
冗談半分で言ったのに本気で落ち込まれるのは困りものだ。
「白樽さん、そんなに落ち込まないで。
餡子さんは別に怒っている訳じゃなくてあなたの身を案じているだけなのですから」
「はい、分かっています。今度は気を付けますね」
そう言って笑顔を作る白樽。
だけどそれが無理をしているものだと餡子には一目で分かった。

最初から感じていた。
白樽が少し神経質になっている事に。
絶対に守る、守らなくちゃと、気持ちが先走り身体がそれに付いていっていない。
確かに此処は危険な場所だ。
亡者と戦い傷を負えば新たな亡者が血に惹かれやってくる。
だが、しかし彼女もかなり場数を踏んだ冒険者だ。
普段の砕けた言動とは裏腹に冷静な判断力も兼ね備えている。
そう言う目から見ても今の白樽は危なくとても不安定な状態だった。

365 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/15(木) 03:51 [ zB.KokpQ ]
足を止め白樽に向き直る。
舌なめずりをして商品を見るような目つき。
驚く白樽を無視して彼女に近づくと身体に手を回し、胸にそっと手をやる。
「えっ!えっ!えっ!えっ!?」
最初は硬直していた白樽だったが、服の上から胸を撫でられると驚き離れようとする。
だが、片腕をがっちりと脇から通され逃げるに逃げられない。
「あ……あのっ、餡子さん…っ!」
声を挙げようとした白樽の口に指を入れ、耳を優しく頬張るように甘噛みをする。
「ひゃっ……!!」
「…怖がらなくても良いわよ。餡子ちゃんに任せれば全て安心だから――」
そう言って服の中に手を進入させる。
その行動に恐怖感を抱き目を瞑る。
すると糞樽の顔が浮かび上がり……。
「やっ、やめてください!!」
餡子を突き飛ばした。

「いたたた、お尻打っちゃったわ。んも〜、白樽ちゃんたら、案外力が強いのね。
餡子ビックリしちゃった」
起き上がる餡子。
自分のした事に気付き慌てる白樽。
「す、すいません。でも、さっきのは、あの、その。……とにかく駄目です!!」
顔を真っ赤にして、しどろもどろする白樽を見てプッと笑いを零す餡子。
何故笑われたか分からず、赤い顔のままの白樽。

「どお、余計な力は抜けたかしら?」
「ほえっ?」
思わず間抜けな声。そして真面目な顔に戻る餡子。
「あんまり張り詰めちゃ駄目。確かに大事な人が危ない事をしているのは気が気でなくなるのも分かるわ。
だけど、だからってあなたが焦っちゃもっともこもないわ。あなたが相手の事を大事な様に相手もあなたの事が大事なんだから、ねっ!」
言ってウインクをする餡子。
そして先へと進み始める。

「娼館子もそんな所で中腰になってないで早く進むわよ」
言葉にハッとする娼館子。
正直彼にはかなり動きづらい状況だった。

呆けたように餡子の背中を見つめる白樽。
「ほ〜ら、白樽ちゃん早くおいで。そうしないと今度は亡者ちゃん達にやられちゃうわよ」
「そうですよ、早く進んじゃいましょう」
「あっ!待ってください餡子さん」
背中に冷たいものを感じ急いで後を追う。
そんな彼女の表情から固いものは消えていた。

366 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 10:51 [ 9qdfqPzg ]
むぉ!!
リメネ申キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!

ふむ、これで白樽&娼館子が「何」をしてたのか、ハッキリわかる
(ちと、疑問だたのよw

367 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/15(木) 13:58 [ 3EeA7NTI ]
更新キターーwwwww
こっそり張りすぎwwwww
だんだん後半っぽいね、餡子も出てきたし
先が分かってるのに先がどうなるかとか思って意味不明にwwwww
うはwwww書いてることも意味不明だwwwwwwとりあえずリメさんがんばってーwwwwwwww

368 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:48 [ OKm0RLHI ]
|w・`)<二夜連続こっそり投稿。糞樽編終了!!
    こっからはテンポよくをモットーに。




轟音が鳴り響く室内。
そこにある影は二つ。
「…冗談きついぜ…」
頭を押さえ半場自棄になったように呟く。
これまでどれだけの魔法を撃ち込んだだろうか、影は依然として顕在でこちらにゆっくりと歩を進めていた。

「くそぉぉぉぉぉぉ!!切り裂け!凍て付け!!!燃えあがれ!!!」
叫びながら呪文を発現させる。
其処には手加減などなく自身の全てを曝け出した力の塊が幾つも顕現されていた。
まるで自分の存在意義を強く主張するかのように力強く。並みの敵ならば姿形も残さない巨大な力。

だが、その全ての結晶は影の持つ鎌の闇に飲み込まれ無残に消えていく。
それでも多少の被弾はしている筈。しかし、相手は何事も無かったかのように一歩。また一歩と此方に歩み寄ってきた。

「不死身かよ…」
自身の力には絶対の自信がある。だからこそ、それらを平然と流してしまう眼前の敵は恐怖の象徴以外何者でもない。
いっそ狂ってしまった方が楽になるかもしれない、そんな思いが彼の頭を過ぎる。
だが必死でマイナスなイメージを頭から振り払うと意識を集中し心を落ち着けた。
 
(落ち着け、落ち着くんだ俺。……敵はたしかに想像を絶する化け物。
俺が放った魔法も尽く闇に喰われている。ならば俺が取るべき行動は…)
冷静である事。
それが魔道の者にとっては最大の武器の筈。
必死に頭を働かせる、生き残る手段を、あの化け物を討つ手段を、絶望的な恐怖と戦いながら思案する。

殺気。それと共に左にステップ。間一髪の所で相手の攻撃をかわす。
当たり前だが相手も此方が仕掛けるまで悠長に待っていてくれる筈がない。
だから試す。
漠然とした無数の刃のイメージ。顕現されるは風の暴挙。
次の瞬間、影の周りは小規模な竜巻によって姿を閉ざされる。
だがそれも一瞬の事。竜巻に一本の線が入り、今まで同様闇に喰われ姿を消す。
そこを目掛けて岩の針山を打ち込むが影自体に防がれ事を為さない。
しかし、これは予測積みの事。計算の範疇だ。

(相手は攻撃も防御も桁違い。だが、不死身じゃねえ。
此方が攻撃を行えば鎌を振って力を無に帰す。
それでも防げないものは影自身が攻撃を防ぐ。
そもそも不死身であるなら防ぐ意味はない筈――)
一見完璧のように見えるそれも糞樽には唯一の勝機が見えていた。

何故ならば彼はハッキリと視覚していた。影の中にいる誰かを。
つまりは、影に包まれた本体の存在を。

汗が滴り、喉が渇いた。
両の手に握られた魔力を帯びた杖、自分の愛しい人から受け取った大事な相棒。
「白樽ちゃん…」
彼は一言だけ愛する人の名を口ずさむ、その行為だけで自分に力が沸いてくるような気がした。

影が糞樽との距離をまた一歩と狭めてくる。
まるで自分を死へと誘う死神のように。
「俺に力を貸してくれ!!!」
言葉と共に影の周りの温度が急激に下がり空気が凍り付いていく。
しかし影の様子は変わらない、これまでのように防ごうと動きを起こすだけ。
だが氷は影自体を凍結させるのではなく閉じ込める檻の様な空間を結成するのみ、その間に糞樽は影に向かって真直ぐに飛び出した。

「燃えろ!!」
生み出される炎。
その対象は影ではなくその周りを囲う氷の檻。
炎に熱せられ溶けた氷は水蒸気となり辺り一体を包む。
だが、その視界の中に見える糞樽の影に向かい死神は鎌を振るった。

生まれる闇。
糞樽の影ごと水蒸気を飲み込み、見渡しの良くなった視界には誰の姿もない。

「――ばーか、そいつはフェイクだ!!」
影の背後に声が響く。
どうやら先程の影は彼の魔力で生み出した幻影だったようだ。
「この距離じゃご自慢の鎌も使えねえだろ。
そのご大層な影の鎧ごと吹き飛びやがれ!!」
杖の先端に光が篭る。
それは全てを砕く灼熱の炎の一欠けら。
それが影を包み鎧として機能していた闇を一時的に剥がす。

「俺の勝ちだ!!」
彼は力強く呪文を…勝利の言葉を述べた。

369 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:48 [ OKm0RLHI ]
「如何したの白樽ちゃん?」
「――えっ?」
呆けたような白樽の表情。
彼女自身、何の事について聞かれているか理解していなかった。
だが、それも数秒の事。頬に熱いものが流れ落ちる。彼女は自分が泣いているのだとその時になって初めて気がついた。

「あ、あれ…何でだろう。何処も痛くないし、悲しい訳でもないのに…。
あははは……勝手に泣いちゃってるなんて…私、変ですよね」
涙を拭いながら笑う。
だけど涙は止め処なく溢れ止まる事はない。
「…何だろう、可笑しいな…何で…何で、止まらないの…。
どんどん嫌な気持ちが溢れてくる……」
確かにそれは異常な光景だ。
先ほどまで何事もなく落ち着いていた彼女がこうして脆くなっているのだから。
餡子は思う。彼女が感じたものは直感的な悲しさ。どうしょうもない程の辛い現実だと。
だから彼女は決心した。

「――あなたは中にいる娼館子と一緒にいなさい、儀式とやらの準備をしっかりとしておくの。分かったわね?」
そう言って扉のある方へと白樽の背中を押す餡子。白樽が否定の声を挙げる。
「ちょっと待ってください餡子さん。幾らなんでも一人で外にいるのは危険です。
あなたも中に――」
「駄目よ。元々、娼館子のしようとしている事にはあなたが必要なの。私ばっかりに構ってちゃ駄目。
それに私はあなた達を守る為に付いて来たんだから頑張りなさい、負けちゃ駄目。あなたは強い子だから――」
「あ、餡子さん――!!」
最後まで言葉を聞かず閉められる扉。咄嗟に開けようとするが全く微動だにしない。

「――無駄ですよ白樽さん。その扉は外部からじゃないと開ける事が出来ないのです。
魔法を使えば外に出る事も出来ますが、それではまた入り口にもどてしまう――」
此方に背を向けながら喋る娼館子。
「……娼館子さんは、どうしてそんなに冷静なんですか。餡子さん、このままじゃ危ないですよ?」
「彼女がそう選んだなら僕にそれを止める権利はないよ。
僕達がこうして一つの事を為そうとしているのと同じで、彼女も自分のやるべき事をやろうとしているだけなのだから」
ハッと気付く。彼が冷静を装っている事に。強く握りすぎた拳に爪が食い込み、血が流れ出ている。
白樽はもう何も言わなかった。自分がやるべき事を成す為に、それが餡子に対しての最大限の貢献なのだと信じて。


(白樽ちゃん、あなたは優しい子。そしてそれに見合った強さも持ちえた子。
もしも大事な人に何かあってもあなたなら乗り越えられる。きっと強く生きていける。
そう信じているから。だからあなたは生きなさい。私のように堕落しちゃ駄目よ)
彼女は自分の持った鎌を大きく振るう。眼前に群れる死霊達を威嚇する様に。
鋭い瞳に意思の篭った眼。何時ものふざけた彼女とは違い本物の覚悟だった。

「さあ、現世で満足できずに死んでいった哀れな子達。
この餡子ちゃんが、特別大サービスで二度と覚める事のない楽園に送ってあげるわよ」
自分のすべき事はこの扉の奥の二人を守る事。例え自分の身を犠牲にしようとも。
踏み出す一歩は力強く、彼女らしからぬ聡明さを携えていた。

370 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:49 [ OKm0RLHI ]
何故。如何して。
そんな言葉が彼の頭に過ぎる。
それは恐れによって狂ったわけでもなく、どちらかといえば現在の彼はこれ以上なく聡明になっておりその脳漿は極めて冷静だった。

周りの時間がやけにゆっくりと流れている気がする。
自分は宙を舞っている途中だった。影の刃をその身に受けて。
咄嗟に後方へ飛んだからこそ飲まれる事はなかったが重傷には変わりない。こうして思案する間にも血は溢れ、身体から力を奪い取っていく。
やがて地面へと身体が触れる。強い衝撃。胃の中の物を吐き出しそうになるがそれをグッと堪えた。

見据えている、影が此方を。
まるで観察するかのようにじっと見つめている。
だが今の自分はそんな事は如何でも良かった。恐怖も感じはしなかった。
ただ彼の思う所。それは―――。

「……何で、お前、何だよ……」
絞り出すような声は同時に血を吐き出した。
影が歩みを再開する。生き延びた自分に止めを刺そうと。其処には何の躊躇もなく作業の様な感覚しか感じられない。
視界が悪い、傷を負っているから。
やけに眠気が来る、血を流しすぎたから。
嗚呼、もう如何でも良い。ゆっくりと眠りたい。
色々な考えが頭を去来しつつ彼はその瞳をゆっくりと閉じた。

371 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:49 [ OKm0RLHI ]
視界に少女。
小さく震えている。
見知った顔。とても大切な子。
白樽ちゃん。
これは夢。
否、記憶。
そう、これは旅立つ前の記憶の一欠けら。

「…本当は、本当は行ってほしくなんかないよ……。危険だって分かってる場所になんか行ってほしくなんかないんだよ。糞樽君…今まで色々な危険に出会ったと思う。
…討伐シェルの団長もやってるもん、当然だよね……。
…でも、でもね。今回は何時もと違う気がするの、もう二度と会えないんだ。
そう思えて仕方ないの……。
だけど糞樽君、私が行っちゃ駄目って言ったら迷うでしょ。
悩んで、苦しんで……それでも、きっと内藤さん達に付いて行く……優しいから。
糞樽君に余計な負担……かけたくないから……。困らせたくないから……。
だから私、何も言わないの、何も知らないの。私は…何時もと同じで精一杯の笑顔と頑張れって応援するの……。
……だって…だってそれが!!…無力な私に出来る一番の事だから……唯一の事だから…だから……だから―――」
俯き、掠れるように、それでいて精一杯。
彼女は言葉を紡いだ。

だから俺はそれに答えるように笑顔を作った。
「…ありがとう。白樽ちゃんは弱くなんかないよ、俺が羨ましく思う位に強い――」
それは、白樽ちゃんの心。
その優しさが君の一番の強さだから。
だから、俺は頑張れる。

「俺、戻ってくる。
絶対に君の――白樽ちゃんの元に帰ってくる。
約束するよ」
握り拳を作り強い口調でハッキリと。
「……うん。糞樽君、頑張ってね」
「うん、頑張るよ。だから、涙を拭いて」
そう言って近づく糞樽。
「あ、あはは……ごめん…私の顔クシャクシャだね……。
糞樽君……ちょっとだけ、目を瞑てってくれないかな…?」
「うん」
切ない白樽の僅かでハッキリとした吐息を感じた。
今までに感じたことがないほど温もりが近くにある。
自分の唇に重なる、唇の感触。
柔らかく、僅かに濡れて、温かい。
別れの近い刻に、二人寄り添うようにして、初めて、ただ唇を重ねるだけの、何とも陳腐で、それでいて彼等には新鮮なキス。

やがて、名残惜しむように唇が離れる。
「…あっ。え、えっと、その…」
暗がりだが、明らかに頬を赤く染めている白樽は驚き俯いた。
「あの…。私、その…こんな事するつもりじゃ…」
手を頬に当てて声が小さくなっていく。

「…ありがとう」
「…えっ!?」
思いもよらぬ言葉に顔の色も忘れて見つめる白樽。
そこには、とても優しい表情を浮かべる糞樽の笑顔があった。
「俺、君の事を好きになって本当に良かった……そう、思ってる。
だから、ありがとう……」
似合わなくお辞儀をすると肩を掴み視線を合わせる。
「帰ってきたらさ。また、此処で星を見よう。
白樽ちゃんが作った美味しい料理を食べながら。
二人で寄り添って、また、一緒に――」
「うん!!」


「糞樽君――」
祈るような姿勢で、ほんの少しの躊躇を残しながら。
「――行ってらっしゃい…」
自分を押し殺し、大切な人を見送る。
その声は嗚咽が混じりあやふやなものではあったが、彼の耳にはしっかりと届いていた。

背中には彼女から貰った杖を背負い。
彼女を安心させるように強くハッキリと。

「行ってきます」
凛とした声で別れを告げる。
また会うその日を信じて、約束を守る為に。
糞樽は決して振り向く事をしなかった。

372 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:50 [ OKm0RLHI ]
覚醒する。
意識が鮮明になり、それと共に痛みが走った。
だがそんな事は、今の彼には関係ない、守らねばならない約束があるのだから。
大切な人との大事な約束を裏切る訳にはいかないのだから。
痛みはどうでもいい。自分は守らねばならないのだから。
だから彼は立ち上がる。
痛んだ身体を必死に動かして、激痛に身を委ねて。
消え去りそうな意識を必死に繋いで、眼前の敵を見据えた。


そうだった、俺は約束したんだ。
白樽ちゃんの元に帰るって、絶対に戻るんだって。
だからこんな所で寝てる場合じゃないんだ。
こんな所で朽ちる訳にはいかないんだ。

あいつが如何してこんな事になってるのか分からねえ。
だけど、もうアレは俺の知っているあいつではないんだ。
だったら、せめて。

この俺の手でケリを付けてやるよ。
なあ。
「餡刻よ!!!!」

飛び出す糞樽。その速度は重傷を負った者とは思えぬほど速い。
目には決して崩れる事のない意志の塊を携えている。
其処には先ほどまでの恐怖に脅えた者の影はまるで感じない。

虫の息だった者の覚醒に影――餡刻が多少の動きを見せた。
それは駆け足。
今まで、余裕を振りまくようにゆったりとしていたそれとは違う行動。

糞樽の周りに影の刃が生み出される。これも今までになかった技。
だが魔力を張り巡らせ、意識を最大限に高めている彼は事前にそれを察知しておりその場から姿を消す。
完全に姿を消した糞樽が次に現れた場所は餡刻の背後。習得したばかりの空間転移を使ったのだ。
「砕けろ!!」
放たれた力は圧縮された電撃の塊。それが餡刻を中心として開放される。
闇の衣でそれらを無に帰すが糞樽は既に次の行動に移る、真正面に降り立ち杖の柄で首元を狙う。だが、これも鎌の刃に阻まれ防がれる。
まだ、止まらない。地面に手をつき概念を浮かび上がらせる。全てを飲み込む高水圧な擬似的な滝を。
足元から襲うそれに対応が遅れ飲み込まれるも纏った影により威力を殺され、鎌にかき消された。

どうやら化け物となった餡刻を倒すには回りくどい攻撃は無駄の様だ。
動き周りながら、呪文を唱えながら、彼は必死に思案する。勝利の為に。
もう、長くは動けない。戦えない。
それは自分自身が一番理解している。
幾つかの攻防の果てに、彼の魔法の一つが餡刻の姿勢を崩した。

畳み込むように魔法を連打する。
後の事など考えていない、今はこの場を生き延びる事のみが全てだ。
必死に餡刻を守ろうと闇の衣が動くがそれも徐々に抑えきれなくなっている。
竜巻を生み出し、餡刻を囲う。
そして、その真上に転移した糞樽は自身の杖に全ての力を込めて餡刻に突き立てようとその身を躍らせた。

確信した勝利の瞬間。
自分が生きながらえたと実感する間際。

悪魔が彼に囁いた。


「…く…そ…樽…」
「餡刻、お前――」



決着。
それは刹那の時間に喫した。

373 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:51 [ OKm0RLHI ]
決着。
それは刹那の時間に喫した。

ズブリと鈍い音が響き糞樽の身体を刃が貫く。
その小さな身体からは信じがたい血が口から吐き出される。
表情は悲しみに包まれ、自分自身の行動を酷く悔やんでいる様だった。

餡刻が鎌を振るう。
それと共に糞樽の身体が宙に放り出され地面に転がり跳ねた。

動かない。
痙攣する事も無くグッタリとしている彼の周りにはおびただしい量の血液が小さな泉を作っている。
餡刻が背を向ける。吹き飛ばされた影を再度纏い、その表情を見えなくする。
その彼の顔は無表情で、まるで血の通っていない人形のそれの様に、まるでよく出来た作り物の様にしか見えなかった。
其処には彼の知っている優しい男の姿は微塵にも垣間見る事は出来なかった。

影を纏いきるとそれは膨張し、ゆっくりと縮小していく。
糞樽にはもうまるで興味を示してはいないようだ。
そして、闇が完全に消え去った時、彼の姿は何処にもなかった。


静寂に包まれた空間。
部屋には転がって死にかけている糞樽がただ一人のみ。
「…俺…馬鹿だよな……あんな単純なさ…罠にかかるなんて……。
躊躇しちまうなんてよ……俺…大馬鹿だよ……」
弱々しい声。
後悔と無念が積もった声。
何故、餡刻がああなったのかは分からない。自分にはもう知る事は叶わない。
それはとても悲しい現実だった。

「…獣様…ごめん…俺さ…負けちまったよ…」
誰に聞かせる訳でもなく、呟くように続ける。
「はははは……可笑しいな俺…もう…身体…痛くねえや……。
もう駄目だなこりゃ…天下の糞樽様がこんな所でよ……
あの凶暴女以外にやられるなんてな……あはははは…
―――」
自暴自棄の様な笑い声が止まり、また静寂が戻る。
しかしそれも長くは持たなかった。

「……嫌だ」
とても小さな声。
だが、それは徐々に大きさを増す。

「嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!嫌だ!!!!嫌だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

絶叫が虚しく木霊する。
死を拒絶する言霊が、必死に生きようとする意志が。
無常にも全てを無かった事にしようと身体は死に急いでいる。
「……死にたくない…死にたくねえんだよ…」
涙が頬を伝う。
声が小さくなる。
木霊が消えた。
静寂が再び戻った。
声は血となり、もうまともな言葉にはならなかった。

「……まだ…やりたい事…沢山…あるんだ…こんな…こんな所で………」
それでも彼は望みを捨てない。
動く事も間々ならぬ身体を這いずるように動かす。
少しずつ、少しずつ。
死から抗う様に。
浮かび上がる記憶の欠片達。
今までの人生を振り返るように次々と浮かび上がっては消えていく。
まるで水泡のように。
彼の人生最後の夢を見せる如く。
そして彼の脳裏に最後に浮かんだのは愛する彼女の顔。

「帰らなくちゃ…帰るんだ…白樽ちゃんの元へ……。
だって……約束したんだぜ……帰ってくるってさ…戻ってくるってさ…。
約束破ったら嫌われちまうだろ……なあ………そう思うだろ……皆―――」
床を這いずる音が止まる。
そこには小さな一つの影があった…。

弱々しくも力強い意思が。
最後まで諦める事無くそこには確かに存在していた。

374 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/16(金) 01:53 [ OKm0RLHI ]

不意に瞳の奥をつく真っ白な光。
開きかけた目を細めてもう一度ゆっくりと見る。
空は吸い込まれるような青。
そこに漂うようにして浮かぶ沢山の白。
千切れる雲の隙間から、鮮やかな光を携える何かが顔を覗かせている。
私は広大な緑の草原の真ん中にいた。

辺りには何もない。
ただ青の空と、白い雲と、緑の草原。
地平線さえ見える、静かで、綺麗で、孤独な空間。
そして、そこに佇む私。
如何してこんな所にいるのか分からない。
私は曖昧な表情を浮かべて、もう一度空を眺める。
風が吹きぬけていく。
その風に乗って、姿を変えながら流れゆく雲。
髪を揺らし、靡かせ、私の気持ちを落ちるかせる。
まるで全てを忘れるように。
何時までこうしていたのだろう。
空が鮮やかなオレンジ色を見せ、綺麗な夕焼けが雲の隙間からその姿を覗かせる。

足音がした。
夕焼けの赤を背景に、小柄の男の子が立っていた。
それは――。

「……糞樽君?」
目の前の者の名を呟く。
「……糞樽君、糞樽君、糞樽君、糞樽君、糞樽君!!」
糞樽の胸元に飛び込み、抱きつく白樽。
勢いに負けて倒れる糞樽。
「帰ってきてくれたんだね、糞樽君」
胸元に埋まった顔を上げる。
目には浮かべた涙を拭おうともせず、心底ホッとした表情。
「白樽ちゃん…」
「私、心配だった……。とても怖かった、糞樽君がいなくなっちゃうんじゃないかって。
でも、でも糞樽君は約束を守ってくれたんだね。これからは、ずっと一緒なんだよね?」
そう言い微笑む白樽に悲しい表情を浮かべる糞樽。
流石に違和感を覚える。
白樽から一歩距離を取る。
身体を預けていたのに突然離れられ体制を崩す。
「…糞樽…君…?」
踏みとどまり彼の挙動に戸惑う。

糞樽の口が開く。
「――――ね――」
小さく絞ったような声。
よく聞き取れなかった。
「ごめんね、白樽ちゃん……」
それは本当に済まなそうに、そして悲しそうに。
目に光るその雫は熱い涙。
背を向ける糞樽。
それ以上何も言わず自分から離れていく。
それだけで、自分は全てを悟った。

「嫌だ……」
何かが、音を立てて壊れていく。
「嫌だ……嫌だよ……糞樽君………っ!!」
涙が止め処なく溢れてくる。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ………!!!!!」
抱きとめようと走ろうとする。
だが、足に力が入らない。
まるで石のように固まり動かない。
「――――!!」
声を挙げようとするも声は出ない。
まるで喉に蓋をされたように。
それでも涙は止まらない。
止め処なく溢れていく。
糞樽との距離が離れていく。
それは彼女の届かない場所。
決して会う事の出来ない遠い何処か。
止めなくちゃ。
引き止めなくちゃ。
だけど足は動かなくて。
声は出す事が出来なくて。
でも、涙だけは溢れて止まらなく。
今も量を増やして。
壊れていく。
糞樽君との思い出が。
あの日出会った頃の思い出が。
微笑んでくれたその笑顔が。
全ての事が夢であってほしいと願った。

だけど、それは現実で。
もう、過ぎてしまった事は如何しようもなくて。

心底祈った。
彼を留めようと、その声が漏れることを。
一歩、一歩と距離が離れていく。
そして糞樽の前方に巨大な闇が現れる。
そこが別れの場所、彼女はそう悟る。
足が千切れるほど強く
喉が潰れるほどの大声を
彼女は想う。
だけど、それは全て無駄で。
糞樽が闇に消えようとした時。
彼女の手に光る指輪が目に入る。
彼女はそれを掴み、握り締め強く願った。
「糞樽君―――――!!!!!!!!!!!!!」
張り裂けんばかりの。
彼女の想いの全てをのせた声。
彼女の想いは通じた。

足を止める糞樽。
振り向きはせずその場で止まっている。
精一杯の声を彼に届ける。
「…待っててね」
それはどう言う意味か。
「私、会いに行くから…」
その意味の示す先は。
「――時間は掛かるだろうけど。きっと何時か会いに行くから――」
安堵する。
彼女の強さに、強い意志に。

「だから待っててね。
そうすれば、きっとまた出会えるから。
また……一緒に居られるから。
その時はもう二度と離れないから。
だから…だから――――」
糞樽の姿が消える。
白樽は何かを答えようとした。
けれど。
その時、音の為る程の強い風が吹きその答えを掻き消した。
だが彼にはちゃんと伝わっていた。

『約束だよ』
その大事な一言を――。

375 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/16(金) 03:27 [ GbaWt79A ]
|w・`)

|・`)

|wT`)<ネタと執筆速度が合わないのは悲しいですね。
   
   残り通風&猫狩。餡刻&ザイド。赤魔子&獣様。内藤&臼姫
   内藤&○○&○○○&○○。○○。○○で完全版終了予定です。
   
   それが終わったら書き溜めてある新シナリオを貼り付けます。
   外伝の時みたいにゲストキャラも出しますけどその辺はご愛嬌で。

376 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 05:44 [ 7eVDwIlM ]
リメ氏お疲れwwwwwwwwグッジョブwwwwwwww
でも無理しちゃ駄目だよwwwwwwwwwww

そして…
新作発表キタ━( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)`Д´)−_−)冫、 )ノД‘)#・ж・)=゚ω゚)━!!
ヘタなVUより嬉しいねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

377 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 11:42 [ w1242Kt6 ]
良かったage

378 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 12:53 [ wEEqQMq. ]
糞樽〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
白樽ちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!
うう;;結末を知ってても
やっぱり目からウォタガⅢがぁ。・゚・(ノД`)・゚・。

GJ!

379 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/16(金) 13:02 [ 6KLe49ME ]
ぐっっっっっっっっっっっじょぶぅ!!!!!!!!!!wwwwwwwwwwww

。・゚・(ノД`)・゚・。

でも人を感動させる文が書けるってすごいねwwwww
今更かwwwwwとにかくリメ氏グッジョブ!(゚Д゚)b

380 名前: (パーティーメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/17(土) 03:38 [ JN9A747o ]
ぐっじょぶでし。・゜・(ノД`)・゜・。

381 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/17(土) 09:49 [ lkysFlM. ]
。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。
。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。
。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。。・゚・(ノД`)・゚・。


GJ!
結末しっててもぉぉぉぉぉぉ ・゜・(ノД`)・゜・。

382 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:27 [ gn5Yqcwc ]
|w・`)<早起き、眠るに寝れなく。寝たら仕事に行けないだろう明白の中。投下!




暗い城内。
淡々と続く通路。
其処にある二人の人の姿。
エルヴァーンの男性通風とミスラの少女猫狩。
数度、呼吸をして自らの体調を確かめる。四肢に異常はない。それ所か今までの連戦で感覚は刃の様に研ぎ澄まされている。
城内に風が流れる。
研ぎ澄まされた感覚の果て、曲がり角の向こうから感じる強い気配。
足音は軽快であるが予想できうる実力は只者ではない。
瞳を閉じる。それと共に一度だけ大きな深呼吸。勢い良く飛び出す。その手には各々の得物を持って。視界に入った者の姿は――。

「内藤!?」
「通風」
見知った顔を見て先程の緊張感が緩む。
「姫ちん、会いたかったにゃ〜!」
内藤の後ろにいる臼姫の姿を確認して飛び込む猫狩。
胸元に顔を埋め、目には涙を浮かべて喜びを露にしていた。

「良かった、無事だったのね猫」
落ち着かせるように頭を優しく撫でる。
「通風ちんがいたから大丈夫だったにゃ。でも他のみんながいなかったのは寂しかったにゃ〜」
「そう、頑張ったのね。でもこれでもう寂しくはないわね」
「そうにゃ〜、寂しくないにゃ。嬉しいにゃ〜」

喜ぶ猫狩達を尻目に深刻な表情の二人。
「内藤、糞樽と獣様達は?」
「お前とも一緒じゃなかったのか……」
曇る表情。嫌な結果ばかりが連想される。

「そこの二人!大の男が揃ってしょぼくれてるんじゃないわよ。
獣様達がそう簡単にやられる訳ないでしょう、先に進めば猫やあんたみたいにきっと会えるわ。
あの馬鹿樽に関しては先走り過ぎてて、私達を嘲笑う可能性もある訳だから早く進みましょう」
「そうにゃ!ガンガン進むのにゃ!」
此方を半罵倒交じりに励ます臼姫らしい言葉に軽く含み笑いを零す。
「確かに此処で悩んでても仕方ないやな」
「とにかく、急いで先に進もうか」

383 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:27 [ gn5Yqcwc ]
突然彼等の足元が発光し陣を描く。
光に包まれる視界。
強い光に対し本能的に眼を閉じる。
やがて光が収まり目を開けてみると、其処は先程とは異なった広い部屋だった。

「皆、大丈夫か?」
「…ええ、今の光には特に何も無かったようね」
「にうにう、目が痛いにゃ――」
強い気配を察知し猫狩が振り向く。
大きな門。その向こうからは計り知れない邪気が立ち込めている。
「どうやら、敵さんの方からお迎えに来てくれたようだぜ」
扉の前にはそれを守るように四匹のデーモンが立っていた。


門の前に立つデーモン。その中の一匹が此方に歩を進める。

武器を抜き構える内藤達。
だが、敵は十歩程歩いた所で止まるとゆっくりと口を開いた。

「我が名はゴア。王より『流血』の称号を授かりし者」
続けさまに他のデーモンも口を開く。

「我が名はブラッド。王より『殺戮』の称号を授かりし者」

「我が名はドゥーム。王より『破滅』の称号を授かりし者」

「我が名はアビサル。王より『奈落』の称号を授かりし者」
夫々が手に持った武器を掲げ、まるで勝どきを上げるように自らを語る。

「我等、王への道を守りし最後の門兵『四業』。人間よ、良くぞ此処まで辿り着いた」

「敵である私達を褒める何てどう言う事かしら?」
行動も意外なら、言葉も意外なのであろう。
「そうにゃ、そうにゃ!!でも、ちょっと照れちゃうにゃ〜」
「この、馬鹿猫!!」
浮かれて頭部をさする猫狩の頭を軽く叩くと、頭を抑え涙目で此方に文句を訴えた。

「王の命に適いし者よ、この先へ通る事を許さん。それ以外の者は我等の前に滅ぶが良い」
此方にお構い無しに言葉を続けるデモーン。
「内藤、臼姫。その名の者、王への門を開き通るが良い」
思いも寄らぬ発言に不信なの表情を浮かべる内藤達。

俺は面を喰らっている三人を無視して言葉を紡いだ。
「其処の黒いの、ちょいと聞くがよ。内藤と臼姫以外の奴は如何するんだ?」
「先程の言葉の通りだ。それ以外の者は我等の手を持ってして永久の闇へと送り込む」
意味する答えは極めて簡単なものだった。

384 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:28 [ gn5Yqcwc ]
「行きな。内藤、臼姫」
「馬鹿を言うな通風。相手は四人なんだぞ」
俺の言葉に同意を示さない態度を見せながら内藤が噛み付く。
「何言ってんだ、舐めるなよ内藤。俺を誰だと思ってるんだ?天下の大盗賊になる予定の通風様だぜ」
「うちも通風ちんと一緒に戦うから大丈夫にゃ内藤ちん――」

「何言ってるんだ!!!」
「…にゃ!?」
「冷静になれよ、態々こっちが不利になる状況を作って如何するんだ通風、猫狩!!」
「…な、内藤?」
普段出しもしない言葉を大声で叫ぶ。
その態度にらしくないと思い、肩を掴む。
「冷静になるのはお前の方だぜ内藤――」
答えが意外だったのか言葉が止まる。

「俺達が真に倒すべき敵は誰だ?今目の前にいる黒いおっさん達か?
違うよな。俺達が――お前が本当に討たなければならない敵は闇の王だ。
あのデーモン達じゃねえ」
「だ、だけどな――」
「何度も言わせるな!!それとも何か、お前は俺と猫があんな奴等に負けるとでも?」
頭を振りながら手を広げ大げさに言ってみる。
だが、言葉は何も帰ってこず内藤は俯いたまま。

「――はぁ、甘く見られたもんだねぇ……」
咄嗟に胸倉を掴む。
「通風ちん、何してるのにゃ!」
臼姫と猫が横から何かを言っているがお構いなしだ。
「ふざけるなよ、内藤。お前は言ったよな、例えこの戦いで倒れる者が出ようとも、足を止めるなと。
振り向かず前に進めと。それが犠牲になった者への最高の恩返しになるんだと。
だから相手が通してくれるならそれに越した事はねえ。選ばれたお前は前に進まなくちゃいけねえんだ!」
言葉に項垂れる。俺の手を臼姫が叩き内藤は解放された。

軽く咳き込み臼姫が心配そうに寄り添う。
直に呼吸は整い臼姫を手で制すると俺に背を向け門の方へと向かう。
一応は俺の言った事を理解してくれたようだ。だがその足取りは決して軽いものじゃない。

「内藤!!」
締りのない面を下げたまま、敵の大将へと向かおうとする馬鹿に精一杯の声。
「この戦いが終わったら久しぶりに本気で戦ってみようぜ
その緩んだ面が見られなくなる位ボコボコにしてやるよ」

足が止まる。肩が一瞬震えたかと思うと片腕を上げ。

「手加減はしないからな!!」
そう言って駆け出す。
臼姫も急に走り出した内藤に置いて行かれぬよう足を速める。

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」
内藤に向かって突き出すように握り拳を前に出した。

門の中へと入った内藤達を確認し、閉められる扉。
重い音を立ててゆっくりと閉ざされていく。
俺は見えなくなったその姿を惜しむように門を見つめて誓いを立てる。
(また、後で会おうぜ。ライバル――)

385 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:28 [ gn5Yqcwc ]
デーモンが此方に向き直り殺気を放つ。
今までの語りとしての役ではなく本来の勤めを果たそうという事だろう。
周りの空気を圧迫するような存在感が辺りを包む。
伊達に闇の王の門番を任せられてはいないと言う事か。

「さてと、猫。もう後戻りは出来ないぜ、腹決めろよ!」
気合を入れるように隣にいる猫狩に声をかける。
「うちは通風ちんと一緒なら何処だって構わないにゃ」
しかし何時もと変わらない口調と笑顔の猫狩が其処にはいた。
それは何とも頼もしい事であろうか。
「――ったく、お前って奴はよ」
嘆息交じりに通風が呟くと笑顔で猫狩は頷いた。


地面が再び発光する。
先程の魔方陣がデーモンも含めた広範囲に広がっていた。

光が収まると、やはり先程と同じ様に景色が変わり別の場所となっている。
転送された場所は空気も重く、あちら此方に元の形を成さぬ残骸が転がったゴミ捨て場のような所。

「此処はこの城の掃き溜め場、我等のように生まれの身分の低い者がもがき、のし上がった場所。
もしも、貴様等が奇跡的に我等を倒せたのならば。この先にある転送装置に乗る事によって先程の場所へと戻れるだろう」
「へぇ〜、あんたら下っ端からその位置に着いた奴なのかい。
態々出口まで教えてくれるなんざ感謝の極みだね」
「ふっ、これは我等の絶対なる自信故だ。特に他意はない」


「…そうかい、なら。さっさと終わらせて内藤達と合流させてもらうぜ」
腰に提げた短剣を両手に握り逆手に持って構える通風。
軽いステップを踏み、何時でも戦いに対応出来るようにリズムを刻む。

「早く戻って姫ちん達と一緒に戦うにゃね、通風ちん」
弓の貼り具合を確認するように弦を鳴らすと背中の矢筒から矢を抜き出す猫狩。
普段は幼さを残したその表情には、ミスラと狩人としての鋭い眼光を携えている。

「さあ、言葉通りの力を見せてみるがいい!!」
短剣、杖、大剣、大鎌と夫々の武器を構える四匹のデーモン。
放たれる覇気からは何時でも戦いを始める事が伺える。

互いに自身の集中力を極限まで高め、刹那の刻を無限のように長く感じ、その時を待った。

386 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:28 [ gn5Yqcwc ]
門を抜け、狭く長い通路を抜けると其処には闇に染まった空が見えた。

一本の道が淡々と続いている。
道以外の場所は崖になっており、その底は闇に包まれ見る事ができない。
その道の最果て、視界に小さく入る居城から凄まじい悪意が此方に向けて放たれていた。
 
二人は走る。
もう振り向かない、振り返らない。
一歩、また一歩と力強い足並みで目的の場所を目指し駆けて行く。
長いようで短い距離、そして居城の前にある階段を登り終えると内藤が不意に声を発した。

「止まれ、臼姫!」
急な声に動きを止めて警戒する。

「そこの柱の後ろにいる奴、出て来い」
「まだ敵が残っていたのかしら…」
腰に提げた武器を構え戦闘姿勢をとる。

「その物騒な物をしまってはくれないか。俺は別にお前らと争う気はないぞ?」
柱の裏にもたれ掛かっていた者が動き此方に姿を見せた。

「…ザイド。なんでこんな所に?」
手に持った刃を向けたまま、気を緩めずに話しかける。
「分かった、あなたも戦いに来たのね。
というよりもそれ以外の目的でこんな所に来る筈がないものね」
手を軽く叩き、片目を閉じて発言する。
ザイドはその行動に少し間を置きゆっくりと頷いた。

「…ああ、無論だ。全てのケリをつける為に根源を討つ。
それが俺の此処に来た目的なのだからな」
「あなたの事はあまり知らないけれど、味方に付いてくれるのはとても頼もしいわ」
「大陸最強の暗黒騎士が味方に付くのは嬉しい限りだ。宜しく頼むなザイド」
剣を収め友好の証として手を差し伸べるが、ザイドは腕を組んだまま内藤達をじっと見つめるのみ。
疑問に思い問い掛ける。
「どうしたんだザイド?」
だが、返事はない。
依然として此方を見つめるのみ。
暫くしてその重い口が開く。
「……一つ問わせてもらってよいか?」
「よく意味がわからないが、俺達で答えられる事ならいくらでも構わないぜ」
その言葉に続き臼姫も頷く。

「内藤、お前は己が正義を成し遂げる為ならば。
その他大勢の者を救う為ならば。
自分の友に手を掛ける事ができるか?」

ザイドがどんな答えを求めてそんな事を聞いたのか分からなかった。
そう、まだこの時は――。

387 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:29 [ gn5Yqcwc ]
開戦の合図は猫狩の弓から同時に放たれた六本の矢。
敵は先読みしていたのか即座に反応、一斉に動き回避する。
先陣を切ったのはブラッド。湾曲した大剣を持ち此方に低空飛行で接近する。
敵の数は四。此方の不利は明らかだ。だが相手は自分達の優位性を知ってか、此方を試しているのか同時に飛び込んでは来ない。
ならば相手の気が変わらないうちに速攻で決めるのみ。

「猫、援護を頼む!」
「了解にゃ、通風ちん」
駆け出す通風の横を猫狩の矢が通り過ぎる。
相手が矢を回避した所を狙い撃つ、それが通風の狙い。
しかし相手は矢が飛んでくるのにも拘らずそのまま直進。大剣を振り一閃した。
少々胸中で戸惑うも頭は常に冷静に、直角にカーブして相手の脇を狙い短剣を振るう。
一閃。だが斬撃を放った手には軽い衝撃が残る。相手の甲皮が予想以上に固く傷口が浅かった。

即座に地面を全力で踏み抜き飛び上がる。遅れて足下ギリギリを通る黒光りした刃。更なる追撃は猫狩の放った矢が肩口に刺さったおかげで僅かに遅い。そのまま相手の腕を蹴り飛ばし距離をとった。
指を前に出し挑発の姿勢を取る通風。しかしブラッドは通風にそれ以上の追求をせず、猫狩の方へと真直ぐに駆け寄る。
放つ矢はブラッドに命中するも固い甲皮のおかげだろうか急所以外は、気に止めていない様子。
振りかぶられる大剣。目と鼻の先まで迫った凶器。
咄嗟に弓で重い一撃をなんとか受けるが踏みとどまれず後方へと押しやられる。
更に追撃を繰り出すブラッド。逃げ切れないと判断し即座に反撃を試みた。
後ろ腰に下げていた短剣を抜刀し標的の心臓へと突き立てる。
力強く放った一撃は刀身を相手の身体に埋め込んでいく、だが猫狩の腕力では相手表面の固い甲皮を貫くのが精一杯で致命傷を与えるに到らない。

焦る猫狩。刈り取らんと凶器の腕を振るう、猫狩が短剣を手放し飛び退こうとするが相手の方が一瞬速い。
その直前、通風の剣舞が相手の左腕をズタズタに引き裂いた。

初撃に放った軽い一撃ではなく大気の力を練りこんだ神速の五合。手ごたえは十分だ。
「俺の前で猫に手を出そうなんざ、好い度胸だなおっさん!」
悲痛な声を上げるブラッドから短剣を抜き取り、間合いを空けて即座に弓を構える。
先程短剣で刺した傷に狙いを定めて矢を放つ。咄嗟に回避行動を取ろうと動くブラッド。

その時、出所不明の衝撃がブラッドの左肩を抉り姿勢を崩す。
「ヒーローは遅れてやってくる。そういう言葉は聞いた事ないッスかね?」
まるで狙ったようなタイミングで現れた男は廃狩。背中に荷物を背負い右手には銃を構えている。その銃口から出た煙を吐息でフッと吹き飛ばし此方にウインク。
このイレギュラーの存在に全員が視線を集めた。

「猫、何やってる今だ!!」
「しまっ――!」
完全に意識が逸れた所に放たれた矢が空気を裂きながらブラッドに命中。胸を貫き鮮血を噴出させる。事切れた様にブラッドは力無く地面に倒れ伏した。

388 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:30 [ gn5Yqcwc ]
「ナイスだ猫」
「通風ちんのおかげにゃ〜」
「俺の活躍への褒めはなしッスか二人とも〜」
「勿論ありがとにゃ、廃狩ちん」
「いやいや、言われてみると照れるッスね」
「馬鹿な事言ってないで構えろ廃狩!」
少々怒気が混じった声で廃狩を罵倒する。
叱られて涙目になる廃狩。
通風に尊敬の念を抱くためか普段は見られぬ珍しい表情だろう。
廃狩を罵倒するそんな通風を横目に少しだけ猫狩は顔を赤くした。


集まる三人。敵の数は残り三。
「これで三対三。戦力は五分と五分って訳だ」
「通風さん、違うッス。俺は一人で1.25人分はあるッスよ!」
「な、なんか中途半端にゃね廃狩ちん……」
まるで日常会話のノリで話す三人。そこで戦いの火蓋は切って落とされた。

389 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:30 [ gn5Yqcwc ]
先陣を切る通風。
自慢の足を最大限に使い軌跡を描く如き速度で敵へと接近する。
目で追う事は出来る。しかしその動きを見切るのは困難であろう。眼前で動かれた場合のその速さ、正に風の如し。
しかし、超低空飛行で迫る敵は此方の予想を大きく覆す。
視界から敵の姿が一つ消える。
不安が過ぎり背後に目をやると、案の定すぐ其処まで迫っていた。


通風を援護しようとする猫狩を咄嗟に突き飛ばす廃狩。
「な、何するにゃ廃狩ちん――」
言葉を話しかけた瞬間、元いた場所の地面が盛り上がり剣山の様になる。
直に言葉を止め敵の方へと視界を動かす。先程までとは違い単独で動こうと言う姿勢がない。此方の実力を再認識して慎重になったのだろう。つまりここからが本番と言うわけだ。

最詠唱を唱えるドゥームに銃弾を見舞う廃狩。
だが敵は動かない。かわそうともしない。
胸中でやっぱりな、と頷いた頃、弾丸は凍りつきそのまま落下して地面へと転がる。

「猫狩さん、これを!」
背中の荷物を手放し、猫狩へと投げるとその場から飛び退きアビサルの方目掛けて銃弾を放った。

渡された荷物。中には二種の矢が束になっている。
即座にそれが何かを理解し、掴んで矢筒へとしまう。その中から一本の矢を取り出しドゥーム目掛けて放つ。
狙いは額。
相変わらず敵は回避の姿勢を見せなかったが、被弾寸前で目を見開き咄嗟に首を傾ける。
矢は凍りつかずドゥームの頬を掠めると共に傷口を焼く。
炎の力を宿した石を使った矢。今回は咄嗟に見抜かれ回避されたが、これならば相手の障壁を破りダメージを負わせられる。
通風に対し心配の念は拭えないが、今はとにかく自分の出来る最大限の行動を行う事に専念する。
表情が変わり魔法を詠唱するドゥームに向けて再度弓を構えた。

390 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:31 [ gn5Yqcwc ]
自分のアドバンテージを超える敵に対し咄嗟に身体が回避運動を行う。
肉体の示した答えは正しい。刹那の差で通風の背にあった柱が鈍い音を立てて崩れる。
単純な直進速度を比べた場合相手の方に部があり、力に関しては比べようの無い差という訳か。動体視力の良さが自分を生き延びさせてくれる。
口笛を吹きながら外面余裕を見せるも内心冷や汗だ。
敵の重く速い一撃を幾度となく回避する。受け流す際、その斬撃の衝撃が手を痺れさす。
攻撃の合間をぬって反撃を放つ通風だが、刃が敵の甲皮に阻まれ如何しても浅くなってしまう。
敵の大振り、剣圧で前髪が焼けた。
だが、それ故に背後へと回る事に成功する。
急速に集中力を高め、足を大きく踏み込むと翼の付け根目掛けて刃を突き出し十字に滑らせた。

十字に裂かれた背中が燃えるように熱い。
だが、それ以上に湧き上がるのは敵に対する怒りの念。
倒れそうになる身体を踏み留め、捻り、相手の身体の一部を掴んだ。

倒れる。確かな手ごたえを感じた所為だろう俺の中に油断が生まれた。
不意に踏みとどまるゴア。瞬間的に此方に振り向き俺の胸倉を掴む。
表情は怒りに満ちており軽い恐怖感を刷り込ませる。
その為に反応がコンマ数秒遅れた。

身体に浮遊感。
足が地面から離れる。
あまりに強く振りかぶられた所為であろう、服が破けた。
天井が見える。
薄気味悪く、ゴツゴツとした暗い天井が見えると次に感じたのは激しい衝撃。
背中に例えようのない痛みが走り呼吸が出来ない。
だが目を瞑る事はせず敵の追撃をかわさんと、四肢に回避の指令をけたたましく鳴らす。
大きな音を立てて地面が吹き飛んだ。

391 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:31 [ gn5Yqcwc ]
先手の初弾は回避されている。
敵の反応速度は予想以上に良い。自分との体格差は歴然。種族による力量関係も分かりきっている。
猫狩にとって幸いだったのは、敵が戦士系列でなかった事であろう。内藤達ほど近接に熟していない彼女にとっては、相手の間合いを取れる事は極めて重要であるからだ。
敵と自分を照らし合わせた際の自己有利点は射程圏の距離と戦闘時の足運びのみ。

此方を見据えるドゥームが放つ魔法の詠唱が耳に届き、範囲内から離脱しようと大きく左に跳んだ。
遅れて猫狩のいた場所に燃え盛る炎。天井にも届く巨大な火柱から飛び散る火の粉は空気を焦がす。
当たらずとも十分な威嚇となるそれに、心を乱されない様必死で意識を集中する。
繰り出される魔法はまともに受ければ只では済まないだろう。
しかし、自分の反射速度は相手の魔法よりも少しだけ勝っていた。

地面を転がりながらもすぐさま弓を構え直し、ドゥーム目掛けて放つ。
だが敵も同じ手は何度と喰らってはくれない。辺りに顕現された氷の塊。
それが迫る炎の矢に襲い掛かる。衝突する炎の矢と相手の氷の矢。光を発して互いに消滅した。
威力は五分と言う訳か。
続け様矢を放つ、相手の集中を乱す威嚇の意味も含めて。

放たれる矢。それに対抗して放たれる魔法。
繰り返される攻撃と回避。
通常の矢弾と合わせて炎の矢を放つ猫狩。
炎の矢の残りは少ない。勝負を長引かせるわけには行かない。
六本同時に放った矢が相手の足を掠り動きが止まる。
其処を見逃さない。矢筒を探り中から一本の矢を取りだす。
キリキリと音が鳴るほどに強く引き絞り放った矢。
それは対抗しようと放った相手の氷の塊をいとも容易く突き破った。

サンドリア王国大騎士制式火矢。
その威力、今までの矢弾の比ではない。
進行を阻止しようとする呪文を打ち破りながらその威力を徐々に増していく。
驚愕するドゥーム。全力で回避運動を行い、何とか急所を避ける。
肩に突き刺さる。それと共に灼熱の業火がドゥームの左腕を包む。悲痛の叫び声を上げ、炎は徐々に身体を蝕もうとした。

392 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:31 [ gn5Yqcwc ]
自分の前に立ち塞がる小娘。
奴から放たれた矢が自身の腕を焼き砕く。
それでも飽き足らず炎は此方の身体を喰らわんと侵食する。
この屈辱感どう言い表せばよいのか。

「グァァァァ!!」
突然、自身の腕を引き千切るブラッド。
その行動に畏怖する猫狩。
引き千切った腕を此方に投げつける。異常と取れる行動に戸惑いつつ回避すると背中に生えた翼を大きくなびかせ高速で接近してきた。
ガタイの良い相手の身体が猫狩の華奢な肉体を弾き飛ばす。
失敗した、相手が魔道士である以上接近戦はないと勝手な思い込みをしてしまった故の結果。まるでゴムマリのように勢いよく身体が跳ねる。
口からは吐血。視界が揺れる。身体が動いてくれない。歯を砕かんばかりに強く噛み締め、目に涙を浮かべた。

393 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:32 [ gn5Yqcwc ]
「…危なかったぜ――」
咳き込むと僅かに血が混じっている。
少し頭を打ったのか頭痛も激しい。
だが激突の際、服が破れた分威力が落ちたのが幸いしたか何とか戦える。

仕留め損ない更なる怒りを積もらせたゴアが此方に向かう。
短剣を構え直し迎撃と回避の姿勢。戦える限り勝機は必ずあるのだから。

敵の攻撃。回避しようとするが身体の反応が鈍く左肩を掠る。
このままでは負けるのは明白。故に自身の切り札を使うしかない。
一呼吸置き、相手の胸倉を漁るように腕を振るうと視界が黒く包まれる。
次の瞬間、通風の姿が視界から消えていた。
だが敵は強者。見つかるまで長くはなかい。
少し離れた位置に姿を見せる通風。時間にして5〜6秒。
しかし彼にはそれで十分だった。

極限の集中力。
その限界まで澄み切った感覚が通風の空間を支配する。
止めを刺さんと大鎌を繰り出すゴア。しかしそこには通風の姿はない。

「遅せえな、その程度じゃ俺は捕まらねえよ」
手首を反し、声の聞こえた方に刃を振るう。だが、これも虚空を薙ぐのみ。
「どうした、お前の速さはその程度なのか?」
激情を誘う言葉に敵の一つ速度が上がる。
しかし、それでも通風を捕らえる事は出来ない。
斬撃を一つ回避する毎に敵の速度は更に上昇していく。
だが、どんなに刃を早く振ろうとも通風には掠る事さえない。

ゴアは不意に距離を大きく空けるとクラウチングスタートの様な姿勢を見せ。地面を大きく蹴り上げて稲妻の如き速さで迫る。
並みの者ならば、瞬きする間もなくその命を潰えるだろうその速度。

だが――。
「それを待ってたぜ!」
僅かに身体を逸らし敵の刃を回避する。
鼓膜を裂くような風切り音が耳に入り、視界スレスレを凶器が通り過ぎた。
剣圧が瞼の上を浅く切り血を飛ばす。
しかし怯まず腕を伸ばし、二本の短剣を突き出す。
手に走る衝撃は大きく、手放さないよう短剣を強くしっかりと握る。
自分の速度がそのまま仇となりゴアは横腹を大きく切り裂かれた。

確かな手ごたえと飛び散る鮮血。そのまま勢い良く壁に激突する。崩れ落ちた瓦礫に埋もれ、その姿が土煙に覆われた。

394 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:35 [ gn5Yqcwc ]
背後で音がする。
見ると破壊した壁の破片を握り潰し再び此方に向かい突撃してくるゴアの姿。
切り裂かれた部分からは今だ大量の血液が流れ出ている。
「やれやれ、おっさんもしつこいねえ…」
先程の攻撃で肉体の耐久度は限界に来ているのだろう。
今の通風には敵の攻撃が止まって見えた。
振りかぶられる大鎌。
通風はそれを最小の動きでかわすと、ゴアの大きく開けた口に赤黒く丸い玉を放り込んだ。

震天雷。
名前の如き威力を持った火薬の塊。
それに気付いた時、ゴアは光の中に包まれていた。

395 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:55 [ gn5Yqcwc ]
猫狩へと迫る凶器の腕。
回避する事も間々ならず思わず目を瞑る。
だが、予想した痛みは何時までも感じず目を開けた。
額に短剣を受け絶命しているドゥーム。
意思を失い、此方に倒れこんでくるという所で誰かに腕を掴まれ引っ張られる。
自分のいた場所に倒れ伏す。あの巨体に押しつぶされずに済んだ事に安堵の息を吐いた。

「…猫、大丈夫か〜?」
自分の後ろから聞こえる声。
「頭がグルグルするけど、何とか大丈夫にゃ通風ちん」
おどけたように言ってみせるも内心は不甲斐ない念に包まれている。
通風に助けられなければ確実にやられていた自分。
こんな時になっても自分は彼に助けられたままだった。

何故か黙る猫狩を不思議に思い怪訝そうに見つめた所でもう一つの声。
「二人とも元気ないッスよ!俺はまだまだ元気いっぱいッス」
そう言ってポーズを取る廃狩。
どうやら勝負はついたようだ。
しかし何故か腹の立つその態度に近づくと、力無く垂れた左腕に手を置きグッと握った。

「っっ〜〜〜!!!」
声に鳴らない悲鳴を上げて地面をのたうつ廃狩。
とりあえず無視しておく事にしよう。
苦笑いする猫狩の方へと向き直る通風。
「まったく…お互い、しぶといよな」
「これも日頃から通風ちんにたっぷり鍛えられた成果にゃね〜。それよりもうちの事心配してくれて照れ照れしちゃうにゃ〜」
「馬鹿!何の話だよ。まぁ、先も長いから倒れられたら困るしな…」
視線を逸らす通風を見上げる猫狩。
手を口元にあてクスクスと微笑むと不機嫌そうな顔をする通風にデコピンをされた。

その後方でのたうっていた廃狩は動きが止まりピクピクと痙攣している。
まあ、暫くすれば元気になると思うので大丈夫だろう。
それよりも極度の集中力が途切れたのか足取りが重い。
額を押さえ薄目を開ける。様子に気付いたのか心配そうに見る猫狩を制すると敵の言った転送装置の方へと向き直り足を進めた。
廃狩も何時の間にか復活しており大げさに痛みを訴えて此方を非難する。
もう一度握った方が良いのかと不意に思ったが、猫狩が横目でジロリと見つめてきたのでこれ以上はやらない方が良いと判断した。

396 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:55 [ gn5Yqcwc ]
緊張感のない会話を続ける三人。
戦いの終わりを感じ取り大きな隙が出来ていた。

両翼をはためかせ、地を蹴る。
標的は、最も近い場所にいる通風。
咄嗟に沸き起こった気配に反応する通風。見ると倒したと思われたブラッドが此方に向かい突進してきている。
先程の絶対回避の所為か身体が上手く動かない。回避が間に合わない。
通風は咄嗟に両腕でガードしようとした。
両腕の隙間からブラッドの凶悪な爪や牙が見える。
まともに受ける事、それはすなわち死を意味する。
それは自分の結果を無意識に受け入れた所為か、思わず目を瞑る。
肉を抉る嫌な音が響いたが自分に痛みはない。
目を開ける。
其処には絶望する光景があった。

自分の前に何時の間にか踊り出ている猫狩。
猫狩を貫いているブラッドの爪。
赤い血が流れ出る。

「通風…ちん…」
崩れる猫狩。
世界がゆっくりと動く瞬間。
叫ぶよりも早く体が動いていた。

廃狩の銃弾がブラッドの両腕を吹き飛ばす。
其処に間髪いれず襲う閃光の様な通風の刃。
「ウァァァァァァァァァァァ!!!」
ブラッドの首が胴から離れた。

397 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 04:58 [ gn5Yqcwc ]
倒れた猫狩の元へと駆けつける。
「大丈夫か猫狩!おいっ――」
グッタリとして動かない猫狩。
抱き抱え傷を見る。赤い液体が絶え間なく流れ続けているそれの意味する所は誰にでも分かる事。
此方の声に反応したのかゆっくりと目を開く。
「…先…行ってほしいにゃ…うち、このままじゃ…通風ちん達のお荷物さんになっちゃうにゃ……だから…」
「――っ。うるせえ!動けないからってお前を置いていく訳にはいかないだろ」
そう言って猫狩を背負う通風。
背中にヌルリとした感触。それは今も絶え間なく増え続ける。
もう、時間は少ないだろう。
自分には癒しの魔法を使えない。
彼女の傷を治す薬もない。
無力感が打ちのめす。
だが彼はグッタリとしている猫狩を抱えるとゆっくりと歩み出した。

「…通風ちん」
不意に語りかける猫狩。
「ん?」
「…ありがとう…にゃね…」
突然のお礼。
その言葉の意味する事は…。
「な、何言ってやがんだ!お前の我がままを聞くなんてのは、これで最後だからな!」
「…うん…、ありがとう……ごめんなさいにゃ…」
「……っ!お礼なんて良いから他の事を喋れよ。あと、謝るな!」
「…うん…ありがとう…にゃ…」
「へぇいへぇい」
「通風ちん……」
「…何だよ?」
暫しの静寂。
密着している為かお互いの脈まで聞こえる。
猫狩の鼓動は酷く弱い…。
ゆっくりと開く口。
「…大好き…にゃよ…」
「…っ!?」
「…うち…通風ちんの事…大好きにゃよ…」
告白。
何度も聞いた言葉。
「…わかってる!今更だろ…そんな事。
…分かってるさ。分かってるんだよ!馬鹿…」
「…うん……」
「俺も、俺もお前の事…愛してる…。
陳腐な科白で悪いけどよ…世界で一番、お前の事を愛してるんだよ!」
「うん…」
涙まじりの声で頷く猫狩。
「…ねえ…通風ちん…結婚は…してくれないにゃか…?」
「…へっ、誰がお前なんか!」
「…うぅ〜。さっき…世界で一番愛してるって……」
涙目に上目遣い。すがる様な目で此方を見る。
「あ〜、もう分かった分かった。結婚してやる、お前を貰ってやるよ。…売れ残ったら可哀相だからな。特別大サービスで俺様がもらってやるよ!」
「…ふふっ…ありがとうにゃ…通風…ちん…」
根負けして約束をする通風を柔らかい笑顔で覗く。
「…その代わり、この戦いが終わって暫くしてからだぞ…傷も癒えずに結婚式なんて格好悪いったらありゃしねえ…」

398 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 05:02 [ gn5Yqcwc ]
「猫狩…?」
「…んっ…。大丈夫…にゃよ…」
「ああ」
早く、臼姫の所へ行かないと…。
糞樽でも良い、見つけられれば…。
そんな事はもう無駄だと分かっていても…。
「…通風ちん」
「何だよ?」
「…結婚式…何処にしようにゃ…?」
「…そうだな…猫は何処がいいんだ?」
「…立派な式場じゃなくてもいいにゃ…姫ちんがいて…内藤ちん達がいて…そして通風ちんが隣にいるなら何処でも…」
「何だよ…結局、俺任せか…」
「…ごめんにゃさい…」
「あ〜、もう、謝るなっつってるだろ!とにかく早く体を直せ、話はそれからだ…」
「…うん、治すにゃ…」
瞼が重く、自分の意思とは裏腹に閉じようとする。
だが必死に意識を保ち口を動かして気を紛らわせる。
「…それでにゃ……」
「ああ…」
「…新婚旅行は…世界一周。通風ちんと一緒に世界を見て回るのにゃ…」
「まったく、手間が掛かるミスラだぜ…」
会話が途切れる。
猫狩の瞳が閉じて呼吸も弱い。
「…猫?」
「…あっ…」
遅れる反応。
もはや意識を保つ事さえ困難なのであろう。

「色んな景色を見て回りたいんだよな?
色んな生き物や人達も見たいんだよな?」
「…うん」
「だけど時々、お宝ありそうな所狙って良いか?」
「…う〜。良いけど…程々にゃよ…うちの事…見えなくなっちゃうと嫌にゃから…」
「ああ、程々にする…」
言葉が詰まる。
猫狩はまた目を閉じ眠る姿勢を見せている。
「なあ、猫…眠いか…?」
「…ちょっとだけ…」
何か喋らなければ。
でも頭に何も浮かばない。
猫狩に反比例して早くなる自身の鼓動。

「通風ちん…」
「あん?」
「大好き…」
「…俺もだ」
答えが返ってこない。
弱々しい呼吸を繰り返す猫狩。
辛そうに必死で閉じかけた瞼を開ける。
そして答えた。

399 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 05:02 [ gn5Yqcwc ]
「……私ね…凄い…幸せだったよ…」
「っ!」
「通風ちんと再会出来て…一緒に旅して…一緒に戦って…キスしてもらって…結婚の約束までして…」
「…何言ってるんだ!まだまだこれからだろう猫狩?
もうすぐ臼姫か糞樽に会えるから、すぐに元気になれるから……
これから…もっと、楽しい事…幸せな事が待ってるんだろ?まだまだ、欲張っても良いだろう!!」
「…いっぱい…あるんだね…」
「ある!だから…そんな言い方するな!じっくりと待てよ!」
「……通風ちん…ありがとう……私…ね…凄く…凄く幸せ者…だったよ…」
言葉が出ない。
乾いた喉が痛みを発する。
「…通風ちんと…もっといっぱいお喋りして…ずっと一緒に…いたかったのにな〜…。
もっと…一緒に…世界で…一番…大好きな人と……ず〜っと…一緒に……」
言葉が止まった。
手がダラリと力無く垂れ、虚空を彷徨った。
視界が滲む。
頭に浮かんだ言葉はたったの一言だった。

「馬鹿野郎……」


眠った猫狩を下ろし壁に凭れさせる。
寒くない様にと羽織っていたマントを掛けて顔を近づけそっと口付けをかわす。
柔らかい。
まだ温かさを残した唇。
目を瞑ると涙が零れた。

「…猫狩」
名残惜しむようにその名を口ずさみ、背を向ける。
強い意志を携えた瞳には、もう涙は見られなかった。
「…行って来るぞ…」

『うち、通風ちんの事ずっと待ってるのにゃ。
何時までも、何時までも。ずっと、ずっと……』

400 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 05:03 [ gn5Yqcwc ]
「…通風さん……猫狩さんは……?」
二人の会話を邪魔しないよう先に進んでいた廃狩。
分かりきった事だが、それでも聞かなくては自身の気が収まらなかった。

「――用が済むまで待ってる……猫は俺にそう言った。
だから俺はさっさと用事を済ませなくちゃならねえ……」
それは詳細を聞くまでもない答えだった。

真直ぐに転送装置へと進む通風の背中を見て廃狩は心の中で尊敬の意を唱える。
装置の手前、その場所で急に歩むのを止める通風。
背中越しに言葉を放った。
「…廃狩、今ならお前はまだ引き返せるぞ。
この先へ進んだら五体満足じゃ済まねえ。
そうなると分かっていても俺と一緒に地獄へ飛び込むか?」

それは此方に対する警告と彼なりの思いやりであろう。
「ここが最後の分かれ道だ、選べ――」


一瞬の静寂。
手に持った帽子を頭に被り直し口を動かす。
「…まったくカッコいいな通風さんは、悔しくなるほどに…。
男ってのはやっぱりそうでなくちゃいけないッスよね!」
「……廃狩、お前――」
「俺にも格好つけさせてくださいよ!」
自分の胸板をドンと叩く。
強い意志を携えた瞳を此方に向けながら。
「……へっ!もう逃げたいって、言っても逃げられないからな!」
「そんな言葉は吐かないですから関係ないッスよ!」
彼等は凛として装置へと飛び込んだ。

(……猫、ゆっくりと休め。後の事は全て俺達が終わらせる。
だから、何れ行くべき世界で俺の事待っていてくれよな――)



「――臼姫。この扉を開けたら最後、もう二度と気が休む間はない…」
「ええ、勿論わかってる。覚悟なんてとっくにできているわ、何時でも来いだわ」
重く佇む巨大な門の取っ手に手を掛ける。

最後に後方に佇む暗黒騎士を横目にして。
ゆっくりと音を立てて扉は開かれた。



「やはり、答えは得られなかったか…」
ザイドが誰にともなく口を動かす。
しかしその言葉は激しく吹いた風にかき消され、誰の耳にも届く事はなく消えていった。

401 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/20(火) 05:06 [ gn5Yqcwc ]
|w―)<戦闘描写。難しいですね…。
    
    完全版もラストバトル間近。読んで頂いてくれる皆様、どうぞゆっくりとお待ちくださいませ。

402 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/20(火) 05:08 [ WHreWZZo ]
リアルタイムで読ませてもらいました。・゚・(ノД`)・゚・。
嗚呼だめだもう画面が見えないあいねふぁねえいふぁじぁ

(´;ω;`)b 続き待ってます。でも体は大切にしてくださいね。

403 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/21(水) 04:00 [ PnBMgyLo ]
もう誰も読んでねえから書かなくても良いぜ('A`)

404 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/21(水) 06:49 [ Vjk/ASD6 ]
猫狩好きだから、今回のはクルだろうと思ってたけど・・・



こんなに泣きはらした目でどうやって仕事行けっての?

ところで、猫狩と通風は、いつキスしたの?
その記述がわからなかった。

405 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/04/21(水) 12:42 [ HJ8TxanQ ]
「…大好き…にゃよ…」
「…っ!?」
「…うち…通風ちんの事…大好きにゃよ…」
告白。
何度も聞いた言葉。
「…わかってる!今更だろ…そんな事。
…分かってるさ。分かってるんだよ!馬鹿…」
「…うん……」
「俺も、俺もお前の事…愛してる…。
陳腐な科白で悪いけどよ…世界で一番、お前の事を愛してるんだよ!」
そっと頬に手を触れ、顔を近づける。
触れる両者の唇。
不意打ちのキスに目を見開く。
温かい雫が新しく猫狩の頬を伝った。
「うん…」
涙まじりの声で頷く猫狩。

406 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/21(水) 16:10 [ 9FY4hJy2 ]
少なくとも俺は読んでる。

407 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/21(水) 19:30 [ VsRnNkFk ]
俺も読んでるよ( `_ゝ´)

408 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/22(木) 00:16 [ a6T5A7T. ]
俺も、読んでるよ・・・・・・





釣られた



ん?釣られた?皆さん、ヌルーよろw

409 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/22(木) 00:48 [ 1lKf9j4E ]
|ヽ∧
|・ω・).。oO( 当然・・・ )
| :|ヽ
|))
""" """ """

410 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/26(月) 21:13 [ zbJ/wKGc ]
リメ神ドコー?

411 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/27(火) 10:31 [ 9utwE4rM ]
新クエとかいろいろやってんじゃない?
パッチの良し悪しはともかくまだうpしたばかりなんだから
ちょっとだけ変わった世界を楽しみたいってのは誰でもあるだろ。

412 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/04/30(金) 12:55 [ tut4hlfs ]
なるwwwwwww
漏れ様最近ログインしてないからうpあったことしらなかったwwwww
マターリまってまつ

413 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/01(土) 20:15 [ nGo1SE/Q ]
続きマダー?

414 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/02(日) 02:14 [ M8lApnL2 ]
|w・`)<何とか落ち着いた時間も取れましたのでGW中に頑張って書きます。

415 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/02(日) 05:28 [ 5JIASqEk ]
>>414
(゚∀゚)待ってまーす!
でも他の事もして息抜きは忘れずにNE☆

416 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:31 [ DwE4i5no ]
|w・`)<と・う・か・!!




彼は待っている。
己の過ちを正す為に

倒すべき存在の為に
終止符を、撃つ為に
それは彼にしかできない事なのだから
自分にはその責任があるのだから
例えそれがどうしようもない罪だとしても

彼は待っていた…。
もうその時はまじかに迫っている事に彼は気づいていたのだから…。

417 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:31 [ DwE4i5no ]
「――来たか…。
もしも、運命と言うものがあるのならこれほど滑稽な物はないな」
顔を上げる。
視界の先。そこには黒い影が立っていた。

「狭間。境界線。存在概念の欠如。
それはお前に課せられた呪いと言うべきだろう。
そして…。
こうなってしまったか、馬鹿弟子が…」
影を見つめ俯くと刹那的に悲しい表情を浮かべる。
果たしてその胸に宿る想いは如何なるものか。

「世界から異端として生を受け。
一時の僅かな幸せも失い。
お前は業を身に宿し自身を保った。
そして今、お前は拘るべきでない者の漆黒に身を宿したか――憎悪、堕落、非愛情――。
これ程までに滑稽な事があるとはな………。
まるで…最初からこうなる事が決まっていたかのように…」
影が此方に向かい歩を進める。
それはまるでザイドに興味がないかのように。

「世界と言う名の舞台に立つ者としてお前の存在は極めて特殊――異例だった。
自己の存在を世界に依存していない――いや、世界において認識、管轄外、境界線ギリギリの位置に立っていると言った方が正しいかな。
生きながらにして滅びを享受した者それがお前だった…。
本来ならば、誰に知られる事もなく消えていく筈だったであろう。
お前と言う一固体の人物を自立させ、生きながらえさせたのは俺の責任。
自己の肯定は自己のみが行う。
それは極めて希薄な存在。
自らの業を背負い力とする暗黒騎士はお前と言う存在にはうってつけの生き方。
それ故に自分自身を強く肯定する事が出来た…沢山のモノを犠牲にしてな」
今だ此方に興味も示さない影に対し淡々と言葉を語り続ける。
それがまるで彼の懺悔の様に。
残り僅かな時間を惜しむように。

「優しさだけでは如何にもならない事が世の中には存在する。
お前は他者を愛するべきではなかったのだよ…」
ゆっくりと腰を落とし、背中の剣に手を掛け構える。
語るのは此処までなのだろう。
その目に宿る意志は決して変えられぬ強いもの。

「内藤達はあの中にいる闇の王を倒すだろう。
だが、貴様を倒すのは業を背負う者として、お前に生きる術を教えた師としての勤め」
発せられるザイドの覇気。
それに反応したのか影の動きが止まり、その手に黒い巨剣を顕現させた。

「さあ、来い餡刻!
我等、同じ道を歩み腕を磨いてきた者として。
そこには師弟の関係は存在しない。
己と他者、ただそれだけだ。
さあ、互いの業を喰らいあおうぞ!」
滑る様な音を立てて剣を引き抜く。
同時に地を強く踏み抜き餡刻に向かい疾走した。

418 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:32 [ DwE4i5no ]
鳴り響く金属音。
ぶつけるのは互いの全存在権。
一振り毎に行われる命のやり取り。

生か死か。
彼らの先にある答えはただそれだけ。

果たして。
生を掴み死から永らえる者は、死を授けられ己を失う者は誰か。


「腕を上げたな餡刻…」
斬撃を受け流し話かける。
餡刻は何も答えない、無論答えが返ってくるなど毛頭考えていないだろう。
それでも彼は口を動かした。
「幼きお前に生きる術を教えてきた。
ひよっ子であったお前が俺と此処まで渡り合うとは…」
首を薙ごうとする斬撃に対し腰を屈め回避する。
そのまま肩を押し出して強く相手に踏み込む。
強烈なタックルで後退する餡刻。
両者の間合いが開くとザイド掌から黒緑色の球体が出現し餡刻に襲い掛かる
それに合わせたかのように餡刻も黒紫の球体を出現させザイドに向かい投げつけた。

両者の身体から力の一部が抜かれる。
そして再び互いが互いの力を喰らいあう斬撃を繰り出していく。
「長い旅路、お前は俺と離れ掛け替えのないモノ――仲間を手にした。
それはお前にとって心の奥底で切望していたものであろう」
跳躍し全体重を乗せ斬りかかるザイドの一撃を受け止める。
「お前はそこで満足すべきだった。
それ以上を望むべきではなかった」
ミシリと嫌な音が響き餡刻の足元が力に耐え切れずめり込む。
しかし、その強烈な一撃でさえ受け止めザイドを弾き飛ばした。

「あのミスラ――確か名を糞猫と言ったか…。
お前はあの娘に自分の存在を強く依存させ過ぎた。
だからこそ失った時の反動もでかい。
只でさえ存在が希薄だったお前は一気に拠り所を失い今の結果を起こした。
お前は自分の不甲斐なさに存在を恨み、呪い、自己を否定し、放棄した。
結果。
只のヒトには到底不可能な、異なる者には聖杯とも取れる器になりえた。
その力、決して受け入れてはいけないモノだったのだ!!」
餡刻の十字に繰り出す斬撃。
受け止めはしたが衝撃に耐え切れずザイドが吹き飛ぶ。
畳み掛けるようにその後を追い追撃を加えようとする。
だが嫌な予感を本能が察知し、とっさに飛び退いた。

「闇を纏ったとは言え単純な力技、危険を察知する本能は私より上か…。
見事だな餡刻…だが…」
餡刻の頬から血が滴る。
「スピードと技術はまだ俺の方が上のようだ。
それに貴様にはまだ教えてはない…」
にやりと不気味に笑い剣を正面に構えると意識を集中する。
その姿勢に何かを感じ取ったのか餡刻が足を速めた。

繰り出される刃がザイドの眉間に迫る。
だが次の瞬間、刃に強い衝撃が走り弾かれた。

見るとザイドの影が二つに別れ、盛り上がっている。
そして徐々に輪郭が浮かび上がりザイドの姿を形成していく。
「最後にその身に刻むが良い。
業に飲まれぬよう足掻くのではなく、自らがその漆黒に身を委ね、己を失わない、その者だけが辿り着ける、これこそが暗黒騎士の境地だ!」
ザイドが叫ぶ。
不気味な声が彼の背後からしたかと思うと両手剣から闇が零れ落ちる。
駆け出す。
餡刻の元へ。

餡刻も鎌に闇を呼び寄せる。
それは何者も防ぐ事ができない圧倒的な一撃の為。
待ち構える。
ザイドを。

419 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:34 [ DwE4i5no ]
それは闇と闇。 

だがそれらは決定的に違っていた。

片や憎悪の海に身を委ね、全てを否定し堕落した翼のない鳥。
片や己が非業を受け入れ、全てを抱えながらも必死に飛ぶ鳥。

享受と否定。
お互い闇に身を投じながらも決定的に違う二人。
闇が闇を摘み取り、喰らいて、力は拮抗する、両者は喰らい続ける、お互いの闇を。
刃は黒さを増し一片の澱みもない完全の漆黒へとなっていく、より高みへ…。

 
…そしてついに、拮抗が崩れた…


「…どうやら、ほんの僅かだが私の方が上だったようだな…」
勝利の言葉。
餡刻の喉元に剣を突き付け言い放つ。
「暗黒騎士の剣は業を背負う者の剣。
決してその先に希望はない。
だが…」
止めを刺すために。
全てを終わらせる為に剣を振り上る。
「己さえも信じられぬ者にその刃を振るう資格はない!」
その言葉と共にザイドは剣を振り下ろした。

「いけましぇーん!!!!」
突如として響く声。
ほんの刹那、それこそ一瞬とも取れない時間ではあった。

彼は餡刻から気を逸らす。
だが餡刻にとってはその刹那でさえ十分すぎる時間だった。
振り切った刃で鮮血が舞う。
しかし…。
「っ!浅かったか!!」
兜が真っ二つに割れ、餡刻の額から血が流れる。
兜に守られて見えなかった表情が窺われた。
金色だった髪は黒く染まりあがり、優しかった瞳は見る影も無く澱み、その目はまるで何も捉えてはいないように見える。
彼はそのまま素早く一歩踏み出し拳を振るう、咄嗟に剣で受け止めるがザイドの巨体を悠々と弾き飛ばした。

「っ!」
受身が間に合わず苦悶の声を漏らす。
だが彼も黙ってやられる訳ではない。
彼の生み出した二つの影が餡刻に襲い掛かる。

「駄目でしゅ、やらせましぇん!!」
影の前に立つ獣様と赤魔子。
餡刻を守るように躍り出る。
その行動に影の動きが鈍ると餡刻は機を見逃さず二度刃を振るって影を霧散させた。

「獣様、赤魔子そこをどけ!
そいつはもうお前達の知っている餡刻ではない!
何をしようともう手遅れなのだ!!」
力の限り声を上げて獣様達を説得する。
「嫌でしゅ!!絶対にどきましぇん!!」
赤魔子も獣様に頷き凛とした表情でザイドを睨みつける。

奥歯を強く噛む。
手に持った得物を強く握りなおして声を上げる。
「ならば、俺はお前達もろとも葬る。
それでも良いのだな!?」
それは警告。
このまま餡刻を守る立場に回り続けるならば彼は躊躇せず言葉通りの行動を実行するであろう。
「さあ、どうする!?」
「…餡刻しゃんは、餡刻しゃんは大事なお友達なんでしゅ…」
身体の奥底から絞り出すような声。
「大事な大事な僕のお友達の一人でしゅ。
だから、お友達を傷つける人は、例え餡刻しゃんの先生しゃんであろうと許しましぇん!」
獣様が叫ぶ。
その小さな体とは裏腹の大きな勇気と餡刻への深い信頼がそこにはあった。
赤魔子も同じように声は上げぬがその目は獣様同様に力強い意思を携えている。

一つだけ小さな溜息を吐くザイド。
そして…。
「ならば、その大事なお友達がお前の他のお友達を傷つけたとしたなら。
お前はどうするのだ?」
残酷な現実を示す言葉。
「…何を、言ってるんでしゅか…」
まるで呪いの言葉を受けたかのように獣様の表情が凍りつく。
「お前達の仲間の一人――名を糞樽と言ったか…。
あいつは今どうなっているのか理解しているのか?」
赤魔子の脳裏に嫌なイメージが浮かび思わず口に手を当てる

「お前が感じ、思い描いた事そのままだ!
お前達にはわからないだろう、だが私にはわかるのだ。
餡刻が摘み取った全ての命の叫びが、私には見えるのだ」
強い声で獣様達を牽制する。
だがそれは、彼等とは違い深い悲しみを携え、全てを受け入れた者の絶対意思であったであろう。
どんな幻想も彼の言葉の前ではただの夢話にされてしまうかもしれない。
言葉を振り切る様に獣様は餡刻の元へと走り寄る。

420 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:34 [ DwE4i5no ]
「餡刻しゃん僕でしゅよ!!獣様でしゅ!!わからないんでしゅか!!」
「…」
餡刻に抱き付き涙目で必死に問いかける。
今の言葉を否定してほしい。
自分の頭に思い浮かんだ最悪の光景を消して欲しい。
何もしていないのだと、ザイドの言葉は全て何かの冗談なのだと何時もの優しい微笑を携えてそう言ってほしかった。

「…」
だが、餡刻は何も答えない。
此方など気にも留めずザイドの方だけをじっと見つめていた。

そんな彼の澱んだ瞳が目に止まる。
それだけで自分の意思が崩れてしまいそうになる。
そんな表情を今まで一度たりとも見た事はなかったから。
これではまるで別人だ。
餡刻の形をした別のモノ。

それでもかぶり振る。
いつものように優しい笑顔で自分の頭を撫でて欲しいと彼は思った。

「餡刻しゃん!!」
今までで一番大きな声。
初めて餡刻が此方に顔を向けた。
相変わらずの無表情で…。
だが、それでも獣様にとっては嬉しかった。
自分の声が届いたと思ったから。
自分の信じた餡刻がまだそこにいたのだと思えたから。

ゆっくりと右手を上げる餡刻。
その手には両手剣。


「餡刻しゃん…」
満面の笑顔で…。

最後の最後まで彼は信じ続けた。

自分の友達を…。

そして…。
刃は振り下ろされた。


誰かが何かを叫んだ気がした。
鈍く嫌な音が響いた。
次に見えたのは赤い雨だった。


「…あれ…」
目の前に倒れ伏す。
だが、それは獣様ではなく。

黒い鎧に身を包んだ暗黒騎士。
…ザイド。

その前には餡刻がいて。
その手に握る刃には赤い液体が付着していて。
視界に餡刻の顔が映る。
それは、彼の知らない誰かだった。

その場で膝を付く獣様。
餡刻がゆっくりと動き出す。
もう、この場には用がないというのように。
そこにいる獣様達など眼中にないように。

赤魔子が走りよりザイドに癒しの術を唱える。
だが、一向に傷は治らない。
何かが呪文の効果は邪魔している。
流れる血は量を増し地面を赤く染め上げていく。

状況を見れば誰でも分かる。
もう、助からないだろう…。

421 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:35 [ DwE4i5no ]
「…だから言ったのだ…もう手遅れなのだと…」
息悶えに声を絞り出すザイド。
その声に放心していた獣様に意識が戻る。

「…ザイドしゃん…、ごめんなしゃい…僕…僕は餡刻しゃんを…」
目いっぱい涙を溜めて許しを請う。
自分の命を救ってくれた恩人に。

ゆっくりと動くザイドの大きな手。
今までどんな人生を送ってきたのであろうか、傷だらけのその手でゆっくりと獣様の涙を拭う。
「…ザイド…しゃん…」
涙を流しながら必死で治療する赤魔子を手で制する。
彼の意思どおり呪文を止める赤魔子。
自分の不甲斐なさに新たな涙を浮かべた。

「…お前達が気にする事ではない…。
俺が…まだまだ甘かった…。
ただ…それだけなのだから…」
優しい声。
今まで彼等が出会ったザイドからは想像も出来なかった声。

「…もう…全てが手遅れだ…。
分かっただろう…あれは…餡刻ではないのだ…
餡刻と言う身体を…入れ物にした…闇…」
言葉に弱々しく頷く獣様。
赤魔子もそれに続き顔を縦に振る。

「だから…逃げろ赤魔子、獣様…二人で一刻も早く…遠くへ。
今…生を得ているお前達は…僅かな時間でも長く生きるのだ…
無駄に命を…散らす必要はない…お前達にそんな義務はないのだ…
全ては…俺の…過ちなのだから…」
「そんな…そんな事できましぇん!!
だって…ザイドしゃんは…僕のしぇいで…」
頑固に自分の意思を示す獣様。
その様子を見て彼は少しだけ微笑んだ気がした。

獣様の頭にザイドの大きな手が被さる。
「…ならば…お前の好きにするがよい…。
自分の決めた道を…貫くが良い…。
お前は…その道を自分で選んだ…大事なのは結果じゃない。
…どんな事でも自分で…選ぶ事に意味があるのだからな…
俺らしくない…科白ではあるがな…」
獣様の頭から外れたザイドの手が力無く地面に落ちる。

それを最後に。

ザイドは二度と動く事はなかった…。


一陣の風が吹く。
それはまるでザイドの魂を運ぶかのように。
彼等をすり抜け遥か遠くへと駆け抜けていった。

422 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/03(月) 00:37 [ DwE4i5no ]
立ち上がる獣様。
赤魔子の前に立つ。
その目は真っ赤に晴れ上がっている。
だが、涙は止まっていた。

「赤魔子しゃん聞いてくだしゃい…」
ゆっくりと口を動かす獣様。
静かに頷いた。

「ザイドしゃんは僕を守ってくれましゅた。
そしてザイドしゃんは眠ってしまいましゅた。
多分…もう二度と起きないんだと思いましゅ…。
ザイドしゃんを眠らしたのは餡刻しゃんでした…。
だから、僕はザイドしゃんは嘘をついてなかったと思いましゅ…。
僕達の知っている餡刻しゃんはもういないって、ザイドしゃんは言いましゅた…」
その名前を聞くたびに身体が反応する。
「だけど、僕は…」
その先は聞きたくなかった。
何よりも獣様の口から続きを聞きたくはなかった。

だけど、赤魔子は自分を強く保ち耳を傾ける。
姿勢を崩さずに、しっかりと獣様を見据えて。
「――僕はそれでも餡刻しゃんを信じたいんでしゅ」
ああ…。
「大事な、大切な、お友達の餡刻しゃんを…。
僕達の知っている餡刻しゃんの存在を…まだ、信じたいんでしゅ…」
この人は…。
「だから…だから、僕は行きましゅ。
餡刻しゃんはきっと苦しんでましゅ。
僕達の知らない何処かに閉じ込められて泣いていると思いましゅ」
何時でも…。
「赤魔子しゃん、こんなお馬鹿しゃんな僕でしゅが…。
餡刻しゃんを助けるのを手伝ってくれないでしゅか。
赤魔子しゃんを守る約束は破るつもりはありましぇん。
僕はどんな事があっても赤魔子しゃんを守りましゅ。
だけど、僕は赤魔子しゃんを危険な場所に連れて行こうとしてましゅ。
それでも、赤魔子しゃんと一緒に餡刻しゃんを助けたいんでしゅ」

何時でも変わらない心を持っている。
とても優しく…。
それでいて強い心を。

「…駄目でしゅか…?」
申し訳なさそうに此方に問い掛ける獣様。

迷う事などない。
そんな必要なんてないのだから。

覚悟を決めた。
そして誓った。

自分もこの人を守ろうと。
自分の全てをかけて。
記憶の奥底に閉じ込めた恐怖に抗って。
だから彼女は彼に答えた。


「――はい――」


そう…。
たった一言を。

423 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 09:13 [ cqbLXccc ]
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ン!!!

424 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 12:49 [ 4jhnFZec ]
キタニャーーーーーーー

425 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 16:46 [ meQv3wcY ]
まいった
脱帽ですよ

。゚(゚´Д`゚)゚。

426 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 20:51 [ 6is4Zq/k ]
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!

。゜(゚´Д`゚)゜。

427 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/03(月) 23:51 [ K71qXqd2 ]
獣様がんばれー!
久し振りにここに来て文句編のあとからいっきに読んだけど
本スレとは違うけど廃狩がカコイイ・・



。゜(゚´Д`゚)゜。

428 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/04(火) 14:48 [ Lmbup28A ]
│)))

|w・`)<今日、更新するかも…

│)))

429 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 14:57 [ LQ3DWBZc ]
>>428
/cheer 作者の人

430 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:17 [ Lmbup28A ]
「…戦死…飛子…なんで…」
雪の降る大地に膝をつき内藤が力なくその場に項垂れている。
周りの仲間達も様々な思いを抱えているのだろう。
ある者は嗚咽を漏らし、又ある者は怒りに身を震わせ拳を強く握る。
フェ・インでの戦いは内藤達の勝利で幕を閉じた。
だがしかしそれは結果だけを見ただけの物であり、彼等は勝利を手にする為掛け替えのない仲間を失う事となってしまった。



扉を開くと広い部屋に出た。
空気が澱み禍々しい気配の漂う空間。
その視線の先。
階段上の中央奥力を放つ色取り取りの柱に囲まれるようにして大きな棺が置かれている。
棺の中から感じる強烈な気配を感じながら二人で歩を進めていく。
そして部屋の中央まで辿りついた時。
棺を囲う禍々しい柱が発光し空間が歪む。 
視界が刹那の間白く染まる。
次の瞬間、そこには巨大な化け物が立っていた。

「よくぞ、此処まで来たな人の子よ」
地響きを起こしながら階段を下りる化け物。
「貴様が闇の王だな」
「私達が来たからにはあなたも年貢の納め時。
ここまでよ、覚悟なさい!」
手に握ったハンマー状の片手棍の先を闇の王へと向け言葉を放つ。
内藤も剣と盾を構え何時でも準備は良かった。

「どうやら戦いの前の無用な言葉は必要ないようだな」
組んでいた腕を外し、右手を前に出す。
空間が嫌な音を立てて歪を作りその手に禍々しくも大きな大剣が現れる。

「来い人間。貴様等という希望を摘み取り、この世界に再び絶望と恐怖を与えてやる」
剣で虚空を薙ぎ此方を威嚇する。
「行くぞ臼姫!援護を頼む!」
「任せて!」
言葉で合図した後、内藤は闇の王へと向かい駆け出した。


今、戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

431 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:17 [ Lmbup28A ]
円形の広い部屋。
天井から白い光が降り注いでいる。
その部屋の真ん中に黒い歪。
まるで此方に反応したかのように嫌な音を立てる。
歪が広がり大きな穴を作る。
一寸先も見えぬような漆黒。
其処から無数の殺意が吐き出された。

溢れ出る亡者の軍勢。
その圧倒的な数の差に傷付く仲間。
そんな中、俺の提案で二手に分かれた。
飛子達は脱出のルートを取らせ俺達は敵を引きつける。
襲い掛かる敵を蹴散らし、少しでも長くの時間を稼ぐ為に走り続ける。
だが、その追いかけっこも終わりを見せた。
行き止まり。
白い壁が憎らしいように此方を遮る。
背後からは此方の刈り取ろうとする亡者達。
覚悟を決める時。

「さて、内藤、糞樽覚悟は出来てるか?」
二人に声をかける。
「うは、ちょっとだけ怖いね。
だけどやるしかないだろう」
「まったく、何で俺が囮なんだよ」
「しょうがねえだろう、お前の実力を見込んでるんだから」
「ほんじゃま、開幕はこれで行くぞ」
そう言って俺は腰からある物を取り出す。
「お前は…こんな時でもブーメランに拘るのか…」
額に手を当てて唸る糞樽。
何時もの事なので聞き流しておこう。
「まあ、飛子じゃないのは残念だが。
コメット何とかっていうそこそこ凄いものらしいから大丈夫だろう。
ほんじゃま行くぜ!!」
腰を落とし振りかぶる。
空気を切り裂いて飛んでいく。
何者にも阻止されず目の前の敵を蹴散らしながら。

432 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:18 [ Lmbup28A ]
闇の王の巨体から繰り出される速度ある斬撃と打撃。
間合いをつめながら内藤は僅かの差でよけ続けた。
相手とのリーチ差は明確。
素早い動きにも翻弄されそうにもなるが、敵の大降りに合わせて大きく飛び込む。
刃を抜けた内藤を狙って蹴撃を加える闇の王。
それを素早く横にステップ。
その足に此方の刃を突き立てるが、深くは刺さらずそのまま後方へと吹き飛ばされた。

何とか受身を取ったが軽く頭を打った所為か足元がおぼつかない内藤。
「生半可な剣撃では俺の皮膚は貫けんぞ!」
そう言って吹き飛んだ内藤の元へ追いつき剣を振り上げる。

「あら、私の事も忘れちゃ嫌よ」
背後から聞こえる女性の声。
そして脚部に強烈な六撃が叩き込まれる。
闇の王の動きが刹那的に鈍り、刃を回避する内藤。
臼姫の攻撃した箇所に追撃を加えようとした。

「ならば、これならはどうだ」
両腕を交差させて魔力を解放。
言葉と共に巨石の様な氷の塊が周囲に顕現しようとする。
「させるか!!」
闇の王の膝を踏み台にして、盾で胸部を殴打。
強力な圧力が加わり集中力が乱れたのか塊はその場から姿を消した。

地面に着地し臼姫の傍まで駆け寄る。
「助かったよ臼姫。だけどあまり出過ぎるなよ」
「そうね。ちょっとだけ危なかったし」
互いに顔を見合わせ頷くと距離を取る二人。 
闇の王と対峙しあう形となり視線と視線が交差する。

433 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:18 [ Lmbup28A ]
「…おーい、戦死、糞樽。生きてるか?」
モノを言わぬ屍に戻った亡者を押しのけて二人の生存を確認する。
「ああ、何とかな」
瓦礫を押しのけて戦死が姿を見せる。
「こうも連戦だと流石に疲れるがな」
その背後から拙い足取りの糞樽。

「流石に今回は自分の人生でベスト10に入る危険さだったぞ」
その場に座り込み愚痴を漏らす糞樽。
「1位は何なんだ?」
気になるのか質問を投げかける戦死。
「凶暴女に襲われた時」
即座に答える糞樽。
その言葉に思わず苦笑してしまう。
自分達は生き残ったのだと強く実感できる光景。
何時もの自分達の姿が其処にあったから。

だけどそれは一時的なもので。
一緒に笑っていた戦死が立ち上がると此方に歩を進めてきた。

その顔は何故だか真剣で。
俺は何が戦死の表情をそうしているのか理解出来なかった。
肩に手を置く戦死。
ゆっくりと口が開く。
「それじゃあ、後は頑張ってくれよな内藤、糞樽」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまう。
それだけ意味が分からなかった。

「何だよ、言ってる意味が分からないぞ戦死」
そう言って笑うも何処かぎこちない。
ああ、本当は少しだけ言っている意味が理解出来ていたのかもしれない。
「意味か、そのまんまなんだがな。二人で脱出してくれって意味なんだが。
んで、俺は此処に残る。理解できたか」
アッサリと言ってのける。
言葉の意味をそのまま捉えればそれはつまり。
「…戦死、お前まさか自分を犠牲にしようとしているのか?」
言葉には出さずそのまま頷く。
「何言ってるんだよ。お前はLSのリーダーだろう。
そんな簡単に変な事言い出すなよ」
声が辺りに木霊する。
だけど戦死は俺の答えに頷く事はなかった。

434 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:18 [ Lmbup28A ]
「ふっ、ははははははは。
素晴らしい、素晴らしいぞ人間!」
不意に笑い声を上げそれが部屋全土に響き渡る。
「何がおかしい!」
笑いが癪に障ったのか声を上げる内藤。
臼姫も同じ思いなのだろう何か釈然としない表情を浮かべている。
「…いや、なに。貴様らの強さに敬意を表しているだけだ」
「あらあら、獣人達を統べる闇の王様にそんな事言われると照れるわね」
皮肉をたっぷり込めて答える。
だがそんな事はお構い無しに笑いを止めない闇の王。
「どういうつもりだ。何か企んでいるのか」
「今日は本当に気分が良い。
俺と互角に戦える――いや、現状ではそちらの方が少し上か?
何にせよこれ程の強者と出会えるとは実に愉快だ」
言ってる事が理解出来ない。
自分を打ち倒そうとする者の強さを上だと認め、且つそれを楽しむとは。
心に釈然としない蟠りが生まれつつも気を抜かず。
二人は怪訝な表情を浮かべたまま闇の王を見つめ直す。

笑い声が止まり剣先を此方に向ける闇の王。
「さあ、もっと楽しもうではないか。祭りは始まったばかりなのだからな」
掌に闇が集まり内藤達に向けて黒い波紋が広がった。

敵の攻撃に反応し臼姫が急いで呪文を詠唱。
二人の前に何重もの光の陣が描かれ壁となる。
波紋が壁に触れる。
途端に漏れた力が爆風を起こし視界を濁す。
捲き起こった煙の中から魔力の網が闇の王を捕らえようとする。
左手に魔力を込めてそれを防ぎ霧散させるとワンテンポ遅れて内藤が姿を見せた。
「切り裂け!!」
剣が光を帯び、素早く三度、闇の王の胸部を切り裂く。
傷に沿って浅黒い血が吹き出ると苦悶の表情を見せる。
たがそれでも後退する事なく左腕で内藤を殴りつけた。

しっかりと盾で身を守るも強力な拳撃は此方の身体を悠々と弾き飛ばす。
だが、この展開は此方の予想通り。
「臼姫、今だ!!」
此方に追撃を加えようとする闇の王に対し出来うる限りの大声で叫ぶ。
「何!?」
声と同時に背後に魔力を感じて振り向く。
其処には呪文を詠唱する臼姫の姿。
即座に標的を内藤から切り替えて攻撃しようとするが既に遅い。
そんな闇の王の姿を見て軽くウインクをする臼姫。
「私から、あなたへの素敵な贈り物よ。受け取りなさい!!」
闇の王の頭上に巨大な光の球体が出現する。
それは瞬間的に膨張し弾けると無数の光の矢となり闇の王の身体を貫いた。

今まで崩れる事のなかった巨体が揺らぐ、そのチャンスを逃す訳にはいかない。
最速で闇の王の足元まで駆け寄り、刃を地面に滑らすようにして跳躍。
下から上まで一気に切り上げた後重力と全体重を賭けて突きを放った。

膝をつき姿勢を崩す闇の王。
内藤は急いでその場から飛び退き臼姫の隣に戻る。
「やったか!?」
手ごたえはあった。
今のは確かに確信が持てる一撃。
臼姫の魔法も効いている。
故に、彼はほんの刹那だが気を抜いてしまったのだろう。

「ウオォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
闇の王の咆哮。
それと共に彼自身の身体をより黒く闇に染めていった。

「内藤、危ない!!」
気づいた時には遅かった…。
彼の目の前に先ほどとは比べ物にならない力の波紋が襲い掛かってきたのだから。
黒い漆黒の霧が辺りを包んでいった。

435 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:19 [ Lmbup28A ]
「そうだな、俺はLSのリーダーだもんな。
リーダーがいなくなったら皆困るもんな」
「そうだよ、だから――」
言葉を遮って内藤の手に何かを握らせる。
「…戦死。これはどう言うつもりなんだ?」
「あれ、分からん?リンクシェルだぞ」
手に握らされたのは緑色のリンクシェル。
長い旅路を共にした彼等の必需品。
そのリーダーである戦死のだいじなもの。

「そういう事を言ってるんじゃない!
何でこれを俺に渡すんだ、お前にとって大事な物だろ!?」
「ああ、大事だな。だからこそお前に託す」
満面の笑みを浮かべる戦死。
「俺がいなくなったら、お前がLSブーメランのリーダーだ。
誰も反論はしない筈さ、頑張ってくれよな内藤」
さも当然の様にサラッと言いのける。
糞樽は何も言わず只黙って此方を見ているだけ。

「皆もう脱出してる筈。後は俺達が此処から抜け出すだけだろ?」
「そうだな、脱出の報告も届いてる」
「敵だって今こうして全滅させたんだ。難しい事は何もないんだ!
何で諦めたような口調なんだ!?」
必死で語りかける。
だが、その言葉には困った表情を浮かべた。
「…全滅させた…か。内藤、こいつ等は亡者だ。
既に命を終えた筈の奴等が牙を向いている。
こいつ等は無限に出て来るんだよ。
この建物の一角を触媒にしてな」
何故、戦死はそんな事を知っているのか。
当然の疑問も今の内藤には浮かばなかった。

「なら、一先ず脱出しよう。今のままじゃジリ貧だ」
その言葉に溜息を吐く戦死。
「無理言うなよ内藤。今の疲労した糞樽じゃ精々飛ばせて二人が限界だぜ?」
見透かしたような言葉に舌打ちする。
もう、何もかも理解しているのだろう。
「だからって、だからってお前を見捨てるのか!?
そんな事出来る訳ないだろう。俺も戦う、だから三人で脱出しよう。
そうすれば何も問題はない筈だ!!」
叫び声が空間に木霊する。
肩に軽く手を置く。
少しだけ悩んだような表情。
直に笑顔に変えると。

「悪いな、内藤」
首に鈍い衝撃。
身体から力が抜ける。

「…戦…死…何で…」
朦朧とする意識の中で済まなそうな戦死の表情を見た。

「糞樽、内藤を頼んだ」
意識を失った内藤を此方に渡し話しかける。
「…馬鹿。お前は大馬鹿だ、戦死。
俺はお前みたいな命を粗末にする大馬鹿は大嫌いだ」
罵倒する。
思い浮かんだ言葉をそのままに。
自分の感情を。
「…自分では理解しているつもりだったんだが。
面向かって言われると結構痛いわな」
それでも戦死は困ったような表情で頭をかくだけ。
それは何時もの戦死。
だが、覚悟を享受した男の姿が其処にはあった。

だから糞樽は渋々頷いた。
そんな男の最後の我侭を聞くために。
感情を殺して。
「…やるからにはちゃんと事こなせよ。
無駄死に何て馬鹿な事したら俺は許さねえぞ」
「…相変わらずだな。俺一応LSのリーダーなのに」
「今さっき内藤に譲ったじゃねえか」
「あ、そか」
自然に笑みを浮かべる戦死。
その声もその顔も今回で見納めだろう。
内藤に触れて戦死に背を向ける。

「じゃあな、糞樽」
「ああ、さよならだ戦死」
魔法を詠唱する。
正直自分一人でも成功するか微妙な線だった。
だが、戦死の想いを犠牲にする訳にもいかない。
精一杯の魔力を振り絞り、掻き集め力を顕現した。

436 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:19 [ Lmbup28A ]
「うっ…」
臼姫が力なくその場に倒れこむ。
「臼姫!?」
急いで彼女を抱きかかえる。
その時ヌルっとした生暖かいものが彼の手に伝わった。

「駄目じゃない…油断してちゃ…」
ゆっくりと目を開き彼女は弱々しく答えた。
「なんで、俺なんかかばって、お前が…」
内藤の眼に熱いものが込み上げてくる。
「今治してやるからな、しっかりしろ、臼姫!!」
彼の掌に優しくも暖かい光が集まる。
しかし臼姫はその手をそっと制し内藤の顔に掌をそっと触れた。

「…そんな顔しないで…私、そんなあなたは…見たくないわ…」
「何言ってるんだ臼姫!!大怪我なんだぞ!!」
大声を張り上げる内藤の唇に優しく指を置く。
「…だったら、なおさらよ…私の怪我を治す程の余力が残っているの…?」
言葉がつまる。
「大丈夫よ…私は死ぬ気なんかないわ…そんなのまっぴらごめんだもの…」
「言ってる事がめちゃくちゃだぞ臼姫!!お前まで俺を置いていくのか!!」
もう一度内藤の頬を撫でる、ゆっくりと優しく。
「…落ち着きなさい内藤…大丈夫、大丈夫だから…」
彼女はさっきから同じ言葉を繰り返す。
優しく、まるで子供をあやす母のような声で。
「ねえ、内藤。笑ってくれないの?」
「何を…」
「この戦いでのあなた…ううん。フェ・インからずっと。
あなたは笑う事がなくなった。
あなたらしくなく、ずっと気を張っていた」
「…」
「大変な事があったんだもの、気持ちはわかるわ。
だけど…、だけど・・・。
私の前では…あなたの何時もの笑顔を見せてほしいな…」
しばしの沈黙。
内藤は臼姫をゆっくりとその場に寝かし再び剣を握った。

「…臼姫」
内藤は背中越しに臼姫に話しかける。
「…なぁに、内藤?」
「あんな奴さっさと倒して怪我を治そうな。
俺様にかかればあっという間に終わるさ。」
明るい声で、だがしかし確かな力強さを持って伝える。
不恰好な笑顔で。
必死に作ったものだと直に分かるものだけど。
「だって…だって俺は勇者だから――」
精一杯作った笑顔を彼女に贈った。
「ええ、ここでゆっくりと見させてもらうわね…あなたの勇姿を…」

 

もう言葉はいらなかった。
内藤が駆け出す。
彼は腕に力を込めそれを振るう。
視界を覆っていた霧が晴れる。
黒い悪意の化身が姿を現す。
 

「行くぞ闇の王!!」
力強い雄たけびと共に内藤が飛び上がり闇の王目掛けて剣を振り下ろす。
「来い内藤!!!」
向かってくる内藤に対し剣を振るう。

光と闇の線が交差した。
そして…。

437 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:20 [ Lmbup28A ]
糞樽の周りの空間が歪み二人の姿が見えなくなる。
どうやら転移は成功したようだ。
糞樽の疲労度合いから言ってもかなり無理をさせている事は理解していたが、それでも此方の要求をちゃんとこなした糞樽を賞賛する。
二人の姿が完全に消え去りゆっくりと向き直る。
飛子の方へと。
「報告だと忍邪が取り残された見たいなんだが…」
「そっちの方は大丈夫。安全な所へ運んでおいたよ。
無事に帰れるかどうかは彼次第だけどね」
その言葉を聞いて肩の力を抜く。
「助かるぜ飛子。お前が此処の秘密を教えてくれなかったら今だ戦ってたしな俺等。
まったく、良い相棒を持って幸せだねえ俺は」
飛子の肩をバンバンと叩きながら笑う。
少し照れながらも真顔に戻り言葉を続けた。
「あとは地下にあるクリスタルの力が暴走するのを待つだけさ」
「ほんじゃま、それまで頑張りますか」
身体をほぐす様に背伸びをする戦死。
そんな彼の様子に切なげな表情を浮かべる飛子。
「どうした、俺の顔に何かついてるか?」
「いや、何でもない…頑張ろうな戦死」
暫しの静寂。
そして口を開いたのは戦死だった。

「なあ飛子、少しだけ迷いごとを吐いて良いか?」
言葉にせず頷いて答える。
「俺は正しかったんだろうか…」
其処にはLSメンバーに決して見せない。
自分にしか見せない弱い戦死の姿があった。

だから正直に答える。
自分の思ったままを。
「これはあんたが選んだ答えなんだろ。
だったら私はその通りに付き添うだけ。
最後の、最後まで――」
「悪いな、馬鹿な主人でよ…」
「今更だろ?」
「酷い言い草だけど、まったくその通りだ」
もう、何時もの戦死だ。
自分の大好きな何時もの。
笑いあう二人。
通路の奥から沢山の足音が聞こえる。

「さて、亡者共がうようよとやってきたぜ。
げっ、何か目玉を光らせたモルボルまでオマケで付いて来てやがる。
最後の大仕事だ。頑張ろうぜ相棒」
「ああっ、何処までもあんたに付いて行くよ戦死」
飛子に微笑み駆け出す戦死。
その背中にしっかりと付き添い飛子も駆け出した。

438 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:21 [ Lmbup28A ]
決着。
それは終わってしまえば呆気ないものだった。
だが此処まで辿り着くのに彼は多くの大切なモノを失った。
しかし彼は確かな手ごたえと共に勝利をものにしたのだ。

身を翻し地面に足をつける。
前のめりに力無く倒れこむ闇の王。
先ほどまで感じていた力も今では感じ取れない。
それを確認し剣を鞘に収めた。
 
「終わりだな、闇の王…」
息絶える寸前の敵に対し語りかける。
「見事だ内藤よ…」
力ない声で言葉を返す闇の王。
「沢山の、沢山の大事な、大切なものを失って此処まで辿り着いた。
そして今、この長い戦いも終わる――
自身の中に浮かび上がらせる概念。
「消え去れ!」
それはどんな闇夜も照らす一筋の光。
闇の王の周りに複数の光球が出現する。
それらは螺旋を描きその巨体を包み込んでいく。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!」
断末魔の叫び声。
螺旋を描いた光球は柱となり闇の王を滅ぼさんと強く強く光を増す。
その柱の中から、永遠と木霊する絶叫。
消えていく闇の王の肉体。
そして、声も消え、光が収まった後に残ったのは誰かも知らない一人のガルカの屍だった。

439 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/04(火) 16:21 [ Lmbup28A ]
内藤は闇の化身の最後を見届けると臼姫の下へと歩み寄る。
「終わったよ…臼姫」
「信じてたわよ…」
その顔には血の気がなく真っ青で。
床には多量の血が流れ出ていた。
「…さあ、帰ろう俺達の故郷へ」
「ふふふ、そうね。いっぱい頑張ったものね…」
苦しいだろうに。辛いだろうに。
どうして微笑んでいられるのか。
「でもね…」
静かに、流れるように指が動く。
涙の跡を探るような仕草だった。
ゆっくりと動いて、彼の頬の感触を確かめる。
ただ。
今は、本当に内藤は泣いていたのだけれど。
だから臼姫の指はいつもとは違い、彷徨うような動きだったのだろうか。
それとも、それは単に痛みからくるものなのか。
内藤に分からなかった。
やがて臼姫の指の動きが止まると、手の平を頬に押し当ててきた。
自分の腕の中で、守りたかった人が消えようとしている。
それほど、人は弱かった。
命なんて、こんなもので、こうしてゆっくり体温が消えていく。
「…臼姫」
「…なあに、内藤?」
「…キス、していいかな?」
一呼吸の間をおいて。
「…ええ」
彼女はそう答えた。

愚かしく、自分は彼女の事に悲しんでいて。
陳腐ではあったのだろうが、内藤は臼姫に初めてそっと口づけた。
愛しくて、悲しいくらいに彼女の唇は柔らかで。
そして冷たくなりつつあるのだろう。
唇を離すと、臼姫はまだ微笑していた。
その瞳は、もう閉じてしまうかもしれない。
「・・・ごめんなさい、私、もう眠いの…」
「これからも、ずっと一緒にいたかったのに…」
「ごめんね…私酷い女よね…」
「…そんなことっ!!」
それを最後に。
臼姫が喋る事はなくなった。
その意味するところを、分かっていた。

辛くて。
悲しくて。
身を引き裂くほどに苦しくて。
その場に倒れ伏したかった。
全てを忘れてただひたすらに涙を流していたかった。

壊れそうな想いを繋ぎとめるように臼姫の亡骸を強く抱きしめる。
内藤はすべてを許容し、前に進むことを決めたのだ。

その瞳からはもう何も零れていない。
眠りの姫。
本当に、これを最後に眠ってしまった姫君。
とても綺麗なその体。
抱きしめる力を緩めると、内藤は俯きながらそっと立ち上がった。

そんな中。
ただ一つ。
彼の脳裏に木霊する言いようのない不安がある。
闇の王が消える間際に自分の頭に語りかけた言葉

――これが本当の始まりだ――

内藤がその言葉の意味する事を理解した訳ではなかった。
だが彼の中の不安が今も尚増大している事実。


「…おやすみ、臼姫…永遠の闇の中で…」
聞きなれた声が背後から聞こえた。
振り向いたそこには一人の青年の姿。
彼も良く知っている仲間の一人。

「…餡刻?」
口にして直に気付く。
その気配に、圧迫されそうな憎悪に。
何故なら彼は先ほどまでその憎悪の主と戦っていたのだから。

「そのままでは戦いづらいだろう?
邪魔者は此方が処分してやるよ」
左手を此方に向ける。
すると抱いていた臼姫の身体の周りに黒い靄が出現し…。
一瞬のうちに彼女を飲み込んでいった。

言葉が出なかった。
目の前の現実に崩れそうになる。
先ほどまで確かにあった腕の中の小さな温もりは既になく。
眼前にいる仲間の形をした闇の化身が此方を嘲笑っている。

「…をした・・・」
小さな声。
「何をした…」
震える肩で。
「臼姫に何をした!!闇の王!!!!!」
鞘から剣を抜き怒涛の如く駆け抜ける。
その顔は怒りに満ちていて。
強く噛んだ歯は砕けそうに音を鳴らす。

その覇気と表情に心地良さそうな表情を浮かべる闇の王。

内藤の辛くも厳しい最後の戦いが幕を開ける。

440 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 17:29 [ YUjE15pg ]
キテルー!(∀゚ )
気になるところで続いてますねぇー

441 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 18:29 [ qtbUDeBY ]
仕事中に見たーーーーー(=^▽^=)ノ
微妙に話が変わってて・・・・楽しみ〜〜〜〜

白姫。゜(゚´Д`゚)゜。

442 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/04(火) 20:47 [ XKbmmiDI ]
戦死カックイ━━━(゚∀゚)━━━!
続き期待しております!

443 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:27 [ eWWCgN2g ]
考える間もなかった。
俺は駆け出していた。

目の前にいる俺の仲間の形をした闇の王に。
精一杯の憎しみを込めて。
「何故お前が生きてる!何故餡刻の姿をしている!?」

内藤の刃に光が宿る。
闇の王の刃に黒い闇が灯る。
夫々の刃と刃が触れ合う。
凄まじい力の本流がぶつかり合い空間を振るわせた。
「この男は俺の新たなる器に選ばれた。ただそれだけの事だ」
「なんだって!?」
力負けして弾かれる内藤。
空中で姿勢を直し着地して新たに駆け出す。
先ほどよりも早く。
より強い斬撃を放つ為に。
眼前の憎悪の対象を抹消すべく。

内藤が素早く動くのに対し闇の王は元の場所から微動だにせずに視線だけを動かす。
その態度に腹が立つ。
相手の死角に回り込み直進する。
一撃で勝負を決めようと渾身の突きを放つ。
だが、刃は闇の王に届く事はなく虚空を貫くのみ。
「その顔、その表情。何と甘美な事だ。なあ、内藤よ」
背後から声。
肩に触れる手。
まるで心臓を鷲掴みにされた様な気分になる。
右足を軸に身体を捻って斬撃を放つも手ごたえはない。
相手は既に自分の間合いの外に移動していた。

「どうした。俺に触れる事も出来ないのか?」
此方を嘲笑う。
「ふざけるな!!」
ならばと、光の概念を構成し魔法を唱える。

闇の王の周りに出現する無数の光の球。
先ほど止めを刺した時の光の柱。
だが、それに対し相手はつまらないといった表情で此方を見るのみ。

光が螺旋を描いて柱を形作る。
眩い光にその姿が見えなくなった瞬間。
柱は砕け、闇の王はもの凄い勢と共に此方に突進してきた。
身体が反射的に動き、盾を構える。
相手が此方に突き出しているのは左拳。

ミシリ。
嫌な音と共に盾に亀裂が入った。
驚愕する。
だが、此方の事等お構い無しに相手はたて続きに二撃目を放った。

砕けた盾。
バラバラになった破片を無意識的に眺めると襟首を掴まれた。
「どうした。貴様の力はその程度なのか?」
鎧を着込んだ自分を軽々と片手で持ち上げる。
首元が絞められれ息苦しさに声を漏らす。
「ほざけ!!」
剣を握った手首を捻り相手の喉元目掛けて突き刺そうとした。
だが…。

刃は闇の王へと届かず、彼の身体を包んでいる闇によって遮られた。
「…つまらん」
不意に視界が動く。
次の瞬間見えたのは硬い地面。
「かはぁっ…!!」
咄嗟に受身を取るが強い力で投げつけられた所為で呼吸が上手く出来ない。
軋む身体を必死で起こし立ち上がる。
視界にはゆっくりと此方に歩み寄る闇の王。

444 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:27 [ eWWCgN2g ]
「つまらない、つまらないぞ内藤」
一歩。
また一歩と。
「せっかくの新しい身体を存分に楽しめると思ったのだがな」
好き勝手な言葉を述べながら近づいてくる。
そして自分の目の前。
手を伸ばせば届きそうな距離で歩むのを止める。
斬撃を放つ。
楽々とかわす闇の王。
続け様に何度も何度も攻撃を繰り出すが結果は同じ。
ただの一度も当たらず、かする事さえできなかった。

渾身の力を込めて大振りをした所に足を掛けられ姿勢を崩す。
即座に起き上がろうとした瞬間目の前に置かれたのは黒い刃。
闇の王が此方を見下ろす。
その顔は心底残念そうに。
余興を削がれたといわんばかりに。
「どうやら俺が強くなり過ぎたようだな。
仕方がない、ここで特別な趣向を見せてやろう」
自分に向けた刃をそらし掲げると地面に強く突き刺す。
バチバチと。
何かが弾けるような音が部屋全体に響き渡る。
それと共に揺れる大地。
辺りの空間がグニャリと歪む。
その光景を内藤は何処かで見たことあった様な気がした。

黒い歪。
歪は広がって穴となり大きな口を開ける。
その先、それは一寸先も見えぬ漆黒。

そう、これは。
フェ・インで見たあの穴。
別世界への入り口だった。

「…これは、そんな馬鹿な…」
「ふっ、驚くのも無理はないだろう。俺自身も内心驚いているのだからな。
まさかこの新しい入れ物にこれ程までの力が秘められていようとは」
呟くように、それでいてどうしょうもなく歓喜に満ち溢れた声で笑う。
「さあ、俺からのプレゼントだ。もう一つの世界でゆっくりと楽しむがいい」
闇の入り口が唸り声を上げる。
その瞬間身体にもの凄い吸引力がかかった。
「な、何!?」
剣を地面に突き立てて必死に抵抗する。
だが、吸い込む力は強さを増し無常にも刃を引き抜いてしまった。

「たっぷりと楽しんで来い内藤。お前の大事な仲間たちとな」
漆黒に呑まれる。
最後に見えた闇の王の表情はとても嬉しそうに此方を嘲笑っていた。


黒。
辺り一面の黒。
外の世界で見たとおり自分の身体さえ確認出来ない様な闇の世界。
果たして自分はどうなってしまったのだろうか。
「くそう、出せ!!此処から出せ闇の王!!」
答えなど返ってくるはずもなく。
また、幾ら自問自答しようが正確な結果など出る筈もない。
そんな事を繰り返して暫くした時。

背後から何かの足音が聞こえた。
それは幾つも重なり数の多さを此方に教えてくれる。
十、いや、それ以上か。
敵の数を憶測し気配のある方へと振り向く。
無論、この闇の中では相手の姿など確認する事は叶わない。
その筈だった。

視界が揺れる。
闇が動いたような気がした。
そして次の瞬間暗がりに気配の主達の姿を確認する事が出来た。

445 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:28 [ eWWCgN2g ]
「嘘…だろ…」
心中をそのまま表した言葉が自然に零れ出る。
目に映る光景。
其処には九人の人の影。
それは――。

「…ははっ…趣味が悪いぜ、まったくよ…」
見慣れた姿。
それは彼の仲間だった者達。
昨日までも共に笑い苦労を共にしてきた大切な仲間の形をした影達が立っていた。

向こうも此方の姿を確認したか戦死の形をした影がかけて来る。
手に握られた戦斧から繰り出す強烈な一撃。
それを紙一重でかわす。
胴ががら空き、其処を狙って刃を振ろうとする。

だが。
「また、俺を殺すのかい?」
思わず剣を握る力が緩む。
目の前の光景、もういる筈のない者達。
頭では理解している。
彼等は此方に牙を向け、内藤を狩り取らんと敵意を向けている。
それでも、何故だか分からないが身体が反応してくれない。

先程のように憎悪に身を任せれば出来たかもしれない。
現状が落ち着いているかと聞かれれば嘘になる。
だが、先程の様な勢いがないのもまた事実。
「…落ち着け…こいつ等は所詮偽者なんだ。本物の戦死はもう…」
そんな悩みの中、辺り一体に声が響いた。

「偽者か、心外だな」
世界に闇の王の声だけが木霊する。
「こいつ等は貴様の仲間達の残骸から作り上げたもう一つの姿。
此処に到るまでに力尽き倒れ、闇に呑まれた者達のな」
戦死の影の斬撃。
反射的に剣を振るう。
刃が肉にめり込む感触。
無表情でいる筈の影の表情が苦しそうに見える。
まるで自分に訴えるかのように。
「また、俺を殺すのかい?」
もう一度同じ言葉を呟く。
ただ、それだけの事なのに。
それ以上の力を加える事が出来ず、そのまま内藤は動きを止めてしまう。
戦死の斧が内藤の身体を吹き飛ばす。
空を舞うようにして吹き飛ぶ。
剣を握った手から力が抜け落ちる。
「…ぐぅ…」
カランと音を立てて地面に落ちる剣。
痛みに唸る。
自分の目の前に立つ戦死。
止めを刺そうというのか。
振り下ろされた斧を何とか身体を捻って回避。
その際、剣を拾い戦死の影目掛けて振り切った。

飛び散る黒い鮮血。
だが、影は消える事なくその場に立ち竦むのみ。
「酷いな内藤、首が取れそうだよ」
あろう筈もなかった。
取れかけた首を押さえる影。
その傷口からは今も延々と黒い血液が吹き出ている。
そしてそれはまるで拵えたようにして小さな池を作り上げた。

それは、鮮やかさに視界を染められるようなものではなく寧ろ黒々とした風景に嫌悪感を催すだろう。
吐き気を催す。
今自分がいる世界、光景は果たして地獄か煉獄か。
黒い血の海に彩られ、それ以外は闇に閉ざされた風景に。
無言で此方を見つめている仲間の影。

446 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:28 [ eWWCgN2g ]
「あたしが人じゃないからかい」
「ボク達をまた見捨てるのかい」
「私はまだ死にたくありませんでした」
「ワシは所詮捨て駒だったのか」
「お前のような奴を信じた俺が馬鹿だった」
「仲間に手を上げるのか内藤どん」
「わらわを何故捨てた」
「俺達は苦しかった」
「折れた刀は二度と元には戻らぬ」
「何でうちが死ななくちゃならなかったんや」
「拙者はお前が憎かった」
「お前は俺達を見捨てたんだ」
「とっても痛かったにゃ」

彼の地へ辿り着けなく力尽きた者
 真実の愛に気付きつつも倒れた者
 自身の半身を失い戦いの中に身を投じた者
 戦に身を投じ戦い傷付きその生涯を終えた者
 自身の命を踏み台とし他者を生きながらえさせた者
 すべてを受け入れ強大な敵と命を供にした者
 過去を断ち切りながらも未来への歩を進めなかった者
 使命に殉じながらも未来を見届けられずに眠りし者
 彼の者への想いが通じ未来への希望を託し叶えられなかった者
 愛する者のためその命を散らした者
 愛する者の死で短い命を紡ぎ必死で生きようとした者
 必死に生へと執着し足掻きながらも消えていった者
 最後まで友を信じ短い生涯を終えた者
 自身の愛する者の腕の中で息絶えながらも未来を見れず未練を残した者
 
「なあ、内藤。俺達を、また、殺すのかい?」

ゆっくりと此方に近づく仲間の影。
膝を落とし、地面に手をつく。
その際、黒い血液が跳ねて自分の頬に纏わり付いた。
(ああ…もう、如何でもいいや…)
虚ろげな目の内藤。
果たして今の彼に宿る想いは如何なるものか。
「…臼姫…ごめん…」
彼等の攻撃に舞い上がる身体。
仲間だった影達を眺めながら。
受身を取ろうともせず、背中から地面に激突する。
まるでゴムマリの様に内藤の身体が二、三度跳ねると、それっきり動きを見せなくなった。

447 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:29 [ eWWCgN2g ]
そんな姿を眺めていた闇の王が視界を現世に戻す。
もう、内藤に戦う意思は残っていないだろう。
「さてと、残った雑魚の相手をしなくてはな」
まるで興味を無くしたように虚空に言葉を放ち扉の方へと向き直る。
開かれた大きな扉。
其処に立つのはエルヴァーンの少女とタルタルの少年。
その目には覚悟と決意の塊とも言える強い意志が見える。
「餡刻しゃんを助けに来ましゅた」
その隣で獣様に頷く赤魔子。
そんな二人を見て少しは楽しませてもらいたいものだと思いながら口を開いた。
「先程は無視して済まない。此方も貴様らの様な雑魚を相手にするのも面倒なのでな」
そう言って此方に掌を向ける。
顕現される炎の塊。
それを獣様達目掛けて放つ。

火球が二人を砕かんとゴウゴウと音を立てる。
それは此方に近づくにつれて大きさを増して熱を高めていく。
闇の王が視線を向ける。
二人はその場から動かず火球が迫ってくるのをじっと見つめているのみ。
「所詮は雑魚でしかないか――」
視線を逸らそうとした瞬間。
耳に聞きなれない声を聞いたかと思うと放った氷の塊が一瞬のうちに氷へと変わった。
この現象には流石の闇の王も予想外だったのだろう二人に視線を戻す。
砕ける氷の塊。
其処には元の場所から動かずに此方を見据えている獣様達の姿。
どうやって防いだのかは分からない。
だが、先程の攻撃をこうまで完璧に防いだというからには予想以上に楽しめそうだ。
闇の王は頬の端を緩めると足に力を込めて二人に飛び掛った。

いまだに動かない獣様と赤魔子。
闇の王の手に握られた刃が二人に触れようとした刹那。

赤魔子の口が開いた。

448 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:29 [ eWWCgN2g ]
「穢れたあなたは私達に触れてはならない!」
意思と力の通った言葉。
その言葉の意味する概念がそのまま顕現される。
目に見えぬ不可視の力が闇の衣を纏った闇の王ごと吹き飛ばす。
咄嗟に地面に刃を突き立てて勢いを殺す闇の王。
それでも部屋の中心部まで悠々と弾き飛ばされてしまった。
目の前の、たった一人の少女の力によって。

「ふ、はははははははははははははは」
響く声。
顔に手を当てて俯いた姿勢。
歓喜に震え笑い声が止まらない。
「面白い、面白いぞ女!まさかお前の様な希少種が存在していようとはな」
もう一度手を翳して力を顕現する。
今度は抗う事の許さぬ濁流。
それらが幾重にもなり赤魔子と獣様を襲う。

「灼熱の抱擁たる炎はあなたの身を焦がす」
顕現される炎。
その形はまるで大蛇の様で
まるで意思を持つように闇の王に向かい牙を向く。
濁流を飲み込み蒸発させ、通った道を焦土とかし闇の王へと絡みつく炎。
彼を守る衣を食い破ろうと牙を立てる。
それに対し闇が刃となり大蛇を貫く。
巨大な力の衝突はそのまま新たな力を生み爆発を起こす。
爆風に目を閉じる獣様と赤魔子。

視界の回復した先に立っていたのは闇の王。
左手に軽い火傷を負ってはいるもののダメージは少ない。
しかし、今の彼にはその傷さえも嬉しいものだった。

「貴様の言葉の意味は事象となり現世に物理力として適用されると言う訳か。
全く持って素晴らしい力だ。人の手には余る、人外の領域のな」
相手の言葉に奥歯を強く噛む赤魔子。
過去、一度たりともこの力を嬉しく思った事などない。
こんな力を持って生まれた自分をどれだけ呪った事か。
だが、今は。
今だけはこの力にすがる他なかった。

「閃光たるいなづまは、あなたの身体を貫ぬかん」
言葉が力を具現化する。
何本もの矢がパチパチと音を立てて顕現され、闇の王目掛けて放たれた。

「さあて、しっかりと俺を楽しませてくれよ」
高速で迫る矢群。
それらに対し同じ数だけ闇の刃を放つ。
先程と同じ様に衝突しあう力。
しかし雷の矢は闇の刃を撃ち砕き闇の王へと迫る。
賞賛の口笛を吹き自身の両手剣を渾身の力で振るった。

449 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:30 [ eWWCgN2g ]
概念とは本来、物事の本質を捉える思考の形式。
概念は同一本質を持つ一定範囲の物事。
概念とは言葉により表現され、その意味として存在する。

必死で自分の呪われた力を制御しようとする赤魔子。
一言一言に最新の注意を払い。
意識を細く絞り、力を放つ。
頭が酷く痛む。
精神が擦り切れそうになる想い。
そんな彼女を支えるのは握られた小さな手。
獣様が彼女の手をしっかりと握り彼女を奮い立たせている。
言葉では伝えていない。
心で必死に伝えた力。
彼はこんな自分に何時もの笑顔を向けてくれた。
だから戦える。
だから自分自身と向き直れる。
目の前の青年。
元は自分の大切な友人。
彼を助けたい。
また三人で仲良く時を歩みたい。
その為には、出来うる限りの接近が必要だった。
自分が語ろうとする言葉が成功すれば餡刻を救える。
そして、幾度目かの力のぶつかり合いの中で、闇の王の動きが止まった。

爆煙に紛れて駆け出す獣様。
完全に赤魔子へと意識を集中していた闇の王は、その小さなタルタルの少年に気付くことがなかった。

「餡刻しゃん!!」
言葉に視線を動かす。
突如として鈍る自分の身体。
むしろ自由が効かないといって良いだろう。
獣使いとしての力で此方を強引に操ろうと言うのか。

「餡刻しゃんを、僕たちの知っている餡刻しゃんを返してもらいましゅ!」
強い声。
外見に寄らない強い意志の現われか。
自分を束縛するこの力。
並大抵のものではない。
だが。
だが、甘い。
意識を集中すれば動けぬ事はない。
赤魔子やザイド、糞樽と比べれば小さな力には変わりない。
この程度なら目の前の獣様を殺し、束縛を解く事など容易い。
左手に纏った闇の量が増大すると同時に拳を獣様目掛けて振るう。
だが、その時。
「束縛される、あなたは身体の自由を奪われた」
現在の力に増量される束縛の魔力。
刹那の時間。
本当に一瞬とも取れる時間であった。
しかし獣様に意識を移した瞬間。
明らかに赤魔子に対して無防備な姿勢を晒していたのだ。

「ふむ、困ったな…これでは身動きが取れんな。
それで、俺を如何しようと言うのだ。殺すのか?」
言う事の効かない身体であるのに、その口調からは余裕が見受けられる。
「今でしゅよ、赤魔子しゃん!!」
獣様が叫ぶ。
闇の王へと近づく赤魔子。
そうして彼の身体に触れると、ある言葉を紡いだ。

450 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:30 [ eWWCgN2g ]
忌み嫌った自分の力。
何度も悔やんだ。
時には死さえ望んだ。
だけど、今私は此処にいる。
視界の中にいる二人の大切な人達のお陰で。
何度も諦めかけた。
頑張ることを止めようとした。
だけど私はまた、頑張る事が出来た。
かえしきれない感謝の想いがあった。

だから、今。
この力であなたを救う。
その全てを目の前の悪のみにぶつける。
「人ならざる者、あなたはこの世界から、その身体から、滅び、去る!」

光が視界を埋める。
眩しくて目を開けていられない。
だけど、それで良い。
光が収まれば全てが終わるから。

伸ばした掌。
それが彼を掴む。
その先には未来があり、幸せを得られる。

幸せな。
三人の時間が。

「赤魔子しゃーん!!!!!」
獣様の声。
白い世界が赤で埋め尽くされた。

まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る。

赤魔子の世界がゆっくりと流れていく。
それはまるでスローモーションのように。
見たくはなかった、目を逸らしたかった。
だが自分の身体はピクリとも動かなく。
その長く短い時間は、残酷な現実を彼女の脳裏に焼き付けるだけだった。

自分の目の前で。
その小さな身体で自分をかばって。

黒い刃は赤の色を携えている。
刃が動く。
崩れ落ちる獣様。
まるで只のモノが地面に落ちる様な音。
世界の正常な時を感じる。
瞬間、赤魔子は走りより獣様を抱きかかえた。

451 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:30 [ eWWCgN2g ]
「…赤魔子しゃん…大丈夫だったでしゅか…?」
止め処なく溢れでる涙。
獣様は少し困ったような顔をしてこう答える。
「泣かないでくだしゃい…そんな顔されると…僕も…悲しくなってしまいましゅ…」
触れた手にはヌルリとした液体。
それが傷の重さを物語る。
「あなたの受けた傷は、もう跡形も無い!!」
精一杯の大声。
部屋全土に渡って広がる光。
それが獣様の傷口を治していく。
傷一つない獣様。
だが、それだけで。
それ以上はあり得なかった。

だけど、獣様の顔は穏やかで。
何時もの笑顔を自分に向けていてくれた。
苦しい筈の身体で精一杯に。
「…赤魔子…しゃん…ごめんなしゃい…。
僕…嘘付きでしゅ…赤魔子しゃんと…ずっと…一緒だって…いったのに…」
フルフルと頭を振るう。
そんな事言ってほしくはなかった。
これから起こる逃れようの無い運命を享受したくはなかった。
「…餡刻しゃんを…怒らないで…くだしゃい…ね…。
餡刻しゃん…何も悪くないでしゅ…だから…嫌いになっちゃ駄目でしゅよ…」
このような状況になっても、まだ餡刻を気遣う。
嗚咽しながら頷く赤魔子。
「赤…魔子…しゃん…最後に…もう一度…。
赤魔子しゃんの…綺麗な声が…聞きたいでしゅ…」
「…獣様、私は…あなたの事が…とても大切…。
だから…おいて行かないで…一人は嫌だよ…」
小さな掌。
握り返す赤魔子。
力が抜けてゆっくりと地面に落ちた。

例え身体の傷を癒そうとも、傷付いた魂は癒せない。
ザイドの傷を見たときから感じていた。
闇の王の刃は魂さえも傷つけると。
いかに自分の力が強くとも、獣様を助けられない。
救えない。
こんな、こんな悲しい事があって良いのだろうか。

獣様の短い生涯は幕を閉じた。

452 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:31 [ eWWCgN2g ]
「危なかった。俺でなかったら間違いなくやられていた。
これは賞賛に値するぞ?」
此方を諦観していた闇の王が動く。

どうして…。
そう言いたかった。
涙で滲んだ視界。
嗚咽する自分。
そんな此方の内心を読んだかのように口を動かす。
「お前のその力は強力ではあるが万能ではない。
言葉を物理に適用させるにおいての条件が揃わなかったのだろうな
意味の発見と理解。お前は俺に滅びろと言った。
だが、お前は滅びの本質を理解していなかった。
死と滅びは違うのだよ。
自身の理解のなさと能力の無知さがお前の敗因だ」

失って改めて気付く事がある。
失って改めて思う事がある。

「さて、どうする。この肉体、元の持ち主の名は餡刻であったか。
貴様はどうやら死を体験した事があるようだ。
だからこそ、この考えに到ったのであろう。
では、どうする?死を語るか?
貴様がそう答えれば今の俺の肉体を殺せるだろう。
お前の力があればそれが可能だ。正し、間違いなくこの男は死ぬがな」

自分がどれだけ幸せだったかを。
自分がどれだけ彼の事を想っていたのかを。

「さあ、どうする。赤魔子よ――」

そして…彼への伝えることができなかった言葉を。
ほんの数秒前まで其処にあった幸せに。
後悔の念を積もらせる。
赤魔子はもう動かない獣様を抱き寄せて語りかけた…。
「すぐ会えるから心配しないでね」
彼女の、少女の面影を残した透き通るような声。
それは数少ない想いを言葉にした声だった。

赤魔子が走る。
闇の王、餡刻の元へ。
彼女の目的はたった一つだった。

闇が刃となって赤魔子を襲う。
彼女は頭の割れそうな痛みを堪え言葉を紡いでいく。
それでも衰えたのか数本の刃が赤魔子を切り裂く。
だが、止まらない。
足を止めず突き進んだ。

目と鼻の先に見える餡刻の顔。
もう、自分の知っていたあの優しい笑顔は何処にもない。

獣様の言葉。

――餡刻しゃんを助けたいんでしゅ――

例えば。
例えば、今の彼を永遠へと眠らせる事が救いともいえるのかもしれない。
自分以外の誰かに好き勝手に身体を乗っ取られ罪を重ねていく。
それはどうしょうもない拷問でしかないだろう。

ならば彼を眠りへと誘う事こそ自分の勤め。
想いを継いでの役目なのかもしれない。

だが。

それでも。
それでも彼女は――。

頬を伝って地面へと落下する雫。
餡刻の身体に手が触れる。
優しく抱擁する様に。
餡刻の体を抱きしめた……。

「…ごめんなさい…私には…あなたを…憎めない…」
優しく耳に語られた声。

453 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/05(水) 19:31 [ eWWCgN2g ]
赤い薔薇が咲いた。
とても濃厚で深い赤色を携えた花が辺り一面に。
笑顔のまま崩れ去る。
冷たい地面へと身体を落とす刹那。
彼女は最後の言葉を放った。
「…救えなくて…ごめんね…」

伸ばした掌。
だが、それは空を切るだけ。
其処には何もなく、何も得られなかった。


息悶えの赤魔子。
ほおっておいても長くは無いだろう。
「楽しませてくれた褒美だ。我が刃の糧となるが良い」
掲げた刃。
その心内を現すかのように強く黒く光っている。
振り下ろさんと手に力を込めた。
だが…。
「む!?」
右手が動かない。
まるで此方の意思に逆らうようにピクリとも動かない。
意識が朦朧としている赤魔子。
その頬に何かが当たった。

それは涙。
透明の雫ではない。
赤い色を宿した血の涙。
それが餡刻の顔から流れ出ている。

身体から全ての力が消える瞬間だった。
死の淵でさえも、餡刻の事を想いながら。
深い意識の底へと沈んでいく。
自分の幕が閉じるのだと感じながら。
赤魔子は目を閉じる。

最後に。
何かをそっと口走って。

伸ばした掌。
だが、それは空を切るだけ。
其処には何もなく、何も得られなかった。

だけど。
彼女達が必死で伝えた想い。
それは確かに彼に伝わっていた。
とても些細な事かもしれない。
直に消えてしまう奇跡だったのかもしれない。
それでも、自分達の想いは伝わったのだと。
赤魔子は想った。


「まさか、まだ意識が残っていたとはな…」
命の灯火が消えた赤魔子。
それと同時に身体の自由が戻る。
興が削がれたのか闇を生み出す。
それらはゆっくりと赤魔子と獣様を包み飲み込んでいった。

四肢を動かす。
異常は無い。
もう微かに残った意思も消えうせただろう。
指を確かめるように一本、一本動かしていた時。
背後から炸裂音が鳴り、背中に強い衝撃が起こった。

どうやら、まだ自分を楽しませてくれる者が残っていたようだ。
赤魔子以上の兵はもう存在しないだろう。
それでも自分を多少なりとも楽しませてくれる事を望みつつ。
闇の王は最後の二人に対し振り向いたのだった。

454 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:06 [ DNYdMfJQ ]
GJwwwwwwww
仕事中に、またまた見たーーーーー(=^▽^=)ノ

赤魔子。゜(゚´Д`゚)゜。

455 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:22 [ lRpgLva. ]
。゜(゚´Д`゚)゜。
。゜(゚´Д`゚)゜。
。゜(゚´Д`゚)゜。
。゜(゚´Д`゚)゜。
。゜(゚´Д`゚)゜。ウァァァン

赤魔子。゜(゚´Д`゚)゜。
餡刻。゜(゚´Д`゚)゜。

456 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:29 [ Fb9pkBAQ ]
GJ!!
獣様。。・゚・(ノД`)・゚・。
赤魔子。。・゚・(ノД`)・゚・。

負けるな!立ち上がれ内藤!!

457 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 20:44 [ ctAUtnn. ]
元のリメイクと大分変わってきたなwwwwww
よく色々とネタ思いつくなぁと感心するよwwwwwwwwww



。゜(゚´Д`゚)゜。ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

458 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/05(水) 22:29 [ Yp6BKLJo ]
くはぁ・・
内藤ないにゃってんだよぉぉぉ早く立ち上がれーー・゚・(ノД`)・゚・。

459 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 02:36 [ aF/radeE ]
http://vote3.ziyu.net/html/okkwwwww.html
人気投票で二位と三位を抑える展開!wwwwwwwwwwwwww
みんな票を入れようぜ!!wwwwwwwwwwwwww
(完全版が項目になかったら一位だったんじゃないのかというのは無しの方向でwww

460 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:10 [ dCpA1Zto ]
|w・`)<不意打ち的投下!!




「何をするんだ廃狩、痛いじゃないか」
振り向いた闇の王。
その表情と声はまるで、何時もの餡刻を思わせる。
どうしょうもない嫌がらせ。
簡単に浮かんだ答えはそれしかなかった。

「その口調、やめてもらえないッスかね。全部分かってるんスよこっちは」
吐き捨てるように言葉を放つ廃狩。
闇の王の眉がピクリと動きを見せる。
隣にいた通風が一歩踏み出し声を上げた。
「赤魔子の声が聞こえた。お前が餡刻の身体奪って好き勝手やってるってな」
此方にハッキリと聞こえる声。
先程赤魔子が最後に紡いだ言葉。
それは通風たちへのメッセージだったと言う訳か。
溜息を吐く。
「そうか、せっかく変わった趣向でいこうと思ったのだが、残念だ」
本当に残念そうに頭を振る闇の王。
その行動一つ一つが通風達の癪に障った。

「どうでもいいがな闇の王さんよ、内藤と臼姫は如何したんだ!?
赤魔子の言葉からでもそれは聞こえなかった」
問い掛ける通風。
ふむ、と顎に手を当てて考える仕草を取ると口元を緩めた。

「それはこいつの事かな」
左手を上げる。
歪が生まれ何かを吐き出した。
それは力無く地面を転がる。
白い鎧を着込んだ内藤。
此方からではよく見えないが、まったく動きを見せていない。
「通風さん、俺があいつを抑えるッス。だからその間に内藤さんを――」
「…大丈夫か?」
「見くびらないで下さいよ。俺の実力は分かってるでしょう?」
言葉に頷く。
「それじゃあ任せたぞ、廃狩」
「ういッス!!」
銃のトリガーを引く。
それと共になる炸裂音。
闇の王へと目掛けて放たれた弾丸は軌跡を描いて襲い掛かる。
その隙に駆け出した通風。
目的は内藤の保護。
強く地面を踏み締め最速で駆けた。

廃狩の放った弾丸を避けようともせず、そのまま受け止める闇の王。
自分が纏う闇の衣がその全てを防いでくれる。
故にこの程度の攻撃、態々身体を動かして避ける間でもない。
「うわっ、なんつうデタラメなんすかあんたは。
もう少し効いてくれた方が世の為ッスよ!」
言葉と同時に弾丸を撃ち続ける。
額に浮かぶ嫌な汗。
こういった時は決まって嫌な結果ばかりが起こるのだ。
そしてその予想を叶えたかのように放たれた弾丸全ては無駄に終わる。
それでももがく様に撃ち続ける廃狩。
それが今自分に出来る最良の行動なのだから。
「お前は分からんな、何故此処まで無駄な行動を繰り返すのか」
流石に目障りになってきたのか剣を構え廃狩に向かって走りだした。

461 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:11 [ dCpA1Zto ]
力無く地面に転がっている内藤。
近づいてみたが外傷は特に無い。
だが、その目に光はなく、まるで廃人のようだった。
「おい、内藤!しっかりしやがれ!!」
肩を掴み揺すって呼びかける。
すると反応が見えた。
歓喜の思いが浮かび上がる。
だが。
「…なんだ、通風か…」
気の抜けた声。
そう言って弱々しくこちらの手を払おうとする。
一体、これは如何した事だろうか。
目の前にいる男は確かに内藤の筈。
だが、この覇気の無い男はいったい何なのだ。
あまりの変わりように自問自答をしてしまう。
そんな中、相変わらず此方の手を跳ね除けようとしている内藤の姿。
思わず怒りが込み上げた。
内藤の胸元を掴み無理矢理立たせようとする。
「何腐ってんだよテメエは!!」
罵倒する通風。
だが、内藤は虚ろな瞳のまま辺りを見回しているのみ。
ゆっくりと口が動いた。

「猫狩がいないな…どうしたんだ?」

胸に突き刺さる言葉。
心臓を鷲掴みにされた様な気持ちになる。
小刻みに震える肩。
頭に血が上っていくのが分かった。

462 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:11 [ dCpA1Zto ]
「ふっ、頼みの内藤があの様では貴様もさぞ残念だろうな」
傷付き倒れた廃狩に対し皮肉を込めて口ずさむ。
必死で抵抗を試みた廃狩であったが闇の王の圧倒的力の前にはなす術がなかった。
頼みの銃は砕かれ二度と使用する事は出来ないであろう。
さらに自身の負った傷。
先の戦いで砕かれた左腕の痛みが再び蘇る。
もう、彼の身体は限界だった。
だが、廃狩は動じず、逆ににやりと不気味に微笑んだ。
「…はんっ!そんな必要はないッスよ…」
震える手で立ち上がる。
気力を振り絞ったその先に一体何が待っているというのか。
闇の王にはこの者達の考えがまったく理解出来なかった。

やぶれかぶれの様に此方に飛び掛る廃狩。
衣をより強く顕現させて、接近を防ぐ。
ジュウッとまるで炎に身体を差し出したような音と痛みが走る。
だが、それでも懸命に此方に向かう廃狩。
その手には何時の間にか握られたボムの魂。
それを此方に投げつけると思いきや、何を思ったか自分の身体に擦り付ける。
「なぜなら、あんたは…」
途端に生まれる火花の束。
よく見るとそれは廃狩の服からはみ出ている沢山の導火線だった。
「此処で俺と一緒に吹き飛ぶんスからね!!」
「血迷ったか貴様!!」
廃狩から必死に離れようとする闇の王。
させるかと必死でしがみ付く廃狩。
身体が闇に蝕まれ悲鳴を上げる。
だが、それでも決して彼は離れようとはしなかった。

「これが、自分の人生、自分で選び、自分で出した答えッス!!」
歯を見せながら愉快そうに覗く廃狩。
果たしてこの男は本当に自分が死ぬと言う実感があるのであろうか。
まるで死を恐れていないかのような表情に闇の王はそんな考えを浮かべた。
廃狩の身体から光が走る。
凄まじい熱量が生まれ闇の王を包んでいく。
そして次の瞬間。
光は弾け、大きな爆発を起こした。

廃狩の命と共に。
その全てを投げ出した代価として。

463 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:12 [ dCpA1Zto ]
轟音が自分の長い耳に鳴り響く。
彼は廃狩の名を叫ぶような事はしなかった。

此処に来る前、爆弾を彼が要求した時。
その時から廃狩のなそうとしている事は何となく理解できていた。

ああ、だが、それでも。
この頬を伝う熱いものはなんあのであろう。
どんなに仲間の死を乗り越えようとも。
決して抗う事の出来ないこの気持ちは何なのであろう。

「ああ、そうさ。守れなかったさ。
俺もお前と一緒で大事なモノを守れなかった!!」
強く噛み締める唇。
自分の過ちを認め、それでもなお語る。
こんなに怒りを露にした通風を見るのは初めてかもしれない。
激情が声となり部屋全土に響き渡る。
だが、内藤は何も答えない。
通風がまるで見えていないかのように、その瞳は虚空を仰ぐ。

「だがな!それがどうした!だからって諦めるのか!?
何もかも諦めて、全てを無駄にするつもりか!?
甘えてんじゃねえ!!ふざけるのも大概にしやがれ!!」

廃狩の思い。
それだけではない。
此処に来るまでに到った全ての仲間達の意思。
それら全てを無駄にするわけにはいかなかった。
だから、叫ぶ。
この声が届けと。
だから、その名を呼ぶ。
もう一度立ち上がれと。

「内藤!俺たちはな、まだ生きてるんだ。生きてるんだぞ!?
好き好んで死んだ馬鹿がいる訳ねえだろ。
皆、生きようと必死だった筈だ。それでも大事な命失って。
残った俺たちに想いを託してきたんだ!!
お前はそんな奴等の――仲間の想い全部を裏切るのか!?
おいっ!答えろよ!答えろよ内藤!!」
通風の激情。
想い悩み苦しんでいる彼の全て。
それらを全て内藤にぶつけた。

「…」
だが、内藤は答えない。
それはもう、只の人の形をした人形の様なモノであろう。
魂の入っていない置物となった、嘗ての友の姿に絶望する。
手の力を緩め解放する。
まるで糸の切れた人形の様に重力に押されて倒れた。
「…もう、勝手にしやがれ。
テメエはもう仲間でも何でもねえ。
お前は俺の知ってる内藤じゃない。
俺の知ってる内藤は、何時でも自分を貫く男だった筈。
お前は内藤の姿をした、ただの抜け殻だ…。
金輪際俺との関りはねえ…」
そう言って彼から背を向けた。

「…テメエの今のそんな腑抜けた姿。
臼姫が悲しむぜ…」

少しずつ離れていく仲間との距離。
離れていった。
それは永遠を思わせるように短いようで長い。
心と心の、仲間同士の繋がりだった。

464 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:12 [ dCpA1Zto ]
「おい、そろそろ姿見せろよ。
どうせまだ生きてるんだろ闇の王さんよ」
通風の言葉が今だ止まぬ煙の中へと問い掛けられる。
「何だ、ばれていたのか」
すぐさま帰ってきた答え。
あの爆発の中まるで何も無かったかの様に平然とした姿で現れる。
所々煤けてはいるがそれだけだった。

「ったく。廃狩が命張ってまで頑張ったのにテメエにはその程度しか聞いてないのかい。
ムカツクにも程があるぜ。反吐が出そうだ」
「まあ、そう言うな。奴の行動には敬意を示したつもりだ。
故にそこに転がっている男と最後の話が出来たであろう?」
此方の会話を聞いていたのだろうか。
皮肉めいた言葉に腹が立つ。

「さて、終わらせようか。全てを」
剣先を此方に向ける。
互いの間合いまで後一歩という所か。
「ほざいてろ。テメエは俺が――」
地面を強く踏み抜き駆ける。
「ぶっ殺す!!」
自分の最大速度で走る。
風の如き疾走。
そこから繰り出される斬撃。
それは正しく閃光的一撃。
光が走る。
だが、その一撃を回避する闇の王。
(俺の斬撃を避けやがった!?)
「素晴らしい早さだな。私にはそれだけの足はない――」
続け様に攻撃を放つ。
だが、その全てをまるで見透かされたように回避された。
(何故だ、何故かすりもしない!?)
「だが、貴様の動きは読める。私の目は貴様を捉えているのだからな」
不意に肩を掴まれる。
すると視界が暗転した。
背中に強い衝撃。
地面に叩きつけられたのだ。
自分の速度もあいまってか勢いよく身体が跳ねる。
肋骨辺りにヒビが入ったのか刺すような痛みが走った。

体制を整えて向き直る。
敵は此方を見据えたまま動かない。
挑発するように指を前に出し此方に向けて動かしている。
「見せてやろう、如何足掻こうが決して覆す事の出来ない実力の差をな。
そして、その時の絶望したお前の顔を見るのを楽しみにしているぞ。
さあ、精一杯足掻いてくれ。俺を楽しませる為にな――」

465 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:12 [ dCpA1Zto ]
ズヴァール城にて最後の死闘が行われている中。
そことは別の地で別の戦いが繰り広げられていた。
後にこの戦いの戦局を大きく覆す儀式。
それらは今最後の時へと迫っていた。 

死者が眠りし神聖な寝室。
しかし今では亡者が住みかう危険な空間。
その空間の最下層、小さな個室の床には陣がひかれている。
壁には燃え盛る蝋燭と火が消えた蝋燭が置かれていた。

「もう大丈夫かい、白樽さん…?」
娼館子が部屋の隅で蹲っていた少女に話しかける。
「…はい、もう落ち着きましたから、大丈夫です。」
そう言って胸元に手をやりガッツポーズをしてみせる。
彼女の目は真っ赤に晴れ上がっていた。
それは流した涙の量を物語っているだろう。
「無理はしなくていいんだよ?泣きたい時は好きなだけ泣けばいいさ」
気遣いそう促してみる。
しかし彼女は軽く首を横に振り答えた。
「泣いていても過ぎ去った現実は帰ってきません。
ですから私はその場に留まる事より前に進む事を選びます」
声は小さかった。
だが、それでも彼女の強い意志はハッキリと感じ取れた。
「…君は本当に強いね」 
彼女の心意気、それを心底尊敬した。
「ふふ、そんな事ないですよ」
ニッコリと微笑む。
「そうかな?僕には羨ましくて君が眩しく見えるよ」
それは彼の素直な気持ち、答えだった。

正直彼は彼女をこの行為に巻き込む事を快く思っていなかった。
だが彼がこれから行う儀式の為にはどうしても人手が必要だったから。
だから彼は渋々ながらも自分の力を説明し、自分が何をやろうとし、その為には何が必要かを話したのだった。

「私が泣いている間に何か変化はありましたか?」
ゆっくりと言葉を紡ぐ。 
「沢山の、命の灯火が消えたよ…そして今、最後の希望が消えようとしている」
正直に言って後悔する。
普段から人とはあまり話す事のない彼。
相手を気遣う喋り方が苦手だったのであろう。

戸惑いの表情を浮かべる。
彼は彼女がまた泣き出すかと思ったのだから。
だが彼女はホッとしたように自分の胸を撫でた。
「よかった…」
目を閉じて安堵する白樽。

「でも…」
何かを迷ったような白樽の声。
それに反応し視線を向ける。
「本当に私で良かったのですか?」

466 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:13 [ dCpA1Zto ]
呟く白樽。
すぐさま言葉が続く。
「正直私には糞樽君達のような強い力はありません。
私以上の魔道士は山の数ほどいるでしょう。それなのにあなたは私に声をかけた。
とても大切な事なのに――本当に私で良かったのですか?」
そんな困った顔を浮かべる彼女。
それに対しゆっくりと頷き優しく微笑む。
そして口を動かした。
「うん、白樽さん君でよかった。僕が必要としたもの、それは知識や経験、単純な力じゃないんだ。
僕が必要としたのは心。優しく、相手を思いやり包み込むような温かさを持った強い心。
そして君はそれを持ち合わせていた。だから君で良かった、その気持ちに偽りはないよ」
この時。
白樽は今までで最も優しい娼館子の笑顔を見た。

「ありがとうございます。娼館子さんが失望しない様に私、精一杯頑張りますね」
胸に手を当ててガッツポーズ。
それは白樽の癖なのだろう。
少しだけクスリと笑うと、表情を硬くする。
しっかりとした瞳で彼女を見つめて口を開いた。

「では、最後の説明をします白樽さん、良いですね?」
「はい」
「これから、僕が、僕たちが行う事。
それは死者への呼びかけ、そしてその願いを叶える事です。
本来この世界で生を終えた者は無へと帰還します。
ただ、その時残された強い思念。それらは残留思念となり現世に波紋を残します。
これが俗に言う幽霊と呼ばれるものに近い存在だと言われます。
そして僕が行う儀式、死者への呼びかけは、その漂った残留思念から本人の意思を呼び起こし現世に再び物理力として事を起こさせるものです。
無論、この行為は神を冒涜する事に近いでしょう。
本来この世の者ではなくなった者を再びこの世界に顕現するのですから。
それだけに多くの力とそれに呼びかける強い心と意志が必要となります。
僕は力を、そして白樽さん、あなたには心と意思を提供してもらいます。
いいですか?」
「はい!」
強い意志と声。
彼女にもう迷いはない。
そんな姿を確認し彼は陣の真ん中に跪く。

「急ごう、もう余り時間はなさそうだ」
燃え盛る蝋燭のうち一本が弱々しく揺れ、そして消えた。
白樽の心の堤防に悲しみと言う大きな波がまた押し寄せる。
「落ち着いて、集中するんだ。まだすべての蝋燭が、希望が消えた訳じゃないんだ」
「ええ、その通りです。そして、その希望を絶やさないのが私たちの使命」
悲しみを乗り越えた白樽は強かった。
そして陣に入り娼館子の隣に膝をつける。
目を瞑り祈りを捧げた。


眩い光が陣をなぞる。
迸る光、それはとても温かく強い意志の塊。
それは柱となり天を貫いた。

467 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:13 [ dCpA1Zto ]
広い部屋の中央。
二人の男の姿。
片や黒の衣を見に包んだ闇の王。
片や緑の服を着込んだ通風。
通風は首元を押さえられ、宙吊り状態にされていた。
「しかし、貴様等には哀れみさえ感じるな。
自分の信じた最後の希望がまるで事を為さない様はなんて滑稽で愉快なのだろうか」
闇の王が言葉を呟く。
果たして通風にはその言葉聞こえているのだろうか。
必死で自分を掴んでいる手を離さんと試みている。
「ほざきやがれ…」
通風を掴んでいた腕に衝撃が走る。
見ると何処から取り出したか分からないが矢尻が見事に刺さっていた。
それに対し、特に痛みを受けた表情など出さないものの敬意を示したのだろうか。
通風をあさっての方向目掛けて放り投げた。

468 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:13 [ dCpA1Zto ]
虚ろな瞳。
疲労した身体。
くたびれた心。
もう何もかも諦めた。
もう何もかも投げ出した。
自分には守るべきものは何もない。
失った。
沢山の大切な者を…。
仲間を…。
恋人を…。
身体に力が入らない。
四肢が言う事を聞かない。
情けない。
自分自身が嫌になる。
こんな自分。
こんな自分に彼は一体何を望んだのだろう。
奇跡なんて起こらない。
無常な現実の前に、言葉は何の気休めにもならない。
だけど。
だけど、通風の言葉が。
彼のぶつけた激情が自分の中の何かを呼び起こそうとする。
既に捨てた想い。
こんなものは何の役にも立たない。
それは嫌というほど分からせられた筈じゃないか。
なのに何故。
どうして自分はまた立ち上がろうとするのか。
暴挙とも取れる闇の意思へと立ち向かわんと奮い立たせられるのか。
分からない。
自分には分からない。
どうして――。

469 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:14 [ dCpA1Zto ]
「その闘争本能。諦めない精神とやらは立派なモノだ。
全てが無駄と分かっていようとも立ち向かう貴様の馬鹿さ加減は中々楽しめたぞ」
そう言って掌を此方に向ける。
これが最後なのだろう。
確実に息を仕留める為に黒い刃を呼び出した。

動かない体。
四肢が砕けんばかりの痛みを放っている。
脳から送られる命令はその痛みによって阻まれ、首を動かすのが精一杯。
「…悪いな…猫…少々遅れちまったが…今…お前の所へ行くぜ…」
その言葉。
おそらく初めて見せたであろう通風の弱音。
眼前にいる男に手も足も出ず朽ちるのは悔しい他ならない。
だが、この敵を倒す役目は本来自分ではなかった。
無理矢理にでもそう思わねばやり切れない。
刃が放たれた。
後数秒も無い自分の命。
今までの短い人生が走馬灯の様に蘇る。

そして…。
目と鼻の先まで迫った刃。
それらが光の刃に阻まれ、一瞬の内に霧散した。
「へっ…遅いんだよ…馬鹿…」
此方を救った者の方へと首を向けた。

白い鎧に金髪を靡かせる。
何時もの笑顔がそこにはあった。
「…悪い通風、遅くなった。今此処に、最強の俺様光臨。ってな」
そう言って、また笑う内藤。
手を虚空に翳す。
すると光が彼の手に吸い込まれるようにして集まり一本の大剣を生み出した。
闇の王が持つ黒い刃とは逆の光の刃。
一片の曇りさえない光の集合体。
「さあ、闇の王、最後の勝負だ。勇者であるこの俺様がお前を滅ぼしてやるぜ!」
それを振り切り、声を高らかに上げる。
自分らしく、前を向いて。
全てを真っ向からぶつけて、闇を打ち破らんと。
剣を振るった。

470 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/06(木) 05:20 [ dCpA1Zto ]
|w・`)<…ええと、上に張られていたアドレスを辿って初めて投票を見たのですが…。
    票数を見てとてもびっくり致しました。呼んでくれて票を入れて下さった皆様、本当に有難うございました。
    リメイク完全版もそろそろ終焉となってまいりました。
    
    この話が終わってからこそ、本当のお話が始まります。
    その時が来るまで今しばらくこのラストリメイクをお楽しみくださいませ。

471 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 16:30 [ EAgrtwlg ]
。゜(゚´Д`゚)゜。

472 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 20:19 [ oqRlfKWQ ]
内藤が内藤っぽいのにカッコイイ・・

473 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:39 [ itXMeBDU ]
感傷深く此方を覗く。
「ほう、どういった理由で立ち直ったかは知らないが、貴様との勝負はもう――」
闇の王の言葉半分に走り出した内藤。
放つ斬撃。
咄嗟にそれを受け止める。
刃のぶつかり合いとは思えぬ轟音が響く。
とんでもない圧力に闇の王の腕が軋み悲鳴を上げる。
「ぬぅう!!」
その一撃、並大抵の威力ではない。

内藤を睨みつける。
その眼に映る意思は何もかも真直ぐに見通す瞳。
自分にとっては何ともいえぬ酷く癪に障る目。
「さっすがー、だけど。当たるまで止めないぜ!」
「!?」
かかった圧力が消え、すぐさま怒涛の連撃が繰り出される。
その表情、その声。
苛立ちが積もる闇の王。
まるで自分を小馬鹿にしているようなその態度に吼え、刃を振るう。

一進一退の攻防。
その力は五分と五分。
両者まったく譲らぬ力。
それを遠目に見ていた通風は微笑む。
眼前に繰り広げられている戦いは決して自分の届かない領域。
頂点へ登りつめた者だけが見られる境地。
内藤の敗北。
それはこの世界の終わりを意味しているだろう。
だが、彼は穏やかな気持ちでそれを見つめている。
何故なら彼は、今の内藤が負ける等微塵も思ってはいないから。
単純で大馬鹿で、それでも何時もただ真直ぐな自分の友人の姿。
その姿の内藤に負けはないのだから。

474 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:39 [ itXMeBDU ]
何度目かの轟音。
それと共に互いに間合いを取り、対峙の姿勢。

「何があったかは知らぬ。
だが、貴様自身の中で何かが変わったというのは理解できる」
流石の闇の王も疲れを見せているのか、肩は上下に動き、息が軽く乱れている。
それに対する内藤。
同じく疲労はしているものの、余裕ともとれる表情で微笑みまで浮かべている。
手を腰に置き胸を張る。
そして右足を一歩前にだす。
「変わった?違うね」
「何だと!?」
理解不能な言葉。
変わってないはずがない。
先程までとは別人としか思えぬ動きと力。
それが変わったと言わず何と言えるのか。
その答えは直に内藤の口から出された。

「変わったんじゃない、戻ったんだ。考えてみればずっと無理してたからな俺様。
此処に来てようやく元に戻った、ただそれだけさ」
自分をビッと指差し声高らかに放つ。

なるほど、これが内藤の本当の姿。
本当の力と言う訳か。
「ふざけるな!!!」
怒涛の声。
声に呼応するかのように闇が集まり部屋全体を包んでいく。
「もう貴様の戯言はうんざりだ。その言葉、表情、見るだけで吐き気がする。
出でよ、新たなる我が闇の眷属よ」
生まれる沢山のヒトガタ。
現世に召喚されたかつての仲間。
見ると赤魔子や獣様、廃狩の形をした者も増えている。
つい先程まで自分を苦しめていた者達。

かぶりふる。
いや、これは只の影。
自分の仲間達の残留思念から形成されたまやかしの操り人形。
「さあ、どうする。俺一人でも歯が立たなかった貴様にこの状況はあまりにも絶望的であろう?」
だが、内藤は闇の王の思惑からまったく外れ不適に微笑む。
「確かに、俺様一人だったらやばかったかもね〜」
何処か呟くような内藤の声。

475 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:39 [ itXMeBDU ]
ああ、不思議だ。
今の自分は負ける気がしない。
例えどんな策を講じられようとも、どんな力を見せられようとも決して動じず。
この目の前の暴君に対してまるで恐怖が感じ取れない。
こんな状況で、こんな気持ちになる自分は変なのだろうか。
いや、違う。
これこそが自分、内藤と言う男の姿の筈だから。
だから、このままであり続けよう。
それを皆は望んでいるのだから。
「ああ、も一つ言い忘れたけどさ。
何で俺があの闇の中に放り込まれても平気だったか分かるかな?」
闇の王に問い掛ける。
顰め面のまま言葉を返さない。
「それはな、守られてたから。
俺様そん時、どうしょうもなく馬鹿な気持ちだった所為で気が付かなかったけど。
今は分かるから、見える?俺様の頼れる、大事な仲間達。
通風のお陰でやっと思い出せた。そして聞く事が出来た。
それは声。みんなの声が俺の背中を押した。俺に力をくれた。
だから俺は再び剣を取った。皆の想いを乗せて。
お前を倒す為に、再びな!」
「戯言を!!」
闇の王が此方に手を向ける。
それと共に襲い掛かるヒトガタ達。
刹那の出来事だった。

闇に包まれた空間に幾つもの光の柱が立ち上がり漆黒に飛び込んでいく。
ピシリと。
漆黒の球体にヒビが入りそこから眩いまでの光が溢れる。
溢れ出る光はその範囲を増し、ついに漆黒の球体は光に包まれその姿を消した。
光に抱擁された内藤を残して。
いつか誰かが言った。
優しい言葉。
 
もう聞くことが許されない、遥か遠い空の言葉。
ふと、空を仰いだ。
 
光が部屋いっぱいに溢れる
天から降りてきた白い光。
 
それは仲間達の思い。
 
どんなに苦痛を感じても。
どんなに傷ついても。
成し遂げなくてはならない事がある。
 
そんな者達への道標。
光のある場所にそれがあるから。 
 
暗闇に包まれたこの空に救いがないのなら。
抱いてみよう、ほんの僅かな淡い幻想を。

光の球体が幾つも内藤の周りを往復しやがてそれは形をなしていく。
「みんな、俺は、此処にいるぜ――」

――紡ぎだそう新たな物語を、自らの手で――

476 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:40 [ itXMeBDU ]
「儀式は成功したのでしょうか娼館子さん?」
白樽の科白。
「大丈夫よ」
それに答えたのは娼館子とは別の声。
見ると閉じていた筈の扉が開いており、傷付きながらも微笑んでいる餡子の姿があった。
「だってね、私達は仲間だったのだから、だから大丈夫よ」
綺麗な顔で微笑む。
「うん、そうだね。
光に包まれた時、みんなが僕に笑いかけてくれた様な気がしたんだ『任せろ』ってね。
だから、絶対大丈夫」
そう言って笑顔を此方に見せて、彼はそれっきり喋らなくなった。
「まったく、娼館子も幸せな子だね。こんな良い顔で眠れるなんてさ、餡子ちゃんちょっと妬けちゃう」
餡子の言った通り。
その表情はとても穏やかで、白樽は彼が幸せの中にいたのだと気が付いた。

餡子に近寄り、癒しの術をかける。
その優しい光に身を委ねて目を閉じる餡子。
今は存分に休んでもらう。
此処まで頑張った彼女への、今出来る最大のお礼。
「娼館子さんの力によって再び現世に顕現された皆さん。
糞樽君、どうか内藤さんを助けてあげてくださいね――」
手を胸に置き目を瞑る。
彼女は祈った。
自分にできる事はもう祈る事位しか出来ないけれど。
それでも思いは通じるものだと信じているのだから。

 
壁には一つの燃え盛る蝋燭と火が消えた蝋燭が置かれていた。
蝋燭は確かに消えていたが、その炎の周りには次々と光が灯り明るく輝いていた。
まるで一つの炎をより強く輝かせんとして。

477 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:40 [ itXMeBDU ]
――それは自分を導き倒れた者――

「なんとか間に合ったみたいだね」
「へ、俺は全然心配なんてしてなかったぜ」
特徴的な髪形に鋭い目。
だけど優しく微笑む。
その隣。
手に握られた両手斧。
腰に提げたブーメランは見慣れた姿。
だけど、酷く懐かしい。

自分達と同じヒトガタの攻撃を受け止めて、それを葬り去る。

「戦死、飛子。相変わらず息がピッタリだな」
言葉に親指を立てて返す二人。

――その二人は何時もと変わらぬ笑顔を此方に向けてくれた――

「亡者共め、何ゆえ現れたか知らぬがもう一度黄泉へと帰るがいい!!」

――それは親愛なる者と共に眠りについた男女――

背後から来るヒトガタが撃退される。
「ふう、君はいっつも危なかしいな」
小さな身体にはもう陰りはなく。
「まったく、本当ですよ。私達の戦いからもっと大事なものを学び取るが良いですよ内藤」
二人はとても親密に。

「悪い、任せた。死人、タルナ」

「了解。見せてあげようよ死人、ボク達二人の力を」
「そうですね、真に美しい戦い方というものをお見せしましょうか」
まるで舞う様に華麗に二心一体の戦いを見せる。

――二人の間にもう陰りはなく、迷いなどはなかった――

「何をやっているのだ我が眷族よ!!」

――老年なる騎士、長き戦いの果てに朽ちた者――

「フォフォフォ、あんまり怒ってばかりは身体に悪いぞい」
高速で放たれた魔法の数々。
息も付かせぬ、その力にヒトガタは手も足もでない。

「う〜ん、赤爺が言うと凄く強みがあるな…」
眉間にシワを寄せて唸ってみる。
「フォフォフォ!!言うてくれるわい内藤。
この赤爺、まだまだ若い者には負けぬぞ」

――彼の行動は若者達への希望と未来を――

「馬鹿な、何故だ!!何故!!!」

――守るべき者の為に拳を振るうと誓った者達――
「パワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
放たれる拳。
それは他ならぬ仲間の為にある力。
「内藤お前は、前だけを見つめろ!」
「そうじゃ、内藤どん。おんしはわし等が信じた漢。
しっかりとした姿をみせるんじゃけんの!」
拳を突き出す二人。
あわせる様に此方も拳を前にだす。
「う〜ん、俺は二人ほど肉体派じゃないんだけどな〜…。
でもま、精一杯やらしてもらうよ」
お互いの拳が触れた。

次々と形作られていく光。
それは彼の大事な友であり、仲間達の姿。
偽りの影のヒトガタではなく。
それぞれの意思を持ったそれらは正しく本物であろう。

478 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:41 [ itXMeBDU ]
――人と竜、互いに姿は違えど分かりあった者――
「俺と蜜柑の前には敵はいないぜ!!」
「かぁ〜、あんたはよくそういう事、堂々と言えるよな」

――武に甘んじ自身を刃とした者――
「我が刀の前に、斬れぬモノなど存在せぬ」

――やっと、理解した真実の気持ち――
「童のこの命、愛しい内藤殿のために捧げるぞ」
「巴、もう諦めたって…」
「ええい!女々しい弱いごとをはくでない!!」

――最後までずっと食べてばかりでしたね――
「ちょっと、まちや!!何でうちだけ!!」
「何、怒ってんの歌樽?」
「…いや、何でもないねん。
とりあえず、この御礼は高くつきますで内藤はん!」


そんな中。
起こった奇跡を目の辺りにして涙腺が緩む通風。
聞きなれた声。
もう二度と聞く事が出来なくなったその声。
「通風ちん――」
「…へっ、なんだよ。待ってるっていったじゃねえか」
目に溜まる熱いものを必死で抑える。
扱く冷静に何時も通り振舞おうとする。
「ごめんにゃ〜。やっぱり会いたくなって戻ってきたにゃ」
そう言って目の前でクルリと一回転。
会釈し頭を下げると一言。
「ただいまにゃ、通風ちん」
差し出された掌。
力強く掴んだ。
「おう――おかえり猫」
最高の笑顔を見せる猫狩。
掴んだ小さな掌は温かく。
この奇跡を彼は強く強く噛み締めた。

479 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:41 [ itXMeBDU ]
全ての影が消え去り、闇の王へと向く沢山の意思。
その目は皆、内藤と同じで真直ぐに。
彼の忌み嫌う光達の集まりだった。

「何故だ!!何故このような事が起こるのだ!!」
それは怒りか戸惑いか。
小刻みに震える闇の王。
分からない、理解し難い。
一体これは何だというのだ。
死者が蘇って力を貸している?
頭に浮かんだ言葉は奇跡。
だが、その言葉をすぐさま打ち消す。
そんな事が有り得て成るものかと。

雄叫び。
空間を震わせる闇の王の咆哮。 
まるで夢物語のような現象を打ち破るが如く。
部屋全土に渡って木霊する。
その力に限界はないのであろうか。
今までにない闇が餡刻の身体を通して闇の王へと流れ込む。
全ての希望を撃ち砕かんと。
だが、そこに新たな光が舞い降りる。

「これ以上、餡刻しゃんの身体で好き勝手は許さないでしゅよ!!」
そう言って餡刻の体を抱きしめる獣様。
返り討ちにせんと刃を振るう。
だが、それも新たな光に阻まれる。
「餡刻殿、思い出すのです!!我々と過ごした日々を。
あの幸せだった毎日を、もう一度取り戻すために!!」

「ふざけるなーーーーー!!!!」
獣様と騎芋も消し去らんとする闇の刃。
だが、おかしい。
刃は方向違いの向きへと走り、そして砕けた。
新たに二つの光が舞い降りる。
そして餡刻の体が動きを止める。
闇の王の意思とは別に、必死で抵抗するが如く。
顕現された糞猫が、そんな餡刻の身体を抱き寄せる。
優しく包むように。
彼女なりの母性が其処にはあった。

「餡刻様、私達の想いを恐れないで、受け入れて。
誰もあなたを攻めません、恨んでなどいません。
深い闇へと身を投じたあなたを私達はきっと救い出します。
ですから手を伸ばして、もう一度飛び立ちましょう。
深く暗い闇の底から光の大空へと――」
再び流れ出した赤い雫。
それは必死に餡刻が戦ってる証。
此方の想いが届いた瞬間だった。
今、餡刻は戦っている。
絶望的な闇の中で。
だから、力を、自分達には辿り着けぬ場所へと力を届けよう。
姿を現す赤魔子。
糞猫が頷く。
そうして短く深呼吸。
ゆっくりと口を開いた。
「私達は、あなたを救う力となりました。
闇の存在たる者、その意思を形として顕現を。
闇にいながら光ある者、その者のありし日の姿へ。
帰ってきてください――」
獣様と騎芋、糞猫が続き同時に声を放つ。
叫ぶ言葉はたった一つ。

――餡刻――

480 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:41 [ itXMeBDU ]
辺りを見回せば一面の黒。
何時もの風景の中、自分にだけ見える黒。
流れ行くように通り過ぎる沢山の人。
その中に自分はいた。

飽きる事なく眺める。
だが、そんな彼に誰も気付きはしない。
世界に存在しながらにして存在していない自分。

嫌になる。
認知されない自分が。
ただ忘れ去られていくだけの存在の自分が。
だけど、そんな日々を過ごしていく中。

彼に仲間が出来た。
初めて出来た大切な者。
それはやがて数を増やし、自分を温かく包み込んだ。
そんな中最も温かく大きな光が三つ。
ああ、だけど何故だろう。
何故自分はそれを手放してしまったのだろう。
苦しいほどに愛しくて。
涙を零すほどに大切で。
そんな大事な者達を、自分は。

見渡せば辺り一面の黒。
もう何もかもに疲れてしまった。
だから身を委ねよう。
一片の濁りもない漆黒へ。
何もかも忘れて、漂おう。

声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
初めて聞く声。
それらはとても暖かで。
そして自分を包んでくれた。
途端に黒に混じる新しい色。
眩く照らすその色は白。
白い光が此方に向かって伸びている。

彼は悩んだ。
もう一度、元の世界に戻る事に。
だけど、伝わってきた。
沢山の想いが。
だから彼はこれ以上悩む事をしなかった。
伸ばした掌。
それはしっかりと光を掴んでいた。

481 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:42 [ itXMeBDU ]
「無駄だ、無駄だ!!俺に支配されし者に、もはや自我など存在しない!」
必死に体の主導権を戻そうとする闇の王。
ギリギリと音を立てて身体を動かす。
そんな中闇の王とは違う声が響いた。

「――いいや、そうでもないみたいだぜ」
「馬鹿な!?」
表情を明るくする糞猫達。
言葉を放ったそれは餡刻の影。
その影にうっすらと表情らしきものが見える。
影が自らの意思を持ち、餡刻の肉体を包み込む。
羽交い絞めにして動きを奪う。
「悪いな、俺諦めが悪いんだ。だから返せよな俺の体を!!」

「餡刻しゃん!!」
「餡刻殿!!」
「餡刻様!!」
「餡刻!!」

『頑張れ!!』
皆の声に答えるかのように光が餡刻の肉体を包み込む。
そして餡刻の体から抜けていく漆黒の影。
影は抜け出るとそのまま形を成し、異形の化け物へと変貌した。

「…ありがとう。騎芋、獣様、赤魔子、糞猫」
ヨロリとおぼつかない足取りで立ち上がる。
そんな彼を糞猫達は包み込んだ。
「…馬鹿な。俺にこのような事態が起こるとは!!!」
そう言って赤魔子の方を見る闇。
怒りに震え雄叫びを上げる。
「そうか、貴様か、貴様の力が俺に肉体を与えたのか!!」
酷く歪で大きな口を開ける闇。
そこから吐き出された死の刃が赤魔子を狙う。
餡刻を救う事で力を消耗しきった赤魔子にこれを防ぐ術はない。

「そんな事させないぜ」
新たな声。
死の刃さえも押し返す、巨大な力が赤魔子達を守った。
徐々に露になる光。
その姿は。

「糞樽しゃん!」
「ナイス兄者!」
親指をビッと立て、尻尾と耳を動かしながら派手に喜ぶ糞猫。
対する糞樽は餡刻に向き直っている。
「…糞樽…」
「よう、餡刻。最近ぶりだな」
何時もの顔、声で此方に話しかける。
思わず言葉がつまり俯く。
一体自分はどの面を下げて彼と話せば良いのだろうか。
自分のした事は取り返しのつかない事。
獣様達はそれを許してくれた。
だが、人一倍生に執着していた糞樽は果たして自分を許してくれるのだろうか。
そうして思い悩んでいると後頭部に衝撃が走った。
「い…痛っ〜!!!何すんだよ糞樽!?」
衝撃のあった部分に触れてみると大きなタンコブが出来ている。
思わず涙目で糞樽を見返した。
「ばーか、それで良いんだよ。たく、変に気を使いやがって気持ち悪い」
「だけど、糞樽…俺はお前を…」
「あ〜、もうウジウジすんじゃねえ、男だろ!!
お前がそんだけ言うなら一発殴ってやる。面かしな!」
言われたとおり顔を前に出す。
周りの糞猫や赤魔子達が何かを言っているが今はあえて聞かない事にする。
こうでもしなければ俺の気が済まないのだから。
糞樽は杖を振りかぶり此方に振るった。

482 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:42 [ itXMeBDU ]
思わず目を瞑る。
だけど、思ったような痛みは何時までもなく、目を開いた。
見ると糞樽の杖は自分の身体をすり抜けている。
まるで映像の様に。
「ふう、どうやら俺の奇跡はお前達を救う分で使いきっちまったようだな…」
遠目に此方を見る糞樽。
その言葉を聞いて内藤は自分の周りを見渡す。
見ると他の皆も体がうっすらと透けていた。

「しょうがねえ餡刻。お前、俺の代わりに闇の王に一発ぶち込んで来い。
それで全部チャラにしてやるよ」
言って背を向ける。
「糞樽、お前…」
「あ〜、もう、だからそんな声出すんじゃねえ、みっともない!!
お前は仮にもこの糞樽様に勝った男なんだぞ、もっとシャキっとしろよ」
ああ、忘れていた。
こいつの優しさを。
人一番みんなの事を心配するこの男を。

言葉を聞いて、頷き、意思を強く持つ。
手に持った黒い剣。
数々の罪を犯し、仲間を血に染めた黒い刃。
この力で今度は皆の想いを叶える。
餡刻の隣に並ぶ内藤。
此方も準備は万端だ。

「今まで散々好き勝手してくれた御礼をさせてもらうぜ」
「お前も此処で終わりだよ闇の王!!」
互いに正反対の色を宿した刃を掲げて声を放つ。
「その勝負まったーッス!!」
新しい声。
それと炸裂音。
其処に立つ男は廃狩。
登場と共にちゃっかり銃弾を闇の王目掛けて撃ち込む様は相変わらずと言って良いものだろうか。
「そんなに疲労した身体じゃ大変じゃないッスか?
傷付いた勇者様、それを癒す役目は只一人!
さあ、お姫様の登場ッスよ!!」
身を翻して虚空に銃弾を放つ。
それは空間を貫き、穴を開けた。
眩い光が漏れる。
その中から現れたのは。

483 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:42 [ itXMeBDU ]

「廃狩、あなたも良い事いうわね」

誰かが言った。
優しい言葉。
もう聞く事が許されない筈の、遥か遠い空の言葉。
だけど――。

内藤を優しくも暖かい、癒しの光が包みその傷を癒していく。
その後ワンテンポ遅れて癒される餡刻。
少々不満そうな表情だ。

「お待たせ内藤」
ニッコリと微笑む。
「臼姫…なんで?」
内藤が信じられないという顔。
光に包まれている彼女。
ただ他と違い彼女は確かに其処に肉体を持って存在していた。

「みんなの声が、想いが届いてね。それでね、私――」
沢山の言葉が頭の中に生まれ消えていく。
どんな言葉よりも、ただ彼女がそこに存在している事。
それが彼にとって何よりも嬉しい事だった。

もう一度辺りを見回す。
其処には自分の大切な仲間達の姿がる。

「内藤、お前がリーダーだ!!」
「あたしは信じてるよ内藤」
「頑張れ内藤、君ならきっと勝てるさ」
「そうですよ、仮にもこの私がいたLSの騎士なのですからね貴方は」
「ふぉふぉふぉ、闇は光によって敗れる。お約束じゃがそれがよいて」
「俺達が見込んだ漢なんだからガッカリさせるなよ内藤!」
「最後の閉めじゃい、根性じゃ内藤どん!パワーーーーー!!!!!」
「今なら、もれなく俺と蜜柑の加護がついてくるぜ!!」
「嫌な加護だな。まあ、頑張れや内藤」
「内藤殿、刃は自身の心をあらわす。きっと大丈夫じゃ」
「内藤殿、童達は此処でそたなの勇姿をしっかりと見させてもらいますぞ」
「姫に同じく」
「しっかり気張ってや〜。ほんでうちをゆっくり休ませてな〜」
「姉きが見込んだ男ッスからね。頑張れ兄貴!!」

「まったく俺への応援は無しですか!!!」
内藤の名ばかりに涙目で訴える餡刻。
「餡刻殿、私はあなた様を応援しますぞ」
「餡刻しゃん、ファイト!でしゅよ」
「頑張れ!!」
「しゃあねえ、応援してやるよ餡刻」
「餡刻様、そんな奴やっちゃえー!!!」
自分に対しての応援に活力が戻る。
何とも単純で、また餡刻らしかった。
「おう!!」

「内藤――」
通風の声に振り向く。
猫狩の肩を借りて此方に近づく。
胸に拳を当てると口を動かす。
「お前らしく、な」
「うちも一緒に応援するにゃね内藤ちん!」
強く頷いた。

「さあ、行きなさい内藤、餡刻!!さっさと闇の王なんかやっつけちゃいなさい!!」
『任せろ!!!』
内藤と餡刻が駆け出す。
この悲しい運命の輪を打ち砕くため。
これ以上悲しみを生まない為。
闇の王へと一直線に――。

「内藤…私の騎士様…」

484 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:44 [ itXMeBDU ]
「小賢しい、その奇跡ごと砕けるが良い!!」
闇王が腕を振るいその手から闇の刃が生まれる。
それは今までにない程大きく、巨大で、数が多かった。
だが、その刃は餡刻によって全て打ち砕かれる。

「糞樽!!!」
友の名を叫ぶ。
「しっかり目に焼きつけやがれ。これがお前の代わりの一撃だ!!」
片足を軸にして、身体を捻り放つ一撃。
刃の辿った道が軌跡を描き、その刃の色とは裏腹に光が走る。
その攻撃を受けた箇所が大きな爆音を鳴らし粉々に砕けた。

ガッツポーズを取る餡刻。
その後ろで微笑む糞樽達。

『いっけー、内藤!!!!』

皆の言葉と想いを乗せて。
飛び上がり闇の王へと狙いを定めて刃を向ける。
彼とその刃に皆の光が寄り添って集まり一つとなる。
内藤の白い刃が眩いばかりの閃光を放つ。
内藤を撃退しようと何度も闇の刃を飛ばす闇の王。
だが、それが内藤に届く事はただの一度もなかった。
そして刃が、皆の想いが闇の王の身体を貫いた――

「内藤よ…俺は問う…何故俺は生まれてきたのだ?
誰にも愛されず…誰にも受け入れられず…いつも永久の闇の中…何故?」
今まで聞いた事もない掠れるような小さな声。
内藤に問い掛ける闇の王。

「そんな事、俺に分かる訳ないだろ――」
その問いに内藤は答える事ができなかった。
だからこそ彼は答える代わりに行動を起こした。
「だけどな、闇の王!お前が光を焦がれるんだったら与えてやるよ。
俺様からのお前に対するプレゼントだ。受け取れ!!!!!」
剣を持つ手に力と意思を込める。
刹那。
剣の光が膨れ上がり、闇の王を包み込んで彼の身体にヒビを入れていく。
ヒビから漏れ出す光。
それは広がり数を増す。
そして周りは光に包まれた。


 気がつけば、どことも知れぬ暗闇にいた。
 自分がいつ生まれ出でたのか、誰もその疑問に対する答えを見出すことは出来ない。
 少なくとも、彼はそう確信していた。
或いは、これから先を生き続ける事だけでその答えを見つけることが出来るだろうか。
 否とは言えない。しかし、それを肯定するためには彼は世界というものを知らな過ぎた。
 長い年月の末、彼は世界を理解し光というものを知った。
 吐息を常闇に漏らし、空を見上げる。
 
 ああ、アレはなんて綺麗なんだろう。
 ああ、アレはなんて美しいのだろう。
 ああ、アレはなんて――。
 
 呼吸。確かな吐息。
 その間に出来る事は、やはり思案するだけで。
 俺は、何故あそこに行けない?
 ふとした問いかけ。
 答えはすでにあった、だが彼はそれを享受せず言霊は闇に溶けて消えた。
 

 滅び。
 

 絶対者として生まれた、闇の意思である者の滅び。
 

 彼の者の意思をもちて肉体に魂を束縛された時から。
彼にはこの世界の理が約束された。

485 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:44 [ itXMeBDU ]
突如として起こる地震。
まるでこの城の主と共に滅ぼうとしているかのようにその形を崩していく。
「ちょ、何よこれ!!」
「やべえんじゃねえか、おい!!」
言葉を放ち内藤と合流する二人。
「早く、こっから逃げるぞ」
そう言って通風の元へと走り寄ろうとする。
だが、その時彼と通風の間に亀裂が入り距離をあけた。

動揺を見せる三人。
そんな彼等を見て風通は微笑みながら口を開けた。
「内藤、臼姫、餡刻。お別れだ」
その顔はとても清々しい。
そうして理解し難い言葉。
せっかく生き残ったその命を捨てようというのだ。
「何言ってるんだ通風。お前も来るんだよ!!」
「そうだ、今そっちに向かうから待ってろ!!」
自分を必死で助けようとする仲間。
「やられすぎて頭逝っちゃたんじゃないでしょうね通風!」
その気持ちはとても嬉しかった。
こうして離している間にも崩壊は続いていく。
このままでは彼らも危ないであろう。
そっと手を前にだす。
内藤達を制すかのように。
その様子を見てか動きを止める内藤。
それに感謝して口を開いた。

「猫と――猫と約束してるんだよ。終わったら迎えに行くってな。
まあ、さっき迎えられちまったんだが。あいつ、また行っちまったからよ。
追いかけなくちゃ…分かってくれるだろう内藤?」
問い掛けられる。
自分に対して。
少ない時間の中、もう一度通風を見る。
身体の到る所に傷を負い、流れ出た血は検討もつかない。
傷を治す時間はない。
脱出出来る体力もとても残ってはいないだろう。
それだけの傷を負った通風。
だけど、彼がいたからこそ自分は勝利する事が出来た。
今、こうして生きながらえる事が出来たのだ。
そんな通風の最後の我侭。
彼はもう死を享受している。
虚ろになった意識の中で精一杯俺達の事を想っての言葉を放ったのだから。

「分かったよ通風、お前の好きにするがいいさ。
その代わり、今度は俺達を待つんだぞ。何時か行く場所でみんなと一緒にな」
内藤の答え。
反論する者はいなかった
通風は内藤に問いかけ、そして、内藤はそう答えたのだから。
「ああ――」
ゆっくりと頷いた。
通風に背を向けて走り出す内藤達。
振り向く事はしなかった。

崩れいく城。
内藤達の背中に向けて言葉を贈る。
「お前たちの未来に幸あれ――」
その科白は内藤達に届いたのだろうか。
それは知る所ではない。
だが、彼と言う男は託した。
自分達がなし得なかった未来を。
これから先の時間を、彼らに――。

最後に。
本当に最後に。
小さな弱々しい光が彼を包んでいた。

486 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:45 [ itXMeBDU ]
闇に包まれていた極寒の地。
もう何年も、何年もこうして続いていた。
だが、その日も遂に終わりも見せる。
深い暗雲。
それらを掻き分けて朝日の光が差し込まれた。

ザルカバードを一眼できる小高い崖の上。
三人の人が其処にはいた。

「急ごしらえだが、とりあえずこれでいいかな」
仲間の墓を立て終えて餡刻が呟いた。
「みんなのお陰で俺達は勝利することができた、本当に、ありがとう」
墓の前で内藤が感謝の言葉を述べる。
臼姫と餡刻はじっと遠くを見詰めたように動かない。
彼女等の胸に色々な思い出が去来しているのだろう。

「ところで餡刻。あなたはこれからどうするつもりなの?」
静寂を打ち破るようにして臼姫が言葉を放つ。
「俺は旅に出ようと思う。みんなの御蔭で長らえた命だからな。
皆が見られなかった世界を少しでも多く見届けようと思ってる」
まっすぐな瞳で内藤達を見据えて話す餡刻。
その純粋すぎる真剣さが何故か笑いを誘ったのだろう。
内藤達から笑いが漏れる。

「なんだよ、笑うこたないだろう」
シュンと項垂れる餡刻。
こういう打たれ弱さは相変わらずのようだ。

「いやいや、ゴメン、ゴメン。なんかお前らしいな〜と思って」
「なんだよ、それ〜」
なんだか納得いかないと言うような表情の餡刻。

「はあ、まあいいや。で、お二人さんはこれからどうするんだ?」
話題を変えて内藤達に問い掛ける。
「私達?」
頷く餡刻。
寧ろお前達以外に誰がいるんだと突っ込みたかったがあえて黙っていた。
「先の事は考えてなかったからな〜。
とりあえず今は疲れて眠いから臼姫にひざ枕してもらう」
そういってゴロリと臼姫にもたれ掛かる内藤。
すぐに安らかな寝息が聞こえる

「あらあら、もう寝ちゃたのね。まるで子供をあやす母親の気分ね」
口元に手を当ててクスクスと笑う。
「てことは俺が父親の配役か?」
「下らない事言ってると糞猫に祟られるわよ」
「チョットシタジョウダンジャナイカ」
臼姫にキツイ一言を言われて落ち込む餡刻。
本当に打たれ弱い。

「だけど、こうして見ると本当に世界を救った英雄には見えないよな〜」
そうね、と付け加える臼姫。

気持ちよく眠る内藤に触発されたのだろうか欠伸をする臼姫。
「何だか私まで眠くなってきちゃったわ」
「って、おいおいこんな所で二人して寝るなよ。風邪ひくぞ!」
言うころには遅し、臼姫は既に安らかに寝息をたてている。
その表情はとても穏やかで、餡刻は二人を起こすのが悪い気がしてきた。

「はぁ〜、まったく良いご身分だぜ二人とも。
ああ〜、それにしても本当に風邪引いちまうぞ」
根っからの心配性なのであろう。
オロオロとする餡刻。
「あ〜、何か掛け布団みたいな物はないのか。
あるわけないよな〜、あ〜、どうすれば良いんだー」
一人悩んで叫ぶ。
それは傍から見たらとても面白い光景だったであろう。
内藤達へと振り向く。
だが彼が一瞬目を離した隙に何処かへ行ってしまったのか。
そこには二人の姿はなかった。

キョロキョロと首を動かして辺りを見回すが、姿が見えない。
「あれれ?なんだよ二人とも、黙ってどっかいきやがって」
不思議そうな表情。
少し拗ねた表情をしてみるが、溜息を一つ吐いて元に戻る。

「…まあ、いっか。俺って情に弱いもんな、別れるならこの方があっさりしてるよな。
それに、生きていれば、何時かまた何処かで、必ず再会出来るだろうしな」

誰にともなく呟き餡刻はその場を後にした。
たしかなる未来を見据えて、しっかりとした足取りで歩みながら。

その後。
内藤と臼姫の姿を見た者は誰もいない。
果たして彼等が何処に行き、何をしているのか。
それすらも憶測でしか図れないであろう。
だが、たった一つ言える事があった。

それは。
彼等は何時何処にいようとも、精一杯に生き。
そして自分らしく、笑顔で頑張っているだろう。
そんな、彼等を僅かに覚えている者達は伝えていく。
世界を救った英雄として、だが、それは御伽噺のようにあやふやで。
何時しか色を失い忘れ去られていくであろう。
だけど、この時、この場で起こった事。
それは紛れもない真実である。

この物語を聞いた、あなた。
そう、あなたこそがこの話を繋ぎ続けていく一人なのだから。

487 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:46 [ itXMeBDU ]
リメイク〜エピソード〜


緑に包まれた国ウィンダス。
その石の区一角の小さな家。
其処には一人のタルタルの老女が住んでいる。
元は冒険者であった彼女。
数々の功績の果てに、国に取って無くてはならないほどの人物となった彼女は短い余生をゆったりと楽しんでいる。

椅子に腰掛けて物語を語る彼女。
その周りには数々の見えない未来と可能性を背負った少年少女達がいる。
中には居眠りをしている子供もいるが、そこはまた子供らしく愛嬌があって良い。
長い、長い物語を語り終えた彼女はゆっくりと息を吐いた。
真剣になって聞いていた子供達は、それぞれの思いや感想を披露し、彼女に問いかけ、そして自分の家へと帰っていく。
そんな子供達の様子を温かい母親の様な目で見つめている。
全ての子供が帰った事を確認して少しだけ目を閉じた。


風が吹く。
少しだけ冷たい風。
そろそろ夏の日差しも弱まり、秋の冷たい風が吹き始める頃だろう。
このままでは風邪をひいてしまいそうだ。

「おやおや、窓が開けっ放しになっていましたね」
そう言って腰掛けていた椅子から降りると、ゆっくりとした足取りで窓へと近づいていった。

案の定少しだけ空いていた窓を見つけてしっかりと閉める。
やれやれと肩を払って振り向こうとした時。
部屋の中に気配を感じた。
子供達も帰り、自分しかいない空間に確かな力強さが加わる。
だが、彼女はそれにまったく動じず物腰柔らかな口調でこう語った。
「懐かしいですね。私もそろそろですか?」
昔を懐かしむ様に、気配の主を確認せずに言葉を呟く。
「ああ、少々来るのが早かったがな…」
済まなさそうな声が耳に届くと、そんなに気を遣わないでと声をかけた。
「あなたはまだ苦しんでいるのですね」
「ああ、疲れた…そう言いたいのかもしれない。
だけど、まだ俺にはやるべき事がある。そんな気がするんだ…」
そうして。
彼女達は暫く話を続けた。
それは他愛もない会話だったのかもしれない。
だが、久しぶりに出会ったかつての旧友に彼女は時を忘れて話し込んだ。

「もう、行くのですか?」
不意に遠ざかる気配。
「二人の邪魔をする程、俺も野暮じゃないんでね」
そう言って気配は消えた。
見回してみると何時もの光景。
其処は何の変哲もない、自分が古く親しんだ部屋。
時間は何時の間にか夕暮れ時に差し掛かっていた。

488 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:46 [ itXMeBDU ]
扉を叩く音。
話を聞いた子供が戻ってきたのだろうか。
今まで、もう一度話を聞きたくて戻ってくる子供は沢山いたので大して考える事はしなかった。
「はいはい、今開けますよ」
ドアノブに掛かった手。
ゆっくりと回して扉を動かす。
開かれた扉。
その先に見えた人物は――。


不意に瞳の奥をつく真っ白な光。
開きかけた目を細めてもう一度ゆっくりと見る。
空は吸い込まれるような青。
そこに漂うようにして浮かぶ沢山の白。
千切れる雲の隙間から、鮮やかな光を携える何かが顔を覗かせている。
私は広大な緑の草原の真ん中にいた。

辺りには何もない。
ただ青の空と、白い雲と、緑の草原。
地平線さえ見える、静かで、綺麗で、孤独な空間。
そして、そこに佇む私。
如何してこんな所にいるのか分からない。
私は曖昧な表情を浮かべて、もう一度空を眺める。
風が吹きぬけていく。
その風に乗って、姿を変えながら流れゆく雲。
髪を揺らし、靡かせ、私の気持ちを落ちるかせる。
まるで全てを忘れるように。
何時までこうしていたのだろう。
空が鮮やかなオレンジ色を見せ、綺麗な夕焼けが雲の隙間からその姿を覗かせる。

足音がした。
夕焼けの赤を背景に、小柄の男の子が立っていた。
それは――。

彼女は声を失った。
様々な想いが去来し彼女を駆け抜けていく。
そんな中彼女が最初に語った言葉。
それは。

「おかえりなさい――糞樽君」
「ただいま――白樽ちゃん」
在りし日の姿。
自分の愛した人が其処にはいた。

「結局、私が言っちゃったね、おかえりなさいって…」
言葉を最後まで続けず、その胸に飛び込む。
彼は優しく自分を抱擁してくれた。

「長かった…とっても長かったよ糞樽君…」
彼の胸の中で泣き続ける白樽。
言いたい事は沢山あった。
だけど、今はただ彼の温もりを感じていたかった。
「ごめん、白樽ちゃん。ずっと、長い事待たせちゃったね」
優しく答える糞樽。
白樽は顔を上げてその表情を見つめる。
「うん、それはもういいの。だって、これからはずっと一緒なんだよね?
もう、二度と離れたりはしないんだよね?」
昔した約束。
それは長い時を経て今果たされようとしている。
彼女の言葉に力強く頷いた。
途端に新しい涙が溢れるのを感じた。
「うん、勿論さ。もう二度と、君を離さない」
「糞樽君」
そうして二人はゆっくりと口付けた。
これからあるであろう永遠の時間を共に共有する為に。
その証として。
歩いていく、果てしないその道を。
終わりのない長い道を。
その先に見える沢山の影。
懐かしい、とても懐かしい人達。
また涙が湧き出てくる。
ああ、そうか。
自分は今、どうしょうもなく幸せなのだ。
私の隣で糞樽君が微笑む。
だから私も微笑み返す。
光が私達を祝福してくれる。
その光は私達の大事な仲間。

新しい私達の旅が今始まるのだ。

489 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:46 [ itXMeBDU ]
コンコン。
小さな家の小さな扉を叩く音。
「白樽様〜」
館の主を呼ぶ声。
その声の主はミスラの少女。
中から反応はない。
如何したものかとそっと中を覗くと、彼女はその訳を理解した。
「どうしたんだ?」
隣にいたタルタルの男の子が此方に向かって語りかける。
彼とは小さい頃からずっと一緒の幼馴染だ。
ちょっと言葉は雑な所があるが根は優しい。
「う〜ん、白樽様。寝てるみたい、椅子の上で幸せそうな顔してるよ〜」
見た光景。
夕暮れの中、大きな椅子に座り安らかに目を閉じている白樽様の姿。
「え〜、せっかくお話をもう一回聞こうと思ったのに」
口元を膨らまして不満をのべる。
まったく、子供っぽいのだからと溜息一つ。

「しょうがないでしょう。途中で寝ちゃったラパタが悪いんだから」
「うう、それを言ってくれるなよレナ…」
私たちの名前。
嘗てこの国にいた冒険者で同じ名前だった人がいたらしい。
だけど、私達はその人達には会った事がなかった。

「また、明日にしようよ」
そう言って彼を宥める。
そうすると彼はしょうがないかと言った表情を見せて此方の手を握ってくれた。
「そうだな、帰ろっか」
「うん!」
元気に答えた私。
二人で手を繋ぎ、自分たちの家へと帰っていった。

490 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/06(木) 21:47 [ itXMeBDU ]
|w・`)<あと一回、あと一回だけ更新が残っております。
    報告はそれだけです。

491 名前: dante 投稿日: 2004/05/06(木) 22:07 [ 4vyFlBjU ]
http://www.hamedoricinema.com/kansaienkou/

492 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 22:32 [ uwG0kMmc ]
キタキタキタキタキタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!

493 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 23:23 [ HT1g.5a. ]
待ってくれええええええええええええwwwwwwww
一つだけwwwwwww一つだけ言わせてくれえええええええええwwwwwww



エピ・・・ローグじゃ?(・ω・)

494 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/06(木) 23:26 [ itXMeBDU ]
|w・`;)<あ、やっぱり突っ込まれましたね…。
     お詫びにもう全部アップしちゃいます、一時間以内に…。

495 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/06(木) 23:59 [ oqRlfKWQ ]
リメさん怒涛のラッシュですねー
うpまってま−−っす(゚∀゚)

496 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:12 [ 3zG7MKaM ]
旅。
青年は旅をした。
沢山の場所を歩いた。
沢山の人と出会った。
沢山の事を成し遂げた。

そして今彼がいる場所。
雪の大地。
かつては闇に閉ざされ、忌み嫌われた大地。
そして激しい戦いと想いの宿る場所。
長い長い旅の始まりと言えるスタート地点。
その景色を一望できる小高い丘へと歩を進める。
彼は目の前にある質素な石。
その前に座り込み彼は口を開いた。

旅の話。
自分の見てきたもの、体験してきた事を事細かく語り出す。
何度も繰り返してきた思い出話。
そこには彼しかいないのだけど、まるで目の前に誰かがいる様に語る。
そして今回の旅の最終部分を語り終えて彼は目を閉じた。

思い出す。
自身を神と名乗る者。
此処より更に北にある地の蛮族の長との一騎打ち。
地中深くに存在していたゴブリン達の都。
かつて滅びた大国家の跡。
世界に存在する遺跡。
今も尚この世界の何処かで浮遊している大陸。
そしてそこで戦った古代の民。

世界は何時の時も目まぐるしく動き続けている。
そんな中変わらないものがあった。
それは自分自身。
旅に出てからいったいどれ程の月日が流れたのだろうか。
容姿も旅に出た頃からまったく変わってはいない。
唯一変わったのは髪の色。
かつては綺麗な金色であったが今では白く染まっている。

幾度と無く戦った。
他の知らない誰かの為に。
そうして気付いてしまった。
もう血さえ流れ出る事のない体に。
今の自分は人の形をしているだけのまったく別の存在だった。
死ぬ事さえ許されず、ただひたすらに存在しているだけ。
だが、その存在も今や希薄なものであった。
見つめる自分の掌。
それはうっすらと透けて向こう側が見えている。

一体、俺はどうなってしまうのだろうか。
気を抜くとその中に飲まれてしまいそうになる。
嘗て師が言った言葉。
世界の認識の出来る境界線に立つ自分。
今の俺は間違いなく、その外側を歩いているだろう。
いずれ自分はこの世界から消える。
誰の目にも止まらず、誰の心にも残らず。
果たして、今。
自分の事を知っている者がいるのだろうか。
自分の事を覚えている者がいてくれるのだろうか。
分からなくなる。
俺と言う人が生きてきた人生は一体何だったのか。
何の為に俺は生き続けているのだろうか。
それはやはり罪を償う為なのだろうか。

罪。
決して償う事の出来ない大きな罪。
大切な者に手をかけた愚かな自分。
「ああ…もう、何だか疲れたよ…」
深く落ち込むと何処か漂う感覚が押し寄せる。
ああ、またこの感覚。
まるで巨大な何かに飲まれそうなこの感覚。
身を委ねてしまえば。
きっとこの苦しみから救われるのだろう。
何も考える事なく、ただ永遠を漂うだけの存在となり得るだろう。
だが、其処には何もない。
其処は自分の仲間達がいる場所ではないのだ。
だから必死に留まる。
しがみ付く様に現世へと存在を強く肯定する。

でも。
この世界にいる事が果たしてなんになるのだろうか。
存在自体が希薄となった自分に出来る事などもう無いのではないか。
ただ見ているだけ。
そんな拷問の様な時を、これから先、永遠と過ごすのか。
考えるだけで嫌になった。

そうして俺は切望する。
あの頃の幸せを。
過ぎ去ってしまった大切な時間を。
もう一度と。

「…会いてえ、みんなにもう一度会いてえよ……」
何時の間にか想いは言葉となって吐き出された。
それは叶う事のない夢。
一人の男が悲しみの果てに想像した幻想。
「…俺、もう一人は嫌だ…」
止まらない。
心の底をぶちまけるように言葉を吐く。
だけど、彼に語りかける者など存在せず。
また、悲しむ彼を抱擁する温かい光も其処にはない。

どれだけ時間が立ったのであろう。
そんな悲しみに押しつぶされそうな中。
何かの雫が膝を濡らす。
不意に目から零れたモノ。
それは涙。
こんな自分でもまだ人らしい部分が残っていたのか。
そんな人として当たり前の事を嬉しく想う。
そうして俺は泣き続けた。
本当に涙が枯れそうになる程に。
どれだけの時間そうしていたのか分からない。
体中の力が抜けてその場に寝そべる。
疲れが瞼を下ろし、睡魔を呼んだ。
そうして眠った頃。
彼は光に包まれていた。

497 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:12 [ 3zG7MKaM ]
温かい。
温かいと感じたのは一体何年振りだろう。
意識が漂うような感覚。
何処とも知れぬ場所に俺はいた。

声。
誰かが自分を呼んでいる。
もう、何年も何十年もそんな事はなかったのに。

また声が聞こえる。
それはさっきよりも強くハッキリと。
聞いた事のない声だった。

神秘的で何処か透明感のある声が俺の頭の中に木霊する。
そしてその声は俺にある事を問い掛けた。
それは俺の望みだった。
だから俺は迷わず答えたのだった。

498 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:12 [ 3zG7MKaM ]
意識が覚醒する。
誰かが俺に呼びかけている。
ハッと目を開けると其処には――。

「どうしたんだ、変な顔して?」
視界に映った者。
それは目付きの悪いタルタルの青年。
それは自分の良く知っている仲間の姿だった。
辺りを見回す、此処はルルデの庭。
その噴水前だった。
「え、糞樽…?俺は…え?え?え?」
起こった事態が飲み込めず混乱する。
本当に訳が分からない。
そんな俺を見て溜息を吐く糞樽。
何だか哀れんだ目で此方を見つめている。
「餡刻様〜!!」
俺の名を呼び左腕に抱きつくミスラの少女。
「…糞猫か?お前…本物の糞猫なのか?」
「も〜、何言ってるんですか。あなたの愛しい糞猫ですよ。忘れちゃったんですか!?」
あいた手で目を擦る。
腕に伝わる温もりは確かな者で、目の前の糞猫は確かに実在している。
俺の行動に相変わらず表情を曇らせる糞樽。
これじゃあまるで俺がおかしいみたいだ。
「兄者〜、まさか餡刻様に変な事したんじゃないでしょうね」
「馬鹿、何で俺がそんな事するんだよ!?」
「だって、餡刻様ボ〜っとしてるし何だか変な言葉を呟くんだもん!!」
言い争いを始める二人。
ひどく懐かしい光景。

「餡刻しゃ〜ん」
「餡刻殿〜」
クロウラーの背に乗ったタルタルの少年とエルヴァーンの少女。
赤魔子は俺を見つけてニッコリと微笑み手を振っている。
「獣様、騎芋、赤魔子。そんな…何で、みんな何で…」
目の前に起こっている事。
これが夢なら覚めないでほしかった。
俺が切望し望んだ光景が今目の前にある。
湧き上がる涙。
視界が歪む。
「ど、どうしたんでしゅか餡刻しゃん!?」
「む、何かお辛い事でもありましたかな餡刻殿」
「あ〜、やっぱり兄者が何か言ったんだー!!」
「馬鹿、俺は何も言ってねえって!?」

「おうおう、如何したんだこんな所に集まってさ」
此方の騒ぎに興味をもって現れたエルヴァーンの青年。
「通風ちんどうしたにゃ?」
その隣にいるミスラの少女。
後ろから次々にやってくる人達。
「お、何か面白い事でもあったんスか?」
「なんやお祭りでもあるんか〜?」
「あ〜ら、餡子ちゃんに慰めてほしい子がいるって本当?」
「男の癖に涙を見せるとは女々しいぞ餡刻殿」
「激しく姫に同意」
「糞樽君、如何したんですかこの騒ぎは?」

「み、みんな…」
もう、涙が溢れすぎて前が見えない。
こんなにも、こんなにも嬉しい事があるなんて。

「うは、何これ。みんなで集まって何してるの?」
「糞樽、状況を分かりやすく簡潔に説明しなさい」
そうして姿を表した二人のヒューム。

旅をした。
長い長い時を一人で歩んできた。
その旅の始まりで分かれた二人の仲間がいた。
どんなに探しても会えなかった二人。
そう、それは――。
「…内藤…臼姫…」

あの日別れた姿のまま。
何時のもと変わらない顔をして目の前にいる。
「おう、どうしたんだ餡刻。何で泣いてるのか俺様分からないんだけど?」
「どうせ、糞樽が何かやらかしたんでしょう。今更じゃない」
「ちょっとまて、何で俺が!?」
「あ〜、やっぱり兄者…」
何時もの騒動が起こる。
仲間達がふざけあい、皆笑っている。
赤魔子と獣様が俺を心配して慰めてくれる。
赤魔子に対抗意識を燃やしたのか糞猫も積極的に俺の元へと近寄る。

そうして少し落ち着いたところで内藤が声を上げた。
「お〜し、せっかくみんな集まったんだ。たまには全員で冒険してみないか?」
「あら内藤、たまには良い事言うわね」
「俺様の素敵頭脳があれば当然!!」
「へっ、ピクニックかっつーの…」
星となった糞樽。
これもまた何時も通り。

糞猫が此方に手を伸ばす。
赤魔子と獣様も手を伸ばす。

「うし、行くか!」
そう言って手を掴む。

旅が始まる。
俺達の、新しい旅が。
沢山の世界の一つの物語として。
沢山の想いを込めて。

さあ、出かけよう。

――冒険はこれからだ――

499 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:18 [ 3zG7MKaM ]
|w・`)<え〜と…これにてリメイク完全版を終了とさせて頂きます。
    早いもので最初のタルナと死人の直しを書いてからもう四ヶ月程立っていますね。
    書いた総ページ数も約400Pとえらい事になってました。
    
    此処まで自分が書き続けたのは好きで書いていたからと
    お話を読んでくれた皆様の感想があったからだと思います。
    本当に有難うございました。
    
    これらからの物語はリメイクとは違った内藤達のお話になります。
    〜物語や外伝に近い形式で書くつもりです。
    とりあえずは書きたいネタが沢山あるので、これからもどうか宜しくお願いします。

    それでは―――!!。

500 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:26 [ GFGALR2M ]
丁度折り返し地点。
500get。

お疲れ。そして宜しく。

501 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 00:28 [ 4P5REe0E ]
今までずっと読ませて貰ってました。長い間執筆ご苦労様でした〜。
どうしてもリメさんに一言言いたい

最高でした(つ-T)
これからも期待しながら読ませてもらいたいと思います。是非がんばってくださいね!
読み終わった後の余韻に浸りつつ、、、

502 名前: 493 投稿日: 2004/05/07(金) 00:30 [ PiS9WJrY ]
やったー俺の突っ込みのおかげで寝る前に全部見れたwwwwwwwwヽ(゚∀゚)ノ

ともあれwwwwwwwwwwwww
おwwwつwwwかwwwれwwwさwwwまwwwでwwwしwwwたwww!www!wwwwwww楽しかったZeeeeewwwwwwww

503 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 01:07 [ ylTyp.eY ]
御疲れ様でした。
そしてこれからもよろしくおねがいします。



みwwwwなwwwwぎってwwwきwwwwたwwwぜぇぇぇwwwww

504 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 01:56 [ rQZG6f32 ]
お疲れ様でした、また次の作品もがんがってくださいー

505 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 11:27 [ W0RxPR3Y ]
リメイクの人、もwwwwうwwwwさwwwwいwwwwこwwwwうwwwwだぜwwwwwwwwwww

506 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 11:52 [ aLkW0nW6 ]
目からウォタガ3----
お疲れ様ーーーー!!!本当にお疲れ様ーーー!!!!!!!!
そしてありがとうありがとう。何故か知らんけどありがとう!!
これからも頑張った下さいよーーーーーーーーーーー

507 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 18:14 [ hY2eRCFg ]
チクショウ・・・・・・
このスレ久々にみにきたんだが
ウワァァァァァァァァァァァァァン・゚・(ノд`)・゚・
1月から長い間乙!GJ!!一気に全部読ましてもらったさ!!!!!
袖がまだ湿ってるぞチクショウ・・・・・
・゚・(ノд`)・゚・

508 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 18:46 [ UXgKUG8g ]
お疲れ様でした。
有り難う御座いました。
最高でした。

・゚・(ノД`)・゚・

。゜(゚´Д`゚)゜。

509 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 19:43 [ YfNSwWKQ ]
良すぎる・・・。・゚・(ノд`)・゚・。



こらからもお願いします。゜(゚´Д`゚)゜。

510 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 22:06 [ 1aBgucvU ]
うおおおおおおおおおおおお!・゚・(ノД`)・゚・
最高、最高です!
本当におつかれさまでしたー!!!

511 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/07(金) 22:29 [ 0EeiP3XM ]
Godjob!!!!!!wwwwwwwwwwwww
このスレを見るために生きてるようなもんだ。゜(゚´Д`゚)゜。

次回作も期待してまつ!!!!お疲れ様ですた!

512 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/08(土) 00:43 [ HBzF/txY ]
お疲れさまです!!!!!!!!!!!1
闇王の所で通風の前に猫狩が出てきたときに水エレ大量ポップwwwwwwwww
あれ、画面が見えないよ?。゜(゚´Д`゚)゜。
GJwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

513 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/08(土) 03:00 [ X2aASwug ]
ああ、とうとう終わってしまったんだなぁ・・・
長い間ずっと読んできただけに愛着があって、故にちょっと寂しい気もするけど・・・

ともあれお疲れ様でした!
今まで本当に楽しく読ませていただきました。
ここで読んだ話はおれにとってとても大切な思い出になりそうです。

そしてこれからのお話にも激しく期待してます!
できればこのスレも永遠に続いてほしいよ(;´Д⊂)

514 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/08(土) 07:15 [ SgLzdQDQ ]
餡刻が旅に出た後なにがあったんだ〜〜〜〜〜〜〜リメイク最高!(;´Д⊂)

515 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/08(土) 21:33 [ .ZHbFfpY ]
>>作者さん
GGGGGGGGGGJJJJJJJJJJJJJJJJ!!!!!
ありがとねえ〜面白かった。

でもさ・・・・・生き残った餡子と娼館子(は力使い果たして死んだのかな?)の外伝無いよね??
完結させて・・・・・お願い・・・・・・

>>514
外伝嫁〜
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/4206/wwwwwkakuri02.html#464

516 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/08(土) 22:50 [ SgLzdQDQ ]
>>515
ありがとー、こっちも泣いた(;´Д⊂)

517 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/08(土) 23:01 [ qDVq0t.M ]
沢山の感想、有難うございます。
自分にとって皆さんからの声は掛け替えのないものです。

とりあえず、0時。
早いですが新作を一つ投入します。
どうかごゆるりとお待ちくださいませ。

518 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:00 [ oTh94ffU ]
此処は音の無い空間。
此処は暗くて冷たい場所。
此処は何処だか分からない。
言える事は何も無い世界。

目の前に小さな光が見える。
其処は僕が居る現実。

これは夢。
時々、最近は毎日見る夢。

あれ、だけど。
湧き上がる泉の様に思いが溢れる。
僕は如何して此処に居るのだろう。
そうして自問自答する。
どっちが本当の居るべき世界なのだろう。

これは夢。
そう思っている。
だけど。

夢が夢で、現実が現実だなんて誰が決めたのだろうか。
もしかしたら、現実が夢で、夢が現実なのかもしれない。
だけど僕は現実を現実として捉える。
大事なモノがあるから。
この何も無い世界に居る訳にはいかなかった。

だから帰ろう。
何時もの世界へ。
そうして僕は目の前の光に手を伸ばしたのだった。

519 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:00 [ oTh94ffU ]
目が覚めれば見慣れた天井。
まだ眠気が残っている気だるい体。
自分は何か夢を見ていた気がする。
思い出そうとするが、一度忘れた夢は中々容易に思い出せるもんじゃない。
だから、この事はキッパリと忘れる事にした。

体を強引に動かして起き上がり窓を開ける。
新鮮な朝の空気が部屋に染み渡り、背筋をピンと伸ばした。
「よし、今日も一日頑張ろう!」

空がまだほんのりと薄暗い秋の早朝。
料理に必要な水を汲みに桶を持ち、扉を開ける。
風が吹いた。
冷たい風。
それが僕の眠気を完全に遠くへと吹き飛ばしてくれた。
時折見せる秋の終わり。
冷たい風に冬の到来を知らされつつ、軽く肩を震わせる。
僕は急いで井戸から水を汲み、家へと戻った。

トントンと、すっかりと慣れた手つきで包丁を扱う。
最初の頃は料理の度に傷だらけになる自分が嫌になったが、今ではすっかりこの通り、手馴れたものだ。
人間、何事も経験だなと思いながら朝食を用意する。
クリスタルの調理法と言うのもあるが、それはきっと僕なんかには関係ない事なんだろう。

出来上がったのは草汁と野兎のグリル。
少し質素だが仕方がない、僕の家は裕福ではないのだから。
出来上がった料理をトレイに載せて、僕は隣の部屋へと向かった。

料理は二人分。
僕と、母さんの分だ。
扉を軽くノックする。
すぐさま返事が聞こえて僕は扉を開けた。

「おはよう、餡刻」
「おはよう、母さん」

小さなベッドに横たわる母。
ゆっくりと起き上がると、弱々しくもニッコリと優しく微笑んでくれた。

520 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:01 [ oTh94ffU ]
母さんは病気だった。
女手一つで僕を此処まで育てるのは、大変な苦労だっただろう。
病気になったのも、きっと無理をし過ぎたからだと思う。

父はいなかった。
別に死別したという訳ではない。
只、単純に居なかっただけだ。
僕は父の顔さえ知らない。
知っている事は全部母さんから聞いた話の中だけ…。

母さんが父さんと出会ったのはクリスタル戦争の真っ只中だったらしい。
当時、黒魔道士だった母さんは多数の敵に囲まれて絶体絶命の状況にあった。
仲間も倒れ、自分一人になった時、母は死を覚悟した。
だけど、そんな状況で母さんを助けたのが父さんだった。

辛い戦いの日々。
父と母はそんな戦争の中、出会い、そして愛しあった。
そうした二人の間に生まれたのが僕だった。

母は父の話をする時。
とても嬉しそうに、幸せそうな顔で僕に話をする。
話での父はとても聡明で素晴らしい人物だった。

母さんは言う。
父は僕が生まれた後、旅に出たらしい。
それはとても大切な用で、とても時間のかかる仕事なのだと教えてくれた。
だけど、まったく音沙汰がないのは如何してだろうか。
何で父はこの場にいないだろう。
もしかしたら、父さんはもう…。

頭を振って考えを霧散する。
ともかく、僕は母さんを守らなくてはいけない。
それが今の自分が一番にやるべき事だった。

質素な料理を食べながら軽い雑談を繰り返す。
そして、朝の短い食事を終えると僕は洗い物を済ませ、何時もの様に仕事場へと向かうのであった。

521 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:01 [ oTh94ffU ]
夕刻。
空一面をオレンジ色に染め上げる時間。
時間の変化を知る事の出来ないツェールン鉱山内部に、仕事の休憩時間を知らせる合図が鳴り響いた。

合図に集中力が途切れ、ドッと疲れが押し寄せる。
滲み出る汗をタオルで拭う。
子供が背負うには不釣合いなツルハシを背負い、今日掘れた鉱石を親方の元へと運ぶ。
本来、僕はまだ働かせてもらえる様な年齢でない。
特別に参加させてもらっている訳だ。
そのために、僕の仕事の時間は此処までだった。

袋に入った今日の収入。
一枚一枚確かめながら、出口へと歩を進める。
外に出る、僕は夕焼けの眩しさに目を細めた。
すると――。

「餡刻君――」

聞きなれた声に呼ばれて振り向く。
名前を呼んだ先にはミスラの少女。
元気に手を振って、僕に近づいてくる。

「お疲れ様、餡刻君。何時も偉いね」
ニッコリと笑顔を見せる少女。

彼女の名前は黒猫。
ミスラらしからぬクリクリとした丸い目。
綺麗に切りそろえられたショートカット。
紫色の綺麗な髪の毛が特徴的な女の子。
他の子達からは仲間外れの僕だけど、彼女とその家族だけは何故か優しく接してくれている。
そう、彼女は僕のたった一人の友達だった。

522 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:01 [ oTh94ffU ]
「うん、僕が頑張らないとお母さんが困るからね。
黒猫も何時も通り小父さんにお弁当を届けに来たんだね」
「うん、そうだよ」
手に持った大きなバスケットを前に出し元気良く答える。
そこからは、ほんのりと良い匂いが漂っていた。
「今日のお弁当はね、私も手伝ったんだ」
「へえ、凄いじゃないか」
褒め言葉にペロっと舌を出して照れる黒猫。
「でも、餡刻君見たいに上手には出来ないな…」
コロコロと表情を変え、今度は少し拗ねた顔。
ジッと僕を見つめる。
「大丈夫だよ、僕だって最初はそりゃあもうって位失敗の連続だったんだから。
黒猫は手先が器用な分頑張れば、あっという間に僕なんかよりも上手になるよ」
「本当?餡刻君より上手に出来るかな?」
「うん、きっと出来るさ」
微笑んで答えた。

「よ〜し、頑張るぞ!」
握り拳の片手を勢い良く上げて決意を見せる。
僕はそんな黒猫の行動を可笑しく思い少しだけ苦笑した。

「えっと、それでね餡刻君…」
急に改まったような声で喋り出す黒猫。
何だか視線を忙しなく動かし、どこか焦るような表情をしている。
「どうしたの?」
数秒の間。
僕の言葉に意を決したのか、言葉の続きを話す黒猫。
「…えっとね…お弁当の事何だけど、もし良かったら…餡刻君の分も一緒に作ってあげようかな〜って…」
「え?」
突然の申し出に驚く。
指をモジモジさせながら言葉を続ける。
「…ええっと、ほら、一人作るのも二人作るのも一緒の様なものだし…。
餡刻君はすっごい頑張ってるってお父さんがいつも褒めてたし…。
いっぱいお弁当を作った方がお料理上手になるのも早いんじゃないのかな〜って……」
ああ、そうか。
早い話が料理の試食役を受けてほしいという事なのだろう。
「…駄目、かな?」
遠慮がちな上目遣いで僕を見る。
その申し出はとても嬉しいものだった。
だけど――。

「でも悪いよ、やっぱり手間はかかるんだし…。
それに小母さんも困るんじゃないかな、毎回僕の分のお弁当も作ってたら…」
「そんな事ないよ!お母さん、餡刻君にお弁当を作る事には賛成してくれたんもん!」
「え…、もう了解取ってあるの?」
「え、あ、それは…。ええと…あううう…と、とにかく作る事に関しては問題ないの!」
強引に押し切ろうとする。
「でもな〜…」
「むむむむむ…」
精一杯凄みを見せる黒猫。
そんな必死の表情の筈なのだが、何処か可愛く、可笑しく思ってしまう。
しょうがない、と溜息を一つ。

「…分かった、負けたよ黒猫。君の料理の試食役を引き受けよう」
トンと自分の胸を叩いて答える。
途端に黒猫は花が咲いたかのように笑顔を見せた。

「でも、本当に大丈夫?」
「ううん、いいの。私、料理するの好きだから」
そう言って元気良く答える。
分かれる際、夕焼けの所為だろうか、黒猫の顔がほんのりと赤く見えた。

523 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:02 [ oTh94ffU ]
次の日から黒猫は言った通りお弁当を作って持ってきてくれた。
味の方は予想していたような不味いものではなく、十分に僕を満足させる味。
感想が気になるのか真剣な眼差しを送る黒猫。
素直な感想を述べ褒めると、大きな耳をピコピコと動かして照れて見せる。
その時黒猫の小父さんは、何故か寂しそうに隅っこでお弁当を食べていた。

それから――。
毎日の様にお弁当を届ける黒猫。
もうそれがすっかりと日課になった様だ。
昼になると僕と小父さんにお弁当を届けに鉱山区へと足を運ぶ。
最近では僕の仕事が終わる夕刻時にも、小父さんのついでだからとお弁当を持ってきてくれる。
その度に、小父さんは寂しそうな表情を浮かべ、近寄った黒猫に抱き付き涙を流す。
如何してそんな行動を取るのか良く分からないけど、小父さんが黒猫の事をとても大切に思っている事は知っていたので深くは考えなかった。

大人には色々な事情があって複雑なんだなと思う事で僕は解決している。

黒猫の料理の腕は日々上昇していった。
一ヶ月程経った頃には僕なんかよりもずっと上手になっていた。
ちょっぴり悔しい感もあったけど、彼女の喜んだ笑顔を見ているとそんな事は如何でもいい事だと思えた。

黒猫がお弁当を持ってきてくれるようになってから。
僕の分の食費は全て母さんに回す事が出来るようになった。
これはとても嬉しい事だ。
勿論、黒猫の親切心にも感謝の念が尽きない。
最近は母さんの調子も良い。
僕にとっては良い事尽くめだった。

風が吹く。
冬の兆しを見せる風が世界を駆け抜ける。
季節は十一月後半に差し掛かっていた。

今日もお弁当を持ってきた黒猫。
もうすっかりお馴染みとなった光景。
愛想の良い黒猫は仕事仲間からも人気があり、よく声を掛けられている。
今日は小母さんも同伴らしい。
小母さんの姿を見ると、小父さんはまるで子供の様にはしゃいで抱きつく。
仕事仲間はそんな小父さんの姿を見て笑う。
親方も小母さんには弱いのか、何時もと違い柔らかい表情を作っている。
笑顔のある職場。
そんな幸せの光景の中。
僕と黒猫は皆と一緒になって笑っていた。

そう、僕はこの時。
掛け替えのない幸せの中にいたんだ。


そうして。
紅葉の木々もすっかりと枯れ落ち、吐く息が白く染まる季節。
本格的な冬がやってきた。

524 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:02 [ oTh94ffU ]
夢。
今、僕は夢の中にいる。
最近僕はあの夢を見ない。
何処か別の世界で漂う様なあの夢。
起きている時はその夢がある事さえ覚えていない僕だけど。
こうして夢を見ている僕は、何時もその夢があった事を思い出す。
見なくなった夢。
行かなくなった場所の世界。
だけど特に悲しく思う事はない。
僕としてもあの場所には行きたくなかったから。
だってあそこには、黒猫も母さんも居ないから。
そんな寂しい世界に一人だけで居るなんて夢でも見たくなかったから。

だから、迷う必要なんて何処にもなかった。

525 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/09(日) 00:05 [ oTh94ffU ]
取りあえず、此処までです。
このお話は構成上。
前、中、後と別れていますので後二回の更新で終わります。

それでは――。
(現在笑い系も同時執筆中)

526 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 02:19 [ ubCyryJE ]
新作きたーーw
まだ始まったばっかりでなんとも言えませんが期待してまっちょります

527 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 17:02 [ ZBzgpkT2 ]
笑い系もですかwwwwwwwww
楽しみにしてますwwwwwwww
でも、一つだけ言わせてwwwwwwwwwwww
小父さんと小母さんの誤字が凄く気になったwwwwwwwwwwww
ハッΣ(゚д゚lll)両親はタルタルかっ

528 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/09(日) 18:09 [ CQP/Aaks ]
小父さん→他所の大人の男性
叔父さん→父母の弟
伯父さん→父母の兄

だから黒猫の親父さんて事であってるんでない?

529 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/11(火) 20:53 [ ieVsZMrs ]
|ヽ∧
|・ω・).。oO( 待機・・・ )
| :|ヽ
|))
""" """ """

530 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 02:45 [ zPxd8heo ]
すまん、ちょっと萌えたwwwwwwwwwwwwwwww

531 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:00 [ 6I1muMds ]
ある冬の寒い日。
僕は普段は行く事のない商業区へと足を運んでいた。
理由は黒猫へのお礼を込めたプレゼントを買う為だ。
今日の僕は懐が何時もより暖かい。
昨日、運良く黒鉄鉱を三つも掘り当てたからだ。
普段ムッスリとしている親方もその事には大そう喜んでくれた。

それにしても…。
橋の上で思い悩む。
肝心で基本、且つ最も重要な事を忘れていた。

黒猫が喜ぶプレゼントは何なのだろう。
あまりにも単純な問題に悩む、自分に嘆息する。
実際の所、まったく宛がない訳ではない。
彼女の場合、感謝を込めた贈り物ならばそれこそ何でも喜んで受け取ってくれるだろう。
だがこの場合、その謙虚な構えが逆に悩みの種となっていた。

「…せっかくのプレゼントなんだから。
やっぱり本当に喜ぶ物を贈りたいよな〜…」
考えれば考えるほど泥沼にはまっていく。
元々、男の僕に女の子の好みが理解出来るはずも無い。
悩み募る時間だけが無駄に過ぎていく。
そんな途方に暮れていると…。
「おい、お前」
声がした。
振り向いてみたが誰も居ない。
疑問を浮かべるも視線を戻す。
「こら、無視するな!」
もう一度視線を向ける。
やっぱり誰も居ない。
疲れているのだろうか幻聴が聞こえるようだ。
「下!下を見ろ!て言うかワザとやってるんじゃないだろうな?」
そんなつもりは無かったんだけどな。
視線を下にしてみると、其処にはタルタルの少年の姿があった。

532 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:01 [ 6I1muMds ]
「何か必死に悩んでいたみたいだからな。興味が沸いて声をかけてみた」
「度胸あるんだね君」
「そういうもんなのか?」
そう言って笑う男の子。
まったく知らない子なのだが、こうして互いに話あっている。
それは彼自身が少なからずそういった雰囲気を持っているからなのだろう。
だが、友達の少ない僕からしてみれば、ひどく不思議な光景には変わりなかった。
「んで、愛する彼女にプレゼントを贈りたいって訳か」
にやにやした顔で此方を見る。
「…って、本当に話を聞いてたの君?黒猫は友達で、彼女の料理に関しては試食役!」
「へぇー」
ヤレヤレと手を上げて、大きな頭を振るう。
「――よし、その悩み、俺に任せろ!」
勢いよく立ち上がるその表情、頼もしいものだ。
「君はこういう事に詳しいのかい?」
期待を込めて言う。
「いや、全然。妹はいるがまだてんでガキだからな」
僕の期待は一瞬にして崩れ去る。
「…それじゃあ、良い物が沢山、安く売っている場所を知ってるとか?」
「お前、以外と言葉に似合わず欲張りだな…。
まあ、この辺を歩くのは初めてだが何となく分かるぜ」
「…」
「んだよ、その疑いの眼差しは…」
「別に〜…」
「まあ、いいや。物に困った時は競売、これが基本だぜ!」
小さな腕を振り上げて僕の腕を掴む。
何だか強引な展開の気もしないではないが、僕自身悪い気はしなかったので、そのまま流される事にした。

533 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:01 [ 6I1muMds ]
「話を変えようか、お前はその女の事をどう思っているんだ?」
競売へと続く道則の中、そんな話題が挙がった。
「どうって、んー…そんな事、考えた事もなかったからなぁ…」
「へぇー、へぇー、へぇー」
顔を覗きながら、含みのある声を出す。
とりあえず、彼のこういう所は一々気にしたら身が持たないと短い時間の間で理解している。
要は無視。
それが、僕自身が出した最も効率的な答えだ。

それにしても、…僕自身が黒猫をどう思っているか…。
考えた事もなかった。

その所為だろうか、深く考えてしまう。
別に如何とでも言う言葉でもなかった筈だ。
聞き流してしまえば直に忘れて消えいくものにしか過ぎなかったであろう。
だがしかし、僕はその言葉の答えを求めたのだ。

黒猫。
僕のたった一人の大事な友達で。
しっかりしているようで意外と抜けた所があって。
他人を思いやる気持ちは人一倍、でも譲れない事には頑固な一面もあって。
僕は、そんな黒猫をどう思っているのだろう…。
「お〜い、どうしたんだ急にボケーっとしてさ」
「へっ?」
深く考えすぎた所為か、どうやらボーっとしていたらしい。
「い、いや!何でも無いよ…うん、何でもない!」
僕は…、一体何を考えていたのだろう。
彼の言葉に水をかけられたのか、衝動の様に湧き上がった想いは既に薄れていた。

534 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:02 [ 6I1muMds ]
夜。
冬の日の入りは早い。
黒の帳が空に一面に掛かる時間。
今だ喝采を見せる競売から歩いてくる二人の若者の姿。

「何とか競り落とせたな」
「君のおかげだよ、本当に有難う」
自分だけではこんなにスムーズに事が進まなかったであろう。
感謝の想いを込めて頭を下げる。
「よ、よしてくれよ。まあ、なんだ、俺としても中々面白かったからな」
照れる少年。
素直な反応には弱いのか、吐く言葉に対して意外な一面が見れた。

プレゼントは黒猫の誕生石で作られたピアスに決まった。
黒猫の誕生石、アメジスト。
この石の象徴する意味は誠実と心の平和。
僕が言うのも何だが黒猫にピッタリの言葉だと思う。
だけど、このプレゼントを考えたのは彼だった。
『ふむふむ、その女の誕生日は二月ね。じゃあ、これを渡しておきな』
そう言って彼が進めたのがこのピアスだ。
最初、彼の言動からは考えもしない知識に、尊敬の念より先に笑いが込み上げてきた。
悪いとは思ったが、僕には何故かとても可笑しい事に思えてしまったからだ。

「それじゃな、お前も頑張れよ!」
彼と出会った橋の上での別れの言葉。
「何を頑張るか分からないけど頑張るよ」
何だか長いようで、あっという間の様な時間だった。
楽しい時が流れるのは早い。
しかし、今日初めて出会った見ず知らずの少年とそんな時間を過ごすとは夢にも思わなかった。

「お前、中々面白い奴だったぞ」
「そう言う君もね」
その言葉をタルタルの少年は背を向けて走り出す。
餡刻は、その小さな背中が見えなくなるまで彼を見送っていた。

別れて気が付く。
彼の名前を聞いていなかった事に。
振り向いてみたがその姿が見える筈も無く。
僕は心の中でもう一度彼に感謝した。
初めて出来た、同性の友達に対しての感謝の言葉を――。

535 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:03 [ 6I1muMds ]
「おば様、料理出来ましたよ」
ミスラの少女が扉を開ける。
此方が起きている事を確認すると笑顔で歩を進めていく。
その手に持ったトレイの上には、美味しそうな料理が良い匂いを携えて乗せられている。
何時もとは違った光景に、彼女は新鮮味を覚えていた。

「ありがとう黒猫ちゃん」
「いえいえ、私が好きでやっている事ですから、気にしないで下さい。
こんな私でも役に立てるなら何時でも呼んでください」
少女の微笑み。
その心遣いは感謝の極みだった。
しかし、そんな感謝の中、彼女の表情は何処か暗い。
「おば様?」
気になって言葉をかける。
もしかしたら自分の料理が口に合わなかったのかもしれないと。
色々な不安点を頭で急速に展開しながら近寄る。
「ううん、何でもないのよ黒猫ちゃん。本当に…何でもないの」
「でも、おば様――」
近寄った黒猫を無言で抱きしめた。

「あ、あの、如何したんですか?何処か具合でも悪いんですか?」
突然の事に驚き言葉をかける。
「ううん。違うの、違うのよ、黒猫ちゃん…」
そう言って促す。
枯れ木の様に細くなった腕。
頬骨が軽く浮き上がった顔。
一体、彼女はどれだけの苦しみを得ていたのか自分には理解出来ない。
だから、自分を抱擁する事で何かが埋まると言うのならと、彼女は抱擁を受け続けた。
流れていく静寂の時間の終わり。
抱擁されていた腕が解ける。
「――餡刻の事、宜しくお願いね」
そして突然の頼み事。
「え?」
言葉の意味を理解する事は出来た。
だが、その事柄を頼む意味は理解出来ない。
そんな黒猫の内心を読むように言葉を続ける。
「あの子には、幸せになってほしいから…。それが、私とあの人の望みなのだから。
その為には黒猫ちゃん、あなたの助けが如何しても必要だから。だから…」
頭を下げる彼女。
そんな餡刻の母の想いを刹那的に垣間見る。
その瞳の奥には深い悲しみが湛えられていて、黒猫には、その悲しみの理由を理解する事は出来なかった。
だから。

「…はい、餡刻君の事は任せてください」
彼女は彼女なりの、返せる精一杯の言葉を返すことにした。

536 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:03 [ 6I1muMds ]
「だけど――」
「だけど?」
「それは、おば様に言われたからじゃありません。私がそうしたいと思ったからするんです。
ですから、顔を上げてください、お願いします…」
ゆっくりと顔を上げる母。
黒猫と目が合う。
少女の瞳は真直ぐで、とても純粋なものだった。

「有難うね、黒猫ちゃん」
優しくはにかむ。
「いいえ、おば様。困った時はお互い様ですよ」
「ふふっ、黒猫ちゃんは餡刻の事がよっぽど好きなのね」
「え?え、え、え、ええええ〜!!」
見て取れる程に顔が赤く染まっていく黒猫。
「あらあら」
「ち、違います!えっと、その…好きとか嫌いとかじゃなくてですね。
餡刻君の事は好きですけれど、それはお友達として好き言う意味で…。
よろしく頼まれるのも仲良くするって事でそれ以上は、ええと…。
ああ、もう…私、自分で何を言っているか分からないですよ…」
そんな様子をクスクスと笑う母。
そんな少女の初心な一面を微笑みながら見つめていた。

「ただいま〜」
「ほら、噂をすれば王子様が帰ってきたわよ」
「ええええ!?」
「黒猫、遅くまで有難うな。所で王子様って何の事だ?」
「うわ〜、うわ〜、何でもない。何でもないんだよ餡刻君!」
引きつった笑みを浮かべる黒猫。
何だか状況が飲み込めず頭にハテナマークを浮かべる餡刻。
そんな二人を見て微笑む母親。

それは、彼女に取って最後で、最高の時間だったのかもしれない。

537 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:04 [ 6I1muMds ]
「ありがとう、餡刻君。態々付いて来てくれて」
「母さんの面倒を見てくれたんだから、これ位容易い事さ。
それに、か弱い女の子をこんな夜遅くに一人で歩かせたら男として失格だよ」
突然、無邪気に笑い出す。
「あれ、僕、何か変な事言った?」
戸惑う表情の餡刻。
口元に手を当て、首を横に振るう黒猫。
「ううん、餡刻君が私をか弱い女の子だって見てくれてた事がね、ちょっとだけ可笑しかったの」
「う…」
何だかよく分からないが無性に恥ずかしい思い。
餡刻は別の事を考えようと、必死に頭を悩ませる。
そうしてポケットに入っている小さな箱に気が付いた。

プレゼント。
見ず知らずの、お人よしなタルタルの少年と一緒に買った黒猫への感謝の想い。
今のうちに渡しておくのが得策であろう。
僕は、箱をポケットから取り出そうとする。
その時、黒猫と僕の視線が合った。
「?」
「…」
何か言いたそうな自分の仕草、それを気付かれないように地面へと視線を落とす。
何故かもどかしく無言になる。
やっぱり、いきなり渡すのは如何なんだろうかと自問自答。
僕はピアスの入った小箱をもう一度ポケットの奥に押し込んだ。
感謝の言葉と共に手渡す。
たったそれだけの事だが、何故かとても勇気のいる事のように思えたからだ。

538 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:04 [ 6I1muMds ]
「うわあ、綺麗だね餡刻君」
空を見上げて声を漏らす。
自分もつられて空を仰ぐ、黒色の中に散りばめられた白い光達。
「この辺はあまり星が見えないって言うけど、結構捨てたもんじゃないよね」
「え、お星様がもっと一杯見える所があるの?」
「そりゃあ、そうさ。ウィンダスだと空一面に星が広がってるらしいよ」
「凄いね、何時か見てみたい」
「見れるさ、大きくなれば旅行として行けない事もないし。
その頃には、きっと黒猫の事だから頼れる彼氏が出来てると思う。
二人で長旅ってのも良いんじゃないかな?」
何故か悲しそうな瞳をする黒猫。
「黒猫が好きになる男の子はきっと幸せになれるよ」
何故だろうか自分の言葉がひどく胸に突き刺さる。
押し黙って俯く黒猫は、大きな耳はシュンと垂れ下げていた。
「…黒猫?」
会話が途切れる。
それと共に辺りの静けさが夜の闇を濃厚に伝えていく。
そんな中、思い切ったように黒猫は顔を上げると言葉を出した。
「…餡刻君、あのね…あのね、私――」

思えば。
この時が僕にとっての運命の分かれ目だったのかもしれない。
人生とは選択肢の連続だ。
例えば、自分の今日の一日を振り返って見る。
その中で自分はどれだけの可能性があったであろう。
そして、人は必ずしも最良の道を選ぶ訳ではないのだ。

「餡刻君、何処行くの?」
不意に湧き上がった衝動が僕を焚きつける。
頭に過ぎった大きな不安、それが僕の足を走らせる。
自分は何故、走っているのか、こんなにも焦っているのか理解はしていない。
だけど、そうしなくちゃいけない。
そんな想いが僕の体を動かしていた。

遠くに黒猫の声が聞こえる。
心配そうに僕を呼ぶ声が。
だが、今の僕はその言葉に止まる訳にはいかなかった。

539 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:05 [ 6I1muMds ]
息が切れる。
一体、どれだけの速度で走っていたのだろう。
肩は上下に動き、乱れた息は整えるのに精一杯。
頭の中への酸素が明らかに足りない。
それほどまでに必死になって僕は自分の家へと戻っていた。

そして辿り着いた家の前。
一人の男性が立っている。
見た事のない人だった。

全身黒尽くめの鎧。
背中には身体に不釣合いな程の大きな黒い剣を携えている。
傍目に見れば近寄りがたい人物だろう。
だけど、僕は恐れる事などせず歩を進めた。
だって、僕にはこの人が誰だか直に分かったから。
男の前に立つ。
すると男は僕をそっと抱きしめた。

「…父さん…父さん何だよね?」
遠慮がちに言葉を放つ。
男は無言で首を縦に振って答えた。
「父さん、帰って来てくれたんだ…。母さん、ずっと心配していたんだよ、待ってたんだよ…」
何だか目元が熱い。
だけど、そんな事は気にしない。
これから始まる時間を考えれば、どうって事のないものだ。
だけど。
父は僕のそんな気持ちを他所に悲しい目で見つめている。
「…どうしたの…父さん?」
次の瞬間、僕は急な睡魔に襲われていた。

540 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/12(水) 17:05 [ 6I1muMds ]
倒れる餡刻。
そんな彼をそっと受け止め、抱きかかえる。
「餡刻、もしもお前がすがるものを無くした時。
全てに絶望し、耐えられない苦しみに己を投げ出したくなった時。
俺が今から言う場所へと行くがよい、そこは――」
(何言ってるの父さん…分かんないよ…僕、ちっとも分からないよ…)
「願わくば、お前にはお前の人生があらん事を…。
俺と同じ道を辿らん事を…切に、願う――」
自分のベッドに寝かされると背を向ける。
離れていく父の背中。
意識の途切れる最後の瞬間まで、僕はそれを眺めていた。

「俺は行かなくちゃ行けない…」
(何言ってるの父さん…。それよりも母さんの所へ行こうよ。母さん、ずっと父さんの事待ってたんだよ…)
だが、無常にも言葉は出ない。
(待ってよ、父さん…父さん!!)
想いは届く事無く。
ただ、言霊の様に言葉だけが自分の中で木霊していた。

そして――。

それは、その日の朝。
何時までも目を覚まさない母。
幸せの終わり。
幸せの日々は長くは続かない。
どんな事にも終わりがある。
幼い少年は物事の終わりを理解したのだった。

541 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 18:45 [ cZhhW8tI ]
GGGGGGGGGGJJJJJJJJJJJJJJ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1

542 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 22:39 [ uEOmPV2Y ]
待ってwwww
このタイミングで止めないでwwwww
続き気になって寝れないwwwwwwwww
起きてろ?www無理wwwwwサポ寝不足wwww

543 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/12(水) 22:43 [ UbPmE2HI ]
頑張って見ます…。
大まかな部分は書き終わってるので後は埋めの作業ですね。
問題は、その埋めが大変だったり…。
まあ、遅くとも明日には完結させる事にします。


餡刻、赤魔子辺りの特別設定はキャラ紹介見たいに軽く書いておいた方が良いかな…。

544 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/12(水) 23:11 [ sHMm.Jow ]
下がり過ぎage!!

545 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/14(金) 05:09 [ XajgCiSc ]
 むう、裏世界の設定と、リメ氏の「闇の王」の捕らえ方が
なんつーか、似てる気がするww


新クエスト「稀なる客人」もイイぞ!

546 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/14(金) 12:03 [ HIkoJF1Y ]
まだ・・・?

547 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/14(金) 16:19 [ eg8no3uI ]
age房

548 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/14(金) 22:38 [ WCeQMgto ]
あんまり怖くない話

不動産屋で働く友人から聞いた話。

その友人が担当するマンションの空室に
一部屋だけ他と雰囲気の違う部屋があった。
その部屋に入ると、いつもなにか違和感を感じていたのだが、
ある日その部屋の廊下が、他の部屋より1m位短いことに気づいた。
他の部屋よりも短い廊下が、いつもこの部屋で感じる違和感の原因なのかと
友人は思ったそうだ。
しかし、なぜ短いのだろうかと思い、廊下の突き当たりの壁を叩いてみると
どうやら本来の壁と、今叩いている壁との間に空間があるようだった。
イヤな予感がした友人は支店長の許可をもらい管理人と一緒にその壁を壊してみた。

友人:「白骨死体でも出てきた方がスッキリしたんだけどさ。」


でも実際は、その空間の壁一面にびっしりと赤いクレヨンで
"お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん、お母さん・・・・”
と書かれていた…そうだ。

549 名前: BOBO 投稿日: 2004/05/14(金) 23:50 [ ktjtwxGs ]
http://www.cappuchinko.net/

550 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/15(土) 07:39 [ hMx13fNw ]
>>548
あのーすっげ怖いんですが

551 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/15(土) 08:14 [ hPR1d8Xw ]
KUSOSUREHAKAIOK

552 名前: |w・`)(BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/15(土) 12:16 [ Y3K/8IlM ]
ここは今日から適当にアドレスや文を張るスレになりました

553 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/15(土) 17:32 [ .rJH6pbc ]
>>552
偽者は【かえれ】

554 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/16(日) 15:15 [ TBVfMQmk ]
|ヽ∧
|・ω・).。oO( リメさんファイトッ・・・ )
| :|ヽ
|))
""" """ """

555 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/17(月) 17:08 [ dQhi7awQ ]
あのさぁ
投票で順位入れ替わったけど、完全版より元のやつの方がよくない?
完全版のオチ、元リメイクと外伝読んでないとワケワカランよ。
いや読んでても正直最後はよくわからん。

元リメイクのオチは最高だった・・・。

556 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/17(月) 19:23 [ bBhRI5u. ]
感性は人それぞれwwwwwwwwww

557 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/17(月) 20:12 [ kUpguEPM ]
>>556の意見もわかるが、>>555にもちょっと同意。
完全版は、初版をしってることを前提にして、かぶった部分はさらっと流しちゃってる
カンジだから、ちょっとあっさり風味。
とはいえ、あくまでリメイク(ややこしいなw)だし、初見のインパクトはかけてしまうの
はしょうがないことではあるし。


まー、どっちが好みか、わいわい議論するのもいいかと思われwwwwwwwwwww

558 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/17(月) 22:41 [ Tj8YovGQ ]
つーかよwwwwwwwwwwww



いつまで題名「リメイク」なんだよwwwwwwwwwwwwww

559 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/17(月) 22:55 [ cftiY8Gg ]
>>558
オリジナルネタができるまでwwwwwwwwwwwwww

560 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/18(火) 12:16 [ QwFXjW56 ]
>>559
俺的に外伝と〜物語はオリジナルな気がするypwwwwwwwwwwwww

というかリメイクもリメイクと公言しなければry

561 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/18(火) 12:59 [ r5Qf5qfo ]
リメイク連載中から「リメイク」で定着してたからなwwwwwwwww
なんかもっといいタイトルが欲しいもんだwwwwwwwwwwww

562 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/19(水) 02:14 [ 59uIG44Y ]
この事に関しては皆気になっていると思うのだが
|ヽ∧
|・ω・).。oO( リメさん何処〜? )
| :|ヽ
|))
""" """ """
ちなみに俺は新、旧、物語、外伝とおして糞猫の話が一番ツボだったwwwww

563 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/19(水) 08:52 [ OaMkqdqc ]
PC逝ったか・・・?
早く帰って来てください(;´Д⊂)

564 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/19(水) 12:26 [ sFNYNvqo ]
戻ってくるまでワイワイ語り合いでもするか?wwwwwww

>>562
俺は真黒たんカッコイーで糞猫で笑って白樽で切なくなって猫狩で萌えて赤魔子でウワワーンだったな。

え、全部女ばっかだって?・・・・・うはwwwwwwwおkwwwwww

565 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/19(水) 17:42 [ jIHefLO2 ]
GWで超更新したから少し御疲れなんでね?

566 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 12:51 [ aKjSbhV. ]
リメ神さんのお話大好きで、いつも涙しそうなのを必死でこらえて
何度も読み直しています。
真似してガンガッて書いてみようかな・・・
リスペクトしてるので作っても似てるかもですが・・・

567 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 14:56 [ EVTL0cA. ]
>>566
リメイク世界観の話ならこっちで書いてみたら?
リメたんも喜ぶと思うぞ。
俺も期待してるおkwwwwwwwwww

568 名前: 566 投稿日: 2004/05/21(金) 17:08 [ aKjSbhV. ]
じゃあ 調子に乗って投下してみるぜ。
初めて書いたから下手くそですが・・・
暇な人だけ読んでおくんなまし・・・
第一部。

569 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 17:08 [ aKjSbhV. ]
場所はヴァナディール。時はXXX年闇王が破れ数十年・・・
平和な一時は消えようとしていた・・・

「むぅ・・・この気配はいつか感じた気配。」
「ん?なんだ、この気配は・・・まるであの時の・・・」
「嫌な予感がするにゃ」
「クロウラーの巣は平気でしゅが・・・気になりましゅね」
かつての英雄達が各地で感じた気配とは・・・


「おいっ内藤・・・感じてるか?この気配」
内藤に糞樽から念波が届く・・・
「ああもちろんだ・・・まさかあいつが復活したとは思えないが、
 さっき通風からも念波が来た。今週の光曜日俺の家まで来れるか?」
「あぁ解った。詳しくはその時だな。出来るだけ調べとくよ」

糞樽との交信を終わらせた内藤は、ザイドに会いに言った。
「ザイド、聴きたい事がある」
ザイドの家の前で内藤が尋ねる。
おかしい返事が無い。2度3度と扉を叩くが、一向に返事が返ってくる気配が無い。
明らかに様子がおかしい。ふと嫌な予感がよぎった内藤は扉を開けた。
そこで内藤の目に映ったものは・・・


「ザイド!!!」
床に倒れるガルカが一人。ザイドガ力尽きていた。
ガルカの種族がこんなに早く寿命で逝く訳がない。
しかし辺りを見ても争った形跡も無い。第一ザイドと争って
勝てる奴なんて数える程しかいない。一体何が・・・

570 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 17:09 [ aKjSbhV. ]
「よう内藤。久しぶりだな。」
「姫ちん。なつかしいにゃ」
「おひさしゅう。内藤殿」
「お久しぶりでしゅ」
闇王討伐メンバーの主力が内藤宅に集まった。餡刻を除いて
「やぁみんな。今日は遠い所ありがとう。昔話でもと言いたい所だが、
 今日はそういう訳にもいかない。聴いてくれ」

なにやら悪い気配の事を話すと、その場の全員が感じていたという。
そうじゃなければ集まっていなかっただろう。なんせ今や
糞樽はアジドの後を継ぎ、口の院院長を、白樽はウィンダス連邦の
神の巫女次期後継者と言われ、天の塔で付き人をやっている
巴姫はノーグを統括する長となり、獣様と赤魔子はモンスター達の王となっている。
など冒険者としての活躍が認められ、全員が
責任ある立場で多忙な日々を過ごしていたのだから

「先日、ザイドが死んだ。」
内藤がシリアスな顔で語っていく。他のものも驚きを隠せないでいる。
原因不明な事を内藤が告げる。気配とザイドの死が関係してる気がしてならない。
「ところで糞樽、何かわかったか?」
言葉の終わりに内藤が問いかけた。
「あぁ、とんでもなく、知りたくない現実がな・・・」
ゆっくりと口を開き語り始めた糞樽。

571 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 17:09 [ aKjSbhV. ]
糞樽の調べによると、正体不明の闇がヴァナを覆っているという。
そしてその力はかの闇王をはるかに凌ぐという。
実際この所、獣人達の発狂度は異常だと皆がうなずく。
理由は古代ジラートの人間が、古代の王の召喚に成功したとか。
ジュノにいる大公達とは比べ物にならない強い力が。
発生源は、アルテパ砂漠の更に西の今だ開発されていない土地。

「そうか・・・しかしそうと解ればこっちのものだ!!
今一度討伐すれば言いだけの話だ。」
「待てよ内藤。誰が行くんだよ。」
通風が問いただす。
「俺達に決まってるだろう!!怖気づいたか?」
内藤の問いに答える通風より先に臼姫が口を開く。
「馬鹿。今ここに集まっている面子のほとんどは国の運命を左右する
立場の職についてるのよ。昔みたいな気楽な冒険者じゃないのよ!!
 あなただって今は、バストゥークのミスリル銃士隊長って立場でしょうが」
「しかし今は各国の事より、ヴァナ全体を救う事の方が大事じゃないのか?」
「全くこれだから馬鹿は困るぜ。なら闇王討伐の時、なぜアジドの兄貴や
 トリオン王子達が国に残って討伐に出なかったんだ。
 確かに今となれば、俺達の方が力量は上だろうが、あの時なら彼らの方が
 力はあったと思うぜ。それに隊長のお前無しで、もし討伐に向かってる時に、
 バスが獣人に襲われたら誰が国を守るんだ?頭使えよ」
「ぐっ・・・そうか・・・しかし・・・じゃあ誰が行く?」


「今の時代でも、きっと強い冒険者しゃんはいましゅよ。
 各国の名高き冒険者しゃん達を、集合させて向かってもらうでしゅ!!」
「そうだにゃ。きっとあの時の私達と同じ様に
ヴァナの平和を守ってくれる、冒険者はいるにゃ。」
「内藤、もう私達が前線で活躍する時代じゃないのよ。
 闇王討伐した時、垢爺が言ったでしょ。『未来は若者の手によって』って
 今度は私達が託す番なのよ。」
「そうだな・・・じゃあそれぞれ帰って、国で冒険者を集めてくれ。
 1週間後の正午に、ここバストゥークの鉱山区競売前に集合させてくれ。
 今日は忙しい所悪かった。みんなありがとう。」
内藤がこの言葉で締めくくった。

572 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 17:09 [ aKjSbhV. ]
1週間後、選りすぐりの冒険者が鉱山区競売前に集まった。
「じゃあ内容は今言った通りだ。皆の生還と任務成功を祈る。」
内藤の言葉に各冒険者達は国それぞれの敬礼をし、勝ちどきをあげた。

新たなる敵討伐メンバー

白魔
臼実 ヒューム バス  

黒魔
黒々 エル サンド 癌黒 ミスラ ウィン  

青魔
真青 ヒューム サンド 蒼魔 タルタル ウィン

赤魔
垢道 ガルカ バス

戦士
戦史 エル サンド

モンク
喪中 ガル ウィン

暗黒
闇黒 ミスラ サンド

ナイト
内藤J ヒューム バス



総勢10名、全員自国以外でも、冒険者の中でも名が通った人物。

573 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 17:11 [ aKjSbhV. ]
タハーSSってすごく難しいですね・・・
疲れました。ゆっくり書いていきたいと思います・・・。

574 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 18:55 [ X/19ALxc ]
内藤Jって親はあれか?w

575 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 19:51 [ LhxxTvss ]
なぜ青魔がいるんだ?

576 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/21(金) 20:37 [ Fm874MZQ ]
一意見として聞いてくれ。
ここに書かないで欲しかった。
話的に面白そうだとは思うがなんだかね・・

577 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/22(土) 11:15 [ EDEYEROA ]
576へ
わかりました。もう辞めときますね。

578 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/22(土) 13:07 [ wAT2VPGo ]
>>577
まあ、待て。
俺も一意見としてだが、途中でSS放棄は止めれwwww
少しでも書いたのなら最後まで終えさせるのが書き手の務めだwwww

579 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/23(日) 10:32 [ lIDE2iH. ]
隔離スレでどうぞwwww

580 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:39 [ Zki4s0XU ]
|w・`)<どうも、お久しぶりです。
パソコン死亡で修理にして、やっと復活出来ました。
最初から書き直した為、時間がかかってしまったのをお詫び致します。
それでは続きです――。

581 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:40 [ Zki4s0XU ]
此処は音の無い空間。
此処は暗くて冷たい場所。
久しぶりに来た名も無き世界。
僕は虚ろに漂っていた。

この世界はいつ誕生したのだろう。
もとより、誰も知ることなくそこに在ったのか。
何時もよりも深くハッキリと見える闇。
今まで考えもしなかった事を思い浮かべた。

目の前に小さな光が見える。

だけど、どうしてだろう。
片方の光は何時もと違い、澱んでいる。
温かかったそのぬくもりは、徐々に失われつつあった。
そして、澱みはその濃さを増し、光を包み込んだ。

消えてしまった。
大事なモノ。
僕を照らす光。
消えてしまった。

だけど、どうしてだろう。
辺り一面の黒。
僕を照らす光はもうない筈なのに…。
僕は僕自身をこうして認識する事が出来た。

何かを感じて振り向く。
すると、どうした事だろう。
其処には、今までとは違う新しい光があった。

温かくも優しい光。
それが何で、何を意味するのかは分からない。
だけど、この暗い世界でたった一人で居るよりはずっとましな事には違いない。

僕は、すがる様にその光に手を伸ばしたのだった。

582 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:40 [ Zki4s0XU ]
目が覚めれば見慣れない天井。
眠気と共に疲労を残した気だるい体。
目が痛い、鏡を見たらきっと腫れているのだろう。
何もやる気が起こらない、ただ時間だけが無常に過ぎていく。
そんな中、僕は布団の中でもう一度眠りに付くのであった。

僕は黒猫の家に引き取られた。
それは、黒猫の両親の優しさ。
心遣いは感謝の言葉が思い付かぬ程。
こんな僕を、まだ必要としてくれる人がいる。
そんな想いが、悲しみのどん底に沈みかけた僕を繋ぎ止めてくれた。

それからの僕は如何していたのか、細かい事はあまり覚えてない。
ただ、毎日がまるで駆け足で過ぎ去っていく日々だったのであろう。
現実味を帯びず、何処か遠くから眺めているような感覚が僕を支配する。

僕は再び仕事に足を運ぶ。
黒猫の両親達は止めたけど、これは自身の恩であり義務だと思ったから。
今まで以上に沢山仕事をした。
がむしゃらに、出来る事を精一杯頑張った。
きっとそれはそうする事で、少しでも悲しみを忘れようとしていたのだろう。

だけど、心の奥底にへばり付いた想いは消える事なく。
一時の忙しさに忘却を得、そして衝動の様に思い出す。

何時の日か、この苦しみから解放される日は来るのだろうか。
この悲しみに浸った身体は、あの頃の様に喜びに浸る事が出来うるのだろうか。

一人嘆息。

今は考えていても仕方がない。
そう思い、何時もの日常へと身を委ねていった。

崩れつつある日常へと――。

583 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:41 [ Zki4s0XU ]
グスタベルク。
荒涼の大地の所々に存在する小山の一角。
一人腰掛けるミスラの少女の姿。

これは夢。
昔の夢。

少女は泣いていた。
蹲り悲しみにくれていた。
辺りには誰も居ない、それは少女が道に迷ったから。
きっかけはちょっとした事。
子供心で芽生えた冒険心。
だけど、世界は自分の思っているよりも遥かに未知で。
知らない野生の動物に追いかけられた私は無我夢中で逃げ出した。
気が付けば知らない場所。
ここら一体の大地は見渡しが効くものの、裏を返せば似たような景色が多いのだ。
少女は少しでも自分の知った景色を探そうと山に登り遠くの景色を見ようとした。

だが、結果は現在に至る通り。
一人泣きじゃくる少女。
孤独と恐怖に身を震わせ、やがて意識を闇に落とす。

「どうしたの?」
聞いた事のない声が心配そうに私を気遣う。
だけど、私は何も答えない。
疲れて眠りに落ちた体は、直には覚醒しない。
すると声の主は、私の隣にそっと腰掛けた。
「こんな所で寝てると風邪をひくよ」
温かい声。
フワリと風が吹き、私の身体を駆け抜ける。
「目を開けて、見てごらんよ」
段々と目が冴えて来る。
まるで魔法に掛かったかのように、その言葉に従いゆっくりと顔を上げた。
時間は早朝。
目に入った光景。
闇に染められていた荒涼の大地と空を朝日が、白く染め上げる。

私は、思わずその光景に言葉を失う。
何時も、何気なく繰り返されている光景の筈。
だけど、今私が見ている夕日は、何時ものそれより遥かに美しく、壮大に感じた。
「凄く、綺麗…」
「やっと、喋ってくれたね」
その言葉を聞いて、初めて声の主へと視線を向ける。
綺麗な金髪が朝日に照らされ綺麗に光る。
ヒュームの少年。
ニッコリと、私の顔を見て微笑んだ。

これは夢。
昔の夢。
彼と出会う前の、そして彼と出会った日の夢。



おば様が居なくなってから半月たった…。
餡刻君が家に来てから半月たった…。

あの日から餡刻君はあまり喋らなくなった。
それは当然といえば当然だろう。
悲しい表情で、何時も辛そうに…。
だけど、私達の前では無理に笑おうとしている。
そんな光景を見て、私は思い悩む。
私には、餡刻君を救う事が出来ないのだろうか…。
目の前で苦しんでいる彼に、何もしてあげられないのだろうか…。
彼の重荷を少しでも軽くしてあげたい…。

だけど…。
私は何も出来なくて…。

自分自身に悲しくなる。
私は――何て無力なんだろう――。

あの日から離れてしまった距離。
溝は広がり、距離を増していく。
何時の日か、時間がその距離を埋めてくれるのだろうか。
私には待つ事しか出来ないのだろうか。

そして、今日も一日が始まる。


ある日。
何時もの様に仕事に出かける餡刻君。
私は何時もの様にお弁当を作り、餡刻君の元へと足を運ぶ。
こんな事しか、出来ないけれど、これが今の私に出来うる精一杯の事だから。

何時もの日常。
繰り返される日常、何時の日かお互い笑いあえる日が、また来る事を信じて…。
だけど、日常は、既に終わりの予兆を知らせていた。

584 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:41 [ Zki4s0XU ]
薄暗い鉱山。
日の届かない其処は、人工の明かりを各所に灯している。
過酷と万が一の危険が伴う職場。
大人達に紛れて見える一人の若い少年――餡刻の姿があった。


「ふう――」
仕事の合い間に一息吐いて汗を拭う。
彼はそうした軽い休憩の中で異変に気付いた。

感じる違和感。
何て事はない、それは皆の視線。
だが、それは何時ものそれと違い違和感溢れる。
まるで、見ず知らずの誰かを見るような。
「えっと…」
衝動的な不安が戸惑いを生む。
普段ありし姿を日常への否定へと追いやっていく。

彼を見て大人達が口ずさむ。
それは小声だったけれども、今の彼には何故かハッキリと聞こえるようだった。

先程まで何事も無く一緒に働いていた。
特に親しいと言う程ではなかったが、軽い雑談を交わしあう事もあった。
それなのに――。
信じたくない。
咄嗟の否定に対し、何処か冷静に物事を見極める自分が居る。
そして、自分自身に問い掛ける。
信じる事こそが愚考だろうと。
今この状況に置いての不変は自分一人のみなのだろうから。
そして、立ち尽くす少年に死刑宣告と言える言葉が降りかかった。

「君は誰だい?」

少年は走った。
脇目も振らず、彼は全力で逃げ出していた。

突然に母と別れ、必死で、がむしゃらに、精一杯生きている少年。
今の彼は、例えるならヒビの入ったガラス細工の様な物。
いとも容易く壊れてしまうそれは、周りを支えに何とか形を保っていた。

孤独と言う名の空間。
監獄とも取れるそれが、先程まであった日常の中で起こるなど誰が想像出来ようか。
そんな不足の事態に、幼くも脆くなっている少年に耐えられる筈がなかった。

585 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:41 [ Zki4s0XU ]
息が苦しい。
身体が幾ら悲鳴を上げようとも、彼はそれを無視して走り続けた。
立ち止まる訳にはいかなかった。振り向く訳にはいかなかった。
未知への恐怖は人を臆病へと導く。
まるで自身の周りの全てを否定したくなる様だった。

そんな彼が精一杯走って辿り着いた場所。
一軒の家。
それは黒猫の家。

母の死に絶望し、如何して良いか分からなくなった自分に手を伸ばし、優しく包んでくれた安息の地。
今の崩れかけた自分を繋ぎうる唯一の糸。

この扉の向こう側。
距離にしてほんの数歩。
その先に自分の全てがある様な気がした。

もしも…。
もしも、此処にさえ自分の居場所が無くなっていたら…。
彼女達に否定されたら――。

想いは決意を鈍らせ、判断を有耶無耶にする。
只一つの行動。
だが今の彼には、それが今後の全て――。

カチャリ。

扉が開く音。
少年は動かない、否、動けない。

出てきたのは薄茶色の長髪を湛えた女性。
黒猫の母。
何時もとなんら変わらぬ表情で優しい微笑を携えている。
そんな彼女の目に止まる餡刻。
彼はまるで金縛りに合ったが如く、動きを止めたまま黒猫の母を見つめている。
自分の家の前に立ち尽くす少年。
もしも、これが面識の無い人間であれば怪しい事この上ないであろう。
彼が言葉を発するよりも早く、彼女は口を動かした。

「おかえりなさい、餡刻ちゃん」
彼は思う。
ああ、そうか…。
自分にはまだ――居場所が残っているんだ――と。
だから、まだ前に進んでいけるんだと…。

「…あ、あの、あばさん」
躊躇いがちな声の後――。
「今まですいませんでした…」
彼は頭を下げて懺悔した。
それは落ちたまま、沈みはしないものの這い上がろうと思わなかった自分に対してでもあったのかもしれない。

「餡刻ちゃん――」
そっと頭に手が触れる。
「頑張るのもいいけど、無理しちゃ駄目よ。悲しい時は泣けば良いの、辛い時は誰かに頼れば良いの。
だって、人は一人じゃ生きていけない弱い生き物だから。
だけど、そんな弱さを知っているからこそ、人は助け合って生きていけるから」
餡刻の目の端に涙が浮かぶ。
そして少年はおもいっきり泣きだした。
全てを吐き出すように、泣き続けた。
女はそんな少年を落ち着かせるように、頭を優しく撫で続け――。
「餡刻ちゃんが望むなら何時までも家に居て良いのよ。
私も、あの人も、そして黒猫が何よりもそれを望むわ――」
そう言ったのだった。

586 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:42 [ Zki4s0XU ]
「黒猫はね、餡刻ちゃんに食べてほしくて、料理を作り始めたのよ」
「え、そうなんですか?」
食卓の上に座り軽い雑談をする二人。
思えば、こうして人とゆっくり話す時間は久しぶりだった。

「あの子は私達の宝物。だから幸せになってほしいの。
だから、これからも黒猫と仲良くしてあげてね」
「はい!」
餡刻は少女が本当に幸せの中にあると感じた。
そして、自分も――。

「だが、娘はやらんぞ!」
「お、おじさん!?」
いきなりヒョッコリと現れた男―黒猫の父――。
「餡刻君よ、黒猫が欲しければ、このビッグパパを倒してからにするのだ!!」
ビッと餡刻を指差す。
「さあ来い!愛する者の親を越え、屍を乗り越えてこそ真の愛への扉が――」
ゴン。
音がした。
男は―――何故か不適な笑顔のまま固まって…そのまままっすぐに倒れ伏していた。
「あらあら、あなた。今日は早いお帰りですね。
でも、こんな所で寝ていたら風邪をひきますわよ」
言葉で気遣い微笑む黒猫の母。
「え…えっと…」
何時の間にか手に麺棒などを持ち合わせているのは…気にしない方がいいのだろう。
「それじゃあ、餡刻君。私は夕飯の準備をするわね」
そう言って奥の部屋へと姿を消す。
のっそりと起き上がる黒猫の父。
少し心配になってみたが――。
「ふう、まだ目がチカチカする。だが、これも愛の一環と取れば問題なし!」
とても元気だった。

一通り言いたい事を終えたのか、餡刻へと向き直る。
「それにしても餡刻君よ、いきなり職場から飛び出した時はビックリしたぞ」
言葉に反応して身体が強張る。
「鉱山労働者と言うのはど忘れしやすいものなのか…。
直に思い出したが、一緒に働いている仲間を忘れるとは不届きだのう――」
表情をコロコロ変えながら喋る。
そんな様子を見てこわばりが薄れる少年。
黒猫の表情の豊かさは、きっと父親に似たのだろうと餡刻は思った。

「あの、おじさん――」
何か話でもしようと声をかけた矢先の事。
急に喋るのを止めて餡刻を見る男。
まさかと思うも心の中では嘘であって欲しいと願う。
だが――。

「誰だね、君は?」

587 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:43 [ Zki4s0XU ]
本当に、こんな事があるのか…。
餡刻はその場に打ちひしがれる。
「え…あ…僕は…」
言葉が纏らず、意味不明に口走る。
そんな様子を見て男は溜息を一つ。

「誰だか、知らんがその年だ。何か事情があるんだろう」
餡刻の汚れた服を見て、優しい目をする男。
彼の衣服は鉱山で働いていた時のまま、何も…知らない者から見れば考えもするだろう。
「お〜い、何か軽い物でも作ってくれないか」
台所に居る妻へと声をかける。
「は〜い」
少年の心臓が強く波打つ。

もしかして…おばさんも…もう、と。

此方をじっと見つめる黒猫の父。
時折頭を抱えて、何かを思い出すように…。
もしかしたら――。
まだ、彼の中には少年の記憶が何処かこびり付く様に残っていたのかもしれない。
しかし、それも僅かな抵抗で…。
それ以上の悲しみが少年を襲うのだった。

「あっ…」
そう言ったのは黒猫の父。
目を細め凝らす様にして、何度も瞬きをする。
それでも物足りないのか、ゴシゴシと擦りながら餡刻の方を見ている。
そして――。

「おかしいな、さっきの坊主何処に行ったんだ?」
餡刻は目の前が真っ暗になった気がした。
男が探す少年――餡刻は確かに彼の目の前に居る。
だが、しかし当の男にはまるで自分が…見えていない。

「しょうがねえ、探しに行ってみるか。何だか知らねえけど気になっちまうもんな…」
少年の脇を抜けて、家を出る。
餡刻は、今だ立ったまま。

とん、と物音がして金縛りが解けたかのように振り返る。
黒猫の母が此方に姿を見せた所だった。
手に持ったオボンには、出来立ての料理が乗せられている。
「あら…」
「…おばさん」
呆然とする餡刻に微笑むと…。
「餡刻ちゃん。如何したの、そんな顔して?」
少年の名を口にした。

彼は喜びを噛み締める。
まだ覚えていてくれた事に…。
ただ――。

「餡刻ちゃん…」
もう一度口ずさむ。
「…おばさん?」
何かがおかしい、そう感じた少年。
「今日は少し豪勢にしたんですよ。まだ、少し早いですけど、先に食べちゃいましょうか」
料理の中から一つを摘み差し出す。
自分が居ない場所…見当違いな方向へ…。
手からポロリと、料理が落ちた…。

「…居るんですよね…餡刻ちゃん…?」
手を広げて自分を抱きしめようとする彼女に…。
「おばさん…ありがとう…」
彼はそう言って別れを告げた。

「何時までも…、何時までも此処に居て良いんですよ…」
背に、自分には勿体無いほどの言葉を聞きながら…。

588 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:44 [ Zki4s0XU ]
グスタベルクに風が吹く。
日は既に暮れ、星の明かりと月の光が夜の大地に僅かな光を注いでいる。
沢山の小山の一角に、少年は一人腰掛けていた。

見上げる空は何処までも広く、広大で、吸い込まれそうな気持ちになる。
目を閉じれば今日の記憶。
心が張り裂けんばかりに苦しかった。
これからどうしよう。
そう考えるも、何も思い浮かばず時間だけが過ぎていく。
こんな時は睡魔に身を任せて眠ってしまいたかった。
何もかも忘れて夢の中へと漂いたかった。
だけど、今の自分の意識はこれ以上ない程繊細に、眠気など寄り付く隙さえないのだった。
こんな、自分自身を憎みたくなった。
いっそ…。
いっその事自分も忘れる事が出来たのなら。
皆が自分を忘れたように、自分も皆の事を忘れる事が出来たのなら…。
この苦しみから救われるかもしれない。
そんな考えまで浮かんでしまう。

ちゃり。
地面を踏み締める音が背後から聞こえる。
誰か来たのだろうか。
だが、直に考えるのを止める。
どうせ、自分が居る事に気付く事もないのだから。
関わりとは既に無用のものなのだから…。

だけど…。

「やっぱり、此処に居たんだ」
聞こえた声。
「仕事先に行っても居ないから。ちょっとだけ探しちゃった…」
声の主は自分に対して話かけている。
それは普通に考えれば当たり前の事で。
だが、今の彼には異常とも言える事。

その声の主。
忘れる筈もない。
そう、彼女は…。

「黒猫…」
「心配したんだよ…餡刻君」

振り返り、抱きしめる。
「わ、わわわわ…餡刻君…恥ずかしいよ…」
「黒猫…黒猫…黒猫――」
何度も、何度も、確かめる様に少女の名を呼んだ。

589 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 21:46 [ Zki4s0XU ]
それから――。
二人で沢山話をした。
腹の虫が鳴る僕に黒猫は笑いながらお弁当を差し出す。
冷えてしまってはいたけれど、それはとても美味しかった。

昔と同じ様に、互いに笑って、懐かしむように。
二人は終始笑顔だった。

そして、最後に残った幸せにも終わりが訪れようとしていた。
「――それでね――私――」
時折、黒猫の言葉が止まる。
今の彼女は精一杯戦っているのだろう。
目に見えぬ忘却と言う名の暴君と。
そんな健気な彼女を見るのに心が痛んだ。
もう、休ませてあげよう――。

でも、その前に…たった一つ。
「ねえ、黒猫。僕ね、君に渡したい物があるんだ――」
何かを諦めたように色を帯び、微かに潤んで淀んだ瞳。
それが同じ年である筈の餡刻君をひどく大人びたものに見せていた。


目が覚めると少女は一人だった。
冷たい地面から身体を起こす。
この寒さの中如何して自分はこんな所に居るのだろう。
しかもたった一人で。
浮かんだ疑問は幾ら考えても答えを見出す事が出来ない。。
何故ならその想いは、考えた時点で既に答えを出す事を不可能としていたのだから。

胸の奥がひどく痛む。
長い、長い夢を見ていた気がした。
楽しくも、悲しい…。
何時か笑いあえると信じていた…。
自分の知らない誰かと一緒に居た…そんな夢。

本当に夢だったのだろうか。
そう思うも、夢から覚めた少女は一人。
ゆっくりと立ち上がる。
「…お母さんとお父さん、きっと心配してる。早く帰らなくちゃ」
少女は走り出した。

少女が走り去った場所。
少年は確かに居た。
姿を隠す様な事はせず、ただ傍らに存在していた。
だけど、彼女は気付かなくて…。
彼は静観しながら彼女の背中を見送った…。

悲しかった。
泣きたかった。
でも、不思議と涙は出る事無く。
とても冷静に現実を見つめている自分が居るのだと彼は悟っていた。

共に過ごした時間、思い出が駆け足で頭を巡る。
これらはもう終わった事。
過ぎ去って終わった…。
元に戻る事の無い時間――過去なのだと――少年は自分の中で答えを出した………。

590 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 22:53 [ Sj1m6MMI ]
・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァッァァァァァァァッァァァァァァン

591 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 23:22 [ LReMkVoU ]
うおぉぉぉリメ神キテルーーーー!!

・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァッァァァァァァァッァァァァァァン

592 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 23:28 [ zlVOHl1Y ]
・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァッァァァァァァァッァァァァァァン

あ、あん、あんごぐ〜・゚・(ノД`)・゚・
・゚・(⊃Д⊂)・゚・ウワァァァァッァァァァァァァッァァァァァァン

593 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/24(月) 23:32 [ vc/jJpFs ]
・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァッァァァァァァァッァァァァァァァン

あんこく〜〜〜〜〜〜〜・゚・(ノД`)・゚・

594 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 00:57 [ GeO16rns ]
神に質問です〜〜〜
この少年餡刻はリメイクの餡刻の少年期ですよね?
全くのパラレルワールドではないですよね?

愚問だったかな・・・・・?

595 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/25(火) 04:02 [ RHT60SsY ]
>>594
はい、お答えの通りリメイク世界観の餡刻の少年時代です。
この後彼はとある事を境に暗黒騎士への道を歩みます。

また、本来此処で出ている黒猫には最初別名でオリジナルネームを振っていましたが。
あえて黒猫と言う名を使いました。
それ故に―――。

オマケ(ネタが固まっている話)

隆起と餡子
糞樽LSストーリー
獣様関連
赤魔子と兄の話
父親の話

です。(一日48時間くらいあったらな・・・

596 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 10:14 [ h6DF7nyw ]
くぅぅぅぅ

決まっているだけでもうそんなに話があるなんて!
楽しみにまとう

597 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:56 [ exaqTBBA ]
家へと辿り着いた少女。
家の前に立っている母の姿があった。

「お母さん…」
母は私を見つけると何も言わず、ただ抱きしめてくれた。
父も私が見つかった事を知り、勢いよく家の扉を開ける。
冬だというのに全身に汗をかいた父を見て、私はかけた心配の重さに自己嫌悪に陥った。

そして、更に一夜明けた日。
何時もの朝。
なのに何処か違和感を覚える。
私は眠気の残った体を無理矢理起こし、台所へと向かう。
既に母は起きており朝食の準備をしていた。

私は自分専用の母より一回り小さいエプロンを付けて、お弁当の準備をする。
それはとても自然な流れで、深く考える事もなく体が動いていたのだろう。
だから、母が言うまで私は気が付かなかった。
「あら、黒猫。お父さんのお弁当?助かるわ」
手が止まる。
当然の事だった。
父のお弁当は母が毎日作っている。
ならば私の出番などある筈もない。
だけど。
体に染み付いた習慣とでも言うのだろうか、此処までの私は何の違和感もなかった。

自問自答する。
これはお父さんの為…違う…。
だが、そうじゃないとしたら…。
――自分は一体誰の為に料理を作ろうとしていたのか――

視線を動かし、客間になっている部屋へと目をやる。
無論、家族は自分達以外いる筈もなく、またお客さんが来ている訳でもないので部屋には誰も居ない。
だけどどうしてだろう。
何時もの朝。
変わらない時間の流れ。
私の強い違和感は消える事がない。
むしろ、時間が立つごとにそれはより大きく、強く積もっていく。

私は…。
私は何か大事な事を…。

じっと立ち尽くす私を変に思ったのか母が声をかける。
「如何したの黒猫?」
「とても、とても大事なモノを無くした気がする…」
思わず出した言葉は止まる事無く次の言葉を紡いだ。
「凄く、凄く大切な何かを…私達は無くしてしまった…。
そんな気がするの…」
「黒猫…」
母も何か思い当たったのか、珍しく眉間に皺を寄せている。
「ねえ、お母さん。なんなのかな…なんなのかな、この気持ち…」
「…」
「苦しいの、胸が…張り裂けそうに…苦しいよぉ…」
母は何も言わず、ただ黙って私を抱きしめ頭を撫でてくれた。

598 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:57 [ exaqTBBA ]
バストゥークの鉱山区。
父にお弁当を持っていく私。

「おお〜、今日は黒猫が持ってきてくれたのか。今日のお父さん何時もの12倍は頑張れるぞ!!」
元気に話す父。
だが、何処か忙しない様子だった。
「どうしたのお父さん?」
「いや、何だな…。こう、何か物足りないような――」
「オカズ足りなかった?」
「そういうのじゃないんだ…。こう、何ていうかだな。何か…誰かが足りないような…」
父の悩み。
それは私の感じる違和感と一緒なのだろうか。

遠くで声が聞こえる。
「なあ、今度新人が来るみたいだぞ?」
「へっ?何で急にまた」
「いや、何でも親方の手違いか何かで仕事道具が一人分多く届いてるんだよ。それでこっちに一人補充と」
「へ〜、あの人でもそんなミスをするんだな」


仕事場からの帰り道。
少女はポケットの中に何かが入っている事に気が付いた。
掴み取り出してみると小さな木箱。
中には紫色のピアスが入っていた。

少女は走り出していた。
自分の家とは違う方向に。
行った事もない筈の場所へと。
だが、身体は迷う事無く迅速に最短距離を通る。
そして辿り着いた先。
一軒の小さな家。
人気を感じず、静謐とした家。
自分はまったく知らない筈の家。

だけど…。
この懐かしさはなんだろう。
如何して此処に来たのか分からない。
でも、私の中の何かが此処へと導いた。
来なければ後悔すると呼びかけていた。

失礼だと思いながらも扉に手をかける。
鍵は、かかっていなかった…。

599 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:57 [ exaqTBBA ]
「失礼します…」
律儀に挨拶をして中へと入る。
小さな台所。
奥には二つの部屋。
最近まで人が住んでいたのだろうか、思いの他埃なども積もっていない。

頭が痛む。
不意に湧き上がる記憶の泉。
父と母との思い出。
三人一緒に過ごしてきた日々。
でも。
でも、そこに…。
もう一人、誰かが居たような…。
お母さんと、お父さんと、私と…。
まだ他に誰か、誰か大事な人が…。

地面に落ちる木箱。
アメジストのピアス…。
これは…。
何処で…。
誰から…。

頭が一瞬酷く痛んだ。
まるで何かを思い出す事を拒むように、私に痛覚となって襲ってくる。
だけど、我慢した。
その先にある真実を求めて、必死に、必死に…。

そして…。
少女は涙を流す。
黒猫は泣いていた。

ああ…。
どうして、こんな大事な事を忘れていたのだろう…。
忘れまいと、決して見失わないようにと思っていたのに…。

少女は床に落ちた木箱を拾い、胸に押し当て。
「餡刻君――」
贈り主の名をハッキリと口ずさんだ。
そして、思い出せば次の行動を移すのに躊躇は必要なかった。

彼女は名残惜しむようにその家の扉を閉めて、外へと出る。
そして再び走り出す。
少年を見つける為に…。

そして、辿り着いた先は小山の一角だった。

少年と初めて出会い…そして別れた場所…。
黒猫はその場に座ると目を瞑る。

餡刻君に会いたい。
会って、話して、謝りたい…。
自分には何も出来ないかもしれないけど。
それでも…。

少女は少年に寄り添って居たかった。
この場所に居れば、きっとまた会える。
僅かな希望にすがって、後はただ、待つばかり…。

体温を奪う風。
冬の寒さが少女の身体を蝕んでいく。
だけど、彼女には唯一少年との思い出が残っているから。
彼女だけは思いを伝える事が出来るのだから…。

時間は夜。
空には星が輝いている。
月は丸く光、今日は満月だ。
何時か二人で話した。
遠くの大地で見る、空一面の星の海を…。
彼女は餡刻と共に見て見たいと強く思う。

眠らずに迎えた朝。
自分の体がひどく弱っている事を実感する。
瞼が重く、頭が痛み、身体に力が入らない。
だが、それでも少女は断固として待ち続けようとした。

そして…。
背後に一つの気配を感じたのだった。

600 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:57 [ exaqTBBA ]
少年がそれに気付いたのは、夜が明けていた。
テーブルに置いてある見慣れない紙。
其処には見慣れた文字である言葉が書いてあった。

最初、少年は我を疑った。
だが、それは確かに先程まで無かったもので。
自分に対して書かれたものだった。
そう、たった一言。

――会いたい――

彼は直に家を飛び出していた。


大切なもの。
昔聞いた母の言葉を思い出す。

『餡刻。あなたにもしも決して手放したくない大事なもの――人が出来たら。
必死で守りなさい、無くさないように、失わぬように、大切に…」

母は居なくなってしまった。
これはもう変える事のない現実。
皆の記憶から追放され、姿すら見えなくなった。
これは受け入れなければならない真実。

大切なものを、僕は失った。
掛け替えのない大切なものを…失ったんだ。

だけど、失ったけど…全部じゃない。
まだ、僕は全てを手放してはいなかった。
黒猫は覚えていてくれた。
ひどく虚ろな存在となった、こんな僕を…。

もう一度彼女に会いたい。

黒猫なら、僕と一緒の時間を歩んでいける気がする。
何で気付かなかったんだ。
どうしてこんな簡単な事に。

黒猫。
その名を呼ぶだけで、不思議と力が沸いてくる。

君と仲良くしていたいから、その微笑みを隣で見て居たいから。
一人じゃ無理だけれど、黒猫が居れば僕は頑張れる。
そうすれば。
僕はきっと、また笑える日が来る筈だから。

そう、彼女は…。
僕の大事な友達で。
僕の大切な人で。
そして…僕の大好きな人。

僕にとって残された、掛け替えのないもの。


坂を駆け上がる途中、足元の小石に躓き、前のめりに転ぶ。
露出していた肌が地面を擦り、血を滲ませる。
だが、そんな事はお構い無しにと、すぐさま立ち上がり走り出す。

少年は見ていた。
ずっと遠くを…。
過ぎ去りし過去ではなく、進んでいく未来を。

この坂を越えた所。
其処にきっと居る筈の人物を信じて。
共に歩める事を願って。
彼は必死で目的地を目指し、全力で駆け抜けた。


そして…少年が見た光景は…。

601 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:58 [ exaqTBBA ]
其処には彼女が居た。
自分の信じた通り、彼女は其処にいた。

でも…。
その光景は決して望むようなものではなかった。

「黒…猫…」
愛しき人の名を呼ぶ。
その声は震えてて、とても弱々しいもの。
彼は眼前の光景を見て思う。

これは何だろう…。
黒猫が眠っている…。
囲うような水溜りの中で…。

彼女の隣で膝をつく。
その際、膝に地面の液体が付着した。
「ほら…起きなくちゃ…」
そう言って、黒猫の体を抱き寄せる。

冷たい。
温もりなんて言葉は其処にはなかった。
ただ、鼻をつく鉄の匂いと、冷え切った小さな身体。
「…こんな所で…寝ていたら…風邪をひくよ…」
そしたらおじさんとおばさんがきっと悲しむから。
僕も…、僕も悲しいから…。
だから目を開けて、何時もの様に笑って見せてよ。
ねえ、黒猫…。

背後で足音。
ゆっくりと振り向く。

其処には一匹の亀――クゥダフの姿。
その手に握った剣。
それには真新しくも赤いものが、ベットリと付いていた。
亀は少年を見ると、その面を酷く歪めてニヤリと微笑んだ。

602 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:58 [ exaqTBBA ]
この亀はまだ若者。
倒れているミスラが初めての獲物だった。
今日、彼は初めて狩りの喜びを知ったのだ。

若者の亀は思う。

ああ、今日は何て良い日なのだろう。
こんな短時間に、二匹もの得物が得られようとは…。
たまらない、この弱者をいたぶる感覚は、何とも言えないものがある。
さあ、お前も良い泣き声を聞かせておくれ。
刃に肉を食い込ませ、溢れる血で刀身を染めてくれ。

そうして振るわれた剣は餡刻の肩を薙ぐ。
あまりに突然の連続で、声を失っていた餡刻も痛みによってその声を吐き出す。

亀は更に三合刃を振るう。
だが、それは命を奪うものではなく弱らせ、恐怖に浸る様を見る為のもの。
少しずつ弱り、苦しみ、恐怖を瞳に映らせた様に彼はどっぷりと使っていた。

小さな傷も重なれば重傷と為り得る。
身体から嫌というほど流れる血液にも限界はある。
薄れ逝く意識の中でも、少年は黒猫の上に覆いかぶさり彼女を守ろうとする。
彼は、初めから逃げる気などなかった…。

こんな世界。
こんな理不尽な世界の中。
生きていて何の意味があるのだろうか。

故に。
死んでも後悔はなかった。

だが、残酷な世界はとても気紛れで、それこそ奇跡とも呼べるものなのだろうか。
「あ、餡刻君…」
声がした。
弱々しくも、ハッキリとこの耳に聞こえた。
少年は自分の下で倒れた少女を見る。
「良かった…餡刻君にまた会えて…」
それだけ言ってまた、目を瞑る。
だが、確かに彼女は生きている。
消えそうではあるが…確かに、生きているのだ。

蹲って身動きしないヒュームの少年に、若者の亀は嘆息する。
相手はまったくの無抵抗、何もせずじっとしているだけ。
これはとてもつまらない。
つまらない事にこれ以上時間をかけるのも愚考であろう。
心臓へと狙いを定める。
もう終わらせるつもりで…刃を滑らせる。

「…か…」
少年が何かを口ずさむ。
そして一呼吸置いた後。
「死ねるかよおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!

603 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:59 [ exaqTBBA ]
驚愕する亀。
飛び掛る少年に刃を振るったが、それは触れただけで粉々に砕け散ってしまった。

後ずさる。
自分の視界に映っているのは、ひ弱な人間の子供に他ならない。
だが、如何した事だろう。
その背後に見える凛として見える巨大な力。
それは決して自分では抗う事の出来ない絶対性を持っていた。

逃げろ!!
脳裏に浮かぶ警告の言葉。
目の前の、この少年には絶対に勝てないと。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。
生き物としての本能がそう告げている。
彼は眼前の人の子に背を向けた。
その場から一刻も早く立ち去る為に。
己の命を保守する為に

逃げていく亀の背中を眺めながら餡刻は思う。
大切な者を散々傷付けて、それで自分だけ無傷であろうなどと虫の良い話は通じない。

広げた掌は亀へと照準を合わせる。
次の瞬間、動きを封じられた亀。
まったく身動きできず、後ろから近づいてくる死神をただ待つばかり。
そして小さな手が自分の頭を鷲掴みにする。
頭がメキメキと嫌な音を立てる。
それと共に体中の力が抜けていき、比例して餡刻の傷が癒えていく。
これは・・・命を吸われているのだろう。
亀が叫び許しの言葉を放とうとした時。
グシャリと。
何かが潰れる音が辺りに響いた…。

604 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:59 [ exaqTBBA ]
「忘れてて…ごめんね…」
弱々しい声。
少年の胸に身を預けゆっくりと、確実に言葉を紡ぐ。
彼女の言葉に首を振る。
「そんな事ない…僕なんかの事、忘れていれば良かったんだよ…。
そうすればこんな…こんな事には――」
自分の声が震えている。
どうして涙というものは止め処なく溢れ出るのだろうか。
そんな彼の涙を拭うように、ゆっくりと腕を上げようとする黒猫。
だが、身体にはそれだけの力がないのか途中で落ちてしまう。
「駄目だよ…自分を悪く言っちゃ駄目だよ…」
そう言って軽く微笑む。
「…だって!!黒猫にはおじさんとおばさんが居るじゃないか…。
二人ともとっても良い人だよ。黒猫の事を本当に愛しているんだよ…。
なのに…なのに、これじゃあ…二人とも悲しむよ…」
父と母の事を出されて流石に反応を示すが、直に笑顔に戻る。
「…でもね…私…これで…良かったのかもしれないの――」
何で…、そう問い掛けようとするも声が出ない。
「だって…今私は…餡刻君をこうして認知出来ているから…。
餡刻君と一緒の思い出も…想いも感情も…こうして感じられるから…。
だから…私は…幸せなんだと思う…」
どうして…。
餡刻は思う。
こんなにも辛い状況で、どうして彼女は笑顔で居られるのか。
自分では幾ら考えても分からない事。
だけど、彼女は直に答えを出す。
「――私…、餡刻君の事を忘れて…生きていくなんて嫌だもん…。
だって…だってね…私――」
もう、潮時だった。
そこまで喋りかけて、少女はゆっくりとその瞳を閉じたのだった。

「…黒猫?」
少女の名を呼ぶ。
だけど、胸の中の少女は何も答えず項垂れたまま。
「はは…。冗談が上手いな黒猫は…、そんなに僕を驚かせたいのかい…」
現実は何て残酷なのだろう。
こんなにも悲しみに満ちている。
全てが夢であったのならば、どんなに楽だったであろうか。

一人、涙を流す。
ああ…。
風景が歪んで黒猫の顔をまともに見れない。
もう二度と、彼女の笑顔を見る事は出来ないのだろうか…。

少女には伝えたい言葉があった。
どうしても伝えたい想いがあった。
だけど、自分の体はもう言う事を聞いてくれなく。
もうたった一言を紡ぐ力さえ残していない。
悲しかった。
最後の最後まで自分は彼の役に立てない事が。
何でも良い。
彼の――餡刻君の助けになりたい。
それは、たった一人の少女が願った純粋な願いだった。

605 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 18:59 [ exaqTBBA ]
何処かおかしい。
少年は異変に直気が付く。

黒猫の姿が…。
自分の大好きだった少女の姿が…。
徐々に薄くなっていく…。
まるで、彼女自体が夢だったかのように…。

黒猫とは対照的に徐々にハッキリとしていく餡刻の姿。
彼女の想いがまるで少年を救っているように。
その命を受け継ぎ、生き永らえるように。
彼女の想いを受け取って。

彼女と出会ってからの長い月日…。
辛い時もあった…。
だが、幸せな日はそれ以上にあった…。
そんな日々を後にして…。

彼女は今消えようとしている。
この世界から、彼の身代わりとして…。

それが彼女の最後の願いと言わんばかりに…。

だが…。

…嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
犠牲の上に成り立つ幸せなんて認めない。

少年は望んだ。
唯一の、純粋でたった一つの願いを…。
心の底から強く…。

少女に負けない程に強く願ったのだった。

606 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:00 [ exaqTBBA ]
あの日から太陽が七度昇り沈んだ日。
少年は荒野の大地を宛もなく歩いている。

果たして。
あの夜に起こりえた事は奇跡だったのだろうか。
最悪の事態は避ける事が出来た。
少年はそう思う。
だが、それはあくまで最悪を逃れただけであり、悪い方向であった事には間違いあるまい。
少年は帰る場所も無く。
受け入れてくれる人もいない。
そんな世界の上に立っている。
常人ならば、そんな孤独に耐えらる筈もなかろう。
ほんの少しだけ永らえて、またそれを削った不安定な存在。

そして、少年は不意に父の言葉を思い出す。
只の一度しか出会わず、そして刹那の時間しか共有していない父の言葉。
『餡刻、もしもお前がすがるものを無くした時。
全てに絶望し、耐えられない苦しみに己を投げ出したくなった時。
俺が今から言う場所へと行くがよい、そこは――』

少年が今立つ場所。
荒野には一本の木が生えている。
枯れ果てて、もう長くはないであろう老樹の前に。

固い地面。
掘る物など何もない。
だが、彼は躊躇せず素手で地面を掘りだす。
無論、こんな事をすれば只では済まない。
爪は剥がれ、肉が露出し、血が滲んでいる。
それでも彼は掘る事を止めなかった。
今の彼にとってそれだけが全てだったのだから。

そして、何か固い物が当たる感触。
丁重にその部分を掘ると、大きな木箱が姿を見せた。

蓋を開ける。
其処にあったものは…。
「これは…剣…?」
黒い大剣。
深い黒を彩った漆黒とも言える刃の剣。
その剣の下には一枚の折り畳まれた紙があった。
「…手紙?」
餡刻はその手紙を恐る恐る手に取ると、ゆっくりと開く。
読みやすいように大きく書かれている文字。
見た事はないが、これはきっと父の字なのであろう。
きっと…これを見たら自分は本当に後戻りが出来なくなる。
だが、それで良かった。
それが新たな道を開く事ならば――

607 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:00 [ exaqTBBA ]
バストゥークから少し離れた場所にあるパルブロ鉱山。
一時はバストゥークによって制圧されていたその場所だが、今では亀達に奪還されている。
そんな危険極まりない場所の一角を悠然と闊歩するガルカの姿。

広く静謐な空間。
鼻を衝く異臭がした。
水分を含んだ床が音を立てる。
辺りは水気を帯び大きな水溜りを作っていた。

其処に転がっている、原型が何かも分からない肉の塊達。
そして、その真ん中に立つあまりにも場違いなヒュームの少年。
ガルカの騎士は思う。
こんな年端もいかぬ少年が、この地獄を作り上げたと言うのかと…。
「これはお前がやったのか?」
その光景を見てもなお、平然と子供に話しかける男の力量は如何なる程か。
問いに頷いて答える少年。
手に持った少年の身長とは不釣合いの大剣に目がいく。
「そのカオスブリンガーは…」
何か思い当たる節があったのか顔を顰めるガルカの騎士。
「子供、お前の名は?」
「…餡刻」
「そうか、お前が…」
彼の中での疑問が解凍したのであろう。
一人納得し組んでいた腕を解く。
「付いて来るか?俺と共に――」
少年を誘う言葉。
その先に待ち受ける世界は想像を絶するものであろう。
だが、少年には迷いはなく、首を縦に振る。
言葉はいらない、ただ自分の思ったままに進めば良いのだから。

「自己紹介が遅れたな、俺の名はザイド。業を背負いし暗黒の刃を使う者――」
少年は歩き出す。
ガルカの騎士――ザイドと共に長い旅へ。

餡刻とザイドが過ぎ去った後。
少年によって作り出された血溜まりの中に一枚の紙切れが落ちていた。


〜親愛なる息子へ〜

息子よ、出来ればお前がこれを読まないでいられる事を切に願う。
もしも、何らかの興味でこの手紙を開いたのなら即刻燃やしてほしい。

この剣を取り、地図に記された場所へ赴くが良い。
其処にお前の生きる術を教えてくれる人物が居る。
その剣が必ずその人物と出会わせてくれる。

お前がこれから進む道は辛く険しいものとなるだろう。
だが、決して自分を見失ってはいけない。
お前はお前として、強く、強く、生きるのだ。

そして、お前を救えなかった父を許してくれ――。


後に偉大な暗黒騎士となる少年の、長い長い旅が今始まった。

608 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:03 [ exaqTBBA ]
一先ず、この話は今回を持って終了です。
思った以上に時間がかかって済みませんです。

また、次の作品でお会いしましょう――。
(注:黒猫話はまだ完結してないです。

609 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:20 [ EA53.fzc ]
リアルタイム乙!!

610 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:47 [ tDbwNHXs ]
。・゚・(ノД`)・゚・。ウアアァァァァーーーーーーーーーーーンン

。゚(゚´Д`゚)゚。

(´;ω;`)GJ!

611 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/25(火) 19:56 [ RLJk4pEc ]
(Tд⊂)ウワァァァァァァァァァァァァァァン
・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァァアァァァァァッァァアァァァァァァァアァァァッァァァン

612 名前: 389 投稿日: 2004/05/25(火) 23:49 [ RtyYDoSM ]
餡刻・・・
不憫だ・・orz

613 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 00:30 [ aqvhHijA ]
。゚(゚´Д`゚)゚。GJ!!!!!11111111!!

614 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 02:16 [ 0P9pvdY2 ]
オマイラ泣いてばっかりいないで感想を書くんだ!!

俺が手本を見せてやるぞ。

餡刻は・・・・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァァアァァァァァッァァアァァァァァァァアァァァッァァァン

615 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 04:11 [ ZVCqUKk2 ]
餡刻うぅぅぅぅぅぅぅぅう!!
切ねえぇよぅぅぅウワアァァアンン・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァァアァァァァァッァァアァァァァァァァアァァァッァァァン

616 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 13:13 [ 1l0ZIcqo ]
飴刻・゚・(ノД`)・゚・ウワァァァァァアァァァァァッァァアァァァァァァァアァァァッァァァン
GJすぎ;;;;;;;;;;;;;

617 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 14:55 [ 3pnK9/Jk ]
しかしいい加減殺しすぎな気がしてきた・・・(;´Д`)

618 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 14:58 [ Q0wSuPu2 ]
>>617
あれ黒猫って死んでないんじゃない?wwwwwwwwwww
なんか生死の部分はウヤムヤにされてるしwwwwwww
それにここで死んだら今後のネタとして使えない気がするwwwwww

619 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:31 [ Yu0zkHOc ]
此処はサンドリア領、西ロンフォール。
サンドリア攻略の為オークが住み着いた地ゲルスバの前。
数十名の人の群れが、その入り口である場所の洞窟を眺めている。

若者が多く見られる集団でありながらも、実力を備えているだろう顔つきの冒険者達。
「…遅い」
その団体の中、中央に立つ一人。
紫色のローブを見に包み、薄い黄色の少し長くなった頭髪を後ろで縛ったタルタルの青年がそう呟いた。
「あいつら、何をやっているんだ!」
腕を組み眉間に皺を寄せ、自分を落ち着かせるようにリズム良く地面を足で叩く。

彼の名前は糞樽。
タルタルの黒魔道士だ。
まだ駆け出しの冒険者である彼だが、その実力は他の新人から飛びぬけており、その力に惹かれて集まって出来たLSの団長を務めている。

ザワザワとざわめく団員達。
その中の一人。
糞樽と同じローブに身を包んだ、クリーム色の茶毛に纏った前髪のヒューム――真黒が一歩前に出て声をかける。
「落ち着いてください団長。追加の人員も送った事ですし、これ以上動くのも如何かと思います」
「だがな、真黒。帰って来ない奴等の為に人員を増やしたのは良いが、予定時間を更に十分も過ぎるのは何かあったに違いないだろう!?」
吐き捨てる様に言う。
だが、真黒は姿勢を崩さずフォローの声を紡ぐ。
「確かに、そうかもしれません。ですが、団長自らが赴く事は得策と言えません。
団長は皆の実力を信じていないのですか?」
そう言って糞樽に問い掛ける真黒。
流石の糞樽もその言葉を返せず、もどかしくも黙った。
「…分かったよ。あいつらはそこいらの奴なんかよりよっぽど腕が立つ――」
近くにある石へと腰掛ける糞樽。
「だがな、五分だ。後五分しても帰ってこなかったら、俺は問答無用で突入するぞ。良いな?」
「はい、その時は私も一緒に同行します。後は団長の仰せのままに――」
自分の我侭を聞いてくれた糞樽に対し、感謝の念を込めて丁重におじぎをする。

糞樽と同じく黒魔道士である真黒。
糞樽は実力に伴い頭もきれる方ではあるが、何分気が短い節がある。
それをバックで支え、更に考慮していたのがLSの副団長真黒の存在であった。

糞樽が一時的に落ち着きを取り戻すと、団員達の緊張した表情も幾らか和らぎ、大きく息を吐く。
そして、糞樽に気付かれぬ様、真黒に感謝の姿勢を送るのだった。

620 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:32 [ Yu0zkHOc ]
そして三分程経過して――。

「おい、大丈夫か!?」
団員達の中から声が上がる。
どうやら中に入っていた一人が無事帰還したようだった。
すぐさま白魔道士を連れて真黒が駆け寄る。
糞樽も近づこうとしたが、真黒の配慮でもう少し待ってくださいと言われ、しかめっ面をするも岩の上に座っていた。

暫くして――。
「何でも、帰還途中に見知らぬ青年が立ち塞がり、勝負を挑んできたそうです。
そして、そのまま敗北。結果、他の仲間はその男に捕らえられているそうです」
「まったく、厄介な事になったな…」
額に手を当て眉間に皺を寄せる。
「向こうが要求するに、此方の団長を呼べと言う事らしいのですが――」
そこまで言って真黒の表情が曇る、だが糞樽はまったく動じず立ち上がると。
「だったら、話は早い。その要求、受けてやろうじゃないか」
握り拳を作りやる気満々と言った姿勢を見せた。
どうやらこれまでの鬱憤を晴らそうと猛っているらしい。
だが、直に真黒は糞樽が暴走しないように声をかける。
「いえ、団長は此処に残るべきです。向こうは団長の顔も知らない筈。
ですから私が身代わりで行っても何ら問題はありません」
「真黒、あんまり俺を見くびるなよ?」
「見くびってなどいません。団長の実力は十分熟知しています。
ですが、相手が真っ向から来るとは限りません。何らかの卑劣な手段を講じる可能性だってあるのです。
団長にもしもの事があったら私達は――」
「そこまでだ真黒」
強めの口調。
糞樽が真黒の言葉を制しする。
「…団長?」
「まあ、お前の言い分は分かった。俺に対して心配の念を送ってくれる事にも感謝しよう」
「じゃ、じゃあ――」
「だが、それとこれとは話が別だ。向こうが吹っかけた喧嘩だからな、団員達に手を出したのなら団長として黙っちゃいられねえ。
俺は間違ってるか?」
その言葉に流石の真黒もおれずにはいられなかった。
「…分かりました団長、もう止めません。正し、私も付いて行きます。良いですか?」
「ああ、その位構わねえぜ。向こうも仲間を連れてきたら駄目だとか言ってねえんだろ」
視線を帰還した仲間に向けて言葉を放つ。
「はい、特にその様な事は言ってませんでした」
「良し、それじゃあ俺と真黒、後は付いて来たい奴だけ付いて来な」
それだけを言い残して自分の武器を持ち、彼はゲルスバの入り口へと向かった。

621 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:32 [ Yu0zkHOc ]
「俺は数名って言ったんだがな…」
唸る様な声で呟く糞樽。
「ま、まあ団長、そう悩まないでください。皆団長の事を思って付いて来てくれたんですから」
そう言った真黒の後ろには数十人の人の群れ。
結局、メンバー全員が名乗りを上げこうして付き添っている。
これも真黒が言ったように、皆糞樽の事を思って付いて来ているのだが、当の本人は過保護な扱いを受けているようで複雑な気持ちであった。
そうして、オーク達に見つかる事もなく彼等はスムーズに進み、帰還した団員の案内もあってか呆気なく捕まった仲間達を発見した。
「団長〜、助かりました〜」
「情けない声を出すなよ…。まあ、大丈夫そうで良かったか」
縄で木に縛られていた仲間を救出しホッとする糞樽。
「そうですね。でも、見えない部分を怪我している可能性もあります。白魔法が使える人を――」
言葉を途中で止める。
糞樽もその理由に気付き、真顔になる。
「おい、其処にいる奴。さっさと姿を見せるんだな」
糞樽が背後に立っている木に向かって声を上げる。
其処には木の枝に腰掛けて此方を見る男の姿。
自分の存在に気が付いた事を確認し、地面へと着地する。

「誰だ、お前?」
姿を見せた男は若いヒュームの男性。
軽装な服装と腰に下げた短剣を見る限りシーフの職に就いているのだろうか、被った帽子で髪形は確認出来ないが目つきは鋭い。
糞樽達と自分の人数差を前にしてもたじろぐ姿勢すら見せない度胸は大したものであろう。
「あんた等、討伐シェル何だってな?」
つかつかと歩み寄り質問を投げかける。
「そうだが、それがどうかしたのか?」
途中、そんな態度に腹を立てた団員が飛びかかろうとしたが糞樽はそれを制し、冷静に受け答えをする。
そして、捕らえられていた団員が声を上げた。
「だ、団長!そいつです、そいつが俺達を襲った奴です」
「あ〜、やっぱりか…、態度的にそんな感じだもんな。
お前、何が目的だ?獣人の味方って言うオチだったら容赦はしねえぞ」
「…いやいや、中々将来性のあるLSが此方にいると聞いたからな、是非手合わせをと…」
いやらしい含み笑い。
そして失笑する。
「しかし、相手にしてみれば結果は見た通り。しかも、こんなチビがリーダーを務めてるなんてな…」
糞樽の眉が僅かに上下する。
そして、行動を起そうと糞樽が手を動かすよりも先に動いた者がいた。
「失礼ですよあなた、糞樽団長に謝りなさい!!」
凛として前に歩み出たのは真黒。
糞樽が罵倒されたのが、よほど気に障ったのかその表情は珍しく怒りを含むものだった。
「お前らからしてみれば団長かもしれないが、部外者の俺からは只のチビだぜ?
本当の事を言ったまで、何か悪い事でもあるのか?」
「そんな事は関係ありません、人に失礼な事を言ったら謝るのは人としての礼儀でしょう!!」
「うっ…」
怒りながらも正確に言葉を返す真黒。
その辺りは本来の性格が出ているのだろう、青年としてはやりにくい相手だった様だ。

622 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:33 [ Yu0zkHOc ]
「――ったく、これだから女を相手にするのは嫌なんだよ。
屁理屈ばっかり上手いんでやんの…」
その言葉に真黒と糞樽を除くメンバー全員が反応する。
「なっ、馬鹿を言わないでください!私は男です!!」
男の言葉に対し即座に否定の声を荒げる。
何とも必死な態度だ。
「何っ!そうなのか…」
その言葉に驚きを隠せない青年。
だが、暫し口元に手を当て悩んだ後、真黒の体を撫で回すように見つめる。
流石に、気味が悪いのか真黒は思わず一歩後退した。
「ふむ、確かに…綺麗な顔をしているが、本来女性に在るべき筈のふくよかな膨らみがまるで無い――」
ピクン。
真黒の眉毛が僅かに動く。
「う〜む、だがしかしな…。只単に貧乳なだけって感じもするのだが……」
ピクンピクン。
言葉に反応を繰り返す。
何だか周りの空間が重くなっているのを、団員達は感じずにはいられない。

「…ともかく、お前!」
このままでは話が進まないと理解した糞樽は、男を指差し声をあげる。
「俺が只のチビか如何かは勝負してみれば分かる事だろう?来いよ、相手になってやる」
挑発する様に手を回し鋭い視線を送ると、男もそれに反応して一歩前にでる。
何時でも勝負は始められる、正にそんな雰囲気だったのだが。
ガッ。
糞樽の肩を掴む真黒。
「…団長…彼との勝負、私に任せてもらえないでしょうか…。
この程度の男に団長自らが出るまでもありません、副団長である私に任せてください」
一見笑顔。
だがその微笑みは如何してか、糞樽以外の者に恐怖を感じさせる。
彼等は思った。
本当に怒った人は笑うのだと…。

623 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:33 [ Yu0zkHOc ]
「へえ、お前、副リーダーだったのか…」
突然名乗りを上げた真黒に対し微笑する。
クククと悪役じみた笑いを一通り終え。
「お前見たいな奴が、そんな役に就けるなんてねぇ…。やっぱりこのLSも大した事ないんだな」
そう言って、糞樽達を見下した。
だがしかし。
「…言いたい事はそれだけでしょうか?弱い犬ほど良く吼えると言いますが、あなたは全く持ってその言葉通りだと思いますよ」
「何だと!?」
「ほら、反応した。まったく分かりやすい人ですね――」
「…貴様、言わせておけば!!」
あくまでも笑顔で。
しかし、真黒らしからぬ棘だらけの言葉。
こちらを挑発した筈の男を明らかに手玉に取っていた。

真黒と青年を境に熱い火花が散る中、その後ろでは状況の流れに取り残された糞樽達。
空気上あまり声を出せる雰囲気でないのか小声で話し合う。
(…なあ、何故か真黒がやる事になっちまったよ…俺的な立場上これは良いのだろうか…)
(…今回は流石に譲っておいた方が良いですよ団長…)
(む、そうか…)
(…ええ…)
少々引きつり気味の表情を浮かべる団員達。
(…それにしても。真黒の奴、何時もと様子が違うが、如何したんだろうな…)
(さ、さあ……)
糞樽を除く全員が、一斉に嘆息する。
(まったく、俺にはさっぱり理解出来ん)
(…団長…何時の日かその迂闊さが裏目に出る日が絶対に来ると思いますよ…)

そんな後方の会話など知るよしもなく、真黒と男の戦いの準備が着々と進行している。
互い正面に立ち、睨み合う真黒と男。
手にはお互いの武器を握り締め、何時でも戦いを始める事が出来る状況。
その二人間には、何時の間にかレフリー役をかってでた糞樽LSの一人が立っている。
男にしては珍しくも髪を結っているヒュームの青年はやたら乗り気な姿勢である。
これは本人の性格を現しているのだろう。

「それでは二人とも、準備は宜しいですか?」

「はい、大丈夫です――」
「こちらも何時でもいけるぞ」

「では正々堂々と、お互いの実力を出し合って勝負してください――」
大きく両手を振りかぶり…。
「ファイト!!」
戦闘の開始の合図が鳴った。

624 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:34 [ Yu0zkHOc ]
声と同時、間合いを取る為に後方へと飛ぶ真黒。
その最中呪文を詠唱する。
相手の外見と装備を見た所、前衛である事には間違いないであろう。
故に接近戦に持ち込まれれば自分の不利は明白。
だから呪文で距離を取りつつ、相手を押さえ込む。
それが真黒の考えた答えだった。

真黒が間合いを取ろうと後方に、飛んだのに対して男は駆け出す。
肉眼で捕らえる事は出来る。
だが、その速度を見切るのは困難な事。
ましてや接近においてその攻撃は風の如し。
(不味い!?)
詠唱を即座に中止して回避の姿勢を取る。
その考えは間違いではなく、男は既に目の前まで迫っていた。
「あんた、中々良い勘してるねえ――」
繰り出された攻撃は突きの一点。
相手に一切の魔法を詠唱させる暇を与えないように、連続で繰り出していく。

「ああ、真黒さん!」
「お前ら、少しは落ち着けよ…」
観戦上劣勢な真黒に対し、心配の声を上げる団員達を他所に糞樽だけは落ち着いて状況を眺めている。
「あの程度でやられる程、真黒は弱くねえよ」

軽い金属音。
真黒は手にしたロッドで、男の刃をしっかりと受け止めていた。
「へぇ」
男が称賛の声を呟き、再度短剣を振るう。
それをロッドで受け止め防ぐ。
此処で真黒が魔法を放つ事を止めて防御に徹したのは正解であったであろう。
もし、真黒が一瞬の隙でも見せようものなら勝負は直に決まっていた。
だがしかし、そうならなかったのは間違いなく真黒自身の実力と言えよう。

「ほぇ〜。真黒さんて、魔道士なのに近接も上手いんですね…」
「何言ってんだ、当然だろ?」
「いや、それは団長理論の中だけかと…」

受けに徹する真黒であったが、それも徐々に押されつつある。
幾ら接近戦を学んでいようとも魔道士である事には他ならない。
故にこれは当然の結果である。
青年の手数の多さと攻撃の正確差が真黒を一歩、また一歩と後退させていった。

そんな防戦一方の中、僅かに姿勢を崩すのを青年は見逃す筈もなく。
「隙あり!!」
彼の刃が今まで以上の速度で真黒の肩口を狙う。
それは常人には視覚する事も出来ないであろう速度。
だがしかし…。
「…ふう。私、これでも目は良いんですよ」
刃は真黒に届く事なく、短剣を握った男の腕をしっかりと掴んでいる。
その動体視力は並みではなかった。

「ナイス、真黒さん!!」
「すげーぜ、流石俺達の副団長だ!」
真黒の行動に絶賛する団員達だが、その中糞樽だけは苦い表情。
「油断するんじゃねえ真黒!」
叫び、皆が困惑の表情を浮かべるよりも先に青年は動いていた。

「その通り!」
「えっ!?」
不意に足を掛けられ姿勢が崩れる。
真黒の身体が傾いた瞬間、男は懐に入り込み右腕を捕らえた。
腰に真黒の身体を乗せ、その腕を勢いよく引き下ろし、全身をバネにして放り投げる。
「くっ!」
身体を捻り、出来うる限り姿勢を整えて何とか受身を取るも威力を殺しきれなかった。

追撃を予測し、咄嗟に顔面をカバーする。
だが、迅速に迫る青年の行動に対して、その行動は間違っていた。
狙いは其処ではなかったのだから。
青年は確かに行動を起していた。
本来、此処で勝負を決めるべきであろう追撃を予測するのが大多数。
真黒もその一人であったのだが、それは意識を刈り取る為ではなく、状況が有利になった余裕からなのか、はたまた青年の性格柄なのか、その掌はしっかりと真黒の胸部を握っていた。

625 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:34 [ Yu0zkHOc ]
「!!!!!」
顔を真っ赤にして口をパクパクと二、三度動かす真黒。
男は確かめる様に掌を何度も動かす。

「…変な奴だな、何やってるんだあの男は?」
腕組みしながら冷静に状況を見ている糞樽。
だが、それ以外のメンバー全員はアングリと口を開けたまま動かない。

「ふむ、やっぱり男だったのか。全然感触が無かったな」
先程の感触を確かめる様に手を握ったり、閉じたりする青年。
「まったく紛らわしい、期待して損したぜ――」
散々好き放題言って嘆息する。

そして。

何か。
何かが、切れる音が聞こえた。

じっとしたまま動かなくなった真黒。
そんな事はお構い無しに風の様に駆ける青年。
正面からステップ。そのまま背後に回った。
もう、さっさと決着をつけようと彼の中で判断したのであろう。
「ははっ!がら空きだぜ、貰った!!」
小さくも、強靭な刃が真黒を襲う。

次の瞬間。

メキョ!!
何かがひしゃげた様な音。
そして空を舞う一つの影――青年の姿。
男はこの広大な青い空に身を委ねていた。

クルリ、クルリと螺旋を描く。
(…あはははは、仮にも魔道士が…拳って…。しかも、すっげえ強くて痛いでやんの…)
口から赤い液体を撒き散らす。
折れた歯が同じく宙を舞っている。
だが…その顔は爽やかで、とても清々しい笑顔を放っていた。

空を華麗に舞っているヒュームの青年を、何処か呆けた表情で眺める糞樽達。
クルクルと、何度も旋回を繰り返すその様子を見て彼等は思う。
ああ、人は空を飛べたのだなと。
まるでスローモーションの様に流れる光景。
その終わり…。

ズドム。
頭から地面に落下した。
鈍い音を立てて…。
ピクン、ピクンと二、三度痙攣を繰り返す。
やがて、その動きも止まる…。

626 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:34 [ Yu0zkHOc ]
「…ハッ、私は一体何を…」
皆が吹き飛んだ男の様子を伺っていた中、正気に戻った真黒。
キョロキョロと辺りを見回す、と何故か押し黙った様に此方を見つめている仲間達の視線。
流石の糞樽もこれには驚いたのか、皆と同じ様に開いた口が塞がらないでいる。
意味が分からず頭にハテナマークが浮かぶ真黒。
そして、少し離れた所に倒れている男の姿を見つけた。

「あ、あれれ?」
只でさえ状況が読み込めてない中、さらに混乱する真黒。
とりあえずピクリとも動かない男に急いで駆け寄る。
「え、えっと、あの…大丈夫…ですか?」
状況が飲み込めてないのか、場違いな言葉を放つ。
真黒の言葉に反応し、意識を取り戻したのかゆっくりと右手を動かし…。
「…オーケー…ナイス…パンチン…グ…」
そう言葉を残してガックリと肩を落とした。
「わっ!ちょ、ちょっと…!!」
咄嗟に抱き寄せ、慌てる真黒。

其処にノソノソとレフリー役の男が歩み寄ってくる。
そして真黒の腕を掴むと、高らかに上げさせる。
その際、青年が地面に頭から落ちて鈍い声を上げたのはまったく気にしていない様子。
そして、大きく深呼吸をした所で。
「勝者、真黒!!!」
戦いの勝利者を宣言した。

今だ状況が飲み込めず、慌てふためく真黒。
皆が勝利の激励を浴びせる。
静かだった空間に威勢の良い声が響き渡った。

だが、それも表面上の事。
喜びに満ちているであろうこの空間の裏側。
一連の流れを見ていたLSメンバーは心に誓う。
真黒を本気で怒らせるのだけは止そうと…。

そう、心に深く誓うのであった…。

627 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:35 [ Yu0zkHOc ]
激しい決闘?から三日して――。

「うッス、自分の名は廃狩と言うッス。今後とも皆様のお膝元、宜しくお願いしますッス!」
元気な声がリンク・パール越しに響き渡る。
LS面子には恒例の、新参者が入った時の行事。
加わった新しい仲間の挨拶だ。

そんな威勢の良い廃狩の前で眉間に皺を寄せる糞樽。
「…なあ、廃狩だっけか…?キャラ変わってないか…お前?」
ゲンナリとした声。
それと共に哀れみの表情も見せている。
そんな視線に気付いていないのだろうか、愛想良く笑う廃狩。

「も〜、嫌ッスね団長!俺は元々こんな感じッスよ。
スポーツマンシップ溢れる爽やかが売りの好青年ッス」
「…あ、そ」
ビッと自分を指差して、本当に元気良く喋る。
まるで別人の様に…。

思わず『お前誰だよ!!』と突っ込みたくなる衝動を必死に抑える。
やっぱりあの時の打撃が廃狩にとって致命傷だったのだろうから…。
それ以上関わりたくないのか、適当に言葉を濁して糞樽はその場から逃げる様にして離れた。

「あらら、何だか団長元気ないッスね〜」
トボトボと歩いていく糞樽の背を眺めながら、そんな彼の胸中を知るよしもない廃狩の声が聞こえる。
一通り理由を考えようとはしたが、性格柄なのか直に考える事を止めると背後にいる気配へと目をやる。
そこには。
「あ、真黒さ〜ん!怪我の方は大丈夫ッスか?
ああ、そんな荷物なんか背負って、俺が持ってあげるから貸して下さいッス!」
自慢の足で真黒の元へと高速で近づく。
「…い、いや、いいですって。そういう廃狩さんこそ傷の方は大丈夫ですか?」
何処か引きつった笑みの真黒。
遠慮がちに断る。
それでも執拗に話しかける廃狩。
益々困った表情を浮かべずにはいられない真黒。
やはり、真黒自身も彼の変わりようを、自分に原因があるのではと考えているからであろう。
まあ、糞樽と違い彼の身を真剣に案じている辺り真黒自身の優しさが反映されている。

「あ〜、も〜、優しいッスね真黒さんは!うちの姉きにも見習わせたい位ッス!」
そんな心配露知らず、配慮の言葉を受け取って顔を緩ませる廃狩に、何故か周囲の視線は鋭い。
それは廃狩を対象として刃の様に突き刺さっている、筈なのだが…。
「あ、それと、廃狩さん。なんて他人行儀は駄目ッスよ!真黒さんの方が偉いんスから」
「は、はぁ。善処しますね…」
当人はまったくと言って良いほど気付いていなかった…。

賑やか二人から少し離れた位置。
「…なあ、あんな奴を入れてしまう俺は、もしかしたら如何しようもないお人良し…何じゃないだろうか…」
頭を抱えて唸る糞樽。
誰もその言葉に答えを示さなかった。

むしろ今の彼等の内心はそれ所では無かったのだから。

ともかく、こうして糞樽LSに新しい仲間が誕生した。
彼がこの先、このLSに対してどの様に貢献するのか、今の所定かではない。
だが、これだけは言えるのだろう。

暫くは退屈せずに済みそうだと。
そう前向きに考える事で糞樽は自分の中で結論を出すのであった。
                            
                             〜続く〜

628 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:41 [ uQinmY.w ]
      //:::::: ̄ ̄ヽ    
      |::::|::#::    `,    
      |::::!::||l , \,i,/、  _人从∧从人从/\
      i~ヽ─({{;,・;})({;,・;})  ヽ 六甲颪に颯爽と蒼天翔け
      (::6::::  `ー '(:: ) -'   ノ る日輪の青春の覇気麗しく
      .|:::: /'/エェェェヺ <   輝く我が名ぞ阪神タイガース
       |:::: !l lーrー、/   ヽ  オウオウオウオウ阪神タイガース
        |に ::: ヽニニソ    ノ   フレフレフレフレ
       |:::: :::`ー/       VWvVWvVW

629 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:45 [ Yu0zkHOc ]
FDにこの話だけ残っていたのでサクッと完成させました。
この話は先に言っておいた糞樽の討伐シェルの中の話の一つですね。

>>617
自分の考えるキャラの過去話は、それ系になる可能性が極めて高いのですいません。
とりあえず、黒猫は今後の為にああする必要があったのでご了承くださいませ。

それでは――。
(次はどの話を書こうかな…

630 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:45 [ 3pnK9/Jk ]
こーいうネタは好きだ(*´∀`)

631 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 17:52 [ Mbr5gN/M ]
>>628
フイタwwwwwwwwwなんの誤爆だよwwwwww

632 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 22:00 [ jmEHW8bI ]
真黒こわ(・ω・;)

633 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/26(水) 23:58 [ 0FsGSchQ ]
やほ―――――い
漏れの大好きな真黒様が出wてwきwたwぜ
今の気分はまるでマガジンを読み終え
次の水曜日を待ちわびてる水曜日の夜の気分wwwwwwwww

634 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/27(木) 05:55 [ r/.QgcIk ]
GJ!!!!続きが気になる
完全版リメイクの廃狩の告白シーンはここから因縁がはじまってたのねwwwww
真黒タン最w高wだwぜwwwww
ふと疑問なのだが、糞樽以外のLSメンは
真黒タンの本当の性別を知ってるのかと問いかけてみる
>クルクルと、何度も旋回を繰り返すその様子を見て彼等は思う。
>ああ、人は空を飛べたのだなと。
ワロタワロタwwwwwww

635 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/27(木) 11:25 [ s/cxkBxQ ]
廃狩吹いたwwwwwwwww
|w・`) (BP6EcrOQ)さん最高すぎwww

636 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/27(木) 11:25 [ s/cxkBxQ ]
廃狩吹いたwwwwwwwww
|w・`) (BP6EcrOQ)さん最高すぎwww

637 名前: |w・`)(BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/27(木) 12:24 [ 1tvZETHw ]
>>634
言ってしまうと、本当の性別を知っていません。
何故真黒が自分を男と言い張るのかは、いずれ書く糞樽と真黒の出会いの部分で補完します。
これは、討伐LS誕生の話でもあるので出来るだけ早く完成させるべきなんでしょうが…。

真黒は自分を男と言っていますが、勿論団員全員はその事に疑問を持っている訳でして…。
そんなハッキリとしない中、ポジティブ廃狩がLSに加わってきたので無論答えを求めようと動きます。

真黒男か女か!?な廃狩を中心とした馬鹿話の案は一応三話分考えております。

ちなみに、真黒と糞樽がくっつく事は天地が裂けてもないので白樽との王道派の皆様も安心してお読みくださいませ。

638 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/27(木) 15:53 [ .X.MV4Bk ]
リメたん月姫とか好きでしょ?w

639 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/27(木) 20:21 [ DtOHNEf6 ]
>>638
月姫というものは知っているのですが、残念ながらやった事はないです…。
ただ、その作者さん?が書いた小説の上下巻を知り合いに渡され読みましたね。
個人的な感想としては面白かったですよ〜。

とりあえず、これだけでは何なのでオマケを↓。

餡刻
世界認識化の限りなく外側にいる青年。
更に自身に内包した意味を自己で肯定することが出来ず。
ひいては他者に依存せずに居た為に存在を希薄にさせてしまった。

存在について
物事の存在は、認識される事でその存在の意味を持って肯定される。
故に認識の及ばない範疇に存在する事は外的要素からの認識による存在肯定を受ける事が出来ない。
つまり、存在そのものが希薄になってしまうのだ。
餡刻は自らの業を背負う事で自己肯定を強力にし、存在の消滅を免れているが、外部からの意味の添付という要素を含まない事は外的にとって存在しないと言っても良いであろう。

此方の設定の餡刻は上記の理由で存在に問題があります。

640 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/27(木) 20:34 [ lA0CEMd2 ]
リ神よ、一つだけ聞かせてくれ!!
>>637は本人ですか?(・ω・)

641 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/27(木) 20:41 [ u.UxtO0M ]
>>640
本人ですよ〜。
自分のパソコンじゃないと##の間が…。

642 名前: (YjtUz8MU) 投稿日: 2004/05/28(金) 00:15 [ xQft3waQ ]
fd

643 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 03:06 [ Px9Z1iaQ ]
つまる所餡刻の子供の時の話で後半認知されなくなったのは
自分を認知していてくれた母さんが死んでその後一人で閉じこもってからって事なのかな?

あ〜自分で書いててもあんまし分からん
誰か分かりやすく教えてエロイ人!!

644 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 13:57 [ hHHi7fSE ]
ところで |w・`) (BP6EcrOQ) さん
アナタは何時までリメイクの人何だ?(´∀`)

645 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 15:28 [ /0dUvYso ]
ふ、真黒たんに此処まで萌えたのは現状俺だけだろうな(*´ω`*)

646 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 15:36 [ Tc6rxuos ]
所で真黒の読み方は
マクロ?( ゚Д゚)ノシ[F5]
マグロ?(*´∀`)
シンクロ?( ゚Д゚)人(゚Д゚ )

647 名前: 645 投稿日: 2004/05/28(金) 15:46 [ /0dUvYso ]
>>646
俺はずっとマクロだと思ってたが…wwwwww
そうか、それ以外の呼び名の可能性も捨てきれんな(*´ω`*)
だけどもしも、マグロたんだったら目から汗が出そうだor2

648 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 15:57 [ Tc6rxuos ]
マコクとか
シンコク( ゚Д゚)ノ[書類]
って可能性もあるな

649 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 16:39 [ GTw/Xkpk ]
いやいや、此処はやはり真・黒でマコト・クロって名前だよきっとwwwwwwwwww

え、強引すぎ?wwwwwうはwwwwおkwwwww

650 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 17:40 [ ZVwcuagE ]
まっくろ


じゃないの?

651 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/28(金) 17:42 [ Tc6rxuos ]
>>650
なんかマヌケっぽいからヤダ

652 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/28(金) 20:08 [ ucV1UVbc ]
真黒の呼び方は↓


前回までのあらすじ(嘘)
真黒へのスキンシップ向上と為に廃狩は30623パターンの作戦を考え、
ついにその作戦のうちの一つ『名前を呼び捨てにする』を実行に移すのであった!!

「真黒さん〜」
糞樽LS毎度お馴染みの破天荒な声が辺りに響く。

「何ですか廃狩さん?」
「実は聞いて欲しい事があるんッスよ」
「はい、何でしょうか?」
ウオッホンとワザとらしく咳をする廃狩。
そして…。
「ま、まく――」
途中上がってしまったのか声が止まる。
「巻く?何かを巻くんですか?」
「東方の国には寿司という伝統的な料理がありましてね。
その寿司と言うものの中には、握り寿司と巻き寿司って言う二つの種類があるんスよ!」
ズダダダと物陰に隠れていた団員達がずっこけた。
「そうなんですか、私知りませんでしたビックリです。廃狩さんて料理系に詳しいんですね」
手をポンと合わせてニッコリ微笑む真黒。
その笑顔に見つめられ…。
「は、はははは、当然ッスよ。今後も料理関係の事があったら何なりと聞いてくださいッス!」
ビッと自分を親指で指し示し、胸を張る廃狩。
「はい、分かりました」
そうして廃狩から背を向け、真黒は自分のモグハウスへと帰っていった。

後日。
料理関係の資料をかったっぱしから集め、モグハウス内で泣きながら読書に勤しむ廃狩の姿があった。


という訳で真黒――『まくろ』が正解です。
まんまですね…。

653 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 17:01 [ CBxs3lDw ]
  ,'⌒ヽ
      '´  ̄ ヽ      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ノ ! i !从ノ)i〉     | つまんないwwwwwww
    ' 从!゚ ヮ゚ノリ    <  お前は所詮リメイクだけが取り得wwwwwwww 
.   `ヽ⊂)允!つ       | 新作は駄作www恥掻かない内にさりなさいwwww
      く/_|〉         .\_____
        し'ノ

654 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 17:28 [ 4SMjW5TY ]
>>653
嫉妬はみっともないと思うぞwwwwwwww

655 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 18:33 [ XniC7xvg ]
新作っていうかこれもリメイクの一部だよねwwwwwwwwwwwwww

656 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 18:56 [ .6lzpQ.k ]
>>655
リメイク設定って奴か?wwwwwww

657 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 19:10 [ 9Vc8oZhQ ]
俺たちが何か言うまでも無くリメ氏はスルーするから
無問題wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

658 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 19:20 [ .6lzpQ.k ]
wwwww人気投票
現在総投票数998。
そしてリメイク完全版の票数は198だ。

後は分かるな?

659 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 19:27 [ WV3Bg0Mo ]
漏れは本スレより隔離スレよりリメイクマンセーwwwww

660 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 20:35 [ XniC7xvg ]
リメイクとノンビリのファンだけだろwww何回も投票してんのwwwwww
他のたまに行く一般の人は絆とかに入れてんじゃねえのwwwwwwwww

661 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 20:38 [ 3yz.7K/w ]
所詮三流作家以下のオナニー文だからねwwwwwwwwwwwww
プッごめんwwwww本当の事言っちゃったwwwww許してwwwww

あの投票で本当に上手いのは10票以下の作品だけwwwww
他のは一人が何度も投票したりしてるから意味のないものwwwww

662 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 22:32 [ KSME/pYY ]
おいっ 良く聞け喪前ら
喪前らの意見が間違ってるとはいわん
喪前らからしたらつまらんのかも知れん。
だがなぁ漏れみたいに楽しみにして一日に何回も
このページを開いてる奴もいるんだ。
読みたくないならここに来んな【かえれ】
作品について「こうした方がいい」とか「このほうがいい」
という批判ならいいが、作品そのものや執筆行為を批判するな。ヴォケガ∞
人として余裕がないぞ それに 自分が出来ないからって荒らしてる様にしかみえんぞ
違うと思うなら、リメ神さんみたいにコテハンで書いてみ。
そうしたら訂正してやろう

663 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 22:51 [ WV3Bg0Mo ]
まあ簡単に言うと

"文句があるなら見るな"【かえれ】

664 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 22:55 [ 9Vc8oZhQ ]
>>661
「w」を使って批判した奴にはこの言葉を言う礼儀が必要だwwwwwww

うはwwwwwwwwwwwおkkkwwwwwwwwwwwwwwww

665 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:06 [ s5No7P6E ]
漏れも>>662と同様、リメさんのSSを楽しみにしてる奴だwwww
本スレや隔離ではどうやら小説形式のSSに抵抗があった読者がいたみたいだが
漏れ的には面白ければ初期から続いている形式のSSだっていいし
小説形式のSSだっていいし、歌の替え歌だっていいwwwww
もちろん、面白くないものだってぜんぜんうはwおけwだwwww
まーようするにあれだ、寛容の精神ってヤツが読者にあるかないかで
スレが廃れたり盛り上がったりするのだろwwww
>>662さん、熱くなる気持ちはよくわかるがモチツいてきな粉にまぶせwww
わざわざ専用スレに来てまで煽ってくのはなかなか奇特な連中だと思われwww

とにかくだ、漏れが言いたいのは
漏れはリメさんのSSも含め内藤SSが大好きだーーーーーーーーwwwww

666 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:11 [ iC2PLg3s ]
まあ、皆さんこれでも読んで落ち着いてください。
という感じで投下です。



虹の高原として有名なラテーヌ高原。
其処を颯爽と走る二匹のチョコボとそれに跨る二人の人の姿。

糞樽LSの副団長を勤めている黒魔道士――真黒とLS団員の一人であるヒュームの男性。
彼等はダボイに生える病気の薬となる苔を採取して、現在団員達が寝泊りしているサンドリアに向けて帰還途中だった。

そんな中。

「誰か助けてー!!!」
耳を裂く様な悲鳴が聞こえて真黒と男がチョコボを走らせる。
少しして声の主であろうヒュームの少女の姿が見えた。

見た所新人の冒険者であろうか、そういった雰囲気を纏っている少女は目に涙を浮かべて息を切らしながら走っている。
その背後に大きな影が見えた。

「危ない!助けなくちゃ!」
襲われている冒険者の背後に見えるはガルカの何倍もの大きさの巨大な羊。
「ちょ、副団長!あれってランベリングランバートじゃないですか!?」
「分かってます。だからって、目の前で困ってる人を見捨ててはおけません!!」
そう言ってチョコボから飛び降りる真黒。

「副団長駄目ですよ!!」
「私があの獣の注意を惹きます。その間にあの人を助けてあげてください」
団員の制す言葉に耳を貸さず、颯爽と駆け出す。

「ああ〜…そんな事言われても、あんなのを一人で如何にか出来る訳ないじゃないですかぁ〜。
うううう…ええい!もう、如何にでもなれぇ〜!!」
付き添いの男は何度か悩むも、真黒の言葉通り動く事を決めた。

667 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:12 [ iC2PLg3s ]
(まさかランベリングランバートがこんな堂々と表道を歩いてるなんて…)
内心舌打ちしながらも、冷静に頭を働かせる。
こういう状況下で臨機応変に対応し、冷静に行動を行える者こそが沢山の戦いの中で生き延びる事が出来る。

(まずは襲われている人から注意を逸らさないと――)
頭で考え、的確に素早く行動へと移す。

「…だ、誰か。た、助け――」
恐怖で声が裏返り動けずにいる少女。
正に次の瞬間命を失うかという刹那の合い間に、真黒の放った呪文が割り込まれた。

「あ…」
「早く逃げてください!」
恐怖からか放心状態になっている者に対し、逃走の言葉を投げかける。
頭をコクコクと上下に動かし、到着した団員と一緒にチョコボへ騎乗した。
「副団長!無理に戦おうとせず、絶対に逃げてくださいよ!!」
「分かってます!」
一言だけ言葉を交わしてその場を飛び退く。

先程の攻撃などまるで効いていないと言わんばかりに、ランベリングランバートが二本の巨大な角を向けて真黒へと突撃する。
ともかく足を止めるのは自殺行為。
一定のリズムを取りながら間合いを計り、相手の突進を回避する。
その攻撃のすれ違い様に数度魔法を撃ち込み様子を見た。

だが相手は相変わらずケロリとしていて、まるでダメージを負ってはいない。
分厚い毛皮と強靭な筋肉に守られた天然の鎧は思った以上に強力なもののようだ。
(あれを吹き飛ばせるほどの火力は私には出せない…ならば――)
以前、糞樽に指南された魔法の可能性を広げる手段。
浮かび上がらせる水の概念。
その波打つ力を細くイメージし、槍の様に尖らせる。
顕現される細い水の束。
それは圧縮されて研ぎ澄まされた水の槍。
向かってくる獣に対して撃ちこむ。
先程までの攻撃とは違い、槍の刺さった場所からは確かな手応えと取れる獣の血液が噴出す。
しかし天然の鎧を貫きはしたものの敵の面積に対して、あまりにも水の槍は小さすぎる。
その為、与えた傷口も筋肉で抑えたか出血は即座に止まっていた。

668 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:12 [ iC2PLg3s ]
此方の放った魔法に対し、怯む事もせず再び突っ込んで来るランベリングランバート。
このままでは埒があかないであろう。
想像以上のタフさ、そして闘争本能に真黒は次の手を考える。
とりあえず敵の注意は自分に釘付け。
そして、襲われていた人を逃がすだけの時間は十分に稼いだ。
自分にこの敵を滅する火力はない。
元より倒す必要などない敵だ。
後の問題は如何にしてこの敵を本道から外し、且つ自分も上手く撤退するか。

新たに浮かんだ考えを実行すべく、魔力を物理力へと変換する。
そして再び顕現した水の槍を、クルリと体を捻って腕をしならせて放つ。
普通に撃ったのならば結果は先程と同じ。
敵の行動パターンから回避は殆どあり得ないと割り切っていても効果は薄いだろう。
だが真黒はその槍の的を目に絞り、正確に刺さるように放っていた。

ウオォォォォン。
視界を閉ざされ、咆哮し暴れ狂う獣。
その姿は名に冠する意味にピッタリであっただろう。
「よし!後は私の声で誘導すれば――」
自分の愚かさを呪う。
暴れた獣は何を思ったか、明後日の方向へと走り出す。
その先には――黒いマントを身に包んだヒュームの青年らしき者の姿が…。

「其処の人!危な――」
制止の声は間に合わない。
一か八かと自分の持ちえる最大概念の魔法を放とうとする。
自分の力量以上の力を使うのは自殺行為だと分かっていても構ってはいられない。

だが、次の瞬間。
男は背中に背負った大剣を掴むと一気に引き抜き、何を思ったか突撃してくる獣の方へと一歩踏み出した。

669 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:13 [ iC2PLg3s ]
空気を押し潰すような音。
それは一撃。
青年が振るった黒剣の剣撃は、ランベリングランバートを原型不能なまでに粉々へと撃ち砕いたのだった。


「す…凄い…」
青年の強力な一撃に、思わず見惚れた様に見入ってしまった真黒。
「――副団長〜!!」
聞きなれた声我を取り戻し、視線を向ける。
先程の人を安全な場所まで運んだのか、先程分かれた団員が急いで此方に走ってきた。

「今の凄かったですね!一瞬であんな大きい獣を粉々にするなんて!!
俺、興奮して手に汗握っちゃいましたよ!!」
「えっ、私じゃないですよ。攻撃した男の方を見てなかったんですか?」
「…え?でも」
キョロキョロと首を動かす。
「副団長しか居ませんよ?」
謙遜しちゃって〜と手をパタパタ動かす。
先程青年が居た場所に視線を向けるも団員の言ったとおり姿は見えない。
もう何処かへ行ってしまったのだろうか。
「まったく、うちの団長と副団長の実力は自慢できるくらいですね!」
まるで自分の事のように喜ぶ男。
どうやら彼からは攻撃を仕掛けた者が見えなかったのであろう。
とりあえず真黒はそれ以上深く考えず、男が連れ戻したチョコボに乗ってサンドリアへと帰還したのだった。

670 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:13 [ iC2PLg3s ]
翌日――。


「真黒さ〜ん!」
破天荒な明るい声を南サンドリアの露店外に響かせる男。
声の主は緑色の軽装服を着た茶髪の若いヒュームの青年――廃狩だった。

「何でしょうか廃狩さん」
足を止める真黒。
クルリと踵を返して廃狩の方を向く。
「そんな荷物を背負って何処行くんスか?」
廃狩がビッと指差した先は真黒の背中にある鞄。
「これですか?今日まで倒したNMの戦利品が入っているんですよ」
「あ〜、NMギルドッスね。はっ!そんなパシリみたいな事は真黒さんがやっちゃ駄目ッスよ!
ささっ、俺に任してくださいよ。ちゃちゃっと行って帰ってくるッス〜」
ズズイと近寄ってくる廃狩を手で制す。
そして人差し指をビッと立てて口を尖らせた。

「駄目ですよ廃狩さん。この前そう言って任せたら報奨金をこっそり使ってたじゃないですか」
ズビシッ!と。
まるで効果音が聞こえてきそうな程に真黒の言葉が突き刺さった廃狩。
「あ…いや…あれはッスね、違うんすよ!
偶然バザーをしていた冒険者が競売よりも食品を安く設定していて、これはお買い得!と皆の為を思って使ったんス!」
慌てて取り繕う。
だが目を細める真黒にたじろぎ一歩後退する。

「…廃狩さん」
「は、はい!!」
優しい声にピンッと背筋を伸ばして反応する。
彼は意外と正直者なのだろうか、嘘がヘタなのは簡単に見て取れた。

「そんな嘘付いても駄目ですよ。廃狩さんが買ってきた食品量と足りない報奨金の誤差を計算した所、競売価格より2G安いだけでした」
「…それはッスね…えっと…」
「それに、廃狩さんの部屋から見慣れない新品の銃が見つかったのですが、あれは何なのでしょうか?」
「う…あ…」
冷たい汗がダラダラと流れる廃狩。
状況的に言い逃れは不可能、崖っぷちギリギリに立たされている気分。
「私、嘘付く人は嫌いですよ」
私、嘘付く人は嫌いですよ。私、嘘付く人は嫌いですよ。私、嘘付く人は嫌いですよ―――。
真黒の放った言葉が、何度も廃狩の耳に木霊する。
「…す、すいませんでした嗚呼ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
号泣しながら頭を振り、走り去っていく廃狩の背を見ながら、ヤレヤレと肩を落とし嘆息する真黒だった。

671 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:13 [ iC2PLg3s ]
「ふう、此処に来るのも久しぶりですね」
目の前に見える新調の大きな建物を見て声を漏らす。
その周りには、沢山の経験を積んでいると人目で分かるような屈強な冒険者達が群がっていた。
そんな者達が集まる建物。
其処に飾られた看板には、大きくNMギルドと書かれていた。

NMギルド。
それは冒険者が増える一方で凶悪なモンスターも増え続けている現状。
それらが及ぼす一般民と商人などに対する被害の拡大、また危険な敵に態々立ち向かう者も少ない為か好き勝手に暴れられている現状を打破し、意図的に討伐してもらう事を促進させる団体である
これに対する運営上の問題は、各国の有力者や商人達が資金援助を行っているらしい。
システムを簡潔に説明すると、各地域から一定の被害届けが集まる事により、そのモンスターはランク付けされ賞金額が決定する。
そして指定されているモンスターの一部を戦利品として持ち帰る事により、予め設定された報奨金を貰う事が出来るのである。
このギルドが成り立ってからは、各地のNM討伐量が加速的に増加し、結果的には討伐シェルの増加などにも一役買っていた。

トンと、扉を開けた際に誰かとぶつかる
目の前には二人の冒険者。
銀髪のエルヴァーンの青年と茶髪のタルタルの少女。
「あ、済みません。大丈夫ですか?」
「ああ、いいよ。ボクもよそ見してたのが悪かったし」
すぐさま謝る真黒。
だがぶつかったタルタルの少女も自分の非を認め、特に問題も起こる事なく軽い言葉を交わして別れる。
場所が場所なだけに荒くれ者も多く居る為、問題ごとにならなくて良かったと真黒は安堵した。

「まったく、相変わらずドジな所がありますね貴女は」
「…うう、そう言う君だってもしもボクの前を歩いてたらさっきの人にぶつかってたと思うよ」
「私がその様なドジを踏む訳ないじゃないですか」
「むぅぅ…」

「まあ、そんな事よりも。これで貴女の新しい装備品が買えますよ。良かったですね」
「あっ…うん、そうだね。だけどボクの防具よりも君の武器を新調した方が良くないかな?」
「そんな事はありません。私としても貴女の服装の変化が楽しみですからね」
「あ…、そう言われるとボクも嬉しいよ…。だけど、少し恥ずかしいかな…」

仲良さそうに話す二人の姿。
その背中を見て何か微笑ましい気持ちになった。

672 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:14 [ iC2PLg3s ]
「あら、真黒さん。良くいらっしゃいましたねぇ」
中に入ると受付中に居た老婆が、世間じみた口調で声をかけてきた。

「あ、覚えていてくれたんですか」
「ええ、あなたのLSは世間じゃ有名だからねぇ」
皺の寄った顔で精一杯の笑顔を送る老婆に、頬をポリポリと掻きながら少し照れた表情をする真黒。
「あなた達のおかげで、一般人や商人達の交通面も良くなって助かるわ」
そう言って丁重にお辞儀をする。
「あああ、そんなに畏まらないでください。私達はそんなに感謝される立場じゃないんですし」
「あらあら、照れちゃって可愛いわ。
でもねぇ、皆期待しているのよ」
「期待…ですか?」
「ええ、もしかしたらHNMを討伐できるまでに成長するんじゃないかって言われてるのよ、あなた達のLS」
とんでもない単語に思わず驚く。
聞いた言葉の所為か、一際大きい張り紙が目に付く。
書き出しにはこう記されている〜ロランベリー耕地に出現した新たなノートリアス。想像以上の力からハイ・ノートリアス・モンスター認定〜と。

ハイ・ノートリアス・モンスター。
通称HNMと呼ばれるこれは熟練した冒険者でさえ手の負えない、現状で最も凶悪な部類に指定されたモンスターである。
このモンスターを討伐する事は名誉とされ、その様な有能である冒険者を雇っている国のアドバンテージにもなり得る為に賭けられている報奨金も並大抵ではない。
一般的に知られる中では二角の巨獣と呼ばれるベヒーモスや、ソロムグの悪夢ロックなどが該当される。
それは過去から存在していたものも居れば、最近になって姿を見せたものまで様々。
共通するのは、それら全てがそのエリア内の生態系を崩してしまう程の力を持っている事だけ…。
これらのモンスターは先の説明通り倒せる者が皆無であり、現状では自然災害の様な扱いとして取り扱われているのが現実だった。

「ハイ・ノートリアスですか…。それは流石に期待しすぎですよ」
「ふふふ、気長に待つわよ」
「ぜ、善処してみます…」
苦笑いを浮かべる真黒に対し、老婆は含み笑いをしつつ、渡された戦利品を一つずつ丁重に鑑定していった。

673 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:14 [ iC2PLg3s ]
「はい、これが今回の報奨金よ。これからも頑張って頂戴ね」
ドサッと言う音と共に大量のギル袋が置かれる。
「あ、何時も通り報奨金の一割は孤児院に寄付しておいてください」
「何時もながら、立派ね〜。うちの孫に爪の垢を飲ませたい位だわ」
真黒に対しての仕事を終えた所為か、世間じみた口調に戻る老婆。
「まったく、あなたみたいな出来すぎた子が今だ一人身なのが分からないわ。
最近の若い男は、目が腐ってるんじゃないかねぇ」
「あの〜…、毎回同じ事を言ってるんですけど…一応、私は男と言う事でして――」

「おい、どう言う事だよ!」
ドンと机を叩く音が聞こえ、真黒達の会話が中断する。
そして、中に居た者達全員の視線が音の出所に集まった。

若い男の冒険者が受付の男と口論している。
状況的に見て、金銭のトラブルだろうか。
「すいません、私はこれで」
「まったく、あんたは天然記念物並のお節介さんでもあるわよ」
ペコリと一礼し、老婆との話を切り上げギルの入った袋を鞄に仕舞うと、青年の方に視線を向ける。
こういう時、彼女の性格は厄介なもので世話焼きの面か否か、場を収めようとその口論している現場へと割り込むのだった。

「如何したんですか?」
丁重に、それでいてハッキリと聞き取れる声で青年に話しかける真黒。
「如何したもこうしたもねえよ。こっちが折角NMを倒したってのに、こいつと来たらこの戦利品じゃ金は払えねえって言うんだぜ?」
男が指差し、机に置かれている物を見る。
それは何か――動物の角だろうか。
何となくそれっぽい物だというのは理解出来るのだが、なにぶん乱暴に扱ったのか傷だらけで、何より戦利品としては小さすぎた。
「だからね。これじゃあいくら倒したモンスターの名前まで言われても、君が倒したか如何か判別出来ないんだよ」
困った顔で必死に喋る中年のヒュームの男性。
聞き分けのない青年の主張を必死で否定しようとしている。
「だから言ってるじゃねえか、つい力を入れすぎて粉々になっちまったんだって。
その辺は謝るからよ、何とかならないのか?この通り!」
意外と素直な性格なのだろうか、両手を合わせて頭を下げる青年。
それを見て、少し脅え気味だった男は急に態度を変えた。

674 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:14 [ iC2PLg3s ]
「粉々ね〜…。大体、君は見た所一人旅の様だが…」
何やらゴソゴソと資料机を漁りながら話しかける。
「そうだけどよ。なんか問題でもあるのか?」
「はぁ、分かってないね」
大きな溜息。
「君が倒したと言うモンスターはランベリングランバートだよね?」
「おう!」
威勢良く答える少年を横目で眺め、巨大な羊の絵が載っている資料を見せるとそれを指で弾く。
(…ランベリングランバート?)
何かが真黒の頭の中に引っ掛かる。

「このモンスターは最近のNM指定の中で中の上レベルの奴でね。
そこそこ腕の立つ討伐シェルならまだしも、一人旅の君が倒しただなんて言われたら誰だって信じるのは不可能さ」
「だからだなぁ――」
あからさまに青年の主張を嘘と決め付けている男。
一般的に考えれば男の説明を大多数認めるだろう。
しかし真黒は、反論する彼の必死っな表情を見る限り、嘘を付いているようには見えないと思っている。
そして頭に引っ掛かる点を思案し、ランベリングランバートと言う名と青年の表情をじっと見てそれを思い出した。

「あ、昨日の――」
真黒が出した声は言いあっている二人には聞こえなかった様だが、気にせずに会話の中に割り込んでいく。
「この人は確かにランベリングランバートを倒してましたよ」
「はんっ、他人が口出しする問題じゃ――」
途中まで言いかけて、男は声の主――真黒の顔をまじまじと見る。
「あ、あなたはミスたる〜の副団長さん!!」
「はい、一応副団長を勤めさせて頂いている真黒です」
「ん?」
態度がでかかった男の口調が急に変わったのを見て、青年も真黒の方を見る。
「あ、す、すいませんでした。ミスたる〜の方が言うのでしたら間違いありませんね。此方がランベリングランバートの報奨金ですお確かめください」
「あ、ありがとう…」
いきなり素直になった男に対し、少し戸惑った表情をするもしっかりと報奨金を受け取り礼を述べる。
「良かったですね、ちゃんと貰えて」
「あ、ああ…」
「それでは、私はこれで」
青年とギルドの人達に軽く会釈をして、真黒は扉に手を掛け外に出た。

675 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:14 [ iC2PLg3s ]
「お〜い。そこのあんた、ちょっと待ってくれ!」
NMギルドから出た真黒を呼び止める声。
「はい?」
素直に答えて振り向く。 
見るとそれは、先程ギルド社員と口論していた青年だった。

「私に何か用ですか?」
屈託のない笑顔をする真黒。
「ああ、いや。特に用って程じゃないんだが、一言お礼を言いたくてな」
先程、青年の言葉を証明した事に関してだろうか、真黒はそう考えて。
「良いですよ、お礼を言われるほどの事じゃないですし」
手をヒラヒラとさせながら、そう答えた。

「ん〜、でもほら。その辺りは礼儀と言うかさ」
「騎士道精神ですか?」
青年の見た目から、騎士職のものだと考えた真黒はそう答える。
「まあ、そんな感じだ。本来ならお礼を言ってさよならだけど、あんた良い人みたいだからなんか軽い物でも奢るよ。良いだろ?」
あまりに元気の良い青年の言葉に、断るのも悪いと思い首を縦に振ったのだった。

「――それにしても…本当にサーモンサンドなんかで良かったのか?」
隣でサンドイッチを頬張っている真黒に話しかける青年。
ゆっくりと食事を噛み締め、飲み込んでから。
「ええ、とっても美味しいですよ。奢って戴き有難うございますね」
そう言って笑顔を返した。

食後の軽い雑談に華を咲かせる二人。
「そうですね〜。あれにはビックリしましたよ」
昨日の戦いについて語り合っている。
「あんまり驚いている顔には見えないな」
「いえいえ、こう見えても凄い驚いているんですよ。
私のLSの団長と同じ位の強さを持った人なんて滅多にいませんから」
「それって褒め言葉なのか?」
少し怪訝そうな顔で問い掛ける。
「はい、私が他人の実力を褒める上で最高の言葉ですよ」
真直ぐに人を見る目で力強く答える真黒に思わず噴出してしまう青年だった。

「さてと、それじゃあ俺はそろそろ行くかな。こんな見ず知らずの男を相手してくれてありがとな」
「いえいえ、私もお話出来て楽しかったですよ」
ペコリとお辞儀をする真黒。
「そりゃどうも」
つられて青年もお辞儀をする。
「じゃあな真黒。また何時の日か会えたら軽く話しでもしようや」
「ええ、そんな日が来るのを楽しみにしていますね。餡刻さん――」
真黒から背を向けて歩き出す餡刻。
その背中を見送って真黒は手を振った。

676 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:15 [ iC2PLg3s ]
「ま〜く〜ろ〜ひゃ〜ん…!!!!!」
「ひゃぁ!!」
背後から急にオドロオドロとした暗い声が聞こえ、肩を竦めて驚く真黒。

「は、廃狩さん?」
その声の主は廃狩。
何故か涙を絶え間なく出しながら真黒を恨めしそうに見ている。
「え、えっと…。如何したんですか、そんなに涙なんか流して。男の子は涙を見せるものじゃないですよ」
戸惑いながらもポケットからハンカチを取り出し廃狩に差し出す。
廃狩はそれをサッと取るとお約束の様に鼻をかんだ。
その際しまったーと訳の分からない事を言って真黒の頭にハテナマークを増やしたのは如何でも良い事だろう。

暫くして――。
「あの、落ち着きましたか?」
ようやく涙を止めた廃狩に対して真黒が躊躇いがちに声をかける。
「…誰…ス…」
「はい?」
小さな声であまりよく聞こえなかったのかもう一度問い掛ける。
「さっきの男は誰ッスか!!!!!」
絶叫。
そしてまた号泣。
ハンカチを口で噛んで引っ張り、一瞬浮かれた表情。
そして四つんばい姿勢で嘔吐。
だが真黒が大丈夫?と心配そうな表情をすると即座に復活。
表情七変化とは正にこの事か…。
もしも誰かがこの光景を見ていたら、廃狩から犬を連想したかもしれない。

「ともかく!真黒さん!!」
「は、はい!」
何とか話の流れが進みつつあるのか、廃狩が強めの声でビッと真黒を指差す。
「さっきの男は誰ッスかぁぁ〜。折角真黒さんを見つけたら、知らない男と楽しそうに喋ってるじゃないッスか!!
もう、俺のハートはブレイクショットッス。粉々のパリーンで再生の効かないほどに痛んじゃったスよぉぉぉ」
実際の所後半は嗚咽まじりの声であまり聞き取れなかったが、要訳すると先程の青年と話して居た光景を見て友達以上の関係の者だと廃狩が勝手に勘違いしたのだろう。
意味を理解し即座に否定に走る。

「ちょ、ちょっと待ってください廃狩さん。誤解ですよ。
いいですか、さっきの人はですね―――」


十分後――。
「な〜んだ、そうッスか。勘違いのお礼で食事を奢ってもらっただけのただの『他人』なんスね」
一通りの説明を受けて、何時もの活発さが戻った廃狩。
対する真黒はドッと疲れたように肩を下げている。
「いやいや、俺は最初っから真黒さんを信じていたッスよ〜」
一体この言葉を言うのはどの口だろうか…。
「あはは…、分かってもらえて光栄です…」
ハァと溜息。
「もう〜、真黒さんたら。そんなに暗い表情は駄目駄目ッス!
こう、もっとポジティブに行きましょう!そうしないと団長も心配しますッスよ〜」
そうして二人は自分達の宿へと戻っていく。

そんな中、真黒はふとある事に気が付いた。
先程まで喋っていたあの騎士の青年。
何故だかその名前を思い出そうとしても霞がかったように思い出せない事に――。

677 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:20 [ iC2PLg3s ]
今回はちょっとした番外編です。
まだ内藤LSの面子も少ない時期の頃という過程で書いてあります。

真黒はそう言った状況下で他のキャラクターと絡めやすいので書いてて幅が広がります。

次の話は多分、真黒系列以外のものを書くと思います。
まあ、皆様の感想しだいではある程度書くキャラクターを選んで話を載せるのもまた一つのお題として
此方も楽しめそうですがw


応援してくれる、読んでくれる皆様へ。
自分が文を書いて評価してくれる皆様にはとても感謝しています。
今後ともどもリメ人をよろしくお願いします。
それでは――

678 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:41 [ XniC7xvg ]
うん、面白いな。
樽ナと死人も仲良かったころの話か・・・


ところで久しぶりに普通の「w」を見たwwwwwwww嘲笑だっけ?wwwwwww

679 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:49 [ LQM.CAy. ]
リメさん相変わらずGJ!
しかし餡刻がなんか明るくて安心してしまった。

680 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/29(土) 23:53 [ cheHHNEI ]
真黒萌えwww
リメ神さんGJ!!!!
これからも楽しみにしてマース

681 名前: 662 投稿日: 2004/05/30(日) 00:39 [ fH4cQE16 ]
>>665さんよ
すまぬ・・・少し熱くなっちまったwwww
リメ神さんもつかれさまwwwwwwwwwwww
漏れ的には真黒ネタが一番好きだが、他のも好きだったりする。
このサイト見つけて本買う金が少し減って
ちょっとラッキーだったりする今日この頃wwwwwwwwwwwww

682 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/30(日) 11:55 [ /.Vy08g2 ]
何故だか妙に餡刻に親近感を覚える前衛職は私だけじゃないはずだ
・・・PT誘って_| ̄|○リーダやるのも疲れたよ

683 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:09 [ NF0Tl4/6 ]
海岸全域が遠浅になっているザフムルグ海沿いの砂丘――バルクルム。
独特の樹木が育っている、澄んだ海水が打ち寄せている浜辺に数人の人が群れをなしている。
彼等は新米の冒険者達であり、自身の腕を磨く為に冒険者と言う同じ肩書きを持った者達と共闘して自身の実力を磨いていた。
そんな場所で一つの罵声があがった。

「何!俺の動きに無駄があるだって!?」
「ええ、そうです」
言いあっているのはヒュームの男とエルヴァーンの青年。
その後方では、彼等のPTメンバーだろうか。
厄介事に出来るだけ巻き込まれないように一歩退いて見ている。

「貴方の攻撃手段は強引過ぎます。確かに当たれば強力でありますし、その気迫は称賛できますが、これから先の敵に対しては実に美味しい相手と見られるでしょうね」
淡々と男の弱点を説明していく青年に対し、一触即発の空気が辺りを包む。
拳を震わせ、今にも殴りかからん様子ではあったが連れの仲間に抑えられ何とかその拳を引っ込めた。

「へっ、お前さ。周りから自分が何て言われてるか知ってるのか?」
「何の事でしょうか?」
「驕慢の死人。典型的な昔のエルヴァーンを象徴した様な態度だよお前は」
そんな男に対し、死人は手を口元に当てて何かを思案した姿勢を見せる。
「ふむ、貴方の様な無知な輩にそんな事を言われると流石の私も困りますね」
「んだと、テメェ!!」
今度は止まりようがない、勢い付き拳を振るう男。
死人はその男の拳を少しだけ横にずらして難なく回避した。

「折角人が親切心で言っているのに野蛮な輩ですね。私は抜けさせてもらいます」
これ以上は時間の無駄だと悟りクルリと踵を返す。
背中越しに自分を罵倒する声が響くも無視して歩み出す死人であった。

684 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:10 [ NF0Tl4/6 ]
銀色の肩までかかる髪の毛に、茶色のリザード装備、腰に下げた片手剣と円状の盾を持ったエルヴァーンの青年――死人。
彼の父親はサンドリアの貴族にして騎士だった。

サンドリア王立騎士隊に所属し、その中で王国騎士の地位に居た彼の父親は息子である死人に大きな期待を込めていた。
故に子供の頃から親の束縛を受けていた彼であったが、最初は特に不満を持ってはいなかったと言う。

ならば何故、彼は態々親元を離れ一介の冒険者としての道を歩んでいるのか。
そのまま順調に努力していれば将来は安泰であっただろうに…。

それは彼の性格と自分に対する他者の思想。
彼は人より少し驕慢な性格であった。
だが、それ故に立場を上げる為の努力はしていた。
しかし、どんなに努力をしようが父の息子という事で片付けられる不快さ。
親の七光りと呼ばれ、自分自身を認めてもらえない事への苦痛。
そして、騎士の事に関する意外の道楽を一切禁止する親の横暴。
そんな日々が続き、次第に親への憧れは薄れ、彼はそんな状況に耐えられなくなったのだ。

だから彼は親と違う道を歩み、自分だけの力でのし上がる事を決意したのだった。


しかし…。
現実は厳しく理想通りには運ばない。
ラテーヌ高原を越えてバルクルムに入ってからはモンスターの強さも格段に上がり、自分一人で出来うる事にも限界を感じる。
そして、同じ思想を持った冒険者達は互いに協力してPTを組み少しずつ実力を養っていく…彼もその一人になる筈だった。

685 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:10 [ NF0Tl4/6 ]
時間は既に夕暮れ時。

セルビナへの帰り道途中でそんな風に思い悩んでいると視界上にキョロキョロと長い首を動かしているエルヴァーンの女が映った。

スケイル装備を見に包み、綺麗な銀色の髪を後ろで結っている。
その顔は何処となく大人っぽさを秘めているようだった。

何処か途方に暮れた様子で、テクテクと向かう方向はセルビナでもラテーヌでもない方面。
周りには誰も居なく、一人旅の途中なのだろうか。
この地域は凶暴なゴブリンが多数存在しており、生息している生物も決して弱くはない。
時折、何らかの用事で訪れる熟練の冒険者であれば一人で居るのも頷けるのだが…。

如何見ても彼女からはその様な雰囲気が感じ取れず、そしてこのまま見過すのも後味が悪いものだと考える。
故に、稀に起こったお節介からだろうか、死人は珍しく人助けの意を込めて声をかけたのだった。

686 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:11 [ NF0Tl4/6 ]
「助かったよ〜」
セルビナの入り口を表す看板が視界に入り、女は身体の奥から吐き出すように言葉を紡いだ。
「まったく、地図も食料も持たずに一人で砂丘を歩くなんて…自殺行為以外何者でもないですよ」
「あうう〜、分かってはいたんだけどね…」
シオシオとした表情に、それ以上責めるのも一歩的なイジメに見えるので言葉を止める。
「まあ、これで知り合ったのも何かの縁です。私の名前は死人、見ての通りエルヴァーンの戦士ですよ」
そう言って女の前に右手を差し出す。
「あ、私の名前は餡子。あなたと同じで戦士よ」
元気な微笑み、餡子は死人の手をしっかりと握った。

セルビナに入り数歩して――。
「如何したのですか、そんな所で立ち止まって?」
入り口にはたくさんの冒険者達が仲間を探すように集まっている。
そんな少し窮屈に感じる場所で彼女は足を止めて、何かを考えている様子。
周りから視線。
それとヒソヒソとした陰口。
それは死人に対するもので、今になって始まったものではなく彼自身も諦観を決め込んでいるが、長居するのも居心地が悪いものだった。

彼女の目的はセルビナに到着する事。
それならば自分の役目は終わった筈だと死人は考え、別れの言葉を紡ごうとしたのだが――。
「ねえ、あなたはこの辺りに関して詳しいのかしら?」
「ええ――」
貴女よりは、と言おうとして。
「丁度よかった。私今日始めて来たから何処に何があるのかとか全然分からないの。道案内、宜しく頼むわね」
そう言って死人の背中をトンと叩く。

「ちょ、ちょっと待ってください!何で私が――」
「あら?こうして知り合ったのも何かの縁よ。これ位気を効かせても罰は当たらないわ」
「しかし!」
「それとも。あなたは困っている女の子が必死で頼んでも無視しちゃうような、そんな人じゃないわよね〜」
「ぬぐぅ…」
死人の反論の言葉を尽く潰し丸め込む餡子。

「それじゃあ、改めて宜しくね。死人君」
呆気に取られている彼の肩をポンと叩いて、笑顔を向ける。
もはや退路は完全に断たれた後だった…。

687 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:11 [ NF0Tl4/6 ]
次の日。
前日餡子に上手く丸め込まれた死人は約束通りセルビナを案内して回る。
しかしセルビナは港町であるがさほど大きくなく、入り口の高くなっている所から様子を一望出来る程度なので案内にそれ程時間はかからなかった。

元々は漁村。
そんな場所に女性が楽しめる事などない筈なのだが、餡子はまるで子供の様にはしゃいでゆっくりと歩く死人を早く、早くと急かすのであった。

まったく…。
そう思って死人は嘆息する。

見た目というのは当てにならないものだ。
パッと見、大人っぽい感じの餡子ではあるが性格はまるで違う。
まだ少女の様なあどけなさと悪戯心を持ち合わせており、それでいて相手を自分のペースに巻き込むのが上手い。
今こうして自分がその立場にいるのだから…。

何だかんだで餡子は色々な物に興味を示し予想以上の時間を食ってしまう。
時間は既に昼を回ったであろう、携帯していた簡易食を口に含むも落ち着きなく体を動かし始める死人。
「何そわそわしてるの?」
疑問に思った餡子が声をかける。
此方の気持ちなどまるで分かっていないようだ。

頭を軽く二、三度掻き、死人は理由を説明をする事にした。
「あのですね餡子。私は一刻も早く立派な冒険者となりたい訳ですよ」
「ふむふむ」
コクコクと首を縦に動かして答える。
「ですから効率的に、沢山の経験を積んで早く自分の腕を磨きたいわけです。
ですので、この様に無駄な時間を大量に消耗するのは良い事ではありません。分かりましたか?」
説明を終えた死人に対し餡子の放った答えは。
「ふ〜ん」
と、実につまらなそうなものだった。

餡子のそんな態度を見て、死人は不機嫌な表情を浮かべる。
その顔を見てか、はたまた彼女の性格上だろうか、餡子はこう答えた。

「ねえ、それって楽しくないんじゃないかな?」
死人の顔が歪む。
言っている意味が理解出来なかったからだ。

「楽しい?何を言っているのですか貴方は…。
仮にも私達は冒険者なのですよ。この職でのし上がれない者はそこいらの傭兵と大して変わりません。
ですが、私が望んでいるのはそんなチンケなものではなく名誉ある立派な地位です」
自分の目指す将来を大っぴらに語るも餡子の表情は変わらない。
それ所か溜息まで吐いている。

「あのさ〜死人君」
「何でしょうか?」
「何を焦っているのかは知らないけど。あなたはあなたのペースで行けば良いんじゃないかしら?」
その言葉に思わず死人の動きが止まった。

焦っている…。
そんな事を言われたのは初めての事。
確かに傍から見れば焦っている様にもとれるであろう。
だがしかし、有限たる時間の中だからこそ無駄な時間を過ごす事はとてもくだらない事ではないのか。
だから自分は間違ってはいないのだと死人はそう思う…。

しかし――。
「私達はさ、長い長い旅をしていくんだから。そんな毎日毎日を思い悩んでたら辛いと思うよ?旅は楽しくしなくちゃね」

餡子の言葉は死人の心に強く残るものだった…。

688 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:12 [ NF0Tl4/6 ]
それから六日して…。
餡子はセルビナを案内してくれたお礼にと、死人とPTを組む事を希望した。
死人としては彼女にこれ以上付き合うと自分のペースが狂いそうなので、最初は断ろうとしたが他にPTを組む者は既に居なく、渋々とその誘いを受ける事にする。
たった二人のPT。
それでも一人よりかは幾分かマシであろう。
意外だったのは餡子の実力が自分に近いものであり、その戦闘時の動きは必死の努力の末に得たものだと容易に理解できた。

だからこそ死人は餡子の事が分からなくなってきた。
まるで自分とは違う生き方をしている彼女。
だが、彼女はそんな中でも着実に実力を付けて今この場に居る。
何時も明るい表情で、自分とは対照的な存在として。

楽しく旅をするか…。
餡子が言った言葉をなぞる様に頭の中で繰り返す。
最近の自分は何処かおかしい。
前はこんな事で思い悩みはしなかったであろう。

隣を見る。
餡子が岩に腰を下ろして自分の汗を拭っている最中…。
その姿は綺麗で…。
彼女の性格ではなく、見た目の大人らしい色気を醸し出している。

死人の視線に気が付くと、ワザとらしく胸を手で覆いスケベと目を細めて此方を鹹かった。

何故だか自分の顔が赤くなった気がした。

689 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:12 [ NF0Tl4/6 ]
今日も世界に夜が訪れる。
一日の終わり、セルビナを目指して走る二人。
この時間の砂丘はとても危険な場所となる。
その理由はある化け物の存在によるものだった…。

一刻も早く戻ろうと足を速めている最中、餡子が声を出して死人に呼びかける。
何事かと、餡子の方を向くと彼女の視線の先に黒い浮遊体が存在していた。

「あれは…ボギー!?」
ボギー――海で遭難した者の意識がこの世に残って生まれた化け物とされている。

「逃げましょう。あれに襲われては一溜まりもありません」
急いでその場から離れようとするが、餡子に腕を掴まれ歩が止まる。
「な、何をしているんですか貴女は――」
餡子が指差した先。
其処には数人の人の姿。
視界も暗く遠目ではあるが、誰だか理解する事は出来た。

自分と言い争いをしたヒュームの者達。
それが如何した事か。
この世界に生きていく上では自分の手に負える以上の事はしないのが道理。
自身の実力以上の行動を起せばそれはそのまま自らの危険として降りかかってくるもの。

ましてや腹立たしいとまで思った者達だ。
そんな奴等の為に、何故自分が態々手助けをしなくてはいけない。
だが餡子はそんな死人の考えなどまるで理解せずに必死で助けようと腕を引っ張った。

「私は助けるよ。危ないと分かっている人を助けないなんて、種族云々の問題じゃなしに人として最低の行為だと思うわ」
餡子の言葉が死人の心を深く抉る。
やっぱり最近の自分はおかしい。
昔はそんな言葉程度で自分の心が痛む事もなかったのに…。

餡子に流されそうになるも死人は踏み留まり。
「勝手にしなさい!!」
と言って彼女の言葉を押しのけた。

駆け出す餡子。
その別れ際、彼女の目に熱い雫が浮かんでいるようだった。

690 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:12 [ NF0Tl4/6 ]
餡子と別れ、その姿が見えなくなって――。

死人は一人悩み込んでいた。

自分は正しい行動を選んだ筈。
ならば何故こんなに悩む必要がある。
大体、自分が助けに行ったから如何なる。
あの化け物を倒せるとでも言うのか?
答えは否だ。
覚悟の一つで圧倒的な実力差を逆転出来るほど強くなれるのなら苦労はしない。

だけど…。
思い出されるは餡子と自分の会話。
丁度二日、今の時間。
食事を取っている時。

『死人君はさ、何時も難しく考えすぎなんだよ』
『そうですか?』
首を縦にコクンと振るう。
『自分が如何したいか悩んだ時はさ、思い切ってしたい方を選んじゃえば良いんだよ』
『…言っている意味が理解出来ませんが…』

『だって死人君て、本当はこうした方が良い。だけど、これをやるのは無理じゃないかな〜って悩む事が多いでしょ?』
図星だった。
『だからさ、悩む位なら突き進んじゃえば良いんだよ。だってさ、それは少なからず自分がそうしたいと望んだ結果なんだから。
これなら、もしも失敗しても後味は悪くないと思うよ』

その時の自分はどんな表情をして何を思っていたのだろうか。
特に気にせずに受け流していたつもりだった。
だが、こうして過ぎる言葉はそれなりに彼の心に残っている証拠。
「くそぉ!!」
やり切れない思いで近くの樹木に拳を叩きつける。
結局…。
「私は自分を正当化したいだけなのかもしれない…」
強く握る拳から赤い血が滲んでいた。

691 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:13 [ NF0Tl4/6 ]
亡者の暴挙。
生きる者を死へと導くそれは何とも残酷な遊戯であろうか。

餡子が肩を抑えて膝をつく。
その後方でもヒュームの男性と、その連れの女性が同じ様に蹲っている。
彼女達なりに精一杯努力はして見た。
だが、相手が悪すぎたのだ。
乱れた呼吸、ひっきりなしに沸く汗。
それでいて背筋は凍るように寒く感じる。
後ろで纏めていた髪は解けて、その長髪が風に靡いていた。

亡者は彼女等に止めを刺さんと襲いかかろうとした。
その瞬間。

亡者に向かって石を投げつける何とも無謀な者。
「貴方の相手は私ですよ!!」
エルヴァーンの戦士死人の姿があった。

「あ、死人君!?」
「死人…お前何で?」
パッと顔を明るくする餡子と信じられないと言った表情の男。
「勘違いしないでくださいよ。私は偶然此処を通りかかっただけです。貴方達なんて眼中にはなかったんですからね」
しかしいざ飛び出してきたは良いが、自分が来た所でこの怪物を倒せる目処などまるでない。
ともかくやれる事をやるべきだと、ボギーに向かって駆け出す。
渾身の力を込めてボギーに刃を振るう。
だが如何した事か、刃はまるで水を斬っている様な感覚で、またその手応えに答えるようにボギーも平然としている。
続けて放つ剣撃も同じ結果。
死人を掴む様にフワリと伸びる亡者の手をかわす。
その瞬間、恐ろしいほどの寒気が彼を襲った。

すぐさま距離を取る死人。
とにかく、どうやってこの場から逃げるか…。
それが今の彼等の生き残る術だった。

しかし、彼の思いは虚しく霧散する。
距離を取ったのが仇になったのか、亡者の周りに集まる魔力に彼は止める術を持たなかった。
彼等の上空に大量の水が出現し、勢いを持って襲い掛かる。
背中越しに受けたそれは、まるで鉄の塊をくらったような威力だった。

軋む背骨の痛みを堪えながらも必死に立ち上がろうとする。
だが相手には容赦はない。
もう一度同じ呪文を唱えようと概念を浮かび上がらせている最中。
まともに動いてはくれない身体にその光景は絶望的で…。
彼はダメだと目を閉じる。

だが、しかし。
何時までたっても、何も起きる事がなく。
目を開けると其処には、亡者を前にして恐れず攻撃を加えている槍を持ったタルタルの少年と両手斧を携えたヒュームの青年の姿があった。

692 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:15 [ NF0Tl4/6 ]
「相手は強いぞ。気を抜くな龍雄!」
「んな事言わなくても分かってるよ隆兄ィ!!」
ザッと二手に別れ、ボギーへと襲い掛かる。
息のあったコンビネーション。
二人の多彩で多様な攻撃が敵を翻弄、小さくもダメージを積み重ねていく。
「おっしゃ!気分は上々、何時でも行けるぜ!」
「連携失敗すんなよ隆兄ィ!」
バチバチと雷気を纏った矛先がボギーを貫く、そして間髪いれず隆起と呼ばれている男が飛び上がり手に持った戦斧を振るった。
捲き起こる小さな砂塵。
二つの力が交じり合い空間が湾曲したかのような錯覚を見せた。

その激しい減少の終わり――海の亡者は跡形もなく消え去っていた。


「よ、大丈夫だったか餡子」
そう言って手を振る隆起を踏み台にして少年が餡子に飛び掛る。
「餡子姉ちゃん〜、会いたかったよ〜」
「あらあら、龍雄久しぶり」
それを手馴れた様に抱きしめ頭を撫でる餡子。
少年は猫の様に目を緩ませ気持ち良さそうにしている。

「…いきなり何すんだ龍雄!」
頭に出来た靴型を指差して怒鳴り散らす。
「うらうら隆起、こっち見てないでお前はそこの兄ちゃん達に傷薬渡せよ」
餡子に甘えている顔とはうって変わり目を鋭くして手をヒラヒラと動かす少年。
あからさまに隆起を馬鹿にしている口調で。
この二人は仲が悪いのだろうか…。
「お前は…俺に対しての言葉遣いが相変わらずなってないな…」
「はんっ、隆起なんかに丁寧な言葉を使う位なら獣使いを目指した方が楽だね。
それでもそう言って欲しければサルタオレンジ1Dは用意してくれないと」
プッツンと隆起の理性が音を立てて切れた。

「おのんれはぁぁぁぁ!!今日こそ…その曲がった根性叩きなおしちゃる!!」
「わ〜、隆起が怒った〜。餡子姉ちゃん助けて〜」
二人して夜の砂丘を走り出す。
さっきまでの勇ましさは一体何処へいったのやら…。

693 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:15 [ NF0Tl4/6 ]
それにしても…。
元気に走り回っている二人を見て嘆息する。

自惚れていた自分が恥ずかしい。
上には上がいる。
それは当然の事で、否定する言葉ではなかった。
だがしかし、こうして自分の力量にあまる状況を他者によって打破されたのは初めての事であり、それが余計に自分の慢心さを露骨に浮き彫りにしていた。

完全に自分よりも実力が上の二人に対し、死人は軽い嫉妬感を湧き上がらせる。

じゃれ合う様に走りあっている隆起と龍雄の優しい目で見守る餡子。
「あの方達は仲が良いのか悪いのか分かりませんね」
「あらあら、そう見える?二人とも凄い仲良しよ…私が妬けちゃう位に――」
彼女が今二人に送っている優しい瞳。
この数日間自分には決して見せる事のなかったもの。
「二人とも弱いわ、だけどお互い力を合わせる事で実力以上の力を出しているの」
「力を合わせて…ですか…」
「ふふ、死人君。あなたにもね、何時か素敵なパートナーとの出会いがある筈よ。
そうしたら、その人と一緒に旅をすると良いわ。
あなただけで解決出来ない事でも、その人と力を合わせればきっと上手くいく筈だから――」
完敗だ。
自分が何に対してそう思ったかは定かではない。
しかし、この時死人は彼らに対し確かにそう思ったのだった。

694 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:16 [ NF0Tl4/6 ]
それから数日して――。

「あ、あのよぉ…」
声をかけられ覗いてみるとあのヒュームの男と連れ添いの女の姿。
何やら言いたげな表情ではあるが、上手く言葉がでないのか目をキョロキョロと動かしたり手をソワソワとさせていた。
だから死人は彼等から背を向ける。
「ま、待ってくれ」
制止の声。
だがそれすらも無視して歩を進める。
しかし、相手が追ってきそうな気配だったので一時的に足を止めると。
「私は自分の身に降りかかった災いを全力で回避しただけです。その時、偶然貴方達がその場に居ただけの事。
私にはそれ以上でもそれ以下でもありません」
背後に居るヒューム達にそれだけの言葉を残して彼は再び歩を進める。
途中『ありがと…な…』と小さな声が聞こえたが、特に気に持つ事はしないでおこうと彼は思った。


死人はセルビナを出てサンドリアへと足を運ぶ事を決めていた。

餡子達に別れは告げていない。
冒険者の日常は出会いと別れ。
その中で共に旅をする者は少数。
長い時間を一緒に歩んでいく者となれば、ほんの一握りだけだ。

だから、別れの言葉などいらない。
無用な感情を奮い立たせて、何処か感傷的になる必要もない。

今、彼の中では色々な想いが湧き上がり沈んでいた。

あの時あの夜。
果たして自分の行った行動は正しかったのか。
それを決める者は誰もいない。
元々物事や沸きあがる衝動に関して、それを束縛する権利などはないのであろう。
だが、これだけは言える。
今の自分は特に後味が悪いと感じてはいないと。

695 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:16 [ NF0Tl4/6 ]
その日のラテーヌは急な雨。
この土地の気候状それは珍しい事ではなかったが、実際にそういう状況に自分が立たされると厄介この上ない。
しかし今の彼は少し観照的になっており、その雨をまるで空が泣いているようだと形容していた。

だが、それも束の間…。
降る雨が鎧の隙間に侵入し、彼に掛かる重量を増していく。
肩にまで届く長い髪も、水気をたっぷりと吸い込み肌に張り付いていた。
元々気が短い正確柄なのであろう。
うっとおしさに苛つきを見せる表情。
彼はとりあえず、何処か雨宿りできる場所を探そうと思い立つ。
だが、見渡せる程広い高原の視界上にそれらしきものは近くになく、一つ嘆息した所で走り出した。

走る度に水滴が跳ね、自分の服を汚す。
水分を豊富に含んだ大地は彼の邪魔をせんと言わんばかりに足に絡みついていた。

そして――。
白い建造物――ホラ岩近くを通りかかった所で彼はその足を止めた。

一人のエルヴァーンの青年。
その視界の示す方向には一人のタルタルの少女。
広い高原にポツリと、一つの小さな影として立っていた。
雨などまるで気にしていない様に、何処か――遠くを見つめている。

『ふふ、死人君。あなたにもね、何時か素敵なパートナーとの出会いがある筈よ。
そうしたら、その人と一緒に旅をすると良いわ。
あなただけで解決出来ない事でも、その人と力を合わせればきっと上手くいく筈だから――』

どうした事だろう…。
餡子の言った言葉が湧き水の様に沸きあがる。
彼は少し悩んだ後、まるで導かれる様にその少女に向かって悠然と歩を進めた。

彼――死人の人生に置いて、最も大きく運命的な始まりは、此処から動き出すのであった。
                                     
                                    〜Fin〜

696 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/05/31(月) 15:18 [ NF0Tl4/6 ]
今回は死人と餡子の話でした。

前に宣言しておいた隆起と餡子の話とは違うのであしからず。

それではまた次の話で――。

697 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 22:17 [ MIuOw8ks ]
GJ!
相変わらず面白い!楽しませていただきました!

698 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 22:17 [ MIuOw8ks ]
上げちゃった・・スマソ

699 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 22:20 [ 4dscLHaI ]
↑流石高学歴!鋭いご意見
↓まぁ低学歴はこんなモンか。。。

700 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 22:28 [ yehZjUTk ]
GJ!イイヨイイヨー(ノ∀`)

>>699なんのミスですかwwwwwwwwww

701 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/05/31(月) 23:03 [ WRARgPR2 ]
なるほど。
最近ポツポツと出ている真黒って此処からの登場だったのか・・・。

うはwwwwwwwwwwwwwww萌えたねwwwwwwwwwwwww

702 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/01(火) 00:12 [ IONmIE5w ]
完全版の頃よりも書き方をコンパクトにまとめて展開をスラスラ読める様にしてるねGJ!!

とりあえず現状の謎みたいなのをざっと出すと

新キャラ龍雄の存在。
餡刻の父親。
黒猫の生死。
完全版リメイクでの騎芋の話。

とある訳か…ああ、もっとお話が読みたいぜwwwwwwwwww
それかある程度予測付けてる人居たら自分の考え書いてみようぜwwww
俺は感想とかを語りたいんだwwwww糞樽の自分より強い者宣言の時みたいにwww

703 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 00:11 [ 2RRDIfDc ]
いまさらながらGJ!!!!
しかしあれだな。もうあのスレのキャラ名使う必要ないように思うのは俺だけか・・・

704 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 00:45 [ aaaXXUac ]

あれだね。
完全なオリジナルネームのキャラクターを内藤世界で冒険させるってのも良いね〜。
餡刻の外伝話が正にそうだったな・・・wwwwww

705 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 01:28 [ tzjhxdyw ]
自分としてはオリジナルネームはちょっと・・かなぁ・・
できればこのままでいってほすぃ

706 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 10:55 [ 5Sv4.Z1g ]
>しかしあれだな。もうあのスレのキャラ名使う必要ないように思うのは俺だけか・・・

少なくとも俺はキャラ名がオリジナルになったら見なくなると思う。
リメイク氏が書くから読みたいわけじゃなく、あのキャラたちの話だから読みたいと俺は思ってるから。

というかこのスレの主人公は餡刻でいいのん?
個人的には内藤の活躍も見たいんだけどなー

707 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 12:06 [ bYsddvjs ]
>>706
現状餡刻っぽいけど死人の話とか書いてるの見る限り全員が主役なんじゃないかな?
ただ書きやすいキャラと書きにくいキャラって感じで。
一応今の話ってブーメランLSが出来る前の事みたいだから何ともいえんねい。

オリジナルキャラについてだが、完全に内藤達と何の関わりもないキャラとストーリーは流石に出さんと思うぞ。
ただリメ氏のストーリー上、真黒とかああいう感じの絡みキャラは出してくと思う。

まあ、とりあえず何時続きが来るかと一日に何度も此処を覗いていたりする俺だったり(ノ∀`)

708 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 12:20 [ DufWqzRk ]
>現状餡刻っぽいけど死人の話とか書いてるの見る限り全員が主役なんじゃないかな?

俺もそんな感じだと思う。
まだ始まったばかりだから誰が主役か分からんね。
餡刻の話では勿論餡刻が主役だったし。HNMLSの話だと真黒が今の所メインで動いてるからな。

>リメイク氏が書くから読みたいわけじゃなく、あのキャラたちの話だから読みたいと俺は思ってるから。

これに関しては半々かな、確かにあのキャラ達の話を俺は読みたいがこういう話を書いてくれるのはリメさんしか居ないわけで。
んでもって、俺はそのリメさんの書き方が好きで読んでるもんでな。
ちょっと言い方が可哀相だったので突っ込んだ、あんまり気にしないでwwwwwww

709 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/02(水) 14:39 [ FQ5f..gY ]
本来(て言い方も変だが)の内藤とかのハッチャけ具合と
こっちのシリアスな具合とのギャップを楽しんでる奴(゚∀゚)←

つーか根底にある基礎設定は結局wwwの方のもんだし
そのままでいいかと

710 名前: 706 投稿日: 2004/06/02(水) 17:29 [ 5Sv4.Z1g ]
あぁ、ごめんごめん。
内藤キャラたちの話好きだから読むというのが前提にある、という意味。
リメイク氏の書き方も本スレ投下されてる頃から好きだったよ。
ただ内藤 アレス=なんちゃら
   臼姫 ソフィア=なんちゃら
みたく名前差し替えられたら冷めるなと思って(↑に関しては突っ込まないでw)。
wwwスレとはもう別物だと考えてるけどね。

主人公に関しては、全員だっていうのは俺も思ってる。
リメイク氏にとっては餡刻は設定的にも動かしやすいんだろうなとも思ってるけど、
ただ内藤スキーとしては完全版でも影薄かった気がして寂しいだけ。

という個人的な意見でした。気悪くする人いたらゴメンネ。

711 名前: 708 投稿日: 2004/06/02(水) 18:32 [ vsG.apMM ]
此方こそ一々突っ込んですまんかった〜。
ちゃんと受け答えするお前は良い香具師だwwww

まあ、流石に内藤達の名前が変えられるのは嫌だな俺もwwww
今回の書き込み見てリメさんが内藤話書いてくれると良いなwwwwww

712 名前: 名も無き占い師 投稿日: 2004/06/03(木) 01:53 [ ulubuG4U ]
ちと>>706>>708のやり取りを「うはwwwやべwwww」って感じで
ROMってたが・・・・・・

なんとなく、「うはwwwwおkwwwwwwwww」だな^^

713 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/03(木) 01:58 [ 3vjQ1va. ]
リメスレって読んでる人意外に多そうなんだな

714 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/03(木) 02:12 [ rq4imAck ]
仲良き事は「うはwwwwwwwwおkwwwwwwwww」だな。

ついでだからリメ氏が此方の書き込みに対応して話を書いてみるのも一興と書いてあったので
俺は上で出てた内藤が出る話を進めてみたりする罠。





真黒も捨てがたいと思ってるのは内緒だぞ。

715 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/03(木) 03:20 [ u979cSKk ]
漏れとしては一人でも内藤キャラが出てれば、
あと他の登場人物が作者殿のオリジナルキャラでも
wwwwwストーリーとしておkだと逝ってみるテストwww
けれど、読者の中には極度にオリキャラアレルギー反応を起こすヤシもいるから、
心臓の弱い  にはお勧めできないwwwwご利用は計画的にwwwww


他者の視点からある特定人物(内藤キャラ)について話を展開させるのは
そのキャラの人物性やバックグラウンドを掘り下げるのに有益だと思われ、
特に、その視点がLSブーメランのメンバ以外のオリジナルキャラからの視点だと、
内藤キャラたちの新しい側面や切り口が見えてくるから読んでて楽しいwwww
この点、リメさんオリジナルのラパタやレナが登場したリメイク外伝は、
餡刻・糞樽・白樽たちの物語がいつもとは違った視点から捉えられいて、成功を収めていると思われww

>現状餡刻っぽいけど死人の話とか書いてるの見る限り全員が主役なんじゃないかな?
漏れもこの意見に禿同。つまりはDQ4みたいなもんだなwwww

にしても、漏れオピニョン長すぎwwwww縮毛されてくるねwwwww orz

716 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/03(木) 19:38 [ CdEsUioY ]
死人の話を読むと、いかに糞樽。真黒。餡刻が飛びぬけて強いか分かるな…。

717 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/03(木) 22:11 [ Iqc27Rl6 ]
改めて読み直すとリメイク内藤って完全な真面目君じゃなくて
普段は本スレみたいなボケ役で戦闘時が真面目君になってるって感じだね。

闇王編だと戦死の関係で常時気を張りっぱなし状態で真面目だったのか・・・。

718 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/04(金) 01:09 [ PX6wEdh6 ]
あああ、なんかリメさんはもとより
それに対してレスするおまいらも大好きだwwww

なんか読んでると癒されるよ(*´д`*)

719 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/04(金) 09:54 [ KltRWtlk ]
それだけみんなこのスレが好きなのさ(*´д`*)

720 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/06(日) 12:27 [ dYl6HbeA ]
ひと段落したところで
そろそろ作品投下キボヌ
日曜日だしねー

721 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 10:39 [ idYStI02 ]
あげー

722 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/07(月) 13:58 [ Sdok10FY ]
コツン。
確かな意思を持った者の足音。
一体何百年振りだろうかそれを聞いたのは。
彼女は永い眠りから覚めるようにその意識を覚醒させる。

コツン、コツン。
再び聞こえる足音。
徐々に近づいてくるその音を捉えながら、彼女は感じる。
音の主の存在を。
その不安定極まりない存在を。
何故この世界に存在していられるのか不思議なほどに儚い存在を。
だが、その事すらを超越する絶対性を持った存在を。


重く閉じられた扉がギシギシと音を立てて開く。
「まさかこの様な場所に存在しているとは思いもしなかったわ」
聞こえて響いた言霊は女の声。
しかもそれはまだ幼く、無垢な少女の声のようだった。

「結構探すのに苦労したわね。でも、こうして見つけれたのだから問題はないか」
ゆっくりと手を伸ばす。
自分を手に入れようとしているのだろう。
だが、それは無駄だ。
如何なる力量を持ちえてこの場に辿り着いたかは知らないが、自分の周りにはそれこそ上級獣人ですら消し飛ぶ程の高等結界が張られているのだから。

結界に触れるスレスレの所で少女は手を止め、小さな笑みを浮かべる。
腕を収め、何かを口ずさむ。
長い時を生きてきた自分ですら聞いた事のない膨大で高度なスクロール、そして練り上げる概念は神域に近し。
途端に空間がミシリと軋む音が聞こえた。

その場にいる存在全てを捻じ曲げる程の狂った時の暴挙。
そしてその巨大な力は自分を護る結界のみに注がれる。
今まで数々の者から自分を遮ってきた有能な結界は、数百年の時を得てあっさりとその任を終えたのだった。

自分を護るものはもう何も無い。
この少女…見た目の可憐さに対し、内包する禍々しさこそ真の姿か。
その無垢な手とは正反対に、感じる力は歪んだ意思の表れ。

彼女の役目は自分を手に入れた人への忠誠、そして希望を叶える事。
それが自分の作られた存在意義であり、生きてきた道だった。

だが、この者は違う。
眼前に迫るこの少女は人ではない。
彼女はそう判断した。

「む…」
次の瞬間。
眩い光と共に彼女は跡形も無く消えていた。
残されたのは金色の長髪を携えた少女ただ一人。

「…逃げられたわね。まあ、良いわ。まだまだ時間は沢山あるのだから。
それに…あれが再び誰かの手に渡れば探すのに時間は掛からないからね」
少女の嘲笑。
それは本当に楽しそうで、居なくなってしまった彼女の事等、まるで如何でも良いような雰囲気だった。

723 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 13:58 [ Sdok10FY ]
「ブーメラン♪ブーメラン♪俺のブーメラン♪何処までも飛ぶよブーメラン♪戻ってくるよブーメラン♪――――」

鳥が囀り、虫達が忙しく鳴いている夏。
草木の生える豊かな草原にヘンテコな歌声が木霊する。

その発声源に居るのは一人の旅の男。
年は二十歳位だろうか、健康的な鍛えられた肉体に、短く切られた髪の毛。
背中に背負った両手斧も目に付くが、それ以上に左右の腰に提げたブーメランと鞄の中から溢れんばかりにはみ出ているブーメランの束が男の第一印象と言えた。

そんな怪しいノリで元気に並木道を歩く、そして軽い休憩だろうか。
運良く見つけた切り株に腰掻け背負った荷物を降ろした。

「ふう。俺オリジナル作詞作曲ブーメラン主題歌の開発も中々好調だ。
この歌に合わせてブーメランを売ればきっと世間の皆もブーメランの素晴らしさに気が付いてくれる筈だな」
額に掻いた汗を拭いつつ、両腕を組んで一人首を縦に動かして自己満足に浸る。
荷物をゴソゴソと漁って取り出したのは拳大の大きさのオニギリ。
ある種の才能と言って良いのだろうか、形は紛れも無くブーメランそのものだった。

大きく口を開けてそれを頬張る。
モグモグと、お世辞にも行儀の良い食べ方ではないが見る者の食を誘う。
そんな幸せそうな表情であった。
「う〜ん、上手い!やっぱりブーメラン型に握ったオニギリは天下一品だね!!」
本人の思考も幸せそのもののようだった。


全てのオニギリを平らげた所で軽い眠気が彼を襲う。
別段これといった急ぎの用もない。
夏場なので、野宿に関しても特に危険はない。
考えて彼は緑の絨毯に体を預けて腕を伸ばす、天気は上々、木陰の恵みで日差しもカット、自分としては満足な昼寝の環境だ。
そう思い、彼は忍び寄ってくる睡魔に身を委ねようと目を閉じようとした…その刹那だった。

空を切り裂く光の軌跡。
時間は昼時。
星も見えない明るい時間に、その光は確かに存在していた。
自分の居る場所から然程遠くない位置に落下する何か。
男は驚きと共に、その謎なできごとに少年心の様な好奇心を覚え、眠気も忘れて走り出した。

724 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 13:59 [ Sdok10FY ]
世界は不思議に満ちている。
自分の知らない事や、見た事もない物も星の数程存在しているのだ。
彼はそんな未知の世界が好きだった。
故にこうして旅をしている。

そうして色々な思いを浮かべていると、探し物は直に見つかった。

見ると、草むらの影から神々しいまでの光が漏れている。
「すっげえ…」
少しだけ思案する様に足を止める。
あれは一体何なのか、もしかしたら危険な物かもしれない。
だがしかし、どんな事にせよチャンスを逃してしまえばそれまでだと彼は思う。
好奇心が勝利した瞬間だった。

ガサガサと背丈程の草むらを押し分けて、光の発生源へと向かう。
そして、彼は好奇心の対象を見つけたのだった。

「…何だ…これ?」
そう言うのも無理はない。
目の前にあるモノ。
光を発しているモノの正体は、光そのものだったのだから。
厳密に言えばそれは光そのものではなかったかもしれないが、自身が今まで培ってきた知識を漁っても答えは見つかる事なく、やはり光そのものと例えるのが正しいと思った。

ごくりと唾を飲み込む音が響く。
彼は恐る恐る、その光の中心に手を添えてみる。
すると光は何十倍にも膨れ上がり、辺りを包んだかと思うと、次の瞬間には丸い光の塊となって自分の掌の上にフワフワと浮かんでいた。

『お前が私の新しい主か』

「ん?誰か居るのか?」
キョロキョロと辺りを見回すも、誰の姿もない。

『もう一度問う。お前が私の新しい主か』

「うお、喋った!!」
聞こえてくる声が目の前の光からだと理解し、驚きの表情を浮かべる。
それと共に感動とも取れる感情が彼の目を純粋に輝かせていた。

『…』

「よくわかんねえけど俺の名前は戦死ってんだ、宜しく。
んでもって主か如何かってのはわかんねえな。何となく見つけたって感じだし」
眼前の異常たる光景すら許容し、世間話の様な口調。

『お前が私を見つけたのならば、お前は私の主だ。
さあ、戦死よ。主の希望を曝け出せ、それを私が叶えよう」

「えっ、マジで!?」

『それが私の存在概念だからな』
まるで夢の様な言葉。
自分の願いを叶える道具という物は、誰しもが望む夢ではないだろうか。
そして今それは、一人の男の前に存在していた。
彼の者は今、神にも悪魔にもなれる瞬間。
その運命的な願いが今語られる――。

725 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 14:00 [ Sdok10FY ]
「それじゃあ、俺はとびっきりのブーメランが欲しいな」

『…』

「…」

暫しの沈黙。
季節は夏。
照りつける日差しは優しくは無い。

『…それだけか?』
止まった古時計を動かすようなぎこちない言葉から静寂の時は終わった。
「うむ、それだけだ」
えっへんと拳を腰に押し付けて胸を張る。
嘘偽りの無い態度の現われだろう。

『何でも叶えてやるのだぞ。富も権力も、力だって望みのままに』

「他?他か…特にない」

『そんな事はない筈だ。お前にも叶えたい夢や希望がある筈だ』

「いや、だってよ。夢は自分で叶えるからこそ価値がある訳で、他人の力で楽して得た夢なんてものはつまらないと俺は思う」

少なくとも…今までに出会った者達の中にはこんな人間はいなかった。
皆、自分の有り余る欲望を吐き出し、飢えを満たす事なく永遠と願いを解いてきた。
だから彼女は思った。
人は醜くい生き物だと。
だがしかし、今目の前にいるこの者は一体どういう事なのだろうか。
分からない。
それだけが彼女の結論だった。

『それは、困った。私は、私を見つけた者の願いを叶える為に生まれたのだ。
だから、その様な言葉を返された時、如何すれば良いのか分からない』

「むう、確かにそれは可哀相だな…」
顎に手を当てて必死に考えを浮かべる。
そして数分した後、手をポンと叩いた。
「…よし、決めた!お前、俺と一緒に旅をしろ!」
これでどうだ!と言わんばかりに指を指して声を上げた。

726 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 14:00 [ Sdok10FY ]
『言っている意味が分からない』

「つまりだ。もう、そんな誰とも分からない相手の願いを決めて眠っちまう生活からオサラバしろって事」

『…』

「いいか、世界は広いんだ。こんなにも広い世界にずっと昔から生まれていて眠ったままの人生を送るなんて勿体無い事この上ないぞ」

『変わった人間だな。少なくとも私が今までに会った誰とも違う』

ああ、本当にこの人間は分からない。
今まで出会った者達との考え方の違いに理解が及ばない。
ああ、分からない。

しかし――。
それ故に興味も沸いた。

この人間がそう願うのであれば自分に拒否権はない。
ならばこの男の思うままに身を委ねよう。

光が再び迸る。
そして目も眩むような閃光が収まった時。
掌の光は、戦死が望んだ形となってこの世の物に顕現された。

『これで良いのか?』

「おおおおおお!素晴らしい!この一見なんともない様に見えるが美しいラインとフォルム。
そして何よりも汚れが一切ない純白の色と艶!完璧だ!!」
不満どころか、感動に打ち震えて漢涙まで流している戦死。
普通ならばひくべき状態だと思われるが、この男の性格上からこれはこれで悪い気はしなかった。

そして数分ほど、感動の言葉を並べた所で戦死の動きがピタリと止まる。

『どうした?』

「ああ〜、何だ。喋るブーメランは俺的には大いに結構なんだが、やっぱり他人から怪しまれちまうよな」
今更ながらな答えだが、戦死がそこまでの考えを考慮した事には少々驚くべき所があった。

『そうか、この姿では不都合なのか』

「あくまで他人にはだけどな〜」

『ならばこうしよう』

「ん?」
ブーメランが光を放つ。
それは先程、光が姿を変えた時とまったく同じ様に。
そして光が止んだ後。
手に持っていたブーメランは姿を消していた。
その代わりに眼前に表れたるモノは…。

「これで良いだろう。出来るだけ人の姿を真似てみたのだが?」
特徴的な髪形に、豊満な体が目についた。
先程までブーメランだったモノが、今この瞬間自分の目の前に一人の女性として形作っていたのだ。
これには流石の戦死も驚いたのか口を開けたまま硬直している。

「む、何か変だったか?流石に人間の形を作るのは初めてだからな、可笑しい所があれば今の内に言っておいてくれ」
戸惑うように困った表情を浮かべている女。
戦死はブンブンと首を振り、言葉を否定した。

そして、また混乱しない様にとすぐさま行動を起こす。
クルリと踵を返し、右腕を高らかに上げて――。
「うっしゃ、行くぞ飛子!」
そう、彼女の事を呼んだのだった。

「待て主。飛子とは一体何だ?」
冷静に戦死を制する女。

「ん、お前の名前だけど?」

「名前…私に名前をくれると言うのか?」

「だって俺、お前の名前知らないし。他に呼び方があるんならそっちで呼ぶぞ?」

「・・・いや、私には名前など無い。必要なかったからな…」

「よし、なら何も問題はないな。お前の名前はこれからは飛子だ」

「飛子…飛子…私の名前…」
繰り返すようにその名を呟く女。
そこにある思いは如何なるものだろうか。

「これから宜しくな飛子」
戦死が此方に右手を差し出す。
「ああ、此方こそ宜しく頼む主よ」
それを彼女はしっかりと掴んだ。

「ああ、一応だがその主って呼び方止めてくれ。むず痒いんだよ」

「そうか。ならば宜しく頼むな戦死」

彼と彼女の不思議な二重奏は此処から始まったのだった。

727 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/07(月) 14:04 [ Sdok10FY ]
今回は戦死と飛子の話です。
飛子が実のところ何で、冒頭の文は何なのかは、現状皆様の考えにお任せいたします。

>>720
アップ出来ずにすいません、日曜日が必ずしも休みとは限らないですorz

728 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/07(月) 14:50 [ G54Gnu7s ]
キタ━━(゚∀゚)━━ヨ
忙しい中大変でしょうが、楽しみにしていますので、マイペースでいい作品を作ってくださいませ(*^-^*)

729 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/08(火) 19:15 [ MBSfqibY ]
キターーーー(゜∇゜)ーーーーーーーー!!!
リメさんGJ!!!

戦死バカだけどカコイイ!

730 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/08(火) 21:27 [ Vo9a1vaQ ]
戦死いいキャラしてるねぇwwwww
続き期待してますwwww

731 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/09(水) 12:17 [ JUdcwCS. ]
戦死の純粋さに萌えた(*´Д`)ハァハァ

732 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/12(土) 11:15 [ vMeqa3ns ]
今週のリメイク期待age

733 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/14(月) 18:11 [ daxxR/mU ]
|ヽ∧
|;ω;).。oO( マダー・・・? )
| :|ヽ
|))
""" """ """

734 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/14(月) 20:56 [ VrWkEQS2 ]
続きがとても楽しみです。
無償でこんな楽しみをくれるリメさんに感謝感謝。

ワクワクワク。

735 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:53 [ j4eWHE7s ]
「―――はっ」
薄暗い鉱山内に男の息が漏れる。

身体に刻まれた印は熱を帯び、痛みを発し続けては力を削いでいく。
消耗しきった体力。今すぐ目を閉じて倒れてしまいたかった。

だが、それは叶わぬ願いであろう。

彼の背後。
後方から迫り来る殺意の塊とも言える追跡者。
幸いたる事は相手が鈍足だったという事だろう。
それでも油断はならない。
何時他の仲間に見つかっても可笑しくない現状だ。

仲間。
その単語から連想されるは、先程まで身近に居た者達。
最も。
長年を共にした仲間という訳ではなく、所謂同じ目的の為に集められた即席PTと言うものだが…。

上手い話だと思った。
腕には自信があった。
もうすぐで国の公認たる冒険者への道が見えるところだった。
周りの奴等もそれに近い実力があっただろう。
それでも、足りなかった。
否、無謀だった。
相手が悪すぎたのだ。

悪名高い獣人に手を出すのはまだ早すぎたのだ。

今更になっての深い後悔。
自分達に依頼をしたあの白魔道士の女。
大金とも言える契約料から察するにあの敵を知っていたのか?
ならば何とも愚かだとしか言い様がない。
それに釣られた自分達も愚かだが、分かっていながらに来た彼女はその比ではない。
最も、あの場から逃げ出した自分にはその生死を確認する術はなく。
文句の一つも言える現状ではない。

痛みを発し続ける身体。
流した血の量は重い枷。

目の前に薄っすらと差し込まれた光。
それは希望。
そして絶望からの出口。

もうすぐ。
もうすぐでこの地獄から逃げ出せる。

彼の中に一瞬芽生えた安堵。
だが、それはそれ以上になり得る事にはなかった。


グシャッ!!

何かが潰れた様な鈍い音。
彼はその音を聞く事は出来なかった。

目は何も映さず。
鼻は辺りを無臭と決め。
耳は音を拾う事も叶わず。
そして、脳は考える事を止めていた。

力無く崩れ落ちる男の身体。
その身体の首から上はホースの様に赤い液体を勢いよく放出し、近くの何かの足元に丸いモノが転がっていた。

736 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:54 [ j4eWHE7s ]
『こ、こんなの話が違うじゃないか!!』

『…無理だ、私達の手に負える奴じゃない』

『冗談じゃねえ!悪名高い獣人に挑むなんて聞いてないぞ!!』

『逃げろ!逃げろ!!』

『畜生…畜生!!』

悲痛な声達の残響が脳裏に木霊する。
薄暗い鉱山内を覚束ない足取りで進む女の姿。
肩近くまで伸びた黒髪に、年相応よりも大人びた顔付き。
纏ったローブは所々に黒い染みが出来ていた。
呼吸は荒い。
自分の意思とは裏腹に、上手く動いてくれない手足がもどかしい。
自己を治療しつつ、重い身体を支えながらも一歩一歩確実に前へと進んでいく。

先程の惨劇からの生還。
それは無傷と呼べるものではないにしろ、命ある事への運の良さは称賛ものだろう。
他の者とは違い、逃亡の姿勢を見せなかったのが彼女に幸いした。
背を見せた者達をあの亀はとても愉快そうに進んで屠りに向かったのだから。


「…腕には自信があるって言ったじゃない…」

私が依頼をした際、大船に乗ったつもりでいてくれと言わんばかりに振舞っていた男達の表情。
そして、それとは対照的に先程の恐怖に脅え逃げ惑った男達の表情。
彼等の生死は定かではない。
意識を失っていた彼女にそれを調べる術がなかったのだから。

俯いて嘆息。
そして冷笑。

「…所詮は口だけね」

男なんて所詮こんなものだ。
口ばっかりが達者で、いざという時頼りにならない。
実力からか優しさを振りまく者もいるが、それは弱者に対する者のみの余裕だろう。
自分では届かない存在を前にした時、そういう者は得てして弱者以上に臆病になるものなのだから。

ああ、つまらない。
今まで出会ったどんな男達にも魅力を感じない。

「今回も失敗か…」

私は肩の傷を治し終えて大きく嘆息した。
とりあえず、血が足りない。
魔法で自己治癒を促進しようとも、失った血液までは補充されない。
(こんな所で…倒れる訳にはいかないんだから…)

その言葉を胸に刻み、彼女は意識を深い闇へと落としたのだった。

737 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:54 [ j4eWHE7s ]
正義は偽善。
真実は常に不毛。

言葉や想いで救えるモノなんて何もない。
全ては結果に左右され、為さなければその過程に意味はない。

それが私の見た現実であり真実。
だからだろうか…、何時からか笑えなくなったのは。

作った笑顔と相手を乗せる為の微笑み。
どれもこれも、このつまらない世界を生きていく為に必要だからと使用する。
本当の意味での笑顔を私は忘れてしまったのだ。

しかし、生きていく為になんの支障もなかった。
人が相手の心を読めるのならば別だがそんな事は在り得ない。
だから、このままでも私は良いと思う。

そう…、想っている筈だ…。

738 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:55 [ j4eWHE7s ]

目が覚めると木製の天井が見えた。
身体に掛かった柔らかな布団を押しのけて辺りを見回す。
窓から見える景色は街の路地裏。

此処は…バストゥークの宿の一室だろうか。
問題は自分が何故この場所に居るのかという事。

外傷はない。
身に付けていた物はこの部屋に全て置かれている。
ご丁寧に血に染まった筈のローブも綺麗に洗濯してもらえた様だった。


バストゥークの商業区へと歩を進める。
まだ多少の違和感が頭に残るが、それでも動けない程ではなかった。

私が先程まで抱いていた疑問は既に氷解済み。
重い足取りで部屋を出た所で宿の主と出会い話を聞いた。

『男の人が此処まで担いで来てくれたんだよ』

シンプルな答えではあったが自分としては物好きな輩も居たものだ。
その程度の認識しか持たず、又、それ以上の詮索意欲も沸かなかった。


とりあえず今は新しい仲間を探す事が優先だ。
今度はもっと実力のありそうな者を雇おう。
そして、あの亀が持っている筈の物を今度こそ…。


「そこの道行く綺麗なおねいさ〜ん!!」

考え事をしている私に声がかけられる。

「あら、何かしら?」

振り向いて見てみると、其処には短い金髪で何故か釣り人の服を着た自分と青年がいた。
顔付きから的には自分と同い年に見えるが、何分纏った雰囲気が幼さを醸し出している。

「実はおねいさん超ラッキー。何故ならば、俺は今自分を優しく癒して包んでくれる女性の白魔道士を探していたから!」

幼いどころかとんだアホだった。
綺麗と言う言葉に不覚にも振り向いてしまった自分を間抜けだと呪う。

739 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:56 [ j4eWHE7s ]

「私は忙しいの、用がないならさっさと向こうへ行って頂戴」

「うは!用がないって、俺様今言ったばかり。それともおねいさん照れ屋で俺の美声的勧誘をもう一度聞きたい?
流石の俺様も、そこまで思われちゃ照れちゃうぜ」

「…」

どうやら頭の中に何かが沸いている様だ。

「あなたが変な妄想して一人で浸るのは良いけど、私を巻き込まないでもらえるかしら?
さっきも言ったとおり私は忙しいの。あなた見たいな馬鹿を相手にしている暇はないの!」

「嫌よ嫌よも好きのうち。自分の感情を素直に話せない乙女心、俺は理解してるぜ!」

此方の言葉の意味を理解してないのか。
自分の都合の良い解釈をして引かない男に眩暈を覚える。
元々体調も万全ではないのだ。
其処にプラスされる眼前の男の余計な言葉に俯き頭を抑える。
此処でこうしているだけでも時間の無駄。
宿を出た頃で既に昼を過ぎていたのだろう。
空に薄っすらと赤みが掛かっている。

「それじゃあ、あなたのその素晴らしい洞察力で私が今どんな気分か察して最善の行動を取りなさい」

「オーケー、任せろ!宿の準備は万端だ!」

勢いよく飛び上がりダイビングの姿勢で此方に向かってくる青年。
表情は笑顔でとても楽しそうだ。
何故だけすっごくムカついた。

「さあ、俺様の全てを受け入れてくれ!」

腰に提げたハンマーを強く握り締める。
左足を下げ、腰をやや落としてハンマーを握った右腕を振りかぶる。
捻った身体は力を溜める為の準備段階。
タイミングを見計らい、強く一歩を踏み出す。
それと共に振られる鈍器は十分な破壊力を秘めているだろう。
精神的な意味合いも込めて大きく叫ぶ。

「…この、変態が!!」

「ちょ、ス、ストーッ…!!」

ジャストミート。
青年は今、重力の支配から解き放たれたのだ。
彼は昇る、天高く。

そして。
滑降、激突。
我に返り流石にやり過ぎの感が漂う。
そもそも、あれだけ見事に吹っ飛ばされて生きているか如何か…。

「…これが、愛…。おねいさんの力強い愛を確かに受けと…」

如何やら耐久力もデタラメだった。

740 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:57 [ j4eWHE7s ]

青年を吹き飛ばした為か肩の力が抜ける。
時間は完全に夕刻。
気休め程度でも、軽い回復呪文位はかけてやったので余計な時間を喰ってしまった。
今から仲間を探そうとも無駄であろう。

青年は気絶した所為か目を覚ましはしなかったが、これ以上の干渉は必要ないと見て置き去りにしておいた。
適当に時間を置けば、また元気に馬鹿騒ぎをし始めるだろう。
まったく、あんな変な男に出会おうとは自分はとことんついてないようだ。

大きく嘆息。
彼女は宿へと戻るやいなやベッドに倒れこむ。
疲労は限界に達していた。
その為か彼女はすぐさま眠りに落ちていた。


その宿を見つめる一つの影。
部屋の明かりが消えたのを確認してその場から立ち去る。

「やっぱり女性に無理は行けなよな〜」

誰にともなく呟いた青年の顔は笑顔だった。

  〜続く〜

741 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/15(火) 15:59 [ j4eWHE7s ]
ありがたいお言葉、感謝の極みです。

今回の話はあの二人の話です。
時間の都合上、小分けになってしまいましたが量と時間の関係上お許しください。

それでは、近いうちにアップ出来る事を願いつつ――!

742 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 16:10 [ t.GwwOuw ]
やっぱ内藤は内藤かwwwwwwwww
なんかすごい安心したwwwwwwwwwwwww

743 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 21:06 [ DHSz3icM ]
リメさん乙〜。

>ジャストミート。
>青年は今、重力の支配から解き放たれたのだ。
>彼は昇る、天高く。

バカウケwwwwwwフイタwwwww
廃狩のときといい空を飛ぶ表現絶妙っすねwwwww

744 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/15(火) 23:44 [ MNR11yoA ]
激しくwwwwwww同意wwwwwwwwwww
今後糞樽が宙を舞う描写に激しく期待wwwwwwwwwwwww

でもwそwのwまwえwにwwwwwwwwwww
内藤と臼姫舞ってるぜーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

745 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:21 [ n8GnvXn2 ]
それはもう終わってしまった事。
どんなに願おうとも変えられぬ過去。

救えなかった。
自分の大切な人を。

誰も助けてはくれなかった。
故に人の無情さを知った。

祈りは届かず、迎えられた結果は残酷でしかなかった。

私は泣き崩れた。
目を閉じた祖父はもう起きる事はない。
そんな結果を信じたくなくて、全てを拒絶するかのように私は泣きじゃくった。

でも、そんな事で奇跡が起こる筈もなく。
刻々と過ぎ去っていく時間の果て。
後に残ったのは自身の疲労と、消える事のない心の傷痕だけだった。


目が覚める。
時間は早朝。
まだ空は薄暗く、日の出の前といった時間か。

心臓の動悸が激しい。
びっしりとかいた汗は寝巻きと肌を密着させている。
目尻に残る水分。
泣いていた…のだろうか。
見た夢を思い出し、彼女は自分の身体を強く抱き締める。
それはまるで、崩れそうな自分を保つかのように。

「…私、まだ頑張ってるよ…」

746 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:22 [ n8GnvXn2 ]
冒険者達の朝は早い。
日常に溺れている者が朝食を取ろうという時間。
目的を持った者達は、自分の取るべき行動の為に足を運ぶ。
それは他者からの依頼、己を鍛える為、仲間を作っての旅、合成に勤しんだりと人様々である。

そんな目的を持った冒険者の一人として、彼女は人が集まるクラウツ橋へと来ていた。
目的は勿論自分の依頼を受けてくれる仲間を探す為。

そう、その筈だった…。


「おっねいさ〜ん!!」

朝も早い時間、そんな事はお構いなしの元気良い声が辺りに響き渡る。
此処最近、散々に聞いた声。
その顔を見ずとも誰だかは考えるまでもなかった。

「運命の糸に手繰り寄せられたかのような、偶然と書いて必然の出会い的俺様ポップ!」

何時もと変わらない満面の笑顔。
見せ付けるように出した歯は何故かキラリと輝きを見せている。
その上髪まで金髪なのだから何とも言えない狙ったものを感じてしまう。

溜息を吐く彼女。
何処か諦めたように青年の方へと歩を進める。
最も、彼女が動かずとも彼の方から飛び込んでくるのだろうが…。

747 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:22 [ n8GnvXn2 ]
またあの男だ。
それが私の中で一番に浮かんだ想い。

あの日以来、何の因果かこうして出会ってしまう。
後をつけられているんじゃないかと思ってみたが、こんな青年が自分に気付かれずに出来るとは思えなかった。

ともかく、出会ってしまった事に後悔を覚えて顔に手を当てて俯く。
この青年が纏わり付くとロクに仲間も探せない。
しかし今日でそれは三日目。
傷も完全に塞がり体調も殆ど回復してしまう程に時間が無駄になっている。
故にこれ以上の停滞は許されず、私としてもいい加減うんざりだ。
だが、そんな此方の内心など露知らず。

「ほらほら如何したのおねいさん。今日は何だか無口だよ?
あ、もしかしたら俺の顔が凝視出来なくて照れてるのかな?
う〜ん、俺様の美しさは罪だね!」

青年はおちゃらけた口調で私に喋りかける。

「………で」

「ん、どうしたのおねいさん。震えてるけど寒いの?
あ、でも今は夏も近いし暑いよね〜。あれ、それじゃあ風邪かな。
大変だ!いますぐ安静にしなくちゃ!」

パンと手を叩き一人納得する青年。
もう彼女は自分の歯止めが聞かなかった。

「これ以上私に纏わりつかないで!!」

予想もしなかった激情。
我を忘れてしまった自分に気付き恥じる。
今朝見た夢の所為だろうか。
私らしくもない、精神が不安定になっているのだろう。
周りに居た人達も、何事かと此方を怪しげな目で見つめている。

嫌な感覚だ。
こういう視線は何度も受けても慣れる事はない。
私はその場から離れようとする。
少しは懲りただろうと思い、青年に視線を移した。

しかし、青年は何時も通りの笑顔のまま。
慌てた表情一つ浮かべずに、ゆっくりと口を開くと。

「今日は何時もより機嫌悪いね。もしかして…アノ日だった?」

私は遠慮なく、持っていたハンマーで青年を殴り飛ばしておいたのだった。

748 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:23 [ n8GnvXn2 ]
辺り薄暗い路地裏。
時刻は夕焼け。
しかし其処は雰囲気漂う薄闇の色。
それは人工的遮蔽物が生み出した一つの結果であろう。

その場所に立つ者達も薄暗さに調和した人物達だ。
決して表通りで穏やかな昼下がりを満喫できる者ではない。

そんな場所で似つかわしくない者の悲鳴が聞こえたのだった。


「止めてください!嫌っ!」

行き止まりとなった壁を背にして脅えた目をする一人の少女。
その視線の先には、場所に似つかわしくいかにもと言った男達。
彼等は下品な笑い声を上げながら少女の脅える様を楽しそうに観察しているようだった。

「そんなに脅えるなよ、お嬢ちゃん。此処が如何いう場所だか分かってきたんだろ?」

「知りません!私は只、父の帰りを待っていて遅くなったから近道をしようと…」

「ああ、あの家族を捨ててどっかに逃げ出した鉱山者の娘さんかいお前」

愉快そうにそう答えた男に対して初めて少女が顔を上げる。
見知らぬ男達を前にして今の言葉は許せなかったのであろう、涙を浮かべた瞳に強い意志が宿っていた。

「父はそんな事しません!きっと、きっと何か理由があって帰れないだけです…」

「はんっ、親父想いの良い娘さんだ事。だがなぁ、証拠はあるのかい?
お前の親父さんが仕事に向かって帰って来れない証拠はよ?」

「…そんな、証拠だなんて。私は父を信じています。ただ、それだけです…」

「へっ、きっと今頃はお前達の事なんか忘れて遠くで楽しくやってる筈さぁ。
だからな、お前も俺達と一緒に遊ぼうじゃねえか」

自分達の言いたい事が終わったのか少女へと近寄る男達。
声を上げようとした彼女に素早く掴みかかり大きな手で口を塞ぐ。
その動きは何とも手馴れたものだ。
嫌らしそうに体を嘗め回す様に見つめて身体を弄らんとする。
悔しそうに涙を見せる少女の表情は、何とも言えない程に彼等の心を燻った。

がっちりと掴まれた身体。
声を上げようにも、口はしっかりと塞がれ呼吸すら必死の現状。
もうダメだ。
そう思い少女は目を閉じようとした。


しかしその時。


「そこのむさいおっさん達止めろ!」

749 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:23 [ n8GnvXn2 ]
それは神が授けた奇跡か否か。
絶望的な状況下にあった少女を助けんとする声。
少女は目を開け、声の元へと視線を動かす。
其処には金髪の青年が何故か塀の上で腕組みをして此方に指をビッと指していた。

「あ?何だテメェは」

「俺様、悪党に名乗る名なんて持ってない。その汚い手を離してもらおうか」

『とうっ!』と言う掛け声と勢いよく飛び上がる青年。
しかも、少女と男達に飛び込むかのように…。

「な、何ぃ!?」

余りにも奇天烈な行動に思わず少女から手を離す男達。
青年はそのまま少女の後ろの壁へと激突。
古くて脆かったのか、それとも只の石頭なのか。
無様に頭から突っ込んだ壁が音を立てて崩れた。
まったくもって随分間抜けな奇跡である。

「…だ、大丈夫ですか?」

思わず心配そうに歩み寄る少女。
少々顔が強張っているのは気のせいだろう。

「うは、大丈夫。俺様不死身だから」

本当に大丈夫だったようだ。

「…は、はん、ヒーロー気取りの馬鹿か!逃げられるとでも思ってんのか?」

「ほらほら、ボサッとしてないで逃げる逃げる。後は俺様に任せっなさ〜い!」

「…あ、ありがとうございます!」

そう言って青年に急かされた少女は一礼し、彼の作った道から上手く逃げ出した。

750 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:24 [ n8GnvXn2 ]
「うんうん、俺様今日もとっても良い事した。これでぐっすり眠れるね!」

「おい、待てよ」

怒気の篭った声。
彼等の内心がとても分かりやすく伝わってくるものだ。

「何おっさん達?俺様見ず知らずの男とお喋りする程暇じゃない」

「…今、寝るって言ってなかったか?」

「うは、男が細かい事気にしてちゃ大物になれないぞ」

「くっ、うっせえ!」

あくまでもマイペースな青年に男達は調子を狂わされっぱなしだ。
そんな様子を見かねたのか、後方に居た年上の髭を携えたヒュームの男が彼等の前に出る。

「お前は少し黙ってろ!」

そう言って不甲斐ない仲間を殴り飛ばす。

「あ、兄貴。痛い…」

「とりあえずだ。お前さん、俺達を馬鹿にして只で済むと思ってるのか?」

拳をポキポキと鳴らす男。
それにつられる様に周りの男達も自分の得物を取り出す。
流れは完全に彼等の方へと戻ったようだ。

「止めとけ、お前達無駄な怪我をしたくないだろ?」

「ほう、そうかそうか。俺達の身の安全まで考慮してくれるんだな。それはお優しい事で――」

「俺様みたいな大物となると、一般人とは器が違うからね!」

「お前等、やっちまいな!」

男が叫んだ瞬間彼等は青年に飛び掛った。

「――ふう、しょうがねえな」

瞬間的に低くなる青年の声。
先程までとはうって変わった鋭い目付き。
リーダー格であろう男は急な雰囲気の変わり様に制止の声をかけようとする。
だが、遅い。
ノリに乗った男達に声をかけても、もはや止まらない。

青年は腰を落として左手で剣の柄を握る。
それは相手を一撃の元に迎撃しようというのだろう。

そして、シャリっと言う音を立てて刃が抜かれ眼前の男に見事命中した――のだが。

751 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:24 [ n8GnvXn2 ]
辺りに散らばったのは錆だらけの鉄のクズ。
青年の剣は何と錆だらけでボロボロであった。
結果として斬られた筈の男は何事もなく、逆に青年の剣は粉々となった。

「うは!そう言えば最後に手入れしたの何時だったけ」

この舐めた態度には男達も堪忍袋の緒が切れた。
最も怒りを露にしたのはリーダー格の男。
変な予想を抱いた分、この落差は自分に恥を掻かせるだけのものだったので当然と言えば当然であろう。
逃げ出そうとする青年に対し、鋭く踏み込み右ストレートをお見舞いする。
勢い良く吹き飛び地面にのたうち回る。
そこに追撃をかける様にして囲み、蹴りを加える男達。
徹底的に痛めつけるつもりなのだろう。
何よりも青年のあまりにもの弱さに調子付いてるてんもあった。

「痛い!痛い!死んじゃう!ボスケテ!!」

「んだコイツ。全然弱っちいぞ」

「所詮口先だけの輩か。俺達を舐めたお礼はたっぷりさせてもらうぜ」

「うは、何言ってんの。俺様男を舐める変な趣味はないオケー?」

「…ぶっ殺す!」

何時までも変わらない口調の青年の、ムカツク顔目掛けて踵を下ろす。
だが――。

「な、何だ…体が動かねえ…」

「…あ、兄貴…俺達も…」

急な身体の痺れに動きが緩み、青年は攻撃をかわした。
そして彼等の後ろから一人の女性が姿を現した。

「あっ、おねいさん!」

「あらあら、この辺は全く持って物騒ね」

「お前…の連れか…?」

「あら、勘違いしないでもらえる。私はそんなヘッポコ男なんて知らないわよ」

「うは、キツイ一言。胸がジンジン痛む」

オーバーなアクションを取る青年を無視して男の方へと向き直る。

「ただね、私。弱い者イジメは見逃せないって訳。分かるかしら?」

「…この女!調子…こいてん…じゃねえぞ!!」

「ふう、野蛮な輩ってのはお頭まで馬鹿なのね。今の状況で場を握っているのは誰か分からないのかしら?」

僅かに作られた嘲笑。
リーダー格の男に寒気が走った。

「わ、分かった…。その男を…見逃す…。だから俺達にも…これ以上干渉するな…」

「ふふ、少しは利口な人がいて助かったわ」

752 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:25 [ n8GnvXn2 ]
「まったく。あなたは何考えてるの!」

「俺様の考えてる事?そりゃあもう、おねいさん格好良い!って事」

「ふざけてないで真面目に答えなさい!一歩間違えばあなた大怪我する所だったのよ。
そればかりじゃないわ、あなたが変に煽りを入れた所為でさっきの女の子に余計な被害が加わる可能性だってあるの?
分かってるの!?軽率な言動は他人をも巻き込むって!」

「あ、おねいさん見てたんだ俺様の活躍」

「ええ、あまりにもの弱さに拍手したい位だったわ」

「まあ、俺様本気じゃなかったし。俺が本気出してたらあの人達なんて瞬殺しちゃうもん」

ハァ。
この男、口先だけは今だ健在か。
結局の所、少女を助けたのではなく。
格好の良い所を見せたかっただけか。
最も、それさえも失敗して現在の結果がある訳だが。

分かりきった虚勢。
暴かれた真実。
実力を偽った人間の最後など知れているものだ。

「とりあえず、あなたはこれで私に借りが出来た。あなたの小さくて出来損ないの脳味噌でもそれ位分かるわよね?」

「勿論。俺様の高度かつ優秀な頭脳は何でもお見通し!」

「だったら私の前から消えなさい。そして二度と干渉しないでもらえるかしら。
弱いくせに格好だけ…、私はあなたみたいな人が大嫌いだわ!
自分の手に余る行いは必ず身を滅ぼすの、覚えておく事ね」

そうして彼女は青年から背を向ける。

「それでも――」

小さな声。
そしてワンテンポ置いてから何時もの口調で。

「それでも誰かが助けを求めているのなら、誰かが苦しんで困っているのなら、身体が動いちゃうんだよね俺様。
うは、何て言うのかな。生まれ持った宿命というやつ?困った人を俺様は見捨てられないぜ!」

「…あなた、長生き出来ないわよ」

「うは、大丈夫!俺様120歳まで生きる予定だから!」

何時もの笑顔。
何時もの笑い声。
変わらない青年の姿が其処にはあった。

753 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:25 [ n8GnvXn2 ]
「此処だな、あの女が泊まってる宿って言うのは――」

夜も更けて世界が完全な帳を下ろす時間。
月は雲に遮られ、辺りは完全な闇となっている。
先程の男達は彼女に復讐しようと、その宿の近くまで足を運んでいた。

「はい、バッチリでさぁ兄貴。仲間使ってしっかりと調べさせましたから」

「ああ、良くやった。俺達としてもあんなのに舐められたままじゃ面目つかねえからな」

「でも兄貴。幾らなんでも女一人相手にするのにこの人数は必要だったんでしょうか?」

そう言った男の言葉は最もだった。
この周りには此方が呼んだ仲間達が十人以上の潜んでいる。
皆、手には各々の得物を持ち何時でも暴れられるといった雰囲気だ。

「あいつを只の女だと甘く見るんじゃねえ。冒険者の中でも間違いなく実力がある奴だ。
何よりも、あの女の目が相応の修羅場を潜っている感じだったからな」

「流石兄貴!そこまで見抜くなんて只者じゃないですね!」

「ふっ、まあお喋りも此処までにしようか。行くぜ野郎共!!」

だが、言葉は返って来ない。
夜の静寂さだけが当たりに漂う。

「おい、どうした?反応がねえぞ」

不思議に思い背後に目をやる。
すると先程まで自分と喋っていた男が白目を向いて地面に倒れ伏っした。

驚愕する。
雲が去り、辺りが月明かりに照らされた。
そこには自分の連れてきた仲間達は仲良く地面に寝そべっている。
そして、その中で唯一立っている影。
明かりの下にゆっくりと此方に近づいてくるその姿は――。

「女性の寝込みを襲うなんて外道なマネは正直好かないね〜」

「テ、テメェは――」

ドサリ。
言葉を最後まで言い終わる事なく、男は仲間と同じ様に地面へと倒れ伏す。
それこそ自分が気絶させられたのだと気付く間もなく。

「ゆっくりと休め。お前達には固い地面の上がお似合いだ」


次の朝。
大量に気絶している男達が宿の主に見つかり国に通報された。
彼等は最近になってこの辺りを荒らしていた群れであり、一網打尽に出来た事に辺りの人達は喜びを表していた。
一つ人民の疑問が残った事。
それは一体誰が彼等を気絶させたのか。
これ程の人数を倒していながらその夜はとても静かな夜だったのだから。

結局の所、答えは謎のまま闇に葬られたのだった。

754 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:25 [ n8GnvXn2 ]
一ヶ月前。
私はパルブロ鉱山へ来ていた。
目的は行方不明の男を探す事。
所謂国上でのクエストだ。
そして、検索中その男は意外にあっさりと見つかった。

彼は足を怪我しており満足に動けず、亀達に見つからぬ様身を潜めていたらしい。
しかし食料も底を尽き、このままでは何れ飢えによって朽ち果てると考えた彼は決死の覚悟で脱出を試みた。
私は運良くその途上で男を発見したのだ。
私を見つけた男は大そう驚き、そして喜んだ。

治療中、彼は色々な事を話してくれた。

自分の家が苦しい事。
家族を救いたい一心で危険を顧みずミスリルを掘りに来た事。
残してきた妻と娘の事。
そして、その娘と妻から貰った大切なペンダントの事。

再び会える事の喜びに打ち震え、それはそれは楽しそうに私に話をした。
性格的にも人に好かれる者だったのであろう。
彼の話は不快さを感じさせず、私はしっかりとその言葉達を耳に入れていた。

彼の傷も一通り治り出口へと向かう。
男の体力は低下していたが、それでも家族に会える事の喜びから踏み出す一歩一歩は力強いものだった。

全ては順調だった。
このまま何事もなく事を終える筈だった。

だが…悲劇は起こった…。

私は彼が命がけで手に入れた鉱石を背負っていた。
本来ならばこんな力仕事を請け負う事もないのだが、何と言うか不意に沸き上がった衝動というか、お節介というものだろう。
最も今の体力のない彼にこれを持たせる方が危険だという意味もあった訳だが。

だが、やはり慣れない事はするものではない。
私は軽くバランスを崩して持っていた荷物をぶちまけてしまう。
足場の悪さもあったが、体力面での劣りは少しだけ悩む所があった。
だが男はそんな私の失態を笑顔で許してくれた。
元々自分の情けなさが悪いのだからと、笑いながらせっせと鉱石を拾い集める。

それが。
男の最後の笑みだった…。

755 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:26 [ n8GnvXn2 ]
私は再び一人この地を踏んでいた。
仲間は結局集まる事はなかった。
私に対する悪い噂が広まっていたのだろう。
仲間を見殺しにして、一人だけ生き残った者としての…。

やはり頼れるのは自分自身なのだ。
何度目かになる亀との戦い。

私の姿を確認した亀は、嬉しそうに顔を歪ませた。
逃がした獲物が態々戻ってきたのだ。
しかもたった一人で。

亀からすれば何て命知らずの大馬鹿者だろうと思った事であろう。
それは誰から見てもそう思うかもしれない。

あの青年に言った言葉が思い出される。
あれはもしかしたら自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。

自分はこの世界の無常さを知っている。
力無き者は無力に等しいこの世界を。

だが。
だが、それでも。
彼女にも譲れない想いというものがある。
貫きたい信念があるのだ。
その結果が悪いものであると分かっていても、自分が思い自ら進んだ道だ。
そこに後悔などはない。

そこまで考えて微笑する。
ああ、結局の所自分も馬鹿なのだと。
こうして自分を顧みず行動を起してしまう大馬鹿なのだと。

腰に提げたハンマーを抜き、構える。
対峙する亀。
相手は自分の体に近いサイズの大剣を構えて此方を見下している。

兎を狩るライオンの如く余裕のあり、そして決して逃がさぬと言った雰囲気で。

正攻法の戦闘技術で挑めば実力差は歴然。
如何にして相手の基本能力を此方の呪文で削っていくかが自分の勝利への道。

彼女は自分に降りかかる恐怖を押しのける様にして声高らかに呪文を詠唱した。

756 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:26 [ n8GnvXn2 ]
鋭い衝撃。
素早い手数。
此方に何もさせまいと言わんばかりの連撃。
彼女はその圧倒的実力差の前に地面に膝をつく。

相手の余裕の表情。
そしてゆっくりと闊歩する様は一つの答えを導き出す。

遊んでいる。
相手は完全に自分を見下し、いたぶる事を楽しんでいた。

悔しさをバネに頑張っても見たが、気合の一つで如何にかなる問題ではない。
覆す事の出来ない力量差。
力及ばない自分が憎かった。

必死で立ち上がろうと壁を支えに立ち上がる。
相手は既に目の前だ。
左腕は動かない。
攻撃を喰らった最中折れたのだろう。
既に体中がガタガタだ。
相手はそれも見透かしているようだった。

私は顔を俯かせている。
それを諦めたのかと見た亀は今までとは違い大きく剣を振りかぶった。

これで終わらせるつもりだろう。
足掻かない獲物はいたぶる楽しみがないからだ。

誰もが諦める瞬間。
誰もが楽になってしまおうという苦痛の中。

だが。
それは彼女の中で強い思いが爆発する瞬間だった。

…負けられない。
私は…負けるわけにはいかないんだから!

「舐めるなぁぁぁ!!」

757 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:27 [ n8GnvXn2 ]
グシャ。

まさか、この様な状況下で反撃してくるだろうと夢にも思っていなかっただろう。
それとも相手が女だと踏んだ上での精神的油断からだろうか。
彼女の全力で繰り出された鈍器の一撃は見事に亀の左目を捉えていた。
最も狙った訳ではなく、偶然振った先に対象があっただけではあるが。

亀の顔の骨は陥没し出血を催す、それでも奇形な声をあげながら未だに生存している生命力には感服ものだ。

偶然が生んだ勝機。
例え生きていようとも今の敵は自分を見失っている。
怒りが痛みを超越し此方に矛を向ける前に行動を起さねば。
これを逃せば自分に残された生への道は途絶えてしまうから。

無理矢理動かした身体が痛むが知った事ではない。
生死を賭けた戦いにそんなものは無粋でしかない。

強く息を吐き、口ずさむ言葉は光達の道標。
編まれる概念は彼女の力強き意思の如く。

勝利への一言を、今、彼女は此処に放つ。

「バニシュ」

暗い世界に生まれた一刃の光。
それらが対象たる亀を包み込み滅ぼさんと猛威を振るう。

悲痛な叫び。
生にしがみ付こうと必死に抵抗をする。

未だに生存せんとするその生命力に恐れを感じながらも、彼女は力強い意思を込めた一歩を踏み出した。
握られた鈍器を、ありったけの力を込めて、亀の顔面目掛けて下から振り上げる。

確かな手応え。
撒かれる鮮血は彼女の光によって蒸発する。

そして――。
光の収まった後に残ったのは、只の物と化した亀の屍のみだった。

758 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 20:28 [ n8GnvXn2 ]
「…何よ…全然大した事ないじゃない…こんな事なら最初から私一人でやるべきだったわね…」

膝に力が入らず足元がふらつく。
痛みを発し続ける腕は折れているのか、動かす事自体を身体が拒絶する。
後頭部からの出血は微々たるものだが時間がそれを危険なものとするだろう。
呼吸が荒い、幾ら空気を取り込もうとも全然足りてはくれない。
放った言葉は精一杯の強がりだ。

だけどそんな事はお構いなしだ。

ゆっくりしている時間はない。
早急に目的の物を見つけて、早くこの場からおさらばしなくては…。
残り少ない魔力で気休め程度の処置を施しつつ歩き出す。
目的の物はこの先にある筈なのだから。

いくら虚勢を張ろうとも身体には限界というものがある。
彼女は足がもつれてその場に倒れこんでしまう。

しかし、この事自体は彼女の幸運さを褒めるべきであろう。
彼女が立っていた位置、丁度心臓付近を通過していった物体。
行き止まりの壁に突き刺さったそれは命を奪う為の鋼の刃。

前に自分が雇った男達は一人として帰ってこなかった。
幾らなんでも、そこそこの実力者たる彼等が他の雑魚共に殺られたとは考えにくい。
あの亀は自分を気絶させてから彼等を追った。
そして鈍足たる亀の足で、男達全員に追いつき倒すなど考えにくい。

そう、つまりは――。

「…もう一匹いたのね。同等かそれ以上の実力者が…」

音がするほどに強く歯を噛み締める。
自分の迂闊さを呪わずにはいられなかった。

既に視界は歪みを見せている。
頭に圧し掛かる不快感は血を流し過ぎた故か、震える手に力を込めて片手棍を握り締める。
ハッキリいって自分の体調は最悪だ。
とても戦える状況ではない。
ましてや先程の敵と同等、もしかしたらそれ以上かもしれない者に挑むなど自殺志願と何ら変わらぬであろう。
だがしかし、何もしなければ其処にある結果は死でしかない。
ならばこそ足掻こう、奇跡と言える確立でしかなくとも、足掻いて生き残ろう。

「来なさい、さっきの亀みたいにあなたも潰してあげるわ!」
私の命は、そんなに簡単に諦められるほど安くないのだから。

〜続く〜

759 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/16(水) 21:53 [ yQKojt3k ]
ぐっじょwwwwww続き楽しみにしてむすwwwwwwwwww

760 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:40 [ iJGu95MI ]
彼女の前に対峙し、小さく口を動かす亀。
途端、辺りに漂う水気が突然集まり彼女の身体を覆う。

「水属性の呪文?あいつ魔法も使えるの!?」

咄嗟に魔法障壁を生み出して威力を殺す。
だが力の入らない足には多少の衝撃すらもきついもの、勢いに負けて押されていく。
足を止めている彼女を狙い亀が突進をかける。
それは肉眼でも十分に確認できる速度。
だがそこから繰り出される攻撃は、一太刀浴びれば確実に自身を死に追いやるであろう。

「くっ……」

彼女はすかさずその場から動こうとするが、身体の反応が鈍い。
既に相手の大剣は制空圏スレスレであった。

ガキーン。

金属同士がぶつかる音。
彼女の咄嗟に持っていた盾を構え、その上にハンマーを被せる様な形で攻撃を受け止める。

それはあくまで肉体への直撃を避ける為だけの行為。
受け止めるだけで精一杯。
粉々に盾は砕け、ハンマーは見事に折れ曲がる。
勢いに負けた彼女はそのまま力の流れの向きに吹き飛ばされた。

「かはっ…」

彼女は受身も間々ならず背中から固い地面に叩きつけられる。
鈍痛に急激な眩暈と吐き気。
同時に襲って来るそれらは彼女に気絶さえも許さない。
痛みを堪え立ち上がろうと腕を支えにするも、先程の攻撃で完全に折れたのであろう左手は不自然な方向へと曲がっていた。
そんな苦戦と苦悩の合い間にも敵は待ってくれない。
此方を屠らんと追撃を繰り出してくる。

振りかぶられる刃に対し咄嗟に身体を捻って回避する。
危機一髪、顔面直撃すれすれの部分での回避。
数秒前まで自分の顔があった位置は重量ある刃の一撃により見事に陥没している。
それが自分に当てられた場合を想定してゾッとした。

しかし、その光景が現実になるのも時間の問題であろう。
敵は彼女に魔法を撃つ時間を与えてはくれない。
そして現状の彼女は意識があるのだけでも奇跡的。
むしろそれが余計な苦痛を延々と与え続ける結果となっている。

もはや体力は自分の持っているハンマーの重さに握力がついて来ないほどである。
次の一撃は確実なる死。
永劫たる闇への開通式。
だが彼女は決して目を背けようとはせず、凛として亀を睨みつけたまま。

そして、命共々その高いプライドを砕くかのような強烈な一撃が放たれた。
しかしその攻撃が彼女に触れると思われた瞬間、間を遮るようにして飛び込んできた一つの影。
それが彼女の身体を掴み、死から逃れさせた。

761 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:40 [ iJGu95MI ]
「大丈夫か!?」

「あ、あなた…」

「まったく、女手一つでこんな危険な場所に来るなんて危ないね」

彼女を助けたのは何時も自分に纏わり付いてきた青年。
青い鎖で編まれた鎧を包み、右手には彼女が持っていた盾よりも一回り大きい所謂騎士盾と呼ばれる物。
腰に提げた鞘は長剣を収める為の物。

青年は女を壁際に寝かすと、それを素早く引き抜き亀と対峙する。

「とりあえず其処で休んでろ、こいつの相手は俺様に任せて!」

何をバカなと言いかけるも彼は此方に背を向ける。

無理だ。
勝てる筈がない。
そう思うも何処か沸きあがる安堵感。
ほんの一瞬だけ垣間見た青年の瞳。
それは実力的な強さじゃない。
何か特別な…意思の強さの表れとでも言うべきなのか。
そんな強さを目の前の青年から感じた。

「ところで亀さん。俺の言葉、分かるかな?
出来れば無用な争いはしたくないから双方剣を収めるって答えも――」

言葉の途中、お構いなしに斬撃が繰り出される。
それは明らかに命を絶つ一撃。

「聞く耳なし…か!!」

喋りながら剣を振るう青年。
それが亀の刃とぶつかり火花を散らす。
だが体格、武器共に重量感で勝っている彼は力負けして後退する。

「こいつは中々バカ力だ…ねっ、と!」

しかし、後退しながらも右足を軸にして身体を捻り攻撃を受け流す。
そして隙が出来た亀の首を薙ごうと狙いを定める。

ブォン!
空気を裂く音。
頬を軽く裂かれるも間一髪回避した亀。
足は遅くとも部位の動き、反射速度は優秀なようだ。

「うはあー、こりゃあ少し疲れそうだなあ…」

そんな光景を遠目で見ていた彼女。
最初は信じられなかった。
だが、今この瞬間程に現実と言うものを直視する刻は早々ありはしないだろう。
持ちつ持たれつつの展開。
青年と亀との実力は、やはり亀の方に分があるようだ。
いや、少し語弊があるか。
技術や体格では負けている青年。
しかし、彼の戦いに宿る思いはそれらを凌駕していた。

762 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:41 [ iJGu95MI ]
「ガァァァァ!!」

辺りに響く悲痛な声。
膝から下を大きく切断された亀は初めて悲鳴らしい悲鳴をあげる。
地面に転がった足からは血袋を撒き散らすような大量の鮮血を辺りにばら撒いた。

片足を失い動きを止めた亀に青年はすかさず追い打ちの一撃を放つ。
亀は魔法で対抗しようとするが、距離と少年の剣速からでは到底間に合わない。

「!?」

最初の一撃を甲羅の部分で受け止める。
流石にクダフゥの甲殻を割るほど一撃は放てず弾かれる刃。
しかし足でワンステップを刻み、間髪置かずもう一撃。
今度は亀の左腕を捉えた。

手首に食い込んだ刃は、既に骨まで達している。

「悪いけど、そっちに同情する気はないんでね!」

血液を撒き散らしながら亀の左手首上が宙を舞う。
言葉と取れない悲鳴をあげてのたうつ亀。
これ以上苦しませぬようにと首に狙いを定めて刃を下ろさんとする。

しかし、瞬間的に冷気が下がるのを青年は見逃さなかった。
刹那の間を置いて地面から生えた氷柱達。
大きく後ろに跳んでこれを回避した。

続け様に氷が地面を伝い青年を狙わんとする。
ステップを刻んだ動きでそれらを全て回避。
現状の彼はこんな悪あがきとも言える攻撃に当たるほどお人よしではない。
だが亀の思想は青年の予想とは違っていた。

途中まで自分に向けられていた氷柱は自分とはまったく違う方向――女がいる場所へと向かっていく。

763 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:41 [ iJGu95MI ]
「なっ!?」

足に力を込めて大きく跳躍する。
そして魔法よりも早く彼女の元へと辿り着き身体を抱えると、その場から飛び退いた。
その際軽く足に刃が掠めたのだからギリギリの救出と言えよう。

「ったく、なんつう危ない事するかな〜」

「…どうでも良いけど、何時まで私の身体を掴んでいるのかしら?」

「とっても、柔らかくて良い匂…」

ガツン!
彼女の放った右ストレートは青年の頬を見事に捉えていた。

「い、痛いよ。おねいさん…、それに思ったより元気だね…」

涙を浮かべる青年から離れて地に足をつける女。

「まあ、あなたが戦ってる間にある程度治療出来たからね。
折れた左腕はまだまだ時間がかかるけど、動けない程じゃないわ」

「うは、逞しいね。俺様ちょっと残念かも!」

「…あ、あのさ…」

俯き言葉を止める。

「ん、如何したの?まだ、気分悪かった?」

「…い、一応よ!本当に一応…。あ、ありが…」

「伏せろ!!」

突然響くような声をあげる青年。
言われたとおり咄嗟に身体を沈めると、その頭上を圧縮した水が通り過ぎる。
すぐさま水の出元に視線を向けると、女の倒した亀を支えにして此方を睨んでいる亀の姿。

戦闘はまだ続いているのだ。

「危ないわね、何するのよ!」

「如何でも良いけど、まだ戦うつもりなの?
状況見てもそっちはまともに戦えるとは思えないんだけど」

青年の言う事は最も。
手足を失い、大量の血液を失った亀は既に瀕死と言えよう。
だがしかし、青年の言葉を聞いてうっすらと微笑をすると亀の周りが黒く揺らいだ。

「!?」

屍となった亀を囲うようにしてコポコポと沸き立つ黒い泉。
彼等が流した血も、それに反応するかのように動きを見せて睨む亀へと集まっていく。

「な、何よあれ?」

「…あの亀。暗黒騎士か」

瞬間屍の亀が泉に飲み込まれ、黒い泉は失った手足となって再生を果たした。

764 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:42 [ iJGu95MI ]
「…なんだか、めちゃくちゃね」

「あれがブラッドウェポン…初めてみたなぁ…」

余った泉は消える事無く亀の刃へと飲み込まれ怪しい音を立てて獲物を求めようとする。

「おねいさんは下がってて!」

「言われなくともそうするわ。後ね、私の名前はおねいさんじゃない、臼姫よ!」

釘を刺すような声で青年に言葉を放ち距離を置く臼姫。

「おう、臼姫!此処はこの内藤様に任せとけ!」

駆け出す内藤。
亀の刃が向かってくる内藤を迎撃せんと振るわれる。

「所詮は当たらなければ、意味が…ない!」

重い一撃を回避し反撃の如く繰り出される内藤の一刀。
その刃の周りには強い炎の属性を纏っていた。

ブシャァァァァ!

彼の軌跡の通った箇所。
亀は胴体から綺麗に真っ二つに切断され、鮮血をその場に撒き散らしたのだった。

765 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:42 [ iJGu95MI ]
少女は目を覚ます。
今日も一日の始まり。
そして何時もの様に父の帰りを待たんと家を出ようとする。
外に出ようとして扉を開けた時、何かがコツンと扉に触れた感覚。

不思議に思い見てみると何かの袋が置いてある。
それを重石に手紙が一通。
彼女はそれらを拾うと中を確認した。

貧しい彼女には大金と言えるギル。
そしてその中に色と形の違う何かを発見した。

途端涙が溢れる。

少女の小さな手に収められたそれは傷だらけのペンダント。
自分が父親に送った筈の大切なペンダント。

どうしてこれがと思い、答えを求めるようにして手紙を拡げる。
其処にはこう書かれてあった。


このペンダントの所有者を、パルブロ鉱山の奥で偶然見つけました。
ですが不幸な事故の為彼は帰らぬ人となりました。
大切な物ではあるでしょうが、こうして置いておく事をお許しください。

追申:あなたの父親は最後まであなた達の幸せを願っていたそうです。
                        〜謎樽より〜

少女は暫く泣き続けた。
そしてペンダントを強く握り締め、空を仰ぐようにすると涙をふき取り家の中へと入っていく。

その光景を影越しに見つめていた臼姫。
少女が泣き止んだのを確認すると、誰にともなく頷き目を閉じる。

この先、少女が如何するかは分からない。
だがしかし、父親に対する想いのケリはついた筈。
彼女のクエストは幕を閉じたのだ。

766 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:43 [ iJGu95MI ]
「う…な、何よ。悪い?」

突然自分の後ろに現れた人物に口を尖らせて言葉を放つ。
見られたくない現場を見られた。
まったくもってその様な表情であろう。
とりあえず気分を抑えるために一発殴っておいた。

「うは、俺まだ何も言ってないのに…」

あまりにも呆気なく殴られた上、鼻を抑えてのたうつ内藤。
そんな彼を見て、あの姿はやはり自分が見た幻だったのではないかと疑いたくなる臼姫だった。


「ところで臼姫!俺と一緒に冒険の旅に出ないかい?」

「呼び捨てとは随分ね内藤」

「うは、大丈夫。この前の事で二人の間には他人の干渉も出来ないくらいの深い絆が――」

ドガッ。
とりあえずお約束の様に一撃。

「不快絆の間違いね。それと、私の理想は高いのよ」

「大丈夫。何せ、俺様はヴァナディールの伝説的勇者になる運命だから」

胸を張り、凛として答える。
その声は何時も通りだけど、確かな意思を感じる程に強い。

「…全然、実感沸かないわよ…」

大きく溜息をして答える臼姫。
すると珍しく内藤からは言葉が帰ってこず。

「…ふう、残念だな」

急に真面目モードに入り背を向ける内藤。

「それじゃあ、これでお別れ…か」

彼女を残して歩を進めていく。

「そうね、お別れね…」

別れ。
今まで何度となくあった人との別れ。

…だけど。

何時もとは違う感情が沸き起こる。
喪失感…そう言うのが正しいのだろうか。
思って彼女はかぶり振る、何を馬鹿なと思って、想いを霧散させる。

767 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:44 [ iJGu95MI ]
例えば、一人の無垢な子供が途方もない怪物に襲われていてとして。
自らを省みず、死へと飛び込んでいく者など一体何処にいると言うのか。
口だけなら何とでも言える。
人を丸め込むのに必要なのは腕力ではない。
吐き気のする様な神算を行える者だ。
彼女が出会った実力者という者達は得てしてそういう部分を持っていた。
たった一人。
幼き日に自分を救ってくれた者を除いて…。

あれから随分の年月が立ったものだ。
旅をすればするほどに人の醜い部分が浮き彫りになっていく。
そんな世界に愛想をつかしたくなるほどに。
勿論、全てが全てそうなのだと思うほど彼女は馬鹿ではない。
しかしそれでも、大半を占める負に彼女は心穏やかではいられなかった。

だけど――。

『大丈夫か!?』

自分が馬鹿にしたあの青年の声が何度も頭に木霊する。

『とりあえず其処で休んでろ、こいつの相手は俺様に任せて!』

自分を助けた所で、彼には何一つ得な事などあり得ない筈だった。
人はそれを無謀というだろう。

『大丈夫。何せ、俺様はヴァナディールの伝説的勇者になる運命だから』

この青年は。
本心から、この言葉を言っているのだろうか。
いや、きっと彼は言葉通りの想いなのであろう。
そして彼ならばもしかして…。

もう少しだけ。
もう少しだけ見てみたい。

そんな大馬鹿な言葉を堂々と言えるこの青年の行く道を…。

「待ちなさい!!」

「ん?」

気が付けば内藤を呼び止めていた。
しかし、どう言えば良いのだろう。
彼女の性格上、素直に言える訳はあるまい。

暫くの沈黙。
その中で途端に閃いた言葉。
ゆっくりと彼女の口からゆっくりと漏れる。
何時もらしく。
不自然な動作のない様に。

「内藤、この前の戦いの後。あなたの傷を私は癒したわよね」

「あ、ああ」

「あなた余裕そうに見えて結構沢山の傷があったわね。そしてそれを全て私は治した」

「感謝してるよ」

「実はね私のケアルは高いのよ、額にしたら天文学的な数値になるほどにね」

「…え!?」

急に表情が崩れた。
たらたらと多量の汗を流し、足をずりずりと引きずっている。

「つまり、あなたは私に借りがあるの。だから、それを返してもらうまで離れるわけにはいかないわね」

「…えっと、それはつまり…」

「聞こえなかったの?あなたが借金を返すまで見張らせてもらうわよ、逃げられたら勿体無いじゃない」

途端に表情が笑顔へと変わっていく内藤。
そして拳を高らかにあげて叫んだ。

「うはwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwww」


こうして彼と彼女の――内藤と臼姫の旅が始まったのだった。

768 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:46 [ iJGu95MI ]
これで今回の内藤と臼姫のはお話終わりです。
文末の最後、内藤があの科白を言いましたがこれは彼の感情がとても強い時にだけ出すと言う方面です。

それでは皆様、また次のお話で会いましょう――。

769 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:47 [ 78THe3tw ]
うはwwwwおkwwwww
続きに期待www

770 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:51 [ 78THe3tw ]
と思ったら更新されてるしwww
リメ様おつwww

771 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/17(木) 19:59 [ iJGu95MI ]
>>770
はい、じっくりお読みください。

772 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/19(土) 04:22 [ cdcZ1HBk ]
うはwwwwwwwwおkwwwwwwwww
相変わらずすっ飛んだキャラの内藤にワラタwwwwwwwwwww

773 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/21(月) 02:08 [ 4IAk4aa2 ]
ぬあ!更新されてんじゃん!sageすぎage!

774 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:56 [ fDySWpgY ]
辺り騒がしく人が賑わいをみせるバストゥーク商業区、クラウツ橋。
早朝の早くも喝采の声と共に道行く者達へと声をかける冒険者の姿。
彼等は自分が冒険の中で手に入れた物や、自身の手で作りだした物を捌いている者達。

そしてそんな露店の中の一つ。

料理を専門としたバザーの前で足を止めた女の姿。
艶のある黒髪に深く赤い瞳の色、豊満な身体は女としての魅力を最大に引き出している。
じっとバザーの商品を眺めながら何かと思案しているようだ。
凡人からは声のかけ辛い独特な雰囲気を持っている者なのだろうが、このバザーの主は人当たりが良く、じっと見つめている彼女に気兼ねなく話しかけてきた。

「おう、ねえちゃん。何か気に入った物があったのかい!?」

「その丸くて赤みがかかった薄い板みたいなのは何なのだ?」

指差した先にある物。
掌サイズで赤みがかかった薄い板状の物が、数十枚と重ねて置かれている。

「ああ、これか?こいつはなぁ、東方の国のお菓子で煎餅というものさ」

「ふむふむ、これが煎餅というものなのか」

「どうだいねえちゃん、興味があるなら買ってかないか?おたく美人だから安くしとくよ!」

「あ、いや、私は――」

突然の申し出に困り顔を浮かべる。
何分興味はあったのだがこうして積極的に進められるとは思っていなかったのか口がどもってしまったようだった。

775 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:56 [ fDySWpgY ]
「いやはや、あの男の商人としての才能は素晴らしいものがある。
何時の間にか色々な物を買わされてしまったよ」

やっとの事で店の主人から解放された彼女。
手に煎餅以外にも色々と買わされた荷物を持って男の前へと歩み寄る。
すると男が自分の顔をじっと見つめ続けている事に気がついた。

「む、何だ戦死?私の顔に何か付いてるのか?」

自分の顔をペタペタと触るが特に違和感はない。
そんな様子を見て戦死は微笑む。

「長生きしてるって言ってた割には、まるで子供の様に目を輝かせてたもんでな」

「…な。い、良いじゃないか。私には知識としての情報しか今まで無かったのだから」

「そうだな。そんな飛子の初々しい所が可愛くて見入っていた俺も悪いな。うん!」

一人納得したように首を頷かせるも、飛子は色々と不満があるのか頬を膨らませていた。

戦死と飛子。
彼等二人は三大国家の一つ、バストゥークへと来ていた。
その目的は戦死の冒険者登録。
最初はもう少し面倒な手続きなどが必要かと思われたのだが思いの他楽に済み、こうして空いた時間を街見学に費やしていたのだ。

その後、遠くの方で男と女の痴話喧嘩らしき声もあがっていたが彼等は特に気にせず辺りのバザーや店を見て周ったのだった。

776 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:57 [ fDySWpgY ]
飛子との邂逅から早半年。
最初は固く素っ気無いイメージを持っていた彼女であったが、その考えは時を共にして大きく訂正させられるものだった。
普通の者は知らぬような博識たる知識を披露したと思えば、先程の様に何気ない露店の売り物に興味を示す。
彼女自身、知識としての蓄えは豊富だが、その実自身の体験は殆ど無いのだ。
あくまで知識は知識。
見て触れる事いにより、それはまったく別の物と感じられるのだ。
まるで子供の探求の様にどんな物へも興味を示し、熱心に観察する飛子を彼は快く眺める。
彼女が自分と出会った事で、今まで知る事がなかった無駄な事をたっぷりとその身で体験し吸収していく事はとても喜ばしい事だった。

世界は無駄に満ち溢れている。
一部の合理的主義者ならば誰しもが考えるであろう。
だがしかし、人は決して完璧な生き物などではない。
不完全で、それでいてとても弱い。
だからこそ無駄は無駄ではないのだ。
少なくとも彼はそう思っている。

777 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:57 [ fDySWpgY ]
日が暮れて。
戦死と飛子は借りていたモグハウスへと足を運ぶ。
部屋に置かれたテーブルに、飛子は買ってきた食べ物を次々と並べていく。
「うわ、いっぱい買ってきたんだな…。こんなに大量の飯は流石に食えないぞ」

「安心しろ。戦死が食べれる量も計算に入れてある。それでいて私自身が食せる限界を計算して買っておいた」

「そうなのか?でも、こんなに食べる必要はあるのか飛子?」

テーブル一杯に広げられた様々な料理の数々。
知らない者から見れば宴会でも開くのかと思われてしまう量は流石に圧巻だ。
「そこは問題ない。私は元々人ではないからな、空気と水さえあれば食事を摂取するという事は極力必要ないんだよ」

「それじゃあ何でこんなに?」

「つまらないじゃないか」

答えに思わず間抜け顔を晒す戦死。
とりあえず説明があまりにも露骨だったのを確認し、一つ咳払いをして言葉を続ける。
「食事と言うものは舌の触覚を使ってこそ意味があるものだろう?
それに、私は自分をグルメだと決めているからな。味には色々興味が尽きないんだ」

そんな風に上手く言葉を使って此方を納得させる飛子を見て納得し、首を縦に動かす。

「む、何をニヤニヤしているんだ戦死」

自分でも気が付かなかったのか言われて顔を確かめるように触る。
彼はよほど考えが表情に出やすい性格なのであろう。
純粋と言えばそれで罷り通るが、本人として結構困った問題でもあった。
「いや。何でもねえよ」

「ふむ…。では気にしない、そうしないと折角の料理が冷めてしまうからな」

二人料理に手を伸ばす。
途中、店の主人に買わされた煎餅を頬張った戦死が水を求めて唇も真っ赤に腫らしたというアクシデントもあったが、本日の晩食は大そう楽しめたそうな。

778 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:57 [ fDySWpgY ]
「そういえば戦死は何を買ったんだ?」

食事も一段落して、思い出したように飛子が話しかける。
戦死は寝そべっていた身体を起こすと自身の道具袋をゴソゴソと漁り、中から貝の様な物を取り出して飛子に渡して見せた。
「リンクシェルか。成るほど、これだけは昔も今も変わらないんだな」

まだ名前も付けず身使用のリンクシェル。

「こんなものを買って如何するのだ?決して安い買い物ではないのだろう?」

彼女の疑問。
それは現在二人で旅する彼女等からすれば当然と言えば当然であろう。
本来多数の者達への連絡手段として使われるリンクシェルを態々買ったのであるから。

そんな飛子の疑問に答える様に、戦死は一度虚空を仰ぐ様にした後目を閉じ、ゆっくりと語り出した。


彼がまだ少年と呼ばれた頃。
同い年の子供達は不思議の塊たる世界を手探りで進んでいく。
一日一日が濃厚で充実のいく日々。
そんな中取り残された自分。
彼は身体が弱かった。

見えるものは窓から覗く木々と町並み。
世界の知識は本と言葉。
聴覚のみの情報は彼の想像力を高く発展させていく。
そしていざ彼の身体が治った時には、既に少年達の探求は終わりを告げる年であった。

しかし彼は諦めず、より深い世界を知りたくなったのだ。
だからこそ旅に出た。

まだ見ぬ世界を望んで。
その刻を共に出来るような仲間を望みつつ。
幼き日に貰ったブーメランを握り締めて。

779 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/22(火) 15:58 [ fDySWpgY ]
話を終えた時は既に夜も更けていた。
話終えた戦死は眠そうな眼で大きな欠伸をした後、すぐさまベッドに横になり目を閉じる。
子供の様なあどけない寝顔でスヤスヤと寝入る戦死にそっとシーツを被せる飛子。

「…気の合った仲間と共に共有する時間を…か。やっぱりお前は変わっているよ、戦死」

眠りにおちた彼の耳元で囁いて、彼女も眠りに着いたのだった。


数日のバストゥーク滞在を終えて、彼等は再び旅路へと出発した。
だが数時間程した北グスタベルグで、急に戦死が足を止める。
「どうした戦死?」

いきなり足を止めたばかりか、耳をすまし遠目になっている彼を見ればそんな言葉が浮かぶのも当然であろう。
とりあえず此方に答えないので、戦死が見ている方向に目をやると二人の男女の姿が見えた。

「あんたは何でこんな簡単な所で迷うのよ!こっちの方角からじゃコンシュタットに抜けれないじゃない!
それとも何?そこの滝から飛び込んでみる!?」

「うは、許して!!そんな所に飛び込んだら流石の俺様も死んじゃう!」

一人は金髪の青年。一人は黒髪の女。
女は男の頬をギュウっと捻り鬼の形相を浮かべている。
そのあまりにもな迫力に思わず一歩ひいてしまった。
「仲の良いお二人さんだな」

「…あ、あれは仲が良いと言えるのか…?私には女が一方的に男を虐待している様にしか見えないのだが…」

戦死が自分とは正反対の考えを言葉にだした為、思わず突っ込みをいれる飛子。
「そんな事ないぞ。あれだけ互いを曝け出して接するなんて普通は出来ないもんだ」

「そ、そうなのか…。私もまだまだ知るべき事が沢山あるようだ」

何とも複雑そうな表情で腕を組み、眉を寄せて深く頷く。
その間にも青年は悲痛な雄叫びをあげ、打撲音が木霊する。
「よし、決めた!」

そんな中、急に戦死が声をあげて騒いでいる二人に歩を進める。
何事かと思い飛子が戦死を呼び止める。
「あの二人も旅に同行させる!」

強くハッキリとした口調であっけらかんに言い放つ。
しかし、その戦死の表情はとても楽しそうで目を輝かせていた。
だから彼女は何も言わずに只頷く。
「お前がそうしたいなら好きにすれば良いさ。私はお前に付き添うだけだ」

そうして、戦死と飛子は彼等の元へと歩み出す。

戦死は思う。
ああ、面白そうな奴等だ。
あいつらと一緒なら、きっと旅を更に楽しいものになる。
自分が今まで出会った事のない人種、これだから旅は止められない。

長い旅の果てに。
沢山の出会いがある。
沢山の別もがある。
しかし、その行く先。
踏み出した道の向こう側には自分の知らない事に満ち溢れているのだから。
彼は買っておいたリンクシェルを手に持って二人に声をかける。

「なあ、そこのお二人さん俺達と一緒に旅をしないか?」

780 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/22(火) 16:03 [ fDySWpgY ]
当たるか如何か半々な予告。

次は真黒の話かも…。

781 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 21:43 [ qJJeXFCU ]
グッジョwwwww
こうゆう話もイイよねwwww

782 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/22(火) 23:48 [ Z2KFb7ZY ]
ゴッジョブ!wwwwwwwリメさんの書く飛子と戦死はいいなぁwwwwwwwwww(*´Д`)

783 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 01:22 [ EbBwHQGI ]
真黒予告キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー
漏れ大好き!!!!!!!!!!!!!!!
期待うらぎらないでwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
待ってるから、ちゃわんにご飯いれずにチンチン音させながら待ってるから
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

784 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 09:47 [ WWA/Ov3A ]
本伝が終わったので生き生きと短編かいてるな

おれも茶碗と箸を用意しなければ!

785 名前: 白魔士 (NBPYS.ps) 投稿日: 2004/06/23(水) 11:22 [ ioQrEfaY ]
リメ神、GJ!!!
戦死と飛子の関係に何となく、ほのぼの癒される(*´Д`)

786 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 11:28 [ ioQrEfaY ]
上のは見なかった事にしてくれwwwwwwww・・orz

787 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 11:43 [ 12wkdCpU ]
|∀・)ククク

788 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 13:02 [ cZyxpd1o ]
リメさんGJ!!!!!!!!!!wwwwwwww

>>786
|∀・)ミタヨ

789 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 19:43 [ E0j5KOYI ]
このスレだけは何時もと変わらない空気で最高だぜwwwwwwwwwwwwww

くっ、それにしても真黒ファンが多いではないか!wwwwwww
だが自称真黒ファン1号の座は譲らないぜ!wwwwwwwwww

俺も急いでお茶碗と箸を用意しなくては!wwwwwwwwww

790 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:29 [ p5s.X2o2 ]
783の言葉から特に熱い情熱を感じて一気に前半部書き上げ。
そして投下です。


広大な草原を見せる東サルタバルタ。
その一角にて多数の者が円を描き二人の者を囲っている。

円の中央、互いに対峙する者はヒュームとタルタル。
ミスたる〜団長の糞樽と、その副団長真黒であった。

一触即発な状況に団員達は呼吸でさえ忘れるほどに見入っていた。
二人は動かない。
対峙してから既に十分は経過したであろうか、それでも一向に動く気配すら見せていない。

真黒から静かに吐かれる呼吸、それは自分のリズムを整える為。
其処に糞樽の詠唱の為のほんの僅かな口ずさみ、それを切欠として地面を強く踏み抜き接近した。

刹那の間を置いて、元居た場所の地面が突起して突き上がる。
真黒は自身の後方を確認せずに詠唱を開始する。
糞樽の表情は回避された事への焦りなど一切ない。
それ所かまるでワザと攻めの切欠を見出させたかの如く、その顔からは余裕ともいえるものが伺える。
真黒の接近に対して糞樽も前進の姿勢。
次の瞬間、糞樽の元居た地面は自然の剣山へと姿を変えた。
互いに視線を交差させて微笑みあう二人。
両者互いに自分の牽制圏へと突入すると、今までの静寂さを吹き飛ばす打撃音が木霊した。

『おお〜!!!』
二人の戦いを観戦している団員達から声があがる。
それは普通の魔道士からはかけ離れた高度な近接戦。
其処には魔法を唱える暇など刹那も存在はしない。
寧ろ、瞬間的な意識の放出は即座に敗北を呼ぶ結果となるのだ。

互いの攻撃を読みあい、僅かな隙を突くようにして攻撃を放ち、紙一重で回避するその姿は二人を後衛と言う概念から外すには十分過ぎるものであっただろう。
真黒はロッド、糞樽は杖、互いの身長によるリーチ差は得物によって完全に五分。
観戦の目からは両者の実力は現在互角、均衡を保っている。
まるで永遠に続くかと思われたその戦闘も、僅かな切欠により一瞬で終局を向かえた。

続いた打撃音の中で一段高い音が鳴り響く。
空中で弧を描く様にして軌跡を描いたのは真黒のロッドであった。

真黒の喉元に杖を押し当てる糞樽

「勝負あり…だな」
自身を勝利者とする宣言。
真黒は目を閉じてゆっくりと頷き。

「…はい、私の負けです」
敗北を宣言した。

その瞬間辺りの団員達は喝采と称賛の声を上げた。

791 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:29 [ p5s.X2o2 ]
「とりあえず、ミスたる〜恒例半月に一度のLSトーナメントはまた俺の勝利だな」
「おめでとうございます団長」
後腐れ等一切ない真黒の満足した笑顔。
彼女からすればこういった行事はスポーツの様に割り切れるのであろう。

「さすが団長、相変わらずデタラメに強いよな」
「でも、その団長とあれだけ渡り合えた真黒さんも凄いぜ?」
「だよな。ミスたる〜限定じゃなければ十分にLSトップの実力者だからな〜」
周りで観戦していた団員達は勿論の事ながら途中で敗退していった者達だ。
観戦に回っても彼等の関心は失われず、二人のどちらが勝つかと賭け事なども行われていたようだった。

「だけど、今度は副団長と団長には何かハンデ付けて欲しいよな〜」
「確かに、どちらかと当たった奴なんて全員30秒以内でやられてるからな」
「…その案には俺も賛成ッス」
ドンヨリとした低重音な声。
声の方を見てみると体操座りで身を縮ませている廃狩の姿。

「うわっ!居たのか…廃狩」
「さっきからず〜〜〜〜〜っと居たッスよ」
「そのどんよりとした空気は何だよ」
「だってッスね〜」

一回戦真黒VS廃狩。

『真黒さん!俺が勝ったら―――』
ベゴッ!!
ドスン!
『えっと…大丈夫ですか廃狩さん?てっきりこれ位避けるものだと…』

「試合中に無駄口叩いたお前が悪い」
団員一同一斉に首を縦に振った。

「おかげで俺の計画がパァ〜ッスよぉぉぉぉぉ」
涙を垂れ流しながら地面を叩く廃狩。
こういう時は下手に言葉をかけると話がややこしくなると悟っているメンバーは、そのまま廃狩に放置の構え。

「確かに真黒さん、試合とか割り切った勝負だと全然容赦ないもんな〜。俺も開始18秒で気絶させられたからな」
「あははははは、笑えねえな」
「笑ってっけどそう言うお前は如何だったよ?」
「団長に10秒かからず吹っ飛ばされました…」
「…」
「良いじゃないですか負けても、祭りに参加出来ただけ羨ましいですよ〜。
自分は白魔道士だからって、ずっと気絶した人の看病と治療で終わっちゃったよ」
「良いじゃねえ?お前弱いし」
「うん、お前が出ても最短KO記録が生まれただけだ」
「ひ、ひどい!自分は自分なりに頑張って医療班として働いてたのにぃ〜」
「ま〜ま〜、そんな所で落ち込まないで。これから恒例の祝賀会だろ?」

祝賀会と聞いて皆の興味が一斉に移行する。
こちらも恒例でトーナメントが終わった後には店を借りて皆で一斉に騒ぐのだ。
ミスたる〜のメンバーはそういった祭事が好きな面子ばかりなのでとても楽しみなのであろう。
そろそろ行くぞと皆に声をかける糞樽。
移動を開始し始める団員達。

途中糞樽と真黒の会話の中で。

「手合わせ有難うございました団長。私もまだまだ未熟者です」
「いやいや、十分に実力は付いてきているぜ」
「そんなご謙遜を、今度はもっと実力を付けて団長を驚かせますね」
「む、お前は言葉に出した事は実行する口だからな、ウカウカしてられないなこりゃ」
声高らかに笑う糞樽。
その隣でクスクスと微笑む真黒。

そんな二人を見て。
(頼むからこれ以上強くならんで下さい)
皆切実に共通した思いを浮かべたという。

792 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:30 [ p5s.X2o2 ]
「…うぇぇぇぇ、ぎぼぢわりぃ〜」
日も昇ったばかりの早朝。
朝一から聞いた者の気分の悪くする絞った声を吐き出す糞樽。
彼の顔色は青く、誰が見ても体調不良と取れる状態である。
そんな糞樽の背中を摩り少しでも気分を楽にさせようと勤める真黒であった。

こうなった原因は昨日の宴会。
アルコールで出来あがった団員達に、頭から大量の酒をかけられたのが問題だったのであろう。
勿論その時真黒は止めようとしたのだが、出来上がった団員達全員を宥めるのは流石の彼女にも不可能であった。

そしてそのツケが現在に至る。

「大丈夫ですか…?でも今回は自業自得ですよ団長。
これに懲りて今後はお酒類に関して少し自粛して下さいね」
「…わかった…実際かなり大丈夫じゃねえしな…」
隣で小言を言いながらも、糞樽の身を案じて胸に手を当て俯き顔で心配そうに見つめる真黒。
手際よく氷の入った水に布を浸して絞り、糞樽の額に優しくのせる。

「普段から団長は頑張り過ぎてますから良い機会です。
LSの事は私に任せて今日はゆっくり休んでください」
「………わりぃけど今回はそうさせてもらう…どのみち今の気分じゃ何にも出来ねえしな…」
「はい、任されました」
出来うる限りの不安を無くすようにニッコリと微笑む。
窓のカーテンを揺らす淡い風、そこから差し込む朝日は心地よい。
真黒は鼻歌を口ずさみながらナイフでリンゴの皮を器用に剥いている。
それを丁寧に兎の形にカットさせて枕隣の小さなテーブルに音をたてない様にそっと置いた。

「とりあえず隣に置いておきます。軽くで良いですから口に入れておいて下さいね。
何も食べないのは帰って回復を遅くしま――」
糞樽の方を振り向き言いかけて言葉を止める。
スヤスヤと小さな寝息を立てて眠りについた糞樽が見えたからだ。
真黒は軽く息を吐くと掛けたシーツを整えて、音を立てぬ様注意をしながら扉を開けて部屋を出る。
去り際に一度だけ糞樽の寝顔を遠目で眺めながら――。

793 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:30 [ p5s.X2o2 ]
「此処に呼ばれた理由は分かりますね皆さん」
静かな呼吸と共に開かれた真黒の口から漏れる言葉。
此処は糞樽の泊まっている部屋から三つ隣にある大部屋。
真黒を中心として円を描くように正座をしているミスたる〜の団員達。
皆ひや汗を流しつつ、口元を引きつらせながらも真黒の声に耳を傾けていた。

「ダメじゃないですか、団長はアルコールに弱いんですから」
それは感情に任せた激情の様なものではなく、母親が我が子をあやすかのように優しく丁寧に繰り出される言葉。
しかしその目は何時もの穏やかな者ではなく凛として皆を見据えたものである。
そしてそれは何よりも団員達の心に深く突き刺さるものだった。

「すいません副団長。気分的に盛り上がっていたのでつい…」
「俺も調子に乗りすぎていました、すいません」
一人が自身の謝罪を認めた途端、水上に波紋が広がるが如く懺悔の科白が木霊する。
誰一人余す事無く土下座をしている光景。
知らない者が見れば一体何事かと見て取れるものであろう。

真黒は皆が反省したのを理解してゆっくりと首を傾ける。
反省の色を出せばこれ以上の追及に意味はない。
「皆さん顔を上げてください」

言葉に耳を傾けて各々言われた通り顔を上げる。
其処には見える彼女の表情は何時も通りの笑顔だった。

「私も少々大人気なかったです、ごめんなさい皆さん」
その許しの言葉で辺りの緊張が途切れたのか、深く嘆息する団員達。

「それと、謝るなら団長にお願いします。私に謝られても困るだけですよ」
少し困ったような笑みを浮かべる真黒。
それを見越してか少し大げさな態度を取り出す者も現れる。

「ふ、副団長〜」
「ああ、やっぱり副団長は俺達の天使だ」
「って、テメェ!何ドサクサに紛れて手を握ってるんだ!」
「なっ、バカ野郎!せっかく至福の時を味わっていたのに何て酷い事をするんだ!」
途端に沸き起こる騒動の波。
これも何時も通りの展開と言えばそれまでなのだろう。
目を閉じる真黒。
空気が変わった事に気付きハッとする哀れな団員達。

「全員起立!」
まるで言霊たる言葉の様に、一同ビシッと音が聞こえるかの如く立ち上がる。

「そのまま整列して廊下に立ってなさい!30分間じっくりと個人で反省する事!」
隊行進の様に規律の取れた歩みで部屋を出て、命令のままに整列する。
真黒は団員全員が部屋から出たのを確認すると大きく嘆息したのだった。


「うあああ、真黒さんからの印象が下がっちまったよ。俺は、俺はこれから如何すれば良いんだ…」
廊下にて一人が涙を流しながら四つんばいの姿勢を取る。
すると続け様に隣から声があがった。

「バカ野郎泣くな!それは此処にいる全員に言える事なんだぞ。
それに例え怒られようとも手を握れたお前はまだ幸せじゃないか!」
男の言葉に続けて他の団員たちは無言で首を縦に振るう。
その様子を見て涙を拭い、四つんばいから立ち上がる。

「…そ、そうだな。そうだよな、皆済まなかった」
「ふっ、済んだ事はもう言いっこなしだぜ」
鼻頭を擦って手を差し伸べる。
男はその手を強く握り返す。

「悪かった、友よ!もう抜け駆けはしないぜ」
「ああ、約束だぜ!」
そんな二人の仲直りを祝うように拍手の洗礼。

「そう言えば珍しく廃狩の姿がないな」
「あ、言われて見れば確かに」
拍手の音が止む。

「こういう騒動には必ず関与してるのに珍しいよな」
「そうだよな、騒動の中心に廃狩在りとまで言わせた奴なのに」
途端話題は廃狩へと移り、各々が彼のこれまでに作った負武勇伝を語り出した。

ガラガラ。
扉を開ける音。
出てきたのはニッコリ笑顔の真黒さん。

「…廊下では静かにしてくださいね」
『は、はい!!!!』
それは何時もの口調ではあるが、彼等に冷たい汗をかかせるには十分なものだった。
その後30分、彼等はまるで案山子にでもなったかのように棒立ちのまま時を過ごしたという。

794 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:31 [ p5s.X2o2 ]
季節は春。

此処は水源豊かなウィンダス水の区。
空は雲一つない晴天で、自然の動植物も活き活きとした姿を見せている。
だがそんな穏やかな光景の中、辺りの空気に見合わなく暗い雰囲気を漂わせているヒュームの青年――廃狩。
彼は視線を地面に落として口元で何か言葉をブツブツと吐き出しているようだった。
それは一般の者からすればとても近寄り難い人物像であり、何時もの彼とはまるで正反対の対極的な姿勢であろう。
最も、普段の彼もある種近寄り難い存在である訳なのだが。

「はぁ〜」
大きく溜息。
額に手の甲を当てて薄目を開ける。

「今回の模擬戦はさすがに格好悪すぎたッスよね〜。
ヘタレのレッテル貼られる内容ッスねあれは…むしろ俺ならそうするッス」
自身の言った言葉に余計と肩を落とす。
だが悩んでばかりもしょうがないので考察してみよう。

確かに総合的な実力的は糞樽や真黒に比べれば劣っている。
腕力や俊敏性では明らかに自分の方が上。
むしろ糞樽と真黒はこの二つの面ではLS内では並の下と言った所であろう。
だがしかし、戦闘面での機転と決断力、相手の攻撃に対する読みと防御技術。
それが自身の欠損している部分を補い、何よりもずば抜けた魔力がそれらを完全に覆している。

「というか何であの二人の魔法はあんなに強いんスかね…」
LS内の黒魔道士達は当然糞樽から色々指導を受けている。
しかし彼等曰く、それを実戦するのは並大抵では出来ないとぼやいていたのを思い出す。
やはりそういった面から見てもあの二人は特別なのであろう。
自信過剰気味な自分でもさすがにその辺りは弁えている。

しかしだ。

それでもその他の団員達に比べれば、自分は一つ上の実力を持っていると断言できる筈。
糞樽と真黒の二人が異常過ぎる故に軽く見られがちではあるが、ミスたる〜に所属する全団員の実力は一般的な冒険者から見れば頭一つ抜く位の精鋭揃いなのだ。
その精鋭の中でも自分は間違いなく上の方、寧ろ皆にそう言い聞かせてきたのが正解であろうか。
今回の手合わせで自分の実力を披露するつもりだったのだが…。

結果は知っての通り。
初戦で真黒と対戦→瞬殺→慰められるのコンビネーション。
素晴らしくお間抜けな三連携である。

「…いかんッス!自分で思い出していて更に欝に…」
ブンブンと振るう頭を抑えて呼吸を落ち着ける。
とにかく今の自分には冷静さが大事なのだ。
心を落ち着けて考えてみようと、腕を組んで頭を悩ませる。

「やっぱり、こう何か実力を身にアピールする必要があるッスねこれは…」
とはいえ、世の中そんなに上手い話が転がっていれば苦労はしないもの。
国のクエストを受けるにしても、三国の中でも最も広大なウィンダスならば石の区まで行って仕事内容に目を通して帰る頃には日が暮れてしまうとも限らない。
それを考えただけでも急激にやる気が削がれていくのを実感出来る。

今日で一体何回目だろうか、また大きく溜息一つ。

肩を落として猫背な姿勢トボトボと歩く。
自分で言うのも何だがなんとも情けない姿であろう。
今まで面倒な事には干渉しないでいた性格が見事に影響している。

「いや!このままでは何時も通り何も変わらないままッス!
此処は自分を変えるという意味でも労力を割くべきッス!きっと多分!」
曲がっていた背筋をピンと伸ばし、だれていた腕を折り曲げて握り拳を作ると天高らかに持ち上げる。

「うおおおおおお、やるッスよ!!今日から俺はニュー廃狩!または真・廃狩ッス!
はっ!!真・廃狩だと真黒さんと同じ漢字ッスね。少し照れるッスな〜、ナハ、ナハハハハ」
浮かれ顔にスキップ歩調。
これが先程までの男と同一人物なのだろうか…。
人を指す言葉で浮き沈みが激しいとはよく言ったものである。
此処まで即座に転落していく過程が見える人物はそうはいないであろう。
とりあえずは彼が立ち直る切欠を見出したので結果的に良しとするにしようと。

そんな間際。

「そう言えば奥様聞きました?」
「何をですか?」
小耳に入る世間話。
何気なく聞き耳を立てながらその横を通り過ぎる廃狩。

「先日ギデアスへの定期的な食料を納めに行った人達。まだ帰ってきてないですって」
「…まぁ、怖いですわね」
「ヤグードの民は乱暴者が多いですから大変な事になってなければ良いのですが」

天は時として気まぐれに手を差し伸べてくれるものだ。
まあ、それが神か悪魔の誘いかは結果が出るまで定かではないが。

「その話、じっくりと聞かせてもらえないッスかね?」
話をしていた者達の中に割り込む廃狩。
どうやらトラブル事に対する運が尽きない限り、彼が変われる事は早々ないであろう現実であった。

795 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/23(水) 23:31 [ p5s.X2o2 ]
日も沈み皆が寝静まった頃。
それを見計らい寝床から離脱する廃狩。
装備を確認し、万全だと理解すると皆に気付かれぬように宿を後にする。

そして外で待たせているチョコボの元へと辿り着いた所で背後から声をかけられた。

「何処へ行くんですか廃狩さん?」
「う、うわっと!」
彼に声をかけたのは真黒。
廃狩は驚きのあまり固まったまま。

「ギデアスに行くつもりですね」
「そ、そんな事ないッスよ。ほらあれッス!ちょっとした小用をッスね――」
挙句に自分の行動パターンを露呈されて舌が回らない。
彼の中の状況イメージは断崖絶壁に立たされた気分であろう。

「昼間の話ですけど。実は私、近くに居たんですよ」
地面崩壊。
荒ぶる海へと落下していく自分のイメージを捉えた。
ああ、もうダメだと彼は心の中で号泣していた、のだが。

「行方不明の人達を探しに行くのでしょう?幾ら皆の迷惑になるからとはいえ、一人で行くなんて危険ですよ」
「へっ…?」
微笑んで喋りかける真黒。
如何やら純粋に人助けの為だけに動いたのだと思っているようだ。

「惚けた声を出してもダメです。幾ら廃狩さんが実力者でも真っ向から向かったら只では済みませんよ」
「それじゃあ俺は如何すれば良いんスかね…?」
「廃狩さんを一人で行かせるなんて危険なマネはさせません」
「うう…」
「ですから私が付き添います」
廃狩硬直。
放たれた言葉が秒の間に数千回と脳裏に木霊する。
彼の脳内イメージは一転して天から光が差し込み、荒ぶる海を真っ二つに割り、自身に翼が生えて天を自在に飛び回っていた。

「私じゃ不満ですか?」
答えない廃狩に対して少し困った声を出す真黒。
すぐさま意識を戻して返答する。

「そ、それじゃあお願いしちゃおうッスかね!」
あくまで冷静で自然に。
そして違和感を感じ取られるように。

「はい、宜しくお願いしますね」
そう言った真黒の顔を見て廃狩はこう思った。

ああ、神様ありがとう。
とりあえず何でも良いからありがとうと。
自身が歩んできた人生の中で得た百の感謝の念を抱いたという。

796 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 09:15 [ IaENrG9s ]
先生!(;´Д`)ノ
真黒が男として偽装してるって設定どこいったんでしょうか!

797 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/24(木) 09:39 [ eMv0U9c. ]
>>796
女とは未だに明かしていません。
一応男と言う事になっています。
彼女自身書も女っぽい服装は一切しておりません。
(あえて言うなら少々厚着ですか
だが、それでも男だと言う可能性も完全立証されている訳でも元々ないので…。

逞しい団員一同はある意味『男か女なんて些細な事さ、俺達は真黒さんを慕っているのさ』と割り切ろうとしてますね。
というかその不鮮明な部分がある種のブレーキになってる訳なのでして…。
本当に女だと分かった日には彼等はもっと積極的になっちゃいますねきっと。

まあ、その団員達葛藤を含めた辺りのギャグ中心の話は構成自体出来ているので時期を見て出します。
題材的には『真黒さんて結局どっちなのさ!?』な話ですが。



…第三者の視点描写なので彼女とか使えないと全部真黒のみでしか表現できず使い勝手が…。

798 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:18 [ eMv0U9c. ]
「う〜ん、とっても順調ッスね」
ギデアスへと到着した二人は、囚われた者達が居るであろう場所を予めチェックして行動を開始していた。
運気は彼等に味方するかの如く、今宵の月は雲により覆われており世界をより黒く染め上げている。
それは所謂鳥目なヤグード達に取って不運な夜と言えただろう。
その証拠に廃狩が余裕を持って口に出した言葉の如く、彼等二人は現状殆どの敵と接触する事もないまま順調に進めていた。

「変ですね…」
しかし、その順調すぎる事の運びに不安を抱く真黒。

「変?何がッスか?」
「幾らなんでも警備が手薄過ぎます。仮にも獣人の拠点の一つをこうも簡単に闊歩出来るなんて無視が良すぎますよ」
幾ら相手にとってマイナス要素が多かろうとも、此処まで順調に進みすぎるのは返って危険性を醸し出していると判断したのであろう。
もしも自分が敵として条件下に居るとするなれば、この様な夜は警備の数を増やして夜襲に備えるものだ。
敵陣を攻略する為には相手の気持ちになって考え、そして相手にとっての穴を模索するのは有効な手段の一つである。
そこから弾き出された答えと現状は、明らかに矛盾に満ちているのだ。

「考え過ぎじゃないッスかね?ヤグードってのは鳥目だから夜中には弱いだけだと思うッスよ」
「それなら良いんですが…」
やはり納得しきれないと顔を顰める真黒ではあったが、このまま考えに徹して動かなければそれこそ何にもならぬと判断して廃狩の後に続く。
結局、捉えられている者達が居るとされている部屋の前まで最新の注意を払いつつ、意識を尖らせていた真黒ではあったが、それこそ廃狩の言った様に何事もなく順調に進む事が出来てしまった。
(考えすぎ…でしたかね)

何時までも同じ事を考えるのも不毛として考えを切り替える真黒。
ともかく救出する者達を安全に帰すのが最優先だと脱出のルートなどを思案する。
さすがに扉の前には監視役となるヤグードが随時見張りをしている様で、彼等の目をやり過ごして中の者達を逃がす事は不可能といえた。

(敵の数は4。持っている得物からして侍と忍者、白魔道士とモンクといった所ですか…)
真黒は廃狩に耳打ちをして、すべき役目を伝えるとその場から飛び出した。

彼等が作った一瞬の死角を利用して、口ずさみながら最速で接近する真黒。
ドン!
淡い光と鈍い音が聞こえて白魔道士のヤグードはその場に倒れ伏す。
首の後ろが陥没している所を見るとロッドで強打されたようだ。

突然の侵入者の存在に驚く相手に対し、一切の間を空けずに次の行動へと移行。
モンクたるヤグードの懐に入り込み、その羽毛に包まれた腹部にゆっくりと掌を合わせる。
接近時から紡いでいた呪文。
その概念は荒ぶる風を圧縮した球状たるもの。

鋼の様に鍛え上げられたモンクとしての肉体を無視する内部破壊。
多量の血液を体中の穴から噴出して絶命する。
しかし彼は意識を失う間際、真黒の腕をしっかりと掴んでいた。
残った二匹はそのチャンスを最大に生かすべく、刃を真黒の身体目掛けて一直線に振り下ろす。

ドス!ドス!
異物が肉へと埋め込まれた確かな音。
だが倒れたのはヤグード達の方だった。

「へっへ〜!どんなもんスか!」
「はい、満点ですよ廃狩さん」
倒れたヤグード二人の喉元には鋭利なナイフが見事に突き刺さっている。
真黒は侵入者を一人と思わせる事で彼等のみの対処を可能だと醸し出させ、援軍を呼ばせる可能性下げ。
自分に釘付けとなった彼等の隙を見て廃狩に遠隔の指示を出していたのだった。

799 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:19 [ eMv0U9c. ]
屍となったヤグードから鍵を奪い、扉を開ける廃狩。

「正義の味方登場ッス!」
無駄に派手なアクションで登場する廃狩。
何時もながら余計な事をしてくれるものだ。

最初は二人の登場に困惑の色を見せていた者達であったが、真黒の丁寧で迅速な説明により自分達を救出に来たのだと理解して喜びの表情を浮かべる。
中には表情を落としたままの者も居たのだが、きっとまだ混乱状態にあるのだろうと見て深くは追求しなかった。

「それでは早速移動します、長居は危険ですからね。皆さん廃狩さんの後を追ってください。
私は殿として後方に最後尾として着きます。もしも敵に見つかる様な事があっても決して慌てず私達を信じてください」
真黒の言葉に無言で頷き、廃狩を先頭にして、説明通りその後に付いて行く人々。
全ての者が出終わったのを確認して最後尾の位置へと着こうとする。

瞬間。

死を連想させる様な冷たい視線を感じ取り、後方を振り向く真黒。
しかし、視界内には誰の姿も見えず感じた気配は既に微塵もない。
ただ首筋に掻いた嫌な汗だけが、感じ取った何かのおぞましさを伝えるのみであった。

800 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:19 [ eMv0U9c. ]
洞窟上となっている場所を何事もなく抜けると、星の光が彼女達を照らす。
何時の間にか雲は晴れ、夜の暗き天と一面の星がその姿を見せていた。
彼等の前に立ち下がる多数のヤグード族と一緒に――。

「やはり、早々上手くは事を運んでくれないようですね」
彼等の視線を自分一点に集めるように言葉を放つ真黒。
即座に噛み付こうとした廃狩を制し、不安に脅える者達に小声で落ち着いてと語りかる配慮も忘れない。
相手に気付かれぬ様小声で指示を出しつつ、まずは相手の出方を伺った。

そんな凛とした態度を取る真黒の前に一匹のヤグードが躍り出る。

「我等が縄張に踏み入れし人間、無礼なり」
どうやら共通語を話せる者らしい。
その事を理解して真黒は冷静に答える。

「何を言っているのですか。あなた達こそウィンダスとの和平条約を違反していますよ?」
「あんなもの、何の力がある?我々が黙秘すれば良いだけだ」
長い嘴上の口を醜く広げて笑みを浮かべる。

「あなた達はそれを本気で言っているのですか!?
それは互いが手を取り合っていけるようにと、最善の道を尽くす者達を愚弄しているのですよ!?」
「何故我々、人などと手を取らねばならぬ。現人神に仕える我等、その価値の重さが違う」
この様な者達のおかげで、苦しめられた罪なき者が今までどれ程居たのだろうか。
それを考えると何ともやり切れない想いが込み上げてくる。

「あなたは最低です。私、そういう考えを持つ人は大嫌いです」
「我等、人間種族と同じ考えは迷惑なり」
「それならば、此方も容赦する必要などないと言うわけですね」
真黒が虚空を大きく薙ぐ。
それに呼応してヤグード達の上空に巨大な水の塊が出現、十分な質量を持った鈍器として襲い掛かった。

「みんな今ッスよ!全速力で走り抜けるッス!」
真黒の攻撃を免れて襲い掛かるヤグードに対し、準備していたダーツを一斉に投げつける。
そして自身の脚力を生かして先陣をきり、逃亡の為の道を作っていく。

「この廃狩様に挑む次のお馬鹿さんは誰ッスかー!」
「命が惜しい者は道を開けなさい!邪魔する者は容赦なく撃退します!」
来る敵のみを撃退する最小限の戦い。
先の真黒の先制攻撃が効いているのだろう。
自身に生えた羽毛は例え攻撃に耐えたとしても、本人の意思に関わらず多量の水分を吸収している。
それに初撃の意外性とダメージも重なって、今の彼等は枷を背負っているようなものだ。
故に真黒と廃狩の勢いを止める事など出来ず、まんまと逃亡を許す結果となったのだった。

801 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:20 [ eMv0U9c. ]
「こ、此処まで来れば安心ッスね」
ギデアスを抜けた事による安堵か、疲労が一気に押し寄せたか如く地面に座り込む廃狩。

「そうですね。完全に安全とは言い切れませんが峠は抜けたといった所でしょう。
最後まで気を抜かず頑張りましょうね廃狩さん」
グッと両腕を胸に当ててガッツポーズをする真黒。
それを見て廃狩も、もう一頑張りするかと立ち上がる。

しかし、安堵の表情を浮かべる筈だと思われた皆の表情が何処か暗い。
その不自然さに廃狩と真黒は顔を見合わせて疑問を浮かべる。

「あの、どうしま――」
彼らに話しかけようとすると、一人のタルタルの男が一歩前に出て自ら口を開いた。

「じ、実は…もう一人…もう一人捕まった子が居たんです…」
絞り出すような声で必死に言葉を放った彼はその場で目を閉じる。

「なっ、それは本当ですか?」
真黒の問いに答える様にして、皆は顔を俯かせて口を強く閉じたまま。
それが今の彼等にとって何よりも分かり易い答え方なのであろう。

「あ、あんた達!何でそれを言わなかったんスか!?」
廃狩がそんな彼等に問答無用で詰めかかる。
口調は変わらずとも、声の質は明らかに変わった事に脅えて必死で答える男。

「しょ、しょうがないじゃないか。あんた達の性格を見て、もしもその事を言っていたら助けに行くと言い出しただろう」
つまりは。
一人を新たに助ける事によって、他の全員の危険性が増す。
それを見越してあえて口に出さなかったと言う事か。

「なんつーかッスね。頭の悪い俺でも理屈は分かるッスよ。でもな、そういう考え方はどうしても好きに慣れないんッスよ!」
男に向かって振りかぶろうとした廃狩の拳を止める真黒。

「ダメです廃狩さん!」
「ま、真黒さん!?でも、こいつら!!」
「事情は理解しました。廃狩さんの気持ちも分かります。
しかし、この人達の考えも間違いではありません。寧ろ団体行動に置いては正しいと言えるでしょう…」
「…真黒さん。それ、本気で言ってるんスか?」
言葉に頷く真黒を見て、廃狩は酷く表情を曇らせる。
それは彼女に対しての失望の表れか、煮え切らない想いを浮かべた様な瞳を向ける廃狩。

思えば彼が真黒に対して、敵対するような表情を浮かべたのは初対面時以来だろうか。
最も、その時の彼と今の彼では明らかに別人の様になっている訳であり、抱いている感情も別物であろうが。
しかし、そんな不快な想いも所詮は杞憂なものだった。

802 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:20 [ eMv0U9c. ]

真黒は自分の胸に手を当てると顔を上げ、しっかりとした眼でこう語る。

「ですが、私個人。団の意見ではなく個の意見としては、あなた達の考えを認めたくはありません。
ですから、残っているその人は今から私が助けに行きます!」
ザワザワと広がる動揺の声。
それが、どれ程無謀な行動か素人目に見ても明らかだ。
しかし、真黒の目には一切の迷いはない。
自分の口にした言葉に責任を持ち、必ず実効するとまで糞樽に言わせるだけの事はある。

ほんの一瞬でも真黒に対して不快な想いを抱いてしまった事に恥じる廃狩。
真黒は真黒。
それは例えどんな時であろうが変わる事はないのだ。
それが、自分が団員の皆が惹かれた真黒という者の姿なのだから。

「おっしゃーッス!!」
気合を入れるようにして自身の頬を叩く廃狩。
気合は十分。
どんなキツイ命令だろうと、こなしてみせるといった強い姿勢を見せている。

「廃狩さんはこのまま皆を無事にウィンダスまで連れて行ってください。
此方の事は私一人で何とかします」
廃狩の考えから外れた命令を下す真黒。
その危険な答えにはさすがに納得いかずに反論する。

「何言ってるんスか真黒さん!幾らなんでも無茶すぎるッスよ!?」
「私達の所為で相手は殺気だっています。このまま此処に取り残したら最悪命が危ないです」
「それは分かっているッス。だから俺も一緒に――!」
前に乗り出そうとする廃狩の唇にそっと人差し指を押し付ける。

「いえ、先ほども言いましたが。まだ完全に安全だとは言い切れません、誰かが彼等を護衛する必要があるのです。
そして中に囚われている人の救出も必要な状況です。
私と廃狩さんではどちらが隠密行動に適しているか分かりますよね?」
「そ、それは…」
答えは明白。
LS団員なら口を揃えて同じ答えを出すであろう。

「ですから私が迎えに行きます。後は万が一に備えてLSの皆さんにも声を掛けておいて下さいね。
皆さんグッスリ休んでいる所を起すのは忍びないですが、状況が状況ですから…」
微笑む真黒。
こんな状況になっても団員の事に気を配る真黒。
そして、まったくの見ず知らずの者の為に一人死地へと飛び込もうとする真黒。

実力的な強さは元より、精神面でも彼は全てに置いて真黒よりも劣っていると実感した。

「…絶対に会えなくなる様な事にはなっちゃダメッスよ。
団員の皆、絶対に悲しむッス。団長もすっごく困る筈ッス。俺だって嫌ッス。
みんな。みんな真黒さんの事が大好きなんスから…」
「大丈夫ですよ。私、こう見えてもしぶといですから」
その言葉を最後にして二人はそれぞれの方向へと歩み始める。
爪が肉に食い込むほどに強く拳を固め、砕けそうな程に歯を強く食いしばりながらも廃狩は真黒の言葉に従ったのだった。

803 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:21 [ eMv0U9c. ]
無数の障害として襲い掛かるヤグードの群れを、強引に突き進んでいく真黒。
廃狩に対して隠密行動云々の話を持ち出しはしたが、現在の様に殺気だった敵軍の前には殆ど意味のなさないものであった。
無論彼女はそれを見越して理解しつつも、この場へと飛び込んできたのだ。
それは自殺志願の表れか、はたまた何か策があっての事なのか。

きっと真黒には、そのどちらも当て嵌まっては居ないのであろう。
廃狩が男に対して言った言葉。
それをそのままに実行しているだけなのだ。
それは人として、彼女自身としての心の表れ。
困っている者をほおってはおけない、只それだけの単純な感情からであった。

無論自分で言い出した事を、彼女は最初から諦めているつもりは毛頭ない。
例えそれがほんの刹那の可能性であろうとも、最後の最後まで諦め無いのが彼女の信念だ。


幾度目かの魔法を撃ち終え、幾度目かの敵の屍を乗り越えた所。
ギデアス中心付近の洞窟まで到達した真黒はついにその勢いに衰えを醸し出していた。

「…囲まれちゃいました…か…」
此処までの全力疾走と、戦闘の緊張感から来る疲労が足を止めた事により一気に押し寄せる。
呼吸は乱れ、肩で息をするも酸素がまるで足りない状況。
これが彼女としての限界。
幾ら並外れた実力を持とうとも、その形を人としている時点で詰め込めるエネルギーの量に限界があるのだ。

スタミナの不足。
そこから生じる基礎体力と集中力の低下。

じわりじわりと距離を詰めるヤグード達。
此処までの真黒の勢いを見てきた彼らには、もはや油断というものはない。
確実で正確にその命を仕留んと機を見計らっているのだ。

場の空気は、個人個人の思いを示すかのように真黒を中心として重く圧し掛かる。
一滴の汗が顎から離れ、宙を舞う。
そしてそれが地面に到達した瞬間、彼等は一眼となって真黒に襲い掛かった。

(…糞樽さん…)
世界がゆっくりと動いていく中、真黒が思い浮かべたのは糞樽の姿。

「真黒―――!!!」
最初は幻聴かと思えた。
しかし、自分が彼の声を聞き間違える筈もない。

残った気力を振り絞り、霧散しかけた意識を集めて繰り出す概念。
自身を護りし氷の鎧。

それが真黒の命を僅かの差で救った。

再度襲い掛かろうとする者は既にいない。
辺りを舞う炎の演舞。
暴挙たる炎は次々とヤグード達を包み込み、永遠たる灼熱の抱擁を与えていった。

804 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:21 [ eMv0U9c. ]
「大丈夫か真黒!?」
「だ、団長なんで…」
「へっ、虫の知らせって奴か。唐突に目が覚めたらお前と廃狩の姿が見えなかったからよ。
他の団員達も目を血走らせて探してた所に廃狩からの連絡だ。それでもギリギリだったがな」
「…ありがとうございます」
「へっ、一々礼なんていらねえよ」
小さくも頼もしいその背に押されて真黒は立ち上がる。

「もう、大丈夫です。団長は奥に捕らえられている人を救出に行ってください」
「おいおい、大丈夫か?さっきまでやばかっただろう」
「私は糞樽団長率いるミスたる〜の副団長です。それ以外に説明のしようがありますか?」
「ったくよ、ほんと口が達者だよな真黒は…」

「真黒さ〜〜〜ん!!!」
「皆、気合を入れるぞ!!」
「うおおお!副団長を守れ!!」
「鳥どもに死を!!」
遠くから聞こえる聞き慣れた声。
真黒の中で頼もしく最も頼れる仲間達。

「それじゃあ任せたぜ!」
「はい!糞樽団長!」

805 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:21 [ eMv0U9c. ]
禍々しい空気漂う一室。
辺りに置かれた奇妙な物の数々は何かの儀式に使う物なのだろうか
その部屋の奥の扉。
厳重に鍵を掛けられたその中に、部屋の空気に似つかわしくない肩口に切り揃えられた緑色の綺麗な髪のタルタルの少女の姿があった。

「何だろう、外が騒がしい…」
辺りの騒がしさに異常を感じ、鉄格子の張った窓口の様な場所から外の様子を眺めた。

其処にはこのエリア内の上級ヤグード達が集まり一人のタルタルの青年を囲んでいる。

一体何故こんな所に?
この騒ぎと関係があるの?

はじき出される最も簡潔な答えは自身の救出か。
しかし、彼女は自分の為に他者が傷付くのを決して望みはしない。
少女は青年の身を案じて声を上げるが距離の為かその耳には届く事はなかった。

無力さに打ち震える。
これから起こるであろう虐殺劇を想像して彼女は目を閉じたようとした。

だが、結果は思いもよらぬ方向へと向かう。
次々とその命を散らしていくのはヤグード達の方。
タルタルの青年は、様々な呪文を唱えながら獣人達の群れの中を駆け抜ける。

「き、貴様。一体何者だ!」
「何でお前なんかに一々名乗らなくちゃいけねえんだ?
まあ、こういう時颯爽と登場するのは正義の味方って奴かな?」

「貴様!我々をバカにしているのか!?」
「そうだな、俺は自分が認めた奴以外は割とバカにしてる傾向があるかも」
放つ言葉の全ては彼等の癪に障るもの。
怒りを露にして襲い掛かるヤグード達ではあったが、その矛は決して彼を捉える事は出来ない。

「遅い、とろい、ノロマ、スローリー、答えは何か分かるか?」
両腕をバッと広げる。

「お前が雑魚だって事だよ」
糞樽を中心とした辺り一体の地面がもり上がり相手を包み込む。
巨大な波となった大地は一つの怪物として対象者達を砕いて葬っていった。

「我等が偉大なる現人神様…どうかお助けを…」
ついに最後の一人となった魔道士姿のヤグードは、背を向けて神に縋る言葉を放ち続ける。

「今更神頼み何かしてるんじゃねえ!自分の撒いた種は自分の力で解決しな!」
顕現された水のうねり、背を向けて神頼みをする者に対して放たれたのだった。

「ふう、これで全員か」
掻いた汗を拭って、背筋を伸ばす。
辺りには糞樽に対して敵意を持つ者は、もはや一片たりとも存在しなかった。


この後、囚われていた少女を見つけた糞樽。
少女はまるで糞樽の姿を見入るように終始眺め続けていた。
真黒も援軍のおかげで無事に生還。
廃狩は真黒と二人で居た時間を事細かく吐かせる為にと団員達に拉致された。

806 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:22 [ eMv0U9c. ]
そして嵐の去ったギデアスでは――。

力の無い足取りで虚ろに彷徨う一匹のヤグードの姿。
最後の最後で神に縋ったあの魔道士である。
彼は自身の傷を癒そうと、薬品類の置いてある部屋へと向かう途中であった。

「くすくすぅ〜、失敗しちゃったんだ。残念だな〜」
無邪気な少女の声が辺りに響く。
その瞬間、世界は凍りついたかのように色を失い、その場に居たヤグードの者は心臓を鷲掴みにされた様な気分に陥る。

「…わ、我々はそちらの意思に従った。…それが我等の神の為になると信じて行動したのだ・・・」
「あ〜、あれね〜、全部嘘なの〜。あなた達って馬鹿だから本当に騙されやすいんだね〜」
あっけらかんに言い放つ少女。
しかしヤグードの者に怒りの色はない、寧ろ絶望めいたものが胸中を漂いそれ所ではないのであろう。

「とっても疲れちゃってるみたいだね〜。私が寝かしてあげるよ〜」

―――永遠にね―――

807 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:22 [ eMv0U9c. ]
朝日が昇る。
あの夜から一日が経過した。
助けた者達とその肉親からは多数の感謝の言葉。
お礼を運んだ者も居たが、それらは全て真黒が遠慮し受け取る事はなかった。
廃狩とその他団員は半日程一室に篭っていたが今では店を借りての大騒ぎ。
勿論今回は糞樽に酒をかける事はなかった。


今日も空は雲一つない良い天気。
坂になった自然の絨毯の上で寝そべる糞樽と隣に座る真黒。

「真黒モテモテだな〜」
糞樽がニヤニヤした表情で話しかける。
困ったような真黒の表情。
その手には助けた者達――特に女性――からのプレゼントを抱えている。
殆どの者は断ったのだが、ある種執念めいた感情を持っていた者達を拒む事が出来ずこうして手に持っている物が結果だ。

「いや…私としてはあまり嬉しくないですが…」
「タルタルの女には興味ないってやつか?」
よっぽど人をからかうのが好きなのだろうか。
困った真黒をさらに困らせる糞樽。
こういう所はなんとも大人気ない。
まあ、彼はまだ二十歳に満たないので完全な成人ではないのだが…。

「いえ、決してそんな事はありません!…ただ、誰でも良いって訳じゃないですから」
「ははは、分かってるって。お前って思い込んだら一途みたいな奴だしな。
もしかしたらもう好きな奴とかいるんじゃねえのか?」
「えっ!?」
「おっ、その顔は図星か。今度教えろよ」
「は、はぁ…、考えておきますね」
「うっし、約束だぞ」
そうして会話していると一人のタルタルの少女が此方に歩み寄ってくる。
よく見るとそれは糞樽が助けた少女だった。

「あ、あの…ありがとうございました」
丁重にお辞儀をする少女。

「なぁ〜に、大した事じゃねえよ。うちのバカ共を探しに来たついでだからさ」
「め、面目ないです…」
そんな普段通りの会話をする糞樽の顔を、少女はじっと見つめている。

「ん、俺の顔に何か付いてるのか?」
視線に気付いて話しかける。
少女は顔をうっすらと赤らめて、小さく深呼吸をしていた。

「あ、あの!お、お名前を教えて貰えないでしょうか…」
少女の必死に搾り出した言葉。

「こいつの名前は真黒だ」
糞樽はあっけらかんに真黒を指差して答える。

「い、いえ。あの、違うんです。そちらのヒュームの方ではなくてあなたの…」
「えっ、俺?」
今まで尋ねてくる者は大抵真黒関連だったので、意外と言えば意外であった。
まあ、彼からしてみれば拒む理由もないのであっさりと答える。

「俺の名前は糞樽だ。まあ、言う程に大そうな名前じゃねえけどよ」
「…糞樽…さん…ですか」
何度も確認するように一人口ずさむ。
そしてバッと顔を上げると天子の様な微笑を浮かべて大きくお辞儀をする。

「本当に有難うございました。糞樽さん、とってもかっこよかったです!」
それだけを言い切った彼女は逃げる様にその場から走り去って行った。

「行っちまったよ。な、何だったんだろうな?」
「…」
そう言いながらも頬をポリポリと掻く糞樽の顔は少し赤かった。

808 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:23 [ eMv0U9c. ]
旅立ちの準備を始める糞樽達。
歓迎のムードの所為か少々長居しすぎたようだ。
このまま此処にいると団員達も府抜けてしまいマイナス要素が積もっていくばかりだ。
全員旅路の為にとウィンダスの出口へと集合する。
たった一人を除いて。

「それじゃあ暫くお別れだな廃狩」
その場には居ない者の名を口ずさむ。
それは三日前。
突然彼は狩人としての修行を受ける為にウィンダスへ残りたいと申し出ていた。
最初は冗談だと笑い飛ばしていたが、彼の何時になく真剣な表情は本気である事を皆に伝わらせるには十分であった。
理由は聞かなかった。
決意の篭った瞳がそれを必要でないと判断したからだ。

「あの元気な破天荒野郎が姿を見せないなんて面白くないな」
「ふふっ団長、素直に寂しいって言えば良いじゃないですか」
「バ〜カ、あんな奴相手に寂しがる程俺はお人良しじゃねえよ」
糞樽と真黒の会話を聞いて他の者も喋り出す。

「夜中のトークとか面白かったよな〜」
「まあ、何だかんだで面白い奴だったしな〜」
何故か葬式ムードの様な雰囲気が漂う。

「あ〜、お前ら。変に寂しがるんじゃねえよ!
大体な根性の別れじゃねえんだ。それよりも今度出会った時に奴を驚かせる位実力を付けるとか目標を持ちやがれ!」
糞樽の一喝。
そして辺りの流れも変わっていく。

「そ、そうだよな」
「団長の言う通りだ、うん」

「おい廃狩!ちゃんと戻って来るんだぞ、分かったな!」
「お前がヒィーヒィー言うくらい強くなってやるよ!」

そうして皆、思い思いの言葉を残して旅へと出発するのだった。
再び会うであろう仲間との、その時を密かに楽しみにしながら――。

〜続く〜

809 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:27 [ ImERQoSw ]
つまんねーなあ

810 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:28 [ eMv0U9c. ]
今週のお話も無事終了です。

これで糞樽LSの廃狩さんの出番は暫くお休みですね。
彼の穴を埋めるキャラは果たして――。

とりあえず。
話で疑問に思った事などは答えられる範囲なら答えますので
796さんの様な質問は受け付けます。

さて、次は誰の話を書きましょうか…。

では、皆様。
またの機会に――

811 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:33 [ WsA1ziQ. ]
何時までもはびこってないでお前も書くの止めたらどうだよ。

どうせつまんねーもんしかかけねえんだからよ。

上にも俺と同じ意見の奴いるしな。丁度良い頃合だろ?

812 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 18:36 [ h4IFnS6E ]
>>810
                        _Θ_
                       ┗┓-┏┛
                         ┠-┨
                         ┠-┨
                         ┠-┨   ガッ
                         ┠-┨
                       ┏━....━┓
                        ..┯..┯┯
                        │ ││
                        │ ││
               -― ̄ ̄ ` ―-- │ ││
          , ´  ........ . .   ,  . ...└━..┘" ー _
        _/...........::::::::::::::::: : : :/ ,r:::::::::::.:::::::::.:: :::.........` 、
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    ,/:::;;;;;;;| : ::::::::::::::::::::::::::::::/ /::::::::::::::::::: ● ::::::::::::::::: : : :,/
   と,-‐ ´ ̄: ::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::r(:::::::::`'::::::::::::::::::::::く
  (´__  : : :;;:::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::`(::::::::: ,ヘ:::::::::::::::::::::: ヽ
       ̄ ̄`ヾ_::::::::::::::::::::::し ::::::::::::::::::::::: :●::::::::::::::::::::::: : : :_>  ← >>810

          ,_  \:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: `' __:::::::::-‐ ´

813 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 19:33 [ W9/mve86 ]
うはwwwwwwwww
仕事上がりに更新されたyp!!!11!!

リメ神GGGJJJJ
なんか最近スラスラと読める感じで(・∀・)イイ!ですな


/em は受け流しスキルが0.2うp
っとwwwwwwwwwwww

814 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 19:35 [ v9aoMSXM ]
リメさん乙!

廃狩('∇')カコイイ!!
しかし真黒の秘密は明かされませんでしたね〜。
次登場時に期待!!

815 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 19:57 [ M5tvgDZs ]
リメ神GJ!

/em は回避スキルが0.1うpwwwwwwwwwwww

816 名前: 783 投稿日: 2004/06/24(木) 20:42 [ OlqEIWOw ]
>>789よ君が1号なら漏れはファンクラブ設立者だwwwwww
何回か真黒ネタでSSもアップしてみたがどうやっても、神のようにかけない・・・
駄作しかかけない・・・むつかしいな・・・wwwwwwww

まぁそれと荒らしとかは、完全スルーするから、あんまし関係ないしやめた方がいいよw
もうちょっと修行しようっと・・・wwwwwwwwwwwwwww

817 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/24(木) 21:16 [ fjIVC13E ]
皆突っ込んでないから俺に突っ込ませてくれwwwwwwwwww

>厳重に鍵を掛けられたその中に、部屋の空気に似つかわしくない肩口に切り揃えられた緑色の綺麗な髪のタルタルの少女の姿があった。

これってさり気なく白樽だよな?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

818 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/25(金) 09:25 [ 74t51A8M ]
さり気なくどころか、最後に黒樽にお礼いいに行くあたりとか
完全に伏線ジャンwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

819 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/25(金) 13:18 [ 4kXH9GwY ]
真黒と廃狩とミスたる〜の話finish、お疲れ様ですた。
賑やかでいいやつらが揃ってるなって感じのミスたる〜が好きでつ

んで・・・気になった点
1.性別不明の真黒の三人称が『彼女』になってますが^^;
2.誤字が…誤字が…;;  天子=天使?
私もSS書きの端くれ。
文章を扱う仕事もしてるからあえて一言
どんないい作品も誤字脱字1つで(´・ω・`)になったりするからさ

リメ氏の書くSSは大好きだYO!これからも期待してまつ(*´▽`)ノ

820 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/25(金) 13:29 [ l.HhG1Qs ]
そうか〜こうやって廃狩は狩人になったのね。
帰ってくるまでがまた楽しみだ。

あと誰か今までの話に出てきた複線らしきものと夫々の話の時間列を纏めてくれる神はあらわれないかのう。

821 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/26(土) 13:47 [ jRSVvIS6 ]
>>820
分かってる範疇での纏め。

餡刻少年編→幸せな日々。
糞樽物語→餡刻の話で出てきたタルタルが糞樽?
餡刻母死亡→父親と邂逅→黒猫死亡?→ザイドと邂逅。

飛子封印解除→戦死それを拾う。

半年後↓
(この下からは細かい時間列は不明)
内藤と臼姫の話→戦死、バストゥークにて冒険者登録→内藤と臼姫をLSに勧誘

死人と餡子が出会う→隆起と龍雄に助けられた翌日ラテーヌへ→タルナと邂逅→真黒と餡刻の話で登場。

ゲルスバ廃狩VS真黒→真黒と餡刻の会話→廃狩と真黒ギデアス突入→不甲斐なさの為に廃狩ウィンダスで修行に励む。


現状の複線らしきもの

飛子の封印を解いた少女とギデアスに出てきた少女(口調の違いから別人?)
糞樽が助けたのは白樽?
内藤の利き腕が左腕になっている(完全版の時は右利きだったような・・・)
臼姫の過去(育て親の爺さんが殺された?爺さんと少女でもしかしたら猫狩の昔話に出てきた女の子が臼姫?
餡刻の親父は何処へ?
龍雄の存在
完全版での騎芋の話。
何故真黒は性別を偽っているのか?

これ位かな自分が見つけれた範疇だと。

822 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/26(土) 17:51 [ H0cp5jEc ]
>>816
真黒を使ってくれるのは此方としては嬉しい限りです。
頑張ってください。

>>819
天子は気付きませんでしたorz
ご指摘有難うございます。

>>821
時間列は殆ど正解です。

823 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/26(土) 19:42 [ l0kblDQA ]
更新キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!
相変わらず真黒たん、かっこイイね!!
廃狩には勿体無いぜ!

>>816
く、創立者・・・その手があったか_| ̄|○
し、しかし俺は負けん、負けんぞ!!ヽ(゚◇゚ )ノヽ( ゚◇゚)ノ

824 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/27(日) 21:39 [ 463vjpP6 ]
完全版では何だかんだでラストバトルからスタートだったけど
こうやって話を積み重ねるタイプでメインキャラ死んだら偉い事になりそうだなwww

特に真黒辺りとかwwwwwwwwwwwwww

825 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 06:48 [ .Ya9ELYI ]
お節介かもしれないけど!

リメさん人気投票1位おめでとー!!!!!

これからも頑張って良い作品を作ってください(*´д`*)

826 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 12:19 [ E6P.tsRQ ]
なんかさー真黒ファンクラブ1号とかファンクラブ創設者とかってさー


ミスたる〜LS内に居る香具師等っぽくて和むよなwwww
ああ、こんな感じなのかってなwwww

827 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:52 [ 2etX/t4U ]
ロランベリー耕地の外れにある開拓の及んでいない森。
白のクロークを着込んだクリーム色の茶毛を縛ったヒューム――真黒の姿。

ウィンダスからジュノへと到着し、皆に久しぶりの休息を取らせた中。
忽然と姿を消した糞樽。
既に丸一日が経過していた。

団長ならば心配ないと、団員達は大して気に止めてはいなかったが、真黒には何か気になる事があるのだろうか。
糞樽が向かったとされる場所を一人探索していた。

最も真黒自身糞樽の事を信用していない訳ではなかったのだが、それは自身の性格面の問題事なので特に気にはしないでおこう。

探し続けて数時間が経過した所で、真黒は透き通る様な綺麗な泉を見つけた。
相変わらず糞樽の手がかりはない。
そもそも、たった一人で探す事自体無謀な事なのでしょうがないであろう。

辺りに人気はない。
少し疲れた所為もあってか、石の上に腰掛ける。
ズボンを膝上まで捲り上げると冷たく澄んだ泉に、ゆっくりとつま先を入れた。

季節は夏間近。
最初は冷たく感じた泉の冷たさにもすぐに順応し、今ではその気持ちよさに浸っている最中だ。

暫しそうしていると、思い立ったように普段は縛っている髪を解く。
長く切っていなかった所為か、肩下にまで届く程伸びていた。
(…そろそろ切らなくちゃいけませんね)
風に靡く髪を見て、少々の名残惜しみつつもそう思う。

828 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:53 [ 2etX/t4U ]
一時的に泉から足を離して茂みへと移動する。
念には念をと辺りを見回してみるが、視界に入るのは相変わらず生い茂った草木のみ。
それを確認し、真黒は服に手をかけて一枚一枚丁寧に脱いでいく。
一糸纏わぬ姿となった真黒。
白い肌に細い腕、長い足と引き締まった腰回りに滑らかな曲線が美しさを体現している。
脱ぎ去った服を全て丁重に畳むと、それを草の上に置いて再び泉へと歩む。
その姿は木々の隙間から漏れる木漏れ日と重なって、何処か神秘的な雰囲気を醸し出している様だった。

泉に入ると真黒は身体を倒し、その身を委ねる。

視界に入るは生い茂った木々と其処から漏れる青い空。
鳥の囀りと虫達の音色が心を和ませる。
身体全体を包む泉の冷たさはなんと心地よい事か。

だが、それも長くは続かなかった。
人はこうした時間、ふと感傷的になるものだ。

立ち上がり両の掌に水をすくう。
水面に映った真黒の姿。
細い手足に括れた腰。
男性には無い強調される体のパーツ。

廃狩や団員達が思う様に、紛れも無く真黒は女だった。

829 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:54 [ 2etX/t4U ]
心地よい泉に身体を預けた所為か、私は少し考えに没頭する。

自らを女と強調する私の肉体。
今も成長していくこの身体は、まるで真実を隠し通していく事に拒絶するかのよう…。

現に他の団員からは薄々感づかれている節がある…。
いいえ、もう殆どバレていると言っても過言ではないでしょう。
ただ、何か見えない境界線と言うものでしょうか。
それが、全ての引き金となる一言を言わないように保たれている気がします…。

「…やっぱり、そう見えるのでしょうか…」
私は自分の身体に手を当ててじっと見つめる。
男性と見るには、あまりにも頼りない手足。
もう少し筋肉が付いてくれればと切に願う。

胸は…考えないようにしておきましょう。
廃狩さんの時もそのおかげで気付かれなかったのですから。
結果オーライ。
顔を俯かせる程落ち込む必要も無い筈なのですが、何故か悲しくなってしまいます。

こうして余計な考えを抱く内、私は自身の傷口へと辿り着く。
それは偶然的なものではなく、自分を見つめ直そうとした時から既に入り口に立っていたのかも知れない。

私の傷口。
私が積み重ね続けている罪。
それは嘘と偽り。

一度考えてしまえばもう止まらない。

まるで積をきったかの様に、重く圧し掛かる。
私の心に絶えず掛かる黒い雲。
蓄積されていく嘘と偽り。
そう、私は仲間に嘘を付き続けている。

今だ皆に隠し続けている。
女である事を。
普通の者から見れば、たったそれだけである事を長い年月をかけて騙し通している。

団長も団員も私に信頼を寄せてくれている。
それはとても嬉しい。
こんな自分なんかを、頼ってくれている事は心の底から感謝する現実。
しかし仲間を騙し、あまつさえ自分が焦がれる者さえも騙し続けている私。

嘘と偽りに塗り固められた、それが私の――真黒の人生。
でもそれが、私にとって生まれ変わった日々の記憶であり、歩んできた道なのです。

830 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:55 [ 2etX/t4U ]
女になど生まれなければ良かった。

私は自分の身体を強く抱きしめる。
そうすれば、こんな悲しみに苛まれる事もなかった。
あの人を――糞樽さんの事でこんなにも苦しむ必要などなかった筈。

いっその事…。
いっその事、全てを打ち明けてしまおうか。
そうしてしまえば全ては終わるのでしょう。

偽りの自分であった日々。
そして私が今までに築いてきた日々も音を立てて崩れるでしょう。

当然です。

私はそれだけの嘘と偽りを永遠と塗り固めて来たのだから。

あの日から早7年。
糞樽さんと出会ってからそれだけの年月が経っている。
思い出されるこれまでの日々。

不意に膝をつく。

怖い。
とても怖い。

もしも真実を話して、拒絶されたら?
少年、少女だった頃の私達はもういない。
胸の奥、密かに育てていた小さな想いの消せない今。

私達はもう男と女なのだから。

「…私は、どうすれば良いのでしょう…」
誰に聞かせる訳でもなく、虚空へと放たれた言葉。
無論それに答える者などいる筈もなく、虚空へと漂ったそれはそのまま無へと消えるのみ。

そうして時間だけが過ぎていき、気が付けば日もかなり傾いてきた様だった。
何時までも落ち込んでいては仕方がない。
そう思い泉から上がろうとする真黒であったが、視界に黒い大きな影が入るのを確認する。

無数に生えた触手を動かしながら大口を開ける緑色の巨生物。

「モルボル!?」
深く考え事をしていた所為か、その接近に気付かなかった事に恥じる。
すぐさま対応しようとするが、膝から力が抜けた。

831 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:56 [ 2etX/t4U ]
(…あ…れ…)
何時の間にか辺り一帯の空気は薄緑色へと染められている。
(…これは…臭い息…)
自分の置かれた現実に、対応しようとするも身体は痺れて動かない。
視力も低下し、脳の考えも鈍感かしていく。
魔法を唱えて何とかしようとするも声すら出ない。

獲物を捕食しようとモルボルが真黒へと接近する。
自身の触手を使いその裸体を泉から引き上げる。

(…こんな…こんな所で…)

絶体絶命。

モルボルが自身の大口へと真黒を放り込む、正にその瞬間。

彼女の薄らいだ視界に影が横切った。
自分の身体が宙に浮く感覚。
掴んでいた触手が力無く泉へと落ちていく。
眼前のモルボルに大きな斧が突き刺さっていたのだ。

そして、彼女は自分が落下しているのだと気付くのに時間は掛からなかった。

832 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:57 [ 2etX/t4U ]
「――っ」
誰かの声が聞こえる。

「―――っ」
知ってる声?
いいえ、知らない声。

そもそも私は如何して…。

「お〜い、生きてるか!?」
しっかりと聞こえた声に反応し、私は意識を覚醒させた。

「おう、おはよう嬢ちゃん。と言ってももう夕方だがな」
ぼやけた視界が徐々に直っていく。
私に対し気さくに話しかけている男性。
うっすらと生えた無精髭に筋肉質な身体。
鱗状の前掛けを付け、背中には巨大な斧を背負っている。

声で判断した通りまったく面識の無い人だった。

辺りを見回してみると私を襲ったモルボルの屍が転がっている。
真っ二つになったその姿を見る限り一刀の元に両断されたのであろうか。
とりあえず分かる事は、この眼前の人は自分の恩人だと言う事だけだ。

「あ、あの…。助けて頂き、ありがとうございます」
頭を下げて丁重にお辞儀をする。
「あ?良いって事よ。それよりも隠さなくて良いのか嬢ちゃん?」
言われた言葉に今更ながら気が付く。
『隠さなくて』『嬢ちゃん』
顔が赤くなるのを自分自身で理解する。
翌々考えれば自分が襲われた時の状況は…。

自身の身体に掛かっていたのは男の物と思われるマント一枚。
その状況で私が身体を起したので、結果としては誰もが予想する通りであった。

そそくさと服を置いていた茂みへと移動する真黒。
彼女の顔はどんな鈍感な者が見ても一目で分かるほどに真っ赤であった。

833 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/28(月) 15:58 [ 2etX/t4U ]
今度はしっかりと着替えて男の前に正座で座る真黒。
何処かたどたどしい動きではあったが、ゆっくりと男の顔を見て口を動かす。
「え…えっと…、その…見ましたか?」
「何を?」
相変わらず男はにやけ面で答える。
「…あの、ですから…私の…」
「おう、バッチシ見せてもらったぜ!」
顔を俯かせて押し黙る真黒。
そんな様を見て肩をパンパンと叩く。
「まぁ〜、そう落ち込むなよ。命が助かったんだから俺にそれ位の役得があっても良いだろう?」
「そ、そうですね…はははは…」
少々自棄にも見えるが、男の言った通り、命あってのと言う事でこの件はこれ以上考えないようにする事としたのだった。


この後数十分程真黒のゆでタコ状態が続き、男は面白いのか色々とからかっていた。
その際、この男は自分を『髭戦』と名乗り、山篭りで修行中だと語っていた。
最も此処を山?と聞かれれば悩む事でもあったが本人がその気なので深いツッコミはなしにしていた。

「ところで――」
真黒も落ち着きを取り戻し、一段落した所で髭戦が口を開く。
「何を落ち込んでたか知らないけどよ、こんな所でボ〜っとしていたら危ないぜ」
言われた言葉に胸を深く抉られる。
折角表情に明るさを取り戻した彼女は再び俯いてしまった。

怪訝そうな顔で見つめる髭戦。
真黒は暫くの間何かを考えているように押し黙っていたが、やがて意を決したかのように顔を上げると口を動かした。

「髭戦さん。もしも、もしもですよ…。
あなたに長い付き合いの仲間がいたとしまして、その人がずっと嘘を付き続けていたとしたらどうしますか?」
言い終えて真黒は真剣に髭戦の方を見やる。
髭戦は腕を組んで暫く真面目に考えたような素振りをしたかと思いきや、あっさりとこう答えた。

「さあな、特になにも変わらねえ。ムカツク事だったら一発ぶん殴ってそんでチャラだ」
あっけらかんと答える。
それは何とも彼らしい答えではあるが、真黒自身色々と悩む部分はあったようだ。

「でもですよ、ずっとその人を騙してたわけですよ?」
「あのなぁ、嬢ちゃん。人間誰しも秘密の一つや二つくらいあるにきまってだろ?
何もかも包み隠さず生きている奴の方が正気を疑うぜ、おりゃーよ?」
少しの間呆けた表情をしていた真黒であったが、暫くして軽く笑いを噴出した。

「そ、そうですよね。嘘を付いていない人の方が不思議ですよね」
「んだよぉ?そんなに笑う事か?」
その答えが全て自分自身に当て嵌まる訳ではなく、解決への道しるべと言う訳でもなかったが。
とりあえずその科白は、今の真黒を保たせる言葉となり得たのだった。


「おし、そんじゃあ俺は行くぜ。一人じゃ心細いんだったら安全な場所まで連れてっても良いぜ嬢ちゃん」
「いいえ、自分の身は自分で守れますから、無理にお付き合い頂かなくても大丈夫ですよ」
そういってニッコリ微笑んだ真黒に対し、髭戦は少し残念そうな表情であった。

髭戦と分かれて一人来た道を戻る真黒。
糞樽に関しては先程連絡があり、ちゃんとジュノに戻ってきたようだった。
正し、一人の子供と同伴してと付け加えた科白ではあったが。

何にせよ、糞樽が戻ったのであれば何の心配もあるまい。
何処となく明るい表情を浮かべる真黒。

まだ本当の事を明かす事は今の自分には出来ない。
この先、それが訪れる日が何時なのかは分かる筈も無い。

しかし。

それでも、今の自分が今通り認識されている内は自分らしく。
そうであろうと真黒は自分の中で答えを出したのであった。

落ち込んでいた自分を助けてくれた髭戦に心の中で感謝する。
もしも、もう一度会えたのなら今度はちゃんとお礼をしよう。
自分が女だと言う事は、しっかりと口止めしておいたから大丈夫であろうし。

そこでふと、足を止める。
思い出す髭戦の言葉。

『何を落ち込んでたか知らないけどよ、こんな所でボ〜っとしていたら危ないぜ』

「何で私が落ち込んだ表情をしていた事まで知ってたんでしょうか…」
彼が助けてくれたのはモルボルに襲われてから。
自分が落ち込んでいたのはその前で…。
それはつまる所…。

瞬間。
顔を真っ赤にする真黒。
ジュノに戻るまでには元に戻る事を祈りつつ、彼女は足取り重くロランベリーの表街道を通っていったのであった。

834 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/06/28(月) 16:01 [ 2etX/t4U ]
今回の話は今度書く予定の糞樽話の別サイド見たいな感じのです。

真黒の内部感情の一片を見せるオマケの様な話ですね。
(髭の登場も話の進行上重要なのですが…。

糞樽と真黒の出会いを書く日も近いやもしれません。

(その前にメイン内藤達の方も進めなくては…。

とりあえず、今回はこの辺りで――

835 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 16:28 [ N0z/7EEU ]
(*´∀`)

836 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 16:43 [ ex6BHqNg ]
unnkositai

837 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/28(月) 20:10 [ .BhGucew ]
とりあえず乙。
そしてだ。

糞樽がつれてきたという一人の少年のことが激しく気にかかる、
獣様萌えの俺wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

期待していい?wwwwwwwwwwwwwwwwww
期待してもいい?wwwwwwwwwwwwwwwwwww

838 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/29(火) 03:01 [ d4eAa3IM ]
GJ(゜∀゜)b

839 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/06/29(火) 13:28 [ xvqU/W0g ]
いや>>837よ少年とは言ってないぞ
しかし漏れの予想は↓だ

予想1位 獣様
予想2位 白樽
ついでに応援age

840 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/01(木) 04:07 [ h5zjxA42 ]
そこで毛腿様ですよ

841 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/01(木) 09:57 [ XhZNmTsQ ]
もしかしてリメ氏は髭戦→真黒←廃狩の三角関係を狙ってる!?

842 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/01(木) 15:03 [ CyrPVevA ]
続き期待ageeeee!

843 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 10:06 [ /Ix1wVDQ ]
髭戦って最終決戦で真黒と一緒に戦ってた奴だよね?
そのときは、初対面・・・っぽい話の仕方をしてた気がするけど・・・
その辺のフォローはどうするんだろ・・・・

844 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 12:20 [ uN7hj2bY ]
>>843
今回の話は完全版とは別の道を辿るんじゃなかったっけ?
設定を受け継いだIFの世界だと俺は思ってる。

845 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 12:26 [ zcYnqJa6 ]
>>841
髭戦←→真黒←廃狩になると言ってみる

846 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 12:31 [ VUxmhoGU ]
廃狩…良い奴なんだけどな…orz

真黒一途になっとるこの男への救済は果たしてあるのだろうか…。

全体的に見ると大抵のキャラは相方が存在するんだよな。
…廃狩イキロ!!

847 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 13:39 [ gYnVL5pc ]
カップル組
内藤&臼姫、通風&猫狩、死人&タルナ、糞樽&白樽、文句&ガル姫、歌樽&ガ白
隆起&餡子、餡刻&糞猫、巴姫&任邪、赤魔子&獣様、真黒&髭戦、赤爺&赤女、戦死&飛子

あぶれ組
イ寺、小寒子、廃狩、糞樽HNMLS以下略

廃狩切ねえなwwwwwwwwwww

848 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 14:01 [ wO3lrwPM ]
イ寺は嫁さんいて子持ちだしあぶれでもないやろwwwww

849 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 15:04 [ QPZUTDCY ]
>>845
髭戦→真黒←廃狩
     ↓
   適当な人

にしていっそ更に泥沼化希望wwwwwwwwwwww

850 名前: 適当な人 投稿日: 2004/07/02(金) 15:34 [ wO3lrwPM ]
(゚∀゚)ノ

851 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 15:43 [ wVUCxy.M ]
>>849
(゚∀゚)ノ俺に任せろ!

852 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 16:37 [ 8xmuGrXs ]
2スレ目が立つ日もそう遠くないなこのペースならば。
>>849

髭戦→真黒←廃狩
   ↓
   糞樽
こうだろ?wwwwwwwwwww

853 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 16:53 [ 7jJ87/5A ]
>>852
髭戦は真黒だけじゃなく糞樽まで狙ってるのカー(((;゚Д゚)))

854 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 16:59 [ 3Dpeo702 ]
とりあえずだ!俺としては髭戦が羨ましいぞこんちくしょう!!!

貴様の見た映像を我々にも晒すのだ!!

てなのを考えると次に再会した時真黒ってどんな反応するんだwwwwwwwwwwww

855 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/02(金) 19:12 [ fepcbAe2 ]
一応、モロ女として出合った今回と、すぐに見抜いたとはいえ最初は男として
であった完全版では、最初は同一人物と気付かないこともあるんでは?

ってな解釈はできるな。
ちなみにどう「モロ女」なのかは追求しqwせrtgyふじこlp;@:「

856 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/03(土) 00:50 [ WWNUdNsE ]
>>841さん
三角関係はお好きですか?

>>843>>855さん
一応完全版とは別の結末を持たせるので、下布は同じでも出会いなどが変わってるキャラもいる訳です。
上で説明があった通りifの世界で見た方が良いです。(少なくとも完全版の設定に黒猫はいなかったですので。

>>854さん
最初の方はかなり詳細に書いていたのですが…、なにか方向性が如何わしい方へ行ってしまいましたのでボツにしました…。

857 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:20 [ OMA68vSo ]
始まりは、ある夏に近い満月の夜の事だった。

ウィンダスを離れて早二ヶ月。
一面の草原風景なサルタバルタ地方。
それとはうって変わり、荒野が続くコルシュシュ地方も難なく抜けた糞樽及びLS一同はアラゴーニュソロムグ原野を横断中だった。

一先ずの目的地であるジュノ大公国。
とりあえず其処で食料の補給や団員達の装備補強などを行う予定である。
進路は快調。
道中での情報収集や討伐にも支障は無い。
だが最近になって糞樽を悩ませる現象があった。

始まりは夢の中。
まったく知らない場所の風景が自分中に映像として送られてくる。
そんな不思議な現象に陥る日々。

何時しかそれは、夢の中を問わず見るようになる。

しかも、その光景を見ている時の自分は意識がないらしく。
起こる現象の増加にあたり、意識が飛ぶ日が続いていた。

ただ、傍目には上の空を見ている様に見える。
睡眠不足、疲労困憊、という訳ではない。
糞樽自身にも全く判らないのだが、突然スイッチが切れたように動きを止め、何処か遠くを眺めているようなのだ。

最近では朝・昼・夕・夜。
時間帯に限らず、それは突然糞樽に訪れる。
しかも日に日に回数は増えていく一方であった。

一体…、自分は如何してしまったというのだろうか。
そんな風に思い悩みながらも、彼はまた外なる感覚に身を委ねるのであった。

視界に入る知らない光景。
彼の目の前に広がっている景色。
それはサルタバルタを連想させる様な緑の広がる高原。
しかし、ボヤーダ樹内部の様な密閉された感覚を全体的に醸し出している。
所々には緑に覆われている住居らしき建物の影。

視界に広がる光景は未知の世界。
何処だか検討も付かない場所。

だが、しかし。

糞樽はこの場所に呼ばれている。
正確にはこの場所の中の何かが自分を求めている。
そんな気がしてならなかった。

858 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:20 [ OMA68vSo ]
「―――団長?」
「…あ?」
自分の名を呼ぶ誰かの声で我に返る。
話しかけたのはミスたる〜の副団長真黒であった。
膝を付き、視線を糞樽と同じ位置に見据えて心配そうに見つめている。

「団長、大丈夫ですか?最近お疲れの様ですが…」
「ああ…いや、大丈夫だ。少し考え事を…な」
適当にはぐらかしてはみたものの、真黒の目は誤魔化せてはいないようだ。
怪訝そうに糞樽の方をじっと見つめて何かを思案している。
思わず目を逸らしてしまい、しまったと後悔するも最早手遅れだろう。
表情を固めたまま、ゆっくり視線を真黒に戻す。

予想通りお節介モードが発動している表情。

こうなった真黒は頑固一徹だ。
こちらを心配しての事であろうが扱いに困る事この上ない。
真黒のこうした心遣いはとても助かるものなのだが、時としてそのお節介さは糞樽にとって歯がゆいものである時があるのだ。
それは何といえば言い表せば良いのだろうか、あえて言うならば母親に答えを求められている様な、そんな感覚。
自分の幼き日を思い出してみるに、その様な条件下に慣れていない糞樽にとっては対処の仕方が思い浮かばず。又、そんな真黒に頭が上がらない状況になる為苦手なシチュエーションであった。

しかし、自分自身でも理解し難いこの感覚を、まさか他者に話す訳にもいかないであろう。
そもそもどう言った風に語れば良いのだろうか。
思案して思う。
勿論真黒の事だ、例えそれがくだらない事であろうと真剣に耳を傾けて考えてくれるかもしれない。
あやふやな事であろうとも共に悩み解決策を思案してくれるかもしれない。
一人で悩むよりは相談相手を置いた方が効率的であろう。
しかし、今回の件は何故だか素直に話そうとは考えなかった。

思わず考え込んでしまった所為か、無言の時間を作ってしまった事に糞樽は気付く。
だが真黒は糞樽の思惑とは違い、一度だけ小さく嘆息すると。
無理はしないでくださいねと一言だけ放ち、それ以上の追求はしてこなかった。


その後、何事もなくジュノへと辿り着いたミスたる〜一団。
糞樽は彼らに一時期の休息期間を与えると、一人軽い旅路の準備を始めた。
何時までもこのままではいけない。自分の中に膨れ上がった謎を解く為に。
彼は皆を残し、ジュノを後にした。

859 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:21 [ OMA68vSo ]
ロランベリー耕地。
ヒュームやエルヴァーンに好まれる果実が栽培されている果樹園。
日当たりもよく、通風に微妙な差をつけた段々作りの畑は一年中収穫出来るようになっている。
だが、それはあくまで街道沿い近くの話でしかない。
一度未開拓の森に入れば、其処はジャグナーにさえ劣らぬ森林が広がっているのであった。

鬱蒼と生い茂る草木が侵入者を拒むが如く、視界を遮る。
しかし、獣道さえ存在していない山奥を何の躊躇もなく歩けているとは自分としても変な感覚だ。

何故糞樽がこの場所を歩き続けているのかという確証的な答えは存在しない。
言うなれば導かれたとでも言うでのあろうか。

現在自分は人が一切通らぬであろう山の一角にいる。
下手をすれば遭難しかねない状況であろう。
だが、自らの身体は行き先を示す。
不思議と迷うかもしれないという不安は沸かなかった。
それが何処へ通じ、何処を目的としているかは定かではない。
だが、この湧き上がる感覚の前には言葉など無用の産物でしかないのであろう。
未知への不安を上回る、未知への期待感と先入観が自分を後押ししていた。

何時間歩いたのだろうか、不意に糞樽の動きが止まり明後日の方向をじっと見つめている。
そこには特に変わった様子もなく、普通の木々が延々と生い茂っているのみ。
自身の感覚を理解出来ず、悩んでいた所にある種の違和感が頭を過ぎった。

視界内は特に変わった所もなく、何処にでもある山奥の一角に過ぎない場所に見える。
だがしかし、明らかに何かが違っていた。

それは漠然とした予感。
ハッキリとした根拠がある訳ではないのだが、確かに感じた衝動の様なもの。
自分の感覚を信じ、『普通に見える筈』の何もない空間にそっと手を伸ばす。

瞬間。
指先に小さな電気が走ったかと思うと、辺りの景色が歪み新たな形を形成していく。
奇妙な光景に最初は驚きもしたが、こういった答えを何処かで望んでいた自分もいた為だろうか。糞樽は自分でも驚くほどに落ち着いていた。

860 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:21 [ OMA68vSo ]
「――ビンゴっ…てか……」
思わず零れた声。
視界に入る景色は先程の木々茂る森の中とはうって変わり、サルタバルタを連想させる様な緑の広がる高原。
否、ボヤーダ樹の中の様な場所と言った方が合っているだろう。何か密閉された感覚が離れない。
所々、緑に覆われているが住居らしき建物もチラホラ見てとれる場所だった。

正し、それは視界上だけの話。

居心地と言うものだろうか。
それがお世辞にも良いとは言えない場所である
此処等一帯には何か…深い悲しみ。
そう言った感じが漂っている気がすると糞樽は感じていた。

例えるなら、それは墓地に居るようなもので
明確に言えば暴力に蹂躙された後の村々を彷彿させてくれる場所であった。

そして、それは確信とも言えるものであっただろう。
夢で見た景色。
それは今現実となって、自分の眼前に広がっていた。


「此処で一体何があったんだ……」
住居跡であったであろう場所に近づくと意図的に破壊された後が目に付く。
こういう物を見てしまうと何故かやり場のない怒りの様なものを感じてしまう。
それは彼の中にある正義感か何かであろう。
元は住処で在ったであろうそれは、苔と緑に覆われており、過ぎた年月の重さだけを彼に教えてくれた。

暫く歩いていると、視界に大きな自然物が目に入る。

「……はは、凄えな……」
呆気に取られ、思わず零れた。
それは感動と驚きの紙一重だろう。
ゆっくりと上を向く。

まるで天にも届かんその大樹に言葉を失う。
何処か、神秘的な物で在るかの様に存在しているそれは不思議な感覚に包まれていた。

「…リ・テロア地方にも似た様な木があるけどコイツはまた別物だな」
これを見つけたのは、ほんの数秒前。
しかし、これ程の大きな物を見逃していた自分。
つまりは。

「これだけの大きさを誇っていながら、近づかなければ存在を確認する事さえ出来ないなんてな……」
糞樽は自分の言葉に覗く。
そもそも、この空間自体が明らかに俺達の常識から逸脱している場所なのだから深くは考えられないだろう。
だが、ただ一つ。言える言葉があるとするならば。

「――世界の理から一歩浮いてる…って所かな…」

861 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:22 [ OMA68vSo ]
大樹を調べようと、辺りを探索していた所で糞樽は根元の一端に地下へと通じるらしき穴を発見する。
昔は扉か何かで厳重に守られていた形跡が存在するが、現在はその役割をまったく果たしてはいない。
穴はまるで何処までも続いているようで、行き止まりを視覚する事は叶わない。

「此処まで来たら今更だよな」
糞樽は吹っ切れたかのように、躊躇無く穴へと入ると地下深くへと導いてくれる階段を一歩一歩慎重に進んでいく。
暫くして気付いたが、不思議な事に周りには灯りが灯っている。
松明などの火による灯りではなく、ブブリム半島のあちらこちらに見られる怪光を発する奇岩の様な物なのだろうか。
どっちみち、その様な知識に関して皆無な自分には考えるだけ無駄と言うものであろう。
それ以上の追求を止めて階段を下り続ける。
何時何時、何が起こるか分からないので警戒だけは怠らぬ様にと進んでいく。

そして。
どれだけの時間を徒歩に費やしたであろうか。
遂に長い道は終わりを見せたのだった。
其処には――。

「…何だ…これは…」
行き止まり。
大樹の地中奥深くにそれはあった。
其処は広く円形状の部屋。
辺りは石壁によって補強されてはいるが、所々から木の根がそれを突き破っている。
問題は明らかに他とは作りの違う扉の様な物。
それはうっすらと発光までしている。
何かの絵と小さな文字の様な物がびっしりと書かれたその中央には、不透明な丸い岩がはまっているだけで、開く為の取っ手らしき物は見受けられなかった。
何故だか、不思議とその扉には近づきたいとは思わなかった。

辺りを深く見回すと、所々に張り巡らされている白い糸に気が付く。
ゆっくりと、視線を上へと移す。

其処に映った光景。
天井を多い尽くさん程に張り巡らされた、多量の糸。
そしてその中心に形作られた繭に視点が集中する。
中心部は小さく発光し、そして生き物の様に脈をうっていた。

「…中に…何かいるのか?」
これに対して、不思議と恐怖はなく。
導かれるように、ゆっくりと、糞樽は掌を掲げた。

862 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:22 [ OMA68vSo ]
光が溢れる。
糞樽の身体が緑色の発光が発生した。
しかし、特に不快感はない。
あえて言うなれば、溢れる程に湧き上がる魔力の泉。

繭が割れ、それが守っていたモノを光に包みながら、糞樽の前へと光臨させる
眼前にある光の塊。
それは糞樽より、一回り小さい位の大きさと言った所だろうか。
やがて、光はゆっくりとその強さを弱め、その中心たる者の姿を露にした。

それはタルタルの少年。
薄い青色の髪、特徴的なとんがり頭。
タルタルとしても明らかに幼いその少年は目を閉じている。
息は…している。ちゃんと生きている様だ。
少年は胎児の様に身を丸めている。
今までの結果を見る限り、確かに生まれたばかりと言っても過言ではないのであろう。

聞きたい事が沢山あった。
何故?如何して?
それらが幾つもの謎となって糞樽の中には積み重なっていた。
この世界に居た唯一の命、それは全ての謎を解く鍵だと思えたから。
だけど――。

「……ん」
呟くような声と共に少年に動きがあった。
つぶらな瞳をゆっくりと開けると、糞樽をじっと見つめた。
そして、その小さな口をゆっくりと開き、出てきた第一声は。

「此処は何処でしゅか?…お兄しゃん、誰でしゅか?…僕は誰でしゅか?」
言葉を聞き愕然として項垂れる。
辺りを見回しながら不思議そうに首を傾げる少年は、本当に何も知らないのであろう。

結局。
少年は訳の分からない不安からその場で泣き始めた。
色々と落胆する部分はあったのだが、目の前で泣きじゃくる子供をほおって置くわけにはいかず少年の手を取る糞樽。
謎は謎。
今自分がすべき事は分からぬ事への探求ではなく、確実に出来る一歩なのだ。

糞樽は少年の不安を取り除くように抱き寄せる。

「大丈夫だ、獣様。何も心配する事はないさ」
咄嗟に、糞樽は彼の名前を呼んだ。
勿論、それは彼の事を知っているのではなく。
単なる思い付きからの発言ではあるだろう。

「…僕、獣様…なんでしゅか?お兄しゃんは、誰なんでしゅか?」
糞樽の行動により、多少なりとも不安を抑えられたのか、質問をする獣様。

「俺の名前は糞樽だ。そして、お前を助ける者…かな」
その言葉を聞き、獣様は微笑んだ。
眩い光が視界を包む。
眩しさに目を閉じた糞樽。
光が止んで気が付けば、其処はロランベリーの麓であった。

863 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:23 [ OMA68vSo ]
今までの事は夢?
そういった考えも浮かんだが、それは直に霧散する。
彼の腕の中で眠っている少年――獣様。
それは確かな温もりを持ち、それが幻視ではなかった事だと証明する最もな証であった。

糞樽は獣様を背負う。
確かに、現状では何も分からない。
果たして自分が見た世界は何だったのであろうか。
それを答える者すらいない。

しかし。

今、彼の背には確かな命が存在する。
あの寂しい世界に、たった一つだけ存在していた人の子。
だから糞樽はこう思う事にした。
自分が見た夢や導いた由縁は、この少年を救う事だと。
あの世界の謎を解くべき人物は他に居るのだと。
そして自分はその役割ではないのだと。
自分が何故、そう言った使命感に駆られるのかは分からない。
しかし、運命と言う言葉があるとするのならば。
これ程似合う現状はないのであろう。
だから糞樽はそれ以上悩む事をせず、前に進む事だけを考えた。

「現状は不安しかないのかもしれねえ。だけど俺が色々助けてやるよ。なあ、獣様」
背に眠る少年にそう声をかけて、糞樽はジュノへの街道を歩いていくのであった。

864 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:24 [ OMA68vSo ]
深く暗い黒の世界。
其処に二人の少女の姿。
「どうやら誰かが私達に干渉したようね。まったく、あそこは私達でさえ立ち入る事が出来ないと言うのに……」
少女の一人が目を細めながら、眼前の少女に話しかける。

「しょうがないよ〜、だって言うなればあそこは私達自身とも言えるんだもん。
自分の中に自分達が干渉するなんて出来る訳ないよ〜」
怪訝そうな先程の少女とは、うって変わった陽気な声で答えるもう一人の少女。
その答えに満足したのか、目を閉じて少女は背を向ける。

「それもそうね」
「そーそー、私達は不完全なんだしさ〜」

「でも、こうして止まっていた世界に揺らぎが生まれたのだから。
新たな目覚めが来る日も、然程遠くないのかもしれないわね」
深く暗い黒の世界。
そう言った少女の笑みをとても冷たく、残酷なものであった。

865 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:26 [ OMA68vSo ]
糞樽と獣様の邂逅終了です。

今回の話では訳の分からない事だらけだとは思いますが、話が進んでいくに連れて
それは解かれていくと思います。

次の話は糞樽サイド外へと以降予定です。
それでは皆様、また次の話で会いましょう――。

866 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:56 [ z89vUIlI ]
やっぱり獣様か・・・

しかし・・・
糞樽が獣様の名づけ親だったなんて・・・・・・
次も糞樽か・・・どうなっていくんでぃ 楽しみだぜこんちくしょー

867 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 15:56 [ z89vUIlI ]
やっぱり獣様か・・・

しかし・・・
糞樽が獣様の名づけ親だったなんて・・・・・・
次も糞樽か・・・どうなっていくんでぃ 楽しみだぜこんちくしょー

868 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 17:02 [ FM7BaqQo ]
unnkositai

869 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/04(日) 17:52 [ 4MTkHA/Q ]
>>868
我慢汁!

870 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/07(水) 12:16 [ 0pIqYLrM ]
今更新に気付きますたっ
いつもながらイイですね!
次も楽しみにしてます(^O^)♪

871 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:18 [ 3QyenyPc ]
「む…」
意識の覚醒。
身体に掛かる僅かな重み。
スヤスヤと小さく寝息を立てるそれ。
朦朧とする意識の中でもそれが何かは直に理解できた。

昨日ちゃんと注意したんだがな…。
記憶を辿れば、前の日も更に前の日にも同じ事を言った気がする。
思い出してみれば言うだけ無駄という答え。

どうしたものか…。

真面目な考えも、寝惚けた思考の中では直に霧散する。
とりあえず、この状況では考えも間々ならない。
二度寝するにしても、此処は安全な屋根の下ではないのだ。
エルヴァーンのシーフ通風は、眠気を吹き飛ばすが如く勢いよく立ち上がった。
胸元に居る者を容赦なく退かす意味も含めて。

872 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:19 [ 3QyenyPc ]
コテンと、胸元から地面に落ちた者。
キョロキョロと半開きの目で辺りを見回し、通風を見つけるとニッコリ微笑んだ。

「…あ、おはようにゃ通風さん」
ペタンと耳を倒して寝惚け眼に顔を擦るミスラの少女――猫狩。
薄いクリーム色の肩まで届く細い髪の毛は、寝癖の為か所々くしゃけていた。
クシクシと両の手の甲で目元を擦る。
そんな彼女の衣服は、眠りやすくする為か所々を開けて開放的にしていた。
それは健全な男子の目には毒以外何物でもないのだが。

「ふにゃぁぁぁ…」
小さく口を開き、可愛げな欠伸をして腕と尻尾をピンッ!と伸ばす。

何時も通りの起床風景。
彼女の行動には決して裏はないのであろう。ハッキリ言ってしまえば天然か。
そんな猫狩の様子に多少の不安を覚えてか、お節介かもしれないと悩みながらも通風は頭を掻きながら問い掛ける。

「あのさぁ〜、お前。もう少し考えたらどうだ?」
腰に手を当てて首を傾げながら問う通風。

「にゃにをにゃ?」
意味が理解できていないのか、じっと見つめてくる猫狩。
純粋で真直ぐに自分を見つめる事に対し、不意に沸いた気恥ずかしさから思わず目を背けた。

873 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:19 [ 3QyenyPc ]
「通風さん、お寝惚けさんにゃね〜」
そう言って笑顔。どの口でそんな言葉が放てるのか…。
頬を引っ張りながら問い掛けてみようかと思ったが、大人気ないので踏みとどまる。
しかめっ面をする通風に対して頭にハテナマークを浮かべて首を捻る猫狩。
やはり彼女自身、言っている意味を本気で理解していないらしかった。

暫く無口のままでいると、此方の問い掛けに興味を無くしたのか自分の鞄から朝食の用意を取り出し準備にかかる。
たったそれだけの事なのにやたら楽しそうな表情。

まるで子供だなと、そんな様子を見て通風は思う。

純粋に真直ぐ。それは猫狩の長所であり、短所であるだろう。
だが、現状隣に居るのが自分だからまだ良い。
しかしこれから先、他の冒険者と旅をする機会は絶対に訪れる。
そうなった時の事を考えると…思わず顔に手を当て俯き溜息を一つ。

そもそも、猫狩との出会い自体襲われていて危機一発と言う何ともお約束的展開だったのだ。間違いなく騙されやすい性格。
腕を組み、眉間に皺を寄せて深く考えこんでしまう。

猫狩の事で通風が一人悩んでいる時。悩みの元凶である猫狩自身は、鼻歌交じりにクリスタル調理法で朝ご飯を淡々と用意していたのだった。

874 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:19 [ 3QyenyPc ]
今日のコンシュタットは曇り空。
この地域特有の、ゴロゴロと音を立てる雷雲が空を覆っている。
地理的確認をするに、砂丘まで丁度半場に差し掛かったという所か。
普段のペースで歩けば三日程で高知を抜けるだろう。
ゴロゴロと雷音が木霊する。
通風としては、雨さえ降らずにいれば特に問題とする天候ではないのだが…。

「にゃう〜…。うにゃ〜…」
通風の服の袖を必死に掴む猫狩。特有の謎言語で唸り声を上げながら此方を縋るように見つめている。
ハッキリ言って涙目。まったく、雷の何が怖いと言うのか。
自分は雷などに何の関心もないので良いのだが、猫狩は真剣に恐怖を感じているようだ。
これで大きなのが来たら…、と思ったのも束の間。
視界が一瞬白く染まり、遅れて大きな音を響かせる。今日最大の音量であっただろう。

「ひにゃ〜!!にゃうぅぅぅ…」
雷音に負けじの悲鳴を上げる猫狩。
尻尾をビクッと立たせて通風の背に顔を深くうずくめる。
ちょっと面白いかも…、と思ったが表情には出さないでおこう。イメージが崩れかねない。
最も、今の猫狩に此方の表情を伺う余裕などないと思われるが…。

「何時までビクビクしてんだよ。別に雷さんが鳴ったからって俺達に如何こうなる訳じゃねえだろ?」
猫狩は答えない。
恐怖感に、ガクガクと身体を小刻みに震わせている。

通風は天を仰ぎ溜息一つ。
まったく、これだから女という奴は…。
如何したものか、と後頭部を掻く。
そうしてふと視界内に収まったある物を見つけると、猫狩の腕を掴んで進む道を大きく右折した。

875 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:20 [ 3QyenyPc ]
腕を掴んだ際、『あっ』と小さく声をあげて頬を染めた猫狩に対し通風は無関心。
手を引いたまま風車小屋の方へと向かっていく。
本来進むべき方向は左折。右折方向に本来用はない。
通風に引っ張られるが間々になる猫狩。
やがて風車小屋前にまで来た所で通風は歩みを止めた。
この一帯の強風を利用して作られ、自動化された人の出入りがあまりない風車小屋に堂々と入り込む二人。

「ほらよ。此処なら粉引きの音で多少は雷音も聞こえがてえし、視界を包む光も見なくて済むだろ?」
黙っていた通風が口を開く。
「…あ、そうにゃね。ありがとにゃ」
緩やかに微笑み感謝の言葉。しかし、通風は猫狩をじっと見つめたまま。
その視線の先は…。
「出来れば手、離して欲しいんだけど」
言われて気が付き勢いよく手を離す。知らず知らずの内に強く握り締めていたようだ。
握力のない彼女ではあるがその証拠として、自分の重ねた体温の後がうっすらと付いていた。

ぶっきらぼうに壁まで歩み、背もたれとして座り込む通風。
その隣に無言で腰を落とす猫狩。天井を眺める彼に話しかける。
「…やっぱり優しいにゃね、通風さん」
少し頬を赤らめてのお礼。対する通風は眉に皺を寄せている。
「はっ、何勘違いしてんだよ。その大きな耳をちゃんと使いな」
人差し指で軽く弾かれる。ちょっとだけ痛かったのか小さく『にゃっ!?』と漏らして耳を押さえた。
耳を摩ると同時に澄ましてみると、ポツポツとリズムよく聞こえる水滴音。
それは天から降ってきた水の粒。
窓から眺めると、予想通りの外は雨。

「ふにゃ〜。凄いにゃ通風さん、雨が振るのを知っていたにゃ?」
少し興奮気味に話しかける。触れそうな程に顔を近づけ、目をまん丸に輝かせながら。
「空気の湿り具合とかで何となくな。これ位分かる様にしておけよ。
そうじゃねえとこれから先、俺と別れて一人旅する事になったら困りもんだぞ」
「え…?」
外は歩くのも困難な土砂降り。
それに負けない大きな雷音が辺りに鳴り響いたのだった。

876 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:20 [ 3QyenyPc ]
屋根を叩く雨の音。
辺りから絶えず聞こえる小麦粉の粉製音と入り混じり、小さな雷の音はあまり気にならなくなっていた。
窓際で短剣を研ぎながらじっと外を眺めている通風。
其処から少し距離を置いて体操座りな猫狩。
寄り道となった原因は明らかに自分にあると思ったのか?通風が故意的に開けた距離を縮めようとはしなかった。

「あのまま進んでいたら風邪引いちまってたさ。そう、ただそれだけだ」
ボソリと呟く。それは猫狩の方を見ての言葉ではなく、独白の様な形。
「とりあえず今日はもう寝ようや。寝ちまえば怖さも感じずに済むだろうし、起きててもやる事が見つかんねえ」
適当に地面を払って横になる通風。終始猫狩は黙ったままだった。

877 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:21 [ 3QyenyPc ]
次の朝。
今日は珍しく、通風から距離を置いて眠っていた猫狩。
頭を軽く小突いて起こすと直に出発した。
昨日とはうって変わっての晴天。
大雨の為、地面の所々に大きな水溜りを作っていた。
泥濘とそれらを避けながらも順調に進む二人。
途中猫狩が足を滑らせて転んだが、珍しく助けも求めず直に立ち上がったので時間を喰う事はなかった。

それからバルクルムまで辿り着くのに二日半。
一日分の遅れを考えても順調な移動だったであろう。
しかし通風の表情は何処か覇気がない。
対する猫狩も通風の少し後ろを歩いている。
何だか急にしおらしくなってしまった様で、二人の間の会話もメッキリ減ってしまった。

元々猫狩の方から話しかける事が殆どだった為、彼女自身の発言低下はそのまま全体会話量の低下に繋がったようだ。
そのお陰か、二人の間に流れる空気は重い。

湿り気など一切感じさせないバルクルム。
しかし二人の間柄は雨振る沼の様だった。

878 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:21 [ 3QyenyPc ]
気付かれぬよう猫狩を見る。
喋らないだけで、人はこんなにも雰囲気は変わると言うものなのだろうか。
眩しいまでの笑顔が過去のモノになってしまった様な感覚。
湧き上がるモヤモヤとした感情。それが何かは分からない。
だから分かる事を考えようとする。

あまり喋らなくなったのは雨の日から。
迷惑をかけたと思って反省しているのだろうか?
それにしても落ち込み過ぎだろうと心の中で叫んでおく。

嘆息する。

居心地の悪さ。うっとおしいと感じていた猫狩のはしゃぎ様にも自分はすっかり適応していたのだろう。
合反する静けさは息苦しい事この上ない。
つまらない…。
こんな考えを浮かべる自分に、少し驚きもする。
如何したものかと悩むも、浮かぶ答えは納得のいかないものばかり。
正直行動を起こすまでには至らない。
しかし、だからと言って如何するべきか。
笑みを浮かべながら元気だせよ!とでも背中を叩くか…。

いかん。どうにも気恥ずかしい。
そもそも、自分はそんな事を気にするような性格だったのか?

「ふひぃ〜。相変わらずあっちぃな〜、此処は…」
とりあえずと、あからさまに現状の感想を声に出して言ってみる。
しかし答えは返ってこない。
段々と苛付いてきた。

ここら一帯は、環境もそうだが生息している生物も凶暴なモノが多い。
幾らギクシャクしていても距離を置いての行動は危険な問題だ。
いい加減ビシッと言っておくか。
そう思い、踵をかえして猫狩の方へと向き直る。
一瞬、猫狩の姿が見つからなかった。
目を凝らして見てみると、彼女は地面に倒れているではないか。
走り寄る通風。

「おい!大丈夫か!?」
抱き寄せて見ると顔色が悪い。汗も異常な程にかいている。
体調を崩していたのか…。
何やってんだよと、叫んでみるが反応はない。一体何処まで自分に迷惑をかければ気が済むのか。
そんな事を考えていると、猫狩の唇がゆっくりと動いた。

879 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:22 [ 3QyenyPc ]
猫狩が目覚めた時、既に日が落ちた後だった。
「よお、起きたか?」
寝ぼけ眼の猫狩は、今だ状況を把握できない。
(…あれ、うち…如何したんにゃろう…)
記憶を辿る。熱くて、目の前が歪んで、頭がボーっとしちゃって…。
そうして自分の意識が途切れていた事に気が付く。

――通風に申し訳ない。そんな気持ちが最初に猫狩を占めた。

次に、自分の状況を把握しようとして困惑する。
(…どうしてうち…動いているのにゃ…?)
歩かずに流れていく風景。
今になって通風の言葉に気が付いた。

「つ、通風さん!?にゃ、うち…。あ、あれぇ?」
自分が通風の首に手を絡めている事に気が付いて、混乱は頂点に達した。既に顔は真っ赤かだ。
「黙ってろ!お前、脱水症状起こしかけてたんだぞ?今はその五月蝿い口にチャックを閉めとけ」
「にゃううぅぅ〜」
通風の忠告に、猫狩は動きを止めたのだった。


言われたままにだんまりとした猫狩。
辺りは無音。時折聞こえるのは風の音。薄っすらと塩の匂いを運んでいる。
猫狩の表情は今だ真っ赤のまま。高鳴る鼓動を聞かれまいかと、密かな震えが止まらない。
しかし、その一方。
逞しい背中に強い安堵感を覚えていた。

静寂を保っていた中、不意に通風の口が開く。
「あのよぉ〜、自分の体調が悪い時はちゃんと言えよな」
「…ごめんにゃさい…」
しゅんと耳を下げて落ち込む猫狩。

「大体お前はな、色んな事を知らな過ぎなんだよ。無知は罪なんだぜ?その辺分かってるのか…」
通風の一言一言が酷く胸に突き刺さる。
しかしそれは、全てが真実。
「…ごめんにゃさい、ごめんにゃさい…、ごめん…なさい…」
ただ頷き答えるしかない猫狩は、既に泣きそうであった。
だけど――。

880 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:22 [ 3QyenyPc ]
「だからよぉ、お前みたいなガキには保護者が必要なのかもな。
ありがたく思えよ、立派になるまでは俺が付き添ってやる。
如何やら俺は、自分が思ってた以上にお節介みたいだからな。
だからあんまし気に病むんじゃねえぞ…。なあ、猫狩――」
くるりと振り向く。
猫狩の顔の十数センチという所に通風の顔があった。

「あ?んだよ、キョトンとした顔しちまって。それに顔が赤いぞ?」
その言葉通り、呆然とした表情の猫狩。それもその筈。
「え…あ、だって…」
今、名前を――。
そう言おうとしたが、突然吹いた強い風により言葉は打ち消された。

言いかけた言葉が気になったのか、互いに顔を見つめたまま。
「今なんか言いかけてなかったか?」
通風のぶっきらぼうな優しさ。
もしかしたら、それは誰に対してもそうであるのかもしれない。
だけど。今この時だけは。
その全てが自分に向けられている。
今はそれだけで良い、それだけで自分は満足なのだ。

だから彼女は笑顔で。
表せれるままの表情で微笑み、言葉を紡ぐ。
「ううん、何でもないにゃ。通風ちん――」
言葉を聞いて、思わず苦い顔で猫狩を細目に見る通風。
そしてすぐさま反論する。
「待て!その通風ちんてのは何だ!?」
「え?だって通風ちんは通風ちんにゃよ?」
あっけらかんと答える。
「…その言い方止めろ。恥いっつーの」
そして猫狩から顔を反らす。
その際、ほんの一瞬であったが通風の頬が少しだけ赤かった。
少なくとも猫狩にはそう見えた。

「とりあえず、もうすぐセルビナだ。早く柔らかい布団の上で寝たいぜ。
だから走るぞ?良いな猫狩、振り落とされても恨むなよ」
「うん。了解にゃ、通風ちん!」
ハッキリとした口調で答えた猫狩に、通風は軽く苦笑して走り出した。

881 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:23 [ 3QyenyPc ]
『…置いてかないで…。一人は嫌にゃ〜…』

猫狩が倒れた時。何度も呟いていた科白。
それは猫狩の気持ちだろう。
自分は彼女のそれに気付かぬほど鈍感ではない。
猫狩自身が自分に対して、好意的感情を抱いているのは間違いないであろう。
だがしかし。それは少女特有の淡い尊敬概念の様なモノだろうと通風は考えた。
少なくとも、まだ精神的に幼い猫狩は、通風が考える恋とは別の感情と見なしたのだ。

だけど。
猫狩が其処まで自分の事を必要とするならば。
今はそれに従ってやるのも悪くはない。
それが彼の出した答えだった。


「まずは飯だ。此処の親父が作る料理は絶品だからな。腹いっぱい喰うぞ」
セルビナに着き。料亭の扉に手をかける通風。
その後ろで美味しい料理と言う言葉に興味を持った猫狩。
扉を開けようとした所で、喧騒と共に秀でた声が耳についた。

「うは!許して!俺様が悪かったから!!」
「あたしが大事に取っておいた料理を食べておいて、今更な発言ね。遺言があるなら今の内に聞いておくわよ」
「うは!殴ってから言われても俺様困っちゃう!ボスケテ戦死!!」
「やだ、俺はまだ死にたくない!」
「戦死。お前にしては賢い判断だぞ」

「にゃ、にゃんだかとっても賑やかなお店見たいにゃね。通風ちん…」
「そ、そうだな…」
ぎこちない笑顔ながらも二人は扉を開ける。

二人と三人と一つ。
共有する過去を持つ者同士は、再会を果たしたのだった。

882 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/08(木) 20:25 [ 3QyenyPc ]
こっそりと投下。

今回はお馴染みのこの二人でした。
少しづつ通風が気を許していく過程を上手く書きたいものです。

それでは――。

883 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/08(木) 21:06 [ nXgxVo1E ]
最近漏れが感想一番乗り多いwwwwwwwwwwwww
なんかリメ氏のSSってパズルを組み合わせて行くみたいだねwwww
四方八方からSSが中心に集まるって感じ???wwwwww
ごめwwwwwwwwwwwwww偉そうだねwwwwwwww


うはこのスレチェックしすぎかもwwwwwwwwwwwww

884 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 00:27 [ uE1iI7ZI ]
chinnkositai

885 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 13:53 [ w0auesXk ]
もう誰も読んでねえよ( ´,_ゝ`)プッ

886 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 17:36 [ lzKp9DKU ]
読んでる人は読んでるから誰も相手してくれないよ?(´_ゝ`)
いつも楽しみにしてチェックしています。
猫狩がやたら可愛いですねぇ。
通風はかっこよすぎるので修正してくださいwwww

887 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 17:58 [ /hbWEHw6 ]
読んでる人は読んでるから誰も相手してくれないよ?(´_ゝ`)
いつも楽しみにしてチェックしています。
猫狩がやたら可愛いですねぇ。
通風はかっこよすぎるので修正してくださいwwww

888 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 19:10 [ sRDC.M66 ]
>>887
>>885なんてほっとけばいいのにwww

相変わらずのGJぶり。
LSメン全員分の出会い場面きぼんwwwwwwww

何気に初の888(σ´∀`)σゲッツ!!

889 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/09(金) 21:03 [ YNSKp2K. ]
死人:/ma 魔物のララバイ >>885
    この私の手にかかれば、この程度のリンク処理などお手の物です。
    殴って起こすような脳筋はキックしますので、そのつもりで。
    さ、存分に続きを堪能するとしましょうか。

890 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/10(土) 19:04 [ pRVgNz1g ]
age

891 名前: 餡刻 投稿日: 2004/07/11(日) 20:00 [ 5Ab.qmKY ]
>>889
歌って /song じゃないっけwwwwwwww

892 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/11(日) 21:36 [ g9FhGPFI ]
>>891
死人:ほう? どこの誰とも知れない一般人の分際でこの私の意見とは、
なかなか剛毅ですね^^



マジレスするとどっちでもいい。
/maなら、魔法全部に使える。
/songなら、魔法の中で呪歌だけに使える。

893 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 00:04 [ 6F.bcO9M ]
寝る前に今度のリメイク期待age

894 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:47 [ 14QldAf6 ]
龍雄は父と母の顔は知らなかった。
彼は所謂孤児であった。
幼き日の自分は、何をやっても周りより劣っていた。
その所為か、周りからも馬鹿にされがちだった。
子供だった自分は内気であった為、どんどん周りから孤立するようになった。
手を伸ばしてくれた少女もいたが、彼は自ら他人を拒絶するようになっていた。

ある日。
新しい子供達が孤児院に迎え入れられた。
その中の二人。
エルヴァーンの少女とヒュームの少年。
隆起と餡子は龍雄に対して、普通に接していてくれた。
孤立していた龍雄。
拒絶の意を見せても隆起の行動力の賜物か、無理矢理色々と付き合わされた。
餡子は暴走しがちな隆起を止める鞘の様な存在だった。
そんな日々を続けていくうちに、月日は流れ――。

いつの間にか三人で居る事が普通となっていた。
それが当たり前の光景になっていた。
それは今も変わらない。
そして、これからも―――。

895 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:48 [ 14QldAf6 ]
「クォン大陸とは暫くお別れだな〜」
船場に到着した蒸気艇。
其処からセルビナの町並みを眺めて、感傷深そうに隆起が呟く。
「隆兄ィにそういう科白は似合わないね」
隣に居た龍雄が皮肉気にそう言い笑う。
「龍雄ちゃん、ダメでしょ。隆起だって、たまには真面目な言葉の一つも吐くんだから」
人差し指を立てて、龍雄にそう促す餡子。
「…餡子。お前のフォローはフォローになってねえぞ」
言葉を聞いた隆起は目を細めてそう返した。

小波の音を掻き消す大きな蒸気音が響き、船は出港する。
船はセルビナからマウラへの定期便。

彼等はミンダルシア大陸を目指そうとしている。
理由は幼き日。餡子が読んでくれた本の竜騎士に、龍雄は夢を抱いた。
だが、現在竜騎士の姿は殆ど存在しない。
相棒として契約をする竜の存在消失がその原因だ。
しかし、つい先月の話。
龍雄と隆起の元に、昔の知り合いから一通のメッセージが届いた。
発掘の作業中、大量の竜の卵が発見されたと。
龍雄の夢を知っていた嘗ての知り合いは、態々連絡を寄越してくれた。
向こう側としても、珍しい竜騎士の誕生を見届けたいとする者達が多い様なのだ。
無論、断る理由などはない。
逸る気持ちに彼は言葉一つを返し、目的の場所へと向かう事を決めた。
目指すはアラゴーニュ地方メリファトのキャンプ地。
故に龍雄達はセルビナから船に乗って旅立つ事を決意した。

896 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:48 [ 14QldAf6 ]
吹く風は塩の香り。
揺れる大地は海の上。
空を舞う鳥達はなんと心地良さそうな事か。

「うっわ〜。すげえぞ隆兄ィ」
生まれて初めて乗った船から見る景色は、龍雄の心を躍らせた。
しかし対する隆起は。
「し…死ぬ…。いや、むしろ…いっそ殺せ…」
元気にはしゃぐ龍雄とは、正反対に虚ろな瞳で項垂れる。
どうやら初の船旅は、彼に船酔いをプレゼントしてくれたらしい。

「情けないな〜。それでも男か?元気だせよ〜」
腰に手を付き、呆れた物言い。
「…今だけは男…じゃなくても良い…だから無茶言うな…」
どうやら予想以上に参っているようだ。
確かに、何分初めての体験にとやかく言える事など無い。
だが、しかしだ。それにも限度と言うものがある。
船酔いの隆起の姿は、正直危ない人にしか見えない。
視線を地面に落とし、意味不明な言葉を呪文の様に口ずさむ。
自分以外の者達は隆起から完全に距離を置いている。
只一人、餡子を除いて。

897 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:48 [ 14QldAf6 ]
「大丈夫、隆起?」
心配そうに彼の身を案じる餡子。
「餡子…そう見えるならば…お前の目は節穴だ…」
カクカクと壊れた人形の様に口を動かしながら精一杯喋る隆起。
そんな様子に軽く溜息を吐くと、餡子はその場に座ってみせる。

「もう、口だけは何時ものままなのね。ほら――」
正座をして自分の太ももの辺りをポンポンと叩く。
「何してんだ?」
怪訝そうな顔の隆起。
そんな風に聞いてはいるものの、彼女の意思は理解しているのであろう。
体勢が逃げの状況になっている。
「変な意地張ってないで横になりなさいよ。膝枕してあげるわよ」
言葉を聞いた瞬間。四つんばいのまま這いずって逃げようとする隆起。
すぐさま餡子は逃げる隆起の足首を掴み逃走を拒絶する。
「何で逃げるのよ〜」
「うっせぇ〜。んな事恥ずかしくて出来るかよ!」
非難の声を上げる隆起だが、実際現状を続ける方が何倍も恥ずかしいのではないのだろうか。
一向に大人しくせず、子供の様に暴れる隆起。それに対し頬に手を付き、餡子は嘆息すると。

ゴス。

首に手刀。
弱った隆起の意識は見事に途切れた。
「これで暫くは大人しくなったわね」
動かなくなった隆起の頭掴んで自分の膝に乗せる餡子。
泡を吹いて白目の隆起に少しだけ同情したくもなったが、あのまま暴れていたら辺りに迷惑が掛かっていただろう。何より見苦しいので結果オーライという事にしておこう。

気絶の為に静かになった隆起。
彼の頭を撫でながら、優しげな笑みを小さく浮かべる餡子。
辺りは先程の二人の会話が嘘の様に、静寂を保っていた。

水を切って走る船。
時折響く蒸気音。
辺りの人々は各々の手段で暇を潰している。

「二人とも相変わらず仲が良いね〜。見ているオイラが焼けちゃうよ」
ニヤニヤとした表情でそう言う龍雄。
「龍雄ちゃん、あんまり変な事言わないの」
そう言いつつも、少しだけ頬を赤らめる餡子であった。

898 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:49 [ 14QldAf6 ]
餡子と隆起。二人は恋人――ではない。
言うならば、そういう運命の結末が来るべき者達――と龍雄は二人の事を思っている。
そこに明確な根拠を問われれば回答に困るだろう。
しかし、幼き日から餡子と隆起を見てきた龍雄にはハッキリと返答できる。

二人は相思相愛だと。

それなのに…。
大きな頭を傾げて嘆息する。この二人、全くと言って良いほどに進展がない。
友達以上、恋人未満と言われるものだろう。
そのあやふやな関係をハッキリさせようと、今まで幾度となく仲を取り持つ為に裏で暗躍してきた事か。

結果→全敗。

この結果の理由を挙げるならば隆起。
彼は鈍感過ぎるのだ。それも超が付くほどに。
餡子の隆起に対する態度。それは第三者が見ればあからさまだ。
だがしかし、隆起は全く気が付かない。
もしかしたら、一緒に居た時間と距離が気持ちを理解出来無くしているのであろうか。
最初はそう思い、龍雄の提案で餡子と一時的に別れて旅をさせてみた。

会わずの間は多少の落ち着きの無さを見せた隆起。
龍雄は見えない所でガッツポーズ。

そして再び出会った時、彼女は危険の真っ只中。
其処に颯爽と現れた訳なのだが…。

結果は進展なし。
会ってしまえば何時も通り。
餡子は餡子でエルヴァーンの知り合いが出来ていたようだ。
せめて隆起には嫉妬の一つも見せてくれれば良いものを…。

個人として、龍雄は二人に幸せになってほしい。
彼の中で叶う願いがあるとするならば、それが何よりもの願いであろう。
最も、そんな心中は彼の中だけの秘密ではあったが。

899 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:49 [ 14QldAf6 ]
日もすっかり暮れた夜。
船内の部屋の一角で食事をする龍雄達。

「一時はどうなるかと思ったぜ」
息を吐いて語る隆起。
餡子の作ったサーモンサンドを口に運んでいる様子から、もう大丈夫ではある様だ。
「思ったより復活するの早かったな隆兄ィ」
「はっはっは、あの程度の酔い位屁でもねえよ」
そう言って豪快に笑い出す。
心なしか、辺りの者達が引いている様な気はするが今更であろう。
「何度も死ぬ〜、死ぬ〜とか唸ってたのがか?」
「うっせぇ〜!」
何時もの二人のやり取り。
船酔いは慣れるものらしいが、こうまで極端な者は珍しいであろう。
龍雄と隆起の馬鹿騒ぎを、クスクスと忍び笑う餡子。ふと、何かに気付き隆起の傍に歩み寄る。
「隆起、口。ほら、料理が付いてるよ」
「あ?」
取り出したハンカチで隆起の口周りを軽く拭う。
呆れながらも何処か楽しそうな餡子に対し、隆起は不満気な表情。
龍雄はそんな二人にニヤケ顔。
「まったく、これじゃあ龍雄ちゃんの方がよっぽど大人ね」
「待て!それは俺を侮辱してるぞ!」
「正当な意見だとオイラは思うけど?」

900 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:50 [ 14QldAf6 ]
それから、他愛の無い雑談を繰り返す。
幼い時から、ずっと続いてきた時間。
何時もあるべき姿。
変わらなく、続いていく関係。
だけど、こんな時間が何よりの幸せなんだと龍雄は思う。
しかし。

「あのさ――」
話も一息つき、周りが寝静まった頃。
甲板に出た隆起達に龍雄は語り出す。

「オイラ、竜騎士になったら暫く一人で旅をしようと思うんだ」
言葉に焦りの色を浮かべる餡子。隆起は黙ったまま此方を見つめるのみ。
「龍雄ちゃん、何で?」
そう聞く無理も無い事だ。今までずっと一緒に歩んで来た者が、自ら離れる事を進言したのだから。
「前から決めてた事なんだ」
迫る餡子に龍雄は真剣な目でそう答える。
その意思の強さを理解したのか、不満気な表情ではあるが黙ってしまう餡子。

夜の空は黒。
その黒に負けじと輝く沢山の光達。
辺りは静寂。
聞こえるのは波の音と蒸気音。

「良いんじゃねえの?」
ふと、あっけらかんとした口調で隆起が答えた。
「隆起…」
手すりに凭れ、足を組み欠伸をしながら言う態度に非難の声を上げる餡子。
しかし、そんな餡子の声を無視して隆起は龍雄の前まで歩む。
膝をつき、視線を同じ位置に持っていくと真剣な表情。

「龍雄、それは自分で決めた事なんだよな?」
無言でコクンと首を縦に振る。
暫しの静寂。
そして隆起は軽く目を閉じ立ち上がると、背を向けて手摺りに歩み座り込む。

「なら良いさ。俺達がこれ以上とやかく言う事じゃねえよ」
「でも、隆起…」
掠れた言葉を放つ餡子は、まだ納得してないようだ。
そんな餡子を納得させる為にと隆起は言葉を続ける。
「龍雄だって何時までも子供の間々じゃねえんだ。一人で旅をさせるのも悪くない」
「…そう…よね」
まだ多少の不安があるのであろうが、それでもゆっくりと賛成の意を見せた。

「お前が成長した姿を見せるのを待ってるぜ」
親指を立てて、爽やかな笑顔を龍雄に送る。
その言葉に龍雄は表情を明るくすると。
「ありがとう。隆兄ィ、餡子姉ちゃん」
珍しく。本当に素直に龍雄は感謝の意を示した。

901 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:50 [ 14QldAf6 ]
暫く、何処かしんみりとした空気が彼等の周りに漂っていたが。
「まあ――」
と。隆起が無言の空間に口を開いた。

「寂しくなったら何時でも帰ってきて良いぞ〜、弟よ」
おちゃらけた口調に含み笑いの笑顔。
一瞬餡子と龍雄は絶句したが。
「…へっ、誰が兄ィの事で寂しくなるかよ。餡子姉ちゃんと会えないのは寂しいけどな」
すぐに何時もの調子となって話に食らいついた。

隆起が笑っている。
餡子も笑っている。
そして龍雄も笑っている。

まだ暫くの時間は三人で過ごすのであろう。
それから後は暫しの別れ。
それでもそれは永遠たるものではない。
何時の日か成長して帰ってきた自分を、再び二人が向かい入れてくれる日が来るであろう。
願わくば。
その時、この二人の間柄が今よりも少しだけ仲良くなっている事を祈りたい。

そして、辺りに船長の声が響いた。

『間もなくマウラに到着致します〜』

新大陸での彼等の冒険はこれから始まる。

902 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/12(月) 15:52 [ 14QldAf6 ]
今回はこの三人のお話でした。
時期的なものだと死人と別れた数日後の話となっております。
まだ隆起も餡子も戦士だった頃のお話。
彼等が内藤達と出会う時、果たしてどうなっている事か。

それでは、また次の話で――。

903 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 20:25 [ hc7fCzpw ]
おつ。

> まだ隆起も餡子も戦士だった頃のお話。
これプラス、竜騎士を目指す辰雄君の組み合わせか・・・・・。
なんとなく、辰雄君に不吉なフラグが立ってるような・・・・・・(ノ∀`)

904 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 21:08 [ z/zvUE/k ]
さすがに言わせてくれwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
今回の話は
キモイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
龍雄とかわけわからねえキャラ出すな
萎える

905 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 21:22 [ qPzpLbb6 ]
>>リメ氏
GJ!!!!! アーンド 乙!!!!!
龍雄の読み方は「たつお」で合ってる?

>>904
うはwwwwwwwwwwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwwww

906 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 21:40 [ w3vpOvYg ]
龍雄って誰?キモイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
真黒って誰?キモイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
リメ糞の書くキャラ全部キモイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
オリジナルキャラを作る香具師はキモイwwwwwwwwwwwwwwwwww
ジサクジエン感想キモイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
次スレ立てずに消えて本当にwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

907 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 22:54 [ 2j3ICXPU ]
>>904
勝手に萎えてろ(プゲ

908 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/12(月) 23:54 [ 6F.bcO9M ]
>>904 >>906
リメ氏の回避&受け流しスキルアップの協力を称えて
シグネットをかけてあげようwwwwwwwwwwwwwwww

909 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 00:37 [ FeiqO1ek ]
リメ氏はとっくに回避スキルALL青だと思うのは気のせいだろうかwwwww

910 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 01:10 [ TrqKeczc ]
現状までの話でキャラの強さを比べてくとどういう風になるんだろうな?
俺的に
糞樽=餡刻>>>真黒>内藤=戦死=廃狩=隆起>臼姫=通風=龍雄>猫狩=餡子>死人
くらいと予想しているのだが。

911 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 03:00 [ .x0S4vn6 ]
まだまだ続くよ
オナニー作品!!!
龍雄最強wwwwwwwwwwwwwwwwww真黒最強wwwwwwwwwwww
ひゃっほーーーいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
キモッ
と言うんじゃなくてスルーすべきでしたね;^^;^^;^^;^^;^^
まぁたまには「駄作」もあるとおもうのでこれからも存分に
頑張ってくれたまえ^^;^;^;^

912 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 03:30 [ AEF5EdD6 ]
とりあえずそれを煽りで言っているのではなく感想の一つとして言っているつもりであるならば何処が如何悪くとか言うべきだぞ。
駄作な理由。新キャラのダメな所などを指摘せず一方的な批判だけを書くのはつまんないぞ。

>>903
俺も不吉なフラグを察知した…。
最近はマタ〜リ展開で忘れてたけどリメイク世界での生存率って結構シビアだもんな〜。
出来れば何事もありませんようにと祈りつつも不幸を期待する自分もいたりしてw

913 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 03:49 [ WIzbwxNI ]
なあ、リメさんよぉ。あんたも書く度に叩かれてそろそろウンザリしてるだろう?
このスレもそろそろ終わりだ。いい機会だからこのまま書くのを止めちまえよぉ。
実際読んでる人間は目に見えて減ってるだろ?一回の話にレス一つとかもザラなんだろ?
もう、休んじまえよ。なあ?オナニー作品の作りすぎも疲れるだろう?親切心で言ってるんだぞ?
まあこれだけ聞いても分からないようなら日本語が理解できてないと言う事で俺の中でFAを出してやるよ。
しっかり考えな。

914 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 08:08 [ 1BJqNmZI ]
今までずっとROMってましたが、初カキコ
リメさん、作品面白いですよ
煽りに負けずに頑張ってくださいね
ただ、こうゆうSSを続けてると、こんな板なら尚更粘着君がわくので
某白の探求者の方のように、独自のサイトを作った方がよろしいかもしれませんね
そちらの方もご一考下さいませ

>>913
ハイハイ、クマークマー

915 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 09:37 [ 5809SMko ]
イヤなら見なくてよいんじゃよwwwwwwwwwwwwwwwww

916 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 10:14 [ jhJ1bKXo ]
ぶっちゃけ隆起なぞどうでもいい、内藤を出せ

917 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 12:23 [ .x0S4vn6 ]
>>916
同意wwwwww

918 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 12:24 [ FM2FNIk. ]
>>916
確かにな、隆起という他のSSにしてもあまり使われないようなキャラよりも内藤とかの方が普通読みたい罠。
だけどその使われないキャラを使われないまま放置するのか、話を積み重ねて魅力を出していくのかは作者次第だし。

リメさんは出来る限り全てのキャラにそれなりの活躍の場面を出そうとしてるんではないのだろうか?

919 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 13:03 [ aoTAmETc ]
今までの話の登場キャラって。

餡刻と黒猫。
真黒と糞樽と廃狩。
真黒と餡刻と廃狩。
死人と餡子と隆起と龍雄とタルナ。
戦死と飛子。
内藤と臼姫。
戦死と飛子と内藤と臼姫。
廃狩と真黒と糞樽と白樽。
真黒と髭戦。
糞樽と獣様と真黒。
通風と猫狩と内藤と臼姫と戦死と飛子。
隆起と龍雄と餡子。

全体的に見て糞樽方面の登場数が一番多いな。
色んなキャラ出してるから長い目で見ればいいんじゃないか?
ミスたる〜って糞樽が内藤達と出会ったら極端に出番減りそうだけど…wwww

920 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 13:32 [ 8t2JbjVk ]
>>910
臼姫が最強

921 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/13(火) 22:59 [ cSbXcFF. ]
リメさんいつも楽しみに待ってます
これからも焦らずに頑張ってください!

922 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/14(水) 03:54 [ 8DtF.7dM ]
>>905さん
龍雄=『たつお』で合ってますよ〜。

923 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/14(水) 10:02 [ q7p1BA/2 ]
>>920
臼姫の最強は近所のおばちゃん最強とか
嫁さんに頭が上がらんクラスの最強だからなwwwwwwwww
単純に実力勝負ならまた別の話かとwwwwwww

924 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/14(水) 11:11 [ k9ldjbPo ]
>>920

最強は「さいきょう」でも「最凶」だったりしてな・・・・wwwww






うお、なにくぇrちゅいぜxsrctvfびゅに

925 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/16(金) 01:06 [ IS64wMBI ]
ここは作者だけでなく読者も回避系スキル高いねwwwwwwwぐっじょぶwwww
そんなスレなら受け流してくれると思い、一読者としての批評を少し書かせてください。

真黒とかでは感じなかったのですが、龍雄は死人の話の最後での登場が唐突過ぎて違和感を感じてしまいました。
その印象が自分の中で剥がれなかったので、正直言うと自分は今回の話はあまり楽しめなかったです。
「勝手な」アイデアとして、いきなりカッコよく助けるシーンに入れるのではなく
それ以前に名前を出さずにもう少し複線のようなものがあったら印象が変わってたかもしれません。

とまぁ激しく勝手な事を書かせてもらいましたwwwwww
滅多に書きこみはしませんが、リメ氏さんの作品は毎回楽しみにしてますので
これからも頑張って下さい。

926 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/16(金) 02:37 [ KxPPGu8k ]
ジョブ敵には餡刻といいたいけど神内藤のほうがつよいとおもう

927 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/16(金) 13:13 [ wLtswbyo ]
戦闘描写を見るだけだと餡刻と糞樽が飛びぬけてるね。
NMデカ羊を一撃で粉々にする餡刻とそれと同等の糞樽。
対する内藤、パルブロのNM亀にちょい苦戦。
…普通に真黒より弱いかも…

928 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/20(火) 13:28 [ JDAtZB/2 ]
早く続き書けよwwww感想吐けてやるからよwwwwww
一回否定意見があっただけで逃亡ですか?wwwwwwwwww
それもそれでイイかもなwwwwwwwwwwww

929 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/20(火) 15:27 [ aDwfLAA. ]
死人:/ma 魔物のララバイ >>928
    この私の手にかかれば、この程度のリンク処理などお手の物です。
    殴って起こすような脳筋はキックしますので、そのつもりで。
    さ、続きを楽しみに待つとしましょうか。


マジレスすっと、「一回否定意見があっただけ」なんて素人丸出しの言葉が
出てくるなんて、粘着ですらないぽっと出の釣士だろうね。

930 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/21(水) 00:16 [ //KLmcMo ]
>>928

>>死人:流石ですな!!その技術、いつもお世話になっております

931 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/21(水) 00:19 [ //KLmcMo ]
何やってんだ、漏れ・・・・・orz

932 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/21(水) 08:14 [ yAzvsf6s ]
菜w艶w済wwwwwwwwだwwwwwwぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇwwwwwwwwwwwwww

漏れは違うけどな…orz

というわけでリメ様新作マダー?('▽')

933 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/21(水) 14:52 [ 0SFjp9fc ]
現在仕事が沢山入っているので、週末までお待ちください。
今年はお盆すら危うい予感…。orz

934 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/21(水) 14:59 [ rdsEfDAY ]
イ㌔・・・

935 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/21(水) 18:07 [ pU4dyRTU ]
リメ神様
絶対に無理だけはしないでください。
気長に待ってますからwwww
体に気を付けてがんばってください〜!

936 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/27(火) 17:25 [ cW42pO8g ]
リメ神様まだー?(´・ω・)=3

937 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/27(火) 23:28 [ O40NkVqM ]
ようやく、纏った時間が取れましたので明日アップします!!
午後位を目安にアップ予定。(現在執筆中だったり…。

938 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 01:35 [ gpN5tgpQ ]
楽しみに待っておりますwwwwww

939 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 04:17 [ vv3FCTBA ]
sage

940 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 12:05 [ IUJHyi9o ]
そろそろ期待age

941 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 13:32 [ WWPpIDKA ]
明日試験が三つある俺様が期待age

942 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:16 [ 2SMH0MWU ]
期待カキコ

943 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:35 [ r3Ri.jsw ]
「もしかして姫ちんにゃ?」
「あれ?もしかして猫狩?」

「…内藤、何やってんだよこんな所で」
「あんた誰だっけ?」

「む、なんだか俺だけ状況に付いていけないぞ!」
「あんまり騒ぐな戦死、みっともないぞ」

内藤と通風。臼姫と猫狩。
運命と言う名の偶然か、それとも定められた必然か。
幼き日を共にしていた者との再会を経た彼等は気持ち新たな旅の入り口へと立った。
新たな旅仲間に浮かれ、早速自作のブーメランをプレゼントしようとした戦士は結局受け取って貰えず、落ち込み、暫く飛子に慰められる羽目となる。
その為、彼等はセルビナで暫しの停滞を余儀なくされた。

その間。

数日の滞在で彼等は現在までの自分を語り合い、砂丘で自身等の実力の程を互いに証明した後、特に目的地を決めていなかった通風達を無理矢理臼姫が丸め込み、旅へと同行する事を決めた。
目的地はジュノ大公国。
意外とも思われるや、正式なバストゥークの冒険者として登録されていた内藤のミッションの一環である。
内容はル・ルデ庭にある大使館への手紙の配達。

そして彼等は今ラテーヌの広大なる高原を歩んでいる。
自身作詞のブーメラン歌を口ずさみ、リズムに合わせて腕を元気良く振り上げる戦死を先頭にその後ろを歩く内藤達。
何も知らない者が見れば奇妙な一団として近寄り難いと思われる事だろうが、内藤達は既に慣れきった様子で特に表情に違和感もない。
最も。モンスターが絡んでくる際に歌の所為か戦死自身が真っ先に狙われるので臼姫辺りは囮と言う目的も考えているかもしれないがあえて追求はしないでおこう。
戦死本人も気が付いていないので尚更だ。

旅は順調。
彼等の顔には笑顔が見える。
しかし、そんな中一人だけ考え事をする男――通風。
別段、猫狩との二人旅を邪魔されたのを不機嫌に思っている訳ではない。
此処に至るまで何度かの戦闘をこなし、互いの現状たる実力を認識した筈の通風の中にどうしても納得のいかない部分があったからだ。

それは――。

944 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:36 [ r3Ri.jsw ]
「パワーーーーーーーーーー!!!!!!!」
突然。鼓膜を破らんばかりの轟音たる大声に驚き、耳を抑えて歩を止める内藤達。
従来の聴覚の良さから目をグルングルンと回してしまっている猫狩を他所に、彼等は音の発生現へと目を向ける。
そこには身の丈を越える大きな羊に対して戦いを挑むローブ姿のガルカの姿があった。

大羊族の中で雄羊タイプとされる巨大な羊。
ラテーヌを通る無数の新米冒険者にとって恐怖の象徴たるそれと戦うガルカ。
巨体たる体を利用し全、体重を乗せて放たれる頭突きを避けようともせず真っ向から撃ち砕こうとする姿勢。
流石にこの状況には戦死達も焦りの色を浮かべて飛び出そうとする。
ただ一人、内藤を除いて。

眼前に迫る大羊に対し、ガルカはまったくたじろぐ様子も見せない。
寧ろ、その表情は戦いの歓喜に見せられた者の姿か。
手に持った両手棍を強く握り直し、口の端を大きく吊り上げて大きな意思の篭った強き一歩を踏み出した。

「パワーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
先程よりも大きな声を吐き出し、大羊とガルカの攻撃がぶつかり合う。
数秒の後、迎えられた結果は頭部を大きく拉げさせた獣の骸の存在だった。

945 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:36 [ r3Ri.jsw ]
「凄いにゃ〜、あんな大きな羊さんを一人で倒しちゃったにゃ〜。通風ちんも出来るにゃ?」
「あんなアホみたいな事出来るか!!」
「あのガルカすっげえな!」
「凄いというか…、馬鹿力ってやつじゃないかしら…?」
凄い、凄いと見ず知らずの者を褒め称える猫狩。
呆れた表情で見つめる通風と臼姫。
戦死は珍しいモノを見れたと言う喜びも相まってか、彼らしい笑顔を浮かべていた。
そして各々驚きと困惑に視線を一点に集める中。
一人、コソコソとその場から離れようとする内藤に通風が気付く。

「何やってんだ内藤?」
「うは!通風、お願いだから今だけは俺様の名前を呼ばないで!!」
「はぁ?」
慌てる内藤の様子に訳の分からないと顔を歪ませる通風だったが、その答えが氷解するのに時間はかからなかった。

「む!今、確かに内藤と言う言葉が聞こえたのう」
一体、どんな耳をしているのか。
通風の微かに出した声に反応すると、まるで地響きでもしそうな勢いで一直線に此方に向かってくるガルカ。
その目標点にある姿はやや脅え気味の内藤。
途端にガルカは顔を綻ばせ加速した。
そして内藤、何故か観念した構え。

「おうおう、内藤どん。久しぶりじゃけん元気そうで何よりじゃ!!!」
バキバキ。
再会の嬉しさからだろうか内藤を抱きしめるガルカ。

「なあ、戦死。如何も物体を圧縮する為の音が内藤から聞こえるのだが大丈夫なのか?」
「スキンシップってのは人それぞれだからな。気にしちゃいけないぜ飛子」
「ふむ、了解した」
ゴキンゴキンと耳に残る嫌な音が響いた気もするがあくまで再会の喜びを優先しそこには触れないでおこう。
だから内藤が泡を吹いて白目を向いていても彼等は特に気に止めず微笑ましい目で明後日の方向を向いていたのだった。

「ガ、ガル姫お久しぶり…、だけどガル姫がそうやって抱きしめると俺様元気じゃなくなっちゃう…」
表情が青く目が虚ろな内藤の声は届いていないのか、表情をより一層明るくするガルカ――ガル姫。
「何を照れておるか!感動の再会を称したスキンシップの一環じゃわい」
「うは!!ボスケ…」
最後に大きな音を立てて辺りは暫く沈黙に包まれたのだった。

946 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:36 [ r3Ri.jsw ]
「…危うくお花畑で溺れ死ぬ所だったぜ」
「どんな世界に行ってたんだお前は…」
奇跡の生還とでも言ってよいのだろうか。
何とか復活してゲンナリしている内藤に突っ込みを入れる通風の姿は微笑ましいものだ。

「ガッハッハ。すまんすまん、ついつい力を入れすぎてしまってのう」
悪気などまったく感じさせずに豪快な笑顔のガル姫。
内藤が衰弱中。
とりあえずと。臼姫は話がややこしくなるのを回避する為、ガル姫と内藤の関係を聞き出す事にした。
ガル姫曰く、内藤は昔ちょっとした事で世話をした間柄であると簡潔に伝え、自分の事は漢女なのだと臼姫達からしたら如何でも良い事を存分に伝えたのだった。
正し戦死だけはやたらその言葉に感動していた様だが…。


「――で、なんでガル姫がこんな所に居るの?前に言ってた修行の旅ってのなら、この辺りでガル姫を満足出来る敵なんて居ないと思うけど?」
何とかまともに喋れるまでに回復した内藤はガル姫に質問する。
すると、ガル姫はその件をすっかり忘れていたと笑い。
真顔に戻って説明を始めた。

「実はじゃのう。最近この辺りのデカ羊が大量に姿を見せていてのう。困り果てた者達が退治の依頼を募集していたのじゃ」
そう言って懐からゴソゴソと紙切れを取り出す。
そこにはガル姫の言った通り討伐募集の願いが書かれていた。

「だけどよ、募集を募ってる割にはあんましそれらしい人の姿が見えねえな?」
疑問を投げかける通風。
ガル姫は大きく溜息を吐くと。
「それが問題なんじゃわい。時期が悪いと言うのかのう、ある程度実力を磨いた冒険者は殆どジュノの方へ行ってしまってのう。何分人員不足な訳なんじゃわい」
「確かに、この報酬額じゃ早々やる気がでないわね」
内容の書かれた紙を隅々まで読んでいた臼姫がそうぼやく。
「流石姫ちんにゃ!細かい所までバッチシ調べるのにゃね〜」
「ふふ、それ程でもないわね」
ただ単にがめついだけじゃないのかと突っ込もうとした通風だったが、何とか言葉を飲み込む事に成功したのだった。

947 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:37 [ r3Ri.jsw ]
「よし、それじゃあ俺達も手伝おうか!!」
突然そう言って立ち上がる戦死。
「戦死がそう言うならば私は構わんぞ」
続け様に答える飛子。
「よし、決定!」
「おお!流石内藤どんの連れじゃわい、漢気を感じるのう!」
「私達の意思表明はなしなのかしら?」
「うは!ああなった戦死を止めるのは俺様でも無理!!」
「それじゃあ、私が要らぬ手間をかけない様に死ぬ気で頑張りなさいよ!」
「オーケー、俺様に任せて!!」
何だかんだで盛り上がっている彼等を他所に、何処か考え事をしている通風に猫狩が気付き話しかける。
「今日は静かにゃね通風ちん?」
上目遣いにそう問い掛ける。
「ん?ああ、ちょっと考え事を、な。内藤がいれば余裕な筈だしな…」
「にゃ?」
何処か迷いを持った表情の通風を不思議そうに首を傾げる猫狩だった。

948 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:37 [ r3Ri.jsw ]
ラテーヌの高原が赤く染まる夕日の刻。
その赤を背景に沢山の羊の屍を背に座る彼等。

「え〜っと、これで何匹目だっけな飛子?」
「む、私は数えてないぞ?他の者に聞いたらどうだ」
「俺様そんな細かい事気にしてないね!!」
「そうじゃそうじゃ、細かい事は気にしてはいかんぞい!」
彼等には疲れというものがないのか。
ノリさえあれば幾らでも働けそうに笑う戦死達。

「うちはもうヘトヘトにゃ〜」
そう言って岩を椅子にへたり込む猫狩。
臼姫はそんな猫狩の頭を撫でながら戦死の問いに答えた。
「昼からの合計で18匹よ。よくもまあこんなにうじゃうじゃと大量発生したものね…」
原因を不可思議に思い首を傾げる。

「ああ、それなんじゃが。なんでも前にランベリングランバートがこの辺りで暴れておったらしくてな。それを倒したのが切欠でこんな状況になったみたいじゃぞい」
「ランベリングランバートってNM指定を受けてる大羊の更に巨大な奴だよな?一体何人がかりでやったんだ?」
「それがのう、聞いた話では一人で倒したらしいぞい」
指をピンと立てて言うガル姫。
「流石にそれはデマだと思うわね。大体、そんな実力者なんて数える位しか居ないと思うわよ」
臼姫はそう言って自身の髪を弄りながら細目に答える。
「ガッハッハ。じゃが、もしそんな者が居るなら是非手合わせをしたいものじゃのう。勝てはせずとも良い経験になりそうじゃて」
「相変わらずガル姫、好戦的過ぎだね!」

ラテーヌの夕日が落ちる。
時間は夜となり、暗闇が辺りを包んでいく。
戦死達はその場でキャンプをする事に決める。
倒した羊の肉を贅沢に使った肉料理は、彼等を食欲を十分過ぎる程に満たしてくれたのだった。

949 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:38 [ r3Ri.jsw ]
静寂の中。
虫の音が響き。
空には月が輝いている。
考え事をしていて眠れずに居た通風は、微かな風斬り音に気付いてテントから出た。

月の下、動く影は姿を隠す事なくその身を浮き彫りにする。
「相変わらずの隠れた努力家だなお前は」
話しかけた先の者。
左手に片手剣を握り、何度も素振りをしていたのか多量の汗が光って見えた。
「なあ、内藤。お前は昔から変わってないんだよな?」
「何の事だ通風?」
剣を振るうのを止めて通風に向き直る。
その表情は何時ものと呆けた表情とは少しだけ違って見えるようだった。

互いに口を閉ざす。
聞こえるのは虫の音と時折吹きぬける風の音。
幾らかの時間。
或るいは数秒であったのだろうか、静寂の時を破る通風の口が開く。

「なあ、内藤。お前、何でそんなに弱くなっちまったんだ?」

          〜続く〜

950 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/07/28(水) 15:40 [ r3Ri.jsw ]
起きたら14時でしたorz
とりあえず、今回は此処までです。
そろそろ合流ルートの兆しが見える辺りなので上手く纏めるよう頑張ります。
それでは――。(続き早く書かなくては…

951 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 16:01 [ CUWEHB8Y ]
待ってましたwwwwwwwwww
ご自分のペースで書いてくんなましwwwwww

952 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 18:53 [ MG6srzik ]
anarusitai

953 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/07/28(水) 20:35 [ WPtV20.k ]
超楽しみにしてますw

超楽しみにしてますw

954 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 00:33 [ vu8BrYA6 ]
ところでさ、次スレどうする?
このままだと後2〜3話載せたら1000超えそうなんだけど

955 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 00:45 [ BOkjmgfo ]
今度はリメ氏がたてればいいんじゃねーの?wwwwwwwwwwwwwww

956 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 01:47 [ deHOyL72 ]
>>955
いや、わざわざ手間かけさせるのもあれだろ
俺達の方がずっと暇なんだから

というわけで次スレ行ってみよう

957 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 02:59 [ WUYOqP0o ]
カンストまでこのままでいいwwwwwwwwwwwww

958 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 11:16 [ BOkjmgfo ]
うはwwwwwwwwwwwwここカンストいくつだっけ?wwwwwwwwwwwwww

959 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/04(水) 21:09 [ OKirnMpM ]
したらばにカンストはねえええーーーーーーー

960 名前: kyon 投稿日: 2004/08/04(水) 21:50 [ yJ4qTKHI ]
http://www.p-cha.com

961 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/05(木) 10:34 [ ySZIVkuc ]
960はエロサイト、見に行かぬが吉ナリ

962 名前: Clowd近衛騎士団 (5OPG0zPE) 投稿日: 2004/08/05(木) 15:51 [ 7lUoxmqw ]
 __  
(厨)
 Y (゚∀゚)   Clowdがこのスレに興味を持ちました(!)
 Φ[_ソ__y_lつ     近衛騎士団も夏祭りwwww
    |_|_| |
    し'´J ,*′

963 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/05(木) 16:54 [ r0tsu1Po ]
Clowdキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!

964 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:00 [ sfiMxTnA ]
銀色に光る刃の軌道は軌跡を描き、まるで光が舞っているかの様な錯覚を感じた事を、彼は今でも覚えている。

それはまだ彼が少年だった頃の話。

彼は同い年の者達よりも少しだけ大人びていて、悪知恵を働かせるのが人一倍上手かった。
体力も人並以上。近い年の者達からは負ける気もせず喧嘩でも実際に負けなしであったのだ。
特に自分自身が胸を張って、他の者達にまで認められる程に脚力には自信があった。
そんな彼は皆からはリーダー的な存在で、所謂ガキ大将だった。

上の物として居続ける少年は何時しか何処か空虚な気持ちに囚われる。
毎日を退屈に、刺激を追い求め踏み込んではならない世界へと手を伸ばしたくなる衝動。
程なくしてそれは現実となった。

彼は起きた現実に後悔し、生まれて初めてかもしれぬ苦やし涙を流す。
それは何時もよりもほんの少しの遠出。
ちょっとした慢心による冒険心だったのであろう。

獣人との遭遇。

兼ねてより親より聞かせられ、色々な者より語られはしたものの、現実に眼前で出会ったのは初めての事であった。
故に彼の中で油断が生まれる。
もしもこの時彼が他の子供達の様に恐怖し逃げたのであれば何事もなく終わっていた事なのだろう。
だが彼は踏みとどまった。
人の世界で悪の象徴とされる獣人。久しく感じた刺激に少年の心は躍らされていたのだ。

気付かれぬ様に彼は足音を殺してそれを観察する。
幸いにも季節は寒さを感じ、空は早くより帳の落ちる頃であったから。
だからこそ、暗がりでこそ目の効くオークの格好の獲物となった。

空が見える。
黒き帳の下りた空は、その黒さに多い尽くされぬ様に大きな月と沢山の輝きを放つ星達によって自然の明かりを灯していた。
背中が熱い。
焼ける様に熱を持った背は鈍痛を発し、自分が斬られた事をより強く実感させられる。

もう逃げる事は叶わなかった。
例え動こうともこの傷では捕まるのが目に見えていた。
だから…、下手に見苦しく生きるよりもクールであろうと彼は自分に言い聞かせたのだ。

それでも。

それでも、そんな想いなど偽りでしかなく。
まだ世界さえも小さな彼にはその想いを享受する事など本能が許す筈もなかった。

声を上げた。
ありったけの声を…生き様と必死にもがく術を。
格好なんて関係ない、諦めて終わった先には何もないのだ。

少年の少年らしい面が表にでる。
近づく死の形に対して最後の最後まで生き様と足掻く姿を少年は晒し続けた。

故に、彼は――。

965 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:01 [ sfiMxTnA ]
「ごめ、言ってる意味がわかんないや」
何故弱くなったのかと発せられた通風の言葉に、何時もと変わらない笑顔のままに内藤が答える。
対して通風は目を尖らせ、此方をじっと見据えたまま動かない。
そんな通風に背を向ける内藤。腕を伸ばし大きく欠伸をすると剣を鞘へと納め寝床へと戻ろうとした。

しかしそれは直に止められる形となる。
金属の滑る音。
それは鞘から刃を抜く音に他ならない。
振り返り見ると、通風は無言のまま剣を鞘から引き抜いていた。

固めたままの表情で口を動かす。
「昔――」
小さく囁くような声。
だがしっかりと聞き取れるその声に秘められた想いは強きもの。
「よくこうしてお前の手合わせに付き合わされたよな。折角旧友と再会したんだ、今度は俺に付き合ってもらうぜ」
顔を上げて鞘を放り投げる。
向けられた刃の切っ先は挑戦の意。

「そんな勝手に話を進めないでも――」
「…手加減は、なしだぜ」
言葉を遮りそれだけを言い放つと、やや前傾姿勢を取り片手剣を斜めに構えた。
此方を一転に見つめるその瞳は友として接してきたそれとは違い、獲物を駆るハンターとしてのものだろう。
そこには一切の手加減を感じられず、言葉で如何にか出来る雰囲気でもない。
「怪我しても文句言うなよ――」
故に内藤も表情を固めて通風と向き合い構える。
その構えに通風は目をより一層細めた。

空気がピリピリと張り詰める。
ほんの刹那の間。

小さく息を吐き出すと同時に通風は地面を強く蹴り上げて内藤へと一直線に飛び込んだ。

966 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:01 [ sfiMxTnA ]
少年が空を眺める。
空の色は青。
雲一つなく、本日の天気は良好このうえない。
陽光降り注ぎ、髪を靡かせる程度の優しい風が辺りに吹いていた。


あの夜。
銀色に光る刃の軌道は軌跡を描き、まるで光が舞っているかの様な錯覚を感じた事を、彼は忘れる事が出来なかった。

彼の命を救った者の姿が月の明かりに照らされてその形を見せる。
感謝の念よりも驚きの方が強かった。
そこに居たのは自分と同じ歳程のヒュームの少年。
その後ろには少年の父親だろうか、金色の短髪に無精髭を携えた男が立っている。
しかし、目の前に倒れたモノを言わぬ屍を作り上げたのは紛れもなく眼前の少年である事には変わらない。

少年は彼に近づくと歳相応の笑顔を向けて手を伸ばした。


そっと右手を伸ばして背中に触れる。
薄っすらと跡が残りはしているものの傷はない。

少年は空を眺める。
空の色は青。
時間は昼。
必死に生き様と足掻いた時から一夜が明けていた。

彼は生きていると言う当たり前の感覚に喜びを感じていた。

967 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:01 [ sfiMxTnA ]
人が瞬き一つをする時間。
それだけの合間に彼は内藤へと刃が届く位置まで移動する。
右足を軸として振られる刃が標的の首を薙ごうと銀色の軌跡を描く。
特筆すべきは彼の飛び込んできた速度とそれから放たれる剣速か。
それこそ相応の実力者でなければ自身が斬られた事すら気付かずに絶命しうる一撃であっただろう。

ブォン。

しかし、その凶刃も標的の首の皮を軽く掠めるだけで虚空を薙いだのみ。
ギリギリの距離でその一撃を回避した内藤は通風と視線を交じわせる。
内藤が回避したのを確認した通風は得物を持った手首を捻り、そのまま一直線に刃を払い落とす。
この攻撃も僅かな差で内藤は回避する。
しかし攻防はまだ終わりではない。
通風の大きく踏み出した一歩。
そこから放たれる攻撃は全体重を乗せた必殺の突き。

広き高原を吹き抜ける強い風音さえも吹き飛ばす金属音が辺りに鳴り響く。
暗き夜空を舞う刃は、星と月の輝きを反射しながら放物線を描いて光をばら撒いた。

「俺様の勝ち――だよな、通風?」
その言葉を終えると同時に舞っていた刃はザクリと音を立てて内藤の後方の地面へと突き刺さる。
彼の眼前には刃の切っ先。
右手には軽く痺れを感じ、地面に膝を付いている。
勝負の結果はそれが全てだった。

968 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:02 [ sfiMxTnA ]
一年が過ぎた。
あの日から彼の人生は大きく変わった気がする。
出会った少年は見た目そのままに自分と変わらぬ歳であった。
にもかかわらず、生まれて十の歳月程の者があれだけの実力を保有している。
その現実は彼の今までの価値観を崩壊させるのは十分なもので、負けず嫌いであった性格も比例してか少年とは友と呼べる存在になっていた。

分かった事は多々あった。
改めて知った少年の実力は、天才と言う者が本当に世の中にいるのだと実感し。
そしてその少年は決して慢心する様な事はないのだとも分かった。
何故ならば、腕っ節に自信のある少年でも決して叶わぬ現実が彼自身の父親だったのだから。
少年が強いと言うのならば、その父親は正に化け物じみた強さだったのであろう。
事実、少年は父の前では言葉通りの子供扱い。
中々にユニークな性格であった父親の煽りを受けて、毎度毎度懲りずに敗北と挑戦を繰り返し続ける少年。
そして彼はそんな少年の練習相手として何度も付き合わされたのだった。

無論少年との実力差は明白。
彼は毎日の様に負けの日々を送りながらも、それは決して退屈する日々ではなかった。

969 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:02 [ sfiMxTnA ]
「ああ、そうだな――」
自信の勝利を告げた内藤に暫く無言の姿勢を保っていた通風が口を開く。
右手で刃を制し、立ち上がるとポケットに手を入れ軽く距離を取る。
軽く空を仰ぎ、視線を内藤へと戻すと言葉を続けた。

「……三撃。それがお前に放った俺の攻撃。そしてお前自身の弱体を露呈する結果だ」
何処か遠目に言い放つ。
勝負の結果だけを見れば通風の負けは揺るがぬものである。
実戦であれば彼の命は無へと消えていただろう。
それでも彼はその言葉を曲げるつもりなどない。
「どんな攻撃にも万が一という危険は存在する。故に撃たせる前に撃つ。お前は昔、俺にそう言ったよな?」
果たして、その言葉を語る彼の心中は如何なるものだろうか。
過去、自身が決して叶わぬ存在であり。
対等な友でありながらもその実力に尊敬の念さえも抱いた通風。
その彼が時を得、成長した彼にこうして昔を語る。
「幾らある程度の心得があろうとも、俺の片手剣の技術なんて本職の奴からして見れば騙しに過ぎねえ。俺の知っているお前なら最初の一撃さえも放てなかったよ」

そこまで言い、一呼吸の間。

そして再度問い掛ける。
「なあ、内藤。お前、何でそんなに弱くなっちまったんだ?」
先程とまったく同じ言葉を。
ただ違うとすれば、内藤の表情がこれまでになく真剣である事であろうか。
答えない内藤に通風が問いを続ける。
「お前って何時から利き手が逆になったんだ?」
ピクリと。
ほんの僅かな動作ではあったが確かに内藤の眉が動く。
それを通風は見逃さない。
「幾ら剣の技術に秀でていても、利き手じゃない腕を使えば当然実力は下がるよな。そんな事、誰だって分かる事だ。だけど、お前はあえて利き手とは逆の腕を使い続けている。そりゃあ何も知らねえ奴が見れば違和感なんて感じようがないさ。だけどな、俺はお前を知ってるんだよ。過去、その道の極みさえも見せてくれるのじゃないかと期待させたお前の姿を俺は知ってるんだよ」
最初は静かに語るように、しかしその声の音量は徐々に強みを増していく。
「再会してからの行動をみる限り特に不自由があるって訳でもない。それでも拘り続ける理由は何だ?お前自身の夢を遠回りさせてまでしなくてはならない事なのか!?」
彼は言葉の最後には叫んでいた。
それは強い想いと友の心配を気遣う彼なりの優しさも含んでいるのであろう。

内藤は固めた表情を崩して大きく嘆息した。
肩の力を抜くように、そしてそれは語る為の姿勢だと通風には理解出来た。

970 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:02 [ sfiMxTnA ]
「待ちんしゃい!!!」
突然の声に振り向く二人。
見ると何時から居たのかガル姫が此方に向かい歩いていた。
そして彼等の間――丁度中間地点――で足を止めると座り込む。
「その件についてはまずわしから話そう。その方が内藤どんの話にも繋げやすいじゃけん、宜しかろう?」
やや呆気に取られた内藤はそのまま首を縦に振る。
それを確認してガル姫は語り出した。


それは内藤との出会い。
ガル姫が始めて出会った時、内藤の右腕は赤く染まっていた。

一体何が原因かは分からない。
所々に裂傷が走り、それはまるで何かを描いている様にも見えたが、流れ吹き出る血にそんなものは些細な問題でしかない。
歯を食いしばり脂汗を掻く内藤に白魔道士としてガル姫は治癒を施した。
正直な所、その傷はとてもじゃないがガル姫程度の白魔法では手に負えるものではなく。
また、例え直ったとしても使い物にならなくなる事は必然であった。
しかし、そこで奇妙な事が起こったのだ。

治癒の追いつかぬ傷に流石のガル姫も諦めの姿勢が脳裏に微かに浮かんだ頃。
その腕は光を発し、自身の力で傷を塞いだのだ。
眼前に起こりながらも現実離れしたそれに驚き、結果として残ったのは傷一つなく元に戻った内藤の腕だけだった。


話を終えたガル姫の言葉に通風が表情を歪める。
「――で、結局それが何だってんだ?訳は分からねえが結局治ったんだろ?なら問題ねえじゃねえか」
思った事を言い放つ。
ガル姫は最後まで話を聞けと通風を制すと内藤が言葉を割り込ませた。
後は自分が話すと。

971 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:03 [ sfiMxTnA ]
「それじゃあ此処で一先ずお別れじゃのう」
背中一杯に大羊の毛皮と角を背負ったガル姫が内藤達にそう言い放つ。
別れの言葉を告げたガル姫の手には戦死より渡されたリンクパール。
それが一先ずの別れだと言う言葉の意味だった。

内藤達はジュノへと向かうが、ガル姫は羊の駆除を報告しにサンドリアへと向かう事を決めた。
別れの間際になってもガル姫は終始その豪快な性格のままであった所為かすんなりとした別れとなった。



話を終えた内藤の言葉に通風は深い溜息を吐いた。
それを信じてくれと言われても直には納得できるものではないのだろう。
だが、それを話した内藤の表情は真剣であり、言葉にも偽りを感じ取る事など出来なかった。
あえて言うならば彼に起こった事実を容認出来ないだけである。
手を組み、悩む通風に内藤は一言だけ放つ。

「例え遠回りしたとしても、俺は俺の夢を諦めない。だって俺様は俺様以外の何者でもないんだからな。俺が諦めない限り、ヴァナの勇者様になる運命は変わらないぜ」
笑いながらにそう答える内藤に思わず通風は噴出した。

それは今まで張っていた緊張が崩れたからか。
如何やら自分は彼について難しく考えすぎていたようだ。
内藤は内藤であり、それ以上でもそれ以下でもない。
今も変わらずに少年の頃の思いを持ち続けている姿は変わらないのだから。

972 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:03 [ sfiMxTnA ]
ジャグナーへの道を歩き始めた内藤が大きく欠伸をする。
「あら、眠そうね内藤」
様子を見て臼姫が話しかける。

「昨日はガル姫と通風が中々眠らせてくれなくて俺様寝不足」
狙ったのか天然か、とても誤解を招く内藤の言葉はそのままに臼姫達の表情を引きつらせた。
いや、この男の性格を考える限り前者であろう。
何気に昨日の事を根に持っているのか…。
器の小さい男め!

「…通風、趣味ってのは人それぞれの自由だが。なんだ、その…程ほどにな…」
内藤の言葉を真に受けたのか戦死が口を開く、その目線は明らかに遠目だ。
「ま、待て!!誤解だ。内藤この馬鹿!発言を言い直せ!!」
内藤の胸倉を掴んで大きく揺するも、眠い眠いとしか内藤は繰り返さず状況は悪化するのみ。
「これからは勝手に私に近づいたら容赦なく殴り飛ばすわよ」
「つ、通風ちん…。う、うちは負けないにゃ内藤ちん!!」
猫狩は既に訳の分からない言葉まで口走っている。
「だ〜か〜ら〜、チガウッツーの!!」
必死に否定の言葉をあげる通風の悲痛な叫びがラテーヌに木霊したのだった。

973 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/07(土) 17:05 [ sfiMxTnA ]
|w−`)<今回はあえて全てを語らず次の話へ。

最近は更新が遅いですがまったりと暇な時間にでも軽く目を通してもらえれば満足です。
それでは――。

1000まで後27レス…。

974 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 18:13 [ GQnH0LtI ]
sukatorositai

975 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 18:57 [ 60Xmt6QE ]
http://jbbs.livedoor.com/bbs/read.cgi/game/4042/1091872245/

僭越ながら新スレ立てさせて頂きました!!
宜しければ移動 お気に入りの変更お願いします。

976 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/07(土) 18:59 [ fHbF.PvU ]
乙!
内藤PTがだんだん形になってきてワクワクしますな。

ところで前から思ってたけど、場面の変化がわかりにくいっす。
具体的に言うと、回想シーンと現在のシーンの変化が。
基本的に、場面の変換に合わせてレス番もかえてますけど、

Aのシーンの前編 →次のレス→ Aのシーンの後半
Aのシーン →次のレス→ Bのシーン

も、同じように展開していくため、読み出しでその把握ができずに少ししてから
「あ、場面変わってたのか」と戸惑うことがままあります。

例えば元の内藤スレでよく見かけたみたいに、場面の変わり際には

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

を挟むとか、そう言うことをしてもらえると判りやすくなるんじゃないかなーと。

977 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/10(火) 17:56 [ k6MRi5u2 ]
>>976さん
なるほど。
確かにそうした方が分かり易いですね。

「現在文

■□■□
過去文
■□■□

現在文」
↑という具合に今後やっていこうと思います。

>>975さん
スレ立てありがとうございます応援団長殿w
このスレで、もう一話書いた後にそちらへ移動しますね。

978 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/10(火) 19:47 [ r6AiS1GU ]
新スレはなぜパート3なんですか?wwwwwww
ここがパート2?

979 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/11(水) 16:38 [ MlOy7Exk ]
978<<
ごめん神がまだ向こうの板に書いていた時の事を
パート1と考えてしまった・・・
ごめ・・・

980 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/11(水) 19:39 [ WtGtp99o ]
【wスレ】ルフェ湖【POLで会わないか?】
http://jbbs.livedoor.com/bbs/read.cgi/game/4042/1092219048/
w板でオフ会ならぬPOLチャットで夏厨を楽しむオン会が行われますwwww
きてねwwwwwwwwww

981 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/17(火) 12:49 [ sVHGkMO6 ]
現在、会社から書き込みなのですが…。
つい三日ほど前、私のパソコンがお亡くなりになられましたorz

給料が入るまでなんともならない為、今月の25日までは一切の更新が出来ません。
見に来てくれている皆様には大変申し訳ありませんが、それまでお待ちくださいorz

(パソコンを家族に使わせる時、メールの所だけは障らないように言っておこうと思った今日この頃…

982 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/17(火) 15:11 [ RYCiRSd2 ]
+]ノ <コテハンスレはカンストまで次スレ禁止w

どうせ給料入ったら買うつもりならカードで買えば?

983 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:22 [ a7z5Q6N6 ]
その銃口の先にあるのは何の変哲もない自然石。
大きさ的には自分より二周り程でかいであろうそれを、細目に見つめる青年の額にはうっすらと汗が滲んでいた。

青年は動かない。
狙いを定めた姿勢を取ってから、それなりの時間は経過しているようだ。
彼はほんの少しの迷いを脳裏に過ぎらせる。
指先を軽く動かすほんの一動作。
その後に起こる結果で、今までの自分の努力が実るか否かが決定するのだ。
もう一度と言う言葉はない。
一瞬が生死を分ける戦いにおいて、自分の意思で使えない力は余りにも頼りなく心許ないものなのだ。
だが慎重に慎重にと思えば思うほどに、彼は自分自身が作り出した心の泥沼へとその身を落としていく。

脳裏に宿った不吉な想いをかぶり振るように頭を動かす。
しかし、それで振り払える程容易な問題ではない。
そこで彼は思い浮かべる。
守りたい人の顔を、強くなりたいと決心した日の事を。
そしてLSの仲間達の事を…。

何故だかLSの仲間達が失敗した自分を馬鹿にする光景が浮かんできた。
先程までのシリアスな表情は崩れ、誰の目にも理解できる程に表情を歪ませている青年。
突然に握った拳を振り上げ、やってやると大声で叫んだのだった。

984 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:23 [ a7z5Q6N6 ]
肩から力が抜けたのを感じる。
沈む様な脱力感とは違い、緊張感から解放された何処か羽の生えた様な感覚。
先程まで悩んでいた自分をバカみたいだと思い、軽く嘲笑するとゆっくりと目を閉じた。

落ち着いた気持ちでありながらも、感覚が鋭敏となっている。
リラックスは完了した。
この後に及んで迷いなどは必要ない。
あるべきものは此処まで積み重ね、時間が培った自信と言う名の絶対的確信のみ。
自身が持つ力量を最大限に発揮出来れば、決してそれは不可能な事ではないのだから。

銃口に込められた弾丸に、強い意志を込めた力が宿るのを確信する。

そして。

バ〜ンッ!と軽く口ずさみ、彼はゆっくりとその引き金を弾いたのだった。

985 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:23 [ a7z5Q6N6 ]
パチパチパチ。
背中越しに聞こえる音に顔を振り向かせると、其処にはタルタル族の少女が拍手をしながら柔らかい笑みを自分に対して浮かべていた。
「おめでとうございます、廃狩さん」
肩位置に切り揃えられた綺麗な緑髪に、笑顔が似合う小柄なタルタルの少女はそう言って拍手を止める。
「どもッス〜。ていうか白樽ちゃん何時からいたんスか?」
「えっと…。廃狩さんが急に叫び出した所からです」
微妙に乾いた笑みの白樽に、廃狩は誤魔化す様に頭を掻きながら空いた左手を軽く挙げて近寄ったのだった。

彼女の名前は白樽。
その出会いは三ヶ月前。
廃狩が所属していた討伐LSミスたる〜の団長糞樽によって、ギデアスから助けられた白樽は如何やら糞樽に対して興味が沸いたらしく。
その団員であった廃狩と会話をする様になったのが事の始まり。
元より廃狩自身、話しやすい人間性であったのも良かったのだろう。
自分のLSの話題に興味の高い白樽と話すのは、彼としても面白いものであった。


暫く二人で話していると、背中越しに自分達を呼ぶ声が聞こえた。
その声に笑顔を向ける白樽と、対照的に苦い表情の廃狩。
ギギギと、錆びた金属を無理に動かす音が聞こえそうな動きで声の出所へと顔を動かす。
其処にはまだ幼さを残した容貌の、肩上で髪を切りそろえた茶毛のヒュームの少女が、此方に手を振りながら小走りに走って来ているのが見えた。
只一つ、その少女にある違和感を指摘するならば、少女の体格に不釣合いな背負った巨大ザルであろう。
無論その中には隙間などないほどにギッシリと、収穫したばかりであろう沢山の果実が収められている。
その量、大の大人が複数人掛りでやっと持てる様な物であろう。
しかし少女は白樽の横に着くと、背負った荷物をまるで小物でも扱うかのように軽々と下ろした。

「白樽ちゃん、廃狩君おはよ〜」
元気いっぱいの笑顔で右手を振りながらに挨拶をする少女。
「おはよう、モ姫ちゃん」
ポンと両手を合わせて、顔を右に倒して少女に負けない笑顔を返す白樽。
「おはよ〜って、もうとっくに昼過ぎてるッスよ」
「…むぅ、廃狩君、変な所で細かいね」
ムスッとした表情を作り、じと目に廃狩を睨む。
しかし直に白樽がフォローを入れて宥めると、すぐに元気一杯の笑顔へと戻ったのだった。

986 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:24 [ a7z5Q6N6 ]
「これでもう立派な狩人ですね、廃狩さん」
「まだまだ、これからッスよ。あくまで、やっと狩人としてのスタートラインに立ったとこッスからね」
銃の手入れをしながらに廃狩は答える。
謙遜的なセリフを言いながらも、褒められた事に嬉しがっているのは表情から容易に確認できる。
それを知ってかクスリと小さく笑う白樽だった。

先程まで廃狩の眼前に見据えられていた大岩は既に存在しない。
正確にはその原型を留めてないと言った方が正しいのであろう。
彼の放った、たった一発の弾丸。
しかし、彼の意思と想いを込めて放ったその一発は確かな威力を備えてその力を発言させる事に成功したのだ。

「これが狩人の極意であり、基本であるイーグルアイッスね!」
そう言って親指で鼻の頭を掻く廃狩の表情はとても明るいものである。
それは見ている者も気持ちよくさせてくれる爽やかな笑顔であり、また少年の面影を残したような元気な笑顔でもあった。

実際の所、彼がこうして笑う姿は一般的なもので決して珍しいものではない。
パッと見それは彼自身の性格が軽く見られがちだが、彼女達は知っている。
彼がそんな表情や気楽な言葉遣いをしつつも、濃厚な修練を積んでいた事を。
だからこそ、モ姫は深い意味もなくこんな言葉を発したのだった。

「もしかしたら、もう廃狩君の所属しているLSで一番強くなってるかもね」
その言葉を聞いて、廃狩は眉間に皺を寄せる。
それは怒っている様なそれとは違い、少し返答に困ったようなそんな顔。
廃狩は軽く溜息を吐くと、モ姫の方を向いて口を動かした。
「なんと言うか、確かに強くはなったと思うんスがそこまでの実感ないんスよね〜」
「如何して?」
頭にハテナマークを浮かべて答えるモ姫。
頬を掻きながらに廃狩は言葉を続ける。
「うちの団長が化け物みたいに強いからッスよ」
ハッキリと、少しの躊躇いもなく廃狩は答えた。

987 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:25 [ a7z5Q6N6 ]
「えっと、それって廃狩君が居たLSだよね?」
「そうッスよ」
「へぇ〜。あのタルタルの男の子ってそんなに強かったんだ。…廃狩君よりも強いの?」
少し覗き込むような姿勢を取ってそう質問すると。
「アンポンタン」
そう答えた廃狩はモ姫の眉間に軽くチョップを加えた。

「ひ、酷い!白樽ちゃん、廃狩君が苛めるよ〜」
大げさに額を押さえて涙目で白樽に泣きつくモ姫であったが、白樽が優しく額を撫でて声をかけると直に元の笑顔に戻った。
相変わらず単純な奴だと廃狩は思いながらに地面へと腰を落とす。
それは次に来る質問が、彼には何となく予想が出来たからだ。

「じゃあさ、どれ位強いの?その団長さんて」
ほら来たと、心の中で苦笑しつつも質問に受け答えをする。

「どれ位って…、さっきも言った通り殆ど化け物ッスよ。とてもじゃないッスけど俺じゃ勝てる気がしないッスね」
「むう、分かりづらい…。もっと具体的に〜」
「具体的…ッスか。そうッスね、言うなれば団長の場合魔道士として特殊なんじゃないッスかね」
「特殊?」
「そう特殊ッス。魔道士は魔法を使うために自分の中にある魔力を使うって事位は知ってるッスよね?」
「な、なんとなく…」
「一応私は白魔道士見習いですから分かります」
「良し良し、理解の良い子達で先生は嬉しいッスよ」
「むぅ〜。ちょっとだけ馬鹿にされてる気がする…」
「アハハハ…」
「その魔力の部分が団長の強さの秘密だと思うんスよ」
親指を立てて力説する廃狩。
「ご存知の通り、魔力が無ければ魔法は撃てなくなるッス。だから魔道士は自分の限りある魔力と上手く相談しながら魔法を使う訳ッスね」
「団長の場合、その節約が一切ないんスよね」
「…ごめん、廃狩君。私、意味が分からなくなって来たよ…」
「つまり、廃狩さんは糞樽さんの魔力が有限ではなく、無限にある様に感じている訳ですか?」
「そう!それッス!!流石白樽ちゃん。どっかの身体だけ成熟した怪力女とは大違いッスね」
「くすん…」
「今まで見てきた限りだと団長の魔力が枯渇した場面が一度もないんスよね。あんだけ強力な魔法を持て余す事なく使い続けてるのに――」
「昔話とかではありますよね。持った人に特別な力を与えるアイテムとか?糞樽さんもそういった物をお持ちじゃないのでしょうか?」
そう言った可能性が一番高いのであろう。
しかし廃狩は、糞樽がそう言った物を所持している所を見た事もなく。
記憶を掘り返しても、使っている様な様子も見た事ない為か結局は天才の一言で片付ける事にしたのであった。

988 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:26 [ a7z5Q6N6 ]
空がオレンジに染まる夕時。
彼等の話は今では初期の内容とはうって変わり、日常での些細なできごとなどを語る座談会になっていた。

ある程度話の区切りがついた所で廃狩はゆっくりと立ち上がる。
日も暮れるのにそう時間は無い。
このまま話を続けるのも楽しいものではあるが、限度というものを忘れてはならない。
白樽とモ姫もそれを理解してか立ち上がった。

「あ、そうだ。忘れる所だったよ」
別れ際、不意にモ姫が声をあげる。
その言葉に白樽も思い出したと言った表情をした。

二人して互いにアイコンタクトを取り、一人意味の分からない廃狩はただ見つめるだけしか出来ないでいる。
どうも仲間はずれにされている様な感覚を不服に思い、声をかけようとした所で先に白樽の口が開いた。
その内容は。

「実は私達、冒険者として登録して来たんです」
「へぇ〜、そうなんスか。って事は俺の後輩になるって事ッスね」
二人して頷くと、なにやら含みを持った笑みを浮かべていた。
「…あ、なんか嫌な予感…」
細めに怪訝そうな表情を浮かべる廃狩。
彼の予想はものの見事に当たる事になるのであった。

989 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:27 [ a7z5Q6N6 ]
「それじゃあ行くッスよ?準備は出来たッスか」
装備を整え、チョコボに荷物を載せた廃狩が背後にいる二人の少女へと声をかける。
「はい、大丈夫です」
「こっちもオッケーだよ」
元気良く答えた二人の少女は白樽とモ姫。

昨日、白樽達から聞いた話。
そして彼女達からの頼み事。
それは冒険者の後輩として、先輩である廃狩の旅路に便乗する事。

「女の子二人のお守りってのはちょっと悲しいッスね」
最初は断ろうとしたが、なぜか静かな迫力を持った白樽に押し切られて現在に至る廃狩はチョコボに頭を押し付けて少しブルーになっていた。
「ほらほら廃狩君、男の子何だからそんな暗い表情せずに頑張る頑張る!」
背中を軽く叩いて渇を入れるモ姫。
「うう、大体モ姫の場合俺の手助けなんかいらないと思うッスよ」
「あう、それはとっても酷い言葉だよ」
「廃狩さん、此方は準備できました。何時でも出発出来ますよ」
白樽がチョコボに跨り笑顔。
廃狩は思う。
確かに少々面倒事が増えたのかもしれないが、一人で旅するよりも複数で旅をした方が楽しい筈だと。
強引にそう思う事で自分を無理矢理納得させると、自身の頬を勢い良く叩く。
パチンと気持ちの良い音が響いた後、廃狩の表情は彼らしいそれであった。
「おっしゃー!それじゃあ行くッス。二人ともしっかりと先輩である俺について来るッスよ!」
『はい!』
元気の良い掛け声と共にチョコボが走る。
ウィンダスを離れ、ジュノへと――自身のLSが居る場所を目指す為に――。

990 名前: |w・`) (BP6EcrOQ) 投稿日: 2004/08/26(木) 01:31 [ a7z5Q6N6 ]
こっちのスレでは最後の更新でしょうか。

新しいパソコンは喜ぶものですが、書き留めていたネタのストックとシナリオ構成が飛んだのはかなり苦しいです。

今後、話の微妙な食い違いなどが出てくるかはもしれませんが今後ともよろしくお願いします。

991 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 10:43 [ Xf/nCbn6 ]
GJ!!!!!!!
田舎に行く寸前に読めてよかったぜぇー!!!!!Thxリメ様!!!!
こっちのモ姫は餡子とどう絡むのかハゲシック期w待wしwてwるwぜwーw!!!!!!

992 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/26(木) 17:26 [ oazKHON2 ]
神登場!!!!wwwwwwwwwwww
俺はこんなに25日の給料日を長く感じた事はないぞwwwwwww

993 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/29(日) 00:31 [ Vqed9rN2 ]
乙wwwwwwwwww
廃狩、モ姫といい雰囲気か?wwwwwwwwwww

そんじゃ、こっちは埋めて新スレに移行?wwwwwwwwwww

994 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/29(日) 17:12 [ 9cpr2/O2 ]
んじゃwwwww
うめうめうめうめうめうめうめうめwwwwwwwwwwww

廃狩とモ姫と真黒の三角関係も気になるぜぇぇぇぇぇぇぇぇwwwwww

995 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/29(日) 17:54 [ Vqed9rN2 ]
うめ。

三角関係と言うよりwwwwwwwwwwwwww

糞樽 ← 真黒 ← 廃狩 ← モ姫 ← 餡子 ← ヴァナの野郎ども(含む糞樽)

の食物連鎖が成立s(ry

996 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/29(日) 21:21 [ kqwOBj/A ]
食物連鎖にワロタw

997 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/30(月) 00:37 [ XYD/KaKM ]
うめ。

998 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/30(月) 00:38 [ XYD/KaKM ]
うめめw

999 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/30(月) 00:38 [ XYD/KaKM ]
うめめめめめwwwwwwwwwwwwwwwwwww

↓1000ゲットどぞ。

1000 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/30(月) 02:04 [ 4cldN7l2 ]
1000ゲト??www
ついでに次スレどこよwwww

1001 名前: (パーティメンバーがいません) 投稿日: 2004/08/30(月) 14:57 [ vT4jMlOc ]
http://jbbs.livedoor.com/bbs/read.cgi/game/4042/1091872245/

次スレ

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