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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト1部門〜

1名無しの勇者:2002/10/18(金) 20:15
DQ1の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

2崩壊の序曲1:2003/05/07(水) 23:22
 力任せに横薙ぎに払った剣に、魔物の体が真っ二つに裂ける。
 絶叫と共に転がった魔物の、それでもまだ生きて蠢く様子に驚きながら、勇者は地面を転がる魔物の頭部に剣を突き立てた。
 脳漿が飛び散り、勇者の頬にかかる。最後の一匹であるはずの魔物の絶命を確認し、それでも緊張した面持ちで周囲の気配を探った勇者は、あれほど集まっていた魔物の気配がそこから消えている事実を確認して、ようやく肩から力を抜いた。
「やっと終わった……」
 魔物にも自分のテリトリーというモノがあるのか、滅多なことで団体では襲ってこない。それでも、旅を始めてから数度、今日のように魔物の群れに襲われることがあった。
 まだ旅慣れなかった、力と魔力の配分を知らなかった頃は、魔物の群れと遭遇することが勇者にとって『死』を意味することだった。多くの魔物の気配に気付いて、慌ててその場を逃げ出すこともあった。
 もちろん、今とて余裕というわけではない。あまりに多ければ死ぬこともあるし、死ななくても瀕死の重傷を負うことはある。それでもその回数は、戦いを重ねるごとに減っていくのだ。
 そして何より。
 どれほど死んでも『蘇る』という事実に、感覚が麻痺しているのも事実。
「……これなら薬草の方がいいか」
 魔法は最後の手段として残しておく。旅の中でまず憶えたそれを遵守して、勇者は先ほどの戦闘で放り投げてしまった荷物袋へと近付いた。
 そして。
「あー……」
 先ほど自分が斬り殺した魔物の、下半身から溢れ出た体液と汚物で汚れた荷物袋を発見して、勇者はなんとも形容しがたい声を上げてしまった。
 いくら荷物袋は耐水仕様だからと言っても、こんな汚いモノを担いで旅はしたくない。自分の今の格好を考えれば、何を今更だと言われそうだったが、体液だけと汚物を含む、では明らかに対象が違いすぎるし、何よりそんなことを突っ込むような人間など、一人もいるはずがない。
 それでも、他人が見ているわけがないのにそれを触ることに躊躇して、汚れてない部分をようよう持って、勇者は深々とため息をついた。
「確かこのあたりに、泉があったような……」
 これだけ仲間――魔物に仲間意識というモノがあるのならば、だが――が殺されているのだ。今日はもう襲ってはこないだろう。
 そんな薄っぺらい期待をしながら、勇者は荷物袋から出した地図を広げてもう一度ため息をついた。
「毒の沼地にだけはなってないといいな……」

3崩壊の序曲2:2003/05/12(月) 21:53
 月の光を反射し、水面が輝いている。
「う……わ、すご……」
 魔物が多く潜む森でありながら澄んだ水を湛える泉に、勇者は思わず感嘆の声を上げていた。
 ここが魔物の徘徊する森であることを思えば、もはやこれは奇跡に近い。だからこそ罠である可能性を捨てきれず、一転して表情を険しくした勇者は、剣の柄に手をかけたまま泉へと近付いた。
「…………」
 待てども待てども魔物の気配など無く、時折吹く風に月光を照らす湖面がさざめくばかり。慎重に慎重を重ねて周辺の気を探っていた勇者だったが、やがて安堵の息と共に肩から力を抜いた。
「……。こっちもすごいな……」
 剣から手を離して水面を覗き込む。そこに映った自分の姿に、勇者は思わず苦笑を漏らした。
 魔物の体液に汚れた全身。滅多に街の外に出ることのない人々が見たら、間違いなく魔物と間違われるだろう、その姿。
 それが、この森に入ってから続いた戦闘が原因であることは分かっているが、もしここに泉がなかったらどうなっていたのだろうか、とある意味くだらないことを考えて身震いする。
 魔物よりも魔物に見える、返り血に染まった鎧に身を包んだ者を、誰が街に入れたいと思うだろうか。
 門番などが理解力のある人間ならば良いのだが、時々居る『勘違い人間』に剣を向けられたことは、実は一度や二度ではない。
 目の前に街があるのに野宿を余儀なくされた瞬間を思い出し、勇者は勢いよく兜を脱いだ。
「決めた!」 
 こんなところで鎧を脱ぐことがどれほど危険なことかぐらい、誰に言われずとも自身が一番よく知っている。
 それでも、この格好で知らない街に辿り着いたとき、その街の門番が『馬鹿』で無い保証は無いのだ。
「確か、荷物の中に……」
 異臭を放つ荷物袋を開けて、中から小瓶を取り出す。それを自分の周辺に振りかけ、ついでに湖に流せば、瞬間的に彼の周辺は光に包まれた。
「これでよし、と」
 聖水による、簡易結界。魔物の襲来を押さえてくれるアイテムは、ある程度力に差が出てきた場所では特に使用頻度が高い。
 もう少し経てばこれと同じ力を持つ魔法を憶えられるだろう、と教会で告げられたことを思い出して、勇者は空になった小瓶を指先で振った。
「あと少しだけ力を借りるよ」
 警戒に警戒を重ねての行為にようやく満足して、今度こそ鎧を脱ぐ。鎧の下に来ていた布の服も脱ごうと手をかけ、そのままじっと布の服を見下ろした。
「……ついでだし。このまま洗うか」
 火打ち石と焚き付け用の脂を取り出し、先に火を熾しておく。そう簡単に消えそうもないことを確認して、勇者は泉に飛び込んだ。
「っ!」
 冷たい水が、全身を包み込む。体の心まで染み渡るその冷たさに体を震わせたのは一瞬で、久しぶりの水浴びに勇者は自然と顔を綻ばせたのだった。

4崩壊の序曲3:2003/09/21(日) 23:11
 小一時間たった頃、勇者は泉から地面へ上がった。
冷えないように、先ほど灯した火の傍により、服を乾かすため布の服に手をかけた。
 泉に入る前に撒いた聖水の効果は未だに続いている。
 大丈夫だ、襲われる事はない。そう自分に言い聞かすと、上着を脱いで下着を下ろした。
 だいぶ旅を続けてきた成果であろう、胸の筋肉は引き締まり、足の筋肉は逞しく膨らんでいる。
「もう少し欲しいよな。」
 そうつぶやいて、着ていた服を火の傍に置いた。
 荷物袋を泉に入れて洗い、魔物の体液を落とす。本来こんな事はしたくないのだが、汚いまま冒険するのは勇者の良心を痛めた。
 荷物袋を火の傍において、服とともに乾かす。
 聖水の効果が切れる前に乾くだろうか、勇者は少し焦ったが、まだ荷物袋には聖水が入っている。切れそうになったら、新しい聖水を撒けばよいのだ。
「あとは、食い物だな。」
 荷物袋が体液で汚れてしまったため、中の食べ物が駄目になってしまったのだ。
 聖水の効果が切れていないのを確認し、たいまつに火を灯すと森の中に入っていった。
「お、これも食える。こっちのもそうだ。」
 裸で食料を集める姿も恥ずかしいものであったが、ここは森である。誰も来る事がない。
 意外にも森の中には食べられる物が多かったようだ。勇者は嬉々として食べ物を集めた。
「よし、これくらいでいいか。」
 手にいっぱいの食料を抱えて、ふと自分の周囲を見渡す。
 荷物袋のおいてあるところの火は随分遠いところにあるのが分かった。
「よし、あそこか。えっと聖水の効力は……。」
 足元を見ると、聖水の光が急速にしぼんでいった。
「うわっ!急がなきゃ。」
 勇者は急いで荷物袋のもとへ駆けた。
 しかし、あと少しで荷物袋というところで聖水の光が消えてしまった。
「あ、聖水を!」
 食料を置いて、勇者は荷物袋に飛びつき、中から聖水を取り出そうとした。
 しかし、真後ろに出現した謎のゲートより伸びてきた腕によって勇者は後ろに引っ張られた。
「うわっ!何だおまえ!?」
 後ろに引っ張られたおかげで、聖水を落としてしまったのだ。
 急いで手を伸ばし聖水をとろうとするが、ゲートの腕によりふさがれた。
『ケッケッケ、させないよぉ。そんなことをされると、オイラ消えちゃうからね。』
 ゲートより声がする。ゲートの主は勇者を仰向けに倒すと、呪文を唱えた。
 頭の上で組んだ手首に枷をはめた。
「ほ、ほどけっ!」
『駄目だね〜。オイラ、今日はお前で遊ぶって決めたんだから。』
 ゲートの主は陽気な声で答えた。
 勇者の顔が恐怖により引きつった。

5崩壊の序曲4:2003/09/22(月) 00:18
『さ〜て、どこから行こうかなぁ〜。』
 足にも枷をはめ、身動きの取れなくなった勇者を見て魔物は嬉しそうに言う。
『ここどうかなぁ〜。』
 そういうと、勇者の胸の乳首にふれた。
「あっ……ふぁっ……!」
『お、なかなかいい反応。』
 乳首を親指で揉んだ。
「あん……やぁっ!」
 柔らかい快感が勇者のからだを襲う。
『へ〜、こんなに感じちゃってるよ。意外にも淫らなんだな〜。』
「感じてなんか……あんっ!……ああ……。」
『ウソばっかし、ここなんかこんなに起ってる。』
 魔物は手を伸ばし、既に勃起している勇者のペニスを握った。
「触らない……で、やだぁ……。」
『勇者のくせに皮被ってるなんて、たいした事ないな〜。可愛い♪』
 勇者のペニスは勃起していても10㎝に満たなかったのだ。
「うるさい…………だま……れ。」
『いいのかな〜?反抗しても。』
 そういうと魔物は、勇者のペニスを覆っている皮を下に向って少し下ろした。
「ぎゃあああ!」
『反抗するとこうなるよ?真性包茎勇者君?』
「ご、ごめんなさ…い。おとなしくします……。」
『そう、抵抗しないほうが吉だよ。』
 魔物は勇者の皮を戻した。
『乳首触るだけで勃起しちゃうし、ペニスは大きくないし、真性包茎だし。君ってH初めてでしょ?』
「………………。」
 勇者は頬を赤らめるだけで返事をしようとしない。魔物はそんな勇者に怒りを覚え、皮をいっそう下に下げた。
「わあぁぁぁあ!んっぐぁ!!ぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああ!!!」
『話さないなら、無理矢理話させるまでさ!』
 魔物は呪文を唱えると、勇者の額に指を当てた。
「僕……はH……は初めてです……。いままで……オ……ナニーした……事もありま……せん……。」
 勝手に口がしゃべりだした。
『ふぅん、初めからそういえばよかったんだ。にしても、オナニーすらしていないなんてね。』
 すると、魔物は勇者のペニスを擦り上げた。
「ひ!?ひゃああぁぁう!」
『これがオナニーだよ。わかる?すぐに気持ちよくしてあげるよ。』
 ペニスに絡みついた指は時に激しく、時にゆっくりと勇者を弄ぶ。
「うっやっだ……ぁぁあぁん……ふっぅっぇ……もっあっぁぁっぁあああん!!」
『ドクン!!ドクン!!』
 勇者のペニスから大量の精液が放出され、下に落ちる。
 うっぁ……っやっぁぁぁ……」
 少しだけ指の動きが遅くなる。
 しかし勇者は射精の余韻に浸る間もなく、
 指は勇者のペニスをうごき快感を与える。
「!!もっやっ……むっぁ……いっゆあぁ……いやぁ……ふっぅ」
 ペニスは放出された精液と、指でさらなる快感を勇者に与える。
「うっや……もっぅ……だ……めっぁっふ……」
 だんだんと勇者の身体から力が抜けてしまう。
『ふふ、初めてにしてはなかなかいい反応じゃないか。』
 魔物は呪文を唱え、勇者のアナルに指を当てた。
「!!んっぁあああああああぁあっぁあん!」
『その触手は朝になるまで消えないから。楽しかったよ、じゃあね〜♪』
 そういい残すと魔物は姿を消した。
「やぁぁっぁっぁ!!っふっぁ!!あっ!!っやだっあ……うっぁっぁ!!」
 触手はアナルの中で動き回りつづけ、液体を放出させる。
「あっっふっぁ!!ぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁあああ!!っくああん!!」
 勇者は全身を引くつかせながら喘ぎ声を上げつづける。
 再び射精感が勇者の全身に走った時、
 別の触手が勇者のペニスにまとわりつき、強く縛りつける。
 勇者は全身をひくつかせ、時に口の近くにくる触手を愛撫するように舐ていた。
 アナルには触手が入り動きを止めようとせず、ひたすら液を放出しつづける。
「あっんっぁ!!っふっぅえ!!もっぁ……ぅっっぁっやっぁぁん!!ふっぁぁっぁぁっぁああぁあっぁあっぁあぁっぁぁぁぁあ!!!!」
 ペニスについた触手が離れ、一気に勇者のペニスから精液が放出される。
『ドクッ!!ドクッ!!!!』
 その瞬間に別の触手が勇者のペニスを包み込み、一気に吸い上げる。
「!!っやぁっぁあぁぁあぁぁぁっぁぁあぁぁぁっぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁ!!!!」
 溜められた精液がドンドン吸い上げられていく。
 勇者は射精感を促進され、
 今までに感じたことのない快感にただただ大きな声で喘ぎ声をあげる。
「うっぁぁあ……うっぁ……」
 射精が終わってもなお触手は勇者のペニスを吸い続けた。
 身体はひたすら引くつき続け、口からは喘ぎ声と涎を出し続ける。
「うああ……んっぁ……ふああぁぁぁ……うっぁん……くっふん……」
 触手もまた勇者のペニスに残っている全ての精液を吸い出すかのように……。

6名無しの勇者:2004/09/18(土) 03:48
すみません、何の脈絡もありませんが竜王×勇者カプ小説を投下します。
何だか色々と設定を無視したお話ですので、苦手な方はスルー願います。
ちなみに勇者は普段から旅に慣れているという設定で、
レベルは旅立ちの時点で既に20を超えてます(ベギラマ習得後)

一応DQ2スレの>>107-118に投下した話と連動していますので
もし興味を持って頂けたら、そちらにも目を通して頂けると嬉しいです。


では、以下7レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

7竜王×勇者【1】:2004/09/18(土) 03:49
 その視線は、いつしか自分にまとわりついていた。

 はじめはラダトームによる監視の<目>だと思っていた。幾ら自分が、何百年も前に
ここアレフガルドの地に朝をもたらした伝説の勇者ロトの子孫だとはいえ、それを証明
するものは自宅の蔵にしまってある家系図と古びた兜が一つだけだ。大体その兜だって
ロトが旅先で立ち寄った村の子供達から「父親の形見だ」と言って渡された程度の代物
であって、(ロトにしてみれば感慨深いものであったに違いないが)自分には何の関係
もない。しかしラダトームの国王ラルス十六世は、城の謁見の間に飾られているロトの
肖像画を見て、その兜が彼の子孫に代々受け継がれたものであるということを承知して
いた。でなければ、自分のような名もなき者に『竜王を倒す』などという無謀な使命を
与えることはなかっただろう。だが、王が承知しても周りが信用するかといったらそう
ではない。
 ラダトームを発った後、ひとまずガライの町を目指して五日間歩き続けたが、その間
ずっと追跡されていることは知っていた。信用されていないのは別に構わないのだが、
旅慣れている自分とは違い、追ってくる側は城の警備以外では素人も同然だ。休憩した
後で彼らは痕跡──焚き火の跡や食べ物の滓──をしっかり残していく。それでは魔物
どもに自分達の居場所を懇切丁寧に教えてやっているようなものだ。案の定、魔の気配
は段々と追われる自分にも近づいて来るようだった。
 そして、町の手前の山岳地帯で魔法使いの集団に襲われた。ラダトーム派遣の追っ手
の迂闊さにはいい加減腹が立っていたので、使うまでもないベギラマを魔物にお見舞い
してやった。灼け焦げた魔法使いの死骸の向こうに兵士たちが青ざめた顔で立ち尽くし
ていたが、気にすることはない。兵士らを無視してさっさと山を降りた。追っ手はもう
付いて来なかった。
 だが、<視線>はその後も付いて来た。マイラ地方を旅している時も、沼地の洞窟を
抜けてリムルダール方面に出た時も、その<目>は何かを通して、自分のことをずっと
視ていた。人のものによる力ではない……自分も呪文を扱う側なのでそういうことには
敏感だ。リムルダール北西の湖の脇で一晩休憩した時にはもっとも強い視線を感じた。
何をするでもない、ただこちらを<視て>いるだけ。あまりの気味の悪さに、その夜は
少しも寝付けなかった。太い木の幹に背を預けて遠くを見やる。そびえる岩山の向こう
に城の尖塔が見えた。視線はそこからだ、と直感が告げていた。

8竜王×勇者【2】:2004/09/18(土) 03:50
 リムルダールで太陽の石の噂を聞き、確認がてら御上に旅の経過の報告をするために
ラダトームへと一旦戻った。王に口上を述べる傍ら、謁見の間の隅にさっと目を遣ると
あの時の兵士の姿があった。退席する際に目が合ったので取り敢えず笑顔で会釈したら
思いきり視線を外されてしまった。あのベギラマの閃光で、少々脅かし過ぎてしまった
らしい。内心苦笑しながら太陽の石の話を聞くとぶっきらぼうな返事と共に城の地下室
へと案内してくれた。そこで老人と話をして、太陽の石を授かった。あとはガライの町
の奥、ガライの墓で手に入れた銀の竪琴を雨雲の杖と交換して、メルキド地方にあると
いうロトの印(兜なんかよりもこういうものを家に伝えて欲しかった)を手に入れたら
竜王の棲まう島へと渡ることができるらしい。ようやく旅が前進した気がした。しかし
果たして、自分に竜王など倒すことが出来るのだろうか。対岸にそそり立つ大きな城を
ぼんやりと眺めて考えたが、こればかりはやってみないと判らない。

 ガライの町でドムドーラに関する不吉な噂を耳にしたことを思い出し、確かめに行く
ことにした。ラダトームからドムドーラへと行くには幾重にも連なる山々を大きく迂回
しなければならない。途中、岩山の洞窟で戦士の指輪とやらを拾ったので剣を握るのに
邪魔にならない左の人差し指に嵌めてみた。何の効果もないようだった。町に着いたら
売ってしまおう……指輪には大した値打ちもなさそうだったが、少しでも路銀の足しに
なればいい。
 何やら特別な『門番』が居るという噂がある城塞都市メルキドと違って、ドムドーラ
はのどかな町だと聞いた。牧畜が盛んで、付近から生産品を買いに来る客も多く、それ
なりに栄えた町であるという話だ。だが近年は魔の影に脅かされていたらしい。竜王を
恐れるあまり、自分が住んでいる村や町を離れてわざわざ他の集落を視察しに行く者が
居るはずもなく、ドムドーラのそれも単なる噂でしかなかったが……しかし、こういう
時代に小さな町が無事に残っている可能性は低いように思われた。
 砂漠を越えてようやくドムドーラの町に辿り着いた。
 正確には、町『だった』場所に着いた。……やはりドムドーラの町は跡形もなく破壊
され尽くしていた。町をぐるりと囲うように建てられた壁面は内からも外からも炎で焼
かれた形跡があり、既に黄砂に吹き晒され朽ち果てていた。町の中に足を踏み入れると
うっすらと残る死臭のようなものが鼻についた。町が何年前に襲われたのか知らないが
亡くなった町の人々を弔う者もおらず、土に埋められることのなかった遺体は時間と共
に風化してしまったようだった。精霊神ルビスの御名において、どうか人々の魂に救済
がありますように──。目を閉じて儀礼どおり片手を胸に当てて祈りを捧げた。
「!!」
 その時、誰かに見られているような気がしてはっと周りを見回した。人影は見当たら
なかったが、用心するに越したことはない。剣を握る手に力を込める。町の様子をもう
少し詳しく知るためにも中を歩いてみることにした。

9竜王×勇者【3】:2004/09/18(土) 03:51
 町は殆どが原形を留めないほどに破壊されていた。真っ黒に焦げた盾や鎧が散乱して
いる場所……ここは防具を売る店だったのだろう。その隣の建物には、朽ちたベッドの
残骸。疲れた旅人が立ち寄り、体と心を休める宿屋だった場所だ。
 町の中心から東へ行ったところで突如、悪魔の騎士が襲いかかってきた。視線の主は
こいつだったか。思わず舌打ちをした。ラリホーで眠らされて厄介なことになる前に、
素早くマホトーンを唱えて相手の呪文を封じる。あとは、打撃を避けながら着実に体力
を奪えばいい。力任せに斧を振り下ろしてくる魔物の攻撃に耐えながら懸命に戦った。
そして、時間は掛かったがとうとう相手の息の根を止めた。こちらも流石に無傷とまで
は行かず、それなりの痛手を被ったので、傷を回復させようと側にあった大樹の許に腰
を下ろした。
 ベホイミを唱えて傷が癒えていくのを待つ間、視界の端にぼんやりと光る鎧を見付け
たので、手を伸ばして触ってみた。何か特別な魔力を帯びているような感じがするが、
呪詛の類は感じられない。
 どこかで見たことがあると思ったら、大昔にロトが身に付けていたと言われている鎧
ではないか。先日、ラダトーム城の謁見の間で目にしたばかりの勇者の肖像画を思い出
して、何て自分はロトと因縁が深いのだろうと思った。この分だとロトの剣はこれより
もっと入手が困難な場所に置いてあるに違いない。面倒なことになったな、と呟きなが
らもこのまま置いていくのも忍びないので、今まで着ていた鎧を脱いでロトの鎧を身に
付けてみた。不思議なことに鎧は誂えたかのように自分の体に合った大きさで、着心地
も見た目からは到底考えられないほど快適なものだった。そこで立ち上がって、腕を挙
げてみたり上半身を捻ってみたりと色々試してみたが、これはかなり動きやすい範疇に
入る。世の中には凄腕の鍛冶職人が居たものだ。
 日が暮れてきたので今日はこの廃墟の町で一夜を明かすことを決めた。明日の朝早く
に発てば、うまく行けば一週間後にはメルキドに入れる。夜露を凌げる場所があるかと
町の中をうろうろと徘徊し──その時に形ばかりではあるが、魔除けと死者への弔いの
意味も込めてトヘロスの呪文を各家に掛けて廻った──結局、元『宿屋』だった場所に
腰を落ち着けた。そこで携帯用の干肉と薬湯で僅かばかりの食事を摂り、体が温まった
ところでその日は早目に床に就いた。

10竜王×勇者【4】:2004/09/18(土) 03:52
 ところが、夜中に人の気配を感じて目が覚めた。
 食事の際におこした火は消してあり、明かりといえば天上で煌々と輝いている上弦の
月の光だけだ。それゆえはっきりと姿は捉えられないが、確かに自分以外の誰かがこの
町の中に居る。まさか昼間戦った悪魔の騎士が蘇ったんじゃないだろうな、と嫌な想像
をしたがそれにしては甲冑の擦れ合う音が聞こえない。壁に立て掛けておいた剣を手元
にそっと引き寄せ、外套にくるまったまま息を潜めて相手の出方を待った。相手はもし
かすると敵ではないかもしれないし、或いは──やはり敵かもしれない。そんなことを
思っていたら、大きく開いた壁の隙間にさっと影が差した。
 それは、頭の上から外套を目深に被った男だった。男? 何故顔も見えないのに相手
の性別が判るのだ? 種を明かせば、外套の奥で金色の目が光ったからだ。闇夜に光る
金の目。こんな物騒な目をしているのは竜族以外の何者でもない。実際に見たことは今
まで一度もないが、文献で読んで知っている。竜族はその殆どが雄体で、ほんの一握り
しか存在しない雌は巣の中で子育てをして、その一生を終えるという。だからこうして
外を出歩くのは、竜族の男以外には居ないという訳だ。そして、竜と人とが忠誠で結ば
れていた時代ではない今、竜族といえば竜王の配下に間違いなかった。
 男はこちらの存在に気付いているのかいないのか、宿屋の中をぐるっと見回すと建物
内部に足を踏み入れてきた。
(まずい)
 寝る時に邪魔だからとロトの鎧を脱いで足元に置いておき、上から布を掛けておいた
のだがいつの間にか布がずれ、鎧の肩当て部分がほんの少し顔を出している。だからと
いって、直そうにも身動きが取れないのでそのまま固唾を飲んで見守っていたら、男が
静かに歩み寄って来た。
「お前が悪魔の騎士を倒したのだな」
 いきなり話しかけられて一瞬、間が空いた。だがそこに居ることがばれている以上、
だんまりを決め込む訳にもいかず、仕方なく返事を返した。
「…………そうだ」
「奴は手強かったか?」
 まぁそれなりに、と答えると男は笑ったようだった。そして自分の足元に目を向ける
とロトの鎧に手を伸ばしてそれに触れようとしたので、外套から顔を出して、
「触るな」
 と強い語調で言った。男が手を止めてこちらを見た。金色と目が合った。
「これはお前の物か?」
「厳密に言えば俺の物ではないが、拾った以上は俺の物だ」
 何だか子供の言い分みたいだったが所有権は一応、主張してみてもいいだろう。例え
男が自分を殺して鎧を奪い取る気だとしでも、このまま易々と奪われるつもりはない。
「そうか」
 男が息を吐くように呟いた。「お前が……ロトの子孫」

 その瞬間、外套を纏った男から見えない力が放たれたような気がした。

11竜王×勇者【5】:2004/09/18(土) 03:52
 男の放った<気>に正直、戦慄を覚えた。
 殺意だとか、そんな可愛い代物ではない。圧倒的に勝る力。自分などはこの男の手に
掛かれば一溜まりもないだろう。まともに戦って勝利できる相手ではない。旅に出ては
じめて恐怖に身が震えた。大の男が恥ずかしいなどと考える余裕もなかった。
「震えているのか」
 喉を鳴らして男は笑った。そして外套を頭から退けると月光の下でその姿を晒した。
角のようにも見える頭の形が、やはり男を人外の者だと伝えていた。
「お前をずっと見ていたんだ」
 男の言葉が夢の中の出来事のようにふわふわと聞こえた。
「何日も、何日も」
 囁くような声。
 男がまた笑った。気が付くと男は自分の横に座ってこちらを見下ろしていた。
「あんたの……仕業だったのか」
 男の言葉に思い当たる節があった。例の<視線>のことだ。掠れた声で呟くと、男が
ほうと言って口の端を上げた。
「気が付いていたのか。流石だと言うべきか?」
「いつも、見られてて……かなり気分悪かったんだけど」
 一旦、口を開いたら多少楽になったのでついでに本音をぶちまけた。そうしたら男が
ぐいと身を乗り出して来たので、やっぱり言うんじゃなかったと後悔した。
「お前の心を覗いていたからな。決して気分のよいものではないと思うが」
 だがもう慣れただろう?
 そう言って男は、横たわる自分の脇に両手を付いてこちらの目を覗き込んできた。
「あんた……何やってんの」
「お前を見ている」
「それは判ってる。……もしかして、人間が珍しい?」
「珍しくはないが、我を目前にして逃げ出さない人間をはじめて見た」
「……。この状態から逃げ出せる奴が居たら見てみたいよ」
 呆れた口調で言うと、男はそれもそうだなと納得した様子で呟いた。
「わざわざ俺を殺しに来たのか?」
「この町を任せていた悪魔の騎士の気配がぶつりと途切れたので様子を見に来た。そう
したらお前が居た」
 男の言葉に思わず溜息が出た。こんなことならいっそ、時間は余計に食ってしまうが
一度ラダトームに帰っておけば良かった。そうしたら命は助かったかもしれない。だが
今更ルーラを唱える訳にもいかないし、既にもう事態は自分ではどうしようもない状況
に陥ってしまっているのだ。
 自分が死んだら、この世界はどうなってしまうんだろうか。
 そんなことを考えながら目を閉じた。男に抵抗する気は、今や無いに等しかった。

12竜王×勇者【5】:2004/09/18(土) 03:53
 静かな時が過ぎた。
 せめて自尊心だけは最期まで守ろうと思い、どんな痛みが自らを襲おうとも声だけは
絶対に出してくれるなと歯を食いしばっていたところに、何ともいえない柔らかい感触
のものがそっと触れた。最初は訳が分からずぼんやりとしていた。だからそれが男の唇
だと気付くまでに随分な時間を要した。
「!」
 驚いて目を開くと、金の目が間近にあった。反射的に体を突っ跳ねようとするが、逆
に手首を押さえ込まれて簡単に動きを封じられてしまう。顔を背けようにも男は執拗に
唇を追ってくる。そして角度を変えて深く接吻(くちづ)けられている内に、すっかり
全身からは力が抜けてしまった。
 長い接吻けの後でようやく唇が解放されると切れ切れの息の下で、取り敢えず疑問に
思ったことを尋ねてみた。
「……何してんだよ」
「お前が目を閉じ、目前に唇があったので接吻けをした」
「竜族は、人間の男女の区別も付かないのか」
「お前は男だろう。それが何だと言うのだ」
「男は、男に接吻けをしないんだ!」
「ではこれからすればいい」
 そう言ってまた唇を合わせてきたので、今度は本気で暴れて抵抗した。そうして男と
揉み合っている隙に、男の背後から第三者の声が響いた。
「陛下、そろそろ城にお戻り下さいませ。直に夜が明けます」
 自分達の他にも誰かが居るとは気が付きもしなかった。思わずびくりと体を揺らして
しまったら、鼻先で笑われた。まったく腹の立つ男だ。
 ……今、男のことを<陛下>と呼ばなかったか?
 先程までの執拗さが嘘のように素早く身を引いた男を、驚きの眼差しで見つめる。男
はこちらの考えを読んだかのように、ニヤリと嫌味な笑いをその口元に浮かべた。

13竜王×勇者【7】:2004/09/18(土) 03:55
※あわわ、番号ふり間違えました。↑は【6】です。



「ではまたな、ロトの子孫よ。次に会う時はどちらかが死ぬ時だ」
 それまで無事に生き延びるようにな、と楽しげに言った男の手には自分の人差し指に
嵌っていたはずの戦士の指輪が握られていた。いつの間に抜き取ったのだ。
「……指輪」
 返せよと言う前に言葉を遮られた。
「城まで取りに来い」
 そう言って、男は外套をまた頭から被り直すと建物の外へ消えた。外では「お戯れも
程々に」などという男の行動を咎めるような声が聞こえていたが、あの圧倒的な気配が
消えると共に声の方もふつりと消えた。
 何だったんだ、一体。
 狐につままれたような面持ちで、男が出ていった壁の隙間を見つめた。
 あれが──あの男が、このアレフガルドを恐怖に陥れている<竜王>だと言うのか?
そう思ったら一気に全身を脱力感が襲った。
(……からかわれた)
 力の弱い人間だと思って、思いきり馬鹿にされた。なんて奴だ。元より売ろうと考え
ていた指輪のことなどどうでもいいが、あの男の首は刎ねてやらないと気が済まない。
すっかり覚めてしまった眠気と共に外套をはね除け、身支度を整えると町の外へ出た。
山に囲まれた砂漠から空を見上げると白々と夜が明け始めていた。取り敢えずは南下し
て、城塞都市メルキドを目指そう。そこで旅の手がかりが掴めるかもしれない。

 足元で何かが蠢いた。と思ったその瞬間、死のサソリと呼ばれる巨大なサソリが砂の
中から飛び出してきた。
「…………」
 何だか急激に怒りがふつふつと沸いてきたので、その体を剣で力任せに切り裂いた。


                            〜終わり〜

14名無しの勇者:2004/09/18(土) 03:56
以上で、ひとまず第一部終了です。
一気に最後まで書けないウンコー!ヽ(・∀・)ノですみません…。
続きはまた後日うpさせて頂きます。

それでは失礼致しました。

15名無しの勇者:2004/09/19(日) 04:30
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
ストーカー竜王禿萌え。 (;´Д`)ハァハァ
ちゃっかりエンゲージリングをパクっていく竜王禿萌えでつた。
続き、頑張って下さい。楽しみにしていまつ。ヽ(゚∀゚)ノ

16名無しの勇者:2004/09/20(月) 05:34
>>7-13の続き、カプは竜王×勇者です。
竜王様がどんどん変態仮面になっていくのはどうかご容赦頂きたいです。
今回、エロとも言えない微妙な描写がありますので御注意ください。


では、以下5レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

17竜王×勇者【8】:2004/09/20(月) 05:35
 ドムドーラでの『事件』から二月が経過した。
 あの日以来、視られているという感覚は消え失せたが、眠りに就くと決まって男が夢
の中に現れた。毎度、律儀に夢の内容を覚えている訳ではない。疲れた時には夢を見な
い日もある。それでも男の姿だけは、目が覚めた後も脳裏に焼き付いていた。
 メルキド南部でロトの印を手に入れたのちラダトームまで舞い戻り、そのままマイラ
地方の山間部にある雨の祠に向かった。そこで銀の竪琴と引き換えに雨雲の杖を受け取
ったら、その足でリムルダールへと渡る。なんて面倒な旅なのだろう。ルーラで自分の
望む場所へと瞬時に移動できたら楽なのだが、今の時代、移動魔法の受け入れ先──平
たく言えば着地の目標となる魔法陣のようなもの──を公開している施設はラダトーム
城しかない。その他の町や村へ行くには自分の足で距離を稼がなければならないのだ。
リムルダールの町で食糧や薬草などを調達して、宿屋の清潔なベッドの上で一晩くつろ
いだ後は南の島へ向けて出発する。そこからの旅はほぼ休み無しの強行軍だった。リム
ルダールの預言所で賜った言葉どおり、鬱蒼と生い茂る森を抜けて辿り着いた先の島で
小さな祠を見付けた。そこに住んでいるという世捨て人のような風貌の老人から、『虹
の雫』と呼ばれる玉を授かる頃には精根が尽きたといっても過言ではないくらいに疲れ
果てていた。
 だが、伝承の通り「雫が闇を照らす時」に虹の橋が竜王の島へ架かるというのなら、
それはもう決戦の時が迫っていることを意味するのだ。橋を渡った後では今以上に油断
も躊躇もならない。そして何より、失敗は許されない。
 竜王の島に一番近い町ということで(距離的にはラダトーム城の目と鼻の先だが海を
渡る術がない)、取り敢えずはリムルダールへ戻り態勢を整えてから出立するべきだろ
うと考えた。ここから先は誰の助言も得られない、たったひとりで挑む戦いだ。そこに
アレフガルド全体の命運が掛かっているというのだから、何とも不思議な気分になる。
勿論、自分の他にも竜王を滅絶せよとの命を受けた者達が居るはずだが、今までの経過
を見る限りでは自分があの島へ一番乗りということになるだろう。もし自分が使命を果
たせなければ、後続の者に遺志を託すしかない。誰かが果たしてくれるといいのだが。

 疲れた頭の中では自然とあの男のことを思い出していた。ドムドーラにて不遜な態度
で接してきた男。竜族の王、暗闇の支配者。
 アレフガルドの──延いては己の敵でもある。

18竜王×勇者【9】:2004/09/20(月) 05:36
 旅立ちの前日、リムルダールで最後の温かい食事を摂った。己を悲観視するつもりは
ないのだが、やはりこれが『最後』だと考えるのが普通だろうと思う。元より五体満足
で戻れるとは思っていない。このご時世に、豊富な食材を使った夕食を提供してくれる
宿屋の主人も西の島へと渡る者の運命を感じているのだろう。いつもよりも言葉少なに
接客をする主人に有難うと礼を伝えて、空になった皿を下げて貰った。
 部屋に戻ってベッドに横になり、明日からの数日間のことを考えた。竜王の城には、
地下へと続く秘密の入口があるという。それを聞いて、家に伝わるロトの冒険談を思い
出した。玉座の裏へ廻ったところの床に隠し階段があったという話だ。もしそれが真実
であるなら調べてみる価値はあるだろう。問題はその先だ。まったく道が判らないので
手探りで進むより他ない。松明は多めに買っておいたから、たとえ城の内部が暗くても
照明には事欠かないはずだ。
 不思議と、どうしてこんな時代に生まれたのかという気分にはならなかった。これが
自分の辿るべき道ならそれを最後まで完うしようと思う。ラダトームより登城命令が下
った際に、ロトの血を受け継ぐ者としてある意味『希望の象徴』を体現させられている
のだなということは肌で感じたが、だからといって本人としては特別に気負うこともな
かった。余計なことは考えず、アレフガルドに住まう人間として、とにかく使命を果た
すことに最大の努力を注ぐだけだ。
 考えごとをしていたその耳に、コツ、と部屋の窓に何かが当たった音が聞こえた。閉
じていた目を開いてベッドから身を起こす。窓の錠を外して左右に大きく開いた後で町
の通りに目を向けたが、特にそれらしき人影は見えない。子供達が小石でも投げて遊ん
でいるのかもしれないと思って窓を閉めようとした時、一陣の風が部屋に吹き込んだ。
強風に煽られてカーテンがばたばたと大きく躍る。慌ててそれを手で押さえ付け、窓を
バタンと閉めるともう一度しっかりと錠を閉め直した。
 部屋の中の異常に気付いたのは、その時だった。
「──我を、城へと帰さぬ気か?」
 聞き覚えのある声がしたと思った次の瞬間、背後から抱きすくめられていた。
 一瞬、何が起こったのか判らなかった。我に返った後で腕の中から逃れようとしたが
特別強い力で抱きしめられている訳でもないのに、その腕はびくとも動かなかった。
「ロトの子孫殿は、なかなかに大胆な方のようだ」
 半ば笑うようにして囁かれた声と共に、耳の後ろに生温かい息が掛かった。ぞくりと
体が震えた。耳たぶを口に含まれ、ざらついた舌で転がされる。這い回る舌の、一連の
ゆっくりとした動きに嫌悪を感じて、肌の表面が粟立った。だが自分の思いとは裏腹に
掴み所を欲して抱きしめる腕に思わず縋ってしまう。それが気に入ったのか、<竜王>
は満足そうに溜息をついた。

19竜王×勇者【10】:2004/09/20(月) 05:37
「……何を……しに来た」
 次に会う時はどちらかが死ぬ時だと、そう言ったのは男の方だ。男の居城になかなか
姿を現さなかったために、とうとう痺れを切らしてしまったのだろうか。徐々に上がっ
ていく心拍数を悟られまいと努めて冷静に話しかけようとしたが徒労に終わった。声が
上擦っているのが自分でも判った。
「お前に用向きがあったので、それを果たしに」
 だから前言は撤回だ、と男は耳元で囁いた。
 男の片手が自分の髪を梳き、耳の後ろや首筋を撫でていくのを感じて耐え切れず目を
強く瞑った。
「お前はいい匂いがする」
 首筋に顔を埋めて男が言った。
 やめてくれ。気分が悪い。そう叫んで暴れ出したかった。
「夢の中で、何度もお前に会いに行った」
 その言葉にぎくり、と背筋が凍った。
 やはり、あれは作為的に組まれた夢なのだ。覚えている夢の中で男に何をされたかは
敢えて言わない。簡単に術中に嵌った自分を、男は楽しみながらも蔑んでいたに違いな
かった。またも男との力量差を歴然と見せ付けられて、絶望感に近い気分を味わう羽目
になった。
 有無を言わさず引き込まれるようにしてそのままベッドに倒れ込んだ。男が上から馬
乗りになる。抵抗しようにも、男の視線に縛られて身動きが取れなかった。
「震えているのか」
 はじめて会った時と同じことを男は尋ねてきた。そして顔をゆっくり近づけて接吻け
ようとしてきたので、寸前で顔を横に背けた。男はそれに苛立ったかのように、前髪を
ぐいと掴んで引っ張ると無理やり唇を重ねてきた。角度を変えて深く接吻けてくるのは
この前と同じだったが、突如として侵入してきた舌に、己の舌を絡め取られ根元をくす
ぐられた。意思を持って口腔で暴れるぬめりを持った物体に、いいように翻弄される。
嫌悪と息苦しさから男の胸を拳でどんどんと叩いて解放を訴えた。男が唇を離した隙に
はぁはぁと短い吐息の合間に相手を罵倒する言葉を吐いたが、男は何も言わずまた唇を
奪った。頬に手を添えて繰り返される、先程の性急さとは打って変わったついばむよう
なそれに、眩暈と痺れを感じた。

20竜王×勇者【11】:2004/09/20(月) 05:38
 それから小一時間たっぷりと弄ばれたような気がしたが、実際にはそんなに経ってい
ないのかもしれなかった。だが自分にとっては拷問のような時間が長く続いたのは今更
言うまでもない。
 男が足の間を割って入るようにしてのし掛かり、両の脇の下から手を差し込まれたと
思ったらそのまま男にぴったりと密着するよう強引に上半身を引き寄せられた。そして
上下に体を揺すぶられる。激しい動きに耐え切れずにがくりと仰け反った喉元へ唇を寄
せられたのをきっかけに、首筋から鎖骨、はだけた胸の辺りまでを男の舌が何度も往復
した。性交を彷彿とさせる体位とそれらの行為に、怒りと羞恥で全身が赤く染まった。
「憎いか」
 男が合間に尋ねた。憎いどころの話ではない。人を絶望の淵へと突き落としておいて
更に恥辱にまみれた行為を強要する。その上で、恋人達が交わすような穏やかな接吻け
を瞼や唇に落とすのだ。敵だとか男同士だとか異種族同士だとか、そういった禁忌をす
べて通り越して、今はただこの目前の男が何を考えているのかが判らなくて、ぐちゃぐ
ちゃに乱れた間抜けな表情を晒しながらも、ぎらついた金色の目を間近から凝視した。
 男の独白が始まった。
「地上から、<光>を奪ってやろうと思った」
 古より続く忠誠の間柄を壊し、竜を殺し始めた人間。欲に目が眩んだ人間達は、竜の
鱗を剥ぎ……角を削り……魔力が多く宿るという目玉をくり抜いた。竜族は段々と地上
を追われ、ついには光の届かぬ暗闇へと辿り着いた。寿命は長いが生殖能力の低い竜族
は、そこで人間への復讐を誓いながら細々と生き永らえた。そうして<闇>と結託し、
力の強い者が誕生するのを待って巣穴より地上へと一斉に這い出した。長い年月の中で
竜の存在など忘れていた人間達にとってそれは恐怖でしかなく、竜族にとっての人間は
もはや破壊と憎悪の対象でしかなかった。竜達はその大きな体で大地を蹂躙し、炎で焦
がし、生きとし生けるものの命を次々奪った。そうして、人間達の間に『希望』が誕生
するのをじっくりと待った。
「お前のことだ。
 ロトの子孫、人間どもの希望の光」
 互いの唇が触れるか触れないかの位置で、男が呟いた。
「ずっと、お前を堕としてやりたいと思っていた」

21竜王×勇者【12】:2004/09/20(月) 05:38
 いつの間にか男の首に回していた腕を外され、再びベッドに横たえられた。汗で額に
張り付いた前髪を手で梳かれる。火照った顔に時おり触れる冷たい手が思いの外気持ち
よくて、先程までの酷い仕打ちも忘れて何度か目を瞬かせた。
「我と共に来い」
 唇をかすめ取るように接吻けた後で、男が熱っぽく囁いた。だがそれは決して有り得
ないということを互いが判っていた。
「あんたは世界を壊しすぎた」
 そう言うと、男はうっすらと笑った。
「では我を殺すか? だが、銅や鋼では竜の皮膚は貫けまい」
 男は体を離すと、壁際に立て掛けてあった一振りの剣を手にした。それは自分が普段
持ち歩いている鋼の剣ではなく、まったく別の長剣だった。
「光の鎧がお前の所有ならば、王者の剣もまたお前の物だ」
 光の鎧というのは、その昔ロトが大魔王ゾーマを倒した際に身に付けていたとされる
鎧のことだ。ドムドーラの町で手に入れた例の鎧がそれである。そして王者の剣も同様
に、ロトが生前に愛用していた武器だという。
 つまり今、目前にある長剣が王者の剣──魔を打ち砕くロトの剣ということか。
「息の根を止める唯一の武器を、自ら与えに来たのか」
 驚きの色も隠さずに呟いた。身を起こして、男とロトの剣を交互に見つめる。
「あんたの望みは一体何なんだ」
 答えはもう判っていたが、敢えて男に問うた。男はベッドから降りると鞘に収まった
ままのロトの剣を人の腹の上に投げて寄越し、
「お前の勝率を少し上げてやろう」
 と言って、不敵に笑った。そうしておいて男は窓に歩み寄り、錠を外すと大きく開け
放った。涼しい夜風が熱気のこもった部屋の中にひんやりと舞い込んだ。男はしばらく
窓の外を眺めていたが、不意にこちらに顔を向けてその獰猛な瞳を輝かせた。
「必ず、お前が殺しに来い」
 そう言い残すと、男の姿は音もなく空中に霧散した。

 残像の粒子が消え失せる頃、窓の外から町の喧噪が耳に届き始めた。今の今まで外界
から隔てられていたらしいことに気付いたが、それを知っても、男のことはもう畏怖の
対象だとは思わなくなっていた。
 汗で濡れた服を脱ぎ、風呂場で身を清めた。その時、下着にべっとりと付着したもの
を見て気が滅入りそうになった。しつこいぐらいに全身を擦って、湯を浴びる。風呂か
ら上がる頃には部屋の空気も入れ換わっていたので、窓に近寄り戸を閉めた。ベッドに
腰を下ろして、男が置いていったロトの剣を鞘から抜いてみる。オリハルコンという名
の未知なる金属から成る刃は、部屋の明かりを受けてあくまで鈍く光を反射した。これ
をもって、<竜王>に戦いを挑むことになる。
 剣を鞘に収め壁に立て掛けると、ベッドにごろりと横になった。
 目を閉じたところで、今夜は金の輝きを忘れられそうにもなかった。


                               〜終〜

22名無しの勇者:2004/09/20(月) 05:39
以上で、第二部終了です。
第二部で終えるつもりだったのに全然終わりませんでした。ワァァァン
なるべく次で終わらせるつもりでいますが…。
行き当たりばったりで書いてるのでどうなることやら(;´Д`)

ところで勝手にガソガソ投下しておいて何なんですが
職人の皆様を差し置いてこんなに続けて
うpしてしまっても良かったんでしょうか…??
もしかして空気読めてなかったりしますか_| ̄|○ モウシワケアリマセン

23名無しの勇者:2004/09/20(月) 15:09
続きキタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
本番突入してないのに雰囲気がエロいですyo
チッスや密着してベタベタしているだけというシチュが大好物な自分には
大変ウマーな展開ですた。GJです!!
変態仮面でもカコイイ竜王様に萌え。勇者たんも真面目そうな性格で萌えるハァハァ

読み応えのあるSSで、この後の展開が禿しく気になります。
続き楽しみにしていますのでガンガッテ下さい!DQ2話も読ませて頂いてます(*´∀`*)

連続うpは、気になさらなくても大丈夫だと思いますよ。
最近は投下数が少なくて閑古鳥が鳴いているので、
職人さんのSS投下が板全体の活性化に繋がるといいな〜。なんつって。
自分は文章が書けないので、皆さんの作品が読めるだけでもありがたいです。

24名無しの勇者:2004/09/21(火) 10:05
>22
GJですた。萌え萌えですたよ。 (;´Д`)ハァハァ
>第二部で終えるつもりだったのに全然終わりませんでした。ワァァァン
読み手に取ったら嬉しいです。続きすごく楽しみにしてまつヽ(´ー`)ノ

25名無しの勇者:2004/09/22(水) 09:49
竜王×勇者カプ小説を投下した者です。

>>15,23,24
感想有難うございます!やる気が出ます(`・ω・´)キリリ
次の話なんですが、書いているうちにやっぱりというか
長くなってしまいそうな予感がしてきたので
二部に分けてうpするかもしれません。
簡潔に文章をまとめられる書き手さんが羨ましい…。
続きはもう少しお待ちください。


それでは仕事に戻ります。コソコソ

26名無しの勇者:2004/09/23(木) 17:16
>>17-21の続き、カプは竜王×勇者です。
今回の分で話は完結します。
投下レス数も文字数も多くて申し訳ないです…_| ̄|○
多少グロテスクな表現がありますのでご注意ください。


では、以下8レスほど使用します↓↓↓↓↓↓↓

27竜王×勇者【13】:2004/09/23(木) 17:18
 竜王の城は島の北北東、荒れ果てた岩山の谷間にひっそりと建っていた。大昔、この
アレフガルドを闇に閉じ込めた大魔王ゾーマが君臨していた場所。まさかこんなところ
に自分が足を向けるとは思ってもみなかった。あの時のロトと同じ格好で今、自分は暗
闇の支配者に立ち向かおうとしている。ロトはこの光景を前に何を思ったのだろうか。
(彼には仲間が居たから心強かったのかもしれない)
 では、どうして自分はたった一人で旅立ち、ここまで来たのか。集団を組もうと思え
ば幾らでも出来たはずだ。立ち寄った町で同志を募集したり……リムルダールでは故郷
でよく剣術の訓練をし合った旧友にも再会したのだから、彼を誘うことも可能だったの
ではないか。だがそれをしなかったのは彼らの目に浮かぶ諦念の色、そして竜王に挑む
使命を負った者に向けられる憐憫の情に気付いたからだ。アレフガルドの民は、世界と
共に滅ぶ気でいる。それに抗おうとしている自分はさぞ奇妙に映ったに違いない。
 時々、風に乗って漂ってくる腐敗した沼の臭いは、下手な魔法よりも効き目がある。
あまりの悪臭にくらくらする頭をぶるりと振って、今立っている位置から遥か下方に視
線を向けた。竜王の城の向こうに見えているのは、自然に起こったとは言いがたい波が
渦巻く海、更には対岸のラダトーム城も見える。後ろを振り返れば『虹の雫』の不思議
な力によって現れた淡い色の架け橋が、今だ消えずにその神秘的な情景を保っていた。
しかし、あの橋はいつ消えるとも限らないし、ロトの印を持つ者以外があの上を歩いて
渡れるという保証もないのだ。……やはりこれは、後続の援軍は期待しない方がいいと
いうことか。ますます己の孤独感に拍車が掛かる。この先は、もう後ろを振り返るのは
やめよう。精霊神ルビスが付いていてくれるのなら話は別だが。
 濡れて黒光りしている岩の表面を注意深く踏みしめながら、辛うじて平地と呼べる場
所に降り立った。ここまで来れば竜王の城はもうすぐだ。見た限り、門の前に見張りが
立っているということもなさそうだが……。魔物の死骸や汚物でどす黒く濁った沼地を
避けるように進んで、どうにか城門まで辿り着くと、重い鋼鉄の扉を押し開けてそこを
通った。門をくぐった瞬間、身に付けている鎧や腰に差した剣がパチパチッと音を立て
て反応した。聖なる加護が<闇>の力に反発しているようだ。ここが、敵の本拠地なの
だということを改めて認識する。一旦、深呼吸をして気分を落ち着かせてから城の内部
へと足を踏み入れた。まずは、例の玉座の間を探し出さなければならない。
 建物の中は思ったよりも明るかった。それでも照明がないと色々と不便を感じる気が
したので、荷物から松明を取り出してそれに点火した。明かりが点いたことで、不安な
気持ちが多少なりとも吹き飛ぶ。右手に剣を、左手に松明を持って城の一階部分をぐる
ぐると歩き廻った結果、玉座の間を発見した。玉座の背後に廻って床を調べてみると、
驚いたことに本当に隠し階段があった。床の一部がばね仕掛けで固定されており、それ
を外して板を持ち上げると床下に階段が現れる仕組みになっていた。そこから先は何が
出るか判ったものではないので顔を突っ込んで下の様子を見ようとしたのだが、地下は
この階とは比べようもないぐらいに暗く、手にしている松明の小さな明かりでは様子を
窺い知ることは不可能だった。仕方がないので、実際に階段を降りてみることにした。

28竜王×勇者【14】:2004/09/23(木) 17:18
 城の地下部分は、紛れもない魔物の巣窟だった。地上階の静けさが嘘のように次々と
魔物達が襲いかかってくる。余計な魔力を消費したくないので剣術だけで対応したが、
それにしても数が多い。しかしこれだけの魔物が居るということは、今進んでいる道が
竜王の元へ辿り着く正しい道筋であるという証拠と見て良さそうだ。
 魔物の種類においても、死霊の騎士などは一度死んだ者であるから、姿は恐ろしいに
しろ殺すことには躊躇しないが、幾つか階段を降りた先でダースドラゴンに遭遇した時
には流石に嫌な気分になった。あんな話を聞いた後では、竜に手を掛けることに対して
何より罪悪感が先行してしまう。しかしここで攻撃する手を緩めてしまえば、自分自身
の命に関わるのだ。痛む心を無理矢理押さえ込んで、炎を吐かれる前にダースドラゴン
に斬りかかった。途中、ラリホーで眠らされそうになったがどうにか対抗して致命傷を
負わせる。そして首を胴体から切り離してとどめを刺した。竜の体はしばらく地面の上
でのたくり暴れ回ってたが、そのうち事切れた。竜を一匹殺すと仲間はその死を敏感に
感じ取る、と言うがそれは本当なのだろうか。もし本当だとすれば、竜王は同族の死を
思って存分に苦しむがいい。
 一体、何匹の魔物を斬り捨てたか判らなくなったところで城の最下層と思われる階に
着いた。そこは大広間のようになっていて、周囲に視線を巡らせると所々に洞窟内部の
ごつごつした岩壁と海水と思われる池溜まりが見て取れた。場所が場所なら風情のある
造りだと思えるのだが、如何せん、ここは褒められた場所ではない。
「来てやったぞ。竜王」
 がらんとした空間に、自分の声と足音が響き渡る。
「俺は、あんたの配下を殺した」
 旅に出て早六ヶ月。殺めた魔物の数は一体どれだけだったか、もう想像も付かない。
「ここに来て竜も殺した」
 それも五、六匹。皆、苦しみながら悶え死んでいった。殺す度に何処からか聞こえて
きた唸り声は彼らの仲間が嘆き怒る声だったのではないか。
「それとも、あれはあんたが怒り狂う声だったのかな」
 大広間を突っ切った先に見えた扉を開け放った。中は薄暗く、壇上の玉座に誰かが座
っているのが見えたが、その影は微動だにしなかった。だが部屋の中に足を踏み入れた
途端、壁飾りの燭台で蝋燭が一気に灯った。もう松明は必要ない。火を消してその辺に
放り投げた。玉座に向かって足を踏み出す。背後で、扉が大きな音を立てて閉まった。
「憎いんだろう。人間が」
 そう声を掛けると、竜王はこちらをギッと睨め付けてきた。その表情は憔悴しきって
おり、普段より幾分余裕がないように見えたが、視線だけで心臓を鷲掴みされたような
気分になった。だがこの男を恐れる理由などもう持ち合わせて居ない。
「あんたが仕向けたことだ。俺は出会った魔物をすべて殺すことで、あんたの期待に応
えてやった。満足したか? それともまだ足りないか? 足りないなら上の階に戻って
もっと狩ってきてやる」
 畳み掛けるようにそう言ったら、竜王はいい加減苛付いたらしく、ガタンと音を立て
て玉座から立ち上がった。そうして足音も荒くこちらに歩み寄ると、人の喉元を片手で
掴んで体ごと脇に押し遣った。押し遣られた先には丁度机が置いてあったので、腰の辺
りを机の縁に強打した。咄嗟のことだったので、思わず痛みに声を上げそうになった。
「……たかが人間ごときが言ってくれる」
「その『人間ごとき』に甘えたのは誰だ」
 苦々しげに呟く男に言葉を返したら、更に喉を絞められた。流石に息が詰まって苦し
い。顔が殆ど仰向いてしまっているので見下ろすようにして竜王を睨んだ。
「お前は卑怯だ……<暗闇の支配者>の名に恥じない、卑劣な行動……」
「黙れ」
 竜王の顔が歪んだ。
「お前は人を、憎いと……信じ込む……ために、同族の死を利用……した」
 空気をうまく吸えない状況で言葉を吐くから、酸素不足で頭がぼうっとしてきた。苦
しさから、生理的な涙が目尻に浮かんだ。だがもう止まらない。
「人を、心の……底から……憎いと、思えるよう……になって……良かった、な」
 殆ど掠れて声になっていなかったが、独り言のように喋り続けた。
「俺も……お前を……嫌いになれた……」
 目前は真っ暗闇で、喉を締め付ける手が緩んだことにも気付かなかった。

29竜王×勇者【15】:2004/09/23(木) 17:19
 突然解放された気管を、急激に酸素が通った。それに反応して肺がビクビクと動く。
顔を背け、激しく咽せながら息を吸い込むと喉がひゅうっと音を立てた。
「お前は」
 相変わらず表情を歪めたまま竜王が呟いた。先程まで自分を殺そうとしていた手が、
締め付けた跡が残っているであろう首筋を這った。
「お前こそ……、卑怯ではないか」
 竜王は苛立たしげにそう言うと、声とは裏腹に優しい手付きで人の頭を撫でた。
「憎しみを煽るために、わざと策略に乗ったな」
 違うと頭を横に振って否定したが、自分の口からは何の言葉も出てこなかった。
「策略に乗ると同時に、お前も我を憎んだ。憎もうとした」
 竜王が断定の言葉を未遂の形で言い直す。もう頭を振る気力もない。
 目前の男が今も憎いことには変わりはない。これは竜王もきっと同じで、自分のこと
を憎悪の対象として見ている。だが別の感情を覚えてしまった以上、踏ん切りが付かな
いのも、お互い同じことのようだった。
「……本当に腹が立つ」
 自然と涙が零れた。両手で頬を包み込まれ、顔を寄せて来た竜王の薄い唇に涙を掬い
取られた。
 続けて、瞼と額に接吻けられる。
「あんたのことなんか、知らなければ良かった」
 そうすれば完璧に憎めたのに。
 八つ当たりするように呟いた唇に、男のものが重なった。
 男が上半身に力を入れてのし掛かったので、まるで追い立てられるように背後の机に
座らされた。何か瓶のようなものが卓上で倒れて転がる音がしたが、気にしている暇も
なかった。何処か掴む場所が欲しくて、男の着衣をまさぐっていたらその手を握り込ま
れた。その間もずっと、慈しむような優しい動作で互いの唇を味わう。ゆるく開かれた
自分の足の間に立つ男の体を、両脇から内腿で軽く挟み込んでやると男が微かに笑った
雰囲気が伝わってきた。男がそっと抱きしめてきたので、広い背中に腕を回して抱き返
した。交わし合う接吻けに激しさはなかったが、合間に洩れる甘い吐息ですら逃すまい
とする、相手をどこまでも貪り尽くすような行為に心底溺れた。
「……ほら。だから、あんたは卑怯なんだ」
 唇が離れた後で、吐息が掛かる距離で囁いた。
「ここまでしておいて、今更『憎め』だの『殺せ』だのって言うのか?」
「お前でなければ、我の生命を絶つことは出来ない」
 思いの外、甘えたような口調で男が言うから、子供をあやすように男の頭を自分の胸
に抱き込んだ。
「今のままでは、遅かれ早かれこの世は暗闇に包まれる」
 胸の中で男が、遠くを見つめるような目つきをして呟いた。
 己の意思ではもう止められない、ということか。
「俺があんたを殺す以外に方法はないのか」
「一度、<闇>に魅入られた者が<光>と共存することは不可能だ」
 竜王が顔を上げて、自嘲気味に笑った。
「お前が我を殺さねば、今すぐにでもお前を食い殺して世界中を焼き尽くしてくれる」
 その言葉が冗談でも何でもないことは判っていた。このまま放っておけば男の自我は
<竜王>に侵食され完全に乗っ取られてしまうだろう。男の方もそれを判っていて、だ
から敢えて自分にロトの剣を託したのだ──己の理性が残っている間に。
「我を殺せ。ロトの子孫」
 男の瞳孔が蛇のようにスッと縦に窄まった。そう言われても何となく次の行動が取れ
ずにいたが、金の目を見つめているうちに決心が固まった。判った、と答えてから一瞬
はたと考えて、耳元に口を寄せて一言囁いたら竜王が少々面食らったような顔をした。

30竜王×勇者【16】※注意※グロテスク表現・有:2004/09/23(木) 17:20
「では、竜王よ。生まれついての姿を見せるがいい」
 身を離した後で、互いに距離を取った。鞘からロトの剣を抜き、竜王と対峙する。
 竜王は静かな眼差しでこちらを見つめていたが、不意に体の輪郭がぶれたと思ったら
次の瞬間には、巨大な竜が目前に姿を現していた。あまりの大きさと威圧感に思わず唾
を飲み込んだ。こんなに威風堂々とした竜ははじめて見た。今まで相手にしてきた魔物
などこれに比べたら可愛いものだ。本来の姿に戻った竜王は、首を伸ばしたり、全身を
犬のようにぶるぶるっと震わせたりしていたが、やがて落ち着いたのかその大きな体を
床に伏した。
 竜王の側に歩み寄り、そっと耳の後ろを撫でてみる。産毛のようなものが生えたその
部分は撫でられると気持ちがいいらしく、竜王が目を細めた。それが笑っているように
見えたので、これから自分がしようとしている行為を思って居たたまれない気持ちにな
り、それを誤魔化すよう瞼に接吻けた。そうしてロトの剣を持ち上げて竜王の目の縁に
切っ先を宛てると、躊躇うことなく力を込めて突き立てた。素早く刃をぐるりと廻して
中身を手前に引っ張り出す。目の奥でブチブチと筋肉や視神経が切れる音がし、大量の
血と共に竜の目玉がごぷり、と眼窩から飛び出した。顔を背けたくなるようなあまりに
凄惨な光景に嘔吐感を催した。反射的に回復呪文を唱えると、竜王に、
「気休めなど要らぬ」
 と、鋭い声で一喝される。仕方が無いので陰鬱な作業を続けた。剣も手も竜王の血液
にまみれ、ぬるぬるとした感触が手元を狂わせる。竜王はその身を細かく震わせて激痛
に耐えていたが、もう片方の目に剣を突き立てた時に、とうとう気が触れたように恐ろ
しい雄叫びを上げた。自分の背中に鋭い爪が食い込む感触を覚える。竜王が咄嗟に目前
の己の体を鷲掴みにしたらしい。内臓まで爪が届いたのではないかと思うぐらいに深く
抉られて、口の中いっぱいに錆びた味が広がった。それでも残りの眼球を引っ張り出す
と竜王は痛みに我を失って床の上を転げ回り、その口から高熱の炎を吐いた。熱い、と
思ったら自分の右足が炎に包まれていた。竜王が手を離したので、数メートルの高さか
ら床に叩き付けられる。骨が軋む感じがしたが、それには構わず右足に引火した炎を消
すと、感覚のなくなった足を引きずりながら竜王に近寄ってその体に手を掛けた。竜王
は血溜まりの中で全身を痙攣させている。その頭を撫でながら何度も接吻けした。
 もう大丈夫。あんたの恐れていたことは起こらないんだ。この目は貰って行くから、
あんたは安らかに眠るといい。
 気休めだと言われようが、竜王の苦痛を少しでも和らげてやりたくて、ありったけの
魔力を使ってベホイミをかけた。竜王は既に気を失ったのか、ぴくりとも動かなくなっ
た。最後に、彼にもう一度接吻けをすると自分はその場から離れた。轟炎に包まれた部
屋を出る時に後ろを振り返ったが、やはり竜王は微動だにしなかった。部屋の外に出て
後ろ手で扉を閉める。足を引きずりつつ歩き出した己の背後で竜の悲しげな声がこだま
したが、すぐに聞こえなくなった。

31竜王×勇者【17】:2004/09/23(木) 17:21
※上のレスでageてしまいました!スマソ


       *  *  *

 同じ頃、ラダトームの住民は夜明け前に恐ろしい音を耳にしていた。獣が上げる断末
魔の咆哮にも似た、身の毛もよだつようなそれに人々は震え上がった。あまりの恐ろし
さに、「勇者が竜王に屈したのではないか」と絶望した者も居た。人々は地平線より昇
る太陽を祈るような気持ちで見守った。
 翌朝、ラダトーム城の警備に当たっていた当直の兵士は城門前に人が倒れているのを
発見する。駆け寄って抱き起こしてみれば、それは竜王を倒すべく旅立ったロトの血を
引きし若者の変わり果てた姿だった。若者は酷い火傷を負っており、背中には鋭い爪で
引っ掻かれたような跡があったが辛うじて意識は保っているようだった。若者は急いで
城の一室へと運び込まれ、部屋には王家に属する魔導士が呼び集められた。魔導士達は
若者に対し、最大級の回復呪文を施して彼の傷を癒すことに成功したが、若者は意識が
戻らないまま三日三晩、ただひたすらに昏々と眠り続けた。
 ようやく眠りから覚めた若者は、ベッド脇に置かれた椅子に座るラダトーム国王ラル
ス十六世に、竜王滅せしと報告した。若者はその証拠に竜の目玉を二つとも城へ持ち帰
ることに成功していた。竜の体から黄金に輝く眼球を抉り取るには、その竜が死んでも
居ない限り到底出来ない芸当であったのでラルス十六世は「悪は消え去り、ここに世界
の平和は戻った」と宣言した。アレフガルドの民は歓喜に湧いた。諸悪の権化とも言え
る魔力を包した竜王の目玉はその後、聖なる火でもって丁重に荼毘に付された。

 ラルス十六世は祝いの席で、若者にラダトームの玉座を譲る、と言ったが彼はその申
し出を有難くも丁重に辞退した。若者は、自分が治めるべき国があるなら自分の足で探
したいのです、と言った。それを聞いたラルス十六世の娘、ローラ姫は、彼に付いて行
きたいと父に願い出た。この地において前途明るい若者と、まだ若干十四歳であるロー
ラ姫の言葉にラルス十六世は驚いたが、新しい時代の到来を告げる素晴らしき門出にな
るはずという家臣の言葉に納得し、ラダトームの王として、一人の娘の親として、若者
とローラ姫を祝福した。
 平和を祝う式典はその後一月近くも続き、誰もがその手に戻った平穏を喜び噛みしめ
ていた。若者とてそれは例外ではないはずだったが、彼は無事生還を果たしたというの
にどこか浮かない表情でぼんやりとしていることがあった。己の成し遂げた偉業と評価
に対してまだ実感が伴っていないせいだろう、と周りは囁き合った。

       *  *  *

32竜王×勇者【18】:2004/09/23(木) 17:22
 竜王の城から帰還して三週間が経った頃、国王には「一度故郷に帰り、改めて家族に
報告したい」と断ってラダトーム城を後にした。城下の町は相変わらず祭りで賑わって
おり、外套で姿を覆い隠した自分に気付く者は誰ひとり居なかった。そうして人混みに
上手く紛れて町外れにある人気のない船着き場へと足を運ぶと、もう使われなくなって
大分経つ小型船を勝手に拝借して岸からそっと海へ出た。海はもう穏やかな色を取り戻
しており、この分ならすぐにでも海運業は復興するだろうと思われた。
 船を数時間走らせたのち辿り着いた先は、竜王の城が頭上にそびえる断崖絶壁の岩場
だった。……要するに、「故郷に帰る」と嘘をついてまでラダトーム城を出てきたので
ある。自分は『あの』後、入って来たのとはまた別の場所から城の外へ出た。剣も柄を
握る両の手も、竜王の流す血で真っ赤に染まっていた。自身が負った怪我の出血具合も
酷く、すえた鉄のような血の臭いも相まって貧血を起こしていた。ふらふらとした足取
りで何とか外へ出ると、そこが海面に程近い切り立った岩場であることを知った。そこ
で残った魔力を振り絞ってルーラを唱えて、それから……。
 それから先は、ラダトーム城の部屋で目が覚めるまで何も覚えていない。

 船をロープで適当に繋ぎ止めると、秘密の入口がある岩の辺りまでよじ登った。入口
を見つけるとその隙間に体を滑り込ませる。内側からは生温かい弱風が、外に向かって
吹いていた。風に逆流するように狭い通路を進むと、蟻の巣穴のように幾つも部屋が分
かれている洞窟に出た。今日は松明がないので、レミーラの呪文で明かりを灯す。動く
度に自分の影が洞窟内の壁にゆらゆらと躍った。歩を進めるうちに、この洞窟は竜族が
ひっそりと生きる場所、そしてまた死を迎える場所でもあるということが判った。
 洞窟を更に抜けると広い空間に出た。レミーラでもすべてを照らし出すことが出来な
い程の広さ。ここは、あの竜王が居た大広間だ。だが建物はほぼ焼き尽くされており、
洞窟の岩は黒い煤で汚れ、池を満たしていた海水も干上がっていた。うろうろと視線を
彷徨わせた挙げ句、部屋の隅に巨大な体を丸めて横たわる竜の姿を見つけた。ほのかな
照明を受けて陰影に縁取られたその姿は、太古の昔からそうであったとでも言いたげに
少しも動かなかった。竜の体は己の炎では焼けない、というのは本で読んだとおりのよ
うだ。しばらく彼を眺め、それから側に寄って行き、固く閉ざされた瞼から流れ落ちた
血の跡を指で撫でた。かなりの量が流れたに違いないが、高熱に晒されていたせいか血
はかさついていた。竜王の肌に、このどす黒い赤色がこびり付いてこのまま落ちないの
かと思ったら、無性にそれを爪で引っ掻いて剥がしてしまいたい気持ちになった。
「あんたを死なせたくなかったな」
 叶わないと判っていても、それが自分の本音だった。
 竜王に寄り添うようにして足の間にうずくまった。二度と握ることのない剣は、眠る
竜の側に置いて行こうと思った。どのみちこの剣にはもう魔を砕く力など残っていない
だろう。そして、竜の首に腕を廻すと今はもう冷たい体に頬を寄せて泣いた。レミーラ
の呪文の効果が薄まって行き、段々と本来の暗がりを取り戻していく洞窟の中で、この
男以上に思う相手は生涯現れないだろうなと考えながら眠りに落ちた。

33竜王×勇者【19】:2004/09/23(木) 17:23
       *  *  *

 アレフガルドを救った勇者とローラ姫は共に新天地へ旅立ったと伝えられているが、
実際は少し違う。先に若者が新天地を求めて海を渡り、まだ成人前だった幼きローラ姫
は若者が迎えに来てくれるまでラダトーム城にそのまま住んでいた。若者は挨拶もそこ
そこに姿を消してしまったのでローラ姫とその父王は当初、不安な思いをしていたのだ
が、若者が海の向こうの大陸で新たな国を作っていることが判るとラルス十六世は大勢
の人材を派遣して彼を大いに支援した。若者は時おり忙しい合間を縫ってラダトームへ
やって来てはローラ姫と面会したが、夜になって若者は「少し出掛けて来る」と言い残
し、自分に宛われた客室を抜け出して何処ぞへと姿を眩ますことが度々あった。そうし
ておいて朝になってからまた城へ戻り、王と姫君に挨拶をすると少ない荷物を持って新
天地へ戻ってしまう。忙しない男だ、とラルス十六世は苦笑した。夜中に姿を眩ますの
は、昼間出歩くと英雄扱いされて一騒ぎ起きてしまう彼が、人目に付かない場所と時間
帯を選んで家族や友人達と会っているためだろうと思われたが、本当のところは誰にも
判らなかった。そして、幼い姫君は婚約者の様子に気付いていないようだったが、若者
がそうやって朝に戻って来た時には必ず、目の奥に悲しみの色を湛えていることをラル
ス十六世は知っていた。ある時、娘の居ないところで「誰か他に心に決めた人が居るの
なら無理に結婚はさせない」と言ったら若者はびっくりしたように目を丸く見開き、そ
して柔らかく微笑みながら、ローラ姫は私が心に決めた只一人の女性です、と答えた。
ラルス十六世はその答えに満足し、若者が作る国の将来を思って彼と杯を交わした。

 若者がアレフガルドより旅立って十年、二十四歳になったローラ姫は美しく育った。
そうしてようやく姫君を迎えに来た若者に連れられて、彼女は生まれてはじめて海を渡
ることとなる。辿り着いた先は、緑と海に囲まれた美しい国だった。姫を城へと案内し
ながら、貴方の名前を取ってこの地をローレシアと名付けたい、と若者が言うとローラ
姫は恥ずかしそうに頬を染めながら頷きを返した。
 こうして、晴れて二人はローレシアの地で結婚し、新たな国の歴史が始まった。
 ここで結婚式での逸話を紹介すると、当時の習わしとして新郎新婦はそれぞれ、男性
は左手の人差し指、女性は左手の薬指に結婚指輪を嵌めるというのがあったのだが、ロ
ーレシアの初代国王となった若者は新天地でその習慣を実施することを拒み、結局、結
婚指輪は彼の左の薬指におさまった(拒んだ理由はのちに判明する)。これ以降、結婚
の際に指輪は新郎新婦共に左手の薬指に嵌めるのが人気となりそのまま常識として急速
に定着していった。
 国は栄えたものの、二人はなかなか子宝に恵まれず、王が何よりもまず国政に全力を
注いでいたこともあって、王妃が四十三歳、王に至っては五十三歳という高齢に差し掛
かるまで懐妊に関する話は何の音沙汰も聞かれなかった。ようやくその年の春に『王妃
御懐妊』の報が宮中を巡ると、十月後に誕生したのはなんと三つ子の赤ん坊であった。
これには王も王妃も驚き、二人揃って喜びの涙を流した。三つ子のうち兄王子にはロー
レシア、弟王子にはサマルトリア、妹王女にはムーンブルクの国を、それぞれ成人後に
分け与えるという取り決めが成されたが、ローレシアに関しては初代の王が長く王位に
在ったので、兄王子が王位を受けるのは弟や妹よりももう少し先の話となる。

34竜王×勇者【20】:2004/09/23(木) 17:23
 平穏な時が長らく続いたある年、王は病に臥した。執務中に気分が優れないと訴えて
寝室へ運ばれたが、そのまま二度と立ち上がることはなかった。王は既に齢八十を超え
ていた。老王を見舞うために世界中から客人が訪れた。その中には、滅多に俗世に姿を
現さないと噂される隠者の姿もあった。顔が見えないよう外套で深々と覆い隠し、杖を
ついてはいたがしっかりとした足取りで歩くその姿は、とても彼が両の目を盲いている
とは信じがたいものであった。見舞い客の大半は贈り物の品々を持参していたが、この
盲目の隠者は杖以外には何も持っていないようだった。老王はこの隠者の訪問を大層喜
び、世話係をすべて下がらせて二人だけで面会した。隠者は来た時と同じく静かに城を
去り、誰にも声を掛けられることはなかった。隠者が帰った後、薬湯を寝室へ運んだ世
話係の話によれば、老王は重病を患っているのが嘘であるかのように顔色が良く、世話
係は「きっとあの隠者は王にとって特別な存在の御方であるに違いない」と考えて、既
に立ち去ってしまったかの者の訪問を心より感謝したという。
 だが二日後の夜、家族が見守る中でついにローレシアの老王は身まかった。まるで眠
りに落ちるかのような静かな死だった。王の遺体を棺へと移す際、王子は父王の左手の
人差し指に見慣れない指輪が嵌められていることに気が付いた。それは、貴石や豪奢な
装飾は付いていない代わりに美しい彫刻が施された指輪で、一国の王が身に付けるには
少々地味であったが、王子には何故かそれが誇り高くも飾らない人柄だった父王が最期
に身に付けるに相応しい物のように思えてならなかった。生前決して装飾品で彩られる
ことがなかったその指におさまるべくしておさまった指輪は、宮廷学者によれば、その
昔戦士が嗜みとして身に付けた装飾品ではないかとのことだった。やはり父には似合い
の指輪だと、遺された家族は涙で目を赤くしながらもひっそりと笑った。

 故人を悼む人々の心を代弁するかのようにしとしとと雨が降り続く中、初代王の葬儀
はしめやかに執り行われた。父王より受け継いだ冠を戴いた新ローレシア国王は厳かな
表情で式に臨んでいたが、葬儀の途中から一羽の小鳥が頭上の空を旋回していることを
知っていた。他の鳥達は雨を避けて、森の木々に留まり羽を休めている頃だろうに……
その一風変わった小鳥は、兵士の持つ王旗の先端に留まったりして、まるで葬儀に参列
しているかのように見えたので、新しい国王は内心それを微笑ましく思っていた。
 ローレシア前王妃と国王、それにサマルトリア国王とムーンブルクの王妃──つまり
ローラ姫とその子供達──が立ち会って棺が納められた後、王家の墓の入口は石壁で塞
がれた。こうして墓に誰の出入りも許されなくなったその時、例の小鳥がさっと空から
舞い降りてきて墓の上に留まった。しばらく墓の上でちょこちょこと動き回り、故王の
死を嘆くかのように麗しい声でさえずっていたが、小鳥はいずこともなく飛び去った。
ねずみ色の雲が分厚く垂れ込めていた空からは、雨粒の代わりに淡い陽の光が雲の切れ
間より射し込んだ。小鳥の鳴き声は、もう誰の耳にも聞こえなかった。



                               〜終〜

35名無しの勇者:2004/09/23(木) 17:24
以上で、すべて終了です。
お付き合い下さった皆様、どうも有難うございました。
まさか本スレの「ラスボス×勇者」レスから
ここまで妄想を膨らませることが出来るとは… '`,、('∀`) '`,、
だらだら長い上に意味不明で、自分でも(゚Д゚)ハァ?な話でしたが
皆様に少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


作中に取り込めなかったので、ここで一部フォローを。
竜王は勇者のベホイミ連発が効いたのか、死んだ訳ではなく
あの後は眠ることで残り少ない体力を温存していました。
(他の竜族や魔物達は力有るトップを失って、そのまま沈静化)
でも勇者はそれを知らなかったので、ローレシア建国までの間、
竜王の城へコソーリ行っては竜王の側でぼそぼそ謝り続けたり
他人が聞いたら、こっ恥ずかしくてギャーッと叫びたくなるようなことを
言ってたりしていたと思います。
竜王はそれを夢の中で全部聞いていて、内心(・∀・)ニヤニヤ。w

その後、勇者が死ぬまでの間に「実は生きてたんだよーん」と
真実をバラしたかどうかは、皆様のご想像にお任せします。

それでは失礼致しました。

36名無しの勇者:2004/09/24(金) 20:25
続き待ってました!もう、もう何て言ったらいいのか・・・。
ラストの指輪と葬儀のくだりなんて、正直泣きながら読んでました。
DQ1→DQ2間の物語を補完していただいたような気分です。
素敵なお話をありがとうございます。GJでした!

37名無しの勇者:2004/09/30(木) 03:16
壁|∀・)コソーリ また投下しても良いですか?

虐められる勇者(名無し)が無性に書きたくて
勢いで書いてしまったものをそのままうpします。
愛のないセックルや暴力、獣姦が駄目な方はスルーしてください。
続き?があれば竜王×勇者カプ話になると思いますが
現時点ではこれだけです。
そもそも竜王×勇者SSなんて需要があるのか…。正に自給自足_| ̄|○

あっ、>36さんと感想専用スレの>56,57さん
感想嬉しいです!有難うございました。


では、以下3レスほど使用します↓↓↓↓

38勇者虐めSS【1】:2004/09/30(木) 03:17
 いつになったら死ねるのだろうか。

 口腔を満たす己の血液の味を不快に感じながら、勇者は頭の隅でそんなことを思った。

 一週間ほど前……メルキドの町を目指して旅をしている途中、人気のない森の中でドラゴンの
群れに襲われ、気が付いたらこの殺風景な部屋に居た。
 おそらくここは竜王の城、それも陽の光が届かぬ地下深い場所であるらしい。
 勇者は呪文を使って脱出を試みようとしたが、呪文は発動しなかった。
 魔力を封じられたのかと思ったが、感覚としては、封じられたというより「魔力が体に宿って
いない」といった方が近かった。
 大昔に、相手の魔力を奪う呪文が存在したことは知っている。もしかしたら敵の中に
その呪文を使える術者が居るのかもしれない。
 岩を削って造ったような部屋の入口には鉄格子が嵌められ、大きな南京錠がご丁寧に二つも
取り付けてあって、簡単に抜け出すことは不可能のようだった。
 仮に、抜け出したところで見張り役のモンスターによって牢に引き戻されるのが関の山だ。
 身に付けていた装備と所持品は、ここで意識を取り戻した時点ですべて取り上げられていた。
 腰に据えてあった剣は勿論のこと、万が一の事態を想定してブーツに忍ばせておいた短剣も
今は傍にない。着ていた服も下着以外は脱がされ、他に武器を持っていないか丹念に体中を
調べられたあとで、そのまま放置された。
 今は外で雪が降るような季節だ。幾ら地底とはいえ、ここの気温もかなり低い。
 がちがちと噛み合わない歯と体の震えをどうにかしたくて、勇者は自分の肩を抱くようにして
部屋の隅で縮こまった。
 だがそんな勇者に追い打ちを掛けるように、身の切れるような冷たさを持った大量の氷水が
彼の引き締まった体に浴びせかけられた。
 あまりの冷たさに飛び上がった勇者を、屈強なモンスター達が両側から羽交い締めにする。
 それから先は、ひたすら暴行の連続だった。
 わめき散らす勇者の頬を張り飛ばし、繰り返し腹を蹴る。衝撃で、胃の中の物が勇者の口から
溢れ出すとモンスターは彼の髪を鷲掴みにして、汚物にまみれた顔を氷水の中にぶち込んだ。
 そして上から強い力で頭を押さえ付け、酸素が吸えない息苦しさから藻掻き出した勇者を
散々嘲笑うと、ぎりぎりのところで水中から顔を引き上げた。
 ようやく息を吸うことが出来た勇者は、酸素とともに喉へ入り込んだ水で激しく咽せた。
 そして、息も絶え絶えな状態で床にうずくまる。
 そんな彼に構う様子もなく、寧ろその状態を待っていたとでも言わんばかりに素早く背後に
廻ったモンスターが、勇者の下着に手を掛けた。
 はっと気付いた勇者がやめろ、と叫ぶより先に下着が無理矢理引き下ろされ、股間から力無く
垂れ下がった性器がモンスター達の目の前に晒された。
 舐るような視線がそれに注がれ、下卑た笑いが起こる。
 それらの反応から、これから自分がされることを感じ取った勇者の顔色は傍目からでも判る程
さっと一瞬で青ざめた。
 モンスターの輪の中から抜け出た一匹のリカントが、暴れる勇者の肩を床に押し付けて腰を
持ち上げた。それでも暴れるのを止めない勇者の脇腹に別のモンスターからの蹴りが入る。
 ぐうと息が詰まったところで抵抗の弱まった勇者に先程の体勢を取らせると、傍に控えていた
魔道士が進み出て、普段は隠れているが今は剥き出しになっている勇者の日焼けしていない尻
めがけて、手にした玻璃瓶からとろみのある液体を細く垂らした。
 そして萎びた手で臀部に塗り広げ、更に液体が追加されると、粘度を持った液体はたらたらと
尻の谷間を伝って勇者の性器に絡み付き、そして床へとしたたり落ちた。
 臀部をさまよっていた手が下に降り、睾丸を揉みほぐしたり、いたずらに陰茎を擦り上げる。
 魔道士はそれから、勇者の固く閉ざされた肛門まで戻ると指をそこに一本当てて、はじめは
入口を探るようにやわやわと動かしていたが、突然その指を強引に内へと潜り込ませてきた。
「!」
 我が身を襲ったおぞましい感覚に、勇者が全身を硬直させる。だが体を捻って逃れたくても
肩を押さえられているために、どうにも身動きが取れない。
 排泄以外で使われることがないその器官は簡単に奥まで侵入を許さず、だがねじ込むような
動作で狭い肉に食い込んでくる魔道士の指は、ぬめる液体の力を借りて徐々に頑なな入口と
内壁を柔らかく解していった。

39勇者虐めSS【2】:2004/09/30(木) 03:18
 どれぐらいそうされていたか判らないが、いつしか肛門を嬲る指は三本に増えていた。
 弱々しくも拒絶の言葉を吐いていた勇者の口からは、もう苦しげな呻き声しか出てこない。
 魔道士が指を動かす度にぐちゅぐちゅと粘着質な水音が部屋中に響き、それに煽られるように
して、モンスター達の興奮した息遣いが高まっていく。
 人語ではない言葉が幾つか頭上で交わされ、肩を押さえ付けていたリカントに髪を掴まれて
顔を上げさせられたと思ったら、勇者の半開きの唇に獣の昴ぶった性器が押し付けられた。
 そこで、口を閉じようと思っても既に遅い。
 大した抵抗もなく口内に侵入した性器によって、一気に喉の奥まで突かれた。
 匂い立つような雄のそれに吐き気を催し、舌で押し返そうとするがそれすらも相手にとっては
良い刺激になるらしい。
 リカントはその毛むくじゃらな顔にいやらしげな笑いを浮かべると、腰を前後に振って己の
性器を包み込む勇者の柔らかな唇の感触と熱い口腔を思う存分、堪能した。
 そして、リカントの腰の動きが早くなり、陰茎がどくりと波打ったと思った次の瞬間、勇者の
舌の上にドロッとした感触のものが吐き出された。
 息を吸い込んだ途端、鼻を突き抜けた生臭い匂いに、かあっと意識が覚醒する。
 勇者は後先のことも考えずに、尚も口腔で暴れるものに噛み付いた。
 獣の、耳を塞ぎたくなるような悲痛な叫びが上がる。
 どよめきと怒号が岩壁の部屋に響き、勇者は横っ面を手加減なしに殴られて吹っ飛んだ。
 目の前がちかちかと瞬き、視界が一瞬、真っ暗になる。殴られた拍子に口の中を切り、錆びた
味がじわじわと舌に広がった。
 だがそれでも、股間を押さえて転げ回るリカントの姿を視界の端に留めると、勇者は血と精液
の混じった唾を床に吐いて、さも可笑しそうに笑った。
 こうなると事態はもう収まらない。
 モンスター達は我先にと勇者に襲いかかり、その体を痛め付けた。
 殴る蹴るの暴行は勿論、魔道士が先程まで弄っていた秘肛とその内側の粘膜を蹂躙することも
忘れなかった。
 最初の状態からは想像も付かないぐらいに拡がっているが、やはり物理的に限界がある肛門へ
その穴にそぐわない大きさの怒張した性器を宛って、無理矢理にそれをねじ込む。
 下半身を襲った激痛に勇者が悲鳴を上げた。
 不自然な拡張について行けず、肛門の周りの皮膚が切れて血が滲んだが、モンスター達は
それでも暴力的とも言える突き上げを止めようとはしなかった。
 モンスターが性器を出し入れする度に、力強く腰を掴まれている勇者の体がゆさゆさと前後に
揺れ動いた。それが終わると中に精を吐き出され、腸内を乱暴に擦り上げていた凶暴な塊が
ずるりと生々しい感触を伴って体外へ出ていく。
 だが出ていったと思う間もなく次の塊が押し込まれ、何度かそれを繰り返すうちに、魔獣達の
性器が体内から抜かれる時だけでなく、結合している最中にも白濁した精液が赤く腫れ上がった
入口と獣の性器との隙間から溢れ出た。
 場所を変え、体位を変え……獣達の宴は、終わりを知らないかのようにいつまでも続いた。

 いつ死ねるのだろう。
 勇者は改めてもう一度そう思った。全身、なかでも下半身に集中する痛みのために、先程まで
あんなにはっきりしていた意識であったが、それもいい加減、朦朧としてきた。
 このまま食われて堪るかという思いもあったが、モンスターに抵抗する術はもはや皆無だ。
(呆気ない最期だな)
 自嘲するように口元に笑みを浮かべると、勇者はようやく意識を手放した。

40勇者虐めSS【3】:2004/09/30(木) 03:20
『……おい。こいつ、気を失ったぞ』
 勇者を犯していたモンスターが、突然力なく崩れ落ちたその体を見て、白けたように言った。
『死んだんじゃねえのか』
『馬鹿言え、まだ死んじゃいねえよ。その証拠にこいつの中は、今だに俺のムスコに絡み付いて
きてやがる』
 横からひょいと顔を覗かせて勇者の様子を窺う仲間に向かって、モンスターがひひっと笑うと
周りに居たモンスター達の間からも卑しげな笑い声が上がった。
『次に犯りてぇ奴は居るか? 替わってやってもいいぜ』
 モンスターが問いかけると、あれだけ寄ってたかって勇者を犯したというのに精が尽き果てる
ということがないのか、次々と立候補の声が上がった。
『お前ら、阿呆ばかりだな。そんなに犯りたきゃ勝手にしろよ』
 仲間をからかうように笑いながら言うと、モンスターは腰を引いて自分の性器を抜き、勇者の
体を支えていた両手を離した。
 意識を失った体は、受け身を取ることなく床に突っ伏した。それに魔獣達が群がる。
 その気ちがい染みた様子に、自分が先程までその一員だったことも棚に上げて、モンスターは
腕を組みながら侮蔑の眼差しを向けた。──人を犯す以外に能がない、愚鈍な奴らめ。
 だがモンスターというのは、大概がお互いをそう思っているのである。
 大差ないお互いの性質を双方がこき下ろし、優越感に浸るのが彼らなりの過ごし方だった。
 そこへ飛び込んできた人間はいいように弄ばれ、彼らの支配欲を満たすためだけに使われる。
 今、仲間達が犯している人間もそうだった。
 ドラゴン達がどこからともなく攫って来て、この牢に閉じ込めた。いつも、攫われてきた後で
「遊んで」やる人間達が入れられる牢とは場所が違ったが……まぁ気にすることはないだろう。
 見た感じ、二十代前半ぐらいのこの男は、長剣と短剣をそれぞれ一振りずつ持っていた。
 それに、小汚い格好をしていたので、旅の途中か何かだったに違いない。
 運悪く捕まっちまって……、まったくついてない男だ。
 くくくと喉を鳴らして笑っていたその耳に、南京錠が外されて鉄格子が開かれる金属音が
飛び込んできたので、モンスターは首を捻ってそちらの方に顔を向けた。
 見ると丁度、フードを目深に被った背の高い男が、開いた鉄格子の扉を身を屈めて通り抜けた
ところだった。風貌からするに、魔道士か大魔道の仲間だろう。
『……何だよ、お前もアレに加わりてえのか?』
 組んでいた腕を解いて男に近寄る。だが男は一言も言葉を発することなく、モンスター達と
意識がないまま翻弄され続ける勇者の方へ視線を向けている。
『おいお前、一体何しにここへ……』
 短気なモンスターは唸るような声で言いざま、男のフードを掴んで正体を暴こうとしたが、
それは無駄に終わった。
 伸ばしたモンスターの右腕は逆に男の左手で掴まれ、男はもう片方の手をモンスターの顔面へ
持っていくと、そのまま前に手を突き出した。
『!!』
 顔の上で止まると思ったその手はモンスターを突き抜け、それと同時にモンスターの頑丈な
体は跡形もなく宙に霧散した。
 まるで、男が触れたことでその存在を消し去られてしまったかのようだった。
 否──そうだったのである。

41勇者虐めSS【4】:2004/09/30(木) 03:21
 異変に気付いた外野のモンスターがざわめき出したのをきっかけに、その後はしんと静寂が
部屋を支配した。
 その場に居る誰もが、男の正体に気付いた。
 先程まで興奮で赤く高揚していた魔獣達の全身からは血の気が引き、顔色は白に近いまでに
なっている。
『へ、陛下……』
『竜王様……』
 己より力の強い者に対する獣の本能から、モンスター達は頭を垂れて後ずさった。
 男は勇者に視線を定めたまま、何も言わない。
『お……お許し下さい……いつもの<贄>だと思ったのです』
 男に最も近い位置に居た魔道士が引き攣ったような声で弁解した。
 だが男は黙っている。そのことが、モンスター達の恐怖心を余計に煽った。
 数秒ほど間が空いたのち、男が視線を正面に戻した。そしてひと言、
「死を」
 と囁いた途端、部屋に居た男と勇者以外の者は爆発するように体の内側から弾け飛んだ。
 凄まじい量の汚らわしい獣の肉や内臓がびちゃびちゃと音を立てて飛び散り、それらが天井や
壁だけでなく床に横たわる勇者の裸体にも降りかかった。
 男はそれを眺めていたが、ゆっくりとした足取りで歩み寄ると被っていたマントを脱ぎ去り、
それで勇者を包み込むと、傷付いた体を労るようにそっと静かに抱き上げた。
 そうして勇者を抱いたまま鉄格子をくぐり抜けると、男は外に控えていた数名に、
「牢を浄化しておけ」
 とだけ言い残して、そこから立ち去った。
 外の者達は主の命令に忠実に従い──「食べる」ことで部屋の中の汚物を始末した。


                               〜終〜

42名無しの勇者:2004/09/30(木) 03:22
以上で終わりです。本文長すぎて3レスに収まり切らなかった…。
前の時は端を揃えてきっちり改行してしまいまして
自分でも「読みにくいなー(・∀・)」と思っていたので、
今回はある程度の所まで行ったら行を変えて
空白を多めに取るようにしました。
これでも読みにくかったら申し訳ないです。

それでは失礼致しました。

43名無しの勇者:2004/10/01(金) 21:37
>>38-41の続きを書き始めたのでうpします。
このあとは勇者(名無し)を酷く虐める予定はないんですが
一旦、これで書き込んでしまったので
タイトルは「勇者虐めSS」のままでいきます。


では、以下4レスほど使用します↓↓↓↓

44勇者虐めSS【5】※竜王×勇者:2004/10/01(金) 21:39
 腹の内部に感じる焼け付くような痛みに耐えかねて、勇者は目を覚ました。
 痛みを感じると同時に吐き気を催して、咄嗟に体を丸める。
 だが胃の中は空っぽで、幾ら吐こうと思っても内からは何も出てこなかった。
 暴行を受けた体はきしきしと痛みを訴え、肛門とそれに続く腸内は今も何かが押し込められて
いるような異物感を伴っていた。……気分が悪い。
 現実を認めるのが嫌でまた意識を手放しかけたが、そこでようやく勇者は体に付着した血液や
モンスターの体液が綺麗に拭き取られ、乾いた服を身に付けさせられていることに気が付いて
驚いた。
 その上、今寝ている場所はあの冷たい牢獄の床ではない。頬に感じるさらさらとした感触に
重い瞼を開けてみると、そこは質の良い素材のシーツが敷かれた広いベッドの上だった。
 よく見れば、周りの景色も随分違う。
 勇者を取り囲んでいた黒く重々しい岩壁がすべて消え失せて、至って「人間らしい」造りの
部屋が彼の視界に映った。
 暖かなぬくもりを感じさせる角燈が部屋の数ヶ所に灯り、古風な調度品が品良くしつらえて
ある。見上げた天井は高く、宗教画のようなものがそこに描かれており、角燈から受ける微かな
明かりによって神々しい雰囲気を放っていた。
(ここは何処だろう)
 そこで勇者はふと視線を感じ、首を捻って枕元に目を遣った。
 そしてそこに座る人ではない者の姿を認めた途端、先程受けた暴力行為の数々をまざまざと
思い出し、その男が腕を伸ばしてきたのを見ると勇者は言葉にならない悲鳴を上げながら
咄嗟に両腕を挙げて顔を庇い、男の手から逃れようと体を捩った。
「……落ち着け。危害を加えるつもりはない」
 静かな声色で男は告げると、勇者の目を覆うようにその手を置いた。
 急に動いたせいで、全身を駆け抜けた激痛に喉の奥から絞り出すような声を出して縮こまった
勇者は、男の声と手にびくりと反応したが特にそれ以上、抵抗する素振りは見せなかった。
 置かれた手のひらから、癒しの波長を感じ取ったのかもしれない。
「まだ傷が癒えていないのだから、安静にしていなさい」
 男は医者が言うような台詞を発し、それから勇者の額に手を置いた。
「熱があるな。体に受けた傷のせいだと思うが……」
 そう言いながら眉を顰め、額から手を離すと男はベッド脇のテーブルに置かれていた陶器製の
ポットを取り上げて中味の液体をカップに八分程注いだ。
「化膿止めの薬湯だ。熱冷ましにもなる」
 男は勇者の項と枕の間に手を差し入れて彼の頭を起こすと、その後頭部を支えながらもう片方
の手で勇者の口元にカップを近づけた。
 つん、と鼻腔を突く香草の独特の匂いに勇者は思わず顔を背ける。
「飲めば傷の治りが早くなる。お前のそれは回復呪文だけでは追い付かないのだから」
 そう言われてしまっては飲むより他ない。渋々といった様子で勇者が口を開けると男はカップ
の縁を勇者の唇に当てて、薬湯を口内へ少しずつ流し込んだ。

45勇者虐めSS【6】※竜王×勇者:2004/10/01(金) 21:40
 薬湯の味は想像していたものよりずっと甘かった。
 熱すぎず温すぎないそれは渇き切った喉をするりと通り抜け、荒れた胃に収まると勇者の体を
内側からほんのりと暖めた。
 男は勇者の体に掛かる負担を避けるように、ゆっくりとカップを傾けることで彼の飲む動作を
助けた。だが最後に残ったひと口程の薬湯を飲みきれずに勇者が咽せて、彼が申し訳なさそうな
視線を向けると、男は気にするなと微笑んで濡れた口元と首筋を柔らかな布で拭ってやった。
 支えていた勇者の頭を枕の上に戻して、男が用済みになったカップやポットをテーブルの上で
片付けていると、顔だけをそちらに向けた勇者が囁くような声で尋ねてきた。
「貴方が助けてくれたんですか」
 その問いに対して、男が目の動きだけで頷きを返した。
 腹をしこたま蹴られたせいで腹筋に力が入らないのだろう。息をするのもひと苦労といった
様子であるのに、勇者は尚も尋ねた。
「貴方は……貴方の名前は…………」
 男は譫言のようなその言葉に一瞬、動きを止めた。
「……それは今、聞かない方が良いだろう」
 その答えを聞いて勇者は、ああ、と片手で顔を覆った。男の正体はきっと予想通りだ。
 あれだけの数のモンスターから、己の身を守ってくれた者。あの生き物達を凌ぐ優れた能力と
権力がない限りそんなことは出来ないはずだった。
 この男が竜王──。ぼんやりとそう思いながら眺めていると、男は腕を伸ばして勇者の目上に
手を翳し、彼の開いている瞼をそっと閉じさせた。
「今は何も考えず眠るといい。この部屋は安全だから。起きた頃には熱も下がっているだろう。
起きて動くのが辛くないようだったら、隣の浴室へ行って身を清めなさい」
 男は事務的ともいえる口調で言うと、ポット一式を載せたトレイを持ち上げて席を立った。
 勇者は素直に従ったが、男が角燈の明かりを消そうとする気配を感じて口を開いた。
「明かり……」
「何だ?」
「消さないで…貰えますか……」
「…………判った」
 部屋を出る前に勇者の様子を肩越しに窺ったが、痛みを耐え忍ぶかのように眉間に皺を寄せて
横たわる彼の健気な姿が、男の心を揺すぶって仕方がなかった。
 男は部屋の外へ出ると、大きな音を立てないように注意しながら扉を閉めて、手にしていた
トレイを片付けた。そして身近な者にしばらくの間、人払いをするよう言い付けた。
 これで、彼も静かに眠れるだろう。

46勇者虐めSS【7】※竜王×勇者:2004/10/01(金) 21:41
 再び勇者が目を覚ました頃には、部屋の中は角燈が要らない程明るくなっていた。
 どうやら外では夜明けの時間を迎えているようだ。
(あの後、どれぐらい眠っていたんだろう)
 眠る前と比べて随分はっきりした頭の中で考える。この城に連れて来られた段階で時間の感覚
はなくなってしまったが、己の空腹度からしてみても、拉致後まだ二日と経っていないはずだ。
 勇者がベッドから体を起こして──所々の関節はまだ痛むものの、内臓の腫れや痛みは綺麗に
引いていた──周りをぐるりと見回すと、かなりの広さを持った部屋に居ることが判った。
 向こうには煉瓦造りの大きな暖炉もある。そこにちゃんと火が入れられているところを見ると
定期的に誰かが様子を見に来てくれていたようだった。
 枕元に目を遣れば、テーブルの上には水差しとコップが置いてあった。喉が渇いていたので
これは有難い。勇者はシーツと毛布を剥ぐとベッドの端に座り、水差しからコップに水を注ぐと
それを一気に飲み干した。熱があったようなので、眠っている間に汗で体内の水分が出て行って
しまったというのもあるだろう。普通の水なのに余計に美味しく感じる。
 もう一杯飲もうかと思ったところで、勇者はテーブルに置いてある蓋の付いた小さな容器の
存在に気付いた。不透明の容器は中身が見えないので、コップを置く代わりにそれを手に取って
蓋を廻して開けてみる。
 中には、うっすら黄みがかった白色の軟膏が入っていた。鼻を近づけて匂いを嗅ぐと微かに
薬草の香りがする。指に取れば軟膏独特の、幾分滑りの悪い感触がした。
 これも先程の男──竜王が置いていったのだろうか。
 詳しい用途は判らないが、おそらく傷口に塗るものだろう。竜王の魔力が及ばない部分は
薬湯とこの軟膏で補ったのかもしれない。
 水を飲んで落ち着いたところで、竜王が隣に浴室がある、と言っていたのを思い出して勇者は
風呂に入ることにした。

47勇者虐めSS【8】※竜王×勇者:2004/10/01(金) 21:42
 毛足の長い絨毯が敷かれた床を歩いて隣の部屋へ行くと、タオルと着替えが積んであった。
その先の扉の向こうが浴室らしい。風呂のことを考えたら無性に湯を浴びたくなった。
 勇者は汗で湿った服を脱ぎ、大きなカゴの中に放り込むと奥の扉を開けて浴室へと入った。
 そこそこ広い空間で、真ん中に脚の付いた浴槽が湯を湛えた状態で用意してある。傍らには
石鹸やらブラシやらスポンジが置いてあるので、自由に使って良いということだろう。
 体を慣らすように少量の湯を掛け、それから縁を跨いで湯船に身を沈めた。
 体の芯から温まる感覚に、「やはり風呂は良いものだ」などと考えてしばらく緊張感のない
時間を過ごしてしまったが、今だに残る下半身の異物感をふと意識してしまったことから、
またも勇者は発作のような吐き気に見舞われた。
 旅の過程で起こるモンスターとの戦闘に怪我は付き物で、酷い時には打撲したりもしたが、
ああいった形で暴行されたのは初めてだった。肛門が裂ける感触と、腸内を這い擦り回る塊の
蹂躙行為は一生忘れまい。
 そこまで考えて、勇者は腸に直接出されたおぞましい体液が一体どうなってしまったのか、
それが気になり始めた。あれだけ中に吐き出されたというのに、それらが体内に残っていない
ように思えるのは気のせいだろうか。
(まさか……っ)
 勇者は、我ながら怖いことを想像してしまったと思って震えたが、おそらくそれが正解なの
だろうとも思った。──竜王は、腸内の洗浄まで施してくれたらしい。
 洗浄の方法は判らないが、やけにすっきりしている下腹部の様子からして間違いない。
 体の見える部分は布か何かで拭いて貰ったのだと思ったが、まさかここまでは清めていない
だろうと思っていた部分までもがしっかり「お清め」されていた事実を知ったところで勇者は
はた、と気付いた。
 テーブルの上にあった軟膏。あれはもしや体の内側に塗るものなのではないか……?
 勇者は慌てて自分の手を後ろに持って行き、恐る恐る入口を撫でてみた。すると水中でも判る
ぬめりのあるものがそこには塗り込められていた。この分だと内部にも塗布してあるだろう。
(うわー……)
 自分でも今まで触ったことのない部位を、他人の指が(しかもこれで二人目だ)出入りした
のかと思ったら、かあっと顔が赤くなった。
 そういえば昔、薬師だった祖母は見た目も効能も様々な薬をよく見せてくれたものだ。その中
に先程の軟膏に似たものも含まれていた気がする。一般的な塗り薬なので、専用の薬草さえ
手に入れば誰でも作れるものだと祖母は教えてくれなかったか。しかもその効能は「粘膜の炎症
を抑える」ものだとか何とか……。
 やめよう。考えるだけでも気分が落ちていく。
 勇者はそれらの思考を捨て去るべく、思いきり息を吸うと頭の先まで一気に湯に沈んだ。

48名無しの勇者:2004/10/01(金) 21:45
取り敢えず今回はここまでうpということで…。
うわぁ中途半端ダヨ(;´Д`)

それでは失礼致しました。

49名無しの勇者:2004/10/03(日) 21:44
>>44-47の続きです。
書いているうちに収拾がつかなくなってきました。
こうやって計画性のなさがどんどん浮き彫りに…('A`)アァァアァ
今回はエロ寸止めです。しかもまだ続きます。


では、以下6レスほど使用します↓↓↓↓

50勇者虐めSS【9】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:45
 べたべたする髪を丹念に洗ったり、湯船の中に入浴剤を入れて楽しんだり、結局二時間ぐらい
浴室で遊んでしまったが、いい加減湯も冷めてきたのでもう上がることにした。
 備えてあったタオルで水滴を拭い、髪を適当に拭くと用意してあった下着と部屋着上下を
着込んで勇者は寝室へと戻った。その際、首にタオルを引っ掛けることも忘れない。
 寝乱れたベッドのシーツも大量の汗を吸い取っているため、湿気た寝床には戻る気になれず、
勇者はひとまず髪を乾かすことに決めて、暖炉の前に陣取った。
 大きめのタオルでごしごしと水分を吸い取るように揉み込んでいると、さほど伸びていない
勇者の髪は暖炉からの熱の手伝いもあって割とすぐに乾いた。
 用済みになったタオルを近くの椅子の背に掛け、大きな出窓の方に歩み寄る。
 部屋の中は暖炉の火のお陰で暖かいが、ガラスを隔てた向こう側には雪がちらついていた。
 広大な山脈の頂上には雪の冠が、空から粉砂糖をまぶした菓子のような景色を呈していたが、
この分だと一日でもっと降り積もりそうだ。
 勇者は、雪の降る朝の凛とした雰囲気が好きだった。
 ピンと張りつめた空気を肌に感じたくて目の前の窓を開けようとしたが、その窓には何らかの
呪文が働いているらしく、彼が押そうが引こうがびくとも動かなかった。
「はぁ……」
 盛大な溜息をつくと勇者は窓を開けるのを諦めて、その場に座り込んだ。そして石造りの出窓
部分に顔を突っ伏す。ひんやりとした硬い感触が湯上がりの肌に心地良かった。
(この部屋も、態の良い牢屋ということか…)
 そのことを知ってしまって、勇者は少なからず落胆した。
 もう、一生ここから出られないかもしれない。
 竜王を殺せば話は別だが、今の状況を考えるととても無理だ。武器になるものは部屋の中に
一切置いてないし、寝れば蓄えられると思った自身の魔力も一向に戻ってくる様子がない。
 大体、あの男を「殺す」ということが勇者にとって、つい先日まで打倒竜王の目標を掲げて
旅をしてきたはずなのに、今ではとても遠い出来事のように感じられた。
 勇者は目を閉じた。そして、自分を介抱してくれた優しい手を脳裏に思い描く。
(案外、親切なのかもしれない)
 そんなことを考えてから、勇者は自分の楽観的な性格を憂えた。
 竜王が直接、勇者に危害を加えた者ではないにしろ、昨日の今日で何故ここまで竜王に対する
警戒心を解いてしまっているのかが自分でも判らない。気が狂うような暑さも盛りを過ぎれば
忘れるというが、幾ら何でも早く忘れすぎていないか。
 だがあの男にはモンスター達にはない理性がある。勇者には彼との間に解放云々の交渉をする
余地は充分あるように思えた。問題は、話し合って判ってくれるかどうかだが……。
 それでも、取り敢えずは自分の言葉に耳を傾けてくれそうな気がする。
 石の上に突っ伏したまま、勇者がうだうだと悩んでいたところに、カチャリと部屋の入口の扉
が開く音がした。中に入ってきたのは竜王だった。

51勇者虐めSS【10】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:46
「起きていたのか。そんなところに居ては風邪を引くぞ」
 眠る前に竜王を見た時には部屋が暗かったせいもあって恐ろしい姿に見えたが、こうして朝の
明るい空間で見てみると非常に穏やかな気配を纏った人物だということが知れた。
(──本性を露わにした時にはどうなるか判らないけど)
 勇者は胸の内で呟く。
 竜王は衣擦れの音を立てながら出窓に近づくと、何も言わないままぼーっと見つめる勇者の顔
を不審そうに覗き込んできた。
「……具合が悪いのか?」
 勇者が首を横に振ると、竜王は彼を立たせた。
「起きたのなら食事を摂るといい。粥を持ってきた」
 竜王は勇者を部屋の中央にある大きめのテーブルへと誘い、給仕係──勿論、彼らも人外の者
だ──が運び込んだ温かい器から粥を皿によそって勇者の前に置いた。
「有難うございます、何から何まで…」
 背後で給仕係がベッドのシーツを交換しているのを見遣ってから、竜王の方に向き直って勇者
はひとまず礼を言った。竜王の庇護の元で世話になっていることは確かなのだから、このまま
何も言わないでいるのは失礼にあたる。
「下の者が働いた非礼を考慮したら、この程度のことで礼を言われるのは不本意だ」
 竜王はそう言うと手で皿を指し示して食事をするよう促し、自分は手近な椅子に座った。
 ──言葉の意味はつまり、回復するまでは確実に解放して貰えない、ということだ。
 釈然としない思いを抱いたまま、勇者は皿と共に置かれたスプーンを手にすると粥を掬って
口へ運んだ。……美味しい。微かな塩気が空腹で長時間放っておかれた胃には丁度良かった。
 飢えを満たすように黙々と粥を食べ続ける勇者を見つめながら、竜王は尋ねる。
「体の具合はどうだ」
「もう平気です。眠る前は痛くて仕方なかったけど……」
「本当か? 辛いのなら遠慮せずに、正直に言うのだぞ」
 痩せ我慢をしているとでも思ったのだろうか、こちらを気遣うような竜王の言葉に勇者は首を
横に振って否定したが、続く竜王の言葉に固まったように動きを止めた。
「魔力を奪っているからな。自力で回復できない焦りはあるだろうが、どうか部屋でおとなしく
していて欲しい」
「──やっぱり、そうだったんですね」
「…………非礼は詫びるが、お前をここから出す訳にはいかないのだ」
 今はな、と竜王は補足した。だがそれを信じる根拠がない。話せば判るどころか交渉する前に
あちらから「解放する気がない」とはっきり意思表明をされてしまった。
 勇者は落胆した。脱出の望みが消えてしまうと、途端に周りの景色も灰色がかって見えた。
 先程まではあんなに美味しく感じられていた粥が急に味気ないものへと変わる。食欲も気力も
減退してしまった勇者はスプーンを置くと、そのまま手も膝の上に置いた。
 二人の間に気まずい沈黙が流れた。

52勇者虐めSS【11】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:47
「……」
「……」
 竜王は黙って俯く勇者を凝視していたが、懐から小さな紙包みを取り出すと勇者の前に置いて
水と一緒に飲むよう促した。中身は体力回復用の薬らしい。勇者の体調はもう随分良くなって
いたが、念には念をといったところか。
 薬を置くと竜王は立ち上がり、後ろも振り返らず部屋から出て行った。
 再び広い部屋に一人きりになる。
 勇者はテーブルに置かれた白い紙包みを恨めしそうな視線で見た。親切にしてくれるのは正直
有難い。だがそれに裏があると知ってしまうと急に何もかもが胡散臭く見えてしまう。
 粥の入った皿を退けるとその紙包みを手元に引き寄せ開封してみた。中には、いかにも怪我や
病気に効果がありそうな数種類の生薬が入っていた。
 本当ならこんなものは飲みたくないが、飲まなければ飲まなかったで、竜王が心配するのは
今までの様子からみても容易に想像が付く。だがここで「勝手に心配でもしてろ」と思えない
あたりが、自分でも終わっている気がする。親切には弱いのだ。
 不満そうに唇を尖らせ、心の中でぶつぶつと文句を言っていたが、勇者はその生薬を口の中
に放り込むとベッド脇の水差しから直接水を飲んで、薬と一緒に胃の中へ流し込んだ。そして
ベッドに大の字に倒れ込むと、不貞腐れたように毛布を頭の上まで引き上げて目を閉じた。
 しかしあれだけ深く眠って起きた後では、ちっとも眠気が訪れなかった。
 勇者はベッドの上でごろごろしていたが特にすることもなく、あまりに暇なので風呂に入って
みたりもしたが余計に眠気が覚めてしまい、逆効果に終わった。
 結局何もしないまま日が暮れ、カーテンを閉めるついでに窓の外を眺めたら、夕闇に雪化粧を
纏った山々がぼんやり浮かび上がっていた。朝から降っていた雪はもう止んでいた。
 完全に陽が落ちると部屋に夕食が運ばれてきた。肉料理が出されたが、肉の正体が知れない
のでそれを口にするのは避けた。馴染みのある穀物だけをつつき、テーブルの上に食べ残しの皿
や何かを放置しておいたら給仕係が食器を下げに来た。彼らは主から「勇者と言葉を交わすな」
とでも命じられているのか、勇者と視線を合わすことすらせず素早く引き上げていった。

 またしてもやることを失ってベッドに寝転がっていた時、勇者は突然、孤独に対して異常な
までの焦りを感じ始めた。
 単に人肌が恋しいというよりは、まったく知らない土地で親とはぐれた子の心情に近い。
 今まで一人で旅をしていた時にもこんな風に感じたことなんて一度もなかったのに……それに
何だか全身が緊張して、動悸も激しくなってきた気がする。長時間の軟禁状態が、これでも結構
身に堪えているのかもしれない。
 時間の経過と共に勇者の焦燥感は増していったが、それを解決する手立ては現れなかった。

53勇者虐めSS【12】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:48
 夜になって、竜王は勇者に宛った客室を訪ねることにした。朝方に気まずい別れ方をしたが、
彼を預かる者としてはその後の容態が気になる。竜王は薬草学に長けているので勇者に処方した
薬の効果には絶対の自信があったが、人間とはやわな生き物だ。どう転ぶか判らない。
 夕食の時間は忙しくて伴食が叶わなかったこともあり、早めに様子を見に行くことにした。
 夜も更けつつあったので竜王は片手に小さな角燈を持って暗い廊下を渡り、客室の前に到着
すると扉の脇にある鉤に角燈を釣り下げて、開錠の呪文を唱えて中に入った。
 勇者は、またも窓の前に座り込んで外を眺めていた。
 その背中を見ると良心の呵責を感じる。大空を舞う鳥を掴まえて来て、籠の中に押し込めて
しまったような罪悪感。だが竜王には勇者が必要なのだ。目的を果たすまでは手放せない。
 勇者は扉の開く音に気付いていなかったようで、竜王が歩み寄ろうとした時にようやく彼の
存在に気付いて、こちらがたじろぐぐらいの勢いで後ろを振り返った。
「こ、来ないで下さい!」
 直球で拒絶の言葉を投げ付けられて、流石の竜王も片眉を上げる。
「随分な歓迎の仕方だな」
 取り敢えず律儀に立ち止まってみたものの、表情が強張るのは隠せない。
「っすみません……でも…近づかないで下さい……」
 竜王の顔を見ないまま勇者は俯いた。二度目の拒絶の言葉を吐きながら。
 確かに勇者に対して悪いことをしていると思うがそこまで怒るか、と竜王は内心呆れ、踵を
返そうとした。だがよくよく勇者の様子を窺ってみると、心なしか顔が赤い気がする。
 それに呼吸も若干乱れている。
「お前……また熱が上がったのか?」
 信じられないといった口調で言う竜王を、はっと顔を上げて見つめたが、すぐに勇者は首を
ぶんぶんと横に振って否定した。
「そんな顔色で否定しても説得力がない。とにかくベッドに入りなさい」
 そう言うと勇者はのろのろと立ち上がり、おとなしく寝床に戻った。
 夕食の時に処方しようと思っていた薬が懐に入っていることを思い出し、竜王は勇者にそれを
飲ませるためにベッドに近づいた。ベッドの上では勇者がおかしな悲鳴を上げて、頭の上まで
すっぽり毛布を被ってしまう。
「……」
 今度こそ本気で呆れて盛大に溜息をついたら、勇者は毛布の先から青い目を覗かせて竜王の
様子を窺ってきた。取り敢えず胸の上に薬の入った紙包みを放り出し、枕元の水差しからコップ
に水を注いで突き出す。勇者は身を起こして恐る恐るコップを受け取ると薬と共に口に含んで
嚥下し、また恐る恐るコップを脇のテーブルに置いた。
 まるで飼い主にこっぴどく叱られた犬のような仕草だ。
 相手にするのも馬鹿らしいと思い、竜王は何も言わずそのまま背を向けて部屋から出て行こう
としたが咄嗟に勇者が衣の裾を鷲掴みにし、思いきり後ろに引っ張られた竜王は顔を顰めた。

54勇者虐めSS【13】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:48
「……いい加減怒るぞ」
 だが振り返ってみると、勇者の手だけでなく表情までもが自分に縋っているようだったので、
それを無下にも出来ず、竜王は溜息をついて勇者を見下ろした。
「ここに居て欲しいのか欲しくないのか、はっきりしろ」
「……い…居て下さい……」
「居てやっても構わないが、私とてお前に何をするか判らないぞ」
 困り切った様子の勇者を見ていたら嗜虐心をそそられたので、わざと傷に触れるようなことを
言ってやった。これぐらいの仕返しはしてもいいだろう。
 竜王は言外に「自分も魔物なのだ」ということを表したつもりだったのだが、勇者の顔付きに
あまり変化が見られなかったので、おや、と思った。
 何となく様子がおかしい勇者は竜王の顔を仰いでしばらく見とれている風だったが、そのうち
衣を掴んだままの手をそっと、だが有無を言わさない力で自分の方に引っ張った。
 竜王は内心困惑しながらも、それに逆らわず素直に引かれてやる。
 竜王が片膝を付いてベッドに上がったところで勇者は突然、彼の首に腕を回して抱きつこうと
したが、はっと我に返って素早く身を引いた。
「あ……すみません……ッ……」
「お前──」
 その尋常ではない勇者の様子に、竜王は思い当たる節がひとつだけあった。
 勇者の肩を掴んで問いただす。
「その症状はいつからだ。いつから体がおかしいと感じた」
 竜王の言葉に、勇者が図星を指されたように目を見開いた。そして戸惑いの表情で答える。
「夕食を…食べ終わってから……割とすぐです……。急に不安になって……でも誰にも会いたく
なくて…………そうしたら、段々熱っぽくなってきて…………っ」
 竜王は思わず口に手を当てた。
 勇者は遣り場のない熱をその身に持て余しているが、それは魔物の精を受けたせいだ。
 早くに体内を洗浄したし、薬も塗布したから大丈夫だと思っていたのだが、量が量だけに早々
に吸収されてしまったのかもしれない。
 竜王自身は体感したことがないので判らないが、人間が一度でも魔に侵されると、例えそれを
心底憎んでいたとしても本格的に離れることは難しいという。一種の麻薬草みたいなものだ。
 だからこそ竜王は勇者を、無傷の状態でこの部屋へ丁重に迎えたかったのだが、部下の暴走が
それを台無しにしてしまった。そのことは勇者に対して本当に申し訳ないと思う。

55勇者虐めSS【14】※竜王×勇者:2004/10/03(日) 21:49
 だがその一方で──。
 魔物の目線から見ると今の勇者は、甘く濃厚な香りを張りのある表皮の下から漂わせている
熟れかけの果実のような……それが好物の者にとっては今すぐにでもかぶりつきたいと願って
しまう蠱惑的な匂いを、否でも醸し出している。
 魔に侵された後の者は皆そうだ。その匂いに誘われて、更に魔が集う。
 その者を目の当たりにした今、そのうぶ肌に鋭い犬歯を突き立てて豊潤な果汁にまみれながら
髄の髄まで食い散らかしてやりたくなるのが、竜王とて例外なく持ち合わせている魔の本能と
しては、正しい反応の仕方だ。──この場合は一体どうしたものか。
「……っどうしたら…いいんですか……?」
 竜王は対処のことで考え倦ねていたが、困惑した表情を浮かべて俯いている勇者の様子が
あまりに無防備だったこともあって、気が付いた時にはその剥き出しの頬に唇を寄せていた。
「…!!」
 突然の出来事に勇者が、ひくっと喉を鳴らす。
「……私ならお前の熱を解放してやれるぞ」
(その代わり、今後とも癖になってしまうが)
 と、竜王は胸の内で呟いた。一度でも魔に侵食されてしまったら後戻りはできない。効く薬
もないので傍にいて症状を軽くしてやるぐらいしか手立てがない。
 勇者は諸々の事情を知る由もなく、縋るような目をして間近から見上げてきた。
 既に潤み始めている綺麗な青色に見惚れ、久しぶりに魔物本来の欲求が鎌首をもたげた竜王は
頭の位置をずらすと気の赴くまま勇者の首筋を丁寧に舐め上げた。
「う…………ぁ……ァアッ」
「任せるか……?」
 片手を勇者の髪に差し入れて掻き混ぜながら、横から肌に吸い付き、舐め続ける。
 背筋を伝うゾクゾクとした感覚と捕食者に囚われた餌の気分を同時に味わい、勇者は喘いだ。
 竜王が恐ろしいのに逆らえない。
 もっと、もっと、と行為を強請るもう一人の自分が居る。
 体の奥底で、じわりと火が付いた。
「答えなければ終わりにする……お前はここに寝て、私は自室に帰る……それで終わりだ」
 出来ることならそれが一番良いのだが。竜王はまたも胸の内で思う。
 しかしその言葉を耳にした途端、勇者は必死ともいえる様子でかぶりを振った。
「嫌ですッ…そんな……一人にしないで下さい……っ」
 魔に侵されると、人間とはこうも切羽詰まるものなのか。
 竜王は興味半分で勇者の様子を観察しながらも、徐々にこの雰囲気に飲まれつつあった。
 顎に手を添えて勇者の頬を手で挟み、仰向かせると竜王は彼に尋ねた。
「では答えなさい。……お前は私にすべてを預けるか?」
 勇者は、熱に浮かされたような表情で小さく頷いた。
 それを見た魔物の王は、満足げに微笑みを浮かべると震えている勇者の唇に己のそれを重ねて
柔らかく吸った。
 それから耳元に口を寄せると耳朶をきゅ…と軽く噛んで、ひと言囁いた。
「了解した」

56名無しの勇者:2004/10/03(日) 21:50
今回はここまでです。次の投下分で終われるとイイナー(゚∀゚)
長いこと、スレを占拠してしまって申し訳ないです。
やっぱりDQ1のゃぉぃカポーってマイナーなんですかねぇ…。ショボン

それでは失礼致しました。

57名無しの勇者:2004/10/04(月) 22:15
>>50-55の続き、エロ描写込み。この投下分で完結です。
今回の話、実は本スレで見た
>籠の鳥になっちゃう勇者と手篭めにしちゃう竜王
をヒントにさせて頂きました。
勝手にお借りして申しわけ… ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン


◎オリジナル色満載なので一応、脳内設定を書いておきます。

勇者は世間知らず&(普段は)無邪気な人です。
楽天的なので、ご先祖様のことでプレッシャーを感じたことはナシ。
竜王倒しに行って来ーい!と言われて、ぶっちゃけ困ってます。
実家に帰ると姉2人+母に禿しくいじられる末っ子長男。
いじられる→ヽ(`Д´)ノウワァァン!!→ご飯与える→(*´∀`)ポワワ
→いじられる→ウワァァン!! の繰り返し。学習能力がないだけかも。

竜王は「ミイラ取りがミイラになる」を実地で体験する羽目になった
可哀想な人です。…人?
城中にハーブ園を造っていて、そこの雑草抜き等が毎日の日課。
部下の体調が悪い時には自ら調合したお薬で治してあげます。
多分、部下からは陰で「先生」とか呼ばれてハァハァ慕われてる。
地下はジメジメしていて嫌いなので城の上層部を綺麗にして住んでます。


それでは、以下11レスほど使用します↓↓↓↓

58勇者虐めSS【15】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:18
 勇者は広いベッドの上に座らされて、竜王がその背後に廻った。
 後ろから、ぎゅっと抱きしめられて鼓動が速まる。
 気恥ずかしさから俯くと、滑らかな項に接吻を落とされた。びっくりして身を竦ませるが顔を
上げることが出来ない。竜王の唇は首筋から耳の後ろまでを往復し、時おり強く吸い上げては
勇者の柔らかい肌に赤い印を付けていった。
 大きな手が上着のボタンに掛かり、一つ一つ外していく。その手がゆっくりと滑らせるように
勇者の肩から衣を落とすと、露わになった背中に優しい接吻が繰り返された。竜王は体の位置を
ずらすと、両手は肩から程良く筋肉の付いた腕へと撫でさするように降ろしていき、唇の隙間
から舌を少し出して背骨の浮き上がりを淫猥な動きでなぞった。
「はぁ、あ……!」
 全身を駆け巡ったざわめきに勇者が息を飲む。その反応に気を良くした竜王は片手を勇者の
胸に廻すと、探るように這わせた指で弾力のある乳首を捉えた。
 はじめは乳輪を羽のようにさわさわと撫で、次に乳首を爪の先で軽く弾いたり、擽ったり、
二本の指で捻るように摘まみ上げた。そのうちに乳首がぷくり、と勃ち上がってきたので
今度は尖頭を捏ねるように刺激してやると、頭上から泣きじゃくるような声がした。
 乳首を指で転がしながら勇者を背後から抱き直し、もう片方の手を下衣に滑り込ませた。
 下着の上から性器の形をなぞるように触ると、勇者がひっと喉を鳴らして嫌がるように腰を
もぞもぞと動かした。
「……ん…アッ……ゃだ…………ぁ!!!」
 勇者の脳裏に、地下牢で魔道士に弄ばれた時の感触がよみがえる。
 干涸らびて骨のようにも見える指がぬらぬらと液体を絡め、陰茎を虫のごとく這い回った。
 ──おぞましい。思い出しただけでも嘔吐感がこみ上げる。
 だが今は、竜王の温かい腕の中だ。下半身を占拠している節ばった大きな手は悪戯に刺激する
のではなく明らかに勇者から快感を引き出そうとしている。布地の上から散々なぞった後で竜王
が足の付け根を強めにさすると、それだけで勇者の下腹部に熱が集まった。
 片手で固くしこった乳首への愛撫を続けながら、もう片方を下着の中へ入れると、強い刺激を
待ちわびた陰茎が竜王の手を押し返した。
 茎を扱いて、それが次第に固さと熱を持ち始めると竜王は陰茎への刺激を放り出し、哀願する
ような勇者の声を無視してその下の睾丸をきゅっと握り込んだ。
「んんっ!」
 勇者の背がビクンとしなる。
 竜王は伸びをする猫のような仕草が気に入って、勇者の耳朶を甘く噛みながら「可愛いな」と
囁いてやったら、言われた本人は首まで真っ赤になった。愛撫しやすいように竜王がより背中に
密着すると、勇者は腰に押し付けられた熱い固まりを布越しに感じて溜息を洩らした。

59勇者虐めSS【16】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:18
 竜王は重く垂れるふくらみを揉み立てて射精を促すと、とろとろと先走りの液を垂らす陰茎に
再び手を掛けて扱いた。裏筋を強めに刺激してやると敏感な先端がぐっと質量を増した。
「あ…………ゃ……あぁっ!」
 喉の奥から掠れた声が上がり、竜王の手の中の物が熱く脈打ったと思ったら勇者は下着の中
に精を放っていた。呆気なく堕ちたな、と思いながらも最後の一滴まで搾り取るべく擦った。
勇者は刺激に耐え切れずに細く喘いだ。
 竜王は勇者の首筋に顔を埋めて肌を舐めると、そのまま体の前に廻って熱い吐息を漏らす唇に
唇を重ねた。深く接吻し、ねっとりと舌を絡め、強く吸い上げると勇者がくぐもった声を出す。
「ッ…………んぅ……」
 下唇を甘噛みしたまま少し引っ張って離してやると、血色の良かった唇は更に赤味を増して
艶やかに濡れ光っていた。それに誘われてまた、唇を寄せる。
 竜王の接吻に翻弄されているうちに、勇者はあっと思う間もなく裸にひん剥かれていた。
 唇を離して、目の前で何の躊躇いもなく衣を脱ぎ去る竜王の堂々たる裸体を見つめて、人間
とは違うその体つきに畏怖を覚えた。肌質も、人間のものより硬い感じがする。
「恐ろしいか」
 勇者の揺れる視線に気付いた竜王が静かに尋ねた。嘘をついても仕方ないのでこくりと頷く。
 竜王は勇者の体を引き寄せると、彼の頭を抱き込んで厚い胸板に押し付けた。
「私も、お前と同じ心臓を持つ者だ」
 ドラゴンは、スライムのような独自細胞を持った粘弾性生物でも、あやかしの術で呼び出した
死霊類でもないと竜王は強調する。人間もその根源を遡れば途中でドラゴンになるのだ。
 そう言われて、勇者はじっと耳を澄ませた。竜王の言う通りだ。硬い皮膚の向こうから鼓動が
とくん、とくん、と響いてくる。勇者はその脈動を耳と肌で感じて目を閉じた。
 しばらく経つと安心したのかすうっと体の緊張を解いた勇者の背を、あやすようにさすって
やって、いい香りのする髪に接吻すると竜王は続きをして良いか確認を取った。怖々ながらも
勇者が頷くと、竜王はベッドの上で胡座をかいて座り直した。そして勇者の腕を軽く引っ張って
己の元へ引き寄せた。
 されるがままになっていた勇者だったが、胡座をかいた竜王の膝の上に上半身を折るように
して乗せられると、ようやくその意味を理解して激しく動揺し、嫌だ嫌だと暴れ始めた。
 この、尻だけを外へ向けた体勢というのはまるで、お仕置きされる子供と同じではないか!
 脇腹に男の熱い猛りを感じ、羞恥で全身を赤く染めてバタバタと暴れる勇者を易々押さえ付け
ると竜王は、体を屈めて彼の肩を抱きしめた。
 これから行うことは、勇者の体を傷付けないためにも必要なことだから止めてやる気はない。
 それを伝えると、勇者は泣き入りそうな声で尚も「嫌だ」と口走っていたが、竜王が身を
起こして彼の尻の肉を掴み、外へ広げるように柔らかく揉みしだくと、徐々に強張っていた体
から力が抜けていった。

60勇者虐めSS【17】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:19
 手近なところでテーブルから軟膏の入った容器を取り上げると(まさかこんな時に役立つとは
調合した本人も思わなかった)、竜王は中身をたっぷりと指に取って尻の谷間に滑らせた。
 肛門を爪の先で傷付けないように注意しながら、内部にゆっくりと指を一本差し入れる。
 ある程度の粘度をもった物質は潤滑剤としての役割には少々足りないが、何も付けないよりは
遥かにいいだろう。そう考えた後でふと思い付いた案を実行したくなった竜王は、空いている手
を勇者の顔の方へと持って行くと、形の良い彼の顎に添えた。
 勇者の顎に添えられた手は、中指が唇の感触を確かめるように輪郭をなぞり、そのうち口腔に
侵入してきた。
「ふぁ…っ」
 突然のことに驚くが、長い指で口内を掻き回されて、先の尖った爪で口蓋や舌の付け根を軽く
刺激されると、堪らなく感じてしまう。
 無意識のうちに勇者はうごめく不埒な指を唇で捉え、舌を絡めると前後に顔を動かした。
 指の方もその動きに合わせて口の中をいやらしく出入りする。くちゅくちゅと唾液が音を立て
まるで男根をくわえて奉仕しているような気分になってきた。
 勇者本人は気付いているか判らないが、腰がくねるように動いて、後孔に入ったままの指を
奥へ奥へ誘っているようにも見える。竜王は口元に会心の笑みを浮かべると、更に軟膏を塗り
込めて後ろを弄る指を二本に増やした。
「は……ふ…っ」
 衝撃に喘ぎながらも竜王の中指に唾液を絡めて、指の股や他の指も舐め上げる。
 竜王が頃合いを見計らって勇者の口内から指を引き抜くと、舌が名残惜しげにその動きを
追った。その仕草に愛しさを感じて、竜王は勇者の背中にご褒美の接吻を落とした。

 勇者の<発作>を鎮めるための行為に、今や竜王も完全に溺れていた。

 やはり、魔が人間相手に冷静さを保って性行為に及ぼうなど、所詮は無駄な足掻きなのだ。
 性交渉を持った後では、勇者はいずれ竜王から完全に離れられなくなるが、今ここで行為を
止めて、清い空間で彼を長時間隔離することが出来ればまだ救いがあるかもしれない。
 その可能性があるから、王としての理性は先程から「留まれ」「一線を踏み越えるな」と
主張している。
 だが本能では勇者を支配したくて堪らない。
 たっぷり愛して、滅茶苦茶に犯してやりたい。
 下等なモンスターは人を目の前にすると家畜扱いして暴力を振るうが、高位の者はこれだと
決めた相手を愛し、長い時間を掛けて陥落させる。そして相手が死ぬまで一生離さない。
 今、竜王が狙いを定めたのはこの勇者だった。
 欲しい。
 欲しい。
 目的を果たした後できちんと解放してやるつもりだったが、気が変わった。解放する前に
自身を刻みつけてやろう。そうすれば、空に放った鳥もまた籠に戻ってくる。
 竜王は楽しげに嗤った。

61勇者虐めSS【18】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:20
 竜王は、枕を幾つか積み重ねた上に勇者を俯せに寝かせると足の間に割って入り、てらてらと
濡れ光る中指を勇者の後孔に差し入れた。中で軟膏と唾液が混ざり合って、蕩けるように内部の
熱い肉に馴染んでいく。
 指を三本に増やしてぐちゃぐちゃに掻き混ぜ、勇者の悲鳴が甘い喘ぎに変わったところで竜王
は猛々しく勃ち上がった己の陰茎にも軟膏を塗ると、熱を帯びた穴に押し入った。
「ああぁーっ!! あっ、あぁっ、ぁあぁっ!!!」
 勇者が高い声を上げ、シーツに爪を立てる。
 多少強引に狭い肉を押し拡げていくと、はじめは滑りが悪く引っ掛かるような動きだったが、
すぐ熱に溶けて、内壁との摩擦で液化したものがじゅくじゅくと音を立てた。
 腰をしっかり掴み、抉るように下からの突き上げを行う。勇者は肘で上半身を支えていたが
強烈な快感と動きの激しさに耐えかねて、腰だけを高く掲げた状態でベッドに突っ伏した。
 竜王は襞をめくる勢いで陰茎を引き抜き、勇者の体を仰向けにひっくり返すと彼の両足を抱え
上げて再び中へ分け入った。根元まで挿入すると噛み千切らんばかりに雄を締め付けられる。
 勇者の顔を見遣ると切なげに眉を顰めていた。両の瞼は固く閉じられているが、はっ、はっ、
と浅く呼吸を繰り返す唇は薄く開き、奥で舌が卑猥な動きを見せている。そんな勇者の表情を
楽しみながら強弱を付けて抜き差ししていると、勇者がうわ言のように呟いた。
「…………して」
「……何?」
「……もっと…、乱暴にして……っ」
 切羽詰まったような勇者の声を聞いて竜王は動きを止めた。そしてその言葉の意味を理解した
途端、かっと激昂した。
 勇者には、獣達に犯された時の感覚が今だに残っている。それはそうだ。あれから大して時間
が経っていないのだから。だが性交を嫌がるのならともかく、この様子だと、暴行された時と
同じことを竜王にもさせてあの時に覚えた不快極まりない感覚を快楽へと昇華しようとしている
ようだった。
 ──この竜王を利用しようとは、大したものだ。
 己が手に入れる前に手垢を付けられたような気分になり、竜王は勇者を犯した部下達に対して
激しい殺意を抱いた。とうに虐殺してしまったが、もっと嬲ってから殺してやるべきだったかも
しれない。爬虫類の目が、激情に駆られてぎらぎらと輝いた。
 竜王は頬を薄紅色に上気させている勇者の顔に両手を添え、強い力でぐいと挟んだ。
 思わぬ衝撃を感じて勇者の目が薄く開く。
「お前を抱いているのは私だ」
 利用するのは勝手だが、誰に抱かれているのかはっきり意識して貰わなければ。
 潤みきった目でとろん、と竜王を見つめる勇者の頬を何度か乱暴に叩き焦点を合わせさせる。
「判るか? お前の中に居るのはこの私だ。魔獣ではない」
 琥珀を思わせる色をした竜王の目を間近で覗き込んだ勇者は、その言葉を聞いて相手の言わん
としていることを悟ったようだった。見る見るうちに顔が泣きそうなまでに歪められる。
「…………はい」
「いい子だ」
 返事を受け取った竜王は勇者の手触りの良い前髪を掻き上げて、額に接吻を落とした。
 ──否、彼に八つ当たりをすべきではない。傷付いた者は徹底的に愛してやらなくては。

62勇者虐めSS【19】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:20
 竜王がゆっくり動くと途端に直腸がきゅっと締まり、自身に挿入されている雄の形をぎちぎち
に拡げられた入口と内壁ではっきりと感じ取ってしまった勇者は、顔を真っ赤にしながら腕を
伸ばして目の前に居る男の首にかじり付いた。
 竜王は尚も陰茎をゆっくりと抜き差ししながら、勇者の髪を優しく撫でた。
「今……私はお前を抱いている……」
「ん…、ふぅっ……」
「……私だけを見ていろ」
「…………はぃ…………ッ……あぁ…ァっ、あぁぁ!!」
 突然、激しく腰を突き入れてきた竜王の動きに翻弄されて、勇者はひと際高い声で鳴いた。
 先端にくびれのある熱い塊でもって腸壁をずるずると擦られ、我を忘れて喘ぐ。
 竜王も、うねるような動きで己を締め付ける勇者の内側を存分に味わった。
 射精せず固さを保ったままの陰茎をゆっくり引き抜いておいて、その先端で穴の入口を焦らす
ようにゆるりと撫で、今度は勢いよく中へ潜り込ませて何度か突き上げる。
 それを繰り返すうちに、陰茎が体外へ出て行こうとする動きだけで、勇者は「抜かないで」と
半狂乱になって懇願するようになった。
 少し身を離すと、二人の腹の間で勃ち上がった勇者の陰茎が体の動きに合わせてゆらゆら
揺れていたので、竜王はそれに手を掛けると緩やかに扱いて先走りの液を陰茎全体に塗り付け、
ぬめる亀頭は親指の腹でぐりぐりと刺激した。
「はぁ……くっ……!」
 体の中心から沸き起こった痺れるような快感を堪えるように勇者の顔が歪む。
 竜王は勇者の乱れた表情がもっと見たくなって、片手で敏感な先端を刺激し、もう片方の手の
ひら全体を使って茎と睾丸を交互に揉みほぐした。
 そうしておいて、腰の突き上げも断続的に行う。下から、斜めから、時には円を描くような
動きで執拗に肉壁を責めた。押し寄せる快楽の波に追い詰められた勇者は甘やかに喘いだ。
「ああっ!! あぁっああぁっ!!! あァ……ッ…はあっはぁっ」
 内と外を同時に刺激されて仰け反った勇者の喉元に、竜王は誘われるようにして唇を寄せると
首の付け根に鮮やかな花弁を散らせた。耳の後ろに舌を伸ばし、卑猥な動きで形をなぞってから
耳朶を甘噛みする。
 蕩けきった表情で善がっていた勇者は己の痴態に気付いて顔を隠そうとしたが、竜王はそれを
許さなかった。──こうも美しくいやらしいものを隠してしまってどうする。
「行くぞ」
 そろそろ限界が近いと悟った竜王は短く宣言すると、勇者の足を抱え上げ直して、己の分身を
ぐっと埋め込んだ。その衝撃に勇者が呻く。そのまま体を上に伸ばすと竜王は自分より小柄な
勇者の肩を腕の中に抱き込み、体を密着させると律動を開始した。

63勇者虐めSS【20】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:21
 肉で肉を抉られるような内壁の感覚も凄まじいが、鍛えられた腹筋に挟まれて擦られる形と
なっている性器への刺激も生半可ではない。先程、男の手で散々弄られ極限近くまで昴められた
ものの、二回目の射精までには至らなかった。早くこの熱を解放したくて堪らない。
 勇者は竜王の腰にしなやかな足を絡めると股間を相手の下腹部に擦り付けて、強請るような
動きで淫らに腰を振った。男もそれに応えて、熟れきった肉をより深く穿つ。穿った先に潜む
しこりを陰茎のくびれた部分で何度も掻き、勇者にも、そして自分自身にも快感を送り込んだ。
 二人の荒い息遣いと、皮膚同士がぶつかり合う音、結合部から聞こえてくる淫猥な水音……。
 部屋を支配する熱とそれらの音に煽られ、本能の赴くままに勇者と竜王は互いを貪った。
 先に、か細い悲鳴を上げて勇者が絶頂に達した。
 陰茎の先から精液が勢い良く飛び散り、己のだけではなく相手の腹をも白く汚した。
 達した快感から、勇者は内に取り込んでいるものをきゅうっと締め付ける。内側の狭い壁の
うねりによって陰茎の先端から根元までを搾り取るように刺激された竜王は唸り声を上げ、最後
の仕上げとばかりに腰を数回叩き付けると、体の奥へ向かって熱いほとばしりを幾度も放った。
「……ぁ……はァ…………」
 ビクビクと脈打つ雄と熱い飛沫を中に感じて、勇者が仰け反りながら満足そうに溜息をつく。
 緩く開かれたその口の端からは唾液が細く流れ出ており、汗や涙と混じって首筋を伝い、鎖骨
にまで垂れ落ちていた。
 一旦は身を起こしかけた竜王だったが、勇者の様子を視界に認めると花の蜜に誘われる蝶の
ごとく寄って行って、舌を出してそれを舐めた。一気に舐め取ろうとはせず、動物の親が子の体
を清める時の行動に似た動作で小刻みに舐め上げる。達したばかりで敏感になっている肌を這い
回る舌のざらりとした感触と擽ったさから勇者は身を捩った。
 鎖骨部分から開始して、徐々に首筋……顎……と這い上がっていった舌で口の端に残る唾液を
舐め取ると竜王は、ちゅ、という音を立てて勇者の柔らかな唇に接吻した。
 そこで、二人の視線が合った。
 呆けたような表情を浮かべて己を見上げる勇者の様子に、竜王は失笑を禁じ得ない。
「大丈夫か」
 男の言葉に、ぼうっと霞んだ目で視線を彷徨わせていた勇者はこくりと頷いた。
 竜王はもう一度、唇を重ね合わせてじっくり感触を味わうと最後に上唇を吸って、それから
唇を離した。
 そうして、勇者の後孔から自身をゆっくり抜く。
 散々擦られて赤くなっているであろう粘膜の襞は、名残惜しげに男のものに絡み付いてきたが
本来の排泄する機能の方が勝って、竜王の陰茎はごく自然な動きで外に排出された。
 竜王は勇者の上から退いて、弾けた白い飛沫を手近な布で拭き取ると、彼の脇に体を横たえて
弛緩し切った勇者を腕の中に抱き寄せた。勇者はおとなしく従い、子猫のように擦り寄る。
 互いの肌の熱を感じながら二人はぐったりと身を寄せ合った。

64勇者虐めSS【21】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:21
「貴方に酷いことをしてしまった」
 しばらくして、腕の中で勇者がぽつりと呟いた。
 体の疼きを鎮めるために竜王を利用したことを申し訳なく感じているらしい。
 我を忘れて淫靡な行為に没頭しているように見えたが、どこかで冷静に考えている部分も
あったようだ。
 竜王が何も言わないでいると、それを怒っているのだと勘違いした勇者は腕の中で所在なさげ
に身じろぎした。
「すみません……。謝って済むことではないですけど」
 竜王は短く息を吐いた。
 自分もつい冷静さを欠いて、勇者が弱っているところに付け入るような形でその体を抱いて
しまったのだ。それを責められるようなことはあっても、逆に謝られるとは思わなかった。
 しっかりしているのか、抜けているのか。この勇者は何となく掴み所がない。
「実は私がお前に処方した薬に発熱の原因となるものが入っていた、とか……そういうことは
考えないのか」
「あの薬が、そういう細工を施されたものだとは思いません」
「随分信用されたものだな」
 実際、何も細工などしていないのだが、いやにきっぱりと答える勇者に竜王は内心面食らう。
 勇者は勇者で、薬草のことには多少詳しい程度の(殆ど素人といって差し支えない)自分が
何の疑いもなく竜王の処方薬を口にしてきたことを今更ながらに怖いと思った。
 そして、今でもこの男を怪しいと疑うことができない自分もどうかしている。
 勇者は何かを逡巡するように目を伏せた。
「…………僕をこの城へと連れてきた理由を聞いても構いませんか」
 地下牢に閉じ込められた時はモンスター達に嬲り殺されるのだろうと思っていたが、竜王は
勇者の身柄をわざわざこの部屋に移して体の傷を癒し、数日ではあるが衣食住の世話もして
くれている。即、死に至らしめるようなことはしてこなさそうな竜王の真意が、逆に勇者には
掴めていなかった。
 竜王は「この状況で語らう内容ではないかもしれない」と苦笑混じりに前置いてから、真摯
な眼差しで勇者を見た。
「私を倒すために遣わされたという勇者と、話がしたいと思っていた」
「話……?」
「人間の王がお前に何を吹き込んで旅立たせたかは知らないが、私はアレフガルド諸共、人間を
滅ぼしたいと思っている訳ではない。
 私は生を愛し、それを育むことを歓びとしている。だから、お前を殺す気もないということを
まずは判って欲しい」
 勇者は竜王の言葉を聞いて、ぽかんと口を開いた。
「それじゃあ…、貴方は何を望んでいるんです?」
「魔物と人との共存だ」
 竜王はそう言うと勇者を抱いていた腕を放し、ベッドに片肘を付いた。

65勇者虐めSS【22】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:22
「その昔、魔物と人間が手を取り合って暮らしていた時代があった。だが今は──魔物と見れば
人間は寄ってたかって息の根を止めようとする」
「それは逆です。魔物が人を襲うから、人は身を守るために武器を取るのです」
 心外だと言わんばかりに否定した勇者を見て、
「…………こうやって、私とお前との間ですら考えが食い違ってしまう」
 と、竜王は寂しそうに微笑んだ。

 かつての地上は楽園だった。
 花は美しく咲き乱れ、果実は瑞々しく実り、大地には若々しい緑が芽吹いた。
 地上の生き物は等しく祝福を受けた存在であり、そこに暮らす人と魔は、契約を結ばなくても
友愛に満ちた関係を築いていた。ある日そこへ何者かがひびを入れたが、平和に慣れきった人間
と魔はそれに気が付かなかった。
 目立たない程小さかったひびは次第に大きくなり、彼らが気付く頃には取り返しが付かない程
深い傷が二者の間には広がっていた。
 地上の楽園には猜疑心が蔓延し、誰もが自分以外を信用しなくなった。敵味方関係なく弱者は
屠られ凶暴な性質の者だけが生き残り、現代まで繁殖を続けてきた。
 それらが今、互いに互いを食い尽くそうと画策している。
 半ば宿命づけられているような人と魔の争いに、竜王は辟易していた。
 早く終わりにしてしまいたい。
 時と共に大地は汚されて、毒に染まっていった。このまま人と魔が争いを続ければ植物どころ
か動物までもが滅びてしまう。愛する世界をむざむざ滅びへ向かわせる訳にはいかない。
 だが人間は、魔物の王の言葉など聞き入れないだろう。
 竜王は必要とした。己の意思を仲介してくれる者を。
 そこへ「ロトの子孫が竜王を討つ旅に出た」と知らせが入った。
 若き勇者、人々の希望の星。媒体にするには丁度いい。……そして、彼を攫った。

66勇者虐めSS【23】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:22
「……二種族の共存など太古の幻想に過ぎないのかもしれない。だが私はそれでもアレフガルド
を美しかった頃の姿に戻し、魔物達が怯えずに暮らせる場所を築きたいのだ」
「それで…僕に何をしろと……?」
 無謀ともいえるその願いを竜王が実現するにあたり、自分がまったくの無関係だとも思えずに
恐る恐る尋ねてきた勇者の唇を、竜王は指で何度かなぞった。
「勇者ロトの血を継ぐお前の言葉なら、人間の支配層を説得するとまではいかなくとも、影響を
与えるぐらいの力はあると思ったのだが」
「僕にそこまでの影響力があるとは思えませんが……」
「やってみなければ判らないだろう? 既に、ラダトームには私から公式に文書を送ってある。
そこに加えてお前からの口添えもあれば、和平に向けて新たな一歩が踏み出せるかもしれない」
 魔と人間が手を取り合う? そんなことが起こり得るのか。
「本当に──共存できる日がくると思いますか?」
「それもやってみなければ判らない。だが聞き入れられず戦争になったとしても、私には魔物達
を守って戦う覚悟が出来ている」
 毅然と言い放つ竜王の顔を直視できず、勇者は顔を半分シーツに埋めた。
 どうすればいい。この男の言葉を信じていいのか判断が付きかねる。
 混乱した様子で不安げに瞳を揺らす勇者の頬に手を添えると、竜王は正面から向き直った。
「覚悟は出来ているが、私も可能であれば戦争は避けたいのだ。お前を通じて平和を訴えたい。
どうかそれに応えては貰えないだろうか」
 そう言われても勇者には即答できなかった。何もかもが突拍子もない出来事だ。
 迷った挙げ句、答えが出ずに咄嗟に目を伏せた勇者を見て竜王はその頭を撫でた。
「現実味のない話だと混乱しているのだろう。それでもいい。お前は<勇者>だ。自分の信じる
道を行きなさい」
 こんな話をして悪かった、と言って竜王はその身を起こした。
 手早く衣を纏っていく彼を複雑な思いで見つめる。竜王は部屋を出て行く時に、
「三日後に解放してやろう」
 と言った。一瞬、何を言われたのか判らなかった。
 扉の閉まる音が室内に響いた途端、勇者はようやくその意味を理解してベッドから跳ね起きた。

 ──城から出して貰える。

67勇者虐めSS【24】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:23
 三日後、竜王は言葉通り勇者を解放した。
 それまでは共に食事を摂ったり、他愛もない会話を交わしたり、……夜はベッドの上や湯船の
中で散々鳴かされたりしたのだが、三日目の朝になって給仕係に差し出されたもの──攫われる
前に身に付けていた旅装束やら武器防具の類、それに道具袋──を見て、勇者は「本当に帰して
くれるのか」と驚きの表情を浮かべた。

 夜着から着慣れた装備に着替えていると、竜王が部屋に入ってきた。
「その格好を見るのは初めてだ。剣があると勇者らしく見えるな」
 軽口を叩かれて思わず苦笑が浮かんだ。今まで、どれ程頼りなく思われていたのだろう。
 竜王は<正装>を纏った勇者に近寄り、その顎に手を掛けると顔をくいっと仰向かせて静かに
接吻した。勇者も目を閉じておとなしく身を任せる。唇を離した後、二人は自然に抱き合った。
「……国王に、お話ししてみようと思います」
 思いもよらない言葉が勇者の口から飛び出たことに驚いて、竜王は思わず身を離した。
「どういうことだ?」
「あれから…ずっと考えてたんです。僕に出来ることは何なんだろう、って。確かにモンスター
の命を奪うことは容易いですけど、それじゃあ何の解決にもならない。思い切って武器を捨てる
ことが必要なんじゃないか、って……そう思ったんです」
 そこで言葉を切ると、勇者は照れたように小さく微笑んだ。
「皆が<勇者>を手本にしてくれるといいんですけど」
 それを見て、竜王も穏やかな笑みをその顔に浮かべた。
 運命の輪は廻りはじめた。
 和平交渉の余地を求める文書と勇者の口添えが、この問題に一石を投じるようなことになれば
きっと何かが変わるはずだ、と竜王は確信していた。焦らずじっくり時間を掛ければ平和への道
が必ず拓ける。それを信じてこれからも尽力するのが、自分の役目だ。
 この青年はあどけない風貌をしているが、ロトの血を引いているせいか、どこか他人を惹き
付けるものがある。彼の言動はアレフガルドの民にもいい影響を与えてくれるだろう。

68勇者虐めSS【25】※竜王×勇者:2004/10/04(月) 22:24
 竜王は勇者の手を取って、彼を部屋の出口へと先導した。
(本当に外に出られるんだ……)
 美しい紋様が彫られた重そうな樫の扉を目の前にして、勇者は唾をごくりと飲み込んだ。
 彼が部屋から出られないように開閉不可の術がかかっていた扉。
 その扉が今、竜王の呪文によって開く。
 緊張気味に扉を凝視している勇者の横で呪文を詠唱し終えた竜王は、扉の半分を押し開けると
勇者の背に手を添えて、外へ出るよう促した。
 勇者は詰めていた息を吐き出し、ゆっくり歩を進める。

 勇者が目の前を通り過ぎた時、竜王の顔にふと凄絶な笑みが浮かんだ。

 ──美しい鳥。必ず籠に帰って来い。
 戻った暁には、お前の風切り羽を切り取ってやろう。
 いつまでも、いつまでも。
 羽が生える度に切り落として、ずっと可愛がってあげよう。

 竜王自身も部屋の外へ出たところで、扉が二人の背後で重厚な音を立てて閉まった。
 背を向けていた勇者は、表に現れた魔物の気配に気付かなかった。



                               〜終〜

69名無しの勇者:2004/10/04(月) 22:25
以上で、すべて終了です。
読んで下さった皆様、どうも有難うございました。
ネタも尽きたことだし、そろそろ地下に潜ります。

それでは失礼致しました。

70名無しの勇者:2004/10/07(木) 01:33
あっ続き来てる〜と思ってスレッド開いたら・・・
エロキタ━━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!!!!
ついでに勇者タンうしろうしろー!!!!!(((( ;゚Д゚)))
姐さんのお陰で竜王×勇者にどんどん転んでいきますYO!ハァハァ
>57の設定にハゲワロタ。ガーデニング竜王と天然?勇者萌え。
地下に潜られてしまうんですか・・・残念です。

71名無しの勇者:2004/10/12(火) 07:33
久々に覗いてみたら竜王×勇者キテタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!
最初から一気に読ませていただきました。
本スレでの一連の流れからずっとくすぶっていた竜王×勇者を
こんな禿げ萌え小説で浄化することができて幸せです。
姐さんGJでした!

72名無しの勇者:2004/10/30(土) 17:19
姐さんの小説を胸に1プレイしてきます!

73名無しの勇者:2004/12/26(日) 01:15
竜王×勇者激萌えましたー(*^▽^*)普段はrom専だけど
興奮して書き込みです。また書いてください!

74sage:2005/01/09(日) 00:35
電車でいつでも竜王×勇者ですハァハァ
姐さんGJ!

75名無しの勇者:2005/01/09(日) 00:37
興奮しすぎて初歩的なミスorz
竜王の城に逝ってきます

76名無しの勇者:2007/05/11(金) 06:52:58

竜王×1勇 最萌ですYO

77名無しの勇者:2007/10/24(水) 00:08:55
竜王×1勇の話しを書いてる方の、ほかの話ってどこかにありませんかね。
たしか竜王曾孫×ローレとかもあったと思うんですが。

78名無しの勇者:2007/10/24(水) 08:03:36
おまえさん801板でもそんなこと聞いてなかったか

79名無しの勇者:2007/10/24(水) 20:13:58
確かサイトは閉鎖なさったはず。ショックだったんだから思い出させんなっつの。

80名無しの勇者:2007/10/25(木) 02:01:44
あ…、やっぱりさいですか。かなり好みの文章だったから物凄く残念。
せめてどこかに残っていれば、と思ったんですが、まぁしょうがないことですね。

81名無しの勇者:2007/10/26(金) 01:29:48
空気読めるようになろうな

82名無しの勇者:2016/12/02(金) 03:07:38
初めて書き込ませていただきます。
「竜王×勇者」の方の作品が素晴らしすぎて、今でも何度も読み返してます。
どこに書いたら作者の方に伝わるのか分からないのですが、
ここしかないと思うので、書かせていただきます。

作者様、Pixivとかサイトとかで御作品の再掲載とかしていただけませんでしょうか?
作品が素晴らしすぎて、サイト消滅以来ずっと喪失感にさいなまれています。
すごく感動したお話があったので、もう一度是非読ませたいただきたいのです。

完全に私信で、
スレ汚し失礼いたしました。


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