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SSスレッド

1板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/11(木) 00:39
支援目的以外のSSを発表する場です

 ・1つのレスの投稿文字数制限は
   IEで2000文字以内
   かちゅ〜しゃで1500文字以内(どちらも参考値です)

   以下のサイトで文字数をチェックできます
   ttp://www5.tok2.com/home/cau85300/tool/count_check.html

 ・エロSSについては各自の判断でお願いします

このスレッドで発表されたSSについての感想も、ここに書いて頂いて結構です

2奇譚:2002/07/11(木) 16:42
『TYPE−MOON最萌えトーナメント 楽屋裏』6月28日編
高田陽一 (月姫)
クールトー(月姫)
猫又秋葉 (月姫)
三澤羽居 (月姫)

(1)
 ここは、TYPE−MOON最萌えトーナメントの楽屋裏。
試合を戦い抜く者達が表での華々しい活躍のために気合いを入れたり、
他のキャラクターにちょっと牽制を掛けてみたりする裏の社交場である。
今日、この場にやってきたのは5人。
高田陽一、クールトーと通訳係の琥珀、猫又秋葉、三澤羽居である。
 楽屋裏ではあるが、アールヌーヴォー調のテーブルに淡い色合いのティーカップ、
湯気を立てる紅茶にクッキーまでしっかりと用意されている。
テーブルの下にクールトーの為、『かみかみ君』(お犬さま用ガム)まで
用意されているのはご愛敬である。

「いよいよ試合ね…」
「わー、つぶやく秋葉ちゃんかわいー」
だきっ!
「あ、こら羽居、ひげを引っ張るんじゃない!」
「えへへー」
「(もぐもぐ)うーん、試合といっても僕ら見ているだけなんだよねー(もぐもぐ)」
オン、オン!
「えーと…クールトー君が『おれさまみんなまるかじり』と言っています。
 んー、クールトー君、大胆ですねー」
「へぇ…クールトー、いい度胸ね…」
「秋葉ちゃん、猫又変化なのだー!」
「(もぐもぐ)あー、試合が始まったよー(もぐもぐ)」

3奇譚:2002/07/11(木) 16:43
(2)
「最初は…まあこんなものね…」
「わー、どんどん票が入ってくー。あっ、私に入った。ありがとー」
「(もぐもぐ)のんびりペースだねー(もぐもぐ)」
「あ、ほらほらクールトー君、支援が来ましたよ!」
オンッ!
「…クールトー、これは…日常なのかしら?」
オンッ!(誇らしげに胸を反らす)
「ふむふむ、クールトー君が『すごいだろう!』と言っています」
「(もぐもぐ)クールトーは大人物だねー(もぐもぐ)」
「あっ、私の支援も投下されたー。あー!秋葉ちゃんといっしょでネコー!」
だききっ!
「わっ…、こら羽居!紅茶がこぼれるからやめるにゃー!」
「ふにゅ〜、ごろごろ…」
「(もぐもぐ)うんうん、平和だねー(もぐもぐ)」

「あっ、また支援画像ですよ、秋葉さま!」
「…こうして、たくさん支援を送られるとちょっと…ごにょごにょ《恥ずかしい…》」
「秋葉ちゃん、とってもかわいいよー」
「…羽居には勝てないわね…えーと次は、なっ、相撲!?」
「私とだねー」
「あらあら、と思ったら終わりましたねー。どっちが勝つんでしょう?」
オン!
「クールトー君?あら、秋葉さまの支援ですねー」
「(もぐもぐ)支援がたくさんで…激戦だねー(もぐもぐ)」
「……。……。…!!さ、30分の1ー!?」
「わーい、じーく秋葉ちゃーん!」
「秋葉さま、このお薬が効果的ですが…」
テーブルにちょこんと袋が置かれた。袋に書いてあるのは3文字。
               豊胸剤
「うにゃー!うにゃーー!」
ガタタッ、バキッ…
「(もぐもぐ)短い平和だったねぇ…(もぐもぐ)」
オンッオンッ!
「はいはい、クールトー君支援ですねー。
 ふんふん、『冒険には危険が付き物だ』だそうですー」
「クールトーちゃん、面白いねー」
オンッ(えっへん)。

4奇譚:2002/07/11(木) 16:43
(3)
「ねこアルクさんの心情が語られてますねー」
「同族として何か一言…秋葉さま?」
「知りませんっ!それに同族じゃありませんっ!」

「秋葉さまと三澤さん、着々と票が伸びてますねー」
「えへへー、みんなありがとねー」
「なんのっ!まだまだ負けないにゃー!」
「秋葉さま…だんだん違和感が無くなってきましたね…」

「(もぐもぐ)とうとう僕に来たね(もぐもぐ)」
グルルル…
「クールトー君が『票が少ないんじゃないか?』と言っていますー」
「(もぐもぐ)そうだねー。巻き返せるかなー(もぐもぐ)」

「あと1時間を切ったわね…」
「そうだねー。あ、秋葉ちゃんの支援画像だよー」
「……これは何の支援なのかしら?」
「まあまあ、いいじゃないですか秋葉さま。あ、また秋葉さまに票が入りましたよ」
「(もぐもぐ)とうとう、試合が終わるねー(もぐもぐ)」
クゥーン…
「クールトー君、丸かじりできませんでしたね…」
クゥーン…

5奇譚:2002/07/11(木) 16:44
(4)
そして、試合終了。
「ま、負けたにゃー…」
がっくりとテーブルに突っ伏す秋葉。そこに羽ピンがそっと手をやる。
「秋葉ちゃん…」
「羽居…」
「…秋葉ちゃん、だいぶ猫又らしくなってきたよー」
「うにゃー!そこか、そこなのかー!うにゃーー!」
ガタタッ、ガシャーン…
「(もぐもぐ)さて、返って寝ようかな…(もぐもぐ)」
オンッ!
「クールトー君が『これから活躍しよう!』だそうですー」

 こうして、一日の試合が終了した。
この後、楽屋裏は素早く片づけられ、次の試合の楽屋裏として綺麗に整えられる。
しかし、この楽屋裏、日を追うごとに修復が困難になっているという。
楽屋裏が完全崩壊するのが先か、それとも全試合が終了するのが先か、
それはまた他の話である。
(おわり)

6奇譚:2002/07/11(木) 16:45
試合の様子をSSで表現、という事でしたがこういった感じでよろしいでしょうか?
本当は記念すべき第一回戦から、書こうと思いましたが
『空の境界』関係がよくわからないのでこうなってしまいました…。

7amber:2002/07/11(木) 17:26
奇譚さん乙彼様〜
うわー、こんな面白いの書かれた日にゃ自分必要ないですねー。
勿論ユーモアのセンスがさっぱりな自分の所為なんですがw

ネタとしてはあとは試合後、試合前のやりとりとかもできそうですね。
少し頑張ってみようかな。

8表の人:2002/07/13(土) 18:27
>6
言ってみるもんだなあヽ(´ー`)ノ
面白いので続編希望〜。

二回戦からはタイマン��負なので、
「なにかでリアルに戦ってる二人」のSSというのもできそうですね。
黒桐くんを殺戮する紅秋葉とか。

9amber:2002/07/13(土) 20:20
ナイスな考えですw
ただ試合中にそれをやると、うまく締めない限り中傷になってしまいますね。
うーん、難しい…

10表の人:2002/07/13(土) 23:17
試合後にやれば問題なし。
というか、実際の試合結果を反映させたほうが面白くなると思われ。
��負形式も試合ごとに違ってたりしてね……
ネロカオスvsひすこはのお母さん料理対決!とか。無茶。

11奇譚:2002/07/14(日) 19:40
えー、いろいろ考えてみましたが…
>実況SSの続編
…できる限り、書きます。というか今、書いています。
>二回戦の実況SS
同上。
>教授とお母さんの料理対決。
…無理です。オフィシャル公認でお母さんのキャラクターが
世に出ているそうですが、自分はそれを知りません。
SSとオフィシャルでキャラクターにずれが生じるのは
いささか無粋と思います。というわけで勘弁してください(;つД`)

12奇譚:2002/07/14(日) 19:50
>料理対決
…いや、何とかなるんじゃないだろうか?
キャラクターさえつかめるならば何とかなりそうです。
ただ、いつキャラクターがつかめるかは解らないので、
気を長くしてお待ちいただけないでしょうか。

13表の人:2002/07/14(日) 23:54
きをながーくして待ってますー。

…料理対決じゃなくてもいいですよー
将棋対決とかバンジージャンプ対決とか早口言葉対決とか
(だんだんわけがわからなくなってきた)

14奇譚:2002/07/15(月) 02:28
『TYPE−MOON最萌えトーナメント 楽屋裏』7月7日編
瀬尾晶 (月姫)
エレイシア (月姫)
月姫蒼香 (月姫)
幻視同盟のあの人(月姫)

(1)
キンコーン、キンコーン、キンコーン

楽屋裏にチャイムの音が響き渡る。
聞き慣れた音が余韻を残して消えると、
これまた聞き慣れた声が試合開始30分前を告げた。
今日の楽屋裏は和風に仕立て上げられている。
フローリングの床の上にはござが置かれ、
その上では足の短いちゃぶ台がどっしりとしたたたずまいを見せている。
ちゃぶ台の上には大量の氷で冷やされたそうめんが置かれ、
4人分の取り皿が用意してある。
ちゃぶ台に付いているのは4人。
瀬尾晶、エレイシア、月姫蒼香、幻視同盟のあの人である。
ちなみに今日の雑用係はせむし男君である。

「もうすぐ始まりますね、蒼香さん」
「…そうだな。浅上同士で試合になってしまうとはな」
「まあいいじゃないか、試合は時の運だから。
 それより僕の本名が出てないのが気になるな…」
「ほらほら、皆さん、そうめんがぬるくなってしまいますよ」
「あっ、そうですね、それじゃいただきまーす」
ずるずるずる…
「という間にも、エレイシアさんに支援画像が来ましたねー」
「ありがとうございますー。
 はい、フランスパンはご近所の皆さんにも人気があるんですよ」
「最初から飛ばしてるね、お前さん」
「…さて、試合開始の時間だ。僕はゆっくり見物といくかな…」

15奇譚:2002/07/15(月) 02:29
(2)
−−−試合開始−−−
「あーっ、私に票が!皆さんありがとうございます〜」
「ふむ…あたしにも少しだが入っていくな…」
「おかしいな…。…まあ、最初だからね。まだまだ試合の行方は解らないよ」
「そうめんが美味しいですねー」
「へいっ!そうめんのお代わりお待ち!」

「…えー、私お酒は好きですけど、大酒飲みじゃないですよう」
「未来の私ってどうなってるのかな…」
「まあ、未来の事は誰にも解らんさ。…おっ、あたしに入ったか。
 とりあえず礼を言っておくが…キックは少しかじった程度なんだ」
「けど、蒼香さん独自の改良が加えられているんですよね」
「……まあ、そうだな」
一方、あの人はそうめんにかかりきりである。ずるずるずる…
「(おかしいな…時期的にもうそろそろ票が来る頃なんだが…)」

「順調だな、お前さん」
「え、えー、いや、それほどでもないですよう」
「いいじゃないか。みんなに愛されている証拠だ」
晶の顔が赤くなっていく。楽しげに口元を歪めてそれを見る蒼香。
ちなみに二人の箸はもう置かれている。
蒼香は大きめの湯飲みにお茶をそそぎ、ゆっくりとすすった。
「勝負ってのは恨みっこなしが基本だ、ま、おたがいしっかりやろうや」
「は、はいっ!蒼香さん!」
そこへエレイシアがすり寄っていく。
「ところで…、しっかりするって何をしっかりするんですか?」
「ま、心構えはしっかりいきたいって事さ」
そんな会話がなされている後ろでそうめんを喰らい続ける男が一人。
「(おかしい…波が…そろそろ波が来るはずだ…波はまだか…)」

「私にも票が…みなさん、ありがとうございます」
「エレイシアさん、おめでとうございます」
「はい!」
エレイシアのこぼれるような笑顔。それを見守る晶と蒼香。
そして後ろでそうめんを食べ続ける男。
「(来るか、来るか来るか来るか来るか…!)」
ひょい
そうめんの器が下げられた。
「おい、なにを…」
「すんません、そうめんはもう打ち止めッス」

16奇譚:2002/07/15(月) 02:30
(3)
「あっ、知得留先生ですね」
「あ、ほんとですねー。がんばれっ、未来の私っ」
「何か後ろ向きながんばり方だが…」
後ろでは…。
「………」
哀愁を漂わせて、紫煙をくゆらす男が一人。

「私って小動物系なんでしょうか?そうは思えないんですけど…」
「どうなんだろうな」
「それと、遠野先輩にいじめられてるわけじゃないですよー」
「自覚がないのか…もはや才能だな」
「えっ、蒼香さん何か言いました?」
「いや、お前さんはいろいろ才能にあふれているなって言ったのさ」
「え…えへへ、そうでもないですよー。
 ほらほら、蒼香さんも髪を下ろした所がいいって言われてるじゃないですかー」
「あたしとしては、髪をまとめた方が楽なんだがな…」
そして後ろでは…。
「これが、日本茶という物ですかー。慣れたら美味しいですね。
 はい、お茶のお代わりいかがですか?」
「…あ、ああ、これはどうも…。ええと、エレイシアさん、でしたっけ…?
 落ち着いていますね」
エレイシアはにこにこと優しい笑顔を絶やさない。
「はい。試合自体も楽しいですけど、
 こうして皆さんとお話しできるのも楽しいんです、私」
「…どうもわからないな。負けたら、ここから去らなくちゃいけないんですよ?」
「はい。けど、皆さんとお友達になった、という事は変わりませんよ」
「………」
そうして、彼は無言になった。くわえていたたばこからはもう煙はなくなっている。
しかし、彼はたばこをくわえ続けていた。
彼の視線は試合観戦モニターの方を見つめている。
そんな彼をエレイシアはにこにこしながら見つめていた。

「エレイシアさーん、支援ですよー」
「はーい。あっ、仕事中の私ですね」
「ところで、パン屋ってどんな仕事があるんだ?」
「そうですねー、いろいろあるんですけど、まず朝起きてから…」
で、後ろでは。
「あれ、どうしたんスか?なんか、渋いッスね」
「いや、考え事をしていたんだ…。人生というものについて少し…」
「あっ、来ましたよ投票!」
「なにぃ!…ふ、とうとう来たか。どれどれ………なっ!」
彼の中で時間が白と黒に反転を繰り返し停止。そして一瞬後、始動。
「壊れている…?ザコ……?ふ、ふふふ、せむし男君、君ならこれをどう取るね?」
「さぁ…自分はただのせむし男なんで」
「……火、あるかい?」
「いえ、ないっス」
「………」

17奇譚:2002/07/15(月) 02:30
(4)
そして…
−−−試合終了−−−
「終わりましたねー…。えっと、お疲れ様でした!」
「ああ。一位、おめでとう」
「蒼香さん、ありがとうございます!皆さんも…ありがとうございます!」
「あのー、これからみんなでお食事にいきませんか?」
「あっ、いいですね!」
「よし、あたしも付き合おう」
「一緒にどうですか?えーと…」
エレイシアがふと、とまどいの表情を見せる。
エレイシアの言葉に振り向いた彼はエレイシアを見て寂しげに笑い、答えた。
「…そうですね…行きましょう…」
少し影が濃くなった彼の背中をせむし男君がバンバンと叩いた。
「まあまあ!今日は楽しく行きましょう!」
「…ところで、君も付いてくるのかい?」
「そりゃもう!自分、せむし男っスから!」
いつしか、夜の帳も濃くなっている。
レストランを目指して歩く、今日の試合投票枠となった人々。
彼らがレストランに行く道々、こんな会話があったという。
「あのー、すみませんがあなたの名前を教えてもらえますか?」
「え…は、はは、そういえば名乗ってなかったですね…」
(おわり)

18奇譚:2002/07/15(月) 02:35
もっと文章を推敲すればもっと読みやすくなったかも。
文章の道は奥が深いですなぁ…。
さらに精進を重ねます。

19龍也:2002/07/15(月) 12:58
やったー!あの人が来た!
ごめんな、ザコとかヘタレとか書いたん僕やねん…。

20pa-pa:2002/07/15(月) 19:52
シリアスは敬遠されますかぃ?

21pa-pa:2002/07/15(月) 19:52
sage忘れスマソ

22七死さん:2002/07/15(月) 20:43
少なくとも俺は読みますし。月姫関係なら問題ないと思われ。

23奇譚:2002/07/15(月) 21:40
シリアスもOKだと思います。
って、シリアスSSが書き込まれてないですね。
シリアスSS、難しいです…。とっかかりが無いか難解に過ぎてしまう。
寝ても覚めても、考えてはいるのですが…。

24pa-pa:2002/07/16(火) 23:48
近々エレイシア物を投下するやも。いや、自分で言っといてシリアスではないかもしれませんが……

25奇譚:2002/07/19(金) 02:56
(1)
 ここは楽屋裏から少し離れた所にある、廃れたラジオ局。
昨日、ここでは珍しく精力的にラジオの番組の準備が進められていた。
この裏には楽屋裏の管理人、久我峰斗波の意志が働いている。
彼曰く、
「ほっほっほ。試合が盛り上がるのは大いに結構。
 しかし、管理のためにはいささか資金も必要です。
 そこで、試合をする当人達にも少し協力をしてもらおうかと」
とのこと。
誰もが面倒臭がる、というか相手にしない中で、運悪く白羽の矢を立てられた者がふたり。
一人はわりとノリ気で、もう一人は当惑しながら、番組の準備は進められた。
そして、番組は始まった。

『TYPE−MOON最萌えトーナメント楽屋裏・6月20日編
 〜朱鷺恵とつかさの実況中継〜』

「え…始まっちゃっ…こ、こんばんは」
「こんばんは、今日の楽屋裏は私、時南朱鷺恵と四条つかさちゃんの二人でお伝えします。
 よろしくね」
「よ、よろしくおねがいします…あの、ところでと…時南さん」
「あら、なにかしら。それと名前で呼んでいいからね」
「え…じゃ、じゃあ朱鷺恵さん。台本によると、
 すぐに今日の試合当事者の説明に入らないと…」
「あ、そうなんだ。それじゃ、もう始めちゃおうかな」
「あ、はい。では…最初は『英語教師アルクェイド』さんですね。
 この人は有名な知得留先生の同僚にしてライバルです。
 知得留先生と遠野志貴さんを奪い合っているようですね」
「ふーん…志貴君、かっこよくなったもんね。もっと、アプローチしておけば
「ごほごほっ、つ、次行きましょう、次!はい、次は『常盤』さんです。下の名前は不明。
 遠野志貴さんのクラスメイトです。オカマ口調で話しかけてくる、柔道部の人です」
「オカマ口調…?何か深いわけがあるのかな…?」
「えっと、次は《『高雅瀬』》さんです。で…
「つかさちゃん、名前の所がよく聞こえなかったんだけど…」
「え、えっとですね…うう…すみません、読み方が解りません…。
 結構大きめの漢和辞典も引いたんですけど解りませんでした…」
「そうなんだ…」
「だから、今回は暫定的に、たか・みやせ、と呼ばせていただきます…」
「はいはい、つかさちゃん、固くなっちゃだめよ。はい、深呼吸」
「すー…はー…」
「落ち着いた?うん、じゃあ、続きをお願いね」
「…はい。高雅瀬さんは私と同じ浅上女学院の一年生です。今は生徒会書記を務めています。
 厚めの眼鏡…ビン底眼鏡というんでしょうか…を掛けている、お話好きで噂好きな人だそうです」
「あら、そうなんだ。秋葉ちゃんの噂話とかも聞けるかな?」
「それは、是が非でもやめた方がいいかと…」
「あら、そう?」
「最後に『乾有彦』さんです。遠野志貴さんの男友達です。えっと、破天荒な方、だそうです」
「とても有名な人だから紹介の必要はないかな?」
「はい、朱鷺恵さん。…時間がおしてるそうなので次へ行きましょう」

26奇譚:2002/07/19(金) 02:57
(2)
「…はい。楽屋裏にやってきました。もうすぐ本日の試合が始まります。
 ちょっと、出演者の方にインタビューしてきます。
 えーっと、英語教師のアルクェイドさん、今のお気持ちを一言、お願いします」
「うん?そーだねー、勝ったらうれしいけど、もし志貴とかち合ったら嫌だし…う〜ん、複雑」
「ありがとうございます。常盤さんはどうですか?」
「あたし?そうね、のんびり観戦する事にするわ。成り行きを温かい目で見守るの」
「はい、ありがとうございます」
「…あら、つかさちゃん終わったのね。じゃあ、こっちも。高雅瀬さん、
 今の心境はどんな感じですか?」
「そうね、私が思うにね…(この後、1分近く機関銃トークが続く)…で、それからね、
「ごめんなさいね。もう次の人に行かなくちゃいけないの。はい、ありがとうございます。
 では、次の人…『乾有彦』さん、お願いします」
「はい!いやぁ、こんな美人のお姉さんと知り合いになれるなんて、
 男冥利に尽きるってもんですよ!」
「あら、お上手ね。じゃあ、私からお願い。志貴君と仲良くしてね」
「えっ…!お姉さん、まさか遠野の…」
「うん、きっと君が思ってる通りだと思う」
「………ぉ、お、おのれーっ!遠野っ!裏切り者ー…
「わっ、そろそろ試合が始まりますから抑えてくださーい!」

27奇譚:2002/07/19(金) 02:57
(3)
−−−試合開始−−−
「試合が始まりました!楽屋裏は歓声怒号叱咤激励悲鳴絶叫の嵐です!」
「つかさちゃん、張り切ってるね。試合の様子は…乾さんが先制リードしています」

「ぶー。何でこんなに少ないのよう!」
「あたしは…まずは様子見、ね」
「おかしいわ、おかしいわ、私に表が来ないなんて(以下省略)」
「おっ、けっこう入ってくるな。ふっ、ちょっと夢、見せすぎちまったぜ!」

「あっ!ただいま支援物が投下されました。
 内容は乾さんの…えっ…あの…これは…ごにょごにょ…」
「おっ、俺の支援か、どれどれ………ぅ、ぁ、あ、NOーーー!なんじゃこりゃーーー!」
「乾君と遠野君、そんな関係だったのね…やるわね」
「てやっ、英語教師的、教育的指導!」
ガスッ
「ぐはぁっ!お、俺はやっていない!断固として俺は無実だ!」

「えと、あー、うー、…ごにょごにょ…」
「うーん、つかさちゃんにはちょっと刺激が強かったかな?
 つかさちゃん、ここで休んでいていいからね。
 さて、試合は乾さんが最初に大きくリードしたまま、ゆったりとしたペースで進んでいます。
 乾さんはその後も順調に票を伸ばしています。
 英語教師アルクェイドさんも順調に票を伸ばして、乾さんの後ろに付いています。
 その後ろを常盤さん、高雅瀬さんが追う形となっています」

「あっ!ようやく私にも票が入った…って、遅いっ!
 今から巻き返すのはかなりきついから…そうね…ここは…(ぶつぶつ)」
「あたしも最初の一票以来、伸びないわねー、活躍の場が少ないときついわねー」
「うー。知得留に負けるのだけは勘弁」
「ちなみに乾さんはケイレンしています。そっとしておきましょうね」

28奇譚:2002/07/19(金) 02:58
(4)
そして
−−−試合終了−−−
「朱鷺恵さん、すいません…」
「いいのよ、つかさちゃん。もう平気?」
「あ、はい…では、結果発表です。一位、乾有彦さん!」
「よっしゃあ!」
「おめでとうございます、乾さん。一位の乾さんは本戦出場決定です」
「…よし、本戦で可愛い女の子と…見てろよ、遠野!」
「続いて、二位の英語教師アルクェイドさん、
 獲得票同数で三位の常盤さん、高雅瀬さん、残念ですが、ここで予選落ちです」
「あーあ。志貴と一緒にいたかったのにな。ま、いっか。別の機会もあるし」
「あたしの扱いって…」
「おかしい、絶対おかしいわ!責任者!責任者はどこー!」

「それでは、ここで楽屋裏からお別れです。今日の放送は久我峰家の提供でお送りいたしました。実況は私、四条つかさと、
「時南朱鷺恵でした。それでは、皆さん、おやすみなさい」

「つかさちゃん、お疲れ様」
「はぁ…疲れました…この後もこの番組続くんですか…?」
「うーん、それはわからないの。この番組、久我峰家の提供でしょ?」
「そうですね」
「で、番組の途中に聞いたんだけど、久我峰家がこの資金提供の件で遠野家に怒られたんだって」
「あー…そうなんですか…」
「だから、続きがあるかどうか、今の時点ではわからないの」
「はー…」
「それはそうと、つかさちゃん、打ち上げに行かない?みんな行くんだって」
「…お供します。あ、朱鷺恵さんもお疲れ様でした」
「ありがとう。じゃ、行こっか」
「…はい」
ドドドドド…
「お姉さんっ、お嬢さんっ、是非是非、俺たちと一緒に打ち上げにっ」
「あら、有彦君、それは私達からもお願い」
「よしっ!二名様、ごあんな〜い!」

こうして、今日のラジオ放送は終了した。
夜も深くなった闇の中、楽しげに、またはやけくそ気味に、
そして疲れた表情の人達が街の明かりに消えていく。
そして、余韻がさめやらぬ内に次の試合の準備が整えられる…。
TYPE−MOON最萌えトーナメントはまだまだ止まらない。
(おわり)

29奇譚:2002/07/19(金) 03:01
えー、まずは…支援物が完全に把握できませんでした、すいません。
昔の試合のせいでしょうか、リンクが切れておりました。残念です…。
あと、キャラクターの性格がわからない部分など、自分で性格付けをしました。
四条つかさについては『夢十夜』で「教室では覇気がある」
という描写があったのでこんな感じではないかと(^^ゞ)
もしオフィシャルで発表されたら…(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
 それとシリアスSSですが、何とか一本できそうです。
けれど、このSS、どう考えても支援SSとしか思えません…。
よって、支援物として使ってしまうと思いますので、
このスレにはシリアスSSがまだ投下できません…。
シリアスSS、先になってしまいましたが、これからも試行錯誤していきます。

30板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/24(水) 02:54
ここが、投票スレの過去ログより下にあるのはヘンなのでageておきますね

31(編集人):2002/11/01(金) 02:12
せっかくのSSスレッドなのでこちらを使わせていただきます。

32(編集人):2002/11/01(金) 02:15
今、振り返って…「TYPE−MOON最萌えトーナメントSS総集編」。
このトーナメントで読めるSS総集編。
この総集編ではSSのみを対象としていますので、コピペなどは含まれません。
なお、作者様が「SS」と宣言されている場合は、SSに含まれます。
また、SSが掲載されているHPが紹介された時は、
それもSSと同じように扱っています。
SSの一部抜粋となっている物は一覧に加えていません。
同じHP、SSが紹介ないし投下された時は、一覧に加えないようにしています。
あと、リンク先が無くなっている物、解らない物も一覧に加えていません。
なるべく、投下当時の状態のままにしていますが、ずれてしまった場合は
申し訳ありません。あと、外部リンク型でリンク先が無くなってしまった物についてはここに掲載できません。ご了承ください。
あと、ここが抜けてる!という所がありましたらご一報いただけると助かります。

33(編集人):2002/11/01(金) 02:16
『水底の宴』久我峰斗波・支援
2002年6月9日(日)12時56分。
ROUND1、39レス目「名無しさん」様によって投下。
 真・オバケキノコ   (月姫)         
 久我峰斗波       (月姫)        
 死の線だらけの死人  (月姫)        
 秋巳大輔       (空の境界)  

記念すべき第1戦目で初めて投下されたSS。外部リンク型。
ttp://isweb31.infoseek.co.jp/novel/boysss/cgi-bin/toko.cgi?action=html2&key=20020605000001

34(編集人):2002/11/01(金) 02:17
『無題』翡翠・支援
2002年6月19日(水)2時4分。
ROUND1.705レス目「お絵かきadmin 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

35(編集人):2002/11/01(金) 02:18
あれほど騒いでいた昼間がまるで嘘のようにあたりは静まり返っている――――

昼間の花見はそれはもう修羅場だった。
遠野家のちょっとした余興のはずだった昼食をかねての花見は、アルクェイドの乱入、それにともなうシエル先輩の乱入、どういう嗅覚をしているのかしらないがその騒ぎをかけつけた有彦の乱入、有彦によるとおりがかりの弓塚のひきこみ...
気を利かせたのかその騒ぎを楽しんでいるんだか知らないが、琥珀さんの持ってきた秘蔵の日本酒とやらのおかげで場は一気にヒートアップ。
最後には秋葉がぶったおれたぐらいだからあの酒にはなにかしこんであったに違いない。
そんな騒ぎもいつのもの、夕陽が沈むとともにあたりはひっそりと夜へと変わっていた。
「翡翠もそれを片付けたら一休みしなよ」

これまた気を利かせたのか楽しんでいるのかわからないが、琥珀さんは洗い物と称して台所に引っ込んでしまっている。

「はい」

翡翠はテーブルの上を拭き終えると、おずおずと僕の隣に腰をおろした。
桜の木の下には死体が埋まっている―――遠野家では洒落になりそうにない逸話だが、そんな話を信じてしまいそうになるほどに夜の桜は妖艶に散っていた。

「ねぇ、翡翠」

そんな雰囲気の中の沈黙に耐え切れずに僕は口を開く。

「僕らが付き合ってもう半年になるけど―――」

翡翠が不思議そうな顔をしてコチラを見つめる。何をいうのか?といいたげな目線。
そのあまりのかわいさに僕はまたつばを飲む。

「その、もしも翡翠が遠野家の使用人だからとか、僕への同情とかでつきっているのなら、その―――。いつでも別れてくれてかまわない。きっぱりといってくれたほうがいい」
風が吹いた。
夜の月明かりに妖艶に照らされた桜が舞う。

「志貴さまは相変わらず愚鈍ですね。」

その向こうに翡翠のあまりに綺麗な顔がみえた。

「私がこれほど志貴さまを想っていても志貴さまはちっともわかってくださらない
 私の想いは子供のころからずっと、そして今も変わりはありません」

ゆっくりと翡翠の顔が近づいてきて、だんだんと大きくなるような錯覚を覚える。

「私はずっと、志貴さまのことを好きでした」

静かに、しかし確実に重なる唇。
それは遠野家に帰ってきてからずっと、いや子供のころからずっと、僕の求めていたもの。
やわらかくて・・・暖かい。
僕はなんども翡翠の唇を求めた。
妖艶な、優しい月明かりの下で。

36(編集人):2002/11/01(金) 02:19
『無題』翡翠・支援
2002年6月19日(水)2時38分。
ROUND1.711レス目「七死さん 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

37(編集人):2002/11/01(金) 02:20
―そして事件は過ぎ去り、遠野志貴にまた日常が却ってきた。
 秋葉がいて、七夜さんがいて、……翡翠がいる。
 全てが元通りというわけではないけれど、それでも概ね平穏な日々。
 いろいろなことがあったけど、だからこそ手に入れたこの時を、俺は大切にしたいと思っていた―


 「…じいさん――今なんて言った――」
 ゆらり、と、遠野志貴の中でナニカのスウィッチが入ったのが分かる。抑えきれないほどの激情を抑えて、もう一度だけ聴く。絶望を。
 「何度も言わすな小僧…。半年だ…。」
 背後で秋葉が絶句するのが感じられる。それはそうだ。俺だってできることならそうしたい、だが……。
 ――昼下がりの時南医院、そこで長年見知った医師に告げられたその言葉は――
 「翡翠…あの嬢ちゃんの命は――持って後半年じゃろう…もう、どうしようもない――」

 どうしようもないくらい巨大な力で、遠野志貴の日常に穴を開けていった――

 
 消毒薬の匂いのする真白い廊下をただ歩く。感情は無く、ただ遠野志貴は人形のように進んでいく、目的地へと向かって。
 「兄さん、このことは―――」
 思考のループの中で拡散を続けていた俺の自我が、その言葉で表層へと上がってくる。
 「言えるわけがない――七夜さんにも―――もちろん翡翠にもだ」
 ギチリと、強く噛み合わせた歯から異音が漏れる。

38(編集人):2002/11/01(金) 02:21
――つい数日前、屋敷でいつも通り仕事をしていた翡翠が、血を吐いて倒れた。余りの事態にパニックに陥りながらも、慌てて時南医院へと運んで見れば――


 『――手遅れじゃ、若いが故に進行が早すぎる。一般の病院へ連れこんでも変わらんだろう。全身に腫瘍が転移しはじめておる』
 感情を無くした声で、時南先生が告げる。
 『――なっ!!』
 ―――絶句。腫瘍、悪性のもの、それらを称して癌ということくらい、俺だって知っている。そしてそれが意味することも。
 ――永遠にも思える一瞬、遠野志貴の思考が停滞する。それを見越してか、時南医師が言葉の先を続ける。
 『何も言うな小僧――ワシは小さな頃からあの嬢ちゃん達の面倒を見てきた。できることならワシだってどうにかしたい――じゃが――』
 グッと、医師の手が固く、固く握られる。何かに耐えるかのように、固く。そして――

 『――小僧、お主に全て任す。話すべきか、あの子になにをしてやるべきなのか。――自らが決断せい』

 固く、硬く。医師として、時南宗玄は、ただそれだけを遠野志貴に告げた。

39(編集人):2002/11/01(金) 02:23
ドアを開ける。ただ真白いだけの簡素な病室の中で、ベッドに横たわる少女だけが色彩を放っている。そっと、彼女を起こさないように、後ろ手にドアを閉める。部屋に入るのは遠野志貴ただ一人。秋葉には先に屋敷に帰って貰い、心配しているであろう七夜さんに説明する役目を頼んでおいた。
 ゆっくりと、彼女の元へ近づいていく。シーツから覗いている寝顔は、心なし蒼ざめている。それでも堪らなく愛しくて、だからこそ不意に泣き出したくなったが、翡翠の眉が小さく動くのを見て、慌ててその思いを抑えつける。
 「志貴……さま?」
 うっすらと目を開け、そばに俺の顔があるのを確認すると、その表情に安堵の笑みを浮かべ、ついで己の状況を認識しようとし――
 「――――っ!!」
 それに至って慌てて飛び跳ねようとするのを優しく受け止める。
 「あ、あの、志貴様、わ、私…あの、その…」
 自分が休んでいるという状況がよほど気に掛かるのだろう。オロオロとしている翡翠を、そっとベッドに寝かせる。
 「ほら、翡翠、ちょっとだけ大人しくして。覚えてないかもしれないけど、翡翠、屋敷でいきなり倒れたんだ。だから大人しくしてなきゃダメだよ?」
 ありったけの自制心を注ぎ込んで、ムリヤリ笑顔という名の仮面を作る。今にも崩れそうなそれでも、翡翠を落ちつかせる役くらいは果たしてくれたらしい。
 「――はい」
 不承不承、といった感じで翡翠が頷いてくれたのがわかる。どうも翡翠は、仕事をしない、ということそのものに不安を感じるようだった。
 「全く、翡翠はいつも働いてばかりなんだから、こういう時くらい休んでたって罰は当たらないぞ?」
 事実それはその通りだったので、翡翠は何も言えない。そう、自らの身も省みないほどで、だから――

40(編集人):2002/11/01(金) 02:24
浮上してきたその想いを一蹴する。ダメだ。何かをしていないと心がコワレテしまいそうだ。ふと周りを見れば、恐らく秋葉が用意したのだろう、果物ナイフと共に、よく熟れた林檎が幾つか置いてある。
 「そうだ翡翠。林檎食べたくないか?俺が剥いてあげるよ」
 「そんなっ!!志貴様の手を煩わせるわけには――」
 ほらやっぱり。翡翠のことだからそう来ると思っていた。だから俺はその逃げ道を塞いでやる。
 「いやだって俺も食べたいしね。林檎」
 そういってにっこりと笑ってやる。その効果は劇的だった。
 「なっ!でしたら私が―――あっ!」
 言いかけた翡翠の顔が真っ赤に染まる。自分でも自覚しているくらい生粋の料理下手な彼女が林檎を剥こうものなら…大方の予想はつくだろう。
 「……はい」
 だから、最後には頬を染めながらも頷いてくれた。
 「――でも」
 刃物の扱いは得意だ。鮮やかな手つきで林檎を剥いていくさなか、翡翠がポツリと言葉をもらす。
 「ん?」
 「――これでは立場が逆です。本来なら私が志貴様を看病する側であるべきなのに…」
 そういって、小さく嘆息を洩らす。
 「なんだ。そんなことを気にしていたのか」
 「志貴様にはそんなことかもしれません。ですが私には――」
 ヒョイと、開いたその口に、切った林檎を頬張らせてやる。
 「だって翡翠はこの前俺の事を一生懸命看病してくれたじゃないか。だから俺も翡翠の看病をする。これじゃいけないのかい?」
 そんな俺の言葉に、翡翠は放りこまれた林檎を懸命に飲み込んでから反論しようとする。
 「でっ、ですが私は志貴様のメイドですから、志貴様を看病するのは――」
 「じゃぁ翡翠は、仕事だから俺の看病をしたっていうの?」
 ――それは、どうしようもないくらいに翡翠の弱点をついている。
 「そ、そんなことはっ!!……わ、私は、志貴様の事が……す、好きだからで」
 真っ赤になって、小さな声で。それでもその言葉はちゃんと遠野志貴には届いていた。
 「じゃぁそれでいいだろ?俺も翡翠のことが好きだからこうして看病する。いや、させて欲しい」
 好き、と言う言葉に反応して、彼女が更に顔を赤くして頷く。
 ――ふと気付けば外はもう夕暮れ。本当はこのまま泊まっていきたいが、何も知らない翡翠に心配をかけることはしたくはない。
 「――御免、そろそろ戻るよ。大人しくしてるんだぞ?……あ、そうだ翡翠。何か欲しいものはある?今度お見舞いに持ってきてあげるよ」
 ――ほんの軽い気持ちだった。翡翠はしばらく、考えた後にこう言った。

 「――また明日。来てくださいますか?私が一番欲しい物は、志貴様と過ごす日常ですから」

 ――ダメだった。本当にどうしようもないくらい、その言葉は遠野志貴の心を貫いていった。仮面なんてものを剥いで、彼の心に染み透っていく。――だが、それでも遠野志貴は、彼女のために、という最後の意志で持って、溢れ出す激情を隠しとおした。

 「あぁ、それじゃぁまた明日な。お休み、翡翠――」

41(編集人):2002/11/01(金) 02:25
走って、走って、ハシッテハシッテハシッテ――
 そうしてたどり着いたのは、夜の風が吹くあの日の草原。遠野志貴という、その原点。
 その勢いのまま、俺は手近な木に拳を叩きつける。
 何度も何度もなんどもなんどもナンドモナンドモナンドモ――
 皮が破れ、血がしぶき、骨に異音が走ろうとも止まることはない。

 ――――なんて、無様。

 遠野志貴は愛しい人が死に瀕しているというのに何も、――ただそばにいることも、そばにいて笑いかけてあげることさえできはしない。

 分からない。俺は一体どうすればいい?分からない。俺は翡翠に何をしてあげられる?わからない、ワカラナイ、ワカラナイ――

 いつしか遠野志貴は、まるでゼンマイの切れた人形のようにその場に横たわっている。

 「君、そんなことで倒れていると危ないわよ?」

 懐かしい、声。その声に導かれるように遠野志貴が再起動をはじめる。振り向いたその先、そこには――
 「え――――」
 「え、じゃないでしょ?こんなところで、そんな覇気のないような顔して。気をつけなさい。危うく蹴りとばれるところだったんだから」
 ――聞こえるその声は、何もかも昔のままで。だからこそこの現実とのギャップに、激しい嘔吐感を覚える。
 「――ふぅ。本当はもう2度と会うつもりはなかったんだけどね。君はもう一人で歩ける立派な大人だし。私といれば貴方には迷惑がかかるだけだろうから――」

42(編集人):2002/11/01(金) 02:26
――先生が、何を言おうとしているのかがわからない。
 「でも――君があまりにも見ていられなかったから…だから、特別サービス。私の教え子である君に対して…今度こそ最後のね」
 そうして、1度、言葉を区切る。言葉が遠野志貴に染み渡るまでの、その時間。人形の体に、血液が通い出す。止まっていた思考が動き始める。その瞳を見て、先生は大きく頷くと、厳かに述べた。
 「――貴方、彼女のために死ぬ覚悟は、ある?」
 ――何を、言っているのだろう?遠野志貴というこの体は、彼女がいなければとおの昔に鼓動を停止している。今更命を惜しむ必要がどこにある。それも彼女のために――
 俺の意思を感じとって、先生が歩き出した。そして、少し離れたところで振りかえり――

 「知ってる?癌のことをね、専門用語では、悪性新生物っていうらしいわよ?」

 それだけいうと、彼女は今度こそ振り向かずに歩き出す。最後に手を上げると、
 「――元気でね、志貴、縁があったら、また会いましょう」
 なんでもない事のようにいって、去っていく。
 ――でも、それだけで十分。何をすればいいのかは理解できている。もう、迷うことはない。だから――
 「ありがとう!!先生っ!!」
 別れの言葉でもな、決別の言葉でもない、感謝の言葉を、その背中にかけ――そうして、風に攫われたかのように彼女は消えてしまった。
 後に残るのは、ただ、大きな大きな、蒼い月――



 あぁ、知らなかった――――――今夜はこんなにも、月がきれいだ。

43(編集人):2002/11/01(金) 02:27
――音も立てずに、忍びこむ。
 見慣れた病院内も、夜のしじまの中では隔離世へと続く異界だった。カツカツと響く靴音だけが、確かな現実を刻む。目的の扉にたどり着く。昼に来たときにそうしたように、音を立てないように病室に入る。
 月光に照らされた病室。そこに横たわる翡翠は、ほのかに薄蒼い光を浴びて――本当に、美しかった。
 ――覚悟は必要はない、決意は一瞬。そしてゆっくりと、眼鏡を外した。脇に置いてある、果物ナイフを手に取る。
 月明かりが照らす中に、不気味に動く黒い線が現れる。それはセカイそのものを侵食するかのようにうごめき、カタチを変える、死の具現――
 それが、彼女の周りを、ひときわ激しく包み込んでいるのが見える。だが、そんなことはさせない。彼女をそんなところへ落すわけにはいかない。

 ――だから、遠野志貴は今にも壊れそうなこの世界を現死する。
 視るべきものは存在する事象のその裏面。
 よすがとするのは、この何もかもが崩れそうなセカイで、ただ一つ確かなイノチを刻む、愛しい人の鼓動のみ――

 彼女を殺す、その線ではなく、彼女を殺そうとするその事象、それ事態が発する線を視る。それは人間には不可能なことだと脳が異常をつげ、人語に絶せぬくらいに頭が痛む。目は見ることを止め、ただ白い闇に包まれる中、遠野志貴は、ただ意思だけでその場に立つ。ブツンブツンと断線していく意識の中で一瞬を見逃さず、まるで機械のようにその腕が動いた。そして――

44(編集人):2002/11/01(金) 02:28
――そして静寂の中で彼女は目覚めた。

 ふと気がつけば、あれほどまでに体中を苛んでいた痛みが跡形もないほどに消えている。彼女とて馬鹿ではない。自分の体がどうなっているかくらいは把握できていたし、その上で皆が黙っているのならと、何も知らない振りをした。だがなぜ――
 ――と、胸元にあるもの―なんの変哲もない果物ナイフ―に気がつく。そして――
 「――志貴様っ!!」
 まるで人形のように静謐な顔で眠る愛しい人を見つけ、彼女は悲鳴を上げた――


 「――結局、こうなるんだよなぁ…」

 太陽の匂いのする病室、そのベッドの上で遠野志貴は深い嘆息を吐いた。その両の目には、白い包帯が幾重にも巻かれている。そして――
 「ほら、志貴さん、あーんして下さい。翡翠ちゃんが待ってますよ」
 「ちょ、ちょっと姉さん!!」
 ――見なくてもわかる。七夜さんが切った林檎を、彼女指導の元、翡翠が食べさせようとしているのだろう。聞けば快方に向かっているとはいえ、今だ入院中の翡翠はピンクのパジャマ姿だという…。なんというか、見えないのには酷く納得がいかない。そして俺の声を聞いて翡翠が――
 「でも志貴様、やはり私はこのほうが落ちつきます。それに――この方が志貴様と一緒に居られますし」
 恐らく顔を真っ赤にしているのだろう。動揺しながらもそれだけを言う。
 「あらあら、妬けちゃいますねー。では志貴さん。お邪魔虫はこの辺りで退散しますから。翡翠ちゃんをよろしくお願いしますねー」
 そういった後、バタン、と、ドアが閉まる音が聞こえる。…全く、相変わらず何を考えているのかわからない。
 「――翡翠?」
 「――はっ、はい!」
 ふと気付くと、どこからかしゃくりあげるような声が聞こえてきて――そこで詮索を止めた。今回の件で、勝手に行動したことで秋葉には死ぬほど睨まれたが、さすがにそこまで鈍感ではない…と思いたい。だから
 「――ごめん、俺疲れてるみたいだから、ちょっと寝る。それじゃ、お休み――」
 ただ目を閉じるだけのつもりが、思ったよりも疲れていたらしく、すぐさまに鉛のような眠気に支配されていった。


 彼女は、目の前で眠っている愛しい人をただ見つめる。眠る、というよりも停まるといった方がいいその寝顔は、まるで精巧な人形のようだった。
 彼は自分が何をしたか、けして話してはくれないだろう。彼女も、聞こうとは思ってはいない。彼を困らせたくない。だから、代わりに――

 ――その寝顔に顔を近づけ、ゆっくりと、優しく、長い口付けを交わした―――

                                         ――FIN

45(編集人):2002/11/01(金) 02:29
『Something Especial』有馬都古・支援
2002年6月19日(水)20時27分。
ROUND1.765レス目「no 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/espec_1.htm

46(編集人):2002/11/01(金) 02:30
『ソドムの午後』乾有彦・支援
2002年6月20日(木)0時27分。
ROUND1.822レス目「七死さん 」様によって投下。
 英語教師アルクェイド(月姫)
 常磐くん      (月姫)
 高雅瀬       (月姫)
 乾有彦       (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/oboko_2.htm

47(編集人):2002/11/01(金) 02:31
『宵闇葬送曲』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)0時10分。
ROUND2.16レス目「七死さん 」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

48(編集人):2002/11/01(金) 02:32

―――

ごめんね、遠野くん、ごめんね・・・・・・・・・
もう、駄目みたい・・・身体が悲鳴あげてるの

ううん、ヒトでなくなったから仕方ないもの
だから・・・お願い。遠野くんの手で楽にして・・・・・・・
最後のお願いだからコレくらいイイよね?

良かったぁ・・・・・・・コレで安心して消えれる・・・・・・・
ごめんね、ヘンなお願いして・・・・・・・
わたし消えてしまうからなにも残せないけど、気持ちだけは残せる
好きだったの・・・・・・・・・・前から
こんな時に言うけど・・・・・・・こんな時にしか言えないけど・・・
好き、世界の誰よりも一番・・・・・・・

嬉しい・・・・・・・・
ヒトである内にもう1歩踏み出せてたら良かったのにね
暖かいね・・・・・・・遠野くんの腕の中・・・
ヒトであるうちにこうしたかったなぁ・・・こうしてもらいたかったなぁ
幸せ、ほんと幸せだよ・・・・・・・・・

最後にありがとう・・・・・・・・・愛しています、ずっと・・・・・

―――

変えられない結末ならば、せめて安らかに・・・・コレも愛

49(編集人):2002/11/01(金) 02:33
『さっちん、バイトします!(コンビニ編)』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)0時10分。
ROUND2.29レス目「奇譚」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

50(編集人):2002/11/01(金) 02:34
『さっちん、バイトします!(コンビニ編)』
(1)
わたし、弓塚さつきは、コンビニでバイトしています。
動機は友達に誘われたから…、としています。
でも、本当は遠野君と話せるぐらいハキハキした性格になりたいし、
もし、もし、デートなんて事になったらお金もいるし…。
という事でコンビニでバイトしています。
ちなみに、わたしは今バックルームで休憩中。
最近、人がいきなり休む事が多くて、よくかり出されます。
それをねぎらう意味で今日は休憩時間が長めに用意されました。
パイプ椅子に座ってほっと一息。
…はぁ、今日も疲れたなぁ。でも後少しで終わりだもんね。がんばろうっと。
休んでいても、視線はモニターの方へ行っています。
仕事熱心というわけでもないですけど、バックルームは何もないので、
何となくモニターを見てしまいます。
…今日もお店は繁盛。お客さんがいっぱいです。
塾帰りの小学生、中学生。仕事が速く終わったらしいおじさん。
のんびり雑誌を読んでいる大学生、そして、わたしと同年代、高校生。
…高校生?あれ、わたしの学校と同じ制服だ。知ってる人かな…って、え、ええっ…!

51(編集人):2002/11/01(金) 02:35
(2)
と、遠野君!?
ど、どうしてここに!?しかも一人…?
わたしはとっさに立ち上がります。
遠野君に会いたい…!今の立場なら遠野君とお話しできる、しかも自然に!
けれど、わたしはまた座り込んでしまいました。
髪型おかしくないよね?服は…制服だから関係ないよね。えっと、鏡、鏡…。
ああーっ、ここには鏡がない!どうして、バックルームに鏡がないんですか、店長!
…しかし、もはや一刻の猶予もなりません。
早く行かないと、遠野君は目的をすませて帰ってしまいます。
とにかく、今できる限り、おしゃれをしていざ出陣!
バックルームから飛び出します。
けれど、わたしの足はすぐにぎくしゃくとしてしまいます。
…遠野君が見てるかもしれない…
自然に、普通に。遠野君が見ていてもおかしくないように。落ち着いて、落ち着いて。
…レジに到着。
「あれ、弓塚さん休憩はもういいの?」
「…は、はい店長。もう充分休ませてもらいました!」
…遠野君、まだいるかな…
「そう?それなら…私は納品チェックしてくるからレジお願いね」
…チャンス到来!

52(編集人):2002/11/01(金) 02:37
(3)
「は、はいっ」
レジは、店の設計上、店内がくまなく見渡せるように設計されています。
…遠野君は…遠野君は…いた!
遠野君は雑誌コーナーにいました。何かの雑誌を立ち読みしています。
…遠野君、どんな雑誌読んでるのかな…気になるよう。
…本を整理するフリをして後ろに回り込めないかな、
あ、でもそれだとすぐにばれちゃうからだめだよね。
でも知りたいよう…遠野君の趣味が解れば、わたしも同じ事を勉強する事ができるし、
そうしたら…自然にお話しできる…!
…遠野君、昨日の○○見たー?(ああ、弓塚さん、見たよ)
面白かったねー。(そうだね、俺は特にあの○○の所が…)
あー、遠野君マニアックー。(おいおい、弓塚きついなー)
えへへっ
「…あの」
…遠野君
「…あのー」
…遠野君…はっ!
「これください」
「あ、は、はい。これとこれとこれで…423円になります」
「ありがとうございますー」
…あ、あぶなかった。ちゃんとお仕事しないとね

53(編集人):2002/11/01(金) 02:38
(4)
「…お願いします」
あ、はーい。えーとこれは…え?あのこれは…エッチな本?どんな人が買っ…
……神様、わたしの目や頭がおかしくないなら、この人は遠野君ですよね?
「………」
…あ、遠野君真っ赤だ。わたしが固まっちゃたから、白い目で見てると思ったのかな…
違うよ、遠野君!うん、遠野君は男の子だし、こういうのも読みたくなるよね…。
「…543円になります」
…でも、遠野君こういうのが趣味なのかな…
「じゃあ、千円で…弓塚!?」
「あ、あはは…」
…やっと気づいた。
「…い、いや、弓塚。とにかく誤解だ。これは罰ゲームなんだ。
有彦との賭に負けたんだ。それで…」
「う、うん…」
遠野君も真っ赤。わたしも真っ赤。
…私に気づいてくれて、うれしいようなうれしくないような…複雑。
「じゃ、じゃあな」
「う、うん…」
…遠野君は逃げるように店の外へ。そこには…乾君がいました。
何か遠野君が乾君にまくし立てています。
あっ、こっち見た。乾君もこっちを見ます。乾君大笑い。
遠野君、何か言おうとしましたが…しょんぼりとうなだれます。
そして、帰る二人。
乾君はまだ笑っています。遠野君は世界の終わりのようにしょんぼりして、
とぼとぼ歩いていきます。

54(編集人):2002/11/01(金) 02:39
(5)
「…行っちゃった」
…あっという間でした。短い間にいろいろな物がぎゅっと詰まった、そんな時間でした。
ただ、解っている事、それは…。
「もう遠野君、ここには来ないだろうな…」
…がっくり。
「…弓塚さん、もうあがっていいわよ」
「…はい、店長」
「あら、弓塚さん、やっぱり疲れてた?」
「い、いえ、そうじゃないんですけど…あはは…」
遠野君に出会えたけど、遠野君に気づいてもらえたけど、
遠野君とお話しできたけど、何か違うように感じたそんな一日でした。

…あの本、どっちが持つ事になるのかな…。
(おわり)

55(編集人):2002/11/01(金) 02:40
『さっちん、バイトします!2(ウェイトレス編)』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)2時31分。
ROUND2.29レス目「奇譚」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

56(編集人):2002/11/01(金) 02:41
『さっちん、バイトします!2(ウェイトレス編)』
(1)
わたし、弓塚さつきはファミレスでウェイトレスをしています。
動機は、前のバイトを辞めてしまったから…としています。
でも、本当は恥ずかしがらずに、遠野君とお話しできるような性格になりたいし、
もし、もし、学校から一緒に帰るなんて事になったら、いろいろ行きたい所もあるし、
そうなったらお金も少し欲しいし…。
という事でファミレスでバイトしています。
ちなみにわたしは今ウェイトレスの制服を着てお客さんの応対をしています。
今、時刻は午後8時。
今日は平日という事もあって、休日に比べてお客さんは少ないですが、
それでも夕食時は混んできます。わたしも、お客さんの応対にてんやわんやです。
このお仕事、制服が可愛いから、仕事も楽なんじゃないの?と言われたりしますが
そんな事ありません。結構い肉体労働も多くて、食器を運んだりとか…。
それでも、やっていくうちになれてきます。
…これって体力がついてきたって事だよね。
それは良いんだけど、足が太くなったりしたら嫌だな…。

57(編集人):2002/11/01(金) 02:42
(2)
ウェイトレスさんはお店の顔なので、服装にはうるさく言われます。
長い髪はアップにする、ストッキングは必ず着用、などなど…とても厳しいです。
その代わり、一つ一つ守って、ピシッと決めると、なんだか自分が自分じゃないような気がします。
先輩たちも、バイトの時と、それ以外の時では別人のようです。
なんか、バイトの時はとても綺麗でかっこいい…。
わたしもああいう風になれたらいいな。
カランカラン
あ、お客さんが来た。
「「「いらっしゃいませー!」」」
挨拶は店員全員でするけど、入ってきたお客さんの応対は一番近くにいた店員が
担当します。その間に、他の店員はお客さんの人数、性別などを素早くチェックして、
お冷やを造ったり、おしぼりを持っていったり、メニューを勧める文句を考えたりします。
お客さんの数は…二人。男の人と女の人。
カップルかな、いいなぁ…って…!
…と、遠野君!?またしても、遠野君!?
どうして、ここに遠野君が…ううん、そんな事より、

 ソノ、トナリノ、オンナノヒトハ、ダレ、デスカ?

58(編集人):2002/11/01(金) 02:44
(3)
きれいな金髪、スラッとした体、楽しげに遠野君に笑いかけるその笑顔…
…うう、同姓のわたしが見ても…可愛いよね。
そうなんだ…遠野君、彼女がいたんだ…それもあんなきれいな人が…。
はぁぁ〜、一気に力が抜けちゃった…ハッ!いけないいけない!
まだ彼女と決まったわけじゃないもんね、うん、わたしだってずっと遠野君見てきたんだもん!
彼女だとしても、負け…ないのかな…うう…。
と、とりあえず、応対を…あ、先輩が行っちゃった。
……コーヒー二つのオーダーが通った。本当はわたしが持っていきたいけど、
わたしは他のお客さんを担当してるから、だめだよね…。
「あ、弓塚さーん、わたし、手一杯だからコーヒー二つ13番卓にお願いできる?」
…チャンス、到来…!

59(編集人):2002/11/01(金) 02:45
(4)
「は、はーい、大丈夫でーす」
さっそくコーヒーを作らなきゃ。遠野君が飲むんだから特別おいしいのを入れないとね。
といっても、ここのコーヒーって同じコーヒー豆しか使わないから基本は同じだっけ…。
ううん、マニュアル通り、カップに熱湯を入れておいて温めて、
別のお皿にミルクを3つ乗せて、スプーンを添えて、ソーサーにカップを乗せて…。
これがわたしのせいいっぱい、かな。
あ、二つ作らないと。…こちらのカップにこっそりアレを…いけないいけない、
お仕事はちゃんとしなきゃ。
「お待たせしましたー、コーヒー二つお持ちしました」
「あ、ありがとー。志貴、これがコーヒー?」
「…そうだよ。おい、恥ずかしいから、あまり大声出さないでくれ」
「では、ごゆっくりどうぞー」

60(編集人):2002/11/01(金) 02:46
(5)
わたしがテーブルを離れた後も、二人はお話ししている。
女の人は楽しそう。志貴君は、困った顔をしながら楽しそう。
遠野君って、あんなに気さくに女の人とお話しできるんだ…。
……私だって気づいてもらえなかったな…
わたしは今、髪を一つにまとめてアップにしてるし、
制服も着てるから印象も違うかもしれないけど…
やっぱり、わたしって遠野君の眼中にはないのかな…。
…あ、お客さんだ。今は…私が行かないと。
カランカラン
「いらっしゃいま
「…失礼します」
…え?
お店に入ってきた女の人は、わたしにはかまわずに店内を見回して…
一つのテーブルに目を付けた。…遠野君がいるテーブルだ。
…え?え?遠野君に関係のある人…?

61(編集人):2002/11/01(金) 02:47
(6)
その人は遠野君のいるテーブルに到着すると、
「…兄さん、門限はとうにすぎているはずですが」
「…あ、秋葉、いや、これには深いわけがあってだな…」
「ふにゃー、妹、こわいにゃー」
だきっ!
あ、あ、あ、遠野君に抱きついて…いいなぁ、いいなぁ…!
「ななな、なにをしてるんですかアルクェイドさんっ!こらっ、離れなさいっ!
あなたが、いつもいつもいつも兄さんを連れ回すせいで当家はとても迷惑してるんですよっ!
少しはそこの所を自覚したらどうですかっ!」
「むー。吸血鬼は夜、活動する者なのよ?今、志貴と遊ばなくっていつ遊べっていうのよー」
「簡単です。あなたが実家やら、本国やらに帰ればいいんです」
「あー、妹、志貴にかまってもらえないからってヤキモチ焼いてるー」
「なんですって!」
…なんかケンカが始まっちゃた。こ、こんな時はどうすればいいのかな…。

62(編集人):2002/11/01(金) 02:49
(7)
「…会計お願いします」
…あ、会計…今は私の担当だね。
「はい、コーヒー二つで630円になります…って!?」
と、遠野君?どうして?…もう帰…仕方ないよね。
「え…あ…弓塚?」
「う、うん…」
「き、奇遇だな」
「そ、そうだね…あはは…」
「…弓塚、悪いな。バイト先で騒ぎ起こしちゃって…」
「う、ううん、いいよ。片づけはわたしがやっておくし…」
「…ありがとう、弓塚。助かるよ」
にこっ
遠野君が笑った。…吸い込まれそう。…あ、どうしよう。
胸のどきどきが大きくなってきちゃった。あ、顔も熱くなってきて…。

 その時、わたしは自分の顔が赤くなってる事に確信が持てました。

遠野君、好きです。やっぱり、わたし、遠野君が好きです…。
「じゃあ、弓塚。あの二人は連れ帰るから…」
「…う、うん、ばいばい、遠野君」

63(編集人):2002/11/01(金) 02:50
(8)
…そうして、遠野君は帰っていきました。
…妹さん(?)ときれいな女の人をひっつかむようにして。
…はぁ…遠野君…笑った…えへへ…。
結局、あのきれいな女の人が遠野君とどういう関係なのか、は解りませんでした。
確実に解ってる事といえば、
「もう遠野君、ここには来ないだろうな…」
…しょんぼり。
「…弓塚さん、もうあがっていいよー」
「あ…はい、店長」
「おや、弓塚さん、今日は疲れた?」
「い、いえ…そんなことないんですけど…あはは…」
あ、でもでも今日は遠野君とお話しできたし、笑いかけてくれたし…遠野君…えへへ…。
「いえ、まだまだ大丈夫です」
今日は忙しくて、ちょっとごたごたした事もあったけど、
遠野君とお話しできてちょっぴりうれしい、そんな日でした。

…でも遠野君、あの…その女の人は誰…?
(おわり)

64(編集人):2002/11/01(金) 02:51
『さっちんの支援SS①』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)23時31分。
ROUND2.107レス目「七視さん」様によって投下。

65(編集人):2002/11/01(金) 02:52
さっちんの支援SS①

遠野くんが夜の繁華街をうろついている、という噂を耳にした私は、それを確かめるために深夜の街へ向かった。
吸血鬼殺人事件が起こっているということもあって、住宅街はおろか繁華街にも人影はない。
私は、いまさらにこみあげてくる恐怖と必死に戦いながら、遠野くんを探していた。
……いる訳がない。
そう思いながらも、私の眼は必死に遠野くんを探している。
それは、やはり――――――

――――――私が、ここにいて欲しいと思っているからなのだろうか?

「あ〜やめやめ!」
深く沈んでしまいそうになる思考を頭を振ってムリヤリ中断した。
もう帰ろう。やっぱりただの噂だったんだ。
そう信じることにして、私は踵を返した。
そこで、
ドン―――
「きゃっ!?」
誰かにぶつかった。
「あっ、すみません……」
慌てて頭を下げる。その時、着物らしき裾が目に入った。
―――思えば、もっと早く気が付くべきだったのだ。
何故、誰もいないのだろう?警察が巡回しているはずじゃなかったのか?
そして、ここにいる自分以外のただ一人の人間は、何者なのか?
顔をあげた私が見たのは、朱い液体に染まった男の笑みだった―――
「あ……」
突然のことに悲鳴もあがらない。
「い、いや……」
体が動かない。恐怖のため?それともなにか別の―――
「た、助けて、し、志貴、くん……」
その言葉を口にした時、男の口端がきゅうっとつりあがった。
「なんだ、オマエ、あいつの女か?」
嬉しそうに、そう言った。
「なら、殺さなくっちゃな」
殺人鬼は、心底楽しそうにその瞳を輝かせた―――

66(編集人):2002/11/01(金) 02:53
『そんな彼女の怖いもの』両儀式・支援
2002年6月23日(日)10時20分。
ROUND2.142レス目「七死さん」様によって投下。
 時南朱鷺恵         (月姫)
 両儀式           (月姫)
 リィゾ=バール・シュトラウト(月姫)
 山瀬明美          (月姫)

67(編集人):2002/11/01(金) 02:54
式っち応援SS。「そんな彼女の怖いもの」

「ねえ、式の怖いものって何?」
その男―――黒桐幹也は自分でいれたコーヒーをすすりながら、唐突にそんな言葉を吐き出した。

「・・・怖いもの?」
コーヒーカップを口に運ぶ手を止めて、私は幹也に視線を向ける。

「うん、怖いもの。
 そうだな、例えば、幽霊とかさ」
「馬鹿じゃないのか、お前」
実際に霊体を認識できる私が、あんなもの怖がると思っているのだろうか。

きっぱりと言い放った私の言葉に、すこし拗ねたような表情を浮かべる幹也。
しかし、すぐに気をとりなおしてまた、無意味な問いを投げかける。

「じゃあ、蜘蛛とか」
「別に」

「蛇とか」
「全然」

「ゴキブリとか、ナメクジとか」
「気持ち悪いのと、怖いのは同じなのか?」
「うーん。違うかも」
そういって唸ると幹也は、少し残念そうに溜息をついてみせた。

「じゃあ、式って怖いものなしなのかな」

私が恐怖を怖いもの――――。

どういうつもりで、いきなりそんなことを聞いて来たのかは知らないが。

―――そんなこともわからないのか、こいつは。



――――いつだって。

わたしに恐怖を与えるのは、お前しかいないのに。



あの時、お前が憎かったのは。

どうしようもなく、お前と一緒にいたかったのに。
一緒にいれば、お前を殺してしまうことがわかっていたから。

私の手で。織の手で。
とても幸せなユメの形を壊してしまうから。

―――そのことが、どれだけの恐怖か。



あの時、涙を流したのは。

どうしようもなく、お前と一緒にいたかったのに。
ようやく、お前と一緒に居られるとわかったのに。

その未来を。そのユメの形を。
黒桐幹也を失ったと思ってしまったから。

―――それが、どれだけの恐怖か。




生を望まないなら、恐怖なんて感じない。
ユメがないのなら、生なんて望まない。

――――お前がいないのなら。

黒桐幹也と一緒にいられないのなら、ユメなんて描かない。



だから、私にとって恐怖を感じる原因は、こいつにあるんだ。

その元凶が、のほほんと、「怖いものってあるの?」ときた。



―――なんか、それは。凄く。おもしろくない。



「あの、式?」
気付くと幹也がやけに、不安そうな顔でこちらを見ている。

・・・どうやら、わたしはそうとうに不機嫌な表情になっていたらしい。

「―――なにか、怒ってないかな?」
その問いに私は素直に頷いてやった。

「ああ、凄く怒ってる。だから、今日は料亭で奢れ。
 ―――じゃないと、しばらくずっと怒ってる」
私の言葉に、幹也が悲鳴に近い声をあげた。
私のいう料亭というのは―――まあ、幹也の給料じゃ、ちょっと辛い。

「なんで?!」
「うるさい。罰だ」
「罰って―――何の罰さ」
わけがわからない、といった表情の幹也に、私はできるだけ冷淡な声をかけてやった。

「へえ、なんの罰かもわかってなんだ」
怒気をはらんだ私の声に、更にうろたえる幹也。

―――こういう幹也を見ていると、トウコがこいつをいじめたくなる理由がよくわかる。

「いや、だって。わかるも何も―――」
「ほら、行くぞ」
そういって、私は面白いまでに狼狽している彼の手を握る。




―――私にとって、何よりも大切な。その暖かい恐怖の元凶を。


(おしまい)

68(編集人):2002/11/01(金) 02:55
『あの夏、一番静かな夜』時南朱鷺恵・支援
2002年6月23日(日)18時5分。
ROUND2.156レス目「no」様によって投下。
 時南朱鷺恵         (月姫)
 両儀式           (月姫)
 リィゾ=バール・シュトラウト(月姫)
 山瀬明美          (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/ano_1.htm

69(編集人):2002/11/01(金) 02:57
『癒えない傷(前後編)』コルネリウス・アルバ支援
2002年6月25日(火)1時5分。
ROUND2.293、294レス目「須啓」様によって投下。
 コルネリウス・アルバ(空の境界)
 リタ・ロズィーアン (月姫)
 知得留先生     (月姫)
 遠野槙久      (月姫)

70(編集人):2002/11/01(金) 02:58
コルネリウス・アルバ支援SS。「癒えない傷(前編)」

「それで用件はなんだアルバ。まさか自慢話をしにきたわけじゃないだろう?」
蒼崎橙子は冷たい眼差しを、その青年に向ける。

「自分の研究成果なら腐るほどいる弟子相手に披露してくれ」
「フン。相変わらずだね、君は」
冷淡な彼女の言葉。それを受けて、青年―――コルネリウス・アルバの口元が皮肉に歪む。

「―――弟子。弟子か」
その歪んだ口からもれた言葉は―――間違いなく怨嗟の響きを帯びていた。
そして、狂気を帯びた瞳で蒼崎橙子を睨み、アルバは哄笑をあげる。

「くくく、あはは、あはははははは!!! 弟子。弟子か!!」
「・・・?」
明らかに自嘲を含んだその哄笑に、橙子は思わず眉をひそめた。
このナルシストが―――自嘲?

その橙子の表情に気が付くと、アルバは大げさに拳を振り上げて、壁に叩きつけた。
「きみは、いつもそうだ!!」
「何のことだ?」

平然たる橙子の表情に、あきらかな苛立ちの表情をうかべ、アルバは彼女に指を突きつける。
「そうだ、そうやって私を過小に評価する!!
 だというのに、おまえのその態度に低能な連中は誑かされた!!
 連中にそろって、私が劣っているのだと認識させてしまったんだ――――!!」
それは今にも泣きそうな殺意。

それを感じ取り―――蒼崎橙子はある一つの仮説を構築し―――それを口にした。

「つまり、お前」
そこで一旦言葉を切り、アルバの瞳を見つめて、言う。

「――――弟子に逃げられたのか」

怒りに青ざめるアルバの表情が、その言葉が真実であることを彼女に告げていた。

信じられん、と呟いて橙子は首を振る。
「―――百人から居ただろうに。まさか、全員にか」
「黙れ!! 誰のせいだと思っている!!」
「だから、何のことだ」

今度は、怒りに顔を赤くして、赤い魔術師は、床を蹴りつけた。

「き・さ・ま・が!! 学院を去るとき!! 私に向かって何と言ったか!! 
 忘れたわけではあるまい!!」
純粋な怒りに満ちたその言葉をうけても、蒼崎は一向にひるまない。
しかし、その言葉になにか、思い出すものがあったのか、しばらくの間彼女は
過去の記憶を探り―――そして、記憶の欠片を見つけた。

それは、確か―――。

71(編集人):2002/11/01(金) 02:59
コルネリウス・アルバ支援SS。「癒えない傷(後編)」

「・・・ああ、あれか」
「あの時、私が受けた屈辱。貴様には、わかるまい!!」
ばん! と音をたてて、再びアルバの拳が壁を叩く。
一度、叩かれた壁に視線を這わせてから、橙子は肩をすくめて、その青年に視線を戻す。

「心の狭い奴だな、相変わらず。昔のことをいつまでも根に持つな」

どうやら、その言葉は、アルバの何かを破壊してしまったらしい。

もはや、顔を真っ赤にして彼は、怨嗟の声をぶちまけた。

「黙れ!! 貴様は、私を―――このアグリッパの直系である私を――――私を―――
 『赤ザコ』などど呼んだのだぞ?!!!!」

それは、絶望に満ちた絶叫。

だが、それをうけた橙子は、感慨深げに微笑んだ。
「うん、大爆笑だったな。アレだけの魔術師が一斉に笑うところなんてそうそうお目にかかれるもんじゃない」
「魔術師相手にウケをとるな!!」

ますます逆上するアルバに、橙子は楽しげに笑う。

「いやだってな〜。気付いてたか? 実はこっそり、荒耶でさえ肩を震わせてたんだぞ。あの時」
「やかましい!! おかげで私は、協会にいられなくなったんだぞ?!
 ああ――――――これ以上、私に不愉快な思いをさせるな!!」

両手で頭を抱えて、暴れだしたアルバに、橙子はあくまで笑いを含んだ声で応じる。

「お前が、話を振ったんだろうが」
「黙れ! それもこれも全てお前のせいだ! アオザキ!!」

「お前、逆恨みとか、八つ当たりとかいう言葉を知っているか?」
「黙れ、黙れ黙れ!! とにかく! リョウギは預かっている!!
 取り返したくば、やってこい!! 私の工房にな!!」

赤いスーツを着た魔術師は、両手を自分の鮮血でそめ(壁を叩いたときに怪我した)、
興奮と怒りで顔を真紅に染めて、蒼崎の工房を飛び出した。

――――その姿は、まるで―――いじめられた小学生のように見えた。

「橙子さん」
アルバが去った後、彼女の従業員が、おずおずと声をあげた。
どうやら彼女の言いつけはきちんと守っていたらしい。

「リョウギの名前が出たのに、よく黙っていられたな」
少し、意外そうな橙子の声に、黒桐幹也は何故か悲痛な表情で頷いた。

「いえ――――あまりにも痛々しくて」
ああ、なるほど。
なぜか、納得してしまった橙子。
確かに、あれを痛々しいといわずしてなんと言うべきだろう。

「ま、とにかく、一応、行って来る」
そういって、彼女は、一応、席を立つ。
なにか、過程は違うような気がするが、やるべきことは変わるまい。

「行ってらっしゃい。とにかく、式をよろしくお願いします」
なにか、酷く疲れた従業員の声に手を振って、橙子は昔馴染みに、再び会いに出かける。

そして、その後、アルバがどう言う運命をたどったか。それは――――、また、別のお話である。

「荒耶ああああ、貴様、あの時笑っていたのか?!」
「すでに騙るまでも無い」
「あっさりと認めるなああああああああああ」

(おしまい)。

72(編集人):2002/11/01(金) 03:00
『クールトー君が行く!』クールトー・支援
2002年6月28日(金)0時12分。
ROUND2.500レス目「奇譚」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

73(編集人):2002/11/01(金) 03:01
『クールトー君が行く!』
(1) 
俺の名はクールトー。
孤高の狩人だ。
誰にも俺を妨げることはできない。誰にも俺は従わない。
昔はキュウケツキといわれるヤツの一部となったこともあるが、
決してヤツに従ったわけじゃない。
俺とヤツは対等の関係。互いに認め合ったから一緒になったまでのこと。
俺が誇り高い狩人である事実に何ら変わりはしない。

ある日、相棒であるヤツが俺をへんてこな場所に置いていった。
ここはどうやらトオノケという所らしい。
ヤツは何も言わなかった。俺も何も言わなかった。
言葉など交わす必要はない。
俺は生きる場所が変わっただけ、ヤツは俺を置いていっただけ。それだけのことだ。
そうして、俺はトオノケという場所で生きていくことになった。

朝。俺は自然に目を覚ます。今日も体は良い調子だ。
気持ちよくのびをした後、俺はさっそく狩りを始める。
このトオノケという所は広く、獲物には事欠かない。
俺の横を駆け抜ける風、規則正しく伸び縮みする筋肉、そして、何よりも鋭い俺の牙。
今日も獲物を捕らえた。今日の獲物はウサギだった。
俺は素早く食事を済まし、その後は散歩をする。
この広いトオノケは俺のなわばりだ。
なわばりの長たる者、しっかりと管理をしないとな。

…なわばりの見回りは終わった。何も異常がない。
…つまらない。
孤高の狩人たる俺の血が騒ぐ。冒険を求めて煮えたぎる。
心躍る冒険、そして、俺の全神経が研ぎ澄まされ、燃やし尽くされる戦闘、
そんなものを俺の血が求めている。

74(編集人):2002/11/01(金) 03:03
(2)
そんなわけで今日はヤシキと呼ばれる場所に立ち入ってみることにした。
トオノケにやってきた時、俺の前で長い毛を生やしたニンゲンが
なにやらごちゃごちゃと言っていた。
どうやら、ヤシキには立ち入るな、ということらしい。
しかし、そんなことは俺の知った事じゃない。
俺は孤高の狩人。俺は俺の望むままに歩き、望むままに生きるだけだ。

ヤシキへ近づいていく。ヤシキにはあまり生物がいないようだ。
…つまらない。
まあいい。なわばりを広げることに務めよう。
ヤシキに立ち入ろうとしたら、障害物が俺の行く手に現れた。
これはカベというものだ。
カベという物は壊れにくく、堅い。ここは回り道をすることにしよう。
…冷静な狩人はいつ何時も冷静な判断をするものだ。

隙間(後で知ったが、どうやらそこはゲンカンというらしい)を見つけ、
屋敷の中に入り込む。屋敷の中は入り組んだ構造になっている。
相変わらず生物の気配は無く、しんとしている。
まず狩人は高い所に立ち、周りの状況を把握するものだ。
俺はカイダンという物を上がり、高い所へ行く。
と、ニンゲンに出会った。

「クールトー…?」
たしかこれはヒスイというニンゲンだ。
「クールトーが何故、ここに…?あ、泥足のままで!」
ヒスイが俺の足を見ている。どうやら俺の足が気に入らないらしい。
…なぜだろう。
「動かないでください。いま、足を拭きますから」
ヒスイが俺に手を伸ばす。おっと俺は冒険の途中。捕まるわけにはいかない。
「あっ、待ってください!せっかく掃除したのに!」
ぺたぺたぺた。
俺の俊足にはついてこれまい。後ろで何か言っているようだが、よくわからかった。

75(編集人):2002/11/01(金) 03:04
(3)
ヒスイから逃れ、へんてこな所に入り込んだ。確かここはヘヤという所だ。
広いヘヤだ。何か花のような香りがする。…む、奥の方に生物がいるようだ。
「…来年期の決算目標はどう設定しようかしら」
あれは確か、俺にヤシキに入るなと言ったニンゲンだ。どうやらアキハというらしい。
「…クールトー、いま手が離せないの…って、何故あなたがここに!」
見つかった。俺の体に悪寒が走る。コイツは危険だ。戦略的撤退を試みる。
俺はすぐにきびすを返し、隣のヘヤのふかふかした物の中に潜り込む。
「ななな、何で布団の中に潜るの!」
おっと、こいつは気持ちがいい。このまま寝てしまいそうだ…。
「出で来なさい!」
…アキハの手が迫ってくる。仕方がない、出よう。
…ここは最優先でなわばりにする必要があるな。

「秋葉様、クールトーが屋敷の中に!」
「そっちよ!捕まえて!」
…なにやら騒がしい。ニンゲンのやることはよくわからない。
ニンゲン達の攻撃を避けているうちに腹が減った。
…いいにおいがする。
においのする方に走り、ヘヤに飛び込むとまたニンゲンに出会った。
「あら、クールトー君どうしたの?」
…たしかこれはコハクというニンゲンだ。キュウケツキが俺を預けていったニンゲン。
後ろから、がやがやとニンゲン達の騒ぐ声がする。ここも逃げた方がよさそうだ。
「…そう、クールトー君、おなかが減ったんですねー。じゃあ、これを食べてね」
ことり。
俺の前に何かが出された。いいにおいだ。食べ物らしい。
…いい心がけだ。腹も減ってることだしいただくとするか。
がつがつがつ。
「…ふふ、どうですかー?眠くなりませんか?」
…なにやら…眠い。ここは適当な…場所を…見つけて…眠る…と…する…か…
ぐてり。
「ふふ、いけない子のクールトー君にはお注射ですよー」

76(編集人):2002/11/01(金) 03:05
(4)
俺の名はクールトー。
孤高の狩人だ。
誰にも俺を妨げることはできない。誰にも俺は従わない。
「クールトー君、ご飯ですよー」
ハッハッハッ、くぅ〜ん、くぅ〜ん(すりすり)。
「あらあら、クールトー君は甘えん坊さんですねー」
今はコハクといわれるヤツの相棒だが、
決してヤツに従ったわけじゃない。
俺とヤツは対等の関係。互いに認め合ったから一緒になったまでのこと。
「今度、クールトー君にきれいな首輪をかってあげますねー」
くぅ〜ん、くぅ〜ん(すりすり)。
俺が誇り高い狩人である事実に何ら変わりはしない…。
(おわり)

77(編集人):2002/11/01(金) 03:06
『無題』クールトー・支援
2002年6月28日(金)1時2分
ROUND2.521レス目「amber」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

78(編集人):2002/11/01(金) 03:07
混沌で鳴らした俺、<<クルートー>>は、賭けの対象になりネロ・カオスから排斥され、遠野家にもぐった。
しかし、遠野家でくすぶっている俺じゃあない。
遠野家さえ脱出できれば肉次第でなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし強大な遠野家から脱出し、いつかはネロに復讐する、
俺たち、特攻野郎O(狼)チーム!

俺はリーダークルートー。通称ネロの使い魔。特攻と瞬殺(される)達人だ。
俺のような不死身でなければ百戦錬磨のつわどものどものリーダーは務まらん。

俺はラベート。通称ジェヴォーダンの鬼狼ラベート。自慢の牙に獲物たちはいちころさ。
はったりかましてて、狼じゃないかもしれないけど気にしないぜ!

俺はロボ。通称愛妻家。
知名度だったら天下一品!一冊の本にまでなってるとくらぁ。
でもブランカだけは勘弁な。

俺こそクルートー。
全ての狼王の素質をつぎ、あのネロから離反した最強の狼さ。
景品?女郎蜘蛛の手先?だから何。

俺たちは常識の通らない遠野家にあえて挑戦する。
頼りになる一応不死身の、特攻野郎Oチーム!


そして、今こそ遠野家から脱出する!事前の調べで裏庭経由が安全だということはわかっている。
さぁ、今こそ自由への旅立ちだ!

…なんだ?この巨大な「ぱっくんふらわぁ」みたいな植物は?
うわっ、やめろっ、俺は蝿じゃねぇぞ  ………ぎゃーーーーーーーーー

79(編集人):2002/11/01(金) 03:08
『独寝の夜は淋しすぎて』三澤羽居・支援
2002年6月28日(金)20時31分
ROUND2.555レス目「no」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/hitori_1.htm

80(編集人):2002/11/01(金) 03:09
『目覚めるまで』朱い月のブリュンスタッド・支援
2002年7月1日(月)20時50分
ROUND2.787レス目「no」様によって投下。
 黄路美紗夜        (空の境界)
 朱い月のブリュンスタッド (月姫)
 葉山英雄         (空の境界)
 エト           (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/mezame.htm

81(編集人):2002/11/01(金) 03:11
『裸YシャツSS〜朱い月の場合〜』朱い月のブリュンスタッド・支援
2002年7月1日(月)20時50分
ROUND2.787レス目「no」様によって投下。
 黄路美紗夜        (空の境界)
 朱い月のブリュンスタッド (月姫)
 葉山英雄         (空の境界)
 エト           (月姫)

外部リンク型。
ttp://www.ax.sakura.ne.jp/~u-kon/hada-Y/ss/moon6.htm

82(編集人):2002/11/01(金) 03:12
『子犬にしてあげよう。』シエル・支援
2002年7月2日(火)20時26分
ROUND2.857レス目「*」様によって投下。
 殺人貴        (月姫)
 腑海林アインナッシュ (月姫)
 環          (月姫)
 シエル        (月姫)

外部リンク型。
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/6526/koinu.html

83(編集人):2002/11/01(金) 03:14
『もしも巴がメカ沢だったら・他』臙条巴・支援
2002年7月3日(水)0時23分
ROUND2.899レス目「七死さん」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

外部リンク型。
ttp://www.h2.dion.ne.jp/~take0/karara.htm

84(編集人):2002/11/01(金) 03:15
『(ショートショートインデックス)』琥珀・支援
2002年7月3日(水)0時41分
ROUND2.904レス目「amber」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

外部リンク型。このURLはSSコーナーにつながります。投下当時は
月姫SSの中の「琥姫」などがおすすめとされていました。
ttp://www.interq.or.jp/earth/youhei/ssindex.htm

85(編集人):2002/11/01(金) 03:16
『琥珀さんとおるすばん』琥珀・支援
2002年7月3日(水)2時38分
ROUND2.919レス目「奇譚」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

86(編集人):2002/11/01(金) 03:18
(1)
 暗い中にさす、薄い光。光はやがて、その存在を濃くしていき、朝の到来を告げる。
遠野家の朝。遠野志貴の部屋。遠野志貴はいつものように朝の光をまぶたに受け、
いつもの声を聞いて、いつものように目を覚ます…。
「志貴さーん。朝ですよー」
はずだった。

『琥珀さんとおるすばん』

「ん…ぁ、ああ、おはよう、ひす…琥珀さん?」
「もう、志貴さん。休みだからってお寝坊さんは良くないですよ。
 寝過ぎも健康には良くありません!」
ぴしっと琥珀さん怒ってますのポーズを決められる。
…いや、そうでなく。
「あの…翡翠は?」
「翡翠ちゃんはお出かけ中です」
「え…?」
おかしい。翡翠はいつも屋敷から出たがらないのに…これは何かある。
「琥珀さん…何かたくらんでない?」
「あら、志貴さん、人聞きの悪い。何もたくらんでいませんよ。
 それとも…たくらんで欲しいんですか?」
「…いえ」
お気遣いはありがたいが、ここは遠慮しておくのが無難というものだろう。

琥珀さんが持ってきた着替えに袖を通し、私服に着替える。
「………」
いつもの朝は少しのズレが生まれるだけで、もう変化している。
この朝の変化がやがて、昼の変化、夜の変化につながり、
一日全体の変化となるのではないか…。
「…それでもいいか」
たまにはこういうのもいい。それに、琥珀さんに起こしてもらうのは新鮮な体験だった。
これからは時々琥珀さんに起こしてもらおうかな…と思った所で、翡翠の顔が浮かぶ。
あわてて思考を中断し、食堂へ入った。

87(編集人):2002/11/01(金) 03:19
(2)
いつもの朝食。けれど、とてもおいしい琥珀さんお手製の朝食。
「さあ、召し上がってくださいね」
「………」
こちらとしてもさっそく召し上がりたい所だが、確認しなければいけないことがあった。
「琥珀さん、秋葉は?」
「秋葉さまなら、株主総会に出席するため早朝に立ってらっしゃいます」
「…そうなんだ」
 大きなテーブル。その上に掛けられた真っ白いテーブルクロス。広く、そして寂しい食卓。
人が二人いないだけでそれはいつもより、さらに閑散としたものを感じさせた。
しかしそんな事はお構いなしに、琥珀さんはにこにこと笑って後ろに控えている。
…何か、気まずい。
「…琥珀さん、一緒に食べよう」
そんな言葉がふと、口に出ていた。
「え…?志貴さん、いいんですか?」
「うん、俺もその方が気が楽だよ。それに黙ってれば、ばれないばれない」
「あはっ、志貴さん、悪ですねー」
そうして、朝食は琥珀さんと一緒に食べた。
琥珀さんは、自分用の食事をテーブルに持ってきて、
俺は俺で琥珀さんの準備ができるまでさりげなく遅く食べ…。
朝食は二人同時に食べ終わった。
「それでは、お下げしますねー」
「あ、ちょっと待った」
「はい、なんですか?」
せっかくの機会だから、やっておこう。
「ごちそうさまでした」
ぺこり。
手をきちんと合わせて、琥珀さんに向かって頭を下げる。
「え…あ…も、もう、志貴さんたら」
琥珀さんは食器を持ってあわてて厨房に入ってしまう。
すこし、顔が赤かったかもしれない。
俺は、残った食器を持って琥珀さんの後へ続いた。
「あ、志貴さんそれは…」
「いや…有馬ではいつもこうしてたから、体が動いちゃうんだ」
「…じゃあ、遠慮なく。お皿はこれで全部ですね」

88(編集人):2002/11/01(金) 03:20
(3)
「さて、どうしたものか…」
カチ、カチ、カチ。
時計は絶えず、時間の経過を律儀に知らせてくる。
だから時間を有意義に使わなくては、という気持ちに駆られるが…。
「時間を有意義に使うって、どうすればいいんだ…」
そうして朝食後の昼下がりは無為に過ぎていく。
居間の豪華なソファーにだらーっと腕を伸ばし、
ぐでりぐでりとやる事もなくのんびりしている。
この時間は嫌いでもないが、好きというわけでもない。
秋葉がいたら、さぞかしお小言をちょうだいしただろう…。
「志貴さん、退屈してるんですか?」
顔の上にひょっこりと琥珀さんの顔が現れる。
琥珀さんの柔らかい髪がかすかに顔にかかり、くすぐったい。
「…ん、そうだな」
隠すこともない。何より、『退屈』と俺の体が訴えている。
「それなら、少し私につきあってもらえますか?」

春の日差しは柔らかい。
じょうろから流れる水は、
そんな日差しを受け止めて鮮烈に光り輝いた後、虹を残す。
俺と琥珀さんは屋敷の裏手に当たる庭に来ていた。
そこにあるのは大きすぎず、小さすぎない花壇。琥珀さんが作った花壇だ。
小さな花壇には花が咲き乱れている。
深く澄み切った氷のような青、深紅の大輪のような朱、
日の光を閉じこめたような黄色、そして羽のような儚い白。
様々な色が花壇の中で混ざり合い、その中で蜂が踊り、
風は優しく花たちをなでていた。
しかし最近は日差しが日増しに強くなり、雨も降らない。
きれいな花壇には水分が必要である。そこで俺が水の運搬役に抜擢された。
「あはっ、助かります、志貴さん」
「いや、俺も助かったよ。退屈で死にそうだったから」
ふふ、と琥珀さんが笑う。さわさわと風が流れ、木々がざわめく。
緩やかに髪を押さえる琥珀さん。
花壇は水に濡れて夢の中さながらにきらきら輝いている。
おだやかで、のんびりした春の陽気だった。
…こういう午後もたまにはいいかもしれない。

89(編集人):2002/11/01(金) 03:21
(4)
「ここで4連、さらに次で3連、合わせて7連コンボ!志貴さん、ギブですかー?」
「いや、まだまだ!」
…うららかな春の午後はいつからこうなったのだろう。
花壇での水まきが終わると、俺はあれよあれよという間に琥珀さんの部屋に移動しており、
現在、琥珀さんと格闘ゲームで対戦の真っ最中である。
「えいっ、対空ですよー!」
「うがっ」
…だめだ。レベルが違う。
「こ、琥珀さん、別のゲームにしない?」
「はい、いいですよ。つぎはどれにします?」
…これもだめ、これもだめ、これも…何で琥珀さん、こんなにゲーム持ってるんだろう。
「よし、これ」
「はい、受けて立ちますよー」
………

いつしか日が傾いていた。
「そろそろご夕食の用意をしますね」
琥珀さんはそう言って席を立つ。
俺はというと居間に移動して、お茶を飲んでいる。
ふと、今日の出来事を思い返してみる。
ほぼ一日琥珀さんと二人で暮らした。それで気づいたことがある。

 琥珀さんには笑顔がいくつもある。

 困ったような笑顔、悲しい笑顔、本当に楽しい笑顔、
ただそれは『笑顔』と言うだけでなく幾通りもの笑顔を持っている。
翡翠のように解りにくいけれども、琥珀さんと接しているうちにそれが徐々に解ってくるのだ。
 琥珀さんの笑顔を思い出しているうちにこちらも笑顔になっていく。
今日の琥珀さんは楽しい笑顔ではなかったか。
そうして自分と今日という日を過ごした。
俺といることで琥珀さんが楽しい笑顔になるならば…それは俺の笑顔の理由にもなる。
「志貴さーん、御夕食ができましたよー」

90(編集人):2002/11/01(金) 03:22
(5)
 夜。真円の月の下、俺と琥珀さんはテラスに出ていた。
琥珀さんの髪が、顔が、存在が月の光を受け、ぼんやりと輝いている。
静かで、心が透明になる月夜。そして琥珀さんは俺に語った。
「志貴さん、今日は楽しかったですか?」
「うん。今日は琥珀さんと過ごせて楽しかった」
「良かった」
そして沈黙。少し風が出てきた。
「…わたし、今日はわがまましちゃったんです。秋葉様は本当に株主総会ですけど、
 翡翠ちゃんは気を利かせて外に出てくれました。
 私が、志貴さんとおままごとがしたいって冗談交じりに行ったんです。
 それを翡翠ちゃんがまじめに受け取って…」
「琥珀さん…」
「けど、ただのおままごとじゃつまらないので、
 こうして現実におままごとみたいに暮らしてみたんです。
 朝、私が起こして、一緒にお昼ご飯を食べて、お花の世話をして、ゲームをして、
 そしてこうしてお話をする。そんな当たり前のことがとても楽しいんです」
「…琥珀さん、楽しいことはいつでもできるよ」
「志貴さん…」
視線が絡み合う。いつしか二人の顔は近づき、唇と唇が触れ…
バーン!
「ただいま帰りました!兄さん、琥珀、どこにいるんですか!」
…合うことはなかった。
「あらあら、秋葉さま、あの調子じゃ今日のことに感づいたようですね」
「…かなりやばいんじゃないかな、それ」
琥珀さんは、秋葉を迎えに玄関まで出て行く。…と、振り返る。
「志貴さん、また一緒におるすばんできるといいですね」
そうして琥珀さんは穏やかに笑った。俺もつられて笑った。
また、今度二人で…か。
たまにはこんな日もいいかな、とその時思った。
(おわり)

91(編集人):2002/11/01(金) 03:23
『青い月と朱いツキ』七夜志貴・支援
2002年7月4日(木)1時16分
ROUND3.48レス目「奇譚」様によって投下。
 銃神[GODO] (Notes.)
 反転翡翠  (月姫)
 七夜志貴  (月姫)
 エロ学派  (月姫)

92(編集人):2002/11/01(金) 03:25
『青い月と朱いツキ』

(1)
「俺は今、目の前にあるリンゴを切る」
そう口に出して確認する。ナイフの刃がリンゴに入る。
と、ナイフはなんの抵抗もなく突き通り、すとんと下に落ちた。
静寂。
部屋の中には二つの割れて転がったリンゴが転がるわずかな音。
まるで最初からそう存在していたかのような疑問の余地もない切り口。
嘲り声が聞こえるような気がする。

 人間にはできない事ができるお前は何なのか。

俺は自分が普通の人間として暮らしていける余地があることを再確認しなくてはいけない。
リンゴを切る。きわめて単純な行動だ。死の線など視ない。
俺はただ手に持っているナイフで、無造作に切れ目を入れ、そこから力を加え、
リンゴの抵抗を感じながら押し切り、切ってしまえばいいのだ。
それは普通の人のやり方であり、俺はそれと同じ事をすることで自分を普通である、
と確認しようとした。
しかしあいつはそれすらも許しはしなかった。

93(編集人):2002/11/01(金) 03:26
(2)
 あいつの覚醒は唐突だった。
遠野家に帰ってきてからというもの、何度もおぞましい怪異をくぐり抜け、
様々な人外の者どもと対峙し、そして殲滅した。
それらはもはや、過去の出来事であり、町は静けさを取り戻し、
俺の周りにも不安げな空気はかき消えたかに見える。
しかし、それらの出来事は俺の中に変化をもたらした。あいつが目覚めたのだ。
 
 最初はけだるそうに頭をもたげただけだった。
しかし、覚醒するにつれて、あいつは自らの状況に疑問を抱くようになった。
オレはどうしてこのように抑え付けられながら生きているのだろう?
もともと、遠野志貴とオレという者は一つの体を共有している人格である。
言うならばコインの表と裏。決して切り離されない。
しかし現実は遠野志貴の方が表にばかり立ち、
七夜志貴の方は危険な時にしか解放されない。これでは不公平ではないか。
そう、あいつが考えてもおかしくはない。
そうしてあいつは行動を起こした。
自分の能力を表面に、徐々に、だが確実ににじませ始めたのだ。

 最初に気づいたのは夕食の時だった。
香ばしく焼き上げられた鮭のムニエル。
それをナイフで切ろうとした時、ナイフは不思議な軌道を残した。
普通、食事用ナイフで食べ物を切る時は直線的に切るものだ。
しかし、その切り口は所々でわずかに曲がり、
全体としていびつな切り口を残すと思われた。しかし、切り口は完璧だった。
綻びもない。肉のささくれもない。
まるで切られたそのままの姿で最初から存在していたかのような、肉。
それは、その切り口は酷似していた。
先生の目の前で木を切って見せた時。純白の吸血姫を自分の欲望のままに切り刻んだ時。
死徒を、元は人間であった者を、怪異を切った時のそれに、あまりにも似ていた。
死線など見えていなかった。しかし体は死線をなぞったかのように肉を切断していた。
それは、つまり。
死線が視える視えないは関係なく、無意識のうちに体が死線をなぞり、物を切ってしまう、
ということだった。

94(編集人):2002/11/01(金) 03:27
(3)
がたり、と思わず席を立っていた。おかしい、おかしいオカシイオカシイ…
「兄さん、どうしたんですか?」
何も知らない妹の声。
そうだ、俺はたった一人の妹すらも触れるだけで殺してしまいかねない。
秋葉は無邪気に俺に寄ってくるだろう。
俺は秋葉に触れるだけで、秋葉の体はあり得ない形に曲がり、呼吸は止まり、
死の床についてしまう。
避けなければ。誰も殺したくない。
俺はひどい顔をしていたらしい。秋葉が心配げな顔をしてやってくる。
翡翠も琥珀さんもやってくる。そうして、俺に触れようとしてくる。
死が、彼女たちの体中にみえるようだった。眼鏡はしていたが、解る。死線は俺自身。
俺はうごめく死そのものになっているというのに、彼女たちは無邪気に触れてくる。
俺は、決して、彼女たちに死んで欲しくないというのに。
「来ないでくれ」
それは拒絶の言葉。口から出たその言葉に、彼女たちは動きを止め、
そして怪訝な表情になる。
「兄さん、そんな疲れた表情をしているのに、近づくな、というのは酷というものです」
「解っている。済まない、本当に済まないと思っている。だが、来て欲しくないんだ。
 今の俺は何をするか解らない。…少し一人にしてくれないか。
 今自分に何が起こっているかが確認できたらちゃんと話す。それまで…頼む」
そう言って、俺は食堂を後にした。後ろで何か声が聞こえてきたようだが、
俺は耳を閉ざす。今の俺は危険だ。

 あれから、俺は自分の状態を確かめるべくいろいろなことを試した。結果、
たまにではあるが、死の線が見えなくとも体が勝手に死の線をなぞり、
物を切ってしまうこと、そんな暗い現実が発覚した。
俺は俺の家族にその事を話した。彼女たちはとまどい、考え込み、
やがて事態の改善に協力すると、答えてくれた。
そうして、俺とあいつの戦いが始まった。

95(編集人):2002/11/01(金) 03:28
(4)
 うすうす気づいてはいた。数々の怪異と向き合っていた頃からだ。
危機に陥った時、俺の性格はがらりと変わる。
冷静に状況を分析し、自分の行動力を計算に入れ、
確実に、素早く相手を殺すことにのみ執着する殺戮機械。
解らない、知らないフリをしていた。
しかし、その心は確実に俺の中にあるわけであり、
今現実に現れ、その存在を如実に示めさんとしている。
俺は、そいつに七夜志貴、と名付けた。
俺の中に流れる退魔の一族の血。数々の魑魅魍魎をその手で葬り去る能力。
そして殺戮を生業とし、何代も何代も殺しを繰り返す殺戮の日々。
そうした一族の血が俺の中に流れている。自分の知らない自分。
新しく知った自分に俺はそう、名前を付けた。

 夜。ベッドの中で俺は息を荒げる。何かを切り刻みたくてたまらない。
手はぴくぴくと動き、自分の物ではないかのようだ。
体中の筋肉が張り、臨戦態勢を整えている。
…決して嫌いになりきれなかった、自分の力。
何もかもを切り、殺してしまえる力に優越感を感じた事が無いと言えば、それは嘘になる。
大きくもなく、小さくもない、ただの人間の心に生まれたわずかな優越感。
そこにあいつはつけ込んできたのだ。

 肉を切った時の感触はどうだ?
オレの神経にかすかに振動が感じられたかと思うと、ナイフが相手の体に入っている。
相手はそれを驚愕の瞳で見つめている。そうして俺はナイフを静かに滑らせるのだ。
それに沿って肉も静かに切られていく。肉の内面がのぞかれ、肉は静かに死んでいく。
いつしか相手の顔には驚愕と絶望が見て取られ…俺はそれを嗤いながらナイフを滑らせる。
やがてナイフは肉の終点にたどり着き、やはり静かに肉から離れる。
それを合図に相手の体がずれ始める。ゆっくりと、ゆっくりと。
相手は自分の体を必死に元に戻そうとするが重力には逆らえない。
肉は切られた。後は墜ちるのみ。
そうして相手はその顔を引きつらせたまま死んでいく。
それを見下ろす俺の顔は…この上なく愉快で、おかしくて、たまらないといった笑顔で…

96(編集人):2002/11/01(金) 03:29
(5) 
 がばっと起きあがる。体中が汗をかいている。息も荒い。
いつの間に寝入ってしまったのか。あれは夢…なのだろうか。
そうだ、あれは俺じゃない、決して俺であるはずがない…。
しかし、心の片隅で何かが優しく反発する。
…愉しかっただろう?少しも愉しくなかったはずがない。
お前は心のどこかで望んでいるんだ。自らの手で、肉を切り裂き、相手の顔を…
やめろ!やめてくれ!
息はいっこうに落ち着かない。自己嫌悪で押しつぶされそうだ。
何か、自分の外に意識を向けなくては…そうして気づいた。
窓の外はすでに白んでいる事を。

 あの自分を責め、さいなみ続ける日々から何ヶ月も過ぎた。
みんな、俺に対して協力的だった。
いらだちや、不安から口に出る俺の無神経な言葉にも、彼女たちは変わることなく、
ただ、俺を気遣ってくれた。
その事で、彼女たちの前で不覚にも涙してしまった事も幾度か合った。
そうして、俺が人と接していくうちに、七夜志貴は影が薄れ、そして消えた。
悪夢は収まり、俺は今まで通り、望んでいた普通の生活に戻り、周りも元に戻っていった。
しかし、俺は知っている。七夜志貴は決して外部からのものではない。
俺自身の裏の顔なのだ。
俺が生きている限り、何度でも新しい七夜志貴は生まれてくるだろう。
俺はもはや昔の遠野志貴ではない。そしてあいつも昔の七夜志貴ではないだろう。
それでも、俺が人間でありたいと望む限り。周りの人々を守りたいと願う限り。
俺は遠野志貴で有り続けよう。そう俺は決意した。
ふと心の片隅で何かが、ざわめく。黒い影が鎌首をもたげたような異質感。

遠野志貴と七夜志貴の人生はまだ、始まったばかりだった。
(おわり)

97(編集人):2002/11/01(金) 03:30
『外典猫姫。6日目』七夜志貴・支援
2002年7月4日(木)16時54分
ROUND3.71レス目「amber」様によって投下。
 銃神[GODO] (Notes.)
 反転翡翠  (月姫)
 七夜志貴  (月姫)
 エロ学派  (月姫)

外部リンク型。(このSSは続き物の中の一つです)
ttp://www.interq.or.jp/earth/youhei/ss/ss_tsuki/another/neko06.htm

98(編集人):2002/11/01(金) 03:31
『来訪者』蒼崎青子・支援
2002年7月6日(土)0時0分。
ROUND3.160レス目「全系統異常アリ」様によって投下。
 闇シエル    (月姫)
 蒼崎青子    (月姫)
 高田(兄)   (月姫)
 十字架[type/saturn] (Notes.)

外部リンク型。
ttp://www5d.biglobe.ne.jp/~sini/SS/blue.htm

99(編集人):2002/11/01(金) 03:32
『――我は祝祭の夜、敵であるその者と出会い、語り、命を較べ合った――』
ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)6時14分。
ROUND3.304レス目「七死さん」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)

外部リンク型。
ttp://homepage.mac.com/ikuya_t/guest/po/syukusai.html

100(編集人):2002/11/01(金) 03:35
『或る埋葬機関機関員の悲劇』ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)7時32分。
ROUND3.305レス目「七死さん」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)


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