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SSスレッド

1板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/11(木) 00:39
支援目的以外のSSを発表する場です

 ・1つのレスの投稿文字数制限は
   IEで2000文字以内
   かちゅ〜しゃで1500文字以内(どちらも参考値です)

   以下のサイトで文字数をチェックできます
   ttp://www5.tok2.com/home/cau85300/tool/count_check.html

 ・エロSSについては各自の判断でお願いします

このスレッドで発表されたSSについての感想も、ここに書いて頂いて結構です

2奇譚:2002/07/11(木) 16:42
『TYPE−MOON最萌えトーナメント 楽屋裏』6月28日編
高田陽一 (月姫)
クールトー(月姫)
猫又秋葉 (月姫)
三澤羽居 (月姫)

(1)
 ここは、TYPE−MOON最萌えトーナメントの楽屋裏。
試合を戦い抜く者達が表での華々しい活躍のために気合いを入れたり、
他のキャラクターにちょっと牽制を掛けてみたりする裏の社交場である。
今日、この場にやってきたのは5人。
高田陽一、クールトーと通訳係の琥珀、猫又秋葉、三澤羽居である。
 楽屋裏ではあるが、アールヌーヴォー調のテーブルに淡い色合いのティーカップ、
湯気を立てる紅茶にクッキーまでしっかりと用意されている。
テーブルの下にクールトーの為、『かみかみ君』(お犬さま用ガム)まで
用意されているのはご愛敬である。

「いよいよ試合ね…」
「わー、つぶやく秋葉ちゃんかわいー」
だきっ!
「あ、こら羽居、ひげを引っ張るんじゃない!」
「えへへー」
「(もぐもぐ)うーん、試合といっても僕ら見ているだけなんだよねー(もぐもぐ)」
オン、オン!
「えーと…クールトー君が『おれさまみんなまるかじり』と言っています。
 んー、クールトー君、大胆ですねー」
「へぇ…クールトー、いい度胸ね…」
「秋葉ちゃん、猫又変化なのだー!」
「(もぐもぐ)あー、試合が始まったよー(もぐもぐ)」

3奇譚:2002/07/11(木) 16:43
(2)
「最初は…まあこんなものね…」
「わー、どんどん票が入ってくー。あっ、私に入った。ありがとー」
「(もぐもぐ)のんびりペースだねー(もぐもぐ)」
「あ、ほらほらクールトー君、支援が来ましたよ!」
オンッ!
「…クールトー、これは…日常なのかしら?」
オンッ!(誇らしげに胸を反らす)
「ふむふむ、クールトー君が『すごいだろう!』と言っています」
「(もぐもぐ)クールトーは大人物だねー(もぐもぐ)」
「あっ、私の支援も投下されたー。あー!秋葉ちゃんといっしょでネコー!」
だききっ!
「わっ…、こら羽居!紅茶がこぼれるからやめるにゃー!」
「ふにゅ〜、ごろごろ…」
「(もぐもぐ)うんうん、平和だねー(もぐもぐ)」

「あっ、また支援画像ですよ、秋葉さま!」
「…こうして、たくさん支援を送られるとちょっと…ごにょごにょ《恥ずかしい…》」
「秋葉ちゃん、とってもかわいいよー」
「…羽居には勝てないわね…えーと次は、なっ、相撲!?」
「私とだねー」
「あらあら、と思ったら終わりましたねー。どっちが勝つんでしょう?」
オン!
「クールトー君?あら、秋葉さまの支援ですねー」
「(もぐもぐ)支援がたくさんで…激戦だねー(もぐもぐ)」
「……。……。…!!さ、30分の1ー!?」
「わーい、じーく秋葉ちゃーん!」
「秋葉さま、このお薬が効果的ですが…」
テーブルにちょこんと袋が置かれた。袋に書いてあるのは3文字。
               豊胸剤
「うにゃー!うにゃーー!」
ガタタッ、バキッ…
「(もぐもぐ)短い平和だったねぇ…(もぐもぐ)」
オンッオンッ!
「はいはい、クールトー君支援ですねー。
 ふんふん、『冒険には危険が付き物だ』だそうですー」
「クールトーちゃん、面白いねー」
オンッ(えっへん)。

4奇譚:2002/07/11(木) 16:43
(3)
「ねこアルクさんの心情が語られてますねー」
「同族として何か一言…秋葉さま?」
「知りませんっ!それに同族じゃありませんっ!」

「秋葉さまと三澤さん、着々と票が伸びてますねー」
「えへへー、みんなありがとねー」
「なんのっ!まだまだ負けないにゃー!」
「秋葉さま…だんだん違和感が無くなってきましたね…」

「(もぐもぐ)とうとう僕に来たね(もぐもぐ)」
グルルル…
「クールトー君が『票が少ないんじゃないか?』と言っていますー」
「(もぐもぐ)そうだねー。巻き返せるかなー(もぐもぐ)」

「あと1時間を切ったわね…」
「そうだねー。あ、秋葉ちゃんの支援画像だよー」
「……これは何の支援なのかしら?」
「まあまあ、いいじゃないですか秋葉さま。あ、また秋葉さまに票が入りましたよ」
「(もぐもぐ)とうとう、試合が終わるねー(もぐもぐ)」
クゥーン…
「クールトー君、丸かじりできませんでしたね…」
クゥーン…

5奇譚:2002/07/11(木) 16:44
(4)
そして、試合終了。
「ま、負けたにゃー…」
がっくりとテーブルに突っ伏す秋葉。そこに羽ピンがそっと手をやる。
「秋葉ちゃん…」
「羽居…」
「…秋葉ちゃん、だいぶ猫又らしくなってきたよー」
「うにゃー!そこか、そこなのかー!うにゃーー!」
ガタタッ、ガシャーン…
「(もぐもぐ)さて、返って寝ようかな…(もぐもぐ)」
オンッ!
「クールトー君が『これから活躍しよう!』だそうですー」

 こうして、一日の試合が終了した。
この後、楽屋裏は素早く片づけられ、次の試合の楽屋裏として綺麗に整えられる。
しかし、この楽屋裏、日を追うごとに修復が困難になっているという。
楽屋裏が完全崩壊するのが先か、それとも全試合が終了するのが先か、
それはまた他の話である。
(おわり)

6奇譚:2002/07/11(木) 16:45
試合の様子をSSで表現、という事でしたがこういった感じでよろしいでしょうか?
本当は記念すべき第一回戦から、書こうと思いましたが
『空の境界』関係がよくわからないのでこうなってしまいました…。

7amber:2002/07/11(木) 17:26
奇譚さん乙彼様〜
うわー、こんな面白いの書かれた日にゃ自分必要ないですねー。
勿論ユーモアのセンスがさっぱりな自分の所為なんですがw

ネタとしてはあとは試合後、試合前のやりとりとかもできそうですね。
少し頑張ってみようかな。

8表の人:2002/07/13(土) 18:27
>6
言ってみるもんだなあヽ(´ー`)ノ
面白いので続編希望〜。

二回戦からはタイマン��負なので、
「なにかでリアルに戦ってる二人」のSSというのもできそうですね。
黒桐くんを殺戮する紅秋葉とか。

9amber:2002/07/13(土) 20:20
ナイスな考えですw
ただ試合中にそれをやると、うまく締めない限り中傷になってしまいますね。
うーん、難しい…

10表の人:2002/07/13(土) 23:17
試合後にやれば問題なし。
というか、実際の試合結果を反映させたほうが面白くなると思われ。
��負形式も試合ごとに違ってたりしてね……
ネロカオスvsひすこはのお母さん料理対決!とか。無茶。

11奇譚:2002/07/14(日) 19:40
えー、いろいろ考えてみましたが…
>実況SSの続編
…できる限り、書きます。というか今、書いています。
>二回戦の実況SS
同上。
>教授とお母さんの料理対決。
…無理です。オフィシャル公認でお母さんのキャラクターが
世に出ているそうですが、自分はそれを知りません。
SSとオフィシャルでキャラクターにずれが生じるのは
いささか無粋と思います。というわけで勘弁してください(;つД`)

12奇譚:2002/07/14(日) 19:50
>料理対決
…いや、何とかなるんじゃないだろうか?
キャラクターさえつかめるならば何とかなりそうです。
ただ、いつキャラクターがつかめるかは解らないので、
気を長くしてお待ちいただけないでしょうか。

13表の人:2002/07/14(日) 23:54
きをながーくして待ってますー。

…料理対決じゃなくてもいいですよー
将棋対決とかバンジージャンプ対決とか早口言葉対決とか
(だんだんわけがわからなくなってきた)

14奇譚:2002/07/15(月) 02:28
『TYPE−MOON最萌えトーナメント 楽屋裏』7月7日編
瀬尾晶 (月姫)
エレイシア (月姫)
月姫蒼香 (月姫)
幻視同盟のあの人(月姫)

(1)
キンコーン、キンコーン、キンコーン

楽屋裏にチャイムの音が響き渡る。
聞き慣れた音が余韻を残して消えると、
これまた聞き慣れた声が試合開始30分前を告げた。
今日の楽屋裏は和風に仕立て上げられている。
フローリングの床の上にはござが置かれ、
その上では足の短いちゃぶ台がどっしりとしたたたずまいを見せている。
ちゃぶ台の上には大量の氷で冷やされたそうめんが置かれ、
4人分の取り皿が用意してある。
ちゃぶ台に付いているのは4人。
瀬尾晶、エレイシア、月姫蒼香、幻視同盟のあの人である。
ちなみに今日の雑用係はせむし男君である。

「もうすぐ始まりますね、蒼香さん」
「…そうだな。浅上同士で試合になってしまうとはな」
「まあいいじゃないか、試合は時の運だから。
 それより僕の本名が出てないのが気になるな…」
「ほらほら、皆さん、そうめんがぬるくなってしまいますよ」
「あっ、そうですね、それじゃいただきまーす」
ずるずるずる…
「という間にも、エレイシアさんに支援画像が来ましたねー」
「ありがとうございますー。
 はい、フランスパンはご近所の皆さんにも人気があるんですよ」
「最初から飛ばしてるね、お前さん」
「…さて、試合開始の時間だ。僕はゆっくり見物といくかな…」

15奇譚:2002/07/15(月) 02:29
(2)
−−−試合開始−−−
「あーっ、私に票が!皆さんありがとうございます〜」
「ふむ…あたしにも少しだが入っていくな…」
「おかしいな…。…まあ、最初だからね。まだまだ試合の行方は解らないよ」
「そうめんが美味しいですねー」
「へいっ!そうめんのお代わりお待ち!」

「…えー、私お酒は好きですけど、大酒飲みじゃないですよう」
「未来の私ってどうなってるのかな…」
「まあ、未来の事は誰にも解らんさ。…おっ、あたしに入ったか。
 とりあえず礼を言っておくが…キックは少しかじった程度なんだ」
「けど、蒼香さん独自の改良が加えられているんですよね」
「……まあ、そうだな」
一方、あの人はそうめんにかかりきりである。ずるずるずる…
「(おかしいな…時期的にもうそろそろ票が来る頃なんだが…)」

「順調だな、お前さん」
「え、えー、いや、それほどでもないですよう」
「いいじゃないか。みんなに愛されている証拠だ」
晶の顔が赤くなっていく。楽しげに口元を歪めてそれを見る蒼香。
ちなみに二人の箸はもう置かれている。
蒼香は大きめの湯飲みにお茶をそそぎ、ゆっくりとすすった。
「勝負ってのは恨みっこなしが基本だ、ま、おたがいしっかりやろうや」
「は、はいっ!蒼香さん!」
そこへエレイシアがすり寄っていく。
「ところで…、しっかりするって何をしっかりするんですか?」
「ま、心構えはしっかりいきたいって事さ」
そんな会話がなされている後ろでそうめんを喰らい続ける男が一人。
「(おかしい…波が…そろそろ波が来るはずだ…波はまだか…)」

「私にも票が…みなさん、ありがとうございます」
「エレイシアさん、おめでとうございます」
「はい!」
エレイシアのこぼれるような笑顔。それを見守る晶と蒼香。
そして後ろでそうめんを食べ続ける男。
「(来るか、来るか来るか来るか来るか…!)」
ひょい
そうめんの器が下げられた。
「おい、なにを…」
「すんません、そうめんはもう打ち止めッス」

16奇譚:2002/07/15(月) 02:30
(3)
「あっ、知得留先生ですね」
「あ、ほんとですねー。がんばれっ、未来の私っ」
「何か後ろ向きながんばり方だが…」
後ろでは…。
「………」
哀愁を漂わせて、紫煙をくゆらす男が一人。

「私って小動物系なんでしょうか?そうは思えないんですけど…」
「どうなんだろうな」
「それと、遠野先輩にいじめられてるわけじゃないですよー」
「自覚がないのか…もはや才能だな」
「えっ、蒼香さん何か言いました?」
「いや、お前さんはいろいろ才能にあふれているなって言ったのさ」
「え…えへへ、そうでもないですよー。
 ほらほら、蒼香さんも髪を下ろした所がいいって言われてるじゃないですかー」
「あたしとしては、髪をまとめた方が楽なんだがな…」
そして後ろでは…。
「これが、日本茶という物ですかー。慣れたら美味しいですね。
 はい、お茶のお代わりいかがですか?」
「…あ、ああ、これはどうも…。ええと、エレイシアさん、でしたっけ…?
 落ち着いていますね」
エレイシアはにこにこと優しい笑顔を絶やさない。
「はい。試合自体も楽しいですけど、
 こうして皆さんとお話しできるのも楽しいんです、私」
「…どうもわからないな。負けたら、ここから去らなくちゃいけないんですよ?」
「はい。けど、皆さんとお友達になった、という事は変わりませんよ」
「………」
そうして、彼は無言になった。くわえていたたばこからはもう煙はなくなっている。
しかし、彼はたばこをくわえ続けていた。
彼の視線は試合観戦モニターの方を見つめている。
そんな彼をエレイシアはにこにこしながら見つめていた。

「エレイシアさーん、支援ですよー」
「はーい。あっ、仕事中の私ですね」
「ところで、パン屋ってどんな仕事があるんだ?」
「そうですねー、いろいろあるんですけど、まず朝起きてから…」
で、後ろでは。
「あれ、どうしたんスか?なんか、渋いッスね」
「いや、考え事をしていたんだ…。人生というものについて少し…」
「あっ、来ましたよ投票!」
「なにぃ!…ふ、とうとう来たか。どれどれ………なっ!」
彼の中で時間が白と黒に反転を繰り返し停止。そして一瞬後、始動。
「壊れている…?ザコ……?ふ、ふふふ、せむし男君、君ならこれをどう取るね?」
「さぁ…自分はただのせむし男なんで」
「……火、あるかい?」
「いえ、ないっス」
「………」

17奇譚:2002/07/15(月) 02:30
(4)
そして…
−−−試合終了−−−
「終わりましたねー…。えっと、お疲れ様でした!」
「ああ。一位、おめでとう」
「蒼香さん、ありがとうございます!皆さんも…ありがとうございます!」
「あのー、これからみんなでお食事にいきませんか?」
「あっ、いいですね!」
「よし、あたしも付き合おう」
「一緒にどうですか?えーと…」
エレイシアがふと、とまどいの表情を見せる。
エレイシアの言葉に振り向いた彼はエレイシアを見て寂しげに笑い、答えた。
「…そうですね…行きましょう…」
少し影が濃くなった彼の背中をせむし男君がバンバンと叩いた。
「まあまあ!今日は楽しく行きましょう!」
「…ところで、君も付いてくるのかい?」
「そりゃもう!自分、せむし男っスから!」
いつしか、夜の帳も濃くなっている。
レストランを目指して歩く、今日の試合投票枠となった人々。
彼らがレストランに行く道々、こんな会話があったという。
「あのー、すみませんがあなたの名前を教えてもらえますか?」
「え…は、はは、そういえば名乗ってなかったですね…」
(おわり)

18奇譚:2002/07/15(月) 02:35
もっと文章を推敲すればもっと読みやすくなったかも。
文章の道は奥が深いですなぁ…。
さらに精進を重ねます。

19龍也:2002/07/15(月) 12:58
やったー!あの人が来た!
ごめんな、ザコとかヘタレとか書いたん僕やねん…。

20pa-pa:2002/07/15(月) 19:52
シリアスは敬遠されますかぃ?

21pa-pa:2002/07/15(月) 19:52
sage忘れスマソ

22七死さん:2002/07/15(月) 20:43
少なくとも俺は読みますし。月姫関係なら問題ないと思われ。

23奇譚:2002/07/15(月) 21:40
シリアスもOKだと思います。
って、シリアスSSが書き込まれてないですね。
シリアスSS、難しいです…。とっかかりが無いか難解に過ぎてしまう。
寝ても覚めても、考えてはいるのですが…。

24pa-pa:2002/07/16(火) 23:48
近々エレイシア物を投下するやも。いや、自分で言っといてシリアスではないかもしれませんが……

25奇譚:2002/07/19(金) 02:56
(1)
 ここは楽屋裏から少し離れた所にある、廃れたラジオ局。
昨日、ここでは珍しく精力的にラジオの番組の準備が進められていた。
この裏には楽屋裏の管理人、久我峰斗波の意志が働いている。
彼曰く、
「ほっほっほ。試合が盛り上がるのは大いに結構。
 しかし、管理のためにはいささか資金も必要です。
 そこで、試合をする当人達にも少し協力をしてもらおうかと」
とのこと。
誰もが面倒臭がる、というか相手にしない中で、運悪く白羽の矢を立てられた者がふたり。
一人はわりとノリ気で、もう一人は当惑しながら、番組の準備は進められた。
そして、番組は始まった。

『TYPE−MOON最萌えトーナメント楽屋裏・6月20日編
 〜朱鷺恵とつかさの実況中継〜』

「え…始まっちゃっ…こ、こんばんは」
「こんばんは、今日の楽屋裏は私、時南朱鷺恵と四条つかさちゃんの二人でお伝えします。
 よろしくね」
「よ、よろしくおねがいします…あの、ところでと…時南さん」
「あら、なにかしら。それと名前で呼んでいいからね」
「え…じゃ、じゃあ朱鷺恵さん。台本によると、
 すぐに今日の試合当事者の説明に入らないと…」
「あ、そうなんだ。それじゃ、もう始めちゃおうかな」
「あ、はい。では…最初は『英語教師アルクェイド』さんですね。
 この人は有名な知得留先生の同僚にしてライバルです。
 知得留先生と遠野志貴さんを奪い合っているようですね」
「ふーん…志貴君、かっこよくなったもんね。もっと、アプローチしておけば
「ごほごほっ、つ、次行きましょう、次!はい、次は『常盤』さんです。下の名前は不明。
 遠野志貴さんのクラスメイトです。オカマ口調で話しかけてくる、柔道部の人です」
「オカマ口調…?何か深いわけがあるのかな…?」
「えっと、次は《『高雅瀬』》さんです。で…
「つかさちゃん、名前の所がよく聞こえなかったんだけど…」
「え、えっとですね…うう…すみません、読み方が解りません…。
 結構大きめの漢和辞典も引いたんですけど解りませんでした…」
「そうなんだ…」
「だから、今回は暫定的に、たか・みやせ、と呼ばせていただきます…」
「はいはい、つかさちゃん、固くなっちゃだめよ。はい、深呼吸」
「すー…はー…」
「落ち着いた?うん、じゃあ、続きをお願いね」
「…はい。高雅瀬さんは私と同じ浅上女学院の一年生です。今は生徒会書記を務めています。
 厚めの眼鏡…ビン底眼鏡というんでしょうか…を掛けている、お話好きで噂好きな人だそうです」
「あら、そうなんだ。秋葉ちゃんの噂話とかも聞けるかな?」
「それは、是が非でもやめた方がいいかと…」
「あら、そう?」
「最後に『乾有彦』さんです。遠野志貴さんの男友達です。えっと、破天荒な方、だそうです」
「とても有名な人だから紹介の必要はないかな?」
「はい、朱鷺恵さん。…時間がおしてるそうなので次へ行きましょう」

26奇譚:2002/07/19(金) 02:57
(2)
「…はい。楽屋裏にやってきました。もうすぐ本日の試合が始まります。
 ちょっと、出演者の方にインタビューしてきます。
 えーっと、英語教師のアルクェイドさん、今のお気持ちを一言、お願いします」
「うん?そーだねー、勝ったらうれしいけど、もし志貴とかち合ったら嫌だし…う〜ん、複雑」
「ありがとうございます。常盤さんはどうですか?」
「あたし?そうね、のんびり観戦する事にするわ。成り行きを温かい目で見守るの」
「はい、ありがとうございます」
「…あら、つかさちゃん終わったのね。じゃあ、こっちも。高雅瀬さん、
 今の心境はどんな感じですか?」
「そうね、私が思うにね…(この後、1分近く機関銃トークが続く)…で、それからね、
「ごめんなさいね。もう次の人に行かなくちゃいけないの。はい、ありがとうございます。
 では、次の人…『乾有彦』さん、お願いします」
「はい!いやぁ、こんな美人のお姉さんと知り合いになれるなんて、
 男冥利に尽きるってもんですよ!」
「あら、お上手ね。じゃあ、私からお願い。志貴君と仲良くしてね」
「えっ…!お姉さん、まさか遠野の…」
「うん、きっと君が思ってる通りだと思う」
「………ぉ、お、おのれーっ!遠野っ!裏切り者ー…
「わっ、そろそろ試合が始まりますから抑えてくださーい!」

27奇譚:2002/07/19(金) 02:57
(3)
−−−試合開始−−−
「試合が始まりました!楽屋裏は歓声怒号叱咤激励悲鳴絶叫の嵐です!」
「つかさちゃん、張り切ってるね。試合の様子は…乾さんが先制リードしています」

「ぶー。何でこんなに少ないのよう!」
「あたしは…まずは様子見、ね」
「おかしいわ、おかしいわ、私に表が来ないなんて(以下省略)」
「おっ、けっこう入ってくるな。ふっ、ちょっと夢、見せすぎちまったぜ!」

「あっ!ただいま支援物が投下されました。
 内容は乾さんの…えっ…あの…これは…ごにょごにょ…」
「おっ、俺の支援か、どれどれ………ぅ、ぁ、あ、NOーーー!なんじゃこりゃーーー!」
「乾君と遠野君、そんな関係だったのね…やるわね」
「てやっ、英語教師的、教育的指導!」
ガスッ
「ぐはぁっ!お、俺はやっていない!断固として俺は無実だ!」

「えと、あー、うー、…ごにょごにょ…」
「うーん、つかさちゃんにはちょっと刺激が強かったかな?
 つかさちゃん、ここで休んでいていいからね。
 さて、試合は乾さんが最初に大きくリードしたまま、ゆったりとしたペースで進んでいます。
 乾さんはその後も順調に票を伸ばしています。
 英語教師アルクェイドさんも順調に票を伸ばして、乾さんの後ろに付いています。
 その後ろを常盤さん、高雅瀬さんが追う形となっています」

「あっ!ようやく私にも票が入った…って、遅いっ!
 今から巻き返すのはかなりきついから…そうね…ここは…(ぶつぶつ)」
「あたしも最初の一票以来、伸びないわねー、活躍の場が少ないときついわねー」
「うー。知得留に負けるのだけは勘弁」
「ちなみに乾さんはケイレンしています。そっとしておきましょうね」

28奇譚:2002/07/19(金) 02:58
(4)
そして
−−−試合終了−−−
「朱鷺恵さん、すいません…」
「いいのよ、つかさちゃん。もう平気?」
「あ、はい…では、結果発表です。一位、乾有彦さん!」
「よっしゃあ!」
「おめでとうございます、乾さん。一位の乾さんは本戦出場決定です」
「…よし、本戦で可愛い女の子と…見てろよ、遠野!」
「続いて、二位の英語教師アルクェイドさん、
 獲得票同数で三位の常盤さん、高雅瀬さん、残念ですが、ここで予選落ちです」
「あーあ。志貴と一緒にいたかったのにな。ま、いっか。別の機会もあるし」
「あたしの扱いって…」
「おかしい、絶対おかしいわ!責任者!責任者はどこー!」

「それでは、ここで楽屋裏からお別れです。今日の放送は久我峰家の提供でお送りいたしました。実況は私、四条つかさと、
「時南朱鷺恵でした。それでは、皆さん、おやすみなさい」

「つかさちゃん、お疲れ様」
「はぁ…疲れました…この後もこの番組続くんですか…?」
「うーん、それはわからないの。この番組、久我峰家の提供でしょ?」
「そうですね」
「で、番組の途中に聞いたんだけど、久我峰家がこの資金提供の件で遠野家に怒られたんだって」
「あー…そうなんですか…」
「だから、続きがあるかどうか、今の時点ではわからないの」
「はー…」
「それはそうと、つかさちゃん、打ち上げに行かない?みんな行くんだって」
「…お供します。あ、朱鷺恵さんもお疲れ様でした」
「ありがとう。じゃ、行こっか」
「…はい」
ドドドドド…
「お姉さんっ、お嬢さんっ、是非是非、俺たちと一緒に打ち上げにっ」
「あら、有彦君、それは私達からもお願い」
「よしっ!二名様、ごあんな〜い!」

こうして、今日のラジオ放送は終了した。
夜も深くなった闇の中、楽しげに、またはやけくそ気味に、
そして疲れた表情の人達が街の明かりに消えていく。
そして、余韻がさめやらぬ内に次の試合の準備が整えられる…。
TYPE−MOON最萌えトーナメントはまだまだ止まらない。
(おわり)

29奇譚:2002/07/19(金) 03:01
えー、まずは…支援物が完全に把握できませんでした、すいません。
昔の試合のせいでしょうか、リンクが切れておりました。残念です…。
あと、キャラクターの性格がわからない部分など、自分で性格付けをしました。
四条つかさについては『夢十夜』で「教室では覇気がある」
という描写があったのでこんな感じではないかと(^^ゞ)
もしオフィシャルで発表されたら…(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
 それとシリアスSSですが、何とか一本できそうです。
けれど、このSS、どう考えても支援SSとしか思えません…。
よって、支援物として使ってしまうと思いますので、
このスレにはシリアスSSがまだ投下できません…。
シリアスSS、先になってしまいましたが、これからも試行錯誤していきます。

30板</b><font color=#FF0000>(ItaYaZ4k)</font><b>:2002/07/24(水) 02:54
ここが、投票スレの過去ログより下にあるのはヘンなのでageておきますね

31(編集人):2002/11/01(金) 02:12
せっかくのSSスレッドなのでこちらを使わせていただきます。

32(編集人):2002/11/01(金) 02:15
今、振り返って…「TYPE−MOON最萌えトーナメントSS総集編」。
このトーナメントで読めるSS総集編。
この総集編ではSSのみを対象としていますので、コピペなどは含まれません。
なお、作者様が「SS」と宣言されている場合は、SSに含まれます。
また、SSが掲載されているHPが紹介された時は、
それもSSと同じように扱っています。
SSの一部抜粋となっている物は一覧に加えていません。
同じHP、SSが紹介ないし投下された時は、一覧に加えないようにしています。
あと、リンク先が無くなっている物、解らない物も一覧に加えていません。
なるべく、投下当時の状態のままにしていますが、ずれてしまった場合は
申し訳ありません。あと、外部リンク型でリンク先が無くなってしまった物についてはここに掲載できません。ご了承ください。
あと、ここが抜けてる!という所がありましたらご一報いただけると助かります。

33(編集人):2002/11/01(金) 02:16
『水底の宴』久我峰斗波・支援
2002年6月9日(日)12時56分。
ROUND1、39レス目「名無しさん」様によって投下。
 真・オバケキノコ   (月姫)         
 久我峰斗波       (月姫)        
 死の線だらけの死人  (月姫)        
 秋巳大輔       (空の境界)  

記念すべき第1戦目で初めて投下されたSS。外部リンク型。
ttp://isweb31.infoseek.co.jp/novel/boysss/cgi-bin/toko.cgi?action=html2&key=20020605000001

34(編集人):2002/11/01(金) 02:17
『無題』翡翠・支援
2002年6月19日(水)2時4分。
ROUND1.705レス目「お絵かきadmin 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

35(編集人):2002/11/01(金) 02:18
あれほど騒いでいた昼間がまるで嘘のようにあたりは静まり返っている――――

昼間の花見はそれはもう修羅場だった。
遠野家のちょっとした余興のはずだった昼食をかねての花見は、アルクェイドの乱入、それにともなうシエル先輩の乱入、どういう嗅覚をしているのかしらないがその騒ぎをかけつけた有彦の乱入、有彦によるとおりがかりの弓塚のひきこみ...
気を利かせたのかその騒ぎを楽しんでいるんだか知らないが、琥珀さんの持ってきた秘蔵の日本酒とやらのおかげで場は一気にヒートアップ。
最後には秋葉がぶったおれたぐらいだからあの酒にはなにかしこんであったに違いない。
そんな騒ぎもいつのもの、夕陽が沈むとともにあたりはひっそりと夜へと変わっていた。
「翡翠もそれを片付けたら一休みしなよ」

これまた気を利かせたのか楽しんでいるのかわからないが、琥珀さんは洗い物と称して台所に引っ込んでしまっている。

「はい」

翡翠はテーブルの上を拭き終えると、おずおずと僕の隣に腰をおろした。
桜の木の下には死体が埋まっている―――遠野家では洒落になりそうにない逸話だが、そんな話を信じてしまいそうになるほどに夜の桜は妖艶に散っていた。

「ねぇ、翡翠」

そんな雰囲気の中の沈黙に耐え切れずに僕は口を開く。

「僕らが付き合ってもう半年になるけど―――」

翡翠が不思議そうな顔をしてコチラを見つめる。何をいうのか?といいたげな目線。
そのあまりのかわいさに僕はまたつばを飲む。

「その、もしも翡翠が遠野家の使用人だからとか、僕への同情とかでつきっているのなら、その―――。いつでも別れてくれてかまわない。きっぱりといってくれたほうがいい」
風が吹いた。
夜の月明かりに妖艶に照らされた桜が舞う。

「志貴さまは相変わらず愚鈍ですね。」

その向こうに翡翠のあまりに綺麗な顔がみえた。

「私がこれほど志貴さまを想っていても志貴さまはちっともわかってくださらない
 私の想いは子供のころからずっと、そして今も変わりはありません」

ゆっくりと翡翠の顔が近づいてきて、だんだんと大きくなるような錯覚を覚える。

「私はずっと、志貴さまのことを好きでした」

静かに、しかし確実に重なる唇。
それは遠野家に帰ってきてからずっと、いや子供のころからずっと、僕の求めていたもの。
やわらかくて・・・暖かい。
僕はなんども翡翠の唇を求めた。
妖艶な、優しい月明かりの下で。

36(編集人):2002/11/01(金) 02:19
『無題』翡翠・支援
2002年6月19日(水)2時38分。
ROUND1.711レス目「七死さん 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

37(編集人):2002/11/01(金) 02:20
―そして事件は過ぎ去り、遠野志貴にまた日常が却ってきた。
 秋葉がいて、七夜さんがいて、……翡翠がいる。
 全てが元通りというわけではないけれど、それでも概ね平穏な日々。
 いろいろなことがあったけど、だからこそ手に入れたこの時を、俺は大切にしたいと思っていた―


 「…じいさん――今なんて言った――」
 ゆらり、と、遠野志貴の中でナニカのスウィッチが入ったのが分かる。抑えきれないほどの激情を抑えて、もう一度だけ聴く。絶望を。
 「何度も言わすな小僧…。半年だ…。」
 背後で秋葉が絶句するのが感じられる。それはそうだ。俺だってできることならそうしたい、だが……。
 ――昼下がりの時南医院、そこで長年見知った医師に告げられたその言葉は――
 「翡翠…あの嬢ちゃんの命は――持って後半年じゃろう…もう、どうしようもない――」

 どうしようもないくらい巨大な力で、遠野志貴の日常に穴を開けていった――

 
 消毒薬の匂いのする真白い廊下をただ歩く。感情は無く、ただ遠野志貴は人形のように進んでいく、目的地へと向かって。
 「兄さん、このことは―――」
 思考のループの中で拡散を続けていた俺の自我が、その言葉で表層へと上がってくる。
 「言えるわけがない――七夜さんにも―――もちろん翡翠にもだ」
 ギチリと、強く噛み合わせた歯から異音が漏れる。

38(編集人):2002/11/01(金) 02:21
――つい数日前、屋敷でいつも通り仕事をしていた翡翠が、血を吐いて倒れた。余りの事態にパニックに陥りながらも、慌てて時南医院へと運んで見れば――


 『――手遅れじゃ、若いが故に進行が早すぎる。一般の病院へ連れこんでも変わらんだろう。全身に腫瘍が転移しはじめておる』
 感情を無くした声で、時南先生が告げる。
 『――なっ!!』
 ―――絶句。腫瘍、悪性のもの、それらを称して癌ということくらい、俺だって知っている。そしてそれが意味することも。
 ――永遠にも思える一瞬、遠野志貴の思考が停滞する。それを見越してか、時南医師が言葉の先を続ける。
 『何も言うな小僧――ワシは小さな頃からあの嬢ちゃん達の面倒を見てきた。できることならワシだってどうにかしたい――じゃが――』
 グッと、医師の手が固く、固く握られる。何かに耐えるかのように、固く。そして――

 『――小僧、お主に全て任す。話すべきか、あの子になにをしてやるべきなのか。――自らが決断せい』

 固く、硬く。医師として、時南宗玄は、ただそれだけを遠野志貴に告げた。

39(編集人):2002/11/01(金) 02:23
ドアを開ける。ただ真白いだけの簡素な病室の中で、ベッドに横たわる少女だけが色彩を放っている。そっと、彼女を起こさないように、後ろ手にドアを閉める。部屋に入るのは遠野志貴ただ一人。秋葉には先に屋敷に帰って貰い、心配しているであろう七夜さんに説明する役目を頼んでおいた。
 ゆっくりと、彼女の元へ近づいていく。シーツから覗いている寝顔は、心なし蒼ざめている。それでも堪らなく愛しくて、だからこそ不意に泣き出したくなったが、翡翠の眉が小さく動くのを見て、慌ててその思いを抑えつける。
 「志貴……さま?」
 うっすらと目を開け、そばに俺の顔があるのを確認すると、その表情に安堵の笑みを浮かべ、ついで己の状況を認識しようとし――
 「――――っ!!」
 それに至って慌てて飛び跳ねようとするのを優しく受け止める。
 「あ、あの、志貴様、わ、私…あの、その…」
 自分が休んでいるという状況がよほど気に掛かるのだろう。オロオロとしている翡翠を、そっとベッドに寝かせる。
 「ほら、翡翠、ちょっとだけ大人しくして。覚えてないかもしれないけど、翡翠、屋敷でいきなり倒れたんだ。だから大人しくしてなきゃダメだよ?」
 ありったけの自制心を注ぎ込んで、ムリヤリ笑顔という名の仮面を作る。今にも崩れそうなそれでも、翡翠を落ちつかせる役くらいは果たしてくれたらしい。
 「――はい」
 不承不承、といった感じで翡翠が頷いてくれたのがわかる。どうも翡翠は、仕事をしない、ということそのものに不安を感じるようだった。
 「全く、翡翠はいつも働いてばかりなんだから、こういう時くらい休んでたって罰は当たらないぞ?」
 事実それはその通りだったので、翡翠は何も言えない。そう、自らの身も省みないほどで、だから――

40(編集人):2002/11/01(金) 02:24
浮上してきたその想いを一蹴する。ダメだ。何かをしていないと心がコワレテしまいそうだ。ふと周りを見れば、恐らく秋葉が用意したのだろう、果物ナイフと共に、よく熟れた林檎が幾つか置いてある。
 「そうだ翡翠。林檎食べたくないか?俺が剥いてあげるよ」
 「そんなっ!!志貴様の手を煩わせるわけには――」
 ほらやっぱり。翡翠のことだからそう来ると思っていた。だから俺はその逃げ道を塞いでやる。
 「いやだって俺も食べたいしね。林檎」
 そういってにっこりと笑ってやる。その効果は劇的だった。
 「なっ!でしたら私が―――あっ!」
 言いかけた翡翠の顔が真っ赤に染まる。自分でも自覚しているくらい生粋の料理下手な彼女が林檎を剥こうものなら…大方の予想はつくだろう。
 「……はい」
 だから、最後には頬を染めながらも頷いてくれた。
 「――でも」
 刃物の扱いは得意だ。鮮やかな手つきで林檎を剥いていくさなか、翡翠がポツリと言葉をもらす。
 「ん?」
 「――これでは立場が逆です。本来なら私が志貴様を看病する側であるべきなのに…」
 そういって、小さく嘆息を洩らす。
 「なんだ。そんなことを気にしていたのか」
 「志貴様にはそんなことかもしれません。ですが私には――」
 ヒョイと、開いたその口に、切った林檎を頬張らせてやる。
 「だって翡翠はこの前俺の事を一生懸命看病してくれたじゃないか。だから俺も翡翠の看病をする。これじゃいけないのかい?」
 そんな俺の言葉に、翡翠は放りこまれた林檎を懸命に飲み込んでから反論しようとする。
 「でっ、ですが私は志貴様のメイドですから、志貴様を看病するのは――」
 「じゃぁ翡翠は、仕事だから俺の看病をしたっていうの?」
 ――それは、どうしようもないくらいに翡翠の弱点をついている。
 「そ、そんなことはっ!!……わ、私は、志貴様の事が……す、好きだからで」
 真っ赤になって、小さな声で。それでもその言葉はちゃんと遠野志貴には届いていた。
 「じゃぁそれでいいだろ?俺も翡翠のことが好きだからこうして看病する。いや、させて欲しい」
 好き、と言う言葉に反応して、彼女が更に顔を赤くして頷く。
 ――ふと気付けば外はもう夕暮れ。本当はこのまま泊まっていきたいが、何も知らない翡翠に心配をかけることはしたくはない。
 「――御免、そろそろ戻るよ。大人しくしてるんだぞ?……あ、そうだ翡翠。何か欲しいものはある?今度お見舞いに持ってきてあげるよ」
 ――ほんの軽い気持ちだった。翡翠はしばらく、考えた後にこう言った。

 「――また明日。来てくださいますか?私が一番欲しい物は、志貴様と過ごす日常ですから」

 ――ダメだった。本当にどうしようもないくらい、その言葉は遠野志貴の心を貫いていった。仮面なんてものを剥いで、彼の心に染み透っていく。――だが、それでも遠野志貴は、彼女のために、という最後の意志で持って、溢れ出す激情を隠しとおした。

 「あぁ、それじゃぁまた明日な。お休み、翡翠――」

41(編集人):2002/11/01(金) 02:25
走って、走って、ハシッテハシッテハシッテ――
 そうしてたどり着いたのは、夜の風が吹くあの日の草原。遠野志貴という、その原点。
 その勢いのまま、俺は手近な木に拳を叩きつける。
 何度も何度もなんどもなんどもナンドモナンドモナンドモ――
 皮が破れ、血がしぶき、骨に異音が走ろうとも止まることはない。

 ――――なんて、無様。

 遠野志貴は愛しい人が死に瀕しているというのに何も、――ただそばにいることも、そばにいて笑いかけてあげることさえできはしない。

 分からない。俺は一体どうすればいい?分からない。俺は翡翠に何をしてあげられる?わからない、ワカラナイ、ワカラナイ――

 いつしか遠野志貴は、まるでゼンマイの切れた人形のようにその場に横たわっている。

 「君、そんなことで倒れていると危ないわよ?」

 懐かしい、声。その声に導かれるように遠野志貴が再起動をはじめる。振り向いたその先、そこには――
 「え――――」
 「え、じゃないでしょ?こんなところで、そんな覇気のないような顔して。気をつけなさい。危うく蹴りとばれるところだったんだから」
 ――聞こえるその声は、何もかも昔のままで。だからこそこの現実とのギャップに、激しい嘔吐感を覚える。
 「――ふぅ。本当はもう2度と会うつもりはなかったんだけどね。君はもう一人で歩ける立派な大人だし。私といれば貴方には迷惑がかかるだけだろうから――」

42(編集人):2002/11/01(金) 02:26
――先生が、何を言おうとしているのかがわからない。
 「でも――君があまりにも見ていられなかったから…だから、特別サービス。私の教え子である君に対して…今度こそ最後のね」
 そうして、1度、言葉を区切る。言葉が遠野志貴に染み渡るまでの、その時間。人形の体に、血液が通い出す。止まっていた思考が動き始める。その瞳を見て、先生は大きく頷くと、厳かに述べた。
 「――貴方、彼女のために死ぬ覚悟は、ある?」
 ――何を、言っているのだろう?遠野志貴というこの体は、彼女がいなければとおの昔に鼓動を停止している。今更命を惜しむ必要がどこにある。それも彼女のために――
 俺の意思を感じとって、先生が歩き出した。そして、少し離れたところで振りかえり――

 「知ってる?癌のことをね、専門用語では、悪性新生物っていうらしいわよ?」

 それだけいうと、彼女は今度こそ振り向かずに歩き出す。最後に手を上げると、
 「――元気でね、志貴、縁があったら、また会いましょう」
 なんでもない事のようにいって、去っていく。
 ――でも、それだけで十分。何をすればいいのかは理解できている。もう、迷うことはない。だから――
 「ありがとう!!先生っ!!」
 別れの言葉でもな、決別の言葉でもない、感謝の言葉を、その背中にかけ――そうして、風に攫われたかのように彼女は消えてしまった。
 後に残るのは、ただ、大きな大きな、蒼い月――



 あぁ、知らなかった――――――今夜はこんなにも、月がきれいだ。

43(編集人):2002/11/01(金) 02:27
――音も立てずに、忍びこむ。
 見慣れた病院内も、夜のしじまの中では隔離世へと続く異界だった。カツカツと響く靴音だけが、確かな現実を刻む。目的の扉にたどり着く。昼に来たときにそうしたように、音を立てないように病室に入る。
 月光に照らされた病室。そこに横たわる翡翠は、ほのかに薄蒼い光を浴びて――本当に、美しかった。
 ――覚悟は必要はない、決意は一瞬。そしてゆっくりと、眼鏡を外した。脇に置いてある、果物ナイフを手に取る。
 月明かりが照らす中に、不気味に動く黒い線が現れる。それはセカイそのものを侵食するかのようにうごめき、カタチを変える、死の具現――
 それが、彼女の周りを、ひときわ激しく包み込んでいるのが見える。だが、そんなことはさせない。彼女をそんなところへ落すわけにはいかない。

 ――だから、遠野志貴は今にも壊れそうなこの世界を現死する。
 視るべきものは存在する事象のその裏面。
 よすがとするのは、この何もかもが崩れそうなセカイで、ただ一つ確かなイノチを刻む、愛しい人の鼓動のみ――

 彼女を殺す、その線ではなく、彼女を殺そうとするその事象、それ事態が発する線を視る。それは人間には不可能なことだと脳が異常をつげ、人語に絶せぬくらいに頭が痛む。目は見ることを止め、ただ白い闇に包まれる中、遠野志貴は、ただ意思だけでその場に立つ。ブツンブツンと断線していく意識の中で一瞬を見逃さず、まるで機械のようにその腕が動いた。そして――

44(編集人):2002/11/01(金) 02:28
――そして静寂の中で彼女は目覚めた。

 ふと気がつけば、あれほどまでに体中を苛んでいた痛みが跡形もないほどに消えている。彼女とて馬鹿ではない。自分の体がどうなっているかくらいは把握できていたし、その上で皆が黙っているのならと、何も知らない振りをした。だがなぜ――
 ――と、胸元にあるもの―なんの変哲もない果物ナイフ―に気がつく。そして――
 「――志貴様っ!!」
 まるで人形のように静謐な顔で眠る愛しい人を見つけ、彼女は悲鳴を上げた――


 「――結局、こうなるんだよなぁ…」

 太陽の匂いのする病室、そのベッドの上で遠野志貴は深い嘆息を吐いた。その両の目には、白い包帯が幾重にも巻かれている。そして――
 「ほら、志貴さん、あーんして下さい。翡翠ちゃんが待ってますよ」
 「ちょ、ちょっと姉さん!!」
 ――見なくてもわかる。七夜さんが切った林檎を、彼女指導の元、翡翠が食べさせようとしているのだろう。聞けば快方に向かっているとはいえ、今だ入院中の翡翠はピンクのパジャマ姿だという…。なんというか、見えないのには酷く納得がいかない。そして俺の声を聞いて翡翠が――
 「でも志貴様、やはり私はこのほうが落ちつきます。それに――この方が志貴様と一緒に居られますし」
 恐らく顔を真っ赤にしているのだろう。動揺しながらもそれだけを言う。
 「あらあら、妬けちゃいますねー。では志貴さん。お邪魔虫はこの辺りで退散しますから。翡翠ちゃんをよろしくお願いしますねー」
 そういった後、バタン、と、ドアが閉まる音が聞こえる。…全く、相変わらず何を考えているのかわからない。
 「――翡翠?」
 「――はっ、はい!」
 ふと気付くと、どこからかしゃくりあげるような声が聞こえてきて――そこで詮索を止めた。今回の件で、勝手に行動したことで秋葉には死ぬほど睨まれたが、さすがにそこまで鈍感ではない…と思いたい。だから
 「――ごめん、俺疲れてるみたいだから、ちょっと寝る。それじゃ、お休み――」
 ただ目を閉じるだけのつもりが、思ったよりも疲れていたらしく、すぐさまに鉛のような眠気に支配されていった。


 彼女は、目の前で眠っている愛しい人をただ見つめる。眠る、というよりも停まるといった方がいいその寝顔は、まるで精巧な人形のようだった。
 彼は自分が何をしたか、けして話してはくれないだろう。彼女も、聞こうとは思ってはいない。彼を困らせたくない。だから、代わりに――

 ――その寝顔に顔を近づけ、ゆっくりと、優しく、長い口付けを交わした―――

                                         ――FIN

45(編集人):2002/11/01(金) 02:29
『Something Especial』有馬都古・支援
2002年6月19日(水)20時27分。
ROUND1.765レス目「no 」様によって投下。
 フォルテ(月姫)
 翡翠  (月姫)
 有馬都古(月姫)
 遠野秋葉(月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/espec_1.htm

46(編集人):2002/11/01(金) 02:30
『ソドムの午後』乾有彦・支援
2002年6月20日(木)0時27分。
ROUND1.822レス目「七死さん 」様によって投下。
 英語教師アルクェイド(月姫)
 常磐くん      (月姫)
 高雅瀬       (月姫)
 乾有彦       (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/oboko_2.htm

47(編集人):2002/11/01(金) 02:31
『宵闇葬送曲』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)0時10分。
ROUND2.16レス目「七死さん 」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

48(編集人):2002/11/01(金) 02:32

―――

ごめんね、遠野くん、ごめんね・・・・・・・・・
もう、駄目みたい・・・身体が悲鳴あげてるの

ううん、ヒトでなくなったから仕方ないもの
だから・・・お願い。遠野くんの手で楽にして・・・・・・・
最後のお願いだからコレくらいイイよね?

良かったぁ・・・・・・・コレで安心して消えれる・・・・・・・
ごめんね、ヘンなお願いして・・・・・・・
わたし消えてしまうからなにも残せないけど、気持ちだけは残せる
好きだったの・・・・・・・・・・前から
こんな時に言うけど・・・・・・・こんな時にしか言えないけど・・・
好き、世界の誰よりも一番・・・・・・・

嬉しい・・・・・・・・
ヒトである内にもう1歩踏み出せてたら良かったのにね
暖かいね・・・・・・・遠野くんの腕の中・・・
ヒトであるうちにこうしたかったなぁ・・・こうしてもらいたかったなぁ
幸せ、ほんと幸せだよ・・・・・・・・・

最後にありがとう・・・・・・・・・愛しています、ずっと・・・・・

―――

変えられない結末ならば、せめて安らかに・・・・コレも愛

49(編集人):2002/11/01(金) 02:33
『さっちん、バイトします!(コンビニ編)』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)0時10分。
ROUND2.29レス目「奇譚」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

50(編集人):2002/11/01(金) 02:34
『さっちん、バイトします!(コンビニ編)』
(1)
わたし、弓塚さつきは、コンビニでバイトしています。
動機は友達に誘われたから…、としています。
でも、本当は遠野君と話せるぐらいハキハキした性格になりたいし、
もし、もし、デートなんて事になったらお金もいるし…。
という事でコンビニでバイトしています。
ちなみに、わたしは今バックルームで休憩中。
最近、人がいきなり休む事が多くて、よくかり出されます。
それをねぎらう意味で今日は休憩時間が長めに用意されました。
パイプ椅子に座ってほっと一息。
…はぁ、今日も疲れたなぁ。でも後少しで終わりだもんね。がんばろうっと。
休んでいても、視線はモニターの方へ行っています。
仕事熱心というわけでもないですけど、バックルームは何もないので、
何となくモニターを見てしまいます。
…今日もお店は繁盛。お客さんがいっぱいです。
塾帰りの小学生、中学生。仕事が速く終わったらしいおじさん。
のんびり雑誌を読んでいる大学生、そして、わたしと同年代、高校生。
…高校生?あれ、わたしの学校と同じ制服だ。知ってる人かな…って、え、ええっ…!

51(編集人):2002/11/01(金) 02:35
(2)
と、遠野君!?
ど、どうしてここに!?しかも一人…?
わたしはとっさに立ち上がります。
遠野君に会いたい…!今の立場なら遠野君とお話しできる、しかも自然に!
けれど、わたしはまた座り込んでしまいました。
髪型おかしくないよね?服は…制服だから関係ないよね。えっと、鏡、鏡…。
ああーっ、ここには鏡がない!どうして、バックルームに鏡がないんですか、店長!
…しかし、もはや一刻の猶予もなりません。
早く行かないと、遠野君は目的をすませて帰ってしまいます。
とにかく、今できる限り、おしゃれをしていざ出陣!
バックルームから飛び出します。
けれど、わたしの足はすぐにぎくしゃくとしてしまいます。
…遠野君が見てるかもしれない…
自然に、普通に。遠野君が見ていてもおかしくないように。落ち着いて、落ち着いて。
…レジに到着。
「あれ、弓塚さん休憩はもういいの?」
「…は、はい店長。もう充分休ませてもらいました!」
…遠野君、まだいるかな…
「そう?それなら…私は納品チェックしてくるからレジお願いね」
…チャンス到来!

52(編集人):2002/11/01(金) 02:37
(3)
「は、はいっ」
レジは、店の設計上、店内がくまなく見渡せるように設計されています。
…遠野君は…遠野君は…いた!
遠野君は雑誌コーナーにいました。何かの雑誌を立ち読みしています。
…遠野君、どんな雑誌読んでるのかな…気になるよう。
…本を整理するフリをして後ろに回り込めないかな、
あ、でもそれだとすぐにばれちゃうからだめだよね。
でも知りたいよう…遠野君の趣味が解れば、わたしも同じ事を勉強する事ができるし、
そうしたら…自然にお話しできる…!
…遠野君、昨日の○○見たー?(ああ、弓塚さん、見たよ)
面白かったねー。(そうだね、俺は特にあの○○の所が…)
あー、遠野君マニアックー。(おいおい、弓塚きついなー)
えへへっ
「…あの」
…遠野君
「…あのー」
…遠野君…はっ!
「これください」
「あ、は、はい。これとこれとこれで…423円になります」
「ありがとうございますー」
…あ、あぶなかった。ちゃんとお仕事しないとね

53(編集人):2002/11/01(金) 02:38
(4)
「…お願いします」
あ、はーい。えーとこれは…え?あのこれは…エッチな本?どんな人が買っ…
……神様、わたしの目や頭がおかしくないなら、この人は遠野君ですよね?
「………」
…あ、遠野君真っ赤だ。わたしが固まっちゃたから、白い目で見てると思ったのかな…
違うよ、遠野君!うん、遠野君は男の子だし、こういうのも読みたくなるよね…。
「…543円になります」
…でも、遠野君こういうのが趣味なのかな…
「じゃあ、千円で…弓塚!?」
「あ、あはは…」
…やっと気づいた。
「…い、いや、弓塚。とにかく誤解だ。これは罰ゲームなんだ。
有彦との賭に負けたんだ。それで…」
「う、うん…」
遠野君も真っ赤。わたしも真っ赤。
…私に気づいてくれて、うれしいようなうれしくないような…複雑。
「じゃ、じゃあな」
「う、うん…」
…遠野君は逃げるように店の外へ。そこには…乾君がいました。
何か遠野君が乾君にまくし立てています。
あっ、こっち見た。乾君もこっちを見ます。乾君大笑い。
遠野君、何か言おうとしましたが…しょんぼりとうなだれます。
そして、帰る二人。
乾君はまだ笑っています。遠野君は世界の終わりのようにしょんぼりして、
とぼとぼ歩いていきます。

54(編集人):2002/11/01(金) 02:39
(5)
「…行っちゃった」
…あっという間でした。短い間にいろいろな物がぎゅっと詰まった、そんな時間でした。
ただ、解っている事、それは…。
「もう遠野君、ここには来ないだろうな…」
…がっくり。
「…弓塚さん、もうあがっていいわよ」
「…はい、店長」
「あら、弓塚さん、やっぱり疲れてた?」
「い、いえ、そうじゃないんですけど…あはは…」
遠野君に出会えたけど、遠野君に気づいてもらえたけど、
遠野君とお話しできたけど、何か違うように感じたそんな一日でした。

…あの本、どっちが持つ事になるのかな…。
(おわり)

55(編集人):2002/11/01(金) 02:40
『さっちん、バイトします!2(ウェイトレス編)』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)2時31分。
ROUND2.29レス目「奇譚」様によって投下。
 メシアンのシェフ(月姫)
 弓塚さつき   (月姫)
 カルハイン   (月姫)
 国藤担任    (月姫)

56(編集人):2002/11/01(金) 02:41
『さっちん、バイトします!2(ウェイトレス編)』
(1)
わたし、弓塚さつきはファミレスでウェイトレスをしています。
動機は、前のバイトを辞めてしまったから…としています。
でも、本当は恥ずかしがらずに、遠野君とお話しできるような性格になりたいし、
もし、もし、学校から一緒に帰るなんて事になったら、いろいろ行きたい所もあるし、
そうなったらお金も少し欲しいし…。
という事でファミレスでバイトしています。
ちなみにわたしは今ウェイトレスの制服を着てお客さんの応対をしています。
今、時刻は午後8時。
今日は平日という事もあって、休日に比べてお客さんは少ないですが、
それでも夕食時は混んできます。わたしも、お客さんの応対にてんやわんやです。
このお仕事、制服が可愛いから、仕事も楽なんじゃないの?と言われたりしますが
そんな事ありません。結構い肉体労働も多くて、食器を運んだりとか…。
それでも、やっていくうちになれてきます。
…これって体力がついてきたって事だよね。
それは良いんだけど、足が太くなったりしたら嫌だな…。

57(編集人):2002/11/01(金) 02:42
(2)
ウェイトレスさんはお店の顔なので、服装にはうるさく言われます。
長い髪はアップにする、ストッキングは必ず着用、などなど…とても厳しいです。
その代わり、一つ一つ守って、ピシッと決めると、なんだか自分が自分じゃないような気がします。
先輩たちも、バイトの時と、それ以外の時では別人のようです。
なんか、バイトの時はとても綺麗でかっこいい…。
わたしもああいう風になれたらいいな。
カランカラン
あ、お客さんが来た。
「「「いらっしゃいませー!」」」
挨拶は店員全員でするけど、入ってきたお客さんの応対は一番近くにいた店員が
担当します。その間に、他の店員はお客さんの人数、性別などを素早くチェックして、
お冷やを造ったり、おしぼりを持っていったり、メニューを勧める文句を考えたりします。
お客さんの数は…二人。男の人と女の人。
カップルかな、いいなぁ…って…!
…と、遠野君!?またしても、遠野君!?
どうして、ここに遠野君が…ううん、そんな事より、

 ソノ、トナリノ、オンナノヒトハ、ダレ、デスカ?

58(編集人):2002/11/01(金) 02:44
(3)
きれいな金髪、スラッとした体、楽しげに遠野君に笑いかけるその笑顔…
…うう、同姓のわたしが見ても…可愛いよね。
そうなんだ…遠野君、彼女がいたんだ…それもあんなきれいな人が…。
はぁぁ〜、一気に力が抜けちゃった…ハッ!いけないいけない!
まだ彼女と決まったわけじゃないもんね、うん、わたしだってずっと遠野君見てきたんだもん!
彼女だとしても、負け…ないのかな…うう…。
と、とりあえず、応対を…あ、先輩が行っちゃった。
……コーヒー二つのオーダーが通った。本当はわたしが持っていきたいけど、
わたしは他のお客さんを担当してるから、だめだよね…。
「あ、弓塚さーん、わたし、手一杯だからコーヒー二つ13番卓にお願いできる?」
…チャンス、到来…!

59(編集人):2002/11/01(金) 02:45
(4)
「は、はーい、大丈夫でーす」
さっそくコーヒーを作らなきゃ。遠野君が飲むんだから特別おいしいのを入れないとね。
といっても、ここのコーヒーって同じコーヒー豆しか使わないから基本は同じだっけ…。
ううん、マニュアル通り、カップに熱湯を入れておいて温めて、
別のお皿にミルクを3つ乗せて、スプーンを添えて、ソーサーにカップを乗せて…。
これがわたしのせいいっぱい、かな。
あ、二つ作らないと。…こちらのカップにこっそりアレを…いけないいけない、
お仕事はちゃんとしなきゃ。
「お待たせしましたー、コーヒー二つお持ちしました」
「あ、ありがとー。志貴、これがコーヒー?」
「…そうだよ。おい、恥ずかしいから、あまり大声出さないでくれ」
「では、ごゆっくりどうぞー」

60(編集人):2002/11/01(金) 02:46
(5)
わたしがテーブルを離れた後も、二人はお話ししている。
女の人は楽しそう。志貴君は、困った顔をしながら楽しそう。
遠野君って、あんなに気さくに女の人とお話しできるんだ…。
……私だって気づいてもらえなかったな…
わたしは今、髪を一つにまとめてアップにしてるし、
制服も着てるから印象も違うかもしれないけど…
やっぱり、わたしって遠野君の眼中にはないのかな…。
…あ、お客さんだ。今は…私が行かないと。
カランカラン
「いらっしゃいま
「…失礼します」
…え?
お店に入ってきた女の人は、わたしにはかまわずに店内を見回して…
一つのテーブルに目を付けた。…遠野君がいるテーブルだ。
…え?え?遠野君に関係のある人…?

61(編集人):2002/11/01(金) 02:47
(6)
その人は遠野君のいるテーブルに到着すると、
「…兄さん、門限はとうにすぎているはずですが」
「…あ、秋葉、いや、これには深いわけがあってだな…」
「ふにゃー、妹、こわいにゃー」
だきっ!
あ、あ、あ、遠野君に抱きついて…いいなぁ、いいなぁ…!
「ななな、なにをしてるんですかアルクェイドさんっ!こらっ、離れなさいっ!
あなたが、いつもいつもいつも兄さんを連れ回すせいで当家はとても迷惑してるんですよっ!
少しはそこの所を自覚したらどうですかっ!」
「むー。吸血鬼は夜、活動する者なのよ?今、志貴と遊ばなくっていつ遊べっていうのよー」
「簡単です。あなたが実家やら、本国やらに帰ればいいんです」
「あー、妹、志貴にかまってもらえないからってヤキモチ焼いてるー」
「なんですって!」
…なんかケンカが始まっちゃた。こ、こんな時はどうすればいいのかな…。

62(編集人):2002/11/01(金) 02:49
(7)
「…会計お願いします」
…あ、会計…今は私の担当だね。
「はい、コーヒー二つで630円になります…って!?」
と、遠野君?どうして?…もう帰…仕方ないよね。
「え…あ…弓塚?」
「う、うん…」
「き、奇遇だな」
「そ、そうだね…あはは…」
「…弓塚、悪いな。バイト先で騒ぎ起こしちゃって…」
「う、ううん、いいよ。片づけはわたしがやっておくし…」
「…ありがとう、弓塚。助かるよ」
にこっ
遠野君が笑った。…吸い込まれそう。…あ、どうしよう。
胸のどきどきが大きくなってきちゃった。あ、顔も熱くなってきて…。

 その時、わたしは自分の顔が赤くなってる事に確信が持てました。

遠野君、好きです。やっぱり、わたし、遠野君が好きです…。
「じゃあ、弓塚。あの二人は連れ帰るから…」
「…う、うん、ばいばい、遠野君」

63(編集人):2002/11/01(金) 02:50
(8)
…そうして、遠野君は帰っていきました。
…妹さん(?)ときれいな女の人をひっつかむようにして。
…はぁ…遠野君…笑った…えへへ…。
結局、あのきれいな女の人が遠野君とどういう関係なのか、は解りませんでした。
確実に解ってる事といえば、
「もう遠野君、ここには来ないだろうな…」
…しょんぼり。
「…弓塚さん、もうあがっていいよー」
「あ…はい、店長」
「おや、弓塚さん、今日は疲れた?」
「い、いえ…そんなことないんですけど…あはは…」
あ、でもでも今日は遠野君とお話しできたし、笑いかけてくれたし…遠野君…えへへ…。
「いえ、まだまだ大丈夫です」
今日は忙しくて、ちょっとごたごたした事もあったけど、
遠野君とお話しできてちょっぴりうれしい、そんな日でした。

…でも遠野君、あの…その女の人は誰…?
(おわり)

64(編集人):2002/11/01(金) 02:51
『さっちんの支援SS①』弓塚さつき・支援
2002年6月22日(土)23時31分。
ROUND2.107レス目「七視さん」様によって投下。

65(編集人):2002/11/01(金) 02:52
さっちんの支援SS①

遠野くんが夜の繁華街をうろついている、という噂を耳にした私は、それを確かめるために深夜の街へ向かった。
吸血鬼殺人事件が起こっているということもあって、住宅街はおろか繁華街にも人影はない。
私は、いまさらにこみあげてくる恐怖と必死に戦いながら、遠野くんを探していた。
……いる訳がない。
そう思いながらも、私の眼は必死に遠野くんを探している。
それは、やはり――――――

――――――私が、ここにいて欲しいと思っているからなのだろうか?

「あ〜やめやめ!」
深く沈んでしまいそうになる思考を頭を振ってムリヤリ中断した。
もう帰ろう。やっぱりただの噂だったんだ。
そう信じることにして、私は踵を返した。
そこで、
ドン―――
「きゃっ!?」
誰かにぶつかった。
「あっ、すみません……」
慌てて頭を下げる。その時、着物らしき裾が目に入った。
―――思えば、もっと早く気が付くべきだったのだ。
何故、誰もいないのだろう?警察が巡回しているはずじゃなかったのか?
そして、ここにいる自分以外のただ一人の人間は、何者なのか?
顔をあげた私が見たのは、朱い液体に染まった男の笑みだった―――
「あ……」
突然のことに悲鳴もあがらない。
「い、いや……」
体が動かない。恐怖のため?それともなにか別の―――
「た、助けて、し、志貴、くん……」
その言葉を口にした時、男の口端がきゅうっとつりあがった。
「なんだ、オマエ、あいつの女か?」
嬉しそうに、そう言った。
「なら、殺さなくっちゃな」
殺人鬼は、心底楽しそうにその瞳を輝かせた―――

66(編集人):2002/11/01(金) 02:53
『そんな彼女の怖いもの』両儀式・支援
2002年6月23日(日)10時20分。
ROUND2.142レス目「七死さん」様によって投下。
 時南朱鷺恵         (月姫)
 両儀式           (月姫)
 リィゾ=バール・シュトラウト(月姫)
 山瀬明美          (月姫)

67(編集人):2002/11/01(金) 02:54
式っち応援SS。「そんな彼女の怖いもの」

「ねえ、式の怖いものって何?」
その男―――黒桐幹也は自分でいれたコーヒーをすすりながら、唐突にそんな言葉を吐き出した。

「・・・怖いもの?」
コーヒーカップを口に運ぶ手を止めて、私は幹也に視線を向ける。

「うん、怖いもの。
 そうだな、例えば、幽霊とかさ」
「馬鹿じゃないのか、お前」
実際に霊体を認識できる私が、あんなもの怖がると思っているのだろうか。

きっぱりと言い放った私の言葉に、すこし拗ねたような表情を浮かべる幹也。
しかし、すぐに気をとりなおしてまた、無意味な問いを投げかける。

「じゃあ、蜘蛛とか」
「別に」

「蛇とか」
「全然」

「ゴキブリとか、ナメクジとか」
「気持ち悪いのと、怖いのは同じなのか?」
「うーん。違うかも」
そういって唸ると幹也は、少し残念そうに溜息をついてみせた。

「じゃあ、式って怖いものなしなのかな」

私が恐怖を怖いもの――――。

どういうつもりで、いきなりそんなことを聞いて来たのかは知らないが。

―――そんなこともわからないのか、こいつは。



――――いつだって。

わたしに恐怖を与えるのは、お前しかいないのに。



あの時、お前が憎かったのは。

どうしようもなく、お前と一緒にいたかったのに。
一緒にいれば、お前を殺してしまうことがわかっていたから。

私の手で。織の手で。
とても幸せなユメの形を壊してしまうから。

―――そのことが、どれだけの恐怖か。



あの時、涙を流したのは。

どうしようもなく、お前と一緒にいたかったのに。
ようやく、お前と一緒に居られるとわかったのに。

その未来を。そのユメの形を。
黒桐幹也を失ったと思ってしまったから。

―――それが、どれだけの恐怖か。




生を望まないなら、恐怖なんて感じない。
ユメがないのなら、生なんて望まない。

――――お前がいないのなら。

黒桐幹也と一緒にいられないのなら、ユメなんて描かない。



だから、私にとって恐怖を感じる原因は、こいつにあるんだ。

その元凶が、のほほんと、「怖いものってあるの?」ときた。



―――なんか、それは。凄く。おもしろくない。



「あの、式?」
気付くと幹也がやけに、不安そうな顔でこちらを見ている。

・・・どうやら、わたしはそうとうに不機嫌な表情になっていたらしい。

「―――なにか、怒ってないかな?」
その問いに私は素直に頷いてやった。

「ああ、凄く怒ってる。だから、今日は料亭で奢れ。
 ―――じゃないと、しばらくずっと怒ってる」
私の言葉に、幹也が悲鳴に近い声をあげた。
私のいう料亭というのは―――まあ、幹也の給料じゃ、ちょっと辛い。

「なんで?!」
「うるさい。罰だ」
「罰って―――何の罰さ」
わけがわからない、といった表情の幹也に、私はできるだけ冷淡な声をかけてやった。

「へえ、なんの罰かもわかってなんだ」
怒気をはらんだ私の声に、更にうろたえる幹也。

―――こういう幹也を見ていると、トウコがこいつをいじめたくなる理由がよくわかる。

「いや、だって。わかるも何も―――」
「ほら、行くぞ」
そういって、私は面白いまでに狼狽している彼の手を握る。




―――私にとって、何よりも大切な。その暖かい恐怖の元凶を。


(おしまい)

68(編集人):2002/11/01(金) 02:55
『あの夏、一番静かな夜』時南朱鷺恵・支援
2002年6月23日(日)18時5分。
ROUND2.156レス目「no」様によって投下。
 時南朱鷺恵         (月姫)
 両儀式           (月姫)
 リィゾ=バール・シュトラウト(月姫)
 山瀬明美          (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/ano_1.htm

69(編集人):2002/11/01(金) 02:57
『癒えない傷(前後編)』コルネリウス・アルバ支援
2002年6月25日(火)1時5分。
ROUND2.293、294レス目「須啓」様によって投下。
 コルネリウス・アルバ(空の境界)
 リタ・ロズィーアン (月姫)
 知得留先生     (月姫)
 遠野槙久      (月姫)

70(編集人):2002/11/01(金) 02:58
コルネリウス・アルバ支援SS。「癒えない傷(前編)」

「それで用件はなんだアルバ。まさか自慢話をしにきたわけじゃないだろう?」
蒼崎橙子は冷たい眼差しを、その青年に向ける。

「自分の研究成果なら腐るほどいる弟子相手に披露してくれ」
「フン。相変わらずだね、君は」
冷淡な彼女の言葉。それを受けて、青年―――コルネリウス・アルバの口元が皮肉に歪む。

「―――弟子。弟子か」
その歪んだ口からもれた言葉は―――間違いなく怨嗟の響きを帯びていた。
そして、狂気を帯びた瞳で蒼崎橙子を睨み、アルバは哄笑をあげる。

「くくく、あはは、あはははははは!!! 弟子。弟子か!!」
「・・・?」
明らかに自嘲を含んだその哄笑に、橙子は思わず眉をひそめた。
このナルシストが―――自嘲?

その橙子の表情に気が付くと、アルバは大げさに拳を振り上げて、壁に叩きつけた。
「きみは、いつもそうだ!!」
「何のことだ?」

平然たる橙子の表情に、あきらかな苛立ちの表情をうかべ、アルバは彼女に指を突きつける。
「そうだ、そうやって私を過小に評価する!!
 だというのに、おまえのその態度に低能な連中は誑かされた!!
 連中にそろって、私が劣っているのだと認識させてしまったんだ――――!!」
それは今にも泣きそうな殺意。

それを感じ取り―――蒼崎橙子はある一つの仮説を構築し―――それを口にした。

「つまり、お前」
そこで一旦言葉を切り、アルバの瞳を見つめて、言う。

「――――弟子に逃げられたのか」

怒りに青ざめるアルバの表情が、その言葉が真実であることを彼女に告げていた。

信じられん、と呟いて橙子は首を振る。
「―――百人から居ただろうに。まさか、全員にか」
「黙れ!! 誰のせいだと思っている!!」
「だから、何のことだ」

今度は、怒りに顔を赤くして、赤い魔術師は、床を蹴りつけた。

「き・さ・ま・が!! 学院を去るとき!! 私に向かって何と言ったか!! 
 忘れたわけではあるまい!!」
純粋な怒りに満ちたその言葉をうけても、蒼崎は一向にひるまない。
しかし、その言葉になにか、思い出すものがあったのか、しばらくの間彼女は
過去の記憶を探り―――そして、記憶の欠片を見つけた。

それは、確か―――。

71(編集人):2002/11/01(金) 02:59
コルネリウス・アルバ支援SS。「癒えない傷(後編)」

「・・・ああ、あれか」
「あの時、私が受けた屈辱。貴様には、わかるまい!!」
ばん! と音をたてて、再びアルバの拳が壁を叩く。
一度、叩かれた壁に視線を這わせてから、橙子は肩をすくめて、その青年に視線を戻す。

「心の狭い奴だな、相変わらず。昔のことをいつまでも根に持つな」

どうやら、その言葉は、アルバの何かを破壊してしまったらしい。

もはや、顔を真っ赤にして彼は、怨嗟の声をぶちまけた。

「黙れ!! 貴様は、私を―――このアグリッパの直系である私を――――私を―――
 『赤ザコ』などど呼んだのだぞ?!!!!」

それは、絶望に満ちた絶叫。

だが、それをうけた橙子は、感慨深げに微笑んだ。
「うん、大爆笑だったな。アレだけの魔術師が一斉に笑うところなんてそうそうお目にかかれるもんじゃない」
「魔術師相手にウケをとるな!!」

ますます逆上するアルバに、橙子は楽しげに笑う。

「いやだってな〜。気付いてたか? 実はこっそり、荒耶でさえ肩を震わせてたんだぞ。あの時」
「やかましい!! おかげで私は、協会にいられなくなったんだぞ?!
 ああ――――――これ以上、私に不愉快な思いをさせるな!!」

両手で頭を抱えて、暴れだしたアルバに、橙子はあくまで笑いを含んだ声で応じる。

「お前が、話を振ったんだろうが」
「黙れ! それもこれも全てお前のせいだ! アオザキ!!」

「お前、逆恨みとか、八つ当たりとかいう言葉を知っているか?」
「黙れ、黙れ黙れ!! とにかく! リョウギは預かっている!!
 取り返したくば、やってこい!! 私の工房にな!!」

赤いスーツを着た魔術師は、両手を自分の鮮血でそめ(壁を叩いたときに怪我した)、
興奮と怒りで顔を真紅に染めて、蒼崎の工房を飛び出した。

――――その姿は、まるで―――いじめられた小学生のように見えた。

「橙子さん」
アルバが去った後、彼女の従業員が、おずおずと声をあげた。
どうやら彼女の言いつけはきちんと守っていたらしい。

「リョウギの名前が出たのに、よく黙っていられたな」
少し、意外そうな橙子の声に、黒桐幹也は何故か悲痛な表情で頷いた。

「いえ――――あまりにも痛々しくて」
ああ、なるほど。
なぜか、納得してしまった橙子。
確かに、あれを痛々しいといわずしてなんと言うべきだろう。

「ま、とにかく、一応、行って来る」
そういって、彼女は、一応、席を立つ。
なにか、過程は違うような気がするが、やるべきことは変わるまい。

「行ってらっしゃい。とにかく、式をよろしくお願いします」
なにか、酷く疲れた従業員の声に手を振って、橙子は昔馴染みに、再び会いに出かける。

そして、その後、アルバがどう言う運命をたどったか。それは――――、また、別のお話である。

「荒耶ああああ、貴様、あの時笑っていたのか?!」
「すでに騙るまでも無い」
「あっさりと認めるなああああああああああ」

(おしまい)。

72(編集人):2002/11/01(金) 03:00
『クールトー君が行く!』クールトー・支援
2002年6月28日(金)0時12分。
ROUND2.500レス目「奇譚」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

73(編集人):2002/11/01(金) 03:01
『クールトー君が行く!』
(1) 
俺の名はクールトー。
孤高の狩人だ。
誰にも俺を妨げることはできない。誰にも俺は従わない。
昔はキュウケツキといわれるヤツの一部となったこともあるが、
決してヤツに従ったわけじゃない。
俺とヤツは対等の関係。互いに認め合ったから一緒になったまでのこと。
俺が誇り高い狩人である事実に何ら変わりはしない。

ある日、相棒であるヤツが俺をへんてこな場所に置いていった。
ここはどうやらトオノケという所らしい。
ヤツは何も言わなかった。俺も何も言わなかった。
言葉など交わす必要はない。
俺は生きる場所が変わっただけ、ヤツは俺を置いていっただけ。それだけのことだ。
そうして、俺はトオノケという場所で生きていくことになった。

朝。俺は自然に目を覚ます。今日も体は良い調子だ。
気持ちよくのびをした後、俺はさっそく狩りを始める。
このトオノケという所は広く、獲物には事欠かない。
俺の横を駆け抜ける風、規則正しく伸び縮みする筋肉、そして、何よりも鋭い俺の牙。
今日も獲物を捕らえた。今日の獲物はウサギだった。
俺は素早く食事を済まし、その後は散歩をする。
この広いトオノケは俺のなわばりだ。
なわばりの長たる者、しっかりと管理をしないとな。

…なわばりの見回りは終わった。何も異常がない。
…つまらない。
孤高の狩人たる俺の血が騒ぐ。冒険を求めて煮えたぎる。
心躍る冒険、そして、俺の全神経が研ぎ澄まされ、燃やし尽くされる戦闘、
そんなものを俺の血が求めている。

74(編集人):2002/11/01(金) 03:03
(2)
そんなわけで今日はヤシキと呼ばれる場所に立ち入ってみることにした。
トオノケにやってきた時、俺の前で長い毛を生やしたニンゲンが
なにやらごちゃごちゃと言っていた。
どうやら、ヤシキには立ち入るな、ということらしい。
しかし、そんなことは俺の知った事じゃない。
俺は孤高の狩人。俺は俺の望むままに歩き、望むままに生きるだけだ。

ヤシキへ近づいていく。ヤシキにはあまり生物がいないようだ。
…つまらない。
まあいい。なわばりを広げることに務めよう。
ヤシキに立ち入ろうとしたら、障害物が俺の行く手に現れた。
これはカベというものだ。
カベという物は壊れにくく、堅い。ここは回り道をすることにしよう。
…冷静な狩人はいつ何時も冷静な判断をするものだ。

隙間(後で知ったが、どうやらそこはゲンカンというらしい)を見つけ、
屋敷の中に入り込む。屋敷の中は入り組んだ構造になっている。
相変わらず生物の気配は無く、しんとしている。
まず狩人は高い所に立ち、周りの状況を把握するものだ。
俺はカイダンという物を上がり、高い所へ行く。
と、ニンゲンに出会った。

「クールトー…?」
たしかこれはヒスイというニンゲンだ。
「クールトーが何故、ここに…?あ、泥足のままで!」
ヒスイが俺の足を見ている。どうやら俺の足が気に入らないらしい。
…なぜだろう。
「動かないでください。いま、足を拭きますから」
ヒスイが俺に手を伸ばす。おっと俺は冒険の途中。捕まるわけにはいかない。
「あっ、待ってください!せっかく掃除したのに!」
ぺたぺたぺた。
俺の俊足にはついてこれまい。後ろで何か言っているようだが、よくわからかった。

75(編集人):2002/11/01(金) 03:04
(3)
ヒスイから逃れ、へんてこな所に入り込んだ。確かここはヘヤという所だ。
広いヘヤだ。何か花のような香りがする。…む、奥の方に生物がいるようだ。
「…来年期の決算目標はどう設定しようかしら」
あれは確か、俺にヤシキに入るなと言ったニンゲンだ。どうやらアキハというらしい。
「…クールトー、いま手が離せないの…って、何故あなたがここに!」
見つかった。俺の体に悪寒が走る。コイツは危険だ。戦略的撤退を試みる。
俺はすぐにきびすを返し、隣のヘヤのふかふかした物の中に潜り込む。
「ななな、何で布団の中に潜るの!」
おっと、こいつは気持ちがいい。このまま寝てしまいそうだ…。
「出で来なさい!」
…アキハの手が迫ってくる。仕方がない、出よう。
…ここは最優先でなわばりにする必要があるな。

「秋葉様、クールトーが屋敷の中に!」
「そっちよ!捕まえて!」
…なにやら騒がしい。ニンゲンのやることはよくわからない。
ニンゲン達の攻撃を避けているうちに腹が減った。
…いいにおいがする。
においのする方に走り、ヘヤに飛び込むとまたニンゲンに出会った。
「あら、クールトー君どうしたの?」
…たしかこれはコハクというニンゲンだ。キュウケツキが俺を預けていったニンゲン。
後ろから、がやがやとニンゲン達の騒ぐ声がする。ここも逃げた方がよさそうだ。
「…そう、クールトー君、おなかが減ったんですねー。じゃあ、これを食べてね」
ことり。
俺の前に何かが出された。いいにおいだ。食べ物らしい。
…いい心がけだ。腹も減ってることだしいただくとするか。
がつがつがつ。
「…ふふ、どうですかー?眠くなりませんか?」
…なにやら…眠い。ここは適当な…場所を…見つけて…眠る…と…する…か…
ぐてり。
「ふふ、いけない子のクールトー君にはお注射ですよー」

76(編集人):2002/11/01(金) 03:05
(4)
俺の名はクールトー。
孤高の狩人だ。
誰にも俺を妨げることはできない。誰にも俺は従わない。
「クールトー君、ご飯ですよー」
ハッハッハッ、くぅ〜ん、くぅ〜ん(すりすり)。
「あらあら、クールトー君は甘えん坊さんですねー」
今はコハクといわれるヤツの相棒だが、
決してヤツに従ったわけじゃない。
俺とヤツは対等の関係。互いに認め合ったから一緒になったまでのこと。
「今度、クールトー君にきれいな首輪をかってあげますねー」
くぅ〜ん、くぅ〜ん(すりすり)。
俺が誇り高い狩人である事実に何ら変わりはしない…。
(おわり)

77(編集人):2002/11/01(金) 03:06
『無題』クールトー・支援
2002年6月28日(金)1時2分
ROUND2.521レス目「amber」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

78(編集人):2002/11/01(金) 03:07
混沌で鳴らした俺、<<クルートー>>は、賭けの対象になりネロ・カオスから排斥され、遠野家にもぐった。
しかし、遠野家でくすぶっている俺じゃあない。
遠野家さえ脱出できれば肉次第でなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし強大な遠野家から脱出し、いつかはネロに復讐する、
俺たち、特攻野郎O(狼)チーム!

俺はリーダークルートー。通称ネロの使い魔。特攻と瞬殺(される)達人だ。
俺のような不死身でなければ百戦錬磨のつわどものどものリーダーは務まらん。

俺はラベート。通称ジェヴォーダンの鬼狼ラベート。自慢の牙に獲物たちはいちころさ。
はったりかましてて、狼じゃないかもしれないけど気にしないぜ!

俺はロボ。通称愛妻家。
知名度だったら天下一品!一冊の本にまでなってるとくらぁ。
でもブランカだけは勘弁な。

俺こそクルートー。
全ての狼王の素質をつぎ、あのネロから離反した最強の狼さ。
景品?女郎蜘蛛の手先?だから何。

俺たちは常識の通らない遠野家にあえて挑戦する。
頼りになる一応不死身の、特攻野郎Oチーム!


そして、今こそ遠野家から脱出する!事前の調べで裏庭経由が安全だということはわかっている。
さぁ、今こそ自由への旅立ちだ!

…なんだ?この巨大な「ぱっくんふらわぁ」みたいな植物は?
うわっ、やめろっ、俺は蝿じゃねぇぞ  ………ぎゃーーーーーーーーー

79(編集人):2002/11/01(金) 03:08
『独寝の夜は淋しすぎて』三澤羽居・支援
2002年6月28日(金)20時31分
ROUND2.555レス目「no」様によって投下。
 高田陽一 (月姫)
 クールトー(月姫)
 猫又秋葉 (月姫)
 三澤羽居 (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/hitori_1.htm

80(編集人):2002/11/01(金) 03:09
『目覚めるまで』朱い月のブリュンスタッド・支援
2002年7月1日(月)20時50分
ROUND2.787レス目「no」様によって投下。
 黄路美紗夜        (空の境界)
 朱い月のブリュンスタッド (月姫)
 葉山英雄         (空の境界)
 エト           (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/mezame.htm

81(編集人):2002/11/01(金) 03:11
『裸YシャツSS〜朱い月の場合〜』朱い月のブリュンスタッド・支援
2002年7月1日(月)20時50分
ROUND2.787レス目「no」様によって投下。
 黄路美紗夜        (空の境界)
 朱い月のブリュンスタッド (月姫)
 葉山英雄         (空の境界)
 エト           (月姫)

外部リンク型。
ttp://www.ax.sakura.ne.jp/~u-kon/hada-Y/ss/moon6.htm

82(編集人):2002/11/01(金) 03:12
『子犬にしてあげよう。』シエル・支援
2002年7月2日(火)20時26分
ROUND2.857レス目「*」様によって投下。
 殺人貴        (月姫)
 腑海林アインナッシュ (月姫)
 環          (月姫)
 シエル        (月姫)

外部リンク型。
ttp://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/6526/koinu.html

83(編集人):2002/11/01(金) 03:14
『もしも巴がメカ沢だったら・他』臙条巴・支援
2002年7月3日(水)0時23分
ROUND2.899レス目「七死さん」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

外部リンク型。
ttp://www.h2.dion.ne.jp/~take0/karara.htm

84(編集人):2002/11/01(金) 03:15
『(ショートショートインデックス)』琥珀・支援
2002年7月3日(水)0時41分
ROUND2.904レス目「amber」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

外部リンク型。このURLはSSコーナーにつながります。投下当時は
月姫SSの中の「琥姫」などがおすすめとされていました。
ttp://www.interq.or.jp/earth/youhei/ssindex.htm

85(編集人):2002/11/01(金) 03:16
『琥珀さんとおるすばん』琥珀・支援
2002年7月3日(水)2時38分
ROUND2.919レス目「奇譚」様によって投下。
 琥珀    (月姫)
 舞士間祥子 (月姫)
 臙条巴   (空の境界)
 天使    (Notes.)

86(編集人):2002/11/01(金) 03:18
(1)
 暗い中にさす、薄い光。光はやがて、その存在を濃くしていき、朝の到来を告げる。
遠野家の朝。遠野志貴の部屋。遠野志貴はいつものように朝の光をまぶたに受け、
いつもの声を聞いて、いつものように目を覚ます…。
「志貴さーん。朝ですよー」
はずだった。

『琥珀さんとおるすばん』

「ん…ぁ、ああ、おはよう、ひす…琥珀さん?」
「もう、志貴さん。休みだからってお寝坊さんは良くないですよ。
 寝過ぎも健康には良くありません!」
ぴしっと琥珀さん怒ってますのポーズを決められる。
…いや、そうでなく。
「あの…翡翠は?」
「翡翠ちゃんはお出かけ中です」
「え…?」
おかしい。翡翠はいつも屋敷から出たがらないのに…これは何かある。
「琥珀さん…何かたくらんでない?」
「あら、志貴さん、人聞きの悪い。何もたくらんでいませんよ。
 それとも…たくらんで欲しいんですか?」
「…いえ」
お気遣いはありがたいが、ここは遠慮しておくのが無難というものだろう。

琥珀さんが持ってきた着替えに袖を通し、私服に着替える。
「………」
いつもの朝は少しのズレが生まれるだけで、もう変化している。
この朝の変化がやがて、昼の変化、夜の変化につながり、
一日全体の変化となるのではないか…。
「…それでもいいか」
たまにはこういうのもいい。それに、琥珀さんに起こしてもらうのは新鮮な体験だった。
これからは時々琥珀さんに起こしてもらおうかな…と思った所で、翡翠の顔が浮かぶ。
あわてて思考を中断し、食堂へ入った。

87(編集人):2002/11/01(金) 03:19
(2)
いつもの朝食。けれど、とてもおいしい琥珀さんお手製の朝食。
「さあ、召し上がってくださいね」
「………」
こちらとしてもさっそく召し上がりたい所だが、確認しなければいけないことがあった。
「琥珀さん、秋葉は?」
「秋葉さまなら、株主総会に出席するため早朝に立ってらっしゃいます」
「…そうなんだ」
 大きなテーブル。その上に掛けられた真っ白いテーブルクロス。広く、そして寂しい食卓。
人が二人いないだけでそれはいつもより、さらに閑散としたものを感じさせた。
しかしそんな事はお構いなしに、琥珀さんはにこにこと笑って後ろに控えている。
…何か、気まずい。
「…琥珀さん、一緒に食べよう」
そんな言葉がふと、口に出ていた。
「え…?志貴さん、いいんですか?」
「うん、俺もその方が気が楽だよ。それに黙ってれば、ばれないばれない」
「あはっ、志貴さん、悪ですねー」
そうして、朝食は琥珀さんと一緒に食べた。
琥珀さんは、自分用の食事をテーブルに持ってきて、
俺は俺で琥珀さんの準備ができるまでさりげなく遅く食べ…。
朝食は二人同時に食べ終わった。
「それでは、お下げしますねー」
「あ、ちょっと待った」
「はい、なんですか?」
せっかくの機会だから、やっておこう。
「ごちそうさまでした」
ぺこり。
手をきちんと合わせて、琥珀さんに向かって頭を下げる。
「え…あ…も、もう、志貴さんたら」
琥珀さんは食器を持ってあわてて厨房に入ってしまう。
すこし、顔が赤かったかもしれない。
俺は、残った食器を持って琥珀さんの後へ続いた。
「あ、志貴さんそれは…」
「いや…有馬ではいつもこうしてたから、体が動いちゃうんだ」
「…じゃあ、遠慮なく。お皿はこれで全部ですね」

88(編集人):2002/11/01(金) 03:20
(3)
「さて、どうしたものか…」
カチ、カチ、カチ。
時計は絶えず、時間の経過を律儀に知らせてくる。
だから時間を有意義に使わなくては、という気持ちに駆られるが…。
「時間を有意義に使うって、どうすればいいんだ…」
そうして朝食後の昼下がりは無為に過ぎていく。
居間の豪華なソファーにだらーっと腕を伸ばし、
ぐでりぐでりとやる事もなくのんびりしている。
この時間は嫌いでもないが、好きというわけでもない。
秋葉がいたら、さぞかしお小言をちょうだいしただろう…。
「志貴さん、退屈してるんですか?」
顔の上にひょっこりと琥珀さんの顔が現れる。
琥珀さんの柔らかい髪がかすかに顔にかかり、くすぐったい。
「…ん、そうだな」
隠すこともない。何より、『退屈』と俺の体が訴えている。
「それなら、少し私につきあってもらえますか?」

春の日差しは柔らかい。
じょうろから流れる水は、
そんな日差しを受け止めて鮮烈に光り輝いた後、虹を残す。
俺と琥珀さんは屋敷の裏手に当たる庭に来ていた。
そこにあるのは大きすぎず、小さすぎない花壇。琥珀さんが作った花壇だ。
小さな花壇には花が咲き乱れている。
深く澄み切った氷のような青、深紅の大輪のような朱、
日の光を閉じこめたような黄色、そして羽のような儚い白。
様々な色が花壇の中で混ざり合い、その中で蜂が踊り、
風は優しく花たちをなでていた。
しかし最近は日差しが日増しに強くなり、雨も降らない。
きれいな花壇には水分が必要である。そこで俺が水の運搬役に抜擢された。
「あはっ、助かります、志貴さん」
「いや、俺も助かったよ。退屈で死にそうだったから」
ふふ、と琥珀さんが笑う。さわさわと風が流れ、木々がざわめく。
緩やかに髪を押さえる琥珀さん。
花壇は水に濡れて夢の中さながらにきらきら輝いている。
おだやかで、のんびりした春の陽気だった。
…こういう午後もたまにはいいかもしれない。

89(編集人):2002/11/01(金) 03:21
(4)
「ここで4連、さらに次で3連、合わせて7連コンボ!志貴さん、ギブですかー?」
「いや、まだまだ!」
…うららかな春の午後はいつからこうなったのだろう。
花壇での水まきが終わると、俺はあれよあれよという間に琥珀さんの部屋に移動しており、
現在、琥珀さんと格闘ゲームで対戦の真っ最中である。
「えいっ、対空ですよー!」
「うがっ」
…だめだ。レベルが違う。
「こ、琥珀さん、別のゲームにしない?」
「はい、いいですよ。つぎはどれにします?」
…これもだめ、これもだめ、これも…何で琥珀さん、こんなにゲーム持ってるんだろう。
「よし、これ」
「はい、受けて立ちますよー」
………

いつしか日が傾いていた。
「そろそろご夕食の用意をしますね」
琥珀さんはそう言って席を立つ。
俺はというと居間に移動して、お茶を飲んでいる。
ふと、今日の出来事を思い返してみる。
ほぼ一日琥珀さんと二人で暮らした。それで気づいたことがある。

 琥珀さんには笑顔がいくつもある。

 困ったような笑顔、悲しい笑顔、本当に楽しい笑顔、
ただそれは『笑顔』と言うだけでなく幾通りもの笑顔を持っている。
翡翠のように解りにくいけれども、琥珀さんと接しているうちにそれが徐々に解ってくるのだ。
 琥珀さんの笑顔を思い出しているうちにこちらも笑顔になっていく。
今日の琥珀さんは楽しい笑顔ではなかったか。
そうして自分と今日という日を過ごした。
俺といることで琥珀さんが楽しい笑顔になるならば…それは俺の笑顔の理由にもなる。
「志貴さーん、御夕食ができましたよー」

90(編集人):2002/11/01(金) 03:22
(5)
 夜。真円の月の下、俺と琥珀さんはテラスに出ていた。
琥珀さんの髪が、顔が、存在が月の光を受け、ぼんやりと輝いている。
静かで、心が透明になる月夜。そして琥珀さんは俺に語った。
「志貴さん、今日は楽しかったですか?」
「うん。今日は琥珀さんと過ごせて楽しかった」
「良かった」
そして沈黙。少し風が出てきた。
「…わたし、今日はわがまましちゃったんです。秋葉様は本当に株主総会ですけど、
 翡翠ちゃんは気を利かせて外に出てくれました。
 私が、志貴さんとおままごとがしたいって冗談交じりに行ったんです。
 それを翡翠ちゃんがまじめに受け取って…」
「琥珀さん…」
「けど、ただのおままごとじゃつまらないので、
 こうして現実におままごとみたいに暮らしてみたんです。
 朝、私が起こして、一緒にお昼ご飯を食べて、お花の世話をして、ゲームをして、
 そしてこうしてお話をする。そんな当たり前のことがとても楽しいんです」
「…琥珀さん、楽しいことはいつでもできるよ」
「志貴さん…」
視線が絡み合う。いつしか二人の顔は近づき、唇と唇が触れ…
バーン!
「ただいま帰りました!兄さん、琥珀、どこにいるんですか!」
…合うことはなかった。
「あらあら、秋葉さま、あの調子じゃ今日のことに感づいたようですね」
「…かなりやばいんじゃないかな、それ」
琥珀さんは、秋葉を迎えに玄関まで出て行く。…と、振り返る。
「志貴さん、また一緒におるすばんできるといいですね」
そうして琥珀さんは穏やかに笑った。俺もつられて笑った。
また、今度二人で…か。
たまにはこんな日もいいかな、とその時思った。
(おわり)

91(編集人):2002/11/01(金) 03:23
『青い月と朱いツキ』七夜志貴・支援
2002年7月4日(木)1時16分
ROUND3.48レス目「奇譚」様によって投下。
 銃神[GODO] (Notes.)
 反転翡翠  (月姫)
 七夜志貴  (月姫)
 エロ学派  (月姫)

92(編集人):2002/11/01(金) 03:25
『青い月と朱いツキ』

(1)
「俺は今、目の前にあるリンゴを切る」
そう口に出して確認する。ナイフの刃がリンゴに入る。
と、ナイフはなんの抵抗もなく突き通り、すとんと下に落ちた。
静寂。
部屋の中には二つの割れて転がったリンゴが転がるわずかな音。
まるで最初からそう存在していたかのような疑問の余地もない切り口。
嘲り声が聞こえるような気がする。

 人間にはできない事ができるお前は何なのか。

俺は自分が普通の人間として暮らしていける余地があることを再確認しなくてはいけない。
リンゴを切る。きわめて単純な行動だ。死の線など視ない。
俺はただ手に持っているナイフで、無造作に切れ目を入れ、そこから力を加え、
リンゴの抵抗を感じながら押し切り、切ってしまえばいいのだ。
それは普通の人のやり方であり、俺はそれと同じ事をすることで自分を普通である、
と確認しようとした。
しかしあいつはそれすらも許しはしなかった。

93(編集人):2002/11/01(金) 03:26
(2)
 あいつの覚醒は唐突だった。
遠野家に帰ってきてからというもの、何度もおぞましい怪異をくぐり抜け、
様々な人外の者どもと対峙し、そして殲滅した。
それらはもはや、過去の出来事であり、町は静けさを取り戻し、
俺の周りにも不安げな空気はかき消えたかに見える。
しかし、それらの出来事は俺の中に変化をもたらした。あいつが目覚めたのだ。
 
 最初はけだるそうに頭をもたげただけだった。
しかし、覚醒するにつれて、あいつは自らの状況に疑問を抱くようになった。
オレはどうしてこのように抑え付けられながら生きているのだろう?
もともと、遠野志貴とオレという者は一つの体を共有している人格である。
言うならばコインの表と裏。決して切り離されない。
しかし現実は遠野志貴の方が表にばかり立ち、
七夜志貴の方は危険な時にしか解放されない。これでは不公平ではないか。
そう、あいつが考えてもおかしくはない。
そうしてあいつは行動を起こした。
自分の能力を表面に、徐々に、だが確実ににじませ始めたのだ。

 最初に気づいたのは夕食の時だった。
香ばしく焼き上げられた鮭のムニエル。
それをナイフで切ろうとした時、ナイフは不思議な軌道を残した。
普通、食事用ナイフで食べ物を切る時は直線的に切るものだ。
しかし、その切り口は所々でわずかに曲がり、
全体としていびつな切り口を残すと思われた。しかし、切り口は完璧だった。
綻びもない。肉のささくれもない。
まるで切られたそのままの姿で最初から存在していたかのような、肉。
それは、その切り口は酷似していた。
先生の目の前で木を切って見せた時。純白の吸血姫を自分の欲望のままに切り刻んだ時。
死徒を、元は人間であった者を、怪異を切った時のそれに、あまりにも似ていた。
死線など見えていなかった。しかし体は死線をなぞったかのように肉を切断していた。
それは、つまり。
死線が視える視えないは関係なく、無意識のうちに体が死線をなぞり、物を切ってしまう、
ということだった。

94(編集人):2002/11/01(金) 03:27
(3)
がたり、と思わず席を立っていた。おかしい、おかしいオカシイオカシイ…
「兄さん、どうしたんですか?」
何も知らない妹の声。
そうだ、俺はたった一人の妹すらも触れるだけで殺してしまいかねない。
秋葉は無邪気に俺に寄ってくるだろう。
俺は秋葉に触れるだけで、秋葉の体はあり得ない形に曲がり、呼吸は止まり、
死の床についてしまう。
避けなければ。誰も殺したくない。
俺はひどい顔をしていたらしい。秋葉が心配げな顔をしてやってくる。
翡翠も琥珀さんもやってくる。そうして、俺に触れようとしてくる。
死が、彼女たちの体中にみえるようだった。眼鏡はしていたが、解る。死線は俺自身。
俺はうごめく死そのものになっているというのに、彼女たちは無邪気に触れてくる。
俺は、決して、彼女たちに死んで欲しくないというのに。
「来ないでくれ」
それは拒絶の言葉。口から出たその言葉に、彼女たちは動きを止め、
そして怪訝な表情になる。
「兄さん、そんな疲れた表情をしているのに、近づくな、というのは酷というものです」
「解っている。済まない、本当に済まないと思っている。だが、来て欲しくないんだ。
 今の俺は何をするか解らない。…少し一人にしてくれないか。
 今自分に何が起こっているかが確認できたらちゃんと話す。それまで…頼む」
そう言って、俺は食堂を後にした。後ろで何か声が聞こえてきたようだが、
俺は耳を閉ざす。今の俺は危険だ。

 あれから、俺は自分の状態を確かめるべくいろいろなことを試した。結果、
たまにではあるが、死の線が見えなくとも体が勝手に死の線をなぞり、
物を切ってしまうこと、そんな暗い現実が発覚した。
俺は俺の家族にその事を話した。彼女たちはとまどい、考え込み、
やがて事態の改善に協力すると、答えてくれた。
そうして、俺とあいつの戦いが始まった。

95(編集人):2002/11/01(金) 03:28
(4)
 うすうす気づいてはいた。数々の怪異と向き合っていた頃からだ。
危機に陥った時、俺の性格はがらりと変わる。
冷静に状況を分析し、自分の行動力を計算に入れ、
確実に、素早く相手を殺すことにのみ執着する殺戮機械。
解らない、知らないフリをしていた。
しかし、その心は確実に俺の中にあるわけであり、
今現実に現れ、その存在を如実に示めさんとしている。
俺は、そいつに七夜志貴、と名付けた。
俺の中に流れる退魔の一族の血。数々の魑魅魍魎をその手で葬り去る能力。
そして殺戮を生業とし、何代も何代も殺しを繰り返す殺戮の日々。
そうした一族の血が俺の中に流れている。自分の知らない自分。
新しく知った自分に俺はそう、名前を付けた。

 夜。ベッドの中で俺は息を荒げる。何かを切り刻みたくてたまらない。
手はぴくぴくと動き、自分の物ではないかのようだ。
体中の筋肉が張り、臨戦態勢を整えている。
…決して嫌いになりきれなかった、自分の力。
何もかもを切り、殺してしまえる力に優越感を感じた事が無いと言えば、それは嘘になる。
大きくもなく、小さくもない、ただの人間の心に生まれたわずかな優越感。
そこにあいつはつけ込んできたのだ。

 肉を切った時の感触はどうだ?
オレの神経にかすかに振動が感じられたかと思うと、ナイフが相手の体に入っている。
相手はそれを驚愕の瞳で見つめている。そうして俺はナイフを静かに滑らせるのだ。
それに沿って肉も静かに切られていく。肉の内面がのぞかれ、肉は静かに死んでいく。
いつしか相手の顔には驚愕と絶望が見て取られ…俺はそれを嗤いながらナイフを滑らせる。
やがてナイフは肉の終点にたどり着き、やはり静かに肉から離れる。
それを合図に相手の体がずれ始める。ゆっくりと、ゆっくりと。
相手は自分の体を必死に元に戻そうとするが重力には逆らえない。
肉は切られた。後は墜ちるのみ。
そうして相手はその顔を引きつらせたまま死んでいく。
それを見下ろす俺の顔は…この上なく愉快で、おかしくて、たまらないといった笑顔で…

96(編集人):2002/11/01(金) 03:29
(5) 
 がばっと起きあがる。体中が汗をかいている。息も荒い。
いつの間に寝入ってしまったのか。あれは夢…なのだろうか。
そうだ、あれは俺じゃない、決して俺であるはずがない…。
しかし、心の片隅で何かが優しく反発する。
…愉しかっただろう?少しも愉しくなかったはずがない。
お前は心のどこかで望んでいるんだ。自らの手で、肉を切り裂き、相手の顔を…
やめろ!やめてくれ!
息はいっこうに落ち着かない。自己嫌悪で押しつぶされそうだ。
何か、自分の外に意識を向けなくては…そうして気づいた。
窓の外はすでに白んでいる事を。

 あの自分を責め、さいなみ続ける日々から何ヶ月も過ぎた。
みんな、俺に対して協力的だった。
いらだちや、不安から口に出る俺の無神経な言葉にも、彼女たちは変わることなく、
ただ、俺を気遣ってくれた。
その事で、彼女たちの前で不覚にも涙してしまった事も幾度か合った。
そうして、俺が人と接していくうちに、七夜志貴は影が薄れ、そして消えた。
悪夢は収まり、俺は今まで通り、望んでいた普通の生活に戻り、周りも元に戻っていった。
しかし、俺は知っている。七夜志貴は決して外部からのものではない。
俺自身の裏の顔なのだ。
俺が生きている限り、何度でも新しい七夜志貴は生まれてくるだろう。
俺はもはや昔の遠野志貴ではない。そしてあいつも昔の七夜志貴ではないだろう。
それでも、俺が人間でありたいと望む限り。周りの人々を守りたいと願う限り。
俺は遠野志貴で有り続けよう。そう俺は決意した。
ふと心の片隅で何かが、ざわめく。黒い影が鎌首をもたげたような異質感。

遠野志貴と七夜志貴の人生はまだ、始まったばかりだった。
(おわり)

97(編集人):2002/11/01(金) 03:30
『外典猫姫。6日目』七夜志貴・支援
2002年7月4日(木)16時54分
ROUND3.71レス目「amber」様によって投下。
 銃神[GODO] (Notes.)
 反転翡翠  (月姫)
 七夜志貴  (月姫)
 エロ学派  (月姫)

外部リンク型。(このSSは続き物の中の一つです)
ttp://www.interq.or.jp/earth/youhei/ss/ss_tsuki/another/neko06.htm

98(編集人):2002/11/01(金) 03:31
『来訪者』蒼崎青子・支援
2002年7月6日(土)0時0分。
ROUND3.160レス目「全系統異常アリ」様によって投下。
 闇シエル    (月姫)
 蒼崎青子    (月姫)
 高田(兄)   (月姫)
 十字架[type/saturn] (Notes.)

外部リンク型。
ttp://www5d.biglobe.ne.jp/~sini/SS/blue.htm

99(編集人):2002/11/01(金) 03:32
『――我は祝祭の夜、敵であるその者と出会い、語り、命を較べ合った――』
ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)6時14分。
ROUND3.304レス目「七死さん」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)

外部リンク型。
ttp://homepage.mac.com/ikuya_t/guest/po/syukusai.html

100(編集人):2002/11/01(金) 03:35
『或る埋葬機関機関員の悲劇』ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)7時32分。
ROUND3.305レス目「七死さん」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)

101(編集人):2002/11/01(金) 03:46
或る埋葬機関機関員の悲劇
 
 
その日、埋葬機関の長、ナルバレックは非番だった。
ナルバレックの非番・・・それは埋葬機関の機関員にとって、ほとんどあり得ない、極めて希少な、魂の安息日であった。
喜びのあまり、心臓発作を起こすもの。
喜びのあまり、禁書の封を破ってしまい発狂するもの。
喜びのあまり、カレーを煮込み出すもの。
 
それにも関わらず。
そんな喧噪から離れ、とぼとぼと歩き出す者がいた。
彼はナルバレックの屋敷に向かっていた。
 
理由は簡単、ナルバレックの忘れ物を届けるためだ。
中身は定かではない、黒絹の巾着。それだけだが、下手なことをしようモノなら、血の雨が降るのは必定。
そして、屋敷まで届けるという貧乏くじを引いたのが、彼――仮に、機関員Aとしよう――だったのだ。
 
ノックをするが、返事がない。
このまま、帰ろうかと考えた時、扉が開いているのに気付いた。
・・・好奇心というものは、恐ろしいもので、彼は、ゆっくりと扉を開き、中に入った。
廊下を、ひたひたと歩く。
さすがに、屋敷は広く、なかなかナルバレックを見つけられない。
そうやって、何番目かのドアを開けた時。
彼の目に飛び込んできたのは、信じられないものだった。
 
Piyo Piyo と書かれた、ひよこのアップリケの付いたエプロン。
それそのものは珍しいものでもない。
ただ、それを身につけているのが、埋葬機関第一位『殺人卿』ナルバレックである、という事実。
しかも、頬にはご丁寧にクッキーの生地がちょっぴり付いてしまっているあたりがお茶目。
 
「あ、あの・・・」
 
まともな言葉も発することも出来ず、凍り付く機関員A。
プライベートを覗かれたのが恥ずかしいのか、ほんのり頬を染めるナルバレック。
・・・人外の風景であった。
 
その後、機関員Aの姿を見たものは、いない。

102(編集人):2002/11/01(金) 03:47
『シエル、すこぶる笑顔』ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)21時10分。
ROUND3.316レス目「no」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)

外部リンク型。
ttp://members.jcom.home.ne.jp/2120765401/Tsukihime-017.htm

103(編集人):2002/11/01(金) 03:48
『甲冑少女』ナルバレック・支援
2002年7月8日(月)21時10分。
ROUND3.316レス目「no」様によって投下。
 ネロ造    (月姫)
 ナルバレック (月姫)
 白純里緒   (空の境界)
 静音     (空の境界)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/syoujo.htm

104(編集人):2002/11/01(金) 03:49
『無題』山瀬舞子・支援
2002年7月9日(火)6時26分。
ROUND3.345レス目「七死さん」様によって投下。
 魔術師(レンのマスター) (月姫)
 生徒会長の槙先輩     (月姫)
 山瀬舞子         (月姫)
 七夜黄理         (月姫)

105(編集人):2002/11/01(金) 03:51
朝起きてくるたびに、私は苦しい思いにとらわれる。
 がらんとしたリビングが私を迎えてくれるためだ。

 食卓を囲む三つのイスの内、一つに私は朝の挨拶を送る。
「姉さん。おはよう」
 私は誰も座っていないイスに呟くと、自分のイスに座る。
 
 姉さんが行方不明に、そして私の誕生日が終わってもう、一ヶ月になる。
 長い時間。でも、短い時間でもあった。
 いつ、姉さんが玄関の扉を開け、私の誕生日をすっぽかした事を謝りながら家に入ってくるのか。そればかりを考えていた気がする。
 焦りと期待が混じり合った日々。
 
 しかし姉さんはまだ帰ってきていない。
 
 私の誕生日の日、近所の公園に大量の血痕が発見されたそうだ。それも姉さんと同じ血液型の――。
 いや、違う。
 私は暗い思考を頭を振って無理矢理追い出す。 
 姉さんは無事だ。あの優しい姉さんが何の理由があって事件なんかに巻き込まれなくちゃならないのか。
 そう、姉さんは無事だ。
 何らかの理由があって家に帰ってこれないだけにしか過ぎない。
 
 何時か玄関の扉を開けながら、笑いながら謝ってくるに違いない。

 家の鍵も姉さんが渋い顔をしていた、いつもの所においてある。
 姉さんの部屋だっていじってはいない。

 私は姉さんのいつも座っていたイスをみる。

「おねぇちゃん。待ってるからね――」

106(編集人):2002/11/01(金) 03:52
『醒月/明星』山瀬舞子・支援
2002年7月9日(火)20時56分。
ROUND3.360レス目「大銛」様によって投下。
 魔術師(レンのマスター) (月姫)
 生徒会長の槙先輩     (月姫)
 山瀬舞子         (月姫)
 七夜黄理         (月姫)

107(編集人):2002/11/01(金) 03:53
■醒月/明星

   /1

 気が付くと、ボクは闇の中に佇んでいた。

 空の色さえ定かではない昏い世界。
 草や苔の匂いが鼻をつく。かすかにだけれど、高い所で木々の枝がざわめいているのが聞こえる。
 時刻は――もう夜半を過ぎているのだろうか?
 風もある。ただ、寒いとは感じない。

 ここは、林の中らしい。それもそこらの雑木林じゃないのだろう。
 音が遠くに感じられる。この静けさは――人里離れた大きな山の中としか思えない。

 ボクは何故、こんな所に居るんだろう?
 ボクは、確か――

108(編集人):2002/11/01(金) 03:55
 /−

 身体が 軋む。
 意識が 縮む。
 理性が 削がれる。

 それでも―――

「いや、だから! 私は志貴のためを思って……」
「その結果がこれですか? 秋葉さんに貴女がどんな説明をするか楽しみですね」
「ま、まぁ、アルクェイドも俺の事を思って……」

 そんな苦痛以上に辛く、苦く、悲しかった、目の前の光景/手の届かない世界。

 この身/混沌を抱える者にしか解らない、強烈な飢え。
 生きる場所を失った者にしか判らない、絶望/羨望。
 失わなってみなければ分からない/かった、幸福。

 その全てを振り切って、決して望まない望みをボクは抱いた。
 あの時ボクは、彼に襲い掛かりながら確かに、こう叫んでいた。

 『早く殺して』

――――と。

109(編集人):2002/11/01(金) 03:56
 〜/1

「くっ――――――」
 思わず、胸を抑える。だけどその腕もコートの中に ぞぶり と沈んでしまう。
 それでもう、全部思い出せた。
 ボクはあの時に、死んだんだって。

 あの時ボクは、確かに殺されることを望んでいた。
 人の命を奪ってしまった自分に恐怖し、人の命でしか留まれない自分から逃れたかった。
 彼にナイフで切られ、意識を失う直前のボクは、確かに安堵を覚えていた筈だ。

 でも――それはボクの、本当の望みじゃなかったような気がする。
 もっと大事な何かを、守りたかったような気がする。
 生きていたかった。ちゃんと、違う選択をしたかった。
 これが――未練というものなんだろうか。
 何故、ボクはこんなに辛い思いをしなくちゃいけないんだろう?
 死んでもまだ苦しまなきゃいけないなんて不公平だ。

 でもそれは言っちゃいけない。
 ボクが殺めてしまった人たちは、もっともっと辛かっただろう。
 あの人たちにだって、家族が居たに違いない。幸せな人生があったに違いない。
 もっともっと悲しかったに違いない。

 泣きたい。
 せめて誰も居ないこの世界で、泣き喚いて救いを求めたい。
 せめて泣いて謝って、ボクが殺してしまった人たちに赦しを乞いたい。
 でも泣けない。ボクは、もう、人間じゃないから。

 結局、今もボクが抱く望みはあの時と変わっていない。
 早く――早く、楽になりたいから。
 それでも――だからせめて――ボクがまだ、苦しまなきゃならない理由だけでも、知りたかった。

110(編集人):2002/11/01(金) 03:57
/2

 不意に、ちりん、という音を聴いた。かすかに小さな鈴のような音。

 そして、気配。近くに人がいる。
 誰だろうと思うよりもまず、危ない、と思った。
 今ここで近付いてしまえば、この人は間違いなく、胸の獣たちの食餌にされてしまう。
「逃げ――――――!」
 言葉が紡がれるよりも先に、衝動がきた。

 狼。胸より三匹。

 その三匹を、その 片目の男の人 は片手で無造作に握り潰した。
 獣たちがボクの胸から抜け出すよりも早く肉薄し、三匹ひとまとめに潰し、投げた。
 ボクと一緒に。

「がッ――――あ――――――」
 身体の胸から下腹部までを潰された形で、そのまま大木に叩きつけられる。
 上と下が繋がっているのが不思議なくらいだったけど、すぐに胸の中の闇の渦が染み出して、元の輪郭に戻っていった。
 それでもまだ胸は痛い。今の衝撃で、幾つかの獣は死んでしまっただろう。
 身体に残る痛みをこらえつつ、何とか立ち上がろうとする。
 そこに更に、片目の人がゆらりと迫ってくる。

 それでようやく、ボクは、まだボクがここに存在している訳を理解した。
 ボクはまだ、殺され足りないのだと――また殺されなければならないのだと――

111(編集人):2002/11/01(金) 03:59
『シキミン』山瀬舞子・支援
2002年7月10日(水)0時23分。
ROUND3.399レス目「七死さん」様によって投下。
 遠野志貴   (月姫)
 玄霧皐月   (空の境界)
 洗脳探偵翡翠 (月姫)
 有彦の祖母  (月姫)

外部リンク型。
ttp://www2.mnx.jp/~jiz5482/tukihime_ss.html

112(編集人):2002/11/01(金) 04:00
『機動戦姫』死の線だらけの死人・支援
2002年7月11日(木)4時24分。
ROUND3.475レス目「大銛」様によって紹介。
 死の線だらけの死人 (月姫)
 蒼崎橙子      (空の境界)

※この作品は『歌月十夜』の中の「歌月十夜おふらいん」の中に収録されています。

113(編集人):2002/11/01(金) 04:01
『紅いコッペリア』紅秋葉・支援
2002年7月12日(金)21時12分。
ROUND3.567レス目「血鋤道」様によって投下。
 紅秋葉  (月姫)
 黒桐幹也 (空の境界)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/ss/copperia_1.htm

114(編集人):2002/11/01(金) 04:02
『やわらかくしずんで』ロリ秋葉・支援
2002年7月13日(土)1時37分。
ROUND3.635レス目「奇譚」様によって投下。
 レン   (月姫)
 ロリ秋葉 (月姫)

115(編集人):2002/11/01(金) 04:04
『やわらかくしずんで』

(1)
それとの出会いは唐突だった。

●月×日
かぜを引いちゃった。
体がおもくて、なんだかだるいです。
それでもお外にあそびに行こうとしたら、お父さまに止められました。
しかたがないのでベッドにねたまま、ずっとご本をよんでいました。
けど、むずかしいご本ばっかりでよくわかりません。
あたまがいたくなっちゃったので、ご本をよむのをやめてお外を見てました。
お外はぽかぽかはれていて、きもちよさそう。
つまんないな。

   窓の外の世界はどこまでもどこまでも広いように感じられた。
  きっとあの子達は楽しく遊んでいるのだろう。
  今では、広い世界にも限りがあり、そして晴れにも雨にも、喜び、
  そして憂いが混じっている事を知っている。
  しかし、あの頃はそう思えなかった。
  晴れの日も雨の日も楽しい事があった。嫌な事があっても、
  楽しい事の方が大きくて、結局は楽しい一日になったのだ。
  それは、あの人が。
  あの人がいたからだ。

まどの外からたのしそうな声がきこえました。
ヒスイちゃんと、シキお兄ちゃんと…兄さん。
じゃんけんをしているみたい。おにごっこかな、かくれんぼかな?
アキハもいっしょにあそびたいな。
からだがうごけばだいじょうぶだよね。
足もうごきます。手もうごきます。
いろいろうごかして、やっと立てました。
ふらふらしちゃうけど、アキハもあそびたいから、
兄さんとおはなししたいから歩きます。
けど、すぐつかれちゃいました。
たんすにつかまっていると、いきがなんだかくるしいです。

116(編集人):2002/11/01(金) 04:05
(2)
   私はあの時、必死だったのだろう。
  広い広い世界で楽しそうに遊んでいるあの子達、
  それに比べて狭い部屋でベッドに寝ているだけの自分…。
  純粋にうらやましかった。
  足はガクガクと笑っていた。手もブルブルと震えていた。
  それでも私は立った。
  外へ行きたい、一緒に遊びたい…あの人の側にいたいから。
  しかし、部屋を出ようとした所を使用人に見つかってしまったのだ。
  私は、あれよあれよという間に、ベッドに戻され、
  またしても医者の診断を受ける羽目になった。
  「静かに寝とけ、嬢ちゃん。風邪を治すにはそれが一番の近道じゃ」
  時南先生は優しくそう言うと、部屋を出て行った。
  そうして、また私は閉じこめられた。

まどの外のたのしそうな声はとおくなったりちかくなったりします。
耳に手をあてて、声がきこえないかなとためしました。
ごにょごにょ、としかきこえませんでした。
もっとよくきこうと、まどのそばによりたいけれど、
ベッドの中からうごけませんでした。
そうしているうちにまどの外がだんだんと赤くなっていきます。
夕日がへやの中に入ってきました。赤くて、きれい。
おへやの中がとてもきれいで、赤くて、すごくたのしくなりました。
けれど、すぐにかなしくなっちゃいました。

   あの時は何故悲しくなってしまうのか不思議だった。
  けれど、今は知っている。あまり知りたくなかったけれど。
  綺麗な物を見るのはとても嬉しいけれど、それを一人で見る事は、
  誰とも一緒に見られない事はとても悲しい事なのだという事。
  誰とも、嬉しい事を共有できない。誰もいない。
  あの時、私は誰と一緒に夕日を見たかったのだろう。
  それは、きっと。

117(編集人):2002/11/01(金) 04:06
(3)
まどの外がまっくらになりました。
夕日もどこかにかえってしまいました。
なんだか、なみだがでています。
むねがきゅうきゅうしてくるしいです。
さびしい。だれかとおはなししたい。
だれかと、にいさんと、おはなししたい。
ご本がむずかしかったとか、夕日がとてもきれいだったとか、
はなしたいこと、きいてもらいたいこと、
ききたいこと、いっぱいいっぱいあるのに。
にいさんに、いてほしい。
にいさんと、いっしょにいたい。

   ずっと側にいたい。その気持ちは変わらない。
  寂しくて、悲しくて、つぶれてしまいそうだった。
  あの人がいないから、手の届かない所にあの人が行ってしまったから。
  そんな気がして、涙が出た。止まらなかった。
  自分ではどうしようもできなかった。
  自分は本当に何もできないのだと、あれほど痛感した時はなかった。
  しかし、そんな無力感に苛まれていた私の手を引いて、
  笑いかけてくれた人がいた。

おへやに明かりがつきました。
そういえばおへや、くらくなっていたんだっけ。
ドアの方を見ると、兄さんが立っていました。
兄さんは「だいじょうぶ?」と言って、アキハのそばにやってきます。
ぼんやりしてたけど、すぐにゴシゴシこすってなみだをかくしました。
グシャグシャのかおを兄さんに見られたくないから。
けれど、兄さんがちかくに来た時、がまんできませんでした。
兄さんにだきつきました。なみだも出ちゃいます。
兄さん兄さん、としか言えません。
兄さんはびっくりしてたけど、優しくなでてくれました。
アキハはあまえんぼうだなって。
アキハ、あまえんぼうなのかな。
けど、兄さんになら、ずっとずっとあまえていたいな。

118(編集人):2002/11/01(金) 04:07
(4)
   あの時、兄さんは私の様子をこっそり見に来てくれたのだ。
  本当なら、私の部屋に兄さんが入る事は許されないのに、
  兄さんは夕食前のごたごたを利用して忍び込んでくれたのだ。
  見つかれば、自分が怒られる事もいとわずに。
  それに気づいたのは、少し後の事だった。
  その事を言うと、兄さんはただ優しく笑うだけだった。
  私もそれ以上聞かなかった。
  ただ、とても嬉しくなったのを覚えている。

もうねる時かんになりました。
ずっとずっと兄さんのことをかんがえていました。
兄さん、大すき。大きくなったら兄さんとけっこんしたいな。
手を見ます。兄さんがぎゅっとにぎってくれた手。
兄さんがいるような気がしてにこにこしちゃいます。
なんだか、ふわふわしてとてもあったかい気もち。
なんだか、とてもうれしいです。
けどもうねなくちゃ。
おやすみなさい、兄さん。

119(編集人):2002/11/01(金) 04:08
(5)
「………」
そうして遠野秋葉は読んでいた本を閉じた。
本の表紙には『にっき とおのあきは』と、つたない文字で書かれている。
やがて秋葉はほう、と息をつき目を閉じる。
と、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「秋葉ー、ちょっと話があるんだが…」
「ににに、兄さん!?」
あわてて読んでいた本を机の中に隠す。
秋葉の顔が真っ赤になっていく。
それを直そうと秋葉は自分の顔をピシピシと叩いて、落ち着いてから言った。
「どうぞ、兄さん」
「ああ…秋葉、俺の小遣いなんだがもう少し何とかならないか…」
志貴が秋葉の顔を見る。
「…あれ、秋葉、顔が赤いぞ。どうしたんだ」
「え…ななな何でもありません!」
「いや、しかし風邪でも引いてたらどうするんだ」
『風邪』という単語に秋葉の自制心が、ぷつり、と切られた。
「ああもう!大丈夫と言ったら、大丈夫です!」
そうして、強引に秋葉は志貴を追い出した。
ドアの外から、
「おーい、とにかく体は大事にするんだぞー」という声がする。
それを聞いて、秋葉はベッドに突っ伏し、枕をかぶる。
…ああもう!兄さんたら!兄さんたら………兄さん…

遠野家の静かな午後の出来事であった。
(おわり)

120(編集人):2002/11/01(金) 04:09
『The Sleep'n beauty…』レン・支援
2002年7月13日(土)3時7分。
ROUND3.648レス目「七死さん」様によって投下。
 レン   (月姫)
 ロリ秋葉 (月姫)

121(編集人):2002/11/01(金) 04:10
「The Sleep'n beauty...」

「う〜ん…いい天気だなぁ…」
 今日は快晴、空には雲一つ無い。俺――遠野志貴は、遠野家の庭を散策していた。別に何がしたいというわけでもない、ただ単なる散歩である。こんなに天気がいいのに、外に出ずに家の中にずっといるというのはやはり勿体無い気がしたから。俺は折角なので外で昼寝でもしようと思い、離れの方に向かっていた。離れの裏庭の方には、絶好の昼寝場所がある。そこは恐らく俺しか知らない秘密の場所のような物だった。場所自体は遠野家の他の人たちも知っているだろうけど、流石にそこで昼寝をしようと考える人間はこの家では俺ぐらいのものだろう。特に秋葉なんて、そんなことは思いもよらないだろうなぁ。そんなことを提案でもしようものなら、一言で一蹴されるに違いない。
 そうして、俺は離れの辺りへと来た。誰もいないことを予想してきていたんだけど、意外なことに、その場所には先客がいたのだった。その先客は、小さな黒猫。勿論、ただの黒猫というわけではない。少し前に家の一員となった、レンである。
 レンが俺の使い魔になってから、数ヶ月がたった。レンと俺の関係は、別段何も変わることも無い。使い魔と言っても、レンは何しろ夢魔――しかもよりによってサキュバス――なので、俺としては別に使い道が無いのだった。その為、今では殆どレンは遠野家の飼い猫と化していた。…まあ、契約主としてはちょっと複雑な気分かもしれない。でも、レンはなんだかんだ言いながら遠野家での生活を楽しんでくれているようなので、それはそれでいいと思ってもいる。そんなレンが今凝っている事というのが、昼寝である。まぁ、猫とは一般的にそうなのだけれど。それに、レンを猫だといってしまっていいのかどうかはちょっと疑問だけど。いつも俺が学校に言っている間は、よく家のどこかで寝ているのだ。そして今回はここで寝ていたということだろう。俺はレンを起こさないようにそっとレンの隣に移動すると、そのまま大の字に寝転んだ。…空が、蒼い。今日は、本当に空が綺麗だ――。
 ふと気がつくと、太陽が先程よりも傾いている。どうやら、そのまま微睡んでいたらしい。俺は身体を起こす。隣を見ると、レンはまだ寝ているようだった。太陽の位置から換算すると、午後3時といったところか。2時間弱ほど寝ていたことになる。俺は隣で寝ているレンを起こさないように、慎重に抱き上げると、俺の下腹部の辺りに持って来る。そしてレンの背中を撫でてやりながら辺りの風景を見回した。ここは、本当に昔と変わっていない。そのことに何故か奇妙な安堵感を感じた。俺は暫くそうやって、レンの背中を撫でながら再び微睡んでいた。すると、どうやらレンの方が気付いたらしい。今までぴくりとも動かなかった黒猫が、もそもそと動き出した。起き出して頭がまだ働いていないのか、なんだかぼ〜っとしている様子だ。…なんだか、非常に可愛い。
「レン、起きた?」
 俺が声をかけると、レンはやはりゆっくりとした動作でこちらを振り向いた。そして小さく頷く。
「もしかして、起こしちゃったかな」
 ふるふる、とレンは首を振った。

122(編集人):2002/11/01(金) 04:12
「そっか。だったらいいんだけど」
 そこで、俺たちの会話は途切れた。会話といっても、レンは喋っていないので、会話とはいわないのかもしれないけれど。
 暫く経つと、レンはいきなり人間の姿になった。最近、レンは俺と二人きりになると殆どこの姿になる。どうしてかは聞いていないので分からないけど、多分心境の変化なんだろう。人の姿になるのは俺にだけという訳でなく、遠野家の他の面々にも以前よりはずっとその姿をさらすようになっていた。でも、人で居る頻度が高いのは俺の傍に居る時らしい。これはレンから聞いたんじゃなくて、屋敷の皆から聞いたことなんだけれど。
俺は未だにレンを抱いたままだったので、流石に少し驚いたものの、それほど驚きはしなかった。だが、俺は別の問題があった。それは、今俺が、レンを後ろから抱きすくめているような状態になっているということだ。身体を起こし、下腹部の辺りでレンを撫でていたので、急に人型になったために、このような状態になってしまったのだった。誰も見ていないからいいものの、流石にこの体勢はちょっと…どころではなくかなり恥ずかしい。
「ちょ、ちょっとレン…いきなり人型になるのは困るって」
 しかしそうは言ったものの、レンが悲しそうな顔をして振り向いたのを見ると、俺の言葉は何だか尻すぼみになってしまった。レンはそれこそしかられた子供のような表情をしていた。…こんな顔をされてしまっては、言うに言えない…。
「う…わ、分かってくれたなら、それでいいから…」
 俺がそれほど咎めなかったからか、レンは目に見えて安堵の表情をして、ほっと息を漏らした。
 …むぅ、なんかこんな表情のレンも可愛いなぁ、なんて思ってしまった。もしや俺、ロリコンか?

123(編集人):2002/11/01(金) 04:13
そうして、俺たちは。再び空を見上げていた。俺は目を閉じて、辺りの音を身体で感じていた。遠くから聞こえてくる鳥の囀り、春の到来を告げる暖かき風による、木々のそよぎ。それらが耳朶を打つ。それはとても気持ちの良いことだった。こういうのは、能率とかそういうものを考えた場合は無駄な時間だという事で片付けられてしまうのだろうけれど、少なくとも俺は、その一瞬一瞬をとても充実した時間だと感じていた。それは、多分レンも同じなんだと思う。目を開けてレンの方を見てみると、レンも同じように目を閉じて辺りの音に聞き入っていたからだ。それは、まるで御伽噺の眠り姫のようだった――そう、そのとき見えたレンは本当にその様に思えたんだ――。…が、暫くして気付いたことが一つあった。どうやら、レンは本当に眠っているようだ。何故分かったのかと言うと、レンが俺の方へともたれかかってきたからだった。いくらレンの身体が小さくて、体重が殆ど無いと言っても、流石に自分の方へもたれかかられてきたら皆から鈍い鈍いといわれている俺でも気付く。もっとも俺は、別に鈍いとは思ってはいないんだけれど。しかし、レンが俺の方へともたれかかってきたことで、俺は完全に身動きが取れなくなってしまった。流石にこんな安らかな顔で眠られたら、俺には起こすことなんて出来はしない。
 …さて、どうしたものかなぁ。まあ、暫くはこのままでもいいかな…。
 等と思いながら、俺は再び辺りの音に聞き入っていった…。

124(編集人):2002/11/01(金) 04:15
「…あれ?」
 気がつけば。辺りは当の昔に深い闇に包まれていた。どうも、また眠ってしまっていたらしい。レンの方を見ると、案の定レンもまだ眠っていた。流石にこれ以上ここで寝ている訳にもいかないので、レンを起こすことにする。さっき書いたことと矛盾していると思われているかもしれないが、あれは家の中や、ずっと寝ていてもいい場所での場合の事である。流石にこのまま外で眠らせておく訳にはいかない。風邪をひいちゃうからな。レンなんて、身体弱そうだし。それについては俺もあんまり人の事は言えないけど、俺の場合は貧血や眩暈だからあまり風邪とは関係ないし。ともあれ俺は、さっさとレンを起こすことにする。いくら暖かくなってきたとは言えど、季節はまだ春とは言えるほどではないのだから。
「レン、レン…。起きて、そろそろ屋敷に戻るよ」
 俺はレンに呼びかけるが、どれだけ呼んでもレンは反応しない。…もしかしなくても、朝の俺ってこんな感じなのかなぁ。だったら翡翠にはいつも悪いことをしてるな…。これからは気をつけよう。しかし、困ったな…どうやって起こそうか。とりあえず、ほっぺをつついて呼びかけながら起こしてみる。
「ん…んぅ…」
 お。少し反応があった。…しかし、結局レンはすぐにまた元通りになった。
「う〜ん…どうしたものか…」
 考えては見るものの、具体的ないい案は思いつかなかった。仕方が無いので、とりあえず俺はレンを仰向けに寝かせた。そして再び呼びかけてみる。が、当然の様に返事は無かった。…ペットは飼主に似るって言うけど、使い魔ももしかしてそうなんだろうか…なんて考えが頭に浮かんで、つい苦笑してしまう。
 暫くレンを起こそうと努力はしてみたものの、その努力は全く報われなかった。努力とは得てしてそういうものだと分かってはいるが、やはり虚しくなってしまう。今度からは、絶対に自分で起きられるように何とかやってみようと、本気で思った。俺はレンに顔を近づけて、更に呼びかける。

125(編集人):2002/11/01(金) 04:16
「レン、レン…。いい加減に起きてくれ…」
 すると、レンの顔になんだか少しだけ赤味が差したような気がした。翡翠からは、俺が起きるときの兆候としてそういうものが現れる、ということは聞いていた。よかった…やっと起きるのか…。
 そしてレンは、漸く目を覚ました。これだけしても起きなかったのが、勝手に起きるのだから、なんというか、まぁ…。本当に、眠り姫みたいだな。
 その時、俺にとっても、勿論レンにとっても全く予期しないことが起きた。俺がレンの目の前に顔を寄せていた為に――俺とレンの唇が一瞬ではあったのだが、触れ合ったのだった。俺は恥ずかしさより先に、こんなことを思ってしまった。
 …順番が逆になってるけど、本当に眠り姫だな…。
 そして、レンの方はと言うと、まさに顔から火が出るといった表現の通りになっていた。顔全体が真っ赤になっている。しかもなんだか慌てた様子だった。普段こう言った表情や行動が見られることはあまり無いので、ちょっと嬉しかったりする。…勿論、それ以上に恥ずかしいけど。俺の顔も恐らく真っ赤になっているだろう。
「レ、レン…。そろそろ家のほうに、入ろう…」
 俺はどもりながらレンに言葉をかける。恥ずかしくて、上手く言葉が出てこない。
 レンはこくこくと頷いた。しかもやたらと早いスピードでだ。レンの方もかなり恥ずかしいようだった。まあ偶然とはいえ、キスしてしまったのだから当然か。こうやって表現してしまうと、俺のほうの恥ずかしさも更に増してきた。…参ったな、心臓の鼓動が早鐘みたいだ。全然収まる気配も無い。うぅ、この状態で家の誰かと顔あわせたら、まずいなぁ。
 そうして俺は、遠野家の方へと向かって歩き出す。レンも、それにいくらかのスペースを開けて付いて来る。レンが俺の歩く後をスペースを開けてついてくるというのは、最近ではお馴染みの事となってしまっている。こう言うと、レンは怒るかもしれないんだけど、懐きかけの猫と同じだと思う。気になって、寄りたいんだけれど――寄るには怖い。この場合は怖いというわけじゃなくて気まずいんだろうけど。レンはそんな微妙な距離を保って俺の後をついてくる。なんだか、そんなジレンマが俺にも伝わってきた。レンにはちょっと悪いと思ったけど、なんだか可笑しくて、笑ってしまった。

126(編集人):2002/11/01(金) 04:17
『背徳の数字』ネロ・カオス支援
2002年7月14日(日)16時1分。
ROUND3.731レス目「no」様によって投下。
 ネロ・カオス    (月姫)
 ひすこはのお母さん (月姫)

外部リンク型。
ttp://www5d.biglobe.ne.jp/~sini/SS/motoharu.htm

127(編集人):2002/11/01(金) 04:18
『ネロ・カオスの優雅な生活』ネロ・カオス支援
2002年7月14日(日)20時13分。
ROUND3.738レス目「七死さん」様によって投下。
 ネロ・カオス    (月姫)
 ひすこはのお母さん (月姫)

外部リンク型。
ttp://jtpd.virtualave.net/text/nero.html

128(編集人):2002/11/01(金) 04:19
『さっちんの支援SS②』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)0時5分。
ROUND3.890レス目「七視さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

129(編集人):2002/11/01(金) 04:20
さっちんの支援SS②

その時の私は、きっと恐怖のあまり狂っていたのだろう。
だって、目の前に世間を騒がせている本物の殺人鬼がいて、他でもないこの私を「殺す」と言っているっていうのに、
私は、本当に場違いなことを考えていたのだから。

『この人、なんとなく、志貴くんに似ている―――』

そんな思考も一瞬だった。
殺人鬼がその朱い右手を振り上げる。
これまで何人もの犠牲者の血液を吸ったその腕の形は、私の眼にはひどく歪んで映った。
「や、め、て……」
必死に拒絶の言葉を口にする。しかし、唇も、舌も、喉も、肺でさえも、まるで自分のモノではないかのように動かない。
いや、動かないのはそれだけではない。手、足、首、目蓋、眼球に至るまで、完全に硬直していた。
(なんで!?どうして!?)
もはや恐怖で硬直しているのではないのは明らかだった。
今すぐ逃げなければいけないのに、どうしてこの脚は動かない!?
ジリ……
右足が僅かに、数センチほど後ずさる。
しかし、ただそれだけだ。
私は、視線をそらすことも、悲鳴をあげることもできないまま、迫り来る朱い「死」を見つめていた。

「―――志貴くん

              助けて―――」

ようやく動いた私の口は、それだけ言うのが精一杯だった。
「なんだと……?」
殺人鬼は動きを止めた。
「なんで、喋れんだ……?魔眼使ってんのに……」
ジッと、値踏みするように私の顔を見つめる。
朱く染まった顔が近づく。血の匂いに、吐きそうになった。
そして、何か新しい玩具を見つけた子供のような、いや、悪い悪戯を思いついた子供のような顔をしてこう言った。
「殺すのはやめだ。俺の『子』になってもらう」

130(編集人):2002/11/01(金) 04:21
『無題』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)0時26分。
ROUND3.895レス目「偽洗脳探偵」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

131(編集人):2002/11/01(金) 04:22
青い、蒼い月が好きです。
 誰一人わけ隔てなく、その光で照らし出しながら、この広い星空にただ一人、孤独だから――
 一片の光さえ注さない夜闇が好きです。
 なにもかもを覆い尽くすその闇は、変わってしまった私という存在をも、優しく包みこんでくれるから――
 秋という季節が好きです。
 仮初めの死を迎えようとする世界が、全ての命を赤く、紅く燃え上がらせるから――
 今まで通い続けた、あの学校が好きです。
 日常―失われてしまった日常だけど……貴方とともにいることの出来た場所だから――
 日々を共に過ごした、友人たちが好きです。
 なんでもないことに泣いて、笑って…精一杯生きて……本当に楽しかったから――
 暖かな、私の家族たちが好きです。
 私を生み、育て、守ってくれて……そして、私も守りたかった人達。……でも、それももう適わないね、ちょっとだけ、心残りかな――

 そして、最後に…、なによりも、誰よりも、遠野志貴君。あなたの事が、大好きです。
 ――あなたは誰よりも優しいから
 ――あなたは誰よりも暖かいから

 でも、お別れです。これは出すことのない手紙。今にも消えてしまう私が、心の中にだけ書く、大切な想い出。

 ――本当に大好きだった志貴君……でも、でも。本当に――ごめんなさい。

                                      さつき

 P・S――約束……守ってくれて嬉しかった。ありがとう……バイバイ。

132(編集人):2002/11/01(金) 04:23
『さっちんのちょっと長い散歩』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)3時51分。
ROUND3.914レス目「奇譚」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

133(編集人):2002/11/01(金) 04:24
『さっちんのちょっと長い散歩』

(1)
 今日はからっと晴れ上がった夏の日。
私、弓塚さつきは近くの公園まで散歩に出かけることにしました。
こんな晴れてる日だもん。家の中にいるのはもったいないよね。
今日の私は、白に近い青のワンピース、そして日よけにリボンの付いたわら帽子。
日差しの強い夏はこれがお気に入りです。
外に出たのはお昼過ぎでした。太陽は今日もかんかん照りです。
「今日は公園に行こうかな…」
つい、口に出しちゃいます。けど、これで心構えもばっちり。元気よく出かけます。
空を見上げると大きな入道雲。そして、目の前には見慣れた、思い出が染みこんでいる道。
私はこれからもこの道を歩くんだろうな。
横の家々の前には打ち水がしてあって、少し涼しくなっています。
涼しくてとてもいい気持ち。遠野君とこの道を歩けたら素敵だろうな…。
…ねえ、遠野君、とっても涼しいね。(ああ、そうだね)
…遠野君、とってもいい気持ちだね。(うん、そうだね)
……え、えと、遠野君、あの、て、手をつないでいい?(え、うん、いいよ)
…遠野君、あったかい。(大丈夫、暑くない?)
…ううん、大丈夫。遠野君のあったかさは特別だから…
えへへへっ。
パシャー…
「わ、わわっ!」
気が付くと、おばさんがまいている水を体にかぶっちゃいました。
「あら、ごめんなさい!大丈夫?」
「だ、大丈夫です…。濡れたのスカートの端の方だし…乾きますから…あはは…」

 公園に着くとそこかしこのベンチに人が座っていました。
噴水の水が光をきらきらと反射してとても涼しそう。
芝生や木も青々としていて、思い思いの所でみんなのんびりしています。
…私もちょっとのんびりしよっと。
池のほとりのベンチに腰掛けて、日光を体いっぱいに浴びます。
ちょっと暑いけど、のんびり。さらさらと風が吹いて、私の髪を揺らします。
わら帽子がふわふわと飛んでいっちゃいそうになったのであわてて手で押さえました。
わわっ、と。あぶないあぶない…あれ?あれは…遠野君?

134(編集人):2002/11/01(金) 04:25
(2)
と、遠野君も散歩かな。それだったら私と一緒だから…
あっ、遠野君、こんにちは…一緒に散歩しよう…この後どうするの…
うん!自然に会話できる…よね?…えっと、私おかしなとこ、ないかな…。
池の水面に私を映してみます。出かける前に鏡で見た通りの自分の顔。
うん、これでいいかな。あ、でももう一回髪、直しとこっと。
…よし。これなら。あ、どうしよう、どきどきしてきちゃった…。
スーハースーハーと大げさに息をして胸がどきどきするのを抑えます。
…準備よし。ようし、遠野君とお話…あれ、遠野君がいない?
遠野君、遠野君…いた!…って、え、ええっ!
あの…その、隣にいる女の子は誰?

 遠野志貴は日曜日、瀬尾晶と会う約束をしていた。
晶と会う事に、毎回何かと理由を付けているが、
結局の所、志貴は晶と会うのが好きだった。
晶も志貴と会うのが好きなようで、たまに日曜日などを利用して会っている。
行く所はいつもの所、アーネンエルベである。
「あ、晶ちゃん、こんにちは」
晶は走ってきたようで、息を切らしている。
「す、すいません。待たせてしまって…」
「いや、俺が早めに来ただけだし。それじゃ、行こうか」
「あ、はい」そうして、二人は歩き出した。

「あっ…遠野君…」
いつのまにか二人の後に付いて行ってました。
悪い事だって解ってる。解ってるつもり。解ってるけど…けど…。
遠野君はもてるから、こんな事は慣れてるって思いたいけど。
足が動いてしまいます。どうしても遠野君を目で追ってしまいます。
遠野君のそばにいたい。遠野君のそばで笑っていたい…。

135(編集人):2002/11/01(金) 04:27
(3)
夕暮れ。
私は堤防の上にいました。
遠野君達の後を追って、行き交う人に流されて、見失って、気が付いたらここにいました。
空がきれい。昼の時より少し低くなった、青くて、赤くて、少し紫の空。
ほんとにきれいで…ちょっぴり涙が出ました。
「はぁ…もう帰らなきゃ」
堤防の上の道を歩きます。
いつの間にか風は冷たくなっていたけれど、気になりませんでした。
「遠野君…」
ダメ、言葉にしちゃ。
ポロッ…
「あ…」ほら、また泣いちゃった。
その時、風が強く吹きました。
風は私の頭からわら帽子をさらって、どこかへ連れて行こうとしました。
「待って…!」
走ったとたん、世界がひっくり返りました。
ごろ、ごろ、ごろ、ずしゃっ
「いたた…」
そこは草むらでした。堤防で転んで、草むらに落ちて。
ほんとに私、何してるんだろう…。
伝えたい事も伝えられなくて。追いかける事もできなくて。私は、私は…
「……ぅ、ひっく、うっ…」
また、涙。私、こんなに泣き虫じゃなかったのに…。

空が黒くなっていって、風もやんできた時。
最後の残り光で生まれた影が私の上に落ちました。
「大丈夫か、弓塚?」
その声は私の頭の上から唐突に聞こえてきました。
「えっ…」
私はうつむいていた顔を上げました。
そこにその人はいました。いつもと同じように。いつものままで。
「遠野君…」
「堤防の下でだれかが泣いてるから、来てみたんだ。そしたら…」
「え?あ…」
そこで私は気づいて、目頭をゴシゴシこすりました。
遠野君には、遠野君にだけはこんな顔見られたくない…。
そしてもう一回遠野君を見た時、気づきました。遠野君が持ってるそれは…
「…遠野君、その帽子は?」
「ああ、さっき川辺で拾ったんだ。…弓塚のか?」
「う、うん…」
「そうか、じゃあ、はい」
そう言うと遠野君は私の頭の上にわら帽子を載せてくれました。
…あっ……。
「弓塚、大丈夫か?立てるか?」
「う、うん、平気……痛っ!」
立とうとしたら、足首がひどく痛みました。見てみたら、少し腫れていました。
「………」
無言だった遠野君がしゃがんで背中を見せました。
「病院へ行こう。立てなかったら、乗ってくれ」
「え…と、遠野君。そんな…」
「……痛いままだったら、夜、ぐっすり寝られないだろ?」
「………そう、だね」

136(編集人):2002/11/01(金) 04:28
(4)
そうして、私は遠野君におんぶしてもらって病院に行きました。
堤防の上には私たち二人だけ。遠くの空には沈んでいく夕日が見えます。
夕日がゆらゆらと揺れているようで、私たちの影もゆらゆらと揺れて見えました。
病院は郊外の病院なので、途中誰にも会いませんでした。
私たちはずっと無言でした。
私は遠野君の広くて暖かい背中で、安心して目を閉じているだけで、
遠野君はというと黙々と足を運ぶだけでした。
けれど。この時間は、とてもとても大切な時間として心の引き出しにしまうつもりです。

病院に着いたら、私は遠野君にありがとう、といって帰ってもらいました。
遠野君は、付き合うって言ってくれたけど、
遠野君にこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないから。
 ”私は大丈夫だから。また明日学校でね”
 ”うん。じゃあな、弓塚。また明日”
そうして遠野君は帰っていきました。
私は遠野君の背中をずっとずっと見つめていました。

 …また。また、遠野君は私を助けてくれた…

夜。家に帰ってきた私は食事もそこそこにベッドで横になりました。
今日はいろいろな事がありました。
もう寝てしまう事にします。
遠野君と約束したから。また、明日学校で、って。
約束を守るために、早起きしなくちゃ。
学校へ行って、遠野君と挨拶を交わして、少しお話しして…。
とりあえずは、そこから。
おやすみなさい、遠野君…。
(おわり)

137(編集人):2002/11/01(金) 04:29
『(さっちん小祭り)』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)7時18分。
ROUND3.923レス目「七死さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

外部リンク型。このURLはSSコーナーにつながっています。
ttp://www16.u-page.so-net.ne.jp/zb4/fbird/satuki/index.html

138(編集人):2002/11/01(金) 04:30
『Dry?』乾一子・支援
2002年7月17日(水)13時49分。
ROUND3.932レス目「七死さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/dry_1.htm

139(編集人):2002/11/01(金) 04:31
『ともだちのおねーさん』乾一子・支援
2002年7月17日(水)13時49分。
ROUND3.932レス目「七死さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/one_1.htm

140(編集人):2002/11/01(金) 04:33
『男の甲斐性』乾一子・支援
2002年7月17日(水)13時49分。
ROUND3.932レス目「七死さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

外部リンク型。
ttp://www5d.biglobe.ne.jp/~sini/SS/kaisyou.htm

141(編集人):2002/11/01(金) 04:34
『日陰の夢』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)21時52分。
ROUND3.949レス目「はね〜〜」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

142(編集人):2002/11/01(金) 04:35
【日陰の夢】


 俺は遠野志貴。遠野家の長男で高校2年生、のはずだった。つい1ヶ月までは……全てはあの日に遡る。そう、全てが変わったあの日。
「志貴君、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
 そう。俺にとっての大事な約束をした日。
「ちょっと、昔の事を思い出しててね」
「ねえ、志貴くん……あのときの事、後悔してない?」
 もう何回聞いたか分からない質問。そして、いつも同じ俺の返答……。
「他の全てを後悔しても、あの時の事だけは後悔しないよ」
「うん……ありがとう。今、すごい大変だけど、でもつらくないよ。側に志貴君がいるんだもん」
 それは俺にとってもそうだ……他には何もいらない。
 俺は君のために他の全てを捨てたんだから。
「俺も、弓塚さんがいれば……」
「もう! 一体いつになったら私のこと『さつき』って呼んでくれるの? もうかなり長い間一緒にいるのに!」
 俺はいまだに弓塚の事が名前で呼べずにいる。慣れというのは恐ろしいものだ……でも、正直名前で呼ぶことに何と言ったらいいのか、理由をうまくはいえないがまだ抵抗がある。
「ごめん。どうにもまだいまいち慣れなくて。まあ、時間は無限に有るんだからゆっくり行こうよ」
「うん……そうだね。でも、はやく名前で呼んで欲しいなぁ」
 そういって上目遣いに僕のほうを見る。どうにも俺は弓塚に、こういう目で見られるのが弱……。
「って、弓塚さん! 力使ってない?」
「あはは、冗談。でも志貴君のほうが力、強いんだからあんまりきかないでしょ?」
「もう……」
 吸血種と呼ばれる存在にはいろんな力がある。その内の1つに自分の目をみた相手の意志を一時的に操る『魔眼』という能力もそのひとつ。でも、元は俺も弓塚も人間だからそんなに大きな力ではないけど。

143(編集人):2002/11/01(金) 04:36
「弓塚さん、そんなことよりそろそろ夜だよ。気は進まないけど行かないと」
「あ……うん」
 そして、元は人間だったものが吸血種になった場合は……生き続けるために人間の血を吸わなければならない。そうしないと体が急速に崩れて生きていけなくなるのだ。
 かくいう俺も他人の血を吸うのが嫌で最初は我慢しようとしたけれど。あれは耐えられるなんて次元のものじゃなかった。
『食事なんて言えば聞こえはいいけど、早い話が人殺しに行くんだよな』
 そう俺は考えずにはいられなかった。
「でも、もうすこし経ってからの方がいいよ。まだ明るいもん」
 弓塚の言うとおりだ。結局、俺達はその間寝る事にした。でも、俺はあまり寝るのが好きではなくなった。夢で見るものは大抵いつも悪夢なのだから……。
 屋敷のみんなは一体どうしているだろうか。前に住んでいた街から遠く離れて別の国に来てから、秋葉や翡翠、琥珀さんの事はもう俺にはさっぱりわからない。
 やっぱりみんな、俺はもう死んだと思ってるんだろうか? そんなことを考えているうちに俺はいつのまにか眠りについていた……。



『弓塚さん俺の血を吸ってくれていいよ』
『えっ……志貴くん? ……本当に……いいの?』
『いままでその為に追い掛け回していたのに、どうしてここで遠慮するかな、弓塚さんは』
『だって、そうだけど、そうしたら志貴くんは……』
『いいんだよ。これで今度こそいつでも君を助けられる』
『志貴くん、志貴くぅん……私……わたしっ!』
『これで、ずっと一緒だ……弓塚さんずっと寒いっていってたけど2人なら寒くないだろ……』
『うん……』

144(編集人):2002/11/01(金) 04:37
 シキく……ん……志キくん……志貴君……
 誰かが俺を呼ぶ声で目が覚めた。
「ん、弓塚さん? ひょっとして、もう時間?」
「志貴君、泣いてたよ……どうしたの、何かあったの?」
 そっか。俺は不覚にも夢の中で泣いてたのか。
「懐かしい夢だったよ、あの時の……」
「そうだったんだ……」
 そう、君以外の全てを捨てたあの日の事。あの日からかなりの時間が経ったのに、俺は今でもよくこうしてあの日の夢を見る。
「でも、不思議だよね。あれから私たち結構多くの人の血を吸ってるけれど、誰も私達みたいにならないから。やっぱり本に書いてあるとおりだったのかな……」
 あのあと、俺達2人は色々と吸血鬼について調べてみたのだが、普通は噛まれた上で血を送られたからといって必ずこうなる訳じゃないらしい。事実俺達に血を吸われた大抵の人間はそのまま死んでしまうか、あるいはただの知性を持たない人形となってしまった。
 仮にそうならないとしても、俺や弓塚みたいに一気に力のある吸血鬼までいくのは数百万人に1人くらいらしい。全然うれしくないが。
「だろうね……だとすると俺達は凄い確率の上でこうやって一緒に話してる事になるんだろうね」
「そうかな? 私の場合は単なる偶然かもしれないけど、志貴君の場合は違うんじゃないかな……何かしら人と違う力をもとから持ってる人の場合こうなる率は違うような気がするよ」
 そうだ、俺には前から人の死が黒い点や線のようになって視える、という力がある。その力は今でも……うっ!!
「ぐ……ゴホッ!」
「あ、志貴くんっ!!」
 どうやら、派手に血を吐いたようだ……まったく、少し血を採らないだけでこうなるってのは……
「あんまり話してる場合じゃないよ志貴君、そろそろいった方がいいよ! でも大丈夫……? 私1人で行ってこようか?」
 冗談じゃない、俺はもう二度と君を一人にしないって決めたんだ……第一、ここまで弓塚に人をひきずって来させるわけにも行かない……今の彼女なら簡単にできるだろうが、そんな光景俺は見たくない。

145(編集人):2002/11/01(金) 04:39
「大丈夫、これくらい全然なんともないよ。じゃ行こうか……」
 そう言って、俺は無理矢理に笑顔を作って立ち上がる。
「あ、うん……」
 不安げな弓塚の表情は変わらなかったけれど……そうして俺達は夜の街に出た、獲物となる人間を狩るために……。


 ゴキンッ!
 首の折れる音はいつ聞いても嫌な音だ。目の前にはさっきまで助けをこうていた女性が死んでいるし、横にはさっき殺した男の死体が転がってる……。
 もう何十回と繰り返してきた光景が目の前に広がっている……そうして血を吸い尽くした後にはさっきまでの体の痛みは嘘のように消えた。
「終わったよ……」
「うん、こっちも」
 俺が4人、弓塚が3人……全部で7つの血を抜かれた死体が転がっている……抵抗しようとした者も
いたけど俺達に敵うわけがない。
「志貴くん、痛みの方は?」
「大丈夫、すっかり消えたよ……」
 既に罪悪感なんて非常に薄くなってしまっている。もし、毎日肉や魚を食べる度にいちいち罪悪感なんて覚えていたら気が狂ってしまうに違いない……多分それと同じ事なのだろうか。いや、それともこんな事を考えてる時点で既に俺は狂ってるんだろうか。
「よかった……じゃあ志貴君、そろそろ帰ろうか。ここにいても寒いよ」
「ああ、そうだね」
 そうして俺達がここから立ち去ろうとした時に、何か強烈な悪寒を感じた。
「誰っ?」
「誰だ!」
 2人共同時に振り返る。そこには、神父のような格好をしてそれでいて巨大な剣のような物を携えた女の人が立っていた。

146(編集人):2002/11/01(金) 04:40
「こんな近くに来るまで気配がわからなかったなんて……あなた誰っ!」
 確かに弓塚の言う通りだ。並みの野生動物なんかよりはるかに気配に関して鋭い俺達にこんな近くまで存在を気づかせないなんて……
「吸血鬼同士が行動を共にしてるなんて、珍しい例ですね。でも、そんな事どうでもいい事です。汚らわしい吸血鬼よ、滅びなさい!」
 いうが早いか、いきなり巨大な剣のような物がこっちに向かって何本も飛んでくる。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
 いきなりの攻撃をなんとか避けたものの、そのせいで弓塚と離れてしまった。
「くっ、何よ、いきなり出てきて!! そんなに死にたいんなら殺してあげるわよっ!!」
 そう言い捨てて、力を解放して使い魔をはなつ弓塚。
「遅いですね……」
 そうつぶやいたかと思うと……正直見ていて俺も信じられなかったが女は弓塚の使い魔の攻撃を簡単
にかわした後、いともあっさりと切り伏せた。
「うそ……」
 まずい! 弓塚、呆然としてる場合じゃない!! 逃げるんだ!!
「死になさい……」
 くっ、させるかっ!!
「弓塚さん、後ろに飛んで!!」
 叫んで、俺は出せるだけの力を出して衝撃波をあの女にぶつけた。
「うっ……」
 まともに食らって吹き飛ぶ女。そして、思い切り壁に叩きつけられる。流石にあれだけ激しく叩きつ
ければ生きてはいないだろう。って、そんなことどうでもいい!
「大丈夫か、弓塚! 怪我は無いか!」
「うん、大丈夫だよ志貴君……。でもこんな時くらいは……さつきって呼んで欲しいな」
 よかった、大丈夫みたいだ。でもさっきの女は一体……。
「!! 志貴君、あれ!」
 どうしたんだろう、弓塚が震えている。そして、俺が後ろをふりかえった時。

147(編集人):2002/11/01(金) 04:41
 どうしたんだろう、弓塚が震えている。そして、俺が後ろをふりかえった時。
「! そんな馬鹿な……」
 そう、確かに即死するだけの勢いで叩きつけたはずなのに、あの女は傷すらなくそこに立っていた。
「個々の力はそれほど大きくもありませんが、連携されると少しきついですね。仕方ありません、一旦出直しましょう」
「あっ、待ちなさい!!」
 ものすごい速さで弓塚さんが間を詰める。けれど、それを軽くよけると、女は夜の街へと俺達よりも速く走っていく。
「次は必ず殺します……」
 最後に俺達の方を見る女の目は氷のように冷徹だった。
「いいよ弓塚さん、追わなくていい……追いつけそうにないから」
 その俺の言葉に一気に気が抜けたのか、弓塚は座り込んでしまった。
「さっきの人なに……あれって絶対人間なんかじゃない。恐ろしいって……初めて感じた……」
「弓塚さん、落ち着こうよ。もうさっきの人はもうここにはいないんだから」
「だって!! 志貴くんがいなかったら……私多分最初の攻撃で殺されてた……絶対に間違いないよ、まだ体の震えが止まらないもの……」
 そういってまだ座り込んだままの弓塚は見ていて気の毒なくらいに震えていた。俺は、そんな彼女を抱きしめずに入られなかった。
「大丈夫だよ、俺がついてる。さつきは僕が守ってみせる……必ず」
「志貴くん……」
 そうやってしばらくいた俺達……。気がつくと、弓塚の体の震えは止まっていた。
「どう、弓塚さん、落ち着いた?」
「うん、ありがとう……でも、なんで呼び方がまた戻ってるの?」
 あ……そうか、さっきはつい弓塚の事、名前で呼んでたのか。
「あ、そ、それは……」
「うふふ、冗談だよ。帰ろうか、志貴くん」
 そして、俺達はこの場所を後にした。
 後ろにあったはずの死体は跡形もなく消えて、灰になっていた。

148(編集人):2002/11/01(金) 04:43
「でも、このままこの街にはいない方がいいな」
「うん、そうだね……」
 寝床に戻ってきた僕達はそんな事を話していた。
 俺達は本来やろうとさえ思えば血を吸ったあとに、自分の血をわずかでもいいから送り込む事によって自分の意のままに操れる人形を作る事が出来る。そうすれば、俺達が直接動かなくてもその人形が吸った血を力に代えて本体に送らせる事が出来る……けれど。
 前に試しに何度かやった事があるけれど、あまりにひどすぎる気がして……結局やめにした。でも、やっぱり俺達が直接動くとあんな教会の連中がたまにやってくる。以前は返り討ちにしたけれど。
「でも、前の人と違ってあの女の人……なんであれで死なないの?」 
 そうだ、確かに俺は軽く即死するくらいの力で叩きつけたはずなのに。
「見てたらわかるけど、志貴君、本気であの人に力ぶつけてた……志貴君、私より魔力強いのに……じゃあ……私達じゃあの女の人に勝てないの……」
「いや、なんか違うような気がする」
 そう俺はつぶやく。けっして慰めとかじゃない。確かにあの時あの女は『死んだ』はずなんだ。人の死が視える俺にはわかる。
「考えられるのは、1度死んだ後にものすごい速さで蘇生した、という事だろうか」
「ええっ! そんな私達でも出来ないような事、無理だよ!」
 そう、吸血鬼にだってそんな事は出来ない。でも考えられるのはそれくらいしか……。
「いずれにしても、この街は今日にでも離れよう。夜明けまでにはまだ時間もあるんだし」
 夜が明けてからの行動は俺達にはほとんど自殺行為に近い。だから、動くなら今のうちだけだ。幸い200キロくらいなら本気で走れば1時間も経たずに着く。
「うん。だけど……あ〜あ、結構このお城気に入ってたのになぁ」
 俺達がいたのは中世の古城だった。かなり汚れてたのを、掃除の為に2人で力をフル動員させて綺麗にしたのが少し前。
「どうせあちこちを転々とするんだから又戻って来れるって」
「うん。その時は2人でまた大掃除だね」
 今度、戻ってくるときも必ず2人で戻って来れるように……声には出さなかったけれど、俺はそんな事を考えてこの城を後にした。きっと弓塚も同じ気持ちだっただろう……声に出さなくてもそんな彼女の気持ちがその横顔から伝わってきた。

149(編集人):2002/11/01(金) 04:44
『起きなさい』
『ん?だれだ!』
『お前達吸血鬼は不浄の物……消え去りなさい……』
『何だ、お前は誰だ! 断りなく人の夢に出てきて何を……』 
『どこに行こうと、お前達に安息の場などありません』
 そういって振り向く声の主…
『お前はあの時の女神父……』
『人を殺しその血をすする悪鬼よ、お前達の存在は悪そのものです』
『うるさい!お前に俺達の何がわかるって言うんだ!!』
 何だ……何かを手に持ってるように見える……あれは一体なんだ?
『すぐにあなたもこんな風にしてあげますよ』
 そして、手に持ってる物を投げつけてくる。
 それは確かに……俺の愛する弓塚さつきの首だった。



「さつきーーーーーーっ!!!!」
「志貴くんっ!!」 
 そして、お互いに相手の叫び声で目が覚めた。
 でも、本当に夢、だったのか? まるで現実のような。
「志貴君! しきくんっ!!」
 力いっぱい全身でしがみついてくる弓塚。
「志貴くん……本物だよね……生きてるよね……幻なんかじゃないよね……」
「ああ、本物だよ……」
 そういって俺も離すまいとぎゅっと弓塚を抱きしめる。
 どのくらいそうしていただろう……小声で弓塚が話しかけてきた。
「ねえ、私もの凄い嫌な夢を見たの」
「それは奇遇だね、俺もだよ」
 ひょっとして……同じ内容なんだろうか。

150(編集人):2002/11/01(金) 04:45
「志貴君の方は一体どんな内容だったの?」
「俺から先に話していいかな」
「ううん私から先に話させて」
 お互いに譲ろうとしない……こんな事は珍しい。
「じゃあ2人一緒に話そうか」
「うん……」
 そして、俺達はせーので、話をした。
「志貴君があの女の人に殺される夢」
「弓塚さんがあの女神父に殺される夢」
 台詞のほとんどがかぶった。
「やっぱり弓塚さんも……」
「志貴君も同じ夢……」
 もう、間違いない、これはただの夢じゃない。
「これは絶対に、あの女神父が悪意をもって俺達の意識に入ってきたんだ」
 聞いたことがある。相手の手がかりさえあれば、力のある者ならその相手の意識に入れるって事を。
「あの女の人……ううん! もうあの女でいいよね!! なんでこんなひどい事!」
「これはすぐにでもここにもくるね、確実に」
「でも、なんでこんなに早く私達の場所がわかっちゃったんだろう」
 そうだ、普通はこんなすぐに場所がわかるはずがないんだ。
「いくら強い力があったって、なにかたどる物がない限りこんな事はできないはずなんだけど……」
「ああーっ!!」
 急に何かに気づいたように大声を上げる弓塚。
「ど、どうしたの弓塚さん?」
「ごめんなさい、志貴くん。私、その、使い魔の体戻すの……忘れてた」
「あ」
 そうか、使い魔っていっても、元は弓塚の体の一部。そっからたどったんならこれだけ早くばれるの
もうなずける。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「いや、気にする事はないよ。どうせほっといてもいつか見つかったんだし」
 教会の連中ならどうせどうにか方法を見つけていつか追ってきただろう。早いか遅いかの違いだから別に弓塚が気にすることでもない。この場合早くなっても、こっちになんら影響があるわけじゃないし。

151(編集人):2002/11/01(金) 04:46
「しかし許されないな、これは」
「う、うん。そうだよね、私のドジのせいでこんな事になっちゃって……」
 いや、だから違うって。そんな落ち込まないでくれよ。
「弓塚さんを夢の中とはいえ殺すなんて絶対にただじゃ帰さない……」
 あの女、俺を本気で怒らせたな……
「あ……うん!! 志貴君を殺したあの女、絶対に殺してやるんだから!!」
「まあ、夢の中の話なんだけどね……」
 お互い、夢で自分が殺された事はどうでもいいらしい。でも、これで普通に使う気になった……死が視える、この力ならあの女でも耐えられないだろう。
「来るなら今夜、だろうね。むこうとしては可能な限り早く終わらせたいだろうし……」
 時間があけば空くほど死ぬ人間が増えるんだ、当然だろう。
「大丈夫よ、志貴君。本気になった私達の力、思い知らせてあげるんだから!」
 あ、弓塚も本気で怒ってるよ。
「今は7時くらいか。結構長い間寝てたんだな……」
 もう、日の光もほとんど沈んでいる。外に出てもなんら問題ないだろう。
「それじゃあ、今のうちに出よう、志貴君。せっかく綺麗にしたこの家を壊されるのもしゃくだしね」
「うん、そうだね。じゃあ、とりあえず決闘にふさわしい所にでも行こうか」
 と、そこで俺はある事を思い出した。
「弓塚さん」
「ん? どうしたの、志貴君」
 そう、2度と約束を違えたりしないように……その決心をこめて俺は言った。
「君がピンチの時は僕が守るからね、安心していいよ」
「あ……うんっ!」
 そうして、俺達は決着をつける為に人気のいない原野まで向かった。

152(編集人):2002/11/01(金) 04:47
そして、待つ事3時間くらいして。
「やっと来たわね……寒いんだからもっとはやく来なさいよっ!!」
「まったくだね、さっさと終わらせたいもんだよ」
 多分、俺達をこれだけ怒らせたのは目の前にいるこの女が初めてだろう。にしても、弓塚がこんなに怒るとは思わなかったけれど。
「おまえたちの都合など、私の知った事ではありません。それにしても以外でしたね……こんな風に、そっちから現われるとは思いませんでした。人質でも取って来る位予想してたんですけどね」
「あ、あのねぇっ!! 私達は、あなたみたいに陰険じゃないわよっ!」
「人を殺して血を吸う化け物に陰険などと呼ばれたくはありませんね」
「う……」
 その言葉に言葉をつまらせて悲しそうな顔をする弓塚。その顔が俺には痛かった。
「いい度胸じゃないか……俺達を甘く見た事、後悔させてやるよ」 
「後悔するのはお前達の方です。今日はこれをもってきましたから」
 そういうや、背中から大きな銃のような物を取り出す女。
「なんなのよ? そのへんな武器?」
「第7聖典、速射可能に改良したもの……といってもお前達にはわからないでしょう……これ以上の話は無意味です。死になさい!!」
 すると、いきなり後方にとんで、弾を撃ってくる!
「うわっ!」
 弾は俺をかすめて後ろにぶつかる、しかし……なんで弾がぶつかった後に聖書になって消えるんだ?
「無茶苦茶だな、はっきり言って」
「お前達の存在の方がよっぽど異常です」
 かまわず、連射して撃ってくる。はっきり言って避けるのもきつい。
「志貴君! あんなのにまともにあたったらきっと……」
 そんな事、言われなくてもさっきからわかってる。本能がずっと悲鳴を上げてるんだから。くそ……せめて単発撃ちだったなら何とかなるのに、これじゃあ相手の懐にすら入れそうにない。
「考え事してる場合ですか」
 その時、一瞬の隙をついて1発がこっちに飛んでくる。
 まずい、このタイミングだと避けられない……それでも、とっさに俺の周囲に気を張ってはじき返そうとしたというのに。

153(編集人):2002/11/01(金) 04:48
ボンッ!!
 間に何もないかのように無視して突き進んだ銃弾は、あっさり俺の左腕を吹き飛ばした。
「う……うああああっ!!」
「このっ、よくも志貴君を!!」
「だ、駄目だ不用意に近づいたら……」
 銃を構えなおすと素早く弓塚さんにむけて引き金を引いてくる。
「きゃぁっ!!」
 かわしきれずに、弓塚の右足に思いっきり突き刺さった……。
「弓塚ーーっ!」
「やれやれ、思った以上にてこずりましたね。それじゃあ、先にこの女のほうから……」
「くっ、させるかぁぁっ!!」
 この間以上の、最大の力で力をぶつける。
「その程度では不意さえ討たれなければ、どうということはありません」
 しかし、女神父は微動だにしなかった。
「そ、そんな馬鹿な……」
「でも、あなたの力の方が強いみたいですし、先にそっちを片付けましょうか……」
「志貴君、逃げてーーっ!! 今なら志貴君の足なら逃げられるから!」
 悪い冗談だ弓塚。そんな選択肢最初からないよ……。
 その言葉を鼻で笑ってゆっくりとあの女はこっちにやってくる。
「ずいぶん、美しいことですね。同情する気などありませんが」
「あんたなんかに同情してもらいたいとは思わないさ……それにしてもやけに余裕があるじゃないか……窮鼠猫をかむって……聞いた事ないか?」
「いくら噛もうと、私には効きませんよ。私は死なないんですから。死ねないといったほうが正しいか
もしれませんが」
 やっぱり思った通りだな。けど、そのあんたの油断をついてやるよ。
「何か最後に言い残す事は?」
 恐らくチャンスは一度だけ、あいつが銃を発射する瞬間……それを逃したらもうチャンスはない。
「そうだな、一太刀もあびせずに死ぬのは嫌だからせめて1度くらいは切りつけたいもんだ」
 そして眼鏡を外す俺。あいつの死の点は……心臓の少し上!!
「無駄な事を……好きなだけやって下さい。それでは、さようなら」
 そういって、あいつは引き金をひこうとする。

154(編集人):2002/11/01(金) 04:49
今だ!! ここしかない!!
「うぉぉーーーーーーっ!!」
 ドォォーン!!
 トスッ。
 大きく響く銃の音。そして、静かにこっちの爪が刺さる音……狙いは寸分違わず、死の点を貫いていた。そして、銃弾は俺の腹にまともに突き刺さっていた。
「え……」
 手にもっていた銃を取り落とす女。
「なぜこの程度の傷で……」
 ひざを折って地面に倒れこむ。
「いっただろ、窮鼠……猫を……かむって」
 そのまま、女は動かなくなった。2度と動き出す事はないだろう。
 終わった……。ん、なんだろう、なにかを引きずってるような音がするな……。
「志貴君、しきくんっ!!」
 ああ、さつきか。よかった、きみだけでも無事で……。
「ねえっ志貴君!! 目を開けてよっ!! もう、終わったんだよ!!」
「さ、さつ……き……」
「志貴くんっ!!」
 いけないな、そんなに涙を流して……。そんなに泣いてると、きれいな顔が台無しじゃないか……。
「よかった……危なくおれは……に、二度も……約束を破る……ところだったよ」
「約束なんかいいから!! 志貴くぅん……ねえ、お願いだから大丈夫って……何ともないって言って一緒に……いっしょに帰ろうよ……」
「今度はいえの外も……なおしたいな……」
「うん……うん!! だから!」
 あ、そういえばもう城の方に帰れるんだから別に、直さなくてもいいのかな。
 でも……俺はちょっと無理みたいだよ、残念だな……
「ねえ、冗談なんだよね……私を驚かせようと……してるだけなんだよね、ねぇ……」
「あはは……だんだんさつきの……かおが……みえな……く……なる……よ……」
「こ、こんな時だけさつきなんて呼ばないでよ! ねえ、志貴くん、私を……一人にしないで……」
 ああ……そういえば、さつきの泣き顔を見るのって……初めてなんだ。
「志貴くん!! しきくん!!」
 そして……俺の風景はゼロになった……。

155(編集人):2002/11/01(金) 04:50
『ここは、どこだ?』 
 真っ暗でなにも見えない。
『誰かいないのか?』
 さつきは、さつきはここにはいないんだろうか……。
『ここにいるのは君だけだよ』
『誰だ?』
『僕だよ……』
 そこには少年がいた。どこかで会ったような気がする少年だ。
『僕は君だよ……そして君は僕だ』
『何だって!?』
 訳がわからない……何を言っているんだ?
『遠野志貴、そう呼ばれる前の君だよ。まだ七夜だったころの僕だ』
 あ……どうして俺は今までそんな事も忘れていたんだろう……。
『僕は6年前に死んだ、死んだことになったんだ』
 そうだ、それも知ってる。
『そして、遠野志貴はついさっき死んだ』
 死んだって……そうなのか。
『でもね……君がそして僕が望むのなら何とかならない事もないよ』
『そんな事ができるのか? 一体どうやって……』
 この際、方法なんてなんだっていい。ひとつでも方法があるんなら……。
『七夜志貴でもなく、遠野志貴でもない。ただの志貴として生きる事だよ』
 それは……わからない。どういう事なんだ、それは。
『君には、そして僕にはまだ未練があるんだよ。いや、僕のほうにはあまりないけれど、君の方にはか
なりあるね』
 訳がわからない。
『つまり、遠野志貴という存在だったときの未練がまだ君にはかなりあるんだ。妹の秋葉のこと、翡翠や琥珀のこと。そうじゃないかい?』
 そういうことか……。

156(編集人):2002/11/01(金) 04:51
『それらを全て捨ててでも戻りたいかをもう1度君に、そして僕自身に聞きたい、そう思って僕はここに来たんだ』
『もし、お前が俺自身なら……そんなの聞かなくてもわかってるだろう……』
『そうだね、わかってる。でもあえて僕は聞きたい。僕と僕達自身のその思いの強さをもう1度確認するために……』
 そうか、そうだな。
『決まってるさ、そんな事。僕は全てを投げ捨ててでも、さつきの、弓塚さつきの為だけに、あの世界に戻りたい』
 決まりきったはずの答え。でも、少し前の俺だったらもしかすると迷ったのかもしれない。でも、今この瞬間、俺には一片の迷いも無かった。
『そうか……良かったよ。それじゃあこれでさよならだね』
『待ってくれ、ここは一体どこなんだ?』
『君、そして僕そのものだ、とでも言っておくよ。それじゃあ……』
 急に世界が真っ白になった。そして……


「志貴君、志貴君っ!!目をさましてよぅ……お願いだから……」
 俺が目を覚まして最初に見た物は……さつきの泣き顔だった。
「さ……さつき……」
「しきくんっ!!」
 どうしたんだろう……さつきが随分ふらふらしているように見える……あれ?
「どうしたんだ、その手首は……」
 手首には、なにかで切ったような傷があって……服は血だらけだった……
「なんでもないよ、これくらい……それより志貴君、動いちゃ駄目……だよ」
「おねがいだ、さつき。教えてくれ」
 俺には、何が何でもさつきに聞かなければいけない気がした。

157(編集人):2002/11/01(金) 04:53
「ただ志貴君に……私の血をのませただけだから……」
「!!」
 確かに……俺はさつきの血が入って吸血鬼になった。だから……さつきの血を大量に飲ませれば蘇生させられるのかもしれない。
 考えは間違ってはいない……けれど……どれだけの量が必要かもわからないし、成功するかどうかも全然わからないっていうのに……
「ばか……一歩間違えたら、さつきも死んでたかもしれないだろ……」
 そんな事になったら、何のために助けたのかわからないじゃないか。
「でも……でも志貴くんがいなくなるなんて……考えられなかったから……そんな事になるくらいなら……私が死んだ方がいいから……」
「大馬鹿だよ……本当馬鹿だ、救いようがないくらい……」
「ひどいよ……志貴君……」
 どうやら怒りたかったらしい……でも、その顔も涙で崩れてしまってる。
「こんな馬鹿な女の子……俺くらいしか欲しい奴なんていないだろうな……」
「うん……私は志貴くんだけのものだよ……」
「さつき……」
「し……しきくぅん……」
 そして、俺達は力強くお互いにキスをした……どんな事があっても二度と離れる事のないように。



「ほら、志貴君、ぶつぶついわない!!」
「だって、弓塚さん……もうここは離れるんだから外観なんか直さなくても」
「駄目!! あの時直すって約束したんだから」
 で、結局……全快したあと、俺達はもうすぐ離れる家の外を直している。しかも手作業で。なんだかなあ、絶対に意味無いと思うけど。
「それに! また、『弓塚さん』なんていってる志貴君には、これくらいやってもらわないとね!」
 ぐう……しかし、前と今とではもうその台詞の意味は違うんだ。今、面と向かってさつきと呼べない訳はただ……照れくさいだけなのに。
「もう、志貴君! ほら、作業作業!」
「はいはい、今やりますよ」
 俺達はこうやってずっと同じ道を2人3脚で歩いていくんだろう。
 これまでも、そしてこれからもずっと……。
 屋根を直しながら……俺はいま、この瞬間の幸せを体全体で感じていた。これからどうなるのかはわからない。きっと多くの困難もあるだろう。
 でも、2人一緒ならば例えどんな事でも乗り越えられると……俺達は信じている。



 日陰の夢      完

158(編集人):2002/11/01(金) 04:55
『さっちん支援SS③』弓塚さつき・支援
2002年7月17日(水)22時25分。
ROUND4.10レス目「七視さん」様によって投下。
 乾一子   (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

159(編集人):2002/11/01(金) 04:56
さっちん支援SS③

最初は、何を言っているのか理解できなかった。
ちゃんと聞こえてはいるのに、脳がその意味を理解しようとしない。
コイツは、今、ナント言ッタノダ?
「ククク……俺の力に抗うだけの意志を持っているんだしなァ。ただ殺すなんてもったいないよなァ」
殺人鬼は、よくわからない事を言ってニタリ、と笑った。
その眼は、何か、得体の知れない期待に色付いていた。
私は、その妖しい輝きを放つ瞳に、言いしれない恐怖を覚えた。
それは、これまでの恐怖とはまったく違った種類のものだった。
「ひ―――」
それでも、私の喉からは引きつった音しか出なかった。
それを聞いて、殺人鬼はますます楽しそうな顔をする。
「そう怖がるんじゃねェよ。これから、すげーキモチイイコトしてやるんだからよ」
ぐいっ、と体が引き寄せられる。

―――全身が怖気立った。

首筋から言い表しようのない嫌悪感が溢れ出した。
舐められている―――!?
そう気付いたのはもう一度舐められてからだった。
もうそれだけで、身体中が汚された気分だった。
そして、これから行われる陵辱に全身で抵抗した。

いや―――

いやだ―――

いやだ――――――!


「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


その瞬間、頭の奥がスパークした。
視界が一瞬にして真っ白になる。
私は死にもの狂いで『突き飛ばした』。
「ぐあっ!?」
不意を突かれた殺人鬼は、無様にも尻餅をついて倒れた。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
動いた―――?
さっきまでまったく動かなかった体が、急に思い通りに機能するようになった。
「―――っのアマぁ!」
驚いている暇はなかった。激昂した殺人鬼が憎悪の視線を向けてくる。
今度こそ逃げなくては―――
そう思って振り返った先には、絶望が立ちはだかっていた。
「ははっ。そうだよ、テメエにはもう逃げ場はないんだぜ―――!?」
「そ、そんな……」
行き止まりだった。袋小路だったのだ。
そして、その奥には―――
「ひぃっ!?」
もはや男か女か判別できないほどにバラバラにされた、おそらくは人間であったろう死体―――
「ひゃはははははは!!!」
殺人鬼が笑う。絶望に打ちひしがれている獲物を見て。
この世のすべてを嘲笑うかのように。

「そんなに楽しいか?殺人鬼―――」

そんな、およそこの場にはまったく相応しくないほどの冷静な声が聞こえたのは、その時だった。

160(編集人):2002/11/01(金) 04:57
『(某式乳祭り)』両儀式・支援
2002年7月18日(木)0時29分。
ROUND4.54レス目「七死さん」様によって投下。
 両儀式 (空の境界)
 スミレ (月姫)

外部リンク型。このURLは「式乳祭り」を扱っておられるHPにつながります。
ttp://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/7902/

161(編集人):2002/11/01(金) 04:58
(130)
『愛(謎)』両儀式・支援
2002年7月18日(木)18時20分。
ROUND4.88レス目「七死さん」様によって投下。
 両儀式 (空の境界)
 スミレ (月姫)

外部リンク型。このURLはHPのトップページにつながります。
作品へは「入り口」→「ぱそこん部屋」→月姫→◆SS◆→◆愛(謎)◆
という手順でたどり着けます。
ttp://www9.plala.or.jp/ntclub/

162(編集人):2002/11/01(金) 05:00
『(無題)』浅上藤乃・支援
2002年7月21日(日)17時8分。
ROUND4.395レス目「弐歳」様によって投下。
 浅上藤乃            (空の境界)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

163(編集人):2002/11/01(金) 05:02
「あ。そういえばこれの片付けを忘れたわ。どうしようかなー」

 二月になって、机の整理をしてる鮮花が一本の、パンを切る為にあるナイフ
を取り出す。それを見て、わたしは少し唖然となった。

「鮮花、どうしてそんな物を部屋まで持って来るんですか?一応、部屋での夜
食は禁止されてるはずですけど…」

「しないわよ、夜食なんか。これは式が勝手に盗んで、わたしに見破られて没
収したもの。でも流石に2本も盗んだのは思わなかったわ、あの異常者め。ま
あ、結局彼女も先生に勝てなかったからいいけど。」

 いきなり愚痴始める鮮花に、わたしはきょとんとしていた。話の経緯が全然
掴めないんですけど…

「あ。ごめんね、ぺらぺら喋ってて。ほら、去年の七月、藤乃の先輩を探すた
めにウチの兄さんに会わせようとしたじゃない。で、その人が出て、『今日は
これないとさ。すっぽかされたぞ、おまえ。』ですって。本当、腹立つわね。
藤乃も確か、式のこと嫌いとか言ったじゃないの?」

 …本当、兄や式さんのことになると性格が丸ごと変わるね、この人。

 ――去年の七月。忘れる訳が無い夏だった。ずっと何も感じないまま生きて
きたわたしが、「痛い」という感覚と、生まれつきの禁忌の能力を取り戻した夏
。わたしが、ただ「生きている」実感が欲しいから、何人も殺した――そして
、式さんと出会った。自分が殺人という罪を悦んだことを気付かせ、その眼の
力に圧倒させ、そして――

 ――彼女は、わたしを救った。

 その時は勘違いしたけど、わたしはナイフに刺されなかったらしい。腹の痛
みは腹膜炎によるものだった。しかも、致死末期まで悪化していた。そんなわ
たしを――彼女を凶(まが)ろうとしたわたしを、式さんは勝利の果てに、病
気だけ「殺して」おいた。

 今思えば運が良かったかもしれない。そのあと目覚めたから、わたしは何も
感じない、不自由だが「普通」の体に戻りました。確か、路地裏の時に言った
かな。「今のおまえなんか知らない」って。最後に感覚が薄れていくのは、死
んだではなく、戻ったのか…ああ、きっと「そんな浅上藤乃なんか殺す価値は
無い。仕方ないんで、ハラん中の病気だけ殺しておいた。」とか憎めそうに言
ったんでしょう、彼女は。

 それから一度も彼女と会うことが無かった。わたしも回復したら、やたらと
平和な学園生活に戻った。

 …わたしは、罪を重ね過ぎたのに。人を、何人も殺したのに。でも、わたし
はその罰を受けず、こうして平然と生きている。

 苦しい、悲しい、虚ろしい。

 眼を瞑ると、わたしが殺した人達の最期が映る。そしてその人たちの家族や
親友、友達の悲しい顔、嘆わしい言葉が浮かぶ。どうしようもなく苦しかった
。それは多分、生きる事を感じられないより苦しいでしょう。

 しかし、わたしはこうして生きている。周りを感じれないわけではない。わ
たしは確かに生きている。殺人はこれ以上ない虚ろしいことを、式さんは教え
てくれた。言葉ではない。彼女自身、その存在がわたしにそう告げた。だから
、もう迷わない。殺人なんかもう二度としない。わたしはきっと、答えを見つ
けたんだ――

164(編集人):2002/11/01(金) 05:03
「…っと。ちょっと、藤乃?もしもーし、生きてますかー?」

 鮮花に呼ばれて、はっと我を帰す。

「あ、うん。聞いてるよ。って…なんです?」

「やっぱり聞いてなかった…もう、何一人ぼーとしてるのよ。お陰でこっちが
ばかみたいじゃない。」

 不満そうに、鮮花がぶーぶー言ってる。

「えーと…すみません…」

 とりあえず謝っておく。

「まあいいわ。式のことなんかをこれ以上触ると本当に鬱になるから。で、問
題のこのナイフ…あっ!」

 ぽろり。

 ナイフを取り出して、鮮花は手を滑った。ナイフはそのまま落ちて――

「痛っ!!」

 わたしの足を、少しだけ劃(きずつ)いた。

「あ、藤乃ごめん!」

 慌てて謝って、劃いた足を見る鮮花がいきなり透けて、わたしはここにあら
ず、どこかも知らない風景を視えた。

 そこは雨風景の不気味な倉庫。雨に打たれて、式さん、そして先輩が抱き合
っているんだ。酷い怪我を負っている、泣いてる式さんに、同じ状態の先輩は
なにかを言い出したようだ――

「…そうですか。あなたも、答えを見つかりましたね。よかった――」

「え?」

 鮮花の声と共に、その風景が靄のように消えた。同時に、先一瞬感じた、足
の痛みも。

「ううん、なにもありません。それでは、おやすみなさい、鮮花。兄さんの事
、大事にして下さいね。」

 呆然とする鮮花から離れて、わたしは、意識を落ちた――

165(編集人):2002/11/01(金) 05:04
『目覚めて、のち』浅上藤乃・支援
2002年7月21日(日)19時44分。
ROUND4.408レス目「ぴーおー」様によって投下。
 浅上藤乃            (空の境界)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

166(編集人):2002/11/01(金) 05:05
「目覚めて、のち」

「なんで、そんなに白いの……?」
 目覚めて、呟いた私のその声は、かすれてそれはひどいものだった。でも仕方ない、と思う。
 だってほんとに白いのだもの。世界は白と白と白しかない。瞬きする短い瞬間だけ、黒色が少しだけ混じる。そんな世界。
「なんの、白さなんでしょう……?」
 今度の呟きは、少しましな声になっていた。けれど、胸が痛くて、私は咳き込んだ。
咳をすると、お腹の辺りが痛くなって、目を閉じてうめいてしまった。
 痛い。
 痛い。
 イタイ?
「い、たい……」
 痛みがある。お腹と、胸と、頭の奥の方が、痛い。それはとても確かなこと。
 なんとなく、胸が変な感じになった。よく、説明できない感じだけれど不快な気分ではない。懐かしいような、わくわくするような、そんな感じ。

 私は、痛みを感じることを、嬉しく思いました。それがいいことなのか、悪いことなのか、
 そして――誰のおかげなのか――はさておき。

 見ると、視界は白色ばかりではなくなってきた。白い色にはシミがあったりで、完璧ではなかった。横にはゴチャゴチャと沢山のなにかもある。ピン、ピンと電子音が鳴る機械もある。
「ああ、そう……ここは病院なのね」
 そして私はようやく全てを思い出した。罪の意識と罰の重みとともに。
 罪、それは殺人。罰、それは枷。
 私は人を殺してしまった。何人も殺してしまった。あまつさえ忘れていた。それは世間一般で許されざるべき。
 けれど、とも思う。それは両儀式に殺されて、私という存在といっしょくたになって全部消えてしまったのでは?

167(編集人):2002/11/01(金) 05:07
突然、不意打ちのように腹部の痛みが高鳴った。
「ぐ、……あぅ、あ、ぅ……くぅ……」
 身動きさえ取れない私はただうめくしかなかった。体を丸めて転げ回ることもできない、ただ寝たままで痛みに耐えなければいけない。とても苦しい。清々しいまでに苦しい。
 はぁはぁ、と吸って吐く息は笛みたい。痛みはしばらくして薄まっていく。私は布団の下で全身がじんわりと汗ばんでいるのを感じた。
 こんなに痛いのは、両儀式のことを思い出したから。やっぱり、私はあの人が嫌い。初対面の時以上に私はあの人が、今では嫌い。

 あれ?

 そういえば、私は両儀式に胸を貫かれたというのに、

――どうして呼吸をしてるのだろう?
 
 
 まさか両儀式が手加減をした、ということはないと思う。そんな生易しいことをする人ではないことは、殺し合った当人の私が一番よくわかる。きっとヒドクたやすく私の胸にナイフを捻じ込んだに違いない。
 じゃあ何かの偶然で助かった? 死ぬ間際に違う誰かが私のことを救ってくれたのかもしれない。あの状況では限りなく可能性は低いけれど、ありえなくはない。
 
 私はベッドの上で、時折襲ってくるもどかしい痛みを感じながら、漠然とそのことについて考え続けた。
 けれど答えがでるわけなく、結論の変わりに浮かんできたのは、心からの、感謝の言葉だった。
 何はともあれ、私を助けてくれた人のおかげで、まだ私は生きている。心臓が動き、呼吸し思考できる。
 つまり、罰を受けることができるということ。 
 人を殺した罰を、受けることができる。涙がでてきそうになるくらい、切実にありがたかった。
 罪は償えない。けど罰は受けることができる。
 そう、私は今こそ罰を受けるべき。罪を自覚しつつ、

 死ななくちゃ。

 とにかく、死ななくちゃ。私は色の混じる世界を茫然と見ながらそう思った。
 まずはこの場から動かなければ。なにから始めればいいのか分からないけれど、ただ寝てるだけ、それは駄目なような気がした。
 けれど、手も、足も、首も、全身のどこもかしこもズキズキと鈍い痛みがするだけで一切動いてはくれなかった。

168(編集人):2002/11/01(金) 05:08
「くぅ、か、はぅぅ……っ!」
 ビキビキ、ビキビキと少し動くだけで不気味で嫌な音が耳に聞こえる。それは体の内側から聞こえて、痛みを伴って私に動くなと警鐘を鳴らしているよう。
 けれど、痛みというのは生きてるということ。とても生きてるということ。それは私の今の目的に反する状況。

 その痛みが、逆に私を死へと動かすエネルギーへと変わっていく。

 こういう表現、皮肉というのだろうか。鮮花あたりに聞いてみたいと、痛みに悶えながら私はなんとなく思った。
 何分くらい経ったか、私は全身を痺れさす痛覚をあますところなく感じつつ、ベッドにもたれるように半身を起こした。
 普通なら、こんな病人がこんな虚弱な体で自殺なんてできるわけがないだろうけれど、あいにく私は普通な体をしていなかった。
 ベッドの脇の、棚のようなところに置いてある鏡に手を伸ばす。そのとき腕についている点滴にはじめて気付いて、妙におかしくて、私は腕を動かすだけで痛いという状況のに、声をだして笑ってしまった。
 鏡は長方形でそんなに小さくないし大きくない。ポケットに入りそうで入りきらない、というような大きさだった。パカリと、開ける。
 姿をさらした鏡面にはわずかながらホコリがついていて、私はそれを白い袖で拭いた。はぁー、と息を吹きかけ、キュッ、という音がなるまで手を動かした。
 音がなるころには曇り一つない、完璧に光を反射するそれが、見たこともないびっくりするほど血の気のない私の顔を映し出していた。
 顔色は蒼白そのもの。死人と大差ないのだから、と。鏡が自殺行為を後押ししているのではないかと、錯覚してしまいそうになった。

169(編集人):2002/11/01(金) 05:09
 死ぬことを怖い、とは何故か感じなかった。
 そもそも、死ぬということは痛みから脱皮すること。つまりは、痛みを知らなかった前の私に戻ること。

――そこに、何の、恐怖も、あるわけなく――

 ねじる。ひねる。凶げる。
 やり方は、覚えているはず。自分に試してみたことはないけれど、多分できると思う。
 念のため、練習をすることにした。ベッドの脇の、肘掛のような手すりのような乳白色の鉄の棒。
「凶がって」
 確かに固いその棒はいとも容易く二方向に捩れ捩れて、最後には千切れた。
「ちゃんと、できる」
 声に出す。勇気を出すとかそんなことではなく、ただなんとなく呟いてみただけだった。

 いつの間にか声はまともに出るようになっている。

 鏡を見入った。そこには無表情な浅上藤乃の頭部。朝にいつも見ていた眉、目、鼻に口。髪。
 でも見るのもこれで最後。私は罪を償う。罰を受ける。楽になる。
「今から、浅上藤乃は死にます」
 声に出していう。なにか、自殺するときの約束事のようなものがあったような気がした。
「あ、遺書……」
 書けるはずもない。紙とペンがあったとしてもミミズのようになるだろう。
「じゃあ、なにが……」 
 遺言。
「そう、遺言……」
 聞いてくれる人もいないのに何が遺言なのか。でも、きっと何か、私には感じることの出来ない何かはきっと聞いていて記録して残してくれる、そんな気がした。
「お母さん、先立つ不幸をお許しください……」
 ありきたりだけれど、自殺時のノウハウのありきたり以上のものを私が知ってるはずもなかった。
「そして、」

――『痛いの?』

――『馬鹿だな、君は』

――『いいかい、傷は耐えるものじゃない。痛みは訴えるものなんだよ、
 
                               藤乃ちゃん』――

「先輩……」
 昔のあの日、この前のあの時、藤乃は死んでも忘れないでしょう。好きだという気持ちも忘れないでしょう。
 好きでした。ほんとに。
「じゃあ……」
 あとは鏡に映った自分を見つめて凶がれと念じるだけ。

――ああ、藤乃は最後まで罪深いです。こんなときまで貴方に会いたいと思うだなんて。

「さようなら」

170(編集人):2002/11/01(金) 05:10
「先輩……」
 昔のあの日、この前のあの時、藤乃は死んでも忘れないでしょう。好きだという気持ちも忘れないでしょう。
 好きでした。ほんとに。
「じゃあ……」
 あとは鏡に映った自分を見つめて凶がれと念じるだけ。

――ああ、藤乃は最後まで罪深いです。こんなときまで貴方に会いたいと思うだなんて。

「さようなら」

 凶って……

171(編集人):2002/11/01(金) 05:11
そうやって私がこの世との繋がりを断つ瞬間、電子音以外は神聖なまでの静寂に包まれていた辺りは、無粋な足音で派手に破壊された。
 それと声と。
「あのー、看護婦さん! 浅上藤乃さんの病室はほんとに402号室でいいんですか? 名札に何もかいてなんですけど!」
 どこかで聞いたような声。
「あ、すいません。病院では静かに、はい。すいません」
 気のせいか、そうであるはずだった。だってここに来るわけない。

 そうは、思っても。

――コンコン
 
 もしかしたら、あの人なら、優しすぎるようなあの人なら。

――ガチャリ

「えと、黒桐幹也です。失礼します」

 先輩……

「ってなに挨拶してるんだ。おきてるわけないのに……」
 
 コツコツと、近づいてくる足音。ベッドにはカーテンがかかっていて数秒後にあの人がそれを払いのける。
 痛い。痛いです。
 体はもちろん、心は、もっともっと痛かった。そのままショック死してしまうのではないかというほどの痛み。
 痛いということは生きるということ。
 私は、あの人を感じて、こんなに切実に生を実感している。
 ああ、お母さん。私の不孝はもう少し先になりそうです。
 あの人の顔を見れば、生きたいと、思ってしまう、絶対に……
 なんて罪深い私……
 ああ、でももっと貴方という『痛み』を感じたいんです。私は。
 罰は、もう少し後でも構いませんか? 背負って、払うのは後でいいですか? 
 生きたい……
 
 シャッ、という音とともにカーテンが取れて……

「な、なんで起きてるんだ! 大手術だったのに! ほら、寝ないと、あれ、なんで涙……痛いの? 藤乃ちゃん、大丈夫?」



 はい。とてもとても、痛いです、先輩――

172(編集人):2002/11/01(金) 05:13
『湯煙でいたずら』浅上藤乃・支援
2002年7月21日(日)22時57分。
ROUND4.441レス目「ぴーおー」様によって投下。
 浅上藤乃            (空の境界)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

173(編集人):2002/11/01(金) 05:14
「湯煙でいたずら」

 かぽーん……

 私はいまお風呂に入っています。
 女学院には、お風呂が各部屋と、離れに大きな露天風呂があって、私は今その離れの露天で入浴中。
 病み上がり、ということでシスターが半ば強引という形で私をここに入れるのには、もう慣れてきた。
 けれど、
「……ふ、ぅ……」
 ため息がでるくらい、気持ちよかった。体は疲れるということにひどく敏感になって、実は日常生活にもわずかながら支障が出ていた。
 退院してからそんなに時は経ってないのだ。事実、露天風呂に入るだけで体が芯から溶けていきそうな気分になるのは、その証拠だと私は思う。 
「は、ぁ……」
 しばらく、なにも考えずにお湯につかった。長い髪は気にしていない。湯の上で四方八方に広がりをみせている。
 黒い髪は、最近少しだけ好きになりかけている。
 がらがらぁ、と。ドアが開く音が聞こえたのはそんなときだった。

174(編集人):2002/11/01(金) 05:16
「藤乃〜、貴方いいわよね。いつもここの露天風呂に入れるんだもの」
 黒桐鮮花は、ヒタヒタと石の上を歩いてきながら、溶けそうな私にそう言った。
「え、でも皆さんも入れるとばっかり」
「知らなかったの? 普通の子がここに入るには一苦労いるのよ?」
 そう言いつつ、黒桐さんは右手の人差し指をくいっ、とまげて見せた。
 正直、それが何の意味なのかよく分からなかったけれど、私はとりあえず微笑んで、再び湯をたんのうすることにした。

 そうやって、しばらく。お互い無言のまま昼間のお湯を楽しむ。少なくとも私は。
 黒桐さんの刺すような視線はあえて気付かない振りをして。
 ほんとに刺すような視線、少し痛いです。
 私は耐え切れずに、聞いた。
「あの、なにか?」
「藤乃、胸いくつ?」
「……は?」
 黒桐さんは手を、わきわき、と動かして、ゆっくりとゆっくりと、近づいて……
 
 目が、怖い、です。

175(編集人):2002/11/01(金) 05:17
「ほら、見せなさい!」
「あ、ちょっと、そんな乱暴な、ぁ」
「み・せ・る・の! 藤乃!」
「見せます、見せますから……さ、触るのは……」
 恥ずかしい、という文字が頭を駆け巡った。同姓であろうと胸を見せるというのは、非常に恥ずかしい。
 黒桐さんは、なんでこんなことを私にさせるんでしょう?
 私は疑問をかかえつつ、ゆっくりと、湯が音を立てないように、ゆっくりと立ち上がった。
 
 黒桐さんは、茫然としたような、そんな表情でしばらく私をみて、というよりにらんで口を開いた。
「美しいわね」
 おもわず、顔が赤くなった。そんなことを言われるのはもちろん生まれて初めてだった。
「それに、小さくないし……」
 胸、のことだろうか。顔をまともに向けられなかった。自然と俯いてしまう。
「綺麗な形。きっと、殿方も喜んでくれるわ」
 はっきり言って、いい加減にして欲しかった。恥ずかしすぎて、熱が出そうだった。
 だから言った。
「あの、もう……」
 黒桐さんの視線は、なんというか、変だった。

176(編集人):2002/11/01(金) 05:19
「も、」
 ……え?
「も、」
 黒桐さんの言うことは良く聞こえない。
 そして、
「揉ませなさい!!」
「えぇ!?」
 飛び掛ってきた黒桐さんを湯の中ではねのけられるわけもなく、私にいとも容易く組み付かれてしまった。
 ふに。
「き、きゃ、ぁ……」
 手が、胸に強引によってくる。まったく容赦なかった。
「大きい、大きいわね! 藤乃!」 
 声まで変だった。けれどそれ以上に私まで変になりそうだった。
 手が、私の胸を掴んだ。
「ぁぁ、ん! ぁ! だ、……め、や!」
 もみもみもみもみ。
 しつこいまでに、情け容赦なく黒桐さんの手は私の二つの胸をもみしだいた。
「ぅぅん! 、あっぁん!」
 もみもみもみっもみもみ……
「ぁぁぁ!!」
  

 延々と。

177(編集人):2002/11/01(金) 13:08
『(無題)』浅上藤乃・支援
2002年7月21日(日)22時58分。
ROUND4.443レス目「七死さん」様によって投下。
 浅上藤乃            (空の境界)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

178(編集人):2002/11/01(金) 13:09
────冷えた空気を肺いっぱいに深く吸い込んで、天を見上げる。
 眠りについた街を照らし続ける人工の灯りだけが、静まり返った公園を照らす。
 見透かすような月もなく、射抜くような星もない。
 それだけのことで、酷く落ち着いた。

 あれから──どうしようもなくひとりになりたい時は、こうして時々寮を抜け出す。
 わたしも随分と不良さんになったものだなぁ、と思う。鮮花あたりが知ったら目をむくのではないだろうか。
 動揺する彼女の姿を想像すると、ほんの少しだけ笑えた。

 ……今座っているこのベンチは、わたしの夜の占有席だ。
 いつかあの人と隣り合わせて座れればいいなと思う、ささやかな願掛けのようなものなのだけど。
 夜空の下でひとりきり、たった一人の遠い人のことを考える。
 それだけでつらい気持ちはおとなしくなるから、だから一生懸命考える。
 あの人の言葉を。声を。姿を。
 鮮明に思い描いて、わたしはまた『人間』に戻る。

 瞼を開けばそこはまた現実だけど──だからこそ、つよくあれ。
 明日のわたしが笑顔でいるために。

179(編集人):2002/11/01(金) 13:10
『それあまり関係ない。むしろ燃えます』シエル・支援
2002年7月22日(月)22時47分。
ROUND4.551レス目「ぴーおー」様によって投下。
 朱い月のブリュンスタッド(月姫)
 シエル         (月姫)

180(編集人):2002/11/01(金) 13:11
「それあんまり関係ない。むしろ燃えます」

 
 天気は晴れ。それを形容する言葉なんて、世間に山ほど溢れすぎてどれも陳腐に思える。
 抜けるような青、雲ひとつない空、秋晴れ、快晴。
 どれもこれも、聞き飽きるほど聞いた。それでも、その数々の言葉たちを使いたくなるのは、
その空の蒼さが普遍的なまでに人の心を捉えて離さないからだろうか。
 特に俺の心は。あの空の青さは、条件反射のようにあの人の面影を浮かばせる。
 吸い込まれるようなブルー。まるで彼女の髪みたいだ。


 なんて、11月の日曜日。
 ぽん、ぽん、と外れたテンポでスキップしながら、そんな人に言えないような詩情を脳裏に漂わせて目的地にむかって坂道を下っていく。
 調子っぱずれの鼻歌でも出てきそうな勢いだった。
 だって、こんなにも空が青い。

181(編集人):2002/11/01(金) 13:12
 長い坂道を下り終え、ちょっとだけ冷え出した晩秋の空気に肺を湿らしながら、道を行く。
 時間は10時半。人通りは多くもなく少なくもなく。微妙にうきうきな気分は、たまにはいいものだった。
 公園を横切ってまた道を行く。冷たい風が吹いてきても、アップテンポな気持ちははやってばかりで止まりそうもなかった。
 もうしばらくの辛抱だ、遠野志貴。
 道を行く。走り出すのをこらえるのが大変だった。余裕を見せるのがカッコイイのだ。
 さてさて、先輩はどんな顔をするのだろうか、と内心にやける。
 気分はもう英国諜報員である。
 万全を期すため、もう一度今日の目的を確認する。 

 今日の主旨。
「びっくりどっきり! 志貴の突撃シエルの家〜」
 
 なにもかもダサいのは、うきうきしてるから、ということにしよう。
 要するに真っ昼間から先輩を驚かせたいだけなのだ。
 というわけでもちろんアポなし訪問。

 そんなわけで、俺はシエル先輩のアパートの部屋の前へ。
 一度だけ深呼吸をして、ベルへと手を伸ばす。

 ぴんぽん〜。
 は〜い。
 パタパタ。
 ガチャリ。

182(編集人):2002/11/01(金) 13:14
「遠野くん!」
「きちゃいました」

 都合15分。先輩が俺を追い出して再び招き入れるまでの時間。その間部屋の中からは凶暴なまでの音が間断なく響いてきていた。
 何事もなかったのように扉を開けて、こんにちは遠野くんどうしたんですかこんな早くから。といわれた時には何故かビリビリ背中に何かは知ったけれど、気にしないことにした。
 だって、ねぇ?
 
「うわっ」
 部屋に入って一呼吸。思わず俺は鼻をつまんでしまった。
 強烈なスパイス臭。当然のごとくカレーなのだろう。
「そこに、座っていてください。実は自慢の一品がもうすぐできるんですよー。ちょっと早いけどお昼にしましょうね♪」
 10時と少しという時間を先輩にとっては昼飯時の範疇らしい。いやいや、そんなことは分かって、覚悟はもちろんしてきましたが。
 俺は、テーブルにちょこんと腰掛けて鍋に向かう先輩を待った。

 あの、結論からいえばエプロンは素敵だ。はい。
 
 俺は立ち上がり、先輩の背後に近づいた。
 もちろん最初からその気。

183(編集人):2002/11/01(金) 13:15
 朝からなんだ、とは言うな。最近ご無沙汰だったんです。

「ちょ、ちょっと! 遠野くん!」
「何?」
「どこに手をやってるんですか!?」
「先輩のおっぱい」
 ふにふに。
「あ!」
「気持ちいい」
 もう、先輩ガマンできません。
「あの、先輩」
「だめ、だめだめ。今日はダメです!」
 先輩の態度は、不思議なまでに強固だった。
「……なんで?」
 瞬間、耳まで真っ赤。そしてぼそりと一言。


「あ、あの、あの日、なんです……」
 
 つまり、女の子の日。


 えと……


 むしろ全然OK!


 がばちょ。

「っぁぁあん、ん! ぁあ!」


 延々と。(終われ

184(編集人):2002/11/01(金) 13:16
『人形戯び』紅秋葉・支援
2002年7月27日(土)14時57分。
ROUND5.36レス目「(32)七死さん」様によって投下。
 蒼崎橙子(空の境界)
 紅秋葉 (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/akiha/ningyo_1.htm

185(編集人):2002/11/01(金) 13:18
『出逢いの庭で』紅秋葉・支援
2002年7月27日(土)14時57分。
ROUND5.36レス目「(32)七死さん」様によって投下。
 蒼崎橙子(空の境界)
 紅秋葉 (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/akiha/deai_1.htm

186(編集人):2002/11/01(金) 13:19
『(無題)』蒼崎橙子・支援
2002年7月27日(土)21時39分。
ROUND5.57レス目「ぴーおー」様によって投下。
 蒼崎橙子(空の境界)
 紅秋葉 (月姫)

187(編集人):2002/11/01(金) 13:20
秋雨が音もなく降る、とある10月の夜。蒼崎橙子は隣に黒桐幹也を乗せ、人気のない道をライトで闇を裂きながら事務所へと車を走らせていた。
 その日は、隣町でのアトリエの下見であったので、その帰りというわけになる。
 人気のない町、道。橙子はハイビームで車を滑らしていく。とりわけ楽しいことがあったわけではなく、とりわけ腹立つこともなかったから、
狭い車内は居心地の悪い沈黙に、幾度か支配されていた。
 そして何か話題は、と思案に暮れていた黒桐幹也が口を開いた。
「暗いですね」
「そうね」
 橙子の答えも味も素っ気もない。何しろ遠くまで来て大して何もなかったのだ。わずかに気だるい感じになってきていた。
「もしかして、眠いんですか?」
「今すぐにでも眠りの世界へ旅立てそうよ」
「違う所に旅立てそうなんで絶対にやめてください」
 残念、そう呟いて橙子は一つ、ふわぅ、と情けないあくびを漏らした。
 擦れ違っていくトラックが静寂を突き破る大音量のクラクションを鳴らしたのは、そんな時だった

188(編集人):2002/11/01(金) 13:21
ミニクーパーの車高よりも高いタイヤを装着した巨大なトラック。
 それが断絶魔のような響きを立てながら盛大に横転し、崖へと突っ込んで大破するのに、さしたる時間は必要としなかった。せいぜい5秒ほどだろうか。
「な、事故……?」
 目の前で事故が起きたのだ、当然のように車を止め、救急車や警察の一つや二つ呼ぶのが道理。黒桐幹也はそう思っていた。
 しかしその思惑とは裏腹に、小さな車はするりと迫ってくるコーナーを回ろうとしている。
「先に言うが、車は止めんぞ。黒桐」
 あぁ、と心の中で呟く。こっちの橙子さんが出てきたか。
「止めないにしても、救急車くらい呼んで下さいよ。運転手が危ないじゃないですか」
「運転手なら死んでるよ」
 本当に何気なく、新しく咥えた煙草に火をつけながら、橙子はそう言った。
「お前、今のトラックがなんで横転したと思ってるんだ?」
「そりゃ、どこぞの誰かさんみたいに居眠りしちゃったとか、脇見とか」
「違うね、避けたんだよ。人を」
「人、っていたんですか?」
「ああ、いたさ。紛れもない人、がね。死んじゃいるが」
 ふー、と煙を吐きながら、魔術師の女は車を止めた。面倒なことになったな、と内心思いながら。
 サイドミラーは絵を刻んでしまったかのように、さっきからずっと走る男の姿が映されている。

189(編集人):2002/11/01(金) 13:22
「死んじゃいるが、って幽霊ですか?」
 橙子はもう一度チラリとサイドミラーを見やった。影は止まっている。出方をみているのか、そんな風に思えるが知能などないのだ。本能に従ったまま追いかけてきたのだろう。あいにくこのオンボロな車はこれ以上スピードは出ない代物だった。
 動き出すまで黒桐につきあってやるか、そう思った。
「色々とね、ややこしい話になる。面倒で大嫌いな事柄なんで分かりやすく言おう」
 クスリ、と笑みを零しながら、
「ゾンビってやつさ」
 そう告げた。
 ポカンとした黒桐を放っといたまま、橙子は続ける。
「理解できないか? まぁそうだろうけど。ゾンビと一言で言っても色々とある。死者をそのまま使った人形もそう呼ぶし、ネクロマンシーの扱う媒体も時にはそう呼ばれる。さっきの――いや。この、か――やつはこの国では特殊でね。何を間違ったか紛れ込んでしまったようだ。吸血鬼は知ってるだろう? 血を吸う鬼さ。あれはその食べ残し。哀れにも、死んだのに他者の肉と血を求め、歩き続けなければならない、生きた屍。それがさっきの事故を引き起こした」
 黒桐幹也は話の半分についていけたことに、少しだけ誇りを持てた。さすがに吸血鬼やゾンビの名前は知っている。その他は聞いたこともなかった。
「じゃあ、さっきの運転手は」
「ああ。喰われた後さ。まぁあの事故じゃあその前に息絶えてたろうが……」
 さて、話は終わりだ。そう言って蒼崎橙子は細い雨が降り続ける闇の中、その細い足で降り立った。
 カツン、という音。優雅な、そして邪悪なまでに妖しい仕草だった。

190(編集人):2002/11/01(金) 13:23
 反射的に黒桐幹也も飛び降りる。雨は柔らかくてさして気にはならなかった。
 そして目の前に誰かいる。流石の僕でもわかる、あまり嬉しくない感情だった。
「当たり前だが、初めて見るな。じゃあ自慢してやるといい。この火葬の国でゾンビだぞ。ほら、もっと喜ばんか。結構、価値あるものだぞこれは」
 サラリーマンか、くたびれたネクタイを締めた『それ』は、不気味なまでに蒼白で、虚ろな表情のまま、虚空に視点を漂わせている。
 はっきり言えば得体の知れない物体であった。そして明らかに超常的な物体だった。
 黒桐幹也は、寒気を感じた。『それ』にではない。非現実的な物体を目の前にして、悠々としている目の前の女性に、正体不明の感情を抱いたからだった。
 
 それは、憧れか、羨望か、恐れか、憎しみか。
 どれも否であった。強いて言えば、名もなき画家が一生を費やして描いた、誰も知らない壮絶なキャンパスを自分ひとりだけ見た、そんなわけの分からない感情だった。
「さて、今更だがね、黒桐」
 雨で濡れてしまった煙草を吐き捨てながら、橙子は口を開いた。
「私は、あの類のモノが大嫌いなんだ。嫌悪とかそんなんじゃない。いらだつんだ。死してなお死を集め続ける歩く死体。この矛盾が嫌いだ。私にしては珍しく、哀れみの気持ちもあるかもしれない」
 だからね、と。
「そのままにしてやるつもりだった。だけど追いかけてきた。残念だよ」

 カツン。

「せめて跡形もなく消してあげよう」
 その言葉は黒桐幹也ではなく、目の前の名もなき死者への手向けだった。

 そして。

 カツン。

 黒桐幹也は思う。
 ああ―――――――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――――――――この人には、暗闇が怖いくらいに似合う。

 かくして蒼崎橙子は矛盾を内包した滅びたはずの肉体に、真なる死を与える。
 オレンジ色の魔術師は雨に洗われる闇の中で、笑った。

191(編集人):2002/11/01(金) 13:24
『(無題)』翡翠・支援
2002年7月29日(月)21時44分。
ROUND5.247レス目「ぴーおー」様によって投下。
 四条つかさ(月姫)
 翡翠   (月姫)

192(編集人):2002/11/01(金) 13:26
朝です。
 今日も今日とて翡翠は志貴を起こしに来ました。
 もちろん、翡翠は志貴のメイドでありますし、起床を手伝うというのは当然の仕事であります。
 けど、仕事だから、と翡翠は割り切って志貴の部屋に訪れたりはしません。
 たとえ寝ていても、たとえ寝ぼけて見ていなくても、身だしなみはいつもキチンとしすぎるくらいにキチンとするし、
 扉の前では聞こえないように何度もコホンコホンと声を整えます。

 なぜでしょう? 聞くまでもありませんね。
 そう、一日に一番早く、誰よりも早く彼に会えるのがとても嬉しいからです。
 
 今日も翡翠は志貴を起こしに部屋に来ます。身嗜みもきっちりと。

「志貴さま、おはようございます」

 さて、志貴の目には、窓から差し込んでくる朝日と彼女の笑顔、
                              どちらがまぶしいでしょうか?

193(編集人):2002/11/01(金) 13:27
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)0時1分。
ROUND5.303レス目「ぴーおー」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

194(編集人):2002/11/01(金) 13:28
猟奇殺人事件。式が先輩を殺してしまった事件、僕が片瞳を失った事件でもある。
 あの日から、二週間と少しが経った。
 世間ではまだ狂気の垢が拭いきれず、夜の街には防弾チョッキに身を固めた警官が、巡回を怠らない。
 三月初旬の空は例年より寒く、どんよりと暗く、下界の人の心を映し出しているように思える。
 それでも人々の心の乱れは終息にむかっているに、違いなかった。やがて春が巡ってくるように。
 片方の瞳を失った僕は、そうやってセンチメンタルにおちいりつつも、怪我による休養を認められずに仕事をこなす毎日である。
 いや、あの人には期待する方が無駄だったというのは言うまでもないけれど。
 ただ、それは僕と式を二人きりにするために気を使ってくれていると思うのは、考えすぎというやつだろうか?

195(編集人):2002/11/01(金) 13:30
「幹也、危ない。ボーっとするなよ。轢かれちまう」
 ガーッ、と音を立てながら車が通り過ぎていく。排気ガスに咳き込みながら僕は顔をしかめた。
「あれは、スピード違反だよ。危ないなぁ。前もここで事故があったんだ。知ってたかい?」
「知らない」
 式は不満気に口を尖らす。苦笑して、今度はちゃんと向いた。最近、彼女は僕の体調等にひどく敏感になっている。無論、そんな彼女を見ながら僕は内心喜んだりしてる。
「ほら、もっとこっちに」
 左腕を、式の手がつかんで引き寄せてきた。よろりとよろけて、彼女の肩にもたれるような格好になった。見える右目でちらりとのぞくと、式は耳まで真っ赤にして、それでも真っ直ぐ前を見ている。
 式、なんで顔が赤いの?
 そう聞こうとして、やめておいた。そのセリフは昨日も一昨日も放っていて、新鮮味にかけるような気がしたから。
 頭の中で言葉を巡らす。どうやったら、一番かわいい式を見れるだろうか、そんなバチあたりなことを考えながら。

196(編集人):2002/11/01(金) 13:31
「寒い、な」
 隣で呟くような声。僕は発作のように、式の手に、自分の手を絡めた。
 式は何も言わない。ただ一度こっちを見ただけだ。
 三月の空気はそれでも冷たく鋭い。キンキンと冷えたそれは吐く息さえ白く濁らせる。
 体は冷えている。その中で左手だけがとんでもないくらいに、温かい。びっくりしてしまうほど、体温が伝わりあう。
 そして僕は、かたわらで子犬のような仕草でもじもじしている彼女を、抱きしめたい衝動を必死にこらえるのだ。

 この日々は間違いなく幸せだ。支え、支えられ、そんな関係。
 両儀式。
 殺人衝動を内包している。だから何なのか。
 直死の魔眼を持っている。だから何なのか。
 人を殺した。だから何なのか。 
 黒桐幹也は何度目になるだろうか、もう一度誓った。

「式、僕は君が好きだ。周りが全部敵だらけでも、一生、離さないよ」

「……望むところだ」

 今は三月。寒い三月。それでもしばらくすれば、温かい春がやってくる。
 けれど、と思う。
 春でも夏でも秋でも冬でも、僕らは寄り添いあい、流れていく季節を、ともに暮らしていく。

 

 終

197(編集人):2002/11/01(金) 13:32
『さっちん支援SS④』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)0時1分。
ROUND5.382レス目「七視さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

198(編集人):2002/11/01(金) 13:33
さっちん支援SS④

やはり、私はオカシクなっていたんだろう。
その、路地裏の入り口から聞こえてきた、透き通るような綺麗な声。
ここにはいる筈のない、でも私がずっと求めていた人の声。
ああ、なんですぐに気付かなかったんだろう―――
もうずいぶんと前から、一言一句聞き漏らすまいと思っていた声なのに。
「あ……?」
緩慢な動きで殺人鬼が振り返る。
そこには、ついさっきまで私が必死になって探していた人だった。
「志貴くん……!」
嬉しかった。やっぱり志貴くんは約束を守ってくれた。
私が本当にピンチの時は、彼は間違いなく助けに来てくれるのだ。
「テメエ……!まさか、そんな筈は……!」
殺人鬼は、突然の邪魔者に驚いている。しかし、それはすぐにくぐもった笑いに変わった。
「ヒヒヒ……ヒャヒャヒャヒャヒャヒャァ!!!そんなことはどうでもいいか!そうだよな、兄弟!」
狂ったように―――実際狂っているのだろうが―――大口を開けて笑い、殺人鬼は愉悦に満ちた表情を浮かべた。
しかし、私にはそんな殺人鬼の行動には見向きもできなかった。
兄弟―――?

―――『なんだ、オマエ、あいつの女か?』―――

殺人鬼は、志貴くんの事を知っている―――?
そこまで考えて、ハッとなった。
ここは袋小路になっている路地裏で、深夜であり、人がまったく通らない。
そして、そこにいるのは、私と、志貴くんと―――殺人鬼。
結果は火を見るよりも明らかだ。
「に、逃げて、遠野くん!」
このままでは二人とも殺されてしまう―――
「―――大丈夫だよ、弓塚さん」
しかし遠野くんは、いつか私に向けてくれた優しい、それでいて壊れそうな笑顔でそう言った。
しかし、私は見てしまった。
夜の闇のなかでもはっきりと判るほど、遠野くんの顔色が悪い。息づかいも荒い。
こんな状態ではとても―――
「もう何年前だか忘れちまったが……長年の恨みだ、死ねよ」
そこで私は、信じられないものを見た。
殺人鬼の体が、「消えた」。
次の瞬間、3メートルは離れた所にいた遠野くんが「こちらに」吹っ飛んできた。
「きゃあっ!」
「がっ……!」
とっさに、吹っ飛んできた遠野くんを受け止め、そのまま倒れこんだ。
「うう……と、遠野くん……」
「ゆ、弓塚さん……怪我はない?」
怪我はないが、それよりも遠野くんの方が心配だ。
「大丈夫だから……それよりも遠野くん、なんで、なんで……」
自分の喉が恨めしい。こんな時に限って思うように動いてくれない。
「約束は、守らないとね……」
私の台詞を悟って、遠野くんは冗談めかして微笑む。
それはちょっと、私には致命的だった。

「……バカ……」

違う、そんなこと言いたくないのに。

「これじゃあ、私のせいで……」

こんな事言ってもどうしようもない。

「そうだね、自分でもバカだと思う」

こんな時でも、遠野くんはいつも通りだった。

「でも、それでも、約束は約束だ」

ああ、もうダメだ。私はもう、ダメになってしまう―――

「テメエら、何いちゃついてやがんだよ……!」
再び近づいてきた殺人鬼が、その禍々しい腕を振るう。
反射的に身を引いた遠野くんは、なんとかそれをかわした。

―――カシャン

渇いた硬質の音が響いた。
それは地面を滑って行き、壁に当たって止まった。
その時私は、一瞬だけゾクッとした。
音に驚いたわけではない。ましてや殺人鬼の攻撃に怖気づいたのでもない。
ただ、それがはずれた、という事実に、訳のわからない感覚が体中に走ったのだ。

私の視線の先には、遠野くんの眼鏡があった―――

199(編集人):2002/11/01(金) 13:35
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)12時45分。
ROUND5.388レス目「瀬尾的」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

200(編集人):2002/11/01(金) 13:36
彼女の目はひどく綺麗で、それでいてとても繊細だった。
自分という存在がちっぽけに思えてしまうぐらい、彼女の眼差しは凛としていて、
瞬きする瞬間に自分が殺されて、息もせぬ物体に成り果てることを
ただ単純にその瞳は示唆していた。
 「コクトー……。何でお前は」
 彼女の言葉は僕に届く前に、その瞳から流麗に滴り落ちる涙によって掻き消された。
彼女が何て言おうとしているのか、僕には漠然とわかる気がする。
だから、躊躇わずに、僕は無意識のうちに声を発していた。
 「違うよ。僕は式を邪魔しにきたんじゃない」
 穏やかな微笑を投げかけ、僕は一歩近づく。
 「頼むから、近づかないでくれ……コクトー」
 大事に握られているナイフが心なしか寒さに震えているような気がした。
 ……式がもう一人の自分と対峙し、式自身の為に
そいつを殺さなければならないことは僕にだってわかる。
だけど、僕は、式を、少女のように泣いている式を、止めなければならない。

201(編集人):2002/11/01(金) 13:37
『(無題)』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)14時57分。
ROUND5.398レス目「鳥」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

202(編集人):2002/11/01(金) 13:38
夏になると、セーラー服の学校が羨ましく感じる。
 ブレザーのブラウスと違って、なんだか涼しそうなんだもの。

 職員室の扉を開けると、熱気を帯びた空気が漂ってきた。わたしは
うんざりしながら一歩外に出ると、失礼しました、と言って扉を閉めた。
 わたしは先ほど担任からもらった薄っぺらな紙を眺めた。『長期
休暇中の旅行届け』という見出しに、あとは氏名やクラスを書くための
スペースが数箇所記されている。
 まったく、こんな紙をもらうだけのために、なんで夏休みの学校に
来なきゃならないんだろ。そう思いながら、それを四つ折にして胸
ポケットに入れた。
 昇降口の前に冷水機に向かい、カラカラの喉を潤した。
 冷水機は学食の前にしかないので、嫌でも外に出なければならない。
水分を補給したばかりだというのに、夏の日差しは相変わらず強くて
ただれそうになる。
 風が吹いた。涼しげな風が足元をさらっていった。髪の毛の隙間から
入りこんだそれが汗ばんだうなじを撫であげる。気持ちいい。
 グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてきて、セミの大合唱と入り
混じる。ブラスバンド部の間延びした音がそれらのあとからついてくる。
 夏は好きじゃない。でも夏の学校は好き。
 わたしは唐突に学校中を廻ってみたくなった。

203(編集人):2002/11/01(金) 13:39
階段を上がって3階へ。教室棟の廊下はずっと奥まで続いている。
わたしの教室は、奥から2番目。
 夏休みの校舎ってどこか浮世離れしている気がして、冒険心がくすぐ
られる。
 リノリウムで敷き詰められた廊下を、ゆっくりと歩く。通り過ぎる教室
をひとつひとつ見ていく(夏休みの間中、窓は開けられているのだ)。
もちろん誰もいない。
 黒板の隅に書かれた『今日の日付』は一週間も前の終業式のままだった
り、既に2学期の始業式に合わせられていたり。その下に書かれた日番
の欄に見知った名前を見かけると、よくわからないけど嬉しくなる。
 そんな調子で自分の教室を覗いたときだ。
 わたしはドキリとして、思わず声を上げそうになった。
 そこに見知った顔が座っていた。知っているどころじゃない。一日たり
とも名前を忘れたことのないくらいだ。
 彼はただ何をするでもなく、窓から外を見ていた。
 時おり吹きこんでくる風に気持ちよさそうに目を細め、ひじをついて
この真夏の空気に身を委ねているようだった。
 見えた横顔があまりに綺麗で、わたしはその場から動けなかった。まる
で白昼夢のよう。
 やがて彼がわたしに気づいた。まるでわたしがそこにいるのがわかって
いたように振り向くと、柔らかに微笑んで言った。

204(編集人):2002/11/01(金) 13:41
「こんにちは、弓塚さん」
 そこでわたしは我に返った。
 なんでここに? どうしてわたしに声を? いろんな疑問が頭の中で
ぐるぐると混ざりあって、結局何も言い出せない。
「今日も暑いね」
「あ、えっと、うん。暑いね」
「弓塚さん、なんで学校に? ひょっとして補習?」
「え、違うよ。ちょっと職員室に用があって」
「そっか。そうだよなー。弓塚さん成績いいし、補習なんてあるわけないか。
俺、補習だったんだ。さっきまで」
「あ、そうなんだ」
 そう言うと彼は再び窓に向き直った。わたしはどうすればいいのかわか
らず、そのまま立ち尽くす。
「かき氷でも食べにいこっか」
 彼はそのまま言った。
 一瞬、頭の中のゴタゴタがピタ、と止まり、再び動き出した頃にはもう
わけがわからなくなっている。
「え?」
「かき氷。俺、今食べたいなーって思ってたんんだけど」
「え、え?」
「かき氷嫌い? あ、それともこれから用とかある?」
「え、あ、そんなことないけど」
「じゃ、行く?」
「あ、うん」
「それじゃ、決まり」
 彼はこっちを向いてにっこりと笑うと、ゆっくりと立ち上がった。
 鞄を手にとって廊下に出てくると、昇降口のほうに歩き出す。
「弓塚さん」
「え?」
「置いてくよ」
 我に返ったわたしは急いで彼の、遠野くんの背中を追った。

 −END

205(編集人):2002/11/01(金) 13:42
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)21時50分。
ROUND5.435レス目「七子さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

206(編集人):2002/11/01(金) 13:43
1/4
はじめて着た私服のスカートは足がすーすーして落ち着かない。
はじめて履いたハイヒールは歩きにくく、ひどくアンバランスな棒の上に立って歩い
ているかのよう。地面を全然噛み締められない。
習ったばかりの化粧を施した顔は、他人の視線を気にして真っ赤に染まりそうになる。
恥ずかしくて、俯きながら赤子のように覚束ない足取りで歩く。

----まるで拷問だ。
今まで他人(ひと)の目を気にしたことなんて無かったのに。
私の格好は周囲から見ておかしくないだろうか、なんて考えるなんて----

それに------------それに------------
----------------今の私を、幹也はどう思うんだろう?

どんっ!
「きゃっ!!」

頭がぐらぐらするほどの衝撃。

羞恥と煩悶で混沌とした思いに囚われていた私は、人にぶつかってしまったらしい。
どうしよう。
(化粧はずれなかっただろうか)
どうしよう。
(相手に謝らないと。幹也はこういう時ちゃんとしない女は嫌いだ)
どうしよう。
(でも、相手をしている内に待ち合わせに遅れてしまうかも知れない。
幹也が怒ってしまうかも知れない)
どうしよう-------!

207(編集人):2002/11/01(金) 13:44
2/4
「あ………」

------------------------なんて、無様。
何のことはない、私は電柱に激突したのだ。

信じられない。
どうかしている。
本当にどうかしている。
両儀式は洋服を着てデートになんて行く女じゃない。
周囲の目を気にしたことなんて金輪際無い。
こんなおどおどした私は----私じゃない。

それが、女のような悲鳴を上げるなんて------------!!

むかむかしてきた。
本当にむかむかしてきた。
憤然と身を起こすと、駅に向かってずかずかと歩き出す。
幼い頃からの訓練で培われた足腰は、慣れない履き物の違和感をでもまるで問題に
することなく歩道を進ませる。
こっぴどくぶつけた顔面は怒りで発する体温以上に熱を帯び、おそらくは軽い痣で
もできてしまっているだろう。

あいつのせいだ。
幹也のせいだ。
あいつが全部、悪い--------!

208(編集人):2002/11/01(金) 13:45
3/4
文句を言ってやる。
お前が悪いんだって。
どうしてくれるんだって。
謝ったって許してやらない。
そうだ、許してなどやるものか------!!

化粧なんて落ちてしまった。
こんな歩き方では、スカートもハイヒールも台無しだ。
かまうもんか。思えば中学の制服だってスカートだった。その時だって、歩き方に
気を遣ったことなんて無かった。

昨日は鏡の前で一晩眠れなかった。
それだけの苦労も、一瞬で台無しだ。なんて無駄で無意味なことをしてしまったん
だろう?
あいつのせいだと思うと腑が煮えたぎる。
あいつのせいで、私はあれほど心細い思いをした。殺してやりたい位むかむかする。
こんなに身体が震えるほど怒ったのは久しぶりだ。
だっていうのになんで------------私はこんなにも泣きそうになっているんだろう?

駅前にあいつの姿が見えた。
いつも通りの黒ずくめの姿。

こっちは一晩中悩み抜いたというのに。
あいつは平素のいつも通りだなんて。どうしてだ?
これじゃ私は莫迦みたいだ。
もう我慢できない。許せない。許せない。許せない。

だがあいつと目があった途端、私は金縛りにあったように動けなくなってしまった。

209(編集人):2002/11/01(金) 13:46
4/4
信号を渡ってくる式が見えた。

目を疑った。あの式が和服を着ていない。
スカートからすらりと伸びた足が覗くその歩みは颯爽と。
和服と比べれば式の女性らしい肢体の線が浮き出る洋装はとても-----

息が止まるかと思った。
僕の目には今日の式は神々しいまでに美しく見えた。

その眼差しが僕を見据え、刹那、もの凄い一瞥が僕を射殺した。
「ひっ!!」
こ、殺される?!
ドウシテ、ナンデ……
先ほどまでの天国からすさまじい高さを墜落し、僕は戦慄の地獄に叩き落とされる。
恐怖に心臓を鷲づかみにされた僕は、瞬時に氷の彫像と化した。

永遠とも感じられる瞬間が過ぎ、ふと急に式の顔がくしゃ、と歪んで…………

------------赤子のように泣き出した。

大通りの角に立つ雑居ビルの屋上では、二人の出刃亀が交差点を見下ろしていた。
横断歩道に立ちつくして身も世もなく泣き叫ぶ少女に、黒衣の青年が慌てて駆け寄る
姿が見える。

「式がこちらを見なくてよかったな。もし気づかれていたら結界ごと斬り捨てられた
かもしれん」
「驚きました。見せたかったいいものってこれのことですか、師匠」

集まりだした人だかりの中、少女は困惑する青年の胸をポカポカと殴っている。
しばらくおろおろとしていた青年は、意を決したかのように衆人環視の中、少女を
その腕に抱きしめた。

「……なんて、はずかしいやつらだ。そう思うだろう?鮮花」
「………やってられません」
言うと、鮮花は身を翻して去っていく。きっと、この著しい劣勢を立て直す起死回生
の策を練るために。その姿を見送った後、魔術師はつぶやく。
「伽藍洞だということはいくらでも詰め込めるという事だろう。この幸せ者め。
それ以上の未来が一体どこにあるというんだ」

210(編集人):2002/11/01(金) 13:48
『(無題)』両儀式・支援
2002年7月30日(火)22時13分。
ROUND5.445レス目「ぴーおー」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

211(編集人):2002/11/01(金) 13:49
とある日曜日の昼。僕は橙子さんに頼まれていた調査に、なんとか一段落をつけた。
 まだまだ物足りないところはあるけれど、とりあえず簡易報告くらいは出来そうではある。
 少しだけ満足な気分に浸りながら、僕は一度部屋に戻ることにして強い日差しの中、歩いて家へと戻った。
「ただいま……って誰もいない……あ、式が来てるのか」
 開け放ったドアの向こう、散らかった玄関には式の履物が行儀よくキチンと置かれていた。
「おーい、式? 返事くらいしなよ。もしかして寝てる?」
 靴をぬぎながら式に呼びかけて見るけれど、どうやらホントに寝てるようで返事はない。はぁ、と一つため息を零しながら部屋へと入った。
 案の定、寝床の上には着物のまま、体を丸めた式が静かに眠りに落ちている。
 このとき、もう慣れてしまったとはいえ、僕はいつも心配になる。
 彼女の寝ている姿は、ひどく静かだ。寝息は聞こえない。身じろぎもしない。死人と見間違えてもおかしくないくらい、静かだった。
 今すぐ起こしたくなる。目をあけて名前を呼んで欲しくなる。けれどそれは彼女にあまりにも悪い。
 注意深く見て、傷一つない白磁のような美しい肌に朱色の血の気が帯びているので、ようやく無事だということに一安心をつけるのだ。
「けど、」
 一歩、近づく。
 何故か、頭の奥が痺れるような感じがした。それはまるで何かにとり憑かれたような……
「ほんとに、綺麗だ」
 中性的で、まるで抜き身の真剣のような、危うさを漂わせる美しい顔。
 
 導かれるように、僕は禁断のそれに手を伸ばした。

212(編集人):2002/11/01(金) 13:50
やわらかく、それでいて芯のしっかりした黒髪に手を伸ばす。
 さらりと触れて、ただそれだけの事なのに心臓は今にも爆発しそうなほど鼓動を繰り返している。
「式……」
 それでも、離れる気にはならない。離れたくない。
 ギシリとベッドを軋ませて、寝ている彼女の横に座った。
「君は、なんでそんなに綺麗なんだ」
 手を伸ばし、頬に触れる。一度だけ人差し指で押してみて、彼女は、うぅん、と初めて声を漏らした。
 とても可愛らしい声だ。もう一度押してみて、また、ぅぅん、と声を漏らす。
 なにかしら、背徳感のただよう秘密を手に入れたようで、僕は一人笑った。
 もっと彼女の顔を見たくなった。手を頬に添えたまま、顔を近づけていく。長いまつ毛に、またドキマギしながら。
「式」 
 小声で呼びかける。まぶたがピクリと動いたようだけれど、多分気のせいだ。
「式、僕は君を愛している」
 だから、
「だから、君が欲しい」

 もっと近づこうとして、やめた。自分がヒドイ愚か者のように思えてきた。寝ている女性に付け入るなんて、あまりに情けない行為だから。
 でも、正直に本音を言えば、もったいない。そう感じた。
 だから一度だけその頬に唇を触れて、僕は飛び跳ねるように彼女から離れた。
 心臓は口から飛び出てきそうで、寝れそうもないのに恥ずかしくて目を閉じた。
 式のほっぺたは、とんでもないくらい、柔らかかった。

213(編集人):2002/11/01(金) 13:51
 まだ鼓動が耳に届く。こんなことは生まれて初めてのこと。きっと耳まで真っ赤になっている。
 一度身を起こして、そっちの方を向いてみた。
 スヤスヤと、実に気持ちよさそうに眠っている。こっちの気も知らないで。 
 そして、まだ熱をもっている頬に手を伸ばして、そっと撫でた。
 ここに、唇が。
 しばらく眺めて、触れた指を、そっと、ペロリと舐めてみた。
 すぐに顔が真っ赤になる。私は何をしているのか。自分がヒドイ愚か者のように思えた。
 腹が立って、私は立ち上がった。なんであいつのために、こんな思いをしなくちゃならないんだ。
 ベッドから降りて近づく。毛布に包まった幹也はムニャムニャ言いながら夢心地を味わっている。
「このバカ。私の気も知らないで」
 はたして、私の気とはなんなのか。深く考えないようにした。これ以上顔が赤くなっては困る。
 ストンと寝ている幹也の横に腰を下ろした。覗き込んで見る。傷痕が痛々しかった。けれどそれ以上に、自分のドキドキする気持ちに困惑した。
 ゆっくりと、手を伸ばしてみる。触れた幹也の頬は、柔らかく、けれど男らしさを少しだけ感じた。
 私は一度だけ深呼吸し、唇を幹也の頬に近づけようとした。
 高鳴る心臓に、これはさっきの仕返しなんだ、と言い訳をしながら。
 そのとき、口は勝手に何かを口走っていた。
「幹也、愛している」
 そして、
「そして私も、お前を感じたい」
 意を決して、幹也の頬に口付けしようとしたのを、止め、
 素早く、幹也の唇に、キスをした。
 ほんとに、チュッ、という音がして、私は顔を真っ赤、頭の中を真っ白にさせながら、ベッドに飛び込んだ。
 毛布で頭をくるめながら、起きたら絶対に文句を言ってやる。そう思った。


 そっと唇に手を伸ばす。そこには、ずっと求めていた相手の温もりが……

214(編集人):2002/11/01(金) 13:52
『さっちん支援SS⑤』弓塚さつき・支援
2002年7月30日(火)22時32分。
ROUND5.454レス目「七視さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

215(編集人):2002/11/01(金) 13:54
さっちん支援SS⑤

空気が変わった、なんて生易しいものじゃなかった気がする。
もうすぐ夏も終わるというのに、いまだにねっとりと纏わりつく熱気が、凍りついたように止まった。少なくとも自分の感覚では。
その変化は、殺人鬼にも伝わったらしい。いぶかしげな表情でこちらを睨みつけていた。
「なんだ……?おい、テメエ何しやがった?」
答えられるはずもない。
ただ、どうしようもないほどに緊張した空気が三人の間を流れた。

「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――」

唐突に、荒い呼吸音が静寂を破った。
ハッとして見ると、遠野くんの顔色が今まで以上に悪い。
「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――!」
「ど、どうしたの遠野くん!?」
「ヒ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!なんだよ、もう限界かァ?そうだよな、夜は俺の時間だ」

ひた―――

殺人鬼が、一歩近づく。
「ひっ!?」
「ハァ―――ハァ―――ハァ―――ハァ―――ゼェ―――ゼェ―――ゼェ―――」

ひた―――

殺人鬼がまた一歩近づく。
遠野くんの息は荒くなるばかりだ。
「とお―――志貴くん―――!」
私は、志貴くんの身体をギュッと抱きしめた。
どうしてそうしたかは自分でも分からない。ただ恐怖に怯えていたのか、助けてもらおうと思ったのか、助けようと思ったのか、諦めて覚悟を決めたのか―――
分かっていたのは、私の腕が震えていたという事だけだった。

ぽん―――

暖かい感触が頬に触れる。
「え―――?」
まだ息が荒いままの志貴くんは、ゆっくりと、優しく私の身体をほどいた。
そして、今まで私が見たなかで、最高に優しく、崩れ落ちそうな笑顔を向けると、ふらつきながらも立ち上がった。
「し、志貴くん―――」
「いいねェいいねェ、そうこなくちゃなァ」
「……」
志貴くんは応えない。
そこで私は気がついた。
呼吸が落ち着いている―――?
そう思った瞬間、志貴くんは目にも留まらないほどの速さで駆け出した。
「ぬあっ!?」
完全に不意を突かれた殺人鬼は体勢を崩し、志貴くんはその脇をすり抜けていく。
そのまま走り抜けるかと思いきや、袋小路の入り口で振り返った。片手にはいつの間にかナイフが握られている。

―――その蒼く輝く瞳に、ぞくり、とした―――

「―――んの野郎ォ!」
殺人鬼は腹部を押さえて志貴くんを振り返った。どうやら、すれ違ったときに一撃いれられたらしい。
殺人鬼が、まさに人外の動きで志貴くんに跳びかかる。
その一撃がとどく前に、志貴くんはすでに走り出していた。
殺人鬼は、志貴くんを追って駆け出していった。

袋小路には、腰を抜かして情けない格好をした。私、弓塚さつきだけが残された。
私はそのままの体勢で、
(そうだ、あの時の笑顔に似ているんだ―――私を助けてくれた時の笑顔に―――)
なんて事をぼんやりと考えていた。

216(編集人):2002/11/01(金) 13:55
『夢の名残』両儀式・支援
2002年7月30日(火)22時54分。
ROUND5.462レス目「七死さん」様によって投下。
 弓塚さつき(月姫)
 両儀式  (空の境界)

217(編集人):2002/11/01(金) 13:56
両儀式支援SS「夢の名残」

―――きみがいて、わらっているだけで幸せだった。

「黒桐だから、黒を着る? 莫迦じゃないのか、お前」
「別に、いいじゃないか、好きなんだから。黒。
 ・・・まあ、さっきの発言は、我ながらアレだったとは思うけど」

「じゃあ、式が選んでよ。僕の服」
「・・・いいぜ」
「え? ほんと?!」
「でも、いいんだな。俺は安物なんか選ばないからな?」
「え、あ、それは」



―――安心できて、不安なのに。

「そろそろ、ちゃんとご両親に会うようにしないと駄目だ」
「そんなこと、関係ないだろ。俺の居場所は、あそこじゃない」

「俺がここにいたら、邪魔なのか」
「あのね、誰もそんなこといってないだろ」

「じゃあ、別にいいだろ。幹也には関係ない」
「そんなことない」
「何で!!」
「式のご両親は、僕の義理の親になる人たちだから、関係なくなんて無い」
「・・・え、あ、それは」
 


―――君がいて、あるいているだけで、嬉しかった。


「ちゃんと、出席日数は足りてるんだ。えらい、えらい」
「どこかの大学中退者と一緒にするな」
「うっ、でも、僕も高校はちゃんと卒業したじゃないか」
「こんなとこに就職するぐらいなら、高校中退の方がましだ」

「ふむ、一理あるか」
「納得しないで下さい、所長」

「ちゃんと稼げよ、幹也。じゃないと――――」
「大丈夫。わかってる」
「・・・うん」




一緒にいれて、一緒じゃないのに。




「ねえ、式」
「何?」



「―――今、幸せかな?」


「何をいきなり、馬鹿なこと言ってるんだ、お前」
「あ、そんな言い方ないだろ!」
「馬鹿に馬鹿に言うのに、言い方なんて関係ない」
「・・・ますます酷いよ、それ」





――――それは、ほんとうに。




「――――幸せじゃないはず、ないだろ。馬鹿」





―――夢のような、日々の名残。


―――夢のような、日々の続き。

218(編集人):2002/11/01(金) 13:58
『(無題)』コルネリウス・アルバ支援
2002年7月31日(水)20時41分。
ROUND5.558レス目「ぴーおー」様によって投下。
 コルネリウス・アルバ(空の境界)
 三澤羽居      (月姫)

219(編集人):2002/11/01(金) 13:59
この計画に乗ったのは、アオザキへの復讐だ。
 私は、そう公言していた。彼にも、彼女にも、そして自分にも。
 否定はしない。ただ、真実ではない。
 アオザキに復讐しようと思ってたのは、魔術の実力による嫉妬なんかじゃない。
 私が彼女を嫌う理由は、唯一つ。

         
                  アラヤが、彼女のことを好いているから。

 
 昔からだった。いつも、彼の目には私など映っていない。きっとただの虫けらのように見えるのだろう。
 けれど、アオザキトウコは違う。あの二人が親密な関係だということなど、私の目から一目瞭然だった。
 不愉快極まりなかった。アオザキはきっと、私のアラヤに対する気持ちを知っていた上で、ルーンを専攻したのだ。そうに違いない。
 実力主義の世界観をもつ彼のこと。一番でない人間に興味を示すはずもなかった。
 かくして、私の思慕は伝えきれぬまま封印することにした。悔しいけれど、アオザキの能力の上を行くのは、不可能だったから。
 一時期はほんとに荒れた。アグリッパの末裔など何の関係もない。次期学院長がなんだというのか。
 一番、大切なモノが手に入らないのなら、何の意味もない。

 そして数年の月日。まさかの、アラヤからの連絡。
 それは、忘れようとして、ようやく重い枷から抜け出そうとしていた時だった。
 アラヤの言うことは、簡単で、根源にいたるための協力要請だった。
 嬉しかった。
 場所は日本。アオザキを始末させてやる。彼はそう言った。
 涙声を悟られないように私は必死に声を押し殺した。彼にもう一度会える。断る理由などどこにもない。
 正直アオザキのことなどどうでもよかった。ただ彼が望むのなら、そう思ってアオザキを殺すためという仮面を被って私は来日した。
 

 この仕事が終わったら、彼に気持ちを伝えよう。拒まれても仕方がないけれど、ケジメはきちんとしなければ。

 
『アラヤは、コルネリウス・アルバは、君が好きだ』



             終わっとけ(悶絶

220(編集人):2002/11/01(金) 14:00
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月1日(木)2時32分。
ROUND5.648レス目「七子さん」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド(月姫)
 シエル            (月姫)

221(編集人):2002/11/01(金) 14:01
1/3
「遠野くん…」
「その呼び方も久しぶりですね、"先輩"」
「どうしても、行っちゃうんですね」
「先輩には本当にお世話になったけど、もともとこのために俺は
 力を得たんです」

アルクェイドが眠りに付いた後、あいつをどうしてもあきらめ
られなかった俺は埋葬機関へと身を投じた。
千年城を探し出すため。そしてもう一つの目的を果たすため。
一つ目の目的は果たされた。俺はもう一つの目的を果たすため、
ここにいる。

「今の遠野君は私よりも強くなりました。それは認めます。
 でも、彼女は"真祖狩りの真祖"なんですよ!」
「だからさ、まずは軽く一度試したいんだ。大丈夫。逃げ足も
 あの頃よりもずいぶんと早くなったからね。」
「軽く試す………ですか?」
先輩が呆気にとられたような顔をした後、ほっと溜息を付いた。
「驚きました。あのアルクェイドを相手にそんなことが言える
 なんて。――――貴方ならもしかすると、本当になんとか
 してしまうのかも知れない。そう思えてきました……………
 ……正直、妬けますけどね。」

222(編集人):2002/11/01(金) 14:02
2/3
苦笑しながらシエルは言う。
そして瞬時にきりりと埋葬機関の上司となり、俺に命じた。
「代行者ウリエル。千年城へ潜入し、アルクェイド・ブリュンス
タットを眠りから醒ましなさい。使命を果たすまで、帰参報告
の必要はありません。神の意志を代行しなさい―――手段は
問わず」
「もとより………!」
「ナルバレックは私が押さえておきます。以前貴方と一千交えて
から、彼女もずいぶんとおとなしくなりましたからね。」
にんまりと"先輩"に戻ってシエルは笑う。
「でも、私がお婆ちゃんになる前に帰ってきて下さいね。
………行ってらっしゃい。遠野くん。
アルクェイドによろしく行っておいてください。」
「わかった。ありがとう。先輩も元気で。」
言葉と共に、俺は走り出す。山と見紛うばかりのゆらめく古城の
シルエットに向かって。

もうひとつの目的。
おれは生身のままアルクェイドを超えて強くなる。
吸血衝動を暴走させた"本気"のアルクェイドを止められる位に。

223(編集人):2002/11/01(金) 14:03
3/3
教会での"教育"を受けても、俺に他者を攻撃する魔力は一切身に
付かなかった。
だが、自分自身に掛ける術には、俺は適性があったようだ。
今ではかつてのシエル先輩のようにはいかなくても、「不死身」
と呼ばれる位には自分の肉体を自由自在にコントロールできる。
七夜として体得していた能力も多分に優利に働いたのだろう。

正直今の自分であいつの本気に立ち向かえるのかはわからない。
だが、俺は前に進むと決めている。打ちのめされても、死ぬまで
はあきらめない。あいつのことを。

だって。
彼氏であれば、彼女の"やんちゃ"ぐらいおさえてやれなくちゃ。
それぐらい出来なくて、どうするのか。
まだまだ先は永いんだから―――俺たちは!

ふと脳裏に浮かんだ。
あいつがいて、俺の傍で笑っている。そんな未来の風景。

いつかだった瀬尾という子が言っていた。
「志貴さんが金髪の外人さんと仲良くしている未来を見た」と。
未来視は"変わる"とも言っていたけど。
俺にも見えたその風景は本当になると信じている。
否―――本当にしてみせる。

今から行く。アルクェイド。お前に会いに。
以上

224(編集人):2002/11/01(金) 14:05
『自演S(シエル)S(支援)』シエル支援
2002年8月1日(木)5時55分。
ROUND5.666レス目「七紙 散」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド(月姫)
 シエル            (月姫)

225(編集人):2002/11/01(金) 14:06
[自演S(シエル)S(支援)]

今回の戦いを傍観する私の元へ、一通の手紙が届いた。

「檄文
 親愛なる○○ ○○○(好きなキャラ名を入れよう!)ファン同士諸君、
 ここで奴が勝ち残ることは、我々にとって憂慮すべき事態だ。
 奴、正ヒロインたる真祖の姫君、アルクェイドが!!
 アルクが決勝まで勝ち進めば、世界の力が流れ込むばかりか、
 霊長の意思さえも奴を後押ししかねない。
 標を失った大衆がカリスマの元に集い、
 ファシズムの恐るべき圧力を行使するだろう」

…つまり、浮動票がアルクに流れると言いたいのか…?

「○○○○(好きなキャラの愛称を入れよう!)萌えの同士諸君!
 今は苦汁を飲み下し、踏絵のようなこの行為に耐えながら、
 <<シエル>>先輩に票を投じようではないか!!
 彼女にならあるいは、ヒロインの中でも彼女になら、
 我々はそう思い、日々を過ごして来た筈だ。
 このような発言が明るみに出れば、
 我々は再びシエルファンに蹂躙されるやも知れぬ」

面白そうだからコピペ準備っと

「しかし我々は、○○ ○○○(キャラ名)に己の萌えを捧げた我々は、
 ○○○○(愛称)がヒロイン達に打ち勝ち、
 晴れの舞台で祝福されることが望みだ!
 我々にとっての全てだ!!
 その為になら背骨すら残さず邁進しよう!!!」

アツイ…、うむ、賛同しよう、同調しよう(ノリで)

「さあ、今こそ声高に叫ぼう!! 我らが……」

そう、我らが、ゆ…

「ネロ カオスの為に!!!」

え?

「叔父さま(愛称)の為に!!!」

なっ

「真祖を打ち倒せ!!!
 尚、この手紙は我が固有結界であり、
 見た者は最低でも5人に同じ手紙を送らねば、
 萌えキャラ投票日に呪縛を受けるであろう」

不幸の手紙かよ!! 今時!!
…私は、怒りとも罪悪感とも取れる不快感を抱きながら、
伏字を「瀬尾 あきら」「晶ちゃん」と書きかえることを考えていた。

おわり

226(編集人):2002/11/01(金) 14:07
『(裏姫嬢祭)』?支援
2002年8月3日(土)16時30分。
ROUND5.933レス目「七死さん」様によって投下。
 瀬尾晶  (月姫)
 遠野志貴 (月姫)

外部リンク型。このURLはHPのコンテンツ、「裏姫嬢祭」につながります。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/himejou.htm

227(編集人):2002/11/01(金) 14:08
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)0時1分。
ROUND6.101レス目「Ryo-T」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

228(編集人):2002/11/01(金) 14:10
その日、学校から帰ってきたさつきは、部屋に入るなりふらふらとベッドに倒れこんだ。
暖まっていない布団が妙に心地良い。
躯はいつも以上に疲れていた。それはそうだろう。
つい先程まで、彼女は生と死の境界線に立たされていたのだから。
だが、彼女は何故か眠る気にはなれなかった。
なんとなくどきどきして、そして、なんとなくぽかぽかする。

「遠野、志貴くん・・・」

頭から浮かんできた事をそのまま口にしてみる。
すると何故だろう。
さっき以上にどきどきして、ぽかぽかして、けど何だかそれでも安心している自分がいた。
こんな感じ、今まで味わった事がない。
けれど、それが一体何なのか、経験した事はなくても、見当はついていた。

「好き、なのかな・・・」

似たような事は少しはあった。
そういう事に疎いさつきではあったが、かっこいい同級生や先輩に友人と一緒に憧れたこともある。
けれど、今回は今までのものとは何処か違っていた。
ただのクラスメートだった彼。
特にかっこよくも、運動ができる訳でも、成績が良い訳でもない。
あまり目立たない、平凡な、男の子。

「だけど・・・」

多分、いや絶対に、自分は彼の事が好きになってしまった。
絶望の中から救い出してくれた彼を。
泣いていた私を、優しく慰めてくれた彼を。

「そうだ!!」

何か思いついたのかさつきは勢いよく起き上がった。

「お餅、用意しなきゃ」

そう言うと、さつきはパタパタとスリッパを鳴らしながら、キッチンへと向かった。
料理はあまり得意でないさつきであったが、
時間をかけながらも何とか望み通りのものを作る事ができた。
ほかほかのお雑煮。助けてくれた彼が、自分に勧めてくれたものだった。
とりあえず味見。それはなんだか体だけではなく、心まで暖めてくれるような気がした。
それにすごくおいしい。自分で作った物ながら、思わず感動してしまうぐらいそれはおいしかった。

「そう言えば、お礼も言ってなかったな」

お餅をつつきながら、ボソリと一人ごちる。
いつかまた言える日が来るのだろうか。
今のままでは多分無理だろう。
引っ込み思案な自分の性格は自分でもよく解かっていた。
けど、お礼を言いたい。もっともっとおしゃべりがしたい。
そのためには自分で話しかける勇気を持たないと・・・。

「うん。待っててね、遠野くん」

私の想いが。
彼への想いが。
いつか、彼へと届けられますように・・・。

229(編集人):2002/11/01(金) 14:11
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)0時43分。
ROUND6.122レス目「偽洗脳探偵」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

230(編集人):2002/11/01(金) 14:12
―それは、ある1日の、遠野家での出来事



 「第1回!!着せ替え翡翠ちゃ〜〜〜〜ん!!ドンドンパフパフーー」

 …大変です。姉さんがおかしくなりました。頭でも打ったのでしょうか?心配です。

 「あ、あの…、姉さん?一体なにを…?」
 「はいそこシャラ〜〜〜ップ!!」

 ビシッ、と、音が響いたかと思わせるくらい見事に、私の鼻先に指が突きつけられました。…姉さん、ノリノリですね…。

 「いいっ、翡翠ちゃん。これまでの統計によれば志貴様はズバリ!!保護欲を掻き立てられるような子に萌…じゃなかった、愛を感じるのよっ!!」

 姉さん…自信を持って断言するのはいいのですが…今何を言いかけたんですか?
 しかし確かに姉さんの言うことには一理ありです。志貴様には、弱い人を放ってはおけないようなところは確かにあります。ですが…

 「…な、なるほど、確かに姉さんの言うことにも一理ありますが…それと私の着替えに何の関係が?」

 本気でわからない私に対して、姉さんは口元を指をチッチッと振ってみせると―

 「甘いわ翡翠ちゃん!!確かにメイドさんは強力な燃え属性の一つ。しかしそれはどちらかというと男の独占欲と征服欲などを満足させるものなの!!志貴様に関しては劇的な効果は望めないわ!!」

 と、強い口調で諭されます。…ですが、なにやらおかしな表現があったのは気のせいでしょうか?…属性?でも、そのような質問を投げかける暇もなく、次に姉さんが放った一言が、私の胸に突き刺さりました。

 「…志貴様のこと、好きなんでしょ?」
 「ね、姉さんっ!!」

 ぼっ、と顔が染まるのが自分でもわかります。あまりの恥ずかしさに下を向いてしまった私を見上げるように、姉さんは顔を近づけると、くすくすと笑いながら

 「もう、翡翠ちゃんってばホントに可愛いんだから。ほら、おねーさんが協力してしてあげるから、志貴さんをゆーわくしちゃいなさいって」

 頷くしかない私に対して、そういって笑う姉さんは、本当に楽しそうでした。





 「…で、それはいいのですが…これは一体なんなのですか」

 姉さんの差し出した衣装を”しかたなく”着こんだ私は、そういって頭の”ソレ”を指差しました。衣装そのものは普段と代わり映えしませんが、頭についているそれは…

 「何って…翡翠ちゃん、”猫ミミ”知らないの?」

 …それくらいは知っています。たまにアルクェイド様に生えていますし。ですが、これと先ほどの、保護欲がどうとかに何の関連があるのでしょうか?そう思っていると…

 「それじゃ仕上げに入るわね?」

 というと、姉さんがどこからか下がった紐を、おもいきりひっぱりました。

 バシャーーーンッ


 …えっと。情報を整理してみましょう。床は水浸しです。…後で掃除をするのは私なのですが…。
頭上にはバケツがあります。どうやらさきほどの紐はこれと連動していたようです。
そして…私自身も水浸しです…。いくらなんでも酷すぎるのではないでしょうか?状況を改めて認識すると、なんだか泣きたくなってきました。

 「こ、これよ!!翡翠ちゃん、アルクェイドさんを悪戯な猫属性、レンさんを仔猫属性とするなら、捨てられて雨の中震える、いたいけな仔猫っ!!これで志貴様のハートをGETなのっ!!」

231(編集人):2002/11/01(金) 14:13
『さっちん支援SS⑥』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)1時35分。
ROUND6.141レス目「七視さん」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

232(編集人):2002/11/01(金) 14:15
さっちん支援SS⑥

数分後、私は全力で走って家まで帰った。
今まで、こんなに速く走れたことはなかったと思う。
後ろも見ずに駆け戻り、騒々しい音をたてて扉を閉めた。
我が家に帰り着いてほっとしたのか、気が抜けたのか、そのまま玄関でずるずると座り込んでしまった。

気がついた時には、もう夜が明けていた。いつの間にか、自分の部屋のベッドの中にいた。
いつもと同じように朝がきて、同じように日常が始まった。昨日と同じように太陽が昇り、昨日と同じように3軒隣で飼われている犬の源次郎が吠える。
昨夜の事は夢だった。
そう誰かに言われれば、そう信じてしまっただろう。それほどまでに、昨夜の事は現実離れしていた。
(そうよ、やっぱり夢だったんだ。だいたい都合がよすぎるよね。あんなに絶妙なタイミングで遠野くんが助けに来てくれるなんて)
そう思って、いつもと同じ時間に部屋から出た。
そこで気がついた。
「あれ、私、着替えなかったんだっけ」
しわになってしまった制服は、なぜかかなり汚れていた。

いつも通り朝食を食べている時に、何気なくテレビに目を向けた。
いつものニュース番組だった。少々はじけ過ぎの新人キャスターから、落ち着いた感じの女性にカメラが移された。
『今朝、早くに発見された死体は、損傷が激しく、男女の区別さえつかない状態だそうです。第一発見者の話によりますと……』

くらり、ときた。

落ち着いた感じの女性キャスターは、淡々とニュースを読み上げている。
次の瞬間、猛烈な吐き気を覚えて、トイレに駆け込み、今しがた食べたものをすべて吐き出した。
―――その日、私は学校を休んだ。

遠野くんの家に行こう、と思い立ったのはお昼を回ってしばらくしてからだった。
あのあと、遠野くんがどうなったのか、気になって仕方がなかった。
「よく考えたら、学校に行けば分かった事なんだよね」
まだ日が高い中、自分の間抜けさに呆れはてる。
ふと、足が止まった。
いつも通る、分かれ道だった。
―――右に行けば、学校へ。
―――左に行けば、遠野くんのお屋敷へ。
―――引き返せば、私の家へ。
数日前の事が脳裏をよぎる。
『私がピンチの時は、助けてね』
彼は、優しく笑って、OKしてくれた。
そんな夕焼けの中の出来事が、なんだかすごく嬉しかった。
同時に、とても不安になった。
「遠野くん―――!」
焦る気持ちを抑えられず、私は遠野のお屋敷へ続く坂道を走って登って行った。

233(編集人):2002/11/01(金) 14:16
『夏祭り(前編)』弓塚さつき支援
2002年8月5日(月)16時55分。
ROUND6.189レス目「はね〜〜」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

234(編集人):2002/11/01(金) 14:17
弓塚さつき 支援SS  「夏祭り」(前編)


「あ、秋葉。ちょっと今日は用事があるから出かけてくる」
 いつも通りの朝食の後に、秋葉と一緒にお茶を飲みながら俺はそう切り出した。
「え? 兄さん、用事って乾さんとどちらかへ?」
 ティーカップをテーブルの上に置いて、秋葉が俺に尋ねる。
「いや、有彦は旅行中でね。そうじゃなくてちょっと野暮用さ」
 俺が遠野の屋敷に戻ってきてから秋葉と再開するまで色々とあったけれども、今ではかなり秋葉は素直になった。色々と口やかましいのは健在だが、俺の側にいる時は、本当に笑顔が多くなった。
 まあ寝るときの挨拶が、『兄さん、愛してます』なのは恥ずかしい事この上ないが。
「危険な事……ではありませんよね?」
 俺がはっきりと目的を口にしないせいか、秋葉が心配そうな顔をする。
「そういうのとは全然違うさ。ただ、さ。大抵の所なら秋葉やみんなと一緒でもいいんだけど、今日行く所は一人で行きたいんだ」
 今、俺は幸せだと思う。でも、そんな俺が唯一にして一番気にしている事。
 この一年、忘れた事は一度としてなかった事。
「そうですか……。わかりました、でも門限を過ぎて遅くなるようでしたら必ず連絡して下さい。兄さんは少しでも目を離すとどこか行ってしまいそうで怖いんです」
 そう言う秋葉の目を見ていると、例えどんなに危険な場所でも絶対に帰ってこなきゃいけないという気になる。でも、今日の目的は全然そんなんじゃ無いんだ。 
 俺は秋葉の髪をくしゃくしゃとなでた。
「大丈夫だって、心配しないで翡翠や琥珀さん達とゆっくり待っててくれよ。そんなに遅くもならないさ。じゃあ行って来るから」
 軽く秋葉へ笑いかけて、俺は翡翠の見送りで屋敷を出た。


 ジー、ジーと。
 外は、蝉の大合唱でかなりうるさかった。
 そして、屋敷の中は涼しいものの一度外に出れば、もの凄い暑さと熱気で嫌気がさす。 
「暑いな……」

235(編集人):2002/11/01(金) 14:18
夏祭り(前編)2/3

 暑いのも当たり前か。今は8月の真っ只中だものな。
 そんな中を、俺は彼女の両親から聞いた場所へ電車を乗り継いで行く。場所は隣町だから、それほど時間がかかるわけでもない。
 本当はもっと早く行きたかった。でも、いざ行くとなるとどうしてもためらってしまい、今日まで延び延びになってしまった。
『ピンチの時は助けてね』
 彼女の言葉が脳裏をかすめる。俺は、彼女の気持ちに気が付いて上げられなかった。そして、その約束も守れず、挙句にこの手で彼女を殺してしまった。
 弓塚さつき。
 俺のクラスメート。そして、俺の事を好きと言ってくれた女の子。
 俺に彼女の……弓塚の墓参りをする資格があるのかはわからない。でも、行かなければいけない。行って弓塚の前で謝らなければいけない。
 その内に、電車は30分もしないで目的の場所についた。

 さあ行こう。彼女が待っている場所へ。



 駅から降りて少し行った時、俺の目に神社がうつった。どうやら夏祭りの真っ最中らしい。でも、俺はそんな喧騒を通り抜けて目的の場所に急ぐ。
 今の時期だからだろうか、やっぱりかなりの人がいる。
 寺の入り口で花を買いながら、俺は大事な事に気が付いた。
「あ。考えてみたら、寺の場所は聞いたけど、お墓の位置を聞くの忘れた……」
 はは、我ながら馬鹿だな。まぁいいや、一つ一つ当たっていこう。きっと見つかるさ。
 それから、周囲を回る事しばらく。
 やっと見つけたときは、俺はすっかり汗だくになり、既に空は赤くなっていた。
『弓塚家之墓』
 そして横にある墓誌には、弓塚さつき、享年17歳という文字が確かに刻まれていた。
「は……はは」
 俺の頭の中では本当は認めたくなかったんだ、弓塚が死んだという事実を。けれど、その文字が嫌でもそれが事実だと俺に伝えてくる。

236(編集人):2002/11/01(金) 14:19
夏祭り(前編)3/3

「すっかりしおれちゃったな、花……ごめん」
 しばらく探しまわったのと暑さのせいで、手の中の花はかなりみすぼらしくなっていた。でも、正直もう一度戻って新しい花を買って、また迷わずにここに来れる自信は全く無い。
 近くにあった水くみ場で桶と柄杓を借りてきて、持ってきた布で墓をきれいにして……。そして、花を供える。
 とんだ偽善だ。こんな事をやってどうなるんだ。弓塚を殺した等の本人がこんな事をやって、一体何になるんだろうか。
 でも、俺はその手を止める事が出来なかった。
 そして、持ってきた線香にまとめて火をつける。
「…………」
 目をつぶって、手を合わせながら俺は考えた。
 一体、何て言えばいいんだろうか。いくつもいいたい事はあるのに、そのほとんどが細い糸のように絡み合って、俺は何も言う事ができない。
 その中で、ただ一言はっきりと言いたい事があった。
「会いたい……もう一度弓塚と会って、話がしたい……」
 心の中で留めるはずの思いは、知らないうちに口に出ていた。
 その時。
「私もだよ、遠野君」

237(編集人):2002/11/01(金) 14:21
『(無題)』翡翠・支援
2002年8月5日(月)20時17分。
ROUND6.206レス目「ぴーおー」様によって投下。
 翡翠    (月姫)
 弓塚さつき (月姫)

238(編集人):2002/11/01(金) 14:23
結論から言えば、俺は翡翠を愛してる。
 それは間違いのないことで、きっと彼女もそうなのだ。

 小鳥の鳴き声で目が覚めるなんて、なんて贅沢なんだろう。
 そう思いながら、俺はまどろみから目を覚ました。まぶたをこすり、左腕を額の上に乗せた。
 全身を気だるい感じが包んでいるけれど、それ以上の幸福感が俺を支配していた。
 隣で、すぅ、という吐息が聞こえる。
 心が充足で満たされていくのが、わかった。口がにやけていくのを止められそうもない。
 愛しさなのか、嬉しさなのか、ただ満たされていくという事しかわからないけれど、それだけでよかった。
 きっとこれが、誰かを真剣に愛することなのだと思う。
 右腕の重みと、かすかな痺れに、俺は酔う。
 翡翠はそんなことも知らないで、俺の右腕に頭を乗せたまま、微笑を浮かべてまどろんでいる。
 ぅん、と。翡翠が寝息を漏らした。ひどく色っぽいと感じたのは、言うまでもない。もうすぐ起きるだろう、と思った。
 いつも翡翠はこんな寝息の後に目を覚ます。

239(編集人):2002/11/01(金) 14:24
「ぁ……」
 予想通り、翡翠はそのあとすぐに目を覚ました。まだ少し眠たそうな目で、虚ろな視線で見つめてくる。
 それも、ひどく艶かしくて、俺は不覚にも、ドキリとした。
「志貴、さま……?」
「うん、おはよう。翡翠」
 ほんのり赤くなってる頬、そしてピンと癖のついた髪が面白くて、俺は声を上げて笑ってしまった。
 翡翠は首を傾げるだけで、なんで俺が笑ってるのかよくわかっていない様子だった。
「志貴さま?」
「うん、ハハ。なんでもないよ、うん」
 いまだ翡翠の頭の下の右手で、軽く頭をなでてあげた。思ったより小さい頭が可愛いくて、もう一度笑った。
「あ、志貴さま……その、右腕が」
「うん? ああ、うでまくら、ってやつ」

 瞬間、本当にガバッという勢いで翡翠が飛び起きた。
「も、申し訳ありません。その、あの、昨夜は……乱れたとはいえ、こんな朝まで腕まくらをさせるなんて」
「いや、俺としては全然いいんだけど。もしかして寝心地悪かった?」
「いえ……とても、気持ちよかったです、けど……」
「そう、ならいいじゃないか。俺もすぐそばで翡翠の寝顔を見れて嬉しいし」
「ぁ、ぅ」
 翡翠は頬を真っ赤に染めて、うつむいた。朝から何度目なのか、俺はまた声を押し殺して笑ってしまった。
 なんで翡翠はこんなにかわいいんだ。
「ところでさ、翡翠」
 ただ、一つだけ問題があった。
「はい」

240(編集人):2002/11/01(金) 14:25
「あのさ、隠してくれないかな。目のやり場に困る」
 つー、と翡翠の胸に視線を走らせる。
 愛し合ったので、もちろん翡翠は生まれたままの姿であって、俺の視線の先はもちろん何もさえぎる物がなくて、肌が露になっている。
 とても綺麗な胸は、いつ見ても綺麗だった。
 よく、わかっていない翡翠は、パチクリと目を瞬かせた後、ゆっくりと顔を下ろして、
「あ、や――!」
 すごい勢いでシーツを被った。
「その、あ、志貴さま、最初から……」
「いや、うん、まあいいじゃないか」
「……志貴さま、Hです」
 プイッ、と目を背ける。
 翡翠、それは油に火を注ぐと言うんだよ。 

 もちろん、朝からそんなイイモノを見せてもらったこちらとしては、
 耐えられずに翡翠を抱きしめて、押し倒してしまうわけだけれども。

「ぁ、うん……あ!」

 どっとはらい。

241(編集人):2002/11/01(金) 14:26
『君去りし後』三澤羽居・支援
2002年8月6日(火)20時17分。
ROUND6.362レス目「七死さん」様によって投下。
 三澤羽居            (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

外部リンク型。
ttp://moongazer.f-o-r.net/himejou/kimi_1.htm

242(編集人):2002/11/01(金) 14:27
『(無題)』三澤羽居・支援
2002年8月6日(火)22時57分。
ROUND6.419レス目「はね〜〜」様によって投下。
 三澤羽居            (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

243(編集人):2002/11/01(金) 14:29
「ね〜、秋葉ちゃん〜。知ってた? 今日、わたしの試合だよ〜」
「知ってるわよ、もちろん。今日はあんたの応援でしょ? そして明日は瀬尾」
 あ、秋葉ちゃんちゃんと知ってたんだ。でも、もうそろそろ試合が終っちゃうよ〜。
「あ、あの……遠野先輩。そろそろ投票をするならしないと、時間の方が……」
「晶ちゃん、いらっしゃ〜い。一緒に上にいけるといいよね〜」
「はい、そうですね! あ、でもそうなると次は先輩と私に……」
 えーと、日程表日程表……あっほんとうだ〜。
「しかしねえ、闘争心から無縁のこの2人がどうしてこんなに強いのかしら」
 うーん、どうしてだろう?
「あ、羽居も瀬尾もあんまり気にしないでいいぞ。遠野は自分が早めに落ちていらいらしてるだけだからな」
「失礼ね蒼香! だれがいらいらしてるですって!」
 わ〜、本当に秋葉ちゃん、いらいらしてる〜。
「駄目だよ、秋葉ちゃん〜。そんなに、怒ってると怖い顔がもっと怖くなっちゃうかも」
「三澤先輩……それは火に油を……」
「だれが怖い顔よっ!! 全く。<<三澤羽居>>に1票、と。これでいいかしら?」
 えへへ〜、それでも結局入れてくれるのが秋葉ちゃんだよね〜。
「ねえねえ、蒼香ちゃんも、晶ちゃんも〜、やっぱり秋葉ちゃん照れてると思う?」
「え、ええと……はい、多分」
「遠野は素直じゃないからな、まあ予想通りか」
 うんうん、2人ともよくわかってる。
「こら! あんたら人で遊ぶんじゃない!!」

完だよ〜(By羽ピン)

244(編集人):2002/11/01(金) 14:30
『(無題)』ネロ・カオス支援
2002年8月13日(火)0時17分。
ROUND6.684レス目「(不明)」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

245(編集人):2002/11/01(金) 14:31
ぽぉん。
 鼓動。
 ぽぉん。
 鼓動。
 ぽぉん。
 鼓動……
 人の鼓動。
 食餌の鼓動。
 時間だ。

* * *

 ――ネロ・カオス支援SS

* * *

 足りぬ。
 足りぬ。
 それでも、まだ、足りぬ。
 この飢えを満たすには足りぬ。
 この渇きを満たすには足りぬ。
 人が、人が、足りない。
 足りない。
 夢遊病者のよう、夢を傀儡するように、私は夜を闊歩する。餌食を求めて闊歩する。

 そうして私は巡り合う。極上の素材、卓越した存在に。
 だが。
「そうか、貴様の」
 私はひとりごちる。意を越えた偶然/必然に。運命めいたものさえ、私は覚えた。
 邂逅したもの。それは血を祖とするもの、それは死してなお追従するもの。
 目の前の形骸は、つまるところ“蛇”の血族だった。私はらしくもなく逡巡した。
 たとえ唾棄された落し子とはいえ、その命は根本に通ずる経路を穿たれている。
 暗闇の中で黙考する。死徒は既に私を発見しているが、警戒を続けるだけで挙動はない。一切を断ち、佇んでいる。
 まるで、私を待望するように。
「解せぬな。何故、踵を返さぬ」
 死徒へ、私は投げかける。答えは無い。答えに見合うだけの殺意も無い。
 無様なそれらの人間的感情は、既に排されているということか。分からない、が、代わりに私の葛藤は消え失せた。
 逃亡は既に否定された。交戦、そう、交戦の盟約は交わされた。死に合いの密議は成立したのだ。
 故に我は、容赦も無く、慈悲も無く、間断も無く迅速に。
 その身体を、喰らうとしよう。

246(編集人):2002/11/01(金) 14:32
 踊る踊る踊る、私が踊る。私が蠢く。
 三つの視界、一の私が駆けて行く。一の私が跳んで行く。一の私が飛んで行く。
 到達は瞬時、時は要らぬ、咀嚼に要する絶頂だけが、私の持ちうる時間感覚。
 捕捉に秒はいらない、三つの私が死徒へと触れる。三つの私があぎとを開く。あとはただ、砕いて、ゆくだけ。
 だが。
 眉をひそめて私は見る。末端に生じた異様に、私に生じた怪異に。
 それは私が揮発していく感覚。それは私が渇いていく感覚。三つの私が、どうしようもなく急速に干乾びてゆく違和感――
「――不可解だ。何をした、“蛇”の子よ」
 問う。
 少女の姿を模したその吸血種は、奇妙な、ひどく不愉快な笑みと、両の手を自らの眼前に掲げたままの体勢で、私を直視している。
「遠野くんはね……ううん志貴くんはね、あなたになんか殺されちゃだめなんだ」
「なに」
「志貴くんはね、わたしが……わたしが殺してあげるって、決めたんだ」
「戯れ言か」
「だから」
 死徒が、笑みを引きつらせた。ある種の嫌悪さえ引き起こす戦慄は――ひどく、禍々しい。
「あなたはちゃんと、殺してあげないと」
 余韻と共に、死徒が失せる。瞬間に私が反応するのが分かる。
 右後方、人智を越えた速度で迫りつつある異形に、私は私を解き放った。
 背が蠢く。排出された系統樹は、死徒を刹那の内に磨り潰す。
 ――筈。
 否、否。違う。この現実は、想定とは異なる未来を如実に映し出していた。
 わたし、が、涸れる。涸れていく。いとも簡単に涸れていく。
 水を失い、生気を失い、今まさに変色し萎えていくだけの雑草のように。
 わたしがかれていく。
 渇いてゆく。
 それは、何だ。
 次々と、次々と、復元呪詛を断たれていく私、私に還る事も叶わず崩れていく私、わたし。
 ――わたしの残骸、私の残骸が、並んでいる。それはまるで、まるで。
 枯渇の、庭園。
「――ク」
 私の顎が震えている。上下に、上下に、私は震えている。言いようも無く震えている。
 愉快だ。愉快だ。とてもとても、ユカイだ。
 何故に世界は、こうも愉悦に満ちているのだろう。何故に世界は、こうも歓喜に満ちているのだろう。
 私の退屈を、紛失させてくれるのだろう。
 了承した、“蛇”の子よ。

「――よかろう。おまえを、我が障害と認識する」

 加減は要らぬ。
 最大最速最高の密度てもって、貴様に滅びを与えよう。
 “巣”は、開いた。
 ――往け。

 枯れる。枯れる。私が枯れる。次々と、次々と、私が枯れていく。枯れる、枯れる、私は、枯れる。
 だが続く、だが延々と続く、私の疾走は続く。果てるまで、標的が果てるまで、私の駆動は限りなく。
 死徒へと迫る。その間合いは腕二つほど、充足と枯渇の狭間に私が踏み込む、瞬間、私は絶命する。命を枯らして地へ伏せる。
 だが往く。私は行く。途切れる事無く私は駆ける。
 彼の者に混沌を教示するまで、カオスを――原初と共に存在した未知という名の黎明まで、この内なる慈愛の洞へと導くまで。
 私は行こう。尽きる事無く教授しよう。終わる事無く示唆しよう。
「我が名は混沌、ネロ――ネロ・カオス」
 この混沌を。

                               ――了。

247(編集人):2002/11/01(金) 14:34
『さっちん支援SS⑦』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)18時1分。
ROUND6.765レス目「七視さん」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

248(編集人):2002/11/01(金) 14:35
さっちん支援SS⑦

「申し訳ございませんが、お引取り下さい」
私の前にいる同じ(だと思う)年頃の女の子は、そう言って深々と頭を下げた。

遠野くんの家へ続く長い坂道を必要以上に息を切らせて駆け上がり、聞いていた以上に圧倒的な存在感と威圧感を放つお屋敷に気圧され、やっとの思いで扉を叩いた。
出てきたのは、時代錯誤なメイド服を着た、少し冷たい感じのする女の子だった。
「あっあのっ!と、と、遠野くんはご在宅でしょうか!?」
まさかメイドさんが出てくるとは思ってもいなかったので、動揺した私はおもいっきりどもってしまった。
その言葉に対する返答がこれだ。身も蓋もないとはまさにこの事だろう。
しばし呆然としていると、メイドさんが怪訝そうな目でこちらを見ている事に気が付いた。
「あの……ご用件はそれだけでしょうか?」
「い、いえっ!じゃなくて……その……遠野くんはいないんですか?出かけてるんですか?」
ようやく落ち着いてきた心臓をなだめすかして、再度尋ねてみる。
「その前に、どちらさまでしょうか?見たところ、志貴さまのお知り合いのようですが」
「志貴さまぁ!?」
頭の上から素っ頓狂な声が出た。この娘は、遠野くんのことを『志貴さま』と呼んでいるらしい。
もしかしたら、遠野くん付きのメイドなのかもしれない。つい、頭のてっぺんから足の先までじ〜っと見てしまった。
「……あの……」
「あっ!?ご、ごめんなさい!私、弓塚さつきといいまして、遠野くんのクラスメイトなんです」
「クラスメイト……?ああ、ご学友ですね」
……?どうやら『クラスメイト』という単語を知らなかったようだ。
「!!」
そこでハッとなった。時刻はまだ昼過ぎ。授業はまだ終わっていない。
もし、遠野くんが学校に行っていたら、まだ帰ってきていないのである。
しかし、メイドさんはその事にまったく気が付いていないようだった。
「それでは、志貴さまのお見舞いでしょうか?」
「は、はい!そうです!」
お見舞い。
つまり、遠野くんは学校を休んだ、といった所だろう。
やはり、どこかに怪我をしたのだろうか。どれくらいの傷なのか。

昨夜の光景が脳裏をよぎる。
初めから顔色が悪かった遠野くん。
ニタニタと狂った笑みを浮かべる殺人鬼。
そして、おそらく私を救うためにあの場を離れた遠野くん。
その時に見た、あの笑顔が、痛かった。

「あ、あのっ!遠野くんの怪我の具合はどうなんですか!?」
その時の私の顔は、よっぽど切羽詰っていたのだろう。メイドさんはかなり引いていた。
「怪我……?志貴さまは、持病の貧血でお休みになられていますが……?」
「え……?」
貧血だって……?
確かに、遠野くんは貧血持ちだ。中学の頃からしょっちゅう倒れている。そのたびに、乾くんが保健室まで運んで行っていたのだ。
「なんだ……そうなんだ……」
気が抜けた私は、メイドさんが見ている前でへなへなと座り込んでしまった。

249(編集人):2002/11/01(金) 14:37
『夏祭り(後編)』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)19時18分。
ROUND6.771レス目「はね〜〜」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

250(編集人):2002/11/01(金) 14:38
【夏祭り】後編1/4

 一瞬耳を疑った。その声は確かに俺の知っている、懐かしい声だった。
 ゆっくり後ろを振り返ると。
「こんばんは、遠野君」
 弓塚の姿が俺の目にうつっていた。
 これは夢だろうか、それとも幻だろうか。もしそうならば消えないで欲しい、いつまでも。
「ゆ、弓塚……さん?」
「ありがとう、私のために来てくれたんだよね。嬉しいなぁ、私、ずっと遠野君に会いたかった」
 くるん、とふりかえってツインテールを揺らしながら俺に笑いかけてくれる弓塚。
「夢や幻……じゃないよね」
 違う、そんな事を聞いてどうするんだ。
「うん。遠野君は聞いた事無いかな? 死んだ人はお盆にだけこっちに帰ってくるって。私もなんだ。でも遠野君にここで会えるなんて思わなかった」
 そうか、じゃあここにいる弓塚は……幽霊みたいなものなのか……。
「ゆ、弓塚さん。俺は君に謝らないといけない事がたくさんあるんだ! 俺はどんな理由があれ君を」
 君を殺してしまった。そう言おうとした俺の言葉を弓塚は遮った。
「遠野君、謝らないで。そうだなぁ……今日1日だけ私に付き合って欲しいな、ね? せっかく会えたんだもん。私、ずっと遠野君と一緒に行きたいと思っていた所があるんだ」
 そう言って微笑みかけてくれる弓塚を見ていると、俺は何も言えなくなった。
 そうだ。俺がいくら彼女に謝ったところで、到底許されるものじゃない。だったらせめて彼女がしたい事があるなら、その為に一緒にいてあげよう。
「……こんな俺で良ければ、喜んで」
「ううん、遠野君じゃないと駄目なんだよ。ありがとう、それじゃあ行こう遠野君!」
 そう言って、弓塚は俺の側に寄り添ってくる。
 夕陽に照らされて俺と一緒に歩く弓塚の表情を見ていて……俺は、あの時一緒に学校から帰った時の表情と今の顔がダブって見えた。
 そして気が付くと、俺は弓塚の顔を見ていて涙が流れて止まらなかった。
「ど、どうしたの遠野君!?」
 そんな俺の姿を見て、弓塚が驚いたように俺のほうを見た。
 何やってるんだ俺は。
 俺が泣いてどうするんだ。俺なんかより、弓塚はあの時もっと泣きたかっただろうに。

251(編集人):2002/11/01(金) 14:40
後編2/4

「ごめん、なんでもないよ。で、どこに行こうか」
 俺は腕で涙を拭って弓塚のほうを見て笑った。
 そんな俺を心配そうに見上げながら……俺の質問に、弓塚がそっと答えた。
「あのね……実は私、ずっと前からお祭りに行きたかったんだ、遠野君と一緒に」
 ちょっと口ごもりながらそう答えた弓塚の顔が赤かったのはきっと、夕陽のせいだけじゃないんだろう。正直、俺もそれを聞いて、少し自分で顔が赤くなったような気がした。
「あ、うん。それだったら、近くの神社で丁度やってるからね。行こうか」
「うん!」
 そして……俺は弓塚と一緒に夏祭りに出かけた。



 神社に着いた頃には、日はかなり沈んできていて空も暗くなってきていた。
「わあ、見て見て遠野君。盆踊りをやってるよ」
「本当だ。結構多くの人が踊ってるね」
 太鼓の音が響きながら、多くの人が踊っている。まあ、とりあえずカップルが多いみたいだけど。
 その時、弓塚が俺の方をじっと見ているのに気が付いた。
「……遠野君、もし……良かったらなんだけどね」
 おずおずと、さっき以上に恥ずかしそうに
 う。なんていうか最後まで聞かなくてもわかる。いくら俺が鈍感でも。
「わ……私とその……ええと……」
 もう日は沈んでいるのに、弓塚の顔はどんどん赤くなっていく。ついでに俺の顔も。
「あ、ゆ、弓塚、さん。お、踊ろうか一緒に」
 口に出してみたら、恥ずかしいせいか俺までどもってしまった。こんな時に気の効いた言葉の一つもいえない自分が嫌になる。でも、弓塚はこくんと首を縦に振って。
「……うん」 
 小さな声でそう答えてくれた。

252(編集人):2002/11/01(金) 14:41
後編3/4

 ダンスだの踊りだのというのは、俺は何も知らなかった。
 けど、そんな作法なんか二人の間にはどうでもよかった。この限られた時間の中、一緒にいられればそれだけで幸せだったから。
『おい、なんだあいつ。一人で何やってるんだ?』
『さあ?』
 そんな声も聞こえてくるけれど、そんな周りの声もすぐに耳には入らなくなった。
「本当は私ね、ずっと前から、何年も前から遠野君と一緒にこんな風に出来たらいいなぁって考えてたんだ。うん、私の夢だったんだ。バカみたいだよね、もっと早くに自分の思いをうち明けていれば良かったのに」
「いや、むしろ気が付かない俺の方が問題だよ。よく妹に言われるよ、鈍感だとか朴念仁だとか」
「あは。でもそこが遠野君らしいところでもあるよね。私、遠野君のそういうところも含めて全部が好きなんだ」
 もし俺がもっと早くに弓塚の思いに気が付いていたら。そしてもし俺があの路地裏で秋葉ではなく、弓塚を選んでいたらどうなっていたのか。
 でも、その言葉を俺は決して言いはしなかった。
 それを口に出すのは、あまりに彼女にとって酷な事だから。
「それではお姫様、引き続き踊りのお相手を勤めさせていただきます」
「はい、とお……王子様」 
 二人でそんな冗談を言いながら踊る。今の時間が少しでも弓塚の思い出になるように。
 そして。
 最後に花火が打ち上げられて、祭りは終わりを告げた。
 あたりの人はどんどんと帰っていく。周りにある出店もどんどん片付けられていく。それを二人で黙って見つめていた。
 そして、ついに俺達以外には周りには誰もいなくなった。
「終っちゃったね」
「ああ……」
「今日は楽しかったよ、ありがとう遠野君」
「喜んでくれて……良かった」
 でも、そう言う弓塚の横顔は悲しそうだった。
 俺は何となくわかっていた。この祭りの終わり、今日という日の終わりが別れを意味する事が。

253(編集人):2002/11/01(金) 14:43
後編4/6

「本当に、楽しかったんだ。どのくらい楽しかったかって、帰らなきゃいけないのが……凄く悲しくなるくらい……でも、これは今日……1日だけなんだ」
 俯いてぽつぽつと喋る弓塚は、本当に今にも泣きそうなくらいの顔をしていた。
「弓塚……」
 何て言ったらいいのかわからない。けど、何か言わないと。
 そう思った時、弓塚が急に顔を上げた。
「でもね! 1日だけでも、今日が最高に楽しかった事は変わらないよね。だから、私の心から遠野君にありがとう、って言わせて下さい! 遠野君、本当にありがとう!」
 その顔は笑顔だった。
 それは見ていて悲しくなるくらいの笑顔。
「弓塚さん……どうしてそんな無理して笑うんだ……」
 俺は今日まで知らなかった。
 泣き顔よりも笑顔の方が悲しい事があるなんて事を……俺は知らなかったんだ。
「そんなこと、ない、よ。私……悲しくなんかないよ」
 嘘だ。こんなに側から見ていて心が痛くなるくらい辛そうに見えるのに。
「ごめん遠野君。もう時間なんだ、そろそろ帰らないと……」
 そう言って弓塚は後ろを向いてしまう。
「ばいばい、遠野君」
 駄目だ! 弓塚をこのまま行かせてしまったら……もう俺はきっと、二度と弓塚に会えない!
「待ってくれ! 一つだけ約束してくれ! これから毎年……今日と同じ日に会いに来て欲しいんだ」
 それは考えて言った言葉じゃなくて、自然に俺の口から出ていた言葉だった。それがどうしてなのか俺には分からない。けれど一つ言える事がある。
 俺にとっては、弓塚も大事な人であるということなんだ。
 その時、弓塚がゆっくりとこっちを向いたとき……俺は驚いた。
 弓塚が目に涙を溜めていたんだから。

254(編集人):2002/11/01(金) 14:45
後編5/6

「遠野、くん。そんな事いったら、私本気にしちゃうよ? それでも、いいの?」
 一言一言をゆっくりと、それでいてちょっとかすれそうな声で。
「俺は……冗談でこんな事言ったりはしないよ」
「今度の約束は……信じて、いいんだよね?」
「信じて欲しいんだ。俺にそんな事いう資格なんかないのかもしれないけれど」
 でも、俺は弓塚を放っておくなんて、そんな事できるわけがない。
 そして。
 とうとう弓塚は地面に座り込んで泣き出してしまった。
「私……泣きたくても泣けなかった……。悲しい事ばっかりで泣きかた忘れちゃったくらい……。それに、一度泣き出しちゃったら……もう止まらないんじゃないかって……」
「泣きたい時は泣いていいんだ……泣いていいんだよ」
「うっ、うっ……」
 弓塚がどれだけ辛かったのか、それはこの涙を見てるだけでわかる気がする。
 そして……泣いている理由が俺にある事も。気が付くと、俺も涙を止める事ができなかった。



 どのくらいそうしていたんだろう。
「ごめん、なさい。泣いたりしちゃって。恥ずかしい所見せちゃったね」
「いや。俺も同じだし」
 普通こういう時は胸を貸してあげたりするものだって言うのに、一緒になって泣くやつなんて俺くらいだろうか。
「あはは……。じゃあ本当にそろそろお別れなんだ。今日までだからね、ここにいられるのは」
 その言葉に俺は時計を見た。11時55分、あと5分で今日が終る。
「私、ひとつだけ黙ってた事があるんだ。今日が何の日なのか」
「え?」
 そう言って俺のほうを見ながら笑う弓塚。
「今日はね、私の誕生日。知ってたかな?」
「いや、全然わからなかった……」
 何て俺は情けない奴なんだ。そのくらいも俺は分からなかったなんて。

255(編集人):2002/11/01(金) 14:46
後編6/6

「だから……一つだけ欲しいかな、遠野くんから私へのプレゼント」
 そして、弓塚はゆっくり目を閉じた。
「弓塚……」
 一瞬頭に秋葉の顔が浮かんだ。けれど。
 秋葉、ごめん。俺は……弓塚も好きになっちゃったみたいなんだ。
 そして、俺はそっとキスをした。
「ありがとう、嬉しいよ……」
 その弓塚の言葉が、俺も嬉しかった。
 でも、今日はもう終ってしまう。
「どうして時間って言うのは止まってくれないんだ」
 もし時間が止まってくれたなら、ずっとこうしていられるのに。
「そうだね……私もそうなってくれたらいいのにって思う。でもね、今のこの気持ちはずっと消えたりなんかしないよ。だから、今はさよなら。じゃあね、ばいばい……志貴君……」
 そして。弓塚は俺の前からいなくなった。だけど、その心は俺の中にある。
「終電は……もう無いな。まぁいいさ、歩いて帰ろう」
 俺は絶対に忘れない。8月の15日を。
「また、必ず会いに来るよ。来年の同じ場所で、同じ時に……」
 そして、俺は神社を後にする。蝉の声がジージーと鳴く中を、ゆっくりと。
 そろそろ夏の暑さも終わりかな……。



【夏祭り】   完

256(編集人):2002/11/01(金) 14:47
『ガスコンロ』弓塚さつき支援
2002年8月13日(火)19時56分。
ROUND6.784レス目「(不明)」様によって投下。
 ネロ・カオス (月姫)
 弓塚さつき  (月姫)

257(編集人):2002/11/01(金) 14:48
----------------------
ピーン、ポーン
間延びした呼び鈴が、家の中で響くのが聞こえる。
インターホンに耳を近づけてしばらく待つと、ガチャリ、と受話器を取る音。

「はい、どちらさまでしょうか?」

女性の声。
あ‥‥‥と、返事をしようとして、不意に言葉に詰まる。
間抜けな事に、どのように呼び出せばいいのか全く考えてなかった。
一瞬の逡巡の後、やはりオーソドックスなのが一番だと判断、息を吸い直して言葉を紡ぐ。

「あの、弓塚さつきさんとクラスメートの遠野志貴と申しますが、さつきさんはいらっしゃいますでしょう
か?」
「えっ‥‥と、遠野く!」

ガコンガコンと、落とした受話器をどこかにぶつけたような音が数回響いてそれっきり、あとは ツー という接続の切れた音しか聞こえなくなった。
どうやら受けたのは弓塚本人だったらしい、受話器を取り落とす程におもいっきり慌てさせてしまったようだ。
まあ、さして親しくもないクラスメートが休日の朝からいきなり訊ねてきたら、俺だってかなり焦ると思うけど。

258(編集人):2002/11/01(金) 14:49
ちょっと申し訳ない気分で待つ事数十秒、トタトタという足音が近づいて来て、玄関を開ける。

「おっ‥‥‥おはよう、遠野君。いきなりどうしたの?」

出てきた弓塚を、返事をする事すら忘れて、暫し呆然と眺める。
いつもは二つに縛っている髪の毛を解いて、真っ直ぐ後ろへと垂らした髪型。
肩の部分を紐で留めた、白いワンピース。
普段教室で目にしていた弓塚とは全く違った装いで登場した彼女に、意表を突かれて声が出なかった。
日曜日に自宅で制服を着ているわけないのだから、私服でいることは至極当然なのだが、今の今までまったくそのことに頭が回らなかった。
見慣れない姿に拭えぬ違和感と、見慣れぬ姿ゆえの新鮮さと。
クラスの男子が弓塚の事をカワイイと言うのも分かる気がする、などと変な事を考えながら、弓塚の顔から目が離せなかった。

「あ、あの‥‥‥遠野君?」

呼ばれてハッと、目が覚めたように我に返る。

「あぁ、ごめん。 おはよう、弓塚さん。 休みの日に朝から押しかけてきて迷惑だったかな?」
「うぅん、私は別に気にしてないけど‥‥‥その、何かあったの?」
「突然で悪いんだけど、ちょっと頼みたい事があってさ。 あの‥‥‥ガスコンロを貸して欲しいんだけど‥‥」
「ガス‥‥‥コンロ?」

見ると、案の定弓塚は、目を白黒させて俺を見ていた。


〜〜続かない

259(編集人):2002/11/01(金) 14:51
『(琥珀祭り)』琥珀支援
2002年8月15日(木)2時53分。
ROUND6.891レス目「amber」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)
 琥珀              (月姫)

外部リンク型。ここではまず「琥珀さん応援師団 注射数1 」の81〜82レス目
にリンクが張ってありました。そこで、多数の画像やSSが紹介されています。
それらの内、SSだけを抽出いたしました。
ttp://kscustom.cside8.com/kosstop.htm

260(編集人):2002/11/01(金) 14:53
『(無題)』琥珀支援
2002年8月15日(木)19時56分。
ROUND7【萌る躰】.9レス目「半透明」様によって投下。
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)
 琥珀              (月姫)

261(編集人):2002/11/01(金) 14:55
調理場を覗き込むと琥珀さんがいた。
夕食を作っているらしい。
「美味しそうな匂いだね」
豪奢な家に住んでいようが財布の中身は雀の涙。
買い食いなんてもってのほかな俺にとって、夕食とは生きる喜びそのものなのだ。
「あ、志貴さん」
トン、トン、トン。包丁でリズミカルに野菜を切り刻みながら琥珀さんが振り向いた。
「ふふ、お腹が空いたんですか? わざわざこんな所まで来て」
「あはは、確かにそれもありますけどね。たまには琥珀さんの活躍する姿が見たいなー、とか思って」
つまり、単なる気まぐれなんだけどね。
琥珀さんは一瞬意外そうな表情をして、そして、嬉しそうに微笑んだ。
「あら、志貴さんったら嬉しいこと言ってくれますねー♪
 それならご期待に添えるようにがんばらないといけませんね」
一瞬、視線を宙に彷徨わせてから。
「志貴さんのために、腕によりをかけますから♪」
その一言だけで満足してしまう俺は、ある意味単純なんだろうなあ。
「えっと、それでですね。今日の夕食には私が裏庭から取ってきた…」
……琥珀さん、さっきからずっとこっち見ながら包丁動かしてませんか?
包丁の扱いに慣れているとはいえ、見ている方としては気が気じゃないんですけど。
指切らないかどうか心配だな。
話しながらリズミカルにトン、トン、トン。
絶え間なく続く音。トン、トン、トン。トン、トン、サクッ。
………『サクッ』?
「痛っ」
ほら、やっぱり指切って………って、落ち着いてる場合じゃない!
「琥珀さん、大丈夫!?」
慌てて駆け寄って琥珀さんの手を取った。
左手の人差し指から血が流れている。音もなく静かに。しかし流れる血は止めどなく。
どうすればいいんだ。焦りが混乱を招く。
「あの、志貴さん…こんな傷、『痛くない』って思えば平気ですから」
いつもの笑顔、そう呼ぶには確実に血の気が足りない。
…そうだ、血を止めないと。
「琥珀さん、ごめん!」
言ったきり、彼女から何か言われる前に。

血の流れる人差し指に、唇を吸い付けた。

262(編集人):2002/11/01(金) 14:56

ちゅぷ…
吸い付けるたびに、じわりと広がる独特の血の味。
琥珀さんの血。そう思っても、ただ痛々しいだけなのに。
琥珀さんの指。そう思うだけで、不謹慎にも紅潮する自分がいた。
傷は浅くはないが致命傷には至らない。
舌で舐めてだいたい把握した。
ちゅぷ…
もう血は止まっただろうか。
唇を離して傷口を見た。
まだ少し血が出ている。
再び唇を付けようとして、ふと目が合った。
「………」
目を伏せて、頬をうっすらと朱に染めて。
右手は躊躇いがちに俺の袖を掴んで、ふるふると震える。
声を掛けようとして、できなかったらしい、年相応の女の子と。
「………えーと」
二の句が継げなかった。
喉まで声が出かかるたびに、さっきまでの自分の行為が思い返されて、言葉にならなかった。
「ごめん…」
かすれた声で小さく謝るのが精一杯だった。
「し、志貴さんが謝ることないですよ…悪いのは私ですから…」
琥珀さんは琥珀さんで真っ赤になって照れてるし。
それはそれで可愛らしくて良いんだけれど。
「………」
「………」
むずがゆい沈黙。
いつもの調子で「あはー、志貴さん指チュパですねー」とか笑い飛ばしてくれたらどんなに気が楽な事か。
そんな都合のいいことを考えていると。
「志貴さんっ!」
琥珀さんが鋭く叫んだ。
瞳も声と同じく、射るように鋭く。
さっきまでの照れはそこにはなかった。
また血の流れが強くなってきた指を突き出して。
気圧された俺の前で、すぅっと息を吸い込んで。
「ま」
「…ま?」

「ま、まだ血が止まってませんよ…」

後半なんか聞き取れないくらいの小さな声で。
言い終えるのと同時に勢いよく俯いて、琥珀さんは耳まで真っ赤になった。

263(編集人):2002/11/01(金) 14:57
『(無題)』弓塚さつき(?)支援
2002年8月16日(金)23時1分。
ROUND7【萌る躰】.97レス目「戦闘開始」様によって投下。

※このSSは決勝戦の直前に投下されました。

264(編集人):2002/11/01(金) 14:59
ようやく暑気も収まりつつある時刻。今日も今日とて遠野家の屋敷に忍び込むべく、
1人の吸血鬼が公園を歩いていく。頭の中は日に日に過激になる遠野(妹)を出し抜くことで頭が一杯だ。
「し、し、神妙に勝負よっ!!」
 震えまくって不協和音すら発している声音で呼び止められ、アルクェイドが振り返る。
「……あなた、誰?」
 土曜20時に全員集合するコントでもお目にかかれないほど分かりやすくコケる、1人の女子高生。
「さつきよ! 弓塚さつき! これから24時間、志貴くんを賭けてあなたと戦う相手よっ!」
 彼女の中では目的と優勝賞品がやや歪んでいるようだったが、残念ながらこの場にツッコミ役は存在しない。
「えー…」
「何よ、その不満そうな表情の立ちグラフィックは」
 ちなみにこのssはDNML風味である。
「わたし、本家の人気投票で勝ってるからもう満足なんだけど」
 抜け抜けと他人のトラウマに岩塩を塗りこむ吸血鬼。
「そっちは良くてもこっちが困るの! あなたに勝てるチャンスなんて今後何百回トーナメントやっても
まずあり得ないんだから!」
「……哀れね…敗残者って…」
 ハンカチを出して涙を拭うアルクェイド。
「同情するならシナリオちょうだいっ!」
 そればかりは真祖の姫にも無理な相談である。神様(=作者様)に頼もう。

265(編集人):2002/11/01(金) 15:01
「…ま。嫌だって言っても見逃してくれないんでしょ?」
 にやり。
 擬音が聞こえそうなほどはっきり、表情を変えて。
 地上最強の生物が、戦闘態勢に入った。
「分かった。志貴の所に行くのは1日延期ね」
「…毎日夜這いしてるの…? うらやましい…」
 ピント外れのところで羨望のまなざしを向けるさつき。
「じゃ、始めるわよ」
「え……あ、うん!」

 こうして、最後の戦いがはじまる…。

266(編集人):2002/11/01(金) 15:02
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)0時12分。
ROUND7.【萌る躰】127レス目「社壊人」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

267(編集人):2002/11/01(金) 15:03
<<弓塚さつき>>支援SS

「あ、わたし、ちょっと教室に忘れ物」
「じゃあ、校門のところで待ってるね、さつき」
 バドミントン部の友達と別れ、昇降口から教室へ向かう。
 夕陽が赤く染める廊下に、わたしの足音だけが響く。校内には誰も残っていないようだった。
 2年に進級したばかりで、馴染みのない自分の教室に辿り着く。
 ドアを開け、中に入ろうとしたわたしの足が止まる。
 無人だと思っていた教室に、人がいたから。
 夕陽の中で窓際の席に座った、男の子。
 他の人とは違う雰囲気を纏った、クラスメイト。



会  話



 クラスメイトの名は確か…遠野、志貴くん。
 いつも学校一の不良(だとわたしは思っている)乾くんと一緒にいる男の子。
「…どうしたの?」
 遠野くんは、ゆっくりとこっちを向いて、そう訊いてきた。
 驚いた風でもなく、問い詰めるでもなく。いつもと変わらぬ自然さで。
 ――トクン。
 わたしの心臓が、一度だけ高鳴る。
「あ、うん、ちょっと、その、忘れ物…」
 …どうして、わたしはこんなに焦ってるの?
 誰もいないと思った教室に人がいたから? それとも…?
「…そう」
 遠野くんは、何事もなかったかのように答える。
 ――トクン。
 わたしは足早に自分の机に近寄って、プリントを鞄にしまう。
 その間も、遠野くんはこっちを見ている気がした。実際はそんな事ないのに。
「…あ、あの、何してたの? まだ、帰らないの?」
 静寂に耐え切れず、わたしはそんな事を話し掛けていた。
「…うん、もう少ししたら帰るよ」
 夕陽に照らされてよく見えなかったけど、遠野くんはちょっとだけ微笑んだような気がした。
 ――トクン。
「そう、なんだ。あ、あのわたし、もう帰るね」
 わたしはそそくさと、教室を出ようとする。胸の高鳴りに気付かれないように。
 だけどそんなわたしに、遠野くんが声を掛けてきた。
「…もうすぐ暗くなっちゃうから、気をつけてね」
 ――トクン。
「え…?」
 振り返ったわたしの目に、夕陽の中の遠野くんが飛び込んできた。
 今度は、はっきりと。微笑んでいる遠野くんが。
 でもその微笑みは、遠野くんだけが纏っている”何か”をも感じさせた。
 ――トクン、トクン。
「…う、うん、ばいばい」
「うん。ばいばい」
 まるで逃げるように、わたしは教室を出た。昇降口への廊下を駆け抜ける。
 ――トクン。
 昇降口についても、胸の高鳴りは収まらない。走ったせい、だけではなかった。


 …何だろう、この感じ…。
 何だか楽しいような、それでいて怖いような気持ち。
 こんな気持ち、初めてだった。これは…遠野くんの、せい?
 他人に合わせる事に疲れ始めていたわたしにとって、それは新鮮な出来事だった。
 …遠野くんと話せたら、またこんな気持ちになれるのかな?
 だとしたら、つまらなかった学校も、楽しくなれるかも。


 昇降口から校門へと向かう。夕焼けが濃くなり、夜のとばりが近付いてきていた。
 わたしは振り返り、自分の教室辺りを見上げる。
「…ばいばい、遠野くん。また明日」


 …これが恋だと気付くのは、もう少し先の事。
 …そして、遠野くんの纏っている”何か”を理解するのは、まだ3年も先の事。

268(編集人):2002/11/01(金) 15:05
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)0時26分。
ROUND7.【萌る躰】141レス目「戦闘開始」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

269(編集人):2002/11/01(金) 15:06

「じゃあ手始めに。どっちがより遠野くんのことを好きか、勝負だよ」
 この2人では当然仕切り役に回るさつきが、段取り良く進行していく。
ちなみに彼女は、大方の予想通り学級委員の経験が豊富だ。
「え? 普通に戦うんじゃないの?」
「力勝負であなたに勝てるわけないでしょっ!」
「あなた…見かけによらずワガママね」
 アルクェイドに言われたら、人として終わりかもしれない。
「ま、別にいいけど。自信あるし」
 頭の後ろで手を組み、余裕のポーズの吸血鬼。
「どういうこと?」
「わたし、志貴と毎日遊んでるよ」
「わ、私だって遠野くんと(脳内で)毎日お話してるんだから…」
 そこで何かに思い当たったのか。びしっ、とアルクェイドを指差して言い放つ。
「大体あなた、遠野くんと知り合ってたった3週間でしょ? 私なんて、
彼に(ストーカーという名の)片思いを3年間もしてるんだから」
「『愛に時間は関係ない』って志貴が言ってたよ」
「…と、遠野くんてば、そんな恥ずかしいこと言うんだ…」
 しばし忘我の表情で考え込むさつき。
 そして数秒後。実に気持ち悪い笑みを浮かべる。彼女の中で妄想が結実したようだ。
「…ね、ねえ…大丈夫?」
 ちょっと本気で心配するアルクェイド。
「ふ、ふん! そんなの、ぜんぜん羨ましいんだからっ!」
「やっぱりダメだわ。えーと、近くの病院は……」
「やめてよ救急車呼ぶの」
 テレホンカードを取り出す彼女を見てようやく正気を取り戻し、それを慌てて止める。
「ほんとに大丈夫? じゃ、続ける?」
「うん、いいよ」

「えっと…あ、志貴とキスするの好きだよ。口の中が溶けちゃいそうで」
「私は放課後の教室に侵入して遠野くんのリコーダー舐めたことあるわよ」
「………」
「………」

270(編集人):2002/11/01(金) 15:07
「やっぱり電話しよ」
「だから救急車はいいってば!」
 しがみつくさつきに、アルクェイドが優しい笑顔を見せる。
「大丈夫だよ、病院には電話しないから」
「ほんと?」
 上目遣いに媚びを売るその姿は、万引きを許してもらおうと必死の小学生のようだ。
「うん、警察に電話するだけ」
「なお悪いーー!」
 いったんは緩めた腕を締め、アルクェイドに抱きつく。
「だってさっき言ったこと、犯罪でしょ?」
「犯罪じゃないの! 愛ゆえの過ちと呼んで!」
「……言い方が変わっただけのような…」
 不審そうな目で眼下の女子高生を見る。
「違うの。思春期を迎えた少年少女が一度は通る道なんだよ」
「そういうものなの? そんな風習、聞いたことないけど」
「そうだよ! 絶対そう! 好きな人のリコーダーを舐めたいっていうのは人間として当たり前の欲求なの!」
 何のためらいもなく断言するさつきに、理解できないながらも押し切られつつあるアルクェイド。
「へえ……そうなのかな…?」
「そうだよ。あなただってそうでしょう?」

「え…わたし? そんなの、考えたことないよ」
 まさか自分が同類にされるとは思っていなかったのか、慌てて首を振る。
「じゃあ、遠野くんのリコーダーは汚いと思う?」
「汚くは…ないと思うけど…」
「ほら。他の人のリコーダーは汚いけど、遠野くんのリコーダーはきれい。これが愛の始まりなんだから」
「そう…かな…」
 弓塚さつき。この勢いで新興宗教を始めれば、そこそこの信者を集めそうではある。
「そうよ。ためしに、これから教室に行ってみる? 今の音楽の授業からして…アルトリコーダーならきっとあるわよ」
「アルトリコーダー?」
「そう。ソプラノリコーダーほどの背徳感はないけれど、表面積が大きいだけに満足行くまで味わえる。通好みの一品よ」
「へえ…そこまで言うなら…やってみようかな…」
 花が咲いたようににっこり笑うさつき。そういう笑顔はもっとまともなシーンで見せればよいと思うのだが。
「じゃあ、これから行こう。私が笛メイトの道を一から教えてあげるわ」
「ふ、ふえめいと…」
「そう、笛メイト。リコーダーを(別の目的で)こよなく愛する仲間のことよ。今からあなたもその一員だからね」
「うん。分かった」
 戦いのことなどすっかり忘れ、仲良く高校に向かう二つの影。それはそれで、実に幸せそうではあった。
 遠野志貴が幸せかどうかはさておいて。

271(編集人):2002/11/01(金) 15:08
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)1時12分。
ROUND7.【萌る躰】162レス目「七子さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

※4〜7ページは185レス目以降から投下されました。

272(編集人):2002/11/01(金) 15:09
1/
<日曜日 午後2:23:19 デパート9F インテリアコーナー 通路>
「まったく、どこへ行ったんだ、あいつは!」
焦燥を紛らすように俺は荒々しく吐き捨てた。

アルクェイドとはぐれた。
『デパートへ連れて行って欲しいい』
とだだをこねたたあいつのため、秋葉の目を盗んでまで
屋敷を抜け出してきたというのに。

デパートへ入った途端、「わぁ、すごい!」などと
大はしゃぎで駆けだして行ってしまったあいつを見失い、
かれこれ1時間だ。
はしゃいでるあいつの顔は可愛らしいから好きなんだけど…
そのあと人間ばなれしたスピードで走って行かれるとなぁ…
「はぁ・・・」

女性向けの売り場はすべて回ったというのに・・・
店の人に聞いても、"金髪美女"は見かけていないようだ。
あいつの外見で人の目を惹かないなんてないだろうし。
もしかすると、俺なんかは想像のつかない所に興味を惹かれ
たのかも。
まったく、あいつは。

273(編集人):2002/11/01(金) 15:12
2/
♪ピンポンパンポーン 「迷子のお知らせです―――

館内放送か・・・そうだ、あいつを呼び出して貰うことに
するのも手だったな。今からでもやろうか。

「――三咲町よりお越しの遠野志貴くん。遠野志貴くん―――
「ぶっ!?
踵を返そうとした俺は、放送の続きに思いっきりずっこけた

「――お姉さんがお待ちです。至急、5F紳士服売り場まで―――
「だ、誰がお姉さんだっ!!
言うなり、みなまで聞かずに俺は駆けだした。

人で溢れたエスカレータを避け、階段を二段飛びで駆け下りる。

<日曜日 午後2:25:26 デパート5F 紳士服コーナー 案内所>
アルクェイドは案内所の傍に立っていた。
その表情はシリアスな時のそれで、きりりと凛々しい。
と、その赤い瞳が俺の姿を捉える。

急転、その表情がぱっ、と明るくなる。あいつはにぱっと笑うと
「あっ、志貴、ここだよ!ここ!早く早く〜!

ぶんぶんと手なんて振った。

274(編集人):2002/11/01(金) 15:13
3/
「ああっ、もう、もう、もう!!」
赤面しながら案内所に駆け寄ると、アルクェイドの手を取る。

「どうもすみませんでしたっ!こいつの連れです!」
言うが否や、自分が下げると同時に手ではたくようにアルクェイド
の頭も下げさせ、
「ではっ!!」
脱兎のように逃げ出した。
後にはポカンとあっけに取られた案内嬢のお姉さんだけが残された。

<日曜日 午後2:30:52 デパート屋上 軽食コーナー ラウンジ>
「もーー、志貴痛い〜〜」
無言で歩き続ける俺に手を引かれて屋上まで来たアルクェイドは、
引かれていた左手を振ってぶーぶー文句をたれた。

「このばか女っ!なんだって急にいなくなるんだっ!」
大きな声にびくっ、と身を縮こませるアルクェイド。
おずおずとこちらを見上げてくる。

「志貴………怒ってる?」
「当たり前だ!いきなり目の前からいなくなったら…
……心配するだろっ!」
アルクェイドは神妙な顔つきで俯くと、
「ごめんなさい…………
こちらが悪く思うほどにしょげかえってしまった。

275(編集人):2002/11/01(金) 15:14
4/
「…あ、……うん…」
心底しょんぼりとしたその姿を見ると、さっきまであった怒りは
忽ち雲散霧消してしまう。

「…でも、どうして急にいなくなっちゃたんだ?」
「う、うん、あのね」
あのあの、と救いを見つけたように顔を上げるアルクィエイド

「あのね、志貴に、プレゼントを送ろうかと思って…」
「はあ?!
もじもじと、指を絡ませ顔を赤らめたりなんかして。
そっか、プレゼントか。
……走っていくほど、速く買いたかったのかな。
なんか、そういうのって

いじらしい。

「いつも、お世話になってるし……(もじもじ)」
「………
「志貴、よく私の我が儘も聞いてくれるし……(上目遣い)」
「………
「それに、好きな人にプレゼントってあげるものでしょ。
私、志貴のこと………大好きだから……(照れ照れ)」
がばっ
「きゃっっ!!」

276(編集人):2002/11/01(金) 15:15
5/
感極まって、俺はアルクェイドを抱きしめた。
「……ありがとうな、アルクェイド。」
「え、あ、うん。喜んでもらえたなら、私も嬉しい……
私、人間にプレゼントなんてしたの、初めて。
選ぶのって初めてで大変だったけど。何か幸せだった。
こんな気持ちにさせてくれたのは、志貴だけだよ。」

俺に抱きしめられたまま、か細い声でささやくアルクェイド。
そうだった。人との交わりを知らずに何百年もの時を過ごしてきた
こいつには、プレゼントをあげたりもらったりなんてことも一切
なかったのだろう。

たまらなくなった。ただ、強くアルクェイドを抱きしめた。

生まれてから一世紀近くも経って、はじめて誰かにあげたプレゼント。
参った。こんなものを受け取ったら、何をお返しにすればいいと
いうのだろう。

「アルクェイド…」
「なに、志貴。」
憂いを含んだ微笑で、腕の中のアルクェイドが見上げてくる。
その美しい貌を見ながら、真摯に言った。
「何か俺にお願いはないか、何でもいい。」

277(編集人):2002/11/01(金) 15:16
6/
アルクェイドは沈んでいく夕日の方を向いた。
そのまま、黙り込む。
ただただ、夕焼けをじっと見つめ続けている。
横顔には、険しさがある。が、怒りではない。厳しさ?
悲しみ? 何を、考えているのか、俺にはわからない。
ただ、腕の中にいるこいつが、とても遠い存在に感じられて。

やがて、ゆっくりと横を向いたままの唇がほころび、

死なないで。

空気を揺らさず、言葉が作られた。
「え?」

「なんでも、ないよ。」
あはは、と笑う。
すでに千年を生き、まだ生き続ける彼女と、
あと数十年も生きられない俺。

「志貴が選んだプレゼントが欲しいな。高いものじゃなくていいよ。
私もそんなに高価なものは送ってないから」
「ああ…………」
「貴方が選んでくれたものであれば、何でも、いいの。」
ぽす、と俺の肩に頭を預けてくる。

278(編集人):2002/11/01(金) 15:17
7/
「志貴…?」
「なんだい?」
「ひとつだけ、お願いして、いいかな…」
「いいさ、言ってごらん」
「今日は……ウチに泊まらない?」
「………………いいよ。」
「じゃあ今日はパーティにしよう?二人だけで。」
「やれやれ、TVでもやってたか?」
「むー、女の子の夢なのに」

いつもの調子に戻った彼女とじゃれ合いながら、俺もいつもの調子で
マンションへの家路を寄り添い歩く。
この何でもない日常が、アルクェイドにとっての永遠になるように。
いくら時が過ぎても、幸せだったと思い出せるように。
このお姫様に、平凡をプレゼントしよう。

おしまい

279(編集人):2002/11/01(金) 15:18
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)2時57分。
ROUND7.【萌る躰】194レス目「しゅら」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

280(編集人):2002/11/01(金) 15:19
深夜、いつものように志貴の部屋に窓から入り込むアルクェイド。
「志貴…」
 元気の無いアルク。
 どうした? と志貴が問い掛けるも、アルクェイドはそれに答えない。
「ねえ、志貴…私のこと、好き?」
「何言ってるんだよ、…そんなの、決まってるだろ?」
「ちゃんと、言って」
 何か必死なアルクェイド。
「………好き、だよ」
「……どの辺が?」
「…おまえ、一体どうしたんだ?」
「……お願いだから、答えて」
 涙目になるアルク。
「……全部、好きだよ」
 真っ赤になってうつくむ志貴。
「ああっ、もう! まどろっこしい!」
 アルクェイドの手を引っ張りベッドに押し倒す志貴。
 そのまま強引にキス。
「し、志貴っ、……ん、むぅ…」
 がくりとアルクの力が抜ける。
「教えてやるよ。どれだけ、お前が好きなのか」
 志貴の手がアルクの体を愛撫しはじめる。
「だめ…だめなの…」
 しかし、アルクは弱々しくも、抵抗する。
 いつもなら喜んで――いやさ、悦んで受け入れるはずなのに。
 そのことに怒ったのか、志貴の愛撫の速さが上がる。
「…ひぃぁううっ!」
 強く抱きしめて、強く愛撫して、強く抱きしめて、強くキスをする。
「ぁぁんっ、志貴、強すぎる、強すぎるよぉっ……んぁぁっ」
 姫君の懇願も逆に志貴をさらに煽るだけ。
「アルクェイド……。かわいいぞ、アルクェイド」
 志貴はアルクのスカートの中に手を入れて、ショーツを横にずらして
直接ワレメに触る。
 びくん、と激しく反応するアルク。
「んぅぅぅぅぅっ」
「なんだ。濡れてるじゃないか、ほら」
 志貴はスカートの中から真っ赤な手を抜き出した。
「……え?」
 まじまじと、自分の手を見る。

 真っ赤な。手。

「えええええええええええええ?!」
「う、うぇぇぇぇぇぇん………志貴、ごめん…ごめぇん……ひっく、
私のソコ、壊れちゃったよぉぉ…。お願いだから嫌わないでぇぇ……」
 ベッドの上はもーシッチャカメッチャカ。

281(編集人):2002/11/01(金) 15:21
――それからどしたどんどこしょー。

「いやー、まさか、生理知らないなんて思わなかったぞ」
「それは…その、800年生きていたとは言っても、実際動いていた
のはそんな長いわけでもないし、それに本来こういうところは封印が
かかっているはずなんだけどなぁ」
 うーん、と考え始めるアルクを志貴は抱きしめる。
「ま、いいじゃないか。どこも壊れてなくてさ」
「…うん」
 ぎうー、と二人は抱きしめあった。


「ほほー…、悲鳴が聞こえて、何事かと思ったら、そんなくっだらない
ことで私たちはたたき起こされたわけですか?」
 後ろから聞こえる、妹の声。
 多分檻髪発動中。
 その後ろに使用人二人の気配もあったり。
 皆思い思いのエモノ(具体的にはなぞのおくすりいりちゅーしゃきとか
おてせーのさつじんりょーりとか)を手にしている。

 アルクに抱きつかれて逃げるに逃げられない志貴。
 とりあえず、この場を円滑にまとめる言葉を捜す。
 しかし。
「ねーねー、生理がきたってことはー。……志貴の赤ちゃん、産めるかな?」
 姫君、さっきのお返しとばかりに爆弾発言。
 いや、本人は素でそう思っていることであろう。

 ぶつっとした音が後ろからみっつ。

 多分志貴くんの将来はばら色。真っ赤な血のように。
 そんなこんなでムリヤリ終わる。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

282(編集人):2002/11/01(金) 15:22
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)3時5分。
ROUND7.【萌る躰】198レス目「全系統異常アリ」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

283(編集人):2002/11/01(金) 15:23
月が出ていた。
中天に懸かるそれは、暖かくもなく、かと言って非情でもなく。
静かに私の影を縫いつける。
数年ぶりに立ち寄った、懐かしい街。
その小高い場所に在るそれは、以前と変わらず鬱蒼と茂った木々に囲まれている。
蒼い光に照らされながら。
厳めしい構えの門に立って、中を窺ってみる。
用事があるなら、堂々と中に入って行けば良いけれど、生憎と用事もアポイントも無い。
たまたま近く迄来たので足を伸ばしてみただけに過ぎない。
もしかしたら逢えるかも知れないとか、そう言う期待は勿論あった。
けれど、現実がそうそう都合良く行かないことも知っている。
小さな吐息を一つ漏らして、踵を返す。
「あれ、もしかして先輩?」
前言撤回、現実なんていい加減なもので、結構なるようになるものだ。
振り返った先には以前と変わらない姿。
いや、以前に比べると少し精悍さを増した彼が、手に16、7本の白い百合の花を持って立っていた。
「ごきげんよう、遠野君。元気そうですね」
「うん、シエル先輩も」
逢ったら言いたい事が沢山あった筈なのに、何を言って良いのか判らない。
どうやら、遠野君もそれは同じらしく何度か口を開きかけては、言葉に出来ずにまた閉じる。

284(編集人):2002/11/01(金) 15:24
そうやって、二人とも暫くの間、馬鹿みたいに見つめ合う。
「入りませんか、シエル先輩。
 その・・・時間があればですけれど」
「ありがとう。では、お言葉に甘えさせて貰いますね」
門から玄関に向かう迄の間、当たり障りのない会話を通して互いの近況を伝え合う。
「―――じゃぁ、今日は仕事の途中で?」
”もしかして”そんな僅かな憂いを滲ませた顔に向かって、安心させるように答えを返す。
「ええ、まぁ。でも、途中とは言っても後は帰って報告を済ませればお終いです。
 それに安心してください。事件があったのはこの近所じゃありません。ずっと遠くです」
「そっか。先輩には悪いけど、チョット安心したかな」
扉に手をかけて、遠野君がはにかんだ笑いを浮かべてみせる。
「今日は、泊まって行けるんでしょ?
 先に中に入って休んでいてください。琥珀さんにお茶をお願いしておきますから」
「遠野君は、入らないんですか?」
「ええ、チョット用事を先に済ませてきますから」
さっきから気になっていた、彼が手にしている百合の花束に視線を落としながら聞いてみる。
「あの、差し支えなければ一緒に行っては行けませんか?」
「え?」
チョットだけ驚いて、少し考え込んだ後で頷く。
「じゃぁ、こっちです」
そう言って遠野君はお屋敷の傍らに鬱蒼と生えている林の中に私をいざなった。

285(編集人):2002/11/01(金) 15:25
「ここは?」
彼が連れてきたそこは、生い茂る木々の中にぽっかりと隙間が空いていて、
そこから蒼い光がスポットライトの様に差し込んでいる場所だった。
「うん。秋葉にも内緒の場所。ここを知っているのは、先輩で二人目かな」
そう言って、かがみ込むと手にした百合を地面にそっと置いて瞳を閉じる。
百合の花が置かれ場所には、あまり大きくない石版が一枚。
白い百合は手向けの花だ。
「あ―――」
なんと言うべきか、私が言葉を選んで口を閉ざすのを見て、安心させる様に微笑んでみせる。
「琥珀さんにお願いしてね、秋葉に内緒でこっそり作ってもらったんです。
 弓塚さつきの事を忘れない様に、って。今日は、弓塚の命日なんです。
 花ってよく判らないから、女の子に送る用にって選んでもらって・・・」
そういって、彼は足元の石版に視線を移す。
「勿論、ここには遺体も遺骨もありません。この石版だけです。
 それでどうこうって言うつもりなんて無いです。ただ、他の誰が忘れても俺は覚えていようって。
 覚えて居なきゃいけないから。それで、無理言って作って貰ったんです。」
そう言って視線をまた私の方に戻すと、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「それで・・・申し訳ないんですけれど、彼女に祈りの言葉を先輩から贈って貰えないかなって。
 いきなり不躾なお願いなんですけれど。
 あ、勿論、単なる感傷だって判ってはいるんですけれど―――」
「良いんじゃないですか、それで。何をするでもなく、ただ覚えている」
なんだか後にいろいろ続きそうな言葉を遮ると、石版の前にかがみ込む。
少し遅れて、遠野君も私の隣に同じ様にかがみ込む。
石版に刻まれた祈りの言葉を、二人で静かに詠い上げる。

286(編集人):2002/11/01(金) 15:27
我ら 愛しきものを送らん
  汝が国の平穏の廟(みたまや)に
  汝がやさしき腕(かいな)の夢に
  我ら 大ならずされど小ならず
  遠く去り また生まれる
  ゆえに呼べ 遙かなるものなりと

  地をさまよいつつ
  我 汝を求めしも答えなく
  憂し世に影のみを見ん

  されど 我 恐るるを知らじ
  沈黙の言葉を知り
  見えざるものを見るが故に
  我ら汝なり 汝は我らなり
  遙かなるもの いま ここに送らん

287(編集人):2002/11/01(金) 15:28
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)9時44分。
ROUND7.【萌る躰】231レス目「社壊人」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

288(編集人):2002/11/01(金) 15:29
〜〜弓塚さつき支援SS〜〜
1/2

 空を見上げながら、遠野志貴は昇降口に立っていた。
「……当分、やみそうにないな」
 外は突然の夕立が降っている。
 小降りになるまで待とうと思ったとき、昇降口の奥から見知った顔が出てくるのを見つけた。
「弓塚さん、今から帰り?」
「え? あ、と、遠野くん!?」
 声を掛けられた本人――弓塚さつき――は必要以上に動揺した。
「と、遠野くんどうしてこんなところに……って帰るところだよね、でもあれ、なんで……」
「雨で足止めされてね」
 いつもと変わらぬ志貴の態度に、弓塚も落ち着きを取り戻す。
「遠野くん、傘持ってないの?」
「うん、残念ながら。小降りになったら走って帰るよ」
 そう言って、志貴は弓塚を先に帰るように促した。
 だが、弓塚は妙に落ち着かない様子で、帰る気配がない。
「?」
 ややあって、意を決したように弓塚が話し出した。
「あ、あの! よかったら、その、わたしの、傘……」
「え、弓塚さん、傘2本持ってるの?」
「あ、いえ、そじゃなくて、その……わたしの、傘で、送ろうかな、って……」
 弓塚の語尾が小さくなり、それに合わせるかのように俯いていく。
 言葉の意味に気づいた志貴が答える。
「じゃあ、弓塚さんさえよければ、送ってもらえるかな?」
「うん! がんばります!」
 弓塚のちぐはぐな返答に、志貴は気づかれないように苦笑した。
「傘、俺が持つよ」
 手渡された傘を開き、志貴と弓塚は雨の中へと歩き出した。

289(編集人):2002/11/01(金) 15:30
〜〜弓塚さつき支援SS〜〜
2/2

 校門まで来たところで、志貴はそれに気がついた。
 志貴は弓塚の方に傘を傾けようとするのだが、何故か押し戻されるのだ。
 ふと見ると、弓塚の右手が傘を押さえていた。
「弓塚さん、何してるの?」
「……ううん、別に」
 弓塚は、右手を志貴の視界から隠そうとする。
 だが、傘からの雫と降り注ぐ雨で右腕がびっしょり濡れているのを、志貴は見逃さなかった。
 志貴は立ち止まってため息をつくと、
「はい、ちょっとこれ持って」
 と言って、弓塚に自分の鞄を差し出す。
「う、うん」
 弓塚が鞄を受け取ると、志貴は傘を左手に持ち替え、開いた右手で……
「あ……」
 弓塚の右肩をつかんで、抱き寄せた。
「ごめん。こうでもしないと、ふたりとも濡れちゃうから」
 弓塚は真っ赤になって俯く。
「……うん、大丈夫」
 ようやく、小さな声でそう言った。
 ふたりは再び歩き始める。
「弓塚さん、ちょっと家に寄ってってよ。服とか乾かさなきゃいけないし」
「え!?」
 驚いた弓塚が顔を上げると、志貴との距離、3センチ。
 上げた時以上の勢いでまた俯いた。
「あ、あの、その、お邪魔しちゃ悪いし、それに、大して濡れてないし……」
「だーめ。こんなに右腕が冷たいじゃない。風邪でも引かれたら俺が気にするからさ、寄ってってよ」
 弓塚の体から、少しだけ力が抜けたようだった。
「……うん」
 ふたり、雨の中を歩いて行く。


 そんな、ある日の出来事。

290(編集人):2002/11/01(金) 15:32
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)11時37分。
ROUND7.【萌る躰】249レス目「七死さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

291(編集人):2002/11/01(金) 15:33
月。

ふと、空を見上げれば。

月が出ていた。

白い月。

それは、アイツを連想させる。

涙が頬を濡らす。止まらない。どうしようもなく、あふれる。

それでもいい、と思う。

一生分の涙を流してでも、アイツのために泣いてやろうと、思う。

ああ―

今夜はこんなにも、月がきれいなのに。

それは、月の姫を思い出させる。

(好きだから、吸わない)

卑怯だ。最後にあんな笑顔を見せられたら。

忘れる事さえ、出来やしない。

月。

教室から見えるそれの月は。

今まで見てきたどの月よりも。

美しいと。

志貴は思った。

292(編集人):2002/11/01(金) 15:34
『さっちん支援SS⑧』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)12時15分。
ROUND7.【萌る躰】259レス目「七視さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

293(編集人):2002/11/01(金) 15:36
さっちん支援SS⑧

「飲み物は紅茶でよろしかったですか?」
私は、なぜかお茶を勧められていた。
あの後、座り込んでしまった私を前に、メイドさんはおおいに慌ててしまった。
ドタドタとお屋敷に取って返し、数秒後にもう一人のメイドさん(らしき人)を連れてきた。
そして、連れてきた和服のメイドさんに中に勧められた、ということだ。
(でも、びっくりしたなー)
ニコニコしながら紅茶を淹れている和服のメイドさん(琥珀さん、というらしい)と、その横で黙々とお茶菓子の用意をしているメイドさん(こっちは翡翠さん、というらしい)。
服装が違うとは言え、顔立ちはまったく同じだった。聞かなくても双子であることは間違いないだろう。
「ミルクとレモン、どちらにしますか?」
「ひゃい!?え……と、ミルクで……」
どうやらかなりボンヤリとしていたらしい。顔が真っ赤になっていくのがわかった。
縮こまっている私の前に、いい香りのする紅茶とクッキーが並べられた。
(あれ……?)
しかし、なぜかお茶もクッキーも一人分だけだ。どうやら自分たちはいらないらしい。
(うう……食べづらい……)
準備を終えた琥珀さんが正面に座る。
「えーと弓塚さん、でしたよね。志貴さんのお見舞いに来てくださったそうですけど……」
「志貴さまは現在お休みになられています(キッパリ)。」
「……という状態ですので、申し訳ありませんが今日のところは……」
「……そうですね」
苦笑して頷く。
私としては、遠野くんの無事が確認できればそれでよかった。
会えなかったのは(かなり)残念だけど。

結局、お茶を一杯だけいただいて帰ることにした。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「いえいえ。弓塚さんのことは志貴さんに伝えておきますね」
「はい、お願いします」
琥珀さんは終始笑顔で、翡翠さんはほとんど喋らなかった。双子にしてはずいぶんと性格が違う。
それでも、献身的な二人の姿に、私は好感を持った。
「あの……また来てもいいですか?」
だから、こんな質問をしてしまったのだろう。
「はい、いつでもいらしてください」
「お待ちしております」
たぶん、これは社交辞令なのだろう。少なくとも、彼女たちの間ではそうなっている筈だ。
それでも、その言葉が嬉しかった。
「……ありがとう」
ガチャ
扉を開けると、茜色に染まった光が、私の横顔を照らした。
「それじゃあ、さよう―――」
「あれ?弓塚さん?」

この人は、なんでこう唐突なのだろう。
彼のおかげで、私はいつもびっくりさせられる。
「志貴さま!もうよろしいのですか!?」
「志貴さん!まだ寝ていたほうが……」
翡翠さんと琥珀さんが心配そうな声をあげる。
それに対して彼は、教室で聞くよりも少しだけ穏やかな声で返した。
「うん、もう大丈夫だよ。起きたらなんだかお腹減っちゃって。琥珀さん、何か作ってくれません?」
そう言いながら、ゆっくりと階段を下りてくる。
「弓塚さんどうしたの?わざわざ家まで」
その屈託のない、無邪気とも言える笑顔を見て、私はついに泣き出してしまった。

294(編集人):2002/11/01(金) 15:37
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)16時2分。
ROUND7.【萌る躰】289レス目「絆」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

295(編集人):2002/11/01(金) 15:38
どのくらい気を失っていたのだろう。まず初めに思ったのは、「なんで志貴君が居るの?」だった。次に、「なんで私まだ生きているの?」。
 なんで、なんでなんで、なんでなんでなんでナンデナンデナンデ――。疑問が堰を切ったように溢れ出る。が、それを自制して、自分の置かれた状況を整理する。
 今まであの女――アルクェイド――と戦っていた事。
 それで私は殺されかけていた事。
 それでも今私は生きている事。
 何故か志貴君が私の傍にいる事――と、そこで気付いた。志貴君が助けてくれたんだ、と。
 また意識を失いそうになった。自分が弱っている事を痛烈に自覚する。
「気付いた?」
 志貴君の声。
「弓塚さん。僕の血を――吸っても良いんだよ?」
「吸うならとっくに吸ってるよ」
 私は微笑んだ。そして言った。
「好きだから、吸わない」
 言った瞬間、志貴君の顔が虚をつかれたように、そして歪んだ。
「どうしたの? そんなに驚いた?」
「いや……そんなことは、もっと前から知ってたけど……」
 志貴君は泣きながら笑っていた。
「でも、僕の血を吸わなかったら……」
 私も泣きながら笑っていたと思う。
「わかってるよ。もう覚悟は出来てる。でも、最後に甘えて良いかな。凄く、凄く残酷なコト言うよ? ……志貴君、良かったら、私を――」
 声震えて無かったかな、そんな事を考えていたら志貴君は私を抱きしめた。
「駄目だよ。私、もうすぐ我慢が出来なくなる。そうしたら、志貴君の血でも吸ってしまう。それだけは絶対にイヤ。だから志貴君、そうなる前に私を」
 最後まで言えなかった。志貴君の口が私の口を塞いだから。
「――――!」
 頭の中が真っ白になった。そのまま意識を失いそうにすらなった。このまま死んでも良いかな、と何となく思った。
 その時、辺りの空気が変わった。
「見つけたわよ、志貴、それに――」
「泥棒猫」
 見ると、金髪に、返り血で所々赤く染まった白い服。
「アルクェイド」
 志貴君がヤツの名前を呼ぶ。
「志貴」
 ヤツが志貴君の名前を呼ぶ。
 そして、空気がもっと禍々しい、常人なら踏み入れただけで恐れをなして逃げ出してしまうような、そんな雰囲気に変わった。二人が間合いを少しずつ詰める。
 ――間合いが、ヤツの間合いになったのが私には見えた。
 このままじゃ志貴君が危ない。そう思っている間に、ヤツは志貴君に襲いかかっていた。
 私は志貴君を庇うように前に出た。
「弓塚さんッ……!」
「ばいばい遠野くん。ありがとう――それと、ごめんね」
 そう言い終わったか終わらないか、そんな瞬間に私は意識を失った。ちゃんと志貴君に伝わったかな、と思いながら。

296(編集人):2002/11/01(金) 15:40
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)20時23分。
ROUND7.【萌る躰】337レス目「鳥」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

※残念ながら、添え付けのURLはリンク先が切れていました。
 あと、投下当時は直接リンクになっていました。

297(編集人):2002/11/01(金) 15:41
「うーん……」
「遠野?」
「……」
「とっおのー。さっきからなに唸ってばっかいるんだよ。そんなに持ち牌眺めて考えなくても、
満貫でも出されなきゃお前の負けはねーんだから」
「いや、そういうことじゃないんだけど」
「ならさっさとしろ。お前の番だ」
「あ、悪い」
「ふむふむそう来るか。お、高田君がそこでポンか。相変わらずセコイ手ばっか使ってくるねえ」
「乾が大きいのを狙いすぎなだけ」
「夢がないねえ。狙いすました大技を決めてこそ面白みがあるって言うのに」
「……」
「で、なんでまたそこで牌を眺めますかね、キミは」
「いや、別にたいしたことじゃなくてさ。それより次有彦だぞ」
「おっと。よっしよし……ババーン! ここで来ましたリーチ!」
「むーん……」
「……あのな。俺が取ったんだから次はお前だろ。自分の順番わかってんのかね」
「あーいや、ちょっと考え事」
「んなの後にしろい。ほら、さっさとしやがれ」
「あ、うん……」
「それだ! 四暗刻満貫! ラスト1局逆転勝ちー!!」
「そ、そうか!!」
「……」
「……」
「……は?」
「そういうことだったんだ! やっと謎が解けたぞ!」
「と、遠野サン? 勝負はお前の逆転負けで終わったんデスケドー……あのーもしもーし?」


 翌日。

「弓塚さん……ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「え、と、遠野くん?!」
「一生のお願いがあるんだ。是非聞いてやってほしい」
「え、え、え?」
「ずっと前から胸の中がこうモヤモヤしてて……ずっと考えてたんだけど、昨日やっと確信したんだ」
「な、なに? え、え?」
「弓塚さん!」
「は、はい!」

「……これ、つけてくれないかな」
「……え?」
「これ」
「……これをつければいいの?」
「うん、付け根の部分がゴム紐になってるから」
「う、うん……これでいい?」

ttp://isweb14.infoseek.co.jp/play/studio10/cgi-bin/img-box/img20020817201932.jpg

「やっぱりだ!」
「え、な、なに?!」
「似てるんだよ! 思ったとおりだ! あははははは!」
「な、何がー!?」
「あはははは!」
「大変だー! 遠野が壊れたぞー!」
「おい遠野しっかりしろっ……うわ、目が虚ろだ」
「あはははは!」
「遠野くん、どういうことなの? ねー! ねーったらー!」

 <強引に終わる>

298(編集人):2002/11/01(金) 15:42
『ヤドリギ』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)21時17分。
ROUND7.【萌る躰】347レス目「鳥」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

外部リンク型。
ttp://www16.u-page.so-net.ne.jp/zb4/fbird/otherss/sien3.html

299(編集人):2002/11/01(金) 15:43
『夏祭り、帰り道』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)22時10分。
ROUND7.【萌る躰】383レス目「七子さん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

300(編集人):2002/11/01(金) 15:44
「夏祭り、帰り道。」

1/
花火の終わりと同時にそれぞれの屋台は店じまいをはじめ、人々は家路につく。

徐々に人気の無くなる境内を、俺たちはただじっと見ていた。

やがて祭りの余熱がゆっくりと冷えていく神社の境内を後にして、俺たちは
長い参道を下っていった。

からん、ころん――――――

からん、ころん――――――

俺が下る後ろを、アルクェイドの履き物の音がついてくる。

鈴虫の音が聞こえる。

横の竹林を夜風が吹き抜け、俺たちの頬をやさしくなぶっていく。

2つのシルエットが、階段を下りていく。

からん、ころん――――――

からん、ころん――――――

301(編集人):2002/11/01(金) 15:46
2/
からん、と音が背後に追いついた。
とん、と背中に軽く何かが当たる。

俺は立ち止まり、アルクェイドの額を背中で受け止める。

「どうした?
「お祭り、終わっちゃったね………

ぽそり、と背中で声が聞こえた。
俺は、アルクェイドをもたれかけさせたまま、黙って空を見上げる。

白銀の輝きが、夜空を煌々と照らしている。
今日は雲も少ない、いい満月だ。

ぐっ、と袖をアルクェイドが掴んできた。
そのままなにも言わない。俺も何も言わない。

こうして二人でいられる時間はそう長くはない。
アルクェイドの吸血衝動、魔眼を持ってしまった故の俺の寿命――――

あきらめたりなんかはしていない。
ただ、こんな祭りの後は、心の中の波風が静まり過ぎて妙に平穏になるだけだ。

302(編集人):2002/11/01(金) 15:47
3/
どれくらいの間か、二人はそのままでいた。

「………アルクェイド、おんぶしてやろうか?
「…えっ……………?

返事を聞かず俺は数歩前に出ると、ほら、としゃがみ込んで背中を差し出した。
数瞬の躊躇の後、おずおずとアルクェイドの腕が俺の首に回される。

「よいしょっと
「――!
急に起きあがったためびっくりしたのか、背中の身体がこわばった。
背中に乗せてやさしくゆすってやると、段々とこちらに身を預けてくる。

「軽いな、お前。
「……………。
照れている。俺には雰囲気で分かる。

階段を下る。

今度はひとつになったシルエットが、階段を下りていく。

「明日のことは、明日一緒に考えよう。俺はお前と一緒に歩いていくから。
「うん…………

そっと、アルクェイドが頭をあずけてくる。
時折背中をゆすってやりながら、俺は屋敷への家路についた。

(おわり)

303(編集人):2002/11/01(金) 15:48
『(無題)』アルクェイド・ブリュンスタッド支援
2002年8月17日(土)22時27分。
ROUND7.【萌る躰】392レス目「KT」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

304(編集人):2002/11/01(金) 15:49
(支援SS風に)

ふと。俯瞰する

お前を含む、最も近しい5人(と、後数名)の女性に囲まれたかしましい日々。
振り返れば幻燈のような、それでも眩いばかりの日々。
かけがえのなきもの

それでも、ふと、俯瞰する
これはお前が残った世界
俺のもとへと、消えたお前が戻った世界
そしておそらくここでのかけがえのない日常はお前が中心でなければ築き得ないもの

ああ、でも、同様に、俺は知っている
その他の、別の女性達との道があったのを知るのと等しく、識っている
あの日あの時、あの夕陽の中でお前を失った世界を

ただ一人、結ばれたあとに別離れの運命を辿った相手
愛して
愛し合って
それでもなお引き裂かれなければならなかったお前
果たして、そして、果たしきれはしなかった約束
残された想い。残された言葉。
残された俺

だからふと、時に砂が舞い過ぎるような恐怖に駆られる
そして気付かされる
この今の幸せと同じほど確かに、あの日の狂おしい哀哭こそが俺の総てなのだと
だから俺達の時は終わらない
永久に昇りまた沈む月がしろしめす限り
永久に欠けまた満つる月のように
そこでも俺がお前を今度こそ腕の中にかき抱く日まで俺達の時は終わらない

アルクェイド
永久にお前とふたり

305(編集人):2002/11/01(金) 15:50
『(無題)』弓塚さつき支援
2002年8月17日(土)22時41分。
ROUND7.【萌る躰】408レス目「名無しさんだよもん」様によって投下。
 弓塚さつき           (月姫)
 アルクェイド・ブリュンスタッド (月姫)

306(編集人):2002/11/01(金) 15:52
 暗い、暗い。
 暗闇の、路地裏。
 月明かりが、ただ僅かに差し込む。

 その中に、蠢くモノ。
 目を凝らしてみる。
 それは、人影。
 それも、よく見知った……

「久しぶりだね、遠野くん」
「弓塚……さん……?」
 そう、よく見知った彼女。
 ……あの日、俺が殺した彼女。

「な、何で……」
 疑問を発しようとする俺の口を、彼女はそっと指で制する。
「ここにいちゃ、だめ?」
 優しく、だけど有無を言わせず。

 彼女が、道に座り込む。
 俺もつられて、座る。

 どちらも、何も言わない。ただ、月明かりだけが、俺たちを薄く照らす。

307(編集人):2002/11/01(金) 15:53
 やがて、
「ね……」
 彼女が、口を開く。

「あたし、あなたのことが、好きだったよ。知ってた?」
 知ってた。
 ……と思う。
 そんなことに気付きもしないから、愚鈍だって言われるんだろうけど。
「ちゃんと言えなかったこと、すごく後悔してたんだよ。知ってた?」
 それも多分、今なら分かる。
「誰にも渡したくないって、今でも思ってる。知ってた?」
 うん。
 でも、もう遅かったかもしれない。
「じゃあ、さよなら。もう逢えないけど。…これは知ってたでしょ?」

 それだけ言い終わると、彼女の姿がすうっと薄くなっていく。
「弓塚…さん…!」
 その言葉すら届いたのかどうか。
 視界から彼女の姿が消えると同時に、俺の意識もフェードアウトする。

308(編集人):2002/11/01(金) 15:56
「………おはようございます、志貴さま」
 ……ん、ああ……
「…ああ、おはよう、翡翠」

 そこにあるのは、なんでもない朝。
 夏の日差しが、さんさんと部屋の中に降り注ぐ。

「ばいばい。弓塚さん」
 この空の下でもう会うことのない彼女に、そっと別れを告げる。

 そんな、ある盆の日。

309(編集人):2002/11/01(金) 15:57


以上をもちまして、TYPE−MOON最萌えトーナメント、
SS総集編を終了させていただきます。
皆様、お騒がせしました。

310(編集人):2002/11/02(土) 03:59
>229 は弓塚さつき支援でなく翡翠支援です。
失礼しました。

311(編集人):2002/11/02(土) 04:31
以下はこのSS総集編のキャラクター別しおりです。
キャラクター別に、SSにリンクを張っています。
レス番号は『SSスレッド』内のレス番号となっています。
題名の掲載についてですが、「(無題)」が多いのと、
SSの頭にある投下時データと紹介が重なってしまうため見合わせました。
ご了承ください。

312(編集人):2002/11/02(土) 04:37
『月姫』のキャラクター
(あ行)
朱い月のブリュンスタッド >>80 >>81
蒼崎青子 >>98
有馬都古 >>45
アルクェイド・ブリュンスタッド >>220-223 >>271-278
>>279-281 >>290-291
>>299-302 >>303-304
乾有彦 >>46
乾一子 >>138 >>139 >>140

(か行)
クールトー >>72-76 >>77-79
久我峰斗波 >>33
紅秋葉 >>113 >>184 >>185
琥珀 >>84 >>85-90 >>259 >>260-262

(さ行)
シエル >>82 >>179-183 >>224-225
時南朱鷺恵 >>68
死の線だらけの死人 >>112

313(編集人):2002/11/02(土) 04:39
(た行)
なし

(な行)
七夜志貴 >>91-96 >>97
ナルバレック  >>99 >>100-101 >>102 >>103
ネロ・カオス >>126 >>127 >>244-246

(は行)
翡翠 >>34-35 >>36-44 >>191-192 >>229-230 >>237-240

(ま行)
三澤羽居 >>79 >>241 >>242-243

314(編集人):2002/11/02(土) 04:42
(や行)
山瀬舞子 >>104-105 >>106-110 >>111
弓塚さつき 
>>47-48 >>49-54 >>55-63 >>64-65 >>128-129 >>130-131
>>132-136 >>137 >>141-157 >>158-159 >>197-198 >>201-204
>>214-215 >>227-228 >>231-232 >>233-236 >>247-248 >>249-255
>>256-258 >>263-265 >>266-267 >>268-270 >>282-286 >>287-289
>>292-293 >>294-295 >>296-297 >>298 >>305-308

(ら行)
レン >>120-125
ロリ秋葉 >>114-119

(わ行)
なし

315(編集人):2002/11/02(土) 04:44
『空の境界』のキャラクター
(あ行)
蒼崎橙子 >>186-190
浅上藤乃 >>162-164 >>165-171 >>172-176 >>177-178
臙条巴 >>83

(か行)
コルネリウス・アルバ >>69-71 >>218-219

(さ行・た行・な行・は行・ま行・や行)
なし

(ら行)
両儀式 >>66-67 >>160 >>161 >>193-196 >>199-200
>>205-209 >>210-213 >>216-217

(わ行)
なし

『(分類不能)』 >>226

316(編集人):2002/11/02(土) 05:19
以上でSS総集編、しおりを終了いたします。
こちらもSS総集編と同様、間違いなどありましたら
指摘していただけると助かります。

317(編集人):2002/11/02(土) 16:41
しおり、(か行)クールトー 
のところで、77-79 とありますが、
77-78 です。
失礼しました。

318 ◆u2YjtUz8MU:2005/07/18(月) 11:30:46
誰か
燃料投下してくれ

319 ◆u2YjtUz8MU:2005/08/05(金) 23:35:00
動いてない…

320 ◆u2YjtUz8MU:2005/08/13(土) 21:55:49
[00017337][00017338]

321七死さん:2005/08/31(水) 19:45:21
[00017466][00017467]

322七死さん:2005/09/18(日) 00:43:38
[00017581][00017582]

323七死さん:2005/10/12(水) 23:02:16
[00017701][00017702]


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