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俟宵月 -千代神楽-

126 名前:五 「紫天」 投稿日: 2005/10/25(火) 06:04:37
「俺は、流離にはこの先を生きて欲しい。流離はまだ、色々なものを持っている。そんな
流離が何も残っていない俺の為に死ぬ事はない。水は綿津見の住まう場所だ。そんな所で
はなく、この大八島に、大地に生きて欲しい」
 流離の歪みを無理矢理に正し、怒りを引き出した空夜。張られた頬に手を触れる事さえ
せずに、ただ真っ直ぐに涙に濡れる流離の瞳を見つめ、静かに言う。
 だが、流離は何も答えず、涙を拭って空夜に背中を向け、まうで空夜の視線から逃れる
ように部屋を駆け出て行った。その後に続く紫月。一瞬だけ空夜を見る紫月だが、眼差し
には心配するな、という心と共に良くやった、という誇らしげな笑みも浮かんでいた。
「損な役回りだな」
 龍禅は微かに苦笑を浮かべながら空夜と向かい合って座った。
「流離も、孤牙の血の犠牲者です。巻き込めません」
 寂しそうな微笑みを浮かべ、龍禅に答える空夜。
「普通に話して構わねぇよ。だがお前、妙な気配をしてたな?何をした?」
 軽く手を振り、堅苦しいのは抜きだと身振りと表情で示しながら空夜に問いかける。空
夜が成した事。流離の心の歪みを正し、流離に真っ当な心を気付かせた事。それは流離が
空夜を想っていても、そう簡単にできる事ではない。そして龍禅は空夜の様子、空夜が放
っていた気配。それに妙なものを感じた気がして問いかけていた。
「大した事ではありま……大した事じゃない。水冴の家は孤牙の為だけに存在していたか
ら、その血に薄いけれど孤牙の血を宿している。言葉だけでは流離は絶対に退かないと分
かっていたから、それも利用して流離に働きかけていただけだ」
 龍禅の視線を感じて言い直し、普段の口調そのままに龍禅に説明する空夜。水冴の家人
は孤牙の為に死ぬ。それは約束事ではあるが、命がかかっている以上はそれが必ず守られ
るとは限らない。だから孤牙の家は一度だけ水冴の者と契った。その身に流れる血に孤牙
の血を混ぜ、そこに呪いを込めて。
 水冴は孤牙には決して逆らえない。そういう呪いを。
 だから、空夜はそれを僅かに顕現させた。言葉で語りながら、意思を込めて。流離はそ
の力に気付き、それが空夜が流離を死なせたくないという想いから来ているものだと理解
していながらも、それが許せず、怒った。
「なるほど、そりゃあ嬢ちゃんは怒るわな。だがお前も不器用だな。もう少しやりようが
あるんじゃねぇのか?」
 笑いながら言う龍禅。だが空夜は首を降る。
「俺には、時間が残されていない。流離は二月か三月と言ったが、本当はもう少し生きる
事ができる。村を出て二月が過ぎたから……後、八月ほどか。だが、それは生きているだ
けで、その時には俺の心は砕けて無くなっているはず。だから、残されているのは僅か」



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