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俟宵月 -千代神楽-
105
名前:
五 「紫天」
投稿日: 2005/10/20(木) 05:22:15
その想いにすがって、だから夕依だけは救う為に、空夜は孤牙の血に抗う事さえも止め
て、心を代償に、ここまで来た。壊れた心に引き摺られて、肉体さえも壊しながら。
その理由も、想いも知らないけれど、龍禅はそれを感じた。空夜が壊れていると感じた。
空夜が残した足跡。真っ白い雪の上に残るそれを見つめながら、龍禅は目を閉じる。灰
色の雲に覆われた空から、雪がまた降り始めていた……。
「お久しぶりです、紫月殿」
空夜は屋敷の奥、少し広めの部屋へと通され、そこで紫月と顔を合わせた。道場にして
は少し狭いが、部屋にしては広い場所。板が張られただけの床は外の空気を伝えて、部屋
の中を冷やしていく。足を組み、床に座って礼をする空夜。その対面には火鉢の中を棒で
かき回しながら胡座をかき、頬杖をついている紫月の姿があった。
「久しぶり、だねぇ。堅っ苦しいのは抜きだよ、空夜。ただでさえ寒くて体が硬くなっち
まってるってのに、そんな事やってたら余計に動けなくなっちまう。昔と同じ、紫月姉で
いいさね」
頬杖はついたままで、にやり、と笑う紫月。火鉢から軽く火の粉が舞った。
「変わらないですね」
苦笑しながら言う空夜。瞳に、懐かしさが一瞬だけ宿った。
「そんなに人間、変えられるもんじゃないさ。相も変わらずの放蕩娘ってわけでね、これ
ばっかりは死ぬまで治らないだろうさ。けど空夜。あんたは、変わったね?」
何気ない動きで棒を持ち上げ、ぴたり、と空夜の左目を差して言う紫月。その瞳は瞬時
に色を変えて、険しい顔つきになっている。
「あんたがここに来た。私をわざわざ訪ねて来た。それだけで何がしたいのかは分かって
るつもりさ。出たんだね?アレが」
その言葉に息を呑む空夜。紫月はそんな空夜の様子を見て笑みを浮かべるが、それは酷
薄な笑み。
「はい……夕依が、器に……」
拳を握り締めながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ空夜。そこに滲むのは悔しさ。自分の
力のみで夕依を救えないという、自分に対する憤怒。
「そっか、夕依が。でも、それだけじゃないんだろ?」
棒を降ろし、再び火鉢をかき回し始める紫月。静かに問いかけ、空夜から視線を逸らし
て火鉢に灯る赤を見つめながら答えを待つ。
「…………」
だが、答えない空夜。迷いを顔に浮かべながら、口を開きかけ、躊躇う。
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