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スタンド小説スレッド3ページ

1新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

2新手のスタンド使い:2004/04/10(土) 04:29
前スレ:スタンド小説スレッド2ページ
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/9551/1074602209/

※あらすじ兼目次は
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/9551/1074602209/778-782

前々スレ:スタンド小説スレッド
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/9551/1068224328/

※あらすじ兼目次は
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/9551/1068224328/830-832

3ブック:2004/04/10(土) 04:35
     救い無き世界
     第六十二話・常闇 〜その一〜


 夕方、俺はぃょぅ達と一緒に小耳モナーの見舞いに来ていた。
「小耳モナー、大丈夫かょぅ?」
 ぃょぅがベッドに横たわる小耳モナーに声をかけた。
「大丈夫モナ。みぃちゃんのお陰モナよ。」
 小耳モナーがみぃの方を見る。
「いえ、私なんか全然…」
 みぃが恥ずかしそうに首を振った。

「…しかし、遂に『矢の男』達も本腰を入れてきたという事ね…」
 ふさしぃが壁にもたれかかりながらテレビに目を向けた。


「―――現在、世界各地で異常な現象が多発しております。
 砂漠に一夜にして広大な森が出現したかと思えば、
 それとは逆に熱帯雨林が枯れ果てたり、
 川が氾濫を起こしたかと思えば、瞬く間に水が干上がる等、
 例を挙げれば枚挙に暇がありません。
 『空に亀裂が入るのを見た』、等というと証言も多数よせられており、
 専門家は事実の解明を急いで―――」
 テレビのニュースキャスターが、流暢に文面を読み上げる。
 それが、さらに事態の異常さを引き立てていた。

「…これも、『矢の男』の仕業なのかょぅ?」
 ぃょぅが深刻な顔で呟く。
「さあな。ただ…」
 ギコえもんが灰皿に煙草を押し付けて火を消す。
「俺達にもうあまり時間は残されていない、って事は間違いなさそうだぜ。」
 ギコえもんが忌々しげに舌打ちをした。

 …俺には何と無しに分かっていた。
 『デビルワールド』と『アクトレイザー』。
 この世にあってはならない二つのスタンドが同時に存在している事で、
 世界が軋みを上げているのだ。
 俺の中の『デビルワールド』が、俺にそう教えている。
 つまり、
 俺は今ここに居るだけで世界を―――

「……!」
 みぃが俺の袖を掴んだ。
「…今、思いつめたような顔をしていました。」
 みぃが哀しそうな顔で俺の顔を見据える。
 …目聡いな。

「……」
 俺は嘘を吐いた子供のように、みぃから目を逸らした。
 真っ直ぐなみぃの目を正面から見返すなど出来なかった。

4ブック:2004/04/10(土) 04:36


「でぃ君、『矢の男』について何か感じるものはあるかょぅ。」
 ぃょぅが俺に尋ねる。
『東…』
 俺はホワイトボードに文字を書く。
『正確な場所は分かりませんけど、東です。
 東から、『矢の男』…いや、『アクトレイザー』の存在を感じます。』
 『デビルワールド』と『アクトレイザー』はお互いに引かれ合っている。
 俺はそれを魂で感じ取る事が出来ていた。

「…逆に言えば、『矢の男』の方も同じようにこちらの位置を掴んでいるということね。」
 ふさしぃが重苦しく口を開く。

「…皆。」
 ぃょぅが改まって全員の顔を見渡した。
「どうしたモナ?ぃょぅ。」
 小耳モナーがぃょぅに聞く。

「もう、時間は無ぃょぅ。
 一刻も早く、『矢の男』を打ち倒しに行くべきだょぅ。」
 ぃょぅがきっぱりと告げた。

「そうね…
 『矢の男』は能力が馴染むまで時間が掛かる、と言っていたけれど、
 わざわざ私達がそれを待ってあげる必要は無いわ。」
 ふさしぃが頷く。
「だな…
 すぐ明日にでも出発するぞゴルァ。」
 ギコえもんが手の平に拳を打ちつけた。

「モナも行くモナ!」
 小耳モナーがベッドの上で息巻いた。
「小耳モナー、体はいいの?」
 ふさしぃが心配そうに尋ねる。
「平気モナ!
 それに、こんな大事な時に一人だけ休んでいられないモナ!!」
 小耳モナーが心配無用とばかりに元気な声で答える。

「…でぃ君。」
 と、ぃょぅが曇った表情で俺の方に顔を向ける。
『…分かってます。
 俺が居なきゃ、『矢の男』の場所まで行けれませんからね。』
 俺はそう書いてぃょぅに見せた。

「…本当にすまなぃょぅ。
 一般人である君を、こんな事に巻き込んでしまって……」
 ぃょぅが申し訳無さそうに頭を下げた。
『…やめて下さい。
 俺は勝手に手伝うだけです。
 それに、俺はもう深くこの件には関わってしまった。
 もう無関係って訳じゃない。』
 違う。
 俺の本当の闘う理由は…

「…今日はもうお開きにしましょう。
 今の内にゆっくり休んで、闘いに備えておかないと。」
 ふさしぃが軽く欠伸をする。

「神の降臨だか何だかいう下らねぇ目的の為に、
 何人もの無関係の奴らを犠牲にしてきたんだ。
 あいつらにはきっちりと落とし前を取って貰わねぇとな…!」
 ギコえもんが口を吊り上げて獰猛な笑みを浮かべる。

「……!?」
 その時、俺はギコえもんから何かが流れ込んで来るような感覚に襲われた。
 それと共に心の奥底に微かに黒い炎がともり、
 それがもっと黒い塊に飲み込まれていく。
 これは、一体…

「……」
 俺は頭を振ってその事は忘れる事にした。
 しかし、漠然とした不安を拭い去る事は決して出来なかった。

5ブック:2004/04/10(土) 04:36



     ・     ・     ・



 私達は、特務A班の部屋でささやかな飲み会を開いていた。
「…やりきれなぃょぅ。」
 私は重く呟いた。
「…でぃ君の事モナか?」
 小耳モナーがそう聞いてくる。

「…そうだょぅ。」
 私は俯いて答える。
「…虫のいい話ね。彼を迫害していた世界を護る為に、彼に力を貸してくれだなんて。」
 ふさしぃが横に頭を振った。
 その通りだ。
 それなのにでぃ君は何で、私達に協力してくれるのだろう。
「…それでも、私達にだって何か出来る筈よ。
 彼の負担を、少しでも取り除いてあげる位は……」
 ふさしぃがそこまで言いかけて、やめた。

「…お前は、丸耳ギコの所に行かなくていいのか?」
 ギコえもんが缶ビールに口をつけながらふさしぃに尋ねる。
「…別に大丈夫よ。
 私達は、死にに行く訳じゃ無いでしょう?」
 ふさしぃが笑顔で答える。
 が、すぐにその笑顔は消えてしまった。

「…本音をいうとね、彼に会ったら多分、闘いに行けなくなると思うの。」
 ふさしぃが珍しく弱音を洩らした。
 それが、今回の作戦の厳しさを物語っていた。

「別に例えお前が来なくても、俺達は何も文句は…」
 いつもは茶々をいれるギコえもんも、この時ばかりは真面目に返す。

「…ありがとう。
 でもね、もしあなた達をおいて逃げ出したら、
 私は一生その事を後悔し続けると思う。」
 ふさしぃが缶ビールを一気に飲み干す。

「そんな暗い事ばっかり言っちゃだめモナ!
 モナ達は絶対に負けないモナ!!」
 べろんべろんに酔っ払った小耳モナーが叫ぶ。
 いつもはうざったい事この上無いのだが、
 今はそんな彼の能天気さに救われている気がした。

「…タカラギコの為にも、負けられなぃょぅ。」
 私は自分に言い聞かせるように呟いた。
 皆が、それを聞いて一様に口を閉ざしてしまう。

「…タカラギコと一緒に闘いたかったモナ。」
 小耳モナーが今にも泣きそうな顔をした。
 それがさらに空気を重くする。

「…今だって一緒だぞ、ゴルァ。」
 ギコえもんが沈黙を破るように口を開いた。
「あいつのおかげで、俺達は『矢の男』について知り、
 奴らの目論見に気づく事が出来た。
 あいつが居たから、俺達は『矢の男』と闘えるんだ。
 だから、あいつの意思は、今でも俺達と共に在る…!」
 ギコえもんが静かだが、力強い声ではっきりと告げた。
「…何てな。キャラに合わない事は言うもんじゃねぇな。」
 言い終わった後、ギコえもんは照れ臭そうに頭を掻いた。

「…ううん。その通りよ。」
 ふさしぃが小さく頷く。
 その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「そうだモナ!
 モナ達は五人が一つになれば、『矢の男』なんてへっちゃらだモナ!!」
 小耳モナーがビールを大量に喉に流し込む。

 …そうだった。
 すっかり忘れていた。
 私には、こんなに素晴らしい仲間が居るんじゃないか。
 何を恐れる事がある…!

「…ぃょぅは、皆に逢えて本当に良かったょぅ。」
 恥ずかしいので、私は皆には聞こえないようにこっそりと呟いたのだった。

6ブック:2004/04/10(土) 04:37



     ・     ・     ・



 俺はSSSの屋上で星空を眺めていた。
 先の『大日本ブレイク党』の騒動で街は甚大な被害を受けた為に街に燈る灯も疎らで、
 星と月だけが闇夜を明るく照らす。

「……」
 俺は後ろに気配を感じ、ゆっくりと振り向いた。
「……」
 後ろにはみぃが立っていた。
 黙ったまま、俺の傍まで近づいてくる。

「眠れないんですか?」
 すぐ傍まで寄ってきた所で、ようやくみぃは口を開いた。
 俺はその質問に一つ頷いて答える。

 再び訪れる静寂。
 無音の世界がしばらく世界を支配した。


「…行かないで下さい……」
 静寂に耐えられなくなったのか、みぃが涙を隠すように目を伏せか細い声で告げた。

「嫌な予感がするんです、あなたが、居なくなってしまうような…
 お願いです、行かないで下さい……!」
 真っ直ぐぶつけられる視線と言葉。
 俺は何も答えれない。

『…阿呆。そう簡単に俺が死ぬかよ。』
 そう答えて軽く流そうとする。
 だけど、みぃの表情はほぐれない。
 どうやらこんな嘘などお見通しのようだ。

「駄目です…!」
 みぃが俺の体に掴みかかった。
「何でこれ以上あなたが闘わなければならないんですか!?
 何でこれ以上傷つかなければならないんですか!?
 私は―――、私―――――」
 それ以上は言葉にならなかった。
 代わりに嗚咽が俺の鼓膜と胸を叩く。

「……」
 俺はみぃを優しく押しのけて距離を離した。
 そしてみぃの手を取り、その手の平に文字を紡ぐ。


『…多分、世界平和の為とかいう理由だったら、
 『矢の男』も俺の中の化け物の事も投げ出して逃げたと思う。』
 俺は初めて自分の素直な気持ちを他人に伝えようとした。
 そして、恐らくこれで最後だ。

『俺はこの街や世界に助けて貰った事は無かった。
 だから俺は他の奴らは皆嫌いだったし、
 世界の為に何かしようなんて真っ平御免だった。
 今だってそれは変わらない。』
 みぃは何も言わないまま、黙って俺を見つめる。

『…だけど、俺は……お前が…
 お前がこの世界に居るから、俺は―――』
 駄目だ。
 頭がこんがらがって上手く言葉に出来ない。

『…悪い。今のは忘れてくれ。』
 俺がそう告げてその場を去ろうとした時―――


「……!!」
 みぃが強く俺に抱きついてきた。
 肩を震わせ、息を詰まらせそうになりながら泣いている。

「―――ァ―――ッ―――」
 泣き虫め。
 そう言おうとした。
 無理なのは百も承知だった。


 …気づいているのだろうか、こいつは。
 『アクトレイザー』と『デビルワールド』を潰し合わせて、
 もろともにこの世から葬るという俺の考えに。
 恐らく『デビルワールド』を宿す俺も唯では済まないだろう。
 しかし、頭の悪い俺ではこれぐらいしかいい方法が思いつかない。

 死ぬのは恐くなかった。
 みぃが生きていけるなら、それで構わないと思った。
 ただ、
 俺が死ぬ事で、こいつが悲しむのが心残りと言えば―――

 ―――嘘だ。
 恐い。
 死ぬのが恐い。
 もう二度とぃょぅ達に逢えなくなるかもしれないのが恐い。
 もう二度とみぃに逢えなくなるかもしれないのが恐い。
 恐い。
 恐い。
 死ぬのが恐い。


「―――ァ―――」
 俺は不安を紛らわすように、みぃの背中に腕を回して抱き返した。

 今、俺達の周りの空間だけが世界から切り離されている。
 …そんな気がした。

7ブック:2004/04/10(土) 04:37



     ・     ・     ・



 『矢の男』が『アクトレイザー』を出現させ、その腕をZ武の額に乗せた。
 すると見る見る内にZ武の瞳に、理性の光が戻ってくる。
「…こ…ここは……?」
 Z武が、素っ頓狂な声を上げた。

「三百年振りに目を覚ました気分はどうですか?Z武。」
 『矢の男』が柔らかい声でZ武に話しかける。
「三…百年……?
 私は…一体……
 いや、覚えている……黒い、光が………
 …うああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
 Z武が絶叫した。
 その目に再び狂気が戻りかける。

「落ち着きなさい、Z武。
 神は無事降臨しました。
 もはや『デビルワールド』など、仇敵足りえません。」
 『矢の男』がZ武をなだめるように、『アクトレイザー』の手をその肩に置いた。

「…あ…うあ……
 神は、降臨したのですか……?」
 Z武が何とか平静を取り戻した。
 『矢の男』はそれを見てにっこりと微笑む。

「…ですが、まだ完全ではありません。
 そして『デビルワールド』もまた、未だにこの世に存在しています。」
 『矢の男』がZ武の近くで囁く。

「…モナエルが、先程闘いの果てに散りました。
 Z武、あなたの力が必要です。」
 『矢の男』がZ武の目を覗き込んだ。
「是非とも、お役に立たせて下さい…!
 いえ、『デビルワールド』を克服する事こそが、
 神より与えられた私への試練!!」
 Z武の背後に彼のスタンドである『エグゼドエグゼス』が現れる。
 そしてその手で異次元を切り開き、Z武共々その中に姿を消した。


「…よろしいのですか?」
 いつの間にか隣に居たモララエルが、『矢の男』に尋ねる。
「ええ。魂は全て神の中に固着しました。
 もう彼のスタンドで魂を保管して貰う必要は無い。」
 『矢の男』が椅子にもたれかかる。
「それに、窮鼠が猫を噛むという事もあります。
 もしかしたら、思う以上の成果を果たしてくれるかもしれませんよ…」
 そう言って『矢の男』は静かに笑うのであった。



     TO BE CONTINUED…

8:2004/04/10(土) 09:55

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その6」



 キバヤシと正面から睨み合う俺。
 確かに、さっきは暗示とやらが視えた。
 ギコを救えたのも、暗示が『破壊』できたせいだ。
 俺自身に埋め込まれた暗示でも、問題なく『破壊』できるはず…

 キバヤシは余裕の表情を浮かべたまま、眼鏡の位置を直す。
「…暗示を『破壊』できる位で俺に勝つつもりか、モナヤ」
 眼鏡の奥の眼光が、俺を捉える。
 普段のキバヤシとは比較にならない程の殺気。
 これが代行者の一人、『解読者』か…!

「行くモナよ、キバヤシ!!」
 俺はバヨネットを逆手に構えた。
「徒労だな、モナヤ!!」
 キバヤシが腕を組む。
 奴の意識は、完全に俺に集中していた。
 …よし、これでいい。

 その刹那、キバヤシの頭上の天井が砕け散った。
 飛び散る木片と共に、人影が舞い踊る。
 息を潜めていたリナーがバヨネットを構え、キバヤシの頭上から真っ直ぐに降下した。
 その攻撃は、完全にキバヤシの頭部を捉えている…!!

 キバヤシの体が、影の中に沈み込んだ。
 リナーの攻撃が空を切る。
 キバヤシは、完全に影の中に飲み込まれた。

 忽然と消えるキバヤシの姿。
「な…!!」
 俺は周囲を見回した。
 眼前の男の影が、怪しく蠢く。

「すまんな、ムスカ。危ないところだったよ…」
 キバヤシの身体が、ムスカと呼ばれた男の影から浮き上がった。
 あれが、ムスカとやらのスタンド能力か?

 ムスカと戦っていたらしい眼鏡の男が、身を翻してこちらに滑り込んできた。
 この男は確か、俺を逮捕した…!!
「やあ、モナー君。今夜はいい夜だね」
 彼は冷たい笑みを浮かべ、場違いな挨拶をした。
 こいつは、公安五課局長!!
 なぜ、こいつが俺の家に…?

 局長のスーツはボロボロだった。
 血止めだろうか、ネクタイは腕に巻いている。
 俺がこいつと戦った時は、一発たりとも攻撃が当たらなかったのに…

「おお、『異端者』ではないか…!!」
 ムスカとやらは、リナーを視線に捉えると嬉しそうな声を上げた。
「わざわざ君の方から会いに来てくれるとは…!!
 このロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ、少々感動したよ!!」
 そして、懐から一本の赤い薔薇を取り出すムスカ。

 あんなモノを常に服の中にしまっているのか、とか…
 そもそも、『教会』関係者は服の中にモノを詰めすぎだ、とか…
 …そういう俺の疑念を差し置き、ムスカは軽く薔薇を投げた。

「…」
 リナーは無表情で銃を取り出し、薔薇を撃ち抜く。
 真紅の薔薇は空中で花びらを散らせ、その場に落下した。

 ムスカは笑顔を浮かべる。
「相変わらず、君は照れ屋だな… だが、私は君の気持ちに気付いているつもりだ。
 君の為、王妃の席は空けてあるのだよ!!」

 ムスカの後ろで、キバヤシ、濃い顔の男、太った男がうんざりした表情を浮かべている。
 濃い顔の男など、露骨に肩をすくめていた。
 敵陣においてのこの余裕。
 おそらく、この全員が代行者…

 庭では、つーと怪しい黒スーツ男が戦っているようだ。
 黒スーツ男が大量発生しているのも、スタンド能力によるものだろう。

「さあ、私の胸に飛び込んで来たまえ!!」
 大きく両手を広げるムスカ。
 リナーは無言でマシンガンを構えると、銃口をムスカに向けて引き金を引いた。
 周囲に響き渡る機械音。
 ムスカの影が起き上がり、彼の体を覆った。
 銃弾は全て影の壁に弾かれる。

9:2004/04/10(土) 09:57


「…いかに公衆の面前で恥ずかしいとはいえ、少々乱暴につきるな」
 ムスカはリナーを見据えた。
「私は、君の愛を受け止めようと言っているのだぞ!!」

「その頭の中身は、何年経っても変わらんらしいな…」
 リナーは露骨にため息をついた。
「迷惑だと言っているのが、分からんのか?」

「…無駄だよ。そんな話が通じる奴じゃない」
 何故か口を挟むキバヤシ。
 確かにもっともだ。
 それを無視して、ムスカは自分に酔うように言葉を紡ぐ。
「恥ずかしがる事はない! 私は、君の全てを受け入れよう!!
 その髪も! 瞳も! 唇も! 甘美的な声も! 意地っ張りな性格も! 奇抜な服のセンスも! 愛くるしい仕草も!
 控え目な胸も! 美しい手も! ニーソックスが似合う足も…!」

「…『オーバーニー』だ」
 俺は口を挟んだ。
「…何だと?」
 ムスカの目が俺に向く。

「…『オーバーニー』だよ。
 リナーの履いてるのは、『ニーソックス』じゃなくて『オーバーニー』だ」
 ゆっくりと、ムスカに向かって歩み寄る俺。
 ムスカは気圧されるように後ずさった。
 俺は言葉を続ける。
「どうやって見分けるか? 膝くらいまでの長さしかないのが、『ニーソックス』。
 膝頭を越え、太股まで達する長さなのが『オーバーニー』だ。
 そんな事も分からんお前に、リナーは渡せない…」

「くっ… 貴様、何者だ!!」
 ムスカが上擦った声を上げる。
 そして、彼は再びリナーに向き直った。
 彼の頬は、僅かに震えている。
「…なるほど。他の男と親しくして、私の気持ちを引きたいのだな…?
 女心というヤツか。だが、そんな事をしなくても…」
 
「もう1つ、いいか…?」
 俺はムスカに呼びかけた。
「何だね! 外野は黙っていろ! 君も男なら聞き分けたまえ!!」
 ムスカは迷惑そうに吐き捨てる。
 俺は構わず言った。
「これは、この戦いとは何にも関係ないことなんだが――」

 ムスカの憎しみが篭った目が、真っ直ぐに俺を捉える。
 その視線を受けながら、俺は言葉を続けた。
「――去年のクリスマス、俺はリナーとホテルに行った」

「キ、キサマァァァァァァァッ!!!」
 絶叫するムスカ。
 彼は、明らかに冷静を欠いた。
 そのまま、ムスカは影の中に沈み込む。

 ――『アウト・オブ・エデン』。
 俺の影の中に、瞬時に移動してきたムスカの姿を捉える。
 俺は身を翻すと、俺自身の影にバヨネットを突き刺した。

 ――影を『破壊』。
 瞬時にして、煙のように消失する影。

「な…!!」
 ムスカが、机の影から飛び出してきた。
 その表情は、驚愕の色に染まっている。
「貴様、何をした…!? もう少しで、影ごと消滅するところだったではないか!!」

「ふむ…」
 その様子を見ていたキバヤシが口を開いた。
「これはまずいな。ムスカのスタンドは、モナヤのスタンドと相性が悪すぎる…
 どちらにしろ、そろそろ頃合か。『矢』の回収も達成したしな。
 …退くぞ! ムスカ!!」

「何だと…!? ここまでコケにされて黙っていろと言うのかね!!」
 ムスカは憤る。
「退くなら勝手にしたまえ!! 私はこの男を殺すまで帰らんからな!!」

「…」
 俺はバヨネットを構えた。
 ムスカに退く気は一切ない。
 その様子を見て、キバヤシはため息をついた。
「仕方ないな… 『バルス』!!」
 おもむろに妙な言葉を口走るキバヤシ。

「うっ!!」
 その言葉を聞いた途端、ムスカは自分の両目を押さえた。
 眼鏡が音を立てて床に落ちる。
「目がぁ〜目がぁ〜!!」
 両目を押さえ、悲痛な声を上げるムスカ。

「こんな事もあろうかと、あらかじめムスカにスィッチを仕込んでおいたんだよ。
 キーワードは『バルス』だ…」
 そう言いながら、周囲をウロウロするムスカを片手で抱え上げるキバヤシ。
 そのまま、ジタバタするムスカを肩に乗せた。

「まあ、あんまり気乗りしなかったところだしな…」
 今まで無言だった、濃い顔の男が呟いた。
 そして、彼はモララーに視線を向ける。
「じゃあな、少年。次はハッテン場で会うことを願うぜ…」
「お断りだよ、お前だけはな…」
 モララーは吐き捨てた。

10:2004/04/10(土) 09:57

 そして、一斉に背を向ける代行者達。
「スミス、撤退するぞ!!」
 キバヤシは庭に呼びかけた。

「…何かあったのかね?」
 スミスと呼ばれた黒スーツの1人が、キバヤシに視線を向ける。
「体勢の立て直しだ。このまま続ければ、こちらにも犠牲が出かねん」
 キバヤシはそう言いながら、庭に降りていった。

「ふむ… そういう事か。またの機会にするとしよう、野生児」
 スミスは、息の荒いつーに告げた。
 そして、庭に倒れているピエロ風の男を抱え上げる。
 何があったのか分からないが、黄・赤・白で彩られたケバケバしいピエロは完全に気を失っていた。
 濃い顔の男と太った男も、キバヤシの後を追って庭に降りる。

「逃げるつもりか!?」
 俺は、慌てて後を追おうとした。
 その俺の眼前に、通せんぼをするように腕が伸びる。
「逃がしておきなさい。この場はね…」
 俺を押し止め、局長は言った。

「では、また会おう。『異端者』…」
 キバヤシは、リナーを一瞥して言った。
 それを無言で睨みつけるリナー。

 俺の家を散々に荒らし回った代行者達は、そのまま夜の闇に消えていった。


 ――さて、嵐は去った。
 俺は、ゆっくりと居間を見回す。

 畳はすべからくズタズタ。
 周囲には、銃弾や薬莢が散らばっている。
 壁は無数の弾痕。
 机は真っ二つ。
 ふすまは穴だらけ。
 天井には大穴が2つ。
 美しかった庭は、ブルドーザーで引っ掻き回したかのごとくグシャグシャ。

「う〜〜 ううう、あんまりだ…」
 涙がポロポロこぼれ落ちる。
「あァァァんまリだァァァァ!!
 おおおおおおれェェェェェのォォォォォいえェェェェェがァァァァァ〜〜〜〜!!」
 感情を抑えきれず、泣き叫ぶ俺。
「AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!!」

「モナー…」
 ギコが、俺の肩にそっと手を置いた。
「取り込み中のとこすまねぇが、モララーとしぃの暗示も『破壊』してやってくれねぇか?
 あいつら、まだ目が見えないんだけど…」

「ああ、そうモナね」
 俺は、バヨネットを手にして立ち上がった。
 ギコの動きはかなりギクシャクしている。
 肘と膝を負傷しているようだ。
 俺は、モララーとしぃの暗示を『破壊』した。

「ありがとう! モナー君!!」
 熱い視線を送るモララー。
 しぃはぺこりと頭を下げた。

 さて…
 聞くべき事は山ほどある。
 しぃの背後で偉そうに腕を組んでいる『アルカディア』について。
 そして、局長がなぜここにいるのか…

 突如、地面がグラリと揺れた。
 これは… 何だ…?
 地震!?
 いや、眩暈だ。

 頭が痛い。
 まるで、脳に直に電流を流されたかのような…
 同じような状態を経験した事がある。
 まだスタンドに慣れていなかった時に、何度か体験した苦痛…
 もう駄目だ。立っていられない。

「モナー!!」
「どうした!?」
「モナー君!!」
 リナーや、その他の声が聞こえる。

 ――俺はそのまま、意識を失った。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

11ブック:2004/04/10(土) 23:01
     救い無き世界
     第六十三話・常闇 〜その二〜


 俺とみぃとぃょぅの三人は、不思議な空間の中を漂っていた。
 ここは全てが曖昧な世界。
 北や南…いや、上や下さえ区別がつかない。

「…糞、何て事だょぅ!
 ぃょぅ達には、立ち止まっている時間など無いと言うのに…!」
 ぃょぅが苛立たしげに舌打ちをする。

「……」
 俺は腕をスタンド化させてそこら辺の空間を殴ろうとしてみる。
 しかし、案の定何の手応えもありはしない。

「でぃさん…」
 みぃが不安そうに俺の腕にしがみついた。
 …まずいな。
 こいつまで、巻き込む事になってしまうとは。

「……」
 俺はみぃの手の平に指を這わせた。
「あの…ぃょぅさん。」
 みぃがそれを受けてぃょぅに声をかける。
「でぃさんが、この空間に閉じ込められてからどの位経ちましたか、て聞いてます。」
 みぃに俺の代わりにぃょぅに尋ねてもらった。

「…感覚的には二十分位と思うけど、保証は出来なぃょぅ。」
 ぃょぅが頭を振りながら答える。
「あの、時計は…」
 みぃが尤もな質問を返す。
 そうだ、時計を見ればそれ位一発だろう。

「……」
 ぃょぅが俺達に無言で時計を突き出した。
「……!」
 俺達はそれを覗き込んで絶句した。
 時計の進み方が目茶苦茶になっている。
 これでは、正確な時間は計れない。

「これが、あのスタンドの能力かょぅ…」
 ぃょぅが呟いた。

「……」
 俺はおよそ二十分前の事について思い返してみる。
 そう、今から少し前、
 俺達の前にあの男が現れて―――

12ブック:2004/04/10(土) 23:02



     ・     ・     ・



 俺達はSSSの入り口の前に集合していた。
「…忘れ物は無い?」
 ふさしぃが、念を押すように聞いてくる。
「無いょぅ。」
「無いモナ。」
「無いぜ、ゴルァ。」
「……」
 俺達は各自それに答えた。

「……」
 みぃが俺に心配そうな眼差しを向ける。
『心配すんな、すぐに帰って来るさ。』
 俺は嘘でそれに答える。
「……!」
 そんな嘘を見抜いたのか、みぃが俺を責めるように見据える。
 手を握り締め、しっかり掴んで放さない。

「……」
 俺は俯き、みぃの手を振り解いた。
 みぃがさらに哀しそうな顔になる。
 やめてくれ…
 俺の事なんかすっぱり忘れちまうんだ。

「大丈夫よ、みぃちゃん。
 でぃ君は私達が絶対に守りきってみせるわ。」
 ふさしぃがにっこりと微笑む。
 しかしその笑顔にはどことなく翳りが差していた。
 …無事では帰って来れないかもしれない。
 ふさしぃ達も、その事は覚悟しているみたいだった。

「…乳繰り合いはそこまでだ。
 行くぞ、ゴルァ。」
 ギコえもんが用意していた車に乗り込む。
 小耳モナーとふさしぃも車に乗り、
 俺とぃょぅも後部座席へ―――


「!!!!!」
 その時、俺の背後に突き刺さるような殺意を感じた。
 急いで振り返る。

「……!」
 そこには、いつの間にか目の前に空間の裂け目の様なものが出現していた。

 これは!?
 敵か!?
 馬鹿な。
 さっきまで微塵も敵の気配なんて―――

「!!!!!!」
 と、空間の裂け目からいきなり腕が突き出てきた。
 驚く間も無く腕を掴まれ、物凄い力でその中へと引き込まれる。

「でぃさん!!」
 みぃが咄嗟に俺を掴むも、女一人の力でどうこう出来る筈も無く、
 みぃまで俺と一緒に空間の裂け目の中へと飲み込まれた。
 そして、瞬く間にその裂け目が閉じていく。

「でぃ君、みぃ君!!」
 裂け目が閉じきる前に、ぃょぅがその中へと飛び込んできた。
「ふさしぃ!ぃょぅ達が戻らなかったら、君達だけで『矢の男』を―――!」

 そして、裂け目は完全に閉じたのであった。

13ブック:2004/04/10(土) 23:03



     ・     ・     ・



 …これが事の顛末である。
 そして俺達はこの訳の分からない空間の中に置いてきぼり。
 完全に手詰まりという訳だ。

「それにしても、敵は一体どこに…」
 ぃょぅがきょろきょろしながら呟いた。

 そうだ。
 俺達をここに連れてきた張本人はどこに行ったのだろうか。
 いや、それよりも外はどうなっているのだ?
 ふさしぃ達は無事なのだろうか…

「あの…ふさしぃさん達が外で敵を倒してくれたら、
 ここから出られるんじゃないでしょうか?」
 みぃがぃょぅの方を向いて行った。
「ぃょぅもそれは考えたょぅ。
 けど、そればかり当てにする訳にもいかなぃょぅ。」
 ぃょぅが返答する。
 とはいえ、一体どうやったらここから脱出出来るのかは見当もつかない。


(…お困りのようだな。)
 俺の内側から『デビルワールド』が囁いた。

 ……!
 出てくるな…!!

(私ならば、容易くここから出られると言ってもか?)
 『デビルワールド』がせせら笑う。
 相変わらず、むかつく野郎だ。

(まあいい。もうしばらくは、自分の頭でどうするか考えるがいい。但し…)
 …何だってんだ。

(限界だと感じたら、私が出る。
 せいぜいあの女を出来るだけ遠ざけておくのだな。)
 『デビルワールド』は愉快そうにそう言い残して喋るのをやめた。
 …させるかよ、そんな事……!


「でぃさん、どうしたんですか?ぼーっとして。」
 みぃが俺に話しかけてきた。
『何でも無い。』
 俺はみぃにそう返す。

「…!でぃ君、みぃ君!」
 ぃょぅが俺達に注意を促した。
 見ると空間に先程のような裂け目が再び生まれ、
 そこから男と、俺をここに引きずり込んだスタンドが姿を現す。

「……!」
 ぃょぅは『ザナドゥ』を発動させ、俺も腕と脚をスタンド化させる。
 こいつは、見覚えがある。
 確か、『矢の男』の傍で車椅子に座っていた…!

「…久し振りだな、『デビルワールド』。」
 男がゆっくりと口を開いた。

「お前が、この能力の本体かょぅ!?」
 ぃょぅが男に向かって叫ぶ。
「黙れ。私は今『デビルワールド』と話をしている―――
 外野が余計な口を出すな…!!」
 男から放たれる圧力。
 その凄まじさにぃょぅが思わず尻ごんだ。

「…野次が入った。話を続けよう。
 単刀直入に言えば、今日、ここで、お前を殺す。」
 男が俺に向かって言い放つ。
「お前が生まれた時、私の魂には大きな傷が穿たれた。
 己自身を見失う程にな…
 そしてその傷がある限り、私はあのお方の創られる新世界で生まれ変わる事は出来ん!」
 と、俺は再び奇妙な感覚に捉われた。
 昨日のギコえもんの時と同じ、
 男から何かどす黒いものが流れ込んで来るような…

14ブック:2004/04/10(土) 23:03

「ただお前を殺すだけなら、一生この空間に閉じ込めておけばいいが、
 それでは真にお前を乗り越える事にはならない!
 お前に真に打ち勝ち、生まれ変わる為にも、
 お前は私の手で直々に葬り去ってくれる…!!」
 男の背後に男のスタンドが空間の裂け目を開き、男がその中に入る。
 急いで駆け寄るがもう遅い。
 裂け目は完全に閉じてしまった。
 さっき見えた裂け目の中の風景から察するに、
 あの裂け目は外の世界に繋がっていたようだ。

 …それにしても、あの野郎。
 直々に葬り去るとか格好いい事ほざいたくせに、
 逃げるなんてせこい真似しやがって…!

「でぃさん!後ろ!!」
 みぃが叫ぶ。
 何だって、後ろ―――?

「!!!!!」
 気づいた時には遅かった。
 俺の背後に出現していた空間の裂け目から伸びたスタンドの手が、俺の左腕を掴む。
 そして、その手は俺の腕だけを裂け目から外の世界に引きずり込む。

 させるか。
 スタンド化した腕で、裂け目に見える敵のスタンドに攻撃を…

「…裂け目は閉じる。」
 男の呟き声が聞こえた。
 それと同時に空間の裂け目が一瞬で閉じる。
 そして―――

「―――ァ―――!!!」
 俺は声にならない叫びを上げた。
 左腕の肘のあたりの部分より先が、ごっそりと無くなっている。
 まさか、空間が閉じた部分で切り取られた…!?

「……!!!」
 俺は歯を喰いしばって痛みに耐えた。
 傷口から、おどろおどろしい色の血が噴き出す。
 神経を左腕に集中させ、再生を急がせる。

「でぃさん!!」
 みぃが俺を治療する為に駆け寄ろうとした。

 ―――来るな!!!
 その思いをありったけ詰め込んだ俺の視線を受け、みぃが気圧されて立ち止まる。

 来るな、みぃ。
 あいつは俺を…『デビルワールド』を狙っている。
 俺の近くに居たら、巻き込んでしまう…!

(どうする?助けてやってもいいのだぞ?
 丁度栄養補給も出来た所だしな。)
 …黙れよ、『デビルワールド』。
 手前の力は借りない。
 敵は俺が倒す。
 みぃも、必ず守ってみせる…!

 昏い炎が俺の理性を焦がし、
 失われた左腕が見る見る再構築される。

「……!!」
 俺は、姿の見えぬ敵に向かって静かに闘志を滾らせた。



     TO BE CONTINUED…

15:2004/04/11(日) 00:00
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――モナーとゆかいな仲間達――

モナーの仲間や友人、家族など。
否応無しに事件に巻き込まれていくゆかいな人達。

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モナー :男や人外に超モテモテの17歳。
     情緒不安定で、女心がわからなすぎる男。
     食べる事、寝る事、そしてスタンドを利用した覗きが趣味。
     別人格が存在し、6歳より前の記憶がない。
     服の上からブラのホックを外すという技を使いこなす。
     彼の『脳内ウホッ! いい女ランキング』は謎に包まれている…

     スタンド:『アウト・オブ・エデン』
     目に見えないものを『視る』ことが可能。また、『視た』者に干渉できる。
     ヴィジョンを持たないスタンド。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ギコ :モナーのクラスメイトで、サッカー部に所属する武道愛好者。
     スポーツ万能で頭も良く、英語もペラペラ。
     女の子にモテモテで、しぃと付き合う前はかなり遊んでいたらしい。
     自衛官の父を持つだけあり、ひそかに武器マニア。
     『知識でも技能でも、覚えられるものは何でも覚えとけ』が信条のようだ。

     スタンド:『レイラ』
     日本刀を所持した女性型スタンド。
     典型的な近距離パワー型で、特に能力は持たない。
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モララー:モナーのクラスメイト。モナーに思いを寄せるホモ。
      …と見せかけて、実は両刀。
      未成年にも関わらずBARに通っている。
      一時期『矢の男』だったが、克服したらしい。

     スタンド名:『アナザー・ワールド・エキストラ』
     量子力学的現象を顕在化させるが、その能力にはまだ謎が多い。
     その応用方は数多く、成長性は並外れて高い。
     モララーは主に『多世界解釈』を顕在化して、『もう一つの世界』を攻撃に利用する。
     『次元の亀裂』:次元に亀裂を作り出し、巻き込んだ物を破壊する。
     『対物エントロピー減少』:爆発等、拡散するタイプの攻撃を中和して消し去る。
     『波束の瞬間的崩壊』:空間を遮断し、対象の存在を『もう一つの世界』に押し込める。

16:2004/04/11(日) 00:00
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ   :モナーのクラスメイトで、普段は大人しく心優しい優等生。
      ギコとつきあっていて、完全に尻に敷いている。
      『アルカディア』も尻に敷かれしまうのか。

      スタンド名:『アルカディア』
      本体とは別の意思を持ったスタンド。
      他者や自身「望み」や「願い」を実現させる。
      他者の願望を具現化した場合の方が、強力な力を発揮できる。
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レモナ :最終兵器。モナーに思いを寄せているが、積極的なアタックは実を結びそうにない。
      『ドレス』の技術で開発されたらしい。
      現在『ドレス』は解体され、その技術は『教会』に流れた。
      物体に宿るタイプのスタンド、『ヨグ・ソートス』を搭載している。
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つー  :性別不明のいたずらっ子だが、『BAOH』に改造された。
      これも『ドレス』の技術によるものだが、本人はあまり気にしていない。
      モナーに意地悪するのは愛ゆえか? 独占欲ゆえか?
      それは本人ですら分からない…
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じぃ  :モナーのクラスメイトであり、クラスのアイドル。
     いつも被っている帽子がトレードマークらしい。
     密かに、モナーに思いを寄せていたが…
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ガナー :モナーと一つ違いの萌えない妹で、年相応の普通の女の子。
      しぃタナとはクラスメイトであり親友。
      居候しているリナーを「お義姉さん」として慕っている。
      最近、めっきり影が薄くなった。
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しぃタナ :しぃの妹で、しぃタナは暴走レモナによるあだ名。
      しぃに比べて活発で、腹黒でもないようだ。姉妹仲は悪くない。
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17:2004/04/11(日) 00:01

 ――ASA――

Anti-Stand Associationの略で、人に仇を為すスタンド使いを抹殺する組織。
国際的に活躍し、各国政府の要請で出動する。
組織としては私立財団に近いが、スタンド使いに対抗する組織の中で、最も強力かつ武闘派。
『三幹部』と呼ばれる三人の意向によって組織の意向が決定される。
とはいえ、ありすとクックルは組織の運営に興味を示さない為、事実上しぃ助教授の独断状態である。
スタンド使いはもちろん、軍事力も保持。
財力にあかして各国の最新兵器を買い叩くという、某中東国家に似た事をやっている。

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しぃ助教授:ASA三幹部の一人。年齢に触れる事は大いなるタブー
       理知的で温和に見えるが、怒らせると危ない。怒りの導火線もかなり短い。
       兵器好きだが、その理念はリナーと大きく異なり性能重視。

       スタンド:『セブンス・ヘブン』
       近距離パワー型と思わせておいて、実は遠距離型。
       パワーはとんどなく、遠距離型にもかかわらず視聴覚を持たない。
       『力』の指向性を操ることができる能力を持つ。
       この能力を本体の周囲の空間に使うと、物理的な攻撃が当たらなくなる。
       この鉄壁の防御を、『サウンド・オブ・サイレンス』と呼称する。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ありす:ASA三幹部の一人。ゴスロリに身を包んだ女の子。
     よく「サムイ…」と呟いていて、得体が知れない。

     スタンド名:不明
     巨大な腕型のヴィジョンが複数存在する。
     その破壊力は高く、本体への攻撃を掌で防ぐ事も可能。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
クックル:ASA三幹部の一人。筋肉に覆われたニワトリ。
      頑健な肉体を誇る。

     スタンド名:不明
     詳細不明
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
丸耳  :しぃ助教授の補佐。おそらく20代後半。
      主人の暴走を止めるのが主な仕事。
      あのしぃ助教授を制している人物という事で、ASA内での評価は高いらしい。

      スタンド名:『メタル・マスター』
      詳細不明。本体を狙った銃弾を虚空に消した。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ねここ :ありすの補佐。猫の顔を模した帽子をかぶった女の子。
      その言動はどこか変わっている。
      ありすとは、友人のように付き合っているらしい。

      スタンド名:『ドクター・ジョーンズ』
      大鎌を持った死神のような姿をしたスタンド。
      外見に似合わず、手術を行って他人の傷や病気を治療することが可能。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
+激しく忍者+:クックルの補佐。作品内には未だ登場せず。
          クックルのストレス解消的存在。
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18:2004/04/11(日) 00:01

 ――『教会』――

ローマ教会の内部組織で、吸血鬼殲滅を主な任務とする機関。
唯一の吸血鬼殲滅機関と言っても過言ではないほど強大である。
代行者と呼ばれる対吸血鬼のエキスパートを世界中に派遣し、吸血鬼に対抗している。
また、『ロストメモリー(失われし者達)』と呼称される、強力なスタンド使いの死体を保存している。

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リナー :『教会』の代行者で、称号は『異端者』。
      見た目は17歳程度だが、正確な年齢は不明。
      隠し事が多い武器・兵器フェチ。

      スタンド:『エンジェル・ダスト』
     体内にのみ展開できるスタンドで、液体の「流れ」をコントロールできる。
     手で触れれば、他人の自然治癒力を促進させる事もできる。
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簞(ばつ):『教会』の代行者で、称号は『守護者』。
       現在は1さんの家に居候している。
       そのスタンド能力から、武器の法儀式処理を一手に任されている。

       スタンド:『シスター・スレッジ』
       人間よりも多量の波紋を練る事ができるスタンド。
       物質に波紋を固着させる事も可能。
       パワーはないに等しいので、戦闘時は波紋を流したワイヤーを使う。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『解読者』:『教会』の代行者で、本名はキバヤシ。
       代行者の中で、トップの吸血鬼殲滅数を誇る。
       『教会』の仕事以外ではスタンドは使いたがらない。
       その理由は、彼のかって対立していた組織が洗脳紛いの事をしていたかららしい。
       なお、その組織は彼の脳内にしか存在しない説が濃厚。

       スタンド:『イゴールナク』
       催眠術を基盤とした能力だが、詳細不明。
       スィッチを暗示として仕込む技術は、スタンド能力とは別物のようだ。
       暗示の簡略化に用いるらしいが…
       ASAから封印指定を受けている。
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『調停者』:『教会』の代行者。本名は阿部高和。
       劇画風の濃い顔がチャームポイント。
       普段はツナギを着てベンチに座っている。

       スタンド:『メルト・イン・ハニー』
       死者の魂をスタンド化する能力を持つスタンド。
       スタンド化できる魂は常に一つで、ストックは不可。
       自由に解雇する事は可能。
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『破壊者』:『教会』の代行者。本名はヌケドナルド。
       ピエロのような格好をしている。
       常に「お前ら、表へ出ろ」と口走り、周囲を威嚇している。
       前任の『破壊者』にコンプレックスを持っているらしい。

       スタンド:『カナディアン・サンセット』
       普通のクマに同化しているので、一般人にも見えるスタンド。
       発動すると、クマがどこにいても飛んでくる。
       強力なパワーを持つが、操作は不可能。
       攻撃優先順は、
       『破壊者』 > 敵意を持っている者 > 女・子供 > 他のクマ
       『破壊者』本体に限り、死まで至らしめないという優しさも持っている。

19:2004/04/11(日) 00:02
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『狩猟者』:『教会』の代行者。本名は「きれいなジャイアン」。
       爽やかな雰囲気と、素敵な瞳を持つ。
       気に食わない事があると、暴力の化身「きたないジャイアン」になる。
       『音界の支配者』という異名を持つ。

       スタンド:『クロマニヨン』
       ギター型のスタンド。
       本体の放つ超広帯域空気振動に一役買っているらしい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『暗殺者』:『教会』の代行者。通名はムスカ。本名は省略。
       自称ラピュタ王。尊大な振る舞いだが、どことなく間が抜けている。
       副業で暗殺者を営んでいるようだ。

       スタンド:『アルハンブラ・ロイヤル』
       影を武器として操る。
       限界はあるが、複数の影を同時に操る事が可能。
       また、影の中に潜る事もできる。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『支配者』:『教会』の代行者。本名?はスミス。
       上下とも真っ黒なスーツを愛用しており、サングラスは決して外さない。
       「諦めろ」が口癖。

       スタンド:不明
       ドア型のスタンドで、複数存在する。
       本体自身を増殖させているらしいが、詳細不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『蒐集者』:『教会』の元代行者。
       爽やかな青年の外見をしていて、夏でも黒のロングコートを愛用している。
       いろいろな場所に顔を出しては、話を最高に胸クソ悪く盛り上げてくれる人。
       『教会』から離反しているようだが、称号は使い続けている。

       スタンド名:『アヴェ・マリア』
       対象を取り込んで同化できる。
       同化には、生物、無生物を問わない。
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ぽろろ:『NOSFERATU-BAOH』の実験体候補。
     『教会』の地下深くに軟禁されている。
     自らのスタンドを喰らい、スタンドに喰らわれている。

     スタンド名:『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』
     能力不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
枢機卿:『教会』の最高権力者。

     スタンド名:『リリーマルレーン』
     能力不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
山田:過去に存在した強力なスタンド使いで、約1800年も前に死亡している。
    『ロストメモリー(失われし者達)』として、遺体を『教会』が隠匿してきた。
    近年、吸血鬼として蘇生。

    スタンド名:『極光』
    詳細不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

20:2004/04/11(日) 00:03
ハートマン:過去に存在した強力なスタンド使いだが、死亡したのは近年。
       『ロストメモリー』の一員で、吸血鬼として蘇生。
       狙撃銃、PSG1を愛用する。

       スタンド名:『ミッキーマウス・マーチ』
       詳細不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ウララー:過去に存在した強力なスタンド使いだったが、吸血鬼として蘇生。
      『ロストメモリー』の一員。
      『アナザー・ワールド・エキストラ』の元々の所有者と因縁があるようだが…
      なお、『ロストメモリー』とは『教会』が付けた便宜的な総称に過ぎないため、
      メンバーのそれぞれに面識も仲間意識もない。

      スタンド名:不明
      詳細不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――警視庁警備局公安五課――

 通称、スタンド犯罪対策局。
 増加を続けるスタンド犯罪に対抗して設立された部署。
 スタンド使いが多く所属する。
 現在、政情不安のため雲隠れ中。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
局長   :公安五課(スタンド犯罪対策局)の局長。
       スタンド関連では、この国で一番偉い人らしい。
       現在は逃亡中。

       スタンド:『アルケルメス』
       時間を「カット&ペースト」する能力。
       時間を切り取ったり、切り取った時間を貼り付けたりできる。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――自衛隊――

 内閣総理大臣を最高指揮監督者とする国防のための軍事組織。
 防衛庁長官が自衛隊の隊務を統括する。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
フサギコ:統合幕僚会議議長。自衛官の最上位に就いている。
      粗暴で口が悪いにもかかわらず、多くの部下から慕われている。
      局長とは古くからの付き合いだが、仲は決して良くない。
      ギコの父親。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
でぃ :海上自衛隊の一等海佐。
    高い操艦技術を持っているらしい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

21:2004/04/11(日) 00:04

 ――その他――

 その他の人達とか。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
1さん :モナーと同じ学校に通う17歳。
     簞ちゃんとの出会いから、大きな運命の流れに引き込まれていく。
     現在、波紋修行中。あと10年もすれば、立派な波紋使いになるだろう。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
殺人鬼:モナーの別人格で、高い知能と戦闘能力を持つ。
     また、『アウト・オブ・エデン』の能力をモナー以上に引き出せる。
     たまに出てきてモナーを手助けするが、善意ではない事は明らかである。
     『教会』との繋がりがあるようだが…
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モナソン・モナップス:海外視察に来ていた上院議員。
             出て来るたびに、お供のボディーガードと共にヒドイ目に遭う。
             だが、その心は砕けない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『矢』:刺さった者のスタンドを覚醒させる『矢』。資質がない者は命を落とす。
    確認されているのは、『矢の男』が所持していたものと、モナーの家に隠されていたものの2本。
    キバヤシ曰く、『矢の男』が所持していた『矢』は『アルカディア』による偽者らしい。
    とはいえ、機能は本物と変わりないようだ。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

22:2004/04/11(日) 00:04

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その1」



 ――夢を見た。

 なぜか、夢とはっきり分かる。
 BGMのように、寂しげな旋律が流れていた。
 確か、じぃを殺した夜に聞いたメロディと同じ…


 古い屋敷の前に、男は立っていた。

 ――あれは、俺だ。
 現代ではない。
 今から、百数十年ほど昔だ。
 欧州のどこかの風景。
 森の中に存在する古い屋敷の前に、俺である男は立っていた。
 
 男は、バヨネットを手にしていた。
 サングラス… いや、黒眼鏡と言った方がいいだろうか。
 とにかく、男はサングラスをかけていた。
 まるで、視界を遮断するかのように。

 ゆっくりと、男は屋敷の扉を開けた。
 正面のホールには、人間… いや、人間を辞めたモノが3匹。
「いきなり上がり込んで… 何ですか、貴方は…」
 吸血鬼は人間を装い、不服そうに口走る。

「――良い知らせと、悪い知らせがある。どちらが先に聞きたい?」
 男は、口を開いた。

「じ、じゃあ… 悪い知らせの方を先に…」
 雰囲気に呑まれ、律儀に答える吸血鬼。
 男は、無表情で告げた。
「お前達の人生は、今日で終わりだ」

「じゃあ、良い知らせは…!」
 吸血鬼が声を荒げる。
 それに対し、表情を崩さない男。
「――苦痛は感じない」

 男は、サングラスを外した。

 ――『アウト・オブ・エデン』。


  (周囲に、視線が満ちる。)

                (場の空気。敵の呼吸。全てを把握。)

 (まるで、視線で構成された空間。)

                       (「…お前、代行者か!」 正面の吸血鬼が叫ぶ。)


       ( −mental sketch modified− )


                              (瞬く間に――)

 ――3人の吸血鬼は身体を寸断されていた。
 3人分の肉塊が、湿った音を立てて床に落ちる。

「さて、後は…」

 壁を突き破って、吸血鬼が飛んできた。
 その生命はすでに無い。
 …いや、吸血鬼に元々生命は存在しないか。
 吸血鬼の肉体は、地面に落下した瞬間に炎上した。
 どうやら、あっちもカタが付いたようだ。

「やれやれ… こんな雑魚相手に、私達が出張る必要もありませんでしたね…」
 壁の穴をくぐって、黒のロングコートを着用した青年が現れた。
「…全くだ」
 男はバヨネットを服の中にしまうと、再びサングラスを着用した。
 面倒そうにため息をつくロングコートの青年。
 彼は、『蒐集者』と呼ばれていた。

「さて。帰りますか、『破壊者』…」
 『蒐集者』はロングコートを翻すと、出口の方へ歩いていった。

23:2004/04/11(日) 00:04


          *          *          *



 あれから、時が流れた。
 これは、夢だ。
 懐かしい夢。
 哀しい旋律は鳴り止まない。


 男は、ドアをノックして書斎に入った。
 『蒐集者』が、『教会』から与えられた部屋。
 事実上、そこは彼の実験室と化していた。

 中の照明は薄暗い。
 『蒐集者』は、机に向かっていた。
 なにやら、熱心にノートに走り書きをしている。
 時計の音と、文字を書く音だけが場を支配していた。

「…『破壊者』か」
 『蒐集者』は作業を続けたまま、男に語りかけた。
「あまり研究に根を詰めすぎるな。身体に悪い」
 男は『蒐集者』の後ろに立って言った。

 『蒐集者』は本を開き、書かれている数値とノートの数値を比較している。
「…その言葉、有難く受け取りますよ。
 とは言え、吸血鬼化技術の完成には程遠いですからね。
 老化阻止の技術は何とか確立したが、それより先が進まない。
 臨床データが決定的に不足している状態ですからね…」

 男は、そこらに転がっていた椅子に腰を下ろした。
 周囲は本棚ばかり。
 そこには、溢れんばかりの書籍が詰まっている。

「老化阻止の技術も、完全とは言えない。肉体、精神共に頑健な者にしか施せませんからね…」
 そう言いつつ、机に並んで置かれていた3つの写真立てに視線を送る『蒐集者』。
 写真の中では、礼服の若い男がこちらに向けて微笑んでいた。
 それぞれ違った人物の写真が、3つ。

 彼等は、『教会』に所属する若い青年だった。
 試験的に、老化阻止の手術を受けたのだ。
 当然、本人達も同意していた。

 その結果は… 3人とも失敗に終わった。
 老化阻止どころか精神汚濁と新陳代謝の異常が発生し、彼等は帰らぬ人となった。
 その日、『蒐集者』は自らの机に彼等の写真を並べたのだ。

 ――あの写真は、『蒐集者』の懺悔である。

「だから、この研究は大成させねばならない。彼等に報いる為にもね…」
 そう言って、『蒐集者』はノートに視線を戻した。

「…余り、自分を責めるな。自責感に駆られて成果を急いだところで、ロクな事にならん。
 気ままにやっていれば、いつか何とかなるものだ…」
 男は椅子にもたれて言った。
「貴方は楽観的に過ぎますがね、ブラム…」
 『蒐集者』は男の名を呼んで、柔らかな笑みを浮かべた。
 時計の音が、時間を刻み続ける。

 そして『蒐集者』は一息つくと、男に視線を向けた。
「吸血鬼化… そして、究極生物。興味は尽きませんね。
 『矢』によるスタンド発現のメカニズムも、是非研究してみたい。
 まだまだ私のやる事は山積みですよ。のんびりしている暇はない」

24:2004/04/11(日) 00:05

「吸血鬼化…か。わざわざ吸血鬼を増やす必要性に疑問を感じるがな。
 我ら代行者は、吸血鬼を討つのが使命のはずだ」
 男はため息をついた。
 『蒐集者』は肩をすくめる。
「何度も言っている通り、吸血鬼そのものを増やそうという訳ではありませんよ。
 その不死性、超越性を探り応用する事で、『教会』はさらに大きな力を手にする事ができるかもしれません。
 『ロストメモリー(失われし者達)』が蘇生できれば、『教会』にとって大きな戦力となりますしね」

 『ロストメモリー』とは、『教会』が保存している遺体の通称である。
 いずれも、生前はかなりの腕前を持つスタンド使いであったらしい。
 無論、その肉体は完全な状態で保存されている。

「しかし、吸血鬼化の技術を応用し、死者を蘇生させようとは… 上も無茶な事を考える」
 男は顎に手を当てた。
「吸血鬼が死体をゾンビ化させたのは、多くの前例があります。決して夢物語ではありませんよ」
 『蒐集者』は少し不服そうに言った。
 そして、思い詰めたように表情を強張らせる。
「吸血鬼化の技術により、『教会』の戦力は抜本的に上昇する。
 そうなれば、あの『レーベンス・ボルン(生命の泉)』を撤廃できる…」
 トーンを落として呟く『蒐集者』。

 ――『レーベンス・ボルン(生命の泉)』計画。
 強力なスタンド使い同士を交配させ、それを繰り返す事により『最強のスタンド使い』を産み出す計画。
 700年も前から続き、『蒐集者』自身もその計画によって生を受けたのだ。

「お前は… 『教会』を恨んでいるのか?」
 表情を曇らせ、男は訊ねた。
 『蒐集者』は視線を落とすと、軽く首を振る。
「――いいえ。恨みはありません。
 ですが、あんな計画は早々に終わらせなければならない。私のような人間が増える前にね…」

 『蒐集者』の机の正面に備え付けられた窓からは、学校の校舎のような建物が見える。
 あれこそが、『レーベンス・ボルン』。
 あの中に、今も大勢のスタンド使いが暮らしている。
 子供から老人まで。
 家畜同然に、ただ交配させる目的で。
 あの建物の中に食堂、教育施設、医務室などが備え付けられ、彼等は生まれてから一歩も外へ出られる事はない。

 窓の外に建つ『レーベンス・ボルン』を睨みつける『蒐集者』。
「あそこから出れたのは、最強のスタンドである『アヴェ・マリア』を授かった私だけだ。
 故に、私が皆を解放する責務がある…」

 男はため息をついた。
 『レーベンス・ボルン(生命の泉)』に囚われている者達は、全員が『蒐集者』の家族なのだ。
 彼の父も、母も、兄弟も、友人もあの中にいる。
 そして、『最強』のスタンド使いである『蒐集者』は、あそこから出る事ができた。

 ――しかし、普遍的な『最強』など世の中にありえない。
 ありえないものを追い求め、ありえないものにすがる。
 それは、もはや『妄執』だ。
 故に『最強』とは、『妄執』に過ぎない。

 だが… 目の前の友人、『蒐集者』は『最強』として生きようとしている。
 『最強』となる為に生を受け、『最強』として扱われた男。
 
「『最強』とは、どういう意味か―――」
 男は、不意に目の前の『蒐集者』に訊ねた。

25:2004/04/11(日) 00:06



          *          *          *



 さらに時は流れた。
 10年? 20年? それも分からない。
 時間の感覚は一切ない。
 …俺は、誰だ?


「エイジャの赤石、『矢』、共に捜索ははかどっておりません」
 男は、初老の神父に告げた。

「ふむ…」
 神父は、窓の外の星空を眺めている。
「よりによって、『教会』の秘宝を盗み出すとは… 誰か知らんが、かなりの手練だな」
 神父の言葉に、男は頷いた。
「…そうでしょうな。常人にできる事ではありません」

 神父はこちらに向き直ると、忌々しそうに腕を組んだ。
「…ASAの仕業、という可能性は?」
「その線はないでしょう。『矢』はともかくとして、エイジャの赤石に手を出す理由がない」
 男は即答する。

 神父はため息をついた。
「その理屈で言えば… 犯人は『蒐集者』でしか有り得んな。
 満足な波紋使いがおらん現状では、波紋が増幅できたとて意味はない。
 もはや、あれには研究対象以上の価値はないと言える。赤石に興味を示していたのは、『蒐集者』だけだ」

 男は、それを否定する。
「だからと言って、『蒐集者』の可能性もないでしょう。
 彼は、あれを私益していたも同然です。盗み出すなどという行動を取る必要すらない」

「何の関連もない者が欲しがるとも思えんがな…」
 神父は再びため息をつく。
「…ともかく、調査を続行したまえ。君の『アウト・オブ・エデン』に期待している」
「はい…」
 男は軽く頭を下げた。

「ところで、話は変わるが…」
 少しの沈黙の後、神父は口を開いた。
「…私も、老化阻止の手術を受けてみようと思う」

 それを聞いて、男は額に皺を寄せた。
「…枢機卿。あの手術は危険を伴います。老化阻止を施して、命があったのは――」
「私のみ、と言いたいのだろう? 『破壊者』よ…」
 神父は、冷ややかな笑みを浮かべて言った。

 男は、かなり前に老化阻止の手術を受けていた。
 老化阻止は、吸血鬼化技術の一端という事もあり、新陳代謝に大幅な歪みを及ぼす。
 ほとんどの場合は、脳が遅延化した新陳代謝に耐えられない。
 老化自体は止まっても、どんな副作用が起きるか分からないのが現状だ。
 しかし、男は自ら望んで手術を受けた。

「私には、実現すべき理想がある。その日を見るまで、老いて死ぬ訳にはいかないのだよ」
 枢機卿は笑みを浮かべて言った。
 男と同じ、理念の為ならリスクを犯す。枢機卿も、そういう人種なのだ。

 枢機卿は言葉を続けた。
「神は、望まぬ能力をこの私に押し付けた。『リリーマルレーン』、使いたくはない…
 故に、私は肉体を磨く事でスタンドの使用を抑制してきた。
 …だが、老いてはそれもできんからな。
 老化阻止は精神・肉体共に頑強でなければ耐えれんというが… 私にも、それは備わっているだろう」

 男は、枢機卿の言葉を過信とは思わない。
 目の前の神父は、それだけの能力を備えている。
「…成功する事を期待しています」
 男は言った。


 一礼して、男は部屋を出た。
 長い廊下を歩き、礼拝堂の外へ出る。
 外は真っ暗だ。もう夜も遅い。
 宿舎へ戻ろうとした時、男は妙な空気を感じ取った。

 ――怒り、悲しみ、怨念。
 幾多のマイナスの感情が渦巻いている。
 これは…!

 男は走り出した。
 奇妙な気配を感じた、『レーベンス・ボルン』の方向に向かって。

26:2004/04/11(日) 00:07

 男は、白くそびえ立つ建物の前にたどり着いた。
 『レーベンス・ボルン』を見上げる男。
 中に入るのに、かなりの躊躇を感じる。
 まるで、建物自体が外界からの接触を拒むように。

 …衛兵はいない。
 多くのスタンド使いを閉じ込めている以上、管理は万全のはず。
 しかし、建物の周囲には人っ子一人いない。
 やはり、妙だ。
 男はドアを開け、『レーベンス・ボルン』に侵入した。


 ――死の気配。
 それも、まだ新しい。
 男は歩を進めた。
 外見だけでなく、内部もまるで学校のようだ。

 立ち込める死の気配とは別に、『アウト・オブ・エデン』は妄念と腐敗を感じ取った。
 『最強』のスタンド使いを作る為だけに、彼等はここに監禁されてきた。
 何代も何代も、約800年に渡って。
 時の止まった場所。
 ――ここは、生きた建物ではない。

 廊下に、倒れている人の姿を発見した。
 一瞥しただけで、既に命はない事は判る。
 それだけではない。
 その肉体は何かが大きく欠けていた。
 目に見える変化はない。
 しかし、その死体は物体として大きく欠落している。
 あれは既に抜け殻だ。

 ――『特性の同化』。
 『アヴェ・マリア』のスタンド能力。

 男は走り出した。
 『アウト・オブ・エデン』で、奴の位置を把握する。
 5階の突き当たり。
 技能教務用の部屋… 一般的に言う教室だ。
 そこに、奴はいる…!!

 廊下を突き進み、階段を上がるにつれて、死体の数は多くなっていった。
 いや、あれは死体ですらない。
 特質を失った、ただの抜け殻だ。

 奴は、もう――


 男は、蹴破る勢いでドアを開けた。
 木製のドアは、派手な音を立てて外れる。

 教室は、死体の山だった。
 20人、30人… いや、もっと。
 老若男女、分け隔てない死体。
 その全てが、既に『奪われて』いる。

 『蒐集者』は、若い女の顔を掴んでいた。
 その背後には、『アヴェ・マリア』のヴィジョンが浮かび上がっている。
 黒のロングコートが激しくはためいた。
 女は、たちまちにして『特性』を吸い取られる。
 そのまま、無造作に投げ捨てられる女の残骸。

「『蒐集者』、お前…!」
 男は、異形の青年に語りかけた。
「ああ、ブラムか… どうしました?」
 『蒐集者』は歪んだ笑顔を見せる。
 その瞬間、激しく咳き込む『蒐集者』。
 口から溢れ出る血を、右手で押さえる。

「お前…! 自分が何をやったか分かっているのか…!?」
 男は叫んだ。
「…分かっているさ。こうする為に、私は生まれてきたんだからなァァァ!!」
 『蒐集者』は、絶叫しながら身を反らせる。
 その全身が、不気味に脈動した。
 ポタポタと床に垂れる血。

「…気をしっかり持て。自分を見失うな!!」
 男は、『蒐集者』の元に駆け寄って叫んだ。
「黙れ…! お前に分かるのか、この苦痛がァッ!!」
 『アヴェ・マリア』が、業火を伴った拳を振るう。

「…分かるものか。私はお前じゃない」
 男は、『アウト・オブ・エデン』で火炎を『破壊』した。
「それとも… 『蒐集者』ともあろう者が、同情でも欲しいのか?」

「そんな事…」
 よろける『蒐集者』。
「ぐッ…! ぐァァァォォォッ!!」
 そのまま、『蒐集者』は大きくのけぞった。
 机の上に手を置く。
 たちまちにして、机はドロドロに溶けてしまった。

27:2004/04/11(日) 00:07

「…自分を保て。このままだと、お前は自身の能力に呑まれるぞ」
 男は、『蒐集者』に声をかける。
「私は…」
 片膝を付き、血を吐く『蒐集者』。
 その瞳は胡乱だ。
 極端に濃くなった血統。
 『最強』であるはずのスタンドが、奴の精神を蝕んでいる。

「――自らの能力などに屈するな。お前は、『最強』なのだろう?」
 男は、ゆっくりと告げた。

 自らの顔面を掴みながら、フラフラと立ち上がる『蒐集者』。
「そう… 私は『最強』だ…」
 『蒐集者』は、うわ言のように呟いた。
 彼の感情が、突然に爆発する。
「…そう、『最強』だ! 『最強』にならなければ、私には生きる価値などない!!
 神が私に『最強』を望むなら、いかなる犠牲を払ってでもそれを甘受しよう!!
 どうせ私は、呪われた存在なんだからなァァッ!!」

「…いい加減にしろ」
 男は『蒐集者』の首を掴むと、そのまま教卓に叩きつけた。
「お前は呪われた存在などではない。生まれた形は歪でも、祝福された生命に違いはないんだ」

「フ、フフ… ハハハハハハ!!」
 『蒐集者』は教卓に突っ込んだまま、表情を歪ませて笑い出した。
 その狂笑が、夜の教室に響く。
「なァ… 私は何なんだ!? こうやって、他人を糧に生きていく化物か!?」
 悲痛な叫び。
 男は、黙って『蒐集者』の顔を見据えていた。

「他人の生命を奪う事が罪なら、私の存在自体が罪なのか!?
 なぜ神は私にこんな能力を与えた!?
 私には、自らの幸せを願う事すら許されないのか!? なァ、ブラム!!」

「…お前は、悲観的に過ぎる。何でも思い詰めるな。
 世の中の不幸が全部、自分に原因があるとでも思っているのか?」
 男は、柔らかな目で『蒐集者』を見下ろした。
 しばしの沈黙。
 木屑を払い、『蒐集者』は立ち上がった。

「貴方ほど楽天的にはなれないさ… 私は、もう壊れているからな」
 幾分落ち着いた様子で、『蒐集者』は言った。

「お前は弱い。誰よりも弱いからこそ、『最強』などに憧憬するんだ」
 男は、窓の脇まで歩み寄った。
 …月が出ている。

「自分の弱さを認めろ。『最強』なんて、最初から幻想に過ぎん。
 故に、『レーベンス・ボルン』など最初から頓挫している計画に過ぎない。
 重要なのは、これから何を為すかだ。偽りの『最強』など、追い求める必要はない」

「あの月は、変わりはしない…」
 『蒐集者』は、月を見上げて言った。
「私は、いつまで自分を保つ事ができるのか…」

 男は腕を組み、割れた教卓にもたれた。
「思い詰めるなと言っている。お前は弱いが、それなりに強いさ。
 物語の終わりは、いつだってハッピーエンドだ。 …そうだろう?」

 無言で笑みを見せる『蒐集者』。
 男と『蒐集者』は、死体だらけの教室でいつまでも月を眺めていた。

28:2004/04/11(日) 00:08



          *          *          *



「――いい手段を思いついた」
 不意に『蒐集者』は言った。
「…『アナザー・ワールド・エキストラ』と『矢』を、同時に得る事が出来る手段だ」

「同時に…だと?」
 男は困惑した。
 『レーベンス・ボルン』壊滅以来、『蒐集者』に変化はない。
 結局、彼は自分を取り戻したようだ。

 ――本当にそうだろうか。
 不安は残った。
 確かに『蒐集者』に変化はないが、どこか無感情になってしまったような気がする。
 『アウト・オブ・エデン』で視た限り、特に異常はないが…

「『ロストメモリー』の中に、『アルカディア』というスタンドが存在するのは知っているでしょう?」
 『蒐集者』は話を続けた。

「ああ。『空想具現化』の『アルカディア』だろう?」
 男は、記憶からその名を探る。
 『アルカディア』は、厳密に言えば『ロストメモリー』の定義には当て嵌まらない。
 『ロストメモリー』はスタンド使いの死体なのに対し、『アルカディア』はスタンドそのものだからだ。
 しかし、『アルカディア』も『ロストメモリー』の一員として扱われている。
 『ロストメモリー』とは、事実上『教会』の予備戦力であるからだ。
 もっとも、死体蘇生の技術が確立すればの話だが。

「『アルカディア』の力で、『矢』と『アナザー・ワールド・エキストラ』を復元する気か?
 しかし、いかに『空想具現化』とはいえ出来る事に限度があるだろう…」
 男は腕を組む。
 それに対し、『蒐集者』は笑みを見せた。
「普通にやるならば…ね。ここで、『矢の男』という存在を仮定する」

「『矢の男』…? 工夫のない名前だな」
 男は口を挟んだ。
「…失礼ですね。一晩に渡って頭を捻り、7つの候補から選び抜いた名前ですよ」
 『蒐集者』は不服そうな表情を浮かべる。
 男は軽く笑った。
「他にどんな候補があったのかも気になるが… とにかく、その『矢の男』とやらをどう使う?」

 再び、語り出す『蒐集者』。
「確かに、『アルカディア』に『矢』と『アナザー・ワールド・エキストラ』の特性を伝えただけでは、
 復元は不可能でしょう。実現する事を前提にした『希望』は、どうしても具現化に制限がかかる」

「…実現する事が分かっていれば、それはもはや『希望』ではないからな。無意識に望む事が重要だろう」
 腕を組んだまま男は言った。
 それに対し、『蒐集者』は頷く。
「ここで『矢の男』の存在を流布し、噂にする。センセーショナルな噂ほど良い。
 万単位の人間が『矢の男』の存在を信じれば、具現化のエネルギーはかなりの量になります」
 
「…なるほど」
 男は、口許に手をやった。
「だが、人々が『矢の男』の存在を噂にする、というのは難題ではないか?
 普通の人間は、そんなものの存在を望むまい」

「それが、次の課題なんですよ…」
 肩をすくめる『蒐集者』。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』や『矢』について知識を持ち、なおかつ精神力に満ちた実力者が、
 『矢の男』の存在を無意識に望めば文句はないんですがね…」

29:2004/04/11(日) 00:08
 男は軽く笑みを浮かべた。
「そんな上手い話がある訳がないだろう?」
 『蒐集者』はため息をつく。
「エイジャの赤石の消失で、究極生物の研究も進みませんしね…
 吸血鬼化を応用した蘇生技術も、上手くいったところで寿命が15年では何とも…」
「まあ、気長にやればいいさ」
 男は腕を組んだ。

「…とは言え、吸血鬼化技術の研究は進んできました。
 外科手術によって、吸血鬼が量産できるのも時間の問題ですからね」
 表情を変えずに『蒐集者』は告げる。

「量産… だと?」
 男は『蒐集者』の顔に視線を向けた。
 その顔は、先程までと同じ無表情だ。
「…それはそうでしょう?」
 『蒐集者』は笑みを見せる。

 ――いや、笑ってなどいない。
 こいつの感情は、能面に過ぎない。
 こいつは――誰だ?

「出来る技術があるのなら、やるべきですよ。さらなる力を得るのに、不都合はないでしょう?」
 作り物の笑みを浮かべて、目の前の青年は言う。
「さらに、私は吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています。
 数万人ほどさらってきて、全員を吸血鬼化させる。その無類の戦闘力を目にしたくありませんか?」

「何を言っている…!? 吸血鬼など、血塗られた存在だ。
 普通の人間に、そんな十字架を背負わせる気か…?
 望まぬ力を押し付けられた苦痛は、お前が一番良く分かっているはずだろう!」
 男は、『蒐集者』の顔を睨んで言った。
 『蒐集者』は、その視線を逸らさない。
「妙な事を言う… 私は、『教会』に感謝していますよ。
 私を『最強』として産んでくれてね… ハッ、ハハハハハハハハ!!」
 突如として、大声で笑い出す『蒐集者』。

 ――真実だ。
 こいつは、真実を語っている。
 『蒐集者』は、心の底から『教会』に感謝しているのだ。
 それは、つまり――
 
 男は笑い続ける『蒐集者』をその場に放置して、駆け出した。
 もう、『蒐集者』は元の『蒐集者』ではない。
 …吸血鬼の軍隊?
 口振りからして、枢機卿にも話は通っているのは明らかだ。
 『蒐集者』1人が暴走している訳ではない。

 この組織は… 『教会』は、完全に道を誤った。
 『蒐集者』が産まれてから…?
 いや、『レーベンス・ボルン』などという狂気の計画が実行された800年前からか…

 急ぐ必要がある。
 一刻も早く、『Model of Next-Abortion Relive』の作成に着手しなければ。

30:2004/04/11(日) 00:09



          *          *          *



 男は、月光の下を走っていた。
 『アウト・オブ・エデン』で半径40Km以内を確認しながら、ひたすらに一本道を走る。

 前方に、ロングコートの青年が立っていた。
 腕を組んで、道の真ん中に立ち尽くしている。
 何の能力を使ったのか、『アウト・オブ・エデン』では捉えられなかった。
 まあ、黙って見送ってくれる筈はないとは思っていたが…

「…どこへ行くんです?」
 道を塞いでいる『蒐集者』が、無表情な視線を向けた。
「…『教会』の手の届かないところだ」
 男は答える。

「なぜ… なぜ貴方が、『教会』を裏切る!?」
 『蒐集者』は言った。
 ほんの少し、感情の揺らぎが見て取れる。
「貴方は、自分がどれほど重要な存在か分かっているのですか?
 あの『破壊者』が遁出したとなれば、他の代行者に与える影響も…」

「…『破壊者』の名など、もう不要だ。欲しい奴にくれてやれ」
 男は吐き捨てた。
 その名は、もはや自らの過ちの象徴だ。

「…それで、なぜ『教会』を去るのです? それすら、私に告げる必要はないと…?」
 『蒐集者』は言った。
「もう、お前達のやり方にはついていけないだけだ。
 正義の御旗の後ろに屍を転がすのは、もう充分だろう?」
 男は、見透かすような視線を『蒐集者』に向ける。
「…なるほど」
 ため息をつく『蒐集者』。

「…では、お前にも1つ聞きたい事がある」
 男は、『蒐集者』を真っ直ぐに見据えた。
「なぜ… あの哀れな姉妹を、吸血鬼化の被検体にした!?」

 『蒐集者』は、視線を男に向けた。
 狂気でも虚無でもない胡乱な視線。
「…それは誤解です。被検体は姉の方だけだ。
 あの娘は、実に面白いスタンドを所持していますからね。臨床データとしても最適だ。
 妹のスタンドも代行者に向いている。貴方は、実に素晴らしい拾い物をしてくれた」

「そんなことをさせる為に… あの姉妹を保護した訳ではない!」
 男は声を荒げる。

「ハッ、ハハハハハハハハ!!」
 『蒐集者』は笑い出した。
「それは残念だ。吸血鬼の血と、あの娘の肉体はどうやら相性が悪い。
 理性を保てるのも、ひとえにスタンド能力によるものだ。
 あの娘、どのみち長くはない。成人を待たずして、人格は崩壊するでしょうね!」

「その前に、私が殺すさ…
 お前のように、人間としての道を踏み外す前にな…!」
 男は、かっての友を睨んだ。

「…さて、話は終わりです。多少手荒くしてでも、貴方には『教会』に戻ってもらう…」
 『蒐集者』はバヨネットを抜く。
 その様子を、鋭い目で睨む男。
 そして、男は静かに告げた。
「今までずっと黙っていたが… 私は、『お前を殺す者』なんだ」

 『蒐集者』は、一瞬呆気に取られた顔をした。
「『私を殺す者』…? そうか、そういう事か…」

 そして、歓喜のような表情を浮かべる『蒐集者』。
「…なるほど。思ってもみなかった。確かに、存在しても不思議ではなかった!!」
 大声で笑いながら、『蒐集者』は叫ぶ。
「なァ、こんな愉快な事があるか!? 貴方も、さぞかし愉快だっただろう!!」
 『蒐集者』の狂声が、夜の闇に響いた。
「なにせ、百年近くも私を騙してきたんだからなァ!!!」

「隠してはいたが… 騙すつもりはなかった」
 男は、視線を落とした。
「思う存分笑いたまえ! 愚かな事に、私は貴方を無二の親友だと思っていた! 尊敬すらしていた!!
 ハハハハ!! ピエロもいい所だ!! どうだった!? 楽しかっただろう、ブラム!!」

31:2004/04/11(日) 00:10


「…それは違う。私も、お前を親友だと思っていた」
 男は、視線を落としたまま告げる。
「もういい、もう嘘は充分ですよ。あの時の教室の言葉も、全て嘘だったんですからね――」
 『蒐集者』は、月を見上げた。
「――私が、愚かだった」

「『蒐集者』、私は…」
 男の言葉を、『蒐集者』は遮った。
「すると、エイジャの赤石と『矢』を奪ったのも貴方か…」
 男は答えない。
 その通りだからだ。

「では、貴方が『私を殺す者』なら…」
 『蒐集者』は、憎しみを込めた目で男を睨んだ。
「…なぜあの時、私を殺してくれなかったァァァッ!!」

 『アウト・オブ・エデン』は、壮絶な怒りと苦痛を感じ取った。
 発狂する程の苦痛。
 全てを焼き尽くす程の怒り。
 これは、元々の『蒐集者』の感情か…
 それとも、壊れてしまった事によるものか。
 分からない。
 もう分からない。

「――さよなら、我が友ブラム」
 『蒐集者』は、バヨネットを構えた。
 その背後に、『アヴェ・マリア』が浮かび上がる。

「やめろ、『蒐集者』!!
 私は、『お前を殺す者』と言ったはずだ! 相対消滅を望むか!?」
 『蒐集者』の殺気に押され、男は一歩下がる。

「…それもいいでしょう。そんな結末も、なかなかに面白い!!」
 『蒐集者』は退かない。
 彼は、もう一歩も退かない。

「止むをえんか…!」
 男は、説得を諦めた。
 そして、サングラスを外す。

「アウト・オブ・エデン――」

 全てが視える眼。
 その視線を、世界を覆う程に展開させる。

「――レクイエム」




          *          *          *



 …
 ……
 ………
 …目が覚めた。

 ここは… 俺の家?
 俺は頭を上げた。
 俺は、誰だ…?
 目をこすりながら、ゆっくりと周囲を見回す。

「…おはよう。よく眠れたか?」
 横から声がした。
 …リナーだ。

「…おはよう」
 俺の枕の横に座っていたリナーに挨拶した。
「…ブラムって何?」
 なんとなく、リナーに訊ねる俺。

 リナーは、少しだけ眉を吊り上げた。
「ユダヤ系の一般的な名前、『エイブラハム』の愛称だが… それが何だ?」

「いや、何でもない…」
 俺は布団から身体を起こした。
 リナーが寝かせてくれたのだろう。

「公安五課局長が待っている。全員揃ったところで、話があるそうだ」
 リナーは無表情で言った。
 という事は… 全員、俺が起きるのを待っていたという訳か。
 随分とみんなに迷惑をかけたようだ。

 俺は立ち上がると、ドアを開け…
 ふと思い立って、背後にいるリナーに告げた。
「リナーは、何があっても俺が守るからな」

「…と、突然何を言い出すんだ?」
 そう言って目を逸らすリナー。
「…それより、さっさと居間に行くぞ。みんな待ちくたびれている」
 リナーはそう言って、俺より先に部屋から出ていってしまった。

 リナーは、絶対に俺が守ってみせる。
 …そう、今度こそは。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

32ブック:2004/04/11(日) 21:33
     救い無き世界
     第六十四話・常闇 〜その三〜


 俺は手足をスタンド化させ、注意深く辺りを警戒した。
 どこだ。
 奴はどこから来る…!?

「!!!!!」
 と、いきなり俺の右足が沈み体勢を崩した。
 見ると足元に空間の裂け目が生まれ、俺の右足がそこに飲み込まれている。
 こいつ、下から…

「……!!」
 すぐに脚を引き抜こうとしたが遅かった。
 空間の裂け目が閉じ、その面で俺の脚を切断する。
 激しい痛みと共に、傷口から血が噴き出した。

「でぃさん!!!」
「でぃ君!!」
 みぃとぃょぅが俺に駆け寄る。
 馬鹿。
 来るな。
 こいつは俺を狙って…

「!!!」
 突然背後に出現する殺気。
 振り向くと、またもや空間の裂け目から腕が―――

「でぃ君!!」
 ぃょぅが俺を突き飛ばした。
 俺を掴む為に伸ばされてきた腕が俺という目標を失い、
 代わりにぃょぅの体を掴む。

「くっ…!『ザナドゥ』!!」
 引き込まれる寸前、ぃょぅが空間の裂け目の中に向かって突風を打ち込む。
 敵はその風を喰らって怯んだのか、ぃょぅを掴む腕の力が弱まり
 その隙にぃょぅが空間の裂け目が閉じる直前でそこから逃れる。

「ぐああぁっ!!!」
 しかし、ぃょぅ完全には攻撃を避けきる事は出来なかったようで、
 ぃょぅは肩口の肉をごっそりと抉り取られた。
 傷口を押さえ、ぃょぅが叫び声を上げる。

「ぃょぅさん…!」
 みぃがスタンドを発動させ、ぃょぅの治療を始める。
 それでいい。
 奴の狙いはただ俺一人のみ。
 近くにさえ居なければ、恐らくみぃ達は安全だ。


「…邪魔が入ったか。」
 遠くに空間の裂け目が生じ、男がそこから顔を覗かせた。
 糞。この距離じゃ、届かない…!

「しかし、邪魔者をしばし戦闘不能には出来たようだ。
 ならば、ゆっくりと貴様を屠るまでよ…!」
 …まただ。
 またこの男から、何かが流れ込んでくる。
 これは、一体…

「この亜空が貴様の墓場となる…」
 男は俺を睨みつけると、再び裂け目を閉じて姿を消した。

「……」
 俺は先程斬り飛ばされた脚を見やった。
 新しい脚がもう生えかけているが、まだ完全ではない。
 まずいな。
 このまま再生するより早く攻撃を受け続けたら…

33ブック:2004/04/11(日) 21:33

「……!!」
 と、いきなり俺の目の前の視界が全く別のものに切り替わった。
 いや、この景色は、多分俺が元居た空間の…

「!!!!!!」
 俺はすぐさま危険を察知し、首を引っ込めようとした。
 まずい。
 俺の頭だけが外の世界に戻っている。
 このまま空間の裂け目を閉じられたら、俺の首が―――

「!!!!!」
 俺の頭が男のスタンドの手によって掴まれ、俺の動きを封じる。
 閉じ始める空間の裂け目。

(終われええええええ!!!!!)
 俺は心の中で絶叫した。
 同時に空間の裂け目が、閉じていくのを「終えて」動きが止まる。

「なっ…!?」
 その現象に動揺する男。
 今だ!
 ここで、こいつを仕留める!

「……!」
 俺の頭を掴んでいる男のスタンドの腕を、逆に掴み返す。
 良し。このままこいつをこっちの空間に引きずり込んで、
 ぶち殺…

「うぬあああああああああああ!!!!!」
 男が叫んだ。
 そして俺に掴まれていない方の腕で、俺に掴まれている腕を切り離す。

(しまっ―――!)
 しかしもう間に合わなかった。
 奴の右腕だけが、俺と共にこちらの空間に入って来る。
 そして『デビルワールド』の能力の持続が終わり、
 空間の裂け目が閉じてしまう。

 しくじった…!
 今のが、多分最初で最後のチャンスだったのに。

「……!」
 急激な脱力感。
 全身から力が抜け、再生しきっていなかった腕や脚の傷口が次々と開く。
 鋭い痛みが俺を襲い、視界が白くぼやける。
 『デビルワールド』の能力を使う事による反動か…!


(ここまでだな。)
 内側から響いてくる声。

(後は私にまかせて、ゆっくりと休んでいるがいい…)
 やめろ。
 出て来る―――

34ブック:2004/04/11(日) 21:34



     ・     ・     ・



 Z武は体を激しく震わせて、腕を切断した痛みに耐えていた。
「何だ…何なのだ、さっきのはぁ!!?
 何故空間が閉じなかった!!!」
 半狂乱の表情でZ武が叫ぶ。
 腕からは、止めど無く血が流れ続けていた。

「…あれが、あの『化け物』の能力か……!
 糞!糞糞糞糞糞!!!
 忌々しい!!
 何故あんな『化け物』がその存在を許されているのだ!?」
 Z武は叫び続ける。
 それはあたかも駄々っ子のようでもあった。

「…仕方が無い。
 『デビルワールド』をこの手で始末出来ないのは残念だが、
 このまま奴に攻撃をしかけるのは危険過ぎる…
 あのお方の邪魔をさせない為にも、ここは空間に閉じ込めたままにして―――」
 その時、Z武の頭を何者かの腕が掴んだ。

「!?」
 Z武がギョッとしてそちらを向こうとするが、出来ない。
 そこには、彼の『エグゼドエグゼス』が生み出すものと同じような空間の亀裂から、
 異形と化した腕が突き出ていた。

「―――なっ!?これは…!!」
 驚きを隠せないZ武。

「…空間を『終わらせて』、お前の開いた亜空間を突き破った。」
 空間の裂け目から、何者かの声が聞こえてくる。
 その声に、Z武は以前聞き覚えがあった。

「『デビルワールド』…!」
 Z武の頭蓋がから、みしみしと嫌な音が立ち始める。
 頭を砕かれそうな痛みに、Z武は顔を歪ませた。

「狂ったまま大人しくしていれば、もう少し長生き出来たものを…」
 『デビルワールド』が哀れむように呟く。
 しかし、手に込められた力は全く緩めない。

「ひぃ!!ひいぃ!!
 ひいあああああああああぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
 Z武が絶望にまみれた悲鳴を上げる。
 『デビルワールド』はその叫びを陶酔した表情で聞いて―――
 そして、一言呟いた。
「『終われ』。」
 その言葉と同時に、Z武の体が塵一つ残さず消え去った。
 まるで、最初からそもそも存在していなかったかのように。

「存在の終了…
 果たして奴は何処にいくのだろうな…?」
 『デビルワールド』は空間の亀裂からZ武の居なくなった場所を見つめながら、
 邪な笑みを浮かべるのであった。

35ブック:2004/04/11(日) 21:34



     ・     ・     ・



 …気がつくと、私達は元居た世界に戻されていた。
「……!!」
 急いででぃ君の方を見やる。
 さっき、でぃ君の体があの時の『化け物』の姿に変わって―――

「……っ…」
 でぃ君が片膝をついて息を荒げている。
 彼はすでに元の姿に戻っていた。

「でぃさん…」
 みぃ君が、彼の肩に手をやろうとする。
「……!!」
 でぃ君は、悲痛な眼差しでその手を振り払った。
 …彼の内に眠る力で、みぃ君を傷つける事を恐れているのか。

「……」
 彼に拒絶され、みぃ君が悲しそうな顔で俯く。
 私は、彼等を直視する事が出来ない。


「…!!」
 と、私の携帯電話が振動するのに気がついた。
 どうやらあの空間から脱出して、機能が回復したみたいだ。
 慌てて電話に出る。

「もしもし、ぃょぅだょぅ。」
 私は受話器に向かってそう言った。
「もしもし、ぃょぅ!?大丈夫なの!!?」
 この声は、どうやらふさしぃのようだ。
「大丈夫だょぅ。問題は無ぃょぅ。」
 肩口の傷はまだ痛むが、みぃ君のお陰で大分回復している。
 これならば、これからの闘いに支障が出る事は無さそうだ。

「それはそうと、あなた達一体どこに居るの!?」
 ふさしぃのその質問で、私はようやく一番大事な問題に気がついた。
 そういえば、ここはどこだ?
 私達があの妙な空間に引きずりこまれた場所とは、明らかに違う。

「え〜と…」
 私は周りを見回して、現在位置を特定できるものが無いか探した。
 そして、首を三十度程捻った所で一つの看板が目に入る。

「ああ、どうやらここはヌルポ町みたいだょぅ。」
 私は電話の向こうのふさしぃにそう告げる。
「ヌルポ町!?そんなに遠くに!?」
 ふさしぃが驚くのも無理は無い。
 たった数十分の間に、私達はかなりの距離の開いた場所に移動させられたのだ。
 そして、それは―――

「…どうやら、戦力を分断されてしまったみたいね。」
 ふさしぃが重く口を開く。
 そう、私達は否応無しに二手に分けられてしまったのだ。
 そしてそれを見逃す程、敵も甘くは無いだろう。

「…兎にも角にも時間のロスになってしまったょぅ。
 取り合えずこちらはでぃ君に『矢の男』の居場所を聞きながら、
 『矢の男』の所に向かうょぅ。
 随時こちらの現在位置を報告するから、ふさしぃ達もすぐに合流してくれょぅ。」
 急がねば。
 恐らくすぐにでも新手はやってくる。
 このまま戦力を分かたれたままではあまりにも危険だ。

「…分かったわ。気をつけて……」
 ふさしぃがそう言って電話を切った。
(そっちも気をつけるょぅ。)
 心の中で、ふさしぃ達の無事を祈願する。

 頼む。
 死ぬなよ、皆…!

「…さて。」
 私はでぃ君とみぃ君の方に向き直った。
「いつまでもじっとしている訳にはいかなぃょぅ。
 すぐに新しい車を手配して、『矢の男』の所に急ぐょぅ。」
 不安を振り切るように、私は無理して明るい声で彼らに告げるのだった。



     TO BE CONTINUED…

36丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 22:55



  夢を見た。

  不思議な夢。

  流れ込んでくる記憶。

  昔の夢。

  僕が生まれる、その前の夢。

37丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 22:57



   一九八四年 三月九日 午前零時六分、アメリカ・ニューヨーク
   天候・雨 気温・三度


 一人の女が、傘も差さずに驚異的なスピードで走っていた。
一歩走るたび、体のあちこちから鮮血がはねる。
「ハッ…ハッ…!畜生あのSon of a bitch!しつこく人を追いかけ回しやがってぇ…っ!」
 悪態をつきながらも、足を止める事は許されない。
水たまりを踏み散らし、夜の町を走る。

  ―――その数秒後。交差点にさしかかった瞬間、一人の男性がのんびりした歩調で目の前に現れた。




 一人の男が、傘を片手にのんびりした歩調で歩いていた。
一歩歩くたび、防水布の表面で水滴が踊る。
「ふわぁぁぁっ…。畜生あのスットコドッコイ。しつこく勝つまで徹マンぶっ続けやがってぇ…」
 あくびをかみ殺しながらも、本日の遅刻は許されない。
水たまりを飛び越えて、夜の町を歩く。

  ―――その数秒後。交差点にさしかかった瞬間、一人の女性が物凄いスピードで突っ込んできた。

38丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 22:59
「ニローン!」
 着ている物を泥水まみれにした男性に、一台のバイクが近づいてきた。
外国人特有の、彫りが深い顔立ちのギコ種。
そのまま雨水を巻き上げて、男性の前に停車する。
 バイクに乗る男に、男性がのんびりと右手を挙げた。
「ん、ギコか。遅くまでごくろーさん…」
 男性の言葉に、男がよく通る声で応えた。
「ニローン、この辺で女見なかったか?吸血鬼だ」
「あー、あの女?俺にぶつかってきた。服がグチョグチョになっちまったよ」
 気怠そうに呟く男性に、男が興奮した面持ちで聞く。
「見たのか!どっちに行った!?」
「あっちー」
 ぴっ、と目の前の道を指す。
「サンクス!助かった!」
 大きな声で言い残し、男は爆音を響かせて走り去っていった。
男が通りの向こうに消え去ってから十数秒後。
「……んー…ま、嘘はついてないんだよなー」
 一人呟きながらこつこつと靴音を響かせて、先程指さしたあたりの地面に近寄る。
「俺はただ指さして『あっちー』って言っただけだしなー」
 足を止め、地面に膝をつく。傘を持っていない方の左掌を、雨に濡れた地面においた。
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「『道の上を走って逃げました』とは一ッ言も言ってないんだよなー」
 力を集める。自分の力を呼び覚ますべく。
「もういいぞ。『フルール・ド・ロカイユ』」

 もこり、とアスファルトの路面が盛り上がった。
こぶ状になったアスファルトが、花びらのようにほどける。
突如として路面に咲いた『石の花』の中で、先程ぶつかって来た女性が膝を丸めていた。
 降りしきる雨の中、女性が疲弊しきった顔を上げ、疲弊しきった声で聞く。
「―――何で、助けてくれたの?」
「…ま、何となく、かな」
「―――貴方は、何者?」
  モナ ニロウ                                         ニローン
「茂名 二郎。日本人だ。西洋人には発音しにくい名前なもんでな。みんなは『東洋の花』って呼んでる。
 お前さんに質問。『吸血鬼』っつーけど間違いないのか?」
僅かな躊躇いの後、女性が小さく頷いた。
「じゃ、質問もう一個。生きたいか?」
 今度は躊躇わず、もう一度頷いた。
「…最後の質問。お前さん、名前は?」
 荒い息を吐き、二郎の耳元で女性が唇を動かした。
     シャマード
「……『熱き鼓動』。ルナ・シャマード・ミュンツァー」
息だけの声でそういうと、そのまま女性は気を失ってしまう。

雨のやみ始めた空を見上げると、雲の切れ間から綺麗な月が顔を出していた。




                      この日この時この瞬間より、二人の運命は絡み合う。

39丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 23:01




  これは夢。

  おかしな夢。

  見たことのない景色。

  昔の夢。

  父さんと母さんが出会う、その日の夢。

40丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 23:02







    三月九日 午後六時三〇分
    天候・晴れ 気温・一七度


 

「ただいまー…お、起きた?」
 小綺麗に片づけられた、二郎のアパート。
ベッドの上に座り込むシャマードに、二郎がぽいとベーカリーの紙袋を投げて渡す。
 ありがと、と聞こえるギリギリの声で呟き、フランスパンの端っこにかじりついた。
「しかし…お前さんえらく図太いな。知らない男の部屋に連れ込まれてるのに平然と出された物食うか?」
「殺すなら寝てるときにできるし、ヘンなコトするにしても同じ。
 さっきは衰弱してたし、元気になるまでほっといて毒を飲ませるのももったいない。
 それ以前に、弾抜いたり治療までしてくれたんだし、敵じゃない筈」
呆れたような二郎に、包帯の巻かれた腕を見せてシャマードが返した。
 再びフランスパンにかじりつくシャマードに、二郎がうなる。
「ふぅん…なるほど、もっともな理論だ。…コーヒー飲む?」
「うん」


「…ねえ、ニロー…で、いいんだっけ?」
 膝の上に付いたパンくずをはたきながら、シャマードが問うた。
ちなみに彼女が乗っているのは二郎のベッド。
 人の寝床をパンくずまみれにしているが、反省の様子はない。
もっとも、持ち主の二郎とて大して気にしなかったが。
「ん、発音が少し違う。『茂名 二郎』。『ロー』じゃなくて『ロウ』。下げ気味に、だ。
 『ニローン』でもいいぞ。東洋をイメージした架空の花の名前」
「どっちも言いにくいし、花って顔じゃない…いいよ、二郎って呼ぶから。…で、本題」
 落ち込む二郎を尻目に、ベッドに寝そべりながらシャマードが聞いた。
「なんで、助けてくれたの?」
「んー、だから言ったろ?何となく…」
「嘘」
 どことなく有無を言わさない雰囲気で断言されてしまった。
「…何だよ。俺は純粋に困ってるヒトを助けようと―――」
「嘘。貴方…『波紋使い』でしょ?私みたいな奴は宿敵じゃないの?」
 誤魔化すのは無理だと思い、薄い笑みを浮かべてシャマードを見返す。
「ちぇ。『いい人』ぶる予定だったんだけどなー。ま、いいさ…何で、わかった?」
「嘘ついたんでしょ?こっちの質問が先」
「そりゃそうか。じゃ、理由…そうだな…『好奇心』ってのかな?
 『言え』っつーから遠慮せずに言うが…お前さん、本当に吸血鬼か?
 こう見えても医者志望でな。身体の事は結構わかるつもりなんだが、お前さんの体はまるで…」

 ふと言葉を切り、くるくると人差し指を回しながら言葉を探す。
          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「…そう、まるで吸血鬼と人間の中間みたいな雰囲気…まさかとは思うが、混血か何かか?」
「あ、惜しいね。確かに私は血も吸わないし太陽も平気な吸血鬼だけど、ハーフってのも少し違う。
 私が『人間寄り』で居られる理由…全部コイツの能力だよ」
ひゅるっ、とシャマードの背中から人型のヴィジョンが抜け出た。
 紅白で彩られたド派手な衣装に、笑い泣きのメイク。
ビート・トゥ・ビート
「 B ・ T ・ B …私の、スタンド」
「オ見知リ置キヲ、二郎様」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

41丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 23:04
        ,,、、
    ∩_∩(;;)) 花を召しませ〜
   ( ´∀`ノノ
   (   つO
   ノ ノ ノ
  .(_)__)


 茂名二郎

アメリカ・ニューヨークの安アパートに住まうSPM<仲介人>。
医者を目指して留学中。
『二郎』は発音しにくいので、仲間内での通称は『ニローン』。
スタンドは『フルール・ド・ロカイユ』。
『石の花』を生成する能力で、お祭りの日には露店でこれを売っている。一個二ドル。
女の子を拾い込むのはもはや血筋?

SPM危険度評価D・呼称『花売り』

42丸耳達のビート Another One:2004/04/11(日) 23:06
            │こんにちは。vs<インコグニート>も一段落ついたので、
            │今回から番外編です。
            └y┬────────────────――――
            │マルミミの父と母が出会うお話。
            │○○の○○が○○なのは話が進む上で明らかに…
            └────────y───────――――――


               ∩_∩    ∩_∩
              ( ´∀`) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
               ____Λ__________

               前三部作くらいの規模になると思います。
               お楽しみにー。

43ブック:2004/04/13(火) 15:04
     救い無き世界
     第六十五話・迷宮組曲 〜その一〜


「…分かったわ。気をつけて……」
 そう言ってふさしぃが電話を切った。
 どうやらぃょぅ達は何とか無事らしい。

「ふさしぃ、ぃょぅ達は…」
 小耳モナーが心配そうにふさしぃに尋ねる。
「大丈夫。誰も死んでいないわ。ただ…」
 ふさしぃが言葉を濁した。

「…戦力の二分。状況は以前悪いままって事か、ゴルァ。」
 俺は本日五本目の煙草に火を点けた。
 敵さんも馬鹿じゃない。
 この絶好の機会を逃しはしないだろう。

「兎に角、でぃ君は東と言っていたわ。
 ぃょぅ達は逐次現在位置を報告すると言っていたし、
 移動しつつ合流する事にしましょう。」
 ふさしぃが暗い空気を払拭するように快活な声で音頭を取る。
「…だな。じっとしてればしている分だけ、こっちが不利になる。」
 俺は車の運転席に乗り込んだ。
 キーを差し込み、車のエンジンをふかす。
「行くぞ、ゴルァ。」
 小耳モナーとふさしぃが車に乗ったのを確認し、
 アクセルを入れて車を発進させる。

「鬼が出るか邪が出るか…」
 呟きながら、俺は車を走らせるのであった。

44ブック:2004/04/13(火) 15:04



     ・     ・     ・



 部屋の中、『矢の男』は椅子にもたれ掛かり、何をするでもなくただ座っていた。

 ―――渦。
 思念の渦。
 『矢の男』の周りに可視出来そうな程に思念が渦巻き、異様な力場を形成している。
 そして、それらが少しずつ『矢の男』の中へと染み込んで言った。

「ギコエルとしぃエルが、それぞれあの悪魔に肩入れする者共の討伐へと向かいました。」
 モララエルが恭しく『矢の男』に進言した。
 それを聞こえているのかいないのか、
 『矢の男』はモララエルに薄靄のかかった目で見つめる。

「―――失礼。お邪魔でしたか。」
 モララエルが頭を下げた。
「…構いませんよ。私も、ぼんやりしていました……」
 『矢の男』は気だるそうに口を開いた。
 しかしそこから発せられる威圧感は尋常のものでは無い。

「…トラギコは?」
 『矢の男』は思い出したようにモララエルに尋ねた。
「ようやく闘える程には回復したようです。
 現在、こちらに待機させておりますが。」
 モララエルが『矢の男』の表情を窺いながら答える。

「…そうですか。
 それでは、彼にいつでも闘えるように準備しておくように伝えて下さい。
 ギコエルもしぃエルも、恐らく負けるでしょう。」
 『矢の男』がモララエルに告げた。

「…何故に、そう重われるのですか?」
 モララエルが驚いた顔で『矢の男』に聞いた。
「そう『書かれている』からですよ…
 そして私にはまだ、『書き変える』だけの力は無い…」
 モララエルが黙ったまま『矢の男』の話に耳を傾ける。

「…犠牲になると分かって彼らを止めなかった私を憎みますか?」
 『矢の男』がモララエルを見据えて言った。
「…私達はもとより今この場に居る事さえ無い筈の存在です。
 あなた様の為に命を捨てる事に、今更疑問は持ちません。
 彼等とて、それは同じでしょう。
 『神』の完全なる降臨の為ならば、喜んで人柱にもなる覚悟は出来ています。」
 モララエルは即答する。
 その瞳に偽りの色は全く無い。

「礼を言いますよ…モララエル。」
 『矢の男』はそれを聞いて満足そうに微笑んだ。
「必ずや、あなた様と『神』が完全に同調するまで
 あの者達を足止めして見せます…」
 モララエルはそう言って『矢の男』の前から去った。
 『矢の男』は、その姿をじっと見つめる。
 そしてまた、彼も敗れ去る事を『矢の男』は知っていた。


「…同胞は全て死に絶え、独り山の頂に虚しく立ち尽くす。
 これが『神』の境地とやらですか…」
 『矢の男』は天井を向いて呟いた。
 思念はなおも『矢の男』の中へと入り込み続ける。
「くくっ…それも、悪くは無い―――」
 『矢の男』は狂気を孕んだ目で一人ほくそ笑むのであった。

45ブック:2004/04/13(火) 15:05



     ・     ・     ・



 俺達は近くにあったレンタカー屋で借りた車に乗って、東へと向かっていた。
「こっちでいいかょぅ、でぃ君。」
 ぃょぅがハンドルを握ったまま俺に尋ねる。
 ぃょぅは車内のバックミラーで俺が頷くのを確認すると、頷きを返した。

「…いつ敵が襲ってくるか分からなぃょぅ。
 くれぐれも、気を抜かないようにするょぅ。」
 ぃょぅのその言葉にみぃが不安そうな表情をする。
 本当はこの危険な道中に連れて来たくは無かったが、
 かと言って放っておいては人質に取られる可能性もある。
 そして俺達にある程度安全なSSSまで引き返している時間は無い。
 それ故、ある程度の危険はあっても一緒に行動する他無かった。
 そう、俺達には…いや、俺にはもう、時間が―――


「……!」
 車の窓ガラスを透き通って、周りからどす黒い思念が俺の体に入ってくる感触。
 ぃょぅ達には気づかない位にゆっくりと、少しずつ。

 …しかし、『デビルワールド』は着実にそれを喰らい、
 それを糧に徐々に徐々にだが大きくなり続ける。
 少しずつ。少しずつ。少しずつ。少しずつ。
 そして俺が俺であるという自我は、それと共に蝕まれ…

「でぃさん…?」
 俺の異常を感じ取ったのか、みぃが心配そうに俺に声をかけた。
『大丈夫だ、何でも無い。』
 俺はみぃとは目を合わさずにそう答えた。

 ―――時間が、無い。
 俺にはもう、僅かな時間も残されていなかった。



     ・     ・     ・



「あったまてっかて〜か、さ〜えてぴっかぴ〜か、
 そ〜れがどぉし〜た、ぼく…」
 鼻歌を歌いながら車を運転する。
 ただでさえ暗い状況なのだ。
 歌でも歌わなきゃやってられるもんか。

「ギコえもん音痴だモナ〜。」
 小耳モナーが笑いながら突っ込む。
「うるせえ!手前に言われたかねぇよ!!」
 こいつ、俺が今運転していて反撃出来ないからって調子に乗りやがって。

「ちょっと、もう少し緊張感を持ちなさい!
 いつ敵が襲ってくるかもしれないのよ!?」
 ふさしぃが怒鳴る。
 そんなに怒ると皺が増えるぞ、と思ったが、
 殺されるのは確実なので口に出すのはやめておく。

「…さてと、そろそろぃょぅ達が今どこら辺か聞いてみましょうか。」
 ふさしぃが携帯電話を取り出した。
 そしてボタンに指をかけ―――

「!!!!!」
 突如、目の前に大きな扉が現れた。

 何だ―――敵―――!?
 ハンドルを―――間に合わな―――…



「…!?」
 気がつくと、俺たちは奇妙な空間の中に入っていた。
「!!!!!!」
 と、俺達が入って来た扉がみるみる姿を消す。
 すぐに外に出ようとしたが、車を降りた時にはすでに扉は跡形も無く消え去っていた。

「…これは、敵の攻撃か……!?」
 俺は注意深く辺りを見回した。
 何だ、ここは。
 まるで、ピラミッドの中のような…


「いらっしゃいませ、SSSのお客人方。」
 と、いきなり後ろから声をかけられた。
 振り向くと、いつのまにかターバンを頭に巻いた男のような奴が後ろに立っている。

「…あなた……!」
 ふさしぃが『キングスナイト』を発動させて身構える。
 俺と小耳モナーも、各自のスタンドを出現させた。

「私への攻撃は無意味です。
 私はただの案内役。いくら倒した所で何度でも復活しますし、
 本体であるギコエル様には傷ひとつつけられませんよ?」
 ギコエル…?
 それが、敵の名前か。

「あなた、何者…?」
 ふさしぃが警戒しながらその男に尋ねた。

「ですから、先程も述べましたように案内役です。
 本当はあなた達に有利になる事は言いたくないのですが、
 これも能力の内なのであなた達にこのスタンドの説明をさせて頂きます。」
 男は厭味な位丁寧に話してくる。
「それでは説明を始めましょう。
 このスタンド、『プリンス・オブ・ペルシア』の能力を…」
 男は俺達に一礼し、ゆっくりと口を開き始めた。



     TO BE CONTINUED…

46ブック:2004/04/15(木) 00:28
     救い無き世界
     第六十六話・迷宮組曲 〜その二〜


「…このスタンドの、能力の説明?」
 私はターバンを巻いた男に尋ねた。
「左様でございます。
 能力の説明がこの私の役目です。」
 男が丁寧な口調で返す。

「この迷宮こそがギコエル様のスタンド『プリンス・オブ・ペルシア』です。
 一度この中に取り込まれた以上、最早貴女方は通常の方法では脱出出来ません。」
 男がさらりと私達に告げた。

「ふざけんな!手前今すぐここから出しやがれ!!
 さもなきゃ瞬きする間にぶっ殺すぞゴルァ!!」
 ギコえもんが男の襟元を掴んで壁に叩きつけた。
 しかし、男は全く表情を崩さない。
「先程も申しましたように私への攻撃は無意味です。
 無駄に体力を消費するのは止めておいた方がよろしいかと。
 それに、ここから絶対に脱出出来ない訳ではありません。」
 男がギコえもんに掴まれたまま話続ける。

「だったら、その方法を教えやがれ!!」
 ギコえもんが叫ぶ。
「ですから、これからそれを説明するのですよ。
 すみませんが、そろそろ手を放してはくれませんか?」
 男がギコえもんの腕に手を置く。
 ギコえもんは、舌打ちをして苛立たしげに男を突き放した。

「それでは説明を続けましょう。
 あなた達がここから脱出する方法はただ一つ。
 この迷宮の何処かにいる本体のギコエル様を見つけ出し、倒す事です。」
 男は私達三人を前に、物怖じする事無く口を開いた。
「それが本当だっていう証拠はあるモナか!?」
 小耳モナーが聞き返す。
 私はそんな風にいきり立つ小耳モナーの肩に手を当てて諌めた。
「…多分本当よ。
 これ程の能力、何かしらの条件や弱点があって然るべきだわ。
 問答無用で脱出不可能なんて力、神でもなければ持ち得ない。」
 …とはいえ確証は無い。
 小耳モナーの言う通り、本体がここに居ない可能性だってある。
 もしそうなら私達はここでお手上げだ。

「ご理解が早くて助かります。
 ですがこの迷宮にはありあらゆる場所にトラップが仕掛けられています。
 いずれも致死性の高いもの揃いですので、探索は慎重になされるべきですな。」
 予想はしていたけど、只で済ます訳は無いという事か。

「最後にもう一つ。
 私がこの説明を終えてからきっちり一時間後に、この迷宮は崩壊します。
 それに巻き込まれれば言うまでも無くゲームオーバーですので、悪しからず。」
 そして男は私達に向かって一礼を…

「―――!!」
 私の『キングスナイト』の刃が男の体を両断した。
「念の為、あなたを倒しても本当に無駄なのかどうか、確認させて貰うわね?」
 私は胴の部分で真っ二つになって転がった男に声をかける。
「…酷い事を。」
 すると、男の体がゆっくりと地面に沈んでいく。
 迷宮には何の変化も起こらない。
 やはり、こいつを殺しても無駄だったか。

「…ですが、これでお分かりになられたでしょう。
 私を倒した所で無意味。
 あなた達はギコエル様を見つけるより他に手は無いのです。」
 沈みながら、男が微笑む。
「急がれた方がよろしいですよ?
 既にカウントダウンは始まっています。
 後五十九分二十秒で、タイムオーバーです。」
 私は男の頭を踏み砕いた。
 冗談じゃ無いわ。
 絶対に、ここから脱出してやる。

47ブック:2004/04/15(木) 00:28



「…で、どうする?」
 ギコえもんが私達を見ながら言った。
「取り合えず、何とかして本体を見つけるしか無いわね。
 …小耳モナー。」
 私は小耳モナーに声をかけた。
「分かってるモナ。」
 小耳モナーが『ファング・オブ・アルナム』を発動させる。
 黒い狼が、その場に姿を現した。

「『アルナム』、僕達以外の匂いはしないモナか?」
 小耳モナーが『アルナム』に尋ねた。
 『アルナム』はしばらく鼻をヒクヒクさたかと思うと、申し訳無さそうに頭を振る。
「…面目有りやせん。
 ここらから親分達以外の匂いは流れてきません。
 恐らく、どこかの部屋の中に隠れているのではないかと…」
 『アルナム』が頭を下げながら言った。

「いいえ。それだけ分かれば上出来よ。
 時間が無いわ、さっさと先に進みましょう。」
 私の言葉に皆が頷き、通路の先へと目を向けた。

「車はどうする?」
 ギコえもんが車に目を向けた。
「…あの男、トラップがあると言っていたわね。
 その言葉を信じるなら、車で進むのは危険過ぎるわ。」
 私達は結局徒歩で迷宮を散策する事にした。
 車に乗ってはそれがそのまま棺桶になりかねない。


「……」
 私達は注意深く辺りを警戒しながら歩を進めた。
 『ファング・オブ・アルナム』が私達から少し離れた所を先行し、
 ギコえもんが殿を務める。
 今の所、罠らしい罠には引っかかっていない。

「……!」
 と、『ファング・オブ・アルナム』が動きを止めた。
 振り返り、私達に注意を促す。

「どうしたの?」
 私は『ファング・オブ・アルナム』に声をかけた。
「…変な糸が張られていやす。」
 その言葉を聞き、私はじっくりと目をこらしてみる。
 よく見ると、地面から十センチ程上の所に何やら光る物があった。

「…あからさまに怪しいわね。」
 恐らくあの糸に足がかかったら、矢とか槍が飛んでくるのだろう。
 とにかくあの糸には触れない方がよさそうだ。

「ふっ、このあっしがこんな見え透いた仕掛けに引っかかるとでも…」
 『ファング・オブ・アルナム』はそう言って、軽々と糸を飛び越えて着地すると…

 カチリ

 『アルナム』が着地した場所から、妙な機械音が聞こえてきた。
 それと共に、後ろから何やら地響きのようなものが聞こえてくる。
 まさか、これは―――


「!!!!!!!!!」
 嫌な予感は寸分違わず命中した。
 後ろから、大きな岩が私達に向かって猛スピードで転がってくる。

「うわああああああああああああ!!!!!!」
 私達は叫びながら走り出した。
 信じられない。
 まさかジョーンズ博士みたいな罠が、私の身に降りかかってくるとは。
 生きて帰ったら、『インディ・ふさしぃ』とでも名のついた自主映画を作ってみるか!?

「ああああああああああああああああ!!!!!!!」
 必死に走り続ける。
 しかし、岩は見る見る私達に近づいて来る。
 まずい。
 このままでは、ぺっちゃんこに潰されてしまう…!

「『ファング・オブ・アルナム』!!!」
 小耳モナーが『アルナム』に跨った。
 そして私達を置いてどんどん加速していく。
「!!!
 小耳モナー!!
 手前ずりいぞ!!!!!」
 ギコえもんが怒号を発する。
 私も小耳モナーへの怒りで一杯だ。

「命あってのものだねだモナ!
 皆の事は一生忘れないモナ!!」
 小耳モナーは私達には目もくれずに走り去ろうとする。
 あいつ、この土壇場で裏切るなんて…!

48ブック:2004/04/15(木) 00:29

「!!!!!!」
 と、小耳モナーが立ち止まった。
 何だろう。
 今更自分のした過ちに気がついたのだろうか?

「皆、急ぐモナ!
 ここに岩をやり過ごせそうな部屋があるモナ!!」
 小耳モナーが私達に叫ぶ。

「ああああああああああああ!!!」
 体中の力を総動員して、走る。
 もっと速く。
 一秒でも、速く。

「これね!!」
 やっと小耳モナーの所まで辿り着いた。
 左の壁に、古めかしい扉が見える。
 急いでノブを回して部屋の中に―――

「!!!!!!!!」
 扉をくぐろうとした瞬間、頭上から底知れぬ危険を感じた。
 その瞬間、ドアの入り口の上から私に頭目掛けてギロチンが落ちてくる。

「『キングスナイト』!!!」
 寸前で、『キングスナイト』の剣でギロチンを受ける。
「皆!今の内に、早く!!!」
 私の叫びとほぼ同時に、ギコえもん達が部屋の中に駆け込んだ。
 全員が部屋に入ったのを確認し、私も急いで部屋に飛び込む。
 間一髪のところで、岩は部屋の横を通り過ぎていった。



「…ふー。」
 ギコえもんが汗を拭いながら大きく息を吐く。
 危ない危ない。
 もう少しで、皆仲良くサンドイッチになる所だった。
 いや…『仲良く』という所には語弊が有る。

「……」
 私とギコえもんは無言で小耳モナーに詰め寄った。
「…あれ?皆どうしたモナか?
 そんな恐い顔して……」
 小耳モナーが顔を強張らせながら後ずさる。

「さっきはよくも見捨てようとしてくれたなゴルァ……」
 ギコえもんが『マイティボンジャック』を発動させた。
「まさかあなたがあんな事するなんてねぇ…」
 私も『キングスナイト』の剣を小耳モナーに突きつける。

「み、皆誤解モナ…
 それに、こうやって無事乗り切る事が出来たんだし、
 ここは笑って水に流して…」
 小耳モナーが弁解するが、私達は聞く耳等持たない。

「…み、皆…助けて……」
 追い詰められた小耳モナーが壁に寄りかかった。

 カチリ

 小耳モナーの寄りかかった壁の一部が少しへこみ、先程と同じような機械音がする。

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、ガコンという音と共に私とギコえもんの足元の床がいきなり開いた。
 そのまま、体が重力に導かれるまま落下を始める。

「『キングスナイト』!!」
 私は壁に剣を突き立て落下を防いだ。
 そしてギコえもんの手を取り、彼が落下してくのを喰い止める。

「小耳モナー!手前後で絶対に殺すからな!!」
 ギコえもんが宙ぶらりんになりながら叫ぶ。
 私も口には出さないが、小耳モナーへの殺意に胸を黒く染めるのであった。



     TO BE CONTINUED…

49ブック:2004/04/16(金) 03:10
     救い無き世界
     第六十七話・迷宮組曲 〜その三〜


 私とギコえもんは何とか穴からよじ登る事が出来た。
 足元には、小耳モナーが鼻血を流して倒れている。

「…酷いモナ…皆。」
 小耳モナーが低く呻いた。
 酷いとは心外な。
 寧ろあれだけの事をしておいて命がある事を感謝して貰いたいものだ。

「…さてと。どうする、ふさしぃ?」
 ギコえもんが私の方を向いて言った。

「決まってるわ。すぐに探索を開始するわよ。
 大分時間をロスしてしまったし。」
 時計を確認する。
 この迷宮に入った時の時間から計算すると、残り時間はおよそ後五十分弱。
 もたもたしている暇は少しも無い。

「ほら、小耳モナー。
 早く出発するぞゴルァ。」
 ギコえもんが小耳モナーの肩を支えて立たせる。
 一応手加減はしておいたから、行動に支障が出る程の怪我はしていない筈だ。

「…ああ、ふさしぃ。」
 と、ギコえもんが何かを思い出したように私に振り返った。
「何?」
 私はギコえもんに問い返す。

「お前いい歳こいて苺柄パンツはねーだろう。
 それとも、丸耳ギコの趣味か何かか?」
 ギコえもんが呆れたように答える。

 …二秒後、地面にギコえもんの体が転がった。



「全く…どさくさに紛れて何見てるのよ、この助平!」
 廊下を進みながらギコえもんを睨む。
「こっちも見たくて見た訳じゃ無ぇよ!
 穴の中で上を見上げたら仕方無くだなぁ…」
 ギコえもんが先程拳骨を喰らった頭をさすりながら弁解する。
 こんな事なら、助けてやるんじゃなかった。

「…お二人さん、扉が。」
 『ファング・オブ・アルナム』が立ち止まる。
 見ると、右側の壁と左側の壁にそれぞれ扉が備え付けられていた。

「…どうする?さっきみたいに開けた途端に罠が発動するって事も考えられるぜ。」
 ギコえもんが声を押し殺しながら言った。
「…それでも、本体が部屋の中に隠れている可能性が高い以上、
 開けずに通り過ぎる訳にもいかないわ。」
 私は首を振りながら答える。

「…時間制限が有る以上、私達に悩んでいる時間は無いわ。
 まず私が右の扉を開けてみる。」
 私は扉に向かって進み出した。
「ふさしぃ、気をつけるモナ…」
 小耳モナーが心配そうに言った。

「なあに、大丈夫よ。
 これでも近距離パワー型のスタンド使いなんだし、
 とっさの罠にも何とか対処出来るわ。」
 そして私はゆっくりと扉のノブに手をかけ―――

50ブック:2004/04/16(金) 03:11


「ふさしぃ!!後ろだ!!!」
 ギコえもんが、叫んだ。
 それと同時に後ろから襲い来る殺気。

「『キングスナイト』!!」
 後ろは向かないまま、気配を頼りに『キングスナイト』の剣を突き出す。
 剣から、何かを貫く手応えが伝わってきた。

「……!!」
 何が襲って来たのか確かめようと後ろを向く。
 剣には、鋭い牙を生やした扉が突き刺さっていた。
 まさか、扉に擬態していた化け物(ドア・イミテーター)だったとは…

「ふさしぃ!!!」
 今度は小耳モナーが叫ぶ。
 即座に剣を化け物から引き抜き、新たに後ろから迫るもう片方の扉の化け物を一閃。
 扉の両方が罠とは、この迷宮の支配者の陰険さの程が知れる。

「…行くわよ。立ち止まっている時間は無いわ。」
 『キングスナイト』の剣を納め、私達は再び進みだした。



 進む。
 罠を掻い潜り、罠を退けながら、ひたすらに進む。

 カチリ

 足元からの作動音。
 横から飛び出してくる槍。
「『マイティボンジャック』!!」
 ギコえもんが槍を叩き折る。

 扉を開ける。
 開けた瞬間に部屋の中から飛び掛かる矢。
「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 『アルナム』が飛び掛かり、矢を口でキャッチする。
 用心深く部屋の中に踏み込むが、中には誰も居ない。
 これで十部屋目だ。

「……!」
 時計を覗く。
 残り時間は後二十分少々。
 早く、早く見つけないと…!

「扉があったモナ!」
 小耳モナーが指差した。
 突き当たりに古びた扉が見える。

「…ここに、本体が居るのか?」
 扉の前に立ち、ギコえもんが呟いた。
 ここに来るまでの道はあらかた調べつくした。
 突き当たりの横には特に道は見当たらない。
 という事は、事実上これが残された最後の扉という事になる。

「…みんな、気を引き締めて行くわよ。」
 注意深く扉を開く。
 …罠は、作動する気配は無い。

「……!」
 扉を開け放ち、外から部屋の中を見る。

「…居ない!?」
 小耳モナーが思わず声を上げた。
 部屋の中には、誰も居なかった。

「どういう事だ、ゴルァ!」
 ギコえもんが苛立たしげに叫ぶ。
「落ち着いて。部屋の中に隠し扉があるのかもしれないわ。
 とにかく中を調べてみましょう。」
 そして私達は部屋の中へと足を入れ―――

51ブック:2004/04/16(金) 03:12

「!!!!!!」
 全員が入った所で、いきなりドアがひとりでに閉まった。
 そして、頭上から重苦しい音が響いてくる。

「なっ……!!」
 上を見上げると、何と天井が徐々に下りてきていた。
 このままでは、押し潰されてしまう。

「早く外に…!」
 急いでドアノブに手をかける。
 しかし、扉は押しても引いてもビクともしなかった。

「ちょっ…!
 冗談じゃ無いわよ!?」
 しかし、ありったけの力を込めてもドアは決して開かなかった。

「どけ!!ふさしぃ!!!」
 ギコえもんが『マイティボンジャック』を発動させた。
 そして、その拳を扉に叩きつける。
 しかし、扉には傷一つさえつける事が出来なかった。

「『キングスナイト』!!」
 今度は私が扉に斬撃を放つ。
 しかし、同じように扉は一切の攻撃を受け付けない。
 そうしている間にも、天井はぐんぐん下がってくる。

「糞が!!
 どうすりゃいいってんだ!?」
 ギコえもんが壁を殴りつける。
 しかし、扉同様破壊は不可能なようだ。

「嫌だモナ!死にたくないモナ〜〜!!!」
 小耳モナーが泣き叫んぶ。

「……!」
 慌てるな。
 考えろ。
 考えろ。
 脱出の手立ては必ずある筈だ。
 解除方法の無い罠などありえない。
 何か、必ずここから出る方法が…!

「!!!!!!!」
 突如、私の頭に一つの考えが閃いた。
 そういえば、私はドアを『押したり引いたり』しかしていない。

 ……!
 まさか、もしかすると!

「!!!」
 私はもう一度ドアノブに手をかけた。
 そして、押したり引いたりするのではなく、
 ふすまを開ける要領で横に滑らせる。

「やったわ!!」
 あっけないくらいあっさりと、扉が開く。
 成る程。
 扉は押したり引いたりして開けるものという思い込みを利用した、
 一種の心理的な罠だった訳か。

「皆、急いで!!」
 間一髪、私達は部屋から飛び出した。
 重い音を立てて、天井が地面に着く。

52ブック:2004/04/16(金) 03:12


「…今度ばかりは死ぬかと思ったモナ。」
 小耳モナーが溜息を吐いた。

「…しかし、どうするんだゴルァ。
 結局この部屋にも本体は居なかったぞ。」
 ギコえもんが焦りの汗を流しながら言う。

「『アルナム』、本当に匂いは無いの?」
 私は『アルナム』に尋ねた。
「…はい。姐さん達以外の匂いは全くありやせん。
 どこかの部屋に隠れているのは間違い無いんです。」
 『アルナム』が首をうなだれる。
 どこだ。
 本体は一体どこに…


「!!!!!!!!!」
 突如、地面がぐらりと揺らいだ。
 それと共に、壁のあちこちに罅が入り始める。

「残り時間が十五分を切りました。
 これから、少しずつ迷宮が崩壊していきます。」
 後ろから突然声がかかる。
 そこには、私が倒した筈のターバンを巻いた男が立っていた。

「手前!今すぐ本体の居場所を教えやがれ!!」
 ギコえもんがスタンドの腕で男を掴む。
「私への脅しは無意味ですよ。
 そんな事をしている暇があるのなら、ギコエル様を探した方がよろしいのでは?」
 男が顔色一つ変えずに答える。

「―――!!」
 私は男の首を切断して黙らせた。
 これ以上この男の不愉快な声を聞いていては、冷静な判断が下せなくなる。

「畜生め…!
 急がないとやべぇぞ!!」
 ギコえもんが舌打ちをした。
「だけどどこを探すんだモナ!?
 今までの部屋はどこを探しても居なかったモナ!
 それに、もう一度全部の部屋を探す時間は―――」
 そうだ。
 もう一々じっくりと部屋を調べなおしている時間は無い。
 それに、部屋の中に隠し部屋があった様子も無い。
 だが、それなら本体はどこに居る!?
 『ファング・オブ・アルナム』は、通路に匂いは流れていないと言った。
 どこかの部屋の中に本体が隠れているのは間違い無い。
 どこに。
 本体は一体どこに―――


「!!!!!!!!!!」
 ―――いや、「一つだけ」あった。
 まだ、開けていない扉が…!

「小耳モナー!」
 私は小耳モナーの肩に手をおいた。

53ブック:2004/04/16(金) 03:13



     ・     ・     ・



「くくく…
 あと、二分だ。
 あと二分であいつらを全員始末出来る。」
 ギコエルは椅子に座ってほくそ笑んでいた。
「奴らがこの部屋を見つける事は不可能。
 なぜなら、奴らにしてみれば思いもよらない所にあるのだからな…!」
 ギコエルが読んでいた本を机の上に置く。
「…さて、あと一分。
 楽なものだ。奴らの死に様が見れないのは残念ではあるが―――」

 その時、ギコエルの背後のドアが扉が開け放たれた。
「見つけたモナ…!」
 小耳モナーと『ファング・オブ・アルナム』が、そこには立っていた。

「なっ…!」
 ギコエルが驚愕する。
「…ふさしぃの言う通りだったモナ。」
 小耳モナーがギコエルに歩み寄る。

「最初ここに連れて来られた時、入り口の扉が消えたと思ったモナ。
 でも、それは違った。
 消えたんじゃない。見えなくなっていただけなんだモナ。
 お前はその扉の中の部屋に隠れていた!
 そしてそれこそが、この迷宮最大の罠だったんだモナ!!」
 小耳モナーが喋りながらギコエルに歩み寄る。

「おのれえぇあ!!!」
 ギコエルが懐から拳銃を取り出そうとした。
「のろいモナ、ギコエル。」
 しかし、ギコエルが引き金に指をかけた時には既に、
 『ファング・オブ・アルナム』はその頚動脈を噛み切っていた。



     ・     ・     ・



 突然真っ暗になったかと思うと、私達は扉に飲み込まれた場所に戻されていた。
 そのすぐ傍には、血塗れの男が横たわっている。

「…どうやら、ちゃんと仕留めてくれたみたいね。」
 私は小耳モナーの方を向いて言った。
 恐らく、この死んでいる男がギコエルだろう。

「モナに感謝するモナ!
 モナの『ファング・オブ・アルナム』じゃなかったら、
 時間内に迷宮の奥からスタート地点まで辿りつけなかったモナ!」
 小耳モナーが胸を張ってえばる。
 そんな彼にギコえもんが拳骨を浴びせた。

「ったく、俺達を見捨てて逃げようとした事棚に挙げて威張んじゃ無ぇよ。」
 ギコえもんがやれやれといった風に呟く。

「ひ〜ん。ギコえもん酷いモナ〜…」
 頭に出来たこぶに手を当てながら、小耳モナーがすすり泣く。

「…さて、車も無事みたいね。」
 どうやら車もちゃんと元の世界に戻って来たらしい。
 足早にその中に乗り込み、エンジンをかける。
「先を急ぐわよ、皆。」
 そして私達は再び『矢の男』の元へと走り出した。



     TO BE CONTINUED…

54ブック:2004/04/17(土) 00:02
     救い無き世界
     第六十八話・空高くフライ・ハイ! 〜その一〜


 夕暮れの金色の光の差し込む部屋の中、トラギコは一人ベッドに腰掛けていた。
「……」
 彼は立ち上がり、窓まで歩み寄って窓を開く。
 穏やかな風が部屋の中へとそよぎ、彼の髪を優しく揺らした。

「……」
 彼は大きく息を吐くと、目を閉じて俯いた。

 彼が今まで貯め込んできた金は、全て孤児院に寄付した。
 二度とあの場所には帰れないだろうと覚悟していたからだ。

「……」
 最早トラギコには何も残されてはいない。
 ただ、でぃへの復讐心だけがどす黒く彼の心を覆う。

「トラギコ、入るぞ。」
 その声と共に、モララエルが部屋の中へと入ってくる。
 トラギコが、面倒くさそうにそちらに顔を向けた。

「『デビルワールド』がこちらに向かって来ているとの事だ。
 いつでも闘えるように準備しておけ。」
 モララエルがトラギコに告げる。
「…分かったよ。あいつが来たら、声をかけてくれ。」
 トラギコが抑揚の無い声で答えた。

「『アクトレイザー』の完全なる覚醒も近い。
 それまでは、何としても我々で時間を稼がねばならん。
 その使命を忘れるなよ。」
 そう言うと、モララエルは部屋から出て行った。
 再び部屋の中がトラギコ一人になる。

「…『神』だの『悪魔』だの…俺にはどうでもいい……」
 トラギコが窓の手すりに肘をつけて呟いた。

「俺はただ、あのでぃをぶっ殺す。それだけだ……」
 トラギコがもう一度目を閉じる。
 その瞼の裏には、孤児院の人々の姿がはっきりと映し出されていた。

55ブック:2004/04/17(土) 00:03



     ・     ・     ・



 車のスピーカーから少し古めのヒット曲が流れてくる。
 私達はひたすらに東を目指して走っていた。
「…ふさしぃ達の話だと、あと二・三時間もすれば合流出来るみたいだょぅ。」
 私は後部座席に座るでぃ君とみぃ君に話しかけた。

 先程のふさしぃから電話で、ギコエルという奴から攻撃を受けたという連絡が入った。
 やはり二手に分けられた所を襲って来られたみたいだ。
 という事は、私達の所へも刺客が来る可能性が高い。
 気を引き締めてかからなければ…

「……」
 車の窓からは沈みかけの太陽が見える。
 この様子だと、ふさしぃ達に会えるのは夜になってからになりそうだ。


「でぃさん…」
 不意にみぃ君がでぃ君に心配そうに声をかけた。

 …理由は、分かっている。
 車の中の空気が、重い。
 私達…
 いや、でぃ君の周りに、
 見えない「何か」が確実に渦巻いている。
 何か、得体の知れない怨念めいた何かが…

「……」
 でぃ君は何も答えず、心配無いという風に頭を振った。

 嘘だ。
 彼は今闘っている。
 自分の中に潜むあの『化け物』を自分の中に押し込めようと、
 精神をすり減らしながら必死に闘っている。

「……」
 私はアクセルを踏み込んだ。

 急がなければ。
 一刻も早く『矢の男』の処へ行って、全てにケリをつける。
 そして、でぃ君の中の『化け物』も絶対に何とかする。
 私に出来るのは、それだけだ。



「……?」
 と、フロントガラスが急に曇った。
 よく見ると、砂みたいなものがガラスに張り付いている。

「これは…」
 外を見ると、砂のような粒が大量に宙に舞っている。
 どうやら、砂嵐が吹いているみたいだ。
 それにしても、ずいぶんといきなり強い風が吹き始めたな…

「!!!!!!」
 その時、信じられない光景が目に飛び込んできた。
 通行人の一人の体が、突然崩れ始めたのだ。
 何が何だか分からないといった表情のまま、通行人が砂へと変わる。

 いや…!
 通行人だけじゃない。
 周りのもの全てが、徐々に崩れ始めている…!

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、フロントガラスにいきなり穴が開いた。
 まさか、この車も崩れ始めている!?

「……!!」
 私は慌ててブレーキをかけた。
 フロントガラスの穴から、少しずつ風が吹き込んでくる。
 間違いない。
 これは敵の攻撃だ。
 だが、これは一体どういう能力…?

56ブック:2004/04/17(土) 00:04

「なっ!?」
 そこで私はようやく自分の体の異変に気がついた。
 私の右腕が、ほんの少しではあるが崩れ始めている。
 穴からの風にさらされる度、腕の部分の肉が砂みたいに変わって流れる。

 これは―――
 ―――いつの間に!?

 …!!
 まさか、敵の能力は…!!

「くっ!!」
 私はアクセルを全開にして車を発進させた。
 間違いない。
 この風にさらされたものは、だんだん「風化」していっている…!
 これが、敵の能力だ!

「うおおおお!!」
 地面も風化している為、砂にタイヤを取られてスピンしかける。
 まずい。
 早く、風を凌げそうな場所に移動しなければ。
 このまま道路にいたら格好の餌食だ。

「……!!」
 滑り込むように、車を道路の脇に駐車させる。
 そして、私達は近くにあった本屋の中に駆け込んだ。
 良かった。
 これで暫くは、安心と言った所か。
 だが、敵は一体どこから攻撃を…

「……!!」
 本屋の入り口から外を覗いてみて、私は敵がどこにいるのかを理解した。
 背中から羽を生やした女が、翼をはためかせながら空中に漂っている。
 確認するまでもない。
 あれが、攻撃をしかけてきた敵だ。
 さっきの風は、あの翼で起こしたものか…!?

「……!」
 そいつと、目が合う。
 女は私に向かってにっこりと微笑んだ。
 そして、翼を羽ばたかせて風を周囲に撒き散らす。
 周囲の人や物が、みるみる風化して砂に変わって崩れる。
 外道め。
 私達が出てこなければ、一般人を殺していくという事か…!

「でぃ君、みぃ君、ここで待っているょぅ。
 ぃょぅがあいつを仕留めてくるょぅ。」
 私はでぃ君とみぃ君にそう言った。
「……!」
 でぃ君が、眼差しで私に訴えかけてくる。
 恐らく、自分も闘うと言いたいのだろう。

「…でぃ君。君を闘わせる訳にはいかなぃょぅ。
 何故かは、君が一番よく知っている筈だょぅ。」
 私はでぃ君に静かに告げた。
 これ以上、彼にあの力を使わせる訳にはいかない。
 このまま力を乱用すれば、間違い無くでぃ君が『化け物』に取り込まれてしまう。

「……!!」
 それでも彼はなお食い下がった。
 私はそんな彼の肩の上に手をおいて諌める。

「…でぃ君、君にはみぃ君を守るという役目があるょぅ。
 だから、君はここに残って必ずみぃ君を守りきるょぅ。
 ぃょぅに何かあったら、君だけが頼りだょぅ。」
 私がそう言うと、でぃ君は悔しそうに唇を噛んだ。

「ぃょぅさん…」
 みぃ君が、不安そうに私を見つめる。
「心配無ぃょぅ。
 ぃょぅも伊達に特務A班を名乗ってはいなぃょぅ。
 あんな奴一人で充分だょぅ。」
 私はみぃ君に笑顔を見せながらそう答えた。
 実際の所は、無事に勝てるかどうかは怪しいが。

 それでも、行くしかない。
 このままでは、何も関係無い人々がどんどん巻き込まれてしまう…!

「…どちらの風が上なのか、試してみるとするかょぅ。」
 私はそう呟くと、外に向かって駆け出した。



     TO BE CONTINUED…

57ブック:2004/04/17(土) 19:07
     救い無き世界
     第六十九話・空高くフライ・ハイ! 〜その二〜


「……」
 ギコえもんが車を運転するのを横目に、私はぃょぅに電話をかけていた。
 しかし、いつまでたってもぃょぅは電話に出ない。

「…ぃょぅは出ないモナか?」
 小耳モナーが心配そうに尋ねる。
 私は小さく頷いてそれに答えた。
「電話に出られるような状況じゃ無ぇって事か…」
 ギコえもんが煙草の吸殻を灰皿に押し付ける。
 車の灰皿は既に満杯近くになっていた。

「…恐らく、敵からの攻撃を受けているんでしょうね。」
 やはり私達の所に刺客が来たように、
 ぃょぅ達にも刺客が差し向けられていたという事か。
「だろうな。」
 ギコえもんが短く答える。
 片手でハンドルを操作しながら、新しい煙草を咥えてそれに火を点けた。

「急ぐぞ、ゴルァ。」
 ギコえもんがアクセルを踏み込んでスピードを上げた。



     ・     ・     ・



 外に出た私は、上を見上げて空中に漂う女を睨みつけた。
 女は私の視線をかわすように口元を吊り上げて微笑む。

「甘い人ね。
 周りの人なんか見捨てて逃げ出せば、生き延びれたかもしれないのに。」
 女が挑発的な目で私を見据える。
「…貴様、『矢の男』の手下かょぅ。」
 私は怒りのこもった口調で女に尋ねた。
 周りには、いくつもの「人間だった」残骸が転がっている。
 酷いものは、完全に砂になって殆ど跡形すら残されていない。

「Yes,I am.
 私の名前はしぃエルと申します。」
 しぃエルと名乗った女は翼をはためかせながら喋った。

「貴様の名前など、聞くだけ無意味だょぅ。
 ぃょぅは外道の名など知りたくないし、
 これから死ぬ奴の名前を覚えていた所で役に立たなぃょぅ。」
 私は『ザナドゥ』を発動させた。
 周囲に風が巻き起こり、地面に積もる砂を巻き上げる。

「その言葉、そっくりそのままお返ししましょう。」
 しぃエルが電信柱の上に立ち、翼を休ませる。
「…そういえば、後の二人は出て来ないのですか?
 あなた一人で、この私の相手が務まるとでも?」
 しぃエルが皮肉気に言ってくる。
「その通りだょぅ。
 お前なんぞ、ぃょぅ一人で充分だょぅ。」
 私はしぃエルに向かって一歩進み出た。

「本日中に貴様を殺すょぅ。
 ぃょぅの幽波紋で!」
 そこらに落ちていた石を拾い上げ、しぃエルに向かって投げつける。
 近距離パワー型の力と精密動作性により、
 高速+正確に石がしぃエルへと飛んでいった。

58ブック:2004/04/17(土) 19:07

「『ウインズノクターン』。」
 しぃエルが翼をはためかせた。
 翼から風が巻き起こされ、飛来する石を包む。
 石はしぃエルに命中する前に、全て砂と化して虚空に散った。

「そんなものでは、私は倒せませんね。」
 しぃエルが私を見下す。
 やっかいな翼だ。
 これでは生半可な飛び道具は役に立たない。

「それでは、今度はこちらから行きますよ。」
 しぃエルは私を見つめ、そして一際大きく翼を羽ばたかせた。
 滅びの風が私に向かって襲い掛かる。

「『ザナドゥ』!!」
 風が私に到達する瞬間、『ザナドゥ』の風をぶつける。
「!!!!!!」
 『ザナドゥ』の風が、しぃエルの風を打ち消しながら突き進む。
 威力は減らされたとは言えど、『ザナドゥ』の引き起こした突風がしぃエルに直撃した。
 しぃエルが空中で体勢を崩す。
 矢張り余計な特殊能力を持っていない分、純粋な風の勢いでは私の方が上…!

「行くょぅ!!」
 『ザナドゥ』の風を利用して、自分の体を飛翔させる。
 このまま奴まで接近して、
 ありったけの風を至近距離から回避不能のタイミングで叩き込んでやる。

「『ウインズノクターン』!!」
 しぃエルが空中で身を翻した。
 再び私に風が襲い来る。

「くっ…!」
 『ザナドゥ』で風を相殺。
 風は完全にシャットアウト出来たが、飛行中に別方向に風を起こした所為で
 今度はこっちがバランスを崩して地面に落下する。
「うおお!!」
 着地の瞬間、『ザナドゥ』で落下の勢いを殺して、ダメージを軽減させた。

 糞…!
 やっぱり奴のような翼が無い分、空中戦ではこっちが不利か。
 だが地面からちびちび風で攻撃していては、奴を倒せない。
 徒に被害が拡大していくばかりだ。
 一体、どうすれば…!


「貴様!何者だ!?」
 と、通りの向こうから突然声が響いた。
 見ると、二人組みの警官が空に居るしぃエルに向かって拳銃を構えている。
 しかししぃエルはそんな警官達など眼中に無いかの如く、空を自在に飛び回る。

「危ない!!
 今すぐ逃げるょぅ!!!」
 私は警官達に向かって叫んだ。
 しかし、警官は目の前で起こる超常現象に動揺しているのか、
 私の呼びかけが耳に入らない様子だった。

「動くな!大人しく投降しなければ撃つぞ!!」
 警官は半狂乱で叫ぶ。
 しぃエルは邪悪な笑みを浮かべると、警官達に向かって飛び掛かった。

「!!!!!
 うわあああああああああああああああ!!!!!!」
 警官達がしぃエルに向かって次々と発砲する。
「『ウインズノクターン』。」
 しぃエルが警官に翼を向けて羽ばたいた。
 風が弾丸を風化させ、空中で全て砂にする。
 そして、その風を受けた警官達は―――

「!?うあああああああああああああ!!!」
 叫び声と共に警官達の体が崩れ去った。
 その場には、砂以外何も残らない。

59ブック:2004/04/17(土) 19:08


「貴様あああああああああああああ!!!!!!」
 私の中で何かが弾けた。
 『ザナドゥ』で追い風を生み出し、その風に乗ってしぃエルに突っ込む。

「ふふふ…」
 しかししぃエルはそんな私を嘲笑うかのようにその場を飛び去った。

「逃がさなぃょぅ!!」
 すぐさま向きを変えて追いかける。
 逃がすものか。
 この惨状の償いは、必ず貴様の命で贖わせてやる…!


「!!!!!!!」
 と、しぃエルが途中で動きを止めた。
 空中出でホバリングしつつ、私に向き直る。

「お馬鹿さんね…
 まんまと引っかかるなんて。
 もうあなたの命は無いわよ。」
 しぃエルが、勝ち誇ったように私に告げた。

「!?
 それは、どういう―――」
 そう言いかけて、私はある事に気がついた。

!!
 しくじった。
 ここは、この場所は…!

「気がついたみたいね。
 自分が追い込まれている事に。」
 しぃエルが上空から私に言葉を浴びせる。

 私の居る場所、それはビルとビルに挟まれた通路。
 このような場所にはビル風と呼ばれる風が吹く。
 ビル風とは、狭い通路に風が集中する事によって起こる、都市特有の強風の事だ。
 そして、しぃエルは丁度この通路の向かい側に…

「そう、ここならば、あなた以上の風を起こす事が出来る!!」
 しぃエルが翼を羽ばたかせた。

「!!!!!!!」
 通路に風が収束し、増幅された風が私に襲い掛かる。
「『ザナドゥ』!!」
 必死に風をぶつけて打ち消そうとする。

 駄目だ。
 向こうの方が威力が強い…!
「……!!」
 私は観念して目を瞑った。
 こんな所で―――



「……!?」
 しかし、一向に風は私に吹き付けなかった。

(何があった…?)
 恐る恐る目を開けてみる。

「!!!!!!!」
 私の目の前に、でぃ君が風から私を守るように立ちはだかっていた。

「……」
 でぃ君がふらりと倒れ掛かった。
 慌てて倒れないように抱きとめる。
 しかし、彼の体はどこも崩れてはいない。
 これはどういう事だ?
 まさか、彼の能力に何か関係が…

「!!!!!!!」
 考えている場合じゃない。
 突風を起こして私達の体を飛ばし、すぐさまこの場所から逃げ出す。
 間一髪、通路から逃げ出して二撃目をかわす事が出来た。

「くっ…!」
 私はでぃ君の体を抱えながら走り出した。
 後ろからは、しぃエルが追撃をしかけてくる。

 …何て無様なんだ。
 一人で大丈夫と言っておきながら、おめおめと助けられるなんて…!

 私は歯を喰いしばりながら走り続けた。



     TO BE CONTINUED…

60:2004/04/18(日) 17:41

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その2」



          @          @          @



「夜が明けてきましたね…」
 しぃ助教授は、幹部室のソファーに腰掛けながら頭上を見上げた。
 空はかなり明るくなってきている。

「天気予報によると、しばらくは雨は降らないようです」
 丸耳は、テーブルの上に茶を置いた。
 そして、しぃ助教授の視線を追う。
 幹部室の天井は、綺麗に消失していた。
 対艦ミサイルの攻撃で、ASAビルの屋上が丸ごと吹き飛んだのだ。

 ため息をついて、丸耳がしぃ助教授の隣に腰を下ろす。
 テーブルを囲んでいるのは5人。
 しぃ助教授、丸耳、ありす、ねここ、クックル。
 ありすは、丸耳が運んできた茶を飲んでいた。
 クックルは無言で新聞を広げている。
 その紙面には、『自衛隊、防衛出動』『テロリストの本拠地を攻撃』などの文字が躍っていた。

「『テロリスト』…か。まったく、とんでもない事になりましたねぇ…」
 しぃ助教授は呟く。
 新聞を読んでいたクックルが、青い顔でこくこくと頷いた。
 彼の目は、紙面の端っこの『鳥インフルエンザの感染広まる』という記事を追っている。

「それで、こちらの被害は?」
 しぃ助教授はねここに訊ねた。
 しかし、ねここに反応は無い。
 目を閉じ、その首は微かに上下に揺れている。
 居眠りしているのは明白だ。

「…ねここ、ねここ!」
 丸耳がねここを揺り動かす。
「寝かせといてあげなさい。徹夜の治療で、かなり疲れてるでしょうからね」
 しぃ助教授は少し微笑んで言った。

「…約120人の職員が、命を落としました」
 ねここの代わりに、丸耳が答える。
「屋上のヘリポートはミサイル攻撃により全壊。電気関係等は問題ありません」

「まったく… 皆殺しの一回や二回じゃ済みませんね、これは…!」
 しぃ助教授は、テーブルの上に乱暴に湯呑みを置いた。
「ですが、敵がICBM(大陸間弾道ミサイル)を使ってこなかったのは不幸中の幸いでしたね」
 丸耳は、しぃ助教授をなだめるように言った。
 しかし、しぃ助教授の表情は変わらない。
「周辺の住民への避難勧告が徹底していなかったからでしょう。
 あの状況でICBMを使ったら、多くの住民が巻き添えになっていたでしょうからね。
 あくまで、無駄な犠牲は出さないという主義らしい。『人間』に対してはね…!」
 怒りを抑えながら、腕を組むしぃ助教授。
 幹部室を沈黙が支配した。
 ありすは空を眺め、クックルは新聞を読み続けている。

「現在、この付近では2個師団が待機中です。
 いつでも動かせる状態にありますが… 仕掛けますか?」
 沈黙を破るように、丸耳は言った。
 しぃ助教授は、黙って腕を組んでいる。
 丸耳は言葉を続けた。
「戦略衛星兵器『SOL−Ⅱ』は、照準を霞ヶ関に合わせていますが…」

61:2004/04/18(日) 17:42

「たぶん無駄ですよ。政府を瓦解させても、自衛隊は止まりません。
 むしろ、自衛隊は政府の手を離れていると見た方がいいでしょうね…」
 しぃ助教授は、顎の下に手をやった。
「ここは敵地の真っ只中です。敵に囲まれているも同然ですからね。
 何をやろうにも、制空権が向こうにあるのが大きな痛手となる。
 かと言って、現在の戦力で航空自衛隊を叩く事も不可能。
 とりあえず、このままここに本拠地を構えるのは愚策という事は確かですが…」
 しぃ助教授の言葉を、丸耳が継いだ。
「…そうですね。向こうはもはや隠密に事を進める必要もない。
 これからは本格的に仕掛けてくるでしょう。
 雨あられと対地ミサイルを浴びせられたら、我等といえどひとたまりもありません」

「…海に出ますか」
 しぃ助教授は、丸耳を見据えて言った。
「それが一番の良策ですね…」
 頷く丸耳。
「しかし、海上封鎖がなされているのは間違いないでしょう。
 海上自衛隊の護衛艦群はもちろん、米海軍のナンバー・フリートをも敵に回すかもしれない…」
 

「失礼します!!」
 ノックもなく、幹部室に伝令の職員が入ってきた。
 この職員が無礼という訳ではなく、幹部室のドアは敵兵に吹き飛ばされた為である。
「監視班より、昨夜の報告書が届きました」
 そう言って、職員はしぃ助教授にファイルを差し出す。

「分かりました。下がっていいですよ」
 しぃ助教授はファイルを受け取る。
 職員は姿勢を正すと、幹部室を出ていった。

「この件も、現在の状況では小事になってしまいましたがね…」
 そう言いながら、パラパラとファイルをめくるしぃ助教授。
 そして、不意に目を見開いた。
「…彼が吸血鬼化!?」
 しばらくの時間、しぃ助教授は熟考した。

 そして、丸耳にファイルを渡す。
「彼、使えると思いませんか…?」



          @          @          @



 居間には、リナー、ギコ、モララー、つー、レモナ… そして、公安五課局長がいた。
 割れた机はガムテープで修復されている。
 部屋の隅には、ホウキや汚れた雑巾が転がっていた。
 木屑や割れたガラスでボロボロの居間を、ある程度は掃除したようだ。

 局長は、煙草を口に咥えていた。
 彼の前に置かれた灰皿には、吸殻が山のように積もっている。
 局長は俺の顔を見て、「戦いの後の一服はたまらんね」と呟いた。
 どうやら、ヘビースモーカーのようだ。

 俺はリナーの隣に座った。
 正面のレモナは、体中がボロボロである。
 俺が寝込んでから2時間も経ったのに、回復が追いついていない。
 レモナがここまで手傷を負うなんて、怪獣とでも戦ったのだろうか。

62:2004/04/18(日) 17:43

「…さて、これで全員揃ったようですね」
 まるで今から犯人当てを始めるかのように、局長は言った。
「話があるなら、とっとと終わらせてほしいもんだ。俺らには学校があるんだからな、ゴルァ!」
 ギコは敵愾心を剥き出しで言った。
「心配しなくても大丈夫です。どうせ、今日は学校は休みですよ」
 そう言いながら、煙草の煙を口から吹き出す局長。
「…どういう事だい?」
 モララーが当然の疑問を口にした。

「とりあえず、やっているかどうかは分かりませんが…」
 局長は、奇跡的に損傷がなかったTVを付けた。
 画面には、誰かの記者会見の様子が映っている。
 壇の上の男が、記者の質問に答えているようだ。

「…オ、オヤジ!?」
 不意にギコが叫んだ。
「なかなかにジャストタイミングですね。報道も早い」
 そう言いながら、煙草を灰皿に押し付ける局長。

『では、防衛出動はあったんですね!?』
 TVの中で、記者の一人が大声で言った。
 ギコの父とやらが口を開く。
『…その通り。本日1時、自衛隊は国際テロ組織ASAに対し防衛出動を行った』

「ASAだって!?」
 俺は思わず声を上げた。
 ASAって、あのASAか?
 俺は画面を注視した。

『詳しい状況説明をお願いしたい! なぜ、テロ組織の本拠地がこの国にあったのか!
 そして、双方どの程度の死傷者が出たのか!!』
 記者の一人が、声を荒げて叫んだ。
『それは防衛機密であり、答えられない』
 ギコの父は、あっさりと告げる。

『自衛隊員に100人以上の死者が出たという話ですが、これに関しては!?
 国民に対しての謝罪はないんですか!?』
 それに応えるギコの父。
『遺族の方には、誠心誠意をもって対応する。だが、諸君に謝罪する必要はない』
 
「うわあ… 言っちゃいましたね。こりゃプレスの皆さんも大反発だ」
 局長は少し楽しそうに言った。
 リナーやギコも、TV画面に見入っている。

『軍の専横じゃないんですか!?』
『ふざけるな! 国民に謝罪しろ!!』
『そんなので、国民が納得できるとでも…!』
 記者は口々に喚きたてる。
『では、逆に一つ聞きたいが…』
 ギコの父が口を開くと、場はたちまち静かになった。
『ここに集まっている記者の諸君は、自らを国民の代表とでも思っているのか?』
 会見場は、沈黙に包まれる。
『報道機関の仕事は、報道する事だ。今後も忙しいだろうが、職務に専心してもらいたい』
 そう言ってギコの父は軽く頭を下げると、脇に引っ込んでいった。

 たちまち、画面はスタジオに切り替わる。
 机に座っている女性アナウンサーが早口で告げた。
『以上、統合幕僚会議議長フサギコ氏の記者会見の模様です。
 …繰り返します。自衛隊が防衛出動を行いました。
 それにより、テロ組織と目されるASAのビルは半壊し、同町の学校も大きく損壊したという事です。
 また、防衛庁より戦闘の様子を撮影した映像が届いています』

 再び、画面が切り替わった。
 ビルの通路を歩く、重装備の兵士達。
 間違いなくASAビルだ。
 獣の咆哮と共に、先頭の兵士が爪のようなもので引き裂かれた。
 そのまま、次々に倒されていく兵士達。
 放たれた銃弾は、虚しく壁に穴を開ける。
 兵士の悲鳴を最後に、映像は途切れた。

 スタンド使い…!
 あの兵士達が、スタンドを相手にしていたのは明白である。
 同名の組織ではなく、しぃ助教授やねここが所属するASAで間違いはないようだ。

「戦闘の様子をそのまま流すとは。フサギコの奴、本気でスタンド使いの存在を明らかにするつもりか…」
 今までのおちゃらけた口調とは一変して、局長は呟いた。
 俺は視線をTVに戻す。
 カメラは再びスタジオを映していた。

63:2004/04/18(日) 17:44

 女性アナが口を開く。
『…見ての通り、不可解な現象が撮影されております。
 また、同町はあの吸血鬼殺人の舞台でもあり、テロ組織ASAと何らかの関連性があるものと思われます。
 先程の映像を見て、このVTRを思い出す方も多いでしょう』

 そして、ヘリが『矢の男』を攻撃する映像が流れた。
 もう何度も目にした映像だ。
 闇の中で、得体の知れない男がたたずんでいる。
 幾多のミサイルを浴びせられながら、ヘリを見上げる『矢の男』。
 モララーは、複雑な表情で画面を見ている。

『この映像と、防衛庁からの今回の映像には多くの共通点が見られます。
 同町では、超能力のようなものを持った人間の噂も囁かれ…』

「まあ、こんなところですね…」
 局長はTVを切った。
 そして、俺達全員の顔を眺める。
「見ての通り、自衛隊がASAに攻撃を仕掛けました。
 ところで、防衛庁長官や首相ではなく統幕議長が会見している。異例だと思いませんか…?」
 局長は言った。
 俺には、異例なのかどうかよく分からない。
「…確かに妙だな」
 そう答えたのはリナーだ。

 局長は頷いて言った。
「首相をはじめ国家の要人は、会見したくても出来ない。
 何故なら、彼らはフサギコの手によって首相官邸に監禁されている。
 つまり、これは事実上フサギコ主導のクーデターとも言えます」
「オヤジの野郎ッ…!」
 ギコが唇を噛んだ。

「そこで、公安五課は監禁された要人を救出したい。フサギコは、もはや暴走しています。
 このままでは、この国のスタンド使いは粛清される」
 局長は煙草を灰皿に押し付けた。
「…で、公安五課に手を貸せと?」
 リナーは局長を睨む。

「その通り。君達に、要人救出を手伝ってほしいんですよ」
 あっさりと認める局長。
「…でも、公安五課も信用できないモナ」
 俺は、局長を見据えて言った。
 こいつらは俺を仲間に引き込むために、平然と俺をブタ箱にぶちこんだのだ。


 不意に、呼び鈴が鳴った。
 こんな時間に来客…?
 それも、きちんとベルを鳴らす客なんて久し振りだ。
「…モナー君。『アウト・オブ・エデン』で、客を確認してください」
 局長はやや緊張した面持ちで言った。
 リナーは既に銃を手にしている。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視線を展開した。
 俺の家の前に、高級そうな車が停まっている。
 門の前に立っているのは… 20代前半から後半の女性だ。
 例のランキング上位に食い込むほどの美人。
 …しかも、どこかで見覚えがある。
 彼女は、かなりの大きさのアタッシュケースを持っていた。

「…女の人モナ。大きい荷物を持ってるモナ」
 俺は局長に告げる。
「ああ、なら問題はありません」
 そう言いながら局長は席を立って、インターホンの受話器を掴んだ。
 まるで、勝手知ったる自分の家のように。
「…どうぞ」
 それだけを言って、受話器を戻す局長。

 女は玄関のドアを開けると、ゆっくりと廊下を歩いてきた。
「…誰モナ?」
「私の部下ですよ」
 煙草に火をつけながら、局長は言った。
 彼女も公安五課の人間という事か。すると、彼女もスタンド使い…!?

64:2004/04/18(日) 17:45

 フスマは馬鹿共が吹っ飛ばしたので、廊下と居間の間にしきりはない。
 女は、頭を下げて居間に入ってきた。
 そして、左手で持ったアタッシュケースを置く。
 そのケースには、包帯やベルトが何重にも巻かれていた。
 凄まじく厳重である。
 それにしても、この女性にはどこかで見覚えがあった。
 こんな綺麗な人なら、そう忘れる事はないと思うんだが…

「あ――っ!! もしかして、ヌルテレビのリル子さん!?」
 モララーが大声を上げた。
 そうだ。見覚えがあったはずだ。
 彼女は、ヌルテレビでアナウンサーや料理番組のアシスタントをやっている女性だ。
 結婚したい女子アナのベスト1に輝いたこともあるほどの人気アナウンサーである。
 副業で公安五課をやっているのか、アナウンサーの仕事が副業なのかは分からないが…

「僕、リル子さんの大ファンなんです。サインして下さい!
 …ってか、もうお見合いするんだからな!!」
 興奮して、大声で騒ぎ立てるモララー。
 こいつ、両刀だったのか…

「…あら、光栄ですね」
 そう言って、リル子はモララーに微笑みかけた。

(…10年早いわよ)

 …なんだ? 今の思念は。
 『アウト・オブ・エデン』が、一瞬妙な思念を捉えたぞ。

「リル子君、遅すぎますよ。一体何をしてたんです…?」
 局長は、リル子に言った。
「少し、身支度に時間がかかりまして」
 リル子は無表情で局長に告げる。

「まったく… 私は、たった1人で代行者3人と戦ったんですよ。
 指を鳴らしても君が来なかった瞬間、私はどれだけ途方に暮れたか。
 まあ、咄嗟に誤魔化せたから良いようなものの…」

「それは失礼。私には役不足と思いましたもので…」
 澄ました顔で答えるリル子。
 局長は煙草を灰皿で揉み消した。
「…それは、どっちの意味で取ればいいのかな。
 まあ、念入りに化粧しないと、もう年齢的に人前に出れないと言うのは分かりますがね…」

 リル子は、冷たい微笑を浮かべた。
「フフ… 今は、彼等を説得しているんじゃないんですか」
(フフ… 本当、いっぺん焼き殺しますよ…)

 うわっ。まただ。
 またもや強烈な思念が伝わってくる。

「おっと、そうでしたね…」
 局長は俺達に視線を戻した。
「さっきも言った通り、要人救出に手を貸してほしいんですよ。
 現在の公安五課は、致命的に人手が足りません。
 ただでさえ職員が少ないのに、『蒐集者』のせいでほとんどの精鋭が殉職してしまった。
 実力者は、私とリル子君だけという状態です」

 『蒐集者』と戦った…?
 公安五課は公安五課で、『蒐集者』をマークしていたのだろう。
 リル子は、いつのまにか局長の隣に腰を下ろしている。

「さっきモナーも言ったが、お前達を簡単に信用すると思うのか…?」
 リナーは局長を睨んで言った。
「まあ、あなた達がそう思うのも当然でしょうね。だが…」
 局長は煙草を咥えると、軽くリル子に視線を送った。
 リル子はライターを取り出すと、局長の煙草に火を付けた… と見せかけてスーツの袖に火をつけた。

「………」
 メラメラと燃える袖をじっと見つめる局長。
「失礼、手許が狂いました」
 リル子は表情を変えずに言った。

「さっきの礼、と言うわけかな…?」
 ゆっくりと袖をはたく局長。火はすぐに消えた。
「君は少しカリカリし過ぎだな。生理かね?」

「…その発言はセクハラです」
 リル子が局長を鋭く睨む。
「そうですね。さっきの発言は撤回しましょう」
 局長は懐から手帳を取り出すと、パラパラとめくった。
「順調に行けば、来週からのはずですしね」

「…なんで私の周期をメモってるんです?」
 リル子が軽く微笑んだ。
(フフ… どうやって殺そうかしら?) 
 『アウト・オブ・エデン』が、強烈な思念を受け取っている。

65:2004/04/18(日) 17:46

 リル子は、不意に俺達の方を向いた。
「『アルケルメス』は、時間を切り取り、貼り付けるというスタンドです。
 攻撃の瞬間を切り取ってしまえば、いかなる攻撃も当たらない…
 そういうプレッシャーを与えながら戦うのが、局長の戦法です」

 …そうか。
 警察署での一戦も、これで納得できる。
 リル子は話を続けた。
「しかし、攻撃が決して当たらないと錯覚させるだけのこと。
 数多い連続攻撃には時間のカットが間に合いません。スタンドの処理能力を超えるんです。
 つまり、彼に対しては手数をひたすらに増やすのが有効なんです」

「人のスタンドの弱点を吹聴しないでもらえるかな…」
 局長はため息をついて言った。
「分かった、私が悪かったよ。そろそろ話を元に戻そう。君が関わると、話がこじれまくって困る」

「…原因の9割は、貴方にあると思われます」
 無表情で告げるリル子。
 局長は構わず話を戻した。
「とにかく、公安五課に協力する事をお勧めしますよ。君達の立場も、非常に微妙なものだ。
 自衛隊は、スタンド使いである君達を敵としか看做さないでしょう」
 それは当然だろう。
 だが、ギコがスタンド使いであることを知れば、ギコの父はどうするのだろうか。

 局長は続ける。
「…『教会』は、当然ながら胡散臭い組織です。何やら企んでいるのは間違いない」
 リナーが視線を落とした。
 もはや否定しない。

 さらに言葉を続ける局長。
「…ASAも、市民の味方などではありません。
 この国の自衛隊から攻撃を受けた以上、彼らにとってこの国の住民の被害は度外視される」
 俺は、モララーを殺そうとしていた時の、しぃ助教授の頑なな態度を思い出していた。
 吸血鬼殺人や『教会』の台頭で有耶無耶になったとは言え、ASAが人命を尊重しているとは言い難い。
「まして、今の君にはどういう対応を取ってくるか分かりませんよ…ねぇ?」
 俺の方に視線を送る局長。
 リナーが、その様子を無言で睨んでいる。

 そして、局長は全員の顔を見回した。
「…私達は、治安維持に努めています。この国の人達を守る為に、治安を回復する為に動いている。
 君達とは理念が一致しませんか? 君達も、この町やこの国を守りたいのでしょう…?」

 全員が沈黙する。
 簡単に承諾はできないが、正面から否定する事も出来ないのだ。
 確かに、局長の言い分に過ちは無い。
 信頼できるのかどうかは別にしても、要人救出というのはやるべきだとも思える。

「お前… 確か、オヤジの古くからの知り合いだったな?」
 沈黙を破り、ギコが口を開いた。
「ええ。かなり昔からフサギコとは懇意ですが… 私の事を何か言っていましたか?」

 ギコは言った。
「オヤジは、お前の事を虫が好かんし、嫌味だし、嫌いだと言ってた。
 なるべくなら顔を合わせたくない奴だってな…」
 やれやれ、と言った風に肩をすくめる局長。
 ギコは言葉を続ける。
「…でも、有能で信頼できる人物だとも言ってたな。俺は、この話に乗ってもいいと思うんだが…」
 そう言って、意見を聞くように周囲に視線を送った。

66:2004/04/18(日) 17:47

「私も… その人達を助けるべきだと思う」
 しぃも、協力に異論は無いようだ。
「悪の組織に囚われた人を助けに、敵陣に潜入ね!? 腕が鳴るわ!!」
 レモナもノリノリのようだ。
 でも、助けるのはオッサンだからなぁ…
「オレハ、ドッチデモ イイヤ…」
 つーは興味無さげに外を眺めている。
「僕は反対だねッ!!」
 モララーは怒鳴った。
「僕たちにとって、利益は1つとしてない。乗るだけ損だよ!!」

「今後、公安五課はあらゆる点であなた達を支援します。ギブ・アンド・テイクですよ」
 局長は言った。
「そのテイクの部分が不明瞭なんだよな…」
 モララーは不審げな視線を局長に送る。

「テイクを明文化させたいと言うなら… 1日くらいリル子を貸すというのはどうです?」
 局長は笑みを見せて言った。
「ウホッ!! 本当かい!?」
 モララーが目を輝かせる。

 リル子が眉を吊り上げ、局長を睨みつける。
「いいかげんにしないとブチ殺しますよ、このメガネ…!」
(そのような扱いは勘弁してほしいですね)

「…本音と建前が逆ですよ」
 局長は、煙草に自分で火をつけた。
「それに、『ブチ殺す』という言葉は使うべきではありませんね。
 この仕事をやっていて、その言葉が頭に浮かんだ時は… もう既に事が済んだという事ですから」

「その通りですね。では、実践するとしましょうか…」
 リル子は、横に置いてあった大きなアタッシュケースの取っ手を掴んだ。
「…分かった、分かりましたから『それ』から手を離しなさい」
 リル子を諌める局長。いつまで経っても話が進まない。

「冗談はこれ位にして… それでも、君は協力を拒むと言う訳ですか?」
 局長はモララーに視線を向けた。
 モララーは口を開く。
「拒むと言うより、協力する理由が無いんだな。ギコやしぃは慈善事業まで視野に入れてるみたいだけどね…」

「どうか、力を貸していただけないでしょうか…」
 リル子はおずおずと言った。
「OK!! 協力するぜ!!」
 親指を立ててニヤリと笑うモララー。

 リル子はモララーに微笑いかける。
「…ありがとうございます」
(フフ…)

 うわぁ…
 ギコと言いこいつと言い、女で身を崩さないか友人として非常に心配だ。

「で、貴方は…?」
 局長は、リナーに訊ねた。
 リナーは少し考えた後、口を開く。
「この国の治安を維持したいと言ったお前の言葉に嘘は無いだろう。
 だが… モララーと同様の理由で、協力には反対だな」
「…なるほど。では、モナー君は?」
 局長は俺を見た。
「分からないモナね… もう少し、みんなと話し合いたいモナ。五課の人間がいないところで…」

67:2004/04/18(日) 17:48

「なるほど。確かに、今後の方針を決めるのに私達は邪魔でしょうね…」
 局長は立ち上がった。
「決行は、今晩の10時です。その時にもう一度伺いましょう。賢明な判断を期待していますよ。では…」
 そのまま、ずかずかと廊下に出て行く局長。

 リル子もそれに伴って立ち上がる。
「…あの人が微妙に信用できないのは、あの人の生来の性質です。
 公安五課は、決して胡散臭いものではありません」
 リル子は、俺達に向けて言った。
 仮にも上司に向けて、何ともひどい言い様だ。

「…リル子君、早く来なさい! 私に徒歩で帰れって言うんですか!?」
 玄関先で、局長が大声を上げている。
「あ、この雑巾頂けませんか? ちょうど切らしていたもので…」
 リル子は、汚れで真っ黒な雑巾を拾い上げた。

「…いくらでもどうぞモナ」
 俺は承諾する。
「どうも。掃除も女のたしなみですからね」
(フフ… お茶に混ぜてやるわ)

「流石リル子さん。家庭的な人なんだなぁ…」
 モララーはキラキラした目を向けている。
「…では、失礼致します」
 頭を下げて、リル子は居間を出ていった。
 しばらくして、外から車のエンジン音が聞こえてくる。

「さて… これからどうするかだな」
 公安五課の2人が出ていった後、リナーは告げる。
「面倒臭い話だが… この機会に恩を売っとくのもアリだと思うね、オレは」
 『アルカディア』は、腕を組んで言った。
「『どうするか』という内容には、お前の処遇も含まれてるんだがな…」
 妙に偉そうな『アルカディア』を睨みつけるリナー。
 
 さて、これからどうするか…
 俺はボロボロの居間を見て、大きなため息をついた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

68新手のスタンド使い:2004/04/18(日) 18:37
めっきり減ってしまったここへの一言感想。
『乙』の一言くらい言ってもいいんじゃあないかなっ?
―――と言うわけで職人皆様『乙ッ!』

69新手のスタンド使い:2004/04/18(日) 18:40
みんな感想スレで言ってますから

70ブック:2004/04/19(月) 00:06
     救い無き世界
     第七十話・空高くフライ・ハイ! 〜その三〜


 気がつくと、俺はぃょぅに担がれたまま運ばれていた。
 どうやら気を失っていたみたいだ。
 やはり、あれだけ強烈な風を俺達に届く前に全て『終わらせる』のは無理があったか。
「……」
 体が鉛のように重い。
 これでしばらくあの能力は打ち止めだ。
 少なくともこの闘いの最中にもう一度使う事は出来ないだろう。

「くっ…!」
 ぃょぅがコンビニの中へと駆け込む。
「きゃああああ!!」
「おわ!?」
 店員と客が、俺達の有様を見てたじろいだ。
 呑気なものだ。
 外にはとんでもない鬼畜生が飛び回っているというのに。

「……」
 俺はぃょぅの体を軽く叩いた。
「!でぃ君、起きていたのかょぅ?」
 ぃょぅが俺の体をそっと床に下ろした。

「さっきはすまなかったょぅ。
 守るつもりが守られるなんて…」
 ぃょぅがばつが悪そうに頭を掻く。
 本当に、後一瞬でも遅かったらぃょぅは砂になっていた所だ。
 みぃを置いて行くのは心配だったが、ぃょぅを助けに来て良かった。

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、コンビニの自動ドア付近が砂子となって吹き崩れる。

「そこのお二人さ〜ん!
 隠れていると関係無い人が次々死にますよ〜!」
 上空から、女の声が聞こえてくる。
 糞、あの外道め…!

「……!」
 俺は居ても立ってもいられなくなり、すぐさまその場を立とうとした。
 それを、ぃょぅが後ろから引き止める。

「駄目だょぅ、でぃ君!
 これ以上あの力を使ったら、君は―――」
 俺はぃょぅの手を払い、静かに首を振った。

 心配してくれて感謝している、ぃょぅ。
 だけど、もう遅い。
 もう、遅すぎるんだ。
 『デビルワールド』はもう手のつけられなくなるくらいに大きくなり過ぎた。
 今更俺が闘うのを控えた所で、
 『デビルワールド』は周りから負の思念を取り込んで大きくなり続ける。
 こいつはそれ程までに力を取り戻しているんだ。

 …そして、何となくだが分かってきた。
 『デビルワールド』の目的が。
 こいつは、
 こいつは―――

71ブック:2004/04/19(月) 00:07


「……!!」
 俺はコンビニを駆け出した。
 これ以上この中に留まっては、店の中の連中まで巻き添えになってしまう。
 数瞬目を閉じて体の調子を確認する。
 大丈夫。
 疲労と消耗が激しいだけで、外傷は全く無い。
 闘える。
 まだ、闘える…!

「でぃ君!」
 後ろからぃょぅが駆け出して来る。
 頼むぜ、ぃょぅ。
 これでも頼りにしてるんだからな。

「お出ましのようね、『デビルワールド』。
 あのお方の為にも、あなたはここで私が喰い止める!」
 女が翼で風を起こす。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが逆方向の風を発生させ、女の風を相殺する。
 一先ずぃょぅの近くに居れば、あの風は大概無効化出来るみたいだ。

「……」
 しかし、どうする?
 確かに敵の攻撃は防御出来るが、それだけだ。
 こちらからも決定打になるような攻撃は加えられない。
 かと言って、持久戦に持ち込むのも得策ではない。
 『矢の男』のスタンドが徐々に完成に近づいていっているのが、
 『デビルワールド』を通して伝わってくる。
 そして、『デビルワールド』も急激に成長し続けている。
 時間が経てば経つ程状況は悪くなっていく。
 糞、どうすれば…

「でぃ君…!」
 ぃょぅが俺に視線を投げかけた。
「?…―――!!」
 刹那の思考の後、俺はぃょぅの考えを理解した。
 そうか、これなら…!

「!!!!!!!」
 俺は腕をスタンド化させてぃょぅの体を掴むと―――

 ―――空中の女に向かって思い切り投げつけた。

「なっ!!?」
 女が驚愕する。
 その間にも、ぃょぅは猛スピードで女に向かって突進する。

「『ウインズノクターン』!!」
 女がぃょぅに向かって風を放つ。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが推進力を完全に殺さない程度に風のバリアを張り、
 女の攻撃を防御する。

「貰ったょぅ!!」
 ぃょぅが女に拳を突き出した。
「甘く見ないで!!」
 女が翼を動かし、急旋回する。
 ぃょぅの拳は後少しの所で空を切った。
 まずい、このままでは…!

「砂になりなさい!」
 女がぃょぅに向かって風を起こそうとする。

 ―――させるか!
「……!!」
 俺はそこらにあった石を拾って、女に投げつけた。
「!!!!」
 女がそれに気づき、直撃する前に砂に変える。
 ああ、そうなる事は容易に想像出来たよ。
 だが、お前の注意を逸らす位は出来たようだな。

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが再び女に一撃を加えんと振りかぶる。
 よし、今度こそ…

72ブック:2004/04/19(月) 00:07

「『ウインズノクターン』!!」
 しかしぃょぅの攻撃はまたしても届かなかった。
 女が翼で直接ぃょぅに打撃を加えたのだ。

「がっ…!!」
 ぃょぅが体勢を崩して地面に落下していった。

「翼にはこういう使い方もあるのよ…?」
 女が今度は俺に狙いを移す。
 ヤバイ。
 俺ではあの風を防げない。

「……!!」
 脚をスタンド化。
 即座にその場を跳躍する。
 俺の居た場所に烈風が叩きつけられ、その余波が俺を襲った。
 俺の表皮が砂になって崩れていく。

 …!
 余波でこの威力。
 直撃を受けるのは相当危険だ…!

「!!!!!」
 続け跳躍して追撃をかわす。

(糞、何て様だ。)
 心の中で悪態をつきながらぃょぅの元へと急ぐ。
 ぃょぅが居なければ、この闘いはこっちが不利だ。
 一刻も早く合流しなければ。

「……!」
 探す。
 ぃょぅを探す。
 おかしい、確かこの辺りに落ちて…

「!!!!!」
 その時、俺の目に「ある物」が飛び込んできた。
 …そうか。
 そういう事か。

「……」
 俺は脚を止めて、女の方に向き直った。
「どうしたの?鬼ごっこは終わりかしら?」
 女が嘲る様な口調で言う。

 そうさ、鬼ごっこはここで終わりだ。
 ただし、手前の負けという形でな…!


「!!!!!!!!!」
 体に残された力を総動員して、近くにあった車を持ち上げた。
「―――ッ―――ァ―――!!!」
 そして、それを女に向かって投げつける。
 大きな鉄の塊が意思を持つ獣のように女に襲い掛かった。

「ふん、大方大きい物なら砂にしきれないと思ったんでしょうけど…」
 女は笑いを崩さずに呟いた。
「別に命中する前に砂にするだけが防御じゃないのよ?」
 余裕綽々といった様子で女が車をかわす。
 俺はそれと同時に女に向かって跳躍する。

「お馬鹿さんねぇ。
 自分から砂になりに来るなんて…」
 言ってろ。
 もう手前の負けは決定している。

「『ウインズノクターン』!」
 女が翼を俺に向けた。

 …今だ、ぃょぅ!!

73ブック:2004/04/19(月) 00:08

「!!!!!!!!!」
 女のかわした車のドアが開き、その中からぃょぅが飛び出した。
 そのままぃょぅは女に向かって急降下する。

「なっ…!」
 女が顔を強張らせた。
「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが女の上から突風を叩きつけ、女が大きくバランスを崩す。

「『ウインドズノクター』…!」
 女がたまらずそこから逃れようとするが、もう遅い。
 俺の腕はすでに女の足首を掴んでいた。

「…!こ……!」
 女が俺を振り払おうとするが、一度接近戦に持ち込んだらこっちのものだ。
 もみ合いになりながらも、スタンド化させた腕で女の肩翼を引き千切る。
「うあ!!!!!」
 スタンドの翼へのダメージがフィードバックし、女が痛そうな悲鳴を上げる。
 悪いな。
 でも安心しろ。
 これからこの世の痛みが存在しない世界に連れて行ってやる…!

「!!!!!!!!」
 女の頭を掴み、顔から地面に叩きつける。
 上空からの自由落下速度は、すでに人間の頭蓋を粉砕するには充分な程ついていた。
 嫌な音と感触。
 鮮血が撒き散り、それきり女は動かなくなった。

74ブック:2004/04/19(月) 00:08



「……!」
 女を仕留めた事で安心して気が緩んだ所為か、
 溜まりに溜まった疲労が一気に俺の体に押し寄せた。
 司会が白くぼやけ、思わずその場に膝をつく。

「!?」
 その時、俺は自身の体に起こる異変に気がついた。
 ―――疲れが、引いていく?
 いや、寧ろ力がどんどん漲っていくような…

(これは…!)
 見ると、俺の周りにどす黒いものが渦巻き、それが俺の中へと入り込んでいた。
 これは、そうか、この騒ぎで傷ついた人々の思念…!?

「!!!!!」
 怒り、憎しみ、悲しみ、恨み、痛み、無力感、絶望感、喪失感…
 そのあらゆる感情に飲み込まれそうになる。

 破壊が負の感情を生み、それが『デビルワールド』の力となり、
 更なる破壊をばら撒いて、更なる負の感情を生み出してそれを喰らって力とする。
 そして更に更なる破壊をばら撒いて、更に更なる負の感情を喰らって―――

 ―――行き着く場所は何も無い。
 そこにあるのは、何一つ残らない、絶対たる終焉。
 終わりが終わりを呼び、それが新たな終わりを呼ぶ、
 全てが終わりに向かって進み続ける終わりへの連鎖。
 これが、これが『デビルワールド』の望むもの。
 そして、間も無くこいつは俺から…


「!!!!!!!」
 俺は意識を何とか持ち直して、必死に『デビルワールド』を押さえ込んだ。

 まだだ。
 まだ出てくるな。
 手前が出るのは、『矢の男』と向かい合った時だ。
 その時、『矢の男』もろとも一緒に消えやがれ…!

「でぃ君!」
「でぃさん!」
 ぃょぅがみぃ俺に駆け寄って来た。
 ぃょぅが俺の肩を支え、みぃが俺に自分の生命エネルギーを送り込む。


 …下らない。
 世界平和だの、神の意志だの、人助けだの、正義だのなんざ、下らない。

 ああ―――
 でも、
 こいつらの為なら、
 …あいつの為なら……
 俺は、命を懸けられる。
 俺の全てを懸けられる。

 …残り少ない自我の中で、俺は心からそう誓った。



     TO BE CONTINUED…

75ブック:2004/04/20(火) 00:08
     救い無き世界
     第七十一話・決死


「……」
 女を倒した後、私達は足早にその場を後にした。
 新しい車を手配し、ひたすら東へと進む。

「……!」
 私は車を減速させた。
 道の脇に馴染みの深い顔の面々が揃っていたからだ。

「ギコえもん、無事だったのかょぅ!」
 車を停めてギコえもん達の元に駆け寄る。
「まあ、何とかな。
 それよりそっちこそ大事無いかゴルァ?」
 ギコえもんが鼻をならして答えた。

「ああ、さっきしぃエルとかいう『矢の男』からの刺客が襲ってきたょぅ。
 でぃ君のお陰で何とか撃退出来たょぅ。」
 私はでぃ君の方を見やりながら言った。
「そうか。
 車のラジオから何かとんでもない騒ぎが起こってる、
 みたいなニュースがバンバン流れて来たんだが…
 やっぱりお前らだったんだな。」
 ギコえもんが煙草を咥えて火を点けた。

「…ま、どうやら五体満足なようだし、先ずは合流出来て一安心と言った所か。」
 ギコえもんがぷかぷかと煙の輪っかを浮かべる。

「皆無事で良かったモナ〜。」
 小耳モナーが嬉しそうな笑顔を見せた。
 こんな時でも心の底からの笑顔が出来る彼が、とても羨ましい。

「…ここでのんびり再会の喜びに浸っている時間は無いわよ。
 すぐにでも先に進まないと。」
 ふさしぃが釘を刺すように言った。

「…だな。」
 ギコえもんが煙草を地面に捨てて、靴底で火を揉み消した。
「ポイ捨て禁止。」
 ふさしぃがギコえもんを睨む。
「固い事言うなよゴルァ…」
 ギコえもんが渋々吸殻を拾って車の灰皿へと移した。
「ふ……」
 一時間後に命があるという保証すらない状況さというのに、
 いつもと変わらない二人のやりとりについつい口元が緩んでしまう。

「さ、お喋りはここで終わり。早く車に乗って。」
 ふさしぃが私達を急かした。
 でぃ君とみぃ君がそれぞれ車に乗り込み、
 私もそれに続こうと…

「……?」
 と、いきなりギコえもんに肩を掴まれた。
「どうしたんだょぅ、ギコえもん?」
 私はギコえもんの方を向いて尋ねた。

「…でぃの奴、大丈夫なのか?
 よく分からねぇが、とてつもなくヤバそうなもんが奴の周りを覆ってる気がするぞ…」
 ギコえもんがでぃ君達に聞こえないような声で聞いてきた。
「…気がついていたのかょぅ。」
 私は重い声で呟くように言う。

「あんだけ物騒な気配が漂ってりゃあ誰でも、な。
 ふさしぃだって、口には出さねぇが感づいてる筈だ。」
 ギコえもんがでぃ君の方に目をやりながら答える。
 でぃ君の周りには、目には見えないが、確実に醜悪な何かが存在していた。
 例えるなら、そう、この世の悪意のような…

76ブック:2004/04/20(火) 00:09

「…どうやら二重の意味で時間が無いようだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが肩をすくめる。

「ギコえもん、でぃ君は…」
 でぃ君は…

「…言うなよ、ぃょぅ。
 もう個人的な感傷でどうこうするような問題じゃなくなってる。」
 ギコえもんは私から目を背けながら呟いた。

「二人とも、何してるモナ〜!」
 小耳モナーが車の窓から顔を出して私達を呼んだ。

「…と、急いだ方がよさそうだな。」
 ギコえもんが車へと体を向けて歩き始める。
「ギコえもん…」
 私はギコえもんの背中に言葉を投げかけた。
 ギコえもんがそれを受けて足を止める。

「…覚悟だけは決めとけ、ぃょぅ。
 もしかしたら、ラスボスは俺達の身内になるかもしれねぇんだからな。」
 ギコえもんは振り返らずに私に言った。
「……」
 私はそれに何も答えられない。

「…ま、そう心配ばかりすんなよ。
 きっと何とか出来るさ。
 なんたって、俺達は無敵の特務A班だろ?」
 ギコえもんが顔だけ振り向かせてにっこりと微笑む。
「ああ…そうだったょぅ。」
 …そうだ。
 私にはこんなに心強い仲間達が居る。
 彼らと一緒なら、何だって出来る。
 絶対に、『矢の男』は倒す。
 そして、でぃ君も助けてみせる…!

「二人とも早くするモナ〜!」
 小耳モナーが再び私達を呼ぶ。
「今行くょぅ!」
 私はギコえもんと共に車に向かうのであった。



     ・     ・     ・



 目を瞑っていた『矢の男』が、不意に目を開けた。
「…ギコエルもしぃエルも、天に召されましたか。」
 確かめるように『矢の男』が呟く。

「それでは、私もそろそろ出陣いたします。」
 『矢の男』の前に跪いていたモララエルが立ち上がり、恭しく一礼した。
「…頼りにしていますよ。
 最早あなたとトラギコだけが、私の支えなのですからね。」
 『矢の男』がモララエルにその眼差しを向ける。

「承知しております。
 あの『化け物』に勝てないまでも、
 必ずや『神』の覚醒までの時間まで奴らを喰い止めてみせましょう。」
 モララエルが『矢の男』の顔を見ながら答える。

「そういえば、トラギコが見当たりませんが…」
 モララエルが思い出した風に『矢の男』に聞いた。
「ああ、彼なら用事があると言って少し前に出て行きましたよ。」
 『矢の男』が何事も無いかのように答える。

「なっ…!何故行かせたのですか!?
 トラギコめ、恐れをなして逃げ出したか…!」
 モララエルが激昂する。
「…大丈夫ですよ。
 彼は必ず戻って来ます。
 あのでぃとの因縁が、否応無しに彼をこの場に呼び寄せる…」
 『矢の男』が愉快そうに呟いた。

「…分かりました。
 では、私はこれで…」
 不服そうな顔をしながらも、モララエルは部屋を後にした。

77ブック:2004/04/20(火) 00:10



     ・     ・     ・



 俺達は街外れの波止場に到着していた。
 日は既にとっぷりと暮れ、波の音が辺りに響く。

「…本当にこっちでいいのか?」
 ギコえもんが俺に尋ねた。
「……」
 俺は頷いて答える。
 間違いない。
 『矢の男』はこの海の向こうだ。

「…船がいるわね。」
 ふさしぃが呟いた。
「だけど、船で行くとなると…」
 小耳モナーが不安そうな顔をする。

「…間違いなく格好の標的になる事請け合いだょぅ。
 かなり危険な行為と見るべきだょぅ。」
 ぃょぅが重い声で告げた。
 確かに夜の海では視界も利きにくいし、回りが海では逃げ場も無い。
 いわゆる決死行というやつか。

「…さてと、ここまでね。」
 ふさしぃがみぃの方を見て言った。
「え…?」
 みぃが思わずきょとんとした顔になる。

「ここからは冗談抜きで命懸けになるわ。
 あなたはここに待っていなさい。
 さっき連絡を入れておいたから、SSSの職員が迎えに来てくれるわ。」
 ふさしぃが穏やかな顔でみぃに告げる。

「そんな、私も―――」
 みぃが食い下がろうとするが、ふさしぃは首を振ってみぃの申し出を退けた。
「…いい子だから、大人しくしていて。
 これ以上私達を困らせないで。」
 ふさしぃはいつになく厳しい口調でみぃに言った。

「……!」
 みぃが俺を見つめてくる。
『ここに残ってろ、みぃ。』
 俺はホワイトボードにそう書いてみぃに見せた。

「でも…!」
 みぃが俺に詰め寄ろうとした。
『…邪魔なんだよ。
 役立たずが周りでうろちょろされると。』

「―――!」
 みぃが今にも泣き出しそうな顔になり、
 そして、俯く。

 …これで終わり。
 これが多分みぃとの最後の会話。
 これでいい。
 これで、いいんだ。

「……」
 夜の闇が沈黙をさらに加速させる。
 波の音だけが、うるさい位に耳に木霊し続けた。



     TO BE CONTINUED…

78ブック:2004/04/20(火) 19:11
     救い無き世界
     第七十二話・泥死合 〜その一〜


 適当な大きさの船を手配して、俺達は海を進んでいた。
 潮の匂いが夜風に乗って鼻腔をくすぐる。

 ギコえもんが船を操縦し、
 ふさしぃが船頭に、小耳モナーが船尾についてあたりを見張る。
 俺とぃょぅは船の真ん中辺りに座っていた。

「そうだ。でぃ君、これを。」
 ぃょぅが俺にビニール袋を差し出した。
 中を見ると、缶やペットボトルの飲み物と、菓子パンやおにぎりが入っている。
「船を手配してる暇に、そこらにあったコンビニで買っておいたんだょぅ。
 大したものじゃないけど食べるょぅ。」
 ぃょぅが俺に微笑む。

「……」
 俺は袋をやんわりと押し返して首を振った。
 とてもじゃないが、今は呑気に飯を食うような気分にはなれない。

「無理にでも食べときなさい、でぃ君。」
 と、ふさしぃが俺達に近づいてきた。
「ああ、交代の時間かょぅ。」
 ぃょぅが腰を上げて軽く伸びをする。

「いつ敵が襲ってくるのか分からないわ。
 食べられるうちに食べておかないと、いざという時力が出ないわよ。」
 ふさしぃが袋の中から缶コーヒーとアンパンを取り出した。
 包みを手でやぶって、アンパンを一口齧って飲み込む。
「…とはいえ、決戦前の食事にしてはちょっと貧相だけどね。」
 ふさしぃがコーヒーを飲みながら皮肉気に笑った。

「贅沢は言っていられなぃょぅ。
 その代わり、帰ったら皆でぱーっと豪勢に打ち上げでもしようょぅ。」
 ぃょぅが苦笑する。
「それじゃ、小耳モナー達に差し入れを持って行っとくょぅ。」
 ぃょぅはそう言うと、袋の中から幾つかのパンと飲み物を取り出して
 小耳モナー達の方へと向かった。

「……」
 俺は無造作に袋の中に手を突っ込んで、ジャムパンを中から引き出した。
 口でビニールを噛み切って、こげ茶色のパンに齧って咀嚼する。
 安っぽい苺ジャムの風味が口の中に広がった。
 パンが唾液を吸い取り口中を乾燥させるので、
 ペットボトルの紅茶で喉を潤す。
 しかしこれが最後の晩餐になるかもしれないなんて、全く笑えない話だ。

79ブック:2004/04/20(火) 19:12


「皆、気をつけるょぅ…!」
 突然、ぃょぅが強張った声で俺達に注意を促した。
 全員が、ぃょぅの居る場所へと集まる。
「ぃょぅ、どうしたモナ!?」
 小耳モナーがぃょぅに尋ねる。
「あれを…!」
 ぃょぅが海原の一部を指差す。
 そこには一艘のボートが水面に浮かんでいた。

「…!敵…!?」
 ふさしぃが身構える。
 ギコえもんと小耳モナーも、それぞれスタンドを発動させて臨戦態勢を取った。

「…!?」
 しかし、良く見てみるとボートの上には誰も乗っていない。
 だが、この威圧感。
 間違いなく、何者かが俺達を狙っている…!

「ギコえもん!すぐに船をここから移動させるょぅ!!」
 ぃょぅの言葉にギコえもんが慌てて舵を取った。
 ヤバい。
 よく分からないが、ここに留まり続けるのは危険だ!

「……!!」
 しかし、船は一向に進む気配を見せなかった。
 いや、移動はしているのだが、そのスピードは極端に遅い。

「ギコえもん!何をしているの!?
 早く船を動かしなさい!!」
 ふさしぃが叫ぶ。
「そんな事は分かってる!
 だけど、エンジンを全開にしてもちっとも速度が上がらねぇんだよ!!」
 ギコえもんが信じられないといった顔で大声を張り上げた。

 馬鹿な。
 何が起こっている。
 まさか、俺達はもう既に攻撃を受けているのか!?

「……?」
 と、不意に後ろから誰かに触られた。
 ?
 どういう事だ?
 だって俺のすぐ後ろは海…

「!!!!!!!!」
 次の瞬間、俺は地面に這いつくばった。
 貼り付けられたかのように床から動けない。
 重い。
 体に、鉄の塊が圧し掛かっているようだ。
 それに周りの空気までが、まるで水銀のように絡み付いてきて…

「!?でぃ君、どうしたょぅ!!」
 ぃょぅが俺に駆け寄ってくる。
 駄目だ、来るな。
 既に敵はこの船の近くまで近づいて来ている…!

「なっ…!?」
 俺に触れた瞬間、ぃょぅも俺と同様に床に倒れた。

「ぃょぅ!!!」
 ふさしぃと小耳モナーが俺達に近づこうとする。
「来ては駄目だょぅ、皆!!」
 ぃょぅが叫ぶ。
「ぃょぅはでぃ君に触れた途端に動けなくなったょぅ!
 恐らく、能力に侵されている対象に接触しただけで能力に感染するょぅ!!」
 ぃょぅが苦しげに呻いた。
 その時、ふさしぃ達の背後に男の影が現れる。

「ふさしぃ!後ろ―――」
 しかし、時既に遅かった。
 男から金髪の男のビジョンが現れ、ふさしぃ達に攻撃を放つ。
 あまりに咄嗟の出来事の為、ふさしぃ達にかわす暇は無かった。
 その拳を受けてしまう。
 そして受けたという事は、そのスタンドに触れられてしまったという事であり―――

80ブック:2004/04/20(火) 19:12

「くっ…!」
「あっ…!」
 ふさしぃと小耳モナーが、俺やぃょぅ達と同じように倒れこむ。
 その時雲間から月が顔を出し、男の姿を照らし出した。
 男の体からは水が滴っている。
 多分、あのボートから俺達の船まで泳いで来たって事だろう。
 ご苦労なこった。

「……!!」
 奴の能力を『終わらせる』。
 体が一気に束縛から解放され、そのまま奴へと…

「ふん。」
 男が呟き、俺に俺に小銭を投げつけた。
 しかし、その速度は蝿が止まるほど遅い。
 しゃらくさい。
 こんなもので俺をどうにか出来るとでも思っているのか!?
 軽々と小銭を腕で弾き―――

「!!!!!!」
 再び俺は地面に縫い付けられた。
「愚か者め…
 何も能力の対象になるのは生物だけではない。」
 男が嘲るように言う。
 やられた。
 あの小銭にも能力がかかっていたのか。
 だから、あんなに遅く…

「重力、水、空気、風。
 それらが一度にお前たちに牙を剥いているのだ。
 ひとたまりもあるまい。」
 男がそう言って俺達に止めをさそうと―――


「『マイティボンジャック』!!」
 と、男の体が後方にすっ飛んだ。
「……!?」
 男が鼻血を拭いながら急いで体勢を立て直す。

「これ以上好き勝手にやろうってんなら、俺が相手になるぜ。」
 ギコえもんが、月光を受けながら男の前に立ちはだかった。
「…ギコえもん、そいつに触れられると……」
 ぃょぅが搾り出すような声でギコえもんに男の能力を伝えようとする。
「分かってる。それさえ知ってりゃ、この『マイティボンジャック』の敵じゃねぇよ。」
 ギコえもんが男に視線を向けたままでぃょぅに答えた。

「…さてと。そんじゃま、始めるとするかゴルァ。」
 ギコえもんが男に向かって構えを取る。
「ふん…」
 男もスタンドと共にギコえもんに向き直った。

「時間がねぇんでな。
 速攻でケリつけさせて貰うぜ…!」
 ギコえもんと男が、ほぼ同時のタイミングでお互いに飛び掛かった・



     TO BE CONTINUED…

81( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:12
『この秀才モララー様をあんなマヌケ面と一緒にしないで欲しいね。』

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―ディスプレイの奥に潜む恐怖

「くぅっ・・一体どうしてこんな事に・・っ」
俺は困惑していた。
と、いうか当たり前だ。突然パソコンの中に引きずり込まれたんだからな。
しかも弟者はこん棒で殴られて失神してるわ
目の前に居るのはおそらく・・敵。
「ククッ・・兄者。『ゴミ箱』を開いてくれないか?」
「?何故俺に頼む。」
俺が首をかしげると秀才モララーの野郎は気色悪い笑いを浮かべた
「クク・・ッお前は今『マウスポインタ』なんだ。」
「・・なっ!?」
「お前は俺のスタンドの能力でパソコンに引きずり込まれ『マウスポインタ』となったのだ。」
秀才モララーの野郎の口はどんどんニヤけてくる
「嘘だと思うか?ならコレを見よっ!」
秀才モララーの奴がマウスを動かすと俺はそのとおりに動いた。
「うおおおっ!?」
「そして・・『クリック』ッ!」
奴がマウスをクリックすると俺は地面に叩きつけられた
「デボォッ!?」
「これお前に『クリックしろ』と頼む理由だ。俺がクリックしてもお前は地面に叩きつけられるだけだからな。」
秀才モララーはニヤニヤしながら言った
畜生・・。どうすればいい・・?
多分、俺が逆らえば弟者は殺される・・。それにマイ・ウェイの奴は俺に『サカラウナ』って言ってたっけか・・。
仕方ない。とりあえず今はこの野郎の命令に従うか・・。
俺はとりあえずゴミ箱の所まで歩き、クリックした。
「そう・・それでいい・・。そしてこのまま・・死ねッ!『イレイス』!」
奴が『イレイス』と叫ぶとゴミ箱のウインドウが閉じ、ゴミ箱のアイコンに手足が生え始め、四足歩行で歩き始めた
「な・・ッうそ・・・だろォッ!?」
「ウーヒャヒャヒャ!馬鹿め!そのまま食われてしまえェッ!」
ゴミ箱のアイコンが食べると食べた場所は壁紙すら消え、真っ白になっていた。
「KYAWAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
ゴミ箱のアイコンが物凄い雄たけびを上げる
「畜生・・こりゃあヤバい・・ッ・・端っこに行かないと・・食われちまうッ!」
俺ははいずりながら端に行こうとすると俺の体が急に浮かび上がった
「な・・ッ何ィッ!?」
「行かせるかよッ!」
秀才モララーの奴はマウスをゴミ箱の方へ持っていこうとしていた。
「ク・・クソッ!一体どうすりゃあ・・ッ!」
・・・マイウェイ!
アイツは・・『逆らうな』と言った・・。だったらッ!
「うおオオオオォォォォ――ッ!」
「何ィッ!?馬鹿なッ!何をする気だァッ!?」
「このまま・・『ゴミ箱』に突っ込むッ!」
「ば・・馬鹿なァッ!?『怖く』ないのかァッ!?」
・・ぶっちゃけると結構怖い
しかしッ!俺は弟者・・そして弟者のスタンドを信じているッ!!
『だからこそ』突っ込めるのだッ!!
「あああああああああァァァァアアァ―――ッ!!」
ガオン!
バギン、ゴリン、グシャ
「フン・・。馬鹿め。自分から死んでいくとは・・」
秀才モララーが席を立ち、後ろを向くと驚愕した
「ば・・馬鹿なッ!・・まさか・・貴様ッ!?」
まぁ驚くのも無理はない。ゴミ箱に食われたハズの俺が後ろに居るんだからな。
「・・俺の『スタンド』の能力だ。ゴミ箱に食われようが食われたら戻るのは・・家のゴミ箱だ。」
俺は得意気に言い放った
「フフ・・ッ。だがねッ!僕が有利なのはまだ変ってはいないよッ!ココにこん棒もあるッ!」
・・そのとおりだ。
現に弟者がアイツの近くに転がってるし、パソコンもアイツの近くにありやがる。
だが・・ッ!
「だがッ!テメェのスタンドの所為で俺の『ビスケたん』の壁紙は半分食われちまったッ!この怒りは収まりようがないッ!」
俺は怒りに身を任せ殴りかかろうとした
「死ねえィッ!!」

82( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:14
しかしその時、秀才モララーは突然後ろに倒れた。
「・・・アレ?」
すると秀才モララーの後ろからこん棒を持った弟者が出てきた
「・・弟者?」
俺がポカーンとしてるとマイウェイが口を開いた
「オイオイ。アニジャ。オレノ『チュウコク』チャントキイテタノカ?」
「・・は?」
俺は素っ頓狂な声を出す
「・・マイウェイは『逆らうな』って言っただろ?」
弟者は倒れてる秀才モララーを指差す
すると秀才モララーはナイフを持っていた。
「あ・・あれ?コイツこんな物・・。」
「ンデヨ。コノ『キリ』ガミエネェノカ?」
・・ハッ!そういえば良く見ると部屋の中は『霧』に覆われていた。
「・・コレがコイツのスタンド能力だ。」
「ツマリ、コノ『キリ』ヲスッタヤツハ、ヤツノイッタリ、カイタリスル『ウソ』ガスベテ『ホントウ』ニミエテシマウ。」
つまり俺は『秀才にいっぱい食わされた』って事っすか!?
「ご・・めい・・と・・う。」
秀才モララーは突然置きやがりやがった
しかしまだ殴られた感じが残っているのかフラフラしている
「だがね・・。流石兄弟・弟者。気付いているのに吸ってしまうのは良くないぞ・・。」
「あ。」
「ア。」
マイ・ウェイと弟者は同時にマヌケな声をあげる
「アホかッ!」
心なしか弟者達は『お前に言われたくない』って目をしやがる
畜生、腹が立つ連中だ。
「お遊びはココまでだ!『今、僕はこの場所でナイフを君達に向かって構える』」
秀才モララーはそう叫ぶと俺達に向かってナイフを構えた
「・・なぁ弟者。アイツはなんでわざわざ自分の攻撃の仕方を言うんだ?キチガイか?」
「・・・・。」
チッ!今度はシカトかよッ!
「アホハ、オマエダ。」
マイウェイが小さくつぶやく
「聞こえてるぞコラァッ!」
「キコエルヨウニイッタンダ『アホ』ガッ!」
俺達が喧嘩している間に弟者の顔が険悪になっていく
「アホな事やってる場合じゃないぞ。こりゃ大ピンチだ。」
「ククッ。お察しかい?」
秀才モララーは君の悪い笑みを浮かべる
「兄者。コイツの能力は覚えてたか。」
クッ。この野郎。馬鹿にしてやがる
「この霧を吸い込むと、アイツの『言った事や書いた事が本当になった様に見える』んだ・・あっ!」
そうか!
「そう。つまりアイツがわざわざ攻撃方法を言ったのは『かく乱』させるためさ。
俺達にはこの霧の幻でアイツの攻撃方法が本当に見える、しかしもしかしたらソレは幻で本当はナイフは別の場所にあるかもしれない。
しかし、もしかしたら本当にそこに持っているのかもしれない。こりゃあ・・ピンチだな・・。」
弟者の額から汗がたれる
「エクセレント。流石どっかのアホとちがって物分りが良い。」
「一緒にしないでくれ。」
「オトジャハソコマデアホジャナイゾ。」
・・・あとで全員ゴミ箱に突っ込ましてやろう。
「しかし、『理解』したところで『行動』できなければ意味は無い。このまま死ぬかい?」
秀才モララーは俺達に一歩詰め寄る
しかし俺達も一歩下がる
そんな事を何回繰り返しただろうか。
もうヤバい状況になっている。
あと何歩か・・?
あと何歩で俺達は殺される・・?
考えるだけで恐ろしい。
パソコンまで行ける時間は無い。
マイウェイのお告げは正直聞きたくない
痛いの嫌だし。
どうせなら何のリスクもなしにココを切り抜けたい。
「ク・・ッ!」
「5・・4・・3・・・」
秀才モララーはジリジリと近づいてくる。
・・どこでもいいから殴るか・・?いや、危険すぎる。
もし蹴った所にナイフとかが用意されてたら致命傷は避けられない。
「2・・1・・」
クソッ!絶体絶命かッ!

83( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:15
クソッ!絶体絶命かッ!
そう思った次の瞬間、ドア付近に赤い毛玉が見えた。
そして秀才モララーが俺達の目の前から消え、ドアの近くで宙に舞っていた。
「ムック・ブーストッ!」
赤い毛玉はそう叫んだ。
「アナタ達は・・巨耳さんの・・ッ!」
「Yes,オフコース。」
銀髪の可愛いお嬢ちゃんはそうつぶやく。
「気をつけてくださいッ!コイツの能力は・・」
弟者が説明しようとすると咄嗟に秀才モララーは起き上がる
「遅いわァッ!『お前らは・・』」
パン!パン!パン!パン!
四回の銃声が響いた
すると秀才モララーの四肢から血が吹き出て崩れ落ちる。
「能力を聞くまでもなかったな・・。しかし遅いな。何かしら『キーワード』をいうスタンドらしいが
私達の様な速攻型との勝負には向いてなかったな。」
秀才モララーが怒りで震えている
「フ・・フ・・フザけるなァァァァッ!『お前らは・・』」
しかし今度は赤い毛玉のストレートが顔面に直撃した
「超ムック・キャノン零式ィッ!」
秀才モララーは凄いスピードで壁まで吹っ飛んだ
・・・気絶したのだろうか、思いっきり鼻血を出し、起きる気配は無い
「ヤレヤレ、巨耳が心配だからといって見に来て見れば・・。」
「来て見て正解だったですNE。」
・・っていうかこの人達・・
「強い・・。」
「アア、アットウテキダ。」
ヌゥッ。台詞をとられた。
「自分でもここまで強くなってるとは思わなんだ。」
「暫く私達ただの噛ませ犬みたいな存在でしたKARA、嬉しいですZO。」
赤い毛玉はガッツポーズをとる。
「・・しかしこやつのスタンド能力は一体?」
銀髪のお嬢ちゃんは首をかしげる
「この霧、見えますよね?」
弟者は空中を指差す
「ええ、見えますZO。」
「コレヲスウトナ、アイツノ『カイタリ』、『イッタリ』スル『ウソ』ガ『ホント』ニミエルンダ。」
マイウェイが説明する
「ふむ。つまり幻覚系スタンドというわけか・・ムックッ!」
銀髪のお嬢ちゃんは赤い毛玉の方を向いた
「了解ッ!『ソウル・フラワー』ッ!」
全身花で出来た様なスタンドが現れ、地面に手をたたきつけた
すると巨大な花が何本も出てきた
「この花は成長がとても早いのですZO。なのDE・・。」
周りの霧が一気に吸い込まれた。
「NE?」
弟者も俺もポカーンとした
「そしてコレをもう一回殴ると・・」
見る見るうちに花はしぼみ、消えていった。
まるでプチマジックショーだ。
「そして・・アレか。」
秀才モララーの右手には銃が握られてやがった
「ま・・まさか・・ッ」
弟者と俺、更にマイウェイの顔色が真っ青になる
「俺達・・あのまま突っ込んでたら・・あの銃で・・。」
震えがとまらない。助けに来てくれてよかった。
「SATE。とりあえず巨耳さんから預かったこの手錠をかけましょうKA・・。」
赤い毛玉は特殊な手錠を取り出し、気絶してる秀才モララーにかけた
「この手錠はモナメリカという国にある通称『水族館』と呼ばれる
『スタンド使い専用収容所』の手錠だ。今はまだ小さな刑務所だが、そのうちとてつもない発展を迎えるだろうな。」
銀髪のお嬢ちゃんは自慢げに言った。
「SA。それじゃあキャンパスを再検索してもらいましょうKA。」
赤い毛玉は手錠をかけ終わると立ち上がり、俺の方へ向かってきた。
「それでは私はこやつを刑務所に叩き込む準備をしよう。」
銀髪のお嬢ちゃんは気絶した秀才をひょいと持ち上げるとそのまま扉をあけ出ていった。

84( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:16
「しかし・・いつの間に俺たちは奴の『能力』にかかっていたんでしょうか?」
弟者は首を傾げる。
「OSORAKU・・霧はあそこから入ったんでしょうNE。」
赤い毛玉は窓の少し開いているところを指差した
「あ・・。あそこから霧を・・?」
「だが、どうやって暗示をかけたんだ?言葉を聴いた覚えは・・。」
赤い毛玉は少し考えてから言った
「『俺の声は聞こえない』みたいな暗示をかけたんZYA?」
あ。
「そんな単純な事だったのか・・。」
俺はうなだれる
「まぁ、気を取り直せよ兄者。一応この『キャンパス』は本物だったみたいだからな。」
弟者が俺の肩を叩きながら言った。
「おお。本当ですZO。住所などの詳細が次々・・。」
赤い毛玉がそういうと俺はとりあえず右クリックし『削除』を押してみた。
『プロテクトがかかってる為削除できません。』
「・・なんですKAコレは?」
「『スタンド』だろうな。何かしらのスタンドでカードしてるか・・」
俺は思わせぶりに言葉を止める
「・・してるか?」
部屋全体がシーンとする
この空気は結構好きだ
『皆が自分の次の言葉に期待している』
なかなか気持ちいいものである。
「『この屋敷自体がスタンド』って事も考えられる」
ふんぞりかえって言ってやった。
「FUMU・・。なかなかですNA。」
「まぁ、それほどでも。」
「調子に乗るな。」
弟者に頭を叩かれる。
恩師でもある兄に対してこの仕打ち。
随分酷い弟だ。
「SATE、報酬金は後日コチラに送られるそうなのDE。また会いまSHOW。」
・・ぶっちゃけ本当にくれるかどうか心配だ。
「何か困った事があったらいつでも頼んできてくれ。勿論報酬アリアリアリで。」
タダ働きなんてゴメンだ。
「OKOK。それじゃあ、またいつKA。」
赤い毛玉は苦笑いしながら部屋を出て行った。

85( (´∀` )  ):2004/04/24(土) 11:16

・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  

「ほほぅ・・。秀才が負けたのか・・。」
脳で出来た椅子にふんぞりかえるネクロマララー。その前にはたくさんのスタンド使いがひれ伏している
「矢張りあの思い上がりの腐れ豚ごときには出来ない任務だったのだよ。」
ひれ伏していたハートマン軍曹が顔をあげてつぶやいた。
「口を慎め軍曹。」
ネクロマララーは言い放った
「さて・・しかしどうしたものか・・。」
ため息をつくネクロマララー
「スタンド使いはまだハンパ無い数がいる。しかしココで下手に任務に行かせて人手を減らすのも・・。」
「相変わらず苦労しているな。ネクロ。」
ふと後ろから声がする。
「え・・?」
ネクロマララーが振り返るとソコには見覚えのある人物がいた。
   ゴ ッ ド
「ゴ・・神・・?」
突然ネクロマララーの体が震え上がり、その場にいた全員が一気に頭を深く下げ、こう叫んだ
「おかえりなさいませッ!神よッ!」
全員が声を揃えていったあと、神コールの嵐が吹いた
「神!神!神!神!神!」
「よろしい。さて、ネクロマララー。今まで参謀ご苦労。疲れもたまっただろう。」
神はもっていた杖でネクロマララーの立派な頭を叩いた
「ありがたき幸せ・・。」
「暫く休め、これからは私が指揮をとろう。」
ホールにとてつもないざわめきがおこる
「と・・という事はまさか・・。」
ネクロマララーは再度震える。
さっきの震えとは違い、喜びに満ち溢れた様な震え方
「ああ。『産まれた』よ。我がスタンド『ユートピア・ベイビー』が・・。」
ざわめきがいっせいにやみ、静まり返った後、さっきの比にもならない神コールが響く
「神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!
神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!神!ウオオオオオオッ!」
「よろしい。さて、それでは早速だが、『巨耳モナー』どもはどうやらわれらの陣地をかぎつけた様だ。
しかも彼らは現在相当な使い手となりつつある。巨耳に至ってはスタンドの『進化』の直前だ・・その前に叩こうではないか。」
神は杖を一回地面にカツンと叩く
「しかしわれ等が裏切り者『ムック』。そして魔眼を持つ銀髪の歩く武器庫『岳画 殺』。この二名の実力は皆も熟知してると思う。
『そこで』だ。ここは『上級幹部』に言ってもらうとしよう。」
またもや場内がざわつく
「そうだな・・。『理屈が通用しないスタンド』をもつ男。『大ちゃん』言ってもらおうか。」
『大ちゃん』と呼ばれる男は神に杖を向けられるとこうつぶやいた
「・・・ピッチャーデニー。」

←To Be Continued

86ブック:2004/04/25(日) 00:28
     救い無き世界
     第七十三話・泥死合 〜その二〜


 私はでぃさん達が行ってしまった後も、海の向こうを眺め続けていた。
「……」
 胸の奥にヘドロが溜まっているような感じ。
 とても、
 とても嫌な予感がする。
 もう二度と、あの人達が帰って来ないような…

「……?」
 と、私の後に人の気配を感じた。
 振り返ってみると、二人の男の人が私に向かってやって来る。

「SSSの者です。
 特務A班の方々の連絡を受けてお迎えにあがりました。」
 ああ、この人達がふさしぃさんの言っていた迎えの人達か。

「向こうに車を用意してあります。
 後の事は特務A班の方々に任せて、あなたはSSSに…」
「そいつを勝手に連れて貰っちゃあ困るんだよな。」
 突然の闇の中からの声が、男の人達の言葉を遮った。
 私と二人の男の人の視線が、その声がした場所に集中する。

「しぃエルから『でぃに引っ付いてる女も一緒に居る』って報告があったから、
 もしやと思って待ち伏せしてみたんだが…
 どうやらビンゴだったみたいだぜ。」
 影の中から声の主の姿が現れてくる。

「…!?
 あなたは―――」
 私はそこで言葉を詰まらせた。
 この人は、
 確か、
 あの孤児院に居た…

「何者だ!?貴様!!」
 男の人達がその人の前に立ちはだかる。
 しかし、その人は表情一つ変えずに男の人達を睨み返す。

「…その女置いてさっさと失せろ。
 そうすりゃ、殺さないでおいてやる。」
 その人は冷徹な声で言い放った。

「!?貴様、まさか『矢の男』の!!」
 男の人達がスタンドを発動させてその人に飛び掛かった。

「駄目です!!その人は―――!」
 私はすぐに彼らを止めようとした。
 いけない。
 あの人と闘ったら…!

「『オウガバトル』。」
 しかし、全ては遅かった。
 私の眼前で二人の男の人がパンケーキのように輪切りになる。
 血飛沫が飛び散り、アスファルトの地面を赤色に濡らした。

「…あ……」
 私は腰を抜かしてその場にへたりこんだ。
 そんな私を見下ろす凍て付く様な視線。
 間違いない。
 この人は私を殺すつもりだ。

「…安心しな。
 お前は『今は』殺さねぇ。」
 その人が私にゆっくりと歩み寄る。
 目に見えそうな程の殺意に縫い付けられ、私は一歩も動けない。

「今ここでお前を殺した所で、あのでぃへの復讐としては不充分だ。
 あのでぃが、完膚なきまでに絶望のどん底に叩き落されるような舞台を整えた上で
 死んで貰わなきゃあ意味がねぇんだよ。」
 その人が歩きながら喋る。

 …その人の瞳に宿る真っ黒な憎しみの炎。
 駄目だ。
 このままでは、でぃさん達の足手まといにまってしまう。
 そうなる位なら、いっそ―――!

87ブック:2004/04/25(日) 00:28

「!!!!!」
 私が舌を噛み切ろうとした瞬間、その人は私の口に指を突っ込んだ。
 指に邪魔され、私の歯は舌まで届かない。

「…痛ってーな、歯ぁ立てんじゃねぇよ。」
 口の中に鉄の味が広がる。
 どうやら指から出血しているみたいだ。

「さっきも言っただろうが。今お前に死なれちゃ困るんだよ。」
 その人が呆れたように呟くと同時に、私の首筋に思い衝撃が走った。
 視界が、瞬く間に暗くなっていく。

「…また自害しようとされちゃ敵わねぇんでな。
 悪いけど暫く大人しくしといて貰うぜ。」
 それが、私に聞き取る事が出来た最後の言葉だった。



     ・     ・     ・



「『マイティボンジャック』!!」
「『スペースハリアー』!!」
 男のスタンドの拳が俺に向かってくる。
「ゴルァ!!」
 男のスタンドの拳が俺の体に触れる直前で、
 男のスタンドの二の腕あたりを弾いて防御する。
 奴の能力は何かはまだ分からないが、あの拳に触れられるのは絶対にヤバい。
 しかし、あの拳を弾かねばならないとなると、
 どうしても防御に専念せねばならなくなる為に、こっちから迂闊に手が出せない。
 その為、否応無しに膠着状態が続く事になる。

「ふん!!」
 男が逆の腕でパンチを放ってくる。
「ゴルァ!!」
 スタンドの右足での前蹴り。
 男がそれを喰らって後方に吹っ飛ぶ。
 しかし、多分ダメージは余り無い。
 ダメージを与える為では無く、距離を取る為の蹴りだったからだ。
 事実、男は何事も無かったかのように立ち上がってくる。

「…どうしました?
 守ってばかりでは私を倒せませんが、よろしいのですか?」
 男が嫌らしい笑みを浮かべる。
 しかし、悔しいが男の言う通りだ。
 恐らく奴の狙いは時間稼ぎ。
 だとすれば、こいつに手間取れば手間取るだけ奴の思う壺。

「……」
 俺は男との距離が充分なのを確認すると、倒れているぃょぅ達に視線を移した。
 這いつくばりながらも、苦しそうに何とか動こうとするぃょぅ達。
 助けてやりたいのはやまやまだが、こうなっては最早俺にはどうしようも無い。
 俺の『マイティボンジャック』はあくまで引き起こされる結果を先送りにする能力。
 一度結果が出てしまっては能力は使えないのだ。

「…船が急に進まなくなったのも、お前の能力だな?」
 俺は男に向かって尋ねた。
 男は何も答えないが、俺はそれを肯定と受け取る。

「さっき、『重力、水、空気、風、それらが一度にお前たちに牙を剥いている』、
 って言ってたな。
 つまりあれか?
 お前に触れられた奴は、自然環境にすっげえ邪魔されるって訳か?」
 男はその質問にも答えない。

「オーケーオーケー、分かったよ。
 それじゃあ最後の質問だ。お前、名前は?」
 俺はおどけた調子で男に聞いた。
 無論、気は一瞬たりとも抜かない。
「モララエル。」
 その返答と同時に男が突っ込んできた。

「『マイティボンジャック』!!」
 俺のスタンドで迎え撃つ。
 しかしモララエルは俺の腕を紙一重で潜り抜けた。
 そしてそのまま懐に入られ、左の腕での一撃を放つ。

88ブック:2004/04/25(日) 00:29

「くっ!!」
 飛びのいて、かわす。
 だが―――
 男の拳は俺の脇腹を「かすった」。
 『マイティボンジャック』で能力に侵される結果を先送り。

「!!!!!!」
 男が即座にその場を離脱しようとする。
 まずい。
 俺の『マイティボンジャック』が先送り出来る限界は五分。
 その間に逃げられたら、もう打つ手は無くなる。
 ここで奴を逃がしたら、俺達の敗北だ!

「がっ…!!」
 と、モララエルが動きを止めた。
「『ファング・オブ・アルナム』…」
 小耳モナーが呻きながらスタンドを発動させていた。
 『アルナム』が、自分に襲い掛かる負荷に苦しみながらも
 モララエルの影に牙を突き立て、その所作を封じている。

「でかした、小耳モナー!」
 俺はその隙を逃さずらモララエルにタックルをしかけた。
 そのまま揉み合いになり、船の床を転がる。
 逃がすか。
 何としても、ここで喰い止め…

「……!!」
 だが、迂闊にも俺はモララエルにマウントポジションを取られてしまった。

「ぬありゃあ!!」
 モララエルが、上からスタンドでのパンチを次々と浴びせてくる。
「くわあ!!」
 こちらも必死にスタンドの腕で防御する。
 しかし、いかんせん体勢が不利過ぎる。
 一発はガード出来ても、その一発を防ぐ間に三発は顔面に貰う。
 俺の顔がたちまちに腫れ上がっていくのが実感出来た。

「ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!ぬあ!」
 男が遠慮無しに拳を撃ち下ろし続ける。
「くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!くふあ!」
 俺はそれを何とか防御し続ける。
 ヤバいぞ、こりゃあ。
 奴を逃がすとかそれ以前に、このままじゃあ撲殺されてしまう…!

「りゅあああ!!」
 俺は渾身の力を振り絞って、俺の左親指をモララエルの脇腹にぶち込んだ。
 脇腹に俺の親指が根元の部分まで突き刺さる。
「ちゅわああああああああ!!!」
 そのまま親指を折り曲げ、肋骨に引っ掛けて無造作に折る。
 骨の折れる感触が、俺の指に伝わってきた。

「くわああああ!!!」
 奴が叫び声を上げる。
 よし、今だ!

「るううううう!!」
 モララエルの腕を掴んで、腰を浮かしながら体勢を入れ替える。
 今度は逆に俺がマウントポジションの上に立った。

「きゃおらああああああああ!!!」
 そのまま右拳を撃ち下ろす。
 小気味いい感触と音と共に、俺の拳が奴の顔にめり込んだ。
 さっきのお返しとばかりにさらに上からパンチを叩き込んで
 奴の顔を男前に変えてやる。

「ちいいぃぃぃ!!」
 モララエルが吼えた。
 それと同時に股間に強い痛み。
 モララエルが、俺の睾丸を右手で掴んでいた。

「あわわわわわわわわ!!!」
 俺はすぐさま立ち上がってその手を振り解いた。
 幸いにして俺の男としての象徴がお釈迦になる事は無かったが、
 かわりにマウントポジションを崩してしまう事になった。

「のおおおおおおお!!!」
 モララエルが再び逃げようとする。
「させるかあ!!」
 後ろからモララエルに襲い掛かる。
 腰に手を回し、そのまま背筋を総動員してモララエルを持ち上げ、
 ブリッジの要領で地面に叩きつけようとする。
 俗に言う、バックドロップという奴だ。

「うおああああ!!」
 しかし、モララエルも黙って投げられるばかりではない。
 その足を俺の胴体に絡みつける。
 それにより俺は体勢を崩し、バックドロップは不発のまま二人とも地面に倒れこんだ。

「ぬううううう!!!」
 奴が体をひこずりながら俺から逃れようとする。
 逃がさない。
 モララエルの上に覆いかぶさり、その動きを止める。
 だが、どうする。
 このままじゃジリ貧だ。
 いずれ時間切れになって―――

89ブック:2004/04/25(日) 00:30

 …!!
 そうだ!
 この手があった!!

「『マイティボンジャック』、解除!!」
 俺は先送りにしていた奴の能力を解除した。
「!!!!!」
 俺の体にとてつもない負荷がかかる。
 そして、当然俺の下に居るモララエルにも…

「があああああああああ!!!」
 モララエルが絶叫する。
「…はっ!どうよ、自分の能力に攻撃される気分は!?」
 激しい負荷に襲われながらも、俺は無理矢理奴に笑顔を見せてやった。
 そして、右の肘の部分を奴の喉下に押し当てる。

「―――ご―――あ!!!!!」
 モララエルの首から、ミシミシと骨が軋む音が聞こえてきた。
「ゴルァああああああああああああ!!!!!!」
 全体重を肘の部分に乗せる。

 ゴギン

 その音と共に、俺の体を襲っていた重みは消え去った。



「…!ギコえもん!」
 負荷から開放されたぃょぅ達が、俺の元へと駆け寄って来た。
「おお。お前ら、大丈夫か?」
 俺はそいつらに向かって声をかける。

「……どうやら…ここまでの…ようです……
 お役に立てなくて…申し訳……」
 と、モララエルが何やらぶつぶつ呟き始めた。
 何だ。
 まだ死んでなかった―――

 ―――!!

「皆!!今すぐ船から飛び降りろ!!!」
 全身を危険信号が駆け巡った。
 ヤバい。
 何か分からないが、とにかくヤバい。
 こいつ、最初から死ぬ気で―――

 刹那、モララエルの体が激しく発光した。



     ・     ・     ・



「……」
 俺は水面から顔を出しながら、木端微塵になった船の残骸を見つめていた。
 あの男…自爆なんてはた迷惑な真似しやがって…!

「でぃ君、大丈夫!?」
 ふさしぃが俺に声をかけてきた。
 頷いて、それに答える。

「他の皆は…」
 ふさしぃが心配そうに辺りを見回す。

「…酷い目に逢ったモナ〜。」
「死ぬかと思ったぜ…」
「全く…やってられなぃょぅ。」
 ぃょぅ達が、それぞれ水中から顔を出した。
 どうやら、皆無事みたいだ。

「…しかし、面倒な事になったわね。」
 ふさしぃがうんざりといった顔で呟く。
「ああ。こっからは水泳大会をしなきゃならないようだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが肩をすくめた。
 しかし困った。
 こんな所で時間と体力を無駄にする事になるのはかなり痛い。

「―――皆、あれを!」
 その時、ぃょぅが不意に向こうの方を指差した。
 見ると、一艘のボートが俺達に近づいてくる。
 良かった。
 渡りに船とはまさにこの事…


「―――!!!」
 しかし、その俺の希望は無残にも打ち砕かれた。

 ボートに乗っていたのは、トラギコと、倒れているみぃだった。
 俺は思わず我が目を疑う。
 何故だ。
 何故、あのボートに「奴」が「あいつ」と共に乗っている!?

「―――ッ―――!!」
 腕をスタンド化。
 強化した腕で水を掻き分け、水面を弾いてトラギコに飛び掛かる。

「『オウガバトル』!」
 奴の目前まで迫った所で、俺の両腕が切り飛ばされた。
 バランスを崩して水面に激突し、腕だけが遥か彼方へすっとんで行った。

「ここではやらねぇ。
 この女が大事なら、精々追いかけてくるんだな…」
 トラギコが嘲りの笑みを浮かべて呟く。
 させるか。
 脚をスタンド化。
 脚の力だけで再び突っ込む。

「……!!!」
 しかし、今度は両足をちょん切られた。
 文字通り手も足も出せなくなり、俺は無様に海を漂う。

「っ貴様!待つょぅ!!」
「待ちなさい!!」
 ぃょぅ達が追いかけようとするも、
 流石に人間の泳ぎの速さではボートには追いつけない。
 見る見る距離は引き剥がされ、そしてついにはボートは見えなくなった。


「―――ァ―――ッ―――!!!」
 俺の心にどす黒い感情が渦巻き、闇に向かって、ただ、叫ぶ。
 そしてそれしか出来ない自分に、俺は心の底からの憎しみをぶつけた。



     TO BE CONTINUED…

90ブック:2004/04/25(日) 00:31
     救い無き世界
     第七十四話・斗縛 〜その一〜


 俺達は一つの島まで泳ぎ着いた。
 俺の手と足は、あの後すぐに生え揃っていた。

「…ここで、いいのかょぅ。」
 ぃょぅが俺に尋ねてくる。
「……」
 俺は一つ頷いた。
 間違い無い。
 『矢の男』はここにいる。
 そして、みぃとトラギコの野郎も…!

「でぃ君…」
 ふさしぃが心配そうに俺に声をかけた。

 …大丈夫だ。
 トラギコの奴はまだみぃを殺してはいない筈だ。
 ただ殺すだけなら、あのボートの上で殺している。
 俺は必死に自分にそう言い聞かせて、何とか心の平衡を保とうとした。

 …落ち着け。
 怒りに身を任せたら、『デビルワールド』が出てきてしまう。
 押さえ込め、激情を。
 あいつを、みぃを助けるまでは…!

「…しっかし、こりゃとんだ大事だな。」
 ギコえもんが呆れたように呟く。
 その理由は明白だ。
 この島を中心に、想像を絶する程の思念が渦巻いているのが分かる。
 恐らく、世界中の思念が、『神』とやらの力となる為に…

「……!!」
 体の内側を食い破られそうになる感触。
 出るな…
 まだ出てくるな、『デビルワールド』!!

「でぃ君!大丈夫モナか!?」
 小耳モナーが俺の肩を支えた。
「……」
 俺は力なく頷いてそれに答える。

 急がなければ。
 もう、俺に残された時間は、殆ど無い。

91ブック:2004/04/25(日) 00:33



     ・     ・     ・



 私の意識がいきなり現実に引き戻された。
 ゆっくりと瞼を開けると、ランプによって薄暗く照らし出された部屋が
 目に映像として映し出される。
 ここは…?
 どこかの、お屋敷?

「…う……」
 呻き声を上げて、身を動かそうとする。
 しかし、私の体はロープのようなものによって縛られており、動けない
 …ああ、そうだ。
 確か、いきなり孤児院であった人が私の前に現れて…

「起きたか。」
 私の横から声がかかる。
 反射的に、私はその方向に顔を向けた。

(あなたは…)
 そう言おうとして、私はようやく猿轡を噛まされていた事に気がついた。
 これでは、満足に喋る事すら出来ない。

「…舌を噛み切らないなら口のものを外してやるが、どうする?」
 私は少し逡巡した後、観念して顔を縦に振った。
 その人がゆっくりと私に近づき、猿轡を外す。

「…どうして、こんな事を。」
 私はその人に尋ねた。
「言ったろ。あのでぃの野郎に復讐する為だ。」
 その人は当たり前といった風に答える。

「…!やめて下さい!
 あの人が、一体何をしたというんですか!!」
 私は無駄と知りつつも必死に訴えかけずにはいられなかった。
 この人の目は、思い詰め、覚悟を決めた目だ。
 赤の他人の私が何か言った所でその考えを変える事は不可能だろう。
 しかし、それでもでぃさんを傷つけさせる訳にはいかない。

「…『何をした』、だって?」
 その人の気配が一瞬にしておぞましいものに変わる。
 まるで、全てを焼き尽くすような炎のような…

「何をした?あいつが何をしただと!?
 この期に及んで何をしたと言うってのか!?
 俺の親父を殺しておきながら!!
 俺のお袋を殺しておきながら!!
 何をしたとお前は聞くのか!!?」
 その人は私の首を両手で締め上げた。
 息が無理矢理止められて、目の前が白く霞む。

「…っと、危ねぇ危ねぇ……
 ここで殺したら、せっかくここまで連れてきた意味が無くなっちまう。」
 その人はさっきまでの殺意を嘘のように中に押し込んでしまうと、
 私の首から手を放した。

「…でも、あれは、不慮の事故みたいなものです……!
 でぃさん達は、あそこの人達を守ろうと…」
 咳き込みながらも、私は何とかその人にその事を伝えようとした。

「悪いが、そんな事はもう関係ねぇのさ。
 あいつは孤児院に来た。
 そいて、そこで闘って、親父とお袋を巻き込んで殺した。
 あのでぃが何をしたかった、とか、
 もしあのでぃが来なかったら、とか、
 たらればの話なんざしてねぇんだよ。
 問題にしてるのは、奴が来て、結果親父とお袋が死んだという事実だけだ。
 そしてそれを理由に俺は奴に復讐する。」
 一点の曇りも無い表情で、その人は答える。

92ブック:2004/04/25(日) 00:33

「その為に、俺はお前を殺す。
 でぃへの復讐の為だけに。
 俺を恨んでくれて構わん。俺を憎んでくれて構わん。俺を軽蔑してくれて構わん。
 お前にはその権利がある。
 俺も、その行為を正当化したり、被害者ぶったりするつもりは無い。
 俺のやるのは、犬畜生にも劣る外道な行為だ。
 それで地獄に堕ちるというならば、進んでこの身を奈落に堕としてやる…!」
 なんて可哀相な人なのだろう。
 私はふとそんな事を考えてしまっていた。
 この人は、決して根っからの悪人なんかじゃない。
 ただ、間違えてしまっただけなのだ。

 …いや、この人は本当は間違っていないのかもしれない。
 だって、この人の亡くしてしまった人を想う気持ちは本物だ。
 それを、何も関係の無い私が間違ってるとかそうでないとか判断出来るものか。


「……!」
 その時、張り裂けそうな圧迫感がそこら中に広がった。
 何、これは…!?
 この屋敷の奥に、何かとてつもないものが居る…!

「…ふん。もうすぐといった所みたいだな。
 それとも、あのでぃの中の『化け物』に共鳴しているのか…」
 その人は腕を組んで呟いた。
「…!あなたは、なんでこんな恐ろしい事に手を貸すんです!?
 このままだと取り返しのつかない事になるかもしれない事位、
 分かっている筈です…!」
 私は縛られた体をばたつかせながら叫んだ。
 どうして。
 あの孤児院にいる人達だって、この人にこんな事をして欲しくない事だって、
 分かっている筈なのに、どうして。

「…金を、貰ったからだよ。」
 その人が、初めて悲しそうな目を見せた。
 お金。
 この人は、ただそれだけの為に…

「…さて、お喋りはここまでのようだな。」
 その人が部屋の入り口のドアに視線を移す。
 その直後、ドアが勢いよく開け放たれた。



     ・     ・     ・



 俺は屋敷のドアを勢いよく開け放った。
 中に、トラギコと縛られているみぃの姿が見える。
「ようこそ、我らが別荘に。海水浴は楽しんだか?」
 トラギコが俺達の方に向き直って話しかけてくる。

「貴様!みぃ君をすぐに放すょぅ!!」
 ぃょぅ達が部屋の中に駆け込もうとする。
「動くな!!」
 そのトラギコの叫びに俺達は動きを止めた。

「…この部屋に入っていいのはでぃだけだ。
 それ以外の奴が一歩でも足を踏み入れたら、その瞬間この女の首を落とす。」
 トラギコが殺気を込めた視線を俺達にぶつけてくる。
「…ゆっくりとこっちに来いよ、でぃ。妙な事は考えるなよ。」
 その言葉に従い、俺は一歩一歩確かめるようにトラギコへと歩み寄った。
「でぃさん…!」
 みぃが俺に訴えるような視線を向けた。
 大丈夫だ。
 今、助けてやる。

93ブック:2004/04/25(日) 00:34

「止まれ。」
 トラギコが腕を突き出す。
 俺はその場で足を止めた。
 俺と奴との距離は、大体6〜7メートルといった所か。

「…ふん、もう手足が生え揃ったか。
 相変わらずの『化け物』っぷりだな。」
 トラギコが含み笑いをする。
 しかし、その目は微塵も笑っていない。

「……」
 俺はみぃに視線を移した。
 幸いにも、大した怪我はしていないようだ。
 良かった。
 こいつさえ無事ならば、それだけで…

「…これから、お前の手足をぶった斬る。
 新しいのが生えてきたら、それをまたぶった斬る。
 生えてこなくなるまでそれを繰り返してやる。
 そして、達磨になったお前の目の前で、先ずは後ろの奴らを殺す。
 最後に、お前の大切な女をじわじわいたぶりながら殺してやるぜ…!」
 トラギコの背後に奴のスタンドのビジョンが浮かび上がった。

 …こいつは、俺だ。
 俺と同じように、大切な人の為に闘っている。
 違いは、それが生きているか死んでいるかって事だけだ。
 そして、こいつが守りたかったのは、
 こいつを大切にそだてていたのは、
 こいつが大切だったのは、俺の―――

「…反撃したら女の命はねぇぞ、なんてセコい事は言わねぇから安心しな。
 お前を実力で叩き伏せなきゃ、本当の絶望は与えられねぇからな。
 …ただし、後ろの奴らが手を出したらその保証は無いぜ。」
 トラギコがぃょぅ達を見据えた。
 俺は振り返り、『手を出すな』という意味を込めた視線をぃょぅ達に送る。

 安心しろ。
 こっちも俺以外の奴にこの闘いの邪魔をさせる気は無い。
 いや、こいつは俺一人で闘わなければならない。

 …本当は、こいつに殺されても仕方が無いと思っていた。
 俺の、
 こいつの、
 両親が死んだのは、
 他ならぬ俺の所為だ。
 だから、こいつは俺を殺していい。

 ―――だけど、
 だけど。
 みぃに手を出すというならば話は別だ…!

「…最後に、一つ聞かせろ。」
 と、トラギコが俺に紙とペンを投げ渡した。
「…何でお前は、孤児院にやってきた?」
 ……



『…お父さんとお母さんを、守りたかったからだ。』
 俺はそう書いて、その紙をトラギコに見せた。

「…っは、ははははははははははははははははは。
 はぁははははははははははははははははははははは…」
 トラギコは笑い転げる。
 それは、とても空虚な笑い声だった。

「そういう事か…」
 トラギコが笑うのをやめて、俺に向き直った。

「…いいさ。それじゃあ、そろそろ始めるとしようぜ、『化け物』。」
 そして、俺とトラギコとの間にある空間が一気に収束した。



     TO BE CONTINUED…

94ブック:2004/04/25(日) 17:05
     救い無き世界
     第七十五話・斗縛 〜その二〜


「……!」
 俺の左腕が一瞬にして切断され、宙を舞う。
 痛みを感じている暇は無い。
 残った右腕でトラギコの顔面向けてパンチを放つ。

「!!!」
 しかし、トラギコの眼前で俺の拳は壁にぶつかったかのように動きを止めた。
 馬鹿な。
 目の前には何も無いのに、何故…

「……!!」
 そんな事を考えた瞬間、今度は右腕がすっ飛んだ。
 ヤバい。
 後方に跳んで一旦距離を離す。

「……!」
 瞬く間に再生される両腕。
 もはや俺は人間では無い。

「さて、あと何回ぶった斬ればいいんだ?」
 トラギコが一気に間合いを詰める。

(ちっ!!)
 地面を蹴り、右に跳躍する。
 奴の詳しい能力は分からないが、接近されるのはかなりまずい。

「……!!」
 しかし回避は間に合わなかったらしく、空中で俺の両足が真っ二つになった。
 空中で脚を再生。
 そのまま生えたばかりの両足で着地する。

「!!!!!」
 しかし、着地した直後にすぐ後ろまで来ていたトラギコに再び両腕を切断された。
 首を狙えばケリがついていたかもしれないのに。
 こいつ、マジで俺を達磨にするつもりか…!

「でぃ君!!」
 ぃょぅが部屋の中に駆け込もうとした。
「……!!」
 トラギコが裂帛の気合を込めた視線をぃょぅにぶつけ、
 ぃょぅの動きを止める。

「…外野は黙ってて貰おうか。」
 トラギコが冷淡な声でぃょぅ達に告げた。
「……」
 俺もぃょぅ達の方に視線を移す。

 来るな、ぃょぅ。
 こいつの狙いは俺だけだ。
 それに、あんた達が踏み込んだらこいつは躊躇無くみぃを殺す。

95ブック:2004/04/25(日) 17:05

「続きだ。」
 トラギコが俺に向かって駆け出す。
 俺は覚悟を決めて、動かずに奴を向かえ討つ事にした。
 奴の接近に合わせて右でのストレートを撃つ。

「……!!」
 斬り飛ばされる右腕。
 構わず左のフック。
 斬り飛ばされる左腕。
 右脚でのミドル。
 斬り飛ばされる右脚。
 右腕の再生完了。
 倒れる訳にはいかない。
 左脚一本でバランスを保つ。
右腕でのパンチ。
 斬り飛ばされる右腕。
 左腕の再生完了。
 右脚の再生完了。
 左腕でのアッパー。
 斬り飛ばされる左腕。
 バックステップ。
 間に合わない。
 左足の半分近くまで斬り込みが入る。
 よし。
 まだ左足は繋がったままだ。
 右腕の再生完了。
 左脚でのハイキック。
 斬り飛ばされる左脚。
 右脚で体を支える。
 右腕でのスマッシュ。
 斬り飛ばされる右腕。
 左腕の再生未完了。
 生えかけの左腕をトラギコに突き出す。
 斬り飛ばされる左腕。
 まずい。
 再生が追いつかなくなってきている。
 左脚の再生完了。
 そのまま後方に―――


「……!!」
 スタンド化した脚で後方に跳躍。
 トラギコとの距離を出来る限り広げて、着地する。
 神経を集中させ、両腕の再生を急いで完了させた。
 糞。
 流石に再生するのが遅くなっているようだ。

「どうした、『化け物』。それまでか?」
 トラギコが嘲るように言い放つ。
 その足元には、斬り飛ばされた俺の脚や腕が大量に転がっている。
 常人なら気が狂いそうな光景だ。

 …どうする。
 俺には奴の攻撃が見えない。
 このままでは嬲り殺しだ。
 考えろ。
 奴の攻撃の正体を。
 いや、正体は分からなくてもいい。
 何とかして奴の攻撃を事前に察知するんだ。
 だが、どうやって?
 落ち着け。
 考えろ。
 こうして攻撃を受けている以上、何かしらのものがそこには存在している筈だ。

 …待てよ。
 それなら、ひょっとして…!

96ブック:2004/04/25(日) 17:06

「―――ッ―――!!」
 俺は即座に地面を叩き割った。
 その衝撃で、床の破片や砂埃等が空中に舞い上がる。

「……!」
 トラギコが一瞬眉をしかめる。
 どうやら、俺の狙いを悟ったようだ。

「……!!」
 俺はトラギコに飛びかかった。
 奴が見えない何かで攻撃しているというのなら、
 その部分が舞い上がった砂埃に浮き彫りになる筈―――

「!!!!!!!」
 直後、俺の両足が俺の体から切り離された。

「―――!!」
 そのまま無様に地面を転がる。
 何故だ。
 見えなかった。
 何も、見えなかった。

「浅知恵だったな。」
 トラギコが俺を見下ろす。
 ヤバい。
 すぐに脚を再生…

「!!!!!!!」
 しかし脚が生えきる前に、トラギコによって生えかけの脚を切断された。
 同時に、両腕も切断される。

「教えといてやるよ。
 俺の能力はコンマ数ミリ単位で空間同士を分断する事。
 つまり、砂埃があがった所で、見えるのはコンマ数ミリの線だけだ。
 そんな細い線が、この薄暗い部屋で見えると思っていたのか?」
 俺の手足が再生しようとしては、トラギコはそれらを次々と両断していった。

「でぃ君!!」
 ぃょぅがトラギコに飛び掛かる。
 馬鹿、来るな。
 こいつは―――

「ぐああああああああああああ!!!!!」
 右脚を斬り飛ばされ、ぃょぅが絶叫した。
「ぃょぅ!!」
 ふさしぃ達がぃょぅに駆け寄る。

「外野は黙ってろって言っただろう?
 まあいいや。
 もうすぐこのでぃも達磨になる。
 そしたらすぐに楽にしてやるよ。」
 トラギコはぃょぅを一瞥もしないまま、俺の体を切り刻み続ける。

「もう、やめて下さい…!!」
 その時、みぃが悲痛な叫び声を上げた。
 トラギコが、俺を切り裂きながらみぃに顔を向ける。

「あなたは私を殺したいのでしょう!?
 だったら、私だけ殺して下さい!
 だから…
 でぃさん達を、これ以上傷つけないで…!」
 阿呆か、お前は。
 こいつはそんな事が通用するような相手じゃない。
 俺の事は心配するな。
 こんなの、ちっとも痛くなんかない。

 …何で、
 何でこいつはいつもいつも、
 自分より人の心配ばかり……

「くっ、ははははははははははははは!!
 どうしたでぃ!?
 一瞬目の色が変わったぞ!?
 そんなにこの女が大事かよ!?」
 トラギコが声高々に笑い出した。

「そうだその目だ!
 それでこそこの女を殺し甲斐がある!!
 この女をお前の目の前で殺してこそ、俺の復讐は完成するんだ!!!」
 …やめろ。
 みぃに、手を出すな!
 あいつは無関係の筈だろう!!
 殺すなら、俺だけを…

97ブック:2004/04/25(日) 17:07

(何をやっている?こんな『人間』相手に。
 そんな事で『神』とやらと闘うつもりか?)
 『デビルワールド』…!
 やめろ、出てくるな!!

(本当に出てこないでいいのかな?
 このままだと、お前の大切な者達は全員死ぬぞ?)
 …!

「ははははははははははははははははは!!
 どうした『化け物』!!!
 再生が遅くなっているぞ!?
 もうお仕舞か!?」
 トラギコが狂ったように俺の両腕両足を刻み続けた。
 もう、俺の体には少しも力が残されていない。

(無理をするな…
 私を押さえ込むのはもう限界に近いのだろう?
 迷わず私を解き放て。
 それで全てが『終わる』。)
 黙れ!
 俺は絶対にお前を自由になどさせない!!
 俺は、俺はあいつを守りきってみせる!!!

(矛盾しているぞ?
 今私を出さねば、あの女は死ぬ。
 そんな事は分かりきっている筈だろう。)
 違う!
 俺は、俺は…!!

「…ここまでだな。」
 トラギコが俺を切り刻むのをやめ、ふさしぃ達に向き直った。
「さっき言った通り、まずは後ろに居たあいつらから殺す。
 自分の無力さに打ちひしがれな。」
 トラギコがふさしぃ達に歩き出した。

「……!!」
 ふさしぃ達が身構える。

 させない。
 しかし、もうどれだけ力を入れても腕と脚は生えてこなかった。
「―――ッ―――ァ―――!」
 俺は涙を流しながら叫んだ。
 しかし、体は一ミリたりとも動かない。

(…どうする?
 ここからはお前の意思だ。
 私は自分から出てくる事はもうしない。
 私を出すのはお前の意思だ。
 さあ、どうする?
 どうするのだ、でぃ。)
 …俺は、俺は―――

98ブック:2004/04/25(日) 17:07



     ・     ・     ・



 その時、俺は腹の辺りに異物感を感じた。
「―――あ…?」
 腹のあたりに目をやってみると、そこからは異形と化した腕が突き出ていた。
「―――馬―――!」
 馬鹿な。
 これは、あのでぃの腕!

「!!!!!!」
 俺は急いで振り返った。
 でぃは相変わらず地面に倒れたままだ。
 じゃあ、
 じゃあこの腕は一体どこから…

「!!!!!!」
 その時、俺は我が目を疑った。
 切り落とした筈のでぃの腕や脚が、宙に浮かんでいる。

「なぁ!?」
 その腕や脚が次々と俺に襲い掛かる。

「驚く事は無いだろう?
 見ての通り、この腕や脚はスタンドと同化している。
 ならば、スタンドである以上精神力で自在に動かすのは不可能ではない。」
 でぃの居る場所から声が聞こえてくる。
 違う。
 感覚で分かる。
 この声は、「でぃのものじゃない」。
 もっと、
 もっとおぞましい何かだ。

 何だ。
 何なんだ、これは。
 『化け物』め。
 本物の『化け物』め…!

「『オウガバトル』…!!」
 目の前の空間を分断。
 これで空間と空間が切り離されて、腕や脚は絶対に俺の所までは―――

「空間の境界面を、『終わらせる』。」
 『化け物』が、呟いた。

99ブック:2004/04/25(日) 17:08



     ・     ・     ・



 俺はトラギコの前に立ち尽くしていた。
 体の至る所に穴を開けられ虫の息となったトラギコが、
 なおも力を失っていない目で俺を睨み返す。

「…ば…けも……の…め……」
 トラギコが息も絶え絶えに呟いた。

 俺の腕と脚は既に再生していた。

 …しかし、
 もう、どれだけ押さえ込もうとしても、
 元の俺の醜い腕と脚に戻らない。
 完全に、『化け物』の腕と脚になってしまっていた。
 もう二度と、俺は元の姿に戻れない。

「……」
 俺は何も言わずにトラギコを見据えていた。
 何故こんな事になってしまったのだろう。
 こいつが俺の両親を守っていてくれた筈なのに。
 こいつも俺の両親の子供なのに。
 死ぬべきなのは、俺だった筈なのに。

「……あ…」
 トラギコがポケットから何かを取り出し、その手を俺の前に差し出した。
「……?」
 俺は黙ってその差し出された手を握る。

「…あい…つらに……渡…し……て……」
 血を吐きながらも必死にその言葉を絞り出すと、
 トラギコは俺にあるものを手渡した。

「……」
 それを受け取り、俺は頷く。
「わ…り……な…」
 トラギコは、それっきり動かなくなった。


 …あいつが最後に俺に渡したもの。
 それはしわくちゃで、血塗れになった一万円札だった。



     TO BE CONTINUED…

100丸餅:2004/04/25(日) 18:43


「オ見知リ置キヲ、二郎様」
「様なんて止めてくれ、こそばゆい。…で、B・T・Bだっけ?」
 二郎の問いかけに、何でもない事のようにシャマードが答えた。
「そ。能力は…『鼓動の探知と干渉』。
 二郎の『嘘の鼓動』を見抜いたり、私の鼓動を『人間の鼓動』に変えたり。
 まあ、人工心肺やペースメーカーなんか比べ物にならないような精度で、だけどね」」
「おいおい…良かったのか?そんなホイホイスタンドを見せて」
「ゴ心配ナク。貴方ノ鼓動ハ トテモ澄ンデ オラレル。裏切ル事ナド アリエマセン」
 小さく舌打ちを一つ、コンクリの柱に手を置いた。
スタンド能力をさらけ出すと言う事は、弱点もさらけ出すという事に等しい。
「…そこまで信用されたからには、こっちも『信用』を見せるのが道義ってもんだろ」
 そう言って、柱から手を離した。
「俺のスタンドも、ちょっとだけ見せてやる。…『フルール・ド・ロカイユ』」

 ぽこりと、手を置いた柱の一部が小さく盛り上がった。
柱に生まれた小さなコブは細く長く成長し、一本の植物を形作る。
 茎が伸び、葉を広げ、先端で固く閉じていたつぼみが優しく開き―――

「ヴィジョンは無いが、能力はこんな感じの『石の花』の生成。はい、あげる」

 ぺきん、と二郎に手折られた。
柱に残った茎の一部はひゅるひゅると引っ込み、元通りに柱に収まった。
 シャマードの方はと言うと、二郎に渡された手元の花を弄んでいる。
コンクリートの色と感触を持ってはいるが、その形はどう見ても自然にあるような花。葉脈まで再現されている。
「…信用、してくれたか?」
「元々B・T・B使えば嘘は見抜ける。そっちこそ、いいの?」
「お前さんも、嘘ついてるように見えないしな。何だったら汗をなめさせて…待てまてマテ冗談冗談」

  こうして、二人の夜は更けていく。

  熱き鼓動と東洋の花。

  静かな時が、静かに過ぎる。

101 丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:46


  最初に出会った頃の彼を、私は『変な奴』と感じた。


(…アノ少女デス。コチラニ興味ヲ)
(了解)
「…はいーいらっしゃーい。キレイなキレイな石のお花だよー。
 お祭り限定だよー。ここでしか買えないよー。
 ちょっとそこのお嬢ちゃーん。見てって見てってー」
「んとね、あのね…」
「あららー、足りないの?しょうがないなぁ、オマケしてやろう」
「ありがと、おにーちゃん」
「まいどー」
(しかし燃費が良いってのは便利だなー。本体じゃない奴の心音エネルギーだけで活動できるとはね)
(御主人様ハ出歩ケマセン カラネ。…シカシ二郎様、商売上手デスネ)
(なーに、元手はタダだし、お前さんの能力で欲しがってる奴が判るからねー)
(ア、アノ少年モ欲シガッテマス)
「了解…はい、いらっしゃーい。石のお花だよー、キレイだよー」


  『波紋使い』だというのに、『吸血鬼』である私の主人に微塵も敵意を抱かなかった。


「シャマードー。醤油取ってー。その黒いのー」
「…二郎…?食卓にあるコレは何?」
「…マサカ食ベル物デハ無イ デショウナ…?」
「日本文化『トロロ汁』!旨いぞー」
「やだ。こんなドロドロネバネバした白い半液体なんて」
「よし、その言葉で思いついた。フランクフルトにかけて食べて…」
「変態デスカ貴方ハ」
「何を言う。ハーレー祭りじゃバナナにコーティングしたチョコをどれだけ早く舐められるかと言う競技が…」
「あってたまるかこのサノバビッチ!」


  下ネタが好きな人間だったが、一度も私の主人をどうこうしようとはしなかった。


「シャマードが風呂に入ってる時…窓の隙間に目を近づけるのは」
「イケナイ事デス」
「うぇあっ!」
「アア、御心配ナク。私ハ自立型ナノデ、マダバレテハ オリマセン。…ナノデ、バレル前ニ オ止メ下サイ」
「止めるなB・T・B!男性型ならお前もわかるだろ?男の性ッ!」
「…ト言ワレ マシテモ、私ニ下半身ハ アリマセンシ…」
「全部聞こえてるよー」
「………………………」「ゴ愁傷様、ト言ワセテ頂キマス」


  …まあ、吸血鬼相手にそんな事する程無茶苦茶では無かっただけなのかもしれないが。

102丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:48



「ねえ」
「ん?」
「…やっぱ、何でもない」
「ん…?そうかい」


  彼に拾われてから、一月が経った。
  いつからだっただろうか、私の主人が彼に惹かれ始めていたのは。
  暖かい食事をくれる。傍らにいてくれる。味方になってくれる。
  そんな暮らしがいつまでも続くと思ってしまった。
  彼女は、自分が人間でいられると考えてしまった。
  それが愚かな考えであるなど、言う事ができなかった。


彼が裏切らない保証など、存在しなかったのに。

それなのに、彼女は疑わなかった。

だから、私はいつも代わりに彼を疑っていた。

だから、アパートの周辺に『殺気』のビートが集中していても、あまり驚きはしなかった。



   一九八四年 四月九日 午後十一時三十分

   天候・晴れ 気温・十一度


           ソウルイーター
「狙撃班…ギコだ。『魂喰い』は補足しているな?」
『あいよー。スコープのど真ん中』
無線越しのざらついた声に頷き、腰の拳銃に手をやる。
三八口径純銀弾…これならば、吸血鬼の肉体にもダメージが与えられる。
安全装置を解除、スライドを引いて初段を装填。
後ろに控える数人の男達に目配せを交わし、口の中だけで呟く。
 デューン
「『砂丘』」
「う゛あ゙あ゙……」
ゆらりと、ギコのスタンドが姿を現した。
石色の肌をした、女性型のスタンド。
服はまとっておらず、体中をベルトのような物で隙間なく拘束された上に顔面には猿轡と目隠しがされている。
「う゛ぅーうぅう゛…」
猿轡の隙間から、僅かに声が漏れた。
拘束具に全身を絡め取られた女性の髪を優しく撫で、無線に一言呟いた。

「撃て」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

103丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:52
                                ∧∧
                            o、_,o (゚Д゚#) 観念しろこの吸血鬼!
       ∩_∩                 o○o⊇⊂ |__
      (;´Д`) 追いかけて来るなー!  /___/| /  丿 |o
      ⊂    つ               γ,-/| |UU'//耳
          と_人. 〈                | |(),|_| | |/二)
           \,)               ゝ_ノ ̄ ̄ ̄ゝ_ノ


ルナ・シャマード・ミュンツァー

ギコに追われる吸血鬼の女性。モナー族。
血も吸わなくていいし太陽も平気。二郎に拾われる。
スタンドB・T・Bを使用し、人間社会に紛れ込む珍しいタイプ。
B・T・Bの助けを借りているものの、吸血鬼の本能を押さえ込んでいるのは自分の意志によるもの。
本編で、「マルミミの両親は両方丸耳モナー」と言ってしまったのを思いだし大後悔。
名前の区別ができないッ!_| ̄|●
しょうがないので、不本意ながら固有名を名乗らせる事に。
ちなみに、シャマードが名前でミュンツァーが名字。
『ルナ』は…ミドルネームのようなものと思ってください。
            コード ソウルイーター
SPM危険度評価C・呼称・『魂喰い』


ギース・コリオラン

SPMの幹部。米国人。二郎とは多少の面識あり。
吸血鬼を憎んでいる。通称ギコ。
ゾンビを増やさないかぎりSPMは吸血鬼に対して基本的に野放しだが、その方針に反対している。
そのため、シャマードを追うのはあくまで自分の独断。
             コード  マリア
SPM危険度評価D 呼称:『聖母』

104丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:54
   (・∀・) 本文中に出てきた『ハーレー祭り』。
       読んで字の如く、ハーレー大好きな人たちが集まるお祭りです。
       JOJO立ちのような物ですね。


        │ あってたまるかと言われてましたが、
        │ 『チョコバナナ舐め』は実在します。
        └─┬─────────y───────
            │チョコバナナのチョコをどれだけ早く
            │舐め取れるか、と言う競技で、手は後ろに回すのがルール。
            │キャー、ヒワイー!
            └y───────────────────



               ∩_∩    ∩ ∩
              (*∩∀) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
               ____Λ__________

               ちなみに当然ですが、女性限定。
                 男がやったら暴動が起きます。               


      
     マルミミ君ナラ カワイイ カラ OKデチヨ    ∩_∩
        ∧,,∧  ∧_∧          (´Д` ;) ヒィィィィィッ
        ミ,, ∀ ミ (,, ∀ )          (  つつ 
        ミu甘u@(u甘u)        ( ̄__)__)

ぎゃあふさたんたちはマルミミ君の涅槃にスッウィートなチョコを塗りたくった黒い巨塔を

105丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:56
 〜普通に喋る自作自演のSPM講座〜

┌────────────―――――――
│ 作中でたびたび出てくる『SPM危険度評価』
│ ちょっと説明させて頂きます。
 \_   _____
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

  『危険度』って何じゃい

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  

┌────────────―――――――――――――――――――
│ SPM財団では、発見したスタンドをいろいろとカテゴリー分けしています。
│ その一つが、五段階の『危険度』です。
 \_   ______________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

 A〜Eまでの五段階。
 あくまで目安。
 危険度が高い=強い ではない。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

106丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:57
┌────────────――――――――――――
│ 基準となるのは、『どれだけ犯罪に向いているか』です。
│ 本体の性格も加味されます。
 \_   ____________________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 A−町一つを滅ぼせる能力と、危険な思想を持つ
 B−実際に多数の犯罪を行っている
    もしくは、危険な能力を持っている
 C−証拠を残さず人が殺せる
 D−人殺しに向かないが、ちょっとした犯罪が可能
 E−せいぜい覗き程度。プロの空き巣の方がよっぽど怖い

     ※何度も言うけど、あくまで目安。例外もたくさん。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

107丸耳達のビート Another One:2004/04/25(日) 18:59

┌────────────―――――――――――――――――――
│ ついでに、<兵士>と<仲介人>の違いを。
│ 私やフサ、『チーフ』が<兵士>、茂名さんやマルミミ君が<仲介人>です。
 \_   ____________________________
     |/ 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  ソルジャー
 <兵士>…SPMの構成員。スタンド犯罪者の捕縛が主な仕事。
       毎月給料を貰っている。
       戦闘は断ってもいいが、違約金を払う義務がある。
       特権が多いが、資格取得条件が厳しい。

  エージェント
 <仲介人>…一般人。情報収集・<兵士>のサポートが主な仕事。
        新しいスタンド使いをSPMに登録させたり、
        情報や援助をSPMへ提供してやると
        いくらかの報酬がもらえるシステム。
        たまに戦闘要請が来るが、断ってもペナルティ無。
        束縛も少なく、信用か能力があれば簡単に入れる。

 スタンド使いだけでなく、一般人も多い。
 どちらも、SPMがスポンサーをやっている宿泊施設、
 もしくは交通機関が無料で使える等の特典が。

 ※この設定は『丸耳達のビート』独自の物です。
 流用しようが無視しようがどちらでもどうぞ。


(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

108ブック:2004/04/26(月) 01:37
     救い無き世界
     第七十六話・終結 〜その一〜


 …後悔は無い。
 今日この場に至るまでの人生の道程に、後悔はしていない。
 正しい事ばかりではなかったかもしれない。
 楽しい事ばかりではなかったかもしれない。
 間違った事だらけだったのかもしれない。
 だけど、それでも私は後悔していない。
 私は、これまでの人生を、
 闘ってきた事を、
 守ってきた事を、
 負けてしまった事を、
 逃げ出してしまった事を、
 SSSで、皆に逢えた事を、
 心の底から誇りに思っている。
 だから、ここまで来れた。
 だから、ここで闘える。
 皆が、私を今日この場に立たせてくれているんだ。
 だから、私は、
 ここで命が尽きる事になっても、後悔は、無い。



 私は扉をゆっくりと押し開けた。
 何も無い、殺風景な広い部屋の奥に、
 『矢の男』は静かに椅子に座っていた。

「お待ちかねみたいだな、ゴルァ。」
 ギコえもんが『矢の男』を見据えて言った。

 私はいつ戦闘が始まってもいいように、
 先程みぃ君にくっつけて貰ったばかりの右足の状態を確かめた。
 …多少痛むが、闘う分には問題無い。
 切り口がきれいだったのが、幸いしたようだ。

「…ここに来た、という事は……
 モララエルもトラギコも、敗れてしまったのですね。」
 『矢の男』が座ったままで答える。
 渦。
 奴の周囲に渦巻く膨大な渦。
 しかし、それだけの威圧感にも関わらず、周囲は不気味な位の静寂に包まれている。

「…残っているのは、お前だけかょぅ。」
 私は『矢の男』に尋ねた。
「ええ、そうですよ。」
 『矢の男』が眠そうな目で答えた。
 周囲には私達以外の人の気配は無い。
 おそらく、こいつの言っている事は本当だろう。

「それなら大人しく観念なさい。
 一人じゃ何も出来ないでしょう。」
 ふさしぃが『キングスナイト』の剣の切っ先を『矢の男』に向けた。

「…観念する?
 ふ…ははははは。それは遅かったですね。
 もはや、私の能力は完成した。」
 『矢の男』のすぐ傍に、分厚い辞典のような本と、
 光り輝く翼を持った男のようなビジョンが浮かび上がった。

109ブック:2004/04/26(月) 01:37



「我が銘称(な)を呼べよ。
 我が業(な)を呼べよ。
 我が概念(な)を呼べよ。」

「我を信奉(もと)めよ。
 我を切望(もと)めよ。
 我を懇願(もと)めよ。」

「我を自覚(し)れよ。
 我を直感(し)れよ。
 我を盲信(し)れよ。」

「我は『段落の頭』。
 我は『始めの一文字』。
 我は『鉤括弧開く』。
 我は『A』。
 我は『α』。
 我は『あ』。
 我は『広がる空』。
 我は『天のさらに向こう』。
 我は『果て無き世界』。」

「我は我が我こそが、
 幾千万の希望により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『無限の使者』、『可能性の権化』、『誕生の化身』、
 ―――『アクトレイザー』。」

110ブック:2004/04/26(月) 01:38



「……!!」
 ただ、それがそこにいるというだけで、
 意識ごと持って行かれそうな絶対的存在感。
 これが、『神』の力とでもいうのか…!

「…そういえば、『デビルワールド』はどうしたのです?
 この近くに居るのは感じていますが、どこに隠れているのですか?」
 『矢の男』が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「手前に教える必要は無いモナ!!」
 小耳モナーが叫んだ。
 その横で、『ファング・オブ・アルナム』が低く唸る。

「そうですか。
 いや、それは残念だ。
 今すぐにでも逢いたいというのに…」
 『矢の男』が肩をすくめた。

「手前は…
 神になって何をしようっていうんだ?」
 と、ギコえもんが『矢の男』に言った。

「中々鋭い事を聞いてくれる!
 そう、問題はそれなんですよ!!」
 『矢の男』が目を輝かせながら答えた。

「…何?」
 私はそう聞き返せずにはいられなかった。

「私はねぇ、ずっと『神』をどうやって降臨させようか、そればかり考えていたんですよ。
 その為に四方八方あらゆる手を尽くしました。
 しかし、『神』を実際降臨させてみて、ある重大な事に気づいてしまったんです。
 『神』は降臨した。
 で、それからどうすればいい?」
 『矢の男』は身振り手振りを添えながら演説するように喋る。

「全く笑えない話です。
 『神の降臨』という手段が、いつの間にか目的にすりかわっていたのですからね。」
 『矢の男』が自嘲気味な笑みを浮かべた。

「…というわけで、あなた達も『神』になったからには何をすべきなのか、
 私と一緒に考えてはくれませんか?
 あのモララエルやモナエル達を退けた力の持ち主だ。
 必ずや私の役に立ってくれる筈です。
 望むものならば、何だって与えてあげますよ?」
 『矢の男』が冗談とも本心とも取れない口調で私達に言った。

「…お前は、そんな事で……」
 私は拳をわなわなと振るわせた。
「そんな事で、何人もの人の命を奪ったのかああああぁ!!!」
 私は怒りを抑え切れなかった。

 『神』になったはいいが、何をすればいいのか分からない!?
 何だ、それは。
 貴様はその程度の考えで、
 何の意思も意志も信念も信条も思想も理想も理由も目的も持たないまま、
 ただ『神』を降臨させたいというだけで、
 永きに亘って人々を犠牲にしてきたというのか!?
 許さない。
 絶対に許さない。
 これでは、そんなチンケな理由で死んでいった人々が浮かばれない…!!

111ブック:2004/04/26(月) 01:39

「行くぞ!ぃょぅ、ふさしぃ、小耳モナー!!
 こいつはここで殺す!!!」
 ギコえもんがスタンドを発動させて、『矢の男』に飛びかかった。
 我々も、同様にそれに続く。

「『マイティボンジャック』!!」
 ギコえもんが『矢の男』に殴りかかる。
 しかし、『矢の男』は椅子から動こうともしない。
「『アクトレイザー』。」
 『矢の男』のスタンドが、ギコえもんのパンチを片手で受け止めた。
 そして、そのまま無造作に押し返す。
「!!!!!!」
 ギコえもんが、ただそれだけで遥か後方へ吹っ飛んだ。

「この…!」
 ふさしぃがその隙に横から斬りかかる。
 しかし、その瞬間『矢の男』の姿は掻き消えた。
「なっ!?」
 驚愕するふさしぃ。
 その背後から、いつのまにかふさしぃの後ろに回った『矢の男』が腕を振り下ろす。

「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 『アルナム』が『矢の男』に襲い掛かり、ふさしぃへの攻撃を止めた。

「『ザナドゥ』!!」
 そこに生まれる一瞬の隙。
 これ以上無い程の突風を『矢の男』にぶつける。
 体勢を崩す『矢の男』。

 いける。
 確かに『矢の男』とそのスタンドのパワーとスピードは驚異的だ。
 しかし、全く対処が不可能という程ではない。
 一対一ならともかく、人数で押し切れば倒せる…!

「…それで、『次にふさしぃが後ろから私を斬りつけるのをかわした所に、
 下の階に隠れていた『デビルワールド』が襲い掛かってくる』訳ですね。」
 …!?
 なんだって…!?
 今、こいつ何を―――

「余所見している暇は無いわよ!!」
 『矢の男』の言葉通り、ふさしぃが背後から『矢の男』に斬りかかった。
「待て、ふさしぃ!!
 何かがヤバぃょぅ!!!」
 しかし私の制止も時既に遅く、ふさしぃはそのまま『矢の男』を斬り裂こうとした。
 苦も無い様子でそれをかわす『矢の男』。
 その瞬間、『矢の男』の足元に罅が入り…



     ・     ・     ・



 俺の中に潜む『デビルワールド』からの感覚を頼りに、
 俺は下の階から『矢の男』の位置を探って真下から奇襲をかけた。
 床を突き破って上階に飛び出すと、『矢の男』の姿が眼前に出てくる。
 貰った。
 このタイミングでならかわせまい。
 防御した所で、大ダメージを…

「!!!!!!!!」
 しかし、俺の腕は空しく『矢の男』をすり抜けた。
 馬鹿な。
 どういう事だ!?
 こいつは間違いなく、この場所にいる筈だ。
 『デビルワールド』も奴の存在を認識している筈なのに、
 何故、何でパンチが当たらなかった!?

「本当は『私はここであなたに殺される』筈だったのですが、
 その事象は書き換えさせて貰いました。」
 『矢の男』が呟く。

「…the world is mine.(かくて世界は我が手の中に)」



     TO BE CONTINUED…

112ブック:2004/04/27(火) 02:18
     救い無き世界
     第七十七話・終結 〜その二〜


「…事象を、書き換えた……?」
 ぃょぅが訳が分からないといった顔で口を開く。

「……!!」
 俺は怯まず『矢の男』に向かって左腕を薙ぎ払った。
 しかし、やはりその腕も『矢の男』を空しくすり抜ける。

「そう、その攻撃で私の左脇腹の骨が五本粉砕される。
 しかし、その結果も書き換えている。」
 でたらめを言うな!
 それならもう一度…

「そして逆上したあなたは、続いて右のハイキックを私のこめかみに。」
 その通りだった。
 『矢の男』の言葉をそのままトレースするように、
 俺は『矢の男』に右の上段蹴りを放つ。
 またもやすり抜けてしまう攻撃。

「それを喰らった私の頭蓋は陥没、植物人間になって再起不能。
 だがその結果も書き換えている以上起こり得ません。」
 『矢の男』が微笑みながら呟いた。

「そして私の背後から『ファング・オブ・アルナム』が襲い掛かり、
 私の頚動脈を喰い千切る。しかしそれも無駄。」
 後ろから密かに接近していた『ファング・オブ・アルナム』が
 『矢の男』に飛び掛かった。
 しかし、やはり『矢の男』には傷一つつけられなかった。

「……!!」
 俺達の間に戦慄が走る。
 何だ。
 何なんだ、これは。
 単純にパワーとかスピードとか、
 強いとか弱いといった問題じゃ無い。
 「何をされているのか」すら分からない。
 まるで、俺達が何をしようと釈迦の手の平の上で玩ばれているだけのような…
 そんな絶対的な何かだ…!

「そして我が『アクトレイザー』は、『デビルワールド』の左腕を断ち切る。」
 『矢の男』のスタンドが俺に向かって腕を振り上げた。
 何の心算だ!?
 フェイントもタイミングも糞も無い、無造作過ぎる攻撃動作。
 そのまま腕を振り下ろして、俺の左腕を両断する気なのか?

 気でも違ったか!?
 いくら攻撃速度が速かろうと、
 あれだけ大きく振りかぶったら何をするのかバレバレだ。
 そんなものを避けるのは児戯にも等しい。

 ほら、来たぞ。
 見え見えだ。
 少しバックステップすれば、簡単に―――

113ブック:2004/04/27(火) 02:19


「!!!!!!!!!!」
 直後、俺の左腕は『矢の男』の予言通りに切断された。

「……!!」
 急いで後ろに跳躍し、『矢の男』から距離を取る。
 馬鹿な!
 どういう事だ!?
 俺は確かに、あの攻撃を避けようとした。
 いや、『実際避けた』。
 なのに、何で俺の腕がちょん切られているんだ!?

「どうしました?
 今のは簡単に避けられる筈だったのではありませんか?」
 『矢の男』が皮肉気に言う。

「……!!」
 俺は『矢の男』を睨み返した。
 畜生が…!
 だが、どうやってあの攻撃を俺に当てたんだ?
 糞。
 取り敢えず斬られた左腕を再生して…

「……!?」
 左腕が、再生しない!?
 何故だ。
 一体、俺の体に何が起こっている!?

「左腕は再生しませんよ。
 そういう風に書いておきましたから。」
 『矢の男』が俺を嘲るような目で見据える。
 「そういう風に書いておいた」?
 こいつ、何を言って…

「でぃ君!!」
 ぃょぅ達が駆け寄ってくる。
 来るな、お前ら。
 こんな事は言いたくないけど、こいつはお前らの手に負える相手じゃない。
 いや、同じ盤上の勝負ですらない。
 感覚で分かる。
 こいつは、比喩でなく高次元に存在している『神』同然だ…!

「傷ついた者を労わる。実に美しい光景です。
 しかしあなた方、自分が何に助力しているのか気づいているのですか?」
 『矢の男』がぃょぅ達を見据えた。
「…何ですって?」
 ふさしぃが『矢の男』に聞き返す。

「言葉通りの意味ですよ。
 そのでぃが、一体どれ程の『化け物』だか分かっているのですか?」
 『矢の男』が薄笑いを浮かべながら言う。
「それは、どういう…」
 小耳モナーがそう尋ねようとする。

「おやおや、本当は気づいているんでしょう?
 そのでぃの中に潜む『デビルワールド』の恐ろしさに。」
 『矢の男』が見下すような視線を俺に向けた。

「私も『神』の降臨の為に幾人もの人々を犠牲にしてきましたが、
 そんなものこの『デビルワールド』の目的にしてみれば
 足の小指の爪先に溜まっている垢みたいなものです。
 この『悪魔』はそれほどまでに危険な存在なのですよ。
 世界の敵と言っても過言ではない。
 それは、近くにいたあなた方が一番よく知っているのではないですか?」
 『矢の男』が再びぃょぅ達に視線を移す。

「誓ってもいい。
 ここで私が倒されるよりも、その『化け物』を生かしておいた方が
 余程世界を傷つける。」
 まるでお告げを下すように、『矢の男』はぃょぅ達に語りかけた。

「ここまで言えば、私が何を言いたいのかはもうお分かりですね。
 今からでも遅くありません。
 私に協力しなさい。
 そして、世界の為にもその『化け物』を共に打ち倒すのです。
 そうか。
 今、分かりました。
 それこそが、『神』を降臨させる意味だったのです。」
 『矢の男』のスタンドから、後光のような光が差す。
「―――!!」
 ぃょぅ達がそれを受けて引き下がり、俺の方を向いた。

 …そうさ。
 奴の言う通りだ。
 俺は、ここに居るというだけで世界を危険に晒している。
 ここでぃょぅ達と肩を並べる事すらおこがましい『化け物』なんだ。
 俺は、
 俺は、
 俺は正真正銘の『化け物』―――

114ブック:2004/04/27(火) 02:19



「でぃさんは『化け物』なんかじゃありません!!」

 その時、部屋の中に一つの叫びが飛び込んできた。
 その場の視線が、一斉にその声の場所へと集中する。

「みぃちゃん…!」
 ふさしぃが驚いた顔で呟いた。

 あの馬鹿。
 危ないから来るなと、あれ程念を押していた筈だのに…!

「これは異な事を言うお嬢さんだ。
 あなたには、こんなおぞましい姿の男が『化け物』ではないとでも?」
 『矢の男』が俺を指差した。

「…そうです、でぃさんは『化け物』なんかじゃありません。
 傷つく事に臆病で、外の世界を恐れて、自分の力に悩んで、人を信じられなくて、
 …それでも、それでも誰かの為に悩み、傷つき、闘う事の出来る人間です!!」
 みぃが『矢の男』に向かって一歩進み出た。
「私はそれをずっと傍で見てきました!
 そんなこの人をずっと信じてきました!
 もしそれでもでぃさんが『化け物』だと言うのなら、
 私一人で世界の全てを敵に回しても、
 でぃさんを人間だと言い続ける…!!」

「……!」
 俺の視界が水の中にいるみたいにぼやけた。
 何で、こいつは、
 こいつは、そこまでして、俺なんかを…

「…一人じゃなくて、二人だぜゴルァ。」
 と、いつの間にか吹き飛ばされた所から戻ってきたギコえもんが、
 みぃの肩に手をおいた。

「二人じゃなくて三人だモナー。」
 小耳モナーが笑顔を浮かべながらギコえもんの横に立つ。

「さっきあなたは『デビルワールド』に比べれば自分はまだまし、
 みたいな事を言っていたけれど、
 だからと言ってあなたのやって来た事が帳消しにはなりはしないわ。
 論点のすり替えもいい所ね。」
 ふさしぃが『矢の男』をキッと見据えて言い放った。

「すまなぃょぅ、でぃ君。
 一瞬でも『矢の男』の口車に乗って、君を疑ってしまったょぅ。」
 ぃょぅが俺に軽く頭を下げて謝った。

 …馬鹿だよ、お前ら。
 何で、何でそんなに俺の事を信用出来る。
 どうしようも無い程の『化け物』のこの俺を…!


「つーわけで、さっきの手前の申し出だが、謹んで辞退させて貰うぜ。」
 ギコえもんが『マイティボンジャック』を発動させ、
 『矢の男』の前に立ちはだかる。

「…愚かな。
 あなた達は『デビルワールド』に世界を蹂躙されても構わないというのですか?」
 『矢の男』が哀れむような目でぃょぅ達を見つめる。

「それならあなたを倒した後に『デビルワールド』を倒せば済む話だわ。
 勿論、でぃ君を傷つけずにね。」
 ふさしぃが当然のように言い切った。

「そんな事が本当に出来るとでも?」
 『矢の男』が嘲笑する。
「ああ…出来るモナ。
 モナ達が誰だか分かっているモナか?
 天下無双の特務A班モナよ!!」
 小耳モナーが気持ちいい位の笑みを浮かべながら大見得を切った。

「お前は倒す。
 でぃ君の中の『デビルワールド』も倒す。
 それで、全てに決着をつけてやるょぅ!
 でぃ君は、決して『デビルワールド』なんかに負けたりしなぃょぅ!!」
 ぃょぅが『ザナドゥ』を発動させた。
 強風が、部屋の中に吹き荒れる。

「…やれやれ。どうやらこれ以上の議論は無駄のようだ。
 ならば、あなた達には『デビルワールド』諸共消えて貰おう…!」
 『矢の男』がゆっくりと俺達に向かってくる。
 圧倒されてしまいそうな程のプレッシャー。
 ぃょぅ達はそれを真正面から受けても、なお歯を喰いしばりながら踏みとどまる。

115ブック:2004/04/27(火) 02:20


「…下がってろ、皆。」
 俺は皆の前に歩み出た。
「…!でぃ君、声が…」
 ぃょぅが後ろから俺に声をかけた。
 喉元をスタンド化させ、イカレた声帯を修復させた。
 これで、一応は声を出す事が出来る。

「…こいつは、俺が倒す。
 いや、俺の『デビルワールド』でないと倒せない。
 倒せるのは、こいつの言う『化け物』である俺だけだ…!」
 食わせる。
 『デビルワールド』に、俺の全てを。
 俺の心の中にある俺の居場所が失われ、漆黒の虚無だけが俺の心を埋め尽くした。
 それと同時に再生していく左腕。

「…これは驚いた。
 絶対に再生しないように『書いておいた』筈なのに。
 流石は『デビルワールド』、『最果ての使者』。」
 『矢の男』が感心したように呟いた。

「…御託はそれだけか。
 そうでないなら今の内に好きなだけ喋っておけ。
 それがお前の最後の言葉になる。」
 俺と『矢の男』の視線が一直線に重なり合う。
 その空間だけが、まるで異界のように歪んだようだった。

「でぃさん…!」
 みぃの声が聞こえる。
 悪いな、みぃ。
 さっき必死に弁護してくれたけど、
 こいつの言う通り俺は単なる『化け物』だ。
 どうしようも無い位の『化け物』なんだ。
 そして、今から俺は完全に『化け物』に成り果てる。
 多分、もう帰って来れない。

「…ぃょぅさん、ふさしぃさん、小耳モナーさん、ギコえもんさん。
 俺が闘っている間、みぃを守ってやって下さい。」
 ぃょぅ達にそうお願いする。
 自分勝手なお願いだが、最後の我侭という事で我慢して貰おう。

「でぃ君…!」
 ぃょぅが俺を引きとめようする。
 ごめんなさいぃょぅさん。
 最後まで迷惑をかけてしまって。
 みぃの事、よろしくお願いします。
 俺が居なくなった後、あなた達だけが頼りなのだから。

「でぃさん!!」
 みぃが泣きそうな顔で叫んだ。

 …そうだ。
 探さなきゃ。
 こいつに言える、俺からの最後の言葉を探さなきゃ。
 今まで言えなかった事、言いたかった事、
 一つの形にして伝えなきゃ。
 最後に、あいつに伝えなきゃ…



「―――ありがとう。」

116ブック:2004/04/27(火) 02:20



     ・     ・     ・


「我が名称(な)を呼べよ。
 我が力(な)を呼べよ。
 我が存在(な)を呼べよ。」

「我を欲求(もと)めよ。
 我を渇望(もと)めよ。
 我を飢餓(もと)めよ。」

「我を視覚(し)れよ。
 我を知覚(し)れよ。
 我を認識(し)れよ。」

「我は『句読点の丸』。
 我は『ピリオド』。
 我は『鉤括弧閉じる』。
 我は『Z』。
 我は『Ω』。
 我は『ん』。
 我は『地平線』。
 我は『深遠の底』。
 我は『世界の果て』。」

「我は我が我こそが、
 幾千万の怨念により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『最果ての使者』、『虚無の権化』、『終焉の化身』、
 ―――『デビルワールド』。」



 …出てこれた。
 ようやく、ようやく私は出てこれた。
 永い、永い時間だった。
 とても永い時間だった。

 だが、最早私を繋ぎ止めるものは無い。
 今まではあのでぃ自身が絶対者である、奴の『内的宇宙』『心象世界』に居た為に
 この力存分に振るう事は叶わなかったが、
 今や立場は完全に逆転した。
 奴は完全に私に取り込まれた…!

「くく、くくく、
 くははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」
 笑う。
 高らかに笑う。
 笑っても笑っても、どんどん体の奥底から笑いが込み上げてきて止まらない。

 ついに、ついにこの刻が来た…!
 見ていろ。
 世界の有象無象よ、森羅万象よ。
 今この刻より、私が貴様等に、
 恐怖と絶望と苦悩と憤怒と怨恨と絶望と焦燥と悲観と悲哀と淀みと穢れと
 不幸と死と痛みと邪悪と絶叫と戦慄と魔性と疫病と厄災と悪疫と煉獄と
 それら全ての行き着く先、
 絶対たる終焉をばら撒いてくれる!!!!!

「……」
 向こうから『無限の使者(アクトレイザー)』が私に近づいてくる。
 そうだった。
 先ずはあれを『終わらせて』やらねば。

「…the world is mine.(そして世界は我が手に落ちる)」



     TO BE CONTINUED…

117 丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:32



いち、にー、三、四五…六人。


 B・T・Bの心拍ソナーに反応する、『敵意』と『緊張』のビート。
まとまりの無かった思考を、一つにまとめていく。

(御主人様…!)

(んー…何でばれちゃったかな?)

(決まっているでしょう!彼が…二郎様が密告を!)

(けど、変でしょ?B・T・Bの『心拍感知』でも、二郎の鼓動に嘘は無かったんだよ?)

(しかし、他には考えられません。この一ヶ月間出歩いてはいませんし、盗聴の気配もありませんでした。
 そもそも、『心拍感知』とて絶対誤魔化せないような物では無いのですよ?)

(…二郎は、ちゃんと私達の信用に答えてくれるよ。B・T・Bだって言ったでしょ?裏切る事などあり得ない、って)

(あの時と今とは違います。人間は心変わりをする者…失礼ながら、私には信用できません。
 彼は波紋使いですし、付き合いも短い。信用を置くには足りないように感じます)

(じゃ、賭けようか)

(はい…!?)



「ね、二郎…」
「ん?」
 ぽん、と二郎の胸に、掌を置いた。
「信用してるから、ね」
「…んん…?」
 不思議そうな顔をして、二郎が首を傾げた。
演技と言えばそうも見えるし、本気と言えばそうも見える。
「信用…?何のこ」「ぅおりゃっ!」
 皆まで言わせず、二郎の胸に置いた手をシャツごと握りしめた。
そのまま胸ぐらを掴む形で、ベッドの下へと放り込む。
「わっ!?」

  パギャァンッ!

 まず聞こえたのはガラスの割れる、硬質な音。
同時に、シャマードがもんどり打って倒れた。

  ―――ァァァン―――

 次に、少し遅れての銃声。
音速を超えた弾丸…ライフルによる狙撃。

118丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:34
 イェア
『Yearー!命中!』
「了解。…総員、突入!」
 ギコの声に、後ろに控えた兵士達がドアを蹴破り、
「ノックにしちゃ乱暴だね」

 何事もなかったかのように立ちふさがるシャマードに出くわし、硬直した。

「九六七メートル…残念でした」
 ころん、とシャマードの手の中から、ひしゃげた弾頭が転げ落ちた。
「次は三〇〇〇メートル以上から当てることだね」
 呆気にとられる戦闘の兵士の胸板に、ほどよく手加減した蹴りが吸い込まれる。
狭い玄関では、必然的に一列に並ばなくてはならない。
 蹴り飛ばされた兵士が後ろの者にぶつかり、「え、うわっ」
更にその後ろを巻き込んで、「ちょっ、え、わ」
一塊りにアパートの階段を「あああぁぁぁぁ…」転げ落ちた。

(いや…まだ!)
 ととっ、と軽い足音をたてて、転がる兵士達の頭を踏みつけながらギコが二郎の部屋に飛び込んできた。
夜の吸血鬼に正面から向かっていく事など、正気の沙汰ではない。
 リィィィィィッ
「Ryyyyyy!」
 甲高い声を上げて、変質した右腕を構える。
スタンドは生命エネルギーの固まり。命を喰らう吸血鬼の腕ならば、無傷のままで無力化できる。
どんな能力を持っていようと関係ない。胸のど真ん中に爪を突き立て、吸う。それだけでいい。
 シャマードが跳ぶ。重力を感じさせない動きで床を壁を天井を跳ね回り、スタンドの心臓目掛けて右腕を突き出した。

  ―――――胸部・解放。

 スタンドの体中を覆っていたベルトが、胸の部分だけばしりと外れる。
それを見て、二郎の顔色が変わった。
 かまわず腕を突き出そうとするシャマードに、二郎が『スタンド』の声で叫んだ。
『触るな!』
「っっっっっとぉ !!」
 なんだか判らないがとりあえず、慌てて抜き手に構えた右手を引っ込めながら方向転換。
床の上をくるりと一回転しながら、再び間合いを取る。
「胸部、再封印。左腕部・両脚部、解放―――良い反応だ」
 ち、とギコの口から漏れる小さな舌打ち。
彼の呟きに反応して、スタンドを覆うベルトが蠢いた。
 むき出しになった胸を再び隠し、背中に拘束されていた左腕と両足が解放される。
                       デューン
「知られても構わないから教えるが…『砂丘』の能力は強い。ほぼ一撃必殺だな」
 だだっ、と解放された両足で『デューン』が走った。
戦法も何もない獣の構えで、左の掌を打ち下ろす。
「うわっ!」
 シャマードの反応は早い。逆に『デューン』の方へと走り、床を転がって掌をやり過ごす。
空振ったデューンが数歩たたらを踏み、アパートの壁に手をつき…

  ざあっ。

 …手を触れた部分の壁が、灰色の砂に分解された。
「能力は簡単。『物質の風化』だ」

119丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:40

「…だったら触らないっ!」
 手近にあったビール瓶を拾い上げ、振りかぶって投げつける。
大リーガー並の速度で投げ放たれたビール瓶が回転しながらギコへと向かい―――

「う゛ぁあっ!」

  さっ。
                 デューン
 ―――拘束具だらけの女性に阻まれ、あえなく風化した。
「止めておけ。コイツは俺の言う事を殆ど聞かんが…
 主人が死ぬのは困るんだろうな。俺を守る事は何よりも優先する」
「…んのヤロッ!」
 軽々と鉄のベッドを持ち上げて、更に投げつける。
立ちはだかったデューンに阻まれて、全て風化してしまうがこれで良い。
 一瞬の隙をついて、窓をぶち抜いたシャマードが道路へ飛び降りた。

「追え!ニローンは拘束だ」
 てきぱきとしたギコの指示に、蹴り出されていた兵士の一人が拘束具を取り出した。
「ギコ…」
「抵抗するな、ニローン。殺したくない」
「シャマードは…違う」
「違わない。吸血鬼である限り、彼女は私の敵だ。殺さなくてはならない…連れて行け」
 二郎の言葉にも、ギコは取り合おうとしない。
拘束されたまま、両腕を捕まれてずるずると引きずられていった。



   一九八四年 四月十日 午前二時三十八分


 革製の拘束具で後ろ手を縛られ、二郎は椅子に座らされていた。
『フルール・ド・ロカイユ』は、石の花を作り出すスタンド。有機物に対しては同化できない。
 ご丁寧に、壁も床も檻も全て木製。椅子も床に固定されているので、まったく動けない。
「手錠だったら余裕で脱獄できたんだけどなー…畜生、古臭い方法を。眠れる奴隷への憧れが開花したらどうしてくれる」
「その時はその時だ。諦めろ、ニローン」
 真面目くさった彼の物言いに、二郎が溜息をついた。
「大体こんなガッチガチに縛りやがって。小便はどうするんだよ」
「朝までにはケリが付く予定だからな。悪いがそれまで我慢してろ」
「いや…別に今すぐしたいわけでも無いんだけどな」
 かすかに笑いを含んでいたギコの声色が、真面目なものへと変わった。
「…それより、何故吸血鬼などを庇い立てした?『波紋使い』であるお前が」
               オ ヤ ジ
「『波紋使い』っつっても茂名 初は何にも教えてくれなかったしな…関係ないだろ?お前さんには」
「…言っておくが、吸血鬼と人間が共存するなど無理な話だ。
 使用者をこの世に縛り付ける『石仮面』の呪い―――
 『人食い』と『不死』の呪縛にとらわれた化け物だぞ」
「アイツは違う。人も喰わないし、日光も平気だ」
「だからどうした。アイツが吸血鬼である事に代わりはない。
 奴が血を啜る可能性があるなら、その時点で奴は私の敵だ。
 …話す事はもう無い。じゃあな」
一方的に言い放つと、踵を返して牢を出て行った。


「二郎様」
 ギコの足音が消えた後、更に数分ほど経った頃。牢の中に、何者かの声が響いた。
「B・T・Bか。いつからいた?」
「オヤ、気付イテ オラレマシタカ。『信用シテルカラネ』ノ辺リカラ、鼓動ヲ借リテオリマス。
 …ソレヨリ、大事ナ事ヲ。御主人様ヲ助ケテ頂キタイノデス。…貴方ガ、裏切ッタ ノデ ナケレバ」

 数秒間ほどの沈黙。ややあって、おもむろに二郎が口を開いた。
「お前さん…俺を疑ってたのか」
 さわり、と空気が強張る。
それに感づいたのか、二郎が慌てて首を振った。
「や、悪ぃ。一歩も外出てないなら、それが一番普通の対応だしな。
 まあ、俺が本当に裏切ってたらこんなトコにいないで今頃コーヒーでも啜ってる筈…
 それにお前さんがここにいるって事は、シャマードは最初から信用してくれたんだろ?
 しかし…信用されといてこんな事言うのも何だが、何で命まで懸けて俺を信じてる?」
B・T・Bの心拍操作が無いかぎり、シャマードは只の吸血鬼。
 二郎が本当に裏切っていて、助けに来ないまま夜が明けてしまったら。
比喩でも何でもない、『命懸けの信頼』。
「マア…『何トカ ノ弱ミ』ト言ウモノ デスカネ」
「何だそりゃ。俺…何か握ってたっけ?」
 この鈍感男を何とかする方法はないものか。
一瞬そう思ったが、馬鹿に付ける薬はあいにく持ち合わせがない。
「…私ノ口カラハ言エマセン。兎モ角、ココマデ ヤルトハ私モ思イマセン デシタ」
「そうかい…助けに行く。縄、切ってくれ」
「御意」
 ぴしりと一礼すると、後ろ手の拘束具をカリカリと囓り始めた。

120丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:41




   一九八四年 四月十日 午前三時三十三分



  雲一つ無い星空に、綺麗な満月。

  冷たく優しい、月の光。人にも吸血鬼にも、等しく降り注ぐ。


「…何故、逃げない?」
 大都市・ニューヨークにそびえるビルの一つ。
その屋上で、シャマードとギコの二人が睨み合っていた。
「賭けの途中で、ね。…私達が二郎の所にいるって、どうして判ったの?」
 小さく、ギコが肩をすくめた。                ツケ
「…奴は嘘をつける人間ではない。様子が変だったから尾行けてみればお前がいた」
「そっか。じゃ、裏切った訳じゃないんだね。賭けは私の勝ち」
「馬鹿が。人と吸血鬼が共存するなど、出来るわけが無いだろう。
 お前も吸血鬼なら知っている筈…何故そんなものを信じている?」
言い放つギコに、シャマードが微笑しながら首を横に振った。
「違うよ。破壊衝動も吸血衝動も、訓練次第で押さえ込める。
 お互いに譲歩すれば、仲良くなれる筈なんだよ。二郎だって、そう思ってる」
「…俺の恋人も…お前と同じ事を言った」
 一呼吸の間。首筋をトントンと叩きながら、言葉を続ける。
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「太陽から顔を背けて、輸血用血液を啜りながらな。―――その彼女がある日、車に轢かれた。
 重傷だったよ。普通の人間ならとっくに死んでる傷だ。どうにか命だけは助かったんだが…
 その代償は相当大きかった」
「代償…?」
「生存本能と吸血衝動が直結してな。普段から抑えてたのが悪かったのか、病院にいた医師と患者数十名の命…
 まとめて彼女の腹の中に消えた。ゾンビがあふれて、街中はパニック。そして俺は…」

 拘束具の下で、デューンがう゛ぅ、と一声唸った。

「全員をコイツで風化させた。馴染みの医者も、よくしてくれた看護婦も、
 仲良くなってた患者も―――理性が噴き飛んだ彼女も。塵に変わって、風で散った。」
長く広がるスタンドの髪を、優しく撫ぜる。


   ―――――――全拘束・解放。


 『デューン』の体中を縛るベルトが全て弾け飛び、月の光に砂色の裸身が光った。

 一糸まとわぬ無機質な裸体は、この世のどんな兵器よりも醜く、この世のどんな彫像よりも美しく、踊る。

 戦闘型スタンド特有の、醜と美の同居。シャマードの脳裏に恐怖混じりの陶酔がちらつく。

「お前の言っている事は、吸血衝動を抑えられている者だけの理論だ。
 確かに衝動は抑える事が出来る。だが、それが外れる危険も同じ。
 甘い夢想に浸る程、俺は馬鹿な人間じゃない!お前も吸血鬼である限り…
 人喰いになる可能性がある限り、お前も俺の敵だ!」

                              ワ タ シ   ニロウ
「夢想じゃない、理想だ!たった一度の失敗で、吸血鬼と人間の未来を決めつけるな!
 衝動を抑えられる限り、私は二郎の側にいたい!」




  二人とも、心の奥底では判っている。自分の言っている事が正しくない事を。

  二人とも、心の奥底から信じている。自分の言っている事が間違いではない事を。

  何が正しいのか。

  何が正しかったのか。

  どうすればいいのか。

  どうすればよかったのか。

  知るものは、誰もいない。


 デューンが吼える。

 シャマードが叫ぶ。


 己の意志を貫かんとする二人を、満月が優しく照らしていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

121丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:43
 デューン
  砂丘

破壊力:A  スピード:A 射程距離:C(10m)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:E

触れた物全てを風化させ、砂へ変える。
本体の命令は殆ど聞かず、細かい仕事はできない。
ただし、フィードバックがあるため『本体を守る』事だけは何よりも優先する。
体中に拘束具を付けている状態ならば、制御は可能。
ボンテージではなく、あくまでも拘束具。
変態とか言うな。

122丸耳達のビート Another One:2004/04/27(火) 23:44
        │ 予告通り、三部作で収まりませんでした。
        └─┬─────────y───────
            │こんなトコで予告通りにしてどうするの。
            │本編だって進んでないのに…
            └y───────────────────



               ∩_∩    ∩ ∩
              ( ;´д`) 旦 (ー`;)
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー^;)~~~~~~
                     ∪ ∪ ヨテイハ ミテイ ニシテ ケッテイ ニアラズ
          _______Λ_____________

          あ、ほら、あくまで『三部作くらいの予定』だし…ネ♪

123ブック:2004/04/28(水) 00:20
     救い無き世界
     第七十八話・終結 〜その三〜


「終われ…!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』に向かって腕を振るった。
「私の頭を掴み、私の存在を終了させる。
 しかしその事象も書き換える。」
 『矢の男』のスタンドが、その手に持つ分厚い本を開き、それに指を這わせた。
 すり抜ける『デビルワールド』の腕。

「そしてあなたの腹部を『アクトレイザー』の腕が貫く。」
 『アクトレイザー』が再び本に指を這わせる。
 先程でぃの左腕を切断した時と同じ様に、
 『アクトレイザー』の攻撃を避けた筈の『デビルワールド』の腹に、
 『矢の男』の言葉通りに『アクトレイザー』の腕が突き刺さった。

「……!」
 後退し、その腕を引き抜く『デビルワールド』。
「その傷は瞬く間に再生する。
 …が、その結果には至らない。」
 『矢の男』が『デビルワールド』を見据える。

「…どういう手品なのかな?」
 『デビルワールド』が『矢の男』に顔を向けた。
 腹部に開けられた穴は、徐々にではあるが塞り始めている。
「…傷の治りが遅い。
 成る程、大した能力だ。」
 『デビルワールド』がぞっとするような笑みを浮かべた。
 体に開けられた穴など、微塵も気にしていない様子である。

「この本に『絶対に再生しない』と書いた以上、
 傷は決して再生しない筈なのですがねぇ。
 あなたこそ流石ですよ、『デビルワールド』。」
 『矢の男』が心から感心しながら言った。

「…しかし、哀しいかなあなたは未だ不完全のようだ。
 今の所、我が『アクトレイザー』の力の方が圧倒的に上回っている。
 すました顔をしていますが、傷の修復だけで相当の力を使っているのでしょう?」
 『矢の男』が嘲りの笑みを浮かべる。
 『デビルワールド』は、何も答えない。

「あなたには、勝ち目など何一つありません。
 復活したばかりの所悪いですが、あなたにはここで消え去って貰う。」
 『矢の男』が『デビルワールド』に向けて手をかざす。

「…くっくっく、くははははははははははははははははははははははは……」
 その時、『デビルワールド』がやおら笑い出した。
「…何が可笑しいのです?」
 『矢の男』が不快そうに眉をひそめる。

「私が不完全と言うか。
 確かにその通りだ。
 だが、お前もまた不完全なのではないのかな?」
 『デビルワールド』が挑発するような身振りで『矢の男』に話しかける。

「…何?」
 聞き返す、『矢の男』。

「言った通りだよ。
 お前がもし完全だと言うならば、何故その本に『私が消える』と書かない?
 そうすれば一瞬でカタがつく筈だ。」
 『矢の男』の顔が強張る。
「出来ないんだ。
 お前はまだ、そこまで深く事象に干渉する事は。
 つまり、それっぽっちの能力という事だ。
 その程度で『神』を名乗ろう等とは、思い上がりも甚だしい。」
 『デビルワールド』が『矢の男』の前へと進み出る。

124ブック:2004/04/28(水) 00:20

「私を…『神』を愚弄する気かァ!」
 激昂する『矢の男』。
 直後、『アクトレイザー』が『デビルワールド』の右腕を斬り飛ばした。

「…くくく、図星のようだな。」
 腕を斬り落とされながらも、顔色一つ変えずに『デビルワールド』が呟く。

「だからどうした?
 確かに私はまだ、直接存在を消去するだけの力は無い。
 しかし、それでもこうして少しずつお前の命を削ぎ落としていけば、結局は同じ事。
 そして、ここには世界中から人々の救いを求めし想念が集まっている。
 それらは全て、我が『アクトレイザー』の力となり、私はさらに大きくなる。
 故に、ここで私がお前に負ける事など決して在り得ない!!」
 『アクトレイザー』の腕が次々と『デビルワールド』の体を引き裂く。
 『デビルワールド』が、それに圧倒されて後ろに下がっていった。

「どうした、『デビルワールド』?
 世界に、『神』に弓引く『悪魔』なのだろう?
 やられるばかりでなく、少しは一矢報いてみたらどうだ!?」
 『アクトレイザー』はなおも『デビルワールド』の肉体を傷つけていった。

「……!!」
 と、『デビルワールド』がいきなり『矢の男』に向けて拳を放った。
「それもこの本に書かれている。
 そしてその事象はたった今書き換えられる。」
 『矢の男』はその拳をかわそうともせず―――


「!!!!!!」
 『矢の男』の表情が一瞬にして驚愕の色に染まった。
 彼の右頬には、『デビルワールド』の拳によって切り傷がつけられている。

「なっ……!?」
 動揺を隠せない『矢の男』。

「馬鹿な…
 在り得ない!
 この私が!!
 『悪魔』に触れられるだと!!!?」
 『矢の男』がよろよろと後ろに下がる。
 絶好の追撃の機会ではあるのだが、
 『デビルワールド』もまた先程の『アクトレイザー』の攻撃によるダメージが深く、
 攻撃を続ける事は不可能だった。
 しかし、その代わりにと『デビルワールド』は凄絶な笑顔を『矢の男』に叩きつける。

「…言っただろう。
 お前もまた、不完全なのだと……」
 全身から血を流し、傷口を嫌な音を立てて再生させながら、
 『デビルワールド』が口を開く。

「き…貴様、一体何を……」
 『矢の男』が信じられないといった風に『デビルワールド』に尋ねた。

「貴様がさっき言った通りだ。
 私は世界に弓引く『世界の敵』。
 そして…同時に『世界の最も親しい隣人』でもある。」
 『デビルワールド』が体を引きずりながら答える。
 心なしか、再生の速度が僅かずつだが上がっていた。

「この世界の万物は、等しく『終わり』を内包している。
 いや、『終わり』を内包しているからこそこの世界に存在出来る。
 終わる為に始まり、始まる故に終わる。
 永劫に続く終焉の螺旋…虚無への回帰。」
 斬り落とされた『デビルワールド』の右腕が再生を完了した。

「馬鹿馬鹿しい、本当に馬鹿馬鹿しい喜劇だとは思わないか!?
 この世界に生まれ、始まりしモノ共は、須らくその存在が続く事を望む。
 それ故に先に続く未来を望む。
 だがしかし、その先には絶対に終わりが存在しているのだよ!!
 ははははは!!
 これは傑作だ!!!
 つまり、この世界の全ては、
 いいや、この世界そのものまでもが、
 意識的に無意識的にその存在の終焉を望んでいるのだ!!!
 つまり我こそが世界の願望の具現!!!!
 それを叶える事こそが、我の力!!!!!
 望みを叶える事こそが、救いを与える事なのであれば、
 我こそが『神』であり、救いそのものよ!!!!!!」
 笑い続ける『デビルワールド』。
 その笑いは大気を揺らし、そこに渦巻く想念すらも揺るがすようだった。

「そして、貴様の『アクトレイザー』も、
 世界に存在するモノ共により産み出された存在だ!!
 ならばそこに存在する以上、私に終わらせられぬモノは無い!!!」
 『デビルワールド』が『アクトレイザー』を睨みつけた。

125ブック:2004/04/28(水) 00:21

「…そんな御託は、私を倒してからにするのだな!!」
 『矢の男』が『デビルワールド』に飛び掛かった。
 迎え撃つ『デビルワールド』。
 しかし、その攻撃は『矢の男』を空しくすり抜けた。

「どうだ、当たるまい!
 私はここに渦巻く想念を吸収し、幾らでも力を高める事が出来るのだ!!
 貴様等、所詮は乗り越える為の試練に過ぎん!!!」
 『アクトレイザー』の腕が『デビルワールド』の肉体を抉る。
「これで終わりだ!!
 この本に、『デビルワールド』の消滅を書き記して―――」



「―――な、何だ…
 何だこれはァ!!!!!?」
 『矢の男』の動きが突然止まった。

「本が…本の未来が書かれているページが真っ黒じゃないか!!
 これでは、これでは続きが書き換えられないじゃないかああァ!!!!!」
 錯乱する『矢の男』。
 その間にも、『アクトレイザー』の持つ本は
 全てのページに渡って黒く塗りつぶされていった。

「…『デビルワールド』。
 お前の存在を…
 過去現在未来全ての時間軸において『終わらせる』。
 お前が幾ら未来を見ようと、幾ら未来を書き換えようと、
 未来に進む以上その先に『終わり』があるという事実は変わらない。
 その『終わり』を今この場まで与えてやろう…」
 『デビルワールド』が『矢の男』の頭を掴む。
 『矢の男』が必死に逃れようとするも、その手は決して外れなかった。

「ば…馬鹿な!
 『アクトレイザー』は、救いを求める思念を得て、
 更に力を得ていた筈だ…!
 それが、何でお前如きに…」
 その時、『矢の男』はかっと目を見開いた。
 『デビルワールド』の体に、『アクトレイザー』が吸収しているものとは違う、
 どす黒い思念が纏わりついていたからだ。

「他者の想念を得て力を得るのが、お前だけだとでも思ったか?
 どうやら、お前の力となる想念に混じって、
 別の想念が混じっていたのに気がついてはいなかったようだな。」
 『デビルワールド』が『矢の男』を掴む手に力を込める。

「この…『化け物』めええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」
 『矢の男』が、絶叫する。
 その顔は恐怖に引きつり、あたかも笑っているようにすら見えた。

「…『終われ』。」
 その言葉と共に、『矢の男』の姿が消え去った。
 その場に、『矢の男』の持っていた『矢』がカランと音をたてて落ちる。
 寄る辺となる本体を失った『アクトレイザー』は、
 想念の渦の中へと消え去っていった。

126ブック:2004/04/28(水) 00:21



「……!」
 膝をつく『デビルワールド』。
「…ふん、殆どの力を使い果たしたか。
 簡単には『終わらせ』てはくれなかったようだ……」
 『デビルワールド』が息を切らしながら呟く。

「…は、はぁははははははははははははははははははははは!!!!!!
 未だ聞こえているかな、でぃよ!?
 残念だったな!
 私と『神』とをぶつけ、諸共に消滅させるというお前の目論見は完全に潰えた!!
 確かに力の大半は失ったが、そんなものこの世界の全てから簡単に搾取出来る!!!
 でぃ、お前の敗北だ!!!!」
 『デビルワールド』がゆっくりと立ちあがった。

「でぃ君!!」
 ぃょぅ達が、『デビルワールド』に向かって構える。

「ああ…そう言えば、お前達が居たのだったな。
 今まで宿主を守って頂き実に御苦労。
 褒美に、お前達には世界の終わりの瞬間をその目で見せてやろう。」
 『デビルワールド』がぃょぅ達に向いて笑う。

「そんな事させるかよ!!」
 ギコえもんが飛び掛かった。
「ふん…」
 『デビルワールド』が無造作にギコえもんに向かって手を突き出す。
 ギコえもんが、『アクトレイザー』の時と同様、壁の方まで吹っ飛ばされた。

「…そう死に急ぐな。
 せっかく最後まで『終わらせない』と言っているのに。
 もう少しで、殺してしまう所だったではないか。」
 『デビルワールド』が呆れたように肩をすくめる。

「でぃ君!
 気をしっかり持つょぅ!!」
 ぃょぅが『デビルワールド』に…
 いや、その中にいるでぃに向かって叫んだ。

「無駄だよ。
 最早でぃの意識は我が支配下にある。
 お前達の声は届きはしない。」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように言い放った。

「…でぃさんは、負けない。」
 その時、みぃがぃょぅ達の前に踏み出した。
「みぃちゃん!!」
 ふさしぃがみぃを止めようとする。
 しかし、みぃは構わず『デビルワールド』の前に進み出て行った。

「でぃさんは、あなたなんかに負けたりしない!
 あなたみたいな『化け物』に、負けたりなんかしない…!!」
 涙を流しながら、みぃが叫ぶ。
 しかしその瞳に、諦めの色は全く無かった。

「…やれやれ。
 現実の見れないお嬢さんだ。」
 と、『デビルワールド』が何かを思いついた顔つきになる。

「そうだ…
 そういえばお前は、あのでぃのお気に入りだったな。
 …面白い。
 お前を終わらせたら、あのでぃは一体どんな顔で哭いてくれるのかな…?」
 『デビルワールド』が、その腕をゆっくりとみぃに伸ばした。



     TO BE CONTINUED…

127ブック:2004/04/28(水) 23:28
     救い無き世界
     最終話・祈り


「さて、あのでぃはどんな顔で泣き叫んでくれるのやら…」
 デビルワールドがみぃに手を伸ばす。
「……!」
 それに対し、一歩も引かないみぃ。

「みぃ君…!」
 ぃょぅ達が叫ぶ。
 しかし、彼等は『デビルワールド』の視線だけでその場に縫い付けられた。

「案ずるな…
 一切の苦痛無く『終わらせて』やる。」
 そして『デビルワールド』の手がみぃの体に触れ―――


「!!!!!!!!」
 と、『デビルワールド』の体が動きを止めた。
 同時に、地面に膝をつけて苦しみ始める。

「…が……!馬鹿な……
 でぃ、貴様……!!」
 歯を喰いしばり何かに耐えようとする『デビルワールド』。
「糞…!
 『アクトレイザー』との闘いで力を失った所為で……
 …これ以上無駄な足掻きをするなぁ!!」
 『デビルワールド』の体の一部が、徐々に元のでぃの姿に戻っていく。

「舐めるなよ…矮小な人間如きの分際があぁ!!
 貴様など、すぐにまた我が支配下に取り込んで……!」
 『デビルワールド』がよろよろと立ち上がる。
 でぃの姿に戻っていた部分が、再び『デビルワールド』のそれへと変質していった。

「…は、はははははははははははははははは!!!!!
 残念だったな、もうすぐお前は完全に―――」
 その時、思念の渦に溶け込んでいった筈の『アクトレイザー』の欠片が、
 『デビルワールド』の周りを取り囲んだ。
 そして、それらが『デビルワールド』の中へと浸透していく。

「……!『アクトレイザー』!!
 どこまでも私の邪魔をするかああああああああああ!!!!!!!」
 『デビルワールド』が咆哮する。
 しかしその抵抗も空しく、『デビルワールド』の姿は完全にでぃのものへと変わった。

「……!」
 膝をつき、息を切らすでぃ。
「でぃさん!!」
 みぃがでぃの元へと駆け寄る。
 しかし、でぃはそんな彼女を『来るな』とばかりに振り払った。

『まだ…終わってない……』
 指を動かすのもやっとといった様子で、でぃが地面にそう書いた。
「でぃさん…!」
 涙を浮かべ、でぃに縋り付こうとするみぃ。
 …でぃが、一瞬だけそんなみぃに微笑んだように見えた。

「……!」
 しかしでぃの瞳は再び険しいものへと変わり、
 おもむろに『矢の男』の遺した『矢』をその手に掴んだ。
 そして、それを自分の胸に突き刺す。

「でぃ君、何を―――」
 ぃょぅ達がでぃの元へと急ぐ。
 しかし、でぃはぃょぅ達が彼の元に辿り着く前に、
 そのままその場に昏倒した。

128ブック:2004/04/28(水) 23:29



     ・     ・     ・



 …俺がこの場所に来るのも久し振りだ。
 ここが、全ての始まった場所。
 そして…全てが終わる場所。

「……」
 俺は自分に近づく気配を察知し、そちらへと目を向ける。
 悪意の塊のような視線。
 そこに居るだけで、全てを飲み込んでしまいそうな威圧感。
 そう、こいつが、
 こいつこそが―――


「…やってくれたな、でぃ。」
 『デビルワールド』が、俺をねめつけながら言った。
「…よぉ、こうして面と向かうのも久し振りだな、『デビルワールド』。」
 わざとおどけた感じで『デビルワールド』に返す。

「余計な事に時間を取らせるな…
 諦めてお前の体を私に明け渡せ。
 今まで私の住処となっていた事にせめてもの情けをと思い、
 お前の自我までは消滅させまいと思っていたが、
 私の邪魔をするのであれば容赦はせぬぞ。」
 『デビルワールド』がひしひしと俺にプレッシャーをかける。
 だが、負けるか。
 あいつの為にも、俺は闘わなければいけない…!

「…そういう訳にはいかねぇよ。
 お前は、ここで俺がぶっ倒す。」
 『デビルワールド』を睨み返す。
 『デビルワールド』がそれを受けて、僅かに口元を歪めた。

「くく…何を言うかと思えば……
 貴様が、私を倒せるとでも?
 『神』ですら超越したこの私を倒す?
 これは滑稽な冗談だな!」
 『デビルワールド』が嘲りの笑みを俺に向けた。

「…出来るさ。
 さっきの『アクトレイザー』との闘いで、お前は大半の力を失っている。
 そして、今もなお『アクトレイザー』の欠片がお前を束縛している。
 何よりここは俺の心の中。
 俺自身が神であり絶対者である『内的宇宙』『心象世界』。
 これらの条件が揃った今なら、お前を倒す事が出来る!!」
 俺は『デビルワールド』を見据えて言い放った。

「はははははははははは!!!
 お前は一つ重要な事を見落としているぞ!?
 私がスタンドである以上、スタンドでしか私を攻撃出来ない!!
 スタンドを持たぬ、唯のちっぽけな人間であるお前に、
 一体何が出来るというのだ!?」
 『デビルワールド』が勝ち誇ったように笑い出した。
「諦めろ人間!
 最早お前には何も出来ない!!
 そこで世界が終わる様を、指を咥えて見ているがいい!!!」

「…そうさ。俺はスタンドを持っていない。
 今までスタンド使いと闘えたのは、お前が俺の中に居たからだ。
 だが―――」
 俺の足元から、一本の『矢』が姿を現した。

「……!それは!!」
 『デビルワールド』が顔色を変える。
「そうだ!!
 この『矢』を使えば、俺にもスタンドが使えるようになる!!!」
 俺は迷わず俺の体に『矢』を突き刺した。
 ぃょぅ達の話では、『資格』の無い者は命を落とすとの事だったが、
 俺はその時微塵も失敗するとは思っていなかった。

 感じていた。
 ぃょぅが、ふさしぃが、ギコえもんが、小耳モナーが、タカラギコが、
 …みぃが、
 俺に力を貸してくれている事を。
 この力があれば、『矢』の試練すら絶対に乗り越えられる!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
 体から力が湧きあがる。
 同時に、俺の体から大きな盾を構えた戦士のビジョンが浮かび上がった。

 出せた。
 これが、俺のスタンド…!

129ブック:2004/04/28(水) 23:30

「私はあなたの人を守りたいという思いの結晶…」
 と、俺のスタンドが俺に話かけてきた。
「私の名前は『イース』。
 全ての暴力を跳ね返す盾となり、あなたの大切な人を守る力となりましょう…」
 『イース』が『デビルワールド』の方を向く。
 『デビルワールド』とは違う、全てを慈しむような気の流れ。

「スタンドを得た程度で、貴様如きが私に勝てると思うなあああぁ!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に襲い掛かって来た。
 逃げない。
 全ての厄災は、全ての因果は、
 ここで、俺が『終わらせる』!!!

「終われええええええええええ!!!!!!」
 『デビルワールド』が俺に拳を叩きつけようとする。
「『イース』!!!!!」
 俺はその拳を『イース』の盾で受け止めた。


「!!!!!!!」
 拳と盾との激突の直後、『イース』の盾に罅が入り、
 そしてそのまま砕け散る。

「くっ…くははははあはははははははははははっははははっはははっは!!!!!
 矢張り何をしようと無駄だったようだな!!!!!
 そんな俄か仕込みの力で、この私が倒せるとでも……!」
 そこで、『デビルワールド』の体が硬直する。

「…!?
 な、何だ、これは!?
 何だこれはあぁ!!?
 私の、私の体が…!」
 『デビルワールド』の体のあちこちにどんどん亀裂が入り、
 その体が無残に崩れていく。

「これは…私が『終わっている』!?
 馬鹿な!!
 貴様、何をした!!!!!」
 『デビルワールド』が驚愕の表情を浮かべながら俺に向かって叫んだ。

「言った筈です。
 『全ての暴力を跳ね返す盾になる』と。
 本来ならば私の力はあなたに及びませんが、
 我がマスターが絶対者たるこの『内的宇宙』ならば、
 弱ったあなたの攻撃を跳ね返す事も可能。」
 『イース』が『デビルワールド』を指差す。

「…お前、言ってたよな。
 全ては『終わり』を内包するからこそ、この世界に存在出来る、と。
 つまりは、お前もその例外じゃなかったって事さ。」
 俺はこれ以上無い会心の笑みを『デビルワールド』に見せてやった。

「馬鹿な!!
 『最果ての使者』たる、『虚無の権化』たる、『終焉の化身』たるこの私が、
 こんなちっぽけなゴミに滅ぼされるだと!?
 認めん…
 こんな終焉など認めんぞ!!!!!!!」
 体を崩壊させながら、なおも『デビルワールド』が俺に襲い掛かる。

「手前一人で終わってろ。」
 俺は『イース』の拳を『デビルワールド』の顔面に叩きこんでやった。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 世界を割らんばかりの断末魔の叫びを残し、
 『デビルワールド』は虚空へと散って行った。

130ブック:2004/04/28(水) 23:30



「…終わったな。」
 俺は誰に言うでもなく呟いた。

「ええ…そして、残念ですがマスター。
 私達ももう永くはなさそうです。」
 『イース』が俺にそう言った。
 見ると、『イース』の体が『デビルワールド』と同じ様に崩れ始めている。

「…流石は『デビルワールド』。
 力を失い、我々の『内的宇宙』に呼び寄せても、
 その力を完全に打ち消す事は出来なかったようです。」
 『イース』の姿が見る見るうちに消えていった。

「ああ…分かってるよ。
 悪いな、お前は生まれたばっかだってのに。」
 俺は苦笑しながら『イース』に語りかけた。

「…ですが、マスター……」
 『イース』が何か言いたそうに俺の顔を見つめる。
「そんな顔すんな。悔いはねぇよ。
 俺は、あいつを守る事が出来たんだ。」
 …嘘だ。
 俺はまだ生きていたい。
 生きて、あいつと少しでも長く一緒に居たい。

「…糞、格好悪ぃなぁ……」
 俺の頬を、一筋の涙がつたった。

131ブック:2004/04/28(水) 23:30



     ・     ・     ・



「……」
 私の膝の上に頭を乗せていたでぃさんが、うっすらと目を開けた。
「でぃさん!!」
 良かった。
 でぃさんが、目を覚ましてくれた…!

「!!!!!」
 しかし、でぃさんの目は再び閉じられた。
 それと共に、でぃさんの体からどんどん熱が失われていく。

「でぃさん!!!」
 私は必死にでぃさんに声をかけた。
「でぃ君、目を開けるょぅ!!」
「でぃ君!!」
「おい、でぃ!!」
「でぃ君、しっかりするモナ!!」
 ぃょぅさん達が大声ででぃさんに呼びかける。
 しかし、でぃさんは少しもそれに反応を示さなかった。

「『マザー』…!!」
 私のスタンドを発動させ、ありったけの私の生命力をでぃさんに送り込む。
 嫌だ。
 でぃさんが死ぬなんて、絶対に嫌だ…!!

「……!!」
 過度に生命力を注入した反動で、私の意識が一気に遠のく。
 だけど、倒れる訳にはいかない。
 絶対に、
 絶対にでぃさんは死なせない!!

「みぃちゃん、もう…」
 ふさしぃさんが泣きそうな顔で私の肩に手を置いた。

「…!放して下さい!!」
 ふさしぃさんの手を振り払い、さらにでぃさんに生命エネルギーを送り込む。
 私が死んだって構わない。
 でぃさんは、
 でぃさんだけは…!

「……」
 しかし、でぃさんは全く動かなかった。
 その顔に安らかな寝顔を浮かべ、静かに横たわる。

「……!!」
 涙を流しながらも、私は生命エネルギーを送り続けた。

 視界が真っ暗になる。
 力の使い過ぎだ。
 駄目だ。
 倒れる訳にはいかない。
 でぃさんは、
 でぃさんは絶対に―――

 …そして、私はついに力尽きて倒れた。

132ブック:2004/04/28(水) 23:31



     ・     ・     ・



 俺は花畑の中を歩いていた。
 見た事の無い、
 だけど、何故か妙に懐かしい風景。

「―――何でお母さんはお父さん。」
 と、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
 そちらを見ると、三人の親子が仲良く話しながら歩いている。
 …待てよ、あいつら、どっかで―――

「じゃあさ、じゃあさ、もし僕が結婚したら、
 お嫁さんとお父さんとお母さんと一緒に暮らすんだ。
 ずっとずっとずーーっと一緒に暮らすんだ!」
 子供が朗らかに両親に向かって話す。
 間違い無い。
 あいつは、あいつらは…


「…よく頑張ったわね、でぃ。」
 母さんが、俺の顔を見つめて言った。
「…うん。」
 言葉が詰まらせながらも、やっとの思いでそれだけを返す。

「えらいぞ、本当によくやったな。」
 父さんが微笑みながら俺をねぎらう。
「…うん……!」
 目から涙が溢れ、何も見えなくなる。

「…ごめん。父さん、母さん。
 俺の所為で、二人は……」
 そう、二人は俺を庇って、死んだ。

「…いいえ、気にしないで。
 あれは、あなたが悪かったんじゃないわ。」
 母さんが優しい声で俺に語りかけた。
「ああ。
 それに、子を守るのは親の務めだ。
 …私達は、過去にお前を見捨ててしまった。
 あれが、せめてもの償いだよ。」
 父さんが下に視線を落とす。

「…だけどさ、これからはずっと一緒だよ!
 これからは、親孝行出来なかった分、一杯サービスするからさ!!」
 俺はわざと明るい顔で両親に告げた。

「……」
 しかし、父さんと母さんは黙って首を振った。
「…え?」
 思わず、尋ねる。

「…でぃ、あなたはまだここに来るべきではないわ。
 向こうに、大切な人を残しているのでしょう?」
 母さんが穏やかな―――
 そして、少し寂しそうな顔で俺に言った。

「―――ん…でぃさん……!」
 と、どこからか声が聞こえてくる。
 この声は…みぃ?

「!!!!!!」
 その時、父さんと母さんの体が少しずつ見えなくなっていった。
「父さん!母さん!!」
 必死に引き留めようとするも、二人の姿はどんどん遠ざかっていく。

「…でぃ、あなたならきっと大切な人を幸せに出来るわ。
 あなたは、人の痛みを知って、人の為に闘えるという本当の優しさを持っている。
 それは、人間として一番大切な事なのだから。」
 最早両親の姿は見えなくなり、母さんの声だけがその場に響いた。

「…なあに、私達のことなら心配するな。
 その時が来れば、ゆっくりと話を聞かせて貰うさ。」
 父さんの声が聞こえてくる。
 その声も、どんどん小さくなっていった。

「父さん…母さん…俺は―――」

 ―――そして二人の声は完全に聞こえなくなり、
 俺はただ一人その場に取り残された。

133ブック:2004/04/28(水) 23:32



/ / /

134ブック:2004/04/28(水) 23:33
     救い無き世界
     エピローグ・陽の当たる場所で


 少年は慣れない手つきでスーツに袖を通しながら、トーストを齧っていた。
 両腕を袖口から出し、フロントのボタンを留めて、
 ネクタイを締めようとする。
 …が、何度やっても上手くいかない。

「私がやりましょうか?」
 少女が少年の前に立ち、ゆっくりとネクタイを締め始めた。
 数十秒の後、ぴっちりとネクタイが締められる。

「……」
 少年は無言のまま少女に一度頷き、お礼をした。

「…いよいよ、今日からですね。」
 少女が少年の肩に手を置く。
 少年は頷いてそれに答えると、少女の唇に自分の唇を重ねた。

「……!」
 少女の頬が桜色に染まる。
『行ってきますのちゅー、だよ。』
 少年が少女の手の平に、そう指を這わせた。

135ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 私は墓前に花束を備え、線香をあげて手を合わせた。
「…タカラギコ、終わったょぅ。」
 私は墓に向かってそう告げた。
 一陣の風が、備えたばかりの花を揺らす。

「…不思議だょぅ。
 君はここに眠っている筈なのに、
 何故かどこか別の場所であの笑顔でわらっている…
 …そんな気がしてならないんだょぅ。」
 そう言いながら私は苦笑した。
 いい歳してこんなロマンチックな事を考えてしまうとは、馬鹿馬鹿しい。

「…来てたのかょぅ。」
 私は横に視線を移した。
 そこには、ふさしぃと、ギコえもんと、小耳モナーが佇んでいた。

「…ええ。」
 ふさしぃがタカラギコの墓に手を合わせる。
「…全部丸く収まったわ。
 それもこれも、あなたのおかげよ…」
 ふさしぃは目を瞑り、しばしの黙祷をタカラギコに捧げた。

「そうだモナ、タカラギコ。
 今日はSSSに新入社員が入るんだモナー!」
 小耳モナーがまるでタカラギコが生きてその場に居るかのように、
 墓に向かって話しかける。

「ああ、そうなんだぜ。
 お前もよく知ってる奴だゴルァ。」
 ギコえもんが墓に今川焼きをお供えしながら言った。

「…それじゃあ、そろそろ行こうかょぅ。
 新入社員の『彼』と『彼女』がお待ちかねだょぅ。」
 私は立ち上がり、皆に向かってそう告げた。

「そうね、そろそろSSSに戻りましょう。」
 ふさしぃが私の方を向く。
「早くしないと遅れるモナー!」
 小耳モナーが私達を急かす。
「んじゃな、タカラギコ。
 また来るぜ、ゴルァ。」
 ギコえもんがタカラギコの墓に向かって軽く手を挙げた。

「…君は、今でもぃょぅ達の仲間だょぅ……」
 私は誰にも聞こえない位の静かな声で、そっと呟いた。

136ブック:2004/04/28(水) 23:34



     ・     ・     ・



 少年と少女の前に、四人の男女が立っていた。
 正確には、三人が男で一人が女。
 しかし、そのヒエラルキーの頂点に立っているのは女である事を、
 その女から流れてくる気迫が如実に物語っている。

「…さてと、来たかょぅ。」
 男の一人が二人に向かって言った。
「SSSにようこそだモナー。」
 別の男が気さくに話しかける。
「よろしくね、二人とも。」
 女が二人に笑顔を見せる。
「言っとくが、俺達はエリートでお前らは平社員。
 顔見知りとはいえ容赦はしねぇぞ、ゴルァ。」
 最後の男がそう言った瞬間、女がその男の頭を小突いた。
 それを見て、その場の全員が笑い出す。

「何卒よろしくお願いします。」
 少女が四人に向かってペコリとお辞儀をした。
 それに合わせて、少年も頭を下げる。

「…おかえりだょぅ、でぃ君。」
 男が、少年に短くそう告げた。
 少年はそれを受けて男の顔を見つめる。

 …彼の表情は変えられない。
 しかし、確かに彼がにっこりと微笑んだ事は、
 その場の全員には分かってた。



     〜完〜

137新手のスタンド使い:2004/04/28(水) 23:53
ここで『乙』と言うのをお許しもらいたい。

138新手のスタンド使い:2004/05/01(土) 08:35
黄金週間警報発令!

139( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:42
「この日を待っていた・・。ずっと・・この日を・・食い尽くしてやる・・。
骨も・・内臓も・・筋肉も・・眼球も・・・脳も・・何もかも食い尽くしてやる・・。
なぁ・・ムックゥ・・。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『奪う力』と『与える力』

・・・雨が降り続く
ザーザーとする音がうっとおしい
しかしまさか突然雨が降るとは・・
殺ちゃんに傘持たせておくべきだったかな・・。
「・・・・・・・・。」
っていうか何でこんなシーンとしてんだ。
「おい。ムック?何外ばっか見てんだ?」
俺が問いかけるとムックは俯きながら呟いた
「IE・・『あの時』もこんな雨だったNAa・・っTE・・。」
「・・あの時?」
「EE・・。4年前くらいでしょうKA・・。」
ムックは天井を見上げ、話を始めた
「この前・・『緑の男』っていう奴の話ききましたよNE・・。
きっとソイツは私の幼馴染DESU・・。私達2人はたった1歳の頃から体力・知力・外見全てがズバ抜けていTE
ソレを妬んだ友達に虐げらRE・・そいつらの親からは『不気味』といわRE・・惨い運命をたどってきましTA・・。
物心ついた時KARA親に見離さRE、一人で生きてきた私達HA完全に孤立し・・ゴミを漁ったりしながら必死にいきてきましTA。
SHIKASHI・・。ある日、私が歩いているTO・・真っ黒なフェラーリがやってきTE・・。ハートマン軍曹が出てきましTA。
軍曹は『・・この赤いボロ雑巾には『素質』がある様だな・・。おいウジ虫。俺達の所に来ないか?今の生活ともオサラバさせてやる
好きな物だって食える 好きな服も着れる なんでも約束しよう。』・・。私はその言葉に乗せられTE・・。ついていってしまいましTA・・。
『彼』を一人置いていって・・NE。『彼』はきっとその事を恨んでいるんでSHOW・・。」
ムックの眼から涙が流れた
「・・んでソイツの名は?」
「彼の名は・・・。」
突然、突然だった。
突然ムックの右腕が消え去り、深紅の液体が宙を待った
―――血だ。
何が起こった?一体何が・・ッ!?
「UGU・・AHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」
ムックが呻き声をあげて倒れた
「その男の名は・・『ガチャピン』。緑の恐竜だ。」

140( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
ふとドアを見ると緑色の男がたっていた。
「ガ・・チャピ・・ンッ!?KUSOッ!『ソウル・フラワー』ァッ!」
ムックは自分の体を殴りまくり大量の花を咲かせた後、一気に養分を吸い取り、右手を修復した
「ガチャピン・・矢張りきみだったのですNA・・。」
ムックが悲しそうな眼をする。
「お前が居なくなってから、俺の人生は『最悪』の一言だったよ・・。
気付けばお前は居なくなっていた。何回もデカい声で泣きながらお前の名前を叫んだ。
そしてその度にオッサンどもに『今何時だとおもってんだ!』って殴られた。」
『ガチャピン』という緑の男は一歩前に出た
「そしてお前が『キャンパス』という集団に入った事を知った。」
緑の男は一歩一歩近づいてくる
「正直信じられなかった。お前が俺を置いていくなんて・・。」
「ち・・違いますZO!私は一度もアナタの事WO・・」
ムックが説得しようとするとまたもやムックの腕が飛ぶ
「TUゥッ!」
「そのキャンパスは『不思議な力』を使う集団と聞いた。そして俺はお前に会いたくて俺は何の力かわからずに必死で修行をした
何かしら修行していれば身につくんじゃないか。と思っていてな。」
『緑の男』の後方から何かが現れた
「しかし当然そんなもんは練習して身につくもんじゃなかった・・。だが、そんな俺に救世主が現れた・・。」
緑の男の後方に現れた物がハッキリ姿を現した。
間違いねぇ・・こりゃあ・・。
「ス・・タンド・・ッ・・。」
「『矢の男』だ。奴は俺の体を矢で射った。そしてこの『能力』を身につけさせてくれた・・。」
奴のスタンドはヒタヒタという音をさせて近づいてきた
「しかし、俺はまずこの『スタンド』の力を聞いて真っ先に向かったのはお前のところじゃない・・。俺らを虐げてきた『下等生物』の所だ。」
ガチャピンは上唇を舐める
「『食った』よ。食い尽くした。しかし流石にスタンドももってねぇ『下等生物』だ。非常に不味かった・・。」
緑の男のスタンドは大きく口を開く
「そして俺はお前のいる場所を突き当て・・お前に会おうとした・・。しかし流石に完璧にまで作られた組織・・。
勿論護衛が居やがったなぁ。たった2名だったがスタンド使いの門番が・・。」
ガチャピンの顔がとてつもなくにこやかになる。
「あの味は忘れられない・・ッ『スタンド使い』の味だァッ・・。食べただけで昇天しそうになった・・ァッ・・ッ!」
ガチャピンは息を荒げてくる。
「とろける様な舌触り・・ッ口の中でとけていく筋肉ゥッ・・そして何より『下等生物』どもとは違う言葉では表しきれない脳の味ィァッ・・
そして俺はある事をおもいついた・・・。」
緑の男が指を弾くと奴のスタンドがムックに飛び掛っていった。
ムックはとっさによけるが足を一本持って行かれた。
「お前を・・もうドコにも行かさない為にィ・・ッ!俺の・・腹の中にィッ・・入れてやるヮアァァッァッ!」
ガチャピンは涎を垂らしながら叫んだ
「足や腕の一本でこの味ィ・・・全身食ったらどんな味なんだろなァ・・楽しみだぜェ・・ッ?」
・・コイツはヤバい。
きっとムックも本能的に確信している。
スタンドの出せない俺とスタンドのパワーは0に等しいムックではアイツには勝てない・・。
そう確信している。
しかもコイツには『矢の男』とは違えど同じ様な『恐怖』を感じる・・。コイツは並みのスタンド使いじゃ・・ないッ!
「巨耳SAN・・下がっててくだSAI・・スタンドの出せないアナタが戦ったら100%負けまSU・・ここは私が行きましSHOWッ!」
ムックはソウルフラワーで完全に自分の手足を直した。
「赤毛 砲( ムック キャノン)ッ!」
「食人世界(ジミー・イート・ワールド)ォッ!」
ムックの強烈なストレートが出るも、相手は人間の肉なぞ簡単に噛み千切れるスタンド。勝てる可能性は乏しい。
「肉ッ!肉肉ゥッ!肉肉肉ゥリィャッ!」
ジミー・イート・ワールドが大きな口を開けながら吹っ飛んでくる
「こなKUSOッ!」
ムックが物凄いバク天をこなし、背中をとった
「赤毛魂超連打撃(ムック・ソウル・ガトリング)ゥッ!」
ムック・ソウル・ガトリングが直撃・・したかと思った瞬間、ムックの両腕は消滅していた

141( (´∀` )  ):2004/05/01(土) 13:43
「返し食い(カウンター イート)・・ッ!」
いつの間にか前方に居た筈のジミー・イート・ワールドの口がガチャピンの背中に回っている
「TU・・UUU・・AH・・AHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
ムックが物凄い叫び声をあげる
そして次の瞬間叫び声をあげるムックの腹がジミー・イート・ワールドで隠れた
「踊り食い(ダンス・イート)ッ!」
・・深紅の液体が宙を舞い、雨を降らした
そしてムックの腹の半分がジミー・イート・ワールドの口の中に消え、
ムックの臓器が露出した。更に口から血があふれ
俺の目の前が紅く染まる
馬鹿な・・こんな・・あっけなく・・ッ?
「そう・・ル・・フラ・・ワァァァッ!!!」
ムックが最後の力を振り絞りソウルフラワーで体を殴りまくった。
何とかムックの腹が復活するも、両腕、腹を食われ 露出した体内を殴った痛みは消えず、ムックはソコで倒れた。
「ムックゥッ!」
俺はムックの傍に駆け寄った
「ムックッ!ムックゥッ!」
そして次の瞬間俺が黒い影に覆われた
「『幸運』だなァ・・いっぺんに2人もスタンド使いが食べれるなんてェ・・。」
影の主が近づいてくる
一歩・・
また一歩・・
とてつもない恐怖に覆われた
このままじゃ・・間違いなく俺は
――死ぬ
俺は誰も救えないのか?
俺は何の為に警察官になったんだ?
俺は結局ココで死ぬのか?
俺は何故今まで戦ってきた?
俺はどうやってここまで生きてきた?
俺 は こ こ で 死 ん で い い の か ?
俺は・・・
俺は・・・・ッ
俺は・・・・・・・ッ!
「食 べ ち ゃ う ぞ 」
影の主が俺を覆いかぶさった時
その影の主『ジミー・イート・ワールド』は『砂』と化した。
「え・・な・・何で・・ッ!?」
「上等だよ・・。」
俺はつぶやく
「え・・?」
「上等だよガチャピン・・」
不意にガチャピンの足が震える
「ぶっ潰してやるッ!」
俺の後ろに前とはちょっと違うジェノサイアのビジョンが現れる。
「『ジェノサイア act2 Starting』・・ッ!」
「OK。1(one)2(two)3(three)・・4(four)・・GO!」

←To Be Continued

142:2004/05/01(土) 15:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その3」



 俺達は、複雑な表情でテーブルを囲んでいた。
「さて… お前の知っている事を話してもらおうか」
 そう言って、『アルカディア』を睨みつけるリナー。
 それを受けて、『アルカディア』は口を開いた。
「…って言われてもな。オレは、『矢の男』を造り出せって指示を受けただけだぜ。
 後は、石仮面で吸血鬼を増やして適当に暴れろって言われたくらいだ」

 …何だそりゃ。
 適当に暴れろとは、随分と投げやりな指示だな。
 いや、『矢の男』さえ産み出せば、『アルカディア』は基本的に用済みという事か?
 『蒐集者』も、平然と『アルカディア』を葬ろうとしていたのだ。

「『矢の男』とか… 『アナザー・ワールド・エキストラ』ってのは一体何なんだ?」
 ギコは訊ねる。
 視線を落としていたモララーが、僅かに顔を上げた。
 それに答える『アルカディア』。
「知らねーよ。お膳立ては、全部『教会』が整えたんだ。俺は具現化させただけだぜ」
 それを聞いて、リナーは俺に視線を送った。
「…多分、嘘はついていないと思うモナ」
 俺はリナーに告げる。
 ため息をつくリナー。
 結局、何も分からなかったに等しい。

「ま、そーゆー訳で、『教会』に従うのはコリゴリだ。お前らの方につかせてもらうぜ」
 いけしゃあしゃあと抜かす『アルカディア』。
「ふざけるなよゴルァ!!」
「冗談言うなモナ!」
 俺とギコは、同時に叫んだ。
 不思議な事に、リナーに反応は無い。
 いつもなら、真っ先に反対するだろうに…

「…そんな都合のいい話は無いぜ!」
 ギコは、身を乗り出して『アルカディア』に詰め寄った。
「…じゃあ、どうするんだ? しぃの体ごと俺を殺すのか?」
 『アルカディア』はニヤニヤ笑いながらギコの方を見る。
「この町をメチャメチャにしようとしたテメーは、許せないんだよ!」
 『アルカディア』の嘲笑に挑発されたように、大声で吠えるギコ。

「合理的思考ができないところが、ガキなんだよな…」
 そう言いながら、『アルカディア』はギコの耳元に口を寄せた。
 そして、何かを囁く。
 たちまちギコの表情が固まった。
 不審な笑みを浮かべながら、『アルカディア』がギコから離れる。

「…お前は、今日から俺達の仲間だゴルァ!!」
 突然、手の平を返したようにギコは言った。
 …何をした?
 今のも、『アルカディア』の能力か?

 次に、『アルカディア』は俺の耳元で囁いた。
「…オマエが『異端者』に対して抱いてる妄想や願望を、本人にチクるぞ…?
 若いってのは大変だねェ… 向こうはどう思うだろうなァ、青少年…?」

 …!!

「今日から、『アルカディア』はモナ達の仲間モナ」
 俺は柔らかな笑みを浮かべると、みんなに告げた。
 不審そうに俺の顔を見るリナー。
 『アルカディア』は満足そうに頷いている。

「アアン! 僕の願望も、モナー君には内緒なんだからな!!」
 『アルカディア』の言葉が聞こえていたのか、モララーが顔を赤くして身をよじらせた。
 …寒気がする。

 『アルカディア』は、そんなモララーを睨んだ。
「…テメェ、何を企んでやがる?」
 モララーを見据えたまま、『アルカディア』は低い声で言った。
「さて、何の事だか…? 僕が考えているのは、モナー君とリル子さんの事だけさ…」
 モララーは表情を変えずに言った。

「ヘッ、よく言うぜ。この狸め…!」
 そう吐き捨てて、『アルカディア』は立ち上がる。
「忠告しとくぜ。俺の事をゴタゴタ言うヒマがあるんなら、こいつを殺しとくんだな…」
 そう言いながら、『アルカディア』は本体のしぃを残して居間から出ていってしまった。

「…『アルカディア』の奴、どこへ行ったモナか?」
 奴の出ていった壊れたフスマの方を見ながら、俺はしぃに訊ねた。
「えーと… コンビニに、立ち読みにでも行くんじゃないかな…?」
 首をかしげてしぃは言った。
 …何だそりゃ。
 随分と図々しいスタンドだな。

143:2004/05/01(土) 15:47

「…後は、公安五課に協力するかだな」
 『アルカディア』の件を置いて、ギコが話を進めた。
「別に、みんな揃って要人救出に行く必要もないんじゃない?」
 モララーは口を開く。
「だから、自由参加でいいと思うけど。まあ、僕はリル子さんに頼まれたから行くけどね」

 自由参加とは、物見遊山的な言い方だ。
 だが、各人の判断に委ねるというのは、いい案かもしれない。
「そういう事でいいだろうな…」
 そう言いながら、リナーは立ち上がった。
 心なしか顔色が悪い。体調が悪いのだろうか。
 そう言えば、さっきから黙ったままだ。

「では、私はしばらく休ませてもらう…」
 そう言って、リナーは居間を出ていった。
 彼女は、かなり衰弱している…

 リナーが出ていった後、ギコは俺の方を見て言った。
「『解読者』とかいう奴が、お前は人間を辞めたって言ってたな…」
 ギコは、まっすぐに俺を見据える。
「俺の目から見ても、今のお前は何か違う。 …お前、本当に吸血鬼になったのか?」

「そうモナ」
 俺は頷いた。
「…なんでだ?」
 さらにギコは訊ねる。
 俺は答えない。
 モララーもしぃもレモナもつーも、黙って俺に視線を送っている。
 驚き、戸惑い、疑念…
 それらの感情を『アウト・オブ・エデン』が感知した。

 ため息をついて、ギコは言った。
「…まあ、あの代行者達の話から、大体の事は理解してるつもりだ。
 リナーが何なのか、この町で起きている事は何だったのか…」
「…それが、許せるモナ?」
 俺は戸惑いつつ訊ねた。

「許せる訳ねぇだろう!!」
 声を荒げるギコ。
「でも、『アルカディア』の事もあって、何が何だか分からなくなっちまった。
 何が正しくて、何が間違ってるのか。誰が加害者で、誰が被害者なのか…」
 そう言って、ギコは視線を落とした。
 居間を沈黙が支配する。

 その沈黙を押し破るように、レモナが口を開いた。
「以前、モナーくんは私に『造られた存在でも気にしない』って言ってくれたよね…」
 確かに、そう言った覚えがある。
 そこだけを抽出すると、愛の告白のようだが。
「…私も、モナーくんが何になっても気にしないから」
 そう言って微笑むレモナ。
「ぼ、僕だって気にしないからな!!」
 モララーが大声を張り上げる。

「モナーガ フジミニ ナッタト イウコトハ… アヒャ…」
 部屋の隅っこで、ニヤリと笑うつー。
 どうせよからぬ事を考えているに違いない。
 そういえば、つーは吸血鬼よりも特異な存在なのだ。

 …普段はうざったい三馬鹿だが、こういう時は癒される。
 俺は思わず表情を緩めた。
 そう。吸血鬼だろうが何だろうが、俺には仲間がいるのだ。
「ちょっと、リナーの様子を見てくるモナ」
 そう言って、俺は居間を出た。

 廊下を進んでいると、目をこすっているガナーの姿が目に入る。
 そう言えば、こいつの存在をすっかり忘れていた。
「おはよう、兄さん…」
「おはようモナ」
 俺とガナーはいつものように挨拶を交わす。
 ガナーは眠そうに口を開いた。
「そう言えば、昨日の夜中はやけに騒がしくなかった…?」

 あれだけの騒動を『騒がしい』の一言で済ますのか、妹よ。
「…どっかの馬鹿が騒いでたんじゃないモナ?」
 俺はそれだけ言って、リナーの部屋に向かった。
 ガナーはのっそりと台所へ向かったようだ。

144:2004/05/01(土) 15:49

 俺は、リナーの部屋をノックした。
 返事があったので、ドアを開ける。
 部屋は薄暗い。カーテンがしっかりと閉じられているせいだ。
 リナーは、布団で横になっていた。

「やっぱり、体調が悪いモナ?」
 俺はそう言いながら、カーテンの閉まっている窓の方に歩み寄る。
 こんな暗い部屋にいたら、気持ちも塞ぎこんでしまうだろう。
「ああ。昨日は連戦だったからな。肉体を酷使し過ぎたようだ」
 リナーは落ち着いた声で言った。
「…とは言え、かなり体調は回復しているが」

「それはよかったモナね」
 俺はカーテンを開けた。
 明るい日差しが部屋に差し込む。
「ほら、外はこんなにいい天気MONA…GYAAAAAAAA!!」
 外から差し込んだ日光が、俺の皮膚を焼く。

「…馬鹿か、君は!」 
 リナーは素早く立ち上がると、俺を押しのけてカーテンを閉めた。
 俺は床に尻餅をつく。
 日光を浴びた部分がチリチリと痺れていた。
 もう少し長い時間日光に晒されれば、命はなかっただろう。

「君は、自分が吸血鬼だという自覚があるのか!?」
 リナーは物凄い剣幕で言った。
「…申し訳ないモナ」
 ひたすらに恐縮する俺。

「私に謝っても仕方ないだろう…」
 そう言って、リナーは布団の上に座り込んだ。
「…これだから、君は放っておけないんだ。もう、君には会わないと決意したのにな…」
 呆れたようにリナーは言った。
 しかし、その表情は柔らかい。
「それなら、ずっとモナの傍にいて面倒を見てほしいモナ」
 俺は、そう言いながら部屋の隅に腰を下ろした。
「そうだな。残された時間は、ずっと君の傍にいるとしよう」
 少し微笑んで、リナーは言った。
 気恥ずかしくなって、俺はリナーから目を逸らす。
 同時に、『残された時間』というフレーズが重くのしかかった。

 何となく、リナーの部屋を眺めた。
 各所に銃器や日本刀が飾ってある。
 また、立派な筆書で『朴念仁』と書かれた掛け軸が壁に掛かっていた。
 部屋の隅には、沢山のダンボールが積んである。
 あれも銃器や弾薬だろう。
 そして、机の上に置かれたウサギのぬいぐるみが、女の子の部屋である事を全力で主張していた。
 …とは言え、周囲の銃器に比べ、悲しいぐらいに浮いてしまっている。

「『アルカディア』の仲間入りの件、よくリナーが承諾したモナね」
 俺は話題を変えた。
「少し、迷っていてな…」
 リナーは視線を落とす。
「今までの私の味方… いや、私の全てだった『教会』は、完全に敵に回った。
 不様な話だ。結局、私は『教会』にいいように使われていたに過ぎない。『アルカディア』も含めてな」
 リナーは、先程のギコと同じような事を口にした。

 俺は、少し物悲しそうなリナーの横顔を見た。
 リナーにとって、『教会』こそ全てだった。
 組織の為に生き、組織の為に死ぬ。
 彼女は、『教会』の為に戦ってきたのだ。
 『教会』の為に力を振るう事のみが、彼女の存在理由であった。

 彼女は、決して強くなんかない。
 無敵の代行者でも、冷徹な吸血鬼でも――
 それでも、彼女は一人の女の子なのだ。
 それが、たった一人で『教会』の為に生きる運命を背負った。
 吸血鬼に向ける憎しみは、彼女の自己嫌悪に他ならない。
 それを使命感で塗り潰して、彼女は屍の山を築いたのだ。
 そう、『教会』の為に――

 しかし、『教会』は彼女を裏切った。
 いや、裏切りですらない。
 『教会』にとって、彼女は最初から追討すべき吸血鬼に過ぎなかった。
 ――今まで飼ってやった。
 その表現が、『教会』と彼女の真の関係だ。

 その虚偽。
 14年に渡る欺瞞。
 彼女の戦う理由は、生きた証は一体どこにあったのか…

「――でも、君に会えた」
 リナーは唐突に言った。
 俺は驚いて、リナーの顔を見る。

「君が、私を血塗れの闇から引きずり出してくれたんだ。
 『教会』が信じられなくなった今でも、君が傍にいてくれる」
 リナーは柔らかく言った。
 俺は、赤面して目を逸らす。
「よく、モナの考えてる事が分かったモナね…」

「君は思考が顔に出すぎるな。戦闘者としては不利だ。 …そういうのは、私の前だけにした方がいい」
 リナーは僅かに微笑んで言った。
 気恥ずかしくなって、俺は意味もなく時計を見る。
 もう午前9時だ。
 やはり学校は臨時休業のようだ。
 ギコやしぃ達は、公安五課が迎えに来る午後10時までここにいるのだろうか。

145:2004/05/01(土) 15:58
 再び、リナーに視線を戻した。
 彼女は布団の上に座って、俺の顔を見つめている。
「…とにかく、私には問題は無い。公安五課に協力するかどうかは、君の指示に従おう」
 リナーは俺に告げた。
「分かったモナ。10時までには決めとくモナ」
 俺は頷く。
 約束の時間には、まだ半日近くあるのだ。
 そろそろ昼食の事も考えなければいけない。
 ギコたちの分も用意すべきだろうか…?

 俺は、横目でリナーを見た。
 彼女は、何事も無さげに天井を見上げている。
 だが、それは平静を装っているに過ぎない。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は誤魔化しきれないのだ。
 体調が回復したなんて嘘だ。 
 今も、相当に苦痛を感じているはず。
 人の血さえあれば…

「まあ、元気そうで安心したモナ」
 俺は腰を上げた。
 そのまま、ドアの方向に歩く。
 今のリナーを癒せるのは、人の血以外にない。
 リナー自身は拒むだろうが…

「とにかく、今日一日は安静にしておくモナよ」
 俺はそう言ってドアを開けた。
「ああ…」
 頷くリナー。
 そのまま、俺はリナーの部屋を出た。
 彼女はかなり消耗している。
 リナーの意に逆らってでも、人の血を…

「そんな血走った目でどこへ行く気だ、ゴルァ…?」
 俺の目に、腕を組んだギコの姿が映った。
 進路を妨害するように、廊下の真ん中に立っている。
 何やら思い詰めた表情だ。
 もっとも、今の俺も同じようなものだろうが。

「…ちょっと散歩モナ」
 俺は笑顔を形作ろうとする。
 だが、上手くいかない。

「日光を浴びれば死滅する吸血鬼が、日中に散歩か…?」
 ギコは険しい表情を崩さずに言った。
 俺を睨みつける視線。
 張り詰めた空気が増す。

「人間を… 何人か捕まえてくるモナ」
 俺は、ギコの視線から目を逸らして言った。
「テメェ… 自分が何を言ってるのか分かってんのか!!」
 ギコは声を張り上げる。

 自分が何を言っているか分かっているのか、だって?
 俺の選んだ道が正しいか間違ってるのかなんて――
 そんなのは、当然分かっている。
 俺の選んだ道は、完全に間違いだ。
 だが――

「ギコ。お前にとって、しぃの命と見知らぬ10人の命、どっちが大切モナ?」
 俺はギコを見据えて訊ねた。
「…」
 ギコは、黙って俺を睨んでいる。
 彼が、どちらを選ぶかは明らかだ。

「じゃあ、しぃの命と見知らぬ人間100人の命なら?
 それでも、しぃを助けるモナ? 100人の命を優先するモナ?
 その100人は、顔も合わせた事がない人達モナよ?」
「…」
 ギコは答えない。
 彼の中で、答えが出ているにもかかわらず。
 その理由は明白。彼自身の正義に反するからだ。

「じゃあ、300人の命なら? 500人ならどうモナ? 800人なら流石に手を打つモナ?
 一体何人の命なら、自分の最も大切な人と釣り合うモナ?」
 俺は、答えないギコに向かってさらに質問を投げかけた。
 もはや自問に近い。
「それなら… 大切な人の命より、10人の命、100人の命を優先する人間が正義モナか!?
 10人の命を救うために、自分の最も愛する人を切り捨てるような人間が本当に正しいモナか!?」

「…分からねぇよ」
 ギコは口を開いた。
「普通のヤツは、そんなの選べねぇ。それ以前に、そんな状況にはならねぇよ。
 …実際に、そんな決断を迫られたお前の苦悶は分かる。
 お前が俺なら、しぃを救うために同じ事をするだろう。
 でもな… 俺だって人間なんだよ!!」
 ギコの背後に、日本刀を携えた女性のヴィジョンが浮かび上がる。

「俺も、お前がエサとして扱おうとしている人間なんだ!
 お前を、黙って行かせる訳には行かねぇな…!!」
 『レイラ』が、日本刀を正眼に構えた。
 ギコは本気だ。
 本気で、俺を斬ろうとしている。
「…仕方ないモナね」
 俺は、懐からバヨネットを取り出した。

146:2004/05/01(土) 16:00

「…行くぜゴルァ!!」
「来いモナ!!」
 ギコは、大きく踏み込んだ。
 足運びが、剣先が視える。
 その初撃を、身体を反らして避けた。
 吸血鬼の肉体と『アウト・オブ・エデン』があれば、近距離パワー型スタンドの攻撃でも充分に対応は可能。

 俺は高く跳ぶと、天井を蹴った。
 そのまま、ギコにバヨネットを振り下ろす。
 『レイラ』の日本刀が、その攻撃を受け止めた。

 着地と同時に、俺は身を翻してバヨネットを振るった。
 ――狙いは、ギコの胸部。
 ギコの『レイラ』も、俺の顔面目掛けて日本刀を突き出した。
 やはり、反応が格段に早い。
 完全に相打ちのタイミング…!

 その攻撃は、互いに虚しく空を切った。
 いや、ぶつかり合う前に消失したと言った方が正しい。
 『レイラ』の日本刀は中程で折れ、後方に吹っ飛んでいった。
 俺のバヨネットは弾き飛ばされ、天井に突き刺さっている。

 俺とギコの間には、見知らぬスタンドが立っていた。
 人型のヴィジョンで、おそらくは近距離〜中距離型。
 こいつは、一体…!?

「道理や理念は、人それぞれに異なります…」
 俺とギコの間に割り込んだ男が口を開いた。
 おそらく、両方の攻撃を防いだスタンドの本体。
 この男の姿を、俺は何度も目にした事がある。
 ASAのしぃ助教授補佐、丸耳…!

「それぞれに異なるからこそ、万人共通の『正義』というテンプレートが必要なんですよ。
 …ともかく、両者とも剣を納めて下さい。私も『メタル・マスター』を引っ込めましょう」
 丸耳のスタンドが、ふっと消えた。
 ギコのスタンドもすでに消えている。
 どうやら戦意を削がれたようだ。

 …それにしても、丸耳はいつの間にここに現れた?
 俺、ギコ共に戦いに気を取られていたとは言え、全く気配を察知できなかったなんてありえない。
 丸耳はギコの方を向いた。
「ギコ君… 結局モナー君は、人間を捕まえてくる事は出来なかったと思いますよ。
 君は、ギリギリまで友人を見守ってやるべきでしたね。いきなり刃を向けるとは、血気に逸り過ぎです」
「…ああ、すまねぇ」
 自らの非を認めたのか、ギコは視線を落とした。

「君にはリーダーの素質があるのだから、自分を抑える事を知るべきです。
 感情の赴くままに動けば、周囲の人間が苦労する破目になる…」
 丸耳が、実感を込めて言った。
 さすが苦労している人間が言うと、説得力が違う。

147:2004/05/01(土) 16:00

「さて…」
 丸耳は俺の方を向いた。
「モナー君とリナーさんに、少し話があります。今からASA本部ビルに御足労願えませんか?」
 話があるだって…?
 ASAは、俺とリナーが人に害を及ぼす存在である事を察知しているはず。
 誘い出して、罠に嵌める気か?

「多分、モナー君が想像しているような件ではないですよ」
 丸耳は、俺の思考を見透かしたかのように言った。
「正直、今のASAに君達をどうこうしている余裕はありません。今回は、取引の申し出に来たのです」
 そう告げる丸耳。
 ASAが、俺達と取引だって…?

「ASAは、現在大変な苦境に立たされています。そこで、協力してほしい件があるのですが…
 もちろん取引と言う以上は、そちらにも見返りがあります。
 そちらからも喉から手が出るくらい美味しい話だと思いますが…」
 丸耳は思わせ振りに言った。
 公安五課に続いて、ASAからも協力要請か。
 俺達の存在は、思っていたよりも大きいようだ。
 そして、各組織が独自に動き出している。
 どうやら、俺達も傍観していられる立場ではなくなったらしい。

「リナーはこの町で100人以上の人間を殺したし、モナもどうなるか分からないモナ。
 それでも、モナ達と取引するモナか…?」
 俺は丸耳を見据えて言った。
 丸耳は、少し間を置いて答える。
「…個人的な憤りはありますが、最初に告げたように今のASAはそれどころではありません。
 現在のASAには、明確な敵が存在していますから…」

 少しだけ、丸耳の感情が視えた気がした。
 彼は、補佐と言う役職に埋没し、自らの感情を表に出す事は滅多に無い。
 それゆえ、しぃ助教授の付属品のように見える事もある。
 だが… そんな彼の衣が、少し薄れたように受け取れた。

 …とにかく、『アウト・オブ・エデン』で視た限り、丸耳の言葉に嘘は無いようだ。
 話だけでも聞いてみる必要があるだろう。
 喉から手が出るほどの見返りと言うのにも興味があるが、無下に断ってASAを敵に回すのも得策ではない。

「…分かったモナ。リナーを呼んでくるモナ」
 ASAなら、俺達を日光に晒さずに本部ビルまで連れて行く準備はあるだろう。
 俺は、リナーと共にASA本部ビルに向かう事にした。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

148ブック:2004/05/01(土) 17:38
     EVER BLUE
     第零話・VORTEX 〜始まりはいつも雨〜


 男はゆっくりと目を開いた。
「……」
 男は一糸纏わぬ姿で寝かせられていた。
 男は上体を起こし、用心深く周りを見渡す。
 薄暗い殺風景な空間が、男の目に映り込む。

(…ここは?
 いや、それ以前に、私は確か―――)
 男は自分の手をまじまじと見つめた。
 まるで、自分がここに存在する事をいぶかしむかのように。

「…お目覚めかな?」
 急にかけられた声に、男は反射的に振り向いた。
 部屋が薄暗い所為で、声の主の姿ははっきりとは確認出来ない。

(…やれやれ。
 どういう事かは分かりませんが、面倒な事になりそうですねぇ。)
 男は心の中でそう毒づくのであった。

149ブック:2004/05/01(土) 17:38



     ・     ・     ・



 荘厳な威風の漂う謁見の間に、艶やかな服を纏った女性が豪華絢爛な椅子に座っていた。
「…入りなさい。」
 誰も居ない空間に向かって、その女性が一言告げる。

 と、その部屋の入り口の扉が開き、
 そこから無骨な戦闘服に身を包んだ女性が入って来る。
 その女性は、背中に奇怪な大きな得物を担いでいた。

 斧と槍の特徴を併せ持つ白兵武器『ハルバード』。
 それだけでもかなり大仰な武器だが、
 この女性の持つ『ハルバード』は、
 さらに手柄(グリップ)の部分に一体化する形でマシンガンが備え付けられていた。
 それは最早「武器」というよりも、
 「兵器」と呼ぶ方が相応しい程の代物であった。

「お呼びでしょうか、女王陛下(クイーン)。」
 女性が女王の前に恭しくかしずく。
「…わざわざ呼び出してすみませんでしたね、ジャンヌ。」
 女王がジャンヌと呼ばれた女性に顔を上げるように促す。

「いえ、女王陛下の命とあらば、例え地の果てに居ようと馳せ参じます。」
 ジャンヌが顔を上げて引き締まった表情で答える。

「嬉しい事を言ってくれますね。
 …さて、今日ここに貴女を呼んだ時点で、
 どのような用件かは察しがついていますね?」
 女王はジャンヌの顔を覗きこんだ。

「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の件でしょうか?」
 ジャンヌが女王に尋ねた。
「そうです。
 先日、隠密として派遣していた使者から、
 彼等についてのある重大な連絡が入りました。」
 ジャンヌがその言葉に唾を飲み込む。

「…そしてそれから暫くも経たないうちに、
 その隠密からの連絡が途絶えました。」
 女王が顔を曇らせた。
 その目には、心よりの哀しみが浮かんでいる。

「…成る程。それで、私にお呼びがかかったという事ですね。」
 ジャンヌが得心したといった顔で言った。
「そうです。
 ジャンヌ、これ程の危険な任務を任せられるのは貴女しかおりません。
 すみませんが、命を落とした隠密が追っていた任務を引き継いではくれませんか?」
 女王が懇願するような声色で言った。

「女王陛下、私めにそのようなお心使いなど、勿体のう御座います。
 どうかお気になさらず、自分の手足を使うかのように命令なさって下さい。」
 ジャンヌはさも当然であるかのようにそう女王に告げた。
 事実、彼女は女王の為なら喜んで命すら捧げるだろう。
 それだけの覚悟が、その瞳の奥には宿されている。

「…ありがとう、ジャンヌ。
 頼りにしていますよ。」
 女王がジャンヌに子供のように無邪気な微笑みを見せた。
 ジャンヌは同性にも関わらず、
 その女王の微笑みに引き込まれそうになってしまう。

「い、いえ、それが私の仕事ですから!
 この『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード(銃斧槍)』、
 必ずや女王陛下のご期待に答えて見せます!!」
 しどろもどろになりそうになりながらも、
 ジャンヌは女王にそう返答した。

「…そういえば、隠密が追っていたものとやらは一体なんなのでしょうか?」
 思い出したように、ジャンヌが女王に尋ねた。
「ああ、そう言えばその説明がまだでしたね。」
 女王がうっかりしていたとばかりに手を叩く。
「それは―――…」

150ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



 一艘の大きな船が海を渡っていた。
 いや、それは船というよりも、寧ろ小型戦艦と言った方が正しいかもしれない。
 船のマストには、大きな赤い鮫のロゴマークがでかでかと描かれている

 …一つだけ、我々の知る船と相違点を挙げるとするならば、
 その船の浮かぶ海は、
 海は海でも『空の海』『風の海』『雲の海』と形容されるというものであるという事だ。
 そう、この船は空を飛んでいた。

「…糞、こんな所で雨雲にひっかかっちまうなんてな。」
 戦艦の操舵室に備え付けられた椅子に偉そうにふんぞり返る男が、忌々しそうに呟いた。
「雨はいけねぇや。
 どうにも気分が暗くなっちまう。」
 男が足を組み替えながら舌打ちをする。

「…!マジレスマン様。」
 と、操舵室にいた兵士の一人が男に向かって言った。
「何だぁ?
 雨の所為で気分が悪いんだから、つまらない事で話しかけんな。」
 マジレスマンと呼ばれた男は面倒臭そうに返す。

「いえ、あの、外に船の姿が見えましたので報告を。
 どうやら、民間の輸送船のようです。」
 兵士が遠慮がちにマジレスマンに告げた。

「…そうか。よし、撃ち堕とせ。目障りだ。」
 マジレスマンが兵士達に命令を下す。

「で、ですが、あの御方からの指令は、『積荷』の輸送の筈です!
 下手に派手な事をしては、問題が発生するのではないかと…」
 しかし、兵士の言葉はそこで止まった。
 マジレスマンの殺気のこもった視線を、真正面からぶつけられたからだ。

「…お前、いつから俺に命令が出来る程偉くなった?」
 マジレスマンが兵士をギョロリと睨む。
「し、失礼しました!!
 すぐに攻撃準備を開始させます!!!」
 兵士は慌てた様子で部屋を飛び出して行った。

「そう心配すんな。
 たかが民間船が俺達に何が出来る。
 軽〜く撫でてやるだけだ。」
 なおも不安そうな顔をする他の兵士達に向かって、
 マジレスマンは笑いながらそう言うのであった。



     ・     ・     ・



 少女は粗末な部屋の中、体を縛り付けるロープから何とか抜け出そうと、
 必死に身を捩じらせていた。
 しかしロープはきっちりと締め付けられており、何をしようとビクともしない。

「あ〜もう!何でこんなにキツく縛るのよ!!
 女の子にこんな事するなんて、頭がおかしいんじゃない!?」
 少女が諦めた様子で体を動かすのをやめると、
 言葉を向ける相手が不在なまま罵倒の言葉を口にした。

「まったく…
 ようやくあの辛気臭い所から出られたかと思ったら、
 今度は空賊の船の中に簀巻き?
 はっ!
 『囚われの姫君』なんて童話の中の話でしか有り得ないシチュエーションを
 体験出来るなんて、夢にも思わなかったわよ!!」
 しかしその少女の言葉は、少女以外の耳に入る事無く虚しく散っていく。

「…ちょっと!!
 誰か居るんでしょ!?
 早くここから出しなさ……きゃあぁ!!!」
 その時、爆音と共に船に大きな衝撃が走った。

151ブック:2004/05/01(土) 17:39



     ・     ・     ・



「糞ったれがあ!!
 警告も無しにいきなりぶっ放してきやがって!!
 どこのドチクショウだぁ!!!
 こんな非常識な真似をする奴は!!?」
 右目に眼帯をつけた、屈強な体躯の男が喚き散らした。
 その顔には大きな傷痕が刻み込まれている。

「あのマストに描かれてある赤い鮫…
 恐らく『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の一味ですね。
 全くもって運勢が最悪としか形容のしかたがありません。」
 和服を着込んだ大和撫子風の女性が落ち着いた声でそう告げた。

「どうします?
 幸い被弾箇所も無いようですし、このまま雨雲に隠れながら逃げれば、
 逃走が成功すると思いますが。」
 和服女性が口を開く。

「馬鹿野朗!
 このサカーナ商会一味が、正面から喧嘩売られて逃げ出せるか!!
 上等だ!この喧嘩、買ってやる!!!」
 眼帯男が唾を飛ばしながら叫ぶ。

「ほぼ間違い無く返り討ちにあうでしょうね。
 自殺願望があるというならば、話は別ですが。」
 和服女性がやれやれと言った風に頭を横に振る。

「それにこの船の搭載火気じゃ、
 小型とはいえ戦闘用艦体には歯が立たないですよ。」
 横から、テンガロンハットを被った女性が和服女と眼帯男との会話に口を挟む。

「…なあに、外からが駄目なら、内側から喰い破るまでよ。」
 と、眼帯男がニヤリと笑った。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)発射準備!!
 連中のどてっ腹から風穴開けてやるぜ!!!」
 眼帯男が大声で指示を下した。

「ちょっと、本気ですか!?」
 和服女が信じられないといった表情で聞き返す。
「私まだ死にたくないです〜!」
 テンガロンハットを被った女性も眼帯男に反論する。
 しかし、眼帯男はそれらの意見には耳も貸さなかった。

「ニラ茶!三月うさぎ!オオミミ!居るか!?」
 眼帯男が振り返ると、そこには三人の男が立っていた。

「いつでも行けるぜ、フォルァ!」
 ギコの亜種の風貌を持つ男が拳を固めた。

「…全く。
 いつもの事ながら、お前達の無謀さには開いた口が塞がらんな。
 一度頭を開いて中を覗いてみたいものだ。」
 黒いマントに身を包んだ隻眼の長耳の男が皮肉気に呟いた。

「何か言ったか、三月!?」
 亜種のギコの青年が黒マントの男に食って掛かる。
「さてな。」
 しかし黒マントの男は、手馴れた様子でそれを受け流した。

「オオミミ、ビビルんじゃねぇぞ、覚悟決めろ!
 『ゼルダ』の奴にも金玉締めとけって伝えとけ!!」
 眼帯男がオオミミと呼んだ少年の肩を叩く。
「分かってるって、大将。」
 オオミミと呼ばれた少年が、苦笑しながら眼帯男に答えた。

「…それじゃ、今回も頼むよ、『ゼルダ』!」
 少年は、自分の内側に向かってそう呼びかけた。



     TO BE CONTINUED…



以上予告編です。
以前もお伝えしたように、この作品は実験的な意味合いが多分に含まれています。
ご不満、改善点などがありましたら遠慮なくお申し付け下さい。
スタンドスレである以上、スタンドバトルも必ずありますので、
今回スタンドのスの字も出て来なかったことには何卒ご容赦をお願い致します。
ジョジョっぽくないという点に関しましては、
ここはスタンド発動スレであり、
2ちゃんのキャラにジョジョらしい事をさせるスレではないという
言い訳をさせて下さい…
それでも、何とかしてジョジョらしさは少しでも出していきたいと思います、
あと、小説感想スレの>>863様の意見をもとに、
今回はわがままなお姫様ヒロインに挑戦してみる事にしました。
その事も含め、この小説では派手な大失敗をやらかしてしまうかもしれませんが、
どうか生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
本編開始は、恐らく1〜2週間先になると思いますので、
どうか今しばらくお待ち下さい。

152N2:2004/05/02(日) 06:39

)   今まで誰も描かなかったひろゆき家臣団が『矢』の男の存在を知らされるシーン、
 (   私が書いてしまったけれどもいいですか
  `ー〜〜〜o〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
      。O  イザッテトキハ ソコデ バイオレットキムチノ デバンデスヨ
  l⌒l ∧ ∧    __
  |  |( ´∀`)  //  /
  |  |(つ ひつ //  /カタカタ 
  |  | 乂_つ〔三〕三三〕
  |  |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒l`l
  |  |            .| |
  |_「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`l_」

153N2:2004/05/02(日) 06:40

 2ちゃんねる運営委員会 ―始動―

「…それでは、これより緊急会議を始めたいと思います。
まず、今回皆さんに緊急集合を命じたことにつきまして、ひろゆき様からご説明があります」

『夜勤』と呼ばれる男はそう言って上座に座る男に軽く会釈すると、再び席に着いた。
それを受けて、『ひろゆき』は起立した。
張り詰めた空気の中で、崩されることの無い笑顔が不気味に映える。

「…今日みんなに集まってもらったのは他でもないです。
昨日『茂名王町』で突如暴動が起こったのは知ってますね?」

「それだったら、朝からどこの局でもヌ速で取り扱ってたから知らないわけがないんだな!」
『SupportDESK』は知ったかぶりの笑みを浮かべて自身有り気に言った。
それを見た『トオル』は呆れ果てた様に溜め息を吐いた。

「…つまり、貴様は昨晩そんなことも知らずに一人のうのうと過ごし、
貴様を除く護衛団一同のように町で暴徒達の鎮圧に回ることはなかった…という事か?」
『トオル』は飲みかけのグラスをわざと音を立ててテーブルに戻した。
それに対して『SupportDESK』が急に汗ばむ。

「あ…それはその…。
……仕方なかったんだよ!!昨日は真昼間から荒らし抹殺で町中を回って疲れ切ってたんだからな!!
…それとも、文句があるならここであぼーんされるか…?」
彼はどこからともなくバズーカ砲を取り出し、『トオル』に照準を合わせた。

「…まさか、俺とここで一戦交えるとでも…?」
立ち上がる『トオル』。
『SupportDESK』も怯むことなく言い返す。

「…お前は昔から気に入らなかったんだからな…。
僕よりもろくに働いていないくせにひろゆき様から寵愛を受けて…。
しかも世間ではここのNo.2はお前だと言われるてし、ひろゆき様の跡を継ぐのはお前だと言われてるし…。
僕はお前のことが気に入らないんだよなッ!!」

「…てめえ、ここで『枯れる』か…?」
怒りを露わにした『トオル』は先程のグラスを握り締めた。
すると中の水はみるみる内に消えてしまったかと思うと、今度はガラスが砂となって彼の手から零れ落ちていった。

「…二人とも、ちょっと止めるです」
対立を続ける二人の間に、『ひろゆき』の言葉が割って入る。
優しい言葉に潜む、―――威圧感。
主の周辺から、何かどす黒いオーラが自分達に注がれたことを、二人は理解した。
二人は上座を向いて軽く頭を下げた。
「…申し訳ありません。いつもの悪い癖が出てしまいました」
「ご、ごめんなさい…」

「…分かれば、よろしいです」
彼の周辺を渦巻く重苦しい空気がふっ、と解かれた。
『ひろゆき』は続けた。

「今トオルとSupportDESKが言ってたように、昨日町民が突然狂ったように暴れだし、
多数の死傷者を出したです…。
まあそれでみんなには夜遅いところを自主的に鎮圧へと動いてくれたわけですが、
SupportDESKは一昨日は朝から重いバズーカを引っ提げて町中の荒らしを潰してくれましたから
ゆっくり休んでいたのは別に咎めるつもりもないですし、
他のみんなも、特にマァヴなんかは出張帰りで疲れているところだったのに
事態を把握するなりすぐに町へと出て行ってくれてほんと助かったです…」
自分が暗に批判されたと察した『SupportDESK』は顔をしかめ、おもむろにグラスを取ると中の水を飲み始めた。

154N2:2004/05/02(日) 06:41

「まあそれはそれで大問題ですが、それよりもみんなに話しておかなくてはならない事があるです…。
本当は一昨日にでもすぐにみんなを集めてその時に緊急会議をしたかったですが、
マァヴ含め主要幹部が今日まで揃わなかったのでようやくこうして会議を開いたです」

「しかし、昨日の暴動よりも重要な事とは一体何なのですか?」
『マァヴ』が『ひろゆき』の目を見て言った。
それに『ひろゆき』が頷く。
「…実は、一昨昨日の夜中に、この建物に不法侵入者が出没したです」

一気に会議室の空気が変わる。
ある者は椅子を倒しながら立ち上がり、ある者は口に含んだ水を向かいの顔面目掛けて吹き付けた。

「そ…それは一体どういうことなんですか、ひろゆき様ッッ!!!!」
机を叩いて叫びだす『SupportDESK』。

「…見苦しいぞ、座れ。
管理人たるものいざという時にあたふたしているようでは話にならないぞ」
動揺する『SupportDESK』を、『トオル』はハンカチで顔を拭きながら制する。

「…し、しかしッ!このビルの警備は万全のはずです!
蟻一匹とて忍び込む隙はありません!!」
今度は立ったまま『マァヴ』が叫んだ。
ショックが大きいのか彼の表情は凍り付き、足は震えている。

「奴はそれが可能な男です…。
厳重な警備網をいとも簡単に掻い潜り、そして私の部屋に侵入したです」

それを聞いた一同の顔が青ざめる。
「そ、それでッ、ひろゆき様にお怪我は無かったのですかッッッ!?」
先程よりも更に語調を強めて『SupportDESK』が絶叫する。
その声の余りのうるささに、正面の『トオル』は思わず片耳を塞いだ。

「…今ひろゆき様がこうして無事でおられるんだ、お怪我をなさったはずがないだろう?」
それを聞いて、『SupportDESK』はあ、そうかと呟くと落ち着きを取り戻して着席した。
「それよりもひろゆき様、今その者を『奴』と仰いましたが、もしかすると…、
………お知り合いなのですか?」

155N2:2004/05/02(日) 06:43

『ひろゆき』の顔が一瞬ピクリ、と動いた。
そして静かに笑い、『トオル』に向けて不気味な笑顔を突き付けた。
『トオル』は椅子ごと少しだけ後ずさりした。

「…流石ですね、トオル。察しが良い。
本当はプライバシーに関わるからあまり言いたくはなかったですが…、
これもみんなに事の深刻さを知ってもらう為には致し方無いです。
確かにその男はかつて私と接触がありましたです」

「それはどのような経緯だったのですか?」
今まで個人的な発言を控えてきた『夜勤』が始めて口を開いた。

「ええ、あれは確か15年位昔だったですが、私がインドに観光旅行した時の事です。
あの男は前触れも無く突然私の前に現れたです。
そして私に、『あるもの』を預かるよう頼まれたです」

「『あるもの』…?
それは一体何だったのですか?」
『トオル』がいぶかしげに『ひろゆき』に尋ねる。

『ひろゆき』の顔が笑顔のまま険しくなる。
彼は机から立ち上がり、そして言った。
「…『矢』です。古めかしい、いつの時代に作られたかも分からない『矢』です。
しかし、それはただの古めかしい骨董品などではないです。
後に調べたところ、その『矢』は才ある者にスタンドを発現させる代物だったのです」

「な、なんだってー!?」
全員が声を揃えて叫んだ。
この場にいる者は皆生まれついてスタンドを身につけていたので、そのような物の存在は誰一人として知らなかった。

「そ…そんな恐ろしいモノがこの世に存在したのですか!?」
血の毛が失せたまま立ち尽くす『SupportDESK』。
他の者も口にこそ出さないが、彼と同じ様に強い衝撃を受けていた。

「…残念ながら、これは事実です。
私は何故あの男が私に預けたのか全く分かりませんでしたが、ずっと大切に保管してきたです。
そしてあの夜…」

「…このビルの厳重な警備の合間を縫って、ふてぶてしくもひろゆき様のお部屋に侵入したということですか」
『トオル』が険しい顔をして言った。
顔も知らぬ男に対して既に敵意剥き出しと言わんばかりである。

「ええ、そして奴は隣の部屋の金庫から『矢』を一本奪い取り、そのまま逃げ去ったです…」

156N2:2004/05/02(日) 06:43

「…ちょっと待って下さい!
そんな危険なブツを持ち逃げされただなんて、何されるかわかったもんじゃないですよ!!」
『マァヴ』の顔色が変わる。
元削除管理人委員長という立場上、町の公安に関わる事項に彼はうるさかった。

「…その通りです。
そして昨日のあの騒動をもう一度、その上でよく考え直して欲しいです。
突如自我を失ったように狂戦士と化した町民達、
それが町民全体の約95%以上というこの不可解な現象を改めてどう思うですか?」

「…スタンド攻撃!!」
『トオル』が最初に真実に気付いた。
それを聞いた回りの者達もあっ、という顔をした。

「そうです、しかもこんな突然にこんな現象が起こるなど、
まるで『何か突然の出来事を契機に発現したスタンドが半ば暴走気味に町民を操った』みたいでしょう…?」

「もう既に、『矢』によってスタンド使いが誕生している…」
『夜勤』は唖然とした。
しかし『ひろゆき』によって更に残酷な現実が突き付けられる。

「それ以上にあの『矢』の危険なところは、『矢』によってスタンドを発現出来なかった者は
例外無く皆死んでしまう事です…。
…実際ここ数日で変死体の発見数が爆発的に増加しているらしいですね」

「ひろゆき様!!」
これまで冷静さを保ってきた『トオル』が突然怒鳴り声を上げながら起立した。
『ひろゆき』は彼の意図をすぐに察した。

「…分かっているです。その為にみんなをここへと集めたです。
―――コードネーム、<『矢』の男>!
      罪状、『矢』による無差別大量殺人及び殺人未遂!
      その素性、スタンド共に未だに不明!
      しかしその凶悪性から危険度はAAAと認定!
      この場に居る全員に命ずるです!
      目的は『矢』の奪還!
      そして『矢』の男を発見次第、即刻『削除』するです!!」

「ハッ!!」
全員が起立し、『ひろゆき』へと敬礼する。

「さあ、行くです!罪無き町民達の命を弄ぶ悪を、その手で断罪してくるのです!!」
彼の号令に一同は再び敬礼し、そして直後部屋を後にしていった。
無論それは『夜勤』にとっても同じだった。
しかし、その彼を『ひろゆき』が呼び止めた。

(…後でちょっと部屋に来て欲しいです)

『夜勤』は何故自分だけにそのように命じたのかふと疑問に思ったが、
二つ返事で「はい」と答えると同僚達を追って走っていった。

157N2:2004/05/02(日) 06:44



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



『ひろゆき』は嘘を付いた。
彼が話した『矢』の男との出会いは、彼にとって重要な部分だけが隠されていた。
インドへは観光などではなく、空条モナ太郎一行を抹殺する為に向かったのであり、
『矢』の男から受け取ったのは『矢』などではなく『石仮面』であった。
しかしその事実は、彼がこの15年間「不老不死」の野望を果たすべく隠してきたことであり、
どうしても部下達に知られてはならない事であった。

それ故、この時期に『矢』の男が自分の前に出没したことは完全に計算外であった。
今この時期自分の前に現れられては、これまで積み上げてきた計画全てが台無しになる危険性がある。
その為、いずれはそうすべく運命ではあったが、彼は何としても、その計画が明るみとなる前に、
自らの野望を知る唯一の存在、『矢』の男に消えてもらわなくてはならなかった。

彼のすぐ傍には、『夜勤』が控えている。
彼にとって、自分の計画の安全性は1%でも高めておく必要があった。
その為には、『矢』の男と不要な接触を試みる危険因子は全て取り払わなくてはならない。

「…それで、一体どのような御用でしょうか…?」
『夜勤』はそんな彼の真意など知る由もなく、純粋な忠誠心から成る言葉を『ひろゆき』に発した。
『ひろゆき』は一瞬そんな彼が不憫にも思えたが、すぐに思い直して命令した。
「まず、この茂名王町でここ最近恐らく『矢』によってスタンドが発現したであろう者達を、
一人の漏れも無く私に報告するです」

「…それで、その者達を如何なさるおつもりですか?」
『夜勤』が尋ねる。
『ひろゆき』は何の躊躇もせず、極めてあっさりと『夜勤』に言い放った。
「…他の者にもこれはすぐに伝えるのです。
『矢』の男に与する危険性のある者全て、私が命じ次第問答無用で全員すぐに消し去るです」
彼の目には、うっすらと狂気染みた物が感じ取られた。
が、『夜勤』にはその命を断れるはずもなかった。
「…仰せのままに」

158N2:2004/05/02(日) 06:46

だが、新たなスタンド使いを片っ端から消していっただけでは、それはそれで彼にも不都合に働く。
実際に『矢』の男のスタンドと戦ったことは無いが、『矢』を奪われた時に彼は二人の間に絶望的な実力差を感じた。
恐らく、自分が戦ったのでは呆気なく返り討ちに遭い、不老不死以前にお陀仏となってしまう。
『矢』の男を殺しうるスタンド使い。
彼にはそれもまた必要であった。

思い浮かぶのはあの夜、月に照らされた『矢』の男の姿。
あの時、彼の手には血に染まる包帯が巻かれていた。
…あくまで彼の勝手な推測ではあったが、『矢』の男はもしかしたら、
自分の所へ来る前に何者かと戦い、そして負傷したのではないか、と彼は思った。

無論、その人物が今でも生きている可能性は極めて低い。
十中八九、その場で男に殺されてしまったであろう。
…だが、彼はそれでもそのスタンド使いがまだ生きている、と何の証拠も無いのに強く思っていた。
単なる妄想か現実逃避か、しかしその者を上手く利用すれば、自分は一切の手を汚さずに
『矢』の男を抹殺することが出来るという思いが、彼の中では激しく燃え盛っていた。
彼は続けて『夜勤』に言った。

「…そしてこれは貴方に対してだけの極秘任務です。
ここ最近、この町に外からやって来たスタンド使いを先程のとは別に調べ、私に報告するです」

「その者達も処分するおつもりですか?」
『夜勤』は薄っすらとではあるが、それでも嫌そうな顔をしていた。
彼とて無意味な殺害は削除人本来のあるべき姿とはかけ離れていると感じているのだろう。

「いや、その者達はしばらく様子を見るです。
…あ、それと、その者達の実力が如何ほどか、という事も詳しく調べておくです」
『ひろゆき』はPCの省電力モードを解除し、書類の作成に当たり始めた。

「承知しました。では…」
そう言って、『夜勤』は静かに退室していった。

『ひろゆき』は再びPCを閉じると、グラスにワインを注ぎ、『矢』の男の事を考え始めた。

(かつて私に世界の覇王たる者の風格を感じ、石仮面を渡した貴様が…
何故今になって私の前に現れるというのですか!
今まで私が積み上げてきた15年、ここで全て失ってしまったならば、私は……。
……こんな所で私の計画を崩してたまるものですか。
今私の前に現れた、貴様の方が悪いですよ…。
貴様にはこのまま大人しくあぼーんされて頂くことにしましょう…。
クク…クックックック…クハハハハハハ………!!)

やがて『ひろゆき』は耐え切れなくなり、大声を上げて不気味な笑い声を辺りに響かせた。

159N2:2004/05/02(日) 06:47



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「いい加減にしろ!貴様一人の我がままでチーム全体に支障がきたされると言っているんだ!!」
狭い部屋の中に『トオル』の怒鳴り声が響く。
怒りの対象は『SupportDESK』。
その彼は不機嫌そうに頬杖を突いて座っていた。

「フン!どうせ僕が頑張ったところで褒められるのはいつもお前か夜勤だけだ!
だったらお前ら二人だけで頑張ってろよ!
僕はその間に荒らし共を血祭りに上げるんだからな!」
『SupportDESK』は再びバズーカを取り出し、部屋から出ようとした。
この態度が『トオル』の神経を逆撫でした。

「…それが常日頃からひろゆき様へ人一倍忠誠を捧げてきた者の取る態度か!!」
『トオル』からスタンドが浮かび上がり、『SupportDESK』目掛け拳を振り下ろす。
しかし、その拳は『マァヴ』のそれによって止められた。

「落ち着けよ、トオル。確かにまあ私にも彼の気持ちが分からないでもないよ。
だからまあ、ここは少し抑えてくれないか?」
『マァヴ』にたしなめられ、『トオル』は渋々スタンドを引っ込めた。

「SupportDESK!お前もお前だ!ひろゆき様からの勅令を無視するなんてお前らしくないぞ!!
お前も少しでもひろゆき様に気に入られたいんだったら、それなりの行動をしてから言え!!」
流石に『マァヴ』に言われたのであっては、彼にも文句を言い返すことは出来なかった。
彼は無言で小さく頷いた。

「…全く、こんな大事件が起こった傍から内部分裂だなんて笑えないよ!
二人とも、少しはよく考えてくれよ。ひろゆき様を慕う気持ちは、我々皆一緒のはずだ!」
『マァヴ』はそう言い残して部屋を後にした。
そして居辛くなった『SupportDESK』も間も無く外へと出て行った。

後には、『トオル』だけが残された。

160N2:2004/05/02(日) 06:47



彼には、『ひろゆき』の言葉が本当だとは思えなかった。
全くの確信も無いが、しかし自らの主の言葉の裏には、何か良からぬ思惑が渦巻いているのではないか。
家臣筆頭であるからこそ、彼にはそう強く感じられた。
同時に、その主人を疑う気持ちが彼にはどうしようもなく許せなかった。
信じられぬ主と、信じられぬ自分。
彼は堪らず近くの長椅子の上に大の字になって横になった。

(…どうして、こんな事になっちまったんだろう)

思い出されるのは懐かしき日々。
皆の間でのいざこざも無く、ただ毎日が楽しかった。
それが今では―――

(こんな時にあんたが居てくれたならどんなに助かったか…。
…切込隊長、あんた今どこで何をしてるんだ?
教えてくれよ、切込隊長…)

真上の天井に、在りし日の彼の姿が浮かび上がる。
そして間も無くその像は、水面に映る月の如く歪んでいった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

161452:2004/05/02(日) 10:18

              こ れ が 日 常 な ん で す 
                               そ の 1



  ・・・・・・ろ ・・・・い ・・・・・きろ ・・・・・い ・・・おい・・・起きろ!起きろ!

「・・・う・・・ん?」

よく寝た。いつものことだ。けど、このちょっと遅いくらいのすがすがしい朝を、これからも大切にしていきたいと思う。

・・・あれ?
・・・?
・・・・・・??

・・・2本の機械的な腕が、僕の頭をがっちり掴んでいる。

少しだけ頭を動かし、そいつの顔を見た。

・・・無い。
肩から先だけだ。

・・・・・・あ、これ、スタンドか。多分そうだ。
そうかと思うと、その腕はすっ、と消え、頭が自由になった。

目をこすりながらゆっくり起き上がった。枕元には、40分ほど前に喧しく鳴っていたであろう目覚まし時計が8時10分を示していた。

「やっと目が覚めたか・・・。」
おや・・・?
布団の横の卓袱台にものすごく不機嫌そうに座っている男がいた。
「俺は元来、時間にルーズな奴には厳しいタチでな・・・。10分遅刻だぞ、ゴルァァッ!!8時に第2公園に行くんだろ―がっ!」

そうだ。8時に第2公園に行くんだった。
今更急いだって遅れるが、とりあえず急ごう。
とりあえず顔を洗って、着替えて、朝食を食べて、歯を磨いて、ついでにもう一度顔を洗う。
途中何度もひっぱたかれた気がしたが、これは日課なのだ。一日の始まりを実感するための儀式だ。通過儀礼だ。
モナを何度もひっぱたいた男はこれが終わったのを確認すると、モナをこの家――マンションの一室だが――に2枚だけの座布団に座らせ、
自分は前にもまして不機嫌な顔で卓袱台に腰掛けた。

「・・・・・・えっと・・・何から聞こうか・・・・・・君は誰モナ?」
「・・・ギコでいいや。ポリゴンモナーの協力者だ。
 ところでテメェ、どういう思考回路してんだ?俺が起こさなかったら一体いつまで寝過ごしていやがったんだ?
 しかもなんだ?状況を把握していながら、顔洗って着替えて飯食って歯ァ磨いてまた顔洗って、いつもそんな生活してんのか?
 そんなんでこの高速社会で生き抜くつもりなのかと小一時間問い詰めたい。・・・おっと、話が反れちまったようだな。オマエ、さっき何つったっけか?」
「・・・まだ、名前を聞いただけモナ。」
「ああ、そうだったな。・・・で、オマエ、俺達に協力すんだろ?」
「確かにそのつもりモナが・・・どうして言い切れるモナ?モナは何の連絡もしてないのに・・・。」
「ハァ?・・・あの野郎、また独断で指示出しやがったな・・・。まあ、いい。急いで駅前に行くぞ。」
「了解モナ。」

普通に靴を履き、いつものように元気に玄関の扉を開けた。

162452:2004/05/02(日) 10:19

    ガ ァ ァ ン !
「うおあぁぁっ!?」


・・・と同時に、たった今インターホンを押そうとしていたであろう中年の男をなぎ倒してしまった。
鼻を押さえてうずくまる中年男。かなりひどくぶつけたようだ。

「・・・あ・・・ごめんなさいモナ・・・。」
「いや・・・大丈夫です。すんません、こちらこそ・・・。」
明らかに精一杯怒りを堪えている。

「おい、急ぐぞ!」
後ろから怒鳴られた。
「あ、わかったモナ・・・。」
ギコの方に振り向く。

おや?ギコの表情が変わった。
ギコが自分のスタンドを出して、玄関前に立っている男に腕を伸ばした。
驚いて、男の方に向き直った。
ギコのスタンドの腕と男のスタンド・・・――この男も!・・・――が組み合っている。
「・・・いきなりやってきて、いきなり殴りかかるたぁ、とんだ礼儀だな・・・。・・・目的は何だ、ゴルァ!」
「・・・上からの指令でね。」
「ということはテメェ、どこぞの敵対組織の・・・下っ端か?」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」
どうも彼をプッツンさせてしまったらしい。
男のスタンドはギコのスタンドを投げ飛ばした。
同時にギコも後ろに吹っ飛んだ。ギコは受身をとって着地し、叫んだ。
「ぼさっとしてんじゃねぇ!テメェもスタンドを出せっ!」
「え!?あ、ああ・・・どうやって?」
「本能だっ!そのうち使いこなせるようになるだろ―よっ!」
「本能って・・・簡単に言われても・・・」

「・・・そろそろ、お喋りをやめて、こっちに集中したらどうだい?」
不意に男が口をあけた。スタンドは今にもモナに殴りかからんばかりに振りかぶっていた。
ギコが叫ぶ。
「おい、来るぞっ!今こそ本能をフル稼働して身を守れっ!」
「う、うおおああっっ!出ろ――っっ!」

・・・出たっ!
昨日見たあの2人組みのチビ達が目の前に出てきた。
男のスタンドはモナがスタンドを出したことを確認すると、目標を変更してモナのスタンドに殴りかかった。
「く、来るならこいっ!モナのスタンドに触ると―」



    バ ギ ャ ッ !

「おぱあああぁぁぁっ!?」
スタンドの顔面を思い切り殴られた。スタンドと一緒に、モナも一緒に大きく吹っ飛んだ。
あれ?おかしいな。
昨日は柵を消し飛ばしたり塀に穴開けたりしていたからスタンドにも殴られないだろうと思っていたのに、思っていたのに、
なんで普通に殴られちゃうの?何で男は何ともないの?

ああ、

意識が・・・ ・・・



「・・・・・・んの・・・役たたずがぁっっ!」
「・・・思ったよりあっさりと終わってしまったようだね。」
・・・ああ、めんどくせぇ事態になってきちまった・・・。

ギコは懐から携帯電話を取り出し、
3番を押した後で通話ボタンを押した。
「・・・最近の携帯電話は便利だよなぁ。一々電話番号を押さなくても通話ができるんだ。」
「仲間を呼ぶのかい?」
                      ・  ・  ・  ・
「ああ。とりあえず、テメェは確実に 生 け 捕 り にする。」

「・・・ポリゴンモナー、ギコだ。敵対勢力の下っ端らしき野郎の襲撃を受けている。
けっこ―ヤバイ。悪ぃ、なるべく急いでモナーの家まで来てくれ。」
「下っ端と呼ぶなぁっ!」

163452:2004/05/02(日) 10:20

「・・・了解。すぐそちらに向かう。それまでなんとか繋いでいてくれ。」

・・・やれやれ。

・・・ああ、本当に面倒臭い事態になってきた・・・。
               ・ ・ ・ ・ ・ ・
私を襲ってくるのは恐らく何処かの一団であることは以前から分かっていたが・・・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
仲間になるかもしれないモナーの方を襲ったということは・・・
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・       ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
『これまでよりも情報収集に長けたスタンド使いが新しく仲間入りした』か、『『これまでの奴』が成長または進化した』か・・・
      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
若しくは『組織の方針に何かしら変化があった』か・・・

今幾ら考えたって推測の域を出ないだろう。とりあえずギコ達を助けに行くか・・・。
・・・・・・。

「邪魔する気か・・・。」
前方に殺気がある奴が2人。
向かって右の奴――見たところモララー族――が口を開いた。
「問答無用だからな。君はここで抹殺・・・最低でも足止めさせてもらうからな。」
さらに向かって左の――こちらもモララー族――が続けた。
「君の相手は俺達・・・人呼んで『ageブラザーズ』が務めるからな!」
・・・相手はしていられない。
『ヒマリア』を発動する。

「・・・『ageブラザーズ』?聞いたことが無いな。何処かの穀潰し集団か何かか?」
「穀潰し集団・・・ひどい言い様だな。」
「俺達を馬鹿にしていられるのも今のうちだからな!
 お前はすでに俺達のスタンドの術中にはまっているんだからな!
 ・・・なあ、そうだろ?兄貴!」
「おう!もうとっくに・・・ッ!?」
「あ、兄貴ぃっ!?・・・おうっ!?」
兄弟仲良く前のめりに倒れて気を失ってしまった。
彼らの後ろには、今の今まで彼らの眼前約20㍍に立っていたポリゴンモナーがいる。
「キメが少し遅れたが・・・。当て身。」

さて・・・急ぐか。



「繋いでいてくれ・・・って簡単に言われてもなあ・・・。」
「彼に期待するのか?あっちには俺達の仲間が2人向かっているんだぞ?」
「あいつは大丈夫だろ―よ。それにオマエ等、あいつの能力は詳しくは分かってないんじゃね―か?」
「まあ、とりあえず・・・今は君を始末させてもらうからな。」

「やれやれやれやれ・・・やるしかねえのか。」


←To Be Continued

164ブック:2004/05/02(日) 15:36
     EVER BLUE
     第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜


 …僕が彼と出会ってもう何年になるだろう。
 あの日僕達は出会い、そして今まで常に共に在って来た。
 僕は彼の事が何でも分かる訳じゃない。
 彼も僕の事が何でも分かる訳じゃない。
 それでも、誰よりも大切な僕の掛け替えの無い友達。
 そう、彼は、彼の名前は―――

「…ルダ』?おーい、『ゼルダ』?」
 …と、どうやら干渉に浸りすぎていたようだ。
(ごめん、ちょっとぼーっとしてた。)
 僕ははにかみながらオオミミにそう答えた。

「おいおい。頼りにしてるんだから、しっかりしてくれよ『ゼルダ』。」
 オオミミが笑いながら僕に語りかける。
 この『ゼルダ』というのは、僕の本名じゃない。
 オオミミが僕の為につけてくれた名前だ。

 僕には、オオミミと出会う以前の記憶が無かった。
 自分の名前は何なのか。
 自分は何処から来たのか。
 自分は何をしたかったのか。
 自分は一体何者なのか。
 それらの事が全く思い出せない。
 この世界から消えそうになっていた僕を、オオミミがその体に受け入れてくれた時、
 それからがこの世界での僕の思い出の全てだった。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を発射するぞ!
 野郎共、準備はいいか!?」
 サカーナの親方のがなり声が、僕を現実に引き戻した。
 今日は何か変だな。
 いつもはこんなおセンチな事考えたりしないのに。
 外で降りしきる雨が、僕を感傷的にしているのだろうか。
 そうだ。
 そういえばあの日も、丁度こんな酷い雨で…

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射!!!」
 サカーナの親方の叫びと、轟音と振動が重なり、
 巨大な錨が先程僕達を攻撃してきた小型戦艦に撃ち込まれた。

165ブック:2004/05/02(日) 15:36



     ・     ・     ・



「…あの民間船、逃げたようだな。」
 船の甲板上で、マジレスマン率いる戦艦の兵士の一人が、横の同僚に話しかけた。
「そのようだな。ま、しゃあねぇさ。
 こんなに雨雲が深けりゃあ、一旦雲の中に逃げ込まれたらどうしようも…」
 その時、戦艦に振動が走った。

「!?何だあ!?」
 その衝撃で転倒した兵士が、慌てて身を起こしながら叫んだ。
「!!おい、あれ見ろ!何だありゃあ!?」
 隣の兵士が甲板に突き刺さった巨大な錨を指差す。

「糞!あいつら、雲に隠れた所から…」
 しかしその兵士の言葉は最後まで紡がれなかった。
 口をだらしなく開いたまま白目をむき、その場に崩れ落ちる。

「!!なあ…!?」
 その場の兵士達の視線が一斉にその場に釘付けになった。
 そこには、黒いマントを羽織った男が一人佇んでいた。
 隻眼の目が兵士達を冷ややかに見据える。

「撃―――」
 「て」という言葉と銃声とが重なり、
 自動小銃から大量の銃弾が吐き出されて雨のように黒マントの男に襲いかかる。

「『ストライダー』。」
 しかし男は身じろぎ一つせずに、マントを銃弾に向かって翻した。

「!!!!!!!!!」
 銃弾が、まるで手品のように次々とマントの中へと吸い込まれていった。
 隻眼の男には、傷一つついていない。

「馬鹿な…!」
 狼狽する兵士達。
 黒マントの男はそんな彼等を一瞥すると、マントの襟を掴んで無造作に広げた。
 マントの内側はまるで別世界に繋がっているかのような漆黒の闇色であり、
 その中から無数の刀剣が出現しては地面に突き刺さった。

「……!」
 その異様な光景を、攻撃するのも忘れて呆然と見つめる兵士達。
 黒マントの男はそんな事など全く意に介さない様子で、
 地面に突き刺さった剣を一本引き抜くと、その切っ先を兵士達に突きつけた。

「…来るならば、殺す。」
 黒マントの男が、短く呟いた。

166ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



「…相変わらず、容赦無ぇなあフォルァ。」
 錨をつたって甲板まで降りてきたギコ族の亜種の男が、
 呆れたように黒マントの男に向かって言った。
 それに続いて、オオミミも甲板に降りてくる。

「あいつらは俺達を殺すつもりだった。
 ならば、逆に殺されても文句は言えまい?」
 黒マントの男がギコ族の亜種の男の顔も見ないまま答える。

「いやだけどさあ、俺達強いんだし、
 もっとこう、ちょっと痛い目に遭わせるだけで済ますとか、
 手心ってもんをよお…」
 ギコ族の亜種の男が、渋い顔をする。

「無駄口を叩いている暇があるなら、さっさと錨を外しておけ。
 この戦艦とチェーンデスマッチをやらかした日には、
 俺達の船などあっと言う間にお陀仏だぞ。
 それ位の事にも頭が回らないのか、低脳が。」
 黒マントの男が吐き捨てるように言う。

「んだとぉ!?
 手前下手に出てりゃあいい気になりやがって…!」
 ギコ族の亜種の男が黒マントの男に掴みかかろうとした。
「馬鹿には付き合いきれんな…」
 黒マントの男も、マントの中から短剣を取り出す。

「ちょっ、ニラ茶猫も三月うさぎも落ち着いて!
 今こんな事をしてる場合じゃないだろ!?」
 オオミミが二人の間に割って入った。
 二人はしばし睨み合った後、ようやく諦めた様子でそっぽを向き合う。

「ちっ…!
 いいか!?この場はオオミミに免じて引いてやるけどな、
 次やる時にはぼっこぼこに…」

 次の瞬間、三人の居る場所に無数の銃弾が飛来した。
 三月うさぎと呼ばれた黒マントの男は、
 マントで自分とオオミミの身を守る。
 しかし、ニラ茶猫だけはマントの庇護下に置かれなかった為に、
 体に幾つもの穴が次々と穿たれ、その場に倒れて床を血の赤色に染めた。

「貴様ら!生きて帰れると思うなよ!!」
 三人が一悶着を起こしている間に、
 新たな兵士がその場に駆けつけて来ていた。
 当然と言えば当然である。

「動くなよ。そこで穴だらけになった男のようになりたくなかったら、大人しく…」
 その時、兵士達の動きが止まった。
 銃弾で無残なまでに撃ち抜かれたニラ茶猫の体が、不気味に蠢いたからである。

「…痛でぇ……う痛でええぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇ…!!」
 血を滴り落として呻きながら、ニラ茶猫がよろよろと立ち上がる。

「畜生がぁああぁ…!
 …三月うさぎ、手前わざと俺だけ守らなかったなあああぁぁああ!?」
 ニラ茶猫が三月うさぎを恨めしげに見つめた。
 彼の体の銃で撃たれた傷口からは無数の虫の姿が覗き、
 擬態を繰り返す事でニラ茶猫の体を修復していた。

「お前の嫌いな俺に助けられるのは嫌だろうと思ってな。
 これでも気を利かせたつもりだが?」
 黒マントの男が肩をすくめながら口を開く。

「…手前、いつか殺して…うおわぁ!?」
 そこに、再び兵士達が銃弾を浴びせてきた。
 間一髪、三人は遮蔽物に隠れる。

「さてと。それではな、ニラ茶猫。
 俺とオオミミは先に艦内に侵入して、金目の物を頂いてくる。」
 三月うさぎがニラ茶猫に向かって言った。

「お、おい、ちょっと待てや!
 俺一人に面倒事押し付けるつもりか!?」
 ニラ茶猫が憤慨する。

「俺はさっき運動して疲れた。
 後はお前がやれ。」
 三月うさぎが冷淡に言い放つ。

「でも、三月うさぎ…」
 オオミミが心配そうに両者の顔を見つめる。
「こいつに余計な心配など要らんよ、オオミミ。
 こいつとこいつのスタンド『ネクロマンサー』は、殺しても死なん。」
 三月うさぎが鼻で笑いながらオオミミに答える。

「そういう事だ。では頼んだぞ。」
 そう言い残すと、三月うさぎはオオミミを連れてさっさと行ってしまった。
 その場に、ニラ茶ギコだけが取り残される。

「この…ド畜生がああああああああああああああ!!!!!」
 ニラ茶猫の叫びが甲板に木霊した。

167ブック:2004/05/02(日) 15:37



     ・     ・     ・



 オオミミは通路の曲がり角に差し掛かると、顔だけをヒョコッと出して
 見張りが居ないかどうかを確かめた。
 誰も居ない。
 幸い、ニラ茶猫が甲板で暴れてくれているお陰で、警備がそこに集中しているようだ。

(オオミミ、気をつけて。)
 それでも僕は一応オオミミに注意を呼びかけた。
 彼はそそっかしい所があるから、こうして釘を刺しておくに越した事は無い。

「分かってるって、『ゼルダ』。」
 オオミミが小声で僕に答えた。

 そうは言ってもやっぱり心配だ。
 頼りの三月うさぎも、別の場所にお宝を探しに行ってしまっている。
 こんな時には、僕がしっかりしておかなければ。

「……!」
 と、オオミミが歩くのを止めた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが押し殺した声で僕に語りかける。
(うん…)
 横の部屋の扉から、何やら呻き声が聞こえてきた。
 よく分からないけど、どうやら女の子の声のようだ。

「どうする…?」
 オオミミが僕に尋ねる。
 個人的には『触らぬ神に祟り無し』、という事で放置しておきたいけれど、
 オオミミの性格からしてそう言った所で抑止力にはならないのは明白である。

(取り敢えず、気をつけて調べてみよう。)
 なので、僕はこう答える事にする。
 だが、このオオミミの何にでも首を突っ込みたがる悪癖はいつか注意してやらねば。
 彼の身に何かあったら、彼の中に住まう僕にとっても大事になってしまう。

「…鍵がかかってる。」
 オオミミがドアノブを何度か回そうとするも、ドアは開かなかった。
(OK。任せて。)
 僕の意識がオオミミの体から離れ、実体化する。
 僕は、サカーナの親方達が言うにはスタンドという存在らしい。
 それで、僕の姿はそのスタンドを使える人以外には見えないそうだ。
 …いや、今はこんな事言ってる場合じゃない。

(せー、の!)
 僕はドアノブを握り、力任せに捻る。
 僕の力の前に鍵は呆気無く破壊された。
 役目を終え、僕は再びオオミミの中へと戻る。

「よし、行こう。」
 オオミミがゆっくりとドアを開けた。
 僕も、不測の事態に備えていつでも飛び出せるようにしておく。
 ドアがゆっくりと開き、その中には―――

168ブック:2004/05/02(日) 15:38


「…あなた達は?」
 その中に居たのは、ロープで縛られた女の子だった。
 それも、一般的に美少女と呼ばれる類の。

「…!助けて下さい…!!」
 と、女の子は僕達にそう懇願してきた。
「私、ここの空賊に捕まってしまったんです!
 お願いです!
 どうかここから連れ出して下さい!!」
 女の子が必死な顔で頼む。

「分かった、今すぐロープを解くよ。」
 オオミミがすぐさま少女を助けようと…

(待った、オオミミ。)
 そこで、僕はオオミミを止めた。

「?何言ってるんだ、『ゼルダ』?」
 オオミミが怪訝そうに聞き返す。

(サカーナの親方にいつも言われてるだろ?
 『厄介事を船の中に持ち込むな』って。
 気の毒だけど、その子は放っておいた方が…)
 僕は思い声でオオミミにそう告げる。

「!!
 じゃあ、この子をここで見捨てろって言うのか!?
 これからここの連中に何をされるか分からないってのに!!
 そんな事、出来るもんか!!」
 オオミミが激昂する。
(仕方無いよ。
 それに僕達だって、この女の子にしてみれば、ここの連中と大差無い。)
 オオミミの場合、邪な下心でこの女の子を助けようとしている訳ではない分余計に質が悪い。
 お人好しなのはいいが、この厳しい空の海を渡り歩くにはオオミミは余りにも甘すぎる。
 三月うさぎ程非情になるのも考えものだとは思うが、
 こうも面倒事に首を一々突っ込まれては、こちらとしても気が気でない。

「だけど、だけど『ゼルダ』…!」
 オオミミが納得いかないといった風に僕に食い下がる。

 …やれやれ。
 本当に君は、甘いんだから。
 仕方無い…
 僕も一緒にサカーナの親方に怒られるとするか。

(…分かったよ、オオミミ。その女の子を―――)


「ちょっと!?
 何一人でブツブツ言ってるのよ!!
 こういう時は即断即決で助けるのが常識でしょ、このトンチンカン!!!」
 と、女の子がいきなりその態度を豹変させた。
 僕とオオミミは、そのあまりの変わり様に硬直する。

「やばっ…
 うっかり本音が出ちゃった。」
 女の子がしまったという顔をする。

 ―――前言撤回。
 オオミミ、この子はやっぱり見捨てた方がよさそうだぞ。



     TO BE CONTINUED…

169 丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:01



   一九八四年 四月十日 午前三時四十一分



ビチッ、と音を立てて、両腕の革ベルトが噛み切られた。
「…切レマシタ!」
「何十分かけてんだよ」
 二郎の言葉に、B・T・Bが下を向いて恨めしそうに呟いた。
「言ワレマシテモ非力ナモノデ…」
 確かにB・T・Bは、物体の破壊に関して最も不向きなスタンドと言える。
幼児程度の力しかないとはシャマードから聞いていたものの、焦りが二郎の頭にちらついた。
 ともかく、自由になれた以上ここにいる意味はない。
「うし。人が来る前に逃げるぞ」
「御意」
 自由になった親指を口元に持っていき、ぷちりと噛み切る。
ピリッとした痛みと共に、指先に血の玉が膨れた。
 ぽたぽたと、B・T・Bの掌に血を落としてやる。
手で触れるだけが『種』を植える方法ではない。
生きている二郎の細胞があれば、血の一滴でも『石の花』は咲く。
 B・T・Bの射程は約一メートル。
ギリギリまで二郎から離れ、格子の外のコンクリ壁に血を塗りつけた。


   ―――『花』のイメージ。種が殻を破り根を張り茎を伸ばし、ただしつぼみは堅いまま―――


 二郎のイメージが、『石の花』を成長させていく。
己の体を支えるために根が張られ、花を付けるために茎が伸びる。
根と茎が成長している中、唯一花だけはつぼみのまま。

「んん〜…。イメージ通り」

 満足げに二郎が呟く。
二メートルほどに成長した『石の花』が力を溜めるように鎌首をもたげ―――


「行けっ!」
 思いっきり、檻に向かって撃ち出された。
槍の穂先よりも鋭く固く閉じたつぼみは、銃弾並みのスピードで精密に蝶番を撃ち抜いた。
「よし」
 ガコンと牢の扉を蹴り開け、縛られていた手首をこきこきとならす。
廊下を抜けて出口のドアに手をかけ―――――

  ジリリリリリリリリッ !!

―――――高らかに警報が鳴り響いた。

170丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:02
 サ ノ バ ビ ッ チ
「 Son・of・a・Bitch!バレマシタ!」
「言われんでも判るわっ!」
「伏セテ!」
 みなまで聞かず、地面に寝転がる。
鉄製のドアをぶち抜いて、一瞬前まで二郎の頭があった位置を鉛弾が通り抜けていった。
「困るね、Mrニローン。逃げちゃダメでしょ。俺らみたいな仕事は信用第一だからね」
 やたらと軽薄な声。二郎は知らなかったが、先程シャマードを狙撃した人間だ。
「お前…SPMの人間じゃないな?」
 財団の人間が、上からの命令で吸血鬼狩りに動く事はまず無い。
SPMは基本的に、吸血鬼に対しては干渉しないポジションを取っているのだ。
「ん、当たり。ギコさんに頼まれた便利屋だよ。アンタ『スタンド使い』らしいけど…」
 ぢゃっ、と両手の自動式拳銃を向けた。
「弾が当たりゃ流石に痛いだろ?」
フルール・ド
「『石の』」


 引き金にかかった指が、何の躊躇もなく引かれた。

 ロカイユ
「『花』ッ!!」
 踏みしめた地面から花が伸び、つぼみを開いて銃弾を受け止める。
ヒュッ、と小さな口笛。この野郎、賞賛をどーもありがとう。
 更に放たれる銃弾を、石の花びらで防ぎながら更に『種』を植え付けた。


 B・T・Bが二郎の元にある今、太陽の光はシャマードにとって猛毒に等しい。
現在時刻三時四十四分。日の出時刻は、五時三十分。
 彼女と暮らしていたせいで夜明けの時刻は毎日キチッとチェックする癖がついていた。
ともあれ、タイムリミットは既に二時間を切っている。
通路の奥に、アパートで階段から蹴落とされた数人が見えた。
 スタンド使いではないようだが、二郎の『フルール・ド・ロカイユ』は同化実体型。
普通の人間でも、訓練を積んでいれば充分対処できる。


  ―――時間ギリギリだがしょうがない…必ず助ける!


 全ての種を発芽させる。二郎の周囲を守るように、『石の花』が展開された。

171丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:04



   一九八四年 四月十日 午前四時四八分


  リュィィィイイイイイオオオオオオオンッ―――――

 猿轡越しではない、弦楽器を爪弾くような『デューン』の咆吼。
足下を砂に変えながら、物凄い速さで跳んできた。
「このっ!」
 左拳を握り、無防備な顎にクロスカウンターをかける。
ぢりり、と灼けつくような痛み。
 指の付け根が風化し、紅い肉が姿を見せていた。
「痛〜ッ!」
 言っている間にも、じくじくと傷口が再生する。
あの『デューン』とか言うスタンド、思った以上に厄介な能力だ。
腹だろうが頭だろうが全身が能力の対象なので、下手に手を出せばこちらが風化させられる。
 おかげで浅くしか打てず、決定打が一発も入らない。

『どうした…?何故スタンドを出さない?』
                      テレパシー
 頭に響く、低い声。スタンド使いの精神感応。
まさか『二郎に預けてる』なんて言えようはずもない。

『アンタなんか、生身の私でお釣りがくるよ』
                               ノスフェラトゥ
『…人間を嘗めるなよ、業と死のみを振りまき続ける化け物。俺はお前等全員を滅ぼして』


  砂色の乙女が、再び吼えた。


『悲しみの連鎖を終わらせる!』

 『デューン』の足下が弾け、爆発的なダッシュでシャマードに走る。

『業と死のみ…か。確かにそうかもしれない。共存なんてできないのかもしれない。けど』

 砂色の掌が向かってくる。
極限まで研ぎ澄まされた神経が、その全てを捉えていた。

『信じてる限り、神様は微笑んでくれる』

心臓に向かって突き出される掌底は避けない。
避ければ避けるほど、相手のペースにはまっていく。
 ―――ならば、受け止めてやればいい。
左足の踏み込み、腰の打ち込み、肩のひねり、手首の回転。
全ての力が、全ての動作が、左拳の一発に集約される。
 『デューン』の一撃に合わせて、シャマードの左ストレートが閃いた。

『絶対に…―――――ッ!!』

172丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:05
   ヅ
「っ痛あああああああっ!」
 掌底に合わせて突き出した左拳が、しゅうしゅうと崩れていく。
血を吸わずに人間として生きてきたせいで、痛覚が切れない。
左腕が先から風化していく感覚に、脳の全てが苦痛で支配される。
 食いしばった牙がぎしりと軋み、出したくもないのに涙と涎が零れ出した。

(ぃ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――ッ… !!)

 今すぐ手を引っ込めたいのを、根性総動員で押さえ込む。
『風化』の能力があるからなかなか気づかないが、『デューン』の筋力自体は、人間と殆ど変わらない。
  つまり―――――
 ウ…リヤアアアアア
「U…RIYAAAAA―――」

  ―――力比べなら、勝てる。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 痛みを吹き飛ばそうとするかのように慟哭を続け、崩れかけた左腕で『デューン』を跳ね飛ばし、ギコに向かって走る。
それが解っていたかのように、ギコの拳銃から鮮やかなクイックドロウで銀の銃弾が発射された。
     アアアアアア
「―――AAAAAA―――――」

 だが、シャマードの反射神経はそれすらも上回っていた。
眼球に向けて放たれた銃弾を、崩れた左腕で叩き落とす。
 更に無事な方の右腕でギコの頭を掴み―――
     アアアアア
「―――AAAAA―――――ッ !! !!!!」

 ―――コンクリの床に叩き付けた。

 後頭部への衝撃に、白目を剥いてギコが昏倒する。
同時に、シャマードの後方数センチまで迫っていたデューンが消滅した。

173丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:07
「………イ……ッッッッ痛ゥ……ッ!」

 安心した途端に全ての力が抜け、ビルの屋上に座り込んだ。
恐る恐る左腕を見ると、肘を通り越して二の腕までが風化して無くなっている。
心臓の鼓動に合わせて、びゅくびゅくと血を吹き出していた。
(あうぅっ…ご飯食べる時大変そう…)
 対象者の生命を世界に縛り付ける『石仮面』の呪い。
呪いの中心となっている『頭部』を破壊されない限り、吸血鬼が死ぬ事はない。
 噂では、首一つになっても元気に活動を続けた者までいるとかいないとか…
ともあれ、だらだら流血しまくったままでもいられない。シャツの端っこを引き裂いて、上腕をきつく縛り上げる。
「…二郎…探してくれてる…よね」
 彼の顔を思い浮かべるたび、ちりっ、と胸の奥に甘い痛みが刺した。
風化した腕の傷よりも、遙かに大きな痛み。

  ―――けど…悪くない、かな。

「私…馬鹿だから、さ。アンタがどう言っても、二郎と生きたい。
 人も食べないし、殺さない。だから、見逃して。…お願い」
白目を剥いたままのギコに向けて、それだけ言い、立ち上がった。
「とっ…わわっ」
 左腕が無いせいで、酷くバランスが悪い。右手をついて、どうにか尻餅をつくのはこらえる。


 ―――――そこで、ようやく気がついた。
床に着けた右手から伝わってくる、さらさらした感触。
 コンクリート製の無骨な屋上の床の表面が、粒子の細かい砂で覆われている。

(………まさか………!!)

 瞬間、両足をすくわれた。
為す術もなく右足が折られ、砂の上に倒れ込む。
起きあがろうとしても、限界を通り越した肉体は何も応えてくれない。
     デューン
「―――『砂丘』と戦った吸血鬼で…自信のままに打ち合って最初の一撃で風化したのが五割…
 能力を知って、浅くしか打てずに風化したのが三割…
 彼女に力が無い事に気付き、腕だの脚だのを犠牲にしようとして、失敗したのが一割…
 『デューン』をはね除けた事で油断して、俺に撃ち抜かれたのが最後の一割…
 ―――敬意を表してやる。俺に一撃与えたのは、お前が初めてだ」

174丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:08
(『デューン』の能力で屋上の床全てを風化、砂のクッションを形成…
 いくら接触しているとはいえ、屋上の床全てを風化できるか不安だったが…底力に救われたな)

 『デューン』の脚が、音を立ててシャマードを蹴り上げる。
ごろごろと数メートルほど転がり、仰向けの状態で止まった。
そのまま無造作に近づき、『デューン』の拳を胴にぶち込む。
 服が風化し、真っ白な肌があらわになる。


更に一撃。皮膚が風化する。
更に一撃。筋肉が風化する。
一撃。一撃。一撃。一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃一撃―――――



 既に脳のキャパシティを超えているのか、痛みも苦しみもどこか遠ざかり始めた。
そのせいだろうか、やけに頭がスッキリしている。
ふと、一つの疑問が意識の表層にスッ、と浮かび上がってきた。

  ―――どうして、彼はひと思いに脳を風化させない…?

 くうぅ、と喉を鳴らす。大丈夫、まだ声は出せる。

「どう…して…?」
「……何がだ」
 折れた奥歯が、口の中で転がる。喋るのが酷く億劫で、途切れ途切れにしか声が出ない。
「簡単…に、殺せる…筈、なのに…そう…し、ない…貴、方…は誰…かを…いた、ぶっ…て…喜ぶヒト…じゃ、ない」
 沈黙。返事が無かろうと、構わず続ける。
シャマードは気付いていなかったが、この時ギコの顔がにわかに強張っていた。
「…迷…ってる…?私…を…殺して…正しい、のか……うまく、いく…ん、じゃ…ないか、って…思、って…る…?」
「……違う…」

 彼の体が、瘧のように震えている。
青ざめたギコに向けて、皮膚がはがれた顔で微笑みかけた。
            ワタシタチ   アナタタチ
「違、わ、ない…よ。吸血鬼…も、人間…も、仲良く…できる…必ず…」         オレタチ  オマエタチ
「…違う…違う…違う、違う、違う違う違う違う違う!!共存などできるはずがない!人間も!吸血鬼も!
 どちらかが滅びるまで、悲しみの連鎖は終わらないんだ!」
「違わ、ない。そ、んな…悲…し…い、事…は、イヤ…絶対…」
「黙れ!」
 『デューン』の拳が、シャマードの鳩尾にぶち込まれた。
「…か…ッ!」
「それでも俺には…この道を行くしか選択肢は無いんだ!」  ハラワタ
 インパクトの瞬間に体組織を風化させて穴を開け、そのまま内臓をぶちまける。


  リュオオオオオオッ―――


 『デューン』が咆吼する。床に転がったシャマードの頭部に向けて拳を振り上げ、全力でラッシュを叩き込んだ。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

175丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:09
フルール・ド・ロカイユ
 石 の 花 

本体名:茂名 二郎

破壊力:C  スピード:A 射程距離:C(数十m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C

二郎自信が触れた無機物に同化し、『石の花』を作り出す。ヴィジョンはなし。
固いつぼみを使った槍のような攻撃や、花や葉を使っての防御などと応用性は高い。
触れて『種』を植えた後、どれだけ成長させるかによって破壊力等が変わる。
『種』を植えた後なら、知覚できなくても大体は動かせる。

176丸耳達のビート Another One:2004/05/02(日) 23:13

( ´∀`)( ・∀・)(*゚ー゚)(*゚∀゚)

 便利屋の皆さん

ギコが雇い入れた便利屋。
シャマードは他と比べてもかなりひっそり生きてるタイプに分類される。
ゾンビをぽこぽこ生まない限りSPMは吸血鬼を放置しているため、SPMが兵を動かす事はまず無い。
ナイフ使いのモララー、軍隊格闘術使いのモナー、暗器使いのしぃ、銃火器使いのつーで四人一組。
…とはいえ、初登場であっさりと階段から蹴落とされて退場、更に今回の戦闘シーンも長さの都合上カット。
本編再登場の予定も今のところ無し。噛ませ犬っぷり全開の可哀想なやつ

177丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:31

 〜普通に喋る自作自演のSPM講座・その2〜

┌────────────―――――――
│ 今回は、作中で出てくる『呼称』について
│ 説明させて頂きます。
 \_   _____
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━
   コード
  『呼称』って何じゃい

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

178丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:33

┌────────────―――――――――――――――――――
│ 前回も言いましたが、SPM財団では発見したスタンドをまとめています。
│ しかし、能力が流出するのは避けねばなりません。
│ その為作られたのが『呼称』です。
 \_   ______________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━

 本名を隠して、誰がどの能力を
 持ってるのか解らないように。

 −各キャラ呼称−
        トリックスター
 マルミミ…変動因子
      オーガ
 茂名…羅刹
       キャリィ
 ジエン…運び屋
     ホール
 フサ… 穴
        デーモン
 『チーフ』…悪魔
 名も無きモララー1,2…呼称無し
 『矢の男』…『矢の男』。そのまま呼称。
 <インコグニート>…呼称無し。旧『矢の男』 。

   ※大抵は漢字にルビで表記。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

179丸耳達のビート Another One:2004/05/03(月) 00:40
┌────────────――――――――――――
│ 『花売り』のように、ルビ無しの物もあります。
│ 呼称は性格・スタンド能力・経歴・役割などで決まります。
 \_   ____________________
     |/      
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 −番外キャラ呼称−
        ソウルイーター
 シャマード…魂喰い
     マリア
 ギコ…女神

 茂名 二郎…花売り


 マルミミ…吸血鬼と人間、二つの特性を併せ持つイレギュラー。
 ジエン…『ジズ・ピクチャー』での武器輸送。
 フサ…スラングで女性のアレ+スタンド能力。
 ギコ…スタンドの外見。

 ※この設定も『丸耳達のビート』独自の物です。
 流用・無視・改変はご自由に。

(・∀・)/━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
  ┳ 
  ┃
  ┃
  ┻  
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

180ブック:2004/05/03(月) 15:04
     EVER BLUE
     第二話・ESCAPE 〜土砂降りの逃避行〜


 僕が必死に説得したにも関わらず、オオミミは結局女の子の縄を解いた。
 オオミミ、今なら間に合う。
 この子を無視してさっさと帰ろう。

「あの…大丈夫?」
 オオミミが女の子に尋ねた。
「大丈夫じゃないに決まってるでしょ!?
 全く…もっとちゃっちゃと助けなさいよ!
 これだから男ってやつは…」
 わざわざ助けてやったにも関わらず、この憎まれ口。
 オオミミ、捨てよう。
 この女を窓から外に捨ててしまおう。

「ごめん…
 すぐにでも助けてあげようとは思ったんだけど…」
 オオミミが情けない声で弁明する。
 何で君はそこで謝るのだ。
 寧ろ感謝されてもいい位なのだぞ?
 というかその物言いは何だ。
 僕が悪いとでも言いたいのか?

「あ〜、もう。
 男の癖にうじうじしないの!
 ほら、さっさとここから脱出するわよ!」
 ついに女の子は我々に指図までするようになった。
 言っておくが、僕はこの女の子の子分になった覚えは一つも無い。
 なのに、何故この子はまるで僕等のリーダーであるかのように振舞うのだ?

「あの…君、名前は?」
 オオミミが部屋を出る時に遠慮がちに女の子に聞いた。
「『あめ』。天と書いて『あめ』って読むの。
 いい名前でしょ?」
 女の子がそっけなく答える。

「あ、うん。
 俺はオオミミっていうんだ。」
 オオミミが天という少女にそう名乗った。

「オオミミ…か。貧相な名前ね。
 ま、いいわ。
 そんな事より急ぐわよ。」
 女の子がどんどん先に進んで行く。
 オオミミ、君は本当にこんな女を助けるつもりなのか?

181ブック:2004/05/03(月) 15:04

「どこに行くつもりかな?お二人さん。」
 と、その時後ろから声をかけられた。
 オオミミと天が、足を止めて反射的に振り返る。
 そこには、屈強な男が立っていた。
 その横には、大量の鉄屑みたいなものが転がっている。

「…人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものじゃないかしら?」
 天はそれでも全く気後れしていない様子で口を開く。
 この神経の図太さだけは、オオミミにも見習わせたいものだ。

「調子に乗るなよ、糞餓飢共!
 このマジレスマンが貴様等のような小童に名乗ると思ってか!!」
 …名乗ってるじゃん。

「そこのお前、あの民間船の連中の仲間だな?
 よくもまあやってくれたな。」
 マジレスマンと勝手に名乗った男がオオミミを睨む。

「…!お前等が先に仕掛けてきたんだろう!」
 足を一歩後ろに下げながらも、オオミミが吼える。
 まずいな。
 相手の気迫に押されている。
 オオミミの悪い癖だ。

「ふん…
 まあいい。
 その罪は、お前をスクラップにする事で償ってもらおう。」
 その時、マジレスマンの周りにあった鉄屑がいきなり動き出した。
 そして、それがみるみる接合していき、大きな人の形へと変わっていく。

(ヤバいぞ、オオミミ!
 すぐにマジレスマンを攻撃するんだ!!)
 僕はオオミミにそう告げた。

「分かった!」
 オオミミがマジレスマンに突進する。
 そして僕はオオミミの外部にスタンドとして実体化し、
 マジレスマンに拳を撃ち下ろし―――

「『メタルスラッグ』。」
 完全に人型に形成された鉄屑が、僕のパンチを受け止めた。
 これは、スタンドか…!

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが叫ぶ。
(任せろ!!)
 一度パンチを止められた位で怯みはしない。
 今度は逆の腕で拳を叩き込んでやる。

(無敵ィ!)
 左の拳が鉄屑人形の右肩部を破壊する。
 よろめく鉄屑人形。
(無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵!!!)
 僕は次々とパンチを鉄屑人形に打ち込んでいく。
 いける。
 こいつ、動きは全然のろいぞ。

(無敵ィィィ!!!)
 止めの一撃を鉄屑人形に喰らわしてやった。
 体中を粉砕されて地面に叩きつけられる鉄屑人形。
 どうだ。
 これなら本体へのダメージも計り知れないものに…

182ブック:2004/05/03(月) 15:04

「!!!!!!」
 しかし、マジレスマンには全く効いている様子は無かった。
 あの鉄屑をいくら攻撃しても、本体にダメージは無いという事か!?

「…凄いな。スタンド使いだったとは。
 この程度の大きさでは倒せんか。」
 マジレスマンが余裕の笑みを浮かべたまま喋った。

「!?」
 と、破壊した筈の鉄屑人形に、打ち砕いた鉄屑の残骸が集まっていく。
 そして、再び何事も無かったかのように鉄屑人形が再構築された。

「!!!」
 その時、鉄屑人形が何を思ったか周りの壁などを砕き始めた。
 何だ?
 気でも違ったのか?

「なっ…!」
 オオミミが狼狽する。
 壁や天井を砕いて生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていっている。
 まさか、こいつ周りの瓦礫や鉄屑を取り込んで―――

「やれ、『メタルスラッグ』。」
 マジレスマンが僕達を指差した。
 僕達に直進してくる、一回り以上大きくなった鉄屑人形。

「『ゼルダ』!」
 オオミミが僕に呼びかけた。
 鉄屑人形が、オオミミに向かって拳を突き出す。

(させるか!!)
 僕はその拳を両腕でガードして…

「!!!!!!!」
 オオミミと僕の体が宙を舞い、そのまま後方に吹き飛ばされた。
 威力を、受け止め切れなかった!?
 この鉄屑人形、さっきよりパワーもスピードも上がっている…!

「ちょっと!
 あなた大丈夫なの!?」
 天がオオミミに駆け寄った。
「…何とか、ね。」
 力無く答えるオオミミ。
 まずいな。
 肋骨を少し痛めたか。

「俺の『メタルスラッグ』は周りの無機物を取り込んで幾らでも強くなる!!
 さあ〜て、どうやって殺してやろうか?
 圧殺か?斬殺か?轢殺か?撲殺か?
 それとも全部がいいかなあ〜!?」
 下卑た笑みを見せながら、鉄屑人形と共に歩み寄るマジレスマン。

「潰れろ!!」
 鉄屑人形が乱暴に腕を振るう。

「きゃああああ!!」
「くっ!!」
 天を抱え、飛びのくオオミミ。
 オオミミという目標を失った鉄屑人形の腕が、代わりに壁に大穴を開けた。

(何てこった…)
 僕はうんざりしながら思った。
 壁に穴が開けられた時に出来た瓦礫が、更に鉄屑人形と同化していく。
 糞、どうすれば…

183ブック:2004/05/03(月) 15:05

「『ゼルダ』、壁を壊すんだ!」
 オオミミが、僕にだけ聞こえる声でそう言った。
(何を言ってるんだ、オオミミ!?
 そんな事したら、余計にあいつが…)
 当然ながら僕はそう反論する。
 オオミミ、恐怖のあまり気でも狂ったのか!?

「いいから、早く!」
 しかしオオミミの言葉に狂気や迷いの色は無い。
 僕は何故か、荒唐無稽な筈のオオミミの提案を、その声を聞くだけで信じる事が出来た。

 …仕方が無い。
 やってみるか。

(無敵ィ!!)
 僕は壁に殴りかかり、そこに大きな穴を開けた。
 その時生まれた瓦礫が、鉄屑人形にくっついていく。

「何だあ!?」
 拍子抜けといった顔をするマジレスマン。

(無敵無敵無敵無敵無敵ィィ!!!)
 構わず壁、床、天井、その他あらゆる場所を破壊しまくる。
 それと同時にその瓦礫を吸収して大きくなり続ける鉄屑人形。

「ははははは!!これはいい!!
 お前自ら『メタルスラッグ』のパワーアップに協力してくれるとはな!!!」
 高らかに笑うマジレスマン。
 オオミミ、君は一体どうする心算なんだ?
 このままでは、向こうに有利になるだけで…

「もういいよ、『ゼルダ』。」
 あらかた周りを破壊した後で、オオミミが言った。
「行くよ!天さん!!」
 オオミミは天の手を取ると、後ろに向かって走り出す。

「ちょっ、乱暴な事しないでよ!」
 オオミミに引っ張られるように駆け出す天。
 馬鹿な、オオミミ。
 敵がすぐ後ろに居るというのに、無防備に背中を見せて逃亡するだと!?

「馬鹿め、逃げられると思ってか!!」
 後ろからマジレスマンが叫ぶ。
 駄目だ。
 オオミミ一人ならともかく、天を連れた状態ではすぐに追いつかれてしまう。

「『メタルスラッ』…
 …何いぃ!?」
 その時、マジレスマンが驚きの声を上げた。
 何だ。
 何が起こったと…

「!!!!!」
 僕は振り返ってみて、初めてオオミミの狙いを理解した。
 大きくなり過ぎた鉄屑人形が、通路に引っかかって動けなくなっている。

 そうか。
 僕達の勝利条件は『ここから生きて脱出する事』。
 『必ずしもあいつに勝つ必要は無い』んだった。
 三十六計逃げるに如かず。
 これも立派な戦術のうちだ。
 やっぱり君は凄い奴だよ、オオミミ…!

「な…糞…!
 待てーーーーー!!!」
 悲鳴のように叫ぶマジレスマン。
 勿論、待てと言われて待つような間抜けはいない。

 頭の中まで筋肉の馬鹿を後ろ目に、
 僕達はさっさとその場から離れるのであった。

184ブック:2004/05/03(月) 15:05



 僕達は甲板目指して走り続けていた。
 あのマジレスマンも、スタンドを解除して追いかけて来ている筈だ。
 もたもたしている暇は無い。

「大丈夫?」
 オオミミが息を切らし始めた天に尋ねた。
「馬鹿にしないでよ。
 これ位で疲れる程ヤワじゃないわ!」
 負けず嫌いなのか、健気にも天は言い返す。

「分かった。それじゃあ少し、スピード上げるよ。」
 オオミミはそんな彼女の強がりにも気づかず、足を速めた。
「ちょっ、冗談でしょ!?」
 呆れたように呟く天。
 様ぁ見ろ。
 いい気味だ。

「…!三月うさぎ!!」
 と、横の通路から三月うさぎが合流して来た。

「…?そこの女は何だ?」
 怪訝そうにオオミミ尋ねる三月うさぎ。
「ごめん、今それ所じゃないんだ。
 早くここから脱出しよう!」
 オオミミが説明を後回しにして、三月うさぎに答える。

「全く…
 船に厄介事を持ち込むなと、お前は何回言われれば…」
 しかめっ面をしながら苦言を漏らす三月うさぎ。
 僕も、彼の意見には賛成だ。

「…こちら三月うさぎ。今から帰還する。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)を打ち込んでくれ。」
 マントから無線機を取り出し、三月うさぎがそう言った。
 無線機から、高崎美和さんの「了解」という声が聞こえてくる。
 高崎美和さんとは僕達の船のオペレーターで、
 和服の似合う綺麗な大和撫子だ。

「俺はその女の事は知らんぞ、オオミミ。」
 三月うさぎが短く告げる。
「…うん、分かってる。」
 オオミミが俯きながらそう答えた。



 扉を乱暴に開け放ち、僕達は甲板へと飛び出す。
 激しい雨が、オオミミ達の体をしたたか打ちつけた。

「あ、手前、三月うさぎ!!」
 全身血塗れのニラ茶猫が、僕達に気づいて声を上げた。
 周りには、夥しい数の兵士が倒れている。
 流石はニラ茶猫。
 一人でこれだけの人数を片付けるとは。

「言い争いをしている場合じゃない。
 早くここから脱出するぞ。」
 三月うさぎはそんなニラ茶猫を軽く流した。

『急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、発射します。』
 その無線機からの高崎美和さんの声より少し遅れて、
 甲板に巨大な錨が打ち込まれた。
 皆が、急いでそれに掴まる。

「…?そういやオオミミ、その女は誰だ?」
 ニラ茶猫が今気づいたのか、オオミミに質問した。
「え〜と、その、詳しくは後で話すよ。」
 言葉を濁すオオミミ。
 しかし本当に、このじゃじゃ馬娘をどう説明すればいいのやら。

「居たぞ!逃がすな!!」
 マジレスマンが甲板に出てくる。
 ヤバイ、もう追いつかれたか。

「急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)、回収急げ!」
 三月うさぎが無線に向かって話す。
 同時に、錨が物凄い速さで巻き上げられていった。

「撃てーーーーーーー!!!」
 マジレスマンの声と共に、僕達に向かって自動小銃が発射される。

「『ストライダー』!」
 しかし、その銃弾は全て三月うさぎのマントに吸い込まれた。

「ははははは!あ〜ばよ〜、とっつぁ〜〜ん!」
 ニラ茶猫が勝ち誇ったように大笑いをする。
 錨はそうしている間にも僕達の船へと巻き上げられ、
 マジレスマン達の姿は見る見る遠ざかっていった。

185ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



「よっしゃ!上出来だ!!
 野郎共、引き上げるぞ!!
 カウガール、船を出せ!!」
 サカーナが乗組員達に大声で告げる。

「全速前進、出発しま〜す!」
 テンガロンハットを被った、カウガールと呼ばれた女性が、
 舵を思い切り回した。

「…敵船、私達の追撃を開始してきました。」
 高崎美和がディスプレイを見ながら話す。

「何ぃ!?
 上等だ、砲撃準備!!」
 サカーナが口元を吊り上げる。

「後部砲撃室から準備が整ったとの連絡が入りました。
 いつでも行けます。」
 高崎美和がサカーナの方を向いた。

「よお〜し、上出来だ。
 撃てーーーーーーー!!!」
 そのサカーナの声と同時に、サカーナ達の乗る船『フリーバード』の
 後部に備え付けられていた大砲が火を吹いた。
 しかし…

「…命中。ですが、敵艦はビクともしていないみたいです。」
 高崎美和が冷静に告げる。
「だから言ったんですよー!
 この船の装備で小型戦艦と闘うなんて無茶だって!!」
 カウガールがなじるようにサカーナに言う。

「うるせー!
 しゃあねぇ、尻まくって逃げるぞ!!
 スピード上げろ!!」
 サカーナが困ったような顔で仕方なしに命令を下す。

『無茶言うな親方!
 こっちはもうエンジン室が大火事になりそうだぜ!!』
 エンジン室からそういった内部通信が入ってくる。

「…だ、そうです。
 どうするんですか?
 サカーナ船長。
 あなたの蛮勇のおかげで私達まで道連れですね。」
 高島美和が責めるような視線をサカーナにぶつけた。

「て…敵船攻撃開始…!
 このままでは打ち落とされ…きゃあああ!!!」
 轟音と衝撃が、サカーナの船を揺るがした。



     ・     ・     ・



「おいおいどうすんだ!?
 敵さんムキになって追いかけて来てんぞ!?」
 『フリーバード』に戻って来たニラ茶猫が、
 先程敵船からの砲撃で壁に開けられた穴を覗き込んだ。

「…ふむ。このままでは撃墜されてしまうな。」
 顔色一つ変えずに冷静に告げる三月うさぎ。

「どうしよう。このままじゃ…!」
 うろたえるオオミミ。

「…仕方無い。」
 と、三月うさぎが壁に取り付けられていた内部通信回線電話を取った。

「はい、こちらブリッジ。」
 電話口から高島美和の声がする。
「三月うさぎだ。
 この回線を後部砲撃室に繋げろ。
 ただしこの事は船長には伝えるな。」
 三月うさぎがそう電話口に向かって話した。
「了解。」
 短く答え、高島美和が後部砲撃室へと回線を繋ぐ。

「どうしました、三月うさぎさん!?
 いまこっちは手が放せない状況でして…」
 後部砲撃室の乗組員が慌しい様子で通信に出る。

「この前船長が買っていた『弾』がある筈だ。
 それを使え。」
 普段と変わらぬ声で話す三月うさぎ。

「ええ!?でも『あれ』は…」
 あからさまに不安そうな声になる乗組員。

「構わん。責任は俺が取る。」
 三月うさぎが大した事ではないかのように答えた。

「おい、三月うさぎ…」
 ニラ茶猫が三月うさぎに声をかける。
「何だ?この期に及んで金の心配でもするのか?」
 三月うさぎがニラ茶猫を見据える。

「いや、ありったけ敵さんにぶち込んでやれ、って付け足しておいてくれ。」
 ニラ茶猫が不敵な笑みを浮かべる。
「…ふん。珍しい事もあるものだ。
 貴様と意見が一致するとはな。」
 三月うさぎもそれを受けて愉快そうに微笑むのであった。

186ブック:2004/05/03(月) 15:06



     ・     ・     ・



 後部の大砲からの砲撃が、マジレスマン率いる戦艦の装甲に大穴を開けた。
「!!おい!!!
 まさか、あれは!?」
 サカーナがそれを見て顔色を変える。

「はい。恐らく船長が先日購入された、『爆裂徹甲弾』だと思われます。
 あの装甲にこれ程のダメージを与えるとは…
 流石に値段が張るだけはありますね。」
 冷静に分析する高島美和。

「馬鹿野朗!
 今すぐ止めさせろ!!
 あれ一発いくらすると思っているんだ!!?」
 顔を真っ青にしながらサカーナが取り乱す。

「およそ私達の一ヶ月の稼ぎの約半分だと思いますが、違いましたでしょうか。」
 高島美和はそんなサカーナを尻目に冷徹に告げた。

「分かってんなら止めろ!!
 今回の稼ぎをチャラにする気か!!」
 サカーナが後部砲撃室に連絡を入れようとする。
 しかし、回線からは「ツー」という音が虚しく響くのみだった。

「部砲撃室の回線は切断されているようです。
 連絡を取ろうとしても無駄ですよ?」
 高島美和がサカーナの方は見ずに口を開く。
 そうこうしている間にも、
 船の後方からは次々と爆裂徹甲弾が湯水のように吐き出される。

「わあ〜、凄い凄〜い!」
 手を叩きながら喜ぶカウガール。
 それとは対照的に、サカーナの顔色はどんどん悪くなる。

「やめろ!!
 馬鹿!!
 あんぽんたん!!
 やめろ!!
 阿呆!!
 お願いだから止めてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 サカーナはすでに半泣きだった。

「あ。私の記憶が確かならば、今のが最後の爆裂徹甲弾ですね。」
 高島美和がいつの間にか持っていたお茶を啜る。

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOおおおオオオオオおおぉぉォォ!!!!!!」
 サカーナの絶叫が船内に響き渡った。



     TO BE CONTINUED…

187:2004/05/03(月) 22:29

「―― モナーの愉快な冒険 ――   夜の終わり・その4」



          @          @          @



「ふむ…」
 白衣を着た男は、ビデオの一時停止ボタンを押した。
 TV画面に映っている、ありすと呼ばれる少女の動きがぴたりと止まる。
 輸送ヘリの残骸や、兵の死体が宙に舞っていた。
 ASA本部ビルに投入した空挺部隊は、この少女一人に壊滅させられたのだ。

「E-8C(地上管制警戒機)が捉えた、ASA本部屋上の映像だ」
 フサギコは、腕を組んで言った。
「先程の、廊下での映像をもう一度見せてもらえるかね…?」
 白衣の男は、机の上に積み重なっている書類を脇にのけた。
 そのまま、椅子に座り込む。

 TV画面に、再びありすの姿が映った。
 兵士のヘルメットに備え付けられたカメラからの映像だ。
 ゆっくりと近付いてくるありす。
 彼女に向けて一斉に放たれた銃弾は、空中で静止しバラバラと床に落ちた。

「ふむ… 断定は出来んが、物理的な静止だな。
 能力ではなく、スタンドのヴィジョンによって防いだ可能性が高い」
 白衣の男は、顎を撫でながら言った。
 フサギコが口を開く。
「弾丸の散らばり具合からして、拳で弾いた訳ではないようだけどな。
 彼女のスタンドが、盾のように立ち塞がったのか…?」
「…」
 白衣の男は、その質問には答えない。

 映像は続く。
 小隊長が、ありすに向けてグレネード弾を放った。
 しかし、それすらありすは微動だにしない。

 フサギコは腕を組んだ。
「向こうの衣服に損傷はない。ヴィジョンのみで、弾体破片や爆風を完全にシャットアウトできるものか?」
「この少女のスタンドヴィジョンは、従来の人型ではないと思うね…」
 白衣の男が、TV画面を見つめたまま言った。

 画面に映っているのは、一方的な殺戮である。
 7人の兵の肉体が無惨に捻り潰される映像が、淡々と無慈悲に流れていた。

「…これも通常の破壊だ。加害側の姿が見えない点を除き、超物理的な現象は無い。
 また、同時に多数の箇所を攻撃している。相当に大きいヴィジョンであることが類推できるな」
 白衣の男は、ビデオの停止ボタンを押して言った。
「ここまでパワーがあれば、固有の能力は持っていないのかもしれん」

「…なるほど。ヴィジョン自身の射程が広い、パワー型スタンドか」
 フサギコは、本棚にもたれて言った。
 部屋は、書類や本で足の踏み場も無い。ある意味、研究者らしき部屋ともいえる。
 男は、フサギコの旧知の知り合いである研究者であった。
 この部屋の主である、白衣の男は頷いた。
「あくまで類推だがな。それにしても、さすが三幹部と言ったところか。
 携行火器で彼女を殺すのは不可能だろう。あの距離からのHE弾を無効化したんだからな。
 屋上での輸送ヘリ破壊の映像を見る限り、射程は最低でも20mはあるぞ」

「対戦車ミサイルではどうだ…?」
 フサギコは訊ねる。
 白衣の男は額に手を当てた。
「HEAT弾か。モンロー効果による貫通力ならば、効果があるかもしれんが…
 あれだけの射程を持つ相手が、みすみす当たってくれるものか?」

「敵スタンドの射程が20mならば、ヘルファイアで問題は無いはずだ。
 それを搭載していたアパッチが、早々に落とされたのが災いしたな…」
 フサギコが悔しげに呟く。
「それにしても、アパッチがあそこまで簡単に落とされるとは… これでは、納税者に申し訳が立たん」

 白衣の男は、フサギコが持ってきたテープの一つをデッキに入れた。
 例の、しぃ助教授によるアパッチ撃墜の映像だ。
 男は再生ボタンを押した。
「その映像だけは、何度見ても腹が立つな…」
 フサギコは、憎々しげに呟く。

188:2004/05/03(月) 22:30

 対戦車ヘリ・アパッチが、三幹部の執務室に30mm機関砲弾の掃射を浴びせていた。
 通常なら、部屋にいたものは全て肉塊である。
 だが、アパッチは直後のしぃ助教授による反撃で墜落した。
 最強の攻撃ヘリであるアパッチが、いとも簡単に。

「まず、メインローターが何らかの力で曲げられている」
 墜落時の映像を見て、白衣の男は口を開いた。
「続いて、その負荷に耐えられなくなったようにメインシャフトが折れている。
 これは、明らかにスタンド能力によるものだ。ヴィジョンそのものによる攻撃ではない」

 捻じ曲がったメインローターが空中に吹き飛び、アパッチの機体が大きく傾く。
 そして、そのまま高度を下げていった。
 映像はそこで途切れている。
 そのまま、ビルの壁面に激突したのだ。

 白衣の男は、フサギコを慰めるように言った。
「まあ、何だ… 損傷による誘爆を防ぐ機構の有効性が実証されたと言える。
 スキッド・ランナーで、墜落時の70%の衝撃を吸収するという謳い文句は嘘ではなかった。
 アパッチのダメージ・コントロールはかなりのものではないか…」

「…いや、慰めになってないぞ」
 フサギコは大きなため息をつく。
「それより、メインローターの損傷だけで墜落したのは腑に落ちんな。
 DAFSS(デジタル自動飛行安定装置)は作動しなかったのか…」

 白衣の男は椅子にもたれて言った。
「メインローターの破壊と同時に、DAFSS機構が無効化されたのだろう。それしか考えられん」
「…そんな馬鹿な。兵器マニアでもなければ、アパッチのDAFSSの位置なんて知らんだろう。
 三幹部の一人とは言え、相手は仮にも女性だぞ?」
 フサギコは軽く笑う。

 白衣の男は、つられて笑った後に口を開いた。
「まあ、それは置いておくとして…
 交戦の様子から見るに、しぃ助教授のスタンド能力は動体の移動方向を変える事だな。
 無論、弾道も例外ではない」
 白衣の男は断言した。
「クレイモア(指向性対人地雷)を無効化したのを見る限り、かなり精度は高いようだ。
 銃弾はもちろん、ミサイル類ですら破壊力に関わらず無効だろう。
 サンバーン対艦ミサイルのほとんどを撃墜した事から見て、マッハ2.5までは確実に対応できる。
 下手をすれば、航空機の類は能力射程内には近寄れんぞ」

189:2004/05/03(月) 22:31

「ふむ、厄介だな…」
 フサギコは腕を組んで視線を落とした。
「…で、最後にこいつはどうだ?」
 デッキにテープを入れ、再生ボタンを押すフサギコ。
 クックルが画面に映る。
 その鶏は戦車を殴り、主砲を喰らい、戦車に踏まれ、戦車を投げ飛ばしていた。
「…素手で戦車に損傷を与えた。さらに、120mm滑腔砲の直撃でも大したダメージはない」
 フサギコは腕を組んで呟いた。
「これは、どういう能力なんだ…?」

「ふむ…」
 白衣の男はビデオを止めると、フサギコが持参してきた何枚もの写真を見た。
 前部装甲の破壊状況を様々な角度で移した写真だ。

「90式MBTの複合装甲をここまで破壊するとはな…
 だが… 映像を解析する限り、スタンドの関与はないように思える」
 白衣の男は、無造作に机の上に写真を放り投げた。
「…スタンドの関与がない、だと?」
 フサギコが視線を上げる。

「破壊部位の超微粒子超硬ファインセラミックスが、どう劣化したか見てみたいところだが…
 とにかく、これは拳で破壊したものだよ。それは間違いない。
 自分自身の肉体を増強させる類の能力か、もしくはただの馬鹿力か…
 何にせよ、詳しいところは分からん」
 白衣の男は呆れたように言った。
 匙を投げたようにも見える。

「…たまらんな」
 フサギコはため息をついた。
「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)でダメージがないとなれば、
 デイジー・カッターか、FAE(燃料気化爆弾)か、もしくは…」
「BC兵器かね…?」
 白衣の男は、視線を上げた。
「…」
 フサギコは黙り込む。

 白衣の男は、椅子から立ち上がった。
「まあ、私に言えるのはここまでだな。
 スタンドの研究は歴史が浅い。まして、映像のみで能力を割り出すのは至難の業だ。
 私の意見も、参考程度に留めてもらいたい。
 それを元に作戦を立て、多くの死傷者を出したら… 私の首程度では責任が取れんからな」

「…ああ、分かってるさ」
 フサギコは腰を上げた。
 白衣の男はフサギコに視線を向ける。
「それと、少しは家に帰れ。ひどい顔をしてるぞ。息子も放ったらかしだろう」

「あいつは、意外にしっかりしてる奴だ。放っておいても大丈夫だろ」
 フサギコは言いながらコートを羽織った。
「…ここまで来たんだ。スタンド使い共を全員片付けるまでは、俺ものんびりできん」

190:2004/05/03(月) 22:31


          @          @          @



 俺とリナーは、並んでソファーに腰を下ろした。
 以前、しぃ助教授と面会した部屋とは異なる。
 部屋の奥には流し台があった。
 どうやら、台所として使用されている部屋にソファーとテーブルを運び込んだだけのようだ。
 部屋のカーテンは閉まっている。当然、俺達の事を考慮したのだろう。

 テーブルの向こうには、どことなく疲れた顔をしたしぃ助教授が座っていた。
 部屋の端には、忠実な執事のように丸耳が控えている。
 ふと、リナーの方に目をやった。
 彼女は、右腕を服の中に突っ込んでいる。

「…すみませんね、こんな部屋で。日光を遮断できる部屋は、ここしかなかったんですよ。
 幹部執務室は、今ちょっと天井がないもんで…」
 しぃ助教授は、うんざりしたような顔で言った。
 どうやらリナーと揉める気はないようだ。
 丸耳が、テーブルの上に三人分の飲み物を置く。

「麦茶です。良かったらどうぞ…」
 しぃ助教授が、グラスに口を付けながら言った。
 なぜコーヒーではなく麦茶なのだろうか。

「…」
 リナーは、しぃ助教授を無言で睨んでいる。
 流石に殴りかかったりはしないだろうが、こちらとしては気が気ではない。

「…単刀直入に言いましょう。私達の戦闘に同伴してください」
 しぃ助教授は、グラスをテーブルに置いて言った。
「どういう事だ…?」
 不審げな目で、リナーが訊ねる。
 しぃ助教授はため息をついた。
 やはり、相当に疲れているようだ。
「知っての通り、私達ASAは自衛隊と交戦しています。
 この場所は戦略・戦術両面において不利なんで、海に出ようと思ってるんですよ」

 自衛隊に攻撃されたのはTVで知っていたが、海に出るとは…?
「…なるほど。拠点を海上に移そうという事か」
 リナーが納得したように腕を組んだ。
「ええ。こんな場所に本拠地を構えていては、ICBMで狙い撃ちですからね。一刻も早く居を変えないと…」
 しぃ助教授は視線を落とす。

 リナーが口を開いた。
「それで、軍艦か何かを仮本拠地にすると言う訳か。だが、向こうが黙っているはずがないな」
 この会話に、俺が介入する余地は無いようだ。俺は麦茶に口を付けた。
 しぃ助教授が大きなため息をつく。
「その通りですよ。海上封鎖は当然の事、護衛艦隊を投入してでも阻止してくるでしょう。
 そこでいっその事、艦隊決戦に持ち込もうと思ってるんですよね…」

「艦隊決戦?」
 俺は訊ねる。
「…『艦隊決戦』とは、海軍の戦略構想の1つだ」
 リナーが俺の疑問を補足した。
「1回の海戦で相手の主力艦艇を壊滅させ、一気に制海権を確保しようという作戦構想だ。
 そして相手の通商を遮断し、一気に有利な講和を進める事も可能となる」

 しぃ助教授は頷いた。
「そう。向こうのアドバンテージを一転、こちらの波にしてしまおうという事ですよ。
 この国から撤退するように見せて、敵艦隊の総駆逐に臨みます。
 島国である以上、通商遮断の効果は覿面でしょうしね」

「孫氏曰く、『兵は詭道なり!』ってとこモナね」
 俺は、何となく胸を張って言った。
「孫氏曰く、『百戦百勝は善の善なるものにあらず』。
 戦い以外の選択肢を失ってしまった時点で、ASAは既に戦略的敗北を喫していますよ…」
 しぃ助教授は呟く。
「で、『艦隊決戦』と銘打つ以上、大海戦が予想されます。そこで、非常に有効なスタンドがあるんですよね…」
 ニヤリと笑って俺の方を見るしぃ助教授。

「それで、『アウト・オブ・エデン』か…」
 やっと話が繋がったという風に、リナーは呟いた。
 しぃ助教授は大きく頷く。
「そういう訳で、私達の船に乗りませんか? 戦闘は私達がやるんで、そちらは船旅気分で結構ですよ」

「…そんな話に、私達が乗るとでも思ったのか?」
 そう言いながら、リナーが不機嫌そうに立ち上がった。
「まあ、最後まで聞くモナよ」
 俺は慌ててリナーを諌める。
 まだ話は終わっていないのだ。最も重要な部分を聞いていない。

191:2004/05/03(月) 22:32

 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
 まるで、こちらの反応など最初から予想していたといった風に。
「丸耳は取引だと言ったでしょう? 当然、そちらにも見返りがありますよ。
 おそらく、貴方達が切望しているものがね…」
 そう言って、指を鳴らすしぃ助教授。
 丸耳が、赤い液体の入ったパックをゆっくりとテーブルに置いた。
 これは…!!

「輸血用の血液パックです」
 しぃ助教授が言った。
「貴方達は、これが入り用なんでしょう…?」

 俺は、その赤い液体が詰まった袋を見つめた。
 そして、リナーに視線をやる。
 だが、彼女の不機嫌そうな表情は消えてはいなかった。
「私の体は、すでに通常の吸血鬼とは異なっている。生気の残った血液でなければ、身体の衰弱は防げない。
 まあ、どちらにしても時間稼ぎには変わりないがな…」
 リナーは、しぃ助教授を見据えて言った。
 彼女は人工(それも、まだ技術が確立していない時代)の吸血鬼である。
 さらに、スタンドでの抑圧によって吸血鬼の血が変成しているのだ。

 表情を曇らせるしぃ助教授。
「うーん。思ったより喜んではもらえないようですね。
 とにかく、貴方達の食事量に換算して2ヶ月分を差し上げましょう。
 その代わり、私達の船に乗ってもらいます。そういう取引ですが…?」

「断る。ASAに貸しを作る気はない。輸血用血液など、調達は他からでも可能だ」
 リナーは取り付く縞もなく言った。
 そして、話は終わったとばかりに立ち上がる。

「貴方達に乗ってもらう船は、タイコンデロガ級イージス艦なんですがね…」
 しぃ助教授はゆっくりと視線を上げて言った。
 部屋から出て行こうとするリナーの動きがピタリと止まる。

「トマホーク巡航ミサイルの一発くらい、撃たせてやってもいいかな?なんて思ってたんですが…」
 しぃ助教授は、残念そうに呟いた。
「乗りたくないのなら、仕方がないですねぇ…」

 リナーは再びソファーに座った。
「詳しい話を聞こうか…」
 麦茶のグラスを傾けて、リナーは呟く。

 しぃ助教授は、にっこりと笑みを浮かべた。
「今晩の9時に、近海に停泊しているASA所属イージス艦『ヴァンガード』に乗り込んでもらいます。
 艦長はありす。副艦長にはねここが付きます。実質、艦を指揮するのはねここでしょうけどね」
「えっ、しぃ助教授が艦長じゃないモナ?」
 てっきり、しぃ助教授が艦長をだと思っていた。
 だが、今のはしぃ助教授自身は艦に乗らないような言い方だ。

「私がいないと寂しいですか?」
 しぃ助教授がニヤリと微笑って言った。
 何故か、リナーが俺を睨みつける。
「…誤解を招く表現はやめてほしいモナ」
 俺は汗を拭きながら言った。

 しぃ助教授が話を元に戻す。
「船は1艦だけじゃありませんよ。私は艦隊を指揮しなければいけないので、旗艦に乗り込みます。
 イージス艦は、言わば艦隊の『眼』ですからね。それに貴方のスタンドが加われば心強いですよ。
 …まあ、『異端者』はおまけですがね」

「暴れちゃ駄目モナよ…」
 殺気を放つおまけ… いや、リナーに釘を差す俺。
 丸耳が少し慌てたような表情を見せる。

 しぃ助教授は思いついたように言った。
「そう言えば、貴方達とありすはあんまり面識がありませんでしたね。丸耳、ありすを呼んできてください」
「…はい」
 丸耳は、無駄のない動きで部屋から出て行った。

「ねここはいいけど、ありすはちょっと怖いモナね…」
 俺は呟いた。
 あの、ありすの感情のない瞳を思い起こす。

「…ねここはイイ!!ですか。モナー君は、よっぽどねここがお気に入りのようですね」
 しぃ助教授が深く頷いて言った。
「ちなみに、ねこことはありすの補佐で、モナー君と同年代の女の子です」
 そして、不必要な補足を加えるしぃ助教授。
 リナーが無言で俺を睨みつけている。
「誤解を招くような表現は勘弁してほしいモナ…」
 なんで俺がさっきからいじめられているのか、さっぱり理解できない。

192:2004/05/03(月) 22:33

「ありすをお連れしました…」
 丸耳の声と共に、ドアが開く。
 その後ろには、かって見たことのある少女が立っていた。

 何の感情も宿さない瞳。
 フリルに覆われた衣服。
 そして、周囲を覆うような圧迫感。

「彼が、船に乗ってくれるモナー君と『異端者』です」
 しぃ助教授は、ありすに俺達を紹介した。
 感情のない瞳で、俺達を眺めるありす。
 リナーは、ありすを凝視して緊張した表情を浮かべている。
 やはり、この圧迫感は普通ではないようだ。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 ありすの感情の波は非常に緩い。
 だからこそ、圧迫感が突出するのだ。
 同じ艦に乗る以上、これにも慣れないといけない。

 …それにしても、この衣服は素晴らしい。
 メイド服をアレンジしたような独特の装飾。
 特に、レトロなペチコートはSクラスだ。
 ぜひ、一着我が家にほしい。
 そして、リナーに着せてみたい…!!

「…まあ、そう睨まないであげて下さい。敵意さえ持たなければ、ありすは大人しいですよ。
 彼女のスタンド、『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』も強力ですので、貴方達に苦労はかけませんしね」
 ありすを凝視している俺に、しぃ助教授が告げた。

 ――『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』。
 それが、彼女のスタンドの名。

「無愛想ですが、可愛いところもありますよ。そう思いませんか、モナー君?」
 しぃ助教授は笑顔で言った。

 …何で俺に振るんだ?
 リナーの目も光っている。
 肯定すればリナーに、否定すればありすに屠られるかもしれない。
 …さて、どう答えたものか。

「…サムイ?」
 俺の苦悩をよそに、ありすが言った。
「え? 別に寒くはないモナよ」
 俺は困惑しつつ答える。
 ありすは無言でこくりと頷くと、背を向けて部屋から出ていってしまった。
 俺達は、しぃ助教授に視線を戻す。

「まあ、挨拶も済んだようですし… 取引は成立でいいですね?」
 しぃ助教授は微笑んで言った。
 …あれは、挨拶だったのか?

 とにかく、2ヶ月分の血液パックは是非必要だ。
 俺自身は、これさえあれば生きていける。
 リナーに関しても、ないよりはマシだろう。
「じゃあ、取引は成立という事で…」
 俺はそう言おうとした。
「…何か忘れてないか?」
 リナーが口を挟む。

 …あっ!!
 公安五課の要人救出とブッキングしてる!!

「何か先約でも?」
 しぃ助教授は、俺達の様子を見て言った。
 その通りだが、公安五課が隠密行動をしている以上、迂闊に口に出す訳にもいかない。
「…まあ、そんなところモナ」
 俺はそう言って、リナーの顔を見た。
 …どうしようか?
 あっちの方は、行きたい奴のみが行くという結論が出たはずだが…

193:2004/05/03(月) 22:33

「…私個人の意見を言わせて貰うならば、ASAに協力すべきだと思うが」
 リナーは偉そうに腕を組んで言った。
 虚勢とは裏腹に、すがるような視線。
 どうやら、イージス艦とやらに乗りたくてたまらないようだ。
 ならば、腹は決まった。

「…じゃあ、その船とやらに乗るモナ」
 俺は、しぃ助教授に言った。
 満足そうに頷くしぃ助教授。
「それでは、血液パックは貴方の家に届けておきます。特別に専用の冷蔵庫もサービスしましょう」

 …これで、話は決まった。
 今夜は、ギコ達とは別行動になるようだ。
「9時モナね。ヘリで迎えに来てくれるモナ?」
 俺は、時刻と交通手段を確認した。
「…ええ。武器類の持参は自由です。おやつは300円まで。バナナはおやつに入りません」
 まるで遠足のようにしぃ助教授は言った。
「…了解モナ」
 俺はグラスを手に取ると、麦茶を喉に流し込む。

「ところで『異端者』…」
 しぃ助教授は、不意に真剣な表情を浮かべた。
 そして、リナーを真っ直ぐに見据える。
「貴方、モナー君と寝ました?」

 ……………!?!?!?
 俺は、飲んでいた麦茶を吹き出した。
 床が麦茶まみれになる。
 一方、リナーが持っていたグラスは粉々になっていた。
 思わず握り潰したようだ。

 しぃ助教授は頭をポリポリと掻いて言った。
「あらあら。貴方達の間柄が、前に見た時より落ち着いていたから…
 てっきり何かあったんだと思ったんですがね」
 丸耳が慌てて雑巾を持ち出した。
 そして、俺が吹き出した麦茶を拭く。

「モ、モナ達はゴホッ、そんなガフッ、ゴフッ!!」
 麦茶が気管に詰まり、まともにしゃべれない。
 リナーは露骨に視線を逸らして、掌に刺さったグラスの破片を払っている。
「…失礼します」
 丸耳がグラスをお盆の上に載せた。
 そのまま、背後にある流し台に運んでいく。

「ふーむ。まだまだ恋愛に潔癖な年頃みたいですね」
 しぃ助教授は、ニヤけながらソファーにもたれた。
 そして、何かを思い返すように胸の前で腕を組む。
「…学生時代を思い出しますね。私もハイティーンの時は、まだまだ純情な乙女でした…」

 突然、背後からグラスの割れる音がした。
 丸耳がお盆を引っくり返してしまったようだ。
「…失礼、不注意でした」
 丸耳が恐縮した声で詫びる。

「あら? 何か驚く事でもあったんでしょうかね…」
 しぃ助教授は微笑んで言った。

 …もう、話は終わったのだ。
 これ以上ここにいると、無駄な騒動に巻き込まれかねない。 

「…では、モナ達はここらでお暇するモナ」
 俺はソファーから腰を上げた。
 リナーも続いて立ち上がる。

「丸耳。後片付けはいいですから、モナー君達を家まで送ってあげなさい」
 しぃ助教授は、グラスの破片を集めている丸耳に言った。
「…はい、分かりました」
 そう言って、丸耳が腰を上げる。

「…最後に忠告です」
 しぃ助教授は、真剣な目で俺の方を見た。
「モナー君、ヨーロッパの格言にこんなのがあります。
 『フランスの女性は、裏切られたらライバルの方を殺す。イタリアの女性は、騙した男の方を殺す。
  イギリスの女性は、黙って関係を絶つ。 …だが、結局はみんな別の男に慰めを見い出す』
 『異端者』は確かフランス系でしたっけねぇ…?」

「じゃあ、また夜に会うモナッ!!」
 俺は、何かを言いかけるリナーの手を引いて部屋から出た。
 …これ以上、火に油を注ぐのは止めてもらいたいものだ。
 俺達は、こうしてASA本部ビルを後にした。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

194ブック:2004/05/04(火) 13:02
     EVER BLUE
     第三話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その一


「…で、お前ら何か言う事は?」
 僕とオオミミ、ニラ茶猫と三月うさぎの四人は、サカーナの親方の前に整列させられていた。

「言う事って言われても、なぁ?」
 ニラ茶猫がオオミミと三月うさぎの顔を見ながら言う。

「手前ら!
 勝手に爆裂徹甲弾全部使って詫びの一言も無しか!!」
 サカーナの親方が鬼の様な形相で叫んだ。
 その目はうっすらと充血している。
 どうやらさっきまで泣いていたようだ。

「悪いが俺達が謝る道理など無いな。
 そもそも船長のあんたがあの戦艦に喧嘩など吹っかけなければ、
 あの弾だって使わずに済んだのだ。
 自業自得というやつだな。
 それとも何か?
 あのまま空の藻屑となって大切な弾と共に地面に墜落する方がよかったと?」
 三月うさぎが極めて理性的に反論する。
 サカーナの親方はぐうの音も出ない。

「でもなあ、いくら何でも全弾つぎ込む事は無ぇだろうが!?」
 サカーナの親方が諦め切れないといった風に食い下がる。

「そんなに弾が欲しいならこれをくれてやる。」
 三月うさぎがなにやらマントをゴソゴソと動かした。
 すると、マントの中から銃の弾丸が出るわ出るわ。
 恐らく、あの戦艦での自動小銃の射撃による弾丸だ。
「都合百五十六発の鉛玉だ。
 数だけならば、使った爆裂徹甲弾と差し引いてもお釣りが来るだろう。」
 幾つもの銃弾をサカーナの親方に握らせる三月うさぎ。

「阿呆か!
 こんな鉄屑貰った所で、一銭にもなるか!!」
 サカーナの親方が銃弾を地面に叩きつけた。
 銃弾がころころと地面を転がり、壁に当たって止まる。

「どうでもいいが船長。
 他にも言及すべき事があるんじゃないか?」
 三月うさぎが、脇の方に佇んでいた天に視線を移した。

「あ、そうだった。
 おい、オオミミ!
 お前船に厄介事持ち込むなって、あれ程言っておいただろう!!」
 サカーナの親方の雷がオオミミに落ちた。

「『ゼルダ』もだ!
 どうしてオオミミを止めねぇ!
 どうすんだ、こんなお嬢ちゃん拾って来ちまって!
 犬や猫じゃねぇんだぞ!!」
 案の定僕までもが怒られる。
 やれやれ。
 だからこの子を連れて帰るのは嫌だったのだ。

195ブック:2004/05/04(火) 13:02

「ごめんなさい…!
 私が悪いんです。
 私が無理矢理オオミミさんに連れて行って貰うようにお願いした所為で、
 オオミミさんは仕方無く…」
 と、天がオオミミとサカーナの親方の間に割って入った。

 ちょっと待て。
 何だこのしおらしさは。
 さっきまでの態度と全然違うじゃないか。

「だからオオミミさんを怒らないであげて下さい…!
 責めるなら代わりにこの私を…」
 この猫被りめ…!
 皆を騙くらかそうとしてもそうはいかないぞ。
 お前の本性は、どこまでもまるっとお見通しなんだからな。

「…?どうしたの、天さん。
 さっきと全然雰囲気が違……あぐっ!」
 彼女の豹変振りを指摘しようとしたオオミミの足を、天が踵で踏みつけた。

「ご、ごめんなさい!
 オオミミさん、大丈夫ですか!?」
 わざとらしくオオミミに謝る天。
 こいつ、今の絶対故意だろう。

「…私の本当の性格喋ったら酷いわよ。」
 と、天がオオミミにだけ聞こえる声で脅迫した。
 その威圧感に思わず顔を引きつらせるオオミミ。

 …オオミミ。
 殺そう。
 今ここでこの女殺そう。
 神様だって、きっと許してくれる。

「…ったく、しゃーねーなー……
 兎に角だ。
 船の修理に近くの島まで寄らなきゃなんねぇ。
 その嬢ちゃんをどうするかは、そこで決める。」
 サカーナの親方がやれやれといった風な顔で告げた。
 そして、怒るのにも疲れたのか振り返ってその場を去ろうとする。

「…ああそーだ。
 オオミミ、お前は罰として船に穴が開いた所の掃除だ。」
 サカーナの親方が思い出したように言う。
 そのまま親方はその場を離れていった。

「ま、運が悪かったな。
 せいぜいがんばれよ。」
 ニラ茶猫がオオミミの肩を叩いた。

「…やれやれ。
 後先考えず行動するからそうなる。
 …いや、それはこの船の奴ら全員か。」
 三月うさぎもそう言い残すと去って行った。

「天ちゃん、だったわね。
 ごめんなさいね、説教に付き合わせちゃって。
 取り敢えず今日の寝室の案内をするからついて来て。」
 高島美和がそう言って天と共に出て行く。

 かくして、その場には僕とオオミミだけが取り残された。
 糞。
 あの女、後で絶対覚えてろよ。

196ブック:2004/05/04(火) 13:03



 オオミミは見事に船室に開けられた穴の辺りの床を、せっせと磨いていた。
 ある程度掃除した所で、オオミミは服の袖で額の汗を拭う。
 しかし、後始末をすべき部分はまだ沢山残っている。
 いつになったら終わる事やら。

(…オオミミ、何であの子に言い返してやらなかったんだよ。)
 僕は苛立たしげにオオミミに尋ねた。
「ん〜?何で『ゼルダ』はそんな事考えるの?」
 オオミミは呑気な顔でそう答える。

(何言ってんだよ!
 あの我侭娘の所為で、
 君がここでこうして一人で掃除させられる羽目になってるんじゃないか!
 少しは悔しいとか思わないのか!?)
 全く呆れる位お人好しな奴だよ、君は。
 そんなんだから、あの女に体よく扱われるんだ。

「あはは。俺はそんなに気にしてないよ。
 あの子、そんなに悪い人じゃなさそうだし。
 それに、何か寂しそうな目をしてたからさ…
 ほっとけないだろ?そーいうの。」
 あっけらかんとした顔で笑うオオミミ。
(君は馬鹿か。もう少し世間の厳しさというものをだな…)

「全く…善意の押し売りもいい所ね。」
 その時、いきなり横から声をかけられた。
 見ると、天が雑巾を持って立っていた。

「…?何でこんな所に?」
 不思議そうに尋ねるオオミミ。
 何だこの女。
 オオミミの邪魔でもしに来たのか…?

「魚でも買いに来たように見えて?
 掃除を手伝ってあげに来たのよ、
 そ・う・じ・を。」
 厭味ったらしく口を開く天。
 何様だ、この女。
 …え?
 掃除を、手伝いに来た?
 まさか、そんな、幻聴か!?

「そんな、悪いよ。」
 手を振りながら断ろうとするオオミミ。
「うるさいわねぇ。
 せっかくこの私が手伝ってあげるって言ってるのに、
 なーに?その態度は。」
 お前も、手伝いに来たわりには随分と偉そうな態度だな。

「いや、でも、サカーナの親方は僕に命令したんであって…」
 オオミミがぼそぼそと呟いた。

「勘違いしないでよ。
 別にあなたの為にやる訳じゃないわ。
 実際、あなたがここの掃除をする事になった原因の一旦には私の責任もあるんだし、
 ここであなたに借りを作っておきたくないだけよ。」
 ぶっきらぼうに言うと、天は雑巾で床を拭き始めた。
 可愛くない女。
 もっと他にも言い方ってもんがあるだろう。

「ごめん。助かるよ。」
 オオミミが屈託の無い笑顔を天に向けた。

「あのねぇ、私はわざと神経逆撫でするような言葉を選んでるんだから、
 少しは嫌な顔の一つでもしなさいよ!」
 天が呆れたような顔をする。
 その意見については僕も賛成だ。
 オオミミは、もっと人を疑うとか、そういう事を学んでもいい。

「でも、ありがとう。」
 それにも関わらず、オオミミは天に心からの礼を告げる。
「…全く、あんたと話してると調子が狂うわ。」
 天は顔を少し赤くすると、ツンとそっぽを向いてしまった。

197ブック:2004/05/04(火) 13:04


「…ねえ、天さん。」
 不意に、オオミミが天に尋ねた。
「天でいいわ。それで、何?」
 天が面倒臭そうに聞き返す。

「えっと、じゃあ天。
 君、どこであいつらに攫われたの?
 出身は何処?」
 オオミミがそう質問した。

「…悪いけど、ノーコメント。
 生憎、出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 あからさまに不機嫌な顔をする天。
 感じ悪い奴。
 それ位、答えたっていいじゃないか。

「じゃあ今度はこっちから質問するわね。
 あなたさっきから一人でぶつぶつ言ってる時があるけど、
 それってあの変てこな鉄屑と闘ってた時に出てきた奴と話してるの?」
 天がオオミミにそう聞いた。

 …!
 この子、僕の姿が見えていたのか!?

「…!そうだけど、もしかして君もスタンドが使えるの!?」
 驚いた様子で聞き返すオオミミ。

「さっき言ったでしょ。
 私は出会ったばかりの男にホイホイプライバシーを語る程、
 軽い女じゃないの。」
 こいつ…
 自分は何も答える気が無い癖に、オオミミに質問しやがって…!

「ご、ごめん。」
 頭を下げるオオミミ。
 だから君が謝るなって!
 そういうの、君の悪い所だぞ。



 掃除もようやく終わり、オオミミが大きく欠伸をした。
 時計はもう深夜の二時。
 早く寝ないと明日に響いてしまう。

「…やっと終わったわね。
 全く、とろいんだから…」
 最後まで悪態をつく天。
 この女、どこまで口が減らないのだ。

「それじゃ、私は寝るわね。お休み。」
 欠伸をすると天はさっさと帰って行ってしまった。
 やれやれ。
 ようやくうるさいのが居なくなったか。

(オオミミ、それじゃあ僕達もそろそろ休もう。)
 僕はオオミミにそう提案した。
 今日は何だか色々と疲れた。
 早くぐっすりと眠りたい。

「うん、そうだね。」
 オオミミがもう一度眠そうに欠伸をする。
 そして彼は自分の寝室に向かって足を伸ばし―――

「おい。」
 野太い声がいきなり聞こえてきた。
 この声は、サカーナの親方か。
 声の方を向くと、その予想が正しかった事が判明する。

「親方…」
 もう夜も遅いので、静かな声で喋るオオミミ。
「明日船の修理に、近くの『tanasinn島』に寄る。
 そこでお前とあの嬢ちゃんを散歩でもして来いってお題目で外に出す。
 それがどういう事かは、言わなくても分かるな。」
 サカーナの親方がオオミミに厳しい目を向けた。
 つまりは、そこであの子を置き去りにしてこいという事だ。

「……」
 親方と目を合わせずに俯くオオミミ。
「…あの嬢ちゃんを放っておけねぇって気持ちは分かるさ。
 だけどな、実際問題うちみたいな所に置いとく訳にもいかねぇだろう。
 幸いあの島は割と大きいし、船の出入りも多い。
 役所に頼みゃあ、あの嬢ちゃんも一人で元の家に帰る事くらい簡単さ。」
 なだめるように、サカーナの親方はオオミミを説得した。

(親方の言う通りだよ、オオミミ。あの子とは明日お別れだ。)
 この説得には僕の個人的願望が半分程含まれていた。

「…分かったよ。」
 暗い表情で呟くオオミミ。
 やった。
 これであのいけ好かない女ともお別れだ。
 今夜はぐっすり眠れそうだ。

198ブック:2004/05/04(火) 13:04



「…天気もいいし、ちょっと散歩に行かない?
 サカーナの親方も、船の修理の間に船内に居られたら邪魔だって言ってるし。」
 オオミミにしては上手な嘘で、僕とオオミミは雨と共にtanasinn島の中を散歩していた。
 ここtanasinn島は小の大といった程度の大きさの浮遊島で、そこそこ活気もある。
 ここならば、天を捨てて行った所で野垂れ死にはすまい。

 それにしても、あの我侭な女が素直に散歩に付き合うとは思わなかった。
 悪いものでも食べたのだろうか。

「…本当に、置き去りにしていいのかなあ?」
 オオミミが不安そうな声で僕に尋ねた。
(今更何言ってるんだよ。
 また親方にどやされるぞ。)
 僕は叱るように答える。
 全く、君は本当に甘過ぎる。
 もっとこうガーンといった風に…

「ちょっと、一人で自分の世界に入っていないでよ。」
 後ろから、天が傘の先っぽでオオミミを小突く。
 この野郎、やりやがって。
 しかしこの女、何で晴れてるのに傘なんか持ち歩いているんだ?

 …まあいいや、どうせこいつともここでおさらばなんだ。
 余計な事を気にするのはやめておこう。

「……」
 今日の雲ひとつ無い晴天とは対照的に、オオミミの表情は晴れない。
 オオミミ、こんな女を置き去りにする事何かに良心の呵責を感じる必要なんか無いぞ。
 さっさとどこか適当な場所で、お別れを…

「…早くどっか行きなさいよ。
 あなた、私をここに置いて行く為に、私を散歩に連れて来たんでしょう?
 なら、さっさとどっかに行ってくれなきゃこっちが居心地悪いわ。」
 …!
 この子、気づいていたのか!

「……!!」
 動揺を隠せないオオミミ。

「気づいていないとでも思ったの?
 はっ、私だってそこまで馬鹿じゃないわ。」
 勝気な笑みを浮かべながら天がオオミミに顔を向ける。
 思わず目を逸らすオオミミ。

「勘違いしないでよ。
 別に、その事を責めるつもりはさらさら無いわ。
 実際私があなた達の立場でも同じ事をしたと思うし、
 あの船から出れただけでも運が良いんだしね。」
 天が振り返って背中を向ける。
 長い綺麗な髪を束ねた大きなリボンが、風に揺れた。

「…何してるの。
 さっさと行きなさいよ。
 空気を読めない男は嫌われるわよ。」
 そっぽを向いたまま天がオオミミに告げる。
 …オオミミ、彼女の言う通り、
 早くこの場から立ち去って…

199ブック:2004/05/04(火) 13:05

「!!!!!」
 と、オオミミが天の腕を掴んで物陰に引き込んだ。
「!?
 ちょっ、何するのよ変た…!」
 叫ぼうとする天の口を手で塞ぐオオミミ。
 天がそれから逃れようと必死にもがいた。
 オオミミ、どうしたんだ!?
 いきなりこんな事するなんて、君らしくないぞ!?

「静かに…!」
 オオミミが小さく呟いて通りの方に視線を向ける。

 …!
 赤い鮫のロゴのついた服を着た奴等が、大勢で何かを探し回っている。
 まずい。
 あいつらは…!

「『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)…!」
 険しい顔になるオオミミ。
 天も状況を理解したのか暴れるのをやめる。

「居たか!?」
「…いや。」
 向こうから『紅血の悪賊』の連中の声が聞こえてくる。

「マジレスマン様からの話だと、
 黒マントで隻眼の男と、頭がニラみたいな男、
 それからデカ耳の男と頭にリボンを巻いた女らしい。
 この島に来てるかもしれないから、草の根分けても探し出せ、との事だ!」
 最悪だ。
 まさかこの島に、奴等の仲間が居ただなんて…!

「…天、逃げるよ。」
 オオミミが天の手を引いた。
「ちょっと、別に私一人でだって、
 あいつらから逃げ切るくらい訳無い…」
 その時、天の体が近くに積まれていた箱に当たった。
 派手な音を立てて箱が崩れ、その場の視線が一斉に僕達に向けられる。

「…おい、あれ。」
 『紅血の悪賊』の一人が僕達を指差す。
「…デカ耳に、頭にリボンの女。」
 ヤバい。
 気づかれた!

「走るよ!!」
 オオミミが天を引っ張る形で走り出した。
「追え!!逃がすな!!!」
 全力で奴らが僕達を追いかけて来る。

 糞、何て事だ。
 よりにもよって僕達しかいない時に見つかるなんて。
 いや、それよりも、早くこの事をサカーナの親方達に知らせなければ…!

200ブック:2004/05/04(火) 13:05


「はっ、はっ、はあ…!」
 どれ位走ったのだろう。
 天の息が上がり、走る速度も落ちてくる。
 後ろからはなおも追跡してくる男達。

 まずいぞ、オオミミ。
 唯でさえ僕達はこの場所に土地勘が無いんだ。
 このままでは、捕まってしまう!

「…あなた、何で私を置いて逃げないのよ。
 あなただけなら逃げれる筈でしょう?」
 息も切れ切れに、天がオオミミに尋ねる。
 そうだ、オオミミ。
 何故君は一人で逃げようとしない。

「何言ってんだよ!
 捕まったらどうなるか分からないってのに、
 君だけ置き去りにして逃げるなんて事出来る訳ないだろう!?」
 珍しく怒った顔をして、オオミミが天に告げた。

「はっ、何それ!
 そうやって善意を押し売りして、自己犠牲に酔いしれるつもり!?
 そんなの、こっちが迷惑だわ!
 そういうのを偽善者って呼ぶのよ!!」
 こんな状況でも減らず口を叩く天。
 この女、せっかくお前を助けようとしてるオオミミに向かって、
 よくもまあそんな事を…!

「…そうかもしれない。
 でも、やっぱり自分だけ助かればいいってのは、
 いけない事だと思うよ。」
 オオミミが暗い表情になる。

(今はそんな事言ってる場合じゃ無いだろう!?
 喋ってる暇があったら足を動かすんだ!!)
 こらえ切れなくなり、僕はそうオオミミに喝を入れた。
「そうだね…!
 急ぐよ、『ゼルダ』!!」
 オオミミが精悍な顔つきに戻る。
 そうだ。
 今は取り敢えず、逃げ延びる事だけを考えて…


「!!!!!!!」
 オオミミと天の足が止まる。

(行き止まり…!)
 僕達は、袋小路に追い詰められていた。

「手間ぁ掛けさせてくれたなあ…
 ええ?兄ちゃん達…」
 僕達に向けて一斉に銃を突きつける『紅血の悪賊』達。
 オオミミが天を庇うように、奴らに対して身構える。

「どうする?
 お前等の仲間の場所まで案内するって言うんなら、
 痛い目に遭わせないでおいてやるが…」
 品の無い笑みを顔に貼り付けながら、リーダー格らしき男がオオミミに言った。

「教えると思って…!」
 オオミミのその言葉を銃声が遮る。
 オオミミの右頬がを銃弾が掠め、そこから赤い血が流れた。

「…言葉は選んだ方がいいぜ。
 それとも、後ろの女を突っ込み廻しまくってやりゃあ、
 少しは気が変わるかな?」
 奴らが下品な声で笑う。

 まずいな。
 数が、多過ぎる。
 オオミミ一人なら、僕の力でここを切り抜ける事も出来るかもしれないが、
 天を守りながらとなると話は別だ。
 オオミミの性格上、天を見捨てる事は出来ないだろう。

 畜生。
 一体、どうすれば…!

201ブック:2004/05/04(火) 13:06


「あの〜、お取り込み中のところ済みません。」
 その時、いきなり修羅場に似つかわしくない呑気な声がその場に響いた。

「!?」
 僕達も『紅血の悪賊』も、一斉にその声の方を向く。
 そこには、一人の青年が立っていた。
 ダークグレーのスーツを着こなし、人の好さそうな笑みを浮かべた青年。
 およそこんな状況とはかけ離れている風貌である。

 しかし、この人はいつの間に現れたのだ!?
 さっきまで、この人が居た場所には誰も居なかった筈だ。

「誰だ!?」
 『紅血の悪賊』の一人がその青年に銃を向けた。

「いや、私はしがない小市民ですよ。
 しかし銃声がしたので何事かと思って来てみれば…
 どうやらとんでもない事になっちゃてるみたいですね。」
 軽薄な笑みのままそう返す青年。
 その顔には、銃に対する恐れは微塵も見られない。
 何なんだ、この人は。
 頭がおかしいのか!?

「…生きてるうちに、失せろ。」
 リーダー格の男が青年にそう告げた。
 言ってみれば、これは最後通告である。

「いやそんな、大の大人がいたいけな少年少女に銃を向けるなんて現場を見て、
 『はいそうですか』と立ち去るなんて事出来ませんよ。
 すみませんが、ここは私に免じてその物騒な物をしまってくれませんかね?」
 それでも青年は笑顔を崩ずに答える。
 それが、『紅血の悪賊』の連中の堪忍袋の緒を切っているのは、
 火を見るよりも明らかだった。

「―――殺せ。」
 その男の声と共に、青年に向かって無数の銃弾が飛び交った。

 駄目だ!
 やられ―――


「!?」
 しかし、銃弾は全て男の体をすり抜けた。
 我が目を疑う『紅血の悪賊』達。
 僕達も、何が起こったのか理解出来ない。

 どういう事だ!?
 だって、男の姿はちゃんとそこに…

「…私は、荒事は嫌いなんですけどねぇ……」
 と、男の姿が掻き消えていく。
 何だ。
 一体、何が起こっている!?

「仕方がありません。
 それでは、今度はこちらから参りましょうか。」
 何も無い空間から、男の声だけが聞こえてきた。



     TO BE CONTINUED…

202( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:19
「ぶっ潰してやるッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『生まれし力』ジェノサイアact2

「ひ・・っ!」
緑の男は一歩退いた。
「待てよ。」
俺は思いっきり拳に力をためる
「お前には、たんまりはいてもらうぜ。」
ジェノサイアの拳がガチャピンの頬に直撃する
「ブ・・ッギャアアアアアアアッ!」
ガチャピンは吹っ飛んでいった
「・・スタンドを砂にされたのにダメージのフィードバックが無いって事は・・。遠隔操作型ね。」
・・懐かしい声
「こんな時に言うのもなんだが、久しぶりだな。ジェノサイア・・。」
ジェノサイアは満面の笑みを浮かべる
「ええ。本当に・・久しぶり・・。」
その微笑んだ眼から涙が流れる
しかし再会を喜ぶ暇も無く、邪魔者が入る
「貴様ァ・・許さん・・食ってやる・・食い尽くしてやるワァィゥッツァッ!!」
ガチャピンは物凄いスピードで突進してきた
「『ジミー・イート・ワールド』ォッ!」
突進する緑の男の眼前にジミー・イート・ワールドが現れる
「ジェノサイア。魅せてくれ。お前の『能力』」
「OK。」
ジェノサイアは地面に拳を叩きつける
「まず1つ。私は前とは違う『近距離パワー型』への変貌を遂げた。」
そして床から緑の男の方向に無数の針状の柱が現れる
「そして私の能力は『バグ』の発生ッ!元からある物体の形を主人の『思念』によって変えたり、物体を停止させたりする能力ッ!
相手への『敵意』があれば、床から相手に向かって針状の柱が現れたり、敵が砂になったりッ!殴った場所が永久停止したりッ!
相手への『仲間意識』があればッ!傷が回復したりするッ!正に一撃当たれば勝利の可能性も高いッ!万能型スタンドッ!」
いや、自分で言うなよ
「・・・精密動作がまだあまり出来ないのが問題ですが・・。」
ジェノサイアが呟く
「クソッ・・!ココは一旦てっきゃk・・」
しかし次の瞬間ガチャピンの前に『ジェノサイア』が現れる
「え・・・ッ」
「ジェノサイアact2ッ!相手に対する『敵意』ィッ!」
緑の男の頬に命中し、再度吹っ飛ぶが緑の男に『バグ』の発生は見当たらない
「あ・・れ・・?」
「言ったでしょう・・。精密動作性は低いって・・。」
・・つまり成功する確率は100%じゃないし、自分の思った効果が出るかどうかも怪しいのね・・。
「チ・・ッ!驚かせやがってッ!」
ガチャピンはソレを聞いて安心したのか一気に突っ込んでくる
「そらッ!死ねェィッ!」
一気に突っ込んでくるジミー・イート・ワールドとガチャピン
畜生、コイツ調子乗ってやがる
「『ジェノサイアact2』ゥッ!相手に対する『敵意』ッ!」

203( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:20
拳を思いっきり床に叩き付けた が
何と床がいきなり水になった
「うおッ!?」
「何ィッ!」
ヤバい。このままじゃ下の階に落ち・・ッ!
・・・そうだッ!
「『落ちるのが嫌』か?ガチャピン。」
俺はわざとらしく言ってみる
「何を・・嫌に決まっているだろがッ!」
ガチャピンは必死に泳いでいる
「その言葉・・待っていたぜッ!」
俺は思いっきりジャンプし、地面めがけてジェノサイアを撃った
「『ジェノサイアact2』!バグの解除ッ!」
地面の水が元通りになる。・・そしてッ!
「クゥッ・・『抜けん』だとッ!?」
「YESッ!狙い通りッ!」
そう。水になった床を元に戻し・・水の中で泳いでいたガチャピンの下半身を固定したッ!
「『抜けたい』か?ガチャピン・・。」
俺はまたもわざとらしく言う
「貴様・・調子にのりやが・・」
「出たい。そうか。よしわかった。出してやるよ」
ガチャピンの意思を無視してジェノサイアでアッパーをかました
「グゥッ!?」
そして俺は宙を舞うガチャピンの右腕をぶん殴った
「相手に対する・・『敵意』ッ!」
俺がそう叫ぶとガチャピンの腕がブレはじめ、砂となった
「―――――ァッ!」
声にならない叫びをあげ、地面に思いっきり叩きつけられるガチャピン
「イマのが俺を恐怖に陥れた分!そしてコレがムックの右腕の分ッ!」
そして俺は更にガチャピンの頭をブン殴る
して再度宙を舞うガチャピン
「んでコレがムックの左腕の分・・ッ!」
俺はジャンプし、宙を舞うガチャピンに更にアッパーを加えた
天井に頭をぶつけたガチャピンは急降下する。
「そしてコレがムックの腹の分だァッ!」
ガチャピンの後頭部にジェノサイアのカカト落としを食らわす
「・・ァッ・・ガーッ!・・」
意識もちゃんとして無い様で叫び声すらあげれてない様だ
そして一気に床に叩きつけられ声にならない叫びを再度するガチャピン
「まだだ。」
俺は倒れたガチャピンを起き上がらせラッシュを加える
「これもッ!」
「これもこれもッ!」
「これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
これもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれもこれも
ムックの分だァーッ!!!」
俺は157回言った『これも』と最後の『ムックの分だ』分だけガチャピンを殴った
ガチャピンは顔面を紅く腫らしながらその場に倒れる
「あ・・アッガガガガ・・グゥ・・フゥ・・ハァ・・。」
ガチャピンが眼を開けた瞬間俺はもう一度ガチャピンを殴る。
「まだだ・・。」
俺はつぶやく
「まだおわんねーぞッ!てめぇがッ!泣くまでッ!殴るのはやめねぇッ!」
・・・もう何分経っただろう。
いや、何十分か・・。
ずっとガチャピンを殴っていたと思う。
不思議と腕が疲れない。いや、疲れても俺は多分まだ殴ってると思う。
コイツは、ヤバい奴だ。
半端に殴っておいて逮捕するだけじゃコイツは間違いなくまたココにくる。
だから、俺は、コイツを・・・
殺・・・
「ピリリリリリリリ!!」

204( (´∀` )  ):2004/05/04(火) 13:21

「で・・電話?」
俺の携帯だ。取りに行くべきか。コイツをまだ殴るべきか。
・・・コイツは多分もう気絶してる。
だったら・・。
「・・・誰から・・だ?」
俺は携帯を見に行こうとする。その時だった。
「ジミー・・・イート・・ワ゛ル・・ド・・」
ガチャピンのスタンドが現れる
「・・ッ!の野郎・・!」
俺は身構えるがガチャピンは俺とは逆方向を向いた
「・・ッカ・・ジャ・・あ・・ナ・・」
ガチャピンは窓を食いつくし、落っこちていった。
・・・ヤバい・・ココは四階だぞっ!落ちたら・・
「ガチャ・・ピ・・」
俺は慌てて窓の外を見るが、ガチャピンの姿は無い。
逃げた・・?馬鹿な。早すぎる。死んだとしても死体が無い。
・・・・一体ドコへ?
「ピリリリリリ!」
俺はハッと我に帰る。そうだ。電話だ。
「・・・この電話に感謝だな。鳴ってなかったら俺はきっとアイツを・・」
・・殺してた
「お。殺ちゃんか・・。」
殺ちゃんからの電話を取る
「もしもし?殺ちゃん?おーい?もしもーし?おーい?」
・・?
「もしもし?殺ちゃん!?もしもし!?」
マズい!
嫌な予感がするッ!
・・コンビニだ・・。何かあったに違いないッ!
「殺ちゃ・・」
俺が外に出ようとすると倒れているムックが眼に入る
「クッソ・・ッ!世話の焼ける・・ッ!」
俺はムックをオブって大雨の外に出た。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

走った。雨なんて気にせずに。走った。
「殺ちゃ・・ッ!」
コンビニの前についた俺は衝撃的な光景を眼にした。
殺ちゃんが紅くそまり倒れていた。
そして、その後ろには見覚えのある頭が居た。
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

←To Be Continued

205N2:2004/05/04(火) 14:37

             / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
             |  某漫画ネタ始めました
             \____ _________
                    ∨ 
    ∧_∧ モジモジ      〃ノノ^ヾ
   ( *・∀・)           リ−` ル 
   (つ<V>)  旦   旦.   ( V  ノ 
   ( ̄__)__)  ̄| ̄ ̄ ̄| ̄  (_  ̄}0
   __∧________
 /
 |  君も探してみよう!
 \___________
             
                   (このにわかヲタ作者め!!)
 (筋肉質ビスケタソハァハァ)

206N2:2004/05/04(火) 14:37

 リル子さんの奇妙な見合い その③

町の中心から離れた、この町内でも最も自然の多い地域にある一軒の料亭「伍瑠庵」。
ここは知る人ぞ知る「隠れた名店」で、噂によれば政財界のトップまでもが
わざわざこんな遠くまでお忍びで食いに来るって言う話まである。

オレ達は大将に連れられるまま、この料亭にやって来た。

「ここがリル子の奴が今日見合いすることになっている料亭だ」
外から見ただけでも、この店がオレの体験したことのない空気に包まれていることがすぐ分かる。

「…わざわざこんなメチャ高級そうな所で見合いするだなんて…。
あの人、金の方は本当に大丈夫なんだろうな?」
相棒ギコは見合いの方よりもそっちが気になるらしい。

「あいつとて人気アナウンサーなんだ、いっぱい番組を掛け持ってんだからこの位大丈夫に決まってんだろ」
大将が根拠もない余裕を浮かべる。
自分の懐以外の金はどーでもいいんかい。

すっかり忘れていたが、リル子さんはこっちの地元テレビ局の看板アナウンサーである。
「2ch News」や「モナー板3分クッキング」と彼女が出演する番組は数多く、そのいずれもが(様々な意味で)人気が高い。
…特にモララー族のヲタが異常に多いらしく、おっかけやストーカーなど日常茶飯事、
挙句の果てには職場でもしつこく言い寄ってくる男がいていい加減疲れている、と彼女は漏らしていた。

そのせいかどうかは知らないのだが、コーチングは「サザンクロス」内でも
後の男二人を遥かに超越する鬼っぷりを発揮するのだが、
それもまあ特訓の為であって、一応普段は(表向き)それなりに優しくて礼儀正しいので
特訓の厳しさは「hate」故と言うよりかはやはり「severe」のはずである、らしいのだが
ギコやギコ兄の話を聞く限り、どうもオレに対してだけは種族的な「私怨」が働いているように思えて仕方ない。
はたはたいい迷惑な話だ。


「よし、それじゃあ乗り込むか!」
大将が威勢良く号令を掛けた。
いやいやいや。
アポ無し・金無し・正装無しのオレ達が如何にして入れるというのか。
後二週間を518円で過ごさねばならんというのに…。
(*ちなみにサザンクロス等の空条モナ太郎公認のスタンド自警団に入ると、スピードモナゴン財団から毎月特別手当が入ります)

「おい、どうしたんだお前ら?早くしないとリル子の奴が来てばれちまうぞ」
大将に促され、オレとギコ、それにキッコーマソにシャイタマー達は様々な不安を感じつつも渋々歩き始めた。

207N2:2004/05/04(火) 14:40



門をくぐった瞬間、オレ達はその外界から隔離された、余りに壮麗で厳粛な空気に押しつぶされそうになった。
均衡を無視した、余りに自然的でダイナミックな力強さを誇る日本庭園。
松や苔の放つ強烈な緑・茶色と敷き詰められた小石の薄い灰色の調和がこの空間の基礎を支えている。
しかしこの時期、庭園内を明るく彩るのは何と言っても紅葉である。
一年の中でもこの季節だけでしか味わえない、重く力強い雰囲気を一転して軽く親しげなものにしてくれる、赤・黄の葉。
その自然が織り成すシンフォニーに、オレ達6人はしばらくその場に立ち尽くしてしまった。

「・・・スゴーイ・・・」
「…マジにすげえな。こんな美しく形作られた庭を見たのは初めてだ」
「ホントだよ、これは…」
オレもギコも、そして子供たちもこの壮大な風景にしばし見入ってしまった。

その横で、
「うむ、この庭園はまさしく和の美の集大成とも言うべきものだ。
ここで食う和の調味料・醤油と目玉焼きのコラボレーションはどんなに上手いことであろうか…」

『クラァッ!!』『ゴラアッ!!』『シャイタマー!!』
「うわなんだおまえたちなにをするやmどわあああ!!」
我々の幽波紋の拳を受けた亀甲男は、伊勢海老の如く身体を反らせながら、器用に頭から池へ着水した。
もう上がっては来ないだろう…。南無妙法蓮華経アメーン。

「おい、おめえら何遊んでんだ!さっさとこっち来い!!」
…と、大将がオレ達を大声で呼ぶのが聞こえた。
5人は池に落ちたキッコーマソは放って、さっさと建物の方へと走っていった。



「お待ちしておりました。大将様御一行ですね?」
玄関の奥から、着物に身を包んだ女性がやって来て言った。

「ああ、そうだ。これで全員…おや?キッコーマソはどうした?」
大将はようやく彼の不在に気付いたらしい。
まずい、ツッコミ入れたら池に落っこちましたなんて言えるわけがない。
果たしてどう説明したものか…。

「…あの人はもうしばらく庭を見たいって言ってたから、その内来ると思いますよ」
幸いにも、とっさにギコが機転を利かせて嘘を付いた。
大将も初めは仕方ない奴だという表情を浮かべたが、やがて
「しょうがないな、いつまで玄関に居たらリル子と鉢合わせになりかねないからな。
すまないが、部屋の方へと案内してくれ」
諦めて仲居さんに案内を頼んでしまった。


オレ達は『松の間』という部屋に案内された。
仲居さんが障子を開けた途端、中から和室独特の懐かしいかほりが漂ってくる。
カビ臭くない畳など何年振りだろうか。

「それでは、ごゆっくりどうぞ…」
仲居さんは戻っていき、部屋には男6人だけが残された。

「それじゃあ、リル子の奴が見合いを始めるまでここで待機しよう。
その内料理も運ばれてくるから楽しみに待ってろよ」
やけに楽しそうな大将。

「…大将、昨日決まったばかりの見合いのはずなのに部屋も料理も予約してあるだなんて…、
もしかしてリル子さんがここで見合いすることも、俺達にその監視をさせるのも予定通りとか言うんじゃないでしょうね?」
相棒の鋭いツッコミが入る。
大将は急に鼻歌交じりで外を眺めだした。
…図星か。
こんな真似をするほど、大将の彼女に対するフラストレーションは募っていたというのか?

「…まあ、そこんところはもう何も言いませんけどね、
それよりも隣の部屋に陣取ったところで、一体どうやって見合いの様子を覗くつもりなんですか?
この中には透視能力を持つスタンド使いはいませんし…」

「『クリアランス・セール』!!」
スタンドを発動。
そのまま指を壁に突き立て、ドリルのようにグリグリグリグリグリダグリグリと貫き通す。

「完成!覗き穴!!」
これで隣の様子はバッチリ分かる。
果たしてリル子さんがどんな恥じらい方をするのか、バッチリこの目で見届けて…

208N2:2004/05/04(火) 14:41



「…悪いんだがな相棒、お前の分解能力が今何秒持つかは俺には分からねえがよ、
それって限界過ぎたらどうするつもりだ…?」

…そう言われれば、そうだ。
「…いや、さ、そうしたらまた改めて分解するとか…。
そうだ!んじゃ初めから分解抜きで穴を開けりゃいい話なんだ!!」

「…リル子の奴は直接覗かれて気付かない訳が無いと思うんだがな。
それ以前に効率も悪いし、部屋を荒らしたら罰金ものだ」
駄目だ、こいつら分かってねえ。
オレはすっくと立ち上がって言い放った。
「あのな、覗きってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
壁の向こうに座った奴といつ目が合ってもおかしくない、
バレるかバレないか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。ガキと初老は、すっこんでろ。」

「で、やっと合流したかと思ったら、いつもの阿呆が、スタンドで壁に穴開ける、とか言ってるんです。
そこでまたぶち切れですよ。」
そこでタイミング良くギコ兄が入ってきた。
ギコ兄は続ける。

「あのな、覗き穴なんてきょうび流行んねーんだよ。ボケが。
得意げな顔して何が、覗き穴で、だ。
お前は本当に見合いを覗きたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。
お前、エロい響きだけで覗きって言いたいだけちゃうんかと。
                        ウォッチャー
裏社会通の俺から言わせてもらえば今、監視家の間での最新流行はやっぱり、
監視カメラ、これだね。
超小型マイク付きCCD監視カメラ。これがプロのやり方。
マイク付きってのは音声も撮れる。そん代わり値段も割高。これ。
で、それを部屋の64ヶ所に設置。これ最強。
しかしこれをやるとリル子にバレた時に半殺しにされるという危険も伴う、諸刃の剣。
素人にはお薦め出来ない。
まあ三流貧乏商人及び変態教授は手鏡でも使ってなさいってこった。」

「…てめえ、オレのやり方に文句でもあるってのか!?」
「当然じゃないか、そんな古典的かつ非効率的更に発覚の危険性の高い方法を使おうなどと抜かす貴様の心理が全く読めん」

睨み合いが続く。
まさに一触即発。
動き始めたのは、ほぼ同時だった。

「『クリアランス・セール』!クラァッ!」
「貴様はここで一度死んでろッ!『カタパルト』!!」

「いい加減にしねえかゴルァ!『バーニング・レイン』ッ!!」
オレ達が拳を交える直前、相棒の銃弾がオレ達を貫いた。
身体が痺れ、立つことさえままならなくなった2人はそのまま倒れ込む。

 レモンイエローオーバードライブ
「『黄蘖色の波紋疾走』弾…!
てめえらは吉野家コピペの挙句室内荒らしか…?
迷わず2人とも逝ってよし!!」

『…はい…』
電撃で身体が痺れただけでなく、殺気に押されたオレ達は大人しく返事をすることしか出来なかった。

209N2:2004/05/04(火) 14:43



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



モニターの前に群がるムサい男4人とガキンチョ3人。
そこには無人の和室が映されている。

男達が、にわかに画面に接近する。
目的の人物の片割れが映し出されたのだ。

(おいッ、リル子さんが来たぞ!)
(ギコ屋、てめえ声がデカいぞ!!)
(…二人とも、少し黙っててくれないか?)

抜群の感性を誇る彼女には、少しでも声が届けば自分達の存在が知れてしまう。
大将はヒヤヒヤしながらオレ達を誡める。

画面越しのリル子さんはいつになくやたら顔がニヤけている。
そんなにその阿部という男に会うのが楽しみなのか。

「阿部様…早くお会いしたいわ…ウフフ」
(マッチョでアレの大きそうな男ハァハァ)

テレビのスピーカーからリル子さんの独り言が聞こえてくる。
同時に心の声まで聞こえてくる…ような気がする。いつもの事だが。
前から思ってたんだがこの人、俗に言う『サトラレ』って奴ではないのだろうか?

(こんな間抜けっ面したリル子さんを見るのも初めてだな…)
ギコが思わずそう呟いた。
オレ達も余りのアホさ加減にちょっとクスクス笑いそうになった。

瞬間、モニター向こうのリル子さんがテーブルをバン!と叩いて立ち上がる。
オレ達は一瞬ビクッ、としてしまった。

「…今聞き覚えのある声が聞こえたような気が致しました…空耳でしょうか?」
(…あのアホ男子共の声が聞こえたな…単なる気のせいか?)

…なんつう感性。
これでは少しでも普通に喋ったら絶対気付かれる。
大将が指を口に当てて静かにしろ、と合図した。
オレ達もそれにうなずく。
これからは、極力お互いの話も無くさなくては。



「失礼致します、今日お見合いをなさる方が参りました」
隣の部屋の外で、仲居さんがそう言った。
遂にその阿部とやらが来たのか。

「どうぞ、お入りになるようにおっしゃって下さい」
(さあ、阿部様早くお入りになって!!)

リル子さんは相変わらず物静かでおしとやかな様子で仲居さんにそう言った…
…のだが、どう考えても心の方はもう完全に興奮しきっているようだ。

「では、お入りになってください」
仲居さんの声がした。
いよいよか。

障子が開く。
さあその阿部って奴よ、お前がリル子さんに喰われるのかそれともリル子さんがお前に喰われるのか、
どっちにしろ餌になる方の無様さをとくとこの目に…



                 バーソ
   ┏┯┯┯┳┯┯┯┓.               ┏┯┯┯┓
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨ ∧_∧.        ┠┼┼┼┨
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( *・∀・)       ┠┼┼┼┨ /
   ┠┼┼┼╂┼┼┼┨( <V> ).       ┠┼┼┼┨ ガン!
   ┣┷┷┷╋┷┷┷┫| | |.       ┣┷┷┷┫ \
   ┃      ┃      ┃(__)_)       ┃      ┃

210N2:2004/05/04(火) 14:48

………???
………あれっ、この人誰?
……仲人さんか?
…いや、でもいま確かに『お見合いをなさる方』って…。
…………ええええええ????

「…あの…どちら様で?」
テレビの中のリル子さんも混乱した様子で尋ねている。

「やだなーリル子さん、僕だよ僕ぅー!
何年間『2ch News』一緒にやってきたと思ってるんだーい?」
男は馴れ馴れしくリル子さんに語った。
…思い出した。
この男、確かにニュース番組でリル子さんと一緒にキャスターやってるな。
番組中にセクハラまがいの事して何回クビになりかけたか知らない名物キャスターだ。
…でもなんでこいつが?

「あの…私は阿部高和という方と今日見合いをするつもりだったのですが…」
(てめえはどうでもいいんだよ!阿部様はいつ来るんだいつ!)
リル子さんは表向き冷静さを崩さずに男に尋ねる。

「やだなあリル子さん、まさか今日僕と見合いするって知らなかったのかい?」
(どうやら作戦成功みたいなんだな!)
男はさも当然のようにとんでもない事を言い出した。

211N2:2004/05/04(火) 14:49

「…知るわけがありませんわ。
第一私の手元の写真に写っているのはもっと素敵なお方ですわ」
さりげなく貶しとる…。
だけど、あの写真、ムサいおっさんがベンチに座っているようにしか…

「だからー、あの写真ホントによく見たのー?」
しつこい。ひっくり返して見ようが裏から見ようが写っているのは阿部って男だけだ。
リル子さんもバッグから写真を取り出し、顔に近付けてよく目を凝らしているようだ。

「…失礼ですが、やはりあなたの姿はどこにも見当たりませんわ」
(見つかるわけねえだろ、遂にこいつ頭に持病の水虫でも回りやがったか!?)
リル子さんの言う(思う)通り、どう考えてもこいつの言っていることはでたらめだ。

「だ〜か〜ら〜、そうやって持つから分からないんだよ!
ちょっとその右の隅っこを持ってる手をちょっと離してごらんよ!」
本当に諦めが悪い奴だな、何度やったって変わるわけ………

………あ。

┌───────────────────────────────────────────┐
│┌─────────────────────────────────────────┐│
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││           N| "゚'` {"゚`lリ     見 合 い や ら な い か?                     ││
││              ト.i   ,__''_  !                                            ││
││           /i/ l\ ー .イ|、.                  安 部 高 和                  ││
││     ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、                                        ││
││     /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.                                           ││
││   /    ∨     l   |!  |   `> |  i                                           ││
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││                                                             ( ・││
│└─────────────────────────────────────────┘│
└─────────────────────────────────────ニソックリナモララー.┘

212N2:2004/05/04(火) 14:51

      、__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__人__,
      _)                                                (_
      _)  ナ ゝ        ナ ゝ  /   ナ_``  -─;ァ              l7 l7   (_
      _)   ⊂ナヽ °°°° ⊂ナヽ /'^し / 、_ つ (__  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ o o    (_
      )                                                (
      ⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒
                                        )
            (と叫びたい)                   (
       ∩_∩                             )
     G|___|∧∧| |∧ ∧∧ 、 l , ∧∧ ∧∧       (          〃ノ^ヾ
      ( ;・∀・) ;゚Д゚)| |Д゚;) ;゚Д゚)( ;゚∀゚) - ;゚∀゚) :゚∀゚)         )          リ;´−´ル



…なんて姑息な真似を…。
って言うかこんな事に全然気が付かなかったオレ達もオレ達だが。

「さあ!これでようやくこの見合いがリル子さんと僕のものだということが証明されたんだな!
それじゃあこんな僕だけどよろしくお願いするんだな!」
(これで強引にこぎつけられたんだな!あとは密室で2人っきりハァハァハァハァハァハァ)

…こんな奴の為にオレ達はここまで期待してしまったというのか?
つーかこいつはそれよりもこんな方法で強引に見合いしたところで成功するとでも思って……


……強烈な殺気が隣の部屋から伝わってきた。
モニター越しにも、リル子さんの周りに黒いオーラがくっきりと映っていた。
それに気が付いていないのは原因を作った張本人自身である。
「さあ!さあ!早くじっくりと愛を語らうんだな!!」
(ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ)

リル子さんが、ゆっくりと立ち上がった。
そして一歩一歩、ゆっくりと男へと歩み寄っていく。
とうとう男の目前まで来ると、今度は改めて写真をじっと見つめた。
しばらくそのまま何か考えていたらしいが、それも終わると左手を顔に当て、何か残念そうな振る舞いをした。

「ああ〜〜 残念!!」
リル子さんは突然そう叫んだ。

「え、何が残念なんだい、リル子タン!」
((*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
いや、恐らく残念なのはこれからのお前の運命の方だ。
哀れ、リル子さんを怒らせた者の行く末というものをその身を以って味わってくれ。

「アウト――!!」
リル子さんの指が男に向かって指される。
男は何の事だかさっぱり分からないらしい。
「え? い…いったい…」

ボムッ!!

…鈍い音がした。
男の顔面に、リル子さんの裏拳が炸裂したのだ。
男はそのまま畳に声も無く倒れ込んだ。

「嘘をついた者は爆する!! よし次だ」
…何が次なのかよく分からんが、リル子さんはそういって満足そうに自分の席に戻っていき、
美味そうに高級料理に舌鼓を打ち始めた。

213N2:2004/05/04(火) 14:52



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



料亭の閑として落ち着いた空気。
それを乱す、穢れ無き黒い殺気。
一人の少女が、標的の元へと向かおうとしていた。
頭には、「葱看」と書かれた帽子を被っている。

「ここがおじさんの言ってたギコ屋たちのいるお食事亭だよー。
みる、みる、みるまらーーー!」

少女は料亭の敷地内へと足を踏み入れた。
店の者がその招かれざる客に気付くにはそう時間は掛からなかった。

「ちょっとそこのお譲ちゃん、どうしてこんな所に来たの?
ママはいないの?一人?」
彼女の存在に気が付いたある仲居が、彼女へと歩み寄る。

「new! new! new model!!!!!!
I'm not in love, but I'm gonna fuck you!!!!」
少女は突如謎のフレーズを口にした。
仲居も少女の奇々怪々な発言に困惑した。

「ちょっとお嬢ちゃん、一体何がどうしたの?」
そう言って、仲居が少女に手を差し出そうとすると…

「みるまらー!」
仲居の右手から、おびただしい量の血が噴出す。
それは文字通り、「蜂の巣」となった。

「………!!??」
突然の激痛に、仲居は自分の身に何が起こったのか分からなかった。

「みるまらー」
少女はそのままそこを立ち去る。
「ちょ…あな…なによ……これ………
あ……ああ……」

血まみれの店員は力なくその場に座り込み、しばらく呻いていたが、
やがて痛みに耐え切れず気を失ってしまった。

214N2:2004/05/04(火) 14:53



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「それで、リル子さんの趣味は何なんですか?」
(ここから一気に距離を縮めるんだからな!)
「…あなたみたいな男の人を完膚なきまでに痛めつけること…かしら?」
(いい加減これで諦めろよこのクズが!!)
「それも結構楽しそうなんだな!!」
(実はMなんだよハァハァ)
「…………」
(…このド変態がッ!!)

…さっきからずっとこんな調子が続いている。
この男、リル子さん必殺の一撃を食らったというのに何事も無かったかのように復活した挙句、
少しでもリル子さんに気に入られようと質問責めだ。
…んな事しても余計に嫌われるだけなのに。

オレの周りを見ても、皆そこら辺でダラダラしてるか、料理を味わってるかのどっちかである。
真面目にモニターを観察してるのはもうオレとギコだけだ。

(…相棒、俺ももういい加減飽きてきたんだが…)
ギコもそろそろ限界が近いらしい。
そりゃそうだ、あのリル子さんがメロメロになった男との見合いだからこそ見る価値があると思ったのに、
こんなリル子さん上位の見合いなんか見てても日常の風景と何にも変わり映えが無くてつまらないことこの上ない。

(んじゃいいよ、後はオレが一人で見てるからさ)
オレはそう言って、ギコを休ませることにした。

(分かった、それじゃあ後でまた交代するぞゴルァ)
ギコがそう言って、その場を離れようとした瞬間―――

215N2:2004/05/04(火) 14:54


「更なる力を

#7Hjj9qn$
さあ 真の脅威に!」

モニターから第三者の声がする。
…一体何事だ!?

「あら…あなた一体どこのどなた?」
「こらこら、おじちゃんたちは今大事なお話中なんだよ。
さあ、あっち行った!」
2人も突然の少女登場には驚いているようである。
だが、この女の子は一体…。

「えーと、そこにいるのがギコ屋で…、
あれ?相棒ギコとギコ兄ってのは一体どこなんだろ?」
……!?
この女、オレ達の事を知っているだと!?
…いや待て、確かこの女は…。

(相棒、こいつは例の最近大量発生したっていう荒らしAAじゃねえか!?)
ギコの言うとおり、こいつはさっきこいつとも話していた街中で大量発生した
通行人の首を切り落とす悪魔の女じゃないか!
…しかし、それならばどうしてオレ達を探しに来たというんだ?

「…ま、いいや。あとの2人がいなくたって。
とりあえず、そこのギコ屋から殺すよー。
みるまらー」

………!!
こいつ、もしやあの男の一味か!!

と同時に、少女が並外れたスピードでモララーに飛びかかる。
まずい、こいつあの男がオレだと完全に勘違いしている!
このままでは殺られる!!

216N2:2004/05/04(火) 14:55


「…何だかよく分かりませんけど、とりあえずここでガードしておきますわ…」
少女の動きが止まった。
リル子さんがスタンドで彼女を捕らえたのだ。

「…あなた、今『ギコ屋』って言いましたわね…?
ひょっとして、あの『矢』を持つ男のグルでありませんこと?」
リル子さんのスタンドの締め付けが強くなる。
少女の顔が段々と苦痛に歪んでゆく。

「…言うわけないよ、みるまらー」
少女は苦しみながらも不気味な笑みを浮かべた。
そんな風に笑うだなんて、その余裕は一体どこから…

…と思った瞬間、リル子さんの手から激しく血が噴き出した。
思わず、スタンドの手も彼女から離れてしまう。
一体、この女は何を…?

「…なるほど、あなた肉体強化型のスタンド使いってことですわね?」
リル子さんは手の痛みを少しも顔に出さず、自分の方が圧倒的優位に立っているように笑ってみせた。
それに反応して少女も笑う。

「正解、みるまらー」
と、みるみる彼女の全身の毛という毛が太く、固く、尖っていった。
そして仕舞いにはとうとう毬栗のようになってしまった。

…こいつ、見た目はヘボそうだが実際はそんな事ない、むしろかなり戦い辛いスタンドだ。
尤も、部屋を一つ間違えてしまう辺り人間的にはまだまだだと思わされるが。
ただ、本当ならすぐに隣に応戦に行きたいところだが、今日はそんな真似が出来ない。
ただ指を咥えて見ているしかないのだ。

(大将、本当にリル子さん大丈夫なんですか!?
このまま放っておいて、もしもの事があったら…)
オレは耐え切れず大将に言った。
いくら何でも、これでリル子さんが負けでもしたら洒落にならない。

「大丈夫だ、あいつを馬鹿にするんじゃねえ。
あいつはあれでも『サザンクロス』No2の実力者だからな」
大将は余裕といった様子だ。
…本当に大丈夫なのか!?

リル子さんは続けて言った。
「…まあ、何の事かよくは分かりませんけれど、
あなたが私の敵であるのだとすればすべき事はただ一つ!
…あなたを抹殺するのみですわ」
…おいおい、抹殺って…。
それも単なる冗談かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
リル子さんは続けた。

「…あ、それとあなた、私が手加減でもするんじゃないかと思ってるでしょう?
でも、それは残念。私、歳とかで人を差別しないですから。
…私、残酷ですわよ」
リル子さんはそう言うと、その手から糸の束を出した。
絹のように滑らかで艶やかで、それでいて丈夫そうな糸。
その中から、何か得体の知れない液体がしたたり落ち、光る目のようなものが見える。
恐らくあれはスタンドなのであろう。
リル子さんはその糸を集めて鞭を作り、女を警戒する。
女は女で針を伸ばせるだけ伸ばし、リル子さんに威嚇する。

だが、やがてその均衡が砕かれる。
精神的に耐え切れなくなった少女がリル子さんへと襲い掛かる。
女同士の熾烈なバトルが、スタートした。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

217ブック:2004/05/04(火) 21:47
     EVER BLUE
     第四話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その二


 一体…
 一体、何が起こったというのか。
 さっき青年の体を銃弾がすり抜けた。
 そうかと思ったら、青年の姿が消えてしまったのだ。

 そして―――
 それから一分もしないうちに、『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の下っ端達は、
 引き金を引く間も無く全員地面に倒れたのだ。

 何者だ。
 あの青年は、一体何者なんだ!?

「…二十六秒ですか。
 ふむ、まだまだ勘を完全には取り戻していないようですね。」
 と、青年が再び姿を現した。
 先程と変わらぬ、人の好さそうな微笑み。
 やや背が高めの優男。
 その姿からは、とてもこの荒くれ共を完膚無きまでに叩きのめした者と
 同一人物だとは、想像もつかない。

「あ…あの……」
 オオミミが、青年に話しかけようとする。
「しっ、静かに…」
 青年はそんなオオミミの口に指を当てた。

「おい!
 こっちの方で銃声がしたぞ!!」
「探せ!!」
 野太い罵声。
 『紅血の悪賊』の仲間達だ。
 まずいな。
 早くここから動かなくては…

「あの、急いで逃げないと…!」
 オオミミが不安そうな顔を青年に向ける。

「…大丈夫です。
 少し、じっとしてて貰えますか?」
 そう言うと、青年の周りに銀色の飛行物体が出現した。



     ・     ・     ・



「こっちだ!!」
 『紅血の悪賊』の面々が倒れている現場に、
 他の場所を探していた仲間達が駆けつけた。

「…!こりゃあ…」
 その場に転がる仲間達を見て、絶句する『紅血の悪賊』達。

「…幸い気絶してるだけのようですけど……」
 『紅血の悪賊』の一人が、仲間の呼吸や脈拍で生存を確認する。

「まだ遠くには行ってねぇ筈だ!!探せ!!!」
 一人の男が叫ぶ。
 それに合わせて、『紅血の悪賊』達はその場から走り去って行った。

218ブック:2004/05/04(火) 21:47



     ・     ・     ・



「…行ったようですね。」
 『紅血の悪賊』の奴等が倒れている場所のすぐ脇から、
 オオミミと天と青年の姿が浮かび上がってきた。
 これが、青年の力なのか?

「あの…ありがとうございます。」
 オオミミが青年にペコリと頭を下げる。
「なあに、礼には及びませんよ。」
 微笑みながらそう返す青年。

「本当にありがとうございました…」
 船の時と同様、オオミミ以外の奴に天の奴がぶりっ子ぶった。
 この、二重人格者め。

「どういたしまして、お嬢さん。
 ですが、自分を偽るのは良くありませんね。」
 その青年の言葉に、天が目を丸くする。

「お…仰っている意味がよく分かりませんわ……」
 あからさまに動揺する天。

「それがあなた本来の話し方ではないでしょう?
 隠しても分かる人には分かりますよ。」
 青年が紳士的な口調で告げる。

「…何で分かったの?
 これでも猫を被るのには自身があったんだけど。」
 観念したのか、天がオオミミと話す時の口振りに戻った。

「ふふ、私も人を騙すのが得意技でしてね。
 蛇の道は蛇、という訳です。」
 おかしそうに笑う青年。
 騙す事が得意技って、善人っぽい顔をしていながら何て得意技だ。

「さて…いつまでもここにこうしている暇はありません。
 どこか安全な場所に移動しないと。」
 思い出したように青年が言った。

「じゃ、じゃあ、僕達の船に行きましょう!
 あそこなら、安全です。」
 オオミミがそう提案する。

(オオミミ、何を言ってるんだ!?
 サカーナの親方は天を捨てて来いって言ったんだぞ!
 それなのに、逆に人数増やして帰って来るなんて駄目だろう!!)
 僕は語尾を荒げながらオオミミを叱りつける。
 それに、せっかくこの女ともおさらば出来ると思ったのに、
 これでは元の木阿弥だ。

「今そんな事を言っている状況じゃないだろう!?
 『ゼルダ』、君は人を見殺しにする様な事をして平気なのか!?」
 僕は言葉を詰まらせた。
 …そりゃあ、少しは心が痛むけど、
 でも、僕は君の事を心配して……

(…分かったよ。今回は目を瞑る。
 それに、こうなったら君は梃子でも動かないんだろう?)
 結局、最後は僕が折れる形で終わった。

「ありがとう。だから俺、『ゼルダ』の事好きだよ。」
 オオミミがはにかみの笑顔を浮かべた。

 …卑怯だよ、オオミミ。
 そんな顔でそんな事言われたら、僕は君に何も言えなくなるじゃないか。

「決まりね。
 それじゃあ、ちゃっちゃと進みましょうか。」
 天が誰も頼んでないのに仕切り出す。
 やっぱり、こいつ嫌いだ…

「あ、そうだ。」
 オオミミが青年の方に顔を向けた。
「どうしたんです?」
 聞き返す青年。

「いや、そういえば自己紹介がまだだと思って。
 俺、オオミミです。よろしくお願いします。」
 オオミミが青年に手を差し出した。

「ふふふ、珍しい位に礼儀正しい少年ですね。
 嫌いではありませんよ、そういうの。」
 青年が感心したように呟いた。
「私はタカラギコと申します。
 以後、お見知りおきを。」
 オオミミと青年が、固く握手を交わした。

219ブック:2004/05/04(火) 21:49



「オオミミ!手前嬢ちゃんを置いて来いって言ったのに、
 何で逆に一人多くなって帰って来るんだよ!!」
 案の定、天とタカラギコと名乗った青年を連れて帰って来たオオミミに、
 サカーナの親方の雷が落ちる。

「ごめん、親方。
 でも、それどころじゃないんだ!
 『紅血の悪賊』が、俺達の事を探し回ってる!」
 そのオオミミの言葉に、クルー全員の顔色が変わった。

「何ぃ!?
 そりゃ本当か!?」
 オオミミに詰め寄るサカーナの親方。

「本当だよ!
 早くここから出発した方がいい!!」
 オオミミが親方を急かした。

「成る程、通りで島が騒がしいと思った…」
 三月ウサギが納得したように呟いた。

「糞、ツイてねぇぜ。
 高島美和!
 船の修理はどうなってる!?」
 親方が高島美和さんに大声で聞く。

「一応ですが完了しています。
 いつでも出航出来ますよ。」
 冷静な声で答える高島美和さん。

「おい、こいつらはどうするんだフォルァ?」
 ニラ茶猫が天とタカラギコの見据える。

「仕方がねぇ。状況が状況だ。
 取り敢えずこの島を離れてからそういう事は考えるぞ!」
 ちょっと待ってくれ、親方。
 それじゃあ、もう暫くこの女と一緒に居なければいけないって事か!?

「よろしくお願いしますわね。オオミミ、『ゼルダ』。」
 天が、小癪な程にっこりと僕とオオミミに対して微笑む。
 オオミミは屈託の無い笑顔で返すが、僕としては憤懣やる方無い。
 悪夢だ。
 これは、悪夢だ…!

「改めてよろしく、天。」
 天に手を差し出すオオミミ。
 やめろ、オオミミ。
 こんな女と握手なんかするんじゃない!

「こちらこそ。」
 天がオオミミの手を握り返した。

 …その時の笑顔はとても透き通ったように見えて、
 不覚にも僕は一瞬だけ彼女に心を許しそうになったのだった。

220ブック:2004/05/04(火) 21:49



     ・     ・     ・



「あいつらはまだ見つからないのか!?」
 マジレスマンが乱暴に机を叩いた。
 その音に、周りの兵士がビクッ体を震わせる。

「も、申し訳ありません!!
 近隣の島に在中していた『紅血の悪賊』の一派に連絡は入れたのですが、
 まだこれといった報告は…」
 そう言いかけた兵士を、マジレスマンは殴り飛ばす。

「言い訳など聞きたくないわ!!
 早くあいつらを探し出せ!!
 でなければ、俺の進退に関わるのだぞ!!!」
 大声で怒鳴り散らすマジレスマン。

「し、失礼しましたーーーーー!!!」
 とばっちりを受けては叶わぬと、部屋にいた兵士達は我先にと部屋を飛び出して行く。
 部屋の中に、マジレスマンだけが取り残された。


「…糞。
 早く奴らを見つけ出さなければ。
 もしこの事があの御方にバレたら、どうなる事か…!」
 机の上で手を組み、マジレスマンは唇を噛む。
 彼は今更ながら、自分の軽率さを呪っていた。

「大変な事になってるみたいだね?マジレスマン。」
 その時、マジレスマンの後ろからいきなり声が掛けられた。
 マジレスマンが驚愕しつつ振り返る。

「山崎渉…!」
 マジレスマンが背後に立っていた男を見て呟いた。

「君の帰りが遅いんで、様子を見て来るように言われて来てみれば…
 全く、とんだ事をやらかしてくれたものだ。」
 山崎渉と呼ばれた男が、一歩マジレスマンに近づいた。

「ま、待ってくれ。
 すぐに俺達を襲った奴は見つける。
 だからもう少しだけ時間を…!」
 マジレスマンが顔を引きつらせながら懇願する。
 しかし、山崎渉はそんな彼の言葉など耳にも入っていない様子だった。

「悪いけど、君の言い訳を聞くという任務は与えられていない。
 大人しくあの御方の所まで来て貰うよ。」
 山崎渉がマジレスマンの目前まで迫る。

「うわあああああああああああああああああああああ!!!!!」
 マジレスマンが、豚のような悲鳴を上げた。



     TO BE CONTINUED…

221 丸耳達のビート Another One:2004/05/04(火) 23:57



   一九八四年 四月十日 午前五時零分

                〜夜明けまで、残り三十分〜


  ―――――スタンドパワーの余波で、屋上に砂煙が上がる。
風化した粒子は細かく、視界の全てを覆いつくす程に舞い上がった。
「ハァ…ハァ…ッ!」
 額に脂汗が滲む。砂煙が晴れると、灰色の固まりが風にさらわれていった。
肉片一つ残さず風化させる、『デューン』の能力。

 震える腕を握りしめ、ガチガチと歯を鳴らしながら『デューン』を消した。
「俺は…間違ってなどいない…!」

「―――ああ、間違っちゃいない。…だけど、正しくもない」
「ニローン…」        フルール・ド・ロカイユ
 ギコの背後に咲いている『 石 の 花 』。
その中に、上半身だけになった吸血鬼を抱えた二郎が立っていた。
 先程崩れ去ったのは、『石の花』で作ったダミーか。
「お前さんの雇った奴らは全員ノして来た…もう止めろ、ギコ」
「―――――『もう止めろ』だと?お前はそれがどういう事だか理解しているのか…?
 ここで俺が退けば、今までしてきた事が…何の意味もなかったと認める事になる。
 俺の信じてきた事が、只の塵になる!俺が吸血鬼を殺したのが、只の我が儘になる!
 彼女を殺してしまったのが、間違いだった事になる !! !! !!
 …だから…俺はこの道を行くより他に無いんだ!」

 再び、『デューン』が咆吼した。
              フルール・ド・ロカイユ
自分たちを守るように『 石 の 花 』を展開させるが、触れた端から風化して足止めにすらならない。
 慌てて足下に花を急成長させ、自分たちの体を跳ね上げる。

222丸耳達のビート Another One:2004/05/04(火) 23:58



(オ逃ゲ下サイ、二郎様…!相性ガ悪スギマス)
「…駄目。アイツだって、石仮面の犠牲者なんだ。
 ここで逃げたらシャマードは助けられても、アイツは救えない」
(シカシ…!)
「シャマードは助ける…ギコも救う。両方ともやるのが、俺の我が儘だ」

 とんとんとん、とステップを踏み、『種』を植え付ける。

「だから…ギコ。お前もお前の我が儘を通してみろ。
 間違ってようが何だろうが、それに命を懸けられてたなら…そいつは我が儘じゃない。」


 べきべきと、コンクリートの床を突き破って一輪の花が咲いた。


「それは―――『信念』だ」

 細く、長く、堅く、そしてしなやかに、真っ直ぐに。
二郎の身長程度まで成長した花を、べきりと手折る。
 イメージ通り、即席の槍。

「来いよ、ギコ。受け止めてやる」

 ―――馬鹿な選択だとは、わかってる。
それでも、俺は馬鹿だから…こんな方法しかとる事はできない。

「行くぞ!」

「来い!」

 確かこのビルは、来週だか再来週だかに取り壊される予定。暴れても壊しても、なんら問題はない。
上半身だけのシャマードを『石の花』で繭のように包む。

 『デューン』が跳んだ。『フルール・ド・ロカイユ』で形成した槍を風化させながら受け流し、先程植えた『種』を発芽・成長。
二十本を超える、槍より鋭いつぼみが撃ち出された。狙いは『デューン』ではなく、本体のギコ。

  リュオオオオオンッ―――

 弦楽器のような声と共に、手近な五本が茎を風化させられた。
花のつぼみが二郎の制御下から離れ、ぱきんと割れる。
更に驚異的なダッシュで本体の元へ舞い戻り、全方位からのつぼみを全て塵へと還した。

223丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:01

(…速い…!)

 この距離では、フルール・ド・ロカイユの攻撃はほぼ完封される。
『デューン』自体にも、フルール・ド・ロカイユでは傷を与えられそうにない。
 かと言って、あんなモノに接近戦を挑むのは自殺行為。
シャマードのようなパワー・スピード・再生能力があるのならまだしも、こっちは生身の人間だ。
腕一本の犠牲どころか、本体のギコにたどり着く前に軽く二ケタは殺されてしまう。


 …やはり、強い。完璧な防御・『風化』の能力・本体を絶対守る忠誠心………


  ―――いや…待てよ。


 フルール・ド・ロカイユで屋上の床を花に変え、人が通れる程度の穴を開けた。
上半身だけのシャマードに向けて、『スタンド』の声を送る。
(B・T・B…手、貸してくれ)
(…何カ策ガ アルノ デスカ?)
 シャマードの肉体から、ひょこりとB・T・Bが顔を出した。
(ああ。ちょっぴり無茶するんだけど…)
 B・T・Bの頭に、二郎が考えている『作戦』をイメージで伝える。
瞬間、B・T・Bの白塗りメイクが蒼く染まった。
            フルール・ド・ロカイユ
(スタンドパワーは、 石 の 花 に送り込んでるやつを使ってくれればいい。頼んだ)
(…正気デスカ!?ソンナ無茶苦茶ヲ!)
(YES,YES,YES…当・然・だ。ほら、さっさと行かないと夜が明けるぞ!)
 ぱんっ、と壁際に手を置き、『種』を植えた。
根を伸ばしていくのをイメージし、そこにB・T・Bを入り込ませる。
    サノバビ――――ッチ
(サッ…SonofaBiiiiitcccch !!)



 『種』は、B・T・Bも制御できるようにプログラムしてある。
『根』を伸ばし、『根』を伸ばし、根を伸ばし根を伸ばし根を伸ばし根を伸ばし『根』を伸ばす。
『花』も『茎』もいらない。『葉』も、養分を集める最低限でいい。

(いつだったか…『釣り鐘』って話してやっただろ?)

224丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:02



「二郎ー。何コレー?」
 …思い出す。二郎様との出会いから、二週間ほど経ったある日のこと。
私の主人が、アパートの片隅にあったミニチュアの釣り鐘を指さしていた。
「ああ、それ?『鐘』って言ってな。医大にいる同僚への土産。
 こっちの言葉で言えば…『ジャパニーズ・ベル』かな?」
「ベル?教会とかにぶら下がってる?」
「そ。そんな感じの」
「…シカシ、中ノ玉ガ 無イデスネ。コレデハ 鳴ラナイノ デハ?」
 鐘の内側を覗き込みながら、不思議そうに私が聞く。
「ああ、こっちのとは違って外から叩くんだ」
二郎様がガラクタの山をまさぐって、付属の木槌を取り出した。
軽く叩いてやると、ごぉぉぉぉぉん…と低く鳴る。
「どうだ」
「オォ、渋イ音色」
「大晦日には一〇八回叩いて、悪い心を追い出す風習があるんだ。確か写真が…あ、あった」
「わー、凄ーい。大きいー」
「振り袖もあるから着てみるか?下着は付けずに肌襦袢を着るのが…
 いや待て冗談冗談冗談冗談、待って、ヘイ、ストップ、チョット、ア、ダメ、イヤン」
 ―――この後お約束の如く、主人が一〇八回の 鉄 拳 制 裁 を下したのは言うまでもないが、そんなことはともかく。



(…あれを指一本で振り子みたいに揺らす事ができる、って話があってな…)

225丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:03





   一九八四年 四月十日 午前五時十五分

                〜夜明けまで、残り十五分〜


  ―――――『デューン』に追い立てられながら、廃ビル内を走る。
取り壊しが決まっただけあって、中には人っ子一人いない。

 ―――良し…最高だ。

 『フルール・ド・ロカイユ』に抱えられたシャマードが、僅かに呻いた。
「待ってろ…もう少し…」


(例えば、釣り鐘をちょっとでも指で押せば、僅かだけど『揺り返し』が起きる。
 その『揺り返し』に合わせて押せば、またちょびっと…けど、最初より大きく『揺り返し』が起きる)


  そして、廃ビル内のほぼ全てに『根』が行き渡った。


(更に『揺り返し』に合わせて押して、そのまた『揺り返し』に合わせて―――
 これを繰り返せば、指一本で釣り鐘を揺らせる。
 …お前さんにやって欲しいのは、要するにそう言うこと)


「はっ…!はっ…!」
 『デューン』にいくらスピードがあると言っても、射程は十メートル程度。
ギコより十メートル早く走れば、何とか逃げ続けられる。
 シャマードは『フルール・ド・ロカイユ』に持たせているし、二郎自身は殆ど習っていないとはいえ波紋使い。
フェイントで更に一フロア下に降りたし、多分見つかることは無いだろう。
「…よーし…だいぶ引き離」


  ざぁっ。


 寄りかかって一休みしようと思っていた壁が風化した。
「してなかったッ!」
 シャマードを抱えている『フルール・ド・ロカイユ』に掴まって急ブレーキ、回れ右して階段の方へ再び逃げる。
三段抜かしで階段を駆け下りながら、9mm拳銃をギコに向けてクイック・ドロウ。
 『デューン』に叩き落とされるのを尻目に、踊り場を回る。

226丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:05

(まだだ…B・T・B…俺が『やれ』って言うまでは絶対に使うな…!)

 更に階段を下ろうとした瞬間、咄嗟に脚を止めた。
階段を風化させながら、上のフロアから『デューン』が跳び降りてきた。
 前の階段には大穴があき、登りの階段からはギコが大口径の拳銃を構えている。
銀にアレルギーを起こす吸血鬼専用の、四十五口径純銀弾。
「…そこまでだ」
 喉元二ミリの位置に、『デューン』の手刀が突きつけられた。
ごろりと、シャマードが中に入ったフルール・ド・ロカイユの繭が転がる。
「流石だよ、ニローン。俺の『デューン』からそこまで逃げ延びた人間はお前が初めてだ」
「…ありがとよ」     ソウルイーター
「今ならまだ間に合う。『魂喰い』を引き渡せば、殺しはしない」
 ギコの問いに、二郎が大きく息を吐いた。
      デューン
「お前の『砂丘』…多分、俺が知ってる中じゃ最強のスタンドだよ。
 破壊力抜群の能力に、電光石火のスピード、主人に対しての忠誠…俺一人じゃ、とても敵わない」
脈絡のない二郎の言葉に、ギコが顔をしかめた。
 まさか、疲労で脳が動かないわけでもあるまい。
「質問に答えろ、ニローン。渡すか…渡さないか…どっちだ?」
「…けど…こっちにはB・T・Bが…シャマードがいる」

  ぐらり、と僅かに足下が揺れた。

「彼女を只の人食いとしか見てなかった…それがお前の敗因だよ」

  もう一度、揺れる。先程より大きい、どんっと突き上げるような揺れ。

「逃げる俺を追っかけて…必死こいて走り回ってたから、気付いてなかっただろ?」

  更にずずんっ、ともう一度。もはや大地震と言ってもいいような揺れになっている。

「小さく小さく…ビルが揺れ続けてるの」
「なっ…!地震!?」
「…ハズレ」

227丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:06



   一九八四年 四月十日 午前五時二十七分

                 〜夜明けまで、残り三分〜


  ―――――壁一面に張り巡らされた、フルール・ド・ロカイユの『根』。
それらを伝わって、情報がB・T・Bに流れ込んでくる。
                          フルール・ド・ロカイユ
(つまり、『根』の操作をやって欲しいんだ。『 石 の 花 』だって器用な方だけど、
 とても無数に伸ばした『根』の端っこまではその精度も保てない。…そこで、お前さんの出番。
 その精密動作で『釣り鐘揺らし』をやってもらう)

 根の始まりから先端までを、ほんの少しだけ脈動させる。
小さな小さな力の波がビルの壁面をめぐり、あちこちで反射する。
跳ね返る力に合わせて、また小さく脈動させる。
 少しずつ少しずつ、力が大きく膨れ上がっていく。


   力の波が反射する。それに合わせて脈動させる。

  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。
  反射する。脈動させる。



(いいか?B・T・B…)


 ふぅ、と溜息を一つ。
こんな無茶なスタンド利用法を思いついた人間など、過去に何人いるのだろう。


(このビル―――――ぶっ潰すぞ)

228丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:07



   一九八四年 四月十日 午前五時二十八分

                 〜夜明けまで、残り二分〜


  ―――――コップに注がれる水が溢れ出すように、蓄えきれなくなった衝撃がひときわ大きくビルを揺らした。



 踊り場の天井に、音を立ててヒビが走る。
ギコの方に、人の頭ほどもあるコンクリ塊が幾つも幾つも崩れてきた。
(まさか……ッ!)

  リュオオオォォォッ―――!

 『デューン』が一声啼く。二郎に突きつけた手刀を引っ込め、両手を広げてギコをコンクリ塊から庇った。
コンクリートは『デューン』に触れるたびに塵へと分解され、ギコに当たることはない。
無論、『デューン』のダメージになることもない。
 二郎が立ち上がる。だが、『デューン』が攻撃に移ろうとしない。

 ―――これが狙いか…!
  デューン
 『砂丘』は、宿主であるギコを守ることを何より優先する。
降り注ぐコンクリ塊と、素手の二郎。
 致命傷を与える可能性が大きいのはどちらかと聞けば、答えは明白。
しかし、『デューン』は知らなかった。二郎の父がどんな人間だったかを。

  コオオォォォォォッ
  Coooooooo―――――!


 独特の呼吸法。                              モナ ハジメ
見よう見まねの不器用なものではあったが、それは確かに彼の父・茂名 初の―――
           ムソウケン
「茂名式波紋法 "無双拳"」

 握りしめた拳が燐光を放ち、一撃でギコを昏倒させた。

「俺達の―――勝ちだ」

229丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:11






   一九八四年 四月十日 午前五時三十分

                          〜夜明け〜



  ―――――夜が、明ける。
                      フルール・ド・ロカイユ
 倒壊したビルの瓦礫から、一輪の『 石 の 花 』が咲いた。
ほどけたつぼみから、二人の人影がはい出てくる。
 これが美女だったら親指姫よろしくメルヘンな光景だが、残念ながら二人とも男。
瓦礫の一つに座り込んで、一人が煙草に火を付けた。
寝転がったままのもう一人が、起きあがろうとして失敗し、頭をぶつける。
 痛そうな音がした。
「…ニローン」
「よう…無理するなよ。まだ痺れてるだろ?」
「何故、殺さない。何が『信念を通せ』だ。この馬鹿が」
 憎々しげに言うギコに、殆ど吸っていない煙草をもみ消して二郎が向き直った。
「…ああ、気付いてなかったのか」
「何をだ?」
「シャマードが、お前さんの頭をコンクリに叩き付けただろ。アレ、おかしいと思わなかったか?
 『魂喰い』とまで呼ばれるシャマードなら、吸血鬼の爪一発で殺せるのに。なんでわざわざそんな事したと思う?」
…そう言われてみれば、そうかもしれない。
 表情の変化を見て取ったのか、二郎が誇らしげに笑った。
「あいつは…さ。あんな死線ギリギリでも、『人殺しをしない』って約束を守ったんだよ」
 その言葉にギコが目を丸くし―――次の瞬間、力が抜けたように呟いた。
「……………馬鹿…が」
「そ。アイツが馬鹿やったから…俺も命懸けでその馬鹿に付いて行くんだよ」

230丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:12

 瓦礫の隙間から、「二郎様ァ〜…」とB・T・Bの声。
ビル全体に張った根に指令を出して、フルール・ド・ロカイユの繭を掘り起こしてやる。
「シャマード?開けるぞ」
「はー…い」               フルール・ド・ロカイユ
 しゅるしゅると、繭を形成している『 石 の 花 』をほどいてやる。
「…悪いね…グロ画像みたいなカッコで」
「申シ訳アリマセン、ドウニカ 顔ダケハ 修復デキタノ デスガ…」
 言った通り、彼女の肉体は物凄い事になっていた。
下半身の殆どは風化し、腸がぷらぷらと揺れている。
かろうじて顔は再生を終えているものの、センスによってはギャップが余計に怖いかもしれない。
「大丈夫。こう見えても医学生だ」
「あ、そう言えばそうだね…ありがと」
 そのまま、二人ともしばし押し黙る。
たっぷり数十秒ほど無言で見つめ合い、二郎が後ろを向いた。
「ギコー。お前さんあっち向いてろー」
 突然話を振られて驚いたようだが、素直に二人から目をそらす。
「B・T・B。アンタも引っ込んでて」
 同様に少し間をおいて、B・T・Bがシャマードの体内に入っていった。

 更に数十秒見つめ合い、二郎が恥ずかしそうに口を開く。
「えーと…俺はなんて言うか馬鹿だから、気のきいたことの一つも言うことはできないんだけど」
「奇遇だね。私も馬鹿だよ」
 一呼吸の間をおいて、二人がくすくすと笑いあった。
笑いがおさまると、お互いの手と手を重ねた。指が絡み合い、ほどけ、互いに頬を撫ぜ合う。
言葉はいらない。

 顔に回した手をお互いに引き合い、唇と唇を、そっ…と―――――

「……馬鹿が…」

 ぽつりと漏らしたギコの呟きは、月と太陽の同居する夜明けの空へと吸い込まれていった。

231丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:14





  シャマードは知らない。
 数年後、自分が二郎と結婚して一人の息子が生まれることを。


  二郎は知らない。
 自分が医者になり、シャマードと一緒に茂名王町で診療所を営むことを。


  B・T・Bは知らない。
 自分が、彼等の息子に受け継がれることを。


  ギコは知らない。
 二人が、最後の最後まで『人を殺さない』という約束を守りきったことを。


  誰も知らない。
 十数年後、二人が一体のスタンドに殺されることを。

232丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:14
   一九八四年 十月三十日 午前五時三十分


「ッッッッッふ…んあぁ…ッ」
 ベッドの上で、マルミミが大きく伸びをする。
B・T・Bに命じて鼓動を制御、覚めない目を覚まそうとして、反応が鈍いことに気がついた。
「…どしたの?B・T・B。体調でも悪い?」
はっ、としたように、B・T・Bが我に返る。
「ア、イヤ、失礼シマシタ。チョット 昔ノ夢ヲ 見タモノデ」
「夢?」
興味深そうに問うマルミミに、B・T・Bが答えた。
「ハイ、御主人様ノ 父君ト 母君ノ 夢ヲ。懐カシイ夢デシタ」
「…そっか。幸せそうだった?」
「エエ。…トテモ」
 突然、茂名の張りのある大声が寝室に響いた。
「マルミミー!ランニング出かけるぞー!」
「シマッタ、時間ガ」
「うわっ…!おじいちゃん今行くー!」

233丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:16




  マルミミは知らない。
 この後、虐待を受けている大人びた外見の少女に出会うことを。


  茂名 初は知らない。
 数日後、息子達の仇である一体のスタンドに出会うことを。


  しぃは知らない。
 この日から、自分が大きな事件に巻き込まれることを。





「二郎様…シャマード様…貴方達ハ、イイ息子ヲ オ持チデスヨ」




  B・T・Bは知っている。
 二人の気高き心が、マルミミという少年に受け継がれていくことを。






                               『丸耳達のビート Another One』

                                                   〜FIN〜

234丸耳達のビート Another One:2004/05/05(水) 00:19









     〜あとがき〜
            ※ネタバレを含みます。注意。

 番外編『丸耳達のビート Another One』お付き合いいただきありがとうございました。
本編『丸耳達のビート』は、テーマが『受け継ぐ』となっております。
 ジジイとかショタとか801とかエロスとかも大切なテーマですが…げふんげふんげふ(ry
ともあれ、この番外編でマルミミの後ろにあるものを見てくれれば幸いです。
 …しかしこの番外編、戦闘描写にえっらい苦労しました。
シャマードのB・T・Bは本体がスタンド並みに強いせいで出番がないし、
ギコのデューンは『触れば風化』って設定のせいでがっぷり四つに組む戦闘が書けない。
 唯一使い勝手いいのは二郎のフルール・ド・ロカイユでした。使い捨てにしちゃうのが惜しいな。

 〜キャラについて〜

  二郎&シャマード・B・T・B

 単身アメリカに渡って頑張る医学生と、追っかけ回される吸血鬼です。
シャマードみたいな『〜だよ』『〜かな』といった口調のキャラは、
下手に媚びた口調より萌える気がするのは…私だけ、ではない筈。
 シャマードがフリ&ツッコミ、二郎がボケ、B・T・Bがツッコミです。
彼らの日常は書いてて楽しかったなぁ。
 二郎の戦闘スタイルはひたすらトリッキーに、
シャマードの戦闘スタイルはマルミミをもっとスピーディ&パワフルに…を心がけました。
 両親とも丸耳のモナー族と書いてしまったので(※スタンド小説スレ1ページ『丸耳達のビート』第3話参照)
固有名を名乗らせることに。モナーだかギコだか解らないキャラ名付けてしまったのはちょっと後悔。まあいっか。香水だし。
 彼らは既に結末が決定しているので、極力『明るく』を心がけました。
そのせいで、キャラ全員がトラウマ持ちの本編よりライトな雰囲気に。
ちなみに『指一本で釣り鐘を揺らして〜』には元ネタがあります。ワカルカナ?

  ギコ

 自分の恋人を殺してしまった可哀想なSPM構成員です。
『馬鹿が』が口癖なんだけど…ちゃんとわかって貰えてるんだろうか。
スタンドがエロいです。エーロティーック。
身につけてるのは革ベルトのみ、戦闘シーンは全部スッポンポン。キャー。
 なのに汁ネタの方にしか反応してくれなくて寂しかったです。
そんなにみんな汁好きなのか、単にアッピールが足りなかったのか…多分後者。
もっとエーロティーックを前面に出した方が良かったかな?
 しかし、番外キャラとはいえ単純にギコ猫を持ってくるあたりどえらく適当なキャラチョイスやってるナァ。

  それでは次回から、本編『丸耳達のビート』をお楽しみに。
                                                        ポロリモアルヨ…

235新手のスタンド使い:2004/05/05(水) 08:48
〜スタンドを使って泥棒は出来るか〜 モナ―達の場合。

モナー。
「これ位スタンドのコブシで割ってやるモナー」
ドカガシャー―ン ウーウーウーウーウーウー
「防犯ベルモナ!失敗だモナー」

ギコ
「ギコハハハ、モナーと違って俺は頭を使うぜ。見てろよ(スゥゥゥ)」
ゴルァ!!!!!! パリ―ン 「やっ「なんだー!うるせぇぞー!!」
どたどた「畜生失敗だぞゴルァ!」

モララー
「みんなバカだなぁ。こうすればいいのさ」
ドカッ「ガラスと防犯ベルを(マタ―リ)させた・・・。これでバレない」
こそこそ「ぉっ金庫発見!!またまたマタ―リさせるぜっ」
ドカッ!「よしよし・・・・・これで開けられ・・ないだとォォォ―――ッ!?」
    「そうかッ!マタ―リしたせいで番号を忘れちまったのかァァーー」

おにぎり
「ワショーイオニギリルストハリケーン!」バリバリ―ン!!グワシャー
ぴーぽーぴーぽー「タイ―ホされたよワショーイ」

リ(ry)

「なんとも無防備ないえだ」こそこそこそ
「どれどれこれが目的の金庫か」かちっかちっかちゃり「ムッ開いたか」
ごそごそ・・・・・・「・・・・・巫女装束?網タイツ?なんだこれは」

で(ry)
「悪魔世界!!」バリバリバリガシャーンガシャーン
うーうーうーうー「貴様逮捕す」メキグシャパリ―ンズギャアアア

矢の男
「興味ないよ」すたすた・・・・

結果発表・・・・・成功者。リ(ry)さんのみ

236アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:13
合言葉はWe'll kill them!第九話―初めての吸血鬼戦

「……この町に今何人のスタンド使いがいるか知っているかい?」
「さあな……アンタと俺と、俺が『矢』で生み出した奴ら以外は知らない。」

BARのカウンター席で、二人の男が並んで座っている。
『矢の男』蜥蜴の答えに対し、もう一人の男は含みのある表情をしてみせた。

彼は情報屋だった。蜥蜴が世話になっている情報屋は、この町にたくさんいる。
しかし、スタンド使いでもある情報屋は彼ひとりだ。
彼はスタンドを知り、見ることができ、その情報を集めてくることが出来る。
だから蜥蜴はこうして定期的に彼と会う。
無論、自分の追っている仇の情報を得るためだ。

「そういえばお前に協力する奴がいたっていっていたよな?」
「ああ、本名は忘れたが・・・アヒャって言うニックネームで呼ばれている奴だ。
 血液を自由自在に操るという変わった能力を発動していた。
 彼の仲間にもスタンド使いは居たが、念写系の能力者が居なかったのが少々残念だった。」

蜥蜴はポケットから一つのボタンを取り出した。
「お前が持っている仇の手掛かりってのがそれ一つだけだからなぁ。」
「犯人の服から引き千切ってやったって死に際まで俺の兄貴が持っていた物だ。」
「お前の連れの女の子は念写能力を持っていないのか?」
「ああ、だが林檎のスタンドは単純に人を殺す能力としてはこの上ない性質のスタンドだ。
 しかも敵味方の区別も無いんだぜ。下手をすれば本体自身も危ない厄介な能力さ。」

情報屋の男は自分の手元にある酒を飲み干すと蜥蜴に折りたたんだ新聞を手渡した。
「コレを見てみな。」
新聞の一面には「作業員13名失踪」と大きく書かれていた。
事件の内容は、海宮町で老朽化した建築物を解体中の作業員13名が一度に失踪したという事だ。

「最近殺人による死者や行方不明者が増えてると思わないか?しかも吸血鬼の仕業だという首筋に牙の跡、
 そして血を吸い取られた死体がこの町で毎日のように見つかっている・・・・・。」
「……」
「何かの前触れかもなコレは・・・・ま、つまんねー噂さ。」

     ・     ・     ・

「しまったァ!今日ジャンプの発売日じゃねーか。」

夜7時、コンビニから家へと向かうアヒャがすっとんきょうな声を上げた。
無免許なのに原チャリで爆走している。

「今週は土曜日発売なの忘れていた。引き返すか。」
「もういいっしょ。必要な物は買ったんだから。」
アヒャに背負われているブラッドがから揚げを頬張りながら答えた。
「ま、明日買えばいい事だな。」

その時進行方向に見覚えのある顔を発見した。
「お、蜥蜴の旦那じゃねーか。」
アヒャは原チャを止めると蜥蜴に声をかけた。

「なにしてるんっすか〜?旦那。」
「ん、ああ君か。」
蜥蜴は手に懐中電灯を持ってうろついていた。
「ちょっと近所を見回りしていてね。」
「見回り?」
「ここんとこ殺人事件やら行方不明者が多いだろ。だから自主的に見回りをしているのさ。」
「そーっすか。頑張って下さいねー。」
アヒャは会釈するとバイクを走らせた。

237アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:14
「静かだねェ。」
夜道を走りながらブラッドが呟いた。

「さっき旦那が殺人事件が多いって言っていたろ。そのせいさ。」
「物騒な世の中だね〜、・・・・っておい!前!」
ブラッドが慌てて前方を指差した。
見ると一人の女が道路にうつ伏せに倒れている。

ドガキャキャキャキャキィ〜〜〜〜〜〜!!!

豪快なスリップ音を轟かせ、原チャリは急停車した。
「おいおい何でこんな所に女が倒れているんだ?もしかしてリナーか?」
「んなわけねーだろ!」

ブラッドに突っ込まれながら倒れている女に近づく。
少しばかり出血している。
「・・・・・こりゃあもう死んでいるな。脈が無いぜ。」
「アーメン」
手で十字を切るブラッド。

「それにこの首の傷見てみろよ。」
「何だこれ?針で刺したような傷跡は?」
「この前旦那が言っていただろ。吸血鬼に襲われた奴はこんな傷跡が付くって。」
「ああ〜なるほど吸血鬼・・・・・ってちょっと待てー!!!」
「何だよ。」
「この死体まだ暖かいし、死後硬直から見たところ死んでからそんなに時間がたってねーぞ。と、言う事は・・・・。」
「まだこの近くに居る可能性が高いと?」
「大当たり!」
「大当たり?そいつはグレートだぜッ!景品もらえっかよぉ〜。」
「ふざけてねーで早く逃げるぞ!もし襲われたら・・・・」

「誰がこの俺様から逃げるだって?」

不意に誰かの声が割り込んできた。
声のするほうを見ると塀の上に、一人の男が立っていた。
残念ながら旦那の言っていた十字の傷の男ではなかったが。

「あっちゃ〜遅かったか。あいつが犯人らしーぜ。」
「『遅かったか』じゃねー!!どーすんだよ!血ィカラカラになるまで吸い取られるぞ!!」
しかも男のほかに最低四人はいる。

(どうしよ〜。俺吸血鬼と闘うの初めてなんだよな。確か旦那から教えてもらったのは・・・・
「吸血鬼は太陽の光に弱い」
「吸血鬼は波紋の力に弱い」
「吸血鬼を倒すには頭を攻撃するしかない」
「吸血鬼に血を吸われた人間は、同じように吸血鬼になってしまう」
「吸血鬼には再生能力があり、まだ普通の人間に比べて数倍の能力を持っている」
 こんだけだ。
 しかしあの吸血鬼のほかの四人・・・・吸血鬼は普通の人間と外見は変わらないって言っていたけど、
 この、腐ったような臭い!?…つーか、こいつら人間じゃねぇ!
 よ…よく見ると、顔も一部一部ドロドロに溶けて…グエッ…気持ちわりいぜ・・・
 とりあえず、はやくこいつらを倒さねぇと被害が拡大するって事は確かだな。)

238アヒャ作者:2004/05/05(水) 15:17
「見ちまったもんはしかたねぇ・・・・オメーの血を吸ってやるぜッ!いけぇ屍生人ども!」
男が叫ぶと同時に控えていた屍生人二匹が襲い掛かってきた。

「お、おい!い、いきなり飛び掛るなって!しかたねえ、戦闘態勢をとれブラッド。」
「ったく・・・・・やるよ、やりますよ。」

生ぬるいことでは、こっちの身がヤバイ、殺される。

とりあえず様子見でB・R弾を一匹の右腕に五、六発ぶち込んだ。
破れた皮膚の傷口から、液体が体内に侵入する。

血液の弾丸は相手の体内の血液を取り込み一気に膨張!

グボオオオオオォォォ!
腕がみるみる膨れ上がる。

ドッバアアアアアァァー!
「ギャアアアアアー!」
右腕が破裂した瞬間、屍生人は悲鳴を上げてうずくまった。

そしてすぐにブラッドが蛇のような形を成しうねったかと思うと、猛スピードでもう一匹に飛び掛る。
屍生人の上半身が引き千切れてブッ飛んだ。だが、そこへ追撃!
両腕を処刑鎌に変形させて、左右から振り下ろし残る部分を切り裂く。容赦はしない!

ズゥッバアァァァーッ!

もう一匹は一瞬にして赤い血の噴水と化した。

(これで、残りは…っておい!あの二匹まだ生きているぜ。やっぱこの程度じゃ、死なねぇかよ…)

「な、何だいまのは!?」
リーダー格の吸血鬼が叫ぶ。

(どうやらスタンドの事を知らないらしく、この「吸血鬼」どもが「スタンド使い」っていう、
 最悪の状況は免れているみたいだ。)

「クソッ!こうなったら全員でかかるぞ!」
吸血鬼どもが、オレに集中攻撃の構えを見せる。

(1対5の状況、ここからどうしようか…目覚ましテレビの星座占いじゃ俺の運勢最高のはずなのに・・・
 もう二度と見ねーからなチクショー!!いやでもお天気お姉さんかわいんだよな・・・・)
ピンチの時でもこんな事を考えているアヒャであった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

239丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:33


  ぴんぽーん。


「ただいまデチー」
 かちりとドアノブが回り、血まみれヤケドまみれのマルミミを担いだ三人が入ってきた。
「なっ…!?」
「ああ、しぃ。ただいまー」
「あ、おかえりー…じゃなくてどうしたのその大怪我っ!」
 のどかに返事をしかけるが、我に返って問いつめる。
「えーと…ちょっと転んだの」
「ああ、転んだんじゃよ」
「うん、転んだんデチ」
「そう、転んだのですよ」
「…ってどこで転べばそんな血まみれの大ヤケドにはにゃぁん」
 ムチャクチャな説明にツッコミを入れようとした瞬間、胸に感じた数発の衝撃。
一瞬のうちに意識が薄れ、色っぽい声を上げて倒れ込む。
 慌ててしぃを支えるジエンの隣で、いつの間にか具現化したB・T・Bがポーズを決めていた。
     B・T・C
「必殺・静寂ノビートッ」
「よーし、よくやった…」
「光栄ノ至リ デゴザイマス、御主人様」
 マルミミの賞賛に、B・T・Bがうやうやしく頭を下げた。
「よし、手当するぞ」
「はーい…」


「うっわー…大ケガみたい」
 数分後、包帯でぐるぐる巻きになった自分の体を見て、マルミミがポツリと感想を漏らした。
「バカモン。骨折七箇所、裂傷十六箇所、両腕と両足の腱もブチブチ、
 打撲・擦過傷に至っては数知れず。更に、全身スタンドによる炎症。
 おまけに疲労困憊もついて、これ以上なく立派な大ケガじゃ。無茶ばかりしおって」
「あははー。あの状況で無茶しなきゃいつ無茶するの」
 額を抑える茂名に、笑うマルミミ。二人に呆れながらも、『チーフ』が言葉を挟んだ。
「まったく…まあいいデチ。ボク達はあっちで色々と話し合うから、ゆっくり休んでるデチ」
「はーい…あ、B・T・B連れてって。おじいちゃんの鼓動借りるよ」
 ひゅるりとピエロのヴィジョンがマルミミから抜け出し、茂名の側に寄り添った。
茂名の鼓動から無意識に流れ出る生命エネルギーをスタンドパワーに変換、そのままヴィジョンを維持。
「便利デチねー、燃費がイイのは」
 冗談めかす『チーフ』をよそに、ジエンが一枚の写真を置いた。
中には、沢山のビニールパックが写されている。
「とりあえず、医療用のパック血液です。傷が酷いようなら飲んでください」
「ありがとー…」
「ソレデハ、私ドモハ アチラデ 話シ合イヲ サセテ 頂クノデ」

240丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:34



「…で、マルミミ君の完治にはどの位かかる予定ですか?」
 リビングのテーブルにそれぞれ腰掛け、三人と一体が顔をつきあわせていた。
「骨折や裂傷、腱の断裂は一晩二晩で完治できるのぉ。問題は全身の炎症じゃ。
 <インコグニート>の前に戦ったスタンド使いにやられたそうなんじゃが、吸血鬼の肉体でも火傷は治りにくいんじゃよ」
「戦う前…って連戦であのバケモノ相手にしたんデチか?ボクならさっさとトンズラしてるデチよ……で、そのスタンド使いは?」
 一瞬だけ口をつぐみ、観念したように口を開く。
「…おぬしに隠し事は通じんしの…二人とも殺してしもうたよ」
                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そうデチか…イヤ、別に構わないデチよ。正当防衛だったし、警告もしたんデチ?」
 なんでわかるのか、とは聞かない。
軽く首肯し、先を続ける。
「ま、そうじゃな。…話を変えるが、『矢の男』が自立型のスタンドで、『負の思念』を集めて進化した…ここまでは話したな?
 『矢の男』…いや、今は『インコグニート』か。…奴の正体…判明した」





  ―――――私が、八歳の頃だったか。
 貧乏だった家は、私を商館に売った。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 私を売らなかったら、一家が揃って路頭に迷ってた。
 そのまま虐殺されてカラスに啄まれる事も、珍しくはない。


  商館に売られたその後…その頃から私は背も高くて、大人びた顔をしてた。
 だから『商品価値』もあったんだろう。
 商館を経営してた男の人は、まだ八歳の私を客に抱かせた。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 経営の人には、お嫁さんも子供もいると聞いた。
 何べんも、すまない、すまない、って謝ってた。


  何週間か経った後、私は顔立ちも整ってたから『人気商品』になっていた。
 いつだったか、一晩中何人もの男をくわえさせられた事もあった。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 彼等はお金を払って私を抱いた、ただそれだけ。
 一緒に働いてた女の人たちは優しかったし、勉強も人並みに教えてもらってた。


  何年か経った後、私はもうそんな暮らしに慣れきっていた。
 目隠しをされて縛られながら犯されるのも、いつもの事になってきた。
 …別に恨んでる訳じゃない。
 外出だって許されてたし、あったかいお風呂とご飯、柔らかいベッドも与えられてた。
 生活だけなら、スラムよりはずっとマシだった。



                   ―――――そう、別に、私は、誰も、恨んで、ない…



 目が覚めた。
「…………ッぅ…わ…夢…?」
 どくどくと心臓が脈打ち、じっとりと汗をかいている。
口の中がカラカラに乾いている。
 側に置かれた冷蔵庫からスポーツドリンクを一本貰い、キャップを開けた。
口をつける。一口で半分くらいを飲み干して、サイドテーブルに置く。
息継ぎを一つ。
…汗で濡れた浴衣が熱を奪い、寒気がした。
むくりとベッドから立ち上がり、シャワールームに向かう。
 体を洗いたかった。
―――穢れたのが綺麗になるわけではないと、わかっていても。

241丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:35


  ちるるるるっ。


 長い牙でパックに穴を開け、すする。
「…あ、当たり」
 二十代前半の男性、脂っこい物を控えた食生活。適度な運動・睡眠をとり、酒もタバコもやってない。
「美味しー♪」
 けぷっ、と小さく喉を鳴らし、次のパックに穴を開け、すする。
「………ぶふぅっ!」
 四〇代の脂ぎった中年男性、酒にタバコにユンケル漬け、更にパソコンの電磁波に犯されてストレスまみれのドロドロ血。
挙句の果てに採血前にレバニラを食べてる。ハズレもハズレ、最低の血。
 それ以上は怖くて分析する気も起きないので、飲みかけのパックをテーブルに戻した。
 マッヅ
「不ッ味…気分悪…ッ。寝よ」

 くい、と口元を拭い、ぽふりとベッドに倒れ込む。
人心地がついたせいか、戦闘中は大して痛いとも思わなかった傷が熱を持って疼く。
「う゛ぅん…」
 それでも、肉体を限界まで酷使するB・T・Hの反動で、疲労回復の眠気が襲ってきた。
小石が泥の中に沈むように、ウトウトと眠りに落ちていく。




「『矢の男』の…正体?ホントデチか?教えて欲しいデチ」
「うむ…まず、奴と戦ってわかった事なんじゃが、あの瞬間移動じみた動き、見たじゃろ?
 アレは『ロリガン』のような空間制御やB・T・Bのような超スピードではない」
茂名の言葉に、B・T・Bが頷いた。
「茂名様ノ 波紋糸ヲ 断チ切ッタ時、何カ所モ切ラレテ イルノニ 切断ノ タイムラグガ アリマセン デシタ。私ノ眼ト能力デス。狂イハ アリマセン」
 自信に満ちた声で、B・T・Bが断言する。
「更に、奴が話した『世界の帝王になる』と言う目的…どんなスタンドを持っていようと、
 そんなトチ狂った事をしようと考えた奴は後にも先にもたった一人―――」
言葉の最後を、『チーフ』が受け継いだ。
「今は亡き最強のスタンド使い、ディオ・モランドー…デチ?」
 その言葉に、茂名が重く頷いた。
                   The・2ch
「そうじゃ。時空制御型スタンド『 世 界 』…それが、奴の正体じゃ」
 その言葉に、ジエンが青ざめた顔で問いかけた。
「…お待ち下さい…それでは、奴に勝つ方法は?」
「ハッキリ言って想像もつかん。『矢の男』の時は本体が存在しない分、大幅にスペックが落ちとったんじゃが…
 <インコグニート>に進化したせいで、近距離パワー型レベルまでパワーもスピードも上がっておる。
 おまけにあの『思念の具現化』が厄介じゃ。ほぼ無尽蔵に武器を生み出されるしのぉ。
 結論として、『死』が…『残留思念』が存在するこの世界にいる限り、まともにぶつかっても不利は明白…」

「…空間作成型スタンドは?『残留思念』の無い…『この世』から切り離された空間なら、『思念の具現化』は封じられます。
 そこを多人数で攻めてやれば、苦労はするでしょうが何とか…」
すがるようなジエンの言葉に、『チーフ』が小さく首を振った。
「問題が三つあるデチ。まず、人殺しをやったことのない空間作成型スタンド使いはSPMにいないデチ。
 次に、奴がノコノコ空間にはまってくれるかどうか。仮にハメる事ができたとしても、
 <インコグニート>の体内にも多数の思念が渦巻いてるデチ」
「…反則ではありませんか」
「ともかく、戦闘型スタンドを集められるだけ集めておいた方がいいじゃろ」
 茂名の言葉は要するに、『破る手立ては考えつかない』と言っているに等しい。
―――いや、それでも勝てるかどうか。それでも、『チーフ』は頷いた。
「了ー解デチ。SPMに申請しとくデチ。…じゃ、提供できる情報はそれで全部デチね?」
「うむ」
 茂名が頷く。『チーフ』が一枚のカードを取り出して、茂名の方へ放った。
「じゃ、A級情報の提供報酬デチ。ドルで五千…で、この後<インコグニート>に対しての戦闘に参加すれば、
 更に高額の報酬と、武器を用意するデチ。どうするデチか?」
「無論その時は、腕がちぎれようが首がもげようが一切文句は言えません。報酬も後払いです」
 事務的に告げる二人を前に、茂名が笑みを浮かべた。
普段は好々爺と評判の柔和な顔が、肉食獣のように獰猛に。
「…聞くまでもないじゃろ?奴らは儂の息子の仇で…マルミミの両親の仇じゃ」
「ご協力、感謝します」
深々と、ジエンが頭を下げた。

242丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:37


 浴衣の帯を解いて、下着も脱ぎ捨てる。
バスルームの戸を開けて、乱暴に蛇口を捻った。

  さぁああああああっ。

 冷たい水が出てくるが、構わずにかぶった。
だんだんと水が暖まると、指先で腕をこする。
腕だけではない。脚も、胸も、腹も、頭も、乱暴に爪を立てて擦りたてる。
 いや、それは既に『こする』と言うよりも『掻きむしる』と言った方が正しいかもしれない。
白い肌に、うっすらと紅い痣が刻まれる。
 それでも、掻きむしるのを止めることはない。


  さぁあああああああっ―――――


 水音だけが響く。体を掻きむしる。

   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。
   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。
   響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる。響く。掻きむしる―――――

 ―――――胸に鋭い痛みが刺して、ようやく我に返った。
爪が立てられて皮がめくれ、血が滲んでいる。

(あ…れ?何…やってたんだっけ…)

 鏡を見ると、体中に紅い線が走っている。
自分でつけた、紅い傷。
(ちょっ…やだな、何してるんだろ)
 きゅ、と蛇口を捻る。

  さぁあっ。

 流れ出していた水が止まり、静寂が支配した。
「早く…出よ」
 シャワールームから出て、バスタオルで体を拭く。
柔らかい布が傷に触れるたび、ちりり、と小さく痛んだ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

243丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:38

               │本・編・再〜開〜ッ!
               └y┬────────────―――――
               │お久しぶりです。マルミミのショタ口調や、
               │儂のジジィ口調書くのが懐かしかったそうです。
               └──────y――──────―――――



               ∩_∩    ∩_∩
              ( ´∀`) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ  
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚ー゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
           _______Λ_____________

               次回はいよいよお待ちかね…

244丸耳達のビート:2004/05/05(水) 17:39

    ∧_∧ ∧  
   (::::::::::::::)│
   (::::::::::::::つ|
   |::|::::| │
   (__)_)川

『矢の男』

茂名王町に出没し、『スタンド使い』を増やしていた。
     The・2ch
正体は『 世 界 』。本体ディオ・モランドーの死語、
彼の目的を受け継ぐ為にスタンド使いを増やしていた。
そのうち自らを帝王にするため、人間に憑依して虐殺をさせるようになった。
『丸耳達のビート』では弓持ってません。別人です。

破壊力−B スピード−B   射程距離 −E
持続力−A 精密動作性−C 成長性 −E


  ∧_∧
 (    )
 (    )
 | | |
 (__)_)


<インコグニート>

元『矢の男』。世界の帝王となるため、
何人もの人間に憑依し、虐殺によって茂名王町に思念を集めていた。
『矢』を使い、茂名王町に集めた思念を一気に具現化、
自分の体をベースにした一つの生命体へ進化させた。
B・T・Bに鼓動を乱された影響で、現在はフルパワーが出せず潜伏中。
…なお、このヴィジョンはイメージ化された『名無し』であり、手抜きではありません。決して。


破壊力−A スピード−A   射程距離 −A
持続力−A 精密動作性−A 成長性 −A

245新手のスタンド使い:2004/05/05(水) 18:25
調子こいて続き〜スタンドでビルは潰せるか!?〜 いろんな人のバヤイ
モナー
「モナモナモナモナモナモナ・・・・・」どどどどどど・・・・・・
・・・・・どべっ「もうだめぽ・・・・・・・。」
ギコ
「ようし、行くぜッ!!」すーーーーー
ゴルァァーー!!パリ―ン
「ガラスだけかよ・・・・・」
モララー
「ふっ。ビルを「マタ―リ」させるッッ!!」
またーり「・・・・・・新品ですた。」
オニギリ
「WOHHHHH−−−−」ボココココココ
ぴしっ「・・・・・・。ダメ?」
リ(ry)
がちゃっズドドドドドドドキュンキュンドカーンドカーン
ズズズズーン
丸(ry
「URYYYYYYYYYYY」ズーン!!ドカドカドカドカ
・・・・・・・・しーん
で(ry
「悪魔世界!!」ドッカー―――――――――ン
モ(ry
「楽園の外!!」ズバっ
・・・・・「でかいよ」
二(ry
「石の花!」ズズーン
二打―
「ビルを無かった事にするぅっ!!!」ずばーなん
ヒナち(ry
「銘菓ヒナ饅頭いるかい?」
矢の男
「神銅像乗移!!」かきかき・・・・・
パッ

結果・・・・成功者:リ(ry)で(ry)二打ー 二(ry)矢の男 ヒナちゃん(?)

246ブック:2004/05/05(水) 19:55
     EVER BLUE
     第五話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その一


「うわ〜、本当に船が空を飛んでますよ!
 何度見ても信じられませんねぇ。」
 デッキ上の手すりで外の景色を眺めながら、タカラギコが感嘆する。
「…?別にそんなの珍しくもないでしょう?」
 オオミミが不思議そうにタカラギコに尋ねた。
 変だな、この人。
 船が雲の海を飛んでる位、日常茶飯事の事なのに。
 ここまで驚く程のことでもないだろう。

「あ…いえ、実は田舎の出でしてね。
 失礼、忘れて下さい。」
 慌てた様にタカラギコが会話を切る。
 田舎って…
 どんな辺境に住んでれば飛空挺を見ずに暮らせるんだ。

「…しかし、本当に素晴らしい。
 私の同僚にも見せてあげたいものですね。」
 タカラギコが寂しそうな目で呟いた。
 僕はそんなタカラギコの目を見て驚いてしまう。
 この人、いつもニコニコしているばかりかと思ったら、
 こんなに哀しそうな目もするんだ。

「そういえば、タカラギコさんってどんなお仕事してるんですか?」
 オオミミがタカラギコの方を見て言った。

「私、ですか?
 そうですね…『元』正義の味方ですね。」
 タカラギコが苦笑する。

「正義の味方って…『聖十字騎士団』ですか?」
 オオミミがそう聞き返した。
 成る程、『聖十字騎士団』ならば、先程のあの体術の切れ味の鋭さも頷ける。

「いえ、違います。
 それに、さっき言った通り『元』正義の味方です。
 今はもう関係ありませんよ。」
 タカラギコが再びうっすらと寂しそうな目を見せた。
 が、すぐに元の笑顔に戻る。

 …不思議な人だ。
 まるで、どこか別の国から来た異邦人と話しているみたいに、
 そんなどこか噛み合わない感じ。
 それでいて、昔から知り合いだったかのような…

「じゃあ、一体どこに勤めて…」
 オオミミが質問を続けようとする。

(駄目だよ、オオミミ)
 僕はそんなオオミミに注意した。

「『ゼルダ』…?」
 オオミミが僕に言葉を返す。

(それ以上は、多分聞いちゃ駄目だ。
 初対面の人に、あんまり踏み込んだ質問をするものじゃない。)
 本当は僕もタカラギコには興味があるのだが、
 流石にこれ以上プライバシーに触れる質問をするのはまずい。
 それにさっきまでの様子から察するに、
 仕事の話は多分この人にとって地雷だ。

「ご、ごめんなさい!
 タカラギコさん、俺…」
 オオミミがタカラギコに平謝りする。
 しかし君は、いつでも誰にでも謝っているな。

「いいんですよ。
 私も、お喋りが過ぎました。」
 タカラギコがそっと目を閉じる。

247ブック:2004/05/05(水) 19:55


「…そういえばオオミミ君。君は自分の中に居るスタンドと話せるんですね?
 差し支えなければ、彼の姿を見せてはくれませんか?」
 タカラギコがオオミミに言った。

「あ、はい。勿論。
 『ゼルダ』もいいよね?」
 僕も断る理由は無い。
 意識をオオミミから出し、実体化する。

「『ゼルダ』です。どうぞよろしく。」
 礼儀正しく一礼。
 僕の無礼はオオミミの無礼に繋がる。
 粗相は出来ない。

「いや、こちらこそよろしく。」
 お辞儀を返すタカラギコ。

「…いやしかし、この雰囲気はまさしく……
 やはり、私同様『アレ』もこちらに……」
 と、タカラギコがなにやらブツブツ言い始めた。
 何だ?『アレ』って、『こちら』って。

「タカラギコさん、どうしたんです?」
 オオミミがタカラギコに尋ねた。

「…!いや、何でもありませんよ。
 少しぼーっとしてしまいました。」
 はっと我に返った様子で、タカラギコが返答する。
 やっぱりこの人、どこか変だ。
 もしかして世に言う不思議ちゃんってやつか?

「ちょっとオオミミ〜!
 今日はあなたが食事当番でしょ〜!
 手伝いなさ〜い!!」
 と、下の階からカウガールの声が聞こえてきた。
 そうか、もう晩御飯の準備の時間か。

「は〜〜い!!」
 大声で返事をするオオミミ。

「タカラギコさん、ごめんなさい。
 俺、晩御飯作りにいかないと。」
 オオミミがタカラギコにそう告げて厨房に向かおうとする。

「あ。待って下さい、オオミミ君。」
 タカラギコがオオミミを引き止めた。
「…?」
 オオミミがそれを受けて振り返る。

「私も手伝いましょう。
 勝手に船に乗り込んで何もしないのも失礼ですしね。」
 タカラギコが微笑みながら口を開く。

「え?でも、悪いですよ。」
 オオミミがその申し出を丁重に断ろうとした。

「何、構いませんよ。
 まあ任せてみて下さい。
 これでも、家事全般には心得がありましてね。」
 タカラギコがやる気充分といった感じに、服の袖を捲り上げた。

248ブック:2004/05/05(水) 19:56



     ・     ・     ・



 夜も更けた頃、一つの人影がtanasinn島の外れにある裏びれた酒場に入る。
 体中を黒く大きなコートに身を包み、更にフードを目深く被っている。
 そして目にはサングラス。
 あからさまに異様な出で立ちである。
 しかし何より、その背中に担いだ大きな荷物こそ
 その場に居る者達全員の視線を独占していた。
 人の身の丈程もある、包帯とベルトでぐるぐる巻きにされた巨大な「何か」。
 それがおよそ日常とは全く縁の無いものである事は、
 赤子の目から見ても明らかであった。

「……」
 その者は巨大な荷物を床に置くと、店の奥の方の席に座った。
 そしてフードを脱いでサングラスを外した。
 光るような金色の髪の毛に、透き通るような白い肌。
 それらに血の様に紅いルージュの唇が一段と映える。
 何より思わず勃起してしまう程に整った顔立ち。
 店に居た男の客の何人かが、下品に指笛を鳴らしてからかった。

「…赤ワイン。それとAコースのセットを。」
 メニューにざっと目を通した後、女はマスターに食事を注文をした。
 程無くして、女の前に料理が運ばれてくる。

「……」
 店中から浴びせられる下卑た視線と野次など我関せずといった様子で、
 女は黙々と料理を口に運ぶ。
 二十分程で、女はペロリと料理を平らげた。

「マスター、水を。」
 食事を終えた女は、マスターにそう告げた。
 マスターと呼ばれた男がしけた顔で水を運んで来る。

「……」
 女は懐から赤い錠剤のような物を取り出すと、
 それを二粒水の中に落とした。
 錠剤が瞬く間に溶け出し、水を血のような紅色に変える。
 女は、それを一気に飲み干した。

「姉ぇちゃん、何だそりゃ。新手の薬か?」
 と、いかにも三流のゴロツキといった風貌の男が女の横に立った。

「……」
 答えない女。

「おいおいシカトかよ。
 せっかく俺がもっといい薬を紹介してやろうってのに。」
 男がわざとらしく大きな素振りで女に話しかける。

「…失せろ、下郎。」
 短く、女が告げた。

「…!ああ〜!?
 この尼、下手に出りゃあつけ上がりやがって!!」
 男が女に掴みかかった。
 その場の誰もが、その後の惨劇を予想して体を硬直させる。


「!!!!!!」
 想像通り、惨劇は起こった。
 しかし唯一つ全員の考えと違っていたのは、
 床に這いつくばっているのは女ではなく男の方だという事だった。

「…生きているうちに教えろ。
 『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の連中に、最近何か動きは無かったか?」
 冷徹な声で女が倒れた男に詰問する。

「へっ…只で答えるとでも……ぐわあ!!」
 女の踵が男の顔を踏みつけた。
 男の顔がどんどん醜く歪んでいく。

「…まだ生きているのじゃろう?
 それとも、今ここで人生を終わらせるか?」
 女が男を踏みしめる足に力を込めた。

「い…言う言う言う言います〜〜〜!!
 今日この島で、『紅血の悪賊』の連中が誰かを探していたんです!!
 だから、殺さないで〜〜〜!!」
 男が情けない声で叫んだ。
 女は男の頭から足を離すと、今度は襟首を掴んで男の顔を眼前に引き寄せる。
「…詳しく聞かせるのじゃ。」

249ブック:2004/05/05(水) 19:57



     ・     ・     ・



 本日五件目のバーを出て、夜の町を当て所無く散策する。
 結局この島での聞き込みの結果判明したのが、
 『紅血の悪賊』の空賊船の一つが、つい先日何者かに襲撃された事。
 そしてその襲撃した奴らを、血眼になって探し回っている事であった。
 日中に聞き込みを行えば、もう少し情報も手に入るのかもしれないが、
 自身の体質がそれを許さない。
 まあいい。
 取り敢えず今後の目標を定める位には情報が集まった。
 今現在私がすべき事は、『紅血の悪賊』を襲撃した奴らに接触する事だ。

「……」
 もう夜明けも近い。
 そろそろ宿に引き上げる頃合なのだが…

「…出て来い。居るのであろう…?」
 脇道の暗がりに視線を移す。
 そこから、板前の格好をした男が姿を現した。

「こんばんは、美しい方。
 じゅんさいはいかかです?」
 一品料理を差し出す男。
 ふざけた態度とは裏腹に、こいつがかなりの使い手である事が
 そこから漂う威圧感から感じ取れる。

「無駄口を叩くな。
 儂に何用じゃ。用件だけを話せ。」
 男との距離を充分に保ちながら、質問を投げかける。

「これは失礼。
 私は岡星精一。聖十字騎士団の者です。
 ここまで言えば、後はお分かりですね?
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』。」
 不敵な笑みを浮かべながら男が喋る。
 矢張り、聖十字騎士団の手合いか。

「…失せろ『人間』。
 そちらから手出しせねば、儂もそちらに手は出さん。」
 男の目を見据えながらそう告げる。
 しかし、恐らく無駄だ。
 奴は、いいや、『奴ら』は、脅しの通用するような相手では無い。

「肌を晒すのを極端に嫌うような黒尽くめ。
 そして何よりその背中の大きな得物。
 はっきり言ってその情報を耳にした時には耳を疑いましたよ。
 『常夜の王国』の懐刀たる貴女が、
 まさかこんな辺鄙な島に居るなんて。」
 男の背後に人型のスタンドのビジョンが浮かび上がる。

 …しかし、もう居所がバレていたとは。
 流石『聖十字騎士団』、手が早い。

250ブック:2004/05/05(水) 19:57

「…正気かや?お主。
 いくら聖十字騎士団とは言え、夜に『吸血鬼』と一人で相対するとは。
 それとも儂を見くびっておるのかのう?」
 男を睨みながら背中の得物に腕を伸ばす。
 『ガンハルバード』。
 我の振るう、鋼の牙。

「いやいや、貴女を見くびってなどおりませんよ。
 三下を何人連れてきた所で、被害が増大するばかり。
 それに情報の指す人物が本当に貴女なのかも、
 正直こうして面と向かって見るまで半信半疑でしたからね。
 それにもうすぐ夜も明ける。
 そうなれば貴女にとっては圧倒的に不利。
 本当は夜が明けるまで待ちたいのですが、
 ここで貴女を見失うのもまずい。
 そんなこんなの理由があって故の一対一です。
 どうか気分を害されずに。」
 慇懃無礼な態度を取る男。
 間合いが、少しずつ詰まっていく。

「…そういう訳で、そろそろ始めましょうか。
 この身を正義の刃と変えて、貴女を討ち滅ぼさせてもらいます。」
 その言葉が、私の激情を刺激した。

「…『正義』…?
 『正義』じゃと…!?」
 必死で溢れそうな怒りを抑える。
 こいつらが、こいつらが自分を『正義』だと!?
 心の底から笑えない冗談だ。

「そうです。
 あなた達吸血鬼は紛れも無い『悪』。
 ならばそれを打ち倒す我々こそが『正義』。
 最期の時を迎える前にじゅんさいでもどうですか?」
 男が自身に満ちた声で答える。
 変わっていない。
 こいつらは、何も変わってなどいない…!

「…いいじゃろう。
 ならば儂は絶対の『悪』となりて、
 貴様ら『正義』とやらを漆黒の煉獄に叩き堕として焼き尽くしてくれる…!」
 包帯とベルトを剥ぎ取り、『ガンハルバード』の姿を顕にする。
 ハルバードのグリップ部分にマシンガンが取り付けられた無骨な凶器が、
 男に向かって牙を剥いた。
「来い、『人間』。
 『人間』、来い。
 殺劇の顎は、今この時より開かれた。」



     TO BE CONTINUED…

251ブック:2004/05/06(木) 16:09
     EVER BLUE
     第六話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その二


「IIIEEEEEYYYYYYAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
 大きく踏み込み、『ガンハルバード』の斧の部分での右肩口からの袈裟斬り。
 スウェイバックにより、紙一重でかわす岡星精一と名乗った男。

「『ヘッジホッグ』!!」
 岡星精一が青い半獣人のような姿をしたスタンドを発動させ、
 攻撃を外した私の隙を突き、懐へと侵入して攻撃を加えんとする。
 近寄って来るという事は近距離パワー型か。
 大方、この長物では接近戦に対処出来ないと踏んだのであろう。
 だが―――

「甘い!!」
 『ガンハルバード』を手元で半回転させて持ち替え、
 柄の根元の部分で男の鳩尾を打つ。
 その衝撃で岡星精一は後方へ吹き飛んだ。

「ごえええええ!!!」
 岡星精一が腹部を強かに打ち、胃液の口から出しながら悶絶する。

「散れぃ!!」
 倒れた岡星精一に向かって『ガンハルバード』の刃先を突き出す。
「おわあ!!」
 だが、あと一歩の所でその場から飛びのかれてしまった。
 しかし、仔細無い。
 『ガンハルバード』の銃口を岡星精一に合わせ、グリップ部分の引き金を絞る。

「うおわああああああああ!!!!!」
 鋼鉄の獣の咆哮が、岡星精一に襲いかかった。
 雨のように降りかかる銃弾を、岡星精一はそのスタンドでガードする。
 が、矢張り全ては受け切れなかったみたいで、
 彼の肩や腕の部分から赤い液体が散る。
 しかし急所には一発も当たっていない所は、流石といった所か。

「あ、危ないじゃないですか!
 本当、死ぬかと思いましたよ!」
 儂と大分距離をはなした所で、岡星精一が息を切らした。
 殺し合いをしておきながら『危ない』などとは、つくづくふざけた男だ。

「いやしかし…凄まじい得物ですね、その『ガンハルバード』は。
 槍の刺突に、斧の斬撃、さらには接近戦での柄の部分による打撃、
 それだけでも充分恐ろしいのに、
 挙句の果てには遠距離での銃撃まで兼ね備えている。
 狭い屋内ならばいざ知らず、このような開けた場所では死角がどこにも見当たらない。
 まさに全距離対応型兵器(オールレンジウェポン)。
 これはじゅんさい並に素晴らしい存在ですよ。」
 感心したように口を開く岡星精一。

「…今更命乞いをした所で無駄じゃぞ?
 『正義』という言葉を口にした瞬間、お主の命運は潰えたのじゃ。」
 儂は『ガンハルバード』を構え直した。
 油断は出来ない。
 こいつの顔には、まだまだ余裕の色が残っている。

「命乞い…?まさか。
 ですが正攻法で貴女に勝つのは私には無理のようなので、
 そろそろズルをさせて貰います。」
 岡星精一が飛び上がった。
 そして瞬く間に近くの建物の上に駆け上がり、
 その屋上から儂を見下ろす。

「人間である私が、夜に吸血鬼である貴女と闘うのに、
 何も下準備をしていない訳が無いでしょう。」
 その言葉と同時に、岡星精一のスタンドがその建物の屋上に取り付けられていた
 貯水タンクを私に向けてひっくり返した。

「!!!」
 貯水タンクの中の液体が儂に浴びせられ、
 その上辺り一面は水浸しになってしまった。

 …!?
 待て、この匂い。
 まさか…重油!?

「点ではなく、避けられない面攻撃。」
 岡星精一が、建物の上から火のついたライターを投げ落とした。

 まずい。
 これでは―――

 火―――重油―――

 着火

      今

  熱

252ブック:2004/05/06(木) 16:09


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
 儂の体を紅蓮の炎が包み込んだ。
 さらに炎は周りの空気を奪って呼吸を困難にし、思考回路を減退させる。

「UUUUUUWWWWWWWWWWAAAAAAAA!!!!!!!!」
 無様に転がりながら、体についた火を何とか消し止める。

「!!!!!!」
 その時、背中にゾクリとするものを感じた。

 殺気―――

 反射的に、体を動かす。
 同時に、さっきまで儂の頭があった場所に、
 岡星精一の『ヘッジホッグ』の拳が穴を開けた。

「外しましたか…」
 業火を背に、岡星精一が呟いた。

「きゃああああああああああ!!」
「うわああああああああああ!!」
 いきなりこの場を埋め尽くした炎に、住民たちが悲鳴を上げながら逃げ惑う。

「…貴様……自分が何をしたか分かっておるのか……!?」
 岡星精一を睨みつける。
「…?何の事です?」
 しかし岡星精一は訳が分からないといった顔をする。

「この火事の事じゃ!!
 貴様は、自分の守るべき民草まで巻き込んでおるのじゃぞ!!!」
 火傷の痛みも忘れて、叫ぶ。
 今この火災で苦しんでいるのは、何の戦う力も無いか弱気者達だ。
 それを、こいつは喰う為でも生きる為でもないのに平気な顔で巻き込んだ。
 そしてそんな奴が、済ました顔で『正義』を名乗る。
 これが、これがお前ら『聖十字騎士団』のやり口か…!

「何、貴女という厄災を祓う為の尊い犠牲ですよ。
 ここで貴女を生かして帰す方が、そり人々の不利益になりますのでね。」
 一つも悪びれない顔で岡星精一が答える。
「人々の不利益じゃと!?
 はっ、白々しい!!
 『聖十字騎士団』(お前ら)の不利益であろうが!!!」
 『ガンハルバード』の剣先を岡星精一に向ける。
 これが『正義』か。
 これが『正義』だというのか。

「ふふ。『聖十字騎士団』の不利益は、
 それに縋る人々の不利益も同然ですよ。
 それよりお喋りをしていてよろしいのですか?
 もうすぐ日も明けますよ。」
 癪に障るくらいに丁寧な口調で、岡星精一が儂を挑発する。

「この…下種が……!
 『限命種』(ニンゲン)がああああAAAAAAAAAAA!!!!!」
 跳躍。
 岡星精一の首筋目掛けて迫る迫る迫る迫る―――

「!!!!!」
 その時、儂の足元が突然滑り、動作が中断された。

「!?」
 足元を見てみると、水溜りがまるで油のような質感に変わっている。

「『ヘッジホッグ』!!」
 その一瞬の隙を狙って、岡星精一が拳を放ってくる。

「くっ!!」
急いで後方にジャンプ。
 間一髪の所で攻撃をかわす事が出来た。

 …しかし、これで分かった。
 さっきの貯水タンクの重油。
 今の油みたいな水溜り。
 これは―――

「…液体の変質化。」
 儂は岡星精一を見据えながら言った。

「その通り。
 まあここまで見せればバレて当然ですか。」
 続けざまに『ヘッジホッグ』が儂に向けて透明なカプセルボールを投げつける。

「!!!!!」
 眼前で破裂するカプセルボール。
 そこから飛び散った液体が儂の肌を灼いた。
 これは、酸か…!

「UUOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
 しかし痛みにかかずらわっている暇は無い。
 痛覚を遮断(き)る。
 そのまま、儂は岡星精一に向かって飛び掛かった。

253ブック:2004/05/06(木) 16:10



     ・     ・     ・



 上段、中断、下段、右、左、正面。
 あらゆる方向から超高速での斬撃、打撃が飛んでくる。
 流石は『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』。
 これが、『常夜の王国』の懐刀の実力か。

「RRRRRYYYYYYYYYAAAAAAAAA!!!!!!」
 攻撃がさらに速度と重さを増す。
 矢張り、接近戦では敵わない。

 並みの相手ならあの水を重油に変えての攻撃で難無く焼却出来た筈なのだが、
 そう簡単には殺(と)らせてくれないようだ。

「WWWWWWRYAAAAAAA!!!!!」
 どんどんジャンヌからの攻撃を捌き切れなくなってくる。
 だが、いい。
 もう間も無く夜が明ける。
 そうなれば、こちらの勝利は揺るがない。
 夜明けまでおよそあと一分。
 それ位なら、攻撃を凌ぐ事に徹すれば生き延びる事は充分に可能だ。
 勝てるぞ。
 あの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』に。


 …しかし妙だな。
 私の『ヘッジホッグ』が見えているという事は、奴もスタンドを使える筈だ。
 なのに、先程から向こうがスタンドを使ってくる様子は無い。
 肉体強化型の能力なのか?
 いや、考えるな。
 今は、相手の攻撃を受け切る事に専念しろ。

 だが、やっぱりおかしい。
 そういえば、今までの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』との交戦記録によると、
 日中の闘いにおいても『聖十字騎士団』の手練が、奴に返り討ちに遭っている。
 これは、異様だ。
 日中の闘いで、『聖十字騎士団』がいくら強いとはいえ吸血鬼に敗れるなどと―――


「!!!!!!」
 その時、私の体を電流のようなものが走った。
 何だ。
 何だ、今のは。

 …これは、恐れ?
 私が、恐れている?
 何に?
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』か!?
 いや、確かに奴は恐ろしい。
 だが、もうあと三十秒もしないうちに夜は明けるのだ。
 最早彼女を恐れる理由は微塵も無い。
 無い筈なのだ。
 なのに…何故私は彼女を恐れている!?
 まるで、このまま夜が明けないような、
 覚めない悪夢を見るかのような、
 そんな恐れ―――

254ブック:2004/05/06(木) 16:10



     ・     ・     ・



「!!!!!!!」
 いきなり、岡星精一が大きく退いた。

「待て!逃げるのか!?」
 大声で奴を呼び止めるも、岡星精一は構う事無く私から離れていく。

「今回は逃げさせて貰います。
 どうも、貴女が恐いので。」
 そう言い残すと、岡星精一は瞬く間に逃げ去って行った。

「くっ…!」
 もう夜も明ける。
 奴を追うのは余りにも無謀だ。

 …しかし、奴が儂の『ブラックオニキス』の能力を知っていたとは思えない。
 にも関わらず、不安という漠然な理由で逃げたというのか!?

 成る程。
 戦闘能力だけでなく、危険回避能力も一流という事か。
 これだから、『聖十字騎士団』は侮れない。

「…兎に角、『聖十字騎士団』が出てきた以上のんびりとはしていられぬ。
 一刻も早く、『紅血の悪賊』を襲った連中に接触せねば…」
 そう独りごちながら、儂は日光から逃れる為に取っておいた宿へと急ぐのであった。



     ・     ・     ・



「うっまーーーい!!」
 オオミミが次々と料理を口の中へと運んでいく。

「本当に美味しいですわ、タカラギコさん。」
 『フリーバード』の乗組員の中で一番料理の上手い高島美和さんですら、
 タカラギコを手放しで褒める。
 この人、強いだけでなく料理も上手なんだ。

「いえいえ、それ程でもありませんよ。」
 タカラギコが謙遜しながら笑う。

「そんな事ありませんよ〜。
 誰かさんとは大違いですね。」
 カウガールがニラ茶猫へと目を向けた。
「どういう意味だフォルァ!!」
 ニラ茶猫が憤慨する。
 まあ確かに、彼には料理のセンスがあるとはお世辞にも言えないから、
 僕もカウガールの意見には賛成だ。

「……」
 と、今まで料理には手をつけていなかった三月ウサギが、
 ようやく料理を食べ始めた。

「…?三月ウサギ、お前食欲無かったんじゃなかったのか?」
 サカーナの親方が、三月ウサギに尋ねた。

「…誰もそんな事は言っていない。
 食べても大丈夫かどうか観察させて貰っただけだ。
 毒を盛られでもしていたら堪らんのでな。」
 その三月ウサギの言葉に、場の空気が凍りついた。

「三月ウサギ!!
 そんな言い方は無いだろう!?」
 オオミミが三月ウサギに向かって叫んだ。

「俺にしてみればお前らの方が信じられんよ。
 よくもまあ見ず知らずの胡散臭い男に、そこまで親しく接せれるものだ。」
 冷たい目で三月ウサギが言い放つ。

「三月ウサギ―――」
 オオミミが三月ウサギに掴みかかろうとする。
「!!」
 しかし、そんな彼を止めたのはタカラギコだった。

「およしなさい、オオミミ君。
 彼の言う通りですよ。」
 タカラギコが柔和な声でオオミミをいさめる。

「でも…」
 納得のいかないような顔をするオオミミ。

「…付き合いきれんな。
 俺は一足先に休ませて貰う。
 精々、寝首を掻かれぬように用心する事だな。」
 三月ウサギはそう吐き捨てると食堂から出て行ってしまった。

「……」
 皆が一様に押し黙ってしまう。
 先程までの楽しい雰囲気は何処へやら。
 今は、思い沈黙だけが食堂を黒く包み込んでいた。



     TO BE CONTINUED…

255ブック:2004/05/07(金) 14:13
     EVER BLUE
     第七話・SMILE 〜貌(かお)〜


 オオミミは二度、三月ウサギの部屋のドアをノックした。
「…誰だ。」
 部屋の中から三月ウサギの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「俺、オオミミだよ。」
 オオミミがドア越しに三月ウサギに告げた。

「…入れ。」
 三月ウサギが先程と同じ不機嫌そうな声で答える。
「じゃあ、入るね。」
 オオミミはそれを聞くと、ドアノブを回して扉を開けた。
 ベッドに転がる三月ウサギの姿がそこから現れる。

「…何の用だ?」
 上体を起こし、三月ウサギはオオミミに尋ねた。
 食事の時の一悶着を彼なりにバツが悪く思っているのか、
 オオミミとは目を合わせようとせずに口を開く。

「これ、夕飯の残り。
 三月ウサギあんまり食べてなかっただろう?
 美味しいよ。」
 オオミミが三月ウサギの前に食事の乗ったトレイを差し出した。

 僕はたまにオオミミの事が理解出来なくなる。
 君は何で、さっきあんな事をしでかした三月ウサギにそんな事が出来るのだ?

「要らん。」
 案の定三月ウサギはにべも無くトレイを突き返した。
 まあ彼の性格からして当然だろう。

「毒なんて入って無いって!
 俺達が何とも無いのを見れば分かるだろう?」
 少し怒った顔を見せながら、オオミミは無理矢理トレイを三月ウサギに手渡した。
 三月ウサギは渋々それを受け取る。

「…お前は、馬鹿か?
 食堂での俺の言葉に一番怒っていたのはお前だろう?
 それなのに、何故こんな事をする。」
 呆れた風に三月ウサギはオオミミに聞いた。

「…そりゃあ、少しは腹が立ったけど……
 でも、俺もかっとなりすぎたと思う。
 三月ウサギだって、三月ウサギなりに俺達を心配してくれたんだろう?
 それなのに俺、いきなり怒鳴っちゃって…」
 オオミミが口ごもる。

「それにやっぱ、友達と喧嘩してもすぐに仲直りした方がいいに決まってるだろ?
 だから、その、三月ウサギと仲直りをしようと思って…」
 オオミミが困ったような顔をしながら頭を掻く。

 全くオオミミ、君は本当に愚かなのだな。
 どう考えたって、さっきのは三月ウサギの方が悪いじゃないか。
 だのに、何で君から謝りに来るんだ?

「…下らんな。」
 三月ウサギはそう吐き捨てると、一口おかずを口に入れた。
 それを見て、安心した顔を見せるオオミミ。

「美味しいだろ?
 …でさ、出来れば、タカラギコさんに謝ってくれないかな。
 その…タカラギコさんも気にしてると思うし……」
 オオミミが遠慮がちに三月ウサギに言った。
 三月ウサギは、それに何も答えない。
 いつもの事だけど、感じ悪い奴。

「ごめん、出すぎた事言って。
 それじゃ、俺もう出るね。」
 オオミミがそそくさと部屋から出ようとした。

「おい。」
 と、その後ろから三月ウサギの声がかかる。
「?」
 オオミミが振り返る。

「…タカラギコの奴に会ったら言っとけ。
 味は悪くはなかった、ってな。」
 三月ウサギがオオミミには顔を向けずに、ぶっきらぼうに言い放った。

「うん。」
 オオミミはそれを聞くと、とても嬉しそうな顔で答えるのであった。

256ブック:2004/05/07(金) 14:14



(…君は本当に損な性格だな。)
 三月ウサギの部屋を出て廊下を歩く途中で、僕はオオミミにそう言った。
「損?何で?」
 不思議そうに聞き返すオオミミ。

(他人の為にそこまでする必要があるのか、って言ってるんだよ。
 君はもう少し、自分の事だけ考えてもいいんじゃないか?)
 天の件といい、最近オオミミはかなりの面倒事に巻き込まれている。
 ここはそろそろ、僕が一発ガツンと説教しておかねば。
 いいかオオミミ、そもそも現実というのはだなあ…

「大丈夫、俺は別に損したなんて全然思ってないよ。
 ごめんね、『ゼルダ。』
 いつも気苦労ばっかりかけちゃって。」
 本当に底の無いようなあっけらかんとした笑みを浮かべながら、
 オオミミは何事も無いかのように答えた。

 僕は何も言えなくなる。
 オオミミ、君は本当に馬鹿な奴だ。
 馬鹿過ぎて、開いた口が塞がらない。。

 …しょうがない。
 本当は君の事なんて放っておきたいんだが、
 危なっかしくて見てられないから、もう少しだけ僕が面倒見ててやるよ。
 君みたいなのを放置しては、何をするか分かったもんじゃないからな。


「…とんだ間抜けね、あんたって。」
 と、横から誰かに声を掛けられた。
 見ると、天が廊下に放置されてある粗末な箱を椅子代わりに腰掛けていた。

「…さっきの、聞いてたんだ。」
 オオミミが静かに天に尋ねた。

「人を盗み聞きしてたみたいに言わないでよ!
 偶然あんたがトレイ持って三月ウサギの部屋に入るのを見ただけよ!
 あんたの性格から考えれば、何してたかなんて一々確認しないでも分かるわ!」
 相変わらずの憎まれ口。
 この女、今度拳で口に栓してやろうか。

「ごめん…」
 だから謝るなって、オオミミ。
 君がそんなだから、こいつも付け上がるんだぞ!?

「あ〜〜も〜〜〜!!
 アタシはそういうの見てると苛々するのよ!!
 あんたねぇ、人を憎いとか殺してやりたいとか、思った事ないの!?」
 なじるようにオオミミに言葉をぶつけるオオミミ。
 余計なお世話だ。
 オオミミがお前なんぞにそこまで言われる筋合いは無い。

 …あれ、待てよ?
 何かこの子、僕と同じ事言ってるような…

「俺だって怒ったりする事くらいあるよ。
 ありがとう、心配してくれて。」
 微笑みながら答えるオオミミ。

「だ…誰があんたを心配なんかッ…!
 勝手に変な事思い込むのやめてよね!
 もうあんたみたいな唐変木には付き合ってらんないわ!!」
 オオミミの表情に毒気を抜かれてしまったのか、
 天は自分の言いたい事だけぶちまけた後さっさと部屋に戻ってしまった。
 何度話してみても勝手な奴だ。

「天、何であんなに怒ってたんだろうね?『ゼルダ』。」
 彼女の怒りの直接的な原因であるにも関わらず、
 訳が分からないといった風にオオミミが僕に聞いてきた。

(さあね…)
 僕はすっかり呆れ果ててしまって、何も答える事が出来ないのだった。

257ブック:2004/05/07(金) 14:14



     ・     ・     ・



 部屋に戻ったアタシは、パジャマに着替える為に上着を脱ぐ事にした。
 オオミミとの会話により発声した苛立ちを晴らすかのように、
 脱いだ服を乱暴に床に叩きつける。

 同時に、おへその右横あたりと、左の肩口あたりにある醜い痣のようなものが、
 否応無しに私の視界に入る。
 いや、これは痣なんてものじゃない。
 まるで、『化け物』の一部のような…
 そんな醜悪な何か。

 無理矢理、それを視界には入っていないと思い込む。

「『俺だって怒ったりする事くらいあるよ』ですって…?
 虫も殺さないような顔して何を抜け抜けと…」


『はっ、何それ!
 そうやって善意を押し売りして、自己犠牲に酔いしれるつもり!?
 そんなの、こっちが迷惑だわ!
 そういうのを偽善者って呼ぶのよ!!』

『…そうかもしれない。
 でも、やっぱり自分だけ助かればいいってのは、
 いけない事だと思うよ。』


 tanasinn島で、『紅血の悪賊』の連中に追いかけられていた時の会話が、
 ありありと思い浮かんでくる。

「…よくもまあそんなこっぱずかしい事を……
 どうせ、大した苦労なんかした事ないんでしょう。
 だから、あんな綺麗事を…」
 ガリッ、と歯軋りをしながら『痣』に手を触れる。

 …『痣』は、まるで自分の心の醜さを映し出しているかのようだった。



     ・     ・     ・



「…これは?」
 『フリーバード』の倉庫の中の『ある物』が、タカラギコの興味を引き付けていた。
 人の身の丈程もある巨大な十字架。
 その十字架が、包帯やベルトで堅く縛られている。

「何でしょうねぇ、一体…」
 そう呟きながら、タカラギコは十字架に手を伸ばした。

「迂闊に触ったら怪我するぞ。」
 と、タカラギコの背後から声がかかる。
 そこには、サカーナが煙を燻らせながら佇んでいた。

「あ、これは失礼。
 扉が開いていたものですから、ついつい好奇心に釣られて…」
 タカラギコがあたふたと弁明する。
「構わねぇよ。どうせ、大した物なんかこの船には無ぇしな。」
 サカーナは葉巻を吸うと、大きく煙を吐き出した。

「…所でこれ、何なんです?」
 タカラギコが十字架を指差した。
「ああ、『パニッシャー』って言ってな、
 俺が前居た職場から退職金代わりにかっぱらって来た物だ。
 その十字架の中に、ライトマシンガンとロケットランチャーが仕込まれてる。」
 サカーナが懐かしそうな目で十字架を見ながら説明する。

「へえ〜、それは凄い!
 ちょっと撃ってみてもいいですか?」
 タカラギコが目を輝かせながらサカーナに尋ねた。

「やめとけ。
 見ての通り、規格外のデカブツだ。
 武器に振り回されて痛い目見るのがオチさ。」
 サカーナが苦笑しながら答えた。

「…それより兄ちゃん、暇ならちょっと付き合え。話がある。」
 サカーナが、いつになく真剣な目でタカラギコを見た。

258ブック:2004/05/07(金) 14:14



 『フリーバード』のデッキの上に、タカラギコとサカーナは立っていた。
 夜の黒に染まりきった空が、二人の周りを包む。
「晩飯の時はすまなかったな。
 見ての通り、三月ウサギの野郎は捻くれ者でよ。」
 サカーナが手すりにもたれ、流れる雲を見つめながら話す。

「いえ、気にしてませんよ。
 寧ろ、それが当然だ。
 オオミミ君のようにいきなり打ち解ける方がおかしいですよ。」
 星を眺めながらタカラギコが答える。

「…オオミミ君、気をつけておいた方がいいですよ。
 ああいうタイプ程、一度『こけたら』脆い。」
 サカーナの方は見ずに、タカラギコは言った。

「違ぇねぇや。
 …さてと、ここからが本題だ。」
 サカーナがタカラギコに向き直る。

「お前さん、一体何者だ?
 悪いが、俺も三月ウサギ程ではねぇが、お前さんを信用してねぇ
 オオミミが懐いてる位だから、心底悪い奴ではないみたいだが…
 それでもお前さんの雰囲気は異様過ぎる。」
 サカーナはタカラギコの顔を覗き込んだ。
 タカラギコは、相変わらずの微笑を浮かべたままそれを崩さない。

「いやそんな、私は唯の小市民…」
 タカラギコが手を振りながらそう言おうとする。

「誤魔化すなよ。
 うちの乗組員は所謂『訳あり』な連中が多くてな。
 俺もそういう事に関しては鼻が利くんだ。」
 サカーナはタカラギコの瞳から目を離さない。

「自慢じゃねぇが、俺も何度も死線を潜ってきた事がある。
 だがな…お前さんのは、桁が違う。そういう目だ。
 …いや、お前さんは死線を潜って来たとか、そういう次元じゃねぇ。
 まるで、本当にいっぺん死んで来た感じなんだ。
 どうすりゃあ、生きながらにしてそんな目が出来る?」
 サカーナが一歩、タカラギコに近寄った。

「オオミミから聞いたぜ。
 飛空挺を見た事が無かったらしいな。
 この世界で飛空挺を見ないで過ごすなんて、そんな馬鹿な話があるか。
 答えろ。お前さん、何者だ…?」
 サカーナがまた一歩、タカラギコに詰め寄った。
 張り裂けそうな空気が、二人の間に流れる。

「…それは……」
 タカラギコが何か答えようとした。
 その時―――


「!!!!!!!!」
 船内に、警報音が鳴り響く。
 タカラギコもサカーナも、慌てて辺りを見回した。

「総員警戒態勢を取って下さい!
 何者かが、この船に接近しています!」
 スピーカーから、高島美和の声が流れる。

「ちっ、しゃあねぇ!話は後だ!!」
 サカーナが、急いでブリッジへと駆け出す。


「やれやれ、ゴングに救われましたねぇ…」
 サカーナが居なくなるのを確認すると、タカラギコは一人そう呟くのであった。



     TO BE CONTINUED…

259:2004/05/07(金) 20:02

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その1」



「そういう訳で、モナとリナーはASAの船に乗り込むことになったモナ」
 俺は、テーブルを囲んでいるみんなに告げた。
 ちなみにリナーは、自分の部屋で休んでいる。
「…という事は、要人救出に行くのは俺、しぃ、モララー、つー、レモナの5人か」
 ギコは腕を組んで言った。
「…そうなるモナね」
 俺は、少し戸惑いつつ返答する。
 先程ギコとモメて以来、あの一件には触れていない。
 謝るのも変な話だし、開き直るのもどうかと思う。
 そういう心情もあって、ギコへの接し方は今までと変わっていない。
 おそらく、丸耳に非を指摘されたギコの方も同様なのだろう。
 …まあいい。
 変にギスギスするよりはマシだ。

「なーんだ。モナー君は行かないのか…」
 モララーが肩を落とす。
「私は、モナーくんの方について行っちゃおっかなー。ね?」
 レモナは首の角度を30度傾けて言った。
「船に乗るのはモナとリナーの2人って話になっているから、それは困るモナ…」
 俺は大いに慌てる。
 レモナなら戦力になるだろうから、ASAは同乗を承諾するかもしれない。
 だが、俺の気苦労が多くなるのは確実だ。

「あーあ、残念…」
 そう言いながら、レモナはゴロンと畳に転がった。
 結局、みんな夜まで俺の家にいるつもりのようだ。
 学校もいつまで休みか分からない。
 校舎がボロボロになったのも勿論だが、町は戒厳令下に等しい。
 自衛隊の防衛出動は史上初という事なので、前例も全くないのだ。

 ギコの腹が大きく鳴った。
 照れ隠しなのか、「ゴルァ!」と威嚇するギコ。
 そういえば、そろそろ昼食の時間だ。



「ふ〜 よく食べたモナ〜」
 心地よい満腹感に満足した俺は、畳の上にゴロゴロと転がった。
「…吸血鬼なのに、人間の食事も摂れるんだね…」
 モララーが感心したように呟く。
 そう言えば、おかしいな…
 満腹感は、人間だった時と全く変わりない。
 吸血鬼とは言え、人間の食事も食おうと思えば食えるのだろうか。
 もっとも満腹感を感じていたとしても、糧になるかどうかは別問題だが。

「…ごちそうまでした」
 しぃが茶碗を置いて両手を合わせる。
 昼食は、ガナーとしぃが作ってくれた。
 俺の家には、ちょくちょくギコやモララーが泊まりに来る。
 そのせいで食器も多めにあるし、俺の大食のせいもあって食料の備蓄も充分なのだ。
 もっとも、7人もの人間が揃って昼食を食べたのは初めてだが。
 リナーは食欲がないらしく、部屋から出て来なかった。
 ASAから血液パックが届くのは夕方になるという話だ。

「妹も退屈そうだったよ。遊びに行ってあげたら?」
 しぃはガナーに言った。
 そう言えば、さっき家に電話していたようだ。
「家か…」
 ギコがため息をついた。
 ギコの家は、父一人子一人だ。
 しかも、彼の父親は今…
 ギコは、自らの父親に現在どんな感情を抱いているのだろうか。

260:2004/05/07(金) 20:03


『――――…』

 外から大きな音声が聞こえてきた。
 右翼か何かの街宣車だろうか。
 徐々に、俺の家の方向に近付いてきている。

『当車は現在、市内警備を実施しております。
 市民の皆さん、不要な外出は控えるようお願いします…』

「…」
 ギコは僅かにカーテンを開けて、外を覗いた。
 6つの大きな車輪の付いた車が、アナウンスを流しながらゆっくりと走行している。
 車体は迷彩色。戦車を思わせるような、大きな砲塔が付いていた。
 重いエンジン音が周囲に響く。

「87式偵察警戒車だ…」
 ギコは低い声で呟いた。
 陸上自衛隊が市内警備を行っているようだ。
「自衛隊が防衛出動って… 事実上、戦争が始まったって事?」
 モララーは改めてギコに訊ねた。
「…ああ。おそらくASAは、国際法上は国家に準ずるものと解釈されてるんだろうな」
 ギコは何やら小難しい事を言って黙り込んだ。

 会話が途切れる。
 俺は何となくTVを付けた。
 どのチャンネルでも、緊急報道番組をやっている。
 『矢の男』の映像やASAビルでの映像を流しているが、新しい情報はないようだ。
 ロシアの諜報機関が超能力について研究していたとか、アメリカには多くの超能力探偵がいるとか…
 そういう事例を、研究者らしき出演者が力説している。
 そして最後に、ASAも超能力者を有するテロ組織ではないか?という推論が提示されていた。

「当たりはせずとも遠からず…だな」
 ギコは低い声で呟いた。
 通常ならば、そんなのは与太話として一笑に付されるだけであろう。
 マスコミの愚もここまできたか、と嘲笑されるのが関の山である。
 だが、人々にそれを信じさせる舞台は整い過ぎているのだ。
 吸血鬼殺人、世界各地での集団失踪事件、不可思議な現象を捉えた映像のリーク…

 ――『舞台が整う』。
 非常に嫌な表現だ。
 ならば、舞台を整えたのは誰だ?
 歴史や社会の影に存在したスタンド使い。それが現在、表沙汰になろうとしている。
 そして、次に起こるのは…?

『…そういう集団が存在するのならば、秩序崩壊を危惧しての防衛出動という事になるでしょうね』
 TVの中で、コメンテーターが口を開いた。
 確か、どこかの大学の有名教授とかいう人だ。
『人間社会というのは、同種族のコミュニティーで形成されています。
 異種が生じるというのは、それだけでコミュニティーの乱れを意味する。
 つまりは、羊の群れに狼が混じるようなものです。ならば、狼が牙を向く前に駆逐…』

「…」
 ギコが、無言でTVの電源を切った。
 重い沈黙が場を支配する。
「それにしても、この居間もボロボロになっちゃったね…」
 モララーが、おそらく意図的に話を変えた。
「もう慣れたモナよ…」
 俺はため息をつく。
「やーねー。元気出してよ、モナーくん!」
「ソウダ! シンキクサイゾ アヒャ!」
 レモナとつーが同時に言った。
「お前らが言うなっ… お前らがっ…」
 そして、俺達はいつものように馬鹿な会話をした。
 いつものように。

261:2004/05/07(金) 20:04

 夕食はラーメンの出前を頼んだ。
 営業しているのかどうか不安だったが、杞憂に終わったようだ。
 戦争が始まろうが何だろうが、商いのカタチというものは変わらないのだろう。

 俺はラーメンを平らげ、汁まで啜った。
 そして、夕方に届いた血液パックを開けてみる。
 リナーには、すでに1パック渡していた。
 武器の整備で忙しそうだったが、後で飲むと言っていた。
 少しでもリナーの体を癒してくれればいいが…
 
 俺は、血液パックに鼻を近付けた。
「ううむ… 匂いは特にないモナね…」
 とりあえず、一気飲みしてみる俺。

「…美味いのか?」
 ギコが恐る恐る訊ねる。
「普通の水と変わらない感じモナね…」
 俺は、残らず飲み干してから言った。
 血液には催吐作用があるという話だが、特に気にならない。
 嫌悪感も一切感じなかった。
 ただの水のように、喉越しも普通だ。
 別に美味という事もない。
 …つまり、特に感想はない。

「この美味さも分からんようじゃ、まだまだガキだねぇ…」
 いつの間にか出てきた『アルカディア』が、血液パックをゴクゴクと飲み干していた。
 こいつ、勝手に何をやっている。
「…それ、モナ達のモナ。勝手に飲むなモナ」
 俺は、『アルカディア』に文句を言った。
「大体、スタンドが飲食するなゴルァ!」
 ギコが怒鳴る。

「まあ、固ェ事言うなよ…」
 『アルカディア』が、空になった血液パックを握り潰す。
「ごめんなさい、私のスタンドが迷惑をかけて…」
 しぃが申し訳なさそうに頭を下げた。
 『アルカディア』は、しぃの体に引っ込む。
「んじゃ、しばらく寝るわ。なんかあったら呼んでくれ…」
 しぃの口を借りて、『アルカディア』は言った。
「全く、どうしょうもない奴だな…」
 困ったような表情を浮かべるしぃを見て、ギコが愚痴る。
 …本当に困ったものだ。



 俺は時計を見た。
 もうそろそろ、ASAが迎えに来る時間だ。
 そうこうしているうちに、インターホンが鳴った。
 玄関先に丸耳が立っているのが視える。
「来たみたいモナね…」
 俺は、用意したリュックの中身を確認した。
 バヨネット、そして300円分のチョコレート。
 荷物は極端に少ない。

「おっと、これを持ってけゴルァ!」
 ギコが、10袋入りのチキンラーメンを差し出した。
 …嫌がらせか? これを一体どうしろと?
 俺の疑念をよそに、ギコは言った。
「オヤジに聞いた話だが、自衛隊の演習にはチキンラーメンが欠かせないそうだ。
 作ってよし、そのままかじってよし、砕いておつまみによし、俺によし、お前によし、みんなによしだゴルァ!」

 …なるほど。
 それならば、ありがたく受け取るとしよう。
 俺はチキンラーメンをリュックに詰めた。
 さて、行くか…!!

「リナー! リナー! 行くモナよ…!」
 俺は、リナーの部屋をノックした。
「…ちょっと待ってくれ。どうやら、荷物がドアを通れそうにない。
 縦にして窓から出すから、手伝ってくれないか…?」
 不穏なリナーの返事。
 一体、何を持っていくつもりだ?

「分かったモナ…」
 俺は慌てて外に出た。
 リナーの部屋の窓から、6mはある長さのガトリング砲が突き出ている。

 以前に警察署で使っていたガトリング砲が、オモチャに見える程の大きさだ。
「少し重いぞ…」
 リナーは言った。
 もはや吸血鬼であるこの身、多少の重さなど…!
 …と意気込んでみたものの、やっぱり重かった。
 リナーと2人がかりで、何とか外に運び出す。

「こんなもの、どうやって部屋に入れたモナ?」
 俺は訊ねた。
「…君は、ボトルシップというものを知っているか?」
 質問を質問で返すリナー。
 つまり、部屋の中で組み立てたという事か。
 さらにリナーは、膨らんだリュックを5つも持っている。
 いくらなんでも荷物が多すぎだ。
 遠征にでも行く気か?

262:2004/05/07(金) 20:04

 家の前には、大きなトラックが停まっていた。
 俺達2人を迎えに来ただけなのに、こんな大型車を用意してきたという事は…
「…しぃ助教授から伝言があります」
 丸耳は、特大のガトリング砲を横目で見て言った。
「『大口径の火器を持ち出してくるでしょうから、トラックを手配しときましたよ。
  おまけの分際で、どうせ艦隊戦では何の役にも立たないクセに…』だそうです」

「…ッ!!」
 無言で激昂するおまけ。
 このガトリング砲を真っ先に叩き込まれるのは、しぃ助教授になりそうだ。
 戦闘のどさくさにまぎれて、しぃ助教授の乗ってる艦を撃沈したりしないだろうな…?

 それにしてもリナーの行動を的確に読んだしぃ助教授も流石だが、伝言をそのまま伝える丸耳も見事だ。
 ガトリング砲の積み込みを手伝いながら、丸耳は口を開いた。
「あの人にとって、同じ土俵で張り合えるのはリナーさん位なんですよ。
 今後とも、どうか仲良くしてやって下さい」
「今後ともと言うが… 現行で仲が良いように見えるのか?」
 リナーが、荷台にガトリング砲を固定して言った。
「宿敵と書いて『とも』と読む、ってやつモナね…」
 俺は呟きながら、荷台から降りる。

 丸耳が運転席に座った。
 俺も助手席に乗り込む。
 トラックだけあって車内は狭い。
 ここに3人乗るのはちょっとつらいな…
「リナーは、モナの膝の上に座るといいモナよ」
 トラックに乗り込もうとしているリナーに、俺は告げた。

「…詰めてくれないか」
 リナーは冷たく言った。
 丸耳がいなかったら膝の上に座ってただろうな…と確信を抱きつつ、俺は丸耳の方に詰める。
 リナーが乗り込み、勢いよくドアを閉めた。
「…では、出発します」
 丸耳がエンジンをかけた。
 そのまま、トラックは夜道を走り出す。


「…しかし、GAU−8/A・アヴェンジャー30mm機関砲を持ち出してくるとは思いませんでしたね」
 運転しながら、丸耳は言った。
「現行最強の回転式機関砲でしょう? しぃ助教授がさぞかし羨ましがりますよ。
 あの人、『最強の――』というフレーズに弱いからなぁ…」
 武器を褒められたせいか、リナーは御満悦のようだ。
 瞳を閉じて、満足そうに腕を組んでいる。

「…ん? でもGAU−8/A用の徹甲焼夷弾は、確か劣化ウラ…」
 そう言って、急に丸耳は口を閉ざした。
「れっかうら? …って何モナ?」
 俺は首を傾げる。
「…何でもない」
 リナーは露骨に目を逸らして言った。

「…何モナ?」
 丸耳に視線を向ける俺。
「もうすぐ、ヘリが停まっているグラウンドに到着しますよ。
 そのヘリで、『ヴァンガード』に乗り込んでもらう事になります…」
 丸耳は、視線を逸らして言った。
 …なんなんだ。何を隠している。


 トラックはグラウンドに停車した。
 最初にしぃ助教授や丸耳と会ったのも、このグラウンドだ。
 飛行機かヘリかよく分からない、奇妙な形状をした機体がグラウンドの真ん中に停まっていた。
 ヘリコプターの胴体から飛行機のような羽根が生え、その両羽根にそれぞれメインローターがついている。

「V-22・オスプレイか…」
 トラックから降りたリナーが、そのヘリを物欲しげに眺める。
「こんばんは、モナー君」
 ヘリの脇に立っていた人影が、ぺこりと頭を下げた。
 どうやら、人影はしぃ助教授のようだ。
 リナーはしぃ助教授を無視してヘリを眺めている。

「…羨ましいですか?」
 しぃ助教授は、リナーを見てニヤリと笑った。
「羨ましくなどない!」
 虚勢を張るリナー。
「モナー君、彼女にプレゼントしてあげればどうですか。さぞかし喜んでくれますよ?」
 しぃ助教授はこちらに視線をやった。
「不要だ!」
 リナーが叫ぶ。
 …と言うか、買えん。
 何て金のかかる女なんだ。

263:2004/05/07(金) 20:05

 俺は火花を撒き散らすリナーとしぃ助教授を放置して、丸耳と2人でガトリング砲を荷台から降ろした。
 ヘリから降りてきたASAの職員達が、ガトリング砲の周りに集まる。
 そのまま、10人がかりでガトリング砲を持ち上げた。

「アヴェンジャーですか…」
 しぃ助教授の目線が、職員達が運んでいるガトリング砲に向く。
 丸耳が指示を出し、ASA職員達はガトリング砲をヘリの中に運び込んだ。
「…羨ましいか?」
 リナーが笑みを浮かべてしぃ助教授を見る。

「また冗談を。私は別に羨ましくも何ともないですよ。
 …そう言えば丸耳、ASAには対地攻撃用の航空機が不足していましたね?」
 しぃ助教授は、丸耳の方を見た。
 丸耳は左右に首を振る。
「…いえ、不足していません。どちらかと言えば、陸戦用車両の方が…」
「そういう訳で、対地攻撃機A−10・サンダーボルトⅡを100機ほど発注しておくように」
 丸耳の言葉を強引に遮るしぃ助教授。

「A−10対地攻撃機って… アヴェンジャー30mm機関砲を実装してるじゃないですか!!
 そんな意地の張り合いで、ASAの財政を逼迫させないで下さい…!」
 丸耳は慌てて言った。

「チッ、ばれましたか。丸耳はケチですねぇ…」
 しぃ助教授が舌打ちして腕を組む。
 それに対し、プルプルと震える丸耳。
「私が苦言を言わなければ、ASAの財政なんて一気に傾くでしょう!?
 みんながみんなお金にルーズだから、財務関係は私が一手に引き受けてるんですよ!?
 ニワトリやょぅι"ょに財務が任せられますか!? 任せられないでしょう!?
 私だって好きでケチってる訳じゃありません!!
 それが気に入らないなら、とっとと私を罷免なさって下さい!!」
 …丸耳の中で何かが爆発したようだ。
 何と言うか、彼も大変だなぁ…

「…わ、分かりました。分かりましたから、落ち着いてください」
 しぃ助教授が、慌てて丸耳を諌める。
「いいえ、分かっていません!!
 『矢の男』に落とされたRAH−66・コマンチもそうです!
 あの機体を、あの局面で投入する必要があったんですか!?」
 もう、丸耳は止められない止まらない。

「3ヶ月も前の話を、いまさら…」
「その3ヶ月前の損害が、今に響いているんですッ!!」
 しぃ助教授の弁解は、丸耳の怒号に掻き消された。
「あの、そろそろ出発を…」
 ASA職員の1人が、おずおずと言った。

「…すまんな。諸君の御主人達は、痴話喧嘩で忙しいらしい」
 リナーが、薄い笑みを浮かべて言った。
 …わざわざしぃ助教授に聞こえる声で。
 間違いなく、昼間の意趣返しだ。

「…痴話喧嘩などではありませんッ!!」
 しぃ助教授が、裏返った声で叫んだ。
 その右手には、愛用のハンマー。
 もう、この人も止まらない。

「そんな物を取り出して、この私をどうしようと…?」
 懐からバヨネットを取り出すリナー。
 …ああ、こっちも駄目だ。

 木に止まっていた鳥の群れが、バタバタと一斉に飛び立った。
 難を避けるように、ASA職員達がそそくさとヘリに乗り込んでいる。
 騒動の発端となった丸耳自身が真っ先にヘリの中に避難しているあたり、流石だ…と、俺はヘリの中で思った。
 ハンマーとバヨネットがぶつかり合う金属音が、夜の闇に響く。
 どうやら、出発は少し遅れそうだ。
 それにしても、今夜は月が綺麗だ――

264:2004/05/07(金) 20:06

 ようやく、ヘリはグラウンドから離陸した。
「『ヴァンガード』に到着するまでは、あくまで隠密作戦です。
 自衛隊が目を光らせているでしょうからね。くれぐれも気を抜かないように…」
 しぃ助教授が息を切らせながら言った。
 隠密作戦とは、グラウンドに巨大なクレーターを作るような事をいうのか。
 ヘリの中は静かで、特に会話もない。
 流石に、リナーもしぃ助教授も疲れ果てたようだ。
 ヘリの音も驚くほど静か。
 しぃ助教授が自慢していた事からして、かなり高性能なヘリなのだろう。
 俺は窓から外を見る。もう海上に出たようだ。

「…で、送った血液はちゃんと飲みましたか?」
 しぃ助教授はリナーに訊ねた。
 口調からして、喧嘩を売るつもりではないようだ。
 もっとも、両者とも疲れきっているからだろうが。
「ああ。少しはマシになった気がする」
 リナーは、誰とも視線を合わせずに言った。
「最近は、血が不足すると意識が飛んでいた。気がつけば傍に死体が転がっているザマだ。
 理性を失うと、人間は血袋にしか見えなくなるらしい。 …だが、今日はそうならなかった」
 自嘲するように告げるリナー。

「…『この種を食い殺せ』ってやつですね」
 しぃ助教授は訳の分からない事を言った。
 再び、ヘリ内は沈黙で包まれる。
 無線で何やら応対していた丸耳が、しぃ助教授に告げた。
「…練馬において、陸上自衛隊第1師団と我々の政経中枢防衛師団が交戦状態に入った模様です。
 向こうの第7機甲師団も南下していますが、こちらの戦車師団で迎え撃ちますか?」
 しぃ助教授は大きく頷く。
「当然です。防御を維持しつつ、市街戦に持ち込みなさい。自衛隊は民間人の犠牲を何より嫌いますからね…」

「……」
 俺は、しぃ助教授に非難の目線を送っていただろう。
「…戦争ですよ」
 それに気付いて、しぃ助教授はそう一言呟いた。

 そう、戦争なんだ。
 ASAだって、自衛隊の攻撃で多くの犠牲者を出しているはず。
 そう思い起こして、再び外を見る俺。
 ヘリが少し減速したようだ。
 グレーの大きな艦艇が、海上に浮いている。
 あれが、『ヴァンガード』…!!


 そして、ヘリは『ヴァンガード』の飛行甲板に降り立った。
 ヘリから降りる俺とリナー。
 ASAの職員が、ヘリからガトリング砲を降ろしている。
 飛行甲板には、ありすとねここが立っていた。出迎えだろう。
「久し振りですね!」
 ねここは俺に言った。
 この子の元気の良さも変わらないようだ。

「ありす補佐のねここです! よろしく!」
 リナーに向かって、ぺこりと頭を下げるねここ。
「ああ、よろしく…」
 リナーは気圧されるように言った。
 こういうテンションは苦手なのだろうか。

 しぃ助教授と丸耳に、ヘリから降りる気配はない。
「…あれ、しぃ助教授達は降りないモナか?」
「私達は、あっちの艦ですよ」
 しぃ助教授は、海の向こうを指差した。
 遥か向こうにうっすらと艦艇が見える。

「じゃあ… ありす、ねここ、モナー君、後はお願いします」
 しぃ助教授がヘリの中から手を振った。
「はい。しぃ助教授も頑張って下さいね!」
 ねここは飛び上がって言った。
 ありすはじっとしぃ助教授を見つめている。

 そのままヘリは上昇していった。
 そして、瞬く内に見えなくなる。
「…ねここ。 …さむい?」
 ヘリを見送るように眺めた後、ありすは呟く。
「私は仕事があるから、ありすは先にブリッジに戻っててね!」
 ねここはくるりと振り向いて言った。
 ありすは頷くと、スタスタと艦内に戻っていく。
 やっぱり、あの少女は得体が知れないな…

「では、居住区画に招待します。特別に士官用の部屋を用意しますた」
 ねここは言った。
「ウホッ… 部屋を割り振られるとは、我ながらいい身分モナね…」
 どうやら、俺達はVIP待遇のようだ。
 しぃ助教授の采配だったら、リナーには部屋無しとかありえそうだが…
 それより、まさかリナーと同室…!?

265:2004/05/07(金) 20:07

 ねここを先頭に、甲板通路を歩く俺達。
 もう艦は動き出しているようだ。
 波が穏やかなせいか、驚くほど静かである。
 リナーのガトリング砲は、飛行甲板の近くに置いてきた。
 どうやら後で運び入れるらしい。

「モナーさんは、やけに荷物が少ないね…」
 ねここは、俺の荷物をまじまじと眺めて言った。
 パンパンのリュックを5個も持っているリナーに対して、俺のリュックは1つだけ。
「そんな事ないモナ。リナーが持ち込み過ぎモナよ…」
 俺は笑った。

「君… 海戦が一晩で終わると思ってないか?」
 リナーが怪訝そうに訊ねる。
 …え? 違うのか?

 リナーは、俺の驚愕の表情から察知したようだ。
「史上最大の海戦、レイテ沖海戦の日数は3日… しかも、それは単純な交戦期間だ。
 出港から帰港までを考えると、かなりの日数になるぞ。この艦隊規模なら、作戦行動は半月ほど…」
「正確には、3週間くらいになります!」
 ねここは元気良く言った。
 その事実に驚愕する俺。

「何で言ってくれなかったモナ…?」
 俺は肩を落とした。
「当然、了解していたものだと…」
 リナーは言葉を濁す。
 一介の高校生である俺が、そんな事了解してるはずないじゃないか…

 肩を落とす俺。
 3週間も乗りっぱなし…?
 …いや。考え方を変えれば、リナーと3週間の船旅だッ!!
 あの、超有名船旅恋愛映画もあったじゃないかッ!!

「タイタニックみたいなラブラブ旅行になればいいモナね!」
 俺は、明るい声を搾り出して言った。
「タイタニック、沈んじゃってます…」
 青い顔で呟くねここ。
 …なんの。プラス思考上等だ。

 そして、俺達は部屋に案内された。
 残念ながら、リナーとは別室のようだ。
 だが、部屋は隣同士である。
 大きなベッド。無機質な内飾。部屋の脇に備え付けられたスチール机。
 まるで、保健室を連想させる部屋だ。
 部屋の中でも靴が脱げないのは、何とも落ち着かない。
 窓がないのは、この身にとってありがたいとも言えるだろうが。
 俺はベッドの上に荷物を置いた。
 これから、ねここが艦内を案内してくれるのだという。

 俺とリナーを引き連れて、廊下を歩くねここ。
 その途中で、何人もの船員とすれ違った。
 あの人達もスタンド使いなのだろうか。
 もっとも、聞いたところで教えてくれるはずもないが。

「散歩とかも自由にして下さい。でも、機械類には手を触れないように。
 作業中の船員さんの邪魔になることも駄目です。あと、部屋での過剰な性行為も控えてくださいね…」
 そう言って、目を細めるねここ。
 リナーの左腕がプルプルと震えている。
 しぃ助教授に何を吹き込まれたんだ…


「ここが、CIC(戦闘情報指揮センター)です」
 俺達を大きな部屋に招き入れて、ねここは言った。
 その部屋は、まさに制御室だと言えるだろう。
 窓など全くない代わりに、コンピューターやモニターが並んでいる。
 多数のASA職員が、椅子に座ってモニターに向かっていたり、指示を出していたり…
 物見遊山のこちらが申し訳なくなる程に忙しそうだ。

「見ての通り、この『ヴァンガード』の心臓部です」
 ねここはそう説明してくれた。
 艦の制御や火器の統制などは、全てこの部屋で行うのだという。
 リナーは興味深げにモニターを見つめている。

 …大海に臨みながら、木製の舵をクルクル回す。
 そんな牧歌的な俺のイメージは、脆くも崩れ去った。
「ここからじゃ、外が全く見えないモナね…」
 俺は嘆息して呟く。
「そういうのはブリッジですね。ついてきて下さい!」
 ねここは、俺達を引き連れてCICを出た。

266:2004/05/07(金) 20:08

「ここがブリッジです。艦長が指揮を取るのは主にここですね」
 ねここは、ブリッジに俺達を招き入れた。
 眼前に並ぶいくつもの窓。
 そこから映る、大海の風景。
 この場所は、俺のイメージにも合致した。
 ここからなら、かなり遠くまで見通せるだろう。
 機械類は、さっきの部屋に比べると少ない。
「私は、CICよりこっちの方が好きなんですよ」
 ねここは言った。
 それも分かる気がする。
 何と言うか、この場所はいかにも『船』という感じだ。
 先程のCICは、言うなれば『秘密基地』だろうか。

 真ん中の窓の傍には、赤いシートで覆われた立派な椅子があった。
 他の椅子とは一線を駕している。
 そこには、三幹部の一人であるありすが座っていた。
「あれは、館長専用の椅子です」
 ねここはそう解説してくれた。
 椅子に座ったまま、クルクルと楽しそうに回転するありす。
 長いスカートがふわりと舞う。
 そう言えば、この子が館長だったか。

「どうコミニュケーションを取っていいか困るモナね…」
 くるくる回るありすを尻目に、俺は呟いた。
「ありすは私の友達だから、モナーさんも友達みたいに接したらいいですよ」
 ねここは楽しそうに言った。
 友達みたいにって言われてもなぁ…

「まあそういう訳で、モナはありすの友達モナ。よろしくモナ…」
 恐る恐る、俺はありすに声をかけてみた。
「ともだち…?」
 きょとんとした表情を浮かべるありす。
「そう、友達モナ」
 俺は微笑む。
「…ともだち」
 ありすはこくこくと頷いた。
 意思の疎通が出来たかどうかは微妙だが、まあ良しとしよう。

「大体、案内はこんな所です。居住区まで戻れますか?」
 ねここは俺達に訊ねた。
「ああ。大体の構造は把握した」
 リナーは頷く。
 俺一人だと、間違いなく迷子になるだろう。
 じゃあ、部屋に戻るか。
「おやすみモナ」
 俺は、ねこことありすに言った。
 ありすは、俺の言葉に反応してこくこくと頷いている。
 …何だ。可愛いところもあるじゃないか。

「…そう言うのを、ありすに直に言ってあげると喜びますよ」
 いきなり、俺の心中を見透かしたかのようにねここは言った。
 リナーはと言えば、怪訝そうな表情を浮かべるばかり。
 どうやら、ねここはかなり察しがいいらしい。
 ねここ……、恐ろしい子……!


 こうして、俺とリナーはブリッジから退室した。
 少し遠回りになるが、甲板に出る。
 冷たい夜風が気持ちいい。
 星空の下で、リナーと2人きり…
 ここでロマンティックな話の1つや2つを繰り出せれば一流なのだが。

267:2004/05/07(金) 20:09

「…何事もないといいモナね」
 結局、俺は無難な事を言った。
「そうはいかないだろうな。海上自衛隊も必死だろう。激戦は避けられない…」
 そう言って、リナーは空を眺めた。
 彼女の髪が風でそよぐ。

「それにしても、ASAの誇る戦艦にしては武装が少ないモナね…」
 俺は、この艦を見た感想を口にした。
 ヘリで空から見た限り、砲台は前部と後部に1つずつしかない。
 それと、艦橋付近に取り付けられたオモチャみたいなガトリング砲が1つ。
 目立つ武装はそれだけだ。
 戦艦大和みたいに、甲板に所狭しと砲台が並んでいると思ったのに…
 これでは、「全砲門一斉発射!」とかできそうにない。

「…君は、2つの間違いを犯した」
 リナーは俺を睨むと、不機嫌そうに言った。
 先程の俺の言動に、リナーの気に障る要素があったらしい。
「まず、この艦を戦艦と呼んだ事だ。おそらく、君は軍艦と戦艦は同じものだと認識しているのだろう…」
 不満げな表情で俺に詰め寄るリナー。
「戦艦とは、軍艦の艦種の1つに過ぎない。他に巡洋艦や空母などが存在し、それらの総称が軍艦だ。
 故に戦艦は軍艦であっても、軍艦は必ずしも戦艦だという訳ではない。
 イチゴは果物だが、果物は全てイチゴという訳ではないという事だ。
 そして、この艦は巡洋艦に区分される。 …つまり、君はリンゴをイチゴと呼ぶ愚を犯した」

「わ、分かったモナ…」
 俺は何度も頷く。
 どうやら今のは大失言だったようだ。
 落ち着いたのか、リナーは声を和らげた。
「戦艦とは、砲撃戦主体で相手を撃沈する事を主目的とした大型艦艇だ。
 70年ほど前までは海戦の主力だったが、今では既に絶滅種だな」

「絶滅危惧種じゃなくて、絶滅種モナか…?」
 俺は訊ねた。もう、戦艦というのは滅びてしまったのか?
 リナーは俺の問いに頷いた。
「ああ。湾岸戦争で、アイオワ級戦艦『ミズーリ』と『ウィスコンシン』が参戦したのが最後だな。
 艦砲射撃のみでやっていける戦争など、もはやこの世界のどこにもありはしない…」
 リナーは空を見上げて言った。
 どことなく、その事実に寂しさを感じているように…
 風が少し強くなってきたようだ。
 波が船体に打ちつける音も、先程までより激しくなっている。

 リナーは、再び俺の方を向いて言った。
「もう1つの君の間違いは、この艦の武装が少ないと思っている事だ。
 イージス巡洋艦は、現在最強を誇る水上艦だぞ?
 軽装に見えるが、100発以上のミサイルを装備した超重武装艦だ。
 そのレーダーの探知能力は320kmを越え、同時に200個以上の目標を把握できる」

268:2004/05/07(金) 20:12


 …!!
 俺の『アウト・オブ・エデン』が余裕で負けた!!
 俺は役立たずなのか!?
 …いや、そんな事はない。
 だが、俺にしかできない事もあるはずだ。
 そうでなければ、わざわざ俺を呼びはしないだろう。

 俺は大きく深呼吸した。
 波の音が、耳に心地良い。
 これだけ綺麗な夜空も、そう見れるものではないだろう。
 ここで3週間過ごすのも悪くはない気がしてきた…
 …かもしれない。

「そんなに強力な艦なら、自衛隊なんて簡単にやっつけられないモナ?」
 俺は、ふと疑問に思って訊ねる。
「海上自衛隊も、イージス艦を保有している」
 リナーの答えは一言だった。
 やはり、楽にはいかないという事か…

「イージスとは、ギリシャ神話においてゼウスがアテナに与えた絶対の盾の名だ。
 その名を由来に持つこの艦は、防空能力、対潜能力の両方に突出している…」
 リナーは、この艦について説明してくれた。
 …詳細に。詳細に。ひたすら詳細に。
 とりあえず、イージス艦というのは正式名称でない事だけは分かった。
 『イージス・システム』というのを搭載している艦を、一般的にそう呼称するのだという。

 ひとしきり説明を終えた後で、リナーは大きくため息をついた。
「…とは言え、どれだけ能力のある艦だろうが、単艦で何とか出来るものでもないがな…」
 リナーは寂しげに言った。
「艦隊を組んで、ようやく1つの戦闘単位になる。どの艦が最強とか言うのは、総じて意味がない。
 これ1艦で最強とか、そういう事が言えた古き良き時代はとっくに終わってしまったんだ…」
 そう言って、海を眺めるリナー。
 俺は何故か、『蒐集者』の事を思い返していた。

「…潮風が身に染みるな。部屋に戻ろう」
 リナーは言った。
 彼女が本当に寒さを感じているのかは分からない。
 そういう振りをしているだけかもしれない。
 だが、俺は素直に従った。
 艦内に引っ込む俺達。

 今頃、ギコ達も行動を開始しているだろう。
 向こうも、相手はスタンド使いではない。
 特に難しい局面ではないだろうが…
 …何か、イヤな予感がする。
 ギコ達の方も、こちらの方も。
 大きな何かを見落としているような、そんな気が…



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

269新手のスタンド使い:2004/05/07(金) 21:47

              こ れ が 日 常 な ん で す 
                               そ の 2


「戦う前に・・・答えが大体想像できる質問をしてもいいか?」
「どうぞ・・・答えが帰ってくる質問だといいですね。」
「・・・なぜ、俺達のほうではなく、ポリゴンモナーのほうに攻撃を仕掛けなかったんだ?
 俺達のほうが弱そうだからか?」
「・・・違いますね。」
「・・・・・・答えはそれだけか?」
「ええ、これだけです。敵に情報を与えるのは、これだけです。
 ・・・そろそろ、 殺 り 合 い ま す か ?」
「・・・OK。」

男のスタンドが再び出てきた。
改めてそいつを観察してみる。
まず、人型。見たところ近距離パワー型。
・・・俺は初戦で相性の悪い相手と戦うのか。
体の形は割と普通。
・・・形は。
体一面に度の強い三原色のまだら模様。
まだらがランダムに発光・点滅して、互いが互いを強烈にアピールしている。
・・・目が痛い。
こいつの趣味だろうか・・・。
「『スペアロイド』・・・このスタンドの名前です。」
「・・・出ろっ!『ヒアー・ハード・アタック』!」
腕だけでなく、スタンドの全身を現す。
俺とさほど変わらない大きさ。俺に酷似した顔。少しつぶれた円柱型の胴体。
機械的な手足。腕なんぞは『アーム』と言ったほうが似合っている。
で、メタリック。金属的な光沢。
男の『スペアロイド』とかいう奴が発する光が俺のスタンドにおぼろげに映っている。
さらに光が反射して、部屋全体を目が痛くなるような明るさで包んでいる。
殺伐としていて、且つなんとなく明るい雰囲気というものだろうか・・・。
『スペアロイド』が近づいてきた。


彼は今、とても急いでいる。
ポリゴンモナーは今、全力疾走している。
モナーの家まであと300メートルほどだ。
後ろから誰かが追ってくる。
さっきの2人が追ってくる。
・・・少し打つ場所がずれていたようだ。
不慣れなことはするもんじゃないな。
捕虜にしようと思って手加減したのだが、当て身にしたのがまずかったようだ。
やっぱり後頭部を思い切り殴り飛ばしておけばよかった。
それくらいやっても死にはしなかったろう。

あと250メートルくらいか。
見かけによらず結構足の速い奴らだ。さて、どうするかな。
考えられる展開は次の4つ・・・。
 1,このまま2人にモナーの家まで追いつかれること無く、
   さらに都合のいいことにギコ達だけで向こうの敵を倒して、あの2人と3対2で戦う。
 2,このままモナーの家まで逃げ切り、ギコ達と合流して敵と3対3で戦う。
 3,2人に追いつかれて、戦う。その間にギコ達が向こうの敵を倒して、救援に来てくれる。
 4,2人に追いつかれて戦っている間にギコ達が負けて敵と1対3で戦うはめになる。・・・負けんがね。
1ならば最高なのだが、それはあまり期待できない。
2人ともスタンドバトルは初めてのはずだし、そもそも後1分もたたないうちに決着がつくとは思えない。
同じ理由で3も望みは薄い。なんとか2に持っていくか。
あと200メートル・・・。

270烏(旧452):2004/05/07(金) 21:48
『スペアロイド』が俺のスタンドに殴りかかってきた。
横に跳んで回避した。
間髪いれずに膝蹴り。高く飛んで回避。そのまま天井付近で浮遊する。
「どうしたんですか?逃げてばかりですね。向かってこないんですか?」
「・・・お前の能力が分からないんでな。」
「あなたのスタンドは、パワーが弱そうですね。少なくとも近距離パワー型ではない。」
「・・・・・・オマエは、〈俺には勝てない〉。」
「・・・?」
「オマエは、〈負ける〉〈勝てるわけが無い〉。〈無駄〉なんだよ・・・。」
「・・・何のつもりだい?」
『スペアロイド』が再びスタンドへの攻撃を始めた。
『ヒアー・ハード・アタック』をすばやく俺のところへ戻した。
これで、互いのスタンドの位置関係が逆になった。
・・・今気づいた。この玄関、結構天井が高い。・・・いや、高いのは玄関だけか。
「これで・・・オマエは隙だらけだっ!」
「・・・!」
一気に走り寄ってタックルをかまし、外に出た。
男は受身を取り、自分のところまでスタンドを戻した。

「なかなか・・・いい判断力を持っているようだな。
 あの狭い通路では動きづらいことこの上ない・・・。」
・・・さて、攻撃を再開する。
「オマエは・・・〈どうやっても勝てない〉。オマエは〈負ける〉んだ。〈無駄だ〉。」
「・・・そうか。それが・・・『言葉』が、あなたの能力ですね。」
「・・・ああ、そうだ。この際ばらしてやる。
 俺の『ヒアー・ハード・アタック』の能力は・・・『言葉が持っている力』を大幅に増幅し、相手にぶつけることだ。」
「・・・『言葉の力』だと・・・?くだらんね!言葉遊びならば子供相手にやっていたらどうだい!?」

「・・・『言葉』を・・・甘く見るなよ・・・!」


あと・・・100メートル。
2人はもうあと約60メートルのところまで迫っている。
仕方が無い。もう一度殴るか・・・。
・・・十字路か・・・・・・!!




迂闊だった。なぜ気づけなかったのか・・・?
鈍い音。

思い切り右方向に撥ね飛ばされた。
・・・・・・軽・・・乗用車・・・ッ!
・・・居眠り運転・・・か!

271烏(旧452):2004/05/07(金) 21:49
10メートルほど撥ねられて、アスファルトに叩きつけられた。
急いで起き上がる。
・・・胸部と右肩が痛む。
打撲か、悪ければ骨折。

・・・げぶっ。

・・・吐血。そういえば、息が苦しい。
どうやら折れたあばらが肺に損傷を与えたらしい。
・・・・・・さらに、直感。留まっているのは危ない。
・・・だめだ、間に合わない!
2人の姿が見えた。
距離、約12メートルほどか。

・・・・・・術中にはまってしまったようだ。
空間が遮断された。
だが、内側にいる私からは外の景色が見えるし、電線に止まるカラスの鳴き声もはっきり聞こえる。
・・・カラスに睨まれて鳴かれた。縁起が悪いな。

突然、体が宙に浮き上がった。・・・否、『真上に落下』した。
重力の逆転・・・か。これはどちらか1人の能力か、2人の同時攻撃か・・・。
後者だと面倒臭くなくていいな。

5メートルほど落ちたところで空間の天井らしきものにぶつかった。
先ほどよりも強い痛みと、再び吐き出される多くの血液。
吐き出された血液は同じく上方に落ちていった。

先程の答え・・・5。
軽乗用車に撥ねられて、一気に大ピンチに陥る。

・・・さて、どうしようか。
この区切られた空間では、中からは外のことがしっかり分かるが、外に出ることはできない。外からは中のことは分からないようだ。
集まってきた野次馬の連中の興味は、民家の塀に激突した軽乗用車のほうに釘付けだ。
宙に浮いている怪我人の私には全く気づかないようだ。
懐から携帯電話を取り出したが、やはり圏外と表示されている。
音を出しても無駄だろう。

モナーの家の方角に走り去る二人の姿が見える。
非常にまずい。戦い慣れた連中3人相手に、全くの素人スタンド使いとまともに戦えるだろうか。恐らく無理だろう。

・・・野次馬の一人が、この空間に入ってきた。・・・外からは入れるんだな。
そして案の定、真逆の重力に逆らえずに頭から落ちてくる野次馬の青年。
「うわああっ!?」
「・・・ぐっ!」
青年を両腕で受け止めた。
・・・あ゙い゙だだだだだだ・・・
再び血が吐き出される。

「!?・・・?・・・??あの・・・これは・・・??」
・・・・・・君は知らなくていい・・・。
『ヒマリア』を使った。
応用法。青年を強制的に眠らせる。ついでに、ここでの記憶を曖昧にしておく。

厄介なことに、なんとなく圧迫感が少しづつ増してきているような気がする。
重力が強くなっているのだろうか。
このままだと、いずれ自分の体を支えられなくなって、さらに潰されてしまうか・・・
若しくはこの青年のような不運な巻き込まれ野次馬の頭突きによりなぶり殺されるか・・・といったところか。

・・・結局、戦闘はギコとモナーに任せる形に・・・

・・・・・・いや、そうでもないかな。ポリゴンモナーの目線の先には・・・彼のもう一人の協力者。
どうやらあの2人を尾行しているらしい。
彼はアジトで待機しているはずだが・・・まあいい。ちょうど人手が不足していたところだ。
彼も例外なく、私に気づくことなく行ってしまった。
それでよかろう。
とにかく今は、この空間と重力を何とかしてもらわねば。

・・・やれやれ。どの面引っさげていようか。新参者に頼りっきりではないか。
この傷は・・・あとであいつに治してもらうとしよう。

とにかく今は・・・あまり動かないように・・・したいんだがな。
また一つ、野次馬の頭がつっこんできた。

272烏(旧452):2004/05/07(金) 21:49

「オマエ・・・『言葉の力』をくだらないといったな。
 その言葉・・・訂正させてやる。そろそろ効果が出だした頃だろうな。」
「ほう・・・どんな?」
「今から・・・証明する!」
走り寄って距離を詰める。スタンドの右手には、何故か玄関のタイルに転がっていた2メートルほどの鉄棒。
「何を考えているんですか?わざわざ相手に有利な距離に突っ込んでくると?」
『スペアロイド』が俺の前に立ち憚るように現れ、即座に殴りかかってきた。
スタンドの右手に持っていた鉄棒を高く放り投げ、『スペアロイド』の拳を左腕で防いだ。
『スペアロイド』はすぐに右手を引っ込め、同時に左手の拳が迫ってくる。
ラッシュか・・・。

だが・・・鈍い。
しかも、パワーも弱い。
近距離型の『スペアロイド』の性能は遠距離型の『ヒアー・ハード・アタック』のスピードとパワーでも十分対処できる程にまで弱体化している。

・・・ちょうどいい。
少し調子に乗ってやる。

同じく、左手を右手だけで軽く受け止めた。次に右。
鈍い鈍い鈍いっ!!

「ほらほら・・・どうした?俺を圧倒できる程のスピードがあるんだろ?それを見越して打ってきたんだろ?
 俺のスタンドでも簡単に対処できるぜ?どうした?何とかしてみろよ!ああ!?」
「く・・・このっ!」

『スペアロイド』は攻撃の手を全く緩めない。
それでいい。
一撃ごとに確実に、少しづつ、弱体化している。
それでいい。
すでに冷静さはほとんど失われているようだ。
それでいい。
『言葉の力』の影響は確実に効いている。
それでいい。
こんなときこそ、『言葉』は最大限に効果を発揮しやすい!

鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍い鈍いっ!!!

「畜生っ!このっ!」
「〈無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――――ッ!!!〉」
「このおおぉ―――っ!!」
『スペアロイド』が大きく振りかぶった。
――隙だらけこの上ない。
パンチを簡単にかわし、ちょうど落ちてきたところの鉄棒を掴んだ。そして本体の男の頭に思い切り叩きつける。
「――〜〜〜√∨\∧――っ!」
男はなんだか分からない声をあげて顔を覆い、仰向けに倒れこんだ。
その先には・・・ブロック塀。
案の定後頭部をぶつけ、そのままぐったりしてしまった。
まずい、死んでしまったか、と思ったが、気絶しただけのようだった。
ちゃんと心臓は動いている。
だが、念のため首を絞め落としておいた。
・・・死にはしないだろ。

「・・・うう・・・う〜んむ・・・」
後ろから情けない声が聞こえてきた。
ようやくモナーの目が覚めたようだ。
・・・やれやれ。

273烏(旧452):2004/05/07(金) 21:50

モナーを連れ出そうと思ったところで、2人の男が目に入った。
何があったか知らないが、全身汗びっしょりで、息を切らしている。
・・・またか。

「おや・・・おい、下っ端のモララーが倒れてるぞ、弟よ。・・・ぜぇ・・・はぁ・・・」
・・・やっぱりな。
「おやおや、本当だ。こいつのスタンドはなかなか使い勝手がいいからこっちに割り振ったんだがな。くはぁ―・・・ふはぁ―・・・」
・・・さっきこいつは仲間がなんたらかんたら言っていたが、どうも自分を大きく見せたかっただけのようだ。
「うう・・・ん・・・ん?ギコ、この人たち誰モナ?」
・・・・・・。
「・・・敵だよ。」
「・・・あれ?さっきのはなんでそこで泡吹いてるモナ?」
「ほら、戦うぞ。」
             ブラザーズ
「2対2か。面白い・・・俺達兄弟のコンビは組織内でも高く評価されているんだからな!・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ふふ・・・君達はすでに俺の術中にはまっている!」
「!?」
「うわあぁっ!?」
突然俺達は真上に飛び・・・否、落ちてしまった。重力の逆転!
すばやく足を上にした。すぐ後にゆか・・・いや、天井のようなものに着地した。
そして、今にも頭をぶつけそうだったモナーを『ヒアー・ハード・アタック』で受け止めた。

頭を下にして立ち上がった。・・・いや、立ち下がった・・・か?
どっちでもいい。
上下逆の世界というのは普通のとは全く違って見えるな。
慣れなくてはこうして立っているだけでくらくらしてくる。高所恐怖症の人間はそろそろ失神するところだろうか。

兄弟の兄貴のほうは重力の影響が無いらしく、地面に立って俺達を見上げていた。
弟のほうは俺達と同じように空間の天井に立っている。すでに戦闘体制に入っている。
「おい、モナー。戦えるか?」
「うん・・・なんとか大丈夫モナ。」

「ふふ・・・俺達に2対2で戦いを挑むとは・・・」「『リラクプルジェ』ッ!」

 びちっ
「・・・!?・・・おやおや、一人増えたようだな?」
誰かが兄貴のほうにスライムのようなものを投げてぶつけたようだ。兄貴の後頭部にはそれが張り付いている。
「・・・プルモナッ!」
「え・・・誰モナ?」
「俺達の仲間だよっ!いいとこへ来てくれた!」

「・・・2対3になったな。いいだろう。俺達の相手はそれくらいでちょうどいい!」
「あいつも俺の能力の範囲内だな・・・。この範囲とつなげるか。」
兄のほうが後頭部のスライムを払い落として言った。
「・・・!」
プルモナも兄のほうの術にはまってしまったようだ。
宙に体が浮いて、モナたちと同じ高さに

  バ チ ィ ッ !

・・・と音を立てて頭から飛び散ってしまった。
・・・と思えば、見る見るうちに飛び散ってしまった彼の体が集まって、元の形に戻ってしまった。

「ほう・・・再生能力があるのか。面白い・・・。こっちまで歩いてくるがいい!」
弟のほうの誘いに乗って、プルモナはこっちまで歩いてきた。

今度の奴らは、さっきの雑魚のようにはいかなそうである。


←To Be Continued

274新手のスタンド使い:2004/05/08(土) 18:43
食品の美味しい冒険

第一話「おむすびとおいなり」


「春だって言うのになんて熱さだ・・・」
一人の男・・・いやAA・・・むしろ食品がつぶやく。
彼の名は『おむすび』おにぎりがモララー顔になっただけの存在。
「うーん。このままじゃ腐っちゃうよ。どうしようかなぁ・・・」

彼はAAではあるが材料は米である。長時間放っておけば腐敗してしまうのだ。

「仕方が無い・・・おにぎり本舗に行くか。」




「いらっしゃいませー!!」
元気な声が響く。
「頭のご飯を入れ替えてもらいたいんですがなにか?」
普通ならこんなセリフをいった瞬間ヘンな目で見られるだろう。
だが彼は常連だ。店主もあきれ笑いしながら応じる。
「はいはい。そろそろ来る頃だと思って君用のコシヒカリを残しておいたよ。」
「さすがマスター。気が利くなぁ。」

275新手のスタンド使い:2004/05/08(土) 18:44
頭の米を少しずつ入れ替えてもらう。はたから見れば脳外科手術をしている様に見えるだろう。
おむすびが鼻をくんくんと鳴らしてあたりを見回す。
「マスター、酢のにおいがするぞ。酢漬けでも始めたのか?」
不思議そうにおむすびが聞いた。それはそうだ。普段なら米のいい香りしかしないはずの店内に強烈な酢の香りが漂っていた。
「あのお客さんだよ。」
マスターの目線が一人の客の方向に移動する。
おむすびもまたその客を見る。
その客は実に奇妙な風貌をしていた。薄黄色の頭・・いや袋といった方が正しいか、そこから米を入れ替えている。
「始めてきたお客さんなんだけどね。酢飯を入れてくれって言ってきたんだ。」
おかしい話だ。ここはおにぎり屋、酢飯なんかおいてるはずも無い。酢飯がほしかったらすし屋へ行くべきだ。
「僕はすし屋へ逝ってくれって言ったんだ。でも金は倍出すからここで頼むってきかないんだよ。仕方がないから酢飯を作ってやっているんだ。」
「ヘンなヤツ。」
おむすびはたった一言で片付けた。トリビアで言えば3へぇ〜くらいだろう。まったく興味がなかった。
しかしおむすびはイヤでもその男に興味を持つ事になる。
なぜならその男がおむすびの方をじっと見つめてきたのだ。
おむすびはとっさに目をそらした。














目をそらしてからどれくらいの時がたっただろうか・・・
おむすびの米の入れ替えが終った。ほかほかしてとてもいい気分だ。
(あの男はどうしただろう?)
おむすびは男のほうを見た。すでにそこに男は居なかった。
「ったく!気分が悪い男だったぜ!!」
そう吐き捨てるとおむすびは財布から1050円を取り出しマスターに渡した。
「はい。1050円ちょうどだね。」
意外と几帳面だ。

276新手のスタンド使い:2004/05/08(土) 18:44
店を出てしばらく歩いた。不意に後ろに気配を感じて振り返る。
男居た・・・いや食品が居た。真っ黒な粒々が集まった不気味な姿・・・
「君は食品・・・おむすびだね?」
粒々が口を開いた。低く不気味な声・・・
「人に名を尋ねるときは自分から名を名乗るもんだぜ・・・」
「キャビア・・・俺の名はキャビアだ・・・さ、答えてもらおうか?さっきの問いの答えを・・・」
「俺はおむすび・・・」
男はニヤリと口元をゆがませる。
「じゃ、死ね。」
その瞬間粒々の後ろに大男が現れた。
「なッ!!」
おむすびはあまりの驚きに思わず声を漏らした。
その大男は透けていたのだ!後ろの風景が見えている。
「ほう・・・コイツが見えるのかつまりお前もスタンド使い!!」
おむすびは何を言っているのか理解できない。ただ立ち尽くすしかなかった。
「死ねぇイ!!!!!」
言葉に合わせて大男が殴りかかる!!
バキィ!!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!!」
おにぎりはあまりの痛みに歯を食いしばる。しかしその様子を気にする事もなく大男は第二撃を放とうと構える


ドンッ!!!

277新手のスタンド使い:2004/05/08(土) 18:45
瞬間、大男が吹っ飛んだ。
「やれやれだ・・・やはり付けてきたな・・・彼を・・・」
そこに居たのはさっきの変な男・・・薄黄色の頭をした男だった・・・
「おいなり!!キサマはおいなりだなッ!!!!」
「その通り・・・君らの好きにはさせんよ。」

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

278新手のスタンド使い:2004/05/08(土) 18:46
なんだか小説を作ってみたくて作っちゃいました。
感想とかくれるとうれしいです。

279ブック:2004/05/08(土) 20:11
     EVER BLUE
     第八話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その一


 一つのベッドの上に、一組の男と女が全裸で横たわっていた。
 勿論、プロレスごっこ等という事をしていた訳ではない。
 男と女が裸でベッドの上でやり合う事と言えば、一つだ。

「何か今日、ちょっと乱暴じゃなかったですか〜?」
 女が男の胸の上に人差し指を這わせる。
 男が、不快とも快楽とも取れるような表情に顔を歪める。

「うるせえぞ、フォルァ。」
 男がそっけない仕草で女の指をどける。
「あれ、もしかして晩御飯での時の事怒ってるんですか?」
 女が悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「……」
 男は何も答えない。
 それは図星だったからだ。

「何だ、やっぱそうなんですね。
 可愛い、あれ位の事でムキになって。」
 男の沈黙を肯定と解し、女がさらに顔をほころばせた。
 それとは対照的に、男の顔は見る見る不機嫌になる。

「はっ、悪かったなフォルァ!たかが料理の事で臍曲げて!
 そんなに家庭的な男が好きなら、タカラギコの奴と寝たらどうだ?」
 男が子供のようにすねてしまった。

「う〜ん、それもいいかもしれませんね。
 あの人、家庭的なだけでなくって優しそうですし。」
 女がそう言って考え込む素振りを見せる。

「…勝手にしろ!」
 それを受けてますます拗ねる男。

「嘘ですよ。私、そんなに軽い女じゃないです〜。」
 ふてくされた子供をあやすような声で話しかけながら、
 女が男の上に覆い被さった。

「あ〜〜〜!うっとおしい!!」
 本当は嬉しいのに、男は下らない男のプライドとやらの所為で、
 つい憎まれ口を叩いてしまう。
「あはははは。」
 女は構わずより一層強く男に抱きついた。


「…あいつは、タカラギコには気をつけとけよ。」
 と、男が急に真面目な顔をして女に告げた。
 女も、さっきまでとは裏腹引き締まった顔になる。

「…分かってますって。
 あの人…何と言うか、底が無さ過ぎます。
 オオミミ君の事を助けてはくれたみたいですけど、どこまでが偶然なのやら…」
 女が呟いた。

「…俺の主観だがな、多分、あいつはあのにやけ顔のまま人を殺せるぜ。」
 男が女の耳元で囁くように告げる。
「…かもしれませんね……って、ちょっと!
 何してるんですか!?」
 真顔のまま自分の胸を弄る男に向かって、女が叫んだ。

「何って、見りゃわかるだろ?」
 男がそ知らぬ顔で女の体を触り続ける。
「ちょっと、さっきしたばかりじゃないですか…あっ…!」
 女は抵抗しようとするも、徐々に体から力が抜けていく。

「へっへっへ、体は素直じゃねぇか…」
 男が猥褻な笑顔を浮かべたその時―――


「!!!!!!!!!」
 突如、辺りに警報が鳴り響いた。
 男と女がギョッとした顔つきでベッドから跳ね起きる。

『総員警戒態勢を取って下さい!
 何者かが、この船に接近しています!』
 スピーカーから高島美和の声ががなり立てる。
 男は急いでトランクスを穿き、女も慌しくブラのホックを止める。

「ちょっ、何だってんだフォルァ!」
 男がシャツに頭を潜らせながら誰に聞くでもなく尋ねる。

「兎に角、急ぎましょう!」
 もうすっかり服を着込んだ女は、愛用のテンガロンハットを頭に被った。
 それから少し後、男も服装を整え、二人は急いで部屋から飛び出すのであった。

280ブック:2004/05/08(土) 20:12



     ・     ・     ・



「遅いですよ。」
 大分遅れてブリッジに到着したニラ茶猫とカウガールに、高島美和が言った。

「悪い悪い、遅れちまったぜフォルァ。」
 ニラ茶猫が頭を掻く。
 …その首筋のキスマークは何だ。
 全く、この一大事にこの二人はニャンニャンなんぞしてやがって…

「…ナニをやっていたかは知らんが。」
 三月ウサギが呆れたように呟く。
 カウガールが、頬をポッと桜色に染めた。

「うるせえなあ!だから悪かったって言ってるだろ!!」
 ニラ茶猫が逆切れする。
 やれやれ、遅刻の上に開き直りか。

「ま、うちは自由恋愛だけどよ…」
 サカーナの親方がニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
 まあ、他の皆も似たような顔だが。

「…?ねえ、何でニラ茶猫とカウガールが恥ずかしがってるの?」
 オオミミが、事もあろうに隣に居る天に向かってそう質問した。

「……!!」
 天が顔を真っ赤にしながらオオミミの足を思い切り踏みつけた。
 悶絶するオオミミ。
 まあ、今回ばかりはこうなってもしょうがない。
 オオミミ、君は女の子に対して何て事を聞くのだ。

「…で、何が起こってるんです?」
 タカラギコが高島美和に顔を向ける。
「現在十数機程度の小型戦闘機が、私達の船に接近してくるのが確認されました。
 おそらく後数分もしないうちに追いつかれます。」
 表情を変えないで高島美和が答える。

「こっちから通信は送ってるんだろう?」
 サカーナが高島美和にそう聞いた。
「はい。ですが、見事なまでに無視されてますね。
 敵意があると見て、まず間違いないでしょう。」
 高島美和がやれやれと言った顔をする。

「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)か?」
 ニラ茶猫が顎に手を当てた。
「多分。」
 即答する高島美和。

「…やれやれ、誰かさんの所為で面倒な事になってしまったな。」
 三月ウサギが責めるような視線をサカーナの親方に向ける。
「お、起こった事は仕方がねぇだろうが!
 それより今はどうするかを考えるぞ!!」
 サカーナの親方が周囲からの刺さるような視線を掃うように叫ぶ。
 全く、これだから脳みそ筋肉脊髄反射野蛮人は困るんだ。

「…まあ、そうですね。
 ですが、今回の一件については危険手当をしっかりと頂かせて貰いますので、
 その心算で。」
 冷徹な声で高島美和がサカーナの親方に告げる。

281ブック:2004/05/08(土) 20:12

「わーった、分かりましたよ!!
 で、どうすんだ高島美和!!」
 半ばヤケクソ気味にサカーナの親方が尋ねた。
 この人、今の危機よりも、自分の懐の方を心配しているな。
 責任の大半は自分にあるというのに、何て人だ。

「…『トンボ』を貸して下さい。
 私とカウガールで、敵が攻撃射程圏内に入ってくるまでに、
 一機でも多く撃ち墜としてきます。」
 と、高島美和がサカーナの親方の前に進み出た。

「え〜、私もですか〜?」
 不満そうな顔をするカウガール。
 この生と死が両天秤にかかっている状況なのに、こいつらときたら…
 いかん、頭痛が。

「当たり前です。
 私は『トンボ』の砲撃専門。
 あなたは操縦専門でしょう?」
 高島美和がカウガールを睨んだ。
 カウガールが、観念したのかがっくりと肩を落とす。

「…そういう訳で、行って参ります。
 暫く留守にしますが、余計な粗相をしないように。」
 高島美和がサカーナの親方に視線を移す。
 同時に、その場の全員が一斉にサカーナの親方に顔を向けた。

「そこで何で俺を見るんだよ!!」
 憤慨するサカーナの親方。
 いや、あなたの今迄の言動からすれば当たり前だって…

「…まあいいや。
 頼んだぜ、『撃墜王』。」
 サカーナの親方が高島美和とカウガールの肩を一つずつ叩く。
 まあよくねぇよ。

「それでは参りましょうか、カウガール。私の『シムシティ』と、」
 高島美和がカウガールの顔を見据える。
「私の『チャレンジャー』で!」
 返すカウガール。

「連中に目に物見せてあげますわ。」
「あいつらにギャフンと言わせてやるわ!」



     TO BE CONTINUED…

282丸耳達のビート:2004/05/08(土) 22:56


「―――――では、武器を渡しておきましょうか」
 ばさりと、机の上に何枚もの写真が広げられる。
目に見えて、『チーフ』と茂名、B・T・Bの表情が強張った。
 そんなことには露ほども気にくれず、ジエンが立て板に水の口調で話し出す。

「まずはSPM謹製、対スタンド用六連発リボルバー『セラフィム』。
 一般の間では45口径が最強の弾だのと言われていますが、
 私はそれに深い憤りを感じているのですよ。
 この『セラフィム』に装填されるのは更に二回り大きな454カスール弾。
 その破壊力たるや正に怪物、二,五センチの杉板を十五枚貫通し、
 コンクリ塊を粉々にして、防弾チョッキをぶち抜いて人が殺せます。
 象狩りにも使われ、もはや人を撃つのに使う銃ではありません。
 素人が撃てば的から外れるどころか手首が折れるとまで言われる、
 正に選ばれし者のみが撃つことを許される銃弾で―――――」

「ア…アノ、ジエン様。貴方…ドンナ基準デ支給スル銃ヲ選ンデ オラレルノ デスカ?」

「失礼な。私のチョイスを単なるパワー狂の銃器マニアのそれと一緒にしないで頂きたいですね」
 息継ぎも無しにで大半の人がナナメ読みしてそうな解説をぶつ辺り、
既にマニア扱いされてもしょうがないと思うのだがそんなことはともかく。

「茂名のご隠居やマルミミ君の身体能力を加味した結果です。
 私はプライドに賭けて、扱いきれない銃を渡したりはしません。
 それに、この弾なら大半のパワー型スタンドでも打ち抜けます。立派な対スタンド用の銃器ですよ」

「…なら、普通にライフルとか使えばいいじゃろ?なんでわざわざハンドガンなんぞで…」
「フルオートは風情がありません。リボルバーこそ美学です。…で、説明の続きですが―――」

(やはり銃器マニアではないか…)
(ま、元気出すデチ)

 心の中だけで呟いた声に、『チーフ』のテレパシーが応えた。
ちなみに彼の武器解説は、量にもよるが大抵は二時間を超える。

「銃自体もご覧下さい、この重量感。10インチ(約25センチ)のロングバレルですが、
 全く華奢な感じをさせることはありません。この棍棒のような逞しさだけですよ?
 世界中の猛獣を撃ち殺せるとまで言われたカスール弾の反動に耐えきり―――」

 ―――先はまだまだ長かった。




 しゅるっ、と、小さな衣擦れの音。
浴衣の繊維が直に肌へと触れるたび、引っ掻き傷がぴりぴりと痛む。
「また…やっちゃった…」
 呟いて、『傷』で思い出した。マルミミ君、何やってるのかな。
あんな死にそうな酷いケガして、大丈夫なんだろうか。
(会いたい…な)
 顔を見たい。話がしたい。名前を呼んで貰いたい。
贅沢は言わない。ただそれだけでいい。       ビッチ
 いや…それすらも、贅沢なのだろうか。私のような淫売が、そんなことを望むのは筋違いだろうか。

  優しさに甘えて、嫌われていることに気付かずにいないだろうか。

  汚れてしまった人間は、どうすれば良いのだろうか。

  汚れていなければ、こんな事は思わなくても済んだのだろうか。

  判らない、解らない、分からない…なにもわからない―――

283丸耳達のビート:2004/05/08(土) 22:58




 目を覚ますと、強烈な喉の渇きを覚えて咳き込んだ。

「う…ゲホッ!」

 ―――喉がヒリヒリする。
まるで自分がモズのはやにえになって、ヂリヂリヂリヂリ何日も天日干しされてるような気分。
 たった一つを除いては、何を飲んでも満たされない『渇き』。
「血… ゲホッ 飲まな ゥエ゙ホッ きゃ…」
 震える指でパックをつまみ、牙を立てる。
トロリと、かすかに粘性を持った液体が喉に滑り込み―――――

「ッ…!う゛え゙え゙え゙ッ!」
 強烈な不快感を感じて、全て吐き出した。
「ぅ…ップっ!…なんで…!?」
                 女性
 ラベルにはキチンと『20 female』と書いてある。
二十代になりたての、女性の血。
 味を見たって、ストレスもドラッグもない健康体そのもの。ついでに言えば処女。
それなのに、体はこの血を拒否する。

(こんなんじゃ、駄目なんだ…!)

 これでは、足りない。
もっと精気に満ちあふれた、新鮮な血でないと。
傷を負った体が、もっと、もっとと貪欲に血をねだる。


  ―――吸いたい。白い肌からトロトロトロトロ溢れる女性の血を、今すぐに―――


「…だだだっ…駄目駄目駄目…ッ!」
 ぶんぶんと、首を振る。


  ―――牙を立てて、丸く膨れ上がる血の珠を舌で崩して舐め回したい―――


「駄目だ…って…!この…鎮まれ…!」
 口を開け、自分の腕に牙を突き刺した。

284丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:01


  ――― 体中を貫いて、全身余す所なく一滴残らず吸い尽くしたい―――


 上下二本ずつ、四つの穴からとろとろと血が流れ出た。
ぴちゃぴちゃと、その血を舐めとる。
 直に舐め取る分、パックの物よりは精気があった。


  ―――フフ…上品に言うけど…まるで『一人遊び』だねぇ―――


  ぴちゃ、ちゅる、れろ、くちゅっ。
 小さな水音が、真っ暗な病室に響く。
「ふっ…んぐ……ふ…はぁッ…!うるさ…い…!」


  ―――けど、そんなんじゃ駄目だ。なんの意味もない―――


 どんどん体が冷たくなっていく。吸血衝動が落ち着いたんじゃない。
むしろその逆…吸血鬼の方へ肉体が傾いていく。


  ―――我慢する意味なんてないよ。吸いたいだろ―――

  ―――そう…他人の血が吸いたい―――

  ―――若い人間がいいな―――

  ―――女なら、最高だ―――

  ―――そう、彼女―――


「堪えろ…こらえろ…ッ!」


 牙が擦れ合い、がちがちガチガチ小刻みなビートを刻む。

285丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:02


 落ち着け、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫―――――!
この部屋にいるのは僕一人きり。
 吸血衝動の対象になるものが無いんだから、何をどう間違っても吸ったりしない。
ただ、僕一人が辛いだけで済む。安心しろ―――


  きぃぃっ。


「マルミミ…君…?」


  どくんっ。


 心臓が、ひときわ高く脈打つ。

そして―――眼を合わせてしまった。

暗闇の中を精密に捉える、自分の眼を。

使用者の意思に関わらず魂を縛る、吸血鬼の魔眼を。




 マルミミ君の部屋を覗いてみたけど、そっちにはいない。
となれば、たぶん病室の方だろう。
 空き部屋はドアも開けっ放しになっているから、ドアの閉まっている部屋。
ドアノブに手をかけて、ほんの少しだけ考える。

(私…何、やってるんだろ…)

 どうしていいかわからないまま、ふらふらとこっちに来てしまった。
結局のところマルミミ君は、私が何を話してもあの細い目でニコニコしているんだろう。
 それはとても優しくて…残酷な事だと思う。
(いっその事…傷つけてくれればいいのに)
 そうすれば、こんな切ない思いをすることはないのに。
…でも―――やっぱり、彼を見ていたい。
怪我をしているのなら、側にいて、手を握ってあげたい。

 だから。

 だから―――

 くっ、とドアノブを回す手に力を込め、病室に入った。

「マルミミ…君?」


  どくんっ。


 心臓が、ひときわ高く脈打つ。

そして―――見てしまった。

暗闇の中で紅く光る、マルミミの目を。

使用者の意思に関わらず思考を奪う、吸血鬼の魔眼を。

286丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:04





「…傷…大丈夫?痛く…ない…?」

  大丈夫大丈夫大丈夫だから早くここから出て行って、さもないと血が―――

「大…丈夫…だよ。だから…」

  ―――だから早く、この部屋から出て…!

「だから…こっちに、おいで」

「…うん…」

  ―――違う…違う!そうじゃない、早く、早くしないと早く早く早く早く吸いたくて部屋を出て出て出て―――


…そう。もっと、近くに来て」

  駄目だ早くしないと早く早く早く早く出て吸いた血が血が血が血血血が―――

 きゅ、と軽く腰を抱きしめる。

 綺麗な声と、軟らかい髪。優しい香り、甘い肌。

  血血血赤い紅い朱いあああかあかかトロトロとろとロ飲みた飲みの飲みたたたた

 くい、と浴衣の襟元に手をかけて、布を引き落とした。

「…ふぁ…!」
 両手でも掴めなさそうな胸が、たゆん、と揺れる。
薄赤く染まった、彼女の肌。
「………ッ!! !! !!」


 それを見た刹那―――マルミミの『人間』は、闇の底へと消えていった。


「は…ん…ゃぁあ…」
 緩慢な動作で、外気に晒されている胸を両腕で隠す。
胸を見られるのを恥ずかしがってる訳じゃない。
 白い肌に何本も走る、紅い痣。
腕で隠しても、その痣は体中に刻まれている。

「…これ、どうしたの…?」
「ゃ…あ…見ない、で…」
 隠そうとする腕を優しく掴んで、横にどかす。
と言っても、殆ど力は入れていない。
考えてみれば、当然だ。
 吸血鬼の眼は対象者の精神を大きく摩耗させ、心を支配する。

「…自分で、つけたの?」
 無言。多分肯定なのだろう、涙に濡れた眼を見つめた。
「…どうして?」
「ぅぁ…ごめん…なさい…!」
「怒ってる訳じゃないよ…どうして?」
 そっ、と傷の一つを撫でてやる。

「ひぁ…ぁ、洗っても、洗っても…男の人達の…感触が…消えな…くて…
 汚れた躯…ふぁ…マルミミ君に…好きに…なって…貰えない…!」

287丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:05


  ―――ああ、なんだ。そんなことか…馬鹿だね、しぃは。


 す、と頭を撫でる。
両手でそっと頭を固定し、瞳から零れそうな涙を舐め取った。


  ―――僕がそんな理由で、誰かを嫌うことなんてないのに。


 ぴちゃ、ぴちゃ、と目尻を舐めた。
目元だけではなく、額を、瞼を、頬を、耳を、長く伸びた舌が這い回る。


  ―――汚れてる?違うよ。だって、こんなに綺麗な体をしてるじゃないか。


 唇を重ねる。舌先で唇を割り開き、舌を絡めた。
「ふ…んぅ…」
彼女の舌を口腔内に招き入れ、牙で軽く甘噛みする。
 舌が唇から離れると、ねとっこくなったお互いの唾液が、つう、と糸を引いた。


  ―――僕も、君のことが大好きだよ。


 唇から離れた舌が、体を這い回る。
「ふぁ…ゃ…!」
 紅く残る線を、舌がちろちろとなぞる。
胸の上あたりに、少しだけ血の滲む傷を見つけた。
 唇を尖らせて、傷口に吸い付く。
ほんの少しだけ感じる、血の味。

              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
  ―――――そう…食べてしまいたいくらいに―――


 前戯は…ここまで。
はぁぁ、と呼気が漏れる。


 上下四本の太く長い牙が、ぬらり、と光った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

288丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:06
〜オマケ〜「丸耳達のビート Another One 
          ―――の、そのまた Another One」




/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| 今ならまだ間に合う。                                 |
| 『魂食い』を渡せば殺しはしない…                      |
\                                           |
   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                         |
                       yahoooo!yahoooo!          |
     ∧∧                    ((从ル))                 |
    (,,゚Д゚)                  ル*´∀`)リ.             |
    (|  |)                 ノミ.三三つ ∩_∩.         |
   〜|  |                   ミ===)   (´д`;) o.       |
     し´J                   (ノ ヽ)  と と    ̄⌒つ    |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

289丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:07

               yahooyahooyahooyahoo!
    ∧∧          yahooyahoo((从ル))yahooyahoo!
   (,, Д )         yahooyahooル*´∀`)リyahooyahoo!
   (|  |)        yahooyahoo ノミ.三三つ ∩_∩
  〜|  |          yahooyahoo ミ===)  (´Д`;) o
    し´J          yahooyahoo(ノ ヽ)  と と    ̄⌒つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

290丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:07
ちっと                  くらい

            ∧∧
           (#゚Д゚)  ((从ル))  
           /   三⊃)#∀`)リ<yahooyahooyahoo!
          (   /  ノミ.三三)
         /// )  ミ===)
          (_/ (__)  (ノ ヽ)
         
          
黙れや                    ゴルァ!

291丸耳達のビート:2004/05/08(土) 23:10




 お前はいつもいつも
 人が話してる中…!

 yahoo!yahoo!
 yahooooooooooooo!!
\                   ∩_∩
                    (´Д`;) o
                   と と    ̄⌒つ

                俺…こいつら倒すために…
                  何するんだったっけなあ……

                                     END

                            スペシャルサンクス:新スタンド図スレの名無しさん。

292新手のスタンド使い:2004/05/09(日) 00:10
激動の第三段!! 〜スタンドで痴漢は倒せるか!?〜

モナー
そーーーーっ「モナァッ!!」バシッ!!
さわさわさわさわさ「・・・痴漢までスタンド使いだなんて聞いてないモナッ・・・ッ」
ギコ
そそーーーーっ「ゴー――――」スゥゥゥゥゥ
「ルァ!!」ビリビリビリ!!!!
どさっ「倒したか」
モララー
「痴漢者を虐待するからな」モラモラモラモラモラモラモラ
おにぎり
「・・・・やらないか」
ささささ―ッ「なんでそんなにひくの」
リ(ry)
(イッツアスモールワールド!)ドォ――――――z―――ン
サワサワワさ(エロスモホドホドニナ)
モ(ry)
(ィッツアスモール)ズバババッ
「こま切れにしてやるゼィ!!」
で(ry
・・・・・さわさわわさわさわ「・・・・・」
?・・・・さわさわさわ(ry


成功者:モララー、ギコ モ(ry)

次回予告!
なかなか結ばれないギコとモナー!核ミサイルが落ちる前に二人はスタンド使いを倒せるか!
次回「夏のロンド」

293:2004/05/09(日) 19:17

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その2」



          @          @          @



 雨がざあざあと降りしきる。
 巨大な橋の歩道を、茶色い合羽のようなものを被った1人の男が歩いていた。
 男は、口に煙草を咥えている。

 眼下には大きな川。
 車道には、夜にもかかわらず多くの車が走っている。
 車のライトは、まるでイルミネーションのように周囲を照らしていた。
 男を除いて、歩道に人影はない。

 コツコツと響く男の靴音。
 車が弾いた雨滴が、男の合羽に当たる。
 かなり気温は低い。
 それにもかかわらず、男が白い息を吐かないという事実は、見る人が見れば気付いたであろう。
 男はくわえていた煙草を摘むと、無造作に車道に投げ捨てた。

 ふと、男の足が早くなった。
 その筋肉質な体躯を駆使し、歩道を疾走する男。
 男は、そのまま羽織っていた合羽を脱ぎ捨てた。
 合羽はふわりと宙を舞う。

 バチッという弾けるような音。
 合羽の下に、男の姿は目視できなかった。
 …まるで、透明人間のように。
 ただ、その輪郭が僅かに歪んでいるのみ。
 体の透けた男は、走るスピードを緩めない。
 そのまま、男は橋の手摺を飛び越えた。
 男の体躯が、眼下の川に躍る。

 両手を大きく広げYの字になった男の体は、そのまま真っ直ぐに落下していった。
 真下には、大きな貨物船。
 男は船の壁面を蹴りつけると、そのまま甲板に着地した。
 周囲に着地音が響く。

「…ん?」
 銃を持った乗員が、音の方向に視線をやった。
 男は素早く身を隠す。
 もっとも男の姿はほぼ透明なので、その必要はない。
 条件反射のようなものだ。

「…どうした?」
 乗員の1人が訪ねる。
「いや、気のせいだったようだ…」
 音を聞きつけた乗員は、ため息をついた。
「第2甲板、異常無し」
 乗員の1人は無線機に告げた。
 そのまま、2人は前部甲板に向かう。

 2人が手にしていたのは、陸上自衛隊の制式装備、89式小銃。
 どうやら、この船で間違いないようだ。
 男は、無線機のスィッチを押して言った。
「首相官邸に向かう貨物船に潜入した。このまま任務を続行する…」

294:2004/05/09(日) 19:18



          @          @          @



「…おっ、来たようだな」
 ギコは腰を上げた。
 インターホンが鳴ったのだ。
 誰も返事をしていないにもかかわらず、玄関の扉が開けられた。
 そのまま、ずかずかと廊下を進む足音が近付いてくる。

「で、誰が来る事になりました?」
 局長は、居間に上がり込むなり口を開いた。
「…ここにいる5人だ」
 ギコは、居間にいた全員を示す。

 ギコ、しぃ、モララー、レモナ、つー…
 その5人の顔を、局長は順番に眺める。
「モナー君とリナー君がいませんね…」
 局長は腕を組んで言った。

 ASAの作戦に関わっている以上、彼等の行き先を他に漏らすわけにもいかない。
 ギコは、適当に誤魔化す事にした。
「あの2人は… えっと、深夜の逢引きだゴルァ!」
「ギコ君、今どき逢引きって…」
 しぃは呆れたように呟く。

「…分かりました。家の前に車を停めてあるので、乗ってください」
 局長がくるりと背を向けた。
「その前に…」
 ギコは、局長の背中に話しかけた。
「お前は、『誰が来る事になりました?』って言ったな。
 『話は決まりました?』なら分かる。朝にお前がいた時は、協力するかどうかでモメてたんだからな。
 任意の意思で参加を選ぶ事になったのを、なんでお前が知ってる…?」

 それを聞いて、しぃは思わず周囲を見回した。
 考えられる事はただ1つ。
 盗聴…!!

 ギコの方に振り向いて、ため息をつく局長。
「…その矛盾に気づいた注意力はよし。もっとも、私なら気付かない振りをしてましたけどね…」
「そんなモンを、せこせこ利用する気はねぇよ」
 ギコは不服そうに言った。

「ふむ、父親に似て潔いですねぇ…」
 局長は笑みを見せる。
「防諜の駆け引きは、フサギコから教わったんですか?」
「…へっ。親父から教えられたのは、アイロン掛けとベッドメイキングだけだぜ」
 ギコは吐き捨てた。

「…まあ、今は無駄話をしている時間はありません。
 今夜のうちに政府の要人約20人を救出して、こちらで保護しなければいけませんからね」
 局長は再び背を見せて言った。
 …確かにそうだ。
 今こんな事を言ってしまえば、全員の士気にも影響するだろう。
 少しだけギコは反省する。
 そしてギコ達は一斉に立ち上がると、局長の後に続いて居間を出た。

295:2004/05/09(日) 19:18


 家の前には、見慣れない車が止まっていた。
 緑がかったグレーの軽トラック。
 しかし荷台の部分と正面には、白地に赤い十字マークがペイントされていた。
 ナンバープレートも、通常の車両とは大きく異なっている。
 白地に、『08−129×』の文字。
 最後の1文字は擦れて読めない。

「防衛庁用ナンバープレート… 自衛隊車両か?」
 ギコの質問に、局長は頷いた。
「陸上自衛隊衛生科の戦場救急車ですよ。衛生課の救急救命士を装って、首相官邸に潜入します」
 そう言って、局長は助手席に乗り込んだ。
 リル子はすでに運転席に座っている。

「後ろは開いているので、乗って下さい」
 局長は助手席から顔を出して言った。
 ギコ達は、救急車の後部に乗り込む。
 当然救急車にあるべき担架や、救命設備は全くない。
 どうやら、完全な擬装用のようだ。
 ギコ達は、後部に備え付けられた座席に腰を下ろす。
 リル子が座っている運転席の後ろには、包帯やベルトが何重にも巻かれているアタッシュケースが置いてあった。
 やはり、これはリル子にとって重要な物のようだ。
「全員乗り込みましたね…」
 そう言って、リル子はアクセルを踏んだ。


 通常の車両ではありえない速さで、夜の道路を疾走する救急車。
 他の車が次々と道を開ける。
「すごーい、さすが救急車だね…」
 モララーは感心したように言った。

「意外と、道路が混んでますねぇ…」
 局長は呟く。
 リル子が運転しながら口を開いた。
「戦争だろうと何だろうと、人々の日常はそう簡単には変わらないのでしょう。
 …戦火が傍まで迫らない限りは」

「練馬では、既にASAと自衛隊の部隊が激突しているようです」
 局長は後部座席の方を振り向くと、ギコ達に告げた。
「練馬って… 思いっきり市街地だろうが!!」
 ギコは声を荒げる。
 局長は僅かに表情を歪めた…ように見えた。
「…当然、付近住民の避難も間に合っていないでしょう。非戦闘民に犠牲が出るのは避けられません」

「…ッ!!」
 ギコは唇を噛む。
 局長は構わず話を続けた。
「それだけではありませんよ。
 報道されてはいませんが、内閣安全保障室長をはじめ数人の要人が暗殺されています。
 指示を出したのは、統合幕僚会議議長…君の父親です」

「あの、クソ親父ィィッ!!」
 ギコは怒声を放った。
 そのまま、椅子に拳を叩きつける。
「国民を守るのが自衛官の務めじゃなかったのかァッ!!」

 ギコの口調とは打って変わって、局長は静かに言った。
「…要人粛清は、おそらくそれに留まらないでしょう。
 こんな凶行は、一刻も早く終わらせなければならない」

「それで、要人を保護するのかい…?」
 モララーが訊ねる。
 局長はそれに頷いた。
「ええ。 …まず、政治的方面の話をつけます。
 今の自衛隊は、一部の幕僚の独断によって動いている事を示さなければならばい。
 国と切り離してしまえば、彼等はただの反乱軍です。
 『速やかに現在の位置を棄てて歸つてこい』というヤツですよ。
 その為に、この要人救出は大きなキーポイントになります」

 局長の言葉が途切れるのを待って、ギコは言った。
「で、具体的な作戦の概要が聞きたいな…」
 局長は眼鏡の位置を正す。
「監禁されている要人達の所に行くまでは、救命士を装います。
 それまでに騒ぎを起こして、要人達が殺される…、と言うのは最悪の結果ですからね。
 それ以降は、多少強引に官邸を脱出して、付近に停めてあるヘリに乗り込みその場を離れます。
 20人もの要人を守りながらヘリまで誘導するんですから、かなり面倒な仕事になるでしょうね」
 そして、ギコに地図のような物を渡す。 
「首相官邸の見取り図です。単独行動する機会はないでしょうが、念の為に頭に入れておいて下さい」

「…で、その20人はどこで保護するんだ?」
 ギコは、暗記した見取り図をモララーに渡してから言った。
 まさか、モナーの家じゃないだろうな…
 またモナーが泣くぞ。

「公安五課が極秘裏に保持している場所があります。そこで匿いますよ」
 局長は言った。
「…以降の政治的取引は私達の仕事です。君達に面倒はかけません」

296:2004/05/09(日) 19:19

 救急車が警官に止められた。
 ギコ達は息を呑む。
 リル子が身分証明書のようなものを見せると、警官は慌てて敬礼した。
 そのまま、救急車は容易く検問を越える。
「…ドキドキしたね」
 しぃは少し笑って言った。

「…結局、私達はどうすればいい訳なの?」
 レモナは訊ねる。
 局長は後部座席の方に体を傾けた。
「要人を保護するまでは、大人しくついてきてもらいます。
 彼らと合流した後は、とにかく向こうの追撃から要人を守って下さい」

「私に戦いなんてできるのかな…」
 しぃはため息をついた。
「大丈夫だゴルァ。昨夜に代行者と戦った時、能力を使いこなしてただろ?」
 ギコはしぃの肩を軽く叩く。
「あの時は、咄嗟だったから…」
 しぃは視線を落とした。

「…オレのスタンド能力の破壊力は、イメージの強さで決まるんだよ」
 いつの間にか現れていた『アルカディア』は言った。
「イメージの強さ?」
 しぃが復唱する。
 『アルカディア』は頷いた。
「お前の『破壊のイメージ』は、かなり薄いんだよ。オレもどっちかって言うと得意じゃないがな。
 オレは主に『朽ちる』とか、風化して滅ぶイメージを使ってる。
 お前も、自分に合った攻撃イメージを見つけ出した方がいいな」

「自分に合ったイメージ、か…」
 しぃは呟く。
「こればっかりは、オレからは助言できねえな。自分で見つけなきゃ意味はねぇ」
 そう言って、『アルカディア』は引っ込んでいった。
「イメージか… 私に出来るのかな…?」
 しぃは肩を落として呟く。

「まあ、お前はスタンドが自分の意思で使えるようになって短いからな。
 今は焦って無理しなくてもいいさ…」
 ギコは、優しく言った。
「ツギニ オマエハ、『ソレマデ、オレガ マモッテ ヤルカラ』トイウ…」
「それまで、俺が守ってやるから…」
 つーとギコの言葉が重なる。
「はッ!!」
 ギコが驚愕の表情を浮かべた。

「オンナッタラシノ コトバ ナンテ、カンタンニ ヨソウ デキルゼ! アヒャ!」
 つーはニヤニヤと笑った。
「この…!」
 ギコは唇を噛む。

「…貴方達、恋人同士かしら?」
 運転しながら、リル子は声を掛けてきた。
「そうですけど、何か?」
 しぃは困惑しつつ答える。

「じゃあ、気をつけなさい。その彼氏、同時に複数の人間と付き合えるタイプみたいだから…」
 リル子は、しぃの方に視線をやって言った。
 完璧なヨソ見運転だ。
「一目で奴の性質を見抜くとは… さすがリル子さん!!」
 モララーが感心したような声を上げる。
 そのモララーの後頭部を、ギコの拳が直撃した。
「…いい加減な事を言うな、ゴルァ!」
「アアン!」
 モララーは頭を押さえてうずくまる。

「そこら辺も、ある程度了承済みですよ…」
 しぃは低い声で呟くように言った。
「ち、違うぞ! 俺は…!」
 慌てるギコを、しぃは無言で睨みつける。
「しぃちゃん、耐える女ってやつね!? おっとな〜〜!」
 レモナが嬉しそうにはしゃいだ。
「…ゴルァ」
 ギコは救急車の隅っこで小さくなっている。

「男ってのは、一度寝た相手には冷たくなるものなのに。フフ…」
 リル子はため息をついた後に軽く笑った。
「…それは当てつけですかね?」
 局長は腕を組んで、不満そうに座席にもたれる。
「誰に対してです? 何かお心当たりでも?」
 そう言って冷たい笑みを浮かべるリル子。
 それ以降、車内で会話は無かった。

297:2004/05/09(日) 19:19


 首相官邸の近くの空き地で、救急車は停車する。
「少し着替えるんで、降りてくれませんか…?」
 リル子は言った。
 局長とギコ達は車から降ろされる。
 当然ながら、周囲に人影はない。

「かなり警備は厳しいな…」
 近くに臨む首相官邸を見上げて、ギコは呟いた。
 ここに来るまでに、多くの武装した自衛隊員を目にしたのだ。
「僕達は、着替えなくてもいいの?」
 モララーが訊ねる。
「君達はどんな格好をしたって不自然なので、そのままでいいですよ。
 誤魔化すのは外の見張りだけです。中に入った後は、進路上の見張り全員に眠ってもらうんで」

「応援を呼ぶ前に全員ぶっ倒すのか!? この人数じゃ無理だろう…?」
 ギコは驚いて言った。
 官邸の外ですら、石を投げたら自衛隊員に当たるほどの有様なのだ。
 官邸内の警備はかなり厳しいだろう。
 音も立てずに全員を倒せるとはとても思えない。

 局長はネクタイの位置を正した。
「その為のリル子君ですよ。彼女は単なる嫁き遅れじゃありません。
 嫁き遅れには、嫁き遅れる理由というものがあります。
 何せ、彼女は公安五課におけるたった1人の強襲班員ですからね」

「たった1人なのに、強襲班…?」
 ギコは呟いた。局長は静かに頷く。
「彼女にとっては、1人で敵地に飛び込む方が楽なんですよ。
 余計な足手纏いがいませんし、攻撃に巻き込む心配もありませんからね。
 今回は、要人救出後の護衛という事で私達が同行する訳ですが…」

 救急車の後部扉が開き、白衣を身に纏ったリル子が降りてきた。
 どう見ても立派な女性看護隊員だ。
 ただ、異様なアタッシュケースだけは浮いているが。
 
「なかなか女装もサマになっていますね…」
 局長は薄い笑みを浮かべて言った。
「局長殉職後は私が後を継ぎます。迷わず逝って下さい」
 リル子がアタッシュケースを開こうとする。
「…冗談ですよ。『アルティチュード57』の発動は、突入時まで控えるように…」
 局長はため息をついた。

 ギコは、一同の顔を眺める。
 そして、右手を真っ直ぐに差し出した。

「しぃ!!」
 ギコは、大声でしぃの名を呼んだ。
「はい!」
 しぃが、ギコの差し出した握り拳の上に自らの掌を重ねる。

「モララー!!」
 さらに叫ぶギコ。
「おう!」
 モララーが、ギコとしぃの手の上に掌を重ねる。

「レモナ!!」
「はーい!」
 3人の手の上に、レモナは掌を置いた。

「つー!」
「アッヒャー!」
 最後に、つーの小さな手が被さる。

「死ぬ気でやるぜ! でも死ぬな! 以上!!」
 ギコは叫んだ。
「オ―――ッ!!!」
 全員が気合を入れる。

「私は無視ですか…?」
 その様子を見て、局長は呟いた。
「仲間に入りたかったんですか?」
 リル子は局長に冷たい目線を送る。
「…まさか」
 局長はそう言って、スーツのポケットに腕を突っ込んだ。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか」
 ポケットの中で、局長は発火装置のボタンを押す。
 轟音が響き、首相官邸正面門付近から火の手が上がった。
「今の爆発で、警備兵が何人か負傷したでしょうね」
 局長はそう言って、全員の顔を見る。
「『騒ぎを起こして、要人達が殺される…、と言うのは最悪の結果』って言わなかったか、ゴルァ!」
 ギコは呆れて言った。
「公安五課では、あの程度を騒ぎとは言いませんよ」
 そう言って、局長は背を向ける。
「さて、救急班のお出ましと行きましょうか…!」

298:2004/05/09(日) 19:21


          @          @          @



「うわぁぁぁぁぁッ!!」
 僕の体は壁に激突して、畳の上に転がった。
 いっぱい血が出ている。
 …痛い。すごく痛い。 

「おにーさん!!」
 簞ちゃんが、僕に駆け寄ってきた。
「さて、考えは変わりましたか…?」
 黒いコートを纏ったその男は、口許を笑みに歪める。

 この男は、いきなり僕の家に乱入してきた。
 そして、簞ちゃんに何かの譲渡を迫ったのである。
 簞ちゃんがそれを断った瞬間、これだ。
 断ったのは簞ちゃんなのに、何で僕が…?
 とも思ったが、目の前で簞ちゃんが殴られるのを見るよりはマシだ。


「さあ、赤石を渡してもらいましょうか…」
 男は簞ちゃんに歩み寄った。
 忘れもしない、こいつは世界史の新任教師だ。
 そして、どうやら『教会』の人間…!

「誰が、あなたなんかに…!!」
 簞ちゃんは、男を睨みつける。
 男は軽く肩をすくめた。
「全く… 強情ですね、貴女は。痛い目を見るのは、貴女自身ではないと言うのに…」

 男は、僕を守るように立ちはだかる簞ちゃんを押しのけた。
「…あッ!!」
 簞ちゃんは畳の上に倒れる。
 そのまま、男は僕の傍らに立った。
「貴方も、痛いのは嫌でしょうにねぇ…」
 そう言って、僕を見下ろす男。
 その瞬間、男の蹴りが僕の腹に食い込んだ。
「げふっ…!」
 その衝撃に、激しく咳き込む。
 息が…!!

「…止めて下さいッ!!」
 簞ちゃんは起き上がると、懐から何かを取り出した。
 真っ赤な宝石。
 おそらく、目の前の男が欲しがっているもの。

 …駄目だ。
 それを、こいつに渡しちゃ駄目だ!!

「来い、8頭身ッ!!」
 僕は叫んだ。
 3人の8頭身が、目の前の男に飛び掛る。
「貴方は、少し黙っていてください…」
 そう呟く男。
 同時に、8頭身達はバラバラになった。
 そして、右手に衝撃…!!

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
 僕は叫び声を上げた。
 右掌にバヨネットが突き立てられていたのだ。
 それは掌を貫通し、畳に突き刺さっている。
 僕の右手は、完全に縫い止められてしまった。

「止めてください! 赤石は渡すのです!!」
 簞ちゃんは叫んだ。
 駄目だ…
 それだけは、絶対に駄目だ…

「これを渡せば、おにーさんには手を出しませんね?」
 簞ちゃんは赤石を掲げて言った。
 男は満足げに頷く。
「ええ。約束しましょう。本音を言えば、それを頂いて一刻も早く帰りたいんですから。
 それのデータ採取に、どれだけかかるか分からない。
 過去に着手した事があるといっても、2週間以上はかかるでしょう。
 何としても、この局面に『彼』を投入したいところですからね…」

 駄目だ。
 このままじゃ、エイジャの赤石はこいつの手に…!!
「くっ…!」
 僕は右手に力を込めた。
 だが、深く突き刺さったバヨネットは抜けそうにない。

299:2004/05/09(日) 19:22

 ――バヨネット?
 なんで、僕はこの刃物の名前を知っている?
 『異端者』とやらが扱っているのを見た覚えがある。
 だが、名前までは聞いていないはずだ。
 なんで、僕は――

「分かりました…」
 簞ちゃんは言った。
 そして赤石を男に投げ渡す。
 男は受け取ると、赤石を掲げ見た。
「この石に再び相対するのは、何十年ぶりだったかな…?
 貴女が持っていることに今まで気付かなかった、我が愚鈍を呪うばかりですね。
 これさえあれば… 擬似的ではあるものの、究極生物に近いモデルが完成する…!」

「究極生物…?」
 簞ちゃんは呟く。
 男は、赤石をコートの中に仕舞った。
「貴女も、あの男から赤石を受け取っただけでしょう?
 決して私に渡すななどと言われただけで、これが何かまでは知らないはずです。
 究極生物という名前を知る者は少ない。その存在を信じている者は、おそらく私一人…!」
 そう言って、男は両手を大きく広げた。
「究極生物とは、その身に全ての生物の遺伝情報を記憶している。
 それなら、遺伝情報を書き換える事の出来るスタンドであれば、擬似的にそれが再現できると思えませんか…?」

「…?」
 簞ちゃんは呆気に取られている。
 男は言葉を続けた。
「自らの遺伝情報を書き換えられるのだから、当然老いたりはしない!
 その生物的回復能力を用いれば、決して死ぬ事はない!
 あらゆる生物の能力を兼ね備え、しかも上回る!
 食った遺伝子を取り込める『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』ならば…
 その無敵の存在を擬似的に造り出せる!!」
 熱にうかされたように語る男。
 ふと、我に帰ったように簞ちゃんを見据えた。
「…では、貴女の命、頂いていきましょうか…」
 男は、コートからバヨネットを取り出す。

「なッ…!」
 こいつ…ッ!!
 僕は、右手に力を込めた。
 バヨネットは抜けない。
 掌から噴き出した血が畳を濡らす。

「私は、貴女に手を出さないと言った覚えはありませんからね…」
 簞ちゃんの方に一歩踏み出す男。
 その周囲に、ワイヤーが瞬いた。
 いつの間にか、簞ちゃんはあの武器を手にしている。
 男の体を切り刻むはずのワイヤー。
 それらは、全て空中で燃え尽きてしまった。

「綾取り遊びは、またの機会にしてもらいましょうか…」
 男はバヨネットを掲げて、簞ちゃんに歩み寄る…

「…ッ!!」
 僕は空いている方の左手で、バヨネットを掴んだ。
 そのまま、一気に引っこ抜く。

「止めろッ!!」
 そして、僕は男に怒鳴った。
「ほう… なかなか頑張りますね。師弟愛か兄妹愛か知りませんが、なんと泣かせる…」
 男は、薄笑いを浮かべながら僕の方に振り返る。
 その笑みは、もう見飽きたんだッ…!

 僕はそのまま…
 そのまま、バヨネットを逆手に構えた。
 僕は何をしているんだ?
 刃物なんて、包丁しか持った事はない。          眼
 僕は、ただの高校生なんだぞ。               前
 あんな化物に、敵うはずなんてない。              ノ
 無理だ。無理だ。無理だ。                       敵
 立ち向かったって、返り討ちに合うに決まってる。     ヲ
 無駄に命を落とすだけだ。                   破
 僕はちっぽけな小市民なんだ。                    壊
 力なんて、何もない。                             セ
 何故って…?                                 ヨ
 最初から、僕はそう造られたから…                 |
                                         |
(−me■tal s■etch m■difi■d−…!!)



 バヨネットが一閃し、男の右腕が宙を舞う。
 男は瞬時に身を逸らしたらしく、右腕を切断しただけに留まった。
 畳の上に血が飛び散る。

300:2004/05/09(日) 19:24

「…」
 男は呆けたように右手の切断口を見て、次に僕の顔に視線をやった。
「…どういう事だ?」
 信じられないと言った風に、ポツリと呟く男。
 本当に、どういう事なんだ…?

 男の右腕がいきなり元に戻った。
 まるで、ビデオの巻き戻しのように。
 再生したばかりの右手を、自らの額に当てる男。
 何かを考えているように…

 しばらくして、男は狂ったように笑い出した。
「ハハハハハッ!! …なるほど。この私が、図を読み違えていたましたか。
 なぜ貴女が他の代行者と別行動を取っていたか、これで納得できました」
 男は、そう言って簞ちゃんの方向に視線をやった。
 それを無言で睨み返す簞ちゃん。
 男は笑いながら髪を掻き上げた。
「…実に面白い。そうか、そういう事か。
 まさか、もう1組仕立て上げようとしていたとはね。思えば、良く似通っている…」
 そう言って、黙り込む男。

「…さて、私は帰りましょう。貴女に構っていられるほど、退屈な身ではないのでね」
 男は、コートの裾を翻した。
 その姿が、周囲に溶け込むように消えていく。
「では、滅びつつある姉によろしく…」
 そう言い残して、男の姿は完全に消えてしまった。

「おにーさん、大丈夫ですか…?」
 簞ちゃんが僕に駆け寄ってくる。
「ああ…」
 バヨネットを落として、力無く頷く僕。
 簞ちゃんは、僕の腹と腕にそっと手を当てた。
 徐々に痛みが引いていく。
 波紋で痛みを消してくれたのか。

「ごめんよ、僕のために…」
 簞ちゃんは、あの男に赤石を渡してしまった。
 あれは、簞ちゃんにとって大切な物だったはずだ。
 しかし、簞ちゃんは首を横に振った。
「おにーさんがいなければ、私は殺されて赤石を奪われていたのです。
 結果が同じなら、2人とも生きていただけ得なのです」
 そう言って笑顔を見せる簞ちゃん。

 でも、さっきのは一体…
 僕は、床に落ちている血塗れのバヨネットを見た。
 そして、さっきの男は言っていた。
 …『なぜ貴女が他の代行者と別行動を取っていたか、納得できました』と。

「簞ちゃん…」
 僕は、視線を上げた。
 僕の年齢をあらかじめ知っていた矛盾。
 先程の男の言葉。
 簞ちゃんを疑いたくはない。
 でも…

「何の為、僕の家に来たんだい?」
 僕は、その疑問を口にした。
「おにーさんを監視する為。そして、モナーさんと接触させない為なのです…」
 隠しきれないと悟ったからか、簞ちゃんはあっさりと言った。

「でも簞ちゃんと出会わなかったら、モナーとも話す機会はなかったと思うんだけど…」
 そう言って、僕は自らの過ちに気付いた。
 3ヶ月ほど前に学校でモナー達と話して以降、彼とは接触しないように釘を刺されていたのだ。

 簞ちゃんは、決心したように口を開いた。
「私の表向きの任務は… 『異端者』の周囲を調査し、命令があれば速やかに抹殺する事。
 ですが、それに加え枢機卿から密命を受けていました。それが、おにーさんの監視なのです。
 他の代行者の方も、こちらは知らなかったはずです。
 何か私が別の任務を受けているらしい事は気付いていたようですが…」

301:2004/05/09(日) 19:24

 『代行者同士でも、誰がどの任務を扱っているのかは分からない』。
 かって、簞ちゃんはそう言っていた。
 だが、簞ちゃん自身が密命を受けていた訳だ。

 簞ちゃんは視線を落とした。
「最初は、離れた所から監視しようかと思っていたのです。
 でも、何も知らないおにーさんは私を家に置いてくれた。だから、せめて兄妹みたいに…」
 そう言って、声を詰まらせる簞ちゃん。
「簞ちゃんが何かを隠していたのは、前から分かっていたよ。
 でも、簞ちゃんは何度も僕の身を守ってくれた… だから、そんなの関係ない」
 僕は、なるべく優しい笑みを浮かべて言った。

「…ごめんなさい」
 簞ちゃんは、涙に潤んだ瞳を僕に向ける。
 これだけ優しい心を持った少女が、同居する人間を3ヶ月以上も騙してきたのだ。
 その心の痛みは、僕なんかには窺い知れない。

 簞ちゃんは、立ち上がると周囲を見た。
「このアパート、いつから住んでいるか覚えていますか?」
 突然、妙な事を訊ねる簞ちゃん。
「…え?」
 そう言えば、全然覚えていない。

「なぜおにーさんの両親が同居していないか、覚えていますか?」
「…!!」
 そんな事、今まで考えた事もない。
 僕は、長い間一人暮らしだった。
 両親なんていない。

 ――なんでいないんだ?
 今まで、疑問にも思わなかった。
 それは、すごく異常なことじゃないか?
 まるで、生まれた時からこのアパートで一人暮らしをしていたように錯覚していた。
 だが――

「…暗示をかけられていたのです」
 簞ちゃんは、真剣な表情で言った。
「暗示だって…?」
 僕は、簞ちゃんの瞳を見据える。

「おにーさんは、自分の境遇に疑問を抱かないよう暗示をかけられていたのです。
 ですが、相当古い暗示だったのでしょう。
 他人から指摘されるだけで効力が切れてしまったようなのです」
 簞ちゃんは、僕の事を思いやるように言った。

「暗示だって…!? 一体誰が!!」
 僕は、思わず叫んだ。
 簞ちゃんは視線を落とす。
「…そこまで長期間の暗示を使いこなせる人物は、たった1人。
 でも、多分その人の独断ではないでしょう。その裏には…」
 簞ちゃんは言葉を切った。
 その事実を信じたくはないのか…
 …いや。簞ちゃん自身、不審を抱いていたではないか。

 ――『教会』。

 その不気味な存在が、僕の脳裏に飛来する。

「ここを出て行くなんて言わないよね…」
 僕は、簞ちゃんに言った。
「…はい。もうしばらくは、おにーさんの妹でいさせてもらうのです」
 視線を上げて微笑む簞ちゃん。
「…しばらくじゃない。ずっとだよ」
 僕は、簞ちゃんを見つめて言った。


 時が動き出した。
 僕の眠っていた時間が、本格的に動き出した。
 もう、偽りの日常に埋没する気はない。
 ――これからだ。
 僕の物語は、多分これから始まるのだ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

302ブック:2004/05/09(日) 23:22
     EVER BLUE
     第九話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その二


 『フリーバード』のカーゴケイジのハッチが開き、
 その中から一つの機体がせり出てくる。
 透き通るような青色をベースにしたカラーリングの、
 両翼がやや長めの小型プロペラ戦闘機。
 前部の運転席と後部の砲撃席とに座席が分かれており、
 機体前方に加えて、後部座席にも機銃が備え付けられている。
 その形状から、『フリーバード』の面々はこの機体の事を『トンボ』と呼んでいた。

「カウガール、高島美和、行っきまーーす!」
 カウガールが無線を通して、ブリッジに向けてそう叫ぶ。
「おう、思う存分掻きまわして来い!」
 サカーナの野太い声が、無線越しに伝わってきた。

 エンジン起動。
 プロペラがどんどん回転速度を増し、
 車輪が甲板上に設けられた滑走路を流れるように滑り―――

 ―――飛翔。

 高島美和とカウガールの体が、重力という名の鎖から解き放たれる。

「…いつもの事ですけど、離陸する度に死ぬかと思っちゃいますね。」
 運転席にカウガールがほっと胸を撫で下ろした。
 この『フリーバード』は、予算の都合上あらゆる面において極限まで切り詰めている。
 無論それは滑走路とて例外ではなく、
 離着陸の為の最低限のスペースしか有していないのだった。

「全く、これだからこの船は…」
 高島美和がうんざりした顔で呟いた。

「高島美和さん、『シムシティ』での索敵、お願いできますか?」
 カウガールが顔だけを後ろに向ける。
「ええ、分かったわ。」
 高島美和の体から、テニスボール大の目玉に蝙蝠のような羽がくっついた
 四体の謎の生物のスタンドのビジョンと、
 画面が四つに分かれた26インチテレビ程度の大きさのディスプレイ型の
 スタンドビジョンが浮かび上がった。

「行きなさい、『シムシティ』。」
 三体の目玉蝙蝠が、一匹だけを機体の中に残して『トンボ』の中から外へと飛び立った。
 それに合わせて、ディスプレイの三つの画面が目まぐるしく変化していく。
 『シムシティ』の目玉が、そこに映ったものを記号化・数値化して
 高島美和のディスプレイへと転送する。
 それ故、ディスプレイに映るのは数字や記号ばかりであり、
 一見しただけでは何が何だか分からないものであった。

「…敵の数、十四機。」
 高島美和はそのディスプレイを数秒覗き、呟いた。

「もしも〜し、あなた達は何者ですか〜。
 何か反応してくれないと、敵意有りと見なして攻撃しますよ〜。」
 カウガールが無線で敵プロペラ戦闘機に呼びかける。

「!!!!!!」
 しかし、返って来たのは言葉ではなく、機銃による弾丸掃射であった。
 間一髪、カウガールは機体を傾けて銃弾をかわす。
 飛来した弾丸は直撃こそしなかったものの、
 『トンボ』の表面の着色料を少しこそぎ落とした。

「…敵意まんまんですね。
 そしてあの赤い鮫のロゴマーク、矢張り『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)。」
 高島美和が溜息をついた。
「酷い!いきなり撃ってくるなんて!
 そっちがそう来るなら、こっちも本気で行かせて貰います!!」
 カウガールが操縦桿を強く握った。
 そのまま『トンボ』を雲の中へと突っ込ませ、
 編隊を組んで飛行する敵機から身を隠した。
 当然それはこちらからも敵の姿が見えなくなるということであるが、
 そのデメリットは高島美和によって解消される。

「カウガール、この方向のまま直進すれば、
 計算上十五秒後に敵編隊の右側面に出る筈です。
 横っ腹からありったけ喰らわせてやりなさい。」
 ディスプレイを見ながら、高島美和がカウガールに伝えた。
「了解(ヤー)。」
 高島美和の言葉通り、雲を割って『トンボ』が敵編隊の右側面から現れる。

「堕ちろ蚊蜻蛉!!」
 『トンボ』の前方の機銃が火を吹いた。
 鉛の死神が不運にも銃口の直線状にいた機体に喰らいつき、
 その翼を食い破って地の底へと堕とす。
 敵機が横からの奇襲を受けて、隊列を崩して散り散りに飛び去る。

「!!!!!」
 『トンボ』がその内の一機と近くをすれ違った。
 その時の風圧が、『トンボ』の機体を強く揺らす。

「危ない危ない…もう少しでぶつかる所でした。」
 カウガールが冷や汗を拭った。
「『チャレンジャー』は送り込んでおいたの?カウガール。」
 高島美和がカウガールに尋ねる。
「ええ、ばっちり。」
 カウガールがガッツポーズをしながら微笑んだ。

303ブック:2004/05/09(日) 23:23



 と、先程『トンボ』とすれ違った敵機が大きく傾いた。
「……!!」
 中のパイロットが必死に機体を立て直そうとするも、
 機体はさらに大きく揺れる。
「……!!!」
 パイロットがパニックを起こす。
 彼の目の前には、手乗りサイズの毛むくじゃらの子鬼の姿の生物達が、
 計器類に取り付いているのだが、
 パイロットにはその姿が見えてはいなかった。

「キャモーーーーーーーン!!」
 子鬼達が叫びながら小躍りを始める。
 それに合わせて、さらに機体が激しく上下する。

「OOAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
 パイロットが絶叫した。
 機体は完全に制御不能に陥り、そのまま見方の機体に向かって突っ込んでいく。

「AAAAAAAAHHHHHHAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
 必死の抵抗も虚しく、両者は空中で激突し、
 そのまま爆破、炎上しながら墜落していった。



「…ありがとう、『チャレンジャー』。」
 自分の手元に戻って来た子鬼達の頭を、カウガールが優しく撫でた。
 そして、子鬼達はカウガールの体へと戻っていく。

「…敵機、後方より三機接近中、ですか。」
 ディスプレイを眺めながら高島美和が呟いた。
 同時に、後ろから『トンボ』に向かって機銃が連発される。
「うひゃあ!?」
 機体を旋回させながら、カウガールが何とか銃弾を回避した。

「仕方がありません。露払いといきますか。」
 高島美和が後部座席に取り付けられている機銃を握った。

 ディスプレイを、見る。
 四つに分かれた画面に映る数字数字数字。
 そこから、読み取る。
 敵機との距離を、風速を、風向を、自機の機銃の銃口の角度を、
 自分の移動速度を、敵機の移動速度を、
 それら全てを読み取り、
 それら全てを考慮に入れ、
 それら全てを活用して、
 作式、演算、解式、そして―――


「―――Q.E.D」
 証明終了。
 弾き出した回答の通りに銃口を向け、
 弾き出した回答のタイミングで発射。
 そして、弾き出した回答の通りに撃墜される敵機。
 この間、僅か数秒。

「ふむ、まずまずといった所ですね。」
 高島美和が堕ちていく三つの機体を眺めながら、満足げに呟いた。


「―――!敵機三機、『フリーバード』に接近してます!!」
 カウガールが、外の景色を見て叫んだ。
 三つの機体が、『フリーバード』に向かって一直線に向かっていく。

「抜けられましたか…!」
 高島美和が忌々しげに呟いた。
 そして、すぐに無線を取り、『フリーバード』にチャンネルを合わせる。
「こちら高島美和。
 敵機が三機程そちらに向かっています。
 そちらで迎撃して下さい。」
 高島美和が無線機に言葉を吹き込んだ。

304ブック:2004/05/09(日) 23:23



     ・     ・     ・



 高島美和からの無線を受け、サカーナの親方が大きく息をついた。
「…ってー事だ。
 野郎共、覚悟はいいか!?」
 サカーナの親方が僕達を見回す。
 やれやれ。
 やっぱりこうなったか。

「たまらんな…」
 三月ウサギが肩をすくめる。
 僕も三月ウサギと同じ気持ちだ。

「砲撃手、準備は出来てるか!来るぞ!!」
 親方が全砲撃室の乗り組み員向けて怒鳴り散らした。
 内線から、次々と『了解!』という声が聞こえてくる。

「オオミミ、お前は念の為嬢ちゃんを部屋の中に入れとけ。
 ちーとばっかし揺れるかもしれねぇからな。」
 サカーナの親方がオオミミの方を向く。

「分かった。」
 オオミミが答え、天の手を引いた。
「ちょっ、あんな狭苦しい所に閉じ込めて…!」
 雨が何か言いたげだったが、オオミミは構わず天を引っ張って行った。



     ・     ・     ・



「妙だな…」
 オオミミが出て行った少し後、サカーナが呟いた。
「妙?」
 ニラ茶猫が聞き返す。
「奴らもうとっくに射程距離に入って来ている筈なのに、
 全然この船に攻撃して来ねぇ。」
 砲撃音とそれに伴う振動が船内に響き渡った。
 敵機がその砲撃を掻い潜りながら、『フリーバード』に接近してくる。

「攻撃を避ける事に専念しているのか…?」
 ニラ茶猫が腕を組みながら言った。

「それにしたって、機銃を一発も撃たねぇ、撃つつもりもねぇってのは変だろう。」
 サカーナが口元に手を当てる。
「野郎、何が目的だ…?」
 サカーナが、低い声で呟いた。

305ブック:2004/05/09(日) 23:24



     ・     ・     ・



「糞っ、的が小さ過ぎて当たりゃしねえ!!」
 甲板に取り付けられた対空用機銃を連射しながら、砲手が舌打ちする。
 そうしている間にも、どんどん敵機は『フリーバード』の上空から飛来してくる。

「!!!!!!」
 と、三機のうちの一機が銃弾の餌食となって空中で飛散した。
「BINGO!!」
 砲手が歓声を上げる。
 しかし、次の瞬間砲手の目には信じられない光景が飛び込んできた。

「―――!?」
 砲手は我が目を疑った。
 かなり近くまで接近してきた別の敵機の中から、人が飛び出してきたのだ。

 馬鹿な。
 この船に飛び移るつもりなのか?
 砲手は絶句した。

 飛行中の飛行機から、同じく飛行する飛行船に飛び移るなど、
 およそ狂気の沙汰である。
 そんな事をすれば、間違い無く雲の下へとまっ逆さまだ。
 よしんばこの船の甲板に飛び移れたとしても、あの高さ。
 着地と同時に落下の衝撃で重症は免れない。
 そんな事、人間に―――


「!!!!!!」
 しかし、砲手のその予想は脆くも覆された。
 甲板に、戦闘服に身を包んだ男が大きな音を立てて着地したかと思うと、
 何事も無かったかのようにゆっくりと立ち上がった。

「……!!!」
 絶句する砲手。
 それはまさに、悪夢のような光景だった。

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
 男が砲手目掛けて飛び掛かる。
 砲手が慌てて逃げようとするも、もう遅い。
 そのまま男の腕が砲手の心臓めがけて―――


「GUAAAAAAAAAAAAA!!!」
 しかしその直前で、上段の回し蹴りを喰らって、男の体が大きく吹き飛ばされた。
 男が尻餅をつき、すぐに体勢を立て直す。

「やれやれ、開いた口が塞がりませんね…」
 砲手を庇うように、タカラギコが男の前に立った。
 その服には、所々にガラス片がくっついている。
 男が『フリーバード』の上に降り立つのを見てすぐに、
 ブリッジの窓を突き破って直接甲板まで飛び出して来たからだ。

「もし、あなた。怪我はありませんか?」
 タカラギコが砲手を脇目に見ながら尋ねる。
 しかし、それから飛来した男には決して隙を見せない。


「……!!」
 砲手が射撃を中断した隙を突いて、もう一つの敵機から今度は女が飛び降りて来た。
 着地した栗色の髪のその女が、タカラギコの方を見やる。

「やれやれ、まさかこんな方法でこの船に乗り込んで来るとは…
 どこぞの市長になったハリウッドスターや、
 拳法使いのスタントマンでもそんな事やりませんよ。」
 タカラギコが呆れ顔で呟く。

「……」
「……」
 男と女が、何も言わずに顔を見合わせたかと思うと、
 いきなり女が素手で床に大穴を開けた。
 そして、女はその穴に入って船の中へと侵入する。

「待ちなさい!」
 それを追おうとするタカラギコの前に、男が立ちはだかる。

「…成る程、『この先に進みたければ俺を倒して行け』、というシチュエーションですか。
 燃えますね〜、そういうの…」
 タカラギコは懐に手をやると、そこから大刃のナイフを一振り取り出した。

「…下がっていた方がいいですよ。」
 タカラギコが今度は砲手の顔を見ずに言う。
 それに従い、砲手は一目散に対空用機銃の影に隠れた。

「さて、では―――」
 タカラギコはナイフを手の中でクルクルと回転させ、男に向けて構えた。
「死合いを始めるとしましょうか。」

306ブック:2004/05/09(日) 23:25



     ・     ・     ・



「ちょっと、引っ張らないでよ!自分で歩けるわ!」
 天がオオミミの手を振り払った。
「ご、ごめん。」
 だから一々謝るな、オオミミ。

「…ごめん。こんな事に、巻き込んで……」
 オオミミが、天に深く頭を下げた。
「別に気にしてないわよ。」
 以外にも、謙虚な返答をする天。

「…それに多分、あいつらはアタ―――」
 そう言いかけて、天はハッと口を押さえた。
 何だ。
 何か心当たりでもあるのか?

「…?どうかしたの?」
 不思議そうに尋ねるオオミミ。
「な、何でもな…」
 天が慌ててそう答えようとした時―――


「!!!!!!!!!」
 突然、廊下の向こうの通路の天井が崩れた。
 そこから、栗色の髪をした女が降り立つ。
 何だあいつは。
 一体どうやってここに…

「…あらあら、いきなり目当てのものを見つけられるなんて運がいいわ。」
 女が僕達を舐め回すような目で見つめた。
 目当てのもの?
 こいつ、何を言ってるんだ?

「お前は、誰だ…!」
 オオミミが女に対して身構える。
 僕も、オオミミの外へとビジョンを実体化させた。

「あら、かわいい坊やとスタンドね。
 どう、さっきあなた達がぶち殺してくれやがった私の部下の穴埋めに、
 あなた私の奴隷にならないかしら?」
 僕の姿が見えている!?
 まさか、こいつもスタンド使いなのか?

「嫌だ。」
 即答するオオミミ。
 どうだ、舐めるなよおばさん。
 オオミミにそんな色仕掛けなど通用するか。

「…仕方無いわね。
 それじゃあちゃっちゃと血を吸って縊り殺させてもらおうかしら。
 あなたの血は、さぞや舌の上でしゃっきりぽん!と踊るでしょうね。」
 女の口元から、二本の牙が覗く。
 この女、吸血鬼か…!

「!!!!!!!」
 一気に、距離が詰まった。
 気がついた時にはもう、女は僕とオオミミの目の前まで迫っている。
 人間の瞬発力じゃ、無い。

「SSSSSIIIIIIEEEEEEEEEEEAAAAAAAA!!!!!!!」
 女は手の爪を鋭く伸ばし、オオミミに向かって横から腕を抉り込んで来る。

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが、叫ぶ。
(無敵ィ!!)
 僕の腕で、女の腕を受けた。

 重い…!
 何て力だ。

「『ベアナックル』!!」
 女の背後に、大きな鉈を両手に持ったボロ布を纏った大男のビジョンが浮かび上がった。

「SYAGYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 女のスタンドがオオミミに向かって鉈を振り下ろす。
(オオミミ!!)
 女の腕を弾き、すぐに女のスタンドの攻撃を食い止める。
 こいつのスタンド、近距離パワー型―――

307ブック:2004/05/09(日) 23:26


「―――!!」
 次の瞬間、オオミミの右腕と左脚が宙を舞った。
 いや、正確には女の爪で切り落とされた。

「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!」
 天の絶叫が周囲に響き渡る。
 しくじった…!
 気をつけるのは、奴のスタンドだけじゃない。
 奴自身も、並外れた身体能力を持つ吸血鬼だったんだ。
 奴のスタンドでの攻撃を受けて、
 ガードが疎かになった所を狙われた…!

「……!……が…あ……!!」
 片腕と片脚を失い、地面に倒れたオオミミが呻き声を上げる。
 それと共に、彼の生命力、精神力が支えである僕の力も失われていく。
 完全に、してやられた。
 僕のミスだ…!

「んん〜。いい声、いい表情。
 一撃で殺さなかった甲斐があるわ。」
 女が邪悪な笑みを浮かべながら爪についたオオミミの血を舐めた。
「しゃっきりぽん!」
 訳の分からない単語を女がのたまう。

「それじゃあ、そろそろ死んでもらいましょうか。」
 女がオオミミへと歩み寄る。

 どうする…!
 使うか!?『力』を。
 駄目だ。
 あまりにもオオミミが消耗し過ぎている。
 だけど、このままじゃどっちみち…

「さよなら。死んで私の究極のメニューになりなさい。」
 女がその爪をオオミミへと伸ばし―――



「!!!!!!!!!」
 その瞬間、無数の刀剣が女の体を貫いた。

「――――――!?」
 女がその衝撃で叩きつけられる様に床に倒れる。
「くっ…!」
 すぐさま起き上がろうとする女。
 しかしそこに、更なる刀剣が女の体へと突き刺さった。

「何をしている…」
 低い声が、オオミミの後ろから聞こえてくる。
 あれは…三月ウサギ!
 来てくれたのか…!
「オオミミ、大丈夫か!?」
 そこに、ニラ茶猫も駆けつけて来る。

「……三月ウサギ…ニラ茶猫…どうし、て……」
 オオミミが行きも絶え絶えに二人に告げる。

「こいつが甲板に降りて、船に大穴開けて中に入ってくるのをブリッジから見たんでな。
 で、来てみれば案の定この様だ。」
 三月ウサギが、再び起き上がろうとした女に向かって、
 マントから取り出した刃物を投擲する。
 彼の手から放たれたショートソードが、正確に女の眉間へと突き立てられた。

「ニラ茶、オオミミの腕と足を『ネクロマンサー』でくっつけておいてやれ。
 そこで痛い痛いと喚かれては、気が散る。」
 三月ウサギがニラ茶猫に顔を向けた。
「ああ。」
 ニラ茶猫が、オオミミの腕と足を拾ってオオミミの傍にしゃがみこんだ。

「う……」
 またもや地面に倒された女が、よろよろと立ち上がろうとする。
 三月ウサギが、何も言わないまま女に向かって刃物を投げつけた。
 三度目の正直とばかりに、今度こそ女はそれを自身のスタンドで防御する。

「…たまらんな。
 頭を完全に破壊するまで死なないというのは。」
 三月ウサギがやれやれと肩をすくめた。

「…酷い人ね。肌は女の命なのに……」
 女がよろよろと立ち上がり、体に刺さった刀剣を引き抜き始めた。
 凄絶な光景である。
 常人なら既に十回以上死んでいるというのに。
 これが、吸血鬼の再生能力か。

「なに…肌の心配をする必要など、もうお前には無い。」
 三月ウサギのマントから、数多の刀剣が出現しては地面に刺さる。
 長いもの短いもの細いもの太いもの…
 ありあらゆる形状の刀剣がどんどん床に突き刺さっていった。
「どの道お前は、ここで死ぬ。」
 三月ウサギがそのうちの一本を手に取り、女に向かって突きつけた。



     TO BE CONTINUED…

308ブック:2004/05/10(月) 17:07
     EVER BLUE
     第十話・NIGHT FENCER 〜夜刀(やと)〜


 響き渡る金属と金属との衝突音。
 三月ウサギが、女の爪とスタンドの鉈と激しく剣を打ち合わせていく。
「SYAAAAAAAA!!」
 次々と繰り出される女の攻撃。
 三月ウサギは、それら全てをかわし、受けながら、さらに斬撃を返していく。
 人間業じゃない。
 普段は愛想が悪いが、彼ほど心強い仲間などそうは居ないだろう。

「SYAGYAAAAAAAAAA!!!」
「ふん…」
 打ち合いながら、三月ウサギと女はそのまま僕達の向こうへとなだれ込んで行った。
 多分、三月ウサギが僕達からあの女を引き離してくれたのだ。
 ありがとう、三月ウサギ。

「さて、恐いおばさんが向こうに行ってる間に、治療しとくか。」
 廊下の向こうへと行ってしまった三月ウサギ達を尻目に、
 ニラ茶猫はオオミミの千切れた腕を切断面に押し当てると、そこに自分の手を置いた。

「『ネクロマンサー』。」
 ニラ茶猫の手から無数の蟲が湧き出し、オオミミの傷口へと入っていく。
 傷口に潜り込み、擬態を繰り返してオオミミの肉や骨に変化していく蟲達。
 程無くして、オオミミの腕はくっついた。
 同様に、足の方も接着させる。

「…よし、こんなもんか。」
 ニラ茶猫が額を拭った。
 そして、くっついたばかりのオオミミの腕を抓る。

「痛っ!」
 小さく叫ぶオオミミ。

「よし、神経もちゃんとくっついたみたいだな。」
 ニラ茶猫が安堵の溜息を吐く。
 良かった。オオミミの腕と足が元に戻って、本当に良かった。

「ありがとう、ニラ茶猫。すぐに三月ウサギを……痛っ…!」
 オオミミが立ち上がろうとして、痛みに顔を歪めた。
「おい、無茶するなフォルァ!
 今は抜き差しならない状況だから、細胞が壊死しないように
 取り敢えずの応急処置程度にひっつけておく位しかしてねぇ。
 あんまり動くとまたもげるぞ。」
 ニラ茶猫がオオミミを座らせる。

「でも…!」
 食い下がるオオミミ。
 馬鹿、さっきコテンパンにやられたばっかりだというのに、無茶をするな。
 今は大人しく休んでいろ。

「…つーわけで、よ。
 悪いが嬢ちゃん、こいつをどっか安全な場所にまで連れてってくんねぇか?」
 ニラ茶猫が天を見やる。

「は、はい。」
 猫を被った大人しい声で答える天。
 こいつ、絶対ニラ茶猫が居なかったらオオミミを見捨てた筈だ。

「サンキュー。
 それじゃ俺は、三月ウサギの野郎の所へ加勢に行ってくるわ。
 俺が居ねぇと負けて泣いちまうだろうからよ。」
 ニラ茶猫がそう言って振り返る。
 いや、あの三月ウサギに限ってそれは無いだろう。
 それはどちらかと言えば、ニラ茶猫の役割だ。

「ニラ茶猫…」
 オオミミがニラ茶猫の背中に不安気な声を向ける。
「心配すんなって、俺がそう簡単にくたばるかよ。
 何たって、俺と俺の『ネクロマンサー』は…」
 ニラ茶猫の右腕から蟲が湧き出す。
 そしてそれらが一つ所に集まり、擬態し、一本の刃物へと変貌する。
 それはあたかも、ニラ茶猫の腕から刃が生えているかのようであった。

「『無限の住人』(blade of immortal)なんだからよ。」
 ニラ茶猫が、腕と一体化した刃を大きく振るった。

309ブック:2004/05/10(月) 17:07



     ・     ・     ・



 俺は吸血鬼の女と、廊下を駆け回りながら何度も剣を打ち合わせた。
「SIIIIIIIIIEEEEE!!!!!」
 女のスタンド『ベアナックル』の右手の大鉈を、左腕のロングソードで受ける。
 重い。
 これが吸血鬼の膂力か。

「AHHHHHAAAAAAAAA!!!」
 さらに左の鉈が俺の喉下を狙う。
 それを右手に持ったサーベルで受ける。

「……!!」
 既に何度もあの大鉈を受け止めている事で疲弊しきっていたサーベルが、
 ついに衝撃に耐え切れなくなり真ん中辺りでポッキリと折れる。
 これで、十五本目。
 全く、これだけの短時間でここまで剣をお釈迦にされるとは思わなかった。
 新しい剣を買う金を寄こせと高島美和に言っても、恐らく却下されるだろう。
 糞。
 たまらんな。

「ちっ…!」
 追撃が来る前に、女の腹を足の裏で蹴飛ばして強引に距離を取る。
 鳩尾に蹴りを入れられた女が、後方に吹っ飛んで腹をおさえる。
 その間に、『ストライダー』を発動させたマントの中から新しい剣を取り出す。

「…あと何本かしら?あなたの剣は。」
 女がゆっくりと立ち上がる。
「安心しろ、まだ半分も使ってはいない。
 お替りは幾らでもあるぞ。」
 両手に剣を構えながら、女を見据える。

「ふふ…マントの中で無限剣製でもしてるのかしら?」
 女が薄ら笑いを浮かべる。

「さて、と。」
 と、女が俺に向かって突進した。
「『ベアナックル』!!」
 女のスタンドの二刀流の鉈が両サイドから俺に襲い掛かる。

「……!!」
 両手の剣で、それらの鉈を受け止める。
 剣の刃に半分近く食い込んでくる鉈。
 これで更に二本の剣が再起不能となった。
 しかし、これだけでは終わらない。

「SYAAAAAAAA!!!」
 スタンドの鉈を受け止め二本の腕が封じられた所に、
 本体である女の爪が突き出されてくる。
 この、本体とスタンドとの連携攻撃。
 スタンドには特殊な能力は備わっていないみたいだが、
 それでもこのコンビネーションはかなり厄介だ。

「『ストライダー』!」
 マントを翻し、そこに生み出した異次元への扉に女の腕を突っ込ませる。
 女の腕がマントに吸い込まれ、俺にはその爪は届かない。

「死ね…!」
 そこに向けて、女の頸部目掛けて剣を凪ぐ。

「!!!!!!」
 しかし、女は首を切り落とされる直前で瞬間的に後ろへと跳んだ。
 浅い。
 今ので、仕留められなかった。

310ブック:2004/05/10(月) 17:08

「…便利なマントね。」
 半分近く斬り込まれた首を再生させながら、女が俺のマントを見る。

「…だけど、どうやらスタンドとかのエネルギー体までは、
 その中に取り込めないみたいね。
 もし出来るならば、私の『ベアナックル』の鉈もそのマントで防御すればいいだけだもの。」
 女が嘲るかのような笑みを浮かべる。
 あれだけ剣を交えていれば、流石にばれてしまったようだ。

「…だからどうした。」
 俺は半ばまで切れ込みの入った剣を捨て、マントから新たな得物を取り出して女を睨む。
 だからどうした。
 それで俺に勝った心算か?

「…いい目ね。
 気に入ったわ。あなた、私の奴隷にならない?」
 奴隷?
 奴隷だと!?
 笑える冗談だ、売女。
 いいだろう。
 俺にそんな言葉を喋った事を、地獄で後悔させてやる…!

「…教えてやる、女。」
 俺は剣を女に向けて、言い放った。
「何かしら?」
 女が聞き返した。

「お前の命は、後十秒だ。」
 女に向かって、右手に持っていた剣を投擲した。
 回転しながら、剣が女の頭部目掛けて襲い掛かる。
 それと同時に、俺は剣を追う形で女に向かって突進した。

「……!!」
 スタンドで、その剣を上に弾く女。
 そうさ、そうなる事は読んでいた。

「はあああああああああ!!」
 一気に女の懐にまで飛び込む。
「『ベアナックル』!!」
 それをスタンドで迎撃してくる女。
 読み通りだ。
 この女は恐らく、再び俺が剣で鉈を防御すると思っているのだろう。
 だが、それは大外れだ…!

「……!」
 俺は攻撃を喰らうのを覚悟した。
 攻撃を完全に回避するのではなく、急所だけは外れるように敢えて受ける。

「!!!!!!!!!」
 斬り落とされる俺の両腕。
 思いがけない俺の行動に、女の動きが一瞬止まった。
 こいつは今考えている。
 俺が何故わざと攻撃を喰らったのか。
 両腕を失って、どのように攻撃するつもりなのか。
 そこに生まれる、僅かな、しかし死神が振り向くには充分な隙。
 それこそが、俺の狙っていたものだった。

「はぁっ!!」
 跳躍。
 まだ女は思考が行動に追いついていない。
 女は考えてしまった。
 俺の次の行動を。
 女は見ようとしてしまった。
 俺の次も行動を。
 そして女は知らなかった。
 それが、命のやりとりでどれだけ致命的な事なのかを。
 いいさ。
 見せてやる。
 俺が、何をしようとしたのかを。

「……!!」
 空中で、さっき女が弾いた剣の柄を口に咥える。
 女がようやく俺の狙いに気づいたらしい。
 だが、もう遅い。
 数瞬の逡巡が、お前の命の灯火を消し去った。
 そして、そのまま剣を女の頭目掛けて―――

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 俺の着地と同時に、女の体が頭の天辺から股にかけて奇麗に真っ二つに斬断された。
 薪割りのように、そのまま女の体が二つに分かれて地面に倒れる。

「ふん…」
 念の為、右側左側それぞれの頭を足で踏み潰しておく。
 これ位しておかないと、吸血鬼は安心できない。

「……」
 女の体が、煙を立てながら塵へと還っていく。
 どうやら、完全に殺しきれたらしい。

311ブック:2004/05/10(月) 17:08



「おい、三月ウサギ。助太刀に来たぜ…ってもう終わってるじゃん!」
 今頃になってニラ茶猫がやって来た。
 相変わらずうだつのあがらない男だ。

「ふん。今更のこのこと、何をしに来たんだ?」
 俺はせせら笑いながらニラ茶猫を見やる。

「お前何一人で片付けてるんだよ!
 俺はさっきオオミミと天の嬢ちゃんに、格好よく大見得切ってここに駆けつけたんだぜ!?
 それなのにすでに闘いは終わってました、って、
 これじゃまるで俺が馬鹿みたいだろうがフォルァ!!」
 訳の分からない事で怒り出すニラ茶猫。
 馬鹿みたいも何も、お前は最初から馬鹿だろう。

「ごちゃごちゃうるさい事を言うな。
 喚いている暇があったら、さっさと腕を直してくれれば助かるのだがな。」
 本当はこいつにお願いをするのは嫌なのだが、背に腹は変えられない。
 それに先程の闘いでの作戦も、こいつがいなければ実行出来なかった。

「…お前、それが人に物を頼む態度かよ?」
 と、ニラ茶猫が急に渋り出した。
「…何が言いたい?」
 俺はニラ茶猫の顔を見ながら聞き返す。

「人様にお願いをする時はよ〜、
 それなりのお願いのしかたってもんがあるんじゃねぇのか〜?
 例えば土下座とか土下座とか土下座とか。」
 下品な笑顔を浮かべるニラ茶猫。
 やれやれ、こういう時だけ優位に立った気分になっていい気になるとは、
 つくづく器の小さい男だ。


「…『背徳のおままごと 〜お兄様やめてっ!!〜』。」
「!!!!!!!!!!!!」
 俺のその言葉に、ニラ茶猫が硬直した。

「…な、何でお前がそれを……!」
 震えた声で俺に尋ねるニラ茶猫。
 あからさまに動揺している。

「『妹学園・陵辱の宴』。」
 俺は構わず言葉を続けた。
 ニラ茶猫の顔から冷や汗が噴き出す。

「『無毛天国・小さな天使達』。」
「や、やめろ!!やめてくれ!!!」
 ニラ茶猫が俺のマントにしがみついた。

「『ロリロリ倶楽部・小○生の痴態』。」
「分かった!治すから!!治すから!!!
 だから皆には秘密にしといてくれええええええええ!!!!!!!」
 ついにニラ茶猫は泣き出した。
 やれやれ、こいつが変態的趣味の持ち主で助かった。
 こいつに頭を下げるなど、死んでも御免だからな。

「『お兄ちゃん!ボク妊娠しちゃうぅぅ!!!』、
 『初めてのお医者さんごっこ』。…まだまだあるぞ?」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 ニラ茶猫が、顔面を蒼白にしながら絶叫するのであった。



     TO BE CONTINUED…

312:2004/05/10(月) 23:51

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その3」



 ギコ達の乗った救急車は、首相官邸正面玄関に向かってスピードを上げた。
「おい、俺達はどうすんだゴルァ!!」
 ギコは叫ぶ。
 リル子こそ救命士ルックだが、局長はスーツ、ギコ達に至っては普段着だ。

「私が指示を出すまで、救急車内で大人しくしていて下さい。
 私の合図と同時に、救急車を出て官邸内に駆け込みます。
 その時間は、『アルケルメス』で切り取るので目撃されません。
 ただし、移動は3秒以内に済ませて下さいね…」
 局長は、後部座席に振り返って言った。

「3秒だと…!?」
 ギコは驚く。
 救急車から駆け出して、官邸内に飛び込むまでの所要時間。
 僅か3秒では、とても可能とは思えない。

「でも、やってもらわないと困るんですよ…」
 局長は、笑みを浮かべて言った。
 こいつ、寸前にこんな事言い出しやがって…
 ギコは文句を言おうとも思ったが、何とか押し留まった。

「あと、これを装着して下さい」
 局長は、助手席を飛び越えて後部座席に移動した。
 そして、座席の下に置いてあったケースを引っ張り出す。
 その中には、グレーのチョッキのようなものが入っていた。

「ボディーアーマー… 一般的には防弾チョッキですね。
 防御クラスⅣの一級品です。銃弾で死ぬ人は、念の為に装着しておきなさい」
 局長は、後部座席にもたれて言った。

「それはありがてぇな…」
 ケースからボディーアーマーを取り出すギコ。
 さほど重くはないようだ。ギコは、そのチョッキに袖を通した。
 しぃも同様に装着する。
 当然ながら、レモナとつーは付ける気はないようだ。
「モララー、お前はいいのか…?」
 無言で腕を組んでいるモララーに、ギコは訊ねた。

「僕には、『散逸構造への還元』があるからね。
 設定した速度以上の飛来物を、他次元に叩き込む事ができるんだ。だから、銃弾は僕には効かない。
 僕が『矢の男』だった時に使ってただろ? あの時は、多少ミスってたけどね」
 そう言って、モララーは鼻を高くする。

 ギコは思った。
 こいつ、使える技術が徐々に増えていってないか…?
 それも、しぃ助教授の『サウンド・オブ・サイレンス』を彷彿とさせる強力な能力だ。

「あと、銃が必要な人はいますか…?」
 局長は訊ねた。
 その言葉に。ギコが反応する。
「俺のスタンドは近距離型だから、念の為にもらっとくぜ… しぃは?」
「私は… どうせ使えないからいらない」
 しぃは首を振った。
 モララー、レモナ、つーは必要としないだろう。

「弾、入ってますんで…」
 言いながら、局長はギコに小型拳銃を手渡した。
「ほう、ザウエルP230ねぇ…」
 銃を受け取ると、ギコはニヤリと笑う。
「いや、備品なんだから返してくださいね…」
 局長は言った。

「…他に武器は?」
 ギコは銃を懐にしまうと、顔を上げた。
「もうありませんよ…」
 そう言い掛けて、局長は言葉を切る。
「いや、対自衛隊員用の切り札を忘れていたな…」

 局長は、ダンボール箱を取り出した。
 その中は、かなりの数の銃弾… いや、空薬莢が入っている。
「これは…?」
 ギコは訊ねた。
 どう見ても、何の変哲もない空薬莢だ。
「自衛隊員に囲まれてピンチになった時は、これを周囲に撒き散らすんですよ」
 局長は言った。

「…?」
 ギコは思い起こす。
 …そう言えば、オヤジに聞いた事があった。
 自衛隊は実弾訓練後の薬莢の処理に厳しく、撃った数と同数の薬莢を必ず拾い集めるのだという。
 この薬莢の数が足りないと、恐ろしい懲罰が待っているらしい。
 故に自衛官は転がっている薬莢があると、思わず拾って数えてしまうそうだ…

「…って、通用するかよそんなモン!!」
 ギコは大声を上げた。
「うーむ、いい案だと思ったんですがねぇ…」
 局長はため息をつく。

313:2004/05/10(月) 23:54

「…そろそろです」
 黙って運転を続けていたリル子は言った。
「なるべく、正面玄関の近くまで行って下さいね。
 救急車を出てから邸内に侵入するのを、3秒で終わらせなければいけませんから…」
 局長は、後部席から運転席に呼びかける。
「了解しました…」
 リル子はアクセルを強く踏んだ。

 救急車は、そのまま正面玄関目掛けて直進する。
 スピードを緩める気配はない。
「あの… 止まる気あるんですか?」
 局長は、運転席のリル子に訊ねた。
「なるべく近くまで行けとの御命令でしょう…?」
 リル子は平然と答える。

 そのまま、救急車はガラス張りの正面玄関に激突した。
 ガラスをブチ割り、エントランスホールに突入する。
 警備していた自衛隊員が4人ほど、ボーリングのピンのように撥ね飛ばされた。
 異常に広いエントランスホールのほぼ真ん中まで来て、リル子はようやくブレーキを踏む。

 警備していた自衛隊の連中が、一斉に救急車に銃口を向けた。
「撃てッ!!」
 掛け声とともに、引き金が引かれる。
 周囲に響き渡る銃声。
 救急車は、20人以上からの銃撃を受けた。
 銃弾が車体に当たり、金属質の音を立てる。

「きゃっ!!」
 しぃは悲鳴を上げてかがみ込んだ。
「大丈夫、ある程度は防弾処理を施していますよ…」
 身をかがめて局長は告げる。
「ある程度はね…」 

 救急車は完全に囲まれていた。
 20人近くの自衛隊員が救急車に銃弾を撃ち込んでいる。
 おそらく、すぐに応援も押し寄せて来るだろう。

 運転席の防弾ガラスが、銃撃に耐えきれなくなった。
 亀裂が次々に入り、それから粉々に割れてしまった。
 運転席に座っていたリル子は、素早く救急車後部に移動する。
「…リル子君、何を考えているんです?」
 局長はため息をついて言った。
「これが最善の方法です」
 リル子は相変わらず表情を変えない。

「ですが…」
 言いかけた局長の言葉を遮るリル子。
「本当に5人以上もの人数で潜入できるとでも思ったんですか? こちらには素人までいるんですよ?」
「人質…」
 局長の言葉は、リル子の冷たい口調に掻き消される。
「侵入者がいるのに、わざわざ人質を殺害しに行く手勢がいるとは思えません。
 テロリストの立て篭りとは警備の性質が異なります」
「無茶…」
「無茶は承知です。そもそも強襲作戦はこちらの専門なので、素人はすっこんでいて下さい」
「で…」
「『でも』も何もありません。現場の判断で、失敗すると分かっている作戦を破棄しただけです」
「…」
 とうとう黙り込む局長。

314:2004/05/10(月) 23:55

 リル子は、運転席の後ろに置いてあったアタッシュケースを引き摺り寄せた。
「では、この場は任せていいですね…?」
 局長は、リル子を見据えた。

「…ええ。お任せ下さい」
 リル子は、そう言ってアタッシュケースを開けた。
 中から黒い不定形の影が飛び出す。
 それは、ライダースーツのようにリル子の全身を覆った。
 その上に多くのメカニックな部品が装着され、その全身に幾重にもコードが這う。
 アタッシュケースは変形し、ブースターのような姿で背中に装着されていた。

 身に纏うタイプのスタンド…
 ギコは、コードに覆われたスーツ状のスタンドを見据えた。
 まるで近未来的な鎧である。
 あれが、リル子のスタンド『アルティチュード57』…!!
 3つのスクリーンがリル子の眼前に出現した。
 リル子は、ヘルメットのバイザーを上げる。

         Anfang   System All Green
「『Altitude57』、起動…  システム異常無し。
 Set… code14:『EileVerschwinden(一斉消滅)』」

 リル子は、スクリーンに手を触れて何かを入力している。
「…早くしてください。車の防弾も、長くは持ちません…」
 局長はリル子に告げた。
 内側から見ても分かるくらい、救急車の周囲は凹んできている。

                Data link green
「目標26。距離12〜20。指揮管制連動確認。
     Manual mode on     Data
 全機関手動管制に切り替え。緒元入力開始…!」
Illuminater data link
 誘導信号、接続。 …第1目標、左方76度・距離18。第2目標…」
 リル子は、宙に浮いているスクリーンに入力を続けた。
 小銃の一斉射撃を浴びて、車体がベコベコに凹む。
「だ、大丈夫なのか…!?」
 ギコは思わず声を上げた。
 もう、救急車は限界だ。
                           Data          Ready…
「…第26目標、右方168度・距離16。全目標、緒元入力完了。攻撃態勢移行――」 
 スクリーンに大きくノイズが走った。
 まるでPCのタスクウィンドウを閉じるように、スクリーンが次々に消えていく。

    …Go!!
「――攻撃開始!!」

 リル子の全身を覆うスタンドに、電気が走ったように見えた。
 弾けるように、スタンドに覆われたリル子の身体が救急車から飛び出す。
 紙のように破れる救急車の車体。
 そして、風を切る音。
 そのまま、リル子は高速の回し蹴りで兵の体を吹き飛ばした。

eine
「1…」

 蹴りを喰らった兵の体は、もんどりうって近くの兵の足元に激突した。
 その兵士の膝が逆方向に曲がる。
「うわぁっ!!」
 射撃中に体勢を大きく崩す兵士。逸れた弾丸が、真横の兵士に命中した。
 
zwei drei
「2…、3…」
 倒した兵の数を静かにカウントするリル子。
 その身体は天井を蹴って、弾丸のように縦横無尽に兵の間を駆けた。
 移動軌跡に火花が飛び散っている。
 もう天井も壁も床も関係ない。
 ギコは、ビリヤードの玉を連想した。

315:2004/05/10(月) 23:57


「…!」
 思わず息を呑むギコ。
 尋常ではないスピードだ。
 普通の人間には残像も見えないだろう。
 いくら何でも、あの速度は異常である。
 スタンドによる身体能力とは思えない。
 あの高速移動も、スタンド能力の一環か…

acht neun
「8…、9…」
 リル子は、次々と兵を駆逐していった。
 あそこまで高速で移動している以上、体そのものが凶器である。
 近距離パワー型のスタンドを持つ自分ですら、あの相手は捉えきれないとギコは悟った。

 しかも、動きに全く無駄がない。
 いや… 無駄がないというには語弊があった。
 方向転換に蹴った壁の破片が、正確に兵に命中している。
 敵兵がよろけて逸れた弾丸が、他の兵を射抜く。
 全ての弾道や射線、敵兵の予想攻撃位置を計算しているのか…?

sechsundzwanzig      Ende
「  …26。     …攻撃終了」
 リル子の動きが止まった。
 軽く息を吐き、髪を掻き上げるリル子。
 その漆黒のスタンドはすでに解除されている。
 エントランスホールに、立っている兵はいなかった。

「さて、面倒な事になりましたね…」
 そう言いながら、局長は救急車から降りた。
 ギコ達も後に続く。

「…殺したのか?」
 ギコはリル子に訊ねた。
「いえ、全員息はあります。枕元に立たれても困るので」
 リル子は当然のように答える。
 その傍には、元の形に戻ったアタッシュケースがあった。

「まあ、この方が面倒がなくていいんじゃない…?」
 レモナは手を軽く回して言った。
「ソウダゼ! アヒャ!」
 つーが同意する。
 まあ、潜入よりは正面突破の方がこの2人の性に合っているだろう。

「お前ら、最近仲良いな…」
 ギコは思った事を口にした。
「ほら、共通の敵ってのがね…」
 レモナはそう言って笑う。

「要人が監禁されているのは、おそらく4階の大会議室でしょう。
 広い上に、見張るのも容易ですからね…」
 局長は腕を組んで言った。
「こうなった以上、敵兵は全て倒します。覚悟はいいですか?」

 一同は頷いた。
 見つからないように苦心するより、一点突破の方が気が楽だ…
 ギコ自身、その方がやり易い。
「さて、行きますか…」
 局長がネクタイの位置を正した。
 リル子がアタッシュケースを持つ。
 一同は、首相官邸の奥に足を踏み出した。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

316丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:11


 ―――――ああ…マルミミ君が、口を開けてる。
綺麗な綺麗な白い牙、アタマがくらくらする血の匂い。
キスしたときに、あの長くて太い牙が舌に触れただけでもおかしくなりそうだったのに。
あんな物で体のナカまでを貫かれたら―――どうなってしまうんだろう。
ゆっくり、ゆっくり、彼の顔が私の首へと近づいてくる。

「ふぁ…!」

 首筋に、唇の感触。
たったそれだけなのに、今まで感じたこともないような快感が脳を駆けめぐった。

  にゅる、ぴちゃっ、ちゅ、れろん―――

「あ、はぁっ、ひぁ、ふぅ、んぁ…!」

 紅い舌が這い回る。首筋だけじゃなくて、肩も鎖骨も顎も耳も。
頸動脈が壊れそうなペースでコリコリこりこり脈動して、彼の舌を小さく押し返す。
 脳が壊れてしまいそうな快感に、ぎゅっ、と彼の小さな体を抱きしめた。
彼が耳元に口を持っていき、息だけの声で囁かれる。


「吸うよ―――」

 一瞬の間を置き―――歓喜と共に、こくり、と頷いた。
壊れ物でも扱うかのように、体がそっと抱きすくめられ―――


  つぷんっ。


「―――――ッッッッッッッッああああああああっぁああぁあaAAAaaa――― !! !! !! !! !!」



 太く長い牙が、頸動脈を犯す。
それは、一度でも知れば二度と戻れない快楽。
 女としての部分ではなく、『人間』としての部分を陵辱する。

317丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:12


―――――ああ、気持ちいい。
      一口吸われるごとに、ふわふわ、ふわふわ、ものが考えられなくなる。
      寒い。凄く寒いのに、私を抱きしめるマルミミ君の体はだんだん暖かくなっていく。
      吸って、吸って。もっと…すって。ねえ、おいしい?おいしい?わたしは、おいしい―――?


―――――ああ、気持ちいい。
      とくん、とくん、口の中に溢れる血。僕の牙を、首筋の筋肉が優しく締め付ける。
      蜜より甘く、精液より苦く。流れ出る血は溶岩のようで、抱きしめる体は氷のよう。
      吸いたい、吸いたい。もっと、すいたい。ああ、ぼくももう、おかしくなってしまいそうだよ―――



 しぃの爪が、火傷にまみれたマルミミの皮膚を掻きむしった。
ずるり、と皮がめくれ、その下から傷一つない青白い肌が姿を見せる。


 ぷぱぁ、と牙を離す。上下二つずつの傷から、とろり、と一雫の血が溢れてきた。
優しく指でぬぐい取り、彼女の口元に差し出す。
 血の付いた指が、なんの躊躇いもなく口に含まれた。

「ふぁ…んむっ」

―――まだだよ。首だけじゃ離さない。
    腕も脚も腿もお尻も胸もお腹もそして―――体中に、牙を立ててあげる。
    傷があるなら、僕がその上からまた傷をつけてあげる。
    そうすれば、僕の物になれるだろ?


 快楽の代わりに自分自身の『人間』を奪われる―――それはあまりにもあまりにも、大きな代償。
全てを奪われる快楽に、全てを奪う快楽に。二人の精神はとろけあい、堕ちていった。

318丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:14






「―――そして苦労したのがこの『波紋増幅グローブ』!
 エイジャ並の増幅機構を組み込んだのですが、
 小型化に無理があって一発撃てば壊れます。
 しかし、このサイズにまで納めるのにはプロジェクト×もビックリ相当の苦心を―――」

  がたたっ!

 いきなり、『チーフ』が椅子を蹴り倒すように立ち上がった。
かなりうんざりしていた茂名とB・T・Bが、驚いたように彼を見る。
「イカガ サレタノ デスカ?」
「快感・陵辱・蹂躙・略奪・牙・血・傷・白い肌―――――マズい…!」
「む?」

 茂名が聞き返す間もなく、『チーフ』が部屋を走り去る。
訝ったB・T・Bが片手を軽く上げ…顔色を変えた。
「茂名様!…ッテ会話ガ デキナイッ!」
 もどかしそうに身を捩るB・T・Bを余所に、何かあると踏んだのか茂名も部屋を出て行った。


 初っぱなから『タブー』を全力起動。
スタンドの声で、後ろの茂名に指示を出した。


―――茂名さんはいい。僕の『タブー』なら無傷で抑えられる。
 それより、B・T・Bをこっちに移して輸血の用意お願い。急いで。


 『チーフ』は振り向きもしなかったが、後ろで茂名が頷き反転するのが判った。
B・T・Bが『チーフ』に追いつき、鼓動のエネルギーを変換する。
 彼のスタンド能力による多角的な視界が、頭の中に展開された。
首筋を撫でる。
 ざわざわざわざわ、吸い出される快感が伝わってきた。
しかし、その快感は命への冒涜にして狂気の扉。
精神力でおぞましい快感を押え込み、病室のドアを蹴り開ける。


―――なんだよ、五月蠅いな。
   せっかく楽しかったのに、邪魔をしないでよ。
   ちょっと…頭に来ちゃった。
   殺してやろうか?オマエ…!


 紅い瞳がぎらりと光る。
見つめるだけで魂を縛る吸血鬼の魔眼を真っ向から受け止め、構えを作った。

319丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:16

(やれやれ…彼とはベッドでヨロシクしたかったんデチけど…そんな余裕もなさそうデチねぇ。
 これから取り押さえるのにそんな眼で見つめられたら…ちょっと興奮しちゃうデチよ)
(何ヤラ 聞キ捨テ ナラナイ デスガ…協力サセテ イタダキマショウ)


 ぶわっ、とシーツが宙を舞い、マルミミの体が『チーフ』目掛けて跳んだ。


『マルミミ君ッ!』『御主人様!』

  タブー
 『禁忌』の力を応用し、B・T・Bと視界を共有してマルミミの動きを捉える。
マルミミに比べ、自分の動きはナメクジと見まごうほどに遅い。
 それでも、ベッドに座っていた分『チーフ』が右手を突き出す方が早かった。


              『眠れ!』


 言葉と共に力を乗せた『タブー』が、右腕からマルミミに迸る。
迸るとは言っても、光も音も衝撃もない。
 端から見れば、マルミミが勝手に意識を失ったように見えただろう。

「御主人様!」
 ふわりとB・T・Bが漂い、気を失ったマルミミの心臓に収まって鼓動を制御、『人間』に戻した。
「茂名さん!」
 よろめくしぃを支えながら、『チーフ』が叫ぶ。

 一枚の印画紙を持った茂名が、しぃの心臓に拳をぶち込んだ。
            ムソウケン ボサツ
  茂名式波紋法 "無双拳・菩薩"。

 しぃの体がびくりと痙攣し、朦朧としていた意識が完璧に消え去る。

(―――よし…!まだ、完全に吸血鬼化してはおらぬ)


 波紋を流して吸血鬼のエキスを消滅、波紋入りの輸血を続けて『人間』に戻し、後はひたすらワクチンを投与。
乱暴な方法だが、今のところはその程度しか吸血鬼化を防ぐ方法が見つかっていない。


「ジエン!点滴台持って来てくれ!一階診療室の横じゃ!」
「はい!」


 心臓の位置に掌を置き、治癒用の波紋を流し続ける。
吸血鬼用ワクチンの開発も進んではいるが、血を吸われた人間が『人間』のままでいられるかどうかは賭けに近い。

如何にして、迅速にして適切な処置を行えるか。それが分かれ目となる。

「やれやれじゃ…とんでもない賭けだのぉ…!」
 しぃの体と印画紙から取り出した輸血用の血液パック、両方に波紋を流しているために負担が大きい。
老体には少しばかり堪えるが、命がかかっている状態で弱音は禁物。

「ご隠居!ワクチンと輸血台を!」
「繋いでくれ。やり方は知っておるな?」
「はい!」
「『チーフ』!フサも呼んで近所からBO型の輸血募れ!」
「了ー解デチ!」
 夜も暮れかけの診療所に、あわただしい空気が満ちた。

320丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:18




「ぅあ…?」
 誰もいない病室で、むくりとマルミミが体を起こす。
「起キラレ マシタカ?」

「…僕…何した…?」
 数秒の沈黙。隠しても意味はないと判断し、B・T・Bが重々しく口を開いた。

「シィ様ノ血ヲ、吸イマシタ」
 言葉を聞いて、がっくりとマルミミがうなだれる。

「…そう…」
 聞いたものの、答えは初めから判っていた。
火傷も裂傷も根こそぎ治り、鼻孔に残る甘い匂い。
少し考えれば、猿でも何をしたか理解するだろう。

「デスガ、マダ シィ様ハ 御無事デス。気付カ ナカッタ 私達ニモ 責任ハ アリマスシ、貴方ガ気ニ病ム コトハ アリマセン」

「慰めはいいよ。理由がどうあれ、誘惑に負けて、血を吸った。
 自分で助けて…自分で殺そうとしてれば世話はないね。
 …僕は…衝動も抑えきることができなかったわけだよ!
 母さんは死ぬまであの衝動を抑えきってたのに!

「御主人様…」
「黙れ!」
力任せに、サイドテーブルを殴りつける。
スチール製の机がぐにゃりと折れ曲がり、中身が辺りに散らばった。

「ビート・トゥ・ビート…お前も正直に言ってみろよ!こんな弱い混じりものの僕なんかより、
 最強の吸血鬼に…母さんに仕えてた方が幸せだったんだろ!?」

「御主人様…」
 涙混じりの言葉に。B・T・Bが悲しそうにメイクを歪める。
その様を見て、マルミミが鼻を啜った。
「…ゴメン…一人に、して」
「御意ニ」
 しゅるりと、マルミミの心臓にB・T・Bが収まった。
これで、彼の方から呼び出さない限りB・T・Bは『眠り』に入る。

 訪れる静寂。
鼻の奥が暑くなり、情けなさと自己嫌悪がこみ上げた。
息が詰まり、嗚咽となり、涙と鼻水が溢れた。
「ぅ…ひっ、ぅ…」

   父さんと母さんが殺されても何もできなかった。
   両親の仇を、取り逃がしてしまった。
   くだらない八つ当たりで、B・T・Bを悲しませてしまった。
   そして、彼女を傷つけてしまった。


  ―――――ああ、僕は…なんでこんなにも弱いんだろう。


「う゛ぇっ…ぅあ…ふあ…っ」


   弱かったから、傷を負った。
   弱かったから、血に飢えた。
   弱かったから、飢えに負けた。
   弱かったから、彼女を傷つけた。


「ひぐっ…ぁ…うああああああああああああっ!!」


   強ければ、傷を負わなかったかもしれない。
   強ければ、血に飢えることも無かったかもしれない。
   強ければ、飢えに負けなかったかもしれない。
   強ければ、彼女を傷つけずに済んだかもしれない。
   強ければ、<インコグニート>を倒せたかもしれない。
   強ければ、父さんも母さんも死ななかったかもしれない。


「うわあああああっ…あああああああああああっ!!」


 誰の声も誰の目も誰の耳も届かない病室で、マルミミは一人慟哭した。
しゃくり上げながら、咳き込みながら、恥も外聞もなく泣きじゃくる。
自分の弱さが、小ささが、情けなさが―――只々、悔しかった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

321丸耳達のビート:2004/05/11(火) 17:18

        │二話連続で…吸血シーン…
        │何やらもういろんな意味で危ないですが…
        └─┬─────────y───────
            │丸餅はこれに対して『ムラムラしてやった』
            │『もっかい良いですか?』などの供じゅt(ブツッ)
            └――y─―───────────────


               ∩_∩    ∩ ∩
              (; ´∀`) 旦 (ー`;)
              / ============= ヽ  
             (丶 ※※※ ∧∧※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~(゚−゚*)~~~~~~
                     ∪ ∪
                ______|ヽ_______

              …まあ、西瓜にかかった塩とか
               そんな感じで捉えてください。



…えとまあ真面目に弁解すると、『吸血鬼』って言うのはそもそもエロ+グロが始祖なんだそうです。
首筋に牙を立てて血を舐め取るそのヴィジョンの耽美さは今から見ても秀逸なものがあり、
ならば『吸血鬼書くのにエロスは外せないだろう…!』と思い立ってインビでヒワイでミダラな(ry


…………………ゴメンナサイ。エロス書きたかっただけです。
当分はエロス控えめの予定ですのでお目こぼしをー。

322ブック:2004/05/11(火) 17:24
     EVER BLUE
     第十一話・PUNISHER 〜裁きの十字架〜


 其処は暗くて冷たい所だったと、彼は思い出す。
 何も見えない、何も聞こえない、ただひたすらに静かな所。
 それが、唯一の記憶だった。
 其処は、酷く寂しい所。

 …そんな事は、覚悟していた筈だったのに、
 彼はそれでも会いたいと思ってしまった。
 帰りたいと思ってしまった。
 彼に初めて出来た、あの仲間達の元へと―――



(…こんな時に、私は一体何を考えているんでしょうね。)
 タカラギコは軽く頭を振った。
 彼の前には、男が構えながらじりじりと間合いを詰めている。
(…そうです。今は、この目の前の男を殺す事に専念しなければ。)
 大刃のナイフを右手に構え、タカラギコは男を見据えた。
 そして、頭の中から余計なものを排除する。
 望郷、哀愁、憧憬、良心、悪意、困惑、思想、信念、殺意、
 全て不要。
 必要なのは、只々頭に描いた殺しの手順を、
 只々正確に実行するだけの明確な意思。
 そして人間である事の全てを削ぎ落とし、ただ一振りの刃と化す。
 これが、タカラギコの闘い方だった。

「SYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 充分に間合いを詰めた所で、男がタカラギコに跳び掛かった。

「ふむ、とてつもない跳躍力です。」
 しかしタカラギコは、一歩も動かないまま男を迎え討つ。
 男の右腕がタカラギコの頭部に伸びる。
 それをタカラギコは最小限の動きでかわし―――

「ですが、戦闘技術は三流。
 すみませんが、一瞬で終了させて貰います。」
 タカラギコのナイフが、男の心臓を正確に貫いた。
 そのままタカラギコは男を一瞥もしないまま振り返り、
 先程女が空けた穴の方を向く。

「…さて、あの女を追います……」
 そこで、タカラギコは背後からの殺気を感知した。
「!!!??」
 すぐさま危険を察し、身をかわそうとするが遅かった。
 男のボディブローが、タカラギコの胸へと突き刺さる。

「!!!!!!!!!!!!」
 その衝撃に吹き飛ばされるタカラギコ。
 地面を転がり、うつ伏せの姿勢で倒れる。

「!!!!!!」
 次の瞬間には、男がタカラギコに止めを刺さんと倒れたタカラギコに襲い掛かる。
 咄嗟に跳ね飛んで、タカラギコはその追撃を何とかかわした。
 かわりに、タカラギコの頭を踏み砕く筈だった男の足が、甲板の床へと足型の穴を作る。

323ブック:2004/05/11(火) 17:25


「…どういう事です?
 確かに、心臓を貫いた筈……」
 胸を押さえながら、タカラギコが尋ねた。
 今ので、恐らく胸骨を四・五本持っていかれてしまっている事を、
 胸を触った感触で実感する。

「もう俺は死んでいるんだ。
 死者を殺す事など、不可能だろう?」
 男が低い声で答える。

「…成る程。ふっ…あはははははははは!これは良い!」
 と、やおらタカラギコが笑い出した。
「何が可笑しい?」
 訝しげに男がタカラギコに聞いた。

「…いや失礼。奇遇ですね。
 実は、私も一回死んでいるんですよ。」
 笑うのを止め、タカラギコが答える。

 何を馬鹿な。
 男はそう言おうとして、止めた。
 タカラギコの目と雰囲気から、その一見狂人の戯言同然の言葉を信じさせるだけの、
 只ならぬ「何か」を感じ取ったからだ。

(何だ、こいつは。)
 男は思った。
 吸血鬼の彼から見ても、タカラギコの纏う気配は異様であった。
 まるで、其処に居る筈の無い者が、其処に存在しているかの様な違和感。
 それは、一種の馬鹿馬鹿しいジョークのようでもあった。

(…考えるな。)
 男はその事を頭の中から弾き出す。
(関係ない。こいつが何者であろうと、殺せばいいだけだ。)
 男は胸に刺さりっぱなしだったナイフを引き抜くと、
 船の外へと投げ捨てた。

「酷いですね。
 それが私の唯一の得物だったのに。
 私に丸腰で闘えと?」
 タカラギコが肩をすくめた。

「何、心配するな。」
 男がタカラギコの前に手をかざした。
「俺も、丸腰だ。」
 次の瞬間、男の爪が刃物の様に伸びる。

「…何かそれ、アンフェアですよ。」
 それを見て、初めてタカラギコが顔色を曇らせた。

「SYAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 そんなタカラギコにはお構い無しに、男はタカラギコに躍り掛かる。

「『グラディウス』!!」
 タカラギコの周りに、銀色の小型飛行物体が現れた。
 同時に、タカラギコの姿が見る見る男の視界から消えていく。

「!!!!!」
 先程までタカラギコの居た空間を、男の爪が虚しく通り過ぎる。
「糞っ!何処に…!」
 男が周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿は何処にも見当たらない。

「!!!!!」
 直後、男の頭を光の線が貫いた。
「があああああああああああああ!!!!!」
 男が叫びながら攻撃を受けた方向に突進する。
 しかし、そこには既にタカラギコは居なかった。

(…困りましたね。
 今は夜で、充分な光量が無い上に、
 元々私の『グラディウス』は攻撃に特化した能力ではない。
 この光のレーザーでは、男を倒しきれません。)
 タカラギコが暴れまわる男を見ながら考えた。

(…仕方無い。あんまりあの恐いおじさんには近づきたくないんですが……)
 タカラギコが、流れるように男に向かって接近する。
 男は、まだタカラギコには気づかない。
 その間にもタカラギコは男との距離を一気に縮めていく。
 そして気配を殺したまま男の背後へと回り―――

324ブック:2004/05/11(火) 17:26

「!!!!!!!!」
 ようやく男がタカラギコのいる場所を発見した。
 いや、発見したと言うよりは、否応無く発見させられたと言った方が正しい。
 男の背後から、タカラギコが男の首に両腕を回して締め付けている。
 ここまでされれば、姿が見えなくともタカラギコがどこに居るのかは誰でも分かる。

「貴っ…様ァ……!!」
 男がタカラギコを振り払おうとする。
 しかし、それよりも早くタカラギコは男の首を捻り上げた。

「……!!!」
 ゴキンと嫌な音を立てて、男の首が明後日の方向へと曲がる。
 そのまま、男は膝から崩れ落ちた。

「…やれやれ、ここまですれば……」
 タカラギコが姿を現し、一息吐こうとする。
 しかし、そんなタカラギコの思惑は脆くも崩れ去った。

「……!!……!!!」
 頭を掴み、首を元の位置に戻しながら男が立ち上がる。
 これには流石に、タカラギコもたじろいだ。

「…あなたはゾンビですか。」
 タカラギコが呆れたように呟いた。

「MMMMUUUUOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」
 男が鬼の様な形相でタカラギコに突進する。
 タカラギコは男の攻撃をいなすと、再び『グラディウス』で姿を消した。

(さて…どうしましょうか。
 このまま姿を消して逃げ続ける事も可能ですが、
 この恐いおじさんを放っておく訳にもいかない。
 ナイフの一本でもあれば、これしきの相手五秒で解体出来るのですが、
 予備の武器はありませんし…)
 タカラギコが光の中に隠れながら、男を倒す方法を模索する。

(こういう時、近距離パワー型でないのが悔やまれますね。
 ですが、愚痴を言っていても仕方が無い。
 ですが、どうやって…)
 タカラギコは脳細胞を総動員して思考した。

(……!そうか、これならば……!!)
 と、タカラギコが何か閃いた様子で手を叩いた。
 そして、『グラディウス』を解除して男の前に姿を見せる。

「こっちですよ。」
 タカラギコが男に顔を向ける。
「AAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHAAAAAAA!!!」
 牙を剥き出しにして、男がタカラギコ目掛けて駆け出す。

「『グラディウス』!!」
 銀色の飛行物体が光を収束させ、二本の光の光線を打ち出す。
 それは、正確に向かってくる男の両目を射った。
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 二つに光線を分けた分、威力は激減するが、
 それでも男の視界を奪うのには充分であった。
 何も見えなくなった男が、それでもなお果敢にタカラギコへと向かっていく。

(そう、それを狙っていました。
 確かにパワーとスピードは凄まじい。
 しかし視界が奪われる事で、ただでさえ煩雑な攻撃が、さらに精細さを欠く。
 これならば、容易く―――)
 タカラギコに向かって突き出される腕。
 それをタカラギコは紙一重で捌く。
 そして、捌くと同時に男の攻撃の力の方向性を変え、そこに自分の力を加え、
 自分+相手の力で…

「!!!!!!!!」
 男の体が物凄い勢いで投げ飛ばされた。
 『合気』。
 古来より伝わる、日本の伝統武術の技である。

「……!!」
 しかし男は余裕であった。
 確かに凄い勢いで投げられはしたが、
 例えこのまま床に激突した所で、吸血鬼の男にしてみれば些細なダメージである。
 相手が自分を殺す術を持たない以上、いずれ勝機が見える。
 それが、男の自信であった。

「……?」
 しかし、男の予想していた床への着地は、いつまで経っても起こらなかった。
 ようやく、男の眼球が再生される。
 光を取り戻した目で、何が起こっているのか男が確かめようとすると―――


「!!!!!!!」
 男は、驚愕した。
 さっきまで自分の乗っていた船が、遥か頭上に遠ざかっている。
 そう、男は船の外に投げ飛ばされていたのだった。

「AOOOOOOOOAAAHHHHHHHHHHWWWWWWW!!!!!」
 絶望の叫び声を上げながら、男が地面目掛けて落下していく。
 いくら吸血鬼といえど、この高さから地面に叩きつけられては只ではすまない。
 それ以前に、雲の下の世界がどうなっているか等、
 この世界の人々は誰も知らないのだ。
 只一つ言えるのは、雲の下に落ちて再び戻って来た者は誰も居ない、という事である。
 万一吸血鬼が地面への激突の衝撃から生き延びれたとしても、
 二度と雲の上には戻っては来れないだろう。
 自分の肉体の過信。
 それが、男の敗因の一つであった。

325ブック:2004/05/11(火) 17:27



「やれやれ…」
 落下していく男を眺めながら、タカラギコは呟いた。
「すみませんね。私も、もうあんな恐い思いをするのはこりごりなので。」
 と、タカラギコががっくりと膝をつく。

「…痛たたたた。思わぬ不覚を取りましたねぇ。
 私らしくも無い…」
 胸の辺りを押さえながら、タカラギコが力なく笑う。
「しかし、痛がっている暇もありません。
 すぐにあの女を追わなければ…」
 タカラギコがそう言いながら女の開けた穴へと近づこうとすると…


「!!!!!!!!」
 タカラギコの前に、新たな吸血鬼が二人、飛行機の上から降り立った。

「…人間が、素手で吸血鬼を倒すだと……?」
「気をつけろ…只者ではないぞ。」
 どうやら先程のタカラギコの闘いを見ていたようである。
 二人組みは慎重な面持ちで、タカラギコに対して構える。

「勘弁して下さいよ…」
 泣きそうな声でタカラギコは呟いた。
 一度闘い方を見られた以上、同じ手が通用するとは思えない。
 しかも、今度は二対一。
 いくらタカラギコと言えど、丸腰では明らかに不利である。

(どうしますかねぇ…
 何か得物でもあれば、楽なのですが。
 …待てよ。
 そうか、『あれ』ならどうだ!?)

「!!!」
 いきなり、タカラギコは二人に対して背を向けて逃げ出した。
「なっ…!逃がすか!!」
 片方の男が後ろからタカラギコの胸部目掛けて爪を突き出す。

「!?」
 しかし、それは『タカラギコ』の作り出した幻影だった。
 突き出した爪が、光で作り出した像をすり抜ける。

「あっちだ!追え!!」
 もう一人の吸血鬼が、タカラギコの足音がする方向を指差す。
 その時にはすでに、タカラギコは船内へと侵入していた。

「逃がすかァ!!」
 吸血鬼達がタカラギコを追って船内へと飛び込む。
 しかし、タカラギコの姿はもうそこには無い。

「お前は向こうを探せ!俺はこっちを調べる!」
 吸血鬼が互いに顔を見合わせ、二手に分かれた。


「何処だああァ!?」
 吸血鬼の一人が、船内を駆け巡る。
 と、吸血鬼の目に、半開きになっているドアが飛び込んできた。

「そこかァ!!!」
 吸血鬼がそのドア目掛けて突進する。
 そのままドアをぶち破る勢いで―――

326ブック:2004/05/11(火) 17:27



「!!!!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、吸血鬼の体当たりとは別の理由で、ドアが粉砕された。
 同時に、吸血鬼の体に無数の弾痕が穿たれる。

「AAAAAAAAAHHHHHHHHOOOOOOAAAAAAHHH!!!!!!」
 絶叫しながら転げまわる吸血鬼。
 あまりのダメージに、再生速度が追いつかない。

「…成る程、これはかなりのじゃじゃ馬ですね。」
 人の良さそうな声と共に、部屋の中からタカラギコが姿を現した。
 その腕には、巨大な十字架が担がれている。

「AAAAAAWWWWRRRRRRRRYYYAAAAAAA!!!!!」
 血を撒き散らしながら、タカラギコに飛び掛かる吸血鬼。

「使い手を限定する程の、規格外のサイズ。」
 しかしタカラギコは、冷静に十字架の先端を吸血鬼へと向ける。
 そして髑髏を模したトリガーを引き絞った。
 十字架の先端が開き、そこからごつい重火器の姿が覗く。

「GGYYYAAAAAAAAAA!!!!!!」
 刹那、銃口が激しく火を吹いた。
 ライトマシンガンの圧倒的な弾幕に晒され、
 吸血鬼の体が次々とミンチに変わっていく。

「しかし、それを補って余りある程の火力。」
 体の殆どをボロ雑巾のように変えながらも、吸血鬼がタカラギコに肉薄する。
 一度接近戦に持ち込めば、あの大きな得物では闘えないと予想しての行為である。

「SSYAAAAAAAA!!!!!」
 渾身の力を込めて、吸血鬼はタカラギコの喉元目掛けて飛び込んだ。
 その牙が、吸い込まれるようにタカラギコへと迫る。

「!!!!!!!」
 しかし、その牙はタカラギコには届かなかった。
 タカラギコが、十字架の胴体部分で吸血鬼を殴り飛ばしたからだ。
 十字架自信の重さと、梃子の原理と遠心力、
 そしてタカラギコの膂力が加えられた一撃が、吸血鬼の体を大きく弾き飛ばす。

「何より、十字架を背負って闘うというセンスが心憎い。」
 それを逃さず、タカラギコが十字架を持って倒れた吸血鬼に駆け寄る。
 そして、その頭に十字架の銃口を押し当てた。

「AAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHAAA!!!!!
 GYAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!」
 頭を十字架と床の間に挟まれ、動きを封じられた吸血鬼が、
 何とか逃れようと必死にもがいた。
 しかし、タカラギコは万力のように頭を押さえつけ、吸血鬼を逃がさない。

「…なんですか、見っとも無い。
 死人が、死を恐がるなんて。」
 そう言うと、タカラギコは髑髏型のトリガーを引いた。
 響き渡る銃声。
 完全に急所である頭部を破壊し尽くされ、吸血鬼は蒸発するように消え去っていく。


「…いや、人の事は言えませんか……」
 塵に還っていく吸血鬼を見下ろしながら、タカラギコが自嘲気味に呟いた。

「さて、それではもう片方を始末しに行くとしますかねぇ…」
 十字架を肩に担ぎ直し、
 タカラギコは足を前に踏み出すのであった。



     TO BE CONTINUED…

327ブック:2004/05/12(水) 18:29
     EVER BLUE
     第十二話・FORCE FIELD 〜固有結界〜


 僕とオオミミは、天に支えられながらも何とか近くの船室に入る事が出来た。
 外から轟音が響くと共に、船体が振動する。
 三月ウサギやニラ茶猫は、まだ船に入って来た吸血鬼と闘っているのだろうか。

「ん…しょっと。」
 と、オオミミがゆっくりと立ち上がった。

(何やってるんだ、オオミミ!
 ニラ茶猫が大人しくしてろって言ってただろ!?)
 僕はすぐにオオミミを止める。
 まだ腕と足も完全には繋がっていないというのに、
 君は何を考えているんだ?

「…大丈夫だよ、『ゼルダ』。もう、大分痛みも引いた。」
 嘘だ。
 オオミミと精神を通わせている僕には分かる。
 痛くない訳なんてない。
 本当は、叫びたい位に痛い癖に。

「ごめん、天。ちょっと出てくるよ。
 ここに隠れてて。」
 オオミミが、無理して笑顔を作りながら、天の方を見やる。

「…!?ちょっと、あなた正気!?」
 天が、驚いた顔をオオミミに向けた。

「大丈夫、静かにしてれば見つからないよ。
 少し恐いかもしれないけど、我慢してて。」
 オオミミがそう口を開く。

「そうじゃなくて!アンタ自身の事を言ってるのよ!
 まだ手も足から血が出てるのに、死にに行くつもり!?」
 驚きと呆れの入り混じった顔で、天が尋ねた。

「…大丈夫。こういうのには、慣れてるからさ。
 それに、三月ウサギやニラ茶猫が皆を守る為に闘ってるのに、
 一人だけ隠れてるなんて出来ないよ。」
 オオミミが当然のように答えた。

「だからそれが無茶だってのよ!
 あれだけコテンパンにやられたのに、まだ闘いに行く気!?
 自殺志願者もいい所だわ!」
 天が信じられないといった風に声を荒げる。
 非常に珍しい事に、今、僕と天の意見は一致していた。

「…ありがとう。優しいんだね。」
 オオミミが、にっこりと微笑んだ。
「ば、馬っ鹿じゃないの!?
 勘違いしないでよね!!
 一人で勝手に出て行かれて、勝手に死なれたら目覚めが悪くなるからよ!!!」
 天が顔を耳まで真っ赤にした。
 この子は、何でそこまで怒っているんだ?

「俺も死ぬ気は無いよ。
 それに、俺は一人じゃない。『ゼルダ』が一緒に居てくれている。
 ね、『ゼルダ』。」
 オオミミが僕に呼びかけた。
(…分かったよ。どうせ止めても行くんだろ?)
 僕は諦めて呟いた。

(だけど、約束してくれ。
 絶対に、無理はしないと。ヤバくなったらすぐに逃げると。
 でなければ、君とは絶交だ。)
 僕はそう苦言した。
 オオミミが死んでは僕の居場所が無くなってしまうし、
 何よりオオミミが死ぬなんて絶対に嫌だ。
 自分の命を最優先にして貰う。
 これが、僕の出来る精一杯の譲歩だ。

「…分かった、約束する。」
 オオミミが一度頷く。
 やれやれ、君は本当に分かっているんだろうな。

「じゃ、行ってくるね。」
 そう言うが早いか、オオミミはドアを開けて外へと駆け出して行った。

「ちょっ、待ちなさいよ!!」
 後ろから天が引きとめようとするが、オオミミは構わず進んでいくのだった。

328ブック:2004/05/12(水) 18:29



 ズキン ズキン ズキン

 オオミミが進む度に、切断されたばかりの足が痛むのが伝わってくる。
 闘わずにじっとしていれば楽なのに、そんな事は分かりきっているのに、
 何故、何故君はそうまでして闘いに赴くんだ?
 自分が痛い事より、他人が痛い方がそんなに嫌なのか?
 分からない。
 僕には分からないよ、オオミミ。

(オオミミ、ペースを緩めるんだ。
 そうすれば、少しは痛みも和らぐ。)
 僕は耐えられなくなりオオミミに告げた。
「駄目だよ。急がなきゃ、皆が吸血鬼に襲われるかもしれない。」
 オオミミが歯を喰いしばって痛みを堪えながら走り続ける。
 こうなっては、もう僕ではオオミミを止められない。
(オオミミ、でも…)
 僕がそう言おうとした時―――

「ひいいいいいいいいぃぃぃ!!」
 廊下の向こうから、悲鳴が聞こえてきた。
 同時に、この船の乗組員のマンドクセさん(三十歳・童貞)が、
 腰を抜かしながらこちらに向かって逃げてくる。
 その後ろから、一人の男が物凄い勢いで追いかけて来た。

「!!!!!!!!」
 オオミミがそこに向かって駆け出す。

「『ゼルダ』!!」
 すぐさまマンドクセさんの傍まで駆け寄ると、
 彼目掛けて振り下ろされた爪を僕の腕で受けた。

「マンドクセさん、ここは俺達に任せて逃げて!!」
 吸血鬼を睨みながら、オオミミが後ろのマンドクセさんに向かって叫ぶ。

「ひっひいいいいいいいい!!!」
 泣き声のような悲鳴を上げながら、マンドクセさんは逃げて行った。
 オオミミが来るのが後少しでも遅れていたら、彼は助からなかっただろう。
 オオミミの無茶にも、多少は意味があったという事か。

「これは…!?」
 吸血鬼の男が、不思議そうな顔をしながらオオミミから離れた。

「…空中で、腕が止められただと?」
 …?
 もしかして、僕が見えないのか?
 良かった。
 どうやら、こいつはスタンド使いじゃないらしい。
 これならば、何とかなりそうだ。

「…あの優男といい、ここの連中は油断出来んな。」
 優男?
 ひょっとして、タカラギコの事か?

「SYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 と、そんな事を考えているうちに吸血鬼が僕達に向かって飛び掛かった。

「『ゼルダ』!!」
 オオミミが叫ぶ。
(分かった!!)
 それに答え、僕は実体化する。

「RRRYYYYYYYYYYYYAAAAAA!!!」
 右の爪を抉り込むように凪ぐ吸血鬼。
(無敵ィ!!)
 僕は右腕でそれを受け止めた、が―――

「……!ぐ、あ…!!!」
 オオミミの右腕から鮮血が迸る。

 しまった!
 オオミミは右腕がまだ完全にくっついていなかったんだ。
 吸血鬼の攻撃を受けた時の衝撃野のフィードバックに、
 彼の腕が耐えられなかった…!

「SYAAAAAAAAAAAAA!!!」
 その隙を突いて、吸血鬼がオオミミの心臓に向かって爪を突き出す。
(くっ…!)
 オオミミの右腕に負担を掛ける訳にはいかないので、左腕でそれを受ける。
 しかし本体であるオオミミが弱っている為、パワー不足で完全には威力を殺せない。
 ガードを弾かれ、オオミミ諸共後方に飛ばされる。

「…ぐっ!!」
 オオミミが苦悶の表情を浮かべた。
 見ると、左脚からも出血している。
 糞。
 さっきので、足の傷まで開いてしまったか。
 こんな奴、体調さえ万全なら何て事ないのに…!

「!!!!!!!」
 そこ目掛けて、吸血鬼が止めを刺しに来る。
(オオミミ!!)
 オオミミの体を一時的に乗っ取り、即座に跳躍して何とかかわす。
 オオミミの体に負担をかけてしまうが、背に腹は変えられない。

(オオミミ、ここまでだ。逃げるよ。)
 吸血鬼との間合いを保ちながら、僕はオオミミに言った。
「でも…!」
 食い下がろうとするオオミミ。

(でもも糸瓜も無い。これ以上闘うのは危険だ。
 『力』を使おうにも、条件が悪過ぎる。
 あれは、特定の型にはまって初めて真価を発揮するものなのは、分かっているだろう?)
 オオミミの体を無理矢理後ろに下がらせながら、オオミミを説得する。
 マンドクセさんも、もう遠くまで逃げている筈だ。
 オオミミ、君は充分によくやった。
 後は、三月ウサギやニラ茶猫に任せるんだ。
 だから君はもう…

329ブック:2004/05/12(水) 18:30



「あ〜あ、見てらんないわね。
 だからやめとけって言ったのに。」
 と、後ろから厭味な声がオオミミに掛けられた。
 いや、待て。
 この声は覚えがあるぞ。
 この声は―――

「天!何で来たんだ!?」
 オオミミが絶句した。
 そこには、天が相変わらずの可愛気のないむっつり顔をして佇んでいたのだ。

「何って、わざわざアンタを助けに来てあげたのに、
 その言い草は無いんじゃない?」
 助けに来た!?
 君が!?
 馬鹿な。
 笑えない冗談にも程がある。

「ふっ、思いがけずしてと言ったところか…」
 吸血鬼が、意味ありげに笑った。
 対して表情を固くする天。

 …?
 どういう事だ?

「オオミミ、二分…いえ、一分だけ時間を稼ぎなさい。
 そうすれば、アタシの『レインシャワー』を発動出来るわ。
 勝つ事は無理でも、それ位は出来るでしょう?」
 真剣な顔つきで、天が吸血鬼に聞こえないよう小声でオオミミに告げる。
 そうだ。
 僕が見えるという事は、彼女もスタンド使いだったんだ。
 『レインシャワー』、それが、彼女のスタンドの名前か?
 だけど、どんな能力かも分からないのに、時間稼ぎなんて…

「…分かった、やってみる。」
 そんな僕の懸念とは裏腹、オオミミは覚悟を決めた顔で吸血鬼の前に立ちはだかった。
(馬鹿、オオミミ。逃げるんだ!)
 勝算も定かではないのに、これ以上闘うのは無謀過ぎる。
 ここは一旦退くんだ!

「…今逃げたら、天にまで危険が及んでしまう。
 闘うしか、無いよ。」
 オオミミが吸血鬼を見据えた。

 ああ、もう…!
 分かったよ、やってやる!!

「RUOOOOOOOOOHHHHHHHH!!!」
 吸血鬼がオオミミに向かって飛び掛かった。
「『ゼルダ』!!」
 こうなっては、もう多少の傷は気にしていられない。
 天を信じて、何としても一分だけ持ち堪える事に専念する。

「…始まりはいつも雨。
 終わりはいつも雨。」
 と、天が何やらブツブツ言うのが聞こえてきた。
 まさかあれだけ大口叩いて、困った時の神頼みじゃないだろうな。

 吸血鬼の攻撃を、体に残された力を振り絞りながら防御する。
(無敵ィ!!)
 やられているばかりにもいかない。
 吸血鬼のガードが甘くなった所に、左のフックを叩き込んだ。
 吹き飛ばされ、壁にぶちあたる吸血鬼。

「我同胞(はらから)を失いて、
 道無き道を、独り往く。」
 …?
 天の体から、何かの力が湧きあがって来るのを感じた。
 いや、この感じ、どこかで覚えがある…!

「渡るその身を雨は打ち、
 凍て付く身体は心を亡くす。」
「NNUUUUUUUUUAAAAAAAAAHHHHHH!!!」
 吸血鬼が壁に当たった時の反動を利用して、オオミミに反撃する。
 爪が、オオミミの胸を深く抉った。
 まだか、天。
 君のスタンドはいつ発動するんだ…!

「乾いた大地は時雨を湛え、
 其処に出(いずる)は水鏡。」
 ……!
 何だ、この感じは。
 世界が、何か別のものに変わっていくような。
 これは、これは間違い無い。
 この力は…

「其処には何がと覗きてみれば、
 映るは己の貌だった―――…」





「…―――Identity disappears.(そして総ては自分(イミ)を失う)」

330ブック:2004/05/12(水) 18:30





 ―――響く雨音。

 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。
 雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。雨。

 何も無い荒れ果てた大地に、ひたすらに雨が降り尽くす。


「な……!?…あ……!!!」
 突然ガラリと切り替わった風景に、吸血鬼が言葉を失った。
 先程までの船内の光景は、何一つ残っていない。

「……!!」
 オオミミも、あまりの出来事に呆然とする。

「どこだ!どこなんだ、ここはァ!!!」
 錯乱する吸血鬼。

「…ここはアタシの『内的宇宙』『心象世界』。
 私の『創造(想像)』(つく)ったちっぽけな飯事部屋。」
 と、どこからか現れた天が吸血鬼に語りかけた。

 矢張り、矢張り思った通りか。
 彼女は……
 天は、
 僕と同じ、『結界展開型』のスタンド能力…!

「行くわよ、『化け物』(フリークス)。
 ここからは、特別にこのアタシが相手してあげるわ。」
 天が、吸血鬼を見据えて言い放った。



     TO BE CONTINUED…

331:2004/05/12(水) 22:19

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その4」



「あ、この階段見たことあるー!!」
 レモナは、赤絨毯が敷かれた大きい階段を指差した。
 組閣の時に並んで記念写真を撮る、例の階段だ。
「アッヒャー!!」
 赤色を見て興奮したのか、つーが階段を駆け上がった。
 階段の中程から、中庭の綺麗な風景が見える。

「立派な庭園ねぇ、池まで作っちゃって」
 レモナは中庭を見て言った。
「全く、誰が払った税金だと思ってるんだか…」
 いつの間にか、階段の中程に来ていたモララーが不平を垂れる。
 ロクに払ってもいないクセに…、とギコは思った。

「モララー、ナニカ イッテヤレ!」
 つーは手摺にもたれて言った。
 モララーが、不敵な笑みを浮かべて池をビシッと指差す。
「飲んでやるッ!!」

「ほら、馬鹿3人、とっとと行くぞ…」
 ギコは呆れて言った。
 彼としぃ、局長、リル子はとっくに階段を上がっている。

「妙ですね…」
 局長は言った。リル子がそれに頷く。
「…何がですか?」
 しぃは2人に訊ねた。
 局長がそれに答える。
「迎撃部隊が全く現れません。上から押し寄せてきてもおかしくないのに、全く気配がない」

 そう。ギコも不審に思っていたのだ。
 外の厳重な警戒に比べ、中の人数はどう考えても少ない。
 会った兵はエントランスホールで倒した連中だけだ。
「…考えられる可能性は?」
 局長は、リル子に視線を送った。
 リル子は静かに口を開く。
「第1に、警備人数そのものが少ない場合」
「それはありえませんね。外には多くの警備を割いています。そんな偏った布陣はない」
 局長は即座に否定した。

 リル子は言葉を続ける。
「第2に、指揮官が無能である場合」
 局長が肩をすくめた。
「フサギコも、ここの重要性は理解しているはず。彼の采配である以上、その可能性はありませんよ」

「第3に、私たちには敵わないと判断し、撤退してしまった場合」
「ありえないとは言いませんが… いささか楽観的な見方でしょうね…」
 局長は否定する。
 リル子は少し間を置いた。まるで、今までは前座だといった風に。
「第4に、防衛拠点に兵力を集め、待ち伏せ策を実行している場合」
「…」
 局長は黙っている。否定材料がないのだ。

「第5に、こちらからは窺い知れない事情がある場合。考えられる可能性は以上です」
 リル子は意見を述べ終える。
「第4か第5… おそらく、第4の待ち伏せ策でしょうね」
 局長は言った。
 リル子も同意したように頷く。

「…待ち伏せか」
 ギコは呟いた。
 自分のスタンドがいかに近距離パワー型とは言え、四方八方から自動小銃の弾丸を浴びせられれば辛い。
「待ち伏せだとすれば、4階の大会議室しかありません」
 リル子は断言した。
 今度は局長が頷く。
「…ええ。要人達が囚われているであろう部屋ですから、こちらは思う存分暴れられないでしょうしね」

「そういう訳だから、お前達も気をつけろよ」
 ギコは、建物ごと破壊する可能性が高いレモナとつーに釘を刺した。
 要人奪還という任務には、とてつもなく不適な2人かもしれない。

332:2004/05/12(水) 22:21

「とにかく、やる事は1つでしょう」
 リル子はアタッシュケースに手を掛ける。
「…そうですね」
 局長が腰を上げようとしたその時、階上から銃声が鳴り響いた。
 タタタタタ…という、タイプを打つような軽い音が。

 階段の前の兵達が顔を見合わせ、無線機を手に取る。
「――――!?」
 何かを告げ、顔を歪ませる米兵。
 そして、5人揃って階段を駆け上がっていった。

 先程の米兵達のように、今度はギコ達が顔を見合わせた。
「何だ、今の銃声は… 何かあったのか?」
 ギコは、階段を見上げて言った。
「警備兵達、随分慌ててたいようだね…」
 モララーが呟く。
「行ってみましょうか…」
 局長が腰を上げる。

「しぃ、大丈夫か?」
 ギコは、しぃに声を掛けた。
 しぃは冷や汗を掻いている。
「あ、うん。大丈夫… でも、やっぱり怖いかも…」
「これだけの人数がいるし、みんな強いんだ。怖がる必要はねぇよ…」
 ギコは、しぃに優しい声をかける。
 しぃは頷いた。

 一同は、警戒しながら4階に上がった。
 ある意味、眼前の光景は予想できたといえるだろう。
 先程の銃声。
 そして自分の守る場所を放ったらかし、慌てて駆け上がっていった警備兵。
 向こうにとって、何かが起きたのは明白なのだ。

 4階は、兵の死体の山だった。
 赤い絨毯は、さらなる朱で染まっている。
「…」
 しぃが、口元を押さえて絶句した。
 よろける体を素早く支えるギコ。

 同士討ち…?
 いや、そんなはずはない。
 他にも侵入者がいるのだ。
 俺達以外の侵入者が…!!

「米兵15人…、相当の手練でしょうね」
 リル子は、冷静な目で死体を観察した。
 頸部が折れている死体が5体。残り10人は、全て頭部を撃ち抜かれている。

「聞こえてきた銃声は極端に少ない…
 先程3階にいた警備兵も、異常があったと認識していたにもかかわらず発砲せずに殺されています。
 侵入者は、ゲリラ戦に長けたスタンド使いの可能性が高いと思われますが…」
 そう言って、局長は顎に手をやった。
「自衛隊と敵対しているASAの刺客という可能性は… 低いですね。
 ASAは、海上自衛隊との激突に戦力を割いているはずですし」
 そう言って、ギコに視線を送る局長。

「テメェ… そこも盗聴してやがったのか」
 ギコは局長を睨みつけた。
 局長は薄い笑みを見せる。
「…ええ。モナー君とリナー君の行き先を、必死で誤魔化すギコ君の姿は傑作でしたね。
 それにしても、『逢引き』って何ですか。貴方、ひょっとして大正時代の生まれですか…?」

「…ここは敵地のど真ん中、まして異常事態の最中です。あまり日和らないようお願いします」
 リル子は厳しい顔で局長に告げた。
「おっと、そうでしたね…」
 そう言って、局長は足元の死体に視線をやった。
 ほとんどの人間は、目を見開いて死んでいる。
 まるで、自分の死を全く予期しなかったような死に顔だ。

「敵の敵だから、味方なんて事はないかな…?」
 暗い顔を無理に明るくして、モララーは言った。
「そんな、美味い話があるわけないだろ…」
 呆れたように言いながら、ギコは死体… いや、死体の手にしている小銃の脇に屈み込んだ。

「レバーがセーフティーに入ったままじゃねぇか… 安全装置を解除する間もなかったんだな…」
 そう言って、ギコはM4カービンを手にする。
 流石に、懐に仕舞うには大きすぎるようだ。そのまま携行するしかないか。
「いや、何どさくさに紛れて銃をくすねてるのさ…」
 モララーはすかさず突っ込んだ。

「…とにかく、これをやった相手と敵対しないとも限りません。覚悟はいいですね?」
 局長の言葉に、全員が頷いた。
「あと、この中に人を殺した事がある者は?」
 そう言って、全員を見回す局長。
 手を上げたのはリル子だけだ。
 それを見て、局長は口を開いた。
「命を奪うことには色々抵抗もあるでしょうが… ここから先、殺すことを躊躇してはいけません。
 まあ、戦場で軍服を着てる者は人じゃないんで、特に気にする必要もありませんがね」

「こっちだって、殺さなきゃ殺されるんだ。今さら躊躇はしねぇよ」
 ギコは、米兵達の死体から弾丸を回収しながら言った。
 その様子を少し呆れた目で見つめるしぃ。
「そういう事。自分だけ手を汚さないなんて、言ってられないしね…」
 モララーは言った。
 しぃの隣には、いつの間にか『アルカディア』が立っている。
「まあ女の子に人殺しを要求するのは酷ってもんだし、その分はオレがカバーするぜ」
 『アルカディア』は腕を組んで言った。

333:2004/05/12(水) 22:22


「ハハハ… まあ、まっとうなレディは人など殺めませんよねぇ」
 局長は笑って言いながら、リル子の方に視線を送った。
「そうですね、フフ…」
 つられたように笑うリル子。
 ギコは、その様子を怯えながら見ていた。
 …怖い。
 絶対何かを心に秘めている。

 ギコはリル子から『アルカディア』に視線を移した。
 そして、『アルカディア』に告げる。
「俺も、おそらく自分の身を守るだけで精一杯だ。だから、お前がしぃを守ってやってくれ。 …頼む」

「…ああ、任せときな。オマエの愛しの彼女には、指一本触れさせねぇぜ」
 『アルカディア』は腕を組んだ。
 そして、ニヤニヤした笑みを浮かべる。
「だから、浮気はそこそこにしてやるんだな…」
 それを聞いて、ギコの表情が強張った。

「へ〜 性懲りも無く浮気してるんだ。前みたいなお仕置きじゃ足りなかったみたいだね…」
 しぃは口の端を吊り上げる。
「…!!」
 ギコは一歩後ずさった。
「また何かあったら知らせてね」
 しぃは、自らのスタンドに語りかける。
「…おおよ!」
 『アルカディア』は胸を張って言った。


「さて、そちらの問題も片付いたようですね…」
 局長は、そう言いながらも壁の一点をじっと見つめている。
「ん…? どうかしたのかい?」
 モララーは局長に訊ねた。
「いえ、別に…」
 局長は、全員に向き直る。
「さて、行きましょうか…」
 廊下に散乱した死体を避けつつ、一向は廊下を進んでいった。


 廊下の突き当たりに、立派な扉が見える。
「あれが、大会議室の扉ですね」
 局長は言った。
 おそらく、あの中に政府要人達が監禁されているのだ。
 一同は扉の前に立った。
 中の様子は分からない。
 罠があるのかもしれないし、兵士達が息を潜めて銃口を向けているのかもしれない。
 何もない、と考えるのは楽観的に過ぎるだろう。

「…さて、ここはレディー・ファーストです。リル子君、お先にどうぞ」
 局長は、リル子に先を促した。
「局長がレディー・ファーストを実践されていたとは初耳ですが… お断りします。
 女性という事で、特別な扱いを受ける気は毛頭ありませんので。
 局長が先に踏み込んで下さい。骨は拾いますので、御安心を」
 リル子は冷たく告げる。

「まったく…」
 局長はため息をついた。
「やれやれ、指揮官を先頭にしてどうするんですか…」
 文句を言いつつも、自分が適任である事は理解しているようだ。
 扉の取っ手に手を掛ける局長。
 そのまま、一気に扉を開いた。

 銃声が響く。
 部屋の中に伏せていた兵達が、一斉に発砲したのだ。
 その数、約40人…!

「『アルケルメス』!!」
 局長のスタンドは、被弾する瞬間の時間を切り取った。
 その刹那、レモナとつーが会議室に飛び込む。
「バルバルバルバルッ!!」
「行くわよ――っ!!」
 2人は銃弾を弾きながら、兵達に襲い掛かった。

「『レイラ』ッ!!」
 ギコはスタンドを発動させ、先程手に入れたM4カービンを構える。
 銃のレバーを、素早く3発バーストモードに切り替えた。
 そして、会議室の中に駆け込むギコ。

「どけや、ゴルァ――ッ!!」
 ギコは、部屋内を駆けながら自動小銃を乱射した。
 自分に向けられた弾丸は、『レイラ』の刀で弾き飛ばす。
 5.56mm弾の直撃を喰らい、次々に倒れていく兵士達。

 要人らしき人達は、部屋の隅に集められていた。
 首相をはじめ、TVで目にした事のある顔がいくつもある。
 手足の拘束はされていないようだ。
 そして、1人の兵が要人達に銃を向けている。
 スタンドを発動していないリル子が、要人達に駆け寄った。

「Freeze!!(止まれ!!)」
 兵がリル子に銃口を向けた。
 しかし、リル子は走る速度を緩めない。

          TeilAnfang
「『Altitude57』、限定起動…!」
 リル子は、そう言いながらアタッシュケースを空中に放り投げた。
 そこから飛び出した黒い影が、瞬時にリル子の足を覆う。

「Set… code21:『RandBeschleunigung(限界加速)』」
 リル子の動きが、瞬間的に加速した。
 素早く銃を構える兵士… その眼前に一瞬で接近する。
 そのまま、リル子は掌底で銃をさばいた。
 そして、姿勢を屈めて相手の右手の下をくぐり、懐に入り込む。
「…!!」
 兵士が反応する間もなく、リル子は無防備な胴に体当たりを決めた。

「鉄山靠か…!」
 ギコは、見事な技の入り方に感嘆して呟いた。
 鉄山靠を決められた兵は吹っ飛んで、壁に激突する。

334:2004/05/12(水) 22:24

「ふう、こんなものですかね…」
 『アルケルメス』が、その腕で吊り下げていた兵の体を床に落とした。
 大会議室の床は一瞬のうちに、倒れた兵で埋まってしまう。

「僕、何もしてないんだけどな…」
 ドアの前に突っ立って、モララーが呟いた。
 その隣にはしぃもいる。

 局長は、部屋の隅に集まっている要人達に歩み寄った。
「どうも、皆さんを救出に来た公安五課です」
 そう言って、スーツ姿で固まっている老人達に名刺を配る局長。
「公安五課をよろしく。再来年度予算には、ぜひ一考の程を…」
「…根回しは後にして下さい」
 リル子は、厳しい口調で言った。

 首相が、局長の顔をまじまじと眺める。
「…今日一日の動向は、TVで見て知っている。公安五課は自衛隊に与しなかったのかな?」
 局長は軽く肩をすくめた。
「私がフサギコ…統幕長と対立していたところは見たでしょう?
 公安五課は、スタンドの犯罪を取り締まる組織。スタンドそのものを犯罪と見なす訳ではありません。
 …ゆっくり話をする余裕もないようですね」

 足音と共に、5人の米兵が会議室に駆け込んできた。
 そして、銃口を部屋内に向ける。

「…『崩れる』」
 『アルカディア』は呟いた。
 兵達の足元の床に幾つもの亀裂が走る。
「…!?」
 兵士達が反応する間もなく床が崩れ、彼等の体は階下に落下していった。

「脱出か… モララー、『アナザー・ワールド・エキストラ』の瞬間移動が使えないか?」
 ギコはモララーに訊ねる。
「…無理だね。座標の調整に時間がかかる上に、これだけの人数が通れる『穴』を開けるのも無理だよ」
 モララーは壁にもたれたまま首を振った。
「全く、使えねぇな…」
 ギコが吐き捨てる。

 局長は、20人近くいる要人達の顔を見回した。
「今から、皆さんを連れてここから脱出します。
 人数が多いので、3×7の列を組んで駆け抜けます。
 列から離れると間違いなく死にますので、そのつもりで」

 要人達の顔に不満と緊張が走った。
 だが、命をかけてまで愚痴る覚悟のある人間などそうはいない。
 彼等は素早く3×7の列を形成した。

 それを見て、局長は頷く。
「国会でも、今のように文句を言わず速やかに協力すれば、審議は十分の一の時間で済みますね。
 さて、行きますよ…!」
 リル子が列の先頭に立ち、早歩きで進み出した。
 先程『アルカディア』が空けた床の穴を大きく迂回する。
「俺達は、列の両脇を固めた方がいいな…?」
 ギコは局長に言った。
「そうですね。最後尾の守りは私が務めましょう」
 局長は頷く。
 ギコ、モララー、しぃ、レモナ、つーは素早く列の周囲に展開した。
 そのまま、一団は会議室を出た。

 そして、素早く廊下を通過する。
 局長は要人達に語りかけた。
「ここから少し行ったところに、多くの死体が転がっています。
 心臓の弱い方は気をつけて下さいね。
 まあ、政治家の皆さんともなれば死体の1つや2つ見慣れているかと思いますが」

 一同は、死体で埋まった廊下に差し掛かった。
 靴が血で濡れるのも厭わず、要人達は列を組んで走り抜ける。
「…おっと、急用を思い出しました」
 急に局長は立ち止まった。
「リル子君、先に行って下さい」

「は?」
 怪訝そうに振り返るリル子。
 その目に、真剣な局長の表情が映る。
「…了解しました。早めに合流して下さい」
 再び、リル子は駆け出す。
「えっ、いいの…!?」
 モララーは、リル子の後姿と局長の顔を見比べた。
「いいんだよ、行くぞ!!」
 ギコが先を促す。
 一団は、局長を残してそのまま3階に降りていった。

335:2004/05/12(水) 22:25



「さて… もう息を潜めるのにも飽きたでしょう?」
 局長は壁の一点を見つめて言った。
 不意に、その空間に人間の輪郭が浮かぶ。

「…よく気付いたな。対スタンド機関の人間か?」
 その男は、一瞬にして実体化したように見えた。
 鍛え抜かれた筋肉質な体。紺を基調とした潜入用と思われるスーツ。
 そして、紺色の長いバンダナ。
 彼は、H&K社の特殊部隊用拳銃、USPを手にしていた。
 米兵15人を瞬殺した事からして、間違いなく強い。

「『BAOH』の嗅覚ですら反応はなかったのに、人間に見つかるとは…」
 男は低い声で言った。
 『BAOH』… こいつ、つーを知っている…!
 しかし、動揺は局長の顔に出ない。
「『BAOH』の嗅覚は敵意を感じ取る嗅覚であって、一般の意味での嗅覚ではありませんからね。
 私は職業柄、硝煙の匂いには敏感なんですよ…」
 局長は、煙草を咥えて言った。
 そのまま、煙草に火をつける。
「敵意が無ければ感知されない、か…」
 男は感心したように呟いた。

「さて、貴方はどこのスタンド使いです? ASAとは思えませんがねぇ…」
 局長の背後に『アルケルメス』のヴィジョンが浮かぶ。
「…俺に国はない」
 男は吐き捨てると、素早く横転した。
 そのまま、USPの引き金を引く。
「『アルケルメス』…!!」
 着弾の瞬間をカットし、同時に接近する。
 しかし、その対象の姿は既に無かった。

 先程撃ったUSPが廊下に転がっている。
 その銃口からは、硝煙が上がっていた。
「…」
 素早く周囲を見回す局長。
 しかし、男の姿は見当たらない。

 …僅かな物音が、背後から響いた。
「『アルケルメス』ッ!!」
 咄嗟にスタンドを発動させる局長。
 ピッタリのタイミングで、真後ろから狙撃された瞬間をカットする。

「…チッ」
 僅かな舌打ちが背後から聞こえた。
 素早く振り向く局長。
 しかし、既に男の姿はない。
「全く…、面倒な相手ですねぇ…」
 『アルケルメス』を背後に待機させたまま、懐から拳銃を取り出して局長は呟いた。

336:2004/05/12(水) 22:26



          @          @          @



 ギコ達と要人一同は、1階への階段を駆け下りていた。
「外に待機させている脱出用ヘリってのは、どのくらいの距離だ?」
 ギコは先頭のリル子に訊ねる。
「合図があり次第、200mほど離れた空き地に着陸する手はずになっています」
 リル子は、歩調を落とさずに答えた。
「でも、局長は…?」
 しぃは呟く。
 ギコは口を開いた。
「あいつは、最後尾を担当すると言っただろう? その最後尾が、あの場に残ったんだ…」
「追撃者がいた、って事か…」
 ギコが言いたい事を理解するモララー。
「じゃあ、たった1人で…!」
 しぃは言った。

「…ヒトノ コトヲ キニシテル バアイ ジャナイゼ…!」
 つーが、敵意の匂いを感じ取ったようだ。
「1カイ ホールニ スゲェ カズダ…」

「…!!」
 しぃが息を呑む。
「何人ほどです…?」
 リル子は訊ねた。
「ホールには3個中隊…約280人ってとこね。外には… とにかくいっぱい」
 つーの代わりに、レモナが口を開く。

 リル子は階段の途中で立ち止まった。
 要人達の列の進行も会談の真ん中で止まる。
 そして、リル子は要人達の方に振り返った。
「聞いての通り、1階のエントランスホールは敵で埋まっています。
 私達で片付けるので、ここで待機していてください」

 首相は緊張した面持ちで頷いた。
 次に、ギコ達の方を向くリル子。
「私とレモナさん、そしてつーさんは、敵に突貫して道を空けます。
 おそらく、相当の数の敵兵がここにも向かってくるでしょう。
 ギコさん、しぃさん、モララーさんは要人の方々を護衛して下さい」

「おうよ!」
 ギコは頷くと、階段の下に視線をやった。
 上がってくる奴を片っ端から撃退すればいい。
 上方に陣取ったこちらが有利だ。

「レモナさん、つーさん、準備はいいですか…?」
 リル子はアタッシュケースを手繰り寄せて言った。
「久々に、気合が入るわね〜」
 レモナが軽く髪を掻き上げる。
「アヒャ! マカセトキナ!」
 つーが両手の爪を剥き出しにした。

 リル子は2人の様子を確認すると、アタッシュケースを開いた。
 ケースから飛び出した『アルティチュード57』が、一瞬にしてリル子の体を覆う。
         Anfang   System All Green
「『Altitude57』、起動…  システム異常無し」

 コードに覆われた漆黒のスタンドを身に纏い、リル子は階下に視線をやった。
 ここからは見えないが、1階には大量の敵兵が待ち伏せている…
 リル子は、次に一同を振り返った。
 敵兵から奪った小銃を構えているギコ。
 少し不安げなしぃ。
 よし、やるぞッ!!と気合を入れているモララー。

 レモナとつーは、リル子と視線を合わせて頷いた。

「――では、行きますよ」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

337ブック:2004/05/13(木) 18:59
     EVER BLUE
     第十三話・BATTLE FORCE 〜力の矛先〜


 雨が降りしきる次元の異なった空間の中、天は傘を差し静かに佇んでいた。
 雨の降り続く無限の荒野。
 これが、天の心の投影か。

「『レインシャワー』。」
 天が呟く。
 すると、雨水がみるみる一つ所に集まり始め、
 それは瞬く間に一匹の大きな狼へと姿を変えた。

「行きなさい。」
 天が吸血鬼を指差した。
 直後、狼が吸血鬼に向かって飛び掛かる。

「……!!」
 吸血鬼は無言で狼を腕で払いのけた。
 爪で体を深々と抉られた狼が、元の雨水へと変わって弾ける。

「まだまだ行くわよ。」
 しかし、次の瞬間には再び天の近くに新たな狼が生み出される。
 同時に突進していく狼。
「何を…!」
 だが、矢張り吸血鬼はそれを苦も無く退けた。
 それと同時にまたしても出現する狼。

「ふん…!!」
 吸血鬼が狼が現れてはそれを次々と屠っていく。
 生まれる。
 消える。
 生まれる。
 消える。
 生まれる。
 消える。
 不毛な繰り返し。

「こんなものでこの俺を倒せると思っているのか!?」
 十体目位の狼を消し去った所で、吸血鬼が苛立たし気に叫んだ。

「…やっぱり、これしきでは駄目ね。
 仕方無いわ。
 もう余り時間も残っていないし、この辺りで決着させて貰うわよ。」
 と、天が傘を閉じ、その先端を地面へと突き刺した。

「『レインシャワー』!!」
 またもや雨水が集まり始め、別の姿を形作っていく。
 どうやら、今度は狼ではないようだ。
 彼女は、一体何を…

338ブック:2004/05/13(木) 19:00


「!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!」
 オオミミと吸血鬼が、同時に目を見開いた。
(!!!!!!!!!)
 僕も思わず息を飲む。
 これは、こいつは…!

「あいつは…!」
 オオミミが身構える。
 そこに生まれたのは、オオミミの腕と足を斬り落としたあの女吸血鬼だった。

「栗田様…!?」
 吸血鬼がポカンと口を開いた。

「!!!!!!!!!!」
 刹那、女吸血鬼は男目掛けて襲い掛かった。

「くっ…なっ……!!」
 男が左腕でその一撃を受ける。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
 直後、男の左腕があらぬ方向に折れ曲がった。
 それを逃さず、女吸血鬼はさらに男の体を切り刻む。

「WWWWWOOOOOOOOOHHHHHHH!!!」
 男の体があっという間に深紅に染まる。
 吸血鬼の再生力でも、傷を修復しきれていない。

 一体、天のこの能力は何なんだ。
 あの女吸血鬼の動きは、まさにオオミミが闘ったそれと遜色無い。
 只一つ、スタンドを使っていないという点を除いては。

「AAAAAHHHHHHHHHH!!!」
 男が絶叫する。
 最早、男の命は風前の灯火だった。

「…『ゼルダ』。」
 と、オオミミが僕に話しかけた。
(オオミミ?)
 どうしたんだ、オオミミ。
 そんな浮かない顔をして。

「ごめん。少しだけ、僕に体を貸してくれ。」
 その言葉と共に、僕の体の支配権がオオミミへと移った。
(オオミミ、何をするつもりなんだ!?)
 僕の言葉に、オオミミは答えない。
 無表情のまま、女吸血鬼と男が闘う所へと歩いていく。

「ちょっと、何考えてるの!?
 巻き添えを喰らうわよ!?」
 天が驚いた顔でオオミミを制止しようとする。
 しかし、オオミミ止まらない。

(やめろ!オオミミ!!)
 だが、僕や天の言葉には耳も貸さず、オオミミはひたすら進み続けた。

「……!!」
 天が制止は無理と判断したのか、女吸血鬼を雨水へと戻す。
 暴力から開放された男が、訳が分からないといった様子で目を丸くしていた。

「……」
 オオミミが、男の前に立つ。

「…!SYAAAAAAAAAAAA!!!」
 呆然としていた男だが、そんなオオミミを前にして、
 これぞ好機とばかりに目を血走らせてオオミミに爪を振るう。

「『ゼルダ』!」
 しかし、遅い。
 先程の女吸血鬼の雨細工との闘いでのダメージで、
 既に男には以前の力は無かった。
 男の爪がオオミミの体に触れる前に、オオミミが僕の体を操って男の頭を叩き潰す。
「……!!!」
 頭を破壊された男は、地面に仰向けに倒れてそのまま蒸発していった。

339ブック:2004/05/13(木) 19:01



 …気がつくと、周りの風景は元の船内へと戻っていた。
 恐らく、天の能力が解除されたのだろう。

「…どういうつもり?」
 天が、なじるような表情でオオミミに尋ねた。
(そうだよ。何で、あんな事をした。)
 僕もオオミミに同じ質問をする。

「手柄を横取りしたかったのかしら?
 だとしたら、とんだ卑怯者ね。」
 天がぶつけるように言葉を投げかける。
 オオミミは、黙って首を振った。

「だとしたら何であんな危ない事したのよ!
 私が止めなかったらどうなってたか分かってるの!?」
 天がカンカンに怒りながら叫ぶ。

「天なら、止めてくれると思ってたから。」
 オオミミが、苦笑しながら答えた。

「そうじゃなくて、何でアタシの邪魔をしたのか聞いているの!」
 僕もオオミミが何故あんな事をしたのか分からなかった。
 オオミミ、答えろ。
 返答によっては、僕も怒るぞ。

「…天は、人を殺した事ある?」
 天の顔を真っ直ぐと覗き込み、オオミミは言った。
「…!?無いけど、それが何よ…」
 オオミミの真剣な眼差しに圧され、天がやや身を引きながら答える。

「…人を殺すとね、凄く、凄く嫌な気分になるんだ。
 俺は、君にそんな思いをして欲しくない。」
 オオミミが俯く。
 まさか、君はたったそれしきの理由でさっきの無茶をしたのか?
 馬鹿げている。
 それに、さっきの男は人間じゃない。
 ただの化け物、吸血鬼じゃないか!

「何言ってるの!?
 それとこれと何の関係があるっていうのよ!
 さっき吸血鬼は、ただの化け物じゃない!!」
 僕が考えた事と全く同じ台詞を、天が喋る。

「…違うよ。
 やっぱり、そんな理由なんかで殺しちゃ駄目だ。
 吸血鬼だから、化け物だから殺してもいいなんて、絶対に間違ってる。
 そんな理由で殺したら、いつか、それを悔やむ日が来る。」
 オオミミが哀しそうな目で言葉を続けた。

「サカーナの親方が言ってた。
 殺す時には、それ相応の理由で殺せ、って。
 信念とか、理想とか、お金とか、怒りとか、憎しみとか、道義とか、
 何かを守る為とか、食べる為とか、生きる為とか、
 それが良いとか悪いとかに関わらず、
 自分なりの確固たる理由をもって殺せ、って。
 そして、相手もまた同じ様に理由を持っている事を忘れるな、って。
 それが、殺す相手への最低限の礼儀だ、って。」
 オオミミが天に語り続ける。
 それは、あたかも自分に対して問うているようでもあった。

「…吸血鬼だってそれは同じだよ。
 彼らは、人を食べなきゃ生きていけないんだ。
 だから、人を殺す。
 勿論、俺達人間だって黙って喰われる訳にはいかない。
 だから、吸血鬼を殺すんだ、って。
 ただそいつが吸血鬼だから、化け物だから殺していいなんてのは、
 畜生にも劣る道理だ、って。
 …そうサカーナの親方は教えてくれた。」
 僕は黙ってオオミミの話を聞いていた。

「…それは、さっきの吸血鬼だって一緒だよ。
 あいつらは何らかの理由で俺達の船を襲って、俺はそれを防ぐ為に殺した。」
 天は何も答えない。
 ただ俯きながら、オオミミの言葉に耳を傾けている。

「…それに、いくらこうやって綺麗事並べたって、
 誰かを殺す、ってのは、いけない事なんだ。
 …だから、巻き込まれただけの君が、
 こんな所で、そんな理由で殺しちゃ駄目だ。」
 オオミミが呟くように天に告げた。
 優しく、しかし、どうしようもない位に寂しそうな声で。

340ブック:2004/05/13(木) 19:01


「…あんたは……」
 と、天が何か言おうと口を開いた。

「…?」
 オオミミがそれを受けて不思議そうな顔をする。

「あんたは、今までに人を殺した事があるの…?」
 真剣な表情で、天がオオミミに尋ねた。

「……」
 オオミミと天の間に沈黙が流れる。
 押し潰されそうな圧迫感。
 オオミミはしばし躊躇った後、やがて観念したように口を開いた。

「…殺したよ。それも、いっぱい。」
 …事実だった。
 僕も、それに協力していた訳ではあるが。

 仕方が無いといえば仕方の無い事だ。
 オオミミの居るサカーナ商会一味は、いわゆる何でも屋と呼ばれる部類の職業で、
 悪く言ってしまえばならず者と大差無い。
 この物騒なご時世、護衛や輸送等の仕事の最中に…
 いや、仕事とは関係の無い時だって、空賊に襲われる事もある。
 そうなったら、反撃だってしないといけない。
 当然、已むを得ず殺さねばならない場合だってある。
 それはしょうがない。
 やらなければ、こっちがやられてしまうのだ。
 殺すぐらいなら殺される方がマシなどと、気の触れたような戯言を言っていては、
 この世界では一日とて生きていけない。

 ただ、誓って何も関係無い人を殺した事や、
 残虐に苦しめながら殺した事は一度だって無い。
 だけどそんな事を言った所で、オオミミは自分を責めるのをやめないだろう。
 僕にはただ、オオミミと一緒に罪を被っていく事しか出来なかった。

「…軽蔑してくれていいよ。俺は、人殺しなんだ。」
 オオミミが顔を背けながら天に告げる。

「…ア、アタシは……」
 天が困ったような顔をしながら、オオミミに何か答えようとした。

 …僕は、彼女がもしオオミミを傷つけるような事を言ったら、
 ひっぱたいてやるつもりだった。
 オオミミを侮辱する奴は、絶対に許せない。

「…アタシは、人を殺した事が無いし…難しい事は分かんないから、
 あんたが正しいのかどうかなんて分かんない。
 だけど……」


「オオミミ君、天君、大丈夫ですか!?」
 と、そこにタカラギコが駆けつけて来た。
 背中には、何やら大きな十字架を担いでいる。
 いや、あれは以前サカーナの親方に見せて貰った事がある。
 確か、『パニッシャー』とかいう銃だった筈だが…
 まさか、あのトンデモ兵器を使えたのか!?

「あ、はい。」
 オオミミが慌ててタカラギコの方を向く。

「いや、こちらの方に恐いおじさんが来たと思ったのですが…
 どうやら、もう片付いていたみたいですね。」
 タカラギコが、足元に転がる吸血鬼の残骸を見ながら口を開いた。

「さて…どうやら、嵐は去って行ったみたいですね。」
 そのタカラギコの言葉で、初めて周りが静かになってきていたのに気がついた。
 どうやら、何とか切り抜けられたようだ。

「…取り敢えず、ブリッジに行ってみよう。」
 オオミミが、天とタカラギコに向かってそう告げた。



     TO BE CONTINUED…

341ブック:2004/05/15(土) 01:41
     EVER BLUE
     第十四話・WHO ARE YOU? 〜タカラギコ〜


「只今戻りました。」
「カウガール、帰還しました〜!」
 高島美和とカウガールがブリッジに戻って来た。
「おう、御苦労さん。」
 サカーナの親方が片手を上げて二人を迎えた。
 ブリッジには既に、僕とオオミミ含む三月ウサギやニラ茶猫等、
 主要メンバーが勢揃いしていた。

「…まさか吸血鬼のおでましとは、な。
 『紅血の悪賊』のボスが吸血鬼で、メンバーの中にも多数の吸血鬼が居るってのは
 有名な噂だったけど、まさかこの目で確認するとは夢にも思わなかったぜ。」
 ニラ茶猫が呆れた様に笑いながら言う。

 だけど、どういう事だ?
 確かにこの前僕達は『紅血の悪賊』の小型戦艦を襲いはした。
 しかし、『紅血の悪賊』ともなればそんな事は日常茶飯事だろう。
 それなのに、吸血鬼まで駆り出して僕達みたいな小物まで仕返しに来るなんて、
 明らかにやり過ぎだ。
 それに、襲い方だって変だ。
 『紅血の悪賊』は、一発も僕達の船に発砲してこなかったらしい。
 つまり、最初から僕達の船の内部に進入し、制圧する事しか眼中に無いという事だ。
 だけど、何でそんな危険の伴うまだるっこしいやり方を…

「…しかし、それにしては思ったより被害は出ませんでしたね。」
 高島美和が全員を見渡しながら言った。
 多少船内が荒らされたり、数名の怪我人が出てはいるものの、
 幸いな事に致命的な船体への損傷や死傷者は出ていない。

「…この程度で済んだのか、この程度で済まされたのかは微妙だがな。」
 三月ウサギが腕を組みながら呟く。

「違ぇねぇ。
 まあいい、取り敢えず目の前の危険は何とか切り抜けられた。
 となると残る問題は―――」
 サカーナの親方が、視線を動かす。
「―――お前だけだな。」
 目線は、タカラギコの前で止められた。
 三月ウサギもニラ茶猫も、一様に身構える。
 唯一タカラギコだけが、いつも通りののほほんとした笑みを浮かべていた。

「ちょっと皆さん、何か恐いですよ?
 私が何をしたっていうんですか…」
 タカラギコが腕を振りながら情け無い声を上げる。
 その様子だけ見れば、どこにでも居る好青年だ。
 だが…

「誤魔化すなよ。
 化かし合いは無しだ。
 偶々オオミミと嬢ちゃんが『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)に
 襲われている所に通りかかって、
 偶々それから二人を守ってやって、
 偶々俺達の船に乗り込んで、
 偶々そいつが飛空挺も知らねぇような変人で、
 偶々そいつを乗せた途端『紅血の悪賊』が襲って来て、
 偶々そいつが生身で吸血鬼と互角以上に渡り合い、
 パニッシャーを使いこなせるような凄腕だった。
 で、俺達はどこまでその偶々を信用すりゃあいいのかな?」
 サカーナがタカラギコを睨む。
 タカラギコも、ようやく表情を少し強張らせた。

「…最初から全部偶々でした、と言って信用して貰えますかね?」
 タカラギコが肩をすくめた。

「悪いが、信用出来ねぇな。
 俺達はそこまで善人じゃない。」
 そこまでも糞も、サカーナの親方の顔はもろ悪人のそれだ。
 よって、この台詞には全く説得力が無い。

「答えろ。お前さん、何者だ?」
 サカーナの親方が、低く、しかし重い声でタカラギコに尋ねた。

342ブック:2004/05/15(土) 01:42


「…『帝國』。」
 と、タカラギコがボソッと呟いた。
 同時に、その言葉に一同の顔が凍りつく。
 僕も、一瞬耳を疑ってしまった。
 あの、武力を背景に勢力を拡大しつつある、忌まわしき集団、『帝國』。
 飛空挺も知らないような彼から、何でその単語が!?

「お前…」
 三月ウサギがマントの中に手を伸ばした。
 いつでも、剣を振るう事を可能にする為だろう。
 ニラ茶猫も、腕から刃を生やしている。

「『帝國』のとある軍事機密に関わる何かを、『紅血の悪賊』が掠め取ったらしいです。
 それも、かなりのものを、ね。」
 タカラギコが、周囲から浴びせられる殺気など気にもしない様子で言葉を続けた。

「しかしそれを運送する途中で、運の悪い事にそれを横から奪われてしまった。
 それも、民間の船団に。」
 …ちょっと待て。
 それって、もしかして―――

「そう、あなた達がこの前襲撃した『紅血の悪賊』の船が、それですよ。」


 ―――!!

 三月ウサギが、ニラ茶猫が、タカラギコに得物の刃先を突きつける。
 一触即発の張り詰めた雰囲気が、その場に流れた。

「貴様…『帝國』の手合いか……!」
 三月ウサギが、タカラギコに剣を向けながら尋ねる。
 返答次第ではこの場で殺すという殺意が、視線には顕著に現れていた。

「…違います。」
 三月ウサギの殺気を受けても気圧される事の無い様子で、タカラギコが答えた。

「じゃあ何で、そこまでの事を知ってるんだ?」
 ニラ茶猫がタカラギコに聞いた。

「…私は、とあるお方からその事について調べて来るようにと仰せ付かりました。
 いわば、エージェントですね。」
 タカラギコが剣先を向けられたまま言葉を続けた。

「で、それについて調べまわっている時、偶然オオミミ君に出会ったという訳です。
 …これを信じる信じないは任せますが。」
 つまり、オオミミに会ったのは仕組んだものでは無いという事か?
 だが、この人は果たしてどこまで本当の事を言っているのだろうか。

「…あるお方ってのは、誰だ?」
 サカーナの親方がタカラギコの目を見た。
「すみませんが、今は言えません。
 色々こちらにも事情がありますので、手札を全ては見せられないのは御容赦下さい。」
 タカラギコが、サカーナの目を見返しながら言った。

「その、『帝國』の軍事機密とやらは何だ?
 奴らは何を企んでる!?」
 ニラ茶猫がいささか興奮した口調でタカラギコに詰め寄った。

「そこまでは、私も分かりません。
 ただ、相当の代物でしょう。
 そう考えれば、先程の『紅血の悪賊』の奇妙な襲撃方法も納得がいくというものです。
 この船を撃墜して、海の…
 いえ、空の藻屑にしては、軍事機密までお釈迦になるかもしれませんからね。
 それ程、重要なものなのでしょう。」
 成る程。
 それならば、あの変な戦法も一応説明がつく。
 だけど、軍事機密って、一体何なんだ?

343ブック:2004/05/15(土) 01:42

「おい!あの船からかっぱらって来たものを全部持って来い!!」
 サカーナの親方が、船員にそう告げた。
 何人かの下っ端船員が、慌てて倉庫目指して走って行く。

「…兄ちゃん。結局、何が目的なんだ。」
 サカーナの親方が一歩タカラギコに近づく。

「先程も申し上げた通り、『帝國』の軍事機密の調査です。
 そして今現在の私の目標は、何か重要な手がかりを握っているであろうあなた達を、
 私を使わしたお方の前へと案内させて頂く事です。」
 タカラギコが表情を崩さないまま答える。

「阿呆か!?
 誰がそんな事言われて、はいそうですか、ってノコノコとついて行くと思ってんだ!
 行ってみたら銃弾のシャワーで歓迎会を開いてくれました、
 ってならない保証がどこにある!?」
 サカーナの親方が大声で言った。
 まあ、普通に考えればその通りだ。
 こんな事言われてついていく奴など居やしない。

「…まあ、それが当然です。
 ですので、その折衷案として私がこの船に滞在し、
 調査+皆様の護衛を務めさせて頂くという事を許可しては貰えませんか?
 で、皆様の気が向かれましたら私の雇い主に会ってもらえたらいいな、と。」
 タカラギコが手を揉みながらサカーナにそう伝えた。

「…断る。
 貴様は、信用出来ん。
 それに、『帝國』の事など俺達の知った事では無い。」
 三月ウサギがタカラギコを見据えた。

「…知った事では無い、ですか。
 果たしてそれが、『帝國』や『紅血の悪賊』に通用しますかねぇ。
 それに、それら二つの勢力だけじゃありません。
 聞いた話によると、『夜の王国』も動いているらしいですよ?」
 『夜の王国』!?
 あの、吸血鬼で構成されていると言われている、
 どこにあるかも分からない国か!?
 だが、何故だ。
 飛空挺の事も知らなかったような男が、何故そこまでの事を知っている!?

「…失礼ですが、腹を括った方がよろしいかと。
 望む望まないに関わらず、あなた方はもう踏み込んでしまった。
 今更、後戻りは出来ません。
 これは既にあなた達だけの問題じゃ無い。
 ひょっとしたら、世界の趨勢すら左右する問題なんです。」
 真剣な表情で告げるタカラギコ。

「どういう事だ…?」
 ニラ茶猫がタカラギコに尋ねた。

「考えても見て下さい。
 詳細は不明ですが、『帝國』の軍事機密の内容によっては、
 他国も放置は出来ないでしょう。
 それは『帝國』も同じ。
 いくら『帝國』が強いとはいえ、周囲の国全てを敵に回してはひとたまりも無い。
 まだこの軍事機密は眉唾物程度の情報でしかありませんが…
 全てが明らかになれば、国同士のパワーバランスを崩しかねない、という事です。」
 おいおい待てよ。
 何か、どんどん話が大きくなってきたぞ。

「…ま、今はまだそこまでの心配はいらないでしょうけどね。
 さっきも言った通り、『帝國』の軍事機密とやらが本当かどうかは、
 法螺話同然の眉唾情報です。
 そんな不明瞭な情報では、他国も余り大きくは動けないでしょう。
 当面の脅威は、国とは関係の無い無法集団、『紅血の悪賊』ですね。」
 タカラギコがそこで一息吐いた。

「…『紅血の悪賊』が、何だってそんなものを盗んだんです?」
 今まで話を聞くだけだった高島美和が、タカラギコに尋ねた。
「流石にそこまでは。
 理由は当人達に聞くのが一番なんですけど、
 どうやら全員死んじゃったみたいですしね。」
 タカラギコが苦笑する。

344ブック:2004/05/15(土) 01:43

「…さっき、言ってたよな。
 情報の中身によっては、他国も『帝國』を放ってはおけない、って。」
 と、いつになく思い詰めたような表情で、ニラ茶猫がタカラギコにそう言った。

「ええ…
 確証はありませんけどね。」
 タカラギコがニラ茶猫の方を向く。

「…お前の雇い主は、『帝國』をどうにかするつもりなのか?」
 ニラ茶猫がさらに尋ねる。
「あのお方が何をするつもりかは、私は聞いてはおりませんが…
 それでも、情報の使い方によっては『帝國』に大打撃を与える事も
 不可能では無いでしょうね。」
 タカラギコがそう答えた。

「…そうかい。分かったよ。」
 ニラ茶猫が蟲を擬態させた刃を納め、皆の方に振り返った。

「俺は、取り敢えずこいつの話に乗るつもりだ。
 …『帝國』には、ちーとばっかし借りがあるんでな。」
 ニラ茶猫が皆に向かって告げる。

「…正気か?」
 三月ウサギがやや驚いた風にニラ茶猫に言葉を向けた。
「…ああ。
 『帝國』だきゃあ、許せねぇ。
 お前らが嫌だってんなら、俺はこいつと一緒に船を降りるぜ。」
 ニラ茶猫の瞳に、どす黒い憎しみの炎が灯っていた。
 前から『帝國』が気に入らないとは言っていたが、まさかこれ程とは。
 一体、彼と『帝國』の間に何があったのだ?

「……!」
 オオミミが、強く拳を握り締めた・
 そういえば、確かオオミミも昔『帝國』に…

345ブック:2004/05/15(土) 01:44

「…兄ちゃん。」
 サカーナの親方が、タカラギコに言葉を投げかける。
「はい。」
 それに返すタカラギコ。

「…悪いが、俺は今の話を全部は信用してねぇ。
 だが、全部が全部嘘とも思えねぇ。
 現に、さっき『紅血の悪賊』は襲って来た訳だしな。」
 サカーナの親方が手をポキポキと鳴らす。

「お前も手札の全てを見せた訳じゃないんだろ?
 拷問にでもかけたい所だが、
 どうやらお前はそんなんが通用するタイプじゃなさそうだしな…」
 さりげなく恐い事を言うサカーナの親方。

「…分かったよ。
 勝手について来い。
 その代わり、今の所お前さんの雇い主に会うつもりはねぇし、
 俺達の進む先にも口出し無用だ。
 それと、この船に乗っている限り俺の命令には従って貰う。」
 サカーナの親方が溜息を吐いた。

「正気か…!?
 こいつがいつ裏切らんとも限らないんだぞ…?」
 三月ウサギがあからさまに不服そうな顔をする。
「私も三月ウサギの意見に賛成ですね。
 不確定要素が多過ぎます。」
 高島美和も同様に苦言を漏らす。

「どっちみち、こいつが何かするつもりならこの船から叩き出した所で
 何かしでかしてくるさ。
 それなら、近くで目を光らせといた方が安心てなもんだ。
 それに、今こいつをぶっ殺した所で状況が変わるとも思えねぇし、
 それなら精々利用させて貰おうぜ。」
 サカーナの親方が二人にそう答える。

「私も船長の意見に賛成です〜。」
 カウガールがのほほんとするような声で言った。
 それにより、場のムードが少し和らぐ。

(オオミミ、どうする?)
 僕はオオミミに尋ねた。
 もっとも、聞かなくても答えは大体想像出来るが。

「…信用しても、構わないと思う。
 タカラギコさんの目、凄く優しそうなんだもの。」
 …やれやれ、思った通りだ。
 だが、オオミミの人間評価は今まで外れた事は無い。
 オオミミが太鼓判を押す位だから、今の所は敵意は無いという事か。

「たまらんな…」
 三月ウサギがやれやれと首を振り、剣をマントにしまった。
 しかし、殺気は未だタカラギコに向けたままである。

「船長〜〜!
 この前の戦利品持って来ました〜〜〜!!」
 と、先程『紅血の悪賊』と交戦したどさくさに紛れて失敬してきた品々を、
 乗組員達が担いで来た。

「…よし、上出来だ。
 細かい事は、そいつらを調べてから考えようぜ。」
 サカーナの親方はそう言って戦利品を眺めるのであった。



 …そう。
 僕達は、既に大きな流れの中に絡め取られていたんだ。
 そしてこれから先どんな苦難が待ち受けているのかなんて、
 この時の僕達には知る由も無かった―――



     TO BE CONTINUED…

346ブック:2004/05/15(土) 16:49
物語がある程度キリのいい所まで進んだので、
需要があるかどうかは分かりませんが人物&世界設定説明をさせて頂きます。


世界観…人々は大地を失い、空を漂う島の上で生活をしています。
    何故大地に住めなくなったか、何故島が空を浮いているのかには
    諸説ありますが、今の所解明はされていません。
    兎にも角にも、人々は今日も空の海を駆けながら生きています。



     ・     ・     ・



サカーナ商会…サカーナを筆頭に、『フリーバード』という名の船に乗って
       何でも屋(トラブルバスター)をしながら空の海を渡り歩く
       半ばならず者同然の集団。
       サカーナ曰く、『訳有り』の連中が多い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オオミミ…この物語の主人公。が、でぃ同様ヤムチャキャラに成り果ててしまう。
   性格は至って温厚+お人好し。
   誰とでも仲良くなるのが得意技で、あらゆるキャラクターと絡む事が出来る。
   しかし、そのせいでぃょぅ同様キャラが弱くなり、影も薄くなってしまった。

スタンド…名称『ゼルダ』。近距離パワー型で、能力は今の所不明。
     厳密に言えばオオミミ自身のスタンドではない。
     独立意思を持つが、ダメージはオオミミにフィードバックする。
     『ゼルダ』自信が言うには、結界展開型の能力を持っているらしい。
     この物語の語り部で、実質第二の主人公。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天…この物語のヒロイン。
  我侭お姫様ヒロインを試みてみたものの、えらい方向に。
  元になったAAとは全然性格が違いますが、その点はお目こぼしを。
  頭に大きなリボン、外出時にはいつも傘を持ち歩き、
  体に怪しい事この上ない痣を持つ。
  猫耳ではないです。

スタンド…名称『レインシャワー』。ビジョンの無いスタンドで、
     特殊な結界を展開する能力を持つ。
     その結界の中は天が降りしきり、その雨水を集めて別の形に変えて攻撃するが、
     詳細は不明。
     固有結界。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
三月ウサギ…みぃ同様ウサギを平仮名と勘違いしていた可哀想なキャラ。
      今回はこっそり直したがあっさりとばれてしまった。
      冷静というよりは冷徹で、人を寄せ付けないが、オオミミとは何故か気が合う。
      ニラ茶猫を完全に馬鹿にしており、事実弱みを握って体よく扱っている。

スタンド…名称『ストライダー』。三月ウサギのトレードマークであるマントに同化する
     形で発動しているが、詳細は不明。
     簡単に言えば四次元ポケットのようなもので、
     沢山の荷物を一度に持ち運べるなど用途は様々。
     制限として、スタンド・火・電気などの純エネルギー体は収納出来ない。
     本来他人と協力してこそ真価を発揮する能力だが、
     三月ウサギ自身が協調性が余り無い為、充分な活用はされていない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ニラ茶猫…ロリペドバ㌍タラ㍑。
     そのくせカウガールともニャンニャンしている羨ましい奴。
     三月ウサギに何かと突っかかってはいるが、一度も勝てた試しは無い。
     ギコえもんとかなり共通する部分があり、多分ふさしぃの絶好の標的。

スタンド…名称『ネクロマンサー』。リゾットの『メタリカ』のように、
     体内に発動しているタイプのスタンド。
     蛆虫のようなビジョンをしており、あらゆる物体に擬態する事が可能。
     それ故、戦闘能力もあるのに薬箱のような扱いを受けているのが、
     ニラ茶猫にとって大きな悩み。

347ブック:2004/05/15(土) 16:50
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
高島美和…『フリーバード』のメインオペレーター兼、財務管理役兼、
     『トンボ』と呼ばれる小型戦闘機の砲撃手担当。
     変人の多いサカーナ商会の中数少ない良識家で、
     サカーナを初めとする乗組員の非常識な行動にいつも頭を痛めている。

スタンド…名称『シムシティ』。四つの大きな目玉が胴体の蝙蝠と、
     それぞれの視界を映すディスプレイがビジョンの遠隔操作型スタンド。
     ディスプレイには、蝙蝠の視界が記号化、数値化されて映し出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カウガール…『フリーバード』の操舵士兼、『トンボ』の操縦士担当。
      ニラ茶猫とは恋仲で、ギシアンしている程の関係。
      余談だが、ニラ茶猫の隣の部屋はマンドクセで、
      その所為でマンドクセは毎夜鬱になっている。

スタンド…名称『チャレンジャー』。遠隔操作型で、毛むくじゃらの子鬼のビジョンを持つ。
     能力は取り付いた機械を故障させる事。
     ただし、直接物理攻撃力は全く持たない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サカーナ…『フリーバード』の船長。
     豪快で一見何も考えていないようには見えるが、頭の回転が悪い訳ではない。
     が、はたから見ればただの馬鹿親父。
     本来船の中で一番偉い筈なのだが、いつも高島美和の尻にしかれている。
     パニッシャーは彼が昔の職場から取って来た。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…男塾パワーで復活した、大反則野朗。
      別の世界に復活しても、相変わらず影でこそこそと何かやっていが、
      その目的は不明。
      主人公を押しのけ、この物語で今の所誰よりも目立っている。
      新たな得物としてパニッシャーを手に入れた。
      彼はこの後、九人掛かりで動かす巨人と闘ったり、
      音を操るサックス使いと闘ったり、
      腕が三本で二重人格の黒パニッシャー三丁使いと闘ったりします。
      嘘です。

スタンド…名称『グラディウス』。銀色の飛行物体がビジョンで、
     光を操作する事が出来る。
     しかし今回の主人公サイドは、直接戦闘型ではない特殊能力型が多いな…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

348ブック:2004/05/15(土) 16:50



     ・     ・     ・


『紅血の悪賊』…この世界で一・二を争う勢力を持つ空賊の集団。
        図らずも『帝國』の軍事機密を奪ったオオミミ達を付け狙う。
        どうやら、メンバーの中に吸血鬼がいるらしく、
        ボスも吸血鬼という噂らしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マジレスマン…頭まで筋肉の馬鹿。
       その足りない脳みその所為で不祥事を起こし、
       山崎渉に連行される。

スタンド…名称『メタルスラッグ』。特殊実体化型で、周囲の無機物を取り込む事で、
     巨大化&パワーアップする。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
栗田ゆう子…しゃっきりぽん!が口癖の女吸血鬼。
      オオミミを追い詰めるも、三月ウサギによって撃退される。

スタンド…名称『ベアナックル』。両手に大きな鉈を持つ近距離パワー型。
     特殊能力は持っていない。
     スタンドと本体とのコンビネーションが、主な栗田の戦法だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山崎渉…謎の男。それ以外に情報無し。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『聖十字騎士団』…吸血鬼抹殺の専門機関。
         今の所詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
岡星精一…『聖十字騎士団』の一員。
     一流の板前で、じゅんさいが得意料理。

スタンド…名称『ヘッジホッグ』。
     近距離パワー型で、スタンドの触れた液体を変化させる事が出来る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『常夜の王国』…国民の大半が吸血鬼で構成されていると噂の、
        どこにあるかも分からない国。
        女王と呼ばれる女性が統治しているが、詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ジャンヌ…『常夜の王国』の懐刀である、凄腕の吸血鬼。
     ハルバードに機銃を組み合わせた『ガンハルバード』と呼ばれる武器を使い、
     その事から『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』の異名を持つ。
     儂、〜じゃ等の、老人のような言葉使いをする。

スタンド…名称『ブラック・オニキス』。今の所能力は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『帝國』…圧倒的な軍事力を持つと言われる独裁国家。
     その軍事機密とやらに偶然にも関わってしまった事により、
     オオミミ達の運命は狂っていく。

349ブック:2004/05/16(日) 16:10
この物語は、救い無き世界の後日談です。
時期はでぃ達がSSSに入って初めての夏という事でお願いします。



     救い無き世界+EVER BLUE
     番外・されどもう戻れない場所 〜その一〜


「…タカラギコを『シムシティ』で調べた結果はどうだった?高島美和。」
 ブリッジで、サカーナは高島美和にそう尋ねた。
「盗聴器、発信機、監視カメラ等の類は所持していないようです。
 また、それらがこの船に仕掛けられた様子もありません。」
 高島美和が答える。

「そうかい、それじゃもう一つ。
 『紅血の悪賊』からかっぱらってきた物の中に、
 何か目ぼしい物はあったか?」
 サカーナが続けて聞いた。
「…今の所、見つかってはいません。
 ただ、一見しただけでは分からないようにカムフラージュされている可能性もあるので、
 結論を出すにはまだ少し時間が掛かりますね。」
 高島美和が頭を振った。

「…あの天の嬢ちゃんが、何か知ってるかもしれねぇな。」
 サカーナが顎に手を当てた。
「かもしれませんが…期待はしない方がいいでしょうね。」
 高島美和が和服の襟元を直す。

「そういやあ、タカラギコの野郎はどうしてる?」
 サカーナが思い出したように言った。
「オオミミとニラ茶猫と一緒に部屋に居る筈ですよ。」
 高島美和がそう返す。

「…よりにもよってあの頼り無ぇ二人が監視役かよ。
 三月ウサギはどうしたんだ?」
 サカーナが呆れ顔で言った。
「『面倒くさい』、だそうです。
 それに、彼だとタカラギコを殺すかもしれませんし、適任ではないでしょう。」
 その高島美和の言葉を聞いて、サカーナは溜息を吐いた。

「…しょうがねぇ。わーったよ。
 で、最寄の島まではあとどの位だ?」
 サカーナが高島美和の顔を見る。
「およそ十時間弱です。」
 高島美和が即答した。

「そうかい。じゃ、俺はちーとばっかし一眠りしてくるわ。
 お前も適当な所で休憩しときな。先は長ぇんだ。」
 サカーナが大きく欠伸をした。
「お気遣いありがたく頂いておきます。
 それではお休みなさいませ。」
 高島美和がサカーナに一礼した。
 サカーナはそれを受けると、ブリッジからゆっくりと出て行くのであった。

350ブック:2004/05/16(日) 16:11



     ・     ・     ・



「……さん。…ふさしぃさん?」
 ……!
 女の子の声で、私ははっと目を覚ました。
 目を開けると、眼前にみぃちゃんの顔が飛び込んでくる。

「…あ……。」
 どうやら、いつのまにか机の上でうたた寝をしてしまっていたらしい。
 この所残業が多かったから、疲れが溜まっているのだろうか?

「ごめんなさい、ついうとうとしちゃって…」
 私は目を擦りながら弁解した。

「いえ…こっちこそ起こしてしまってごめんなさい。
 …それより、大丈夫ですか?」
 みぃっちゃんが心配そうな声で尋ねる。
「え…?」
 私は何の事だか分からず聞き返した。
「いえ、あの、目が赤くなってなすから、
 悪い夢でも見たんじゃないかと思って…」
 みぃちゃんがたどたどしく答えた。

「…ああ、大丈夫よ。
 ちょっと、懐かしい人の夢を見ちゃってね…」
 そう、もうここには居ない筈の『彼』の夢。
 『彼』はこことは違う世界で、相変わらずの人の良さそうな顔で笑っていた。
 その笑顔の中に、どうしようもない位の哀しさを湛えて…

「…そういえばみぃちゃん、あなた何で特務A班(ここ)に?」
 みぃちゃんはまだSSSには入りたての新人であり、
 私達とは働く部署が違う筈だ。
 それなのに、どうしてこの部屋にやって来たのだろう?

「…あ、あの、ふさしぃさんがこの時間にここに来るように言われたから……」
 しまった。
 そういえばそうだった。

「ごめんなさい、すっかり忘れてたわ!」
 私は慌てて謝る。
 自分で呼んでおいて何しに来たとは、酷い言い草だ。

「いえ、別にいいです。
 それより、何のお話なんでしょうか…」
 みぃちゃんが小さな声で私に尋ねた。

「そうそう、忘れるとこだったわ。
 いきなりだけどみぃちゃん、今度の休みに海に行かないかしら?」
 私は藪から棒に言った。
「海、ですか…?」
 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になるみぃちゃん。

「そ、海。
 でぃ君と丸耳ギコ君も一緒に連れてって、ダブルデートでもしてみない?」
 みぃちゃんの顔を覗きこむと、彼女は少し困った顔になった。

「…わ、私、水着持っていないんですけど……」
 みぃちゃんが口ごもる。
「大丈夫、私がぴったりなの見繕ってあげるから。
 それとも、一緒に行くのは嫌?」
 私はみぃちゃんにそう聞いた。
「い、いえ、嬉しい…です。」
 みぃちゃんがもじもじしながら答える。

「決まりね。
 それじゃ、でぃ君にもよろしく伝えておいて。
 細かい集合時間とか行き先は、追って連絡するわ。」
 私はみぃちゃんの肩に手を乗せた。



     ・     ・     ・



 ♪ペーペポ ペーポポペー
     ペーペポ ペーペポ ペペポポペー♪

 みぃとふさしぃが楽しそうに談笑する影で、一人の男が聞き耳を立てていた。
「何やら面白そうな事考えているじゃねぇか、ゴルァ…」
 ギコえもんである。
 その双眸には、邪悪な炎が渦巻いていた。

「彼氏と仲良く海水浴だぁ?
 くくっ、果たしてそううまく物事が進むかな…?」
 ギコえもんがニヤリと笑う。
「SSS死ね死ね団、活動開始だゴルァ。」

351ブック:2004/05/16(日) 16:12



     ・     ・     ・



「君がいる〜 僕がいる〜
 それはヒト ヒト 愛はそこにあ〜るか〜〜い?」
 車のスピーカーから軽快なポップスが流れてくる。
 俺達は、ふさしぃの運転する車に乗って、海へと向かって進んでいた。

「〜〜♪〜〜♪」
 ふさしぃが曲に合わせて鼻歌を口ずさむ。

「…ごめんなさい、でぃさん。
 無理して付き合って貰って…」
 後部座席の俺の隣に座るみぃが、すまなそうに俺に言った。

『別に気にしてないよ。
 俺も、海にも行ってみたかったし。』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
 本当は俺はどちらかと言えば出不精の部類に入るのだが、
 他ならぬこいつの頼みとあってはしょうがない。
 それに、みぃの水着姿も一度見てみたいし…

「…ちゃんと前見て運転しろよ。」
 助手席の丸耳ギコとかいう奴が、
 鼻歌に夢中になるふさしぃに釘を刺した。
 こいつが、丸耳ギコか。
 ふさしぃの恋人とかいう話は聞いていたが、実際に会うのは初めてだ。

「ごめんごめん。
 そう固い事言わないでよ。
 私も海に行くのは久し振りなんだし。」
 ふさしぃが笑いながら答えた。

 …はっきり言って、こうして実際に目にしてみても、
 このふさしぃに恋人が居るというのが未だに信じられない。
 でも、そんな事を言ったら間違いなく殺されるので黙っておく。

「…所で、何か変な視線を感じない?」
 と、ふさしぃがやおらそう尋ねた。
「…?いえ、私は別に…」
 みぃが不思議そうな顔で答える。

『俺も別にそんなの感じませんけど。』
 俺もみぃと同じように答える。

「…そう。気のせいかしらね……」
 ふさしぃが少し考え込んだ。

「いちいち気にするなよ。
 せっかくの海水浴なんだから、楽しくいこうぜ。」
 丸耳ギコが話題を打ち切るように言った。

「…そうね。それじゃ、ぱーっといきましょうか!」
 ふさしぃがアクセルを踏み込む。
 車が、どんどん加速していった。

「だから車はちゃんと運転しろ!!!」
 猛スピードで進む車の中、丸耳ギコが叫ぶ。

 …果たして俺達は無事海まで辿り着けるのだろうか。
 不安そうな顔でしがみついてくるみぃを横目に、
 俺は命の危機に肝を冷やすのであった。

352ブック:2004/05/16(日) 16:12



     ・     ・     ・



「サナダムシ サナダムシ サーナダムシ 2メートル…」
 車のスピーカーから鬱病になりそうな重いメロディが聞こえてくる。
 私と小耳モナーは、ギコえもんの運転する車に乗ってふさしぃを追跡していた。

「ギコえもん、やっぱりやめた方がいいんじゃないかょぅ…」
 私は鬼の様な形相でハンドルを握るギコえもんに告げた。

「ふさしぃにバレたら殺されるモナ〜。」
 小耳モナーも同様にギコえもんを止める。

「うるせぇ!だったらここで降りろ!
 お前らだって気になるからついて来たんだろうがゴルァ!!」
 ギコえもんが苛立たしげに答えた。
 煙草の灰皿は既に一杯になっている。

「そりゃあぃょぅもでぃ君やふさしぃ達のダブルデートは気になるけど…
 だからと言って邪魔するのはやり過ぎだょぅ。」
 それに、どうせ失敗してふさしぃに滅殺されるのは目に見えているのに、
 どうしてギコえもんは懲りずに繰り返すのだろうか?

「阿呆か!
 お前、でぃや丸耳ギコを許せるのか!?
 あいつらはなぁ、俺達が毎晩独り寂しく右手をシュインシュイン上下運動させてる時に、
 可愛い彼女とチョメチョメしてるんだぞ!!
 同じ男として、悔しくねぇのか!!!」
 ギコえもんが大声を張り上げる。
 いや、気持ちは分かるが、それは完全な逆恨みでは…

「KISYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!
 許せんモナ!!!!!
 モナでさえまだオニャノコとニャンニャンした事が無いってのにいいいいいいいIIIIII
 IIIIIIIIIYYYYYYYEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!」
 と、小耳モナーがいきなり絶叫した。
 同時に、私とギコえもんが硬直する。

「…こ、小耳モナー。お前、まさか、本当に…?」
 ギコえもんが恐る恐る尋ねた。

「…?ギコえもんもぃょぅも、モナと同じじゃなかったモナ?」
 小耳モナーが素っ頓狂な声で答える。
 おい。
 まさか。
 今まで只の冗談だと思っていたのに。
 嘘だろう!?

「…いや、確かに俺には今彼女はいねぇけど、
 二・三年前までは…」
 ギコえもんがいたたまれない様子で呟く。
「ぃょぅも、学生時代には…」
 私も小声で答える。

「え…?え?それじゃあ…」
 小耳モナーの顔が見る見る蒼白になっていく。

「……!!
 よっしゃ、小耳モナー!
 今日海から帰ったら風俗行くぞ!!
 金なら心配するな、俺が全部奢ってやる!!!」
 ギコえもんが涙を堪えながら小耳モナーを励まそうとした。
 私も、余りのショックに視界がぼやける。

 こうして私達の心に深い傷を残しながら、
 車は海へと進んでいくのであった。



     TO BE CONTINUED…



救い無き世界の最後の方の人物紹介は、この番外編の後に載せますので、
少々お待ち下さい。

353新手のスタンド使い:2004/05/17(月) 07:22
下がってるので、たまにはこっちで乙っ!

354:2004/05/17(月) 21:25

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その5」



「『アルケルメス』ッ!!」
 スタンドで、相手の攻撃の瞬間をカットする局長。
「…!!」
 しかし、攻撃位置に男の姿は見えない。

 ――再び、背後。
 局長は、銃撃の瞬間をカットする。
 同時に、背後にいるはずの男を狙って、カットした銃撃をペーストした。
 しかし、その攻撃も空を切る。

「なるほど… お前の能力、守備一辺倒でもないようだな」
 真横から男の声がした。
 姿は全く見えない。
 銃撃しながら、素早く移動しているようだ。

 能力が悟られた――
 しかし、それは大した問題ではない。
 『アルケルメス』の能力は、遅かれ早かれ相手に悟られる類のものだ。
 バレたところで、戦い方はそう変わらない。

 今度は、正面からの銃撃。
 これもカット。
「…そこか!」
 局長は、懐から取り出した拳銃で正面に発砲した。
 だが、やはり手応えはない。
 向こうは持久戦を狙っているようだ。
 いかに局所的とはいえ、時間をカットするのはエネルギーの消費が激しい。
 このままいけば、倒れるのは自分だろう。

 ――僅かな殺気。
 局長は素早く飛び退いた。
 同時に、局長自身も発砲する。
 しかし、正面の壁に虚しく銃痕を残すのみ。

「弾丸の回避にスタンドを用いなくなってきたな… もう能力は打ち止めか…?」
 男の不敵な声がする。
「さあ、どうでしょうかね…」
 局長は身を翻すと、声の方向に発砲した。

 この男のスタンド能力は、おそらく肉体の透明化。
 殺気や気配も極端に薄いが、それは本体自身の技能と言っていい――
 ――と、普通なら断定するだろう。
 だが、早期の能力断定は危険だ。
 別の能力に見せておいて、油断した相手に止めを刺すという戦法もある。

 透明化など、いくつも方法はあるのだ。
 擬態、光の遮断や屈折、こちらの視覚の撹乱…
 スタンド能力を応用し、透明な状態を作り出す。
 そうしている可能性がある限り、早期の能力断定は視野狭窄に他ならない。

 壁を背にして背後をカバーし、拳銃を乱射する局長。
 だが、男にはかすりもしない。
「…!!」
 その瞬間、局長の肩から血が噴き出した。
 真っ赤な血がスーツを濡らし、ポタポタと床に垂れる。
 咄嗟に身を逸らさなかったら、心臓に直撃していただろう。

「銃撃の瞬間の殺気を感じ取るとは… お前も、相当の修羅場をくぐってきたようだな…」
 突然、目の前の空間が人型に歪んだ。
 男が局長の眼前に姿を現す。
「貴方ほどではありませんよ。伝説の傭兵、ソリッド・モナーク…」
 局長は、肩を押さえて男に言った。

 モナークと呼ばれた男は、僅かに驚きの表情を浮かべた。
「俺を知っているのか…」
 その問いに答えるように、局長は笑みを浮かべる。
 紺の潜入用スーツ、サイレンサー付きのUSP、長いバンダナ…
 その扮装は、闇に生きる者なら誰もが知っている『伝説の傭兵』のものだ。

「これでも、公安機関に就いている身。その名くらいは耳にしたことがありますよ。
 確か、シャドーなんとか事件で死んだと聞きましたがね…」
 そして、スタンド使いであるという記録もない。
 ここまで有名な男がスタンド使いならば、公安五課の局長である自分の耳には入るはずだが…

「そう。俺は確かに一度、命を落とした…」
 モナークは、表情を変えずに言った。
「それで、死んだはずの人間がここで何をしているんです? 要人暗殺ですか?」
 局長は訊ねる。
「…暗殺? …ああ、その通りだ」
 モナークはあっさりと頷いた。
「なるほど…」
 局長はため息をつく。
 やはり、この潜入者の目的は暗殺………か?

「とにかく、再開といきましょうか…!」
 局長は、眼前に立っているモナークに銃口を向けた。
 しかし、モナークに反応はない。
 避けようという動きすらなかった。

「俺が、攻撃手段を残している相手の前に姿をさらすと思ったか…?」
 モナークは局長を見据えて言った。
 そして、手にしているUSPのマガジンを交換する。
「残弾数を正確に数えておくのは、兵としては基礎の基礎だ。自分の銃だけじゃなく、相手のもな…」

「!!」
 局長は何度も引き金を引いた。
 しかし、銃弾は出ない。
 弾切れ…!!

355:2004/05/17(月) 21:28

 局長は身を翻した。
 そのまま、一点を目指して駆け出す。
 あの場所だ。あの場所へ行きさえすれば…!!
「スタンド使いとしては一流かもしれんが、戦場における兵士としては三流だったな」
 モナークは、背を向けた局長に発砲した。 

「くっ、『アルケルメス』――!!」
 スタンドを発動させる局長。
 しかし、タイミングがずれた。
 弾丸が脇腹を貫通する。

「くっ…!!」
 大きくよろけたが、なんとか体勢を立て直す。
「…まだ、私は死ぬ訳にはいかないんですよ。
 私の事を想っているくせに、冷たい態度ばかり取る天邪鬼な部下がいますからね。
 彼女を泣かす気はありませんので…」
 そう言いながら、局長は足を進めた。

「それは羨ましい話だな。俺の周囲の女は、どうも棘が多い…」
 背後からモナークの声。
 彼の姿は既にない。再び姿を消して…

「!!」
 右足を弾丸が貫通した。
 大きく体勢が崩れる。
 だが、何とかあの場所へ…

 右足を引き摺って、局長は廊下を進んだ。
 背後に『アルケルメス』を待機させ、時間をいつでもカットできるようにする。
 これで、向こうも迂闊には近付いてこないだろう。
 …この短期間に、何度も時間をカットした。
 残されたスタンドパワーだと、せいぜいあと1回か2回…!

 ようやく見えてきた。
 モナークに討たれた、米兵15人の死体。
 あそこへ行けば…!!

「やっと着きましたね…」
 局長は、死んだ米兵が持っているM4カービンを手に取った。
 そして、モナークが追ってきているはずの背後に銃口を向ける。
「カービンライフルなら、向かってくる方向さえ分かれば…!!」
 局長は銃のセーフティーを解除すると、そのまま引き金を引いた。

 ――しかし、何も起こらない。
 銃弾は発射されなかった。
 それもそのはず、マガジンが装着されていない…

「忘れたのか? お前の仲間の少年が、銃弾を回収していただろう…」
 背後から声がした。

 ――その通りだ。
 確か、ギコが銃弾を回収して――

 局長の思考は、首に巻きついた衝撃により中断する。
 いつの間にか、背後のモナークは姿を現していた。
 その強靭な腕が、局長の首に食い込む。
 このまま、首の骨をヘシ折る気だ――

「さすが、『伝説の傭兵』…」
 局長は呟いた。
 喉が圧迫されて、しっかりとした声にならない。
「褒めても無駄だ。命乞いは――」
 モナークの言葉を、局長は遮った。
「…そう来ると思ってましたよ」
 局長のスーツから、何かが大量に落ちる。

 30個以上ある『それ』は、床に落ちて乾いた音を立てた。
 他にも、まだ懐に残っているようだ。
 米兵の死体から手に入れる必要があったのは、M4カービンなどではない。
 回収する時間は、『アルケルメス』でカットした――

「手榴弾か…ッ!!」
 モナークは大声を上げた。

「『伝説の傭兵』と称される程の男なら、弾薬は節約するはず。
 銃弾を使わずに倒せる相手なら、当然銃弾は使わないでしょう?」
 局長は少し咳き込みながら言った。
 先程まで自分を追い詰めていた戦い方は、戦場におけるスナイパーの戦法である。
 首を折られていた米兵の死体からも、この男の傭兵としての実力は明らかだ。
 そう、この男はあくまで傭兵の戦法で戦っている。

「――ミステイクですね。戦法のロジック化は、時に判断を甘くする」
 局長は、背後のモナークに告げた。
「馬鹿な、自分もろとも…!!」
 モナークは咄嗟に局長から離れる。
 だが、もう遅い。

「それもミステイク。男と心中する趣味はありませんよ…」
 局長の背後に、『アルケルメス』が浮かぶ。
「…吹き飛ぶのは、貴方1人です」

356:2004/05/17(月) 21:28



 首相官邸4階に、爆音が響いた。
 30個以上の手榴弾の誘爆は、周囲の悉くを吹き飛ばした。
 その瞬間をカットし、爆風を逃れた局長を除いて。


「ふう、やれやれ…」
 局長は、スーツの埃を払った。
「ああ、血止めにしか使われない紳士の嗜み…」
 そう呟きながら、局長はかがみこんで足にネクタイを巻きつける。
 どうやら、歩くのに支障はないようだ。

「これは… 食が進まなくなりますねぇ…」
 局長は、足元に転がるモナークの右腕部をちらりと見た。
 モナークの体は爆砕し、周囲に四散していたのだ。
 廊下の向こうには、生首のようなものまで見える。

 …この男の目的は何だったのだろうか。
 モナーク自身が言っていた、要人暗殺とはとても思えない。
 彼は、いともあっさりと認めたのだ。
 モナークほどの男が、そんなに簡単に口を割るはずがないだろう。
 それに、暗殺ならばいくらでも機会はあったはずである。

「ASAのスタンド使いとも気色が違う… まさか、『教会』!?」
 局長は呟いた。
 もっとも、こうなった以上は聞き出しようもない。
「まあ、手加減できる相手でも無かったですしね…」
 そう言って、ため息をつく局長。

 階下から銃声が聞こえてきた。
 どうやら、脱出に手間取っているようだ。
「さて、急がなければ…」
 局長は腰を上げると、急いで階段を降りていった。





 千切れ飛んだモナークの右手が、ピクピクと蠢いた。
 そのまま、ズルズルと床を這う。
 四散した肉片が、次々と繋がっていった。
 そして、それは人型をなす。
 モナークは、ゆっくりと立ち上がった。

「…これが吸血鬼の肉体。頭さえ無事なら、死ぬ事はない…か」
 モナークは呟きながら両手を動かした。
 特に違和感はない。どうやら、完全に再生したようだ。

「スタンドを用いた戦闘は初めてだが… なかなか勉強させてもらった」
 潜入用のスーツは完全に吹き飛んでしまっている。
 モナークは、荷物から替えのスーツを取り出した。
 それを素早く身に纏う。 
 荷物は再び『隠した』。
 最後に、バンダナを締める。

「さて、そろそろ任務を開始するか…」
 モナークは、無人になった4階会議室のドアを開けた。

357:2004/05/17(月) 21:29



          @          @          @



「うおおおおお!!」
 ギコは、階段を上がってくる兵達にM4カービンを乱射した。
 向こうからの銃弾は、全て『レイラ』で弾き返す。
 兵の1人が、素早く階段を上がってきた。
「…ちッ!!」
 ギコは右手でM4カービンを連射したまま、懐に左手を突っ込んだ。
 そして局長から渡された拳銃、ザウエルP230を取り出す。

「このッ!!」
 ギコは、兵の足に狙いをつけて拳銃の引き金を引いた。
 足を撃ち抜かれた兵士が、バランスを崩して階段を落ちていく。
「この階段を上がってくる奴は、容赦しねぇぜゴルァ!!」
 ギコはそのまま両手に銃を構え、階下目掛けて撃ちまくった。

 それでも、怯まずに押し寄せてくる兵士達。
 階段に足をかけた瞬間、兵士の膝から下が消失した。
「おっと、そこら辺は危ないよ。『空間の亀裂』が仕掛けてあるからね…」
 モララーはそう言って笑みを見せる。
「まあ、次元ごと裂いてもいいんだけど…」
 そう言って、指を鳴らすモララー。
 階段の手摺から横一文字に『次元の亀裂』が走る。
 何人もの兵士が、それに呑み込まれた。

「派手にやってるねぇ…」
 『アルカディア』は階段に座り込んでため息をついた。
 その横では、要人達が姿勢をかがめて震えている。
 流れ弾が、列の先頭目掛けて飛来した。

「…『外れる』」
 『アルカディア』は呟く。
 弾丸は大きく軌道を変え、天井にめり込んだ。
「ねぇ、こんなところでのんびりしてていいの…?」
 しぃは『アルカディア』に訊ねる。
「いいんだよ。流れ弾を処理するってのは重要な役割だし、何より楽だ…」
 『アルカディア』は腕を組んで言った。

「レモナ、つー、リル子、早くしてくれよ…!」
 ギコは階下に銃を乱射する。
 エントランスホールでは、3人が大人数を片付けているはずだ。
 早くしないと、こちらの弾数にも限りが…

 兵の1人が、素早く階段を上がってきた。
 かなり距離が近い…!!
「このッ… 『レイラ』ッ!!」
 スタンドの刃が一閃する。
 兵士の上半身と下半身が分かれ、血を撒き散らしながら階段に転がった。

「…!!」
 思わず、ギコは息を呑んだ。
 銃器では感じなかった、人の命を奪った生身の感覚。
 胴の切断面からどろりと垂れる血。
 咄嗟に視線を逸らすギコ。
 その隙に、多くの兵士が階段を駆け上がって…

「ギコ、何してるのさ!!」
 『次元の亀裂』が、階段上に幾重にも走った。
 兵士達が次々と巻き込まれていく。
「目を逸らしてたら、僕達だって殺られるんだからな!!」

 …そう。
 これは、命のやり取りだ。
 躊躇するのは、相手に対しても侮辱になる。
「これくらいで、負けるかよッ!!」
 ギコは両手の銃を階下に乱射した。
 それをかいくぐって近距離まで近付いてきた敵に、『レイラ』の斬撃を見舞う。

 兵士の1人が、自動小銃の下部に取り付けられた筒状の銃器を向けた。
「グレネードだと!? 味方も密集してるんだぞッ!!」
 ギコが叫んだ。
 黒い榴弾が、空中に向けて放たれる。
「モララー!! 頼むッ!!」
 ギコは振り返って叫んだ。

「…爆発物処理は、僕の仕事だね」
 モララーは指を鳴らした。
 榴弾が、空中に溶け込むように消滅する。
「エントロピーは、常に減少するもんだよ…」
 モララーは笑みを浮かべて呟いた。

358:2004/05/17(月) 21:30

 戦いの流れが変わった。
 押し寄せてくるだけだった敵の動きが、明らかに変化している。
 兵の数は徐々に少なくなり、ついには姿が見えなくなった。
「撤退した…のか?」
 ギコは銃を下ろして呟く。
「これだけやっちゃったからね。敵わないと悟ったのか…」
 モララーが息をついて言った。

 ギコはしぃと要人達を見る。
 どうやら怪我はないようだ。
「オレにも、ちっとは感謝しなよ…」
 『アルカディア』は腕を組んで威張っている。

 階下から足音が近付いてきた。
「敵か…?」
 ギコが再び銃口を向けた。

「…そちらはどうです?」
 階下からリル子の声。
 ギコは安堵のため息をついて銃を下ろした。
 どうやら、下もカタがついたようだ。

「こっちは大丈夫だぜ! 1人の怪我人も出してねぇ!」
 ギコは階下に呼びかけた。
「こちらも片付きました。脱出しましょう」
 階下のリル子は言った。
 ギコは、要人達やモララー、しぃの方に振り向いた。
「よし、下も安全みたいだ。行くぜ!」


 エントランスホールには、多くの兵士が倒れていた。
 明らかに息がないと思われる者も多い。
 そんな中で、2人の女と1人の性別不詳が立っていた。
 その身は、多くの返り血を浴びている。
「さすがリル子さん、頼りになる女性だなぁ…!」
 モララーが瞳を輝かせた。

「後は、局長と合流だな…」
 ギコはモララーを無視して、リル子に言った。
「…あと20秒ほどで、ここに来ると思われます」
 リル子は告げる。
 彼女の言葉通り、局長はすぐに階段を下りてきた。
 そのスーツは破れ、血だらけだ。
 銃で撃たれたと思われる傷も幾つかある。

「そちらは… 特に負傷はなさそうですね」
 局長の姿を見て、リル子は言った。
「…どうやったら、そう見えるんですか」
 そう言って、局長は倒れた米兵で埋まっているホールを見回す。
「それにしても、ますます嫁の貰い手がなくなりますねぇ…」

「私1人でやった訳じゃありませんよ、フフ…」
 リル子は僅かに笑った。
 ギコは直感する。
 リル子が微笑を見せたとき、その心に鬼が棲んでいる…

「…それと局長、天邪鬼で申し訳ないですね。
 誰かにやられて局長が死のうが、私が局長を殺そうが、泣きはしないので安心なさって下さい」
 リル子は百万ドルの笑顔で言った。
「…」
 局長は、無言でスーツのポケットに手を突っ込む。
 そして、偽造した身分証明書を取り出した。
 救急車で移動した時に用いたものだ。
 最近リル子から受け取ったものと言えば、これしかない。

 身分証明書のケースを軽く振る局長。
 黒く小さい機械のようなものが、その中から落ちる。
「…まったく、内部監査でもしてるんですか?」
 局長はリル子に言った。
「フフ… いかなる者にも気を許すな、とおっしゃったのは局長でしょう…?」
 リル子は笑みを見せる。

「なにかわからんが止めろゴルァ!」
 ギコは、ただならぬ雰囲気の2人を静止した。
「おっと、こんな事をしている場合ではありませんでしたね…」
 局長は言った。
「とにかく、脱出しましょうか」

 局長の言葉に頷く一同。
 エントランスホールの中央に転がっている救急車は、完全にスクラップと化している。
 徒歩でヘリの待機地点まで行くしかない。
 こうして、一同と要人達は首相官邸を出た。


 首相官邸玄関から門、その前の車道にかけて、道は倒れた兵士で埋まっていた。
 周囲に人気はない。
「脱出の邪魔になりそうな存在は、全て片付けておきました」
 リル子は平然と告げた。
「うわ… すげぇなぁ…」
 ギコは周囲を見回して、感嘆の声を上げる。
 あれだけの時間で、一体何人倒したんだ?

「…急ぎましょう。応援が来るかもしれません」
 先頭のリル子は、少しスピードを上げた。
 その後ろに、列になった要人達が続く。
 そして、列を守るように左右を固めるギコ達。
 最後尾には局長。
 このフォーメーションで、夜の車道を駆ける。
 周囲の道路を完全に封鎖しているらしく、通りかかる車は1台もない。

 ヘリの合流地点は、そう遠くはない。
 特に問題はないはずだが…
 それでも、不安が局長の脳裏から離れない。

「君なら、いつを狙う…?」
 局長は、先頭のリル子に訊ねた。
「…ヘリに乗り込む瞬間を狙うでしょうね」
 リル子は前を向いたまま答える。
「やはり、そうでしょうね…」
 局長は同意して頷いた。
 ヘリが離陸した瞬間に狙われるのも危ない。

359:2004/05/17(月) 21:31


「やられた…」
 突然、レモナが呟いた。
「ステルス機ね… この私が、ここまで接近を感知できないなんて…」

「どうした?」
 ギコは振り返って、レモナに訊ねる。
 レモナはそれを無視し、局長に呼びかけた。
「今からきっかり4秒後の時間をカットして!!」

「え…!?」
 困惑する局長。
「参りましたねぇ。官邸内で能力を多用したから、余力があるかどうか…」

 ―――3

「いいから! やらなかったら、全員ハチの巣じゃ済まないわよ!!」
 レモナが叫ぶ。
「ナンダ、コノ ニオイ… スゲェ テキイダ…」
 つーが、背後の夜空を見上げた。
 つられてギコも夜空に視線を向ける

 遥か彼方から、空を切る音が聞こえてきた。
 やけに耳に響く。
 何だこれは…?

 ―――2

 局長の背後に、『アルケルメス』が浮かんだ。
 後ろから、何かが来る。
 無機質な殺気。
 空を切る音。
 それは一直線に近付いて――

 ―――1

 耳をつんざくような轟音。
 風を切る音は徐々に大きくなっている。
 そして、周囲に轟くエンジン音。
 間違いない、これは――!!


「『アルケルメス』!!」
 局長はスタンドを発動した。
 先頭のリル子から最後尾の局長までの範囲で、2秒ほど時間をカットする。
 周囲から響く、形容しがたい炸裂音。
 同時に、頭上から強烈な轟音が突き抜けていった。
 そして、凄まじいまでの風圧。
 何かが、超音速で頭上を通過していったのだ。

「これは…!!」
 ギコは周囲を見回した。
 コンクリートの道路はボロボロに砕けている。
 その凄まじい破壊力。
 『アルケルメス』で時間をカットしていなければ、全員まとめて肉塊だった。

「…やってくれる。戦闘機からの機銃掃射か…!!」
 局長は空を見上げた。
「…」
 ギコは唾を呑み込む。
 『レイラ』の視覚は、闇夜に飛来した巨大な鋼鉄の翼を捉えていた。
 あれは間違いなく世界最強の戦闘機、F−22・ラプター。

「なんて奴等だ! あんなものまで持ち出してくるなんて…!!」
 ギコは夜空に向かって叫んだ。
「2機確認しました。旋回して、再び攻撃を仕掛けてくると思われますが…」
 リル子は、戦闘機の飛び去った方向に視線をやる。

「…あれは、私が相手をするわ」
 突然、レモナは言った。
「おい! いくらお前でも、相手は戦闘機だぞ!?」
 ギコは口を挟む。
「忘れたの? 私は兵器なのよ。ああいうのと戦う為に造られたの」
 そう言って、レモナは微笑む。
「…だから、先に行って」

「任せていいですね?」
 局長は、レモナを見据えて言った。
 頷くレモナ。
「ヘリなら追いつけるから、離陸しても構わないわ」

「お前、死ぬ気じゃないだろうな…」
 ギコは、レモナの瞳を真っ直ぐに見る。
「いやねぇ。アメリカの威信をかけた飛行機だかなんだか知らないけど…
 最終兵器の私が、たかだか米軍の戦闘機にやられるとでも思ってるの…?」
 レモナは、いつものように笑みを浮かべて言った。
 ギコもつられて笑う。
 自分が心配した相手は、バラバラになっても平気で生きているようなヤツだ。
「…そうだな。とっとと片付けて、早く合流しろよゴルァ!!」

「じゃあ、そっちも頑張ってね〜」
 レモナはそう言うと、襲来する戦闘機を迎え撃つようにその場に立った。

「…急ぎますよ。のんびりしていては、戦闘に巻き込まれかねません」
 局長が前進を促す。
 リル子は頷くと、再び進み出した。
 それに従い、列が動き出す。
 ギコ達は、列を守るように周囲に散開した。
 ヘリの待機場所までかなり近いようだ。
 …ここからが正念場だ。
 ギコは、大きく息を吸った。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

360ブック:2004/05/17(月) 22:40
     救い無き世界+EVER BLUE
     番外・されどもう戻れない場所 〜その二〜


「海ーーーーーーーーーーー!!」
 車から飛び出し、ふさしぃが大声で叫んだ。
 日差しはカンカンに照りつけ、強い潮の香りが鼻を刺激する。
 嫌になるくらいの爽快感。
 これが、海。
 最後に来たのは、俺がまだ子供の頃、両親と三人でだったけか…

「…でぃさん?」
 独り感慨に耽る俺の顔を、みぃが不思議そうに覗き込む。
『いや、何でもない。』
 ごちゃごちゃ考えるのはやめだ。
 取り敢えず、今は楽しもう。

「それじゃ、私達は海の家の更衣室で着替えてくるから。
 …覗いちゃ駄目よ?」
 ふさしぃが俺と丸耳ギコの方に向く。
 お前の裸なんぞ誰が覗くか、と思ったが、殺されるので口には出さない。
 そのまま、ふさしぃとみぃの二人は着替えに行ってしまった。

「…それじゃあ、俺達も着替えようぜ。」
 丸耳ギコが俺に言った。
 頷いて、答える。
 俺達男集は車の中で着替えだ。
 何たる差別。

『それじゃあ、そっちから先に着替えろよ。』
 流石に軽四では、大の男が二人同時に着替えるのは不可能だ。
 丸耳ギコを先に車の中で着替えさせ、俺は外に立って待つ。

「終わったぞ。」
 丸耳ギコが車から出てきた。
 赤色のトランクスタイプの水着に、
 ゴーグルとシュノーケルを頭に装着している。
 やる気満々といった所か。

「……」
 今度は俺が着替える番だ。
 トランクから荷物袋を引っ張り出し、車の中へ入る。
 さて、さっさと着替えるか…

「!!!!!!!!」
 荷物袋を開け、俺は我が目を疑った。
 馬鹿な。
 これは、どういう事だ!?
 俺は確かに、青色のトランクスタイプの水着を入れていた筈だ。
 なのに、どうして―――

「…?どうしたんだ?早く着替えろよ。」
 中々着替えない俺に、外から丸耳ギコが声をかけてきた。

 どうする?
 どうする?
 どうする?

 自問自答を繰り返すが、解決法は全く浮かばない。

「おい、どうした?」
 丸耳ギコがいぶかしむ。
 うるさい。
 今、絶体絶命のピンチなんだ。
 お前にこの状況が分かるってのか。

「お待たせー。…って、でぃ君は?」
 ふさしぃの声だ。
 やばい。
 いよいよ切羽詰まって来た。

「いや、まだ車の中にいるんだ。
 何回声かけても、出てこないんだよ。」
 余計な事を言うな、丸耳ギコ。

「でぃさん、どうしたんですか?」
 みぃまでが心配そうに声をかけてくる。

 糞。
 ここまでか…!

 …俺は、腹を括って持って来た筈の水着の代わりに入っていた『それ』を、
 ゆっくりと装着し始めた。

361ブック:2004/05/17(月) 22:40



     ・     ・     ・



「…くくくっ。今頃でぃの野郎はダブルリーチが掛かる位にテンパってるだろうぜ。」
 ふさしぃの車を双眼鏡で観察しながら、ギコえもんが邪悪な笑みを浮かべた。

「ギコえもん。一体、でぃ君に何をしたんだょぅ。」
 私はギコえもんに尋ねた。
 着替えに車の中に入ったっきり、でぃ君が出てこない。
 ふさしぃ達が、外から心配そうに呼びかけている。

「なぁに…ちょっと荷物に細工させて貰ったのさ…」
 ギコえもんが彼の荷袋の中から青い男物の水着を取り出した。

「それは?」
 小耳モナーがギコえもんに聞いた。
「ああ、でぃの水着だ。」
 自慢気に答えるギコえもん。

「ギコえもん、まさか…」
 私は顔を強張らせる。
「そう、奴がこの日の為に用意した水着を、『ある物』とすり替えた。」
 ギコえもんが歯を剥き出しにして笑った。

「何とすり替えたんだモナ?」
 小耳モナーが質問する。
「それは見てのお楽しみ…
 お、どうやら出てきたみたいだぜ。」
 ギコえもんのその言葉に、私も小耳モナーも双眼鏡を覗き込む。
 一体、ギコえもんは何とすり替えた…


「!!!!!!!!!!!!」
 私は絶句した。
 でぃ君が身に着けていたのは、俗に言う褌と呼ばれるそれだった。
 彼の表情は変わらないが、激しく恥ずかしがっているのは手に取る様に分かる。

「ぎゃはははははははははははは!!
 どうよ!?
 これでまずはせっかくのムードがぶち壊しってなもんだ!!!」
 爆笑するギコえもん。
 悪だ。
 こいつ、もっともドス黒い『悪』そのものだ…!!

「様ぁ見ろだモナ!!
 毎晩毎晩ギシギシアンアンしてるような奴は、皆地獄に堕ちればいいんだモナ!!」
 小耳モナーがガッツポーズをする。
 どうやら、自分だけが未経験者だったのが余程悔しかったらしい。
 それにしても、私達の周囲だけ妙に景色が歪んでないか?

「まだまだ仕掛けはこんなもんじゃないぜ。
 こうなったら、とことん奴らの邪魔をしてやる…!」
 ギコえもんは、拳を固めて闘志を滾らせるのだった。



     ・     ・     ・



「…ヒソヒソ。ねぇ、あの人って……」
「おいおい、まじかよ…」
 俺の周りの視線が痛い。
 その原因は明白だ。
 俺の腰に巻かれている、純白の褌。
 通り過ぎる人通り過ぎる人が、俺の穿く褌を凝視する。

「……」
 恐らく、ギコえもんの仕業だろう。
 畜生。
 あいつめ、何だってこんな事を。

「あの、でぃさん…」
 みぃが不安気な表情を俺に見せた。
 みぃの水着は俺の褌と同じ色で、白のワンピース。
 昔は白色だと水に浸かると肌が透けていたらしいが、今は改善されている。
 これは環境破壊同様、科学の進歩における重大な弊害と言えるだろう。

『別にいい。こんなのには慣れてる。』
 俺はそっけなくそう答える。
 まあ、この褌に視線が集中するおかげで、
 俺の体中の傷痕への視線が多少は和らいでいるのだろうから、
 あながちデメリットばかりでもないのかもしれない。

「全く、あの青狸…
 後で必ずミンチにしてやるわ…!」
 ふさしぃの顔面に血管が浮き出る。
 ふさしぃの水着は、大人しめのみぃとは対照的な、黒のビキニだった。
 まあふさしぃは美人な方であるし、スタイルも悪くはないのだが、
 体から噴き出す殺気が周囲の男を遠ざけている。

「…取り敢えず海に入ろうぜ。
 そうすりゃ、褌も気にならないだろ。」
 ふさしぃの殺気を感知したのか、丸耳ギコが空気を変えようとそう提案した。
 成る程、それもそうだな。
 海に入れば、下の褌も水の中に隠れる。

「そうね。
 それじゃ、これからは自由行動にしましょう。」
 ふさしぃが笑顔で(目は笑っていないが)答えた。
 かくして、俺達は海で泳ぐ事にするのだった。

362ブック:2004/05/17(月) 22:41



      ・     ・     ・



「…よし。あいつら海に入ったな。」
 ギコえもんが双眼鏡を覗きながら呟いた。

「小耳モナー。」
 ギコえもんが小耳モナーを見る。
「分かってるモナ。
 『ファング・オブ・アルナム』…!」
 彼の横に、黒い大きな狼が姿を現す。
「…お呼びでしょうか、親分。」
 『ファング・オブ・アルナム』が小耳モナーの前に傅く。

「よし、・・・が、・・・・・・たら、・・・するモナ。」
 小耳モナーが何やら『ファング・オブ・アルナム』に耳打ちした。
「…御意。」
 そう言い残し、『ファング・オブ・アルナム』がその場を去る。

「こういう時、遠隔自動操縦型は便利だな。」
 狼が去ったのを見届けると、ギコえもんが小耳モナーの肩の上に手を置いた。

「まあ任せておくモナ。
 モナがあいつらに目に物見せてやるモナ。
 モナの『ファング・オブ・アルナム』で…!」



     ・     ・     ・



 数十分後、
 一人沖に向かって泳いでいる丸耳ギコの背後から、黒い影が忍び寄っていた。
 しかし、丸耳ギコはそれに気づかない。

「……?」
 と、彼が背後に何か感じたのか、止まって後ろを振り返る。
 しかし、そこには何も居なかった。
 …いや、彼には見えなかったと言った方が正しい。

「……」
 彼は再び泳ぎ出した。
 そうしている間にも、影はどんどん丸耳ギコに近づき―――



     ・     ・     ・



「お昼ご飯にするわよーーーーー!!」
 俺とみぃが砂浜間際で泳いでいるところに、ふさしぃの声がかけられた。
 もう、そんな時間か。

「……」
 俺はみぃの手を引き、海から出てふさしぃの待つパラソルへと歩いていった。
 褌も、開き直ってのでもう気にならない。

「はい、そこに座って。」
 ふさしぃがビニールシートの上に弁当箱を置いた。
 蓋を開けると、おにぎり、鮭、ウインナー等が所狭しとぎっしり詰められている。

「私と丸耳ギコさんで一緒に作ったんですよ。」
 …?
 丸耳ギコ?
 ふさしぃと一緒にじゃあないのか?

「…いや、私より、彼の方が料理上手いから。」
 ふさしぃが俺の疑問を汲み取ったのか、恥ずかしそうに頭を掻く。
 まあ誰が作ってようが構わないや。
 それでは、いただきま―――

「!!!」
 おにぎりに手を伸ばそうとした俺の手を、ふさしぃがピシャリと打った。

「まだよ。
 食べるのは丸耳ギコ君が来てから。」
 けちけちしやがって。
 しかし、そういえば丸耳ギコがまだ来ていない。

「……?」
 不思議に思って海の方を見てみると、丸耳ギコが困った風な顔でこちらを見ていた。
「どうしたのー!?早く来なさい!」
 ふさしぃが大声で丸耳ギコを呼ぶ。
 しかし、あいつは頑なに海から出ようとしなかった。

「…何かあったんでしょうか?」
 みぃが呟く。
 全く、早く出て来いよ。
 でないと弁当が食えないだろうが。

「…無い。」
 と、丸耳ギコが何やら口をもごもごと動かした。
「パンツが無いんだよ!!」

363ブック:2004/05/17(月) 22:42



     ・     ・     ・



「神速にして隠密。
 知覚出来ない攻撃を回避する事は不可能モナ。」
 『ファング・オブ・アルナム』の食いちぎった丸耳ギコの水着の切れ端を握りながら、
 小耳モナーが独りごちた。

「よくやった小耳モナー。
 作戦は成功だ、完全に。」
 ギコえもんが愉悦に浸る。

「ギコえもん、小耳モナー、そろそろやめた方が…」
 私はどんどんエスカレートしつつある彼等を止めようとした。
 流石にここまでやっては、一度や二度ふさしぃに殺されるだけでは済まない。

「うるせえ!!
 ここまで来たんだ、今更後に引けるかゴルァ!!」
 ギコえもんが叫んだ。
 いや、君の為に言っているのだぞ?

「そうモナ!
 世のカップルを全て駆逐するまで、モナは止まらないモナ!!」
 小耳モナーの目は最早狂人のそれだった。

「だけど、このままじゃ後で確実にふさしぃに殺されるょぅ。」
 無駄と知りつつも、二人に向かって告げる。

「なあに、心配するな…」
 と、ギコえもんが何やらごそごそと取り出した。
 これは…
 西瓜?

「ふさしぃが西瓜割り用の西瓜を用意していたんでな。
 すり替えさせて貰った。」
 …まさかそんな事まで。

「これは只の西瓜だが…
 今ふさしぃの所にある西瓜には、強い衝撃で爆発する爆弾が仕掛けている。
 つまり西瓜を棒で殴った瞬間に、『ドカン!』という訳よ。
 名づけて、『時計仕掛けの西瓜』作戦!!
 くくっ、これならいくらあのふさしぃでも一コロだぜ…」
 …いや、ギコえもん。
 爆弾殺人は重罪だ。
 下手すれば死刑だぞ?

「…長かった。
 これまで本当に長かった…!
 だがそれも今日までだ。
 今日ここで、確実にふさしぃに引導を渡してくれる!!」
 既に当初から目的が脱線しているが、もう突っ込む気すら起こらない。
 私は黙ってこの作戦の行く末を見守る事に徹するのだった。



     ・     ・     ・



 結局、ふさしぃが車を走らせて俺と丸耳ギコの分の水着を買って来た。
 今や、顔だけにとどまらずふさしぃの体のあちこちに太い血管が浮き出ている。
 もう臨界寸前だ。
 近いうちに、間違いなく爆発してしまうだろう。

「さ、皆!海水浴の定番西瓜割りでもしましょう!」
 恐ろしい笑みを浮かべながらふさしぃが言う。
 黙ってそれに従う俺達。
 逆らう事など、出来ない。

「それじゃ、私からいくわね。」
 西瓜を砂浜に置き、ふさしぃが手拭いで目隠しをした。
 …ふさしぃ。
 西瓜割りはいいが、その右手に持っている釘バットは何だ?
 普通、西瓜を割る時に使うのは木刀とかじゃないのか?

「いくわよ…」
 …!!
 その時、俺はふさしぃから物凄い殺意を感じた。
 間違いない。
 ふさしぃは、ヤル気だ…!

「ふさしぃさん、右ですよ。」
 一人この身の毛もよだつような圧迫感に気づかないみぃが、
 無邪気にふさしぃを西瓜に誘導した。
 みぃ。
 恐らく、ふさしぃには何も聞こえていないぞ。

364ブック:2004/05/17(月) 22:43



     ・     ・     ・



「よーし、もう少しだ。
 もう少しで…」
 ギコえもんが、目隠しをして西瓜に向かうふさしぃを遠めに観察していた。
 ふさしぃが、一歩一歩西瓜へと近づいていく。
 そして、西瓜の真正面で動きを止めた。

「よし、いいぞ。そのままだ。
 今だ!振り下ろせ!!」
 しかしギコえもんの思惑とは裏腹、ふさしぃは再び動き出した。
 そのまま、西瓜から遠ざかっていく。

「……!
 糞っ!!
 後一歩の所で…!」
 ギコえもんが舌打ちをする。

「……?ギコえもん…」
 私はギコえもんに注意を促した。
 ふさしぃの進んでいる方向、もしかして…

「に、逃げた方がいいんじゃないモナか…?」
 小耳モナーも以上に気づいたようだ。
 ふさしぃが、だんだんこちらに近づいてきている。
 まさか、居場所がバレてしまった!?

「ビビルなお前ら!
 ふさしぃと俺達と、どれだけ距離が離れていると思う!?
 ここが分かる訳がねぇんだ!!
 それに、目隠しをしたままでここに辿り着くなんて―――」
 次の瞬間、ギコえもんの表情が凍りついた。
 ふさしぃが、目隠しをしたままこちらに向かって突進してきている。
 馬鹿な。
 何故、どうやって…!?

「……!!」
 ふさしぃはなおもこちらに走り続けた。
 その余りに凄絶さに、浜辺の人だかりがまるでモーゼのようにふさしぃに道を開ける。
 その開かれた道の先は、他ならぬ我々の居る場所だった。

「や、やべぇ!!皆、逃げ…」
 ギコえもんが車に乗り込もうとするが、もはや全ては遅すぎた。
 次の瞬間、私の眼前でギコえもんの頭がまるで西瓜のように爆ぜるのだった。



     ・     ・     ・




「ごめんなさいね、みぃちゃん。
 うちの馬鹿が迷惑かけちゃって。」
 帰りの車の中、ふさしぃさんが苦笑しながら私に言った。
「いえ、別に気にしてません。」
 そういえば、ギコえもんさんは大丈夫なのだろうか。
 ふさしぃさんは放っておいて平気と言ってはいたけれど…

「……」
 私の隣では、でぃさんが静かに寝息を立てている。
 丸耳ギコ君も、助手席で同様に眠っていた。

「…呑気なもんね、男って。」
 車を運転しながら、呆れ顔でふさしぃさんが呟いた。
「そうですね…」
 思わず笑みがこぼれる。
 こんなふうに心の底から笑える日が来るなんて、
 ほんの少しまでは思ってもいなかった。

「また一緒に遊びに行きましょう。
 今度はぃょぅ達も一緒に、ね。」
 ふさしぃさんが目配せをする。
「…はい。」
 夕暮れの太陽が、でぃさんの子供のような寝顔を黄金色に照らした。
 黄昏の時間の中、私はこの時がいつまでも続くように祈るのだった。

365ブック:2004/05/17(月) 22:43



     ・     ・     ・



「……ギコさん。…タカラギコさん。」

 ……!
 オオミミ君の声が、私を目覚めへと導いた。

「…ああ、オオミミ君ですか。
 どうしました?」
 ゆっくりと上体を起こし、オオミミ君に尋ねる。

「ごめん。もうすぐ近くの島に停泊するから、サカーナの親方が起こしとけって。」
 オオミミ君がすまなそうに答える。
 それにしても、起こされるまで彼の接近に気づかないとは。
 …いや、彼自身に殺気が無かったから気付かなかったのか?

「わざわざすみませんね。
 すぐに、ブリッジに向かいますよ。」
 背筋を伸ばしながら大きく欠伸をする。

「…タカラギコさん、いい夢でも見ていたんですか?」
 と、やおらオオミミ君が私に尋ねた。
「え…?」
 思わず、呆けた声が出てしまう。

「あ、ごめんなさい。
 とっても幸せそうな顔で眠ってたから、つい…」
 慌ててオオミミ君が弁解した。
 よく謝る少年だ。
 あの少女に、少し似ているな。

「…前の職場の同僚の夢を、見ていました。」
 少し間を置いた後、私は答えた。
「それで、どうだったんですか?」
 優しそうな声で、オオミミ君が聞き返す。

「相変わらず、でしたよ…」
 そう言った後で、私は自嘲の笑みを浮かべた。
 どうかしている。
 いつもの私なら、こんな質問適当にはぐらかしているのに。
 …さっき見た夢が、私を感傷的にしているのか。

「オオミミ君、先に行っておいて貰えますか?
 私は少し、支度があるので。」
 その言葉に従い、オオミミ君は部屋から出て行った。

「さて、と…」
 ベッドから降り、顔を叩いて気合を入れ直す、
 忘れるんだ。
 夢はどこまでいっても只の夢。
 決して現実には成り得ない。
 もう、私はあそこへは帰れないのだ。
 絶対に、帰れない。
 帰る資格も無い。
 もう決して、戻れない場所。

「…それでも、私は進まねば。
 私は…私は、今度こそ……」
 拳を握り、決意を固める。
 それでも、今見た夢はなおも私の心を切なく焦がし続けるのであった。



     TO BE CONTINUED…

366ブック:2004/05/18(火) 18:02
遅くなりましたが、救い無き世界最後の人物紹介。
主要キャラクターはもう語りつくしましたし、あまり長々とやるのもなんなので、
ここでは矢の男とその従者達その他新登場のスタンドだけ。


『矢の男』…自身のスタンド『サイコカリバー』で、魂を新しい肉体に入れ替えながら、
      神の降臨の為の魂を集めてきた。
      神をその身に宿すも、覚醒した『デビルワールド』によって存在を終了、
      敗北する。

スタンド…名称『アクトレイザー』。
     アカシックレコードへの干渉を行え、それにより事象の閲覧、
     書き換えが出来る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モナエル…『矢の男』の従者の一人。
     小耳モナーと闘い、追い詰めるもすんでの所で死亡。

スタンド…名称『アーガス』。遠隔操作、群体型。
     無数の羽虫のビジョンで、その針に刺された者は
     人に認識されなくなり、最後には完全にこの世から消え去ってしまう。
     石ころ帽子の強化版と思って頂こうッ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコエル…『矢の男』の従者の一人。
     裏設定ではこいつがトラギコと特に仲の悪い従者だった。
     ふさしぃ、ギコえもん、小耳モナーをそのスタンドで一網打尽にするも、
     三人の機転の前に敗れる。

スタンド…名称『プリンス・オブ・ペルシア』。
     罠だらけの迷宮を異次元に作成し、その中に人を取り込む。
     取り込まれた者は、一時間以内にその迷宮のどこかにいる本体を倒さなければ、
     迷宮の崩壊に巻き込まれて死亡する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しぃエル…『矢の男』の従者の一人。
     従者の中の紅一点だったが、大したサービスシーンも無いまま退場。

スタンド…名称『ウインズノクターン』。
     しぃエルの背中に生えた大きな翼がビジョンで、
     それによって起こされた風に晒されたモノは全て風化する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
モララエル…『矢の男』の従者最後の一人。
      たった一人ででぃ達を襲撃、その殆どを無力化させるも、
      ギコえもんに倒される。
      最後に華々しく散華した。

スタンド…名称『スペースハリアー』。
     近距離パワー型で、このスタンドに触れたモノへの、
     空気、重力、水圧その他一切の外部の自然からの抵抗を増大させる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



     ・     ・     ・



『デビルワールド』…遥か昔『矢の男』が神を生み出そうとして失敗した時に
          生まれたスタンド。
          負の思念を喰らう事でいくらでも大きくなり続ける。
          『矢の男』はすぐさま元となった魂を散らす事で実体化の前に
          消滅させようとしたが、
          辛うじて生き残り別の生命の体を渡り歩く事で生き永らえていた。
          でぃと接触、そして復活を果たすも、
          でぃの新たなスタンド、そして自身の能力により消滅。
          万物は終わりを内包するが、彼もまた例外ではなかった。
          能力は、この世に存在する全てを『終わらせる』事。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『イース』…『矢』によりでぃから生まれたスタンド。
      近距離パワー型で、大きな盾を構えた戦士の姿がビジョン。
      その盾で受け止めたあらゆる攻撃を、攻撃者に向かって跳ね返す。

367:2004/05/19(水) 17:01

「―― モナーの愉快な冒険 ――   そして新たな夜・その6」



 レモナは高速で飛翔していた。
 そのスピードは、すでに音速に達している。
 前方に、F−22が2機。
 ようやく追いついたようだ。

「さぁて…」
 レモナは、2機のF−22の動きをチェックした。
 航空機における最小戦術単位は、2機編隊である。
 1機がリーダーで、もう1機がウィングマン(寮機)として後方からの援護を行うのが普通だ。

「…リーダーはあっちね」
 レモナは並走して飛ぶ2機の内、片方に狙いをつけた。
 両機とも、高速接近してくるレモナの存在は感知しているはず。
 一般に、空戦においては背後をとった方が優勢。
 その点で、レモナは多少有利と言える。
 だが、まだ距離が遠い。
 仕留めるには距離が開きすぎている。

 向こうはどう出てくるか。
 得体の知れない追撃者に恐れをなし、この場から離れるか。
 それとも、仕掛けてくるか…

 2機の高度が上昇し始めた。
 高度を稼ぐためには、速度を犠牲にする必要がある。
「最適な上昇率。やる気みたいね…」
 レモナは呟いた。
 どうやら、向こうに逃げる気はないらしい。

 リーダー機が大きく旋回した。
 その速度が大きく落ちる。
「…今ね!」
 レモナは、高速でリーダー機に接近した。
 そして、リーダー機とウィングマン機を結ぶ直線上に占位する。
 これでウィングマン機はレモナに攻撃できない。
 リーダー機を巻き込む可能性が高い為だ。

 レモナに対して、完全に正面を向くリーダー機。
 F−22の固定兵装であるバルカン砲が稼動し始めた。
 通常なら、この距離でバルカン砲を掃射されれば勝負は決まる。

「もらった…!!」
 それにもかかわらず、レモナは呟いた。
 さらに接近速度を上げる。
 F−22リーダー機の間近まで…

 リーダー機のバルカン砲が火を噴いた。
 レモナは、臆する事なく突っ込んでいく。
 バルカン砲は、最大発射速度に達するまでに0.3秒を要する。
 そして、その速度に至るまでは弾道が安定しない。

 ――0.3秒。
 通常の戦闘機相手なら、問題にもならない時間。
 だが『レモナ』という兵器を相手にするのに、その隙は大きすぎた。

「落ちろッ!!」
 レモナはバルカン砲をかわしながら、大腿部から対空ミサイルを発射した。
 リーダー機との距離、僅か50m。
 向こうに抗う術もない。
 避けるどころか、パイロットの脱出する時間すら与えられないだろう。

 対空ミサイルが、F−22リーダー機の胴部に直撃した。
 爆発炎上するF−22。
 主翼が折れ、胴部から離れる。
 その機体は紅蓮の炎に包まれ、そのまま失速していった。
 レモナの視界が火の赤に染まる。

「あと1機…!」
 残るF−22に向き直ろうとするレモナ。
 その瞬間、彼女は異常な電波を感じた。
「これは… アクティブ・レーダー!?」
 レモナはウィングマン機に素早く視線をやった。
 F−22の胴体内兵器倉からは、既にミサイルが突き出ている。

 次世代中距離空対空アクティブレーダー・ホーミングミサイル、AIM−120C。
 通称『AMRAAM(アムラーム)』。
 100%に近い命中率を誇る、脅威の対空ミサイル…!

「こんな近距離でロックオンしてくるなんて…!!」
 レモナは速度を上げた。
 同時に、AMRAAMがレモナ目掛けて発射される。
 超音速で接近してくるAMRAAM。

 F−22は、そのままレモナに並走している。
 AMRAAMは、機体から誘導する必要はないにもかかわらず。
「撃墜を最後まで見届けようってわけ…!?」
 レモナはさらにスピードを上げ、憎々しげに呟いた。
 その背後にAMRAAMが迫っている。
 AMRAAMのマッハ4以上もの速度と脅威の追尾能力は、レモナの運動性を大きく上回っているのだ。
 このミサイルから逃れるには、ミサイル自体を撃墜するより他に方法はない。

368:2004/05/19(水) 17:01

「当たれッ!!」
 大腿部から、対空ミサイルを発射するレモナ。
 その赤外線シーカーが、目標をロックした。
 レモナの放ったミサイルは、AMRAAM目掛けて高速直進する。
 ミサイル同士が激突する寸前、AMRAAMは大きく軌道を変えた。
 レモナが放ったミサイルを避けるように、左方に大きく旋回する。

「…かわした?」
 レモナは呟いた。
 AMRAAMには、迎撃ミサイルを避ける機能が備わっているのだ。
 彼女の放ったミサイルは、そのまま直進していった。
 レモナの間近にAMRAAMが迫る。

「ま、いいか… 相打ちだし」
 レモナは笑みを浮かべて言った。
 先程彼女が放ったミサイルは、AMRAAMの迎撃を目的にしたものではない。
 彼女の放ったミサイル『サイドワインダー』がロックしたのは、並走してくる敵機F−22である。

「最初にサイドワインダーがそっちのAMRAAMに向かったのは、ただの慣性移動。
 本当の狙いは、そっちよ…
 ミサイルにロックされてる私が、それを無視して敵機の方を狙うとは思わなかったでしょ?」
 レモナは、F−22を見据えた。
 その機体に、先程レモナが放ったサイドワインダーが迫る。

 レモナの身体に、AMRAAMが直撃した。
 マッハ4以上の動体の激突は、レモナの左半身を引き裂く。
 それに続く爆発をまともに喰らうレモナ。
 同時に、F−22ウィングマン機はサイドワインダーの直撃を受けた。
 F−22の機体は爆炎に包まれる。

 レモナの身体は失速していった。
 その目に、炎上しながら墜落するF−22の姿が映る。
「撃ってすぐに逃げてれば、自機撃墜なんてのは避けられたのにね…」
 落下しながら、レモナは呟いた。

 そのまま、レモナの体は地表に叩きつけられる。
 いかに頑丈なレモナの体とはいえ、AMRAAMの直撃と地表への激突衝撃には耐え切れない。
 各部が粉々に砕け、全身が四散した。
「…完全回復に、あと30分ってとこかしら…」
 頭部だけで、レモナは呟く。

 かなり離れたところで、大きな爆発が起きた。
「さっきのF−22か…」
 レモナは、爆発の起きた方向を見た。
 噴き出した炎が夜空を赤く染める。
 バラバラになった機体の破片が、周囲に散らばっているようだ。

「相打ちは相打ちだけど、その重みは全然違うわね…」
 レモナは呟く。
 撃墜した2機とも、パイロットが脱出した様子はなかった。

「さてと…」
 ダメージは大きい。しばらく、ここから移動できなさそうだ。
 レモナは周囲を索敵した。
 付近に航空機の類は全く見当たらない。
 脱出用のヘリが戦闘機によって撃墜される可能性は回避されたようだ。
 さすがに、2機のF−22以外の戦闘機は投入していなかったらしい。
「まあ、最強のF−22が2機とも撃墜されるとは思ってもみなかったでしょうけどね…」
 レモナは、そう呟いてため息をついた。

369:2004/05/19(水) 17:02



          @          @          @



 CH−47JA輸送ヘリが、空き地の真ん中に着陸する。
「まったく… どこが200mほど離れた地点なんだよ…」
 モララーは不満を込めて呟いた。
 首相官邸から200mほど離れた地点で、脱出用ヘリが待っている。
 官邸内で、リル子はそう言った筈だ。
 だが、ここは官邸から1kmは離れている。

「当初はそういう予定だったのですが、敵の数はこちらの予想を超えていました。
 用心の為、ヘリの着陸地点を遠ざける必要があったんです」
 リル子は表情を変えずに言った。
「いや、リル子さんに文句を言った訳じゃないからね!!」
 モララーは慌てて発言を撤回する。

「さて、急いで乗って下さい」
 局長は、要人たちに告げた。
 要人の列が、ヘリに向けて進み始める。

 ギコ達は、周囲に展開して目を光らせていた。
 ヘリに乗り込む時が、最も危ないと言われている為だ。
「どうだ、つー?」
 ギコは、敵意を感じ取ることのできるつーに呼びかけた。
「アア、ダイジョウブダ。500mイナイニハ、マッタク テキイヲ カンジネェ…」
 つーは言った。

「対空攻撃部隊には特に注意を払って下さい。離陸した瞬間に撃墜されでもしたら…
 私達は何とかなるにしても、要人は全員死亡ですからね」
 局長はギコ達に注意を促した。
 ヘリのタラップを駆け上がっていた要人の1人が、嫌そうな表情を浮かべる。

「全員、乗りました」
 リル子は局長に告げた。
「それでは…」
 局長が、ギコ達に呼びかけようとする。
 その瞬間、異常は起きた。

 ピシッという軽い音。
 ヘリの操縦席のガラスに、指先サイズの穴が開いた。
「…!?」
 局長は、操縦席の方に視線をやった。
 ガラスに、赤いものが粘りついている。
 それも、内側から…

「うわぁぁぁぁぁッ!!」
 操縦士の悲鳴が上がった。
 このヘリは、2人の操縦士を必要とする。
 操縦席のドアが開き、操縦士の1人が飛び出した。
「あ、相棒が撃たれたぁぁッ!!」
 操縦士は、叫びながらヘリから離れる。

「迂闊に動くんじゃない!!」
 局長は叫んだ。
「!!」
 ギコ達が身構える。
 その瞬間、外に飛び出した操縦士の側頭部に穴が開いた。
 身を反らせ、側頭部の穴から血を撒き散らしながら、操縦士は地面に倒れる。

「狙撃かッ…!!」
 ギコは周囲を見回した。
「コノ チカク ジャネェ!! モット トオクカラダ!!」
 つーは叫ぶ。
 第3撃はない。どうやら、狙撃は終わったようだ。

「…あそこからでしょうね」
 局長は、そびえたつ首相官邸を見上げた。
 一瞬、官邸の屋上に人影が見えたのだ。
 この距離から、ヘリ内部の操縦士を狙撃できるほどの男はただ1人。

「ソリッド・モナーク、先程のお返しという訳ですか…」
 局長は、首相官邸の屋上を凝視して呟いた。
 そこには既に人影はない。

「どうすんだ!? 操縦士が2人とも…」
 ギコは慌てる。
「私が何とかします。全員、ヘリに乗って下さい!」
 リル子は、開いているドアから操縦席に滑り込んだ。

「…?」
 困惑しつつ、ギコはヘリのタラップを駆け上がった。
 モララー、しぃ、つーが後に続く。
 全員がヘリに乗り込んだのを確認してから、局長はタラップを上がった。

「でも、どうするんだ…?」
 ギコは、操縦席に目をやる。
 リル子はシートに座ると、アタッシュケースを膝の上に置いた。
 そして、ケースから取り出したコードをヘリの操縦機器に繋ぐ。

「…管制システムとリンクしました。私のスタンドで動かせます」
 リル子は計器をチェックしながら言った。
「離陸します。多少揺れますので、注意して下さい」

 メインローターが回転し、ヘリの機体がゆっくりと浮かび上がる。
 そのまま、ヘリは北西の方向に移動し始めた。

370:2004/05/19(水) 17:02

「これで一息だね…」
 モララーが安堵のため息をついた。
「本当、緊張した…」
 しぃが呟く。
「まあ、ちょっと前まで女子高生やってた身分からすりゃ、パニック起こさなかっただけでも立派なもんだ…」
 『アルカディア』が、機体の内壁にもたれる。
「いや、今でも現役の女子高生なんだけど…」
 しぃは不服そうに呟いた。
 普段の調子が戻ってきたようだ。

 要人達も、やっと落ち着いたらしい。
 彼等の中の数人が、会話を交わしている。
 もっとも、蒼白のまま固まっている者も何人かいるが。

「…無線が入りました。レモナさんのようです」
 運転席のリル子は言った。
「レモナ? 俺が出る…!」
 ギコが操縦席に駆け寄った。
 そして、リル子の手から無線機をひったくる。

「おい、レモナ! そっちはどうだ!?」
 ギコは無線機に呼びかけた。
『ちゃんと2機とも落としたわよ。でも、こっちもダメージ食らって、しばらく動けないみたい』
 あっけらかんとしたレモナの返事。
「動けない…? 大丈夫なのか!?」
 ギコは大声で訊ねた。
『30分もしたら全快するわ。全然大丈夫』
 当のレモナは、平気そうに告げる。
 どうやら、本当に心配はいらないようだ。

「…そうか。で、合流はできそうか?」
 胸を撫で下ろしてギコは言った。
『そっちの機体を補足してるから、回復次第そっちに向かうわ。そっちの周囲にも、敵機はいないみたい。
 暇つぶしに周囲の電波を妨害しとくから、そっちのヘリが敵に補足される危険もないはずよ』
 レモナは告げる。
「…それは助かりますね。乗り換えの手間が省ける」
 横から聞いていた局長が言った。

『私の活躍、ちゃんとギコくんの口からもモナーくんに伝えといてね。じゃ、また』
 そう言って、通信は途切れた。
 ギコは、無線機をリル子に渡す。
「電波妨害は本当に助かりますね。F−22クラスの戦闘機に補足されれば、輸送ヘリでは流石に手も足も出ませんから」
 リル子は無線機を受け取って言った。

「…そのスタンドがあれば、何でも運転できるのか?」
 ふと気になって、ギコはリル子に訊ねる。
「ある程度の電気的アビオニクス(統制機器)を搭載している機体なら、問題はありません。
 自動車とか、機能の特化したシステムになると無理ですけど」
 リル子は、前方を向いて言った。
「ふーん、便利なスタンドだなぁ…」
 ギコは呟く。
「その代わり、本体が高度な情報処理能力を持っていないと使いこなせませんが。フフ…」
 リル子は、自慢とも取れるような事を口にした。

「それで、このヘリはどこに向かってるの?」
 モララーは、局長に訊ねる。
 ギコは局長の方に視線をやった。
「…秘密基地ですよ」
 局長はニヤリと笑う。
「ひ、秘密基地だって!?」
 その甘美な言葉の響きに、モララーが目を輝かせた。
「ええ。ASAと『教会』が激突した時の拠点として用意していたんですが、こんな時に役に立つとはね…」
 局長は窓の外を見下ろして言った。
「あと20分で到着します。それまで、ゆっくり休んでいて下さい…」

371:2004/05/19(水) 17:03

 ヘリは、あるBARの駐車場に着陸した。
「店の規模の割りに、デカい駐車場だな…」
 ギコが呟く。
「ええ。ヘリが着陸できるようにね」
 そう言って、局長はヘリから降りた。
「さてみなさん、降りますよ…」

 ギコや要人達が、ぞろぞろとヘリから降りる。
「監視衛星とか、大丈夫なのか?」
 ギコは局長に訊ねた。
 駐車場にこれだけ人が集まれば、衛星にキャッチされても不思議ではない。
「問題ありませんよ」
 局長はそう言って、BARに向かって歩き出した。
 全員が後に続く。

 局長は、立派な木製のドアを開けた。
 カランカランと鐘の音が鳴る。
「BARぃょぅにようこそだょぅ… あっ、お帰りだょぅ」
 マスターらしき人物は、局長の姿を見て言った。

「要人奪還は成功しましたが… 米軍まで出張っていましたよ。厄介ですねぇ…」
 そう言いつつ、局長はつかつかとカウンターに歩み寄った。
 そして、カウンターの中に入る。
「米軍と自衛隊が共同で動いているとなると、政治的取引も難しくなるょぅ。
 米国も、スタンド使い排斥に動いているのかょぅ…」
 マスターらしきぃょぅは表情を曇らせる。
 そして、入り口に立つギコ達を見た。
「ギコ君達の事は、局長から話は聞いてるょぅ。そんな所で突っ立ってないで、中に入るょぅ」

「お、お邪魔します…」
 しぃは困惑しながら告げた。
 こういう店に入るのは初めてなのだろう。
「君も、公安五課の人?」
 モララーはぃょぅに訊ねた。
 ぃょぅは頷く。
「君の事は、バーテン仲間から聞いているょぅ。カツカレーは無ぃょぅ」
「ちぇっ…」
 モララーは視線を落とした。

 カウンターの中にいる局長が、大きな業務用の冷蔵庫を開ける。
「じゃあ、この中に入って下さい」
 局長はギコ達の方に振り返って告げた。

「…!?」
 ギコは困惑した。
 これは、どういう嫌がらせだ?
 だが冷蔵庫の中を良く見ると、地下へ続く階段のようなものが見える。

「…なるほど。それが秘密基地の入り口って訳か」
 ギコは言った。
 局長は頷くと、冷蔵庫の中の階段を降りていく。
 ギコ達が後に続いた。
「要人の皆さん方も、中にどうぞだょぅ」
 ぃょぅはカウンターをフルに開けると、要人達に言った。
 自分自身は降りないようだ。

 要人の最後列の人が、冷蔵庫の中に消えていく。
 ぃょぅはそれを確認して、冷蔵庫の扉を閉めた。
 ただ1人残った女が、カウンター席に座る。

「…ウォッカ・マティーニ」
 リル子は、ぃょぅに告げた。
「…大変だったみたいだょぅ」
 ぃょぅはため息をつきながら、背後の棚を開ける。
「でも、飲み過ぎは良くないょぅ。店内で暴れるのは、もう勘弁してほしいょぅ…」

372:2004/05/19(水) 17:04



          @          @          @



 長い長い階段を降りるギコ達。
 階段自体は、しっかりとしたものだった。
 だが照明が薄暗いので、足元がどうも不安である。
 降りるにつれ、空気が薄くなっていく感じ。
 無論、錯覚であることをギコは理解している。

 ようやく、階段の終わりが来たようだ。
 地下5階分は降りたであろう。
「公安五課、秘密基地へようこそ!」
 局長は振り返ると、仰々しく告げた。
「…その恥ずかしいネーミングはどうにかならないのか?」
 ギコは呆れて言った。
 もっとも、モララーは気に入っているようだが。

 ――だだっ広い事務所。
 そういう表現が、一番当て嵌まるだろう。
 部屋内に多くのデスクが並び、電話機やPCが備え付けられている。
 20人程度なら、余裕で収容できる広さはあるようだ。
 天井も高く、床は綺麗である。
 だが、地下特有の息苦しさは消えてはいなかった。

「窓がないってのは、落ちつかねぇな…」
 ギコは呟いた。
 モララーは、少し肩を落としている。
 おそらく、彼の脳内の秘密基地のイメージと違ったのだろう。
「結構、広いんだね…」
 しぃは感心したように呟いた。

 局長は、要人達の方を振り返る。
「皆さんには、しばらくここで暮らして頂きます。
 皆さんは今や完璧なお尋ね者ですから、なるべく外出は控えて下さい。
 地下である為、不便な点はありますが… 命の危険がない分、首相官邸よりはマシでしょう?」

「…仕方ないな。中央を追われた身はこんなものか」
 首相が嘆息する。
 要人達は、部屋中に置かれた椅子に腰を下ろした。

「先行きはどうなると君は考えている?」
 パイプ椅子に腰を下ろした官房長官が、局長に訊ねた。
 局長は僅かに表情を曇らせる。
「私の当初のプランでは…
 皆さんを保護した上でマスコミに働きかけ、自衛隊が独断で動いている事を明らかにするつもりでした。
 その上で国連に働きかけ、自衛隊の暴走を止めさせようとね」

 首相は口を開いた。
「君も見ての通り、米軍が派遣されている。アメリカ本国もスタンド使いの排除に乗り気だ。
 それだけではないね。他の国も、ASA及びスタンド使い打倒に動いていると見ていい。
 各国首脳、よほどスタンド使いの存在に手を焼いてたんだろうな…」
 そう言って、笑みを見せる首相。

「でも、スタンド使いだからって悪いことするとは限らないのに…」
 しぃは言った。
「国家を転覆させるだけの力を持つ者というのは、その存在だけで国家にとって毒なんだよ。
 当人の意思にかかわらずね…」
 要人の1人は、しぃを諭すように告げる。

 局長は口を開いた。
「とにかく、状況が違ってきています。
 常任理事国であるアメリカがスタンド使い排斥に動いている以上、国連決議に頼ったところで結果は見えている。
 やや手詰まりの感がありますね…」
「…」
 要人達は、揃って沈黙した。
「フサギコ…、やってくれますね。暴走しているように見えて、根回しは完璧だったとは…」
 局長は呟く。

373:2004/05/19(水) 17:05

「これもオヤジのせいだ。すまねぇ…」
 ギコは要人達に頭を下げた。
 この状況は、全て彼の父親が引き起こした事なのだ。
 しぃは、ギコの複雑な心中に気付いた。

「君は… フサギコ統幕長の御子息なのかね…?」
 首相はギコに視線をやった。
「…ああ」
 ギコは頷く。
 それを聞いて、首相はため息をついた。
「…頭など下げんでいいよ。こっちが悲しくなる。
 私の孫のような年齢の君が、親の責任まで抱え込む事はない」

「ギコ君…大丈夫だよ」
 しぃは、肩を落としているギコに呼びかけた。
 官房長官が口を開く。
「そこの娘さんの言う通りだ。軍人のクーデターで揺らぐほど、我が国は軟弱じゃない。
 50年に渡って中央政権に君臨し続けた与党の力、奴らに思い知らせてやるさ」
「そうですよ、ギコ君。責任論は事態が収拾してからでいい。今は前を向く時です」
 局長は、珍しく他人を思いやる旨の言葉を口にした。

 思いの他、要人達は協力的であるようだ。
 首相官邸に監禁されている間に、かなりの鬱憤が溜まっていたらしい。
 自衛隊員に銃を突きつけられる中、団結心も芽生えていたのだろう。
 彼等は、先の事について協議し始めた。

「まず外交ルートを駆使して、どれだけの国が自衛隊に賛同しているか調査する必要があるな…」
 外務次官が口を開く。
「相当数の筋は向こうに抑えられているだろう。意向を聞き出すだけで一苦労だな」
 官房長官がため息をついた。
「この年まで官僚をやってきたんだ。信頼できる独自のルートなんていくらでもある」
 そう言って、自身ありげに頷く外務次官。
 局長は、要人達に告げた。
「では、皆さん方は現状把握の方をお願いします。くれぐれも軽率な行動は慎むようにして下さい」

「マア、オレタチニハ カンケイナイ ハナシ ダケドナ…」
 つーは、大きなソファーに座り込んで言った。
 ギコは複雑な思いを抱いているだろうが、彼ら自身はあくまで助っ人なのだ。

「…ところが、そうは行きませんよ」
 局長は笑みを浮かべて言った。
「素顔をさらして首相官邸に乗り込んだんですから、簡単に素性が割れるでしょう。
 君達も、立派なお尋ね者ですよ。 …まあ、一蓮托生で頑張っていきましょう」

「テメェ! ハメたな!!」
 ギコは怒鳴った。
 思えば、それは当然の成り行きなのだ。
 ギコは、そんな事が見抜けなかった自分自身を反省した。

「じゃあ、僕達もしばらくここで暮らせってこと!?」
 モララーは局長に詰め寄った。
「…ええ。そうなりますね」
 局長はあっさりと認める。
「皆さんの家には、今頃は自衛隊員か米兵が詰め掛けているはずです」

「どうしよう…!! 家には、お母さんと妹が!!」
 しぃが悲壮な声を上げた。
「僕も、家にパパとママと妹がいるんだよ!?」
 続けてモララーも叫ぶ。

 局長は無線機を取り出すと、何やら操作した。
「心配は無用ですよ。既に公安五課が身柄を保護して…いない!?」
 局長は珍しく驚きの声を上げた。
 そして、無線機に語りかける。
「どういう事です!? …先に保護? 一体誰が…」

 しぃが、泣きそうな顔で局長を見つめている。
 局長は慌てて言った。
「いや、保護されているのは確かなようです。それが、公安五課の手によるものではないだけで…」

「おいおい、何だそりゃ。とんでもねぇ不手際だな…」
 ギコは怒気をはらんで言った。
 家族を保護するような人員をあらかじめ配置していた以上、全ては局長の予想通りと言ったところだろう。
 この男は、あらかじめ自分達を巻き込むつもりでいたのだ。その結果の不手際である。

「保護したのはASAって事はないの…?」
 モララーは焦りながら言った。
 流石に、彼も家族の事が気に掛かるようだ。

「その可能性は高いでしょうね。張り込んでいた局員も、ASAのスタンド使いの姿を見たと言っています。
 彼らも、自衛隊の動向に目を光らせているはずですし」
 局長は言った。
 しぃとモララーは、とりあえず胸を撫で下ろす。

374:2004/05/19(水) 17:06

 突然、内線電話が鳴った。
「…どうしました?」
 局長は受話器を手に取る。
『レモナさんと言う方が来てるょぅ。地下に案内していいかょぅ?』
 電話の向こうで、ぃょぅは告げた。
「ああ、もう着いたんですか。構いませんよ」
 局長はそう言って、受話器を置く。

「ヤレヤレ。メンドクセェ コトニ ナッチマッタナ…」
 そう言いつつも、つーは少し楽しそうである。
 これから、暴れる機会が増える事を予期しているのだろう。

「皆さんのロッカーも用意してありますよ」
 局長は、部屋の端を示した。
 大きなロッカーに、『ギコ』、『モララー』といったネームプレートが貼られている。
「…そんなもんまで用意してやがったのか。最初から、とことん抱き込む気だったんだな」
 ギコは、もう文句を言う気力もない。
 つかつかとロッカーに歩み寄ると、その中にM4カービンを仕舞った。

「女性の方には、ロッカーの代わりに個室を用意してあります。いろいろ大変でしょうからね…」
 局長は告げる。
 しぃは安心したような表情を浮かべた。
「…オレハ?」
 性別不詳であるつーは訊ねる。
「フレキシブルに対応できるよう、貴方には個室とロッカーの両方を用意していますが…」
 局長はそう言って腕を組んだ。

 しぃは、壁にかけられた時計を見る。
 午前6時。そろそろ明るくなる頃だ。
「モナー君達は大丈夫かなぁ…」
 しぃは呟く。
「心配はいらんだろ。ASAの奴等もついてるんだし」
 ギコは腕を組んで言った。
 彼らにも、この場所を連絡してやる必要があるな…

「まあ今頃、大海でバカンスを楽しんでるんだろうが…」
 ギコはそう言ってため息をつく。
 そんなはずがない事は、誰もが分かっていた。
 彼等は… 大丈夫なのだろうか。

「あんまり遅いようなら、少し様子を見に行ってやるか」
 ギコは言った。
「私も行く〜!!」
 いつの間にか来ていたレモナが口を挟んだ。
「オレモ!オレモ!」
 つーがはしゃぐ。
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだ。それに、多人数で行くとここの守りが不安だろ?」
 ギコは2人を諌めた。
「それに、あくまで帰りが遅かった時の話だゴルァ」

 ギコは、広い部屋内を眺めた。
 要人達の多くは、電話機を手にして何かをしゃべっている。
 家族への連絡か、調査等の依頼や命令か…

 ギコはソファーに座り込むと、額に手を当てた。
 ヘリの中で、局長からモナークの話を聞いた。
 要人暗殺が目的だったにしては、腑に落ちない事が多すぎる。
 彼は、何者だ?
 あそこで、何をしていた?
 ギコは自問した。

 ――『教会』の影。
 そう。最も不気味な組織が、未だに表舞台に現れていないのだ。
 …奴等は何を企んでいる?

「…まあ、モナー達も大丈夫だろ」
 ギコは、言い聞かせるように言った。
 まるで、自身に根付いた嫌な予感を払拭するように。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

375:2004/05/21(金) 23:28

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その1」



 ASA第14艦隊、旗艦『フィッツジェラルド』。
 しぃ助教授は、その艦のブリッジから窓の外を眺めていた。
 眼下には真っ暗な海がどこまでも広がっている。
 遥か前方に、ありすが艦長のイージス艦『ヴァンガード』の姿がうっすらと見えた。

「…モナー君の様子は?」
 しぃ助教授は、外に視線をやったまま丸耳に訊ねる。
 後ろに控えていた彼は、素早く口を開いた。
「ねここの報告では、大人しく部屋で眠っているようです。
 どうやら、1日か2日でこの任務が終わると思い込んでいたとか…」

 しぃ助教授は微笑んだ。
「…モナー君らしいですね。で、帰るとか言い出しませんでしたか?」
 丸耳は首を振る。
「いえ。そのような事は無いようです。リナーさんを同乗させた事が功を奏していますね…」

「彼には、働いてもらわないといけませんからねぇ…」
 しぃ助教授は、腕を組んでため息をついた。
 ここから見える海は、無限に広がっている。
 そして、この海のどこかに確実に敵がいるのだ。

 丸耳は時計を見た。
 現在、午前5時。
 もうそろそろ、夜も明ける頃だ。
 彼は地図に視線をやった。
「横須賀から第1護衛隊群、佐世保からは第2護衛隊群の出港が確認されています。
 明日の夜には、危険海域に入るでしょう」
 丸耳は、海を眺めるしぃ助教授の背中に告げた。

「両艦隊共に、イージス艦が配備されていますね…」
 しぃ助教授は、艦長用の椅子に座りながら呟いた。
 丸耳は静かに頷く。
「…はい。そして、敵は海上自衛隊の艦隊のみとは限りません。
 本部ビルに海上からミサイル攻撃を仕掛けてきたのは、ロシアのバルチック艦隊でしたし」

「米海軍の第7艦隊に遭遇するのだけは避けたいですね…」
 しぃ助教授は大きく背伸びをして、そのまま頭上で腕を組む。
 丸耳は、地図をチェックしながら言った。
「そういう事態を避ける為、モナー君に乗ってもらったんでしょう?
 彼の探知能力は、用途によってはイージス艦搭載のフェーズド・アレイ・レーダーをも上回りますから」

「監視衛星が使えないのは、痛いですね…」
 しぃ助教授はため息をつく。
 ASAの所有する監視衛星は、米軍の電子戦部隊によってハッキングされたままなのだ。
「戦略衛星兵器『SOL−Ⅱ』はハッキングを逃れました。それだけでも幸いですよ…」
 丸耳は慰めるような口調で告げる。


 ブリッジに、職員の1人が駆け込んできた。
「各監視班から連絡が入りました。しぃとモララー、レモナ、つーの家を米兵が包囲しているようです!」
 職員は、報告書に目を通しながら告げる。

 しぃ助教授と丸耳は、同時に顔を上げた。
「米兵が…?」
 しぃ助教授は顎に手を当てる。
 丸耳は、しぃ助教授に視線をやった。
「米軍内だけで処理する気なんでしょう。なにせ、官邸に侵入した賊の1人は統幕長の息子ですからね。
 自衛隊の方には、そこらの報告は行かない可能性が高いと思われます」

「統幕長の息子が加担している事が自衛隊側に漏れれば、いろいろと面倒な事態になる…ってとこですか。
 とにかく、彼等がノコノコと家に戻るわけがないでしょうに…」
 しぃ助教授は艦長席から立ち上がると、再び窓の外を眺めた。
 考え事を抱えている時、彼女には遠くを眺めるというクセがあるようだ。

「しぃとモララーは家族と同居しています。その家族は現在も在宅中で、迅速な保護が必要です。
 監視班だけでは、家を包囲している米兵に太刀打ちできないと思われますが…」
 職員は続けて報告した。
 しぃ助教授は、表情を曇らせて顎に手を当てる。
「しかし、そっちに回せる兵員は…」

 丸耳が顔を上げ、無言でしぃ助教授を見た。
 まるで、何かを訴えるように。
 しぃ助教授は微笑んで言った。
「…許可します。貴方1人だけなら、ここからでも行けるでしょう?」

「了解しました。10分ほど席を外します」
 丸耳の背後に、彼のスタンド『メタル・マスター』のヴィジョンが浮かび上がる。
 その直後、丸耳の姿はスタンドと共に虚空に消え去った。
 ブリッジから、丸耳の気配が完全に消える。

「監視班は撤退してもらって結構です。彼が保護しに行きましたから」
 しぃ助教授は、報告に来た職員に告げた。
「はっ!」
 職員は一礼すると、ブリッジから出ていった。

「ギコ君達は、公安五課と結託しましたか。まあ、正面から敵対しないだけマシですかねぇ…」
 しぃ助教授は、誰もいなくなったブリッジで1人ため息をついた。

376:2004/05/21(金) 23:29



          @          @          @



 俺は、机から顔を上げた。
 荒廃した夜の教室。
 いい加減、見慣れた風景だ。

「今度は、何の用モナ?」
 俺は、教卓にもたれている男に訊ねた。
「…今度は、とは心外だな。私が意図して君を呼んだのは、まだ2回目だ」
 『殺人鬼』は、ぬけぬけと口を開く。
 つまり、前回は俺の方から勝手に来たと言いたいのだろう。
「それで、何の用モナ? 手短に頼むモナ」
 俺は、奴を見据えて言った。

「君の体の事で、伝えなければいけない事柄がある」
 『殺人鬼』は、珍しく即座に本題に入ったようだ。
 奴はそのまま言葉を続けた。
「…まず、君は吸血鬼にもかかわらず痛覚を持っている」

「え…?」
 俺は困惑した。
 そういえば、皮膚感覚は人間だった頃と変わりはない。
 『殺人鬼』は、当惑する俺を尻目に言った。
「それは、私がそういう風に君の回路を繋いだからだ。
 君のような緊張感のない人間が痛覚を失えば、戦闘において不利な面が多いからな。
 痛みというのは重要なシグナルだ。その感覚を大切にするがいい」

 緊張感のない、というフレーズに文句を言おうと思ったが、押し留まる。
 日中にカーテンを開け、危うく塵になりかけた事もあったのだ。
 確かに、我ながら緊張感がないとも言える。
 『殺人鬼』はさらに言った。
「それと、もう一つ。食事に関する感覚も、人間時のものに戻した。
 空腹感や満腹感、味覚等、人間だった頃と変わらないはずだ。
 血に関する過剰な欲求も、君の精神回路から排除してある。
 何故そうしたかは… あの娘を見ていれば分かるな?」

「…」
 俺は無言で頷いた。
 ここは、礼を言うところだろうか。
 しかし精神回路を他人にいじくられるのは、これっぽっちもいい気はしない。
「無論、私が手を伸ばせるのは君の感覚だけだ。
 血の摂取が不要になった訳ではないから、その点を誤るな」
 『殺人鬼』はそう補足した。
 昼食や夕食の時の疑問が、これで解けたようだ。

 …ともかく。
 俺は、こいつに謝らなければならない事がある。
 いかに『殺人鬼』がいけ好かない奴とは言え、この体は奴のものなのだ。
 しかし、その事に奴は触れてこない。

「…怒ってないのか?」
 俺は、『殺人鬼』に訊ねた。
「何をだ?」
 『殺人鬼』は聞き返す。
「お前、代行者だったんだろ? なのに、俺がこの肉体を吸血鬼にして…」
 俺は、躊躇しながら言った。

「…そんな事を気にするような感情は、とっくに削ぎ落とした」
 そう言って、『殺人鬼』は口の端を歪ませる。
「自身を存続させる為に、私自身の『殺す』という属性をより強化する必要があった。
 『蒐集者』が、愚鈍にも『最強』を追求し続けたようにな」

 俺は、無言で『殺人鬼』を見据えた。
 その表情は変わらない。
「――故に、今の私はこのザマだ。
 もはや、私はただの『殺人鬼』。殺す事のみを目的とした単一目的生物。
 『破壊者』としての理念や誇りなど、すでに私には無い」

「…」
 奴を真っ直ぐに見据える俺。
 知ってしまったのだ。
 こいつが何者なのか。
 そして、『蒐集者』との関わりを。

 『殺人鬼』は、俺の視線を振り払うように言った。
「それに、『アウト・オブ・エデン』は人間だった頃の君にはオーバースキルだった。
 吸血鬼の強靭な肉体と精神力があれば、以前より使えるようになるだろう」
「使えるようにって… 前からお前は言ってるけど、良く分からない。
 『アウト・オブ・エデン』は、視えるものを破壊できるスタンドじゃないのか?」
 俺は訊ねた。
 このやり取りは、今までに何度なされたのだろう。

 『殺人鬼』は口を開いた。
「私は、『蒐集者』を殺す為に存在する。
 故に『アウト・オブ・エデン』が『アヴェ・マリア』に劣るという事は絶対にない。
 何度も言うが、『アウト・オブ・エデン』は『視たものに干渉できる』スタンドだ」
「だから、それが…!!」
 俺は口を挟む。
 こいつの謎かけには、もう付き合っていられない。

「視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能なのだ」
 『殺人鬼』は、俺の文句を封じるように告げた。

 ――その逆?
 『破壊』の反対は…

「『創造』だ」
 奴にしては珍しく、あっさりと答えを口にした。
 『創造』…?
 『アウト・オブ・エデン』で、一体何を造り出すというんだ?

377:2004/05/21(金) 23:30

 『殺人鬼』は、俺の疑問に答えるように言った。
「以前も言ったが、君は無意識にそれをやっている。
 君は『異端者』の戦闘技術を自身の肉体に『創造』し、それを自然に活用している。
 学校の屋上で『蒐集者』と戦った時には、『私』の戦闘技術を『創造』し奴を解体した」

 それも…『アウト・オブ・エデン』の能力?
 それが、視たものを『創造』するという事なのか?

「『異端者』と言えば…」
 『殺人鬼』は話を変えた。
「あの娘が助からないのは、君自身『アウト・オブ・エデン』でもう分かっているだろう?」
「…」
 俺は口篭る。
 そう。
 そんな事は分かってる。
 今さら、こいつに言われるまでも無い。

「だから、もうあの娘には構うな。どうせ抱こうともしない女だろう?
 君があの娘と最後の距離を置くのは… それ以上近寄れば、消えて無くなる予感があるからだ」
 『殺人鬼』は告げた。
 いつもの顔で。
 そのままの無表情で。
 俺は、奴を睨みつける。
 そんな事で、奴の言葉が止まるはずがない事は分かっていた。

「その予感はある意味正しい。思い残す事が無くなった人間など、脆いものだ。
 だが、結局は同じ事だぞ? 君がどう思おうが、結果は変わらない。それなら――」
「それなら、諦めてリナーを放っぽり出せって事か…!?」
 俺は机を叩いて立ち上がる。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「殺した方がいいと言っている。あの娘自身、それを望んでいるはずだ。
 ならば、君自身の手でそれを――」
「黙れッ!!」
 俺は『殺人鬼』に駆け寄ると、その襟首を掴んだ。
 腕に力が込もる。
 『殺人鬼』の身体が、教卓にぶつかった。
 大きな音を立てて倒れる教卓。
 それでも、奴は涼しい顔を崩さない。
「お前には、殺す事しかないのかッ! リナーの事を知ってるくせに…!
 リナーがどんな生き方を強いられたか知っているくせに、お前はッ…!!」

「殺せないなら、君が守れ。最期の瞬間まで、命を賭けてな――」
 そんな事を、『殺人鬼』は言った。
 憤慨する俺を見、どこか安心したような表情を浮かべて。

 俺は、腕の力を緩めた。
 そして、奴の襟首から手を離す。
 『殺人鬼』は、襟元に手をやりながら言った。
「あの娘を闇に引き込んだのは、他ならない私だ。
 私が、あの娘を『教会』という闇に導いた。
 己の才覚… スタンドという異能ゆえに捨て子となっていた身。
 その忌み嫌われた異能を、少しでも活かせる場所を与えてやりたかったのだが… それも適わなかった。
 与える振りをして、私は彼女から奪ったのだよ。人並みの人生と、幸福な生活をな」

 俺は『殺人鬼』の顔を見た。
 奴も、俺の顔を見据えている。
 俺の目に、先程までの怒りはないだろう。

「あの娘は、自分が君を闇に引きずり込んだと自責しているが―― 最初に引きずり込んだのは私なのだ」
 『殺人鬼』は告げた。

 それは――
 それは違う。
 こいつのやった事は、間違ってはいない。
 こいつは… 人と異なる能力が、持ち主の人生を破壊する事があるという事を知っていた。
 その力が大きければ、大きすぎる程に。
 こいつが捨てられていたリナーを見つけた時、何を重ねたのか。
 『蒐集者』の姿か、それとも自分自身か。

 こいつは、教えたかっただけだ。
 世の中には、暗い事ばかりじゃないという事を。

「私が拾わなければ、あの娘は幸せに生きる事ができたのか――?」
 『殺人鬼』は自問するように言った。

「悪いのはお前じゃなく、『蒐集者』が…」
 俺の言葉は、言い終える間もなく否定される。
「あいつの変調に寸前まで気付かなかったのも、この私だ。
 『教会』の腐敗、『蒐集者』の崩壊、枢機卿の暗躍。それを見過ごした私の罪。
 あいつをあそこまで追い込んだのも、おそらく私だろう」
 そう言って、窓の方に歩み寄る『殺人鬼』。

 そんな救えない話があるか?
 リナーは『蒐集者』の手に落ち、こいつは『殺人鬼』に身を落とした。
 『蒐集者』を殺す為だけに――
 そのように自らを定義したのだ。
 そう、誰も救われない。

378:2004/05/21(金) 23:31

「あいつは、もう死んだ方がいい。無論、私もな…」
 窓枠に手を添え、外を見ながら『殺人鬼』は言った。
 まるで、闇に包まれた夜空に何かが見えているかのように。
 俺は、その背中に何も言えなかった。

 そして、『殺人鬼』は俺の方を向く。
「君とあの娘との出会い。これは『教会』の長、枢機卿に仕組まれたものだ。
 以前の私と関わりのあった娘を送り込む事で、『私』の覚醒を促したのだろう」

 やはり、偶然じゃなかったのか。
 仕組まれた出会い。
 それも、薄々気付いていた事だ。

 『殺人鬼』は言葉を続けた。
「そして、それは『教会』の目論見通りとなった。
 君は『私』の強さを徐々に取り戻し、『私』自身も存在がより明確化した。
 だが… ただ1つだけ、向こうが意図していなかったことが起きた」

「…?」
 『殺人鬼』の顔を見る俺。
 奴は、俺の目をしっかりと見据えて言った。
「それは、君と『異端者』が愛し合ってしまったことだ」

 …!!
 真面目な顔をして、こいつは何を…!!

「そ、それは関係ないモナ!!」
 俺は思わず叫んだ。
「何を照れている? 戦闘において、色恋沙汰は多いに有効だ。
 惚れた女を守る際、男は不相応な力を発揮するものだと相場は決まっている」
 少しだけ、ニヤついているようにも見える。
 明らかに俺をからかっているのだ。
 こいつ、格好つけて何が『感情を削ぎ落とした…』だ!
「モ、モナは、そんなんじゃなくて…!」
 俺はとにかく否定する。

 『殺人鬼』は、一転して真剣な表情を浮かべた。
「私は、周囲を不幸にすることしかできなかった。
 『蒐集者』も、あの娘も、その妹も、誰1人救えなかった。だから――」
 確かな目線で俺の顔を見る『殺人鬼』。
 その目には、確固たる意思が宿っていた。
「――君が救え。せめて、あの娘だけは君が救うんだ」

「…ああ、約束する」
 俺は頷いた。
 確か、しぃ助教授とも同じような約束したはずだ。
 まさか、こいつが同じ事を口にするとは…


 突然、地面が大きく揺れた。
「地震…!?」
 俺は、教室の床に視線を落とす。

『朝だよー!!』

 どこからか素っ頓狂な声が響いてきた。
 女の子の声だ。
 どこかで聞いた事があるような…

「現実世界の君は、ASAの艦内で就寝中だ。賑やかな事だな…」
 『殺人鬼』は、呆れたように言った。

『朝――ッ!!』

 教室が崩壊する。
 天井が、窓が、床が、机が、椅子が、ガラガラと崩れ…

「―――――――−−…」
 そして、『殺人鬼』は俺に何かを訊ねた。
 奴は何と言ったのか――

379:2004/05/21(金) 23:31



          *          *          *



「起きろ――!!」
 腹に衝撃。
 俺は、ベッドで眠っていたはず。
 一体何事だ…!?

「朝――!!」
 この声は… ねここだ。
 ねここが、俺のベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
 大きな声で、朝の到来を訴えながら。
 たまに腹や足を踏んづけるので、かなりのダメージだ。

「お、起きてるモナ…! 止めるモナ…!」
 俺は動転して言った。
 何だこれは。
 ASAでは、これが普通の起こし方なのか…?

「いたた…」
 俺は呻きながら体を起こした。
 保健室に似た、窓のない部屋。
 ここは、ASAが所有するイージス艦『ヴァンガード』。
 ゲストである俺に与えられた部屋だ。

「おはよう! 今日もいい天気だよ」
 ベッドに乗っかったまま、ねここは元気良く言った。
「ああ… おはようモナ」
 俺は、ねここに挨拶を返す。


「…朝から何を騒いでいる?」
 リナーの声。
 同時に、俺の部屋のドアが開く。

 これはヤバイ。
 そう。
 俺のベッドの上には、ねここが乗っかっているのだ。
 宇宙ヤバイ――

 ドアが完全に開いた。
 そこには、リナーが立っている。
「こここ、これは違うモナ!!」
 何が違うのかは分からないが、俺はとにかく叫んだ。
 同時に『アウト・オブ・エデン』を発動して、猛攻に備える。

「…Va te faire foutre」
 リナーは俺とねここを見てそう呟くと、ドアを閉めてしまった。
 その残響音が部屋中に冷たく響く。


「…さすがモナーさん。朝からラブコメ爆発ですね」
 ねここは他人事のように言った。
「…誰のせいだと思ってるモナ」
 俺は嘆息する。
 なんで、朝の早くからこんな目に…

「さっきのリナーさんの言葉の日本語訳、聞きたいですか?」
 ねここは、ようやくベッドから降りて言った。
「頭痛がしそうだからいいモナ…」
 やれやれ。
 何とか誤解を解かなければならない。
 まあ… ギコと違って、こちらにやましい事はないのだ。
 説明すればきっと分かってくれるだろう。

「朝食は、食堂で適当に済ませて下さいね」
 ねここは言った。
 食堂の場所は、昨日の夜に案内されている。
「…で、モナはいつ働けばいいモナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 それに対し、少しだけ真剣な表情を浮かべるねここ。
「まだ、この艦隊は安全域にいます。今日の夜には危険域に入るでしょう。
 モナーさんの出番はその時ですね…」

「それまでは、適当に過ごしていいモナか?」
 俺は訊ねた。
 ねここは頷く。
「…じゃあ、私は朝の配達人から副艦長に戻ります。
 リナーさんに塵に還されるのはイヤなので、今朝の誤解は解いといて下さいね」
 そう言い残して、ねここは素早く部屋を出ていった。

 …だったらやるなよ!
 と、ねここの出ていったドアに向かって呟いたのは言うまでもない。
 さて、夜までは自由と言っていたな。
 …と言っても、特にする事はない。
 ねここの仕事の邪魔をするのも悪いし、ありすは怖いし、他に知り合いもいないし…
 やはり、リナーと仲直りするのが先決のようだ。

 ふと、鏡の中の自分と目が合った。
 何も変わらない普段の俺の顔。
 そして、『殺人鬼』として存在を特化させた『私』の顔。
 『殺人鬼』は、さっきの夢の中で最後にこう言ったのだ。

「彼女にとって『死』が救いとなるならば、君は本当にそれが出来るのか――?」と。


 俺は大きく首を振った。
 くすぶっていた眠気が、俺の体から離れていく。
「やれやれ、朝からリナーのご機嫌取りモナか…」
 俺は呟きながら、ベッドから腰を上げた。
「さ〜て、どうするモナ…?」
 どうしたら機嫌を直してくれるのだろう。
 武器庫から銃器を失敬して、プレゼントするとか…

 俺は、欠伸をしながら部屋を出た。
 日光は浴びれないが、今日もいい天気だ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

380丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




  さああああっ―――――…

 SPM財団がスポンサーとなっている、とある高級ホテル。
最上階のスイートで、一人の少年がシャワーを浴びていた。
普通の三倍はありそうな浴槽に、無数のしぶきが小さく踊り散った。

  さあああああっ―――きゅっ。

 シャワーを止めて、ざっと頭をかき上げる。
水音が途切れ、しぶきが波紋へと穏やかに変わっていった。

 頭のてっぺんに付いた丸い耳が、ぴくり、と揺れる。
ふぅ、と溜息を一つ、浴槽のカーテンを開けて―――

「お風呂好きですねぇ。君は」
 ―――開けた先に、一人の少女がタオルと着替えを持って立っていた。
唇の端をつり上げた薄い笑みを浮かべ、全裸の少年を遠慮の欠片もなく眺めている。

「…人の浴室に勝手に入ってきて…何、やってるの?」
 とりあえずタオルを受け取って、丁寧に水滴を拭った。
お互いに、異性に裸を見られて大騒ぎするほど上品な環境で育ってはいない。
「あはは、『人』じゃあないでしょう?」
 着替えを渡しながら、少女が笑った。
「揚げ足を取らない…で、どしたの。僕の裸眺めに来たって訳じゃないでしょ?」
「それも目的でしたけどね。…お客さんが来てますよ」
 薄い笑みを浮かべたまま、少女が続ける。
「変な人でしてねぇ。右腕も顔もなかったとかシャムが言ってました」
「…そう…会ってみようかな」

  ひくくっ。

 あまりに考え無しな少年の声に、少女の笑いが引きつった。
「あ…あのですね…?別に君が直接会う必要は無いのですよ?
 追い返すかどうか判断してくれればいいだけだし、
 そもそもそんな怪しさ大爆発な人に面会して何するんですか。
 自覚ないみたいだけど、君は『ディス』の…私達のリーダーなんですよ?」
「あはは、大丈夫だって。だいたい僕達だって、その手の怪しさなら負けてないでしょ?」
「いえ、ですからそう言う問題ではなく…」
 言葉を遮るようにばさりとジャケットを羽織り、少女の頭を撫でた。
「僕の能力…忘れた?」
 今だ幼さを残した顔が笑みを作り、頭の上で先の丸まった耳がぴこぴこと揺れる。

「生きるか死ぬか…ガチンコの戦いで僕の『エタニティ』に勝てる奴はいないだろ?」
 困ったように笑う少女を後ろに、上着の裾を翻して部屋を出て行った。

381丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:38




 診療所のソファに、茂名が肩を落として座り込んでいた。
軽い焦燥の浮かんだ顔に、ぺとりと冷たい感触。
 見ると、スポーツドリンクの青い缶が視界の右半分を埋めていた。
更に首をめぐらせると、小柄な体に細い腕。

「差し入れです」
「…なんじゃ、ジエンか。…フサも来とるようじゃの」
 差し出されたスポーツドリンクを受け取り、キャップを外す。

「まあ、『ロリガン』なら地球の裏側でもひとっ飛びですからね…ところで、彼女の容態は?」
「峠は越したのぅ。肌がちょびっと白くなって、日焼けをしやすくなる…それだけじゃ。
 銀のでアレルギーが起きるでもなし、波紋で苦しみのたうち回るでも無し…
 日常生活に影響はない。…で…マルミミは、どうなる?」

 心配そうに、ジエンと目を合わせる。
誰も死者は出ていなかったとはいえ、マルミミは人を食いかけた。
いつの日かその時が来るかもと、覚悟は決めている。
それでも、いざとなれば浮かぶのは『人喰い』の姿ではなかった。
父と母が死んで初めて会った日、『鍛えてくれ』と頼まれた時の真っ直ぐな瞳。
虐待された女子供を運び込むときの、哀しみと信念に満ちた瞳。


 そんな茂名の葛藤を余所に、、全く口調を変えないままジエンが答えた。
「心配は無いでしょうね。マルミミ君は対吸血鬼用のワクチン研究に欠かせない存在…
                                      トリックスター
 SPMが彼を抹殺することはあり得ません。彼は唯一無二の『変動因子』ですからね」

 何となく肩すかしを食らった気分で、肘をついていた茂名の頭がずり落ちた。

「つまり…『お咎め無し』じゃと?」
「まぁ、そうなりますね。」
「なんじゃい…せっかく人が葛藤してるのに、あっさり無罪宣告とはのぉ」
 何やら不謹慎な茂名の言葉に苦笑して、ジエンがたしなめた。
「無いならば無いで良いではありませんか」
「ま、そうじゃがのぉ…」
 手慰みに、片手でスチール缶をぐちゃり、と握り潰す。


 『対吸血鬼用ワクチン』の開発は、SPMの課題の一つだ。
彼の息子…茂名 二郎も、嫁の為にプロジェクトに関わっていたらしい。
 だが、まだ現在は吸血鬼や屍食鬼に堕ちた人間を治せるほど開発が進んではいない。
しぃが人間まで戻れたのは、吸われて一分も経っていないうちからの迅速な処置と、
茂名という波紋使いや病院内という好条件のおかげだった。

 遺伝子までを蝕む『石仮面』の呪いに太刀打ちできる薬の開発はまだ遠い。
その為に、『人間』と『吸血鬼』の遺伝子が拮抗しながらも共存するマルミミの肉体は、これ以上ないサンプルだった。
 通常、吸血鬼と人間の間で子を成すことはほぼ不可能と言っていい。
SPMの記録によれば過去にも何人かは生まれたらしいが、殆ど人間同士の交配と言っていいものらしい。

 そんな中でただ一人だけ、人間を超える運動能力、再生力、生命力、吸血能力を持つ変わり種…
彼の希少価値は、これ以上なく高い。                    ヒ ラ
 以前にも何回か体液などを提供したことがあるが、研究局の方では解剖きたいと言うのが本音だったらしい。
もっとも茂名の眼が黒いうちはそんなことをさせる気は毛頭無いし、それ以来はそんな通告も来ていない。
とにもかくにも一安心し、顔を上げてスポーツドリンクを一口あおった。

「で…『チーフ』とフサはどうした?」
「彼等はしぃさんの記憶を消してる最中です」
「そうか…」

382丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40




「ぎゃあ七時までには帰るといった筈なのに、ぎゃああの人はふさたんとの約束などどこ吹く風とばかりに残業を〜…」
「ええい黙るデチッ!」
 一声叫ぶと、文字通り獲物を掴み取る鷲のごとくフサの尻を鷲掴みにした。
「ひぎゃあっ」
「あんまりガタガタ言ってるとボクの山芋でその口塞いで自然薯汁ブチ込むデチよ」
「ぎゃぁっ、ふぁ、ひんっ」
「判ったら静かにしてるデチ。ボクだってシッポリマッタリしたいのはヤマヤマデチ」

 ぶつぶつとぼやきながらも、『チーフ』が呼吸を整える。
しぃの頭に手を置いて、静かにスタンドを呼び覚ました。

  タブー
「『禁忌』―――――」
                 コード デーモン
  SPM財団危険度評価D、呼称『悪魔』。
持続力も数分程度で、ヴィジョンもないために物理的な破壊力はB・T・B以下…と言うよりも、全くのゼロ。
 それでも彼の能力を知るSPM構成員で、彼を恐れない者はいない。

「失礼するよ…」

 その能力は、ほぼ全てのスタンドが持つ基本的な物の延長線上に過ぎない。
思念を送っての意思疎通、スタンドでの会話…一般的な言葉を使うならば、『テレパシー』。
 だが、その干渉力は桁が違う。
マルミミのB・T・Bも鼓動を読みとる読心術を使うが、それはあくまで『逆算』と『推測』を経た物だ。
 彼の『タブー』は、そんな過程をすっ飛ばして直接心を覗く。
表層心理の下らない妄想も、古くに付いた心の傷も、魂の底に澱む己の本性も―――
全てを、白日の下にさらけ出す。                         タブー
 それは一人の人間が持つにはあまりにも過ぎた能力―――すなわち『禁忌』。


 目を閉じる。
彼女の体が水溜まりに変わり、その中に体ごと沈む自分自身をイメージした。
 ぽたりぽたりと落ちる点滴の音も、鼻につんとする病院の匂いも、全てが遠のいていく。
五感を全て切り離し…ずるん、と自分の精神をしぃの中へ侵入させた。
 『チーフ』の体からくたりと力が抜け、それをフサが慣れた手つきで支える。


 しぃの眉がぴくぴくと顰められ、また通常の寝顔に戻る…記憶の操作が終わった証拠だ。
『タブー』の発動からここまで、僅か数秒足らず。
 抱えられたままの『チーフ』が低く呻き、


―――――うわ
                                 嫌だ
               何                    こんな傷が
                       傷が    消えない        哀しみ
            傷が                 やめ              痛い
                     傷が                 傷が         傷が
                 ぅあ  ああ         ああああああああああああああ―――ッッッッッ !! !!



 ずきん、と激しい頭痛がフサを襲った。
頭の中に、感情の奔流が凄まじい勢いで流れ込んでくる。

383丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:40
 証拠の隠滅だの何だのに非常な便利な能力ではあるものの、『タブー』には一つだけ『副作用』があった。
精神干渉によって自我が緩む―――すなわち、思念の流出。

 何時だったか、その勢いに当てられた一般人が発狂したと聞いた事がある。
「ぎあっ…!?落ち着いて!」
 自分の腕の中で必死に暴れる『チーフ』を、ぎゅっと抱きしめる。
「うわっ…あっ…!」
「落ち着いて…!息を吸って…吐いて…はい、2・3・5・7・11・13・17―――――」
 その甲斐あってか、だんだんと『チーフ』が落ち着きを取り戻してきた。
流れ込む思念が弱まり、潮の引くように頭痛が治まっていく。

「…どうした…?貴方ともあろう者が、そこまで取り乱すとは。彼女の精神に、何か?」
「『何かあった』なんて物じゃないよ…!」
 お互いにふざけた言葉遣いも忘れ、かたかたと震えながら二人が息を吐いた。
                    ト ラ ウ マ
 心の中に流れ込む、桁外れの心的外傷。
本来なら外に向けられてるはずの憎悪だの何だのが、全部内側に向かっている。
 そのせいで、消えていくはずの傷がいつまでも治らずにあちこちで腐り始めていた。
マルミミや茂名も相当な『歪み』を持っているが―――


  ―――『腐臭』に満ちた精神なんてモノ、生まれてこの方見たこともない―――!



 がちがちがちがち、焦点の合わない目で奥歯をならす『チーフ』を見る。

 人の心の、本人すらも気付かないような『澱み』。
それを見てしまった人間は、はたしてどんな思いを抱くのだろうか。

 二、三回ほど深呼吸して、冷や汗を拭う。
「…とにかく、記憶の処置は終わったよ。『吸血』に関しての記憶は繋がりを切ってあるから、
 後は大量の血を見せたり…刺激を加えない限りは忘れてる筈…出るよ」

 こつこつと部屋を出る間際、もう一度しぃの方を振り向いた。

「無力な…モノだね。異能の力を持ってても、女の子一人救えない」
「『タブー』で傷を消すことは?」
「無理だよ。『タブー』でやれるのは『繋がりを切る』…『忘れさせる』事だけだ。
 僕の能力で『傷』の記憶を断ち切っても、また何かのきっかけで思い出す。
 そうしたら、余計に傷が広がるだけだ。
 『心の傷』っていうのは、本人がどうにかして乗り越えていかないといけないんだよ」
「彼女に…それが出来る?」
「さあ…ね。この診療所には、優しい人が沢山いるけど…可哀想にね。
 彼女は『傷』に邪魔されて、受け止められるはずの優しさも見えてないんだ。
 …綺麗なモノが見えない人間と、醜いモノまで見えてしまう人間と…一体、どっちが不幸なんだろうね」

「…私には、判らないよ」
「デチねぇ…人間は楽しいことだけやって生きてればいいんデチよ」
 そう言うと、ずりずりとフサを隣の病室に引きずり込んだ。
「さて…記憶消した時点で本日の勤務はおしまいデチ。よって…」
「ぎゃあ何をするのかと聞くことにも意味はなく」
 がぱり、といつの間にやら持っていたアタッシュケースが開かれた。
中に入っているのはお約束の如く、可愛らしい色に凶悪なデザインの―――

「初登場以来のシッポリ マッタリ デチ〜♪」
「ぎゃあシリアス空気ぶち壊し」

―――ちなみに翌日、イロイロでエラい事になったベッドシーツを二人で片づける事になったのは言うまでもない。





  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

384丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
〜オマケ〜 丸耳達のビート Another One 
          ―――の、そのまた Another One:あの時アレがコレならば



/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 今ならまだ間に合う。
| 『魂食い』を渡せば殺しはしない…

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                       yahoooo!yahoooo!
     ∧∧                    ((从ル))
    (,,゚Д゚)                  ル*´∀`)リ   ∩_∩
    (|  |)                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
   〜|  |                   ミ===)     (   ヽ
     し´J                   (ノ ヽ)    と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | 必死こいて走り回ってたから…
                              | …気付いてなかったろ?
                              | 小さく小さく…ビルが揺れてるの。
                              \______________

385丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:43
           __ ヽヽ   ―――
          /  /      ____                                  │ │
           /           /              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・     │ │
          /           /     \\ /                     │ │
                     /         /                      ・  ・
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| なっ…!地震だと!?
| こんな時に!

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                               て
     ∧∧                    ((从ル))  そ
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リて  ∩_∩
   ⊂   ⊃                 ノミ.三三つ   (´ー`;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄
                              |   …ハズレ。
                              \________

386丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45


                                   ガラガラッ


                                      | │ | |
 / ̄ ̄ ̄                             | │ | |        
 |  あ。                             | │ | |        
 \                                       
    ̄|/ ̄                           /`´ヽ,`フ   ゴッ!
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)Σ                ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ て
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   (´Д`;)  そ
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ  て
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                    |\
                              / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                              | シャマードを只の人食いとしか
                              | 見てなかった…
                              | それがお前の敗い ブッ
                              \___________

387丸耳達のビート:2004/05/22(土) 01:45



                                  /`´ヽ,`フ
     ∧∧                    ((从ル))   |;`(´ ` ;゛]  
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ  └,_ヽ_`,コ 
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ   ( Д ;)
  〜(  ノ⊃                   ミ===)    (   ヽ
    U                      (ノ ヽ)  と_と_    つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 結局…何がやりたかったんだ…?

   ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

                                       ∩_∩
     ∧∧                    ((从ル)) ?     (*´∀`) ウワァイ キレイナ カワダヨー
    (;゚Д゚)                 ル;´д`)リ       ( )
    (⊃ ⊃                 ノミ.三三つ       (
  〜(  ノ⊃                   ミ===)         )
    U                      (ノ ヽ)   ⊂⌒~⊃。Д。)⊃
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

388ブック:2004/05/23(日) 01:18
     EVER BLUE
     第十五話・CLOUD 〜暗雲〜


 薄暗くじめじめした石造りの牢獄のような部屋の中に、一人の男が投げ込まれた。
 すぐさま鉄格子が施錠され、男が部屋の中に閉じ込められる。

「…が……」
 男は力なくうつぶせに倒れ、低く獣のように呻く。
 男の体には、二つの頭と口、そしてみっつの耳と足があった。
 それは紛れも無い奇形だった、

「ふん。たったあれしきで力を使い果たし、
 あまつさえろくな成果も残せぬとは…やはり、出来損ないだな。」
 メタリックカラーのドラム缶のような体の男が、部下らしき者を横に倒れた男を見下す。
 その声には、電子音が混ざっていた。

「……ねぇ…」
 男の目がギラリと光った。
 次の瞬間、奇形男がドラム缶男目掛けて飛び掛かる。

「俺は出来損ないなんかじゃねぇええぇ!!!」
 しかし、男の突進は堅牢な鉄格子によって阻まれた。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
 ドラム缶男が取り出したスイッチを押すと、
 奇形男につけられた首輪から高圧電流が流れた。
 男が苦悶の表情を浮かべて絶叫する。

「それだけの力が残っているならば、少しは成果を残したらどうだ、奇形モララー?
 『カドモン』を創るのも、育てるのも、飼うのも、只ではないのだぞ。
 それを、貴様は失敗の為だけに使いおって…」
 悶絶する奇形男を、ドラム缶が睨みつけた。

「…歯車王様、そろそろ。」
 と、ドラム缶男の横に居た長耳の男が、ドラム缶男に声をかけた。

「ああ、そうだな。
 いつまでもこんな出来損ないに構っている暇は無い。」
 歯車王と呼ばれた男が奇形男に背を向けた。

「てめえええええええええぇぇぇぇぇああぁ!!!!!」
 奇形モララーが食い下がろうとする。
「GHAAAAAAAAAAAAA!!!」
 しかし、再び電流が彼の行動を封じた。
 黒焦げになり、奇形モララーは今度こそ失神した。


「…やれやれ。手間のかかる奴だ。」
 気絶した奇形モララーを一瞥もしないまま、歯車王は歩き出した。
 その横を、長耳の男が併行する。

「しかし、あの『カドモン』を失ったのは正直痛いな。
 あれ程の成功例、果たして再びあ奴に生み出せるかどうか…」
 歯車王が顎に手を当てる。

「ご安心を。
 選りすぐりの腕利きを寄越しましたので、必ずや手元に戻ってくるかと。」
 長耳男がうやうやしく進言する。

「…だが、いかんせん時間がかかるのではないか?
 時は、無限ではないのだぞ。」
 歯車王が渋る。

「その点はいたしかたありません。
 あまり派手に動いては、他の国に感づかれてしまう可能性がありますので…」
 長耳男が諌めるように告げる。

「…ままならんものよな。」
 歯車王が溜息をついた。

「焦っても解決はしません。
 今は、吉報を待ちましょう。」
 長耳男はそう言って、不気味な笑みを浮かべるのであった。

389ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



 僕とオオミミ達はこれから先の進路を定めるべく、ブリッジに集合していた。
「…で、どうするんだ?」
 三月ウサギが、サカーナの親方の方を向く。

「取り敢えず、これを見てくれ。」
 サカーナの親方が高島美和に指示を促す。
 すると、ブリッジのディスプレイに世界地図が映し出された。

「いいか、野郎共。
 俺達は、今この辺りにいる。」
 赤いマーカーが地図のやや南東部分を指差した。
 その部分の周りは空の海だらけで、申し訳程度に小さな島がポツポツとある位だ。

「見ての通り、ここら辺には大きな島も無く、治安もあまり良ろしくねぇ。
 こんな所をちんたら渡ってたら、『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の連中に
 どうぞ襲って下さい、って言ってるようなもんだ。」
 誰の所為で襲われる破目になったんだ、とも思ったが、
 言っても事態は大して変わらないので黙っておく事にした。

「そこで、だ。
 まずは近くの国の勢力圏に入るのが先決だと思うんだが、どうだ?」
 サカーナの親方が皆の顔を見回した。

「私は特に異論有りませんね。
 一度どこかの国家勢力圏に入れば、
 『紅血の悪賊』も憲兵を気にして大きくは出て来れないでしょうしね。」
 高島美和が静かにお茶を啜った。

「問題はどこの国に行くのか、だなフォルァ。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。

「だったら、『ヌールポイント公国』はどうですか?
 あそこならある程度の力もありますし、
 中立的な立場の国ですから『紅血の悪賊』以外にも、
 他の国からも手出しし難くなると思いますし。」
 カウガールがはきはきとした声で答えた。

「俺もそれが良いと思う。」
 オオミミもカウガールの意見に賛同した。

「私はそういう事には疎いので、皆さんにお任せしますよ。」
 この船の乗組員でもないのに、何故かしたり顔でタカラギコが口を開いた。
 その背中にはあの巨大な十字架を担いでいる。
 どうやら、サカーナの親方から正式にパニッシャーを貸し出して貰えたらしい。

「…しかし、いいんですか?
 私にこんな大層な武器を渡してしまって。」
 タカラギコが試すような視線をサカーナの親方に向けた。

「なに、使って貰えた方が、その得物だって嬉しいだろ。
 それに…」
 サカーナの親方が目を細める。

「そんな得物を使った所で、俺の『モータルコンバット』は殺れねぇよ。」
 一瞬サカーナの親方から湧き出る殺気。
 直接殺気を向けられた訳でもないオオミミの背筋に、ぞわりと鳥肌が立つ。

「それはこわいですねぇ…」
 対して、殺気を直接受けた筈のタカラギコは普段と変わらぬ感じで飄々と返す。
 あれだけの殺気を受けて平気とは、この人本当に何者なんだ?

「…それで、結局『ヌールポイント公国』に行くのか?」
 サカーナの親方の殺気のせいで固まってしまった空気を払拭するかのように、
 三月ウサギが尋ねた。

「そうですね…
 恐らくそれが無難な線でしょう。」
 高島美和が頷いた。

「ま、それがいいんじゃねぇか?」
 ニラ茶猫も首を縦に振る。
 つーかお前何も考えてないだろ。

「…おっしゃ、決まりだな。」
 サカーナの親方が近くの手すりを一度叩いた。
「あと一時間程で『あぼ〜ん島』ってとこに着く。
 本来なら寄り道してる暇は無いんだが、どうやらガス欠みたいだからよ、
 そこで燃料、武器の補給だ。
 そっからはノンストップで『ヌールポイント公国』まで突っ切るぞ!」
 サカーナの親方が激を飛ばした。

「それじゃ、各自解散!!」
 その親方の鶴の一声で、各人がそれぞれの持ち場へと戻って行った。
 さてオオミミ、まだ少し時間があるみたいだし、部屋でゆっくりと…

「天、ちょっと待って。」
 と、オオミミが思いもよらぬ行動に出た。
 オオミミ、何だってそんな女に話しかけるんだ?

「何よ?」
 迷惑そうな顔で、天がオオミミに聞き返した。
 こいつ、人にはずけずけと話しかけるくせに、何て態度だ…!

「少し聞きたい事があるんだけど、いいかな…」
 オオミミが、真面目な顔でそう天に告げるのだった。

390ブック:2004/05/23(日) 01:19



     ・     ・     ・



「マジレスマンを連れて参りました。」
 縛られたマジレスマンを引っさげて、山崎渉が男の前へとひざまづいた。

「ご苦労だったな。」
 男が山崎渉を下がらせる。
 男の瞳はまるで猛禽類のような鋭さで、その口からは二本の牙が覗いていた。

「お…お許しを…!
 しばし時間を下さい!
 そうすれば必ず取られたモノを取り返して…」
 しかし、マジレスマンの言葉はそこで止まった。
 それと同時に、マジレスマンの首が独りでに後ろに曲がっていく。

「あ…やめ……助け…!」
 マジレスマンが必死に許しを懇願するも、
 その首は止まる事無く後ろに捻じれ続けた。

「ひぎぃ!」
 ついに負荷に耐えられなくなったマジレスマンの首の骨が、鈍い音を立てて破壊された。
 それでもなおマジレスマンの首はさらに捻られ、
 丁度一回点半した所でようやく動きを止めた。

「…捨てておけ。」
 汚い物でも見るような表情で、男が山崎渉に告げた。

「はっ。」
 山崎渉がマジレスマンの死体を担ぐ。

「後の指揮はお前に任せる。
 せいぜいそこの死体の尻拭いをしてやる事だ。」
 男が山崎渉に顔を向ける。
 その目は、まるで氷の様に冷たかった。

「はっ…」
 山崎渉は一礼すると、男の前から去って行った。
 部屋の中に、男だけが残される。

「…さて、この失策がどのような方向に転がるのか……」
 男が呟いた。
 その言葉は、薄暗い部屋の闇の中に静かに溶け込んで消えていくのであった。



     TO BE CONTINUED…

391N2:2004/05/23(日) 12:20

━━━━━━━━━━━━━━━

  まもなく
  『ギコ兄教授の何でも講義』が
  始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚ ;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …えーっと、これ、どゆこと?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …俺にもよく分からんぞゴルァ…
         \________________

392N2:2004/05/23(日) 12:21

 リル子さんの奇妙な見合い その④

少女がリル子さんへと突進した。
さっきリル子さんが「肉体強化型」のスタンドだと言っていたが、
どうやら強くなっているのは彼女の体毛だけではないらしい。
歳相応の運動能力を遥かに超越した速さで、少女が駆ける。

「…なかなか面白いスタンドですわ。
こういう類のものは使用者が少ないですからそれなりに楽しめそうですわね」
(最近戦ったのはザコばっかしだったからなあ…)
リル子さんはそんな少女を余裕を持って観察している。
必死に抑えているようだが、「戦」に対する興奮が口元にうっすらと現れているようにも見える。

「串刺しみるまらー!」
対する少女も針の隙間から覗く顔は異様な明るさを誇っている。
二人ともそんなに戦うのが好きなのかい。

間合いが詰まり、少女のパンチがリル子さんの胸目掛け繰り出される。
まともにヒットすれば、心臓が穴だらけになって即死ものだ。
が………

「ですが…」
(だがな…)
――あえてギリギリまで拳を引き付けて

「戦いには年季の差というものが…」
(だてに三十路を過ぎてるわけじゃ…)
――実力差を見せ付けるように寸での所で拳をかわし

「存在するのですよッ!!」
(ねえんだよッ!!)
―――拳を糸で絡め、全身ごと畳に叩き付けた。

胴から落っこちた為、肺に強い衝撃を受けて少女が苦しそうに咳き込む。
針で全身をガードしていたにも関わらず、あれだけのダメージ。
生身で受けていたなら一発で再起不能になっていたのだろう。

「…ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ
お前、だれ?」
彼女もオレ達を狙って来たのに全く関係の無い(と思っている)女に痛め付けられて、
自分の予定が大幅に狂ってしまったことに混乱しているらしい。
今にも泣きそうな顔で少女が聞く。

「そうですね…喩えるなら」
(そうだな…率直に言えば)
リル子さんがやたらと嬉しそうに少女の元へと歩み寄り、
勝ち誇った顔で彼女を見下ろす。

「『サザンクロス・悪の主役』…とでも言っておきましょうか?」
(スーパー完璧美人アナウンサーにして『サザンクロス』真のボスである
ハイパーワーキングウーマンリル子様に決まってんだろ!ガキが!!)
控えめ、と言うよりかは自虐的なコメントをリル子さんは吐いた。
…が、そこには彼女の余りに自尊的で奢り高ぶった本心が見え隠れしている。
つーかあんたはそこまで自意識過剰だったんかい。

「…リル子さん、カッコいいんだな!!」
(何だかよく分からないけど強い女性ハァハァ)
モララーは事態を全く把握していないようだが取り敢えずリル子さんが優勢ということは分かるようだ。
ここで騒ぎ立てられたら事態が悪化しかねないだけに、こいつが馬鹿で助かった。
褒められたリル子さんはリル子さんで、愛想笑いすらしてあげない。

393N2:2004/05/23(日) 12:24

さて、対する少女はどうしたかと言うと、
今度は非常に落ち込んだ表情をしてなにやらぶつくさ言っている。
「批判要望板はスクリプトでうめられた。
今みんなで再建している。
思い出したくないんだ。みんな口にださない。」

…何者だ、こいつ?
「みるまらー」という訳の分からんフレーズを連発したかと思えば、
今度は笑ったり落ち込んだり。
こいつには、確固たる感情とかそういう物が無いのだろうか。

ともかく、変人揃いの「サザンクロス」に居ても
ここまでデムパ(・∀・)ハイッテル奴に会うことはそうそうある事ではない。
さしものリル子さんも少女の行動には僅かながら不気味に感じるものがあるらしい。

「…よく分かりませんけど、あなたが我々『サザンクロス』に牙を剥くのであれば、
私はあなたを全力で駆逐するまでですわ」
(なによこの子、泣いたり笑ったりしててキモッ!)
そう言ってリル子さんの手から再び糸が噴き出す。
そして少女の全身を絡め取ろうとした、その時…

「みる、みる、みるまらーーー!」
「……ッ!!」
(危ないッ!!)
リル子さんの一瞬の油断と隙を突き、少女が突如大振りの鎌をどこからか取り出したかと思うと、
彼女の首を斬り落とす形ですれ違おうと飛びかかった。

「喰らいませんわッ!!」
リル子さんはそのまま糸で鎌の柄を捉えるとそのまま奪い取った。
だが少女はその間に障子を乱暴に閉めて部屋の外へと逃げて行った。

「逃がしませんわよ!!」
すぐにリル子さんの追撃が始まる。
少女を逃がすまじ、とモララーを放って追いかけるリル子さん。

だがまずい!
ギコ兄がおせっかいにも部屋の外にまでカメラを設置してしまったから、
少女が外で罠を張って待ち構えているのがオレ達には分かる!
行っちゃ駄目だ!!

394N2:2004/05/23(日) 12:27

オレ達の願いも空しく、リル子さんが再び威勢良く障子を開け放つ。
その瞬間、彼女の正面から無数の針が飛来した。

「引っ掛かったー!ギコ屋じゃなくたってその仲間なら即抹殺ものだよー!!」
まんまとリル子さんが罠に掛かり、大喜びする少女。

だが、目前に迫る針千本を前にして、リル子さんは決してうろたえなかった。
やれやれ、と疲れたような表情を一瞬見せたかと思うと、彼女は叫んだ。

「『トリビュート・トゥ・ベノム』!!」

リル子さんの全身から、おびただしい量の糸が噴き出す。
生々しくて怪しい粘液を垂らしながら。
そして針は全て粘った音と共に絡め取られ、決して本体に届くことはなかった。

「わざわざヴィジョンを形成しなきゃいけないだなんて、面倒ですわ…」
(手こずらせやがって、とっととくたばれよこのガキ!)
そう言ったリル子さんの横で、糸が急速に収束してゆく。
そしてそれは、毒々しい色をした異形のモンスターと化した。
ついでに、額には超人プロレス漫画よろしく「毒」の一文字が入っている。

(出たぞ…リル子のスタンド『トリビュート・トゥ・べノム』。
あいつがヴィジョンを出すってことは本気モードに入ったってことだ)
大将が誰に言うでもなく呟いた。

「そんなことしても無駄無駄無駄ァ!!だよー」
少女の挑発と共に、再び無数の針がリル子さんへと飛んでゆく。
だが、リル子さんは微動だにしない。

「無駄無駄無駄…って、今こうして針が食い止められたのに
まだ同じ攻撃を繰り返すつもりですか?
…進歩の無い方ね」
(こいつ、二番煎じが通用するとでも思ってんのかよ!?)

リル子さんの言葉通り、針は全て糸に受け止められてしまっている。
それこそ、こいつのやってる事の方が無駄な行動であろう。
だが、それでも少女の攻撃は止まない。

「…本当に諦めの悪い子ですわね。
幾らあなたの針を飛ばしても私のこの『蜘蛛の糸』が全て受け止めてしまいますわ」
リル子さんもそろそろ飽きてきたらしい。
ところがその言葉を聞いて少女が不適な笑みとともにぽつりと呟いた。

「…誰が『needle』しか出せないって言ったの?」

オレ達は目を疑った。
彼女の前方にはあの裁縫針サイズのトゲなどではなく、
むしろ杭と呼ぶべきサイズの大きな針が用意されていたのだ。

「ちっぽけな針がガード出来ても、ここまでおっきな針が飛んできたら…
どうかな?」

特大の針が、小さな針と同じ速度で発射される。
あれじゃあ、糸の壁を貫通してリル子さんに直撃してしまう!
かと言って、あのスピードではもう回避することも敵わない!
どうすんだ、リル子さんッ!!

「…誰が『粘っこい糸』しか出せないと言いましたか?」
(…決まったな!屈辱的な『セリフ返し』!!)

彼女の腕から再び糸が放出される…のだが、
それはあのネバネバしていたまさしく『蜘蛛の糸』などではなく、
硬く頑丈で清潔そうな、言うなればワイヤーのようなものであった。

「だからって糸なんかじゃ針には対抗出来ないよ!
貧弱、貧弱ゥ―――!!」
確かに少女の言うとおり、リル子さんの糸で巨大な針に太刀打ち出来るとは思えなかった。
のだが……、

395N2:2004/05/23(日) 12:28

「……『ウェブカッター』」

リル子さんの手中で収束した糸は、その形状を細身の剣のように変えた。
そして、飛来してくる糸を、一閃、二閃、三閃…。
針は微塵に砕け、やはり彼女の手前でその勢いを失った。
こりゃ一体、どういう事だ!?

「ウソ!ウソだよ!!
糸が針を壊せるはずが…」

動揺しうろたえる少女に、すかさずリル子さんの追撃が入る。
まともに入れば少女の身体を二分していた一撃を、彼女は寸での所で回避した。
逃げ遅れた彼女の髪が宙に舞う。

「蜘蛛の糸…と言うとよくネバネバしていて飛んで来た獲物を逃さない、
っていうイメージを抱く方が多いでしょうから、
それで中にはあの糸は全部が粘着性の強いものだとお思いの方もいらっしゃるようですけど、
本当は違うのですわよ。
蜘蛛の巣は蜘蛛自身が歩く必要もありますから、縦糸は切れにくくてツルツルした糸、
横糸は飛んで来た獲物をくっ付ける粘着性のある糸、という風になっているんですわよ」
(ハッ!どうせこんなガキだからこの程度の事も知らなかったんだろうよ)
とっさに後ろへと跳んだ少女を壁際にじわり、じわりと追い詰めながら、
リル子さんが得意げに語る。

「そして私の能力『トリビュート・トゥ・べノム』はそれら2種類の糸を使い分ける能力!
相手の攻撃の威力を殺す粘っこい横糸に、
相手の防御を打ち砕く強く頑丈な縦糸!!
…どう考えても分が悪いようですわね。但し、あなたがですけど」

完全に少女は塀の角へと追いやられた。
再びリル子さんがスタンドのヴィジョンを形成する。

「それじゃ、そろそろ年貢の納め時というやつですわね…」
(覚悟は出来てんだろうな、オラァ!!)

396N2:2004/05/23(日) 12:29

リル子さんが糸を放出すると共にそれを少女目掛け飛ばす。
少女の動きを封じ、一気にタコ殴りにするつもりなのだろう。
だが、少女はその糸を高くジャンプすることで回避した。
そして更に……!

「みる、みる、みるまらーーー!
わむてさん、地球!」
少女の背中から、純白の翼が生える。
あれも針能力の一環…って訳じゃなさそうだ。

「み、み、みるまらっっ!!!」
途端に、彼女の翼から無数の羽根が舞い落ちる。

「みる、みる、みるまらーーー!」
そして羽根は彼女の号令と共に、無数の針の雨と化してリル子さんに降り注いだ。

「…面倒臭い攻撃をしてくれますわね。
これで私を足止めすると同時に自分は逃げようという腹ですか?」
(…このド低脳DQN策士め…)
リル子さんの言葉どおり、少女はその隙に羽ばたいて逃げようとしている。
だが、リル子さんがそれをみすみす見逃す筈も無い。

「…無駄ですわね」
リル子さんの右手中で、瞬時に糸が絡み合い、それは一つの明確な形を創り上げた。
縦糸による骨に横糸による布を組み合わせた、『糸の傘』。
全ての雨が、それによってリル子さんに触れることはない。
そしてオレ達がそちらへと気を取られている内に、
当のリル子さんは左手から伸びる糸で既に少女を捕らえていた。

「ここまで暴れておいて、もうお帰りになるだなんて、ちょっと虫が良すぎませんこと?」
(たっぷりと痛い目に遭わせてやろうじゃねえかよォ〜〜!!)
彼女が手を引くと、少女がそれに釣られて引き寄せられる。
空中で完全にバランスを失い、何もすることが出来ない。
そして、そのままリル子さんの射程内まで入ってしまい、

『オラァッ!!』

顔面にスタンドの拳がクリーンヒット。
だがそれでもリル子さんの手は止まない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

『トリビュート・トゥ・べノム』によるラッシュ攻撃。
少女も必死に身体に針を生やして防御するのだが、
その針も拳で破壊され、ほとんど役に立っていない。
最後の一撃で吹っ飛ばされるも、その身体にはまだきっちりと糸が繋がれている。

「まだよ。まだ終わりませんわ。
この横糸、付けるも剥がすも私次第ですもの」
(こんだけじゃ気が治まらねえんだよ!!)

再び少女の身体が引き戻される。
恐らく、これで決着が付くだろう。
オレらの内で、誰もがそう思っていた。

だがしかし、少女は更なる切り札を隠し持っていた。

397N2:2004/05/23(日) 12:30

「み…み…
みるまらー
Iフィールド」

彼女の容姿が再び変化する。
何やら近未来的な雰囲気を漂わせる彼女の前方から、
正体不明のレーザービームが発射された。

「………危ないですわね」
(この期に及んで…往生際の悪いッ…!!)

どこからエネルギーを捻出したかも分からないレーザービームは、
それでもリル子さんの糸を焼き払ってしまった。
已む無くリル子さんもそれを回避する。

「…こ…こまで…痛い目に…遭わされて………!
絶ッ…………対に…許…さんの……だァ……ッ…!!」
少女は完全に怒りに燃えている。
顔面パンチは彼女のプライドを損なうには十分だったらしい。

「みる…みる…」
再びもう聞き飽きたあのフレーズを唱え始める少女。
だが、今回はどこか様子が違う。

「みる…みる…みる…」
彼女の身体に異変が現れ始める。
首から下の部分が徐々に変質してゆくのだ。

「みる…みる…みる…みる…」
それは徐々に衣服の繊維質な質感から、ぬめぬめつるつるした生々しい質感へと変化し…

「みる…みる………みるまらーーーーーーーー!!!!」
彼女の雄叫びと共に、その姿は完全に異形のモンスターと化した。
顔は元の少女のままだが、首から下があたかも蛇のような姿になっている。
そしてその高さは、まさしく「屋根より高い」。

(こいつは…ラミアか!?
ギリシャ神話における子喰いのモンスターを持ち出すとは、
何たるセンスをしている…)
久々にギコ兄の解説キャラっぷりが発揮された。
…ってかさ、それ以前に羽根生えたりビーム撃ったり、
挙句モンスター化するそのとんでも人間っぷりの方を先突っ込めと。

「みるまらーーー!!」
満身創痍から一転、超強化された肉体を得た彼女がリル子さんを攻める。
さっきまでからは想像も付かない破壊力を持つ拳が、
軽々しくガードすることの出来ないリル子さんを今度は壁際へと追い詰めてゆく。

「…この子…何て破壊力…ッ!」
(クソッ、これじゃあスタンドガードするわけにもいかない…!)

少しずつ少しずつ、塀がリル子さんに近づいてゆく。
そしてとうとう、リル子さんは袋小路に追い詰められた。

398N2:2004/05/23(日) 12:32

「ここまで来れば、もうどこにも逃げられないよ!
ここまで痛い目に遭わされたからには、『痛い』なんかじゃ済まさないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
彼女は、その身をアルマジロの如く丸めだした。
そしてそれが巨大な球状になると、そこから再び無数の針が生えた。
…しかし、今度は身体そのものが巨大化しているが故に、
その針一本一本があの杭サイズと同じ位の大きさをしている。
とてもじゃないが、横糸の壁を作っても串刺し必至だ。

「…参りましたね。まさかここまで追い詰められるとは思いもしませんでしたわ」
リル子さんが、いつになく泣き言を言う。

「謝ってももう許さないよ!
みる、みる、みるまらーーー!」
遂に少女が転がり始めた。
もう駄目か!?リル子さん、万事休す!!

「…で、誰が負けると言いました?」
突然態度を豹変させるリル子さん。
…さっきの弱気は何だったんだ。

「無駄無駄ァ!このサイズのトゲボールを避けることは
絶ッ〜〜〜〜〜〜対に出来んのだァ〜〜〜!」
少女は更に走行スピードを速める。
リル子さん、本当にどこへと逃げるつもりだ!?

「…『トリビュート・トゥ・べノム』」
三度リル子さんのスタンドが現れた。
今度は登場して早々、何やら足に力を込めている。

「見せてあげますわ…!
伊達に強化スーツを着込んでいる人をヴィジョンにしている訳じゃないって事を!」
途端、『トリビュート・トゥ・べノム』が跳躍する。
するとリル子さんの身体も、並外れた高さまで飛び上がった。
それは、軽くトゲボールの高さを越えている。
…そして更に、彼女のいた場所には正真正銘『蜘蛛の巣』が張られていた。
そこへと見事に少女が突っ込んでしまう。

「…!!」
リル子さんの策に気付いても、時既に遅し。
彼女はまさしく、完全にリル子さんの獲物となってしまった。
粘着性の高い横糸に捕まり、彼女は完全に動きを封じられた。

「…巣を支える四隅の糸の内二本は地面にくっつけておき、
残り二本は私が手に持っています…どうしてでしょう?」
少女を飛び越え、着地するリル子さん。
それにより、蜘蛛の巣は見事に少女の上から覆い被さる形となった。

「そ…そんな事分かるわけないよ!」
もがきながらも反論する少女。
そんな彼女を、リル子さんは嘲笑するような顔で見据えた。

「それはね…こうするためなんだよォ―――ッ!!」
巣と地面を繋いでいた残り二本の糸も回収する。
それにより、少女は最早網に入ったスイカ状態となってしまった。

「『トワールヤンク』ッ!!」
その少女を、リル子さんはスタンドでブンブン振り回す。
高速回転の気持ち悪さによってか、少女のスタンドはいつの間にか解除されていた。

「いやややゃゃゃゃ
もうやめてー」
悲痛な叫びを上げる少女。
しかしリル子さんの攻撃は止まらない。

399N2:2004/05/23(日) 12:34

「…そしてここに縦糸で制作した『糸の壁』を作っておきました…。
さて、私はこれからどうするでしょう?」
再び少女にリル子さんが問う。

「そ…ッ!!そん……な…の…わか……!
オエッ」
吐き気を催しながら、彼女にはそこまで言うので精一杯のようだ。
その様子を、リル子さんは大そう機嫌良さそうに眺めていた。

「分からない?分からないでしょう、あなたみたいな子供程度には分かるはずないですもんね」
遂にリル子さんの暴言が表面化した。
…ああ、もうこれはどうにも止められなさそうだ。

「んだったらその身で味わってるんだなッ!!」
大方の予想通り、少女は『糸の壁』に叩き付けられた。
もちろん、それだけでリル子さんの怒りが収まるはずもない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァ―――――ッッ!!!!』

怒号と共に、少女の肉体は何度も何度も硬そうな壁に叩き付けられ続ける。
見てるこっちの方が痛そうだ。
そして最後の一撃で、彼女は壁へとめり込んでしまった。
…それでも、リル子さんの怒りは収まらない。

『オラッ!!』
そのまま壁ごと少女を殴り上げ、それを追い越すように再びハイジャンプ。

『オラァッ!!』
上空で飛んで来る少女を迎え撃ち、腹目掛け強烈なかかと落とし。

『…オオオオオオオオォ―――ッ!!』
そして空中で落下の速度を拳の威力に加算する。

『オラァ――――――――――――ッッ!!!!』
最後に全ての威力を右手に封じ込め、少女の身体に衝撃を叩き込む。
あの頑丈な壁はその余波だけで木っ端微塵に砕け散り、
少女自身は大きく喀血してそのまま動かなくなった。

「…十億年早えんだよッ!このガキッ!!」
(…また十年くらい経ったらお越し下さいね)
やるだけのことをやってどうやらリル子さんもスッキリしたらしい。
気が抜けたのか、最後の最後に本音が口から飛び出した。
と言っても今更誰も驚かないが。

400N2:2004/05/23(日) 12:34



「いやー、凄かったよリル子さん!
僕には何が何だかさっぱり分からなかったけど、
とりあえずリル子さんが凄く頑張ってたのだけは『理解可能』!だったよ!」
(超能力戦士リル子さん萌え、いや燃えるぜハァハァ!)
部屋に戻ったリル子さんを、モララーが温かく出迎える。
…こいつも、スタンドが見えないのによくついて来たもんだ。
そこの部分だけは感心するよ。

「…まあ…その…ありがとうございます」
(…お前に褒められても全然嬉しくないわい!)
リル子さん、かなり嬉しくなさそうである。

「…ところでモララーさん、私の願い事、一つ聞いてくれませんこと?」
突然、リル子さんがモララーに尋ねる。
その瞬間、彼の中であらゆる妄想が暴走した。

「そッ…そりゃあリル子さんの願い事だったら何だって聞いてあげるさ!
それで何だい?高い指輪?式場の準備?それとも…?」
(もしかして『本番』ですかーッ!?
(*´Д`)ハァハァハァハァ/lァ/lァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \アノ \ア ノ \ア!)
…どうやら、完全に勘違いしてるようだ。
南無阿弥陀仏アメーン。

『オラッ!』
リル子さんの右手に集まった、『トリビュート・トゥ・べノム』の塊。
それを高速でぶん投げると、ヒット直前その頭がぬるり、と伸びる。
そして、ぶつかった衝撃の直後高速噛み付きの連撃!!
哀れ、モララーはその牙に噛み砕かれていく。

『オラァ――――ッ!!』
そして最後に、拳で吹っ飛ばされる。
「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」
断末魔の叫び声を上げながら、モララーは血飛沫を撒き散らしながら宙を舞い、
頭から壁に突っ込んでめり込んでしまった。
…が、まだヒクヒク動いている。何つう生命力だ。
同族として、誇りに思うと言うか…いや!その前に情けないと言うか…。



(しかし、結局これで見合いはご破算ということらしいな)
熱狂的なバトルが終わって、ふとギコ兄が呟いた。
あ、そういや最初の目的はそれだったんだ。

(大将、これ以上ここにいてもしょうがありませんよ。
早くリル子さんに気付かれないようにここから脱出しましょう!)
ギコが大将に進言する。
大将もそれに頷き、コソーリと逃げようと動き始めた、その時…


「…で、どうしてあなた方がここにいらっしゃるのですか?」
(…逃げられるとでも思ったんですか?)

401N2:2004/05/23(日) 12:35

………!!!!
ピシャリと障子を開く音の後に、怒気のこもった女の声。
まさかッ、これはッ!!

「リ…リル子…これはその…あれだあれ、
一つの社会勉強の一環として…だな…」
青ざめて必至に言い訳をする大将。
だが、それでリル子さんが許してくれるはずが無い。

「………で?」
殺気に満ちたリル子さんの瞳。
やばい、リル子さんは今さっきの少女の時以上に怒っているッ!!

「……悪く思うな、『サザンク……』」
大将がスタンドを発現させようとする。
…が、リル子さんがその前に先手を取る。

『オラァッ!!』
触手のように伸びる『トリビュート・トゥ・べノム』の拳。
そしてそれは、大将がスタンドを出す前にその本体へと届いた。

「ガハァッ!!」
まともに拳を喰らい、大将がダウン。
そんなッ、頼みの綱の大将がやられただとォ――――ッ!?

「心に負い目を持った者は、スタンドの力も激減する…。
いつもそうおっしゃってましたよね?」
ピクリとも動かない大将を見下ろして、リル子さんがそう尋ねた。
大将は何も答えない。

「そして……」
リル子さんの目がこちらへと向けられる。

「覚悟は出来てんだろうな、オラァ――――ッ!!」
リル子さんの全身から、先程のバトルでは見せなかったほどの量の糸が噴き出す。
それに絡め取られ、オレ達三人は身動きが取れない。

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――――ッ!!』
リル子さんのスタンドと本体のダブルラッシュが繰り出された。
…その後オレ達がどうなったか、それは敢えて言うまでも無かろう。

402N2:2004/05/23(日) 12:38



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



部屋の中では、ある女による男三人虐待ゲームが繰り広げられている。
それを子供三人は、子供特有の冷酷さで冷ややかに眺めていた。
ほったらかしにされた料理を独占しながら、三人がふと呟いた。

「確カニ今回、 イイ『社会勉強』ニハ ナッタヨ・・・」

「『女ハ怖イ』ッテコトガヨォーーー・・・」

「YES! YES! YES! ”OH MY GOD”」

┌─────────────────────────────────────────────────┐
|                                                                          │
|  ・逝きのいいギコ屋・相棒ギコ・ギコ兄                                        │
|  リル子さんに散々痛めつけられる。                                                │
|  本来ならば再起不能になりかねなかったのだが、そこはギコ兄弟の能力でどうにかなったらしい。             │
│  ちなみに、ギコ兄弟の傷はギコ兄が治療したが、彼がギコ屋の治療は拒否したため            .│
│  その傷は相棒ギコが波紋で治療した。                                                   │
│  再起可能。                                                               │
│                                                                          │
│  ・大将                                                                      │
│  一発でダウンしたのは実は見せかけで、その後に控えるラッシュを喰らわないためであった。                 .│
│  しかしそれを見抜いていたリル子さんに、見合い会場・庭園・そして自分のラッシュで荒らした会場の隣の部屋の ....│
│  修理費を全額押し付けられてしまう。                                                    │
│  占めて一千万円超の経済的負担。(金銭的に)再起不能。                                       │
│                                                                          │
│  ・キッコーマソ                                                                  │
│  秋にもなって池に落とされたお陰で、大風邪を引く。                                         │
│  しかもそれなのに帰ってから同罪ということできっちりリル子さんのラッシュを喰らう羽目に。                    │
│  心身ともにダメージが大きく、しばらく再起不能。                                           │
│                                                                          │
│  ・リル子                                                                      │
│  これに懲りず、いつか阿部本人と見合いをしようと目論んでいるようだ。                            │
│  一説には、高級な和室や庭園をブッ壊してスキーリしたとかしてないとか…。                             │
│                                                                          │

403N2:2004/05/23(日) 12:38
│  ・お見合いするモララー                                                          │
│  病院送り。職場への復帰はまだ先らしい。                                             │
│  だがリル子に対する執着心は再起可能。                                              │
│                                                                          │
│  ・みるまら(わむて・葱看)                                                           │
│  余りにダメージが酷く、放置していれば間違い無く死んでいたのだが、                             │
│  見るに耐えられなくなったギコ屋がギコ兄に治療を依頼。                                   │
│  しかし彼が全面的に拒否したため、相棒ギコが波紋で治療する。                                  │
│  と言っても、それは状況が「最悪」から「宇宙ヤバイ」くらいになった程度だが…。                        │
│  少なくともギコ屋達がこの町に滞在している間は、再起することはないだろう。                          │
│                                                                          │
│  ・手を負傷した仲居                                                               │
│  気絶している内にギコ兄が治してあげた。                                                 │
│                                                                          │
│  ・シャイタマー・ジサクジエン                                                                  │
│  この後、食べきれない料理をパックに詰めてもらい、歩いて自宅へと帰った。                           │
|                                                                          │                                                                        
└─────────────────────────────────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

404N2:2004/05/23(日) 12:40

                    〃ノノ^ヾ
                    リ´−´ル
.                   (  l:l )
                     |__,l'l_|
                    |___|
                    .し´J

NAME リル子

まず最初に、彼女が椎名編の神尾と同一人物ではないことを記しておく。

地元TV局に所属する女子アナで、「サザンクロス」の実質No2。
穏やかで礼儀正しい口調とは裏腹に、考えていることは余りにどぎつい。
表向きは身分に従っているが、腹の内ではいつ下克上しようと考えているかも分からず、
大将も彼女の動向には結構気を配っているようだ。

見合い・ニュース番組・料理番組と何かとモララー族と接する機会が多く、
さらにどいつもこいつも下ネタ連発で自分に言い寄ってくるため、
完全にモララー族に対しては拒否反応が出ている。
その為か、個人的な恨みなどは全く無いのだが、ギコ屋に対しては
丸耳なのにどうもギコ2人よりも冷たく厳しく当たっているとの噂。

ただ、戦闘実績も高い為、周りからそういう意味では信頼されているのもまた事実である。

405N2:2004/05/23(日) 12:40

                                 使用前
                                 ___
                                <_葱看>
                              / i レノノ))) \
                                人il.゚ ヮ゚ノ人 みるまらー
                                  ∪Yi
                                  く_ :|〉
                                  し'ノ

                                  ↓

                                 使用後
                                   ____
                                 <_葱看>
                                / i レノノ)) ヽ
                                  人il.゚ - ゚ノ、   みるまらー
                                 fヽ{:::::::::::}ノ
                                 (ヽ::::: ::::::|/)
                                  |::|:: ::::::|::ヽ
                                  ヽ::ヽ:::::::| |:::|
                                  ___|::|:::::::| ヽ:ヽ
                                 /:::::||.:::::::|  ||
                              ノ´:::::::::::N):::::::|  /|
                             /:::::O::::::::ヽ|::::::::|  |ノ
                            ノ::::::::::::::::@::::::::::::ノ
                            |:::::::::::O:/ ̄ ̄
                            ヽ::::::::::/
                             ` ̄´

NAME みるまら(わむて・葱看)

2chでみるまら荒らしが流行した頃、ギコ屋町にも現れた謎の少女。
街中でなんかピコピコやってたかと思うと、通行人の首を鎌で斬り落としたりしていたらしく、
噂は街中に広がっていた。
正体は『もう一人の矢の男』の末端の部下で、ギコ屋達が料亭「伍瑠庵」へと向かったという情報を受けて
そこへと向かったはいいが部屋を一つ間違えたお陰でえらい目に遭う
(とは言え部屋が正しかったならば『クリアランス・セール』『バーニング・レイン』『カタパルト』
それにジサクジエンと『サザンクロス』を一気に相手する羽目になっていたので余計悲惨な結果に終わっていたかも知れないが…)。

名前を言わなかったが彼女のスタンド『new model』は肉体を強化してジョジョ第一・二部の吸血鬼のような真似が出来る
肉体強化型・ヴィジョン無しのスタンドである。
…ぶっちゃけ読んで分かったかと思いますが、最初はただの針を出すスタンドの予定でした。
でもそれだとバトルがすぐ終わってしまうので、結局途中から路線変更してこんなとんでも能力に…。
でもまあ、スタンドを強調する為に途中のとんでも肉体強化は当初全面排除の方針だったので、これもまた良し…か?

406N2:2004/05/23(日) 12:41

                  ∧_∧
                 ( ・∀・)
                 ( <V> )
                 | | |
                 (__)_)

NAME お見合いするモララー

リル子と共に『2ch News』に出演する地元テレビ局のアナウンサー。
長年リル子と仕事を続け、同時にリル子にアタックも続けてきたのだが
ことごとく無視され続けて来た。
今回、かなり姑息な真似をすることで強引に見合いへとこじつけたが、
その代償はかなり大きかったようだ。

本来このキャラはアナウンサーとは別人のはずであるが、
展開上同一人物とした。

407N2:2004/05/23(日) 12:42

             ∧蜘∧
            i´((>Ж<))   ∧毒∧
            | |ж#W⌒)  (_》 《_)ヽ
            |J ノ|J\\  WW/>")
            | | |   \⌒~WW/  ⌒)
            ∪∪     ⌒l Ж /# /
                     〉   WW )
                    /  ∧  ヽ
                    (  ( ヽ  ヽ
                    /  /  ヽ ヽ
                   WW )   ( WW

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:トリビュート・トゥ・ベノム           ┃
┃               本体名:リル子                  .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -C......┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃強化スーツに身を包んだ某アメコミのキャラがヴィジョンのスタンド。.┃
┃強度に長け、収束させることで絶大な硬度を生み出せる『縦糸』と  ┃
┃粘着性が強く、相手を捕らえることの出来る『横糸』を放出する。   .┃
┃糸で制作出来るものは幅広く、縦糸は鋭い剣にも硬い盾にもなるし..┃
┃横糸は防御網にも捕縛網にもなる。                   ┃
┃またスタンド自身の運動能力は非常に高く、それを利用して      ┃
┃本体が超人的な動きをすることも可能である。               ┃
┃なお、イメージAAにある蜘蛛男はキャラを分かりやすくするため  .┃
┃だけの存在であって(単にコピペ後編集しなかったとも言う)、     ┃
┃実際にはヴィジョンには含まれてはいない。                    ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

408N2:2004/05/23(日) 12:42

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:new model                    ┃
┃               本体名:みるまら                    .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -− ......┃   スピード -−  ..┃  射程距離 -−   . ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃  精密動作性 -− .┃   成長性 -B   ..┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃肉体を変化・変質させる、ヴィジョンの無いスタンド。            .┃
┃本体は主に肉体から無数の針を生み出す攻撃を使っていたが、   ┃
┃その他にも翼を生やす・ビーム・蛇化などといったことも可。     ┃
┃端的に言えば、吸血鬼みたいな事が出来ると考えて貰って       ┃
┃差し支えない。                                  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

409N2:2004/05/23(日) 12:43

以下、以前の話に出てきて紹介し忘れた分を一挙に載せてしまいます。



                  /⌒⌒ミ
                 _|_J_ミ
                  (´∀` )
                  ( ̄| | ̄)
                  |___| |___|
                  (_(_)

NAME 空条モナ太郎

ご存知、スピードモナゴン財団に所属する海洋研究家。
かつてDIOと戦い、その後も『矢』に関して世界中を調査する。
彼のスタンド「スタープラモナ」は時を止める能力を持ち、最強との呼び声も高い。

擬古谷町へは『矢』を持つ者がもう一人いるとの情報を受けてやって来て、
そこで『もう一人の矢の男』、更に彼と戦うギコ屋を発見した。
そして彼の実力に期待し、また本人達の希望もあって
ギコ屋ら3人に『もう一人の矢の男』討伐の協力を依頼する
(丸餅氏の設定の出来た今にして言えば、<仲介人>の契約を結んだと言うべきか)。

また大将とはどうやら昔からの知り合いらしく、
ギコ屋達に「サザンクロス」入団を勧めたのも彼である。

410N2:2004/05/23(日) 12:44

                   /|/|/|
                   /| .//|
                 /// / |
                 ヽ─0─//
              ______ |´∀`||]
              \@ /ヽ ̄ ̄ /\@ /
              / ̄_| ̄| ̄ ̄|  ̄\
              |  _ュ ) |   /\__  |
               \_ノ _|___| (_/
                  ヽ_|_/
                    ミ┴/

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:スタープラモナ                 ┃
┃              本体名:空条モナ太郎                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃ 精密動作性 -A   .┃  成長性 -完成 ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃余りにも凄まじいスピードを誇り、時を2秒ほど止める事が出来る。...┃
┃またパワー・精密動作性も素晴らしく、ダイヤモンドほどの      ┃
┃硬度を誇る鉱石を素手で破壊したり、薄暗い写真の背景にいる   ┃
┃蝿の姿を正確に模写することも出来る。                     ┃
┃多くを語る必要の無い、余りに有名なスタンド。               .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

411N2:2004/05/23(日) 12:44

                      (   ▲∧
                     ⊂、⌒⊃゚ヮ゚)⊃

NAME ミィ

『もう一人の矢の男』の忠臣の一人。
半角で喋るので話が理解しにくいことこの上ない。
相手を感染・同化されるという恐るべき種族的能力を持ち、
更にスタンドも相手をミィ化されるウイルスを放出するというとんでも能力である。
しかし、ギコ屋曰く「ってそれスタンドの意味無いやん」。
戦っている最中に「聖母たちのララバイ」を歌ったのは
単に知っていただけなのか、はたまたその世代の人間だからなのか。

『もう一人の矢の男』に異常なまでの忠誠を誓い、彼の命には何の疑いも持たずに従っていた。
その結果、皮肉にも捨て駒として使われてしまった挙句、
ギコ兄によってでぃの脳細胞を植え付けられ完全に思考がでぃ化してしまい、
最後は『電気スタンド野郎』によってギコ屋達もろとも建物ごと強烈な電気を落とされ、
不死キャラであるにも関わらず完全に塵も残らずに焼失してしまった。

412N2:2004/05/23(日) 12:45

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:シック・ポップ・パラサイト            .┃
┃                 本体名:ミィ                    ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -C   ┃  射程距離 -E   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -C  ....┃  精密動作性 -E ...┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃感染した者をミィ化させるウィルスを全身から撒き散らす。       ┃
┃ウィルスは呼吸・皮膚接触等あらゆる方法で感染するが、       ┃
┃空気中で生存していられる時間は極めて短い。                ┃
┃と言っても感染力は非常に高く、身体のパーツの一部が        ┃
┃既にミィ化してしまった時にはそこを切り落としても             .┃
┃手遅れである可能性の方が高い。                     ┃
┃本体による感染能力は接触ないし自身の虐待・虐殺が         .┃
┃条件であるのに対し、こちらはすぐ死ぬとは言えそれなりの       .┃
┃距離までウィルスは届くため、一応このスタンドに意味はある。    .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

413N2:2004/05/23(日) 12:46

                     ,∧_∧
                    X ノ ハヘ X
                     |゚ノ ^∀^)
                    §,     )
                     !!|  Y |
                     (__)_)

NAME 暗殺者(レモナっぽい)

ひろゆきの命でジョナ=ジョーンズを擬古谷町まで暗殺しに来た女。
どうやら本当に女だそうだが、彼女よりもジョナの方が
余程女らしく見えていたようだ。
手裏剣のスタンド『スカイ・ビューティーズ』で彼を殺そうとするも、
冷気で攻撃を全て防がれた挙句、わざと見逃されてしまう。
そのことで逆上した彼女は背後から奇襲をかけるのだが、
何故か逆に彼女が負傷し、最期はジョナに雷ギロチン
『王妃マリーの悲しみ』を落とされ、黒焦げになる。
しかもその上遺体をギコ兄に解析され、女としてのプライド丸潰れ。アーメン。

だがそもそも何故ひろゆきは彼女を使ってジョナを暗殺しようとしたのか?
肝心の部分については、まだ何も明らかにはなっていない。

ちなみに(レモナっぽい)というのはレモナと断言すると本スレでレモナを使う人が出た時に
不都合が出かねない(そして実際使う人が現れたが)ということを考慮した結果である。

414N2:2004/05/23(日) 12:47

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃          スタンド名:スカイ・ビューティーズ            ┃
┃           本体名:暗殺者(レモナっぽい)               .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -C  ....┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -E   .┃  精密動作性 -A  .┃   成長性 -D     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃手裏剣の形状をしたスタンド。                        .┃
┃本体の意志によって多数発生し、相手向かって飛行し、攻撃する。..┃
┃なおどうやらこれは手裏剣の姿をした群体型スタンドではなく、   .┃
┃その都度本体がスタンドパワーを消費して新しく作っているようだ。 .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

415N2:2004/05/23(日) 12:49

予告編:ギコ兄教授の何でも講義

1/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、講義を始めるぞ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       よろしくお願いします

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  一体何する気なんだろう…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  変な真似だけは勘弁だぞ…。
         \________________

2/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今日は『今後の作品予告』についてだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
        いつ書けるか分からないのに予告
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  それだけの為にこんな大掛かりなセットを…?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーか、兄貴の頭身が…。
         \________________

416N2:2004/05/23(日) 12:50

3/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  今後の予定は、次のようになっている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
      『兄弟の絆』(仮)
      『痛みを分かち合う会』(仮)
      『デムパ(・∀・)ハイッテル』
      『快楽殺人鬼との戦い』(仮)
      以下、最終決戦へ…?

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  (仮)ってのはほぼ間違い無くタイトルが変わると思って欲しいんだな!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  まあ、一部好評だった『デムパ〜』はそのままで通すらしいが。
         \________________

4/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、そこへと何話か椎名編が割り込んでくるから、覚えておくように。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       椎名編、忘れてませんか?
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ :)      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |  普通は忘れてるって…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ありゃほとんど空気と化してるからな…。
         \________________

417N2:2004/05/23(日) 12:51

5/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみに、我々ギコ屋編も番外編を入れようかと考えているところだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       聞いて驚くなかれ
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚ ;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | へー、どんな話?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  嫌な予感…。
         \________________

6/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  それはこれだァ―――――ッ!!
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━━━∨━━━━━━━━━━━━
       『遥かなる旅路さらば擬古谷町よの巻』

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | お    い    ッ    !    !
    \__________________

418N2:2004/05/23(日) 12:51

7/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ちなみにこちらがサブタイトルとなっている。
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       〜ピンク玉も出るよ〜
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ってタイトルは決定事項かよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  つーかピンク玉っつったらあのキャラしかいねえじゃねえか!
         \________________

8/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ん?それがどうしたと言うんだ?
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       なんだ もんくあるか

                ∩_∩
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | ラスボスも倒してないのに擬古谷町見捨てる気か、クラァ!!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  このセリフってやっぱり…。
         \________________

419N2:2004/05/23(日) 12:53

9/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  まあ、深い所は(゚ε゚)キニシナイ!!
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       番外は番外
                ∩_∩
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | こら、ちゃんと質問に答えろ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  放っとけ、もう何言っても答えないぞ…。
         \________________

10/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  お、そろそろ時間のようだな。
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       長いようで短かった授業も、
       これでお終いです
                ∩_∩
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  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 結局何がやりたかったんだよ…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  お前は「ピンク玉」と言いたかっただけとちゃうんか、と。
         \________________

420N2:2004/05/23(日) 12:53

11/11
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  んじゃ、これが宿題だ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━
       『私とギコ兄』のタイトルで
       400字詰め原稿用紙10枚以上に
       作文を書いてくること
                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚ ;)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 何で最後にそういう方向に行くんだ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ある意味俺には有利な宿題だな…。
         \________________


  /└─────────────┬┐
. <   Not To Be Continued... Maybe | |
  \┌─────────────┴┘

421新手のスタンド使い:2004/05/23(日) 17:10
ワロタ。N2氏乙!

422:2004/05/23(日) 21:37

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その2」



          @          @          @



 丸耳は、しぃの家に足を踏み入れた。
 土足だが、この際仕方ない。
 モララーの家族は、無事に保護してASA本部ビルに送り届けてある。
 防衛面ではやや不安だが、これから戦場に赴く軍艦に乗せるわけにもいかないだろう。
 後は、しぃの家族を保護するだけだったのだが…

 異常は、すぐに感じ取った。
 しぃの家を包囲しているはずの米兵は、1人も見当たらない。
 引き返したにしても、しぃの家族を拘束したにしても、余りに早すぎるのだ。

 丸耳は廊下をゆっくりと進んだ。
 むせ返るような血の匂い。
 そして、家中に散乱する米兵達の死体。
 総じて、死体の損傷は酷い。
 その手足は、まるで食い千切られたかのように散らばっている。
 一体、ここで何があったのか…

 丸耳は、米兵の傍に転がっていた自動小銃を手に取った。
 そのマガジンは空である。
「交戦した… という事は、相手が見えていた?」
 丸耳は呟いた。

 迷彩服の死体に埋もれて、倒れている女性を発見する。
 丸耳は慌てて駆け寄った。
 女性に息はある。特に外傷もない。
 単に気絶しているだけのようだ。
「まあ、これを見れば仕方ないか…」
 丸耳は、血と挽き肉の洪水である周囲を見回した。

 年齢と風貌からして、この女性はしぃの母親に違いないようだ。
「よっ…と」
 丸耳は、しぃの母親を肩に抱えた。
 あと、この家にしぃタナがいるはず…

 1階はくまなく調べ終わった。
「ここに危険はないようなんで… しばらく失礼しますよ」
 丸耳は、しぃの母親を階段の脇に寝かせた。
 そして、ゆっくりと階段を上がる。

 ――僅かな声。
 女の子のすすり泣き、そして呟きが、丸耳の耳に入った。

「…ここか」
 丸耳は、警戒しながら声の聞こえる部屋のドアを開けた。
 女の子らしく、可愛く飾り付けられた部屋だ。
 多少、過剰ともいえるほどに。
 電気はついていない。
 丸耳は、ゆっくりと部屋に踏み込んだ。

 赤いカーペット。
 元々の赤か、血の赤かは判別がつかない。
 部屋の一番奥に、しぃタナは屈み込んでいた。
 その周囲には、跡形もないほど引き千切られた米兵の死体が散乱している。

「私じゃない… こんなの、絶対に私がやったんじゃない…」
 しぃタナは、すすり泣きながら何度も呟いていた。
「誰ッ…!?」
 そして、丸耳の方を見る。
 ようやく彼の存在に気付いたようだ。
 しぃタナの瞳は、何かに対して怯えきっている。

「私は敵じゃありません。正月にモナー君の家で会ったでしょう。覚えてますか?」
 丸耳は両手を広げて、敵意がない事を示した。
「貴方達を保護しに来ました…」
 そう言いながら、丸耳は『メタル・マスター』のヴィジョンを背後に浮かべた。
「な…何、それ…!?」
 しぃタナは、丸耳の背後に視線をやる。

 ――やはり、見えている。
 無意識の発動。
 米兵達を葬ったのは、彼女の仕業に間違いない。
 米兵にも見えていたらしき事からして、物質融合型か?

 丸耳は、しぃタナに手を差し出した。
「…ASAへようこそ、しぃタナさん」

423:2004/05/23(日) 21:37



          @          @          @



 朝食を済ませて、俺は食堂を出た。
 リナーは、ねここが俺のベッドにいた事を誤解しているだろう。
 彼女の部屋に行く前に、機嫌を直す材料を用意しておくか…
 俺は、武器庫へ向かった。

 当然ながら、武器庫の扉には鍵が掛かっている。
 仕方ない、こっそり『破壊』するか…
 俺はニヤリと笑って、懐からバヨネットを取り出した。

「おや? 何をされてるんです?」
 クルーの1人が、俺に声をかけてきた。
「い、いや! 特に何も…!!」
 俺は、慌ててバヨネットを背中に隠す。

「もしかして、武器が御入り用ですか?」
 武器庫を任されているらしい、このクルーは言った。
 俺は無言で頷く。
 すると、クルーは鍵を開けてくれた。
「では、どうぞ…」
 そう言って、クルーが先に武器庫に入っていく。
 俺は恐縮しながら、彼の後に続いた。

 一体、俺の存在はどんな風に伝わっているのだろう。
 驚くほどの優遇振りだ。

「どうぞ。どれでも持っていってください」
 クルーは銃器を示して言った。
 沢山のラックに、大小様々な銃が並んでいる。
 俺は、飾ってあるリボルバーに目をやった。
 そう言えば、リナーがリボルバーを使っているところは見た事がない。
 彼女は、リボルバーは嫌いなのだろうか。

 何となく、大型拳銃の1つを手に取った。
 どれがリナーのお気に召すか、素人の俺にはさっぱり分からない。
「えーと、女の子へのプレゼント用に最適なのは…?」
 俺は銃をラックに戻すと、クルーに訊ねた。

「女性へのプレゼントですか…?」
 クルーは目を丸くしながら、小型の拳銃を手に取った。
「このM1910はどうです? 少し古い型ですが、軽量で女性にも扱いやすいですよ」

「いや、そういう意味じゃなくて…」
 俺は首を振る。
「ああ、なるほど。そういう事ですか…」
 クルーは、ようやく理解したように頷いた。
「それは難しいな。GAU−8/Aの立射カスタムを所持しているような人ですからねぇ…
 あの人が満足する品があるかどうか…」

 どうやら、彼は正確に理解してくれたようだ。
 それにしても… しぃ助教授は俺達の事を何と説明したんだ?

「これなんてどうです?」
 クルーは、奥の棚からやけに古臭いマシンガンのようなものを引きずり出した。
「MG42。第二次大戦中、連合軍兵士を震え上がらせた由緒ある一品です。
 ここまで美麗な状態のMG42というのは、ちょっと無いですよ」

 俺は、そのMG42とやらを受け取った。
 これなら、リナーは気に入ってくれるだろうか。
 どうせ、俺が見たって分からない。この人を信じるとしよう。

「…ん? これは?」
 俺は、机の上に置かれていた短剣に目をやった。
 何か、すごく惹きつけられるものがある。

「ナチスS・A(突撃隊)の装飾短剣です。装飾刀と言っても、切れ味は折り紙付きですよ」
 クルーは説明してくれた。
 俺は、木製の柄を手に取る。かなり軽い。
 刃には、『Alles fur Deutschland』と刻印されている。
 意味は分からない。
 おそらく、ドイツ語だろう。

「お気に召したのなら、差し上げますよ」
 クルーは、刃に見惚れている俺に告げた。
「えっ、いいモナか!?」
 俺は喜んで、その短刀を懐に仕舞う。
 これって、ASAの備品じゃあ…
 そんなにホイホイ他人にあげてもいいんだろうか。
 このクルーが後ほどしぃ助教授に折檻されては、申し訳ないどころの話ではない。

「では、鍵を閉めますので…」
 クルーは言った。
 俺はMG42を手に取ると、武器庫を出た。
「いろいろすまないモナね…」
 俺は、クルーに礼を言う。
「いえいえ。あなた方の働きに期待していますよ」
 クルーは、そう言って去っていった。
 1回り以上も年齢が上の人にそんな事を言われ、俺は大いに恐縮する。
 さて、リナーの部屋に行くか。

424:2004/05/23(日) 21:39

 リナーの部屋をノックした。
 中から返事がある。
 俺は、恐る恐るドアを開けた。

 リナーは、銃を机の上に並べて整備していた。
 俺の方を横目でちらりと見る。
「何か用か…?」
 リナーは、立ち尽くす俺に冷たく告げた。
 明らかに機嫌が悪い。

「プ、プレゼントモナ…」
 俺は何ら気の利いた言葉もなく、リナーにMG42を差し出した。
「…?」
 きょとんとした表情を浮かべるリナー。

「…君の意図が読めないが、とりあえず受け取っておく」
 リナーはMG42を受け取ると、机の上に置いた。
「それにしても… 女性に銃をプレゼントするとは、君はどういうセンスをしているんだ?」
 
「…」
 何と言っていいか、返答に困る。
 だが、リナーの機嫌はかなり直っているようだ。

「ところで、このイージス艦の武装について教えてほしいモナ」
 俺は、さらに追い討ちをかけた。
 彼女の好きそうな話題に持っていき、完全に機嫌を直してもらおうという策略だ。
 この艦で戦闘に赴く以上、艦の武装は頭に入れておいた方がいいだろう…というのもあるが。

「…ちょっと待て。長期戦になるだろうから、お茶でも入れてこよう」
 リナーはそう言って椅子から立つと、素早く部屋を出て行った。
 ――本気だ。
 どうやら、完全に臨戦態勢に入るようだ。
 もしかしたら、地雷を踏んでしまったのかもしれない。

 リナーは、すぐにお盆を持って戻ってきた。
 やけに日本的な湯呑みを2人分携えている。
 俺はベッドに腰を下ろすと、湯飲みを手に取った。
 その横に、リナーが腰を下ろす。

 お茶を軽くすすって、リナーは口を開いた。
「イージス艦の装備を語るには、まずこの艦が必要となった時代背景を語る必要がある。
 そうすると、話は大艦巨砲主義の崩壊に遡る…」
「ええっ! そこまで遡るモナか!?」
 俺は思わず口を挟んだ。
 大艦巨砲主義の崩壊とは、『航空機が強いから、重くて金のかかる戦艦なんていらなーい』という事だったと思う。
 それは、確か第二次世界大戦の時の話だ。

「…文句があるのか?」
 リナーは俺を鋭く睨んだ。
「いえいえ、そんな滅相もない…」
 俺は慌てて首を振る。

 それからリナーは、長い長い長い話をしてくれた。
 開戦当時の軍事産業の偏り、日本軍部の戦略目標の誤り。対米早期講和政策の失敗。無条件降伏の承諾。
 戦後のソ連の台頭。『核』がもたらした軍事バランス。アジア共産化の脅威。頻発する米ソの代理戦争。
 東西冷戦。そして、『鉄のカーテン』の崩壊…
 ギコがいれば、さぞかし話は弾んだだろう。
 要は、ソ連の対艦ミサイルや潜水艦の脅威に対抗して作られた水上艦が、このイージス艦という事らしい。

「…イージス艦は、長射程ミサイルや攻撃原潜を迎撃する為に生を受けた。
 この艦は、超精密化したシステムと最先端テクノロジーの産物なんだ」
 リナーは、何故か誇らしげに言った。
 俺は、無言で冷たくなった茶をすする。

「さて、それではいよいよこの艦の武装の話をしよう。その際に避けて通れないのが、ミサイルの運用だ…」
 リナーは腕を組んで言った。
 なんと、まだ本題に入らないのか。
「一概にミサイルと一括りにしているが、その種類は多い。
 映画等では、区別をつけず滅茶苦茶に撃っている場合が多いがな。
 対艦、対空、対地、対戦車と、用途ごとにミサイルの性質は全然違ってくる。1つ1つ説明していこう…」
 リナーはそう言って茶をすすった。
 あれも、すっかり冷めているはずだ。

 湯飲みをお盆の上に置くと、リナーは口を開いた。
「まず、対艦ミサイル。水上艦の破壊を目的としたミサイルだ。
 徹甲榴弾と成形炸薬弾の2種類がある。両者とも、爆発でダメージを与えるタイプだ。
 なにぶん攻撃目標が大型だから、炸薬量もそれに応じて増える。
 一部例外を除き、そんなに速度は速くない。攻撃目標となる水上艦は、急激な移動ができないからな」
 ふむふむ。
 対艦ミサイルは、スピードは速くないが威力は高い…と。

 リナーは説明を続ける。
「次に、対空ミサイル。航空兵器を撃墜するためのミサイルだな。
 これは、ほとんどが破片榴弾だ。もともと、対空ミサイルは目標に大ダメージを与える事を目的としていない。
 空を飛んでいるものというのは、少しでもバランスを狂わせれば落ちるからな。
 そして航空機を追尾する以上、その速度は凄まじい」
 なるほど。
 対空ミサイルは、スピードは速いが威力は高くない。それでも、飛行機を落とすには充分…と。

425:2004/05/23(日) 21:40

「そして、対地ミサイル。地上攻撃用だ。
 まあ爆弾のようなもので、破片榴弾が主流だ。
 対地ミサイルというのは、さらに用途が分かれるので一概に説明は出来ない。
 射程1万kmを超える対地ミサイルはICBM(大陸間弾道ミサイル)と呼ばれるな」
 ほう。
 対地ミサイルは、種類も一杯…と。

「最後に、対戦車ミサイル。その名の通り、戦車を破壊するミサイルだ。
 現代の第三世代MBT(主力戦車)は、通常の砲撃では撃破し難いからな。
 このミサイルには、HEAT弾と呼ばれる成形炸薬弾を使用している。
 言わば、対装甲用に特化した専用弾頭だな」
 ふむ。
 対戦車ミサイルは、戦車破壊に特化したミサイル…と。そのままだが。

「これらのミサイル攻撃を防ぎ、また自らも幾多のミサイルで武装した艦が、このイージス艦だ」
 いよいよ本題という風に、解説に力を入れるリナー。
 俺は、何となく姿勢を正した。
 リナーは解説を続ける。
「このタイコンデロガ級イージス艦には、スタンダード艦対空ミサイルとハープーン対艦ミサイル…
 そしてトマホーク巡航ミサイルが装備されている」

「でも、どこにあるモナ?」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』で艦の外観を視る。
 ミサイルの発射台のようなものはどこにも見当たらない。
「前部と後部の甲板に、正方形で区切られた区画が見えるだろう…?」
 リナーは言った。

 確かに、前部甲板の真ん中に1.5mほどの正方形の部分がズラリと並んでいる。
 その数、約60個。これは、何かのフタか…?
 後部甲板にも同じものが並んでいるが。

「それが、VLS(垂直発射システム)。ミサイルの格納庫と発射口を兼ねている」
 リナーは解説した。
 なるほど…
 あのフタがパカッと開き、ミサイルが飛び出すわけか。
 フタは、とんでもない数である。
 あの中に、無数のミサイルが…

「で、他の武装だな。艦の前後に1門ずつ装備されているのが、127mm単装艦載砲だ。
 対艦ミサイル、水上艦、陸上目標の破壊とオールマィティに使える。
 君はたった1門しかないとか不平を垂れていたが、1門しかないのは増やす必要がないからだ。
 あの砲は、イージス・システムとのリンクにより同時に100以上の目標を捕捉・撃破できる」

「それは、すごいモナね…」
 俺は、素直に感嘆した。
 砲門数が少ない=弱いという考えは、それこそ大艦巨砲主義の過ちそのものだろう。
 戦闘に於いて、外見で判断するというのは論外である。
 俺は大いに反省した。

「で、艦橋に備え付けられているのがCIWS20mm機関砲だ」
 リナーは説明を続ける。
 あの、ガトリング砲のオモチャみたいなやつか。

「あれは近距離防衛用だ。寸前まで迫った航空機やミサイルを叩き落す役目だな。
 射程距離は1.5Kmと短いが、毎分3000発の発射速度と高い命中率を誇る。
 捜索・探知・脅威度評価・追尾・発砲・弾着修正・撃破確認・次目標探知を全て自動でこなし、
 イージス・システムとリンクして、多数の目標を同時捕捉できる。
 航空機10機程度なら、20秒で叩き落せるな。
 とは言え、この兵装には威力の低さという弱点があるが」
 リナーは一息で言った。
 聞いているこっちも、段々疲れてくる。

 リナーは、言葉を切るとお茶を口にした。
 やはり、喋り続けていると喉が渇くのだろう。
「他にも、対潜ロケット・アスロックを装備しているので、潜水艦とも互角以上に戦える」
「対潜ロケット…? ミサイルとは違うモナか?」
 俺は訊ねた。
「まあ、魚雷のようなものだ。ロケットとミサイルの区別は非常にややこしい。
 映画はもちろん、報道メディアでも混同している場合が多いな。
 無反動砲や携帯ミサイル、誘導と非誘導ミサイル、さらにグレネードランチャーまでごっちゃになっている場合がある。
 さらに、バズーカと呼ばれる対戦車ロケットの固有名詞呼称問題なども無関係ではない…」
 リナーは言った。
 俺はふと時計を見る。何と、もう12時。
 すでに昼時だ。

「リナー、昼食を食べに行かないモナ?」
 俺は、リナーの話が途切れるタイミングを見計らって食堂に誘った。
「あまり食欲はないが… まあ、たまには普通の食事も悪くないな」
 リナーは承諾したようだ。
 俺とリナーは、連れ立って部屋を出た。

426:2004/05/23(日) 21:41


 食堂に入る。
 中は、一息ついているクルー達で賑わっていた。
 長い机といい椅子といい、まさに食堂と言うイメージだ。
 とても最新テクノロジーの結晶、イージス艦の艦内とは思えない。
 俺達は、カウンターに並んだ。
 昼食はうどんとケーキのようだ。

「おっ! あんたが噂の!! 大食いなんだってねぇ。ケーキのイチゴおまけしてあげるよ」
 食堂のオッサンは、ケーキにイチゴを2個乗せてくれた。
 …俺は、どんな風に伝わってるんだ?
 俺達は盆に載せたうどんとケーキを携えて、空いている席を探した。

「あっ、モナーさんとリナーさん!」
 ねここの声。
 彼女は、席についてうどんをすすっていた。
 クルー達はみな同じような格好をしているので、猫の顔を模した帽子はよく目立つ。
 その隣には、無表情のありすの姿があった。
 
「…」
 俺は、つい無言でリナーの方を見た。
 ありすとねここの正面の席は、うまい具合に空いている。
 ここで座らねば、明らかに不自然である。
 リナーは、特に気にしていない様子だが…

「よいしょ…」
 俺は、ありすの正面に腰を下ろした。
 その隣にリナーが座る。
 恐る恐る、周囲の雰囲気を視た。
 別に、不穏な気配はないようだ。
 同時に、何か悲しくなってきた。
 何で、俺がここまで心を痛めなければならないんだ…?
「頂きますモナ」
 俺は割り箸を割ると、うどんを一気にすすり込んだ。

「それにしても… 随分長い間、愛の語らいを続けてましたね」
 ねここは嬉しそうに言った。
 俺はうどんを吹き出す。

「か、監視カメラ…!?」
 俺は、慌ててねここを見据えた。
「ふふふ…」
 ねここは、露骨に目を逸らす。
 …まあいい。
 ねここの言葉からして、会話内容までは聞こえていなかったのは確かだ。

 ふと、渋い顔で固まっているありすの顔が目に入った。
 ありすは、先程から不動でうどんと睨みあっている。
「ありすは、猫舌なんです」
 俺の目線を追って、ねここは言った。

「…で、敵艦隊の規模はどの程度なんだ?」
 リナーは、おもむろにねここに訊ねる。
 ねここの目が僅かに真剣さを増した。
「…第1護衛隊群と第2護衛隊群の出港は確認できました。
 モナー君にも言いましたが、今日の夜には危険域まで到達します」

「護衛隊群…? それって、強いモナか…?」
 俺は何となく訊ねた。
 リナーは俺に視線を向ける。
「第1護衛隊群の旗艦はDDH『しらね』。第1護衛隊にDD『むらさめ』、『はるさめ』、『いかづち』。
 第5護衛隊にDD『たかなみ』、『おおなみ』。
 第61護衛隊にはDDG『はたかぜ』、そしてDDG『きりしま』。ちなみに『きりしま』はイージス艦だ。
 第2護衛隊群の旗艦はDDH『くらま』。第2護衛隊にDD『やまぎり』、『さわぎり』。
 第6護衛隊に『ゆうだち』、『きりさめ』、『ありあけ』。
 第62護衛隊に、DDG『さわかぜ』とイージス艦であるDDG『こんごう』だ」

「…よく知ってますね」
 ねここは、感嘆した様子で言った。
 …いや、艦名を羅列されてもサッパリなんだが。
「あの… もう少し分かりやすく説明して欲しいモナ。DDとかDDGって何モナ?」

「強いのか?なんて曖昧な聞き方をするからだ。強い弱いで言えば、確実に強い。
 DDとかDDGと言うのは、艦種記号だ。
 DDは駆逐艦。まあ、通常の戦闘艦だと思って構わない。
 DDGはミサイル駆逐艦。DDのミサイル複数搭載型だ。イージス艦もDDGに分類される。
 DDHは、DDのヘリコプター搭載型。対潜ヘリは、潜水艦の天敵だ。
 …で、ASAは潜水艦部隊を所有しているのか?」
 俺に解説していたリナーが、ねここに視線をやった。

「…ひみつです」
 ねここは、リナーから目を逸らす。
 うわっ…、火に油を注ぐような事を…!

「そうか…」
 だが、リナーはあっさりと引き下がったようだ。
 何故?
 ブチ切れてもおかしくないと思ったのに…

427:2004/05/23(日) 21:41

「うどん、あつい…」
 そう呟きながら、ありすはようやくうどんを食べ始めた。
 俺も、うどんをすすり込む。

「まあモナー君の『アウト・オブ・エデン』があれば、敵艦隊なんてものの数じゃないですよ」
 ねここは、とんでもない事を言った。
 何と言うか、俺に期待されても困る。
「モ、モナは海戦の事なんて分からないモナ!」
 俺は慌てて言った。
 ねここは、俺に笑顔を見せる。
「私もしぃ助教授も、そんな事は分かってますよ。こちらで全部指示するし、難しい事は全然ありません」
 その言葉を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。
 とは言え、俺に何をさせる気なのか…

「ともだち…」
 ありすはそう言いながら、俺をじっと見た。
 そして、俺のケーキに視線をやる。
 ありすは、自分のケーキは食べ終えたようだ。
 皿の上にイチゴのヘタが転がっている。

「…? モナのケーキ、欲しいモナ?」
 俺は、イチゴが2個乗っているケーキの皿に手をやった。
 こくこくと頷くありす。
 ケーキは俺の大好物だが、ここで断るのはあまりに大人気ない。
「じゃあ、あげるモナ」
 俺は、ケーキをありすに差し出した。

「ありがと、ともだち…」
 そう言って、ありすはケーキをもしゃもしゃと食べ出した。
「…モナの事をともだちと呼ぶのは勘弁してほしいモナ。
 モナはウィルスをバラ撒いたり、西暦を終わらせたりはしないモナ…」
 俺はありすに告げた。
 そんなのは無視してケーキを食べ続けるありす。

「…さすがモナーさん。相変わらず女の子に優しいですね」
 ねここは、ろくでもない事を言った。
 しぃ助教授といい、ねここといい…
 俺は、ASAに恨みを買うような事をした覚えはないが。

 俺は、ふとリナーの方に視線をやった。
 この程度、別に怒ってないよな。
「ああ、全然怒っていないさ…」
 リナーは笑顔で言った。
 ほら、大丈夫だ。
 金属製のスプーンが不自然に曲がっているのは、この際見なかったことにしよう。

「ごちそうさま!」
 ねここは、ケーキのスプーンを置いた。
「じゃあ、私はお昼の涼風人から副艦長に戻ります。行こう、ありす!」
 ねこことありすは席を立つと、食堂を出ていった。
 見れば、リナーも食べ終わっている。
「じゃあ、モナ達も部屋に戻ろうモナ…」

 部屋に戻る途中で、俺はリナーに訊ねた。
「それにしても… ねここに『ひみつです』って言われた時、よく怒らなかったモナね」
「別に怒る理由はない。潜水艦部隊の有無は、向こうにとって軍事機密だからな。
 逆に、そんな事を簡単に教えるようでは器が知れる…」

 俺は感心した。
 なるほど。色々あるんだなぁ…
「だが十中八九、ASAは潜水艦部隊を所持しているだろうな」
 リナーはそう断言した。

428:2004/05/23(日) 21:43


 俺達は、再びリナーの部屋に戻った。
 夜まではヒマである。
 リナーは、ゆっくりとベッドに腰を下ろして言った。
「さて、先程は途中になってしまったが…
 愛称が一般名詞化してしまい、混同を引き起こす事例について説明しよう」

 ゲッ! まだ終わってなかったの!?
 俺は思わず後ずさる。

「まあ座れ。先程はバズーカに触れたが、ガトリングとバルカンも混同され…」
 リナーは語り出した。
 もう、しばらくは止まらないだろう。



          @          @          @



 そして、日が暮れた。
 もはや何の話かも良く分からない。
 窓がないので見えないが、時計は7時の針を回っている。

「もう夕食の時間か… すこし中断するか」
 リナーは、時計を見て言った。
 俺はベッドから腰を上げる。
 7時間近く座りっぱなしだったので、腰が痛い。

「リナーは夕食はどうするモナ?」
 俺はリナーに訊ねた。
「食欲はないが… 君に付き合う事にしよう」
 リナーはベッドから立ち上がる。
 俺達は、揃って食堂に向かった。


 今度は、ねここ達には会わなかった。
 夕食はカレーである。
 食堂のオッサンは、量をサービスしてくれた。非常にありがたい。
「今日は金曜日… 金カレーか」
 リナーは、良く分からない事を口にした。


 俺達は、夕食を済ませて再び部屋に戻ってきた。
「いよいよモナね…」
 少し緊張する。
 一体、何をやらされるのだろう。

 ドアがノックされた。
「モナー君、御指名でーす!」
 やけに陽気なねここが顔を出す。
「持ち物は何もいらないので、前部甲板に来て下さい!」
「…分かったモナ」
 俺は返事をする。
 ねここの顔は、すぐに引っ込んだ。

「じゃあ、行くモナ」
 俺は、リナーに声をかける。
 リナーは頷いて立ち上がった。
 俺達は、遊ぶ為にこの艦に乗ったのではない。
 ASAの手伝いに来たのだ。
 心の中で気合を入れると、俺は部屋を出た。
 当然、リナーも一緒だ。

 俺とリナーは、前部甲板に出た。
 夜風が冷たい。
 何か、上に羽織るものを持ってくればよかった。
 甲板の真ん中には、ねここが立っている。
 俺達は、ねここの傍まで歩み寄った。

 風で帽子が飛ばされないように、ねここは左手で帽子を押さえていた。
「はい、どうぞ」
 ねここは、俺に無線機と小冊子を渡す。
 無線機はともかく、この本は…?
 疑問に思いながら、俺は無線機のイヤホンを装着する。
 無線機本体は、胸ポケットに固定した。
「無線機は、もうスィッチが入っています。今は、しぃ助教授に繋がっています。
 あっちに伝える時は、このボタンを押しながらしゃべって下さい」
 ねここは、無線の使い方を説明してくれた。

『聞こえますか、モナー君?』
 イヤホンから、別の艦に乗っているというしぃ助教授の声がした。
「うん、聞こえるモナ」
 俺は返答する。

『では、さっそく働いてもらいましょう。渡した冊子の12ページを開けて下さい』
 しぃ助教授は言った。
 まるで、遠足のしおりだ。

「12ページ…?」
 俺はパラパラと冊子を開いた。
 1ページにつき1機、飛行機の写真がカラーで載っている。
 しぃ助教授が指定した12ページには、胴部に大きな皿のようなものを乗せた飛行機があった。
 かなり特徴的な外見である。
 E−2Cと記されているのは、この飛行機の名前だろう。

『その飛行機、周囲に飛んでませんか?』
 しぃ助教授は言った。
「ちょっと待ってモナ。えーと…」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 とりあえず、360度完全に把握できる範囲にはいない。
 そこから先は、双眼鏡のように極端に視界が狭くなる。

 俺はもう1度写真を見た。機体の形状を頭に叩き込む。
 そして、再び顔を上げた。
 普通に視るのではなく、周囲の空間をサーチする。
 他の風景は一切無視して、この航空機だけを視界に捉えるように…

429:2004/05/23(日) 21:43

「いたモナ!!」
 俺は思わず叫んだ。
 『アウト・オブ・エデン』は、350Kmほど先に飛行しているE−2Cとやらを捉えた。

「大体でいいので、この艦の進行方向を中心にした角度でしぃ助教授に知らせてあげて下さい」
 ねここは、真剣な表情で言った。
 俺は無線機のスィッチを押す。
「え〜と、右115度の方向、362Km先モナ」
 俺はしぃ助教授に、捉えた飛行機の位置を教えた。
 少しの間。
 メモでも取っているのだろう。
『…やはり、いましたか。他には?』
 しぃ助教授は訊ねてきた。

「他は… いないみたいモナね」
 『アウト・オブ・エデン』で周囲をサーチして、俺は言った。

『では、次に7ページをお願いします』
 俺は、7ページを開く。
 片方の羽根に2個、合計4個のプロペラがついた特徴的な飛行機だ。
 P−3Cとある。

「これを探すモナか?」
 俺は訊ねた。
『ええ。そこそこの数がいると思います』
 しぃ助教授の返答。
 俺はその飛行機の外観を頭に叩き込むと、周囲をサーチした。

 コツは先程掴んだので、今度の捜索は早い。
 …400Km離れたところに1機発見。
 その近くに、もう1機。
 別の場所にもいる。
 探知可能領域には、全部で8機だ。

「8機いるモナ」
 俺は、しぃ助教授に伝えた。
「やっぱり、対潜部隊が動いていますか…」
 ねここが息を呑む。

『じゃあ、その8機の位置を教えて下さい』
「分かったモナ。1機目は…」
 俺は、しぃ助教授に全ての飛行機の場所を伝えた。
『さすがモナー君! すごいですね〜 予想以上の成果ですよ〜!』
 無線機の向こうから、上機嫌なしぃ助教授の声が伝わってくる。
「いやぁ…」
 何となく照れてしまう俺。

『こっちから聞きたいのはそれだけですが、他に何か不審な飛行機は飛んでませんか?』
 しぃ助教授は訊ねてきた。
「え〜と…」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を展開させる。
 飛行機、飛行機、飛行機…と。
 …!!

「…1機いるモナ」
 『アウト・オブ・エデン』は、380Km離れた位置に飛んでいる機体の姿を捉えた。
 胴体がずんぐりとした特徴的な機体…
 俺は、小冊子をパラパラとめくる。
 24ページに、合致する飛行機が載っていた。

「EA6−Bってのが、左12度、382Kmの位置にいるモナ」
 俺は、しぃ助教授に告げた。

「『プラウラー!?』」
 ねこことしぃ助教授は同時に声を上げる。
『プラウラーって、米空母艦載機ですよね…?』
 イヤホンから、隣にいるねここの声が聞こえてきた。
 それに、しぃ助教授が答える。
『ええ、そのはずです。機体を海上自衛隊に貸与したか、もしくは…』

「モナーさん、周囲に大艦隊はいませんよね…?」
 ねここは俺に訊ねた。
「う〜ん、いないモナね…」
 周囲をサーチした後、俺は答える。

『そうですか…』
 しぃ助教授は、安心したように言った。
『じゃあ、今日のモナー君の仕事はこれで終わりです』

「えっ… もう終わりモナ!?」
 俺は、さっきから無言のリナーに視線をやった。
 彼女は、渋い顔で腕を組んでいる。

「これが、モナーさんの役割ですよ。これから毎日お願いします」
 ねここは言った。
「任せるモナ!!」
 俺は胸を張った。全然楽な仕事だ。

「その冊子と無線機は、モナーさんが持っていてください。では、おやすみなさい!」
 ねここは、元気良く艦内に戻っていった。
 俺とリナーだけがその場に残る。

430:2004/05/23(日) 21:45


「それで… 君は良かったのか?」
 リナーは俺に言った。
 俺は、首をかしげる。
 良かったか、とはどういう意味だ?

「…何が? すごく楽な仕事…」
 その瞬間、俺は思い至った。
 俺がやった事の意味。
 ASAは、敵飛行機の位置を聞いてどうする?
 そんなの、決まっているじゃないか。

「まさか…!!」
 俺は『アウト・オブ・エデン』を展開して、さっき見つけた数々の航空機をサーチした。
 いない。
 1機たりとも、飛んでいない。
 ただ、海上に残骸のようなものが…

「E−2Cって、どういう飛行機で何人乗りモナ…?」
 俺は、リナーに背を向けたまま訊ねた。
 リナーは少し躊躇して答える。
「…E−2C・ホークアイ、早期警戒機だ。乗員は4名で非武装。半径480Kmの索敵範囲を持つ」

 4名の乗員…
 しかも、非武装…

「P−3Cは?」
 俺はさらに訊ねた。
「P−3C・オライオン。乗員は10名。潜水艦を発見、攻撃する為の機体だ」

 10人… それが8機。

「EA6−B…」
 俺は呟くように訊ねる。
「EA6−B・プラウラー。乗員は4人、通信妨害やレーダー撹乱を主とした機体だ」

 …これで4人。
 合わせて、乗員は88人だ。

「俺が、その88人を殺したのか…?」
 俺は声を震わせながらリナーに言った。
「…君が直接手を下した訳じゃない」
 リナーは告げる。
 でも…
「同じ事だろ? 俺が位置を教えなければ、その88人は死ななかった…」

 そうだ。
 完全に失念していた。
 戦争に協力するという事は、こういう事なんだ。
 俺の指摘で、確実に人が死ぬ。
 そんな事に、今頃気付くなんて…

 リナーは、そんな俺を見据えて言った。
「『空爆の最大の障害は、想像力だ』という言葉がある。君は余計な事を考え過ぎだな。
 軍用機に乗っている時点で、彼等は死ぬ事も任務のうちだ」
「でも、俺は軍人じゃない…」
 俺は言った。

 そして、思わず自分の手を見つめる。
 楽な仕事だと… 思ってしまった。
 戦争に手を貸すというのが、どんな事か全く分かっていなかった。
 そんな自分が許せない。
 俺はリナーを守る為、警官を2人殺した。
 『殺人鬼』だった時は15人もの人間を殺している。
 だが… さっきのは、信念も何もない殺害への加担だ。
 楽な仕事だと思いながら、88人を殺すのに簡単に手を貸した。
 リナーの為なら殺すのに躊躇はしないと誓ったが、さっきのは余りにも…

「E−2Cは確かに非武装だが、この機体が収拾した情報は母艦の武器になる。
 あの機の集めた情報で、この艦が沈められる可能性も充分にあった。
 君は、この『ヴァンガード』の乗員360名の命を救ったとも言える」
 リナーは言った。
 突き放したような言い方だが、さっきから彼女なりに慰めてくれているのだ。

「そうモナね… 敵は敵、きっちり区別は付けるべきモナ」
 俺は気を取り直して言った。
「まだこの艦に乗って1日だけど、武器庫の人とか、食堂の人とか…
 色々な人に、モナはお世話になったモナ。その人達を死なせたくないモナ」

 リナーは微笑む。
「それでいい。守るべき者の事さえ考えておけば、例え人を殺す事になったところで…
 決して道を誤りはしない。少なくとも、君はな」
 俺は、リナーの言葉に強く頷いた。

「さて、そろそろ艦内に戻るモナ…」
 俺は、リナーに言った。
 これ以上こんな所で2人っきりでいたら、ねここにどんなからかわれ方をするか分かったものではない。
 俺達は、艦内に戻っていった。

 明日も明後日も、俺はASAに協力して広範囲索敵を行うだろう。
 その度に、飛行機が落とされる。
 だが、それがこの艦を守る事になるのだ。
 俺は、もう迷わない――

431:2004/05/23(日) 21:46


 ――この時は、そう誓った。
 だが次の日、俺の予想を裏切る事態が起きた。
 先程の誓いは、全く無駄になったとも言える。

 飛行機の姿が、1機も視えないのだ。
 しぃ助教授の推論によれば、向こうは相当に警戒しているという事だった。
 向こうにしてみれば、レーダーの探知範囲外から一方的に撃墜されたのだから、当然と言えば当然だろう。
 稀に飛行機を発見しても、すぐに探知外へ消えていくのだ。

「初日の航空機撃墜で、『アウト・オブ・エデン』の探知可能範囲が割り出されちゃったみたいですね」
 しぃ助教授は言った。
 俺は、複雑な気分だった。
 俺の指示で、人が死ぬという事はない。
 だが、この艦にとって役立つ事もできない。
 そんな葛藤を抱え、大きな出来事もなく10日が過ぎた。

 そして、1月21日――
 この日、事態は大きく急変した。 



          @          @          @



「…どうぞ、研究の成果です」
 『蒐集者』は、枢機卿に書類を手渡した。
 航空母艦『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 その甲板に、黒いコートの男とSS制服の男は立っていた。
 枢機卿の背後には、山田が影のように控えている。

「ふむ、かなり早いな。相当急いでまとめたと見える…」
 枢機卿は、受け取った書類をパラパラとめくった。
「究極生物と吸血鬼、そして『BAOH』のハイブリッド(三種混合体)…
 本当に問題はないのだな?」

 『蒐集者』は笑みを浮かべて頷く。
「ええ。ぽろろの『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』さえあれば…
 あの遺伝子に関与するスタンドならば、何も問題はないはずです」

「やけに、あの子に肩入れするな…?」
 枢機卿は、冷笑を込めた目で『蒐集者』を見た。
「これでも、子供好きなものでね…」
 『蒐集者』は腕を組んで呟く。
 夜風で、漆黒のロングコートがはためいた。

「それにしても… この海域まで来てもう10日でしょう。随分長く待機していますね?」
 『蒐集者』は、周囲の闇を見回した。
 枢機卿は海の彼方を見つめる。
「ASAと海上自衛隊の艦隊が睨み合っているからな。もう少し見届けるのも面白い。
 これを待っていた…というのもあるがね」
 枢機卿は、受け取った書類を示した。
「2月8日にはまだまだ時間がある。まあ、のんびりやるさ…」

「『伝説の傭兵』ももう戻ってきたようですし、準備は万端と言ったところですか…?」
 『蒐集者』は、甲板に不自然に置かれたダンボールに目をやった。
「…ああ。むしろ、予定よりも早く済んでしまった。後は先行した代行者が戻ってくるのを待つのみだ。
 本格攻撃は2月8日より後にしたかったが、まあ仕方あるまい」

「それと… 1さんとやらに会いましたよ」
 『蒐集者』は告げる。
「ほう、それで…?」
 枢機卿は表情を変えない。

「とぼけてくれますねぇ…
 『Model of Next-Abortion Relive』が1体だけではなかったなんて、彼に会うまで知りませんでしたよ」
 『蒐集者』は歪んだ笑みを見せる。
 枢機卿は呆れたように言った。
「…それは知らないはずだろう。私が伏せていたんだからな」

「私を滅ぼす為…ですか?」
 『蒐集者』は、枢機卿を見据える。
 枢機卿は笑った。
「当然だろう。次の世に、お前の居場所があるとでも思ったか? 幻の最強を求めし道化師よ…」

「偽りの理想を求める貴方に、それを言われる筋合いはありませんがね。
 『教会』による至福千年の平和統治など、所詮は夢物語に過ぎない」
 『蒐集者』のコートが軽くはためく。
「貴方が動いた後に残るのは、千年の平和などではない。破壊と殺戮と、幾億の屍のみですよ」

432:2004/05/23(日) 21:47

 枢機卿は、組んでいた腕を下ろした。
 袖元に仕込んである拳銃のグリップを軽く握る。
「59億が死のうが、1億は生き残る。それでも少し多いがね。
 そろそろ、この辺で文明を後退させねばなるまい。過ぎた玩具は愚民に毒だ」

「それで貴方が…? 誰よりも『戦争』を知っている貴方が…?」
 『蒐集者』は笑った。
 枢機卿も笑みを見せる。
「誰かがやらねばならんのなら、私が… 『教会』がやるしかあるまい。
 我々こそが、神に選ばれし神罰の地上代行者。絶対殺害権を行使する者。
 私こそが真の平和主義者。あらゆる争いの根絶を心から願っているのだよ」

「随分と夢想家な事だ… 実に面白い。『戦争』に呪われているのは、人類ではなく貴方の方だというのに」
 『蒐集者』は甲板に並ぶ航空機や、随伴する超々弩級戦艦『ビスマルクⅡ』に視線をやった。

「お前の方こそ夢物語だ。お前の求める最強こそ、世界のどこにもない。
 この世の者を殺し尽くし、残ったお前が最強か?」
 枢機卿は、『蒐集者』を見据える。
 その視線を薄笑いで受け止める『蒐集者』。
 枢機卿は、『蒐集者』の方に一歩踏み出した。
「お前は、すでに神に背を向けし者。『教会』の道を阻むと言うなら、この場でその身を滅ぼしてくれる」
 枢機卿の背後の空間が歪む。

「面白い。ここで私と一戦交えようと…?」
 『蒐集者』のコートが大きくはためいた。
 枢機卿の背後に控えていた山田が青龍刀を構え、鋭い殺気を向ける。

 『蒐集者』は、周囲から幾多もの強い殺気を感じ取った。
 戦闘機の羽の部分に、不敵な笑みを浮かべた男が座っている。
 艦橋部分では、軍装の男が狙撃銃でこちらを狙っていた。
 甲板に置かれたダンボールの中にも、裏の世界で勇名を轟かせた男が潜んでいる。
 他にも、甲板には2人の女学生、肥満した男、包丁を手にした狂人、円筒状の身体を持つ機械人形などの姿があった。

「…なるほど。流石は『ロストメモリー』、一筋縄ではいきそうにないですねぇ…」
 『蒐集者』は軽く両手を広げる。
「それだけではない。お前を敵に回すならば… 『リリーマルレーン』、使わざるをえんだろう」
 枢機卿は、SS制服の裾を翻した。
「さて、どうする…? この場で事を構えるか?」

「…止めておきましょう」
 『蒐集者』は笑みを浮かべて言った。
「貴方の『リリーマルレーン』を完全に消滅させるのは面倒すぎる。
 それに、ここで『ロストメモリー』に欠員でも出したら、私の予定も違ってきますしね…」

「その方が私も助かるな。ここで血を流すには、まだ少し早い…」
 枢機卿は、山田を押し留めるように片手を差し出した。
 行く必要はない、という合図だ。
 山田は青龍刀を下ろす。

「…では、私はこれで。ぽろろに関する事以外、同盟は破棄という事でいいですね」
 『蒐集者』は背を向けた。
「ああ。『教会』はお前を異端と認定する。神の名において滅ぶがいい」
 枢機卿は告げる。
「その時を、楽しみにしていますよ…」
 『蒐集者』の姿は、夜の闇に溶け込むように消えていった。

433:2004/05/23(日) 21:48

 枢機卿はため息をつく。
「…山田殿、奴をどう見る?」
 そして、後ろに控える山田に訊ねた。

「隙だらけだな。容易く斬れる…」
 山田は即座に答えた。
「…だが、斬った後が思い浮かばん。斬ってどうなるのだ、という疑問すら浮かぶ。
 我らも既に人ではないが… あれは、一体何者だ?」

「大した事はない。道を踏み外した求道者に過ぎん…」
 枢機卿は呟いた。
 山田は枢機卿を見据える。
「そう言えば… 『リリーマルレーン』だったか。貴殿の能力も聞いてはおらん。
 能力を容易く他人に教えないのは当然だろうが、護衛に対しては話が別だろう?
 貴殿の得意とする間合いや苦手な間合いを知っておかねば、守るものも守れぬ」

「なるほど、それもそうだな。では、私の護衛を解任しよう。私に護衛は必要ない」
 枢機卿は笑って言った。
「…!!」
 山田は表情を歪ませる。
「…そうまで私は信用がないのか?」

 枢機卿は腕を組んだ。
「そうではない。 …私は、自らのスタンド能力が嫌いなのだよ」
「自らに害を及ぼす類の能力か?」
 山田は訊ねた。
 枢機卿は首を横に振る。
「…いや、単に嫌いなだけだ。
 文献によれば、『過去の記録』を掘り起こすスタンドというのがあったという。
 また、『屋敷幽霊』という異空間に入り込めるスタンドが存在したそうだ。
 この2つを合わせたようなスタンド… と、今は言っておこう」
「異空間だと…? それは、随分と大仰だな」
 山田は言った。

「『リリーマルレーン』の中にある物はこの通り、いつでも取り出せる」
 枢機卿の前の空間が歪み、何か黒いものが突き出た。
 それは、そのまま甲板に突き刺さる。
 ――MP40。
 『シュマイザー』と渾名され、ドイツ戦線で猛威を振るった短機関銃だ。

 枢機卿は、その銃を手にした。
「こんな風に、山田殿のスタンド能力と良く似た戦い方も可能だ」
「…!!」
 山田は目を見開いた。
「『極光』の使い方をご存知であったか…」

「フフ… 互いに、隠し事が多い」
 枢機卿は、MP40を空中に放り投げた。
 そのまま、空間の歪みに消えていく。

 戦闘機の羽に座っていた男が、甲板に飛び降りた。
「ところで… 僕らの出番はまだかい? 10日もこんなところにいたら、潮風でサビちまうよ」

「のんびりと構えるは飽きたかね、ウララー殿?」
 枢機卿は、ウララーの方を向いて言った。
 ウララーは枢機卿を睨みつける。
「そりゃそうさ。僕は壊したくて仕方ないんだ。いい加減にしないと、この船を壊すよ?」

「それは勘弁したまえ。総建造費がいくらかかったと思っている…?」
 枢機卿は冷徹な笑みを浮かべながら、甲板に置いてあるBf109に歩み寄った。
 外見こそ60年前のレシプロ機と同じだが、性能は別物と言っていい。

「仕方ない。そろそろ始めるか…」
 枢機卿は、Bf109に飛び乗った。
 無造作にキャノピーを開けると、操縦席に座る。

「じゃあ、行っていいのかい…?」
 ウララーが歓喜の表情を見せた。
「北海道にある6つのレーダー・サイトは、君が潰すと言っていたな。 …行きたまえ。煉獄の始まりだ」
 枢機卿は告げた。

「フフフフフ… あっはっはっはっは!!」
 ウララーは、笑いながら甲板を歩く。
 そのまま柵を乗り越え、甲板の縁ギリギリに立った。

434:2004/05/23(日) 21:49

「…『ナイアーラトテップ』」
 ウララーが、自らのスタンド名を呟いた。
 周囲に、大きな衝撃が発生する。
 柵が吹き飛び、彼の立っている付近の甲板に無数の亀裂が走った。

 ウララーの背中から、大きな羽根が突き出た。
 それは天使のような翼ではなく、蝶の羽根に酷似している。
 その羽根が大きく羽ばたいた。周囲に黒い燐粉が飛び散る。

 この羽根こそが『ナイアーラトテップ』。
 彼のスタンドである。

「はっ、ははははははははははは!!」
 空母の甲板を蹴り、ウララーの体は大きく飛翔した。
 そのまま、高度を上げ、高度を上げ、高度を上げ――
 燐粉を撒き散らしながら、とてつもない速度で上昇していく。
 彼の体は対流圏を突破し、成層圏に到達した。
 上昇するにつれ、温度が高くなる。
 やがてウララーの体は熱圏を振り切り、そのまま外気圏に飛び出した。

「あはははははは!! 久し振りだけど… 調子はいいみたいだね!! はははは!!」
 彼の背中に生えた『ナイアーラトテップ』から、燐粉が飛び散っている。
 それは、ウララーの体を守るように周囲に広がった。
 狂笑を上げながら、なおも直進し続けるウララー。
 唯一の衛星、月が彼の目前に迫る。

「月…!!」
 ウララーは、そのまま月の重力圏に突入する。
 眼下に広がる巨大なクレーター。暗い砂漠。生物の存在しない死の世界。

「はははッ!! 人類にとっては大きな一歩だが…」
 ウララーは羽根を翻して月の地表ギリギリまで接近すると、その地を大きく蹴った。
「僕にとっては小さな一歩ってヤツだァッ!!」

 とてつもない衝撃。
 渦を描きながら巻き上がる砂塵。
 ウララーの進行方向が真逆になる。
 そのまま、彼は真っ直ぐに飛翔した。
 再び月の重力圏を出る。

 ウララーは、目の前の深蒼の星に向かって宙空を駆けた。
 そのまま、彼の体は大気圏に再突入する。
 北半球、ユーラシア大陸の近くの小さな島国。
 その、さらに小さな北の島目掛けて。
 多大な熱と羽根が反応し、乾いた音を立てる。
 徐々に周囲の温度が下がる。等温層に入ったようだ。

「来たぞ、来たぞ、来たぞ、来たぞ、来たぞォォォォォォォォッ!!」
 まるで彗星のように、ウララーの体は落下していった。
 そのまま、彼は地表に激突する。
 その衝撃は、まるで爆発のように大地を砕いた。
 周囲の建造物は全て吹き飛び、緑の大地は荒涼な砂漠と化す。
 まるで、先程の月の地表のように。

 それでもなお、ウララーの勢いは衰えない。
「チッ… 田舎か…!!」
 ウララーは高速滑空しながら舌打ちした。
 遥か彼方に、明かりが見える。
 街だ。それも、かなり大きい…!!

435:2004/05/23(日) 21:49

「あははははははァ!! 混沌に呑まれろォォォォォッ!!」
 ウララーは、街目掛けて飛翔した。
 明るい光で彩られた夜の街が、みるみる近付いてくる。
 建物の明かりや店のネオン、車のライトが彼を迎えた。
 ウララーの羽根から飛び散る燐粉が、鮮やかな光を放つ。
 その光は乱反射し、質量を持って地上物を破壊した。
 光の直撃を受け、派手に吹き飛ぶ車。
 崩れていく建物。
 削れていく道路や地面。
 そして、人形のように吹き飛んでいく人間達。

「…面白いなァ!! どうだ人間!! お前達も面白いだろう!! あははははは!!」
 ウララーの体は、高層ビルに激突した。
 その瞬間、ビルは光に包まれる。
 『ナイアーラトテップ』から放たれた光に削られ、高層ビルは吹き飛んでいった。
 舞い散る瓦礫。
 パニックを起こし、逃げ惑う人々。
 そして、それらを平等に呑み込んでいく鮮やかな光の渦。
 街は、混沌に包まれた。

「なぁ、凄いだろう。どうだい、僕の『ナイアーラトテップ』はッ!!」
 ウララーは、建造物… いや、地表ごと破壊しながら空を一直線に駆けた。
 すでに街は過ぎ、彼の体は山に突入する。

「さて… そろそろ仕事でもするか…」
 ウララーは、少しだけ進行方向を変えた。
 木を吹き飛ばし、山を削り、破壊の限りを尽くしながら、彼は直進する。
 目の前に、ドーム状の建物が見えてきた。

「フン… あれが、レーダーサイトか」
 ウララーは呟く。
 何かが、彼目掛けて高速で接近してきた。

 ――ペトリオット地対空ミサイル。
 航空自衛隊が有する防空兵器である。
 それが、6発。

「そんなものがなァァァァァッ!!」
 ウララーの周囲に燐粉が舞った。
 鮮やかな光が周囲の空間を包み込む。
「通用するワケねーだろォォォォォォッ!!」

 光に巻き込まれ、ペトリオットは全て爆散した。
 それだけだはなく、光の渦はレーダーサイトをも包む。

「壊れろ、潔く、潔く、潔く、僕の前でなァァァァァ!! アハハハハハ!!」
 ドームに巨大な亀裂が入る。
 過大な重圧を受けたように建物が崩れ、周囲に広がる鮮やかな光に削り取られた。
 瞬く間に、レーダーサイトは爆砕する。

「まず1つ、と…」
 ウララーは数えるように指を折る。
 周囲の森林も軒並み削り取られ、山肌は茶色い土を晒していた。
 その様子を滑空しながら満足げに眺め、ウララーは笑みを浮かべた。

「さぁて… あと5つか」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

436ブック:2004/05/24(月) 01:38
     EVER BLUE
     第十六話・TALK 〜探り合い〜


 オオミミと天が一緒に甲板に出て来た。
 天が甲板の手すりに背中を預ける。

「そういえば、あの時の天のスタンドって凄かったね。
 あれ、一体どういう仕組みなの?」
 オオミミが天に尋ねた。
 僕の予想では、これは本題ではない。
 いきなり本題を切り出すのも何なので、軽い世間話から入ろうという腹だろう。

「…自分の能力をペラペラ話すスタンド使いが居ると思うわけ?」
 不機嫌そうな顔で、天が答える。
 内心ムカついたが、天の言う事も尤もだ。

「ご、ごめん。
 でも、あんなに凄い力があるのに、
 どうして捕まってた時に能力を使って逃げなかったんだろう、と思って…」
 オオミミが言葉を濁す。
 言われて見ればその通りだ。
 あれだけの力、使わずに大人しく捕まるなんて、この女の性格から見ても考えられない。

「何でアタシが一々あんたの疑問に答えないといけない訳?」
 オオミミを見据える天。
 糞生意気な女め。
 鼻から親指突っ込んで、奥歯ガタガタいわせたろか。

「ごめん…」
 オオミミがしょぼくれる。
 だから、君がそうやって下手に出るからこの女が付け上がるんだよ。
 何回言ったら分かるんだ?

「…アタシの能力は、二重の意味で一人じゃ使えないのよ。」
 天がやれやれといった風に口を開いた。

「え…?」
 オオミミが不思議そうに聞き返す。

「だーかーら、アタシのスタンドは個人プレイが出来ないって言ってるの!
 同じ事何回も言わせる気!?」
 天がやや怒り顔になる。
 こいつがオオミミの質問に答えるとは、意外だ。

「特別にもう一つだけヒントあげるわ。」
 そう言って、天は懐から何やらごそごそと取り出した。
 それをオオミミに突きつける。

「傘…?」
 オオミミが呟く。
 そう、何の変哲も無い折り畳み傘。
 これが、能力と何の関係があるのだ?

「そう、傘よ。
 じゃあ、何であんたはこれを傘だと思ったの?」
 天がオオミミに質問した。
「え?だって、これどっからどう見たって傘…」
 オオミミが訳が分からないといった顔で答える。
 何を言ってるんだ、この女は。
 禅問答でもするつもりか?

「…つまりは、そういう事よ。
 これがアタシの『レインシャワー』の力。
 後は自分で考えなさい。」
 天がそう言って会話を打ち切る。
 結局どういう事なのか皆目見当がつかない。
 全く、勿体つけやがって。

「あの、何で俺にこんな事を?」
 オオミミが尋ねた。
「別に。あんたになら少々教えた所で害は無さそうだし。」
 そっけなく答える天。
 つまりは、オオミミが自分にとっては敵にすらならない腑抜けと言いたい訳か?
 どこまで厭味な女なんだ。

437ブック:2004/05/24(月) 01:39

「…そんな事より、こんな事を聞くためにわざわざ呼びつけたんじゃないんでしょう?」
 天がオオミミに向き直る。
 やはり、天も今のが本題ではない事には気づいていたみたいだ。

「…うん。」
 オオミミが天から視線を逸らす。
「あの、さ。
 天はサカーナの親方には、あの『紅血の悪賊』が何を運んでいたのか知らない、
 って言ってたよね。
 でも、あの女吸血鬼も、男の吸血鬼も、天に変な視線を送ってただろ?
 だから…」
 意を決したようにオオミミが口を開いた。
 というかオオミミ、こんな女に遠慮する必要は無いぞ。

「だから、何よ?
 本当は何か知っているのかこっそり教えてくれ?
 教えないと酷いぞ?
 それともアタシの弱みでも握ったつもりかしら?」
 天が責めるようにオオミミをなじる。

「違う!
 俺は、天が言いたくないなら皆にはこの事は黙っておくつもりで…」
 オオミミが必死に否定する。
 馬鹿、オオミミ。
 そんな事、皆の前でバラしてやればよかったのに。

「…呆れたお人好しの偽善者ね、あんたって。」
 天が大きく息を吐いた。

「ごめん。こんな事、聞かない方がよかった。
 だけど、『紅血の悪賊』や帝國の狙いが何なのか分かれば、
 対策の立てようがあるかもしれない。
 だから、出来れば教えて欲しいと思って…」
 オオミミが呟くように天に言う。

「…悪いけど、本当にアタシは何も知らないわ。
 大方、『紅血の悪賊』が何か勘違いしてるんでしょ。」
 天がもたれ掛かっていた手すりから離れる。
「話は終わり?
 なら、そろそろ部屋でゆっくりさせて貰うわね。」
 天はそう言い残すと、そそくさとその場を離れようとした。

「ごめん…」
 天の背に、オオミミが何度目かの謝罪の言葉を向ける。

「……」
 と、天が急に足を止めた。
「…アタシこそ、ごめんなさい。」
 …ごめんなさい?
 何に?

「天―――」
 オオミミが天を引きとめようとしたが、天はそのまま走り去ってしまった。
 オオミミが一人、その場に取り残される。

(オオミミ、何であんな奴にそんなに気を使うんだよ。)
 僕はオオミミに文句を言った。
 オオミミはあの女の尻にしかれてばっかりだ。
 ここは一つ、僕がきっちり言っておかねば。

「…ごめん、『ゼルダ』。」
 オオミミが呟いた。
 本当に君は、そうやって誰にでも謝ってばっかりだな…

438ブック:2004/05/24(月) 01:40



     ・     ・     ・



 オオミミが甲板から降りてから少しして、三月ウサギが物陰からぬるりと現れた。
 三月ウサギのマントが、風を受けて緩やかにはためく。

「盗み聞きなんて、趣味が悪いですよ。」
 と、後ろから軽い声がかかった。
 大して驚きもしない様子で、三月ウサギがゆっくりと振り返る。

「人の事は言えないだろう。」
 三月ウサギが静かに告げた。
 後ろに立っていたのは、タカラギコだった。

「あらら、ばれちゃってましたか。
 姿だけでなく、気配も消しておいた筈なんですけどねぇ。」
 タカラギコが笑いながら頭を掻く。
 三月ウサギは、そんなタカラギコを冷ややかに見つめた。

「…で、どうするんですか?
 今のを、サカーナさんに伝えておくんですか?」
 タカラギコが三月ウサギに尋ねた。

「…ふん。
 あの親父だって間抜けじゃない。
 あの女の嘘なんざ、とっくに見抜いているだろう。
 それに、無理矢理秘密を聞き出した所で、
 『紅血の悪賊』に狙われている事は変わらん。
 それに相手は、『盗んだものを返すから見逃してくれ』、
 などという取引が通用するような相手じゃない。
 どの道戦うか、逃げるか、死ぬかしか選択肢は無いんだからな。
 ならば奴らが何を狙っているかなど、今の所聞くだけ無駄だ。」
 事も無げに、三月ウサギが答える。

「兎に角今は安全な場所に移動して、
 詳しい事を聞くのはそれから、ですか。」
 タカラギコが肩をすくめた。
「ふん、さてな。」
 三月ウサギが手すりに腕を置く。

「しかし、内心気が気ではないのではないですか?
 オオミミ君があなたを差し置いて女の子と二人っきりでお喋りして。」
 タカラギコがからかうように言った。

「…今ここで死ぬか?」
 三月ウサギがマントの中から剣を取り出す。
 無数の刃物が、甲板に突き刺さった。
「ちょ、ちょっと、冗談ですよ!
 暴力はいけません暴力は。」
 タカラギコが慌てて三月ウサギをなだめる。

「……」
 タカラギコの余りに情けない声に気を削がれたのか、
 三月ウサギは無言で刃物をマントの中に戻した。

「いや失敬。
 どうも昔から私は一言多いみたいでしてね。
 同僚にもよく注意されましたよ。」
 タカラギコが剣を収める三月ウサギを見て胸を撫で下ろす。
 三月ウサギは完全にやる気を無くして溜息を吐いた。

439ブック:2004/05/24(月) 01:40

「…貴様、どこまで知っている?」
 三月ウサギが、話題を変えた。
「知っている、と言いますと?」
 そう聞き返すタカラギコ。

「とぼけるなよ。
 帝國の軍事機密が何なのかは私にも全く分からない、
 などという言葉を、完全に信用しているとでも思っているのか。」
 三月ウサギがタカラギコを睨む。
 しかしタカラギコはその視線を軽く受け流した。

「そんな恐い顔しないで下さいよ。
 ただでさえ、さっきのサカーナさんの気迫に圧されて
 肝を冷やしたばかりなのですから。」
 よくもまあ抜け抜けと、と三月ウサギは思った。
 タカラギコは意図的に自分の実力を隠していると、三月ウサギは考えていた。
 むろん、彼もタカラギコと闘って負けるとは考えてはいない。
 だが、何と言うかタカラギコは底が知れないのだ。
 強いとか弱いとかという問題では無く、もっと、別の何か…

「…前に言ったように、こちらもまだ手札を全て見せるという訳にはいきません。
 色々ややこしい問題もありますので。
 ですが、今の所私はあなた達の敵ではありません。
 その点だけは、信用して頂けませんか?」
 タカラギコが三月ウサギの顔を見た。
「『今の所』、か。
 ずいぶんとまあ胡散臭い言葉だな。」
 皮肉気に三月ウサギが呟く。

「すみません。
 こちらもこれから状況がどう変わっていくのか分かりませんので、
 どうしても曖昧な言葉を使わざるを得ないのですよ。」
 タカラギコが申し訳無さそうに言う。

「信用がならない、という点においては信用出来るというやつだな。」
 三月ウサギがタカラギコを見据える。
「これは手厳しい…」
 タカラギコが苦笑する。

「まあ、私があなたの立場なら、矢張り私のような人間は信用しませんけどね。
 ですがまあ、ご一緒させて頂く以上は全力であなた方を護衛させて頂きます。」
 タカラギコが微笑みを浮かべた。

「好きにしろ。」
 三月ウサギがそっぽを向いて答える。
「…だが、少しでもおかしな真似をしてみろ。
 その瞬間、貴様の頭と胴が切り離されるぞ。」
 三月ウサギが低い声で告げた。

「…肝に銘じておきます。」
 タカラギコは相変わらずの笑顔のままでそう返す。


「…そろそろ、島に上陸のようだな。」
 三月ウサギが呟く。
 甲板からは、島の港がすぐそこまで近づいているのが見て取れるのだった。



     ・     ・     ・



 ややくたびれた感じのホテルの廊下を、数人の男が慎重に歩いていた。
 その手には、十字架を模した銃や剣が握られている。
「……」
 先頭を歩いていた男が、手を出して後続の進行を止めた。
 そして、廊下の奥の方にある部屋の一つを指差す。

「…これより、突撃する。
 いいか、相手はあの『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』だ。
 決して気を抜くな。
 日中とはいえ、並みの吸血鬼以上の力を持つと思え。」
 先頭の男の言葉に、後ろの男達が頷く。

「行くぞ…!」
 男達が、部屋のドア目掛けて駆け出した。



     TO BE CONTINUED…

440:2004/05/24(月) 23:07

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その3」



          @          @          @



「月…?」
 モララーは、BARの窓から夜空を眺めた。
「…どうかしたのかょぅ?」
 マスターのぃょぅは、そんなモララーを不審そうに見る。
「…いや、何でもないよ」
 モララーは視線を逸らした。

 ギコは、カウンターに座ってどこかに電話をかけていた。
 地下の秘密基地の電話を使わずに、自分の携帯電話を使っている。
 おそらく、私用だろう。

「10日もBARに入り浸りなんて、ただれてるよね… 僕ら」
 モララーは呟く。
「それにしても、進展がないね…。モナー君達もなかなか帰ってこないし」

 しぃはオレンジシュースを一口飲むと、グラスをカウンターに置いた。
「学校だって休みのままだし… どっちにしても、学校に行ける身の上じゃないけど」
 そう言って、ため息をつくしぃ。

 ここのマスターであるぃょぅは、未成年には絶対にアルコールを出そうとしない。
 その件でモララーがかなり噛み付いたが、ぃょぅは頑として受け付けなかった。
 ちなみに、レモナとつーはぃょぅの『未成年』の範疇には当て嵌まらないらしい。
 それ以前に、2人は人間ですらないが。

「…おう、分かった。じゃあ」
 ギコは、電話を切った。
「誰にかけてたの? 女?」
 モララーが訊ねる。
 しぃの目が鋭く光った。

「まあ、女ってのは確かだが… 人外の一種だ。しぃ助教授とちょっとな。
 明日、モナー達の様子でも見に行こうと思って」
 ギコは携帯を仕舞いつつ言った。
「だから、そんなに睨むなよ…」
 そして、しぃに怯えた視線を向ける。

「えっ!! 僕も行く!!」
 モララーは叫んだ。
 露骨にため息をつくギコ。
「だから、ここの守りはどーすんだよ。俺達は、お尋ね者なんだからな。
 大体、大人数で行ったらあっちに迷惑じゃねーか」
 レモナとつーにも、同じ事言わなきゃならないんだろうな…
 …などと思うと、嫌になってくる。

「でも、かなり陸地を離れてるんでしょ? どうやって乗り込むの?」
 しぃは首を傾げて訊ねる。
「ぃょぅが、ヘリで送ってあげるょぅ」
 カウンター内で話を聞いていたぃょぅは言った。
「マスター、ヘリの操縦できるの?」
 モララーはぃょぅに視線を向ける。
「昔、ヘリの操縦士をやってた事があるょぅ」
 ぃょぅは胸を張った。
「じゃあ、乗っけてってもらおうかな」
 ギコは腕を組んで、店の端に置かれたソファーにもたれた。

「で、モナー君はどう? 危険な目に合ってない?」
 モララーは訊ねる。
「こっちと同じ。膠着状態だそうだ」
 ギコはため息をついた。

「どうも、自衛隊側の動きが緩慢なんですよねぇ…」
 鐘の音と共に、BARの入り口の扉が開く。
 コンビニに買い出しに行っていた局長が帰ってきたようだ。

「向こうが何か企んでるって事か…?」
 ギコは、局長に視線をやる。
 局長はギコに煙草の箱を差し出した。
「そうでしょうねぇ… 吸いますか?」

「…ギコ君は未成年だょぅ」
 ぃょぅは局長を睨んだ。
 ギコが口を開く。
「煙草は止めた。俺は仮にもスポーツマンだし、しぃも嫌がるしな…」

 局長はカウンター席に座ると、煙草に火をつけた。
 リル子とレモナは、後ろの丸テーブルで飲み続けている。
 どうやら、この2人はウマが会う様子だ。
 レモナが酔わないのは当然として、リル子に全く潰れる気配はない。

「虎…!」
 その様子を見て、ギコは呟く。
「お酒強い女の子って、ステキだよね…」
 モララーは瞳を輝かせて言った。
 つーは部屋でおやすみ中である。
 早寝早起きがモットーらしく、妙なところで健康的だ。

「自衛隊は大人しいし、米軍とどの程度結託しているのかも分かりませんしねぇ…」
 局長は紫煙を噴き出した。
 首相官邸に現れたモナークの事も気に掛かる。
 彼は、一体あそこで何をしていた…?

「まあ… 明日ASAの艦に行くんなら、そこら辺の意見も聞いてきてくれません?
 貴方なら、向こうの信用もあるでしょうし」
 局長は、灰皿を手繰り寄せながら言った。
「ああ…」
 ギコは頷くと、腰を上げた。
 その手には、以前にリナーから貰った日本刀がある。

「…辻斬りですか?」
 局長が怪訝な目を向ける。
「…駐車場で素振りだゴルァ! なんつーか、新しいモノが産み出せそうな感じなんだよ…」
 ギコはそう言うと、BARから出ていった。

441:2004/05/24(月) 23:08



          @          @          @



 俺は、カレンダーを見た。
 今日は1月21日。
 もう、10日もこの艦に乗っている事になるのか…

「朝ですよー!! …って、もう起きてますね」
 ねここが、ノックもせずにドアを開けた。
「フフフ… 全てが貴様の思い通りに行くと思うなモナァッ!!」
 俺は、腰に手を当て勝ち誇る。

「今日、ギコさんが様子を見に来るそうですよ」
 そんな俺を無視して、ねここは意外な名を告げた。
「えっ、ギコが…!?」
 俺は思わず声を上げる。
 彼と会うのも久々だ。
 まあ様子を見に来てもらったところで、こっちは別に激戦を繰り広げているという訳でもないのだが。 

「いつ頃こっちに来るモナ?」
 俺はねここ訊ねた。
「え〜と… 確か、今日の夜頃に到着するようです」
 ねここは答える。

「じゃあ、今日の夜もよろしく頼みますね!」
 ねここはそう言って、俺の部屋から出ていった。
 今夜もよろしく…か。
 フフフ…

 俺はベッドに腰を下ろした。
 どうせ、今日も飛行機は見当たらないだろうな…
 …などと思った頃が最も危ない。
 その位は、俺にも分かっていた。
 俺はベッドに寝転がる。
 どうせ昼間はやる事がない。と言うか、甲板に出られない。
 このまま2度寝するか…


 そして、リナーと無為に過ごす午後。
 何故か、銃の解体スピード勝負で盛り上がってしまった。
 銃を解体する速度は、意外な事に俺の方が早かったのである。
 もちろん、『アウト・オブ・エデン』を使った事は言うまでも無いが。
 リナーの負けん気が大いに刺激されたらしく、何度も勝負を挑んできた。
 だが、分解や解体にかけては俺の方が上だ。

「ま、まさか… この分野で君に負けるなんて…」
 分解された30挺近くの銃を周囲に散乱させながら、リナーはがっくりと肩を落とした。
 俺に負けたのが相当に悔しいようだ。
 気がつけば、すでに夕食時である。


 そして、夕食も終えた夜の8時。
 俺とリナーは、甲板に立った。
 背後には寒そうなねここがいる。
 この10日間で日常となった光景であった。

「いないとは思いますが… 念の為にお願いしますね」
 ねここは言った。
「いやいや、これをやる為にモナがいるモナよ…」
 そう言いながら、俺は『アウト・オブ・エデン』の視線を展開した。
 そして、飛行機をターゲットにして周囲をサーチする。
 普通に360度全ての視界を把握するなら、50Kmが限度。
 しかし目標物を絞ったサーチならば、500Kmまでは索敵できる。

 中心は、当然この艦『ヴァンガード』。
 右側の少し離れたところに、しぃ助教授の乗る同型艦『フィッツジェラルド』。
 この艦が旗艦、すなわち艦隊のリーダーらしい。
 そしてこの2隻を囲むように、4隻の艦が展開している。
 この10日、艦隊はずっとこの配置だった。
 リナーの話によれば、中央に主力を集め護衛艦で囲むのを輪形陣と呼ぶようだ。
 ともかく、敵飛行機の機影は見当たらない。

「…やっぱり、いないモナね」
 俺は言った。
『そうですか。では、今日はこれで…』
 無線のイヤホンからしぃ助教授の声がする。
 相変わらず、俺がサーチできる半径500Km以内には航空機は1機もない。
 だが…

「あの… サーチするのは飛行機だけでいいモナか?」
 俺は、背後のねここに訊ねた。
「え…? 何かいましたか?」
 ねここは首をかしげる。

「すぐ近くに、潜水艦がいるモナ…」
 困惑しながら俺は告げた。
「…!!」
 ねここの血相が変わる。

442:2004/05/24(月) 23:09

『無音潜航ですって…!? モナー君、距離と方位、そして深度は?』
 しぃ助教授は早口で言った。
 その様子は尋常ではない。
「右12度、距離3Km、深度200mモナ…」

『3Km!! いつの間に…!!』
 しぃ助教授の焦りや当惑が伝わってくる。
 ねここは素早く無線機のボタンを押した。
「副艦長よりCIC(戦闘情報指揮センター)へ! 至急、対潜準備! 探信音を打って下さい!!」
 そう指示を出すねここ。

『感あり、1隻います!! 距離3000!! 艦種、海上自衛隊『おやしお』型!!』
 イヤホンから、張り詰めた声が伝わってきた。
 CICにいる通信士だろう。

 俺は、『アウト・オブ・エデン』で潜水艦の動きを探る。
 まるで潜んでいるように、その場から動かない。
 その機体横部の発射口が開き、何か円筒状の物体が…
 これは、もしかして…!!

「魚雷モナ!!」
 俺は叫んだ。
「転舵――!! 面舵一杯です!!」
 ねここは大声で指示を出した。
 艦が大きく進路を変え、魚雷の回避を…!!

 その瞬間、艦が大きく傾いた。
 凄まじい衝撃。
 爆音と共に、10mほどの巨大な飛沫が上がる。
 艦がグラグラと揺れ、俺は甲板に転がった。
「…大丈夫か?」
 リナーが即座に俺を引き起こす。

『右舷に被弾!!』
 通信士の必死な声が無線のイヤホンから伝わってきた。
「ダメージコントロール、被害状況を報告して!!」
 ねここが叫ぶ。
「右舷損傷、被害は軽微です! システム・オール・グリーン! 航行に支障はありません!!」
 クルーからの返事。
 どうやら、大した損傷はないようだ。

『全艦、全速前進です!!』
 しぃ助教授の指示が飛んだ。
 この艦を含む艦隊の各艦が、急速にスピードを上げる。

「敵潜水艦は、どこへ…!!」
 ねここは、俺の顔を見た。
 俺は慌てて『アウト・オブ・エデン』を展開する。
 敵は…!!

「しぃ助教授の艦の真下モナ!!」
 俺は叫んだ。
 魚雷を放つと攻撃と同時に、急浮上してきたのだ。
 何の意図で、そんな所にいるんだ?

『真下…!? いつの間に!!』
 しぃ助教授が叫ぶ。
『敵艦確認しました! 距離10、深度30!! 艦底ギリギリの位置です!!
 先程の急速発進の際、スクリュー破泡音に紛れて接近したようです!!』
 これは、しぃ助教授の艦の通信士の声だろう。
『あの一瞬で、そんなギリギリまで接近を… 向こうの艦長は化物ですか!?』
 しぃ助教授の、驚きを帯びた声が伝わってきた。

「このままじゃ、しぃ助教授の艦が…!!」
 俺は、叫び声を上げる。
「大丈夫です。あそこまで接近していれば、逆に向こうも攻撃できません。
 水上の衝撃がモロに伝わる深度にいますから…」
 ねここは言った。
 だが…
 そうなら、こっちからも攻撃できないという事だろう。
 しぃ助教授の艦を巻き込んでしまうのだから。

 リナーが口を開いた。
「最初の攻撃は威嚇同然だ。それによってこちらの船足が早まるのを誘い、その隙に接近した。
 あの位置に入れば、向こうは攻撃を受けない… 向こうの艦長、かなりの凄腕だぞ」
「簡単に言いますが… 距離10mまで接近してるんです。
 ちょっとでも操艦を誤れば、艦底に激突ですよ…?」
 ねここは汗を拭いて言った。

「ああ。信じられん戦法を取る奴だ」
 リナーは、海面に視線をやる。
「しかも、たった1隻で挑んでくるとは…」

 俺は、しぃ助教授の艦『フィッツジェラルド』にぴったりとくっついている潜水艦を視た。
 今度は、何を仕掛けてくる気だ…?

 再び、魚雷発射管が開く。
「…また魚雷が来るモナ!!」
 俺は、声を振り絞って叫んだ。

443:2004/05/24(月) 23:10



          @          @          @



 『フィッツジェラルド』のCICは混乱に包まれていた。
 真下に、敵潜水艦が張り付いているのだ。
「敵潜水艦に動きは…?」
 しぃ助教授は、クルーに訊ねた。
「まだ、動きはありませんが…」

『…また魚雷が来るモナ!!』
 無線機から、モナーの叫び声が聞こえた。
「水側長! 報告を!!」
 丸耳は叫ぶ。

「…敵潜水艦、魚雷発射を確認!! 目標は…」
 水側長は、ディスプレイを注視した。
「当艦でも、『ヴァンガード』でもありません!! 僚艦の『ヘミングウェイ』ですッ!!」
 大声で報告する水側長。
「『ヘミングウェイ』回避運動を取っていますが… 間に合いません!!」

「くッ…!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
「命中…!! 『ヘミングウェイ』、炎上しています。あれでは、航行は不可能…」
 水側長が告げる。その声は徐々に沈んでいった。

「このコバンザメ、こっちが攻撃できないと思って…!!」
 しぃ助教授は怒気をはらんだ声を上げる。
「…安全な位置に陣取って、先に周囲の僚艦を葬る気でしょう」
 丸耳は状況を素早く分析した。
「このままでは、他の僚艦も危ない…!!」
 しぃ助教授は頷くと、素早く無線機を手に取った。
「全艦散開!! 各艦、陣形を大きく取りなさい!!」

 続けて、しぃ助教授は操舵手に指示を出す。
「速度を上げてジグザグ航法を取りなさい。これ以上、真下には付けさせません!!」
 そして、再び無線機を手に取った。
「このままでは狙い撃ちです!! 全艦、ランダムに蛇行運動!!」

 しぃ助教授は、周囲の海域を捉えたディスプレイを見た。
 3隻の護衛艦が、ジグサグに航行している。
 その中で、『ヴァンガード』だけが高速前進していた。
 しぃ助教授の指示を完全に無視している。
 これは…?
 独自の判断は構わないが、一体どういう意図があって…

 しぃ助教授は、無線機を手に取る。
 そしてスィッチを押そうとした瞬間、通信士の絶叫が響き渡った。
「僚艦『ヘルマン・ヘッセ』、『スタンダール』、『シェイクスピア』、撃沈です…ッ!!」

「…何ですって?」
 しぃ助教授は、ディスプレイを見た。
 表示されているはずの光点が、影も形もない。
 …信じられない。
 これは、何かの間違いか?
 たまたまロストしただけではないのか…?
 3隻の巡洋艦が、一瞬にして葬られるなんて…

「間違いなく、敵の魚雷攻撃です。各艦、2発ずつ直撃を受け…」
 通信士は暗い声で告げた。

「…」
 しぃ助教授は、無言でハンマーを手に取る。
「しぃ助教授、何を…!?」
 丸耳が慌てて声を上げた。
「敵潜水艦は私が沈めてきます。艦隊指揮は貴方に任せましたよ…!」
 しぃ助教授の肩は、怒りに震えていた。

 丸耳は、その肩を押さえる。
「落ち着いて下さい! いくらしぃ助教授でも、それは無理ですよ!!」
「…止めないで下さい!! あの潜水艦、海の藻屑にしてやります!!」
 必死で喰らい付く丸耳を引き摺りながら、しぃ助教授はずかずかとCICの出口に歩み寄る。
「深度30mにいる相手に、何が出来るんですか!!」
 丸耳は、必死でしぃ助教授を押し留めた。

「…」
 ようやく冷静さを取り戻したのか、しぃ助教授はハンマーを置いた。
「まさか、潜水艦1隻にここまで…」
 そして、落胆した表情で呟く。

「そもそも、たった1隻でこっちの艦隊に挑んでくる事自体が異常だったんです。
 世界一の錬度を誇るという海上自衛隊の中でも、この相手は別次元ですよ」
 丸耳は言った。
 しぃ助教授はため息をつく。
「『ヴァンガード』は敵の攻撃を避けたんですね。たった2艦で、この状況をどう打開するか…」
「こちらの潜水部隊が接近していますが、間に合うかどうか…」
 丸耳は、光点が表示されているディスプレイを見ながら言った。

「しぃ助教授!! 大変です!!」
 クルーの1人が大声を上げた。
「…今度は何です?」
 しぃ助教授は、声を落として言った。
 今より大変な状況があるのだろうか。

 クルーは、ディスプレイをチェックしながら告げた。
「こちらに接近してくる複数の艦影を捉えました! 『こんごう』型DDGを2隻確認!
 他にも、『しらね』型DDHが2隻、『はたかぜ』型DDGが1隻、『たちかぜ』型DDGが1隻!
 その他多くのDDが10隻!! 海上自衛隊第1護衛隊群と第2護衛隊群です!!」

444:2004/05/24(月) 23:11

「…!!」
 しぃ助教授は息を呑んだ。
 ディスプレイに表示される、複数の光点。
 それは、囲い込むように周囲から接近してくる。
「…1隻たりとも逃がす気は無し、って事ですか…」
 しぃ助教授は、ディスプレイを凝視して呟いた。



          @          @          @



「先行していた、『ヘミングウェイ』が沈みました…」
 ねここは、暗い顔で言った。
 ショックを受けるのは無理もない。
 同じASAの仲間であり、沈んだ艦の中にも多くの知り合いがいるのだろう。

『全艦散開!! 各艦、陣形を大きく取りなさい!!』
 イヤホンから、しぃ助教授の指示が伝わってきた。
『このままでは狙い撃ちです!! 全艦、ランダムに蛇行運動!!』

 俺は、『アウト・オブ・エデン』を展開した。
 敵潜水艦は今…

「蛇行じゃない、全速前進だッ!!」
 俺はねここに叫んだ。
 全艦が動き出した瞬間、潜水艦は護衛の3隻とこの艦にそれぞれ2発ずつ魚雷を撃ったのだ。
 蛇行のために減速すれば、魚雷の直撃を受ける…!!

「…!?」
 ねここは、俺の方を見た。
 そして、無線機のスィッチを押す。
「副艦長よりCICへ! このまま直進、機関最大戦速!!」
 ねここは、CICにそう指示を出した。
 俺の言葉を信じてくれたのだ。
 『ヴァンガード』が、大きく前方に進む。

『敵魚雷、接近感知!! 距離2000!!』
 通信士の声が伝わってくる。
 俺は、唾を呑みこんだ。
『このまま前進で回避可能…!! ………………やった、回避成功しました!!』

「…ふぅ」
 俺は額の脂汗を手の甲で弾くと、大きなため息をついた。
 ねここも安堵のため息をついている。
「ありがとう。モナーさんの指示が無ければ、今頃は…」

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は息をつく余裕さえ与えない。
 展開している3隻の護衛艦が、たちまち撃沈される光景を捉えたのだ。

 CICから、力の無い連絡が来た。
『僚艦『ヘルマン・ヘッセ』、『スタンダール』、『シェイクスピア』、大破炎上…
 3隻とも航行は不能。現在、乗員が退艦しています…』

「そんな、まさか…」
 そう呟いて、ねここは硬直する。
 リナーは口を開いた。
「あれだけ蛇行して海面を乱せば、魚雷のセンサーは相当に狂うはず。
 だが、それを問題にせずに3隻を撃沈した。こちら側の操舵を完全に読んでいる、凄まじい偏差射撃だ。
 相手は、トップクラスのサブマリナーだぞ…」

「…ん? あれは…」
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、異常を捉えた。
 50Km先に、1隻の艦が…
 それも、明らかに軍艦だ。
 俺は、艦船を目標にして周囲をサーチする。

「…大艦隊モナ! 囲まれてるモナ!!」
 俺は叫んだ。
 50Km前方に、8隻の大艦隊。
 後方からも、同規模の8隻の艦隊が高速接近している。
 俺の通常探知ギリギリの場所に、今まで待機していたのだ。
 ASAの艦隊を囲い込むように展開しながら…
 そして敵潜水艦の霍乱によって陣形が崩れた今、一気に接近してきた…!

『前方より、大艦隊接近!! 後方からも…!!』
 少し遅れて、CICからの報告。
 ねここは息を呑んだ。
「こちらはイージス艦とはいえ、たった2隻…!」

「でも、やるしかないだろう…?」
 リナーの横には、いつの間にか彼女が持ち込んだ特大ガトリングガンがある。
「潜水艦よりは、まだ戦いやすい相手だ。いざとなれば、接舷して白兵戦で制圧すればいい」
「…本気で言ってるモナ?」
 リナーならやりかねないのが怖いところだ。

 艦橋からの扉が開いて、艦長であるありすが甲板に姿を現す。
「…さすが三幹部、危険に対する嗅覚は並外れているらしいな」
 リナーは、場違いな衣装を着た少女を見て言った。
 ありすは、ゆっくりとこちらへ来る。
 久し振りに感じる、この威圧感と圧迫感。
「サムイ…」
 ありすは、いつものように呟いた。

「…リナーさんの言うとおりです。くじけていてはいけませんね」
 ねここは大きく頷いた。
「ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』の射程なら、対艦ミサイルの撃墜は可能ですし。
 攻撃に専念すれば、敵の半分くらいは…」

445:2004/05/24(月) 23:13

「…ああ、やってやるモナ」
 俺はバヨネットを取り出した。
 だが、我ながら何をやるのだろう。
 正直、俺はこれっぽっちも役に立ちそうにない。

 無線機のイヤホンから、しぃ助教授の声が伝わってきた。
『全艦…って、もう『ヴァンガード』だけですね。とにかく、全艦に通達です。
 イージス艦の全兵装及び各員のスタンド能力を駆使し、敵艦隊の全艦を撃沈します。
 各員、己の身の防御を最優先にしつつ… 派手にブッ潰してやりなさい!!』

「はは… 結局、こうなるんですね」
 ねここは笑った。
「相変わらずだな、そっちの大将は…」
 リナーはため息をつく。
 そして、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「奴等には… 吸血鬼に対して、真夜中に喧嘩を売った事を後悔してもらうか…」



          @          @          @



 非常に狭い空間。
 コーンという音が、定期的に周囲に響いている。
 慣れない者が足を踏み入れば、息が詰まってしまうだろう。
 ここは、潜水艦の艦内である。

 大きなヘッドホンを嵌めている男が、ディスプレイと向き合っていた。
 彼はこの艦の水測長、海中の僅かな音を拾い取る重要な役割だ。
 いわば潜水艦の耳である。
「3隻目の沈没音を確認… ASAのヴァージニア級巡洋艦、3隻とも撃沈です!!」
 水測長は静かに告げた。

「…ヨシ」
 でぃは、ディスプレイを見つめて大きく頷く。
「後は… イージス2隻のみですな、でぃ艦長」
 副艦長は、でぃに言った。

「タイキ…」
 でぃは呟く。
「機関停止、この場に待機だ」
 副艦長は素早く指示を出した。


 でぃは、光点の浮かぶディスプレイを見つめる。
 ここまでは、見事に型に嵌った。
 孫子の教えに、『囲師は周することなかれ』というものがある。
 敵を包囲する時は、一箇所だけ空けておけという事だ。
 完全に追い詰めてしまえば、思わぬ反撃を受ける可能性がある…というだけではない。
 意図的に、相手に逃げ道を用意しておく事で、敵の動きをそこに誘導できるのだ。

 例えば、敵を3箇所の出口しかない家に閉じ込めたとする。
 そして、出口を3箇所ともに火を付けてしまえば、相手の動きが読めなくなる。
 だが、あえて1箇所だけ火を付けなかったら… ほぼ間違いなく、敵はそこから脱出を図るはずだ。

 ASAの敵司令官の指示や対処は的確だ。
 だが、余りに的確過ぎる。幾つかある手段のうち、一番的確な手を選ぶのだ。

 先制攻撃を食らわせれば、追撃を避けるために加速した。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 敵の加速に乗じてギリギリまで接艦すれば、振り切るためにジグザグ航法を取った。 
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 ジグザグ移動による海面の乱れに紛れて僚艦を撃沈すれば、艦同士の距離を大きく取った。
 向こうにとって、一番的確な手だ。
 そして海面は大きく乱れ、ソナーがろくに使用できない状態に自らを追い込んだ。
 後は、目の見えない相手を殴るようなものだ。
 こちらは、巻き起こった航跡群を目標に殲滅するだけ。

 完全に、こちらの誘導通りに動いている。
 こちらが意図的に用意した逃げ道に、見事に駆け込んでいるのだ。
 向こうの司令官はスタンド使いとしては優秀かもしれないが、軍司令官としては余りに未熟。
 戦場を肌で感じていない。戦いを自分で組み立てていない。
 現在の向こうの惨状は、全てマニュアル的な判断が招いた事態だ――
 でぃは、ディスプレイに映る敵艦の光点を見つめた。

446:2004/05/24(月) 23:14


「…キタ?」
 でぃは水測長に訊ねる。
「ええ。味方艦隊が接近しています。後は、波状攻撃を浴びせて終わりですよ…」
 ディスプレイをチェックし、笑って告げる水測長。
「手負いの獣は危険だ。まして相手はスタンド使い。接近した時が一番怖い。それを忘れるな」
 副艦長は、そんな態度を戒めるように言った。
「はっ! 甘い認識でした!」
 水測長は慌てて姿勢を正す。

 不意に、クルーの1人が告げた。
「管制機よりデータリンク。距離7000、国籍不明艦を確認。こちらに接近しているようです。
 かなり大型… これは、戦艦クラス!?」
 彼は大声を上げる。

「戦艦クラスだと…?」
 副艦長は、報告をしたクルーの後ろに立った。
「画像は来ているか?」

「…ええ」
 クルーは、機材を操作する。
 ディスプレイに、黒い艦影が表示された。
 副艦長がそれを覗き込む。
 どこからどう見ても、重武装の戦艦だ。
「これは… アイオワ級か…?」

 クルーの1人が口を開いた。
「いいえ… この主砲塔の数、艦橋の形… これは、『ビスマルク』です!」
「『ビスマルク』だと…? ナチスドイツの戦艦を、なぜ今さらASAが模造した…?」
 副艦長は顎に手を当てて呟く。

「…」
 でぃは、ディスプレイを見つめた。
 大ドイツ帝国海軍、超弩級戦艦『ビスマルク』。
 当時のヨーロッパで最強を誇ったとは言え、今ではもはや骨董品だ。
 まともな戦力になるはずがない。

 …これは、本当にASAの艦なのか?
 こんなものを、今さら投入する必要がどこにある?
 彼の嗅覚は感じ取った。
 この戦艦は、ASAに籍を置く艦ではない。

 何か…妙だ。
 こちらの味方でもASAでもない艦が、なぜ接近してくる?
「…コワイ」
 ディスプレイを凝視して、でぃは呟いた。
 漆黒の艦影。甲板にずらりと並ぶ砲塔。
 その姿はまさに、時代の亡霊だ。
 その威容に、でぃは禍々しいものを感じた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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447ブック:2004/05/25(火) 01:44
     EVER BLUE
     第十七話・TROUBLE MAKER 〜歩く避雷針〜


 僕達を乗せた船は、無事島の港まで着いた。
「よし、錨を下ろせ。」
 サカーナの親方の声に従い、乗組員が錨で船体を港に固定する。

「さて、それじゃあ俺は、燃料だの砲弾だのの交渉に行って来るわ。」
 サカーナの親方が上着を羽織る。
「それでは私もご一緒させて頂きます。
 あなただけに財政を任せては不安ですので。」
 高島美和がサカーナの前に出た。
 まあ、彼女が一緒なら安心だろう。

「2〜3時間は停泊しているのだろう?
 ならば俺は少し島の街に寄らせてもらう。
 剣の補充をしたいのでな。」
 マントをたなびかせながら、三月ウサギが告げた。

「構いませんが、個人の武器の購入は自腹ですよ。」
 冷たい声で高島美和が返す。
「分かっている。」
 無表情で答える三月ウサギ。

「それじゃ、俺もちょっくら外へ散歩に行くとするか。
 この島を出たら、当分娑婆の空気は吸えそうにないしな。」
 ニラ茶猫が軽く背伸びをした。
「あ、なら俺も一緒に行くよ。」
 オオミミが続く。
 全く、君といいニラ茶猫達といい呑気なものだな。
 君達は、『紅血の悪賊』に狙われている真っ最中なんだぞ?

「でしたら、私もご一緒させて頂きましょう。」
 タカラギコが包帯とベルトに巻かれたパニッシャーを手に取り、背中に担ぐ。
 いつも思うのだが、
 この優男のどこにこれだけの大きさの得物を振り回すだけの力が隠されているのだ?
「この得物だけではどうにも小回りに欠けますしね。
 手頃なサイドアームを手に入れなければ。」
 タカラギコが巨大な十字架をコツコツと手で叩いた。

「…外に出るのは勝手だが、お前ら絶対に目立つような事するんじゃねぇぞ。」
 サカーナの親方が僕達を睨む。

「ふん。こいつらと一緒にしないで貰おうか。」
 三月ウサギがオオミミとニラ茶猫の方に視線を移す。

「おい、そりゃどういう意味だフォルァ!」
 ニラ茶猫が三月ウサギに突っかかった。
「事実を述べたまでだが?」
 皮肉気に返す三月ウサギ。
 それにしても失敬な。
 この僕がついているのに、オオミミをニラ茶猫と同列に語るとは。

「まあまあ、二人とも落ち着いて…」
 オオミミが険悪なムードになった二人の間に入る。

「ふん。」
「けっ。」
 ニラ茶猫と三月ウサギはしばし目線を合わせて火花を散らした後、
 ほぼ同時にお互いそっぽを向いた。
 この二人、仲がいいのか悪いのか…

「…そんなんだから心配なんですよ。」
 高島美和が呆れたように呟く。

「天はどうする?」
 オオミミがふと天に尋ねた。
「アタシは遠慮しとくわ。
 また前みたいに恐いおじさん達に追いかけられちゃたまんないし。」
 天が首を振る。

 良かった、こいつが一緒じゃなくて。
 僕は密かに胸を撫で下ろした。

「兎に角、だ。
 くれぐれも騒ぎは起こすなよ?」
 サカーナの親方が念を押す。

「心配すんな。
 俺が居る限り大丈夫だって。」
 胸を張るニラ茶猫。
 いや、お前が一番心配なんだって。

448ブック:2004/05/25(火) 01:45



 僕とオオミミと三月ウサギとタカラギコの三人で、街中の刀剣屋の品を物色していた。
 ニラ茶猫は三月ウサギと一緒に歩くのが嫌だったのか、船を降りたとたん
『ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤ってくるぞフォルァ。』
 などと訳の分からない事をぬかしてさっさと行ってしまった。
 まあ三月ウサギとニラ茶猫が一緒だと、
 サカーナの親方が心配していたように騒ぎを起こしてしまう可能性があるので、
 一人でどっか行ってくれて内心ほっとしているのだが。

「ふあ〜ぁ。」
 戦闘に武器を使わないオオミミが、退屈そうに欠伸をついた。
 僕もこういう分野には興味が無い為、いささか辟易している。

「ふむ…」
 タカラギコが大刃のナイフを手に取り、軽く手の平で遊ばせる。
 握り心地を確かめているのだろうか?

「……」
 と、タカラギコが何か訴えるような目で三月ウサギを見つめた。
 何だ?
 こいつらホモか?

「…何だその目は。」
 迷惑そうな顔で、三月ウサギが言う。

「いや、あのですね、恥ずかしながら私、一文無しなのですよ。
 ですから、優しい足長おじさんが何かプレゼントしてくれないかな〜、と。」
 縋るような視線を三月ウサギに送るタカラギコ。
 あんた、金も持ってないのに買い物について来たんかい。
 つーか、最初から人に奢らせるつもりだったのか?

「親父、そこの棚にある剣全部寄越せ。」
 三月ウサギがタカラギコを無視して店主にそう言った。

「ああ、そんな…」
 恨めしそうな声を出すタカラギコ。

「そこの棚の剣を全部?
 お客さん、冗談も大概に…」
 そこで三月ウサギが金色に輝く像をカウンターに叩きつけ、店主の言葉を遮った。
「代金はこれで充分だろう。
 分かったらさっさと剣を売れ。」
 ちょっと待った。
 その金の像って、確か…

「やばいよ三月ウサギ。それ、確か『紅血の悪賊』の船から取ってきた…」
 オオミミが小さな声で三月ウサギに耳打ちする。
 それにしても、三月ウサギはいつのまにそんなもの持って来たんだ。
 それとも、最初からマントの中に隠していたのか?

「こんな趣味の悪い像が、軍事機密な訳はあるまい。
 それに、これぐらい正当な報酬の範疇の内だ。」
 涼しい顔で答える三月ウサギ。
 やれやれ、サカーナの親方がこの事を知ったらどんな顔をする事か。

「…分かりました。
 ですがお客様、こんなに沢山の剣をどうやって…」
 棚に掛けられた大量の刃物を見やりながら店主が尋ねる。

「ふん。」
 質問には答えず、三月ウサギは次々と剣をマントの中に入れ始めた。

「あ、あの、それは一体…」
 その光景に、目を丸くする店主。
「気にするな。ちょっとした手品みたいなものだ。」
 剣を収納しながら三月ウサギが口を開く。

「手品…手品…
 うん、そうだよな。
 こんなの手品に決まってる…」
 現実逃避しているのか、店主がブツブツと独り言を言い始めた。
 この異様な現象を、無理矢理手品とこじつけて納得するのに必死なのだろう。

「いやあ、便利な能力ですねぇ。
 本当に羨ましいですよ。
 私なんか、こんな重いものを一々担がないといけないんですから。」
 背中のパニッシャーに目を向けながら、三月ウサギが溜息を吐く。

「…おだてても、お前の武器は買わんぞ。」
 冷徹に三月ウサギが言い放つ。
 三月ウサギに図星を突かれたのか、タカラギコががっくりと肩を落とした。

「オオミミ君…」
 タカラギコが、今度はオオミミに目を向けた。
「…ご、ごめんなさい。
 俺も小遣い程度しかお金持ってないし、
 果物ナイフみたいなものしか…」
 手を振りながらタカラギコの期待を退けるオオミミ。
「そうですか…」
 タカラギコが残念そうに呟いた。

449ブック:2004/05/25(火) 01:45


「…俺、先に店を出とくよ。」
 退屈が限界に達したのか、タカラギコの視線に耐えられなくなったのか、
 オオミミが外に出ようとした。
 それがいい。
 三月ウサギが剣を全部マントの中にいれるにはまだまだ時間が掛かりそうだし、
 外で何か冷たいものでも飲むとしよう。

「ああ、お気をつけて。」
 タカラギコはオオミミにそう言うと、再び三月ウサギに訴えるような視線を向けた。
 どうやら、まだまだ武器を奢って貰うのは諦めていないらしい。

「うん。俺、この店を出た所から見える位置には居るから、
 終わったら声を掛けてよ。」
 そう言うと、オオミミは刀剣屋の出入り口のドアを潜った。

(さて、どうするオオミミ?)
 僕はオオミミに尋ねた。
「そうだね。
 前にパン屋さんがあるし、そこで何か食べ物でも買おう。」
 オオミミがパン屋を指差した。
(賛成。)
 僕とオオミミは一心同体。
 本来スタンドである僕は食べ物など必要無いが、
 オオミミの感覚を共有する事で味覚を楽しむ事も出来る。
 だから、オオミミが食べた物を僕が味わう事も可能なのだ。

「それじゃ、買いに行こうか『ゼルダ』。」
 オオミミが小銭の詰まった財布を握り締めてパン屋に向かう。
 早く、オオミミ。
 僕はもう待ちきれな―――


「!!!!!!!!!!!!」
 次の瞬間、オオミミの体が何者かの腕に掴まれた。
 驚く間も無く、首に腕を回されて体を捕らえられる。
「…!?」
 自分を捕まえた人を見ようと、咄嗟にオオミミが首を後ろに向ける。
 全身を分厚いコートに包んだ、奇妙な風貌。
 背中には、パニッシャーと同じ位に大きな何かを担いでいる。
 顔はフードを目深く被っている上に、サングラスまでかけているので、
 ぱっと見ただけでは判別がつかない。
 だがオオミミの背中に当たる柔らかな二つの膨らみからして、どうやら女性のようだ。

「…!貴様!!」
 と、そこに数人の男達が駆けつけてきた。
 その手には、十字架を模した武器を持っている。

「動くな!!」
 男達が詰め寄ろうとした瞬間、オオミミを捕らえた女が声を張り上げた。
 その言葉に動きを止める男達。

「動くでないぞ。
 妙な真似をすれば、この者の首をへし折る。」
 凍りそうな程冷たい声。

 …どうやら、騒ぎを起こすのは三月ウサギでもニラ茶猫でもなく、
 僕とオオミミになってしまったようだ。
 畜生。



     TO BE CONTINUED…

450丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:06


 丸耳の少年が、椅子に腰を下ろした。
テーブルを挟んだ対面には、顔も右腕もない男が座っている。

「いらっしゃい…だいぶお疲れのようだけど、欲しければ飲み物くらいは出すよ?」
「いや…必要ない」
 そう言うと、少年の向こう側に座った男が首を振った。
砕け散った右腕に、のっぺらぼうの白い顔。
「そう…ところで、なんて呼べばいいのかな。…あ、名乗りたくないなら構わないよ。
 こっちで勝手に呼ばせて貰うから。『のっぺらぼうさん』『白塗りさん』『片腕さん』…
 いや、『片腕さん』ってのはウチのメンバーとかぶる…」

「…<インコグニート>だ。そう呼んで貰おう」
「『名無しさん』って…僕の偽名ネーミングセンスはそれ以下なのかな?」
「ええと…君の悪口は言いたくないのでノーコメントです」
「それは言ってるのと同じだよ〜…」
 テーブルにのの字を書き始める少年に、<インコグニート>が答えた。
「本名だよ。私が私自身につけた、な」
「あ、そう…で、はるばるこんな所に来たんなら、僕らに用があるんでしょ?」
 のの字を書いていた指が、気を取り直すようにこつん、とテーブルを叩き、中空にくるりと円を描く。

「そうだ…私の用件は二つ。まず、私に敵対するSPM構成員の排除と…『エタニティ』の能力を貸与して欲しい」
 す、と隣に佇んでいた少女の体に緊張が走った。
軽く右手を挙げていきり立つ少女を抑え、そっと口を開く。
「人生っていうのは…何事もギブ・アンド・テイクってものだよね。
 それが見ず知らずの、たった今初めて会ったばかりの奴なら尚更…。
 僕が敵を消して能力を貸せば、その見返りに何をくれる?」

 沈黙。

 お互いに黙ったまま、空気だけが張りつめていく。
永遠とも思える時が過ぎ―――<インコグニート>が答えた。
 world
「世界だ」

「はぇ?」
 少年の後ろで、少女が素っ頓狂な声を出した。

451丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:08

「聞こえなかったか?世界をやろう」

「世界…?」
「そう、世界だ…元々私は『帝王になる』事だけを目的として生まれた存在だからな。
 支配した後のことなど、実のところさしたる興味はない」
「えーと…要するに、『プラモ作るのが好きだけど、場所取るから作ったのくれる』とかそんな感じ?」

 何やらえらく平和な例えになってしまい、少年以外の二人の顔に汗が浮かんだ。
「…いや、その比喩は…」
「待って下さい。話を聞くに、貴方の最終的な目的は『世界の帝王になる』と?」
 今まで話し合いに参加していなかった少女が、初めて自分から口を開いた。

「そうだ」
 情報は隠さない。協力を求めている以上、『信頼』を見せねばならないのだ。
「貴方、自立型スタンドですよね」
「…そうだ」

 …ふと感じる威圧感。目の前の少女に、敵意が宿っている。

「本体が、死亡したのは?」
「千九百…八十七年だったか」

 チリチリチリチリ、肌が焼けるような感覚。
少女の口元に浮かんでいた、薄い笑みが消えていた。

「本体の、名は?」

 しばしの躊躇い。
全てのカードを晒す訳でもないし、彼の名を明かすのには問題はないだろう。

 そう判断し、口を開く。


「―――ディオ・モランドー」


  ―――――!


 その名が出た瞬間、少女の敵意が爆発した。

452丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:09
「貴様ァァァァ―――――ッ!」
 絶叫しながらテーブルを駆け上がり、周囲の空間に揺らぎが生まれる。
「なっ…!」
 驚く間もなく揺らぎが肥大化し、スタンドヴィジョンが浮かび上がった。
ぼんやりとした輪郭の人型スタンド。
わああああん、とざわめきのような音が聞こえる。
 即座に『思念の刃』を展開させ、防御に備え―――


「縛れ―――『エタニティ』!」


 少年の叫びと共に具現化した鎖が、二人の動きを封じた。
ごろりと少女がテーブルに転がり、<インコグニート>の刃と体も椅子に縛り付けられる。

「ふあっ…!」
 締め付けられた少女が、テーブルの上で甘い吐息を漏らした。
鎖の端は空中へ融け込むように同化しており、一ミリも動かせなくなっている。

「ぅぁ…何故、止めるのですか…!コイツのせいで、私達『ディス』は地獄を見たのですよ!!」
「…彼のせいじゃない。彼は只のきっかけだよ。彼がいなくたって、いずれ他の人間がそうなってた」
「しかし…!」

 縛られたまま、憎悪の籠もった目で<インコグニート>をにらみつける少女。
やれやれと溜息を一つ、<インコグニート>へと向き直る。

「済まないけど…『名無しさん』。この話、無かった事にして。
 『世界をやろう』なんてとても信用できないし、万一できても僕らは世界なんていらない。
 ただ今のままでいられればいいんだよ。だから、双方不干渉って事でいいでしょ?」
「…そうか…残念だ」
 言っているものの、断られるのがわかっていたのかあまり悔しそうな口調でもない。
      ディス
「悪いね。僕等のメンバーも納得しそうにないから…お引き取り願うよ」
 そう言うと、刃と体を縛り付けていた鎖『エタニティ』が消滅した。
ふっと刃を消し、<インコグニート>が席を立つ。
「では…また会おう」

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

453丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:10

  ―――また?

 眉をひそめる間もなく、<インコグニート>は部屋から消えていた。

「『また会おう』って…不干渉って言ったんだけどな…あれ?」
 少女に鎖を絡ませたまま<インコグニート>の座っていた椅子を見ると、封筒が一つ置かれていた。
手紙に使うようなものよりも少し大きめの、色気もそっけもない茶封筒。
「…忘れ物?」
「返す必要なんてないです。あんな奴が『エタニティ』を貰おうなんて―――」
「ちょっと黙ってなさい」

 そういうと、『エタニティ』の鎖を少しだけ締め付けてやる。
「ゃあ…ふあンッ!」

「さて、と…」
 卓の上で悶える少女を余所に、椅子の上の封筒を取り上げた。
「…ま、いいよね、ちょっとくらい見ても…」
 爪を使ってぺり、と封を切り、中身を取り出す。
「写真…?」
 中には、輪ゴムで止められた数枚の印画紙が中にまとめられていた。
ぱちんとゴムを外し、中の写真を覗き見る。

 そして―――その中の二人を見て、顔色を変えた。


  長毛種の少年―――『チーフ』。

  丸耳の少年―――『茂名・マルグリッド・ミュンツァー』。


        ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・
―――――また会おう、必ずまた、な…


            インコグニート
 顔と右腕のない『名無しさん』の声が、聞こえた気がした。

454丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:11




「…ぅん…」
 ぱちり、と目を開けた。

 右手を上げて目を擦ろうとするが、酷く重い。
目の前に上げて握り拳を作ろうとするが、ぴくぴくと軽い痙攣を起こすだけだった。
そうこうしているうちに力尽き、顔の上に右手を落とす。
 感覚が全くない。
顔面に右手が乗っている感覚はあるのに、右手で顔面を触っている感覚が感じられない。

「…うわぁ…気持ち悪…」

 一人表情を歪めていると、病室に誰かが入ってきた。
「…気付かれましたか」
「ジエン…さん?…えと…私、なんで寝てるの?」
「ええ…と、『ヨーダイガキューヘンシタ』という奴ですよはい」
「HAHAHA、マルミミのドアホウが薬間違えてのぉ。
 数時間もすれば…明日の朝には感覚が戻ってくるじゃろ。
 首のバンソーコーは取ってはいかんぞ。絶対」
「二人とも…何か、隠してます?」


  ぎくんっ。


「………さあ、何の事やら」
「………人を疑うなんて無礼じゃぞ♪」

 辛うじてとぼけていると言っていい状態。
だが、ジエンは冷や汗でスーツがビショビショになっているし、茂名に至っては露骨にキャラが変わっていた。
「…別にいいですよ、話したくないなら」

 ジエンと茂名が顔を見合わせ、ほっと一息。
「まあ、寝てる間に血を抜いて売ったりとかそういう事はしとらんから安心せい」
「ぅぇぁ…そんな事してる人がいるんですか?」
 顔をしかめるしぃに、ジエンが答えた。
「昔はあったらしいですよ。半身不随の人が、足から血を抜かれて…」
「いや〜…聞きたくない〜…」
 おどけて首を振り、ジエンと茂名が笑う。


 実際はそれより酷いコトされたとは、口が裂けても言えなかった。

455丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:12




―――そして、その酷いコトをした張本人はといえば。

「うう……」

 ベッドの上で枕を抱いて、一人思案に暮れていた。

  ―――――胸、凄かったなぁ。たゆーん、って。

(って違う違う違うっ!)
 ピンキィ
 桃色思考の首に縄を繋いで、本来の考えへと引き戻す。
彼女の服をはぎ取って牙を打ち込むまで、全て鮮明に覚えていた。

 今こうして枕を抱いて悶々としているのも『僕』ならば、しぃの首に牙を立てたのも『僕』。
自業自得とはよく言ったものだけれど、この場合はどうなるんだろう。

(あ、また脱線してる…)


―――ひぁ…ぁ、洗っても、洗っても…男の人達の…感触が…消えな…くて…
     汚れた躯…ふぁ…マルミミ君に…好きに…なって…貰えない…!


 思い出す。暗い病室での、しぃの言葉を。

(…やっぱり、これって…告白…だよね。)

 男手一つで育てられたから、女性との付き合いなんて近所のオバさんと虐待されたしぃ族くらい。
学校だって、子供じみた外見のせいで評判は『カワイイ』…
 生まれてこの方、女の子とつきあった事など一度もなかった。

(で…僕は、どう思ってる?)
 …嬉しくないわけは、ない。
しぃ族の女の子は沢山見てきたけれど、その中でも彼女は綺麗だった。
 十四歳という話だったが、とてもそうは見えない大人びた外見。
でも、中身はやっぱり十四歳の女の子…そのギャップが、見る者を引きつける。

                ・ ・ ・ ・ ・ ・
 けれど、それは本当に人間である僕の、人間に向ける愛なんだろうか。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・        ・ ・ ・
 それとも、吸血鬼としての僕の、非常食に向ける食欲なのだろうか。


 愛なのか、欲望か―――そこで思考は停止する。
わからないまま前にも進まず、ゴールの無い迷路のようにぐるぐるぐるぐるただ迷う。


  ―――――けどやっぱり凄かったなぁ。サイズの合うブラ家に無かったもんなぁ…って待て待てっ。


 三度脱線する思考を引き戻すが、いつしかうとうとと眠りについていた。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

456丸耳達のビート:2004/05/25(火) 22:13

                           @@@@
   @@@@     @@@@      @@@@  (゜д゜@
   (゜д゜@アラヤダ @゜д゜)     ∩゜д゜)   ┳⊂ )
(( ⊂ ⊂丿    (つ  つ ))  ヽ ⊂丿  [[[[|凵ノ⊃
   (_(_)    (_)_)     し'し'    ◎U□◎

 近所のオバさ(ブツッ) 奥様方

                ウルワ  マダム
茂名診療所の近所に済む逞しき人妻達。
男ヤモメの茂名診療所によく晩ご飯を作りに来てくれる他、
しぃのような入院患者の衣服なども無償で提供するなど、     @@@@
茂名診療所は彼女らによる無償の愛で成り立っているのだッ! (゜д゜@ …ケド、デバン ナイノヨネェ…

457ブック:2004/05/26(水) 00:06
     EVER BLUE
     第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その一


「『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』…!」
 男達がオオミミを掴む全身コート女を睨んだ。

「…ふ。」
 僕とオオミミを抱えたまま女が後ろに大きく跳躍した。
 いや、大きくなんてものじゃない。
 その距離実に十メートル以上。
 オオミミを抱え、助走無しでのこのジャンプ。
 明らかに人外のそれである。

「くっ、貴様!」
 男達が僕達へ駆け寄ろうとする。

「動くなと言っておる!」
 女がオオミミの首に回した腕に力を込めた。
 オオミミが、苦しげに声を上げ、その様子を見て男達が悔しそうに動きを止める。

「では、な。」
 女が再び飛翔した。



 まるで風のような勢いで、女はオオミミを抱えながら街中を飛び進んだ。
 街の人々が、驚いた様子でそれを眺めるが、
 女は一向に構わぬ様子でそのまま駆け抜けて行く。

「…そろそろいいじゃろう。」
 そう呟くと、女は薄暗い裏通りで足を止めた。
 そして、オオミミをゆっくりと地面に下ろす。

「……!」
 オオミミが警戒態勢を取る。
 僕も、いつでも出現出来るように準備しておく。
 あの怪力、あの身のこなし、そして陽光を嫌うようなこの格好、
 この女、間違いなく吸血鬼だ。
 まさか、『紅血の悪賊』か…!?

「そう固くなるな、小僧。
 別に取って喰ったりなどせぬ。」
 と、思いがけず和やかな口調で女が喋ってきた。
 その声色に、思わず肩透かしを食らう。

「あの、あなたは…」
 オオミミが何か言いたそうに女に声をかける。

「名乗る程の名は持ち合わせておらぬよ。
 …そうじゃ。
 行きがかり上とはいえ、さっきはすまなんだな。」
 女がオオミミに巾着袋を投げ渡した。

「……!」
 オオミミがその入れ口を開けてみて仰天する。
 巾着袋一杯に、ぎっしりと詰められた金貨。
 何で、吸血鬼がこんな大金を?

「あの、俺、こんなのは…!」
 オオミミが慌てて金貨の詰まった巾着を返そうとした。
 馬鹿、オオミミ。
 君は何でせっかくの儲けを棒に振ろうとするんだ。

「いいから持っておけ。
 先程の迷惑料じゃ。
 子供は素直に駄賃を受け取るのが、可愛げというものじゃぞ?」
 クックと含み笑いを漏らす女。
 その口からは二本の白い牙が覗く。
 フードを被りサングラスをかけている為、顔はよく見えないが、
 恐らく相当の美人だろう。

458ブック:2004/05/26(水) 00:07


「…そういえば忘れる所じゃった。
 お主、この辺りで『紅血の悪賊』に狙われている船があると聞いておるのだが、
 何ぞ知らぬか?」
 …!
 この人も、僕達を追っているのか!?
 だが、今の質問の仕方からして、『紅血の悪賊』ではなさそうだ。
 なら、この人は一体何者なんだ?

「し、知りません…」
 露骨に動揺した様子で答えるオオミミ。
 駄目だ。
 僕から見ても、隠し事してるのがバレバレだ。

「…どうやら、お主は嘘を吐けない性格のようじゃな。」
 女の声が冷たいものへと戻り、一歩オオミミへと近寄る。
 オオミミは後ろに下がろうとするも、背中に壁が当たりそれを阻んだ。

「う、嘘じゃないです。
 俺は、本当に何も…」
 オオミミが冷や汗を流す。
 女は既にオオミミの目と鼻の先まで接近していた。

「!!!」
 いきなり、女がオオミミの顔を伝う汗をその舌で舐め取った。
「この味は、嘘を吐いておる味じゃぞ。」
 汗を舐めただけで嘘か本当かを見抜いた?
 この女、変態か?

(無敵ィ!!)
 このままではヤバい。
 咄嗟に僕が外に出て、女を突き飛ばすべく腕を伸ばす。

「!?」
 しかし、その一撃が当たる事はなかった。
 命中の寸前で、女が紙一重でそれを避ける。

 僕の姿が見えた?
 まさか、この女スタンド使いなのか!?

「!!!!!!!」
 直後オオミミが首を掴まれ、そのまま壁に押し当てられた。

「…驚いたぞ。
 可愛い顔して、スタンド使いだったとは。
 じゃが、どうやら大きな魚が網に掛かったみたいじゃな。」
 女が静かに口を開く。

「さて、すまぬがお主の知っている事、
 洗いざらい唄って貰おうか?」
 女が軽くオオミミの喉を掴む手に力を込めた。

「…本…当に、知らな…い……」
 オオミミが苦しそうに言葉を搾り出す。
 このままだと、非常にまずい。

(無敵ィ!!)
 女に目掛けて左のフックを放つ。
「甘い。」
 しかし、女は背中に担いでいる巨大な「何か」で、巧みにその拳を防御した。
 この人、強い…!

459ブック:2004/05/26(水) 00:07

「…仕方無い。
 あまりこういう真似はしたくないのじゃが…」
 女がサングラスを外した。
 怖気も奮うような、極上の美人。
 しかし、残念ながら今はその美顔に見とれている状況ではない。

「……」
 女が猛禽類の様な瞳で、オオミミの目を覗き込んだ。

「……!!!」
 オオミミがビクンッと痙攣する。
 同時に、彼の意識が一気に遠のいていくのが感覚を通じて分かる。

(……!)
 彼の感覚に同調する形で、僕の意識も持っていかれそうになった。
 遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く遠く。
 心地よい魂の眠りへと…

 …!!
 まずい。
 これは、
 催眠術(ヒュプノシス)…!

「さて、答えて貰おう。
 お前は、何を知っている?」
 女がオオミミの目を見つめたまま尋ねた。
「…はい。その船は、俺達の―――」

(しっかりしろ、オオミミ!!)
 心神喪失状態のオオミミに向かって、僕はあらん限りの声で叫んだ。
「!!!」
 オオミミが、僕の声を受けて正気に返る。

「…!!
 儂の瞳術が破られた!?」
 女の顔が驚愕に歪む。
(無敵ィ!!!)
 そこに生まれる一瞬の隙。
 僕の右拳が、今度こそ女の顔を捉える。
 女性の顔をグーで殴るのは気が引けるけど、今回はまあ不可抗力だ。

「くっ…!」
 殴られた右頬を押さえ、後方に跳ぶ女。
 さっき拳を交えた時の感じからして、
 多分相手の方が戦闘能力に関しては何枚も上手。
 しかも、相手は吸血鬼。
 人間を軽く屠る事が可能な超常生物だ。

「……!」
 ゆっくりと間合いを測るオオミミ。
 だが、勝機は無い事もない。
 今は日中。
 太陽の光は吸血鬼の致命的な弱点だ。
 それならば、僕達で何とか出来る!

「…先程の無礼は詫びよう。
 しかし、儂とて子供の使いでここに来ている訳ではない。
 すまぬが、どうあってもお主には知っている事を話して貰……」

460ブック:2004/05/26(水) 00:08


「!!!!!!!!」
 突然女がその身を翻した。
 次の瞬間、さっきまで女が居た場所に無数の剣が突き刺さる。
 この剣、
 まさか―――

「それ以上の相手は、この俺だ。」
 黒いマントをたなびかせ、建物の屋根から隻眼の男が僕達を見下ろす。
 三月ウサギ、来てくれたのか…!

「お主、何者じゃ!?」
 女が背中の大きな「何か」の包帯とベルトを外した。
 そこから、変な形の凶悪な得物が顔を覗かせる。
 何だ、これは。
 銃とハルバードが合体したようなそんなとてつもないような…

「…俺に銃は効かんぞ。
 そして、この距離ならば投擲(こっち)の方が速い。」
 女に銃口を向けられても、少しも動じぬ様子で三月ウサギが告げた。
 その両手には、既に剣が握られている。
「成る程、大した自身じゃ―――」

「!!!!!!!!」
 刹那、女が巨大な得物を持っているのとは別の手で、
 懐からリボルバー式の大型拳銃を取り出して何も無い空間に向けて構えた。

「…いやはや、折角姿を消していたのに、
 いきなり見つけないで下さいよ。」
 何も居ない筈の空間から聞こえてくる声。
 すると、そこから徐々に人の姿が現れてきた。

「タカラギコさん…!?」
 驚くオオミミ。

「どうやら間に合ったみたいですね。
 いや、実によかった。」
 タカラギコはパニッシャーを女に向けて構えている。
 しかし、彼は一体いつからそこに居たのだ?

「……!」
 張り裂けそうな圧迫感。
 重苦しく圧し掛かる沈黙。
 視線と視線が、
 銃口と銃口が、
 殺気と殺気が交錯する。
 一触即発の緊張感が、あたりを静かに包み込んだ。

461ブック:2004/05/26(水) 00:08



     ・     ・     ・



 ―――三月ウサギとタカラギコがオオミミとジャンヌの元に辿り着くより少し前―――


 俺は噴水前のカフェで、ロイヤルミルクティーと生ハムメロンで潤っていた。
 優雅な一時。
 まさに上流階級の俺に相応しい。

「あいつら今頃武器屋で買物してんのかねぇ。
 ま、どうでもいいけどなフォルァ。」
 本当は少し寂しいのだが、悲しくなるのでその事は努めて考えないようにしておく。

「……?」
 と、通りの向こうが何やら騒がしいのに気がついた。
 何か、事件でもあったのだろうか。
 何気なくそちらに目を向けてみると…

「ブゥーーーーーー!!!!!」
 俺は口に含んでいたロイヤルミルクティーを全部噴き出した。
 オオミミが、全身コートの変人に誘拐されているのが目に飛び込んできたからだ。
 あの野郎、何だってあんな面倒な事に巻き込まれやがる。

「しょうがねぇ奴だな…」
 ほっとく訳にもいかないので、面倒だが助けに行く事にする。
 渋々と席を立ち上がり…

「!!!!!!!!」
 突如、俺は背後から殺意を感じ取った。
 即座に後ろに振り向く。

「あんた誰だよ、おっさん。」
 後ろに居たのは、頭の天辺から一本だけ毛が生えた髭親父だった。
 その顔に、丸い眼鏡をかけている。

「おお、これは失礼。
 実は人を探していましてな。」
 禿親父がピカピカに輝く頭に手を当てた。

「それで、俺に何か関係があるのかフォルァ。」
 警戒態勢を取りながら、禿親父に尋ねる。

「ええ、その探している人の人相が、
 耳の大きい少年、頭に大きなリボンをつけた少女、
 全身黒コートの片目の男、
 …そして、頭に緑色の毛の生えたギコの亜種の男でしてな。」
 …!
 こいつ、『紅血の悪賊』の一味か!

「さあ?
 そんな奴、周りにいくらでも居るだろ?」
 俺はわざと白を切る。

「そう。
 だから…」
 禿親父の殺気が大きくなった。
「お前で五人目だ!!」
 禿親父の横に浮かび上がる人型のスタンドのビジョン。

「『ネクロマンサー』!!」
 俺もスタンドを発動させる。
 蟲を鋼に擬態させ、腕に即席の刃を形作る。

「『アンジャッシュ』!!」
 男がスタンドの指先を俺に向けた。
 キラリと光る指先。

「!!!!!」
 次の瞬間、俺の右肩に小さな痛みが走る。

「…?針!?」
 見ると、俺の右の肩口には細長い針が突き刺さっていた。

「へっ!こんなチンケな得物で、俺を殺れるとでも…」
 すぐに針を引き抜く。
 これしきの傷、『ネクロマンサー』で回復させるまでも…

「があぁ!!!?」
 しかし針を肩から引き抜いた瞬間、そこに直径三センチ程の穴が肩に穿たれた。

「くっ!!!」
 穴から吹き出る血。
 何だ、これは。
 今のが、奴のスタンドの能力か…!?

「儂のスタンドに興奮したか!!」
 禿親父が誇らしげに声を張り上げた。



     TO BE CONTINUED…

462ブック:2004/05/26(水) 23:46
     EVER BLUE
     第十九話・第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その二


「くあああぁ!!」
 肩に開けられた穴から血が流れ出す。
 馬鹿な、どういう事だ?
 あんな細い針に刺されただけなのに、針を抜いた途端穴が開くなんて…

「うわ!?」
「きゃあああああ!!」
 俺の様子と、只ならぬ雰囲気に気づいた周りの奴等が、慌ててその場から逃げ出す。

「手前…!」
 肩を押さえながら禿親父を睨みつけた。
 『ネクロマンサー』が、肉に擬態して風穴の開いた傷口を修復する。

「…ずいぶん変な体だな。」
 やや驚いたような表情で禿親父が呟く。
「頑丈だけが取り柄でね。」
 俺はおどけながら答えた。

「お前、『紅血の悪賊』の手合いか…?」
 構えながら、禿親父に尋ねる。
 こんな真昼間に軽装の服で闘いを挑むとは、どうやら吸血鬼ではなさそうだ。
「そうだったら?」
 禿親父が俺と視線を合わせる。
 俺達の近くには既に人は居らず、かなり離れた所に野次馬が囲いを作っている。
 辺りは静まり返り、カフェの前にある噴水の水の音だけが俺の耳に入って来た。

「くっ。お前ら、本当にどこにでも居るのな。」
 うんざりしながら俺は口を開いた。
 全く、こんな辺鄙な島にまで出張って来てんじゃねぇよ。
「それはすまなかったな。
 だが、儂もここで貴様らの足止め、加えて戦力の削減を仰せつかっておる。
 残念だが、貴様にはここで死んで貰おう。」
 禿親父のスタンドが、ゆらりと禿親父の傍に現れた。

「『アンジャッシュ』!」
 そんなこんな考えているうちに、禿親父のスタンドの指から再び針が放たれる。
「ちっ!!」
 避けるのは間に合わない。
 『ネクロマンサー』を擬態させる事で創り出した刃で針を受ける。
 奴のスタンドの右手の五本の指から放たれた五本の針が、
 次々と腕から生えた刃に突き刺さった。

「糞が!」
 一々針を抜いている暇は無い。
 そのまま禿親父に向かって突進する。

「うるぅうぅあぁあ!!!」
 大上段からの振り下ろし。
 禿親父の光り輝く脳天目掛けて刃が襲い掛かる。

「『アンジャッシュ』!!」
 真剣白刃取り。
 禿親父のスタンドが、俺の『ネクロマンサー』の刃を両手で挟んで受け止めた。
 このスピード、近距離パワー型か…!

463ブック:2004/05/26(水) 23:48

「フォルァ!!」
 足の甲の部分で『ネクロマンサー』を刃に擬態。
 そこに生えた刃をで斬りつける様に、禿親父に向かって蹴りを繰り出す。

「いたずらばっかりしおって!」
 禿親父のスタンドが、刃の生えていない部分に足を当てて俺の蹴りを受け止めた。
 だが、ここでは止まらない。
 続けて腕の刃で禿親父の首を狙う。

「馬鹿もーーーん!!」
 禿親父が叫んだ。
 同時に、俺の『ネクロマンサー』の刃に刺さっていた針が引き抜かれる。

「!!!!!!!!!!」
 直後、刃に五つの大きな穴が穿たれ、
 『ネクロマンサー』の刃が虚空に散った。

 これは!?
 いきなり、針が勝手に抜け落ちた?
 いや、それより、
 今開けられた穴は、さっき肩に開けられた穴よりずっと大きい…!

「…!!」
 俺の刃に刺さっていた針が、宙を舞いながら禿親父の指に戻る。
 よく見ると、針の根元には細い糸のような物がくっついていた。
 あれで、針を引き戻したのか。

「!!!!!」
 今度は男の左手の指先が俺に向けられた。
 五本の指から飛び出す針。
 まずい。
 刃で受けようにも、擬態が間に合わ―――

「がっ!!」
 咄嗟に回避行動を取るも、かわし切れずに針の一本が俺の左目に突き刺さる。
「ちぃ!!」
 急いで針を引き抜く。

 ―――ボヒュン

 音を立て、俺の左目ごと頭をくり抜かれる。
「ぐああああああああああああああああ!!!」
 脳を一部を抉り取られ、思考が一瞬濁る。
 加えて、左側の視界が完全に奪われた。

「くううぅ…!」
 追撃を喰らうのは危険だ。
 朦朧とする頭で、何とか禿親父から距離を離す。

「!!!!!!」
 その時、俺の足元の地面がいきなり消失した。
 穴に足を捉えられ、無様にその場に倒れる。

 …!!
 地面に、あの針を打ち込んでおいたのか!

「『アンジャッシュ』!!」
 倒れた俺目掛けて、禿親父のスタンドが針を放つ。

「うおお!!」
 穴から足を引き抜き、何とかかわそうとするが、
 左腕の二の腕に針が一本刺さってしまう。

「くっ…!」
 今度は針を引き抜かない。
 これまで、針を抜いた途端にそこに穴を開けられている。
 恐らく、奴のスタンドの能力は針を刺し、
 それを抜いた瞬間に周囲に穴を開ける能力。
 ならば、針が刺さったままならば、大したダメージにはならない。
 兎に角、今は体勢を立て直す。

464ブック:2004/05/26(水) 23:48

「…吸血鬼も真っ青の再生能力だな。」
 俺の頭に開けられた穴が修復していく様を見ながら、
 禿親父が呆れ気味に口を開いた。
 既に、眼球も殆ど再構築しかかっている。
 我ながら、ぞっとしないスタンド能力だ。

「羨ましいだろ?」
 右腕に刃を生やしながら、禿親父を見据える。
 しかし、ここまでにかなりの『ネクロマンサー』を使ってしまった。
 このままでは、再生しきれなくなってお陀仏になりかねない。

 …だが、何故だ?
 頭の針を抜いたとき、さっき俺の刃に開けた位大きな穴を開ければ、
 いくら俺の『ネクロマンサー』といえど危なかった。
 なのに、何であの時はあんな小さな穴しか開けなかったんだ?
 いや、そういえば、
 今まで開けられた穴の大きさは大きかったり小さかったりまちまちだ。
 …何か、穴の大きさには法則性が有るのか?

「左腕の針を抜かなくてもいいのかな?」
 禿親父がニヤニヤと笑う。
「その手に乗るか。
 針を抜いた途端にそこに穴が開く位、もう気づいてるんだよ。」
 しかし、相手はこの針を引き戻す事で自在に引き抜く事が出来る。
 だとすれば、攻撃の最中に引き抜かれてダメージを受けるよりも、
 今の内に自分で抜いておく方がいいかもしれない。

「ちっ。」
 舌打ちしながら、針を引き抜いた。
 ダメージを受けると分かっていながら自分で針を抜くのは癪だが、仕方な―――


「!!!!!!!!!!!」
 抜いた瞬間、今までで一番大きな穴が左腕に穿たれた。
 その余りの大きさに、腕が千切れて地面に落ちる。

「があああぁ…!!」
 筆舌に尽くし難い程の痛み。
 糞、何故だ。
 何で今回はこんなに大きな穴が。
 いや、考えろ。
 何か法則は有る筈だ。
 さっきの頭の時の穴と、今の穴と、何が違う?
 何か、針を抜く時に違いは…

「!!!!!!!!!!」
 …そうか、そういう事か。

「針が刺さっている時の時間…!」
 歯を喰いしばりながら、俺は呟いた。
 針が刺さっている時間が長ければ長い程、抜いた時に大きな穴が開く。
 それなら、今迄の事も説明がつく。
 頭に刺さったとき、俺はすぐに針を抜いたから穴が小さくて済んだ。
 対して、今の左腕や、刃に刺さった時は、
 すぐに針を抜かずに刺さったままにしておいたから、
 大きな穴が開いたんだ。

「正解。
 だが、それでどうするのだ?」
 禿親父が嘲るように言い放つ。

 その通りだ。
 こんな事が分かったからといって、どうだというのだ。
 禿親父の攻撃への対策にはなっても、勝利の決め手にはならない。
 糞。
 考えろ。
 勝利への道筋を、奴を殺す方法を。

 思考思考思考。
 千切れた左腕からは、噴水のように血が流れている。
 …血……噴水……
 ……噴水………水…

「!!!!!!!」
 そうだ。
 きっと、これなら…!

465ブック:2004/05/26(水) 23:48

「うおおおお!!!」
 俺は千切れた左腕を振るい、そこから迸る血を禿親父に叩きつけた。
「!?」
 血の目潰しを喰らい、僅かに怯む禿親父。
 すかさず、右腕の刃で斬りかかる。

「カツオォ!!」
 しかし相手も近距離パワー型のスタンド使い。
 訳の分からない名前を叫び、紙一重で俺の斬撃を回避する。
 俺の刃は禿親父の服を少し切り裂いただけで、体を両断するには至らなかった。

「たわけめ!服を掠っただけ…」
 そう、『服を掠った』。
 それが出来れば充分だ…!

「ぐああああああああああああ!?」
 次の瞬間、禿親父の服が勢い良く炎上した。

 これこそが、俺の狙い。
 さっき血を撒き散らしたのは、目潰しが本来の目的じゃない。
 俺の血の中に潜む『ネクロマンサー』を、奴の服にくっつけるのが目的だったのだ。
 そして、奴の服で『ネクロマンサー』をリンに擬態させる。
 リンは非常に発火温度が低い物質。
 ちょっとした摩擦熱でも、充分に火を点ける事が出来る。

「おのれ…!!」
 禿親父がカフェの前の噴水に駆け込む。
 そう、お前はそうやって服に点いた火を消すと思ったよ。
 そして、それこそがお前の地獄への片道切符だ!

「『ネクロマンサー』!!」
 左腕を修復する分だけの蟲を残し、残りを全てとある物質へと擬態させる。
 俺の右腕に生まれる、鈍色に輝くコンクリートブロック大の物体。
 これが、俺の切り札だった。

「!!!!!!」
 噴水に飛び込み、体に点いた火を消化する禿親父。
 そこに、作ったばかりの鈍色の塊を放り込んでやる。

「!?」
 水に投げ入れられた塊を、不思議そうな目で見る禿親父。

「…冥土の土産に教えてやる。
 その物質の名前はな―――」
 物質の周囲の水が、沸騰したように泡だった。

「―――金属ナトリウム。」
 そう、水に接触する事で、激しく反応する化学物質。
 その大きな塊が、今大量の水の中に―――

466ブック:2004/05/26(水) 23:49



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 耳をつんざく様な爆発音。
 それに伴い、噴水からとてつもない大きさの水柱が立つ。
 噴水の中の水が一瞬にして空になり、
 空に巻き上げられた水が天のように地面に降り注いだ。

「おわあ!!」
「ぎゃあああああああああああ!!!」
 野次馬達が悲鳴を上げる。
 どうやら、爆発のショックでバラバラになった禿親父の肉片も、
 水と一緒に落ちてきたみたいだ。
 まあこっちだって命懸けなのだ。
 これ位は勘弁して貰おう。

「化学の勝利、ってやつだなフォルァ。」
 千切れた腕をくっつけながら、勝利の余韻に浸る。
 これこそが、俺の『ネクロマンサー』の闘い方。
 その真骨頂。
 だけど、何か肝心な事忘れているような…

「あ。」
 思い出した。
 サカーナの親方に、絶対に騒ぎを起こすなと言われていたのだ。

「…ま、しょうがねぇわな。
 不可抗力不可抗力。」
 深く考えるのは止そう。
 そんな事より、今はここから逃げなければ。
「逃げるが勝ち、ってやつだフォルァ。」
 俺はそそくさとその場を立ち去るのであった。



     TO BE CONTINUED…

467:2004/05/28(金) 22:10

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その3」



          @          @          @



 店の外から、ヘリのメインローター音が聞こえた。
「…着いたみたいだょぅ」
 ぃょぅは、カウンターから出る。
「じゃあ、行くか…」
 ギコは荷物を抱えると、ソファーから立ち上がった。

「モナー君によろしくね」
 コーラの入ったグラスを置いて、モララーが言った。
「モララー君… ぃょぅがいない間に、勝手にお酒を漁ったら承知しないょぅ」
 ぃょぅが釘を刺す。
「や、やだなぁ… 僕がそんな事をするはずないよ…」
 モララーは露骨に視線を逸らした。
「…」
 そんなモララーを不審げに見た後、ぃょぅはBARから出ていった。
 ギコが後に続く。
 扉の開閉時の、カランカランという鐘の音が店内に響いた。

 そのまま、ギコとぃょぅは駐車場に出る。
 そこには、ギコの想像より遥かに大きなヘリが着陸していた。
 機体は、黒みがかったグレーにペイントされている。
「H−60・ブラックホーク…?」
 ギコは、呟きながらそのヘリを見上げた。
 これは輸送ヘリじゃなく汎用ヘリだ。
 無論、武装もしている。
 こんなのでASAの艦に近付いたら、撃墜されるんじゃないか?

「さぁ、乗るょぅ」
 ぃょぅはそう言ってヘリに乗り込むと、慣れた様子で操縦席に座った。
 そして、ギコがASAから聞いた座標を地図に書き込む。
「…ちょっと遠ぃょぅ。途中給油が必要かもしれなぃょぅ」
 そう呟きながら、計器類をチェックするぃょぅ。

「確か、このヘリは乗員が3名必要じゃないのか?」
 ヘリに搭乗したギコは、操縦席のぃょぅに訊ねた。
「1人で操縦可能なように改良したょぅ」
 ぃょぅは当たり前のように答える。
「じゃあ、テイクオフだょぅ!」

 ギコとぃょぅを乗せたブラックホークは、たちまち空高く舞い上がった。
「…自衛隊に見つかったらどうするんだ?」
 ギコは訊ねる。
「そうならない為に、五課のヒラ操縦士じゃなくぃょぅが操縦を引き受けたんだょぅ」
 ぃょぅは正面を向いて言った。
 ギコは、窓から夜の町を見下ろす。
 戦争が始まろうが、眼下の風景は変わらない。
 だが、この町にまで戦火が拡大すればどうなるだろうか。
「守るべき町…、か」
 ギコは呟いた。

「昔、ヘリの操縦士をやってたって言ってたな? どこでだ?」
 ふと、ギコは操縦席のぃょぅに訊ねた。
「…ソマリアだょぅ」
 ぃょぅは即答する。
 それからしばらく、2人の会話は無かった。

468:2004/05/28(金) 22:11



          @          @          @



 千葉県、嶺岡山。
 この地に設置されたレーダーサイトが、最初にその異常を捉えた。

「海自では、今頃派手にやってるんだろうな…」
 ずらりと並ぶディスプレイ。
 それに向き合っていた航空自衛隊隊員の1人が、椅子にもたれて言った。
「第1と第2が総出だろう? これでASAの艦隊を潰せれば、戦争も終わるんだがなぁ…」
 その隣の空自隊員が呟く。

「こっちにも特別要請が来たみたいだぞ。
 アレを投下するから、F−2支援戦闘機を1機派遣してくれ…って」
 それを聞きつけて、空自の1人が寄ってきた。 
「アレって… アレだよな」
 椅子にもたれていた隊員が、声を落とす。
「また、マスコミに叩かれるぞ。ウチの幕僚長、こないだも…」
 そう言い掛けた隊員が、ディスプレイに目をやった。
「…おい、何だよこれ!!」

 ディスプレイに広がる光点。
 その数は、40を越えている。
「航空機の編隊…! ASAかっ!?」

 隊員達が、一斉にそれぞれのディスプレイに向かう。
「アンノウン(正体不明機)、時速1000で接近中!! 距離140キロ、高度100!」
「機数、80を超過!!」
「IFF(敵味方識別機)反応なし!! フライトプランにも当該機なし!!」
「百里基地にスクランブル・アラート!!」
「米衛星より、画像来ました!!」

 ディスプレイに、2種類の航空機が映し出される。
「…レシプロ機だって?」
 その前時代的な機体外観に、隊員の1人が呟いた。
「両機とも照合不能!! 戦闘機と爆撃機の2種の模様!! おそらく、ASAの開発した最新機種と…」

「最新なものか…」
 駆けつけてきたレーダーサイトの所長が口を開いた。
「メッサーシュミットBf109、爆撃機はJu87… 共にナチスドイツの機体だ」
「ナチスですって…?」
 隊員は、ディスプレイに見入る。
「でも、60年も前の機体でしょう? それが、亜音速で…」

「改修機だろう… ASAは何を考えている?」
 所長は顎に手を当てた。
 海自からの連絡では、ASA艦隊をかなりのところまで追い込んだらしい。
 それが、なぜ救援に行かない?
 陽動… いや、そもそもこの航空編隊はASAの所属か?

「…向こうは爆装している。通常の領空侵犯対処ではなく、迎撃任務だ。
 百里基地に、第204飛行隊と第305飛行隊を出すよう連絡しろ!」
 余計な思考を打ち切って、所長は指示を出す。
「はっ!!」
 隊員の1人が、素早く無線機を手に取った。

469:2004/05/28(金) 22:12



          @          @          @



 枢機卿は、Bf109のコックピットで闇夜を眺めていた。
 高速で流れていく周囲の風景。
 こんな風に、戦闘機を操縦したのは何十年振りだろうか。

 真っ暗にもかかわらず、視界は完全に良好。
「まあ、闇目の利かない吸血鬼など存在しないからな…」
 枢機卿は笑みを浮かべて呟いた。
 随伴機も、特に問題はない。
 自機が、かなり先行している点を除いて…

「さて…」
 ディスプレイに光点が表示された。
 前方から接近物多数。
「目標確認。随分と団体で来たものだな…」

 F−15J。
 20世紀における最強の戦闘機、F−15・イーグルの航空自衛隊改修機。
 その編隊が迎撃に駆けつけてきたのだ。
 うち、敵機2機が先行。こちらに直進してくる。
 この距離でミサイル攻撃を行ってこない理由はただ1つ。

「あくまで最初は威嚇射撃という訳か…」
 枢機卿は呟いた。
 自機の速度を落とさず、そのまま直進する。
 先行している2機も、真っ直ぐに近付いてきた。

 案の定、F−15Jに備え付けられたバルカン砲が虚空に向かって火を吹く。
 敵機に当たる可能性がある攻撃は、威嚇とは見なされない。
 よって、威嚇射撃は見当違いの方角へ放つ。
 それが、この国のルールのようだ。
「筋は通す…か。その心根、悪くはない…」
 枢機卿は冷たい笑みを浮かべた。

 機内に備え付けられた国際無線が、お決まりの音声を放つ。
『警告する。貴機は、現在領空を侵犯している。至急…』
 英語で告げているのは、先程威嚇射撃を行ったパイロットだろう。
「これだけの編隊を前に警告か。律儀な事だ…」
 枢機卿はため息をついた。
「その愚かなまでの規則遵守… 我らゲルマンと通ずるものがあるな」

 敵編隊の先頭機2機との距離は、どんどん縮まっていく。
 枢機卿は無線機を手に取ると、そのスィッチを押して告げた。
「勇敢なる兵士よ、1つ問おう。命の意味とは何だ?」

『命の意味…? …繰り返す、貴機は、現在領空を侵犯している』
 向こうのパイロットは少し動揺した後、先程の台詞を繰り返した。
 枢機卿は無視して続ける。
「かけがえのない命… 本当にそうか? 例えば、ここから遠い地… アフリカにいる1人の人間。
 消えて無くなったところで、世の中は変わるか?」

『警告に従わなければ、撃墜する。繰り返す…』
 枢機卿の言葉に全く取り合わないように、パイロットは告げた。

「答えは…『何も変わらない』。その人間と関わりのあった者が悲しむのみだ。
 そう。命の価値とは、他者との関連による言わば付加価値なのだよ」
 枢機卿は、まるで日曜日の教会の神父のように話し続ける。

『貴機は、現在領空を侵犯している…』
「そもそも、かけがえのない命とは大いに語弊がある。
 命など、日々失われているではないか。これは、財の損失か?
 軍用機のコックピットに座る君になら分かるだろう。
 そんな筈はない、『かけがえのない命』などは虚構であると…
 人の命を奪う為の機械を操縦している君には分かるはずだ。この愚かなる欺瞞がな…!」
 枢機卿は、目の前の2機をしっかりと見据えた。
 この速度だと… あと20秒後にすれ違う計算になる。

『警告に従わなければ、撃墜…』
 壊れたレコードのように、無線から伝わってくる声。

「――なぜ、そんな兵器などが作られた?
 君が必死ですがっている、領空侵犯とやらのやり取りは何の為にある?
 『かけがえのない命』ではなかったのか? これを偽善といわずして何という?
 問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。問おう。君に問おう」
 枢機卿は、両袖から愛銃のP09を取り出した。
 P08のフルオートカスタムが両手に1挺ずつ。
 そのグリップを強く握る。

『黙れ! そんなのは関係ない! これが手続きだからだ!!
 世の中はそういう風に出来てるんだよ!!』
 とうとう我慢できなくなったのか、パイロットは怒声を上げた。
 枢機卿は、満足そうに笑みを浮かべる。

470:2004/05/28(金) 22:13

「そう、世界はそのように構築された。だから私は哀れな魂に告げよう――」

 先頭の2機が目前に迫る。
 枢機卿の機体を囲い込むようにすれ違う瞬間、枢機卿は自機のキャノピーを押し開けた。
 亜音速の空気抵抗が、もろに枢機卿の身体に吹き付ける。

「――Kyrie eleison(主よ憐れみたまえ)」

 枢機卿は操縦席から立ち上がると、大きく両手を広げた。
 まるで、十字を形作るように。
 そして、その両手に構えたP09の引き金を素早く引く。

 フルオートで発射された弾丸は、左右から挟みこむようにすれ違うF−15Jのコックピットを直撃した。
 そのままキャノピーを貫通し、パイロットの頭部を貫く。
 操縦士を失い失速する2機。
 後は、地表に激突するのみだ。

 枢機卿は、場の空気が変わるのを敏感に感じ取った。
 後方に控えているF−15Jの編隊から照射される無数のアクティブ・レーダー、そして殺意。
 様子見から迎撃へ。
 彼等の任務は変更された。
 これで、舞台は整ったというわけだ。

「さあ… 神罰に溺れよッ!!」
 枢機卿は、手許のスィッチを押した。
 機内のステレオから、勇壮な曲が大音響で流れる。

Ka-me-ra-den, wir mar-schie-ren in die neu-e Zeit hin-ein.
「   戦友よ、    我等は    新しき時代へ行進する 」

 メロディーに合わせて、枢機卿は口ずさんだ。
 その曲は、無線機を通じて相手側にも伝わっているだろう。
 敵編隊は、視界ギリギリの地点に展開していた。
 吸血鬼の視力でギリギリという事は、向こうからの目視は不可能。

「有視界戦闘など、過去の遺物というわけか…」
 枢機卿は呟くと、自機のスピードを限界まで上げた。
 アフターバーナーを消費し、その機体速は音速を超える。
 前方から、何発もの対空ミサイルが飛来してきた。

wir sind stets zum Kampf be-reit.
「 我等の戦いの準備は堅い 」

 速度を落とさず、枢機卿はミサイルの雨を切り抜けた。
 超音速で、数々のミサイルのホーミングを振り切る。
 そして枢機卿のBf109は、敵編隊の正面に躍り出た。
 その数、約60機。
 空を覆い尽くす大編隊だ。

Lie-be Mag-de-lein, laB das Wei-nen sein;
「 愛する乙女よ、 悲しむのはやめよ 」

 枢機卿は、素早く周囲に視線をやった。
 全ての情報を分析し、確率・統計的に導き出された最適な行動パターンを割り出す。
 自機の位置。針路。指示対気速度。真対気速度。対地速度。風向風速。射線の保持。Optimum Altitudeの確認。
 敵機の動き。進入飛行経路。飛行高度。失速速度。最小操縦速度。最大運用速度。航空機の姿勢。バイパス比。
 エレメンタルの組み合わせ。各機残存燃料の把握。編隊の有機的関連。各機の射程及び視程。
 気温。気圧。CATの有無。気温逓減率。正規重力計算。遠心力計算。エトヴェシュ補正。
 ランチェスター理論。クラウゼヴィッツ的『戦場の相互作用』の加算。集中効果の法則。
 防御・隊列数分割式。命中率と砲外弾道計算。真空弾道の軌道計算。暴露時間と被弾確率。
 そして、最低限の誤差修正――

「――戦状把握。これより神罰を執行する」

 両手の拳銃で敵機のコックピットに狙いをつけた。
 自機の機銃、機関砲、ミサイル、全てを編隊に照準を合わせる。
 一斉に、バラバラに散る敵編隊。
 もう遅い。全ての試算は済んでいる。

denn wir kampfen ster-ben furs Va-ter-land.
「なぜなら我等は祖国のため死ぬのだから」

 枢機卿の機は、そのまま急上昇した。
 それを追うように高度を上げる機体、守勢に回る機体、距離を置く機体、対応は様々だ。
 まるで、枢機卿の割り出した行動モデルをなぞるように。
 ――射線確保。
 そして、一直線に編隊の中へ突っ込む。

471:2004/05/28(金) 22:14

 枢機卿は、両手の拳銃の引き金を引いた。
 同時に、13mm機銃、20mm機関砲が火を噴く。
 さらに、ミサイルを発射。
 拳銃弾は、コックピット内のパイロットの頭部へ。
 機銃弾や機関砲弾は、燃料タンクへ。
 ミサイルは、機体の胴部へ。

ie-be Mag-de-lein, laB das Wei-nen sein;
「 愛する乙女よ、 悲しむのはやめよ 」

 全機の行動を完全に読んだ偏差射撃に、F−15Jは次々に被弾していった。
 だが、向こうも黙ってやられるはずがない。
 敵機の中距離ミサイルが乱れ飛ぶ。
 それでも、敵機の全ての動作は最初に割り出した行動パターンに符合していた。
 電子機器による誘導は、機関砲の弾道より読むのは容易い。
 ミサイルを避けつつ、敵機体を殲滅しつつ、枢機卿のBf109は敵編隊の間を縦横無尽に駆けた。

 ――オーバーシュート。
 編隊を突っ切ってしまったようだ。
 目の前に、飛行機1つない夜空が広がる。
 急速旋回して、再び編隊の中に飛び込んだ。

 その瞬間、機体に衝撃が走った。
「…!?」
 枢機卿は、真上に視線をやる。
 この機体よりもさらに高度に、1機のF−15Jの姿があった。
 真上からバルカン砲を喰らったようだ。

「…ふむ、いい腕だ」
 機体が大きく揺らぐ。
 この角度で、そしてミサイルが乱れ飛ぶ中で、頭上から見事に射線を通すとは…

 ――どこで読み違えた?
 おそらく、編隊を突っ切って18機目。
 向こうの射線を遮るはずだった敵機を、つい落としてしまったようだ。

 さらに衝撃。
 一瞬の隙に、後方を突かれた。
 エンジン付近に被弾。
 おそらく、頭上の機体と2機編隊。
「素晴らしい連携だ… その技量を賞賛しよう」
 枢機卿は、笑みを浮かべて呟いた。

 Bf109の機体後部は炎に包まれている。
 エンジンが発火しているようだ。
 これ以上の飛行は不可能だろう。

 機体は、とうとう落下を始めた。
 枢機卿は座席から立ち上がると、機体の上に立つ。
 SS制服の裾が、風圧で激しくはためいた。
「さて、困った…」
 そう呟くと、一番近い位置にいるF−15Jに視線をやった。

「少し遠いが… 吸血鬼の肉体ならば、何とか可能か」
 機体の上で助走をつけ、枢機卿はそのまま飛んだ。
 そして、F−15Jの機首部に着地する。
 コックピットの正面に立つ枢機卿。

「な…!?」
 突然目の前に降り立った男の姿に、パイロットは驚きの表情を浮かべる。

denn wir kampfen ster-ben furs Va-ter-land.
「なぜなら我等は祖国のため死ぬのだから」

 枢機卿は、コックピット内に銃口を向けた。
 そのまま、頭部を狙って引き金を引く。
 銃声と破壊音。
 コックピット内に鮮血が飛び散った。

 空を切る轟音。
 枢機卿の乗るF−15Jに向かって、ミサイルが飛んできた。
 機体の背に直立し、枢機卿はその飛来物に目をやる。
「随分と執拗だな。そうまで私の首が欲しいか…」

 銃口をミサイルのシーカーに向けると、枢機卿は引き金を引いた。
 銃弾が命中し、空中爆発するミサイル。
 さすがに間近での爆風は強烈だ。
 枢機卿の体は、機体の背から投げ出された。

「全部潰すつもりでいたが、早くもリタイアか…」
 落下しながら、枢機卿は両手のP09を連射する。
 3機のF−15Jのコックピットを撃ち抜いたが、それで限界だ。
 そのまま、彼は高速で落下していった。

 後方から鳴り響くジェット音。
 Bf109、Ju87で構成される吸血鬼航空部隊がようやく飛来してきた。
 頭上で、F−15Jとの交戦が始まる。

「先行しすぎた事が仇となったか…」
 大空中戦の光景も、みるみる遠くなっていく。
 落下速度は増す一方。
 真下は海である。
 この身体なら、充分に落下衝撃に耐え切れるだろう。
 枢機卿の身体が海面に激突し、高い水柱が上がった。


「せっかくの一張羅が濡れてしまったな…」
 枢機卿は、仰向けで海面に浮いていた。
 そのまま、名残惜しそうに上空を見上げる。
 真上では、『教会』の吸血鬼航空部隊と航空自衛隊が激突していた。
 火花や爆発、機関砲の咆哮が響く。
「…さて、母艦に戻るか」
 枢機卿は呟いた。

472:2004/05/28(金) 22:15



          @          @          @



 俺は、大きく深呼吸をした。
 敵は合わせて16艦。こちらは2艦。
 いくら戦いは数でするものではないと言っても、余りに分が悪い。

「…勝算はあります」
 ねここは、緊張した表情を浮かべながら口を開いた。
「従来の艦隊戦のように、目視できない距離からの撃ち合いならば、こちらに勝ち目はありません。
 でもASA本部ビルが奇襲された時、しぃ助教授は16発のミサイルを撃墜しています。
 向こうはそれを警戒して、ミサイルの使用を控えると思うのです。
 そうなると、近代ではありえないような艦隊接近戦になると思います」

 接近すれば、こちらにはスタンドという強い武器がある。
 少しだけこちらに有利に傾くかもしれない。

「…ミサイル16発を落としただと? なら、私はその3倍は落とす…」
 リナーは、別の意味でやる気のようだ。
 アヴェンジャー機関砲を掴む手に力が入っている。
 とにかく、今は心強い。

「ん…?」
 『アウト・オブ・エデン』が、しぃ助教授の艦の接近を捉えた。
 艦同士の距離を狭め、連携を取ろうというのであろう。
 そして、前方からも近付いてくる物体が…

「…来たモナ!! 右20度から、ミサイル2発!!」
 俺は怒鳴った。
「副艦長よりCICへ!! スタンダードで迎撃を!!」
 ねここが無線を手にして叫ぶ。
 後方から轟音がした。
 この艦から、まるで打ち上げ花火のようにミサイルが飛翔していく。
 それは、そのまま前方へ高速で飛んでいった。
 あれが、スタンダード対空ミサイル…

 ミサイル同士が空中衝突し、両者とも爆砕した。
「当たったモナ! 向こうのミサイルを撃ち落したモナ!」
 俺は興奮して叫ぶ。
 ねここは、俺に視線を向けた。
「モナーさんが早く教えてくれたお陰です。ミサイルが来たら、この調子で…」
「…また来たモナ!!」
 俺は、息つくヒマもなく叫んだ。
「…敵艦が2艦、こちらに近付いてきたモナ!! 後ろの艦からもミサイルが3発…」

「スタンダード3番、4番、5番!! 目標、敵対艦ミサイル!!」
 ねここは素早く反応した。
 再び、発射されたミサイルが前方に向かう。

「敵艦接近か…」
 リナーが、アヴェンジャー機関砲を構えた。
 眼前の海に、肉眼でうっすらと艦影が見える。
 先頭に1艦。その後ろにもう1艦の縦列だ。
 先頭艦の前部に備え付けられた単装砲が、素早くこちらを向いて…

「ありすッ!! お願い!!」
 ねここは叫んだ。
 周囲に、夜を裂くような爆音が響き渡る。
 敵艦の単装砲… そして、リナーのアヴェンジャー機関砲が同時に火を噴いたのだ。

 大きな掌、おそらくありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』が砲弾を弾く。
「うわぁッ!!」
 その瞬間、『ヴァンガード』が大きく揺れた。
 流石に全弾は防ぎきれなかったようだ。
 艦の前部に砲弾が直撃…!!

「いや、相打ちだ」
 リナーは、敵艦を見据えたまま言った。
「このアヴェンジャーで敵艦を撃沈するのは到底無理だが、固定兵装を潰す事はできたようだな…」

 見れば、敵艦の前部単装砲が吹き飛んでいる。
 でも、まだ後部の砲門が残っているはず。
 敵艦は、転舵運動を…

「転舵させるな! 沈めろ!!」
 リナーが叫んだ。
「ハープーン!! 目標、前方敵駆逐艦!!」
 ねここは素早く指示を出す。
 ミサイルが、轟音と共に撃ち上がった。

 ハープーン対艦ミサイル。
 亜音速で飛来、そして水上艦に激突・爆砕する強力なミサイル兵器。
 転舵運動を取っている最中の敵艦に、避ける術はない。

 ハープーンは、敵艦の艦橋に直撃した。
 ミサイル自身の爆発。さらに、火薬庫か何かに引火したようだ。
 敵艦上で誘爆が起こっている。あれでは、航行は不可能だろう。

「やった!!」
 俺は叫んだ。
 こっちに放たれた3発のミサイルも、こちらの対空ミサイルで撃墜したようだ。

473:2004/05/28(金) 22:16

 しぃ助教授の艦『フィッツジェラルド』が、『ヴァンガード』の横に並んだ。
 艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授が見える。
 そして、その後ろに影のように控える丸耳。

「気を抜くな! まだまだ来るぞ!!」
 リナーはガトリングを構えて叫んだ。
 俺は素早く前方に視線を戻す。
 もっとも、俺が気合を入れても仕方がないが。

 後ろの1艦が艦砲射撃を放ってきた。
 ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』の掌が、その砲弾を叩き落す。
「距離が遠い。これでは、あそこまで届かんな…」
 リナーはアヴェンジャー機関砲を構えたまま呟いた。

 『アウト・オブ・エデン』が、ミサイルの接近を感知する。
「ミサイルが来たモナ! 数は1、2、3、いや、もっと… 50発以上!!」
 俺は叫んだ。
 ねここも、ありすも、リナーも、驚きの表情を見せる。
 隣の艦でしぃ助教授が息を呑むのが、無線越しに伝わってきた。
 今から来るのは、まるでミサイルの雨だ。それが、あと30秒後に…!!

「…飽和攻撃! こちらのミサイル処理能力を上回る物量で押してきたか!」
 リナーは、ガトリング砲を仰角30度に向けた。
「構わんさ。落とせるだけ、落としてやろう…」

「サムイ…」
 ありすの周囲に、無数の巨大な掌のヴィジョンが浮かぶ。
 かなり射程の長いスタンドだが… それでも、ミサイル攻撃に対しては余りにも不利だ。
 ありすの身ひとつではなく、艦そのものを防衛しようと言うのだから。
 ねここは無線を操作して言った。
「ウェポン・オール・フリー(全兵装使用自由)。砲雷長の判断で、迎撃及び攻撃を行って下さい」
『了解。 …そちらも健闘を祈ります』
 CICからの応答。
「駄目な時は、総員の退艦を速やかに…」
 そう告げて、ねここは無線を切った。
 そして、前方を見据える。

「…来たぞ!!」
 リナーは叫んだ。
 視認範囲にミサイルの大群が…!!
 それは、星のように正面に点在していた。
 広がった点にしか見えない物体が、徐々に大きくなっていく。
 前方の艦も、ミサイル攻撃とタイミングを合わせるかのように艦砲射撃を繰り出してきた。
 空を切るようなミサイルの飛来音と、単装砲の太鼓のような音が闇夜に響く。

「はいだらー!!」
 ねここは、ミサイル群を見据えて叫んだ。
 『ヴァンガード』と『フィッツジェラルド』から、同時に多数の対空ミサイルが発射される。
 こちらの対空ミサイル、リナーのアヴェンジャー機関砲弾、ありすのスタンド…
 それらが、一斉にミサイルの大群に向かった。
 前方で次々に巻き起こる爆発。
 それは、まるで花火のように俺の目に映った。

 それをかいくぐって、数発のミサイルが飛来する。
「この…ッ!!」
 リナーが、素早くアヴェンジャー機関砲を向けた。
 かなり付近まで接近していたミサイルが、弾丸を喰らって爆発する。
 その爆風に、俺はよろめいた。

「まだ来るのか…!!」
 リナーは、アヴェンジャー機関砲で接近してきたミサイルを次々と撃ち落していく。
 だが、それでも迎撃が追いつかない。
 『ヴァンガード』のCIWS20mm機関砲もフル作動しているが、それでも…
 アヴェンジャー機関砲の射撃を逃れたミサイルが、寸前まで迫る…!!

 轟音と共に、ミサイルはそのまま水没した。
 こちらに迫るミサイルは、次々とあらぬ方向に逸れていく。
 これは、しぃ助教授の『セブンス・ヘブン』…!!

「さすが、しぃ助教授!! 助かりました!!」
 ねここは無線で言った。
『余り私を頼らないで下さい。遠距離になれば、当然精度も弱まりますからね…!』
 しぃ助教授は告げる。
 さらに、しぃ助教授は仮にも人間。
 スタミナにも限界はある。

 向こうは、それでも遠方から次々にミサイルを放ってくきた。
 もう、100発はとっくに越えているはずだ。
 リナーのガトリング、両艦の兵装、そしてしぃ助教授とありすのスタンドを持ってしてもなお、迎撃しきれない。
 飛来したミサイルのうちの1発が、艦首部分に直撃した。

「うわァッ!!」
 『ヴァンガード』がぐらぐらと揺れる。
「大丈夫、これくらいじゃ沈みません!!」
 ねここは叫んだ。

474:2004/05/28(金) 22:17

「…弾切れだ」
 アヴェンジャー機関砲を下ろして、リナーは呟く。
 そこへ1発のミサイルが飛来した。
「…!!」
 リナーはアヴェンジャー機関砲を持ったまま、砲丸投げの要領でその場で1回転する。
 そして、ミサイル目掛けてアヴェンジャー機関砲の砲身をブン投げた。
 頭上で爆発が起こり、砲身の直撃を受けたミサイルが海中に没する。

「…対艦ミサイルを、前方の艦に放つようCICに伝えろ。軌道は超低空だ」
 リナーは、ねここの方に振り返って言った。
「は、はい… でも、間違いなく迎撃されると思いますが…」
 ねここは、急な申し出に困惑して告げる。
「…構わん。急げ!」
 リナーは言った。
 ねここは素早く無線を操作する。
「前方敵艦にハープーン! 軌道は海面スレスレでお願いします!」

 指示の直後、後部発射口からハープーン対艦ミサイルが撃ち上がった。
 リナーは、その場から艦首に向けて真っ直ぐに走り出す。
 まさか…!!

 いったん真上に撃ち上がったミサイルが、誘導に従って下降していく。
 加速をつけたリナーが、艦首から思いっきりジャンプした。
 そのまま、敵艦へ直進するミサイルに飛び乗る。

 前方の艦のCIWS機関砲が作動した。
 たちまちのうちに、こちらが放ったミサイルは撃墜される。
 だがリナーはミサイル撃墜の瞬間、敵艦に飛び移ったようだ。

「本気で、白兵制圧する気モナね…」
 俺は思わず呟いた。
 その瞬間、前方から爆発音が響いた。
 直後に、艦が大きく揺れる。
 艦の右舷にミサイルが当たったのだ。
 損傷の規模からして、ありすの『ゴッド・セイブ・ザ・クィーン』が爆発をある程度抑えたようだが…

「くッ…!!」
 『ヴァンガード』は大きく傾き、俺はよろけた。
 しぃ助教授の艦も、何発か喰らっている。
 この艦よりも損傷は大きいようだ。

『ねここ!』
 無線機のイヤホンから、ねここを呼ぶしぃ助教授の声。
『こちらの後部甲板にミサイルが直撃しました! 怪我人続出です! 至急、治療をお願いします!!』
「分かりました! ただちに向かいます!!」
 ねここは、俺とありすに背を向けて駆け出した。
「…どうやって行くつもりモナか!?」
 俺は叫ぶ。
「内火艇があります!!」
 ねここはそう答えると、ブリッジの中に消えていった。

 内火艇って、ボートに毛が生えたような奴じゃないか…
 そんなもので、この銃弾やミサイルが飛び交う戦場を渡るのか…?
 俺は、隣のありすを見た。
 ゴスロリに身を包んだ少女は、必死な顔で前方を見つめている。
 この艦に迫るミサイルを、もう何発落としたのだろうか。
「ありす、頑張るモナ!!」
 俺は、ありすを激励した。
 応援するしか、俺にできる事はない。

「…だいじょうぶ」
 ありすは頷く。
 その額に、一筋の汗。
 あれほどの射程と力を持つスタンドである。
 この小さい身体に、それを維持し続けるだけのスタミナはあるのだろうか…

「…?」
 『アウト・オブ・エデン』は、不穏な気配を感知した。
 後方から、何かが近付いてくる。
 これは、航空機か…?

 俺は、背後の空を見上げた。
 1機の飛行機が、高速で飛来してくる。
 その胴部と主翼には、見慣れた日の丸。
 機体下部には、爆弾のようなものを装備している。

 ――妙だ。
 これだけのミサイルの雨の中、わざわざ飛行機で爆撃しにくる必要など全くないはず。
 あれは…
 あの爆弾は、何だ?

 『それ』は投下され、『ヴァンガード』の甲板前部に落ちた。
 俺達のすぐ近くだ。
 爆発など起きはしない。
 ただ、その物体は甲板に転がったのみ。
 飛行機は、そのまま速度を落とさずに前方へ飛んでいく。
 これは… 何か、苦い香り…?

 突然、ありすが膝を付いた。
 そして、そのまま甲板に横たわる。

「ありす!!」
 俺はありすに駆け寄った。
 呼吸が荒い。手足が僅かに痙攣している。
 これは――


 ――窒素性化学物質、シアン化水素。組成式はHCN。
 化学兵器として有名で、米軍コードはAC。
 吸入から15秒程で呼吸亢進。
 15〜30秒後に痙攣。
 2〜3分後に呼吸が停止、その後数分で心停止に至る――

 本来、化学兵器を屋外で使う事は兵器運用上ありえない。
 たちまち空中に四散してしまうからだ。
 しかし、これは個人を狙った攻撃だな。
 ASA三幹部ありすの命のみが狙いなのだろう。
 君は吸血鬼だから大丈夫だが… この娘はいくら強大なスタンドを所持していようが、肉体は人間だ。

475:2004/05/28(金) 22:19


「化学兵器だと…!? 女の子なんだぞ!?
 女の子1人を殺す為に、奴等は化学兵器なんか持ち出したっていうのか!?」
 俺は憤慨して叫んだ。
 そして、ゆっくりとありすを抱き起こす。
 ぐったりとして、力が入っていない。

 ――か弱い女… とはとても言えんだろうがな。
 やるなら急げ。
 間に合わんぞ。

「お前に、言われるまでもないんだよッ!!」
 俺はバヨネットを取り出すと、ありすの胸に突き刺した。
 そして、大きく横に薙ぐ。
 肺を犯しているシアン化水素『だけ』を『破壊』――
 さらに、バヨネットで周囲を大きく一閃した。
 これで、空気中のシアン化水素は残らず『破壊』したはず。

 だが、あくまで毒素を取り除いたのみ。
 ありすの容態は悪い。
 俺は無線機のスィッチを押した。
「ありすが化学兵器… ACで倒れた! 急いで救護を!!」
 俺は叫ぶ。
『艦長が…? 了解しました!!』
 CICから迅速な返事が返ってきた。
 その瞬間、艦が大きく揺れる。
 左舷に、ミサイルの直撃を食らったのだ。 
 ありすが倒れた今、この艦はもう持たない…!


 ――『私』に替われ。

「黙れ! お前の力なんて、絶対に借りるか!!」
 俺は叫んだ。
 『殺人鬼』の奴、いつの間にしゃしゃり出てきたんだ?

「くッ…!!」
 俺はありすの身体を抱えると、艦橋に向かって走った。
「ともだち…?」
 ありすが、俺の顔を見上げる。
「黙ってろ! すぐに治るから!!」
 俺は叫んだ。

「大丈夫ですか!!」
 艦橋へのドアが開き、担架を持った艦員達が走ってくる。
「ACを吸ってる! 応急解毒は済ませたから、100パーセント酸素補給を!!」
 俺は、素早くありすを担架に乗せた。
 そして、艦員達を見る。
「この艦はもうダメだから、あんた達も避難を…」
 艦員は、厳しい視線を向けた。
「艦を見捨てて逃げ出したりはしません。私達も戦っています」
「…」
 俺は、思わず視線を逸らした。
「では、あなたも気をつけて!!」
 艦員達はありすの乗った担架を持ち上げると、艦橋の中に走っていった。

 そう。俺は見逃していた。
 戦っているのは、俺達だけじゃない。
 なぜ、この船は沈まない?
 浸水を食い止めているクルーがいる。
 傾く艦を必死で操舵しているクルーがいる。
 敵ミサイルの撃墜の為に、CICでディスプレイと向かい合っているクルーがいる。
 救急の為、艦内を駆け回っているクルーがいる。
 みんな、戦っているのだ。

 『私に替われ』。
 そう、『殺人鬼』は言った。
 奴の力など、借りたくはない。
 だが… もしこのまま『ヴァンガード』が沈んだ場合、多くの犠牲者を出した場合、俺はどうなる?
 醜い力に身を委ねないで良かった、と胸を張れるのか?
 そんな筈はない。
 そんなのは、俺個人のエゴだ。
 俺は、この艦のみんなを――
 そして、この艦のために戦っている人達を守りたい。

 ありすはミサイルを防ぐ為に戦って、化学兵器に倒れた。
 リナーは、たった1人で敵艦に乗り込んで戦っている。
 しぃ助教授は、必死でミサイルを迎撃している。
 ねここは、あっちの艦内を駆けながら怪我人を治療している。
 丸耳は、副艦長として『フィッツジェラルド』を指揮している。
 みんな…
 みんな、戦っている。

 ――だから。

「――だから、俺も戦う」
 俺は、俺の中の『殺人鬼』に告げた。

476:2004/05/28(金) 22:20



          *          *          *



(――だから、俺も戦う)
 私の中の『monar』は告げた。

「…ふむ」
 正面から飛来するミサイル群を見定める。
「君は、ミサイルに対して何もできないと思い込んでいる。
 確かにミサイルの破壊力の前では、吸血鬼の肉体とて抗う術はない。だが、それは――」

 私は、甲板を蹴って高く飛んだ。
「――正面から向かった場合の話だ」
 さらに艦橋を蹴り宙高く跳ねると、虚空をバヨネットで一閃した。
 ミサイルから照射されるレーダー波をまとめて『破壊』する。

「対艦ミサイル・ハープーンのホーミングにはアクティブ・レーダーを使用している。
 向こうの波を一時的に掻き消してやれば、目標を失い迷走するのみ」
 私は、手元のバヨネットを回転させて告げた。
「君の戦い方は未熟だ。ミサイルが射程距離外にあるというだけで、『破壊』できないと匙を投げる。
 もっと注意深く観察すれば、レーダーの波が視えたはずだ」

(…)
 『monar』は無言で私の動きを見ている。
 まるで、戦い方を観察しているように。

 ミサイルの大半は目標を失い、海面に落ちた。
 そんな中、大型のミサイルが向かってくる。

「そして、タクティカル・トマホーク巡航ミサイル。
 これは、誘導にINS及び衛星データ・リンクを使用している。故に…」
 私は、バヨネットを軽く振った。
「衛星からの通信を断つ。これで、トマホークは無力と化す」
 そのまま、水没するトマホーク。

「――以上だ」



          *          *          *



「ああ。分かった――」
 俺は頷いた。
 そして、バヨネットを構える。
「――後は俺がやる」

 飛来してくるミサイル。
 再び、照射されるレーダーの波を『破壊』した。
 続けて、衛星からの電波をも『破壊』する。

 衛星からは、常にデータが送られてくる。
 『破壊』は一時的なものだ。
 トマホークを無効化するには、絶えず『破壊』し続ける必要がある。
 それでも…
 俺は、戦える。

 俺は大きくバヨネットを薙いだ。
 四方から浴びせられるレーダーの波を次々に『破壊』する。
 それだけで、ハープーンは無効化する。
 なぜ、こんな簡単な事に気付かなかったのか…

『どうやら、そっちはモナー君だけみたいですね…』
 無線機から、しぃ助教授の声がした。
「こっちは大丈夫。ミサイルは全部叩き落としてやるモナ!」
 俺は言った。
『…期待してますよ』
 しぃ助教授が告げる。

 前方のミサイル群が、大きく逸れて海中に没した。
 しぃ助教授の『セブンス・ヘブン』だ。
 俺も次々にレーダー波を『破壊』する
 これなら、何とか凌ぎきれる…!


 ――ドス黒い気配。
 何だ、これは…?
 何かが…
 背後から、何か巨大な物が近付いてくる。
 ミサイルや航空機なんて大きさじゃない。
 この艦の1.5倍以上。
 これは、戦艦…?

 それも、間近だ。
 俺とした事が、ここまで接近されてしまった。
 このままじゃ、『ヴァンガード』の後部に激突する…!!

「CIC!! 全速前進だッ!!」
 俺は、無線機に叫んだ。
 俺の指示が通じるのかは分からない。
 だが… 『ヴァンガード』は大きく前進してくれた。
 それでも、間に合わない…!!

『『セブンス・ヘブン』!!』
 無線機から、しぃ助教授の声が響く。
 同時に、凄まじい衝撃が『ヴァンガード』を揺るがした。
 艦後部から響く破壊音。
 俺はよろける体を立て直した。
 現在、なぜかミサイル攻撃は止んでいる。
「一体、何が起こってるモナ…?」
 俺は、甲板を駆けて艦後部に向かった。


 黒い威容。
 戦艦の巨体が、『ヴァンガード』後部にめり込んでいた。
 ヘリ着陸用の甲板が無惨にひしゃげている。
 これだけの重量差があれば、通常なら確実にこちらの撃沈。
 この程度の被害で済んだのは、『セブンス・ヘブン』が激突のショックを分散してくれたからであろう。

「これは…!」
 俺は、謎の艦を見上げた。
 威塊にして醜悪。
 リナーは、戦艦は現代においてほぼ運用されていないと言った。
 だが… これは、どう見ても戦艦だ。
 自衛隊の艦とは思えない。
 それに、どこか異様だ。この艦は気持ちが悪い。

477:2004/05/28(金) 22:21


「…?」
 向こうの艦首に、人影が見えた。
 そして、馬のいななきが聞こえる。
 …馬だって?
 こんな近代戦の最中に、馬?
 そう。人影は馬に乗っていた。

 そのまま、人影は高く跳んだ。
 そして、こちらのヘリ甲板に着地する。
 艦と艦の間を、馬で跳んだ…!!
 そして、馬の背に乗っているあの男は…


 その屈強そうな男は、立ち尽くす俺の姿を見定めた。
 その眼光、普通じゃない。
 一目で分かる。こいつ、恐ろしく強い。
 『蒐集者』のような、化物じみた雰囲気とは質が異なる。
 洗練された、戦士としての強さ。
 これは、そういう類の人種だ。

「我が名は山田――」
 男は馬から降りた。
 その手には、大きな薙刀。
 いや、青龍刀の亜種だろうか。柄がかなり長い。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、その武器に何かを感じ取った。

 山田と名乗った男は、ゆっくりとこちらへ歩み寄りながら口を開く。
「…士ならば構えよ。後ろを見せるなら、斬りはせぬ」

「…!」
 俺は、素早くバヨネットを構えた。
「モナは…」


 ――その刹那。
 一瞬の殺気の後、俺は地を這っていた。
 何が起きた?
 背中が冷たい。
 俺は、倒れているのか?
 そして、胸に刺すような痛み。
 いや、実際に刺されたようだ。
 心臓を貫かれたのか?
 人間だったら、完全に即死だ。

 山田は、倒れ伏す俺に目をくれる事もなく歩いていく。
 艦橋へ向かっているようだ。
 もはや、彼の目に俺は映っていない。

 こいつは、リナーと同じ。
 たった1人で、艦を制圧する気だ。
 だが… これはASAの艦。
 スタンド使いが多数乗っている事は明らか。
 それでも、こいつはたった1人で――?

 『アウト・オブ・エデン』ですら、先程の動きが視えなかった。
 しかも、スタンドによる速さじゃない。
 あの青龍刀にはスタンドが関与しているようだが、それすら使っていない。
 こいつ自身の、磨きぬかれた速さだ。
 俺には、最初から勝ち目などない。
 でも――

「行かせるか…!」
 俺は血を吐きながら立ち上がった。
 心臓を貫かれている。
 吸血鬼でなかったら、当然即死だ。
 でも… みんなが戦ってるのに、こんなところで倒れていられるか!!

 山田は口を開いた。
「ほう、お主も吸血鬼か…」
 しかし、こちらを振り向こうとはしない。
 それどころか、そのまま艦橋に歩いていく。

「待て! お前は、艦内には入れさせない…!」
 俺はバヨネットを構えると、艦橋へ向かう山田に走り寄った。
 その背中に、バヨネットを…
「その意気や良し。だが――」
 山田の手にしている青龍刀が、僅かに傾く。


 ――そして、俺は再び甲板に転がっていた。
 山田の青龍刀が、俺の胸を貫いたのだ。
 俺の方を、一瞥すらせずに。
 もう、殺気すらなかった。
 蝿を払うのと大差はない。

 足音が遠くなっていく。
「――実力が伴わなければ、どうにもならぬな」
 山田の声が、重く響いた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

478:2004/05/28(金) 22:29
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|(†)ヽ
|)))))
| -゚ノi  < …
と)ノ
|ハゝ     × ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その3
|       ○ ― モナーの愉快な冒険 ― 吹き荒れる死と十字架の夜・その4

479ブック:2004/05/28(金) 22:54
     EVER BLUE
     第二十話・BREAK 〜水入り〜


 三月ウサギが、タカラギコが、謎の女性が、
 張り詰めた空間の中、ただ静かに得物を構える。
 息が詰まる程の圧迫感。
 僕やオオミミが入り込める世界じゃない。
 緊張で、頭がどうにかなってしまいそうだ…!

「…すみませんが、誰かそろそろカードを切ってくれませんか?
 この十字架結構重くて、そろそろ疲れてきたんですよ。」
 そんな状況にも関わらず、タカラギコが呑気な声で喋る。
 しかしそんな口調とは裏腹、微塵も隙を見せはしない。

「この狸め…」
 全身コートの女が、タカラギコにリボルバーを向けたまま睨む。

「……」
 三月ウサギは、剣をいつでも投擲出来る体勢のまま少しも動かない。
 膠着状態が始まってしばらく経つというのに、
 彼等の顔には汗一つ浮かんでいなかった。
 蚊帳の外のオオミミは、全身汗でびっしょりだというのに。

「…得物を下ろせ。
 儂は、今ここでお主らとやりあう心算は無い。」
 埒が明かないと思ったのか、女が停戦を提案した。

「信用出来んな…」
 三月ウサギは構えを解かない。
「そう言うのであれば、まずは貴女から物騒な物を率先してしまうべきでは?」
 タカラギコもパニッシャーを下げはしなかった。

「それは出来んな。
 そこの黒マントの者は、儂が銃を下ろした途端に剣を投げる気満々じゃろう?」
 こうして、停戦条約はあっという間に却下された。
 再び、その場を静寂が包む。

「……!」
「……!」
「……!」
 三人が、微動だにしないまま隙を探り合う。
 互いの気迫で景色が歪むような錯覚。
 ここでの一分が、まるで一時間のようだ。
 一体、いつまでこの状況が続く―――

480ブック:2004/05/28(金) 22:55



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 突然響き渡る爆発音。
 その場の全ての者の意識が、その音に向けられる。

「!!!!!」
 誰よりも早く反応したのは女だった。
 物凄い跳躍により、一瞬にして僕達から間合いを離す。

「ちっ!!」
 三月ウサギが剣を投げるも、既に女は射程外まで逃げていた。
 剣が何も無い地面に突き刺さり、女は僕達から大分離れた所で着地する。

「…どうやら今回は間が悪かったようじゃな。
 ここは、一旦退く事としよう。」
 銃とハルバードが合体したような武器を背中に担ぎ、女が口を開く。

「じゃが、近いうちに再び挨拶をさせて貰う。
 その時は、もう少し穏便に事を進めたいものじゃな。」
 そう言い残すと、女はその場から飛び去って行った。
 あの人、結局何だったんだ?



「大丈夫ですか、オオミミ君?」
 パニッシャーを下ろし、タカラギコがオオミミに声をかけた。

「あ、はい。
 助けに来てくれてありがとうございます。」
 オオミミがタカラギコに頭を下げる。

「それから三月ウサギも、ありがとう。」
 オオミミが三月ウサギの方に顔を向けた。
「ふん…」
 三月ウサギがそっけのない返事を返す。

「…今の出で立ち、吸血鬼か?」
 と、三月ウサギがオオミミに尋ねた。
「多分…」
 オオミミが生返事をする。

「先日私達の船を襲った連中の仲間ですかねぇ?」
 タカラギコが首を傾げた。

「多分、違うと思う。
 何かそういう感じじゃなかったし。」
 オオミミが首を振りながら答えた。

「しかし、だとすれば一体どこの…」
 三月ウサギが、地面に刺さった剣をマントの中に回収しながら考え込む。
 実際、あの人は何が目的で僕達を探していたのだ?

481ブック:2004/05/28(金) 22:55



「あ、お前ら!」
 と、そこにニラ茶猫が駆けつけてきた。
 随分走ってきたのか、息が大分荒い。
 さらに、服のあちこちが血塗れである。

「ニ、ニラ茶猫、大丈夫!?」
 オオミミが心配そうに声をかける。

「ん?おお、平気平気。
 俺の『ネクロマンサー』は不死身だフォルァ。」
 胸を張るニラ茶猫。
 どうやら、誰かと闘ってきたみたいだ。

「さっきの爆発、お前か…?」
 三月ウサギがニラ茶猫に質問する。

「あ…ああ。
 展開上どうしようもなく、な。
 まあ勝負には勝ったんだから問題無いって。」
 ニラ茶猫が冷や汗を掻きながら答える。
 この馬鹿。
 あれだけ騒ぎを起こすなと言われておきながら、何で爆発なんかさせてんだ?

「…開いた口が塞がらんな。
 貴様、頭脳が間抜けか?」
 呆れた様子で呟く三月ウサギ。

「うるせえな!!
 しょうがねぇだろうが!
 いきなり『紅血の悪賊』に襲われたんだから!!」
 …!!
 『紅血の悪賊』!
 矢張り、ここにもその一味がいたのか…!

「ふん。
 貴様がもう少し強ければ、あれほどの騒ぎも起こさなかったろう。
 どこの三下と死闘を演じていたのかは知らんが、
 実力の程が知れるというものだな。」
 あからさまに三月ウサギが皮肉を言う。

「んだとぉ!?
 じゃあここで、俺が本当に弱いかどうか試してみるか!?」
 腕から刃を生やしてニラ茶猫が構えを取る。
 だから、騒ぎを起こすなと言っているのが分からないのか。
 どうしてこの二人が一緒だと、こうなってしまうのだ?

「ちょ、ちょっと二人ともやめなよ。」
 事態を重く見たのか、オオミミが仲裁に入る。
「ふん。」
「けっ。」
 オオミミに間に入られ、三月ウサギとニラ茶猫が渋々矛を収めた。

「いやはや、お二人とも仲がよろしいですねぇ。」
 タカラギコが微笑みながら言った。

「誰がこんな奴と!」
「誰がこんな奴と!」
 三月ウサギとニラ茶猫の声がハモる。

「ふん。」
「けっ。」
 声が重なった事にお互いバツが悪くなったのか、二人のムードがより険悪になる。
 この二人、本当に仲が良いのか悪いのか…

482ブック:2004/05/28(金) 22:56


「あ、そうだ。タカラギコさん。」
 と、オオミミが思い出したようにタカラギコに言った。

「はい?」
 きょとんとした顔でタカラギコが答える。

「さっきの女の人からこれ貰ったんです。
 これでタカラギコさんの武器を買いに行きませんか?」
 オオミミが懐から金貨の詰まった巾着袋を取り出した。

 オオミミ、君は何を言ってるんだ?
 せっかくの大金を他人の為に使うなんて。
 それだけのお金があれば、何回フルコースを食べられるか分かっているのか!?

「いえ、そんなの悪いですよ。」
 口では遠慮しながらも、明らかに嬉しそうな顔をするタカラギコ。

「お、おい、オオミミ!
 お前どこでそんな金…」
 吃驚した様子でニラ茶猫がオオミミに質問した。

「さっき恐い女の人に誘拐されちゃってね、
 それで、その人に貰ったんだよ。」
 オオミミが答える。

「ああ!?
 誘拐されて金を貰うってどういうこった!?
 普通逆だろ……ってまあいいや。
 それよりオオミミ、ものは相談だがその金を少し俺に預けて…」
 下品な顔でニラ茶猫がすりよってくる。
 どうせ、ろくな事を考えてはいないだろう。

「駄目。
 ニラ茶猫に渡したって、どうせ博打かエッチな事にしか使わないもん。」
 にべも無くオオミミが断った。

「…!
 馬っ鹿野郎!
 オオミミ、お前俺を何だと思ってやがるんだ!!」
 ニラ茶猫が必死に否定する。

「図星だろう?
 何せお前のベッドの下には『無毛天ご…」
「わーーー!わーーー!!わーーー!!!」
 三月ウサギが何か言おうとした所に、
 ニラ茶猫が大声を張り上げてそれを妨害した。
 『無毛天ご…』?
 一体何の事だ?

「いやはやすみませんね、オオミミ君。
 私が女性であれば、迷わず抱かれたい男ナンバーワンに君を投票しますよ。」
 タカラギコがこれ以上無い笑顔を見せる。
 まるで、新しい玩具を買って貰う子供のように。

「…自分で買い与えた武器が、自分に向けられなければいいがな。」
 三月ウサギがぼそりと呟く。

「そういう事言うの、やめてよ…」
 オオミミが悲しそうな顔をした。
「ふん。」
 三月ウサギがオオミミから視線を逸らす。
 個人的には僕も三月ウサギと同感だ。
 いくら敵意が見られないからとはいえ、オオミミは無防備過ぎる。

「…そういやオオミミ、女に誘拐された、っつてたけど、
 どんな奴だったんだ?」
 重苦しくなった空気を察したのか、ニラ茶猫が話題を変えた。

「あ、うん。
 確か、コートに全身をすっぽり包んでて、
 それから、凄く大きな武器を持ってた。
 何か、銃とハルバードがくっついたみたいな…」

「…!?」
 その時、ニラ茶猫の表情が一瞬だけ変わった。
「…?
 どうしたの?」
 不思議そうに、オオミミがニラ茶猫に尋ねる。

「…いや、何でもねぇ。
 多分、思い違いだ。」
 ニラ茶猫が会話を打ち切る。
 それにしてもさっきの彼の表情は?
 何か思う事でもあったのだろうか。

「どうでもいいが、買い物に行くなら早くしろ。
 『紅血の悪賊』が居たと分かった以上、のんびりは出来んぞ。」
 低い声で三月ウサギが告げる。

「あ、そうだね。」
 頷くオオミミ。

 そうだ、今は考えていたってしょうがない。
 とにかく先に進まなければ。

(オオミミ。何があろうと、君は僕が守ってみせるからな。)
 色々と解けない問題を山積みにしながらも、
 僕はそこで思考を中断させるのであった。



     TO BE CONTINUED…

483( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:48
「ダズヴィダーニャ(ごきげんよう)・・。巨耳モナー・・。」
「ネクロ・・マラ・・ラーッ!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『ピッチャーデニー』

雨がしきりに降っている。
そして雨と濃い霧のせいでお互いの輪郭がギリギリ見えるくらいの状態の俺と・・ネクロマララー。
「・・かなりわかりやすい輪郭だなぁ。テメェは。」
「君に言われたくはないよ・・。」
・・ムカつく返し方をしてきやがる
まるで『犬を勝手に吠えさせてる』みたいな風に流しやがって
「・・先輩を殺した時から、テメェは俺の手で『逮捕』すると決めていた。」
「・・それで?」
ネクロマララーは頭の後ろをかきながら、面倒くさそうに言った
「・・テメェを今ココで、『逮捕』するッ!『ジェノサイア act2』ッ!」
俺は思いっきり地面を叩きつけた。
すると地面がブレ、ガチャピン戦とは比べ物にならない量の針が現れる。


「フン・・。まだコッチの少女の方が威圧感があったな・・。」
ネクロマララーのスタンドらしき物が何かを投げる。
・・雨霧のせいで良く見えない。
「『重力弾』。」
一気に地面の針が消える
・・・先輩の時と一緒だ・・・・。
「私は君を助けてやったのだぞ・・?逮捕より先に礼が欲しいがな・・。」
抜かせアホが。
「お前のした事はただの『殺人罪』だ。助けられたから何だ。俺が頼んだ覚えもない。」
「・・そうか。」


・・・!?
なんだこりゃ・・ッまわりの空気が・・薄い・・ッ!
・・あの時と同じだ・・『矢の男』や『殺ちゃん』。『ガチャピン』と同じ様な『威圧感』
だが・・その中でも格別だ・・ッ!『矢の男』と同じくらいの威圧感がありやがる・・ッ!
「しかしがっかりだな。君はまだ『弱い』。スタンドが進化したと聞いて期待したんだがな・・。
私が相手するまでも無いな・・『大ちゃん』ッ!!」


ネクロマララーが一歩引くと後ろからハゲ頭の男が現れた。
「・・ピッチャーデニー・・。」
・・?
何を言ってやがるコイツ・・?
「それじゃあ。大ちゃん。後は頼んだぞ。」
「了解。」
ネクロマララーは雨と霧の中に消えていった
「ちょ・・っ待ちやが・・ッ!」
俺がネクロマララーを追おうとするとハゲ頭の『大ちゃん』と呼ばれる男が立ちはだかった
「・・ッ!邪魔ァッ!」
大ちゃんを思いっきり殴ろうとすると大ちゃんの目の前に現れたキーホルダーくらいの大きさのスタンドに防がれる
「クソがッ!・・?」

484( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:49
俺がもう一発殴ろうとした時。その『異変』に気付いた。
「『右手』が動かない・・?」
俺がその右手を見ていると。キーホルダーくらいの大きさのスタンドが喋り始めた
「キシシッ!オマエ、イマオレヲナグッタダロ?ヨッテ、『ペナルティ』ヲウケテモラウゼッ!」
良く見ると俺の右腕に×印がついていた。
「こ・・これは・・ッ!?」
「イッタダロ?テメェハコトバモワカンネェノカッ!クソガッ!『ペナルティ』ダッツッテンダロガッ!」
プチッ
「テメェッ!図に乗ってんじゃねぇぞッ!スタンドごとk・・」
!?口が開かない・・ッ!?
「キシシシシッ!テメェ、イマオレニ『ボーゲン』ハイタダロ?『ペナルティ』ダゼッ!」


・・ッ!そういう事か・・ッ!
つまり・・アイツに対して『失礼』な事をすると『失礼』をした部分が使えなくなるんだッ!
だからあんな野球の監督の様な格好をしていたのか・・ッ
だとするとどうする・・。矢張り本体のほうを攻撃するしか・・
その時、俺の足元に植物が這う様な感触がした
その感触に反応し後ろを向くと、その植物は殺ちゃんの方向へのびていった。
そして植物の元をたどるとムックの手から伸びていた。
(・・!!ムック・・意識が戻ったのかッ!?)
・・いや、戻ってはいるが・・自分の力で起き上がる事もまだ出来ない様だ
相当なダメージがまだ体にこもってるらしい。
だとすると・・・気付かれるのはマズい。
多分ムックは殺ちゃんを回復させようとしているのだ。
だがソレが見つかってしまうと瀕死のムックがとてつもない危険な状態になる上
殺ちゃんも回復しない。更に殺ちゃんは早く治療しないとヤバい状況だ。
(頼む――ッ気付かれないでくれッ・・)


俺がそう願うと植物は殺ちゃんのスカートの中に入っていった。
殺ちゃんが『あッ――』という声をもらし少し痙攣した。
・・そしてその時、俺の中の『何か』が確実にキレた


「ンンンンンンンンンン(こンのドグサレが)ァ――ッ!!!!!」
俺は瀕死のムックに向かって思いっきりキックを食らわす
「ンンン!ンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンァーッ!!ンンンンンッ!ンンンンンァ―ッ!
(テメェッ!気絶してる無防備な少女に何してんだコラァーッ!!言ってみろッ!言ってみろァーッ!)」
・・・ハッ
・・・マズい、ついつい我を忘れてムックを――ッ
「・・・タシカ、ソイツノノウリョクハ・・『ショクブツヲハヤス』ダッタヨナァ・・ソシテソノショクブツノヨウブンヲ・・ヒトニオクリ・・『カイフク』サセルコトモ
デキルンダッタヨナァ――ッ!?」
奴のスタンドが叫ぶ
クソッ!何をやってんだ俺はッ!
「ソノケダマノリョウテニ『ペナルティ』ヲアタエルゼェッ!」

485( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

ムックの両手に×マークがつく
・・すまない、ムック。
・・おや?
頭から血流しているムックの手から出ている植物は未だ、伸びていく。
今度はちゃんとスカートの上を登って
・・・でも何故か逆にエロい。
だが一体・・何故・・?ムックの両手は封じられているからこれ以上植物の成長・・!


その時俺は空がいつの間にか晴れている事に気付いた。
そしてさっきまで降っていた雨で濡れている植物・・っていうか雨で濡れてると信じたい(特に先端は)
(・・そうかッ!ムックの出す植物の成長性はとてつもないッ!だからこの少量の雨水(?)と太陽光で成長を続けられるのかッ!)
そして伸びた植物が思いっきり殺ちゃんの腕に突き刺さる。そして殺ちゃんの体が少し打ち震えた
「――ッ・・ここ・・は・・?」
殺ちゃんの傷がみるみる癒えて立ち上がる殺ちゃん。
「チィッ!アノケダマメッ!」
「・・状況がイマイチ理解できないが・・闘っている事は確か・・だな?」
殺ちゃんは大ちゃんに銃を向ける
「ンンンンッ!ンンッ!ンンンンンンン――(殺ちゃんッ!待てッ!アイツの能力は――)」


無常にも喋れない俺の言葉は届かず、弾丸が発射された
そして物凄いスピードで弾丸にあたりに来るスタンド
「キハッ!テメェ・・イマ・・オレヲ『ウッタ』ナッ!?」
自分からあたりに言っただけだろがッ!
そう脳内ツッコミを入れている間に殺ちゃんの右手に×マークがつく
「・・!?馬鹿なッ!右腕が動かんッ!・・このハゲがッ!私に何をしたァッ!」
「キハハハハッ!テメェッ!コンドハ・・ボウゲンヲハキヤガッタナッ!『ペナルティ』ダッ!」
てめぇに暴言吐いたんじゃなくて本体にだろッ!
また脳内ツッコミいれている間に殺ちゃんの口に×マークがつく
「ンンンンッ!?ンンン・・・」
どうやら殺ちゃんもアイツの能力に気付いて来たようだ。


さて・・現在の状況を整理してみようか。
俺は右手・口がつかえない。よって後は左手 両足 ・・。まぁ戦闘に使えるのはこれくらい・・か。
殺ちゃんも俺と同じ・・もしかして『おっぱいミサイル』の出番もッ!?・・ドキドキ。
んでムックは両腕が使えない。その上俺のダメ押しキックで完全に意識を失ってやがる・・。

486( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50

俺が頭ん中で必死に考えていると殺ちゃんがアイコンタクトで『左に行け』と指示をする。
そうか・・両側から攻撃する気か・・
殺ちゃんの合図と同時に俺は左へ、殺ちゃんは右へ走る
「ンンンンンンンンンンンーッ!(ジェノサイアact.2―ッ!)」
「ンーンンンンンンッ!(リーサル・ウエポンッ!)」
俺と殺ちゃんは同時に攻撃した
スタンドはとまどったが即座に俺の攻撃を受けた。
そして銃弾は大ちゃんめがけてあと何秒かで着弾する位置にきた
「ンンンン・・(終わりだ・・。)」


しかしその時、俺たちは信じがたい物を目撃した
「まだだ・・まだ終わらんよッ!」
なんと、鉄のグローブの様な物で全ての銃弾を受け止めていた
「ン・・ンンンッ(ば・・馬鹿なッ)!?」
俺と殺ちゃんは同時に叫ぶ
「これでも野球選手時代は名キャッチャーでな・・。銃弾くらいなら何発でもとれるぞ?」
大ちゃんは得意げに笑いながら言う。
・・・っていうか野球ボールと銃弾じゃ格が違うだろっ!
「キシシッ!ソシテ巨耳ィッ!テメェニハ、ペナルティダッ!」
俺の左腕に×マークがつく。・・もう両手がつかえねぇのか・・


「ンンン・・ンンンンンンン?(ならば・・これでどうだ?)」
殺ちゃんは左手から大きな銀色の物をだした
その銀色の武器は横からチューブが出ていて、そのチューブは背中についてる大きなドラム缶の様な物についてる
・・・・!そうか、これは!
「ンンンンン・・ンンンンッンンンンンン(火遊びは・・ママと一緒にやりな)・・・。」
殺ちゃんはそう言うと左手に力を込める
そして次の瞬間、銀色の武器から大量の火炎が放たれる。
そう。コレは火炎放射器だ。流石に実体の無い砲撃にはアイツも・・


しかし 俺は 次の瞬間 またもや 眼を 疑った
奴のスタンドが炎を全て飲み込んだのだ
「ブフゥ〜・・テメェ、オレニホノオヲ『ノマセタ』ナッ!『ペナルティ』ダゼッ!」
火炎放射器に×マークがつく
クソッ!やられたっ!もう後がない・・あとは蹴りか・・お・・おっぱいミサイr・・
いやいや違う違う違う。まじめに考えろ俺
しかし無常にも俺の頭にはおっぱいミサイルのイメージばかりが浮かぶ


「ンン、ンッンン!ンッンンンンン・・(なぁ、殺ちゃん!おっぱいミサイ・・)」
俺が殺ちゃんに声をかけようとすると殺ちゃんは後ろを振り向き、俺にアイコンタクトを送った。
『逃げろ』
必死な眼だった為、すぐに伝わった。
そして、俺がどれだけ馬鹿な事を考えてたかわかって恥ずかしくなった。


そして殺ちゃんは手話で『ムックを担げ』と俺に命令する
了解だ。とりあえずここから逃げるしかない・・ッ!
合図と共に一斉に走り出す俺と殺ちゃん
そして途中で枝分かれし、ムックを担いで殺ちゃんの元へ戻った
後ろを振り向くと、大ちゃんが必死で追ってきてるがこの距離だ。多分間に合わないだろう。


しかし俺が前を向いたその時殺ちゃんが大きく弧を描いて宙を舞い、地に落ちた
「グゥッ―ァッ!?」
矢張り自力で成長しただけの花では回復量が少なかったのか
地に落ちた殺ちゃんの古傷から血が吹き出し殺ちゃんは呻き声をあげる

487( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:50
まだ状況が良く理解できない。何が起こった?あいつら・・何をした・・?
そしてパニクった頭を落ち着かせ、前方を見るとマッチョで野球ボールの様な顔をした監督の様な奴が立っていた
・・まさか・・コイツは・・。


「『敵前逃亡』は最大のペナルティを与えるしかないな・・。」
声にも体つきにも面影は残ってないが・・・こいつは間違いない・・さっきのスタンドだっ!
俺は必死で背を向け逃げようとしたが俺が振り向いた場所にすぐに奴は移動してきた
「――ッ!」


「この世から・・――退場しろ」
両腕が塞がれ、ガードもできない俺の顔面に奴のパンチが入る
そして鈍い音がなる俺の口
・・・顎と歯が折れた音と思われる。


「退場ッ!」
そしてさらにもう一発パンチがくる
頭が揺れる。周りの景色がゆがんでみえてきた
「退場退場ッ!」
そんな俺に非常にももう一発食らわされるパンチ。
それも鳩尾に入れられ俺は宙を舞う


「退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場
退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場退場――ッ!」


宙を舞った俺の体に『退場』ラッシュがあてられる
声にならない叫びが虚空に消える
「この世からァ―――ッ!退場しろォ――ッ!」
そして駄目押しの一発で思いっきり吹っ飛ぶ俺


「さて・・次は・・あの少女だ。」
マッチョなスタンドは殺ちゃんの方へ歩いていく。
しかしその瞬間。スタンドが消えた


「――えッ!?」
大ちゃんは素っ頓狂な声をあげる。
そして次の瞬間、殺ちゃんの回し蹴りを思いっきり食らう大ちゃん
更に手錠をかけた

488( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
「く・・そっ!こんなも・・の・・。」
大ちゃんの顔色が変る
俺からは殺ちゃんの後姿しか見えないが、このドス黒く息苦しい感覚
良くわかる。『魔眼』だ。


「外したければ外せ、スタンドを使いたければ使え。ただし・・」
大ちゃんのスタンドが消えて効果が切れたのか、殺ちゃんは自由自在に喋った。
「・・・・貴様のスタンドや、グローブじゃ護れないほどの砲撃をかましてやる。」
深紅に輝いているだろう殺ちゃんの眼に、体中に現れた火器に、流石の大ちゃんも戦意喪失している
「は・・はひ・・ごめんなはひ・・。」


大ちゃんの体がかなり震える。どうやら小便も漏らしているようだ。
こうなってしまうと上級幹部ってのも情けないなぁ・・。
「し・・しかし・・どうやって私めのスタンドをお消しになったのですか?」
大ちゃんは恐る恐る聞く


「その問いには・・俺がお答えしよう・・。」
ヨロヨロしながら俺は立ち上がった。
「ある・・二人の兄弟が・・俺のジェノサイアの応援で力を貸してくれた・・。」
そう。流石兄弟だ彼らに俺のジェノサイアを向かわせて、応援を要請した。
・・・しかしこれでまた出費が・・ッ!


「彼らの能力を使えばアンタのスタンドを『削除』するくらいわけなかった。って訳よ」
本当に頼りになる兄弟だこと。・・・金の問題に眼を瞑ればな。
「・・・・・一応、教えておこう。」
殺ちゃんに連行されてる時、大ちゃんはつぶやいた
「・・・何だ?」
「ハートマンに・・気をつけろ。」
「・・・・?」
俺が頭の上に疑問符を浮かべると、そこから大ちゃんは押し黙ってしまった


「おい。気になるだろ。話せ。」
殺ちゃんが脅迫するも
「よせ。それだけの忠告がもらえただけでありがたいんだ。」
俺は殺ちゃんの肩を叩き言った。
「・・・・・・ああ。」
殺ちゃんはそう言うと、大ちゃんを連行した。
「ハートマン・・か。アイツとも決着をつけなきゃならないな・・。」
俺は雨上がりの青く輝く空を見上げ呟いた

489( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:51
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜キャンパス〜

「ふむ・・。まさか大ちゃんがやられるとはな・・。」
『神』が呟く
「なぁ、神さんよぉ。」
後ろにたっていた男が呟く。・・ハートマンだ。
「・・・何だ?」
「ココの『門番』。是非俺様にやらせてくれないか?」
ハートマン軍曹はニヤニヤしながら言った。
「・・ふむ。まぁ良い。・・しかし、珍しいな。貴様が門番などと言うのは・・。」
『神』が言う。
「まぁいいだろ・・。あのウジ虫どもを始末するのは俺だ。どこぞのケツの汚れた豚に渡すことは無い。」


ふいに、ハートマンの口から銀色に輝く牙が見えた
「!!・・まさか・・貴様・・。」
「安心しろ。すぐに片付けてきてやる。俺の戦歴に傷を付けたあのウジ虫どもをな・・。」
ハートマンの眼が紅く輝く
「・・・まぁ良いだろう。期待してるぞ。軍曹・・。」
「Thank you ・・。あ。言い忘れていたが。一応、行けるのは夜だけだからヨロシク・・。」
漆黒のマントをはためかせ軍曹は言った。

490( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


〜夜・キャンパス前〜

「狙うなら夜しかない・・か。嫌な予感がしてならなくなってきたぜ。」
俺は不服そうに呟く
「まぁ確かに・・。逆に闇夜から奇襲されたらまずいしな・・。」
殺ちゃんもため息をつく
「・・・・。」
そして汗だくで押し黙るムック。
そう。この計画はムックがたてた物だった。


「ま、まぁいいじゃないですKA!とにかく早KU――。」
その瞬間。とてつもない轟音が当たりに響く。
手だ。巨大な手が振り落とされた。それを紙一重でかわすムック
「――なッ!?」
ムックが錯乱する
「落ち着け!この手の野郎は・・アイツしかいねぇッ!」
葉のこすれる音が聞こえると、門の前から人が現れた。
「久しぶりだな。『ハートマン』。」
「軍曹をつけろッ!便所虫がッ!」      リ ベ ン ジ
肌を叩くような強い夜風の中、ハートマンの『復讐戦』が始まった・・。

←To Be Continued

491( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:52
キャンパスでの最終決戦寸前!ここでキャラ復習

登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

492( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:53
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(逮捕)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。ムックの手により逮捕。動物園送り

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

493( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54
  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(故)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。
 ガチャピンに頭部を食われ、両者ともに死亡。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

   /ノ 0ヽ
  _|___|_
 ヽ( # ゚Д゚)ノハートマン軍曹(逃亡)

・『キャンパス』の上級幹部。教育係。
 超スパルタで有名でムックを『育てた』張本人。
 口が悪いながらも人望は結構厚い人
 対巨耳戦で片手を失いながらも逃亡。キャンパスに逃げ込んだ。

 スタンドの能力の詳細は不明。
 どうやら床や壁に体をもぐらせ、巨大化させて出す能力



 |::::::::::   (●)    (●)   | 
 |:::::::::::::::::   \___/    |  
 ヽ:::::::::::::::::::.  \/     ノ 大ちゃん(逮捕)

・某野球チームの元監督らしいが、詳細は明らかになっていない。
 頭はスキンヘッドで『ピッチャーデニー』が口癖
 若かりし頃は甘いルックスをもっていたらしい。
 昔、大勢の人達に色々罵倒された事がある為、今の世界が嫌になり『キャンパス』に入った。
 スタンドにも相当の力があり、入ってからすぐに上級幹部まで上り詰めた。トムの恩師
 しかし流石兄弟兄者のスタンドによってスタンドを破壊された上、殺ちゃんの魔眼によって脅迫、逮捕された。
 最後に「ハートマンに気をつけろ」と謎の言葉を残した。

 スタンドは『ニューロシス』。容姿は帽子を被った野球ボール大の顔に小さい体。
 大きさはキーホルダーくらい 能力は自分に対して『失礼』な事をした者に『ペナルティ』を与える事
 例えば左手に持ってる銃で攻撃すれば銃を持っている左手全体を、右手で殴れば右手全体を動けなくさせる
 更に遠隔操作系から近距離パワー型に変化もでき、かなり有能なスタンド。
 結構理不尽な能力の為『理屈が通じないスタンド』と恐れられている。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

494( (´∀` )  ):2004/05/29(土) 14:54

――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( Θ_Θ)ガチャピン(消息不明)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 好きな物はスタンド使いの肉。決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(消息不明)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。
 現在、対巨耳モナー戦後消息不明

495ブック:2004/05/30(日) 00:52
     EVER BLUE
     第二十一話・ONE=WAY TRAFFIC 〜それでも進むしか〜


 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、
 出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない、出来損ない。
 その言葉が、奇形モララーの頭を埋め尽くしていた。

「俺は…出来損ないじゃねえぇ!!」
 力の限り壁を叩く。
 壁の一部が拳の形に陥没した。

「…ならば、結果でそれを証明すればいいだろう?」
 と、そこへいつの間にか長耳の男が現れた。
 長耳の男は、試すような視線を奇形モララーに向ける。

「ああ、そうだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねぇんだ…
 俺は出来損ないなんかじゃねえええええええEEEEEEEAAAAAAA!!!」
 奇形モララーの咆哮が辺りに響き渡る。

「……」
 叫ぶ奇形モララーの足元に、長耳の男が一枚の紙切れを落とす。
「…何だ、こりゃあ?」
 その紙を拾い上げる奇形モララー。

「ようやく『奴』から連絡員に、あの『カドモン』の居場所を掴んだとの情報が入った。
 どうするかは好きにするがいい。
 ただ一つ言っておくが、私はここには来なかった。」
 後ろに振り返る長耳の男。

「ふっ…ははっ、ふふはははははははははははははははは!!」
 狂ったように、奇形モララーが笑い出す。
「OKOK分かったぜぇ…
 待ってろ爺共。
 もう俺を出来損ないなんて呼ばしゃしねぇ。
 手前らの前に、あの『変異体』を引っ下げて来てやるァ…!」
 奇形モララーが再び笑い出す。
 その目には、真っ黒い炎が煌々と燃え盛っていた。

496ブック:2004/05/30(日) 00:52



     ・     ・     ・



「いやー、やっぱりハンドガンは良い!
 この手の平にすっぽりと収まる安心感。
 久し振りだと感慨も一入ですねぇ。」
 『GREADER SINGLEHAND』という銘柄のハンドガンを握りながら、
 タカラギコが目を輝かせた。
 結局オオミミがタカラギコに買い与えたのは、
 拳銃二丁に予備のマガジン十本。
 それから弾丸を数百発。
 加えて小刃、中刃、大刃のナイフをそれぞれ何本かずつ。
 それで、あの女から貰ったお金はすっかり底をついてしまった。
 糞。

「…買い物の途中、暫く姿が見えなかったが?」
 三月ウサギが、牽制するようにタカラギコに言った。

「あ、すみません。
 恥ずかしながら、ちょっと憚りに行ってまして…」
 頭を掻きながらタカラギコが答える。
 嘘を言ってる風には見えないが、それでも油断は禁物だ。
 何せ、『特技は人を騙す事』と自分で言うような人間なのだから。

「ふん…」
 これ以上追求するだけ無駄と感じたのか、三月ウサギがタカラギコから顔を離す。

「…どうでもいいが、お前ら……」
 突然サカーナの親方が口を開いた。
 心なしか、血圧が高くなってるように見受けられる。

「あれだけ騒ぎ起こすな、つってたのに、
 何で大爆発なんざやらかしてんだ!!!
 お前ら本当に俺の話聞いてたのか!!?」
 顔を真っ赤にするサカーナの親方。
 予想はしていたが、やっぱりか。

「俺は関係無い。
 文句があるならそこの馬鹿に言え。」
 三月ウサギがニラ茶猫に視線を移す。

「し、しょうがねぇだろう!?
 俺だってわざとあんな事した訳じゃ……っ痛ぇ!」
 弁解しようとするニラ茶猫の頭に、サカーナの親方の拳骨が落ちる。

「言い訳すんな!
 全く、どう落とし前つけるんだこの馬鹿が!!
 それとも賞金首にでもなるつもりか!?」
 サカーナがさらに拳骨を振るう。

「呆れてものも言えませんわね…」
 高島美和がお茶を啜る。
「ニラ茶猫さん、HELL2U(地獄に逝きやがれ)です〜。」
 可愛い声でさらりと罵倒するカウガール。
 一応ニラ茶猫と付き合っている筈なのにこの言いよう。
 酷いな、この女。

「皆、もうやめなよ。
 ニラ茶猫だって仕方なかったんだろうし…」
 誹謗中傷の集中砲火を浴びるニラ茶猫を、オオミミが庇い立てする。
「心の友よ〜〜!
 やっぱり信じれるのはお前だけだ〜〜〜!!」
 泣きながらニラ茶猫がオオミミに抱きついてくる。
 寄るな、鬱陶しい。

497ブック:2004/05/30(日) 00:53



「阿呆は放っておいて…
 オオミミ、そういえば吸血鬼らしい女に連れ去られかけた、って聞いたが、
 本当なのか?」
 サカーナの親方がオオミミに尋ねた。
「あ、うん。」
 オオミミが頷く。

「…『紅血の悪賊』でしょうか?」
 高島美和が考え込む素振りをみせる。
「多分、違うと思う。」
 首を振るオオミミ。

「そういえばタカラギコさん、
 この前『常夜の王国』も動いている、って言ってましたよね?」
 不意にカウガールがタカラギコに聞いた。

「ええ、そうですが…」
 拳銃を懐にしまい、タカラギコが答える。

「ということは、そこの手合いの可能性もある、と。」
 高島美和が湯飲みを机の上に置いた。

「……」
 静まり返るブリッジ。
 どうやら、僕達は本当にとんでもない事に巻き込まれているようだ。
 今までにも何回か危ない橋を渡る事はあったが、
 恐らく今回のは桁が違う。
 正真正銘とびきりの厄ネタだ。
 その不安が、皆に重く圧し掛かっていた。

「と、兎に角だ!
 落ち込んでても埒が開かねぇんだし、
 今は『ヌールポイント公国』を目指そうぜ!!」
 暗い雰囲気を払拭しようと、サカーナの親方が明るい声で告げる。
 誰の所為でこうなってると思ってるんだ、誰の。

「…士気を高めようとなさっている所悪いですが、一つ忠告させて頂きます。」
 と、高島美和が口を開いた。
 全員の視線が、彼女に集まる。

「今回の一件で、私達の明確な位置を『紅血の悪賊』に掴まれてしまったでしょう。
 そして、当然彼等も私達が近隣の国の勢力圏に侵入すると予測している筈です。
 その事から、これからの道中かなりの確立で妨害が入ると予想されます。」
 高島美和が冷静な声で告げる。

「で、その妨害の件ですけど…」
 高島美和の声と同時に、ディスプレイに地図が映し出される。

「ここが私達の現在位置、そしてこれが『ヌールポイント公国』の領空内への
 最短ルートです。」
 地図に赤いマーカーが示され、そこからさらに赤い線が伸びる。

「見ての通り、このルートの途中には幾つかの島が近在しています。
 もしそこに『紅血の悪賊』の戦力があるとしたならば、
 私達をその近くで迎え撃つ位はやってくるでしょうね。
 いえ、それだけではありません。
 『ヌールポイント公国』内の仲間も外へと出張って来るかもしれません。
 連中にとっては、私達が『ヌールポイント公国』に入る事が敗北条件ですからね。」
 高島美和が大きく息を吐く。

「遠回りをすればいいんじゃないの?」
 天が不思議そうに尋ねる。

「遠回りしたとしても、私達が燃料を補給した所で結局は足がついてしまいます。
 そして、もたもたしていたら『紅血の悪賊』の本隊に追いつかれるやもしれません。
 時間が経てば経つ程、こちらが不利です。
 残念ですが、少々の危険を冒してでも最短距離で『ヌールポイント』公国に入る事が、
 最も安全な手段としか考えられませんね。」
 高島美和が顔を曇らせる。
 つまり、どうあっても戦いは避けれそうにないという事か。

「糞ったれ…!」
 ニラ茶猫が足で壁を蹴る。
「たまらんな…」
 溜息を吐く三月ウサギ。

「まあまあ皆さん、そうお気を落とさず。
 何があるかは分かりませんが、私が居る限りそう簡単には手出しさせませんよ。」
 タカラギコが得意気にパニッシャーを担いだ。

「貴様が一番信用ならんのだがな…」
 三月ウサギがタカラギコを見据える。

「そんな殺生な…」
 情けない声を出すタカラギコ。

「よっしゃ、取り敢えずミーティングはここまでだ!
 野郎共、持ち場へ戻れ!
 こっから先、一秒も気を抜くんじゃねぇぞ!!」
 サカーナの親方が激を飛ばす。

(……)
 いつもなら、その威勢の良い声でどんな不安も吹き飛んでしまうのだが、
 今回は何故か気が晴れなかった。
 何かがおかしい。
 何か、果てしなくどす黒いものが、ゆっくりと這い寄って来るような…

「どうしたの、『ゼルダ』?」
 オオミミが僕に尋ねた。
(何でもないよ、オオミミ。)
 考えるのはよそう。
 ただの思い過ごし、確証の無い漠然とした不安じゃないか。
 わざわざ自分から深みに嵌ってどうする。

(オオミミ…きっと、大丈夫だよね。)
 僕はそうオオミミに囁いた。

498ブック:2004/05/30(日) 00:54



     ・     ・     ・



 荘厳な部屋の中で、二人の豪華な服を着た二人の老人が話し合っていた。
「…又もや『ジャンヌ・ザ・ハルバード』を取り逃がしたらしい。」
「流石は『常夜の王国』の懐刀、そう易々とはとれんか。
 忌々しや…」
 老人の一人が舌打ちする。

「岡星精一もやり過ぎておるようで、あちこちから苦情が来ている。」
 老人が眉を顰める。
「あ奴は確かに有能だが、限度を知らぬのが玉に瑕だな…」
 渋い顔を見せる老人達。

「聖王様は何と―――?」
 老人の一人がそう聞いた。
「…岡星精一の代わりに、『切り札』(テトラカード)を遣わせろ、との事だ。」
 もう一人の老人が口を開く。

「まあ確かに、岡星精一を抑えられ、且つ『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』と
 渡り合えるといったら彼奴等しかおらんか。
 で、誰を送り込むのだ?」
「K(キング)とJ(ジャック)は別件で派遣中。
 Q(クイーン)も休暇で旅行中だ。
 今残っているのはA(エース)だけだな。」
 老人が重苦しく口を開いた。

「A……あの新参者の『闘鬼』か。
 あの守銭奴しか残っておらぬとはな…」
 老人が渋い表情になる。
「そう言うな。
 確かに奴は金は掛かるが、それに見合った働きはする。
 何せ、この『聖十字騎士団』に入って僅か一年で、
 騎士として最高の誉れたる、
 『切り札』(テトラカード)の地位にまで上り詰めた程の者なのだからな。
 これ以上の適任者は他に居るまい?」
 もう一人の老人が相方を宥める。

「仕方が無い。Aに遣いを遅るか。
 どうせあの『家』に居るのだろう?」
 老人がやれやれと肩を竦める。

「…それでは手並みを見せて貰おうか、あのAの称号を持つ男に。」
 老人が険しい声で呟いた。



     TO BE CONTINUED…

499ブック:2004/05/31(月) 00:25
     EVER BLUE
     第二十二話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その一


 〜オオミミ達が『紅血の悪賊』に襲われる一年程前〜



 炎上する小型飛行機から、俺は何とか体を這い出した。
「はあ…はあッ、糞……!」
 足を引きずりながら悪態をつく。

「冗談じゃねぇぜ…
 どこなんだよ、ここ!?」
 全く訳が分からない。

 …そうだ、俺は何でこんな目に遭っているのだ?
 確か、あの奇形に呼ばれて来てみれば、そこは陰気臭い場所で…
 それで何かヤバい気がしたから、隙をついて逃げ出そうとしたんだ。
 で、勿論飛行機の乗り方なんか分からないから適当に動かそうとしたら、
 いきなり飛行機が発進して、それで案の定ここに墜落して…

「……!」
 足がもつれ、その場に倒れ込む。
 まずい。
 マジで死んでしまいそうだ。

 …死ぬ?
 ちょっと待てよ。
 俺は、確かもう死んだ筈…

「…なんて事考えてる場合じゃねぇぞ。
 このままじゃ、寂しくて死んじまうぞ…」
 体中の力を総動員し、何とか立ち上がった。
 とにかく、どこか休める場所と、食い物を探さないと。
 復活して間も無く、再びくたばるなんて笑い話にもなりゃしない。

「くっ…!」
 しかし、もう体は限界だった。
 またもや倒れる俺の体。
 畜生め、ここまでか…!

「……?」
 と、近くに人の気配を感じた。
 思わず顔を上げて、気配のした方向を見る。

「あ……」
 そこに居たのは、まだ幼い少女だった。
 怯えたような目で、俺を見ている。

「…ちょ……助け……」
 必死に声を絞り出し、その少女に助けを求めた。
 頼む。
 人を呼んで来てくれ。

「……!!」
 しかし、少女は俺が呻くのを見ると怯えたように走り去ってしまった。

(待て、待ってくれ!!!)
 だが、俺の叫びはもう声にはならなかった。
 何てこった。
 最後のチャンスかもしれなかったのに。
 ああ、そろそろ走馬灯が…

「……」
 すると、俺が諦めかけた所に再び少女がやって来た。
 …?
 逃げたんじゃ、なかったのか?

「お水…」
 震える手で、少女が俺にコップに入った水を差し出した。
 そうか、さっきはこれを汲んで来てくれたのか。

「……」
 コップを受け取り、一気に水を飲み干す。
 美味い。
 今迄に、これほど水を美味く感じた事などなかった。

「…ありがとう、助かっ―――」
 …そうお礼を言おうとした所で、俺の意識は遠ざかった。

500ブック:2004/05/31(月) 00:25





「…よっと。」
 掛け声を上げ、雑貨の詰まった箱を棚の上に置いた。

「悪いわねぇ。病み上がりだってのに、お手伝いして貰っちゃって。」
 恰幅の良いおばちゃんが、俺に冷えたお茶を手渡した。
「いや、別にいいですよ。
 厄介になってるんだから、これ位お安い御用ってなもんですって。」
 礼を言い、おばちゃんからお茶を受け取る。

「トラギコ兄ちゃ〜ん!
 遊ぼ〜〜〜〜〜!!」
 そこに、子供達が駆け寄ってくる。
「お〜〜う!
 ちょっと待ってろ!!」
 急いでお茶を飲み干し、子供達と共に広場に走っていく。

 あの女の子に助けられ、この孤児院に担ぎ込まれて早十日。
 ここの人達の献身的な介護のお陰で、体はすっかり良くなっていた。
 まさかこっちの世界でも孤児院にお世話になるとは、つくづく因果なものだ。

「おっし、何して遊ぶ?
 鬼ごっこか?かくれんぼか?警泥か?六むしか?缶蹴か?ドッヂボールか?」
 子供達に服を引っ張られながら、何をして遊ぶのか提案する。

「缶蹴りがいい!」
「うん、それがいい!」
 子供達が無邪気な笑みを浮かべながら答えた。

(…二度と、こんな事が出来るなんて思っていなかったのにな。)
 そんな子供達の笑顔を見て、自嘲気味に笑う。

 俺にはもう、こいつらを抱く資格なんて有りはしないのに、
 何故俺はここにいるんだ?
 これも、神のおぼしめし、ってやつなのか?
 それなら、俺は…

「……?」
 と、建物の影に寂しそうにこちらを見つめる人影を発見した。
 俺を見つけてくれた、あの女の子だ。
 確か名前はちびしぃと言ったか。

「どうした?
 こっちに来て皆と一緒に遊ぼうぜ。」
 俺は笑いながら手招きする。

「……!」
 しかし、ちびしぃはそのままどっかに行ってしまった。
 いつもそうだ。
 あの子もここの孤児院の子供なのだが、
 ここに来て十日というものの、あの子が他の子供と遊んでいるのを見た事が無い。
 いや、それどころか、笑顔の一つすら見れなかった。
 他の子があの子を虐めている訳でもないのに、一体どうしてだ?

「なあ、ちびしぃも呼んで来てやれよ。
 仲間外れは悪い子のする事だぜ?」
 俺は近くの坊主にそう促した。

「違うんだよ。
 あいつの方から逃げてんだって。
 少し前までは、一緒に遊んでたのに…」
 顔を曇らせて坊主が答える。

 前までは一緒に遊んでた?
 それなら余計に変だ。
 あの子に、何かあったのか?

「!!!!!」
 その時、俺の頭を何か固い物が直撃した。
 これは、空き缶か?

「や、やば!
 当たっちゃった…」
 向こうの方で子供達がしまったという顔をする。
 どうやら、缶蹴りの缶を蹴ったのが、俺に命中したらしい。

「こぉの悪餓鬼共ーーーーー!!」
 頭からたんこぶを生やしながら、子供達を追いかける。
「逃げろーーーーー!!」
 子供達が蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

501ブック:2004/05/31(月) 00:26





 俺は子供達の寝室のドアを静かに開け、中の様子を確認した。
 時計は既に夜の十一時を指しており、子供達はスヤスヤと寝息を立てている。
「……」
 俺はそれを確認すると、音を立てないようにドアを閉めた。
 昼間しっかり遊んだ所為か、ぐっすりと眠っているようだ。

「トラギコさん、ちょっとお茶でもいかが?」
 俺が自分の部屋に戻ろうと、食堂の前を通りかかった所に、
 この孤児院の職員である、恰幅のいいおばちゃんが声を掛けてきた。

「あ、それじゃ馳走になります。」
 折角なので、一杯頂く事にする。
 食堂に入り、おばちゃんの前の席に腰をかけた。

「ごめんなさいね、家の子供達がヤンチャばっかりしちゃって。」
 ティーカップに紅茶を注ぎながら、おばちゃんが苦笑した。

「いえ、全然構いませんよ。」
 笑いながら熱い紅茶に口をつける。
 甘苦い琥珀色の液体が、口の中に広がっていく。

「でも大変ねぇ。
 事故のショックで記憶を無くしてるなんて…」
 心配そうな顔でおばちゃんが尋ねる。

 本当は記憶はばっちり残っているのだが、
 『実はラギは別の世界の住人だったラギよ!』、と言った所で
 変人扱いしかされないのは分かりきっている事なので、
 記憶喪失という事にしておいた。
 この方が、何かと問題も少ない。

「…すみません。
 こんなに長い間ご厄介になってしまって…
 もう少ししたら、すぐ出て行きますから。」
 俺は申し訳無い気持ちで一杯になりながら口を開いた。
「あらあら、そんな事気にしなくていいのよ。
 ここの子達も懐いているし、好きなだけゆっくりして行きなさいな。」
 おばちゃんが屈託無く笑う。

 口ではそう言っているが、
 この小さな孤児院では大人一人を余分に養うのでも大きな負担だろう。
 ここの人達の為にも、早くここから出なくては。

「それにしても、あなた子供と触れ合うのが上手ね。
 もしかしたら、元は孤児院か育児園で働いていたのかもね。」
 おばちゃんが微笑みながら話す。
 大正解だ、おばちゃん。



「…あの、ちびしぃの事なんですけど。」
 紅茶を飲み終えた所で、俺はそう話題を切り出した。

「ええ…」
 おばちゃんが暗い顔になる。

「…元々大人しい子だったけど、
 それでも少し前までは皆と笑いながら遊んでいたのよ。
 だけど、急に心を閉ざしてしまって…」
 沈痛な面持ちで喋るおばちゃん。
 やっぱり、この人もあの子の事は心配していたようだ。

「何か心当たりはあるんですか?」
 俺はおばちゃんに尋ねた。

「…いえ、特に何も。
 あの子に直接聞いてみた事もあるんだけど、
 『何でもない』の一点張りで…」
 おばちゃんが首を振る。

「そうですか…」
 俺は呟いた。
 あの子の顔、決して『何でもない』なんてものじゃない。
 詳しい事は分からないけど、間違い無く何かを思い詰めている。
 まるで、独りぼっちで何かと闘っているような、そんな悲壮感…

「…分かりました。
 それじゃ、そろそろ失礼します。
 お休みなさい。」
 カップを流しに入れ、俺は食堂を出た。


 …どうする。
 いや、どうするかなんて、もう決まってるじゃないか。
 あの子を、助けてやる。
 あの子には、命を救って貰った借りがある。
 今度は、俺が助けてやる番だ。

(お前に何が出来る?
 かつて手を血に汚した咎人の分際で、正義の味方気取りか?)
 俺の心の影から聞こえる嘲りの声。
 何とでも言え。
 例え偽善でも、あの子を放ってなんておけるものか。
 これが、俺の生き方だ。

「…俺は、今度こそ間違えない。
 俺は……!」
 拳を固め、唇を強く噛む。

 そうだ。
 俺はもう、間違える訳にはいかない。
 それが、向こうの世界で守り切れなかった、置き去りにしてしまった、
 あの孤児院の人達に対するせめてもの償いだ。
 だからあの子だけは、何としても助けてみせる…!

「悪いな、親父、お袋。
 どうやら、まだそっちには逝けないらしい。」
 夜の闇の中、俺は決意を固めるのであった。



     TO BE CONTINUED…

502ブック:2004/06/01(火) 05:05
     EVER BLUE
     第二十三話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その二


 たった一つの命を捨てて
 生まれ変わった縞々の体。
 金を稼いで孤児院に送る。
 トラギコがやらねば誰がやる。



 次の日、やっぱりちびしぃは独りぼっちのままだった。
 いや、むしろ自分から皆と距離を取っているような気さえする。

「どした?
 一人で遊んでてもつまんねぇだろ?」
 見かねてちびしぃの後ろから声をかける。

 子供ってのは、笑いながら遊ぶのが仕事なんだ。
 こんな寂しそうなのを放っておく訳にはいかない。

「……!」
 しかし、ちびしぃはすぐに俺から逃げ出してしまった。
 …俺、何かまずい事でもしたのかな?

「トラギコ兄ちゃ〜〜〜ん!
 こっち来て遊ぼうよ!!」
 そこに、他の子供達が俺を呼んでくる。

「あ、ああ。
 ちょっと待ってろ!」
 …まあいい。
 焦る事はないんだ。
 ゆっくりと、あの子の心を解きほぐしてやりゃあいい。

 気になる事はあったものの、俺は取り敢えずそれを置いといて
 子供達と一緒に遊ぶ事にした。

503ブック:2004/06/01(火) 05:05





「悪い、ちょっと便所な。」
 鬼ごっこの途中、急に尿意を催した。

「え〜、すぐ戻って来てよ。」
「ああ、分かってるって。」
 口を尖らせる子供達に笑って答える。

(え〜っと、確か便所はこっちだったよな…)
 回りを確認しながら、厠目指して進む。
 矢張り、慣れない場所ではこういう時に困ってしまう。

「……?」
 と、その途中でちびしぃの姿を見かけた。
 何だ?
 あいつこんな人気の無い所で何を…

「お―――」
 俺が声をかけようとした瞬間、ちびしぃは孤児院を囲う柵を超え、
 外へと駆け出して行ってしまう。

(…?あいつ、何処へ?)
 俺は便意も忘れ、ちびしぃの後を追った。
 もしかしたら、あいつが塞ぎ込んだのと何か関係有るのかもしれない。



「……」
 ちびしぃに見つからぬようこっそりと後を尾けていくと、
 いつの間にか近くの街まで辿り着いていた。

「あいつ、こんな所に何しに来てんだ?」
 呟きながら、尾行を続ける。
 ちびしぃは通りにある玩具屋やお菓子屋に寄り道するでもなく、
 一直線にどこかに向かって歩いていた。
 一人で勝手に街に言っちゃ駄目だ、ってあのおばさんに言いつけられてる筈だってのに、
 こいつはどうしてこんな所に…

「……?」
 と、ちびしぃがようやく足を止めた。
 その目の前には、白い壁のやや大きめな建物。
 入り口のあたりには、十字架型のレリーフが飾られている。
 あれは、この世界の教会のようなものだろうか。
 だとすれば、こっちの世界にも宗教はあるって事か。

「……」
 ちびしぃは少し躊躇うような素振りをした後、
 意を決したように教会らしき建物へと入っていった。

「ここが目的地って事か…」
 お祈りでもするつもりなのだろうか?
 でも、だとしたら何で一人でこっそりと。
 おばちゃんや他の子供と一緒に来ればいいだろうに…

「!!!」
 そこへ、強烈な尿意が襲い掛かってきた。
 やばい。
 そういえば、便所に行く途中だった…!

「う〜〜、トイレトイレ。」
 今トイレを求めて全力疾走しているラギは
 いきなり変な世界に飛ばされたごく一般的なスタンド使い。
 強いて違うところをあげるとすれば、寂しいと死んじゃうってとこかナー。
 名前はトラギコ。

「…って、そんな事言ってる場合じゃねぇぞ!」
 もう限界寸前だ。
 糞、仕方が無い。
 今ちびしぃの入っていった教会に、トイレを借りる事にする。
 出来ればちびしぃにはバレたくなかったが、背に腹は変えられない。

「ちょっと邪魔するぜ!」
 勢いよく教会の中へ駆け込む。

「どうされました?」
 驚いた顔で尋ねる聖職者らしき格好をした男。

 ウホッ! いい男…

「…って違う!
 わりぃ、便所貸してくれ!!」
 俺は必死に男に頼んだ。

「あ、向こうのドアを開けて左です。」
 男が指を差して答えた。

「サンキュー!」
 俺はすぐさま男の指差したドアを開け、便所の中へと飛び込んだ。
 急いでチャックを下ろし、逸物を取り出して用を足す。

「はふぅ〜〜〜〜〜…」
 心の底から安堵の溜息を吐く。
 よかった。
 もう少しで生き恥を晒すところだったぜ…


「いや〜、どうも助かりました。」
 便所から出て、照れ隠しの笑みを浮かべながら男に礼を言う。
 さて、ちびしぃと一緒にお祈りでもするとするか。
 向こうの世界じゃ、神にあんま良い思いではないけどな…

「……?」
 そこで、俺は異変に気づいた。
 ちびしぃが、居ない。
 変だな。
 確か、ここに入った筈なのに…

「如何なされました?」
 きょろきょろする俺に、神父が尋ねてきた。

「いや…ここに女の子が来た筈なんだけど、知らないか?」
 周りをもう一度探してみるも、やっぱりちびしぃはどこにも居ない。

「いえ、そのような方はここには来ておりませんが…」
 神父が素っ頓狂な顔で答える。
 馬鹿な。
 それとも本当に俺の見間違いだったのか…?

「…分かった。
 お邪魔しちまったな。」
 俺はそう告げて、教会から一旦出る事にした。

504ブック:2004/06/01(火) 05:06





 夕暮れも近くなった頃、教会の入り口から一人の子供が出てきた。
 辺りを見回し、力ない足取りで外へ出る。
 そのまま、独りぼっちでとぼとぼと帰路を歩んでいた。

「…おい。」
 教会から大分離れた事を見計らい、
 俺はその子供の後ろから声を掛け、肩に手を置いた。

「……!」
 子供がびっくりして振り返る。
 そして俺の顔を見ると、すぐさま逃げ出そうとした。

「待て、ちびしぃ!」
 俺はちびしぃの腕を掴んで、彼女を引き止める。
 教会の前に張り込んでて正解だった。
 やっぱりこの子はあそこに居た。

「一人で街に来ちゃ駄目だ、って言われてたろ?
 何でこんな事したんだ?」
 出来るだけ優しい声で、ちびしぃに尋ねる。
 怒ってはいけない。
 怒ったら、全くの逆効果だ。

「お願いです、皆には言わないで…!」
 俺から逃げられないと察したちびしぃは、泣きながら俺に懇願した。
 その体が小刻みに震えている。

「…?
 どういう事だ?」
 確かに一人で街に来たのはいけない事だが、それでもこの震えようは異常だ。
 あのおばちゃんは、そこまで厳しく怒るのか?

「…何があった。
 俺に、話してみろ。」
 ちびしぃの目を真っ直ぐ覗き込む。
 目を逸らす、ちびしぃ。

「何でもないです。だから…」
 ちびしぃが俺の腕から逃れようとする。

「嘘吐け、何でもないって事はないだろう?」
 俺が逃がすまいと力を加えると…

「嫌ぁ!!!」
 ちびしぃが、悲痛な顔で拒絶の声を上げた。
 おかしい。
 尋常の、恐がり方ではない。

「…大丈夫だ。
 今聞く事は、絶対に誰にも言わない。
 だから、一人で抱え込まないで話してみな。
 何があったのか知らないけど、俺はお前の味方だ。
 大した力にゃなれないけど、二人で一緒に考えようぜ?」
 俺は腕から力を抜き、ちびしぃを見据えて言った。

「…本当に、誰にも言わない?」
 おずおずと聞き返すちびしぃ。
「ああ、約束する。」
 俺は微笑みながら返した。

「…言ってみろ。
 何が、あったんだ?」
 俺はゆっくりとちびしぃに尋ねた。
 ちびしぃはしばし沈黙した後、やがて意を決したように口を開く。
「私―――…」

505ブック:2004/06/01(火) 05:06





「……!!!!!!」
 ちびしぃの話を聞いた俺は、自我を保つのに精一杯だった。
 わなわなと肩を打ち震わせるのが、自分でもよく分かる。

「お願い、皆にはこの事言わないで…!
 私なら、平気だから…!」
 ちびしぃがしゃっくり交じりの声で告げる。

 馬鹿な。
 平気な訳ないだろう…!

「……!」
 歯を喰いしばり、激情に駆られそうになるのを抑える。
 糞が。
 何で、この子がこんな目に…!

「…今迄、誰にもこの事は言わなかったのか?」
 俺は怒りに震える、それでも出来るだけ平静を保った声でちびしぃに聞いた。

「……」
 泣きながらちびしぃが頷く。

「…私達のお家は、教会の人からお金貰ってるんでしょ?
 だから、私がこの事をしゃべったらおばちゃんや皆に迷惑かけちゃう。
 痛いのや気持ち悪いのは嫌だけど、
 皆が困るのはもっと嫌だもん…」
 ……!
 この子は、俺だ。
 あの家の人達を守る為に、その小さい体で必死に闘ってきたのだ。
 本当は泣き叫びたかっただろうに、
 誰かに縋りたかっただろうに、
 それなのに、こいつは逃げなかった。
 独りぼっちで、闘ってきたのだ。

 今、ようやく分かった。
 こいつが他の皆と距離を取っていたのは、皆が嫌いだからじゃない。
 好きだから、
 優しくされると、助けを求めてしまうから、
 だから無理して心を閉ざした。
 それが、どれだけこの子にとって辛かった事か…!

「私は、大丈夫だよ。
 最初は痛かったけど、だんだん楽になってきたもん。
 だから…」
「……!」
 無理して笑おうとするちびしぃを、俺は強く抱きしめた。

「…もういい。
 もういいんだ…!
 もう平気なふりなんかすんな!
 もう一人で頑張るな!
 大丈夫だ!
 俺が助けてやるから!
 絶対に、何とかしてやるから!
 だから、一人で傷を抱え込むのはもうやめろ…!!」
 涙を流しながら、ちびしぃをしっかりと抱きとめる。
 許さない。
 あの教会の奴等、絶対に許さない…!!

「―――ぁ…うああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃが、俺の腕の中で泣き叫ぶ。
 まるで、今迄溜め込んでいた痛みを一気に解き放つかのように。

「あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 ちびしぃの泣き声が、夕暮れの空にいつまでもいつまでも響き渡っていった。

506ブック:2004/06/01(火) 05:06





 日もとっぷりと暮れた夜更け、俺は再び教会の前へと佇んでいた。
「!!!!!」
 教会の扉を勢いよく開け放つ。

「!!あなたは昼間の…」
 便所を借りる時に会った神父が、吃驚した様子で俺を見る。

「……!!」
 俺は構わず、神父の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
 神父の喉元からくぐもった声が漏れる。

「…何を……!
 このような事をされては、必ずや神の罰が…」
 苦しそうに呟く神父。
 神の罰?
 なら、お前らに最初に下されるべきだ。

「!!!」
 片腕で神父を持ち上げ、今度は床に背中をぶち当てる。
「ぐはっ…!」
 神父が苦しそうに声を上げた。

「…司教は、どこだ?」
 神父の襟首を押さえながら、俺は低い声でそう告げるのだった。



 神父に司教の部屋の場所を聞き出した俺は、一直線に司教の部屋へと突き進んだ。

 …見つけた。
 あの部屋か…!

「!!!!!」
 力任せに扉を蹴破る。
 蝶番が外れ、扉が半壊して床に倒れた。

「何だ、騒がしい。」
 薄暗い部屋の中から、落ち着いた男の声が聞こえてくる。
 声のする方向を見ると、髭を生やした壮年の男。
 どうやらこいつが、司教のようだ。
 その傍らには、半裸の少年と少女。
 ついさっきまで、お楽しみだったって訳か。

「貴様、どこの賊だ?」
 男が俺を見る。

「…地獄の鬼さ。
 閻魔様の言いつけで、お前を地獄に送りに来た。」
 ありったけの怒りを込めて、司教を睨みつける。

「地獄…?
 さて、そんな場所に連れていかれる覚えは無いが…」
 この期に及んで白を切る司教。
 こいつ、心底腐ってやがる…!

「よくもそういけしゃあしゃあと抜かせるな!!
 手前のやった事は全部知ってるんだよ!!!」
 腹の底からの声で叫ぶ。
 ここまで怒ったのは、あのでぃに対して以来だった。

「ふん…あの小娘か。
 後で仕置きをしておく必要があるな。」
 ようやく司教も俺が何の為にここに来たのか思い当たったようだ。
 あの小娘とは誰なのかは聞くまでもない。
 ちびしぃの事だ。

「…話は全部聞いてんだ。
 ここの有り金全部あの孤児院に寄付して自首しろ。
 そうすりゃ、命だけは助けてやる。」
 司教ににじり寄りながら、俺はそう告げた。
 半裸の少年と少女は、俺達が睨み合っている間に部屋から逃げ出す。
 それでいい。
 ここからは、子供が見ていい世界じゃない。

「はっ!
 誰が自首すると!?
 それともお前が裁判所に訴えるか!?
 薄汚い孤児院の餓鬼と、何処の誰かも分からないチンピラの言う事など、
 誰が信じるものか!!」
 高らかに笑う司教。
 ここで、こいつの寿命は決定した。

「そうかい…
 なら、ここで死ね。」
 俺は一気に司教へと駆け寄ろうとする。

「間抜けめ、私がただの司教と思ってか!
 見ろ、『聖十字騎士団』の力を…!」
 司教の背後に人型のビジョンが浮かび上がる。
 驚いた。
 こいつも、スタンド使いか。
 だが…

507ブック:2004/06/01(火) 05:07

「『オウガバトル』!!」
 奴の右腕辺りで空間を分断。
 遅い。
 その程度の力で、接近戦で俺の『オウガバトル』に敵うものか。

「ぎゃああああああああああああ!!!!!」
 右腕を斬り落とされ、血飛沫をあげながら司教が絶叫する。
 何だ。
 それしきの事で情けない。
 あの子はもっと痛かった。
 なのに、泣き言一つ言わなかった…!

「ま、待て!
 私を殺していいのか!?
 あの孤児院には、私が特別に金を多く回しているからこそ経営出来ているのだぞ!?
 私があいつらを飼ってやっているんだ!!
 そこの子供の一人や二人に手を出した所で、何が悪―――」
 五月蝿い。
 豚がそれ以上喋るな。
 今度は左足をちょん切ってやる。

「ひぎいいいいいいいいいいい!!!」
 片脚を失い、地べたをのた打ち回る司教。
 これでもまだ手緩いものだ。
 あの子の受けた十分の一の苦しみでも、じっくりと味わうがいい。

「…だったら、これからは俺が稼いでやるよ。
 泥水を啜っても、再びこの手を血で汚しても、
 俺が金を稼いでやる!」
 結局、世の中は金か。
 金が無きゃ、何も出来はしない。
 それは、こっちの世界でも同じだったみたいだ。

「あんな、まだ毛も生え揃ってねぇような小さな餓鬼に、
 重たい荷物背負い込ませやがって…
 笑顔すら、奪い去っていきやがって…!
 手前は、手前だけは、絶対に許さねぇ!!!」
 『オウガバトル』が腕を大きく凪ぐ。
 奴の首の部分で、空間を分断。

「待、やめ―――」
 それが、司教の最後の言葉だった。
 恐怖に歪んだ顔のまま。司教の首が床に転がる。

508ブック:2004/06/01(火) 05:08



「どうやら、また間違っちまったみたいだな…」
 呟き、『オウガバトル』を解除する。
 この呪われし力(スタンド)、
 二度と使うまいと思っていたのに…

「…感傷に浸ってる暇はねぇぞ。
 金目の物見つけたら、さっさとここからトンズラして…」
 そう一人ごちつつ部屋の中に視線を這わせ―――

「!!!!!!!!!」
 不意に、部屋の入り口に人の気配を感じた。
 『オウガバトル』を発動させ、咄嗟に構えを取る。

「誰だ…!」
 俺は入り口の方に向いて叫んだ。
 そこに居たのは、二人組みの男達。
 一人は、ギコ種の目をした変な犬。
 もう一人は、モララー種の目をしたギコだった。
 しかもこいつら、相当強い…!

「無駄な抵抗はやめ、大人しく投降しなさい!」
 モララーの目をしたギコが俺に告げる。
 その横には、白と黒のストライプの入った服に身を包んだ人型のビジョン。
 こいつも、スタンド使いか!

「…君が、そこの司教を殺したのかね?」
 隣の犬男が、落ち着き払った声で俺に尋ねた。

「だったらどうした?」
 鼻で笑いながらその質問に答える。

「何故殺したのです!
 あなたは、命を何だと思っているのですか!」
 モララーの目をしたギコが噛み付いてくるような勢いで俺につっかかる。

「何故殺した?
 お前、こいつが何をしたのか知ってるのか?
 こいつはな、何の罪もねぇ餓鬼を、欲望の捌け口にしてたんだぞ!?」
 思い出すだけでむかっ腹が立ってくる。
 こいつの所為で、あのちびしぃは…

「だからといって、殺して言い訳がないでしょう!
 それとも、あなたは自分が神の代理人だとでもいうのですか!?」
 呆れる位真っ直ぐな視線。
 それが、余計に俺を苛立たせた。

「…一つ教えておいてやるよ、坊主。
 世の中にはな、殺さなきゃどうしようもねぇ野郎が、腐る程存在するんだ。
 そこでくたばってる司教や、俺みたいな連中がな。」
 そう言い放ち、地面に唾を吐く。
「それに、すぐ殺した分だけまだ慈悲深いと思って欲しいぜ。
 この屑に傷つけられた子供は、一生痛みを引きずって生きていかなきゃならねぇのに、
 こいつは一瞬の苦痛で済んだんだからな。」
 このモララー目のギコは何も分かっちゃいない。
 世の中は、奇麗事だけで出来てる訳じゃないんだ。

「あなたは…!」
 俺を睨むモララー目のギコ。
 今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。

509ブック:2004/06/01(火) 05:08

「よせ、セイギコ。」
 と、横の犬男がモララー目のギコを諌めた。
「ですが、ギコ犬さん…!」
 何か言いた気な目で犬男を見るセイギコと呼ばれた男。

「お前も『切り札』(テトラカード)のJだろう?
 それが、そんなに取り乱してどうする。」
 その言葉に、セイギコとかいう男は押し黙る。
 やれやれ、少しは静かになったか。

「…見苦しい所すまないな。
 そういえば申し遅れた。
 私はギコ犬。
 『聖十字騎士団』、『切り札』(テトラカード)のKだ。」
 丁寧に自己紹介する犬男。
 物腰こそ柔らかいが、この男、恐らく横のセイギコより実力は上…!

「…ふん、そこの下種のお仲間さんか。」
 司教の死体を一瞥し、俺はそう口を開く。

「僕達を愚弄する気か…!」
 と、セイギコが再び牙を剥く。

「よせ。」
 ギコ犬と名乗った男が、セイギコを抑える。
「……!」
 悔しそうにセイギコが俺をねめつけた。

「…私達も児童性的虐待の件で、そこの司教を連行しに来たのだ。
 対処が遅れて、誠に申し訳なかった。」
 ギコ犬と名乗った男が、俺に深々と頭を下げる。

「…謝るなら、俺じゃなくて傷ついた子供達に謝るんだな。」
 俺はそう言うと、外へ出ようと窓を開け放った。

「どこへ行く!?」
 後ろから、セイギコが声をかけてくる。

「外へ、金を稼ぎに行く。」
 俺は振り返らないまま答えた。

「待て!
 人を殺しておいて、逃げれると思っているのか!!」
 空間が圧縮されたかのような緊迫感。
 どうやら、セイギコとそのスタンドが臨戦態勢に入ったらしい。

「…俺はあの子と約束した。
 俺が助けてやる、と。
 絶対に何とかしてやる、と。
 だから、俺はどんな事をしてでも金を手に入れる。
 その邪魔をするってんなら、お前らを殺してでも行かせて貰う…!」
 『オウガバトル』発動。
 鬼の姿をしたビジョンが、俺の横に現れる。

「貴様!!」
 セイギコが吼えた。
 いいのか?
 そこはもう俺の射程距離だ。
 瞬き一つで、その首を斬り落とせるぞ…!?

「待て。」
 俺とセイギコが攻撃を繰り出そうとした瞬間、ギコ犬がその間に割って入った。

「……」
「……!」
 気を外され、俺とセイギコは一旦矛を収める。

「…そこの君、取引をしないか?」
 と、ギコ犬が俺に向き直って告げた。
「取引…?」
 思わず聞き返す。

「そうだ。
 見た所、君は相当凄腕のスタンド使いらしいし、
 根っからの悪人という訳でもなさそうだ。
 今回の件にしても、情状酌量の余地は充分にある。
 いや、寧ろ対処の遅れた我々にこそ非があると言えよう。」
 ギコ犬が一歩俺の前に進み出た。

「そこで、だ。
 君、『聖十字騎士団』に入ってみるつもりはないか?
 もし入隊するならば、この一件は私が上手く揉み消しておくが。」
 つまり、罪は見逃してやるから仲間になれ、か。
 この男、見かけによらず食えない野郎だ。

「ギコ犬さん、何を言ってるんですか!!
 俺は反対です!!
 こんな奴…」
 信じられないといった顔をするセイギコ。

「そう言うな。
 それに、『切り札』(テトラカード)も、
 Jには君が就任したが、Aは未だに空席のままだ。
 『聖十字騎士団』も人材不足で困る。」
 ギコ犬が苦笑する。

「…どうする?
 選択は自由だ。
 但し、断るのであればこちらも全力で君と闘うが。」
 膨れ上がる闘気。
 負ける気はしないが、二人掛かりでは流石にしんどいか。

「…一つ、教えろ。」
 俺はギコ犬を見据えて言った。
「その仕事は、儲かるのか?」

510ブック:2004/06/01(火) 05:09





〜一年後〜

「トラギコ兄ちゃん、おめでと〜〜〜〜〜!!」
 子供達の声と共に、クラッカーが鳴らされる、
 テーブルの上には、慎ましやかだが、この孤児院で精一杯の御馳走が並ぶ。
 俺がここの孤児院に来て早一年。
 今日は、ここの皆がそんな俺の為にパーティーを開いてくれていた。

「……」
 ちびしぃが俺に微笑む。
 たった一年かそこらで、あれだけの傷が癒えたとは思えない。
 それでも、時々は笑顔を見せてくれるようになった。
 ならば、もはや俺に出来るのは見守ってやる事だけだ。

「はい、これプレゼント!」
 男の子が、赤いリボンで包んだ箱を俺に差し出す。
「お、ありがとう。」
 俺はそれを両手で受け取ろうと―――

「……!!」
 一瞬、俺の両手が真っ赤に血で染まったように見える。

 殺した。
 『聖十字騎士団』に入ってから、金の為に殺した殺した殺した。
 何人も殺した殺した殺した殺した殺した殺した。
 しかも、殺したのは人だけじゃない。
 吸血鬼とかいう御伽噺のような化け物も殺した殺した殺した。
 俺はもう人殺しですらない。
 この両手は人外の血で汚れきっているのに。
 俺はここに居る資格なんて無いのに…

「…?
 どうしたの?トラギコ兄ちゃん。」
 子供の声で、はっと我に返る。

「…いや、何でもねぇ。」
 無理矢理笑顔を作り、プレゼントを受け取る。
 プレゼント箱が、とても重く感じられた。


「失礼する。トラギコは在宅か?」
 と、パーティーの最中に礼服の男が孤児院を尋ねてきた。
 …『仕事』か。

「悪いな、ちょっと席を外すぜ。」
 子供達に謝り、礼服の男と共に部屋を出る。
 子供達の前で、『仕事』の話はしたくない。

「…で、何の用だよ。
 見ての通り、取り込み中なんだがな?」
 全く、折角のパーティーを台無しにしやがって。
 いつもより多く、報酬をふんだくってやる。

「聖王様より直々の勅命だ。
 トラギコ、たった今より貴殿に『切り札』(テトラカード)のAとしての任務を下す。
 貴殿の都合は考慮されないと心得よ。」
 礼服の男が無闇に豪華な紙切れを取り出し、俺に突き出す。
 聖王から直接の命令とは、俺も偉くなったものだ。

「まず前金として報酬の一割だ。
 言っとくが、それを貰わない限り梃子でも動かねぇからな。」
 俺が手を差し出すと、礼服の男は憮然とした表情で俺に包みを渡す。
 その中には、札束がぎっしりと詰まっていた。

「…毎度あり。」
 指で札束の枚数を数える。
 一割でこの大金。
 これは、かなりあがりを期待出来そうだ。

「守銭奴め…」
 礼服の男がわざと聞こえるように呟く。
 好きなだけ言ってろ。
 手前には、金の本当の価値など分かるまい。

「…で、『仕事』の中身は何だ?」
 …結局、俺にはこれしか出来ないみたいだ。
 罪を犯し、その代価として金を得る。
 血塗られた業深き生き方。
 汚れきった両手。

 でも、それでいい。
 それであいつらを守れるなら。
 泥を被るのは、俺一人で充分だ…!

(…枕が変わっても、やっぱりするこた同じ、ってか。)
 金を見つめながら、俺は自嘲気味に笑うのであった。



     TO BE CONTINUED…

511:2004/06/01(火) 16:58

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その5」



          @          @          @



「これは…!」
 ギコはブラックホークから身を乗り出して、眼下の光景を見据えた。
 横列に並んだ2艦が、ミサイルの集中砲火を受けている。

「退屈な毎日って言ってたが… モナーの奴、これで退屈なのか?」
 ギコは汗をぬぐって言った。
「…そんなわけなぃょぅ。右側の艦、後部甲板が破損して、長くは持たなぃょぅ」
 ぃょぅが告げる。

「参ったな… これなら、レモナかモララーを連れてくるべきだったぜ…」
 ギコはそう言って、操縦席のぃょぅに視線をやった。
「モナー達の乗ってる艦に着艦できるか!?」

「…昔の血が騒ぐぃょぅ」
 ぃょぅはそう呟くと、急速に機体の高度を下げた。
 ヘリ内が大きく揺れる。
「うおっ!! 大丈夫なのか!?」
 ギコは叫んだ。
「何かに掴まらないと危なぃょぅ!!」
 そう言ったぃょぅの目には、炎が灯っている。
 2人の乗ったヘリは、『ヴァンガード』に向けて急速下降を始めた。

「久々に燃えてきたぃょぅ!!」
「うおぁぁぁぁぁ――ッ!!」
 自由落下と変わらないほどの加速に、ギコは大声で悲鳴を上げた。



          @          @          @



 リナーは、海上自衛隊護衛艦『くらま』の艦内を駆けていた。
 CICさえ制圧してしまえば、この艦は無力になる。

「CICに踏み込ませるな!!」
 正面から、ショットガンを持った艦員達が姿を現した。
「撃てッ!!」
 艦員たちは素早く横列に並ぶと、一斉にショットガンを構える。

「セミオートショットガン…? ベネリM4か。
 いいのか、自衛隊が装備年鑑に載っていない銃器を使っても…?」
 ショットガンの銃声が通路に響く。
 だが狙いをつけられた少女の姿は、すでに正面にない。
 リナーは通路の角に飛び込むと、拳銃を連射して艦員達の足先を撃ち抜いた。

「うわぁッ!!」
 艦員達は次々に足を押さえて倒れていく。
 足の小指の負傷だけで、事実上人間は戦闘不能となるのだ。
 リナーは通路に横たわる無数の身体を飛び越えると、CICへ向かって突き進んだ。
 正面の通路から、さらに艦員達が押し寄せてくる。
 ショットガンによる銃撃を避けながら、リナーは艦員達の足先を撃ち続けた。

512:2004/06/01(火) 16:59

「くそッ! 挟み撃ちかッ!!」
 ショットガンを構えて、正面の艦員が叫ぶ。
 その足先に、リナーは素早く銃弾を撃ち込んだ。
「ぐあッ!!」
 艦員はショットガンを取り落とし、床に転がる。

「挟み撃ち…?」
 確かに、内部の警備は若干薄い。
 艦後部からも誰か入り込んだのだろうか。
 ASAがスタンド使いを派遣して、サポートでもしているのか…?

「いたぞ! 第1通路だッ!!」
 多くの足音が近付いてくる。
 リナーは銃を構えた。
 向かいは曲がり角だ。
 姿が見えた瞬間、銃撃を…

 まるでミシンのような音が、曲がり角の向こうから響いた。
 間違いなく、フルオート射撃での銃声。
 そして、ドサドサと人が倒れる音。

「…?」
 リナーは異常を察知した。
 先程、フルオートで発射された弾丸は7発。決して聞き逃しはしない。
 艦員の倒れる音も、ちょうど7人分。
 フルオートの弾丸を、1人に1発ずつ当てた…?
 それも、艦員に悲鳴すら上げさせることなく。
 戦闘技能に特化した代行者の中でも、そこまでの精密射撃ができるのは自分か師匠くらいだ。

 カツカツという足音が近付いてくる。
 間違いなく、先程の芸当を行った当人。
 足音に水気が混じった。血を踏んだのだろう。
 歩き方、歩幅などで男と分かる。
 こいつは…!!
 リナーは、銃を構えて背後に飛び退いた。

 曲がり角から、その男が姿を現した。
 見間違えるはずはない。
 グレーのSS制服。
 髑髏が刺繍された制帽。
 襟には、42年型SS大将タイプの襟章。
 右袖にアルテケンプファー章。
 左袖にSS本部長級プリオンカフ。
 胸にハーケンクロイツを抱いた鷲のパイロット兼観測員章と、昼間戦闘徽章銀章。
 そして、両手に携えた2挺の拳銃…

「ほう。妙な所で会うな、『異端者』よ」
 男は、リナーの姿を見て言った。
「それはこちらの台詞です、師匠…」
 リナーは、正面に立つ男を見据えた。
 枢機卿…
 『教会』の最高権力者。
 そして、自分に戦闘技術や兵器の扱いを叩き込んだ男。
 その衣服は、なぜか水で濡れている。

「随分とお若くなられて。ですがSS正装で寒中水泳とは… 奇行癖は変わらない御様子ですね」
 リナーは言った。
 その軽口と裏腹に、掌に汗が滲む。

「母艦に戻る途中、ふとこの艦を見つけてな。
 ついでに制圧しておこうと思えば… よもや、君と鉢合わすとはな」
 枢機卿は事もなげに言った。
 その姿を、リナーは真っ直ぐに見据える。
「お教え願いたい。貴方がここにいる真意。私をこの国へ寄越した理由。他の代行者への、私に対する追討命令…」
 両手を下ろす仕草で、スカートの中に収納している2挺のベレッタM93Rに手を添えた。
 枢機卿との距離は、約10m。

 その質問に、軽い笑みを浮かべる枢機卿。
「1つ目の質問の答えは先程言ったはず。2つ目、『monar』への干渉。
 3つ目、君自身が一番よく知っているだろう、『異端者』よ…?」

「そんな表面的な事が聞きたいのではありません。何を企んでいるのか… 
 一体、どんな図を大局的に描いているのか聞いているのです!」
 リナーは、殺気を込めて枢機卿を睨んだ。

「答えると思うかね、この私が…」
 枢機卿はP09の片方を軽く回転させた。
 そして、銃口をリナーの方へ向ける。
「君には、私の持てる技術の全てを仕込んだ。久々に実戦演習といこうか。我が弟子よ」

 リナーは目の前の枢機卿を見据えた。
「貴方に教わった技能で、私は幾度の戦場を生き延びる事ができました。
 …まずは、その事に礼が言いたい」
「誰にでも習得できる戦い方ではない。私と同じ次元にまで到達できたのは、後にも先にも君だけだ。
 まさに、誇るべき私の唯一の弟子だよ。君の余生がもっと長ければ、捨て石のような扱いはしなかった」
 枢機卿は名残惜しげに言う。

 リナーは言葉を続けた。
「先程、貴方に教わった技能で生き延びれたと言いましたが… 正直、私はいつ死んでも構わなかったんです。
 無為な人生、早く終わった方が良かった。ですが…
 生還を望んではいなかったのにもかかわらず、この戦闘技能と吸血鬼の肉体が邪魔をした。
 私は、嫌いだったんです。吸血鬼も、スタンドも、この戦闘技能も、私の生も、全て…」
 そう言って、視線を落とすリナー。
 枢機卿はその物憂げな瞳を見る。
「…そうだろうな。君の吸血鬼に対する憎悪は、自己否定の裏返しだ」

513:2004/06/01(火) 17:01


 リナーは再び枢機卿に視線をやると、柔らかな笑みを浮かべた。
「…ですが、事情が変わったんです。嫌いだったものも、幾つかは好きになれました。
 今まで私を生かしてきた、貴方から教わった技能に感謝しています。
 ならばこの技能… これからも生き延びる事に使わせて頂く!!」
 スカートから2挺のM93Rを抜くと、その銃口を真っ直ぐ枢機卿に向けた。

「…ならば見せてもらおうか。君の、生きようとする力とやらを…!!」
「お相手させて頂きます、師匠…!」
 2人は、同時に前方に向って駆けた。
 走りながら、互いの銃を互いに向かって連射する。
 正確な射撃、そして正確な回避。
 それは、左右が逆にならない鏡に映したように同一だった。

「…腕は衰えておらんな」
「そちらこそ、全盛期の強さを手にしておられるようで…!」
 両腕の銃を連射し、相手の射線を避けながら突進する。
 両者の距離は、2mまで縮まった。
 2人ともそれぞれ右方に飛び退くと、同時に壁を蹴る。
 空中で接近する2人。
 互いの体に銃口を突きつけようとした右腕の手の甲が、空中で激突する。

 そして、同時に発射される銃弾。
 2人とも、同じタイミングで身体を逸らして避けた。
 なおも同時に着地する2人。

「互いに確率・統計的に最適な行動パターンを行使すれば、同じ動きにしかならんか…」
「そのようですね。効果的な占位、効果的な射撃… 全てが同じ」
 着地と同時に、両者は身を翻す。
 リナーは、右腕のM93Rを枢機卿の頭部に突きつけた。
 同時に、枢機卿は右腕のP09を突きつけてくる。

「…!」
 リナーは右手の銃を枢機卿に突きつけたまま、左手の銃を無造作に落とす。
 そのまま、目の前のP09に左手を伸ばした。
 素早くマガジン・キャッチを押し、リアサイト前部を引く。
 そのままスライドを後退させ、スライド・ストップを引き抜く。
 1/10秒にも満たない時間でのフィールド・ストリッピング。
 突きつけられていた枢機卿のP09は、一瞬の間にバラバラになった。
 同様に、枢機卿の頭部に突きつけていたM93Rも分解されている。
 分解の速度も、それに至る思考も全て同じ。

 リナーは残ったグリップを投げ捨てると、懐に手を入れた。
 各指の間に挟んだ4本のバヨネットを、爪のように相手の身体に振るう。
 枢機卿は、全く同様に4本のバヨネットで相殺した。
 両者とも一歩退くと、バヨネットを1本ずつ投げつける。
 上段に2本。下段に2本。
 枢機卿が同じ軌道で投げたバヨネットと空中衝突し、8本全てが床に転がった。

 その投擲は、相手に隙を作る為のフェイント。
 最後のバヨネットが手を離れると同時に、リナーの腕は背に回っていた。
 その手で、素早く日本刀の柄を掴んだ。
 枢機卿の腕も、自らの背後に回っている。

 リナーは日本刀を抜くと、大きく踏み込んだ。
 同時に、枢機卿が大きく踏み込む。
 その手には、カッツバルゲル。
 刺突より斬撃に特化した15〜17世紀の刀剣だ。
 長さ、ウェイトともに日本刀と同等。

 全く同じタイミングで、同じ角度で両者は打ち合った。
 違うのは、立ち位置のみ。
 激しく互いの武器をぶつけ合わせると、両者は飛び退いて大きく距離を開けた。

 同時に刀剣を投げ捨てる2人。
 リナーはP90を、枢機卿はMP40を懐から取り出した。
 そして、同時に互いの短機関銃の銃口を向ける。

「ふむ。さすが我が弟子。全て互角か…」
「そちらこそ。さすが我が師匠…!」
 2人は言葉を交わすと、同時に引き金を引いた。

514:2004/06/01(火) 17:01



          @          @          @



「あれは、一体…?」
 『フィッツジェラルド』の艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授。
 その目は、『ヴァンガード』の後部に激突した戦艦を見据えていた。

『ビスマルク級戦艦… なぜ、あんな骨董品が?』
 無線機から丸耳の声が聞こえる。
 彼のいるCICにも画像が届いているようだ。
 しぃ助教授は、その戦艦の武装を注意深く観察した。
「…主砲をよく見てみなさい。あれが、60年も前の艦装ですか?
 砲口制退器や排煙器、水冷式砲身に垂直鎖栓式砲尾…
 発射速度や反応時間は、このイージス艦に搭載されている127mm単装艦載砲と変わらないはず。
 威力だけが38cm砲クラスです。あの連装高角砲も、おそらく30mmクラスのCIWS…!」

『最新装備で身を固めた戦艦… もしかして、『教会』の艦…?』
 丸耳は、信じられないように呟いた。
「…」
 しぃ助教授は答えない。
 おそらく、その可能性が一番高いからだ。
 正面を見据えるしぃ助教授。
 その空は、先程までとは打って変わって静かである。
「ミサイル攻撃が止んだ… 向こうにも、何かあったのか…」

 『フィッツジェラルド』が大きく揺れた。
 艦体に、ミサイルを3発ほど喰らっているのだ。
 『セブンス・ヘブン』で直撃は避けたとはいえ、決して軽いダメージではない。
「丸耳、被害状況は…?」
 しぃ助教授は訊ねる。
『後部甲板への一撃が効いていますが… まだ何とか』
 丸耳は、暗い声で言った。
 この艦も、余り長くは持たないようだ。

「退艦命令は、丸耳の判断で出しなさい。無駄な犠牲は避けるように」
 しぃ助教授は告げる。
『しぃ助教授はどうする気です…? まさか、艦と共に…!』
 丸耳は慌てたように言った。
 ため息をつくしぃ助教授。
「艦と運命を共にする気はありませんよ。ですが、ギリギリまでは…」
 突然、丸耳は声を上げた。
『…ちょっと待って下さい! 南西方向から接近物あり! 速度は… マッハ7だって…?』

「馬鹿な! 極超音速飛行を可能とする航空機は、まだ実用化されていないはず…!」
 しぃ助教授が叫ぶ。
『航空機じゃありません…! 人間大の大きさです!!』
 丸耳は興奮した口調で言った。
『凄まじく速いです! この艦に到達するまで、あと10秒…!!』

「一体、何が…!!」
 しぃ助教授は、南西の方向に視線をやった。
 風を切るような音。
 音速域での轟音が響く。

 『それ』は、凄まじい速度で飛来してきた。
 間違いなく、このまま突っ込んでくる…!!

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 マッハ7で激突されては、艦が危うい。

「逸れろォッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 そして、飛翔物の移動方向に修正を加える。
 艦から20mほど離れた位置で、『それ』の動きが止まった。
 まるで、見えない力に抑えつけられるように。
 凄まじい風圧が周囲に吹き荒れ、海は大きく波立った。
 艦がグラグラと揺れる。

「くッ…!!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
 『セブンス・ヘブン』による指向性の操作でも、その勢いは殺しきれない。
 その余りの圧力に、しぃ助教授の腕が震える。

「ASA三幹部を… 舐めるなァッ!!」
 しぃ助教授は、両腕を思いっきり上げた。
 飛翔物は大きく上に逸れる。
 そのまま、『それ』は天高くすっ飛んでいった。

 しぃ助教授は確認した。
 『それ』は、確かに人型をしていたのを…
 すかさず、『それ』が吹っ飛んでいった方向に視線を向ける。

「…凄いなァ。僕の突進を止めるなんて…」
 ゆっくりと。
 それは降臨する天使のように、天からゆっくりと降りてきた。
 その背には、大きな羽根。
 しかし、しぃ助教授が思わず連想した『天使のように』という表現は誤っている。
 その背中に生えているのは、天使の羽根などではない。

 確かに、月光が透け虹色に輝く羽は美しい。
 だが、それは蝶の凶々しい羽だった。
 羽の男は、艦橋に立つしぃ助教授を見下ろす。
 ニヤニヤとした、下卑た笑みを浮かべて。

「…凄い凄い。良く頑張ったよアハハハハハハハハハハハハ…………………じゃあ死ね」

 その羽から、虹色の光が放たれる。
 鮮やかな光が周囲に照散した。

515:2004/06/01(火) 17:02

 この光は、ヤバイ…!!
 しぃ助教授は、そう直感した。
「『セブンス・ヘブン』!!」
 自身のスタンドで、全ての『力』を押し返すしぃ助教授。
 鮮やかな光は、艦を大きく逸れた。
 そのまま、光は海面に当たる。
 大きな水飛沫が幾重にも上がった。
 凄まじい風圧に、艦が大きく揺れる。

「…何だって? オマエ、一体何なんだ? 何をやったんだ?」
 羽の男から、ヘラヘラした表情が消える。

 …何者かだって?
 それは、こちらの台詞だ。
 今の鮮やかな光は、とてつもなく重い。
 まともに艦に当たれば、それだけで撃沈していただろう。
 こいつのスタンド能力は、一体…

「こんなのがいるなんて、聞いてなかったなァ…
 まあいいや。スタンドの力比べなんて、今までやった事なかったからね」
 男は再び笑みを浮かべる。
「名前を聞かせな、覚えといてやるよ。僕はウララー。こいつは、『ナイアーラトテップ』だ」
 ウララーと名乗った男は、背の羽を示して言った。

 『ナイアーラトテップ』…!
 あの報告書にあったスタンド名だ。
 確か、『教会』が保有しているというスタンド使いの死体…
「吸血鬼化による死者の蘇生、完成していたという訳ですか…」
 しぃ助教授は、ウララーを見据えて呟いた。

「へぇ。なかなか知ってるんだね。でも、蘇生技術は完成なんかしちゃいないさ。欠陥だらけだ。
 まあいいか。僕も名乗ったんだぜ? そっちも名乗りなよ、レディ…」

「全く… 普段は人外みたいに思われて、レディ扱いされたかと思ったら、貴方みたいな化物からとは…
 ホント、嫌になりますね」
 そう言って大きなため息をつくと、しぃ助教授はハンマーをウララーに向けた。
「私はASA三幹部の1人、しぃ助教授。私に挑むなら、死を賭しなさい…!」



          @          @          @



 俺は、よろけながら再び立ち上がった。
 バヨネットは… 離れた位置に転がっている。

「止めておけ。お主の技量では、あと100年続けたところで勝てはせぬ」
 山田は、背を向けたまま言った。

 …その通りだ。
 こいつには、今の俺の技量では決して敵いはしない。
 その凄絶なまでに緻密な斬撃。
 それは、血の滲む鍛錬と度重なる実戦で身につけたものだろう。
 俺の野良な戦闘技術では、どれだけ頑張ったところでこいつに傷一つ付ける事はできない。
 そう。
 今の俺の技量ならば――

 視たものを『破壊』できる以上、その逆も可能。
 『殺人鬼』は、夢の中で俺に告げた。

 『創造』すること。
 視たものを…
 視た技術を、俺の身体に再現すること。

 『アウト・オブ・エデン』――!!
 俺は、眼前の山田の背中を視た。
 こいつの技術を『創造』したところで、オリジナルに勝てるはずがない。
 何より、山田の技量をほとんど視ていない。
 それなら…
 山田の、洗練された武芸に打ち勝つならば…

 ――『アウ■・オブ・エ■ン』起動。
 ――創造、■始。
 ――対象1:『Giko』。
 ――対■2:スタンド『LAYLA』。
 ――構成要素、抽出中………

 脳内にノイズが混ざる。
 俺の脳に、幾多もの記憶が錯綜した。
 思い出せ。
 思い出せ。
 あの型。
 あの技。
 あの構え。
 あの気迫。
 あの殺気。
 あの呼吸。
 あの踏み込み。
 あの剣撃。
 思い出せ。
 思い出せ。

 ――そして、俺の体で。

516:2004/06/01(火) 17:03


「…」
 俺は懐から短剣を取り出すと、正眼に構えた。

「…?」
 山田が、ゆっくりとこちらを振り向く。
「肉体を強化する類のスタンド…? それにしては、闘気の質が先程までとはまるで違う…」

「スタンド能力をいちいち説明する義理があるのか…?」
 山田を真っ直ぐに見据えて、俺は言った。

「…ふむ、それも道理」
 山田は完全に身体をこちらに向けると、両腕で青龍刀を構えた。
「ならばこの山田、全力を持って相手をしよう…」

 俺は驚愕した。
 2度まで俺を倒した刃は、まるで本気ではなかったのだ。
 その構えから漏れる殺気。
 歴戦の戦士のみに許された必殺の気迫。

 俺は、山田の構えを視た。
 それは、まるで強固な陣。
 踏み込めば、倒れるのは俺。
 あれを破る方法は、全く視えない。
 ああなってしまえば、どのような攻撃も通用しないのではないか?

 あらゆる可能性を脳内でシミュレートした。
 上段からの斬りも、中段斬りも、下段も防がれる。
 突きも払いも薙ぎも通用しない。
 短刀を投げて殴りかかっても、甲板の破片を利用して攻撃しても、CICに砲撃するよう依頼しても、
 背後を飛んでいるヘリを落として巻き込んでも、艦ごと沈めても…
 何をしても、この構えは決して破れないのではないか…?

「相手の強さを理解する。それも、強さのうちだ」
 山田は、構えたまま言った。
「もう一度言う。背を向けるなら、斬りはせぬぞ…」

「誰が逃げるかッ…!!」
 俺は、大きく踏み込んだ。
 ギコと『レイラ』の神速の踏み込み。
 それを全身で再現する。

 その勢いを殺さず、山田の頭部に渾身の力を込めた斬り下ろしを放った。
 ――もらった。これならば!

 その攻撃を、容易く青龍刀の柄で弾く山田。
「…その一撃、見事」
 そう言いながら、山田は青龍刀を軽く回転させた。
 ――袈裟切り。
 俺の攻撃を弾いた動きから、一分の無駄もなく。
 その刃は俺の右肩口から入り、股下に抜けた。

「…!!」
 俺の上半身と下半身… いや、右半身と左半身に一筋のラインが走る。
 そこから、俺の体は真っ二つに裂けた。
 痛みはすでに麻痺している。
 『殺人鬼』の話では、痛覚を残してくれたらしいが…
 精神が耐えられる許容を超えたのだろう。
 俺の体は2つに分断され、甲板に転がった。

「…捨て置けるほどの凡夫ではなかったようだな。止めを刺させてもらう」
 山田が、俺の左半身に歩み寄った。
 まずい。
 頭部を完全に潰されれば、吸血鬼の肉体でも…!

 しかし、直後に来るはずの頭部への斬撃はなかった。
 山田は、俺を無視して前方を凝視している。
 何を見ている…?

「また、ひどいやられようだな。ゴルァ…」
 聞き覚えのある声がした。
 ヘリのローター音と、こちらへ歩み寄る足音。
 その腕には日本刀。
 背後には、これも日本刀を携えた着物の女性のヴィジョン。

「遅れて悪いな、着艦に手間取っちまった」
 そう言って、ギコは頭上のヘリを見上げた。
 そのヘリの操縦席から、ぃょぅ族の男が顔を出している。

「山田… そいつの刀は、さっきの俺の3倍は速いぞ…」
 俺は、山田を見上げて言った。
「…なるほど。お主の戦友か」
 山田はギコを見据える。

 ギコは、俺の左半身の脇に屈み込んだ。
「こりゃまた、随分と派手にやられたな。まさか真っ二つたぁ… 大丈夫なのか?」
「頭さえ潰されなかったら、再生はできるモナ…」
 俺は力無く言った。
 山田は、そんな俺達の様子を無言で見ている。
 隙を突いて斬りかかるような男ではないようだ。

「そりゃ便利な体だ。さて…」
 ギコは腰を上げると、山田を見据えた。
「そいつ、とんでもなく強いモナよ…」
 俺はギコに忠告する。

「ああ。そんなのは、物腰一つ見りゃ分かる…」
 そう言って、ギコは日本刀を抜いた。
 『レイラ』も、本体の挙動をなぞるような動きで刀を抜く。
「あいつは多分、俺の相手だ…!」

 ギコと『レイラ』、そして山田が、同時に互いの得物を構えた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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517ブック:2004/06/02(水) 19:35
     EVER BLUE
     第二十四話・BEFORE BATTLE 〜嵐の前の静けさ〜


「船長、お茶です。」
 高島美和が、サカーナに一杯のニラ茶を差し出した。
「お、悪いな。」
 サカーナが右手で受け取り、緑色の液体を啜る。

「どうです?
 雑巾の絞り汁入り特性ニラ茶のお味は。」
 高島美和がそうサカーナに告げる。
「ぶうーーーーー!!!」
 口からニラ茶を噴射するサカーナ。
 霧吹き状に吐き出されたニラ茶に虹がかかった。

「お前な、そういう陰険な事やめろよ!!」
 ぺっぺと唾を吐きながらサカーナが怒る。
「嘘ですよ。
 そんなもの入れるなら、青酸カリでも混ぜています。」
 顔色一つ変えずに高島美和が答えた。

「お前な…そっちの方がもっとやばいだろうが……」
 呆れたようにサカーナが呟く。
 高島美和の場合、これが冗談に聞こえないから恐い。

「…しかし、不気味な位動きがありませんね。」
 高島美和が重苦しく口を開いた。
「…『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)か?」
 そのサカーナの問いに、高島美和は頷く事で答える。

「どうなんだろうな。
 俺達を見失ってるのか、
 見逃してくれるつもりなのか、
 それとも着々と迎え撃つ準備をしてるのか…」
 サカーナが腕を組んで考え込む。

「恐らく最後のが正解でしょうね。
 一番と二番の答えは、些か楽観的過ぎるでしょう。」
 高島美和が溜息を吐いた。

「全くしょうがねぇなぁ…」
 サカーナがブリッジの船長席の椅子にもたれ掛かり、おおきく伸びをした。
「…大半はあなたの責任ですけどね。」
 高島美和が刺すような視線をサカーナに向る。


「…無事に『ヌールポイント公国』まで着いたら、お前ら船を降りな。
 これ以上、お前らが巻き込まれる必要はねぇさ。」
 珍しく真面目な顔をして、サカーナが高島美和に告げた。

「折角ですが、謹んでお断りさせて頂きます。
 再就職先も決まっていないのに、無職になるのは御免ですし。
 …それに、あなた一人では何も出来ないでしょう?」
 高島美和が微笑を浮かべる。

「お前…」
 感極まってサカーナが言葉を詰まらせる。

「あと、今辞めた所で退職金は受け取れなさそうですしね。
 加えて貰っていない給料だって山程残っているんです。
 船から降ろすつもりなら、まずそれらをきっちりと払って下さい。」
 サカーナを突き放すように高島美和が言った。

「…現金な女だな。
 折角のムードが台無しじゃねぇか。」
 サカーナがうんざりしたように呟く。

「あなたが金銭面においてズボラ過ぎるんです。
 船長ならもう少し自覚を持って下さい。」
 高島美和は子供を叱るかの如くサカーナを叱責するのであった。

518ブック:2004/06/02(水) 19:35



     ・     ・     ・



「百五十一…百五十二…百五十三……」
 口で数を数えながら、三月ウサギが右腕だけで腕立て伏せをしていた。
 彼の体中からは汗が流れ、それが玉となって滴り落ちる。
 しかし、それでもペースが乱れる様子は一向に無かった。

「…百九十七…百九十八…百九十九…二百…!」
 そこで右腕での腕立て伏せをやめ、
 汗を拭って小休止を取った後で、今度は左腕での片腕立て伏せを始める。
 これも、右腕と同じく二百回。
 その後、続けて両腕での腕立て伏せを二百回。
 しかも、その後半の百回は指でのプッシュアップだった。

「百九十九…二百…!」
 この一連の動作を、計二セット三月ウサギは行った。
 それから、今度は腹筋とヒンズースクワット。
 それらが全て終わった後に、丹念にストレッチをして筋肉をじっくりほぐす。

「……」
 ストレッチを終えた後、三月ウサギはマントの中から一振りの剣を取り出した。
 そしてそれを左手だけで握り、上段に大きく振りかぶって勢いよく下ろす。
 この時、剣は下まで振り切るのではなく上段の位置でしっかり止める。
 いわゆる、素振りというものであった。

「一…二…三…四…五…」
 三月ウサギは、この素振りを左腕だけで千本、右腕だけで千本、
 そして両腕を添えたもので千本繰り返す。
 これを、全部で三セット。

 腕立て伏せなどの筋力トレーニングは、
 超回復の為の時間を空けておく必要があるので毎日は行わないが、
 この素振りだけは一日たりとも欠かす事は無かった。

 勿論、只漫然と素振りをするのではない。
 鏡を見ながらフォームを確認しつつ、一本一本全力を込めて振り下ろす。
 振り切った時に手で絞りを入れるのも怠らない。

 実戦ではこのような基本技など何の役にも立たないと、
 知ったような事を抜かす輩もいるが、
 戦闘で使う応用技は基本の上にこそ成り立つのである。
 故に基本をしっかりと身に染み込ませ、
 錆付かせない為にも、反復練習は決して欠かせないものだった。

「五百三十三…五百三十四…五百三十五…」
 取り憑かれたように、三月ウサギは剣を振り続ける。
 もっと強く。
 昨日より強く。
 今日より強く。
 明日はなお強く。
 その飽くなき力への渇望こそが、三月ウサギをこの荒行に駆り立てていた。

 彼は何故、ここまでして力を求めるのか。
 それはオオミミですら知りはしない。
 全ては三月ウサギの心中にこそ秘められていた。
 それが白日の下に晒されるのは、まだ少し先の話である。



     ・     ・     ・



「……!」
 三月ウサギがトレーニングを行っている頃、
 奇しくもタカラギコもまた研鑽を積んでいた。

「…!……!」
 片手に拳銃を持ち、壁に書いた点に照準を合わせて構えを取る。
 そのまま、照準をコンマ一ミリもずらさずにその体勢を堅持。
 既に、タカラギコが銃を構えて一時間が経過しようとしていた。

「!!!!!」
 と、机の上に置いてあった時計のベルが鳴る。
 丁度一時間が来た事を、タカラギコに告げたのだった。

「ふぅ…」
 汗を拭い、息を整えた後で今度はウエイトトレーニングを始める。
 銃の反動を抑え、あらゆる種類の銃を自在に操る為にも、
 膂力を鍛える事は銃使いにとって不可欠である。
 ましてやタカラギコの使うのは、
 『パニッシャー』という規格外の化け物兵器。
 並大抵の筋力では到底御し切れない。

 彼は、強くなる必要があった。
 死ぬ訳には、いかないから。
 死ぬのが、恐いから。
 それが、タカラギコが強くあろうとする理由だった。

519ブック:2004/06/02(水) 19:36



     ・     ・     ・



 僕とオオミミは、甲板の柵に掴まりながら流れる雲を眺めていた。
 夕暮れの太陽が雲を金色に染め上げ、幻想的な景色を創り出す。
 夕暮れの空を見るのは、僕とオオミミの日課みたいなものであった。

「何そんな所で辛気臭くなってんのよ。」
 と、後ろから聞きなれた憎まれ口を叩かれる。
 それが誰かは振り向いて確認するまでもない。

「あ、天。」
 オオミミがゆっくりと後ろに顔を向ける。
 この女、僕とオオミミの折角のアバンチュールを邪魔しやがって。

「この前の島で誘拐されかけたんですってね?
 全く、鈍臭い男ね。」
 天がズカズカと歩み寄り、オオミミの横の柵にもたれ掛かる天。
 この野郎。
 そろそろ一発殴ったろか?

「うん。
 三月ウサギとタカラギコさんが来てくれなかったら危なかったよ。」
 オオミミが笑いながら答える。

(一応、僕も居たんだけどね…)
 僕が小さく苦言を漏らす。
 心外だ。
 僕は戦力として数えて貰えないのか?

「ご、ごめん、『ゼルダ』!」
 オオミミが慌てて謝る。
(いいよ、別に。
 どーせ僕はヤムチャなのさ…)
 ついつい臍を曲げてオオミミを困らせてやる。
 これ位の仕返ししたって、罰は当たらないだろう。

「…あんた達って、本当に仲がいいわねぇ。」
 天が半ば呆れ気味に呟いた。
 当たり前だ。
 この僕とオオミミとの間柄が、君みたいな薄っぺらい藁の家と比べられるものか。

「……」
「……」
 話題が無くなったのか、オオミミと天がお互いに黙りこくる。
 沈黙が、風と共に僕達の間に流れた。

520ブック:2004/06/02(水) 19:36


「…あんたってさ。」
 不意に、天が口を開いた。

「何?」
 オオミミが聞き返す。

「あんたってさ、何でこんな船に乗ってる訳?
 まだ子供のくせに、
 どう見たってこんな物騒な所には向いてないじゃない。」
 天がオオミミに尋ねた。
 子供って、お前もそうじゃないか。
 余計なお世話だ。

「うん…俺も、そう思う。」
 オオミミが苦笑する。
 何言ってんだ。
 『関係ないだろ』、ってガツンと言ってやれ。

「だったら何で今迄ここに居たのよ?
 親御さんだって心配してるんじゃないの?」
 ……!
 僕は絶句した。
 こいつ、オオミミに向かって言ってはいけない事を…!

「…お父さんとお母さんは、もう居ないんだ。」
 オオミミが、顔を曇らせた。

「―――!あ…ごめ……」
 天がようやく、自分がオオミミを傷つけた事に気がついたらしい。
 遅いんだよ、この売女。
 短い間とはいえ、オオミミと一緒に過ごしてきたんだろう?
 それ位、察せ。

「…!大丈夫、気にしないで。」
 オオミミが、硬直する天にフォローを入れた。
 馬鹿。
 何で君はいつもいつもそうやって。
 今君は、怒ったっていいんだぞ!?

「ごめんなさい、アタシ…」
 何と、この女が素直に謝っている。
 明日は雪でも振るんじゃないか?

「いいって。別に気にしてないから。」
 オオミミが微笑む。

 …嘘吐け。
 本当は、嫌な事を思い出して傷ついた筈なのに。

521ブック:2004/06/02(水) 19:37



「オオミミ。」
 と、後ろから低い声が掛けられた。
 この声は、三月ウサギだ。

「どうしたの?三月ウサギ。」
 オオミミが三月ウサギに尋ねる。

「悪いが、少し組み手に付き合ってくれ。」
 …まずい。
 三月ウサギの鍛錬に付き合わされるのか。
 彼は無茶をするので、三月ウサギはいいだろうが付き合わされるこっちは身が持たない。
 それでも、三月ウサギに言わせれば手加減をしているつもりなのだろうが。

「…ニラ茶猫は?」
 オオミミも三月ウサギとの組み手は嫌なのか、ニラ茶猫にその役目を転嫁しようとする。
「あいつは今ベッドの上で交戦中だ。
 下らな過ぎて、邪魔する気にもならん。」
 …あの色情狂め。
 この大変な状況下でもギシギシアンアンかよ。
 お目出てーな。

「…?天、どうして顔赤くしてるの?」
 オオミミが、セクハラと取られても仕方無い質問を天にぶつけた。
 案の定、天に思い切り足を踏みつけられてオオミミが悶絶する。

 …君は馬鹿か。
 今のは、さっき天が君に言ったのと同じ位の失言だぞ。

「そういう訳で、だ。
 すまんが、無理にでも付き合って貰う。
 そろそろ、体が鈍ってきているのでな。」
 三月ウサギがオオミミを見据える。
 やばい。
 彼は、本気だ…!

522ブック:2004/06/02(水) 19:37


「でしたら、私がお相手させて頂けませんか?」
 そこに、呑気な声が飛び込んできた。
 大きな十字架を背負った背広の優男。
 タカラギコ、いい所に来てくれた!

「…お前が?」
 いぶかしむ三月ウサギ。

「ええ。実は私も、そろそろ運動不足かな〜、と思いましてね。
 よろしければ、軽く手合わせして貰えれば助かるのですが。」
 タカラギコが笑いながら答える。
 よし、三月ウサギ。
 折角タカラギコがこう言ってるんだ。
 遠慮なく相手をしてやれ。
 僕達は、審判役をするからさ。

「…俺は貴様を信用していない。
 悪いが、手加減は出来んぞ…」
 三月ウサギが、ぞっとするような視線をタカラギコに向けた。
「いやそんな、どうか一つお手柔らかにお願いしますよ。
 私は弱っちいんですから。」
 にも拘らず、相変わらずの飄々とした笑みを見せるタカラギコ。
 そう、相変わらずの―――

「!!!!!!!!」
 その時、僕とオオミミは尻の穴に氷柱を突っ込まれたような錯覚に襲われた。

 違う。
 これは、違うぞ。
 タカラギコの顔は、いつも通りの笑顔だ。
 だけど、違う。
 何かが決定的に違っている…!

「……」
 三月ウサギもそれを感じ取ったのか、黙ったままタカラギコを睨み続ける。

「ではすみませんがオオミミ君、審判をお願い出来ますか?
 何、硬くならないで下さい。
 唯の稽古ですよ…」
 オオミミに顔を向けずに、タカラギコが告げる。
「……」
 三月ウサギは、何も喋らない。

 全身に鳥肌が立つ。
 天は、二人に気圧されるように後ろに下がり始めた。

(オオミミ…)
 僕は心配そうにオオミミに声をかけた。
 オオミミも緊張しているのか、返事は返ってこない。

 先程タカラギコが言ったのは大嘘だ。
 これは、けっして唯の稽古なんかじゃない。

 だけど、僕もオオミミも天も、二人を止めに入る事は出来なかった。
 それはある意味当然の事だろう。
 二匹の猛獣が入っている檻の中に、おいそれと入れる奴はいない。

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコが、お互いに向き合ったまま立ち尽くす。
 二人は完全に臨戦態勢に入っており、
 そこから流れる気迫が空気を張り詰めさせる。

「は、始め!!」
 耐え切れなくなったオオミミが、悲鳴を上げるように開始の合図をした。



     TO BE CONTINUED…

523ブック:2004/06/03(木) 17:06
     EVER BLUE
     第二十五話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その一


「は、始め!!」
 オオミミが開始の合図をしたが、三月ウサギとタカラギコは構えを取らなかった。
 それどころか得物すら取り出さずに、
 それぞれお互いに向かってゆっくりと歩いていく。

「そういえば…
 ルールはどうしますか?」
 歩きながらタカラギコが三月ウサギに聞いた。
 そしてパニッシャーを横に投げ捨てる。
 近接戦闘では、あの大きな得物は不利と考えたからだろう。
「お前は、戦場で今と同じ質問を敵にするつもりか?」
 質問を質問で返す三月ウサギ。

「成る程、道理ですね。」
 三月ウサギとタカラギコの距離がどんどんち縮んでいく。
 制空圏と制空圏が触れ合い、双方が必殺の間合いに入る。
 しかし、それでもなお二人は構えなかった。

「……」
「……」
 二人がすれ違い、背中を向き合せて一メートル程間合いをとった所で立ち止まる。
 まだ、二人共構えない。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

「来いよ。」
 三月ウサギがもう一度尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコがもう一度答える。

「来いよ。」
 三月ウサギが尋ねる。
「そちらからどうぞ。」
 タカラギコが答える。

 ―――沈黙。
 時が止まったように空間が凍りつき…

524ブック:2004/06/03(木) 17:07



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 爆。

 三月ウサギとタカラギコが、一瞬の狂いも無く全くの同時に、
 振り向きざまに斬撃を繰り出した。
 三月ウサギの剣とタカラギコの大刃のナイフが打ち合わされ、赤色の火花を散らす。

「!!!」
 既に二人の両手には、それぞれ刃物が握られている。
 一体、彼らはいつ剣を抜いたのだ?
 近距離パワー型の僕ですら、抜刀の瞬間が全く見えなかった…!

「はぁっ!!」
 三月ウサギが右手の剣で、左からの袈裟斬り。
「!!!」
 それを右手のナイフで受けるタカラギコ。

「!!!!!!!!」
 休む間も無く、三月ウサギから次々と斬撃が飛んでくる。
 しかし、その全てをタカラギコは受け切っていた。

 右から、左から、上から、下から、正面から―――
 あらゆる方向からの白刃の閃き。
 それを弾き、流し、受けるもう一つの銀の光。
 もう解説など全く追いつかない。
 どちらかが何か行動を起こした時点で、既に次の攻撃が始まっている。
 そしてそのスピードが尋常の速さではない。

「!!!!!!!!」
 タカラギコの左手のナイフが弾き飛ばされた。
 矢張り、剣術では三月ウサギの方に一日の長があるみたいだ。

「死ィ―――」
 三月ウサギが両腕を交差させるようにタカラギコに斬りかかる。
 あれでは、一本しか得物を持たないタカラギコでは
 必ずどちらかの斬撃を喰らってしまう!

「!!!!!!!!」
 しかしタカラギコは受けなかった。
 身を屈め、ギリギリの所で必殺の刃をかわす。

「貰いましたよ!!」
 そのまま、タカラギコは右手のナイフを三月ウサギの胴目掛けて突き出した。
 だが…

「!?」
 タカラギコのナイフを握る腕が、三月ウサギのマントの中へと吸い込まれた。
 そう、あれこそが三月ウサギの『ストライダー』の恐ろしさ。
 あらゆる物理攻撃の一切合切を、全くの無効とする。

「ふっ!」
 三月ウサギが、無防備となったタカラギコの体に剣を振り下ろす。
 ここで、勝負有りか―――

「!!!!!!」
 しかし、タカラギコが自ら三月ウサギのマントの中に飛び込む事で、
 その一撃を回避した。

「ちィッ!!」
 三月ウサギが、剣をマントの中に突き入れようとする。
 だが、その直前にタカラギコはマントの中から転がり出た。

「ちょこまかと…!」
 三月ウサギがタカラギコに追撃を仕掛けようとする。

「!!!!!」
 しかし、その三月ウサギの試みはタカラギコの投擲した剣によって阻まれた。
 三月ウサギが投げつけられた剣を左手に持つ剣で弾く。

 あれは、三月ウサギの剣。
 さっきマントの中に入った時に、手に入れておいたのか。

 …化け物共め。
 斬り合いを開始してからまだものの数十秒しか経っていないが、
 もし僕があの場にいたら軽く二桁は死んでいる。
 近距離パワー型スタンド並の、いや、もしかしたらそれ以上の戦闘術。
 どれ程の修練を積めば、あそこまでの領域に到達出来るというのだ?

525ブック:2004/06/03(木) 17:07


「いやはや、見事な剣捌きです。
 私も白兵武器によるCQCを少々嗜んではいるのですが、
 どうやらあなたの方が一枚も二枚も上手なようだ。
 加えてその不可思議なスタンド能力。
 どうやらこのまま剣術で張り合うのは、得策ではないようですね。」
 距離を離した所で、苦笑しながらタカラギコが口を開く。

「……」
 三月ウサギが、そんなタカラギコの言葉には耳も貸さずに斬りかかろうとする。
 もう、これは稽古ではない。
 スタンド使い同士による殺し合いだ…!

「!!!!!」
 タカラギコが、左からの剣撃を右手のナイフで受ける。
 しかし三月ウサギは構わず逆の腕での連撃を…

「!!!!!!!」
 しかし、三月ウサギの剣がタカラギコに到達するより早く、
 まるで手品のような神業めいた速さで、タカラギコは懐から銃を取り出した。

「…ですので、私も得手(オハコ)を使わせて頂きます。」
 マントに守られていない三月ウサギの頭部目掛けて、
 躊躇する事なく引き金を引く。

「くっ!!」
 頭を横に傾け、紙一重で銃弾をかわす三月ウサギ。
 それと同時に、剣を横に凪いでタカラギコに反撃する。

「!!!!!」
 銃声。
 それと同時に三月ウサギの剣がタカラギコに喰らいつく前に軌道を変えた。
 有りえない。
 まさか、剣を狙い撃つ事で三月ウサギの攻撃を防いだ!?

「JACKPOT!」
 そこに生まれた僅かな隙を逃さず、
 タカラギコが三月ウサギ向けて拳銃を乱射する。

「『ストライダー』!」
 だがその銃弾は全て、三月ウサギのマントの中へと飲み込まれる。

「……!」
 タカラギコの拳銃がホールドアウトする。
 どうやら、弾切れのようだ。

「はあっ!!」
 勿論それを見逃す程、三月ウサギは甘くない。
 リロードを行ったり、新しい得物を取り出したりする前に、
 勝負を決めるべくタカラギコに踊りかかる。

526ブック:2004/06/03(木) 17:08

「!!!!!」
 と、三月ウサギがいきなり横に跳んだ。
 直後、タカラギコの眼前から眩い光の線が打ち出され、
 さっきまで三月ウサギの居た場所を恐ろしい速さで過ぎ去っていく。

「……!!」
 直撃こそしなかったものの、三月ウサギのマントには一センチ大の穴が開けられていた。
 馬鹿な。
 あの『ストライダー』に対抗出来るような武器が、タカラギコに?

「…どうやら、火や光等の純エネルギー体までは取り込めないみたいですねぇ。」
 拳銃のマガジンを交換しながら、タカラギコが呟くように言った。
 その回りには、幾つかの銀色の飛行物体が飛び交っている。
 あれは、確かタカラギコのスタンド。
 さっきの光の線は、あれによるものか!?

「…だからどうした。
 言っておくが、『ストライダー』を無効化する攻撃がある位では俺には勝てんぞ。」
 三月ウサギが無表情のまま答える。

「でしょうね…
 正直、今の一撃であなたを倒せなくて結構焦っています。」
 タカラギコが本気とも嘘とも取れない声で言った。
 その顔にはあの人の良さそうな笑みが浮かんだままだ。

「さて、それではそろそろ再開するとしますか。」
 タカラギコが右手のナイフをしまい、代わりにもう一つ拳銃を取り出した。
 どうやら、ここからは二丁拳銃で闘うらしい。

「ふん。」
 対する三月ウサギのマントの中からも、
 大量の剣が現れては甲板に突き刺さっていく。

「…行きますよ。」
 タカラギコが両手の拳銃をクルクルと回転させ、
 三月ウサギに照準を合わせて構えた。

「……」
 三月ウサギも剣を手の中で回し、
 右手を剣を順手に、左手の剣を逆手に持って構えを取る。

「……」
「……」
 二人が、無言のまま向かい合った。
 息が詰まるような静寂。
 その中で、二人の男の姿が夕日に美しく彩られるのだった。



     TO BE CONTINUED…

527ブック:2004/06/05(土) 02:10
     EVER BLUE
     第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二


 三月ウサギとタカラギコが、得物を握ったまま向かい合っている。
 ふたりは、まるで彫刻のように微動だにしない。

「……!」
 最初に均衡を破ったのは三月ウサギだった。
 両手に持っていた剣をタカラギコに投げつけ、
 さらに地面に突き刺さっている剣を取っては次々と投擲する。

「勘弁して下さいよ…」
 タカラギコが、それらを全て銃で撃ち落としていく。
 なんという精密射撃。

 しかし銃で剣を打ち落とすという事は、
 それだけ三月ウサギへの攻撃が手薄になるという事でもあった。
 三月ウサギがその合間を縫ってタカラギコとの距離を詰める。

「喰らえ…!」
 充分に接近した所で、三月ウサギが剣を振るった。
「くッ!」
 タカラギコが、その剣を右手の銃で受ける。
「!!!」
 三月ウサギが、もう片方の剣でタカラギコに斬り掛かる。
 タカラギコは、それも別の手の拳銃の銃身で防御した。
 響き渡る金属音。

「!!!!!」
 銃声。
 タカラギコが拳銃を発砲した。
 だが、攻撃の為に発砲したのではない。
 発砲の反動を利用して、受け止めている三月ウサギの剣を弾き返したのだ。

「ちッ!」
 三月ウサギがやや体勢を崩した。
 タカラギコはその隙にバックステップ。
 三月ウサギとの距離を取って、剣の間合いから離脱する。
「逃がすか…!」
 すぐさま三月ウサギはタカラギコとの間合いを詰めた。
 そのままタカラギコの胴体を左から切り払い―――

「!?」
 しかし、三月ウサギの剣はタカラギコの体をすり抜けて、
 次の瞬間タカラギコの体が消失した。
 これはッ!?
 いや、似たようなものを僕は一度見た事がある。
 確か、tanasinn島で『紅血の悪賊』に襲われた時に…

「!!!!!」
 刹那、三月ウサギの背後にタカラギコが出現した。
 三月ウサギに向かって銃の照準を合わせている。
「くっ…!」
 三月ウサギが振り向きながらタカラギコに剣を投げつける。
 だが、またもやタカラギコの体を剣がすり抜ける。
 これも虚像(フェイク)…!

「……!」
 三月ウサギがタカラギコを探して周囲を見回す。
 しかし、タカラギコの姿はどこにも見えない。
 音で探ろうにも周りには物音一つ立たず、
 気配でさぐろうにも嘘みたいに気配が掻き消えている。
 完璧な隠身術。
 本当にタカラギコはここにいるのかという錯覚すら覚えてしまう。

「!!!!!」
 三月ウサギの死角からあの光の線が発射される。
 まずい。
 このままだと、三月ウサギは―――

528ブック:2004/06/05(土) 02:11

「!!!」
 と、直撃の寸前で三月ウサギの体がその場から消え去った。
 いや、消え去ったと言うのは正しくない。
 語弊を恐れず言うが、三月ウサギの体が甲板の床へと『落ちた』のだ。

「!?」
 よく見ると、三月ウサギの消えた場所の床に
 黒い水溜りのような染みが生まれている。
 あの中に、三月ウサギは落ちたのか?
 !!
 まさか、あれが『ストライダー』!?

「!!!!!!!」
 次の瞬間、光線が放たれた場所目掛けて黒い水溜りから大量の剣が飛び出した。
 金属と金属の衝突音と共に、何も無い筈の空間で剣が弾かれる。
 そこから、徐々にタカラギコの姿が浮き出てきた。

「…褒めてやる。
 俺にここまで『ストライダー』を使わせた奴は、そう多くない…」
 黒い染みから、三月ウサギがゆっくりと這い出した。

「あなたこそ流石です。
 私の同僚にも凄腕の剣客の女性が居たのですが、
 あなたならば充分互角に張り合えますよ…」
 タカラギコが笑いながら言う。
 あの三月ウサギと互角に張り合える女!?
 一体それはどんな怪物なんだ。

「ほう。
 そんな女が居るのなら、是非とも会ってみたいものだな。」
 剣を構えながら三月ウサギが口を開く。

「…残念ですが、それは無理な相談ですね。」
 タカラギコが、不意に寂し気な表情を見せた。
 と、瞬く間にタカラギコの姿が再び消えていく。

「同じ手が何度も通用すると思うな…!」
 タカラギコが消えていくのを見て、
 三月ウサギがマントの中から大量の取り出して空に撒いた。
 一体、彼は何を…

「…オオミミ、そこの女、死にたくなければ動くなよ?」
 三月ウサギが僕達に目を向けずに告げる。
 一体、彼は何をするつもりなんだ?

「!!!!!」
 その時、僕はようやく三月ウサギの狙いに気がついた。
 空に撒かれた剣が、重力に導かれて上空より飛来する。
 それはまさしく、剣の雨であった。

「うわああああああああ!!!」
「きゃああああああああ!!!」
 オオミミと天が叫び声を上げる。
 しかし、剣の雨は二人の居る場所だけには降らなかった。
 何という技。
 いや、これはもはや技(スキル)なんてレベルじゃない。
 業(アート)そのものの領域だ…!

「くっ…!」
 舌打ちと共に、何も無い空間で剣の雨が弾かれる。
 タカラギコは、あそこか!

529ブック:2004/06/05(土) 02:11

「……!」
 三月ウサギがその場所に向かって高速で突進する。
「……!」
 タカラギコも最早姿を消しても遅いと考えたのか、
 姿を現して三月ウサギを迎え討つ。

「はあッ!!」
 三月ウサギが剣で斬り掛かる。
「ふっ!!」
 タカラギコが拳銃を抜く。
 お互いの距離が一瞬にして縮まり―――

「!!!!!!!」
 全くの同時に、三月ウサギとタカラギコが必殺の型に入った。
 三月ウサギは右手の剣をタカラギコの首筋に当て、
 タカラギコも拳銃を三月ウサギの眉間へと突きつけている。
 まさか、これ程までに伯仲した勝負だったとは…!

「……」
「……」
 三月ウサギとタカラギコは、得物を突きつけあったまま動かない。
 なのに、次の瞬間にもどちらかが死ぬかもしれないという圧迫感。
 見ているこちらが、先にどうにかなってしまいそうだ。

「……ふ。」
 と、タカラギコが微笑みながら銃を床に落とした。
「…ふん。」
 三月ウサギも、それに毒気を抜かれたのか剣を納める。
 どうやら、組み手はここで終わりのようだ。

「いやぁ、いい汗を掻かせて貰いました。
 またお手合わせ願いたいものですね。」
 タカラギコがにこやかに手を差し出した。
「……」
 しかし、三月ウサギはそれを知らん振りして後ろに振り返り、
 さっさとそこから去って行ってしまう。

「…嫌われちゃってますねぇ。」
 タカラギコが苦笑する。

「そうでもないと思いますよ?
 ああ見えて、三月ウサギは結構優し―――」
「オオミミ!
 適当な事を喋るな!!」
 オオミミの言葉を三月ウサギが遮る。
 あんな遠くからオオミミの声が聞こえるとは。
 長い耳は伊達ではないという事か。

「怒られちゃったね。」
 オオミミが舌を出しながら僕に囁く。
(君は余計な事言い過ぎだよ。)
 僕はそう相槌を打つのだった。

530ブック:2004/06/05(土) 02:12



     ・     ・     ・



「た、大変です歯車王様!
 奇形の奴が、勝手に出て行きました!!」
 軍服に身を包んだ兵士が、慌てた様子で歯車王の下へと駆けつけた。

「何ィ!?」
 信じられないといった風に答える歯車王。

「警備の者を強引に振り切り、
 一体の『カドモン』と数人の乗組員を脅して引き連れ、
 小型快速戦闘船『黒飛魚』を強奪した模様です!
 現在追跡隊を編成しておりますが、
 果たしてあの『黒飛魚』に追いつけるか…」
 軍人が顔を曇らせて告げる。

「貴様、何故おめおめとそのような事を!」
 電子音の入った怒声が、軍人に叩きつけられる。
 軍人が、その声を受けて身を萎縮させた。

「申し訳御座いません!
 ですが、あの奇形もスタンド使い。
 私達ではとても―――」
 軍人がそう弁解しようとする。

「言い訳は聞いておらぬ!
 首を落とされぬうちにさっさと奴を引っ立てて来い!!」
 歯車王が激昂する。
「は、はいっ!!」
 軍人は、逃げるように部屋を飛び出していった。



     ・     ・     ・



「速い!速い速い速い!
 流石は『黒飛魚』、金がかかっているだけはあるねぇ。」
 奇形モララーが、椅子にふんぞり返りながら満足そうに言った。

「き、奇形モララー様、本当にこのような事をなさって大丈夫なのでしょうか…」
 操舵士が不安そうに奇形モララーに尋ねる。

「あア?
 誰がお前に意見を許可した?」
 奇形モララーがその男を睨む。

「も、申し訳ございません!!」
 慌てて操舵士が謝る。
 その顔には冷や汗がびっしりと流れ出ていた。

「…う〜……うう…」
 と、奇形モララーの横に居る拘束具で包まれた人型の『何か』が、
 呻くような声を上げた。

「…はン。
 同族の気配を感じ取ってるようだなァ。
 しっかり仕事してくれよ…」
 奇形モララーが足で『何か』を小突く。
 『何か』がさらにくぐもった声を出して身悶えた。

「さて…
 大人しく待ってろよ、『成功体』ちゃんよォ…」
 奇形モララーが凄絶な笑みを浮かべる。
 その異様な雰囲気が乗組員の恐怖をさらに煽っていた。

「速いぜ速いぜ、速くて死ぬぜぇ…!」
 奇形モララーが舌なめずりをしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

531ブック:2004/06/06(日) 00:37
 次の回からいよいよ血みどろの展開になる予定ですが、
 ちょっとその前に閑話休題。
 息抜きのつもりでどうぞ。
 あと勿論、このストーリーは本編とは一切関係がありません。



     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        出会い編


 やあ皆、僕の名前は『ゼルダ』。
 自他共に認めるオタクゲーマーさ。
 今日は新しい美少女ゲームソフトを買ってきたんだ。
 面白いゲームだといいなぁ…

(さて、と。)
 さっそく封を破り、ソフトを取り出す。
 僕が買ったのはあの有名なゲームメーカであるコ@ミのソフト。
 そう、もう言わなくても分かるよね。
 あの超有名な美少女ゲームソフトといえば…

(『ときめきEVER BLUE』…?)
 僕はパッケージに書かれてあるゲーム名を呼んで首を傾げた。
 ち、違う。
 似ているけど何か違うぞ!?

(ま、まあいいや。
 とにかく始めてみよう。)
 気を取り直し、ゲームをスタートする。
 あのお馴染みの曲が流れ…
 ではなく、黒の背景に何やら美少女キャラが太極拳みたいな踊りをし始めた。
 ちょっと待て。
 これってセンチメンタ(ryじゃねぇかよ!
 別の会社のゲームのパクリじゃねぇかよ!!

 そして画面に表示されるゲームタイトル。
 しかし、やはり何度見ても『ときめきEVER BLUE』。
 もういい。
 肝心なのは中身だ。
 オープニングにはこの際目を瞑ろう。

(まずは主人公の名前の入力か…)
 自分の分身である主人公の名前。
 これは結構重要な選択だ。
 さんざん悩んだ末、『オオミミ』と入力する。
 そして、いよいよゲームスタート。

「ふあああああああ…」
 主人公のオオミミの欠伸の声。
 どうやら、まずは主人公の自宅からストーリーが展開するらしい。
「さあ、今日は高校の入学式だ。
 新しい生活が始まるけど、楽しい毎日だといいなあ。」
 妙に説明臭い台詞。
 まあ、ゲームだから仕方無いか。

532ブック:2004/06/06(日) 00:37

「ちょっと、一人で何ぶつぶつ言ってるのよ。」
 画面が切り替わり、全裸の少女がベッドに横たわる絵が表示される。

 待てよ!!
 何でいきなり彼女がいるんだ!!
 しかももう既成事実作っちゃってんのかよ!!
 つーかこれエロゲーの展開じゃねぇか!!
 なのに何でパッケージに全年齢対象のラベルが貼ってあるんだよ!!

:名前『天』。
 主人公の幼馴染で、わがままな女の子。
 主人公と親密な関係になりたいと思っているものの、素直になれないでいる。

 身長162cm 体重48kg
 B82 W59 H83

 属性・幼馴染 お転婆 同級生:

 何だよこのキャラクター紹介は!
 親密な関係になりたいが素直になれないとかいってるのに、
 しっかりともうやってんじゃねぇかよ!
 しかも『属性』って何なんだよ!

「あ〜眠。
 アタシ今日学校休むわ。」
 入学式早々サボりかい。
 なんてただれた生活してるんだ。

「それじゃ、行ってきまーす。」
 両親に挨拶をしてオオミミが学校に行く。
 というか両親、高校生になったばかりの息子が家に女連れ込んでるのに、
 お咎めの一つも無しか。

「遅刻遅刻〜。」
 パンを口に咥えながら走るという、
 現実世界でこんな事やったらイタい奴確定の姿で登校するオオミミ。

「きゃあああああ!!」
 角を曲がった所で、女の子と激突する。
 ここまでくると、マンネリを通り越して予定調和の世界だ。

「痛たたたた…」
 頭を押さえてしゃがみこむ女の子。
 もちろん、サービスカットのパンチラは忘れない。
 純白の白いパンツ。
 だが、そんな事よりその後ろに担いだどでかい十字架は何だ?

1・「ご、ごめん。大丈夫!?」
2・「悪いけど急いでるんだ。じゃっ。」
3・「あア!?人にぶつかっといて詫びの一つも無しか!?
  しゃぶらすぞこのアマ!」

 突如出現する選択肢。
 これぞ美少女ゲーならではだ。
 しかし、三番目の選択肢は存在する事自体間違っているような…
 まあいいや。
 取り合えず1、と。

「ご、ごめん。大丈夫!?」
 僕が選んだ選択肢の通りにオオミミが発言する。
「え、ええ、何とか。
 こちらこそごめんなさい。」
 照れて顔を赤くする十字架女。

「ああ!もうこんな時間!!
 急がないと!!」
 十字架女はそのまま走り去ってしまった。
 あんな大きな物担いで、よく走れるものだ。

「おっと、こっちも急がないと!」
 躁鬱病患者のように、一々独り言を言ってからオオミミが行動する。

533ブック:2004/06/06(日) 00:38



 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜〜ン

 舞台が学校の正門前に移る。
「良かった、どうやら間に合ったみたいだ…」
 オオミミが画面の中でほっと息を吐いた。

「待ちな!
 そこの新入生!」
 と、そこに声が掛かる。
 現れたのは、長スカートを穿いた絶滅危惧種のヤンキー女。
「この学校で生活しようってのに、アタイに一つ挨拶も無しかい?」
 いきなり無茶な事を言い始めるヤンキー女。
 こいつ、学校でなく精神病院行った方がいいんじゃないか?

:名前『三月ウサ美』
 私立きらめき学園を仕切る女番長。
 スカートの内側に大量の剃刀を隠している事から、
 剃刀三月と呼ばれている。

 身長174cm 体重57kg
 B90 W62 H89

 属性・年上 上級生 不良 グラマー:

 キャラクター紹介が出たという事は、攻略対象キャラという事だろう。
 しかし、こんな変人攻略する奴いるのか?

「こら!お前達何をしている!!」
 そこへ、先生が駆けつけて来た。
「ちッ、先公が来やがった!
 今回だけは見逃してやるよ!」
 そのまま退場する三月ウサ美。

「君もすぐに入学式に行きなさい!」
 そのまま入学式へと画面が移行したのだが、
 特に何も無かったのでこの部分ははしょる。
 そして入学式を済ませたオオミミは、割り振られたクラスへと入っていった。

「よお、そこのお前。」
 いきなり、後ろの席の奴が馴れ馴れしく話しかけてきた。
「俺はニラ茶猫っていうんだ。
 よろしくな。」
 ああ、こいつはあれか。
 女の子の高感度とか、丸秘情報とかを教えてくれる便利キャラか。

「所でお前、この学校に伝わる伝説って知ってるかフォルァ?」
 突如として何の脈絡も無い話題を持ちかけるニラ茶猫。
 どうやらこのゲームのキャラは、精神破綻者の集まりらしい。

「何だい、それ?」
 オオミミが尋ね返す。

「良くぞ聞いてくれました!
 いいか、この学校にはな、『伝説の樹』っていうものがあるんだ。
 何で伝説なのかっていうと、
 卒業式の日に、そこで女が男に告白をしてだな…」
 ああ、そこで生まれたカップルは一生幸せになるとかいうのか。
 ようやくまともな恋愛ゲームっぽくなってきた。

「そこで振られた女が、計五人もその樹で首を吊ってるんだ。
 そして毎晩そこではその少女達の泣き声が…」
 全然ハッピーエンドじゃねぇじゃねぇかよ!
 そんな所で告白受けるのがこのゲームの目的かよ!
 つーかそれ、伝説じゃなくて七不思議の類じゃねぇかよ!
 切り倒せよそんな不吉な樹!!

「そうなんだ。知らなかったよ。」
 礼を言うオオミミ。
 何でそんな大きなニュースになってそうな事知らないんだよ!

「よーしお前ら、俺がこの教室の担任だ。
 早速だが転校生を紹介する。」
 何で入学式の日に転校生が来るんだよ!
 普通に新入生でいいじゃねぇか!

「それじゃ入って来い。」
 先生に促され、一人の女の子が教室に入ってくる。
 その背中には大きい十字架を背負っており…

「ああ〜〜〜!!」
 オオミミと少女が同時に声を上げた。
 登校中にぶつかった女の子だ。
 これまたなんつうベタベタな…

「?どうしたお前ら、知り合いか?」
 お約束の質問をする担任。

「いえ、別に…」
 バツの悪い顔で答える女の子。

「よし、それじゃあ自己紹介してみろ。」
 担任の先生がそう女の子に告げた。

「は、はい。
 名前はタカラギ子と言います。
 皆さん、どうかよろしくお願いします。」
 ペコリと頭を下げるタカラギ子。

:名前『タカラギ子』。
 大きな十字架を背負った転校生。
 不意に見せる寂し気な表情。
 何やら人に言えない秘密があるようだが…

 身長166cm 体重46kg
 B80 W56 H81

 属性・転校生 同級生 家庭的 暗い過去:

「よし、それじゃあお前の席はオオミミの隣だ。」
 担任が僕のオオミミの横の席を指差した。

「それじゃ、よろしくお願いしますね!」
 着席しながら、にっこりと微笑むタカラギ子。

 …こうしてこの糞ゲー、『ときめきEVER BLUE』は
 静かに幕を開けるのだった―――



     TO BE CONTINUED…

534丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:57
「じゃあ、戦闘系スタンドの招集よろしく頼んだデチ…」
 ぱさり、とクリップで留められた書類がデスクの上に放られた。

 診療所で久々にしっぽりまったりと愛を交わし合った後のこと。
徹夜で<インコグニート>の能力を書類にまとめ上げたせいで、二人の顔には深いクマが刻まれていた。

(無理は厳禁デチねぇ。眠いデチ…)
(ぎゃあ激しく同意を)
 『スタンド』の声でそんなしょうもない会話をかわすが、テーブルを挟んで座っているSPM構成員の顔に笑みはない。
ふと原因に思い当たり、笑みを浮かべてぱたぱたと手をふった。

「そんなに心配しなくても大丈夫デチよ。読んだりしないから」
「…左様ですか。承知いたしました」
 全然緊張を解かず、構成員が頭を下げた。

(…全ッ然、承知してないデチねぇ)
(ぎゃあ無理もないことかと)
 確かに、彼等がここまで恐れられること自体はそう珍しいことでもない。
赤の他人に心の奥底までを覗かれるなど、あまりされたくはないだろう。
「ぎゃあふさたん達はもう帰るので、後をよろしくお願いします」
「はい」

 用件は済んだし、これ以上いても大して意味はない。踵を返して、さっさとドアに向かった。

「…デチ?」
 ぐらり、と急にフサの身体が傾ぐ。
そのまま『チーフ』が振り向く間もなく、リノリウムの床に倒れ込んだ。

  ごどっ。

「フサ!?」
 人が倒れるような音ではない。
長い体毛はぴくぴくと痙攣を繰り返し、口の端からは涎が滴る。

  ひゅ、ひゅうーっ、ひっ、ぜぇーっ…!

「ぎ…あ…っ!クス…リィ…!」
「フサッ!…そこの君!水持ってきて!」
 呆気にとられる構成員に『力』を乗せて叫び、大慌てで内ポケットに手を突っ込んだ。
パッキングされた黒い錠剤をもどかしそうに取り出し、自分の口に含んで噛み砕く。

535丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:58

「水ですっ!」
 ひったくるようにコップを受け取り、口に含んで痙攣を繰り返すフサに流し込んでやった。
咳き込みながらも口移しで薬と水を飲み下し、ようやくフサの震えが収まったのは数分が経過した後。


「…大丈夫?」
「はい。…心配、かけましたね」
 真面目な口調で、フサが頷く。
何が起こったのか理解しかねている構成員に、『チーフ』が向き直った。

「そこの君…今起こった事は、誰にも言わないようにして貰えるデチか?」
「な…今のは、何なのですか!?」
 直後、構成員は自分の愚かさを後悔した。
外見だけなら自分の息子と大して変わらない『チーフ』からの殺気が、爆発的に膨れ上がったのだ。
「質問を質問で返すな。学校じゃ疑問形に疑問形で返せって教わったのか?
 これは頼みじゃない。命令だ。もしうっかり口を滑らせたりしてみろ…!
 クソの世話すらできない廃人に変えてやる」

「―――――ッ !! !!」                              ・ ・ ・ ・ ・
 心の底から、恐怖がわき出てきた。コイツは、いざとなれば躊躇なくそれをやる。
スタンド使いではない彼にもわかる。今自分が対峙しているモノは、もはや人間ではない。
 反射的に腰のホルスターに手を伸ばしかけ―――

「…ぎゃぁ…」

 ―――フサの呻きで、二人が我に返った。
「…イヤ、悪かったデチね。ゴメンゴメン。ともかく、誰にも言っちゃダメデチよ?…じゃ、また」
 そう言うと、まだぐったりをしているフサを担いでドアを出て行った。

 SPMの廊下で『チーフ』の背中におぶわれたまま、フサが小さく声を漏らした。
「…貴方まで…私に付き合う必要は無かったのですよ?
 いつ私のようになるやも解らないし…普通に歳を取れないのは、とても辛い事」
「馬鹿。死ぬときも生きるときも一緒だよ」
「………‥‥ぎゃあ」

536丸耳達のビート:2004/06/06(日) 10:59





 ほぼ同時刻、S市繁華街。
オヤジ狩りやクスリの密売に人気がありそうな路地裏で、一人のッパ族が絡まれていた。
ツバ カシジロウ
津葉 樫二郎…表の顔はケチな飲んだくれ、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。仲間内ではッパと呼ばれている。

「おうコラァそこのふぐり野郎ァ」
「テメェ棚真会の金スろうたぁ…いい度胸やのぉ」

 ラメ入りスーツにオールバック。
 パンチパーマにサングラス。

(…つーても、スリが見つかったのはあっしのドジだから文句は言えないさねぇ)

「この落とし前、つけて貰わんとあかんなぁ」
 関西弁のパンチパーマが距離を詰める。
小柄なッパに比べれば、頭一つ分の差があった。

「ウダラ何ニヤついてンだッメェ!」
 がしりと財布を持っていた巻き舌のオールバックが、手首を掴む。
スられた右手の財布を奪い取ろうとして―――動きを止めた。

「あ…兄貴…コイツ…」
 財布に回されている指には、親指がある。人さし指がある。中指がある。薬指が小指がある。
そして、更にもう一本指があった。 ・ ・ ・ ・ ・
 小指の外側、更にもう一本細い六本目の指が付いていた。
「…片輪モンか。ちょうどエエな。…その手、押さえとけや」
 ばちん、と折りたたみ式のナイフを開く。

「極道も結構ユルくなったんやけどな。流石に金ギられて黙っとる程甘くないんや」

 壁に押さえつけられた六本指の手に、ゆっくりとナイフを近づける。
「ま、六本もあるんしの。コレに懲りて、カタギにでもなったらエエわ」
     ヤク
「どうせ麻薬で儲けた金でしょうが。それならあっしが貰っても問題はないでしょ」
「ンだとァテメェァ!」
 いきり立つオールバックを片手で制し、パンチパーマが静かに言った。
「ま、そうやろな。気持ちは判るわ。薄汚い金や。…けど、ワシらの金じゃ。棚真会のな。
 盗ろうとしたら、それなりのケジメってモンつけへんとなぁ」

 六本目の指にナイフが当てられる。刃が押され、皮膚が破れる寸前―――

「げぼっ!?」

 ―――突然、パンチパーマが吹き飛んだ。

537丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:00

 解放された右腕で、ポケットのチョコを取り出す。
口に放り込んで、倒れ込むパンチパーマを見下ろした。
「…薄汚い金、ね。そこまで判ってんのに、なんでそれを続けちまうのかねぇ。
 将来有望な少年少女にクスリ売って、それでも止めない…クズな人だ。
 …ま、スリのあっしも人の事ぁ言えないけど、ね」
「て…ッてめ…」
 ひくひくと二,三回パンチパーマが痙攣し、ぐたりと意識を失った。
顔面は蒼白、白目を剥いている。
「ンッ…の野郎ォ!」

 オールバックがッパの片手を押さえたまま、六連発のリボルバーを抜いた。
慣れた手つきでハンマーを上げ、ッパの側頭部に押しつけ、トリガーを引く。
弾丸の尻にある雷管が叩かれ、パン、と小気味良い音が鳴り―――ッパはその場に平然と立っていた。

 一瞬の自失。勘違いかと思い、もう一度引き金を引いた。
パン、と小気味よい音。ッパは平然と立っている。
 僅かに顔をしかめているが、これはただ単にうるさいだけ。血の一滴も流れてはいない。

  ―――いやまて、変だろ。

 通常、銃声という物はもっと大きい筈だ。
サイレンサーも付けてないのに『パン』なんて爆竹と変わらないようなショボい音がするはずはない。

「探し物は…コレですかい?」
 と、ッパが手を開く。
ころん、と弾丸が。ぱらぱら、と火薬が。
ッパの右手から零れてきた。

 驚愕に目を見開く暇もなく、巻き舌オールバックの意識はそこで途切れた。



「…ふぅーい」
 表通りに出て、溜息を一つ。

  カマカマカマ ハ・カ・マ〜♪

 ―――と、持っていた携帯から着歌が流れ出した。

「はいー、津葉ですー」
『ッパさん?私です』
「ああ、どーも」
 私です、で誰だか察したのか、当然のように挨拶を返す。
『ッパさん日本に住んでるんですよね。ちょっと依頼あるんですけど、いいですか?』
「『ディス』御大の命令でしょ?何でも言って下せぇ」
 少女の声に喜びが含まれる。
『ありがとうございます。……一人、捕まえて欲しい人がいるんです』

 親指が、人さし指が、中指が薬指が小指が、六本目の鬼指が、さわり、と蠢いた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

538丸耳達のビート:2004/06/06(日) 11:01
          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (*★∀T)  更ニ簡略化ッ!
          と(⌒Y⌒)つ  コレデ次回から小ネタ活躍ガ…ッ!
             \ /
              V

           上半身のみのナヨいピエロ…
       実際のサイズはこのくらいなんだけどなぁ。
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (´∀`;) 旦 (ー` )<何か貧相じゃの。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~


          ___
         /    \ 貧相ッ!?
        |/\__\
       ○ と(|i★дT)Σ
          と(⌒Y⌒)
             \ /
              V

         ああ、言っちゃいけないことを…
       っていうか何でおじいちゃん見えてるの?
                ∨
               ∩_∩    ∩ ∩ 
              (;´∀`) 旦 (ー` )<小ネタ時だけの心眼じゃ。
              / ============= ヽ
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~

539ブック:2004/06/07(月) 00:25
     番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
        告白編


 入学式も終わり、家に帰って来る主人公のオオミミ。
 そこに、選択肢が現れてくる。

『これから何をしようか?』
 1・体力を上げる
 2・知力を上げる。
 3・容姿を上げる。

 おお?
 何かここら辺はまともっぽいじゃないか。
 そうだな…
 体力も知力も大切だけど、やっぱり女の子にモテる為には容姿だよね。
 3を選択、と。

『どうやって容姿を上昇させようか?』
 1・プチ整形で瞼を二重に。
 2・どうせならプチといわずに顔全部を…
 3・いっその事、マイケ@・ジャク@ンみたいに黒人から白人に!

 何で選択肢が整形ばっかりなんだよ!!
 いや、そりゃあそれ位しないと目だった効果は無いだろうけど、
 幾ら何でも生々し過ぎだろ!!
 もういい、だったら1の『体力を上げる』だ!

『どうやって体力を上昇させようか?』
 1・アンドリオル
 2・アナボル
 3・HCG

 全部ステロイドじゃねぇか!!
 お前ジャックハンマーにでもなる気か!?

(……)
 嫌な予感がするが、ならば2の知力はどうだ?

『どうやって知力を上昇させようか?』
 1・カンニングペーパー作成。
 2・替え玉にテストを受けさせる。
 3・教師の弱みを握って脅迫。

 知恵は知恵でも悪知恵なんかい!!
 つーか、普通に努力するような選択肢無いのか!?

 もうパラメーターを上昇させるのは諦めて、寝る事にする。
 ベッドにはまだ天が居たが、邪魔なので窓から放り捨てておいた。
 全く、先が思いやられるぜ…

540ブック:2004/06/07(月) 00:26

「ラギ!」
 と、いきなりベッドの中から変な女が飛び出してきた。
 何だよこいつ。
 というか、主人公は一体何人の女をベッドで飼っているのだ?

「お兄ちゃん酷いラギ〜!」
 お兄ちゃんなどと抜かす奇怪な生物。
 どう考えてもおかしいだろ?
 朝起きたとき、妹のいの字も出て来なかったじゃないか。

:名前『トラギ子』
 主人公の一つ下の妹。
 お金が大好きで寂しいと死んでしまう。

 身長156cm 体重41kg
 B78 W55 H77

 属性・妹 年下 守銭奴 寂しがりや:

 何なんだよこのキャラ紹介は…

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 さ、お兄ちゃん。
 今こそここで恥ずかし合体を…」
 いきなり服を脱ぎ始めるトラギ子。
 だから、何で全年齢対象ソフトでベッドシーンがあるんだ。

『どうしようか・・・』
 1・釘バットで殴り殺す。
 2・日本刀で刺し殺す。
 3・サブマシンガンで撃ち殺す。

 どうやら、どうあってもトラギ子を殺すしかないらしい。
 一々殺した時の感触が手に残るのもいやなので、3番を選択する事にする。

「おじさん、いかっちゃうぞ?」
 訳の分からない台詞と共に、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーン!!!」
 蜂の巣になりながら、トラギ子が断末魔の悲鳴を上げた。

「さあ、明日に備えてゆっくりと休もう!」
 肉親を惨殺したばかりだというのに、さわやかな顔で眠りにつく主人公。
 どうだっていい。
 この程度の理不尽さなど、もう慣れた。

541ブック:2004/06/07(月) 00:26



 目覚ましの音と共に、シーンが次の日へと移る。
「さあ、今日も元気に学校へ行こう!」
 足元に転がるトラギ子の死体を無視して、オオミミが気合を入れる。
 そして、そのまま舞台は学校へと移行した。

「では、今回の授業はこれまで。」
 一時間目の授業が終わり、休み時間が始まる。

「あ、あの、オオミミ君…」
 そこに、一人の女の子が話しかけてきた。
 見ると、その頭には猫耳がついている。

:名前『みぃ』
 オオミミの同級生。
 最早説明の必要の無い猫娘。
 猫耳はいいものです。
 とてもとてもいいものなのです。
 はにゃーん。

 身長143cm 体重32kg
 B71 W49 H70

 属性・同級生 人外 猫耳 ちっこい つるぺた 従順 内気:

 キャラクター紹介が出たという事は、この子も攻略対象キャラか。
 しかし、この作者はよっぽど猫耳が好きなんだな。
 色々言いたい事はあるけど、取り敢えず死ねばいいと思うよ?

「どうしたの?」
 オオミミが聞き返す。
「あ、あの、相談に乗って欲しいんだけど、いいですか…?」
 おずおずとみぃが尋ねてくる。

『どうしよう?』
 1・いいよ、話してみて。
 2・後でゆっくり聞くから、今はパス。
 3・俺はお前の相談役じゃねぇんだ。
   チラシの裏にでも書いてろ、な?

 そうだな…
 ここで優しさをアピールしておけば、他の女の子の好感度も上がるかもしれない。
 ここは1、と。

「いいよ、話してみて?」
 主人公であるオオミミが、選択肢の通りに聞く。

「あ、あの…
 恋人の子供が出来たみたいなんだけど、どうすればいいのか、って…」
 何でそんなハードな相談、ただの同級生に持ちかけてんだよ!
 俺は金八先生かっつーの!!
 つーか、それってもうこいつには彼氏が居るって事じゃねぇか!!
 全然攻略対象キャラじゃないだろうが!!

『どう答えようか?』
 1・ちゃんと彼氏と相談するべきだよ。
 2・ああ、あいつなら産んでもいい、って言ってたよ?
 3・堕 ろ せ。

 これ以上面倒事に巻き込まれてたまるか。
 1を選択してとっとと女を追い払う。

542ブック:2004/06/07(月) 00:27


「よお、オオミミ。」
 と、今度は別の奴が話しかけてきた。
 どうやらニラ茶猫のようだ。

「いやー、さっき彼女から妊娠しちゃった、って言われてびっくらこいたぜ。」
 あれはお前の子かよ!
 避妊位しろこの猿が!
 というかびっくりしただけかい!
 もっと二人で話し合う事あるだろうが!!

「お前がジャンヌを傷つけた、って噂が流れてるぜ?」
 もうさっきの話題終了かよ!?
 つーかジャンヌって誰だよ!!
 何で会ってもいないような奴を、傷つけられるんだよ!!

「そうなんだ、ありがとう。」
 平然と答える主人公。
 いや、少しは疑問に思え。

 もういい。
 これ以上会話するだけ時間の無駄だ。
 さっさと自分の席に戻る。

「……?」
 と、オオミミが机の中に何かを見つけた。
 これは、手紙?
 何が書かれて…

『伝説の樹の下で待っています。』
 何でもう告白の手紙貰ってんだよ!!
 ゲーム開始から一日しか経ってないだろうが!!
 普通こういうのはデートとか積み重ねてから貰うもんだろ!?

「よし、宇宙へ行こう。伝説の樹の下に行こう!」
 どう考えてもいたずらとしか思えない手紙を鵜呑みにして、
 伝説の樹の下へと急ぐオオミミ。

 あはははは。
 こんな時にギャグを言うなよ、あははは。

「……!」
 樹へと駆けつけると、そこには一つの人影があった。
 あれが、手紙の差出人か。
 一体、誰が…

「私、あなたの事が…」
 突然の告白。
 その相手は―――

「ずっと好きだったぞ、フォルァ!!」
 ってお前か、ニラ茶猫!!!!!

「さあ、誓いのキスを…」
 唇を近づけてくるニラ茶猫。
 やめろ。
 来るな。
 やめろ。
 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

543ブック:2004/06/07(月) 00:27





(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!)
 僕は叫びながら目を覚ました。

「!?
 どうしたの、『ゼルダ』!?」
 オオミミが布団から跳ね起き、慌てて尋ねる。
 周りにみえるのは、お馴染みの『フリーバード』の船室。
 …今のは、夢だったのか?

(いや、何でもない。
 嫌な夢を見ちゃってね…)
 苦笑しながらオオミミに答える。
 そうだよ、あんな事が現実にある訳…

「それってもしかしてこんな夢か、フォルァ。」
 突然の声。
 見ると、ベッドの中には全裸のニラ茶猫が横たわっていた。

(うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!)
 僕は、あらん限りの声で絶叫するのだった。



     NIGHTMARE NEVER END…





       __,,,,..-_─_一_-、、,,,,__
    ,r'´-_-_‐‐_‐-_-、`-、 ヾ`ヽ、   
   /,r',.-_‐_‐‐-_-、ヾ ヽ `ヾ 、ヽ
  /(.'´_-_‐_‐___-、ヾ ヽヾ)) )) ), )))ヘ
 l(i,i'´⌒ヾト、ヾ ヾヾ))_,ィ,'」 川 jノjノ}
 !iゝ⌒))}!ヾヽ),'イ」〃'″  フ;;;;;;;;;;;;;l  
 ヾ、ニ,,.ノノ〃ィ"::::::::::::::   /;;;;;;;;;;;;;;!  
/⌒ヽ  / ''''''     '''''' |;;;;;;;;;;;;;;;|  
|  /   | (●),   、(●)\;;;;;;;;|  好き勝手やり過ぎました。
| |   |    ,,ノ(、_, )ヽ、,,     | ごめんなさい。
| |   |    `-=ニ=- '      |  次回からは、ちゃんと本編に戻ります。
| |   !     `ニニ´      .! 
| /    \ _______ /  
| |    ////W\ヽヽヽヽ\
| |   ////WWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  ////WWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E⊂////WWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
E////WWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ
| |  //WWWWWWWヽヽヽヽヽヽヽ

544ブック:2004/06/08(火) 00:01
     EVER BLUE
     第二十七話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その一


「首尾はどうなっていますか?」
 山崎渉が、近くの兵士に声をかけた。
「はっ、現在索敵活動を行いつつ、戦力を集めております。
 しかし、まだまだ充分には…」
 兵士が言葉を濁した。

「…まあ、急に一ヶ所に兵を集めろと言っても、無理でしょうね。
 仕方がありません。
 出来るだけ、急ぎなさい。
 連中が馬鹿でなければ、私達の準備が整う前に安全圏に入ろうとするでしょうからね。」
「はっ!」
 その山崎渉の言葉を受け、兵士がいそいそと立ち去ろうとする。

「ああ、君、ちょっと待ちなさい。」
 と、山崎渉が兵士を呼び止めた。
「これからも、僕を応援して下さいね?」
 山崎渉がにっこりと微笑んだ。



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミの奴が呑気な声で言った。

「…あんたの所の船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 アタシはオオミミにそう尋ねる。
 荒事には疎いアタシでも、さっきのが尋常の域の闘いで無い事位は分かっていた。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら話す。
 こいつ、いっつも笑っているな…


     ドクン


「―――――!!!」
 突如、私の体の内側で大きな鼓動が起こった。
 これは…!?
 いや、知っている。。
 知っている。
 アタシはこれを知っている…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが心配そうに声を掛ける。

「何でもないわ…」
 必死で強がりながら、何とかそう答える。
 違う。
 何でも無いなんて事は無い。

 来る。
 来ている。
 間違い無くこっちに向かっている。
 来る。
 来る。
 『奴』が来る…!

 だけど、言えない。
 言える訳が無い。
 この船の人達に、こいつに、
 アタシの秘密を知られる訳にはいかない。

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 オオミミが不思議そうな顔をした。

 …二人?
 そういえば、さっきもアタシと『ゼルダ』に大丈夫かと聞いていた。

 まさか、『ゼルダ』もこの事に気がついている?
 …いや、そんな事ある筈無い。

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 アタシはそう告げて、その場から離れるのであった。

545ブック:2004/06/08(火) 00:01



     ・     ・     ・



「凄い闘いだったねー。」
 三月ウサギとタカラギコが去って行った後、
 オオミミが呑気な声で言った。

「…あんたの船って、あんな怪物ばっかが乗ってる訳?」
 天が呆れた風にオオミミに尋ねる。
 失敬な。
 僕達の船は猛獣小屋か何かか。

「まさか。
 三月ウサギが特別なだけだよ。
 でも、その三月ウサギとあそこまで闘えるなんて、
 タカラギコさんも物凄いよ。」
 オオミミが笑いながら答える。
 全く君は。
 少しは同じ男として悔しいとか思わないのか…


     ドクン


(―――――!!!)
 突如、僕の内側で大きな鼓動が起こった。
 何だ。
 今のは何だ。
 一体僕に、何が起こった…

(あ     ア  A   あ
           あ A   アあaあ!!!!!)
 僕の意識に何かがなだれ込んでくる。
 いや、違う。
 これは、呼び起こされている…!?

 見た事も無い風景。
 聞いた事も無い声。
 なのに、どこか懐かしい―――

 何だ。
 これは何だ!?
 僕は、僕は一体何者だっていうんだ…!

「…?
 どうしたの、天、『ゼルダ』?」
 オオミミが、心配そうに声を掛ける。

(…大丈夫だよ、オオミミ。)
 本当は大丈夫じゃないが、無理矢理平気そうな声で答えた。
 駄目だ。
 この大変な時に、オオミミに心配をかける訳にはいかない…!

 だけど。
 この感覚は何だ。
 来る。
 来る。
 何かが来る…!
 いや、待て。
 この感じ、以前、どこかで…?

「?どうしたんだよ。
 二人共、何か変だよ?」
 …二人?
 そういえば、さっきも天と僕に大丈夫かと聞いていた。

 天も僕と同じ事を感じた?
 だとしたら、一体どうしてだ!?

「アタシ、気分が悪いから部屋に戻っとくわ…」
 僕がオオミミに天に質問するように言おうとした所で、
 天はそう告げてその場を離れていってしまった。


(オオミミ…)
 僕は、オオミミに囁いた。
「どうしたの、『ゼルダ』?」
 いつもと変わらぬ微笑で聞き返してくるオオミミ。

(僕達、友達だよね。)
 …僕は何を言っているのだ。
 こんな事聞いても、オオミミを困らせるだけじゃないか。
 でも、それでも僕は―――

「うん、そうだよ。」
 はっきりとオオミミがそう答えた。

 …ああ、僕は。
 だから、僕は君が。
 例え僕が何者であっても、君だけは…

(オオミミ…)
 僕は呟くように言った。
「ん?」
 オオミミが耳を傾ける。
(…ありがとう。)
 僕はそれ以上、何も言う事が出来なかった。

546ブック:2004/06/08(火) 00:02



     ・     ・     ・


〜三月ウサギとタカラギコが組み手をした次の日の夜〜

 ブリッジの椅子に座っている高島美和が、『シムシティ』のディスプレイを
 食い入るように見つめていた。
「……!」
 と、何かを見つけて高島美和の顔が強張る。

「船長。」
 高島美和がサカーナの方に顔を向けた。
「…来たか。」
 みなまで聞かずに、サカーナが告げる。
「はい。」
 頷く高島美和。

「で、敵さんの数は?」
 サカーナが彼らしからぬ真面目な表情で尋ねる。
「戦艦級が三隻。
 赤い鮫のロゴマークから、『紅血の悪賊』と見て間違い無いでしょう。」
 冷静な声で高島美和が答えた。

「やれやれ。
 『ヌールポイント公国』の寸前まで来て、奴らの出迎えかよ…」
 サカーナが肩を竦める。

「この船が『ヌールポイント公国』に入り、
 憲兵が騒ぎに気がついて駆けつけて来るまで、
 どれだけ短く見積もっても三時間との計算が出ました。
 率直な感想を述べますと、生存確率は1パーセントもありませんね。」
 高島美和が顔色一つ変えずに告げた。

「それって死ぬも同然って事じゃないですか〜〜!」
 カウガールが悲鳴にも似た声を上げる。
 口には出さないが、他の乗組員も同様の気持ちだろう。

「…0パーセントとは言わねぇんだな。
 その僅かな勝算は何だ?」
 サカーナが高島美和の顔を覗き込んだ。

「詳しい目的は分かりませんが、
 『紅血の悪賊』は私達の船にある何かを喉から手が出る程欲しがっており、
 一撃で私達の船を沈めるような攻撃はしてこない事。
 そしてそれを前提にした上での、
 あなたのスタンド『モータルコンバット』の力です。」
 高島美和がサカーナの顔を見返す。

「嬉しい事言ってくれるねぇ…」
 サカーナが顔を緩ませた。
「勘違いしないで下さい。
 私が頼りにしているのは、あくまであなたのスタンド能力だけです。
 そもそも、誰の所為でこうなったのかをじっくりと考えてみる事ですね。」
 高島美和がつっけんどんに言い放った。
「そっすか…」
 肩を落とすサカーナ。

「高島美和さん、素直じゃないです〜。」
 茶化すようにカウガールが言った。
「お黙りなさい!」
 即座に高島美和がカウガールを叱咤した。
 カウガールがてへへと頭を掻く。

「…まあ仕方がねぇか。
 久々に『モータルコンバット』を使わにゃなるめぇ。
 お前らに、俺の下についてきたのが間違いじゃなかったって事を
 きっちりと証明してやるぜ…!」
 サカーナが、ペキペキと手を指を鳴らしながら呟いた。



     TO BE CONTINUED…

547ブック:2004/06/08(火) 00:03


 番外
 ちびしぃの宿題の作文 〜私の家族について〜


  わたしは、みんなといっしょに大きな家にすんでいます。
 そこのみんなが、わたしのかぞくです。
 わたしは、いえのみんなが大好きです。
 大きなお母さんも、小さなお母さんも、
 かみのけのすくないお父さんも、
 ちびモナくんも、ちびモラくんも、ちびつーちゃんも、ちびふさちゃんも、
 みんなみんな大好きなかぞくです。
  そして、このまえいえに新しいかぞくができました。
 なまえは、トラギコおにいちゃんです。
 トラギコおにいちゃんは、とってもおもしろくて、強くって、
 それよりもっともっとやさしいおにいちゃんです。
 わたしは、トラギコおにいちゃんのことも大好きです。
 トラギコおにいちゃんは、おしごとがいそがしくってあんまり家にはかえってきませんが、
 家にかえってきたらいっぱいおみやげをくれて、いっぱいあそんでくれます。
  でも、おしごとからかえってきたトラギコおにいちゃんは、
 いつもなきそうな目をしています。
 みんなのまえではわらっているのに、とってもかなしそうです。
 トラギコおにいちゃんは、ほんとうは今のおしごとがきらいなんだと思います。
 このまえおにいちゃんにそのことを言ったら、
 『こどもはそんなこと気にしなくていいんだ』とおこられました。
  だけど、トラギコおにいちゃんがかなしいと、わたしもかなしいです。
 だから、わたしが大きくなったらいっぱいおかねをかせいで、
 トラギコおにいちゃんがはたらかなくてもいいようにしたいです。
 それで、みんなといっしょにいつまでもいれたらいいなと思います。

548アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:16
合言葉はWe'll kill them!第九話―初めての吸血鬼戦その②

しばらく、アヒャと吸血鬼どもの間で睨み合いが続く。
お互い、相手の手の内がわからないから迂闊に手出しができない
(どうするべ・・・・ 早く倒す方法を考えて、んで被害を出さないようにしなくっちゃな。
 まず、波紋が使えねーオレとしては、太陽の光でこいつらを一掃したい。
 だけどよォ…今は夜の7時。神様でもない限り太陽を出すなんて不可能だ。
 さて、どうしたモンだ…。)

そして吸血鬼も作戦を練っていた。
(あのガキ・・・・想像以上に手ごわいぞ・・・。あっと言う間に2体もの屍生人を攻撃した。
 だから、まずヤツを倒すための作戦を考えなければナ。
 きっちりとした作戦をたてていけば、どんな戦いも勝利することが出来る。
 どんな手段を使っても、勝てばよかろうなのだッ!
 とりあえず、この状況での最善の方法は・・・・・
 ヤツの注意を屍生人どもでひきつけた後、ヤツの死角からオレが奇襲をかける!
 そして一撃で葬り去る!)

「行けィ!者ども!」
リーダー格の吸血鬼の叫びによって、「睨み合い」という均衡した状態は破れた。

「URRRYYYYYY!!」
コンビネーションもへったくれもない。三体の無傷の屍生人達は本能の赴くままに、血をすすろうと大口を開けて飛び掛ってくる。
「犬の卒倒・・・・ワンパターンだな。ただ突っ込んでくるだけじゃさっきの二体の二の舞だぜ!」
アヒャはスタンドのラッシュを叩き込んでやろうと身構えた。
しかしアヒャは最も重要な事を忘れていた。
そう、奴らが普通の人間じゃないという事を。

ドヒャアアアアッ!

「なっ・・・・何だァ!?」
屍生人の体から無数の血管針が飛び出してきた!
次々に襲い掛かる血管針は、まるで網を張るかのようにアヒャをを追い詰めていく。
しかしアヒャも負けてはいない。
血を集めて壁を作り出す!
そして襲い掛かってきた血管針はその壁に突き刺さってしまった。

「ボディが甘いぜ!」
アヒャは壁から飛び出すと屍生人にラッシュを叩き込んだ!
「ウシャアアアアアーッ!!」
バゴバゴバゴバゴォォォォッ!!
屍生人二体は頭部を大破してあっけなく動かなくなった。

しかし次の瞬間。
ガシィッ!
足首に何かが取り付いた。
(な、何ィ!?何だこの腕は!?・・・・殺されていた女!?)
「AHYAHAHAHAHAHAHAHA! ブァ〜〜〜〜カめがッ!吸血鬼に噛まれた人間は屍生人になる事を知らなかったか!」
しかも最悪のタイミングで頭上から始末し損ねた右腕が崩れた屍生人が飛び掛ってくる!
(しまった!身動きがとれねえ!)

次の瞬間、アヒャは頭を砕かれ、その生涯を閉じた。

アヒャ(死亡)

……マジですか?
当然ウソです。

549アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:17

「!なんだぁコイツは・・・!?」
アヒャは生きていた。
しかし顔面はひしゃげ、グズグズに崩れていた。鼻が陥没し目玉が反転し、顎は千切れかけている。

「ギャハハハッ!騙されてやんのバ〜〜〜〜〜〜〜〜カッ!」
アヒャの体が一瞬でゼリーのように飛び散り、女と右手無しを捕らえた。
そう、壁を作ったときにアヒャはブラッドを自分に化けさせていたのだ。

「MUH!?」
屍生人たちは動かない。いや、全身を包み込まれ動けないのだ。
「……ガ、ガガァ〜……」
今や屍生人は地面に転がった血の色の粘土像だ。完全に全身を包み込まれてしまっている。
と、そこへ一撃!

「注意一秒、ケガ一生ってな!」

ドグシャァ!!

いきなりフリスビーの様にマンホールの蓋が飛んできた。
そして二体の頭にクリーンヒット!
「やりィ〜ビンゴ!」
両手にマンホールの蓋を持っているアヒャがガッツポーズを取った。
・・・・しかし奴がマンホールを軽々と投げれるほどの馬鹿力を持っていたとは。

(これで残りは吸血鬼のオッサンと屍生人一匹か………ン!?オッサンも屍生人も見あたらねぇ!?)
慌てて辺りを見回すが、それらしき姿は無い。
(チクショーッ、何処へ消えたんだ?)
その時背後からヒュッという音がする。
「後ろか!」
とっさに横に転がった。だが・・・・

 ガボォッ!!
突然の衝撃。左足の肉が……噛み千切られている!
 ブシュウウ……!

「うぐえええええええ! うおおおおおなんだああああああ……!?」
アヒャはおびただしい出血の激痛に絶叫した。
「ヘッヘッへ!もう自由に動き回れねーなぁ!」
吸血鬼は愉快そうに笑みを浮かべている。
「チクショオオオオ俺の足があああああ」
足は切り取られずに済んだが、肉と皮でどうにかぶら下がっている状態だった。
そこへ追撃!
死角から屍生人が一匹襲ってきた。
マンホールが脳を完全に破壊していなかったのだ。
アヒャは脇腹をえぐられた。

「うぐッ」
「俺たち吸血鬼ならともかく、お前ら人間は一度千切れた足は元通りにならねーよな!
 不便だねぇ〜。」
「クッ・・・・下半身が千切れた屍生人は何処へ?」
「ああ、アイツなら『仲間』を増やしに行ったぜ。ま、その必要も無いけどな。」
「チィ!絶体絶命だぜ!どうすりゃいいんだよォ・・・」
アヒャは傷口の血液を操作して神経、骨、筋肉を無理やり繋ぎ止める。
しかしすぐに動けるわけではない。
腹部のダメージも結構ひどい。
だけど吸血鬼は待ってくれない。躊躇無く襲ってくる。
何とか壁を作り防御するが、ダメージが大きい分スタンドパワーがいつ切れるか分からない。

550アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:18
(このまんまじゃジリ貧だぜ…この状態であいつの相手ができるのかァ!?
 3択。ひとつだけ選びなさい、ってやつだな。
 答え①、逃げるんだよぉぉぉ〜〜〜
 答え②、仲間が来て助けてくれる。
 答え③、このままアイツのディナーに。現実は非情である…。
 さてと・・・・・
 答え①は・・・・・この足じゃ無理か。
 答え②・・・・さっき蜥蜴の旦那にあったけど、そんなちゃららっちゃら〜って都合よく来るわけないよなぁ〜
 となると答え③・・・・
 こっちの方がスタンド使える分有利に見えるけどスピードはあっちが上だ。おまけに仲間を連れてくるって言っていたな〜。
 俺の人生ここで終劇か!?)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
            __,,,,_
             /´      ̄`ヽ,             /
             / 〃  _,ァ---‐一ヘヽ          ☆ +
          i  /´       リ}
           |   〉.   -‐   '''ー {!
           |   |   ‐ー  くー |
            ヤヽリ ´゚  ,r "_,,>、 ゚'}
          ヽ_」     ト‐=‐ァ' !< 貴方はもう死んでいます。
           ゝ i、   ` `二´' 丿
               r|、` '' ー--‐f´        η
          _/ | \    /|\_      (^^〉
        / ̄/  | /`又´\|  |  ̄\  / ̄/

   アヒャの内的宇宙におわす皇太子様が、死兆星を指差されました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(嫌〜!!こんな悲惨な人生の終わりなんて〜!!)
ってそんなこと考えているうちにッ!
 
シュゴオオッ! ドガドガッ!!
血の壁の一部が「空裂眼刺驚」によって穴を開けられた。
そしてアヒャの太腿を貫く。
・・・・・・アヒャちゃん踏んだり蹴ったり。
「うわあッ!」
あまりの激痛のせいで集中力がとぎれ、血の壁が崩れてしまった。

「おっし、壁が崩れた!行けぇぃ!」
吸血鬼の叫びと同時に屍生人が飛び掛ってくる。
もう絶体絶命!

551アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:19

(ああ・・・・・死ぬ前にいいとも増刊号見たかったな・・・・。)
アヒャは死を覚悟して目をつぶった。
と、そこへ!

グサッ!
「ANGYAAAAH!!」
(・・・・・・ん?)

恐る恐る目を開けると屍生人の頭に一本の石でできた槍が突き刺さっている。
「な、何ぃ!?」
「やれやれ、間一髪と言った所か。」
矢の飛んできた方向には一人の男。
それは・・・・

「死んだはずのッ!」
そう、『矢の男』こと蜥蜴だった。
「旦那!」
「YES I AM!・・・って何を言わせるんだ。」

しかも蜥蜴だけではない。
さっき仲間を増やしにいった屍生人が首だけになって捕らえられていた。
「アア〜ッ!助ケテクレェェェッ!見ノガシテクレヨオォォォォッ!」
「うるせえッ!ギャーギャーやかましいんだよッ!」
蜥蜴が生首に一喝する。

(嘘だろ・・・・助けがきた!けどこれは夢かもしれねぇ・・・・ちょっとホッペを
 ・・・イテッ!・・・・間違いねえ 夢じゃねぇ〜〜〜〜ポヘ――ッ)

「ぎゃあああああああああああ―――!!!」
「わはははははははははははははははははははははははは」

 ドーン  ドーン  ドーン
  "JOJO" "HAPPY"

「やったァ――ッ メルヘンだッ!ファンタジーだッ!奇跡体験アンビリーバボーだ!
 こんな体験できるやつは他にいねーっ!」
アヒャは暫く痛みを忘れてうかれていたが、ふと疑問に思った。

「って言うか旦那、どうしてこの場所が?」
「さっきコイツに襲われたのさ。ま返討にしてやったけどね。
 その時上半身だけだったのが不思議に思っていろいろ問いただしてみたんだ。
 そしたら君がこの場所で戦っていることを教えてくれたのさ。」
その時アヒャは見た。蜥蜴の背後にたたずむスタンドビジョンを。

「シ、シ、シ、死ニタクナイヨオッ!」
生首がが必死の命乞いをする。
「馬鹿め、お前はすでに死んでいるんだ。」
ドゴォッ!
生首は蜥蜴のスタンドに殴られ、そして「消えた」
波紋で溶けたのとは違う。一瞬で消えたのだ。
「な!?旦那、今何をしたんですか?」
「俺の能力のほんの一部だ。気にするな。」

そしてあっけにとられている吸血鬼の方を向いた。
子供のころに吸血鬼に兄弟を殺された恨みからだろうか、蜥蜴のいる空間だけは、空気が張り詰めている。
「貴様のような吸血鬼はは……俺が断罪するッ!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

552アヒャ作者:2004/06/08(火) 22:26
久しぶりに書いたら下げ忘れていました。すいません。

553ブック:2004/06/09(水) 00:02
     EVER BLUE
     第二十八話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その二


 『フリーバード』の中に警報機が鳴り響く。
 船員達が、それを聞きつけて慌しく戦闘態勢を取る。

「親方!」
 オオミミが、ブリッジへと駆けつけた。
「おお、来たか。」
 サカーナの親方が待ちかねていたかのようにオオミミの方を向いた。

「…ついに来たか。
 『紅血の悪賊』が…!」
 ニラ茶猫が武者震いをする。
 僕も、深呼吸をしながら気合を入れていく。

「…敵は戦艦級が三隻と言っていたな。
 高島美和、どうするよ?」
 サカーナの親方が高島美和に尋ねた。
 いや、あんた船長なら少しは自分で考えろよ。

「先程も述べましたように、向こうはこちらを即座に討ち堕とす事はしない筈です。
 恐らく、急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)による拿捕。
 もしくは前回のように吸血鬼が直接この船に飛び移るなど、
 内部から制圧する手法を取ってくると思われます。」
 高島美和がお茶を飲みながら告げる。

「へっ!殴り合いなら俺達の得意技だぜ!!」
 ニラ茶猫が拳を打ち合わせた。

「殴って倒す、そんな簡単な問題ではありません。
 まず、戦闘要員の数は向こうが圧倒的に上。
 しかも、その中にはスタンド使いもいるでしょう。
 私達の船にスタンド使いが居るというアドバンテージなど、無いものと思ってください。
 それに、あなたなら兵士を何人相手にしても大丈夫なのかもしれませんが、
 人質を取られたらどうしますか?
 見殺しにして闘うだけの覚悟はおありですか?
 仮にあなた一人が生き残ったとして、船の操縦はどうするつもりですか?
 機関室を破壊されたら、どうするつもりですか?
 もしくは、敵が私達が奪ったものを取り返すのを諦めて、
 『他の勢力に目当ての物が渡る位なら』と、
 一気に攻め立ててくる事も充分に有り得るのですよ?
 そうなっては、こんな船などあっという間に空の藻屑ですね。」
 ニラ茶猫の軽薄な言動を攻め立てるように、高島美和がまくしたてる。

「ご…ごめんなさい……」
 しょぼんとしょげ返るニラ茶猫。

「分かればよろしいのです。
 兎に角、向こうの歩兵をこの船に入れてしまった時点で、
 私達の負けはほぼ確定します。
 加えて、私達が向こうの船を撃沈するのは不可能。
 以上から、いかにして憲兵の到着まで持ち堪えるかが今回の勝利条件と考えます。」
 高島美和が大きく息をついた。

「…俺に異論は無い。
 で、どうするのだ?」
 三月ウサギが高島美和に聞いた。

「…本来ならこんな状況に陥らない事が一番の作戦なのですけど、
 こうなってしまっては四の五の言っていられません。
 三月ウサギ、船長、
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)はあなた達に何とかして貰うとして、
 残るは上から飛び降りてくる吸血鬼ですが…」
 高島美和が視線を落として考え込む。

554ブック:2004/06/09(水) 00:03

「でしたら、それについては私に任せて貰えませんか?」
 そこに、タカラギコが立候補してきた。

「あなたが?」
 聞き返す高島美和。

「ええ。
 射撃には少し嗜みがありまして。
 なに、心配はいりません。
 残らず射ち堕としてごらんにいれますよ。」
 パニッシャーを担ぎながら、タカラギコが微笑んだ。

「…では、お願いしましょうか。
 信用がおけるかどうかは別として、あなたの腕前は確かなようですし。」
 躊躇いながらも、高島美和がタカラギコにお願いする。
 まあ、三月ウサギとあそこまで張り合える男だ。
 かなり心強い戦力という事は間違い無い。

「それではオオミミ、ニラ茶猫、
 あなた達は船内の警備をお願いします。
 万一船に敵が侵入してきた場合、あなた達が頼りですよ。」
 高島美和がオオミミとニラ茶猫の顔を見据えた。
 オオミミとニラ茶猫が、小さく頷く。

「カウガールはいつも通り船の操縦、
 私は、『シムシティ』を展開させながら皆さんのサポートを行います。」
 高島美和の周りに、四匹の目玉蝙蝠が出現した。

「敵機、接近中!
 間も無く戦闘射程圏に入ります!!」
 カウガールが舵を握りながら叫んだ。

「…よっしゃ、それじゃあそろそろ往くか!
 野郎共!!
 …死ぬんじゃねぇぞ!」
 そのサカーナの親方の言葉が終わると同時に、
 皆はそれぞれの持ち場へと散ってゆくのだった。

555ブック:2004/06/09(水) 00:03



     ・     ・     ・



「……」
 包帯とベルトでグルグルに巻かれた、とてつもなく巨大な何かを担いだ女、
 『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』が、小さな商船の甲板の上に佇んでいた。
 今は夜の為全身をコートで包む必要もなく、
 その美しい要望を余す事無く周囲に晒している。

「キイ、キイイ。」
 と、そこに小さな蝙蝠が女の下へと舞い戻って来た。
 蝙蝠はジャンヌの肩にとまると、キイキイとか細い声でジャンヌに何かを伝える。

「…そうか。
 よし、ご苦労じゃったな。」
 ジャンヌは蝙蝠の頭を指で撫でると、褒美にお菓子の欠片を与えてやる。
 蝙蝠が、嬉しそうにお菓子を頬張り始めた。

「あんたのペットかい?
 随分と変わったもの飼ってるんだな。」
 船の主らしき男が、後ろからジャンヌに声を掛けた。

「…親仁、頼みがある。」
 男の質問には答えず、ジャンヌが男の目を見て尋ねる。

「…?
 何だい?」
 きょとんとした顔で聞き返す男。

「この船を、ここから北東辺りの『ヌールポイント公国』の国境沿いにまで
 動かしてくれんか?」
 そのジャンヌの言葉を聞いて、男は見る見るうちに顔色を変えた。
「じょ、冗談じゃねぇや!
 あそこら辺には今、『紅血の悪賊』がたむろしてるんだぜ!!
 そんな所、自殺志願者でもなきゃ行かねぇよ!!」
 男が怒鳴るようにジャンヌに答えた。

「約束の金の倍…いや、三倍の額を支払うが、駄目か?」
 平然と口を開くジャンヌ。
「駄目なもんは駄目だ!
 幾ら金を積まれようが、命には代えられねぇよ。」
 男がつっけんどんに返す。

「…仕方が無い。
 まあ、ここまで近づければ大丈夫か…」
 と、ジャンヌがぶつぶつと独り言を言い出した。

「ああ?
 何だって?」
 怪訝そうに男がジャンヌに尋ねる。

「いや、こちらの話じゃ。
 親仁、無理言って送って貰ってすまなんだ。
 ここまでで結構じゃ。」
 ジャンヌが金を男に渡しながらそう言った。

「ここまで、って…
 あんた、こんな周りに島も無い所で一体どうする―――」
 そこで言うのを止めて、男は大きく目を見開いた。
 何と、ジャンヌは平然と甲板の柵の上に昇ったのだ。
 下は落ちたら助からない雲の海だというのに、である。

「お、おい!あんた!!
 危ないぞ!!!」
 男は必死に呼びかけるも、ジャンヌはそ知らぬ顔で柵の上に立ち続ける。
 彼女自慢の金髪が、夜風を受けて煌びやかにたなびいた。

「ラ・ウスラ・デラ・ギポン・デ・リルカ…」
 ジャンヌが呟くように呪文を唱えると、彼女の影から大量の蝙蝠が飛び出した。
 そしてそれらは次々と一つ所に集まり、
 黒い閃光と共に大きな一匹の蝙蝠へと姿を変える。
 『使い魔』(サーヴァント)。
 上級の吸血鬼だけが使える、吸血鬼の特殊能力の一つだ。

「な…あ……あ……」
 男が、その超常の光景を目の当たりにして放心状態に陥る。

「では親仁、世話になった。」
 ジャンヌはそんな男に一瞥をくれると、
 大きな蝙蝠の背に乗ってすぐさまその船から飛び去っていった。



     TO BE CONTINUED…

556ブック:2004/06/10(木) 00:42
     EVER BLUE
     第二十九話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その三


 山崎渉は、三隻の戦艦のうちの真ん中の船のブリッジから、
 正面に『フリーバード』を見据えていた。
「山崎渉様、
 敵艦を急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)の射程内に捉えました。」
 オペレーターが事務的な声で山崎渉に告げる。

「分かりました。
 急襲用迫撃射出錨発射準備。
 そして敵艦に錨を撃ち込んだ後に、
 両脇の艦を、敵艦を挟み込む形で配置するよう命令を伝達しておきなさい。」
 山崎渉がそうオペレーターに伝えた。

「了解。
 …急襲用迫撃射出錨、照準セット完了。
 いつでも、撃てます。」
 オペレーターが山崎渉に顔を向けた。

「結構です。
 それでは、急襲用迫撃射出錨、発射!」
 山崎渉が『フリーバード』を指差しながら叫んだ。
「了解。
 急襲用迫撃射出錨、発射。」
 そのオペレーターの声と共に、山崎渉の乗る戦艦から特大の錨が撃ち出された。
 膨大な質量を持つ金属の塊が、猛スピードで『フリーバード』へと飛来する。
 そしてそれはあっという間に『フリーバード』の甲板へと―――


「『モータルコンバット』!!」
 その時、襲い来る錨の前に一人の男が立ちはだかった。
 顔に大きな傷を持ち、右目を眼帯で隠した男。
 『フリーバード』の船長、サカーナである。
 その横には、青いプロテクターに身を包んだ男のビジョンが浮かんでいた。

 常識的に考えて、高速で直進する巨大な錨の前には
 唯の人間の力など及びはしない。
 その体ごと、甲板を撃ち抜かれるのが落ちである。
 しかし、それは『唯の人間』であった場合の話だ。

「!!!!!!!!!!!!」
 錨が今まさにサカーナに直撃しようとしたその瞬間、
 突如錨の進行方向が右方向に折れ曲がった。
 『モータルコンバット』は錨には触れさえしていなかったのに、である。

「!?」
 驚愕に目を見開く山崎渉。
 軌道を変えられた錨はそのまま直進し、
 『フリーバード』の代わりに山崎渉の乗る戦艦の左脇の船へと突き刺さった。

「……!
馬鹿な!
 一体、何が起こったのですか!?」
 山崎渉が信じられないといった顔をする。

「分かりません。
 ですが、恐らくは敵のスタンド能力と何か関係があるものと…」
 オペレーターが混乱した様子で口を開く。

「…そう簡単にはやらせないという訳ですか。
 ガードの固い恋人ですね。」
 顎に手を当て、山崎渉が苦虫を噛むような表情を浮かべる。
「急襲用迫撃射出錨を被弾した艦より通信!
 戦闘には支障は無いとの事です!」
 オペレーターが無線機を耳に当てながらそう伝えた。

「当たり前です。
 あれ位で撃沈されては、大枚叩いて立派な船を拵える意味がありませんよ。
 …仕方ないですね。
 両艦に伝達。
 両サイドから、それぞれあの船に向かって急襲用迫撃射出錨を発射するように
 連絡を入れて下さい。」
 山崎渉が落ち着いた声で命令する。

「了解しました。」
 それを受け、オペレーターが急いで残り二つの艦に連絡を入れる。
 程無くして、山崎渉の船へと通信が帰って来た。

「山崎渉様、発射の準備が整ったようです。」
 オペレーターが山崎渉に向いて言った。

「分かりました。
 きっかり二十秒後に、同時に発射するよう折り返しの連絡を入れなさい。
 しかし、面倒な事この上ない。
 撃墜するだけなら、どうとでもなるというのに…」
 山崎渉が忌々し気に舌打ちをした。

557ブック:2004/06/10(木) 00:43





「いや〜、見事命中ってなもんだぜ!
 流石俺、流石『モータルコンバット』!!」
 折れ曲がった錨が右の敵艦に直撃するのを見ながら、
 サカーナが自慢気な顔を見せた。

「調子に乗るのは後にして下さい。
 すぐにでも追撃が来るかもしれないのですから。
 それと、私の『シムシティ』が着弾地点、侵入角度諸々を計算して、
 どれくらい『傾ければ』いいのかをあなたにお伝えしたからこそ、
 今の結果が出せた事をお忘れなく。」
 無線越しに、高島美和の冷たい声がサカーナの耳へと届く。

「はあ、さいでがすか…」
 肩を落としてうなだれるサカーナ。

「…と、敵艦のうち三隻が、右と左に分かれました。
 どうやら、挟撃を仕掛けてくるみたいですね。」
 高島美和のその言葉に、サカーナが顔を曇らせる。
「ちっ、やっぱそう来たか。
 三月ウサギ!
 俺は右に回る!
 お前は左の方を任せたぞ!!」
 サカーナが向かい側にいる三月ウサギに向かって大声で告げた。

「…分かった。」
 三月ウサギが頷く。

「船長はそこから右にもう10メートル、
 三月ウサギは左に15メートル程移動して下さい。」
 高島美和が、『シムシティ』から送られてくる数値や記号の情報を元に、
 錨が着弾する位置をはじき出して二人に伝える。

「りょーかい。」
「……」
 サカーナと三月ウサギが、高島美和に言われた通りに場所を移す。

「……!
 敵船、急襲用迫撃射出錨発射!!
 来ます!!!」
 そう高島美和が叫ぶのが速いか否か、
 サカーナと三月ウサギが即座にスタンドを発動させた。

「『ストライダー』…!」
 三月ウサギが、錨を正面に見据えてマントを翻した。
「!!!」
 錨が、マントの中へと吸い込まれるように侵入していく。

「『モータルコンバット』!!」
 甲板の反対側で、同様にサカーナが叫んだ。
 同時に、青いプロテクターを着た男のビジョンのスタンドが右腕を突き出す。

 その時、信じられない事が起こった。
 『モータルコンバット』が腕を突き出した付近に一匹の虫が飛んでいたのだが、
 それが突然左90度に向きを変えたのだ。
 しかも、それは飛びながら向きを変えたというのではない。
 何の予備動作も無く、何の予兆も無く、
 いきなり『向きだけ』が変わったのだ。

「来たな…!」
 サカーナが獰猛な笑みを見せた。
 急襲用迫撃射出錨が勢いよく突っ込んでくる。
 だが、ある程度サカーナの『モータルコンバット』に近づいた所で、
 『虫の向きが変わった方向と全く同じ方向』に軌道が折れ曲がった。

「!!!!!!!!」
 そして向きを変えられた錨は、山崎渉の乗っている船へと撃ち込まれる。
 ブリッジの中では、山崎渉がその衝撃でバランスを崩した。

「へっ、どんなもんでぇ!
 来るなら来やが…」
 そう言いかけ、サカーナがハッと上の方を見上げた。

「しまっ…!
 いつの間に!!」
 『フリーバード』の上空を、小型プロペラ機が数機飛び回る。
 そして、そこから次々と人影が『フリーバード』甲板目掛けて飛来してきた。
 サカーナはそれを見ただけで、何が起こるのかを一瞬で理解する。
 忘れられる筈も無い。
 これは、つい先日『紅血の悪賊』の吸血鬼が取った戦法なのだから。

「まずい!
 あいつらを船に―――」

558ブック:2004/06/10(木) 00:43


 ―――!!!!!!!

 サカーナの言葉を、無数の銃声が掻き消した。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!」
「OAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!!!!」
 12・7mm機関砲の掃射を浴びて、吸血鬼達が悲鳴を上げる。
 銃弾を体中に撃ち込まれた吸血鬼達は、
 そのまま『フリーバード』の甲板に着地する事無く奈落の底へと落ちていった。

「…吸血鬼は並外れた身体能力を持ち、銃弾すら回避するそうですが、
 羽でも生えていない限り、空中での軌道修正は不可能。
 自由落下という檻に囚われている下降中ならば、
 この距離から撃ち堕とすのはそう難しくありません。」
 パニッシャーを構えながら、タカラギコが誰に言うでもなく呟いた。

「さて、お次は…」
 タカラギコがパニッシャーを逆向きにして肩に担いだ。
 音を立て、パニッシャーの上の胴体部分が開く。
 その中から、ロケットランチャーの砲門が姿を見せた。

「いきますよ…!」
 銃口を飛来してくるプロペラ機の一つへと合わせ、髑髏型の引き金を引く。
 風を切る発射音と共に、ロケット弾が生き物のようにプロペラ機に襲い掛かった。

「!!!!!!!」
 着弾。
 ロケット弾が爆発し、プロペラ機がこっぱ微塵になって墜落していく。
「AAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!!」
 体を炎上させ、断末魔の悲鳴を上げながら、
 操縦していた吸血鬼がプロペラ機と共に遥か下の大地へと落ちていった。

「…まさに天国から地獄、ですか。
 ぞっとしませんねぇ。」
 苦笑しながら、タカラギコがパニッシャーを構え直す。

「さて、私の目の黒いうちには、易々とこの船には足を踏み込ませませんよ…!」
 さらに飛来してくるプロペラ機を見つめながら、タカラギコが呟いた。



     TO BE CONTINUED…

559:2004/06/10(木) 17:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その6」



 ギコと『レイラ』は、日本刀を正眼に構えた。
 それに対し、山田は青龍刀の切っ先を下方に向けて構え、僅かに腰を落としている。
 いわゆる、下段の構えに近い。
 周囲は真夜の闇。
 だが艦に灯る明かりのおかげで、視界に問題はない。

「――行くぜ!」
 『レイラ』、そしてギコが駆けた。

 『レイラ』は大きく踏み込むと、刀を大きく薙いだ。
 山田は、俺の時のように柄で受け止める。
 あの防御の次に来るのは、攻防一体の斬撃――

「うおおッ!!」
 ギコは、その攻撃を『レイラ』の刀で受け止めた。
 大きく打ち負け、体勢が崩れる『レイラ』。
 さらに踏み込む山田の胴に向かって、ギコは鋭い突きを放った。
 『レイラ』の刀ではなく、ギコ本体が手にしている刀による突きだ。
「…!」
 山田はそれを青龍刀の刃で受けると、大きく背後に飛び退いた。

 そして、再び青龍刀を構える。
「スタンドと本体の連携攻撃… 初めて戦うタイプだな…!」
 山田は、微かな笑みを浮かべて言った。
 戦士の笑み。
 好敵手を見つけたという笑みだ。

「それにしても…」
 山田は、半身だけで甲板に転がっている俺に目線をやった。
 再生には、まだ時間がかかりそうだ。
「ここは侍の国だとは聞いたが… この国の少年は皆、そこまでの武芸を身につけているのか…?」

「俺が特別製なだけだ。そこのそいつもな」
 俺を指して、ギコは言った。
 そして、山田を真っ直ぐに見据える。
「――それと、今の打ち合いで3つ気付いた事がある」

「ほう?」
 山田は興味深げな表情を浮かべた。
 ギコは刀をくるりと回転させると、その切っ先を山田に向ける。
「まず1つ。お前の武器は、1対1の戦いに適していない。
 お前の戦いはそうだな… 大勢に1人で斬り込んで、一気に撫で斬りにする戦い方だ。
 圧倒的な『攻』のラッシュで敵勢を黙らせる。
 そもそも、その武器… 地上で扱うようなモンじゃないだろう?」

「…いかにも。この『青龍鉤鎌刀』、馬上で大勢を斬る為の武器だ」
 山田は、『青龍鉤鎌刀』を下段に構えたまま言った。
 軽く語っているようで、少しも気を抜いてはいない。
 もっとも、それはギコも同様だが。
「2つ目。お前のスタンドは、その『青龍鉤鎌刀』とやらだ。『レイラ』の刀を受け止めたからな。
 これはただの勘だが、物質と合成しているタイプじゃないか?」

「…その通り。この『青龍鉤鎌刀』、我がスタンドと空気中の炭素で構成されている」
 山田はあっさりと答えた。
 彼の技を破る上で、そんな事は重要ではない。
 それでも… 彼のスタンドにヴィジョンは存在しないという事だ。

 ギコは続けた。
「3つ目。お前は勝負を焦っている。
 普通に振る舞ってるようだが、斬撃に顕れる感情までは隠せねぇ。
 これも勘だが、スタンドに時間制限があるからだ。 …違うか?」

「…フッ」
 山田は軽く笑みを浮かべた。
「…それは違うな。『青龍鉤鎌刀』を構成している私のスタンド『極光』に、制限時間などはない。
 いったん『青龍鉤鎌刀』を精製してしまえば、破壊されない限り消失しない」

「ありゃ、外したか…」
 ギコは残念そうに呟いた。
 山田は、そんなギコを見据える。
「…だが、私が焦っているという指摘は間違ってはいない。
 その理由は… 今から5分後、この艦は私の仲間によって大規模な爆撃に見舞われるからだ」

「何だとッ!!」
 ギコは叫び声を上げた。
 山田は、下段に傾けている『青龍鉤鎌刀』を僅かに引いた。
 その構えからの殺気が増す。
「単独での艦制圧は私が申し出た。爆撃開始までに敵将全てを討ち取ってしまえば、この艦は制圧できる。
 みすみす沈める事もない…」

「んな事はさせねーよ…」
 ギコは、再び正眼に刀を構えた。
 そして、殺気を込めて山田を睨む。
「お前を追い返し、爆撃部隊とやらも叩き落とす」

 ギコの殺気を軽く受け流すように、山田は口を開いた。
「2つ教えよう。この『青龍鉤鎌刀』、スタンドをも斬れる以外は普通の武器だ。妙な警戒は不要。それと――」
 人差し指で、自らの額をトントンと叩く山田。
「――狙うならここにしろ。私は吸血鬼だ。頭部を破壊しない限り死ぬ事はない」

560:2004/06/10(木) 17:41

「余裕だな…」
 ギコは呟く。
「武士道と言ってもらえないか、サムライよ!」
 そう言って、山田は神速でギコの眼前に踏み込んだ。
 上段への大薙ぎ。
 『レイラ』が、その初撃を弾いた。
 山田は、その勢いのまま舞うように回転する。
 それに続く中段への薙ぎ。

「このッ!!」
 『レイラ』の刀で、『青龍鉤鎌刀』を受け止める。
 それでも、山田の勢いは殺しきれない。
 逆に、『レイラ』の刀が大きく弾かれた。
 そして、下段への薙ぎが繰り出される。

 ――流れるような三段薙ぎ。
 全て喰らえば、たちまち輪切りだ。

「うぉぉぉぉッ!!」
 ギコは手にしている日本刀で、下段を薙ぎ払う『青龍鉤鎌刀』を大きく払った。
 その隙に、体勢を立て直した『レイラ』が突きを放つ。
「…!」
 山田はその攻撃を『青龍鉤鎌刀』で受け止めた。

 そのまま、山田の『青龍鉤鎌刀』と『レイラ』の刀が何度もぶつかり合う。
 その激突に、本体であるギコの斬撃も混じる。
 『レイラ』で隙を作り、ギコ自身がそれを突くという戦法だ。

 刃と刃の応酬。
 激突した刃が、空中で火花を散らす。
 山田は『レイラ』とギコの刀を受け、それでもなお有利。
 『レイラ』の刀と『青龍鉤鎌刀』を激しくぶつかり合わせると、両者は素早く距離を置いた。

 山田は再び、『青龍鉤鎌刀』を下段に構える。
「その齢にして、本体、スタンド共にその腕前。一体、どれほどの鍛錬を積んだのだ…?」

 …そうなのだ。ギコがスタンドを身につけて、3ヶ月。
 長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろう。
 そして、何度も激戦を繰り広げてきた。
 『レイラ』の腕が上がるのは分かる。
 だが、ギコ自身の剣の腕前も上がってはいないか…?
 とても、剣道で鍛えた程度のレベルじゃない。

「毎日、血を吐くまで最強の剣士とガチンコで打ち合ってたのさ――」
 ギコは、そう言って自らの背後に立つ『レイラ』を指差した。
「――こいつとな」

「…鍛錬がすなわち実戦だったという事か。剣士型のスタンドともなれば、相手にとって充分。
 なるほど、合点がいった」
 納得したように告げる山田。
 ギコは刀を山田に向けた。
「お前こそどうなんだ? 『人を1人斬れば、初段の腕』と俗に言うけどな。
 その武芸を身につけるまでに、お前は一体何人斬った…?」

 少しの沈黙の後、山田は口を開いた。
「正確に数えているわけではないが… 濮陽で400。烏巣で200。倉亭で400。陰安で200。
 常山で300。遼東で200。江夏で500。柳城で300。赤壁で100。そして、合肥で1200。
 …合わせて、3800人程度だ」

「…歴戦の勇将って訳か」
 ギコは呟くと、背後に『レイラ』を従えた。
「仕方ねぇ。これは切り札にしときたかったんだが…」

 日本刀を両手で構えている『レイラ』のヴィジョンが大きく揺らぐ。
 柄に添えていた左手を離すと、腰元に差していたもう1本の刀を抜いた。

「ニュー・モードってやつだ…!」
 ギコは言った。
 『レイラ』は、両腕を交差して2本の刀を構える。
 『鷹羽』と呼ばれる、心形刀流における二刀の構えだ。

「…二刀流か」
 山田は、『レイラ』の構えを見据えて言った。
「一応言っとくが、付け焼刃って訳じゃねぇ。侮ると死ぬぜ…」
 そう言いながら、ギコは構えた。
 正眼の構えではなく、それより僅かに右側に刀が開いている。

 ――『平晴眼』。
 天然理心流における、斬りと突きに即座に対応できる型だ。
 『レイラ』の『鷹羽』とギコの『平晴眼』。
 流派も用途も違う2つの構えを前にして、山田の動きが止まった。
 それぞれの型の欠点は明白。しかし、その複合は破り難い。

「来ねぇのか? 時間の余裕はないはずだがな…」
 ギコは言った。
 しかし、山田は微動だにしない。
 『青龍鉤鎌刀』を下段に構え、真っ直ぐにギコを見据えている。

「仕方ねぇ、こっちから行くぜ!!」
 なんと、ギコは腰側に回していたアサルトライフルの銃口を山田に向けた。
 そして、そのまま乱射する。

 山田は、完全に意表を突かれた。
 ここまで剣技の体勢に入った男が、まさか銃器を使うとは思わない。
「くッ…!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』で、自らに向けられた弾丸を叩き落した。
 その振りに、大きな隙が生まれる。

 その瞬間、ギコと『レイラ』は大きく踏み込んだ。
「――心形刀流、『二心刀』」
 『レイラ』の2本の刀が、山田を捉えた。
 そのまま、山田の身体に2本の刀が振り下ろされる――

561:2004/06/10(木) 17:42

「はァァァッ!!」
 その瞬間、山田は大きく腰を落とした。
 そこから、『青龍鉤鎌刀』を大きく振り上げる。
 山田の周囲に、嵐のような上昇気流が発生した。

「うおッ!!」
 その風圧で、『レイラ』の攻撃が弾かれる。
 しかし、ギコ本体は『レイラ』の背後に退いていた。
 もう1歩踏み込んでいれば、嵐の直撃を受けていただろう。
 そして彼の刀は、戦闘の最中にもかかわらず鞘に納まっている。
 これは… 抜刀術!?

「――天然理心流、『無明剣』」
 ギコは山田の攻撃を右半身で受け流し、同時に抜刀した。
 神速の斬り上げ。
 山田は『青龍鉤鎌刀』を振り上げた体勢だ。
 胴部の大きな隙に、ギコの刀が迫る。

「…甘い!」
 山田は、ギコの腹に蹴りを見舞った。
 ギコの身体が大きくグラつく。
 その瞬間、山田は体勢を整えると『青龍鉤鎌刀』を構えなおした。
 そして、ギコの頭上に振り下ろす。

「くッ…!」
 ギコはそれを受け止めるように、頭上に刀を構えた。
 『青龍鉤鎌刀』での一撃を受け止める気だ。

 ――駄目だ。
 ギコの腕力で、あの一撃は止められない。
 完全に押し負け、そのまま両断される…!

「無駄だッ!!」
 山田の『青龍鉤鎌刀』が、ギコの刀と彼の頭上でぶつかり合った。
 勢い・腕力共に、向こうの方が上。
 ギコの刀は、振り下ろされる『青龍鉤鎌刀』を僅かに押し止めたに過ぎない。
 その一撃は、このままギコの頭部に――

「これでよかったんだよ。ほんの少し、勢いを緩めるだけでな…!」
 勝利の確信が込もった口調で、ギコは言った。
 その背後で、二刀を掲げた『レイラ』が躍る。
 そして、ギコが押し留めている『青龍鉤鎌刀』に向けて、二刀を交差させて振り下ろした。

「…最初から武器破壊が狙いかッ!!」
 山田は『青龍鉤鎌刀』を退こうとするが、間に合わない。
 その柄に、『レイラ』の斬り下ろしが直撃した。
 音を立てて真っ二つになる『青龍鉤鎌刀』。

「…」
 山田は、驚きの表情を浮かべて押し黙った。
 沈黙の中、その切っ先は甲板に転がる。

「信じられん…」
 山田は、刃を失いただの棒と化した『青龍鉤鎌刀』を呆然と見詰めた。

 ギコは勝ち誇って口を開く。
「…勝負あったな。お前は、武器と共に強くなったタイプだ。その『青龍鉤鎌刀』がないと、武芸を発揮できない」
 そして、手にした日本刀を山田に向けた。
「降伏するんだな。お前ほどの武人、好んで殺戮に身を任せてる訳じゃねぇだろう?」

 山田は目線を上げると、ギコを見据える。
「…ふむ。お主の言う通り。我が武、手慣れた刃がなければ振るえん」
「ああ。お前の『青龍鉤鎌刀』は完全にブチ壊した。これで――」
 ギコの言葉は、山田に遮られた。
「だが、私を屈服させたいなら… 同じ事をあと43回繰り返さねばならんな!」
 一転して、山田は笑みを浮かべる。

「…なんだって!?」
 ギコは眉を潜める。
 山田は、柄だけになった『青龍鉤鎌刀』を甲板に落とした。
 そして、何も持っていない右手を前方に構える。
「『極光』、第弐拾七番『蛇矛』…!!」

 一瞬の眩い光。
 それが収まると、山田の右手には1本の槍のようなものがあった。
 先端の刃は幅広で、蛇のようにくねった形である。

「…何をした?」
 ギコは、その様子を見据えて呟いた。
 慣れた手付きで、その槍を構える山田。
「――四十四の刃の1つ、『蛇矛』。
 これが我が『極光』の能力だ。『青龍鉤鎌刀』も我が刃の1つに過ぎぬ」

「…なるほど。43回繰り返すってのは、そういう事か」
 ギコと『レイラ』は、再び刀を構えた。
 その額に、一筋の汗が流れる

 あと43回…?
 『青龍鉤鎌刀』を破壊した時でさえ、ギコは捨て身に近かった。
 少しでもタイミングが狂えば、ギコの体は真っ二つだ。
 あれを43回だなんて、到底無理な話ではないか。

「人真似は好かぬが… 我が二刀、お見せしよう」
 山田は、さらに左手を大きく広げる。

「――『極光』、壱番『麒麟牙』!」

 一瞬の光の後、その手に1.5mはある大型の剣が収まっていた。
 片刃で弧を描いている刃は分厚く、かなり幅広である。
 本来は両手で扱う武器であろう。

 山田は、『蛇矛』と『麒麟牙』を交差するように構えた。

「――さて、参るぞ」

562:2004/06/10(木) 17:43


 俺の体は、ほとんど再生し終えた。
 右半身と左半身が、自分でも不気味なくらい元通りに結合している。
 それでも、この勝負には手が出せない。

 両者が同時に間合いを詰めようとしたその瞬間、空を切るような爆音が響いた。

「!!」
 山田を含む3人は、同時に音の方向を見上げた。
 水平線の彼方から、多くの黒い点が近付いてくる。
 間違いなく、航空機の群れだ。

「馬鹿なッ!! 予定の時刻より早いではないかッ!!」
 航空編隊を見据えて、山田は叫んだ。
 その憤りは、ギコに向けられた殺意よりも強いように感じる。

「この船はもはや死に体、さらに鞭打つと言うか…」
 山田は呟くと、ギコの方に視線を移した。
 いつの間にか、両手の刃は消えている。もう戦意はないようだ。
「――名乗られよ、少年」

「俺はギコ、こいつは『レイラ』だ」
 ギコは、自らを親指で示した。

「次に戦場で会う時まで、その命大切にせよ…とは言わん」
 山田は、乗ってきた馬に飛び乗った。
「我が『青龍鉤鎌刀』を破るほどの者に、そのような言など無用だろうからな…」

「望むところだ。テメェは、絶対に俺が倒す!」
 ギコは、馬上の山田に叫んだ。
「次に来る時は、馬に乗って来やがれ。相応に相手してやるぜ!」

 …ギコも馬に乗れたのか?
 いろいろ特技が多い奴だが、乗馬が趣味だという話は聞いた事がない。

「…次に仕合う時を楽しみにしている」
 山田は手綱を引く。
 彼の乗った馬は、甲板に乗り上げている戦艦の艦首に飛び移った。
 その禍々しい戦艦は、山田が乗り移ると同時に離れていく。
 後には、無惨に押し潰されたヘリ用甲板が残った。

「戦艦は攻撃してこない…? 弾薬を温存してるのか…?」
 ギコは呟く。
 確かに、この艦はボロボロだ。
 反撃能力など、ほとんど残されていない。
 弾薬の無駄だろうが… 爆撃にしても同じように思える。

 ギコは、俺の方に視線をやった。
「さて、再生も終わったみたいだな… ってか、治ったんなら加勢しろよゴルァ!!
 解説役に徹してんじゃねぇ!!」
 大声で叫ぶギコ。

「…加勢したらしたで、どうせ男同士の戦いに横槍入れるなとか言うモナ?」
 俺は抗議する。
「当然だゴルァ! 一対一の決闘を汚すつもりかゴルァ!」
 ギコは当たり前のように言った。
 理不尽な事を抜かす友人は無視して、俺は頭上を見上げる。
 さっきは点ほどにしか見えなかった航空機が、形状が認識できる距離まで近付いている。

563:2004/06/10(木) 17:44

 迫り来る爆撃機を控え、ギコは口を開いた。
「Ju87急降下爆撃機…!? 『悪魔のサイレン』か…!!」

 俺は、ギコに疑問を込めた視線を送る。
 それを受けて、ギコは言った。
「大戦中の機体は詳しくないんだが… 確か、ナチスドイツを代表する急降下爆撃機だ。
 急降下の時に放つダイブブレーキ展張時の音から、『悪魔のサイレン』と呼ばれて恐れられてたらしい」

「ナチス…? なんでそんなのが…」
 俺は思わず呟いた。
 ギコが肩をすくめる。
「俺が知るわけねぇだろ。そもそも急降下爆撃自体、もう歴史から消え去った戦術なんだ。
 高々度爆撃の方が効果的だし、何より現代には精密誘導兵器があるからな。
 今さらそんな戦術にこだわる奴は、頭のネジがぶっ飛んだ奴くらいだ」

 ともかく、俺達に高度2000mを飛行する爆撃機を落とす能力はない。
 この艦の対空ミサイルも、もう残ってはいないだろう。
 どうする…!?
「クソッ!! 何にも出来ないのかよッ!!」
 高速で急降下してくるJu87を見据え、ギコが叫んだ。

 爆音が響く。
 Ju87が艦尾へ向けて急降下して、そのまま突っ込んだのだ。

「…!?」
 俺とギコは、その様子を呆然と見つめていた。
 爆撃ではなく、体当たり…?

 しかし、俺の『アウト・オブ・エデン』は見逃さなかった。
 艦尾との激突の瞬間、人影がコックピットから飛び出したのを。
 航空機の機体は、艦尾に刺さり炎上している。
 主翼を真横に広げたその姿は、まるで十字架のようだ。

 炎を背に、人影はゆっくりと歩いてくる。
 そいつは、軍服を着用していた。
 そして、俺達に向けて機関銃を構える。

「Bluhe… deutsches Vaterland!! Uryyyyyyyyyyy!!」
 軍服の男は狂声を上げながら機関銃を乱射した。
「『レイラ』ッ!!」
 ギコのスタンドが、素早く弾丸を弾く。
 あいつは… 吸血鬼!?

 さらに、艦首にJu87が突っ込んできた。
 その衝撃で、『ヴァンガード』が大きく揺れる。
 爆発炎上する機体の残骸。
 次々に飛来するJu87。
 そして、コックピットから飛び降りる吸血鬼達。
 そいつらは全員が軍服に身を包み、銃器を手にしていた。

「カミカゼ・アタック… とは言えねぇな。パイロットは平気そうだし。
 いいだろう、ちょうど昂ぶってたとこだ…」
 ギコは背後に『レイラ』を従えると、自らも刀を構えた。
「…全員ぶった斬ってやるぜ!!」

 俺は、漆黒の軍服に身を包んだ吸血鬼達を見据えた。
 ヘルメット、バックパック、そして各部に収納された数々の武装…
 いわゆる、空挺装備というやつだ。
 だが、空挺に不可欠なパラシュートはない。
 こいつらは、慣性落下で着地しているのだ。

『…吸血鬼で構成された軍隊というのを考えています』
 奴の… 『蒐集者』の言葉が俺の脳裏に飛来した。
 何十年か何百年か前、奴はそう告げたのだ。

「これが、そうだと言うのか…?」
 俺は呟いた。
 『殺人鬼』は、以前言っていたではないか。
 『教会』の最高権力者は元ナチスのSS、そしてこの世で最も悪魔に近い男だと。

 『蒐集者』が思い起ち、枢機卿が完成させた忌むべき軍隊。
 それが、こいつらか――!!
 こいつらが『教会』の手先なら、滅ぼすべき敵だ。
 俺と、そしてリナーの為に。

 墓標のように甲板に突き刺さり、燃え続ける航空機。
 その灯りは、夜の闇の中で不死の兵隊達のシルエットを浮かべた。
 人を辞めたモノ。血塗られた吸血鬼。死を越えた肉体。そして、唯の塵。
 塵ならば、塵に還れ――

 俺は懐からバヨネットと短剣を取り出した。
 軽く手許で回転させると、逆手に構える。

「Dust to Dust… 塵は塵に。亡者は骸に。亡兵は戦場の闇に…!」

564:2004/06/10(木) 17:44



          @          @          @



 海上自衛隊護衛艦『くらま』。
 その艦内通路で、2人の男女が戦火を交えていた。
 高校生ほどの少女と、20代前半の男。
 ほとんど同じ世代に見える両者。だが、その実年齢は80ほど離れていた。

 リナーのP90と枢機卿のMP40が同時に火を噴いた。
 互いに銃弾を避けつつ、両者は短機関銃を連射する。
 その動作は、同一と言える程に似通っていた。

「『エンジェル・ダスト』は完全に解除しないのかな?」
 枢機卿は撃ちながら口を開いた。
「そちらこそ、『リリーマルレーン』は使われないのですか…?」
 火力を緩めずに、リナーは訊ねる。

「愚問だな…」
「そう、愚問ですね…」
 2人はそう口走った。
 リナーは撃ちながら距離を詰める。
 枢機卿も同様に間合いを詰めてきた。
 相手の銃は、そろそろ弾切れ。
 むろん、自分も同じ事だ。

 2人は手の届く距離まで接近すると、素早く短機関銃を投げ捨てた。
 そして、同時に懐から拳銃を取り出す。
 リナーのファイブ・セブンと枢機卿のワルサーP38。
 その銃口が、至近距離で互いの身体に向いた。

「…ところで、法儀式済みの弾丸はそろそろ切れたのではないかね?」
 リナーの手にしたファイブ・セブンの銃口を眼前に控え、枢機卿は言った。
「ええ。『教会』からの補給が断たれましたからね…」
 リナーは表情を変えずに答えた。
 すでに、法儀式が済んでいる武器は手許にない。
 枢機卿は、微かな笑みを浮かべて口を開く。
「…実は、私の武器には最初から法儀式などなされてはいないのだよ」

 その刹那、2挺分の銃声が響いた。
 2人は同時に引き金を引いたのだ。
 互いの服に穴が開き、血が溢れ出る。

「…!!」
 さらに銃口を向け、至近距離から引き金を引く両者。
 2人の身体に幾つもの穴が空く。
 何発もの銃声が響き、血飛沫が廊下を染めた。
「Liebster Gott… wenn werd ich sterben!!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
 ありったけの弾丸を、お互いの身体に叩き込む2人。

 弾が切れた拳銃を投げ捨てると、2人は同時に同型の軽機関銃を取り出した。
 そして、互いの腹に押し当てる。
「MG42…? 君は、ナチス関連の品は嫌いではなかったかな…?」
「そうでしたが… 貰い物ですよ。女性の機微が分からない男からのね…」
 両者は血を吐きながら会話を交わした。
 そして、同時に引き金を引く。
 艦の通路に、MG42独特の発射音が響いた。

 1分に1200発もの弾丸を発射する機関銃。
 その弾丸を、2人はその身で受けた。
 リナーの右腹が、ズタズタにちぎれて吹き飛ぶ。
 枢機卿も、右腹部に大きな穴が空いた。

 2人はよろけながら一歩退がった。
「ごほッ…」
 リナーは血を吐きながら、服の中からバヨネットを取り出した。
 そして、その刃を枢機卿の胸に叩きつける。
 同時に、リナーの胸をバヨネットが貫通した。

「効きませんよ、この程度ではね…!」
「私にもな…」
 2人は次々に服からバヨネットを抜くと、互いの身体に突き立てた。
 その胸に、腹に、肩に、足に、腕に…
 次々と、その身をバヨネットが貫いていく。
 両者は、よろけて背後に一歩踏み出した。

「効かんと言っている!!」
 枢機卿は再び踏み込むと、バヨネットをリナーの首に突き刺した。
 その勢いは首を貫き、刃先は背後の壁に達した。
 同時に、枢機卿の首に突き立てられたバヨネットが背後の壁に突き刺さる。

「ぐッ…」
 咳込みながら、2人はそれぞれの背後の壁に体重を掛けた。
 体を貫通して背側に突き出ていた無数のバヨネットが、壁に当たって抜け落ちる。
 床に落ちた何本ものバヨネットが、金属質の乾いた音を立てた。

 リナーは喉を貫通しているバヨネットを引き抜くと、正面の枢機卿に向かって大きく薙いだ。
 全く同じ動きで、枢機卿がバヨネットを振るう。
 バヨネットが空中で激突し、大きく弾け飛んだ。
 両者の首の穴から、大量の血がボタボタと零れ落ちる。

 その瞬間、艦が大きく揺れた。
 艦後部から爆音が響く。

565:2004/06/10(木) 17:45

「…これは?」
 リナーが天井を見上げた。
 艦は大きく傾く。
 爆発音も止む事はない。
 艦に異常があった事は明白だ。

「我が配下の爆撃部隊だ。ようやく来たか…」
 枢機卿は薄い笑みを浮かべて飛び退くと、そう呟いた。
 同様に飛び退いて、リナーは口を開く。
「爆撃部隊…? 何を企んでいるんです?」

 枢機卿は、無造作に口元の血を拭った。
「この艦… いや、自衛隊の艦隊を攻撃させていてな。どうやらこの艦に致命傷を与えたようだ」
「貴方の部下は、司令官が艦内にいるのにも構わず攻撃を仕掛けるのですか…?」
 リナーは呆れたように言った。
「信頼の表れと思ってもらいたいね…」
 枢機卿は軽く肩をすくめる。

 再び、艦が大きく揺れた。
 かなり大規模な爆撃を喰らっているようだ。

 2人は、同時に通路を駆け出した。
 リナーの真横を、まるで徒競走のように枢機卿が走っている。
「この判断まで同じとは… つくづく私は、いい弟子の育て方をしたな…!」
 枢機卿は通路を駆けながら、リナーにバヨネットを振るった。
 リナーも並走しつつバヨネットで応戦する。
「それはどうも。光栄な事です…!」

 通路を駆け、艦の後部甲板に出る2人。
 リナーは素早く周囲を見回す。
 周囲にはジェット音と爆発音が響いていた。
 そして、空を埋め尽くすような航空編隊。
 この艦は、あと1分も持たないだろう。

 枢機卿とバヨネットを交えながら、リナーはヘリ格納庫に駆け込んだ。
 格納庫内では、艦員が呆気に取られた顔で固まっている。
 奇抜な服を着た少女とナチの軍装に身を包んだ男が、剣を打ち合わせながら駆け込んできたのだから無理もない。
 格納庫の真ん中には、対潜ヘリ・SH−60Kの姿があった。
 シャッターでヘリの出口は閉じられている。

 リナーと枢機卿が、左右から同時にヘリ内に駆け込んだ。
 枢機卿は右操縦席、リナーは左操縦席に占位する。
 そして、真ん中の操縦パネルの上で2人はバヨネットを打ち合わせた。
 操縦パネルには、キーが刺さったままだ。
 枢機卿は、右腕だけで素早くパネルを操作する。

 メインローターが作動し、ヘリが格納庫内で浮き上がった。
 そのままゆっくりと前進すると、シャッターに激突する。

「おいおい、勘弁してくれよッ…!」
 先程の艦員が、柱のスィッチを押した。
 サビついた音と共に、シャッターが開く。
 ヘリは、そのまま夜空に飛び出していった。


「…さて、厄介な状況だな」
 枢機卿は、右手でヘリを操作しつつ左手のバヨネットを振るっている。
「…狭い機内。ここでは、決着がつきませんね」
 リナーは、バヨネットを打ち返して言った。
「ふむ、戦いはここまでか。ランデブーはまたの機会にしよう」
 枢機卿は襟元に手をやった。
 リナーの想定した戦闘パターン外の動き。
 どうやら無線機を操作しているようだが…
 その瞬間、リナーは枢機卿の意図を理解した。

「くッ、そうはいくか…!!」
 リナーは、枢機卿のバヨネットを弾き飛ばそうと大きく振るった。
「座り位置の問題だったな。こちらの方が近い…」
 そう言って、枢機卿は操縦パネルにバヨネットを突き立てた。
 同時に、操縦桿をヘシ折る。
 ヘリが大きく傾いた。

「…Auh Widekseh(それではごきげんよう)」
 枢機卿は操縦席から腰を上げると、真横の窓を破って外に飛び出した。
 落下する枢機卿の身体を掬い上げるように、Bf109が飛来する。
 そのまま、枢機卿はBf109の背に着地した。

「くッ…」
 リナーは、素早くヘリの操縦席に座った。
 そして、ヘシ折れた操縦桿の根元を掴む。
「何とか、体勢を…」
 フラフラと、前方に進むヘリ。

 下は海である。
 この高さなら、飛び降りても問題は無いはず。
 そう思った瞬間、前方に船が見えた。
 あれは、『ヴァンガード』…
 いや、しぃ助教授の乗っている『フィッツジェラルド』だ。
 前部甲板に、なんとか着艦を…!

566:2004/06/10(木) 17:46



          @          @          @



「何なんだ、オマエ… この僕の『ナイアーラトテップ』の前で、これだけ立ってられるなんて…」
 ウララーは、艦橋のてっぺんに立つしぃ助教授に言った。
 彼の背に生えた羽、『ナイアーラトテップ』から鮮やかな光が迸る。
「楽しいなァ。楽しいよ、オマエェェェッ!!」

「くッ!!」
 しぃ助教授は、『セブンス・ヘブン』でその光を逸らす。
 逸らし損ねた光が海を削り、艦にダメージを与えた。
 グラグラと艦体が揺れる。
「貴方こそ、大したものですね。この私が、守勢にしか回れないなんて…」

 この能力は… いや、この光は一体…
 『セブンス・ヘブン』で方向を変えられる以上、質量を持った攻撃なのには違いない。
 そう。質量のある光。

「どうしたァッ!? 守りを固めるだけかッ!!」
 ウララーは羽を大きくはためかせた。
 燐粉が飛び散り、周囲に光が乱反射する。

「このッ…!!」
 しぃ助教授は、その力を押し返した。
 宙に浮いているウララーの体目掛けて、光の方向を変える。

「跳ね返そうッたって、無駄だなァ!!」
 鮮やかな光が、ウララーの周囲を包むように広がった。
 しぃ助教授が跳ね返した光が、それに溶け込んでいく。
「攻防一体ってヤツさァッ!! さあどうする!? いつまで我慢比べやってるんだ!?
 いい加減、そのボロ船は見捨てろよ。アンタ1人なら、もっと楽しくできるだろうがッ!!」

「艦長が、艦を見捨てる? 冗談を言わないで下さい」
 しぃ助教授は笑みを浮かべた。
「…なら、死ぬだけだなァッ!!」
 鮮やかな光が、『フィッツジェラルド』を覆い尽くすように広がる。
 その、凄まじい重圧と破壊力。

「…!!」
 しぃ助教授はそれを抑えながら、唇を噛んだ。
 抑えそこなった鮮やかな光が、艦に当たる。
 甲板が砕け、砲塔が折れる。
 光に削り取られた鉄片が宙に舞った。

 …妙だ。
 個人のスタンドにしては、余りにも強力すぎる。
 これだけの破壊力、たった1人のスタンドパワーで生み出せるとは思えない。
 スタンドは決して魔法ではないのだ。
 となると、指向性を操作する『セブンス・ヘブン』と同じタイプ。
 自然界に元から存在する何らかのエネルギーを操る能力…!

「ダークマター…!?」
 しぃ助教授は呟いた。
「へぇ。知ってるのか…」
 ウララーは腕を組んで笑みを浮かべる。
 周囲に照散していた鮮やかな光が、一時的に収まった。

 しぃ助教授は、目の前に滞空しているウララーを見据える。
「宇宙全体に存在する物質の総質量というのは、数学的な試算で求める事が可能です。
 それには、2つの方法があります。各銀河の明るさから求める方法と、各銀河の運動から求める方法。
 ところが… この両者は、計算ミスでもないのに何故か一致しない。
 各銀河の運動から求めた質量の方が、各銀河の明るさから求めた質量より10倍近く多いんです。
 不思議ですよね。同じ値が出るはずなのに、一桁も違う答えが出るんですから…」

 ウララーは、腕を組んで薄笑いを浮かべている。
 しぃ助教授は続けた。
「これは、未だに宇宙物理学における大きな謎です。
 宇宙に存在する全ての質量を足しても、銀河を回転させるほどのエネルギーには手が届きません。
 ここから導かれる結論は1つ。この宇宙には、見えない質量が存在しているという事。
 その仮定の物質を、学者達は『ダークマター(暗黒物質)』と定義しました」

 しぃ助教授は、ハンマーをウララーに向けた。
「ダークマターの正体は、質量を帯びた光…!
 貴方の『ナイアーラトテップ』は、ダークマターを操るスタンドですね。
 直接対象に照射して破壊したり、周囲に展開して防御壁にしたり、推進力に変換したり…
 なにせ計算上、宇宙の総質量の9割はダークマターですから。その供給元は底なしでしょう」

「フ… フフフハハハ…!」
 しぃ助教授の言葉を聞いて、ウララーは大いに笑った。
「ハッ、ハハハハハハ!! その通り! 意外に博識じゃぁないか!!」
 しぃ助教授は笑みを浮かべる。
「『助教授』という肩書き、ただの飾りだと思いましたか…?」

567:2004/06/10(木) 17:46

「ハハハ!! それが分かったから… どうだって言うんだァァァッ!?」
 ウララーの叫びと共に、虹色の光が周囲を覆い尽くす。
 さらに大きな重圧が艦に向けられた。

「丸耳ッ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 いつの間にか、前部甲板に丸耳の姿がある。
「…はい。『メタル・マスター』!」
 丸耳は背後にスタンドを浮かべると、軽く指を鳴らした。

 ウララーの頭上に、砲塔や瓦礫が雨のように降り注ぐ。
 先程、ウララー自身が破壊した艦の破片だ。

「何だい、そりゃ… 僕をナメてるのかッ!?」
 ウララーは羽を一閃させた。
 あっという間に、頭上に飛来した数々の鉄片が砕け散る。
「僕を潰したいんなら、軍艦でも落とすんだなァァァッ!!」

「…では、お言葉に甘えて」
 丸耳は再び指を鳴らす。
 ウララーの頭上の空間が裂け、150m近くある巨大な艦が空中に現れた。
 先程、『ヴァンガード』のミサイルが直撃して戦闘不能になった自衛隊艦だ。

「なッ…!?」
 流石のウララーも、驚きの表情を浮かべる。
 丸耳のスタンド『メタル・マスター』は、掲げていた右手を振り下ろした。
 ウララーの頭上に浮遊していた巨艦が、重力に縛られたように落下する。

「うおおおおおおおおおおぁぁぁぁッ!! ブッ潰れろォォォォッ!!」
 ウララーは、羽から大量の光を放った。
 その光は、落下してくる頭上の艦に照射される。
 鮮やかな光が艦を叩き潰し、引き裂いた。
 轟音と共に、艦は真ん中から真っ二つに裂ける。
 砕け散る艦体が周囲に飛び散った。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は、『フィッツジェラルド』の上に降り注いだ艦の破片をウララーに弾き返した。
 破片といっても、1mを越えているものも多い。
 その鉄片は、高速の凶器となってウララーに飛来する。

「…徒労だァッ!! そんなものが通じるかァァァッ!!」
 艦の破片は、鮮やかな光の渦に呑みこまれる。

 バラバラになった艦体が、海面に叩きつけられた。
 総排水量5000トンを越える巨体。
 轟音と共に、津波と見間違うような水飛沫が上がる。

 ウララーの視界が、シャワーのように飛び散る水飛沫に染まった。
「ハハハッ!! どうだッ!! アハハハハハハハハハハッ!!」
 狂笑するウララー。
 その身体に、霧のような水飛沫を浴びる。

 ――背後から殺気。
 ハンマーを構えたしぃ助教授が、水飛沫に紛れて跳んだのだ。

「水飛沫は目潰しって訳かい!? そんなショボイ手が僕に通用するとでも――」
 ウララーは、虹色の光を背後のしぃ助教授に向けた。
「――思ッたのかァァァァァァァァッ!!!」
 質量を持った光は、空中でハンマーを振り上げているしぃ助教授に直撃する。

 ――手応えが薄い。
 光を浴びて、ニヤリと笑うしぃ助教授。
「な…!?」
 ウララーは声を上げた。
 その脳内に疑問が渦巻く。
 何故だ? 
 確かに、確かに確かに確かに身体に直撃させたはずなのに…!!

「光は微粒子に当たると散乱し、水面などでは屈折します。
 微細な水飛沫なんて、両方の性質を満たしていますよねぇ…」
 しぃ助教授はそのままハンマーを構えると、渾身の力を込めてウララーの身体に叩きつけた。
 ベキベキと骨の砕ける音が伝わってくる。
「光の性質くらいは知っておきなさい。仮にも、それを操るスタンド使いなのならね…!」

「が… ぐぉぁぁぁぁッ!!」
 ハンマーの直撃を受けたウララーの半身は、無惨なまでに潰れた。
 そのまま、『フィッツジェラルド』の前部甲板の方へ吹っ飛んでいく。
 全身から血を撒き散らしながら、ウララーの体は艦首に激突した。
 その余りの勢いに、艦が大きく揺れる。

「とは言え… もろに浴びたのは事実。こちらも無傷とはいきませんでしたね」
 しぃ助教授は空中で身体を翻すと、『フィッツジェラルド』の前部甲板に着地した。
 肋骨が何本か、そして左上腕骨が損傷したようだ。
 だが、倒れている暇はない。
 相手は吸血鬼。
 頭部以外への攻撃は、すぐに再生してしまうのだ。
 さっきの一撃すら、致命傷には程遠い。

 目の前の甲板に、血塗れのウララーがめり込んでいる。
「覚悟!!」
 しぃ助教授は、その頭部目掛けてハンマーを振り下ろした。

568:2004/06/10(木) 17:48

「ウォォォォォォォァッ!!」
 ウララーの周囲に、幾重もの光が広がった。
 甲板がベキベキと砕ける。
 振り下ろされようとしていたハンマーは弾かれ、甲板に落ちた。

「ぐゥゥッ…」
 フラフラと立ち上がるウララー。
 彼はゆっくりと頭に手をやる。
 ぬるりとした感触。
 その掌を、じっと眺めた。
 べっとりと血で濡れている手を。

「何だよ、これ…」
 ウララーは、熱に浮かされたように呟く。
 じっと、掌を凝視しながら。
「…何なんだよ。これ、血だぜ? 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。痛いじゃないか。
 ちゃァァァァァァァァんと痛いじゃねェェェェェェかァァァァァァァァァよォォォォォォォッ!!」
 叫び続けるウララーの周囲で、鮮やかな光が渦を巻いた。
 
「…抑えろッ! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授はスタンドを発動させた。
 『セブンス・ヘブン』で散らしているにもかかわらず、その光は甲板を破壊する。
 ウララーが立っている艦首部分は、大きく抉られた。
 艦の破片が、そのまま海面に音を立てて崩れ落ちる。

 ウララーの体はゆっくりと浮かび上がった。
 そして、眼前に立つしぃ助教授を真っ直ぐに見据える。
「…決めた。『矢の男』の次はオマエだ。この痛み、65536倍にして返してやるよ…」
 そう言って、ウララーは背後を見せた。
 その背に、凶々しい蝶の羽が煌く。

「…楽しいなァ! こんなに殺したい奴がいるなんて、初めてだよ…!!」
 そう言って、ウララーは飛び去っていった。
 しぃ助教授は、瞬く間に遠くなっていくウララーの姿を見つめる。

 駆けつけてきた丸耳が口を開いた。
「…妙ですね。さっきの男、勝負を先延ばしにするタイプには見えませんが」
 しぃ助教授は頷く。
「…ええ。おそらく、ウララーの襲来は波状攻撃の第一波でしょう」

「では、第二波が…!!」
 驚愕の表情を浮かべ、しぃ助教授の顔を凝視する丸耳。
 しぃ助教授は、甲板に転がったハンマーを拾い上げる。
「…その確率が高いですね。丸耳、ただちにCICに戻って艦を指揮しなさい。
 私は、ここでギリギリまで攻撃を防ぎます」

「了解しました。お気をつけて!」
 そう言うが早いか、丸耳はたちまちのうちに姿を消した。
 その直後、前方から僅かな飛行音が響く。
「…来ましたね!」
 しぃ助教授は、夜の闇を凝視した。

 何か、飛行物体がフラつきながら近付いてくるようだ。
 あれは… 自衛隊の哨戒ヘリコプター!?
 動きから見て、操縦系統に損傷があるようだが…

 ヘリは徐々に接近してくる。
 狙いは、間違いなくこの艦だ。
 しぃ助教授は、その操縦席に座る人影を確認した。
 シートに座っている女と目が合う。
 あれは…!

「…『セブンス・ヘブン』!!」
 メインローターの回転を阻害し、機体を傾かせる。
 もともとフラフラだったヘリは、そのままバランスを崩して水没した。
 だが、操縦席に座っていた人影は墜落直前に脱出したようだ。
 しかもパラシュートを使わずに、ただの跳躍で。
「…チッ」
 しぃ助教授は舌打ちをした。
 人影は、驚くべき跳躍力で『フィッツジェラルド』の艦首に飛び移ってくる。

「…おっと、貴女が乗ってたんですか。それは気付きませんでした」
 しぃ助教授はその人影を見据え、笑みを浮かべて告げた。
「完全に目が合ったように思ったが… どうやら、その目は飾りらしいな」
 ヘリから飛び移ってきた女、リナーは表情を変えずに言う。
 その服は各所が破け、穴だらけである。

「…これはまた涼しそうな格好ですね。モナー君を誘惑でもする気ですか?」
 しぃ助教授は、挑発的な笑みを浮かべて言った。
 リナーはその視線を軽く受け流す。
「それなら、服1枚犠牲にしなくとも足る。
 …それより、もうすぐ『教会』の航空隊が押し寄せてくるぞ」

569:2004/06/10(木) 17:49

「まったく… 次から次へと」
 しぃ助教授はため息をついた。
 そして、素早く無線機を操作する。
「…私です。到着を急いで下さい。自衛隊の潜水艦は、まだ付近に潜伏していると思われます…」

「ASAの潜水艦艦部隊か?」
 リナーが訊ねる。
 しぃ助教授は無線のスィッチを切ると、リナーに視線を戻した。
「まあ、そんなとこですね。あれだけ暴れた敵潜水艦が、全く動きがないのは妙です」

「自衛隊の艦隊も、『教会』の航空部隊の襲撃を受けている。救援に向かったんじゃないか?」
 リナーは腕を組んで言った。
「…だとしたらいいんですがね。司令官たるもの、楽観的な判断を下すわけにはいきません」
 しぃ助教授はため息をついて視線を落とした。
 早々に護衛艦が全て沈められたのも、司令官たる自分のミスなのだ。
 被害だけを見れば、ASAの完全敗北に近い。


 前方から、航空機のエンジン音が響いてきた。
「…来るぞ!!」
 リナーは、銃口が大きく開いたスナイパーライフルを取り出した。

 ――バレット・M82A1。
 通称『バレットライフル』。
 12.7mm50口径弾を使用する、強力な対物ライフルだ。

「さて、サクサク落としますか…」
 しぃ助教授は、ハンマーを頭上で軽く回した。
 その背後に、『セブンス・ヘブン』のヴィジョンが浮かぶ。

 空は、たちまちにして敵機で染まった。
「落ちろッ!!」
 リナーの放った弾丸が、Bf109の主翼を直撃する。
 コントロールを失い、炎に包まれる機体。
 そのコックピットから、吸血鬼が飛び降りた。

「Hallelujaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
 空中で機関銃を乱射しつつ、軍服の吸血鬼は前部甲板に着地した。
 そのまま、しぃ助教授に飛び掛かる。

「やれやれ。ダンスの誘いは遠慮しておきますよ…」
 しぃ助教授は、その吸血鬼の頭部をハンマーで叩き潰した。
「…1人で踊りなさい」

 リナーが、次々に航空機を撃ち落していく。
 コックピットから飛び出した吸血鬼が、次々に甲板に降り立った。
 その頭部に、ハンマーを叩きつけるしぃ助教授。

「…私もヴァンパイアハンターみたいじゃないですか? こんな風にハンマー持ってると。
 これでありすの服でも着て…
 『汝、魂魄なき虚ろの器。カインの末裔、墓無き亡者。Ashes to ashes Dust to dust…』
 …なんて言うのも結構似合ってません?」
 しぃ助教授はハンマーを軽く振って言った。

「外見的に、20は若返らないと無理だな」
 リナーは、視線を合わせずに吐き捨てる。
「それより、次々に来るぞ。どうやら、艦を制圧するつもりらしいな…!」

 航空機から、次々に軍服の吸血鬼が飛び降りてくる。
 リナーはバレットライフルを甲板に投げ捨てると、バヨネットを取り出した。
 それを、十字の形に交差させるリナー。

「Dust to dust… 塵は塵。灰は灰。土は土。水は高きより落ち、万物はその至るところに終焉ず。
 塵たる貴様達の居場所など、世界のどこにもありはしない…!」



  /└────────┬┐
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570丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:37

  くるっぽー。くるっぽー。くるぽっぽー。くるくるー。くるぽー。

 茂名王町西公園の一角に、数十羽の鳩が集まっていた。

  くーくるくるっ。くるるるっ。ぽぽー。ぽっくるー。

「ほーらお食べーおいしーよー」

 その中心で、車椅子に乗ったしぃが盛大にパンくずを撒いている。
「マルミミ君もどうー?」
「いや、いい…」
 鳩でみっしり覆われた車椅子。
誘惑に負けて血を吸ってしまってから今日で二日が経つ。
吸血鬼化も免れ、身体の麻痺も治まりかけてはきたものの、まだしぃの下肢には麻痺が残っていた。

 『マルミミが投薬を間違えた』と、ある意味本当のことよりもマズイ言い訳でとりあえず口裏は合わせてある。
あんまり閉じこもっていても体に悪いので、今日は買い物ついでの散歩だった。

(今頃は、もう退院できてる筈なのに…僕がもっと)「えいっ」

 やけに可愛らしいかけ声とともに、こっちに向かってパン屑袋が投げられてきた。
「え」
 反射的に受け取ってしまい、そこに向かって飛んでくる鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩鳩―――――
「うおぉぉわーっ!」
 平和の象徴だろうが何だろうが、徒党を組んで向かってくるモノは例外なく怖い。
遠慮も容赦も躊躇もなく飛んでくる鳩が、マルミミの身体をつつくつつくつつく。
「痛痛痛痛ッ!」
 慌てて逃げまどうが、鳩たちはパン屑袋に向かってくるっぽくるっぽと追いすがってくる。

こっちの葛藤も知らず面白そうに笑うしぃを視界の端にとどめながら、それなりに必死で走り回った。





「…あ」
「マルモラしゃん?どうしたんれすかぁ?」
 ベンチから少し離れた茂みの向こう。
マルモラと呼ばれた少年の呟きに、隣の女の子が舌っ足らずな声で答えた。
「ほら、アレ」
 す、と少年が、向こうの鳩の群れに追い回される丸耳の少年を指さす。
「おや、マルミミしゃんですねぇ。おぉ〜い」

571丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:38



「おぉ〜い」
 ―――どこからか聞こえて来た声で、ふと我に返った。
しぃに向けてパン屑袋を投げ返し、足を止める。

「マールミーミしゃぁーん」
 声のした方を見ると、髪を両側で束ねた幼い感じの少女と、丸耳のモララーが軽く手を振っていた。
「丸茂と…ののちゃん」
「よ、久しぶり。マルミミは今日学校いいの?」
「丸茂こそサボりでしょ。僕は休み…あ、紹介するね」
 二人の視線に気がついて、鳩と戯れるしぃを指し、
「シュシュ・ヒューポクライテ…ウチの患者さん。んで、」
 くるり、としぃに向き直って二人を指し、
      マルモ リョウイチ        ジン ノゾミ
「コイツが『丸茂 良一』で、こっちが『辻希美』ちゃん」
「初めまして」「よろしくなのれす〜」
 長身を折りたたんで丸茂が、舌っ足らずな声でののが頭を下げる。
「あ、こちらこそ」
 体中に鳩を止まらせたまま、しぃが恐縮したようにお辞儀を返した。


 マルミミ以外に同世代の人間と付き合っていなかった反動か、他愛もない雑談が始まった。
趣味は何だの、好きなタレントは誰だの、どのくらいで退院できるだの―――

「―――ちょっとマルミミ借りてっていい?」

 そんな下らない話を続けて数分程経った頃、急に丸茂がそう言った。
きょとんとした二人の視線に、笑って手を振る。
「ホラ、男同士女同士でしか喋れないこともあるし、十分くらいしたらまた戻ってくるから」

「…わかりました。行ってらっしゃいなのれす」
「うん、それじゃ」
そう言うと、マルミミの手を強引に引っ張って公園の奥へと消えていった。

「…どうしたんだろ?」
「ンフフン。男同士で秘密の会話なのれすよ〜」
どこかわかっていない様子のしぃに、ののが楽しそうに笑った。

572丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:40





 公園の奥で、丸茂がベンチに座る。
ここならしぃからは死角になっているから、込み入った話もできるだろう。
 長い脚をきざったらしく組み上げて、背もたれにふんぞり返りながら聞いてきた。

「…で、マルミミ。なんか相談したいって思ってただろ」

 顔を合わせて十分もしないのに見破られてしまった。…全くコイツは、人の心を読むのが上手い。
内心どきりとしながらも、冗談めかした口調で誤魔化す。
「相談というか聞きたいことは…ある、かな。ののちゃんの服にあった怪しげなシミとかシワとか掛け違えたボタンとか…」
「マ・ル・ミ・ミ」

 …笑いが消えた真剣な顔。話すべきか隠すべきか。
数秒ほど躊躇したが、結局真面目に相談することにした。

「…全部は言えない」
「それでもいいよ。マルミミの話を話せる分だけ聞いて、それで言えることだけ答える」

 ありがと、と小さく呟いて、どこから話すべきか考える。

―――いやぁ僕ホントは吸血鬼でさ、ケガした勢いで魔眼使って血ぃ吸っちゃったんだよねー。
     で、もしかしたらまた吸っちゃうかもしれないんだよ。すっごく美味しくて。

 …いやいや、口が裂けてもこんな事は言えない。
とりあえず当たり障りのないところをまとめて、口を開いた。

「…一昨日…しぃに、さ。酷いことしちゃったんだよ。本人は覚えてないんだけどね」
「覚えてないんだろ?普通にやってればいい」
 不思議そうに答える丸茂に、弱く笑いかける。
「簡単そうに言うけどね…怖いのは、僕がまた酷いことしちゃうんじゃないか…って事なんだよ。
 僕は、しぃの事を大事に思ってるんだと…思う。けど、それが純粋な想いなのか単なる欲望なのか解らないんだ」

 うつむいて話すマルミミに、呆れたように丸茂が言った。
「…馬鹿」
「なぁっ…!人が折角真面目に話してるのにっ!」
「そんなこと真面目に話してるから馬鹿って言ったんだよこの恋愛初心者の潔癖性」

 立て板に水の口調でさらさらさらさらと畳み掛けられる。
一言くらい言い返してやりたかったが、あいにく馬鹿も恋愛初心者も本当の事。

573丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:42

「ぅぅううるさいっ!学校サボって公園で青○やってる奴に言われたくないっ!」
 どうにか絞り出した反論に、丸茂はぴっと指を立てて頷いた。
「そ。僕だってそうだよ。ののを見てる目に欲望が無いか、って言えば…やっぱり、ある。
 けど、好きな娘を自分の物にしたいとか…そういうのは誰にでもある事だろ?
 そんなありふれた事で目一杯悩んでるんだから、恋愛初心者なんだよ。
 酷いことするんじゃないか…つまり、傷つけたくないって思ってるんだろ?なら、酷い事なんてする筈ない。
 保証してもいいけど、お前さんは善人なんだから。もっと胸張って接してやれ。
 さもないと…只でさえ小さい背が更に小さく見えるぞ」

 ばん、と強めに背中を叩かれる。慰めではない、本心からの言葉。

「―――ありがと。楽になった」
 そう言って、マルミミがにっこりと笑う。
「ならよかった。…じゃ、そろそろ戻ろ。ののが寂しがってる」
 とん、とベンチから立ち上がり、鳩の群れを散らしながら女二人の元へと戻る。
そのまま雑談会はお開きとなり、マルミミとしぃが公園から出て行った。


「…マルモラしゃん、何のお話してたんれすか?」
 自分たち以外は誰もいなくなった公園の真ん中、舌っ足らずな声でののが問う。
「青臭い恋の悩み…かな。けど…大して役には立たなかったみたい」
 溜息一つ、呆れ混じりの声。

…全くアイツは、自分の心を隠すのがヘタだ。
あそこまで悩んでた奴が、そんな簡単に『ありがと。楽になった』なんて言えるはずが無い。
顔色も声色も変えないのに…いや、変えないからこそ、嘘と見抜きやすい。

「まあ…最後の最後は、僕等の問題じゃ無いからね…」
 そう言うと、どこか呆れの混じった溜息を吐いた。

574丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:43



「今日のご飯…シチューでいいね?」
「うん」
 車椅子を押しながら、畑を耕しているおじさんに手を振った。
おじさんもでっかい声で、手を振り替えしてくる。
「おーぅ!マルミミ君、お使ぇか?」
「そうですー」
「偉ぇなぁ!」
「どうもー」
 しぃも散歩がてらに何度か挨拶したことがあるので、彼とは面識がある。
「…そういや、お嬢ちゃんどうした?この前は車椅子なんか乗ってなかったに」
「えーと…ちょっと医療ミス」
「あっはっは、そりゃ大ぇ変だ!」
 冗談と思ったのか、大声で笑い飛ばしてくれた。
実際は更に酷いことしたとは、口が裂けても言えない。

「ま、病気も怪我もうめぇモン食や治るわ!待ってろ、じゃがいも分けたるけ、早く治しゃあ」
「ありがとう。助かります」
 隣でも、しぃがぺこりと頭を下げる。
「何ぁーに、気にすんなや」

 もう一度深々と頭を下げ、畑を後にした。

更に近くの港や農場でも、
「おーう、マルミミ君!ブリのアラ持ってけ!」
「看病も大変だろ。タマゴどうだー?」
「お嬢ちゃん、怪我にいいよ!逝きのいいギコの干物やる!」

 畑や漁船のそばを歩くと沢山の人がマルミミに野菜や作物を放ってきた。

「…人気者だねぇ、マルミミ君」

 みんな、彼の身の上に起きたことを知っているのだ。
それはけして同情とか哀れみではなく…上手くは言えないが、人の繋がりとでも言うのだろうか。
虐待だの何だので物騒な世の中でも、ここの優しさだけは平和だと思う。
「…そうだねぇ」



 そして、茂名王町の商店街に着く頃には。
「…結局、どこにも寄らないで材料殆ど揃っちゃったな」
 商店街まで歩いて、何も買わずに帰るというのも無駄な気がして辺りを見回す。
と、『伊予書房』と看板が掛かった小さな本屋が目にとまった。
店の規模の割に品揃えも良く、隠れた穴場となっている。
もっとも、店主が茂名の茶飲み友達なのでエロ本を買えないのが難点と言えば難点か。
「本屋、寄ってこうか」
「はーい」
 きぃ、と音を立てて、階段横のスロープに車椅子を押した。

575丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:44


「こんにちわー」                        イヨ
 からこん、とドアベルが鳴り、本を読んでいた店主の伊予さんが愛想良く眼鏡を外した。
「ぃょぅ、マルミミ君。女の子連れで何をお探しかね?」
「スタンドに関する文献を…じゃなくて、適当に面白そうなもの買っていこうかと」
「そうかょぅ。ゆっくりしてけばいぃょ〜ぅ」
 軽く伊予さんに手を振って、車椅子を押したまま奥の棚へと進む。
と、絵本コーナーの前で車椅子のブレーキが引かれた。
「…しぃ?」
どうしたのかと前に回ると、しぃが一冊の絵本をじっと見つめていた。
「…『はなをなくしたぞうさん』…?」
「あ、ゴメン…懐かしくて、つい」
 ふっと我に返ったように、小さくマルミミへと笑みを返す。
「思い出の本?」
「…小さい頃ね。母さんに、よく読んでもらったんだ。一日に何回もねだって困らせちゃったのを覚えてる。
 懐かしいな…まだ、出版されてたんだ。―――むかし あるところに いっとうの としおいた ぞうが おりました―――」

 そう言うと、すらすらと本の中身を暗唱し始めた。
マルミミも絵本を手にとって、しぃの言葉に合わせて絵を追っていく。

 鼻をなくした一匹のぞう。
その一生を描いた、ほんのりと悲しい物語。

「凄いね…中身、全部覚えてるんだ。一字一句漏らさずに」
「記憶力には自信あるからね。…案外、これが始まりかも。…けど、ホントに懐かしいな」

 そっと本を裏返し、さりげなく値段を確認する。

…絵本って、高いんだなぁ。
(しかも、内容全部を暗記してるなら…あんまり意味無い…よねぇ…)

 『また今度ね』と言いかけた瞬間、B・T・Bの思考が割り込んできた。
(ナニ シミッタレタ 事言ッテルン デスカ。買ッテ アゲナサイ、御主人様。ケチケチ シナイノ)
(だってねぇ、B・T・B…僕の小遣い少ないんだよ…?)

(後デ茂名様ト 交渉シテ アゲマス カラ。ホラ、プレゼント シナキャ)
「そうなの…?うーん…じゃ、伊予さーん?コレ、買いますー」
 まいどありーぃ、と手を振る伊予さんを横目に、しぃが弾んだ口調で聞いてきた。
「え、いいの?」
「いいよ、別に。僕も欲しいって思ったし」
「…わぁ…ありがと!大事に読むから!」

―――ああ、そう言えば。しぃは診療所に来てから一度も何かをねだった事が無かった。
     そんなしぃが初めて物を欲しがったんだ。よっぽど、大事な思い出があったんだろう。

(そう考えると…この本も、まんざら高い買い物でも無かったかな)
 鼻歌交じりで大切そうに袋を抱きしめるしぃを後ろから見下ろして、ぽつり、とそう思った。



  /└────────┬┐
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576丸耳達のビート:2004/06/12(土) 01:45

  ∩_∩
 (・∀・ ) ∋oノハヽo∈
と(    つ  (´酈` ) 
   Y 人   ⊂   ⊃
  (_)_)  (__ (___)

マルモリョウイチ
丸茂 良一

長身痩躯を持つ、マルミミのクラスメート。
勉強・運動・恋愛を人並み以上にこなし、ルックスもイケメン。
初登場で○姦疑惑の羨ましい奴。

…なんか書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そして頭蓋骨を削られただけで助かります。


ジンノゾミ
辻 希美

童顔巨乳を持つ、丸茂の恋人。
おバカだけどいつもニコニコ。鬼畜な事をされてるけど純愛。
アイドルとは一切何の関係もありません。

…口調書いててイラつくことこの上ないので近いうちに死にます。
そしてSPMの科学力によって復活します。


はなをなくしたぞうさん

絵本。しぃが親元にいるとき、何回も読んで貰ったお気に入りの作品。
本作における重要なキーアイテム。嘘かも。
デッドマンズQの『鼻をなくしたゾウさん』とは一切関係とかありません。

577:2004/06/12(土) 20:55

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その7」



          @          @          @



「敵は、吸血鬼ですッ!!」
 背後から、慌しい声が響く。
 ブリッジに駆け込むなり、艦員が叫んだのだ。
 立派な椅子に座っている男が、ゆっくりと顔を上げた。
 そして、息を切らしている艦員の顔を見据える。

「…確かに吸血鬼だな? スタンド使いでもその他の何かでもなく、吸血鬼なんだな?」
 第1護衛隊群の旗艦『しらね』。
 その艦を任されている海将補は、椅子から立ち上がって言った。

 ――吸血鬼。
 一般人ならいざ知らず、国防にかかわっている人間ならその実在は知っている。
 だが… 奴等は闇に潜む存在。西洋の古い町などで、ひっそりと屍生人を増やす連中なのだ。
 その吸血鬼が集団で襲撃を掛けてきたという事例など、初めて耳にする。

「間違いありません! 銃器で武装した吸血鬼です!」
 艦員は慌てた様子で告げる。
「すでに多数が艦内に侵入しています。指示をお願いします、司令!」

「軍律によって統制された吸血鬼か…」
 海将補は立ち上がると、ブリッジに備え付けられているコンソールを操作した。
 彼の肩章には、2つの桜が並んでいる。
 単にこの『しらね』の艦長というだけでなく、第1護衛隊群そのものの司令でもあるのだ。
 ここで判断を誤れば、艦隊は全滅する。

「僚艦は――?」
 コンソールを素早く操作しながら、海将補は訊ねる。
「大規模な爆撃と侵攻を受けていますが…
 ASAのミサイル攻撃を受けた『たかなみ』を除き、全艦がなんとか健在です。
 ただ、第2護衛隊群の旗艦『くらま』の損傷は大きく、すでに退艦命令が出されています…!」

「指揮権移譲か…」
 海将補は呟いた。
 自分の肩に、第2護衛隊群の運命までもがのしかかってしまったようだ。
 このままでは、制圧されるのも時間の問題。
 余裕があるうちに全員退艦の命を出すか?

 ――いや。
 15艦に及ぶ大艦隊の総艦員が退艦すれば、誰がそれを救助するのだ?
 4500人を超える人員だ。
 それだけの大人数を救助など、どう足掻いても不可能。
 まして現在の海水温度は低く、2時間も持たないだろう。
 本土からの救助船など、確実に間に合わない。
 下手に退艦すれば、全滅どころか全員死亡の可能性も――

 防衛庁のデータベースに接続し、情報を引き出す。
 ディスプレイに大量の文字が躍った。
 それを素早く参照する海将補。
「…よし」
 あらゆる情報を叩き込んで、海将補は視線を上げた。

 吸血鬼…
 その言葉に惑わされるな。
 相手は、ゴシックホラーの主役である妖怪などではない。
 闇夜にマントを翻す、貴族然とした不死の超越者などでは断じてない。
 石仮面により、未知の脳の機能を発揮した『元人間』なのだ。

 連中は、銀の弾丸もニンニクも流水も白木の杭も恐れない。
 ただ、日の光に身を焼くのみ。
 目から体液をウォーターカッターのように放ったり、体毛を刃物のように扱ったりするという例もあるが…
 己の身体を武器にするのは、野生動物の牙や爪と同じ。
 一般的な伝承のように、魔術を使ったりコウモリや霧に変化したりする訳ではない。

 吸血ならコウモリでもやる。
 再生なら原生生物ですらやってみせる。
 生物的強度は人間を遥かに越えるが、生物そのものを超越した訳ではない。
 確かに脅威の化物だが… 決して殺せない相手ではないのだ。

「艦内の発光信号用大型ライトを掻き集めて、予想侵攻ルート上に並べろ」
 海将補は部下に命令を下した。
 あれなら、微量ながら紫外線を照射できるはず。
 足止め程度にはなるだろう。
 あとは…

「艦員からただちに射撃経験者を集め、要所に配置だ。
 7.62mm弾で頭部のみを狙え。決して近接戦闘には持ち込むな。こちらに勝ち目はない。
 以上の内容を、至急全艦に通達せよ!!」
 海将補は指示を出す。
「はっ!!」
 艦員は敬礼すると、素早くブリッジから出ていった。

「外国との交戦経験は一切なく、スタンド使い、そして吸血鬼と初めて戦った軍になるとは…
 つくづく数奇な運命だな、我が国の軍隊は…」
 呟きながら、海将補は時計を見る。
 現在、午前5時。
 あと1時間30分ほどすれば、太陽が昇る。
 それまで何とか持ちこたえれば…

578:2004/06/12(土) 20:56



          @          @          @



「ゴルァ!!」
 『レイラ』の刀が一閃し、軍服の吸血鬼の上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
 そして、甲板に転がった上半身の頭部に刀を振り下ろす。

 そのギコの背を襲う、機関銃の弾丸。
 俺はその射線に割り込むと、弾丸をバヨネットで叩き落した。
 弾きそこなった弾丸が、幾つか俺の身体にめり込む。

「…痛いモナッ!!」
 俺はすかさず踏み込むと、吸血鬼の顔面にバヨネットを突き立てた。

「ったく… キリがねぇな、これじゃ!!」
 ギコはM4カービンライフルを構えると、正面の吸血鬼の群れに掃射した。
 致命傷にはならないものの、向こうの体勢を崩す事はできる。
 俺はその隙に飛び込んで、次々に吸血鬼の頭部を『破壊』した。

 それでも、吸血鬼達は次から次へ降下してくる。
「ギコ! 後ろッ!!」
 俺は叫んだ。
 ギコの背後から、吸血鬼がスコップを振りかざしてまっすぐに接近している。

「直線の攻撃が、俺に通じるかゴルァァァァァッ!!」
 ギコは吸血鬼の腕を掴むと、そのまま背負い投げを掛けた。
 吸血鬼の体は甲板に叩きつけられ、そのまま柵を破って海面に落下していく。

「ハァハァ… 向こうの艦は大丈夫なのかよッ!!」
 ギコは、息を切らしながら叫んだ。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』で『フィッツジェラルド』の様子を視る。

 甲板上を舞い躍るバヨネットとハンマー、そして山積みになった吸血鬼の骸。
「本当にもう… 次から次へとッ!!」
 しぃ助教授が、ハンマーを振り回している。
 次々に潰されていく吸血鬼。

「――我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。
 汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り、陶工の器物の如くに打ち砕かんと。
 されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ――」
 リナーも、バヨネットで吸血鬼達を斬り刻んでいた。

「…どうだ、向こうは?」
 ギコが訊ねる。
「…詩篇2・8〜10節のフレーズも飛び出してノリノリモナ。あっちのコンビは、全然大丈夫!」
 俺は、バヨネットを構えて言った。
 ギコが、目の前の吸血鬼を斬り倒す。
「ヤバいのはこっちか… 今でこそまともに戦えてるが、長期戦になると…」

 そうだ。
 俺はともかく、ギコの肉体は普通の人間だ。
 何時間も戦い続けられるはずがない。
 ましてや、刀を振るうには多大な集中力も必要だろう。

「しかしこいつら、一体何なんだ!!」
 ギコは大きく刀を薙ぐ。
 俺は身を翻すと、正面の吸血鬼の首を斬り落とした。
「多分、『教会』の奴等モナ…」

「教会だと…ッ!」
 ギコの背後で、吸血鬼が短剣を振りかざす。
 ギコは素早く懐から拳銃を抜くと、振り向き様に射撃した。
 吸血鬼がほんの少しよろけた瞬間、『レイラ』の刀が脳天に振り下ろされる。
「畜生、くっちゃべってる余裕もないか…!」

579:2004/06/12(土) 20:59

 …!?
 不穏な気配を感じる。
 これは… 何だ…?
 とても、巨大な…

「どうした、モナー?」
 俺の動揺を感じ取ったギコが、声を掛けてきた。
 『アウト・オブ・エデン』が、またしても巨大な艦艇の接近を捉えたのだ。
 かなりの速度で、こちらに接近してくる。
 もう、今さら何が来ても驚かないと思っていたが…

 それは、350mを越える大きさの空母だった。
 『スーパー・キャリアー(巨大空母)』というヤツだ。
 おそらく、吸血鬼達の母艦…
 艦横部には、『Graf ZeppelinⅡ』と刻まれている。
 たぶんドイツ語だろう。
 『グラーフ・ツェッペリンⅡ』と読むのか…?

「ギコ、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』について薀蓄を頼むモナ!」
 俺は、吸血鬼の攻撃を避けながら言った。
「『グラーフ・ツェッペリンⅡ』なんぞ知らんが… 『グラーフ・ツェッペリン』なら有名だ。
 ナチスドイツ初の航空母艦になる予定だったが、戦況の悪化にしたがって計画が中止になった…ッ!」
 背後に立った吸血鬼を斬り倒すギコ。
「もう少し語りてぇが、今は余裕がねぇッ!!」

 またナチスか。
 すなわち、『教会』の艦。
 カトリック教会とナチスドイツは、ある程度癒着していたという話は聞いた事がある。
 虐殺を黙認し、ナチス残党の国外脱出に手を貸したとか…

 …?
 妙な気配に、俺は空を見上げた。
 1機のヘリが飛行している。
 それも、押し寄せる航空機とは逆行する方角に…
 そう。『グラーフ・ツェッペリンⅡ』の方向だ。
 撃墜されないところを見ると、『教会』側の機体なのだろう。
 中に乗っているのは…

 …!!

「Sieeeeeeeeeeeeeeg Heeeeeeeeeeeil!! Uryyyyyyyyyyyyyyyyy!!」
 吸血鬼が奇声を上げながら飛び掛ってくる。
 俺は、その額にバヨネットを突き刺した。

 ヘリは一瞬のうちに飛び去っていく。
 中に乗っていたのは、5〜6人。
 その中に、よく知った顔があった。
 奴は微かな笑みを浮かべながら、この『ヴァンガード』を見下ろしていたのだ。

 独特にカールした前髪。
 ありふれた眼鏡。
 一見、知的そうな瞳。
 そして、見覚えのあるTシャツ。
 そう。ヤツも、『教会』側の人間なのだ。

「キバヤシィィィィィィィッ!!」
 俺は、ヘリが去った方角に叫んでいた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

580ブック:2004/06/13(日) 01:17
     EVER BLUE
     第三十話・LUCK DROP ~急転直下〜 その四


「どうなっています?」
 山崎渉が、オペレーターに尋ねた。
「未だ敵船への乗艦は叶っていません。
 急襲用迫撃射出錨(アサルトアンカー)も、変な力に遮られて…」
 オペレーターが申し訳無さそうに告げる。
「…存外に苦戦していますね。」
 山崎渉が、呟くように言った。

「さて、このままではジリ貧の消耗戦。
 埒が開きませんね。」
 山崎渉が考え込む。
 そして、何か思いついたようにはっと顔を上げた。

「仕方ありません。
 福男と、ヒッキーをこれへ。」
 山崎渉がパチンと指を鳴らした。

「御前に。」
「オンマエニ…」
 全身を黒のスプリンタースーツに包んだ丸坊主の男と、
 暗い顔をした小柄な男が山崎渉の前に現れた。

「もう何を言われるかは分かっていますね。
 なかなか敵さんがしぶとくて困っています。
 全滅させろとまではいいません。
 その能力を活用して敵艦へ乗船、思うように埒を開けて来なさい。」
 山崎渉が二人を見据えて命令する。

「御意。」
「ギョイ…」
 福男とヒッキーが同時に返事を返す。

「それではお願いしますよ。
 あなた達のスタンド『テイクツー』と『ショパン』には、
 期待していますからね…」
 山崎渉が不気味な笑みを浮かべた。

581ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



「AHHHHHHHHHHHHH!!!」
「GAAAAAAAAAAAAA!!!」
 プロペラ機から飛び移ろうとする吸血鬼達が、
 次々とタカラギコのパニッシャーに撃ち落されていく。
 辛うじて着艦した者もいはするのだが、
 その者達も即座に銃弾を叩き込まれて絶命した。
 しかし、そらより飛来する戦闘機の数は一向に減る気配は無い。

「やれやれ、藪蚊みたいにやって来ますね…」
 タカラギコが溜息を吐く。
 しかし、愚痴は漏らしても撃ち漏らしは決して生じなかった。

「……さて。」
 タカラギコが上を見上げて、プロペラ機の一つを見定めた。
 その飛行機から人影が跳躍してくる。
 手馴れた様子でそれに照準を合わせるタカラギコ。
 そのままパニッシャーのトリガーを引いて…

「『テイクツー』!!」
 タカラギコが目を見開いた。
 タカラギコの放った銃弾を、掛け声と共に飛来する人影から現れた人型のビジョンが
 その腕で弾き飛ばしたのだ。

「…!スタンド使い!」
 舌打ちをするタカラギコ。
 さらに引き金を絞りその人影にパニッシャーを乱射するも、
 その悉くを人影は弾き返す。

「!!!!!」
 人影が『フリーバード』の甲板に着地した。
 飛び移って来たのは二人の男。
 黒いスプリンタースーツの男と、それに背負われた小柄な男。
 そう、福男とヒッキーである。

「!!!!!」
 そのまま、福男は近くのサカーナへと向かって突進した。
「サカーナさん!」
 タカラギコが、サカーナに向かって叫ぶ。

「『テイクツー』!!」
 福男がサカーナに向かって自身のスタンドを繰り出した。

「『モータルコンバット』!!」
 サカーナがスタンドを出現させた。
 しかし、もう既に福男の『テイクツー』の右腕は直前まで迫り―――

582ブック:2004/06/13(日) 01:18


「!?」
 福男は驚愕した。
 完全にサカーナを捉えたと思われた彼のスタンドの右腕は、
 サカーナに命中しなかったのだ。
 それどころか、彼の打ち出した腕が180度折れ曲がる形で目の前の空間から出現し、
 逆に彼に襲い掛かる。

「なっ!?」
 咄嗟に福男が飛びのき、寸前で彼の拳をかわす。
 すぐさま自分の腕を確認したが、特に変わった様子は見られない。

「…それが、急襲用迫撃射出錨の向きを変えた能力か。」
 福男がサカーナを睨む。
「当たり。
 どういう原理かは、自分で考えるこったな。」
 サカーナが得意げに答える。

「…いいのか?
 そんなにのんびりしていて。」
 福男がそう口を開いた。
「ああ?
 一体何の話だ…」
 そこで、サカーナがようやく何かに思い当たったのかすぐさま後ろに振り返る。
 するともう彼の目前にまで、
 『紅血の悪賊』の戦艦から発射された急襲用迫撃射出錨が迫っていた。

「おわァ!?」
 サカーナが情けない声を上げながら『モータルコンバット』を発動させる。
 直角に進路を折り曲げ、スレスレでサカーナとの直撃を回避する。

「貰った!『テイクツー』!!」
 その隙をついて、福男が再びサカーナへと突撃した。
「しまっ…!」
 急襲用迫撃射出錨をかわす事に完全に気を取られていたサカーナには、
 迎撃の態勢が整っていない。
 タカラギコも、空から来る吸血鬼達を撃ち落すのに手一杯である。

「!?」
 今度こそ福男のスタンドの拳がサカーナに当たるかと思われたその時、
 いきなり福男の足元の床に円形の亀裂が走った。
 それにより、福男とそれに背負われたヒッキーが居る場所の床が抜け落ち、
 二人は切り抜かれた床板と共に『フリーバード』船内に落下する。

「なっ!?」
 思わず驚きの声を出す福男。
「悪いが、上の奴の邪魔をしねぇでくれるかなフォルァ。」
 驚く福男に、ニラ茶猫が声をかけた。
 その右腕からは、『ネクロマンサー』によって作り出した刃が生えている。
 先程はこれで、福男の足元の床をくりぬいたのだった。

「貴様…!」
 福男がニラ茶猫に向かって構える。

「モウヒトリイルヨ…」
 と、福男の背中のヒッキーが呟いた。
 見ると、オオミミが福男とヒッキーをニラ茶猫とで挟む形で立ちはだかっている。
 その横には、『ゼルダ』の姿が出現していた。
「コッチノオトコハボクガシマツスルヨ…」
 ヒッキーは福男の背中から降りると、愛用らしきライフルをその手に担いだ。

「そうか、任せた。」
 背中合わせの状態で、福男が答える。

「……」
 一瞬の沈黙。
 互いが、視線や構えで互いの相手を牽制し合う。
 しかし、それも長くは続かなかった。

「『ゼルダ』!!」
「『ショパン』!!」
 オオミミとヒッキーが跳ぶ。

「『ネクロマンサー』!!」
「『テイクツー』!!」
 それと同時に、ニラ茶猫と福男が激突するのだった。

583ブック:2004/06/13(日) 01:18



     ・     ・     ・



 時を同じくして、山崎渉の乗る艦の左側に位置する戦艦。
 その甲板で警戒態勢を取る兵士の何人かが、夜空より来る黒い影をその目に捉えていた。

「…!?
 何だ、あれは!?」
 その影を指差し、兵士達は銃を構える。
 そんなこんなしているうちにもどんどん影は近づき、その輪郭を顕にしていった。
 それは、大きな黒き翼だった。

「!!
 撃てーーーーー!!」
 掛け声と共に、その黒き翼に向かって銃弾が放たれる。

「!!!!!」
 しかし銃弾が命中する寸前に、その大きな翼は無数の小さな翼へと姿を変えた。
 そして兵士達は見ていた。
 翼が飛散する直前に、一つの人影がその背から飛び出していた事を。

「!!!!!!」
 ストンと、一人の女がその艦上へと着地した。
 あれだけの高さから、あれだけの速度で飛び移ったにも関わらず、
 まるで手品のように、優雅に、ストンと。

 輝くような金色の髪。
 血のように赤い瞳。
 透き通るような白い肌。
 黒を基調とした、艶やかなドレス。
 そしてそのような出で立ちには凡そ似合わぬ、無骨で巨大で凶悪な得物。
 その姿が、月明かりに照らされ更に美しく彩られていた。

「…退け。
 これ以上の暴挙は、この儂が赦さん。」
 女が短く兵士達に告げる。
 薄くルージュのかかった少女のような唇とは裏腹、
 そこから紡がれる言葉は冷たく、鋭い。

「貴様…!
 貴様は!!」
 兵士達が女に向かって一斉に銃を構える。

「貴様は、『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』!!!」
 逃げ場の無い位に向けられる銃口。
 しかし、ジャンヌはそれでも微動だにはしなかった。

「もう一度言うぞ。
 退け。
 同朋は、斬りとうない…」
 『ガンハルバード』を左手に持ち、ジャンヌが言った。

「同朋!?
 言う事に欠いて何をぬかすか、『同族殺し』(ガンハルバード)!!
 腰抜けの女王に首輪を繋がれた雌狗め!!」
 憎しみの込められた視線が、銃口と共にジャンヌに突きつけられる。
 最早、いかなる言葉もそこでは意味を成さなかった。

「馬鹿者共が…!」
 ジャンヌが歯を喰いしばりながら、
 二つ名を冠する得物(ガンハルバード)を構える。
 その顔には、悲痛な表情が浮かべられていた。



     TO BE CONTINUED…

584新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:05
ネーノが大好きだったんで、ネーノ番外編勝手ながら書かして貰いましたー
(設定が違ってたりしたらニダーさんヨロスク)

〜NENO〜

―出会い編―

腹が空いた。もう時間の感覚さえない。
昨日、人を襲った。食い物を持ってなかったから体を食ってやった。
不味かった。矢張り無茶して食べる物じゃないか・・。
ココは・・ドコなんだ?そして今・・イツなんだ?

――貧民街。
俗にそういわれる街に俺は住んでいた。
どうしてココに居るのかわからない。
物心ついた時からココにいる。
もう何人人を殺したろう。・・覚えられる数は越したろう。

「お・・おい!ぼ・・ぼぼぼ・・坊主コラァッ!」
浮浪者の男がボロっちいコートを抱きかかえ、包丁を持ちながらコッチを睨み、叫んだ
「オッ・・オレッチのコートをぎ・・ぎ・・盗(ぎ)ろーったって!そうはいかねーぞッ!」
男は錯乱していた。まぁいつもこんな感じにワケのわからない因縁をつけてくる野郎が居る。

「邪魔・・」
ポツリとつぶやく
「ああッ!?聞こえねェよォ――!」
狂いながら包丁を振り下ろす男。
「邪魔だってつってんじゃネーノ?」
俺が手を振り下ろすと男の右腕が消える

「GYAAAAAAAAAAAAA!HYYYYYYYYYYYYYY!」
男はガタガタ震えながら叫び、腰を抜かす
「オレッチの・・腕が・・腕がァァァァ・・HYYYYYYY!」
しかし男の右腕がなくなるのと同時に、俺にも複数の穴がボツボツと空く
そして痛みが襲う。だが気にしてる暇なんて無い。俺の意思でしまえる『物』でもないしな・・。
「キ・・キッサマァァァァッ!」
男の目は変な方向に向いている。相当錯乱しているのか。

『ブーン』と羽音がした後に男の頭部が消え去った。
男がその場に崩れると、更に体が消え去る。
体がなくなるのを確認する前にひたすら走る俺。
このままじゃあ、俺まで『食われる』。まぁもう慣れっこだがな。

俺が走ってる途中に見えた人々は皆吹き飛んでいく
頭とか、腕とか足とか、胴体とか、目とか。色々。
そして500mくらい走りきった地点で『奴ら』が消える。
満腹になったのだろう。

疲れきった俺はその場にへたりこむ。
・・・・こんな事もう日常茶飯事だ。
だが、あの日だけは違った・・・。
俺が『あの人』と出会った『あの日』だけは・・。

585新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:06
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・・腹が減った。そう想い腹を押さえながら歩いていると前から人がやってきた。
真っ白なローブで包まれている茶色い毛が生えたギコ。
ローブに身を隠しているがそのローブは真新しく高級品だ。
貧民街の連中になりつくそうったってそうはいかねぇ。間違いない。コイツは
――外から来た人間だ。

「SYAッ!」
俺はソイツに襲い掛かる。
だが華麗な身のこなしでよける男。
ム・・流石『外』の連中・・浮浪者どもとは身のこなしが違う。
・・だが、それだけじゃあ無いな。

「フム・・。どうやら血の気の多い奴は矢張り居るらしいな・・。」
『外』の人間はふぅ。とため息をついて身構える
見た事の無い特殊な構え。一体・・?

「妙な構えとったって・・無駄なんじゃネーノォッ!?」
俺は一気に突っ込んで行く
「ただ道として通り抜けたかっただけなのだがな・・。」
次の瞬間俺は驚愕する

背の高い男・・いや、顔についている画面状の物に『TO』と表示され、本体と酷似した外見をし、手の長い物体。
そいつに首根っこを掴まれているのだ。
「・・体中の水分を吸い込まれるのと、体の水分量を増やして内部から爆破されるの、どっちが良い?」
男はニヤリと微笑みながらつぶやく。
馬鹿な。何を言い出すのだコイツは!?

「くそッ!コイツの手を・・離しやがれェーッ!」
『奴ら』を出現させる俺。
無数の穴が男の手に空いていく
「何ィッ!?ば・・馬鹿なッ!貴様も・・『スタンド』をォッ!?」
男はバク宙しながら4〜5歩分間合いを取る

「アァ?『スタンド』何を言ってるかわかんないんじゃネーノッ!?」
こうしている間にもあの男の体にはボツッボツッと穴が空き続けている
しかし平然とする男。
馬鹿な。
何故そんな涼しい顔して立っていられるのだ。

「フム・・軍隊型の虫で遠距離操作型と見たが・・精密動作性は低い様だな。俺の頭を一撃で食い尽くさず、それで居てお前は距離をとっている。
きっと近づくとお前も食われてしまうのだろう。」
見事に当てる。
だが何を言っているのだ?全くわからん。
「まぁこの程度じゃあ・・僕は倒せんよっ!」
男が体中に力を入れると『奴ら』が吹っ飛んでいく。
ありえない程の血管が男に浮き出て行く。

586新手のスタンド使い:2004/06/13(日) 10:07
「ハァァァァァァッ!」
アドレナリンが多量に出ているのだろうか。
出血が一瞬で止まる。
だが、甘いな。そんな風に『奴ら』を退けると・・『闘争本能』に火をつけるぜ。

俺の予想通り男に突っ込んでいく『奴ら』。
しかしその一撃は奴の背後に居る者にさえぎられる。
とてつもないスピードで全匹掴まれた。驚異的スピード。だがソレはあの背後の者のスピードではない。
奴の方だ。あのローブの男・・奴のスピードに背後の者は合わせたのだ。

「どんなに速く・・顎が強かろうが・・たかが虫。流石に人の拳を遮るほどのパワーは無い様だね・・?」
微笑む男。
「クソッ!いけすかんッ!その笑顔・・食い尽くしてやるんじゃネーノッ!」
まだ数百匹残っている『奴ら』ならアイツの顔くらい貫ける。
あのスカし顔を二度と見ない様にさせてやるよォッ!

「これだから若い奴は血の気が多くていかんな・・。」
ククッと笑う
「おい坊主っ!無駄に本気を出すなよっ!・・こちらも本気を出しかねん。」
今までとは全く違う真剣な表情で、それでいて地を這う様な低い声で言う。
「黙りやがれッ!その口も聞けない様にしてやるんじゃネーノォッ!」
負けじと相手を指差し威嚇する俺

「んじゃあ口が聞けなくなる前に聞いとこうかな?坊主っ。お前・・名は?」
「ネーノ・・ネーノだッ!」
男はうつむき、少し微笑むと
「俺の名は『トオル』っ!超巨大掲示板サイト『2ちゃんねる』の支配者ひろゆき様の親衛隊であるッ!」
指を指してくる男

「『ディープ・ウォーター』・・。乾き尽くせッ!」
・・名前。そうだ。俺も奴らに『名前』を・・
「・・インセクト・・『インセクト』ッ!アイツを・・あのスカし顔を・・くらい尽くすんじゃネーノッ!」
今思えば、最悪で最高の出会いだったのかもしれない・・。
『トオル』さんとの『出会い』は・・。

TO BE CONTINUED

587丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:24


  ―――――全て…いや、ある一点を除けば全て計算通り。

 希薄な意識の中で、ゆったりとそう考える。
全くもって、忌々しい。あの道化どもがいなければ、今頃は王座で高笑いできただろうに。

 …いや、しかし問題はない。既に力は手に入った。駒も動いてくれる。布石もばらまいた。
二十年近い歳月をかけた計画…今さら遅れようと、さしたる苦でもないだろう。

 しかし、主よ。
貴方は私を従えて世界を手に入れた後…何をする気だったのだろうな。
最後の最後まで、私の主はそれを話してはくれなかった。

 今になっては解らない。結局のところ、主は誰も信用してはいなかったのだろうか。

 それも寂しい物だな、と薄く笑い、まだ再生しない右手に力を集めながら眠りについた。

588丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:25





  同時刻―――日本。

 空港で、二人の少女とガリガリに痩せた男がスーツケースの上に座っていた。
二人の少女はとても似た顔立ちをしていたが、片方はどこか焦点の合わない目で虚空を見つめている。
 それでも、二人は仲がよさそうに肩を組んでいた。

「ねぇ、キキーンのおじさん?いいよねぇ、『ディス』の御大は。税関のあの待ち時間ナシで通れるんでしょ?」
 痩せた男に向けて、少女が話しかける。
「何…シャム。これが、分相応、と…言うものだ」

 痩せた男が答えた。不健康そうな、かすれた声。
「上を見れば…キリは、ない。旨い…飯が、食える…それだけ、で…満足する、のが、幸せだ」
「…ま、それも一つの真実…かな?ねぇ、お姉ちゃん」

 返事はない。隣の少女はただ虚ろに、そして幸せそうに笑っていた。
「あ、みんな来たみた…い…」
「ックク…怪しげ…だな。通、報…されても、文句は、言えない…」

 引きつった表情の少女にそう言うと、ベンチに座ったまま歩いてくる集団に手を振った。
種族も性別もバラバラだが、半数を超える人間がコートをしっかりと羽織っている。
 残りも顔中に包帯を巻いていたりサングラスにマスクをしていたりと、とんでもなく怪しい。
大勢の旅行客でごった返すロビーの中、彼等の周りだけぽっかりと空白地帯が作られていた。
 こっちだ、と手を振る痩せた男に気付き、集団がこちらへ歩いてくる。
                               エクス
「お待たせ。途中で取り調べ受けちゃってさ…御大と『X』は?」
「VIP待遇、で…先に、行った…よ」
 顔面を包帯でぐるぐる巻きにした女に答える、痩せた男。

 不健康なその声を、異様に背の低い男が妖しい色気を含む声で笑った。
「うふふふ…僕みたいな奴でも無いのに相変わらず物が食べられないようだね」
「黙れ…糞眉」
「しかしねぇ…シャム?何でまたこんな極東の島国に呼びつけたんだ?」
「そうだよなぁ。SPMへの復讐にしたって、もそっとでっかいトコ潰した方が良いんじゃないか?」
 コートを羽織った二人の少女が、男じみた口調で言った。
二人とも、片方の袖がぷらぷらと揺れている。

589丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:26

「甲ちゃん乙ちゃん…サラウンドで文句を垂れるものではありませんよ」
 二人の少女をぽんぽんと撫でながら、角帽にコートの男がたしなめる。
「…しかし気になりますね。私達は、本部を派手に潰す実力も有しているのに…」
     ウラギ
「ええ、浦木さん…『ディス』御大きっての希望なの。ここには、彼がずっと求めていた…『変動因子』がいる」
 ざわざわと、集団にどよめきが走る。


  吸血鬼と波紋使いの間で生まれた変わり種。

  才能もなしに『矢』の洗礼を受けながら、生き長らえる、可能性のジャグラー。
                      運 命 の 歪 み
  常に確率論を無視し続ける、『ディスティニー・ディスティネーション』。
                         トリックスター
  我等の御大がずっと探し続けてきた『変動因子』がここにいる―――――!


「SPMの奴らが隠蔽してたんだけどね。とうとう見つかったらしいよ。今もッパさんが動いてるみたい」

 その言葉に、サングラスとマスクの少女が首を傾げる。
「…けど、腑に落ちないね。それにしたって、 私達が雁首をそろえる程の事じゃないよ?
  トリックスター                                 エクス
 『変動因子』の確保なら御大の『エタニティ』だけで、復讐にせよ、『X』の『エデン』だけで充分でしょ?」

「メクラ…裏、2ちゃんねる、くらい…見ておけ…いや、無理…だった、な。仕方、ない。説明、して…やろう。
 茂名王町の…スタンド、使い…を…増やして、いる…『矢の男』が…進化、した。御大は…彼も、倒す、つもりで…いる…」
「うむ、我等も見ましたぞ。世界征服を企んでいるそうじゃな。
 確か<インコグニート>と言うたか… 『名無しさん』じゃな。 あんなの、デマじゃ無かったんですか?」

 足下まであるロングコートを着た男が、どこかバラついた声で言う。
「ええ。本気だそうだ。世界征服だろうが何だろうが、それは私達をも縛るかもしれない。
 私達『ディス』の目的は、ただ自由である事だけ…だから、それを妨げようとする奴らは…潰す」
「そう…全ては…我等、『ディス』御大の、為…行くぞ」
 一同が頷き、とんでもなく怪しい集団はぞろぞろと空港を後にした。

590丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:27






 …日本、茂名王町、診療所への帰り道。舗装のされていない道路のそばには、綺麗に手入れされた竹林が広がっている。
そっ、とB・T・Bを具現化し、しぃの心臓に何発か打ち込んだ。
「はにゃ…っ、ぁん」
 色っぽい声を上げて、かくん、と首が折れる。
五感までが完璧にシャットアウトされた、これ以上ない程の熟睡状態。
  B ・ T ・ C
 静寂のビート…これで、揺すぶろうがひっぱたこうが水をぶっかけようが、何があっても当分は目を覚まさない。
くるりと振り向いて、後ろを歩いていたッパと目を合わせる。
   ツ
「…尾行けてるのは判ってるよ。おじさん」
 その言葉に、がさがさと竹笹を揺らしながらッパが顔を出した。
「あっしは三十五…まだまだ華の三十代なんですけどねぇ」
「四捨五入すれば立派におじさんでしょ。…で、何かご用?」

 ゆらり、とッパの背後にある空間が蜃気楼のように揺らめいた。

「人違いじゃ困ることなんで…茂名・マルグリッド・ミュンツァー君…で、よろしいですね?
 あっし等の御大の命令でね。アンタのことを生け捕りにさせて頂きやす。
 殺しゃしませんから、大人しく捕まって頂きたいんですが…」

 上唇をぷるぷると指で弾きながら首を傾げるッパを、鋭い目つきでにらみ据える。
「…ヤダ…って言ったら?」
「変わりやせんねぇ。無理矢理連れてきます」
 揺らぎが広がり、形を作る。筋骨逞しい人型のヴィジョン。
「『プライベイト・ヘル』ッ!」


                 B ・ T ・ H
 太陽はまだ高い。ここで情熱のビートでも使おうものならこんがりと焦げついてしまう。
隣には車椅子のしぃがいる。今逃げても、診療所に着く前には追いつかれてしまう。

―――やるしか、無いか…!

すっ、とポケットにある『ジズ・ピクチャー』の写真を三枚取り出した。

 一つは太くて長い化け物みたいなリボルバー、二つはプラスチックの玩具みたいなオートマチック。
SPM謹製、454カスール弾使用の化け物拳銃『セラフィム』と、38口径弾使用の低反動拳銃『ケルビム』。

 二丁の『ケルビム』をB・T・Bに放り、マルミミは『セラフィム』を腰だめに構える。

591丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29



 狙いを付け、引き金を絞り―――「うぁ痛ぁーっ!」爆音と共にかなり明後日の方向へ着弾した。
考えてみれば当然だろう。銃などセイフティの外し方と弾込めくらいしか習っていない。
銃の撃ち方は知っていても、弾の当て方などは知らなかった。

 その上、この化け物みたいなリボルバー『セラフィム』は454カスール弾使用。
パワー狂の銃器マニアが道楽で撃つような物で、こんな物を実戦で使う奴はまずいない。
普通はパワー型のスタンドに撃たせるような代物で、生身の今なら肩が外れないだけ大したものだろう。

「痛った〜…!」

 ジンジン痺れる掌をさするマルミミに構わず、B・T・Bが両手の『ケルビム』を連射する。
反動を極限まで抑えてあるため、B・T・Bの細腕でも十分に扱えた。
(流石SPM 、イイ 仕事ヲ シテ イマスガ…)

(丸耳の坊ちゃんは銃に慣れてない…スタンドの銃弾はあっしでも充分に防げる)

 銃を乱射するこちらに構わず、悠々とッパは距離を詰めてくる。
だが、問題は無い。
 もともと銃弾だけで倒せるなどとは、露ほども思っていなかった。

 『生命のビート』を分析するための、時間稼ぎができればいい。
両手の『ケルビム』を放り捨てた。伝わってくる『生命のビート』に干渉させるため、生命エネルギーを拳に集める。

 サ・ノ・バ
「Son・of・a…」

 そして、ッパの足が『一メートル』のラインを超えた。
ビ――――ッチ
「Biiiiitcccch !!」
                    B ・ T ・ C
 神速のラッシュ。狙い違わず『静寂のビート』の拳は、全てッパの胸へと突き刺さり…

592丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:29

「悪いね」

 完璧に心臓を止められた筈のッパは、何事もなかったかのようにスタンドを動かした。

「ナ…ッ!」

 一瞬の驚愕。B・T・Bが全ての動きを止めていることに気付く間もなく、とん、とマルミミの胸に軽い衝撃。
「え…?」

 視界が暗転する。息が苦しい。
肺で吸収された酸素が、身体に運ばれていかない。
意識が遠のき、地面へとへたり込む。

「坊ちゃん…スらせて貰ったよ」

 びくん、びくん、と『プライベイト・ヘル』の掌で蠢く肉塊。
おじいちゃんの医学書に載っていた。握り拳くらいの大きさで、永遠に疲れることのない器官―――

「心…臓…ダトッ!?」
「っこの…!返…!」
「悪いね…坊ちゃん」

 鳩尾に衝撃。スタンドを使わずに、ッパの右拳がめり込む。
そのままぐったりと倒れ込み、マルミミの意識はぷっつりとそこで途切れた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

593丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:31

〜丸耳達のビート・オマケ劇場〜

                   『黄昏』

          ___
         /    \
        |/\__\ ズズッ
       ○  ( ★д)コ ∩
           ( ⌒Y⌒) /
             \ /
              V
                    ∩_∩
                   ( ´−`) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

      じっと、考える。B・T・Bの帽子の中身を。


① 丸耳
             ∩_∩
           ( ★∀T)<ンフフン。
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
   確かに僕の母さんも丸耳だったし、かなりあり得る。



② 猫耳
             ∧_∧
           ( ★∀T)<ハニャーン♪
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    いやしかし、スタンドが必ず本体に似るとは限らないよね。

594丸耳達のビート:2004/06/13(日) 14:32

③ アフロ…と言うかパーマ?

           (⌒⌒⌒⌒)
           (        )
           (( ★∀T))<ォゥィェ
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
    やっぱりピエロだし、もこもこヘアーなのか?



④ 三倍角
                 /|
              //
           ( ★∀T)<足ナド 飾リデス
           ( ⌒Y⌒)
             \ /
              V
     …いや、赤いし、速いし、足無いし…



⑤ ハゲ
            +  +
           +/ ̄\+   サノバビ――――ッチ
         Σ∩( ★ДT)∩<Son・of・a・Biiiiitcccch!
          ヽ( ⌒Y⌒)/
             \ /
              V
     …………………………………………。



          ___
         /    \
        |/\__\
       ○   (;★∀T)<アノ、何カ?
           ( ⌒Y⌒)つ旦
             \ /
              V
                    ∩_∩ ヤッパ ハズスノ ヤメトコ…
                   (´д`;) 旦~
                   / ============= 
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

             …どれも微妙にキモイ…ッ!


                                                     続かない。

595:2004/06/13(日) 19:12

「―― モナーの愉快な冒険 ――   吹き荒れる死と十字架の夜・その8」



          @          @          @



 『フィッツジェラルド』のヘリ整備員は、空を見上げていた。
 空を埋め尽くす程の航空機、そして降下してくる吸血鬼。
 その中で、1機の黒いヘリが縦横無尽に駆けていた。
 あれは、『ブラックホーク』。
 多くの国の軍隊で採用されている、優良な汎用ヘリコプターだ。

 どれだけ性能のいいヘリでも、戦闘機を敵に回せばひとたまりもないはず。
 だが、そのブラックホークは違った。
 海面スレスレの超低空飛行で、巧みに敵ミサイルのホーミングを逃れている。
 戦闘機の死角を熟知し、低空に占位している。
 そして、対地ミサイルであるヘルファイアを降下中の吸血鬼に命中させている。
 あのヘリは一体…
 我がASAのヘリではないし、自衛隊のものでもないようだが。

 しかしそれだけの神業でも、敵数の多さには抗えなかった。
 囲い込むように発射されたサイドワインダーの直撃を受け、たちまちのうちに炎上したのだ。
 いかに耐弾性が重視されたヘリといえども、ミサイル相手ではひとたまりもない。
 そのままブラックホークは海面に突っ込むと、水没していった。

「…」
 ヘリ整備員は、海面を眺める。
 だが、他人の事を心配している余裕はない。
 この艦が沈むのも時間の問題なのだ。

 がっしりと甲板の柵を掴む手。
「!?」
 それを直視して、ヘリ整備員は驚愕した。
 海から、何かが這い上がってきたのだ。
 あれは… ぃょぅ族の男?

 そのまま、ズブ濡れのぃょぅは甲板に上がってきた。
 口から水をピューと噴き出す。
 そして、ヘリ整備員の方に視線をやった。
「ぃょぅ!」
 シュタッと片手を上げるぃょぅ。

「…ぃょぅ」
 ヘリ整備員は、困惑しながら挨拶を返す。
 ぃょぅは甲板に置いてあるV−22・オスプレイに目をやった。
 ヘリと航空機の性能を合わせ持った、ASAの誇る機体だ。
 スタスタと歩くと、オスプレイの操縦席のドアに手を掛けるぃょぅ。

「あっ、ちょっと…」
 ヘリ整備員は、慌ててぃょぅに声を掛ける。
「この機体、武装はされてるのかょぅ?」
 ぃょぅは、ヘリ整備員に視線をやって訊ねた。

「あ、はい。しぃ助教授が、アパッチと同程度の武装は備え付けろとおっしゃったので…
 って、あの… ちょっと!!」
 ぃょぅはヘリ整備員の制止にも耳を貸さず、オスプレイに乗り込んだ。
 このオスプレイは、ASAにも1機しかない機体だ。
 そして、しぃ助教授のお気に入りでもある。
 この機に何かあれば、責任者である自分はどんな目に合わされるか…

「ちょ、ちょっとッ!!」
 ヘリ整備員は、オスプレイに飛び乗った。
「…整備員が同乗してくれると助かるょぅ」
 操縦席に座って、ぃょぅが言う。

「そういう事ではなくてですねぇ…!」
「離陸するょぅ」
 ぃょぅは、操縦席に並ぶパネルを操作した。
 オスプレイの機体が、ゆっくりと浮かび上がる。

「操縦性も優良、良い機体だょぅ」
 ぃょぅは満足そうに言った。
「…それはどうも」
 ヘリ整備員は肩を落とすと、副操縦席に力無く腰を下ろした。

596:2004/06/13(日) 19:14



          @          @          @



 『教会』の新鋭原子力空母『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 その甲板上に、枢機卿は立っていた。
 周囲を護衛するように、機関銃・MG42を手にした軍服の吸血鬼5人が控えている。
 そして、その眼前にメガネを掛けた男が片膝をついていた。

「…『解読者』、報告は受け取った」
 ほとんど乾いたSS制服の襟を正して、枢機卿は言った。
「はっ。『Monar』より、奪い返した『矢』はここに…」
 『解読者』は丁寧な口調で告げると、古めかしい『矢』を差し出す。

「ふむ…」
 枢機卿は『矢』を受け取ると、懐に仕舞った。
「残る『矢』は、『アルカディア』によるコピーか。確か『異端者』が所持しているという事だが…」

 『解読者』は片膝をついたまま視線を上げた。
「『異端者』や『Monar』及びその仲間の反撃は激しく、我々といえど無傷で殲滅は不可能と判断しました。
 こちらに死者がでる可能性がある以上、私の判断で事態を展開させる訳にもいかず…」
「お前が丁寧な口調を使っていると、何かを取り繕っているような感じがしてならんな…」
 枢機卿は冷薄な笑みを浮かべると、『解読者』の言葉を遮った。

「…御冗談を。それほど不遜ではありませんよ」
 『解読者』は静かにメガネの位置を直す。
「とにかく、『異端者』側の勢力も無視してはおけません」

「…そういう訳らしいな、山田殿」
 枢機卿は、背後に控えている山田に話を振った。
 彼の手にしている青龍刀は、今までとは異なる形だ。
 普段愛用している『青龍鉤鎌刀』は、どうやら破壊されてしまったらしい。

「…私が相対した少年は、類稀なる武芸を誇っていた」
 山田は静かに告げた。
「あれを討ち取るのは、そこらの吸血鬼では困難であろう」

 それを聞いて、枢機卿は顎に手をやる。
「ふむ… 山田殿がそうまで言うのなら、『異端者』側も相当にやるのだろうな」

「はい。 …そういう訳で、『異端者』追討はなりませんでした」
 言いながら、『解読者』はゆっくりと周囲を見回した。
 『ロストメモリー』の面々は、艦上で思い思いの行動を取っている。
 こちらを注視している者、風景を眺めている者、横たわって眠っている者…

「…では、次の任務は後ほど言い渡す。しばらく休むがいい」
 枢機卿はSS制服の裾を翻すと、背を向けて告げた。
「はっ…!」
 『解読者』はうやうやしく頭を下げる。
「…ですが、1つ伺いたい事があります」

「…何だ?」
 枢機卿は背後を向いたまま、『解読者』の方に視線をやった。
 『解読者』は少し間を置いた後に口を開く。
「我等が『教会』は、吸血鬼を殲滅することを目的とした機関。
 何ゆえ、その『教会』が吸血鬼を製造するのです? 納得できる回答を伺いたい」

 枢機卿は僅かに笑みを見せた。
 呆れたようにも受け取れる。
「『解読者』ともあろう者が、愚かな事を…
 元より吸血鬼を悪魔的、異端的なものとして捉えたのは、『教会』が絶対正義を行使する為であろう?
 神の楽園を守る為、汚れた者は排除する。分かりやすい物語こそ、大衆は必要とするのだ」

 『解読者』は視線を上げた。
 枢機卿の目をまっすぐに見る。
「千何百年もの間、人心を支配する為の… 方便に過ぎなかったとおっしゃられるのですか?
 そこに信仰心など欠片もないと?」

597:2004/06/13(日) 19:14

「フフ…」
 笑い声を漏らしながら振り返る枢機卿。
 胸の前で組んでいた両腕が、ゆっくりと下がる。
「…知れた事。信仰とは、統治の為の手段に過ぎん。
 己を十字架から降ろす事すら出来なかった男に、一体何が出来ると言うのだ…?」

「だから、自身も吸血鬼になられたという訳ですか…」
 『解読者』は、懐から何かを取り出した。
 あれは… 何の変哲もないワイングラスだ。

「ならばその御身、塵に還させて頂く――!」

 『解読者』は、そのままワイングラスを甲板に落とした。
 ガラスの破壊音が周囲に響く。

 その瞬間、5人の護衛が一斉に動いた。
 素早い動きで、枢機卿の頭部に機関銃の銃口を突きつける。
「…!!」
 枢機卿は即座に拳銃を抜くと、瞬時に護衛吸血鬼達の頭部を撃ち抜いた。
 頭を失った5人の吸血鬼が、ドサドサと力無く甲板に転がる。

「裏切るかッ! キバヤシッ!!」
 枢機卿の両耳からは、血が流れ出ていた。
 ワイングラスが割れる瞬間、自ら鼓膜を破ったのだ。

「…職務を実行しているに過ぎません。代行者は、吸血鬼を滅ぼすために存在していますので。
 強いて言うなら、裏切ったのはあなたの方かと…」
 『解読者』・キバヤシは、身を翻して立ち上がった。

 肥満した男が、素早くキバヤシに走り寄る。
 この男も『ロストメモリー』の1人であろう。
「ガァァァァァァァァッ!! この曙の前で…!」

 キバヤシは、甲板に自らの靴を強く擦り付けた。
 高い音が周囲に響く。

「なッ!!」
 曙と名乗った男の背後に、がっしりとしたスタンドのヴィジョンが浮かぶ。
 そのスタンドは、本体である曙の頭部に強烈な張り手を食らわした。
「…」
 曙の頭部は粉々に吹き飛び、その巨体は甲板の上に横たわった。
 吸血鬼といえど、ここまで頭部を破壊されては再生は不可能である。

「俺と相対した時から、既に勝負は決まっていたんだよ…!」
 キバヤシは、不様に転がった曙の亡骸を見下ろして言った。

「覚悟――ッ!!」
 山田の青龍刀が、隙だらけのキバヤシに迫る。
「させんよッ!!」
 その瞬間、キバヤシの影から1人の男の姿が浮き上がった。
 手にしている狙撃銃・ドラグノフで、青龍刀での一撃を受け止める。

「…ッ!」
 男は、その余りの勢いによろけて1歩退がった。
「大した威力だ。全ての影を一点に集めて、なお受け切れんとはね…」
 素早く体勢を立て直す男。

「…すまんな、ムスカ」
 キバヤシは男に告げた。
「礼は後にしろ! 来るぞ!!」
 ムスカは叫ぶ。

「キモーイ!」
「キモーイ!」
 酷似した2人の女学生が、キバヤシとムスカを囲むように立った。
 さらに、山田の第二撃が迫る。
 キバヤシは、懐から拳銃を取り出した。

「そのようなもので、我が斬撃が止められるかァッ!!」
 山田が咆哮する。
 ムスカの反応は間に合わない。
 その青龍刀が、キバヤシの頭部に振り下ろされる…

「退け、山田殿ッ!! ヤツの『イゴールナク』は、音に暗示を重ねる能力だッ!!」
 枢機卿が怒鳴る。
「…!?」
 だが山田が退くより、キバヤシが銃を撃つ方が僅かに早かった。

 銃声が響き、その銃弾は甲板にめり込む。
 元より誰かを狙ったわけではない。
 山田は、その銃声を至近距離で耳にしてしまった。

「…!」
 山田は素早く転進すると、女学生の1人に斬りかかる。
「…キモーイ!!」
 女学生がスタンドを発動させる間もなく、山田は女学生を斬り伏せた。
 返す刃で、もう1人の女学生の身体を両断する。

「…もらったよ、お嬢さん」
 ムスカはドラグノフを軽く回転させると、2人の女学生の頭部を撃ち抜いた。
 法儀式が施され、波紋の威力を帯びた弾丸だ。
 女学生2人の体はたちまち塵と化した。

「うぉぉぉぉぉッ!!」
 そのまま、山田は枢機卿に斬りかかる。
「くッ!!」
 枢機卿は、懐から指の間に挟んで4本のバヨネットを取り出した。
 そして、山田の攻撃を受け止める。
 青龍刀とバヨネットがぶつかり合い、激しい音を立てた。

「…さすが山田殿。我が剣術では、及ぶべくもないか…」
 枢機卿のバヨネットが4本とも砕け落ちる。
 その右腕は根元から断ち切られ、甲板の上に落ちた。
 すかさず、山田が斬りかかる。

598:2004/06/13(日) 19:15

「歯車王!!」
 枢機卿は、飛び退きながら叫んだ。
 彼の背後から、山田目掛けバルカン砲が発射される。
 完全に攻撃態勢に入っていた山田は、その弾丸を不意討ちに近い形で受けた。
「ぐゥッ!!」
 胴部にバルカン砲の掃射を食らい、山田は甲板の上に崩れ落ちる。

「行け、歯車王!!」
 枢機卿は自らの右腕を拾うと、背後に立つ円筒状の機械人形に命令した。

「…私/我々ハ排除スル。オマエ達、『教会』ニ仇ナス異端者ヲ…」
 歯車王は、ローラー移動でキバヤシとムスカに高速接近する。
 そして、胴部に備え付けられたバルカン砲を掃射した。

「機械…? あれも『ロストメモリー』かね? 過去に命を落としたスタンド使いには見えないが…
 ラピュタ王である私の前で、王を名乗るとは何事だッ!! 『アルハンブラ・ロイヤル』!!」
 ムスカは、影の盾を眼前に展開した。
 バルカン砲の弾丸は、影の盾によって叩き落される。

 その瞬間に、歯車王はムスカとキバヤシの目前まで接近していた。
 ボディーから突き出した腕部の先に、高出力のレーザーで構成された剣が突き出る。
「『デウスエクスマキナ』… 破壊/解体/殲滅ヲ実行スル…」

「機械には暗示が効かないとでも…?
 随分と俺の『イゴールナク』を過小評価しているな、枢機卿!!」
 キバヤシは懐から硬貨を取り出すと、歯車王に向けて弾いた。
 硬貨は歯車王のボディに当たり、軽い金属質の音が響く。

「…? 我ハ我ハ/我々我々ハ我々々々々々々々/々々々々々…」
 突如、歯車王は暴走を始めた。
 キバヤシとムスカをすり抜け、そのまま直進していく。
 歯車王は甲板から飛び出し、そのまま海中に没した。

「プログラムの基幹部に、何箇所かヌルポを埋め込んだ。デバッグでもしてやるんだな…」
 キバヤシは、枢機卿を見据えて言った。

 その瞬間、遥か彼方から銃声が響く。
 ――狙撃。

「…!!」
 ムスカは、頭部目掛けて放たれた弾丸をドラグノフのストックで弾き飛ばす。
「チッ! 気取られたかッ!!」
 艦橋に立って狙撃銃PSG1を構えていた男が、大きく舌打ちした。
 軍装からして、おそらく米海兵隊だ。

「ムスカ、何か言ってやれ」
 キバヤシは軽い笑みを浮かべて、ムスカに視線を送る。
「…『暗殺者』の私を暗殺しようなど、10年は早いんじゃないかね?」
 狙撃銃の男を見据え、ムスカは言い放った。

「油断するなよ、ハートマン軍曹… 『暗殺者』の異名、伊達ではないぞ」
 枢機卿は、艦橋に立つ狙撃銃の男に告げる。
「キサマ、この俺の前でソ連の銃など持ちおって…
 この、アカ野郎がッ!! クソでできた心根を叩き直してやるわぁぁぁッ!!」
 ハートマンは、艦橋から飛び降りた。

「すまんな、キバヤシ… 少し離れるぞ…!」
 ムスカはドラグノフの銃身下部にバヨネットを嵌めると、突進してくるハートマンの方向に駆け出した。

「さて…」
 キバヤシは、枢機卿に視線をやる。
 バルカン砲を食らい、倒れていた山田がゆっくりと起き上がった。
「…私は、何を…?」
 困惑した様子で周囲を見回す山田。

「…ヤツの放つ音に注意しろ。我々ならば音に暗示が含まれているかどうかを、届く前に何とか察知できる」
 枢機卿は、山田に警告する。
「了解した。もう、その術は通じんぞ…!」
 山田はキバヤシを見据えると、青龍刀を下段に構えた。

「ここで我々全員を討ち取るつもりか…?」
 枢機卿は両袖から拳銃を抜くと、キバヤシに訊ねた。
 その右腕は元通り再生している。

599:2004/06/13(日) 19:15

「そんな面倒な事はしない。…ただ、この空母を沈めるだけなんだよッ!!」
 キバヤシは指を鳴らした。
 彼の影から、ヌケドときれいなジャイアンが飛び出す。
「影の中に息を潜めていたか…!」
 枢機卿と山田は素早く飛び退いた。

 奇抜な衣装とメイクで身を固めた男が、ゆっくりと前に出る。
「頼んだぞ、ヌケド…!」
 黄色い背中に声を掛けるキバヤシ。
 ヌケドは軽く頷くと、大きく両腕を広げた。
「『カナディアン・サンセット』… 表へ出ろ」

 ヌケドの声と共に、海面が大きく隆起する。
 海は波立ち、空母が大きく揺れた。
 ゆっくりと、海中から何かが…

「クマ――――!!」
 咆哮とともに、海中から80mはある大きさのクマが姿を現した。
 そのクマは甲板に並んでいた飛行機を掴み上げると、無造作に枢機卿の方向に放り投げる。
 機体は甲板に激突し、小規模な爆発が起きた。

「くッ…!!」
 枢機卿は素早く飛び退き、爆発から逃れる。

「クマ――――!!」
 さらに、クマは甲板に爪を叩きつけた。
 破壊音が響き、甲板に爪跡が刻まれる。
 その衝撃で、空母の艦体が大きく傾いた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 ヌケドは甲板を転がり柵に激突する。
 そのまま柵を乗り越え、海中に没するヌケド。

「クマクマクマ――――!!」
 さらに、クマは爪を何回も艦体に叩きつけた。
 甲板が無惨に凹み、さらに激しく空母が揺れる。
「相変わらず、こっちの被害もお構いなしだな…」
 揺れる艦体によろけながら、キバヤシは呟いた。

「…『ビスマルクⅡ』、あのクマを潰せ」
 枢機卿は無線機で指示する。
 10Km離れた位置で航行していた『ビスマルクⅡ』から、トマホーク巡航ミサイルが発射された。
 その数、30発。
 時速900Kmで、『グラーフ・ツェッペリンⅡ』を攻撃しているクマに向かって飛来してきた。

「ボクは『音界の支配者』…」
 きれいなジャイアンが、ギターケースからギターを取り出す。
「…『クロマニヨン』!!」

 周囲に奇妙な高音が響き渡った。
 クマ目掛けて飛来してきたミサイルが、次々に空中爆発する。
 一瞬の間に、30発のトマホークは全て空の塵となった。

 きれいなジャイアンは口を開く。
「ミサイルの起爆について勉強しよう。
 ミサイル先端の信管から放った電波は、目標物に当たって反射するんだ。
 この時、ドップラー効果によって周波数が変わるんだよ。
 この急激な振動数の違いを探知し、信管が作動するんだ…」

 きれいなジャイアンは、目を輝かせて涼やかな微笑を浮かべた。
「このドップラー効果を、同周波数で擬似的に発生させてやれば…
 ミサイルは目標物に当たったと錯覚するんだよ。ボクが今やった通りさ」

「なら、お主を斬れば済む話だ…!」
 山田は青龍刀を下段に構えると、大きく踏み込んだ。
「無理だよ。ボクの超広帯域空気振動は、絶対に避けられない…」
 ギター型のスタンド、『クロマニヨン』から強力な振動波を放つきれいなジャイアン。

「…!!」
 山田は、素早く青龍刀を甲板に突き立てる。
「――『極光』、壱拾番『月妖』!」
 一瞬の光の後、その手には華美に装飾された大型の横笛があった。
 それを素早く口許に当てる山田。
 『月妖』から放たれた美しい旋律が、『クロマニヨン』の超広帯域空気振動を掻き消す。

「避けれなくとも、中和することは出来たようだな…」
 『月妖』を手許で回転させ、山田は言った。

「…すごいなぁ。ボクのスタンド能力を防ぐなんて」
 きれいなジャイアンの爽やかな笑みが、少しだけ崩れる。
「武人とて、雅楽を解さないという訳でもないのでな」
 山田は、きれいなジャイアンを見据えた。

 空母が再び大きく揺れる。
 クマが空母に膝蹴りを見舞ったのだ。
「さて、この空母… 『カナディアン・サンセット』の前でいつまで持つかな…?」
 キバヤシは揺れる艦に立って言った。
 それに対し、枢機卿は冷たい笑みを見せる。
「特に問題はない。私が呼んだのは、トマホークだけではないのでな…」

600:2004/06/13(日) 19:16

 遥か彼方から高速で飛来する影。
「あはははははははははハハハハハハハハハァァァァァッ!!」
 それは、笑い声を上げながらクマにぶち当たった。

「クマァ――――ッ!!」
 飛翔物の直撃を腹に食らったクマは、大きく吹っ飛んだ。
 轟音を立てて海面に激突するクマの巨体。
 水飛沫が巻き上がり、大きな津波が発生する。

「やれやれ、今度は怪獣退治か…」
 美しい蝶の羽を翻し、空母の上に浮遊するウララー。

「…クマッ!!」
 クマが起き上がろうとする。
「今は冬だッ!! クマは大人しく冬眠してなァッ!!」
 ウララーの『ナイアーラトテップ』から、虹色の光が幾重にも迸る。
 その直撃を受け、さらに吹き飛ぶクマ。

「ハハッ…! どうだどうだどうだァッ!!」
 狂声を上げながら、鮮やかな光を周囲に照射するウララー。
「ク、クマ――――ッ!!」
 光を浴びてよろけながらも、クマはウララーに突進する。
「な…ッ!」
 そのまま、クマはウララーの身体を掴んだ。

「クマ――――ッ!!」
 そして、渾身の力を込めてウララーをブン投げる。
「うおおおおおおォォォォォォッ!!」
 ウララーの体は、凄まじい勢いで海面に叩きつけられた。


「…戦いに巻き込まれては敵わん。ただちに、この場から離れろ。
 進路は… そうだな、ASAの艦艇の方向だ」
 枢機卿は、無線機でCICに指示を出す。

「そうはさせないんだよ!!」
 キバヤシは、携帯電話を取り出した。
「これが、俺の切り札だ…!」
 キバヤシは携帯に向かって何かを喋ると、無造作に甲板上に投げ捨てた。

「…!!」
 山田が音に警戒して、素早く背後に飛び退く。
 しかし、携帯が甲板に落ちる音に暗示は含まれていないようだ。

「…どこに連絡した?」
 枢機卿は口を開いた。
 キバヤシは静かに腕を組む。
「すぐに分かるさ。それより、いいのか? 俺達にいつまでも構っていて…」
 
「…!! 時間稼ぎか!!」
 枢機卿は大声を上げた。
 キバヤシは笑みを浮かべる。
「言ったはずだ。この空母を沈めるのが目的だってな。
 そろそろ、スミスと阿部高和がCICを制圧している頃合だ…」

「山田殿ッ!!」
 枢機卿が叫ぶ。
「承知!!」
 山田が、艦橋に向かって駆け出した。
 その瞬間、山田の足が逆方向に曲がる。

「…!?」
 バランスを崩し、山田は甲板に倒れた。
 だが、すぐに再生できる程度の負傷だ。

「…すでに仕込んでいたか。たった1人で、我々2人を足止めするとはな…」
 枢機卿は、腕を組んで立ちはだかるキバヤシを見据えた。

「くッ…!」
 山田は立ち上がると、素早く青龍刀を構える。
「止めておけ。奴への直接攻撃は、スィッチになっている可能性が高い…!」
 枢機卿は山田を諌めた。

「下手に動かない方がいい。俺の暗示は、言葉の呪縛だ…」
 枢機卿と山田を正面に見据え、キバヤシは告げた。
「人間は、火とともに言葉を武器にした。
 言語を解する生物である限り、『言葉』と言う呪縛からは逃れられないんだよ…!」

601:2004/06/13(日) 19:16



          @          @          @



 スミスと阿部高和が、艦内通路を駆ける。

「Uryyyyyyyyy!!」
 軍服に身を包んだ吸血鬼の集団が、正面に展開して機関銃を構えた。

「…お前達は、人海戦術しか能がないのか?」
 通路に、瞬時にして沢山のドアが並ぶ。
 そして一斉にドアが開き、大勢のスミスが出現した。
 スミス達は皆、大型拳銃・デザートイーグルを手にしている。

「疲れたろう。もう眠りたまえ」
 集団で、一斉にデザートイーグルを掃射するスミス。
 専用の50AE弾は、頭部に当たれば吸血鬼ですら殺せる威力を持つ。
 まして法儀式済みなので、吸血鬼などひとたまりもない。
 たちまち、弾丸を浴びた吸血鬼達の体は塵と化した。

「さて…」
 スミスが一歩踏み出した瞬間、爆音が響いた。
 先頭にいたスミス3人が吹き飛び、背後に並ぶスミス達に激突する。

「…クレイモア(指向性対人地雷)か」
 阿部高和は呟いた。
 その瞬間、部屋の隅から気配を察知する。
「おっと、誰だい…!?」

「俺も以前、大型のタンカーに潜入した事がある…」
 通路に男の声が響く。
 しかし、姿は見えない。

 突如、スミスの1人が頭を撃ち抜かれて倒れた。
「どこだ…?」
 スミス達は周囲を見回す。
 その瞬間、また1人スミスが倒れた。
 だが、どこにも狙撃手の姿はない。

「こういう場所での戦闘は、慣れなければ難しい。
 室内戦のセオリーがそのままでは通じないからな…」
 別の方向から、男の声。
 次々にスミスは倒れていく。

「仕方ないな…」
 スミスはデザートイーグルの銃口を自らの額に当てると、その引き金を引いた。
 彼の頭がスイカのように割れ、噴き出した血がシャワーのように周囲に散る。
 通路は、たちまちのうちに血塗れになった。

「…俺に色でも付けようと言うのか? それとも、血の池に浮かぶ足跡で動きを察知しようと?」
 再び、至近距離より男の声。
 銃声と共に、スミスの頭部が撃ち抜かれた。
 血塗れの廊下にびちゃりと横たわるスミスの亡骸。

「…ウホッ! 単に、透明になれるスタンド能力って訳じゃないみたいだな…」
 阿部高和は、表情を歪めて言った。
「こりゃ、頭の中がパンパンだぜ…」

「構う事はない。吸血鬼なら、葬るだけだ…」
 スミスは、減った人数を補充するかのように数を増やした。

「お前と違って、俺は1人しかいないんだよな…」
 阿部高和は呟く。
「まあ元々が強い奴ほど、『メルト・イン・ハニー』で強力なスタンドに変換できる。
 アンタがどんなスタンドになるか、楽しみだぜ…!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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602ブック:2004/06/14(月) 01:38
     EVER BLUE
     第三十一話・MIGHT 〜超力招来〜


「『ネクロマンサー』!!」
 ニラ茶猫が、右腕に生やした刃を福男目掛けて薙ぐ。
「『テイクツー』!!」
 自身のスタンドで、その斬撃を苦も無く受け止める福男。
 そのまま、受けに使ったのとは別の腕でニラ茶猫に拳を突き出す。

「くッ!!」
 左腕で、ニラ茶猫がその一撃を受ける。
 しかし生身の体では近距離パワー型のスタンドの力に敵う筈も無く、
 ニラ茶猫の体は勢いよく後方に吹っ飛ぶ。

「がはッ…!!」
 壁に叩きつけられ、ニラ茶猫が苦悶の声を上げる。
 受けに使用した左腕の骨は無残に砕け、
 その皮膚はない出血でどす黒く変色していた。

「ちッ!
 この野郎が…!」
 打撃による損傷は、斬撃や銃撃のそれと比べて修復が難しい。
 『ネクロマンサー』を砕けた骨などに擬態させて治癒を行うも、
 その再生速度は遅かった。

「…!オオミミ!!」
 と、ニラ茶猫がヒッキーと闘っているであろうオオミミの方を心配そうに見やる。
 しかし、オオミミは既に闘いの場を移したらしく、
 既にさっきまで居た場所には居ない。

「…人の心配をしている余裕があるのかな?」
 福男が嘲笑を浮かべながら口を開いた。
「へっ、ほざいてろ。
 さっきのはラッキーパンチってやつだフォルァ。
 手前なんざ、あと一分で蹴散らして…」
 そこでニラ茶猫はようやく自分の左腕の異変に気がついた。
 左腕の『テイクツー』の拳を受けた部分が、締め付けられたように縮んでいる。
 普通骨折をした場合には、その箇所が腫れ上がるものなのだが、
 今回は逆にしぼんでいるのだ。
 これは、明らかに異常だった。

「なっ!?
 これは…!!」
 ニラ茶猫が驚くのとはお構い無しに、左腕はどんどん圧縮されていった。
「うあああああああああああああああ!!!」
 肉が、骨が、中心めがけて収縮していく。
 その圧力に耐え切れなくなり、皮膚が裂けて血がそこから噴出する。

 ―――グシャリ。

 音を立てて、ニラ茶猫の左腕がレモンの絞りかすのように潰れきった。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 ニラ茶猫が発狂したかの如く叫んだ。
 打撃、斬撃、銃撃。
 彼も今までに幾つもの痛苦を味わってはきたものの、
 流石に今回のそれは初めて受ける痛みであった。
 当然といえば当然である。
 体の一部が圧縮されるなど、余程の拷問でもない限り味わう事は無い。

「『テイクツー』!」
 痛みに苦しむニラ茶猫に、福男が止めを刺すべく飛び掛かる。

「うあああああああああああ!!!」
 身を捩じらせ、ニラ茶猫が寸前で追撃を回避する。
 いや、それは最早『回避』というよりも『避難』といった方が近かった。

603ブック:2004/06/14(月) 01:39

「畜生がああぁぁぁ…!
 それが、手前の能力か…!!」
 息を切らしながら、ニラ茶猫が福男を睨む。
 その左腕から滴り落ちた血が、足元に赤い水溜りを作っていた。

「だとしたら?」
 構えを取る福男。
 ニラ茶猫との間の距離は凡そ十五メートル。
 互いに、一足飛びに攻撃できる距離ではない。

「…どうやら、そのスタンドのお手手には迂闊に触れられない方がよさそうだな。
 頭までこの左腕みたいになるのは勘弁だぜ…!」
 『ネクロマンサー』で、ズタズタになった骨や筋肉を復元しながらニラ茶猫が呟いた。
 痛みは、『ネクロマンサー』を脳内麻薬に擬態させる事で和らげる。

「…お前も吸血鬼か何かか?」
 ものの十秒程で復元されたニラ茶猫の左腕を見て、福男が尋ねる。

「へっ、さてなァ。」
 ニラ茶猫が懐からドリンク剤の瓶を何本か取り出し、一気に飲み干した。
「…?」
 その余りに突飛な行動に、首を傾げる福男。

「心配すんな。
 これは只の、何の変哲も無いドリンク剤さ…!」
 直後、ニラ茶猫が大きく跳躍する。
 闘うには問題無い位に復元した左腕からは『ネクロマンサー』の刃を生やし、
 右手にはドリンク剤の空き瓶を持っている。

「らあァ!!!」
 上段からの振り下ろし。
 福男が、それをスウェイバックでかわす。
「せいッ!!」
 そこから返す形での切り上げ。
 しかし、そのニラ茶猫の攻撃を虚しく空を切る。

「無駄だ!
 近距離パワー型に、その程度の体術が通用するかっ!!」
 福男が反撃に打って出ようとする。
 寸前、ニラ茶猫はそんな福男の眼前にドリンク剤の瓶を投げつけた。
 それと同時に、ニラ茶猫は後ろへと飛んで福男から距離を離す。

「小細工をっ!!」
 福男が腕でその瓶を薙ぎ払おうとする。
 彼のスタンド『テイクツー』の腕が、瓶に触れ―――

604ブック:2004/06/14(月) 01:39


「!!!!!!!!!」
 その瞬間、ドリンク剤の瓶が大爆発を起こした。
 ガラス片が飛び散り、血飛沫が周囲に舞う。

「…ニトログリセリン。
 大変危険な為、その扱いには充分注意を払いましょう。
 俺の切り札は、ドリンク剤の中身じゃなくて空き瓶の方だったんだよな。」
 そう、ニラ茶猫は空になった空き瓶の中に、
 『ネクロマンサー』をニトログリセリンに擬態させて入れておいたのだ。

「さて、オオミミの方に加勢しに行く…」
 そこで、ニラ茶猫は言葉を止めた。
 爆発時に生じた煙の中に、立ち上がる人影を発見したからだ。

「…やって……くれたな…」
 全身を黒こげにしながらも、福男がよろめきながら立ち上がる。
 火傷が、徐々にではあるが回復していった。

「…だからお前らって嫌いなんだよ。」
 呆れたように肩を竦めるニラ茶猫。
 だがそんな軽薄な態度とは裏腹、その首筋には冷や汗が伝う。

「『テイクツー』!」
 目を血走らせ、福男がニラ茶猫目掛けて突進する。
「ちっ!!」
 接近戦では分が悪いと判断したニラ茶猫が、後方へ飛びずさる。
 しかし急所には命中しなかったものの、
 『テイクツー』の拳はニラ茶猫の右足を捉えた。

「!!!!!!
 ぐああぁッ!!!!!!!」
 悲鳴と共に、ニラ茶猫の右足が音を立てて潰れていく。
 片足を失ったニラ茶猫は、バランスを崩して地面に倒れた。

「死ね…!」
 そこに襲い来る福男とそのスタンド。
「おわあア!!」
 床を転がりながら、ニラ茶猫が何とかその一撃をかわそうとする。
 しかし完全には避け切れず、修復したばかりの左腕が再び圧壊していった。
 それでもなおニラ茶猫は転がり続け、
 その勢いを利用して地面を跳び、片足で着地する。

「逃がすか!」
 福男がニラ茶猫を追いかけながら、スタンドの拳を繰り出す。
「!!!!!!!!」
 刹那、福男の眼前で閃光が迸り彼の目を灼いた。
 マグネシウム。
 火を点ける事で、激しく発光しながら燃え上がる金属。
 ニラ茶猫は着火剤としてリンを使う事で、
 マッチやライター不要のお手製閃光弾を作ったのだ。
 リンならば、指先で擦るだけでも充分に発火させられる。

「なッ…!
 糞…!!」
 視界を奪われ、一時的に前後不覚になる福男。
 ニラ茶猫は、その隙に福男から命辛々距離を取って再生を始める。
 このダメージは、かなり大きい。

605ブック:2004/06/14(月) 01:40

(ひいいいィィィィィィィィィ…
 ひいいいいいいいいいいイイイイイイイィィィィィ…!
 痛え。
 痛えエェ…
 ぅ痛うぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!)
 位置を悟られる訳にはいかないので、
 絶叫を何とか喉の位置で外に出さぬよう押し込める。
 『ネクロマンサー』で痛みを消し去る事も出来ないでもないが、
 過度の麻酔の投与は戦闘に重大な悪影響を及ぼす。
 動くのに差し支えの無いギリギリの量で、ニラ茶猫は何とか我慢する事にした。

(で、どうするよ…
 恐らく奴の能力は、触れたものをその中心を基点に圧縮する事。
 あの拳で頭や胴体を触られたら、その時点でアウトだ。
 三月ウサギなら、触らせる間も無く解体出来るんだろうが…
 俺には無理だ。
 接近戦じゃ勝ち目はねぇ。
 かといって逃げる訳にもいかねぇし…)
 『ネクロマンサー』に擬態による回復を急がせながら、ニラ茶猫が思考を巡らせる。

(毒ガス攻撃…
 …駄目だ。
 この船の中じゃ、俺だけでなく他の奴らまで巻き添えだ。
 それに、あいつに通用するかも分からねぇ。
 糞。万事休すかよ…!)
 ニラ茶猫が小さく舌打ちする。

「…そこにいたのか。」
 視界を取り戻した福男が、ニラ茶猫に向き直った。
「お早いお目覚めで…」
 軽口を叩きながらも、内心大焦りのニラ茶猫。

(兎に角、もう少しで肉や骨への擬態が完了する。
 だけど、回復してるだけじゃ奴には勝てねぇ…
 …待てよ。
 『肉』と『骨』に擬態だって!?)
 ニラ茶猫が、はっと顔を見上げた。

「これで決める!!」
 そんなこんなしているうちに、福男が飛び掛ってくる。
「ちッ!!」
 横に跳び、ニラ茶猫が寸前で拳をかわす。
 『テイクツー』の腕が、深々と船内の通路の壁に突き立てられた。

「おおらあああああああああああ!!」
 がら空きになった胴に福男の、ニラ茶猫が『ネクロマンサー』の刃を突き出す。
「当たるかッ!」
 しかし、福男は後ろに跳躍してその刃を軽々と避けた。

(糞がッ!
 だけど、もう少しだ。
 もう少しで、何かが繋がる。
 『ネクロマンサー』の、新しい可能性が…!)

「!!!!!!!!」
 その時、先程『テイクツー』の拳が突き刺さった周囲の壁が、奇妙に盛り上がった。
 ニラ茶猫がそれに気づくも、もう遅かった。
 通路の壁が次々と盛り上がり、ニラ茶猫を巻き込む形で中心目掛けて潰れる。
 ニラ茶猫の体は、たちまち潰れていく壁の中へと飲み込まれた。

606ブック:2004/06/14(月) 01:40


「…流石にこうなっては、自慢の再生も役には立たないだろう。
 おあつらえの棺桶といった所か。」
 ひしゃげた通路を眺めながら、福男が呟いた。
 通路は跡形も無く圧縮され、最早見る影も無い。
 当然、その中のニラ茶猫も―――

「!!?」
 その時、押し潰された通路から、一つの刃が突き出された。
 目を見開く福男。
 見間違える筈も無い。
 それは、ニラ茶猫の腕から生えていた―――

「!!!!!!!!」
 轟音と共に、潰れた通路の壁が吹き飛んだ。
「…礼を言うぜ。
 ここまで追い詰められて、ようやく『ネクロマンサー』の新しい応用を思いついたぜ。
 何で、こんな簡単な事に気がつかなかったんだろうなぁ…」
 その中から、一つの人影がゆっくりと姿を現す。
 特徴的な緑の頭髪。
 それは紛れも無く、ニラ茶猫のトレードマークであった。
 しかしその体躯は二周り以上にも肥大し、
 その表皮は亀甲の如く硬質な鎧で覆われている。
 刃を精製する応用で、全身を鎧に包み込む。
 この硬い皮膚こそが、先程の壁からニラ茶猫を守ったのだった。

「…!!」
 福男が絶句する。
 最早それは断じて人ではなく、怪物との呼び名こそが相応しかった。
「何を驚いてんだよ。
 ちょっとした、ドーピングみたいなもんさ。」
 怪物が、笑う―――

「!!!!!!!!!」
 直後、福男の体が紙切れのように吹き飛んだ。
 『ネクロマンサー』を筋肉に擬態。
 それにより引き出される驚異的な膂力と敏捷力。
 それらを余す事無く注ぎ込んだ、腕の一振りが福男に叩きつけられたのだ。

「……!!」
 悲鳴を上げる暇も無く、血と臓物を撒き散らしながら福男がすっ飛ばされる。
 そのまま福男は壁に叩きつけられ、
 赤黒い色の版画を壁に貼り付けて絶命した。

「…俺に触れる事は死を意味する、ってか。」
 ニラ茶猫は力なく笑うと、床に肩膝をついた。
 スタンドの酷使によって『ネクロマンサー』の擬態が強制的に解除され、
 彼の体が見る見る元の姿へと戻っていく。

「がはッ…!」
 口から血を吐き、その場に倒れるニラ茶猫。
「…やっぱ、スタンドパワーにも俺の体にも、
 相当の無茶だったみてぇだな……」
 力無く、ニラ茶猫が口を開く。
 それでも満身創痍の体に鞭を打ち、彼は何とか立ち上がった。

「…寝てる暇はねぇのが辛い所だよなぁ、ほんと。
 待ってろよオオミミ。
 すぐにいくぜぇ…」
 ニラ茶猫はそう呟きながら、体を前へと引きずるのであった。



     TO BE CONTINUED…

607ブック:2004/06/15(火) 03:10
     EVER BLUE
     第三十二話・SIDEWINDER 〜魔弾〜


 僕とオオミミは、暗い顔の小柄な男に向かって構えを取っていた。
 男の手には、木製グリップのやや古めかしい狙撃銃。
 あれが、男の得物という事か。

「…ボクノナマエハヒッキー。
 キミハナノラナクテイイヨ。
 ドウセ、ココデシヌンダカラ…」
 男が自己紹介しながら銃口をこちらに向けた。
 それに耳を傾けながら、オオミミがじりじりと距離を詰める。
 それでも、ヒッキーとの間合いはまだ二十メートル近くある。
 この距離では、こちらの攻撃は届かない。

「ぎゃああああああああああああああ!!!」
 後ろの方から、ニラ茶猫の悲鳴が聞こえてくる。
 まさか、彼の身に何かあったのか!?

「ヨソミヲスルナ…!」
 ヒッキーの狙撃銃から、激発音と共に銃弾が放たれた。
「『ゼルダ』!」
 オオミミが叫ぶ。
「応!」
 僕の右腕で、飛来する銃弾を弾き飛ばす。
 フルオートによる斉射なら兎も角として、
 この程度の銃撃ならば僕でも充分に防御は可能。

「…退くならば、俺は追わない。」
 オオミミが低く呟く。
 あの狙撃銃では、自分を倒せないと確信しての言葉だろう。

「ヨウスミノイチゲキヲカワシタクライデ、ナニヲイイキニ…」
 ヒッキーが再び銃を構えた。
 何のつもりだ?
 そんな銃など僕には通用しない事は、さっきので分かっているだろうに。
 だけど、彼からの殺気にハッタリの風は無い。
 気を抜く訳にはいかないようだ。

「レッドスネークカモンカモン…」
 ヒッキーが呟くと、半透明の赤い管のようなものが幾つか周囲に出現した。
 その管はまるで蛇のようにグネグネと蠢いている。
 これが、奴のスタンドか…!

608ブック:2004/06/15(火) 03:11

「コレガボクノ『ショパン』…
 キミハモウ、ニゲラレナイ。」
「!!!」
 半透明の赤い蛇が、オオミミに襲い掛かる。
 咄嗟に僕は腕でオオミミを庇おうとした。

「!?」
 だが、僕の腕には何ら手応えが感じられなかった。
 見ると赤い蛇は僕の体をすり抜け、オオミミまで伸びている。

「なっ!?」
 思わず声を漏らすオオミミ。
 どういう事だ?
 この蛇はみたいなスタンドには、お互いに干渉出来ないのか!?

「シンパイシナクテイイヨ。
 ソノヘビノカラダニオサマラナイサイズノモノニハ、マッタクエイキョウハオヨバナイ。
 ダケド…」
 ヒッキーが赤い蛇の胴体目掛けて照準を合わせる。
「コノジュウダンナラバ、ヘビノドウタイノナカニジュウブンオサマル…!」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金を引いた。

「!!?」
 発射された弾丸が蛇の胴体へと収まった瞬間、銃弾が突如その軌道を変えた。
 いや、これは、赤い蛇の中を通って来ている!?

「くッ!!」
 弾丸が、蛇の胴体の中を進みながら僕達へと向かってくる。
 だけど、速度自体はさっきのと一緒だ。
 構わず弾き飛す。

「!!!」
 しかし、弾丸の弾かれた先には既に半透明の蛇が待ち構えていた。
 弾丸が蛇の胴体に取り込まれると、
 再びその中を通って僕達に襲い掛かる。

「ぐあッ!!」
 弾丸はそのまま蛇の体を通り、オオミミの肩口へと喰らいついた。
 オオミミが痛みに顔を歪める。

「!!!」
 しかし、それだけでは終わらなかった。
 ヒッキーがさらに銃弾を撃ち出してくる。
 蛇の胴体へと入り込み、その中を突き進んでくる弾丸。
 そして、蛇自体もその身に弾丸を宿したまま僕達に襲い掛かる。

(あの蛇から離れろ!オオミミ!!)
 僕は叫んだ。
 どうやらあの半透明な蛇の中に入った物体は、
 その体内に沿う形で移動するらしい。
 それは逆に言えば、弾丸は必ずそこを通るという事だ。

「!!!!!」
 オオミミが、必死に赤い蛇から逃れようとする。
 だが赤い蛇はそれを許さじと、僕達に向かって襲い掛かる。
 胴体をくねらせ、その姿を自在に変える蛇。
 しかも、そのスピードはかなり速い…!

(オオミミ!!)
 半透明の蛇の胴体が、オオミミの左腕と重なる。
 そこを高速で通過する弾丸。

「ぐぅッ!」
 咄嗟に僕が腕で弾丸を止めようとするも間に合わず、
 銃弾がオオミミの左腕を貫いた。
 そして、貫通した弾丸はまたもや半透明の蛇の胴へと潜り込み、
 僕達へと突き進んでくる。

「ムダダヨ。
 ボクノ『ショパン』カラハノガレラレナイ…」
 弾込めをしながらヒッキーが呟く。
 そうかい、なら…

「直接、本体であるお前を叩く!!」
 オオミミがヒッキー目掛けて突進した。
 これ以上、向こうお得意の間合いに付き合う必要などありはしない。

「サセナイ!」
 蛇の胴体がオオミミの眼前を遮る。
 そこを一瞬にして通過する銃弾。
「うわあ!」
 オオミミが、慌てて立ち止まった。
 その鼻先を銃弾が掠める。
 あと少し停止が遅れたら、頭を打ち抜かれていた所だ。

609ブック:2004/06/15(火) 03:11

「!!!!!!」
 だが、そこで動きを止めたのがまずかった。
 立ち止まったオオミミの足に、
 蛇の体の中をカーブしながら進んできた銃弾が喰い込む。
 しまった。
 いつの間にか足元にも蛇を配置されていたか…!

「……!!」
 足にダメージを負い、床に横転するオオミミ。
 しかし、このまま倒れていては鴨撃ちだ。
 僕の足をオオミミと重ね、そのまま後ろへ跳躍する。

「!!!!!」
 そこに襲い来る赤い半透明の蛇と、その中の銃弾。
(無敵ィ!!)
 僕はすぐさま拳を振るい、蛇の体内を駆ける銃弾を叩き落そうとする。

「!!!!!」
 しかし僕の拳が弾丸に触れる直前で、
 蛇の体が大きくよじれた。
 スカを食らう僕の右拳。
 だが銃弾は止まらない。
 オオミミが身をかわそうとするも、
 銃弾は蛇の体内を通りながら無慈悲にオオミミの脇腹へと突き刺さった。

(オオミミ!!)
 がっくりと膝をつくオオミミ。
 内臓を痛めたらしく、その口からは一筋の血が伝う。

「ククク…イイキミダ……」
 ヒッキーが嫌らしい笑みを浮かべる。
 糞。
 僕がついていながら何て様だ…!

「サテ、イツマデイキテイラレルノカナ…」
 ヒッキーが狙撃銃の引き金に指をかけた。

「…『ゼルダ』。」
 オオミミが、小声で僕に囁いた。
(…分かってる。)
 そう、オオミミの言いたい事は分かっていた。
 あのヒッキーのスタンドは、銃撃と組み合わせる事で威力を発揮するスタンド。
 ならば銃撃さえ封じてしまえば、そのスタンドは全くの無力と化す。
 そして、僕の能力による結界ならばそれが可能。
 問題は、能力が完全に発動するまで持ち堪えられるかどうかだ…!

「『ゼルダ』…!!」
 オオミミが、精神を集中させる。
 場を支配していく圧迫感。
 結界を張る為の力場が、周囲に展開していく。

「ナニヲスルツモリダ…!?」
 勿論、その隙を逃す程敵も馬鹿ではない。
 オオミミ目掛けて、次々と銃弾を撃ち込んでくる。

「無敵ィ!!」
 僕はその弾丸を何とか防ごうとする。
 しかし、能力の発動の為に大半の力を注いでいる上に、
 変幻自在の軌道で襲い掛かる銃弾。
 僕に出来るのは、何とか急所だけは外す事ぐらいだった。

「…!!」
 オオミミの体に、次々と銃弾が突き刺さる。
 だが、それでもオオミミは集中を解かなかった。

610ブック:2004/06/15(火) 03:12

「宿し手は宿り手に問う。汝は何ぞ。」
 痛みと闘いながら、オオミミが結界展開の為の詠唱を開始する。
(我は業(チカラ)。道を進まんが為の、業なり。)
 それに答える形で、僕も言葉を紡ぐ。

(宿り手は宿し手に問う。汝は何ぞ。)
「我は意志(チカラ)。道を定めんが為の意志なり…!」
 脂汗を流しながら、オオミミが詠唱を続ける。

「ナニヲゴチャゴチャト…!」
 ヒッキーが更に銃弾を放つ。
 蛇の中を通って飛び掛かる銃弾。
「……!!」
 オオミミが、咄嗟に身をよじる。
 しかし弾丸は彼の背中へと着弾した。
 オオミミが大きく体を崩す。

(業だけでは存(モノ)足らず。)
「意志だけでは在(モノ)足らず。」
 徐々に展開されていく力場。
 あと少し。
 あと少しだ…!

「孤独な片羽は現世を彷徨う。」
 銃撃を受け、体勢を崩しながらも、オオミミは詠唱を止めない。

(ならば我等一つとなりて。)
「業と意志で存在(ヒトツ)となりて。」

「高き天原を駆け巡らん!」(高き天原を駆け巡らん!)

「クタバレ…!」
 撃ち出される弾丸。
 そして、それが次々とオオミミの体に穴を開ける。
 痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み痛み。
 それでもなお、オオミミは歯を喰いしばって耐える。

 あと少し。
 あと少し。
 あと少し―――!

「折れし翼に安息を。」
(傷つきし翼に祝福を。)

「翼失いし心に羽ばたきを!」(翼失いし心に羽ばたきを!)
 僕は、溜め込んでいた力を一気に解放した。

「!!!!!!!!!!!!!!!」
 空間に、
 いや、世界に亀裂が走った。
 そしてそのひび割れた部分がガラスのように崩れ落ち、
 別の空間を構築していく。

「ナッ…!?」
 狼狽するヒッキー。
 だが、もう遅い。
 僕の能力は、既にここに完成した…!

(我は最早人ではない。)
「空手に入れし、鳥(ツバサ)なり―――」


「…the world is mine.(かくて世界は我が手の中に)」

611ブック:2004/06/15(火) 03:12





 ――――――――空。

 辺りに広がる、一面の空。
 何処までも続く、永遠の青。
 これはオオミミの内的宇宙の具現。
 …『ゼルダ』である僕の力。

「ナッ、コレハナンダ…!」
 ヒッキーがオオミミを睨む。

「…これが俺の『ゼルダ』の力だよ。」
 血塗れになった体で、オオミミが一歩ヒッキーへと歩み寄る。

「クソ!コレシキノコトデ…!」
 ヒッキーがスタンドを発動させ、狙撃銃の引き金を絞った。

「!?」
 ヒッキーが驚愕する。
 いくら引き金を引いても、銃弾が発射されなかったからだ。

「…悪いけど、この空間では銃を使えないように『ルール』を決めさせて貰いました。」
 息を切らしながら、オオミミが告げる。

「『ルール』…!?」
 思わずヒッキーが聞き返す。

「そう。
 だから、ここでは俺も銃は使えない…』
 オオミミがさらにヒッキーに近づいた。
 このダメージ。
 オオミミの体はそろそろ限界だ。
 もうあまり長くは結界を持続させる事は出来ない為、早く決着をつける必要がある。

「…!
 ジュウヲフウジタクライデ、ソノカラダデボクニカテルトデモ…!」
 ヒッキーが銃を捨て、満身創痍のオオミミ目掛けて飛び掛かった。
 だが―――

(無敵ィ!!!)
 遅い。
 三月ウサギやタカラギコの速さに比べれば、
 止まっているようなものだ。
 いくら本体のオオミミが傷ついているとはいえ、それしきで僕が倒せるか…!

「無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵無敵ィィィィ!!!」
 続けざまにヒッキーに拳を打ち込んでいく。
 体に残された僅かな力を全て攻撃に注ぎこむ!

「ウボアマーーーーーーーーーーー!!!」
 全身を挽肉に変えながら、ヒッキーが吹っ飛ぶ。
 殴り飛ばされたヒッキーは地面に落ち、そのまま二度と動かなくなった。

612ブック:2004/06/15(火) 03:12



「……!」
 オオミミががっくりと膝をついた。
 それと同時に、スタンドパワーが底をついて張り巡らした結界が解除される。
 一面の空から、景色が見慣れた船内の通路へと戻っていった。

(大丈夫か!?オオミミ!!)
 僕はオオミミに声をかけた。
「…大丈夫。
 まだ、やれるよ。」
 力無く微笑みを返すオオミミ。
 馬鹿。
 嘘ばかり言いやがって…!

「…!
 ちょっとあんた、大丈夫なの!?」
 と、そこへあまり聞きたくない声が響いてきた。
 天の声だ。

「天、何でこんな所に!
 危ないから物置の中に隠れてろって…!」
 珍しくオオミミが語尾を荒げる。
 個人的には、この女には闘いに巻き込まれて死んでくれればスカッとするのだが。

「あんたの情けない悲鳴が聞こえてきたから、
 わざわざ助けに来てあげたってのに、何よその言い草。
 大体、今はあんたの方が危ないんじゃなくて!?」
 偉そうにのたまう天。
 うるさい余計な事言うなシバくぞ。

「オオミミ!」
 そこに、ニラ茶猫も駆けつけてきた。
 どうやら、向こうも片付いたらしい。

「ニラ茶猫…」
 オオミミがニラ茶猫へと顔を向ける。
 壁にもたれ掛かりながら、ひこずるように体を動かしながらやってくるニラ茶猫。
 『ネクロマンサー』での回復が出来なくなる程、
 力を使い果たしてしまったらしい。
 これでは、オオミミの怪我を治してもらうのは無理か。

「酷くやられたな、フォルァ。」
 ニラ茶猫が苦笑する。
「ニラ茶猫だって…」
 掠れた声で受け答えするオオミミ。

「…治癒してやりてぇのは山々だが、
 見ての通り自分の頭の蝿も追えねぇ有様でな…
 悪いが、ちょっと我慢しといてくれ。」
 ニラ茶猫がすまなそうに言う。
「大丈夫。
 これ位、なんて事無いよ…」
 明らかになんて事ある体で、オオミミが答える。
 全く、やせ我慢も程々に―――


     ドクン


(―――!!)
 僕の内側を、覚えのある鼓動が襲った。
 これは、三月ウサギとタカラギコとの稽古の後の―――
 だが、その時よりずっと大きくなっている…!

「……!」
 天も、体を震わせている。

 何だ、これは。
 何なんだこれは。
 来る。
 来ている。
 何かが来る…!!

「『ゼルダ』、天…?」
 オオミミが不思議そうに尋ねた。

(オオミミ…気をつけろ。
 何かがヤバい…!)
 何の根拠も無い、
 しかしコーラを飲んだらゲップが出る位に確実な予感が、僕の脳裏をよぎっていた。

「『ゼルダ』…?」
 オオミミが心配そうに僕に声をかける。
 しかし、その間にもなお、
 不吉な予感はさらに影を大きくするのであった。



     TO BE CONTINUED…

613N2:2004/06/15(火) 14:59

━━━━━━━━━━━━━━

 まもなく
 『ギコ兄教授の何でも講義 2時限目』が
 始まります

              ∩_∩
━━━━━━━━━ |___|F━━   ∧∧
              (・∀・ ;)        (゚Д゚;)
        ┌─┐   /⊂    ヽ    /⊂  ヽ
        |□|  √ ̄ (____ノ   √ ̄ (___ノ〜
      |   |  ||    ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | あのさ、あれって一発ネタじゃなかったっけ?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ………だよなあ。
         \________________

614N2:2004/06/15(火) 15:01

 椎名先生の華麗なる教員生活 第3話 〜運命の出会い〜

暗い部屋に、一人。
視覚も、嗅覚も、聴覚も、触覚も絶たれて、
私は暗い部屋に一人。

ああ、これは夢だ、と私はすぐに気が付く。
今まで何度も苦しめられてきた、いつもと同じあの夢に決まっている。
しかし、それは『彼』の夢ではない。
それよりも、もっと陰湿で、果てしなく悲しい夢。

おぼろげな気配。
それは無邪気な子供たち。
しかし、その心中には果てしない程の邪気。

浮かび上がる子供たちの姿。
私には分かる。
この子らが私にどんな悪意を抱いているか。これから何をするか。
ああ、私に近寄るな。

「てめえッ、親が偉いからって図に乗るんじゃねえ!!」
私に近付くなり、私の顔を殴りつける一人の少年。
一人が動けば、皆が動く。
皆で動けば、怖くない。
良心の呵責が仲間外れの疎外感に負け、
一撃の痛みが更なる痛みを連鎖する。
響く邪気に満ちた声々。

「あんた、『おやのななひかり』ってやつで自分が目立ってるとか思ってるでしょ?
…そういう態度が気に入らないの!!」
「『こっかいぎいん』の娘だか何だか知らないけど、所詮はお前も『しぃ』だ!」
「『しぃ』はおとなしく殴られてればいいって、お父さんが言ってたぞ!」
「みんな、やっちゃえやっちゃえ!!」

殴られ、蹴られ、張り倒され、言葉の雨に打たれ続け…
痛い。辛い。悲しい。
もうやめて。



新しい気配。
それは大人たち。
傷付く私の姿を見る目は、しかし凍り付いていた。

「しぃってうざいよね〜」
「だよね〜、あの娘も誰か殺してくれないかな?」
「ったく、サルみてーな不細工な顔引っ下げて歩いてんじゃねーよゴルァ!!」

痛い。痛い。痛い。
もうやめて。

615N2:2004/06/15(火) 15:02

「えーマジしぃ族!?」
「キモーイ」
「しぃ族はどこまで行っても被虐キャラだよねー」
「キャハハハハハハ」

耐え切れない。私は…一体何なの?

私は…何で生きているの?

私は……


暗闇から浮かび上がるお父さんの姿。
私の唯一愛する、私の唯一信頼出来るお父さん。
助けて、と腹から叫んだ。
しかし、声は出ない。
口から出た途端、私の言葉は何か得体の知れないものにかき消された。

お父さんは私を見ている。
今まで見せたこともない、氷細工のように冷たい目で。
お父さんは、動かない。
傷付く私を見て、少しも救おうと動きはしない。

そして…嘲笑。
無言でお父さんは去って行く。
私の唯一愛するお父さんは、私を愛していない。
そして、遂に私はひとりになった。

私は…何の為に生きている?
私は…誰の為に生きている?

愛されたい。愛され尽くしたい。
愛したい。愛し尽くしたい。
誰か、私に愛を。

否、私に生の価値は存在しなかったのだ。
無価値なゴミに、愛は要らない。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「ジリリリリリリリ!!!!」
枕元で騒がしく鳴るベルが、私を深い眠りから覚ました。
真っ先に私は、びしょ濡れになったパジャマに不快感を覚える。

「夢…か…」
恐怖の体験が真のものではなかったと知り、私はほっと溜め息を吐いた。
しかし、それは今確かに体験した現実ではなくとも、
私自身の心には過去の現実として刻み込まれている。

616N2:2004/06/15(火) 15:04



私の父は、国会議員だった。
地元民の圧倒的な支持を得て、父は『国』の一部になった。
私はそんな父が誇らしかった。

母は私が生まれてすぐ、病気で亡くなったと聞く。
だから私は、母を写真でしか知らない。
父と写る母は、とても幸せそうに、穏やかな笑みを浮かべている。
私は決して手に入れられない、母の優しさに飢えていた。

父は非常に生真面目な人間だった。
物事の道理に敵わないものは、頑として拒絶した。
例え相手が自分よりも年上であれ、目上であれ。

結果、父は敵を増やした。
地元民の利益よりも国益を優先し、露骨な活動を続けた結果、
期待を裏切られた支持者達はその怒りの矛先を私に選んだ。

学校で親の差し金としか思えぬいじめの数々。
謂れの無い誹謗・中傷など受けなかった日を思い出すことが出来ない。
暴力を受けずに過ごせた日など、あっただろうか。

父はそんな私をいつも励ましてくれた。
大丈夫だ、気にすることはないと。
そして大きな腕で、私を抱きしめてくれた。
でも、私は幼心に思っていた。
本当なのか、と。

父は私が大学在学中に死んだ。
まだ若すぎる死だった。
葬式では、一度も会ったことの無い親族が上辺だけのお悔やみを述べ、
遺産を全てかっさらっていった。
私はこの時初めて父の世間での評価を体感したと言っても良い。

その日からである。
あの悪夢を見るようになったのは。
私を殴り、蹴り、蔑み、そして見捨ててゆくものども。
そしてそんな私を無関心に置き去りにしてゆく父。
勿論、父は生前私にそのような仕打ちをしたことは一度として無かった。
それでも私の妄想は、実体験した現実の過去よりも真実であった。

『彼』に走ったのも、それが一番の原因だったのだろう。
私に優しく、父親のように暖かく接してくれた『彼』。
私は彼を本気で愛した。
それは、本気で愛されたかったから。
でも、私には完全な「Only One」であった『彼』にしてみれば、
私は「One of 数ある遊び相手」でしかなかったのだ。
『彼』は私を捨て、私はまた一人になった。

『愛が、欲しい』
今の私には、それしかなかった。
新しい恋人が欲しい、とかそんな事ではなく、
それが私の今生きる唯一の理由でもあった。

617N2:2004/06/15(火) 15:05



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



いつも通り、何も変わらぬ日常がスタートした。
いつも通りの朝会、いつも通りのつまらない会議。
しかし、そんな中に唯一つ明確な変化があった。
熊野がまだ戻らない。
既に失踪から1週間近くが経っても、何の進展も無いと言う。
熊野は一体、どこへ消えてしまったのか?
真相は闇の中だ。

「熊野さん…まだ戻らないらしいわね。
昨日もご両親が学校までお出でになっていたわ」
隣からモネ姐がどことなく沈んだ声で話してきた。
何だかんだ言ってもモネ姐と熊野の付き合いは結構長いらしい。
憎たらしい相手ではあるが、そんな奴でも突然姿を消せばモネ姐でも心配になるようだ。

…二度と戻って来なくても良い。
私は、しかし残酷にも自然にそう思っていた。

「ええ、そうらしいですね」
私は本心を隠してそう返事をした。

「…こういう事言うのも何だけど、熊野さんやっぱり何かあったんじゃないかしら?
最近集団失踪事件がここまで大事になっているんだし、何か事件に巻き込まれたとしか…」
ちなみに、この時点で失踪者数は既に200人を超えていた。
連日町内では全国ネットのTV局クルーが最新情報を求めて町内を慌しく駆け回っている。

「かも…分かりませんね。
でもこればかりは気を付けようがありませんから、もし本当にそうだとしたらお気の毒としか…」
この時、失踪事件は新たなる段階へと突入していた。
外出中の人だけでなく、一家全員が丸ごと一晩の内に消えてしまうというケースが現れたのだ。
こうなると、最早集団登校とか休校とかでは対処出来なくなる。
当然国のお役人さんとか警視庁の公安当局だかが直々にお出でになって調査しているようだが、
進展という進展は全く見られていなかった。

618N2:2004/06/15(火) 15:06



「えー、皆さんお早う御座います。
今日も皆さんお元気なご様子で…と言いたいのですが、
今日も熊野先生はお休みのようですね…」
初ケ谷校長の話が始まった。
今日も話の始まりは熊野についてである。
しかし、今日の話はこれまでのものとは趣旨が違った。

「さて、熊野先生が失踪されてから今日で丸一週間が経ってしまいました…。
我々としては先生の一日も早い復帰を…まあ…願わなくてはならない訳ですが、
いつまで先生がすぐに戻って来るとの見込みをあてにしているだけでも色々と問題が御座いまして」
あれでも熊野は校内の様々な事務を受け持っていた為、
奴が消えたお陰でそのつけは我々に降りかかって来た。
正直なところ、人手がもう一人だけでも欲しいと皆が思っていただろう。

「それで、突然の話ですが今日から非常勤講師の方がいらっしゃることになりました。
まだお若いですがどうやら相当優秀な方だそうなので、
まあ皆さんとにかく仲良くして下さいね」
突然の校長の宣言には、我々全員が驚いた。
普通、そういう人が来るのであれば前以って連絡するのが普通であろう。
それが当日朝に発表されるなんて話、聞いたことがない。

「何とも無茶苦茶な話ですね…。
本当にそんな事で大丈夫なんですかね?」
私はちょっとニヤつきながらモネ姐にそう言った。
昨日の今日で決まったような話では、どこまでその非常勤講師も当てになるか分からない。

「あら、そう? それだけ急に決まる位優秀な先生かも知れないじゃない。
…それに、『まだ若い』って…!楽しみじゃない…!!」
モネ姐は私よりも更にほころんだ顔をしていた。
ああ、この人もこういう趣味があるのか、と私は始めて思い知らされたと同時に、何だかがっかりした。

「そんな、第一まだ男だとも言われてないのに期待してて…」
私は軽い軽蔑の意も込めた薄ら笑いをして、
机の上に乗せたカバンから荷物を取り出しながらそう言おうとした。
その時、校長が私の言葉を遮るように叫んだ。

「それじゃあ、入ってきて貰いましょう。
どうぞー!」
校長に呼ばれ、職員室の扉が開く。
私はその様子に興味を示すことなく、必要なものを机の上に置いてゆく。

「おお……!」
「カッコいい…!」
どこからともなく、そんな呟きが聞こえてくる。
しかしその時の私には、ノートの間に隠れた筆箱の行方の方が大事だった。

どよめきを掻い潜り、乾いた足音が少しずつ近付いて来る。
そしてそれは校長の辺りで止み、今度は若い男の声が届いた。

「本日からこちらで働かせて頂くことになりました、毛利と申します。
経験不足故に皆様にはご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかよろしくお願いします!」
ハキハキして活き活きとした、力の有る男の声。
それに呼応して、職員室内には盛大な拍車が巻き起こった。
私もそろそろ何事かと思い、いい加減その男の姿を見ることにした。

619N2:2004/06/15(火) 15:08



驚愕、としか言いようがなかった。
長い美しい髪に、整った極めて美しい顔立ち。
そして全身から醸し出される知性的な空気。
そこには、完璧な美が存在した。

「えー、では親睦を深める為にこれから先生へいくつか質問してみることにしましょう。
どなたか質問のある方は?」
熱気が冷め止まぬ内に校長がそう言うと、早速神尾先生が手を上げた。

「あの、えっと、猫田先生はどちらの大学を出てらっしゃるんですか?」
いつもは強気な彼女が珍しくモジモジしている。
下心は丸見えだ。

「…東京ギコ大学です。
それと、私は猫田じゃありません。毛利です」
不機嫌そうに毛利先生は言う。
だか彼のそんな気も知らず、周囲からは、おお、という溜め息が漏れた。

「え…っと……、次は私から………」
神尾先生よりも更に恥ずかしそうに、静川先生が手を上げる。

「あの……犬飼先生は…今…おいくつなんですか……?」
静川先生と今一番年が近いのは私である。
この間の一件があったとは言え、年下の女とでは流石に友達にはなりにくい(無論、彼にとってはの話だが)。
彼も年の近い仕事仲間が欲しいのだろう。

「…今年で23になります。
それと、私の名前は犬飼でもありません。毛利です」
彼の言葉に私はかなり度肝を抜かれた。
まさか、私よりも年下だなんて。
若いとは言っても、まさかここまでだとは思わなかった。

「……凄い…! それじゃあ大卒で教務員試験を一発合格したんですか…!?
…凄いなぁ……。僕なんて3年も落っこちてようやく先生になれたから……。
あ…あの……、これから仲良く…して……下さい…」
静川先生は完全に赤くなってしまった。
でも、彼なりには精一杯やったのだろう。
私達の中には、そんな彼を馬鹿にする者はいなかった。

「…ええ……考えておきます…。
名前さえ覚えて下されば……」
そして毛利先生は再び名前を間違われたことでそろそろ頭に来ているようであった。
だが、そこに更なる一撃が加わった。
それをしたのは八木先生だった。

「えーと、海老沢先生…っしたっけ?
海老沢先生はどちらの出身なんっすか?」

そこに質問された訳でもない先の二人が反撃する。
「ちょっと、八木先生! この人は猫田先生ですが、なにか?」
「あ…あの…、この人は犬飼先生だから……」

そう言われて、八木先生も頭に来たのか二人を怒鳴りつけた。
「馬鹿言うんじゃねえ! この人は海老沢先生だッつーの!」


「…毛利です…毛利…」
大乱闘にまで発展した三人を恨めしそうに眺めながら、毛利先生はそう呟いていた。

620N2:2004/06/15(火) 15:09

「まあまあ、そう気を落とさないでくれよ。
俺だって名前のことでいつも苦労してるんだからさ」
そんな毛利先生に鳥井先生が優しく声を掛ける。
同じ悩みを持つ者を放っておけないのだろう。

「すみません、余計な心配をお掛けして。
これからもよろしくお願いします、鳥井先生」
…あ、言ってはいけないことを…。

予想通り、ペチューンという勢いのある音が辺りに響き渡った。
何をされたのか分からない毛利先生と、顔に青筋を立てている鳥井先生。

「なんだよ!人の痛みがわかるやつだと思ってたら期待を裏切りやがって!
苗字で呼ぶなコラァ!」
鳥井先生は結局そのままドンチャン騒ぎを続ける三人の横を素通りして、そのまま机に戻ってしまった。
そろそろいい加減にしないと毛利先生がマジ切れしそうだ。

「え…えっと…それじゃあとりあえず毛利先生には熊野先生の席を使って貰いましょう」
差し迫った事態に危機感を覚え、校長が強引に話を締め出した。
毛利先生もそれに静かに頷く。

(ほら、言わんこっちゃないわ、いい男じゃない!)
モネ姐が子供のように無邪気な笑みを浮かべて機嫌良さそうに言った。
…この人にも、こんな一面があったのか。
呆れた私は荷物を出し終えたカバンを机の下へと潜り込ませ、
1時間目の算数の仕度を始めようと立ち上がった。
と、そこへ、何も前触れも無しに毛利先生が歩み寄ってきた。

「始めまして。椎名先生ですよね?」
柔和な笑みを浮かべて毛利先生が挨拶してきた。

「…ええ、はい。そうです。
これから、よろしくお願いしますね」
過剰なまでに親しみの込められた言葉に、私は同じ様に親しみを込めて返すことが出来なかった。
馴れ馴れしさにどこか不気味さを感じていたのであろうか。
しかし、毛利先生はそんな私の気も知らず、何か考えているような面持ちで
私の顔をじっと見つめていた。

「あの…以前お会いしましたっけ?」
彼の表情は、まさにそういう経験をした人のそれである、と考えた私は
思い切って彼にそう尋ねてみた。

「いや、今日こうして会うのが初めてです」
彼はあっけらかんとした感じであっさり言い切った。

「…そうですか…」
では、彼は一体何を考えているのだろう。
逆に考え始めてしまった私の耳に、私だけに聞こえる声で、
思いも寄らぬ言葉が飛び込んできた。

(ただ、貴女はとても美しい、と思いまして)

思考が混乱し、立ち尽くす私をよそに、毛利先生はそのまま元熊野の席へと静かに歩き始めた。
ただその場に呆然と静止している私に、モネ姐が心配そうに尋ねてきた。
「ちょっと椎名先生どうしたの?
顔赤いみたいだけど、どっか具合でも悪いんじゃない?」

左耳から入る声はそのまま右から抜けていったが、私の意識は歩く彼の姿を完全に認識していた。
突然の、告白。
何故?どうして?
恥ずかしさと疑問と性的興奮がぐるぐると全身を巡り続ける。
私には暫くの間、この1分ちょっとのやり取りで交わされた彼との言葉を頭の中で渦巻かせることしか出来なかった。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

621N2:2004/06/15(火) 15:10

何故前回こいつらだけ見落としていたのか…。

              、 l ,シャイタマシャイタマ !
             - (゚∀゚) -
                 ' l ` ∧∧
             ∧∧ ヽ(゚∀゚)/シャイタマ !
    シャイタマ〜 ! ヽ(゚∀゚)/  | |
                vv     W

NAME シャイタマー

擬古谷第一小学校に9月付けで転校してきた小学1年生。
クラスは3組(担任は椎名)。
理由は不明だが3人は血の繋がりもないのにいつも一緒に生活し、
本来別々のクラスに入るべきところを各々の親までもが強く希望したことにより
特例で同じクラスに入ることとなる。
3人は生まれついてのスタンド使いではないが、ずっと一緒に暮らしている内に
いつの間にか全く同じスタンドが発現してしまった。
それが種族的な理由なのか、はたまた前世の因縁なのかは誰にも分からない。

擬古谷町には夏休みの内から来ていたが、そこで『もう一人の矢の男』に
スタンド能力を見出され、亡霊に取り憑かれて洗脳される。
とは言え元々も子供だし取り憑いたのも子供の霊だったので
殺人などの凶行に及ぶことはなかったが、
主人の命によって標的であるギコ屋達に対しては一切容赦しなかった。

622N2:2004/06/15(火) 15:11
1/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  地獄の底から甦った、ギコ兄教授の何でも講義。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

      どんどんいくでー

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | だからさ、こりゃ一回ポッキリで終わりじゃなかったのかと小一時間(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ちゃんとそれなりの理由があるんだろうな?
         \________________

2/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  理由は簡単、絶賛の声が有ったからだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 421 名前: 新手のスタンド使い 投稿日: 2004/05/23(日) 17:10

 ワロタ。N2氏乙!

 ※スタンド小説スレッド3ページより抜粋
                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧======∧===
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | 絶 対 こ れ 宛 じ ゃ な い ! !
    \__________________

623N2:2004/06/15(火) 15:12

3/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ま、雑談ばっかじゃ何の為の小説スレか分からんから
|  いい加減本題入るぞ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 考察・小説スレ各作品のサブタイトルについて

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | そもそも先代したらばスレで小説スレを立てた上に
    | 小説スレでの文とAAの比は1:1とか言い出したのは
    | どこのどいつかと小(ry
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  …で、こんな問題起こしそうな内容で何話すんだ?
         \________________

4/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ご存知の通り、小説スレ連載中のほとんどの作品には
|  サブタイトルが付いている。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 各作者のシリーズ物作品一覧

 「モナーの愉快な冒険」:さ氏
 「合言葉はWe'll kill them!」:アヒャ作者氏
 「丸耳達のビート」:丸餅氏
 「救い無き世界」「EVER BLUE」:ブック氏
 「―巨耳モナーの奇妙な事件簿―」:( (´∀` )  )氏
 「スロウテンポ・ウォー」:302氏

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | 一応言っとくけど、小説スレ参加順に並んでるよ!
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  ま、これが一番妥当だろうな。
         \________________

624N2:2004/06/15(火) 15:12

5/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ところが………
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 N2の連載中作品
 「モナ本モ蔵編」「逝きのいいギコ屋編」

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
  |:;::|::U.:::::::::|   |  ||   ━┳┛  ||   ━┳┛
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   | ====∧==========
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |         ……………あ。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  すっかり気が付かなかったぞゴルァ…。
         \________________

6/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  では、どうしてこんな事になってしまったのか?
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

   ちゃんと理由は存在するッ!

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,,)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |   あ、そうなの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  是非ともお聞かせ願いたいもんだな。
         \________________

625N2:2004/06/15(火) 15:13

7/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  長引かせたくないから表でまとめたが、1つ目はこれだな。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

  N2「モナ本モ蔵編」連載開始
     ↓
  さ氏、連載開始
     ↓
  N2「逝きのいいギコ屋編」開始
     ↓
  アヒャ作者氏「合言葉はWe'll kill them!」開始
     ↓
  さ氏、「プロローグ・〜モナーの夏〜」完結
  作品名「モナーの愉快な冒険」と命名
     ↓
  自分の作品のタイトルなんてろくに考えないまま月日が経過
     ↓
  みんなサブタイトル付いてる
     ↓
  (+д+)マズー

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ )      (゚Д゚,;)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |   要するにN2のミス、と…。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |    言わずもがなでしょ…。
         \________________

8/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ところが、もう1つ理由がある。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 N2が本編のあらすじ製作中にサブタイトルが無い作品を
 「○○編」としたことにより、本編関連のモ蔵は元より
 本編との絡みを予定しているギコ屋も
 サブタイトルを付けようなんて思わなかった

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    | …でさ、結局何が言いたかったの?
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  作者の意図が分からん…。
         \________________

626N2:2004/06/15(火) 15:14

9/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  ま、言いたい事はこれだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 サブタイトル無くても(゚ε゚)キニシナイ!!

                ∩_∩
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  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
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    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄
    | 気 に し て い る の は お 前 だ け だ ! !
    \__________________

10/11

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|  お、そろそろ時間のようだな。
|  んじゃ、宿題はこれだ。
\__  _________________
━━━∨━━━━━━━━━━━━

 近日、剣士系(刀)のキャラを登場させる予定があるが
 いまいちナイスで強そうなキャラが見つからないので
 良さげなキャラを知ってたら報告すること

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ ;)      (゚Д゚,;)
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    |       …ちょっと待った。
    \____              ∧
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         |  それ、俺達じゃなくて読者に言ってないか?
         \________________

11/11

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         ,. -─- 、   なんだ
       (⌒) ┃┃ ヽ-、   もんくあるか
    .rt-;ヘ! ゙:,'' ∇ '' !‐'
   .,rl. | ! !  _,ヽ_,.ノ‐、
   ヽ!_f_i_,」‐´ _ ̄)ー‐ '

                ∩_∩
━|;;::|∧::::... /━━━━━ |___|F━━  ∧∧
  |:;;:|Д゚;) / ∇      (・∀・ #)      (゚Д゚#)
  |::;;|;│つ::..┌─┐   /⊂    ヽ   /⊂  ヽ
  |::;:|;;;|:::.::::::.|□|  √ ̄ (____ノ √ ̄ (___ノ〜
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    |        待 て ッ ! !
    \__________________


  /└─────────┬┐
. <   To Be Continued...?  | |
  \┌─────────┴┘

627ブック:2004/06/15(火) 22:18
     EVER BLUE
     第三十三話・MADMAX 〜悪鬼再臨〜


「…福男、ヒッキー両名からの通信が途絶えました。」
 オペレーターが、暗い声で山崎渉に伝えた。

『ザザッ…
 こちら三号艇…只今、『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』と交戦中…!
 何とか食い止めてはいますが、防戦だけで精一杯です……!!』
 備え付けの無線機から、ノイズ交じりの連絡が入ってくる。
 忌々しそうに舌打ちする山崎渉。

「…仕方ありません。
 これ以上長引かせては、憲兵が来てしまいます。
 この一号艇と二号艇に連絡。
 砲撃開始。
 無力化させるだけが望ましいですが、
 万一の場合は撃墜も已むを得ずと伝えておきなさい。」
 山崎渉が溜息を吐きながら告げる。

「了解!」
 それを受けて、オペレーターが直ちに通信を繋げた。

628ブック:2004/06/15(火) 22:18



     ・     ・     ・



「皆、大丈夫…!?」
 傷ついた体をおしながら、僕とオオミミとニラ茶猫が甲板へと駆け上がった。
 何故か、天までついてきている。

「ああ。
 …!それより、お前らの方がヤバそうじゃねぇか!!」
 オオミミとニラ茶猫の有様を見て、サカーナの親方が怒鳴る。

「こちらは問題ありません。
 あなた達は中で休んでおいて下さい。」
 パニッシャーを担ぎながら、タカラギコが微笑みかけた。
 こんな時に、よくそんな余裕の笑みを作れるものだ。

「…!?
 あれは!?」
 と、オオミミが敵の船の一つを見やった。
 よく見ると、その戦艦の甲板上で誰かが闘っている。
 いや、待てよ。
 あの大袈裟な得物には見覚えがある。
 あれは、確か…

「あの人は…!」
「あいつは…!」
 オオミミとニラ茶猫が同時に驚きの声を上げた。
 あの人は、この前オオミミを誘拐した女の人だ!

「ニラ茶猫、あの人の事知ってるの?」
 オオミミがニラ茶猫に尋ねた。
 そういえば妙だ。
 ニラ茶猫は直接あの女に会った訳ではないのに。

「いや、ちょっとな…
 って、そんな事いってる場合じゃねぇだろう!」
 ニラ茶猫が一方的に会話を切る。
 まあ確かにその通りだ。
 今は、ここから何とか乗り切る事に専念しなければ…!


『!!!!!!
 敵船、こちらに砲門の照準を合わせています!!』
 スピーカーから、悲鳴のような高島美和の声が響き渡った。

 何だって!?
 砲門の照準を合わせた!?
 いよいよ、多少のリスクを犯してでもこの船を強引に制圧しにきたか…!

『船の中に逃げて下さい!
 敵船が攻撃を開始し―――』

 !!!!!!!!!!

 その高島美和の声と、砲撃の音が重なった。
 爆音と共に、無数の砲弾が僕達の船に襲い掛かる。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!
 『モータルコンバット』!!!」
 サカーナの親方が叫んだ。
 刹那、『フリーバード』が一瞬にしてその向きを変える。
 それと共に、砲弾は全て『フリーバード』が向きを変えた方向へと逸れていった。
 無茶だ。
 まさか、サカーナの親方はこの船全体を包むほどの空間に能力を使用したのか!?

「……!!」
 スタンド能力の過度の使用の所為で、
 サカーナの親方が目鼻耳口あらゆる穴から血を流して横転する。

「親方!!」
 オオミミがサカーナの親方に駆け寄る。
「へッ…
 流石に…これだけの範囲の空間の向きを変えるのは…
 無茶だったみたいだな…」
 息も絶え絶えに、サカーナの親方が呻くように呟く。
 スタンドパワーの使い過ぎだ。
 死にはしないだろうが、暫くは戦闘不能だろう。
 いや、このままだと、どっちみち皆死んでしまう。

「後にしろ、オオミミ!
 二撃目が来るぞ!!」
 三月ウサギが怒鳴った。
 だけど、最早僕達に何が出来るっていうんだよ…!



「!!!!!!!!!!!!!!!」

 その時、全身を氷柱で貫かれたような、
 ゾッとするものが僕の全身を駆け巡った。
 これは、さっき感じたのと一緒の気配だ。
 禍々しく、気味の悪い、この世のものとは思えないような威圧感。
 何だ。
 さっきから、一体何が来ている―――

「!!!!!!!」
 その場の全員の目が、一つ所に集中した。
 突如やってきた、黒い小型戦艦。

『あれは、『帝國』最新の小型快速艇『黒飛魚』…!
 『帝國』の船がたった一艘で、
 こんな『ヌールポイント公国』の国境ギリギリまで!?』
 高島美和の驚きの声がスピーカー越しに伝わる。
 馬鹿な。
 こんな所に戦艦なんか持ち込んだら、両国の関係に軋轢が生まれるのは明白だ。
 それなのに、何故そんな危険を冒してまで『帝國』の船が!?

「……!!」
 オオミミが、拳を硬く握って『黒飛魚』を見据えた。

629ブック:2004/06/15(火) 22:19



     ・     ・     ・



 『黒飛魚』の甲板に、奇形モララーと全身を拘束具で縛られた人物が佇んでいた。
「くははははは。
 来たぜ来たぜ来たぜえええェェ…!」
 身体を震わせながら、奇形モララーが笑う。
 そして、懐から携帯電話大の大きさの四角い箱を取り出す。

「しっかり働けよ、『カドモン』…」
 四角い箱から太い針のような物が飛び出る。
 奇形モララーは、それを『カドモン』と呼ばれた人物の首筋へと突き刺した。

「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 顔をすっぽりと包んだ頑堅な仮面から、苦悶の声が漏れる。
 痛みの為か、『カドモン』は身体を数回ビクンビクンと痙攣させた。

「これで良し、と…」
 奇形モララーはそれを見て満足そうに微笑む。

「さて、それじゃあお呼びするとしようかねぇ…!」
 奇形モララーはそう呟くと、精神を集中させる。
「『ディアブロ』…!!」
 『カドモン』の頭上に、どす黒い穴が開いた。
 そこから、それよりもなお昏きオーラが『カドモン』の中へと侵入していく。

「ヴヴルルルオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!」
 身を捩じらせながら、『カドモン』が悶え狂う。
 しかし、昏きオーラはさらに『カドモン』へと潜り込んでいった。

「…!!」
 穴が閉じ、奇形モララーが膝をつく。
 その顔には、脂汗がびっしりと流れていた。

「…はァ、はぁ……
 たった一回でこれか…
 相変わらず、何てぇ『化け物』だよ…!」
 肩で息をしながら奇形モララーが呟く。

「ウルロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 刹那、『カドモン』の腕と脚の拘束具が弾け飛んだ。
 そこから、およそこの世のものとは思えない異形の手足が現れる。

「オオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!」
 さらに背中の部分の拘束具が破れ、悪魔のような翼が突き出る。
 それは、まさに『化け物』以外に呼び名が思いつかない程の存在だった。

「…うまくいったみたいだな。」
 奇形モララーが、『化け物』を満足気に見据える。
「いいか、あのチンケな船は攻撃するな。
 壊していいのは周りの戦艦だけだ。」
 奇形モララーがスイッチのようなものを弄ると、
 先程『カドモン』に取り付けておいた機械から電流のようなものが流れる。
 『化け物』に姿を変えた『カドモン』が、それを受けてゆっくりと頷いた。

「よし…
 行けぇ!!!」
 奇形モララーが山崎渉率いる『紅血の悪賊』の戦艦を指差した。

「ルアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 『化け物』は翼をはためかせると、
 凄まじい速度で『黒飛魚』の甲板から飛び去っていった。

630ブック:2004/06/15(火) 22:19



     ・     ・     ・



「山崎渉様!!
 『帝國』の『黒飛魚』より、何かが飛び立ちました!!
 こちらに向かって、驚異的な速度で飛来してきています!!!」
 オペレーターが甲高い声をあげた。

「糞…!
 ここにきて、何故『帝國』が!?」
 歯軋りをする山崎渉。
「構いません、撃ち落とすのです!」
 声を荒げて山崎渉が指令を飛ばした。
「はッ!」
 返答するオペレーター。
 すぐさま、向かってくる『化け物』目掛けて何発もの砲弾が発射される。

「……!!!」
 しかし『化け物』はその砲撃の悉くをかわしながら、
 『紅ちの悪賊』の艦隊目指して突進した。

「!!!!!!!!!」
 『化け物』が、ジャンヌが闘っていた戦艦に突貫する。
 轟音と共に、『化け物』のぶちあたった船体に大穴が穿たれた。

「なッ!?」
 激しく揺れる船上。
 ジャンヌが、バランスを崩しながら驚愕の声を漏らした。

「ロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
 『化け物』が、吼える。
 大気を震わす叫び声。
 それに平行する形で、『化け物』が飛び込んだ戦艦の中で暴れまわる。

「AAAAAAHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
 その戦艦の中にいた吸血鬼達が、あっという間に屠り去られていった。
 最早これは殺し合いですらない。
 唯々一方的な虐殺である。

「!!!!!!!!!!!!」
 次々と戦艦の内側から爆発が起こり、
 船のあらゆる場所から火の手が上がる。
 瞬く間に一艘の戦艦は寿命を迎え、黒煙を上げながら墜落していった。

「ちッ!」
 ジャンヌは舌打ちをすると、落ちていく船の甲板から飛び降りた。
 その体の周りに無数の蝙蝠が集まり、大きな蝙蝠へと姿を変えてジャンヌを背に乗せる。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 それとほぼ同時に、『化け物』も戦艦の中から飛び出した。
 そして残った二艘の戦艦のうち、山崎渉の乗っていない方の船へと目標を移す。

「リュオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
 砲撃を掻い潜りながら戦艦まで接近し、『化け物』がその異形の腕を船体へと突き立てる。
 そのまま腕を船体に突っ込んだままで飛行し、
 戦艦をまるで紙風船のように引き裂いていく。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 穴だらけになり、爆破炎上する戦艦。
 一通り破壊を終えた『化け物』が、落ちゆく戦艦の船首へと足を下ろした。

「何だ…
 何なんだあれはああああああああああああああああ!!!?」
 山崎渉が狂ったように叫んだ。

「落ち着いて下さい、山崎渉様!
 退避命令を!
 このままでは我々まで巻き込まれてしまいます!!」
 オペレーターが必死な形相で山崎渉にそう言った。

「…分かりました!
 総員退避!
 早くあの『化け物』から…!」
 その時、山崎渉の乗る戦艦のブリッジに、
 壁をぶち破りながら『化け物』が突っ込んできた。

「アアアアアアアアアアアアアアアア…」
 首を回しながら、『化け物』が大きく息を吐く。
 異形の腕が、異形の脚が、異形の翼が、
 仮面に包まれた顔が、
 山崎渉達に絶望という言葉を刻み込む。

「この、化け物めええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 それが、山崎渉の最後の言葉だった。

631ブック:2004/06/15(火) 22:20





「よーし、よしよしよしよしよし。
 上出来だ。
 戻れ『カドモン』。」
 奇形モララーが、墜落していく『紅血の悪賊』の三艘の戦艦を見据えながら
 手元のスイッチを操作した。

「…!?」
 しかし、『化け物』には一向に反応が見られない。

「おい、どうした!?
 もうお終いだ、『カドモン』!!」
 叫びながら、奇形モララーはスイッチを何度も操作する。

「ルルルルルルウウウウウウ…」
 『化け物』の首筋の機械から電流が流れる。
「ウウウウウウウアアアアアアアアアアア!!!!!」
 だが、『化け物』はお構い無しに機械を首筋から強引に引き剥がした。
 そして、豆腐のようにその機械を握り潰す。

「なッ…!」
 絶句する奇形モララー。
 『化け物』が首を動かし、そんな奇形モララーを見据える。
「やべえ、暴走だ!!
 逃げろおおおおおおおおおおおお!!!」
 その奇形モララーの叫びと共に、
 『黒飛魚』は全速力でその場を離脱していった。



     ・     ・     ・



「な……あ…あ…!」
 開いた口が塞がらないといった様子で、オオミミがポカンと『化け物』を見つめる。
 他の人達も同様だ。

 無理も無い。
 この短時間で、あの『化け物』は『紅血の悪賊』の戦艦を三隻とも沈めてしまったのだ。
 絶対的な威圧感。
 心臓が破裂する程の圧迫感。
 格が違うとか、そんなレベルの問題じゃない。
 あれは…
 あの『化け物』は、同じ次元の存在ですら無い。

「何なんだよありゃああああああああ!?」
 ニラ茶猫が狂乱する。
「…まあ、どう控えめに見ましても、
 デートのお誘いに来た訳ではないでしょうねぇ…」
 相変わらずの軽口を叩くタカラギコ。
 だが、その表情にはいつもの笑みは微塵も残っていなかった。
「……!」
 三月ウサギまでが、冷や汗を流している。
 何だ。
 何なんだ、あの『化け物』は…!

「…!!」
 『化け物』と、目があった。
 オオミミとではない。
 今、間違いなくあの『化け物』は僕の事を見ていた…!

(!!!!!!!!!!)
 その時、僕の頭に幾つもの映像が流れ込んできた。
 変な矢。
        それを持った男。
    醜い姿の少年。
                    あの『化け物』の姿

 これは何だ!?
 いや、知っている…
 僕はこれを知っている…!?

632ブック:2004/06/15(火) 22:21


「!!!!!!!!!」
 直後、『化け物』が僕達の船に向かって飛び掛ってきた。

「あれを船の上に上げてはなりません!!」
 タカラギコが、叫びながらパニッシャーを乱射した。
 三月ウサギも、『化け物』に向けて何本もの剣を投げつける。

「!?」
 だが、銃弾も剣も、
 全て『化け物』の目の前で動きを止めた。
 そのまま止まった銃弾や剣は、雲の下へと落ちていく。

「何…!?」
 驚きに顔を歪める三月ウサギ。
 馬鹿な。
 一体今、何が起こったのだ。
 あれが『化け物』の能力なのか!?

「手を止めてはいけません!
 兎に角攻撃を続けて下さい!!」
 タカラギコがさらにパニッシャーを撃ち込んでいく。
 しかし、矢張り銃弾は全て『化け物』に到達する事なく動きを終える。

「!!!!!!!!」
 そうこうしている間に、
 『化け物』は僕達の船に…
 いいや、『僕』目掛けて突っ込んできていた。

 駄目だ!
 このままじゃ、あの『化け物』がこの船の上に―――

「『モータルコンバット』…!」
 その時、いつの間にか立ち上がっていたサカーナの親方がスタンドを発動させた。
 僕達の目の前で百八十度角度を変えて、
 『化け物』が来たのとは真逆の方向に向かって飛んでいく。
 『モータルコンバット』で、
 『化け物』が進んで来るのとは逆方向に空間の向きを変えてくれたのか。
 もう殆ど、スタンドパワーなんて残っていなかった筈だのに…!

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 しかし、それも一時凌ぎに過ぎなかった。
 僕達から離れていった『化け物』が、再び向きを変えて僕達の船に襲い掛かる。

「させません!!」
 タカラギコのパニッシャーが火を吹いた。
 だけど、今度もまた…

「!!!!!!」
 だが、今回は違った。
 『化け物』の身体に、次々と銃痕が穿たれる。

「どうやら、能力はもう打ち止めみたいですねぇ!!」
 タカラギコがさらに弾をばら撒く。
 そう言えば、心なしか『化け物』の動きが鈍くなっている。
 もしかして、あの化け物持続力が低いのか?

「冥府に堕ちろ…!」
 三月ウサギも負けじと剣を投げつける。
 刀剣が、剣山のように『化け物』の身体に突き刺さった。
 倒せるのか!?
 あの『化け物』を…!

「貰いましたよ!」
 タカラギコがパニッシャーを担ぎ上げた。
 それと同時に、マシンガンが内臓されているのとは反対側の十字架の胴体が開き、
 そのからロケットランチャーが姿を見せる。
「吹き飛びなさい!」
 タカラギコが、髑髏型のトリガーを引いた。
 銃口から放たれるロケット弾。
 それが、生き物のように『化け物』へと突き進んだ。


 !!!!!!!!!!!!!!!

 爆発。
 『化け物』の身体が、ロケット弾の爆炎の中に包まれた。
 やったか…!?

633ブック:2004/06/15(火) 22:21


「……!!」
 その場の全員の顔が凍りついた。

 生きていた。
 銃弾を受け、剣で貫かれ、爆発の中に巻き込まれながらもなお、
 あの『化け物』は生きていた…!
 何だ。
 あいつは一体何なんだ!!!

「オオオオオオオオアアアアアアア…」
 しかし流石の『化け物』も全くの無傷という訳ではなく、
 身体のあちこちが崩れかかっている。
 『化け物』は苦しそうに呻いており、僕達に襲い掛かってくる様子は無い。
 よし、この隙に逃げる…

「!?」
 オオミミの目が大きく見開かれた。
 『化け物』の顔につけられていた趣味の悪い仮面が、
 爆発のショックで壊れている。
 そして、その中から覗いた顔は―――

「!!!!!!!!」
 その瞬間、電撃のようなショックが僕を襲った。
 全身が、全力で僕に危険を伝えてくる。
 ヤバい。
 何かがヤバい!

「…!!
 今すぐ、ここから離れて下さい!!!」
 タカラギコも同様に危険を察知したのか、大声で避難勧告をする。

「分かりました!
 全速前進、離脱しま〜す!」
 カウガールの無闇に明るい声と共に、船が一気に加速する。
 早く。
 一秒でも早く、この場所から…!


「ルウウウウウオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!!!!」
 『化け物』が断末魔のような叫び声を上げた。
 刹那―――――

634ブック:2004/06/15(火) 22:22





 ――――――消えた。
 『化け物』の半径数十メートルの空間の中にあったものが、
 雲も、『紅血の悪賊』の戦艦の破片も、綺麗サッパリと。
 まるで、始めからそこには何も無かったかのように。
 もしかしたら、空間自体も無くなっていたのかもしれない。
 光も無かった。
 音も無かった。
 そこでは、何もかもが消え去っていた。

「……」
 オオミミ達が、呆然と何もかもが消え去った空間を見詰めていた。
 そこに『化け物』の姿はもう無い。
 一緒に、消え去ってしまったのだろうか…

「……」
 と、三月ウサギが天へと顔を向けた。
「……」
 三月ウサギだけでない。
 サカーナの親方も、ニラ茶猫も、タカラギコも、オオミミも、
 その場にいた全員が天を見る。
 恐らくブリッジの高島美和もカウガールも、
 動揺に天を見ているだろう。

「ち…違う。
 アタシは違う……」
 天がよろよろと後ろずさった。

 …あの『化け物』の仮面の中から現れた顔。
 それは、紛れも無く天と全く同じ―――

「アタシはあんな『化け物』なんかじゃない…!!」
 天の悲痛な叫びが、甲板に響き渡っていった。



     EVER BLUE・序章
          〜完〜

635ブック:2004/06/15(火) 22:23

    /\___/ヽ
   /''''''   '''''':::::::\    今日、おやつにバナナミルキーを食べたんですが、
  . |(●),   、(●)、.:|   下品だけどその…
  |   ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|   勃起してしまいましてね。
.   |   `-=ニ=- ' .:::::::|   だって、『バナナ』で『ミルキー』なんですよ?
   \  `ニニ´  .:::::/    これはもう狙っているとしか思えない…
   /`ー‐--‐‐―´\


という訳で、ようやく大きな区切りがつく所まで物語を進める事が出来ました。
それもこれも全て皆様のお陰です。
展開が遅く、設定とかキャラとか出しっぱなしの気もしますが、
これからいよいよ様々なキャラクターや伏線同士を絡めていきますので、
どうかその点につきましてはお許し下さい。
それと申し訳ないのですが、さすがに疲れてきたので暫く休憩をさせて頂きます。
勿論何もしない訳ではなく、
キャラクター紹介や何故か異様に反響のあった番外編、
『ときめきEVER BLUE 〜交際編〜』をゆっくりながら書いていくつもりです。
最後に、皆様の暖かいご声援誠にありがとうございます。
無闇に長くなりそうな『EVER BLUE』ですが、
もう暫くお付き合い頂ければ幸いです。
これからも、どうぞこの不肖ブックをよろしくお願いいたします。

・追記・
正直、今の『EVER BLUE』には猫耳成分が足りないと思うのです。
はにゃーん。

636丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:18





  むかーし昔十六世紀、イタリアはベネツィアのお話。

 ベネツィアの貿易商アントーニオは、親友バッサーニオの為に金貸しのシャイロックから結婚資金を借りてやる。
しかしバッサーニオの船が難破し、借りた金を返せなくなってしまった。

 その上彼は、金貸しシャイロックから金を借りるときの証文にこう書いている。

  『期限までに全額を返せなければ胸の肉一ポンドを差し出す』―――と。

 裁判の場で胸にナイフを突き立てようとするシャイロックだが、裁判長はこう言った。

「待つがよいシャイロック。確かに胸の肉一ポンドはお前の物だ。しかし、皮や肉、骨はその限りではない。
 一筋でもその皮に傷をつければ、一滴でも血をこぼしたなら、私達はお前を捕らえ、牢へ入れる―――」

 シャイロックはどうすることもできず、アントーニオは金も返さずにめでたしめでたしどっとはらい。

637丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:19






「―――『ベニスの商人』って…なんで『ベネツィアの商人』って言わないのかねぇ。
 昔ずっと『ぺ』だと思ってて仲間内から大笑いされて…あーいや、ンな事ぁともかく」

 ぷらぷらと六本指の手首を揺らしながら、ッパがマルミミへと近づいてくる。

「あれに出てくる金貸しのシャイロックって、さも悪徳商人みたいに書かれてやすよね?
 …けど、彼はなーんも悪いことなんてしておりやせん。…実は彼、ユダヤの人種だったそうなんです。
 そう考えると酷い話でしょ?胸の肉一ポンド…要するに、『命張って返せよゴルァ』って証文まであったのに、
 裁判官の贔屓で踏み倒されちまった。…あっしみたいなッパ族もね。結構そんな感じですよ」

 よっこらしょ、と気を失ったマルミミを担ぎ上げる。
先程スリ取った心臓をスタンドの掌で転がしながら、マルミミに向けて語りかけた。

「ふぐりだの何だのと結構迫害受けてましてね…その上あっしはこんな六本指でしょ?
 底辺の更に底辺扱いされて…気が付きゃいつの間にか橋の下。
 けど、あっしの『プライベイト・ヘル』ならね。血も流さず、皮も切らずに、胸の肉をえぐり出せる…ん?」

 ぷにぷに、とマルミミの心臓を『プライベイト・ヘル』で軽くつつくが、スタンドの気配がない。
辺りを見回すと、少女の乗っていた車椅子がどこかに消えていた。
「…ッチ。油断しちまったねぇ…あのスタンド…女のカラダに入って逃げたかい」

 前と後ろは舗装されていない、平坦な田舎道。右手には田んぼが広がっている。
どれも、隠れられる所はない。

「っつーと…こっちの竹林か」
 一人呟き、ガサガサと音を立てて左手の竹林へ足を踏み入れた。


  ―――何なんだ、あの男は。

 しぃの鼓動を借りながら、B・T・Bが冷や汗を流した。
掌を広げて、鼓動を感知する。探るのはリズムではなく、『生命のビート』の正確な位置。
 通常なら胸の真ん中よりも少し左寄りにある、鼓動の中心部…
              ・ ・ ・ ・ ・
それがどういう訳か、尻にあった。
「―――ヤハリ…!」

638丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:21

 肌に一筋の傷さえも付けずにマルミミの心臓を抜き取った所を見れば、
おそらく能力は『対象の中身を抜き取る』事。
それで本体の心臓を抜き取って、静寂のビートをやり過ごした。
 心臓を抜き取られる瞬間にしぃの体へと潜り込まなければ、自分も一緒に捕獲されていただろう。


「シカシ…取リ出シタ 心臓ヲ ドコニ シマッテル カト 思エバ ヨリニヨッテ 尻ノ ポケット……」

 …いや、確かに理にはかなっている。
 B ・ T ・ C
静寂のビートは、心臓に衝撃を与えないと効果はない。

 心臓など大抵は左胸にあるのでいちいち何処にあるかなど調べはしないし、
よもや尻に心臓があるなど逆立ちしても思いつくまい。

「ダカラト イッテ 尻…」

 鼓動を扱うスタンドとして、敵の物とはいえあんまりな扱いをされている心臓に同情しかけてハッと我に返る。
いやいやいやいや、考えるべき事は尻がどうこうではない。

                 B ・ T ・ C
自分の心臓を取り出して、静寂のビートを無効化。
しぃの鼓動をエネルギー源にしているのを判っていたかのような言動。
私が本体から離れて活動できるスタンドだと一瞬で見抜き、追ってきている。

 これらから考えられる結論はただ一つ。
あの男は静寂のビートの特性を…B・T・Bの能力を知っていた。つまり…


(能力ガ…バレテイル !?)

639丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:22

 B・T・Bの白塗りメイクが青ざめる。
心拍を停止させるには、その特性上何回かに分けて衝撃を与えなくてはならない。
             マイクロセカント
 単純なスピードなら一万分の一秒単位で動ける自信があるが、問題は本体。
車椅子で気を失っている病み上がりのしぃと、パッチリ起きている健康体のあの男。
 油断させての不意打ちならともかく、一から十まで見抜かれてる今では―――

(圧倒的不利…ト、言ウワケカ…)

 ッパが尻ポケットから、アクリルケースに入った自分の心臓を取り出した。
フタを開けると心臓がふわりと舞い上がり、ッパの胸へと吸い込まれる。
 代わりにスタンド…『プライベイト・ヘル』と言ったか…の持っているマルミミの心臓を中に放り込み、フタを閉めた。
ケースの中でびくびくと脈動しているが、血は血管の断面から一滴も流れていない。

「さーて…もう気付いてやすね?ビート・トゥ・ビート君。アンタの主人の心臓は預からせて貰ってやす。
 辛うじて生きてるくらいに血流は通してやっておりやすが…大人しく出てきて捕まるなら、コレは返してあげやすよ?」

 余裕たっぷりのッパの声に、B・T・Bが小さく舌を打った。

  ―――大人しく出てくれば捕まれば心臓を返す?
そんな約束を守るほど紳士的な物腰では無かったろうに、何を言っているやら。
 ここで出て行こうものなら、ほぼ間違いなく御主人様ごと縛られて拉致される。
そうなってしまえば銃を向けられても平然としていた奴らのこと、何をされるか判らない。

 …と言うかそもそも、あいつらは何者だろう。先程は、『うちらの御大の命令』と言った。
『御大』というのが<インコグニート>の事だとしても、御主人様を殺さないのはおかしい。
あそこまでプッツン切れた奴が、わざわざ生け捕りにするものだろうか…?

  がさっ。

 笹の葉を踏みしめる音で我に返る。
後ろを見ると、ッパはもう数メートル程に迫っていた。
「見つけやしたよ。遮蔽物の多いトコなら…逃げ切れるとでも思いやしたか?」
「Oh Shit―――Son・of・a・Biiiiitcccch…!」

640丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:23







「さーて…もう気付いてやすね?ビート・トゥ・ビート君。アンタの主人の心臓は預からせて貰ってやす。
 辛うじて生きてるくらいに血流は通してやっておりやすが…大人しく出てきて捕まるなら、コレは返してあげやすよ?」

 竹林から、男の声が聞こえてくる。
かひ、かひ、と、途切れ途切れの呼吸音。
 口元を流れる涎と鼻水が気持ち悪い。

「く…そぉ…っ!」
 銃の一丁も扱えなかった。
吸血鬼化できずに、肉弾戦でも役に立たなかった。
挙句の果てに心臓を奪われて、棺桶に片足を突っ込んだ状態でB・T・Bの足を引っ張っている。
  B ・ T ・ H
 情熱のビートを使っていたときでさえ、自分の弱さに嫌気がさしたのに。
何にも助けて貰えない僕だけの僕は、それよりも更ににちっぽけな存在だった。
酸欠と涙で、視界が滲む。


  また、九年前と同じ。

  誰かを守るなんて、軽々しい覚悟でできる事じゃ無いんだ。

  そう、生きていくだけで精一杯の弱い僕は。

  自分以外は何も守ることなど出来ないから。

641丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:24

―――だから僕は。

―――――弱い、僕が。

――――――――何かを守ろうと、思ったのなら。


(…命を捨てる覚悟で…守らなくちゃいけなかったんだ…!)


 キヒィ―――ッ…と自分でも心配になるような音と共に息を吸い、肺から血液へと酸素を溶かし込む。

(確かに…僕は弱い)
                     ゼンドウ
 体内に意識を集中する。血管壁を蠕動させて、滞っていた血流を僅かずつだが巡らせていった。

(…だけど、それでも、だからこそ―――――)

 靄のかかった思考が、だんだんと晴れてくる。
それでも呼吸はキヒィ―――ッ、キヒィ―――ッ、と半死人。
 不随意筋を動かすのは神経を使う。
激しい運動の中では、この処置も出来なくなるだろう。

(僕は……)

 だが、その目に宿るのは強靱な意志。
チャンスは一回。少しでも酸素を巡らせておいて、一気に仕留めなくてはならない。
 ジャケットの裏に吊った、格闘用ナイフに手を伸ばす。
メリケンサックの端から刃が伸びているような感じの品で、力が入らなくても取り落とすことはない。
涙と鼻水と涎を乱暴に拭い、ぎゅっ、と目を瞑り、開き―――気合いと共に、体を起こした。


(強く、なりたい…!)




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

642丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:25

  (丸)
 ( ´∀`)<今回のスペシャルサンクスー!

               / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               | 提供してくれた新手のスタンド使いさんミテルカナ?
               | 『プライベイト・ヘル』、アイデア提供ありがとうございます!
               \      ___________________
                  ̄ ̄ ̄|/
                    ∩_∩ オ茶ドゾー
                   ( ´∀` )つ旦~
                  m9 =============
                  (丶 ※※※※※ゞノ,)

643丸耳達のビート:2004/06/16(水) 01:26

武器いろいろ。


╋━━━

『三段式警棒』
いつもマルミミのジャケット裏に吊ってある特殊警棒。
振ると小気味よい音を立てて伸びる。
特に仕掛けがあるわけでもないが、SPM財団の最先端技術を使っているため強度は高い。


∞∞二フ

『格闘用ナイフ』                                  ∩_∩
今回初登場、マルミミのサブウエポン。                    ( ´∀`)<コンナカンジデス。
メリケンサックの端から刃が出ているような感じで、逆手に持って使う。(    つ
                     (丸)                        リ
…AAがショボい?聞こえなーい。( ;´3`)〜♪


『セラフィム』

スピードモナゴン謹製の拳銃。
454カスール弾使用、装弾数六発のリボルバー。
象狩りに使われるような銃弾で、パワー型のスタンドでも撃ち抜ける。
『銃の一丁も扱えなかった』と言われてるけど、
初心者が打てば狙いより肩が外れる。
興味ない人は、『デカくて重い凄い銃』と思って下さい。


『ケルビム』
スピードモナゴン謹製の拳銃その二。
38SP弾使用、装弾数十八発のオートマチック。
人は充分殺せるが、スタンドにはあまり効かない。
反動が少なく軽いため、B・T・Bでも撃てる。
興味ない人は『扱いやすい豆鉄砲』と思って下さい。

 (丸)
(;´д`) 拳銃のAAは勘弁して〜。

644丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:52

  ―――――例えば。

 千メートルを無呼吸で走れる人間はいないが、百メートルを無呼吸で走るのならば何とか可能。
時間が長いから当然だとも思うが、これは使う筋肉の違いもある。
百メートルのような短距離走では酸素無しで動ける白筋という筋肉を使っているからだそうだ。
この『白筋』の持久力はせいぜい七十メートルから八十メートルと言われる。

 そして、ッパへの距離は目算三十メートル。
普通に考えれば余裕かもしれないが、距離を詰めた後で殴り倒さねば話にならない。

 ほぼ心臓停止状態の今では、全力を振り絞っても五十メートル走ればぶっ倒れるだろう。
その上、足音を殺して走る余裕もない。


  彼の元へたどり着き、殴るか蹴るか刺すかして気絶させれば、僕の勝ち。

  たどり着いても、頭でもぶん殴られれば僕の負け。

  スタミナ切れで力尽きてしまっても僕の負け。

  一発で気絶させられなくても僕の負け。


(―――けど…やるしか、無いんだっ!)

 左手のナイフを竹に突き刺して、体を引き上げる。
「――――ッ !! !! !! !!」

 途端に襲ってくる、酸欠の苦しみ。
息が出来ないとかそんなモノは比較にならない。なにせ、心臓がまるまる引っこ抜かれているのだ。
ぐっ、とヘソの下に力を入れて、がくがく震える膝に力をいれる。

(…足が震えるのを『膝が笑う』って言うから…これはさしずめ大爆笑かな)
 意味のないことを考えるも、そんな余裕はない。

  ―――無駄な思考は切り捨てろ…脳を動かすと酸素が足りなくなるぞ…。

 全ての神経が、両足と左手に集中させた。
僅かな下り坂になった竹林。ナイフを目の高さで構えたまま、背中を丸めた前傾姿勢でひた走る。
綺麗に手入れを受けているため、竹の密度は走るのに邪魔なほどではない。

645丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:53

 ざざざざざっ、と笹の葉を散らす音に、ッパとB・T・Bの二人が振り向いた。
「なっ…!?」
「ゴ…御主人様!?」
 B・T・Bとッパ、二人の声が重なる。
もっとも、マルミミには聴覚に神経をまわしている暇も無いためにその言葉を聞くことはない。

「ちぃっ…!何てぇ坊やだ!」
 このままでは二対一と判断し、ざっ、とB・T・Bから距離を取った。

「―――ッ!」
 同時にマルミミの繰り出す格闘用ナイフの一撃を、大きく飛び退いてかわす。

―――丸耳の坊やはくたばりかけ、スタンドの方も病み上がりの嬢ちゃんにすがりついてる。
     しぶとさは認めるけど…御大のためだ。負けてやるわけにゃいかないよ。

 更に、マルミミから間合いをあけた。距離さえ取れば、マルミミもB・T・Bも大した驚異ではない。
一人一人確実に気絶させれば任務は完了。

「…ッ!」
 ナイフを振り切ってしまったためか、マルミミが大きく躓いた。
両足が地面から離れ、空中でつんのめる体勢になる。

(今ッ!)
 ぎり、と『プライベイト・ヘル』が拳を握り締め―――


「―――――――――ッッッッッッッッッッ!! !! !! !! !!」
 空中で体を捻りながら、マルミミが何かを投げつけてきた。
黒く細い、十五センチ程度の棒のようなモノ。
マルミミの右手から放たれた複数本のそれは、狙い違わずッパの肩口へと突き刺さる。

(…五寸…釘…ッ !?)

 茂名家の武術は『波紋法』だけではない。
試合に勝つための武術ではなく、戦場で生き残るための武術だ。
故に、格闘術は言うに及ばず武器から投擲までを多岐にわたり扱っている。
 そして、これもその内の一つ。
                 シノビヤ
  茂名式武術 投擲之型 "忍矢"。

 ざっ、と空中で一回転し、マルミミが右手をついて再び跳ぶ。

646丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:54


  ―――恐れていたのはただ一つ、スタンドでも失敗でもなく『逃げられる』ことだけ。
もしほんの十メートルでも距離を開けられてしまえば、放っておくだけで死にかけの僕は力尽きて気を失う。
だから、それだけは避けなくちゃいけなかった。
                       シノビヤ
 躓いたかのように見せたフェイントと"忍矢"で動きを止める…博打だったけど、何とか体も持ってくれた。

『さあ…どの内臓でも盗ってみろ。何処を盗んでも僕は止まらないぞ…!』

 ナイフを目の高さで構えて、唯一ヤバイ器官である脳はガードしている。
全ての力を左腕に収束させて、ッパへの距離を削り取る。

「ッこの……ドァァゾァァァアアアアアッ!!」
 ッパの叫びと共に、プライベイト・ヘルがラッシュを繰り出した。
だが、スタンド自体の破壊力は大したものでも無いから力負けもしない。
 能力にしても、頭部へのヒットは紙一重で避けている。
後は肝臓を盗られようが腎臓を盗られようが、駆け寄って斬りつけるのに支障はない。
もう一歩で、ほぼ密着の…マルミミの間合い。逆手に持ったナイフを、最後の踏み込みと共に右へと振りかぶり―――

「……ッ !?」

 ―――振りぬけなかった。
左腕から力が抜ける。反射的に視線をやると、信じがたい物が目に入った。

 だらん、とタコのように垂れ下がる自分の腕。
ちょうど、トレーナーの袖から腕だけ引っこ抜いたような感じ…
いや、肌色をしたゴム手袋とでも言うべきか。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『あっしの能力…誰が内臓をぶっこ抜くだけなんて言ったね?』

 ッパから発せられる『スタンド』の声。『プライベイト・ヘル』の六本指に、白く長い物が握られている。
確か、診療所に似たような物が飾ってあった。

 一本の上腕骨から伸びる、二本一組の前腕骨。
手関節から始まり、手首を構成する手根骨、掌を構成する中手骨、指を構成する指骨。
それらが、ぷらぷらとスタンドの手の中で揺れていた。

  ―――ッこいつ…左腕の骨を…!

 再び、連続した軽い衝撃。
ばしゃっ、と赤い液体がプライベイト・ヘルの掌から流れ落ちた。
「内臓だけじゃぁ無い…骨も血液も、こんな風に『盗れる』。
 あっしの能力を見極めた気になって、応用まで気が回らなかったのが坊やの敗因だよ」
「っあ…」
 心臓を盗られた上に大量の血液を失い、目の前が暗転する。

  ざしゃっ。

 自分の意思に反して膝が折れ、笹の葉の中に倒れ込んだ。

647丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:56




「…しっかし…バケモンかぃ、この坊や」

 心臓を奪われたにも関わらず、あそこまでの運動が出来るとは。
最初の不意打ちが失敗していたら、たぶんこっちが殺されていた。

 致死量ギリギリまで血を抜いておいたが、それでも気は抜けない。
マルミミの手を背中に回して手錠をかけ、本体の方はとりあえずこれで良し。残るはあのピエロのみだ。

 車椅子の嬢ちゃんなら、この竹林の中で大して遠くに行けるはずもない。
案の定、十メートルも進まない内に車椅子がひっくり返ってしぃの体が投げ出されていた。
坊やのスタンド能力か、ぐったりと深い眠りについている。
 成程、これなら遠慮無く丸耳の坊やも能力を使えたという訳か。


「さてと…出てきな!」
 『スタンドだけえぐり取れ』とプライベイト・ヘルに命令して、とっ、としぃの左胸を軽く叩く。
たゆん、とふくよかな乳房が揺れた。
「おぉ、目の保養…って…あらら?」

 眼福眼福と目尻を擦りかけるが、『プライベイト・ヘル』の掌には何も握られていなかった。
再び左胸を叩くが、やはり手応えが無い。
心臓が右胸にあるのかと思い右の胸を叩くが、結果は同じ。

  ―――スタンドが…いない?
                            エクス
 丸耳の坊やからスタンドが消えたのは判る。『X』さんから貰った資料によれば、
鼓動の生命エネルギーさえあれば誰にでも寄生できるそうだ。
ちょうど近くにいたお嬢ちゃんの鼓動を利用して、体を操って逃げた。それはいい。凄ーく分かる。
―――じゃあ、今は何処にいるんだ。

 …虫か何かの鼓動で動いてる?
(いや…いくら何でも無理がある)

 …偶然犬か猫でも近くを通りかかった?
(いやいや…ここいらは野良犬とか少ないしねぇ)

 …『生け捕り』と言う目的からすれば一番最悪の結論になるが…スタンドが死滅した?
(いやいやいや…エネルギー源の嬢ちゃんもいるし、そいつはおかしい。だったら何処に…)

648丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:57


「…誰ヲ、探シテイル?」
「―――――ッ!」
 声のした方から、慌てて飛び退く。
綺麗に手入れされた竹林の間、B・T・Bのヴィジョンが揺らめいていた。

「おいおい…鼓動がなけりゃ役立たずなんじゃありやせんでしたか?」
 緊張を走らせながら、再び『プライベイト・ヘル』を具現化させる。
B・T・Bの近くには、犬猫どころか竹しかない。
ひょっとしたら虫くらいはいるのかもしれないが、そんなモンで動けるとはとうてい―――

(いや…『竹』かい…!)

「…木ノ幹ニ 耳ヲ アテタ 事ハ アルカ?御主人様ハ、昔ココデ ヨク ソウシテイタ」
 よく見ると、B・T・Bの指がピアノを弾くように竹の表面を踊っている。

 ―――植物の鼓動。
生きとし生けるものである限り、『生命のビート』は存在する。

「…ソレハ微弱デ弱々シイ モノダガ…コノ竹林 全テノ 鼓動ヲ 揃エレバ ドウナルト思ウ?
 大人シク 御主人様ノ 心臓ヲ 返シテ、知ッテイル事ヲ 全テ 吐ケ。慣レナイ鼓動デナ…手加減ハ、シテ ヤレナイ」

 その言葉に、ッパが奥歯を噛み締める。
「ふざけたコト言っちゃいけやせんね。あっしにゃ人質があるんですよ?その上、今のアンタは慣れない鼓動でしか動けない…
 スピードなら勝てるでしょうが…そんな状態であっしの『プライベイト・ヘル』と渡り合えやすか?」
「ヤッテミロ…オマエハ 今ノ 言葉デ、生キラレル 可能性ヲ 自分カラ 摘ミ取ッタ」
  B ・ T ・ C
 静寂のビートはその特性上、僅かでもタイミングをずらすことが出来れば不発に終わる。
対してこちらは頭部か心臓を一発殴れれば、一発で勝ちを決められる。

(そう…アイツの言葉は全部ハッタリ。あっしが負ける可能性なんぞ、これっぱかしも無ぇんだ)

649丸耳達のビート:2004/06/19(土) 16:57

 ざっ、とッパが踏み込む。
(心臓を掴みだして捕まえて、こいつらを御大に持ってく…そうすりゃ、仕事は完了だ!)

「ドォォァァァゾァァァァァァァアアアアアア―――――ッ !!」
 『プライベイト・ヘル』が拳を握り、全力でラッシュを打ち込んだ。

 狙いはスタンドではなく、憑依していた『竹』。
B・T・Bの憑依していた竹が中身を抉られて脆くなり、ぱきりと折れた。
どんなスピードがあろうと、その『本体』となった物の動きには限度がある。
何に取り憑こうと、その取り憑いているモノを壊してしまえば―――――

「ヤハリ ソノ 程度ノ 考エカ」
「ッ!?」

 鼓動の源である竹を壊した筈なのに、B・T・Bから感じるスタンドパワーが消えていない。

『ワンパターンナ 作戦ガ、二度モ 三度モ 通用スルト 思ッタカ?コノ…』

 スタンドの声が頭に響く。
意味を理解する間もなく声にスタンドを向ける間もなく、背中に数発の軽い衝撃が叩き込まれた。
  雌 犬 ノ 仔 ガ ァ ―――――ッ
「Son・of・a・Biiiii―――――tcccch !! !! !! !!」
                  B ・ T ・ C
 正真正銘、手加減無しの『静寂のビート』。
単純な心臓麻痺とは訳が違う。『生命のビート』を止める―――
精神も肉体も全ての活動を停止させる、だれも覚ますことの出来ない永遠の眠り。
―――すなわち、『命』の停止。

スタンドが消滅し、抜き取られていた血液や骨、心臓が元へと戻る。
「…エネルギー供給ヲ 止メルト 言ウナラ、ソレニ 対応シタ 作戦ヲ 立テレバ イイダケダ。
 言ッタ ダロウ?『竹林全テ ノ 鼓動ヲ 揃エタ』…ト」

 竹という物は、全ての株が地下で繋がっている。
鼓動の源となっている竹を一つ壊されても、地下茎を伝って他の株へと移ればいい。
もし御主人様があの場で気絶したままだったら、こうして竹林全てを制御する暇は無かっただろう。

 御主人様が立ち上がったときにB・T・Bから注意をそらした時点で、彼の負けは決まっていた。


「私ト 御主人様…ソレゾレヲ 見クビッタ ノガ 貴様ノ 敗因ダヨ」




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

650丸耳達のビート:2004/06/19(土) 17:02
        __
      ∠・ω)
   /~~⌒ヽⅡ ⌒~~\ * ■ +  ッパ
  ∠ Ⅱ_♀×♀ ||  + *
   ヽⅡ \†††   ヽ ⌒⊂m)
  ミ\_|ⅡⅡ /   ̄ ̄  ̄
     |ⅡⅡ/
     /=×=|
    |Ⅱ|Ⅱ|
    |Ⅱ|Ⅱ|
    / ノ \ \
   (_ノ     \ \
   ∧_∧  У   ヽ_ヽ
    (・ω・)丿 ッパ
.  ノ/  /
  ノ ̄ゝ


 ツバ カシジロウ
 津葉樫二郎

貧民街生まれの多指症。
迫害を受けて橋の下に捨てられていたが、拾われて『ディス』の一員となる。
表の顔はケチなプータロー、裏の顔もやっぱりケチなスリ師。
致死量ギリギリで血流を止めたり血液を抜いたりと、
『ディス』で拷問とかやってたんだろーなーと書いてて思った。
エセ任侠口調が素敵な三十五歳。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名 プライベイト・ヘル                     ┃ 
┃  本体名  津葉 樫二郎(ッパ)                         ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃   パワー - C    ┃  スピード - A.     ┃ 射程距離 - E (2m) ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃   持続力 - C  . ┃ 精密動作性 - B  ┃ 成長性 - C.       ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 拳を握った状態で殴るときのみ発動する。                 ┃
┃ 殴ったモノの中身をッパと取り出すことが出来る。           ┃
┃ 本体が気絶するかスタンドを消すかすると、取り出したモノは.   ┃
┃ 元に戻る。これを利用し、財布をスリ取っていた。.            ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

   ∩_∩
  ( `д´)<うぉりゃっ!  ー二三━
 と      )      一二三━
  ノ  と/彡        ―二三━
 (__丿\_)

  シノビヤ
 "忍矢"

袖に隠し持った手裏剣を投げつける投擲術。
マルミミは手裏剣の代わりを五寸釘で代用している。
接近戦の武器にもなり、使い勝手は広い。
まだ下手なため、B・T・Bの補助無しでは複数本投げないと当たらない。

651ブック:2004/06/22(火) 00:30
遅くなりましたが、十五話〜三十三話までの人物紹介を。
『ときめきEVER BLUE』は明日あたりに。


『サカーナ商会』…サカーナ率いる人格破綻者の集まり(全員が全員ではないが)。
         何かとトラブルに巻き込まれる事をサカーナは嘆いているが、
         その原因の大半は自分の責任。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オオミミ…最早存在意義が怪しくなりつつある本編の主人公。
   灰汁が無い分でぃより始末が悪い。
   活躍は大分先の話か?

スタンド…名称『ゼルダ』。近距離パワー型。
     自立意志を持ち、物語の主な語り手として活躍している。
     あと、突っ込み役としても非常に優秀で、
     暴走しつつある番外編『ときめきEVER BLUE』唯一の良心。
     能力は特殊な結界を張る事で、
     その結界の中では一つだけ自由にルールを定める事が出来る。
     制限としては、一歩でも動いたら死ぬ等、
     余りにも理不尽なルールは作れない事と、
     自身もそのルールの影響を受けてしまう事。
     何やら秘密が隠されている予感。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
天…オオミミ同様、空気になりつつあるヒロイン。
  だが、三十三話で重大な事実が明かされたため、
  これからは活躍が増える筈。
  主人公とヒロインの活躍が無くて辟易されている方がおられるかもしれませんが、
  下地が固まったら思い切り暴れさせる予定なのでしばしばお待ちを。
  あと、ヒロインのくせに猫耳じゃないのはどういう事ですか!?

スタンド…名称『レインシャワー』。
     ビジョンの無い、結界展開型スタンド。
     結界の中で雨より様々なものを作り出し、
     とある手法により力を与えて闘わせる。
     オオミミ以上に戦闘で活躍してない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
サカーナ…サカーナ商会の親分であり、『フリーバード』船長。
     豪快な面が目立つものの、実は結構小心者でもある。
     馬鹿なように見えるがやっぱり馬鹿。
     高島美和に頭が上がらない。

スタンド…名称『モータルコンバット』。
     近距離パワー型で、能力は力の指向性の操作…ではないです。
     本当は一定の範囲の空間の向きを変える事。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
三月ウサギ…主人公より目立っちゃってる人その一。
      感情の沸点が低い乗組員の多い中、一人遠巻きに見ているタイプ。
      剣術の達人で、スタンド能力が直接戦闘向きでない弱点を、
      自分を鍛え上げる事で補っている。

スタンド…名称『ストライダー』。
     三月ウサギはこのスタンドを使って自分の使う得物を大量に持ち歩いている。
     制限として、火・電気・スタンド等の純エネルギー体は入れられないらしい。
     それ以外の詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ニラ茶猫…ロ・リ・イ・タ、僕〜はロリ〜コ〜〜ン。
     もう何も言うまい。
     少々特殊な性的嗜好を持つ我等が同朋。
     誰がその趣味を責める事が出来るだろうか。
     でも彼女持ち。
     畜生が、殺すぞ。
     ジャンヌと何かしらの関係がある?

スタンド…名称『ネクロマンサー』。
     体内に発動しているスタンドで、あらゆる物質に擬態する事が可能。
     ニラ茶猫の大脳皮質の皺が少なそうな言動とは裏腹、
     頭を使ったトリッキーな闘い方こそがその真骨頂。
     応用性が高く、攻撃から回復まで何でもこなせる。
     というか、自分で作ったキャラながら便利過ぎ。

652ブック:2004/06/22(火) 00:30
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高島美和…『フリーバード』のオペレーター。
     頭の螺子の緩い乗組員の面々の奇行に日夜頭を悩ませる、
     幸薄き大和撫子。
     サカーナと一緒に仕事をする事になったのが、彼女の人生最大の過ちか。

スタンド…名称『シムシティ』。遠隔操作型。
     蝙蝠みたいな羽のついた大きな四体の目玉がそのビジョン。
     別に発動したディスプレイに、
     目玉の視界が記号化、数値化されて映し出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カウガール…高島美和の友人。
      『フリーバード』操舵士。
      今の所空気ですが、後でちゃんと活躍させるつもりではあります。
      今更ながら、キャラクター出しすぎたかもしれません。

スタンド…名称『チャレンジャー』。
     子鬼のビジョンをしており、能力は機械を故障させる事。
     遠隔操作型。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…主人公より目立っちゃってる人その二。
      というか、実質彼が第二の主人公かも。
      何故か異様に人気があり、その甘いマスクに奥様達もメロメロ。
      嘘です。

スタンド…名称『グラディウス』。
     銀色の小型球形飛行物体のビジョンで、
     光を自在に操作する事が出来る。
     光を操作して姿を消す、虚像を作り出す等、隠密行動に最適。
     また、光の収束により簡易レーザー砲を発射する事も可能。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)…この世界で屈指の勢力を誇る空賊集団。
        『帝國』より軍事機密を盗むも、サカーナ達に図らずも横取りされる。
        赤い鮫がそのシンボルマーク。
        その組織員の中には、吸血鬼もいる。

頭首…『紅血の悪賊』を束ねる男。
   名前はまだ無い。

スタンド…今の所不明。
     マジレスマンを触れもせずに殺した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山崎渉…『紅血の悪賊』の中でもかなり上の位にいる実力者…だったのだが、
    スタンドも出さないうちにあっさりと退場。
    人生って儚いものね。
    あと、彼は吸血鬼ではなかったです。

スタンド…不明のまま死亡した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マジレスマン…脳味噌筋肉男。
       その足りない頭の所為で失策を犯し、頭首に粛清される。

スタンド…名称『メタルスラッグ』。
     周囲の無機物を取り込み実体化する、同化実体化型。
     オオミミと闘うも、オオミミの機転によりまんまと逃げられる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
波平…言わずと知れた磯野家の大黒柱。
   だがこの作品ではただの敵キャラ。
   ニラ茶猫との戦闘により、爆死。

スタンド…名称『アンジャッシュ』。
     近距離パワー型で、その指先より打ち出した針を刺し、
     それを抜いた瞬間に周囲の物質を消失させる。
     針が刺さっている時間が長い程、消失する範囲は大きい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
福男…『紅血の悪賊』の一員である吸血鬼。
   地元の祭りで不正を行い、肩身が狭くなっていた所をスカウトされた。
   ニラ茶猫と闘い、追い詰めるも死亡。

スタンド…名称『テイクツー』。
     近距離パワー型で、拳で触れたものを圧壊させる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヒッキー…福男と共に『フリーバード』の中に潜入してきた吸血鬼。
     旧型の単発式狙撃中が愛用の得物。
     だが、オオミミによってあえなく撃退されてしまう。

スタンド…名称『ショパン』。
     赤い半透明の蛇みたいに動く管がそのビジョン。
     その管の中に入った物体は、管の中を通るように移動する。

653ブック:2004/06/22(火) 00:31
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     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『聖十字騎士団』…聖王と呼ばれる人物が統治する集団。
         実体は不明。
         その中でも特に選りすぐりの四人に対しては、
         最大の誉れとして『切り札』(テトラカード)の称号が与えられる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラギコ…タカラギコと同じく男塾パワーで蘇った。
     蘇った先でも孤児院を守る為に闘い続ける苦労人。
     お金が何よりの好物で、番外編ではキャラが変わっている。
     『切り札』のA(エース)。

スタンド…名称『オウガバトル』。
     近距離パワー型で、射程内の空間を分断する事が出来る。
     その戦闘能力は恐ろしく、『聖十字騎士団』に入って一年足らずで、
     トラギコは『切り札』のAにまでのし上がる事が出来た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコ犬…『切り札』のK(キング)。
    落ち着いた男性で、しばし融通の利かないJ(ジャック)をたしなめる事が多い。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
セイギコ…『切り札』のJ(ジャック)。
     多少潔癖症な所があり、その所為かトラギコとは仲が悪い。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『切り札』のQ(クイーン)…今の所その実体は不明。

654ブック:2004/06/22(火) 00:32
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     ・     ・     ・
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『常夜の王国』…女王により統治されている、吸血鬼の国。
        『紅血の悪賊』について探っているみたいだが…?
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ジャンヌ…『ジャンヌ・ザ・ガンハルバード』の異名を持つ美しき女吸血鬼。
     身の丈程もある巨大な得物を振るい、使い魔も使役する。
     実は結構常識人?

スタンド…名称『ブラックオニキス』。
     第二部が始まってすぐに、その能力は明かす予定。
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     ・     ・     ・
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『帝國』…武力により他国を制圧せんとする軍事国家。
     『カドモン』と呼ばれる物騒極まりない兵器を所持している。
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歯車王…帝國の統治者。
    全身の機械化により、延命処置を行っている。
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長耳の男…正式名称は今の所不明。
     歯車王の右腕として、暗躍している。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
奇形モララー…出来損ないと呼ばれ、蔑まれている男。
       馬鹿にする連中を見返すために行動を起こすも、
       『カドモン』の暴走により失敗。

スタンド…名称『ディアブロ』。
     詳細は不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
     ・     ・     ・
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ちびしぃ…トラギコを助けた少女。
     『聖十字騎士団』所属の司教の慰み者になっていた所を、
     トラギコにより救出される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
恰幅のいいおばちゃん…孤児院を切り盛りしている職員の一人。
           気前がよく、根っからの善人。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
司教…『聖十字騎士団』所属の男。
   ニラ茶猫にも劣るペド野郎。
   トラギコにより斬殺される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ダディクール…その実体は謎に包まれている奇妙なAA。
       変幻自在、神出鬼没。
       その可能性は無限大である。


     人物紹介終了。

655ブック:2004/06/22(火) 00:33
     〜おまけ〜

まあ、ブックの猫耳への思い入れは凄まじいものがあるからな。

連載休止してる間に、何となく暇だったから、近くの古本屋に嫌々行ってみたんだが、
まずそこで買った猫耳古本が凄い。キロ単位で山積みで買ってくる。
隣に陳列されてたグラビア写真集を見て、「それじゃ萌えないよ、一般人」という顔をする。
真っ当な人間はいつまでも二次元に慣れないらしい、みたいな。
絶対、その猫耳古本4キロより、一ヶ月の食費の方が安い。っつうかそれほぼ陵辱ものじゃねぇか。

で、それを家に持って帰る。やたら持って帰る。
たまたま遊びに来てた友人もこの時ばかりはブックを尊敬。
普段、ろくに飯も奢らない友人がブッククールとか言ってる。
目当ては猫耳古本だけか?畜生、氏ね。

他の本も凄い、まずマニアック。小学生とか題名についてる。
売れ。逮捕される前に売れ。つうか人生やり直せ。

で、やたら読む。読んで友人と共に悦に浸る。良い本から読む。譲り合いとかそんな概念一切ナシ。
ただただ、読む。キモオタが読んで、オタがオタに本を回す。俺には回ってこない。畜生。
あらかた読み終えた後、「どうした読んでないじゃないか?」などと、
あからさまなハズレ本を寄越す。畜生。

で、廃人オタク共、4キロくらい猫耳本を読んだ後に、みんなでアニメとゲームの主題歌を聞く。
「今日はプリキュアにしよう」とかオタ友達が言う。
お前、一番どころか絶対二番まで熱唱出来るだろ?
隣の奴も、「ああ、STORM聞いちゃった。影山ヒロノブって素敵ね」とか言う。こっち見んな、頃すぞ。
プリキュアの奴が「買いすぎちゃったな」とか言って、隣の奴が「どうせブックの金だから大丈夫さ」とか言う。
さんざん人の本勝手に読んでたくせに意味がわかんねぇ。
畜生、何がおかしいんだ、氏ね。

まあ、おまえら、現在『EVER BLUE』には猫耳成分が足りないので、要注意ってこった。


     注)このコピペ改変は、ある程度フィクションです。

656ブック:2004/06/22(火) 21:36
     EVER BLUE番外編
     ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 交際編


 やあ皆、また会ったね。
 僕の名前は『ゼルダ』、夢ばかり見て現実を見ない廃人ゲーマーさ。
 今日はまたもや新しい美少女ゲーを買って来たんだ。
 早速始めるとしよう!

「さて、と…」
 ハード機体を起動して、ソフトを差し込む。
 今日買って来たのは『トゥルルルルルルンラブストーリー』。
 二重人格で道端に落ちてるものを電話と勘違いしてしまう、
 ちょっと気弱な男の子が主人公のゲームさ。
 全く、この前は変な糞ゲー掴まされて酷い目に遭った…

「ときめきEVER BLUE〜〜〜〜〜〜!!」
 だが、テレビのステレオから流れてきたのは聞き覚えのある男の声だった。
 ニラ茶猫だ。

「!?」
 急いでゲームのパッケージを確認する。
 やっぱり、何度見ても『トゥルルルルルルンラブストーリー』だ。
 なのに何でこの男が!?

「誰だ?って顔してるんで自己紹介させて貰うぜ。
 俺の名前はニラ茶猫、このゲームの案内役さ。」
 ちょっと待て。
 何でゲームの中身が変わってるんだよ!!

「何でパッケージと中身が違うのかは単純明快。
 お前の行きそうなゲームショップのゲームソフトの中身を、
 全部『ときめきEVER BLUE』にすり替えておいたのさ。」
 それは営業妨害じゃねぇかよ!
 お前警察に捕まるぞ!?

「つーわけで、前回の感想にデートの描写も見たいって感想があったんで、
 再び登場させて頂きました。
 このエンドルフィン駄々漏れの番外編に、
 何でここまでの反響があったのか作者も戸惑ってますが、
 お呼びがあるならば例え火の中水の中…」

 …ブツッ―――

 即座にゲームの電源を切る。
 反響があったか何だかは知らんが、これ以上あんなゲームに付き合ってられるか。
 すぐにお払いをした後粗大ゴミに捨てて…

「勝手に電源を切るな〜〜〜…」
 テレビから這い出して来るニラ茶猫。
 お前は貞子か!?

「人助けと思ってゲームスタートしてくれや、な?
 あとこの番外編の題名が『ときエヴァ』と略されてますが、あれか?
 主人公が汎用人型決戦兵器に乗って
 『逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ』とか言ったりする訳か?
 そんで最後には皆からおめでとうとか言われて…」
「分かったよ!
 始めてやるからさっさと帰れ!!」
 強引にニラ茶猫をテレビ画面の中に押し返す。
 本当は嫌だが、このままゲームを始めなかったら呪われそうなので、
 渋々コントローラーを握る。
 前回同様、主人公の名前はオオミミにしておいた。

657ブック:2004/06/22(火) 21:36


 ジリリリリリリリリリリリリ!!

 テレビから聞こえてくる目覚まし時計の音。
 どうやら自宅からスタートするらしい。
 ベッドの横では矢張り天が全裸で寝ていた。
 もう驚かない。
 慣れた手つきで窓から放り投げる。
 「げくっ」という呻き声と共に、天が道路を血で染めた。
 清掃業者さんごめんなさい。

「オオミミ、起きるラギ!!」
 部屋に入ってくるトラギ子。
 こいつ、サブマシンガンで撃ち殺した筈なのに、何で生きてんだ。
 というか、妹キャラだったのに、何か雰囲気違ってないか?

「復ッ活!!」
 いきなりトラギ子が絶叫した。
 こいつ、ついに持病の水虫が脳まで回ったか?
「トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!
 トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!
 トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!トラギ子復活!」
 狂ったように『トラギ子復活!』を連呼する。
 人間、こうなったらおしまいだな。

「ラギは寂しいと死んじゃうラギよ!?
 にもかかわらず、今回更なるパワーアップを遂げて帰ってきたラギ!
 この前は単なる妹キャラでしかなかったけど、今は違うラギ!
 妹萌えの時代はもう古い、これからは姉萌えの時代ラギ!
 よって、ラギは今度は姉属性キャラとして復活したラギ!
 さあ、オオミミ。
 今こそおねーたまと恥ずかし合体を…」


  1・釘バットで殴り殺す。
  2・日本刀で刺し殺す。
 →3・サブマシンガンで撃ち殺す。


 次の瞬間、オオミミのサブマシンガンが火を吹いた。
「ラギニャーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
 血飛沫をあげトラギ子が蜂の巣になった。
 念の為、ガソリンをかけて焼却しておく。

「さあ、今日はタカラギ子さんとのデートの約束の日だ。」
 ゲーム開始早々二人の人間を殺しておきながら、爽やかな顔でオオミミが言う。
 こいつ、絶対悪魔か何かだよ。

658ブック:2004/06/22(火) 21:37



 兎に角場所は移り、タカラギ子との待ち合わせの公園のベンチ。
「ちょっと早く来すぎちゃったかな。」
 待ち合わせの午前十時まであと五分。
 まあ、これ位が妥当だろう。

「……」
 しかし、五分経っても十分経ってもジャンヌは来なかった。
 あのアバズレ、なにやってやがる。

「ごっめーーん、待った?」
 三十分遅れでようやく現れるタカラギ子。
 時間厳守という言葉は脳内に存在しないらしい。


『どう答えようか?』
 1・ううん。こっちも今来たとこ。
 2・待ちくたびれたよ。
 3・遅ぇんだよこの売女!その臭ぇ穴に俺のマグナムぶち込むぞ!!

 現れる選択肢。
 相変わらず、三番目のものは人として間違っている。
 まあしょうがない。
 ここで目くじら立てても、好感度が下がりそうだから取り敢えず1、と…

「ううん。こっちも今来たとこ。」
 選択肢通りに答えるオオミミ。
 ここは、懐の深い所をアピールしとかないとね。

「うっわ最低!
 じゃあ、もし私が遅刻しなかったら、私を待ちぼうけさせるつもりだったのね。
 信じられなーい!!」
 ぶち殺すぞこの糞女ァ!!
 手前社交辞令とかそういうのも分からんのか!!!
 こっちは待ち合わせの五分前にはとっくに到着しとったわ!!!

「それじゃあ、早速遊びに行こう。」
 あれだけの暴言にも関わらず、さして気にしない様子でオオミミが答える。
 何て野郎だ。
 天とトラギ子は容赦無く殺したくせに。


『どこに遊びに行こう?』
 1・ラブホテル
 2・ビジネスホテル
 3・人気の無い廃工場

 どれもこれも下心丸出しじゃねぇか!!
 特に一番下!
 お前犯罪者にでもなる気か!?
 もっとまともな選択肢無いのかよ!!


『ちッ、仕方ねぇなぁ…』
 1・遊園地
 2・ゲームセンター
 3・カラオケ

 うわ。今舌打ちしたよ、舌打ち。
 ゲームのキャラがプレイヤーに向かって舌打ちしたよ。
 せっかく警察のご厄介にならないように注意してやったのに、
 舌打ちしやがったよ。
 畜生、氏ね。
 それじゃあ3のカラオケだ。

「よし、遊園地に行こう。」
 元気な声で、オオミミがタカラギコに促す。
「ちッ。」
 お前まで舌打ちかよ!
 もういい。
 無理矢理にでも連れて行く。

659ブック:2004/06/22(火) 21:37



 そしてオオミミ達は遊園地に到着した。
 さて、これからどうしようか。

『まず何から乗ろうか?』
 1・ジェットコースター
 2・観覧車
 3・コーヒーカップ

 そうだな…
 ジェットコースターに乗って、恐怖によって新密度を上げるのもいいし、
 まずはまったりとコーヒーカップで肩慣らしという手もある。
 でもここは、観覧車から乗る事にしようか。
 2を選択、っと。

「観覧車に乗ろう。」
 タカラギ子と共に観覧車に乗り込むオオミミ。
 二人を乗せた観覧車が、ゆっくりと動き出す。

「…こうやって二人きりになるのって初めてだね。」
 タカラギ子が急にしおらしくなる。
 おっ?
 何か普通の美少女ゲーみたいになってるじゃないか?

「そういえば、私達ってお互いの事あんまり知らないよね。
 オオミミ君、何か聞きたい事ってある?」
 うんうん。
 やっぱりこうじゃなくっちゃ。
 救いようの無い糞ゲーと思いきや、ちゃんとしたイベントもあるじゃないか。
 さて、ここではどんな選択肢が出てくるんだろう。


『何を質問しよう?』
 1・好きな体位は何ですか?
 2・一人エッチは週何回?
 3・乳首何色?

 全部セクハラじゃねぇか!!
 こんな質問したら、一発で嫌われるぞ!!

「好きな体位は松葉崩し。
 一人エッチは週五回。
 乳首は黒ずんだピンクです。」
 お前も何答えてんだよ!!
 つうか、エロゲーでもこんな展開ありえねぇよ!!!

「そうなんだ。
 俺知らなかったよ。」
 そうなんだじゃねぇよ!!
 んな事知ってる方が恐ぇよ!!
 何なんだよその満足そうな笑顔は!!
 変態か!?
 お前は生粋の変態か!!?

660ブック:2004/06/22(火) 21:37

「おっと、もう観覧車が一周したみたいだな。」
 再び乗降り場に戻ってくるオオミミ達の観覧車。
 二人は観覧車から降りる。

「それじゃあそろそろお昼ごはんにしましょうか。」
 観覧車から降りた所で、タカラギ子が弁当箱を差し出す。
 こんな所だけはしっかりと王道だな…

「いいね。
 それじゃあ、どっかの建物の中で食べようか。
 それとも外の芝生にする?」
 オオミミがタカラギ子に尋ねた。

「嫌ぁ!!
 中は駄目!!!
 中は駄目!!!
 中はやめてえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
 あからさまに誤解を招く表現してんじゃねぇよ!!
 お前オオミミを逮捕させる気か!?

「分かった。
 それじゃあ外で食べよう。」
 お前もタカラギ子に何とか言えよ!!
 何でそんなにケロッとしてるんだよ!!

 そんなこんなで、舞台は遊園地の芝生に移った。
 ビニールシートを引き、二人はその上にちょこんと座る。

「はい、た〜んと召し上がれ。」
 弁当箱の蓋を開けるタカラギ子。

 いや、タカラギ子さん。
 あなたがオオミミの為に弁当を作ってくれたのはよく分かる。
 非常によく分かる。
 だけど、おにぎりとか鮭とかに書かれてある『毒』の文字は何なのかな?
 僕、そこだけはちょっと分かんないや。

「つべこべ言わずに喰えオラァ!!」
 無理矢理タカラギ子がオオミミに弁当を食わせようとする。
 やめろ!
 誰か、助けて!!
 殺され…

「!!!!!!!!!!!!」
 と、突如飛来した剃刀がタカラギ子の弁当箱を弾き飛ばした。
 オオミミとタカラギ子の視線が、同時に剃刀の飛んできた方向へと向く。
 そこにいたのは、スケバンルックに身を包んだ絶滅危惧種の女、三月ウサ美だった。

「愛と正義の美少女戦士、ブルセーラームーン!
 月に代わって、折檻よ!!」
 アブドゥル〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
 わしゃあもう泣きそうじゃあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


     TO BE CONTINUED…

661ブック:2004/06/24(木) 01:16
     EVER BLUE番外編
     ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 死闘編


〜前回までのあらすじ〜

「さあ、今日はタカラギ子さんとのデートの約束の日だ。」
「好きな体位は松葉崩し。
 一人エッチは週五回。
 乳首は黒ずんだピンクです。」
「嫌ぁ!!
 中は駄目!!!
 中は駄目!!!
 中はやめてえええええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
「愛と正義の美少女戦士、ブルセーラームーン!
 月に代わって、折檻よ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さあ覚悟しなこの薄汚い雌犬め。
 抜け駆けしてオオミミを寝取ろうなんざ、いい度胸だな。」
 剃刀を指に挟んで構え、三月ウサ美が見得を切る。

「くっ…!
 あなたは東洋の紅蠍、三月ウサ美!
 まさかこんな所で出会うなんてね…!」
 パニッシャーを肩に担ぐタカラギ子。

「ふふふふふ。
 ここが貴様の墓場となる。
 死ねーーーーーーーー!!!」
 使い古された脅し文句と共に三月ウサ美が剃刀を投げつけた。
 パニッシャーでそれを受けるタカラギ子。
「ほう。
 よく今のを受け止めたな。
 ならばこれならどうだ。
 超絶無限覇王雷神青竜滅砕派ーーーーーーーー!!」
 何かいかにも小学生が考えたような名前の必殺技来た―――――!

「ぐあああ!!」
 エネルギー派を食らい、タカラギ子が吹っ飛ばされる。
「ふっふっふ…
 どうした、まだ十分の一の力も出してはいないぞ?」
 笑う三月ウサ美。
 お前その台詞…
 一体いつの時代の人間だよ。

「うう…
 大丈夫子、猫ちゃん。」
 見ると、タカラギ子はその胸に子猫を抱え、先程の攻撃から庇っていた。
 いや、その猫絶対さっきまで居なかったじゃん。
 それにしても何だこの展開は。
 黄金期のジャンプ漫画の世界にでもトリップしているのか?

「遊びはこれまでだ!
 今度こそくたばれ、超絶無限爆炎風神暗剣殺ーーーーー!!
 この技は核爆発を防ぐ金属すら破壊する!!!」
 名前変わってるじゃねぇかよ!!
 つうか、核爆発すら防ぐって、最強厨かお前は!?

「絶対無敵バリアー!!」
 しかし、タカラギ子の展開したバリアーがその一撃を受け止めた。
「何だと!?
 ありえない、富士山すら消し飛ばすこの技が!!」
 驚愕する三月ウサ美。

「あなたは強い…
 だけど、決定的なものが欠けているわ。
 それは人の愛よ!!」
 愛って…
 そんなの今日び週間少年マガジンの漫画でも言わねぇよ。

「これが人の愛の力というものよ!
 受けなさい、
 スーパーウルトラミラクルスペシャルハイパーゴールデンゴージャスワンダーマッハ
 ドラゴンタイガーフェニックスゴッドパワークラッシュブラストソードブレイドネオ
 カイザーキングスラッシュボンバーメテオラストファイナルアタック零式!!!!!」
 三月ウサ美以上に厨臭い必殺技だーーーーーーー!!
 ていうか愛全然関係無いじゃねぇかよ!!

「馬鹿な!
 この人を超えた私がーーーーーーーーー!!!」
 お約束過ぎる断末魔の台詞と共に、三月ウサ美は倒れた。
 しかし、どうやらまだ辛うじて生きてはいるようだ。

662ブック:2004/06/24(木) 01:16

「…どうした。
 止めを刺さないのか…?」
 息も絶え絶えに呻く三月ウサ美。

「…急所は外してあるわ。
 これからは今迄犯してきた罪を償いながら生きなさい。」
 お前は最近少年漫画で流行の、ろくに信念も無い不殺主人公か!!
 殺せ!!
 この世の為にきっちり殺しとけ!!

「!!!!!!!!」
 その時、三月ウサ美の頭を銃弾が打ち抜いた。

「全く…使えない奴だったわねぇ…」
 硝煙の昇る狙撃銃を片手に現れる女。
 また病人が現れやがった。
 誰か医者呼んで来い、医者。

「私の名前はサカー奈。
 魔王様に仕える四天王の一人。
 三月ウサ美を倒した位でいい気にならないでね。
 そいつは、四天王の中でも一番弱かったのよ。」
 うわすっげ。
 二十一世紀にもなって、こんなカビが生えたような台詞を聞くとは思わなかった。

「何で仲間を殺したの!?」
 タカラギ子が叫ぶ。
「仲間?
 くくく、とんだ勘違いだ。
 負けるような役立たずなど、仲間の価値などないわ!!」
 銃をタカラギ子に向けて構えるサカー奈。

「許さない!!」
 さっきあわよくば三月ウサ美を殺そうとしていた事など棚に上げて、
 タカラギ子が飛び掛かる。

「甘い!
0.2536秒遅いわ!!」
 だが、サカー奈は苦も無くタカラギ子の胸に銃弾を放った。
 心臓の位置で、タカラギ子の服が爆ぜる。
 つーか、もうこのゲームギャルゲーじゃねぇよ。

「!!!!!」
 しかし、タカラギ子が何事も無かったかのように立ち上がってきた。
 何故だ?
 今ので死ななかったのかよ?

「…!
 これはオオミミ君が渡してくれたワッペン。
 オオミミ君が守ってくれたのね…」
 渡してねぇよそんなもん!!
 いつそんな描写があったよ!?
 ていうかワッペンなんぞで銃弾が防げるか!!

「くっ…!
 これが愛の力か…!!」
 サカー奈が怯む。
 だから愛なんか関係ないだろうが!
 お前ら揃いも揃って痴呆か!?

「ならばその力の源を消し去る!
 死ね!!」
「!!!!!!!!!」
 次の瞬間、オオミミの胸部がサカー奈によって撃ち抜かれた。

「…!
 オオミミ君!!」
 駆け寄ってくるタカラギ子。
「うう…俺はもう駄目だ……
 せめてお前だけは幸せになってくれ、ぐふっ。」
 死んだ!
 主人公死んだ!!
 おい、死んだぞ!?
 死んだぞ主人公!!
 主人公殺しちまっ、一体どうすんだよ!!

663ブック:2004/06/24(木) 01:17

「オオミミ君…!
 許さない…あなただけは絶対に許さない!!」
 タカラギ子の周りにオーラが漂い、髪が逆立つ。

「何ぃ!?
 あいつのどこにこんな力が…!」
 何の脈絡も無く、怒りの力でパワーアップ来たーーーーー!!

「人は一人では生きていけない…
 だけど、だからこそ手と手を取り合って生きていける。
 それが人間の力!!」
 死ぬ!
 死ぬ死ぬ!!
 臭過ぎて死ぬ!!!
 頼むからもう助けてくれ!!!!
 お前どこのRPGのキャラクターだ!?

「受けなさい!
 スーパー(中略)零式!!!」
 大幅に必殺技の名前はしょったーーーーーーー!!

「うっぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
 光の奔流に吹き飛ばされるサカー奈。
「うぐぐ…!
 見事ね!
 だが、本当に恐ろしいのはこれからよ!!
 残りの四天王は、私の百倍は強い!!
 あなたなど、一秒で殺されるわ!!」
 血を吐きながらサカー奈が口を開く。

「今日の所はこの辺で退いてあげる。
 だけど、次に会った時は覚悟していなさい!
 ギルガメッシュナイトと、馬鹿殿様のおっぱい神経衰弱の復活、
 果たしてあなたに止められるかしら!?」
 そう言い残し、サカー奈はワープでその場から消え去った。
 で、これって何のゲームだったけ?


「オオミミ君…!」
 絶命したオオミミに、タカラギ子が縋りついた。
「ごめんなさい、私が弱い所為で…」
 いや、お前、
 前回毒入りの弁当食わせようとしてたじゃん。
 いまさら何言ってんの?

「う…うう……」
 その時、オオミミの身体が僅かに動いた。
「!?」
 タカラギ子が目を見開く。

「タカラギ子さんの涙で生き返ったよ。
 これが愛の力さ。」
 生き返るかよ!!
 お前心臓打ち抜かれてただろ!!
 涙なんかで復活するか!!

「さあ、すぐに旅に出よう。
 俺達の闘いは、今始まったばかりだ!」

  〜第一部・完〜
  ブック先生の次回作にご期待下さい。

664ブック:2004/06/24(木) 01:20
:.,' . : : ; .::i'メ、,_  i.::l ';:.: l '、:.:::! l::! : :'、:i'、: : !, : : : : : :l:.'、: :
'! ,' . : i .;'l;' _,,ニ';、,iソ  '; :l ,';.::! i:.!  : '、!:';:. :!:. : : : :.; i : :'、:
i:.i、: :。:!.i.:',r'゙,rf"`'iミ,`'' ゙ ';.i `N,_i;i___,,_,'、-';‐l'i'':':':':‐!: i : : '、
i:.!:'、: :.:!l :'゙ i゙:;i{igil};:;l'   ヾ!  'i : l',r',テr'‐ミ;‐ミ';i:'i::. : i i i : : :i どっから見ても
:!!゚:i.'、o:'、 ゙、::゙''".::ノ        i゙:;:li,__,ノ;:'.、'、 :'i:::. i. !! : : !:  打ち切り漫画の終わり方じゃねぇか!
.' :,'. :゙>;::'、⊂‐ニ;;'´          '、';{|llll!: :;ノ ! : !::i. : : : : i :   あやまれ!!
: :,' /. :iヾ、   `        、._. ミ;;--‐'´.  /.:i;!o: : : :i :   読者の皆さんにあやまれ!!
: ; : ,' : : i.:      <_       ` ' ' ``'‐⊃./. :,: : : O: i. :
: i ,'. . : :',      、,,_            ,.:': ,r'. : , : : !: :
:,'/. : : . :;::'、     ゙|llllllllllllF':-.、       ,r';、r': . : :,i. : ;i : :
i,': : : :.::;.'.:::;`、    |llllH". : : : :`、    ,rシイ...: : ; : :/:i : i:!::i:
;'. : :..:::;':::::;':::::`.、  |ソ/. : : : : : : ;,! ,/'゙. /.:::: :,:': :./',:!: j:;:i;!;
i. : .:::;:'i::::;':::::::::i::`:.、;゙、';‐ 、,;__;,/ノ  . :,/.:::: :/. : :/.:::i. j:;;;;;;;;
l .:::;:'::;':::;':::::::::::i::::i::`:,`'-二'‐-‐''゙_,、-.':゙/.:::: ;ィ': : :/.:::::i: j、;;;;;;;
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もう本当に好き勝手電波を垂れ流してごめんなさい。
というか生まれてきてすみません。
次からは本編に戻ります。

665 ( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:45
「魅せてやろう。ひれ伏せよジャップどもッ!『トットリ・サキュー』ッ!

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『トットリ・サキュー』

・・・?
今アイツなんていった・・?
『鳥取・・砂丘』・・?
「・・ネーミングセンスが無いな、貴様。」
殺ちゃんがため息をついて言う
「な・・貴様ッ!この極東の小島ごときに存在する唯一の名所『鳥取砂丘』をバカにするのかッ!」
・・コイツ日本大好きなんじゃないか?

「・・・・ブフッ。」
後ろで必死で笑いをこらえていたムックが耐えられず吹き出す
「キ・・サッマ・・ラァAHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!こンの種無しピーマン野郎がァァァァッ!」
流石のハートマンもブチ切れすっ飛んでくる
しかしハートマンの体はムックには全く届かない地面に落ちる
そしてその体はズブズブと地面に溶け込まれていった。

「・・ッ!これは・・」
俺の脳裏に病院での闘いのビジョンが蘇る。
あの恐ろしい能力がまたか・・ッ!
「『トットリ・サキュー』ッ!」
ハートマンが恥ずかしいスタンド名を叫ぶ

そしてムックの後方に巨大な手が現れる
ソレを紙一重で避けるムック
「・・・・?」
俺はその光景を見て疑問を覚えた。
「あの手・・・右腕・・?」
頭に病院戦の様子が思い出される

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「なんだこれは・・右腕が・・戻せんッ!」
ハートマンの右腕はブレ、砂になった
「あああああああああッ!ク・・ソ・・ッ!貴様・・何をォーッ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

666( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:46
!!
そうだ!確かアイツの右腕は俺がジェノサイアで砂にしてやったはずじゃ・・ッ!
でも・・どうみてもあの腕は・・右腕にしか・・

そんな事を考えていると俺の後方にも腕が現れる
「――ッそ!」
ギリギリで避ける俺
しかし、これで奴の両手が揃ってしまった。
一体何故・・・ッ!?

「・・『一体何故』そんな事を思っているな?巨耳モナー・・。」
ハートマンの口がニヤける
・・?何故だかわからんが相当不気味だ。
「教えてやろう。ソレはな・・。」

「すまぬ。特に興味は無い。――死ぬが良い。」
いつのまにかハートマンの死角にいた殺ちゃんの体から無数の重火器が現れ、
大きな音と閃光が走った。

何とかよけようとしたハートマンだったが、そのスピードは間に合わず、
半身が完全に砕ける。
そして横に倒れた。
「ふん・・・あっけない。」
殺ちゃんは銃に息を吹き、キメポーズをする

だが次の瞬間殺ちゃんの体は遥か彼方の道路に落ちた。
何だ?一体何が――?
「殺ちゃ・・っ」
俺が殺ちゃんのもとへと駆け寄ろうとすると巨大な手が現れる。
コレは・・『トットリ・サキュー』・・?

俺は即座にハートマンの死体へと目を向ける
――無い。
馬鹿な。
確かにアソコに――

考える暇も無く、俺の体は宙を舞い、地面に叩きつけられた
「ッグァッ!?」
マズい。背骨がイっちまったかもしれない。

そんな激痛が襲う俺の背中に更にパンチがくる
「『ソウル・フラワー』ッ!!」
無数のパンチと共に、花が咲き、養分が送られ、背中が元に戻る。
痛い。ぶっちゃけありがた迷惑だ。

意識が朦朧としながらも立ち上がると、ピンピンしたハートマンが目に入る。
馬鹿な。どうやっていやがる?幻覚?能力?残像?魂?
だがその時、俺の脳裏にある単語がよぎる
「―『吸血鬼』・・?」

ハートマンが微笑んだ。間違いない。コイツはそうだ。あの『狂いのバレンタイン』事件で見た
『吸血鬼』だ・・・。
馬鹿な・・。コイツはあの悪夢を・・また・・?
あの・・『悪夢』を・・?

「・・・YESYESYES・・。私こそ『吸血鬼』だよ・・。巨耳モナー・・。」
「『吸血鬼』・・『石仮面』と呼ばれる仮面によって生み出される悪魔・・。『骨針』により脳を刺激し・・
人間では出す事の出来ない領域の力を生み出す・・。日の光に当てるか、頭部を完全に破壊するまで再生し続けるバケモノ・・。」
俺はハートマンを睨みつける
「・・・『狂いのバレンタイン』を起こした忌むべき存在・・っ」
そして、低くつぶやいた。
「ほぅ。貴様。国によって掻き消され、うやむやにされた事件・・『狂いのバレンタイン』を知っているのか・・。」
「・・・『狂いのバレンタイン』・・とは?」
体をひきずり、殺ちゃんがやってきた。

「『狂いのバレンタイン』・・。日本で起きた最凶で最悪な事件だったよ・・。」
「ある人物・・今となっては誰かもわからんが、その者が吸血鬼になり、一人の女に最高の花火をプレゼントした。」
俺は拳を握り締めた
「そう・・あの女に・・あの・・女にッ―――!!」

「確か女の名は『ドキュソちゃん』・・。彼女の美貌に惚れた男が彼女に『花火が見たい。最高の花火が』。そういわれて・・。」
ハートマンの顔は少し笑っていた。
「吸血鬼の跳躍力で・・飛んでいる旅客機を・・・。」
「墜落させた。」
俺とハートマンは同時につぶやいた。
「それでHANABI・・。」
ムックはあっけにとられた顔をする。

「生存者は無し。犯人ですらドキュソの手によって太陽光で葬られてる・・。しかもドキュソの刑は証拠不十分で執行猶予がついた。」
嘲笑混じりで言うハートマン
「・・・そのドキュソも何者かの手によって葬られてる。」
俺は怒りを込めた声でつぶやいた。
「・・・しかもあの旅客機の中に・・俺の彼女が乗っていた。」
「ほぅ・・?」
ハートマン以外は驚愕の表情をする。

「・・・アイツに殺されたんだ・・『吸血鬼』に・・。」
俺は小さく、打ち震えつぶやいた。
「・・何故そんな大きな事件が消されて?」
「当時の情勢が複雑だったのでな。上の方のバカどもは人命より国が大事だったらしい。
そんな事件が起こったと知ったら観光客も減る、国民も恐れる、そしてその虚を狙いテロもあるかもしれん。」
「ヒドいですNA・・。」

667( (´∀` )  ):2004/06/24(木) 19:46
「・・そうだ。面白い事を思いついたぞ。――貴様の『処刑』についてだ。巨耳モナー。」
ハートマンは物凄い笑みをみせつける。
「あの『悪夢』を再来させてやろうッッ!!」
ハートマンは思いっきりしゃがむとかなりの跳躍をし、夜空に消えた。
「馬鹿な・・やめろ・・・やめろォォォ―――ッッ!!!」
俺は空に向かって叫んだ

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィッ!
もう・・止められんよォォォォォォォォォッ!HYAHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
とてつもないスピードでハートマンと旅客機が垂直に落ちてきた。
まるで、ミサイルの如く。
俺はその場にへたり込み、震えた。
後ろからジェノサイアが出てくる。

「巨耳くんッ!立ってっ!たたないと・・死んじゃうッ!立ってッ!早く・・立って―――ッ!」
しかし俺にはもう何の声も聞こえない。
無理だ。俺はもう・・
今すぐそっちへ行くよ・・――マリア。

「ムック・・死ぬ覚悟は?」
「出来てませんZO。」
「よし。それでよい。神に祈るのは・・死んだ後で良いッ!!」
殺ちゃんは叫び、仁王立ちをした。

だが、その叫びはむなしくも、旅客機がついらくする轟音に掻き消され
その姿は閃光に飲み込まれるのであった。

←To Be Continued

668:2004/06/24(木) 21:58
ちょっと今日中に貼らないといけないので、新スレ立つまで待てませんよ…

669:2004/06/24(木) 21:59

かって、1人の神父がいた。
『覚悟する事が、人類の幸福に繋がる――』
そう結論付けた神父は、世界を1巡させたという話がある。
そうならば…
これから語られる話は、一体何巡した世界なのか分からない。
だが、ただ1つ言える事は…

この番外編は、モナ冒本編と関連性はありません。





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      「モナーの愉快な冒険」
       番外・モナヤの空、キバヤシの夏(前編)

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「――6月24日はUFOの日なんだよ!!」

 受話器の向こうで、キバヤシは告げた。

「…そ、そうモナか」
 俺は、呆れながら言った。
 早朝から電話がかかってきたと思ったら、いきなりこれだ。

 キバヤシは熱に浮かされたように話を続ける。
「1947年6月24日、ケネス・アーノ○ドという実業家は、飛行機の窓から信じられないものを見たんだよ!!」

「…ちょっといいモナか?」
 俺は口を挟んだ。
「なんで伏字を使ってるモナ?」

「…一応、実在の人物だからな。とにかく、彼は信じられないものを見た。
 編隊を組んで飛んでいた、9機の飛行物体をな。
 彼はこれを、マスコミのインタビューで『フライング・ソーサー(空飛ぶ円盤)』と呼んだんだよ!!」
 受話器の向こうで、キバヤシの顔がアップになる気配。
 だが、まだだ。
 『なんだってー!』にはまだ早い。

「物体との距離から判断して、それはマッハ1.5で動いていたと彼は証言した。
 これが… 世界初のUFOの目撃例なんだよ!!」
 キバヤシは大声を張り上げた。

「異議あり!!」
 俺は負けずに大声を上げる。
「最初の目撃例と言うが、火球やフー・ファイター(幽霊戦闘機)の目撃例は以前からあったモナ!!
 さらに彼は、『フライング・ソーサー』とは言っていないモナ!!
 彼は『ソーサー(皿)のような動きをしていた』と言っただけ…
 つまり水切りの要領で水面を跳ねる皿を想定していたわけで、形状ではなく動きについて語られたものモナ!」

「…!!」
 キバヤシが息を呑むのが、受話器越しに伝わってくる。
 俺は続けた。
「そして、彼が用いた『ソーサー』という言葉が独り歩きしてしまったモナ。
 『フライング・ソーサー』と言い出したのは彼ではなく新聞記者であり、そもそも誤謬があった言葉モナ!!
 さらに、彼が述べたマッハ1.5という表現も怪しいモナ。
 ベテランのパイロットでさえ、離れた距離にある物体の距離を判断するのは難しい…
 物体がもっと近かった可能性もあり、そうだと速度は遅くなるモナ!
 何より彼は… 自分が目撃したものを、ソ連の最新軍用機と思っていたモナ!!」

「…」
 キバヤシは黙っている。
 すかさず俺は畳み掛けた。
「このア○ノルド事件、現在伝わっているのは歪曲された姿モナ。
 再現フィルムなど、ジグザグに飛んでいたり、凄まじい光を放ったり…
 でも実際は、太陽光を反射して軽く光った程度モナよ。
 彼が見た物は今となっては分からないけど、観測気球の可能性が高いモナ。
 当時は、複数の気球をロープで繋いで打ち上げる方式があったモナ。
 それが気流に乗ってしまうと、かなり速いスピードで飛ぶモナ。
 ちょうど、彼が目撃した飛行物体のように…」

「くっ、モナヤ… やるようになった!」
 キバヤシは吐き捨てた。
「まあ、今のは話の触りだ。さっき、MMR宛に読者から手紙が届いたんだよ…」
 何やら、ガサガサという音が聞こえる。
 手紙とやらを取り出しているのだろう。
 と言うか、読者って何だ?

670:2004/06/24(木) 22:00

 少しの間の後、キバヤシは口を開いた。
「…読み上げよう。
 『拝啓。こんにちわ、ミステル・キバヤシさん。毎週、楽しみに見ております。
  私は、何の変哲もないドイツ人です。
  先日私は裏弐茶県の首吊り島にUFO基地があるという情報を掴み、潜入しました。
  ですが即座に発覚し、襲い来るエイリアンを5体までは撃退したのですが…
  流石に敵は大勢、涙を呑んで逃走しました。
  今にして思えば、撃退したエイリアンの数は10体だったかもしれません。
  ですが敵の追撃は厳しく、メガ粒子砲の直撃を受けてしまい怪我をしました。
  偶然、エイリアン達と交戦していたアメリカ宇宙軍に救助されましたが…
  その際にUFOの写真を撮影しましたので同封しておきます。
  おそらく、あの島には秘密があるに違いありません。
  そこでMMRの皆さんには、その首吊り島の調査をお願いしたいのです。
  どうか、よろしくお願いします。            Mr.Z』
 …という事だ。あと、詳細な住所が記されている。モナヤ、どう思う?」

「…拝啓で始まってるのに、敬具が抜けてるモナね」
 俺はとりあえず言った。
 どうやら、俺の知らないところで宇宙戦争は始まっていたらしい。
 かってない壮大なスケールだ。
「それで、UFOの写真っていうのは…?」

「かなり粗いが… 確かにUFOだな。下部には砲台もついてる」
 キバヤシは言った。
「そこでだ、モナヤ。MMRは、裏弐茶県に調査に向かう事になった」
「ええっ! モナも行くモナか?」
 返事を聞くまでもない。
 MMRには、俺とキバヤシしかいないのだから。
「…いつからモナ?」

「無論、今からだ。ちゃんと、首吊り島にあるペンションに予約を入れてある。
 安心しろ、費用は全てこちらで持つ」
 キバヤシは当然の事のように告げた。
 相変わらず、俺の予定など何も考えていない。
 俺は、少し考えて言った。
「…リナーを連れて行ってもいいモナ?」
「別に、何人随伴しようが構わんさ。じゃあ、午前10時に駅前で」
 そう言って、キバヤシからの電話は切れた。

「リナー!! 一緒に、島にバカンスに行かないモナ?」
 俺は受話器を置くなり、リナーの部屋に呼びかけた。
「…バカンス?」
 リナーが、部屋から目をこすりながら出てきた。
「別に構わんが… 何でいきなり?」

「6月24日はUFOの日だからモナよ…」
 俺はニヤリと笑って言った。
 まあ、リナーと2人っきりで休日を潰すのも悪くはない。
 …あれ、なんで今日は休日なんだ?



 そして、俺達は駅前に立っていた。
 予想通り、多くのオマケを連れて…
「で、ちゃんとしたペンションなんだろうなゴルァ!」
 大きなリュックを背負ったギコは言った。
 その脇には、しっかりとしぃもいる。
 しぃも例外なく、大きな荷物を抱えていた。
「…知らないモナよ。予約したのはキバヤシモナ」
 俺は憮然として答える。
 全く、リナーと楽しい2人旅だったはずが…

「清潔なところがいーなー!」
「あと、風呂が大きいところだね。20畳以上はないと、僕は風呂とは認めないよ?」
「アッヒャー!!」
 そして、当然のように喚き立てる三馬鹿。
 奴等の山のような荷物。
 モララーなど、自分の身長ほどもあるスポーツバックを背負っている。
 どう見ても、泊まる気マンマンだ。
 もういい、どうせこうなるんだ…

「オマエラ、俺の事を忘れてはいないかッ!!」
 きなり、大声で叫ぶ三角頭。
「随分と久し振りモナね…」
 俺は彼に視線をやって呟いた。
「…俺はいつまでも…、俺はッ…ううっ!!」
 突然、泣き出す三角頭。
 ウザい事この上ない。

 …あれ、おかしいな。
 確か、毎日学校で顔を合わせていたはずが…
 ってか、日中歩いて大丈夫なのか、俺?
 まあいい。
 UVクリームとかでOKだ。
 なお、この設定はモナ冒本編では適用されないぞ。

「待たせたな、モナヤ」
 背後からキバヤシの声。
 『MMR』と書かれたシャツを着込んだキバヤシが、5分遅れで到着したようだ。
 そして、彼は俺達を見回した。
「随分沢山いるな… まあいい、MMR出動だ!!」
 キバヤシは、背を向けて改札口を進んでいった。
 俺達も後に続く。
 首吊り島とやらの近くまでは、電車で行くようだ。

671:2004/06/24(木) 22:01



 電車の中で、俺は今回の調査の目的について説明した。
 本来はキバヤシの役割なのだろうが、奴が電車に酔って使い物にならなかったからである。
「…じゃあ、ここでこいつを窓から投げ落とせば、訳の分からん調査とやらはバカンスに早変わりか…」
 ギコは、目を細めてぐったりしているキバヤシを見た。
 いくら相手がキバヤシでも、その扱いはひどすぎる。

「いいじゃない? ミステリーの調査なんて、ロマンチックで…」
 レモナは目を輝かせて言った。
「モナーくん、私が宇宙人にさらわれたら助けに来てね!」

「お前を連れ去れる宇宙人なんかいたら、人類じゃ太刀打ちできないモナ」
 俺はため息をついて言った。
 つーは、どうでも良さそうに窓の外の景色を眺めている。
「UFOか… でも、そういうのってワクワクするね」
 モララーは、割と乗り気のようだ。
「ギコ君は、本当に宇宙人がいると思う?」
 しぃは興味深そうに訊ねた。
 ギコは腕を組む。
「俺達がここに存在している以上、結局は確率論だからな…
 広い宇宙のどっかにゃいるかもしれないが、わざわざ地球に来てる可能性はないと思うなぁ…」

「リナーはどう思うモナ?」
 俺は、リナーに訊ねた。
「定番の返答だが、UFOは異星人の乗り物を示す用語ではない。単に未確認飛行物体の英略だ。
 観測した本人が対象を定義できないなら、例え気球でもUFOになる」
 そう言って、リナーは顔を上げた。
「…だから、特に感想はない」

 しぃやレモナ、モララー達は、宇宙人の存在について議論していた。
 いつもなら真っ先に炸裂するキバヤシは、電車酔いで完璧にダウンしている。
「でも、私はUFO見た事があるんだよ!?」
 そう主張するしぃ。
「金星か何かの見間違いだろ? 普通は星なんかと見間違えないと思うだろうが、金星だけは特殊で…」
 ギコはしぃの意見を否定している。
 どうやら、わりと議論は白熱しているようだ。
 調査はこいつらにでも任せて、俺はリナーとペンションでのんびりしとこう…



「…凄い田舎モナね」
 駅から出た途端、俺は呆れて言った。
 目の前に広がる海。
 そして、かろうじて人が住んでいると分かる微かな建築物。
 まるでさびれた漁村だ。
 ここから、首吊り島への船に乗るらしいが…

「無人駅なんて、10年振りだよ…」
 モララーは、駅の方へ振り返って言った。
 そもそも、こんな所に船なんて来るのか?

「現地の人が、ボートで迎えに来るはずだ… ウップ」
 そう言って、キバヤシは気分が悪そうに錆びたベンチに腰を下ろした。
 ボートか…
 低予算だが、全てはキバヤシに委ねている以上、仕方ないのかもしれない。
 だが…
 あんまり妙なペンションは困るな。

「予約入れてるってのは、どんなペンションなんだ? 変なところじゃないだろうな?」
 俺と同じく不安に思ったのか、ギコは訊ねた。
「やけにこだわるモナね。ペンションに悪い思い出でもあるモナか?」

 ギコはため息をつく。
「それが大アリなんだよ。去年の冬に行ったとこなんか、風呂が滅茶苦茶汚くてなぁ…」
「 で 、 誰 と 行 っ た の ? 」
 ギコの言葉をしぃが遮った。

「…で、どんなペンションモナ?」
 俺は、ぐったりとしているキバヤシに訊ねた。
「…ん?」
 キバヤシは視線を上げる。

「…『砕ける』」
「ギコハニャーン!!」
 背後から妙な声が聞こえてくるが、気にしないでおこう。

「『マサクゥル』という名の、ナウいペンションだよ」
 力無く呟くキバヤシ。
「…『マサクゥル』か。名前は強そうだね」
 モララーは口を開いた。
 キバヤシは続ける。
「首吊り島にある唯一の建物で、屋敷と言ってもいいほど立派なペンションだ。
 もっとも、写真でしか見た事がないけどな…」
 キバヤシはそう言って、ため息をついた。
 顔色は、先程より良くなってきている。

「あんたら、都会から来なすったのかね?」
 ベンチの周囲に固まる俺達に、老婆が声をかけてきた。
 いかにも、古老といった感じだ。

「…はい。首吊り島っていうところに行くんですよ」
 しぃは頷いて答える。
「な…! 首吊り島となッ!」
 老婆は驚きの声を上げた後、顔を引き攣らせて固まってしまった。

「…?」
 その様子を見たキバヤシが、腰を上げて老婆に訊ねる。
 どうやら全快したようだ。
「…首吊り島に、何かあるんですか?」

672:2004/06/24(木) 22:01

「知らん! あんな呪われた島の事など、ワシは何も知らんぞッ!!」
 そう言って、老婆は背を向けた。
 そのまま、ちらりとこちらへ視線を向ける。
「あんたら、命が惜しかったらあの島に近付くでないぞッ!!」
 そう言い残して、老婆はそそくさと去っていった。
 まるで、関わり合いになりたくないといった具合に。

「…判で押したような反応だな」
 ギコは呆れたように言った。
 そして、おそらくボートで迎えに来た現地の人とやらが、この島の因縁について語ってくれるのだろう。

「…そう言えば、Mr.Zとやらが手紙に同封したUFOの写真ってのは?」
 俺は、キバヤシに訊ねた。
「おっと、忘れるところだった…」
 キバヤシはポケットから1枚の写真を出すと、俺に渡す。

 俺は、その写真を見た。
「どれどれ…?」
 ギコ達が、俺の背後から写真を覗き込む。
 不鮮明だが、妙な物体がかなり大きく写っていた。
 まさに、円盤型。
 キバヤシの言った通り、その下部には砲台のような物がついていた。
 まるで、戦車の砲塔を逆さにしてくっつけたみたいな…

「何だこれ、パンターじゃねぇか」
 ギコは言った。
「…パンター?」
 俺は振り返って訊ねる。
「ドイツが、ナチス時代に開発した戦車だよ」
 ギコは告げた。
 何だ、本当に戦車の砲塔だったのか…

「じゃあ、合成したトリック写真って事?」
 しぃは訊ねる。
「ああ、本当にこんなモンを作ったんじゃない限りはな…」
 ギコは馬鹿馬鹿しそうに言った。
 それも当然だ。
 未知の飛行物体を製造しておきながら、パンターの砲塔を逆さにしてくっつける馬鹿が存在するとは思えない。

「じゃあ、無駄足だったって訳?」
 モララーは不服そうに言う。
 俺は、そっちの方が有難いんだがな。
「あきらめない…」
 キバヤシは呟きながら顔を上げた。
「『あきらめない』というのが、俺達に出来る唯一の戦い方なんだよ!!」
 …つまり、調査を止める気はないらしい。

「つーか、Mr.Zとかいうヤツ、怪しすぎないか…?」
 ギコは言った。
 何を今さら。その名前で怪しまない奴は失格だ。
「手紙の方も見せてくれないか?」
 ギコは、キバヤシに手を出した。
「ああ… どこに仕舞ったかな」
 カバンをごそごそするキバヤシ。
「あった、これだこれだ…」
 キバヤシは封筒から手紙を出すと、ギコに渡した。

「うおっ!! 怪しッ!!」
 それを見て、俺は思わず叫んだ。
 まるで一昔前の脅迫状のように、手紙の文字は切り抜いた活字の貼り付けだったのだ。
「…今どき、こんなことするヤツいるんだね…」
 モララーは呆れたように言った。
 字の大きさもマチマチで、所々ずれている
 もう、怪しさ大爆発だ。

「…ん、迎えが来たようだ」
 キバヤシは腰を上げた。
 海面に古臭いボートが浮いている。
 俺達全員+荷物が乗ったら、沈んでしまいそうな…

 現地の人と思われる筋肉質のニワトリが、キバヤシと視線を絡めた。
 ゆっくりと頷くニワトリ。
「じゃあみんな、ボートに乗ってくれ」
 そう言いつつ、キバヤシがボートに乗り移った。
 その衝撃だけでボートは大きく揺れる。

「オイオイ、こんなボロで大丈夫なのか? みんな乗ったら沈んじまうんじゃねーか?」
 三角頭は言った。
 ってか、いたのか。

「…」
 ニワトリが、三角頭を睨んだ。
 そして地上に飛び移ると、腕をクイクイさせる。

「左側の海苔頭! きさまの頭の形が気にくわん! 今から痛メツケテヤル!! …だそうだ」
 キバヤシはボートに腰を下ろして言った。

「はァ〜〜〜〜? おれのことか? なんだてめー! いきなり何いいだすのん? 頭パープリンなのか?」
 ニワトリを挑発する三角頭。
 パープリンなのは、間違いなくお前だ…

673:2004/06/24(木) 22:02



「じゃあ、出発だ!」
 キバヤシは言った。
 ニワトリはおもむろに海に飛び込むと、ボートの背面に回る。
 そしてボートを押しながら、激しくバタ足を始めた。
 その勢いで、ボートはゆっくりと進み出す。
 オールは、三角頭を叩き潰した時に折れてしまったのだ。

「…まあ、全員乗ってたら沈んでたかもしれないモナね。1人足りないくらいがちょうどいいモナ」
 俺は、ポジティブに物事を考える事にした。
「つーか、こんな重要な事を今まで聞かないのもアレだけど…」
 ギコはおもむろに口を開いた。
「何泊する予定なんだ?」

「この船が出るのは1週間に1回だ。つまり、次にこの船が来るのは1週間後だな…」
 キバヤシは澄まして言った。
 どうやら、海の上だと酔わないらしい…って、それどころじゃねー!!

「じゃあ、1週間は本土から帰れないのかい!?」
 モララーは叫んだ。
「その通りだが、心配する事はない。食料や生活用品は、1週間分以上は備蓄されてあるからな…」
 そう言って爽やかなスマイルを見せるキバヤシ。
 何と言うか、最もタチが悪いシュミレーションだ。

「まあ、大丈夫なんじゃないか?
 いざとなったら、モララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』もあるし…」
 ギコは腕を組んで言った。
 確かにそうだな。
 仮にも俺達はスタンド使いだ。

「…ほら、島が見えてきたぞ!」
 しばらくして、キバヤシが水平線を指差した。
 うっすらと、首吊り島がその姿をあらわす。

「なかなか大きい島だな…」
 ギコは呟いた。
 つーが島を見てはしゃぐ。
 確かに大きい。人里離れている事といい、秘密基地を作るなら絶好の場所だろう。

 俺達は、この時は思いもしなかったのである。
 ペンション『マサクゥル』が、忌まわしい殺人事件の舞台となる事を…



 ボートが砂浜に乗り上がる。
 ここには、港はないらしい。

「よっと…」
 俺は、島に上がった。
 海の傍にもかかわらず、うっそうと茂った森が視界に広がる。
 獣道が、森の中を真っ直ぐに走っていた。

「…まさか、歩いていくの?」
 しぃはうんざりしたように言った。
 その気持ちは良く分かる。

「そう、ここから真っ直ぐに30分ほど歩けば『マサクゥル』に到着だ」
 キバヤシは言った。
 その背後で、ニワトリはボートを発進させた。
 ボートを押しながらバタ足で水面を蹴るニワトリの姿が、みるみる遠くなっていく。

「たかだか30分だろう、大した距離じゃない」
 リナーは言った。
 確かにそうだ。
 現在4時半。5時には『マサクゥル』に着く計算だ。
 俺達は、『マサクゥル』に向かって歩き出した。



 ――午後5時。

 俺の眼前に、大きな門がそびえ立っていた。
 …デカい。
 とにかくデカい。
 これはもはや洋館だ。ペンションとは言わんだろう。
 外観からして、3階建て。
 中世の貴族が舞踏会とか始めそうな雰囲気だ。
 キバヤシは立派な扉に歩み寄ると、無造作に呼び鈴を鳴らした。

 しばらくの間の後、ゆっくりと扉が開く。
 その間から、にこやかな笑みを浮かべた男が顔を出した。
 良く言えば立派な体躯、悪く言えば肥満した肉体。
 彼はゆっくりと扉から出てくると、キバヤシと握手をした。

「『マサクゥル』へようこそ。MMRの皆さんですネ。
 ワタシはこのペンションのオーナー、曙と言いマス」
 第一犠牲者… じゃない、曙はどこか英語めいた発音で言った。
「さあ、中へドーゾドーゾ…」

 見た目はいかついが、どうやら曙はいい人のようだ。
 俺達はペンションに入った。
 高級そうな内装。
 廊下には、高そうな調度品が並んでいる。
 落ちてくれば数人は命を落とすであろうシャンデリアも見逃せない。
 何か、リュックを背負っている俺達が気後れするほどに豪華だ。
 周囲を見回して、キバヤシは口を開いた。
「…いいペンションだ。ナウなヤングにバカウケだな」
「そうでショう? ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 キバヤシの言葉を聞いて、曙は豪快に笑った。

674:2004/06/24(木) 22:03

「さて、客室は2階になりマス」
 曙は、ロビーの正面にある階段を上った。
 俺達はぞろぞろと後に続く。
 立派な階段を上ったら、広い廊下が目の前に続いていた。
 両側には、客室のドアが延々と連なっている。

「8名様ですから… 205〜212室をご利用下さい」
 ドアを指して、曙は言った。
「朝食は午前8時。昼食は正午、夕食は午後7時です。間取り図が各部屋にあるので、見ておいて下サイ」
「…ああ、分かった」
 キバヤシは頷く。

「では…」
「あっ、ちょっと!」
 背を向ける曙を、俺は慌てて呼び止めた。
「…誰か、あなたを憎んでいる人間はいるモナ?」
 俺は訊ねる。
「…いきなり何を言っている?」
 リナーが眉を寄せる。
「いや、死人に口無しになる前に、重要な事は聞いておこうかと思って…」
 俺はポケットからメモを取り出して言った。

「…別に心当たりはないですネ。ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 曙は笑う。
「…分かったモナ」
 俺は『敵なし』とだけ書いて、メモを仕舞った。
 曙は軽く頭を下げると、階段を降りていった。

「さて、部屋だが…」
 ギコは口を開く。
「私はモナーくんの隣ねー!!」
「アアン! 僕も、モナー君の隣にするんだからな!!」
「じゃあ、モナはリナーと同じ部屋で!!」
「ノストラダムス…!」
 俺達は、口々に喚き立てた。

 ギコは両手をかざしてそれを制する。
「どうせ穏便にゃ決まらんだろうし、事件発生の前に無駄な犠牲を出すのもアレだからな…
 ここは潔く、ジャンケンでどうだ?
 いったん決まったら、後は誰と同室しようが個人の自由って事で…(俺は最初からそうするつもりだけどな)」
 …ギコの心の声が聞こえた。

 まあ、揉めずに決めるにはジャンケンが一番問題が無いだろう。
「…それもいいかもね」
 モララーは承諾する。
 レモナも黙って頷いた。

「じゃあ、ジャーンケーン……ホイ!!」
 ギコの音頭と共に、全員が手を出した。
 普通8人の大人数ともなると、あいこが連続するものだ。
 しかし、1発で勝負がついた。
 キバヤシだけがチョキ、残り全員がパーだったのだ。

「別にどこでもいいんだけどな… じゃあ、211号室にしようか。素数だしな…」
 そう言って、キバヤシは211号室へ入っていった。
 まさか、何かやったんじゃないだろうな…

「じゃあ行くぞ! ジャーンケーン……ホイ!!」
 続くギコの掛け声。
 何回かあいこを繰り返した後、俺、つー、しぃ、リナーがパーを出し、ギコ、レモナ、モララーがグーを出した。
「くそ――ッ!!」
 モララーが絶叫する。

 俺、つー、しぃ、リナーでジャンケンを繰り返し、リナー、つー、俺、しぃの順に部屋を選べる事になった。
「別に私はどこでもいいんだが… じゃあ、一番手前の部屋で」
 リナーは205室を指差した。
「アッヒャー! オレハ、212シツダ!!」
 つーは、一番奥の部屋に走っていった。
 そのまま、ドアを開けて室内に飛び込む。
 どうやら、端っこ狙いだったみたいだ。

「じゃあ、モナはリナーの隣で…」
 俺は206号室を指定する。
 残りは、207〜210号室。両脇2つずつが埋まり、ちょうど真ん中が空いてしまった。
「ん〜 どれにしようかな?」
 しぃが部屋を見回す。
 レモナとモララーの、『207号室は行くな…』という思念を背に受けながら。
「…じゃあ、210号室で」
 しぃは無難に選択した。

 後は、ギコ、モララー、レモナの3人だ。
「事実上、207号室の争奪戦って訳ね…」
 レモナはモララーを見据えた。
「ああ。容赦はしないよ…」
 それを睨み返すモララー
「…俺、残った部屋でいいわ。下手に恨みを買うのも御免だし」
 そう言って、ギコとしいは素早く210号室に入っていった。
 もう、特に言う事はない。

 一方、睨み合うモララーとレモナ。
 今にも浮遊しながらジャンケンを始めそうな雰囲気だ。

「…リナー、ペンションの探検に行かないモナ?」
 俺は、リナーに声をかける。
「そうだな。いざという時の避難経路も確かめておく必要がある」
 そういう事で、俺とリナーはその場から離れた。

675:2004/06/24(木) 22:03


「2階には、客室しかないっぽいモナね…」
 廊下に延々と続く客室を見て、俺は呟いた。
 部屋数はかなりの数になる。
 おそらく、50人は宿泊できるだろう。

 次に、1階に降りる俺達。
 ロビーにある大きな休憩用のテーブルに、見覚えのある4人がいた。
 しぃ助教授、丸耳、ありす、ねここ…
 なんと、ASAの面々だ!!

「おや、モナー君じゃないですか」
 ティーカップを手にしていたしぃ助教授は、リナーを意図的に無視して言った。
「モナーさ〜ん! リナーさ〜ん!」
 俺達にねここが手を振る。
「しぃ助教授…? どうしてここへ…」
 それに応えながら、俺は呟いた。
 もしや、もう事件が発生したのか?

「休暇ですよ。1週間ほど、羽根を広げようかと思って」
 しぃ助教授は紅茶をすすりながら言った。
「…首吊り島なんていう不気味な名前のところに、好き好んでやってきたモナか…?」
 その悪趣味振りは、流石しぃ助教授だ。

「放っといて下さい。それより、モナー君達は何しに来たんですか?」
 しぃ助教授は、ティーカップをテーブルに置いて訊ねた。
「それが…」
 俺は、事情を説明する。
 その間、リナーは調度品を見回っていた。
 話を終えて、しぃ助教授は腕を組む。
「うーん、UFOの秘密基地ですか… 楽しそうな話ですね」

「私達も探しに行きましょうか!?」
 ねここは楽しそうに言った。
「止めはしませんよ、私は…」
 しぃ助教授は再び紅茶をすする。
 つまり、自分は行く気はないという事だろう。

「リナーさん、かなりヒマそうですよ…」
 ねここが、こっそりと告げた。
 見ると、確かに暇そうだ。
 心なしか機嫌が悪そうにも見える。

「そうモナね… じゃあ…」
 俺は、慌ててリナーに駆け寄った。
「待たせたモナね…」
 リナーもしぃ助教授も、互いを存在しないものとして扱っていた。
 両者とも、最大限の譲歩をしていたのだろう。
 大人になったものだ…
 腕を組んで、俺は大きく頷いた。

 ロビーを真っ直ぐに進むと、食堂の扉に突き当たる。
 扉は開いていた。
 かなり大きいテーブル。
 食堂と言っても、大衆食堂などでは断じてない。
 まるで中世ヨーロッパの大邸宅における食卓だ。
 食堂内では、メイド服を着たピエロとクマがハンバーガーを盛った皿を並べていた。
 何か、見てはいけないものを見てしまったような気が…

 俺は慌てて視線を逸らした。
 食堂の扉の左右にも通路がある。
 そこから、風呂や従業員達の部屋などに繋がっているのだろう。
「…って言うか、他の従業員はいるモナ?」
 俺はいぶかしんで言った。
「もちろんいるだろう。そうでなければ、ここまで大きいペンションなど維持できるはずがない」
 リナーはそう言うが、ここはペンションの定義から外れているような気がしてならないんだが…

 俺とリナーは通路を進んだ。
 壁に張られた案内プレートに視線をやる。
「で、こっちが大浴場モナね…」

 『ゆ』と書かれた大きなのれん。
 どう見ても、大きな純和風大衆浴場。
 洋館仕立てが台無し… と言うか、ミスマッチにも程がある。

「おや、お二人サン…」
 曙が後ろから声をかけてきた。
「フロはいつでも入れマスよ。30分も歩いてきたんですから、汗を流してみてハ?」

「風呂…」
 そう呟いて、ニヤリと笑う俺。
「そうモナね。たまにはみんなで銭湯気分も悪くないモナ…」

 ふと、俺は曙に訊ねた。
「他にも客は来るモナか…?」
 曙は腰に手を当てる。
「ASなんとかいう役所の人達が4人と… 上院議員さんが1人。
 釣り客の方が3人、警察の人が2人来る予定デス。それと、Mr.Zとか言う方も…」

「Mr.Zだって!?」
 俺は思わず大声を上げた。
 そいつは、確かMMRに手紙を送ってきたヤツだ。
 そもそも、俺達がここへ来た発端とも言える。
「…妙な話だな。調査して下さいと言っておいて、自分も出向くとは…」
 リナーは腕を組んで言った。

「これは、みんなに知らせる必要があるモナね…」
 俺は、リナーに告げた。
 ついでに、みんなを風呂に誘いにいこう。

676:2004/06/24(木) 22:04


 ロビーには、すでにASAの人達の姿は無かった。
 部屋に戻ったのだろうか。
 不意に、玄関の扉が開いた。

「へぇ… なかなかいいペンションじゃないですか」
 内装を見回して、そう口を開く男。
「ペンションと言うには、いささか大きすぎると思いますが…」
 そう言いかけた女の言葉が、俺と目が合った瞬間に止まった。
「…モナーさん!?」

 なんと… 女はリル子さん、男は局長だった。
 すると、曙の言っていた警察の人と言うのは…

「また、珍しいところで顔を合わせますね」
 局長はため息をついて言った。
 全くその通りだ。
「未成年が2人でこんな所に泊まるとは感心しませんねぇ…」
 しかも、誤解爆発である。

「あと6人来てるモナよ。ちゃんと引率もいるモナ…」
 そう言った後、俺は思った。
 キバヤシって何歳?
 若そうに見えるが、結構年食ってるのかもしれない。
 20は越えているのだろうが…
 でも、あれで30超えているのも何か嫌だ。
 …まあ、ムーミンみたい生物と同じようなものだと思おう。

「なるほど… それは、失礼しました」
 そう言いながら、局長はずかずかとロビーに踏み込む。
 食堂の方から、曙が走ってきた。
 そして、曙、局長、リル子の3人は階段を上がっていく。

「…あの人達、何しに来たモナ?」
 俺はリナーに言った。
「休暇か、それとも何かあったのか…」
 呟くリナー。
 まあ、リナーに聞いても仕方がない。
 俺達は、2階に上がった。


「…という訳で、みんなで風呂に行くモナ」
 一番奥のつーの扉を叩いて、俺は言った。
「ワカッタ。チョット マテ!」
 中から、つーの声。
 これで全員に告げた事になる。
 俺は、風呂セットを取りに自分の部屋に戻った。


 入浴セットを手に部屋から出ると、ねここに鉢合わせた。
「あれ? お風呂の準備ですか?」
 ねここは俺の抱えている風呂セットに視線をやる。
 どうやら、ねここの部屋は向かいの219号室のようだ。
「ちなみに、みんなの部屋番号とかは全く覚える必要がないモナよ」
 俺はおもむろに告げる。
「…誰に言ってるんですか?」
 首を傾げて訊ねるねここ。
「……さあ? 誰にだろ…」
 俺は呟いた。
 そうだ、それより…

「大浴場の風呂は、いつでも入れるみたいモナ。
 モナ達も、みんなで入りに行くモナ。ASAのみんなもどうモナ?」
 俺はねここに告げた。
「お風呂ですか… みんなで入るのは楽しそうですね!」
 ねここは両手を上げて、頭上で軽く叩く。
「じゃあ、こっちのみんなも誘ってきます!」
 そう言って、ねここは他の部屋をノックしだした。
 ククク… ククククク…

「じゃあ、行くか!」
 ギコは言った。
 俺達の方は全員揃ったようだ。
 こうして、俺達8人は大浴場へ向かった。


 『ゆ』と書かれたのれんの前で、俺達は2グループに分かれた。
 男湯組の俺、ギコ、モララー、キバヤシ。
 女湯組のリナー、しぃ、レモナ、つー。
 性別不詳のつーは、女湯で問題ないようだ。
 まあぶっちゃけ、つーのAAの構成要素の96%はしぃだしな。

 脱衣所で、俺達は即座に服を脱ぐ。
「…先客がいるようだな」
 カゴに入った服を見て、ギコは言った。

 服を脱ぐ俺を見て、ニヤニヤしているモララー。
 ホモと銭湯に行くのは、なかなかスリリングだ。
 視線の角度や向こうの動きを『アウト・オブ・エデン』で解析し、最適な位置に占位する俺。

「おや、みなさん…」
 脱衣所に、風呂セットを抱えた丸耳が入ってきた。
 ASAの一団も来たのだろう。
 思えば、向こうは4人中3人が女性である。
 言わばハーレム状態だが、銭湯などでは寂しいだろう。
「ご一緒させてもらうとしますか…」
 そう言って、丸耳は服を脱いだ。

 戸をガラガラと開けて、丸耳を含む俺達5人は浴室に入る。
 予想通り、かなり広い。
 大きい湯船に、広い洗い場。
 そして、壁で隔てられた向こうには…
 ククク、ククククク…!

「――『アウト・オブ・エデン』」
 俺は、スタンドを発動させた。
 その、全てを見通す目を。

「ギャー!!」
 その刹那、頭部に鋭い衝撃。
 俺がスタンドを発動させた瞬間に、ギコと丸耳が同時に後頭部を殴ったのだ。
 …なんで丸耳まで。

「次にやったら、『レイラ』でぶった切るからな」
「ASAの一員として、スタンド能力を悪用する者を見逃してはおけません」
 ギコと丸耳は同時に言った。

677:2004/06/24(木) 22:05

 洗い場に人影がある。
 先に来ていたらしい局長が、頭を洗っているのだ。
「風呂ぐらい静かに入れませんか?
 私達は知り合いだからいいようなものの、第三者に迷惑をかけるのは頂けませんね」
 局長は呆れたように言った。
 彼の眼鏡は、湯気で真っ白になっている。

「…眼鏡、外さないモナか?」
「後ろの彼もそうでしょう?」
 局長は言った。
 確かに、キバヤシも眼鏡を掛けたままだ。
「俺がメガネを外すと、死の線が見えたりオプティックブラストが暴発したりするからな…」
 キバヤシは視線を落として呟いた。

「って事は、リル子さんもあっちにいるの?」
 モララーは、女湯の方を指差して局長に訊ねた。
「ええ。ですが、劣情に走るのはお勧めしませんよ…」
 局長は頭を泡立てながら言った。
 確かに、覗きなどしようものなら恐ろしい事になりそうだ。

「ふ〜〜〜〜極楽極楽…」
 肩まで湯船に浸かる俺達。
 これに勝る快楽などない。

「モナ〜く〜ん! 聞こえる〜!?」
 不意に、女湯の方から声がした。
 レモナの声だ。
「聞こえるモナよ〜!」
 俺は返事をした。

「うわ〜 広いですね!!」
 ねここの声が響く。
「では、お待ちかねの… ねここチェーック1!!
 リナーさん、意外と胸大きく… ありませんね。がっかり」
「…悪かったな」
 こちらはリナーの声。
 そして、ザバーというお湯を流す音。

「ねここチェーック2!! しぃさんは… マル!! 合格!! ちゃんと揉んでもらってるんですね!!」
 ねここは大きな声を上げている。
「まあ、当然だな…」
 何故かふんぞり返るギコ。

「あっ! リナーさんが僅かに自らの胸元に視線をやったーッ! 気にしているッ! 確かに気にしてガバゴベブボ」
 ねここの声に水音が混ざる。
 恐らく、湯船に沈められたのだろう。

 その何だ、女湯のこういうのって、わざとやってんじゃないかって思うな。
 多分、わざとやってるんだろうけど。
「…対抗する?」
 シャンプーハットを被ったモララーが言った。
「男がやると、とんでもない事になるモナ」
 俺は突っぱねる。

「じゃあ、俺の出番だな…」
 突然、湯船の中から海坊主のように男が顔を出した。
 あれは… 阿部高和だ!!

「ホ、ホモだッ!! 変態がいるッ!!」
 モララーは、自分の事を棚に上げて叫ぶ。
 あんまりそういう言い方は、ゲイの方に失礼だぞ。

「行こうか、モララー君。たっぷりよろこばせてやるからな…」
 阿部高和は、モララーの足を掴んだようだ。
「イ、イヤアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ…」
 モララーは、そのまま湯の中に引きずり込まれていった。
「…」
 俺達は湯船から上がると、体を洗い始めた。

 再び、ねここの声が響く。
「話がまとまったところで、ねここチェーック3!! レモナさん…」
「私は、ある程度なら自由に可変できるわよ。モナーくんの好みに合わせてね…キャッ!!」
 レモナは大声でこちらに聞こえるように言った。
「恋する乙女のパワーだッ!! いやぁモナーさん、男冥利につきますね…!」
 ねここの嬉しそうな声。
 ギコが俺の肩にポンと手を置く。
 他人事だと思って…
「いや、つきないつきない…」
 俺は右手をヒラヒラと振った。

「ねここチェーック4!! つーちゃん………!? !!!!?」
 絶句するねここ。
 な、なんだ!?
 何を見たんだ!?

「さて、ねここチェーック5!! リル子さん… おぉッ!!」
 その刹那、凄まじい打撃音がした。
 静まり返る女湯。

678:2004/06/24(木) 22:06

「やれやれ…」
 湯船に浸かって局長が呟いた。
 その眼鏡は完全に湯気で真っ白で、前は見えていないだろう。
 体を洗い終えた俺達は、再び湯船に浸かる。

「いたた… ねここチェーック5!! しぃ助教授… は止めて、ありす!!
 うーん、年齢を考えれば、こんなもんですかねー」
 ねここチェックはまだまだ続く。
 胸編を終えた後は、全体の総括と今後の課題へと…

「結論から言えば、スタンドを使用すればあの程度の壁を登る事は可能だ」
 ギコは、おもむろに言った。
「そこまでは問題ありません。その後ですね。こちらはほぼ無防備、向こうの攻撃を回避できるとは思えません」
 丸耳が真面目な顔で呟く。

「いやお前ら、さっきモナを殴ったのは何だったモナ…?」
 俺は呆れて言った。
「あなたが利益の独占を狙ったからです。
 スタンドの能力でみんなが幸せになるのなら、ASAの理念には抵触しません」
 丸耳は悪びれずに告げる。

 ギコは話を元に戻した。
「俺の『レイラ』とモナーの『アウト・オブ・エデン』、そしてお前のスタンドで、向こうとどの程度戦える?」
 そう言って、ギコは丸耳に視線をやる。
「どの程度も何もありません。しぃ助教授1人にすら太刀打ちできませんよ」
 丸耳はさらりと言った。
 ギコはため息をついて腕を組む。
「そもそも、戦力に偏りがありすぎるな…
 リナー、しぃの『アルカディア』、レモナ、つー、しぃ助教授、ありす、リル子の『アルティチュード57』…」

 丸耳が捕捉した。
「ねここの『ドクター・ジョーンズ』も侮れませんよ。
 近距離パワー型ほどではありませんが、バランスの取れた遠距離型で厄介です」
 …確か、あの死神みたいなヤツか。
 こっちに比べて、女性陣が強力過ぎる。
 『ロストメモリー』が加われば、こちらにも勝機が見えてくるんだが…

「あんたはその気はないのか?」
 ギコは局長に視線をやった。
 局長は肩をすくめる。
「学生時代ならそういうノリも悪くはありませんが、この年になってしまうとねぇ…」

「…」
 丸耳は視線を落とした。
 彼も、年齢はよく分からない。
「…そろそろ出るか」
 ギコの声に頷くと、俺達は風呂を出た。

 ペンション備え付けのステッキーな浴衣を着用する。
「ヴァ〜〜〜〜〜〜〜」
 モララーが、回転する扇風機に向かって奇声を上げていた。

「おっ、自動販売機じゃねぇか… 牛乳でも飲むか」
 ギコが、洗い場の隅の方に歩いていった。
 本当に、ここだけ銭湯そのものだな…

「おやおや、皆さんは上がったところデスカ…」
 のれんをくぐって、曙が脱衣所に入ってくる。
「オーナーも風呂ですか?」
 眼鏡の湯気を拭きながら、局長は訊ねた。
「エエ。食事の前にはひとっ風呂浴びないとネ。ドゥォッホッホッホォッホォホォッ!!」
 豪快に笑う曙。
 そして服を脱ぐと、浴室へ入っていった。

「おいッ!! 大変だ!!」
 突如、ギコが大声を上げた。
「この自販機、コインが入らねぇんだよ!!」

 ギコは、必死で円筒状の物体にコインを投下しようとしている。
「…それは、歯車王モナ」
 俺は告げた。

679:2004/06/24(木) 22:08


 局長を含む6人で、俺達は男湯を出た。
 女性グループも同時に出てきたようだ。
 何となく灰色な俺達に比べて、向こうは異様に華やいでいる。
 …浴衣! 
 …半乾きの髪!!!
 …身体からホコホコと沸き立つ湯気!! 
 もう、ハァハァものだ。

 合流した俺達は、2階の部屋へ向かった。
「…もうすぐ、夕食ですね」
 しぃ助教授は言った。
「部屋に戻って荷物を置いたら、すぐに再集合しましょうか」

 みんな揃って食堂へ行こうという事か。
 どうでもいいが、先程からリナーとしぃ助教授は一切目を合わせていない。
 まあ諍いを起こさないだけマシだろう。
 俺達はしぃ助教授の誘いに乗って、荷物を置くとみんなで食堂に向かった。


 食堂には、3人の異様な男が座っていた。
 あれが、曙の言っていた3人の釣り客だろう。
 だが、どう控え目に見ても釣り客には見えない。
 それより、軍人とか兵士とか戦士とか傭兵とか、そういう種族に見える。
 釣竿より、武器が似合う人種だ。
 まあ、所詮はバナナとダンボールとオッサンだが。

 …と言うか、どうやって来たんだ?
 船は週に1回しか来ないはず。
 既に設定が破綻してないか?
 取り合えず、思い思いの席に座る俺達。

「私は山田、ダンボールの彼がモナーク、あっちがハートマン軍曹だ。よろしく」
 山田と名乗ったバナナは、俺達に言った。
 あくまで最低限の自己紹介である。
 黙っているのも不自然だから名乗っただけで、こちらとコミュニケートするつもりはないのだろう。
 現にモナークとハートマンとやらは、視線を上げようとすらしない。
 あれ? そう言えば、風呂場で『ロストメモリー』がどうとか思ってた気が…
 まあいい、彼等とはあくまで初対面だ。

「…随分と、皆さんお集まりですな」
 立派な身なりをした紳士が、食堂に姿を現した。
 こいつが、間違いなく曙の言っていた上院議員とやらだ。

「…誰か、貴方を憎んでいる人はいませんか?」
 俺は、上院議員に訊ねる。
「意外と、こういうキャラが最後の方まで生き残ったりするもんだけどな…」
 そんな俺を見て、ギコは呟いた。

「憎んでいる人? こんな職をやっている限り、数え切れんほどいますのう。フォフォフォ…」
 上院議員は柔和な笑みを見せて言った。
 そして、テーブルに腰を下ろす。
「そう言えばこの食堂に来る時、通路でオーナーと会いましたぞ。6時40分ですな」
 唐突に、やけに正確な時間を口にする上院議員。
 
「6時40分までは生きていた、と… ただし、上院議員が偽証していない場合」
 ギコは手帳に素早くメモを取った。
 俺は時計を見る。現在、6時45分。
 それから俺達は他愛ない会話を交わした。


 7時の鐘が鳴る。
 曙は現れない。
 俺達の前には夕食のハンバーガーが並んでいるのだが、オーナーを差し置いて食事を始める訳にもいかないだろう。

「…寝てるのかな?」
 しぃは言った。
「さぁなぁ… このままだと、冷めちまうぞ」
 ギコは、食卓に並ぶハンバーガーに視線をやる。

「仕方ない、モナが様子を見に行くモナよ…」
 俺は、椅子から身体を起こした。
「私も行こう」
 リナーが立ち上がる。
 俺は、みんなを見渡して言った。
「念の為に、もう何人か来て欲しいモナ。出来れば、死亡時間の割り出しとかできる人が…」

「じゃあ、私とリル子君がご一緒しましょう」
 公安五課の2人が腰を上げた。
「丸耳、貴方も行きなさい」
 しぃ助教授は、隣の丸耳に視線をやった。
「了解しました」
 丸耳が立ち上がる。

「じゃあ、行くモナ…」
 俺を先頭に、リナー、局長、リル子、丸耳の5人がオーナーの部屋に向かった。

680:2004/06/24(木) 22:09


「すごく和風な扉モナね…」
 オーナーの部屋の前に立って、俺は呟いた。
 そして扉に手をやる。
 ノブが回らない。
「…鍵が掛かってるモナ」

「どれどれ… 本当ですね」
 局長がノブをガチャガチャと捻った。
「…どいてろ」
 リナーは拳銃を取り出すと、ドアの取っ手に発砲する。
 たちまち、ノブは弾け飛んだ。
 俺は、ゆっくりとドアを開けた。

 中は、立派な和室だった。
 そして、予想通りの風景。

 |    |         .|           そこには、曙さんがうつ伏せに倒れていた。
 |    |   @ソ  │           その弛緩した肉体、和室に伸びた体躯。
 |    |  (ゞl,ノ@   │             とうとう、事が起こってしまった。
 |    |   ヾl/)    |            彼は、死んでいるのだ。
 |    |/ [____]  ̄.|            背後から、皆の息を呑む気配が伝わってきた。
 |      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄           僕は…
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         __,,,,,,               |> A:慌てて曙さんに駆け寄った。
     ,.-'''":::::::::::`ー--─'''''''''''''-、,,
  ,.-::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\     B:「誰もこの部屋に入れるな! 
  ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ノ ヽ-、::::::''ー'''"7  食堂にいるメンバーを確認するんだ!!」そう叫んだ。
  `''|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}      ``ー''"
    !::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i          C:「この中に犯人がいます!!」
    '、:::::::::::::::::::'ー''ヽ、:::::::::::::ヽ、-─-、,,-::::ヽ   振り返って言った。
     \::::::/     ヽ--ヽ::::::::::::::::-----、::ヽ
                  ``"       \D:「イシャはどこだ! 先生! シリツをして下さい!」
                              取り乱して叫んだ。

「…Bモナね」
 俺は呟いた。
 とりあえず、現場保持だ。
 こういう局面では、誰が犯人で証拠隠滅を図るか分からない。
 誰も部屋に入れない事が重要だ。
 なおかつ、全員の状況を把握する。
 食堂にいるメンバーの確認が第一だ。
 殺害状況の把握など、その後でいい。

「誰もこの部屋に入れては駄目モナ! 食堂にいるメンバーを確認するモナ!」
 俺は叫ぶ。

「では、ここは私が見張っていよう」
 リナーはそう言って扉を閉めた。
 これで、証拠隠滅は不可能だ。
 まさか、リナーが犯人なんて事はないだろうし… 多分。
 俺、局長、リル子、丸耳は食堂に向かって走り出した。

「確かに、食堂には全員いたモナ!?」
 俺は走りながら言った。
「宿泊客は全員いたでしょうが… このペンションの従業員までは確認していませんねぇ」
 局長が告げる。
「従業員…?」
 俺は局長に視線をやった。
「ペンション備え付けの施設が、いくつかあるそうです。教会とか、BARとか…」
 リル子が答えた。
 なんでペンションにそんなものがあるんだ…?

681:2004/06/24(木) 22:10


 俺達は食堂になだれこんだ。
「大変モナ!! オーナーが殺されてるモナ!!」
 それを聞いて、ギコ、モララー、レモナ、キバヤシ、しぃ助教授、ねここ、そしてモナークが腰を上げた。
「お前はここにいろ、いいな!!」
 ギコはしぃに告げた。
「いよいよ事件発生って訳ね!!」
 どこか嬉しそうにレモナが口走る。
「(つーちゃん、ここに残るメンバーを見張っていてほしいモナ…)」
 俺は、こっそりとつーに耳打ちした。
「アッヒャー! マカセロ!」
 つーは右手を振り上げる。
 人数を増やした俺達は、再びオーナーの部屋に向かった。


「私が見張っている間、ここには誰も来なかった」
 リナーは言った。
 俺は、こっそりとドアに唾でくっつけた髪の毛に目をやる。
 ドアが開けば、この髪の毛が落ちる仕組みだ。
 別にリナーを疑っていた訳ではないが、念の為だ。
 いつの間にこんなものをくっつけたとか、そもそもモナーに髪の毛があるのかとか言ってはいけない。
 とにかく、髪の毛はちゃんとくっついていた。
 つまり、中は殺害時そのままに保たれている。

 俺は、中に踏み込んだ。
 次に局長が続く。
 後ろの連中は人数が多いので、列になってドアをくぐっていった。

 うつ伏せに倒れている曙は、完全に息絶えていた。
 頭に大きな傷がある。
 凹んでいると言っても良い。
 明らかに、これが致命傷だろう。

 よし、ここは『アウト・オブ・エデン』で過去のヴィジョンを…
 その瞬間、俺の目からモクモクと煙が出てきた。
 しまった! オーバーヒートだ!!
 これでは、あと1週間は『アウト・オブ・エデン』を使えない!
 もう他人の心も視えないぞッ!!
 何て御都合主義なんだッ!!

「窓の鍵が閉まってるな…」
 混乱する俺を尻目に、ギコは窓付近を確認して言った。
「私達が最初にここへ来た時、入り口の鍵も閉まっていましたよね…」
 丸耳が呟く。
「…ええ。確かにかかっていましたよ」
 局長は頷いた。

「密室殺人って訳ね! 面白くなってきたわぁ!」
 レモナは不謹慎な事を言った。
 まあギコもキバヤシも、どう見ても探偵気分な訳だが。

 机の上には、半分ほど水の入ったグラスが置かれている。
 風呂上りに、冷やした水を飲んだのだろう。
 まさか、毒じゃないよな…
 俺は、曙の死体に視線をやった。
 しかし、どう見ても撲殺だ。

 ノートが閉じた状態で机の上に投げ出されていた。
 もしや、これに何か秘密が…
 俺はノートを開いた。
 『春はあけぼの』で始まる文章が続いている。
 どうやら、何の変哲も無い日記のようだ。

 『ぬるぽ』と書かれた掛け軸が下がっている。
 まさか、これのせいで頭を殴られたのか…?
 掛け軸の後ろを確かめてみたが、別に秘密の通路も何もない。

 他には、花瓶に入った花。妙な形の壷。
 何かトリックが…
 調べてみたが、ごく普通。
 怪しいと思えば全てが怪しい。
 そもそも、これはそういう類のトリックなのか?

「呼吸音は… 聞こえませんね。呼吸はしていません」
 局長はそう言ってかがみこむと、耳を畳につけた。
「心音も聞こえませんね…」
 そして懐から拳銃を取り出すと、曙に向けて発砲した。
 弾丸が背中に当たり、一筋の血が流れ出す。
「どうやら、完全に死んでいるようですね…
 『死んだように見せかけて、実は生きてました』なんてトリックは却下です」
 そう言って、局長は曙の死体に歩み寄る。
「こうなっちゃうと、私のスタンドでもどうしようもないですね…」
 ねここはため息をついた。

682:2004/06/24(木) 22:11

「外傷は頭と… ちょっと、そっち持って下さい」
 局長は俺に言った。
 うつ伏せに倒れている曙を、仰向けにしようと言うのだ。
「いいのか? 勝手に動かしても…」
 モナークが訊ねる。
「私がOKを出します。問題ありませんよ」
 局長は言った。

「よっと…」
 俺と曙は、その巨体を引っくり返す。
 そして彼の死に顔を見た瞬間、俺は吐き気に見舞われた。
 周囲の人間も、思わず息を呑んでいる。
 それもそのはず、彼の体はところどころが切り取られているのだ。
 片目、両耳…
 そして、腹にも大きな傷がある。
 おそらく、内臓も…

「これは、思った以上の猟奇殺人モナね…」
 俺は、口元を押さえて呟いた。
「随分と綺麗に抉り取られてるな。まるで、鋭利な刃物で切り取ったみたいだ…」
 ギコが、切り口を観察する。
「…しぃを連れて来なくて良かったぜ」

「キャトルミューティレーション…!!」
 キバヤシが、思い詰めた顔で呟いた。
「それは何モナ?」
 俺は訊ねる。

 キバヤシは、まるで探偵のように全員を見回した。
「…キャトルミューティレーションとは、1970年代にアメリカで相次いだ牛の虐殺事件の事なんだよ。
 その特徴は、鋭いメスのようなもので内臓や眼球などが抉り取られている事。
 その報告は全米各地で1万件を越えていて、個人の悪戯などではありえない。
 一説では、これは宇宙人による生体実験だと言われているんだよ!!」

「な、なんだって――!!」
 俺は叫んだ。
 そして、曙の亡骸に視線をやる。
 確かに、キバヤシが告げた特長と酷似しているのだ。

「宇宙人による生体実験か… そもそもこの島にはUFOの秘密基地があると言う噂があります。
 この奇妙な符合、少し引っかかりますねぇ…」
 局長は、曙の亡骸の横にかがみこんで言った。
「馬鹿な事を言わないで下さい。これは、れっきとした人間による犯行です。
 全くの偶然か、もしくはキャトルミューティレーションを模しただけとも考えられます」
 リル子はため息をついて言った。

「見立て殺人か…!」
 モララーが呟く。
「何ですか、それ」
 ねここは、首を傾げてモララーに視線をやった。

「童謡とか俳句になぞらえて、死体を装飾したりする殺人だ。犯罪用語ではなく、推理小説用語だな…」
 答えたのは、モララーではなくモナークだった。
「例えば、アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』という小説では、
 『10人のインディアンが食事に出かけた。1人が喉を詰まらせて9人になった。
  9人のインディアンが夜遅くまで起きていた。1人が寝過ごして8人になった。
  8人のインディアンがデヴァンを旅してた。1人が残ると言い出して7人になった。
  7人のインディアンが薪を割っていた。1人が自分をかち割って6人になった。
  6人のインディアンが蜂の巣いじって遊んでた。蜂が1人を刺し殺し5人になった。
  5人のインディアンが法律学んでた。大法院に1人が残り4人になった。
  4人のインディアンが海に出かけた。燻製ニシンに1人が呑まれ3人になった。
  3人のインディアンが動物園を歩いてた。熊が1人を抱きしめ2人になった。
  2人のインディアンが日向に座った。1人が焼けて1人になった。
  1人のインディアンが残された。彼は首を吊り、そして誰もいなくなった』
 というマザーグースの歌が最初に提示される。
 そして、登場人物が歌と同じ死因で殺されていくという話だ」

「で、最後はどうなるモナか?」
 俺はモナークに訊ねた。
「生きて帰れたら… 答えを教えてやる!」
 モナークはそう言って背を向ける。

「見立て殺人…! 犯人は、キャトルミューティレーションに見立てて殺人を…」
 丸耳は呟いた。
「まだ断定はできませんよ。さらなる事件が起きない限りはね…」
 今まで黙って周囲を調べていたしぃ助教授が、首を振る。

683:2004/06/24(木) 22:12

「まあ殺人である以上、私達ではどうしようもないですね。ここは警察を呼ぶのが賢明でしょう」
 局長は全員に告げた。
「いや、アンタが警察モナ!!」
 俺はすかさず突っ込む。
「管轄が違いますよ。あくまで私達は、公安五課ですから…」
 そう言いつつ、局長は腰を上げた。
「ちなみに、死因は頭を殴られた事でしょうね。耳や目を切り取ったのは、出血量からして死後でしょう。
 そして、今から1時間以内の犯行です。6時40分に上院議員と会ったんですから、まあ当然なんですが。
 …これ以上は鑑識待ちですね」

「とは言え、このままにしてはおけんな… いつ発見されるか分からん」
 モナークは曙の亡骸の足を掴んでずるずると引き摺ると、押入れの中に詰め込んだ。
 職業病みたいなものだろう。

 俺達はぞろぞろとオーナーの部屋を出ると、電話があるロビーに向かった。
 局長は、ロビーの電話の受話器を手に取る。
「おや…?」
 受話器に耳を当て、局長は呟いた。

「どうした?」
 ギコが訊ねる。
 局長はギコに視線をやって言った。
「何の音も聞こえない… 電話線が切られたようですね」

「な、何だって!!」
 俺は思わず叫んだ。
「まあ、ここは文明の利器という事で。そう容易く推理小説のようには行きませんよ」
 局長は携帯電話を取り出した。
 そして、それを耳に当てる。
「…繋がらない。どういう事でしょうね。圏外でもあるまいし…」

「何かあったんじゃないのか…?」
 ギコはロビーのTVをつけた。
 ちょうどニュースをやっているようだ。
 アナウンサーが口を開く。
『繰り返します。裏弐茶県を震源とした地震が発生し、電話局が壊滅。
 さらにアンテナに雷が落ち、もう携帯電話は使えません。
 そして大火事が発生し、港は壊滅状態。
 とどめに自衛隊が出動し県内の重要拠点を攻撃、復旧は最低でも1週間以上はかかる見込みです…』

「地震雷火事オヤジ、全部揃っちまったな…」
 ギコは呟いた。
 さらにアナウンサーは続ける。
『また大規模な電波障害、空間歪曲が発生しています。
 これにより高速飛行での脱出や、スタンド能力での移動はいっさい不可能となっております』

「もう、意地でもこの島から出さないつもりモナね…」
 俺はため息をついて言った。
 まあ、予想は出来ていたことだ。

「仕方ありませんね。食堂に戻って、これからについて話し合いましょう」
 しぃ助教授の提案に、異論を挟む者はいなかった。
 俺達は、食堂に向かった。


「…という訳です」
 局長は、説明を終えた。
「…」
 しぃが絶句しているが、無理もない。
 俺はハンバーガーの包みを開けると、口に放り込んだ。

「例によって、この中に犯人がいると思われます」
 リル子は当然のように言った。
「…いや、最初は外部の人間による犯行を疑って、その後に内部に疑いを向けない?
 こういう場合のセオリーとしては…」
 モララーは口を挟む。

「そのものが鈍器になるくらい分厚い推理小説と比べないで下さい。
 各人の感情の変化や心情の機微までいちいち書いてたら、行数がいくらあっても足りません」
 リル子は、感情を害したように言った。

684:2004/06/24(木) 22:13

「…もしかして、お前の中の人じゃないのか?」
 ギコは、俺に視線を送る。
「モナの中の人は、番外には顔を出すタイプじゃないと思うけど…」
 完全には否定しきれない。
 中の人なら、もっと綺麗にバラせるような気もするが。

 キバヤシが黙っているのが不気味だ。
 キバヤシスパイラルは炸裂しないのか…
 と言うか、キバヤシが犯人だったら何でも出来るんじゃないか?
 犯人でなかったとしても、犯人当てなど容易いはず…

「俺の能力は、御都合主義なんで使えないんだよ!!」
 キバヤシは突然言った。
 そういうのが逆に御都合主義だと思うが…

「そもそも、スタンド使いが大多数なのに推理モノをやろうなんて時点で無茶なんだよ!!」
 キバヤシは立ち上がって大声を上げる。
 さっきから、地の文を読むな!!

 だが… 確かにスタンド能力を使えば、大抵の犯行は可能となる。
 『アナザー・ワールド・エキストラ』の瞬間移動を使えば、密室殺人など意味がないに等しい。
 『アルカディア』なんて何でもありだ。
 そもそも、スタンド能力が判明していない奴まで混じっているのである。

「現場には凶器は残されていませんが、パワー型のスタンドならば充分に可能です。
 位置関係を考えて、背後からぶん殴ってたと思われます」
 全員が黙るのを見計らって、リル子は告げる。

「まあ、他にもこのペンションには従業員がいるみたいですしね…」
 しぃ助教授はハンバーガーを頬張りながら言った。
 …そうだ。
 ペンション内に、教会やBARといった施設があると聞いている。
 BARはともかく、教会か… やだなぁ。
 そして、俺達をこの島に呼んだMr.Zとやらも無関係とは思えない。
 俺は5個目のハンバーガーを口に放り込むと、大きくため息をついた。
 こうして、悪夢の7日間は幕を開けたのである…

            __,,,,,,
       ,.-'''"-─ `ー,--─'''''''''''i-、,,
    ,.-,/        /::::::::::::::::::::::!,,  \
   (  ,'          i:::::::::::::::::::::;ノ ヽ-、,,/''ー'''"7
  /└────────┬┐:}     ``ー''"
. <   To Be Continued... | |::::i
  \┌────────┴┘/ヽ、-─-、,,-'''ヽ
       \_/     ヽ--く   _,,,..--┴-、 ヽ
※曙からのお願い        ``"      \>
 もし、犯人が分かっても… どうか、心に秘めておいて下さいね。
 もっとも、今の時点での特定は不可能ですが…

685:2004/06/24(木) 22:22
**お詫びと訂正**

曙が死んでいるにもかかわらず動いているシーンがありますが、
伏線でもなんでもなくただのミスです。申し訳ありません。

686N2:2004/06/25(金) 01:15

□『スタンド小説スレッド3ページ』作品紹介


◎完全番外編

.  ∧_,,,.
  (#゚;;-゚)
救い無き世界(完結)  (作者:ブック)
☆第二部
◇目的はただ一つ。愛する女を護るため。
降臨した『神』を、そして自身に宿る『悪魔』を抹殺すべく、でぃは最終決戦の地・東を目指す。
しかしその身体は着実に『デビルワールド』に支配されつつあった!
果たして彼はその身に渦巻く因縁を全て断ち切ることが出来るのか!?
ハイスピード連載で繰り広げられる壮大なストーリー、堂々の完結!!

 第六十二話・常闇 〜その一〜──>>3-7
 第六十三話・常闇 〜その二〜──>>11-14
 第六十四話・常闇 〜その三〜──>>32-35
 第六十五話・迷宮組曲 〜その一〜──>>43-45
 第六十六話・迷宮組曲 〜その二〜──>>46-48
 第六十七話・迷宮組曲 〜その三〜──>>49-53
 第六十八話・空高くフライ・ハイ! 〜その一〜──>>54-56
 第六十九話・空高くフライ・ハイ! 〜その二〜──>>57-59
 第七十話・空高くフライ・ハイ! 〜その三〜──>>70-74
 第七十一話・決死──>>75-77
 第七十二話・泥死合 〜その一〜──>>78-80
 第七十三話・泥死合 〜その二〜──>>86-89
 第七十四話・斗縛 〜その一〜──>>90-93
 第七十五話・斗縛 〜その二〜──>>94-99
 第七十六話・終結 〜その一〜──>>108-111
 第七十七話・終結 〜その二〜──>>112-116
 第七十八話・終結 〜その三〜──>>123-126
 最終話・祈り──>>127-133
 エピローグ・陽の当たる場所で──>>134-136

 人物紹介──>>366

687N2:2004/06/25(金) 01:16

               /!
          !\ ,-ー'-'、
  (\_/)  `ー/,ノノノハヽ
  ( ´∀`)   ./|iハ ゚ -゚ノ!
EVER BLUE  (作者:ブック)
☆序章
◇馬鹿が付くほどお人よしの青年オオミミと、彼のスタンド『ゼルダ』。
何でも屋のサカーナ商会に所属する彼らは
襲撃してきた空賊・『紅血の悪賊』(クリムゾンシャーク)の船内から謎の少女・天を救い出す。
だがその出会いから、彼らの運命は少しずつ大いなる流れへと巻き込まれてゆく…。
天空を駆ける船で繰り広げられる航空冒険ロマン!!

 第零話・VORTEX 〜始まりはいつも雨〜──>>148-151

 第一話・BOY MEETS GIRL 〜出会いはいつも雨〜──>>164-168
 第二話・ESCAPE 〜土砂降りの逃避行〜──>>180-186
 第三話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その一──>>194-201
 第四話・FATE REPEATER 〜黄泉還りし者〜 その二──>>217-220
 第五話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その一──>>246-250
 第六話・GUN=HALBERD 〜血塗れの鋼〜 その二──>>251-254
 第七話・SMILE 〜貌(かお)〜──>>255-258
 第八話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その一──>>279-281
 第九話・RUMBLE FISH 〜疾風怒濤〜 その二──>>302-307
 第十話・NIGHT FENCER 〜夜刀(やと)〜──>>308-311
 第十一話・PUNISHER 〜裁きの十字架〜──>>322-326
 第十二話・FORCE FIELD 〜固有結界〜──>>327-330
 第十三話・BATTLE FORCE 〜力の矛先〜──>>337-340
 第十四話・WHO ARE YOU? 〜タカラギコ〜──>>341-348

 番外・されどもう戻れない場所 〜その一〜──>>349-352
                         〜その二〜──>>360-365

 第十五話・CLOUD 〜暗雲〜──>>388-390
 第十六話・TALK 〜探り合い〜──>>436-439
 第十七話・TROUBLE MAKER 〜歩く避雷針〜──>>447-449
 第十八話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その一──>>457-461
 第十九話・CEMENT 〜ガチンコ〜 その二──>>462-466
 第二十話・BREAK 〜水入り〜──>>479-482
 第二十一話・ONE=WAY TRAFFIC 〜それでも進むしか〜──>>495-498
 第二十二話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その一──>>499-501
 第二十三話・REINCARNATION 〜生まれ還りし者〜 その二──>>502-510
 第二十四話・BEFORE BATTLE 〜嵐の前の静けさ〜──>>517-522
 第二十五話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その一──>>523-526
 第二十六話・GUN&BLADE HIGH−TENSION 〜試し合い〜 その二──>>527-530

 番外・ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜
    出会い編──>>531-533
    告白編──>>539-543

 第二十七話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その一──>>544-546

 番外
 ちびしぃの宿題の作文 〜私の家族について〜──>>547

 第二十八話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その二──>>553-555
 第二十九話・LUCK DROP 〜急転直下〜 その三──>>556-558
 第三十話・LUCK DROP ~急転直下〜 その四──>>580-583
 第三十一話・MIGHT 〜超力招来〜──>>602-606
 第三十二話・SIDEWINDER 〜魔弾〜──>>607-612
 第三十三話・MADMAX 〜悪鬼再臨〜──>>627-635

 人物紹介・おまけ──>>651-655

 ときめきEVER BLUE 〜伝説の樹の下で〜 交際編──>>656-660
                                  死闘編──>>661-664

688N2:2004/06/25(金) 01:16

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さ)
◇ASAとの交戦、そして政府要人拉致・監禁。
フサギコ率いる自衛隊によって引き起こされた事態に、
モナー達は二手に分かれてASAと公安五課に協力することとなる。
だがその戦闘が激化した時、遂に『教会』が動き出した!!
三つ巴の壮絶なる大混戦が今、幕を開ける!!

 灰と生者と聖餐の夜・その6──>>8-10

 人物紹介・その3――>>15-21

 夜の終わり・その1──>>22-31
.          その2──>>60-67
.          その3──>>142-147
.          その4──>>187-193

 そして新たな夜・その1──>>259-268
           その2──>>293-301
           その3──>>312-315
           その4──>>331-336
           その5──>>354-359
           その6──>>367-374

 吹き荒れる死と十字架の夜・その1──>>375-379
                         その2──>>422-435
                         その3──>>440-446
                         その4──>>467-478
                         その5──>>511-516
                         その6──>>559-569
                         その7──>>577-579
                         その8──>>595-601

 番外・モナヤの空、キバヤシの夏(前編)──>>668-685

689N2:2004/06/25(金) 01:17

◎番外編(茂名王町内)

   ∩_∩    ∩_∩
  (´ー`)  ( ´∀`)
丸耳達のビート  (作者:丸餅)
☆丸耳達のビート Another One
◇マルミミの両親、二郎とシャマード。
アメリカ・ニューヨークでの二人の運命の出会いが
B・T・Bの記憶の中で鮮明に蘇る…。

 第一話──>>36-42
 第二話──>>100-107
 第三話──>>117-122
 第四話──>>169-179
 第五話──>>221-234

☆丸耳達のビート・本編
◇傷付き、弱った身体の中で徐々に抑えられなくなってゆく
マルミミに流れる『吸血鬼の血』。
理性と本能の葛藤の前に現れたしぃに、彼の取った行動は…。
そして、そのマルミミを狙う集団『ディス』が彼を得るべくその牙を剥く!!

 第12話──>>239-244
 第13話──>>282-291
 第14話──>>316-321
 第15話──>>380-387
 第16話──>>450-456
 第17話──>>534-538
 第18話──>>570-576
 第19話──>>587-594
 第20話──>>636-643
 第21話──>>644-650


   / ̄ ) ( ̄\
  (  ( ´∀`)  )
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―  (作者:( (´∀` )  ) )
◇かつて自分を見捨て、一人『キャンパス』に下ったムックに
多大なる殺意を抱く『緑色の男』ことガチャピン。
恐るべき凶悪性を誇る彼のスタンド『ジミー・イート・ワールド』に
巨耳モナーは絶体絶命の危機に追い詰められてしまう…。
しかしその時、彼のスタンド『ジェノサイア』は新たなる次元へと到達する!!

 ディスプレイの奥に潜む恐怖──>>81-85
 『奪う力』と『与える力』──>>139-141
 『生まれし力』ジェノサイアact2──>>202-204
 『ピッチャーデニー』──>>483-494
 『トットリ・サキュー』──>>665-667


   ∧_∧
  (  ゚∀゚ )
合言葉はWe'll kill them!  (作者:アヒャ作者)
◇茂名王町内で実しやかに噂されている「吸血鬼殺人」。
しかしそれは紛れも無い真実であった!
偶然吸血鬼に遭遇してしまったアヒャは、脅威の運動能力を誇る吸血鬼達に
絶体絶命の危機に追い詰められてしまう!
死を覚悟したアヒャだったが、そんな彼の前に現れたのは…?

 初めての吸血鬼戦──>>236-238
 初めての吸血鬼戦その②──>>548-551

690N2:2004/06/25(金) 01:17

◎番外編(茂名王町外)

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧   |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇あのですね、女性が強いのはまあ良いと思うのですよ。
ですがね、その…今スレでのギコ屋編駄目じゃないかと思うのですよ。
だって、今回主人公目立ってないもん。リル子さんが主役みたいなんだもん。
そんな不条理が通るのもギコ屋編、嗚呼。

 リル子さんの奇妙な見合い その③──>>205-216
                    その④──>>391-420

 椎名先生の華麗なる教員生活 第3話 〜運命の出会い〜──>>613-626

◎本編(連載)

.      /
   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇『矢の男』の存在を知らされたひろゆき家臣団。
ひろゆきの勅令を受けた4人は『矢の男』抹殺に向け動き出すが、
彼らの間に生じた歪みは少しずつ拡大しつつあった…。

 2ちゃんねる運営委員会 ―始動― ──>>152-160


※敬称略


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