その顔を不審そうに見つめる山田。
「貴殿達の教義に照らせば、死人が生き返る事は大いなる禁忌のはず。
それが蘇生技術などに手をつけた矛盾、納得いかぬな」
「Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla, teste David cum Sibylla…」
枢機卿は抑揚もなくそう口走った。
「Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust!」
連続射撃で片っ端から薙ぎ倒されていく吸血鬼達。
弾け飛ぶ頭部。
噴き出す血。
バラバラになる手足。
霧状になった地飛沫が飛び散り、周囲に血の匂いが充満する。
それでもなお、突っ込んでくる吸血鬼達。
おそらく、引き返す事は許されていない。
おめおめと戻れば、『アルカディア』の粛清か。
こいつらにも、帰る場所は無い。
何度も何度も引き金を絞る。
――鏖殺だ。
「Requiem aeternam dona eis Domine!! et lux perpetua luceat eis!!
Te decet hymnus, Deus, in Sion, et Tibi reddetur votum in Jerusalem!!
――Exaudi orationem meam: ad Te omnis caro veniet!!」
両手の独立した精密射撃で、吸血鬼を次々に屠っていく。
響き渡る銃声。
吸血鬼の怒号。
法儀式済みの弾丸を喰らった吸血鬼は、次々に爆砕していった。
薬莢が音を立てて屋根に落ちる。
その音がカラカラと響いた。
「さて… 本来ならここで聖歌隊が賛美歌を斉唱するのだが、この聖堂に一般人を入れるのは好ましくない。
よって、割愛させてもらう。なお日光アレルギーな参列者も多いので、ステンドグラス等は塗り潰させてもらった」
枢機卿は早口に言った。
「では、聖書朗読に移ろう。『We are gathered here for it』… 以上!」
たちまち聖書を閉じてしまう枢機卿。
こいつ、盛大にハショりやがった…
「Hidy Hidy little Rascal Like the Wind, O little Rascal
Hidy Hidy my friend Rascal Come with me, O little Rascal
Hidy ! (Here Rascal)」
小耳モナーが熱唱する。
俺達は、街中の商店街にあるカラオケボックスに来ていた。
「ぐ…っ!」
突然の衝撃波に、茂名が吹き飛ばされた。
ごろごろと路地裏を転がり、その勢いを利用して再び立ち上がる。 AA
茂名の視線の先にあったのは、先程までの真っ黒い影とは対照的な、真っ白い体をした人間だった。
だが、その顔はのっぺらぼうのように目も鼻も口も存在しない。
「貴様…『矢の男』…か…?」
「…その通り…確かに私は『矢の男』だった。だが、今となってはその呼び名も意味はない。
素晴らしい気分だよ。私という心の中に、幾つもの新しい人格がある。
その全てがお互いを補い、完璧に近い精神を形作っている。 King of The World
これからは…そうだな。<インコグニート>とでも呼んでくれ。この姿こそ…世界の帝王に相応しい」
「今じゃ!」
「ぅあああっ!!」
意味を成さない叫び声。
萎えそうになる両足に力をこめ、震える手を握り締めた。
<インコグニート>の残った腕を壁に押さえつけ、B・T・Bを具現化。
クゥゥ―――――ルッッッ
(刻むぞ静寂のビート!)(凍てつくほどにCoo―――――ooolll !!)
B ・ T ・ C
一瞬のタイムラグも無しにビート・トゥ・クールを発動。閃光の拳を心臓へと打ち込み―――