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スタンド小説スレッド2ページ

1新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 21:36
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

2新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 21:39
前スレ スタンド小説スレッド
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/9551/1068224328/l100
のはず

3( (´∀` )  ):2004/01/20(火) 22:00
『ある人物』捜索の協力をお願いしたいだァ?
ケッ。そんなの部下を使い必要もねぇな。
サッちゃん!暫く空いてるか?
ちょっと言って欲しいところがあるんだが!
俺に協力を要請するんだからきっと楽しめると思うぞ。中々。
場所は・・そうだな確か『茂名王町』って所だ。

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『岳画 殺』

一体何なんだこの少女は。強い・格好良い・萌えの三大神器をもっている。・・ただものじゃァないな。
・・・何より一つだけわかる事がある。あの体中の武器。『スタンド』だ。
あれだけの武器しまう場所も無いし、だからって装着しながら歩いてたら警察に捕まるだろう。
・・・・しかもあの武器、体から『生えて』やがる。植物の様に・・。
「・・貴様が『巨耳モナー』か?」
少女は俺にキツい目線を向ける
「え?ああ。そうだけど」
「私の名前は岳画殺。お初お目にかかる。」
「はぁ。どうも。」
随分かしこまった子だ。こういうタイプは得意じゃない。
「『悪司』より伝言をさずかっておる。」
「!!」
『悪司』・・!!もしかしてこの子は使いか何かなのか?
「『人っ子一人の捜索。俺の出る番じゃねェ。それくらいこの俺の叔母。岳画殺ことサッちゃんで十分だ。
サッちゃんは筋金入りの戦闘スペシャリストだからな。役に立つと思うぜ。』だそうな。」
・・・・状況が理解できない
「状況が理解できない という顔をしておるな。
つまり、私は悪司の叔母で貴様の手助けをしてやるというのだ。くっくっく。」
随分不気味な笑いをするなぁ。ってええ!?
「じゃ・・じゃああんたが・・」
「その通り。この岳画殺。尽くさせてもらう。」
な・・何だって――ッ!?
「自分で言うのもなんだが実力はそこそこある。」
確かに全身武器だが本当に強いかどうかは半信半疑だ。
強いモンスターマシンをもっていたってそれを乗りこなすテクニックというのが・・
「さっきから私を無視するんじゃないですZOォ−!!」
俺が悩んでいる時に不意をつかれムックが突然襲い掛かってきた
「なッ・・」
ヤッベ。避けられない。
ドダダダダダッダダダダッダダダダダ!!!!
地を這う様な低音。・・銃声だ。
ムック自慢の赤い毛が手の部分だけ無くなって凄いマヌケだ。
「コレで信じてくれたか?」
「は・・はい。」
凄いテクニックだ。毛だけ全部打ち落とすなんて・・プロでも不可能だろ。
「さて。その『ネクロマララー』と言う男。手がかりは?」
「多分この男がソイツが属してる組織の刺客だ。コイツを尋問すれば何とか・・。」
しかしこの電波ヤロウは100%口を割ってくれないだろう。
「フム。コイツの口を開かさればいいのだな。」
「フン!私はそんな簡単に情報はバラしませんZO!!」
そうそう。そんな簡単に出来たら苦労は・・

4( (´∀` )  ):2004/01/20(火) 22:02
!?
何だ!?
い・・いきなり場の空気が変わった・・?
俺はまさかと思い殺ちゃんの方を向く
殺ちゃんは手にコンタクトレンズの様な物を握っている
恐る恐る顔に目を向けてみた
・・間違いない原因はコレだ。
『魔眼』とでも言ってみようか。
目が100%真紅に染まっている。
子供だったら100%泣いている・・いや失神しているかもしれない
俺だってこの場で小刻みに震えている。目が合ってないのにだ。
目の方向はムックに向いている。ムックはにらまれているのだ。
こんな目でガンつけられたら『その筋の人』でもその場で震えが止まらず腰が抜けて失禁しそうだ。
「話せ。」
さっきの銃弾の様に低い声が地を這い蛇の様にムックに伝わる
・・失神してないか心配だ。
もう既に俺もムックも汗だく。意識を保つのに必死だ。
「は・・はヒ。」
ムックが震える声で返事をする。
当たり前だ。こんな中で普通の声を出せるのはきっと『悪司』という男だけだろう
殺ちゃんがコンタクトレンズを目に戻す。
しかしなんだったんだアレは。世界がここだけになった感じだった。
「さて。まずは何から聞く?」
呆然としてる俺にさっきとは違う可愛い声がする
「ほえっ!?はっ。あっ。えっと組織構成だ。」
呆然としてただけにマヌケな声がでてしまった。しくじったな。
しかし俺もムックもまだ震えがとまろうとしない。
「そ・・組織構成は我々が『神』とあがめるお方が一人。
そしてその神を守る『三銃士』と呼ばれるお方達がいまSU。を体として『頭』『腕』『脚』と呼ばれていまSU。
そしてそのしたに幹部が居ます。私は此処に属していまSU。この幹部の中で私が知っているのは一人。
『アンシャス猫』と言う二匹の猫だけでSU。」
俺が一旦止める
「待った。階級が同じなのに知ってるのは一人なのか?」
「はい。裏切り者が出ても最低限の情報しか漏らせない様にする為でSU。
・・あ。そういえばもう一人知ってる人がいましTA。我々を教育し、最強の戦士へと育てる『組織』の教育係
『ハートマン軍曹』と言うお方でSU。とてつもなく厳しいでSU。」
「他には?」
殺ちゃんが急かす。それにしても可愛い声だ。
「その下にショッカーの様な雑魚軍団がいっぱい居まSU。
大抵は誰かに邪魔されない様に妨害工作をする為に居まSU。」
「次、スタンド使いは何人いる?」
だんだんノッてきた俺は次の質問をする
「神から雑魚まで全員スタンド使いでSU。スタンド使いでないとはいれまSEN。」
俺は驚愕する。殺ちゃんもあの表情はきっと驚いているんだろう。
あまり変わってないけどちょっと口が開いている。萌え。
「っておい。じゃあお前もスタンド使いなのか?スタンド使ってこなかったが。」
「ええ。一応。しかし私の能力HA・・」
ムックが地面に手をかかげると背の高い花が咲いた
「『花を咲かす事』なのでSU。全く戦闘での利用価値がないのDE・・。」
うーん。確かに。邪魔になるだけだな。
「それじゃあ次。『組織』の名前だ。」
「『キャンパス』と呼ばれていまSU・・。」
「『キャンパス』か・・。次、目的は?」
「『新世界』を創造する事でSU。」

5( (´∀` )  ):2004/01/20(火) 22:02
俺はまた驚愕する
「し・・新世界?」
「『神』と呼ばれる男の能力は成長すると『世界』を『新世界』へと変える事ができるんでSU。
この計画は『ラグナロク』と呼ばれ、ソレを実行するには人の血を神に飲ませるしかないんでSU。」
・・・怪しい宗教みたいだな
「どんどん行くぞ。『ネクロマララー』と言う男を知っているか?」
ムックの表情が変わる
「三銃士の『頭』を司るお方でSU・・。三銃士の中で正体を現すのは彼しか居まSEN。
しかしこのお方は組織の『参謀』にして戦闘能力は私をも超えまSU。」
な、なんだって―――ッ!?
ム、ムック以上が三人居るって事だろ!?しかも三人ともスタンドを持ってて
更にそれより強い『神』ってのがいるって事か!?ヤッベ・・首を突っ込むんじゃなかった・・。
「・・まぁいいや。次、『お前は人を殺した事があるか?』正直に答えろ。」
俺は初めてマジメな顔をする。やっと震えも止まったしな
「・・・昨日まで私はこの『キャンパス』の雑魚組で、ハートマン軍曹に鍛えられてましTA。
この辛い過酷メニューだけは良かったんでSU。でも・・幹部として初めて与えられた作戦内容があまりに酷くTE・・。
逃げ出したんでSU。しかし運悪く『アンシャス猫』に捕まってしまったのでSU。
アンシャス猫は洗脳のスペシャリストでSU。そのせいで私はこの任務NI・・。」
多分殺ちゃんの『魔眼』で洗脳が解けたのだろう。
「・・どうせ帰っても裏切り者として殺されるのでSU!!こうなったらのりかかった船でSU!!
『キャンパス』の崩壊、お手伝いしまSU!!」
ヤレヤレ・・本当はネクロマララーのヤロウを一発ぶん殴りたいだけなんだがな・・
まぁ、そうするには『キャンパス』を崩壊させるしかないって事か。
「・・質問の答えは?」
俺は最後に聞く。もし殺していたら仲間にはせずブタ箱に容赦無く送り込んでやる
「・・答えは『NO』ですZO!!」
「グッドッ!」
「・・本当は頼まれた事は『ネクロマララー』の所在を突き止める事だから此処で終了なのだがな。
あまりに味気なさすぎる。及ばずながら私も協力させてもらうぞ。」
『及ばずながら』?ご冗談を。
なんて年頃の女の子に言ったら撃ち殺されるに違いない。
「さて、それじゃあ早速署に帰って今までの事を整理してみようか。」
此処で組織の崩壊を引き受けてしまったのが思ったら間違いだったのかもしれない。
俺の本当の『奇妙な事件簿』は此処から始まるのだった――

6( (´∀` )  ):2004/01/20(火) 22:04
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜『キャンパス』〜
「アンシャス猫。アンシャス猫は居るか?」
2匹の猫の影が空中で交差しながら飛んできた。
「お呼びでしょうか。」
「ネクロマララー様。」
ネクロマララーは脳の形をした椅子から立った。
「どうやらあなた達の洗脳が破られたようです。」
アンシャス猫はビックリして飛び跳ねる
「な」
「なんだって――――ッ!?」
息ピッタリだ。
「結局ムックは裏切り『巨耳モナー』と呼ばれる男側につきました。
彼のスタンドは現在は問題ないですが、後に我々にとって脅威となります。
そこでアンシャス猫。裏切り者共々ぶっ潰してあげなさい。」
アンシャス猫は困った顔をする
「し・・しかし・・。」
「我々は裏から攻めるタイプで・・」
アンシャス猫のスタンドの攻撃性は『キャンパス』でも上位に属す
ただ、脅威の面倒くさがりやのアンシャス猫は自分達で闘う事を嫌う。
「・・アナタ達に行けとは言いませんよ。アナタ達の『ペット』を出動させて見ればどうでしょうか?」
またもアンシャス猫は飛び跳ねる
「それはもしかして」
「ギャグで言ってるのか?」
またもや息ピッタリだ。
「タメ口はよせと言ったでしょう。本気ですよ。さ。早く奴の鎖を解きなさい。」
アンシャス猫はオドオドしている
「し・・しかし・・」
「奴を出動させるのは矢張り危険です!!」
「・・ならばアナタ達が行きますか?」
ネクロマララーは爽やかに言う。この顔は結構本気だ。
「よし宗男さん!早く鎖を解いて出動の手配を!」
「ハッ!了解しました鈴木さん!!」
良く解らない小コントが発生するが、結局二匹一緒に開けに行く。
「クックック・・見せてもらいましょうか・・久しぶりに・・『危険レベル97』状態の『128等身』をね・・。」
「・・・・・・」
「・・ま。どうでもいいんですけどね。」
←To Be Continued

7( (´∀` )  ):2004/01/20(火) 22:04
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


 彡. (・) (・) ミ
 彡       ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗

 スタンドは『ソウル・フラワー』。能力は『花を咲かす』こと。意味は無い。ただ↑の台詞も伊達では無く格闘能力はズバ抜け。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。


  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。


  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)
                             モンスター
・『危険レベル96』(最高は100)という称号を持つ怪物
ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
ちなみにレベル100でゴジラレベル。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

8:2004/01/21(水) 00:23

「―― モナーの愉快な冒険 ――   モナとみんなの三ヶ月 〜俺の場合〜」



 9月22日(火)

 登校中、俺は昨日の出来事を反芻していた。
 つーの家でキバヤシがボコられ、俺もボコられそうになった。
 『蒐集者』とやり合って、死にそうになった。
 些細な事からリナーにボコられた。
 最後が一番ひどい。
 『蒐集者』と戦った時のダメージはねここのスタンドに治してもらえたが…

 しかし、『蒐集者』との戦いで得たものもある。
 少しの間だが、ヤツとの戦いの最中に、俺の中の『殺人鬼』に体を乗っ取られた。
 そして、『殺人鬼』は『蒐集者』の身体を完全に解体してみせた。
 その動きから、俺は一つの技術を学んだのだ。
 その技術はヤツの解体技術とは異なるが、根は同じだろう。
 『アウト・オブ・エデン』で『殺人鬼』の解体技術をトレースしたのかもしれない。
 『殺人鬼』が俺の身体を使った事により、身体そのものに何かが刻まれたのかもしれない。
 とにかく、新しい技術が身についてしまった事は確かだ。

 後ろから、近付いてくる二人の足音。
 縁もゆかりもない女生徒である。
 今から12秒後に、二人は俺を追い越すだろう。
 ちょうどいい、こいつらで試してみるか…

 タッ…、タッ…

 接近してくる二人。
 そして、俺を追い越そうとする。

 タ…、タ…、タ…

 『アウト・オブ・エデン』を発動。
 走るテンポ、相手の筋肉の動き、空気の流れ、呼吸、全てを解析する。

 タ、タ、タ、タ、

 女生徒の身体が俺に最も接近した。

 …一閃。

 普通の人間が見たら、俺の右腕が一瞬消えたように見えただろう。
 二人はそのまま通り過ぎて… 仕掛けた方の女生徒は立ち止まった。
「あっ、ちょっと待って… ブラのホックが外れたみたい…」
 背中をゴソゴソする女生徒。
「もう、何やってんのよー!」
 立ち止まって、振り向くもう一人の女生徒。

 これが、服の上からブラのホックを外す能力!!
 いや、能力じゃなくて技術か。

 俺は、その女に擦れ違った。
 そのまま何食わぬ顔で学校に向かう。
「やだっ! 私のブラも…!」
「何よそれ… おかしいって、絶対!!」
 背後から先程の女生徒の声が響いていた。


 さて、学校に着いた。
「おう、おはようだゴルァ!!」
「おはようモナ」
 ギコが声をかけてきた。
「もう体はいいモナ?」
「おうよ! 昨日一日家でゆっくりしてたから、万全だぜ!」
 ギコは力こぶを作った。
 そういえば、『矢の男』との戦いからまだ2日しか経ってないんだなぁ…
 色々な事がありすぎて、遠い過去の話のようだ。
「やあ、みんな元気?」
 モララーがやけに明るい挨拶をする。
「何が、元気? だ!! テメーが暴れ回ったせいだろうが!!」
 ギコはモララーの首を絞める。
「アアン、いつまでもこだわってるなんて女々しいよ、ギコ…」
 モララーが悲鳴混じりに言った。

「ほらほら、朝からケンカしないの…」
 いつものように、しぃが仲裁に来る。
 これでこそ、いつもの朝だ。

「大体、僕だって被害者なんだよ!? みんな酷すぎるよ…
 僕だって、好きで『矢の男』になった訳じゃないんだからさ…」
 モララーがヘコんでしまった。
「そうだな… 『アルカディア』の話を聞く限り、連続殺人事件の犯人を、
 『矢の男』だと想像しちまったヤツが悪いんだよな…」
 ギコは俺を横目で見る。
「モ、モナは悪くないモナ!
 その理屈で言ったら、モナに『矢の男』が出て来る漫画を見せたヤツが悪いモナ…!」
 思わぬ罪のなすりつけに、俺は慌てた。
 もはや罪のなすり合いだ。

「じゃあ、一番悪いのは私?」
 しぃが言った。
「いや、漫画を紹介したヤツに罪は無いと俺は考えるな…」
 ギコは俺を睨む。
 こいつ、しぃが絡むと掌を返したように…!
「責任の追及はそろそろやめない? 不毛だし…」
 しぃは、そんな俺達の様子を見て言った。
 ギコがため息をつく。
「そうだな… 一番悪いのは『アルカディア』だし、『教会』の連中もなんか企んでるみたいだしな…」
 そう言えば、ギコ達も昨日のASAの説明を受けたんだな。
 そこで、チャイムが鳴った。HRの時間だ。

9:2004/01/21(水) 00:24

 そして、放課後。
 いつものように、グッスリと眠っているうちに授業は終わった。
 昼食の時間も一緒に終わってしまった気もするが…

「お前、寝過ぎだぞゴルァ!」
 ギコが話しかけてきた。
 ちょうどいい。聞きたい事がある。

「『蒐集者』のスタンド能力の話は聞いたモナね?」
 俺はギコに訊ねた。
「ああ」
 ギコは頷く。
 『蒐集者』のスタンド能力は、特質の同化だ。
 しぃ助教授は、『アルカディア』の探索よりも『蒐集者』に能力を奪われない事を優先するように、と言っていた。
 これは事実上、『アルカディア』に関わらず大人しくしておけと言っているも同然だ。
「で、どうするモナ?」
 俺は単刀直入に聞いた。
「もちろん、『アルカディア』は俺達が叩きのめす! と言いたいとこなんだがなぁ…」
 ギコにしては珍しく弱気である。
 そんな忠告は聞かないぜゴルァ! くらいは言うと思ってたのに。

 ギコは口を開いた。
「単に、自分の命がかかってるくらいならいいんだが…
 『蒐集者』に能力を奪われちまったら、ASAの連中も迷惑するだろ?
 俺は『蒐集者』とやらに実際に会った事はないんだが…
 俺の『レイラ』はともかく、『アナザー・ワールド・エキストラ』を渡したらマズいからな…」
「すぐに会えるモナよ。世界史の授業を担当してるモナ」
 俺は言った。
「なんだとゴルァ!!」
 大声を上げるギコ。まあ、当然か…

「新しい世界史の先生って、『教会』の人だったんだね…」
 いつの間にか隣にいたしぃが言った。
「ギコ君、ケンカ売っちゃ駄目だからね…」
 ギコをたしなめるしぃ。

「ああ、分かってる。こっちから事を起こすのは得策じゃないからな。状況の把握が何より重要だ」
 ギコは腕を組んで言った。
「僕も、しばらくは大人しくしてるべきだと思うね」
 突然、話にモララーが割り込んできた。
「しばらくというのが、いつまでかが問題モナね…」
 俺は呟く。
「ASAから、それなりの連絡が入るんじゃない?」
 モララーはそう言って、ため息をついた。
「あいつらのやり方は気に入らないが、手腕は確かだからなぁ…」
 ギコの気が逸れる。
 …チャンスだ。

 俺は瞬時に、しぃのブラのホックをはずした。
 フロントホックだったが、何も問題はない。

「あ、ちょっとお手洗い行ってくるね…」
 しぃは席を立つと、教室を出て行った。
 ギコもモララーもしぃ本人でさえ、俺がやった事に気付いていない。
 ギコほどの達人の目すら欺く事が出来たのは、殺気を一切放っていないからだ。
「それじゃ、しばらくは大人しくするか…」
 ギコは呟いた。
 俺達の間で、そういう風に話はまとまったのだった。



 9月23日(水)

 朝の8時半。
 もうすぐHRだ。
 それにしても、今日は本当にいい天気だ。
 まさに居眠り日和の…
 …………
 ………
 ……

10:2004/01/21(水) 00:25

 突然、後頭部への衝撃。
「ギャー!」
 俺は悲鳴を上げて飛び上がった。
 何だ!?
 『蒐集者』の襲撃か? それとも『アルカディア』か!?

 飛び起きた俺の目に、ギコの姿が映る。
 な、何をするんだ…
 ギコは、スタスタと去っていった。
「い、痛いモナ…」
 俺は頭をさすった。
 少しコブが出来たようだ。
 これだから、加減を知らないヤツは…

 ふと、俺の横に始めて見る奴が立っているのに気がついた。
「ん? 君は誰モナ?」
 俺は訊ねた。
「僕は、A組の1さんって言うんだけど…」
 俺は、最近容易に他人を信用しない事にしている。
 特に、自分で自分にさん付けするような奴は。

 そして、1さんと名乗る男は驚くべき事を口にした。
「…『異端者』って知ってるかい?」
「…知らないモナ」
 俺は即答した。
 『アウト・オブ・エデン』で見るまでもなく、1さんの表情に不審の念が浮いている。
 そもそも、その名を知っている時点で一般人とは思えない。
 さらに、一学生である俺の前でわざわざその名を出したという事は、そこそこ情報があるという事だろう。

 ギコがこっちをじっと見ていた。
 『異端者』の名に反応したのだろう。
 だが、1さんはギコの視線に気付いていない。
 どうやら、1さんは素人のようだが…

「…で、『異端者』って何モナ? なんでモナに聞いてくるモナ?」
 俺は取り合えず訊ねた。
 1さんは少し考えた後で、長い話を始めた。
 簞ちゃんが家に来た事、吸血鬼に襲われた事、そして、『シスター・スレッジ』。
 簞ちゃんとやらの任務が、リナーに会う事?
 妙な話だ。『教会』は俺の家の事までしっかりと調べている。
 キバヤシだって、直接俺の家の前で待ち伏せしていたのだ。
 リナーに会う為にこの町に来た代行者が、俺の家の位置を知らないなんてありえない。
 そもそも、『教会』というのは信頼に値しない組織だ。
 となれば、簞ちゃんも『教会』に騙されているのか、それとも『教会』の手先なのか確かめないと…

「その簞ちゃんが探している『異端者』に心当たりはないモナ。でも、簞ちゃんに会ってみたいモナ」
 俺は、話し終えた1さんに訊ねた。
「分かった。すぐ連れてくるよ」
 少し考えた後、口を開く1さん。
 そのまま教室を出て行った。

 ギコが近寄ってきた。
「聞いてたぞ…」
「どう思うモナ?」
 俺は訊ねる。
「あくまで勘だが、1さんは嘘は言っていないな。ただ、客観的に物が見れていない。
 簞ちゃんとやらを全面的に信用してるみたいだしな。お前とリナーみたいなもんだ」
 俺はパリパリと頭を掻いた。
「だって、リナーは嘘は言わないモナ…」
 ギコはため息をつく。
「お前、女に騙されるタイプだな…」
「そう言うお前は、女を騙すタイプモナ…」
 言い返してやった。
「ふ〜ん、ギコ君、そうなんだ〜」
 しぃが微笑む。
 …怖い。
 ギコはたちまち小さくなって、教室の隅に引っ込んでしまった。

 教室の戸を開けて、1さんと簞ちゃんと思われる女の子が入ってきた。
「簞なのです…」
 女の子は、俺の机の前まで来ると頭を下げた。
「モナはモナーモナ」
 女の子にはきっちりと名乗る。これが俺の流儀だ。
 『アウト・オブ・エデン』は、感覚が鋭い相手に使えば簡単にバレてしまう。
 ここで使うわけにはいかない。
 それにしても、可愛い子だな…
 『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加だ。

「本当に、『異端者』を知らないのですか…?」
 簞ちゃんは訊ねた。
 とりあえず、探りを入れる必要があるな…
「知らないモナよ。それより、よく吸血鬼なんかと戦えるモナね…」
 俺は言った。
「色々訓練したのです」
 特に反応はない。
「…この町はどうモナか?」
 さらに訊ねる。
「かなりの数の吸血鬼が潜んでいるようなのです。でも、なぜか大人しいのです」
 …なぜか?
 その理由は明らか。
 町には代行者がいっぱいいるからだ。
 まさか、それを知らないのか…?

「まあ、代行者がこれだけ町に集まれば、大人しくなるモナね…」
 そう言った後、俺は失言に見せかけて口を押さえた。
 1さんは、こいつやっぱり! みたいな顔をした。
 簞ちゃんは… 無反応だ。
 やはり知っているな。
 この娘、明らかに嘘をついている…

「…とにかく、モナは何も知らないモナ。さてと、もう一眠りするモナ」
 俺は机に突っ伏した。
 とりあえず、帰ってリナーに聞いてみるか…

11:2004/01/21(水) 00:28

 二人は引き返そうとしている。
 俺は、こっそりと1さんの制服の裾を掴んだ。
 彼には、一応注意を喚起しておく必要がある。
 簞ちゃんが出て行くのを確認して、俺は顔を上げた。
「な…何…?」
 戸惑う1さん。
 俺は、1さんに年齢の矛盾を告げた。
 相当、当惑した様子である。
 簞ちゃんを全面的に信頼していたのだから、当然だろう。
「偶然は信用しない方がいいモナ。その偶然も、たぶん仕組まれたものモナ」
 俺は告げた。
 そう。今では、リナーが俺の家に来た事は偶然とは思えない。
 赤い糸が繋がっていた説もあるが、『教会』の陰謀というのが実際のところだろう。
 もちろん、リナーも『教会』に騙されているのだろうが。
 そう言えば、最初にリナーと会った日に倒れていた訳は未だに聞かせてもらっていない。
 そんな隠すほどの事だろうか。
 吸血鬼か何かに不覚を取ったとかいうのなら、リナーの性格からして絶対に口にはしないだろうが。

「…でも、僕は簞ちゃんを信じたいんだ」
 不意に1さんは呟いた。
 よく分かる。愚直なまでにリナーを信じている俺にとって、1さんの気持ちはよく分かる。
 初めて彼にシンパシーを感じた。

「簞ちゃん自身、『教会』に騙されている可能性も高いと思うモナ」
 俺は1さんに告げた。
 少し安心した表情を浮かべる1さん。
「そういう事モナ。今度こそ本当に寝るモナ…」
 そう宣言して、俺は机に突っ伏した。
 1さんは自分の教室に戻っていったようだ。

「…どう思う?」
 ギコが話しかけてきた。隣にはしぃもいる。
「何とも言えないモナね。
 ただ、簞ちゃん…『守護者』のスタンドの話は、以前キバヤシから聞いた事があるモナ。
 スタンド能力を正直に話しているあたり、1さんは全面的に騙されているとも思えないモナ…」
 簞ちゃんの不審点は、この町に代行者が集まっている事を知らない振りをした事。
 それと、1さんの事をあらかじめ知っていた事。
 逆に言えば、簞ちゃんの不審点はこの2つだけである。
 ギコが手を顎に当てた。
「もしかして、リナーを探しているってのはフェイクなんじゃないか…?
 本当の任務は1さんの監視とか、そーいうのじゃないか?」
「そうだとしたら、モナー君に接触するのは変じゃないかな?」
 今まで黙っていたしぃが口を開いた。
 確かにその通りだ。
 まあ、半年の期間がある任務だと言っていた。
 今すぐに向こうの意図を見抜く必要もないだろう。
 俺達は、そう結論した。


 授業を終え、帰宅。
 リナーの部屋をノックする。
「…どうぞ」
 俺は、ドアを開けて中に入った。
「何かあったのか?」
 日本刀を分解しながらリナーは訊ねた。
 俺は、1さんと簞ちゃんの話をする。

「『守護者』か。久し振りに会ってはみたいがな…」
 リナーは言った。
「会って、何するつもりモナ…?」
 まさか、塵に還すとか…
「私を何だと思っている?」
 リナーに睨まれてしまった。
「代行者の中で、女は私と『守護者』だけだし、年も近かったからな。それなりに親交がある」
 なるほど。なんか意外だ。
「とは言え、向こうの意図が分からない以上、迂闊に会うわけにも行かないか…」
 リナーはため息をついた。

 …今だ!
 俺はリナーの背中に腕を伸ばす。
 だが、一瞬で手首が掴まれてしまった。
「何をするつもりだ?」
 低い声でリナーが言う。

 そこそこ殺気。
 このままでは、ヤバイ…!
「俺の技を防いだのは、お前が始めてだぜ!!」
 もうヤケクソだ。
 流石に、正面切ってリナーに仕掛けるのは無理だったか…
 俺は覚悟を決めた。

12:2004/01/21(水) 00:29

 9月25日(金)

 今日は、学校では特に何事もなかった。
 俺は夕食を終えた後、部屋でゴロゴロしていた。
 昨日リナーにやられた体の傷が痛む。

 ドアがノックされた。
 ガナーか…?

「ちょっといいか?」

 リ、リナーだ!
 これはもしかして、リナーの夜這いイベント…?
 ドアを開けて入ってきたリナーは、ビニールの袋を持っていた。
 あれは…
 『矢の男』と戦った日の昼に、リナーに渡した俺とガナーの爪だ。
 俺は6歳からの記憶しかないし、それ以前のアルバムなどの物証は捏造されたものだった。
 すなわち、俺は6歳までどこにいたのか分からない。
 そして、俺の中の『殺人鬼』は言った。
 『アウト・オブ・エデン』という名前は、ヴァチカンの連中が名付けたと。
 つまり、俺は6歳以前に『教会』に関わっているのだ。
 両親の記憶など全くないし、この家に住んでいたかすら分からない。
 そして、ガナーが本当に俺の妹かどうかも分からないのだ。
 その為に、俺とガナーの爪をリナーに渡して、DNA鑑定を依頼したのだった。
 あれから色々あって、すっかり忘れていた。

「結果が出たモナ? その爪の人間に血縁関係があったモナか?」
 俺は訊ねた。
「そんな物、ある訳ないだろう」
 リナーは言った。
 うすうす予想はしていたが、やっぱりそうだったか。
 まあ血縁はなかったとしても、ずっと一緒に暮らしてきたのだ。
 ガナーはあれでも大切な妹には違いない。
 リナーは口を開いた。
「片方は女性の爪らしいが、もう一人の爪は何なんだ?」

 …何なんだって、どういう意味だ?
 何の変哲もない、俺の爪じゃないのか…?

「私は遺伝子関係は専門じゃないが、通常では考えられないような染色体異常を起こしているらしい」

 …染色体異常?
 俺が?
「どういう事モナ…?」
 俺は呟いた。

「さあな。だが、性染色体の異常などとは違うようだ。前例が無いと言っていたしな」
 リナーはそう言って、俺の部屋を出て行った。
 俺は部屋に立ち尽くしていた。



 9月26日(土)

 …朝だ。
 染色体異常に関しては、俺の身体には何も起きていないのだから気にしない事にしよう。
 …いや、何も起きていない事はない。
 俺の中の、『殺人鬼』の存在…
 まあいい。
 悩んでいたところで始まらない。
 俺は朝食を食べに、一階へ向かった。

 台所にはリナーがいた。
 いつものように、俺の朝食が用意してある。
 ガナーは朝練に行ったようだ。
 俺は食パンを頬張りながら新聞を広げた。

『警察による隠蔽か!? 吸血鬼殺人、継続中!』

 な、何じゃこりゃー!!
 デカデカとした見出しが目に入った。
 俺の町の名前が思いっきり載っている。

 首筋に牙の跡、そして血を吸い取られた死体がこの町で毎日のように見つかっているという内容だった。
 被害者は20人以上で、警察がそれを隠蔽していたという…

「まあ、隠蔽していたのは警察じゃなく、もっと上だろうがな。何かの手違いでマスコミに嗅ぎ付けられたようだ」
 リナーは表情を変えずに言った。

 記事は、もはや人間の仕業とは思っていないような論調であった。
 獣じみたスピードで動く生物の目撃情報もあるという。
 その記事が紙面のほとんどを占めていて、アメリカで起こったという謎の大量失踪事件は隅っこに追いやられていた。
 やはり、この町には吸血鬼がいるのだ。
 本当に、『アルカディア』を放っておいてもいいのか…?
 俺はリナーを見た。

「君の言いたい事は分かっている…」
 リナーは立ち上がって言った。
 この間、キバヤシに釘を刺されて以来、リナーはほとんど外に出なくなった。
 たまに夜に吸血鬼狩りに出て行くくらいだ。
「でも、たくさんの人が殺されて…」
 俺は言った。
「しばらく大人しくしろという命令が下ったからな。私が積極的に動く訳にはいかない」
 リナーはそう言って、台所を出ようとする。
「この町で人がいっぱい殺されても、リナーは平気モナ!?」
 俺は言葉を荒げた。
 リナーは俺を睨んだあと、視線を落として言った。
「任務だから、仕方がない…」

 リナーは台所を出て行った。
 確かに、リナーに当たるのは間違っていた。
 焦燥感はリナーも持っているのだろう。
 だからこそ、夜には吸血鬼狩りをしているのだ。
 俺はため息をついた。

13:2004/01/21(水) 00:31

 9月27日(日)

 今日も、吸血鬼によるものと見られる死体が見つかったという。
 もはや、夜中に外へ出る者はほとんどいないようだ。

 レモナが家に遊びに来た。
 当然のように、リナーと一触即発。
 そう言えば、この二人は初対面だったな。
 幸い戦いにまでは発展しなかったが、いつかこの家がとんでもない目に合いそうで怖い…



 9月30日(水)

 学校から帰って居間でくつろいでいると、チャイムが鳴った。
「は〜い!」
 俺は玄関を開けると、キバヤシが立っていた。
「元気だったか、モナヤ?」
 のうのうと抜かすキバヤシ。
「キ、キバヤシ!! 何しに来たモナ!!」
 俺は叫び声を上げる。
 それを聞きつけて、リナーが飛び出してきた。

「ちょっと待て!」
 キバヤシは叫ぶ。
「今日は『解読者』としてではなく、MMRのキバヤシとして来たんだ。別に敵意はない!」

「そんな事が信じられるか…!」
 リナーはバヨネットを取り出す。
「俺がスタンドを使うのは、『教会』の仕事の時だけだ! MMRの活動には決して使わない。
 …そんな事をすれば、レジデント・オブ・サンと同じなんだよ!!」
 
「レジデント・オブ・サンって何モナ…?」
 俺はこっそりとリナーに聞いた。
「奴が勝手に敵視している架空の団体だ。どうやら、全人類を洗脳しようとしているらしい」
 なんだそりゃ、電波全開だな…

「で、何しに来た?」
 リナーは聞いた。
「『ドレス』や『BAOH』、レモナについて、少し調べてみた。
 そこで、俺は驚愕の事実に辿り着いたんだよ!!」

「驚愕の事実はいいから、調べた内容だけ話せ」
 リナーは冷たく言った。

「まず、『ドレス』は、確かに解体している。原因は資金難だ。
 悪の組織といえども、現実はこんなものだろうな…」
 キバヤシは腕を組んで遠い目をした。
 『ドレス』とは、レモナの言っていた特殊兵器開発機関の事だろう。
 レモナは『ドリル』と言っていたが…

 キバヤシはさらに口を開いた。
「『ドレス』が存在していた時は、『教会』の資金援助を受けていた。と言うよりも、両者は癒着していたらしい。
 『ドレス』解体後は、その研究データは全て『教会』に流れた。それを引き継いだのが、『蒐集者』だ…」
 やっぱり『蒐集者』か。
 奴自身、『教会』の馬鹿げたプロジェクトで生み出されているというのに…

「まず『BAOH』だが、Biological Armament On Help(生物による武装援助)の略で、
 いわゆる生体兵器だな。肉体の強化がコンセプトだ。だが、レモナの方は少し事情が異なる」
 キバヤシは言った。
 …事情が異なる? どういう意味だ?

14:2004/01/21(水) 00:32

「正式名称は、『Re-Monar』。コンセプトは不明だ。
 『BAOH』と異なるのは、レモナは『教会』との共同開発で産み出されている。
 『ドレス』と『教会』の技術、そして沢山のスタンド使いが関わって完成した兵器なんだ」
「何でそこにスタンド使いが出て来るモナ?」
 俺は疑問に思って、口を挟んだ。
「現代の技術では不可能だからなんだよ。
 DNAによるタンパク質合成メカニズム及び暗号の解読、化学反応エラーの抑制、
 脳内や神経伝達回路メカニズムの解明による情報処理能力の強化…
 そういうオーバーテクノロジーに当たる部分を、それに適したスタンド使いが関わる事によりズルをした。
 詳しい記録は残っていないが、想像できるところだと…
 現代の技術では小型化できない装置を、スタンド能力で小型化して搭載したり、
 人間の思考システムを擬似的にトレースして、移し変えたりだな」
 まともな話なんだろうが、キバヤシが言うと妙に胡散臭く感じてしまう。

「さらに実体化しているスタンドを部品に組み込んだりと、相当無茶な事をしたらしい。
 その結果、最終兵器の名にふさわしい戦闘力を持つに至った…」
「実体化しているスタンドを部品に組み込んだ…?」
 リナーが聞き返す。
「君なら知っているだろうが、何らかの道具を媒体に本体を替えるスタンドが存在する。
 例えば… 刀に宿っていて、持った者を本体にするとかな。
 そういう『教会』が秘蔵してきたモノが、部品としてレモナの内部に組み込まれている。
 レモナは単なる兵器じゃなく、言うなれば一つの成果なんだよ!」

「それは、いくつものスタンドを使えるという事モナか?」
 俺の質問に、キバヤシは首を振って答えた。
「いや、ヴィジョンを形作る事は不可能だろうし、能力というよりは機能に近い状態になっているんだよ。
 モナヤは知らないだろうが、『ヨグ・ソートス』というスタンドが存在する。
 そいつが、動力炉代わりにレモナに組み込まれてる事を確認した」

「『ヨグ・ソートス』か…!」
 リナーは声を上げた。
 何それ? 有名なスタンド?
 俺だけが取り残されているのは寂しいものだ。
 とりあえず、驚いた顔を浮かべてみる。
「どうせ君は知らないだろうが、質量をエネルギーに変換するスタンドだ…」
 リナーは言った。
 やっぱり、意味が分からない。
「どういう事モナ?」
 俺は訊ねる。
「E=MC^2だ。ここまで言われて分からないほど、君も無知じゃないだろう」
 …全然分かりません。

 結局凄さが分からないが、まあいい。
「で、そのレモナがどうして学校に通ってるモナ?」
 俺は一番肝心な点を訊ねた。
「…それはまだ調査中だ」
 キバヤシは視線を落とした。
 そして、唐突にアップになる。
「だが、これらの事実から、俺は恐るべき仮説を思いついた。これが正しければ…」

 リナーは、玄関のドアを閉めてしまった。
「これ以上は聞く必要がない」
 そう言い放つリナー。
 何回かチャイムが鳴ったが、じきに聞こえなくなった。

「でも… キバヤシだし、胡散臭い話だったモナね…」
 俺は言った。
「いや、奴の言った内容はおそらく事実だろう」
 リナーは断言する。
 戸惑う俺。
 あのキバヤシだぞ…?

「奴の調査能力は非常に高い。ただ、導き出される結論がアレなだけだ」
 リナーはそう言って、部屋に戻っていった。
 なるほど。
 キバヤシはあれでも代行者、ただの電波じゃないという事か。



 10月4日(日)

 珍しく、つーが家に遊びに来た。
 当然のように、リナーと一触即発状態に。
 家を破壊しないで、と俺が泣きながら哀願した事もあって戦闘は免れた。
 先行き不安だ…

15:2004/01/21(水) 00:32

 10月15日(木)

 学校から帰ると、珍しくリナーが今でTVを見ていた。
 何やら、熱心に画面に釘付けになっている。
 この時間は奥様情報番組しかやっていないはずだが…
 そんな物を熱心に見るリナーなんて、俺のリナーじゃない。
「何を見てるモナか?」
 俺は訊ねる。
「すぐに、もう一回流れるだろう…」
 リナーは、画面を見たまま言った。
 TVでは司会者が、
『この国の治安体制が問われる…』
『なぜ政府は抗議しないのか…』
 などと述べている。何かあったのだろうか?
 この町の名前も何度も出ている。

『では、VTRをもう一度…』
 画面が切り替わった。
 そこで、俺は驚愕のものを目にした。
 戦闘ヘリから放たれるミサイルに、それを喰らう『矢の男』。
 白煙が舞い上がるところでVTRは終わっている。
 紛れもなく、あの夜の出来事だ。
「どういう事モナ…?」
 俺はリナーに訊ねた。
「たまたま、ビデオ撮影した人間がいたんだろうが… そんなのは、ASAか公安五課が回収するはず。
 スタンド使いの存在なんて、絶対に表に出してはならないものだからな…」

 TVでは、この映像と吸血鬼殺人を結びつけていた。
 同じ町での出来事なのだから、関連付けて考えるのは当然だろう。

 俺はリナーをじっと見つめた。
「でも、普通に全国区に流れてるモナ…」
 リナーは横目で俺を見る。
「誰か、意図的にマスコミにリークした奴がいたんだろうな。そうでなければ、こんなものが流れるはずがない…」
 リナーは画面を睨みつけていた。



 10月16日(金)

 学校へ着いた。
 あの放送を、ギコやモララーも見ただろうか。

 教室に入ると、モララーがクラスメイトと話をしていた。
「聞いてくれよ! 僕、TVに映ったんだよ! どう、凄い!?」
 嬉しそうに、まくし立てているモララー。

 ………
 俺が動くまでもない。
 ギコが、ずかずかとモララーに接近していた。

 ばきっ!!
 ギコの回し蹴りがモララーの顔面にヒットする。
「アアン…」
 その場に倒れ伏すモララー。
 それを、ギコはモララーの席までズルズルと引き摺っていった。

「よぉ、モナー!」
 ギコは俺の姿を見て声をかけてきた。
「おはようモナ。ギコも見たモナか…?」
「あれだけ朝からやってりゃな。俺達に取っちゃ特に問題はないが、ASAの奴等は大変だろうな…」

 確かに、TVではASAの名は出ていなかったものの、一般人を攻撃した事を激しく非難していた。
 一応テロ説が主流のようだが、吸血鬼を攻撃したのではないか、という説も乱れ飛んでいる状況だ。
「ASAもどうするつもりだろうな…」
 ギコはため息をついた。
 このままだと、ASAは世間からテロ集団というレッテルが貼られるかもしれない。
 かと言って、スタンド使いの存在を公表するわけにもいかないだろう。
 しぃ助教授やねここにとって、これから辛くなるかもしれないな…



 10月24日(土)

 吸血鬼殺人の被害者が、50人を超えた。
 「50人」というのは、単なる数に過ぎない。
 この数値の意味を考える前に、俺の頭はすっかり麻痺してしまった。
 ただ、吸血鬼や『アルカディア』への憎しみが積もるばかり。

 ここまで来ると、単なる異常者の仕業だと思っている者はいない。
 犯人は吸血鬼だ! と公言しても、もはや笑う者はいないだろう。

 リナーの推理によると、『アルカディア』は学校に潜伏しているという。
 最も噂が囁かれる場所というのが、その理由だ。
 もう、仮の本体を見つけてしまったのだろうか…
 俺達に奴を探す手段はない。
 リナーは『教会』によって行動を制限されてしまった。
 この町はどうなってしまうのだろうか。

16:2004/01/21(水) 00:33

 10月31日(土)

 しぃ助教授から電話がかかってきた。
 『アルカディア』の探索は進んでいないらしい。
 また、例の放送に関しては、かなり憂慮しているという。
「まあ、本部ビルの存在はバレていませんしね…」
 しぃ助教授はそう言って笑っていた。
 あの放送を見た人も、まさか町のど真ん中に本拠地があるとは思わないだろう。
「あのビデオをマスコミにリークしたのは誰か、調べはつきましたが…」
 しぃ助教授にしては、うかない声で言っていたのが印象に残った。



 11月9日(月)

 日曜日に、ギコとしぃが東京ポルナレフランドに行って来たらしい。
 千葉にあるのに、何故か東京と銘打っている不思議なテーマパークだ。
 お土産に、ポルポル便座カバーを貰った。
 特に嬉しくない。



 11月24日(火)

 吸血鬼殺人による被害者が80人を突破。
 大体、1日に1人といった計算になる。
 奴等は、この町を餌場だとしか思っていないようだ。

 こうして、指をくわえて死者数が増えていくのを見守る事しかできないのか。
 今の俺なら吸血鬼と一対一なら勝てるだろうが、夜の町を適当に歩いたところで会えるとは思えない。
 今の俺は殺気を隠せるほど練達してはいないので、向こうは避けてくるだろう。
 結局、俺は無力だ。



 11月30日(月)

 吸血鬼殺人の数は増え続けているが、もう一つ気になるニュースがある。
 世界中で集団失踪が相次いでいるのだ。
 アパートの住人が丸々姿を消したり、映画館に入ったはずの人が誰も出て来なかったり…
 …嫌な予感がする。
 世界が悪い方向に進んでいるような、そんな気が…



 12月7日(月)

 めっきり寒くなってきた。
 朝起きるのが辛い。
 ガナーも最近は朝練に行っていないようだ。
 とんだヘタレだ。
 おかげで、リナーとの二人きりの朝が過ごせない。



 12月13日(日)

 とうとう、吸血鬼殺人の犠牲者は100人を超えた。
 もう、現実であるという気がしない。
 俺にできる事はない。
 何もない。



 12月15日(火)

 ギコやモララーとも、吸血鬼や『アルカディア』の話をしなくなった。
 本の少し前まで持っていた焦燥感が、無力感にすり代わってしまったからだ。



 12月19日(土)

 110人。
 この町で110人もの人間の命が奪われた。
 もう慣れた。
 特に気にする人もいない。
 この町は、他の町より死人が多い。
 それだけだ。
 俺は何もできない。



 12月22日(火)

 今日で学校は終わりだ。
 明日から冬休み。
 そして、明後日はクリスマスだ。
 暗い気分を払拭して、リナーでも誘って遊びに行くか。
 もしかすると、ハァハァなイベントがあるかもしれない。
 町も、今にして賑わいを増している。
 町がこんな状況だからこそ、明るさを取り戻したいのかもしれない。


 …この3ヶ月は、ほとんど何も起こらないまま過ぎてしまった。
 俺は、結局このまま何も起きないのではないか、という期待を抱いていた。
 同時に、そんなはずがない事も分かっていた。
 そう、無意識で理解していたのだ。
 嵐の前は、静かなのだという事を。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

17ブック:2004/01/21(水) 18:52
      救い無き世界
      第十一話・美女?と野獣 〜その3〜


 黒タイツの傷口はみるみると広がっていく。
 これこそが、私のスタンド『キングスナイト』の能力。
 『キングスナイト』の『剣』によってつけられた傷は、際限なく広がる。
「降伏するなら、『能力』を解除してあげるわ。
 さもないと、そのまま腕が切断されることになるわよ。」
 私は無駄と知りつつも降伏勧告をした。
 この男が、降参などする訳がない。
 目を見れば、それが分かる。

「ぬうああああああああああ!!!」
 黒タイツはスタンドを発動させると、
 その手で傷口の周りの肉を抉り取った。
 黒タイツは痛みに悲鳴を上げ、
 腕からは大量の血が地面へと滴り落ちる。

 何という覚悟。
 傷口を周りの肉ごと取り去って、これ以上傷が広がるのを防ぐとは。

「どうだ…これで、もう、傷は広がらない…
 この苦痛は、甘んじて受け入れよう…
 しかし……」
 黒タイツは息を切らしながら呻くように言葉を吐いた。
「この痛みを力に変えて、
 貴様だけはかならずしとめる…!」
 突き刺さるような殺意のこもった視線。
 常人ならこれだけで足がすくんでしまうだろう。
 だが私はそれ位では怯まない。
 今まで幾つもの修羅場をくぐり抜けてきたのだ
 これしきの事、何ということはない。

「…さっきあなたのスタンドの『能力』が分かったと言ったけれど、
 その解説がまだだったわね。」
 私は相手の気迫をいなすように、柔らかい声で喋った。
「地面に落ちた弾丸が、私に独りでにくっついてきたので分かったわ。
 あなたの能力は、触れたもの同士を磁石のS極N極のように
 引き寄せ合わせること。
 さっきは弾丸にその能力を施して私に発射した。
 だから弾いた筈の弾丸が再び私の所へと戻ってきた。
 もっとも、私の体に他の鉄製品が引き寄せられないのを見ると、
 磁力そのものを発生させるわけでは無いみたいね。」
 黒タイツは以外にも大人しく私の口上を聞いている。
 それとも、腕の傷のせいで十分に動けないのだろうか。

「だからどうした。
 分かった所で、お前が未だ我が『メット・マグ』の能力の
 影響下にあることに変わりはない。」
 確かにその通りだ。
 黒タイツの言うように、私の体はまだ奴の能力を受けたままだ。
 能力の正体に気づいたところで、根本的解決にはなっていない。
 ならば…

18ブック:2004/01/21(水) 18:52

「能力をあなたが活用する前に、倒す!」
 私は黒タイツへと突進した。
 先手必勝。
 相手は片腕に深い傷を負い、体力を消耗している。
 このまま一気に決める!

「させるか!」
 私が黒タイツの目前にまで迫った時、
 黒タイツはそう言うといきなり地面を殴りつけた。
 それとほぼ同時に、私の体が地面から「反発」するように
 宙へと飛ばされた。
「!?え?」
 私は何が起こったのか理解出来なかった。
 何故、私は空に…
「自分で言っただろう!?
 俺の能力は磁石のS極N極同士のように触れたものを引き寄せ合わせると!
 今!俺の近くの地面にお前と同じ極の性質を持たせた!
 磁石は同じ極同士は反発し合う!!」

 !!!
 不覚…!
 物を引き寄せ合わせることだけに意識が行って、
 そこまで考えが回らなかった…!

「貰った!死ぃねええぇえぇぇ!!!」
 黒タイツが空中に浮いた私に渾身の乱撃を繰り出してきた。
 必死に防御しようとするも、
 空中では体勢が不安定なせいでまともに攻撃を防御することが出来ない。
 私の体が、攻撃の勢いそのままに殴り飛ばされる。

 まずい。
 このままでは壁に叩きつけられ、更なるダメージを負ってしまう…!

「くっ!」
 私は殴り飛ばされる途中にあった電信柱に
 『キングスナイト』の剣を突き立てて勢いを殺し、壁への激突を防いだ。
 急いで剣を引き抜いて体勢を立て直し、
 黒タイツに向かって構える。

「まだまだぁ!!」
 黒タイツは今度は自分の近くの壁を殴りつけた。
 次の瞬間、体がその壁へと吸い寄せられ、
 私の体は壁へと磔になった。
「!あ…!」
 やられた。
 壁に私とは逆の極の性質を持たせて、私をそこに吸い付けたのか。

19ブック:2004/01/21(水) 18:53

「王手詰みだな。売女。」
 黒タイツが勝利を確信した表情でそう言った。
「『売女』?
 私に向かって、『売女』!?
 絶対に許さないわよ…あなた。
 後で必ずミンチにして塩コショウで炒めて人参玉葱の微塵切りと混ぜ合わせて
 トマトと一緒に煮込んで隠し味に鷹の爪を加えてアルデンテに仕上げたパスタにかけて
 上から粉チーズを振りかけて一口も手をつけずに生ごみとして捨てて
 ごみ漁りのカラスどもに食わせてその糞を禿親父のカツラの上に落とさせてやる…!」
 私は怒りをふんだんに込めた言葉を相手にぶつけながら、
 壁に体を擦りつけながら少しずつある『場所』へと移動した。

「どうした?
 威勢のいい言葉のわりに、逃げるだけか?」
 何とでも言っているがいい。
 私はすでに目的の『場所』へと辿り着いた。
 あなたの負けは、もう決定している。

「まあ、いい。
 今度こそ終わりだ!喰らえ!!」
 黒タイツが私に止めの一撃を放つために駆け寄って来た。

「『逃げていた』訳じゃあないのよ。」
 私の言葉に、男は一瞬動きを止めた。
「私は移動していたの。
 私に止めを刺すために近寄って来るあなたに
 『ある物』が直撃する場所を。
 そして私にはその『ある物』がギリギリ命中しない場所を。」
 黒タイツは、私が何を言っているのか分からない様子だった。
「お前、一体何を言って…」
「私の『キングスナイト』の剣によってつけられた傷は、
 そのまま『広がり続ける』。
 思い出しなさい。
 さっき私が何に剣を突き立てたかを!!」
 黒タイツはようやく気づいたらしく、急いで後ろを振り返る。
 しかし、もう遅い。
 傷が広がり、それによって倒れていく『電信柱』は
 もうすでに黒タイツの目前にまで迫っている。

「な、何いいいいいいいいいいい!!!」
 それが黒タイツの最後の言葉だった。
 黒タイツは電信柱の下敷きになり、
 電線に触れたところから感電して大きく痙攣した後、
 ピクリとも動かなくなる。

「…ちょっとやりすぎたかしら。」
 私は注意深く黒タイツに近寄って、
 生きているかどうかを確かめた。
 …微かに息はしているようだ。

 良かった。
 死なれてはこいつから情報が聞き出せなくなってしまう。

「さて…小耳は大丈夫かしら…」
 私の心に不安の影がよぎった。
 本当はすぐにでも応援に駆けつけたいのだが、
 このままここに黒タイツを放置しておくことは出来ない。
 逃げられては大変だ。

「無事でいて、小耳モナー…」
 私に今出来るのは、ただ祈ることだけだった。



   TO BE CONTINUED…

203−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/22(木) 00:13
ブック氏、乙です!それでは、貼らせていただきます。

「スロウテンポ・ウォー」

影色の輪舞曲(ロンド)・1

みなさん、おひさしぶりです。ノーです。
ウチとニダやんが自警団本部で生活を始めて、早くも3日になります。

<3日前…>
「ここが自警団本部だ。ここの203号室を借りて、活動している」
そこは…その、なんつーか…ドラマ「東京一人暮らしだモナ!」に出てくる2ch荘みたいなとこでした。
(実際、風呂なし共同トイレらしいです)
「なんか、想像と違う……」
ニダやんが思わず、本音を出してしまいました。でも、8フーンは笑って
「そう言うな…半ば慈善事業だから金がないんだ」
「…まぁ、正義の味方も大変なんやな…」
今にも崩れそうな階段を昇って、203号室の前につきました。
表札のとこに『(有)自警団本部』って書いてあったのは見なかった事にしつつ…
ウチらは8フーンに付いて、本部の中に入りました。
中は、案外殺風景で…テレビと、本棚。それと、コタツが置いてあるだけでした。
まぁ、6畳一間ならコレ位で普通なんでしょうけど…

「…うー…寒いから早く閉めて欲しいんじゃネーノ?」
コタツから聞こえた、声。この独得の語尾は……
「おいコラ、ネーノ。いつまでも寝てんじゃねえよ」
むくっと起き上がる八頭身の男…案の定ネーノでしたわ。
軽く頬を掻いて、ウチらにあの笑顔で
「ああ、君らが噂の新入り?」
「は、はい!ウチ…じゃなくて、私はノーといいます!!よろしくお願いします!!」
「あ!に、ニダーです!!よろしくお願いします!!」
面接に来た新入社員のように、ウチらは深々と頭を下げました。
でも、ネーノさんは笑って手を振り
「まぁまぁ、そんなに硬くならなくてもいいんじゃネーノ?騒がしいとこだけど、歓迎するよ。」
「…騒がしいのはお前のとこのガキだろ。」
「なっ…!ウチの子たちをバカにしたら許さないんじゃネーノ!?」
…なんか、喧嘩が始りそうな雰囲気や…。ウチらの硬直と、フーンとネーノの睨み合いを止めたのは…
意外というか…案の定というか…あの子達だったんです。

213−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/22(木) 00:15
「ただいまーじゃネーノ!!」
「寒かったー…もう、手が霜焼けになってるんだからな!」
「(…また喧嘩かな。ま、いっか)」
八頭身ネーノの隠し子…じゃなくて、家族の面々でした。
ネーノの所の1さん(以下、「1ネーノさん」と呼びます)、☆モララーくん、★シーンくん…あと、小さい「しぃ」がドタバタとコタツへ走って行きました。
「コラっ!ちゃんと手を洗ってうがいしなきゃダメじゃネーノ?」
しかし…噂通り、ネーノさんって“マイホームパパ”なんやね……。
「…オ姉チャン達、誰?フーンガ言ッテタ新入リサン?」
小さなしぃ(ややこしいのでこれから「シー」と呼びます)に声をかけられ、思わずビクッとしてしまいました。
「そうだよ、シー。皆にも紹介するから…まぁ、コタツにでも」
8ネーノさんの手招きに応じて、ウチらもコタツにお邪魔しました。

それから、小一時間…
ウチらがフーンさんに矢で射抜かれた事、スタンドが発現した事、ZEROのスタンド使いに襲われた事…
そして、ウチらのスタンドについても話しました。
「そっか、二人そろってスタンドが発動するなんて、かなりレアなパターンじゃネーノ?」
腕を組み、難しい顔で考える8ネーノさん。
「僕らは、ネーノと家族だから…ネーノのスタンドが発現したら、僕らも一緒に発現したんだよね。」
☆モラくんが嬉しそうに語ってます。…こんな小さい子も、スタンド使いなんや。
★シーンくんや1ネーノさんも頷いてる…って事は、この子たちも?
「つまり、ここには…ワシやのーちゃんも含めて、スタンド使いしかいないって事ですか…?」
ニダやんが恐る恐る尋ねる。
「ああ。」
8フーンさんが、あっさりと答えました。
「でもシーは違うよ!もしかしたらその内発現するかもしれないからな!」
☆モラくんは相変わらず嬉しそうです。屈託のない子やなぁ…。

223−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/22(木) 00:17
「とにかく、君らは間違いなく“ZERO”に狙われる…当分、ここで暮らして欲しいんだけど…いい?」
「8ネーノさん…ウチら、最初からハラ決めてましてん。…自警団に、入れてください!!」
「お願いしますっ!絶対、足引っ張ったりしませんからっ!!」
ウチらはコタツから出て、土下座しました。
正直に言えば…怖かったんですわ。丸耳モララーみたいな、イカレた奴が仰山居る組織に狙われてるのに…
スタンド使いとして未熟なウチら二人だけで、対抗できる気がしなかったんです。
だから、自警団に縋ったんですわ……
「それだけ吠えれれば充分だ……これから、働いてもらうぞ…?」
「!!」「!!」
8フーンさんの言葉に、ウチらはメチャクチャ喜びましたわ…
そして、その日から…ウチらは正式な自警団員になったんです。

<モナ暦14年1月20日…現在>
「おい、ノー。煙草買ってくる。留守番頼むぞ…あと、そこで寝てるデッカイガキのお守りもな…」
玄関の掃除をしてたウチに、8フーンさんがそう言って出かけて行きました。
(デッカイガキってのは、8ネーノさんの事です。)
…最近は、ZEROも大人しくしてるみたいやけど……8フーンさん、大丈夫やろか……?

―――――――――――――――――――――――――――――――

「……チッ」
俺とした事が、尾行されるとは。またネーノがニヤニヤしてるとこを想像しちまったじゃねえか。
ストーカー野郎は一人……さて、どうすっかね。
大通りを歩くのは、とりあえずマズいな…今日は土曜、人が多い。

233−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/22(木) 00:20
後を付けている奴が誰なのか絞りきれない…それどころか、戦闘の時に一般人を巻き込みかねないな…
裏通りに入る。そこには日本(ひのもと)町の裏名物…スラムがある。
雨が降った訳でもないのに水溜りが多く、何故か割れた注射器が道に転がっている場所だ。
治安が無いスラムにわざわざ足を踏み入れる奴は、日本町の住人には居ない…

そして、ここなら…俺の能力をフルに発揮できる。

「よぉ、爺さん。景気はどうだ?」
「おお……フーンか…お蔭さんで、何とか生きとるよ…」
顔見知りのモナー族の爺さんに声をかける。
もう随分な年齢だろうが、その辺のチンピラなんぞよりよっぽど強いジジイだ。
「爺さん、頼みがあるんだが…」
「わかっとるよ……みんなを“避難”させればいいんじゃな?」
「流石だな、爺さん…頼むぜ」
…この爺さんはスラムの主でもある。そして、俺がスタンド能力を持っている事を唯一知っている一般人だ。

「フーン、気をつけろよ……すぐ後ろに、来ておるよ…」
!!
「……見つけたぞ。フーン。」
…爺さんはもう行った。…さ、このバカを始末するか。
「…こんな所まで付け回して、必死だな“あっそー”……」
壁からこちらを覗く、無表情な変な男に…俺はとりあえず、笑顔を向けてやった。

( ´,_ゝ`)プッと。

<TO BE CONTINUED>

24N2:2004/01/24(土) 07:00

お詫びとお願い

こちらの不手際で、今後の展開と矛盾する記述がこれまでに御座いました。
誠に勝手ですが、皆様の脳内であぼーん&補正をお願いします。

1、旧小説スレ487「感染拡大.com」で、
  13〜15行目のギコ屋と相棒ギコのやりとり(「風俗に行くなら〜」の前後)を
  「無かったこと」にして下さい。
  (ギコ屋本スレのネタから取ったのですが、今後のギコ屋のキャラ設定予定と大きく矛盾していましたので…)

2、同じく旧小説スレ670-672「シャイタマ小僧がやって来る! 前編」で、
  リル子さんと被る教員キャラが登場しましたが、
  彼女は「リル子さんに似ているけどリル子さんじゃない」
  ということにしておいて下さい。
  (理由は言わずもがなすぐに分かると思いますが、彼女がリル子さんだと今後都合が悪い事態に陥りますので…)


                                                                                 ∩_∩ ヾ
                                                                                 |___|F
                                                                                 (´Д`;)、  コノトオリデス
                                                                                   ノノZ乙

25N2:2004/01/24(土) 07:00

南方戦線に集結せよ その①



「…ついこの間の話を覆すようで悪いのだが」
金髪の男は、ソファーに横たわってくつろぐ青年に語り始めた。
「例えばこの世に『最強のスタンド』は存在するのだろうか?」

「それはあの時に決着が付いたじゃないか。
どんなスタンドも『適材適所』、使う者と状況次第だって」
男の問いに、黒人の青年は呆れた様子で返答した。
彼は手に持っていた雑誌をテーブルの上に置くと、今度は金髪の男に聞き返した。
「そういう風に言っていたのに、何で今度は君の方がそういう質問をしてくるんだい?
ちょっといつもの君からは考えられないけれど…」

金髪の男は青年の元へと歩み寄った。
そして彼の目前で座り込み、その目を見つめながら答えた。
「…最近私の部下になった者の中に、私を差し置いて
自分こそが最強のスタンド使いとなろうとしている者がいるのだ。
本当だったらそんな不届き者はすぐに私の糧にでもしてしまうところなのだが、
どうせ私に楯突いても勝てる見込みは無い能力だし、それなりに利用価値のある奴であるから
とりあえず今のところは生かしておいてあるのだが…」

黒人の青年はだらけていた姿勢を正し、そして改めて男に顔を近付けた。
「なら別に問題は無いんじゃないかな?
そうそう無闇に部下を粛清するのはかえって他の臣下の離反を招きかねないし、
何より君らしい行動とは呼べない」

青年の助言を得た男の表情は明るかった。
「…そうか、そうだな。確かに君の言うとおりだ。
ではまだしばらくその者については様子を見ておくだけにしておくよ…」
そう言って、男は部屋を後にした。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



今年は冷夏・暖冬ではないかと言われているが、10月だと言うのにまだ暑く感じられる。
オレ達はイチョウ並木の下を歩きながら、ある場所へと向かっていた。

「…ってな訳で、オレも色々と新技の名前を考えてみたんだけどさ」
「おお、それはなかなか面白そうじゃねえか」
オレの提案に、相棒は割と乗り気である。
「…下らん。戦いにおいてそんな遊び半分の精神を持ち込もうなど言語道断だ」
一方ギコ兄はいつものように聞く耳持たない。
てか明らかにオレを避けてる?

「まあいいじゃねえか兄貴、少しくらいはよ。
で、相棒の考えた技ってのはどんななんだ?」
相棒の仲介によって、何とかオレの発言の機会が復活した。
では早速、オレの考えた技名を披露するとしますか。

「じゃあまずは、『ハンマー・オブ・ジャスティス』てのはどうだ!?」
「…下らん。何よりセンスの欠片も感じられん」
…即答で否定された。しかも酷評。

「それならこんなのはどうだ、『ダイヤモ…』」
「却下」
ってせめて最後まで聞いてからにしろよ!!
「おいっ、ギコ兄!お前いくら何でも酷すぎるぞ!
もうちょっと真っ当な意見出してくれたっていいじゃないかよ!!」
怒り狂うオレを尻目に、ギコ兄は呟いた。
「お前の意見は元々論ずるに値していないのだ。
その耳障りだけを意識して付けた単調な横文字のネーミングは、
お前に文学的才能が無い事をはっきりと証明している。
私と議論したいのなら、もっと勉強してから申し込むことだな」

…何だかよく分からんが、馬鹿にされたことは確からしい。
何となく頭に来たので、「クリアランス・セール」を発動させる。
「…わたしと…闘る気か…?」
「当ったり前だ!このへなちょこ非力スタンド使い!ナルシスト!!ブラコン駄目兄貴!!!」
…ギコ兄の眼つきが変わった。あれは獣の眼だ。

「『カタパルト』!そこにある自動車を改造してSPAS15とFN M249 Paraを製造!!
死ぃねやぁ―――ッギコ屋!!」
ショットガンとマシンガンって…こりゃまた異様な組み合わせだ。
ちなみにどうやら手加減してBB弾を撃ってる訳じゃないらしい。
実弾だ。後日談、もとい御実弾だ。
「なら受けて立つぜ!クラクラクラクラァ―――ッ!!」
「ああっ、もう2人とも止めてくれェ――ッ!!」
相棒の悲痛の叫びなど気にも留めず、オレ達の死闘は勃発した。

26N2:2004/01/24(土) 07:01

そもそもオレ達が今日こうして歩いているのには訳がある。
今朝突然相棒の携帯(英雄)にモナ太郎さんからメールが届いたのだ。
「君達に是非とも会って欲しい人がいる。
下に記した場所まで向かってくれ」
そこに書かれていた場所だけども、これは確かあの人がいる場所じゃ…。

「おい、どうやらここらしいな」
ギコ兄が言うので見てみると、そこにはラーメン屋の屋台があった。
やっぱりそうだ。ここは大将の店だ。
前に干物のギコを売ったりした事もあり、まあ何かと交流がある人だ。
でも何でモナ太郎さんは大将に会いに行けだなんて…?
「…まあ何でもいい、とにかく屋台があるんだから行くだけ行ってみるぞ」
と言う訳で、ギコ兄先導の下、オレ達は「ギコら〜めん」へと突撃した。



「ところでお前ら、今日は今までのツケを払う約束になっている事を忘れたりはしていないだろうな?」
『!!!んぶっ!!』
大将が忘れていた約束を蒸し返したので、びっくりした2人の客は思わず口に含んでいた麺を噴き出した。
「…まさか今日も忘れたなんてことは…」
大将が睨みをきかせたので、2人はばつの悪そうな笑みを浮かべて彼の顔を見た。
「…まさか、そんなことは、ねぇ…」
「まさか、そんなことはないモナ…」
「まさか、ねぇ…」
「ハハ…」
「ハハハ…」






「大将!今日もツケで!」
「お願いするモナ!!」
大将の顔はみるみるこわばった。
「…お前らという奴らは、そうやっていつもいつもツケの支払いを先延ばししやがって…。
今日という今日はそれなりの代償を支払ってもらうからな!ゴルァ!!」

大将の身体からスタンドが飛び出す。
その両の手には包丁。
勿論2人の客にはその姿は見えていない。
「これでも…喰らいなッ!!」
大将のスタンドが繰り出す切り払い。
その振りはスピードに自信のある「バーニング・レイン」を更に数段上回る。
「…なっ…!!」
「これは…どういうこと…モナ…?」
2人はその場に倒れ込んだ。



「大将ォ―――ッ!!何やってんだァ―――ッ!?」
「ん、何だギコ屋じゃねえか。どうしたんだ?」
血相変えて走ってくるオレ達を、大将は何事も無かったかのように出迎えた。
「『どうしたんだ?』じゃねえ!あんた今お客を包丁で切り付けただろうが、ゴルァ!」
「…そこのラーメン屋店長、あんたが何者であれ、そのような暴虐無尽な行いを無視する訳にはいかないッ!」
…どうでもいいんだけどさ、人様の自動車を勝手に重火器に改造するような奴が言えたセリフか、それ?
それはともかく、大将はオレ達がスタンドが見えることの方が驚きだったらしい。
「…お前らもこれが見えるのか?」
「もちろんさ!それだけじゃない、オレ達も自分のスタンドを持ってるんだ」
オレ達のスタンドがそう言って一斉に出て来ると、大将は更に驚いた顔をした。
「…まさか、お前達がスタンド使いだとはな…。
んで、何しに来たんだ?」
…そうだ、大事な事を忘れていた!
「そうだよ、大将今お客さんを包丁で切りつけただろ!一体何考えてるんだよ!」
「ああ、これか。別にこいつらは何ともねえぞ。
見ててな。…おい、いつまで寝てねえで、さっさと起きたらどうだ、ゴルァ!」
大将がお客さんの身体を揺さぶると、2人は今まで寝ていたかのような様子で起き上がった。
「…今、何だかすっげー疲れたんだが」
「突然数キロ走りきったみたいモナ…」
…???
「さあ、今日はもうツケはどうでもいい、帰った帰った!」
「…んじゃあ今日は失礼するぞ。…あー、だりい」
「それじゃあご馳走様モナ」
…結局さっきの包丁攻撃は何だったんだ?

27N2:2004/01/24(土) 07:02

「ああ、あれな。あれは俺のスタンドの特殊能力だ。
別に隠すほどのもんじゃねえから教えとくが、俺のスタンドは包丁を扱う。
その包丁のバリエーションは様々で、切れ味だけに特化してたり、やたら長かったりと一長一短ではあるが、
さっきのだけは特別で、切っても相手にダメージは入れられないんだが、そいつから『ダシ』を取れる」
「…ダシとは一体何のことだ?」
「馬っ鹿だなーギコ兄は、山車ってのはお祭りの時に皆でワーワー言いながら引き回す(メグシャ)ンガ―――ッ!!」

「『出汁』ってのは言うなればそいつの持っている生命エネルギーみたいなもんだ。
そいつでスタンドのパワーを高めたり、肉体の治癒なんかにも使えたりするし、
それこそラーメンの『出汁』にだって出来る。
ま、取られた方は時間が経ちゃ回復するから、さっきの2人の事は気にしなくていい」
…生命エネルギースープ…。
食いたいような、食いたくないような…。
「ただまあスープに使うと旨いことは旨いんだがその『出汁』の性質が食った奴にも出て来ちまうのが難点だな。
そういや前に一度ヒッキーの出汁でスープを作ったら、その日は『あんたのラーメンを食ったら鬱になった』という
苦情がバンバン入って大変な目に遭ったことがあったな」
…やっぱり遠慮しておこう。
間違ってデブヲタスープなんて飲まされたら人生の破滅だ。

そう言えばオレ達は今日はラーメンを食いに来たんじゃなかった。
いつまで大将の話をしていても仕方ないので、いい加減本題に入ることにした。
「それで大将、今日はちょっと他人から言われてここに来たんだけど…」
「ああ、知ってるぞ。空条モナ太郎だろ?」
「うんそうそう……って何で大将がモナ太郎さんの事知ってんだよォ―――ッ!!」
「…何故かって?それはだな…、何を隠そうこの俺はスピードモナゴン財団と関係があるからだッ!」

『な、なんだってー!』(AA略)

「そう、ラーメン屋台の店主とは世を忍ぶ仮の姿。
このギコら〜めん大将の真の正体とは!

この擬古谷町の平和を維持する秘密結社『サザンクロス』隊長なのだァ―――ッ!!」

『な、なんだってー!』(AA略)

「空条から話は聞いている。
何でも最近この町で暗躍している吸血鬼と戦う気なんだって?」
「う、うん…そうだけど…」
「はっきり言っておく、奴はそうそう簡単に倒せる相手ではない。
今のお前らがそのまま戦ったら、まず間違い無く死ぬ」
そこまではっきり言われてもなあ…。
「お前らは圧倒的に経験不足だ。実戦慣れしていない。
戦闘では場数を踏んだ奴の方が有利に決まっている。
…そ・こ・で!だ。お前らを今からお前らの実力をテストしてやろう。
そしてこの俺達『サザンクロス』入団テストに無事合格したら、
その時初めてそいつと戦うことを許可し、この俺が直々に特訓を付けてやろう」

「ってちょっと、許可ってあんた何を勝手に…」
ギコが大将の話にケチを付けると、大将はすんごい勢いで相棒を睨み付けた。
「…言っておくがな、お前の身に付けた『波紋』、はっきり言ってそれは幼稚過ぎる」
「んなっ…!」
「一端の訓練も受けずに波紋をマスターしてるつもりになってちゃ、
ただそのスタンドのエネルギーを捻出するくらいだったら不便を感じないかも知れないが、
いざという時に本物の『波紋』が使えずに泣く羽目になるぞ。
その吸血鬼と戦うのが夜だったらどうする?朝が来るまで待つのか?
…それにな、そのままの『波紋』じゃせっかく練れる分のエネルギーを無駄に放置しておくことになる」
「………」
ギコも思い当たる節があるのか、とうとう黙ってしまった。
「よし、異存は無いな。
それでは、これより『サザンクロス』入団試験を開始する!」
…一体オレ達ゃこれからどうなるんだ…?

28:2004/01/25(日) 15:10

「―― モナーの愉快な冒険 ――   モナとみんなの三ヶ月 〜みんなの場合〜」


 寒い…
 最近、めっきり寒くなった。
 僕はコタツに潜り込んでいる。
「今日はジングルベルなのです」
 料理を作っていた簞ちゃんが、コタツに入ってきた。
 台所からカレーの匂いがする。
「だから、ケーキ買ってきっちゃったのです…」
 部屋の隅っこにおいてあった袋を指す簞ちゃん。
「うん。クリスマスにはケーキだよね…」
 僕は、特に当たり障りのない返答をした。

 クリスマスに、簞ちゃんと家で二人きり。
 意識していないと言えば、嘘になる。
 でも、簞ちゃんは妹みたいなもんなんだぞ…?

 簞ちゃんが家に来て、すでに3ヶ月が経過していた。
 『支配者』と名乗る黒サングラスから待機を命じられて以来、簞ちゃんに動きはない。
 普通に学校に行って、普通に帰ってくる。
 僕とは違い、友達もそこそこ出来たようだ。
 ところで、妙な事に簞ちゃんが家に来てから八頭身と会っていない。
 あいつらはどこへ行ってしまったんだろうか…
 
「じゃあ、カレーを煮込んでいる間にちょっと練習なのです。
 1秒間に5回の呼吸を、1分間やってみてほしいのです」
 ゲッ! あれか…!

 ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ…

 別に、よからぬ事を想像してハァハァしている訳ではない。
 実はかなり前から、簞ちゃんに波紋法を習っている。
 簞ちゃんに会って一週間くらいたった日に、何気なく簞ちゃんにこう言ったのだ。
「僕も、簞ちゃんを守れるくらいに強くなれたらなぁ…」
 それを聞いた簞ちゃんは笑顔で言った。「おにーさんも、波紋を習ってみますか?」と。
 そうして、簞ちゃんは僕の妹兼師匠になった。
 そしてこの3ヶ月間、波紋の呼吸のやり方というのを教わっていたのだ。

 ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ…

「30秒なのです」
 簞ちゃんは微笑んで言った。

 ゼェ、ゼェ…
 過呼吸で、頭がボーッとする。
 もう限界だ。
「次は、30秒息を吸い続けて、30秒吐き続けて下さい」
 さらりという簞ちゃん。
 まだやるか…?
「できませんか?」
 簞ちゃんは上目遣いに聞いてきた。
 こんな言われ方をされれば、「無理」なんて言えっこない。

「すぅ〜〜〜っ…」
 息を吸い込む僕。
 波紋の特訓といっても、呼吸の仕方しか教わっていない。
 もちろん、呼吸だけでいいのかな、と思った事はある。
「波紋法の全ては『呼吸』なのです。『呼吸』を鍛えれば、筋肉もパワーも身につくのです」
 その疑問を口にしたとき、そう簞ちゃんは教えてくれた。

「はぁ〜〜〜っ…」
 以前よりは、かなり楽になっている。
 簞ちゃんを守れるくらいに強くなる… そう誓ったからには、文句は言っていられない。
 最初は、簞ちゃんの前でいいカッコをしたかっただけだ。
 でも吸血鬼殺人の被害者が増えていくにつれ、その考えは変わってきた。
 その被害者に、簞ちゃんの名前が加わるかもしれない。
 簞ちゃんの話では、この町にかなりの数の吸血鬼や、それを束ねている『アルカディア』という奴がいるらしい。
 大勢でかかってこられたら、簞ちゃんといえど危ないだろう。
 そんな時、僕に出来る事と言えば… 悲しいくらい何もない。
 ならば、兄として簞ちゃんを守る力を身に付ける!!

29:2004/01/25(日) 15:11

「はい、よくできました。あっ! 鍋が噴いているのです!」
 簞ちゃんは立ち上がると、パタパタと台所へ行った。
 波紋の呼吸の特訓をやればやるほど、簞ちゃんとの差を痛感する。
 簞ちゃんを守れるほどになるには、どのくらいかかるんだろうな…

「出来ましたのです」
 二人分のカレーをテーブルの上に置く簞ちゃん。
 クリスマスにカレーってのも妙なものだが、特に文句はない。
「いただきまーす!」
「いただきますのです」
 …うん、うまい!

 1サン、ハァハァ…

 不気味な囁き。
 そう、聞き違う事はない。
 奴等だ。とうとう、奴等が現れた!!
 平穏な生活もここまでか…

 ガチャリとドアが開いた。
「キ、キモッ!!」
 僕は思わず声を上げてしまった。
 アパートの廊下には、8頭身がズラリと並んで立っていたのだ。
 多分、10人以上はいるだろう。

 どうする?
 窓から逃げるか?
 簞ちゃんは驚いた顔で8頭身達を見ている。
「簞ちゃん! 逃げるんだ!!」
 僕は叫んだ。
 しかし、簞ちゃんは微動だにしない。

「1さーん!」
 奴等が部屋に入ってきた。
「簞ちゃん、早く逃げよう!!」
 僕はさらに促す。
「逃げても無駄だYO!」
「漏れ達は1さんと一心同体なのさ!」
 キモイポーズをとる8頭身。
「早く逃げないと…!」
 簞ちゃんは、僕の声が聞こえないかのごとく呆然としている。

「スタンドなのです…」
 不意に簞ちゃんは呟いた。
「えっ!?」
「あの人達、たぶんおにーさんのスタンドなのです…」
  簞ちゃんは、驚くべき事を口にした。

30:2004/01/25(日) 15:12


          @          @          @



 しぃ助教授は、窓から夜の町を見下ろしていた。
 町は小さな灯りに彩られている。
 高層ビルからの夜景は、なかなかのものだ。
 100万ドルとはいかないが、美しい事に違いはない。

「自衛隊の動きが活発になっています」
 丸耳は、しぃ助教授の背中に話しかけた。
「この国の軍隊は、独自の判断じゃ動けなかったはずでですが…」
 しぃ助教授は呟くように言った。
「法律上はそうなっています。演習という事で処理されているようです」

 しぃ助教授は振り向いた。
「上と話をつけただけじゃ、足りなかったって事ですね」
 丸耳は頷く。
「我らの艦隊に、威嚇行動を取り続けています。今はそれだけですが、このままでは…」
 しぃ助教授は首を振った。
「向こうから仕掛けてくる事はないでしょう。この国の軍隊は、攻撃を受けてからでないと動けません。
 とは言え… 対策は取っておいた方がよさそうですね」
 そう言って、しぃ助教授は再び窓の外を見る。
 丸耳は口を開いた。
「一般の軍隊との交戦ですか。さすがに、ASAでも今までに例がないですね。
 まあ、この国の軍隊は実戦経験もなく…」
 しぃ助教授は丸耳の言葉を遮った。
「軍事に詳しくない者ほど、自衛隊は弱いと思い込んでいるようですね。
 実質、この世界で自衛隊に勝てるのは米軍くらいだというのに…」

 丸耳は恥ずかしげに咳払いをした。
 窓の外を眺めたままのしぃ助教授は、不意に口を開く。
「『我々はか弱い。だから、あまりいじめるな…』ってとこですか」
「は?」
「いえ、なんでもありません。まあ、見せてやるとしましょうか。スタンド使いの軍事的運用というのをね…」
 しぃ助教授は、町を見下ろしながら呟いた。

31:2004/01/25(日) 15:14

「で、『彼』からの報告書は?」
 しばらくの沈黙の後、しぃ助教授は振り返って言った。
「はい、届いています」
 丸耳はレポートを差し出す。
 それを受け取って、目を通すしぃ助教授。
「あなたは、もう読みましたか?」
 顔を上げてしぃ助教授は訊ねた。
「…いえ」
 丸耳は首を振る。

 しぃ助教授は、レポートに目を通しながら言った。
「『蒐集者』が研究していた技術とは、『NOSFERATU-BAOH』。『BAOH』と吸血鬼のハイブリッドです。
 と言っても、完成した場合、吸血鬼の特性は失われるようですけどね。
 従来の『BAOH』と比べれば、環境適応性が段違いに上のようです。
 でも、量産は不可能のようですね。手間がかかりすぎる上に、成功率も低い。『教会』の切り札ってとこですか…」
「つーに試験的に施された技術ですね」
 しぃ助教授は頷いた。
 そして、レポートを捲る。
「話は変わりますが… 『教会』は、代行者以外にも強力なスタンド使いを保有しているようですね」

 丸耳は即座に反応した。
「それはありえません。スタンド使いの数や能力は、我がASAがほとんど把握しています。
 特に『教会』に属するスタンド使いなどは、100年も前からマークして…」
「その、100年以上前の事です。『教会』が保有しているのは、強力なスタンド使いの死体なんですよ」
「死体ですって?」
「死体や、…他には、物に宿ったスタンドですね。秘密裏に保持してきた辺り、相当強力な事は予想できます」

「でも、何の為…?」
 丸耳は当然の疑問を口にした。
「もちろん、蘇生させる為でしょうね」
 しぃ助教授はあっさりと口にした。
「無理でしょう! 死者を還せるスタンド使いなんて、聞いた事もない…」
 否定する丸耳。
 だが、しぃ助教授はそれを否定した。
「吸血鬼が、何百年も前の英雄の墓を掘り起こしてゾンビ化させた、という話もあります。
 『教会』は1000年以上も吸血鬼を研究してきた機関。死体の吸血鬼化も不可能ではないと思いますがね…」
「そんなことが…」
 丸耳は唖然とした表情のまま固まってしまった。
「でも、保有数は十体を超えないようですね。おそらく、始末したのは『蒐集者』でしょう。
 『アザトート』、『ノーデンス』、そして『アルカディア』…
 やはり、『アルカディア』は『教会』の予備戦力扱いだったようですね。
 他にも、『ヨグ・ソートス』、『ナイアーラトテップ』、…!!」
 レポートを読み上げていたしぃ助教授が、驚愕の表情を浮かべた。
「どうしました?」
 丸耳は心配そうに声をかける。
 しばらく沈黙していたしぃ助教授は口を開いた。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』の名前が挙がっています。死体は破棄されたとありますが…」

32:2004/01/25(日) 15:15

「どういうことです!?」
 丸耳は大声を上げた。
 それに対して、しぃ助教授は納得したように腕を組んだ。
「なるほど。以前から、不思議だとは思っていたんですよ。
 『アルカディア』の『空想具現化』といえども、万能ではありません。
 それがどうして、『アナザー・ワールド・エキストラ』ほど強力なスタンドを産み出せたのか…
 その答えがここにあるようですね」
「つまり、オリジナルがいた…という事ですか」
 しぃ助教授は頷いた。
「過去に、『アナザー・ワールド・エキストラ』の使い手は別に存在したようですね。
 『アルカディア』のやった事は、『アナザー・ワールド・エキストラ』を創生する事ではなく、
 使い手をモララーに移行させた事でしょう」
「スタンドの使い手を移行? そんな事が簡単に出来るのですか…?」
「そんな事、簡単にはできるはずがありません。
 ですが、あれほどの能力をゼロから産み出すよりは現実的でしょう。
 おそらく、その準備だけに『教会』は何年、下手をすると何十年もかけたはずです。
 『アルカディア』自身、かなりのスタンドパワーを消費したでしょうしね…」
「三ヶ月に渡って『アルカディア』の動きがないのは、そのせいなのでは?」
 しぃ助教授は顎に手をやった。
「その可能性が高いと思いますね…
 そして、このレポートに名が挙げられているスタンド使いが『アナザー・ワールド・エキストラ』と
 同列に並べられている以上、彼らのスタンド能力も封印指定レベルと見た方がいいのでしょう」
「封印指定レベルの定義は『広範囲に無差別な被害を及ぼすスタンド』で、その基準は曖昧です。
 それに、スタンド能力に相性の差こそあれ、絶対的な力の差は存在しません」
 丸耳は不安を振り払うように言った。
「それは方便に過ぎません。ならば、貴方のスタンドで私の『セブンス・ヘブン』に勝てますか?」
「意地の悪い事を言いますね。勝てるわけがないでしょう?」
 そう言って、丸耳は屈託なく笑った。
「それにしても、『教会』が隠匿してきたスタンド使い… 厄介ですね…」
 しぃ助教授は呟いた。

 しばしの沈黙。
 それを破るように、丸耳が口を開いた。
「ところで、さっきから思っていたのですが… 今日のあなたの論調、『彼』に似ています」
「…そうですか? このレポートに感化されたんでしょうかね…」
 しぃ助教授はレポートを机の上に置く。
 その表紙には、『MMR』と記されていた。

33:2004/01/25(日) 15:16


          @          @          @



 大きな『M』の文字が目に入った。
 待ち合わせの時間は、5分ほど遅れている。
 『解読者』は、待ち合わせ場所であるファーストフード店に入っていった。
「いらっしゃいませー!!」
 店員は笑顔で迎える。
「ご注文は何になさいますか?」
「水を六杯もらえるかな」
 人差し指を立てて、『解読者』は言った。
「しょ、承知しました…」

 お盆に水の入った紙コップを六つ載せて、席を歩き回る『解読者』。
「まだ誰も来てないのか…? おっ、いたいた…」
 ひときわ目立つ赤アフロが目に入った。
 明らかに周囲から浮いている。
「なんだありゃ…?」
「ドナルドだ…」
「宣伝活動か?」
 彼は、周囲の注目をその一身に引き受けていた。

「悪い、遅刻したかな…?」
 『解読者』は彼のいる席の向かいへ座ると、お盆をテーブルに置いた。
「…遅い」
 赤アフロ、『破壊者』は機嫌が悪そうに言った。
「約束の時間を5分オーバーして、来るのが1人とはどういう事だ?」
 『破壊者』は苛立たしげに、人差し指でテーブルをトントンと叩いている。
「まあ、そう苛立つな。ほら、俺からのおごりだ」
 『解読者』は水の入っている紙コップを差し出した。
「こりゃすまんな…」
 それを手にとって飲み干す『破壊者』。

 しばらくして、『調停者』が現れた。
「なんだ、これだけかい…? 急いで損したな」
「時間にルーズな奴が多いからな…」
 そう言ってため息をつく『解読者』。
 『調停者』は、『破壊者』の横に腰を下ろした。
「ほら、俺からのおごりだ」
 『解読者』は水を差し出した。
「遅れた俺におごってくれるなんて、なんて人だろう…」

「私にも頂けるかな?」
 いつの間にか来ていた『暗殺者』が水を要求する。
 『解読者』は、彼に水を差し出した。
「うむ。これは僅かだが心ばかりのお礼だ、とっておきたまえ」
 『暗殺者』はポケットティッシュを『解読者』に手渡した。
 駅前で配ってたやつだ。

「待たせたな、諦めろ」
「僕はキレイなジャイアン」
 『支配者』と『狩猟者』は同時に現れた。
「さて、全員揃ったな…」
 『解読者』は全員を見回す。
「話とは他でもない、俺達の任務についてなんだよ!」
「…ちょっと待て」
 『破壊者』は話を遮った。
「なぜ集合場所がマクドナルドなんだ? 俺へのあてつけか…?」
 周囲の一般人の視線は、『破壊者』に集中している。

「いや、君がいても目立たない場所を選んだつもりだったが…」
 『解読者』は弁解した。
「ちょうどいい。君も、カーネル人形のように店の外に立つといい」
 『暗殺者』は笑いながら言う。
「…お前ら、表へ出ろ」
 そんな『暗殺者』を睨みつける『破壊者』。

「こんなところで仲間割れは止せ」
 『支配者』が二人をたしなめる。
「…じゃあ、続きだ」
 『解読者』は再び口を開いた。
「みんなを集めたのは、他でもない。上から与えられた、二つの任務の事だ。
 一つ目の任務は、この町での吸血鬼の殲滅だ。これはいい。問題は、二つ目の任務についてなんだよ!」
 無駄にアップになる『解読者』。
「命令が入り次第、『異端者』を抹殺する事、か…」
 『支配者』は腕を組んでソファーにもたれた。
「一緒にお勉強でもしよう」
 脈絡なく口を開く『狩猟者』。
「君のアホづらには、心底うんざりさせられる…」
 『暗殺者』は『狩猟者』に言った。
 それを聞いても、『狩猟者』は微笑を絶やさない。

 さらに『暗殺者』は言葉を継いだ。
「それに、『異端者』を抹殺とは聞き捨てならん。彼女とは二人きりで住むのだからな…」
「はッ!」
 『調停者』は笑った。
「まだ懲りずにストーカーを続けてるのかい?」

34:2004/01/25(日) 15:17

 『暗殺者』はテーブルを叩く。
「何を言う! 私はストーカーなどではない! 彼女は私を愛しているのだよ!」
 呆れたようにため息をついて、『破壊者』は口を開いた。
「これだから、ストーカーってやつは…」
 『暗殺者』は再度テーブルを叩いて立ち上がる。
「君こそ何だ! 少しは、先代の『破壊者』を見習ったらどうなんだ!?」

「諦めろ。いい加減にしておけ」
 『支配者』は諌める。
 しかし、『暗殺者』は聞く耳を持たずにまくしたてた。
「先代の『破壊者』は偉大だった。
 現在『教会』に伝わっている暗殺マニュアルを完成させたのも彼だし、洗脳法を大成させたのも彼の功績だ。
 代行者として最大の栄誉といわれる『エイブラハム・ヴァン・ハーシング』の称号をもその手にした。
 それに比べ、君は何だ? 君のスタンド能力は、ただ迷惑なだけだ」
「俺の能力が、迷惑なだけだと…? 表へ出ろ」
 『破壊者』は、『暗殺者』を睨みつけて立ち上がった。

「お前ら、やめろ!!」
 『解読者』が叫んだが、二人は耳を貸さない。
「表へ出ろだと? 君にスタンドを使う覚悟はあるのかね…?」
 『暗殺者』はさらに挑発した。
 『破壊者』の怒りは頂点に達したようだ。
「もう許さん…! 俺のスマイルは0円だぜ…!!」
 『破壊者』の体から、ヴィジョンが浮かび上がった。
 それは、つぶらな目をしたクマのような姿をしている。

「馬鹿な…! こんなところでスタンドを使う奴があるかッ!」
 挑発した『暗殺者』本人が一番驚いている。
 クマは、左手で本体である『破壊者』の襟首を掴んだ。
「クマ――――ッ!!」
 そのまま、『破壊者』をタコ殴りにするクマ。
「ぐぼあっ!!」
 拳と爪の乱打を浴びた『破壊者』は、そのまま床に崩れ落ちた。
「行け…! もう、お前を止めるものはいない…!」
 『破壊者』は地面に伏しながら呟いた。

「クマ――――ッ!!」
 そして、『破壊者』のスタンドは『暗殺者』に襲い掛かった。
 その爪が『暗殺者』の顔面を一閃する。
「あ〜がぁ〜!!」
 『暗殺者』の眼鏡が宙を飛んで、音を立てて床に落ちた。
 そのまま、馬乗りになって『暗殺者』を殴りつけるクマ。
「まずいぞ! 逃げろ!!」
 『解読者』が叫ぶ。
 全員は一斉に立ち上がると、店から飛び出した。

「目がぁ〜目がぁ〜!!」
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
 店の中から、『暗殺者』の叫び声や一般客の悲鳴が聞こえてきた。
 拳の乱打を浴びた『暗殺者』は、気を失ってしまったようだ。

 続けて、クマは身なりのいい紳士に襲い掛かった。
「これこれ、クマというものは血気がさかんすぎていかんことだのう。フッフッフッ…」
 紳士はハンバーガーを食べながらにこやかに言った。
 クマは、そんな紳士の顔面に拳を叩きつける。
「どべぇ!!」
 紳士はテーブルごと床に引っ繰り返った。
 飲み物が床を濡らす。
「なっ…! わしは、モナソン・モナップス上院議員だぞッ!!」
 クマはそう叫んだ上院議員の身体を持ち上げて、その首を脇に挟み込んだ。
 そのまま、武器のように振り回す。

35:2004/01/25(日) 15:17

 店内は、まさに地獄絵図であった。
 3mはあるクマが暴れ回っている。
 逃げ惑う客達。
 床に散乱するポテトや飲み物。
 クマが振り回す上院議員の身体で、周囲のテーブルや椅子がなぎ倒されていく。
 床には、この店のマスコットキャラクターであるドナルドや、偉そうなメガネが倒れ伏している。
 店内は大パニックだ。

 一人の若い男がクマに捕まった。
「クマ――――ッ!!」
 上院議員を脇に抱えたまま、若い男を殴りつけるクマ。
 そのまま、脇に挟んでいた上院議員をウィンドウに投げつけた。
 上院議員の体はガラスを突き破って、道路に転がる。
「終身刑に… してやる…」
 上院議員はそう呟いて気を失った。

「クマ――――ッ!!」
 クマはウィンドウを破って外に飛び出すと、近くに駐車していた車を破壊し始めた。
 車体はボコボコにへこみ、ウィンドウは粉々になる。
 クマはボロボロになった車を持ち上げて、隣のガソリンスタンドに投げつけた。
 激しい爆発が起きる。
 たちまち、紅蓮の炎に包まれるガソリンスタンド。

 爆風で、『支配者』の薄い頭髪がそよぐ。
 クマは破壊活動を繰り広げながら、道路を逆走していった。
「ウホッ! 大惨事…」
 『調停者』は呟く。
「僕はきれいなジャイアン…」
 それに答えて、『狩猟者』は心持ち悲しげな声で言った。
「おっと、急用を思い出した。俺はそろそろ帰らせてもらう…」
 呆然としていた『解読者』は、不意に目線を上げる。
「じゃあ解散だな。諦めろ」
 爆発炎上するガソリンスタンドを尻目に、4人は別々の方向へ歩き出した。



          @          @          @



 真っ暗な部屋。
 その真ん中の椅子に、『アルカディア』が座っていた。
 天井には、吸血鬼が頭を下にして張り付いている。
 何人も、何人も、何人も…
 その様は、まるでコウモリを思わせた。
 天井から張り付いた吸血鬼で、部屋は埋め尽くされていた。
 床には、空になった輸血用血液のパックが散乱している。
 パックに記されている血液型に、いっさいの統一感はない。

「寒いねェ、この部屋は… そう思わねーか? オマエ…?」
 『アルカディア』は言った。
 話を振られた吸血鬼が口を開く。
「私達吸血鬼は、寒さは感じません」
「おっと、そうだったな… この体はいけねーや。寒くて仕方がねー。
 もうちょいスタンドと肉体が馴染んできたら、とっとと吸血鬼化するか…」
 『アルカディア』は、床に無造作に置かれている石仮面に目をやった。

「で、テメーラ。俺のために命を捨てる覚悟は出来てんだろうな…?
 代行者はアホばっかりだが、その実力は折り紙付きだぜ。正面から戦えば、この中の半分は死ぬだろうな…」
 『アルカディア』は部屋全体に伝わる大声で言った。
 それを受けて、吸血鬼の一人が口を開く。
「私達は、永遠の命を与えて下さった貴方に感謝しています。今さら死を恐れる者など、一人もおらぬでしょう」
 他の吸血鬼も、歓声を上げることで答えた。
「よし、上出来だ。そろそろ俺の居場所を嗅ぎつけてくる頃だしな。
 だが、今までは他人のイメージしか具現化できなかったが、肉体を得た今は違うぜ…?」

 『アルカディア』は椅子にもたれ込んだ。
「来やがれ、代行者…! 返り討ちにしてやるぜェ…!!」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

36新手のスタンド使い:2004/01/25(日) 19:35
N2氏、さ氏、二人とも乙ッ!

37( (´∀` )  ):2004/01/25(日) 21:01
「ほら。128頭身。起きろ」
「ウゥゥゥゥ・・久しぶりの任務でしょうか?」
「成功のあかつきには」
「8頭身を贈呈しよう」
「ほ・・本当ですか!?」
「嗚呼。我らを裏切った愚か者」
「ムックを『処罰』してきなさい。」
「お安いごようで。原型が残らない程に捻り潰してやりますよ・・。」
                    バケモノ バケモノ
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―怪獣VS怪獣

「・・・・おいムック。奴らの居場所はわかるよな?」
俺らは一旦署に戻って一度情報を纏めていた。
「へ?つ・・突っ込む気ですKA?」
「馬鹿。お前みたいな奴がゴロゴロ居る様な場所に策も無しに突っ込むか。」
ムックがホッと一息つく
「・・ならばどうするつもりだ?修行でもするのか?」
殺ちゃんがやる気まんまんで武器を出しながらソファーに腰掛け言う。
「いや。俺は俺で色々策を練って置く。これでも頭は良い方でね。」
嘘は言ってない。何しろその頭の良さで此処に飛ばされたのだ
「・・・・一応一つ言っておきまSU。」
ムックが深刻そうな顔をして言う
「・・・・ネクロマララーは『悪魔』でSU。」
・・・まぁ人一人顔色一つ変えず捻りつぶすぐらいだからなぁ。改めて言う事でも無いだろ
「あの人は普段こそ爽やかで優しい方ですGA戦闘を『楽しむ』と大変な事になるんでSU・・。」
気付くとムックの体が震えている。・・・殺ちゃんの『魔眼』で睨まれた時と様子が似ている
「数年前・・修行中だった私HA、ハートマン軍曹に『今後の参考に』と皆さんの任務を見せてもらったんでSU。」
ムックの震えが激しくなってくる。段々と鮮明に思い出してきたのだろうか
「某国の王の持っている『矢』と言う物を狙う、という任務でしTA。しかし王直属のボディーガードで『勇者』と呼ばれていた
人物が存在SHI、彼はとても強かったでSU。その時の幹部さん達4人が殺されましTA。スタンドは大剣を持った特に能力の無い
シンプルな物でしたGA、彼自身がとても強く。簡単に倒していったのでSU。・・・・しかし、その時ネクロマララー様がたまたま
出動していTE・・そんな返り血を浴びた彼を見TE・・『笑った』んでSU・・。」
?いつもニコニコしてる奴だった様な気もしたが
「いつもの様な笑いとは違ったんでSU・・。口の先がこうキューッと曲がって・・
とにかく・・その時ハートマン軍曹に『この笑いを見る事があったら、即逃げろ。』と言われましTA。」
・・・良く覚えておこう
「そしてそんなハートマン軍曹に気をとられているTO突然『グシャッ』って音が聞こえたんでSU。
断末魔の一つすら聞く前に『勇者』がミートソースになっていたんでSU。」
・・そういえばがんたれモナーの死に様を見てから肉を食ってないな。俺。
「・・それがネクロマララーの『笑顔』でSU。今後の参考にしてくだSAI。」
「・・・うーん・・一番最初にネクロマララーを潰しておこうと思ったんだが無理らしいな。矢張り。」
「ならば下の方から段々と崩していくしかなさそうだな・・。」
殺ちゃんが腕をパキポキ鳴らしている。やる気マンマンだ。
「・・・・・・。」
っと。ムックが黙り込んでしまった。相当嫌な思い出だったみたいだ。
「・・・ムック。気分が悪いなら近くに海があるから。そこでちょっと涼んでこいよ。」
ムックは無言で頷くと行ってしまった。うーん。こりゃ重症だ。
まぁ、そりゃそうか。俺もあの殺ちゃんの目は今でも結構なトラウマ・・って
今その殺ちゃんと二人っきり――ッ!?
ジェノサイア以外の異性と二人っきりになったのは初めてだ。
ヤバい。胸の高鳴りが止まらない?恐怖か?愛か?
・・・強いて言えば両方かもしれない。
っておい!俺はロリコンか!俺と11も違うんだぞ!そんな少女に・・
「何をしている?」
殺ちゃんが言い放つ。
そ・・その言い方は『何をしている?男女が二人で居る時にやる事は一つに決まっておろう?』とか言って・・
って俺!何を言ってるんだ!しっかりしろ!
「せっかく二人っきりなんだ。やる事は決まっているだろう?」
殺ちゃんがじりじりせまってくる
あああああああああ。俺!理性をちゃんと持つんだ!!
「修行だ。」
殺ちゃんがニッコリしながらコチラに銃口を向ける
・・ハハッ。人生なんてそんな上手く行く様なもんじゃないよな。ハハ・・ハハハハハハ・・ハ・・。

38( (´∀` )  ):2004/01/25(日) 21:02
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜茂名王港〜
ムックがリストラされたサラリーマンの様に遠くを見つめながらため息をつく
「HAaaaa・・・」
「・・・さて・・そろそろ戻らないとNA・・。」
ムックが踵を返して署に戻ろうとする。
しかしそこで初めて足の違和感に気付く。
「これHA・・・!?」
触手、もとい誰かの手が自分の足をしっかりと握っている。
見覚えのある手だ。この手の持ち主は一人しか居ない
「・・128等SIN・・ッ」
海の中からゴジラの様に128頭身が姿を現す
「久しぶりだな・・ムック・・。」
何を隠そうこの二人。同年齢の同期である。
だがスタンドの才能もあり、幹部に対しても忠実で、人望が厚かった128等身の方が
アンシャス猫の『ペット』として先に幹部になってしまったのだ。
「全く使えないスタンドで悲しむのは解るが・・裏切ることはなかろう・・。」
「黙れ。私はあそこに居るのが嫌になっただけですZO。」
「フフ・・負け犬の遠吠えは哀愁を誘うねぇ・・」
ムックの中の『何か』がキレた。
「ッテMeeeeeeeeeeeeeeeeeッ!!!」
足の触手を振り払い、128頭身に突っ込んでいく
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」
128頭身が思いっきり尾っぽを海面に叩き付け、水しぶきをあげる。
するとその水しぶきがムックに当たった。
「NUゥッ!?」
「忘れたのか我がスタンド『アクア・ブギー』の能力ッ!!『水を弾丸並みの強度に変える』事ッ!!
弾丸並みに硬くなった水しぶきがあたれば・・下手すれば貴様の皮膚も貫通するぞッ!!」
確かに良く見るとムックの赤い体毛に少量の血が付いている。
「KUSSOォッ・・」
その場にへたり込むムック。
「今のはランダムで飛ぶ水しぶきだったが・・次は確実に『弾丸の雨』を降らしてやろうッ!!」
128等身は片手いっぱいに海水を持った
「氏ねェェいッ!!『アクア・ブギー』ィッ!!」
ムックに向かって全速力で手に持った海水を投げつけた。勿論強度は弾丸並になっている為、
当たれば皮膚ぐらい簡単に貫通するかもしれない
「TIィッ!」
しかしムックもスタンドの能力を補う為自らの体は極限まで鍛え上げてある
水を見切り避けるくらい造作ないことだ
「ククク・・面白くなってきたなぁ・・。さぁ来いッ!!
もっと俺を楽しませてくれよォォォォォォッ!!」
128頭身がうめき声にもにた声をあげる。
その姿はまるで怪獣だ。
「このバケモンGA・・その『キモい顔』ォッ!吹き飛ばして差し上げますZOッ!」
ムックが手に力をためたその時、
128頭身の顔が歪んでいる。
「い・・今・・キ・・キモいって・・」
ムックはある『重大なこと』を思い出した
ソレはもっともシンプルな奴の『弱点』・・。
「・・・・そういえばお前HA・・昔から有り得ないほどの『泣き虫』だったNA・・。」
そう。128等身はとてつもなくメンタルが低い。
その為小さい悪口でとてつもなく傷ついてしまう
「う・・・あ・・あ・・・ああ・・AAA・・・AHHHHHHH・・・」
此処で決めるしかNAI。
128頭身が怯んでるここDE!!
ムックはそう体に命令し、拳に思いっきり力を入れた
・・だが、ムックはもう一つ『重大なこと』を忘れていた。
ソレはもっともシンプルな奴の『強味』・・。
「キモイッテ・・ナキムシッテ・・チクショウ・・チクショォ―――ッ!!!!!」
128頭身の目の色が変わる
そしてその目から大量の涙が流れ、その涙が地面を破壊する。
そう。128頭身はあまりに蔑められると大量の涙を流しながら暴れだすのだ。
本来この時の彼の状態が『危険レベル97』とされている。
ソレも、涙に自分の『能力』を付加してる為、タチが悪い
「グオォォォオオォオオオ・・・ムックゥ・・・ムゥックゥ・・ムックゥゥゥゥゥゥ!!!」
128頭身がとてつもない『強度』の涙を流しながらムックに突撃していく
「KUSOッ!あと一歩だったのNIッ!!」
ムックはソレを華麗にかわし、再び態勢を整え、拳に力を入れる。
「全宇宙の神YO・・このムックに力WO・・」
「ムゥゥゥゥゥックゥッゥゥゥゥァァァァ!!!!」
「宇宙的ムック殺法!!ムックストリーム!!」
力を入れた拳を背中に持って行き、一気に回りながらビンタ式に殴った

39( (´∀` )  ):2004/01/25(日) 21:03
「グゴォッ・・ァッ・・アあアァァァァァァァァアアェェェエエェェ!!ムックゥリャァァァァァァ!!!」
128頭身はさっきより増して暴走する。
(チクSHOW・・全然効いちゃいないですZO・・だったら・・)
ムックは両手両足に精神を集中させ力を込めた
「ムック・・ムック・・ムッゥククククゥゥゥゥゥャァァァァァ!!!」
ソコに128頭身の巨体が突っ込んでくる
「かかりましたNA!!『ムックバースト』ォォッ!!」
ムックのラッシュが128頭身めがけて飛ぶ
ソレと同時に128頭身の巨体が吹っ飛んでいく
「ガアアアアアアアアァァァァァッ!!ムゥゥゥックゥゥゥッ!!」
まだ復活して向かってくる
ありえない。なんてタフなんだ・・。
そう思ってるうちに128頭身がまたも突っ込んでくる
(KUッ!!もう力をためている時間はNAIッ!!よけるしKA・・)
ムックがそう体に命令を下し横に避けた瞬間、足に嫌な音がなった
『ミシッ』
そして次の瞬間激痛が走った
「NUGUOOOOOOOOOOッ!?」
・・『涙』だ。
銃弾並の強度になった涙がムックの足に直撃した
運良く吹っ飛ばなかったかが、あの音は明らかに
「『コッセツ』シタヨウダ・・ナ・・グフッ・・グフフフフ・・」
128頭身はやっと涙を切らしゆっくりとムックの方へ向かっていく。
「グフフ・・グフハハハハ・・ムックの命・・ツキタリ・・カ・・・・。」
正に絶体絶命。
「サァテ・・スキカッテイッテクレタナァ・・ドコカラリョウリシヨウカ・・。」
ムックは無言で128頭身に背を向け、折れた足をかかえ蹲っている
「クククッ・・ヤハリマズハ・・ソノ『オレタアシ』カラダヨナァァァ・・。」
128頭身がムックの足に手を伸ばしたその瞬間だった。
128頭身の頭に、モロにムックのカカト落としがHITし鈍い音がする
そう・・。折れたハズの右足で
「超神秘宇宙的『ムックオトシ』・・ご賞味ARE。」
満足そうにムックが着地すると
128頭身はピクピクしながら口をきいた
「ア・・ガガ・・ナゼダ・・アシハ・・タシカニ・・オレテ・・」
『ムックオトシ』がモロに入ったのだろうか。
反撃する様子が無い。いや寧ろ『反撃できない』のだろう
「・・・お前も私も『私の能力は使えない』そう思っていましTA。」
きっともっと居るだろうが

40( (´∀` )  ):2004/01/25(日) 21:03
「だが私の能力は『花を咲かす』だけではなかっTA。」
ムックはくるりとコッチを向くと自分の掌から花を咲かせる
するとその花が一気にしおしおと枯れる
「花の『生命エネルギー』をコントロールできるんですZO。」
128頭身はポカンとしている
「解らないようですNA。つまりこの花の『栄養分』を私の体に送り込んだのでSU。」
良く見るとムックがなんか若返ってる
「バカナ・・骨ヲ復活サセルニハ『カルシウム』ガ必要ニナル・・ッ」
「・・牛乳で花を育てれBA?」
128頭身はまたもポカンとしている
「牛乳で育てた花を咲かせられたRA。どうでしょうKA?」
128頭身はピクピクしながら大声を張り上げる
「バ・・バカナ!!ア・・アリエン!!」
「私も馬鹿みたいに体力だけを鍛えたわけではありまSEN・・・何かこの能力には『チカラ』があると思い
ハートマン軍曹と共に研究しましTA。すると、ある2つの『新能力』が浮かび上がってきたのDESU・・。」
「一つは・・『花の養分をコントロールする事』。そしてもう一つは『どんな風に育ったどんな花か等具体的な事までを決めて
花を咲かす事ができる事』。ですZO。そして今貴様に気付かれない様に貴様に背を向KE、足を隠しながら
足に直に『牛乳のみで育てた花』の養分を何回も送っていたのDESU。」
な、なんだってー
128頭身はそう言いたそうな顔をしているがさっきの大声が頭に響いたのだろう。口をパクパクしている
「それじゃ。冥土の土産も終わったことだし、トドメをさしましょうKA。」
ムックは足に生えた大量の花を一気に抜き。パキポキと腕を鳴らした
「ア・・アアアア・・。」
128頭身は冷や汗をかきながらあたふたしている
「治る事は治りますが・・『骨が折れた』という痛さはかわりまSEN・・その痛さ、解ってもらいましょうKA・・?」
ムックは腕に思いっきり力を入れる
「ア・・マ・・マテ!!ア・・アヤマルカラ・・」
128頭身の言い訳を無視し、ムックのチョップが『ムックオトシ』をくらった場所と全く同じ場所にHITし、またも鈍い音がなる
「フゥ・・。何かスッキリしましたNE・・。さて、署に戻りますKA・・。」
ムックは養分を吸い取って若返り、128等身を痛めつけ、ご機嫌だったが
署に戻った後、その養分も無くなるほど『嫌な汗』をかいたのは言うまでも無い
                   リ タ イ ヤ
128頭身。頭蓋骨にヒビが入り再起不能
(その後病院に護送された後、逮捕されたもよう)
←To Be Continued

41( (´∀` )  ):2004/01/25(日) 21:10
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


 彡. (・) (・) ミ
 彡       ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。


  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。


  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはスタイル抜群の女性型で
 能力の詳細は不明。だがとてつもない重力を発生させる球体を作ることが出来る。

42アヒャ作者:2004/01/25(日) 21:10
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その③


ここでカラスについて自分で調べた内容も含め、ここに記したいと思います。
カラスは分類学的にはスズメ仲間で、世界に100種類、日本に11種類いると言われています。
日本には大きく分けて次の2種類が存在。くちばしと体の大きさで分類されます。
A.ハシブトガラス・・・約55cm〜57cmほど。カー、カーと澄んだ声で鳴き、東京で非常に多い。どう猛である。肉を好む。
  また、アジア地域にも多く生息する。   
B.ハシボソガラス・・・約50cmほど。ガー、ガーと鳴き、田舎で多い。木の実などを好む。
  また、東南アジア、オーストラリア、インド、アフリカ、アメリカ大陸以外すべての地域に生息。
また、ハシボソガラスといえば、岩手県のハシボソは、木の実を走ってくる車にひかせ、
それによって割ることによって、中身を食べるという話が世界的に有名です
そしてニュースなどで問題になっているのがハシブトガラス。
ちなみにカラスの仲間としては、ムクドリやゴクラクチョウがいます。
カラスといえば黒色を想像しがちですが、白いカラスの種類もいます。
寿命は、だいたい10年〜20年ぐらいだそうです。
実を言うと、カラスについての研究はまだ途上の段階で、よくわかっていないとか。

「どの事件も被害者は矢のようなもので射られている。俺が体験したアイツの能力と同じものだ。」
「と、言う事はカラスの能力は射撃系か・・。アンタのスタンドは?」
「残念ながら近距離パワー型で、射程が5mにも満たない。」
「あ、ヅーちゃんのスタンドはたしか射撃系だったよね。」
「でも私のレベッカは精密機動性が低いから当たらないかも。スピードも遅いし・・。」
ヅーが自分のスタンドを出した。
女性の姿をしたヴィジョンで、顔が何処と無くヅーににていた。
ガトリング砲、キャノン砲、ミサイル、グレネードランチャー等の重装備仕様で戦車をそのまま人に被せたようなデザイン。
これではスピードが低いのも頷ける。
「そういえば、一つ気がついた事がある。」
アヒャが口を開く。
「・・・何だ?」
「第三話以降うちの兄貴の出番がほぼ皆無になった。」
バンッ!
「うるせえ〜〜〜!!!」
「うわあ!」
いきなり店のドアを開けてネオ麦が乱入してきた。
「な、何で兄貴がここに!?」
「この町の駅前のゲーセンが一プレイ50円だって聞いたから遊びに行ったあと喉が渇いたから立ち寄ったんだ!
 うう・・・畜生・・・俺だってなあ・・・。」
あまりの出番の少なさに涙をこぼすネオ麦
「安心しな兄貴。出番どころか誰もお前の事覚えてないから。」
「テメー!自分の兄に向かって!」
兄弟喧嘩が始まり店の中が騒がしくなる。
そんな中でも旦那の連れの女は居眠りしている。

♪ちゃららららん、ちゃららららん、ちゃららららんらんらん

「な、何だこのBGMは!?」
「ごきげんようのトーク終了のチャイムだ。はいしゅーりょー。」
アヒャの機転によりなんとか騒ぎは収まった。
カラスの事を話したらネオ麦も捜索に協力してくれる事になった。
「そうだ、まだ旦那の名前を聞いてなかったな。」
「・・・自己紹介がまだだったな。俺の名前は蜥蜴。こっちで寝ているのが林檎だ。」

43アヒャ作者:2004/01/25(日) 21:11

俺たちは二手に分かれる事になった。

①アヒャ、ネオ麦、シーン、マララー(商店街の近く。)
②ツー、ヅー、蜥蜴、林檎(海宮駅方面)

チーム①

「まったく、何で僕たちまで・・・。」
シーンが愚痴をこぼした。
「仕方ないだろ、旦那の話では事件現場から計算したカラスの行動範囲が商店街から駅までの2〜3kmに及んでいるらしい。
 だから少しでも多いほうがいいんだってさ。」
「そういえばこの中でスタンドが使えるのはアヒャ君とお兄さんだけだったよね。僕もほしいな〜。」
「マララー、旦那に頼めば矢で出してくれるかもよ。命の保障は無いけど。」
「だったらパス。」
その時マララーの被っていた帽子がガタガタ揺れ始めた。
「ん、お前の帽子ちょっと変・・・。」
ツーが帽子に手を伸ばした時だった。

ニュッ!
突如帽子から顔が飛び出た。

「うわっ!何だこいつは!?」
「チンゴキだからな!」
「ああ、コイツは僕の相棒。名前はチンゴキって言うんだ。」
マララーの話によるとゴキブリに近い生き物で絶滅危惧種に指定されているらしい。
道端に居たのを拾ったという。

・・・・ゴキブリのくせに。

チーム②

「見つかったか、ヅー?」
「ううん、駄目。」
「この辺りには居ないんじゃないマスター。望遠カメラに切り替えても見つからないよ。」

カシャッ!カシャッ!カシャッ!

レベッカの目が辺りを探す
「えっと・・・。二人は何て呼べばいいんですか?」
ヅーが二人に尋ねる。
「私は林檎でいいよ。こう見えても貴方と同い年だから。」
「俺は好きなように呼べばいいさ。」
二人は笑いながら言った。
「アヒャ達は見つけたかな?ちょっと連絡取ってみる。」
ツーがアヒャの携帯に電話した。」

とうるるるるるるるるるる・・・・・・
ピッ!
「もしもし、そっちは居たか?」
「いんや、お前のほうは?」
「そんなに早く見つかっていたら苦労しないよ。」
「けれど旦那の言っていた声に特徴のあるカラスって・・・。」
その時四人の耳に聞きなれない音が聞こえた。

「クエー、クエー、クエー。」
「うわっ、変な泣き声。」
「・・・こちらアヒャ。どうやら見つかったみたいだ。」

44アヒャ作者:2004/01/25(日) 21:12

クエッ!

再び、どこかで鳴き声がした。
さっきも聞いた、鳥の声だ。

アヒャ達は辺りを見回した。街路樹やビルなど鳥が止まれそうな場所は多い。
するとサッと影が走った。
影を追うと空を一羽のカラスが空を舞っていた。
蜥蜴の言うとおり体毛がカラーボールのインクで赤く染まっている。
喉には矢の痕らしい穴が開いていた。
カラスはしばらく飛ぶと近くの街路樹に止まった。
「あいつか、旦那の追っていたカラスは。」

ここでどうやってカラスは人を襲うかを皆さんに説明します。
1.敵がくるとまずは注意してみています。
「ちょ、ちょっと、アイツこっちを睨んでいるよ。」
2.次に存在を誇示するため、カアカアと大きな声で鳴きます。.「カッ、カッ」などと鳴いた場合は、非常に怒っている証拠。 
「クエッ!クエッ!クエッ!」
「やっぱり変な声で鳴くなあ。」
3.そして鳴きながら旋回して威嚇をします。 
「お〜飛んだ飛んだ。」
4.自分がとまっている木にくちばしをこすりつけ・・。 
ガリッ、ガリッ、ガリッ
「おい、何かやってるぞ。」
5.さらにとまり木の小枝を折ります。 
パキッ!、パキッ!
「あ、木の枝折り始めた。」
6.そして、目標めがけて投下。
バッ!
「うわっ!こっち来た!」

その時アヒャの目が、鳥の背後にたちのぼるビジョンを捉えた。
プロペラのついたボール状で至る所に突起が出ている。

ビシューン!

猛スピードでミサイルがアヒャの横を突っ切った。
「あッ!あの鳥…・・・ッ!このミサイル・・・・矢?」」
地面に一本の矢が突き刺さっていた。
しばらく経つと矢は煙のように消えた。
「そうか、これが奴の能力か!」
アヒャの視線の先にはカラスが悠然と旋回をつづけている。
その様子はさながら、冷静沈着な狙撃手といったところだ。
すると旋回をやめ、カラスはは一気に急上昇した。
「・・・どうしたんだ?飛び去って・・・・・・?」

カツーン。

アヒャの近くで乾いた音がした。
「何だ?・・・木の枝か。」
その時マララーの声がした。
「危ないッ!」
「・・・ハッ!」

ドスッドスッドスッ!

「うッうわあッ!空から・・・!な・・・何だ?いったいッ!」
アヒャが空を向く。
「違うよ!・・・真横だ!」
「えッ!」
アヒャの背中を猛スピードで何本もの矢が突っ切った。
マララーの声に反応していなかったら間違いなくやられていた。
矢の飛んできた先を見ると先ほどのカラスが居た。

木の枝で注意を足元に引きつけておいての、上空からの不意撃ち!
さらに、それで上空に気を取られた瞬間を狙って畳み掛けるように側面から射撃。
カラスの知能が高いとはいえ、これほどまでとは・・・。

「ケケケッ!動揺しているようだな、人間!」
四人の頭に声が響く。
「・・・!カ、カラス!お前が話しているのか!?」
「そうだ、スタンド使い同士ならスタンドで会話をすることが可能!感覚で意思を理解できるのさ!」
そう言うとカラスはアヒャ達の目の前に降り立った。

45アヒャ作者:2004/01/25(日) 21:13

「お前!どうして罪の無い人たちを襲ったりした!」
シーンが叫んだ。
ピクッ
「罪の無い人だと・・・?」
カラスの声に怒りの感情が入る。
「あいつらに罪が無いだと、ふざけるな!あいつらさえ居なければあんな事にはならなかった筈なんだ!」
「ちょ、ちょいまって。その『あんな事』って言うのは・・・?」
「黙れ!お前らに話しても無駄だ!貴様ら見たところ俺の事を止めようとしていただろ。だったら・・・。」
カラスが矢を放った。今度はアヒャ達を狙ったわけではないようだ。
「てめえらの実力で止めてみなッ!」

ギャギャギャギャッ!

背後でスリップ音がした。
「う、うわああああ!!!!」
先ほどの矢が道を走っていた軽トラのタイヤをパンクさせてスリップ。
アヒャ達の方向に突っ込んできたのだ!

ドカーン!!!

トラックが直撃した。
だが・・・。
「・・・・あ、アブねえ。ブラッド・レッド・スカイの能力で血のエアバッグを作っていなかったら下手したら死んでいた。」
「フンッ!無事だったか・・・。」
早速携帯で連絡を取る。
「おい、ミツケタゾ!」
「本当か!今何処に居る?」
「分かんないけれど近くにベーカリーレストラン『三丸九』がある。あとは美容整形の『カミングアウト』って看板が見える。」
「そうか、そこなら俺が知っている。」
「本当か旦那!」
「けれど今俺たちが居る場所から大体10〜15分かかる。それまで持つか!?」
「ああ、何とか持ちこたえてみせる!」
携帯を切ったアヒャがカラスのほうを見た。
「お前は絶対に俺たちが止めるッ!」
「ホウ、やれるもんならやってみな!」
カラスの嘴の片端をつりあげたその表情は、まるで不敵に笑っているかのようだった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

46ブック:2004/01/26(月) 00:12
       救い無き世界
       第十二話・美女?と野獣 〜その4〜


 俺は今小耳を目指して走っている。
 後ろを振り返ると、黒い狼が牙を剥き出しにして俺に向かってくるのが見える。
 小耳のスタンドだ。
 確か、『ファング・オブ・アルナム』とか言ったか。

「しゃあああああああぁぁぁ!!」
 狼と俺との距離がある程度縮まったところで、
 狼は俺に急接近してきた。
「『スペランカー』!」
 俺は自分のスタンドを出して狼を迎撃しようとする。
 が、狼は紙一重で俺の拳をかわし、俺の背後へと回った。
「こいつ、ちょこまかと…!」
 攻撃のスピード自体では、俺のスタンドとこの狼とは互角だろう。
 しかしこの狼の敏捷性、瞬発力、加速持続力、俊敏性、機敏性は
 正に野性の猛獣のそれであり、正面きって戦うのは少し苦しい。

 もちろん、まともに戦っても絶対に勝てない、ということは無いだろうが
 もしこのスタンドが自動操縦型だとしたら、
 いくらこいつを倒しても無意味である。
 やはり一刻も早くの小耳もとに辿り着き、本体を直接攻撃するのがベターだろう。
 その為には…

「お前はそこで足止めを喰ってろ!」
 そばにある壁の一部を「脆く」して破壊。
 それにより壁が崩壊し、狼がその瓦礫に生き埋めとなる。
 もちろんこんな事ぐらいでこいつを倒せはしないだろう。
 間違いなく十数秒で狼はこの瓦礫から這い出てくる。
 だが、いい。
 時間稼ぎができればそれでいい。
 無理にこの狼を倒す必要は無いのだ。
 俺の勝利条件は、この狼に追いつかれること無く、
 本体である小耳モナーの所に到着することだ。
 奴は俺の『スペランカー』の能力で、既に無力化している。
 奴に近づきさえすれば、こっちのものだ。

「その為には、あの狼をどうにかしなければな。」
 俺はわざと小耳へと到達するための最短距離を通らず、
 脇道へと逸れながら小耳へと走った。

 小耳との距離は、まだ少しある。
 このまま走って行っても、人間並みの速度でしか走れない俺では、
 どうせ途中であの狼に追いつかれてしまうだろう。
 ならば、迂回しながらあの狼を撒く。
 もしあの狼が本体のもとに戻ったとしても、
 俺は本体に一撃入れただけで本体共々狼を始末出来る。
 それに対し、狼は満身創痍の本体を守りながら戦わねばならない。
 どちらが有利かは明白だ。
 万が一あの狼が本体の小耳を連れて逃げたとしても、
 その時はブラックホールの所に引き返して、
 ブラックホールと一緒にあの女を倒せばいい。
 SSSの情報はその女から聞き出せばいいし、人質にもなる。
 俺のスタンド『スペランカー』の能力を知った奴を生かして返すことになるが、
 それでも差し引きの結果は我々の方が得が多い。
 許容範囲内の損失だろう。

47ブック:2004/01/26(月) 00:12

 等ということを考えながら走っていると、
 俺の眼前にいきなり黒き影が舞い降りた。
「…馬鹿な……!」
 俺は狼狽した。
 何故この狼がここに居る。
 狼の方が俺より移動速度は速いだろうし、俺は回り道しながら進んでいたのだから、
 狼が俺より先に進んでいるのは分かる。
 だが、何故だ。
 この狼は何故おれがこの道を通っている事を知ったのか。
 偶然か!?
 いや、そんな筈は無い。
 本体に俺が先に近づいてはヤバいことはこの狼だって分かる筈だ。
 それなのに、この状況で偶然俺の所に辿り着く為に
 敢えて本体への最短ルートを通らずに脇道を通る事など「有り得ない」。
 間違いなく、この狼は俺が何処に居るか知っていたのだ。

 そういえば、さっきの出来事も妙だ。
 この狼は、俺とブラックホールとあのふさふさ女の所へとすぐに駆け付けて来た。
 小耳は俺たちが具体的にどの場所へ向かったのかなんて知り得ないのに、だ。

 ―――まさか、
 まさかこいつは、俺達を何らかの形で追跡している?
 だとしたら、どのように?
 待てよ。
 狼は確かイヌ科。
 ということは…まさか、「臭い」で!?


「アオーーーーーン!!」
 遠吠えの後、狼が俺に飛びかかった。
 俺はそれをかわす。

「!!!」
 俺は突然の痛みに気が動転しかけた。
 右の肩口から出血。

 どういうことだ!?
 さっきの狼の攻撃は、断じて俺には触れていない筈だ。
 なのに、どうして。

 続けざまに狼の爪が俺を襲う。
 必死に避ける。
 狼は地面に俺に命中しなかった爪を突き立てて着地した。

「ぐあ!」
 またもや俺の体に傷が刻まれた。
 左わき腹に「爪を突き立てられた」ような傷。
 何故だ。
 当たってない筈なのに、何故―――

 俺は目を見開いた。
 狼の爪は、地面に写った俺の影の「左わき腹の部分」に刺さっている。
 そして、俺の体の同じ場所に傷。

 …そうか、これが小耳のスタンドの『能力』。
 影への攻撃を、その影の持ち主にフィードバックさせる…!

「うおおおおおおおおお!!!」
 俺は全力で走り、近くの桟橋を渡る。
 狼は猛然と俺を追いかける。
「『スペランカー』!!!」
 桟橋を「脆く」する。
 桟橋は狼の重みに耐えれず崩れ落ち、狼は下の川へとまっ逆さまに落ちる。

 これも所詮一時凌ぎだ。
 このままではすぐにまた追いつかれる。
 だが、それは「このままでは」の場合だ。
 狼を撒く為の「策」は、一つだけある。
 だが、出来るのか?俺に。
 いや、やらねばならない。
 勝つ為には、やらねばならない。

 俺は、覚悟を決めた。

48ブック:2004/01/26(月) 00:13



     ・     ・     ・



 僕は倒れたその場所でじっとしていた。
 あのペンタゴンとかいう白タイツのスタンドのせいで
 全身がボロボロ、一歩たりとも動けなかった。

 ふさしぃの所へと『ファング・オブ・アルナム』を送ってから
 もうしばらく経つ。
 ふさしぃは大丈夫だろうか。
 まあ、あのふさしぃのことだから、大丈夫とは思うが。


「…辿り着いたぜ、小耳…!」
 突然の声に、僕は思わず声のした方向を向いた。
 少し離れた所に人影。
 あれは…白タイツ!?
 よく見ると、背中の羽の片方がなくなっている。

 馬鹿な。
 『ファング・オブ・アルナム』には奴の臭いをしっかりと覚えさせた筈だ。
 なのに、何故白タイツを追跡せずに、ここまでの接近を許す?
 白タイツに『ファング・オブ・アルナム』が倒された!?
 いや、違う。
 それなら倒された事が、感覚で分かる筈だ。
 では、一体どうして…

「俺の羽の片方を引き千切って、囮として置いておいた…
 お前の狼は、今頃それを見つけてる頃だろうぜ。
 囮に引っかかるかどうか、際どい賭けではあったがな。
 だが、賭けはどうやら俺の勝ちみたいだな…」
 白タイツは痛みに顔を歪めながら言った。

 狂ってる。
 『ファング・オブ・アルナム』を撒く為とはいえ、
 ここまでやるか!?

「…お前には、失った羽の償いをしてもらうぜ!!!」
 白タイツが僕に向かって突進してきた。

「小耳の親分!!」
 その後ろから、『ファング・オブ・アルナム』が白タイツを追いかける。

「ようやく囮に気づいて戻って来たか!
 だがもう遅い!
 その距離では追いつけん!!
 勝った!!!
 喰らええええええええぇぇ!!!!」
 白タイツがスタンドを発現させ、僕に襲いかかった。

49ブック:2004/01/26(月) 00:14


「!?
 なあぁ!!!!」
 しかし白タイツの動きは、僕の目前まで迫った所で止まった。

「気づかなかったのかモナ?
 今はもう夕暮れ、日は西に沈みかけているモナー。」
 僕は内心ちびりそうだったのを隠しつつ、落ち着いた声で言った。

「影は当然東に向かって伸びるモナ。
 夕暮れだから、それも相当長く…
 そして君は東から僕に向かって来たモナ。
 その長く伸びた影を、『ファング・オブ・アルナム』に晒して。」
 『ファング・オブ・アルナム』の牙は、
 白タイツの影の頭の部分に喰い込んでいた。
 白タイツの頭に歯形の傷がつき、そこから血が滴り落ちる。

「たとえ『ファング・オブ・アルナム』が君自身には追いつけなくとも、
 君のその影には何とか追いつけたようモナね…」
 全く僕は今日は運が良かったとしか言いようがなかった。
 もし奴が別の方角から僕に向かって来ていたなら、
 僕は間違いなく負けていただろう。
 しかし、それでも勝ちは勝ちだ。

「やるモナ!!
 『アルナム』!!!」
 僕はアルナムに向かって叫んだ。
「ぐおにいいいいいいいいいい!!!」
 白タイツが叫び声を上げ、その白い体を『ファング・オブ・アルナム』によって
 紅く染め上げられていく。
 そして、やがてその叫び声も聞こえなくなる。


「もういいモナ、『アルナム』。
 殺しちゃ駄目モナ。」
 『ファング・オブ・アルナム』は白タイツへの攻撃を止めた。
 白タイツは完全に白目を向いてしまっている。
 これなら、当分は立ち上がって来れないだろう。

「済みません…小耳の親分。
 不肖『アルナム』、まんまといっぱい食わされました。」
 『ファング・オブ・アルナム』が申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいモナよ、『アルナム』。
 モナは無事だったから、何も問題無いモナ。」
 僕は優しく語りかけた。
「しっかし…今日は本当に運が良かったモナ。
 下手したらあのままやられちゃう所だったモナ。」
 ほっと胸を撫で下ろす。

「お言葉ですが親分、今日は運が良いとは言えませんぜ。」
 『ファング・オブ・アルナム』が浮かない顔で言った。
「?どういう事モナ?」
 僕の問いかけに、『ファング・オブ・アルナム』は黙ってとある方向に鼻先を向けて
 僕の視線を促した。

「あ……」
 僕は絶句した。
 すっかり忘れてしまっていた。
 買ったばかりの新車がスクラップになっていた事を。

「嫌あああああああああああああああああ!!!!!!」
 日は既に沈みきり、
 僕の叫びがほの暗い街中に虚しく響き渡っていった。



   TO BE CONTINUED…

50新手のスタンド使い:2004/01/26(月) 19:40
乙です

513−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/27(火) 01:50
>>ブック氏、アヒャ作者氏、さ氏
乙です!…ううん、やっぱり皆さん上手だ…頑張らないと……。

「スロウテンポ・ウォー」

影色の輪舞曲(ロンド)・2

<日ノ本町・高級マンションの最上階…>

カーテンを開けると、日ノ本町が一望できる。
彼女が“本拠地”をここに構えた理由が少しだけ理解できる。
「…いい部屋だな。だが、少し殺風景過ぎやしないか?」
「あら?私はこの方が好きよ。無駄がなくていいじゃない?」
…俺の言葉を簡単にあしらう彼女。
バルコニーへと出て、大きく深呼吸をすると、俺に向かってこう言った。
「ねぇ…私も少しは風格が付いたかしら?ギャングの親玉としての、風格は」
「……さぁな」
「元マフィアである貴方の率直な意見を聞きたいの。どうなの?」
こちらを見つめる彼女。俺は煙草に火を灯して、こう返した。
「確かに俺はマフィアだった。だが、“革命家”の親玉には会ったことがないからな。」
「あら…私たちはストリートギャングよ?革命家なんて心外。」
よく言うな…俺は内心感服する。
所属していたマフィアが抗争に敗れて壊滅…路頭に迷っていた俺を拾ってくれたのが彼女だった。
彼女は気高く、美しい獣だ。
「アンタはストリートギャングなんて似合わない。革命の聖母、ジャンヌ=ダルクの方が似合っている」
「お世辞が上手ね」
「お世辞じゃないさ。俺はアンタが世界を返れる“力”があると知ったから、協力したんだ」
俺の言葉を聞かないフリをして、彼女は部屋に戻り…また別の部屋へと入った。
俺はそれを追う。あの部屋は…たしかベッドルーム。

523−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/27(火) 01:51
「………。」
其処に居るのは、一人の“でぃ”だった。ただ元はギコ種だったらしい。
でぃは、しぃ種に限った話ではなかったのか…と、最初に驚いたのをよく覚えている。
「…弟の世話をしているアンタは、どこにでも居るお嬢さんだな。」
「その誉め言葉の方が、嬉しいわ…。さあ、ディス…ご飯にしましょう。」
ディスと呼ばれたでぃを連れて食卓へと向かう彼女。
「…答えてくれないか、シィク=ワン。アンタはその“力”でどうしたいんだ?」
彼女は、ZEROのボス・シィク=ワンはこちらを向いて微笑んだ。

「決まってるじゃない」
「私の耳と、ディスから全てを奪ったのは…この世界よ」
「ディスをこんな目に合わせた“世界”に復讐するの」
「そのために、まずは自警団を…そして、この町をボロボロにしてあげるわ」
「貴方はそれに賛同してくれたでしょう…ねぇ、コロッソ?」

…ああ、やっぱり。
彼女は。いや、この方は。
仕えるに値する女性だ。
俺の、いやZEROのジャンヌ=ダルク。
片耳の女王、シィク=ワン。

「ああ、そうだった…忘れるところだったわ。」
「なんだい?何か、買い物か?」
「“あっそー”にね、八頭身フーンの尾行をさせてたのよ」
「………もっと早く言って欲しかったな、そういうのは。」

……ああ、やっぱり。
この方は、俺がついてないとダメかもしれない。

533−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/27(火) 01:52
<同時刻・日ノ本町スラム街>

…なんだコイツは。さっきから俺を観察しているのか?
「…何の用件だ」
「……尾行だが、それがどうかしたか?」
……殺すか。
「…忠告だ。俺はZEROに容赦をするつもりは無い。」
「奇遇だな、私も自警団に容赦をするつもりは無い。」
…そうか…よし、殺す。

「……その無表情なツラ、もっと愛想のいい顔にしてやるよ……」
とりあえず、蹴る。蹴って、踏んで、逃げる。
「…ここからは、お前の姿が良く見える…」
あっそーは動かない。(まぁ、あんな体型だから動けないだけかもしれんが)
「だからどうした。俺もお前の姿が良く見える…」
「つまり。こういう事だよ、八頭身フーン君。」
…余裕だな。ああ、クソムカツク。……!!

ゴゴゴゴゴッ……!!

「なっ…!!地震かっ…!?」

地面が、揺れる……っ!!
ダメだっ、立ってられない……!!

ガッ……!!

「ぐあっ…!」
派手に転んでしまった…失態だ。クソ。頭を打った。
「…大震災だったろう。まぁ、君に限っての話だが」
「…な…んだと……?」
あっそーの言葉に周りを見渡す…誰も、今の地震に気付いていない?
いや、それどころか…俺の傍にあったゴミ箱すら、倒れてもいない…?!

543−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/27(火) 01:56
「……スタンドかっ…!」
「ご名答だよ、フーン君。私のスタンドだ。…先ほどの地震も、そして今の地震も……!」

ゴゴゴゴゴ…!!

「ぐああっ……!!」
まり球のように、俺の体が跳ね飛ばされる…!
受け身を取りそこなった、背中を強打する。
「…無様だよ、フーン君。とても、観察には好ましい姿だ。」
……なるほど、俺にだけ地震……いや、これは恐らく…
「振動か…ピンポイントで、物体に強い振動を与える能力が、お前のスタンドか」
「…御名答。私の“サム・ハード・リアクション”は振動を操る力だ。」
……スタンド使いが相手か。…さぁ、どうする…。

<TO BE CONTINUED>

名前:シィク=ワン
所属:ZERO
詳細
現時点で判っているのは、彼女がZEROのボスであり…
彼女が望むのは、世界に復習する事だという事。

名前:ディス=ワン
所属:ZERO
詳細
シィクの弟。ギコ族。現在は“でぃ”状態にある。

名前:コロッソ
所属:ZERO
詳細
元マフィア組織幹部。シィクを神聖視する忠実なZEROの幹部。

55:2004/01/27(火) 17:03

「―― モナーの愉快な冒険 ――   逮捕されてしまったっス!・その1」



 俺は、留置場に押し込められた。
 ご丁寧に、檻の隙間には金網が張ってある。
 南京錠を施錠する音。
 房の中には、安っぽい布団とマクラしかない。
 隅には、便器が備え付けられている。
 俺は、壁にもたれて座り込んだ。

「兄ちゃん、一体何しよった? エライぎょうさんヒネ連れてたみたいやったが…」
 隣の房から中年の声がした。
 確かに、この房に押し込められる時、周囲に警官は5人いた。
 別に、反抗したりはしていないのだが…

「人を殺したモナよ…」
 俺は答える。
「ほぉ! 若いのによくやるねぇ。で、何人殺った…?」
 嬉しそうに聞いてくる男。
「…15人」
 俺は無造作に答えた。
「はっ! 冗談キツいな、ニーチャン!」
 嘲るような笑い。

「証明してやろうか? 冗談じゃない事を…」
 俺は殺気を交えて言った。
「…!」
 たちまち、隣の男は静かになる。
 俺は、ため息をついた。



 正月に俺の家は半壊した。
 馬鹿達がお祭り騒ぎを仕出かしたせいだ。
 だが、ASAが建築業者を派遣してくれたお陰で、だいたい元通りになった。
 ASAに感謝と言いたい所だが、諸悪の根源はしぃ助教授だった気もする。
 これで貸し借りなしといったところか。

 そして1月8日。
 正月から三学期の開始まで、一瞬のように感じた。
 月日は百代の過客にして…というやつだ。
 学校では、特に変わった事はなかった。
 いつも通りの毎日。
 そう、家の前で待っていた二人の男に会うまでは…

「モナー君だね?」
 男の一人は話しかけてきた。
「そうモナ…」
 俺は返事をする。
「私は、こういう者なんだが…」
 男は、茶色い手帳を縦に開いた。
 上部には、男の写真と名前。そして『警部』の文字。
 下部には、警察の星形バッジ。
 こいつ、刑事だ…!

「君に逮捕状が出ている。容疑事実に間違いはないかね?」
 刑事は紙切れを見せた。
 罪状の欄には、殺人罪、死体損壊罪とある。
 そんな…
 俺は眩暈を感じた。
「…モナはやってないモナ」
 それを言うのがやっとだ。
「そう言われても、逮捕状はちゃんと出てるんだよ」
 刑事は紙をピラピラさせた。
 もう一人の刑事が、俺の両手に手錠を嵌める。
 意外に軽い音だ。
「じゃ、16時05分、君を逮捕します」

56:2004/01/27(火) 17:04

 そして、俺は取調室に入れられた。
 部屋の真ん中に、安っぽいテーブルが置いてある。
 向き合うように置かれているパイプ椅子。
 俺は、その椅子に座らされた。
 腰紐が椅子にくくりつけられる。

 取調官は、俺を逮捕した警部がやるようだ。
 若い刑事がそのサブにつく。
「君には黙秘権がありますので、そのつもりで」
 取調官は言った。
 何がそのつもりで、だ。
「カツ丼はないモナ?」
 俺は訊ねた。
「そういうのは、利益誘導にあたりますのでねぇ…」
 取調官は煙草を吸い始める。

 さて、どうするか…
 しばらく待てば、リナーが警察に手を回してくれるだろう。
 だから、こんな取り調べに付き合う必要はない。
 殺したのは、俺ではないのだから…

 取調官の質問を、俺は悉く無視した。
 これが刑事ドラマなら、サブの若い刑事がキレ出すところだろうが、彼は黙々とメモを取っている。
 次から次へと質問を投げかけてくる取調官。
 もう一人の俺がやった事で、俺自身には何ら関わりがない。
 ただ、時間が過ぎるのを待っていた。

 …2時間ほど経っただろうか。
 日が落ちて、周囲は暗くなってきた。
 リナーは、何をしているだろうか。
 流石に俺の帰りが遅いのには気付いているだろうが、逮捕されているとは思わないだろう。
 警察に手を回すのにどのくらい時間がかかるのかは分からないが、今日は帰れそうにないな…

 取調室にラジカセが運び込まれた。
 かなり古いタイプのやつだ。
 何をするつもりだ?
 取調官は、若い刑事にヒラヒラと手を振った。
 メモを取っていた刑事の手が止まる。
「よく聞きたまえ。これが、君のやった事だよ」
 取調官が再生ボタンを押した。

『お願いします! どうか、どうか犯人を…』
 悲痛な女性の声。
「君が殺した、最初の犠牲者の母親だよ」

 犠牲者の母親…?

『もちろんです。我々は捜査を続けておりますので…』
 警官らしき人の声。
『娘を殺した犯人を捕まえて、死刑にして下さい…!』
 悲痛に訴える母親。
 胸が痛む。
 だが、『俺』は殺してなんかいない。

 プツッ、という音。
 続いて、淡々とした女性の声が流れる。
『娘は、小さい頃から我侭も言わない子でした。女手一つで育てたにもかかわらず、屈託なく育ちました。
 最期に家を出るときも、いつものように『行ってきます!』って…
 それが、もう帰ってこなくなるなんて… 犯人を、殺してやりたい…!』
 女の声に感情は全くこもっていない。
 それが凄く怖い。

「止めてくれ…!」
 俺は我慢できずに言った。
「そうはいかんよ。これが、君のやった事なんだ」

 再び、プツッという音がした。
 さらに流れる声。
『グスッ…ど、どうか… 犯人を…!』
 嗚咽が混じってよく聞き取れない。
 後半は、言葉にすらなっていなかった。
 ただ、悲痛な泣き声が聞こえるのみ。

 …眩暈がした。
 周囲が歪んで見える。
 足元から何かが崩れ去る。
 ――俺が殺した?
 ――15人の女を、この手で殺した…

 ラジカセからは、絶えず流れ続ける怨嗟、怒号、怨念、憎悪。
 俺は殺してないだって…?
 そんなのは欺瞞だ。
 『もう一人の俺がやった』。そんな言い訳が、理不尽に家族を奪われた人間に通じるはずがない。
 殺したのはこの身体じゃないか。
 この手で被害者を絶命させ、その腹を裂いた。
 それは事実。
 つまり…俺が殺した?


「俺はやってない…」
 息を荒げながら呟いた。
「随分とトーンダウンしたね、さっきより…」
 取調官は煙草の煙を噴き出す。
「まあいい。今日はここまでにしておこうか」
 そう言って、取調官は立ち上がった。
 外される腰紐。
 そして、俺は取調室から連れ出された。
 警官5人に囲まれて、無機質な廊下を通って階段を降りる。
 俺は、留置場に押し込められた。

57:2004/01/27(火) 17:05

 壁にもたれて、向かいの壁を眺めながら俺は考えていた。
 俺は何なんだ?
 15人もの命を奪っておいて、『殺人鬼』は身体を共有しているだけの他人?
 そんなもの、理由にもならない。
 罪の意識を感じるのは筋違い、ずっとそう思い込んできた。
 馬鹿げている。
 そんな理屈、被害者の家族には何の力も持たない。

『君は殺人者なんかじゃないさ。罪を犯したのは君の中の別人なんだから、
 君を責める理由はない。殺したのは、君の意思ではないのだから…』
 リナーはそう言ってくれた。
 だが、今はそうは思えない。
 そんなのは、身勝手な理屈だ。
 『殺人鬼』は、俺と全く関わりのない人間なんかじゃない。
 ヤツも俺の一部なんだ。
 関わりのないような顔をして、罪から逃げ出して、俺はのうのうと生きてきたんだ…


 …これからどうする?
 そんなのは言うまでもないことだ。
 これ以上、この町で犠牲者を出さないようにする。
 これまでと同じ結論だが、俺はこの3ヶ月間、無意識に関わる事を避けてはいなかったか?
 俺一人では何も出来ないとか、単なる言い訳に過ぎない。

 もう、俺は自分からは逃げない。
 殺したのは、あくまで俺なんだ。
 その事実は変わらない。
 俺は、死ぬまでこの罪を背負っていく。
 だが、大人しく捕まるわけにもいかない。
 俺には、やらなければならない事がある。
 この町を守る為に――

 ――本当にそうか?
 ふと、疑念がわいた。
 俺は本当にこの町に愛着があるのか?
 6歳以前の記憶がない以上、この町に生まれ育ったのかも分からない。
 この町を守る、という事そのものを逃げにしていないか?

「…違う!」
 俺は頭を振った。
 この町で、吸血鬼によって120人もの人間が殺されている。
 これは正当な義憤だ。
 吸血鬼を許さないと思うのは、当然の感情だろう。
 そうだ。
 俺は、『殺人鬼』なんだ。
 罪も無い人間に向けた刃を、吸血鬼に向けるだけの話。
 とにかく、ここを出ないと…
 だが、どうやって?

 俺はため息をついた。
 リナーの顔が頭に浮かぶ。
 今頃、何をしているだろうか。
 何故か、リナーに会った日の事が思い浮かんだ。
 倒れてて、家に連れ帰って、料理?を作ってもらって…
 そして、吸血鬼との戦い。
 じぃを殺した後、俺が打ちひしがれた時もそばにいてくれた。
 その時、「俺は、お前のような化物とは違うんだ!!」なんて暴言を吐いたなぁ…
 今さらだが、最低にもほどがある。
 そして、『矢の男』との戦い。しぃ助教授との対立…
 『矢の男』との戦いでは、俺の治療を優先して、致命的な一撃を受けたこともあった。
 命を呈して、俺を救った…?
 などと思ったが、リナーは全然無事だった。
 そして、クリスマス。
 今思えば、かなり美味しかったのかもしれない…
 そして、俺がこんな目に会っていると知れば、ただちに手を打ってくれるだろう。
 だが… いつまでもリナーに頼っているわけにはいかない。
 リナーを守ると誓ったにもかかわらず、リナーには守られてばかりだ。
 自分の身に降りかかった火の粉ぐらい、自分で払わないとな…!

58:2004/01/27(火) 17:09

 俺は『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 2時間ほどかけて、顔面の表層に近い毛細血管を丁寧に『破壊』する。
 武器も何もないので、爪を使った。
 一週間ほど爪を切っていなかったのが幸いしたようだ。
 身体に影響は出ない程度に、『破壊』し終わる。

 俺は、見張りの位置を確認した。
 見張りは二人。
 房が5つ並んでいて、俺の房は真ん中。
 その房の前を、見張りAがウロウロしている。
 房から少し離れたところにブースがあり、そこに見張りBがいる。
 そのブースには警報装置が設置されているのは明らかだ。
 見張りBの位置からは全ての房が見渡せるので、異常があったらすぐ気付かれる。
 仮に扉を破って、速攻で見張りAを倒したところで、瞬時に見張りBに見つかるのだ。
 ヘビーだが、仕方がない。

「モ、モナ―――ァッ!!」
 俺は寝転がって、大きな悲鳴を上げた。
「…どうした?」
 見張りAが房内を覗く。
「オ、オナカが痛いモナ…」
 俺は息を荒げながら言った。
「腹痛だと…?」
 見張りAは怪訝そうに房内を覗き込む。
 そして、俺の顔色を見て血相を変えた。
 表層の毛細血管を破壊した為、俺の顔は異常な色をしていたのだ。
「な…!」
 見張りAは鍵を開けると同時に、トランシーバーを取り出した。

 ――今だ!!
 俺は飛び起きると、見張りに飛び掛った。
 見張りAはトランシーバーのスィッチを押す。
 その瞬間、俺は電波を『破壊』した。
 通じなくなるトランシーバー。
 その一瞬の隙をついて、見張りAの鳩尾に膝を叩き込んだ。
「グッ…」
 ズルズルと崩れ落ちる見張りAの身体。
 それを房内に引きずり込む。

 まだだ。
 まだ、見張りBがいる。すぐに異常に気付くだろう。
 俺は見張りが所持していた警棒を手に取った。
 見張りBは、こっちを注視している。
 房が開いて俺の姿を見た瞬間に、手元の警報装置を押す事が予想される。
 一瞬で気絶させる必要があるな…
 当て身は意外と難しいが、『アウト・オブ・エデン』で狙いはつけられる。

 俺はゆっくりと房の扉を開けた。
「…!?」
 見張りBの視線が、俺の房に集中する。
 俺は奴の顔面を狙って、見張りAの持っていたトランシーバーを投げつけた。
 それは、奴の鼻先へ見事にヒットする。
 …あれは痛い。

「がっ…!!」
 奴は両手で顔面を押さえた。
 その一瞬でブースまで接近すると、見張りBの首筋に警棒での一撃を叩き込んだ。
「ごはっ!!」
 見張りBの身体はドサリと崩れ落ちる。
 …これでよし。
 だが、のんびりとはしていられない。
 なにせここは警察署内。応援なんて、あっという間に集まってくる。
 ここは地下2階。
 単独で脱出はキツいな。
 …こうなったら、派手に陽動作戦だ!!


「みんな、ここから出るモナ…!」
 俺は、全ての房の鍵を開けた。
「おおっ! ニーチャン、やるねぇ…」
 犯罪者っぽい人達がぞろぞろ出てくる。
「みんなで、脱出するモナよ!!」
 俺は右手を高く掲げた。
「ウォォォォォォ!!」
 向こうもノリノリだ。
「じゃあ、明日に向かって走るモナ!!」
「ウォォォォォォ!!」
 犯罪者っぽい人達は、一斉に階段に詰め掛けた。

 そして、俺は一人エレベーターに乗る、…っと。
 しっかり暴れて、せいぜい警官引きつけてくれよ、犯罪者っぽい人達。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

59ブック:2004/01/28(水) 01:22
       救い無き世界
       第十三話・軋轢 〜その一〜


 目が覚めた。
 どうやら仰向けの状態で眠っていたみたいだ。
 ぼんやりとした頭で首を動かして辺りを見回す。
 どうやら、どこかの知らない部屋の中みたいだ。
 しかし、俺は何でこんな所に居るんだ?

 ―――思い出した。
 そうだ、俺はあのふさふさ女と闘っていたのだ。
 ぼさっと寝ている場合ではない。
 急いで起きなければ。

「!!!な!?」
 起き上がれない。
 どうやら、体が頑丈な拘束具のような物で
 手術台のようなものに縛り付けられているようだ。
「くそっ、何だ、これは…」
 しかしどれだけ力を込めても、拘束具はビクともしない。
 ならば、俺のスタンド『メット・マグ』で…

「おや、ようやく起きられましたか。」
 不意に誰かの声が俺の耳に聞こえてきた。
 その軽い口調に、俺は少しだけ不快感を覚える。
「…誰だ……!」
 俺はドスを利かせた声で声の主に尋ねた。
 もっとも、こんなみっともない姿ではあまり威圧感は無さそうだが。
「申し送れました。私、タカラギコといいます。
 以後お見知り置きを。」
 わざとらしい程丁寧な態度で、その男は答えた。
「いかがです?我がSSS特性ベッドの寝心地は。」
 一々気に障る野郎だ。
 待ってろ、今すぐこの拘束具なんかぶち壊しててめえを殺してやる。

「スタンドは出さない方が良ろしいですよ。」
 俺がスタンドを出そうとした瞬間、タカラギコとかいう男が
 それを制するように言った。
「何…?」
 俺は思わず聞き返す。
「あなたがスタンドを出した瞬間、ベッドに高圧電流を流します。
 死にはしませんが、かなりの苦痛でしょうね。お勧めできません。
 それでも無理にスタンドを使おうとするなら、
 周りの近距離パワー型のスタンドの使い手達があなたを取り押さえます。」
 俺はその言葉を聞いて、ようやく俺の周りを何人もの男達が
 厳重に取り囲んでいる事に気が付いた。
「もし彼らでも止められないような事があっても、
 その時はあなたに銃弾のシャワーが降り注ぐので、そのつもりで。」
 タカラギコは事務的にそう言い放った。
「あ、そうだ。あなたの他にもう一人いたんだった。
 会わせてあげますよ、お仲間さんに。」
 タカラギコはそういって周りの男の一人に指で合図をした。
 すると十秒もしないうちに、白タイツに身を包んだ男が俺の前に連れ出される。
「ペンタゴン!」
 俺は思わず叫んだ。
 ペンタゴンは、体を拘束具でがんじがらめにされ、動きを封じられていた。
 ただ、俺のようにベッドに括り付けられてはいない。
「う…ブラックホール……」
 ペンタゴンが呻くように俺の名前を呼ぶ。
 どうやら、かなり衰弱しているようだ。

60ブック:2004/01/28(水) 01:22

「いやあ、感動の再開と言った所ですか、泣かせますねぇ。
 私好きだったんですよ、島田○介が司会をしていたそういう番組。
 それが終わってしまった時、凄くがっかりしましたよ。」
 タカラギコは嘲るような笑みを浮かべる。
「てめえ、俺達をどうする気だ…!」
 俺はタカラギコを睨み付けた。
 もし出来るなら、三回はこのいけ好かない野郎を殺しているところだ。

「いや、大した事じゃありません。
 あなたがどういう理由でスタンド使いになって、
 どういう理由であんな事件を起こし、
 どういう者があなたの背後にいるのか聞きたいだけです。」
 タカラギコが、俺の顔を相変わらずの嫌なにやけ顔で覗き込んだ。
「全く、道路は酷い有様でしたよ。
 死傷者は五十人以上出るし、交通網は一時的に麻痺するし。
 この前の『デパート爆破事件』程じゃないにしろ、
 相当悪質で、非人道的な事を仕出かしてくれましたね。」
 タカラギコはやれやれと言ったように肩をすくめた。
「まあ、私の考えではその『デパート爆破事件』の犯人と、
 あなた方とは何かしらの共通点が有ると見てるのですがね。」
 タカラギコは俺の反応を観察するように俺の目を見つめる。
 俺は思わずそいつから顔を背けた。

「そう考えた場合、あなた達の背後にはかなり高い確率で
 何らかの組織がいると推測できる。
 デパートを一つ丸ごと爆破出来る程の爆薬なんて、
 個人一人の力では到底用意することなど不可能でしょう。
 まあ、あなたがどこぞの裏社会に通じる大富豪と言うなら話は別ですがね。」
 タカラギコはそう言うとクックと含み笑いをした。
「で…喋って貰えませんかね?それらについて、洗いざらい。」
 タカラギコは挑発するように言った。
「けっ、簡単に喋るとでも…!」
 俺はドラマとかでお決まりの台詞を吐いた。
「それは困った。でも何とか考え直してくれませんか。
 僕はあなたに酷い事をしたくはない。」
 タカラギコは少し困った顔をしてみせた。
「ふん、そう思うんなら、すぐにでも俺をここから出して欲しいもんだね。」
 俺は厭味ったらしい口調で言った。

「…勘違いしないで下さい。
 私はあなたの身を案じている訳じゃない。」
 俺の体中に、鳥肌が立った。
 タカラギコの顔には、先程から変わらぬ笑みが浮かんでいる。
 しかし、その雰囲気はさっきまでとは明らかに違う。
 恐ろしい程冷たく、暗い気配がそこには漂っている。
「私があなたをむやみに傷つけると、私の同僚達に嫌な思いをさせてしまうんですよ。
 彼等は、本当に良い人達ですからね。
 甘すぎると呆れもしますが、だからこそ私は彼等を尊敬する。
 闇に身を沈める事があっても、心までは闇に染めないその気高さを。」
 タカラギコの顔からは、すでにあの不愉快な笑顔は消えていた。
 変わりに、能面のような無表情がその顔には貼りついていた。

「喋りすぎましたね…
 ではそろそろ始めさせて貰いましょうか。」
 タカラギコはそう言うと俺の口に猿轡を咥えさせた。
「ああ、そこのペンタゴン君とやらにも猿轡を。
 自害されてはたまりませんから。」
 その言葉を聞いて、男達はペンタゴンにも猿轡をさせた。
 何だ。
 一体何をしようってんだ。

「さて…では行きますか。」
 タカラギコの手には大きな金ノコが握られていた。
「それでは説明しますね。
 今からあなたの体をこの金ノコで一センチ間隔で輪切りにしていきます。
 さっきも言いましたが、スタンドで抵抗しようとしても無駄ですよ。」
 タカラギコは事も無げに言った。

 おい、冗談だろ!?
 いくらなんでも、そこまでやる訳無いよな。
 お前らは確か正義の味方みたいなものだもんな。
 拷問の禁止は憲法で定められてる事ぐらい、いくら何でも知ってるだろう。

「本当はもっと凝ったやり方もあるんですけど、
 我々も出来るだけ早く情報が欲しいので、こんな野蛮な方法になってしまって
 申し訳ありません。
 何か喋りたくなったら、このボタンを押して下さい。」
 そう言ってタカラギコは俺の手に何かスイッチのような物を握らせた。
「ああ、そうそう。
 今までの最高記録は七十六センチです。
 もっともその記録保持者はその後すぐに死にましたけど。」
 タカラギコはそういうと、おもむろに俺の足先に金ノコを当てた。

「―――!―――っ―――――――――!!!!!」
 発狂する程の痛みが俺を襲う。
 猿轡を咥えさせられたまま、俺は声にならない悲鳴を上げた。

61ブック:2004/01/28(水) 01:23



     ・     ・     ・



「記録は十七センチでした。いやあ、もっと頑張ると思ったんですけどね。
 まさか二十センチ台にも届かないとは。」
 体に付いた血を落としながら、
 タカラギコが世間話をするかのような口調で話した。
「…タカラギコ、そんな話は止めるょぅ。」
 私はタカラギコに厳しい声で言う。
 皆も一様に顔をしかめる。
 やはり、拷問はどうにも肯定的には見る事は出来ない。

「…失礼。調子に乗り過ぎました。」
 タカラギコが頭を下げる。

 …だが最低なのは私だ。
 汚い役をタカラギコに押し付けて、
 自分は手を汚すことなく、奇麗事ばかり考えている。
 実際、いつまたスタンド使いによる犯罪が起きるか分からないこの状況で、
 あの白黒の男達からこれ程早く情報を引き出す方法が、
 拷問以外にあったのか!?
 それなのに、私は一瞬でもタカラギコの事を軽蔑してしまったのだ…!

「…そんな顔をしないで下さい皆さん。貴方達は、それで良いんです。」
 タカラギコが、場を和ませる為に微笑んだ。
 私達は、そんな彼に何も言葉をかけられなかった。


「…ブラックホールとか言う男から聞き出せた事を話しますね。」
 重苦しい空気に押し出されたかのように、タカラギコが言葉を発した。
「まず彼等の後ろにはやはりある組織が存在していたようです。
 その名前は『大日本ブレイク党』」
 …スチールボールDaDaDa?
 ではない。
 聞いたことがある。
 確かその組織は…

「おい、それってあの国内最大規模の革丸過激派組織の実行部隊じゃねえかゴルァ!」
 ギコえもんが大声で言った。
「ええ、間違いないでしょうね。」
 タカラギコが静かに返事をする。
「そんな奴らが、何で街を目茶苦茶にしようとするモナ!
 その革何たら派の理念実現の為モナか!?」
 小耳モナーが声を荒げた。
「いや、違うょぅ。彼等は多分そんな事に興味は無ぃょぅ。」
 私は小耳に向かって話しかけた。
「彼等は政治思想理想理念信条、一切関係無いことで有名だょぅ。
 彼等の目的はただ一つ、『破壊活動』それだけだょぅ。
 そのあまりの狂気的性質から、組織内でも異端視されていたと聞くょぅ。」
 それを言葉にするだけで私は怒りを覚えた。
 『破壊の為の破壊』そんな下らない理由で、
 多くの罪無き人の命を奴らは奪ったのかと思うと、反吐が出そうになる。
 絶対に、許せない。

「ちょっと待って。でもその『大日本ブレイク党』は、
 本体である組織の解体と道連れに消滅した筈よ?」
 ふさしぃが疑問を口にした。
 確かにそうだ。
 件の組織は、だいぶ昔に消え去っている。
 それがなんで今更復活してきたのだ?
 それも、スタンド使いや大量の爆薬等、尋常でない戦力を備えて。
「後、どうやら彼等は変な男に『矢』の様な物で刺されて、
 スタンドが発現したようです。」
 タカラギコの言葉に、場の空気が凍りついた。

 『矢』…?
 『矢』だって!?
 まさか、『矢の男』はこんな事にまで関わっているというのか?

62ブック:2004/01/28(水) 01:24

「彼等から聞き出せたのはここまでです。
 どうやら捕虜から秘密が漏洩しないように、
 彼等には最低限の情報しか与えていないみたいですね。」
 タカラギコはそう言って頭を横に振った。
「…どうやら相当の大事になってるみたいね。
 過去の亡霊、現世に甦り災厄を撒き散らす…か。」
 ふさしぃが重い口調で喋った。
「関係ねえよ。それなら、今度こそ完全に成仏させるまでだゴルァ!
 俺達、SSSでな!!」
 ギコえもんが吼えた。
 その眼には、燃えんばかりの激情が宿っている。
「ああ、そうだょぅ…!!」
 私もそれに続いた。

 止めねばならない。何としても。
 これ以上、奴等の好きにさせてなるものか…!

 私は拳を強く握り締め、そう誓った。



     ・     ・     ・



「…四次元殺法コンビを討つとは、中々やるようだな、SSS。」
 1総統は椅子に腰掛けながら、梅おにぎりにそう語りかけた。
「1総統、如何致しますか?
 何ならばこの私梅おにぎりか、マニーが直々にSSSを相手にしますが。」
 梅おにぎりは、そう言って隣のマニーと呼んだ男を見た。
「いや、まだ君達程の手練が出るには早すぎるよ。
 そんな事より、お客様だ。」
 1総統は向かいのドアを指差した。
 ゆっくりとドアが開き、一人の男の姿がそこに現れる。
「ようこそ。で、何の用かね?」
 1総統はその男に尋ねた。

「…資金の『寄付』と、『伝言』が二つある。」
 男は1総統達に向かって歩み寄りながら、低い声でそう告げた。
「まず金だ。」
 男は1総統の前の机にトランクを乗せた。
 蓋を開くと、びっしりと詰まった札束が露になる。
「いつもいつも済みませんねえ。優しい足長おじさん。」
 1総統は男に笑みを投げかけた。
「そして一つ目の『伝言』。
 『派手にやり過ぎるな。今はもう少し大人しくしていろ。』」
 男は1総統の微笑には歯牙にもかけず、無愛想にそう言った。
「そして二つ目。『この男を捕獲しろ。もし出来なければ、殺して構わん。
 但し、さっきも言ったようにあまり派手にはせずに、だ。』」
 男は机の上に一枚の写真とそれに写った男に関する資料を置いた。
「…彼は何者なのですか?」
 梅おにぎりが男に聞いた。
「スタンド使いだ。後はその資料に書かれている事以外知る必要は無い。
 以上だ。」
 男はそう言って振り向くとさっさと部屋を後にした。

「…一々我々に口出しするとは。
 そろそろ奴を消しますか?1総統。」
 梅おにぎりは殺気を剥き出しにして1総統に判断を仰いだ。
「止し給え。あまりスポンサー様を怒らせるものではない。」
 1総統はそれを諌めるように言った。
「しかし…この男が何だというのだろうな。」
 1総統は写真の中の男を見つめた。

63ブック:2004/01/28(水) 01:25



     ・     ・     ・



 私を舐めまわすように見つめる目、目、目。
 私を掴まえ押し倒そうとする手、手、手。
 私は必死にそれから逃げようとするが、ついには追い詰められてしまう。
 しかしあと少しという所で、一人の女性が私を庇う。
 知っている。
 私はこの人を知っている。
 駄目。
 私なんか放っておいて逃げて。
 でないと、あなたは、あなたは…

 突然の銃弾。
 女性は胸を撃ち抜かれて倒れる。
 早く、早く私の『マザー』で治さないと。
 しかしその間にも目と手は私に迫ってくる。
 でも、駄目だ。
 この人を見捨てるなんて出来ない。
 治さないと、治して一緒に逃げないと…

「あなたは生きるのよ…みぃ。」
 女性は小さくそう呟いた。
 その言葉と共に世界がひび割れ、私と女性は遠く隔てられた。
 違う。
 それを私は望んだのだ。
 女性を見捨てて逃げることを…!

「わああああああああああああああああああ!!!!!」
 いつまでも追いかけてくる過去。
 逃れられない悪夢。
 私が犯した赦されざる罪。
 穢れたこの体よりなお醜き心。
 私は叫びながら絶望の世界へと沈んでいった。



     ・     ・     ・



「わああああああああああああああああああ!!!!!」
 突然の悲鳴に俺は跳ね起きた。
 時計を見ると深夜の四時を指している。
 誰だ、こんな夜更けに人騒がせな。
 いや、待て。
 さっきの悲鳴は…みぃ?

 俺はすぐにSSS内のみぃの部屋へと駆け出した。
 どうした。
 何があった。
 何でもいい。
 無事でいろよ、みぃ…!

64ブック:2004/01/28(水) 01:25


 俺はみぃの部屋の扉を勢いよく開け放った。
 みぃは部屋の隅でシーツに身を包み膝を抱えていた。
 何かに脅えているのか、体が小刻みに震えている。
(みぃ、どうした?何があった!?)
 俺はみぃに手を伸ばした。
「!!嫌ぁ!!!」
 しかしみぃは俺の手を振り払った。

 みぃに何が起きた?
 みぃの目は、明らかにいつものそれではない。
 いつもの優しさと小さな憂いを讃えたそれではない。
 これは、…後悔?…懺悔?…絶望?
 どれもこれも、みぃには全然似つかわしくない。
 一体何が、お前にそんな目をさせるんだ!?

(みぃ!!)
 俺はみぃの肩を両手で掴んで、錯乱するみぃを抑えようとした。
「!!!」
 だが、みぃはそれに頑なに抵抗するように暴れ、必死に俺の腕から逃れようとした。

(…みぃ……)
 諦めの感情が俺を支配し、俺はみぃから手を放した。
 俺の腕が、一瞬あの忌々しいあの『化け物』の腕と重なって見える。

 俺の、手。
 何も出来ない手。
 何もみぃにしてやれない手。
 壊すしか出来ない手。
 醜い手。
 『化け物』の手。

 俺は無力感と自己嫌悪に打ちひしがれた。



「みぃちゃん!!どうしたの!?」
 部屋にふさしぃが駆け込んできた。
「!?でぃ君、どうしてここに…?」
 ふさしぃは俺に目を向けた。

「…まさか!でぃ君、あなた……!!!」
 ちょっと待て。
 違うぞ。
 ふさしぃ、俺とあなたとの間にはおそらく見解の相違がある。
 俺はただ純粋に、みぃが心配でこの部屋に来たのだ。
 たぶんあなたが想像しているような理由ではない。

「…そんな人だとは思わなかったわ。
 ミンチになる覚悟はいいかしら…!?」
 待て。
 まずはみぃの心配をするべきだろう。
 いいから話を聞いてくれ。
 話せば分か…

 そこで俺の意識は無くなった。


   TO BE CONTINUED…

65:2004/01/29(木) 23:14

「―― モナーの愉快な冒険 ――   逮捕されてしまったっス!・その2」



 エレベーターは地下一階で止まった。
「…あれ?」
 俺は「開」ボタンを16連打した。
 だが、扉は開かない。
 …ひょっとして、閉じ込められた?

 非常用のボタンに目が行く。
 だが、これで助けを呼ぶ訳にもいかない。
「モナァッ!!」
 俺はエレベーターの扉に体当たりしてみた。
 …だが、反応はない。
 手段を変えるか。
 扉の隙間に警棒を差し込んで、強引にこじ開けてみる。
「うおおぉぉ…!!」

 ウィィ――ン…
 全体重をかけた甲斐があって、なんとか扉が開いた。


「ふう…」
 額の汗を拭いつつ、エレベーターから降りる。
 その俺の目に入ったのは、銃を構えている3人の警官だった。
「武器を捨てて両手を上げなさい!!」
 警官の一人が叫んだ。

 俺は冷静に警官達を観察した。
 全員、銃の構え方がヘボい。
 何というか、明らかに場慣れしていないようだ。
 まあ、普段リナーの射撃を見ているからだろうが…

「撃ちたきゃ撃つモナ…」 
 俺は警官にゆっくりと歩み寄った。
「脅しじゃない! 本当に撃つぞ!!」
 少しヒステリックに警官は叫んだ。
 みっともないほどに腰が引けて、肘も突っ張っている。
 そんなんじゃ、天井に穴が空くだけだな…

「威嚇射撃、撃て!」
 警官が号令する。
 廊下に響く軽い銃声。
 三人の警官は、なぜか揃って床に発砲した。
 そっか。確か警官ってのは、最初に威嚇射撃やんなきゃまずいらしいな…
 俺はそんな様子に構わず近付いていった。

「撃て―――ッ!!」
 号令とともに、発砲する警官達。
 しかし、『アウト・オブ・エデン』は完全に弾道を見切っている。
 俺は弾速・運動エネルギー・回転力の全てを『破壊』し、全ての弾丸を叩き落した。
 その数、12発。
 警察の制式銃、ニューナンブの装弾数は5発で、威嚇射撃に1発撃ってるから…
 3人とも弾切れって事だな。

「な…! あ…!」
 カチカチと何度もトリガーを引く警官達。
 当然ながら、何も発射されない。
 素人じゃないんだから、残り弾数くらい数えとけよ…
 俺はつかつかと近寄ると、慌てふためく3人の警官の首筋に、警棒での一撃を叩き込んだ。
 ドッサリと横たわる警官達。
 この分だと、意外と楽に脱出できそうだな…

 とは言っても、あんまりのんびりとはしていられない。
 俺は、廊下を走り抜けた。
 走りながら時計に目をやる。現在、午後11時。
 上への階段が見えてくる。
 あの階段を上がれば、1階だ…!!

 階段まであと少し。
 その俺の目に入ったのは、一人の男の姿だった。
 廊下の真ん中に、道を塞ぐようにして男が立っている。

66:2004/01/29(木) 23:14

 その男はスーツをきっちりと着込んでいた。
 きちんと締められた赤のネクタイ。
 警察署という空間においては、その服装は場違いのような雰囲気を醸している。
 エリート然とした、切れ者を思わせる容姿。
 眼鏡から切れ長の目が覗く。
 その眼光は鋭い。
 俺は、気圧されるように立ち止まった。
 こいつ、只者じゃない…!

「こんな事になってしまうとはねぇ…」
 俺を見据えながら、男は口を開いた。
「3日くらい留置所にブチ込んでおいて、君を散々苦悩させた末にこう言うつもりだったんですがね。
 『君に罪を償う気持ちがあるならば、我々に協力したまえ』と。
 それが、まさか独力で脱走してしまうとはね。
 せっかく心に響く勧誘のセリフも用意していたと言うのに…」
「お前、誰モナ?」
 俺は、男の言葉を遮った。
 男は眼鏡を上げる。
「私は、公安五課…通称、スタンド犯罪対策局の局長です」

 そう言えば、各国にスタンド対策局があるとリナーが言っていた。
 こいつが、この国のスタンド対策局の元締め。
 そして、こいつ自身も間違いなくスタンド使い…!

「その局長様が、こんなところに何の用モナ?」
 俺は警棒を構えると、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 局長は、明確な敵意を持っているようには見えない。

「あなたは、どちらにつくか分からない…」
 局長は口を開いた。
「ハァ?」
「これから、大きな騒乱が起きるでしょう。
 あなたは、『教会』とASAの両方に接触している。
 それで、どちらにつくか分からないと言ってるんですよ。
 あなたは、一番不確定要素が強い存在なんです」
 大きな騒乱だって…?
 そして、俺を勧誘しに来たって訳か。

「そもそも、あなたを逮捕したのも私の采配ですよ。
 本来なら、あなたの殺人には物証が全く残っていないので、逮捕状は下りませんからね」
 つまり、俺が逮捕されたのはこいつの陰謀って訳か。
「卑怯な事をするモナ…!」
 俺は歯軋りをして言った。
「証拠が残っていないだけで、犯人は間違いなくあなたですよ…」
 局長は勝ち誇ったように口を開く。
「ところで、なぜ人を殺してはいけないか知っていますか?」

 …どういう意図の質問だ?
 残念ながら、法とか道徳とか難しい事は分からない。
「殺しちゃいけないものは、殺しちゃいけないモナ。そう決まってるからモナ」
 俺は適当に答えた。
 しかし、局長は満足げに頷く。
「その通り。最も的確な答えです。この問いには明確な答えはない。
 結局、『人を殺してはいけない』というのは社会上の契約に過ぎないんですよ。
 誰だって、殺されるのは嫌ですからね。
 だから、人類は殺さない代わりに殺されないコミュニティーを形成した。それが、体制というものです」
 局長はそこで言葉を切った。
 そして、片手でネクタイのずれを直す。
「この理論は、社会の全ての事象に応用が可能です。
 つまり世の中の事象は、体制か、反体制かの二つに分けられるんですよ」
「だから…どうしたモナ?」
 俺は口を挟んだ。
 局長は構わず話を続ける。
「ですが… あなたは、体制から逸脱してしまった。それも15人の殺害という未曾有の手段をもって。
 後の言葉は分かっているでしょう? 
 …公安五課に協力しなさい。それが、あなたが体制に戻れる唯一の手段です」
 俺は警棒を局長に向けた。
「ふざけるな。こんな卑劣なやり方を使う奴等には協力できないモナ!
 …それに、お前に便宜を図って貰わなくても、独力でここを出るモナ!」

「やれやれ… 『アルケルメス』!!」
 局長の体からスタンドが浮かび上がる。
 6本の腕を持った女型のスタンドは、仏像を思わせた。
 局長はスタンドを出したまま、その場に突っ立っている。
 そこから一歩も動こうとしない。

67:2004/01/29(木) 23:15

「来ないのか?」
 俺は警棒を構えたまま訊ねる。
「そっちからどうぞ…」
 局長は両手を開いて言った。

 …どうする?
 相手のスタンド能力が分からない以上、迂闊に接近するのは得策ではない。
 とは言え、膠着状態になると不利なのは俺の方だ。
 俺は警棒で局長に殴りかかった。

 局長は腕を組んだまま、避ける仕草すら見えない。
 完全に首筋をとらえた…!!
 が、効果はない。
 いや。知らないうちに、俺は警棒を振り下ろしていた。
 警棒が当たった瞬間が知覚できなかったのだ。
 これは一体…!?

「…なるほど。単に、目がいいだけじゃないんですね。
 戦闘に必要な情報を解析して、それに即した無駄のない動きを身体にフィードバックしている。
 それが、『アウト・オブ・エデン』ですか」
 局長は眼鏡を上げた。

 さっきのは何だ?
 当たったはずなのに、何も起きていない。
 明らかに、奴のスタンド能力だろう。

 突然、轟音がした。
 上からだ。
 警察署全体が、グラグラと揺れる。
 奴のスタンド攻撃か…!?
 しかし、局長は怪訝そうな顔で音のした天井の方を眺めていた。
「今のは… 一階からですね。何かあったのかな?」
 腕を組みながらそう呟く局長。
 こいつじゃないのか?
 それとも、演技か?

 俺は一歩踏み込んだ。
 喉元目掛けて、警棒で突きを繰り出す。
 しかし、気付いた時には外していた。
 …今のも、完全に捉えたはずだ。
 やはり、これがこいつのスタンド能力か…

「あなたの力量は大体分かりました。では、こちらからいかせてもらいますか…!」
 奴のスタンド、『アルケルメス』が動く。
 高速で俺の方に突っ込んできた。
 近距離パワー型か!!
 スタンド相手に格闘できるほど、俺の戦闘能力は高くない。
 階段からは遠くなるが、俺は背を向けて走り出した。

 『アルケルメス』は、蜘蛛のような動きで追ってくる。
 そして、獰猛な獣のように俺の肩を一閃した。
「くっ…!」
 俺は肩を押さえる。
 血がボタボタと垂れた。
 結構深い。
 上から、銃声や爆発音、人の悲鳴が聞こえてくる。
 一階でも何か起こっているのか…?

68:2004/01/29(木) 23:16

 ゆっくりと廊下を歩いて、局長が近付いてきた。
 俺は肩から手を離して、警棒を構える。
「あなたには、この先も働いてもらわないと困る。殺しはしませんよ」
 局長はそう言った。
「いったん気絶してもらいますがね…」

 階段を駆け下りる足音。
「局長!」
 足音の主は、大声を立てながらこっちに走ってきた。

「何です? 今からがいい所なのに…」
 面倒そうに顔を向ける局長。
 局員らしき人物は、局長の傍まで来て言った。
「署の玄関に、トラックが突っ込んできました。運転していた女が、こっちへ近付いています。
 警官が応戦しているのですが、女は重火器を所持していて…」

 リナー…
 警察に手を回すとばっかり思ってたけど、まさか警察署を襲撃するなんて…
 上からは、絶え間なく銃声が響いている。
 たまに、爆発音も混じっているようだ。

「…物騒ですね、あなたの彼女は。あれじゃ痴話喧嘩もできませんねぇ」
 局長は微笑を浮かべて言った。
「かか彼女じゃないモナ! って言うか、そんな事言われる筋合いはないモナ!」
 真っ赤になりながら否定する俺。

「で、被害は?」
 局長は局員に視線を向けた。
「怪我人は多数ですが、死者は出ていません」
「厄介ですねぇ…」
 局長は眼鏡の位置を直した。
 一階から響き渡る銃声は、徐々に近付いてくるようだ。
「あれだけ派手に暴れながら、一人の死者も出さないとは…」

 …どうする?
 リナーが近くまで来ている。
 このまま局長との戦いを継続するか、それとも逃げるか…

「うわぁぁぁぁ!!」
 警官の一人が、階段を転がり落ちてきた。
 …来た。
 すぐ傍まで来ている。
 考える暇もなかったようだ。
 ゆっくりと階段を降りるのが視えた。
「…もう来ましたか」
 少し身構える局長。階段の方向を凝視している。

 ガシャッ、ガシャッ…
 リナーの足音は、重苦しい金属音にかき消されている。
 また、とんでもない武器を持ち出してきたようだ…

 リナーは、ゆっくりと階段の影から姿を現した。 
 俺の身長ほどもあるガトリングを、腰溜めに構えている。
 局長は、その姿を見据えていた。

「モナー、よけろ!!」
 現れるなり、リナーは叫んだ。
 よけろったって…どこへ!?
 そのまま、リナーのガトリングが火を噴いた。

「モ、モナッ!!」
 俺は、近くの扉に体当たりした。
 そのままの勢いで部屋に突っ込む。
 ガリガリと、削るような銃声が響いた。
 俺は素早く起き上がると、局長を視た。
 被弾の瞬間だけ、弾丸が消えている。
 これが、局長の能力か…?

 銃声が止んだ。
 局長とリナーが睨みあっている。
 不意に局長は目線を逸らした。
「やれやれ。面倒くさいので、私は帰ります」
 両手を広げて、迷惑そうに告げる局長。
「なっ…! これだけモナに迷惑かけて、逃げるつもりモナ!?」
 俺は大いに憤慨した。
 そもそも、俺が捕まったのもこいつのせいだというのに…

 局長は、階段の方へ余裕綽々で歩いていった。
 ガトリングを構えているリナーの横を抜ける。
「公安五課局長… 何を企んでいる?」
 リナーは局長を睨みつけて言った。
 それを横目で見る局長。
 その質問には答えずに、俺の方を見て口を開いた。
「忠告しておきましょう。敵と味方の二元論だけで物事を捉えないことです。
 それぞれの人間が、それぞれの思惑で動いている。それを失念しないよう…」
 そう言い残して、局長は階段を上がっていった。

69:2004/01/29(木) 23:16

「リナー!!」
 俺はリナーに駆け寄る。
「自力で脱出しているとは… どうやら、私が来るまでもなかったようだな」
 リナーはガトリングを下ろして言った。
「でも、いくら何でもやり過ぎモナ…」
「仕方ないだろう。『教会』を通じて手を回したとしても、三日はかかるんだ」
 俺はため息をついた。
 これで警察署を脱出したところで、俺を待っているのは逃亡生活か?
「とにかく、脱出するぞ! 警官は大体蹴散らしておいた。総員退避済みだ」

 階段を駆け上がる俺とリナー。
 一階は、燦々たる有様だ。
 床と壁は弾痕だらけ。
 そこかしこで爆発した後がある。
 警官は全員退避したようだ。人っ子一人いない。
 俺はため息をついた。
 殺人鬼の次は、テロリストの称号までこの手にするのか…

 正面玄関の近くまで来て、俺は腰を抜かしそうになった。
 ガラス張りの扉は、トラックが突っ込んでいて粉々になっている。
 だが、俺が驚いたのはそんな事じゃない。

 外には、驚くべき光景が広がっていた。
 パトカーや特殊車両が、署を遠巻きに囲い込んでいる。
 その数は百台を超えるだろう。
 その周辺には、多数の機動隊が配置されている。
 彼らは、ジュラルミンの盾の陰で銃を構えていた。
 完全に狙撃態勢だ。
 もはや人垣とも言えるほどに数が多い。
 その数、800人といったところか。
 空には何台かヘリの姿があった。
 ヘリから照らされたライトが、正面玄関に当てられている。
 …警察署は、完全に包囲されていた。

「リ、リ、リナー!!」
 俺は大声を上げる。
「…少し大事になりすぎたな。迂闊だった」
 軽く言うリナー。
 いや、かなりシャレにならない。
 リナーは、正面玄関までつかつかと歩いていった。
 そんなに外に近付いたら、狙撃されるんじゃ…
 俺は少し心配になった。

「モナー、ちょっとこっちへ」
 体半分外に出たあたりでリナーは身を翻すと、俺を手招きした。
 何だ?
 俺は恐る恐る近付く。
 リナーは、ゆっくりと俺の首に手を回した。
 …抱きつこうとしている?

 その瞬間、リナーは俺の頭をがっちりとロックした。
 そして、後頭部に銃を突きつける。
 機動隊に緊張が走ったのが雰囲気で判った。
 ヘリからのライトが、一斉に俺とリナーに当てられる。

「動くな! こっちには人質がいる!!」
 リナーは警官隊に向けて大声で叫んだ。

『人質には手を出すんじゃない! 君の要求を聞こう!』
 スピーカーで拡声された声が響き渡った。
 おそらく、警察の偉い人だろう。

「モナー、狙撃班の位置が視えるか?」
 リナーは小声で聞いてきた。
「向かいのビルの3階、その左側のマンションの2階、それと隣のビルの2階…」
 俺は小声で囁く。

『要求はあるか?』
 スピーカーの声が語りかけてきた。
 周囲の緊張感は高まる一方だ。
「…追って指示する」
 そう言って、リナーは俺の首根っこを抱えたままで警察署の中に戻った。

 ロビーまでつくと、リナーは俺を放してくれた。
「さて、これからだな…」
 リナーはため息をついた。
 …どうしよう、この状況。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

70新手のスタンド使い:2004/01/30(金) 00:12
おもしれー

71ブック:2004/01/30(金) 15:53
      救い無き世界
      第十四話・軋轢 〜その二〜


「…ギコミ、お前が死んで今日で丁度三年か。」
 俺は墓に向かって語りかけながら、墓に線香をあげ花を供えた。
 毎年妹の命日には何があろうと必ず墓参りに来てやる。
 それが死んだギコミに兄である俺が唯一してやれる事だ。

「今日はな、お前の好きだったメロンパンを持ってきてやったぞ。
 たらふく食えやゴルァ。」
 俺はそう言いながら墓前にメロンパンをお供えした。
 子供の頃から、あいつはこれが大好物だった。
 俺が勝手に妹が大事に取っといたメロンパンを食っちまって、
 よく泣かしたっけ。

「………」
 俺は懐に入れておいた少し大きめの手鏡を取り出した。
 昔、妹が俺の誕生日祝いにプレゼントしてくれた物だ。
 その時は男の俺がこんな物貰っても嬉しく無いとつい悪態をついてしまい、
 妹に悲しい顔をさせてしまった。
 何故あの時素直に喜べなかったのだろう。
 妹がせっかくなけなしの小遣いから俺の為に買ってくれた物なのに。
 本当はプレゼントしてくれた事だけで嬉しかったのに。

「これな、お前に返すぜ。俺が持っとくには過ぎた代物だゴルァ。」
 俺が墓に手鏡を置こうとしたその時―――

「止めときなさい、ギコえもん。それはあなたが持っておくべきですよ。」
 不意に声をかけられ、俺は声のした方に向いた。
 …タカラギコか。
「何の用だ、ゴルァ。」
 俺はタカラギコにぶっきらぼうに言った。
「いえね、『大日本ブレイク党』について調べたことをお伝えしようと
 皆さんに電話を掛けたんですが、あなたにだけ繋がりませんでしてね。
 それで今日は確かあなたの妹さんの命日だったことを思い出しまして、
 もしかしたら此処かなと。」
 俺は携帯電話を取り出してみた。
 いつの間にか電池切れになっていたようだ。

「その手鏡、せっかく妹さんから貰ったんでしょう?
 それを手放すような事しちゃいけませんよ。」
 タカラギコはそう言いながらギコミの眠る墓に持参した花を供え、手を合わせた。
 俺は手鏡を再び懐へと戻す。


「…あれから三年ですか。」
 タカラギコは呟くように言った。
「ああ…」
 俺の妹であるギコミが死んでからもう三年。

 いや、「死んだ」んじゃない。
 「殺された」のだ。
 あの、糞忌々しいでぃによって。

 三年前、妹は夜家に帰る途中でぃに刺されて、死んだ。
 何でもそのでぃが言うには、自分を虐げる社会にせめてもの復讐がしたかったらしい。
 もちろんそのでぃはすぐさま「処分」された。
 しかし、そんな事でギコミが生き返る訳など無く、
 俺には行き場の無い悲しみと憎しみだけが残された。
 しかも信じられない事に、今俺の職場にはあのでぃの同類が
 何食わぬ顔で居ついてやがる…!

72ブック:2004/01/30(金) 15:54

「ギコえもんさん。気持ちは分かりますが、
 彼はあなたの妹さんを殺したでぃとは無関係です。
 それに彼を憎んだ所で、何も元には戻りませんよ。」
 俺の心の黒い炎に気づいたのか、タカラギコが俺をなだめるように言った。

「…お前に何が分かるってんだゴルァ。
 お前は肉親を他人に殺された事があるのか?ああ!?
 ギコミはなぁ、殺されていいような奴じゃ断じて無かった!
 本当に良い奴だったんだ!!
 なのに、あのでぃはそんなあいつを糞のような理由で殺した!!!
 あいつの未来を奪ったんだ!!!!
 だが、もうそのでぃはこの世には居ねぇ…!
 それなら、この怒りは何処へぶつければいいってんだよ!!!!!」
 俺は火の塊のような怒号をタカラギコにぶつけた。
 そして、すぐさま後悔した。

 何やってんだ、俺は。
 タカラギコに八つ当たりして、何になる。

「…悪かった。今のは忘れてくれ、ゴルァ。」
 俺はタカラギコに頭を下げた。
「構いません…私も配慮が足りませんでした。
 知った風に偉そうな口を利いて申し訳有りません。」
 タカラギコも、俺に頭を下げてきた。
「止せよ、お前が謝る筋は無ぇだろう。」
 俺とタカラギコとの間に気まずい空気が流れた。

「…でぃ君にも、そんな風に素直になれれば良いんですがね。」
 俺はその言葉には何も答えず、黙りこくった。

 分かっている。
 あいつは、何も悪くは無い。
 俺が一方的に嫌悪しているだけだ。
 でも、駄目だ。
 あいつを見る度、妹を殺したでぃの姿がだぶって見える。
 憎しみを抑えられない。
 分かっている。
 それが間違いだと言うことは。
 分かっている。
 そんな事は、分かっているんだ。


 俺は何も言わないまま煙草を咥え、それにライターで火を点けた。
 苦い煙が口の中を満たし、ゆっくりとそれを吐き出す。
「煙草は体に悪いですよ。禁煙したらどうです?」
 タカラギコが釘を刺すように言った。
「…妹みたいな事を言うな、ゴルァ。」
 白い煙が、雲一つ無い空へと漂い、そして掻き消えていった。



     ・     ・     ・



 タカラギコが部屋の真ん中辺りにある机にいくつかの資料を置いた。
 私はその中の一つを手に取ってそれに目を通す。
「…これが『大日本ブレイク党』に関しての今の所の情報かょぅ。」
 私はタカラギコに聞いた。
「ええ、そうです。ぃょぅさん。」
 タカラギコが頷いた。

「何か古い資料ばかりね…」
 ふさしぃが資料を読みながら言った。
「すみません。
 私では、『大日本ブレイク党』解体時までの事しか調べられませんでした。
 彼等が今現在何処を根城にして、何を企てているかまでは流石に…」
 タカラギコが申し訳なさそうに頭を軽く下げた。

「仕方なぃょぅ。何せ急に何の脈絡も無く現世に現れた幽霊みたいなものだょぅ。
 簡単に手掛かりが掴める訳は無ぃょぅ。」
 私はタカラギコをフォローする言葉を出した。
 実際しょうがない。
 私でも彼以上に情報を集めるのは不可能だろう。

「え〜と何々?
 この集団の統率者は1と呼ばれる人物で、
 その参謀役として梅おにぎり、それとマニーとかいう人がいるモナ。」
 小耳モナーが資料を指差しながら喋った。
 そこには、その1とかいう頭首らしき男と、
 その参謀らしい二人の男の写真が掲載されている。

「あ〜う〜…え〜と…その構成員は約百数十人と…ゴルァ。」
 活字に疎いギコえもんは早くも頭から湯気が出てきそうである。

73ブック:2004/01/30(金) 15:54

「まあ、こんな情報あまり役には立たないでしょうけどね。
 構成員がスタンド使いだったり、大量の爆薬を保持していたり、
 おそらく今の『大日本ブレイク党』は当時のそれとは全く別物と言って良いでしょう。
 ここにある資料からその実態を推測するのは、あまりに短絡的過ぎます。」
 タカラギコが頭を振った。

「…いきなり手詰まりかょぅ。」
 私は大きく溜息を吐いた。
 これでは何も分かっていないに等しい。
 こんな情報だけでは、何も手の打ちようが無いではないか。

「まあ、焦っても仕方がありません。
 今度また相手が何かしらの行動をしてくれば、何か掴めるかもしれませんし。」
 タカラギコがやれやれといった口調で言った。
「それじゃあ駄目だょぅ!」

 それでは、駄目だ。
 相手が何かする時とは、犠牲者が出るときだ。
 それでは何もかも遅すぎる。
 犠牲が出る前に『日本ブレイク党』を止められねば意味が無い。
 犠牲が出てからでは、駄目なのだ。

「ぃょぅ…でも…」
 ふさしぃが、そこで言葉を止めた。
 皆も一様に押し黙る。

 どうしようも無かった。
 事実、今現在我々が持つ手札は少なすぎる。
 今のところは相手の出方を伺っていくしか手はないのだ。
 我々は、どうしようもなく無力だった。

「……っ…」
 私は血が滲むほどに唇を強く噛み締めた。


「…ああそれと。
 でぃ君の事ですが上からの通達が来ました。
 『今しばらく監視下に置いて様子を見ろ』だそうです。
 みぃ君は、『もう放っておいても良い』そうですが、
 『治癒能力を持つスタンドは役に立つから、出来るなら協力させろ』
 とも言ってましたね。」
 タカラギコが静寂の中口を開いた。

 取り敢えずはでぃ君を傷つけなくて済むようなので、
 本当なら喜ばしい事だ。
 しかし、『大日本ブレイク党』の事を考えると、
 気持ちは暗く沈む一方だった。

74ブック:2004/01/30(金) 15:55



     ・     ・     ・



「『大日本ブレイク党』の者に、『金』と『伝言』を届けて来た。」
 男は『矢』をその手に持って座る男に向かってそう告げた。
「いつも御苦労様…これが今回の君の取り分です。」
 『矢の男』は男に札束を手渡した。

「…あいつら、いずれ近いうちに暴走する恐れがある。
 それに、どうやら奴らの構成員の者が我らの事を嗅ぎ回ろうとしているようだしな。
 何らかの処置を下した方が良いんじゃないか?」
 男は『矢の男』に進言した。
「そうですね…もし彼等が私達についてしつこく調べるようなら
 見せしめに何人か始末しなさい。
 そうでないなら、まだ放置しておいても構いません。
 彼等にはもう少し暴れて貰いたいですからね。」
 『矢の男』はそう言って軽く伸びをした。

「…それと、例の『写真の男』だが、奴等に任せて良いのか?
 捕獲するにしても、始末するにしても、
 俺の『オウガバトル』ならばより確実だが。」
 男は不服そうに言った。
「何、構いませんよ。
 聞いた話によれば相当の能力の可能性が高いらしいですが
 ただ強いというだけなら、我々の事に気づきさえしなければ
 邪魔になる事はないでしょう。無理にどうにかする事は無いです。
 我々が直接手を下す危険を犯す必要はありません。
 『大日本ブレイク党』がしくじった所で私達には何の被害もありませんし、
 もし上手くいけば見っけものと言ったものですね。」
 『矢の男』は気だるそうにそう答えた。

「それではそろそろ眠たくなってきたのでね、外してくれませんか。」
 男は『矢の男』のその言葉を聞くと、
 すぐさま部屋を出て行った。
 『矢の男』はそれを確認するとゆっくりと目を瞑り、
 静かに寝息を立て始めた。


   TO BE CONTINUED…

75ブック:2004/01/30(金) 15:56
 物語がある程度キリのいい所まで来たので、需要が有るかどうかは分かりませんが、
 今までの登場人物紹介をさせて貰います。


 でぃ…この物語の主人公。『化け物』に取り付かれる事でスタンド能力を
    扱えるようになる。
    余談だが彼が今までの作品中で、自分独りの力で勝利できたのは
    最初に出てきたチンピラ三人組だけである。
    いわゆるヤムチャ状態。
    主人公なのに。
    でもヤムチャ。

 スタンド…名称不明。能力不明。自立意思を持つようだが、その目的は不明。
      本体の体を媒介にして発現する。
      『力』を使えば巷で言われる『イヤボン展開』を引き起こす。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 みぃ…猫又の少女。『作者が萌えるから』という理由で猫又という設定を背負わされた
    業深き存在。そんな邪な理由から猫又としたため、今の所その設定を
    全く活かせていない。反省。
    でも猫耳は良いものです。半獣娘はとてもとても良いものなのです。
    はにゃーん。

 スタンド…名称『マザー』。自分の生命エネルギーを他のものに分け与える
      ことが出来る。それにより治療を行うことも可能だが、代わりに
      自分が消耗してしまう。
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     ・     ・     ・

 『SSS』…正式名称『Stand Security Service』。
       『スタンド使いの警察の様なもの』とはぃょぅの談。
       しかし捕虜に対し過激な拷問を加える等、
       真っ当な公的機関でない事は明らか。
       スリーエスと読むべきか、エスエスエスと読むべきか、
       トリプルエスと読むべきか、トライエスと読むべきか、
       それとも別の読み方が良いのか迷ってます。


 ぃょぅ…SSSスタンド犯罪制圧特務係A班所属。
     普段は理性的に振舞うが、結構熱いところも。
     曲者揃いの同僚の中、かなりまともな部類に入る。

 スタンド…名称『ザナドゥ』。近距離パワー型で、射程内の風を自在に
      操ることが出来る。
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 ふさしぃ…ぃょぅの同僚。綺麗な毛並みが自慢で、そのセットに最低一時間はかける。
      似合わないことに可愛いものに目が無く、家の中はぬいぐるみでいっぱい。
      口癖は『ミンチにしてやる』。ギコえもんに強い。
      売れなくなってきたら脱ぎます。

 スタンド…名称『キングスナイト』。黄金の甲冑に身を包んだ騎士の姿をした
      近距離パワー型スタンド。その剣でつけられた傷はどこまでも広がる。
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 小耳モナー…ぃょぅの同僚。ドジ・お茶目・薄幸のアイドル三原則を持つ。
       いつも同僚であるぃょぅ達と賭け麻雀をしてはカモにされている。
       実は彼がこの作品のヒロインです。今決めた。

 スタンド…名称『ファング・オブ・アルナム』。黒い大きな狼のビジョンのスタンド。
      自動操縦型で、対象を匂いで捕捉・追跡することが可能。
      自立意思を持ち、時代がかった任侠口調で喋る。
      義理と人情に厚く、喧嘩にゃ強いが涙にゃ弱い。
      牙や爪で影を傷つけると、その影の持ち主にダメージが行く。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ギコえもん…ぃょぅの同僚。過去の事件からでぃを憎んでおり、
       主人公であるでぃにも辛くあたる。
       ふさしぃに弱い。
       あと彼は本当はロボットですが、
       この作品では生物ということにして下さい。
       好物は今川焼き。

 スタンド…今の所不明。
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 タカラギコ…ぃょぅの同僚。常に丁寧な対応をするが、慇懃無礼に取られることも。
       いつも笑顔を絶やさない。

 スタンド…今の所不明。
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76ブック:2004/01/30(金) 15:56
 『大日本ブレイク党』…元革丸過激派組織の実働部隊。
            『矢の男』からの支援を受けて、街を戦火で包もうとする。
            ステレオタイプな悪の秘密結社。
            もういっそナチスでいいような気がしてきた。
            党歌が凄そうだが、もちろん現実のあの会社とは無関係。


 1総統…『大日本ブレイク党』の統率者。
     1さんをモチーフにしたが、8頭身とかと絡ませられないでいる。
     ていうか、少佐。
     もろ少佐。

 スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 梅おにぎり…1総統の参謀その一.
       悪代官の役とかやらせたらとても上手そう。

 スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 マニー…1総統の参謀その二。
     まだ一言も喋ってません。

 スタンド…今の所不明。
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 アサピー…『デパート爆破事件』の犯人。そのスタンド能力でぃょぅとでぃを
      追い詰めるも、ぃょぅの機転とでぃの執念の前に破れる。
      最後は瓦礫の下敷きになり、爆発に巻き込まれて死亡。

 スタンド…名称『ダライアス』。射程範囲の空気を水のような性質に変える。
      身に纏うタイプのスタンド。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ブラックホール…『大日本ブレイク党』の構成員の一人。
         ペンタゴンと四次元殺法コンビを組んでいた。
         ふさしぃと闘い、敗北。
         その後タカラギコにより拷問を受ける。

 スタンド…名称『メット・マグ』。触れたものにS極N極の性質を持たせる。
      近距離パワー型。
      小説を書くうちに、その応用性の広さに驚愕。
      一発使い捨てキャラに持たすには勿体無いスタンドだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ペンタゴン…四次元殺法コンビの片割れ。
       『ファング・オブ・アルナム』と死闘を繰り広げた。
       自分の羽をむしるという覚悟を見せつけ、
       小耳モナーに後一歩の所まで迫ったものの、
       最後の最後で運悪く敗北。喰われました、ワンちゃんに。

 スタンド…名称『スペランカー』。近距離パワー型で、
      触れたものを脆くする能力を持つ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

77ブック:2004/01/30(金) 15:57
 『矢の男』…『大日本ブレイク党』を陰から支援。
       その他にも人々を『矢』で射ってスタンド使いを生み出す等、
       事件の背後で暗躍している。
       ちなみに彼が初登場時に『矢』で射った人はあっけなく死んだ。
       あともちろんこの『矢の男』は他の作品の『矢の男』とは別人です。

 スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 男…『矢の男』の従者。金で雇われている。

 スタンド…名称『オウガバトル』。その能力は不明。
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     ・     ・     ・

 チンピラ三人組…でぃをいたぶって遊んでいたどこにでもいる不良。
         無様に叩きのめされる事が存在理由の全ての小悪党。
         一話目で速攻で退場。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 マララー…チンピラ三人組の兄貴分。
      『矢の男』によりスタンド使いになる。
      でぃに勝利するが、ぃょぅにあっけなく倒される。

 スタンド…名称『デュアルショック』。近距離パワー型で、
      触れたものを高速振動させる能力を持つ。
      マララーはこのスタンド能力を自分に使い、
      電動コケシごっこをするのが趣味。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 毒男…さえない・もてない・ぱっとしないの三重苦を背負う、
    ある意味でぃよりかわいそうな人。
    デパートの警備員をしていた所、アサピーに襲われ
    童貞のままあの世へ逝く。
    享年三十五歳。合掌。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ギコミ…ギコえもんの妹。三年前、主人公とは違うでぃの蛮行により他界。
     この人もロボットではないということにして下さい。

78:2004/01/30(金) 22:41

「―― モナーの愉快な冒険 ――   逮捕されてしまったっス!・その3」



「ど、どうするモナ?」
 俺は慌てて訊ねる。
「正面突破できないこともないが… 向こうにも多大な犠牲が出るだろうな」
 リナーは腕を組んで言った。
「人を殺すことは、絶対に許さないモナよ」
 俺は、そう断言した。
 リナーの瞳に憂いの色が走る。
「…じゃあ、どうする気だ?」

 俺は右手を顎に当てた。
 警察署は、完全に包囲されている。
 脱出口といえば、上か下か…
「ヘリを乗っ取って、空から逃げたらどうモナ!?」
「無理だ。例えヘリを入手したところで、撃墜されるのがオチだ」
 リナーは冷たく言った。

「じゃあ、下から… 下水道から逃げるというのはどうモナ?」
 まさに、映画とかの常套手段ではないか。
 俺は自信満々に言った。
「無理だな。ここまで事件が大規模になると、間違いなく下水道も押さえられている」
 あっさりと否定するリナー。

「それじゃあ、どうすればいいモナ…」
 俺は頭を抱えた。
 その様子を尻目に見ながら、リナーはマシンガンにマガジンを詰めている。
「悩む必要はない。ここは正面突破だ…!」

「それはダメモナ!」
 俺はリナーに言った。
 リナーは、わずらわしそうに眉を吊り上げる。
「君は、自分で何を言っているのか分かっているのか?
 ここから脱出する、警官や機動隊に犠牲者を出さない… 
 そんなのが両立できるわけがないだろう!」

「モナは、15人もの命を奪ったモナ。もう、これ以上は…」
 俺は視線を落として訴えた。
「それに、人を殺さないというのは最後の良心モナ!
 これを破ってしまったら、モナ達は二度と正義なんて口にできなくなるモナ!」

 少しの沈黙の後、リナーは口を開いた。
「君は、あくまで人を殺す事を認めないと言うんだな…」
 俺は頷く。
 リナーはマシンガンを下ろしてため息をついた。
「全く… 君と私とは相容れないな」

 俺の説得に押されて、リナーは正面突破を諦めたようだ。
 でも、どうやってここを脱出するか…
「いい案を思いついた。多分、死人は出ない」
 リナーは不意に口を開いた。
「本当モナ!?」
「ああ。この国の、非常事態用マニュアルの裏をつく…」
 リナーはマシンガンを服の中に収めて言った。


 ここは、地下2階。
 リナーは柱に爆弾を仕掛けている。
 その手段とやらを実行する為には、警察署の爆破が必須らしい。
「もう二箇所だな… おっと、忘れるところだった」
 リナーは、ガスマスクを差し出した。
「…?」
 俺は受け取ったはいいものの、途方に暮れる。
「催涙ガス対策だ。対テロの常套手段だからな」
 …なるほど。
 俺はそのマスクを顔面に装着した。
「リナーはつけないモナ?」
「私には、催涙ガスなど効かない」
 リナーはあっさりと言って歩き出した。
 効かないって…
 俺は、慌てて後をついていった。

「よし、これでいい」
 結局、たった三箇所にしか爆弾を仕掛けなかった。
「たったそれだけで大丈夫モナか?」
 どうも気になって、俺はリナーに訊ねる。
 仕掛けた量は、あまりにも少ない。
 それだけで、この大きな警察署が吹き飛ぶのだろうか。

 リナーは呆れたような表情を見せた。
「全く… 君は、C4を仕掛けた事もないのか?」
 いや、ある訳がない。
「建造物がこれだけの規模になると、爆風で吹き飛ばすなんて不可能だ。
 そこで、建物自体の重みがかかっている場所を狙う。建造物爆破の基本は、自壊作用を利用する事だ」
 リナーはそう説明した。
「この警察署だと、C4が80Kgもあれば充分だ。
 爆弾というのは、量を仕掛ければいいってもんじゃない。覚えておけ」
 御高説はありがたいが、俺はテロリストになる気はない。

79:2004/01/30(金) 22:42

 そうして、俺とリナーは再び一階へ戻ってきた。
「武器庫がある場所は… ここだな」
 リナーは地図で位置を確認する。
「こっちだ」
 そして、スタスタと歩き出すリナー。
 俺は慌ててついて行った。

 リナーは、武器庫のドアをぶち破った。
 素早く中に入ると、片っ端から鍵を壊しながら色んなところを漁り出す。
「弾薬補充モナか?」
 俺は訊ねた。
「いや、探し物はこれだ…」
 リナーが差し出したのは、服とヘルメットだった。
「機動隊員の装備一式だ。これを着用しろ」

 よっと…
 俺は、少し大きいその服を着用した。
 ガスマスクを装着し、ヘルメットをかぶる。
 リナーもカーテンに隠れて一瞬で着替えたようだ。
 微妙に、リナーの作戦が読めた気がする。
 だが、それは余りにも無謀ではないだろうか。
「ひょっとして、この格好で包囲している警官に混じろうって考えモナ?
 警察もそこまで馬鹿じゃないと思うモナ…」
 リナーは不服そうな視線を向けた。
「ひょっとしなくても、そういうつもりだが…
 もちろん、これを着てそのまま出て行ったりはしないさ」
 そう。
 いかに機動隊員の服を着ているとはいえ、このまま正面玄関から出ても狙い撃ちになるだけだ。
 突入してくる機動隊員に混じるのも無理があるだろう。

 俺達はロビーに出た。
 リナーが銃撃戦を繰り広げたせいで、壁も床も銃痕だらけだ。
「この格好をしているのを、外の連中に見られるなよ」
 そう言いながら、リナーはロビーにも爆弾を仕掛けている。
 確かに、これから警官に紛れるのだから、知られたら致命傷だ。

 爆弾を仕掛け終わると、 リナーはガスマスクを装着した。
 女性である事をばれない様にする為だろう。
 右手は服の中に隠れている。
 爆破のスィッチを手にしている事は明白だ。
「…よし、準備は全部終わった。後は向こうの突入待ちだな。
 しばらく、『アウト・オブ・エデン』で見張っていてくれないか」


 …1時間経過。
 警察に動きは見られない。
 俺とリナーは、フロントのブースに備え付けられた椅子に座っていた。
 角度の関係上、外から俺達の姿は見えない。
「人質の存在を偽ったのが仇になったな。向こうはかなり慎重だ…」
 リナーは苛立たしげに言った。

 …僅かに、外の空気が変わった。
 息を潜めていたものが、動き出すような…
 間違いない。突入開始は近い!
「リナー…!」
 俺は、リナーに目線を送った。
「よし、しばらく伏せていろ」
 リナーはそう言って、自分もブースの下に伏せる。
 俺達は、ブースに隠れて息を潜めた。

 ザザザザザ…
 複数の人間の、均整の取れた足音。
 それが、徐々に近付いてくる。
 『アウト・オブ・エデン』は、盾を構えて突入してくる機動隊員の姿をとらえた。
 彼等は、警察署内に踏み込んできた。
 そして、ロビー内に素早く展開する。
 たちまち殺気立つロビー。
「耳を塞いで、口を開けていろ…」
 リナーは小声で囁く。
 そして、胸元のスィッチを押した。

80:2004/01/30(金) 22:42

 耳をつんざく轟音と衝撃。
 一瞬、ロビーは爆炎に包まれた。
 背中に強烈な熱気を浴びる。
 ロビーに展開していた機動隊員から、大きな悲鳴が上がった。
 床に伏せていなかったら、俺の体も衝撃でなぎ倒されていただろう。
 ロビーには控えめにしか仕掛けていないと言っていたが、それでもとんでもない衝撃だ。

 俺はそっと頭を起こす。
 炎は一瞬で消えてしまった。
 とは言え、あちこちで火がくすぶっている。
 ロビー中に、機動隊員達が倒れていた。
 そこら中で、微かなうめき声が聞こえる。
 『アウト・オブ・エデン』で見たところ、死人は出ていないようだ。
 また、警察署の建物そのものには損傷はない。
 爆発したのは、ロビーの爆弾だけのようである。


「もうしばらく、息を潜めていろ…」
 リナーは小声で言った。
 そばらくして、近付いてくる大勢の人間の足音。
 先程の機動隊員のように、統一された動きではない。
「急いで運び出せ!」
「担架は足りるか?」
「爆発規模は小さかったようだ。急げ!」
 ロビー中が喧騒に包まれた。
 どうやら、救急隊員が入ってきたようだ。

 次々に運び出されていく怪我人。
「あっちにも二人いるぞ!!」
 二人の救急隊員が近付いてきた。
「大丈夫ですか!? 聞こえてますか!?」
 そう呼びかけながら、まずリナーを担架に乗せる。
 そして、二人で担架を持ち上げた。
 そのまま外へ運び出そうとしたその時…
「…声を出せば殺す」
 リナーは担架に横たわったまま、救急隊員の喉元にバヨネットを突きつけた。
「!!」
 救急隊員二人は、驚愕の表情で固まった。
「…何事もなかったように運び出せ。変な素振りを見せれば、二人とも殺す」
 リナーはバヨネットを突きつけたまま告げた。
 救急隊員達は、担架を持ち上げて歩き出す。
 彼等の顔面は蒼白で汗が滴り落ちているが、異常に気付くものはいない。
 この喧騒の中では、それも当然だろう。
 今も怪我人が次々に運び出されているのだ。 
 俺はゆっくりと起き上がると、その横に付き従った。
 傍から見れば、負傷者を運び出す救急隊員と、それに付き添っている機動隊員にしか見えないはずだ。

 そうして、まんまと外へ出た。
 外は大混乱だ。
 大勢の機動隊員が担架で運び出されている。
 警官が、無線機で何かを怒鳴っているのが目に入った。
 もう、完全に均整はとれていない。指揮系統もバラバラだ。
「仕上げだ…」
 リナーは、懐のスィッチを押した。
 轟音とともに、警察者が崩れ出す。
 場はますます混迷を極めている。
 大勢の視線は崩れ落ちる警察署に注がれていて、俺達を気に留める者は誰もいない。

 そのまま、リナーは救急車に運び込まれた。
 俺も、後について素早く乗り込んだ。
「ん? 二人は収容できない…」
 振り返って、不審そうに口を開いた運転手。
 その顔面に、リナーは銃を向けた。
「!!」
 運転手は慌てて両手を上げた。
 俺は、すかさず救急車後部の収容口を閉じる。
「私が運転しよう」
 リナーは運転手を押しのけると、運転席に座った。
「しばらく大人しくしてれば、何もしないモナ」
 俺は怯えきっている三人に告げる。
 その表情は、いくぶん安堵したように見えた。
 そして、リナーは救急車を発進させた。

81:2004/01/30(金) 22:43

「上手くいったモナね…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 それにしても、よくバレなかったな。
「この国の危機管理マニュアルを逆手に取った。
 警察は過剰に人命を尊重するから、負傷者は真っ先に運び出されるシステムなんだ。
 あそこまで混乱していたら、チェックもないに等しいしな」
 リナーは運転しながら言った。
 警察署から、かなり離れた国道を走っている。
 俺の家も近い。
「さて、ここらへんで降りるか…」
 リナーは車を脇に寄せると、そのまま駐車した。
 確かに、救急車に乗っていてはこの上もなく目立つ。
 俺達は、救急隊員達を車内に残したまま車を降りた。

 やはり、外の空気は清清しい。
「のんびりしている暇はないぞ。あの三人が、すぐに通報するだろうからな」
 リナーは言った。
「そうモナね…」
 俺はため息をつく。
 しかし、これで全てが終わったわけではないのではないか?
「でも、家に帰ったらまた捕まるんじゃ…」
「君の逮捕は、公安五課が仕組んだものだ。それに、奴らが私を逮捕するとは思えない」
 リナーはそう言った。
 だが公安五課はそれでよくても、問題は警察だ。
「でも、警察は…」
 俺はさらに口を挟む。
 警察署内に立てこもったあげく、爆弾で吹っ飛ばした。
 警察の面子に泥を塗ったどころの話じゃないだろう。
 特に、警察署内で大暴れしたリナーは顔もバッチリ見られてるだろうに…
「そっちは心配ない。『教会』から圧力をかけて終わりだ」
 平気で答えるリナー。
 そんなに上手くいくもんなのか?
 『教会』の影響力は、どうやらかなりのものらしい。

 …まあいい。
 リナーが大丈夫という以上、大丈夫なのだろう。
 俺は大きく深呼吸した。
 久し振りのシャバの空気ってやつだ。
 しかし、うかれてはいられない。
 留置所内で俺は誓った事があるのだ。
 まず、罪を背負う事。
 それと、この町を守る事。
 これ以上、吸血鬼による犠牲者は出さない。
 見ていろ、『アルカディア』。町から叩きだしてやる…!


 俺はそう息巻いていた。
 俺は、あくまで正義の道を行こうとしていたのだ。
 しかし俺の思いとは裏腹に、事態は最悪の方向に向かっていく。
 結論を先に言おう。
 俺はこの町を守れなかった。
 俺は、正義の道を進む事はできなかったのだ。
 煉獄と化す町。
 その滅亡の序曲は、すでに奏でられていた…


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

82:2004/01/30(金) 22:43
*次回予告*
   __________
 /
 | 次回は、『アルカディア』。
 | いよいよ、次回から本番とも言うべき展開に突入します…
 \
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄
          \    ∧_∧
            ∩  (´Д` )
            |''|   >Y~~\
            | |  /  /†   ヽ
            | |/ /ヽ⌒⌒⊂|二)
            ヽ_/ | `|⌒⌒|
                  | |    |
______□||□_/ 人   \
             / /  ヽ   ヽ
            / /  ∧ `    \
          / /  /  ヽ \   \

83新手のスタンド使い:2004/01/30(金) 23:36

合言葉はwell kill them!第六話―空からの狂気その④


「ウケケッ!空も飛べない人間がどうやってこの俺様に傷を付けるって言うんだい?」
カラスは先ほどから街路樹のてっぺんに止まり、アヒャたちを見下している。
「たしかに俺らは空を飛ぶ事はできない。だがな、お前と同じように飛び道具は持っているぜ!」
アヒャはそう叫ぶと背中に背負っている缶の中の血を自分の手のひらに集めた。

ビキッビキビキッ・・・・・・・

血は固まり、みるみるうちに形を変えて拳銃の形を作った。
「食らっておきな、B・R弾を!」

ジャアキイイィィィン!!!
ドギュン、ドギュン、ドギュン!!

血の拳銃から3発の銃弾が飛び出した。
「何ッ!?」

バシュバシュバシュッ!

カラスもスタンドの矢を発射して銃弾を相殺した。
「すごい!今のは何?」
「俺とブラッドが開発した『B・R弾』。血を凝固させてから圧力をかけて銃弾のように発射したのさ。
 血液を消費するから撃てる数に限りはあるけど。」

カラスはその目を大きく見開いた。
少しだが動揺しているみたいだ。
「やるな人間・・・だがやはり俺のほうが飛行が出来る分、有利だと言うのは変わりは無いんだぜ―――ッ!」
カラスは再度空へと舞うと、矢を放ってきた。

するといままでヤムチャ状態だったネオ麦が前に出た。
そのとたん、矢がすべてネオ麦を避けるかのように軌道を変化させた。
「…馬鹿な……!」
「『マインド・サーカス』!」
ネオ麦が自分のスタンドを出した。
「一体何が起こったのか分かんないって所か?俺の能力は目で確認した銃弾などの飛来物の軌道を自由に変えられるのさ!
 つまりお前に勝ち目は無いってことさ!アハハハハハハハハ――――ッ!」
勝ち誇ったように高笑いをするネオ麦。
正直ムカつく。

「なるほど・・・だが、裏を返せば『目で確認出来ない銃弾は軌道を変えられない』と解釈できるな。」
カラスは超低空飛行でネオ麦の背後に回った。
だが笑っていてそれに気が付かないネオ麦。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドンッ!
ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!ザクッ!

「おふうッ!」
背中に矢の直撃を受けたネオ麦は、その衝撃でドリフのコント並みにぶっ飛んだ。
どうやらカラスの推測は当たったらしい。
そしてそのままコンクリートの段差に頭をぶつけ、意識を失った。

「この… 役立たずがァッ!!」
アヒャがネオ麦を怒鳴りつけた。
しかし、その声がネオ麦に届くはずが無い。
彼は今、三途の川のほとりを彷徨っているのだから。

84アヒャ作者:2004/01/30(金) 23:37

ビシューン!

何本もの矢が地をはう角度から空気を切り裂き、うなりを立てて襲いかかる
「不意さえつかれなきゃ、これくらいの弾数たいしたことねーッ!」
タイミングを見計らい、ヒラリと身をかわす。

ドギュン、ドギュン、ドギュン!!

側転をしながらB・R弾を発射。
カラスも空中で難なく避ける。

「クククッ、やるじゃねえか人間!お前みたいな奴は始めて出会ったぜ!」
「そりゃご丁寧にどうも。」
「そろそろ俺も本気を出すぜ!覚悟しな!」

ドスッ!

カラスのスタンドについていたアンカーが地面に突き刺さった。
そのとたん球体のスタンドが回転を始めた。

「こ・・・今度は何を・・・?」

球体の突起が周りの空気を吸い込んでいる。
「なるほど、空気を固めて矢を作っていたのか。」
マララーが感心した。
その時だった。

アヒャ、シーン、マララーの三人は足をすくませた。
たしかこんなシーン映画で見たなと感じた。
大量の矢が球体から一斉に発射されたのだ。

「うわああ何だあのカラスッ!?手加減なしかあああぁぁぁッ!」
「クックレイジーな野郎だッ!ヤ・・・ヤベエェェェェーッ!」
「う、うわああああぁぁぁッ!」


三人の絶叫のハーモニー!
そこに情けも容赦もなく、大量の矢が飛んできた!

バラダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタダッ!ゴヒュウッ!

ドズン!バガン!ドバッ!ドバッ!ドバアッ!ドガン!ドガン!

「おお・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜ッ!」
超人的なスピードで回避行動をとる三人。
まるでドラえもんに出てきた忍者ゲームだ。
しかも矢はアヒャ達だけでなく、道路にある物すべてを襲う。

バリーン!ガシャアーン!「うわっ!」「ぎゃあっ!」
あちこちで悲鳴やガラスの割れる音があがる。

ブティックのショーウインドウはわれ、あちこちで車が衝突し、
通行人は血を流し・・・うめく者、叫ぶ者・・・わずか一瞬で、この辺りは地獄絵図と化したのだ。

「ひでえ・・・何もここまでしなくても・・・。」
無事なのは、アヒャのスタンドで咄嗟に身を守れた三人だけのようだ。
ついでに幽体離脱しているネオ麦も。

「ケーッケッケッ!い〜い眺めだなぁ〜。」
カラスは悠然とこの惨状を眺めている。
その姿はまるで、戦争ゲームで敵を全滅させた事を喜んでいる子供のようだ。

85アヒャ作者:2004/01/30(金) 23:37

「・・・テメェ・・・・。」
アヒャが唇をかみ締めた。
「・・・許さない・・・許さないぞ・・・・。」
それ以上にシーンの方が怒りに震えていた。

その時アヒャは見た。
シーンの背中に浮かぶ卵形のスタンドを・・・。

「お、おいお前!いつからスタンド出せるようになったんだよ!?」
「え・・・・?あ、本当だ。」

シーンが気づくと同時に、卵が音を立てて割れた。

バギバギバギバギッ!

そしてその中から現れたのは・・・・。

「ナーアアアァァァァァァァ!」
「り、竜の・・・子供!?」

その姿はまさしく竜そのものだった。だが、卵から出てきたせいか、まだ赤ん坊状態といったところだ。

「・・・・戦えるのか?そのスタンド?」
「・・・・分からない。」

悩んでいても始まらない。とりあえずこのスタンドも戦わせる事にした。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

86:2004/01/31(土) 20:47

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その1」



          @          @          @



 内閣総理大臣、内閣官房長官、警察庁長官、防衛庁長官、および各省庁のトップ。
 そして、公安五課局長、統合幕僚会議議長――
 雪が降り積もろうとしているこの日、首相官邸に多くの重要人物が集まっていた。
 彼等は、会議室に備えられた大型机を囲んでいる。

「さて… 吸血鬼殺人の件ですが、マスコミへの緘口令を…」
 官房長官の報告を遮って、フサギコは口を開いた。
「悪いですが、こちらに早急に解決を要する事案があります」
「統合幕僚会議議長、何を言っている…?」
 官房長官は、怪訝そうな視線をフサギコに送る。

 フサギコは、彼を無視して話し出した。
「現在、ASAが我が国に駐屯しています…」
 全員の視線が、フサギコに注がれる。
「よって我が隊の出動を要請します、首相」
 フサギコは、上席に座っている首相を凝視した。

「フサ…いや、統合幕僚会議議長。貴方は何を言っているのか分かっておられるのか?」
 局長は口を挟む。
「分かっておりますとも、公安五課局長殿…」
 フサギコは局長を横目で見て、笑みを浮かべて言った。

「防衛庁長官! これは防衛庁の総意と見ていいのか!?」
 官房長官が怒声を放ちながら席を立った。

「いいえ! 統合幕僚会議議長の独断です!」
 防衛庁長官はすがるような声を上げた。
 そして、フサギコを叱責する。
「キミ、発言を撤回しなさい! こんな時期に治安出動なんて…」

「治安出動? ふざけた事を言うな。防衛出動だ…」
 フサギコは腕を組んで言った。
「…防衛出動だと!?」
 それを聞いて、首相が大声を上げる。
「ふざけるな! 軍の専横だ!!」
 何人かが、机を叩いて立ち上がった。
 官邸内は緊迫した雰囲気に包まれる。
 フサギコだけが、涼しい顔をして腕を組んでいた。

「戦争でも起こすつもりか、貴様!!」
 掴み掛かるような形相で、防衛庁長官が叫ぶ。
「黙ってろよ、役人…」
 フサギコは防衛庁長官を睨みつけると、低く呟いた。
「な…」
 防衛庁長官は、一瞬呆気に取られた。
 そして、首相の方に向き直る。
「首相! 統合幕僚会議議長の更迭を要求する!!」
 
「だ…」
 首相が口を開きかけた時、フサギコは椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「我が国は外部からの武力攻撃を受けている!! …自衛隊法76条により、我が隊は防衛出動を行う!!」
 大声でそう宣言するフサギコ。

 会議室は、静寂に包まれた。
 しかし、それも一瞬だ。
「ふざけるな!」
「独断専行だ!」
「この狂人を逮捕しろ!!」
 部屋中に怒号が響き渡る。

「こんなやり方で、皆が納得すると思ったのか…?」
 口々にフサギコに浴びせられる怒号の中で、局長はため息をついて訊ねた。
「そんな訳ないだろう。俺をただの馬鹿だとでも思っているのか?」
 フサギコは蹴り倒した椅子を戻して、再び席についた。

 喧騒は収まらない。
 大半の人間がフサギコに怒号を浴びせている。
 黙って座っていたフサギコが、突然に拳を机に叩きつけた。
「我が国には、ASAの6コ師団が駐屯している! 太平洋には奴等の艦隊が展開している!
 これを侵略と言わずして何と言うか!!」

 場は、たちまち静まり返った。
 フサギコは言葉を続ける。
「自衛隊は『自らを衛る隊』だ! 今この国を守らずして、何が自衛隊か!
 この国がASAの… スタンド使いの温床になってからでは遅いのだ!!
 これを独断専行と罵る諸君には、国防の何たるかを考え直してもらいたい!!」

「馬鹿な! 最終決定権は私にある! 軍人が勝手に軍を動かす事などできん!!」
 首相は机を叩いて立ち上がった。
「おや? 自衛隊は軍隊ではないはず。それを今まで強引に主張してきたのはあなた方では…?」
 フサギコは、腕を組んで笑みを浮かべる。
「同じ事だよ。君の発言に比べたら、大した問題にもならん…」
 首相は、気まずそうな表情を浮かべながら椅子に座り直した。

「なるほど。どうあっても諸君は納得されないらしい…」
 フサギコはため息をついた。その顔には余裕が漂っている。
 そんなフサギコを睨みつけて、局長が口を開いた。
「…もう茶番はいい。切り札を見せろ」

87:2004/01/31(土) 20:49

「切り札ねぇ…」
 フサギコは口の端に笑みを浮かべた。
 局長は、スタンド使いでもない彼に寒気を覚える。
 …狂気と信念。
 一見、相反するものを今のフサギコは兼ね備えている。
 そう。独裁者たるに充分な素養だ。
 局長はフサギコと古くからの付き合いだったが、今まで彼を重要視していなかった事を後悔した。
 これで、予想されていたASA対『教会』の対立構図が大きく覆るかもしれない…

 フサギコは腕を組んだまま窓の外に目をやった。
 雪は、ますます激しさを増している。
「我が国では、政変が起きるときには雪が降るというジンクスがありますな…」
 そう言いながら、フサギコは静かに席を立った。
 そして、窓の傍に歩み寄る。
「我が国に軍隊が創立されて以来、一度だけ戒厳令が発令された時がありましたな。自国の戦車が道路を走り回った日が…」
 窓の前まで来ると、フサギコは一同に振り返って言った。
「その時も、今日のように雪が降っていたとある。あれは、1936年の2月26日だったか…」

「フサギコ…お前、まさか!!」
 局長は席から立ち上がった。

 その刹那、会議室に一人の男が駆け込んできた。
「総理! 大変です!!」
「…副官房長官か。今度は何だ?」
 首相はうんざりした顔で答える。
「経済企画庁長官、警察庁警備局長、内閣安全保障室長の3人が、それぞれ自宅で射殺されたという報告が!!
 犯人は軍服らしきものを着用していたとあり…!!」

「何だって!?」
 会議室は、一瞬にして驚愕に包まれた。
「軍服だと…!? まさか、貴様…!」
 総理は搾り出すような声を上げる。
 フサギコは窓の脇で腕を組んだまま、表情を変えずに言った。
「かってこの国は、軍部の暴走がきっかけで戦争に突入した。
 そして、マスコミと民衆の世論がが開戦を後押しした。
 リベラルな要人は、暗殺に怯えていた為に開戦に反対できなかった。
 …お膳立てはそっくり整ったと思わないか?」

「要人暗殺…、それがお前の切り札か…!」
 局長はフサギコを見据えて言った。
 『矢の男』とASAの戦いのVTRがリークされたのも、この男の仕業に違いない。
 普通の人にはない、超能力を持った人間がいる… そんな噂が、まことしやかに囁かれ始めている。
 吸血鬼殺人、世界各地での集団失踪、警察署爆破…
 次々に起こる重大事件に、人々の不安はピークに達している。
 それは、集団ヒステリーの一歩手前…

「警備! この男を捕らえろ!!」
 首相は会議室の外へ向けて怒鳴った。
 それに応じて、廊下へと通じる扉が開く。
 しかし、入ってきたのは警備員ではなかった。
 89式小銃を手にした、陸上自衛隊の制服に身を包んだ男達。
 彼等は統制された動きで会議室の出口を固めた。
 その数、約20人。
 おそらく外にはもっと配置されているはずだ。

「陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長も、私の意向に賛成してくれている。
 諸君はしばらくここで大人しくしていてもらおう…」
 フサギコは告げた。
「クーデターだと…! 我々をここへ軟禁する気か!?」
 官房長官は怒鳴り声を上げた。
 自衛官の一人はその肩を掴むと、机に押し付ける。
「ああ。大人しくしていれば、身の安全は保障する」
 フサギコは官房長官を見下ろして言った。
 自衛官達は部屋中に広がると、要人達を拘束した。
「この国が焦土と化すのを黙って見ていろと…?」
 そう言った首相にも、背後から銃が突きつけられている。

 それを聞いたフサギコは、ため息をついた。
「あなた方に、この国の行く先を考えてもらう必要はない。自分の事だけを考えたまえ」
 突如、周囲にヘリローターの音が響き渡った。
 鮮やかなライトが窓の外から照らしつけられる。
「な、なんだ…!?」
 首相は、思わず困惑の声を上げた。
 窓の外には、AH−64D・通称アパッチがすぐ近くまで接近していた。
 正面に備え付けられたガトリング・ガンは、室内に向けられている。
「…戦争屋め!」
 官房長官は吐き捨てた。

 局長は、つかつかとフサギコに歩み寄った。
 10を超える銃口が一斉に局長に向けられる。
 それを意に介さないように、局長はフサギコの横に立った。
「で、お前はこれからどうするつもりなんだ?」
 局長はフサギコの目を見据えて言った。

88:2004/01/31(土) 20:49

「戦力逐次投入の愚を犯すような事はしないさ。大部隊でASAの本拠地を叩く」
 フサギコは言った。
「その後に、スタンド使いの存在を公表する。吸血鬼殺人も、警察署爆破の罪も全て被ってもらってな。
 そうすれば、スタンド使いの集団たるASAへの攻撃も正義の戦いとなる」

「馬鹿な…! そんな事をすれば、魔女狩りの再来だ!!
 16世紀のヨーロッパの暗黒時代を、この国で再現するつもりか!!」
 首相は声を張り上げた。
「…総理はお疲れのようだ。君、総理を寝室に案内してくれ」
 フサギコは、自衛官の一人に言った。
「さあ、こっちへ…」
 その自衛官は、強引に首相を連れて会議室から出て行った。

「まさか、君が正義を口にするとはな…」
 局長はため息をついた。
「全ては、この国の事を思っての事だ。今はクーデターにしか見えないだろうが、俺は百年先のこの国を見ている」
 フサギコは、局長の目を見返して言った。
 激しく睨み合う二人。
「未来の為に、銃を手にする…か。戦いのない世界を、戦争によって築くような滑稽さだ」
「何とでも言え。これから先、さらに多くの人間が俺に罵声を浴びせるだろう。そんなのは些細な事だ」
 フサギコは軽く首を振った。
 それを受けて、局長は口を開く。
「ならば言わせて貰おう。歴史上、独裁者と呼ばれる人種は、ほぼ例外なく正義を口にしたよ。
 国家の正義、個人の正義、民族の正義、宗教の正義… 馬鹿げた話だ。
 私はうすら甘い平和主義者ではないが、戦争によって掴み取る正義など存在しない事は承知している」
「…分かってるんだよ、そんな事は」
 フサギコは短く呟いた。

 局長は再びため息をついた。
「ところで、私の処遇はどうなる? 私もお前の嫌悪するスタンド使いだが…」
 フサギコは口を開いた。
「お前には、今まで通りスタンド対策局の局長でいてもらう。
 スタンド使いへの抑止力として、公安五課は必要だ。
 警官が拳銃の所持を認められているのと同じ理由でな…」

「なるほど、貴方はこの戦争後のビジョンも描いている訳か。
 『ユートピアとは、贋物の一つもない社会をいう。あるいは真実の一つとない社会でもいい』ってやつだな…」
 局長はトマス・モアの言葉を引用した。
「…俺はユートピアなど求めてはいない」
 フサギコは不服そうに言った。

「それも同じ事だ。 …そして、私はハインリヒ・ヒムラーになるつもりはない!!」
 局長は、窓に向かって走り出した。
「撃て!!」
 フサギコは叫ぶ。
 局長に向けられていた銃が、一斉に火を噴いた。
「『アルケルメス』!!」
 局長に向かって放たれた弾丸は、全て彼の体をすり抜ける。
 そのまま局長は窓に体当たりした。
 ガラスが割れ、局長の体は窓の外へ飛び出す。

「…ちっ!」
 フサギコは舌打ちした。
 そして、窓から下を見下ろす。
 既に、局長の姿はそこにはなかった。

「…追いますか?」
 自衛隊員が訊ねる。
「いや、その必要はない。放っておけ」
 フサギコは忌々しそうに言った。
「はっ!」
 自衛隊員は敬礼の姿勢を取った。

 再び、フサギコは窓の外へ向き直った。
「さて… これからだな」
 そう呟くフサギコの脳裏に、カバラ戒律の一文が去来した。
『心せよ 亡霊を装ひて戯れなば、亡霊となるべし』

89:2004/01/31(土) 20:51

          @          @          @



 俺は部屋でゴロゴロしていた。
 昨日の夜、俺は留置所から脱走した。
 そして、次の日には何事もなかったように学校へ行ったのだ。
 正直に言うと、また刑事が来ないかとガクガクブルブルしている。

 ふと時計を見た。
 今は、午後五時。
 今日の夜から、吸血鬼探しを再開しよう…と思っていた。
 外には雪がちらついていたが、今は雨に変わっている。
 しかも土砂降りだ。
 こんな日には、吸血鬼も外出しないんじゃないか?

 ドアがノックされた。
「どうぞモナ」
 俺は、ドアの外に呼びかける。
 ドアが開いた。
 そこには、リナーが立っている。
 ウホッ! 夜這いイベントか!?

「…少し、外へ出ないか?」
 リナーは俺にそう告げた。
 これはもしかしてデートの誘い?

「いいけど、どこへ行くモナ?」
 俺ははやる気持ちを抑えて訊ねる。
「…ただの散歩だ」
 リナーは少し照れたように言った。
 ちょっと待て!
 これは今までと違って、本当に脈ありって事か!?
「い、行くモナ!」
 俺は慌てて言った。


 俺は玄関を開けた。
 雨が地面を叩いて、無秩序な音を立てている。
「よっと…」
 俺は大きめの傘を差した。
 横にリナーが並ぶ。
 相合傘だと思うと、ちょっとドキドキした。
「とりあえず、どこへ行くモナ?」
 俺は横のリナーに訊ねた。
「適当で構わない。君と話をしたかっただけだ…」
 そう言って軽く微笑むリナー。
 その笑みには、少し寂しさの色が含まれているような気がした。

 とりあえず、俺達は傘を差して歩き始めた。
 地面から跳ね返った雨粒が足を濡らす。
「でも、一体どういう風の吹き回しモナ?」
 俺は首をかしげて訊ねた。
「…私と散歩するのは嫌なのか?」
 視線を落とすリナー。
「いやいや、滅相もない!」
 俺は首をぶんぶんと振った。
 リナーは視線を上げない。
 俺達は、無言で歩き続けた。

 俺達が歩いているのは、夜に吸血鬼捜索をしていた時のルートだった。
 無意識にそのルートを辿っている事に気がつく。
 そう言えば、リナーと外出したのは真夜中とクリスマスくらいだ。
 俺はふとリナーの方に目をやった。
 視線を落としていて、表情は読み取れない。
 もちろん、『アウト・オブ・エデン』を使う気にもならない。
 もっとも、今までにもリナーの内面を見た事はないが。

「多分、私は君の事を好きなんだと思う」
 …え?
 幻聴か?
 今、リナーは何て言った?
「愛情…と言うんだろうな、これは」
 リナーは、真っ直ぐに俺の目を見ていた。
 いつしか、俺達は立ち止まっている。

「わ、悪いものでも食べたモナか…?」
 俺は恐る恐る訊ねた。
 リナーは露骨にため息をつく。
「デリカシーの無さにも限度ってものがあるぞ…」
「ご、ごめんモナ…」
 俺は慌てて言った。
「こういうシチュエーションで謝るのが、デリカシーの無さの証明なんだ」
 リナーは少し微笑って言った。
「だが、君のそういう所も嫌いじゃない」
 そう言って、目を閉じるリナー。
 俺の方を向いて、軽く顔を上げる。

 こっ、これは!!
 どどどどうする?
 まあ、男としてやる事は決まっている。
 まず、夢かどうかの確認だ…
 頬をつねって普通に痛い!
 夢じゃない!
 独りじゃない!
 キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

「キ、キスしていいモナ…?」
 俺は猛烈に戸惑いつつ訊ねた。
「そんな事をいちいち訊ねるな。男なら黙って唇を奪え…」
 そう告げるリナー。
 胸がドキドキして、何だか訳が分からなくなってきた。
 俺は、リナーの肩に手を置いた。
 じゃあ、いくぜ!!

 俺は、リナーの唇にそっと顔を近づける。
 その瞬間、俺の唇はリナーの立てた人差し指で止められた。

 リナーは目を開いて言った。
「…気が変わった」
 えええええぇぇぇぇぇぇ…
 それは、余りにもひどい。
「やはり、私は君の心に残るべき人間ではない。私の事はさっさと忘れた方がいい…」

90:2004/01/31(土) 20:52

 …忘れるだって? どういう意味だ?
 リナーは、そっと俺の胸に額を当てた。
 温もりが伝わってくる。
 俺の心臓は壊れそうなくらい音を立てていた。
「…今までありがとう。君には、色々な事を教えられた」
 何で礼なんて言うんだ?
 凄く嫌な予感がする。
「以前言ったように、私はクリスチャンじゃないが… 最後に君と出会えた事は、神に感謝したいな…」
 …泣いている?
 そう、リナーは涙声だった。
「リナー…」
 俺は、リナーの肩を抱こうとした。
 だが、その前にスッと俺の身体から離れた。
 そのまま、一歩後ろに下がる。
 傘から出たせいで、たちまちリナーの身体は雨に濡れていった。

「…これでさよならだな。もう、君とは会えない」
 リナーは、雨に濡れて立ち尽くしながら言った。
 なんでだ?
 会えないってどういう事だ?
 俺は困惑した。
「…どういう事モナ!?」
 俺は、それだけを告げるのがやっとだった。

「私は、君に嘘しか言っていないんだ…」
 リナーは視線を落として言った。
「そんな事、初めから分かってたモナ」
 そう、リナーは嘘をつくのが下手なのだ。
 そんな事、最初から分かりきっていた事だ。

「私は、君の嫌う人殺しなんだぞ!」
 雨に濡れながらリナーは叫んだ。
「そんな事が関係あるか! 俺だって人殺しだ!!」
 俺も大声を張り上げる。

 リナーは、少し怯えたような表情をした。
「違うんだ… 私は、違うんだ…」
 視線を落として呟くリナー。
 俺は傘を投げ捨てて、リナーに近付いた。 
「リナーが人を殺したからって… 俺が嫌うとでも思ってるのか!!」
 怒鳴り声を上げる俺。

 俺を避けるようにして、一歩下がるリナー。
「いいや、君は分かっていないんだ。私が何者なのかを…」
 リナーの頬を雨が伝う。
 いや、涙か?
 分からない。
 もう、何も分からない。

「まさか…リナーが、『アルカディア』の本体?」
 俺は頭に浮かんだ事を口に出した。
 リナーは首を振る。
「それは大ハズレだな。『アルカディア』は、学校を根城にしている事が確認された。
 奴の誅殺が、私の最後の仕事だ。それが終われば私は…」
 リナーはそこで言葉を切った。
「…自らの命を絶つ」

 頭が揺さぶられた。
 雨のざぁざぁという音が耳に響く。
 何を…
 リナーは何を言ってるんだ?
「…どういう事モナ?」
 俺は、ヨロついた足でリナーに近付いた。

「来るな!」
 リナーは叫んだ。
「来るんじゃない…」
 リナーは後ろに退がった。
 怯えたような引きつった顔は、笑顔にも見える。
 
「リナー!!」
 俺は、その名を呼んだ。
 最も愛すべき者の名前を。
 そう、俺は初めて気がついた。
 町なんて… この町なんて、どうでもよかったんだ。
 俺は、ただリナーを守りたかった。

 リナーは軽く飛ぶと、塀の上に立った。
 そして、俺に笑顔を見せた。
 今までに見たことも無いような柔らかな笑顔を。

「この世界で、私が愛する事ができたのは君だけだ。
 …それだけの事だ。私の中で処理すべき問題に過ぎない。
 君はこのまま日常に戻るんだ。君ならできるさ…」
 リナーは笑顔で言った。
 雨に濡れたその笑顔は、今まで見たどのリナーよりも美しかった。

「…ありがとう」
 そう告げて、身を翻すリナー。
 たちまち、リナーの姿は見えなくなった。
 俺は、その場にへたり込んでいた。
 地面に落ちた傘に雨が当たって、湿った音を立てている。
 その音が、いつまでも耳に残っていた。


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91新手のスタンド使い:2004/01/31(土) 23:38
新作age

92新手のスタンド使い:2004/02/01(日) 00:04
さいたま氏乙…寝る前にいい物がよめました

93N2:2004/02/01(日) 06:07

社会的正義 対 個人的正義の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その④)

アヒャは生まれながらにしてその存在を他人から忌み嫌われていた。
彼がその事実を認識したのは彼が5歳の時、ある自分と同じ位の歳の少女を出会った時であった。

彼には当時から全く友達と呼べる者がいなかった。
それは彼が決して皆と打ち解けようとするタイプではなかったということも関係してはいたが、
それだけではなく、周りの子供達が自分を避けている
――と言うよりも大人達がそうさせていると彼は直感で感じていた。

その日、彼が目的も無く近所の公園に行くと、そこには1人の少女が、
彼女もまた一緒に遊ぶ友達がいないかのように、寂しげにブランコに座っていた。
彼が少女に何してるの、と聞くと少女は何もしてない、何をしてもつまらないからと言った。

後に知ったことでは彼女は近所で有名な企業の社長令嬢であり、いわゆる「箱入り娘」であったがために
友達を作る機会すら与えられず、いつも躾けの厳しい婆やの目を盗んでこの公園へ来ているのであった。
彼は少女の中に自分と同じ孤独感を見出し、自分が彼女の友達になろうと思い立った。
初めは彼女も妙に親しげな少年を信頼してはいなかったが、
日を重ねるごとに2人の間にはささやかな友情が芽生え、いつしかそれは「恋」と呼べるものに変化していった。
…だがそんな2人の仲を、無常にも社会的な偏見が引き裂くことになる。

ある日、2人はいつもの様に公園の砂場で遊んでいた。
と、そこへ少女の言う婆やらしき女が慌てた表情で掛け付けて来た。
その後ろには少女の父親らしき男もいた。
老婆は2人の元へ来ると怒りと心配の入り混じったような怒鳴り声を上げ、少女を抱きかかえると…、
男は少女の目の前でアヒャを血まみれになるまで殴り、蹴り、踏み付けた。

少女は二度と公園へ来ることはなかった。
だが彼の両親は大怪我を負って帰ってきた息子を見ても、病院にさえ連れて行こうとせず
ただ「我慢しなさい、我慢しなさい」と言うばかりであった。
両親は病院へ連れて行っても、警察へ連れて行っても何の解決にもならないことが分かっていたのだ。



彼は生まれついてからその血が差別されるべきものと決め付けられていたのだ。
彼の先祖は、今から200年も前にこの国を統治し、とうの昔に滅んだ国家権力が大衆の感情を抑えるために
生贄として「人に非ざるもの」に定められたのだ。

彼は社会を、その過去も、現在も、未来さえも憎んでいた。
かつて自分の先祖達は、一部の人間の勝手な考えによって、末代までの不幸を決定付けられた。
それはたとえ後の政府が打ち消しても、人の心までは動かさなかった。
彼には馬鹿な考えを実行した過去の政権も、それに易々と動かされる愚かな民衆も、全てが敵であった。

それでも彼は、いつか救いが訪れると信じていた。
彼は人が学問の下に平等という言葉を信じ、死に物狂いで勉強した。
時には熱を出しても勉強し、時には手が血まみれになっても勉強した。

しかし、とうとう彼は平等には扱われなかった。

94N2:2004/02/01(日) 06:08

彼が両親の訃報を聞いたのは、彼が偶然隣町まで出掛けた帰りに自宅近くの野次馬に遭遇した時であった。

惨殺。
自宅に強盗が押し入り、彼の両親は見るも無残に滅多刺しにされたのだ。
もし出掛けていなければ、彼も同じ目に遭っていただろう。
警察はすぐに犯人を逮捕した。

判決の日。
彼は犯人が極刑に処せられるものだと信じていた。
ところが…、判決が言い渡されたとき、傍聴席は騒然となった。
『無期懲役』
それが法の導き出した答えだった。
裁判長は、やはりこの差別に踊らされている人間であった。
遂に法は、人の心を動かさなかった。

憤りと絶望に打ちひしがれ裁判所を後にする彼に、ある声が聞こえた。
「いいザマだ、奴らはこうなって当然の存在なんだ」
この瞬間、彼は全てを悟った。
もう自分が平等に扱われることはないのだと。
彼はもう、怒ることをやめた。



彼は全てを憎んだ。
自由とか平等とかを唱える者ですら恨んでいた。
あれは自分が差別されたことのない人間の偽善だ…とまで考えた。
やがて彼はある1つの野望のみが生甲斐と化していた。
それは今まで自分達を人として扱わなかった憎むべき平民共の思想を支配し、
差別の苦しみの無い世界を構成するというものであった。

そしてその彼なりの『正義』が、それを成し遂げる為の力を手に入れるべく『矢』を引き寄せることとなる…。

95N2:2004/02/01(日) 06:10

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



今私の目の前で対峙している2人のスタンド使い―――
初代モナーとアヒャの間には絶望的な実力の差があることが見ただけで分かる。

アヒャの方は表向きの威勢の良さでは負けてはいないが、既に『眼』が負けている。
自分にはスタンドがある。
100人以上の僕がいる。
それだけの自信が、初代モナーがスタンドを持っていると知っただけで脆くも崩れ去った。

対する初代モナーは、『眼』が活きている。
普通に考えればこれだけ多勢に無勢とくれば普通は怖気付くものであろうが、
むしろ視線で殺さんばかりにアヒャを睨み付け、完全に精神的に上位に立っている。

両者の間に、沈黙が流れる。
だがそれは決して2人にとっては平等なものではない。
静寂が、かえって追い詰められた者の精神を圧迫し続けるのだ。

案の定、先に動き出したのはアヒャの方であった。
と言っても本人が動いたのではない。
彼の手勢およそ150人が一斉に初代モナー目がけ襲い掛かったのだ。
私を取り囲んでいた奴らも、私が見えていないかのようにそちらへ向けて走り出す。

だがそんな攻撃は初代モナーには無意味であった。
高々並みの人間より少々上の運動能力如きで、
彼のスタンド『フィーリング・メーカー』の対応可能なスピードを超えることは出来ない。
瞬間的に360°全方位からの包丁を防ぎつつ、それを操る手や、あるいは足に
手加減した一撃を入れ続ける。

解せぬのは、攻撃を受けた者達は、決して高いダメージではないのにその場へと倒れ込んでいくことだ。
いや…倒れているのではない。
彼らは皆、眠りに就いているのだ。
となると、大体彼の能力がどんなものであるのか察しが付く。
私は彼の能力を思い巡らせていたが、ふと気付くと残っているのはもう10人位だけだった。

「ナンダ、コレハ!貴様、俺ノ操ル僕共ニ何シヤガッタ!!」
アヒャは自分の置かれている状況が信じられないらしい。
だがその問いを、初代モナーは軽く受け流した。
「…自分から手の内を晒すほど、俺は素人じゃないんでね。
言っただろ?お前の敗因は自分の手の内を晒し過ぎたことだって」

相手の神経を逆撫でするような挑発に、アヒャはまんまと乗ってしまった。
「コノ野郎…!テメエ、ゼッテエブッ殺す!
テメエノ腸(はらわた)ヲ引キズリ出シテ、気ノ済ムマデミンチニシテヤル!!」
既に冷静さを失っていたアヒャは、とうとう自分の感情の赴くままに初代モナーへと斬りかかった。

…愚かな。

そもそも包丁の持ち方が完全に素人のものだ。
ただ片手で振り回すか、あるいは突くくらいの攻撃。
子供の喧嘩だったらあんなものでも充分だが、熟練者相手ではかすりもするはずがない。
こうして遠巻きに傍観している私にも、アヒャの次の手は手に取るように分かる。
そして初代モナーは怒りに身を任せたアヒャの乱舞を、全て首を動かすとか、一歩退くとか、
最小限必要な動作だけでかわしていく。
そしてとうとう無駄に大きな振りを放った腕を掴むと、そのままアヒャを貯水槽へと投げつけた。

「時々思うんだ…貴様らみたいな俗に言う『下衆野朗共』ってのは
何を思って悪事を働くのか、ってな…。
だがそんな事今まで理解したことは一度も無い…何故だか分かるか?
それはな…お前らみたいな連中は!俺達とは違って根っから精神が腐っているからなんだよ!!」

同じ初代モナーから出たとは思えないような台詞。
とても立ち上がれる様子には見えなかったアヒャは、その差別的な発言を聞いて
身体を起こすと肉体の痛みを圧して押して再び走り出した。
だがそれがアヒャが素人たる第2の理由だとは、本人は気付いているはずもない。

スタンドを見せ付けてからの態度。
相手を見下した発言。
そして差別的な言葉。
初代モナーがどれだけ本心からそうしているのかは分からないが、
少なくともこれらの行動がアヒャの怒りと同格に扱われることは決して無いことだけは確かだ。
つまり、アヒャは完全に初代モナーに行動のペースを奪われている。
…いや、もっと強く言えば完全に操られている。
ああやって怒りに駆られた人間が、冷静な相手に立ち向かって勝てるはずも無い。

96N2:2004/02/01(日) 06:11

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



俺の思惑通り、こいつは完全に冷静さを失った。
度重なる侮蔑の言葉は、戦況の判断とかそんなことを全て取り払い、
完全に俺に対する「殺意」で奴の精神を一杯にする。
足の痛みを押した走りは、もうそれでしか動いていない。

だが、こいつにそんな事を考える資格はあるというのか?
こいつは何を考えているのかは知らないが、とにかく自分の意の赴くままに
この町の皆を傷付け、そして更には精神を支配した。
ヒトとしての尊厳とか、人権とか、そんな事よりも自分の気晴らしの方が大事なのだ。

今までにも、こんな精神の持ち主は(スタンド使いか否かに関わらず)腐るほど見てきた。
『下衆野朗共』は俺に追い詰められると、決まってこう言う。

「お前がどう考えているかは知らないが、俺にとってはこれが『趣味』なんだ。
釣りとかパチンコとかゲームとか、そんなものと同じなんだ。
それよりも、この『愉しみ』が理解出来ないお前の方がどうかしている」と…。

理解に苦しむ。
どうして他人を傷付けることによって、初めて快楽が得られよう。
『下衆野朗共』はそうやって他人の愉しみの犠牲となった経験は無いのか。
どうして他人の悲しみを目の当たりにして、自らの心が癒されよう。

そのような連中がはびこる限り、人の悲しみは終わらない。
親父もお袋も、その信念の元に戦い、そして殉じた。
ならば俺は、その誇り高き精神を引き継ぎ、この町にはびこる邪悪を駆逐するまでだ。



怒りに狂い、走ってくるアヒャ。
しかしもう既にトラップは張ってある。
特定のポイントに足を踏み入れると、アヒャは急に倒れだした。

「熱チイ!ア、熱ッ!ナ…コレハ…!」
のた打ち回って転がるアヒャに、第二、第三の罠が牙を剥く。
「……!!!
ツァッ!!冷テエ!!焼ケル!!セッ、背中ガッ…!!
……ックァア―――ッ!!
シ…ビ…レ…!!キサ…マ……!!!!」

こんなものでは許しはしない。
こいつの犯した罪は、ただ火傷したり凍傷になったり痺れた位で償い切れるものではない。
もうこれ以上無駄ないたぶりをしても無意味。
そろそろ終局だ。

「…分カルノカヨ」
突然アヒャが呟いた。
「テメエニハ分カルノカヨ…」
再び呟くアヒャ。
俺は返事をしない。する意味が無い。
「テメエラハソウヤッテ…!
何デモカンデモ自分達ガ正シイト決メ付ケテ、手前ラノ都合ガ悪クナリャ、
結局力デ押サエ付ケテ自己満足シテイヤガル…!
テメエラホドノ邪悪ハ…他ニハ存在シネエ!!」

思い上がったセリフに、俺は感情を抑え切れなくなった。
自分が好き勝手に振舞って振る舞い尽くした挙句、ピンチになって自己正当化。
…これほど俺が嫌いなタイプの奴は、それこそ他には存在しない。

自分の意識よりも先に、身体が動いていた。

97N2:2004/02/01(日) 06:12

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



あの男は言った。
「君のスタンドなら、『新世界』を築くことも不可能ではない」と。
オレの目指す理想への近道、それがこの「クレイジー・キャット」だ。
誰も傷付かない、誰も悲しまない、統一された思想の下に全世界民を統治する、
幸福な世界を築く為の、最も強力な武器。

オレはこの力を目覚めさせてくれたあの男に感謝している。
そうでなければ彼の要求には素直に応じなかった。
「モナ本モ蔵を討て」
これさえ果たせば、彼はオレがこの力をどう使おうと構わないとまで言った。
だからオレはその約束を果たすべく奴をここまで追い詰めた。

…だがこの初代モナーは何だ?
モナ本モ蔵にノコノコくっ付いて来たと思ったら、オレの僕を戦闘不能にした上、
何よりオレを邪悪だと決め付けた。

…どいつもこいつもそうだ。
幕府の策なんぞに未だに踊らされ、ただ家柄のみでオレが善か悪かを判断する。
ただ、肩書きだけでオレ達を差別する。
それでいながら、オレ達が反抗すればすぐに暴力で押さえ込もうとする…!
…こいつは、オレの理想も真意も知らずにただ一面的な理由でオレへと邪悪のレッテルを押した。

第一、オレはスタンドで誰も傷付けてなどいない。
ただ行動が全てオレの支配下に置かれるだけだ。
そうすれば人が人を憎むことなく、争うことなく、安息の時が訪れるというのに…!

「テメエモッ!トットトッ!アヒャッテナァ―――ッ!!」
初代モナーの拳をかわし、包丁をその胴目掛けて突き出す。
ところが奴はすぐに体勢を立て直し、包丁を横から弾いて逆に一撃をオレの腹に入れた。
痛恨のダメージ。
再び衝撃で貯水槽へと吹き飛ばされる。

「…もうこれ以上貴様のおふざけに付き合ってもいられない、
これで終わりにするぞ」
一歩一歩歩み寄ってくる初代モナー。
「貴様は罪無き人々の身体を傷つけ!そして心まで傷付けた…。
これ程の重罪、それ相応の『裁き』を受けることになるぞ」
罪無き人々、という表現にはオレは共感出来ない。
ただ自分の身可愛さに人を差別するような連中が無罪だと?
オレも言い返してやりたかったが、腹から声が出せない。
「さて、射程内だ。覚悟はいいな…?」
…今だッ!

貯水槽の上に潜ませておいた僕が上から飛び降りてくる。
その包丁は奴の脳天目掛けて落とされている。
奴は気付かない。
かすった程度では時間がかかる洗脳だが、果たしてそんな一撃を喰らって
1分と自我が保てるだろうか?
不自然に大きくなる影に不信感を抱き、奴が上を見た時には
もう僕はカード出来ない、避けられない距離まで落ちていた。
勝ったッ!!

98N2:2004/02/01(日) 06:14

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



今度は自分がまんまと敵の罠にはまるとは、初代モナーもまだまだ未熟である。
彼の頭上に落とされた一撃は、あのままでは間違い無く喰らっていただろう。
そう、あのまま私が何もせずずっと傍観したままであれば、だ。

包丁は彼に当たる寸での所で止められた。
「サムライ・スピリット」の力があれば、あれだけの距離を詰めるのなど造作も無い。
「…!危なかった…。助かったよ、おっさん!
……ちょっと待った、その刀は一体…!?」
力を加えて「サムライ・スピリット」を弾こうとする「罠」を振り飛ばしてから、私は真実を語った。
「これが私のスタンド、『サムライ・スピリット』だ。
見ての通り、単なる刀でしかないがな。
それよりも、私がスタンド使いだということの方に驚いたのか?」
初代モナーは、豆鉄砲でも喰らったかのような顔をしたまま、静かに1回頷いた。
だがもっと驚いたのはアヒャの方だ。

「…馬鹿ナッ、テメエラ2人トモスタンド使イダナンテ…聞イテネエ!!」
驚愕するアヒャであったが、それも束の間、初代モナーが呆けているのを見ると、
その背後から包丁を突き刺そうと走り出した。

「呆けている場合ではないぞ、初代モナー!
詳しい話は後だ!今は眼前の敵のみに集中しろ!!」
私の一喝で正気に戻った初代モナーであったが、アヒャはもうすぐ傍まで迫って来ていた。

「コノ野郎、今度コソ狂イヤガレェ―――ッ!!」
鈍い音と共に、背後から突き立てられた一撃。
包丁は、初代モナーの背中に刺さった。
歓喜するアヒャ。
「ヤッタゼ!コレデマズハ1人!サテ次ハモナ本モ蔵、イザ覚悟…」

私向けて振り向いたアヒャの腕を、何者かが掴む。
それは他の何者でもない、「フィーリング・メーカー」のものであった。

「ソンナ馬鹿ナッ、貴様ニハ確カニ洗脳ヲ…」
当惑するアヒャに初代モナーは言う。
「…小母さんは自宅で小父さんに腕を切り付けられたと言っていた。
それから小母さんは俺達の所へやって来て、それで少しずつ俺達を信用しなくなっていった。
それで思ったんだが、お前の洗脳は即効性に欠けてるんじゃないか?
そうでなきゃ、小母さんはそもそも俺達の所に来るはずがなかった。
ところがここへ来て胸に一撃を喰らったら、今度は簡単に洗脳されてしまった。
つまりお前の洗脳は、受けたダメージの大きさで度合いが左右されるということだ。
そして背中というのは本来ダメージが大きいからすぐ洗脳されてしまうだろうが…、
こうやって自分から刺しにやって来た奴を叩きのめす位の余裕はあるッ!!」

包丁を持つ「クレイジー・キャット」の腕を掴む。
思わぬ力を掛けられ、アヒャの顔が歪む。
そうして隙が生まれた瞬間、初代モナーのラッシュが炸裂した。
「モナモナモナモナモナモナモナモナモナモナモナモナァ―――ッ!!」
まともに連打を喰らったアヒャの身体は、いともたやすく吹き飛んで行く。
そしてそのまま地に落ち、床を転がって行った。



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



…ここは…どこだ…!?
奴のラッシュを喰らった瞬間、自分の身体が吹き飛んだところまでは覚えている。
だがそれから急に、オレの視界は真っ暗闇に包まれた。
辺りには静寂のみが漂っている。

「…ヒャ」
誰かの声がした。
オレは必死になってその声の主を呼ぶ。
だが声が出ない。

次の瞬間、身の毛もよだつ光景が目の前に広がった。
「…アヒャヒャ」
「アーッヒャッヒャッヒャ!!」
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
無数のアヒャ、アヒャ、アヒャ。
地平線の彼方まで続かんばかりの大軍が、オレの周囲を完全に取り囲んでいる。
何なんだ一体、オレの身に何が起こったと言うのか。

…まさか、あの初代モナーの能力…!?
やめろ。やめてくれ。
「アーヒャッヒャッヒャ!!」
オレはこんな所に一生閉じ込められるのか!?
「アヒャッヒャーアヒャ!!」
助けてくれ。このままでは精神が崩壊してしまう!!
「ヒャァッヒャァッヒャァッ!!」
うるさい!黙れ!!
しかし、声は出ない。
「アーヒャアーヒャ!!」
誰か…誰か助けてくれ…!!
オレは…オレは……!!
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」
う…ウおォぉぉォぉォおオォぉぉぉぉオぉ―――っ!!

99N2:2004/02/01(日) 06:15

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



何が起こったのか、正直言って私にもよく分からない。
床に転がったアヒャは、それきりピクリとも動こうとはしない。
まるで死んだかのようだが、それでも生きている。

そして突如、何かの苦しみに悶えるかのような叫びだし、そのまま気を失った。

私は初代モナーを見た。
彼の目は、まるで汚いものでも見ているかのようにアヒャの方を向いている。

屋上には、強い夜風が吹き付けていた。
しかしそれでも、私は彼の言葉をはっきりと聞き取ることが出来た。
そしてそれ以外の音は全て消し去られた。

「…それにしても、何が楽しいのかは知らないが町一つを洗脳で操ろうだなんて…、
おまえも
暇な奴
だなあ」

┌───────────────────────┐
|                                  |
|  本体名 アヒャ                リ タ イ ヤ    |
|  スタンド名 クレイジー・キャット───再起不能 . . . |
|                                  |
└───────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

100ブック:2004/02/01(日) 16:00
      救い無き世界
      第十五話・リアル鬼ごっこ 〜その一〜


 俺はSSS内のロビーにある椅子に座った。
 背もたれによっかかりながら、ロビーの本棚に置いてあった週刊漫画雑誌に目を通す。
 『武装変態』、『ゴールド・ボール・ラン』これらのチェックは毎週欠かせない。

 しかし、俺がここに連れて来られてからもうだいぶ立つ。
 まあ街にいたときより格段にましな生活が出来るのだから、特に不満は無い。
 それでもこの中にいると何か四六時中監視されているみたいで、
 時々息が詰まりそうになることも確かだ。


 漫画を読んでいると、誰かが俺の傍に寄って来た。
 そちらに目を向ける。
 みぃだ。

「…あの、でぃさん。」
 みぃは申し訳なさそうな声で話しかけてきた。
『何だ?』
 俺はそう紙に書いて聞き返したが、
 みぃはそれっきり押し黙ってしまった。
 俺も何も言えない。
 あの夜から、俺達はお互いに会うのが気まずくなっていた。

『…話があるなら、外に場所を移そうぜ。』
 俺はみぃにそう伝えた。
 屋内にいるよりは、外に出て新鮮な空気とお日様の光に当たったほうが
 まだ気分も軽くなるだろう。
 それに、ここにいるとどうもじろじろ見られている気がして、
 どうにも落ち着かない。

 みぃは、黙って頷いた。



     ・     ・     ・



 頬のエラばった男は、でぃとみぃがSSSから出て行くのを確認すると
 携帯電話を取り出して電話を掛けた。
 スリーコールで相手は電話に出る。
「…今、目標が女を一人連れて、SSSを出たニダ。
 やるなら今ニダ。
 『監視』はこちらでどうにかするニダ。」
 頬のエラばった男はそう伝えると、電話を切った。



     ・     ・     ・



 街にある公園のベンチに俺とみぃは並んで腰掛けた。
「…あの、この前の怪我は、大丈夫ですか?」
 みぃが俺に心配そうに聞いてきた。
『別に、もう大丈夫だけど。』
 傷はみぃに治してもらったが、
 あの時はふさしぃに殺されるかと思った。
 正直な話、俺は見たことも無い川を渡りそうになっていたのだ。

「…ごめんなさい……」
 みぃは泣きそうな顔で俯いてしまった。
 重苦しい沈黙が俺とみぃとの間に流れる。
 …外に出たところで、あまり意味はなかったようだ。

 そういえば何でこいつはあの時あんなに怯えていたのだろうか。
 怖い夢でも見たのだろうか。
 そういえば、俺はこいつの事を何も知らない。
 どこで生まれたとか、俺と会う前の事とか。
 あの夜の事は、もしかしてそれと関係があるのだろうか。

『…ちょっと、便所に行って来る。』
 俺は静寂に耐え切れず席を立った。

101ブック:2004/02/01(日) 16:01



 用を足して便所から外に出ようとすると、俺の前に変な奴が立ちはだかった。
 そいつはまるで大きなスライムの様な形をしていた。

 何だ、こいつは。
 ここに入る時はこんな奴いなかったぞ?

「ターゲット、コピー開始。」
 そのスライムからいきなり機械的な声がしたかと思うと、
 そいつはみるみるうちに姿を変え始めた。
 腕や足が形作られていき、最後には顔が形成される。

 俺は愕然とした。
 俺の目の前には、「俺と全く同じ姿」をした奴がそこには居た。
 何だこれは!?
 これも、スタンド能力?

「ターゲット、コピー完了。」
 俺の生写しの様な姿のそいつが、その姿のままさっきと同じ機械的な声を出した。

 俺はすぐさま腕をスタンド化させると、そいつの顔面に拳を叩き込んだ。
 奴は便所の壁に叩き付けられ、その場に倒れる。

「『コピー対象からの接触』。スイッチ1の達成を確認。」
 そいつはそう言うとゆっくりと立ち上がった。

 馬鹿な。
 クリーンヒットした筈なのに、ダメージが無い!?

 俺は今度はそいつに連続で攻撃を加える。
 頭に方に胸に右脇腹に左脇腹に腹に下腹部に。
 ありったけの打撃を叩き込まれ、そいつは便所の壁を突き破って
 外にぶっ飛ばされた。

「!でぃさん!?」
 みぃがそれに気づいたらしく、俺のドッペルゲンガーに駆け寄ろうとする。

 待て、みぃ。
 そいつは偽者だ。
 俺じゃない。
 そいつに近寄るな。
 何かがヤバイ。

 しかし声を出せない俺はそれをみぃに伝える事は出来なかった。
 みぃは倒れたそいつの傍まで行くと、そいつの体に手を触れた。

「え!?」
 俺の偽者は何事も無かったかのように立ち上がり、みぃが驚きの声を上げた。

 あれだけやったというのに奴は全然堪えた様子は無い。
 奴は、一体何なんだ?

「『ターゲットの名前を知り、四十八時間以上ターゲットとの交流のある者からの、
 私へのターゲットの名前による呼びかけ』。『それと同一人物による私への接触。』
 スイッチ2、スイッチ3の同時達成を確認。スイッチ全種達成。
 『シャドウゲイト』発動。」
 俺の偽者はその発言と共に俺に向かって信じられない速度で接近してきた。

 させるか。
 俺はそいつが向かってくるところにカウンターを合わせようとした。
 しかし拳が当たった瞬間、拳は奴の体にめり込んだ。
 必死に腕を抜こうとする。
 しかし、どうあがいても腕が抜けない。

「ターゲット捕捉。これより魂を抜き取ります。」
 そこで俺の視界は真っ黒になった。

102ブック:2004/02/01(日) 16:01



     ・     ・     ・



 俺はスーパーで好物の今川焼きを買って帰る途中だった。
 まだ焼き立てで、紙袋越しに暖かさが伝わってくる。
 冷めないうちに、近くの公園で食べる事にする。

 と、俺が公園に入ろうとしたところで俺の目に穏やかでない光景が入ってきた。
 二人組みの男達が、気を失っているらしい一人の男を車に運び込んでいる。
 いや、待て。
 あれは…でぃ?

「!何してる、手前ら!!!」
 しかし時既に遅く、男達は車を発進させた。

 そこへ、一人の女がいきなり飛び出して来た。
 そいつの顔には、見覚えがあった。
 たしか、みぃとか言う譲ちゃんだったか。

 みぃの譲ちゃんはその車を追おうとしたが、もはや走って追いつける距離ではない
 事を悟ったのかその場に力なく崩れ落ちる。

「へたってる暇は無ぇぞゴルァ!!」
 俺は譲ちゃんにそう発破をかけた。
 みぃの譲ちゃんはそこでようやく俺に気づいたようだ。

「ギコえもんさん?」
 みぃの譲ちゃんは半ば放心状態だった。

「詳しい話は後で聞く。
 車のナンバーは覚えてるか!?」
 俺の問いに、みぃの譲ちゃんは頷く事で答えた。
「上出来だ、譲ちゃん。
 すぐにあの車を追うぞゴルァ!」
 俺はそう言って近くに止めてあった車に目をつけた。
 車の中では三十代前半位の男がシートを倒して寝ている。
 俺は車の窓を乱暴にノックした。

「へあ?あなた、誰です?」
 男は跳ね起き、窓を開けて素っ頓狂な声で尋ねてきた。
「悪いが、この車しばらく借りるぞ。」
 俺は男を乱暴に窓から引きずり降ろすと、鍵を外して運転席に乗り込み
 みぃの譲ちゃんを助手席に座らせた。
 エンジンをかけ、車を急いで発進させる。

「ま、待て〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
 車泥棒〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 後ろから車の持ち主が恨みがましい叫び声を上げながら追いかけて来たが、
 無視してスピードを上げて引き離す。
 泥棒とは失礼な。
 ちょっと借りるだけだ。

 だが、どういうことだ?
 でぃの奴には、常に監視がついている筈だ。
 それなのに、みすみす連れ去られるなんて。
 連れ去ったのは『大日本ブレイク党』の手合いだろうか。
 いや、待て。それ以前に何で奴らはでぃなんか攫う?
 普通は、あんなでぃなんか攫おうとは考えないだろう。
 それなのに、どうして。
 奴の謎のスタンド能力が目当てか?
 それはおかしい。
 どうして奴らがあのでぃのスタンドの事を知っている!?

「…身中の蟲か、ゴルァ。」
 俺は忌々しげに舌打ちをした。

103ブック:2004/02/01(日) 16:02



     ・     ・     ・



 男達はスピーカーから大音量の音楽を流しながら車を運転していた。
 男の一人、青い肌の男がその音楽に合わせて
 鼻歌を歌いながらハンドルを切る。
「…しっかしこんな奴捕まえて、どうしようってんだろうな。
 さっきの様子じゃ、大したスタンド能力でもなさそうだぜ。」
 もう一人の小麦色の肌をした男が、後部座席に寝かせたでぃを見ながらその男に聞いた。
 その顔からは美味しそうな匂いが漂っている。
「うるせー馬鹿!俺に聞くな。」
 青い肌の男はつっけんどんに返答する。

「まあ良いや。
 そんな事より、お客様が来ているみたいだから丁重にお帰りして貰っとくぜ。」
 顔が美味しそうな男はそう言って車の窓から顔を出し、
 後ろから猛追して来る車に目を向けた。
 その車には、男の相棒に少し似た青狸と、女が乗っているようだ。

「氏ねよおめーら。『ロードランナー』!」
 男は掛け声と共に自身のスタンドを発動させた。
 男のスタンドが男達を追う車のすぐ前の地面を殴りつけると、
 そこに突然大きな穴が開いた。
 追ってきた車はその穴を避けようと急ハンドルを切る。
 何とか穴は避けたが、勢い余って車は壁に激突した。

「はっはーー!!
 いっちょ上がりだな。」
 顔の美味しそうな男は嬉しそうに勝ち誇った。

 しかし、次の瞬間信じられない光景が男達を驚愕させた。
 壁に激突した車がバックして壁から離れると、
 すぐさま男達の車を再び追跡し始めたのだ。
 しかも、その車体には傷一つ、無い。

「お、おい!何だありゃあ!?」
 顔の美味しそうな男が思わず青い肌の男に大声で尋ねた。
「うるせー馬鹿!俺が知るか!!」
 青い肌の男がさっきと全く同じ台詞でその男に言った。


     TO BE CONTINUED…

104丸耳作者:2004/02/02(月) 01:48
N2氏、ブック氏、新作乙。
N2氏は二本並行連載頭が下がります。
連載一本で月刊ペースの私は亀ですか蛞蝓ですか。

105( (´∀` )  ):2004/02/02(月) 15:25
「チッ。やっぱりアイツは」
「ただの使えないデカブツだったか。」
「こうなったらやっぱり」
「僕達が行くしか無いね。鈴木さん。」
「そうだね。宗男さん。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―鈴木宗男デシタ!!

やぁ皆さん御機嫌よう!!
毎度おなじみ巨耳モナー兄さんだよ!!
自己紹介?
ええい面倒くさい!!最後のコマ見やがれコノヤロー!!
ちなみに無駄にハイテンションなのは徹夜明けだからさ!!(>>38 下から2行目くらい参照)
もう死ぬほど撃たれたよ!!っていうかマシンガンで撃たれてたのに
生きてる自分が不思議でたまらないよ!!アハハハハハハ!!
とか言ってる内に付いちゃいましたね。マイルーム。っていうか特別課。
とりあえず眠気が収まりません。家まで帰ってたら途中で倒れそうなので
この際贅沢は言わずソファーで寝るとしましょう。
ガチャリ
「!!・・コ・・コレは・・」
「・・・・・・・スヤスヤ・・スースー・・」
メルヘンな寝息をしているから誰かわからなかったが殺ちゃんだ。
っていうか俺のソファーが占領されている。
「・・・でも可愛いところもあるんだなぁ・・・。」
自分から『修行だ』って言ってたのに疲れて眠っちゃって。
その上こんなメルヘンな寝息まで立てて・・ほほえましい。
「・・・っていうかコレって今・・『無防備』じゃない?」
そうだ。良く考えたら目の前で13歳の少女が寝ているんだ。
・・・男として『行動』するべきなのだろうか。
いや、しかし相手は13歳だし・・
いや寧ろ13歳だからこそ・・・
でも気付いた瞬間に蜂の巣にされそうだし・・
いやもしかしたらそこまできょぜつしないかもしれない
・・・そういえば此処は俺のソファーじゃないか。
そうだ!このまま添い寝なんてどうだろうか!!
此処は俺の(正確に言うと署の)ソファーなんだし。寝ても文句は言われないだろう!
「ウフフフフフ・・さて・・それじゃあ・・」
俺は怪しい笑みを浮かべ、ソファーに寝そべろうとする
「いくらなんでも13歳はヤバイんではないですKA?」
!!!!!!!!!!
ムックだ。俺のパソコンを使ってなんか調べてる。
「ム、ムック!!いつからソコに!?」
「アナタがはいってきた時からいましたYO。気付かない方がおかしいDESU。」
し・・心臓とまるかと思った・・。しかし現職刑事の俺に気付かれないとは流石宇宙AA。(関係ない)
「しかし。一体何をしようとしてたんですKA?」
ムックがニヤニヤしながら言う。
クソッ。アイツ絶対わかってやがるな。
「・・!お前こそ俺のパソコンで何調べてやがる!!」
俺は強引にムックのパソコンからひっぺがす
「Aッ!何をするんですKAッ!やめ・・」

106( (´∀` )  ):2004/02/02(月) 15:26
     |            _ . |    TM   検索オプション―ッ!! 表示設定ッ! 言語ツールゥッ! HELP!HELP!!HEL―P!!!
  _  | / ̄ヽ / ̄ヽ / ̄ヽ  | / ̄ヽ     ________________   _______
  ヽ__| ヽ_/ ヽ_/ ヽ_/ ...| | ̄ ̄     |宇宙 ロリ 萌え              |  | Joogle検索 |
                  ヽ   ヽ_       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                / ̄ヽ          ◎ウェブ全体から検索、検索ゥ! ○日本語のページを検索検索検索検索!!
                ヽ_/
 ___________________________     
 |ウェブッ!|イメージィッ!?|グルUUUUプッ!!|ディレクトゥリィィィィ|_________________________________
 |       ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                                                 |
 |全言語のページから 宇宙 ロリ 萌え を検索しましたァァーン お前は次に約130,000件中1 - 10件目 ・検索にかかった時間0.06秒というッ!!.|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・・・・・・・・・・・・・
「たッ・・頼むかRAッ!これだけは・・誰にも言わないでくだSAIッ!私も黙ってますKARAッ!」
・・・とりあえず『宇宙』って単語には特に突っ込まない様にして置こうかな・・。
「・・解ったから。とりあえず人のパソコンを勝手に使うのはよせよ。」
「NAッ!私もこんな事ばっかり検索してたわけじゃありませんZOッ!」
・・・『こんな事ばっかり』って何件検索したんだろ・・。履歴消しておかなきゃ・・。
「見てくだSAI。KORE。」
「・・?『アンシャスcatsの洗脳講座』?怪しいページだな。で、コレがどうかした?」
「『アンシャス猫』というのHA、『キャンパス』の中位幹部で洗脳のスペシャリストDESU。」
な、なんだって――!?
「・・・で、コレが何よ?」
「コレ、見てくだSAI。掲示板なんですGA・・。」

雑談デシタ!!
1 名前: アンシャスcats(CATS//or) 投稿日: 2004/01/17(火) 22:18

  ∧,,∧∧_∧  鈴木宗男デシタ!
 彡 l v lミ l v l)
 爻,,u,uミ__u_u) ・∀・)ノ ナンデモ ハナシテッテチョーダイ!!


283 名前: 彡 l v lミl v l)・∀・)ナナシサンデシタ! 投稿日: 2004/01/27(火) 20:09

アンシャスcatsさんの洗脳講座。とても役立ってます。
ところで、次の『戦闘』はいつですか?前回の動画が面白かったので期待してます。
今回も熱くそれでいてクールに戦闘してください。


284 名前: アンシャスcats(CATS//or) 投稿日: 2004/01/27(火) 20:13

彡 l v lミノ<書き込みサンクス!次回の『戦闘』は明日だよ!!
    
( l v l)ノ<我らが『キャンパス』を裏切った敵とソイツに協力する生意気な巨耳と少女が標的さ!

彡 l v lミ<詳しく言うと標的はその『少女』なんだけどね。

( l v l)<正直、ナメられてんじゃないかなー。女子供相手なんて。

彡 l v lミノ<ま、クールに決めてくるよ!

( l v l)ノ<see you!

「な・・なんじゃこりゃ・・」
明らかに俺と殺ちゃんとムック・・ってちょっと待てよ
「そうDESU。狙いは殺ちゃんなんDESU。それも『戦闘日』は今日ですNE。」
「・・とりあえず俺らと一緒に居れば――・・・」
俺がソファーの方を振り向くとソファーに人影は無く、紙が残されていた。
『眠気が覚めんので 散歩に逝って来る 30分くらいで戻ってくる。 心配するな。』
「・・・声かけろよ!!」
「仕方ありませんNE・・とりあえず捜索に・・」
俺も行こうと思ってドアの方へ行こうとした時ドアから急が急に閉まり俺の顔面がぶつかった。
「痛ッ―・・」

107( (´∀` )  ):2004/02/02(月) 15:30
「アナタタチ!!オナカマヲタスケニイコウト オモッテイルンデスカ!?オモッテイルンデショウ!!」
俺にアタックしてきたドアが開き、人が出てきていきなりカタコトで喋り始めやがった
「シカシ!!ソウハサマセーンッ!コノトムガッ!ユウメイニナルタメニッ!アナタタチヲッ!『シマツ』シマァ―スッ!」
・・?言ってる事が意味不明だな。
「ワタシハ、『キャンパス』ノ中位幹部『トム』!!アメリカユタ州カラッ!2チャンネル1ノ人気キャラにナルタメッ!ハルバルヤッテマイリマシタッ!」
「!!『キャンパス』だとッ!?」
俺は身構える
「YESッ!ネクロマララーサマハ、ワタシノ『才能』ヲミコンデッ!コノ『キャンパス』ニイレテモラッタノデスッ!!」
「・・ムック、知り合いか?」
「イヤ・・私は下位幹部でしたKARA。中位幹部でしっているのはアンシャス猫くらいSIKA・・。」
俺達の会話を無視してトムとやらは熱く語り始めた
「思エバ一週間前・・ユタ州ヲ発ッタアト・・ワタシハ、ミギモヒダリモワカリマセンデシタ・・。
ソンナワタシニ、ヤサシクテヲサシノベテクレタノガ・・。」
ネクロマララーってワケか・・。こんな純粋な奴の心の隙間につけこみやがって・・
「・・・大チャンデシタ。」
誰だよ!
「大チャンハワタシヲ(中略)ソシテ、ソノノチ、ワタシハ球界ヲ、ツイホウサレマシタ・・。」
・・無駄に長い話だったなぁ・・・。
「ソシテ、オチブレタワタシノマエニアラワレタノガ・・『アンシャス猫』デシタ・・。」
!!アンシャス猫って・・さっきの・・
「カレラハ、ワタシノマエデ5円玉ヲフリ・・ワタシハキヅケバ、『キャンパス』ノチュウイカンブデシタ・・。」
催眠術!?あらかさまに洗脳されてるよ!
「ソシテワタシハ・・ソノトキキヅイタンデス・・『ココニイレバ、ユウメイニナレル』ト・・。」
え!?何で!?無理矢理すぎる解釈だろ!!
「シカモ、ソコニハ『大ちゃん』モイタノデス。」
うわ。嫌な再会。
「ワタシハ、アッタトドウジニ、ブンナグリマシタ。」
エェー!?何で!?
「ワタシハ、ソノトキブカタチニオサエラレマシタガ・・大チャンガソノトキ時・・」
お?何か感動的な台詞を?
「『ピッチャーデニー』ト・・」
・・・・
「ホレナオシマシタ。」
惚れ直しちゃったの!?
「アノヒトニジブンガツイテッタノモ、ソノトキワカッタキガシマシタ。」
何で!?
「ソシテ、ソノアトワタシハ・・ペラペラペラ・・」
(・・・ハァハァハァ・・ツッコミつかれた・・コイツにかまってる時間は無いな・・早く殺ちゃんを・・・)
俺はそう思い、ジェノサイアで吹っ飛ばそうと思った時だった

108( (´∀` )  ):2004/02/02(月) 15:31
(ッ!?動けない!?)
ムックの方を振り向くとムックも汗をかきながらあせっているような感じだ。
そして振り返るとトムの方向に何か見える
(・・・・ッ!スタンドかッ!!)
「・・ヤット、キヅイタヨウデスネ・・。」
トムが不適な・・いや、ムカツク笑みを浮かべる
「コレガワタシノスタンド。『ネヴァー・マインド』・・。ワタシノハナシヲイチドキイタラ、ワタシガ『サイキフノウ』ニ、ナルマデ
ツッコマズニハイラレズニイテ、ソノバヲウゴクコトハオロカ、シャベルコトサエデキマセン。チナミニ、イママデノハナシハ、50%ウソデス。」
50%かよ!・・ハッ!
クソッ!どうすれば良い?・・・・殺ちゃんに頑張ってもらうしかないのか・・ッ。
だが問題なのは、殺ちゃんがコイツの話をきかずに居られるかどうかだ・・。
俺達は喋れない。『ソイツの話を聞くな!!』なんて助けることも出来ない。
・・チックショォォ・・コイツだけは許せねぇ・・動けるようになったら五体満足で居られると思うなよォッ・・
「アツハ、ナツイデンナァ。」
『夏は暑い』だろがァッ!!・・・こんなショボイ駄洒落にまでツッコマなきゃ行けないのか・・
・・・頼む!殺ちゃん!何とか・・何とか倒していてくれ!!
あのホームページを見ると、2匹は物凄い強さだったようだ。
・・洗脳だけじゃない。スタンドも使いこなしているようだったし、流石中位幹部ってところk
「フトンガフットンダ!!」
寒いよ!!
・・畜生・・まともに考え事もさせてくれねぇのか・・
・・・矢張り今は・・祈るしかないか・・・。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜茂名王町・南部〜
・・・・暇だ
矢張り寝ていれば良かったのだろうか。
・・・しかも道がわからん。
まぁ良い。いざとなったら巨耳モナーに連絡を・・
「ちょっとそこの」
「お嬢さん」
?・・何だ今の声は?
「こっちですよ。」
私がその声につられて振り向くと、二匹の猫がちょこんと座っていた
「・・・何の用だ?」
私が言うと奴等は不気味な笑みを浮かべた
「・・・アナタを、始末させていただきます。」

←To Be Continued

109( (´∀` )  ):2004/02/02(月) 15:32
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。


  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはスタイル抜群の女性型で
 能力の詳細は不明。だがとてつもない重力を発生させる球体を作ることが出来る。

110ブック:2004/02/03(火) 16:19
      救い無き世界
      第十六話・リアル鬼ごっこ 〜その二〜


 何故俺は今、でぃの奴助けようとしているのだろう。
 あんなに毛嫌いしていたというのに。
 あんなに憎んでいたというのに。
 見えない振りして放っておいてもよかったのに。
 ちゃちな正義感?
 目の前の悪を許せないという使命感?
 それとも、本当は…

 いや、違う。
 でぃの奴を助けるのはあくまでSSSとしての「仕事」だ。
 俺個人の感情とは何も関係無い。
 その筈だ。

 俺は無理矢理そう結論づけて、そこでそれについて考えるのをやめた。
 今はこんな事考えている場合じゃ無い。
 今はただ、「仕事」を全うする事に専念するだけだ。
 でぃについて考えるのは、その後にしておこう。


「大丈夫か?嬢ちゃん。」
 俺はみぃの嬢ちゃんに声をかけた。
「平気です…何とか。」
 嬢ちゃんが腕をさすりながら返事をする。
 どうやら、少し怪我をしてしまったらしい。

 先程、追いかけている車からスタンドが飛び出して来たかと思うと
 いきなり目の前の地面に大穴が開いた。
 何とかそれは避ける事が出来たが、代わりに車を派手に壁へと激突させてしまった。
 さっきのが車の奴のスタンド能力か?

「あの、ギコえもん…どうして……」
 みぃの嬢ちゃんが怪訝そうに俺に尋ねてきた。
「何であれだけの事があって車がどこも壊れてないのか、か?」
 俺の言葉にみぃ嬢ちゃんが頷く。
「俺のスタンド『マイティボンジャック』の能力だゴルァ。
 それ以上能力を詳しく説明するのは、悪いが出来ないぜ。」
 みぃの嬢ちゃんには、車が壊れるという「結果を先送り」にした事は伏せておいた。
 この嬢ちゃんが敵になる可能性は無いだろうが、
 それでも自分の能力を迂闊に喋る事は出来ない。
 そのせいで死んだ奴を、俺は何人も知っている。

「だがな、その能力にも時間制限はある。
 しばらくしたらこの車はぶっ壊れるぜ。」
 正確には先延ばしの限界はおよそ五分だ。
 もちろん意図的に能力を解除する事も出来るが今はその必要は無いだろう。

「それじゃあ、急いで別の車に乗り換えないと!」
 みぃの嬢ちゃんが俺に言った。
「駄目だ、ゴルァ。」
 俺はその申し出を却下する。
「奴らはもう、俺達が追跡してきている事に気づいている。
 もし俺達が新しい車に乗り換えようとしたら、奴らの車を見失っちまう。
 そしたら奴らはその隙をついて車を降りて人ごみに紛れたり、
 車を乗り換えたりするだろう。
 そうなったらもう追跡は不可能だ。
 だから車を乗り換える事は出来ない。
 この車が壊れるまでに奴らに追いつけなければ、俺達の負けだ。」
 もっとも、奴らを逃がすつもりは毛頭無いが。

「…じゃあ、もし追いつけなかったら……」
 みぃの嬢ちゃんが不安そうな目で俺を見る。
「心配すんな、ゴルァ。
 俺に任せとけば万事オッケーよ。」
 とはいえ状況は悪いと言わざるを得ない。
 俺のスタンドは近距離パワー型。
 奴らに一撃を叩き込むにはかなり接近しなければならない。
 しかし向こうも簡単には近寄らせてはくれないだろう。
 小耳モナーのスタンドならばもっと簡単にいくのかもしれないが、
 いない奴をあてにしてもしょうがない。

111ブック:2004/02/03(火) 16:20

 と、そんな事を考えていると再びあの地面に穴を開けたスタンドが
 俺たちの車に向かって来た。
 そしてまた地面に穴を開ける。
 しかも、今度は避けられないぐらいに近くに。

 まずい。
 俺のスタンド『マイティボンジャック』は穴に落ちて車が壊れるといった
 車にもたらされる「結果」を先送りには出来るが、
 穴を落ちていくといった「過程」は先送り出来ない。
 しかし、ここで足止めを喰らう訳にはいかない。

 俺は車の一か八かアクセルを目いっぱい踏み込んだ。
 車体が穴に差し掛かり、重力の方向へと落ちていく車。
 みぃの嬢ちゃんが悲鳴を上げる。

「『マイティボンジャック』!!」
 穴に落ちた瞬間に俺のスタンドで車の下から車のボディを殴りつけ、
 その勢いで車を押し上げて穴をやり過ごした。
 が、車にも結構のダメージがいっようだ。

 しかし、これで分かった。
 あのスタンドの能力、それは穴を開ける事。
 それも、地面にのみ。
 もし地面以外にも穴を開けられるなら、
 落とし穴を作ってそこに俺達の車を落とすなんてまだるっこしいやり方などせず、
 直接俺達の車に穴を開けて勝負を決めにきている筈だ。
 そしてどうやら連続では穴は開けられない。
 連続で穴が開けられるなら、地面のあちらこちらに穴をあけて
 俺たちを進めなくさせる筈だ。
 奴らにしてみれば俺達を倒す必要など無く、
 俺達から逃げる事が出来ればそれでいいのだから。

 ならば、話は早い。
 そうと分かればいくらでも手の打ちようはある。
 いいぜ、穴を開ける為に近づいて来い。
 その時が、お前の最期だ。

 あのスタンドがまたもや地面に穴を開けに来る。
 ワンパターンな野郎だ。
 そう何度も同じ手を喰らうと思うな!

 相手のスタンドの拳が地面に触れる。
 それと同時に『マイティボンジャック』を発動、
 地面に穴が開くという「結果」を「先送り」。

 地面に穴が開かないことに動揺したのか、
 相手のスタンドの動きが一瞬止まる。

 ここだ!
 すかさず『マイティボンジャック』の拳のラッシュを喰らわせる。

 殴り飛ばされ、ビジョンを消すスタンド。
 手応え、あり。
 再起不能とまでは行かなくとも、しばらくの間無力化はしているに違いない。
 時計を見る。
 車が御釈迦になるまで後一分。
 もう時間はあまり無い。
 今だ。
 一気に追い詰める!

112ブック:2004/02/03(火) 16:21


「!?」
 しかし、アクセルを強く踏みしめたにも関わらず、
 車はスピードを上げなかった。
 いや、それどころか減速している?

「な、何だってんだゴルァ!!」
 どういうことだ。
 一体、何が起きた?

「ギ、ギコえもんさん!これ…」
 みぃの嬢ちゃんが、指をさした。
「な……」
 その指差された物を見て、俺は絶句した。

 燃料が、空だ。
 今更、それに気づいた。
 糞!
 なんてこった。
 ここまで来たってのに!!!


「ギコえもんさん!
 アクセルを踏んで!!」
 いきなり、みぃが叫んだ。
 何を言ってるんだ?こいつは。
 アクセルを踏んだ所で、もう燃料は…

「!!!」
 俺は我が目を疑った。
 燃料メーターが、上昇している。
 これは、どういうことだ?
 まさか、みぃのが嬢ちゃんが何か―――

「嬢ちゃん、お前…」
 みぃの嬢ちゃんがスタンドを発動させていた。
 そのスタンドの手からは、何かオーラの様なものが車に注ぎ込まれている。

「『マザー』で、私の生命エネルギーを車の燃料として送り込んでいます!
 これで、まだ走れる筈です!!」
 嬢ちゃんの顔からは滝のような汗が流れている。
 おそらく生命エネルギーの流出に加え、
 生命エネルギーを機械を動かす為のエネルギーに変換する事が
 相当の負荷となって嬢ちゃんを蝕んでいるのだろう。
 この嬢ちゃん、何て無茶をしやがる。

「…上出来だ、嬢ちゃん。」
 俺はアクセルを全開にした。
 やってやる。
 ここでしくじるようなら男がすたるってものだ。


 車は速度を増し、
 徐々に相手との距離が詰められていく。

「ギコえもんさん、早く…!
 私は、もうあまり持ちません……!」
 みぃの嬢ちゃんが苦しそうな声を上げた。
 そろそろ限界が近いようだ。
 そして、車に先延ばしにしたダメージが来るまで後三十秒。
 だいぶ近づきはしたが、相手の車までの距離はまだ少し遠い。

「…しかたねぇな。あまりやりたくは無いんだが。」
 俺はそう言って『マイティボンジャック』を発動させ俺自身を殴りつけた。
 ダメージを受けるという「結果」を「先送り」にしたので痛みは今の所無い。

「嬢ちゃん、運転代われ。」
 俺はそう言ってフロントガラスを叩き割ると
 戸惑う嬢ちゃんを運転席に座らせてボンネットに身を乗り出した。
「いいか、嬢ちゃん。
 俺が車から離れたらすぐに急ブレーキをかけてこの車から降りろ。
 でないと、車の破壊に巻き込まれんぞゴルァ。」
 俺は吹き付ける風を浴びながらそう告げた。

113ブック:2004/02/03(火) 16:22

「!?ギコえもんさん、一体何―――」
 みぃが喋り終えないうちに俺は相手の車へと向かって跳躍した。
 そして、空中にある俺の体を『マイティボンジャック』に殴らせる。
 激しい痛み。
 それと共にそに勢いで俺の体が相手の車に近づく。
 しかし、それでもまだ距離は足りない。

 そう、そんな事は分かっていた。
 一発のパンチでは向こうの車に届かない事など。
 だが、これなら…!

「『マイティボンジャック』、解除!!」
 さっき先送りにしていた俺を殴った時のダメージを解放。
 重い衝撃が俺を襲い、体が空中でさらに相手の車へと向かって跳ね飛んだ。

 届いた。
 スタンドを発動させ、その腕で相手の車にしがみつく。
 連続で打撃を受けた事で、体が激しく痛むが今は無視した。
 すぐさま窓ガラスを叩き割って、車の中へと侵入する。

 後部座席にはでぃが寝かせられていて、
 助手席では顔から美味しそうな匂いのする奴が血まみれで失神していた。
 おそらくこいつがさっきの穴を開けるスタンドの使い手だろう。

「て、手前!」
 運転席の青い肌の奴がひどく錯乱した様子で俺に向いた。
「命が惜しけりゃ、車を止めろゴルァ。」
 俺はスタンドを出してそいつを威嚇した。
「うるせー!馬鹿。」
 どうやらこいつは言葉使いがなっていないようだ。
 無言でそいつの顔に拳をぶち込み、強引にハンドルを奪って車を止めた。
 それにしても不細工だなあ、こいつ。



 車を止めて、俺はとりあえずでぃを車から降ろした。
 しかしでぃは死んだようにぐったりとしており、全く目を覚ます気配が無い。
「…おい、お前。」
 俺は這いずりながら逃げようとする青い肌の男に向かって言った。
「うるせー!馬…」
 顔面にパンチを入れ、最後までは言わせない。

「こいつが目を覚まさないのは、お前らのスタンド能力か?
 だったら今すぐこいつを元に戻せゴルァ。」
 俺は青い肌の男ににじり寄った。
「うる…」
 青い肌の男の顔が拳の形に歪んだ。

「す…すんませんでした。今すぐ戻します。」
 青い肌の男は鼻血を出しながらそう言うと、スライムみたいなスタンドを出した。
 その中から変なもやが出てきたかと思うと、それがでぃの体に吸い込まれていった。
 そしてそれと同時にでぃが微かに呻き声を上げる。

114ブック:2004/02/03(火) 16:22

「おおっと、動くな!!」
 いきなり青い肌の男がでぃに向けて拳銃を構えた。
「動くなよ…動いたらあのでぃの命は無いぜ。
 お前を狙った所で弾は当たらないだろうが、
 果たしてあのでぃはどうかな?」
 そいつは下卑た笑みを浮かべながら、後ろに下がっていく。

「そうかい、なら撃てよ。撃てるならな、ゴルァ。」
 俺は青い肌の男の静止の言葉に構う事無く、男に近づいていった。
「動くな!動くなって言ってんだろうが!!」
 しかし俺は止まる事無く進み続ける。

「なめやがって!こいつは殺す―――!!!」
 男が引き金を引いた。
 しかし、弾丸は発射されない。
「なっ!?」
 男が驚愕する。

 引き金を引いた事により、弾丸が発射されるという「結果」を「先送り」した。
 弾丸は五分経つか俺が能力を解除するまで発射されない。

「どうした?撃たないなら…こっちから行くぞゴルァ!!!」
 俺はそいつに打撃の嵐を叩き込んだ。

「…?はっ…何だそりゃあ。痛くも痒くも無いじゃねぇか!」
 全く痛みが無いのを、おそらくこの男は不思議がっているだろう。
 だが、これからだ。
 地獄はこれからだ。

「お前はもう、死んでいる…」
 どこかで聞いた決め台詞と共に、
 男に与えられたダメージの「先送り」を解除した。

「あべし!!!」
 ダメージが解放され、青い肌の男がこれまたどこかで聞いた
 やられ声を上げて倒れた。
 それにしても、こいつ本当に不細工だなあ。
 こんな顔に似ている奴なんているのだろうか。


 俺はその場に座り込んだ。
 脇腹が痛む。
 どうやらさっきのであばらが何本かいったようだ。

 俺達が乗ってきた車の方に目を向ける。
 見知らぬ男から失敬した車は見るも無残な姿に変わり果てていた。
 その傍で、みぃの嬢ちゃんはへたり込んでいる。
 どうやら、無事車からは降りられたようだ。

「そういや、今川焼き食い損ねたな…」
 俺はそう呟きながらポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。


    TO BE CONTINUED…

115アヒャ作者:2004/02/03(火) 17:30

合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その⑤


カラスはアヒャ達を見下すと翼を広げて飛び去った。
「あ、待て!」
「おいおい、待てといって素直に待つ馬鹿が何処に居るんだよ。」
「とにかく追いかけよう。」
カラスを追って一際目立つビルの角を曲がった。
雲ひとつない空にまぶしい太陽が輝いているだけだ。
続いて左右を見回す。
CDショップからラップ調のBGMが流れている。
通る人にも異常はない。
バカップルがイチャついている。殺すか。

「どうだい?いる?あの鳥野郎は・・・」
マララーがアヒャに尋ねる。
「何処にも居ないぞ。きっと俺たちと戦う気が失せたんじゃないのか?」
「いや、あいつは絶対僕達を狙ってくる。チャンスを見つけたら向こうから来る。」
「じゃあ待ち伏せするってことか?」
「それしかないみたい。いつ来るか分からないから注意しないと・・・」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのころカラスは円ショップ武富士の看板の上から「獲物」の三人を監視していた。
「フッ・・・あいつら完全に俺の事を見失ったようだな。」
そんな事を呟きながら一人(一匹?)にやりとしている。
「まあ、あの三人は俺の探していた「4人」の中に入っていないから深追いするのは止めておくか・・・」
そういってカラスが飛ぼうとしたときだった。
何かを思い出したようだ。そして慌てて三人の居る場所を再確認する。
「・・・ハッ!あいつ等が居る場所は・・・マズいぞ!」
カラスは翼をたたむと、廻り込みつつ降下を開始した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そのころ三人(死体約一名含む)は街路樹にもたれかかり、いつカラスが襲ってくるか見張っていた。
「いたたっ!見えないから分からないけど何やっているんだコイツは!?」
シーンのスタンドがマララーの髪の毛に噛み付いている。
「お腹がすいていて食べ物と勘違いしたんじゃないの?」
「オメーのスタンドだろーが!何とかしろ!」
「俺が止めてやるよ。」
そういってアヒャはスタンドを持つとスタンドごとマララーの髪の毛を引きちぎった。
ブチッ!
「ぎゃ〜〜〜〜!何すんだよ!この歳で禿にする気かよ!?」
涙目になりながらマララーが叫ぶ。
「しかたないだろ。これしか方法が無さそうだったんだから。」
シーンのスタンドは相変わらずちぎれた髪の毛をかじっている。
「もー、もう少し緊張感を持とうよ・・・こんな時にカラスが来たら・・・」

ギュン!

「カラスキタ━━━━━(゚∀゚;)━━━━━!!!!」
シーンの視線の先にはカラスが弾丸のごとく突っ込んできていた。
「・・・いっ、居たッ!突っ込んでくるぅ〜ッ!!」

116アヒャ作者:2004/02/03(火) 17:31

ドシュ!ドシュゥーッ!
ドバドバドバドバドバドバッ!

カラスのスタンドが矢を連射する。しかも先ほどより威力と矢の本数が増している。
「うわわっ!」
慌てて避けるも何本かの矢がマララーとアヒャの足に突き刺さった。
「ぐわあっ!さ、さっきよりも格段に強くなっている・・・」
「クッ・・・・。これ位のダメージならまだ動ける!」
カラスは矢を撃ち終えるとアヒャたちが寄りかかっていた木に止まった。
「キサマッ!その汚らしいイカくせぇ体でこの木に近付くんじゃねェ――――!!!」
カラスは本気で怒っていた。
目は血走り、羽は逆立ち、呼吸も荒々しくなり、ちょっとでも近付けば殺される。そんな感じだ。
「こ、コイツ・・・この木の近くに居た事に怒っているのか?」
「いったいどうして・・・」
「分からねぇ。とにかく攻撃するなら今のうちだ!」

ドギュン、ドギュン、ドギュン!!

アヒャのB・R弾が空を切る。しかしカラスに全弾避けられた。
「不意さえつかれなきゃ、これくらいの弾数たいしたことない。さっきのお前のセリフだ。」
「人のセリフをパクりやがって・・・・まるで綾小路○麻呂だな。」
「実例出しちゃ駄目――――!!!」
シーンが突っ込みを入れる。
(3−2氏御免なさい・・・。ネタをパクって。)

「ホラホラホラァッ!」
容赦なく発射される矢の大群。
その軌道は全てシーンの方を向いていた。
「アブねえ!早くスタンドでガードしろ!」
しかし矢のスピードはシーンのスタンドのスピードを越えていた。
矢は深々とシーンの肩や足などに刺さった。
「うわあっ!」
その衝撃で体が地面へと倒れる。
「くっくっく・・・どうだぁ、俺の『ナッシュビル・スカイライン』の恐ろしさは・・・次の一手で
 三人とも再起不能になってもらうぜ!」

ドスッ!

カラスのスタンドについていたアンカーが地面に突き刺さった。
「ヤバイ!あれか!」
球体が高速で回転を始め、空気を吸い込み始めた。
とっさにアヒャが血液の盾を作り出す。
アヒャが盾を作るのと矢の発射されるのはほぼ同時だった。

バラダダダダダダダダダダダダダダダダダダダタダッ!ゴヒュウッ!

矢による広範囲無差別攻撃が始まった。
しかも始めの攻撃とは比べ物にならないほどの矢の数だ。
先ほどの攻撃は手加減をしていたのだろう。
その攻撃に先ほどのバカップルが巻き込まれた。
なんかスカッとした。

117アヒャ作者:2004/02/03(火) 17:31

「くそっ!そろそろ盾で防げるのも限界だ!何とかしないと・・・」
「B・R弾は!?」
「無理だ!血は全部この盾に使っちまってる。」
話している間にも盾はボロボロ崩れてきている。
「クッ・・・ここまでか・・・」
アヒャが諦めかけた時だった。

ズバッ!
「ぎゃああっ!」
何かが切り裂かれる音と共にカラスの胸が裂けた。
と同時にスタンドも解除された。
「な・・・い、いったい何が・・・?」
見るとシーンのスタンドがカラスの方に腕を突き出していた。
その腕には空気が渦を巻いている。
その時シーンはある事を思い出した。

カマイタチ。
日本の昔話に出てくる三人一組の妖怪だ。
人が居るとジェットストリームアタックのように縦一列で襲い掛かり、
一番前の奴が人を転ばせ、二番目が鎌で切りつけ、三番目が血止め薬を塗って逃げていく。
つまり切られた覚えの無い切り傷が出来る現象だ。
この現象は科学で説明が付く。
物が素早く動くと真空の小さな竜巻が起こり、そこに人が吸い寄せられてスパッと切れるという訳だ。
そしてシーンはこのスタンドの能力も理解した。
カマイタチを作り、相手に飛ばすと言う事を。

「やった・・・・やっつけたぞ!」
カラスは胸を裂かれながらも生きていた。
「う・・・・・チクショウ・・・・・・・。」
アヒャは地面に落ちたカラスを見下ろした。
「この傷じゃあスタンドは使えまい。諦めろ。」
スミスかお前は。
するとシーンがアヒャを呼んだ。
「ねえ、この木に寄るなってアイツが言っていた理由ってこれじゃない?」
シーンは木の上を指差した。
そこに居たのは・・・・
「あ!子供が居る!」
そこにはハンガーで出来た巣があり、子ガラスが一匹ちょこんと乗っていた。
「そういえばこの時期カラスは子育ての時期だったよな。だからアイツあんなに怒っていたのか。」
「おい、あいつ足を怪我しているんじゃないか?」
「あ、本当だ!折れている。」
「とにかくアイツにどうして人を襲ったのかを聞かなくちゃならないからな。あの子供と一緒に
 動物病院へ連れて行こう。」

118アヒャ作者:2004/02/03(火) 17:31

そのころネオ麦は川原のお花畑をスキップしていた。

ここはどこだろう。
気がつくのにすこし時間がかかった。
そーか、俺は死んだんだった。
どうして死んだんだっけ?
それは思い出せなかった。
なにか怖い目にあったような気がするが・・・きっと思い出さない方が幸せな死に方だったのだろう。
多分、神様が忘れさせてくれたんだ。
これから俺はどこに行くのかな・・・・・・

ボゴオッ!

「ゲボーッ!なッ!なんだあぁぁぁぁーうわあぁぁぁッ!?」
「いつまで寝てんだこの馬鹿兄貴!」
ネオ麦は動物病院の待合室で目を覚ました。
顔面にアヒャの気付けの一発を食らって。

ギョロロロロロ・・・・
「わあっ!こ、この子ガラス威嚇してくるのだー!」
「おいヅー、ちょっと待てよこれお前に甘えているんじゃないのか?」
「ええー!これで甘えているの!?」
「おーいツー。九官鳥がいるぞ!なんか言葉を教えようぜ!」
「よし、『偉大なる将軍様!』『偉大なる将軍様!』」
「zzz・・ZZzzz・・・」


俺たちは動物病院で合流した。
しっかしみんな病院の中で何やっているんだ・・・。

「ねえ、さっきのカラスにやられた傷痛いんだけど何とかなんない?」
シーンがアヒャに尋ねる。
「それは無理。B・R弾詰めて傷口塞いだだけ。あとは自分の治癒能力。OK?」

俺たちはカラスから何故人間を襲ったのかを聞いた。

奴は数ヶ月ほど前までメスと一緒に普通に暮らしていた。
しかし、市役所の職員に住んでいた巣を落とされた。
その時四つあった卵が三つも割れて、その残った一つから生まれたのがあの子ガラスだった。
さらに追い討ちを掛けるがごとく、小学生くらいの人間の子供にパチンコ玉で撃たれたせいで、
子ガラスの足が折れ、メスがその時できた傷が元で死んでしまった。
それ以来だ。奴が人間を憎むようになったのは。
カラスがスタンドで襲った四人はそれに関わった人たちだった。

「・・・俺はお前達の事がよくわからねえ・・・なんで俺と俺の子供を助けてくれたんだ?」
腹に包帯を巻かれたカラスが尋ねた。
「深い理由なんかねえよ。“なにも死ぬこたあねー”さっきはそー思っただけだよ。事情聴取もしなくちゃならなかったし。
 ところでオメーもう俺たちを襲う気はねーのか?傷も応急処置してもらって俺たちを襲うには絶好のチャンスだぜ。」
「お前たちに助けてもらっちゃ襲う気も失せるさ・・・・。」
「ところでさあ・・・」
「・・・何だ?」
「『キョロちゃん』ってよんでいいか?カラスだといまいち呼びにくいんだ。」
「べつにいいよ。」
カラスはそういって笑った。


キョロちゃん───生還はするも敗北。再起可能


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

119アヒャ作者:2004/02/03(火) 17:32

スタンド名・・・ナッシュビル・スカイライン
本体名・・・キョロちゃん(カラス)

破壊力−B スピード−B 射程距離−C
持続力−B 精密動作性−C 成長性−C

プロペラのついた球体で、至る所に筒状の突起が出ている。
筒から空気を圧縮して作った矢を飛ばす。連射も可能。
『シューティング・スターアロー』アンカーを地面に打ち付け、
高速で回転しながら大量の矢を放つ広範囲無差別攻撃。

120丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:27
「ふっ!」
 短い呼気と共に、男のスタンド『アンダー・プレッシャー』の拳が茂名へと向かう。
だが、茂名の腹へと吸い込まれるはずだったその拳はギリギリの所で茂名の掌に受け止められた。
 そのまま茂名が受け止めた拳を脇へと抱え込み、肘関節に向けて中指の第二関節を突き出した一本拳を打ち込もうとする。
         クサビ
茂名式波紋法"楔"。

 慌てて振り解こうとするが、あたかも拳が茂名の掌に接着されたかのように動かない。
どうにか打撃点をずらし、骨へのダメージを食い止めるのが精一杯だった。

「どうした若造。その程度か?」
「ッンの爺ィ…!」

 何なんだコイツ。

 男が茂名に対して抱いた、最初の感想がそれだった。
『スタンド使い』というわけでも無いのに、まるっきり恐怖がない。
 男がスタンド能力を試すために虐殺したAA達は、何をされているのかもわからぬまま、恐怖と絶望の中に死んでいった。
だが、茂名にはそれがない。この老人は非スタンド使いの筈だ。
 それなのに。見えないはずの攻撃を躱し、触れないはずの攻撃を受け止める―――――
「何で受けられる…?見えてねぇ筈だってのに…」
「『空気の流れ』、『本体の足裁き』、『殺気のライン』…ヴィジョンは見えなくとも、スタンドを見切る方法などいくらでもある」
「ッチ。怪しげな拳法とやらか。爺ィは爺ィらしく松でもいじってろ!」
 ばっ、と小石を投げつけてきた。苦し紛れの攻撃にしか見えないが、男のスタンド『アンダー・プレッシャー』の能力で十キロ近い質量を付与されている。
すかさず指弾を放ち、小石のコースをそらす。
「生憎じゃが、盆栽は趣味に合わんのでな」
 軽口を叩いて見せたが、これで指弾は無くなってしまった。
拾おうと思っても、そんな暇を与えてくれるほど親切でもなさそうだ。

121丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:29
「アンダー・プレッシャー!」
 ずどっ、と、重い音と共にスタンドの拳が地面にめり込んだ。
その頃には、既に茂名はその場から飛びすさっている。
「一般的に『スタンドはスタンドでしか倒せない』とされておるが…それは違う。
 単にスタンド以外の方法でスタンドを倒すのが難しい、それだけのことなのじゃよ」
 構えた掌から、生命エネルギーの余波が仄かな光となって放出される。
「例えば『銃器』。例えば『毒ガス』。例えば『悪意』。例えば『時の運』。そして例えば―――この『波紋』。
 全ては等しく、スタンドを打ち砕ける可能性を持っておる」
「…ッだからどうした!テメェをブッ殺せんのは俺も同じだ!」
 再び、掌に握り込んだ幾つもの小石を投げつける。
もう既に指弾は無くなっているので、弾き落とすのは不可能。
 かといって、結構なスピードで飛んでくる鉄アレイ並の石を素手で払いのけたら指が砕ける。だが、問題はない。
茂名が手首を翻すと、細く長い糸が空間を舞った。

  茂名式波紋法 "蜘蛛糸"。

 ネコの腸繊維で編まれた極細の手術糸だが、波紋の伝導にちょうどいいのでいつもポケットに忍ばせているのだ。
波紋を加えられた物質は、時に硬く時に柔らかく、柔と剛を併せ持つ。
 糸に触れた小石が弾かれて、茂名の前から次々とコースを逸らされていった。
「『油断』したな?儂にもう飛び道具は無いと踏んだな?」
 距離を取った男に向けて、茂名がにやりと獰猛な笑みを浮かべた。
刹那、茂名の腕が霞む。男の額に衝撃が奔り、思わず仰け反った。
数歩ほどたたらを踏んで額に手をやると、僅かに割れて血が流れている。
 ちぃぃん、と路面に何かが転がる音。日常生活の中でも聞き慣れた金属音。
(小銭?)
キンセンヒョウ
『金銭瓢』と呼ばれる投擲術の一つだ。
 方法は指弾と大差ないが、こちらは補充も携帯も容易という利点がある。
「『油断』があったじゃろう。スタンドを使えない爺が勝てるわけがないと思ったじゃろう。
 だが違う。人殺しの為だけに戦国時代から洗練されてきた儂の波紋法。
 満足の為にやってきた貴様の殺し。格の違いを見せてやる」
「面白ェ!やれるもんならやってみろ!」

122丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:32
(両拳ノ重量ヲ20㌔ニ設定)
 スタンドが茂名の体へと、打ち下ろすような殴打を加える。
一発一発の威力は最初の一撃より低いものの、スタンドのパワーに防御姿勢のまま交代を余儀なくされる。
 さも楽勝と言わんばかりに啖呵を切ってはみたものの、実際のところ大した策があるわけでもない。
普通のパンチスピードでも、米袋をぶつけられているような物だ。
波紋エネルギーを筋力の強化に割いているため、大した技も使えない。
 相手もそれはわかっているのだろう、ガードの上から連打してこちらのスタミナ切れを狙っているらしい。
腕が腫れ上がり、だいぶ重くなってきた。防御を続けるのもここいらが限界か。
 パンチの勢いも利用して、後ろへと跳躍。
そのまま手首を翻し、金銭瓢を放った。だが、幾つもの小銭は男の横をすり抜けて壁にめり込んでしまう。
嘲りを込めて、男が叫んだ。
「金の無駄遣いだな!この爺ィが!」
「本当にそう思うか?」

バシィッ!!

 男の後ろで、何かが破裂する音が響いた。突然の音に、思わず振り向いてしまう。
路地の両脇に放り出されていたパチンコの景品袋が、内側から破れていた。
 ビルの壁面全体に、細い糸が張り巡らされている。
金銭瓢に使用した五円玉に糸を引っかけて、ビル壁全体に糸をセット。
その糸を伝って波紋を伝導させ、缶ジュースに波紋を込め、再び金銭瓢を投げつけて衝撃を加えれば、即席の爆竹が出来上がり。
四日前、初めて戦った時と同じ戦法だ。
 そこまで分析したときに、自分が動きを止めていることに気が付いた。
波紋方独特の、特殊な呼吸音が耳に触れる。
 コオオオォォォォ
「COOOoooo!」
 咄嗟にアンダー・プレッシャーで自分の体の質量を消し、衝撃を殺そうとするがもう遅い。
体中に雷で打たれるような衝撃が奔り、そのまま壁に叩き付けられた。

  茂名式波紋法 "無双拳"

 拳に波紋を込めて殴りつけるだけだが、その出力は並大抵の物ではない。
過剰な生命エネルギーが体中の神経を狂わせて、指一本たりとも動かせない。
 あちこちの毛細血管も破裂し、体中に青黒い痣が生まれた。

123丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:34
「ほぅ…まだ気絶してないとは驚いたが、当分はマトモに動けんじゃろ。
 体中の経絡をトチ狂わせてやったからの」
「う゛ぅ…」
 その言葉を証明するように、いくら腕を上げようと思ってもがたがたと震えるだけで全く言うことを聞かない。
 懸命にナイフを取り出そうとする男に近づき、上着の胸元をはだけさせた。
心臓の位置に小さく走る、引きつれたような白い傷跡。
「やはり『矢』か……貴様には色々と吐いて貰うぞ。『矢の男』についてな」
 震える手からナイフを取り上げて、胸ぐらを掴んで持ち上げる。
その時、男の顔に笑みが浮かんでいるのに気が付いた。
男の手にはいつの間にか袖口から滑り落ちたもう一本のナイフが握られている。
 相変わらず男の手は痙攣を繰り返しており、とても茂名に攻撃を加えられるような状態では無いのだが―――
(まさか…!)
 ナイフの刃が飛び出し、その刃が男自身の体へと突き立てられた。
痛みという大きな刺激が加わり、茂名の狂わせた神経系統が再び統率を取り戻す。
スタンドが具現化し、左拳が茂名に当てられた。
 だが、既にガードが間に合っている。致命的なダメージにはほど遠い。
(―――いや…違う!)
 体の重みが消失する。地面を踏みしめている感触が消え去り、二撃目の右拳が迫る。
「最後の最後に油断したのはテメェだったな…!俺の勝ちだ!」
 両腕でガードを堅めた上にアッパー気味の拳が当たる。手応えはない。痛みもない。
質量を消された体はダメージとして体に浸透するはずの衝撃を、そのまま上へと打ち上げられる形へ変換した。
「うおぉおおおぉぉぉっ!?」
 地上四〇メートル近い所まで、茂名の体が殴り飛ばされる。同時に、体に質量が戻ってきた。
このままコードレスバンジーで地面に叩き付けられてしまえば、いかに波紋使いといえども―――
            ステッキー
「トマトソースみてぇな素敵な死に様だァッ!」

124丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:35
 波紋によって強化された視覚が、どんどん近付いてくる男の姿を捉えた。
風に乗ってヒャハハハハと、男の笑い声が聞こえてきた。
「愚か者が…あのまま脳を停止させられていれば少なくとも安らかに眠れたものを―――」
 どこか悲しそうに呟く茂名の手元から、何枚もの五円玉が撃ち出された。
小銭には既に糸を通されており、茂名の体を支えるために楔となってビルの壁面に突き刺さる。
 更に、糸の反対側は先程ジュースを破裂させた時のものと繋がっていた。
路地裏のビル壁全体に張り巡らされたその糸は、生きているかの如く男の体に巻き付いて―――


ばづんっ。


「あ…?」
 痛みを感じる暇も無かったに違いない。
四〇メートル分の落下速度を乗せ、さらに波紋によって強化された手術糸。
 それは瞬時に男の体に食い込み、吊り上げ、そして容易く肉体を切断した。
何が起きているのかもわからないまま、不思議そうな顔で男の腕が、脚が、首が飛んだ。
 男を吊り上げることによって自身の落下速度を殺し、ずだっ!と音を立てて大地に降り立った。
「貴様程度の安っぽい作戦など…儂には届かんよ」
体の埃を払ってゆっくりと向き直り―――――
「あ」
その視界の先に、内部でジュースが破裂してグチャグチャになった景品袋を見つけて愕然となった。




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

125丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:36


          ∧_∧      ∧_∧         最後の最後まで名無しのままかよ…
          (  ;;;;;;;)l||l   (  ;;;;;;;)l||l
           (  ;;;;;;;;⊃    (  ;;;;;;⊃ ::::::         出れただけ良かっただろ。
            (;,,○;;;;;;;ノ;;):::::::::.(;,,○;;;;ノ;;):::::::::           オレナンカ ソノ2 アツカイダゾ

スタンド名 : アンダー・プレッシャー

本体:名も無きモララー


破壊力 - A   スピード - C  射程距離 - E(2m)
持続力 - B  精密動作性 - C  成長性 - D

触れた物体の質量を操作する。
小石などの質量を重くしたり、相手の体重を消したりできる。


スタンド名 : アシッドジャズ

本体:名も無きモララー2

破壊力 - B   スピード - C  射程距離 - B(50m)
持続力 - B  精密動作性 - C  成長性 - D

強酸の体液と、不定形の肉体を持つ。
破壊力の高い中距離型。

126丸耳達のビート:2004/02/04(水) 23:39

.                ◎
               / \
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          ミ≡≡≡j                \
          ミ≡≡≡j                 \
          ミ≡≡≡j                   \
          ヽ)ヽ)                      \
       −今日の虐待−                   \
        【スレ違い】                       \
            ∩||__∩                         ◎
          (; ´Д`)Σ                         │
          ミ≡≡≡j                         |
          ミ≡≡≡j                         │
          ミ≡≡≡j                         │
          ヽ)ヽ)                              |
       −今日の虐待−                           |
       【洒落にならない】                      ◎
                                         \  ∩∩  
                                           \( ´ー)
                                            ( ⊃ヽ
                                            と__)∪

【蜘蛛糸】
波紋を流した糸での移動・攻撃など。応用力が高いので、色々と使われている。
ネコの腸で作られた手術糸を使用。

1273−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/05(木) 00:33
「スロウテンポ・ウォー」

影色の輪舞曲(ロンド)・3

あっそーという男は、基本的に全身を露わにする事はない。
彼の基本は壁から覗き込む形での監視である。
「…ふむ。やはり基本的な身体能力は高いようだ。流石は八頭身。」
彼はスラム街の奥へ奥へと逃げていくフーンを見送った。

否。

“逃げる姿を監視”していたのだ。
普段は口数も少なく、走る・飛ぶといった行動も少ない。
彼は壁から覗く純然たる“監視者”であるからだ。
あまり人から誉められるような特技ではないのを彼自身もよく知っていたが…
だが、彼は其の能力を買われた。
ZEROからすれば、ターゲットの行動を逐一知ることの出来る強力な監視カメラを手に入れたも当然だった。
物品扱いというのも酷い話だが、彼はそれで充分だった。
シィクという強い女性に憧れ、ディスを見守る事に生き甲斐を感じ、コロッソに従うのが喜びだったのだ。

「さぁ、追うとしようか。…見失っては監視者の名が廃る…」
ちなみに彼がどのように移動するかは詳細不明である。
一説ではZ武のように車輪でコロコロ転がってるだとか、某“中の人”そっくりだとか言われている。

「…クソ。劣勢も劣勢…」
逃げるしか八頭身フーンには出来なかった。ただ、敗走ではない。
彼もまたスタンド使いである。問題はそのスタンドだった。
8フーンは実力者である。一般のスタンド使い相手ならば、楽に勝てるであろう。
だが、彼のスタンドは余りに使い勝手が悪すぎたのだ。
大まかに言えばこの3つが、彼がスタンドを自由に出せない“理由”である。
・効果が及ぶ範囲があまりに広い(精密動作性がない、と置き換える事も出来る)
・能力自体は強力だが、スタンドのヴィジョン自体にパワーがない。
・失敗すればあっそーに逃走される可能性が高い。
よって彼は必死に走っていた。一番有効に、あっそーへとスタンド攻撃が仕掛けられる場所へと。
彼はこのスラムを知り尽くしている。その場所は、あと2回角を曲がれば辿り着く。

1283−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/05(木) 00:35
「……ん?」
彼は立ち止まり、上を見上げた。
奇妙だった。風が無いのに、廃ビルの窓ガラスが大きく揺れているのだ。
台風が来ている時の様に、窓ガラスが激しく振動していた…!!
「…まさか」
「その通り。サム・ハード・リアクション!その“窓ガラスを砕け”!!」

パリイイイン!!

「しまった…!!」
窓ガラスが、まるで内側から破壊されたように弾けとぶ!
ガラスのシャワーが8フーンに降り注ぐ…!
飛び込み前転の形で、ガラスの雨を避ける…だが、すでに

パリイイイン!!!

「2撃目かっ!!クソッ!!」
またしても、ガラスが砕ける。丁度8フーンの頭上にある窓ガラスが、彼を追いかけるように割れていく!
上空に響くガラスが爆ぜる音、地面に響く8フーンがガラス破片を踏み割る音、降り注ぐガラスを避け続ける8フーン。
8フーンの動きはパリィン、パリィンと奏でられるガラスのメロディーに合わせてロンドを踊っているようだった。
「クク…疲れたかな、フーン君。」
「……お陰様で。」
とにかく、これ以上ガラス破片とダンスをしていても仕方が無い。
一点突破、真っ直ぐ走り抜けてスタンド発動させてヌッコロス。
シンプルなプランだったが、これが一番確実な作戦だった。
「…悪いが、ダンスはもう飽きた…!」

ダッ…!

1293−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/05(木) 00:40
「逃げるか…戻れサム・ハード・リアクション!」
壁を這う…いや、壁を泳いでいた鯰(ナマズ)のようなスタンドは、真っ直ぐにあっそーの元へ戻ってきた。
彼のスタンド、サム・ハード・リアクションは壁や地面を泳ぐ魚のヴィジョンをしている。
“ナマズは地震を予知する”“地面の下にいる大ナマズが暴れると地震が起こる”
このような有名な話があるように、彼のスタンドは能力とヴィジョンに大きく関連があった。
名前については、この能力を喰らった相手のリアクションが激しい事から名付けられた。
8フーンを追う彼の背後を、S・H・リアクションが更に追う…
そして、袋小路に繋がる曲がり角を…彼は覗き込んだ

「……ふむ。ここか。」
「待ってたぜ、ストーカー野郎…」
「……君は猫かね?」
8フーンは、袋小路の一番奥…そのフェンスの上に立っていた。逃げようと思えば、向こう側へ逃げられるのに。
「…ここが、最適の場所。俺が唯一、一番安全にスタンドを発動させれる場所が、ここだ。」
「…ふむ…」
「……覚悟はいいな。」

<TO BE CONTINUED>

スタンド名:サム・ハード・リアクション
本体名:あっそー

破壊力:A スピード:C 射程距離:C
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C
ヴィジョン:魚型

本体が視覚できる“場所”に振動を起こす事が出来る。
振動が起こる範囲は半径1m前後。
ただし、空気中・生命体に振動を起こす事は不可能。
ヴィジョンのナマズがその位置に移動してから振動が起こる為
発動まで若干のタイムラグがある。

130SS書き:2004/02/07(土) 00:14
家の戦い −グレン・ミラー−

 よう、まずは自己紹介をしておこうか。仕事柄名前は明かせられないが、みんなはオレのことを『あらくれ』と呼んでいる。だからここでもそれで通させてもらうぜ。
今日話すのは俺の能力のことだ。能力といっても宅建や英会話のことじゃねぇ。もっとすごい能力だ。
この変な能力は少し前に妙な男に矢で刺されてから使えるようになった。
その能力というのは『鏡に映ったものの形や性質を別のものにコピーする』というものだ。正確にはこの能力が使える人形を操れるようになったわけだが。
どんな理屈でこんなことが起きているかは分からないけど、手に入れたからには使わない手は無い。
そんなわけでこの人形(オレはこいつを『グレン・ミラー』と呼んでいる)で目ぼしい奴の姿をオレ自身にコピーして、そいつの家に行って金品を盗んでいる。
本人に化けても鍵が開けられるようになるわけじゃないから、盗むには他の家族がいるところに行くしかないけどな。
盗みというより『リアルオレオレ詐欺』ってところだな。今日もターゲットにした家から出てきた女に化けることに成功した。
これからその家に行って金目のものを失敬してくるぜ。
ま、能力の無い奴は地道に年寄り相手にオレオレ言ってなさいってこった。
あらくれワッショイ。

「OKブラクラゲット。」
「流石だな兄者。」
 流石兄弟は自宅でいつもとなんら変わらない日常を送っていた。
 この家が悪漢に狙われているとは夢にも思わずに。

 ガチャリ。
 流石兄弟がいつものように2chめぐりをしているとき突然部屋のドアが開いた。
「おや、姉者ではないか。今日はどこかに出かけるのではなかったのか。」
 と、兄者。
「え、ええ。ちょっと忘れ物をしたのよ。邪魔したわね、ホホホホ。(ち、この部屋には金目のものはなさそうだ。)」
「どうしたのだ姉者、どこかいつもと様子が違うようだが。」
 今度は弟者。
「そ、そんなこと無いわよ(鋭い餓鬼だ。)」
「そうか、気のせいだったようだな。ところで姉者、あの約束はいつ守ってくれるのだ?  久しぶりに姉者の特技を見せてくれると言ったではないか。」
「そ、そうだったかしら。また今度でいいでしょ。(なんで今思い出すんだよ!)」
「そんなこと言わずに見せてくれよ。今父者のタバコを持ってくるから。」
 と、言うが早いか弟者はタバコと缶ジュースを持って戻ってきた。
「早く見せてくれよ。火のついた煙草を5本くわえ、手を触れずに唇で口の中にひっくり返していれるところを。今日はそこから火を消さずにジュースを飲んでみせてくれると言ったではないか。」
「そ……(そんなことできるか!)」
 姉者(もちろんグレン・ミラーで変身したあらくれ)はタバコをくわえさせられ、弟者はそのタバコに火をつけた。
「ま、待ちなひゃ、の熱ちゃ!」
 タバコの火が顔について偽姉者はその場でのた打ち回った。
「きょ、今日は調子が悪いみたいだわ。ま、また今度・・・・・・(ひ、ひどい目にあった)」
「プッ」
「何がおかしいんだ? この・・・・・・」
「この何なのだ。姉者?」
「(くそ!)ホホホホ、なんでもないわよ。もう満足でしょう。それじゃ私はこれで・・・・・・」
「ああ、よく分かった。お前が姉者ではないということがな。」
「なっ?」
「ちょっとカマをかけたつもりだったのだが、こうもあっさり引っかかるとはな。もちろん本物の姉者はそんな特技はもっていない。(姉者のことだからできても驚かんが)」
「おいおい、弟者。バラすのはもう少し楽しんでからでもよかったのではないか。」
「こ、こいつら分かっててわざとやってやがったのか!」
「流石だよな、俺ら。」

131SS書き:2004/02/07(土) 00:16
「おのれ! こうなったらお前らを一発ぶん殴らねぇと気がすまねぇ」
「気の短い奴だ。『テイク・ア・ルック・アラウンド』」
 兄者がパソコンを操作すると似非姉者は部屋のゴミ箱まで吹っ飛んだ。
「な、なんだ? まさか『同じような能力』を使えるやつが?」
「その様子だとスタンドのことはあまり知らんようだな。組織の人間やプロのスタンド使いではないということか。おっと、妙な真似はするなよ。またゴミ箱行きになるだけだぞ。」
「スタンドとか言ったな。それがお前の能力か・・・・・・」
「そうだ。俺の『テイク・ア・ルック・アラウンド』はパソコンの中で起こしたことを現実世界に引き起こすことができる。スタンド能力は個々人で千差万別だがお前の変身能力でどうにかできる能力ではないことだけは確かだな。」
「・・・・・・ああ、どうやらそのようだ。」
「逆らうことが無駄だと理解できたならば今度は貴様のことを話してもらうぞ。最初の質問だ。お前は何の目的でこの家に来たのだ?」
「ちょっと金目のものを失敬しようと思っただけだ。」
「ただのコソ泥と言うわけか。次の質問だ。本物の姉者はどうしている。」
「オレの変身能力は鏡に映ったものに化けるだけだ。変身元には、何の影響も無い。」
「本当だろうな。兄者、ここは拷問して情報を聞き出した方がいいと思うぞ。」
「そんなこと言わずにさ、許してくれよ! な! な!」
「さて、どうしようかな。実は一度拷問というものをやってみたかったのだ。」
「そんな冷てえ事言わねえでくれよ! な! な! 頼む! これっきり心を入れ替えるから許してくれよ! な! な!」
「兄者、こう言っているがどうする。」
「弟者も人が悪いな。だが、これではっきりした。こいつは本物の姉者が操られているわけではない。こいつの反応を見れば一目瞭然だ。」
「うむ。もしかしたら本物の姉者かもしれないという懸念があったのだが、どうやら考え過ぎのようだったな。」
「な? くそっ、またハメやがったな!」
「流石だよな、俺ら。」
「い、一度ならず二度までもこのオレを馬鹿にしやがって・・・・・・許さんぞ・・・・・・」
「何をぶつぶつ言っているのだ? 次の質問に行くぞ。」
「フフ、その前に、ひとつ言わないといけないことがある。フフフフフ・・・・・・」
「何がおかしいのだ? 言いたいことがあるなら早く言うがいい。」
「フヒヒ。教えてやるよ。俺の能力はものの姿かたちを変えるだけではなくその性質も変えられる。その能力をもったスタンドは万一のためにこの家の外に置いてきた。」
「なんだと? スタンドは今どこにいるのだ!」
「ヒヒ、ちょうど電柱を登り終えて送電線を枯れ枝に変えたところだ。」

 部屋の明かりは突然きれた。

132SS書き:2004/02/07(土) 00:17
「な、何だってー!」
「この家に電気を送っている送電線を枯れ枝にして切断した。貴様の能力はパソコンを使った能力だったよなー。電気が無くてもその力は使えるかな?」
「くっ、ただの間抜けなコソ泥と思って油断した! こいつ意外と機転が利くぞ。」
「落ち着け兄者! 幸いこちらはノートパソコンだ。バッテリーが残っているうちにこいつの能力を解除して送電線を『修復』するのだ。」
「おっと、それ以上動くな。」
 パチ姉者は何本ものナイフを持っている。
「これは紙にナイフの性質をコピーしたものだ。今のお前にとっては十分な凶器だよな。」
(あいつの注意は兄者に向いている。こうなったら俺があいつに突っ込むしか・・・・・・)
 弟者が覚悟を決めたそのとき、再び部屋のドアが開いた。
「兄者ァー。懐中電灯持ってきたのじゃー。」
「い、妹者!」
「来るなー!」
「ヒャヒャヒャヒャ! どうやら天はオレの味方のようだぜ。」
 コピー姉者は人質に取るべく妹者を襲う。
「テイク・ア・ルック・アラウンド! 妹者をこちらに引き寄せろ!!」
 飛んでくる妹者を弟者がキャッチした。
「妹者は無事だな。だが・・・・・・」
「・・・・・・だが、何なのだ?」
「今のでバッテリーが切れた。」

「くそっ! ノートパソコンのバッテリーはどうしてこうも持たないのだ!」
「フフフヒヒ。これでお前らにはどうすることもできないよなぁー。だがオレはまだ切り札を持ってるんだぜー。」
 嘘姉者だったものが徐々にその姿を変えていく。
「なぜスタンドもないのに姿が変わる!」
「いや、グレン・ミラーはすでにそこまで来ているぜ。」
 2枚の大きな鏡を持ったスタンドが窓越しに鏡の光を浴びせている。
「俺の能力は鏡に映すだけで成立する。変身もとを映す鏡と変身先を映す鏡それぞれな。しかも一度化けたことのあるものは保存されていつでも変身できるんだぜ。そして、ヒヒヒ、オレはクックルになったことがあるだぜぇ。」
「ならばこれどどうだ!」
 弟者は鏡の光を遮るように立ちはだかる。
「無駄だ! もう変身は始まっている。ヒヒヒ、事のついでだ、貴様らの姿を保存しておこう。次はその姿で好き放題させてもらうぜ。」
「兄者、バッテリーが切れたというのはまた奴をはめるためのブラフではないのか?」
「いや、本当に切れている。」
「く、絶望的だ。『マイ・ウェイ』この状況を打破する手立てはないか?」
 弟者が自分のスタンドを出現させ尋ねる。
「オイオイ、イチイチ俺ニ頼ルナヨ。コレハ言ハバ、オマエニトッテ『ホーム』デノ戦イダ。ソノマンマダガナ。コノ家ニアルモノハ全部オマエノ味方ナンダ。勝利ノ条件ハスデニソロッテイルゼ。」
「馬鹿な。この状況を変える手段などなにもないぞ。」
「ヒントヲ教エテヤルヨ。オマエラハ部屋ノ明カリヲ点ケタガッテイルガ、希望ノ光ハスデニ勝利ノ女神ガ持ッテキテイルンダゼ。」
「何を言っているんだ? ・・・・・・いや、そうか! 分かったぞマイ・ウェイ。兄者、妹者、逆転する方法を見つけた!」

133SS書き:2004/02/07(土) 00:18
「時間切れだ。クックルへの変身は完了した。オレはクックルの力を得た。もうお終いだぜ。」
「ああ、お終いだ。ただしお前がな。『テイク・ア・ルック・アラウンド』奴を移動させろ!」
「なんだと! なぜスタンドが使え・・・・・・」
 変身を終えたあらくれは部屋の外へ飛んでいく。
「ぎりぎりだったな。妹者がいたおかげで助かった。妹者『ブレイヴ・ニュー・ワールド』で懐中電灯の電池を『電気の小人』に変えた。テイク・ア・ルック・アラウンドを動かす電気を生み出す小人にな。テイク・ア・ルック・アラウンドでやったことはたった『二つ』だが、奴を倒すには十分だったな。」
「なのじゃー。」
「これぞ兄者と妹者の夢のコラボレーション! ハァハァ……」
「俺を完全無視とは流石だな兄者。」

「く、くそ。奴らどこまで人をコケにすれば気が済むんだ。」
「誰がコケだって?」
「奴らの母親か? よし、こいつを人質にし・・・・・・」
 ドギャッ。(母者のこぶしが顔面にクリーンヒットした音)
「人にぶつかっておいてその言い草はなんだい!」
「な、なんだと、オレは最強のクックルなんだぞ?」
「なに寝ぼけたこと言ってんだ。鏡で自分の顔をよく見てみな。」
 あらくれが鏡で自分の顔を見ると、そこには兄者の顔が映っていた。

「テイク・ア・ルック・アラウンドでやったことはたった二つ。奴を母者のところに移動させることと、変身先の『ファイル名』を書き換えること。鏡に俺の姿も映したからな、変身できない道理はない。」
「『母者』と『兄者』。この組み合わせの勝負になったら結果はどうなるか、『マイ・ウェイ』でなくとも分かる。母者対クックルの勝負も見てみたかった気はするが。」
 台所から母者と変身兄者の声が聞こえてくる。
「すべて大凶の方角だ!」
「なんで主婦が暗殺風水使えんのー!」
 それは流石家の日常の風景そのものだった。
「弟者、いいことを思いつたぞ。あのスタンド使いを手懐けて俺たちの変わりに母者に殴られてもらおう。」
「それはやめておいたほうがいいぞ。あのスタンドで母者にコピーされたら2人の母者を相手にしなくてはならなくなる。それができることを考えればあれこそ最強のスタンド能力かもしれないな。」


あらくれ―このあと警察に保護を求めるも盗品を所持していたため逆に
     タイ━━||Φ|(|▼||▼|)|Φ||━━ホ!!!
     牢屋で二度と悪いことはしないと誓う。再起不能。

 姉者―何事もなく帰宅。
 流石家―停電のため少し夕飯が遅れる。それ以外はいつもどおり。

END

134SS書き:2004/02/07(土) 00:20
スタンド名:グレン・ミラー
本体:あらくれ(ドラゴンクエストシリーズの覆面男)
    |\__/  ̄ ̄ \__/|
    \__| ▼ ▼ |__/ 
      \  皿 /

パワー‐E スピード‐D 射程距離‐C
持続力‐C 精密動作性‐C 成長性‐C

2枚の大きな鏡を持った亜人型のビジョン。
片方の鏡に映したものの姿や性質をもう一枚の鏡に映ったものコピーする。
変身したものはスタンドで解除するか30分するともとに戻る。
変身できる大きさは最大で軽自動車一台分程度。
一度変身したことがあるものならば再び変身することが可能。

135:2004/02/07(土) 16:15

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その2」



          @          @          @



 しぃ助教授は、ASA本部ビルの最上階にある幹部室にいた。
 窓から夜の町を見下ろしながら、コーヒーカップに口をつける。
 この頃、町を見下ろすのが日課になった。
 この町のどこか… おそらく町の中心にある高校に『アルカディア』は潜んでいるのだ。
 その姿は、偵察衛星からも捉えられない。
 いっそ、学校に総攻撃をかけるか…
 だが、それはリスクが大きすぎる。
 相手は『アルカディア』だけではない。
 その後ろで『教会』が手を引いている事は明白だ。

 とは言え、あまり長い間この国に居座るわけにもいかない。
 太平洋に配置した艦隊に対して、この国の自衛隊が威嚇行為を繰り返している。
 大きな揉め事になる前に、事を収めなければ…

 ドタドタと廊下を駆ける音が、こちらに近付いてくる。
 おそらく丸耳だ。
 彼は有能なのだが、どこか子供じみたところがある。
「しぃ助教授の言ったとおりです!」
 ノックもなく、部屋に飛び込んでくる丸耳。
 頼んでいた調査書を手にしている。
 肩が苦しげに上下していた。よっぽど急いで来たのだろう。
 彼は息を切らしながら、報告書をしぃ助教授に差し出した。
 そして汗を拭きながら興奮気味に口を開く。
「この町での、吸血鬼による犠牲者120人の首筋に残された歯形が、全部一致しました!
 たくさんの吸血鬼が事件を起こしたんじゃなく…1人の仕業です!
 120人もの人間を殺し、血を吸ったのは…たった1人の吸血鬼です!!」
「…そう」
 しぃ助教授はため息をついた。
「悪い方向に予想が当たっても、嬉しくないものですね…」

「クソッ! ほぼ正確に1日1人のペースだったのは、こういう事か…!
 一日一食って訳かッ…!!」
 丸耳は感情を顕にして怒鳴った。
 人間を食料としか見なしていない吸血鬼に、彼の怒りが爆発したのだろう。

「ところで…なぜしぃ助教授は、この事実に気付いたのです?」
 平静を取り戻して、丸耳は訪ねる。
 しぃ助教授は窓際から離れて、ソファーに腰を下ろした。
「この120人殺害は、普通の吸血鬼の仕業にしては妙なんですよ。
 そもそも、吸血鬼による殺しなら死体は残らない。ゾンビになるんですからね」

「そう言えば…!!」
 丸耳は愕然とした。
「それに、首筋に牙が残っているのも妙です。吸血鬼は手からも血を吸えますからね。
 それなのに、わざわざ人間の摂食行為に近い形をとったという事は…」
 しぃ助教授の言葉を、丸耳が引き継いだ。
「…吸血鬼になって、間もないという事ですか?」

 しぃ助教授は首を振った。
「吸血鬼になって間がなくても、吸血対象のゾンビ化や手からの吸血は可能ですよ。
 これはもっと中途半端な感じがしませんか?」
 丸耳は首を傾げて言った。
「中途半端…?」

 しぃ助教授はコーヒーカップを机に置いた。
「そうです。従来の吸血鬼とは、どこか違う…
 おそらく『アルカディア』の率いる吸血鬼とは別の存在でしょう。
 『アルカディア』側の吸血鬼による犠牲者は、普通にゾンビと化しているでしょうね。
 そもそも『アルカディア』は町に潜伏している状態なので、余り事を大きくしたがらないはずです。
 …最初から、この吸血鬼殺人には不自然な点が多かったんですよ」

 丸耳は、微かな違和感を感じ取った。
 しぃ助教授は、まだ他にも何かを知っているような感じがする。
 何か、隠している事があるのではないか…?
「これから先、私達にとっても辛い戦いになりますね…」
 しぃ助教授はため息をついた。

 その時、唐突に部屋の明かりが消えた。
 部屋の中はたちまち闇に落ちる。
 光は、窓から差し込んでくる僅かな月光のみ。
「…停電?」
 しぃ助教授が周囲を見回した。
 この部屋だけではない。
 ASAビル全体の灯りが消えているのだ。

136:2004/02/07(土) 16:16

 丸耳は、不審そうに外を眺めた。
「妙ですね。こんな大規模な停電なのに事前連絡もないなんて。それに、外の家々の灯りは点いたまま…」
 丸耳の言葉は、途中で遮られた。
 突然、部屋に眩い光が差し込んだのだ。
 窓の外から、明るいライトで照らされている。
 闇に落ちた部屋の真ん中に、ライトによる明るい円が形成された。
 それは、スポットライトのように丸耳やしぃ助教授を照らす。

「これは…!!」
 丸耳は思わず声を上げた。
 外には、まるで部屋を覗き込むような距離で武装ヘリが滞空していた。

「…自衛隊仕様のアパッチですって!?」
 しぃ助教授が驚愕の声を上げる。
 ヘリ本体底部に備え付けられた30mmチェーンガンが室内に向けられた。
「くっ…! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授がスタンドを発動させる。
 同時にチェーンガンが火を噴いた。

 バララララ…という轟音が響く。
 ガラスが粉々に割れ、壁や床に弾痕が刻まれる。
 部屋内の机やソファーが吹き飛び、書類が宙を舞った。
 しかし、しぃ助教授や丸耳には怪我一つない。
 全ての弾丸は、『セブンス・ヘブン』により指向性を変えられたのだ。

「落ちなさいッ!!」
 『セブンス・ヘブン』は、ヘリのメインローターの力の向きを変えた。
 メインローターは僅かに逆回転した後、シャフトごと折れてしまう。
 たちまちヘリは姿勢が保てなくなった。そのまま、ヘリの高度は下がっていく。

「やった!! …って、うわぁ!!」
 丸耳は大声を上げた。
 破壊音が響き、ビルがグラグラと揺れる。
 安定姿勢が取れなくなったヘリが、ASAのビルに突っ込んだのだ。

 丸耳は粉々になった窓の傍に駆け寄ると、身を乗り出して階下を見下ろした。
 ビルの壁面から、テイルの部分が突き出しているのが見える。
 本体部分はビル壁面にめり込んでいた。
 黒い煙を噴き出してはいるが、火の気はないようだ。
「どうやら爆発炎上は免れたようですね。アパッチの高い防御力に感謝ってとこですか…」
 しぃ助教授はため息をつく。

「それにしても…なぜ!? 監視衛星では自衛隊機の移動なんて確認できなかったのに…!」
 丸耳が叫んだ。
「そんな事より、電力の復旧を急ぎなさい! 攻撃がこれだけで終わったとは思えません!!」
 しぃ助教授が命令を下す。
「はっ!」
 丸耳が身を翻して部屋から飛び出そうとした。
 しかし、それより先にドアが開く。

137:2004/02/07(土) 16:17

「しぃ助教授! 大変です!」
 部屋に駆け込んできたのは、懐中電灯を手にしたねここだった。
 かなり息が切れている。
 エレベーターが使えないので、階段で駆け上がってきたのだろう。
「…どうしました?」
 しぃ助教授が訊ねた。
「このビルが、軍人らしき連中に包囲されています。全員が重武装で、その数は約1万人…!!
 何グループかは、既にビル内に侵入したようです!」

「1万人…! 1個師団だと!?」
 丸耳が驚きの声を上げた。
「このビル内のASA職員が約250人。攻者三倍の原則でもお釣りが来ますね…」
 しぃ助教授は呟く。
 それに継いで、ねここは口を開いた。
「それで、暗視防犯カメラに映っていた軍人達の映像を転送しますた。
 予備電源が供給されてるので、この幹部室のコンソールで見れるはずです」

 しぃ助教授は、壁に取り付けられた制御用パネルを素早く操作した。
 真っ暗な部屋で、そのディスプレイだけが薄く光っている。
「これは…」
 しぃ助教授は驚きの声を洩らした。
 画面に、正面玄関を通過する迷彩服姿の男達が映し出された。
 アサルトライフルらしき大型の銃を装備している。
 ヘルメットにはイヤホンや暗視装置用アタッチメント、そして超小型のディスプレイが取り付けられていた。

 丸耳は、その装備を見て呟いた。
「随分と重装備ですね。それに、こんな銃は見た事がない…
 89式小銃やAK、G3、M16シリーズとも違う。
 この軍人達は、本当に自衛隊なんですか…?」
 驚愕の表情で固まっているしぃ助教授の顔を見る丸耳。
 それを受けて、しぃ助教授は呟く。
「IHAS… そして、次世代個人戦闘兵器OICW…
 これは、プログラム・ランドウォーリア! まさか実用化されていたなんて…!!」

「…その、ランドウォーリアとは?」
 丸耳は聞き返した。
 しぃ助教授はディスプレイから目を上げる。
「米陸軍で試験的に実施されている、情報処理システムの導入と個人兵士装備の新規開発を中心とした
 次世代統合型歩兵戦闘システムです」

「厄介なのですか?」
 丸耳は訊ねるまでもないと分かっていたが、思わず口に出してしまった。
 厄介でなかったら、しぃ助教授はここまで困惑した表情は見せないだろう。
「…厄介なんてもんじゃありませんね。
 100mの射程を誇る近距離パワー型のスタンド使いを相手にしていると思いなさい」
 しぃ助教授はそう告げた。
「…脅威ですね」
 ねここは呟く。

 しぃ助教授は指示を出した。
「とりあえず、丸耳は近郊に配置している政経中枢防衛師団と戦略機動師団を召集しなさい!」
「はっ!」
 丸耳は携帯を取り出す。
「それでも、今からでは応援が間に合うかどうか…」
 しぃ助教授は呟く。そして、ねここに顔を向けて言った。
「ねここは、ありすとクックルを起こしてきなさい!」
「はい!」
 ねここは部屋から飛び出していった。

「…電話が通じません。この様子では、無線も…」
 丸耳が耳から携帯電話を離すと、顔を青くして言った。
「ECM(電波妨害)!? 手の込んだ事を…!!」
 しぃ助教授の怒りの声は、大きな爆音でかき消された。
 ビル全体に、大きな振動が伝わってくる。
 二人は頭上を見上げた。
 明らかに屋上からだ。
「今のはまさか… 屋上のヘリポートが攻撃を受けて…!」
 丸耳が呟く。
 このビルの屋上にはヘリポートがあるのだ。
 その施設が破壊され、ビル自体が包囲されているとなれば、まさに袋のネズミである。
「やってくれる… この国の軍隊は、よほど奇襲が好きらしいですね…!」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。

138:2004/02/07(土) 16:18


          @          @          @



 乾く…
 喉が渇く。
 血に渇望する夜。
 月の光がこの身を照らす。
 私は、血に焦がれていた。

 カツカツと言う靴音。
 それが徐々に近付いてくる。
 そう、無防備に道を行く女だ。
 吸血鬼殺人が多発しているとはいえ、勤め人には勤めがあるという事か。

 ――血。
 血だ。
 血が吸える。
 あの女の血が吸える血が吸える血が吸える。
 私は駆け出した。
 軽く跳ぶと、女の背後に立つ。
 もちろん、ただの女に吸血鬼の動きが知覚できる訳がない。
 私は、無防備な女の白い首筋に牙を突き立てた。
「!!」
 女が異常に気付いた時、私は既にその命を8割がた吸い尽くしていた。
 血の味が広がる。
 潤いが渇きを癒す。
 それらが、体を満たしていくのがはっきりと感じられた。

 一方、だらりと力を失う女の身体。
 その手足が力なく垂れ下がる。
 力の抜けた腕がぶらぶらと揺れていた。
 力無くぶらぶらと。
 ――ぶらぶら。
 ――ぶらぶら。
 ――ぶらぶら。
 ――ぶらぶら。

 私は女の首を咥えると、首の動きだけで無防備にブロック塀に投げつけた。
 塀に激突して、どしゃりと横たわる女の身体。
 糸の切れたマリオネットだ。
 口内に、首の肉の一部が残る。
 それを吐き捨て、口元の血を拭った。

 ――赤。
 血の赤。
 赤に染まる私。
「はっ… ははは、あはははははは!!!!!」
 狂ったように笑った。
 女の亡骸の眼が、力なくこちらを見つめている。
 それが、無念を訴えているように見えた。


 ――不意に、背後から気配がした。
 素早くこちらに近付いてくる影。
 向こうは、私が人間でないことを了解している。
 そう。私が吸血鬼であると気付いているのだ。
 その影は、銃剣(バヨネット)を手にしていた。

 影は素早くこちらに接近する。
 それと同時に、バヨネットで突きを放ってきた。
 私は右腕でそれを払いのけると、左腕で大きく薙ぐ。
 しかし、影はこちらの動きを読んでいるようにかわした。
 そのまま、私は屋根の上まで跳んだ。
 それを追って、向こうも跳ぶ。
 
 私は屋根の上を走った。
 影も、私を追って並走してくる。
 屋根の上を駆けながら、私は影に向かって爪を振るった。
 バヨネットで応戦する影。
 法儀式済みのバヨネットに斬りつけられると、吸血鬼であるこの身でも再生ができない。
 民家の屋根の上で、爪とバヨネットが激しくぶつかり合う。

 私は飛び退くと、影と距離を置いて着地した。
 向こうも、トンと屋根から飛び降りる。
 影は、ゆっくりと私の目の前に着地した。
 鮮やかな月の光が影の主を照らす。
 その悲しげな表情が、私の目に止まった。
 困惑と悲哀が混じった複雑な表情を…

「――そんな眼で、私を見るな…」
 私は、その視線に耐えられなくなった。

「そういう事だったモナね…」
 影の主は、悲しげに呟いた。

「ああ。こういう事なんだ」
 私は、自嘲しながらため息をついた。そして言葉を続ける。
「だから、君には決して会いたくなかったな…」

 影の主は少しの間の後、ゆっくりと口を開いた。
「この町で吸血鬼殺人を繰り返していたのは――」

 いつものように、人の良さそうな喋り方。
 悲哀に満ちた眼。
 止めろ。
 私の名を呼ぶな――

「――君だったモナね、リナー…」

 影の主、モナーは辛そうな顔で私の名を呼んだ。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

139新手のスタンド使い:2004/02/07(土) 21:15
age

140ブック:2004/02/07(土) 21:22
       救い無き世界
       第十七話・リアル鬼ごっこ 〜その3〜


 アソパソマソと、うるせー馬鹿がしくじった。
 やばい。
 おそらく、あいつらから俺が内通者である事があっという間にばれるだろう。
 もしSSSの連中に捕まったら何をされるか分かったものではない。
 早く、早く出来るだけ遠くに逃げなければ…!

 時間はすでに深夜一時。
 俺は夜道に車を走らせていた。

「!!!!!」
 車のライトが、道の真ん中で俺の車の進路を塞ぐように停車している
 一台の車を映し出した。
 俺は慌てて急ブレーキを踏んで、衝突を避ける。


 ―――銃声。
 火薬の炸裂音が闇を裂くように響き、
 次の瞬間車がガクンと音を立てて車体を下降させた。

 しまった。
 車を止めた所で、タイヤを狙い撃ちにされた。
 俺は覚悟を決め、ゆっくりと車のドアを開けて俺のスタンドを発動させると
 警戒しながら車を降りた。
 そして用心深く道の真ん中に止めてある車に近づく。
 中には、誰もいない。

「こっちですよ。」
 いきなり背後から声をかけられた。
 反射的に振り向く。

 どういうことだ!?
 こいつはいつから背後にいた。
 声をかけられるその瞬間まで、何の気配もしなかったぞ。

「SSS諜報部所属のニダーさんですね。
 こんな時間に、ドライブですか?」
 暗がりから徐々に声の主の姿が浮かび上がってきた。
 こいつは、こいつはまさか…

141ブック:2004/02/07(土) 21:22

「SSSスタンド犯罪制圧特務係A班のタカラギコです。
 よろしければ、ちょっとあなたに話を伺いたいのですが。」
 …よりにもよって最悪の奴に見つかった。
 『始末屋』『最強にして最恐』『地獄の一丁目』『死神の使い』『鬼の特務A班』
 『修羅』『無双の懐刀』『悪魔の巣』『切り札』『超異常殺人能力者集団』『戦鬼の徒』
 様々の悪名と異名を持ち、尊崇と羨望と恐怖と畏敬を一身に纏う
 スタンド能力の使い手の集まり、SSSスタンド犯罪制圧特務係A班。
 そのメンバーの一人が、今俺の目の前にいる。

「…もうSSSにはウリの事がばれてたニダか。」
 俺はタカラギコに尋ね、スタンドを構えた。
「いえ、SSSはまだ正確な情報は掴んでませんよ。
 いやですね、私の同僚の一人が内通者のいる恐れがあると言いましてね、
 それで我々特務A班を含めた少人数で極秘裏に逃亡者が出ないかどうか
 見張っていた訳なんですよ。
 あまり大々的に裏切り者探しをやっては、探すまでに時間が掛かりすぎますし
 騒ぎに乗じて姿を眩まされる可能性が高のでね。」
 タカラギコはまるで世間話でもするような口調で喋った。
「いやしかし…よりにもよって私の所に来ないで下さいよ。
 私はあんまり荒事はしたくないんです。疲れますし。」
 タカラギコは嫌そうに溜息を吐いた。
「で、ですね。一つ提案があるんですけど、大人しく捕まってくれませんか?
 そうしたら命を戴くような事はもちろん、あまり過激な拷問も決していたしません。
 悪い取引じゃないでしょう?」
 こいつ、何をいけしゃあしゃあと。
 そんな事、俺が信用するとでも思っているのか?

「悪いけど、お断りニダ!」
 俺はタカラギコに向かって俺のスタンド『サテラビュー』の拳を繰り出した。
 タカラギコはそれを苦も無い様子でかわす。
 糞。
 拳があたれば、それで勝負がついたものを。

「危ないですねぇ、いきなり攻撃して来るなんて。
 しかし…あなたは確かスタンド能力は所持していないとの記録がありましたが、
 どういうことでしょうね?」
 タカラギコが懐から二挺の拳銃を取り出し、両手に握る。
「そのスタンドが、『大日本ブレイク党』からのSSSの情報料の一つですか?
 そういえば、今日でぃ君を監視していた人が
 脳天を何かレーザー砲の様なもので撃ち抜かれて死んでましたが、
 それもあなたの仕業ですか?」

 俺はその質問には答えず、再びタカラギコに拳を撃ち出した。
 タカラギコは紙一重でそれを潜り抜けると、
 体勢を低くして足払いで俺の体を浮かし、
 そのまま地面に落ちる俺を今度は右脚で蹴り飛ばした。
 その勢いのまま俺は宙を舞い、
 五メートル程飛ばされたところで体を地面に激しく擦らせながら背中から着地した。
 しかし、休む間も無くそこに追い討ちの銃弾が襲い掛かる。
 スタンドで何発かは防いだものの、
 防げなかった一発が俺の肩の肉を抉った。
 痛みを訴える声が、喉から出かかる。
「どうやらあなたのスタンドは能力の方に力を注いでいるみたいですね。
 近距離型にしては、パワーもスピードもお粗末過ぎる。
 攻撃に特化した近距離パワー型なら、私と言えども流石に純粋な接近戦では
 勝ち目は無い筈ですからね。」
 タカラギコが、淡々とした口調で言った。
「まあ、いいです。
 あなたを捕らえた後で、それらについてはゆっくりと聞かせて貰いましょう。」
 タカラギコは俺に銃口を向けた。

142ブック:2004/02/07(土) 21:23

「…ふざけるなよ。何が『荒事はしたくない』ニダ。」
 俺はタカラギコを睨み付けた。
 先程蹴りを喰らった部分に鈍い痛み。
 骨にヒビがいったのだろう。
 恐るべき体術の切れ味。
 特務A班の名は伊達ではないということか。
「何か勘違いをなされているようですね。
 私は確かに荒事は『嫌い』ですが、『苦手』という訳ではありません。」
 タカラギコは相変わらずの軽い喋り方をする。

 そういえば、あいつもスタンド使いの筈である。
 なのに、まだスタンドのビジョンを見せていない。
 ビジョンの無いスタンドか?
 それとも余裕を見せ付けているだけなのだろうか。

「私はね、出来るだけスタンドは使いたくないんです。
 それだけですよ。」
 タカラギコが俺の考えを見透かしたかのように口を開いた。
「そして、あなたのスタンドが大体予想出来ました。
 監視を殺したのがあなたであるならば、
 上空にあるあなたの傍で発動しているのとは別のスタンドからの
 空からのレーザー射撃があなたの能力と予想できる。」
 タカラギコが俺の同意を促すような視線を向けた。
「そして、そのレーザー砲の発射条件はおそらく地上にあるそのスタンドで
 目標に触れて、ロックオンをする事。」
 タカラギコが教師のような感じで言う。
「もし無条件でレーザー砲による攻撃が出来るなら、
 あなたはとっくに私に向かってその攻撃を仕掛けている筈です。
 もたもたしていたら、私の所に応援が駆け付けるかもしれないんです。
 時間が経てば経つ程自分が不利になる事はあなたも分かっている筈だ。
 能力を出し惜しみする必要性はあなたには一切無い。」
 隙あらば喋っている途中に攻撃をしてやるつもりだった。
 だが、タカラギコは喋っている間に微塵も隙は見せない。
「ここからは私の予想ですけど、レーザー発射にはその為のチャージ時間が
 あるんじゃないですか?
 監視員の死体を調べましたけど、かなりの出力によるレーザーで撃たれています。
 あれ程の威力の攻撃、そうそう連発出来ないでしょう。」
 …大当たりだ。
 短時間で、ここまで俺のスタンドを丸裸にされるとは…!

「…どうやら、正解のようですね。
 そうと分かれば、もうあなたは怖くはありません。
 触れられさえしなければ良いんですから。
 そして私にはそれが出来る。
 どうします?今ならまだ、さっきの私の提案も有効ですよ。」
 タカラギコが俺に銃を向けながら尋ねた。

「まっぴらごめんニダ!!」
 さっき俺の車から降りる時に、あらかじめ車に『サテラビュー』を
 ロックオンしておいた。
 そこに向けて衛星軌道上にある『サテラビュー』の一対からのレーザー砲発射。
 車が光に撃ち抜かれ、大爆発を起こす。
 一瞬、タカラギコの注意がそちらに向けられる。

 俺はその瞬間を逃さなかった。
 すぐさま振り向き、一目散に逃走する。
 闘う必要は無い。
 ここから生きて逃げられれば…

 と、俺の左足に激痛が走った。
 痛みにわずかに遅れて、銃声が耳に入って来る。

「いやはやびっくりしましたよ。
 ですが惜しかったですね。」
 タカラギコの右の銃の銃口から、硝煙が立ち昇っていた。

143ブック:2004/02/07(土) 21:24

「…ふざけるなよ。何が『荒事はしたくない』ニダ。」
 俺はタカラギコを睨み付けた。
 先程蹴りを喰らった部分に鈍い痛み。
 骨にヒビがいったのだろう。
 恐るべき体術の切れ味。
 特務A班の名は伊達ではないということか。
「何か勘違いをなされているようですね。
 私は確かに荒事は『嫌い』ですが、『苦手』という訳ではありません。」
 タカラギコは相変わらずの軽い喋り方をする。

 そういえば、あいつもスタンド使いの筈である。
 なのに、まだスタンドのビジョンを見せていない。
 ビジョンの無いスタンドか?
 それとも余裕を見せ付けているだけなのだろうか。

「私はね、出来るだけスタンドは使いたくないんです。
 それだけですよ。」
 タカラギコが俺の考えを見透かしたかのように口を開いた。
「そして、あなたのスタンドが大体予想出来ました。
 監視を殺したのがあなたであるならば、
 上空にあるあなたの傍で発動しているのとは別のスタンドからの
 空からのレーザー射撃があなたの能力と予想できる。」
 タカラギコが俺の同意を促すような視線を向けた。
「そして、そのレーザー砲の発射条件はおそらく地上にあるそのスタンドで
 目標に触れて、ロックオンをする事。」
 タカラギコが教師のような感じで言う。
「もし無条件でレーザー砲による攻撃が出来るなら、
 あなたはとっくに私に向かってその攻撃を仕掛けている筈です。
 もたもたしていたら、私の所に応援が駆け付けるかもしれないんです。
 時間が経てば経つ程自分が不利になる事はあなたも分かっている筈だ。
 能力を出し惜しみする必要性はあなたには一切無い。」
 隙あらば喋っている途中に攻撃をしてやるつもりだった。
 だが、タカラギコは喋っている間に微塵も隙は見せない。
「ここからは私の予想ですけど、レーザー発射にはその為のチャージ時間が
 あるんじゃないですか?
 監視員の死体を調べましたけど、かなりの出力によるレーザーで撃たれています。
 あれ程の威力の攻撃、そうそう連発出来ないでしょう。」
 …大当たりだ。
 短時間で、ここまで俺のスタンドを丸裸にされるとは…!

「…どうやら、正解のようですね。
 そうと分かれば、もうあなたは怖くはありません。
 触れられさえしなければ良いんですから。
 そして私にはそれが出来る。
 どうします?今ならまだ、さっきの私の提案も有効ですよ。」
 タカラギコが俺に銃を向けながら尋ねた。

「まっぴらごめんニダ!!」
 さっき俺の車から降りる時に、あらかじめ車に『サテラビュー』を
 ロックオンしておいた。
 そこに向けて衛星軌道上にある『サテラビュー』の一対からのレーザー砲発射。
 車が光に撃ち抜かれ、大爆発を起こす。
 一瞬、タカラギコの注意がそちらに向けられる。

 俺はその瞬間を逃さなかった。
 すぐさま振り向き、一目散に逃走する。
 闘う必要は無い。
 ここから生きて逃げられれば…

 と、俺の左足に激痛が走った。
 痛みにわずかに遅れて、銃声が耳に入って来る。

「いやはやびっくりしましたよ。
 ですが惜しかったですね。」
 タカラギコの右の銃の銃口から、硝煙が立ち昇っていた。

144ブック:2004/02/07(土) 21:25

「うああああああ!!」
 俺はスタンドを発動させ、傍にあったマンホールの蓋に手をかけた。
 しかし銃弾がその作業を強制的に中断させる。
「やれやれ。マンホールから逃げようなんて、どこぞの漫画の吸血鬼ですかあなたは。」
 タカラギコが呆れたように呟く。

 俺はそんな言葉は無視して、体を引きずりながら
 なおもタカラギコから離れようとする。
 しかし、これは逃げる為では無い。
 タカラギコをある場所に誘導する為だ。

「あのですね、もう大人しく捕まりませんか?
 この年で鬼ごっこは勘弁して欲しいですよ。」
 タカラギコが俺に近づいて来る。

 近づけ。
 そうだ、近づけ。
 今だ!!

 タカラギコが、「俺のスタンドで触れた」マンホールの上に足をかけた。
 『サテラビュー』を発動。
 マンホール目掛けてレーザー砲が照射さる。
 当然、その上にいるタカラギコごと。
 やった!
 俺の勝ちだ!!!


!!!!!!!」
 俺は驚愕した。
 確かに、レーザーはタカラギコに向かって行った。
 しかし、これはどういう事だ!?
 レーザーがタカラギコの直前で掻き消えたのだ。

「いやはや、迂闊でした…私もまだまだ研鑽が足りませんね。」
 タカラギコの周りに、銀色の球体のようなものが何個も浮かんでいた。
 まさか、これが奴のスタンドか!?

「見てしまいましたね…
 私のスタンド『グラディウス』を。」
 すると、タカラギコの姿がみるみるうちに消えていった。
 何だ。
 これは何だ。
 これが奴の能力か?

 次の瞬間、俺の右腕左腕右脚左脚に銃弾が喰い込んだ。
「ぎゃあああああああ!!!」
 情けない悲鳴をあげ、俺はその場に倒れ伏す。

「ま…待つニダ!!
 降伏する!『大日本ブレイク党』についてもウリの知る事は何でも話すニダ!
 だから命だけは…」
 しかし俺が最後まで喋りきらないうちに、
 腹に銃弾を叩き込まれた。
「別に結構です。私にとってはそんなのはどうでもいい事ですから。」
 タカラギコの抑揚の無い声が俺の耳に入ってくる。

「もう、駄目ですよ。あなたはほんの一部といえど、私のスタンドと
 その能力を見てしまった。
 そうなった以上、もう生かしてはおけません。
 困るんですよ、あなたから私のスタンド能力が洩れるような事になったら。」
 姿の見えない所からタカラギコの声が聞こえてきた。

「同僚達にすら見せていない私のスタンドを見れた事を、
 せめて誇りに思ってあの世に逝くのですね。」
 その言葉が終わるやないなや俺の頭が爆ぜ、
 脳漿を撒き散らしながら俺は息絶えた。



     TO BE CONTINUED…

145( (´∀` )  ):2004/02/08(日) 17:37
「あなたを シマツさせてもらいます。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―地震と幸運と

(・・ただの喧嘩を売ってるチンピラか?)
殺は身構える
「ねぇ、岳画殺さん。」
「アナタ。あの2人と一緒に居て居ぐるしく無いですか?」
アンシャス猫が囁く
「なッ・・?」
「一人は鈍感でやる気ゼロの臆病者。」
「もう一人は毛むくじゃらのバケモノ。」
「・・どこまで知っている・・貴様ら・・ッ!」
殺が『リーサル・ウエポン』を発動する。
「ソレに二人とも男です。」
「異性のアナタに興味が無いわけが――・・」
アンシャス猫(鈴木)の顔面に何かが横切り、轟音が響いた
「どうやら貴様らが『刺客』らしいな・・。」
殺はリーサル・ウエポンをフル起動する。全身に数々の重火器が現われる
「ならば・・容赦はしないッ!!」
殺の姿が消える
「ッ!?」
次の瞬間、アンシャス猫(宗男)の後頭部に『ゴリ』という音が鳴った。
「動くな。動いたら撃つ。」
本気だ。
しかし宗男はクスクス笑っている
「?何がおかしい!」
殺は更に強く銃口を押し付ける
「やっちまいなさい!鈴木さん!」
「イエッサー!宗男さん!」
「『ピュア・エスケイキズム』!!」
鈴木がそう叫ぶと突然大きな地震が起こり、殺がよろけた
「な・・ッ地震!?」
そしてよろけた殺が宗男の方に目を向けると女神の様な白い石像が矢を構えていた
「『エンチャント・メント』ォォッ!」
殺は間一髪態勢を持ち直しよけようとしたが矢が右手に突き刺さった。
「クソッ!」
何のためらいもなく矢を引き抜いた
傷口が広がり大量の血が噴出したが全く怯まず、矢を投げ返した
「へぇ・・我慢強さは天下一品みたいですねぇ。」
とてつもない速度で飛んで行った矢だったが突然減速し、宗男の前に落ちた。
「え・・ッ。」
「おやおや・・コレは『運が良い』ですねェ宗男さん・・」
「そうですねぇ鈴木さん・・」
アンシャス猫がニヤニヤしながら話す
「クソ・・ッ!ナメるなァッ!!」
殺の右肩からマシンガンが現われる
「無駄無駄無駄ァッ!『エンチャント・メント』ォッ!」
白き女神像から矢が発射され、その矢は見事にマシンガンと殺の肌が同化している所を貫通し
ブーメランの様に宗男の下に帰って来た。

146( (´∀` )  ):2004/02/08(日) 17:38
肌と同化していたマシンガンが切り落とされた為、殺の肩から血が吹き出る
「おおう。帰ってくるなんて、また『運が良い。」
「ソレに比べて殺さんは『運が悪い。』」
クスクス笑いながら殺を見下している
(クソ・・ッ!ありえん・・。こんな『偶然』ありえないッ!・・だが・・能力にしては『多すぎる』・・。)
右肩から噴出す血を気にもとめず左手を丸ごと火炎放射器に変える
「今度こそ・・ッ!?」
突然殺がよろめく。
下にあった石に躓いたのだ。
「もらったァッ!『エンチャント・メント』ォッ!!」
今度は2発矢が飛んできた
殺の足に突然激痛が走る。
転んだ時にガラス瓶か何かの破片がとてつもなく深く右膝に突き刺さったのだ。
(まずい・・このままじゃッ!)
ガラスの破片は根元まで刺さっていて抜けない。さらに足に激痛が走り続けていて立つ事ができない。
(最悪だッ!此処まで運が悪いのは初めてだッ!・・・?・・・・・『運』・・?・・!まさかッ!)
既に顔面の直前まで矢が飛んできている・・
(クソ・・ッ!もう一歩・・もう一歩だったのにッ!)
ガキィッ!!バギバギバギッ!
突然大きな音が響く
殺がめをあけるとムックと同じ大きさくらいの緑色の男が立っていた
そのそしてその横には四足歩行の怪物が居る・・・きっとスタンドであろう。
その怪物の口にはさっきの矢が銜えられていた
「な・・ッ」
「い・・一体何者だ貴様ッ!!」
アンシャス猫の表情がさっきとは一変している
予想外の敵が現われたことに驚いているのだろう。
「か弱い少女を襲ってる妙な奴らを見たから助けに来ただけだが・・。」
ゴリ、バギ、バリバギィッ・・
矢を噛み砕く音が聞こえる
「クソッ・・矢張りスタンド使いかッ!」
「ええい誰でも良い!邪魔するなら蹴散らしましょう!!」
アンシャス猫が特攻しようとスタンドを発動させた
「ちょっと待て、私には探し人が居るんだが、知らないか?」
「知るかァァァッ!死ねェッ!『ピュア・エスケイキズム』ゥッ!!!」
「『エンチャント・メント』ォッ!!」
2匹とも我を失い特攻している
「ふむぅ・・どうしても闘うというのか・・。」
緑色の男は頭をかく
「当たり前だァッ!」
「URYYYYYY!!!!」
さっきの地震とは比べ物にならない大きさの地震が唸りを上げ、とてつもない量の砂埃が舞い、緑色の男が消えた。
更に10本以上の矢が飛んでくるというオマケ付き
「死ねェェェィッ!!!」
(ッ!!!)
鈍い音がした。
(よもや・・全部刺さったのか・・・?)
とてつもない量の砂嵐が過ぎ去ると
中から緑色の男が出てきた・・
矢は・・・
「い・・」
「一本も刺さっていないィッ!?」
アンシャス猫の顔が真っ青になり、腰を抜かす
なんと、さっき飛んできた10本の矢を、彼のスタンドが全て食い尽くしていたのだ。
(ば・・馬鹿な・・)
殺も呆然としてしまっている
「まだ、闘るか?」
緑色の男は腕をパキパキ鳴らす
アンシャス猫は全身が震えながらも声を絞り出した
「と・・」
「当然・・だッ・・」
緑色の男の口が歪み、不気味な笑みを作り、舌を出して上唇をなめた
「 食 べ ち ゃ う ぞ 」

147( (´∀` )  ):2004/02/08(日) 17:38
(・・・何が起こった?)
突然視界が赤く染まる。
そして目の前には首の無いアンシャス猫が二匹
そしてグチャグチャバキバキと音を鳴らし、何かを食べているスタンド。
『何が起こったか』を理解するのにそこまで時間はかからなかった。
「大丈夫か?お嬢ちゃん。」
緑色の男が手を差し伸べた。
「あ・・ああ。」
殺は立ち上がると間髪居れず聞いた
「貴様は・・一体?何故私を助けた?」
「言っただろう?人探しをしてここらへんを通ってたら、いたいけな少女を襲ってる不埒な奴をみかけたから助けただけだ。」
「・・・『人』とは誰だ?」
「ああ。そうだ。赤い毛むくじゃらでな。とてつもなくネーミングセンスが悪くて、『○○ですZO!』って感じの語尾のスタンド使いだ。」
最初の『赤い毛むくじゃら』で十分理解できた。
「・・・探して、どうする気だ?」
「・・・・殺す。」
一瞬『別に殺されてもいいかな』とか思ったが、『キャンパス』の情報をより多く握っているのは彼だけなのを思い出し、とどまった
「・・何故だ?」
「・・・・ソレは、いえない。どうしても『言え』というのなら。その自慢の重火器で戦ってみるかい?」
明るい顔で結構凄い事を言っている
「・・無茶を言うな。」
間違いなくコイツとたたかったら死ぬ。殺はそう考えていた。
「ハハッ。流石にあれだけ見せられちゃあ闘えないか。」
「・・・そうだ。あとは・・・名前は?」
「・・俺の個人情報については一切いえない。ドコで誰が聞いてるかわからないからな。」
さっきとは違う険しい顔になる。
「そう言われると逆に気なるな。」
「まぁ、いいだろ。それじゃまた、忙しいんでな。」
そういうと男は足早に去っていった。
「はぁ――・・・。しかし逆に眠くなってしまったな・・。とりあえず・・このガラスの破片を抜かなければな・・。」
殺はむりやり傷口に指を突っ込み血だらけのガラスの破片を抜き取った。
「・・とりあえずこんな死体の近くに居ると何か聞かれそうだな・・早々に戻ろう。」
ジブンも血だらけなのは全然気に留めていない
(しかし・・あの男・・かなりの力の持ち主だ・・仲間にすればかなりの戦力になろう・・。
だが・・問題なのは彼の『尋ね人』・・。間違いなくムックだ。だとしたら・・彼とはいずれ戦う事になる・・。
まぁ、いざとなればムックを置いて逃げればいい話か・・とりあえず、コレは話しておくべきだな・・。)
殺はそう思うとヨロヨロしながら署に向かった。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「ふぅ・・何とか誰の目にもつかず帰ってこれた・・」
でも廊下には血がしたたり落ちている。
(・・そうだ・・・敵も倒せなかったし何か釈然としないから驚かせてやろう・・。)
そう思うと殺は思いっきり扉を開けた
バギィッ!
「ゲボッ!?」
「ただい・・まっ?」
何か足に違和感を覚えた。
・・・人を踏んでいる
「誰だ?コイツ。」
「よっしゃでかした殺ちゃん!!」
「よくもあんな寒いギャグを延々と・・。」
そう。トムである。
この時間までずっと寒いギャグを突っ込まれ続けていたトムである。
「・・誰だこやつは?」
「話は後だッ!『ジェノサイア』!!」
「真・ムックキャノン零式改!!」


               ./| ̄ ̄ ̄|
                |  |      |
                |  888888 アア・・ライザ・・。  
     ______|_|8c-○ゝ○_______
   ,/| ⊂ヽ__    | ;∵Д(   _,, -'つ |
    |  |   ゙ー-- 二二 ̄\__)⌒二--'''´  |  
    |  |_______゙ヽ    /´ ____|
    |/________/|     i_______/
             |  | |   .i
             |  | /──┤  
                 リ タ イ ヤ
            トム―再起不能
          (※AAはイメージです)

           アンシャス猫――死亡
←To Be Continued

148( (´∀` )  ):2004/02/08(日) 17:41
登場人物

――――――――――巨耳派+α――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは謎。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。
来る。

149( (´∀` )  ):2004/02/08(日) 17:45
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはスタイル抜群の女性型で
 能力の詳細は不明。だがとてつもない重力を発生させる球体を作ることが出来る。

150新手のスタンド使い:2004/02/08(日) 22:19

合言葉はwell kill them!(仮)第七話―ソウルマリオネット

「あー!チョコクロ売り切れている!」

ベーカリーレストラン『三丸九』にヅーの絶叫が響く。
ヅーはこの店のパンを買いに来ていた。
お目当ての品はチョコレートクロワッサン(略してチョコクロ)この店の人気№1のパンだ。
もちろんヅーもこのチョコクロが気に入っている。
しかし人気№1故に、売り切れている事が多く買うのは至難の業だ。

「すいませーん。焼き上がるのにどの位かかりますか?」
「そうですね・・・・大体3〜40分ですかね。」
「・・・・しかたがないのだ、そこいらをぶらついて時間を潰そう。」

『この付近で変質者が出没しています。』
夕暮れ時の住宅地を歩いていたらこんな看板が目に飛び込んできた。
「へぇ〜、なになに・・・」
看板にはこんな事が書かれていた。

この付近で若い女性12人が刃物のような物で服を切られるといった事件がありました。
不審な人物を目撃した方は、ご連絡ください・・・・

「ふーん。私も気をつけなくちゃね。」
ヅーは別段気にも留める事無く歩き始めた。

だが、ヅーは気付いてなかった。
ヅーの事を見張っている一人の男の存在を。
「クックック・・・・今日のターゲットはアイツで決まりだな・・・。」
そう言うと男の体から刃物を持った腕が飛び出し、近くの影を切った。
すると切られた影がみるみる形をかえ、人の形になった。

「行ってこい影人形。あの女の服を切り刻め。」
男の言う影人形はコクリと頷くと、ヅーの後をつけ始めた。

151アヒャ作者:2004/02/08(日) 22:20

そのころヅーは公園のベンチに座って缶コーヒーを飲んでいた。
「あと15分くらいか・・・・。そろそろお店に行こう。」
腕時計を見ながらヅーがそう呟いたときだった。

ザシュッ!

何かが高速で横切った。
と、同時に服の裾の部分がスリットのようにパックリと裂けた。

「きゃっ!な、何?」
ヅーが顔をあげると、そこに一人の男がいる。
全身黒一色で、生物ともプラスチックともつかない質感、手にナイフを持っていた。

「ケッケッケ・・・ミツケタゼ───ッ!!」
そう叫ぶと黒い男は襲い掛かってきた。

「新手のスタンド!?クッ・・・・『レベッカ』!」
「OKマスター!」
ヅーの体からスタンドが出る。

スタンドは背中に背負っていたバズーカを構えた。
そして男の顔面に銃身を押し当ててぶっ放した!

バゴオオン!!

爆発音が響き、男は頭を吹き飛ばされた。
「ちょ、ちょっとやりすぎなんじゃない?」
「何言っているの、殺らなきゃこっちが殺られていたんだよ。」

頭を吹き飛ばされた男は煙を出しながら消えた。

「あーらら、この分だと本体も死んだな・・・・。けれどいったいどうしてマスターを襲ったんだろう?」
すると背後から声が聞こえた。
「へぇ〜、やるじゃねーか、影人形を倒すなんて。お前もスタンド使いだったんだ。」

そこにいたのは先ほどヅーを監視していた男だった。
そして男の傍らには先ほど倒したはずの黒い男が二人いた。

「な、あんたが本体か!スタンドは倒したはずなのに何で無傷なんだ!?」
「さっきお前が倒したのは俺のスタンドが作った影人形さ!俺の能力は影を切り取って影人形を作り出す事!
 しかも影さえあれば人形はいくらでも作成可能なのさ!」

男の話を聞いているうちに影人形が襲い掛かってきた。
「くそっ!何の恨みかは知らねーが、マスターには指一本触れさせねぇ!」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

152ブック:2004/02/09(月) 01:44
      救い無き世界
      第十八話・流動


 俺は腕に今川焼きの入った袋を抱えてギコえもんの部屋のドアの前を
 行ったり来たりしていた。

 どうやら、俺があの変なスライム状のスタンドにやられて
 連れ去られそうになったのをギコえもんが助けてくれたとの事らしい。
 それで、先程ふさしぃにそのお礼を言ってきなさいと、
 無理矢理ギコえもんの好物の今川焼きを渡されて、ここまで引きずってこられたのだ。

 ちらりと後ろを振り返る。
 ふさしぃが曲がり角の影から監視の目を光らせている。

 俺もギコえもんが助けてくれた事には感謝しているし、
 お礼を言いたいという気持ちもある。
 何よりもしここでばっくれたらふさしぃに殺されるだろう。

 だが、それでもやはり初対面があんな最悪なものでは足も鈍るというものだ。
 理由は分からないが、ギコえもんはでぃである俺を憎んでいる。
 それなのに、いちいち俺が彼の部屋までお礼を言いに来ては、
 逆効果なのではないだろうか。

 しかしふさしぃからの視線は時間が経つにつれ殺気が増していき、
 後退という選択肢は絶無な事を否応無く認識させられた。

(……しかたない。)
 俺は覚悟を決めて、ギコえもんのいる部屋のドアをノックした。



「…お前か。何の用だゴルァ。」
 ギコえもんが鬱陶しそうな目で俺を見た。
『この前のお礼を言おうと思って…これ、つまらない物ですが。』
 俺はホワイトボードにそう書いて、今川焼きの袋をギコえもんに差し出した。

「つまらないと自分で思う様な物を、お前は感謝の印に人に渡すのか?」
 今川焼きを受け取り、ギコえもんが突っかかる様な口調で皮肉を言う。

 言わんこっちゃ無い。
 だから、ギコえもんにお礼を言うのは嫌だったのだ。

 しばらくの間、嫌な沈黙が続く。
 俺は胃に穴が開きそうになった。

『あの、本当にありがとうございました。』
 それでも俺を助けてくれたのには変わりはないから、
 癪ではあるが謝礼の言葉を書き、ギコえもんに向かって深く頭を下げた。

「別に礼なんかいらねぇよゴルァ。
 俺はただ自分の職務をまっとうしただけだ。」
 ギコえもんはそうつっけんどんに答えた。

 まあそりゃそうだろう。
 仕事でもなけりゃ、あんなに嫌っていた俺を助ける訳が無い。

「言いたい事はそれだけか?ならさっさと帰れ、ゴルァ。」
 ギコえもんはそう言うと、俺を追い払うようにしっしと手を振った。
 俺はそれを見て、何も言わずに振り返り、ドアノブを回してドアを開ける。
 あんたの望み通りさっさと出て行ってやるよ。
 こっちもこんな所に長居はしたくない。

153ブック:2004/02/09(月) 01:44

「…待て。」
 不意に後ろからギコえもんに声をかけられた。
 俺は訝しがりながら振り返る。

「…最初会った時、酷い事を言って悪かった。
 勝手とは思うが、今回お前を助けた事でその事はチャラにして
 水に流してくれ、ゴルァ。」

(!?)
 俺は自分の耳を疑った。
 あのギコえもんが、俺に対して素直に謝っている?

 俺はギコえもんに頷く事でそれに答えると、
 訳の分からない気持ちでいっぱいになって逃げるようにその部屋から飛び出した。


「偉いわよ、でぃ君。」
 部屋の外では、ふさしぃが待ち構えていた。

『別に、俺は何も…』
 俺は何故だか妙に恥ずかしくなってしまっていた。

 糞、何だってんだ。
 子供か、俺は。

「照れない照れない。
 そうだ、良く出来たご褒美にお姉さんが何か美味しいもの食べに
 連れて行ってあげましょうか?」
 ふさしぃが俺をからかう様な事を言い、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 もうお姉さんって歳でもないだろうがあんたは、と思ったが、
 それを伝えた瞬間俺の人生はそこで終わるのは明白なので止めておく。

『…ふさしぃさん、一つ聞いていいですか。』
 俺はホワイトボードにそう書いて尋ねた。
「あら、何かしら?」
 ふさしぃが聞き返す。

『…あのスタンドは、明らかに俺を狙って来た。
 ふさしぃさん、俺が誰に何故狙われているのか知っていますか。』
「……!!」
 ふさしぃの顔からさっきまでの柔らかな表情が消える。
 それは俺の質問の答えを彼女が知っている事を物語っていた。

『ふさしぃさん、どうか教えて下さい。』
 俺はふさしぃに問い詰めた。
「…それは……」
 ふさしぃが口籠る。
 しかし彼女には絶対に答えて貰わねば。
 訳の分からないまま何かに巻き込まれるなんて、真っ平御面だ。


「…ふさしぃ、もう彼に隠す事は出来なぃょぅ。」
 ぃょぅが、いつの間にか俺達の傍に来ていた。

「ぃょぅ…」
 ふさしぃがぃょぅを見つめる。

「…成り行きとはいえ、ここまで関わってしまった以上
 でぃ君も我々の敵について知っておくべきだょぅ。」
 ぃょぅが俺に歩み寄ってくる。
「でぃ君、ついて来るょぅ。
 君が知りたいことに、答えてあげるょぅ。」
 ぃょぅが俺を正面から見据え、そう告げた。

154ブック:2004/02/09(月) 01:45



 SSSスタンド犯罪制圧特務係A班というプラカードのつけられた部屋に
 俺は案内され、そこで『大日本ブレイク党』について聞かされた。
 隣に座っているみぃが、心配そうな目で俺を見る。

「…みぃ君にまで教えてしまって宜しいのですか?」
 タカラギコがふさしぃに尋ねた。
「ええ…彼女もでぃ君や我々と無関係というわけではないですからね。」
 ふさしぃがタカラギコにそう答える。
「ま、それもそうですか。」
 タカラギコが顎をさすりながら言った。

『それで今の所、奴らが俺を狙う理由はおろか、
 奴らの具体的な活動目的や居場所も分からないのですね。』
 俺はホワイトボードにペンを走らせた。

「…残念だけどそういう事になるモナ。」
 小耳モナーが悔しそうに俯く。
 ギコえもんや、他の人達も一様に苦虫を噛み潰したような表情になる。

「タカラギコ、ニダーからは何も聞けなかったんだったかゴルァ。」
 ギコえもんがタカラギコに向いて喋った。
「済みません…何分予想以上の能力だったもので、倒すので精一杯でした…」
 タカラギコが申し訳なさそうに謝る。
「謝る事は無ぃょぅ。君で無理なら、他の人でも無理だったって事だょぅ。」
 ぃょぅがタカラギコを励ますように言った。

『それで…俺はどうなるんです?』
 俺は恐る恐るそう尋ねた。

「…恐らく、君には監視がつけられて、生活が多少制限される事になると思うょぅ。」
 ぃょぅが深刻そうな表情で言った。

「それか、『大日本ブレイク党』という魚を釣る為の疑似餌として利用される、
 という事も十分考えられますね。」
 タカラギコがおどけた感じで言った。
 みぃがはっと俺の方を向く。

「タカラギコ!!」
 ふさしぃがタカラギコの発言を叱責した。
「…失礼。」
 タカラギコが軽く頭を下げる。
 しかし、実際にはタカラギコが言った事が正しいだろう。
 最悪の場合の覚悟はしておくに越した事は無さそうだ。

「でぃ君、例え何があったとしても、絶対に君に危害を加えるような事はしなぃょぅ。
 それだけは、信じて欲しぃょぅ。」
 ぃょぅが俺の目を真っ直ぐに見つめて誓うようにそう告げる。

 …実際、今まで聞かされた話を頭から信じている訳じゃない。
 隠している事や、嘘を吐いている事だってあるだろう。
 だが、だけど、その言葉だけは何故か信じれた。
 信じてみようと思った。

155ブック:2004/02/09(月) 01:46



     ・     ・     ・



「さあ、安心なさい。ただ救いを望み、私に全てを委ねるのです…」
 『矢の男』は跪きひたすらに祈る壮年の女性にそう優しく告げた。
 そして『矢の男』の傍に彼のスタンドが姿を現し、
 その腕を女性の胸部へと差し込むと、
 そこから淡く光るエーテルのようなものを取り出した。
 それはおそらく、一般的に『心』や『魂』と定義されるものであろう。

 女性の体が崩れ落ちる。
 『矢の男』のスタンドの腕を差し込まれた筈の胸には傷一つ無いのだが、
 彼女の目にはすでに命の輝きは無い。

「魂の器、『エグゼドエグゼス』を用意して頂けませんか?」
 『矢の男』がそう告げると。
 傍にいた何人かの従者の一人が車椅子に乗せられた男を『矢の男』の傍へと連れて来た。

「キャンディー、キャンディー。」
 もうすでに成人はしているはずであろう風貌の、車椅子に乗ったその男は、
 まるで駄々っ子のように手足をばたつかせた。
 従者が黙って車椅子の男にキャンディーを一つ渡す。
「えへへへ、キャンディー、キャンディー。」
 飴玉を頬張り、車椅子に乗った男が嬉しそうに笑うと、
 彼のスタンドがその場に出現した。
 そして彼のスタンドが何も無い空間に両手を差し込んだかと思うと、
 空間を引き裂くように押し広げた。
 そこに生まれた空間の中には、先程女性から引きずり出したエーテル体が
 溢れ出んばかりに収納されている。

「さあ、あなたも彼らと一つになりなさい。」
 『矢の男』そう呟くと女性から取り出したエーテルのようなものを、
 その空間の中へと放り込んだ。
 そして、その中の大きなエーテル体と溶け合わさり融合し、吸収される。

 キャンディーを舐め終えた車椅子の男が、スタンドをしまい、開いた空間を閉じた。
「…ずいぶんと沢山集めたもんだな。そのマメさ加減にゃあきれるぜ。」
 従者の一人、虎のような縞をしたギコが『矢の男』に言った。

「無礼者!何という口の利き方だ!!」
「トラギコ、お前は自分の身の程を弁えているのか!?」
「新参者が、調子に乗るな!!」
 他の従者が口々にトラギコに非難の言葉を浴びせる。
「そんなに集めて、何しようってんだよ。」
 しかしトラギコはそんなものは意に介さないといった感じで『矢の男』に尋ねる。

「トラギコ、貴様ぁ!!」
 従者の一人がスタンドを発動させた。
 目を血走らせ、今にも襲い掛からんとばかりにトラギコを睨み付ける。

「お、やるってのか?
 だが俺の『オウガバトル』に簡単に勝てると思うなよ。」
 トラギコもそれに呼応するようにスタンドを発動させる。

「止めなさい。」
 『矢の男』の言葉が二人を制した。

「ですが…」
 従者が不服そうに『矢の男』を見た。

「構いませんよ。下がりなさい。」
 『矢の男』の言葉に、従者の一人はトラギコを恨めしそうな目で見つめながらも
 抜き身にしていた殺気を鞘に収めた。

156ブック:2004/02/09(月) 01:46

「さて…トラギコ。私が何をしたいのか、君にはまだ教えていませんでしたね。」
 『矢の男』がトラギコに語りかけた。
「君は、『神』とは何だと思いますか?」
 『矢の男』がトラギコにそう問うた。
「ああ?何だ、藪から棒に。」
 トラギコは突然の質問に面食らった様子だった。

「…世界を創った奴か?」
 トラギコはしばし考え込んだ後、そう答えた。

「正解。しかし百点ではない。」
 『矢の男』がトラギコに言った。
「そもそもこの問いには複数の回答があります。
 例えば君の言う『世界の創造者』。
 他にも『全知全能の存在』『超越者』『高次元存在』『世界を統べる者』
 『絶対者』『運命を司る者』『宗教の偶像』『チェーンソーでバラバラになる者』
 どれもが正解であり、同時に答えとするには不確実過ぎる。
 まあ当然ですね。
 人の数だけ、宗教の数だけ『神』の概念が存在するのですから。」
 『矢の男』が微笑みながら解説する。

「…それがお前の目的と何の関係があるってんだ?」
 トラギコがちんぷんかんぷんといった感じで『矢の男』に聞いた。

「まあ、最後まで聞きなさい。
 今言ったように、『神』とは様々な側面を持っている。
 その側面の一つに、『人が救いを求めて縋りつく者』というものがある。」
 『矢の男』がふと遠くを見つめるような目をした。
「私はその概念をもって、私のスタンドと『矢』で、
 神を光臨させたいのですよ。」
 『矢の男』がトラギコの目を覗き込みながら言った。
 その目の中にトラギコは得体の知れない何かを感じ取った。

「…せっかくの御高説だが、悪いがどうでもいいや。
 あんたの言葉どうりなら、
 俺にとってはこれが『救い』であり『神』だあな。」
 トラギコはそう言って懐から紙幣を取り出し、『矢の男』に見せた。

「成る程…それも一つの解釈ですね。」
 『矢の男』は愉快そうに笑った。

「…そうだ、『大日本ブレイク党』がでぃの件をしくじったようだが、いいのか?」
 トラギコが『矢の男』に言った。
「ああ、構いませんよ。
 前も言ったように、大して重要な事じゃないですから。
 ま、放っておきなさい。」
 『矢の男』はそうは言ったが、心の何処かで何か引っかかるものを感じていた。
 が、すぐに杞憂として深く考えるのを止めた。

「そうかい…それじゃあ、俺は帰るぜ。」
 トラギコは振り返るとその場を後にした。

157ブック:2004/02/09(月) 01:47


「…あやつといい、もう一人の男といい、
 新参者に甘すぎるのではありませんか?」
 先程トラギコと一触即発となった従者が不機嫌そうに『矢の男』に苦言した。

「おや、やきもちですか?」
 『矢の男』が冗談めかして言う。
「何を馬鹿な事を、私はただ…」
 従者がそこで言うの止める。
 口にこそ出さねど、他の従者も皆同じ気持ちであった。

「いいではないですか。
 彼も、もう一人も、中々に愛嬌があって。」
 『矢の男』は従者達をなだめるように言った。

「もうすぐ永きに亘って望んできた悲願が達成される。
 その前に、少しぐらい余興というものを楽しもうじゃないですか。」
 『矢の男』はそう言って小さく含み笑いをするのであった。



     ・     ・     ・



「アソパソマソとうるせー馬鹿も散ったか。」
 1総統が椅子の背に体重を預けながら梅おにぎりに語りかけた。
「も、申し訳ありません。この上はやはり私が…」
 梅おにぎりは恐縮するあまり声が上ずっていた。

「いや、いいよ。
 これ以上スポンサーの茶番めいた要求に付き合う事も無い。
 私達の目的以外の事で人材を消費したくはないからね。
 スポンサー様にはまあ申し訳が立つ位に適当にこなしておけ。」
 1総統が梅おにぎりを叱咤するでもなく言った。

「そんな事より、君の所で開発している『例のもの』は、
 どこまで進行しているんだい?」
 1総統が梅おにぎりに問いかけた。
「はっ、現在既にほぼ完成しております。
 後は実戦テストと、量産手法の確立といった所が最後の課題となっています。」
 梅おにぎりがすぐさま1総統にそう告げた。

「そうか。ならば、早く性能がどれ程のものか試そうじゃないか。」
 1総統が歪んだ笑みを浮かべる。
「くっくっく、ついに出来たか。
 それについては、資金提供を行ってくれたスポンサー様に感謝をせねばな。」
 1総統が体を震わせながら笑う。

「さて如何程のものか。
 『あれ』らの実力はどれ程のものか。
 赤子に子供に青年に成年に中年に老人に男に女にそしてスタンド使いに
 『あれ』らはどこまでやれるのか、とくと拝見しようではないか。」
 1総統の顔は、狂気と狂喜で満ち満ちていた。

「そしてとくと御覧戴こう、SSS。」
 1総統の目は、もはや闇しか写し出していなかった。



     TO BE CONTINUED…

1583−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:47
スロウテンポ・ウォー

影色の輪舞曲(ロンド)・4

フェンスの上に立ち、あっそーを見下ろす8フーン。
ビルの陰から、ジッと監視を続けるあっそー。
いわゆる硬直状態である。

「…見せてくれるのでは…なかったのかね?」
あっそーのスタンド像…ナマズが壁の中を跳ねる。
「……見せているさ。」
8フーンの周囲を旋回する、二人の子供…青白く、半透明だ。

「…二つのヴィジョンか。ふむ…君たち自警団は変り種が多いようだ。」
「……確かに、な。俺もそうだし、メキシコから帰って来ないあのヴォケも変わってるな。」
「…メキシコの友人とやらもスタンド使いか…興味深いな。…自警の一員か?」
「………誰があんな奴。邪魔くさいだけだ。友人だと?ふざけるな。」
8フーンの表情が僅かにゴキブリを見るような表情になった。生理的嫌悪である。
「…まぁ、いい。まぁ、いいんだよ八頭身フーン。自警団のエース。…君はここで死ぬ。」
「……お断りだ。」
壁の中に、サム・ハード・リアクションが深く潜行する…

「サム・ハード・リアクションっ!!奴をそこから落とせ!!」
「…先に動いてくれて」
攻撃に集中したあっそーには、8フーンの言葉が聞こえる事はない。
フェンスの上、8フーンの脚の下が激しい振動に襲われる直前!

「むんっ…!!」
飛んだ。八頭身特有の跳躍力を生かし、高く高く飛んだ。
太陽を背にして、その影があっそーを覆い隠したその瞬間。

まさに刹那。

「ファイア・イン・ザ・ダーク!!焼き尽くせ!!!」

二つのヴィジョンが、影の上を疾走しだす!!
縦横無尽、重力無視、音速とまでは行かずとも、常人がとても追いつける速度ではない…!!

1593−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:47
「な、なんだっ……!?」
自分には向かってこず、影の上だけを走り回るヴィジョンに警戒と狼狽を隠せないあっそー。
何故だ?何故自分を直接、攻撃しないのだ?
「(ファイア・イン・ザ・ダーク……まさか)」
「当たりだ、あっそー。そいつらが触れた影は……」

ゴオオオオオ……

「ぐおおおおっ!!!(足が…燃える…火がついているだと…!?)」

「影は…炎に変わり、焼き尽くす。」

影から吹き上がる黒い炎。影そのものが、炎と化し…あっそーの足元を被い尽くした。

「ぐあああ……き、貴様…っ…!最初から、これを……狙っていたのか…!?」
「ああ。ここは雑ビルに取り囲まれた場所…そしてあの路地には、この時間帯…西日が差し込む。」
「ぐううう……!!」
「俺はタッパがあるんでな…一回飛べば、お前に直接近寄るまではいかなくとも……」
「ぐああああああっ!!!」
「…影は届く。それだけだ。」
二人の子供型ヴィジョンは、8フーンの足元からあっそーを見つめている。
炎を操る…いや、炎を生み出す能力を持っているとは思えない位、冷たい視線で。

「……さむ……」
「寒い?気でも狂ったか。」
「…サム・ハード……リアクション……!!屋上を砕けっっ!!!」

ゴゴゴゴゴオ……ドンッ!!

「なっ…!?」
「こ…の…雑居ビル…は……老朽化が…進ん…でいる…らしい」
上から響く、大きな振動音…
「…私の…サム・ハード…リアクションの…ぐああ……衝撃に…耐えられ…るか…?この…ビルは!!」
答えは…“耐え切れない”

1603−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:48
ドオオン!!!

屋上のコンクリートが、砕けて8フーンの頭上を襲う!!

「終わりだ…貴様は、ここで……死ぬ…俺も……死ぬが……なぁ……?」
「くっ…!!ファイア・イン・ザ・ダーク…!!俺の影を、炎にして…吹き飛ばせ!!!」

ゴオオオオオン!!!

またしても、刹那。8フーンの影に飛び込んだファイア・イン・ザ・ダークが、黒い炎を巻き上げた。
そして、一瞬でコンクリートの塊を消し炭に化した。

「……戻れ。もういい。お疲れさん……」
その言葉を合図に、ファイア・イン・ザ・ダークは消える…
裏路地を被い尽くしていた、黒い炎もまた消えた。

「……なんという、威力…だ…」
「威力とスピードしか、勝てるところがねえからな。…スタンドと鋏は使いようだ」
「……ふっ…参った…な…。…クソ、迎えが来たか……」
あっそーの視線の先を、8フーンが追う。

ブオオオオオオオオ………

あの音には覚えがある。
不愉快な羽音。こちらを凝視する眼。気色悪い大トンボ。
……ZEROを始末するスタンド。

「……離れろ。汚れたくなければな。」
すでにトンボはあっそーへの突撃を開始していた。
8フーンはすぐさま、その場を離れる。マッド・ブラストの丸耳モララーが爆ぜたのを見ていたからだ。

…彼がスラムを通り抜けた瞬間、あっそーが居た場所から…遠く爆発音が響いていた。
この事件は、ガス爆発による火災…そして、それにまきこまれたあっそーが死亡という扱いになるのは、明日の話。

八頭身フーン>>顔面挫傷、手首の捻挫を負うも勝利。再起可能。
あっそー>>ファイア・イン・ザ・ダークの攻撃を受け、その後トンボ型スタンドの手に掛かり死亡。再起不能。

1613−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:48
<事件の翌日・ZERO本拠地・午後11時23分>

「一端解除…あっそーを対象より除外…再び作動。見張れ、W・S・D・S……」
ラックトップ型パソコンを操作し、独り言を呟くコロッソの姿があった。
この広いマンションの部屋には、彼以外誰も居ない。
ただ、開け放たれた窓から次々に飛び立っていくトンボだけが彼の姿を知っていた。

「…やれやれ。自警のエース格に挑むとは……」
「…若さゆえの過ちは誰にでもあるのではないかな?」
突然、声がした。玄関だ。
「……少佐…任務はまだ途中の筈ではなかったか?」
ドイツの軍服を着た、小太りの男が椅子に座っていた。
音も無ければ、気配も無く…だ。
「…シィクの命令だ。当分待機だそうだよ。」
「まぁ、当然だろう。駅前で大演説なんかされても困る。」

「…クック…コロッソ、私は戦争が好きなんだよ。そして、彼女は私を理解してくれている。」
「私が、いや…我々がスタンドと言う兵器を持って戦う戦争。私は楽しくて仕方なくてね…」
「それが余り余って…あの演説か。だが、駅前で“諸君、私は〜”…は目立ちすぎだ」
「…その為に、君が居るんだろう。コロッソ。ウォール・ストリート・ダウン・サイザーで、監視するために…」

二人の間に沈黙が流れる…

「く……くく……!」
「くははは…はっはははは……!!」

笑う二人。

1623−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:49
「くははは!!君はマフィアより戦争に向いているよ!コロッソ!!役立たずな味方を殺すダウンサイザー!!最高だ!!」
「ハハ…少佐は戦争が大好きだな。そんなに殺し、殺されるのが楽しいか?」
「ああ、楽しいね。さて、君の仕事もそれまでにしよう。素晴らしいワインが手に入った。血のように、赤いワインだ
さぁ、二人で飲み明かし、祝福しよう!!この戦争の為に!次の戦争の為に!!次の次の戦争の為に!!」
笑いながら、叫びながら、グラスに赤ワインを注ぐ少佐。
「少佐……あんた、イカレてるな…くっく……」
「お互い様だろう?…さあ 乾盃をしよう。宴は遂に、今宵・此の時より開かれたのだ!!」

少佐は大きくグラスを掲げ、コロッソは小さくグラスを傾け…

「「乾杯!!」」

<TO BE CONTINUED>

スタンド名:ファイア・イン・ザ・ダーク
本体名:八頭身フーン

破壊力:A スピード:B 射程距離:A〜E(影の大きさに比例)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C

二人の子供のヴィジョンを持つスタンド。
スタンドは影の上に限り、走り回ることができる。
そして走った部分の影は炎になる。
一点集中で破壊力の高い炎を生み出す事も出来るが
だが、実際には無差別に影を炎にする戦略を取る事が多い。

1633−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/09(月) 03:53
<おまけ>

「ところで、少佐」
「何かな?」
「赤い少佐の台詞をさりげなくパクってなかったか?」
「………。」
「答えろ少佐。」
「乾杯!乾杯!!」
「誤魔化すな。」

164:2004/02/10(火) 00:30

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その3」



          @          @          @



 部屋の中央に置かれた棺桶のような箱の中に、屈強な男が寝かされていた。
 その筋肉は、明らかに鍛え上げられたものだ。
 箱の中には蒼い液体が満たされていて、男の全身はそれに浸かっている。
 男の全身は蒼白であった。
 その眼は固く閉じられていて、息があるようには見えない。
 そう、それは紛れもなく死体であった。

 全身の様々な部位に、チューブが繋がれている。
 そのチューブは、周囲の機械類に繋がっていた。
 チューブの中には、濃い赤色の液体が流れている。
 その脇には、立派な礼服を着込んだ金髪の若い男が立っていた。
 彼は、ゆっくりと箱の中の死体を覗き込んだ。

「よろしいですか、枢機卿…?」
 機械に向かって座っている白衣の技師が、礼服の男に声をかけた。
「うむ。では、蘇生及び吸血鬼化処理を開始したまえ」
 枢機卿は言った。
 と言っても、重要な処理はほとんど終わっている。
 後は仕上げだけだ。
「はっ」
 技師が、機械のスィッチを押した。
 その後、計器を見ながらパネルを操作する。
 寝かされている男の身体が大きく打ち震えた。
「…よし! 心音が戻りました!」
 技師は枢機卿に告げた。

 箱の中に寝かされていた男は、ゆっくりと身体を起こした。
 そして、不思議そうに周囲を見回す。
 枢機卿は、その姿を満足そうに見ながら言った。
「have gratia plena. Dominus tecum!(おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる)
 蘇生に成功したのは君で二人目だ。気分はどうかな? 張文遠… いや、山田殿?」

「ここは…?」
 山田と呼ばれた男は訊ねた。
 それに答えて、枢機卿は口を開く。
「…『教会』。我らは、異端である吸血鬼を殲滅する、神罰の地上代行者だ」

「その『教会』が、私に何用だ?」
 山田は枢機卿を見据えながら言った。
「我々は、世界各地から君のような強力なスタンド使いの亡骸を集めてきた。
 その理由というのも… 君に吸血鬼の一個師団を率いて貰いたいのだよ」
 枢機卿は微笑みながら言った。
「我が『教会』にも、代行者をはじめスタンド使いは多いが… 兵を率いた者となると皆無に近い。
 まあ、この平和な世では当然だがな…」

「つまり、私に『教会』に仕えよと?」
 山田は枢機卿を睨む。
「そう受け取って貰って構わない」
 枢機卿は頷いて言った。
 山田はしばしの沈黙の後、口を開いた。
「…私は最強の武に仕える。私の仕えるべき武は、すでにこの世にないと見なしてもよい」

「…なるほど」
 枢機卿は視線を上げた。
 山田の目を真っ直ぐに見つめる。
「だが、君を蘇生した恩に報いる気もないのかね?」
「…」
 再び考え込む山田。
 そして、納得したように顔を上げた。
「了解した。しばし、あなた方の許で働こう。 …だが、この身の不便さはどうにもならぬものか?」
「吸血鬼の肉体の事かね? それは、蘇生の副作用とでも思ってもらいたい。
 なにせ、『教会』が吸血鬼化の技術を研究し始めたのはつい最近なのだ」
 枢機卿は眉に皺を寄せて言った。

「ふむ… 肉体の強さは増したところで、この身体では至らぬ事が多すぎるな…」
 山田は両掌を閉じたり開いたりしながら、その動きを凝視する。
 それを見て、枢機卿は言った。
「血ならば、輸血用のメディカル・ブラッドを支給しよう。太陽の下に出れないのは、我慢したまえ」

165:2004/02/10(火) 00:31

「ところで、彼は…?」
 山田は、部屋の脇に立っている場違いな男に目を向けた。
 枢機卿は豪華な礼服で、他の職員は技術者風の白衣を着込んでいる。
 そんな中で、彼はジャングル・ファティーグと呼ばれる熱帯戦闘用の迷彩服を着用していた。
 枢機卿は彼の方を横目で見た後、山田に視線を戻して言った。
「彼はハートマン軍曹。元海兵隊員だ。
 蘇生に成功したスタンド使いの一人目で、君の同僚のようなものだな。
 彼にも一個師団を率いてもらう。仲良くしたまえ」

「『仲良くしたまえ』…か! ハッ! まるで、幼稚園だな…」
 ハートマン軍曹と呼ばれた男は笑いながら言った。
「ガナリーサージェントのハートマンだ。どうやら俺達は、極東のウジ虫共を平らにするのが任務のようだな」
 自らの名を名乗ったハートマン軍曹は、山田に話しかけてきた。
 そして、その顔を覗き込む。

「フン! 貴様、いい人殺しのツラだ… 戦場でオッ勃ててたか?」
 ハートマン軍曹は吐き捨てるように言った。
「その愚弄、聞くに耐えんな…」
 山田はハートマン軍曹を睨みつける。
「耐えれんのなら部屋を出て行くがいい、ケツの汚れたシナ野郎が!」
 ハートマン軍曹はそう言って嘲笑した。

「二人とも、その辺にしておくがいい。内輪揉めは私が許さん」
 枢機卿は礼服から二挺の銃を抜くと、両手に持って二人に向けた。
 ハートマン軍曹はおどけたように両手を上げて、後ろに下がる。
「確かに、挨拶が過ぎたようだ。すまんな、ラーメン野郎」
「それは… 謝罪のつもりか?」
 ハートマン軍曹に呆れたような視線を視線を送る山田。
 そして、ハートマン軍曹は枢機卿の方を向いて口を開いた。
「銃を携帯しているとは、大した聖職者サマだ。今度の布教先はベトナムか?」

 それを聞いて、笑みを浮かべる枢機卿。
「吸血鬼殲滅機関の長をやっている以上、このくらいの武装は当然だよ…」
 彼は銃を手許で軽く回転させると、それを礼服に収めた。
「まあ、とんだ顔合わせとなってしまったが…
 君達と同じ現場指揮クラスのスタンド使いは、あと数人増える予定だ。
 あと7体の死体があるのだが、どれだけ蘇生が成功するかは分からんからな」
 そう言って、枢機卿は椅子から立ち上がった。

 その枢機卿の姿を、山田は睨みつける。
「ところで… 貴殿は何者だ? 吸血鬼を殲滅するという『教会』が、何ゆえ吸血鬼を造り出す真似をする?」
「私かね…? 私はただの枢機卿だよ。教皇庁内の『教会』という機関をまとめあげる役職に過ぎない」
 枢機卿は笑みを浮かべて言った。

 その顔を不審そうに見つめる山田。
「貴殿達の教義に照らせば、死人が生き返る事は大いなる禁忌のはず。
 それが蘇生技術などに手をつけた矛盾、納得いかぬな」
「Dies irae, dies illa, solvet saeclum in favilla, teste David cum Sibylla…」
 枢機卿は抑揚もなくそう口走った。

 その横顔を、今度はハートマン軍曹が睨みつける。
「じゃあ、今度は俺から質問だ。貴様、ゲルマン系だな?
 貴様の持って回った言い回しは、典型的なジャガイモ野郎のものだ」
「確かに、私は純潔のアーリア人だが… それが何か?」
 枢機卿はこともなく言った。
 それを、ハートマンは鼻で笑う。
「貴様からはナチの匂いがするんだよ。薄汚ない腐れ鷲の匂いだ。
 それに、さっきの貴様の銃。P-08なんて骨董品を後生大事に使ってるのは、ナチ野郎くらいだ。
 ユダ豚から命からがら逃げ延びたのか?」

166:2004/02/10(火) 00:33

 枢機卿はため息をつく。
 そして、ハートマンと山田の二人に視線を送った。
「ハートマン軍曹も山田殿も、戦争を体験したことがあるな?
 実は、私もあるのだよ。人類史上で究極といえる虐殺戦争にな…」

「貴様、年は幾つだ…?」
 ハートマン軍曹は訊ねる。
「私は1904年生まれだから… 今年でちょうど100歳になるかな」
 少し考えてから、枢機卿は言った。
「なるほど、貴様も既に吸血鬼か…」
 納得したように呟くハートマン軍曹。

 枢機卿は、腕を組んで天井を眺めた。
 まるで、当時の情景を見ているかのように。
「陳腐な表現だが… あの戦いはまさに地獄と言えるだろう。
 『スターリングラードはもはや街ではない。日中は火と煙がもうもうと立ち込め、一寸先も見えない。
  炎に照らし出された巨大な盧のようだ。
  それは焼けつくように熱く、殺伐として耐えられないので、
  犬でさえヴォルガ河へ飛び込み、必死で対岸にたどり着こうとした。
  動物はこの地獄から逃げ出す。どんなに硬い意思でも、いつまでも我慢していられない。
  人間だけが耐えるのだ。神よ、なぜ我等を見捨てたもうたのか』
 生き残った兵は、こう手記に記した。
 あの戦いに参加したドイツ軍30万人中、帰還できたのは僅か5千人に過ぎない…」

「貴様… あの、スターリングラード攻防戦に参加していたのか…!」
 ハートマン軍曹は驚きの声を上げた。

 枢機卿は、礼服のボタンを外し始めた。そして、襟元に手をやる。
「そう、ハートマン軍曹の読みは正解だ。私は国家社会主義ドイツ労働者党党員…!!」
 枢機卿は、その身を包んでいた礼服を脱ぎ捨てた。
 投げられた礼服が宙を舞って、ひらひらと落下する。
 そこから露わになる黒の軍服。
 礼服の下に、枢機卿は黒い制服を着込んでいたのだ。

 漆黒の軍服に、漆黒のシルムミュッツェ(制帽)。
 制帽に刺繍された、鷲章とプロイセンタイプの髑髏。
 赤字に白の円、そして黒のハーケンクロイツが刻まれた腕章。

「Sieg Heil…!」
 おもむろに、ナチ式敬礼『ドイッチャーグルス』の姿勢を取る枢機卿。
 ハートマン軍曹と山田の両者とも呆気に取られた。
 その服の裾が、謎の風によってそよいでいる。

「見ての通りだ。私はかって、髑髏の結社… 武装SSだった。『金髪の野獣』との異名を取った事もある」
 枢機卿は、口の端に笑みを浮かべながら言った。
「貴殿… いつも、服の下にそれを着込んでおられるのか?」
 山田は遠慮がちに訊ねる。
「『髑髏になっても忠誠を誓う』… この髑髏の刺繍には、そういう意味があるのだよ」
 枢機卿は誇らしげに答えた。

「貴様… 本当に神父か?
 ミサの時も、結婚式の時も、葬儀の時も、寝てる時も、メシを喰う時も、クソをする時も、
 いかなる時もその制服を下に着てるのか?」
 ハートマンはため息をついた。
「狂人の行き着いた末だな。タフ気取りとアホ勇者用の8週制学院に叩き込んでも、こうはならん。
 …だが、気に入ったぞ。ナチのアホ野郎!」
 そう言って、枢機卿の肩を親しげに叩いた。

「ご理解、嬉しい限りだ」
 枢機卿は笑みを浮かべる。
「さて… これから行うのは、焦土作戦だ。
 極東のかの国に関して問題となるのは、その数の多さだけである。
 この大群衆を要するに踏みつぶし、刺し殺し、殺戮すればよい。
 ひとまず非常に野蛮な例えを用いれば、彼らは豚のようなものである。
 刺し殺して血をゆっくり全部抜かなければならない」

「フン! ジュネーブ条約は度外視か?」
 ハートマン軍曹は、狂気の色をその目に浮かべる枢機卿に言った。
 それを聞いて、軽く鼻を鳴らす枢機卿。
「…これは絶滅戦争だ。軍事法廷に出番はない」

167:2004/02/10(火) 00:34

 そして、枢機卿は二人の顔を見回す。
「さて… 与えられる師団や装備の希望はないか?」
 真っ先にハートマン軍曹は口を開いた。
「得物はM16だ。それ以外は認めん。あと、ダムダム弾を用意しろ。ハーグ宣言など糞喰らえだ」

「了解した。で、山田殿は?」
 枢機卿は山田の方を見る。
「特に必要ない。そちらに任せる」
 山田はあっさりと答えた。

「遠慮する必要はない。『教会』の名において、何でも揃えてみせるぞ?
 大統領でもブン殴ってみせようか。あのルーズベルトの横っ面をな…」
 そう言って大声で笑う枢機卿。
「一つ聞きたいのだが… 貴殿、指揮官でありながら直接戦闘に参加するおつもりか?」
 山田は、困惑しながら訊ねた。

 枢機卿は、山田に不服そうな目を向ける。
「当然だろう? このような黒衣を纏っていながら、後方でふんぞり返っていろと?」

 ハートマン軍曹はため息をついて言った。
「SSの制服に身を包んで、P-08の二挺拳銃で戦場を駆ける吸血鬼神父なんぞを拝む事になろうとは…
 このクソまみれな世界は、よほど狂っているとみえるな…」

「戦闘機乗り、が抜けているな。Bf109(メッサーシュミット)が私の翼だ」
 枢機卿は口の端に笑みを浮かべる。

「では、来たるべき日に向けて… Sieg Heil!」
 そして枢機卿は、SSの制服のままで部屋から出て行った。



          @          @          @



「この町で吸血鬼殺人を繰り返していたのは… 君だったモナね、リナー…」
 俺は、リナーの瞳を真っ直ぐに見ながら告げた。
 路地裏で、退路を塞ぐように立っている俺。
 リナーはその瞳に拒絶の色を浮かべながらも、俺から目を逸らそうとしない。

 まるで、いつぞやの夜の再現だ。
 俺が、殺人鬼の正体であると告げられた時の…
 違う点は、俺とリナーの立場が逆という事だけ。
 あの時も、今日と同じように月が綺麗だった。

「…そう。私は、吸血鬼なんだ」
 リナーは搾り出すような声で言った。

 今にして思えば、その答えは各所にあった。
 リナーのスタンド名、『エンジェル・ダスト』。
 そして、『Dust to Dust(塵は塵に)』。
 塵(ダスト)と言うのは吸血鬼を指す言葉だ。
 さらに、『異端者』という代行者名。
 『教会』にとって、吸血鬼とは大いなる『異端』なのだ。
 それに、リナーの傷の治りの早さは異常だった。
 リナー本人は『エンジェル・ダスト』によるものと言っていたが、あれは治癒力を促進したようなレベルじゃない。
 俺自身、その答えに納得できなかったではないか。

 リナーは視線を落として言った。
「『エンジェル・ダスト』は私の体内に展開するスタンドだ。これにより、私は吸血鬼の血を抑えてきた。
 私は元来吸血鬼なんだ。それを、スタンドで強引に押さえ付けていたに過ぎない」

 そうだ。
 しぃ助教授との戦いで、『エンジェルダスト』を解除すると脅しをかけていたじゃないか。
 あれは、吸血鬼としての力を発揮するという事だったのか…

「なんで、リナーは吸血鬼になったモナ…?」
 俺は訊ねた。

「それが…分からないんだ」
 リナーは薄く微笑って言った。
 とても儚い笑みだ。
「私は、幼少時から吸血鬼だった。それを15年ほど前に『教会』に保護されて、
 幼い頃から代行者としての訓練を受けた。なぜ私が吸血鬼だったのかは分からない。
 ただ、私のスタンドが体内の『流れ』を操るものだったせいで、人間として生きる事ができた…
 もっとも、日光の下に出る時間は限られていたが。それでも、私は人だったんだ。
 …今まではな」

168:2004/02/10(火) 00:35

 …今までは。
 虚しい言葉だ。
 俺は耐え切れずに大声を上げた
「なんでモナ!? 今まで普通に暮らせてたんだったら…!!」

「ある出来事がきっかけで、私の体は大きく吸血鬼の方に寄った」
 ある出来事…?
「吸血鬼の再生力をフルに使わなければ、生命そのものを失っていた。
 結局、命は助かったが… もう後戻りはできなくなった」
 その出来事とは、もしかして…

 当たってほしくない… 
 俺はそう危惧しながら口を開いた。
「もしかして… 『矢の男』に背後からやられた時の…」
 リナーは目を伏せて頷く。
「…その通り。あの一撃が身体に与えた損傷は大きかった。
 通常なら即死だ。吸血鬼の再生力を使わなければな…」

 俺は愕然とした。
 あの一撃は、俺をかばって受けたも同然である。
 俺の治療を優先した結果、かわせるはずの攻撃をまともに喰らったのだ。

『これ位では私は死なない…』
 リナーは、そう言って微笑を浮かべながら倒れた。
 あの時の笑顔と、抱き止めた時の感触が甦る。
 確かにその言葉通り、リナーは命を落とすことはなかった。
 愚かにも、俺はリナーが無傷だった事にただ喜んでいたのだ。
 リナーがどんな代償を支払ったかなんて考えもせずに…
 私は死なない、だって…?
 リナーは、もう吸血鬼として生きる以外になかったんだ。
 それは、人を殺しながら生き続ける事を強要されたに等しい。
 こんなの、死ぬより残酷じゃないか…

「なんで!? なんで、モナをかばって…!」
 俺は大声を上げる。
「今さら、その理由を聞くのか? 君を救うためだ」
 リナーは寂しそうに微笑って言った。
 …止めてくれ。
 そんな風な笑みを投げかけられたら、俺は…

「俺を助けたりなんかするから… なんで、俺を…」
 俺は視線を落として呟いた。
 とてもリナーの顔なんて直視できない。

『リナーは、人を殺した事があるモナ?』
 リナーと初めて会った日に、俺が投げかけた質問だ。
 この時はまだ吸血鬼殺人は始まっていなかったとは言え… この質問で、どれだけリナーの心を傷つけたのだろうか。
 吸血鬼が生きるという事は、他人の生命を奪うのと同義なのだ。

『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』
 暴言もいいところだ。
 俺は、自分だけが理不尽な運命を突きつけられたと思っていた。
 リナーも、吸血鬼として生きるという運命を押し付けられていたんだ。

『人を殺すことは、絶対に許さないモナよ』
 目を背けたくなるくらい、残酷な言葉だ。
 この時には、リナーは既に100人を超える人間の命を奪っていた。
 それによるリナーの苦痛や罪悪感を、俺はこの一言で否定したのだ。
 単なる独善の押し付けだ。
 俺の罪悪感からの逃避から出た言葉。
 それが、リナーを大きく追い詰めたのだ。

 そう。俺はリナーを傷つけてばっかりだ。
 それなのに…
「それなのに…! なんで…あの時に俺をかばったりしたんだ!!」
 俺は声を荒げた。
「なんで、だと…? そんな理由を女に言わせるつもりか?」
 リナーは照れた風に微笑む。

 お願いだから、俺にそんな顔を見せないでくれ。
 自分で自分が許せなくなってしまう。
 俺のせいなのに…
 みんな、俺のせいなのに…

「そうだ、輸血用の血液とかがあるじゃないか!」
 俺は叫んだ。
 リナーは視線を落として首を振る。
「10年以上に渡って、私は吸血鬼としての本能を押し留めてきた。
 その反動か、生気の残った血液でないとこの体は満たされない。含有成分の問題じゃないんだ…」

「じゃあ、俺の『アウト・オブ・エデン』で吸血鬼の血を『破壊』して…!」
 リナーは再び首を振った。
「二つ問題がある。まず、君のスタンドはそこまでの精度を持っていない。
 吸血鬼の血だけを視る事は、今の君では不可能だろう。
 そして、例えそれを『破壊』できるようになったところで…
 吸血鬼の血は、私の人格形成に大きく影響を与えている。
 これを破壊すれば、廃人になることは免れないだろう」

「そんな…」
 俺はうつむいた。
 何もできないのか?
 …本当に、俺は何もしてやれないのか?
 リナーを守るなどという偉そうな口を叩いておいて、俺は…

169:2004/02/10(火) 00:38

 リナーは顔を上げた。
 その場には似つかわしくない、明るい表情だ。
「…だが、自分が生きる為に他者を犠牲にして良い訳がないんだ。私は、それに気付いた。
 だから私は『アルカディア』を討った後、この命を絶つ」

「そんなの…」
 俺は視線を落とす。
 自ら命を絶つなんて、俺は絶対に許さない。
「そんな顔をするな。君が、私に気付かせてくれたんだ。他者の命を養分にする事の矛盾をな…」
 リナーは俺をいたわるように言った。

『人を殺すことは、絶対に許さない』
 俺が、警察署でリナー言った言葉。
 それが、リナーを確実に追い詰めている。
 俺が今までにやった事はなんだ?
 リナーを傷つけ、足枷になり、追い詰める事なのか…?

「そんな意味じゃない…! 俺は、そんな意味で言ったんじゃないんだ!!」
 俺は耐え切れなくなって叫んだ。

 リナーは、駄々をこねる子供をあやすように言った。
「いいや、君の信念の方が正しいのは明らかだよ。私がこの道を選んだのは、君のおかげなんだ。
 君と暮らした4ヶ月の間… 私は確かに人間だった。体は吸血鬼に侵されていてもな」
 そう言って、俺に優しい視線を送るリナー。
「だから、君が気に病む必要は一切ないんだ。
 前にも言っただろう? 君の事を愛するようになったのも、私の中で処理すべき問題に過ぎない。
 だから、君は…」
「黙って聞いていたら勝手な事ばっかり抜かしやがって!」
 俺は、リナーの言葉に割り込んで怒鳴った。
「何が、私の中で処理する問題、だ!! 俺だって、お前の事が好きなんだ!!」

 その怒鳴り声に呼応するかのように、リナーは叫び返した。
「君は分かっていないといっただろう!! 私は、君の嫌悪する吸血鬼なんだぞ!?」
「だからなんだ… そんな事、関係あるか!!」
 俺は大声を上げた。
 路地裏に、残響音が残る。
 リナーは静かになった。

「…君は、いつもそうだ。自信満々に、私の大切なものを奪っていく。
 そして、いつのまにか私の心に居座っているんだ。
 君に関わらなければ、この世に何の未練も無かったのに…」
 リナーは泣き笑いのような表情を浮かべて言った。

 そして、一歩前に踏み出した。
 その表情は、冷たいものに戻っている。
 普段の、戦闘者としての表情に。
「…話は終わりだ。今から『アルカディア』を始末しに行く。 …そこをどけ」

「俺が、素直に行かせると思ってるのか?」
 俺はリナーの眼前に立ち塞がった。
 リナーを一人で行かせる訳にはいかない。
「力ずくでも、ここは通さないからな…!」

「力ずくだと? 君が、私に勝てるとでも…?」
 リナーは俺を睨みつけた。
 当然だが、それくらいで退く気はない。
「俺がリナーに勝てるわけがないだろ? でも、行かせやしない…!」

 リナーはバヨネットを抜いた。
 そして、俺の方に一直線に向ける。
「これ以上、私の邪魔をするようなら… 君も殺すぞ」

「やってみろ、できるもんならな…」
 俺は笑みを浮かべて言った。
 リナーは、そのままつかつかと俺に近付いてくる。
「威嚇と思ってるのか!? 本当に殺すぞ!!」
 叫び声を上げるリナー。

「殺す気があったら、そんな事言ってる間に殺せるだろ!!」
 俺は怒鳴り返した。

 一瞬、リナーは戸惑ったような表情を見せた。
「私は吸血鬼だと言っているだろう!!
 人の命を奪う事など、これっぽっちも躊躇はない!!
 私は、人の生き血を糧に生きる化け物なんだぞ…!!」
 リナーは悲痛な叫び声を上げる。

170:2004/02/10(火) 00:39

 もう…嫌だ。
 こんなリナー、見ていられない。
「さっきから、言ってる事が矛盾してるぞ…! リナーは化物なんかじゃない!!
 自分から吸血鬼になろうとしているだけだ!!
 罪の清算に自殺だって…!? お前は安易な道を選ぼうとしてるだけなんだ!
 そんな無駄な犠牲、俺は絶対に認めないからな!!」
「黙れッ!!!」
 リナーは、バヨネットを俺の胸に突き刺した。
 服を貫通して、胸の肉を抉る。
 だが、全然浅い。
 こんなもの、リナーが受けた苦痛に比べたら軽いものだ。

 俺の胸から流れ出た血が、服を赤く濡らした。
 その血がバヨネットを伝わって地面に落ちる。
「何をしてるんだ…!! 応戦しろ! 私は本気なんだぞ!!」
 リナーは泣きそうな表情で叫んだ。

「…ちょっと力を入れれば心臓を貫ける状況で、『私は本気だ』だって…?
 殺せるんなら、殺してみろ!! 本当に人間じゃなくなったんならな!!」
 俺はあらん限りの声を上げた。
 リナーは、俺を睨みつけている。
 敵意と殺意に満ちた目だ。

 しかし、『アウト・オブ・エデン』を使うまでも無い。
 この殺意は偽りだ。
 自分でそう思い込もうとしているだけ。
 リナーの嘘なんて、すぐ分かるんだ。

「君の行動は、いつだって理解不能なんだ!!
 なんで私なんかを信用する!? 私がほんの少し力を込めれば、君の命は…」
「例えここで殺されても…
 リナーが『アルカディア』を倒した後、自らの命を絶って罪を清算しました、なんて…
 そんなふざけた顛末があるかァ!!」
 俺は怒鳴った。
「それでも俺を殺すって言うんなら、好きに殺せ! 『アルカディア』も殺せ! 一般人でも躊躇せず殺せ!! 
 その代わり…お前だけは何があっても生き続けろ!! 化物の道を自分で選んだんならな!!」

 バヨネットに入っていた力が、スッと抜ける。
 リナーの手は震えていた。

「君を殺すなんて… できるわけが… ないだろう…」
 リナーはバヨネットをその手から落とした。
 地面に落ちて、乾いた音を立てる。

 リナーは顔を上げた。その瞳は涙で濡れている。
 そのまま俺に抱きついた。
 そして、俺の胸に顔をうずめる。
「楽しかったんだ… 君と過ごした時間は、本当に楽しかった…
 なのに… なぜ、私だけが幸せな生活を営んでいられるんだ!?
 私の生命活動を維持する為だけに、100人を超える人間が犠牲になったんだぞ!?
 私の存在は、屍の山の上に成り立っているんだ!
 そんな私が、これ以上生きていい訳がないだろう!!
 私が、これ以上生きていたって…!」
 俺の胸の中で、涙の混じった叫び声をあげるリナー。
 俺は無言で、その肩を抱きしめた。

 俺は、そんなリナーの髪を撫でながら声をかける。
「『最初からハッピーエンドの映画なんて 3分あれば終わっちゃうだろ
  疑ってみたり不安だったり そして最後はKISSで締めるのさ』
 …俺の好きな言葉だよ。別に高尚なもんじゃなく、ただのポップスの歌詞だけどな…」
 そう言って、俺はリナーに軽く微笑みかけた。
 俺の胸にうずくまっていたリナーが顔を上げる。
 涙に濡れた頬。すがるような瞳。
 …絶対に失ったりはしない。

 俺は言葉を続けた。
「だから、絶対に何とかなるさ。俺はそうやって生きて来たし、実際に何とかなった。
 だから、悲観的になる事はないんだ…」
 そう自分に言い聞かせるように呟く俺。

 俺は、この4ヶ月の間に様々な事を経験した。
 その総括が、リナーの死なんて俺は認めない。
 物語の終わりは、いつだってハッピーエンドなんだ。


「おい、君達! こんな夜遅くに何をしてるんだ…?」
 突然、男の声がした。
 俺は、素早くその方向を見る。
 …警官だ。
 しかも、二人。
 迂闊な事に、俺もリナーも彼等の接近に気付けなかった。

「知ってるだろう? この辺では、連夜のように殺人事件が発生してるんだ…」
 二人の警官は、つかつかと近寄ってきた。
 そして、リナーの顔をまじまじと見つめる。
「おや、君は…」
 そこで、警官の表情が変わった。

「まさか、警察署爆破の…!!」
 そのセリフは、終わりまで紡がれる事はなかった。
 俺は一歩踏み込んで、バヨネットでその警官の首を寸断する。
 トスッ、と警官の生首が地面に転がった。
 少し遅れて、頭部を失った身体が地面に倒れる。

「なッ…!!」
 『な』の口を形作るもう一人の警官。
 それが言葉になる前に、俺はその額にバヨネットを突き立てた。
 その一撃で、完全に脳を破壊する。
 警官は白目を向いて力なく崩れ落ちた。

171:2004/02/10(火) 00:40

 俺は、警官の頭蓋からゆっくりとバヨネットを引き抜いた。
「…なんて事を!! 君は今、何をしたか分かっているのか!?」
 リナーは大声を上げる。
 バヨネットを軽く振って血を払う俺。
 そう。俺は初めて自分の意思で人を殺したのだ。
 …リナーが吸血鬼なら、俺は殺人鬼なんだ。
 こんな凶悪な組み合わせも、世の中にそうはいないだろう。

 俺は、ふとしぃ助教授の台詞を思い出した。
『貴方と『異端者』が親しくなる事によって、大きな災いが振り撒かれるとしたら?
 貴方達の存在によって、多くの人が死に瀕するとしたら…?』

 そうか。
 しぃ助教授は、あの時すでにこの状況を見通していたのか。
 あの時、俺は何と答えたっけ…
 確か、『俺とリナーでその災いとやらを沈める』だったか。
 そんな大口を叩いたあげく、出した結論はこれだ…
 俺は、地面に転がる二つの死体を見下ろした。
 つまり、これからは俺達が世界の敵と言う訳か…

「リナーが生き残るなら、この世の人間全員死んでもいいよ。俺も含めてな」
 俺は笑みを浮かべて、リナーの方を見た。
「共に堕ちよう…ってやつだ」

 リナーは、飛びつくように俺に抱きついてきた。
「馬鹿か、君は…!!」
 俺の身体に回す腕に、ぎゅっと力を込めるリナー。
「人を殺す事は許さないんじゃなかったのか…? それを、私なんかのために…」
 俺はリナーの肩に腕を回して、しっかりと抱き止めた。

「…夕方の続きだ」
 リナーは囁くように言った。
 不意に俺の首に手を回す。
 ゆっくりと、リナーの顔が近付いてくる。
「…それは、駄目だ」
 俺は、人差し指でリナーの唇を止めた。
「何を…?」
 リナーは不服そうに呟く。

「最期の思い出にするつもりだろう?
 今生の別れのキスなんて、そんな風情のない真似はできないな。
 キスってのは、希望に満ちてるもんだ」
 俺は軽く笑いながら言った。

「じゃあ… 全部終わった後だな。その時も、傍にいてくれるか?」
 リナーは俺の顔を見上げて、うっすらと微笑を浮かべた。
「もちろん。吸血鬼だろうが化物だろうが、リナーを離したりはしない…」
 俺はリナーの目を真っ直ぐに見て言った。

「どこまでも、私と一緒にいてくれるか…?」
 嬉しそうな表情を浮かべて、問いかけてくるリナー。
「当然だ。俺だって、リナー抜きの人生なんて考えられない」

「ありがとう… その言葉だけで充分だ」
 ふっと、リナーの笑顔が寂しそうな表情に変化した。
 その瞬間、俺の首筋を衝撃が襲う。
 ぐらりと揺れる俺の視界。
 …これは!?
 リナーが、至近距離から当て身を喰らわせたのだ。

「君にそこまで言ってもらえれば、もう思い残す事はない…」
 リナーの声が徐々に遠くなる。
 地面がグラグラと揺れる。
 意識が遠のく。
 ここで意識を失えば、リナーは…


「じゃあ、行ってくるよ… さよなら」
 その声を聞いたのを最後に、俺の意識は深い暗闇の底に落ちていった。

172:2004/02/10(火) 00:40

 …
 ……
 ………
 …………
 目が覚めた。
 弾けるように飛び起きる俺。
 慌てて時計を見る。
 あれから10分ほど経っていた。
 当然ながら、周囲にリナーの姿はない。

 まだ、頭がグラグラと揺れている。
 俺は頭をブンブンと振り回した。
 そして、リナーの言葉を思い出す。

 …何が思い残すことはない、だ!
 こっちには大アリなんだよ!
 毎回毎回カッコつけやがって…!!

 リナーは、『アルカディア』を倒しに学校に行った…?
 いや、リナーは軽装だった。
 『アルカディア』と戦うからには、当然装備を整えるだろう。
 武器などの類は、まだ俺の家に丸々残っていた。
 そうすると、かなり時間をロスする事は予想できる。

 …こうなったら、俺が先に学校に乗り込んで『アルカディア』を倒してやる!
 俺は携帯電話を取り出した。
 そして、ギコと連絡を取る。

『どうしたんだ? こんな夜遅くに…』
 ギコの気だるそうな声。
「詳しい事情は省略モナ! 今から、『アルカディア』のいる学校に乗り込むモナ!」
『な、なんだって!?』
 慌てふためくギコの声。
「だから、今すぐ学校まで来てほしいモナ!」
 俺は叫んだ。
『…分かった、すぐ行くぜ!!』
 ギコはそう言った。
 俺は電話を切る。
 この場所より、ギコの家の方が遥かに学校に近い。
 ギコを待たせないように、俺は学校へ急ぐ事にした。

 走りながら、モララーに電話をかける。
『ただいま、電話に出る事ができませんモラ。
 御用の方は、ピーという発信音の後にメッセージをよろしくモラ』
 駄目だ、留守電だ。
 どうせBARにでも繰り出しているのだろう。
 しかも、なぜかモラ口調なのが異常にムカつく。
「今から、学校へ『アルカディア』との決着をつけに行くモナ!」
 俺は、メッセージを残しておいた。
 後は… つーとレモナの番号は知らない。
 しぃ助教授とねここの携帯には、何度かけても繋がらない。
 そうこうしているうちに、俺は学校の前にたどり着いた。


 その異常さに、俺は慄然とした。
 …何だ、これは?
 妖気とでも言うのだろうか。
 学校は不気味な雰囲気に包まれていた。
 まるで、黒いオーラが校舎から立ち昇っているようだ。
 それは『死』を連想させた。

 間違いなく、奴は中にいる…!

 不思議な事に、ギコの姿がどこにも見当たらない。
 彼の家はすぐそこである。
 おそらく、10分も前にここに着いているはず。
 1人で突入したのか…?
 いや、あのギコがそんな愚を犯すとは思えない。

 俺は携帯を取り出した。
 ギコの携帯をコールしたが、呼び出し音が虚しく鳴るだけである。
 出る気配は一向にない。
 …嫌な予感がする。

 しかし、こうしている間にも時間は刻一刻と流れているのだ。
 リナーの笑顔が頭に浮かぶ。
 あの笑顔を、俺は失ったりはしない…!
 『アルカディア』は、俺の手で必ず倒す!
 こうして、俺はたった1人で学校に足を踏み入れた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

173ブック:2004/02/10(火) 16:19
       救い無き世界
       第十九話・異形 〜その1〜


 ―――その機能こそが存在の全てと知れ。


 いかに優れた兵といえど、
 たった一発の銃弾で戦闘能力は著しく下がる。
 兵が人間である限り、それは変えられぬ理だ。

 しかしそれを良しとしない者達が、一つの暴挙に手をつけた。
 治癒機能、骨格強度、筋力の増強、感覚神経の鋭敏化…
 目的の確実なる遂行の為の、人をも超えた身体能力。
 人でありながら、人を棄てるという外法。

 一切の恐怖無く躊躇無く後悔無く憤怒無く逡巡無く呵責無く理屈無く理由無く
 思想無く主張無く主義なく疑念無く感情無く憐憫無く畏怖無く謀反無く背信無く
 ただただ己に与えられた任務を
 ただただ貫徹する事に命を奉げる狂人の集団。

 「完璧なる崇敬」に基づく「完全なる滅私」によった「完遂の実行者」。
 『大日本ブレイク党』に属する者…
 その機能こそが存在の全てと知れ。



     ・     ・     ・



「ちーす、昼休みから帰ったぞゴルァ。」
 ギコえもんが手に紙袋を持って特務A班の部屋に帰ってきた。
「その紙袋は何だょぅ?」
 私はギコえもんに尋ねた。
「ああ、コロッケだゴルァ。」
 ギコえもんが袋を開けると、そこには熱々のコロッケが姿を覗かせた。

 どういうことだ?
 てっきり今川焼きかと思ったが、コロッケとは。
 コロッケは殺助の好物だぞ?

「わーい、一つ食べていいモナか?」
 小耳モナーが目を輝かせながらギコえもんに聞いた。
「ああ、いいぜ。」
 そのギコえもんの言葉が早いか否や、小耳モナーはさっそくコロッケにかぶりついた。

「うひゃあ!何モナ、このコロッケ?
 美味しいお汁がピュピュッと溢れ出てきたモナー!!」
 小耳モナーの顔が、コロッケの肉汁まみれになった。

「はは、驚いたかゴルァ。
 そいつは味の助堂ってとこのコロッケだ。
 一時期話題になったろ。」
 ギコえもんが笑いながら話す。
 よりにもよって微妙な物を買って来たものだ。

「しかし…男がそのコロッケを食べるのを見ても、いまいち嬉しくありませんね。」
 タカラギコが不満そうに言う。
 彼は一体食べ物に何を期待しているのだ。

「それもそうだな…」
 ギコえもんがしばし考え込む。

 やめろ、どうせろくな事にならないぞ。
 考えを口に出すのは止めておくのをお勧めする。

「というわけで…喰え、ふさしぃ。」
 ギコえもんがふさしぃにコロッケを突き出した。
 それと同時にギコえもんの顔面にふさしぃの鉄拳がめり込む。

「死にたい?ねえ、死にたいのかしら?あなた。」
 ふさしぃの顔中に青筋が浮き出ていた。

 しかしどうでもいい事だがふさしぃ、
 ギコえもんの魂はもうこの世に無さそうだぞ。
 死んだ人間に「死にたいか」と聞いてもあまり意味は無い気がする。
 それともこれは、一流のギャングは「殺す」と思った時には
 もう既に行動を終えているというあれだろうか。

174ブック:2004/02/10(火) 16:20


「…どうやらのほほんとしていられるのはそこまでのようですよ、皆さん。」
 タカラギコがテレビを深刻な顔で見つめていた。
 その場に居る皆も、テレビを覗き込む。

「…これは……!」
 私はゴクリと唾を飲み込んだ。
 テレビの画面には、黒い煙をあげる商店街が映し出されていた。
 しかし何よりも目を見張ったのが、
 その画面の一部に映っていた旗であった。
 これは、この旗は確か…

「『大日本ブレイク党』…!」
 ふさしぃが強く拳を握り締めた。

「商店街は今、正体不明の武装グループによって地獄と化しています!
 その集団については今の所―――」
 アナウンサーが酷く興奮した様子でレポートしている。
 時々、それに混じって爆発音や銃声が聞こえてきた。

「…どう思うょぅ、タカラギコ。」
 私はタカラギコに問いかけた。
「囮(デコイ)もいいところですね、あからさまな。
 陽動作戦の為の先発隊と見て間違い無いでしょう。」
 タカラギコがいつもと変わらぬ声で返す。
「となると、本当の目的は…?」
 私は髭をさすりながら思考を廻らせた。

「だが、どうすんだゴルァ!?
 まさか放置しとく訳にもいかねぇだろう!」
 ギコえもんが大声で怒鳴った。

「…私とギコえもんで兵隊を何人か連れて一応商店街に向かうわ。
 あなた達はここで待機していて。」
 ふさしぃはそう言うとギコえもんの方を向いた。
 ギコえもんは黙って頷いて席を立つと、
 ふさしぃと共に急いでこの部屋を出る。

「気をつけるょぅ、二人共…」
 私の呼びかけに、ふさしぃとギコえもんはガッツポーズで答えて、
 その場を後にした。



 二人が出発してしばらくすると、突然部屋の電話が鳴った。
 すぐさま受話器を取る。
「もしもし、スタンド犯罪制圧特務係A班だょぅ!!」
 私は普段よりやや声を荒げて喋った。
「こちら諜報部。
 この街の警察署が何者かの集団に襲撃を受けているとの情報が入った。
 星は『大日本ブレイク党』の可能性極めて大。
 特務係A班にも、至急出動願いたい。」
 電話越しに、声はそう告げた。
「…了解!」
 短く答え、受話器を電話に置く。

「タカラギコ、私と警察署に行くょぅ!」
 私の言葉に、タカラギコが頷いた。
「やれやれ、警察関係に出来るだけ恩を売っておこうというのが、
 上の魂胆ですかねぇ。」
 タカラギコが皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「そんな事を考えるのは後だょぅ。」
 急がねば。こうしている間にも、被害者は生まれているのだ。

「モ、モナも行くモナ!」
 小耳モナーが慌てて席を立とうとした。

「いや、小耳モナーは留守番を頼むょぅ。」
 私は小耳モナーにそう告げた。
「で、でも…!」
 小耳モナーが食い下がってくる。
「小耳さん、お願いします。」
 タカラギコが小耳モナーを諌める様に頭を下げた。
「…わかったモナ。」
 小耳モナーが悔しそうに俯いた。
 その気持ちは痛いほどに良く分かった。

「往くょぅ!タカラギコ!!」
「ええ!!」
 私とタカラギコは駆け出した。
 後ろから小耳モナーの声援が聞こえてくる。

 やってやる、『大日本ブレイク党』。
 これ以上お前たちの好きにはさせない!

 私は心の中で固くそう誓った。

175ブック:2004/02/10(火) 16:21



     ・     ・     ・



 俺はSSSの中の廊下を歩いて散歩をしていた。
 外に出て散歩をしてもいいのだが、
 俺がSSSから出るには一々外出手続きをする必要があるうえ、
 外に出たとたんべったりと監視に付き纏われる事になる為、
 どうも外に出ようという気になれない。

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

 いきなり地面が揺れた。
 それと同時に耳をつんざく様な爆発音が叩き込まれる。
 待て、確か似たような事が前にもあったぞ。
 これは…確か『デパート爆破事件』の…!!

 間も無く近くから響き渡る銃声と悲鳴と怒号。
 それに驚く暇もなく、防護服のようなものに身を包んだ二人の男達が
 窓を突き破って侵入して来た。
 それから1秒もしないうちに、
 俺に向かってそいつらから自動小銃がフルオートでぶっ放される。
 とっさに腕をスタンド化して防御する。
 しかしいくらなんでも弾の数が多すぎる。
 まずい、このままだと…!

 と、銃声が止み弾丸が発射されなくなった。
 不思議に思って男達の方を見る。
 すると、男達が後ろから侍のような姿をしたスタンドの持つ刀で、
 胸部を刺されて倒れるのが見えた。

「君、大丈夫か!?」
 どうやらSSSのスタンド使いの職員らしい。
 俺の方に急いで駆け寄って来る。
「今ここは何者かの攻撃を受けている!
 急いで安全な場所に避難するんだ!!」
 彼は早口でまくし立てた。

(!?)
 その時、俺は信じられない光景を見た。
 男達がアンプルを取り出して飲み干したかと思うと
 蒸気が昇って傷口が塞がり、再び平然と立ち上がって来る。
 馬鹿な。
 さっき間違いなく胸を貫かれた筈だ。
 なのに、何故。
 奴らは化け物か!?

(いけない!後ろから…!!)
 俺がSSS職員に伝えようとした時にはもう遅かった。
 弾丸の雨が襲い掛かかる。
 俺は何とかそれに対応出来たが、
 完全に無防備だったSSS職員は鉛玉にその命をもぎ取られた。

 俺は弾丸を何とかかわしながら廊下の曲がり角へと向かい、
 角を曲がって命からがら銃弾のオーケストラから一先ず逃れた。

 だが、早く逃げなくては。
 あいつらはすぐに追ってくる!

176ブック:2004/02/10(火) 16:21

 しかし三歩ほど足を踏み出した所で、
 俺の体は俺の意思とは無関係に逃走を止めた。

 何だ。
 何をやっている、俺は。
 早く、逃げ―――

 …その時、俺の頭の中に次々と人の顔が浮かび上がってきた。

 いつもおかずをおまけしてくれるSSSの食堂のおばちゃんの顔。
 親父ギャグはつまらないが、豪快で気のいいSSS職員のおっさんの顔。
 さっき俺を助けてくれた人の顔。
 『デパート爆破事件』で足を失った少女の顔。
 ぃょぅの顔。
 ふさしぃの顔。
 小耳モナーの顔。
 ギコえもんの顔。
 タカラギコの顔。
 …みぃの顔。
 お節介で口うるさくて鬱陶しくて…
 それでもそのままでいて欲しい奴らの顔。

 阿呆か。
 こんな時に何を。
 人の事に構ってられる状況じゃねぇだろう。
 俺が闘わなくたって、SSSがどうにかするって。
 そうさ。
 俺は、
 俺は―――



 ―――深呼吸をする。
 一つ。
 二つ。
 三つ。

 俺の精神を内側の鼓動と同調させる。

 頭の中の一部が燻り始め、
 やがてそれは怒り憎み痛み苦しみ哀しみを燃料に燃え盛る炎となる。

 動悸が早くなり、息が荒くなる。
 破壊衝動に突き動かされる。

 腕が、「化け物」のそれへと姿を変えていく。


 …いいぜ……来るなら来やがれ、「化け物」共。
 これ以上やると言うのなら、
 お前ら以上の「化け物」が、
 ここで相手になってやる…!


    TO BE CONTINUED…

1773−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/10(火) 23:06
スロウテンポ・ウォー

閑話休題・その1<放浪人D・前編>

……トゥルルル……トゥルルル……

ガチャ

『はい、八頭身ネーノです。
ただいま留守にしております。
ピーっという発信音の後にメッセージをどうぞ。』

「あー、もしもs」

『ただし何かのコピペ改造形式で』

「はぁっ!?」

『ピー』

「あーーーそのーーーー…
アローアロー聞こえますかーーー
自警団のミナサマ コンニチワーッ アローッ
どうしようもない親バカで子煩悩の8ネーノちゃんも聞いてますかぁ?
俺様チャンの名前は八頭身でぃーーーッ
メキシコ帰りのいい男でーす。お久しぶりー。よーろーしーくーねー。
こちらはただ今遅めの昼飯の真最中ゥ。
やったら高い空港のハムサンドを美味しく頂いてまーす。
今からそっちに帰ってくるぜ。
小便すませたか?神様にお祈りは?俺様おもてなしパーティーの準備はOK?
まぁ酒とかの買いだしする時間はあるかもしれないから行って来れば?オススメ
じゃあねーッ。みんな愛してるよーッ。」

ブツッ ザッザーッ

「……ネーノの野郎!思わずバレンタイン兄弟ネタを披露しちまったじゃねえか!!」

傷と包帯だらけの八頭身でぃ…通称“D”は、空港の喫茶店で独りボヤいていた。

1783−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/10(火) 23:07
『…メッセージは以上です。』
この意味不明な留守番電話のメッセージを聞いた自警団メンバーは一様にしてボーゼンとしていた。
「……ネーノ、お前留守番電話のメッセージ変えろ。」
八頭身フーンが微妙にキレた表情で警告する。
「…なんでこんな完璧にヘルシングネタを言えるんですか、この人…」
ノーは電話と睨めっこしつつ、誰に問うでもなく呟いた。
その表情には軽い驚愕が浮かんでいる。
「ネーノネーノ!“こぼんのう”って何ー?(ニヤニヤ」
☆モララーは八頭身ネーノの袖を引っ張り、“何もしらないフリ”で問い詰めている。

「……あのバカ。」

一番苦悩の表情を浮かべていたのは八頭身ネーノその人であった。

「♪コタツを囲んで背中合わせー…なんつって。」
「ラフメイカーですか?」
8ネーノを囲むようにして
「小ネタはするな。早くこいつらに説明しろ」
ひどく不機嫌な8フーンが急かす。自分から説明をする気は全くないようだ。
「…うーん、まぁ早い話…自警団のメンバーだよ、あの電話してきたのは」
「はぁ…えらい個性的な人みたいですねぇ…」
ニダーの額には汗が浮かんでいる。当然、冷や汗である。

「個性的っつーか、ある意味精神破綻者じゃネーノ…アイツは。
まぁ、それはともかく…アイツの名前は八頭身でぃ。俺らはDって呼んでる。
“でぃ”っつーよりは“単なるアヒャった八頭身ギコ”って感じ…ついでにスタンド使い。
でぃ特有の病気や体質をスタンド能力で水泡に帰した大馬鹿野郎だよ。」
「…凄い事サラッと言ってません?病気治せるスタンド持ちなんて…」
ノーの疑問に8ネーノは小さく首を横に振った。
「…そんな高尚な能力はアイツに相応しくないんじゃネーノ?だってアイツの“スプーキィ”は…」

1793−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/10(火) 23:08
ピンポーン

チャイムの音が響き、話は中断された。

「キター━━━(゚∀゚)━━━!!」
「…俺が出る。とりあえず雑巾の用意をしとけ。」
8フーンが「血は染みになるんだよな…」と物騒な事を呟きながらドアを開けた。

「……?」

誰も居ない…悪戯かと思った、次の瞬間

「フーンちゃーんっ!!!!」
「んぐぉっ!!??」

外に積まれていたビールケースから飛び込み、肩口をぶつけるように突っ込んできたDが8フーンをKOしていた。

「おっ、トペ・スイシーダじゃネーノ?」
1ネーノが感心したようにその姿を見ていた。
「おっ、今度はATロックやん。」
今度はノーが8フーンの肩と肘を決めているDの技を解説する。
どうやら自警団にはプヲタが多い様である。
「HEY!ギブアップ?ギブアーップ?!」
「…殺す。ぶっ殺す。」
技が解かれたのはキッチリ3秒後の事であった。

「よぉっ、久しぶり。俺様が居なくて寂しかったんじゃねーか?ええ?」
顔面ボッコボコなDが満面の笑みで愛想を振り撒く。(加害者は8フーン)
「そのままメキシコでタコスでも売ってればよかったのにな。非情に残念だ」
「うわっ、フーン酷っ。だってよー、なんか日本人のルチャ道場で世話になってたんだけどよー」
「(○龍門?)」「(もしかして闘○門じゃネーノ?)」
日本人のルチャ道場という言葉に反応するプヲタ二人。
「なんか、そのままデビューさせられそうだったんで逃げ帰ってきたんだよ。あー、ダリかった…」
恐ろしく不義理な言葉を吐きつつ、寝転ぶD…
「…で、お前さ。今の俺らの状況把握してないんじゃネーノ?」
「ああ?あー、ZEROとかいう連中だろ?」

1803−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/10(火) 23:08
バサッ…

「……読め。」
8フーンが投げたのは新聞記事のスクラップファイルだった。
自警団が発足し、ZEROとの抗争を始めて以来…ZEROが関わったと見られる事件が全て網羅されていた。
傷害、強盗、拉致監禁、そして殺人……厚手のファイルが新聞記事で更に厚くなっていた。
「……おいおいおい、ひでーな。俺が居ない間に大暴れってか。随分調子こいてんな、おい。」
「…それはあくまでも公になった事件だけだからな。実際にはその数倍…ZEROが関わってる事件があるんじゃネーノ?」
大きな溜息を漏らす、8ネーノ。
「…なーるほどねー…オッケイ。ちょっと出かけてくる。」
背伸びをして、立ち上がるD…誰も彼を止めようとはしなかった。
「…おい、D…駅前のキャバクラ『ZZZ』はZEROの下っ端連中の溜まり場だ。」
「激しく了解。んじゃ、行ってくるぜ。」
ヒラリ、と手を振って…Dはさっさと出かけてしまった…
「…あ、あのフーンさん…」
ノーがおずおずと話し掛ける。
「あの、Dさん一人で行かせて…大丈夫なんですか?」
「ああ、心配ない…アイツは人間(AA)としては最悪だが…戦士としては最高級だ。とにかく人間としては許せんが。」
「……はぁ」

<駅前…キャバクラ『ZZZ』>
「いらっしゃいませ、お客様1名様でよろしかったですか?」
「ところでこちらはZEROの下っ端諸君の溜まり場でよろしかったですかぁ?」
ニタリ…とDが笑う。酷く、挑発的な笑みだった。

――まぁ、のーちゃん。アイツの事は心配する事はないんじゃネーノ?

「貴様…何者だ?」
拳銃を突きつける黒服。ここがZEROメンバーの隠れ拠点であることを知っているのはZEROメンバー…あるいは
「…自警団のジョーカー、Dちゃんでーす。よろぴくね?」
そう、自警団くらいだった。
次の瞬間には大量の鉛球がDの体を襲っていた。
客、店員、コンパニオンの女の子、バーテンダー、掃除のオバサンまでもがDに向かって銃を打ち込んでいた。

「…うぐぉ……い……がぁ……」

「ふん、何がジョーカーだ。あっけない。」
「ギャハハハ!蜂の巣!!だっせぇ…」
「ちょっとー!こいつ“でぃ”じゃん!!超キモイんだけどー!!」

――なんつっても、アイツの異名は…

「……ひゃひゃ……!蜂の巣になっちまったなぁ、おい?風通しは超良好ー」

――“不死身のスプーキィ=D”だから。

<TO BE CONTINUED>

181新手のスタンド使い:2004/02/11(水) 09:50
age

182:2004/02/11(水) 19:01

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その4」



 夜の学校に足を踏み入れたのは、これで2回目である。
 1回目はじぃと会う為。
 今回は『アルカディア』を倒す為。
 俺は行く当てもなく廊下を進んだ。
 もちろん廊下は真っ暗だが、『アウト・オブ・エデン』のおかげで苦にもならない。

 『死』を連想させる不気味な気配は、校内に入るといっそう強くなった。
 どこだ…? 奴は、どこにいる…?
 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視線を学校中に展開した。

 ――微かな血の匂い。

 視覚化された血の匂いを、『アウト・オブ・エデン』は感じ取った。
 …図書室の方だ。
 俺は、暗い廊下を駆けた。
 二階の突き当たり、そこに図書室は存在する。

 鍵を壊して、俺は図書室内に侵入した。
 整然と本棚が立ち並んでいる。
 血の匂いは、さらに奥からだ。

 俺は、ゆっくりと本棚の間を歩いた。
 血の匂いが段々きつくなる。
 正面の壁に、見慣れない扉があるのが目に付いた。
 俺はよく図書館を利用するが、こんな古めかしい扉を見た事がない。
 そもそも、この図書室は2階の一番奥にあたる。
 構造的に考えて、あそこに扉があるのはありえない。

 俺はドアの前に立った。
 血の匂いと共に、異質な雰囲気を感じる。
 だがそれとは裏腹に、気配らしきものはいっさい感じなかった。
 おそらく、中には誰もいなさそうだ。
 だが、この中には何かある…!

 俺は、警戒しながらドアを開けた。
 ひんやりとした冷気が流れてくる。
 そして、吐き気がするほど強い血の匂い。
 身の毛がよだつほど不気味な空気。

 ――ここは、異界だ。

 俺はそう直感した。
 建物の構造的に考えても、この位置に部屋は存在しないはず。
 おそらく、『アルカディア』の能力によるものだろう。

 俺は、恐る恐る部屋に踏み込んだ。
 そこはだだっ広い部屋だった。
 部屋の中央には、玉座のような椅子が配置されている。
 間違いない、『アルカディア』はここに潜伏していたのだ。
 それだけではない。
 奴が従える吸血鬼たちもここにいたようだ。
 学校を覆い尽くすような気配の主は、今はここにはいないようだが…

 俺は、ふと足元を見た。
 床には大量のパックが散らばっている。
 そのパックの所々に、赤いものが付着していた。
 …輸血用パックか。
 やはり、奴等の全員とは言わないが… ほとんどはこれで喉を潤していたようだ。
 吸血鬼殺人は、こいつらとは関係がなかった…
 俺は唇を噛んだ。

 …?
 何かが床に落ちている。
 あれは… 仮面か?
 俺は、その不気味な仮面を拾い上げた。
 かなりの年代者だ。
 どうやら、石で出来ているようだが…
 その表面には血糊が付着している。
 どこか… 忌まわしい。


「きゃあああああああッ!!」

 夜の校舎に悲鳴が響いた。
 今のは… しぃの声!?

 俺は、血の匂いがする部屋を飛び出した。
 瞬時に『アウト・オブ・エデン』で声の方向を特定する。
 今の悲鳴は… 3−Bの教室からだ!!
 俺はバヨネットを抜いて、廊下を駆け出した。

 なぜ、しぃが学校に…!
 答えは明白だ。
 俺がギコの家に電話を掛けた時、家にしぃもいたのだ。
 確か、ギコの父親は出張中だと言っていた。
 ギコは早くして母親を亡くしているので、家にはギコ一人だったはずだ。
 女を連れ込んで当然のシチュエーションだろう。

 俺は、真っ暗な階段を駆け上がった。
 しぃの性格を考えると、ギコと一緒に学校までついてくることは想像に難くない。
 当然ギコは嫌がるだろうが、しぃならば押し切るだろう。
 そして… 何らかの危機に見舞われたのだ!!

 廊下を疾走する俺。
 『3−B』の札が見える。
 俺は扉を蹴破って、教室に飛び込んだ。
「しぃちゃん!! いるのか!?」
 俺は教室内を見渡した。

183:2004/02/11(水) 19:05

 教室中の机は、ことごとくなぎ倒されている。
 その真ん中でしぃがへたり込んでいた。
「モナー君…?」
 しぃは、泣き腫らした目を俺に向けた。

 しぃの脇には、血まみれのギコが横たわっていた。
 その腹部は赤く染まっていて、顔には既に血の気がない。
 そんなギコの身体を、しぃはすがるように抱きかかえている。

「ギコ君が… ギコ君が…!」
 しぃは俺の顔を見ると、涙が混じった声で言った。
 俺はしぃとギコに駆け寄る。

「何があったモナ!?」
 そう訊ねながら、俺はギコの腹の傷を見た。
 …かなり深い。
 出血量も多いようだ。ただちに治療しなければ、命に関わるんじゃないか!?

「ギコ君が、私をかばって…」
 しぃは涙声で呟いた。
「かばって…? ひょっとして、『アルカディア』を見たモナか!?」
 俺は、思わず大声でしぃを問い詰めた。

 一瞬、ビクッと身構えるしぃ。
 かなりショックが大きいらしい。
 しぃはしゃくりながら口を開いた。
「…うん。背の高い、不気味な男で… モナー君の足音を聞くと、教室から出て行って…」

 教室の外!?
 俺は、素早く廊下に視線を送った。
「それで、ヤツのスタンドは見えたモナか…?」
 しぃは首を振る。
「ううん、見てない。暗かったから…」

 俺は、しぃの顔に視線を戻した。
「シッポを出しやがったな…
 お前はスタンド使いじゃないはずなんだから、暗いかどうかなんて関係なく見えないはずだろ…?」

 しぃの泣き顔は、瞬時にして薄笑いに変わった。
 そして、嘲るように口を開く。
「さァて… そうだったかな?」

 俺は、しぃを凝視しながら言葉を続けた。
「今回もそうだが… 『矢の男』との戦いの時、お前だけ『矢の男』に狙われなかった。
 ギコは『矢』をブチこまれたってのに、お前には歯牙もかけなかったな…?」

「YES…、その通りだ…」
 しぃは薄笑いを浮かべたまま呟く。

「…『矢の男』との戦いの時、ギコをあの場に誘い寄せたのもお前だったな…?」

「YESYESYES…」
 しぃの表情が醜く歪んでいく。

「俺達に、『矢の男』が出て来る漫画を紹介したのもお前だったな…?」

「YESYESYESYESYESYES…」

「お前が、『アルカディア』の本体だな…?」

「YESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYES
 YESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYES
 YESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYES
 YESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYESYES… "OH MY GOD!!"」

 そう言って、しぃは大声で笑った。
 その狂笑が夜の教室に響き渡る。
 そして、ニヤつきながらゆっくりと立ち上がった。

「…ビンゴだよ。オレが、『アルカディア』だ」
 しぃの身体から、不気味なヴィジョンが立ち上がった。
 まるで、悪魔のような… そんな奇妙な外観をしている。

 俺を見据えながら、『アルカディア』は腕を組んだ。
 続けて、しぃも同じ動きをする。
 そして、『アルカディア』は言った。
「お前の推論は正解だ。この女の人格は、とっくにオレが乗っ取ってたぜ」

 俺はしぃ… いや、『アルカディア』を睨みつけた。
「すると、今までのしぃは…?」

 『アルカディア』は薄笑いを浮かべた。
 しぃも、それに付随して同じ表情を浮かべる。
「別に、俺が偽者って訳じゃねぇ。俺が『しぃ』の行動に干渉するのはごくまれだしな。
 『しぃ』本人は、俺に取り憑かれてるなんて気付いてもいやしねぇよ…」

 そう言って、『アルカディア』はゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「それにしても… この女の潜在能力はとんでもないぜ。
 ひょっとすると、オレを産み出した最初の本体よりも優れてるかもな…」

 俺は、ふと倒れ伏しているギコに視線を送った。
 彼の容態も心配だ。
 おそらく、油断しているところをやられたのだろう。

 俺は、『アルカディア』を凝視しながらバヨネットを構えた。
 こいつは俺の手で倒す。
 そして、リナーを…

「ほう、やる気かァ?」
 『アルカディア』は下卑た笑みを浮かべた。
「…確かに、俺の能力『空想具現化』は、直接戦闘には向いてねぇ。
 典型的な後方支援型だ。RPGで言うところの、魔法使いってやつだ…」

184:2004/02/11(水) 19:07

 俺は、一歩踏み出した。
 瞬時に奴との間合いを詰める。
 バヨネットを構え、『アルカディア』の喉にねじ込もうとした。
 完全に即死ルートだ。

「…『朽ち果てろ』」
 『アルカディア』は、囁くように呟いた。

 突然、バヨネットが不自然に軽くなる。
「…!?」
 俺は剣先に視線を送った。
 バヨネットは、ボロボロに朽ち果てていた。
 まるで、強酸にでも浸けたかのように。

 そのまま、刀身がグリップからボロリと落ちた。
 床に落ちた刃は、グズグズに崩れてしまっている。

「これは…」
 俺は呟きを漏らした。
 疑うまでもない。
 これが、奴の能力…!!

「…『崩れる』」
 再び、『アルカディア』が呟いた。

 ガラガラという音。
 たちまち、俺の頭上の天井が崩れ出す。
「うわぁぁぁぁッ!!」
 落下してくる天井の破片が俺を襲った。
 その衝撃で地面に倒れる俺。
 このままじゃ、俺の身体は瓦礫の下敷きになる…!
 俺は床を転がって、その場を離れた。

「ひゃっはァ!!」
 『アルカディア』の叫び声。
 同時に、背中に強烈な衝撃が走った。
 『アルカディア』が、俺をサッカーボールのように蹴り飛ばしたのだ。
 俺の身体は吹っ飛ばされて、倒れている机を薙ぎ倒す。

 着地しようとしたが、そのまま壁に激突した。
 ズルズルと崩れ落ちる俺の身体。
 今ので、骨がイカれたようだ。
 視界が白く霞む。

 つかつかと、『アルカディア』が近付いてきた。
 そして俺を見下ろす。
「まあ、こういうことだ。直接戦闘向きじゃないと聞いて油断したか?
 RPGで言えば、LV99の魔法使いVSスライムベスってとこだなァ…」
 ニヤつきながら言う『アルカディア』。

 俺は『アルカディア』の顔を見上げた。
 その顔は、余裕で彩られている。
 こいつ、強い…!!
 
「じゃあお前ら… 吸っていいぞ!」
 『アルカディア』は、指をパチンと鳴らした。

 突然、周囲は沢山の気配で満たされた。
 …吸血鬼か!!

「久し振りの生き血か。まあ、男と言うのが納得いかんが…」
「ヒヒヒ… あったかい血を啜れるぜ…」
「4ヶ月振りのエサだ。大人しくしてろ…」
 血の匂いにまみれた吐息。
 教室内は吸血鬼の気配で満たされた。

 この人数で… この負傷で、勝ち目はない。
 …殺される?
 俺が、このまま『アルカディア』に返り討ち?
 そんなの… リナーに顔向けできるか…!!

 リナーの笑顔が思い浮かぶ。
 さよなら…、と告げた時の、愁いをはらんだ笑顔。
 リナーは、本気で自らの命を絶つつもりだ。
 それを止められるのは、俺しかいない。
 こんなところで死んでられるか…!!

 だいたい、俺を誰だと思っているんだ…?
 俺は殺人鬼だ。
 この町で15人もの命を奪った、最低最悪の人間なんだぞ…?
 夜の学校で殺人鬼が吸血鬼にやられるなんて、ジョークにもならない。

185:2004/02/11(水) 19:07

 俺はヨロヨロと立ち上がった。
「ほォッ! 頑張るねぇ… だが、それがどこまで持つかな?」
 嬉しそうに口を開く『アルカディア』。
 そして、大きく手を広げた。
「見たまえ諸君!! 彼は人間の身ながら、健気にも我々に立ち向かおうとしている!!
 素晴らしいショーだ!! 皆の物、彼に祝福の嘲笑を!!」
 大声で笑い出す吸血鬼達。

 立ち向かう…?
 素晴らしいショー…?
 冗談を言うな。
 今から起きるのは、ショーなんかじゃない。
 これから起きるのは、殺戮だ…!

「皆殺しだ…」
 俺はそう呟いた。

「ハァッ? 何だって…!?」
 わざとらしく、耳を近づけてくる『アルカディア』。

 俺は、横に転がっている机を拾い上げた。
 そして、足の部分だけをヘシ折る。
 1mほどの棒状になる机の足。

 吸血鬼が、俺の周囲を取り囲んだ。
「ハハッ、そんなガラクタで何をしようって言うんだァ?」
 『アルカディア』は嘲って言った。

「皆殺し、と言ったんだ…」

 これから起きるのは、殺戮だ。
 …俺の意思のままで。
 『殺人鬼』の意思に支配されず、俺の意思で行う殺戮。

 俺は、吸血鬼共を見渡した。
 こいつらは、どうせ元から塵だ。
 …何という事はない。塵を塵に還すだけの話。

 俺は、残った机の部分を投げ捨てた。
 そして、机の足を右手に持つ。
 それを軽く回転させると、逆手に構えた。

「Dust to Dust… 塵は塵に還れ…!」

 俺は殺意を込めた目で、吸血鬼共をしっかりと見据えた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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186アヒャ作者:2004/02/11(水) 21:23

合言葉はwell kill them!(仮)第七話―ソウルマリオネット②

二体の影人形はヅーを挟み撃ちするような形で突っ込んでくる。
レベッカは怯む事無く背中のコンテナからマシンガンを取り出すと乱射した。
しかし弾丸は人形に横っ飛びで回避され、地面にいくつもの弾痕がついた。

「ちっ、うろちょろしやがって!」

舌打ちすると今度は一本のライフル銃を取り出す。
そのライフルの先には錆びかけのサバイバルナイフがくくりつけられている。
マシンガンをしまうと右腕にライフル、左にバズーカを持ち替える。
そして一体の腹部にバズーカの銃口を押し付け、もう一体の人形にライフルを槍の様に突き出した。

ドシュウウッ!
バゴオオン!!
「ギエエエェ───ッ!!」

二体の人形が悲鳴を上げるのはほぼ同時だった。
一方は腹に風穴を開けられて吹き飛び、もう一方は喉笛をナイフで突き刺された。

「オラオラァ!どうだこのナイフの味は?とっととくたばりやがれこのゲスがァ!!」
レベッカは喉を押さえて痛みに身悶える影人形の腹を踏みつけ、何度もナイフを突き刺した。

ザクッ、ドスッ、ドシュッ・・・・・・。
鈍い音が繰り返し公園に響き渡る。

しばらくすると人形は力尽き、煙を出して消え去った。

「ふうっ、スッキリした!」
「ね、ねえ・・・・いくらなんでもさっきの針串刺しの刑はやりすぎじゃない?」
「いいじゃん、敵なんだから。」
さらっと受け流すレベッカ。

「ちいっ!やっぱり使えねぇーなぁー人形は。」
二人の会話に男の声が割り込んできた。
しかし透明人間になったかのように、声は聞こえても姿が見えない。

「てめぇ!何処に隠れているんだ!?」
「馬鹿かおめー?俺が教えるとでも思ってんのか〜?」
「くっ、それにしても何故私達を襲ったんだ?」
「理由なんかねーよ。ただ女が憎いだけさ。」
「何だと!?」
「俺は付き合っていた女が居たんだ。だがなぁ、別の男を見つけてアイツは俺を捨てやがった!
 だから俺は世の中の女全てが憎いんだよォ!この恨み何処にぶつけりゃいいんだよ!チクショォ───ッ!!!!」
男の話にしばらく呆然とする二人。

「なるほど。つまり彼女にフラれた腹いせに通り魔を引き起こしたってわけか。思考回路が単純な男。」
プッツ──ン
「・・・・んだとコラァ!誰が単細胞生物だァ!?誰がプラナリアだァ?!」
いや、誰もそんなこと言ってないから。
「そうだ、ひとついいことを教えてやろう・・・・。後ろを振り向いてみな。」

言われるがままに二人は後ろを向いた。
そしてそこに広がっていた光景に息を呑んだ。

公園の入り口に何体もの影人形が立っていたのだ。
その数ざっと50〜60体。
しかも段々と二人に近寄ってきている。

「ハッハァ───!もしもの事を考えて人形を多めに作っておいたのさ!」
「・・・・まるでジムの大群だな。」
ぼそりとレベッカが呟く。
「けっ、減らず口を叩けるのもここまでだ、たっぷりといたぶってやるぜぇ───ッ!」

男が叫ぶと同時に人形達が一斉に突っ込んできた。
「こりゃまた厄介だねぇ。だけどいくらジムがいようとなぁ、赤い彗星に勝てると思うなァ!」

レベッカはコンテナの中に手を突っ込み何かを探し始めた。
そしてそこから取り出した物は・・・・・
巨大なミサイルランチャーだった。

「さっ、どっからでもかかってきんしゃい!」

187アヒャ作者:2004/02/11(水) 21:24

ズドォーン!バグオォォォーン!

黒い土柱が何本も立ち昇り、影人形がが宙高く弾け飛ぶ。
「アッハハハハハハーッ!貧弱貧弱ゥ!」
レベッカは爆撃の爽快感に酔った。
「うわあ・・・止めて止めて──!」
しかし彼女の耳にはヅーの言葉は聞こえていなかった。

ミサイルは人形どころか樹木をなぎ倒し、滑り台やブランコを吹き飛ばし、爆撃の火の粉はたちまち公園を火の海に変えた。
それでも人形達は横なぎの熱風衝撃波や木っ端微塵にされた樹の幹や舞いあがった土砂などに怯む事無く向かってくる。

「しぶといねぇ、じゃあこれはどうだい?」
バキイッ!
今度はランチャーを棍棒の様にぶん回し始めた。
これじゃあガングレイヴだ。
「場外まで吹き飛びな!」

直撃を受けた人形は3〜4mはぶっ飛んだ。
恐らく一般人がこれを食らったら肋骨の2,3本じゃあ済まないだろう。

レベッカが大暴れしたので50〜60体は人形は、わずか6分で全てかたずいた。
それと同時に公園は壊滅的なダメージを負った。
「うっし。後は本体を探すだけだな。」

レベッカはゴーグルを装備して辺りを見回した。
「ん──、どーこーかーなー。」
そう言いながら公園のシンボルだった大木に近寄る。
「・・・・・みぃーつけたぁー♪」

ダンッ!
影を思いっきり踏みつけた。
「ぐほォッ!」
すると影の中から先ほどの男が飛び出してきた。

「なーるほど、木の影を切り取ってカバーみたいに自分にかぶせて隠れていたのか、こりゃ見つからないわけだ。」
「くそっ!何故俺の居場所が分かった!?」
「だってアンタが隠れていた影の木は私が吹き飛ばしちゃったもん。破壊する前の影が破壊した後と同じっておかしくない?」
木はミサイルの爆風でで引き裂かれているのに対し、男の隠れていた影は破壊される前の影を留めている。
これでは一般人でも怪しいと分かる。

「くそ!『ソウルマリオネット』!切り刻め!」
男のスタンドが姿を現した。
「万策尽きて白兵戦か・・・・・。」

ヒュバッ!

ソウルマリオネットの鎌が襲い掛かる。
だが、そこにレベッカの姿はない。

「・・・・ウエポンテイクオフ・・・。」
彼女はいつのまにか男の背後に回っていた。
背中のコンテナやその他の武装を外している。素手でやる気だ。

「歯ぁ食いしばれっ!そんな大人・・・修正してやるッ!」
驚くばかりの柔軟性をみせて跳ね上がったレベッカのつま先が男のアゴを蹴り砕いた。
「がはあッ!」
「アラアラアラアラアラァッ!!」
ドゴッ!!バキイッ!!ガッ!!グシャアッ!!ドガァッ!!!
目まぐるしい肉弾攻撃が男の肉体を打ちのめし、切り刻む。
鞭の様な連続キックから掌打、肘打ち、膝、踵……血にまみれた肉のサンドバッグと化した男を360度、ありとあらゆる方向から弄りつくす。

「悪いね。白兵戦なら私の方が上よ。」
空中に吹き飛ばされた男にとどめの一撃を叩き込む。
「ぐぅ……え」
男はそのままくずかごに『着地』した。

「アッラーアクバル!! (さよならだ)」

188アヒャ作者:2004/02/11(水) 21:25

「すんません!もうしません!!」
男はレベッカの目の前で土下座させれれていた。
顔がひしゃげてほとんどミュッチャー・ミューラー 状態だ。

「よーし、もしまた女性を襲うような事があったならば・・・・」
男の喉にナイフが突き立てられる。
「お前を殺す・・・・。」
男は恐怖のあまり失神寸前だ。

「そうだ、お前の名前は?」
「ウ、ウララーと言います。ハイ・・・。」
「そうか、その名前覚えておくぞ。」
開放されたウララーは兎のごとく走り去った。

「それにしてもどうすんのこれ?」
ヅーは火の海と化した公園を指差す。
「無視しよう、そのほうがいい。」

二人は公園を後にし歩き出す。
「・・・・・そういえば何か忘れてない?マスター。」
レベッカが尋ねた。
「・・・・あー!チョコクロ!」
ヅーは回れ右をすると店の方へと全力疾走していった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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189アヒャ作者:2004/02/11(水) 21:27

スタンド名:ソウルマリオネット
本体:ウララー

破壊力−C スピード−C 射程距離−B
持続力−B 精密動作性−C 成長性−C

スタンドヴィジョンは人型。両手に鎌を持っている。
能力は切り取った影に命を吹き込み影人形を作る。
影人形は影さえあればいくらでも製作可能。
影は命を吹き込まないで、隠れ蓑のように身にまとい隠れる事もできる。

スタンド名:レベッカ
本体:ヅー

破壊力−A スピード−C(ウエポンテイクオフ時はB) 射程距離−C
持続力−B 精密動作性−D 成長性−C

女型、頭髪がありかなり人間に近い。傭兵のような姿をしている。
独立意思を持ち、性格はヅーと正反対。
能力は単純明快。マシンガンやバズーカ等で敵を蹴散らす。
スタンドが言うには射撃も良いけど白兵戦が好みらしい。
武器は全部背中に背負っているコンテナの中に収納されている。
武装を全部外した状態(ウエポンテイクオフ時)はスピードが上がる。
ただし同時に無防備状態になって相手の攻撃をモロに受けてしまう諸刃の剣。

190新手のスタンド使い:2004/02/11(水) 21:35


 『黄昏を黒に染めて ――― 君と私と、彼と彼ら』


『彼から私への依頼』

 午前の早い時間には、人があまりいない。
 小さくもないが、大きくもない公園。
 昼になれば人が増えてにぎやかになるのだろうが、今はまだ、寂しい雰囲気が漂っている。
 そんな公園のベンチに、男と少女が座っていた。

「もう、世界は無駄なものを許容できない。」
 唐突に、私の隣に座っている男が口を開いた。

「それは、何故?」
 私は、オレンジジュースを飲んだ後、聞いた。
「多分、増えすぎたんだ。色々なものが。」
 男は、ベンチを立ち、近くにあった自動販売機から、缶コーヒーを買いながら答えた。

「げ、しまった。冷たいの買っちゃったよ。」
 彼は私に、「いる?」と聞いてきたが、丁重に断った。

「だから、もう区別が出来ないんだよ。数が多すぎて。必要なものと不必要なものとが。」
 彼は、缶コーヒーを開けた。
「人は今、『スタンド』と言う力を得て、進化している。
 しかし、進化できないものもいる。それを区別できないんだ。」
 彼は、「あっ、しまった。振るの忘れてた。」と言って、
 また私に、「いる?」と訊いてきたが、これもまた、丁重に断った。

「もうすぐ、世界の要となる『カギ』が現れる。そろそろ世界に異変が起きる。
 世界は、彼を・・・僕たちを排除しようと必死になるだろう。
 異物を排除しようとするのは本能的なものだからね。
 それでも彼は、世界を守ろうとすると思う。この汚れきった世界を。
 そのときは、彼を手伝ってくれないか。」
 彼は缶コーヒーを飲み干し、缶を投げ、ゴミ箱に入れた。

「・・・・分かった。で、そいつはどこにいるの?」
 私もビンを投げた。見事に外れてしまった。
 なんとなく、くやしい。

「君の通っている学校さ。彼は、まだ気づいていない。愚かしくも愛しい『彼自身』を。
 じゃあ、宜しく頼むよ。僕じゃ何も出来ないからね。
 このまま生きていても、どうせ・・・・・もう時間が足りな過ぎる。
 ・・・そろそろ、『嗅ぎつけられた』頃かな?それじゃあ、のーちゃん。しっかり頼むよ。」
「分かった。じゃあね、モララ―さん。」
 モララ―は、私が外したビンをゴミ箱に入れ、公園から去っていった。

191新手のスタンド使い:2004/02/11(水) 21:35


『彼と、彼らとの距離』

 小さくもないが、大きくもないデパートの軽食コーナーの一角。
 そこには妙に女の子趣味なカフェがあった。
 はっきり言って浮いている。
 
 男なら、絶対に一人では入りたくないような雰囲気を漂わしているカフェの中で、
 顔、両手、両足、服で隠れている部分以外は、
 全身包帯でグルグル巻きにされている男が一人、
 口のところの包帯をずらして、チョコレートパフェを無言で食べていた。

「遅いゾ・・・」
 包帯の男が、ギロっとカフェの入り口を睨む。
「いやぁ、すみません。電車に乗り遅れて。」
 私は、特に気にせず、椅子に座った。
「あ、私は抹茶イチゴパフェで。」
 私は、とりあえず適当にパフェを注文した。

「で、用事って何です?私も色々忙しいんで、手短にお願いしますよ。でぃ君。」
「『組織』からの命令だ。他のどんなことより、この指令を優先せよ、と。」
 でぃが、パフェを口に入れながら話す。
 でぃの口の周りはクリームとチョコレートだらけだ。

「最優先事項ですか?・・・・まったく、私もなかなか忙しいんですがね。この後会議が入っていたのに・・・・
 で、内容は何です?」
「お待たせいたしました。」
 ウェイトレスが二人の会話を止めた。
「あ、どうも。」
 俺は、パフェをウェイトレスから受け取り、テーブルに置いた。
「で、内容は何です?」
 と訊いても、でぃは、すぐには答えず、目の前のパフェをパクパク食べている。
 まったく・・・こっちだって都合があるのに・・・・
 それにしても、いつ見ても意外ですね。人は見かけによらないと言うか・・・・
 でぃはパフェが大好物なのだ。と言うか甘いもの全般的に。

「仕方が無いですねぇ・・・・」
 私は、でぃが食べ終わるのを待つことにした。
 どうせ、『仕事』で会議がつぶれるんだ。
 時間なんていくらでもある。
 しかし、時間があるといっても、長い間待たされるとイライラしてくる。

「あの、早くしてくれますか?」
「モララ―。」
 でぃは、いきなり言ってきた。
「そいつを殺して来い。それが『仕事』だ。」
 でぃは、パフェを食べながら言った。
 それにしても食べるの遅いですね、でぃ。

「モララ―・・・ですか?どこかで聞いたような・・・・・まさか!?」
 私は、『ある男』を思い出した。
 もし、あの男なら・・・・・

「危険度A1級。そいつの怒りをかったら最後。世界から抹消されてしまう。」
 ・・・・なんてこった。そんな奴の相手をしなければならないとは・・・・
 これじゃあ、まるで・・・・

「・・・・まるで生贄ですね。」
「確かに。しかし、お前は殺らなければならない。でなければ、どの道死ぬ。
 だったら、可能性のある方を選ぶべきだと思うぜ?
 『組織』と、モララ―。どっちの方が可能性が高いか、お前なら分かるだろ?
 危険度B4級、山粼さん?」
 でぃが私の名前を呼ぶ。
 確かに、『組織』と戦うより、数段、モララ―と戦ったほうがよい。
 しかし、モララ―の強さは、今の私ではどうしようもない位強い。いくら私がB4級でも。
 『組織』の中では、強さによるランクが決められている。最高がA1級で、最低がF9級だ。
 まだ下もいるが、F9級より下はスタンドを持っていないので、ランクがつけられていない。

「しかし、何でまたお前が選ばれたんだ?
 戦闘能力じゃ、特殊能力タイプのお前が、単式戦闘タイプのモララ―に敵うはずが無いのに。」
「おそらく、私の『能力』を買われたんでしょう。上のクラスは、単式戦闘タイプや、複式戦闘タイプばかりですからね。」
 そう、こんな『能力』を持ってしまったために、私はこれから死にに行くのだろう。
 全く、ついていない。

「分かりました。それじゃあ、行って来ます。」
「おっと。そのまえに、お前に一つ聞いておきたいことがある。」
 でぃが、私を呼び止めた。
「なんです?」
「そのパフェ、貰ってもいいか?」
 私は、心底呆れたと言う様子で
「・・・・・どうぞ。
 あ、私もあなたに一言言っておきたいのですが。」
「なんだ?」
 でぃは、パフェを口に運ぼうとしていた手を止めた。
「これからも僕を応援してくださいね。」
「・・・・・・・・」

192新手のスタンド使い:2004/02/11(水) 21:44


『彼の願い』

 僕は、息を切らしながら、歩く。
 のーちゃんに依頼を頼んだから、もう心配することは無い。だが・・・
「少しでも、時間があるのなら・・・・」
 僕は、そう言ってどかっと地面に座る。

「それにしても、まさかこんなに早く・・・時間が無くなってきているな。」
 僕は手を開く。手のひらには、
まるで、割れたガラスような、ヒビがはいっていた。
 手だけじゃない。足も身体にも、小さいが、ヒビがはいっている。
「・・・・・・・」
 僕は、無言で手を見つめる。
 その時、入り口の方から足音がした。

「誰だい?」
 僕は、足音のする方に声をかける。
 訊かなくても分かっている。どうせ、『組織』の殺し屋だ。
「はじめまして、私は、山粼と言います。」
 山粼と名乗った男が、お辞儀をする。

「なかなか、礼儀の正しい人だね。僕は・・・言わなくても分かるか。」
「はい、『組織』の方から伺っております。名前と、『能力』のことを。」
「そうか、・・・こっちから行く暇が省けたな。」
 僕は、立ち上がった。

「どう言う事です?」
「どうせ、君達を全滅させるつもりだったんだ。
 ・・・それより、傷つけ合おうか。どちらかの命が尽きるまで。」
 僕は、とん、と地面を蹴った。その一蹴りで、一瞬で山粼の目の前まで行った。
「なっ!?」
 山粼が驚きの声を漏らしながらも、僕の攻撃を喰らうまいと、
飛び退くが、もう遅い。
 僕の『スタンド』は、もう山崎をとらえている。

「喰らえ・・・!『ブレイザー』!」
 僕の身体から、人の形をしたヴィジョンが出て来る。
 その瞬間、僕の周りの動きが一気に遅くなる。
鳥、人、風、存在する全ての動きがスローになる。
 当然、山崎の動きも遅くなる。ブレイサーは、山粼の身体にラッシュを叩き込む。

「オォォォォォォォォォォォォォ!!」
 山崎の身体がゆっくりと浮く。
 ブレイザーは、山崎が射程距離から出るまでラッシュを叩き込んだ。
「オォォォォォォォォォォォォ!!」
 山崎が射程距離を出るまで、あと、3cm、2cm、1cm・・・・・
「ラァ!!」
 最後の一発を叩き込んだ瞬間、
山崎が射程距離からでたので、俺は能力を解除した。
 山崎の身体が宙を舞う。しかもダンスをしながら。
 溜め込んでいたダメージを一気に喰らったせいだ。

 ドゴォォ!!
 山粼の身体が廃棄物の山にぶつかり、埋まる。
 僕はそこで腰をおろす。
 まず、一人。
 まだまだ先が見えないが、時間の許す限り、僕は戦おうと思う。
 そのとき、ガラ、と音がした。僕は音がした方を見る。
そこには、山崎が立っていた。

「やれやれ、スーツがボロボロだ・・・・
 全く、どうしてくれるんですか?クリーニング代だけじゃすみませんよ?」
「な!?」
 あれだけラッシュを叩き込んだのに、何故、無傷なんだ?
「ご苦労様です、『スプリツァー』。
 あなたのおかげで、死なずにすみましたよ。」
 山粼は、携帯電話を取り出し、話し掛けた。
 どうやら、あの携帯電話が山粼のスタンドのようだ。

「あなたの能力は、『組織』から聞いていたので、対策が練れました。
 まさに、あなたは『組織』で『最強』を名乗るに相応しい能力です。
 『時間を短くしたり、伸ばすことができる。』
 これがあなたの能力ですね?さっき、私を攻撃した時にも使いましたね?
 さっきは・・・・『一秒』を『一時間』にでも変えたのですか?」
 山崎がニヤァと嫌な笑みを浮かべる。
 ある程度は、伝わっているとは思ってはいたが、
まさかここまで正確に伝わっているとは・・・・・
 どうやら、『組織』は、本気のようだ。

「・・・・なるほど。だから、事前に『送信』できるようにしておいたんだね。
 身体に、どんなに微かな痛みでも感じたら『送信』するようにしておいて。」
「・・・・私の能力もばれていましたか。」
 山崎が少し悔しそうな表情をする。
「君だけじゃない。『組織』にいる大体のスタンド使いの能力は
把握しているつもりだよ。
 まぁ、スタンドがどんな形状をしているのかは知らないがね。」
「・・・・なら、余計にここで殺しておかないといけませんね。
 ・・・・・アクセス。」
 携帯電話が、ヴン、と音を出し、画面が光る。
 山崎が、携帯電話をしまい、身構える。ポケットからナイフを取り出す。
「君にできるかな?B4級の君に。」
 タッ、と音を立てて、山崎が僕に突っ込んで来た。

「見せてやる。君に、『最強』の実力を。」


 To Be Continued ....

193ブック:2004/02/11(水) 22:28
      救い無き世界
      第二十話・異形 〜その二〜


 突然の爆発音と地震。
 僕は何事かと思い、即座に管制室へと内線電話をかけた。
「もしもし!何があったんだモナ!?」
 語気を荒げて電話を出た人に尋ねる。
「分かりません!正体不明の武装グループの襲撃を受けています!
 な、何だあいつら!?
 あの回復力、運動能力、普通の人間じゃな―――」
 そこで電話が途切れた。

 まさか…『大日本ブレイク党』!?

 そうか、商店街も、警察署も囮だったか。
 SSS(ここ)の戦力を分散させるのが、目的だったのか。

 僕は携帯電話を取り出し、ぃょぅに電話をかけた。
「もしもし、僕モナ!
 ぃょぅ、大変モナ!今SSSが何者かの攻撃を受けてるモナ!!」
「!?どういう事だょぅ!?」
 電話口からぃょぅが驚いた様子で喋ってきた。
「たぶん、『大日本ブレイク党』モナ!
 ぃょぅ、すぐに帰ってきて欲しいモナ!」
 僕は祈るような声でぃょぅに懇願した。
「分かったょぅ!
 すぐにこっちで他の皆に連絡して引き返すょぅ!!
 小耳モナー、それまで何とか持ち堪えるょぅ!!」
「分かったモナ!!」
 そこで僕は電話を切った。

 ぃょぅ達の帰還まで、あいつらを何とかする。
 泣き言は言っていられない。
 仲間達は僕を信頼して、ここの留守番を任せてくれたのだ。
 僕が、やる。

「行くモナよ…『アルナム』!!」
 僕は決意を胸にスタンドを発動させた。

194ブック:2004/02/11(水) 22:29



     ・     ・     ・



 連続した銃声と、薬莢が床に落ちる時の金属音。
 俺が角の陰から姿を見せたとたん、男達は自動小銃を乱射してくる。

 どうする。
 意気込んだはみたはいいが、あいつらを倒す手段が思いつかない。
 何も考えずに奴らの前に飛び出したところで、
 蜂の巣にされるのは目に見えている。
 かといって動かぬまま何もしなければ、
 距離を詰められてゲームオーバーだ。
 どうする。
 どうする。

 ふと、俺は『デパート爆破事件』の事を思い出した。
 そうだ、あの時もこんな風に絶体絶命だったっけ。
 あの時はどうやって…

 ―――あの時、そうあの時、
 俺の腕だけでなく、脚まで化け物に―――

 駄目で元々、俺は両脚に意識を集中させた。
 しかし、やはり脚には何も起こらない。

 駄目か。
 糞。
 駄目だというのか。


(……せ。)

 いきなり頭に声が響いてきた。
 この…声は?

 いや、この声には聞き覚えがある。

(よ…せ。)

 この声は、『デパート爆破事件』の時の、

(よこせ。)


 …いいだろう。
 くれてやる。
 お前が誰かは分からねぇ。
 だが、力をくれるというなら、
 俺の体だろうが心だろうが、見返りとしてくれてやる。

 俺は、声に身を委ねた。

「!!!!!!!!!!!」

 心が、頭の中が、体の内側が、昏い炎に侵食されていく、。
 燃える。
 燃える。
 燃える。
 思い出を、想いを、理性を、黒い消し炭にするまで焦がし尽くす。

195ブック:2004/02/11(水) 22:29


 …――――――炎が治まったとき、
 俺の脚は既に「化け物」のそれへと変貌していた。

 しかし炎はなおも俺の心の一部で燻り続け、
 俺は奇妙な高揚に包まれた。


 …行くぜ。

 俺は地面を力の限り踏みしめた。
 床にヒビが入り、足の形に陥没する。
 そして俺の体がその反動で弾ける様に飛翔する。

 壁、床、天井。
 あらゆる場所を足場に使い、
 身体物理限界を超えた高速跳躍で
 スーパーボールのように跳ね回りながら男達に接近する。
 足場にした部分に次々とヒビが入っていった。

 男達が驚愕に目を見張りながら俺をフルオートで射撃してくる。

 だが、遅い。
 そんなものではもはや俺は捉えられない。

 銃弾は俺にはただの一発も命中せず、
 代わりに壁や床のあちらこちらに穴が穿たれた。

 届いたぜ…

 やつらの所まで、到達した。
 愕然とした表情をする男達。

 冷静さを取り戻す時間は与えない。
 スタンド化させた脚で、右側の男に中段の前蹴りをぶち込む。
 吐瀉物を撒き散らしながら吹き飛ばされ、男が壁にめり込んだ。

 もう一人の男が、俺に自動小銃の銃口を向ける。
 発射の寸前に、スタンド化した手を押し付け銃口を塞ぐ。

「ぐああああああああああ!!!」
 自動小銃が暴発し、男が焼け爛れた自分の腕を見ながら叫び声をあげる。

 五月蝿い。
 腕で男の胸を刺し貫き、心臓を抉り取る。
 口をパクパク言わせながら痙攣する男。
 突きぬいた体の向こう側で男の心臓を握り潰す。

 血まみれになった腕を引き抜くと、
 男は生命活動を止めてその場に倒れ伏した。

 だが胸を刺されても復活するような奴らだ。
 念の為スタンド化した脚で頭部を踏みつけ、
 頭を西瓜割りの西瓜のように砕いておく。

 先程壁にめり込ませておいた男が、
 壁から剥がれ落ちて地面に倒れ、四つん這いになりながらも立ち上がろうとしていた。
 あれほどやって生きているとは、その頑丈さに頭が下がる。

 褒美にその頭を脚で下から思い切り蹴り上げてやる。
 頚椎が完全に粉砕され、首があらぬ方向に曲がり、男はそれきり動かなくなった。

196ブック:2004/02/11(水) 22:31


 殺した。
 人を。

 だが不思議と後悔や躊躇や罪悪感や良心の呵責は微塵も感じなかった。
 殺らなければ殺られるという異常な状況が良心を麻痺させているのか、
 もともと俺に殺人鬼の資質があったからなのか、
 それとも俺の内側にいる、何者かの所為なのか、
 俺にはそれは分からない。

 どうでも良かった。
 俺はただ、力を解放した快感に酔いしれていた。


「あーあ。やっぱり近距離パワー型との接近戦は、
 二人掛かり位じゃ無理があったかちゃぶ台。」
 いきなり後ろから声をかけられた。
 そこには、体がスライムのようにぷるぷるした男が立っていた。
 この前スライムの様なスタンドにやられたという嫌な記憶が頭をよぎる。

「君、もしかして、もしかしなくてもでぃだね。」
 男が俺に聞いてくる。
 だったら、どうした。

「スタンド使いのでぃを総統が捕まえろとか殺せとか言ってた事を思い出した。
 もうそんな事は放っておけという事らしいけど、
 それでもここで君を連れて帰れば少しは褒美が貰えるはずだちゃぶ台。」
 男が何やら勝手な事を言い始めた。
 それはまあ羨ましい事だな。
 その計画の達成は不可能という事を除いては。

「というわけで…君には僕の踏み台になってもらうちゃぶ台!」
 と、男の手元が一瞬きらりと光った。
 本能が嫌な予感という形で俺に警告を告げ、
 反射的に俺は一歩後退した。

「!?」
 次の瞬間、俺の右頬がざっくりと切り裂かれ、そこから血が滴り落ちた。

 何だ。
 何だ今のは。

「外したか…」
 ぷるぷるの男がそう言って腕を振り上げると、
 そこに血に染まった赤い線のようなものを確認できた。

 あれは…糸?

 しかし驚く間も無く、ぷるぷる男が腕を振ると
 糸が蛇のように俺に向かって襲い掛かってきた。

 俺は近くにあったドアを開き、盾代わりにした。
 瞬く間に、そのドアはバラバラに切断され、その役目を終える。

「君のような近距離パワー型スタンド使いには、
 銃よりもこっちの方が効果的みたいだちゃぶ台。」
 ぷるぷる男が俺に歩み寄り、一定の距離を保った地点で足を止めた。
 俺の射程距離には入らないということか。

197ブック:2004/02/11(水) 22:31

(ならば!)
 俺はスタンド化させた脚で床を蹴って飛び上がり、
 次に天井を足場にして奴に向かって飛び掛った。
 その勢いを利用して、奴に右足を突き出しとび蹴りを放つ。

 しかし、その攻撃はぷるぷる男に寸前でかわされた。
 床に足型の穴を開けて俺は着地する。
 俺は止まる事無く次に蹴りを放った足を軸に後ろ回し蹴りで追撃する。
 だがこれも避けられる。
 その後ろ回し蹴りの回転を利用して裏拳のコンビネーションに繋げる。
 しかしそれも男に掠りもしなかった。

「君のその腕と脚は確かに凄い…
 けど悲しいかな本体の君は戦闘に関してはズブの素人だちゃぶ台。
 だから攻撃が雑で予備動作も大きく、
 いくら威力と速度があろうと、そんなのをかわすのには苦労は無い。
 身体能力だけでは、僕はさっきの三下のようにはいかないちゃぶ台。」
 ぷるぷる男の手元が光る。

 やばい、逃げなくては!
 急いで脚に力を込め、跳躍して男と距離を取る。

「それを待っていたちゃぶ台…」
 ぷるぷる男が呟いた。

 待っていた?
 何を?

 それに気付いたのは、跳躍を終えて着地しようとした時だった。
 地面に足をつけようとした瞬間、それが出来ずに地面を転がる。

 馬鹿な。
 一体、何が――…

 と、俺の呆ける横を二つの物体が凄い勢いで横切った。
 何だ、あれは…脚?
 …誰の?

「!!!!!!!!!!!」
 襲い掛かる痛みが、俺に全てを悟らせた。

 俺の脚が―――
 無い…!

 俺の脚がある筈の部分には何も無く、
 代わりに綺麗な切断面が顔を覗かせていた。

 その傷口から血が流れ出て、
 同時に熱と活力が俺から失われていく。

「さっき君の攻撃を避けた時に鋼糸を脚に巻きつけておいたちゃぶ台…
 そして君がその脚での跳躍の勢いで勝手に足を切り飛ばしたちゃぶ台。」
 ぷるぷる男が勝ち誇った笑みを浮かべた。

「これからその君のぶっそうな両腕を切り落として、
 達磨にしてから連れて変えることにするちゃぶ台。」
 ぷるぷる男が糸を口に咥え、キリキリと音を立てさせた。

「君の活劇もここまでだ、ちゃぶ台。」
 糸が俺の目前まで迫って来た。


     TO BE CONTINUED…

198ブック:2004/02/12(木) 17:43
       救い無き世界
       第二十一話・異形 〜その三〜


 目前まで迫る糸。
 だが、ここで倒される訳にはいかない。

 腕をスタンド化。
 地面に手をつけて腕に力を込め、その反動で後ろへと跳ぶ。
 しかしそれでも糸はかわしきれず、胸にざっくりと亀裂が走る。

「器用なものだ。
 しかしそれは、命運をほんのわずか延ばしたに過ぎないちゃぶ台。」
 ぷるぷる男が糸を振りかざしながら近づいてくる。

 どうする。
 反撃しようにも脚は切断されてしまっている。
 これでは逃げる事すらままならない。

 と、そこへ再びぷるぷる男の糸が襲って来た。
 さっきと同じ要領で何とか避けようとする。
 が、やはりこんな体ではまともに回避など出来る筈も無く、
 体のあちこちが次々と切り裂かれていく。


『君のスタンドは君の体を媒介に発動している。』
 不意に、いつかのぃょぅの言葉を思い出した。

 そういえば、そうだった。
 その仮説が正しければ、俺の腕と脚はスタンドを発動させている状態では、
 半分化け物になっていると言う事だ。

 何で、今になってこんな事―――

(!!!)
 その時、俺の頭に一つの考えが浮かんだ。

 …後にこの考えを思いついた事を俺は後悔することになるかもしれない。
 それほどに、恐ろしく、おぞましい考えだった。
 俺は、この思い付きが成功しないことを心の奥底では望んでいたのかもしれない。

「止めだ、ちゃぶ台!!」
 ぷるぷる男が最後の一撃を今まさに繰り出さんとしていた。

 もう、迷っている暇は無い。
 このままじゃどっちみち死ぬ。

 俺は、覚悟を決めた。

199ブック:2004/02/12(木) 17:44


 スタンド化させた腕に渾身の力を込め、跳躍する。
 かろうじて、ぷるぷる男の糸が急所に到達するのは避けれた。
 しかしそれでも腹部に深い斬撃を負い、腸が少しそこからこぼれ出た。

 だが構わない。
 行動不能に陥らなければそれでいい。

 後方に飛んでいく途中で、化け物の姿になったまま切り落とされた両足を、
 右脚は跳躍するときに使った右手とは逆の左手で、
 左脚は口に咥えて回収する。

 地面に着地した時、俺とぷるぷる男との間には
 約十五メートル位の間が開いていた。

「逃げるのだけは上手だなちゃぶ台。」
 ぷるぷる男が見下したように言う。

 だが俺はそんな言葉には耳も貸さず、スタンド化したままの脚を握り、
 その切断面を俺の体の切断面に押し当てた。

「!?何のつもりだちゃぶ台。」
 ぷるぷる男がきょとんとした目で俺に尋ねてきた。
 まあ、その気持ちは分からないでもない。
 実際今俺がやってるのは紛れも無く狂人のそれである。

「くっ…くく、まさかそれで脚が繋がるとでも!?」
 ぷるぷる男は笑いを堪えられないといった様子だった。

 そうさ、その通りだ。
 この脚が、正真正銘化け物のそれだってんなら、
 それぐらい出来るかもしれない。

 …本音を言えば、繋がらないで欲しかった。
 繋がらなければ、俺は人間のままでいられるような気がした。

(後は、神のみぞ知るってやつか…)

 俺はスタンドを発動させる要領で、脚に神経を集中させた。



 ―――頭の中でくすぶる炎がさらにその勢いを広げていった。
 俺の心が俺ではない「何か」に侵蝕されていく。
 その黒い澱みは、まだ俺が腕しかスタンド化させられなかった時よりも
 遥かに広く、深くなっていた。

 紫色の煙をあげながら、千切れた脚が癒着していく。
 切断面の近くが沸騰したようにボコボコと泡立ち、
 そこから肉が焼け付くような不快な音が聞こえてきた。

 脚は既に、半分以上くっついていた。

 これで決定的だった。
 俺はもう、人間なんかじゃない。
 どうしようもない程の、化け物。
 そりゃそうだろう。
 切れた脚が瞬時にくっつくような人間が、この世の何処に居る?

「な…あ、あ……!」
 ぷるぷる男が信じられないといった感じに口をあんぐりと開けている。

 何を驚いている?
 お前らだって銃で少し撃たれた位じゃ死なないんだろう?
 俺のは、それがちょっと大袈裟になっただけ。
 ただそれだけの事だ。

「この…化け物め!!」
 ぷるぷる男はそれでもなお果敢に立ち向かってきた。

 化け物か。
 ゴミと呼ばれたり化け物と呼ばれたり、
 つくづく俺は本来の名前で呼ばれないものだ。

 まあいい。
 それじゃあその化け物と対峙したお前は何だ。
 人か狗か化け物か。

「ならばその首を落とされて生きていられるのかーーー!!!!!」
 ぷるぷる男の糸が俺の頭部に伸びる。

 成る程確かにいい考えだ。
 俺はまだ頭まではスタンド化させていない。
 だから「クリティカル!でぃは首を刎ねられた。」みたいな事になれば、
 いくら何でも死んでしまうだろう。

 しかし…黙って首を落とされるのをむざむざ許す程、
 俺はお人好しではない。

「死ぃいいぃぃぃ!!!」
 ぷるぷる男が腕を横に凪ぐ。
 糸が、俺の命を掻き切らんと向かって来た。

200ブック:2004/02/12(木) 17:44

「!!!な…!!」
 男は絶句した。

 糸は、俺の首には届かなかった。
 俺が糸を左腕に全て代わりに巻きつける事で防いだからだ。

 正気の人間なら、こんな事はしない。
 腕を一本犠牲にするなど、まともな神経の沙汰の外だ。
 だからこそ、ぷるぷる男も驚愕している。

「おのれええええぇぇえぇあぁ!!」
 ぷるぷる男が糸を思い切り引っ張った。
 同時に輪切りにされる俺の左腕。

 だがその痛みには意も介さず、
 俺はぷるぷる男の左腕の付け根の部分をスタンド化した腕で掴んだ。

 お返しだ。

 力ずくでぷるぷる男の左腕を強引にもぎ取ってやる。
 腕をぼろ雑巾の様に引き千切られ、絶叫するぷるぷる男。

 その叫ぶ為に大きく開けられた口に、
 拳をぶち込んで栓をしてやる。

 歯を叩き折られ、顎を外され、
 お世辞にも男前とは言えなくなった顔になり
 ぷるぷる男は白目を剥いて崩れ落ちる。

 ああ、分かってるよ。
 お前らはこれ位じゃ死なないんだろう?
 頑丈だもんな。

 別にどうでもいい。
 それならばお前が完全に絶命するまで
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも
 拳を叩き込ませて貰うまでだ。

201ブック:2004/02/12(木) 17:45



 しばらくの後、壁にはかつて「ぷるぷる男だった」赤黒い染みが貼り付いていた。
 ここまでやれば流石に死んだだろう。
 それでも生き返って来るならばしょうがないが。

 そうだ、忘れていた。
 腕をくっつけなくては。

 バラバラに切り落とされた腕の残骸を拾い上げ、
 立体パズルの様に組み立てながら腕を修復していく。
 流石にここまでバラバラにされると修復も遅いらしいので、
 粘土の様になったぷるぷる男の体を「つなぎ」に使って
 応急処置をしておく事にした。

 と、小さな物音が俺の耳に入って来た。
 見ると、さっき頸椎を破壊してやった男が
 かすかに動いていた。

 何だ。
 あいつまだ、生きていたのか。

 俺はそいつの下まで近づくと、
 そいつの体を持ち上げて頭の上で真っ二つに引き裂いた。

 血がシャワーのように降り注ぎ、
 俺の体が深紅に染まった。

 楽しい。
 楽しいぞ。
 虐殺は楽しい。
 今なら、何で街の奴らが俺をいたぶっていたのかが良く分かる。
 自分より弱い奴を玩具の様に虐げる。
 こんな楽しい事、一度始めたら止められるか…!

202ブック:2004/02/12(木) 17:46


 その時、俺は自分に向けられた視線に気がついた。
 そちらに顔を向ける。

 みぃだ。
 良かった、無事だったのか。

 俺がみぃに一歩踏み出して近寄ろうとすると、
 みぃはその倍の距離俺から後ずさった。

 何だ?
 何に怯えているんだ、みぃ?
 ここにいた怖い奴らなら、俺がやっつけてやったぞ。
 例えまだ他にもさっきのような奴らがいたとしても、心配するな。
 この俺が、お前に指一本触れさせるものか。
 だから、そんなに怖がらなくても…

 ―――その時、窓ガラスに薄く俺の姿が映るのを、俺は、見た。
 血まみれの体。
 腹から覗く腸。
 怪異と化した脚。
 不気味な音を立て、おぞましく蠢きながら再生していく左腕。
 そして、その周りに広がる血の海と、
 そこに浮かぶ、見るも無残な屍骸。

 そうか、みぃが怖がっているのは―――…


「!!!!!!!!!」
 違う…!
 違う!!
 違う!!!

 俺がやりたかったのは、こんな事じゃない!
 俺は、
 俺はただ、
 食堂のおばちゃんを、
 親父ギャグの寒いおっさんを、
 俺を助けてくれた人を、
 ぃょぅを、
 ふさしぃを、
 小耳モナーを、
 ギコえもんを、
 タカラギコを、
 SSSの人達を、
 …お前を、
 ただ、
 俺はただ、
 守りたかった。
 何かの力になれればいいなと思っただけなんだ…!

 俺はもう一度みぃに近づこうとした。
 …しかし、俺はそこから一歩も動けなかった。
 何故、近づく事が出来ないのかは分からない。
 俺はただただそこに立ち尽くした。

 何かを伝えたかった。
 同時に何を伝えても無駄だと思った。
 一つはっきりしているのは、そもそも俺は喋る事は出来ないという事だ。


 俺とみぃの間の距離はおよそ五メートル。
 だが、そのたった五メートルが果てしなく遠く、
 俺は感じていた。


     TO BE CONTINUED…

203新手のスタンド使い:2004/02/12(木) 19:15
ブック氏乙です
ヽ(゚∀゚)メ(゚∀゚)メ(゚∀゚)ノ

204:2004/02/13(金) 00:14

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その5」



          @          @          @


 一台の真っ黒なサイドカーが、夜の道を走っていた。
 周囲は、典型的な欧州の田舎風景である。
 サイドカーの正面には、鷲のエンブレムが描かれていた。

 そのサイドカーには、3人の人影が見えた。
「この車も… 貴様の趣味か?」
 人影の1人、ハートマン軍曹は訊ねる。

「当然だ。私以外に『ツェンダップKS750』を愛用している者がいたら、是非お会いしたい」
 運転している枢機卿は笑みを浮かべながら言った。
 彼は、高級な礼服を纏っていた。
 …今のところは。

「このような風景は、どこの国でも変わらぬな…」
 山田は、一面の畑を見渡して懐かしげに言った。
 だが、見るからに位の高そうな聖職者が屈強な男を二人も従えて、漆黒のサイドカーで走っている姿は異様だ。

 ふと枢機卿は口を開く。
「戦争映画などで、ドイツ軍のサイドカーがよく転ぶシーンがあるな?
 実際、第二次大戦時によく見れた風景だ。
 あれは演出じゃない。史実に忠実なだけなのだよ…」

「そのような事、乗っている最中に言わないで頂きたい…」
 山田は嫌そうに言った。

「ところで、貴様のP-08なんて骨董品は使い物になるのか?」
 ハートマンは訊ねた。
 枢機卿は微笑みで答えた。
「もちろん。オートマ仕様、なおかつフルオート射撃が可能なようにカスタマイズしてある」

「それは、もはや別の銃と言わんか…?」
 ハートマン軍曹は呆れる。
「外観というのは重要だよ。ベレッタなんぞに神は宿らない。P-09こそが、祝福されし銃なのだ。
 軍曹の用に、節操のない真似はしない…」

「フン、この得物のことか?」
 ハートマン軍曹は手にしているPSG-1を顎でしゃくった。
「確かに軍用ではないが、狙撃銃としては世界最高峰だ。
 銃とは技術の産物であり、最も優れたものを使用する。それがアメリカの魂だ!」

 枢機卿はそれに対抗したように言った。
「私はとにかくルネサンスの人間なのだ。豪華なものが好きだ。
 そして、美しい『型』にこだわるのだよ。アメリカ人である君には分からないだろうがな…」

「ハッ! 型なんぞにこだわるから、ドイツは戦争に勝てんのだ!」
 ハートマン軍曹は吐き捨てる。
 山田は、興味なさげに風景を眺めていた。

 それをハートマン軍曹は咎める。
「おい! 貴様、話を聞いてるのか!!
 『関係ないね』ってふうな顔をするんじゃない!!」

 山田は面倒そうに言った。
「事実、関係あるまい。私の武器はこの青龍刀だしな…」

「そういえば、両者とも武器を併用するタイプのスタンドだな」
 ふと気付いたように、枢機卿は口を開いた。
「ほう、お主もか…」
「互いに苦労するな。俺達のようなスタンド使いは、武器が無ければ何もできん…」
 山田とハートマン軍曹は軽い会話を交わした。

 ふと、サイドカーが止まった。
 前方には巨大で古めかしい建物が建っている。
 壁はボロボロに剥がれ、崩れていた。
 まるで、荒廃した宮殿のような…
 だが、それは外観だけだ。
 あれは、カムフラージュに過ぎない。
 そう山田は直感した。

「ここは…?」
 ハートマン軍曹は建物を見上げながら訊ねた。
 枢機卿は車から降りる。
「ASA欧州支部だ…」

 山田は驚きの表情を浮かべた。
「敵陣…? ここを、我ら3人で攻め落とせと?」

 枢機卿は礼服の裾をはためかせながら、つかつかと建物に歩み寄った。
「いや、私1人で充分だ…」

205:2004/02/13(金) 00:15

 警護らしき人間が二人駆け寄ってきた。
 マシンガンを手にして、防弾チョッキを着用している。
 ただの警備にしては、明らかに重装備だ。
「止まれ! ここから先は私有地だ!!」

 そして、左右から枢機卿に銃を突きつけた。
「貴様、何者だ!? 来訪目的は!!」
 枢機卿の頭の左右に銃口が迫っている。

 枢機卿は横目で、右側の警備兵を見た。
「私は、『教会』の最高責任者だ。来訪目的は… 敵の殲滅・・・」

「なんだとッ!?」
 警護は大声を上げた。

 次に枢機卿は、左側の警備兵を見る。
「一つ教えてやろう、若造。人に銃を突きつける時は、もう一歩離れた方がいい。
 さもないと… こうなる」

 枢機卿は、左右から顔の横に突きつけられている銃口に素早く手を伸ばした。
 右手で右側の銃口を、左手で左側の銃口を、前方に突き出すように強く押す。
 警備兵が握っているグリップを支点に、銃がくるりと180度回転した。
 銃口が、それぞれ銃を手にしている警備兵の眼前に突きつけられる。

「な…!」
 その一瞬の出来事に、警備兵は身動きもとれない。
 枢機卿は手を左右に大きく伸ばし、トリガーにかかった警備兵の手に自らの手を添える。
 そのまま、左右の銃のトリガーを引いた。

 二人の警備兵は至近距離から顔面に銃弾を喰らい、脳漿を噴き出して倒れた。

「…ほう!」
 山田は感心したように呟いた。

 枢機卿は、手にしていた警備兵のマシンガンを地面に落とした。
 そして軽く礼服を払う。
「ここへ来た目的は3つ。1つ目は、ASAの欧州支部を壊滅させるため。
 ASAは、極東のかの島国で孤立させねばなるまい。
 2つ目は、諸君ら二人に私の実力を見せる為。
 下が上に不信感を持っていては、指揮に大きく影響する…」

「3つ目は…?」
 ハートマン軍曹は訊ねた。

 口の端を持ち上げて、笑みを浮かべる枢機卿。
「…個人的な事だ。私が吸血鬼になったのは、ごく最近なのだ。だから、実戦経験にブランクがありすぎる。
 最近では、訓練の教官としてしか銃を触っていなかったからな。カンを取り戻すと言うやつだ…」

 建物の扉が開いて、大勢の警備兵が飛び出してきた。
 全員が重武装。おそらく10人はいる。

 それを正面に見据えて、枢機卿は礼服の襟元に手をやった。
「…雑魚は私が片付けよう」
 派手に礼服を脱ぎ捨てる枢機卿。
 その下は、やはり漆黒のSS制服だ。

 警備兵達が射撃体勢を取りながら、枢機卿の前で横一列に並んだ。
 10の銃口が枢機卿に向けられる。
「両手を上げろ! 抵抗すれば射殺する!」
 警備兵は叫んだ。

 枢機卿は両手をまっすぐに降ろした。
 ジャキッ! というギミックの音。
 その両袖から、拳銃が飛び出した。
 
「なッ…! 撃てッ!!」
 警備兵が叫ぶ。
 二挺の拳銃を携えた枢機卿は、警備兵達の真ん中へ滑り込んだ。
 そして、間髪入れずに両手の銃のトリガーを引く。
 P-08の銃口から、フルオートで吐き出される銃弾。
 そのまま枢機卿は、まるでヌンチャクのごとく両手の銃を四方八方に振り回した。
 その動きは、どこか東洋の武術にも似ている。
 フルオート独特のバリバリという銃声が響いた。
 周囲360度への、一瞬の銃撃。
 乱雑にではなく、一発一発が正確に的を射抜く動き。
 手が空を切る度に、ヒュッヒュッという鋭い音を立てている。
 フルオートの弾をその身に喰らい、踊るように痙攣する警備兵達。
 枢機卿は素早く両腕を動かして、まるで全員を撫で斬りにするかのように銃弾を放ち続ける。
 硝煙が激しく舞い上がった。

 ――銃声が止んだ。
 警備兵達の身体が、グラリと揺れる。
 枢機卿は両足を広げると、両手の銃のグリップを合わせた。
 そのまま何も映っていない前方を凝視する。
 同時に、ドサドサと音を立てて倒れる警備兵の身体。

206:2004/02/13(金) 00:17

「ほう。貴殿、とてつもない手練だな…」
 山田は感嘆の声を上げた。

 枢機卿はポーズを崩す。
「私が、指示を下しているだけの男だとでも思ったのか?
 我が『教会』のエリート、代行者に戦闘訓練を施しているのは私だぞ…」

「それより貴様、見慣れん体術を使うな? まるで、東洋のアイキドウのような…」
 ハートマン軍曹は口を開いた。

 枢機卿は2人に視線を送る。
「君達は、『暗殺風水』というものを知っているか?
 おっと、山田殿には愚問だったか…」

「うむ…」
 山田は頷いた。
「風水を中心とした方角理論を、戦闘や暗殺に応用したものだろう?」

 枢機卿は満足そうに頷いた。
「そう。私の戦闘技術は、『暗殺風水』に極めて似ている。
 ただ、風水は風や水のエネルギーの流れを読み取るものだが…
 私は確率・統計にを効果的に戦闘に当て嵌める。
 これにより、最小限の動きで最大限の影響を及ぼす事が出来る。
 射程・軌道・射線等の要素を瞬時に分析し… 相手の思考を自らに投影し…
 そして、その全てを解析する」
 枢機卿は両手の銃をくるりと回転させた。

「最大限の殺傷効果を産む位置を維持しつつ、最も効果的な銃撃を可能にする。
 なおかつ統計的に反撃を受けない位置に移動する。
 この技術を極めることにより…」
 銃を持った両腕を、眼前で交差させる枢機卿。

「攻撃効果は120%上昇…!」
 枢機卿はキッと左を向いた。
 同時に、銃を構えたまま左手を腰の高さにまで下げる。
 右手の銃は頭の上で構えている。
 それはまるで、拳法の型を連想させた。

「防御面では63%上昇…!」
 枢機卿は流れるような動きでくるりと背を向けた。
 再び左を向いて、両手をそろえて中程に銃を構える。

「これを極めた者は無敵になれる…!」
 一瞬胸の前で両腕を交差させると、そのまま大きく両手を開いた。
 そして、山田とハートマン軍曹に視線を送る。

「もっとも、この私がこの任についてから50年。
 この技術を身につけた代行者はたった1人しかいないがな…」
 枢機卿は構えを解くと、指先でくるりと銃を回転させた。

「そのガンスピンも練習したのか? 無駄な技が好きなヤツだ…」
 ハートマンは呆れた表情で言った。

 枢機卿は満足そうな笑みを浮かべる。
 そして、両手の銃を西部劇のガンマンのように回転させた。
「銃を使う者にとって、ガンスピンの一つや二つは嗜みに過ぎない。
 私ほどに熟達すれば、拳銃はもちろんのこと…
 サブマシンガン、ショットガン… そしてロケットランチャーだろうが楽なものだ」
 そのまま、枢機卿は両手の銃をホルスターに収めた。
「かなり昔… 戦地に慰安に行った際は、ゲリラ所有のRPG−7でガンスピンを見せてやったぞ?
 おかげで、『アフガンのびっくり神父』と恐れられたものだ…」

「枢機卿殿、それは馬鹿にされているのだ…」
 山田は視線を落とした。
「ま、まあ、いつまでもここで立ち話をしている訳にもいくまい。乗り込むなら乗り込むぞ!!」
 ハートマン軍曹は、珍しく控え目に言った。


 入り口のドアの前に立つ3人。
 当然ながら、扉には鍵がかかっている。
「あれだけ警備を倒したのに、誰も出て来る気配は無い… 99.97%待ち伏せだな」
 枢機卿はドアを見上げて呟いた。

「残り0.03%は?」
 山田は枢機卿に顔を向ける。

「尻尾を巻いて逃げ出した、だ。それ以外の可能性は無視できるほど小さい」
 枢機卿はドアを見上げたまま腕を組んだ。

「ハッ! 開けた瞬間、銃弾でお出迎えってやつか!」
 ハートマンが大声を上げる。
「チキン野郎共がッ!」

207:2004/02/13(金) 00:18

 枢機卿はため息をついた。
「こんな常套な戦術など、何の障害にもならん… 下がっていたまえ。私が行こう」
 そう言った枢機卿は少し下がると、助走をつけてドアにドロップキックを喰らわせた。
 その勢いで、ドアは外れて床に落ちる。
 枢機卿が蹴り外した勢いで、まるでスケートのようにドアは床を滑っていった。
 そのまま、床を滑るドアに姿勢を下げて乗っている枢機卿。

 警備兵は前後左右から発砲したが、その銃弾は枢機卿の体にかすりもしない。
 ドアは、部屋の真ん中まで進むんで動かなくなった。
 枢機卿が姿勢を上げる。
 そのまま、その場で仁王立ちになった。
 そして、きらびやかな長い廊下の先を見据える。
 やはりボロボロの外見に反して中は豪華だ。
 廊下の左右には、壁を埋め尽くすほどの警備兵が配置されていた。

 それを眺めた後、枢機卿は口を開いた。
「お前達が… 私がこの部屋に侵入したのを確認するのに約0.01秒。
 銃を私に向けるまでにそれから約0.3秒。
 引き鉄を引くまでにそれから約0.07秒…
 この0.38秒の間に、私はお前達の思考及び攻撃パターンを掴んでいる…!!」

 枢機卿は銃を持った両手を大きく広げた。
 そのままトリガーを絞る。
 フルオートの銃声が部屋中に響いた。
 弾丸を喰らった警備兵の身体が、糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れる。
 枢機卿は視線を前方に保ったまま、両腕だけを動かして敵を屠っていた。
 右手と左手で、それぞれ別の敵を撃ち倒していく。
 攻撃と回避が一体となった動き。
 がむしゃらに発砲する警備兵の銃弾などは、向かいの壁に穴を開けるだけだ。
 フルオート射撃を維持しつつ、腕を交差させる枢機卿。
 左右にいた警備兵に弾丸が直撃した。

 そのまま、一歩踏み出しつつ背面を向ける。
 無論、フルオート射撃は維持したまま。
 次々と被弾して、薙ぎ倒されていく警備兵達。
 まるで踊るような動きで周囲に弾丸を浴びせながら、枢機卿は一歩一歩廊下を進んでいく。
 その一歩ごとに、狙う敵を変える枢機卿。
 銃を持った両腕が、それぞれ別の警備兵を撃ち倒す。
 その流れるような動きに警備兵は圧倒された。

 ふと、銃声が止んだ。
 枢機卿はそのままマガジンを落とすと、両腕を交差させたままくいっと手首を曲げる。
 銃口が真下に向き、袖口と銃底が接触する。
 その袖口から、ギミックによってマガジンが飛び出した。
 そのまま、両手の銃に装填される。
 この間、約0.2秒。
 
「と… 取り囲んで蜂の巣にしろ!!」
 警備兵が叫んだ。

「…相手に聞こえるように指示を出してどうする。私を舐めているのか?」
 枢機卿は銃を構えたまま両腕を交差させ、トリガーを引きながらゆっくりと旋回した。
 枢機卿を取り囲むように動いていた警備兵達が薙ぎ倒されていく。
「それと…銃を持ちながら相手を囲むなど、愚策の極みだ。同士討ちを恐れてはいないのか?」
 リズムを刻むように、撃ちっ放しのまま両腕を動かす枢機卿。
 その動作一つ一つが警備兵の命を掻き消していく。
 正確無比な射撃に恐れをなす警備兵。
 そして、その返り血すらかわしている枢機卿。
 もはや勝負にもなっていない。

「う、うわぁぁぁっ!!」
 警備兵はもはや逃げ腰だ。
 枢機卿は、左右に分かれて配置されている警備兵を駆逐しながら廊下を進んでいった。
 そして、がむしゃらにマシンガンを乱射する警備兵。
 その跳弾までもが、警備兵達を襲う。
「こういう廊下では、隅にいた方が跳弾を喰らう可能性が高い。
 …そんな事も知らずに、貴様等は銃を持つのか!?」

 そのまま、フルオートの弾丸に全身を撃ち抜かれていく警備兵達。
 いつのまにか、枢機卿は廊下の一番奥まで達していた。
 高さ4mはある立派なドアが正面に見える。
 もはや、立っている者は枢機卿以外にいない。

 枢機卿は、通ってきた廊下を振り返った。 
「兵の配置、行動、心理、攻撃パターン…
 未熟な点も多いが、定石通りだ。そこそこ理に適っている。
 兵法的に、特に過ちは無いと言えよう。 …だからこそ、私には勝てんのだがな」

208:2004/02/13(金) 00:18

 枢機卿は、豪華な扉を押し開けた。
 重厚な音を立てて開く扉。

 そこは、まるでホールだった。
 最高責任者の部屋である事は明らかだが、余りに広い。
「…ヨルゴゾ、ASAオルジュルジブエ!(ようこそ、ASA欧州支部へ!)」
 正面のデスクに腰掛けていた男は言った。
「ワタジバ ゴゴドジブディョルダ…(私は、ここの支部長だ…)」

「それはそれは…」
 枢機卿は部屋に一歩踏み込むと、銃を持った両手を交差させる。
 そして、左右に開いているドアに銃口を向けた。
 そのままトリガーを絞る。

 銃声が部屋中に響いた。
 たちまち穴だらけになって砕け散る扉。
 同時に、潜んでいた警備兵の骸が転がる。

「こんな見え透いた手段で私を殺せると…?」
 枢機卿は部屋の中に足を踏み入れた。

「ゾドゥルイヅャヅル ア゙ルタンドヅカイバイナカッタ… ンナヅェダァドゥオボルベ?
 (外にいる奴に、スタンド使いはいなかった… 何故だと思うね?)」
 余裕の笑みを浮かべながら、支部長は指を鳴らした。

 左右の壁が音を立てて開く。
 ズラリと並ぶ人影。
 左右に分かれてそれぞれ10人ほど。

「イカルキサマァガスゴルディディボ 20ルンボドスタンドヅカイガ…!(いかに貴様が凄腕でも、20人ものスタンド使いが…!)」

 並んだ人影は、ゆらりと傾いた。
 そのまま、力なくドサドサと床に横たわっていく。
 支部長の部屋の左右に、たちまちにして20人ものスタンド使いの屍が転がった。

「ンナヅェダァ!ンナヅェダァ!ナヅェダァ!(何故だ!何故だ!何故だぁ!)」

「全く歯ごたえが無い… 精進召されよ!」
「ハッ! そびえたつクソの山だな!」
 山田とハートマン軍曹が、左右に分かれて立っていた。

「クサムカァ! キサマァガミンナウォー!!(貴様か!貴様がみんなをー!!)」
 支部長は叫び声を上げる。

 枢機卿は、そんな支部長にくるりと背を向けた。
「…弾切れだ。そいつを頼む」

「ゴルナッタラ オリドスタンドディ…!(こうなったら、俺のスタンドで…!)」
 支部長の身体から、ヴィジョンが浮かび上がる。
 その刹那…

「遅いッ! 『極光』!!」
「みじめなクソは地獄に落ちろッ!!『ミッキーマウス・マーチ』!!」
 山田とハートマン軍曹は同時に叫ぶ。

「ダディャーナザァーン!!」
 支部長の身体は幾重にも斬り刻まれ、その肉片は蜂の巣になった。
 血飛沫が部屋中に飛び散る。

「さて…」
 汚れてすらいないSSの制服の中に両腕の銃を収める枢機卿。
 そして、山田とハートマン軍曹に向き直る。
「Amen! これをもって… ASAへの宣戦布告とする!!」
 枢機卿はSS制服の裾をはためかせて、そう宣言した。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

209新手のスタンド使い:2004/02/13(金) 17:38
age

2103−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/13(金) 18:09
スロウテンポ・ウォー

閑話休題その1<放浪人D・後編>

「いやーよー、随分風通しのいい体になっちまったなぁ」
全身に銃弾を浴び、それでもDは立ち上がった。
血は申し訳程度に流れているだけ、体中には小さな穴が無数に空いていて、そこから向こう側が覗けるほどになっていた。
その姿は本当に“蜂の巣”のようだった。

「貴様…どんなトリックを使った!!そんな状態で生きているなど!!」
黒服が叫ぶ。当然だ。
実際に起こる筈のない事象が今、目の前で起こっている。狼狽して当たり前だ。
「ケッケッケ…これは現実、紛れも無い事実なんだなこれが。ヒャハハ…」
体中に空いていた筈の穴は、既に何事も無かったように塞がっていた。
Dはただ笑っている。
吸血鬼のような再生能力、彼自身の戦闘能力、そして違和感…
まるで“幽霊を見ているような不気味さ”に、その場に居る全員が凍りついたように動かなかった。

「……この、バケモノ野郎がぁぁぁ!!!!」
沈黙を切り裂くように、ホスト風の男が長ドスをDの首目掛けて振り下ろした!!

―――ズバァッ!!

横薙ぎの一閃は彼の狙い通り…Dの首を切り落としていた。
ゴトリと床に首が転がり…胴体も力なく倒れた。

―――ウオオオオオオ…!!!

店内に響く大歓声、鬼の首を取ったように高笑いをするホスト風の男…。
そんな中で、ある“違和感”に気付いたのは…バーテンダーの男だけだった。

2113−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/13(金) 18:10
「(おかしい…)」

彼の視点はDの死体に向けられていた。

「(首を…動脈ごと切り落として…血が一滴も流れていない…!?)」

「まだですっ!!まだその男は!!」
彼の絶叫の前に、ドンッ…という鈍い音が響いた。
ホスト風は鼻血を吹き出し、倒れていた。
「残念…気付くのが遅かったかな?」
そこに居る全員が目を疑った。
“首の無いDの胴体が、Dの頭でサッカーのリフティングをしている”という光景があったからだ。
恐らくホスト風は、某石○くんのようにDの首シュートを顔面ブロックしたのだろう。
「そっちのバーテン兄ちゃんは勘が冴えてるみてーだ。ザコばっかじゃねーって事ね…」
首を、フルフェイスのヘルメットを付けるように装着し、バーテンに近寄るD…

「ば……バケモノだぁ!!」「に、にげ、逃げろーー!!!」「うあああ!!!」
突然、堰を切ったようにZEROの隊員達が逃げ出した。
扉の前で必死に、我先に逃げ出そうとする群れに…バーテンダーが溜息をついた。
「……逃げると言う事は裏切ると言う事。…“歩”に後退は許されない、前進あるのみ…って誰の台詞でしたっけ?」
落ち着き払った表情で、床に触れる。アルミか、或いは何かの合金が敷き詰められた床に。
「……“スティール・ケージ”……切り刻みなさい」
そう呟いた、次の瞬間。無数の悲鳴が響いた。

――ギャアアアアア!!!!

「なっ!?」
合金製の床が、針・刃に変わり…ZERO隊員達を切り刻んだ。
Dの立っている位置まで、血や肉が飛び散ってくる。
バーテンダーはただ、床に触れているだけだ。ただ、その背後に浮かぶ…甲冑騎士のような姿がなければ。

2123−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/13(金) 18:10
「てめぇ!スタンド使いか!?」
「YES…とだけお答えしましょう。僕の名はタカラギコ…その死体連中のリーダー“でした”。」
にこり…と笑う。あまりにも能天気な笑みだった。
扉の傍では、刃がミキサー状に回転し…数十人も居たZERO隊員達は一様に“液体”になっていた。
「…ふざけやがって。最悪の見世物だよ、これはよ…当分、ミートソーススパゲッティ食えねえよ…」
タカラギコは、その言葉にも、笑ったままだ。
「あははは!それは大変ですね!ZEROに狙われて、もう寿命が短いのに!」
まだ、笑っている。いや、さっきからこの男…笑う以外の表情を見せていない。

「キチガイか、お前。何がそんなにおかしいんだよ?」
「……感情欠落…とでもいいますか……あははは…僕には喜怒哀楽の“喜と楽”しか残ってないんです」
「…なるほど、納得って感じ。でもその笑顔が憎たらしいっつの」
「あははは……何とでも言いなさい。貴方を切り刻む日も…そう遠い未来じゃないですから。」
「…切り刻んでも、無駄だぜ?バラバラになっても…“150人の小さいDたん”になるだけだからな?」
笑う二人。タカラギコが床から手を離し、立ち上がる…
「それが貴方の能力ですか。アハハ…“アニメや漫画の演出が起こる”能力…ですか?」
「BINGO…それが俺の“スプーキィ”…まぁ、大まかには当たりだよ。」
Dの体から浮き上がる、吸血鬼のようなヴィジョンが…笑っていた。
「アンタの能力も…なーんとなくわかったぜ?“金属の変形”…だな?」
「あははは!ただのお気楽さんかと思ってましたが、そうでもないようですね!」
タカラギコの笑みは、Dの答えが正解である事を示していた。

「…やるかい?」
「あは…止めておきましょう。警察がそろそろ嗅ぎ付けます。次に会ったら…」
「OKだ…そういうこった。」
「あはは…“スティール・ケージ”、行きましょう?」
天井の鉄筋がゆっくりと伸びてきた。タカラギコはそれに掴まり…そのまま天井へと消えた。
「……ZEROか。…割とやっかいな仕事になりそーだな、おい」
Dは裏口からゆっくりと立ち去った。

数ヵ月後
彼らのどちらかが、死ぬことになるのは…二人だけが知っていた。

<TO BE CONTINUED>

2133−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/13(金) 18:11

スタンド名:スプーキィ
本体名:D(八頭身でぃ)

破壊力:E スピード:C 射程距離:C
持続力:A 精密動作性:B 成長性:A
ヴィジョン:人型

吸血鬼の姿をした憑依タイプのスタンド。
憑依された物は“アニメ・漫画でしか出来ない表現・行動”が出来るようになる。
応用性が高く、Dはこの能力で“不死身”に近い状態になっている。
(怪我が治るのは「ギャグ漫画では大怪我しても次のコマでは治ってる」という論理で)
ただし、スタンドを憑依させない状態では当然ダメージもある。


スタンド名:スティール・ケージ
本体名:タカラギコ

破壊力:A スピード:B 射程距離:B〜D
持続力:C 精密動作性:C 成長性:D
ヴィジョン:人型

甲冑騎士の姿をしたスタンド。
本体が触れていた金属を刃物に変形させて攻撃する。
金属が途切れず、繋がっていればどこまでも射程距離は伸びる。
スタンド自体も槍を持っている為、スタンドでの直接攻撃も可能。

214ブック:2004/02/14(土) 02:49
(注・これはSSSとでぃ達が出会う一年ほど前の話です。)

     救い無き世界
     時事ネタ番外・ふさしぃのバレンタイン


 私はSSSスタンド犯罪制圧特務係A班の部屋でデスクワークに勤しんでいた。
 最近はとりわけ大きなスタンド犯罪も無く、
 実動部隊である我々も今の所は室内事務が主な仕事になっている。
 それはとても喜ばしい事ではあるのだが、
 こうも毎日資料やパソコンの画面と向き合いっぱなしでは、
 多少辟易してくるのも事実であった。

「ん…」
 椅子にもたれかかって軽く伸びをして、
 壁にかかっている時計に目をやる。
 時計の針は七時ちょうどを今まさに指そうとしていた。
「皆、そろそろ晩御飯でも食べに行かないかょぅ?」
 私は同じく机に向かっていた同僚達に尋ねた。

「ああ、いいぜ。
 俺も丁度一服しようと思ってた所だゴルァ。」
「そうですね。そろそろ切り上げますか。」
「モナも行くモナー。」
 ギコえもん達が椅子から立ち上がる。

「ふさしぃも行こうょぅ。」
 私は座ったままのふさしぃに声をかけた。
「あ…私はもう晩御飯用にパン買っちゃたから、パスさせて貰うわ。」
 ふさしぃはパンの入った紙袋を見せながら断った。
「そうかよぅ。じゃあ、また今度にするょぅ。」
 しょうがない、ふさしぃ抜きで行くことにするか。

「ごめんなさいね、皆。」
 ふさしぃが済まなそうに謝った。
「別に気にする事は無ぃょぅ。」
 そういって私達は部屋を出て繁華街へと向かった。



「絶対におかしい。」
 ギコえもんがビールを喉に流し込みながら言った。
「あいつ昨日も一昨日もその昨日もその前からもずーっと晩飯がパンじゃねぇか。」
 ギコえもんが下品なゲップをする。

 ギコえもんが口にした疑問は、実は私も以前から感じていた。
 ふさしぃは別に料理がとりわけ苦手という訳ではない。
 もし料理を作るのがおっくうなのだとしても、
 毎日毎日パンばかり食べるというのは、はっきり言って奇妙である。

「あのパンの紙袋…確か『ベーカリー・マルミミ』と書かれていましたね。」
 タカラギコはそう言うと鞄からノートパソコンを取り出して何やら調べ始めた。
「…えーと、『ベーカリー・マルミミ』。
 店長は丸耳モナー氏で、高校一年生の息子丸耳ギコと一緒に店を切り盛りしている
 その店の人気商品である、ニラエキスをパン生地に練りこんだニラパンは、
 おいしくて、ニラ茶にもぴったりと大評判。
 丸耳モナー氏はそのダンディで甘いルックスから、近所の奥様方からの好感度大。
 町内ウホッ、いい男ランキングに毎年三位以内に必ず入賞してますね。」
 …タカラギコ、君はどこからそんな情報引っぱり出して来てるのだ。

 そういえば、このごろふさしぃは時々一人で物思いにふけったり、
 意味も無く溜め息を吐いてたりすることが頻繁にあった。
 私のこれまでの人生経験を総動員した結果、
 それらの行動は恋する乙女の仕草である確立が七十三パーセント。
 という事は、まさか、ふさしぃは…

215ブック:2004/02/14(土) 02:50

「もしかして、ふさしぃはその丸耳モナーさんと、
 不倫してるのかもしれないって事モナか!?」
 小耳モナーが興奮した様子で席から立ち上がった。

 …いや、別にまだそうと決まった訳ではないのだが。
 しかし、ふさしぃがその店の主人丸耳モナー氏に好意を抱いているとすれば、
 毎日毎日パン食をしているというのも一応の説明がつく。

「ああそうそう、丸耳モナー氏はだいぶ昔に妻と死別しているようです。
 ですから、ふさしぃさんがもしその方と何らかのお付き合いがあっても、
 別に不倫という訳では無いですよ。」
 タカラギコがノートパソコンの蓋を閉めた。

「で…どうします?」
 タカラギコが私達に顔を近づけながら聞いてきた。
「どうする…てどういう事だょぅ。」
 私はタカラギコに聞き返す。
「おやおや。ぃょぅさん、それを私に言わせるつもりですか?」
 タカラギコが嫌らしい笑みを浮かべた。

 まさか、タカラギコ、君は…

「成る程ねぇ…」
 ギコえもんもタカラギコと同じ悪い笑みを浮かべる。

「こうなったらやる事は一つしか無いモナー。」
 小耳モナーまでキャラに合わない表情になり、
 三人は誰からとも無くテーブルの中心でお互いの手を重ねた。

「君達、何を考えているょぅ!
 同僚のプライベートに干渉するなんて、
 いくら何でも許されなぃょぅ!!」
 私は三人を思い止まらせようと、必死に言葉を投げかけた。

「…ぃょぅさん、ならこの手は何なのです?」
 タカラギコが「御主も悪よのう」といった悪代官の顔つきで私にいった。
「あ…」
 私もいつの間にか、彼らと手を重ね合わせていた。



 次の日、私は昨日と同じくデスクワークに勤しんでいた。
「…ちょっと買い物に行って来るわね。」
 四時頃、ふさしぃがそう言って席を立った。

 私と、タカラギコと、小耳モナーの間に緊張が走る。

 私はふさしぃが部屋を出て三分ほど経ってから、
 ドアを開けて周囲を見渡し、ふさしぃが居ない事を確認すると、
 有休を取って予め『ベーカリー・マルミミ』の近くに
 張り込ませておいたギコえもんに連絡を入れる。
「…赤手袋から白靴下へ、Fは出発した。繰り返すFは出発したょぅ。」
「了解。Fを肉眼で確認しだい、追って連絡する。」
 必要最小限の情報交換を終え、携帯電話を切る。

「我々もポイントMに移動するょぅ。」
 私の言葉に、タカラギコと小耳モナーが静かに頷いた。

 ギコえもんは見つかったりしないだろうか。
 彼もプロだ。
 隠密工作の類の心得はちゃんと身につけている。
 しかし、ふさしぃもまたその道の一流。
 並の相手なら気配で尾行を察知する位はやってのける。

「ギコえもん…」
 私はギコえもんの無事を強く祈った。

 彼が見つかっては、作戦がそこで終了するだけでなく、
 彼の人生もそこで終了する。

 未だかつて無い程危険な任務に我々は身を投じているという緊張感から、
 額から脂汗が滲み出てきていた。

216ブック:2004/02/14(土) 02:50



 私達は『ベーカリー・マルミミ』を目指して慎重に歩を進めていた。
 小耳モナーに『ファング・オブ・アルナム』を発動させて、
 匂いでふさしぃの接近を警戒する。

 いざという時は直接戦闘も辞さない覚悟で、私達は進軍していく。
 皆の顔は、戦場に赴く兵士のそれである。
 それ位、ふさしぃの私生活に無断で干渉する事は危険である事を意味していた。

 不意に、携帯電話のバイブレーション機能が作動する。
 私は細心の注意を払って電話に出る。
「…こちら白靴下。お客は入店した。繰り返す、お客は入店した。」
 ギコえもんが小声で喋る。
「了解。こちらも間も無くポイントMに到達するょぅ。
 貴殿は引き続きそちらで待機してくれょぅ。そこで合流するょぅ。」
 私はそう告げて電話を切った。

 もう少しだ。
 もう少しで目的地へ、戦場のど真ん中に到着する。

 私の体中に、鳥肌がたっていた。


「…来たか。」
 『ベーカリー・マルミミ』の近くの電信柱の陰に、ギコえもんは身を隠していた。
 彼が生きているという事は、ふさしぃは恐らくまだ我々の存在には
 気付いていないという事だろう。
 私はほっと胸を撫で下ろした。

「一息吐いている場合ではありませんよ。」
 タカラギコが私の気の緩みを察知したのか、
 釘を刺すように言った。

「済まなぃょぅ。」
 危ない所だった。
 ついつい気を緩めてしまうとはとんだ失態だ。
 相手はあのふさしぃ。ほんの少しの油断が死を招く。

「…どうやら、あれが丸耳モナー氏みたいだモナ。」
 小耳モナーが店にある棚にパンを並べている中年男性を指差した。
「成る程、噂に違わぬウホッ、いい男だ。
 これならばふさしぃが入れ込むのも頷けるぞゴルァ…」
 ギコえもんが感心したように言う。

「…しかしおかしくありませんか?
 ふさしぃさんは丸耳モナー氏に特別な視線を一度も送っていない。
 それどころか、何か別のものを探しているような…」
 タカラギコが訝しげに呟いた。

 そういえばそうだ。
 いくらふさしぃが平静を装っているとはいえ、
 ほんの少し位は内面が行動に反映されてもいいと思うのだが…

「?別に、周りの客とかに気付かれたく無いだけだろうゴルァ。
 実は今この瞬間にも二人の間には秘密のサインが交わされて、
 そして日も暮れ、店が閉まった後に熱〜い夜を…」
 ギコえもんが勝手な妄想を浮かべてほくそ笑んだ。

「…っし!ふさしぃさんが店を出ますよ…!!」
 タカラギコが口に人差し指を当てた。

 ふさしぃが店の外に何かを見つけた様子で、急いで会計を済ませて店から出る。

 どういう事だ?
 丸耳モナー氏が目的ではなかったのか?
 それじゃあ、ふさしぃは一体何の為に…

217ブック:2004/02/14(土) 02:50


「!!!!!!!」
 私達の間に戦慄が走った。
 ふさしぃが、店を出た先で、学生服を着た男と何やら会話を始めた。
 あれは、あいつは…

「お、おい!あれは丸耳モナーの息子、丸耳ギコだよなゴルァ!!」
 ギコえもんが信じられないといった様子で私の肩を揺する。

「ふさしぃさんのあの顔…あれは間違いなく
 『恋する乙女は思い人と話しているだけでドキドキ!』といったそれ。
 対する丸耳ギコ君も、どうやらそれに薄々感づきつつも満更でもないといった様子…
 これはかなり進展してますね。
 さくらんぼ達成までもう一押しといった所でしょう。」
 タカラギコが冷静に分析するそぶりを見せるが、
 内心は動揺しまくっているのがその声の震えから手に取るように分かる。

 私も、目の前の事態を整理するのに混乱していた。
 まさか、ふさしぃの意中の人は丸耳モナー氏でなく、
 丸耳ギコ君だったとは…!

 ふさしぃ、高校生は流石にまずい。
 犯罪一歩手前だぞ。

「ど、どうするゴルァ…
 まさかこんな事態に陥るとは、思ってもみなかったぞ!」
 ギコえもんは半狂乱だった。
「と、取り敢えずここは見なかった事に…」
 タカラギコがよろよろとその場から去ろうとした。

「!!!皆、ふさしぃが居ないょぅ!!」
 私は皆に注意を呼びかけた。
 私達が動揺している間に、ふさしぃは既にその場から離れてしまっていた。

 まずい。
 どこだ。
 ふさしぃはどこへ行った…!

「何をしているのかしら?皆…」
 いきなり後ろから声がかかった。
 恐る恐る振り返る。
 …ふさしぃが、恐ろしい笑みを浮かべ、指を鳴らしながら佇んでいた。

「!!!!!!!!!!」
 体の全細胞が危険を告げる。
 我々は正に、蛇に睨まれた蛙だった。

「うおおおおおお!!『マイティボンジャック』!!!!」
 殺らなければ殺られると感じたのか、
 ギコえもんがふさしぃにスタンドを繰り出す。

「『キングスナイト』…!」
 ふさしぃもスタンドを出して応戦する。

「ご、ごめんょぅ!ふさしぃ!
 ぃょぅは止めたんだけど、ギコえもんが強引に…!!」
 私はその場で土下座をした。

「そ、そうなんですよふさしぃさん。
 私達は嫌だったんですけど、ギコえもんさんが無理矢理!」
「ギコえもんがモナ達を脅してきたからしかたなく…」
 タカラギコ、小耳モナーもそれに続く。

「…な!手前ら!!汚ねえぞ!!!!」
 ギコえもんが怒号を私達にぶつけてきた。

「よそ見している暇があるのかしら…?」
 ふさしぃがその隙をついてギコえもんに襲い掛かった。
「ま…待て、ふさしぃ!こいつらも同罪…
 ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 許せ、ギコえもん。
 この償いは必ずする。
 君の犠牲、決して無駄にはしない…!

 しかしギコえもんは何でふさしぃには勝てないのだろう?
 彼のスタンドが別に彼女のと比べて性能が劣っている訳でもないし、
 彼の戦士としての強さも彼女とはほぼ互角だ。
 これも相性というやつだろうか。

 私は目の前で血祭りにあげられていくギコえもんを見ながら、
 そんな事を考えていた。

218ブック:2004/02/14(土) 02:51



     ・     ・     ・



 それは三ヶ月ほど前の事だった。
 私が午後の休憩中気分転換に外を散歩していると、
 公園がなにやら騒がしいのに気がついた。

 何があったんだろうと公園を覗いてみた。
 そこでは、高校生位の男の子達が喧嘩をしていた。

 よく見ると、耳の丸いギコを他の学生が三人ががりという形になっている。
 丸耳のギコはそれにも怯まず応戦していたが、
 多勢に無勢、ついには地面に膝を着いた。
 三人組の一人が、近くにあったバールのようなものを拾い、
 そこへ止めを刺そうとする。

「そこまでにしときなさい。」
 私はバールを持って振り上げた手を後ろから掴んだ。
 ステゴロならともかく、流石に素手の相手に得物を持ち出すような事は
 放っておくことは出来ない。

「なんだよ!このババア!!
 手前も死にてぇのか!?」
 その一言がそいつの末路を決定した。
 何も言わずに急所に膝をぶち込み、股間を押さえてうずくまった所へ
 後頭部を足で踏み抜いた。

 悲鳴も上げずに失神する学生。
 その仲間らしき男達の顔が恐怖に歪む。

「あなた達も、こうなりたい?」
 私の言葉に、学生たちは倒れた男の子を抱えて一目散に逃げていった。
 私に向かってババアなんて言った報いだ。

「さて…大丈夫?あなた。」
 私は倒れている丸耳のギコにしゃがみこんで話しかけた。

「…余計な事しやがって。」
 口元を拭きながら彼は起き上がる。
 減らず口を叩ける位に元気はあるようだ。

「あなたね、男の子なら喧嘩の一つや二つもするでしょうけど、
 勝てない事が明らかなら逃げなさい。
 猪みたいに向かって行くばかりが度胸じゃないわよ。」
 私は彼に諭すように言った。
 突き進むばかりが勇気ではない。
 戦うだけなら犬でも出来る。
 蛮勇と勇気を履き違えるのは彼みたいな子供にはよくある事だ。

「うるせえ!あいつらなんか、お前が邪魔しなけりゃ今頃ボコボコに…」
 丸耳のギコはそう言い掛けて「痛てて」と脇腹を押さえた。
「…私にはどう見てもあなたがボコボコにされたようにしか写らないけど。」
 私は呆れ返った。
 まあ、へんにマセてるよりは、少々生意気な方が愛嬌がある。

219ブック:2004/02/14(土) 02:53

「ほら、鼻血が出てる。これ使いなさい。」
 私は彼にポケットにあったハンカチを差し出した。
 彼は渋々とそれを受け取って顔の血を拭う。

「糞。女に助けられるなんて…」
 丸耳のギコが悔しそうに呟いた。
「…そう思ってる限り、あなたは弱っちいままでしょうね。」
 今の言葉は少しカチンときたので、軽く皮肉をいってやる。

「って…!」
 丸耳のギコが私に掴みかかろうとしてきた。
 もちろんこんな素人の子供なんて私の敵では無い。
 軽くいなして地べたに転がす。

「…そのハンカチは返さなくていいわ。
 まあこれからは喧嘩をするなら勝てるかどうか相手を見極める事ね。」
 私はそう言ってその場を去ろうとした。

「待てよ!」
 後ろから丸耳ギコが叫んだ。
「何?まだ何か用?」
 私は振り返って尋ねた。

「…今日の事は恩に着る。ありがとう…」
 丸耳のギコは悔しさと恥ずかしさが半分ずつ混じったような顔でお礼を言ってきた。

 何だ。素直な所もあるじゃないの。

 私は心の中で微笑を浮かべた。



 彼と再び会ったのはそれから一週間後の事だった。
 私が日曜日に昼食を買いに何気なく寄ったパン屋『ベーカリー・マルミミ』で、
 彼が働いている所に出くわした。

「あら、あなた。」
 私は思わず彼に声をかけた。
「!!お前…!」
 彼は吃驚した様子で、目を丸くさせた。

「…ちょっとそこで待ってろ!」
 そう言って彼は店の奥に入って言った。
 奥から、「親父、ちょっと店番開けさせてくれ」という声が聞こえてくる。
 どうやら彼の親がここの店を経営していて、彼はその手伝いをしているようだ。

 やがて彼が店の奥から戻ってきた。
「おい、店の中じゃ駄目だから外に出ろ。」
 そう言って丸耳のギコは私を店の裏口へと連れ出した。

220ブック:2004/02/14(土) 02:54

「ん。」
 丸耳のギコは私にこの前渡したハンカチとパンの入った袋を突き出した。
「…ハンカチは一応クリーニングに出して血糊を落とした。
 それからこのパンはこの前のお礼だ。
 …気にくわないけど、礼の一つもしないのは男らしく無いからな。」
 丸耳のギコはつっけんどんに言い放つ。

「ありがとう。頂かせて貰うわね。」
 私は謝辞の言葉を述べて、ハンカチとパンを受け取った。
「自己紹介がまだだったわね。私はふさしぃ。あなたは?」
 しかし丸耳のギコは口籠るだけで答えようとはしなかった。

「名前を聞かれても答えないのは、男らしい行為なのかしら?」
 私は少し意地悪な事を言ってやった。

「…丸耳ギコ。」
 彼は嫌々ながらも答えた。
「丸耳ギコ君か。いい名前ね。」
 私は彼に微笑んだ。
「うっ…うるせえ!名前なんかどうでもいいだろ!!」
 彼は耳まで真っ赤になりながら叫んだ。
 こんなことで照れるとは、可愛いらしいものだ

 と、彼の顔の傷が一週間前のものにしては新し過ぎるのに気付いた・
「…あなた、また喧嘩したの?」
 私の問いに、丸耳ギコは俯く。
「呆れた。この前の私の話、聞いてなかったのかしら?
 そういえば、この前は何で喧嘩していたの?」
 私の質問には、彼はやはり答えず、口を噤んだままだった。

「答えなさい、丸耳ギコ!」
 私は丸耳ギコの顔を掴んで目と目を正面から向き合わせた。
 彼は必死に目を逸らそうとするが、させない。

「…あいつらが、家の作るパンは不味いっていったから……!」
 丸耳ギコが観念したように呟いた。

「え…?」
 私は思わず彼の顔から手を放した。

 そうだったのか。
 彼は私情で喧嘩をしていたのではない。
 彼の身内の誇りを守る為に闘っていたのだ。

 私は後悔した。
 もし私が彼と同じ立場なら、そいつらを三回はミンチにしているところだ。
 勝算など関係なく立ち向かっていくだろう。
 私への侮辱ももちろんだが、私の身内への侮辱はそれ以上に許さない。
 どこかのギャングの幹部は、『侮辱に対しては死の制裁も許される』と言った。
 私もその通りだと思う。
 それなのに、理由もよく聞かずに彼の喧嘩を咎めてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい。私…」
 私はただ、彼に謝るしか出来なかった。
 だが、こんな言葉が何になるというのか。

「いっ、いいって!気にすんな!」
 丸耳ギコが慌てて落ち込む私を励まそうとした。

「…それにな、俺、やっぱあんたの言う通り勝てない喧嘩はしないことにした。」
 丸耳ギコが恥ずかしそうに言った。

「!?別にこの前の私の言葉はもう気にしなくて…」
 むしろ私はもはや喧嘩を止めるどころか助太刀してもいい位だった。
「勘違いすんな。別にあいつらと闘わない訳じゃねぇ。
 俺はいつかあいつらが文句も言えねぇ様な凄い美味いパンを作ってやる。
 それなら絶対勝てるし、あいつらもぐうの音も出なくなるだろ。
 ま、もっともあいつらの方からつっかかって来るなら話は別だけどな。」
 丸耳ギコは、決意を宿した目で、きっぱりと言い放った。

「!?」
 赤い実がはじけたような気がした。

 嘘。
 やだ。
 冗談でしょ?
 こんな子供に…

 私は平静を装うのでいっぱいいっぱいだった。

 …この子、私より少し背が低いんだ。

 心が僅かに冷静を保っている部分で、
 私はふとそんな事を考えていた。

221ブック:2004/02/14(土) 02:54



     ・     ・     ・



「…それが丸耳ギコ君と君との馴れ初めかょぅ。」
 この前ふさしぃ以外の面子で食べにきた食堂で、
 私達はふさしぃから話を聞いていた。
 正直、もう既にご馳走様といった気分だ。

「で、どこまでいったんですか?
 A?B?それともまさか…」
 タカラギコが野暮な事を聞く。
 とはいえ私もその件に関しては興味津々ではあるのだが。

「!!違っ、彼にはまだ告白すらして無…!」
 ふさしぃが手足をバタつかせて全力で否定してくる。
 この慌てようだと、嘘は吐いていないみたいだ。

「しっかし驚いたぜ。まさかお前がショタ…」
 ギコえもんが言い切らないうちにふさしぃの拳が彼の顔面に叩き込まれた。
「げぶう!!!」
 血飛沫をあげて倒れるギコえもん。
 話を聞いた限りでは、その丸耳ギコ君とギコえもんは結構似ていると言える。
 しかしにも関わらずこの扱いの違いは何なのだろう。

「まあ良いじゃないですか。
 SSS(うち)は自由恋愛を禁止している訳じゃないですし。」
 タカラギコがふさしぃをなだめるように言う。

「しかし、君もいつまでもこのまま宙ぶらりんのままで居る訳にもいかない事は、
 分かってる筈だょぅ。
 何にせよ、何らかのアクションを起こす必要があると思うょぅ。」
 私はふさしぃにそうアドバイスをした。

「でも…私は…」
 ふさしぃが普段のふさしぃらしからぬ様子でもじもじと口籠った。
「何か問題でもあるモナか?」
 小耳モナーが聞く。
「その…だいぶ年上だし……」
「ぺちゃパイだし。」
 そのギコえもんの言葉にふさしぃは右のコークスクリューで答える。
 ギコえもん、君は何で結末が分かってて一々そういう事を。

「…仕事の事かょぅ。」
 私は声を落としてふさしぃに尋ねた。
 ふさしぃは黙って頷く。

 確かに、我々の仕事はあまり大っぴらに出来るものではない。
 というよりもむしろ裏街道のそれとほぼ同じだ。
 いくら恋人と言えど、一般人に我々の仕事を無闇に明かすのはタブーであり、
 機密漏洩罪で厳罰に処せられる。
 それは我々とて例外ではない。
 SSSが自由恋愛を保障しているにも限らず、
 社内恋愛がその大半を占めているのはそれが理由だ。

 だがそれ以上に、ふさしぃはSSSの任務の中で、
 自分の手を汚すような事もしているのが一番の理由だろう。
 今まではSSSの中での恋愛だったから特に気に病む事も無かったようだが、
 やはり一般人とでは抵抗があるのだろう。

「…君は、君と同じ様に手を汚しているぃょぅ達を軽蔑しているのかょぅ。」
 私はふさしぃに言った。
「!そんな訳ないでしょう!!!」
 ふさしぃが激昂する。
「ならば、何故ぃょぅ達の仲間である自分を卑下するんだょぅ。」
「!!!」
 私のその言葉に、ふさしぃは言葉を詰まらせた。

222ブック:2004/02/14(土) 02:55

「…ありがとう、ぃょぅ。
 そうね、ぐじぐじ悩むなんて私らしく無いわね。」
 ふさしぃが迷いを断つように言った。

「けっ、どうせ今までみたいに付き合ったとたん本性がバレて破局だろ。」
 ギコえもんがその言葉と共に天井にめり込んだ。

 …ギコえもんを弁護する訳ではないが、
 彼女と付き合った男達は彼女と別れると同時に再起不能に追い込まれている。
 もしかしたら丸耳ギコ君の事は諦めさせた方が良いのかもしれない。
 彼は一般人。命の保障は出来ない。


「ふむ、それではそろそろバレンタインデーも近いことですし、
 それを利用して想いを伝えるというのは如何でしょう?」
 タカラギコが口を開いた。
「!それはグッドアイディアだょぅ!!」
 私は賛同の声を上げた。
 流石タカラギコ、頭が回る。

「でも、上手くいくかしら…」
 ふさしぃが不安そうに言った。
「なぁに、そん時はお前お得意の房中術で…」
 ふさしぃの『キングスナイト』の剣がギコえもんを貫く。
 ギコえもんは四回目の三途の川観光ツアーに旅立つ事になった。

「誰が房中術が得意技ですって…!?」
 ふさしぃが既に意識を失っているギコえもんの襟首を掴みながら凄んだ。

 いや、ふさしぃ。
 早く能力を解除しないとギコえもんが本当に死ぬぞ。

「房中術って何モナか?」
 小耳モナーが尋ねてきた。
「あのですね、小耳モナーさん。房中術というのは女が男をその体を武器に
 意のままに操る為の技でしてね…」
 タカラギコが小耳モナーに余計な知識を吹き込む。
「えー!?ふさしぃエッチだモナー!きゃーーーー!!!」
 小耳モナーが顔を真っ赤にして顔を手で覆った。
「だから違うって言ってるでしょ!!
 タカラギコも何いらないこと教えてるのよ!!!」

 たちまち戦場と化す食堂内。
 これでこの店も出入り禁止だな。
 それと天井の修理費と食器代が一体幾らになることやら。

 私はうんざりしながら溜息を吐いた。



     ・     ・     ・



 ふさしぃがSSSの調理室で、明日に迫ったバレンタインに備え、
 チョコレートを作っていた。
 嬉しそうに、鼻歌を歌いながら手を動かす。

 せいぜい今のうちに有頂天になっているがいい。
 明日お前は、俺の今まで受けた暴力の数々に対する復讐の前に泣くことになる。

223ブック:2004/02/14(土) 02:55

「ギコえもん…やっぱり止めたほうが…」
 小耳モナーが不安そうに俺の裾を引っ張る。
「うるせえ、お前は黙って見張ってろ!」
 根性の無い野郎だ。
 ここまで来て、今更止められるか。
 この恨み、晴らさでおくべきか…!

 俺は小耳モナーに手で合図を下した。
 小耳モナーが携帯電話を取り出して、ふさしぃに電話をかける。
 ふさしぃの電話は、調理室の外の鞄の中だ。
 着信音が鳴れば、ふさしぃはこの部屋から出て電話を取りに行くだろう。
 その隙をついて、チョコレートの中にこの激辛調味料を…!

 ふさしぃの携帯電話が鳴る。
「?誰からかしら。」
 ふさしぃがそれを聞いて部屋から出て行った。
 よし、今だ!

 急いでチョコレートの入った鍋まで近づく。
 食らえふさしぃ。
 これでお前もお終いだ!!

「ギ、ギコえもん…」
 激辛調味料を鍋の中に入れようとした時、
 後ろから小耳モナーの声がした。
「何だよお前、いいからふさしぃとの会話を引き伸ばしてろ…」
 俺は文句を言いながら振り返った。

 が、そこで俺の動きは止まった。

「…そこで何をしてるのかしら?ギコえもん。」
 ふさしぃが柔らかな笑みを、しかし青筋も同時に顔に浮かべながら聞いてきた。
 小耳モナーは襟首を掴まれて拿捕されてしまっている。

「い、いやあ。チョコレートに隠し味でも入れてみようかなあなんて
 思ったりみちゃったりしてみちゃったりなんかして…」
 俺はしどろもどろになりながら、
 冷や汗を滝のように流して震える声で答えた。

「そおぉ。ならその隠し味是非ともあなたにも味わって貰いたいわね。」
 ふさしぃは逃げようとする俺を首根っこを掴んで引き寄せ、
 俺の口の中に、俺が持ってきた激辛調味料の瓶を突っ込んだ。

「!!!!!!!!!!!!!!」
 焼ける!!!
 舌が!!!
 喉が!!!
 胃袋が!!!
 焼け付くようだ!!!!!

 俺は口から火を吐きながら床をのたうち回った。
 ふさしぃはそんな俺をゴミのように窓から投げ捨てた。

 あれ?ちょっと待て。
 ここって確か三階…

 俺はそんな事を考えながら自由落下の法則に従って加速していった。

224ブック:2004/02/14(土) 02:56



 …ふさしぃめ、やりやがって……
 だがあんなもので終わったと思うなよ!
 まだ俺には策がある!!!

「もう止めようモナー、ギコえもん。」
 小耳モナーが喚く。

 うるせえ。
 俺がこうして松葉杖をつく羽目になったのも、
 お前がしっかり見張ってなかった所為だ。
 こうなったらお前にはとことん付き合って貰うからな。

「ちゃららら〜〜〜〜ん!」
 俺は自分の口で効果音をつけながら一つの箱を取り出した。
「何モナ、それは?」
 小耳モナーが不思議そうに聞いてくる。
「ダミープレゼントボックス〜。」
 俺は某猫型ロボットの声真似をする。
「これは外見は今回ふさしぃが丸耳ギコの為に用意したプレゼントの包装と全く同じ。
 しかーし、その中身はこけし、ヴァイブ、近藤さん等々、
 様々な卑猥極まりない大人のおもちゃがいっぱい詰まったドリームボックス!
 これを本物の箱とすりかえれば、
 丸耳ギコが喜び勇んで箱を開けてみてあらびっくり、
 ふさしぃに幻滅間違いなしってなもんよ!!」
 完璧だ。
 完璧すぎる。
 我ながら自分の頭脳に惚れ惚れするぜ。

「確かに完璧な作戦ね、唯一不可能という点を除いては。」
 後ろから聞き覚えのある声がした。
 機械人形のように、不自然なほどぎこちない動作で振り返る。

「…ごきげんいかが?青狸。」

 …ふさしぃは命乞いの機会すら俺には与えなかった。
 俺は自分が自腹で用意した大人のおもちゃを、自分の体で味わい、
 それから一週間、寝る前になる度にその事を思い出して、俺は泣いた。



    ・     ・     ・



 私は仕事を早めに切り上げ、鞄にチョコレートの入った箱を詰め込んで
 SSSを出た。
 時間は四時ちょうど。
 丸耳ギコと待ち合わせた五時までには十分間に合う。
 私は柄にも無く緊張して街中を歩いていた。

「きゃああああああああ!!!」
 と、突然通りから悲鳴が聞こえて来た。
 ぎょっとしてそちらに目を向ける。
 見ると、そこには日本刀を持った鎧武者が往来の真ん中に立っている。
 傍らにはその武者が切り倒したらしい街灯が倒れていた。

 あれは…まさか、スタンド!?

225ブック:2004/02/14(土) 02:56

「な、何?
 刀が独りでに動いて、さっき街灯を…」
 近くの女性が腰を抜かしていた。

 やはりスタンドだ。
 私にだけあの鎧武者が見えている。

 私はちらりと時計を確認した。
 既に時間は四時二十五分。
 急がないと間に合わない。

 だが、今はそんな事を言っている場合では無い。
 あいつをこのまま放置していては周囲の人に危害が及ぶかもしれない。
 そんな事、断じて見逃すわけにはいかない。

 私は鞄をその場に置き、鎧武者の前へと駆け出した。


「…貴様には我が姿が見えるらしいな。」
 正面から睨みつける私を見据え、鎧武者は口を開いた。
「あなた、一体何者なの?」
 私は鎧武者に尋ねる。
「人に名を尋ねる前に、自分から名乗るのが礼儀なのではないか?」
 鎧武者がそう聞き返してきた。
「それは失礼。私はふさしぃという名前よ。」
 私は鎧武者から目を離さない。
「…我が名は『いっき』。この太刀に宿りし怨念だ。」
 鎧武者はそう告げた。

 …どこかで聞いた事がある。
 稀に生物ではなく非生物にもスタンド能力が発動する事があると。
 そういえば日本には物に宿る、付喪神という妖怪がいるという言い伝えがある。
 もしかしたら、それはこのような物質に宿るスタンドを指していたのかもしれない。

「久方ぶりに目覚めてみれば、この国の有様は何だ?
 背ばかり高くなって、その実ひょろひょろの青瓢箪ばかり!!
 武士は、侍たちは何処へいった!?」
 鎧武者が叫ぶ。
 とはいえその悲痛な声を聞くのは今この場では私だけだ。

「…あなたはあまりにも永くこの世に留まり過ぎたのよ。
 その刀が使われなくなった時、あなたも眠りに着くべきだった。」
 私はこの彷徨える魂を鎮めるように言った。

「認めん!ならば我が再び我を必要とする時代を創るまで!!」
 鎧武者が、吼えた。
 スタンド能力を持たない者にも、その咆哮が振動となって伝わっているようだ。
「その言葉、宣戦布告と判断する!
 当方に迎撃の用意あり!!」
 私は鎧武者の気迫に圧倒されないよう、腹の底から声を出した。

「はっ、貴様のような女子に何が…」
 『キングスナイト』を発動。
 一瞬で間合いを詰めて剣撃を鎧武者の首へと撃ち込む。
 しかし剣が首に達するほんのわずか手前で、鎧武者は刀で私の剣を受け止めた。

「…成る程、どうやら相当の使い手のようだ。
 お主を見くびっていた事、素直にお詫びしよう。」
 一端距離を取ると、鎧武者は刀を上段に構えなおした。

 ここからが、本番だ。
 おそらくこの鎧武者はさっきのように奢って油断をすることは無い。
 それどころか最初から全力で向かって来る。

226ブック:2004/02/14(土) 02:56

「お主の力量に敬意を表し、この『いっき』十全の力でお相手仕る!!」
 空間が、爆発した。
 気がついた時には既に鎧武者が眼前に迫っている。
 そこから繰り出される上段からの愚直なまでの打ち下ろし。

 防御は出来ない。
 そんな事はするだけ無駄だ。
 間違いなく、受けたと同時に防御を突き破られて脳天から真っ二つに切り裂かれる。

 たまらず、かわす。
 そこに今度は左から逆袈裟の形での斬り上げ。
 だが重力に逆らっての斬撃の為、先程の斬り下ろし程の威力は無い。
 『キングスナイト』の剣で受ける。
 しかしその瞬間私の体が横に飛ばされた。

 何という膂力。
 重力を敵にした、力の込めにくい斬撃でさえこの威力。

 鎧武者が私が体勢を崩した所へ、突きを放つ。

 好機!
 決着を焦ったか。

 それを潜り込む形で紙一重でかわす。
 私の自慢の毛が何本か刀に切り裂かれて空に舞った。

 ここだ。
 がら空きになった胴に一閃!

 しかし鎧武者は寸前に後ろへ跳躍。
 胴が両断されるのを辛くも防がれた。
 だがそれでもかなりの深手は負わせれた筈だ。

「ぬうぅ!!」
 鎧武者が呻く。
 その胴の切断面から煙が上がり、斬られた分だけ肉体が消失する。

 やはり思った通りだ。
 スタンドならばスタンドで攻撃出来る。
 これならあの鎧武者を倒すのも可能な筈だ。

「剣を交えて分かったわ。
 今の所は私の方が少し上のようね。
 長年の隠居生活が、あなたの腕を鈍らせたのかしら…?」
 私はわざと鎧武者を怒らせるような事を言った。

 怒れ。
 そうすればそれだけ剣筋が怒りで曇り、弱くなる。

「…その手には乗らぬよ。」
 しかし鎧武者は挑発には乗ってこなかった。
 やはり戦闘に関してはベテランということか。

「しかし、確かにこのままでは苦しいな…」
 鎧武者はそういうと近くに停められているバイクに目をやった。
「ふむ、試してみるか。」
 鎧武者がバイクに跨った。

 動くものか。
 キーもついていないのに、エンジンが掛かる訳が…

 と、バイクから固有のエンジン音が出た。

 …そうか!
 付喪神は物に乗り移る妖怪。
 ならばまさかあの鎧武者の能力は、『物に乗り移り、支配する事』…!!

227ブック:2004/02/14(土) 02:57

 それ以上考えている暇は無かった。
 鎧武者がバイクごと私に突進して来る。

 咄嗟に、かわす。
 しかし横に飛び退いた所に迫る刀。
 『キングスナイト』で防御。
 だがバイクの突進力を味方につけたその一撃は凄まじく、
 その勢いのまま後方に弾き飛ばされる。

 背中から着地し、地面を無様に転がる。
 おかげでせっかく今日の為におめかしした服がズタボロになった。

「騎馬ならぬ、機馬といったところか…」
 鎧武者がバイクの性能に感嘆するように呟いた。

「卑怯とは云うまいな。
 己の力を最大限に活用し、戦場で利用できるものは何でも利用する。
 兵法の基礎だ。」
 鎧武者が私に確認するように言った。

 その通りだ。
 文句などある筈もない。
 これは、殺し合いなのだ。
 そんなものにルールもへったくれもあるものか。

「…ずいぶんと甘いのね。
 そんな事を一々聞いてくる暇があるなら、次の攻撃を仕掛けたら?」
 私は無理矢理強がりを言った。

 状況は最悪だ。
 何度もあの攻撃をしかけられたら、いずれ避けきれずに倒される。

「その意気や良し!ならば遠慮無く行かせて貰う!!!」
 鎧武者がバイクと共に突進して来た。

 ここで、負けるというの!?

 私は敗北を認めかけた。

228ブック:2004/02/14(土) 02:57

「ふさしぃの姐さん!!!」
 その時、黒い影が私を攫い、鎧武者の突進から私を救った。

 これは…
 ひょっとして―――

「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 私は黒い狼の名を叫んだ。
「応!!!」
 『ファング・オブ・アルナム』がそれに答える。

「ふさしぃの姐さん、大ピンチでやしたね。」
 『ファング・オブ・アルナム』が走りながら喋った。
「ええ、助かったわ。」
 私は『ファング・オブ・アルナム』に礼を言う。

「…『アルナム』、あなたが何故タイミング良くここに駆けつけたのかは、
 聞かないでおいてあげるわ。
 その代わり、少し協力して貰うわよ。」
 私の言葉に、『ファング・オブ・アルナム』はしまったという顔をする。
 大方、同僚達が私を尾行させるように小耳モナーをそそのかしたのだろう。
 しかしそのおかげで何とかピンチは脱せたのだから、
 今回はミンチにするのは止めておく事にしよう。

「ほう、それがお主の馬か!!」
 鎧武者が嬉しそうに私に言葉を投げかけた。
 彼にとっては、自分の有利なままでいるより、
 むしろ対等な闘いが出来る事の方が良いらしい。

「『アルナム』、いくわよ!!」
 私は『ファング・オブ・アルナム』の背に跨り、
 『キングスナイト』を発動させた。
 そのまま鎧武者に向かって突進する。

「来い!!」
 鎧武者が私達を真正面から迎え撃つ。

 ―――交差

 すれ違う瞬間に、剣と剣がぶつかり合う。
 私はその圧力に耐え切れず、『ファング・オブ・アルナム』の背から落とされる。
 やはり、筋力では向こうが上…!

 私は『キングスナイト』の剣を地面に突き立て、
 それを支えによろよろと立ち上がった。

「今までの剣舞、真に見事!
 だが、ここで決着だ!!我とここまで渡り合えた事を誇りに、
 我が刀の錆となれい!!!」
 鎧武者が私に最後の一撃を加えんと向かって来た。

 そうだ。
 それを待っていた。
 その方向から突進して来る事を…!

229ブック:2004/02/14(土) 02:58

「斬り裂きなさい!『キングスナイト』!!!」
 スタンドパワーを全開。
 地面に剣を突き立てた事で生じた亀裂を高速で広げる。

 亀裂はたちまち大きな地割れとなり、
 鎧武者のバイクの前輪をそこに飲み込んだ。

「何いいいいい!!!!!」
 鎧武者が体勢を崩して転倒する。
 卑怯とは言わせない。
 自分の能力を最大限に活用、あるものは何でも利用する。
 兵法の基礎だ。

「これで!終わりよ!!!」
 一気に鎧武者に接近、倒れている所に力の限りの斬撃を放つ。
 首、両腕、両脚、胴体、全てバラバラに切断する。

「…お見事……!」
 鎧武者は満足そうにそう言うと、目の前から掻き消えていった。
 どうやら、成仏してくれたらしい。

「……!」
 同時に私を強烈な睡魔が襲った。
 無理も無い。
 あれだけの大立ち回りに加え、スタンドパワーの使い過ぎ。
 体を酷使するにも程がある。

 駄目。
 眠る訳にはいかない。
 もう既に待ち合わせの時間は過ぎてしまっている。
 早く丸耳ギコ君の所へ行かなくては…!

 しかし私の視界はそこで閉ざされた。



 時計は既に、十時近くを指していた。
 私は息を切らしながら丸耳ギコ君との場所に駆けつけた。

 もう居る筈が無い。
 しかしそれでも私はそこに向かわずにはいられなかった。

「…遅かったな。」
 居た。
 丸耳ギコ君は、待ち合わせの場所で立っていた。

「丸耳ギコ君、何で…!!」
 私は驚きのあまり、二の句が告げなかった。

「それはこっちの台詞だ。何で遅れたんだ、嫌がらせか?」
 丸耳ギコは、そう言って私に歩み寄って来た。

「…ごめんなさい。」
 私は深々と頭を下げた。

 こんな所で待ち続けて、さぞかし寒かったに違いない。
 私が来ない事に苛立っていたに違いない。
 そう思うと、涙がぽろぽろと溢れてきた。

 やだ、何で。
 ちょっと、涙、止まりなさいよ。
 いい大人が、何子供の前で泣いてるのよ。

「遅刻したぐらいで泣くなよ大げさだなあ。」
 丸耳ギコが呆れたように言った。
「泣いてなんかないわよ…!」
 私は鼻を啜りながら言った。
 しかし全くその言葉には説得力が無い。
 子供の負けず嫌いと同レベルだ。

「…何で、待っててくれたの?」
 私はようやく涙を止めて丸耳ギコに尋ねた。
「別に。あんたなら、遅れてでも絶対やってくると思ったからな。」
 私はそこでまた涙が溢れそうになったが、何とか押し留めた。

 馬鹿だ。
 この子、大馬鹿だ…!

230ブック:2004/02/14(土) 02:58

「顔。」
 不意に丸耳ギコが私に言った。
「え?」
 突然の言葉に私はきょとんとした。
「顔に怪我してる。喧嘩したのか?
 人にはするなって言っといて勝手だな。」
 丸耳ギコはそう言いながら私にハンカチを差し出した。
「別にいいの。喧嘩には勝ったんだから。」
 私は顔を拭いながら、唇を尖らせた。

「ん。」
 丸耳ギコが急に手を突き出してきた。
「何?」
 私は思わず彼に聞いた。
「今日何か渡すものがあるって言うから、ここで待ち合わせしたんだろ。
 自分で言って忘れたのか?」

 …そうだ。
 忘れていた。
 そもそも私は彼にチョコレートを渡そうと思ってここに来たのだ。

「!!!!!!!!!」
 私はそこで鞄を鎧武者の現場に置きっぱなしにしていた事に気付いた。

 しまった…!
 ふさしぃ、最大の不覚!!
 ここまで来て、よりにもよってチョコレートを忘れるとは!!!

「どうしたんだ?」
 丸耳ギコが不思議そうな顔をする。

「…今渡すね。」
 私はそう言うと彼の唇に私の唇を重ねた。
 丸耳ギコは一瞬呆けたように体を硬直させると、
 次の瞬間驚た様子で私から離れた。

「…!おま…、何……!」
 丸耳ギコが何か言おうとするが、
 言葉にならずただ口をパクパクさせる。

「…嫌だった?」
 私は彼に不快な思いをさせてしまったのかと思い、
 恐る恐る尋ねた。

「いやっ…嫌というか、その…いきなりで……
 寧ろ嬉いけど…いや俺何言って……」
 彼は自分でも何がなんだか分からないといった感じだった。
 その姿をみて、私は思わず笑みを溢す。

「笑うな…!」
 丸耳ギコの顔はまるでゆでだこのようになった。
 堪えきれず、声を出して笑う。

「…勝手にしろ。」
 丸耳ギコはへそを曲げてそっぽを向いた。

231ブック:2004/02/14(土) 02:59


「…今度は俺からしてもいい?」
 一通り笑い終えた私に、丸耳ギコが聞いてきた。

「…うん。」
 今度は私の顔が真っ赤になった。
 …何で、今更キスぐらいでこんなに恥ずかしくなるのだろう。

 私は、そっと目を瞑った。
 丸耳ギコが私の両肩を掴む。
 そして、私に顔を近づけてくるのが、目を閉じていても分かった。
 あと、一センチで届く…

「ふさしぃーーー!!
 忘れ物のチョコ届けに来たぞーーーーー!!!」
 いきなりの大声がせっかくの雰囲気をぶち壊した。
 この声は…ギコえもん…!

「全く、こんな大事な物忘れるなってんだ。
 届けた俺に感謝しろよ。」
 ギコえもんが私達のところに来て、私にチョコレートの入った箱を手渡した。

 …ええ、とっても感謝してるわよ。
 お礼の印は、あの世への特等席ご招待でいいかしら?

「あの…ふさしぃ、この人、誰?」
 丸耳ギコがおずおずと私に尋ねてきた。

「ああ、仕事の同僚よ。
 さ、丸耳ギコ君、もう遅いからお家に帰りなさい。」
 私は彼にチョコレートを手渡すと、
 ギコえもんの腕を引きずりながらその場を去っていった。

「おいおい、ふさしぃ。何処へ連れて行く気なんだ?」
 ギコえもんが私に聞く。

「…とってもいい所よ。」
 そう、少なくともこれからお前に想像を絶する痛みがもたらされるこの現実よりは。

 私は人間一人の死体をどう警察にバレずに処分するか。
 その事に考えを巡らせていた。


    …HAPPY END?

 追伸・どうか今日この日が皆様にとって素晴らしき日でありますよう…

232:2004/02/14(土) 14:27

 ――ここは、モナ冒と異なる時間軸に存在する世界。
 言わば、パラレルワールド。
 世界が一巡したかどうかは定かではない。
 だが、この世界は…
 モナ冒の正当な展開には一切関連しないものである事を告げておこう。


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      「モナーの愉快な冒険」
       番外・バレンタインを突き抜けて

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 バレンタインデー、キッス♪
 バレンタインデー、キーィーッス♪ ウフフッ!
 今日は2月14日。
 そう、全国の男の子がワクワクする日だ。
 俺は部屋で歌い踊っていた。今年は大漁が予想される。

 …希望に満ちる俺を地獄に突き落とすような、不穏な気配。
 突然、轟音と共にドアがブチ割れた。
 舞い上がる硝煙の向こうに誰かが立っている。

 そこに立っていたのは、リナーだった。
 服の中から、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。
 そして、リナーはゆっくりと口を開いた。
「対化物戦闘用チョコ、『ジャッカル』。全長39cm、重量16Kg、装弾数6発。もはや人類には食べられない代物だ…」
 リナーは箱を開けた。
 『Search & Destroy』と刻印されたハート型のチョコが露わになる。

「…溶かす前の板チョコは?」
 俺は訊ねる。
「純銀製マケドニウム加工チョコ」
 リナーは余裕の笑みを浮かべて答えた。

「…生クリームは?」
「マーベルス化学薬筒NNA9」

「ブランデーは? VSOPか? ナポレオンか?」
「法儀式済み水銀ブランデーだ」

 俺はリナーの瞳を凝視した。
「パーフェクトだ、リナー」
 リナーは軽く礼をする。
「…感謝の極み」

 俺はチョコを手にとって、自らの眼前まで持ってきた。
「…これならば、『蒐集者』すらも倒しきれるだろう」

「…さぁ、食え」
 リナーは不意に言った。
 …えっ、俺が?
 そして、一歩一歩迫ってくる。
 ヒェーーッ!!
 助けてーー!!

「さあ夜はこれからだ!! お楽しみはこれからだ!!
 早く!(ハリー!)
 早く早く!!(ハリーハリー!!)
 早く早く早く!!!(ハリーハリーハリー!!!)」



「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 俺はベッドから飛び起きた。
 爽やかな朝の光が、部屋に差し込んでいる。
 リナーの姿は…どこにもない。
「ふう、夢か…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 身体は汗でグッショリだ。
 俺はいそいそと服を着替えると、台所に向かった。

「おはよう…」
 台所にはガナーがいた。
「なんかお前、随分久し振りモナね…?」
 首を傾げるガナー。
「何言ってんの? 毎日顔を合わせてるじゃないの…」
 そうだったかな? あれ? 
 …まぁ、いいか。

「それより、リナーは?」
「まだ寝てるんじゃないの? 昨日は、遅くまで台所にいたみたいだし…」
 ガナーはニヤニヤしながら言った。

 ふと見ると、流し台には粉々になった皿が山積みになっている。
 そして、壁に残る幾つもの弾痕。爆発の跡。
 リナーが台所に立っていた事は明白だ。

233:2004/02/14(土) 14:28

 そう。今日は2月14日なのだ。
 だが… 今さら、バレンタインデーってのもなぁ…
 ここまで来て、チョコをもらって大騒ぎとか… 何かイベント的に物足りない。
 もっとドでかい事をしたいものだが…
 
「おはよう…」
 寝不足なのか、目をこすりながらリナーが入ってきた。
「ああ、そう言えば今日は2月14日だったな」
 わざとらしく口走るリナー。
「…ところで、バレンタインデーの由来を知っているか?」
 そして、リナーはバレンタインデーについて語り始めた。

 3世紀のローマ、当時の皇帝クラディウス2世は兵士たちの結婚を禁止していたという。
 しかし、それに反対する1人の神父がいた。
 それが、バレンタイン司祭である。
「『覚悟』した者は『幸福』であるッ! 『覚悟』は絶望を吹き飛ばすからだッ!!
 人類はこれで変わるッ! これが私の求めたものだッ!」
 そう言って、彼は極秘裏に何人もの兵士達を結婚させた。

 しかし、これが皇帝の知るところとなった。
 皇帝の怒りをかったバレンタインは、投獄されてしまう。
「ここで私は死ぬわけにはいかないのだ――ッ!」
 そう言い残して、西暦270年2月14日に彼は処刑されてしまったのだという。

「…その日が、愛の告白をしたり、プロポーズの贈り物をする日へと変化したという事だ」
 リナーは説明を終えた。
 そして、無言でラッピングされた箱を差し出す。
「という訳で、受け取れ…」
 無表情で、目も合わさずに言うリナー。
 平静を装うなど、可愛いところもあるものだ…

 俺は、それを恭しく受け取った。
 手作りではなく市販品だ。
 結局、手作りは諦めたようだ。
「ほう、ゴディバモナか…」
 俺はチョコを見ながら呟いた。
 ゴディバと言えば、バリバリの本命仕様だ。

 …もちろん、嬉しい事は嬉しい。
 だが…

「それもいいけど… モナ達は、本編(モナ冒の現在の時間軸)ではもはや愛を誓い合った仲モナ!」
 俺はリナーの腕をとった。
「いろいろ語弊があるが… まあ、そうだな…」
 顔を赤らめるリナー。
「せっかくだから、いっそのこと結婚してみようモナ!」

 リナーは、しばらく目を伏せた。
 そして、俺の顔を真っ直ぐに見る。
「…ああ。一度ウェディングドレスも着てみたかったしな」

 空から天使が舞い降りてきた。
 周囲に広がるお花畑。
 どこからともなく、『教会』… いや、教会の鐘の音が聞こえる。
 ガナーが祝福のラッパを吹き鳴らしていた。

 ――こうして、俺達の結婚が決定した。

「式はチャペルウエディング!? 神前式!?」
 俺は掴み掛かるようにリナーに訊ねる。
 リナーはしばらく考えた末に口を開いた。
「チャペルウエディングにしないか…?」

 …うむ。
 チャペルの下で、純白のウェディングドレスを着るリナーを思い浮かべた。
 ――まるで天使。

「じゃあ、チャペルウェディングにするモナ!」
 俺は飛び上がって言った。
 リナーは満足げに腕を組んだ。
「幸い、聖職者には知り合いが大勢いるからな。式場準備は私に任せろ」

 …!!
 迂闊だった。
 俺は、完全に失念していた。

「あの… やっぱり、神前式の方が…」
 俺はおずおずと言った。
「男が口にした事を覆すのか? まして、こんな重要な事を…」
 リナーは俺を睨みつける。
「じゃあ… チャペルウェディングでいいデス。ハイ…」
 俺はカクカクと頷いた。

234:2004/02/14(土) 14:28

 ピンポーン!
 チャイムが鳴った。
「…誰だ?」
 俺は嫌な予感を抱えながら玄関に向かった。

 意外な事に、玄関に立っていたのはギコだった。
 チョコをパリパリと食べている。
 …行儀の悪い男だ。
 その後ろには、当然のようにしぃもいた。

「…ありゃ? 予想に反して平和そうだな。もう、家もブッ壊れてると思ってたんだが」
 ギコは意外そうに失礼な事を言った。
「…何の用モナ? バカップルは電柱の影でイチャついてりゃいいモナ」
「…お前らには言われたくねーよ。それにしても… チッ! 当てが外れたな…!」
 つまらなそうに、ため息をつくギコ。
 本当に、何をしに来たんだコイツは…

「それにしても、今年も随分とチョコもらってるモナね…」
 俺は、ギコがぶら下げている袋を見た。
 たぶん20個は入っているだろう。

「ああ? 普通だろ、これくらい」
 ギコは言った。
「大体、バレンタインデーってのはアフターケアが重要なんだ。
 それが、再び来年に結びつく。この循環を分かっていないヤツは、バレンタインの覇者にはなれんなぁ」
 チョコをパリパリとかじるギコ。
 それにしても…後ろでニコニコしているしぃが不気味である。

「しぃちゃんは… 何とも思わないモナか?」
 俺は恐る恐る訊ねた。

「…うん」
 しぃは頷いた。
「私がギコ君にチョコをあげている以上、それ以外の女のチョコなんて ゴ ミ 同然だしねぇ…」
 ニヤリと笑いながら言うしぃ。
 このニヤリスマイルが怖くて仕方がない。

「…それより、モナは婚約したモナよ」
 俺は高鳴る胸を抑えて言った。

 ギコはチョコを噴き出す。
「何だってー!! 誰と!?」
「誰とって… リナー以外に誰がいるモナ?」
「…そうか。できちゃった婚か…」
 ギコは同情を込めた視線を送ってきた。

 俺は真っ赤になって否定する。
「ちちち違うモナ! ノリでプロポーズしたら、OKを貰って…」
「やっぱり、お前たちの方がバカップルだゴルァ!」
 ギコは声を荒げて言った。
 確かに、そんな気がしないでもない。

「で、式は…?」
 ギコは訊ねる。
「リナーが式場とかの手配をするみたいだけど…」
 俺は答えた。
「じゃあ、司会進行やプログラム作成は俺がやるぜ!」
 胸をドンと叩くギコ。

 俺は考えた。
 どうせ親とかも親戚とかもいないし、結婚式自体が余興みたいなものだ。
 ここは、ギコに一任する事にしても問題はないだろう。
「じゃあ、任せるモナ」

「OK! じゃあ、今日はこれで失礼するわ… 安心しろ。一世一代のド派手な式にしてやるぜ!!」
 ギコは、しぃを従えて去っていった。
 …急に不安になる俺。
 本当に… 大丈夫なのか?


 翌日、ギコはヴァチカンに発った。
 式場関係者と打ち合わせをする為らしい。
 なお、式の日程は3月14日に決定したようだ。

235:2004/02/14(土) 14:29

 その次の日、ヴァチカンにいるギコから手紙が届いた。
 向こうと相談した結果、俺達の結婚式のプログラムが決定したようだ。
『招待者は、適当に振り分けといた。 新郎新婦共通の知り合いが多いからなゴルァ!』
 …という事らしい。
 そのプログラムは、封筒に同封されていた。

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃                                                      ┃
┃                ○式場:サン・ピエトロ大聖堂                      ┃
┃                                                      ┃
┃                   ・新郎:モナー                         ┃
┃                   ・新婦:リナー                             ┃
┃                                                            ┃
┃                   ・仲人:『蒐集者』                           ┃
┃                   ・司会:ギコ                           ┃
┃                   ・神父:枢機卿                             ┃
┃                                                      ┃
┃                    ○列席者                                ┃
┃                                                      ┃
┃           [新郎方]             [新婦方]                    ┃
┃                                                      ┃
┃           ガナー              キバヤシ                     ┃
┃            しぃ               阿部高和                    ┃
┃           モララー            ヌケドナルド                 ┃
┃           しぃタナ           きれいなジャイアン                   ┃
┃           レモナ               ムスカ                        ┃
┃            つー              スミス(×100)                  ┃
┃          おにぎり(故)          ハートマン軍曹                   ┃
┃           1さん                山田                         ┃
┃           簞ちゃん             しぃ助教授                  ┃
┃         公安五課局長            クックル                     ┃
┃         公安五課職員             ありす                    ┃
┃            フサギコ               丸耳                    ┃
┃          陸上自衛隊員            ねここ                    ┃
┃          海上自衛隊員          +激しく忍者+               ┃
┃          航空自衛隊員            吸血鬼達                  ┃
┃        モナソン=モナップス                                   ┃
┃                                                      ┃

236:2004/02/14(土) 14:32


┃                                                      ┃
┃                   ○スケジュール                        ┃
┃                                                      ┃
┃     1.迎賓                                           ┃
┃     2.神父入場                                             ┃
┃     3.神父による銃撃戦                                      ┃
┃     4.新郎新婦入場                                         ┃
┃     5.司会者による開宴の辞                                  ┃
┃     6.神父退場(お色直しのため)                             ┃
┃     7.仲人挨拶                                             ┃
┃     8.新郎新婦紹介                                         ┃
┃     9.神父再入場                                           ┃
┃    10.主賓挨拶                                             ┃
┃       ・神父:『ドイツ軍の興亡と盛衰について』                      ┃
┃       ・『蒐集者』:『神のミクロ的観測行為』                       ┃
┃       ・公安五課局長:『なぜスタンド使いが犯罪に走るのか』                ┃
┃       ・フサギコ:『国防の新しい形』                                 ┃
┃       ・モナソン=モナップス:『上院議員は砕けない』                      ┃
┃    11.乾杯                                           ┃
┃    12.新婦によるウエディングケーキ入刀(夢想神伝流居合)              ┃
┃    13.会食                                           ┃
┃    14.神父による銃乱射                                      ┃

237:2004/02/14(土) 14:32

┃    15.一般来賓の祝辞                                       ┃
┃    16.周辺住民避難                                         ┃
┃    17.女の戦い                                            ┃
┃    18.新郎・新婦退場(お色直しのため)                           ┃
┃    19.新郎・新婦再入場                                   ┃
┃    20.新婦によるキャンドルサービス( M16&M203グレネード・ランチャー)       ┃
┃    21.余興                                           ┃
┃       ・自衛隊員による国歌斉唱                                  ┃
┃       ・おにぎりに1分間黙祷                                 ┃
┃       ・きれいなジャイアンによるリサイタル                        ┃
┃       ・対『矢の男』戦再現                                 ┃
┃       ・ノストラダムス『諸世紀』解読                            ┃
┃       ・『アルカディア』による破壊行為                          ┃
┃       ・代行者による吸血鬼殲滅                                  ┃
┃    22.神父による自衛隊所有ヘリ撃墜                           ┃
┃    23.祝電披露                                             ┃
┃    24.花束贈呈                                             ┃
┃    25.公安五課により新郎逮捕(新郎退場)                          ┃
┃    26.神父による式場爆破                                    ┃
┃    27.新婦VS神父の一騎打ち                                   ┃
┃    28.司会者による閉宴の辞                                  ┃
┃                                                      ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


 …長いスケジュールだな。
 誰よりも目立ち、誰よりも暴れ回っている神父の存在も気になるが…
 そもそも、これだけの人数が式場に入るのか?
 サン・ピエトロ大聖堂って大きいのか?
 まあ、大聖堂というくらいだから問題はないだろうと思われるが。
 俺は、来る3月14日に想いを馳せた。
 ステキな式になるといいな…



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  *** 次回予告 ***

  嵐の吹き荒れる結婚式!!
  式場に響く銃声!
  新郎の身に襲い掛かる受難!
  (必然的に)血に染まる花嫁!
  巻き起こるスタンドバトル!
  そして、式場に現れた乱入者の正体とは…!

  それは、3月14日に明らかになる!

238丸耳達のビート:2004/02/14(土) 15:56
―――――っっっっあ―――…やれやれ。
僕はいつから、こんな事やってるんだっけ。
小さな診療所に生まれて、父さんと母さんがいて。
幼稚園、小学校、中学校って大きくなって。
結構苦労して志望校に受かって、初恋とか友達とか、そういうのたくさん楽しんで。
取り立てて優秀でもなくて、けど不良って訳でもない高校生になって。
一日二本牛乳呑んでも背が低いとか、一六になっても声変わりしてないとか、
褒めてもらうときの形容詞が未だに『格好いい』じゃなくて『可愛い』とか、
ちっぽけだけど僕にとっては大きい悩みとか抱えて。

ごくありふれた、けどちょっと幸せな『普通の人生』歩んで―――

―――の筈だったんだけどなぁ。
いつの間にか、大怪我作ってまで虐殺者みたいなのを退治して、
いつの間にか、正義のヒーローまがいの事やってて…
やれやれ。普通の人生が送りたい、か…いやいや、後悔してる訳じゃない。
あのまま父さんや母さんみたいに虐殺される人達から目を逸らすなんて嫌だった。
だから、おじいちゃんと一緒にこの生き方を選んだ。

けど…大変な道、選んじゃったな。

239丸耳達のビート:2004/02/14(土) 15:58
「…ミミ。マルミミ」
「…んぁ、お早」
「大丈夫か?マルミミ。手酷くやられたようじゃの」
 糸をつたって廃ビル内に降り立った茂名が、マルミミへと手をさしのべた。
その手を掴み返しながら、焼けただれた頬を吊り上げて薄く笑う。
「大丈ー夫。すぐに治るよ…」
 勢いを付けてくっ、と立ち上がり、ビル壁に開いた穴へと向かった。
                 スピードモナゴン
「やはり『矢』が関わっておる。S P Mへの連絡は済ませておいたよ」
「了解。疲れたー…」
 マルミミは純粋な吸血鬼ではないため、無茶な運動の反作用も大きい。
B・T・Hまで使うような戦闘は久しぶりだった。
 茂名は糸を使って壁まで登ったが、マルミミは波紋に触れないので壁に爪を撃ち込むことになった。
「せーの、よっ」
 最後は茂名に引っ張り上げてもらう形で、再び薄汚い路地裏へとよじ登る。
「早く帰って寝たい…」
「そうじゃな」
二人して気怠く呟いたその瞬間。


「おやおや、もうお帰りか?もう少し居てくれた方が私としては面白いのだがな」


「ッ―――――!?」
 背後からの声に、茂名とマルミミの二人が同時に振り向きながら身構えた。

240丸耳達のビート:2004/02/14(土) 15:59
高くも低くもない身長。太くも細くもない体格。声だけは男のそれ。
 全身が闇を凝縮したかのように真っ黒に染まり、時折水面のような揺らぎが体表に生まれ、消えていく。
ヒトとしてはあまりに歪な要望だというのに、まったく違和感を感じることができない。
その事が、逆に言いようのない恐怖を伝えてくる。        不  明
 本名、国籍、素顔、所属、能力、目的などなどなど一切合切『UnKnown』。
わかっているのは、誰彼構わず矢で射抜いてスタンド能力を発現させていること。
 そして、一本の『矢』を所有していること。

 SPMから『即時抹殺』指定を受けたスタンド使い。
                      コード
 カテゴライズ不明。危険度評価B。呼称は―――――


「『矢の男』…!」
「Yes・I・am。…ックク…。私も随分と有名になったものだな」
 茂名の言葉に、おどけて返した。
「そうでもないさ。SPMが必死になってるのに、情報の殆どは何も掴ませていないんだからね」
「人気者は辛いのさ。追っかけが多いからお忍びで行動だ」
「サインなら遠慮しておくよ。首の方をもらうから」
「面白い。できるものなら」

 言葉が終わるのとほとんど同時、『矢の男』の姿が掻き消えた。
「やってみろッ!」
 背後でB・T・Bの心拍感知に反応、ほとんど勘で地面に伏せる。
首筋に風。こめかみに冷や汗。肌に鳥肌。
 矢の男の裏拳が通り過ぎたのだと理解する間も無く、戦慄が走る。
〇,一秒遅かったら首を持って行かれていた。
「むぅッ!」
 腕を振り抜いて崩れた体勢のままに、『矢の男』が片足を上げる。
即座にB・T・Hを発動。片腕で地面を叩き、自身の体を跳ね上げる。
 直射日光も届かない路地裏ならば、吸血鬼の体でも影響は少ない。
空中で体が回転し、踵が踏み降ろされてアスファルトを砕き散らす様が視界の端に映った。

  キリリリリリリリッ!

 周囲に走る高い音。見ると、いつの間にやら茂名の指先から手術糸が伸びている。
先程の戦闘で仕掛けておいた仕掛けは一つだけではない。
後で回収する予定だったが、その手間も省けてしまった。
 波紋で強化された手術糸は、人体を容易く切り裂くワイヤーカッターとなって矢の男へ襲いかかった。
糸の軌道は複雑な上に数が多く、更に全方向からやってくる。
 回避は不能。防御も不能―――――

241丸耳達のビート:2004/02/14(土) 16:02


「無駄」


 ―――――の筈の波紋糸から、手応えが消失した。


「ダァッ!!」
 糸を持った右腕が、ぱきりと軽い音を立てて折れる。
握っていたはずの糸も、至る所で切断されていた。
「こ…は…!」
 茂名の体が壁に叩き付けられ、蜘蛛の巣のように亀裂が走る。
立ちつくしたマルミミの顔に、僅かな変化が現れた。
「…やっぱり…!」
 マルミミの呟きに、矢の男が振り向いた。
「何が『やっぱり』なんだ?『やっぱり勝てない』?『やっぱり逃げれば良かった』?」
「やっぱりお前の正体…『スタンド』だったか」
 黒く塗りつぶされたような矢の男の表情を読むことはできなかったが、ほんの少し驚く気配が伝わってきた。
「考えれば解りそうな事だったんだよ。スタンド使いを増やすだけ増やして放ったらかし…
 SPM財団の諜報部を騙し通せてるのに、やってることは支離滅裂。
 このギャップにみんなが頭を抱えてたんだけど、お前の鼓動が全ての答えだ」
「オ前ノ体カラハ『生命ノビート』ガ マッタク感知デキナイ。
 ミジンコ一匹ノ 心拍サエモ 把握デキル 私ノ能力デモ 感知デキナイ 鼓動ナド アリエナインダ」
「遠隔自動操縦型でも、生きてる限り『生命のビート』がある筈なんだよ。それが捉えられなかった。
 普通の心拍はちゃんと聞こえているにもかかわらず、ね」
「…トイウコトハ、結論ハタダ一ツ。オ前ハタダ『ルーチン』…恐ラク『スタンド使イヲ増ヤセ』…
 ソンナ感ジノ単純ナ命令ニ従ッテイルダケノ『幽霊』ミタイナ存在。ソレガオ前ノ正体ダ」
 ぴしりと指を突きつけて、B・T・Bが言い放った。


 …さも『全部お見通しだーっ!』とでも言わんばかりの態度だが、
実を言うと勝機は殆ど無いと言っていい。
全身の火傷に打撲、更にB・T・Hの反動。茂名にしても、戦闘の疲労が溜まっているはずだ。
 だいたい『スタンド』と言うことはわかっても、能力も基本スペックもわかっていない。
となれば、残る策はただ一つ。
                アァーンド
(命名『ハッタリ三寸ビビらせ&追い返し』…!)

242丸耳達のビート:2004/02/14(土) 16:07
 情けない策ではあるが、この状況下で他にマトモな案があったら教えてもらいたい。
「さあ、どうする?もうお前の正体は割れてる。逃げた方がいいんじゃないのか?」
『矢の男』の黒い顔面に、小さなさざ波が生まれた。
これが笑みなのだと、直感で理解する。
「ックク…そうは言っているが、本当は貴様もかなり消耗してるんだろう?」

                      ∩_∩
 ………いきなりバレテタ―――――( ;゚∀゚)―――――!!!!


(…ドウシマス?)
(…そりゃ、当然でしょ)
 す、とポケットに手をつっこんだ。小さく丸く、ザラザラした感触。
              アアァーァンド
(作戦変更。命名『ビビらせ&逃走』ッ!)
 その中の一つを掴みだし、地面へと投げつけた。

パァンッ!

 火薬が破裂する、独特の匂いと音。
矢の男の注意が、一瞬だけそちらへと向けられた。
何のことはない。近所のコンビニにも売っているようなただのカンシャク玉だ。
 だが、ほんの少しだけ意識が逸れれば、それだけで充分。
(今!)(Yes!)
 その隙を逃さず、B・T・Hを発動。吸血鬼の運動で、マルミミの体が茂名へ駆けだした。
「おじいちゃん!」
 うずくまる茂名の体を小脇に抱え、矢の男の脇を通り抜けて一目散に表通りへと向かう。
「…やれやれ…もう帰ってしまうのか?寂しい」
 B・T・Bの感覚から、矢の男が消失する。
「ものだな」
 鳩尾と顎に一発ずつの衝撃。胃が収縮し、脳が揺れる。
「うぶっ…っげぇぇっ…!」
「マルミミ!」
 立っていられない。茂名の体を落とし、自らも体をくの字に折って激しく嘔吐した。
「もう少しばかり付き合ってもらいたいものだな」
「客を無理に引き留めるのは無礼に当たるぞ…貴様ッ」
「まだまだパーティーは終わっていないのだよ。…ま、私と君と彼の三人しかいないがね。
 しかし、二人だけでも大事なゲストだ。最後まで出席して欲しいのだよ」
(このキザ男めが…生きていたときの本体はよほどスカしていたと見える)
 波紋の呼吸を整える。折れた腕の整形と、骨をくっつけるまでで六〇秒と少し。
それまでどうやって矢の男の攻撃をかわすか…
 考えをめぐらせていると、矢の男が路地の奥へと歩き出した。
数歩ほど歩いたところで立ち止まり、茂名達へと向き直る。
さざ波を一つ顔面に走らせて、懐かしむように矢の男が語り始めた。
「一つ、話をしてやろう。…なに、つまらないものさ…一人の男と、その従者の話だ」



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243新手のスタンド使い:2004/02/14(土) 22:44
バレンタインに便乗。

合言葉はwell kill them!(仮)バレンタイン番外編――ロマンス一直線

どうも、アヒャです。
さぁやって来ました2月14日。
そう、男と女の愛憎渦巻くバレンタインデー!
俺は早速一つ貰いました。父ちゃんから。
朝飯を食おうと起きたらチロル一粒渡されました。
始めて父親に殺意を持った瞬間でした。

さて、朝っぱらから兄貴の姿が見えません。
父ちゃんに尋ねたら、一枚の紙切れを渡された。

AM6:05

旅に出ます、探さないで下さい。
byネオ麦

学校はどうするんだ馬鹿兄貴。

学校に着くと、至る所で女どもが男にチョコ渡している。
「汝! わたしのチョコを受け取るか!」
「は! 喜んで!」

「くらえ!一分間に6000発ものチョコを発射可能30mmの鉄板を貫通できる愛のカタチだ!
 一発一発のチョコがお前の心を奪い取るのだ!」

ったく、おめでてーやつらだな。
そうそう、うちの学校にはバレンタインの禁止事項という物がある。

その1
チョコを投げつけない。
俺が入学する前、女子が彼氏にパラソルチョコを投げつけ、彼氏の後頭部にチョコが突き刺さるという事件が発生。

その2
お返しを強要しない。
基本です。

さて、教室に行くといきなりマララーが話しかけてきた。

「なぁ〜知ってるか?血夜固霊屠(ちよこれいと)はなぁ〜、古来中国において牛の血を固めて作った恐ろしくも忌わしい食べ物で
 食べると角が生えてくるんだってさ。」
「・・・・・いきなり何を言い出す。どっから仕入れた情報だ?」
「『ヴァレンタイン大作戦』民明書房刊より抜粋。」
馬鹿はほっといてツーの所へ行く。

「よおアヒャ。おまえよォ〜今年のバレンタインどうなんだ?チョコ貰えそうか?」
「バッ、馬鹿にするなよ!俺だって毎年義理だけど貰っているよ!」
「それよりモララーはモテそうだよなー。最高でいくつ貰ったんだ?」
ツーがモララーに尋ねた。
「僕?最高で19個だね。」
「じゅっ、19個ォ〜!?やっぱお前モテるんだな。」
「けれど実際このクラスの中にも居るんだよなァ、義理チョコも貰えねえ惨めな青春送っている奴がよォ〜。」

バギイッ!!
いきなり後ろから何かの折れる音がした。

「ハッ!」
恐る恐る振り返る。
マララーが折れたボールペンを持って佇んでいた。
しばらくアヒャたちを物悲しそうに見つめるとその場を立ち去った。

「マララー・・・・毎年この日つらいんだろうな。 」
彼らはただ、マララーを見送る事しか出来なかった。

244新手のスタンド使い:2004/02/14(土) 22:45

おもむろに教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。
「HR始めんぞー静かにしろー。」
来た、うちの担任こと八先生。
彼も毎年チョコ貰えない人種の一人だ。

「さて、今日はバレンタインデー。皆さん、恋してますか?」
早速先生に向けて攻撃が開始される。
「やめろ!石を投げるなセクハラじゃない!」
まったく、HR開始のときにそんなこと話すからだよ・・・・。

「さて、今日私は皆さんに話しておきたい事があります。」
またか、またどうせくだらない話だろう。
「今日彼女から手作りチョコ貰っちゃいました。」
にこやかに笑ながら綺麗にラッピングされたチョコを取り出す先生。

教室が一瞬時が止まったかのように静まり返った。

What did you say!?
おいおいおいおい、ちょっと待ってちょっと待ってプレイバックプレイバック。

今のは俺の幻聴か、はたまた空耳か。
しかし教卓の上に乗っかっているチョコはどう見たって幻じゃない!

彼女!八先生に彼女!
この衝撃の事実は俺たちがすんなりと受け入れられるはずは無かった。

ざわ・・・・。ざわ・・・・。
教室の至る所からざわめきが起こった。
当たり前だ、童貞=年齢、ずぼらでだらしない、奇行多し

《奇行の一例》

                MMMMMMMMMMMMMMMM
              �堯�
            . ∩∠ うををををう
 ( ヽ          | |��
  \\  ∧_∧  .| |  WWWWWWWWWWWWWWWW
   \\(´Д`; )ノ ノ|||||||||||||||||||/ /::::
     \       (  ̄ ̄ ̄ ̄./ /::::::
       |ヽ、     \|||||||||||||/ /:::::::::
     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ / /:::::::::::: ずべべ
     ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| ̄|::::::::::::::
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ .|  |::::::::::::::
   |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||  |:::::::::::::::


その先生に彼女が出来たとなるとだれだって驚く、俺だってそーする。
「・・・・・ウソダ・・・」
一番驚いたのがマララーだった。
「ウゾダドンドコドーン!!(嘘だそんな事!!)」
無理も無い。八先生がチョコ貰えたとなると、クラスの中でチョコ貰ってないのマララーだけになるからな。

「まあ、時に落ち着け。」
「落ち着いていられるか!あの先生がチョコ貰えたんだ!何で俺だけ貰えないんだよ!」
「まあ聞け。こんな時こそ逆転の発想をするんだ。あんな先生がチョコ貰えたということは、お前にもチョコが来る
 チャンスがあるってことだ。」
しばらく考え込むマララー。
「そうか、立ち直れたよ。ありがとう。」

よかった。単純な思考回路の持ち主で。
アヒャは心からそう思った。

245新手のスタンド使い:2004/02/14(土) 22:46

さて、お昼休みに入って事件は起こった。
アヒャがツーとヅーの三人で歩いていると、いきなりシーンが前から走ってきた。

「大変、大変!」
「おうシーンか、どうした?」
「正男君見なかった?一組の小森正男君。」
「正男?・・・・ああ、ヒッキーの野郎ね。そいつがどうかしたの?」
「こんな封筒渡されて・・・・。」

シーンが持っていた封筒には、達筆な時で『遺書』と書かれていた。
「オイ・・・・あいつまさか自殺するんじゃないのか!?」
「ちょっと待てよ、理由は?」
「決まってんだろ!きっとあいつチョコ貰えなかった事悲観して・・・・」
「あ、そういえばさっき階段上っていくところ見たよ。」

四人は顔を見合わせた。
「・・・・大変だ!」
そう呟いた瞬間に校庭が騒がしくなった。
皆一斉に屋上を見上げている。

「ヤッベ!マジでヤッベ!どうするんだ!?」
「俺とツーは屋上に行ってヒッキーを止めに行く!ヅーとシーンは下で説得して!」
そう叫ぶと、二人は階段を駆け上がった。



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246丸耳達のビート:2004/02/15(日) 01:38


     彼女イナイ歴=年齢
           ↓     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ∩_∩   │ 何がヴァーレンタインだッ!あんなモン所詮
        ∩(`Д´# )∩< 交 尾 解 禁 日 じゃないかーッ!!
        ヽ      /,  \________________
      / ̄ ̄ ̄目 ̄/\
    /.∩∩目_ /   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    / ̄(д´#)    、 < そーじゃッ!良く言ったぞ我が孫よ!
   /   (   )    ヽ  \____________
 /   ( _○_)     \ ノ
  ̄ ̄       ̄ ̄ ̄ ̄
       ↑
  男ヤモメ二十年以上



            │
            │
            │/
            │
            │ドグサレドモガァッ!
            │
            │ベンジョニハカレタタンカス(ry      ∧∧
            │                   (゚д゚*)Σ
            │カエルノショウベンヨリモ(ry      ■⊂⊂ヽ 
            │                     Y ノつ
            │\                    し



(*゚д゚)久々の出番が小ネタってどゆ事ー!?

247ブック:2004/02/15(日) 03:01
     救い無き世界
     第二十二話・闘鬼


「警察署の襲撃だけでなく、SSSの拠点への直接攻撃ですか…
 『大日本ブレイク党』にも困ったものですねえ。」
 『矢の男』が少し困った顔を見せた。

「…それにこの前も言ったが俺達のことまで嗅ぎ回ってる。
 そろそろ『教育的指導』が必要なんじゃねぇのか?」
 トラギコが『矢の男』に言った。

「ふむ、いたしかたありませんね…
 SSSにも結構被害が出たようですし、少し『間引き』をしますか。」
 『矢の男』頬杖をついた。

「トラギコ君、私達を調べている者は、もう調べているのでしょう?
 その方を見せしめに始末してくれませんか。」
 『矢の男』はトラギコの顔を覗き込んだ。
「…ふん。俺は報酬さえくれるんなら何だってするぜ。」
 トラギコは手で¥のマークを形作った。

「…分かりました。
 どうします?何人か手伝いに遣しましょうか?」
 『矢の男』がトラギコに尋ねる。
「いや、いい。俺一人で十分だ。
 それに、頭数が増えたらそれだけ俺の取り分が減る。」
 トラギコは振り返り、そこを去って行く。
「言うことを聞かない悪い子はどうなるか、
 『大日本ブレイク党』みっちりと教えてやる。
 この俺の『オウガバトル』でな!!」
 トラギコの背後に鬼のようなビジョンが浮かび上がった。



 月明かりの夜、トラギコは港の近くの廃工場の入り口の前に立っていた。
「…悪の組織のアジトの一つが廃工場とは、
 お約束過ぎてゲップが出そうになるな。」
 トラギコがそう毒づく。

 トラギコはスタンドを発動させると、
 正面の入り口から堂々と工場の中に踏み込んだ。
 たちまち、銃の夜間用レーザーサイトの赤い光線が彼を次々とターゲッテイングし、
 彼の体のあちこちを赤い斑点が彩ったようになる。

「何者だ!」
 自動小銃銃を構える兵士の一人がトラギコに向かって叫ぶ。

「処刑人。」
 トラギコがその言葉を口に出したとたん、
 彼に向かって無数の銃弾が襲い掛かる。
 室内に耳をさくような大音響がこだまし、硝煙が視界を覆う。

248ブック:2004/02/15(日) 03:01

 一通り弾を打ち尽くしたところで、
 部隊の指揮官らしき男の手を下ろす合図によって銃撃が中断される。

「…原型すら留めていま―――」
 しかしその指揮官の言葉は最後まで紡がれる事はなかった。

 トラギコは傷一つ無いまま、何時の間にか指揮官のすぐ傍まで接近していた。
 彼のスタンドがすっと手を動かす。
 すると指揮官のの頭部が、鼻辺りの部分で輪切りにされ、
 ゆっくりスライドしながら地面に落ちる。

「!?なぁ!!!」
 兵士たちは驚愕し、慌ててトラギコに向かって銃を乱射する。
 しかし、銃弾は彼には一発も到達しなかった。
 全てトラギコの目の前で、壁にでも当たったかのように弾かれる。

「無駄な努力はするもんじゃないぜ?なあおい。」
 トラギコの口が邪悪に歪む。
 その場に居た兵士達に、それから五分と生き残る者はいなかった。



 トラギコの通った道には、累々たる屍の山が築かれていった。
 彼はそんな哀れな兵士たちには一瞥もくれず、
 ひたすら廃工場を奥へと突き進んでいく。

「さあ、出て来いよ。
 前菜を喰い散らかすのには飽きた。
 それとも皆死んでまっ平らになるのか!」
 開けた空間の部屋まで出てきて、
 トラギコは闇に潜む気配に向かってそう告げた。

「いやはや全くもって見事な食事ぶり。」
 トラギコを見下ろせる所に位置する高台の上から、
 一人の女が姿を現した。

「あなたの目的は何です。押し売りですか?」
 女がトラギコに尋ねた。

「俺達の周りでうろちょろする鼠を虐殺しに来た。」
 トラギコが女に向かって言う。

「虐殺、なんと聞こえのいい言葉か―――――!」
 女が誰に言うでもなく呟く。
「しかし我々の邪魔をするなど、虫唾が走る!!」
 女の体から蒸気のようなものが立ち始め、
 見る見るうちにトラギコの頭上に集まり雲を形作った。

「溶かせ!『メトロイド』!!」
 雲からトラギコに向かって雨が降り注いだ。
 しかしもちろん唯の雨ではない。
 鋼鉄をも溶かす強酸による降水である。

249ブック:2004/02/15(日) 03:03

「!?」
 女に驚愕の表情が浮かんだ。
 彼女の『メトロイド』の雨にうたれたものが、瞬く間に融解していく。
 しかしその雨の真っ只中にいる筈の肝心のトラギコは、
 髪の毛一本も溶けてはいないのである。

「何故…!」
 女はそこでようやく、強酸の雨がまるで傘でも差しているかの如く
 トラギコの頭上で止められている事に気がついた。

「俺にそんな攻撃は効かねぇよ。」
 するとトラギコは何も無い筈の空間を一歩一歩階段を上るように足をかけて、
 高台の上にいる女に向かって近づいていった。
 それはあたかも、空中浮遊をしているかの様であった。

「くっ!!!」
 女は急いで逃げようとした。
 しかしトラギコは猛然と女を追跡し、
 ある程度接近したところでスタンドに手をかざさせた。
 と、次の瞬間女は何も無い筈の空間で、
 まるで壁に激突したかのような形で逃走を中断させられた。

「悪いな。そこは通行止めにさせて貰った。」
 トラギコが倒れた女を見下ろす。

「!!!あああああああああああ!!!!!」
 女がトラギコを道連れにしようと、
 自分を巻き込む形で『メトロイド』を発動させようとする。

 しかし、その覚悟も虚しく引きつった顔のまま女の首が、
 ギロチンにかけられたように両断され、ごろりと地面に転がった。

「…悪いな、姉ちゃん。」
 トラギコは既に事切れた女の頭に向かって、
 もはや声など聞こえるはずもない事を承知しながらも語りかけた。

250ブック:2004/02/15(日) 03:03



「ご苦労様。これが今回の報酬ですよ。」
 そう言って『矢の男』はトラギコに札束を手渡した。
 トラギコは黙ってそれを受け取る。

「いつもいつも済みませんね。
 あなたが私達に協力してくれて、心強い限りですよ。」
 『矢の男』がトラギコに微笑む。

「勘違いするな。俺は別にあんたの仲間になった覚えは無い。
 金で雇われてるだけだ。」
 トラギコがつっけんどんに答える。

「トラギコ!貴様性懲りも無く!!」
 『矢の男』の従者の一人がトラギコに突っかかろうとする。
 しかし『矢の男』はそれを手で制した。

「くっ…!!」
 止められた従者は猶も食い下がろうとしたが、
 『矢の男』が彼を無言で見据えると、
 不服そうな顔をしながらも引き下がった。

「ならばそれでもいいですよ。
 それなら金を払っている間はあなたは信頼出来るという訳ですからね。」
 『矢の男』が穏やかな口調で話す。

「随分とお目出たい考えをするんだな。
 いつか俺が裏切るとかは考えねぇのかい?」
 トラギコが挑戦的に答た。
 その言葉がさっきの従者の血圧をいっそう高くする。

「ふふ…大切な金づるをみすみす手放す程、あなたは愚かではないでしょう?」
 『矢の男』はニコニコ顔を崩さずに喋る。

「…ふん。」
 トラギコはそれに答えず、『矢の男』に背を向ける。

「守銭奴め、そんなに金が大事か!!」
 トラギコの後ろから先程の従者がここぞとばかりに皮肉の言葉をぶつけた。

「ああ、大事だね。お前よりも役に立つからな。」
 トラギコは首だけ振り向いて答えた。
 従者の顔の血管が、今にも破裂しそうになる。

「…そうさ。この世は金が無くちゃ、どうにもならねぇんだ。」
 その場を去りながら、トラギコは自分に言い聞かせるように呟いた。


     TO BE CONTINUED…

251:2004/02/15(日) 15:23

「―― モナーの愉快な冒険 ――   『アルカディア』・その6」



 俺は、吸血鬼の顔面に机の足を突き刺した。
 脳を完全に破壊すれば、こいつらは活動できなくなる。
「GYAAAAAA!!」
 痙攣しながら倒れる吸血鬼。

 その俺の背後から、別の吸血鬼が攻撃してきた。
 背中に打撲を喰らい、血を吐きながら吹き飛ぶ俺。
 着地した瞬間に、後ろからその首を掴まれた。
「吸ってやるぜェ…」
 そのまま、俺の首根っこを掴んで持ち上げる吸血鬼。
 その爪が俺の首に食い込む。
「うぉぉぉぉッ!!」
 俺は机の足を後ろ手に持つと、吸血鬼の顔面を串刺しにした。
 そのまま、吸血鬼の頭蓋の中を掻き回す。
 腕に込められていた力が消失し、俺の身体は地面に落ちた。

 左右から挟みこむように、吸血鬼が飛び掛ってきた。
 素早く机の足を引き抜くと、右側から迫ってくる吸血鬼の頭部に叩きつける。
 そのまま、大きく薙ぎ払って左の吸血鬼を攻撃した。
「SYAAAA!!」
 しかし、吸血鬼は机の足を受け止める。
 グニャリと曲がる机の足。

 そのまま、吸血鬼は俺目掛けて机の足を投げつけた。
 かわしきれず、俺の右肩に直撃する。
 バキバキという嫌な音。
 俺は片膝をついた。

「テメェ、やるじゃねぇか。吸血鬼3匹を瞬殺とはな…」
 『アルカディア』は俺の前に立った。
 右手はもう動かない。
 一対多数というのは、余りにも不利だ。

「だが、これでジエンドみてぇだな。ヒャハハハ…!!」
 大声で笑う『アルカディア』。
「オレのスタンドは無敵だ。そもそも、たった一人でオレに挑んだのが間違いだったんだよ!!
 まあ、あの代行者の女を連れて来たところで結果は同じだっただろうけどなァ!!」

 俺は、床に落ちているバヨネットに目をやった。
 ――『朽ち果てろ』。
 そして、天井に開いた大穴を見る。
 ――『崩れる』。
 そして、『アルカディア』に視線を向けた。
「お前の能力は、一見万能だ。言った事が実現するんだからな…」

「あぁ?」
 『アルカディア』が俺に視線を向ける。
「…だったら、なぜ『死ね』と言わない?
 そうすれば楽だろう。勿体つけて楽しんでいるようにも見えないしな…」

「テメェ…!!」
 『アルカディア』の表情が変わる。
 俺は気にせずに言った。
「結局、お前の能力は万能じゃないんだ。制限か限界かは分からないがな…」

252:2004/02/15(日) 15:23

「だからどうした? テメェの命はもう消えるんだぜ。俺の能力なんて考えてる余裕があるのか?
 あの世に行った後の事でも考えた方が建設的だぜ」
 『アルカディア』は事も無げに言った。
 だが… 明らかに余裕を欠いている。

「俺ごときですら瞬殺できないんだ… お前は、リナーには絶対に勝てない!」
 俺は笑いながら言った。
「テメェェェェェェ!!」
 『アルカディア』が拳を構える。
 その瞬間、俺の頭上で空間が裂けた。

「なッ!!」
 そう叫んだ吸血鬼の顔面が、渦にでも呑まれたように消失する。
 あれは… 『次元の亀裂』!!

「『矢の男』かァァァッ!!」
 『アルカディア』が怒鳴り声を上げる。
 裂けた空間から、モララーの姿が現れた。
 モララーは『アルカディア』に突進しながら、その腕を向ける。
「『次元の亀裂』!!」
 空間に亀裂が走り、その周囲が大きく波打った。

「そんなものォッ!! 『朽ち果て』ちまえェッ!!」
 『アルカディア』が叫ぶ。

 ――相殺。
 『次元の亀裂』と『アルカディア』の力は互いに消失した。
 そのまま、モララーは『アルカディア』に接近する。
「『アナザーワールド・エキストラ』!!」
 モララーのスタンドがアルカディアに拳を振るった。
「この…ッ!!」
 拳で応戦する『アルカディア』。

「喰らえ――ッ!!」
「砕けろォ!!」
 互いの拳のラッシュが激突する。
 モララーとしぃの拳から血が噴き出した。
 両者は素早く飛び退いて距離を置いた。

「ヘッ! パワーは互角のようだが…」
 『アルカディア』は右手を高く上げる。

 モララーは身体を反転させると、俺の体を掴んだ。
 そのまま、倒れているギコを抱え上げる。
「…なッ!? 逃げる気かッ!!」
 『アルカディア』は驚きの表情を浮かべた。

「どけェェッ!!」
 そのままモララーは、『アナザーワールド・エキストラ』の拳を振りかざしながら吸血鬼だらけの教室を突っ切った。
 吸血鬼達がモララーの身体に掴み掛かる。
「このッ!」
 素早く顔面に拳を叩き込んだモララーだが、その肩からは血が噴き出している。

「『次元の亀裂』!!」
 モララーは走りながら、窓に向けて『次元の亀裂』を放つ。
 それに巻き込まれて、何人か吸血鬼が消滅した。
 窓の周囲は、綺麗に消し飛んだ。

「逃がすかよォッ!! 『崩れろ』ォ!!」
 『アルカディア』が叫ぶ。
 モララーの足元の床に、幾つもの亀裂が走った。

「うおおっ!!」
 モララーは素早く飛び上がると、自分のスタンドで自らの体を殴りつけた。
 同時に、足元の床が粉々になる。瓦礫がガラガラと階下に落ちていった。
 モララーの身体は、自らを殴りつけた衝撃でそのまま吹っ飛ぶ。
 そして、そのまま窓の外に飛び出した。

253:2004/02/15(日) 15:24

「クソッ…!!」
 『アルカディア』は窓まで駆けると、そこから顔を出した。
 学校前の道路に、モナーとギコを抱えたモララーが立っている。
 彼は『アルカディア』を一瞥して、左手を校舎に向けて構えた。
「うおっ!!」
 『アルカディア』は、素早く身を屈める。
 同時に、『次元の亀裂』が3階に直撃した。
 その威力は窓を粉砕し、天井に大穴を開ける。
「チィッ…!」
 『アルカディア』が再び窓の外を見た時、モララーの姿は既に無かった。

「…逃がしたか」
 舌打ちする『アルカディア』。
「まあいい。あの傷じゃ、しばらくは使いモンにならんだろう。
 …傷を治療するヤツさえいなけりゃな!」

 『アルカディア』は、背後に並んでいる吸血鬼達に振り返った。
「ヤツのヤサは分かってるな…? 行け! 全面戦争だ!!
 あの代行者の女の心臓をオレの前に持って来い!!」

「ハッ!!」
 吸血鬼達の姿はあっという間に消え去る。
 『アルカディア』はため息をついた。
「代行者と正面から戦うのはあんまり気がすすまねーが… まあ、たかが女一人だ。どうとでもなるだろ」



          @          @          @



 モナーの家は真っ暗だった。
 鍵はかかっていない。
 モララーは、玄関を開けてずかずかと中に入った。
「いるんだろ! 出て来い! 早くしないと、モナー君が死ぬぞ!」

 真っ暗な空間から、リナーが姿を現した。
 そして、モララーの背で意識を失っているモナーとギコに目をやる。
「そうか… 先に学校に乗り込んだんだな」
 そう言って薄く微笑った。

254:2004/02/15(日) 15:25

「二人とも、かろうじて息はある。 …かろうじてだけどね。治療するなら早くしてくれないか?」
 モララーはギコとモナーを床に下ろした。
 リナーが傷口に素早く手を当てる。

「モナー君と君との間に何があったのか、君がこの町で何をしたのかは大体予想がつくけどね…」
 モララーは口を開いた。
 傷を治療しながら、モララーを横目で見るリナー。

「それと…吸血鬼殺人じゃなく、連続猟奇殺人の方の犯人はモナー君だろ?」
「…知っていたのか?」
「僕の頭の中には、『矢の男』も棲んでるんだよ」
 モララーは人差し指で自らの頭をトントンと叩いた。
「…だからと言って、モナー君や君、そして『アルカディア』に乗っ取られたしぃを憎む気はないよ。
 僕だって、『矢の男』に引き摺られて迷惑をかけたんだ。自分以外の者に精神を支配される辛さは分かってる」

 少し間を置いて、モララーは言った。
「…でもね、僕は怒ってるんだ。何でモナー君をほったらかしにしたんだ?
 モナー君がこうなる事ぐらい、容易に予想できたはずじゃないか…」

 リナーは立ち上がった。
「治療は完了した。とは言え、しばらくは立てないだろう。…後は任せた」
「後は任せたって… たった一人で行くつもりなのか?」
 慌てるモララーに、リナーは頷いた。
「ちょうど、準備も終わったところだ…」
 確かに、リナーはフル装備のようだ。どことなく服に重量感がある。

 そして、意識を失っているモナーに優しい視線を送った。
「この馬鹿は目が覚めると学校へ行きたがるだろうから… 殴ってでも止めてやってくれ」

 モララーは大声を上げる。
「無茶だ!! 吸血鬼が何人いるか分かってるのか!?
 『アルカディア』の能力だって脅威だ。僕でも、逃げるだけで精一杯だったんだ!!」

 リナーは無言で玄関に向かう。
「ちょっと待て!! おい!!」
 モララーの言葉を完全に無視するリナー。

「こうなったら、力ずくでも止める!! 『アナ…』」
 その瞬間、モララーの喉元にはバヨネットが突きつけられていた。
「『アナザーワールド・エキストラ』、か。スタンド名にしては長い方だな…
 それを言い終えるまでに、お前を70回は殺せる…」

 モララーは唾を呑み込んだ。
 殺意に満ちた目。

「踏んだ場数が違うんだよ、私とお前達とではな…
 お前達は、しょせんぬるま湯の中で生きてきた。
 技術のあるなしじゃなく、殺しのキャリアそのものが違うんだ」
 リナーは言った。

 いや、それは違う…
 モララーはそう思った。
 キャリアが違うとか、戦闘経験の差とか… そんなレベルじゃない。
 生き方が、生きる目的自体が僕達とは違うんだ…

 リナーはバヨネットを服の中にしまった。
 そして、つかつかと玄関に進む。

 ドアを開けながら、ふと振り向くリナー。
「私は、モナーを闇の中に引きずり込む事しかできなかった。だから、君達の手で連れ戻してやってくれ…」

「それは…つまり、モナー君を諦めるって事なんだね?」
 モララーはニヤニヤした笑みを浮かべた。
「…ああ。私のような人間は、彼のそばにいない方がいい。モナーを頼んだぞ」
 リナーは寂しげに頷く。

「――だが断る」
 モララーはきっぱりと言った。
「モナー君を日常に連れ戻すのは君の役目だ。人に押し付けるな」

「そうか…」
 リナーはドアを開けた。
「帰ってくるんだろうな?」
 モララーはその背中に声をかける。

「『罪がなければ、逃げる楽しみもない』か… それでもまだ間違ったままだ」
 リナーはそう言って、家を出て行った。
 モララーは、リナーの出て行ったドアを見つめていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

255新手のスタンド使い:2004/02/15(日) 21:20


256N2:2004/02/15(日) 21:45
これから貼ります。
かつてないまでの長引き具合なので、
今から貼るつもりの作者さんがいらっしゃいましたら
しばしお待ち下さい…。

257N2:2004/02/15(日) 21:48
    どうでもいいんだが、最近
    バレンタインも廃れ始めているらしいな

           ∧∧.   ∩_∩
     〜´ ̄ ̄(,,゚Д゚).  |___|F
      UU ̄ ̄ U U   (・∀・ )
'''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''``````''''''''''''''''''

            元々歴史が浅い上に
            商業目的だったからね…。

と言いつつも


          / N、Nヾヽ       ,;彡巛   ゙i  _\ー-゙
 │ 貰    /"´/ ミミミ=丶、   ,..,彡"ツ ヾヽ  l   \   (  今
 │ え     ∠-'' ー-=二r冫=ヾ,,,,r='"ヾ`ト、_j   _,, =゙   ) .年
 │ な      7__  .iヘi ;-゙゚'- イ゙゙iヽ-゙゚'-' i !rヽ   ̄/  (   .も
 │ か     -=='´  .i(i゙===' i , ゙==='' .')゙/  /     ) .1
 │ .っ     /     l、i  ) r''"´ ̄ヽ ) .!,.'  /ィ    (  個
 │  た     \_      i ( i;;;;;;;;;;;;;;;;;;i(  ,ィ  '"/     )  .も
 │  あ    \ー-゙ヽ    ト、) lr'⌒'⌒ノj )ィ' i.._ /,.-‐"7  !  ぉ
 !  ぁ    ヾ゙`      r| ;;,゙ヾ.====''./,;' i ヘ   /-'/
           \    /,j ;;,. `ー''" ,;'  ,!' ヽ_   /,イ /^l  ,
         ゙、゙`ヾ_\-y'" 、i  ;;,.  :.  .,;' /   ヾー,-、' i /  | / |/
       、へ ゙、,-'"/__  ゙、  ;;:.   .,;'./_,.. 、   \   i/ー-|./ '
  ,イ.,ィ ∧i\ ゙、ヾヘ '" ̄  /'  ゙、- ,,_   / ゝ ,;`ー─-、ヽ '   ' ゙`ー
//'´ レ ゙ヘ \゙      'ー-、゙、 ` 7 /´

258N2:2004/02/15(日) 21:49
南方戦線に集結せよ その②

大将に連れられ、オレ達は川沿いの草むらへとやって来た。
あの時もここを通っただけに、この間のシャイタマーの事が自然と思い出される。
あれはマジにヤバい戦いだった。
あのまま新幹線に衝突して木っ端微塵になっていても全くおかしくなかった。
だからこそ、この町で戦う為にも、その「サザンクロス」とやらに入団し、
どんな奴がやって来てもあっという間にのせる位強くならなくちゃ…。

「でも大将、わざわざ入団試験なんて必要あるんですか?
俺達の実力がどの程度なのかは空条さんから聞いてるでしょうし、
すぐに修行を付けてくれたって…」
いちいち試験を受けるのが嫌なのだろうか、ギコが異論を述べた。
そこに多量虐殺の件から早く奴らを潰したいというギコの焦りが感じられる。

大将はギコの目を見て言った。
「お前達の気持ちは分かるが、この組織には実力だけの奴は要らない。
欲しているのは強い意志と才能のある奴だ。それを今から審査する。
結果によっては、『この町を護衛する』のではなく、『サザンクロスに護衛される』立場となる。
良いな…?」
大将の眼から出る威圧感。
ギコは圧倒されてものが言えなくなってしまった。

「で、何だってこんな場所へ?」
オレは当初からの疑問を尋ねた。

「ああ、あのままあっちで始めたんじゃ近所迷惑になりかねんからな。
ここなら静かで人目にも付きにくいからやり易いだろう」
近所迷惑…人目に付きにくい?

「大将、そんなに人目を気にする必要があるんですか?
そもそもこんな場所に来なきゃいけない入団試験って一体…」
そういやオレ達はまだその試験が何であるかさえ聞いていない。
場所のついでにその一番肝心なテーマについても聞いておいた。

「スタンドの実力が最もよく分かる方法と言えば何だ?」
大将が問う。
スタンドの実力を測定する最善の方法って…。
体力測定…ではないし、んじゃ一体…?
ハッ!!

「と言うより、大将!!質問を質問でかえすなぁー!!
わたしが『入団試験は何か』と聞いているんだッ!
疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのかと小一時間問い詰(サクッ)いやああああああああ(バタッ)」

腹部に感じる痛み。熱いものが流れ出てゆくのが分かる。
薄れ行く意識の中、大将とギコ兄のやり取りが耳に入った。
「『口答え』じょうずじゃないか。そしてしゃべらない君は実に静かでイイよ…。
ギコ兄、『カタパルト』で(ギリギリ死なない程度に)治しとけ…」
「は、はい…。(最後までノッてあげるとは…。流石だぜ大将…!)」

259N2:2004/02/15(日) 21:50



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



俺が提示した試験のルールは3つ。
1、試験はスタンドバトルによって行われる
2、戦いにおける制約等は一切無い
  3人がかりで何を使っても構わない、但し「スタンドバトル」であることだけは忘れないこと
3、試験合格の条件は「俺に勝利すること」ではない
  負けても合格することは十分に有り得るし、
  もし仮に俺に勝てたとしても不合格の可能性もある

1と2については、まあ大して問題ではない。
肝心なのは3だ。
俺が試験で見たいのは、志願者の「将来性」だ。
現時点での実力もそうだが、果たして今後そいつが伸びるのか。
そして町内自警団「サザンクロス」の一員として相応しい精神の持ち主なのか。
空条の奴は結構評価していたようだが、昔馴染みであるからこそ
こいつらには疑わしい所があるのもまた事実だ。



辺りは薄ぼんやりと暗くなり始め、我々の耳には風の音しか入らない。
楓の木が泣き、生い立つ茂みはどよめき始める。

我々4人は少し開けた場所で対峙した。
3人の面構えは三者三様。
強い不安を感じているギコ兄。
負けられないという義務感に燃える相棒ギコ。
そしてどこか余裕を見せているギコ屋。
果たして内何人が俺の試験に合格できるのか、それがまた楽しみでもある。

「それでは、始めッ!」
俺の号令と共に試験が開始された。
と早速、ギコ屋とギコ兄が何か言い争い出した。

「よーし、それじゃ行くとするか!
ギコ、援護射撃よろしく!!」
「何ッ!?こいつの援護を受けるのは私だ!
決して貴様なんぞが弟の支援を受ける必要は無いッ!!」
「何だと!今ここで闘るか?クラァ!!」
「上等だギコ屋…。積年の恨みを今ここで晴らしてくれるわッ!!」

よく分からんが、関係無い所で戦争が勃発したようだ。
こいつら、本当に俺の試験を受けに来たのか…?
呆れて即失格と言おうとしたとき、相棒ギコが吠えた。

「いい加減にしろゴルァ!!手前ら何しに来たと思ってんじゃワレ!!
んな所で喧嘩してる場合じゃねえって事位分かるだろがこのボケナスども!!
分かったらとっとと逝け、ゴルァ!!」
『…ごめんなさい…』
謝る時だけ2人の声が重なった。仲が良いのか悪いのか…。
まあ、とりあえず今回の失態は目をつぶってやろう。

260N2:2004/02/15(日) 21:51

走り出す2人。
ギコ屋は左、ギコ兄は右へと向かって突進する。
と言ってもそこに協調性は感じられない。
各々が自分の考えだけで動いているらしい。
さしずめ相棒ギコに叱られてやむなく動いていると言ったところか。

しかしそんなバラバラな動きも、上手くすれば連携攻撃と成り得る。
タイミングのずれた攻撃に相棒ギコの「火炎弾」が追い討ちする。
彼らにとっては幸か不幸か、お互い一歩先を行きたい2人の攻撃は
その銃弾と相まって見事に避け辛いものとなって俺に襲い掛かった。

とは言え高々そんな攻撃でやられるようでは俺の名が泣く。
敢えて自ら銃弾に接近、3連撃のタイミングを微妙にずらす。
2人よりも一歩先に届く銃弾。
それを後のギコ屋・ギコ兄へ向けて弾き、結果「防御」する。
銃弾を喰らい、2人は空中でバランスを崩し、見事に接触事故を起こした。

「あ、熱い!ってか痛え!」
「クソッ、貴様が私の飛んだ方向に重なるからいけないんだ!
少しは考えて行動しろ!」
お前が言えたセリフか。
「何だと、そっちがオレに言いがかりつけるのがそもそもいけないんだ!」
それは自分の事だろ。
「止めんかこの阿呆どもがァ―――ッ!!」
再び吠える相棒ギコ。
いがみ合っていた2人が急に静かになる。
本当はこいつがチームリーダーじゃあないのかと思わざるを得ない。

「と・に・か・く!!お前ら見りゃ分かるだろうが3人がバラバラにぶつかっても意味がねえ!
こっちゃ何の為に3人で試験受けてるんだ!
力技が駄目なりゃ頭脳的連携プレーで行くしかねえだろ、ゴルァ!!」
『…すみません』
2人はとぼとぼと相棒ギコの所へと帰っていった。

261N2:2004/02/15(日) 21:52

「…とにかく、この作戦で行くしかないみたいだね」
「…激しく不本意ではあるが…」
「ゴチャゴチャ言わねえでとっとと行くしかねえぞゴルァ!」
何やらひそひそ話が終わり、3人が再び私と対峙した。
これが実戦だったら後ろから全員斬るなり刺すなりしている所だが、まあこの位は許容範囲だ。

4人の間に再び重苦しい沈黙が流れる。

それを破ったのはギコ兄であった。
「『カタパルト』!地面の土を材料に…」
ギコ兄の手中に地面の土が集中していく。
それが何かの形を形成し出したと思えた所で、ギコ兄はその塊を「クリアランス・セール」の右手にぶつけた。
「…巨大グローブを製造!!逝ってよし!!」

…流石にこれは少々無視し難いものがある。
空条の話では、ギコ屋のスタンドはスピードもまあまああるが、
それ以上に馬鹿力が恐ろしいスタンドだという。
対する私は、包丁の切れ味こそ自信はあるが、純粋なパワーは並程度。
まともに喰らったらダウン必死だろう。

だがそのグローブには最大の弱点があった。
ギコ屋が兄ギコを見て言う。
「ギ…ギコ兄。
あ…あんたがオレの作戦に素直に従ってくれた事は
すごく感動しているし感謝もしているんだ」
普段とは違うギコ屋の素直な態度にギコ兄は不審がった。
「…ハァ?貴様一体どうしたんだ?
突然私を褒め称えるような発言をするなど貴様らしくないな」

「でも『カタパルト』をひっこめてくれるとうれしいんだが…
あんたからは見えないがオレの腕がちょっぴりだが…

折れ始めてるんでね…」

262N2:2004/02/15(日) 21:53

ミシミシと音を立てながら湾曲していくギコ屋の腕。
これが普通だったら
「あっ カカカカタパルト!『グローブ』を解除しろォ―――ッ」
『S・H・I・T………………了解しました』
とかなるのであろう。
だがこの2人の間にはそんな思いやりは存在しなかった。

「…この軟弱物ォ―――ッ!!役立たず!!
自分で立てた作戦を自分で駄目にしてどうすんじゃ!!」
ギコ兄の激しい叱責。
それでもギコ屋は言い訳を続ける。

「…そんな事言ってもさ、手で持つならともかくはめてんだぞ?
腕全体に重さが掛かるからこんなんじゃパンチ一発打つことだって出来やしないよ!」

この期に及んで無理だと言い張るギコ屋に、ギコ兄の怒りは爆裂寸前だ。
「………近くに廃車があるな?中にはまだガソリンが残っている…。
人一人吹っ飛ばすには十分な量だ…」

三度目の冷戦状態。
しかし二人以上に、離れた相棒ギコの殺気の方がこの俺にまでひしひしと伝わってくる。
二人も馬鹿ではなく、流石にもう同じ事を三度も繰り返しはしなかった。

…いずれにせよ。
俺が今一番警戒を払わなくてはならないのは「カタパルト」だ。
近距離パワー型の「クリアランス・セール」も確かに脅威ではあるが、
少なくとも今すぐ「土塊グローブ」を外すとは思えない。
わざわざあんな代物を付けたのは、作戦無しの行動であるはずが無かろう。
必ず後で何かに使うだろうが、それでギコ屋は動きを封じられる。

だがギコ兄…、奴は基本性能こそ低いが能力が凶悪過ぎる。
「物質を組み換える」この手の能力は幾らでも悪どい方向に応用が利く。
現にこれまで自動車だの何だのを材料に高性能の重火器を幾つも作り出したと聞くし、
それ以上に「でぃの脳細胞を他人に植え付けて人格を狂わせる」など、
身の毛のよだつほど恐ろしい能力であることこの上ない。
結論として、まずはギコ兄を最初に潰し、その後の状況次第でギコ屋か相棒ギコの
順番を変える…これがベターな策であろう。
そう思い、俺がギコ兄を見据えた、瞬間………

263N2:2004/02/15(日) 21:55



「クラァッ!!」
!!
身体のすぐ脇を吹き抜ける旋風。
そこには例の「土塊グローブ」が、「クリアランス・セール」の腕に繋がって浮かんでいた。
直感的なものでぎりぎり避けることは出来たが、全くの予想外の出来事だ。

ギコ屋の弱音、あれは俺の長年の経験からして口先だけの空言なんかではない。
あの時、確かにギコ屋は限界を感じていた。
それが嘘の如く今軽々と振り回すなど…どう思案を巡らせても「理解不能」だ。

かわしたのも束の間、すぐに2回目、3回目が飛んで来る。
最初にバランスを崩してしまったため、避けるのでさえ辛い。
そんな所へ、際どい一撃が放たれる。
すぐさま俺は飛び退いたが、果たして避けきれるか…。

ここで俺はふと考えた。
もしかしたら、グローブは最初は本当に重量があったが、それは単なるハッタリで、
俺が目を離した隙に「クリアランス・セール」でも何とか振り回せる、
それでも十分破壊力の出るギリギリの所まで軽量化したのではないか。
俺は包丁を敢えてグローブの軌道上に残しておいた。



俺の目論見は見事に外れた。
俺が所有する10本の中でも最も破壊力があり、「強い」包丁。
それがいとも簡単に砕け散った。
それに伴って全身に軽い痛みが走る。
俺の身体はそのまま地面を転がった。

どういう事だ?
グローブはやはりハッタリなどではなかった。
重量は最初とは変わっていない。
包丁に受けた衝撃がそれを物語る。
では一体ギコ屋はどうやってあれを振り回しているのか?
奴の言う通り、あのまま持ち上げていれば腕が折れているはずだ。

ふと見ると、ギコ屋の身体に乳白色のチューブが繋がっていて、後衛の二人の方に伸びている。
あれは…何だ?
何かをギコ屋に供給しているのだろうが、それは一体…?

264N2:2004/02/15(日) 21:56

いや、待てよ。
ギコ兄の近くには、楓。
あれは確かイタヤカエデだから、砂糖も採れるはず…!
「分かったぞ!!
 お前がそれを振り回せるのはそのチューブのおかげという訳か。
 ギコ兄がチューブから即効性の高い栄養剤のような物を注入する事により本体の能力を上げれば、
 それに伴ってスタンドパワーも上がり、以前と同じように拳を振り回せるという事だ。間違いない!!」

俺は一目散にそのチューブを破壊しに向かった。
当然それを阻止すべく放たれる相棒ギコの銃弾。
だがそんなもの、恐るるに足らない。
チアリーダーだかが入場行進で棒を回す如く包丁を回転。
全弾を反射し、ギコ屋への牽制に利用する。
奴も必死に応戦するが、遂に耐え切れず、右上腕と左足太腿に被弾した。
ギコ屋は手足を奪われ、相棒ギコの銃弾は無意味。
攻撃に特化していないギコ兄はただただ様子を見守るだけだ。
「もらったァ―――ッ!!」
俺はチューブ目がけ、包丁を振り落とした。



「流石だ大将!俺達3人の連携プレーを簡単に打ち崩すとは…」
相棒ギコがチューブ一点を見つめる俺を見下して言った。

「だが我々もこんな単純な方法であなたに勝てるとは思っていませんよ…」
口元に笑いを含めたギコ兄が冷たく言い放つ。

「栄養補給なんざでオレ達が満足するとは思ってもらいたくないからな!」
傷を受けながらも大口を叩くギコ屋。
何を今更…。

その瞬間、俺の全身に再び衝撃が走る。
あの痛みが。
俺の武器が破壊される痛みが。

眼前の包丁は無残にも砕け散っていた。
だがその『刃があるべき空間』には既に土塊は愚かギコ屋の腕すら存在しない。

「クラァッ!!」
空気の流れが突然俺に向かって走り始める。
瞬間仰け反ると、俺の腹スレスレを土塊がすり抜けていった。
と間もなく引き戻された拳が今度は連撃となってやって来る。
思わずその場を飛び退かずにはいられなかった。

突然の予期せぬ攻撃に自然と息が荒ぐ。
それをまだ素人のはずのギコ屋は自分の方が熟練であるかのように眺めた。
相棒ギコが言葉を発する。
「確かに『栄養補給』までは正解でした…。
でも残念、それではまだ50点なんですよね…。
…俺が何で兄貴の傍に居たと思いますか?
うちの相棒にもっと加勢することだって出来たはずなのに、どーして?」

265N2:2004/02/15(日) 21:57

…波紋。
俺としたことが、こんな簡単な可能性を見逃すとは、自分で自分を斬り殺したくなる。
チューブで送る栄養剤に波紋を練り込めば、
そりゃあれだけの重さに耐えられても全くおかしくない。
見れば先程の被弾した傷跡はもう残っていなかった。



試験だというのに、ここまで新人に良いようにされるとは…。
次第に自分の中でフラストレーションが募っていくのが分かる。
今までの奴だったら、もう少しガキ染みた浅い策で乗り切ろうとして失敗して当たり前だった。
それが何だ?
こいつらは試験官である俺を逆にはめ切った。

…久々に戦士としての血が騒ぐ。
            ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
もう一試験官として決まり決まった常識的な対応をしてあげるのは止めだ。



再びギコ屋のラッシュが俺に襲い掛かる。
だが問題無い。
この程度のラッシュだったら真正面から相手してやる必要すらない。
両手に4本ずつ包丁を持ち、ギコ屋に向けて「スロウナイフス」。
それに驚いたか、攻めの勢いだったラッシュが防御の為のものに変わる。
その瞬間、背後に回りこみ、一閃。
…と思ったが、なかなか良い勘をしている、寸での所でガードされた。

「クソッ!さっきよりスピードが上がっている!!もはやあいつだけでは倒せん!!
 弟!!私はあいつのサポートに行ってくる。引き続き、波紋サポートを頼んだ!!!」
「分かった!」
ギコ屋が劣勢なのは誰が見ても火を見るより明らか。
流石に後ろから援護するだけではいられないらしい。
ギコ兄は相棒ギコから離れ、そしてある程度俺からも距離を取った位置へと移動した。

「『カタパルト』の真髄を見せてあげますよ。
大将、怪我しても保険で何とかして下さい」
確かにこいつの能力の底は深い。
その点に関しては三人の中でもトップかもしれん。
だが、持っている才能に基礎能力が追いついていない。
それが、こいつの最大の弱点。
「フッ…。まあ、良い。見せてもらおう。その真髄とやらをッ!!」

相棒ギコの手の内に納められた木・鉄屑・自転車のチューブetc…
それらはみるみるうちに形状を変え、やがてギコ兄の腕の中には見事な『石球ボーガン』が出来上がった。
時間にして、僅か3秒程度。
たったそれだけの間にそれだけの物を完成させるとは流石だ。
…だからどうということもないのだが。
ただそれだけ、何の捻りも無い余りに単調な技だ。

266N2:2004/02/15(日) 21:58

「射出用意…。
3、2、1…必殺『パール・ハーバー』!!」
石塊が推定30発ほど連続で飛んでくる。勿論、ギコ屋を避けて俺に当たるように。
ギコ屋を壁にしようと試みるが、その都度ギコ兄も角度や位置を変えて打ってくる。
しかし、この方法では
「銃を持った経験の無い奴がマフィアのアジトに正面からショットガンを持って入って行く」ようなもの。
要するに、「無駄どころか事態はますます悪くなる」という事だ。

全ての石球の動きを瞬時に判断。
『最も頑丈な包丁』を使い、ジャストミートの角度で打ち返す。

「何の、いくら私でもそれ位は避けることは出来る!!」
基本能力が低いと言っても伊達に経験を積んだ訳ではないらしい。
自分の方向に飛んで来た弾丸全てをスルスルとかわしていく。
だが…。

「あくまで、お前はな…」
ギコ兄が気付いても時既に遅し。
俺が狙っていたのは、別にギコ兄だけという訳ではない。
俺が狙っていたのは、三人全員である。
最も本体が近くにいるギコ屋は特に格好の標的だ。
「下手な鉄砲も」作戦で手数を増やしたのが仇になった。
奴も25発程度の石塊には対応しきれず、その身に次々と石がめり込んでゆく。

「クックック…、情けない奴だ。
近距離パワー型のくせにあんな速度の物をかわせないとは…。
無様だな、ハ―ッハッハッハッハッハッハッ―――――!!!」
いくら仲が悪いとは言え、この状況でもギコ兄はギコ屋を貶すのか。
第一遠距離型で非力なお前が言えたセリフではなかろう。
やはり俺の当初の考え通り、こいつら2人には協調性などというものは一切存在しないのか…。

          ・ ・ ・ ・
「だが、大将の気を引くのには大変役立った。
せいぜい『クリアランス・セール」で地面の下にでも避難してろ」
それを聞き、ギコ屋はスタンドで地面を殴り、俺の視界から消えた。
…奴にはこの手の回避法があったか。
しかしそれは、飛び寄せる石弾をやり過ごすためなどではなかった。
直後、そのすぐ傍から土竜の如く地下に潜んでいた「カタパルト」が飛び出して来た。
「カタパルト」はそのまま高速で飛び行く石塊をキャッチ、
それは槍や銛と化し、そのまま連続の突きをかましてきた。

267N2:2004/02/15(日) 21:59

「そんなものでは済みませんよぉ〜。ハイ、こっち注目!!」
ギコ兄の方を見てみると、サブマシンガンやらロケットランチャー、
更には機関銃までも装備して構え、にやりと笑っているのが見えた。

「凄い奴ら揃えましたよぉ〜。
世界最小クラスのサブマシンガン『Vz61(SCORPION)』! 
対戦車用でありながら対人戦でも効力を発揮する軽量でコンパクトなロケットランチャー『M72A2』!!
某映画(ラン○ー)でも使われたとされる『M60機関銃』!!!
行くぞ『カタパルト』!!一斉攻撃ィ――――!!」

アレらは明らかにそこらのガラクタなんかから作り出された代物じゃあない。
恐らくは普段はバラバラにして持ち歩き、必要な時にスタンドで瞬時に組み立てるようにしているのだろう。
ギコ兄がそんな物を使ったという話は空条からは聞いていないが、そこまでするとは
奴も俺を本気で殺すつもりでかかって来るのだろう。
しかし、口調が変わっているのは気のせいだろうか…。

「氏ねやぁ―――!!」
悠長な事を考えている間に槍と銛と2種類の高速かつ大量の弾丸と砲弾が襲い掛かってきた。
直撃したらスタンドガードをしても即死は免れない。
無論、そんな真似はさせないが。
怒って力を引き出すのと本能丸出しは、全くの別物だという事を教えてやろう。

俺はまず自分に当たりそうな銃弾を包丁で一つ一つ精密に、
かつ高速で弾き返しながら『カタパルト』の両腕に足で包丁を突き立てる。
その後、素早く『カタパルト』の腕を取り一本背負い。
これは、スタンドを封じると共に銃弾の壁にする役目を持つ。
次に、倒れた奴のスタンドを踏み台に飛び上がり、
信管に触れぬよう振動が強くないように飛んで来た砲弾を踏み台に更に高く。
空中では銃弾を避ける事は不可能のため、包丁で防ぎつつ、光を反射させ視界を奪う。
その内に背後に着地して首下に当て身。
以上、これらがギコ兄を討ち取った全行程である。

268N2:2004/02/15(日) 22:00

さて、いつまで重たいもんを抱えているギコ屋は既に問題外であるから、
後は相棒ギコさえ倒してしまえばほとんど「入団試験 完ッ!」である。
さて当の相棒ギコはどうしているかと見てみると…、
俺がギコ兄とやり合ってる間にギコ屋の怪我を波紋で治療している。
どうやら既に何とかまともな活動が出来るくらいには回復しているようだ。
だが、今更1人が2人になろうと大した変化ではない。
さっさと決着を付けるとするか。

「ど、どうする?お前の兄貴やられちまったぞ…」
「そんな他人事みたいに…。まあ、作戦が無い訳じゃあない。
 相棒、何とか巨大グローブを使えないか?」
「お前の力借りれば何とか…」
「いや、俺の波紋無しでだ。後一回で良いんだが…。やっぱ無理か?」
「む――、何とかやってみよう。けど、その後は?」

何の作戦会議だか知らぬが、それは全て俺の耳に届いている。
肝心な「その後」が伝えられる前に、一気に打ち倒す。
そう思い、俺が奴らに向けて進むと、その瞬間に奴らも臨戦態勢に入った。
…馬鹿な?奴らにはもう何か論じている時間など無かったはずだ。
僅か1,2秒の間に作戦会議でもしたというのか?それはいくら何でも不可能だ。
とすると、作戦を放棄したのか?

先に俺に向かって来たのは相棒ギコだった。
それも、ただぶつかりに来るだけではなさそうである。
            プリムローズイエローオーバードライブ
「いくぞッ、大将!! 『浅黄檗の波紋疾走』!!」
相棒ギコが叫んだ刹那、俺の眼前に眩いまでの閃光と天が裂ける程の爆裂音が降り注いだ。
視界を奪われ、体勢を崩した俺に、強い「風」が向かって来る。
波紋の炸裂音を合図にした、ギコ屋渾身の一発。
隙だらけだった俺は――――――ギリギリでかわす事が出来た。
本当に本当に危なかった。後、ほんの0.1秒遅れていたら喰らっていたかも知れない。

269N2:2004/02/15(日) 22:01

しかし、これを災い転じて福となすと言うのだろうか。
視界を取り戻した俺が最初に見たのは、その一撃の衝撃に耐え切れず、
「クリアランス・セール」の腕から外れて吹っ飛ぶ「土塊グローブ」であった。

ギコ屋から、「危険因子」は消えた。
素手の奴なら、まともに包丁とやり合っては手が持たない。
いや、それ以上に奴程度のスピードでは俺の速度に追い着くことすら出来まい。
俺はそのまま、まだ薄っすらとぼやける視界でギコ屋の姿を捉え、
奴目掛け包丁の大連斬撃を放った。

これでギコ屋も再起不能になる。
はずであった。
俺がある一点に気付いてさえいれば。

先程の波紋閃光弾を放ってから、いつの間にか姿を消していた男。
そいつは俺の背後に既に回っており、ラッシュがギコ屋に届く前に『攻撃』した。

ダークネスオーバードライブ
「『暗黒の波紋疾走』!!」

足に強烈な衝撃が走る。
直後、足の力がガクッと抜ける。
感覚すら無い。―――立てない。
「この波紋は喰らわせた身体の部位の活動を一時的に完全停止させる力を持ちます。
 これでもう動き回る事は出来ませんよ。」
相棒ギコが ( ̄ー ̄) ニヤリ と笑う。

…いつの間に俺の背後に回ったというのか。
あの閃光弾で俺の視界を奪えたのは、せいぜい2秒程度。
戦闘においては決して短い時間ではないが、あの距離を縮めるのは
いくら波紋使いでもそれは無理ってもんだ。
では、一体…?

270N2:2004/02/15(日) 22:02

「どうやらこの状況がまだ完全に理解出来ていないようですね。
それならば私がお教えしましょう」
ギコ兄がムクリと立ち上がった。
当て身が甘かったか…。
「私はこうなった時の為にあらかじめグローブに扉とAA一人が入れるスペースを作っておいたんですよ。
あの時に弟は貴方の視覚を奪い、その隙にグローブの中に隠れる。
そして、ギコ屋がグローブを渾身の力でフッ飛ばせば作戦は完了。
あれが当たれば再起不能は確実ですし、外れたとしても背後から弟が貴方を行動不可能にする。
                  パールハーバー
これぞ絶対包囲の奇襲作戦『真珠湾攻撃』!!」

なるほど、俺は二回目の作戦会議の時点で既にこいつらにはめられていたという訳か。
しかも、その作戦も途中からは打ち合わせ無しのアドリブで構成されている。
SWATをも超える連係プレーだ。
そんなこんなを考えている間に三人がスタンドの拳を振り上げた。
とどめを刺す気か。

俺はこいつらをナメすぎていた。
こいつらは―――――――――‐強い。
純粋な力を持つ奴には、最大限の力をもって倒す。
それが相手への敬意だ。

「お前らよくやったよ。強かった。苦しかった。そして楽しかった。
だが、そろそろ幕引きとしよう。」
「そうですね。では、悪いですけど少々眠っていて下さい!!」
ギコ兄が答える。
俺の言葉の真意には気付いていないようだ。

瞬間、3つの拳が振り下ろされた。
俺は言う。
「但し、お前らの敗北という形でだ!!
既に足に他の部位からエネルギーを与えて移動は可能になっている!!」
俺の『出汁を吸い取る包丁』は何も敵から吸い取るだけが能という訳ではない。
『馬鹿とスタンドは使いよう』とはよく言ったものだ。

俺はギコ屋の脚を払い、その身体が宙に舞った瞬間、

今だ!2ゲットォォオオオオオオオ!!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄       (´´
     ∧∧   )      (´⌒(´
  ⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
        ̄ ̄  (´⌒(´⌒;;
      ズザーーーーーッ

その下を潜り抜けた。
久し振りだと、ちと腹が擦れて痛い。
当然、三人は逃がさんとするも、倒れた者が残りの足を引っ張り、
ましてやズザーをしている俺を捕らえる事など出来やしない。
取り合えず、3人から距離を離すことに成功した。
              ・ ・
後は、実戦で初めてのアレが出来るかどうか…。

271N2:2004/02/15(日) 22:03

「距離取ってどうする気ですか?まさか、逃げる気じゃあ…」
相棒ギコが勝ち誇った表情で、俺を気遣うようなセリフを吐く。
誰がこの場から逃げると言った。
どの道勝敗には関係しない、俺も負けじと言い返した。
「…笑わせるな、そんな事でお前らの師範代をこの後に名乗れるか。
これはお前らと一直線上に並ぶのが目的だ。
…もう試験は終わりだ。お前らは文句無しに合格だ」

「…マジで?」
「やったじゃねえか、相棒!」
「やはり、ここは私の活躍(ry」

「そして、ここからは俺の『戦士としての』戦いだ。
もう容赦はしない。それなりの覚悟をしておけ」
「…?」
何の事だかよく分かっていないらしい。
関係無い。どうせこの後その身で痛いほど味わうことになるのだから。

さて、いよいよだ。
出来ることならこれは使いたくなかった。
下手をすればこっちが死ぬ。
だが、ここで使わなければ俺の今まで培ってきた誇りが死ぬ。
誠の命か、戦士としての命か。
俺に大切なのは、勿論後者だ。

「逝くぞ!第一次封印『虎の門』解除!!」

何年振りか、身体に力がみなぎり、循環する。
紅い、邪悪な力が。
だがその力に飲まれることはない。
…いける!

この10年近く使わなかった、使う必要の無かった禁断の秘技。
                          スター
西洋の札占いになぞらえた22の技の1つ、『星』。

「 必 殺 『 龍 ・ 星 ・ 群 』 ! ! 」

着弾まであと10m、9、8、7…ここで加速。
6m、4m、2m、0m……2m、4m、5m、6m、徐行に入る。
最も後方に居たギコ兄から8m11cm離れた地点で完全停止。
11cmもずれるとは…。俺の腕、いや脚も大分鈍ったな。
一連の動き、占めて0.32秒。

「…んな馬鹿な…ッ!!」
「は…」
「速いッ!!」

全員の両腕・両足・鳩尾。
更に心筋へとすれ違い際に『出汁包丁』を突き刺し、戦闘(活動)能力を63%低下。
ゼンマイの切れたロボットのように三人の動きは止まり、
微風を受けたトランプタワーのようにそのままふわりと地面に崩れ落ちた。

…トランプタワー?
何かが心に引っかかるな…。

272N2:2004/02/15(日) 22:04



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



ヾ                             ,、    |   わ
  `ヾ _                         / l     |
      ̄,ー-z___             //  l l   |   か
  .    '.,/./l  ̄;  ト-三彡      ///    lノ_ l    っ
      l.l ,' l  ヽ_.i`-' ノ彡彡彡彡==--- __二二r-─ヽi
      l.l l l    ~二--ゝl  ̄.//二=┐=─ 、=-、 ヽ i   た
      .l.l.l i        ノノ'⌒ l l-、─-ト_ソ ノ  ヽ '-,__|   ぞ
       ヾヽ、     /,'/ ./ ヾヽ`,        , ' r-┘|  !!
        ヾ==---- ',r "/ /   ヽヽ'        / /   丶  /
        l   ̄ ̄  / /     ヽ、      / /    丿ノ
        ヽ      `-、--、    ` -、__'ノ   ノ
         ヽ                       ι'   /~
          `、    ト、─- 、_              /
           ヽ   ` - 、_    ヽ           ,-'
            ',    、   ─ - '         , -'
             ヽ    ──          , - '
              l             , - '
              \         _ , - '
                ト──--- '


                      ファッキン
「思い出した!トランプって言えばあの糞野郎の事をすっかり忘れていた!!
あの野郎、俺の17万4,500円返せェ〜〜〜〜!!!」

…何やら騒がしい。
クラクラする頭を抱えながら声の主を見ると、それは月に向かって
何やら魂の叫びを訴える大将であった。
…何やってんだ?

その叫びに、後の2人も目を覚ましたようだ。
ファッキンだの17万だのしつこく叫ぶ姿、どう見てもあやしい。

「…ギコ、お前聞いてよ」
「俺だって嫌じゃゴルァ!」
「私も、断固拒否する」

…そりゃ誰だって嫌だよなぁ…。
月に向かって吠える基地(ry にその理由を尋ねるなんて、聞く方が恥ずかしい。
だがその叫びは一向に収まらず、むしろ強くなってゆくばかり。

「…じゃあ、3人で」
「…だな」
「何だと、わざわざ3人も要らんお前ら2人で(クラァッ!)ぐはあ」



(…いいか?『せーの』で大将に言うんだぞ?)
(分かってるぞゴルァ!)
(…不服だ…)

収まることを知らぬ大将の叫び。
もう一刻の猶予も無い。

(せーのッ!)

『大将ォッ!!』
「…何だ?」

…ヤッベ、凄い殺気。
思わず声が詰まる。

「…用が無いのに人を呼んだのか?」

大将の手に包丁が光る。
スタンドじゃない、マジモンだ。
…死ぬッ!!

(まずいって、こうなったらまたせーので行くぞ!
せーのッ!!)

「ファッキンって何ですか?」
「何か昔あったんですか?」
「トランプと大金って、大将まさか…」
「まだ半年前の私との『賭けブラックジャック』に根を持っているんですか?」

273N2:2004/02/15(日) 22:05



・ ・ ・ ・ ・ ・ ?



「あなたも随分としつこい人ですねぇ…。
勝負に負けたんですからいい加減潔く認めないと、それこそ『戦士の誇り』が泣きますよ?」

…って誰じゃこの女ァ―――ッ!!??
俺達のすぐ傍には、見たことのない美女が立っていた…美女?
あれ、女じゃない…?よく見ると男か…。
それにしちゃ綺麗と言うか美し過ぎる人だけど。

「それに私が大将から頂いたのは16万2500円です。
鯖を読まないで下さい。と言うより、貴方が弱すぎるだけですよ」
その瞬間、大将の突きがその美男子に向け放たれる。
しかも、心臓狙い。

「…また久しく会わなかった旧友にいきなりこれはないんじゃないですか?」
「チッ、どうせ喰らわねえくせに…!
そっちも相変わらずだな、性格もスタンド能力も」
大将の腕が停止してる?いや!!包丁が人差し指一本で止められているゥ〜!?
あの大将の包丁をそんな簡単に受け止めるなんて…。
…こいつ…、何者?

「もう良いですよ、『クリスタル・ウォーズ』」
男からスタンドビジョンが現れたかと思うと、瞬間大将がもの凄いスピードでフッ飛んだ…
と思ったら、フッ飛んだのは相棒の方だったァ―――!!

地面を音を立てながら滑り転がるギコ。
ようやく止まったところで、ギコ兄が血相を変えて走って行く。
ギコは血を吐いて「兄ぃ〜、血が…」とか言ってるが、
あんな風に喋れるなら大丈夫だろう、多分。

と、その隙に大将は男の背後に回り込んでいた。
身代わりにしやがったのか…。

「…部外者を身代わりにするなんて…酷い人ですね」
一瞬「何だ、良いこと言うじゃないか」とも思ったが、
それはギコへの同情ではなく、単に大将を馬鹿にしているだけだ。
なんか腹立つ。
「…フン、手前なんぞに『酷い人』呼ばわりなんざされたくねえな。
…半年振りに、また一戦交えてみるか?」
…あんたらまだ戦う気かよ…。

274N2:2004/02/15(日) 22:06

…とオレは呆れ半分で2人を見ていたが、すぐにその態度を正さねばならなくなった。
大将の「宣戦布告」直後、その男の姿が消えたかと思うと、
大将の頭上に突然雷が落ちてきた。
それを分かっていたかのように避け、そのままバック宙を繰り返しその場を離れる。
その後を追いながら、男は大将目掛け今度は火炎を吹き飛ばしてくる。

燃え盛る炎はみるみる内に大将との距離を縮め、今にも飲み込まんとしている。
だが大将は、いきなり立ち止まってその炎を見つめると…

――― 一閃。

その切れ目をオレが知覚した瞬間には、もう大将と男は2mも離れた位置にはいなかった。
お互いが射程距離内に入った。
飛び出す2人のスタンド。
これから何が起こるか、それはもう頭でわざわざ判断しようとしなくても分かることだ。



…オレは2人の戦いに見惚れていた。
オレだけじゃない、ギコも、ギコ兄も。
2人の繰り広げるつばぜり合いは、オレ達が今まで見たことも無い、
それどころか想像を絶するまでの凄まじさであった。
…まさに、光速。
オレ達に見えているのはラッシュそのものではなく、その残像が示す軌跡のみである。
しかも、ただの打ち合いなんかじゃない。
お互い隙(と呼べる程のものとは思えないが)を狙っては急所への一撃を狙っているのが
時々見える動きの跡から分かる。
しかし相手も負けじとその攻撃を弾き、そして相手の隙を狙って今度はこちらから、と…。
…ただただオレ達は感嘆するしかなかった。
これが、一流の戦い…!!

そのお互い一向に譲らぬラッシュ合戦を制したのは、大将であった。
包丁の角度を変えることで瞬間的に相手の拳の起動を操作し、
次の瞬間には大将の包丁が相手の男の首下に添えられていた、
…と後に大将は語る。

「…これで1850戦833勝832敗85分だな」
大将はその顔にはっきりとは浮かばせなくとも、そこに喜びの色を隠せずにいた。
対する男も割とあっさりとしていた。
「…よく言いますよ、前回あれだけの大敗を喫していながら…」
大将の顔はみるみる険しくなった。
「んだとゴルァ!!だったらもう1戦やって実力の差を見せ付けてやろうじゃねえか!!」
…どうでもいいんだが、これって本当に試験官の大将と同一人物なんだろうか…?

275N2:2004/02/15(日) 22:07



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「んで、結局あの人って誰なんですか?」
屋台で大将のラーメンを食しながら、オレ達は例の男について話していた。
あったかいスープが身体の隅々までに浸透するようだ。

「あいつか?
あいつの名は『インディー』(仮名)と言ってな。
今は遠くの町で何だか「日本なんたらかんたら」とか言う解体業者の社長をやってるそうだが
                        ト モ パートナー
その昔は俺と共に戦場を駆け抜けた戦友というか、もう婚約者のようなものだったんだよ」

(仮名)…、戦場…、婚約者…???
「あの…(仮名)って何ですか?」
「戦場って大将の実年齢は60過(ry」
「大将って女好きじゃなくて、おと(ry」
内二人の口は即座に激辛キムチで塞がれた。
その後どうなったのかは言うまでもなかろう。

大将はキレ気味に全員の質問に答えてくれた。
「(仮名)っていうのは『あだ名』だからだよ!!
それに戦場って言っても、10年くらい前のスタンド使いが出る戦場だ!!第二次(ry じゃねえ!!
後、俺が言った奴との関係はあくまで戦闘での話だ…。
分かったか、『ブラコンうんちく王』さんと『夜逃げ屋本舗』さんよぉ〜」
オレ達は声を揃えて「ハイ…」と言ってラーメンをすするしかなかった。

276N2:2004/02/15(日) 22:08



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



夜道を歩く、1つの影。
その正体は男と呼ぶには余りに美しすぎる男であった。

ぽつり、ぽつりと雨が降り始める。
その水滴は公平に全てのものに降り注ぐ。
勿論、その男にもだ。
しかし男の身体が濡れることは決してない。
水滴が身体に付着した瞬間、それはすぐに水蒸気となって消えてしまう。

その男の視界に現れた、もう1つの影。
街頭に照らされたその姿は、むしろ彼よりも男に近い女であった。
…ただの通りすがりなどではない。
その生まれつき崩せない笑顔の中からは、自分に対するドス黒い「殺意」が見え隠れする。

「あなたね!!『茂名王町』で余計な行動を起こしているという『JBI』リーダーと言うのは!!
ある方の依頼で殺しに来たわ!!」

男は柔らかな笑顔を崩さぬまま、しかしどこか不機嫌そうに答えた。
「全く、こんな夜中に五月蝿いですね…。
人が折角Break Timeに入ろうとしたというのに…。
まあ、一解体業者に何の恨みがあるのかは知りませんけれども、
一つ言わせて貰えるなら襲撃は奇襲でやってくれませんか?
その方が静かでイイですしね」

女はそれを聞いて悔しそうにポケットから取り出したハンカチを噛み切った。
…びっくり人間か?こいつ、普通の人間ではない。

「あたしをナメてんの!?
それにあんたみたいなオカマ野郎やあの屋台のオヤジなんて奇襲する必要もないのよ!!
死になさい! 『スカイビューティーズ』!!」

手裏剣状のスタンドの大群が男に襲いかかる。
男はスタンドを出すと共にその右腕を消した。
否、その腕は消えたのではない、冷気と化してスタンドの大群を凍りつかせた。
そして、残った左腕も消えたかと思うと、女の体は
関取に乗っかられたように地面に押さえ付けられ、身動きが取れなくなった。
右腕もそれと同時にスタンドに戻った。

「…まああなたが私に襲い掛かろうとするのは勝手なんですがね、
一つ言わせて貰えれば、あなたには勝ち目は全くありません。
皆無です。
勿論ここであなたをどうかしようなんて私は考えていません。
ここで大人しく帰れば、別に私はあなたのことを今後一切気にも留めないでしょう。
…それでは、私は失礼させて貰いますよ」

男はそう言って女に背を向けると、また何事も無かったかのように歩き始めた。
途端に女を押さえ付けていた力がふっ、と消える。
女は解放された。
…しかし、この事がかえって女の自尊心を傷付けた。

277N2:2004/02/15(日) 22:09

(…何、今の!?一方的に自分の方が強いと言い切った挙句、
私を放置プレイですって!!??
許せない!私だって遊びでここに来てるんじゃないわよ!!
…それに、散々偉そうなこと言っておきながら、何その油断っぷり!
私に対して隙を与えすぎよ!
こうなったら、あんたの言うとおり『奇襲』で襲わせて貰うわよ!!)

女は忍び足で男の背後につけた。
男が気付いている気配は全く無い。
女は懐からおもむろにナイフを取り出し―――、男の背中目掛け突き出した。



地面に赤い液体が滴り落ちる。
漆黒の空間には、深い傷を負った者の呻き声だけが響き渡る。

…但し、それは男のそれではない。
女だ。
背中に突き出したナイフは、彼女が気付いたときには地面に落ちていた。
それに困惑する間も無く、次に彼女が目にしたのは―――血。己の血。
その血は自分の足を伝って流れ、その先にあったのは腹部に喰らった大きな刺し傷であった。
太腿から手を伝わせ腹を触り、初めてその痛みを認識する。

「…え?」
当惑する女だが、次の瞬間彼女は地面に押し倒されていた。

首に掛かる強い力。
人間の力などではない。これは男のスタンドか。
その姿を見ようと女は力を込めたが、もう1度たりとも首を持ち上げることが出来ない。
男は女に言い放つ。

「…私は確かにあなたに言ったはずです。
『ここで大人しく帰れば、別に私はあなたのことを今後一切気にも留めない』と。
あなたがあれ一回で懲りてくれれば、私も別にどうこうせずに済んだんですよ。
でも、あなたが再び私に敵意を向けた以上、またここであなたを野放しにしておけば、
あなたはこれからも何度でも何度でも何度でも何度でも私を殺しに来るでしょう。
…正直言ってね、そういうのには『もう飽きた』んですよ。
別にあなたがこれから100回私の下を訪れようが
1000回訪れようが別に私の生き死にがそれで変わるようなことはありませんけど、
今後の私の精神安定に関しては重大事ですから。

…死んでくださいね」

278N2:2004/02/15(日) 22:10

冷酷に言い放たれた死の宣告に、女は突然もがき始めた。
「ご、ごめんなさい!分かりました分かりましたもう二度とあなたの前には現れません!
貴方様のおっしゃることは十分身に染みました!
ですからどうか命だけはお助けを…」

「…だったらどうしてさっき私を刺し殺そうとしたんですか?」

「あ…あれはその魔が差したと言うか…!!
ごめんなさいごめんなさい放して下さいィ〜〜〜〜ッ!!」

「…世間の正義のヒーローでしたら女子供の敵には優しいんでしょうね、きっと。
…でも残念、私は『自己流正義』のヒーローですから。
老若男女一切の差別は致しません。
究極の男女平等の思想の下に、あなたには美しく死んで貰いましょう」

「お願いだから…放して…」

「…時間です。死刑執行。
  グリーフ・オブ・マリー
『王妃マリーの悲しみ』」

空いている左の手を女の首の真上にかざす。
その手はみるみるうちに光を帯び、その周囲には強烈な炸裂音が響き渡った。

「…雷ギロチンです。
有り難く思ってくださいね、私と対峙したものでここまで人道的に殺されるのは
ほんのごく一部だけですから」

そして、裁きの雷は下された。

279N2:2004/02/15(日) 22:11



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



オレ達は暗い夜道を走っていた。
別に大将から早速トレーニングを命じられた訳ではない。
あの人に土産のラーメンを渡し忘れたから、オレ達に代わりに行けと言うのだ。

「いくら何でもこりゃ酷いってもんだろゴルァ!」
ギコが愚痴をこぼす。
「待て弟よ、確かにお前の不平も尤もではあるがな、
それで大将に盾突いてどうなるか分かっているのか?」
その通りだ。大将の言う事を聞かなければ、またあのヤバすぎな攻撃を喰らいかねない。

「…でもどこまで遠くに行っちゃったんだろう?」
辺りを見ても、あの人はどこにも見えない。
流石に時間が経ちすぎてるし、もう追い着けないだろう。

「…ん?何じゃありゃ?」
ギコがオレ達を手招きする。
オレとギコ兄は相棒の傍へと寄った。
「ほら、あれだあれ」
ギコの指差す先には、道端で寝っ転がっている人の姿があった。

「…ほっとけ、別段気にするまでもあるまい」
ギコ兄は少々苛立ちながら言った。
そんな浮浪者に構っていられるほど精神状態が安定していないのだろう。
「…でも、何かおかしくねえか?」
ギコの言うとおり、確かにその人影は何かがおかしい。
…スタンド攻撃の一環か?

「…じゃあオレが見に行くよ。
何かあったら、すぐに助けてくれよ」
「…分かった」
オレは不安を抱きながらも、その人影に歩み寄った。

…熟睡しているのか?全く動く気配がない。
オレは恐る恐るその人に手をかけた。

「あのー、こんな所で寝てると、風邪ひきますよー」
オレはその人に声をかけながら身体を揺さぶった。
…返事が無い。
オレは再度しつこくその人を揺さぶった。
「あの、こんな所で寝てると…!」

ぐらりと身体がひっくり返り、その人はオレに顔を見せる。
…真っ黒に焼けただれ、どこの誰だか全く分からない顔を。

「ッうわああああ―――――ッ!!」
思わず身体がその遺体から飛び退く。
異変に気付いた2人がすぐに駆け寄ってきた。
「どうした、何があった!?」
オレは突然の恐怖に震えながらも、やっとのことで喉の奥から声を出した。

「し…ししし…死んでる!この人、死んでる!!」
「何ッ!?」
相棒とギコ兄がその遺体を見ると、すぐにその表情は歪んだ。

「…これは…ひでえ…」
「………」

280N2:2004/02/15(日) 22:12

一体誰がこんな真似をしたのか?
気持ちが落ち着いてくると、オレはそんな事を考えていた。
これが人間技でないのは火を見るよりも明らか。
では、どこの誰が、何の目的で…?

「…仏さんの年齢は10代後半から30代前半、骨格や臓器から女性と判断…」
突然ギコ兄が喋り始めた。
別に誰かがやれといった訳でもないのに、遺体の分析を既に終わらせているようだった。
オレと相棒は、黙ってその報告に聞き入った。

「腹部に外傷…ナイフのような物で刺されている。
だがこれは直接の死因ではない。
死因は全身に強烈な電気を浴びたことによるショック死。
…恐らく状況などから判断して、地面に押し倒されたところを首に電気を流されたのだろう」

「どうして首だって分かるんだ?」
ギコが質問した。
「…ああ、それなんだが、非常に奇妙な話なんだが仏さんの全身を調べたところ、
全身真っ黒焦げなんだが首の部分だけは特に酷く、
神経とか脊髄とかが全部焼き切れてしまっているんだ。
となると、瞬間的に首へと強烈な電流を流されたってことになるが…。
市販の道具なんかじゃこんな芸当は出来っこないぞ!?」

「…大将の…友人…」
オレの脳裏に彼の姿がよぎる。
「…はぁ?何を言ってんだ?」
ギコ兄がオレを見て呆れたように言った。
「…でも!さっき大将とあの人が戦ってた時、あの人雷とか炎とか出してたじゃないか!
あの人だったら出来るかも…いや、あの人じゃなきゃこんな真似は出来ない!!」

ギコ兄は困惑したような表情をしている。
そして喉の奥で言葉を選び抜いた後、ようやく口を開いた。
「…確かにな、私もその線については最初疑ったよ。
だが、あの大将がこんな残虐行為をする奴とあそこまで仲良くすると思うか?」

…それなんだ。あの人が犯人だとすると、どうしてもその点だけが引っ掛かる。
「…とにかくまずは警察と大将に連絡だゴルァ!」
相棒は携帯(英雄)を取り出すと110番へ通報した。

「もしもし、警察ですか?今、道端で焼け焦げた死体を…」
夜空には満点の星が散りばめられている。
そんな芸術的な風景をよそに、オレの心は深い暗闇に捕らえられていた。
…何か、オレ達は相当ヤバイ事に首を突っ込んでしまったのではないか?
遠くから響くサイレンの音を耳にしながら、オレはそんな事を考えていた。

281N2:2004/02/15(日) 22:13



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



吹き付ける夜風の中、ギコらーめん大将は明日のスープの製作に取り掛かっていた。
今日あの3人から吸い取った出汁入りの包丁を大鍋へと放り込む。

―――本当に大丈夫なのか、お前…?

彼の脳裏によぎるのは、10数年来の友人の姿。
今日再会した時も、彼はそれまでは何ら変わらぬ様子でいた。
…しかし、その背後には、何か相当危ないものに関わっている者独特の
「死臭」が漂っているのを彼は感じていた。

―――お前だったらどんな奴が襲って来ても絶対大丈夫だ。
     …今までは、そう思い込むことで自分を安心させてきた。
     でも、今のお前からはそんなことじゃ安心しきれない、そんくらいヤバイ臭いが漂ってくる。
     …友よ、無事でいてくれ。
     解体業者「NBK」の社長にして茂名王町自警団「JBI」のリーダー、
     そして何より我が最愛の戦友、『心無い天使』ジョナ=ジョーンズよ…!!



夜道を歩く美しき男。
その思考回路には先程殺した女の事は刻まれていない。
彼の思考を支配するもの、それは彼の最愛の友人だけであった。

―――最近「擬古谷町」の様子がおかしいと聞いて行ってはみましたが…、
     あなたはこれから一体どうするつもりなのですか?
     本当にあの「もう1人の矢の男」と戦うつもりでいるんでしょうか…?
     あなたが何をしようとそれが間違った事でなければ咎めるつもりもありませんが、
     お願いですから無謀な真似だけはしないで下さいよ…!
     …「百戦士」一番隊隊長にして数多くの殺戮伝説を残した我が最愛の好敵手であり友人、
     『緋鬼』ギコらーめん大将…!!

男は懐から分厚い手帳を取り出した。
その表紙には「Hope」と大きく記されている。

―――そしてギコ屋『クリアランス・セール』、相棒ギコ『バーニング・レイン』、ギコ兄『カタパルト』…。
     あなた方の試験の一部始終、見させて貰いましたよ。
     …なかなかのものじゃないですか、あれ程の可能性を秘めた若手なんてそうそう居ませんよ。
     …あなた方も、この手帳に加えられるべき一員ですね…!!

男は手帳をおもむろに開いた。
そこには「モナー『Omem−Owner』」「ギコ『アンチ・クライスト・スーパースター」
「モララー『スライド』」「おにぎり『シンクロナイズド・ラブ』」…などの名が書き記されていた。
そして今度はペンを取り出すと―――3人の氏名とスタンド名をそこへと新たに書き加えた。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

282N2:2004/02/15(日) 22:13

     ./  /  / .┌─────────────
    /_/_/___│俺が「サザンクロス」のリーダーだ。
     |=ら ギ| |文句あるかゴルァ!
    |= ∫  =:|. └v─────────────
    |= め コ..:| ∧ ∧                 ||
     |=ん =:|| (,,゚Д゚)                     .||
     ~~||~~~..|| (| ギ|).                   ||
      .||   || ===┻==                ||
    ┌┴┬┴┴――┴――――――――― ┴ ┐
    │  |―┬――――――――――――――┴┐
    │  |―┴――――――――――――――┬┘
    │  |       | ̄ ̄|      | ̄ ̄|    |
    │  |       | ̄ ̄|      | ̄ ̄|    |      (・∀・ )タイショウ カコイイ!
   """~""" ""^ """" ^ ~~""""~""" ""^ """" ^ ~ ~ ""^ """""""~""" ""^ """

NAME ギコらーめん大将(通称大将)

ラーメン屋台「ギコらーめん」をジサクジエンと2人で切り盛りするナイスミドル(?)。
その味ももちろん人気の一因であるが、それ以上に彼の人情味に溢れた
人柄を慕ってやって来る客も少なくない。
ただ、そこに付け込まれてよくツケを頼まれてしまうが…。

現在は「擬古谷町」で店を経営中。
表向きはただの屋台店主であるが、彼には町のスタンド使いによる自警団
「サザンクロス」団長という裏の顔もある。
と、裏と言ってしまうと人知れず活動しているように思われてしまうかも知れないが、
その存在は街中では結構有名だったりする。

しかし、その過去には何か暗い影が付き纏っているようだが…?

スタンドの実力は超一流で、そんじょそこらの猛者でも歯が立たない位の力であるが、
まだ大将は何かを隠し持っているらしい…。

283N2:2004/02/15(日) 22:14

                  .γlゝミヾ
                  リノ -゚) セイギノミカタハ キョウリョクサポートイタシマス
                  (},':|,',{)
                  、フ;;λ;ゝ,
                   し`J

NAME ジョナ=ジョーンズ

「サザンクロス」入団試験を終えたギコ屋達3人の前に現れた謎の男。
長い髪と美しい顔立ちからよく女性だと勘違いされる。ルックスもイケメンだ。
大将とは10年以上の付き合いがあり、暇を見ては彼にわざわざ会いに来ている。
何代か前の先祖がイギリス人だったらしく、出身も日本ではなくアメリカ。
本人は「私は英国上流貴族の末裔だ」と主張しているのだが、
果たしてそれが本当なのかは定かではない。
馬鹿みたいに丁寧語を貫き通し、親友の大将にまでそれは崩さないという
ある意味変わった性格である。

現在茂名王町で解体業者「NBK」の社長を務めているが、同時に
「JBI」なる組織のリーダーも兼任しているとか。
ちなみに現在(※)その社歌がネット界で非常にブレイクしており、
今後の展開について悩んでいるようだ。

大将と同じくその過去には闇に包まれた部分があり、またスタンドバトルの実力も
大将同様 並の「強い」という連中を遥かに上回るレベルであるが、
彼もまたそのスタンド本来の実力はこんなものではないらしい…。

とどのつまりは「逝きのいいギコ屋編」オリジナルキャラクター。
今後しばらくは出番は無いが、後に話の中核を担うこととなる(予定)。

(※)平成15年10月現在



このAAの作成にあたっては、★AA作成依頼専用スレッド IN モナー板〜23★で
コロッケ大好き七資産 ◆DOLLScm2k6 氏 に制作して頂いたものをベースに致しました。

>>()氏
…ということで、あれは私だったんですよね…。
あの時は場所が場所だけに名乗れませんでしたが、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
また、ジョナの設定などから勝手ではありますが表情や手の位置を改造させて頂きました。
申し訳ありませんでした。

284N2:2004/02/15(日) 22:15

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃             スタンド名:サザンクロス                .┃
┃             本体名:ギコらーめん大将              ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 - B  ..┃   スピード - A  ....┃  射程距離 - E   . ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - A ......┃ 精密動作性 - A   .┃    成長性 - E    .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃腰に5本ずつ、計10本の包丁を差したスタンド。              ┃
┃それぞれが切れ味や軽さ、硬度などの点で特徴を持ち、       .┃
┃場合に応じた使い分けが可能。                     ..┃
┃その中の1本は斬り付けたものに物理的なダメージを与えることは ..┃
┃出来ないが、その者の「生命エネルギー」を吸い取ることが出来る。┃
┃包丁は破壊されると全身に軽い痛みが走るが、ある程度の体力を .┃
┃消費すれば修復可能。                           .┃
┃特別な能力は一切持ってはいないが、スピードに関しては       ┃
┃彼の右に出る者はまず存在しないだろう。              .....┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

2853−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 01:18
スロウテンポ・ウォー

閑話休題その2<音速FUNKYヒーロー・前編>

「だからさ、J−CUPの見所は若手のトーナメントじゃネーノ?」
「いやいや、やっぱ“大阪名物世界一決定戦”でしょ」
日本駅から数分歩いた距離にある喫茶店、☆バックスにノーと1ネーノが居た。
二人は週刊プロレスを囲み、プロレス談義に花を咲かせていた。
「えー?大阪プロレスかー…だったら、“デルフィン”と“CIMA”の因縁の方が…」
「何言ってんの。“えべっさん”を舐めたらあかんて。」
実に平和な午後であった。が。

「喧嘩だ喧嘩!!」
「え!?マジで!?」
「すぐそこだよ!しかも1対5だぜ!!」
そんな騒ぎが聞こえてくる。流石はオープンテラスである。
中途半端に学ランを着崩した高校生たちが走り抜けていった。

「いやー…元気がいいなぁ…ホント…」
「ストリートファイトデスマッチ…じゃネーノ。」
二人は意にも介さず、であった。別に高校生の喧嘩なんぞ見たところで得はないからだ。
「あのZERO相手に1対5だぜ!!これは見ないと損だって!!」
この言葉を聞き、二人の顔色が変わった。
「……今、ZEROって言わんかった?ウチの気のせいかな…?」
「……間違いなく言ったよ。ZERO−ONEじゃなくて…」
「……これ、止めなきゃマズイよなぁ……」
「……うん……。」
ZEROの兵隊は数が多い…その中でもトップクラスになればスタンドを持っている事も考えられる。
さっきの“1対5”の1は恐らく一般人だろう。下手をすれば殺されかねない…
「1ネーノくん!!」
「OK、急いだ方がいいんじゃネーノ?」
飲みかけのコーヒーを置いたまま、二人は騒ぎの現場へと向かった。
しっかり“週刊プロレス”は持ったまま。

2863−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 01:20


――ざわ…ざわ……

「……ちょっとすんません、ちょっとすんません……」
数十人の野次馬を掻き分け、ノーと1ネーノが最前列にあらわれた。
ZEROらしきチンピラ5人と、高校生らしい少年が1人、対峙していた。
「…野次馬が多すぎんなぁ…」
主格らしきチンピラが呟く……

「……さっさと消えな。“インフィニット”……!!」

男が呟くと…中央の6人と、最前列に居たノーと1ネーノを除いた2人以外…
野次馬達だけでなく、全ての風景がなくなったように真っ白な空間が広がった。
「なんやこの空間…まさか……コイツ、スタンド使いか…!!」
ノーの呟きを男は聞き逃さない。

「その通り…自警団のお二人さん。特別リングサイドにご招待だ…」
「…最悪のリングサイドやな……!!」
「最高のリングサイドと言いな……誰にも邪魔されない、無限な空間を作り出した……このガキ始末したら、次はお前らだ」
睨みあう二人…そして、勝利を確信したように笑う取り巻き達。
「……お前、絶対に許さん!!いくで!!」
ノーが駆け出そうとしたその瞬間…あの少年が叫んだ。
「おい!俺と戦うんだろ!!さっさとしろよ!!」
強気。制服こそ着ていないものの、明らかに高校生か中学生にしか見えない背格好と顔。
そして、突然スタンド能力に巻き込まれたにしては余りにも肝が太すぎる。
「……そうだったな。この裏切り者が…」
「(裏切り者…!?って事はこの子もZERO!?)」
男の言葉はノーには驚くべき言葉だった。どうみても普通の少年である。
こんな普通の子にまでZEROという組織が絡んでいる事に驚きと怒りを覚えた…。

2873−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 01:20
「…まぁ、いい。覚悟は出来てるな?…えーーっと……名前まで覚えてねぇがな?」
「望戸音恵世(モウコネエヨ)だよ!!覚えとけよ!!ウワァァァン!」
「…とにかくだ…ここは透明な空間…誰にも見えない場所。ここでお前の死体は永遠に置き去られる…」
モウコネエヨと5人の間に、緊張感が走る…
一瞬、モウコネエヨが右腕を前に突き出し…
「…わかったよ。だったらお前を倒してこっから抜け出してやるよ!!」

「変身っ!!」

仮面ライダータイガの変身ポーズを取る!!(参照:ttp://www.toei.co.jp/tv/ryuki/gallery/satoru/index.stm)

――ガシャアアッ!!!

「……透明な世界にしてくれてありがとうよ!お陰で俺も暴れまわれる!!」

彼以外の全員が、“本当に仮面ライダーになったのか!?”と一瞬思ったであろう。
モウコネエヨの体はダークブルーの強化スーツのような物に包まれていたからだ。

「“ファンキィ・ソニック・ワールド”……俺のスタンドだ!!」
「なっ…貴様も矢に……“シィク”様に選ばれたというのか……!!?」
「(…あの子もスタンド使い……!!スタンド使い同士は惹かれあうって、本当やったんか!?)」
様々な思惑が交錯する中、声も無く取り巻きの一人が突然倒れた。顔面には殴られたようなアザがある。

「!?」

「…近すぎた。」

男たちの後ろに、モウコネエヨは居た。瞬間移動でもしたかのように、そこに居たのだ。
「な…何をしたっ!?」
「殴っただけさ……次はお前らの番だよ!!!」

<TO BE CONTINUED>

スタンド名:インフィニット
本体名:チンピラ軍団・主格

破壊力:E スピード:A 射程距離:C
持続力:A 精密動作性:E 成長性:E

凹凸や障害物の無い、何処までも続く異次元空間を作り出す能力を持つ。
最初に決めた範囲(半径約7m)から生まれたこの空間は解除するまで無限に広がり続ける。
そして一度この空間に入った者は本体が許可、もしくはスタンド自体を解除しない限り出られない。
ただし、本体も一緒にこの空間に入らなければいけない為、本体にもリスクが多い。

288ブック:2004/02/16(月) 14:45
     救い無き世界
     第二十三話・ファントム・ブラッド 〜その1〜


「これが今回SSSを襲撃した兵士達を解剖した結果です。」
 タカラギコが机の上に何枚もの資料を置いた。
 我々はそれを手にとって一枚一枚目を通していく。

「…笑えるぐらい無茶をしたもんだょぅ。」
 私は思わず溜息を吐いた。

「筋力の増強、骨格強度の向上、代謝機能の強制促進による治癒機能の増加、
 ここまで来ると呆れるのを通り越して感心するわね。」
 ふさしぃがやれやれと頭を振る。

「しかし狂ってるぜ。
 こんな無茶苦茶な改造したら、副作用だってあるだろうがゴルァ。」
 ギコえもんが呆れかえったように言う。

「資料によれば、代謝機能の強化の代償として、
 およそ通常の1・5倍〜3倍位の速度で老化が進むと予想されるとの事です。」
 タカラギコがギコえもんにそう答えた。

「モナはそんなのいやモナ!早くお爺さんになんてなりたくないモナ〜!」
 小耳モナーが体をぶるぶると震わせた。

「…しかし、そこまでして力を求めたからこそ見返りも大きかった。
 それは今回の騒動での被害を見ればお分かりですね。」
 タカラギコが肩をすくめる。

「だけど、解せねぇな。
 俺達を本気で潰す気なら、スタンド使いも同時に送り込む筈だぞゴルァ。」
 ギコえもんが腕を組んで考え込む。

「…おそらく、今回は兵士の性能のテストが目的だったんだょぅ。
 つまりぃょぅ達はその実験にまんまと付き合わされたという事だょぅ。」
 私は唇を強く噛みしめた。

「『大日本ブレイク党』め!いい気になりやがって!!!」
 ギコえもんが忌々しげに拳を壁に叩きつけた。

 他の皆も言葉や態度には表さねども、
 その目には燃えるほどの怒りを湛えている。

「この借りは兆倍にして返さないとね…!」
 ふさしぃが静かに、しかし腹の底まで響いてくる位に重く呟いた。


「…そして、もう一つの問題が『これ』ですね。」
 タカラギコがテレビのスイッチを入れ、ビデオを起動させた。
 そこに、SSS内に備え付けられていた監視カメラに映された、
 でぃ君とプルモナの交戦画像が映し出される。

「…何度見ても、信じられなぃょぅ。」
 テレビ画面には丁度でぃ君の足が修復していく場面が映っている。
 最初この映像を見た時は自分の目を疑った。
 が、繰り返し見る事で、紛れもない現実である事を痛感させられた。

「うぶっ…!」
 でぃ君がプルモナを壁に何度も叩きつけ、
 プルモナがまるで版画のように壁に張り付いていく所で、
 小耳モナーが堪らず嘔吐しかけて口に手をやった。
 ふさしぃとギコえもんも一様に眉をひそめている。
 ただ一人タカラギコだけが、いつもと変わらぬ顔でその映像を見つめていた。

「化け物がもっと怖い化け物に殺される、といった所ですか。
 いやはや、ジョークにしてはどうにもブラックユーモアの利き過ぎですね。」
 タカラギコがおどけた様に言う。

「タカラギコ!」
 私は思わずタカラギコを怒鳴りつけた。
 いくら冗談とは言え、言って良い事と悪い事がある。

「…失礼。」
 タカラギコが軽く頭を下げて押し黙った。

289ブック:2004/02/16(月) 14:46

「…でぃ君は、何処に行ってしまったのかしら。」
 ふさしぃが呟く。
 テレビには、でぃ君がみぃ君と対峙し、しばらく二人共じっとしていたかと思ったら、
 いきなりでぃ君が横の窓をぶち破って何処かへ去っていく場面が映っていた。
 それから、でぃ君の足取りは今まで掴めていない。

「小耳モナー、『ファング・オブ・アルナム』は、
 いつ頃でぃ君を発見出来ると思うょぅ。」
 私は小耳モナーに尋ねた。
 小耳モナーには、彼のスタンドででぃ君の探索をお願いしている。

「今匂いを手掛かりにでぃ君を探させているモナけど、
 流石にこの街中を探すには時間がかかるモナ。」
 小耳モナーが申し訳なさそうに答えた。

「仕方ねぇ。他のSSSの連中を使おうにも、
 今は人員が減ってる上に、復旧作業やら何やらで人手が足りないしなゴルァ。
 俺達も勝手に動く訳にはいかねぇし、じっくりと行くしか有るめぇ。」
 ギコえもんが椅子にどかっと腰を下ろした。

「そういえば、みぃちゃんはどうしてるの?」
 ふさしぃがタカラギコに聞く。

「ああ、彼女は今自室で泥のように眠ってますよ。
 負傷した職員の治療に相当無茶をしたみたいですからね。」
 タカラギコがそう返した。

「そう…」
 ふさしぃが溜息を吐く様に呟く。

「まあ、ここでいつまでも考え込んでいても埒が開きません。
 一旦、お開きと言う事にしましょう。」
 タカラギコが場の打ち切りを進言した。

「…だな。」
 ギコえもんが席を立ち、思い足取りで部屋を出て行く。
 私と小耳モナーとふさしぃもそれに続いた。

「?タカラギコ、君も行かないのかょぅ。」
 私は座ったままのタカラギコに声をかけた。

「ええ。もう少しだけ資料を整理してみます。」
 タカラギコはそう言って資料を手に取った。

「そうか…、でもあまり根詰めるんじゃなぃょぅ。」
 私の言葉にタカラギコは手を軽く挙げる事で答えた。
 私はそれを見ると、部屋を後にした。

 …考える事は山積みだ。
 『大日本ブレイク党は』、一体どこからあの強化兵を開発するだけの
 費用を捻出したのだ?
 地下に潜伏している時に、金鉱でも掘り当てたと言うのか?

 いや、そんな事よりも重要なのが、もし今回の襲撃が強化兵のテストなのだとしたら、
 『大日本ブレイク党』はまだかなりの強化兵を囲っている事が予想できる。
 下手をしたら量産体系まで確立しているかもしれない。
 もし、あんな連中が大量煮に実戦投入されたら、手が付けられない。
 それだけは、何としても防がなくては…!

 そして、でぃ君。
 彼は今、何をして、何を思っているのだろうか。
 彼が今、自分の力に苦悩している事は想像に難くない。
 そんな彼に、我々は何をしてやれるのだろうか。

 …もしかしたら、このままでぃ君が見つからない方が、
 彼にとって幸せなのかもしれない。
 私は心の片隅でそう考えているのかもしれなかった。



     ・     ・     ・



 タカラギコは同僚達が部屋を出るのを確認すると、大きく息を吐いた。
「…この事は、皆さんには知らせない方が良いですね。」
 そう言ってタカラギコは鞄から取り出した資料に目を落とした。
 そこには、『大日本ブレイク党』のマニーと、みぃの写真が掲載されていた。

290ブック:2004/02/16(月) 14:47



     ・     ・     ・



 俺は何もない真っ暗な空間に一人座っていた。
 お馴染みの場所。
 ここに来るのは一体何回目なのだろうか。

「派手にやったもんだな。なあ、おい。」
 いきなりの声をかけられ、俺は驚いて顔をあげた。
 そこには、いつの間にか一人の子供が俺の前に立っていた。

(誰だ、お前?)
 俺は心の中でそう考えた。

「誰だとは挨拶だな。俺の姿忘れちまったのか?
 まあ、無理も無いか。ずいぶん昔の事だからな。」
 その子供はまるで俺の心の中を読んだように答えた。

 何故だ。
 何故口に出していない事がこいつに伝わる?

「何故って事も無いさ。俺はお前なんだからな。
 自分が考えている事ぐらい、手に取るように分かる。」
 子供が嘲るように言う。

 おまえが、俺?
 いや、そうだ。
 やっと思い出した。
 こいつのこの姿、これは俺が事故ででぃになる前の…!

「ようやく思い出してくれたか、嬉しいねぇ。」
 子供が嫌らしい笑みを浮かべた。

(何の用だ…)
 俺は心でそう考える事で子供に問いかけた。

「ああ、そうだ。忘れるとこだった。」
 子供がわざとらしくポンと手を叩く。

「お前さ、SSSから逃げちゃってどうすんの?
 せっかくまともな飯とあったかい布団にありつけたんだからさ、
 もう少し居候させてもらえよ。
 またゴミを漁る生活なんて、俺は御免だぜ。」
 子供が気に食わない笑顔のまま、俺に顔を近づけてくる。

(うるさい、余計なお世話だ!)
 俺は子供を押しのけた。

「おいおい。そんな難しく考えるなよ。
 あいつらは、ただお前を実験用モルモットとして利用してるだけなんだぜ?
 それならこっちも利用するだけ利用してやればいいのさ。」
 子供が蔑んだ物言いで再び俺に近寄ってくる。

(違う!ぃょぅは、ふさしぃは、小耳モナーは、
 ギコえもんは、タカラギコは…!)
 俺は頭の中でそう叫んだ。

「違う?何を寝惚けた事言ってんだ?
 お前がSSSに連れて来られた理由を思い出してみろ。」
 子供が呆れたように俺を見据える。

「特にギコえもん、な。お前まさか、この前あんな事があったぐらいで
 あいつを信用してる訳じゃねぇだろ?
 あいつはまだお前の事を心底毛嫌いしてる筈だぜ。」
 子供が近くの空間に俺と初めて会った時のギコえもんの顔を映し出す。

(黙れ!!)
 俺は腕をスタンド化させて子供に殴りかかった。
 が、子供はそれをひらりとかわす。

「おお、危ね。そうか、お前もしかしてその腕の所為で
 SSSに始末されるのを警戒してるのか?それなら心配するな。
 そうなったら『俺が』そいつら『終わらせて』やるからよ。」
 子供がくっくと笑い声を漏らした。

291ブック:2004/02/16(月) 14:48

「それとも…この女にお前の本当のあんな姿を見られたからか?」
 すると、そこにみぃの姿が浮かび上がった。

「成る程、確かにいい女だ。お前が夢中になるのも分かるよ。」
 子供がみぃを舐め回すような目で見る。

「ああ、だが何ということでしょう!
 それに比べてこの私は醜いでぃ。こんな姿では釣り合う筈もありません!
 まさに分不相応の恋!
 現代の『シラノ・ド・ベルジュラック』!!」
 子供が大袈裟な程芝居がかった身振りで喋る。
 俺は既にこいつに対する殺意でいっぱいだった。

「それもこれも、でぃなんかになったから。
 もしあの事故さえ無ければ今頃は…」
 突然、子供の姿が変わり始めた。
 背が伸び、肩幅が広くなり、
 その姿は…
 そう、まるで…
 でぃにならなかったらこのように成長したであろうと思われる俺の姿に変貌する。

「これなら、この女も喜んで股を開くんじゃねぇか?なあ。」
 そいつは、邪悪な笑顔を浮かべると、みぃの肩を抱き寄せた。

(やめろ!!!)
 俺はそいつに掴みかかろうとした。
 しかし、目前まで迫った瞬間そいつと俺との距離が一気に広がる。

(…お前は……お前は誰だ!!!)
 今、分かった。
 こいつは俺じゃない。
 俺の皮を被った偽者だ。

「おやおや、お気づきになられましたか。
 お察しの通り厳密に言えば俺は完全にお前じゃ無い。
 だが…そう言うお前こそ誰なんだ?」
 そいつはそう言って俺の後ろを指差した。
 思わず振り向く。
 そこには、一枚の鏡があった。
 そして、そこに写っているのは…

「!!!!!!!!!!!」
 そこに写っていたのは、
 醜いでぃの姿ではなく、あの「化け物」の姿だった。

(ああああああああああああああ!!!!!!!)
 俺は鏡を叩き割った。
 後ろから、男が愉快そうな笑い声が聞こえてくる。

「あと、誤解しているようだから教えてやる。
 俺は確かにお前ではない。だが…さっき俺が言った事は、
 全てお前の心の淀みを映し出しただけのものなんだぜ?」
 笑うのを止め、そいつの姿が、また変わっていく。
 今度は、あの「化け物」の姿に変身した。
 …いや、元の姿に戻ったと言うべきか。

「…これでも、私はお前に感謝しているのだぞ?
 私をここまで育ててくれたのだからな…」
 「化け物」の姿が、闇の中へと消えていった。

(待て!逃げるのか!!!)
 俺は「化け物」に向かって叫んだ。
 しかし、そこにはもう「化け物」の姿は見えなかった。

「…そういえば、自己紹介が未だだったな。」
 闇の奥から「化け物」の声が響いてくる。

「私の名前は……」

292ブック:2004/02/16(月) 14:49



 俺はかっと目を見開いて跳ね起きた。
 いつの間にか、眠っていたらしい。
 それで、あんな夢を…

 俺は自分の腹のあたりを見つめた。
 腸がはみ出す程の傷が、腕や脚程の早さではないにしろ、既に塞がりかかっていた。

(くっ…!)
 自分自身の体に寒気を覚え、地面に拳をぶつける。

 俺の体、一体どうなっているってんだ!?

 不意に、お腹から腹の虫が音を立てた。
 そういえば、SSSを飛び出してから、何も食べていない。
 こんな時でも腹はしっかりと減るようだ。

 俺は久し振りにゴミを漁る事にした。
 何という事は無い。
 ただ、普段の生活に戻っただけの事だ。

「え〜〜〜〜〜〜〜ん、返してよぉ!」
 と、子供の男の子の泣き声が聞こえてきた。

 そちらに目を向ける。
 すると、男の子が地面に倒れて泣いていた。
 よく見ると、その子には足が無い。

 傍らでは、チンピラ風の男が子供のものであろう車椅子を取り上げて、
 満足そうに笑っていた。

 …放っておこう。
 俺には、関係の無い事だ。
 あの子を助けてやる義理など無い。

「え〜〜〜〜〜〜〜ん!」
 その時、その子の泣き声が、
 あの時のみぃの声とだぶって聞こえた。

 止めろ。
 耳障りなんだよ…!
 止めろ…!!

293ブック:2004/02/16(月) 14:49


 俺はチンピラの前まで進むと、
 その手から車椅子をもぎ取った。

「ああ!?なんだ手前、邪魔す…」
 そこで男は言葉を止めた。
 俺が鳩尾に拳を叩き込んでやったからだ。

 下らない。
 あの兵士達に比べたら、まったく歯ごたえが無い。


 俺は男の子を持ち上げて車椅子に乗せてやった。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
 男の子が嬉しそうな顔を見せる。

 俺はさっさとその場を去ろうとした。
 が、男の子は後ろから俺の袖を引っ張って、俺の動きを止める。
「待って、家に来てよ!助けてくれたお礼をするから!」
 男の子が俺に純真な瞳を向けながら言った。



 そのまま俺は男の子に導かれるまま男の子の後について行った。
 逃げようかとも考えたが、どうせ他に行く当ても無い。
 ならばお礼ついでに食事でもご馳走になろう。

「ここだよ!」
 男の子は小ぢんまりした施設のような建物の前で、車椅子を止めた。

 入り口にある表札を見てみる。

 ここは…孤児院?

「ちょっと待ってて!」
 男の子はそう言うと孤児院の敷地の中に入っていった。
 程無くして、一人の青年を連れてやって来る。

「家の坊主を助けてくれたらしいな。礼を言わせてもらうぜ。」
 青年は俺の前まで来ると、握手の為の手を差し出してきた。
「トラギコだ、よろしくな。」
 青年はハキハキした口調で、そう告げた。



    TO BE CONTINUED…

2943−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 18:38
スロウテンポ・ウォー

閑話休題その2<音速FUNKYヒーロー>

「あと4人…!そっちのお二人さん!!離れてくれ!!」
強化スーツ型スタンドに包まれた少年は、ノーと1ネーノにそう叫ぶ…
ZEROのチンピラ達は訳もわからず、慄くだけだった。一人を除いて。
「…強いな。おい、お前たちはここから出ろ。そいつを病院に連れて行け。それと“コロッソ”さんに報告だ。新たなスタンド使いが現れた…反抗した為、大耳モナーが始末する…と」
それだけ呟くと、取り巻きたちは無限空間から消え去った。

「アイツ…サシでケリつける気じゃネーノ?あの仮面ライダーもどきと…」
「そうみたいやね……」
二人はとにかくこの場は静観する事に決めた。主格である大耳が敵であることは間違いないが、モウコネエヨはこちらの出方次第で敵にも味方にもなりえる…ヘタに動くべき状況じゃない、そう判断したのだった。
「…そういうわけだ、モウコネエヨ。お前をこれ以上放っておくのは危険だ。私はともかく、“シィク”様や“ディス”様に害をなしかねない……よって!!今!!この場で!!お前を始末する!!永久に、この無限空間に閉じ込めてな!!」
「…シィク様だとか、ディス様だとか…カンケーねーよ。俺は!お前たちみたいな!!好き勝手暴れまわって他人に迷惑かけるヤツが大っ嫌いなんだよ!!俺の闘う理由は!!日本町の人たちを守る為だ!!」
大耳モナーが静かに構える…その背後に現れるスタンドヴィジョン…それに対して、モウコネエヨが構えたポーズは…クラウチングスタートの構えだった。

「……お前、舐めてるのか?俺の“インフィニット”は確かにパワーはあまり無い。だがお前を殴り殺す程度…造作も無い事だ。」
「……御託並べる暇があったら、殴ったらどうなんだよ!?」
一瞬、モウコネエヨの姿が消える。次の瞬間には、大耳モナーの目の前に現れる!!

2953−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 18:38
「くっ!!ガードしろインフィニット!!」
「1カウント…!!」

――ドンッ…

交通事故のような音が響いた。大耳モナーは、それこそトラックに撥ねられた様に、大きく吹き飛ばされた。モウコネエヨは、数秒前止まっていた場所から30m程離れた場所に立っていた。
それも、真っ直ぐ…一直線に30mだった。
「!!(な、なんや今の…!?何か、電車や車に撥ねられたみたいな……!!)」
一瞬の出来事にノーが思わず驚愕の色を見せた。モウコネエヨの忠告に従い、ある程度離れた距離に居たノーには、何が起こったのか判らなかったのだ。
「…そうか…!瞬間移動ではなく……“高速移動”か!!」
腕を抑え、立ち上がる大耳モナー。どうやら骨折したらしい。ジャケットの袖は破れ、どす黒く腫れ上がった腕が痛々しかった。
「だが、穴も見つけた……そうだな、大体10mと少し…その距離を進んだ瞬間、お前は高速移動停止せざるを得ない!!その瞬間に、叩き潰せばいい!!」
「…やっぱり1秒は長いな…やっぱある程度デキるヤツには見透かされちまう…まったく!!判り易過ぎるんだよ、俺のスタンドは!!」
モウコネエヨの反応が、大耳の仮説が正しい事を如実に示していた。
「そうだよ、俺のスタンド…“ファンキィ・ソニック・ワールド”は音速に近い超高速移動を可能にするスタンドだ!ただし、約15m進むごとに、1秒止まる!!出血大サービスで教えてやるよ!!」
喚き散らしながら自分のスタンドを説明するモウコネエヨ。

「(いや、バレバレやから。でも…あの能力はそれだけと違うと思うんやけど……)」
ノーは静かに、考えていた。
確かに超高速移動、そして規則正しい一瞬の停止…これで彼のスタンドの大部分は説明できる。
だが、明らかに…“それだけじゃない”気がするのだ。
あの大耳モナーを吹き飛ばした一撃…その前の“一時停止”……これが引っ掛かった。
モウコネエヨが停止した瞬間、彼は走るためのモーションを一切していない。
それどころか、本当に少しだが……“地に足が付いていなかった”ように見えたのだ。
だとすれば……

2963−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 18:41
「……ジャキーン!“トリック・ベント”!!いっくぜぇぇぇ!!」
再びモウコネエヨの姿が消える…!大耳が目で追うが、あまりにも速すぎる!!
「くっ……!どこだっ!!……何ぃぃ!!?」
現れた場所は…大耳モナーの頭上!空中で一旦停止し、再び消える…

―――ギュオオオオオ!!!

「こ、この音…ノーさん、何!?」
「…恐らく、スタンドが叫んでるんだと思うわ…。いや、あの場合…駆動音かもしれん。」
空中、地上、高速移動、一旦停止の繰り返し…少しずつ、モウコネエヨの残像が増えていく!!
「残像……どんだけの速さで動けばああなるんだ……想像もつかねーんじゃネーノ……?」
「いや……あの子自身は全く動いてへんと思うよ。」
「……!?どういう意味?!」
1ネーノが驚いた表情でノーを見上げる。
その間にも残像は増える。10人、20人、30人…大耳モナーは一歩も動けない。
動けば、さっきと同じ様に撥ね飛ばされるのがオチなのを知っていたからだ。
その姿を見ながらノーが静かに話す。

「…あれは、あの子がスタンド能力で高速移動“出来る”ようになったんじゃなくて……
スタンドが“高速移動する為の運動エネルギーを作り出してる”んだと思う。
あの一旦停止は恐らく…“運動エネルギーの方向(ベクトル)を本体に選ばせる”為に止まってるんと違うかな。
そうしないと、大耳のインフィニットや無いけど…延々真っ直ぐ進むだけになる。
だから、あの一旦停止は…一瞬にして唯一の制御時間……かな。あくまでも仮説やで?」
この仮説、実は大当りだったのだが…モウコネエヨ自身はそんな事に気付いていないし、
ノー自身もまさか正解だとは思っていないので、たいした問題にはならなかった。
1ネーノだけは感心したように頷いていたが。
更にモウコネエヨの残像が増えていく…100人、200人…それ以上。

2973−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 18:42
「反応!反射!!音速!!光速!!!もっと速くもっともっともっと!!!!」

―――ギュオオオオオオオオ!!!!!

「(いつだ……!いつヤツは仕掛ける……!?)」
残像を目で追いながらも、一歩も怯まぬ大耳モナー…いくら残像を増やそうとも
攻撃に出る一瞬さえ捕らえてしまえば……そう考えているのだ。
「……ラストォォォ!!!!!」
「!!!?」
最後に現れた場所は、大耳モナーの目の前…距離にして1m程の中空に、彼は佇んでいた。
孤高のヒーロー、仮面ライダーの様に足を伸ばし…
「ダリャアアアアア!!!!!!」

―――ドオオオンッ!!!!

放たれた超音速の“ライダーキック”は、大耳モナーを数百メートルは吹き飛ばした。
そして、無限空間は消えていく。恐らく大耳モナーが気を失ったのだろう。
どうやらスタンドが解除されたらしかった。
「……勝負有り、やな。…なぁ、君さ……ウチらの事知ってる?」
同じくスタンドを解除したモウコネエヨが振り向き、笑顔でこういった。
「…自警団だろ。……闘う気は無いけど、協力する気もないよ。」
「……そうか。」
この言葉は彼なりの答えなのだろう。ZEROの裏切り者である彼は、あえて一人で戦う事を
選んだのだから、自分にはそれを止める権利は無い。そう考えて、ノーはそれ以上聞かなかった。
「じゃあ、これだけ聞かせてくれん?…これからも、ZEROの追っ手と戦う気?」
ノーの問いに、彼は歩き出し……大きく片腕を上げてこう答えた。
よく通る、元気のよい少年の声で。

「Yes,I will!!」
シンプルな返答をした後…彼はそのまま走り去ってしまった。
「ねぇ、ノーさん……あれ、どういう意味?」
英語を知らない1ネーノが問う……
ノーは笑って、答えた。
「“ああ、そうするさ!!”って意味だよ。……とりあえず、帰ろうか?」
「……うん!」
方向性は違うが、同じ様にZEROと戦っている人が居る。そう知ることが出来ただけでも…
今日はいい一日だったと、二人は思った。

【チンピラ主格(大耳モナー):肋骨の粉砕骨折の他、内蔵に大きな損傷。再起不能(リタイア)】
【モウコネエヨ:現在もZEROの追っ手と交戦中。】
【ノー・1ネーノ:同じ目的を持つモウコネエヨと出会い、心強さを得る】

<TO BE CONTINUED>

2983−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/16(月) 18:42
スタンド名:ファンキィ・ソニック・ワールド
本体名:モウコネエヨ

破壊力:B スピード:A 射程距離:D
持続力:B 精密動作性:D 成長性:B

強化スーツ型のヴィジョンを持つスタンド。(ホワイト・アルバムと同じ系統)
亜音速に近い速度で移動する為の運動エネルギーを生み出す事が出来る。
約15m程進むと1秒間停止し、運動エネルギーを充填する。
その1秒の間に方向を選び、その方向に本体が向かうように運動エネルギーを撃ち出す。
ヴィジョンが強化スーツ型なのは亜音速移動の際の空気抵抗などから本体を守るためである。

299アヒャ作者:2004/02/16(月) 21:02
バレンタイン終わったと言うのに・・・・。

合言葉はwell kill them!(仮)バレンタイン番外編――ロマンス一直線(後編)

ヅーとシーンの二人が校庭に出ると、ものすごい騒ぎになっていた。

小森正男ことヒッキーの体は完全に手すりの外側に出ていた。
屋上は校舎の4階、下はコンクリート、落ちれば命は無い。

「あわわわ・・・どうしよう、どうやって止めれば・・・。」
ヅーはとりあえず屋上のヒッキーに声を掛けた。
「こんにちは。今日はいい天気だね。」
出てくる言葉が思いつかなかったからしょうがない。
「自殺なんか止めろよ!」
シーンも後に続く。
しかしヒッキーは耳を貸そうとしない。
「ウルサイ!人の気持ちも知らないで!」
叫びながら彼は泣きじゃくっていた。

「あ〜死ぬ気満々だよォ〜。」
ヅーは頭を抱えた。
すると野次馬に混じっていたマララーが二人のそばに来た。
「俺が何とかしてみるよ。」
「本当!?頼む!僕達じゃ無理なんだ。」

マララーは屋上に向かって言った。
「お前さぁ何でチョコ貰えなかったぐらいで自殺しようと考えるわけ?また来年があるじゃん。
 そしたらお前も貰えるかもしんねぇべ?」
こんなような事を言うと彼は
「黙れ黙れェ!僕は生きてきた中でバレンタインにチョコ貰った事なんて一度も無いんだ!
 こんな人生送るより死んだ方がマシなんだ!」

「あ〜あ、効果無しか・・・・」
そういってもう一度自分が説得に応じようとした時だった。
マララーがキレて叫んだ。

「なんでそうなんでもかんでも決め付けるんだよ?!てめぇには先がわかんのか?!
 俺だってお前みたいにバレンタインに一度もチョコ貰った事ねぇよ!
 そんな奴は日本中、いや世界中にたくさん居るよ!そんな奴らでも自殺なんて考えねえよ。それが何だ?!
 「チョコ貰えないから死ぬ」だと?あまったれたこと言ってんじゃねぇ!
 物事を否定的に考えてるからそうなんだよ!いつまでもウジウジしやがって。
 てめぇホントに男なのか?!男ならそこで踏んばってみせろ!
 もうバカ!なんつーかほんとにバカ!バカ!もう!」

その場に居た全員がマララーの方を見て呆然としていた。
彼がこんなにも怒るのを誰も見た事が無かったからだ。
ヒッキーも鳩が豆鉄砲くらったような顔をしていた。

その時丁度いいタイミングでアヒャとツーの二人がヒッキーを取り押さえた。
校庭に居た全員がワーッと歓声を上げる。

その時ヒッキーの上履きが片方脱げ、ヅーの頭を直撃。
ヅーはその場にひっくり返ってしまった。

300アヒャ作者:2004/02/16(月) 21:04

「さっきのお前カッコよかったぞ、俺感心しちまったよ。」

事件も解決し、アヒャはマララーと話していた。
「えっ何々?!マジで?!そ、そうかな?いやあん時は夢中で言っちまっただけなんだけどね!
 いや〜でもやっぱとっさにあんな事言えるのなんて俺ぐらいだからなぁ!」

そこでアヒャが一言
「そこで調子に乗らなけりゃもっといいのにな」

グサッ。

「いやね・・・分かってるんです。分かってるんですけど俺なりの照れ隠しなんです・・・。」
たちまち凹むマララー。

そのとき教室に一人の女の子が入ってきた。
「お、あれは椎名ちゃんじゃないか。どうしたんだろう?」

彼女はそのままマララーの方に歩み寄ると、ポケットから何かを取り出した。
そこにはラッピングされたチョコが握り締められていた。

「えッ!?お、俺?!」
「これは私の気持ちです・・・・受け取ってください!」
そう言うと彼女は踵を返して走っていった。

「マジかよ〜〜〜〜〜。お前の事好きな奴が居たなんて・・・。」
アヒャはマララーの顔を覗き込んだ。
彼は泣いていた。

「・・・・お・・・・お・・・・・・。」
生まれて始めてチョコ貰ったんだ。嬉しくないはずがない。
「うおォォォ――――――ッ!!!!神は私を見捨ててはいなかった!さあ、神を称える歌を!」
彼は完全に自分を見失っていた。

見るとマララーのそばで男がぐったりとしている。
しかも肋骨が全部裏返っていておでこにディスクが刺さっている。
とりあえずディスクを押し込んでみる。

「ハーレルーヤー♪ハーレルヤー♪(メサイア)」
神々しい合唱が教室に響き渡る。
その時のマララーの顔は、何かを成し遂げた男の顔だった。

放課後。
昼休みからずっとハイテンションだったマララーが自転車で通り過ぎた。
物凄いスピードで立ちこぎしている。

「危ないな、事故るなよー。」
「いや!事故ッちゃう!ああ〜〜〜!!」
彼を見送ってから俺はバッグのふたを開けた。

今日の収穫は2個。
一個は去年ストーカーを追っ払った級長から。
そしてもう一個はヅーからだったしかも手作り。

とりあえずヅーから貰ったチョコを食べてみる。
ここで恋愛漫画だったらたいてい手作りチョコはマズイ事になっているが・・・・
一粒だけかじった。

・・・・・・・・

美味しくもなく、不味くもない中途半端な味が口の中に広がった。

301アヒャ作者:2004/02/16(月) 21:04

翌日・・・・・。

「おっはよー。・・・マララーは?」
いつもは元気に話しかけてくるマララーの姿が無い。

「あいつなら家で寝込んでいるよ。」
「え、何かあったの?」
「アイツ昨日チョコ貰ったじゃないか。」
「うんうん。」

「それに当たったらしいんだよ。」
「・・・・・・・かわいそうな奴。」

こうしてバレンタインデーはほとんどの人々にとって

いつもの年と同じようにあたり前に…すぎていった

合言葉はwell kill them!(仮)バレンタイン番外編

        ―THE END−

302ブック:2004/02/17(火) 19:20
        救い無き世界
        第二十四話・ファントム・ブラッド 〜その二〜


 目を覚ました後、私はふさしぃさんからでぃさんが何処かに行ってしまった事を
 聞かされた。

 私は、最低だ。
 でぃさんはあんなに血まみれになってまで闘っていたのに、
 私はそんなあの人を見て怯えるだけだった。

 私は居ても立ってもいられず、久し振りに猫に姿をかえて、
 窓からこっそりと部屋を抜け出した。
 ふさしぃさん達に出くわしたら、引き止められるかもしれないからだ。

 でぃさんに、会わなければ。
 会って、ちゃんと謝らなければ。

 私はSSSの外へと駆け出した。



     ・     ・     ・



「箕条晶が殺された?」
 男は部下らしき者の報告を受けて、驚いた様子で聞き返した。

「はい、そうです。マニー様。」
 部下の黒服が言葉を返す。

「殺した者の目星はついているのか?」
 マニーは黒服に尋ねた。
「はい。恐らくマニー様の御命令で箕条晶殿が探りを入れていた、
 スポンサーの手合いではないかと…」
 黒服が丁重に答える。

「…分かった。下がれ。」
「はっ。」
 マニーの合図で黒服は部屋から去っていった。


「…見せしめの心算か、スポンサーめ。」
 マニーが忌々しそうに呟いた。

「敵はSSSだけではないのかもしれんな…」
 マニーが何気ない様子でSSSに関して調べられた資料を手に取り、目を通した。
 特に目ぼしい内容は載っていないらしく、パラパラと流し読みをする。

「!!!!!」
 と、マニーの目に一つの写真が飛び込んできた。
 その写真の横には、『SSSが最近監視下に置いたスタンド使い』
 との見出しが書かれている。

 一つ目の写真はでぃ。
 しかし、マニーが目を止めたのはでぃの写真では無く、
 その隣の女の写真だった。

「ははは…!何処へ逃げていたのかと思ったら、こんな所に隠れていたのか!」
 マニーがやおら笑い出した。
 手に力が込められ、資料をグシャグシャに握り潰す。

「『人形』が、主の下から勝手に逃げ出したどうなるか、
 ちゃんと教育してやらねばな…!」
 彼の顔が狂気に歪んでいく。
 目を血走らせ、歯茎が剥き出しになるほど口を吊り上るその様は、
 あたかも亡者のようであった。

303ブック:2004/02/17(火) 19:21



     ・     ・     ・



 俺はトラギコに、孤児院の応接間のような場所に案内された。
「少し待ってろ。今、院長を呼んでくるから。」
 そう言ってトラギコは部屋を出て行った。

 俺は窓の外を眺めた。
 敷地内の広場では、子供達が遊んでいる。
 その中には、さっき助けた車椅子の男の子もいた。

「?」
 その時、俺はある事に気がついた。
 よく見れば、ここの子供達は皆、大なり小なり障害を持っている。
 脚が無かったり、腕が片方無かったり、目に包帯を巻いていたり、
 耳が聞こえないみたいだったり、俺みたいなでぃになっていたり、
 それでも、子供達は心の底から楽しそうな笑顔で遊んでいた。


 と、突然部屋にノックの音が飛び込んできた。
 ゆっくりとドアが開けられ、初老の男性と壮年の男女が部屋に入ってきた。

「ようこそ、東孤児院へ。
 私はここの院長を勤めさせてもらっている者です。
 この度は私達の坊やを助けて頂いて、本当にありがとうございます。」
 初老の男性が俺にそうお礼を言って、隣の男女と共に頭を下げてきた。
 俺は無性に気恥ずかしくなって、思わず首をぶんぶんと振った。

「本当にありがとうございました。」
 横の夫婦が俺にもう一度頭を下げてきた。

「ああ、紹介が遅れましたね。
 二人はここの職員です。夫婦でここに勤めて頂いているのですよ。」
 院長の言葉に、夫婦は軽く会釈する。

 ?
 あれ、待てよ。
 この人達、何処かで―――

「院長、晩飯の支度が出来たぜ。」
 トラギコが、ドアを開けて院長にそう告げた。

「おお、ありがとう。トラギコ。」
 がトラギコの方を向いて言った。

「そうだ。お礼代わりと言っては何ですが、
 あなたもご一緒に食事をいかがですか?
 大したもてなしは出来ませんが、ぜひ御馳走させて下さい。」
 院長が俺にそう聞いてきた。

 願っても無い。
 これで一食は助かった。
 渡りに船とはこの事だ。

『すみません。御馳走になります。』
 俺はメモ用紙にそう書き、二つ返事でその申し出を受けた。


 しかし、さっきの奇妙な既視感は何だったのだろうか。
 どういう事だ?
 俺はここに来たのは初めてなのに、
 何故…

 俺はそこで考えるのを止めた。
 どうでもいい。
 ただの思い違いに決まってる。

 俺は食事の献立が何なのかについて思考を巡らすのに集中することにした。

304ブック:2004/02/17(火) 19:21



「粗茶ですが。」
 食事を終えた俺に、婦人がお茶を差し出してきた。
 ありがたく頂く事にする。

 それにしても、さっきの食事は美味かった。
 しかし、やっぱりさっきからどうもおかしい。
 ここで出された食事、たしかあの壮年の夫婦が作ったと言う事だが、
 どこかで食べたような、懐かしい味がした。
 会ったことも無い人の料理の筈なのに、どうしてなのだ?

「驚かれましたかな?この孤児院の子供達に。」
 院長が俺にそう尋ねた。
 俺は頷く事で答える。

「最初の頃は障害を持たない子供達もこの孤児院にいたのですけれどね、
 今では障害を持った子供を一手に引き取っているのです。
 …と言っても、虐殺厨に家族を殺され一人だけ生き残ったり、
 障害の所為で親から捨てられたり、親族や孤児院をたらい回しにされたり、
 ここの子供達は体だけでなく、心にも大きな傷を抱えている…」
 夫婦が、とても悲しそうな顔をする。

「院長、茶菓子を持って来たぜ。」
 トラギコが、机の上にかりんとうや饅頭が盛られた器を置いた。

「ありがとう。
 ああ、そうだ。彼はトラギコと言って、この孤児院のOBです。
 今では、職員の一人として手伝って貰っています。」
 トラギコが軽くお辞儀をする。

『経営は大変ではないのですか?』
 俺は筆談でそう尋ねた。

「ええ、確かに大変ではないと言えば嘘になりますね。
 しかし、誰かは分かりませんが毎月この孤児院に大量の寄付を
 して下さる方がおりまして、資金面では問題はありません。
 それに、職員達は心を込めて子供達と接してくれている。
 これ以上望む事などありませんよ。」
 院長は柔らかな笑みを湛えて言った。

「院長〜、お電話ですよ〜!」
 職員である夫婦の夫人の方が、そう言って院長を呼びに来た。

「あ、済みません。少しの間失礼させて頂きますね。」
 院長は席を外して、部屋を出て行った。

305ブック:2004/02/17(火) 19:22


「お食事は、お口に合いましたか?」
 婦人が俺に尋ねた。
『ええ。とても美味しかったです。』
 俺は紙に書いてそう答える。

「…あの、そういえば何処かであなたとお会いしましたかしら……?」
 婦人が不意にそう聞いてきた。

 この人も、どうやら俺と同じことを考えていたらしい。
 だとすると、余計に奇妙だ。

『いえ、初対面の筈です。』
 俺は心のどこかに引っかかりを感じながらも、そう答えた。

『…そういえば、あなた達ご夫妻はいつからここで働いていらっしゃるのですか?』
 俺は何となく婦人に聞いてみた。

「そうですね…もう十数年になるかしら……」
 婦人が懐かしそうな顔をする。

『何故、ここで働こうと思ったのですか?』
 どうかしてるぞ俺。
 初対面の人にここまで聞くなんて。

「…償い、ですね。」
 婦人の顔がとたんに暗くなった。
 どうやら、触れてはいけない過去とやらに触れてしまったようだ。

「…ずっと昔、私達の間には一人の男の子がいました。」
 婦人が覚悟を決めたように語りだした。
「しかし、その子が事故ででぃになってしまった時、
 私達はあろう事か、思い余ってその子を捨ててしまったのです…!」
 婦人が悲痛な顔をする。

 …あれ?
 おい、待てよ。
 知っている。
 俺は何かその話の男の子を知っている気がするぞ。

「…その後、私達は自らの犯した罪に苛まれる毎日でした。
 死ぬことすら考えました。
 そんな時、ここの院長が私達夫婦に手を差し伸べて下さったのです。」
 婦人が沈痛な面持ちで喋っていく。

 待てよ。
 嘘だろ?
 いや、しかしあの時の既視感はまさか、
 まさか、まさか、
 この人は俺の…

「…捨てた子供には決して許されるとは思っていません。
 けれど、せめてもの罪滅ぼしにここの子供達を助ける手助けをしよう。
 そう思って、ここで働く事を決意しました…」
 婦人の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「!!ごめんなさい、初対面の方にこんな事お話して!」
 婦人が慌てた様子で笑顔を取り繕う。

306ブック:2004/02/17(火) 19:23

『…よろしければ、お子さんの写真を拝見させて頂いて構いませんか?』
 俺は婦人にそう告げた。

 頼む。
 杞憂であってくれ。
 俺の思い違いであってくれ。
 お願いだ。
 頼む…!

「ええ、良いですよ。」
 婦人は懐から写真を取り出して、俺に見せた。
「あの子の写真は、肌身離さず持ち歩いているんです。」
 婦人がはにかむ。


「!!!!!!!!!!!」
 憧憬、愛情、憎悪、悲哀、望郷…様々な感情が俺の心の中でごちゃ混ぜになった。

 …ああ……
 そうか。
 やはり、そうだったのか…!

 写真の中、
 若い夫婦に大切そうに抱えられ、
 幸せそうな顔で笑う子供。

 …それは、紛れも無い、
 かつての俺自身の姿だった―――



     ・     ・     ・



 『矢の男』が、道路を走り去っていくでぃとすれ違った。
 それと共に、『矢の男』の体から冷や汗が噴き出す。

「おいっ、お前、どこへ行く―――!」
 後ろからトラギコがそのでぃを追いかけて来る。

「いいんですよ、放っておきなさい…」
 『矢の男』はトラギコを止めさせた。

「?ああ?まあ、あんたが良いと言うならいいけどよ…」
 トラギコが渋々と立ち止まった。

「ここまで来てたのか。悪いな、あいついきなり逃げ出して…」
 と、トラギコが『矢の男』の異変を感じ取り言葉を止めた。

「くっ…くくっ…くっ……!」
 『矢の男』は怯えているように体を震わせながら、
 顔面を蒼白にして笑っていた。

「おい、あんた大丈夫…」
 トラギコは『矢の男』に手をかけようとしたが、
 その只ならぬ雰囲気に圧倒されて思わずしり込みした。

「…消えていなかったのか、あの狂気の産物は……!
 地獄の底に、奈落の深遠に、冥土の果てに、忘却の彼方に
 消し去った筈だというのに、まだこの世界に留まっていたのか…!
 あの、あの、あの忌まわしき「化け物」は……!!!」
 『矢の男』のいつもらしからぬ豹変振りに、
 トラギコは背筋に冷たいものを感じていた。

307ブック:2004/02/17(火) 19:23

「おい…あんた。
 すれ違った時に、あのでぃの『魂を覗いた』んだろ?
 一体、何を見たってんだ?」
 トラギコが恐る恐る『矢の男』に尋ねる。

「…何でもありません。
 ただ、懐かしい知人の元気な姿を見ただけですよ。」
 『矢の男』がようやく落ち着きを取り戻した様子で告げた。

「…ヤバいなら、俺が始末するか?」
 トラギコが『矢の男』に聞いた。

「なりません…!
 私の計画が成就するまで、あの『化け物』に迂闊に手を出しては駄目です。
 下手をしては、全てが『お終い』になる…!!」
 『矢の男』がトラギコを押し留めた。

「…そうかい。あんたがそう言うなら止めておくぜ。
 しっかし驚いたぜ。
 家の坊主があの男を連れて来た時には。」
 トラギコがやれやれと頭を振った。

「ええ。知らせてくれて、ありがとうございます…」
 『矢の男』がトラギコに礼を言う。

「それなら、感謝の気持ちを形にして欲しいもんだな。」
 と、トラギコが『矢の男』に手のひらを突き出した。

「…ちゃっかりしていますね。」
 『矢の男』は呆れ返る。
「ああ。今日は食事代に、一人分余計な出費があったんでね。」
 トラギコは悪びれもせずにそう言った。



     TO BE CONTINUED…

308:2004/02/18(水) 22:36

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その1」



          @          @          @



「ここにおいででしたか、枢機卿――」
 きらびやかな礼服をまとった男が、同じく礼服を着た若い男性に声をかけた。

「ふむ。少し『船』が見たくなってな…」
 じっと船を眺めていた枢機卿が、振り返って言った。
 明らかに、枢機卿と呼ばれた人物の方が若い。
 その姿は、どう見ても20代前半である。
 一方、うやうやしく話しかける男は50代を越えていると思われる。
 知らない者が見れば、それは奇異な光景だろう。

「大司教、報告せよ」
 言いながら、枢機卿は船に視線を戻した。
 船の周囲では大勢の技術者が作業を行っている。
 強い風が吹いて、水面に波が立った。

 大司教は口を開いた。
「かの国の軍隊が、ASA本部を強襲しました。
 両者ともに被害は甚大という事ですが、軍隊の方に分があるそうです」

 枢機卿は満足そうに頷く。
「ふむ… 予想より早かったな。『ニイタカヤマノボレ一二○八』というやつか」
「…1941年、かの海軍が開戦日を極秘裏に通達した暗号ですな」
 大司教の言葉を受けて、枢機卿は笑った。
「12月8日… 誰が見ても開戦日が分かる暗号だな。
 一番驚いたのは、暗号解読に当たっていた米海軍通信部だったという話だ。
 …さて、ただちに代行者達の待機を解除、命令Bを実行させろ」

「はっ!」
 大司教はうやうやしく礼をする。
「ところで、ぽろろの方は?」
 枢機卿は訊ねた。
 表情を曇らせる大司教。
「それが… 本人が、2月8日に花火が上がらないと『NOSFERATU-BAOH』化の手術を受けないと言い張って…」
 それに対して、枢機卿は笑みを見せた。
「…なるほど、そういう事か。ならば問題はない。2月8日まで放っておけ」

「はっ…」
 頭を下げる大司教に、枢機卿は声をかけた。
「あと、教皇への報告は私からしておこう。いかに傀儡とはいえ、それなりの礼儀を払う必要はあるからな…」
「…まったくです」
 大司教は笑みを見せる。

「それと、今すぐ開発担当の司教をここへ呼んで報告させろ。かなり予定が早まってしまったからな…」
「了解しました」
 そう言って、大司教はドッグを出て行った。


 枢機卿は、忙しく働く技術者達の方に再び目をやる。
 そして、ふと呟いた。
「ASAは完全に後手に回った。戦術的勝利で戦略的敗北を補填する事は出来ない…というやつだな、山田殿」

「気付いておられたか」
 壁の隅にもたれていた山田が言った。
 そして、山田は4隻の船に目線をやる。
「それにしても… これほどの軍艦を用意するとは、随分と大仰だな…」

 枢機卿は腕を組んだ。
「『第二次海軍Z計画』により建造された、戦艦『ビスマルクⅡ』。
 航空母艦『グラーフ・ツェッペリンⅡ』、『ウェーザーⅡ』、『ペーター・ストラッセル』…
 世界の海軍を向こうに回すのだ。最強を誇る艦でなければならん」

 山田は枢機卿に視線を戻す。
「はて… 私は近代戦には疎いのだが、もはや戦艦を運用している国はないと聞くが…」

「概ねその通りだ。時代遅れの兵器など、消えてゆくのが定めなのだ…」
 枢機卿は視線を落とすと、寂しそうに呟いた。
「だが、この『ビスマルクⅡ』は違う。
 かの欧州最強戦艦『ビスマルク』をリスペクトしているだけで、中身は全く別の艦だ」

 山田は顎に手を当てた。
「『ビスマルク』… 確か、ナチスドイツの建造した戦艦ですな。
 英首相チャーチルが、いかなる手段を用いてもこの一隻だけは沈めろと言ったという…」

 枢機卿は、『ビスマルクⅡ』の黒い巨体を見上げた。
「イギリス側は『ビスマルク』一隻を撃沈するため、本国のほぼ全艦隊を投入した。
 それだけではなく、イギリス側の猛攻を受けても最後の雷撃を受けるまで、
 爆発一つ起こさず頑なにに浮きつづけた。その威容、まさに我々の旗艦にふさわしい」

「しかし、『教会』の旗艦に『ビスマルクⅡ』という名はまずいと思うのだが…」
 山田の言葉を、枢機卿は黙殺する。

309:2004/02/18(水) 22:37

 枢機卿の元に、司祭らしき人間が近寄ってきた。
 そして、厳かに礼をする。
「…お呼びでしょうか」
「いつ頃に量産が終わる?」
 枢機卿は『ビスマルクⅡ』を見上げたまま訊ねた。
 司祭は笑みを浮かべる。
「――明日には。ケーニヒス・ティーガーが700両、輸送機を含めた各種航空機が4000機。問題ありません」
「ほう… 随分と早いな」
 枢機卿は司祭を横目で見た。
「…で、航空機のうちヤーボは何機だ?」

「ドルニエDo217が1200機です」
 即答する司祭。
「よし、充分だ。戻れ」
「はっ!」
 司祭は枢機卿の傍を離れると、ドッグから出て行った。


「爆撃機が1200機… そこまでするほどの戦争なのか?」
 そう言った山田に、枢機卿は笑みを漏らす。
「フッ… 絶滅戦争ならともかく、私は『戦争』などする気はない。
 かのクラウゼヴィッツも『戦争とは政治の継続』と述べている。
 絶滅が目的の政治などあっていいはずがないだろう?」

「絶滅…か。気が乗らんな…」
 山田は顔を曇らせる。
 そんな彼に、枢機卿は訊ねた。
「都市爆撃と無差別爆撃の違いは知っているかね?」
「…いや」
 山田は首を振る。

 枢機卿はつかつかと歩きながら口を開いた。
「都市爆撃は、本来ならば戦略目標を爆撃で撃砕したいが、それが不可能な場合に行う行為だ。
 市民の頭上に爆弾をバラ撒いて、相手側の厭戦気分を盛り立てようとする… 言わば嫌がらせだ。
 対して無差別爆撃というのは、住民もろとも都市を焼き払おうとするものだ。
 破壊そのものが目的な為、都市爆撃とは戦略背景が全く異なる」
 ドッグには、機械音が響いている。
 山田の方をちらりと見て、枢機卿は言葉を続けた。 
「都市爆撃は、第二次大戦前に世界中の空軍軍人が傾倒したドゥーエ学派の理想とする戦争形式だった。
 だが… その欠点は、経済的観点から見ても明らかだ。非能率的なのだよ。
 そこで私は、本来の意味での無差別攻撃が最も有用であるという境地に達した。
 ――つまるところ、私は『戦争』が嫌いだと言える」

 それを受けて、山田は口を開く。
「de jure war(戦争法上の戦争)を由としない、というわけか…」

 枢機卿は満足げに頷いた。
「そう、私は戦争が嫌いだ。戦争に付随するあらゆる国際慣習、条約、法規が嫌いだ。
 パリ宣言、第1回赤十字条約、セント・ピータースブルグ宣言、陸戦法規慣例条約付属陸戦規約、
 空爆禁止宣言、毒ガス禁止宣言、ダムダム弾禁止宣言、第2回赤十字条約、開戦に関する条約、
 陸戦法規慣例条約、付属陸戦規約、陸戦中立条約、自動触発水雷禁止条約、海軍砲撃条約、
 海戦における捕獲権行使の制限に関する条約、海戦中立条約、ジュネーブ議定書、第3回赤十字条約、
 捕虜の待遇に関する条約、潜水艦の戦闘行為に関する条約、陸戦傷病者保護条約、海戦傷病者保護条約、
 捕虜条約、文民条約、ハーグ戦時文化財保護条約、環境改変技術敵対的使用禁止条約、ジュネーブ条約第1追加議定書、
 ジュネーブ条約第2追加議定書、特定通常兵器使用禁止制限条約、化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約… 
 …その全てが嫌いなのだよ」
 枢機卿は髪を掻き上げた。
 指の隙間から、狂気に満ちた瞳が覗く。
「ここで問おう。かってナチスは、ユダヤと戦争をしたか…?」

「いや、宣戦布告も交戦もなかった」
 山田は答える。
「Amen(その通り)! ナチスはただ殲滅を試みただけだ。戦争の意図など一切ない。
 …ならば再び問う。なぜナチスドイツはユダヤ人の殲滅を試みた?」
 しばらく考えた後、山田は口を開いた。
「単純なプロパガンダ… という答えを欲している訳でもあるまい。
 結局、当時のヨーロッパの全体意思だったのかもしれぬな。
 もしくは、アドルフ・ヒトラーの若い頃のコンプレックスという話もあるが…」

 枢機卿は腕を組んだ。
「さて、どうかな。かの伍長閣下は、母の死を看取ったユダヤ人医師の事を『一生の恩人』と公言している。
 また、ウィーン時代の下宿で同居していたユダヤ人を政権掌握後にも官邸に呼んで、旧交を暖めたりもしている。
 これはどういう事か…?」
 ふと言葉を切る枢機卿。
 その目は、漆黒の狂気に満ちていた。
「私は思う。アドルフ・ヒトラーは、ちゃんと選挙公約を守っただけなのだと。
 そういう事だ。民主主義が求めるものは、所詮はそういう事なのだよ…」

310:2004/02/18(水) 22:39



          @          @          @



 満月の下を、バイオリン・ケースを持った1人の女が歩いていた。
 たった一人、月の光を浴びながら。

 女は、前方に視線をやった。
 ただならぬ雰囲気の男が、ポケットに手を突っ込んで立っている。

「おや? こんな夜中に、女性が一人歩きとは…」
 男は、女を見止めて口を開いた。
 無言で歩み寄る女。
 男の一歩手前で立ち止まった。

「バイオリンですか… 何を弾かれるのです?」
 男は訊ねた。
「モーツァルトを少々…」
 女は答える。

「そうですか…」
 男は、つかつかと歩き始めた。
 女は動かない。
 そのまま、男は女の横をすり抜ける。
 男と女は互いに背を向けあう形になった。

 不意に男は口を開く。
「…それは残念ですね。もう弾けなくなるのだから。何故なら…」

 男は振り向いた。そして、女に向けて大きく腕を振るう。
「今、ここで死ぬんだからなァァァァァァァァ!!」

 女は、瞬時に身を翻すとバイオリン・ケースを開いた。
 その中から、素早くショットガンを取り出す。
 男の腕が女に届く前に、銃口が男の顔面に突きつけられた。
 地に落ちたバイオリンケースが、ドサリ…という音を立てる。

「お前のために奏でてやろう。モーツァルト『REQUIEM』K.626をな…」
 女は冷たい笑みを浮かべた。

「なッ…!」
 男の表情が恐怖に歪む。
 銃声と共に、その表情は顔面ごと崩れていった。

 女は素早く走り出した。
 まだ、モナーの家を出てすぐだ。
 奴等は、もうここまで来ている…!
 どうやら本格的に仕掛けてきたようだ。
 早速、前方に気配がした。

「へへっ、お前が『異端者』か? なんだ、女じゃねぇか…」
「バカ強いと聞いてたが… これじゃ楽勝だな…」
「代行者? 女なのに? 何かの間違いじゃないか?」
 『異端者』と呼ばれた女は立ち止まった。
 10人ほどの吸血鬼が、道に立ち塞がっていたのだ。

 吸血鬼の1人が、色を帯びた目で『異端者』の身体を眺めた。
「いい女だ… 血ィ吸う前に、いっぱい楽しみてぇなぁ…!」

「楽しみたいか…?」
 薄笑いを浮かべて『異端者』は言った。
 吸血鬼は下卑た笑みを見せる。
「オホッ! 体を好きにしていいから、命だけは勘弁して〜ってか!?」
 つかつかと歩み寄る吸血鬼。
 そのまま『異端者』の肩を掴む。
「ジッとしてな。イイ思いさせてやるぜ…!!」
 吸血鬼は『異端者』の服に手をかけた。

 その瞬間、吸血鬼の顔面が日本刀で串刺しになる。
 『異端者』はため息をついた。
「…駄目だな。殺し文句としては0点だ。あいつの足元にも及ばない」
「はへ…?」
 たちまちにして蒸発する吸血鬼の頭部。


 他の吸血鬼達は表情を変えた。
「ちっ… やっぱ、一筋縄じゃいかねえか!! じゃあ、これを見てみろ!!」
 吸血鬼の1人が、サラリーマンらしき中年男性を抱えていた。
 たまたま通りかかった哀れな男だろう。
「ひ、ひぃ…」
 涙を流しながら嗚咽を漏らす男性。
「へへへ…」
 吸血鬼は、男性の顔面を掴んだ。
 その握力で男の顔面が崩れ、血が噴き出す。
 そして、ボコボコと表面に浮き出す血管。
 そう、血を吸い取っているのだ。
「うああああああアアアアアアAAAAAAAAA!!」
 男の叫びが、獣じみたものに変化していった。

311:2004/02/18(水) 22:40

 吸血鬼が腕を離す。
 完全に顔面を潰されたはずの男が、くるりと『異端者』の方を向いた。
 顔面の3分の2は醜く崩れている。
 そして、ズルズルと足を引き摺りながら『異端者』に近付いていった。
「教えてやるぜ。こいつは、たった今ゾンビになった。
 お前にこいつが殺せるか…? ほんの前まで一般市民だったんだぜェ…?」
 吸血鬼は笑みを浮かべながら、勝ち誇ったように言った。

 『異端者』は、無言でゾンビの顔面に日本刀を突き刺す。
「aaa…」
 ゾンビは苦悶の声を上げながら蒸発していった。
「な… おまえ…!!」
 吸血鬼が驚愕の声を上げる。

 『異端者』は足元に崩れるゾンビを脇に蹴ると、一歩一歩吸血鬼達に近付いていった。
 そして、吸血鬼達を鋭く睨みつける。
「お前達は、私を正義の味方だとでも思ってるのか? それとも、私に人間らしさを期待したのか?」

 その威圧感にたじろぐ吸血鬼達。
 『異端者』は、ゆっくりと吸血鬼達との距離を詰めながら言った。
「無様だな… 吸血鬼とは、かって闇に生きる貴族だった。
 牙の穴2つ以上の傷を被害者に一切与えず、その血を啜っていた。
 ――お前らは、無作法で下衆だ。
 吸血時に無駄に肉体を破壊し、ゾンビに変化させて屍をも冒涜する」

「ふざけるなよ、代行者…」
 吸血鬼の1人が、牙をムキ出しにした。
「人間ごときが、不老不死の吸血鬼に説教とは…! その血を吸い尽くしてやろうッ!!」
 そのまま『異端者』に走り寄る。
「カラカラに干からびて後悔するんだなァ―――ッ!!」

「…遅い」
 『異端者』は瞬時に接近すると、吸血鬼の顔面を掴んだ。

「その血を吸い尽くしてやろう…」
 『異端者』は、先程の吸血鬼の台詞を反復する。
 そのまま、吸血鬼の首筋に牙を突き立てた。
「ッが… ぐぅアアア… GYAAAA!!」
 吸血鬼の身体が痙攣する。

「き、貴様…!」
 それを見ていた吸血鬼達の顔に、怯えの色が走った。

「――不味い。さすが下衆の血だ」
 吸血鬼の首から牙を離す『異端者』。
 そのまま、吸血鬼は地面に崩れ落ちた。

「貴様… きゅ、吸血鬼かッ!!」
 怯えと動揺の声。
 『異端者』は口許の血を拭う。
 そして、吸血鬼の群れを睨みつけた。
「さっきも言っただろう。 ――私に人間らしさを期待したのか?」

 突然、血を吸われた吸血鬼が起き上がった。
 その瞳は、明らかに常軌を逸している。

「…行け」
 『異端者』は小さく呟いた。
「SYAAAAAAAAAA!!」
 その声に呼応するように、吸血鬼はかって仲間であった一群に飛びかかっていった。

「う、うわあああああ!!」
 悲鳴を上げる吸血鬼達。
 運動性能は、明らかに『異端者』に血を吸われた吸血鬼の方が上だ。
 一瞬で、吸血鬼達の身が引き裂かれていく。
 たちまち、場にはズタズタに引きちぎられた数多くの死体が転がった。
 立っているのは、『異端者』に血を吸われた吸血鬼のみ。

「終ワり…まシた…」
 片膝を立て、『異端者』の足元にひざまずく吸血鬼。
「よくやった」
 『異端者』は、ショットガンで吸血鬼の頭部を吹き飛ばした。
 残った身体がズシャリと崩れる。

312:2004/02/18(水) 22:40

 再び、『異端者』は走り出した。
 吸血鬼があれだけとは思えない。
 しかも、先程のはかなりレベルの低い奴等だ。
 おそらく、吸血鬼になって間もないチンピラ同然の連中。
 
 予想通り、前方から腐敗臭にまみれた多くの気配がした。
 屋根や道路を駆けながら、高速でこちらに近付いてくる。
 先程の奴等よりも、遥かに強力だろう。
 走るスピードを落とさずに、刀を抜く『異端者』。

「代行者ァァァァッ!!」
 真上から吸血鬼が飛び掛ってきた。
 その瞬間、吸血鬼の胴体から頭部が離れる。
 さらに、『異端者』に並走してくる吸血鬼達。
 かなり数は多い。

「――いいだろう。まとめて塵に還してやる」
 『異端者』は立ち止まった。
 『エンジェル・ダスト』を解除する。
 たちまちにして全身に行き渡る吸血鬼の血。

 『異端者』の周囲を吸血鬼達が取り囲んだ。
 その数は余りに多い。
 吸血鬼は口を開いた。
「さあ…殺してやる。何か言い残す事はないか、代行者…」

 月の明かりが煌々と周囲を照らす。
 『異端者』は、その満月を仰ぎ見た。
「私達、日の光を嫌う者にはぴったりのステージだな――」

 そして、『異端者』は吸血鬼達に向き直った。
 服から2本のバヨネットを抜き出すと、それを大きく交差させる。
「Dust to Dust… 残念ながら、今夜は私もDustだ。
 塵の塵による塵のための舞台。 ――塵の夜へようこそ」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

313新手のスタンド使い:2004/02/19(木) 21:53
age

3143−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/19(木) 22:08
「スロウテンポ・ウォー」

新章への前奏曲――Agnus Dei

日本町はのどかな町だ。昔ながらの商店街や、ちょっとした歓楽街…
そして学生の街でもある。町中の空気は穏やかで、優しい。
そんな中、駅前には一つだけ…そんな空気とは別の建築物がある。
“新東京ミレニアムプリンスホテル”…大層な名前の、巨大なホテルだった。

…表向きは。

「…どうだね、“聖母”…我ら、“ZERO”の新しい城は。」
「……悪くは無いわ。ただ、ホテルを丸々買い取る必要はなかったんじゃないかしら。
貴方の行動は、常軌を少しだけ逸しているわ…そこが、貴方の魅力なのだけどね、少佐」
「…感謝の極み。その言葉、ありがたく受け取ろう」
軍服姿の男と、片耳のない女性…最上階のスペシャルスイートルームで
少し遅い朝食を取りながら、二人は談笑する。

このホテルは、既にZEROによって買い取られ…その本拠地と化していた。
宿泊客はもちろん、従業員すらもZEROのメンバーで構成された、完全な支配地。
彼らにとって、ここはたった一つの城であり領土だった。
「…コロッソは?」
ふと周りを見渡した女性…ZEROの最高司令者・シィクは、少佐へと尋ねる。
「“オフィサー”なら“幹部候補生”を探す、と言っていたよ。あの矢を持って」
「…彼は働き者ね。タカラは?」
「“バーサーカー”は自警団のDに破壊されたクラブの立て直しに追われているよ」
「あら?…意外とみんな暇をしているのね」
「…今、残っているのは“ウォーリアー”“サウスマスター”“エンジェル”“リトルナイト”の4人だな」
幹部たちをわざわざ役職名で呼ぶのは、少佐くらいだった。大真面目に話す少佐に、シィクは少しだけ笑う。
「それと“コマンダー”である貴方…面倒ね、洗礼の名で呼ぶと」
「いいのだよ、聖母(マリア)シィク…我々は、貴女方の手駒だ…“マリア”と“クリスト”の」
羨望と恍惚の表情で、少佐は呟く。本当に、聖母を見つめているように。
「……ふふ、少佐は私を好きでいてくれてるのね」
静かに笑うシィクの姿は、まさに聖母そのもの…年齢が上である少佐に対しても、母親のような愛情と
女神のような慈愛を与えている…
「勿論。今はまだ前線には出れないが…“シューター”“サテライト”の二人も、早く働きたがってる」

3153−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/19(木) 22:08
「全ては貴女の為だよ、“マリア・シィク”…キリスト教は嫌いだが、貴女は別だ」
「嬉しいわ…貴方たち“新たなる12使徒”と私たち姉弟で…新たなる世界を“0”から作り出す為に」
シィクは静かに笑っている。

「…まずは12使徒ね。残りは3人……」


「はぁ……」
公園のベンチで一人、たたずむ青年。
顔を包帯で被い、大怪我をした人か…あるいは、ミイラ男に見える青年。
「……もう、いいよ。きっと僕はこのまま、誰にも愛されずに死んでいくんだ」
絶望的過ぎる言葉が、口から吐き出される。
彼の名は合成モナー。様々なAAの特徴を寄せ集めたその顔は、酷く醜かったのだ。
その為に、外出する時に大仰な包帯男になる。自分の顔を、他人に見せない為に。
…それでも、彼の素顔を知った人は一様にして慄き、嫌悪する。
彼は、その嫌悪に耐えられなくなっていた。そして、今日。

彼は自殺を図るために、この公園の大きな杉の木に首を吊るす為に、ここに居た。

「…お前は愛されたいか?」
「え?」
突然の言葉に、合成モナーは振り返る。
「…おっと、先に名乗っておこうか。俺の名はコロッソ…」
「あ、合成モナーといいます…(あれ?僕は何でこんな見知らぬ人に名前を…?)」
コロッソの容貌はまさに“マフィア”だったが、合成モナーは恐怖を覚える事はなかった。
それどころか、兄のような暖かさすら感じていた。
「…そのロープ、首でも吊るつもりだったか?」
「え?…いや、これは……その…」
慌てて、ロープを背中に隠す。コロッソは小さく笑い、こう言った。

「なぁ…合成モナーよ。お前が自殺しても、世界は変わらない。わかるな?」
「…………そうですね。僕は、ただ醜くて嫌われ者ですからね…」
俯いたまま、合成モナーが呟く。
「僕が死んでも、ゴキブリが一匹死んだのと同じ扱いでしょうね。」
包帯を取り、その醜い“混ぜ物”の顔をコロッソに向ける。
「……だったら、お前にチャンスをやろう。二者択一で手に入るチャンスを」

3163−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/19(木) 22:09
「チャンス?(この人…僕の顔に驚かない?)」
「…ああ、失敗すれば死ぬが…ただ自殺するよりは、有意義だと思うがな?」
コロッソはアタッシュケースから“矢”を取り出し…合成モナーに突きつけた。
「我々の名はZERO…世界を創り直すために、生きる者達。」
「……ZERO……(ストリートギャングじゃなかったのか…?世界を創り直す…?)」
「お前が望むのなら、この矢でお前を貫こう。死ぬかもしれないが、生き残ればお前は生まれ変わる。」

「生まれ……変わる……?」
合成モナーが、コロッソの最後の言葉を復唱する。
「ああ、生まれ変わりだ。お前の心と精神の力を具現化させる力を得て、生まれ変わる。」
「………(どういう意味だろう……でも、僕は……)」
少しの間沈黙が流れた。本当に、少しの間だけだった。

「僕は……生まれ変わりたい。コロッソさん……僕を貫いてください、その矢で!」
はっきりと言った。合成モナーの目に、迷いは無かった。
「……その“意志”、その“覚悟”…確かに受け取った!」

――――ザクッ……

矢が心臓を貫いた。合成モナーは力なくベンチに倒れこむ。
コロッソは彼を担ぎ、本拠地であるホテルへと戻る。
彼が死んだならば、手厚く埋葬し…生き残ったのならば、彼を12使徒に推薦するつもりだったのだ。
合成モナーの悲しみや苦しみが、コロッソにも伝わるほど強く、大きかった。
それを、スタンドの力として発動したら…そう考えたのだ。
コロッソは、合成モナーを抱え、車に乗り込んだ。
向かう先は、ZEROの城。

3173−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/19(木) 22:09
お父さん…… お母さん…… 苦しいよ……
みんな、なんで… 僕を、そんな目で見るの……
お父さん…… お母さん…… 戻ってきてよ……
二人が死なないで居てくれたら……
僕はもう少しだけ、強くなれたと思うんだ……
今も生きていてくれたら……
昔の声で、笑える気がするんだ……

「……っ!!」
激しい胸の痛みに、合成モナーは目を覚ました。
いつもの薄暗い部屋ではなく、テレビでしか見た事がないような豪華な部屋だった。
「お目覚めかしら?」
女性の声、となりのベッドに腰掛け、静かに微笑む女性。
肩耳がなかったが、それでも充分美しい顔だった。
「……ここは?」
「…ZEROの城。貴方は、矢に選ばれたのね…」
女性が指差した先には、心臓。貫かれた筈の傷は、すっかりふさがっていた。
「……あの、貴女は……?」
まだ意識が朦朧としている合成モナーは、おずおずと尋ねる。
片耳の女性は、微笑をたたえたまま、答えた。
「私はZEROの女王…シィク・ワン…皆は、マリアと呼ぶわ…」
「あ、貴女が……ZEROの」
「……そうよ、可愛いスタンドを持った、合成モナーさん?」
ハッとした表情で自分の後ろを見た。彼女が名前を知っていた訳以上に、彼はその言葉に驚いた。
“可愛いスタンドを持った…”
「これ……は……?」
大きな緑色の猫…それも、物語に出てくるようなチェシャ猫がそこに居た。
「…貴方のスタンドよ。そうね、“ライム・ライト”なんて名前はいかがかしら」
「…ライム・ライト…僕の力。…僕は……」
合成モナーが何かを言おうとしたその前にシィクが先に口を開いた。
「合成モナーさん、貴方は私達と共に歩んでくれる事を選んだわ」
「……はい。」
「貴方は、最後の12使徒…洗礼の名は“メモリーズ”」
「僕は、貴方の力になります。新しい世界を創りたい…その為に、僕は生まれ変わった」
合成モナーの目には、殉教者の目になっていた。文字通り、生まれ変わったのだ。

3183−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/19(木) 22:14
「…あはは……コロッソくん、君も見る目あるなぁ。」
「……お前にはかなわないさ、タカラ。あと3人の12使徒の内、2人も見つけてきたそうだな」
ホテルのロビー、薄暗いバーカウンターにタカラとコロッソが居た。
話題は今日一日で全て集まった12使徒についてだった。
「僕が連れてきたのは、普通の女の子ですよ。名前は“かおりん”で洗礼名は“フェスタ”」
「祭りか。俺たちの革命は新たな世界の誕生祭になる…いい名を貰ったな」
「もう一人は壊されたクラブの生き残り、フサギコ。洗礼名は“ファントム”っていうんですよ…あは」
タカラが嬉しそうに語るのを、コロッソは静かに頷きながら聞く。
「もう少しだ……もう少しで、全てが終わり、全てが始まる」
「あはは……偉大なる聖母の為に……あはは」


悲しき聖母と嘆きの御子の理想の為に。
様々な痛みを抱いた12人の使徒。
見捨てられた神の子羊達は自ら神になるために、動き出した。
全てをZEROにする為に、ZEROから全てを作り出す為に。
全ては流れ始めた……

<To Be Continued>

319ブック:2004/02/19(木) 23:06
     救い無き世界
     第二十五話・ファントム・ブラッド 〜その三〜


 俺は頭が真っ白になったまま走り続けていた。
 あの孤児院を飛び出してどれ位走ったのだろう。
 日は既に沈み、月明かりが周囲を照らしている。
 息切れを感じ、人気の無い裏路地で足を止めた。

『せめてもの罪滅ぼしにここの子供達を助ける手助けをしよう。
 そう思ってここで働く事を決意しました…』
 止まったとたん、振り切ろうとしていたあの女の言葉が俺を苛む。

 ふざけるな…
 ふざけるなよ…!
 何がせめてもの罪滅ぼしだ。
 勝手に俺を捨てておいて、今更善人面か!?
 手前らはそれで満足だろうさ。
 自分の子供に注げなかった愛情を、他の可哀想な子供に与えて、
 さぞかし救われた気分になってることだろうぜ。

 だが、それじゃあ俺は何だ?
 あいつらは知らない子供を我が子の様に可愛がってるのに、
 実の子供である俺には見向きもしてねぇ。
 それどころか、成長した俺にも気付きやしなかった…!


(どうした、あの孤児院に戻らないのか?)

 頭の中に直接声が響いてきた。
 やめろ。
 お前は、もう、出てくるな…!

(憎いのだろう?実の子であるお前を差し置いて違う子供に愛を与える、お前の両親が。
 恨めしいのだろう?その愛を享受する子供達が。
 ならば何故そいつらを殺さない。)

 うるさい。
 黙れ。
 黙れ!!!

(何を躊躇う。
 憤怒、憎悪、嫉妬、怨恨、その身に押し込めずに解き放て。)

 やめろ。
 黙れと言ってるんだ…!

(そうか、いやこれは配慮が足りなかった。
 あいつらを殺す前に、あのみぃとかいう女を喰らいたかったのか。)

 ……!!!
 手前…

(隠すな。私にはお前の事が何でも分かる。
 あの女に哀れな自分を慰めて貰いたいのだろう?
 肌を重ね合わせて、一時の安心を得たいのだろう?
 欲しいのだろう?あの女が。)

 やめろ。
 違う。
 違う!!!

(違わないさ。これは、今ついさっきお前が考えた事だ。
 私は、お前の心から流れ込んできたものを代弁しているに過ぎない。)

320ブック:2004/02/19(木) 23:07

 うるさい…
 消えろ、『化け物』…!

(酷いことを言う…
 私がいなければ、お前は今頃死んでいるのだぞ。
 命の恩人に対して他に言う言葉は無いのか?)

 何をいけしゃあしゃあと…
 出て行け。
 俺の体から出て行け!!

(それは無理な相談だ。
 私はお前の中がとても気に入ってしまったからな。
 それに、仮に出て行ったとしてどうする?
 お前は再び唯のでぃに逆戻りだ。)

 黙れ、俺は…

(気にするな。お前の望みを叶える為ならば、いくらでも力を与えてやる。
 楽しいぞ?力で何かを押しのける事は。
 楽しいぞ?力で何かを押し通す事は。
 楽しいぞ?力で何かを奪う事は。
 楽しいぞ?力で何かを壊す事は。
 楽しいぞ?力で何かを殺す事は。
 楽しいぞ?力でこの世のありあらゆるものに『終わり』をもたらす事は。
 そしてお前はその力を持つ資格を得た。
 私の力を振るう資格を得た。
 そうだ。お前こそが、
 お前に宿りし私こそが、私を宿せしお前こそが、
 幾千幾万の怨念と『矢』により
 常世から現世に呼び出された終焉の化身、
 『デビルワールド』。)

 黙れって言ってるんだ!!!!!

 俺は壁を叩きつけた。
 殴られた部分が陥没し、大きな亀裂が走る。
 あの声は、それきり聞こえなくなった。

 顔からは冷や汗が滴り落ち、
 動悸が早鐘のように内側から胸を叩いた。

 無様なものだ。
 これが、泣く子も黙るような『化け物』の様か。

321ブック:2004/02/19(木) 23:07


 と、道端の隅っこの方に鏡が捨てられているのに気がついた。
 そこに、俺の姿が映し出される。
 両親が俺を捨てる原因となった、醜いでぃの姿…

「!!!!!!!!!」
 俺は拳で鏡を叩き割った。
 鏡の破片がバラバラに砕け散って地面へと落ちる。
 しかし今度はその割れた一つ一つの鏡が俺を映す。

 俺はその破片の一つ一つ全てを叩き壊していった。
 だが壊せども壊せども更なる数の破片が生まれるばかりで、
 そこに映る俺の姿は消えはしない。

 俺は狂ったように鏡を割り続けた。
 鏡の破片が手に突き刺さり、手が赤い手袋をしたように血で染まる。
 その血が鏡の表面にべったりと貼り付く事で、
 ようやく鏡に俺の姿が見えなくなった。

 ふと手を見る。
 血だらけになった手の傷口の肉がおぞましく蠢きながら自己修復を始めていた。
 鏡を割った位で、俺の姿は消せはしない。
 『化け物』がそう言っているようだった。

「―――ッ―――――ィ―――ァ―――。」
 声にならない声で、俺は咆哮とも慟哭ともつかない雄叫びを上げた。

 俺は多分、笑っていたんだと思う。
 声すら出せず、
 表情すら変えられず、
 ただ、ひたすらに。


 …近くに、人の気配を感じた。
 そちらに目を向ける。
 そこには、よく見知った一人の女が思いつめたような目で俺を見つめていた。

 …やめろ。
 来るな、みぃ。
 お前に声をかけられたら、
 お前に傍に来られたら、
 俺は―――

(欲しいのだろう?あの女が。)
 俺の思考が真っ黒に塗り潰された。

322ブック:2004/02/19(木) 23:08



     ・     ・     ・



 地面に押し倒され、服を引き剥がされる。
 変わり果てたでぃさんの腕が、私を押し付けて所作を封じた。

「!!!!!!!!」
 私の脳裏に、「あの場所」での出来事がフラッシュバックする。
 駄目だ。
 泣くな。
 正気を保て。
 今は泣き叫んでる場合じゃない。

 と、はっとしたようにでぃさんの動きが止まった。
 でぃさんの顔を見る。
 いつもと変わらぬ、変えられぬ表情。
 しかしその目には今にも泣き出しそうな程の悲しみを湛えていた。

 でぃさんはよろめきながら立ち上がると、
 背中を向けて、その場を去ろうとした。

「待って!!」
 私は力の限りの大声で叫んだ。
 でぃさんが歩みを止める。

「…この前はごめんなさい。
 でぃさんは、必死に闘っていたのに、私は―――」
 私はでぃさんに歩み寄ろうとした。

「!!!」
 でぃさんの腕が、私の接近を拒むかのように空を凪いだ。
 その勢いで引き起こされた風が、私の顔を叩く。
『来るな。』
 でぃさんの目が、そう訴えていた。

「………」
 私は黙ったまま、もう一度彼に向かって歩き始めた。
 でぃさんが後ろに下がれば、私はそれ以上の速さで歩を進める。

 行かせてはいけない。
 もしここで行かせてしまったら、この人は二度と戻って来ない。
 私は何故かそう確信していた。

 でぃさんの腕だけでなく、その脚までもが形を変えていく。
 その姿を見せつけ、私を追い返すかのように。

 それでも私は構う事なく進み続けた。
 恐怖は微塵も感じていなかった。
 確かにでぃさんの姿は普通の人間のそれではない。
 だけど、この人は決して『化け物』なんかじゃない。
 『化け物』と言うのなら、もしでぃさんが本当の『化け物』だと言うのなら、
 こんなに悲しそうな、苦しそうな、
 人間らしい目などしはしない。

「!!!」
 でぃさんの腕が私の首を掴んで締め上げるように持ち上げた。
 脳に酸素が回らなくなり、視界が薄れていく。

 …怖くなんか無い。
 こんな事、少しも怖くなんか無い。
 でぃさんが感じているであろう、自分の体が変わっていく恐怖に比べたら、
 こんなの、ちっとも怖いことなんてあるものか。

 最初でぃさんと出会った時から、私はこの人に守られてばかりだった。
 だから、今は、今だけは、私が彼を支える番だ…!

323ブック:2004/02/19(木) 23:08


 不意にでぃさんの腕から力が抜け、私を解放した。
 足がゆっくりと地面に着く。
 首の拘束を解かれ、思わず咳き込む。
 でぃさんの腕と脚は、元の姿に戻っており、
 彼は何かに怯えるように、ただ震えていた。

 包み込むようにでぃさんの体を抱きしめる。
 彼の体が小刻みに震えるのが、私の体に直接伝わってきた。
「―――ッ―――ッ―――。」
 声無き嗚咽と共に、でぃさんが痛い程強く抱き返してきた。

 …大丈夫。
 何も、怖くなんて無い…

 私も彼を強く抱き返した。


 !!!!!!!!!!!!!
 ―――闇を裂く、突然の銃声。
 ビクリと痙攣し、でぃさんの体が力無く崩れ落ちる。

「!?や……」
 でぃさんが、倒れたきり動かなくなる。
「嫌あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 私の叫びが夜の町にこだました。


   TO BE CONTINUED…

324ブック:2004/02/19(木) 23:09
 需要があるかどうかは分かりませんが、第十五話から今回の話までの人物紹介。


でぃ…ヤムチャ、アナスイ、テリーマン等々、およそ本来の主人公には相応しくない
   二つ名が良く似合うこの物語の主人公。
   一時期、比喩でなく本当に彼抜きで話が進んでいた。
   最近ようやく活躍しだしたと思ったら、久々に主人公っぽいと言われるまでの
   体たらくっぷり。
   活躍する度に『化け物』に心と体を蝕まれていく様は、
   まるでプロデューサーに体を売ることを引き換えにテレビで活躍する
   場末のアイドルを彷彿とさせる。
   最後にもう一度言います。彼 が 主 人 公 で す。

スタンド…名称『デビルワールド』。でぃの体を媒介として発動する近距離パワー型。
     最初は腕だけだったが、でぃと内側の『化け物』とのシンクロが深まる
     事で、脚まで変形させる事が可能となった。
     発動させた部位の身体能力の爆発的な向上、
     異常なまでの再生能力が確認されているが、
     他にも能力が隠されているようだ。
     ありていに言ってしまうとサナダムシ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
みぃ…彼女が猫又であると言う事実を一体何人の人が覚えているのだろうか。
   今頃になって自分の萌えに対して忠実過ぎたと後悔の嵐。
   でぃが活躍し始めた事で、その影の薄さに益々拍車がかかり、
   ヒロインの座を追われつつある。
   というか彼女がヒロインだったの?

スタンド…名称『マザー』。自分の生命エネルギーを他人に与える事が出来る。
     戦闘能力は皆無。
     生命エネルギーを、生物以外にも形を変えて送る事が出来るが、
     その変換効率は悪い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
SSS…正式名称『Stand・Security・Service』
    スタンド使いの警察のようなものとはぃょぅの談。
    ぃょぅ達はこのSSSの『スタンド制圧特務係A班』に所属している。
    ところでこの物語の主人公って、『スタンド制圧特務係』のメンバーですよね?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぃょぅ…『スタンド制圧特務係A班』所属。
    この作品中で極めてまともな部類に入る常識人。
    それによりあらゆる場面で誰とでも絡めるが、
    同時にキャラが弱くなってしまった。

スタンド…名称『ザナドゥ』。近距離パワー型で、射程内に自在に風を起こす事が可能。
     ぃょぅの出番が少なくなってきたら、このスタンドでパンチラ起こさせて
     エロ要員として頑張って貰おうと思う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふさしぃ…今までは普通のお姉さんキャラだったが、番外編により『青田刈りショタ』
     というどうしようもない異名を持つ事になる。
     丸耳ギコとの歳の差は十歳近く、誰がどう考えても犯罪スレスレ。
     でも私は、猫耳と同じ位姉さん女房は素晴らしいと思うのです。
     はにゃーん。

スタンド…名称『キングスナイト』。黄金の甲冑を纏った騎士の姿のスタンド。
     その剣でつけられた傷はどこまでも広がる。
     スタンドパワーの消費により傷が開くスピードを早くする事が可能な事が
     番外編で明らかに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

325ブック:2004/02/19(木) 23:10
小耳モナー…この物語のヒロイン。何故なら房中術を知らない程純粋だから。
      カマトトぶってる訳ではありません。
      彼は本当にそういう知識に疎いだけなのです。
      殺伐とした物語の中、一人マイペースなその姿は一服の清涼剤。

スタンド…名称『ファング・オブ・アルナム』。自動操縦型の黒い大きな狼の姿を持つ
     スタンド。自立意思を持ち、独特の任侠口調で喋る。
     ダメージが本体にフィードバックしない、近距離パワー型並の戦闘能力、
     自動操縦型にも関わらず本体の命令にかなり忠実、
     強力な特殊能力など、かなりの実力を秘めたスタンドなのだが、
     本体がヘタレな所為で十分な活躍が出来ない事が多い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコえもん…ぃょぅの同僚。過去の事件からでぃの事を嫌悪していた。
      でぃの救出の件で、多少でぃとの関係は改善しつつあると言える。
      いつもふさしぃに余計な事を言っては叩きのめされているが、
      その度に何事も無かったかのように復活。
      でぃよ、本当の『化け物』は彼かもしれないぞ。
      好物は今川焼き。

スタンド…名称『マイティボンジャック』。近距離パワー型で、
     射程距離内に引き起こされる結果を先送りにする事が可能。
     同僚が直球ストレートな能力が多い中、一人変化球気味の能力を持つ。
     しかし…これだけの能力があって何でふさしぃに勝てないのだ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…ぃょぅの同僚。ドライに見えて実は結構ノリの良い所もある。
      裏でこそこそ何かやるのが得意技のむっつりスケベ。
      かなりの体術の腕前の持ち主で、もしかしたらふさしぃに
      スタンド抜きのバトルで唯一対抗出来るかもしれない人物だが、
      性格の為か直接対決は起こらないでいる。

スタンド…名称『グラディウス』。銀色の小さな飛行物体の群体によるスタンド。
     その実態は謎に包まれており、ぃょぅ達にすらスタンドを見せていない
     と言う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
大日本ブレイク党…ヘルシングのナチスをモチーフにした団体だが、
         やってる事はそれに比べてかなりしょぼい悪の組織。
         所詮は子悪党の集まり。
         何かもう『ナチス』と言うより『ショッカー』という
         感じがする。
         ほら、『ショッカー』も幼稚園バスジャックとか、
         世界征服を企む悪の組織にしてはやる事しょぼいし。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1総統…『大日本ブレイク党』の首相。
    最近めっきり出番が減った事にご立腹。
    貴様が次に登場する時は死ぬときだー!(割と本当かも)

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
梅おにぎり…1総統の側近。
      最近め(ry

ス(ry
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マニー…1総統の側近。
    最近ようやく台詞を喋らせてもらった。
    みぃと何らか因縁がある…?
    死相が出ている。

スタンド…今の所不明。

326ブック:2004/02/19(木) 23:11
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アソパソマソ…でぃを捉える為に『大日本ブレイク党』が送った刺客。
       でぃを一時捕獲する事に成功したが、ギコえもんにより撃退される。

スタンド…名称『ロードランナー』。遠隔操作型で、地面に大きな穴を作ることが可能。
     しかしその能力は連発出来ず、その隙をギコえもんに突かれて敗北した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
うるせー馬鹿!…アソパソマソとコンビを組んでいた。
        典型的なやられ役。

スタンド…名称『シャドウゲイト』。不定形のスライム型のスタンド。
     ありあらゆるものの姿をコピー出来る。
     生物をコピーした場合、
     「コピーした対象からの接触、コピーした対象と四十八時間以上の
     交流がある人物からのコピー対象の名前の呼びかけ、
     それと同一人物による接触」の三つの手順を踏む事で、
     コピー対象の魂を抜き取る事が可能となる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ニダー…SSS諜報部に所属していたが、『大日本ブレイク党』と内通していた。
    元々はスタンド使いではなかったが、『大日本ブレイク党』の手引きにより
    『矢の男』からスタンド使いへと覚醒させられる。
    しかし、タカラギコによってあっけなく殺されてしまった。

スタンド…名称『サテラビュー』。地上と衛星軌道上にそれぞれビジョンが発動する。
     地上のスタンドで対象に触れる事でロックオンし、
     そこに向けて衛星軌道上のスタンドから光学レーザーが射出される。
     レーザー発射までは、若干のチャージ時間によるタイムラグ有り。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
箕条晶…『矢の男』について調べていた『大日本ブレイク党』の一員。
    しかし、それを邪魔に思った『矢の男』から、トラギコを差し向けられて
    彼により殺害された。クビチョンパ。

スタンド…名称『メトロイド』。雲のビジョンのスタンドで、
     そこから強酸性の雨を降らせる。
     雨を降らせる範囲はある程度調節可能。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
強化兵…『大日本ブレイク党』が開発した強力な生物兵器…の筈が、
    唯のでぃの引き立て役として終わってしまった。
    何?『ミカエルの眼』だと?聞こえんなぁ〜。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぷるモナ…SSSを襲撃した強化兵のリーダー。
     鋼糸を操りでぃをぎりぎりまで追い詰めるも、
     異形として目覚めたでぃにより無残に殺された。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

327ブック:2004/02/19(木) 23:12

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
矢の男…『大日本ブレイク党』を裏から支援する等、背後で不気味な動きを見せる。
    『神』の降臨とかいう電波な目的があるらしいが、詳細は不明。
    『デビルワールド』について何か知っている?

スタンド…今の所不明だが、魂を抜き取ったり、魂を覗いたり出来るらしい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラギコ…『矢の男』の従者ではあるが、あくまで金での契約関係らしい。
     孤児院で育てられたようで、彼の本名がトラギコ・D・ウルフウッドか
     どうかは謎。
     …パニッシャーは使いませんよ?

スタンド…名称『オウガバトル』。詳しい能力は不明だが、
     空間に何らかの形で作用しているようだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Z武…『矢の男』の従者。精神を病んでいるらしく、正気は保っていない。
   キャンデー大好きドリアン海王。

スタンド…名称『エグゼドエグゼス』。
     詳細は不明。このスタンドが開いた亜空間の中に、
     『矢の男』が抜き取った魂を保管している。
     四次元ポケット?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラギコと仲の悪い従者…『矢の男』には他にも数名の従者がいるが、
            彼はその中でも特にトラギコの事を良く思っていない。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

328ブック:2004/02/19(木) 23:12

     ・     ・     ・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
院長…トラギコが育った東孤児院を運営している。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
壮年の夫婦…夫婦で孤児院に勤めている。
      実はでぃの両親。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
孤児院の男の子…孤児院の子供。両足が無い。
        彼に限らず、東孤児院の子供は何らかの身体的障害を持っている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
チンピラ…孤児院の男の子を虐めていたどこにでもいる不良。
     御多分に漏れず即退場。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いっき…番外編に登場した刀に宿ったスタンド。
    その能力は無機物に取り憑くことで支配する事。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
丸耳モナー…『ベーカリー・マルミミ』の店長。
      非常にダンディで、町内ウホッ!良い男ランキングの常連らしい。
      妻と死別した後なおも独身を貫いている。
      それだけ妻の事を愛しているのだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
丸耳ギコ…丸耳モナーの一人息子。ひょんな事からふさしぃと付き合う事に。
     彼は基本的に本編には絡ませません。
     が、何となくふさしぃと彼とのラブコメも書いてみたくなった。
     しかしそれをやると本編の進行が遅くなる上に、
     読者様には見たくも無いものを見せる事になるかもしれない諸刃の剣。

     ここで問題だ。俺はどうすべきか?

     三択…一つだけ選びなさい。

     答え①…不細工なブックは突然本編を進めつつも
         番外編を同時に創作するアイデアがひらめいて小説がすいすい進む。
     答え②…本編より面白い番外編が書けるから無問題。
     答え③…番外編を書いたは良いが、本編が全く進行しなくなった上、
         読者様達からは「公開オナーニ見せんじゃねぇ」と、
         至極真っ当な批判を受けてズタボロになる。現実は非常である。

     俺が○をつけたいのは答え②だが、面白いものが出来る期待は出来ない…
     番外編を書いているうちに都合よく小説の神が降りてきて
     アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと番外編が出来て、
     「まってました!」と小説スレに貼るって訳にはいかねーゼ。

     逆に読者様もすでに丸耳ギコの事なんかどうでもよくなってるかもしれねえ。

     やはり答えは……①しかねぇようだな!

     さあ、いざ番外編を書き始めるぞ…!

     「!!!」
     ヤバい!!何を書けばいいのか全く思いつかねぇ!!!!!

     答え③ 答え③ 答え③…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 人物紹介、終了。

329SS書き:2004/02/20(金) 00:36
餌の戦い −バスケット・ケース & ベイビー・アピール−

仲良しこよしの親子がいたよ ママとかわいい赤ちゃんさ。
パパの残した赤ちゃんを ママは大事に育てたよ。
二人はずっと幸せに 暮らしていけると信じてた。
だけれど そんな ささやかな 夢はあっさり壊れたよ。

二人の男がやってきて 親子に向かって言いました。
可愛いかわいい赤ちゃんは ずっといい子でいて欲しい。
この子が大きくなったとき 悪さをしないか心配だ。
男の一人が赤ちゃんの かわいいおててを切り取った。

この子はこれで絶対に こんな悪さはできないよ。
男の一人は赤ちゃんの 顔を拳で殴ったよ。
これでもまだまだ心配だ こんな悪さができるから。
別の男は赤ちゃんを 力いっぱい蹴りました。

早く逃げなきゃ 逃げられない 赤ちゃん あんよも切られたよ。
赤ちゃんワーンと泣き叫ぶ うるさくするのは悪い子だ。
泣く子は壁に投げられて 赤ちゃん泣かなくなりました。
これでどんなにちっぽけな 悪さもできなくなりました。

男は切られた赤ちゃんの 足をかじって言いました。
お前らみたいな弱いのは 何をされてもしかたない。
君たち僕らの餌として 生きていくしかないのだよ。
ママは二人を止められない ママも手足を切られてた。


「最近アングラサイトで赤ん坊を虐殺する映像が出回っているんだって。
 僕は見たことないけど2チャンネルでも話題になっているよ。」
 おにぎりが言った。
「どうせ作り物だろうけど趣味が悪いモナね。」
 モナーが言った。
 往来を歩きながら会話するモナーとおにぎり。
 その二人を遠くから見つめるひとつの影があった。


 子供と手足を失った ママがぽつりと言いました。
 弱肉強食 この世の掟 弱者は強者の餌になる。
 だけれど我らは力を持った 矢に射抜かれて手に入れた。
 餌になるのは お前の番だ いまさらルールは変わらない。

330SS書き:2004/02/20(金) 00:37
「でも、その虐殺映像ってよくできているみたい。
 赤ちゃんの足を食べるシーンなんか作り物とは思えないって話だよ。」
「やっぱり偽物だモナ。
 虐殺AAでもしぃを食べるものがあるけど、おいしいわけないモナ。
 モナたちが食べている肉はみんな草食動物だモナ。
 しかも運動させないでいっぱい脂肪がつくように育てられているモナ。
 しぃは猫だから肉食だし、スリムだから脂肪なんてないモナ。」
「でも、アフォしぃは甘くて高級なものしか食べないワショーイ。」
「じゃあ、アフォしぃはおいしいかもしれないモナ。
 ……だけどアフォしぃっの食べるものといえばウンt 危ない!」
 突然何かがモナーに飛んできた。
「Omem−Owner!」
 モナーはスタンドを出してそれを防ぐ。
「なに? 新手のスタンド使いワショーイ?」
「そうかもしれないモナ。いったいなにが飛んできたモナか。」
 それは、腕だった。
「な なんだってー!!」
 モナーは例のAAも出すことも忘れて驚く。
 モナーとおにぎりは腕が飛んできた方を振り向いた。
 その先には片腕のない女が立っていた。
「見つけた。」
 女はつぶやいた。

「腕が取れちゃったモナか?」
「急いで救急車呼ぶワショーイ。」
「そんなものは必要ない。お前たちはここで死ぬのだから。」
 女が抑揚ない声で言った。
 次の瞬間、女の肩から何かが放たれた。
「何するモナ!」
 モナーは再びスタンドで防御する。
 飛んできたものはハサミだった。
「何者だモナ! 何でモナたちを襲うモナ。」
「餌は黙って食べられなさい。」
「僕はおにぎりだけど餌じゃないワショーイ!」
「餌でなければ生ゴミだ。ゴミは処分しなくてはならない。」
「話して分かる相手じゃないモナね。」
 モナーが身構え、おにぎりもスタンドを出す。

「ベビちゃん。ママ、虐殺厨をみつけたよ。」
「何かぶつぶつ言っているワショーイ。また何かしてくるよ。」
「さっきのハサミを飛ばす攻撃ならモナのOmem−Ownerで十分防げるモナ。」
「ベビちゃん。ママのお仕事手伝ってね。」
 再び女の体から何かが飛び出す。
 このときモナーは女の目を見て身震いした。
 それは狂気に満ちた目だった。
 その恐怖から、本能的に危険を感じた。
 
『この攻撃をスタンドで受けるのはヤバイ。』

それは一瞬の判断だった。
モナーは女の放った弾丸をかわした。
 それは道横の壁に食い込んだ。

「今度は何を飛ばしてきたモナ。」
弾丸は手足のない赤ん坊だった。

331SS書き:2004/02/20(金) 00:38
「なな なんだってー!!」
 モナーは叫んだ。
「あ!」
 今度はおにぎりが叫んだ。
「どうしたモナ?」
「思い出した。さっきの虐殺映像、赤ちゃんは手足を切り取られるって話だよ。」
「まさか、これがその赤ちゃんモナ?」
 確かに赤ん坊には血の気がなく、生きているようには見えない。
「そのとおりよ。私たちは親子二人で暮らしていくという小さな幸せを失った。
 でも、世の中にはその不幸を楽しんでいる輩がいる。……お前らのように。」
「モナたちはそんなことしてないモナ!」
「嘘を吐くな。さっき二人でしぃを食べようと相談していたじゃないか。」
「あれは違うモナ。そんな話じゃないモナ! ただの冗談で……」
 モナーがそこまで言うと、女が言葉を切った。
「冗談? そう、私の子供も冗談みたいに死んじゃったの。
 あなたたちにはさぞかし面白い冗談なんでしょうね。」
 女の声にはまるで感情がこもっていなかった。
「あのときは何にもできなかった。
 自分の子が目の前で殺されていくのに私は何もできなかった。」
 女が近づいてくる。
「私の大切な人の、たった一つの忘れ形見だったのに。」
 女は落ちていた自分の腕を拾い上げた。
「だけど、今は違う。私たちは悪魔の力を手に入れた。」
 腕は本来あるべきところに戻った。
 切れていた腕は何事もなかったように体にくっついている。
「この力で虐殺厨どもを根絶やしにすることに決めたの。
 これは冗談なんかじゃなく本気よ。」
 女は再び狂気に満ちた目を光らせた。

 モナーはこの場の状況を理解しようと必死だった。
 片手のない女から手足のない赤ん坊が出てきた。
 そして、女の取れた片腕は元通りにくっついた。
 なんてシュールな絵なんだろう。
 こんなにおかしな状況なのに、どうして誰も笑わないのだろう。
「いま、『私たち』って、言ったよね?」
 おにぎりがつぶやく。
 ……確かに言った。『私たちは悪魔の力を手に入れた』と。
 悪魔の力がスタンド能力のことだとすると、
 スタンド使いはもう一人いる?
 この女が殺された赤ん坊の母親ならば、もう一人は父親か?
 いや、さっき赤ん坊のことを『大切な人の忘れ形見』と言っていた。
 これは父親がすでに他界していることを意味している。
 そうなると『私たち』というのは……
 
「ママー。」
 不意に足元から声が聞こえた。
 声の主は手足を切られた赤ちゃんの死体だった。

332SS書き:2004/02/20(金) 00:40
「ななな 何だってー!!」
 赤ちゃんは生きているようには見えない。
 しかし、声の主は間違いなくこの赤ん坊……
「そういえば、聞いたことがあるよ。スタンドにはいろいろ特殊なものがあるって。」
「知っているモナか。おにぎり君。」
「うん。たとえば、スタンド使いが死んでいても動き続けるスタンドや、ものと一体化していてビジョンがないスタンドなんかがあるんだって。」
「じゃあ、このベビは……?」
「きっと、その両方の性質を持つスタンド、自分の死体と一体化しているスタンドなんだ。」

「そう、この子はそんな姿になっても死にきれないでいるの。
 殺された恨みを晴らすまでは静かに眠ることすらできないの。」
 ……そんなのは嫌だ。
 モナーとおにぎりは悲しそうに目を伏せる。
「お前ら虐殺厨は私から生きる希望を奪った。この子の命を奪った。
 それだけでは飽き足らずこの子の死後の安らぎまでも奪った。」
 足元からガリガリと何かが削れる音が聞こえてくる。
「弱肉強食はこの世のルール。弱者は強者の餌になるしかない。」
 肉塊になった赤ちゃんは芋虫のように地面を這い蹲りながら近づいてくる。
 そして、地面にはナメクジが通ったあとのように筋道がついている。
「最愛の子を失った直後に一人の男が現れた。
 その男によって私とこの子は矢に射抜かれた。
 私はこの子と一緒に死ねると思った。
 でも私は死ななかった。変わりにこの力を手に入れた。」
 赤ん坊の通った跡の筋道は、地面が削られていたものだった。
「私たちは強者になった。喰われるのはお前らの番だ。」

「このベビの能力は『破壊すること』モナか?」
 先ほどこの赤ん坊が射出されたときスタンドで受けずに正解だった。
 下手をしたら腕をすこし持っていかれていたかもしれない。
「ナッコー!」
 赤ん坊が奇声をあげる。
「とにかくここは逃げたほうがいいワショーイ!」
 そうだ。赤ん坊の移動スピードは歩くよりもはるかに遅い。
 しかも、まっすぐ進んでいない。
 赤ん坊は地面を削り、壁をえぐり、小石を粉砕し、草をなぎ倒し、
 蛇行しながら進んでいる。逃げられないわけがない。
「そうはさせない。」
 女がモナーに襲い掛かる。
 モナーはベビに気をとられて女の接近を許してしまった。
 女のスタンドがモナーを捕らえる。
「私の『バスケット・ケース』の能力は『物体を別の物体の中に埋め込む』こと。
 解除しない限り二つのものはくっついたままよ。」
 女がそう言うとモナーの腕が女の腹の中に突き刺さっていく。
 いや、女の体にブラックホールのような空間ができていて、
 そこにモナーの腕が吸い込まれるように入っているのだ。
「今あなたの腕を私の体に埋め込ませてもらったわ。
 これでお前はもう逃げられない。」

「なななな なんだってー!!」
「こうなったらベビをワッショイさせて足止めするよ!
 『シンクロナイズド・ラブ』!」
 おにぎりがおにぎり弾をベビの前に置く。
「破壊力のあるおにぎり弾をベビにぶつけるわけにはいかないからね。」
 赤ちゃんがそのおにぎり弾に到達する。
「さあ、いっしょにおにぎりワショーイ!」
 しかし、赤ちゃんに変化はなかった。
 赤ん坊はおにぎり弾を削りながら前進を続ける。
「そんな! 僕の能力が効かないなんて!」
 モナーは女と赤ん坊を交互に見る。
 スピードも精密動作性も低いけど、破壊のみに特化したスタンドと、
 たいした攻撃手段を持たないけれど、敵を押さえつけることが得意なスタンド。
「この親子、手強いモナ!」

333SS書き:2004/02/20(金) 00:43
「このままじゃモナー君が削られちゃうよー!」
「おにぎり君だけでも逃げるモナ!」
「そんなことできないよ!」
 おにぎりが叫ぶ。モナーは女の説得を試みた。
「こんなことしても何にもならないモナ!
 それにモナはあなたの体と一体化してるモナ、
 このままじゃあなた自身もダメージを受けるモナよ!」
「なんでもないわよ、そんなもの。
 ベビちゃんが受けた痛みはそんなものじゃなかったもの。」
 その赤ん坊はもうモナーの眼前に迫ってきている。
 このままではやられる。
 モナーとおにぎりは目線を合わせる。
「この状況でできることは一つモナ!」
「母親ごと逃げることだけワショーイ!」
 そう言うとおにぎりは母親を抱えて上げ、モナーとともにその場から逃げる。

 これで時間が稼げる。
 しかし、どうする。このままでは逃げ続けるわけにいかない。
 あの赤ん坊を倒せるのか?
 どうする。赤ん坊には触ることもできない。
 方法はある。
 たとえば1さんの『キュービック22』で燃やすとか、
 ギコの『 アンチ・クライスト・スーパースター 』の超音波ならば
 あの赤ん坊にダメージを与えられるかもしれない。
 だけど、どうする。赤ん坊への攻撃を誰かに押し付けるのか。
 どうする。あの虐殺された赤ん坊の死体に鞭打つ真似ができるのか。
 どうする。
 どうする。
 どうする……

「気安くダッコしてんじゃねー! この虐殺厨が!」
 女が自分の体から千枚通しを取り出し、おにぎりの足に突き刺す。
 おにぎりは声を上げてその場にうずくまる。
「お前らは私たちの餌になるしかない。」
 女は自分の能力でモナーの足を地面に固定する。
「これで、もう、本当に逃げられない。」

334SS書き:2004/02/20(金) 00:44
 女の目が恐い。
 それは獲物を狩るハンターの目ではない。
 それは虐殺を楽しむものの目でもない。
 それは復讐を胸に秘めたものの目ですらない。

 殺して糧を獲ろうとか、
 殺して快楽を得ようとか、
 殺して復讐を果たそうとか、
 殺すことが『手段』になっていない。
 これはもはや殺すことが『目的』になっている目だ。
 この女は『殺す』としか考えていない。

「どうしてそんな目ができるモナ……」
「どうして? そう、私もずっと思ってきた。
 どうして私たちがこんな目にあわなければならないの?
 どうしてベビちゃんを安らかに眠らせてくれないの?
 どうして最愛のわが子が目の前で殺されたのに私の心は壊れてくれないの?」
 この声を聞きたくない。
 この目を見たくない。
「いっそ壊れてしまえば、どんなに楽だったことか……」
 この目は地獄を見てきた目だ。
 この目には地獄が映っている・・・・・・

 ギリギリという音が近づいてくる。
「この子の呪いの力のために、
 私はこの子をダッコしてあげることもできない。
 私はこの子を体に埋めることしかできない。
 ……ベビちゃん。こっちよ。」
 母親の声に導かれ、赤ん坊が接近してくる。
 アスファルトの地面を削りながら、
 コンクリートの壁をえぐりながら、
 道に落ちてる小石を粉砕しながら、
 道端に生える草をなぎ倒しながら。
「ナッコー!」
 赤ん坊が再び不気味な声をあげる。

 モナーはあることに気がついた。
 ……おかしい。
 赤ん坊の能力が何でも破壊することではおかしい。
 もしかすると、とんでもない勘違いをしている――?

 モナーは必死に脚を曲げ体を倒す。
「無駄だ。私はお前の腕も足も離すことはない。」
 倒れこんだモナーの方へ赤ん坊が向きを変える。
「危ないモナ!」
 赤ん坊がマンホールの上に差しかかろうとしていた。
「このままじゃベビちゃんがマンホールを突き抜けて落ちちゃうモナ!
 早く助けてあげるモナ!」
「離さないと言っているだろう!」
 駄目だ。女には見えていない。聞こえていない。
「おにぎり君、受け止めるモナ!」
「え、でも……」
 赤ん坊はマンホールの上に到着していた。
 マンホールの蓋が削られていく。
「モナを信じるモナ! やさしく抱き上げれば大丈夫モナ!」
「分かったワショーイ!」
 落下寸前の赤ん坊をおにぎりが受け止める。
 赤ん坊はキャッキャッと笑っている。
 おにぎりが削られることはなかった。

「どうして……?」
 女が不思議そうにその光景を見ていた。
「簡単なことモナ。
 ベビちゃんの能力はもともと人を傷つけるようなものじゃなかったモナ。」
「分からない……
 復讐のための能力じゃないのにどうしてベビちゃんは死ねないの?」
「きっとそれは、あなたの能力によるものモナ。
 あなたの能力は『ものを埋め込むこと』、
 あなたの能力でベビちゃんの魂が肉体に埋め込まれている状態になっているモナ。」
 女は信じられないという顔をしている。
「でも、魂って物体じゃないよね。
 そうか! 
 スタンド能力が暴走していつもと違うことが起きることもあるんだワショーイ。」
「……そんな、ベビちゃんを苦しめていたのは、この私だった……」
「ベビちゃんが死ねないのは誰かを恨んでいるからじゃないモナ。
 ベビちゃんは『ナッコ』って言っていたモナ。これは『ダッコ』のことモナ。
 きっと、最期にベビちゃんはママにダッコして欲しがっているモナ。
 さあ、早くダッコしてあげるモナ。」
 女はモナーの腕と足を開放しておにぎりから我が子を受け取る。
 赤ん坊は満面の笑みを浮かべた。

 赤ん坊の魂が肉体から開放される。
 解き放たれた魂が天に昇っていく。
「ゴメンねベビちゃん。ママ、あなたの気持ちに気づいてあげられなくてゴメンね……」
「ありがとう。ママ。」
 上空から声が聞こえた。
 天を仰ぐ女の目からはとめどなく涙が流れ続ける。
 それは、子を想う母親の目だった。

335SS書き:2004/02/20(金) 00:47
――数日後。CAFE DEUXにて。
「……と、いうことがあったモナ。」
「そりゃ災難だったなゴルァ。」
 と、ギコが言った。
「本当にやられると思ったワショーイ。」
「それにしても、よくベビに触っても大丈夫だって気がついたね。」
 モララーがモナーにたずねる。
「簡単なことモナ。『柔らかいということはダイヤモンドよりも壊れない。』
 昔の人の言葉を思い出したモナ。あれは硬いものしか壊せない能力モナ。」
「もしかしてそれだけの理由でベビに触っても大丈夫だと思ったワショーイ?」
「そうモナよ。そもそも、わざと体を倒して赤ん坊をマンホールの上に誘導したモナ。
 本当は母親に能力を解かせたかったモナが、無理だったからおにぎり君に頼んだモナ。」
「ひどいよ! 下手をしたら今頃僕は米骨粉になってたよ!」
「冗談だモナ。あのとき赤ん坊を誘導させる余裕なんてなかったモナ。あれは偶然モナ。
 それにベビの能力も見当はついたモナよ。
 ベビが削ったのはアスファルトやコンクリートや石だけだったモナ。
 でも草は、なぎ倒されはしたけど無傷だったモナ。そこから判断したモナ。
 きっと刃物に対する恐怖からそんな能力を身につけたモナね。」
「冗談には気をつけたほうがいいぜ。
 そもそも、今回襲われたのはモナーの冗談がきっかけだったんだろ。」
「そうだったモナ。今回のことでモナは教訓を得たモナ。
 『口は災いのもと』ってことだモナ。」
「それにしても、死んでもダッコを求めるなんて、さすが……」
「モララー! そんなこと言っちゃいけないモナ!
 『糞虫』なんて言わせないモナよ!」
 一瞬にしてその場が凍りつく。
「みんな、どうしたモナ?」
 みんな声にならない声で何かを言っている。
 『う し ろ』と。
「後ろがどうしたモナ?」
 モナーが振り返る。そこにはしぃが立っていた。

「ななななな なんだってー!!」
「いま、『糞虫』って言ったよな?」
「言ってないモナ!」
「いいや、聞こえたぞ。『わてら陽気なオマターリアンか、おめでてーな』って言ったよな。」
「それは本当に言ってないモナ!」
「じゃあやっぱり糞虫って言ったんだな!」
「今のは卑怯だモナ!」
 モナーは思った。最近同じようなことがあって教訓を得たはずだ。
 そう、『口は災いのもと』と。
「誰が糞虫だー!」
 モナーはすでにマウントポジションをとられている。

 ギコとおにぎりとモララーが静かにその場を離れる。
「ところで気になっていることがあるんだけどさ。
 ベビは本当に殺されたことに何の恨みも持っていなかったのかな。」
「さあ、どうだろう。
多分誰かを恨むとか、そんなことを覚える前に死んじゃったんだろうな。」
「そうだとすると余計に悲しくなるね。」
「あんまり考えないほうがいいかもな。
 ベビは最期に『ありがとう』って言ったんだろう。それで十分じゃないか。
 悪いところばかりを見ても仕方ないさ。」
「そうだね。僕らにできることはベビの冥福を祈ることと、
 いま自分たちの身が安全でいられることを感謝することくらいだからな。」
 おにぎりたちが祈っているとき、その身が安全でない者の声が聞こえてくる。
「これは誤解だモナー!」
「誰が『媚を売って反感を買っている』ってー!」
「そんなうまいこと一言も言ってないモナァー!」
「いいや、聞こえたぞー!」
「フォォォォォォォッー!」
 ギコたちは思った。
 このままでは祈りをささげる相手がもう一人増えるかもしれない、と。


モナー
――これで再起不能になるわけにもいかないので、たぶん無事。
  これがきっかけで『Mのモナー』となったとしても、それはきっと別のお話。

スタンド名 バスケット・ケース
本体 ダルマしぃ
――この事件のあと、成仏できない霊を癒すため尼になる(リタイア)。

スタンド名 ベイビー・アピール
本体 ダルマベビしぃ
――死亡。(モナーたちは天国にいけたものと信じている。)


END

336SS書き:2004/02/20(金) 00:48
スタンド名:バスケット・ケース
本体:ダルマしぃ

パワー‐B スピード‐A 射程距離‐D
持続力‐D 精密動作性‐A 成長性‐D

 人型のビジョンで物体を別のものの中に埋め込む能力をもつ。
 完全に埋め込んでしまえば それぞれの物体は互いに影響を与えることはない。
 本体に物体の一部分のみを埋め込んだ場合、ある程度自由に動かすことができる。
 埋め込むこと自体での破壊やダメージはない。
 能力を解除した場合、埋め込まれていたものを勢いよく弾き出すことができる。
 なお、本体は切り取られた手足の切断面部分を自分の体に埋め込んでいる。


スタンド名:ベイビー・アピール
本体:ダルマベビしぃ

パワー‐E スピード‐E 射程距離‐−
持続力‐A 精密動作性‐E 成長性‐E

 自分の死体と一体化したビジョンのないスタンド。
 本体に触れた物体に振動を与えて振動を受けたものを破壊する能力。
 本体が恐怖で震えるほど破壊の威力は増大する。
 この破壊の振動は、硬いものならば壊すことができるが
 振動を吸収してしまうような柔らかいものは壊せない。
 この効果はスタンドに対しても有効である。

337新手のスタンド使い:2004/02/20(金) 00:51
乙ッ!

338丸耳達のビート:2004/02/20(金) 01:32
 マルミミ達が『矢の男』と対峙しているのとほぼ同時刻。

 しぃの指につままれたメモ用紙が、ぴらりと揺れた。
『でかけてきます。るすばんよろしく。∩_∩』と、漢字を使う間すら惜しんだらしい走り書き。
 そのまま何度かぴらぴらと波打たせるようにメモを揺らし、ぼふっとベッドに倒れ込んだ。
寝間着に使わせて貰っている浴衣が乱れるが、誰もいないので気にしない。

「…暇ー……」
 直後、言ってしまった事を後悔した。
言葉に出したことで、本格的に退屈さがわやわやと湧いてくる。
「…暇暇暇暇暇ァ――――――ッ。退屈退屈ゥ。うりー」

 …………………空しい。

(…私はたった一人で何をやってんだろ…)
マルミミがいればまだツッコミの一つや二つ入れてくれたのだろうが、目を覚ましたときには書き置きしか残っていなかった。
買い物にでも行っているのだろうか。いや、それにしては随分と長い。
十代の男の子が急いで出て行くような状況と言えば…
(…まさか…彼女?)

  ―――いやいやいやいや、それはないかも。
  マルミミ君はそんなこと似合わないタイプだし、そう言う話は聞いたこと無いし、
  やっぱりマルミミ君みたいな可愛いタイプの子は女の子から男の子として見てもらえないんだろうなーって思うし、
  けど私は『可愛い』って言われてムキになるようなそんなところが可愛いなーって思ったりなんかして、
  ところで浴衣って言うのは結構…というかかなり脱がしやすい服で、今度ちょっと挑発とかしてみたり…

ぴんぽーん。

「うひゃわっ!?」
 突然の音に、思わず肩をすくめてベッドの上を飛び跳ねた。
(イいイいッ今私なに何考えてッ!?…)
 自分の妄想に顔を赤らめたのも束の間、すぐ表情に影が差した。

                                    ビッチ
 考えてみれば、ついこの間まで体を売っていた私みたいな淫売とマルミミ君とが釣り合う訳無いのに。
幸せなこの状況に浸りすぎて、自分がどんな人間かを忘れているのかもしれない。
(…馬鹿だ、私…)
 マルミミ君だって、私なんかよりもいい女の子とくっついていれば―――

ぴんぽーん。

「あ、はいはーい!」

 立ち上がりながら頭を振って、自虐的な妄想を追い払う。
―――マルミミ君が私のことどう思っていようと、
せめて退院まではその優しさに甘えさせて貰おう。
(今まで頑張ってきたんだし…ちょっとくらいは、いいよね)

ぴんぽーん。

「はいはいはーい」
 マルミミ達がとんでもない状況に会っているとは露知らず、浴衣の襟元を正してドアを開けた。

339丸耳達のビート:2004/02/20(金) 01:34




 そのとんでもない状況―――満身創痍で『矢の男』と対峙している茂名とマルミミに向けて、『矢の男』が口を開いた。
といっても、顔も真っ黒なので『口を開く』というのはものの例えだ。
「むかァ―――――し昔…あるところに一人のスタンド使いがいた。
 その男は手下達を引きつれて、世界の全てを自分の物にしようと思ったんだ。
 …だがまぁ、そうそう簡単に世界征服なんぞ出来るはずがない。
 正義の味方に倒されて、彼の人生はあっけなく幕を引いたとさ。めでたし、めでたし」

「…えらく短いな。それで終わりか?終わりならとっとと首もらって帰りたいんじゃがな」
 茂名の言葉に、矢の男がひらりと掌を振った。
「そう急くな…めでたしめでたしと言ってしまった後で何だが、まだ続きがある。
 彼は確かに死んだ。 忠誠を誓っていた手下達も、残らず組織を離れていった。
 だが、一つだけ残ったモノがあったんだ。死の間際に本体とのリンクが断ち切れた一体のスタンド…それが私だ」


 スタンドと本体は、一種の共生関係と言われている。
本体はその生命エネルギーをスタンドに与え、スタンドはその能力で本体を守る…それが通常の関係だ。
 だが、稀にその共生関係を打ち破るスタンドが存在するという。
本体死亡と共に自立志向をとるタイプの、いわば『怨霊型スタンド』。
茂名の身近にも一人、そのタイプのスタンドが存在している。


「…その男は死してなお、夢を追い求めるため己のスタンドに命じた。
 『私に代わり世界の帝王となれるスタンド使いを探し出せ』―――――とな」
その言葉に、茂名が吐き捨てるように言った。右腕の修復は八割方終えている。
「世界の王じゃと?…莫迦莫迦しい。一体きりのスタンドで何ができる?
 SPMも貴様をマークしておる。無駄なあがきじゃよ」
ざわり、と男の顔面が揺らいだ。これがこの男の笑みなのだろう。
「そう…私がたった一人なら、な。だが、ここには私に味方してくれる者が何千人といるのだよ」
「…何だって?」

340丸耳達のビート:2004/02/20(金) 01:37
(No,problem…『ハッタリ』ノ筈デス。スグニ駆ケツケラレル距離内ニハ誰モ イマセン)
 B・T・Bが、自信に満ちた声でマルミミに言った。彼の索敵射程は半径一キロにも及ぶ。
その能力をしても捉えられないのならば、そう判断するのが当然だろう。
「見えないか?…ならば、見せてやろう」
 目を離した覚えはなかったのだが、いつの間にか一本の『矢』が男の手に握られていた。

   刹那。

 グル゙ルル゙キカ゚オ゙ア゙アァア゙ァ゙オ゙ォオ゙コ゚オ゙ォォオ゙オ―――――ッ!!!!!

「―――――ッ!!」
 その場の空気が変質した。憎悪と悲壮と絶望に満ちる、声なき咆吼、怨嗟、慟哭―――。
圧倒的な負の感情にあてられて、再びマルミミの胃が痙攣を起こした。
 胃の中身は既に残らず吐いてしまったが、更に胃酸が登ってくる。
スタンド使いであるマルミミは、こういった思念の動きに敏感だ。
しかし疲労した状態では、その長所も邪魔なものとなってしまう。
 そんなマルミミには目もくれず、『矢の男』は静かに語る。

「…もう、十年も前になるかな。私は『帝王の器』を持つスタンド使いを求めて、世界中を彷徨っていた。
         AA   AA
 だが所詮、人間は人間。単なる文字の羅列に過ぎない不完全な生き物だ…
 そんな者に、この世の王など務まる訳がない」

 くるくると、掌の中で矢を弄ぶ。

「だが、ある日私は気が付いたんだ。この世でもっとも完全に近い存在をな。
 この世のどこにでもいながら、どこにもいない存在。
 この世でもっとも脆弱にして、もっとも強靱な存在。
 この世を邪悪へ落とし、そして浄化を行う存在。
 自我すらも曖昧な、矛盾と混沌と可能性に満ちた存在。
 主が死んでからは、『幽霊』だの『残留思念』だの…まあ私も似たようなモノだが―――
 そう言ったモノが見えるようになった。私は彼等の事を、『名無し』と名付けて呼んでいる」

 くるん、と矢を逆手に持ち替えた。

「そして、私は考えた。一体一体は脆弱で不完全だが、そいつらを全て集めれば?
 『靴下の穴』と同じさ。お互いを補い合った、完全な命が出来上がるんじゃあないか…とね。
 私の体をベースにした、『完全な生命』…正に帝王にふさわしい。
 しかし、ここまで来るのは大変だった。人間に取り憑いて虐殺をするよう仕向け、
 負の感情を持った思念を増やす―――――地味で退屈な仕事だったよ。
 だが、数ヶ月前に『矢』を手に入れてからは随分楽になった。貫いておけば勝手に虐殺をしてくれるんだからな。
 全く人間というのは単純な生き物だな。ほんの少し背中を押すだけで、面白いほど簡単に『おちる』」

 逆手に持ち替えた矢を、高々と投げ上げる。
思念の流れが矢へと集中し、鏃が粉々に砕け散った。
四方八方に飛び散った欠片に触れた思念達が、次々と具現化する。

341丸耳達のビート:2004/02/20(金) 01:38
 その時、マルミミの精神には危機感も恐怖も無かった。
いや―――『無かった』と言えば嘘になる。確かに危ないとも怖いとも思ってはいた。
しかし、矢の男の言葉にそれらの感情は全て吹き飛んだ。


(…ちょっと待てよ…今、なんて言った?)


        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
―――――人間に取り憑いて虐殺をするよう仕向け―――――

        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
―――――負の感情を持った思念を集める―――――?


                      チリアクタ
「さあ来るがいい、名も無きこの世の塵芥。私の体をくれてやろう」
 その言葉を皮切りに、周りを飛び回っていた一匹の思念が『矢の男』の体内へと飛び込んだ。
更にもう一匹、二匹三匹四匹と思念が集い、体内へと吸い込まれていく。
「莫迦な…!そんな量の思念を取り込めば、貴様自身の精神も只ではおられんぞ!」
 茂名の言葉を裏付けるように、矢の男が低く呻いた。
スタンド使いではない茂名にも見える程の高密度を持った思念を取り込み続け、
矢の男自身の自我も吹き飛ばされそうになっているはずだ。
「構わん…死も精神崩壊も怖くはない…!『帝王を作る』ただそれだけが私の命の目的…意思にして意志だ!」
 それでも、その衝撃に耐えている。一点の曇りも迷いもなく、使命に向けて歩を進めている。
                      ・ ・
―――――ある意味では、彼もまた純粋な存在なのかもしれない。

 びしびしと揺らめく体に罅が入り、剥がれた体表面が空気に溶けて消えた。
茂名が拳を握り締めた。指先が、小刻みに震えている。
 矢の男を支えているのは、使命という名の狂気だ。
狂えるが故に、これ以上なく純粋に夢を追い続ける。それが恐ろしい。
現に茂名はその狂気に圧倒され、飲み込まれているのだ。

「名無し共ォ―――ッ!自我も…命もくれてやる!だから…私を…
 私を帝王の座に連れて行けェェェ―――――ッ!! !! !!」

 『矢の男』の生命全てを傾けた咆吼が、廃ビルの壁をびりびりと振るわせる。
あたかもその叫びに呼応するかのように、数多の思念が渦を巻き、収束し、凝縮され―――爆発した。

342丸耳達のガン=カタ:2004/02/20(金) 01:39
モナシキ=ハモンホウは波紋を総合的に使用する格闘技である

              ∩_∩
              (´ー`)
              (   )


     この格闘技を極めることにより…
              ∩_∩
              ( ´д)Coooooo…
              (   )


      技の多彩さは120%上昇

     蜘蛛糸  ~~~~~~~~~~~~~)
              ∩_∩ (
              (´ー`)  )
  蛇咬 ⊂ニニニニニ   ⊃~  


           若さは63%上昇
               ∩_∩+
              (;´ー`)     @@@@
             +(   )    Σ(゚д゚ @ アラヤダ! イ イ お 肌 …


   モナシキ=ハモンホウを極めた者は近所の人気者になれる!
                          (オバさん限定)
                 ヒエー
               ∩ ∩           @@@@
               (д`;)     @@@@ (゚д゚ @ アラヤダ!ウチの息子最近不良っぽいのよ!
               ⊂   ヽ    (゚д゚ @ アラヤダ!ちょっと若さの秘訣教えて下さいな!
                      @@@@
                      (゚д゚ @アラヤダ!今度私の肩コリ治して頂戴!

343丸耳達のガン=カタ:2004/02/20(金) 01:41

  B=T=Bは心拍を総合的に利用する幽波紋である

             ___
            /    \
            |/\__\
           ○  (;★∀T) <首ダケデスカ
               )888888(
               ∩_∩
              ( ´∀`) <作者ガ 描クノ メンドイッテ
              (    )

    この幽波紋を極めることにより…
             ___
            /    \
            |/\__\
           ○  (#★ДT) <Son・of・a・Biiiiitcccch!
               )888888(
                ∩_∩
              (;´∀`)<マァマァ
             ⊂    つ

344丸耳達のガン=カタ:2004/02/20(金) 01:42
        心拍停止能力は120%上昇
             ___
            /    \
            |/\__\
           ○  ( ★∀T)
               )888888(
               ∩_∩
              ( ´∀`) 
      心臓震盪 と     ヽ 
                   ヽ_つ 完全犯罪


        運動能力は500%上昇
             ___
            /    \
            |/\__\
           ○  ( ★∀T)
               )888888(
               ∩_∩ 人間ノ約5倍
              ( ´∀`)∩ 
      Uryyyyyy と      /


        B=T=Bを極めた者はショタになる!
             ___
            /    \
            |/\__\
           ○  (;★∀T)<マァマァ
               )888888(
               ∩_∩
                Σ(#´Д`) <サノバビ――――ッチ!!!!
     老化が遅い と     つ 小柄で童顔

345丸耳達のガン=カタ:2004/02/20(金) 01:43
  マルミミ=タチノビートは被虐キャラを総合的に使用する小説である

              ∩_∩   ∩_∩   ∧∧
              (´ー`).  ( ´∀` )  (゚ー゚*)
              (   )  (    )  │ │


  この小説を書くことで住人の人気は??%上昇

              ∩_∩   ∩_∩
              (´ー`).  ( ´∀` )
     客観的ニナンテ ⊂   )  (    つ見ラレマセン


           更新速度は63%下降

              ∩_∩    ∩_∩
              (;´ー`).  (´∀`;)
        亀更新 ⊂   )  (    つ スマソ


 まだまだ極めたとは言えないけどいつも温かいレスありがとう!

              ∩_∩   ∩_∩
              (´ー`).  ( ´∀` )
     コレカラモ応援 ⊂    ⊃と    つ ヨロシクオ願イシマス

346ブック:2004/02/20(金) 18:17
本編が殺伐としてきたし、これからもっと殺伐とさせる予定なので少し息抜き。
予め断っておきますが、この話は本編とは一切関係はありません。


     番外編
    よい子の救い無き世界迷作劇場 「シンデレラ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
配役  シンデレラ…ふさしぃ
    王子…丸耳ギコ
    魔法使い…ぃょぅ
    継母…みぃ
    姉1…ギコえもん
    姉2…タカラギコ
    大臣…小耳モナー
    馬…でぃ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 昔々あるところに、シンデレラと言う名前の美しい娘がおりました。
 シンデレラは母を亡くし、父と二人で生活していましたが、
 やがて父は再婚し、継母とその娘達と一緒に生活する事になりました。
 しかし、程無くして父は病に倒れて死んでしまいました。
 それからというものの、シンデレラは継母達に屋根裏部屋に追いやられ、
 毎日の様に苛められながら暮らしていたのです…

「あの…シンデレラ、窓の桟にまだ埃が残ってますよ…」
 その日も、いつものようにシンデレラは継母にこき使われていました。
「す、すみませんお母様。すぐに綺麗にします!」
 シンデレラは慌てて窓の掃除を始めました。
「!あの…いいんです。ごめんなさい…」
 気の弱い継母は泣きそうな顔でシンデレラに謝りました。
「いいんですよお母様、気にしてませんわ。」
 心の広いシンデレラはこんな事少しも気にしません。

「ちょっと、そこの青狸。」
 シンデレラは近くにいた姉1を呼び止めました。
「んあ?何だふさし…じゃなくてシンデレラ。」
 姉1がかったるそうに聞き返します。

 と、シンデレラは姉1の襟首を掴んで振り回し、壁に叩き付けました。
「このチンピラが!私をなめてんのかッ!
 何回教えりゃ理解できんだコラァ!」
 シンデレラは姉1の顔面に次々とパンチを打ち込んでいきます。
「埃一つ残さず綺麗に掃除しとけって言ってんのに
 何でやってねぇんだ、この…ド低脳がァーーー!!!」
 姉1の顔の形が見るも無残な形に変形していきました。

「ま、待て…!お前それシンデレラのキャラが変わってる…
 おい!タカラ…じゃなくてお姉さま!こいつを止めて…」
 姉1が姉2に助けを求めました。
「あれ?どこかから幻聴が聞こえてきましたね…」
 しかし姉2は自己保身に走り、見てみぬ振りを決め込みます。
「て、手前!!聞こえてるんだろうが!!!
 『関係ないね』ってふうな顔を…ぎゃあああああああああああああ!!!!!」
 姉1の断末魔の叫び声が、家の中の隅々まで行き渡りました。

「…すみませんね。私は、強い者には逆らわない主義なのですよ。」
 姉2は姉1の屍骸を見つめながらほくそ笑みました。

347ブック:2004/02/20(金) 18:17



 あくる日、城下はその晩お城で催される舞踏会の話題で持ちきりでした。
 噂によると、その舞踏会は王子様の花嫁を選ぶ事を兼ねているらしく、
 街の娘達はこぞって玉の輿に乗っかろうと息巻いていました。

「おら、青狸。窓拭きが済んだら次は床の拭き掃除よ。
 塵一つでも残ってたらどうなるか、分かってるんでしょうね?」
 その日もシンデレラは継母に押し付けられた雑用をこなすのに精一杯でした。
「すみませんすみません。もう痛いのだけは勘弁して下さい…」
 姉1の体にはあちこち包帯が巻かれていました。
 その目はもはや負け犬のそれです。

「はあ…私も舞踏会に参加してみたいわ……
 でも舞踏会に行こうにも、お母様から用事を沢山言いつけられているし、
 舞踏会に着ていく服も無い。
 いったいどうすればいいのかしら…」
 姉1が必死こいて働いているのを尻目に、
 シンデレラは窓の外を眺めながら溜め息を吐きました。
「あの…私そろそろ舞踏会に行ってよろしいでしょうか……?」
 姉2が恐る恐るシンデレラに尋ねました。

「ちっ。何だあなた、まだ行って無かったの?
 あなたが行かないと話しが進まないんだからさっさと行きなさいよ、
 このトンマ。」
 シンデレラはいつも自分を苛める姉に対しても、
 丁寧に送り出しの挨拶をさせられます。
 姉1は体を引きずりながら舞踏会へと出発して行きました。



 すっかり日も暮れ、シンデレラは屋根裏の窓から
 舞踏会の行われているであろうお城の光を羨ましそうに眺めていました。
「…私も行きたかったなあ。」
 シンデレラはつい独り言を漏らしてしまいました。

「…シンデレラ…シンデレラやょぅ……」
 不意に自分の名前を呼ばれ、シンデレラは驚いて辺りを見回しました。
 見ると、いつの間にか家の入り口の所に一人の老人が立っていました。
「…シンデレラ、こちらに来るょぅ……」
 老人の言葉に導かれるまま、シンデレラは老人の下へと降りて行きました。

「あの…あなたは誰なのですか?」
 シンデレラは老人に尋ねました。
「ぃょぅはしがない魔法使いだょぅ。
 君の事が余りにも可哀想に思ったから、
 せめて今日の舞踏会に君を行かせてあげるょぅ。」
 魔法使いは内心、本当に可哀想なのは姉1の方だと思っていましたが、
 命が惜しいので黙っていることにしました。

「でも、こんな汚い服じゃ、とても舞踏会になんて行けないわ。」
 シンデレラは自分の雑巾のような服を見ながら言いました。
「心配無ぃょぅ。
 マハリクマハリタテクマクマヤコンラミパスラミパス北斗有情拳ルルルルル〜。」
 魔法使いが怪しげな呪文を唱えながら杖を振ると、
 シンデレラの服がたちまちお姫様のような煌びやかな洋服に変わりました。

348ブック:2004/02/20(金) 18:18

「!まあ、凄い!!こんな事って…!」
 シンデレラは驚きのあまり声も出せません。
「さあ、次はかぼちゃとでぃを持って来るょぅ。」
 魔法使いの言う通り、シンデレラは家の中からかぼちゃとでぃを持って来ました。

「殴(や)れ! 刺(や)れ! 犯(や)れ! 殺(や)れ! 壊(や)っちまえ――――――!!!
 愛? 平和? 正義? 自由?
 そんなもの…クソ喰らえだ!
 そんなものは見えやしね―――――――!!
 「PSYCLOPS(サイクロプス)」の目にうつるものはただ一つ!!
 破壊――――――(デストロ――――――イ)!!!」
 魔法使いが呪文を唱えると、
 でぃとかぼちゃが豪華な馬車へと姿を変えました。

「これに乗ってお城まで行くといぃょぅ。」
 魔法使いはシンデレラを馬車に乗るよう促しました。
「ありがとう、魔法使いさん。」
 シンデレラは魔法使いにお辞儀をしてお礼を言いました。

「但し気をつけるょぅ。
 時計の針が十二時を刺したら魔法は解けてしまうょぅ。
 それまでにはお城から帰るょぅ。」
 魔法使いが自分の能力不足を棚に上げてシンデレラに説教をかましました。
 しかしシンデレラは優しいのでそれを咎めるような事はしません。

「本当にありがとうございました、魔法使いさん。
 それでは、行ってきますね。」
 シンデレラは馬車を出発させようとしました。
 が、何故か馬が進もうとしません。

『ちょっと待て!俺の出番これだけか!?
 俺は一応本編の主人公なんだぞ!!
 いくらなんでも…』
 馬の目はまるでそう訴えているようでした。
 しかし、シンデレラに首筋に刃物をあてがわれ、
 馬は観念したように進みだしました。



 舞踏会の最中、王子は一人辟易していました。
 王子はまだ結婚など考えていなかったのですが、
 口煩い大臣と王様によって、無理矢理この舞踏会で花嫁を選ぶことになったのです。
 しかし、誰一人として王子の胸を射止めるものはいませんでした。

「…王子、まだ花嫁候補は見つからないモナか?」
 大臣が王子に聞きました。
「だーかーらー!俺はまだ結婚なんかしねぇって言ってんだろ!!
 第一この舞踏会で運命の人が現れるなんて、
 そんな都合のいいことがあるわけ…」

「!?」
 と、王子の目が舞踏会場に入ってきた一人の女性に釘付けになりました。
 その女性こそ、他ならぬシンデレラでした。

349ブック:2004/02/20(金) 18:19

「どうしたモナ…?王子。」
 大臣の言葉に王子ははっと我に帰りました。
「…大臣、さっきの言葉は取り消しだ。」
 王子は大臣にそう言い残すと、
 シンデレラに向かって一直線に突き進んで行きました。

「…よかったら、一緒に踊らねぇか?」
 王子様は顔を真っ赤にしながら、シンデレラに言いました。
「…喜んで……!」
 シンデレラもそれに頷きます。
 そして二人は舞踏会場の真ん中で、素敵なダンスを踊り始めるのでした。

 会場にいる者全ての視線が、二人に集中します。
 しかし二人はそんな視線を気にすることなどなく、
 時が経つのも忘れて踊り続けました。


「!!!!!」
 その時、シンデレラは魔法使いの言葉を思い出しました。
『時計の針が十二時を刺したら魔法は解けるょぅ。』
 急いでシンデレラは時計を見ます。
 すると、時計はすでに十二時五分前まで迫っていました。

「いけない!!!」
 シンデレラは王子を振りほどいて出口に向かって駆け出しました。
「!?お、おい!!!」
 王子様が慌てた様子でその後を追って来ます。
 シンデレラは、王子に追いつかれないように必死に走りました。

「きゃあ!!!!!」
 突然、シンデレラは足をもつれさせて転んでしまいました。
 その拍子でガラスの靴の片方が脱げ落ちてしまいます。
 しかし後ろからは王子様が迫ってきます。
 シンデレラは靴を拾うのを諦めて、
 お城の前に止めてあった馬車に飛び乗りました。
 馬車が走り出し、シンデレラは何とか魔法が切れる前に
 王子様から逃れることが出来ました。

 王子様の姿が見えなくなってしばらく走った所で、
 魔法が解けて馬車がただのかぼちゃとでぃに戻りました。
 シンデレラの服も、元のぼろきれになってしまいます。

「どうして…どうして十二時までなのよーーーーーーーー!!!」
 シンデレラはそう叫ぶと、力なくその場にへたり込みました。



 宮殿では朝食の時間を迎えており、メイド達が次々と豪華な料理を運び出していた。
 それは朝食とは思えないほどの豪華さで、一般市民がこの料理を見たらこれが本当に
 朝食か?と目を仰天させるに違いない。これだけで一般市民との差は歴然と離れており、
 王様が毎日どのようにして暮らしているかはこの朝食だけでも想像がついてしまう。
 なおも料理は運び込まれていく。
 王様の目の前に全ての料理が出そろった。豪華で目を見張るほどの大きなテーブル。
 目の前には全てが金で作られているナイフやフォーク。
 そして、背もたれが必要以上に天井へと伸びている豪華なイス。
 全てが”豪華”これ以上の単語が見当たらない程、豪華であった。

 その朝食の席で、王子様は王様に向かって言いました。
「親父、俺は昨日の女に結婚を申し込む事を決めた。
 これからそいつを探しに行く。大臣、お前も来い。」
「ええ!?モナも行くモナか〜?」
 大臣は強引に王子様の我侭に付き合わされる事になりました。



「このガラスの靴がぴったり合う人が王子様と結婚出来るモナー!」
 大臣がそう宣伝しながら、ガラスの靴の試し履きの為の女性の列を整理していました。
 しかし手掛かりがガラスの靴しか無いとはいえ、
 こんな方法しか思いつかなかったのでしょうか?

 余程の大足や小さな足でもない限り、
 たまたまシンデレラと靴のサイズが同じ人間なんていくらでも居る筈です。
 そんな事すら頭が回らないなんて、
 薬でもやってんじゃないかと思われても仕方が無いです。

350ブック:2004/02/20(金) 18:20

「あらやだ、サイズが合わないわ。」
「違う!じゃあ次!!」
 ガラスの靴の本当の持ち主でもない癖に、
 厚かましくも王子様と結婚しようと企む女達は、次々と脱落していきました。

「よーし俺が王子様と結婚しちゃうぞゴルァ!」
 姉1が意気込んでガラスの靴を履こうとしました。
 しかし当然、サイズが合う筈もありません。

「王子様…やっぱりこんな方法で見つかる訳無いモナー。」
 大臣が諦めかけた様子で言いました。
「いや、絶対に見つかる筈だ!
 まだガラスの靴に足を入れていない人もいるだろう。」
 とその時、王子様の目にシンデレラの姿が飛び込んで来ました。
 昨日とは似ても似つかぬぼろ衣を纏っていましたが、
 王子様は人目で彼女が昨日自分と一緒に踊った女性であると確信しました。

「そこのあんた…この靴を、履いてみてくれねぇか?」
 王子様はシンデレラの前に靴を差し出しました。

 周囲の人々は驚きました。
 こんなみすぼらしい姿の娘が、昨日の貴婦人とはとても思えなかったからです。

「はい…」
 シンデレラは靴に足を入れようとしました。

「!!!!!!!!!!」
 その刹那、銃声と共にガラスの靴が砕け散りました。
 皆が驚いて目を見張ります。

「くっくっく…
 そう簡単にはハッピーエンドは迎えられませんよ…」
 犯人は姉2でした。
 こんな方法で日頃の恨みを晴らすとは、
 どうしようもない程のクズ野郎です。

 シンデレラは絶望のあまり崩れ落ちました。
 ガラスの靴が壊れてしまっては、もう昨日の女性が自分である事を証明出来ません。

「残念ですが、靴が壊れた以上もう花嫁探しは…」
 大臣が王子様にそう告げようとしました。
「待ちな!」
 しかし王子様は大臣の言葉を遮って言い放ちました。

「昨日の女の見分け方を発見した。
 それは…昨日の女はタバコの煙を少しでも吸うとだな…
 鼻の頭に血管が浮き出る。」
 その言葉に、シンデレラだけが思わず自分の鼻に手を当てました。

「王子様!それは本当モナか!?」
 大臣が驚いて王子様に尋ねます。
「ああ…嘘だぜ。
 だが目当ての女は見つかったようだな。」
 王子様はニヤリと笑いました。

「シブイわねぇ…
 まったくあなたシブイわ。」
 シンデレラが感心したように大きく息を吐きました。
「さて…俺のプロポーズ、受けてくれるかい?」
 王子様の問いかけに、シンデレラは口づけをする事で答えました。

 その後二人はお城で結婚式を挙げ、末永く幸せに暮らしましたとさ…


     お終い

351:2004/02/20(金) 21:06

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その2」



 ――俺は頭を上げた。
 ここは… 教室?
 外は真っ暗だ。
 俺の学校の教室か?
 いや、少し違う。造りがやけに古い。
 そう。前にも俺はここに来た事がある。
 ここは確か…

「ここへ来るのも久し振りだな――」
 教卓にもたれている男は言った。
 俺の中に潜む『殺人鬼』。
 奴に会う時は、何故かいつもこの教室だ。

「そうか、ここはお前の世界だったモナ。で、何か用かモナ?」
 俺はため息をついて訊ねる。
「特に用は無い」
 『殺人鬼』はあっさりと答えた。

 俺は思わず声を荒げる。
「な…! じゃあ、なんで呼んだんだモナ!? モナは、お前とは会いたくも…」
「私は呼んでなどいない。君の方から勝手に来た」
「…え?」
「どうやら、君と『私』の境界が薄くなってきているようだな」

「境界が、薄く…?」
 凄く嫌な響きだ。
 俺の精神が、殺人者のものに染まっていくとでも言うのか?

 『殺人鬼』は教卓にもたれたまま腕を組んだ。
「最近、君の運動能力は格段に上昇しているだろう。
 そして、『アウト・オブ・エデン』を以前よりも使いこなせるようになっている。
 思考パターンも幾分私に近付いてきた。
 何より… 人を殺した事による罪悪感が薄れている」
「そうモナね…」
 俺は、命を奪った二人の警官の事を思い出した。
「でも、あれはリナーを守る為モナ」

「ふっ… はははははは!!」
 『殺人鬼』は声を上げて笑った。
 こいつでも笑う事があるのか… 俺は意外に思う。
「『一人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む。数量が神聖化するのだ』…
 チャーリー・チャップリンの言だ。そのまま殺し続けたら、君も英雄になれるんじゃないか?」

「…殺すのはお前の専門モナ。百万人でもなんでも勝手に殺してくれモナ」
 俺は吐き捨てる。
「私は『殺人鬼』だからな。殺戮は専門外だ」
 『殺人鬼』は言った。
 そんなの、どっちだって同じだ。
 俺はため息をつく。
「なんで、お前みたいなのがモナの中にいるのか…」

「君はもしかして… 自分が主人格とでも思っているのか?」
 『殺人鬼』は意外そうに言った。

「え…?」
 俺は『殺人鬼』に視線を合わせた。
 感情の篭っていないような瞳に、俺の困惑の顔が映る。
「――この肉体の主人格は『私』だ。君は、この肉体が6歳の時に芽生えた別人格に過ぎない」

 頭の中が真っ白になった。
 その言葉に、俺の精神は揺さ振られる。
 俺が… 別人格?
 俺の中に『殺人鬼』が潜んでいたんじゃなくて…
「そう。『私』の中に君が存在する。そもそもこの肉体は私の所有物だ」

「嘘をつくな! 俺は俺だ! お前なんかじゃない!!」
 俺は机を叩いて立ち上がった。
「俺は、ずっと俺だったんだぞ!!」

「――それは違う」
 『殺人鬼』は口を開いた。
「私は、この肉体の6歳以前の記憶も持っている。そして、表に出ていない時も知覚はしている。
 君にはそれがあるか? 6歳以前の記憶や、『私』である時の感覚が…」
「…」
 俺は口ごもった。

 『殺人鬼』は言葉を続ける。
「『私』は6歳の時から、事情により精神の奥に引き篭もる事にした。
 だが、『私』のままだとどうしたって目立つ。
 それをカムフラージュする為に『私』が生み出したのが、君だ」

 俺は唖然とした。
 言葉が出ない。
 俺は… そんな軽い存在なのか?
「擬似人格は、なるべく一般的である必要があった。
 判断力が高くもなく、能力が一般人より多少劣る程度のな。
 『教会』も監視要員を送っていたようだが、結局『私』は完全に滅びたと判断したようだ。
 それから、君は普通の学生として生きてきた訳だ」

「カムフラージュだと…? 俺は、そんな事のために産み出されたのかッ!!」
 俺は、思いっきり机に拳を叩きつけた。
「じゃあ、俺の人生はなんなんだ!!
 ギコやモララーや… リナーとの出会いは… 『俺』の思い出はどうなるんだ!!
 あれも、お前にとってカムフラージュに過ぎなかったのか!!」
 俺は叫び声を上げた。

352:2004/02/20(金) 21:07

 憤慨する俺に対して、『殺人鬼』は表情一つ変えようとしない。
「1人の人間としてのリアリティが伴うほど、カムフラージュは完璧に近くなる。
 だが… 結局は失敗に終わった。
 さっき『教会』が、『私』は完全に滅びたと判断したと言ったが、それは11年前の話だ。
 最近になって、『教会』は『私』の存在に気付いた」

「お前が起こした『連続殺人』のせいか…?」
 俺は『殺人鬼』を睨みつける。
「いや、因果が逆だ。『教会』に気付かれたからこそ、『私』は大人しく潜んでいる必要がなくなった。
 『私』の殺しに理由などないのは、君も分かっている通り。
 …強いて言えば、『私』は『殺人鬼』として定義付けられているからだ」

 そう。感覚で分かっていた。
 こいつは、同じ人殺しでも明らかに俺とは異なる。
 正当化するつもりはないが、俺はリナーを守る為に殺した。
 断じて、楽しみの為とかではない。
 だが、こいつは違う。
 楽しみの為ですらない。
 観念で人を殺す。
 『殺す』という存在だから殺すのだ。
 『殺す』という存在で産まれて来たからこそ、こいつにはそれしかないのだ。

「…さらに、もう一つ計算違いが生じた」
 『殺人鬼』は口を開いた。
「君が生まれてからの11年間で、私の肉体の支配権が薄れてしまった。
 つまり、『私』は自由には出て来れなくなった」
「ざまぁみろ、だ!」
 俺は敵愾心を込めて言った。
「まあ、それでも大きな問題はない」
 『殺人鬼』は事も無げに告げた。

 俺は、『殺人鬼』顔を凝視する。
 前から気になっていたのだ。
 この態度、この雰囲気…
「お前、『蒐集者』に似てるな」
 俺は『殺人鬼』の目を見ながら言った。

 意外そうな表情を浮かべる『殺人鬼』。
「…なかなかに慧眼だ」
 『殺人鬼』はそう言って黙り込んだ。

 睨み合う俺達。
 時計の音が教室に響く。
「『蒐集者』と言えば… 君も奴と戦ったな」
 『殺人鬼』は話を変えた。
「もっとも、まともに太刀打ちできてはいないようだったが」

「…相手が悪すぎるモナ。奴の『アヴェ・マリア』に勝てる方がどうかしてるモナ」
 俺は視線を落として言った。

 『殺人鬼』はため息をつく。
「…万能は単能に劣る。そもそも、君の戦い方は問題外だ。
 鮫と戦うのに、海に飛び込んでどうする気だ?」

 突然、俺の身体がぼんやりと薄れていく。
 開けっ放しになっている教室の窓から、冷たい風が吹き込んできた。
「…どうやら、現実世界に戻るようだな」
 そう言って目を細める『殺人鬼』。
 俺の体は徐々に希薄になる。
 『殺人鬼』は口を開いた。
「1つ忠告してやろう。今後君が敵対する可能性のある者のうち、注意すべきは2人。
 『蒐集者』と… 枢機卿と呼ばれる男だ」

「…枢機卿?」
「そう。奴は必ずこの地に現れるはずだ。『教会』の事実上の最高権力者。
 ナチスのSS… オーベルグルッペン・フューラーの地位に就いていた男。
 『金髪の野獣』、『ヒトラーの悪魔』、『死刑執行人』… ナチス時代から、奴の異名は数知れん。
 おそらく、この世で最も悪魔に近い男だ」

「この世で最も悪魔に近い男…? それは、お前のことじゃないか?」
 俺の体は、すっかり透明になっていた。
「…とんだ冗談だな。私はこの世で最も人間に近い」
 『殺人鬼』は目を閉じて言った。
 意識が混濁する。
 俺は、そのまま教室から消えていった。



 …
 ……
 ………
 …………
 俺は体を起こした。
 ギコとモララーが俺の顔を覗き込んでいる。
「いい夢が見れたか、ゴルァ!?」
 ギコは言った。

「胸糞悪い奴に会ったモナ…」
 そう呟く俺。
 俺は、この体の主人格ですらなかった…
 だが、今はそんな事は言っていられない。
 俺は胸を押さえながら立ち上がった。
 痛みはあるが、動けないほどではない。

 そして、俺達は互いの顔に視線を送った。
 言葉を交わす必要はない。
 そのまま、顔を見合わせて頷いた。
「――よし、学校へ行くぞ!!」

353:2004/02/20(金) 21:09



          @          @          @



 ――殺す。

 『異端者』は刀を振るった。
 吸血鬼の首が飛ぶ。
 悲鳴。怒号。返り血。

「SYAAAAAAA!!」
 屋根の上から飛び掛ってくる吸血鬼達。
 素早く軽機関銃を取り出すと、吸血鬼達に向けた。

 ――殺す殺す殺す。

 斉射。
 銃声とともに、グズグズの肉になる吸血鬼達。

「この…!!」
 吸血鬼が腕を振るう。
 その攻撃は、頭先を掠めた。
 そのままショットガンに持ち替えると、吸血鬼の腹に押し当てる。

 ――殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺。

 そして、何度も弾き鉄を引いた。
「GYAAAAAA!!」
 吸血鬼の腹は粉砕し、蒸気を上げながら消滅した。
 弾を撃ちつくしたショットガンを、接近してきた吸血鬼の顔面に叩きつける。
「GOHAA…」
 頭部から蒸気を噴き上げながら地面に倒れる吸血鬼。

「あっちだ!! 殺せェェェェッ!!」
 さらに、接近してくる腐った気配。
 殺しても殺しても殺してもなお、奴らは押し寄せてくる。
「相手は1人だ! 集団で押し潰せッ!!」
 蝿のようにたかる吸血鬼達。
 その数は、群れと言っても遜色はない。

「塵は塵へ…」
 刀を抜く。
 前方には、道狭しと押し寄せてくる吸血鬼の群れ。
 その中に飛び込んで、縦横無尽に駆けた。
 自分の位置、敵の配置、攻撃パターンを瞬時に把握する。
 殺気の流れを読み、最小限の動きで効率的に敵を殲滅する。
 刀を何度も振るった。
 何度も何度も何度も何度も何度も――
 ひたすらに抉り、裂き、突き、砕き、斬り伏せる。

「OOOOAAAAAAAA!!」
 吸血鬼の喚き声。
 胴から離れ舞い踊る吸血鬼の手足。
 粉砕する身体。
 飛び散る血。
 返り血が降りかかり、眼前を朱く染める。
 その血を左手でぬぐった。
 べっとりと血で染まる腕。

「…数が多いな」
 屋根の上まで飛んだ。
 それを追って、駆け上がってくる吸血鬼達。
 ここならば、最も効率的に敵の群れを殲滅できる。
 大きく踏み込んで、吸血鬼の胴を串刺しにした。
 その衝撃で、日本刀は真ん中から折れてしまう。
「…チッ!」
 舌打ちして、残った柄を投げ捨てた。

「もう奴に武器はないぞ、行けェェェェッ!!」
 月を背に飛び掛ってくる吸血鬼。

 ――遅い。
 奴等より高く跳ぶと、その顔面を掴んで逆方向に捻り上げる。
「OGAA!」
 180度首が回転した吸血鬼は、そのまま屋根の上に落下した。
 その吸血鬼の真横に着地すると、両手をまっすぐに降ろす。
 ギミックの音とともに、両袖から拳銃が突き出した。
「消えろ、塵が…!」
 足元に横たわっている吸血鬼に拳銃弾を叩き込む。

354:2004/02/20(金) 21:09

 次々と屋根に上がってくる吸血鬼達。
 両手の拳銃をゆっくりとその群れに向ける。
 そして、吸血鬼の群れに祝福儀礼済みのパラベラム弾を撃ち込んだ。
 …『para bellum』。
 『Si vis pacem, para bellum(平和を欲するならば、戦争に備えよ)』だ。
 平和を欲するならば、塵は塵へ。
 魂無き塵は、最初から塵に過ぎない。

「土は土へ! 塵は塵へ! 灰は灰へ! 闇は闇へ! 魂は魂へ! 過去は過去へ! 
 失われたるものは失われたるものへ! カリクラテスは死んだ、そして生まれ更った!」
 吸血鬼の群れに向かって、2挺の拳銃で何度も引き金を弾く。
「GOAAAAAAAA!!」
 血煙が上がり、吸血鬼の群れが深紅に染まった。
 相手の攻撃射程・軌道・射線等の要素を分析し、複数の相手の思考を自らに投影する。
 それにより、最小限の動きで最大限の影響を及ぼす射撃が可能となる。
「このドグサレがァ――ッ!」
 吸血鬼が背後から飛び掛ってきた。
 そちらの方に目線すら送らず、腕の動きだけで顔面を狙い撃ちにする。

「Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust! Dust to Dust!」
 連続射撃で片っ端から薙ぎ倒されていく吸血鬼達。
 弾け飛ぶ頭部。
 噴き出す血。
 バラバラになる手足。
 霧状になった地飛沫が飛び散り、周囲に血の匂いが充満する。
 それでもなお、突っ込んでくる吸血鬼達。
 おそらく、引き返す事は許されていない。
 おめおめと戻れば、『アルカディア』の粛清か。
 こいつらにも、帰る場所は無い。
 何度も何度も引き金を絞る。
 ――鏖殺だ。

「Requiem aeternam dona eis Domine!! et lux perpetua luceat eis!!
 Te decet hymnus, Deus, in Sion, et Tibi reddetur votum in Jerusalem!!
 ――Exaudi orationem meam: ad Te omnis caro veniet!!」
 両手の独立した精密射撃で、吸血鬼を次々に屠っていく。
 響き渡る銃声。
 吸血鬼の怒号。
 法儀式済みの弾丸を喰らった吸血鬼は、次々に爆砕していった。
 薬莢が音を立てて屋根に落ちる。
 その音がカラカラと響いた。

 そろそろ、向こうの数も少なくなってきたようだ。
 射撃を維持したまま身を翻すと、屋根から飛び降りる。
 それを追って、次々に屋根から飛び降りる吸血鬼達。
 素早く振り向くと、銃弾の雨を浴びせた。
 吸血鬼は正確に撃ち落されていく。

「Kyrie, eleison! Christe, eleison! Kyrie, eleison! Christe, eleison! Kyrie, eleison!
 Christe, eleison! Kyrie, eleison! Christe, eleison! Kyrie, eleison! Christe, eleison!」
 何度も引き鉄を弾く指。
 押し寄せる吸血鬼の血が飛び散り、目の中に入る。
 風景が朱く染まる。
 ――赤。血の赤。
 もはや、吸血鬼は的に過ぎない。
 ただの血袋だ。
 ――塵を。もっと塵を。

「eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!
 eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!
 eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleison!eleisoooooooooooooooooon!!!」
 満月の下、数え切れないほどの銃声が響く。
 何度も。夜を裂くように何度も。
 
 ――一刻の後、動く者はいなくなった。



 蒸発しきれず、周囲を埋め尽くす屍の山。
 地面を真っ赤に染め抜く血液。

 『異端者』は月を見上げた。
「『願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ――』か…。
 悪いな、モナー。春までは待てそうにない…」

 そして『異端者』は、『アルカディア』のいる学校に向けて駆け出した。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

355ブック:2004/02/21(土) 18:32
       救い無き世界
       第二十六話・鎖 〜その一〜


「でぃ君を麻酔銃で狙撃して捕まえたのかょぅ!!」
 私はその命令を下した指揮官に詰め寄った。
「そうだが、それが何か?」
 その指揮官は当然と言った顔をしている。
「何を考えているんだょぅ!
 彼を猛獣か何かと勘違いしているのかょぅ!!」
 憤慨しながら問い詰める。

 聞いた話では、鯨でも眠らせれるような麻酔薬を使用したらしい。
 信じられない。
 そんな事をしたら後遺症が残ってもおかしくないのだぞ!?

「…随分と的外れな事をおっしゃるのですな、特務A班殿。
 あなたもでぃのあの映像を見ただろう。
 それなのに、彼が普通の人間だとでも?
 あれは誰がどうみても猛獣…いや、その形容詞すら可愛いものだ。
 あれはまさに『化け物』と呼ぶに相応しい。」
 指揮官は厭味ったらしい済ました顔で言う。
 私は思わず殴りかかりそうになったのを、寸での所で押し留まった。

「彼は、無意味に人を傷つけたりするような人間では無ぃょぅ!
 それなのに有無を言わさず実力行使で連行するなんて、酷過ぎるょぅ!!」
 私は必死に訴えた。
 私とでぃ君との付き合いは決して長いものとは言えない。
 しかし、それでも彼が悪い人間では無い事はよく分かっているつもりだ。
 そんな彼を、理不尽に傷つけるなどこの私が許さない。

「ああ、心配するな。別にすぐにあのでぃを殺しはせんよ。
 あんなのでも一応使い道はあるからな。
 何とかと鋏は使いようという諺もあるだろう?」
「っ貴様―――!」
 もう我慢の限界だ。
 私は拳を振り上げた。
 一発殴りでもしなければ、到底この怒りは収まらない。

「止めときなさい、ぃょぅさん。
 同じ職員同士での喧嘩は減棒ものですよ。」
 不意に後ろから腕を掴まれた。
 思わず後ろを振り返る。
 腕を掴んだのはタカラギコだった。
「タカラギコ…放すょぅ!
 こんな奴ガツンとやって性根を…」
 私は腕を振り解こうとしたが、
 タカラギコはその細身の体のどこにそんな力があるのか不思議なくらい、
 私の腕をしっかりと掴んで放さない。

「彼の言う事にも一理あります。
 それに、今は身内でいがみ合っている場合じゃないでしょう。」
 タカラギコは私をなだめるように言った。
「ふん。話が済んだのなら、行かせて貰うぞ。」
 指揮官は私を一瞥すると、その場を去ろうとした。
「!!待つょぅ!!!」
 私はすぐに追おうとしたが、
 タカラギコがそれを許さなかった。

356ブック:2004/02/21(土) 18:32



「…タカラギコ、何故止めたょぅ。」
 指揮官が行ってしまった後、私はタカラギコを睨み付けた。
「…私があの人と同じ立場なら、同じ事をしたと思いますからね。」
 タカラギコが私の手を放す。
「!!君まででぃ君を…!」
 私はタカラギコに掴みかかろうとした。
 しかしタカラギコはそれを軽くいなす。
「いえ、私はでぃ君の事は悪く思っていませんよ。
 しかしそれは、私が他の人より長い時間彼と関わる機会が多く、
 そして何より、いざという時にはでぃ君と闘って勝てるだけの力があるからです。」
 タカラギコが淡々と喋りだした。

「…哀しい事ですが、人同士は必ずしも相容れません。
 それが自分のよく知らない相手なら尚更です。
 そしてその相手が、何時でもちょっとした気紛れで自分を殺せるような存在なら、
 潜在的な恐怖心から、そこにはどうしたって深い溝が生まれる。
 あの指揮官が良い例ですよ。」
 タカラギコは言葉を続けた。
「そんな相手に、自分の部下を寄越そうというんです。
 私なら、自分の部下が決して死なないようにあらゆる手段を講じるでしょうね。」

 …確かに、その通りだとは思う。
 しかし、それでも今回のでぃ君への仕打ちはやりすぎではないのか?
 彼が『化け物』というのなら、
 同じスタンド使いである我々だって『化け物』だ。
 それなのに…

「…あなたは……いや、あなた達は優し過ぎる。
 いつか、それが自分を傷つけますよ。」
 タカラギコが哀れむような視線を向けた。
「自分の事ならいくらでも耐えられるょぅ…
 だけど、他人の痛みを放っておくなんてぃょぅには出来なぃょぅ。」
 私はきっぱりと答えた。
 誰が何と言おうが、これが私の生き方だ。

「敵いませんね…」
 タカラギコが嘆息する。

「…だから私は、あなた達になら殺されてもいいと思えるのかもしれませんね。」
 タカラギコが呟いた。
「?それはどういう…」
 私の問いに、タカラギコは一瞬しまったという顔を見せる。
「深い意味はありませんよ。
 それ位、同僚のあなた達を信頼してるという事です。」
 タカラギコはすぐにいつもと同じすまし顔に戻ると、
 茶化すように答えた。

「…まあでもさっきのは私も少しムカつきましたからね。」
 タカラギコがやおらポケットから財布を取り出した。
「その財布は?」
 私はタカラギコに尋ねた。
 私の記憶が確かならば、それはタカラギコの財布とは違う。

「いえ、先程指揮官殿とすれ違った時にいつの間にか私のポケットに入ってましてね。
 きっと神様が日ごろの行いの良い私に恵んでくれたのでしょう。
 今日はこれで飲みにでも行きませんか?」
 タカラギコが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「…君も相当なタマだょぅ。」
 呆れながらも、胸が多少はスカッとした気分になった。

357ブック:2004/02/21(土) 18:33



     ・     ・     ・



 目が覚めると、俺はベットの上に横たわっていた。
 見覚えがある場所だ。
 ここは、SSS?

 ゆっくりと体を起こして眠気を払うように頭を振ると、
 頭の中に鈍い痛みが走った。

 …どうして、俺はこんな所に。
 確か、銃声がして、肩を撃たれたと思ったら
 急に意識が遠くなって…

「お目覚めですか?」
 いきなり部屋のドアが開き、
 そこからタカラギコが姿を現した。

「いやまったく驚きました、こんなに早く目が覚めるとは。
 少なくともあと三日は眠っていると思ったんですけどね。」
 タカラギコが感心したように話す。
 眠っていた?
 そういえば、あれからどれ位の時間が経ったのだろうか。

 俺の何か訴えるような視線に気がついたのか、
 タカラギコが俺に紙とペンを差し出した。
 俺はそれに文字を書いていく。

『何で俺はここに?』
 取り敢えず俺はこの事から質問する事にした。
「あなたは街にいた所を我々に『保護』されました。
 と言っても余り紳士的とは言えない方法になってしまいましたが…
 先にその事をお詫びしておきます。」
 タカラギコが丁寧にお辞儀をした。

 そういう事か。
 銃声に意識の混濁、何をされたかは大体想像がつく。

『俺はどれ位気を失っていたんですか?』
 新しい質問をしてみる。
「大体一日半…といった所でしょうか。
 ちなみに今は昼の二時ぐらいですよ。」
 そう言えば、気を失う前は夜だった筈なのに、
 窓の外からは光が差し込んでいる。

『…俺は、これからどうなるんです?』
 少し間を置いた後、俺は思い切って尋ねた。
 わざわざ連れ戻して来るぐらいだ。
 あまり俺にとって好ましくない用事があるのだろう。
 最悪の場合の覚悟をしておいた方がいいかもしれない。

「安心してください。今の所あなたをどうこうする事はありません。
 あなたの生命は保証しますよ。」
 タカラギコが落ち着かせるような声で言う。
『その代わり、SSSの忠実なペットになるって条件つきで?』
 その質問にタカラギコは口を閉ざした。
 図星か。
 まあどうせそんな所だろうさ。

 不思議と俺は嘆き悲しんだり、腹が立ったりはしなかった。
 たぶん自棄になっていたんだと思う。

358ブック:2004/02/21(土) 18:33


「!!!」
 その時俺はようやく大事な事を忘れていたのに気がついた。
 みぃは?
 たしかあの時俺はみぃと一緒にいた筈だ。
 あいつは、一体どこに?

「みぃさんなら別室で休まれてますよ。
 心配しなくとも、彼女には一切危害を加えてはいません。
 ただあなたが目の前で倒れたので、かなり取り乱してしまいまして、
 事情を説明して落ち着いていただくのには難儀しましたけどね。」
 そう言うとタカラギコは俺に小さなプレゼント箱を手渡した。

『これは?』
 白い包装紙と赤いリボンでラッピングされた、
 手の平大の大きさのプレゼント箱を俺はしげしげと見つめた。
「みぃさん、あなたがここから飛び出したのを知ると、
 必死で街中を駆けずり回ってあなたの事を探していたのですよ?
 男なら、プレゼントと何か気の利いた言葉でお礼を言うべきでしょう。」
 やめてくれ。
 そんなの俺の柄じゃない。

「体調が整ったらみぃさんにそれを持ってお礼を言いに行きなさい。
 行かなかったらふさしぃさんに言いつけますよ?」
 タカラギコはニヤニヤしながら言った。
 こいつ、一発殴ってやろうか。

「さて、私はこれで失礼しますね。
 あまり病み上がりの人の所で長居するのも気が引けますし。」
 タカラギコはそういい残すと部屋から出て行った。

(…どうしたものか。)

 俺は渡されたプレゼント箱を眺めながら考え込んだ。



     ・     ・     ・



(でぃ君には使い道がある…か。その通りですよ、指揮官殿。)
 タカラギコはでぃの部屋を出ると、自分の部署に向かって歩き出した。
(後は『彼女』をSSSの外にどうにかして連れ出すだけですね…
 『彼』がうまく疑似餌に引っかかってくれればいいのですが。)
 タカラギコは廊下を歩きながら思案を巡らせていた。

「…ぃょぅさん達には、嫌われてしまうでしょうね。」
 誰に言うでもなく、彼はそう呟いた。

(ふっ…私としたことが、何を今更こんな事を気にしているのか。)
 彼は自嘲気味な笑みを浮かべながら、
 軽く頭を横に振った。
 立ち止まって、窓の外を見つめる。
 その目は、僅かながら迷いと悲しみの色を帯びていた。



     TO BE CONTINUED…

359:2004/02/21(土) 23:49

  『――――問おう。貴方が、私のマスターか』
                                 ┏┳┓
                  /´(†) ̄ヽ   /┣╋┫
     ?           ((((((((-、 ,゙  /┗┻┛
    ∧_∧             |i、- ゚ ノ从`、
   ( ;´∀`) ?       くi,,(†)'_'j>  ゝ
 ? /    ィ_つ         く/_l| lハゝ'´
  ⊂_/⊂__)_)             しし


「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その3」



「満月ってのは、いいもんだねェ…」
 『アルカディア』は、学校の屋上で月を見上げていた。
 その背後で、報告に現れた吸血鬼が膝をつく。
「奴が… 『異端者』が近付いてきます! 先遣の9人はあっという間に…!」

「はン。いかに女といえど、相手は代行者だ。あいつらチンピラじゃ勝てねぇだろ…」
 『アルカディア』はつまらなそうに言った。

 その背後に、もう1人の吸血鬼が現れる。
「か、壊滅…です。奴は、もうすぐ…ここへ…」
「壊滅だとォ! 何人いたと思ってんだ!!」
 『アルカディア』は血相を変えて振り向いた。
 その報告を述べた吸血鬼には、右腕が無かった。
 引き裂かれたような傷跡から、絶えず蒸気が噴き出している。

「あと何人残ってる!!」
「10人です。いずれも精鋭で…!」
 吸血鬼の言葉を終わりまで待たず、『アルカディア』は声を荒げた。
「奴を1階で止めろ! 絶対にここまで上げるなァ!!」

 刹那――。
 月の光が遮った。
 恐ろしいほどの殺気。
「な…!?」
 『アルカディア』は振り向く。

 ――月を背に宙を跳ぶ女の姿。
 両手に構えた2挺の拳銃。
 凍るような殺意に満ちた目は、まっすぐに『アルカディア』を捉えている。

「嘘だろ… 5階だぜ…?」
 『アルカディア』は呟いた。

 そのまま、女は2挺の銃を乱射する。
 銃弾の雨が屋上に立っている者達に浴びせられた。

「GOAAAAAAAA!!」
 吸血鬼の顔面が吹っ飛ぶ。

「『砕けろ』ォォッ!!」
 『アルカデォイア』は叫んだ。
 頭上に降り注ぐ銃弾が、音を立てて粉々になる。
「ヘッ! このオレに豆鉄砲なんて通用…!!」

 『異端者』は空中で体勢を整えると、無造作に拳銃を投げ捨てた。
 そのまま、服からアサルトライフルを取り出す。
 そして、銃身下部に筒状の部品を装着させた。

「M203… グレネードだとォォォォォッ!!」
 『アルカディア』は咄嗟に身を伏せた。
 銃口を向ける『異端者』。
 そして、40mmHE弾が屋上に向けて放たれた。

「うおおおッ!! 『届かない』ッ!! 絶対に『届かない』ぃぃぃッ!!」
 HE弾の軌道が、空中で僅かに曲がった。
 そのまま、背後に控えていた吸血鬼達の中心で着弾する。
 爆風と弾体の破片が周囲に吹き荒れた。
「GYAAA!!」
 巻き込まれて爆砕する吸血鬼。
「ごぁッ!」
 『アルカディア』の体は、爆風に薙ぎ倒された。
 周囲に白煙が立ち込める。

「くっ… 痛ェ…!!」
 『アルカディア』はよろけながら起き上がった。
 体中は擦り傷だらけだ。
「ったく… 大事な体を…!」
 『アルカディア』は視線を落とした。
 周囲には、粉々になった吸血鬼の肉体が散らばっている。
 こうならなかっただけマシなのかもしれない… そう思い直した。

360:2004/02/21(土) 23:50

「それより、ヤツは…?」
 周囲を見回そうとする『アルカディア』。
 その瞬間、背後から異常な殺気を感じ取った。

「おわぁぁぁぁッ!!」
 かわした、という表現は当て嵌まらないのかもしれない。
 『アルカディア』は、そのまま身を伏せた。
 その頭上を刀が横一文字に通過していく。
 もう少しで、生首が転がるところだ。

 ――そして第二撃。
 『異端者』は、縦一文字に斬り下ろしてきた。
「このォ! 『崩れろ』ォォォ!!」
 後ろに飛び退きながら、『アルカディア』は叫んだ。
 『異端者』の足元に亀裂が走る。
「――!!」
 『異端者』が反応する前に、足元の床は完全に崩れてしまった。
 そのまま、階下に落下していく『異端者』。

「ふぅ、驚かせやがって…」
 『アルカディア』はため息をついた。
「それにしても、あの運動能力は…」

 銃声が響く。
 足元の床に穴が空いた。
「な…!!」
 続く銃声。
 たちまち、足元の床が穴だらけになる。
 階下から乱射しているようだ。
「うおおおお!!」
 『アルカディア』は4階に続く階段へ走った。
 銃声と弾痕が、それを追いかけてくる。

 『アルカディア』は、そのまま階段を駆け降りた。
「『蒐集者』のヤロウ、全然話が違うじゃねェか…!」
 悪態をつく『アルカディア』。
 4階に到着する。
 …どうする?
 このまま戦いを挑むか、一旦退くか…

 その思考は途切れた。
 静寂を裂くような銃声。
 タタタタタタと、タイプを打つような音が響いた。
「うォァッ!!!」
 咄嗟に階段の陰に飛び込んだ。
 フルオートの斉射だ。
 向かいの壁にボコボコと穴が開く。
 肩に激痛が走った。
 避けきれずに、一発当たったようだ。

「ほう――」
 ゆっくりと近寄ってくる足音。
 氷のような殺意。
「法儀式済みの弾丸でその程度のダメージとは――」
 このままじゃ、殺される。
 何なんだ、アイツは?
「貴様、吸血鬼化していないようだな――」
 ――化物だ。
 俺だってスタンド使いだ。
 しかも、スタンドだけで行動できるっていう飛びっきりの化物だ。
 でも、あの代行者は格が違う。
 殺される!
 逃げないと、殺される!!

「うわああああああああ!!」
 俺は全力で駆け出した。
 恥も対面も無く。
 全力で3階への階段を駆け降りる。

 銃声が響いた。
 足に激痛。
 そのままつまずいて、『アルカディア』は無様に階段を転がった。

「ひぃ…!」
 足を引き摺って逃げようとする。

 コツコツと階段を降りる音。
「――塵に帰れ、下衆が」
 『異端者』が姿を見せた。
 むしゃぶりつきたくなるほどのイイ女。
 しぃの中に潜んでいた時、その程度の感想しか抱かなかった。
 それが、まるで殺意と憎悪の塊だ。
 人間離れなんてもんじゃない。
 まともに戦ったら、絶対に勝ち目は無い。

 『アルカディア』は、スタンドのヴィジョンを解除した。
「おい! この肉体はお前の仲間のもんだぞッ! 俺を殺したら、しぃも死ぬ事が分かってんのかッ!!」

 『異端者』は殺意の篭った目で『アルカディア』を見据えた。
「お前の部下にも言ったが… 私に人間らしさを期待するな」
 そのまま、日本刀で斬りかかる。

「――く、『朽ちろ』ッ!!」
 『アルカディア』は叫ぶ。
 振り下ろそうとしている日本刀がグズグズになって崩れた。
「今日で二本目だ…」
 『異端者』はボロボロになった日本刀を投げ捨てる。
 そして、服の中から拳銃を取り出した。
 それを真っ直ぐに『アルカディア』に向ける。

「『砕けろ』ォォォォォォォッ!!」
 『アルカディア』は、『異端者』の腕に念を送った。
 あの細い腕が砕け、捻じ切れる様をイメージする。

 同時に、『異端者』の腕から血が噴き出した。
 雑巾を絞ったように、バキバキに捩れる。
 『異端者』の顔が苦痛で歪んだ。

361:2004/02/21(土) 23:51

「ハ! ハハハハッ!! ざまあみやがれ! オレが負けるとでも…!!」
 『アルカディア』の笑い声は、あっという間に途切れた。
 無残に捩れていた『異端者』の腕が、みるみるうちに元に戻っていく。
「テメェ、吸血鬼か…」
 呆気に取られる『アルカディア』

 そのまま、『異端者』は拳銃を構えた。
「『崩れろ』ォッ!!」
 『アルカディア』は、叫び声を上げた。
 『異端者』の天井が崩れ出す。
 そのまま、瓦礫が『異端者』に降り注いだ。

「『砕けろ』ォッ!『捩れろ』ォッ!『拉げろ』ォッ!『壊れろ』ォッ!
 『潰れろ』ォッ!『折れろ』ォッ!『割れろ』ォッ!『朽ちろ』ォッ!」
 『アルカディア』は力の限り叫んだ。
 『異端者』の立っていた廊下の一角は、大きな力の加重を受ける。
 その周辺だけが、粉々に崩れ去っていた。
 瓦礫が何重にも重なり、『異端者』の姿は見えない。
 
「今度こそ、死んだか…?」
 肩で息をする『アルカディア』。
 いかに吸血鬼と言えど、あれだけの力を受けたら…

 それは、甘い希望に過ぎなかった事を『アルカディア』は思い知った。
 ガラガラと瓦礫が崩れる。
「随分と迷惑な手品だな… 仮にも貴様の肉体の母校だろう?」
 瓦礫を跳ね除けて出て来る『異端者』。

「ば、化物か、テメェ…」
 『アルカディア』は後ろに退がりながら呟く。
「以前にも、私に同じ事を言った奴がいたな…」
 『異端者』は服の埃を払った。
「何の因果か、それを言った男を愛してしまったが… お前に対しては殺意が湧く」

 『アルカディア』は身を翻すと、そのまま駆け出した。
 背後から銃声が聞こえる。
 どうやら、さっきので向こうも足を痛めたようだ。
 オレの方は、スタンドの足でカバーする。
 このまま何とか逃げ切ってやる…!!

 廊下を駆ける『アルカディア』。
 後ろからは、追いかけてくる足音。
 『アルカディア』は思考を這わせていた。
 オレには、奴を倒す手段が無い。
 奴が死ぬイメージなんて、これっぽっちも浮かばない。
 そうなった以上、空想具現化は無力だ。
 原動力となるイメージが湧かないのだからどうしようもない。
 そもそも、なんで代行者が吸血鬼なんだ?
 こんな事なら、オレ自身もとっとと吸血鬼化しとけばよかった…

 ふと、肩の傷を見た。
 ――待てよ。
 あいつは、何故か知らんが吸血鬼だ。
 つまり、吸血鬼には吸血鬼の弱点があるという事だ…!

 『アルカディア』は、逃げる進路を変えた。
 今まで1階に向かっていたのだが、逆だ。
 急いで屋上を目指す。

 『アルカディア』は階段を必死で駆け上がった。
 追いつかれたら、間違いなく殺される。
 向こうの足の負傷が再生するのも時間の問題だろう。
 大体、人間の肉体を持っているオレが、どうして吸血鬼の肉体を持つ代行者に狩られるハメになるんだ?
 『教会』は吸血鬼を狩るんじゃなかったのかよ。
 そもそも、『矢の男』との戦いで、『異端者』の実力を見定めたのが間違いだった。
 アイツ、完全に猫被ってやがった。
 惚れた男の前じゃ、吸血鬼の本性を見せたくなかったって訳か。
 色恋沙汰に巻き込まれて、敵の力量を見誤るなんて惨め過ぎるぜ…
 『アルカディア』は舌打ちした。

 何とか屋上に辿り着いた。
 そして、アレを探す。
 無かったら終わりだ。

 階段をゆっくりと上ってくる足音。
 もう来やがったか…!!
 どうやら、足の怪我は完治したようだ。

 早く見つけないと、オレの人生も幕切れだ。
 完全に本体に乗り移った状態で命を絶たれれば、流石にあの世行きだ。
 そもそも、スタンド用の『あの世』なんてちゃんと用意されてるのか…?
 『アルカディア』は素早く視線を這わせた。
 …あった。
 今だけは神に感謝しよう。
 あんな化物を送ってきた事を考慮すれば、貸し借りはゼロだ…!

 『異端者』は、ゆっくりと姿を現した。
「月の下で死にたいのか? 存外にロマンチックな奴だ…」
 月光に照らされる『異端者』の姿。

362:2004/02/21(土) 23:51

 まだ駄目だ。位置が離れすぎてる。
 近寄らせた上で、意識を逸らさないと…

「『崩れろ』ッ!!」
 『異端者』の立ち位置の、少し後ろの地面が崩れ出す。
「…!!」
 『異端者』はこちらを目掛けて走り出した。
 それを追いかけるように、崩れていく地面。
 いいぞ、近付いて来い…!

 『アルカディア』は、『異端者』に向けて銃を構えた。
 『異端者』が屋上まで跳んだ時、投げ捨てた銃だ。
 つまり… 法儀式済みの銃弾!!
「喰らえ、代行者ッ!!」
 『アルカディア』は引き鉄を弾いた。

 『異端者』の肩から血が噴き出す。
 …よし!
 法儀式済みの弾だから、大ダメージを…!!

「浅知恵だな…」
 まるで意に介さないように、冷たく呟く『異端者』。

「な… なんで平気なんだッ!! 吸血鬼が波紋を食らったら…!!」
「私のスタンドが何か忘れたのか…? なぜお前は、私が吸血鬼だと今まで気付かなかった?」
 …そうだ。
 オレは三ヶ月間、ずっとその事実に気付かなかった。
 すっかり失念していた。こいつのスタンド能力を…

 『異端者』は、銃弾を喰らった肩の傷に視線を送った。
「『エンジェル・ダスト』は、私の体内に展開するスタンドだ。
 肩の部分だけ、吸血鬼の血を堰き止めた…」
 そのまま、『異端者』は血の滴る傷口に無造作に指を突っ込んだ。
 そして、体内に入った銃弾を摘み出す。
 投げ捨てられた銃弾が、カランという音を立てた。

「そして、『エンジェル・ダスト』を解除する…」
 瞬時に再生していく肩の傷。
 こいつ、部分ごとに任意で切り替われるのか…!!
 『アルカディア』は、呆けたようにその様子を見ていた。

「もっとも、『エンジェル・ダスト』発動時でも、長時間の日光には耐えられない。
 無理をすれば意識を失う。そのお陰で、モナーと出会う事が出来たのは皮肉だがな…」
 一歩一歩近付いてくる『異端者』。

 『アルカディア』は後ずさった。
 『十字の死神』、『塵の鬼神』…
 この女の異名が頭をよぎる。
 オレは、死ぬのか…?
 嫌だ、死にたくない。

「もっとも、最近は吸血鬼の方に大きく寄り過ぎた。もう『エンジェル・ダスト』でも抑えきれない…」
 『異端者』は憂いを帯びた表情で言った。
「そうか、吸血鬼殺人はテメェの仕業か。オレの部下がこっそりやったもんだと思ってたぜ…
 ったく… 問い詰めても、誰も自白しねぇ訳だ。もう少し、奴等を信じてやりゃよかったぜ…」
 そう呟きながら、『アルカディア』はすがるような目線を送った。
「お願いだ! ここは見逃してくれねぇか!?」
 無言で近寄ってくる『異端者』。
 その瞳には、懐柔に応じる気配など見せない。
「なあ、同じ吸血鬼のよしみじゃねぇか! …まあ、オレの体は今は吸血鬼じゃないが」

「もう少し骨があると思っていたが… とんだ小物だったな」
 『異端者』は歩を緩めずに言った。
「オレは改心したんだ! こんな目に会うくらいなら、隠居した方がマシってもんだぜ! なぁ!!」
 ヒステリックな叫び声を上げる『アルカディア』。

 『異端者』は拳銃を取り出した。
「これが人としての最期の仕事だ。手抜かりはないさ…」
 そして、『アルカディア』―― しぃの額に照準を合わせる。
「頼むぜ! なぁ!! 命だけは…」

「――Amen!!」

 『異端者』は引き金を弾いた。
 『アルカディア』の額目掛けて放たれた弾丸――
 それは、空中発火してチリになった。

 『アルカディア』を睨みつける『異端者』。
「往生際が悪いことだ…」
「違うぞッ! 今のは、俺じゃねェッ!!」
 『アルカディア』が叫び声を上げる。

「…!!」
 『異端者』は、位置を一瞬で感じ取った。
 屋上の給水塔の上。
 そこに男は立っていた。

 『アルカディア』は、その男に向かって叫んだ。
「どういう事なんだ! オレは、お前らの言う通りにやってきたはずだぜッ!!」

「私にとっても計算違いでした。まさか、ここまで大番狂わせが起きるとはねぇ。
 全く… この国に来るたびに、軌道修正を余儀なくされる…」
 夜の闇に溶け込むほど黒いロングコート。
 柔和そうな笑み。
 『蒐集者』は、ロングコートをはためかせてそこに立っていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

363 ( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:22
へぇ・・アンシャス猫を殺った男ねぇ・・。
ノーマークだったな・・。
じゃあ仕方ない。『格の違い』っていう奴を、見せてあげようかな・・

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『ザット・ガール』

「・・と、いうわけだ。」
トムを葬り去った後、殺ちゃんは『緑色の男』の話をした。
信じたくないが、矢張り狙いはムックの様だ。
「強いのか。」
俺は顔をしかめて聞く
殺ちゃんは一回うつむいた後言った
「・・・かなり。」
「しかし心当たりがないですNAァ・・。」
そのとおりだ。
ムックは『キャンパス』に入っていたが、人を殺したことは無い。
対俺という初任務で裏切ったからだ。
恨む奴がいるとすれば・・・・。
「お前が倒した『128頭身』とか言う奴の親族や・・お前の身の回り・・ってところだな。」
「UUMU・・。128頭身は0歳の頃にキャンパスに連れて来られてましたからNA・・特に誰も親族らしい親族は・・
身の回りにも『殺そう』なんて考える奴は・・。」
ううむ。謎は深まるばかり、か・・。
「キャンパスの奴じゃあねぇんだな?」
「ソレは無い。何せ顔色一つ変えずに頭を食いちぎった上、アンシャス猫どもも必死で抵抗してたのでな。」
クソッ!頭がこんがらがってきやがる・・。
「誘き寄せるのはどうですKA?」
ムックが突然口走った。
「私が街道を歩いているのDE、巨耳さんと殺さんHA仲間だとバレないように・・」
ムックが話してる途中で思いっきり机を叩く音がなった
「不可能だ!奴の力は・・ハンパでは無いッ!」
殺ちゃんだ。・・・どうやら震えている
「しかし流石にヤバい相手なのは確かだ。」
『あの』殺ちゃんが苦戦した相手をたった数秒で惨殺した男・・。囮なんて危険すぎる。
「すいませんZO・・。矢張り、『待ち』作戦しかないのですNA・・。」
「この世で一番あいたくない『待ち人』だな・・。」

364( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:22
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

〜某ビル・12階〜

「此処・・か。」
『緑の男』は地図を見ながら階段を上り、そうつぶやいた。
「此処の『社長』が『奴』に関する情報を握っているらしいな・・。」
緑の男は階段をゆっくり一歩一歩あがっていった。
そして階段を上り終えると、一人の男が椅子に座っていた。
「・・アンタが『社長』か・・?」
緑の男は少し構えて聞く。
「ええ。私が『社長』です。」
『社長』と名乗る男は微笑みながら言った。
「そうか、なら早速教えてくれ。『奴』について・・。」
「ええ、ただし・・」
「ただし?」
緑の男が顔をしかめた瞬間『社長』はきえた。
「な・・ッ!?」
「私に『勝利したら』ねェッ!『ザット・ガール』ッ!!」
目も鼻も無いドス黒い顔で金属製のマスクをつけたスタイル抜群のメイドが上空に現れた。
その手には何やら球状の物を握っている
「チィッ!『ジミー・イート・ワールド』!!」
『ジミー・イート・ワールド』はジャンプをし『ザット・ガール』が投げつけようとしていた球に噛み付いた
「かかったなアホがッ!」
『社長』と名乗る男は不敵な笑みを浮かべたその時だった
『ジミー・イート・ワールド』がすごいスピードで落下し、地面にめり込んだ。
「馬鹿な・・貴様、何をッ!!」
「ククッ・・紹介遅れましたね・・。私の名は『ネクロマララー』。『キャンパス』三銃士の一人です。
そして彼女は『ザット・ガール』。私のスタンドです。」
「『キャンパス』だとォッ・・!?」
緑の男は怒りをあらわにして言う。
「・・思えばッ!貴様らさえいなければッ!俺はこんなつらい『憎しみ』を背負わずにいれたんだァ―――ッ!!」
緑の男はネクロマララーに飛びかかっていった
「感情に任せて・・しかもスタンド無しで突っ込んでくるなんて自殺行為ですよッ!」
緑の男のこぶしはザット・ガールの持った球に防御されていた
そして、緑の男も『ジミー・イート・ワールド』の様に地面にめり込んだ
「体が重いッ!・・こ・・・コレはッ!まさかッ!」
「いつにしても美しい・・自ら攻撃を仕掛けてきて・・我が『ザット・ガール』の『重力球』に攻撃し・・
重力を加えられ、最初は重いだけだがドンドン攻撃してきて・・その内・・起き上がれない程の重力を加えられ・・
手をもがかせる事もできなくなり・・後はその場に放置される・・そして私が去ろうとしたときの
泣き叫ぶあの顔ッ!声ッ!瞳ッ!耳ッ!どれをとっても最高だッ!!!!」
(・・馬鹿かコイツは・・)
緑の男は思った
(自分の作戦を全部暴露してやがる・・つまり・・あの重力球に触れずに攻撃できれば・・ッ!)
緑の男はこぶしを握り締める。
「そして・・私がこの事を話したとき・・『作戦を言ってんじゃねぇか』と思っている者の顔も美しい・・」
(なッ!?)
「・・クラシーヴァ(美しい)。」
ネクロマララーはそうつぶやくと、ありったけの重力球を緑の男に投げつけてきた
「クラシーヴァッ・・クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!
クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!
クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!
クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!
クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!クラシーヴァッ!ク―ラ―シーヴァ――――――――ッ!!」

365( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:23
「チク・・ショォッ・・」
(大丈夫だ・・俺はもう動けないが・・『ジミー・イート・ワールド』はもう目を覚ましている・・『気絶してるフリ』をしているだけだッ・・
今俺が命令すれば・・アイツは確実にあの野郎の頭部を・・・)
緑の男は再び拳を握り締め、息を吸った
「ストーイッ!(止まれ)」
しかし、ネクロマララーが見抜きとめる
(クソ・・ッ!)
緑の男がそう思うとネクロマララーはテープを床に貼り出した
「『ザット・ガール』が今持ってるのは『重力球』より数百倍の威力がある『重力弾』。
そのテープの線を越えたら、容赦なくこの『重力弾』でミートソースにしますよ。」
(ハッタリだッ!間違いなく・・ハッタリに違いないッ!)
緑の男は言い聞かせ、叫んだ
「『ジミー・イート・ワ――ァァァァルドッ!』」
確かに肉眼では到底見抜けない速度でジミー・イート・ワールドは突進した。
しかし、ジミー・イート・ワールドが加えていたのはまたしても『重力球』だった。
「・・・カニェーツ(終わり)」
ネクロマララーはそう言うとザットガールは地面にめり込んでいる『ジミー・イート・ワールド』に重力球を投げつけた
「カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ! カニェーツッ!
カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!
カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!
カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!
カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェーツッ!カニェ―――――ッツゥ!」

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

(・・・随分時間が経った・・)
(俺はどうなった?)
(・・・少なくとも今『生きてる』。)
(重力もアレだけ投げられたのに薄い。)
(・・?何だコレは・・紙?)
緑の男は傍においてある紙を拾い上げた
『君は殺しておくには惜しい人材だ。よって『今の所は』生かしておいてやろう。
ソレに、君が殺そうとしている相手は、私達の『裏切り者』すなわち『敵』だ。
よって、君が『奴』を殺すまでとりあえず様子を見させてもらおう。
ただ、コレだけはよ――くッ覚えておくんだな。

            こ れ が 格 の 違 い だ 。          』
「・・ッ!」
緑の男は紙を握り締める
(・・・アレだけ加えられた重力・・今じゃゼロだな・・。)
緑の男は体を起こしながら思った。
(・・しかし・・・)
「アレがキャンパスの『三銃士』か・・ヤレヤレ、どうやらとてつもない力の持ち主みたいだな・・。
・・しかし『奴』が裏切り者とはどういう事だ?アイツは裏切る様な奴じゃ・・・
いや、そんな事無いか、現に俺を裏切っているしな・・。」
緑の男は上を見上げた
「ヤレヤレ・・。つッッッかれたなァ――・・・。」
そう言うと、再び床に倒れ眠ってしまった。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

366( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:23
〜茂名王暑・特別課〜

(クソッ!・・どうする・・ッ!?)
特別課には緊迫している空気が漂っている
(・・ココで出すべきなのか『アレ』を・・?)
(・・ソレとも・・『嘘をつく』べきなのか・・?)
(しかし・・彼女の『眼』は尋常じゃない程鋭い・・)
(だがッ!今私は『真実』を持っていない・・)
(しかし今ココで『嘘』がバレたら・・俺は大量の『ペナルティ』を背負わなければいけないッ!)
(・・・まぁいい。どうせにしよほかに道は無いッ!行くぞ!言うぞ言うぞ言うぞ言うぞ言うぞォォォ―ッ!)
「12ィッ!」
「・・・ダウト。」
殺ちゃんは俺の出した札を見て速攻で見破った。
「・・もう少しポーカーフェイスになれんのか?汗だくな上不安な顔で、バレバレだったぞ。」
「あ・・う・・」
「それじゃあこの大量のカード、受け取ってもらいましょうKA〜♪」
「い・・・嫌ァァァァァァァァッ!」
「ソレじゃあ私は『13』。」
「ダ・・ダウト・・。」
「残念。本物だ。ソレじゃあ私はあがりだな。」
「ソレじゃあ私は『1』ですZO。」
「ダ・・ダダダダウトオッ!」
「残念。本物ですZO。ソレじゃあ私もあがりですZO。」
「ふむ。ソレじゃあ罰ゲーム決定だな。」
「GOOOOODッ!それじゃあ今から巨耳さんのおごりで『寿司特上』を出前するですZO〜♪」
「あ・・・ああ・・給料日前なのに・・ッ・・」

―三人の仲間が警察署のテーブルで 札を眺めたとさ
    一人は泥を見た 二人は星を見た―   巨耳モナー

「あ。特上3つでお願いしMASU。」
「さ・・3つゥッ!?一人1つゥッ!?」

←To Be Continued

367( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:23
登場人物

――――――――――巨耳派+α――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

368( (´∀` )  ):2004/02/22(日) 20:24
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

369ブック:2004/02/23(月) 07:55
      救い無き世界
      第二十七話・鎖 〜その二〜


 俺はみぃの部屋の前で行ったり来たりを繰り返していた。
 まあ確かにあいつにはお礼を言っとくべきだと思うし、
 何よりお礼を言わずに放っておいたらふさしぃに殺されてしまう。
 …タカラギコめ、いつか一発殴ってやるからな。

 しかし、前にも似たような事があったな。
 ああ、そうか。
 ギコえもんにお礼を言う時も俺は同じ事をしてた気がするな。

(ちっ…)

 俺は意を決して部屋のドアノブに手を掛けた。
 ドアノブを捻り、ゆっくりとドアを開ける。

「!?でぃ…さん……?」
 ドアを開けるや否や、みぃが鳩が豆鉄砲を喰った様な顔で俺を見つめてきた。
 何だよ、死人が生き返ったのを見つけたみたいな顔をしやがって。

「!!!」
 次の瞬間、みぃが俺の胸に飛び込んで来た。
 突然の事に驚き、体が硬直する。

「でぃさん…無事だったんですね……
 良かった…良かった………!」
 背中に腕を回され、強く抱き締められる。

 馬鹿。
 暑苦しいだろうが。
 離れろ。
 ていうか、その、胸が…

「!!!!!!!」
 俺は慌ててみぃを体から引き剥がした。
 これ以上くっつかれているのはまずい。
 理性を保てなくなる。

「…ごめんなさい。」
 みぃが涙ぐんだ目を拭う。
 それにしてもよく謝ったり泣いたりする奴だ。
 カンジュセイと何かが豊かなのだろうか。

「あの、でぃさん。大丈夫ですか?
 変な事とか、されてませんか?」
 みぃが心配そうに尋ねる。
『別に、変わった所は無い。』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
「…良かった。」
 それを見て、みぃがほっと胸を撫で下ろす。

 だが、実際の所はどうだか怪しいものだ。
 眠ってる間に、体に変な機械を埋め込まれたりだの何だのされてる事は、
 十分に考えられる。

『…お前の方こそ、大丈夫なのか?』
 今度は逆に俺から尋ねる。
 あの夜、みぃに出会って意識が真っ黒になってからの記憶は曖昧になっている。
 しかし、それでもみぃに酷い事をしたのは朧げながらに覚えていた。

「私は平気です。それより、本当にでぃさんは大丈夫なのですか…?」
 みぃが聞き返す。
 こいつは何で人の心配ばかりしてるのだろうか。
 みぃの首に残っている大きな手形の痣。
 『化け物』の…いや、『俺』の腕で絞められた時についたものだ。
 恐らく、相当の痛みの筈だろう。
 それなのに、何でその怪我を負わせた張本人である俺なんかを…

 と、今更になってあの夜の事が鮮明に思い出されてきた。
 みぃに抱かれて、子供の様に泣きじゃくる俺…

 恥ずかし過ぎて死にそうになってくる。
 大の男が女の前で号泣。
 みっともないったらありゃしない。

370ブック:2004/02/23(月) 07:56

『…これ、この前のお詫びと礼の印だ。』
 照れ隠しに頭を掻き毟りながら、
 みぃに持って来たプレゼント箱を渡した。
 みぃが驚いた様子で受け取る。

「わ…私は別に、こんな物を頂くような事は何も……」
 みぃが俺にプレゼントを返そうとしてきた。
『いいから。』
 が、俺は強引にみぃにプレゼントを持たせる。
 俺の柄ではない。
 そんな事は百も承知だ。
 しかし、プレゼントを渡さなければ俺がふさしぃに殺されるのだ。
 是が非にでも受け取ってもらわねば困る。

「ごめんなさい…」
 プレゼントをおずおずと受け取るみぃ。
 だから、何で一々謝る。

『さっさと開けろよ。』
 俺はみぃに呼びかけた。
 そういえば、タカラギコは何をこの箱にいれているのだろうか?
 まあどうせあいつの事だ。
 碌な物ではあるまい。

「!!!!!」
 そうだ、何でこんな重要な事に頭が間わらなかったのだ!?
 もしタカラギコが、変なものを箱の中に入れていたらどうする?
 俺があらぬ誤解を受けてしまうではないか。

「どうしたんですか?」
 俺の異変に気がついたのか、みぃが不思議そうな顔で聞いてきた。
『…別に何でもない。』
 俺は普段と変わらぬ様子を取り繕っていたが、
 内心は冷や汗ダラダラだった。
 しかし、一度プレゼントを渡してしまった以上、
 今更返してくれなんて格好悪い事は言えない。
 腹を括るしか、無いという事だ。
 糞。もしもいかがわしい玩具とかが入ってたら、
 タカラギコの野郎地の果てまで追いかけても殺してやる。

「!!これは…」
 みぃが驚嘆の声を上げる。
 何だ。
 何が入っていた!?

「…本当にこんな物受け取っていいんですか?」
 みぃがプレゼントの中身を見つめる。

 これは…ネックレス?
 見た感じ、多少高価そうな何の変哲も無い首飾りに見える。
 まあヤバいものにはどうやっても見えない。

『気にするな。』
 俺は心底ほっとしていた。
 良かった。
 タカラギコが俺が考えている程陰険じゃなくて。

「今、着けてみていいですか?」
 その問いかけに、俺は頷いて答えた。
 みぃが早速首飾りを着け始める。
「…似合いますか?」
 首飾りを身に着けて、みぃが不安そうに尋ねてきた。
『まあ…馬子にも衣装と言う諺があるしな。』
 何で俺は、こんな時位素直に似合っているよぐらい言えない。

371ブック:2004/02/23(月) 07:57

 …いや、そんな事より、

 俺は部屋のドアの方へと視線を移した。
 さっきから俺達をじろじろ観察してる奴がいる。
 おそらく…

「やあ、ばれてしまいましたか。」
 タカラギコが、ひょっこりと姿を現した。
 覗きとは、随分と良い御趣味をお持ちのようだ。

「いやですね、いけない事とは分かっていたのですが、つい魔が差しまして…」
 何を見え透いた事を。
 俺にプレゼントを渡すように言った時から、そのつもりだったろう。

「いやそんな怖い目をしないで下さい、抑えて抑えて。」
 俺の刺すような視線を察知したのか、
 タカラギコが腰の引けた口調で言う。

「お詫びといってはなんですが…これを差し上げましょう。」
 そう言ってタカラギコは俺に二枚のチケットを握らせた。
 見ると、どうやら映画のチケットのようだ。
「せっかくですから、全快祝いにみぃさんと二人で映画でも見てきてはどうです?」
 タカラギコがお馴染みのにやけ顔で喋る。
 こいつ、いつか絶対しばいてやる。

『お断りです。どうせ外に出たとたん俺には監視がつくんでしょう。
 それなのに外出したって、息苦しくって敵いません。』
 何で俺がみぃと一緒に映画を見に行って、
 あまつさえそれを人に見せ付けるような事までしなけりゃならんのだ。
 それをわざわざ監視する奴らだって、いい迷惑だろう。

「おや、みぃさんと一緒に外出するのは嫌なのですか?」
 タカラギコがわざとらしい程以外と言った感じで聞いてくる。
「……」
 その言葉を受けて、みぃが悲しそうな顔をする。
『いや、違うぞ。俺は別にお前と一緒に行くのが嫌な訳じゃなくてだな…』
 慌ててフォローするような言葉を書こうとしたが、
 上手くまとまらなくって何度もホワイトボードに
 書いては消し書いては消しを繰り返す。
 ああもう、何で俺がこんな事に気を揉まねばならんのだ。

「…しかたありません。でぃ君は無下に断ったとふさしぃさんに報告しますか。」
 タカラギコがさらりと恐ろしい事を言った。
 俺は目の色を変えてタカラギコを引き止める。

 この野郎。
 トラの威を借りて好き勝手な事押し付けやがって。
 いつか殺してやる。

 俺は拳を固く握り締めた。





 俺はみぃと街の通りを歩いていた。
 ふさしぃが背後にいる以上、逆らうわけにはいかない。

「…でぃさん。やっぱり、私なんかと一緒じゃ嫌ですよね……」
 みぃが顔を曇らせた。
『違う。俺はただ…』
 しかしそこから言葉を繋げる事は出来なかった。

 糞、何だってんだよ。
 …俺は別に、みぃと一緒に居るのは嫌いじゃない。
 寧ろ…心地良いんだと思う。
 けど何かあまり近くに居ると恥ずかしいというか
 こそばゆいというか、
 いや俺一体何を考えて…

372ブック:2004/02/23(月) 07:57


「!!!!!!!!!!」
 と、いきなりみぃが顔を強張らせて足を止めた。

 何だ?
 どうしたみぃ…

 俺はみぃが絶句した表情で見つめている先に顔を向ける。
 そこには、一人の男が佇んでいた。
 何だ、あいつ?
 いや。あいつの顔、どっかで見たような…

「マニー…!」
 みぃが呟く。
 そうだ、思い出した。
 確か、あいつはぃょぅ達から教えられた『大日本ブレイク党』の…

「迎えに来たぞ、みぃ。」
 マニーが醜悪な笑みを浮かべた。
 どういう事だ?
 あいつとみぃは知り合いなのか?

 すると、いきなりマニーの背後に屈強な男の姿が浮かび上がった。

 あれは、
 スタンドか!!!

 そう考えた時にはもう遅かった。
 マニーは一気に俺達まで距離を詰めると、
 俺にスタンドの拳を突き出してくる。

 腕をスタンド化させて防御す――
 間に合わない…!
 胴にパンチが叩き込まれ、痛みと共に後方に吹っ飛ばされる。

「きゃああああああああああ!!!」
 みぃの悲鳴。
 痛みを無視して跳ね起き…

 !!
 出来ない!?
 何故だ。

「!!!!!」
 いつの間にか地面の形が変わり、俺を拘束するように覆い被さっていた。
 これは、
 これが奴のスタンド能力!?

(糞が!!!)

 腕の力を総動員して、無理矢理地面を破壊して立ち上がる。
 だが、その時にはもう遅かった。
 マニーがみぃを車に連れ込み走り去っていく。

(逃がすか!!!)
 脚をスタンド化。
 地面を全力で蹴って人外の速度で車を追う。
 これなら、すぐに追いつける…!

 と、目の前に一人の男が立ちはだかった。
 マニー…?
 ではない。

 邪魔だ。
 どけ!!!!!

 地面を踏みしめ、空高く跳躍。
 このままこいつの頭上を飛び越して車を追―――

 次の瞬間、俺はつんのめる形で地面に腹から突っ伏した。

373ブック:2004/02/23(月) 07:58

 !?何…

 見ると、俺の脚に変な管のようなものがくっついていた。
 どうやらこれが俺の跳躍を阻んだらしい。
 すぐにそれを脚から引き千切ろうとする。
 しかし、管は脚と一体化しているかのように脚から剥がれない。

「マニー様を追わせる訳にはいかないな。」
 男が俺に向かって言った。
 そいつの傍らには、俺の脚にくっついているものと同じ管を
 体に巻きつけたビジョンが浮かんでいる。
 さっきのは、こいつの仕業か。

「君にはここで死んで貰う。」
 男のスタンドに巻きついている管の一本が俺の脚に向かって伸びていた。

 …死んで貰う?
 それはこっちの台詞だ。
 悪いが、俺には手前と遊んでいる暇は無ぇ。
 瞬きする間も無くくびり殺して、すぐにでも車を追わせてもらうぜ…!!

 俺は腕を『化け物』のそれへと変貌させた。



     ・     ・     ・



「黒耳モララーを相手にしては、あのでぃは万が一にも生きてはいまい。」
「!でぃさん…!!」
 その時、みぃの脳裏にでぃの顔がよぎった。
 それを、マニーは見逃さない。

「貴様…!今あの汚らしいでぃの事を考えたな!?
 私以外の男をその心に宿したな!?
 貴様の貴様の貴様のあるああるあ主が誰誰誰だ誰だれだか
 忘れたといういういいいうのか!!?」
 マニーがみぃの首を締め上げる。
 先日でぃにより痛んだ首が、さらに悲鳴を上げていった。

「…マニー様、程々に。」
 車の運転手がマニーをなだめるように言った。
「おお、そうだった。」
 それを聞いて、マニーがようやく手から力を緩める。

「こんな所で殺しはしない。
 お前は私の一番のお気に入りなのだからな。」
 マニーが笑みを溢しながらみぃを見つめる。
「お前が逃げてしまってから、随分と『客』からもクレームが来たのでなぁ。
 その埋め合わせをしないうちに殺しては元も子もない…」
 マニーが心底楽しみそうに呟く。
 その目は、漆黒の狂気に彩られていた。



     TO BE CONTINUED…

374ブック:2004/02/23(月) 23:58
       救い無き世界
       第二十八話・鎖 〜その三〜


 距離を開けて向かい合う俺と耳の黒いモララー。
 視線が死線で衝突して、場の空気が張り詰める。
 …こいつ、強い。

 そういえば、スタンド使いと闘うのはこれで三回目か。
 一度目はマララーとかいう奴と。
 二度目はあの変なスライムと。
 そしてその結果はどちらとも惨敗。

 しかし、だからと言ってここで引いたり、負けたりする訳にはいかない。
 絶対に、勝つ。
 そして、あの車をすぐに追いかける。

(それには、こいつが邪魔だな。)
 俺は脚にくっついている管をみた。
 管は俺と完全に結合しているようで、引っ張ってもびくともしない。

 しょうがない。
 なら、これならどうだ!

 俺はスタンド化させた腕で、
 管と同化している部分ごと脚の肉を抉り取って、管を脚から取り除いた。

 吹き出す血。
 しかし同時に脚の負傷した部分がすぐさま再生を始める。
 完全修復まであと一分といったところか。
 だが問題無い。
 闘うには、何も問題は無い。

「……!」
 黒耳モララーが少し驚いた顔をする。
「どうやら君のその『腕』と『脚』は、埒外の治癒能力をもっているようだな。」
 しかし黒耳モララーはそれ以上の動揺は見せない。
「だがその程度なら仔細無い。
 胴に大穴が開いたり、頭を砕かれたりすればいくらなんでも死ぬだろう。」
 …自分にはそれが余裕で出来るとでも言うつもりか。
 上等だ。
 やれるもんなら、やってみろ。

「そして君の『脚』、まだ十分に回復してはいないな?
 ならば私はその間に私の『型』に持ち込ませてもらう。」
 と、黒耳モララーのスタンドからさっきの管が凄い勢いで伸びてきた。
 体を反らせてそれをかわす。
 舐められたものだ。
 そんなのを俺が喰らうとでも…

「!!!!!」
 しかし次の瞬間俺は奴の狙いは俺を攻撃する事ではない事を悟った。
 管が周囲を旋回し、あちこちに引っ付いたり巻き付いたりしながら、
 俺の周りをジャングルジムの様に取り囲んでいく。

 何だ?
 一体、何のつもりなんだ。

「舞台は整った。」
 いつの間にか黒耳モララーが管のジャングルジムの天辺に登っており、
 そこから俺を見下ろしている。
「君はここに張り巡らされた我が『パイプライン』の結界から
 生きては出られぬと予言しよう。」
 自分の勝利を確信したような顔つきで、黒耳モララーが断言した。
 好き勝手いいやがって。
 もう勝ったつもりか!?

(こんな管など…!!)
 俺は近くの管に向かって手刀を振り下ろした。
 こんな結界、すぐにでもバラバラにしてやる!

375ブック:2004/02/23(月) 23:59

「!?」
 しかし、俺の思惑とは裏腹に、管は手刀で切断はされなかった。
 管は手刀を振り下ろした方向に伸びただけで、表面には傷一つ付いていない。

 これは…!
 衝撃を吸収した!?

「言い忘れたが、あまりその管に攻撃をするべきではない。」
 俺を二重の意味で見下しながら、黒耳モララーが言う。
「でないと…」

 ―――突然の背中への強い衝撃。
 たまらず、地面に倒れる。
 何だ、今のは。
 何をされた!?

「こうなる。」
 黒耳モララーが嘲るような目をする。

(ちっ!!!)
 ヤバい。
 よく分からないが、この結界の中にいるのはまずい。
 すぐに、ここを出なければ。
 俺は管を掻き分けるように結界の外へと走り出した。

「生きたまま出ることは不可能と言っただろう?」
 いきなり目の前に、管から黒耳モララーのスタンドが姿を現した。
 驚く間も無く顔面を殴打され、後ろに倒される。

 馬鹿な。
 何で管の中から…

 頭を揺さぶられ、朦朧とする意識の中で、
 俺は黒耳モララーのスタンドについて考えを巡らせていた。
 あのスタンドは、管の中を通って来た?
 あの管、唯の管じゃない。
 何か重要な秘密が隠されている…!

 俺はよろめきながらも何とか体勢を立て直そうとした。
 だが、足元はまだふらついている。
 頭へのダメージもさることながら、
 不意を突かれた事による心理的ダメージも相当大きいようだ。

 ふと、俺は腹に異物感を感じた。
 何事かと思い、自分の腹の辺りを見てみる。

「!!!!!」
 …やられた!
 腹には、あの管がくっ付けられていた。
 いつの間に。
 顔面に一撃を喰らって倒れた時か…!?

「これでもう逃げられない。
 それとも今度は腹の肉を抉って管を切り離してみるか?」
 黒耳モララーが挑発的な顔を見せる。

 …糞が。
 悔しいが、それは無理だ。
 今の所俺がスタンド化させられるのは腕と脚だけ。
 そこの怪我ならたちまち再生出来るが、ほかの部分は常人に毛が生えた程度だ。
 割腹なんてしたら、間違いなく死ぬ。
 いや、すぐには死なないにしても、
 瀕死で動けなくなったところに止めを刺されて終了だ。

376ブック:2004/02/24(火) 00:00

(ならば…こうするまでだ!!)
 俺は頭上の黒耳モララーに向かって飛び上がった。
 こうなったら、本体を直接叩くまで!

「やれやれ…予測通り過ぎて欠伸が出る。」
 その言葉と共に、
 奴との距離が大体半分になった位のまで飛び上がった所で、
 俺は途端に空中でバランスを崩した。

 その原因はすぐさま解明した。
 管から奴のスタンドが姿を現し、俺の右足首を掴んでいる。

(おぉらああぁ!!!)
 空中で体勢を崩しながらも、俺はそのスタンドに向かって拳を繰り出した。
 しかし、寸前でスタンドに管の中へと逃げ込まれてしまう。

 空中で無理な動きをしたため、
 受身も取れないまま背中から地面に激突する。
 その衝撃に、息が肺の中から根こそぎ押し出される。

 …しかし、見つけた。
 一つだけ、見つけた。
 あのスタンド…管にある栓のような部分から姿を出していた。
 そして管の中に潜る時は、栓の無い場所からでも潜り込んでいた。
 見えてきた。
 あの管の秘密が、少ずつだが見えてきたぞ…!

「…その様子だと私の『パイプライン』の管について
 何か掴んだようだが、もう遅い。
 お前は既に、出来上がっているのだからな。」
 奴も、俺に自分のスタンドについての手掛かりを与えてしまった事には
 気づいているらしい。

 しかしどういう事だ。
 俺が、出来上がっている?

「私のスタンドが今、管のどこにいるのか教えてやろう。」
 そういうと、黒耳モララーは管のある場所目掛けて指をさした。
「ちょうどその辺。お前に繋がっている部分のすぐ傍だ。」

 !!!
 まずい!!
 まさか、こいつ…!!!!!

「もう遅い!!
 このまま管を経由してお前の内側に我がスタンドを侵入させ、
 内部からお前を破壊する!!!」
 奴が子供が昆虫を分解していく時にするような表情を見せる。

 駄目だ。
 殺される…!

「!!!!!!!!!!!」
 走馬灯が頭をよぎりかけたその時、
 いきなり奴が動きを止めた。
 その顔からは先程までの自身に満ち溢れた表情は消え去っており、
 変わりに冷や汗を浮かべている。

 何だ。
 一体奴に何が起こった?

「…お…お前……何なんだ……」
 歯と歯を打ち鳴らしながら、黒耳モララーが呟く。
「お前の中にいる、その『化け物』は何なんだあぁ!!!!?」
 黒耳モララーが絶叫する。
 あまりの恐怖のためか、その顔は笑っているようにすら見えた。

 …見たのか。
 俺の内側に入った時に、俺の中の『化け物』を。
 しかしぞっとしない話だ。
 見ただけで狂いそうになる『化け物』を、
 俺は体の中に飼っているのか。

377ブック:2004/02/24(火) 00:00

「…はぁ……はぁ…
 だが…問題無い。
 内部から倒すのが無理なら…外部から倒すまでだあーーーーーーー!!!」
 奴が叫びながら管に向かってスタンドのラッシュを叩き込んだ。

 ここだ。
 ここで、この管についての謎を解き明かす。

 俺は周囲を見回し、自分の近くの管の栓のような部分の場所を確認した。
 俺の読みが間違っていないなら、恐らく…

 俺は右手で俺の腹と融合している付近のの管を握り締めた。
 奴は管に撃ち込んだラッシュのエネルギーを、管を通して俺に流し込むつもりの筈だ。
 それをこうやって管を握り潰して堰き止める事で防ぐ。
 すると行き場を失ったエネルギーは…

 と、俺の右前方辺りの栓が開いた。
 即座に栓の穴の正面から身を避ける。
 俺がついさっきまで居た場所の後ろにあった壁に穿たれる穴。

 やはり、思った通りだ。
 管に送られたエネルギーは、栓の部分からしか放出できな―――

「!!!!!!!」
 次の瞬間、俺の頭部に重い痛みが走った。

 !?
 これは…

 見ると…俺の頭の上の管の栓から、奴のスタンドが出てきていた。
 馬鹿な。
 さっき見たときには、あんな所に栓は…

「我がスタンド『パイプライン』の能力を見破っていい気になってた所すまないなぁ。」
 ぐらぐらする頭に、黒耳モララーの声が響いてきた。

 何だ。
 一体、何をされ…

「!!!」
 栓がゆっくりではあるが…
 位置を移動している!?
 この管は、そんな事まで出来るのか…!

「ここまでずいぶん時間がかかった…
 しかし、次で終わりだぁ!!!!!」
 黒耳モララーが、再び管にスタンドのパンチを連続で打ち込んだ。


      TO BE CONTINUED…

378:2004/02/24(火) 19:52

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その4」



 走る、走る、走る…
 ひたすらに走る。
 ギコと共に、学校への夜道を駆ける俺。
 モララーは、『アナザー・ワールド・エキストラ』の瞬間移動で援軍を呼びに行った。
 援軍とは、レモナーとつーの事だ。
 ASAとは何故かコンタクトがとれないらしい。

(君は分かっていない)

 不意に頭に響く重い声。
 …『殺人鬼』か。
 さっき会ったばかりなのに、何の用だ?
 こいつとの問答に付き合っている時間は無い。
「お前は黙ってるモナ!」
 俺は思わず怒鳴った。

「…誰と喋ってるんだ、ゴルァ?」
 ギコが足を止めて、俺に奇異の目を向ける。
「い、いや… 妖精さんと…」
 俺は頭を掻きながら誤魔化した。
 ギコは力強い笑みを浮かべながら、俺の肩に軽く手を置く。
「大丈夫だ。しぃとリナーは必ず俺達の手で救い出す。思い詰めるのは良くないぞ、ゴルァ!」
 妙に優しい目つきのギコ。
 …変に誤解されたが、まあいい。
 俺達は再び駆け出した。

(私とて、時と場合は弁えている。これは、今君が聞くべき話だ)

 無視だ、無視。
 早く『アルカディア』をブッ倒して、リナーを説得しなければ…

(『アルカディア』など、とうに撃退された。今の『異端者』の相手は『蒐集者』だ)

「…何だって!?」
 俺は、ギコに聞こえないように小声で言った。
「なんで、そんな事が分かるモナ?」

(『アウト・オブ・エデン』を何だと思っている…? 『視る』ためのスタンドではないか)

 呆れたように告げる『殺人鬼』。
 すると、こいつはここから学校の様子が視えているという事か…
 残念ながら、俺は自らのスタンドをそこまで使いこなせてはいない。

(そこで忠告だ。君は、『アウト・オブ・エデン』の能力を未だに分かっていない。
 …いや、自分から狭範囲に限定している。
 先ほど私は『視る』為のスタンドだと言ったが、それは基幹に過ぎない。
 私は以前に、『不可視領域に干渉できる』と言ったはずだぞ。
 あえて訂正するなら、可視領域にすら適応できるという事くらいだ)

「それは知ってるモナ。『視る』だけじゃなく、『視えた物を破壊できる』モナ?」
 俺は、ギコの後をついて走りながら言った。

(それを、自分から限定していると言うのだ。
 …『干渉できる』と『破壊できる』はイコールではあるまい)

「じゃあ、別の能力が…?」
 俺は、その言葉に息を呑んだ。

(別、ではない。延長だ。能力そのものというより、応用法と捉えろ。
 …と言うか、君はすでに無意識で行っている。
 君が『異端者』と共に夜の吸血鬼狩りをしていた時、何の為に君は同行した?
 『異端者』の戦力になる為か?)

「それもあるけど、リナーの戦い方を視て、モナも強くなろうと…」
 たどたどしく答える俺。

(そう、君は無意識では分かっていたのだ。
 『アウト・オブ・エデン』で、他者の動きをトレースし、自らの肉体で『再現』できることが。
 そして実際、君は『異端者』の戦い方に近い技術を身につけた。
 もちろん、技量そのものは遠く及ばないがな)

379:2004/02/24(火) 19:53

 …そういう事か。
 自分でも、身体能力や戦闘技術が飛躍的に上昇した事に疑問を抱いていた。
 それは、俺が『殺人鬼』に寄っているからだけではなかった。
 リナーの戦闘技術を『アウト・オブ・エデン』で無意識に解析した結果だったのか…

(理解したか。次に、『アウト・オブ・エデン』にはなぜヴィジョンが無いか考えてみるがいい)

 首をかしげた後、俺は答えた。 
「…能力に力を使いすぎてるから?」

(それも間違ってはいないが… 答えは自らで見極めろ。
 それすら分からんようなら、君に『アウト・オブ・エデン』を使う資格は無い)

「…言いたい事はそれだけモナ?」

(随分と嫌われたものだな。だが、今から戦う相手については知っておけ。
 『蒐集者』は文句なく最強だ。では、『最強』とはどういう事か分かるか?)

「誰よりも強い…?」
 俺は何の工夫もない返答をした。
 奴が望んでいる回答ではないのは明らかだ。

(…見当違いの答えだな)

 案の定、『殺人鬼』は失望したように言った。

(『最強』とは『妄執』だ。即ち、『蒐集者』は『妄執』そのものなのだ)

 ――『妄執』?
 何となく分かる気がする。
 奴は『最強のスタンド使い』として『教会』に造られた。
 単純、かつ胸糞が悪くなる方法で。
 その踏み違えた理念そのものが『妄執』。
 そして、『蒐集者』はその『妄執』を完全に受け継いでいる。

(…その通り。故に、奴のスタンド『アヴェ・マリア』は『最強』なのだ。
 だからこそ、『アウト・オブ・エデン』の敵ではない。
 何故なら、『アウト・オブ・エデン』を使う者は修羅(−mental sketch modified−)なのだからな)

「修羅? メンタル…スケッチ?」

(修羅がエデンの外で見るもの。それは、■■■■をおいて他にあるまい――)

 …全く意味が分からない。
 こいつは、いつもそうだ。
 置き土産とばかりに、抽象的な問いを残していく。
「何を言ってるモナ? 大体、今日に限って何でそんなに親切モナ?」

(相手が『蒐集者』だからさ)

 『殺人鬼』の答えはあっさりとしたものだった。
「随分と過保護モナね…」

(私に似合わん言葉だが… 健闘を祈ろう)

 そして、奴の声は聞こえなくなった。
 俺は、『殺人鬼』が嫌いだ。
 それでも、少しだけ奴に感謝した。
 これから、あの『蒐集者』と戦う事になるのだから…

 学校に近付くにつれて、不気味な気配は強くなっていく。
「…イヤな感じだな」
 ギコも、異常を感じ取っているようだ。
 死を感じさせるような『アルカディア』の気配もあるが、それだけではない。
 この閉塞感は、間違いなく『蒐集者』だ…!



          @          @          @



 給水塔から飛び降りる『蒐集者』。
 そして、つかつかと『異端者』と『アルカディア』に近付いてくる。

「『教会』を離脱した貴様が、こんなところで何をしている!?」
 『異端者』は『蒐集者』を睨みつけた。
 外見は、20代かそこらの青年。
 そう。自分が15年前に『教会』に引き取られてきた時から、『蒐集者』はこの姿だった。
 15年の間ずっと、『異端者』はこの男から禍々しさを感じ取っていた。
 『こいつとは関わってはいけない』
 自分の中の何かが、常にそう告げてきたのだ。

 そんな『異端者』の視線を軽く流す『蒐集者』。
「久方振りというのに、とんだ挨拶ですね。貴方は少々礼節に欠ける。
 確かに、私は『教会』を抜けました。ですが、『教会』の長、枢機卿とは協力関係にあります。
 利害が対立せず、互いが動く事により利益が出ますからね。
 経済学的にいうと、『消費の競合性がない』といったところですか」
 そう言って、『蒐集者』は二本のバヨネットを『異端者』の足元に投げた。
「使いなさい。武器はほとんど使い果たしたのでしょう?」

「やる気だという事か…」
 『異端者』は二本のバヨネットを拾った。
 そして、地面にへたり込んでいる『アルカディア』を一瞥する。
「少し待っていろ。後で殺してやる」
 放心している『アルカディア』にそう告げる『異端者』。

 そして、再び『蒐集者』を見据える。
 ――駆けた。
 バヨネットを構えたまま、『蒐集者』に向かって一直線に。

380:2004/02/24(火) 19:54

「フフッ、律儀ですね…」
 『蒐集者』は、コートの中から取り出した8本のバヨネットでそれを受け止める。
「くっ…!!」
 バヨネットに力を込める『異端者』。
 しかし、『蒐集者』の腕はビクともしない。
「やはり、生きていく上で最小限必要な分しか血を吸っていないようだ。
 貴方の内部はズタズタ。再生力も弱まっている。
 もう肉体的にも精神的にも限界に近いんじゃないですか?」
 『蒐集者』は蹴りを放った。
 腹部にそれを喰らった『異端者』は、5mほど吹き飛んで壁に激突する。
 壁に埋もれたまま、激しく咳き込む『異端者』。
 咳には血が混じっている。

 『異端者』は、自らの体について正確に感じ取っている。
 目の前の青年は、肉体的にも精神的にも限界に近いと言った。
 ――その通りだ。
 この戦いの中で、という限定的な意味ではない。
 もう人間として… いや、吸血鬼としてすら限界に近いのだ。

 その様を『蒐集者』は楽しそうに眺めた。
「まして、自我も崩壊しかけている…
 吸血鬼としての本能を長年抑えこんでいたせいか、吸血鬼の血は変質してしまっている。
 1ヶ月もすれば、貴方は理性すら失うでしょうね。
 もう人間でも吸血鬼でもない。 ――ただの化物だ」

『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』
『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』
『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』
『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』
『俺は、お前のような化物とは違うんだ!!』

 ――『異端者』は思い出す。
 あの男は、そうやって自分を嫌悪した。
 咄嗟に出た言葉だとは分かっている。
 彼の本心でない事も分かっている。
 …いや、本当にそう言い切れるのか?
 モナーも心の奥底では思っているのかもしれない。
 ――『俺は、お前のような化物とは違うんだ』と。
 だって、私は、本当に、化物なんだから。

「――黙れ!」
 『異端者』は瓦礫を跳ね除けて立ち上がった。
 そのまま『蒐集者』に突進する。
「違う、と?」
 『蒐集者』はバヨネットを取り出すと、その攻撃を受け止めた。

「化物ではない、と?
 120人もの血を吸い50人を超える吸血鬼を四散させながら、化け物ではない、と?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――ッ!!」
 そのまま、激しく『蒐集者』と打ち合う『異端者』。
「ならば――」
 『蒐集者』は、『異端者』の左手のバヨネットを弾き飛ばした。
「モナーをこちらへ引きずり込んだのは貴方のせいではないと――?」

「!!」
 『異端者』の動きが止まる。
「あの哀れなモナーは、貴方がいなければ『殺人鬼』が自分だと気がつく事はなかった。
 そして、『殺人鬼』も気付かれるようなヘマはしない。
 彼は、偽りではあるものの日常を生きる事ができた。 ――貴方がいなければね」

「そんなことは…」
 『異端者』は視線を落とす。
 それを見て、『蒐集者』は両手を広げて可笑しそうに笑った。
「ほう! ならば、彼の前で告げてみてはどうです!?
 モナーは、とうとう普段の人格の時にすら殺人を犯してしまった!
 なんて悲劇!! 殺人を禁じていた彼は、姫を守るために2人もの命を摘んだ!
 それでも、貴方は全く関係がないと!?」

 『異端者』は無言で唇を噛んだ。
 強く『蒐集者』を睨みつける。
「貴方から告げにくいのなら…」
 『蒐集者』の輪郭が歪む。
 コートと周囲の空間の境界が曖昧になる。
 そして『蒐集者』は、『異端者』そっくりの外見に変わった。
 合わせ鏡のように、『異端者』と同じ姿をした『蒐集者』は言った。
 『異端者』と同じ声、同じ喋り方で。
「私が告げてやろうか? 『君が人を殺したのは私のせいじゃない。君が勝手にやっただけだ』…と」

「貴様ァァァァッ!!」
 『異端者』は右手のバヨネットを突き立てた。
 まるで、自らの虚像を破壊するように。
 それを容易く受け止める『蒐集者』。
 その外見は、再び変化していた。

 ――モナーと瓜二つの姿。
 そして、モナーの姿をした『異端者』は口を開いた。
「あと、モナーは貴方を愛してなどいない。――哀れんでいるだけだ」

「モナーは…!」
 そう言いかけた『異端者』の胸を、『蒐集者』のバヨネットが貫いた。
 血を吐く『異端者』。
 その攻撃は、完全に心臓を直撃している。
 『蒐集者』は、モナーの姿で言った。
「貴方は、彼にこうされたかったのでしょう? いっそ殺してほしかったのでしょう?
 良かったじゃないですか、夢が叶って――」

381:2004/02/24(火) 19:55

 血に塗れたバヨネットが引き抜かれる。
 グラリと揺れる『異端者』の体。
 その目には、涙が伝っている。
 そのまま、ゆっくりと地面に倒れ伏した。

 その姿を見下ろす『蒐集者』
 周囲が揺らぎ、ロングコートの姿に戻る。
 ほんの僅かに、『異端者』の腕が動いた。
「…ここまで再生力が弱まった状態で、まだ息があるとは。
 微弱ながら、潰した心臓が再生してきている。
 『アルカディア』、貴方が止めを刺すというのはどうです?」

「俺が…?」
 今まで蚊帳の外だった『アルカディア』は不思議そうに言った。
 『異端者』に追い詰められた姿勢のまま座り込んでいる彼を見て、『蒐集者』は頷く。
「やられた恨みを晴らしたいでしょう? この舞台の主役は貴方だ。花は譲りますよ」

「ヘヘッ、いいねェ。アンタ、話が分かるなァ…」
 笑みを浮かべながら、しぃの体は起き上がった。
 もちろん、その中身は『アルカディア』だ。

382:2004/02/24(火) 19:56


 『アルカディア』は、倒れている『異端者』に歩み寄った。
「散々、今までやってくれたよなァ…!!」
 討ち捨てられた吸血鬼狩りの女の姿を見下ろす。
 先程までの威容が嘘のようだ。

 『アルカディア』は、脳内にイメージを描いた。
 バキバキに折れた首の骨。グチャグチャに崩れた心臓。

「借りは、全部返すぜェェェェェェェッ!!」
 そして、『アルカディア』は脳内のイメージを具現化した。
「『砕けろ』ォォォッ!!」



 ――バキッ!!
 音を立てて折れ曲がる首。
 『蒐集者』の首は、無残なまでに折れ曲がっていた。
 同時に胸部から血が噴き出す。
 折れた首に頭の重さが耐え切れず、『蒐集者』の頭部はブラリと垂れ下がった。

 『蒐集者』の垂れた頭部がニヤリと笑う。
「ほう。何のつもりです?」
 それに応えるように笑みを浮かべる『アルカディア』。
「悪ィな。手許が狂っちまったわ」

 『アルカディア』は、『異端者』の横にかがみ込んだ。
 そして、『異端者』の万全時のイメージを思い描く。
 なにせ先程まで散々追われていたのだから、思い浮かべるのは容易い。
 ――そして、具現化。

 血を吐く『異端者』。
 呼吸は戻ったという事だ。
 これ以上の修復は、短時間では不可能。
「どう… して、貴様が…」
 苦しそうに告げる『異端者』。

「礼は無しかい。『蒐集者』の言ってた通り、オマエは礼節に欠けるな」
 『アルカディア』は腰を上げると、『蒐集者』を見据えた。
 その目線を受け、『蒐集者』は口を開く。
「フフッ。心の闇を具現化する、漆黒の理想追及者『アルカディア』が大した心変わりだ。
 もしかして、正義などというものにでも目覚めたのですか?」
「ハン! テメェが気に入らないだけさ。
 女の子への言葉責めは、もっとロマンチックにやるもんだぜ。
 確かに俺もこの『異端者』も化物には違いねェが… テメェはそれ以下だ。
 なんつーか、テメェは醜悪だ。生物として腐ってる」
 『蒐集者』は大きく笑った。
「そんな事が背信の理由とは… 貴方自身も悪行の限りを尽くしておいてよく言う」

「それには、二つ間違いがあるな。
 裏切りもクソも、テメェの部下になった覚えはねぇ。
 『私の言うとおりにすれば自由の身となれる』って言葉を信じたオレがバカだっただけだ。
 もうちょっとで、この女に殺されるところだったぜ。
 次に、オレが悪行の限りを尽くしたという事だが――」
 『アルカディア』はニヤリと笑った。
「――テメェよりはマシだぜ、外道」

 そして、倒れている『異端者』に視線を戻す『アルカディア』。
「まァ、そーゆー事だ。この期に及んでオレを討つつもりなら、屋上から叩き落すぜ」
「…」
 『異端者』は無言で返した。否定はしない。

 そして、『アルカディア』は『蒐集者』に敵意を込めた眼差しを送った。
 そのまま『異端者』に語りかける。
「それと、あんな奴の言に振り回されてどうするんだ?
 モナーは、オマエを化物なんて思っちゃいねーよ。
 あいつは頑なにオマエを受け入れるだろうさ。例え、オマエがどんな存在だったとしてもな」

「なぜ… 貴様に、そんな事が… 言い切れる?」
 喋るのも苦しそうな『異端者』。

「忘れたのか? オレは他者の願望を司るスタンド。モナーの願望くらいは把握してるさ」
 そう言って、『アルカディア』はゆっくりと『蒐集者』との距離を詰めた。

 『蒐集者』は嘲りの笑みを浮かべる。
「――『異端者』にすら敗れた貴方が、私に勝てるとでも…?」

 『アルカディア』は右手をかざすと、自らの顔面を掴んだ。
 指の隙間からその目が覗く。
「…ああ、テメェには勝てる。
 オレにはオレの戦い方があるって事さ。
 その身で味わえ。血塗られた理想郷、『アルカディア』の妙味をな…!」



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383アヒャ作者:2004/02/24(火) 22:59
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        ( ___)                (  ̄)   

合言葉はwell kill them!(仮)第八話―二つの刃

(お・・・恐ろしい・・・)
男は物陰にうずくまって震えていた。
その隣に刀が鞘に収めて傍らの壁にたてかけてある。

この男の名は吉本朝日、34歳の独身。勤めている仕事の仲間から「アサピー」と呼ばれている。
この男は貧乏だった。仕事に就いてはいるものの、自分の住んでいるアパートの家賃さえ払えない日も少なくなかった。
そこで金に困った彼は盗みを働いた。刀も彼が『私怨寺』と言うところから盗んできた。
だが、その刀が普通の刀ではなかったのだ。

その刀は「ハナミズキ 」といった。
アサピーが自分で名をつけたのではない。刀が自分でそう名乗ったのだ。
この刀と出会ってから、何人を斬ったのか?この刀は何人の血を吸ったのか?
もうよく憶えていない。

(ククッ・・・・何も悩むこたーねーだろ。)
まただ。また刀が自分に話しかけてくる。
(俺はお前に感謝してるんだぜ。お前のおかげでまた辻斬りができる。お前だって斬り殺した奴の金品を奪って
 持ちつ持たれつの関係を築いているじゃないか。)
「やめろ・・・やめてくれ・・・」
(さて・・・またお前の体を借りるぜ。)

刀から人型のビジョンが現れる。
そしてそのままアサピーの鼻から彼の体内へと入っていった。
アサピーは歪んだ笑顔で立ちあがった。
「さて・・・今日の獲物は・・・」

物陰からフラリと出た。
もう日が暮れている。月が夜空に白い。
前方に一人の少年が歩いている。
友達の家に行った帰りなのだろうか。

「そうだな・・・・前菜はあの餓鬼から・・・」
少年を睨み据えると、アサピーは唇を歪ませてニィーッと笑った。

          @          @          @

しゃかかかかこんッ! しゅわかかかかかかんッ! メメタァ! ズギャーン!!
ツーの家の台所に包丁を振るう音が響き渡る。

「スゲーなぁー!『アヌビス印の万能包丁』!手にしっくりなじんでるし、軽いし、おまけにマナ板まで切れるスゴイ切れ味ッ!
 やっぱ一級品は違うなァ〜〜〜〜ッ。」
ツーは刀身に犬のマークが彫ってあるかなり大きな出刃包丁をウットリと眺めた。

「何料理の最中に悦に浸っているのよアンタは。」
茶の間から女の声が聞こえる。ツーの姉の声だ。
「五月蝿いなぁ、別に良いじゃねえか。」
「そういえばさ、今日の夕飯は何なの?」
「ああ、カレーライスだ。」
「・・・・まさか『ソニンカレー』じゃないでしょうね・・・」
「大丈夫だ。あれは不評だったからもう作らねぇ。」
「勘弁してよね。あんたが裸エプロンで作ったカレーなんて。」
おい、何を作ってんだ何を。

384アヒャ作者:2004/02/24(火) 23:01

今日は満月。月明かりがツーを照らしている。
向こうから来た自転車に乗ったおじさんが怪訝そうな顔で通り過ぎた。

無理も無い。今の彼の格好は着物姿。おまけに腰に木刀をさしている。あまりにも時代錯誤な格好だ。
だが、彼はその格好が気に入っているのだから仕方ない。

「まったく・・・いったいどこほっつきあるいているのやら・・・・」
そういって歩いていたら、向こうから子供が走ってきた。

「ん、あれは・・・・おーいサ骨!遅いぞ。」
その子供は紛れもなくツーの弟だった。
しかし、どこか様子がおかしい。
「た・・・助けて・・・・」
彼は必死に何かから逃げている様子だった。

「何?どうしたの。」
「向こうから・・・・変なおじさんが・・・・」
彼は息も絶え絶えに話し始めた。

詳しく話すと、彼が家に帰ろうとしたら、いきなり刀を持った男に追いかけられたのだという。
「ふーん。その男はどしたの?」
「ま・・・まだ追って来るんだよ・・・・」

サ骨が指差した方向には一人の男がたたずんでいた。
男は大股に脚を開いて立ちはだかると、スラリと刀を抜いた。
刀の刃が月明かりを受けて妖しい光を放った。

「どちら様?うちの弟に何か用です?」
抜かれた刀に臆せずにツーが尋ねる。
「・・・・人に名前を聞くときは自分から名乗れ。」
男はそう聞き返した。
「すまねぇ。俺の名は津田紅葉。ツーって呼ばれている。」
「我は吉田朝日。武者修業なのだ・・・お前の命、貰い受ける。」
「へぇ〜、かっこいいねぇー。・・・いいだろう、俺が相手になってやる。」

弟に先に帰るように言うと、ツーは腰に挿している木刀を抜いた。
アサピーは左手を刀の柄に軽く添える。
それを腹の前で構え、相手の方に軽く傾かせる。
ツーは腕をだらりと垂らしている。
剣を構える姿がなってない。

「貴様・・・それが構えか?」
「アンタみたいにそーやって気を張るのって、大変じゃねーか?もっと肩の力抜いたらいいじゃねえか。
好きなようによ、風まかせの自然体ってのが一番だと思うぜ、オレは。」

“UUURRRYYYYYYYY…”
何処からか、犬の遠吠えが聞こえてくる。そして戦いはまだ、はじまったばかりだ。

385アヒャ作者:2004/02/24(火) 23:02

「先手必勝だぜ!」
ツーはアサピーに斬りかかった。

抜き払って、そのまま切り下ろす無造作な太刀筋。だがしかし、裂ぱくの気合い充分の刀撃だ。
アサピーは素早く飛びのいてこれをかわした。

かわすと同時にアサピーが流れるような動作で斬りかかる。
ツーは警戒して、距離を置いた位置で立ち止まっていたから避けれた。
「そこそこォ!」
胴に一閃、完璧に捉えられる間合いだ。

しかし、次の瞬間予想していなかった事が起きた。
その一撃はアサピーには届かなかった。
ツーとアサピーの間の距離が、一瞬倍近くの長さに伸びたような感じ。木刀は空を切っていた。

「えっ?」
キョトンとしているツーに、アサピーはその腹部に垂直に肘を打ち込んだ。
「ガハアッ!」
激痛に思わずうずくまる。

「キサマはこう考えているな……」アサピーが話し始めた。
「おれのスタンド『ハナミズキ』は刀がスタンドだ。さっきの現象は、一体どんな能力なんだ?……とな!」

「オ、オイちょっと待て。アンタスタンド使いなのか?ついでに、あの刀がスタンド?」

全く事情を知らなかったツーを見て、アサピーは失敗を悟った。

(しまった〜……こいつ俺がスタンド使いってコトすら知らねーじゃねーか……カッコよく決めたつもりだったのに
 うっかりバラしちまったじゃあねーかッ!)
後悔したところで、もはや後の祭りであった。

「なるほど・・・・アンタがスタンド使いならばさっきの怪現象の説明もつく。『スタンド使いは引かれ合う』ってのは
 本当だったな。ならばこっちも本気を出すまでよ!」
ツーは声を張り上げた。
そして持っていた木刀を空中に放り投げた。

ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・
木刀が空を切る音が響く。

「その心は抜き身の刀・・・・・」

ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・
ブンブンブン・・・・

「音振りかざしけり『サムライマニア』!」

ブンブンブン・・・
ドスウッ!

鈍い音を立てて何かが地面に突き刺さった。

「な、なんだ!?この、でっけえ刀はよおッ!」
アサピーが目を見張った。

それは巨大な刀だった。
包丁だとか、日本刀だとか、そんなものではない。
ツーの背丈を大きく上回り、真っ赤な炎を上げて燃える一本の斬馬刀だった。

ツーはそれを軽々と肩に担ぐと、唇を歪ませてニィーッと笑った。
「さ〜あ……ヤキ入れの時間だぜ?ベイビー」


  /└────────┬┐
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386アヒャ作者:2004/02/24(火) 23:52
お詫びと訂正。
>>384の始めに以下の話が抜けていました。
本当にすいません。

「そういえばさ、サ骨の奴見なかった?」
カレーを煮込んでいると、また姉の声が聞こえた。
サ骨というのはツーの弟で、現在小学校4年生だ。
「ああ、あいつなら友達の家に遊びに行くって言ってたよ。」
「けれどもう7時になるのに帰ってこないなんて・・・『ネコドラくん』始まっちゃうよ。」
「どうせTVゲームにはまって時間を忘れているんだろ。」
「悪いけどアンタ連れて帰ってきてくれない?」
「ハァ?何で俺が!?姉ちゃんが行ってよ。」
「やだ。見たい番組があるもん。父さんも母さんも出かけているし・・・頼めるのがアンタしかいないのよ。」
ツーは何か言い返そうとしてやめておいた。
これまで姉に口げんかやタイマンで一度も勝てた事が無いのだ。
「・・・・わかったよ。その代わりカレーを頼むぜ。」
そういってツーはふらりと家を出た。

387ブック:2004/02/25(水) 04:33
     救い無き世界
     第二十九話・鎖 〜その四〜


 管の栓が次々と開き、俺にに幾つもの衝撃波が襲い掛かる。
 栓の位置から攻撃方向を予想してかわそうにも、
 栓は絶え間なく動き続けているためそれが出来ない。

 頭、胸、腕、胴、足、体のあらゆる場所が痛みという形で悲鳴を上げる。
 その拍子に右手で握っていた管を放してしまい、
 破壊のエネルギーが直接俺の体の中に流れ込んでくる。
 体の中から食い破られるような感覚。
 口から大量の血を吐き出し、その場に倒れ伏す。

「終わりだな。」
 黒耳モララーが勝ち誇ったように呟くのが聞こえた。

 …ああ、もう駄目だ。
 指一本動かせない。
 これまでだ。
 意外とあっけないものだ、『化け物』が死ぬ瞬間というのも。
 もう疲れた。
 このまま目を閉じて眠って………


『でぃさん。』
 …何だ…どこかから、みぃの声が。
 ありえない。
 あいつはさっき連れ去られて………


 ………まだだ。
 まだ、死ねない。
 あいつを…みぃを、助けなければ。

 俺は体に残されている力をかき集めた。
 同時に、体の内側で火を燃やす。
 筋肉を、骨を、脂肪を、細胞を、
 喜びを、怒りを、悲しみを、楽しみを、
 楽しかった思い出を、
 それよりもっと多い辛かった思い出を、
 燃やせるものは何でも燃やす。

 動け、あと少しだけ動いてくれ。
 俺の腕、俺の脚、俺の指、俺のつま先、
 俺の肺、俺の脳、俺の心臓、俺の心…

 あと少し…あとほんのちょっとだけ動いてくれ…!

388ブック:2004/02/25(水) 04:33


 体の筋肉を総動員して立ち上がった。
 …動ける。
 俺は、まだ動ける。

「まだ生きているとは…!」
 黒耳モララーが驚嘆する。
 人を勝手に殺すな。
 俺はまだ、ピンピンしてるぜ。

「ならばもう一度…!!」
 黒耳モララーがスタンドのビジョンを発現させる。
 させない。
 そして今思いついた、貴様をぶち殺す手段を!

 スタンド化させた脚で大地を蹴って跳躍する。
 見る見るうちに奴と俺との距離が縮まる。
 黒耳モララーがそれを受けてスタンドを管の中に潜り込ませる。
 分かってるよ。
 また管の中から俺を攻撃するんだろう?
 いいぜ、かかって来い。
 その時が貴様の最後だ…!

 前回と同じ様に管の栓から出てきたスタンドに足を掴まれてバランスを崩す。
 そこに向かってパンチを撃つ。
 あっさりかわされて管の中に逃げ込まれる。
 そうさ、それを狙っていた。
 今だ!

 俺は奴のスタンドが逃げ込んだあたりを塞ぐように、
 管を手で握り潰した。
 鉄棒にぶら下がるように宙ぶらりんの状態になるが問題無い。
 『足場』はいくらでもある。
 俺は張り巡らされた管の上に足を置くことで、落下を防いだ。

「しま……!」
 黒耳モララーがあからさまに動揺する。
 ビンゴ。
 どうやら上手く奴のスタンドを閉じ込めるのに成功したようだ。
 この管は、エネルギーが管の中に入るときはどこからでも入れるが、
 出るときは栓からしか出られないのが今までの闘いで分かっていた。
 そしてそこが致命的な弱点。
 一度管に入った以上、奴のスタンドも栓からしか出られない…!

 もし俺が表情を変えることが出来たなら、
 これ以上無いくらいに邪悪な笑みを浮かべた筈だ。
 たった今、この瞬間より黒耳モララーの命は俺の掌。
 その快感に、俺は身を打ち震わせていた。

「待て!!!やめ…!!!」
 奴がこれから俺が何をするのかに気がついたのか、
 必死な表情で俺に命乞いを訴えかけようとする。

 だが、断る。
 その願い事を最後まで言わせる事すらさせはしない。
 手前は、今、ここで死ね!!!

 両端で握った手を捻り、管を雑巾絞りのように捻り込む。
 当然、その中にいる奴のスタンドは…

「うぎぶぐげっ…!」
 黒耳モララーの体が、
 まるでプレス機にでもかけられたか如く圧壊していった。
 潰れていくオレンジのように体内から血を絞り出されていき、
 絞りかすの抜け殻となった黒耳モララーが管から地面に向かって落ちていく。
 そして唯でさえグロテスクなその屍骸が、
 地面に衝突する事でさらに無残なものへと変わる。

389ブック:2004/02/25(水) 04:34

「!!」
 と、周囲に張り巡らされた管が消滅を始めた。
 そうか、黒耳モララーが死んだ事で、
 スタンドが強制解除されたのか。

 足場が消え、俺の体が落下していく。
 脚をスタンド化。
 それで着地時のダメージを緩衝する。

 …勝った。
 何とか、といった所だが。
 しかし一息吐いている場合じゃない。
 すぐにでも車を追いかけなければ
 スタンド化させた脚で、一気に走って…

「やめときなさい、もう追うのは無理ですよ。」
 今まさに走り出そうとしたその瞬間、
 いきなり後ろから声をかけられた。
 この不愉快なくらい馬鹿丁寧な声…
 まさか。

「死にそうになったら加勢しようと思っていたんですが、不要だったみたいですね。
 いやはや、あれ程の使い手を倒してのけるとは。」
 タカラギコ…!
 どうしてここに。
 やはり、後をつけて来ていたのか?

 …待て。なら何で、こいつは『大日本ブレイク党』が出てきた時点で、
 姿を見せて闘わなかった?
 そう言えば他にも妙な事はある。
 俺には四六時中監視がついている筈だ。
 なのに、何故そいつらも『大日本ブレイク党』を前にして、
 何も手出ししてこなかったのだ?
 ましてやあの「マニー」とかいう奴は確か幹部だった筈だ。
 それなのに何もしないなんて、おかしすぎる。


 …こうなる事は、予想していた?
 そういえば、そもそも今日俺にみぃと外出するように促してきたのは、
 確かタカラギコ…

「!!!!!!!」
 俺はタカラギコに向かって構えた。
 こいつ、まさか、まさか…

「…恐らくあなたの考えている通りですよ、でぃ君。」
 タカラギコが事も無げに言い放った。

390ブック:2004/02/25(水) 04:34

「!!!!!!!!!」
 頭の中で爆発が起こる。
 それとほぼ同時に、体が弾け飛ぶようにタカラギコに向かって突っ込んでいった。
 許さねぇ。
 こいつがぃょぅ達の友人だろうが何だろうが知ったことか。
 そのにやけ顔をぶち砕いて、ぶち殺してやる…!!

 俺の拳が吸い込まれるようにタカラギコの顔へと伸びていく。
 死ね。
 死んで償…



 気がついたときには、俺は宙を舞っていた。
 現状を理解する間も無く、地面に叩きつけられる。

「いやあ流石近距離パワー型。凄い馬力ですね。」
 タカラギコが感心したように言った。
 すぐにでも立ち上がって拳を叩き込んでやろうとするが、
 先程の黒耳モララーとの闘いで疲弊しきっていた体に
 更なるダメージが加えられた所為で、体がピクリとも動かない。

 何だ。
 今、何をされた!?

「相手の力+自分の力で攻撃を跳ね返す。
 よく出来ているでしょう?合気道は。」
 馬鹿な。
 いくら負傷していたとはいえ、
 タカラギコはスタンドすら発動させていないのだぞ?
 それなのに掠りもしないんて。

「…あなたを騙して利用した事は、心からお詫びします。
 ですが、事態は急を要するのです。
 済みませんが、しばらく大人しくしておいて貰いますよ。」
 と、タカラギコが俺の背後に回り、
 俺の首に腕を絡めてきた。

 ああ、知ってるぞ。
 これは確か裸締めとかいう技―――



     TO BE CONTINUED…

391ブック:2004/02/25(水) 21:21
     救い無き世界
     第三十話・罅 〜その一〜


 特務A班の部屋の中に、私達は集まっていた。
「…でぃ君はどうなっているょぅ。」
 私はタカラギコに聞いた。
 つい先程、タカラギコが体中傷だらけのでぃ君を連れて帰って来のだ。
 それを見た時には一体何事なのかと驚いてしまった。
 その上、みぃ君まで何時の間にか居なくなっていたのだ。
 タカラギコからは何があったか簡単に説明は受けたが、
 正直現状を上手く把握出来なかった。
「一通り治療を施したうえで、『拘束室』に入って頂いています。
 暴れられてはここでゆっくりと話が出来ませんので。
 何、心配しないで下さい。話を終えたらすぐにでも解放しますよ。」
 カップに入れられたコーヒーを啜るタカラギコ。

「…何をしているのか説明してくれるわね、タカラギコ。」
 ふさしぃが凄む。
 そもそも今ここにこうして我々が集まっているのは、
 それをタカラギコに問いただす為だ。
「待てよ。でぃの奴は呼ばなくていいのかゴルァ?
 あいつも、無関係って訳じゃ無ぇんだろう。」
 ギコえもんがはたと気づいたように言う。
「…彼には嫌われてしまいましたからね。
 私を見ただけで殺しにかかってくる筈でしょう。
 それに…今から話す事は、彼には聞かせない方がいい。」
 タカラギコがコーヒーを飲み干し、
 カップを机に置いた。
「それはどういう…」
 小耳モナーが不思議そうな顔をする。
「それについては今から説明しますよ。」
 タカラギコが小耳モナーの言葉を遮った。

「で、君は一体何をしたんだょぅ。」
 私はタカラギコを見た。
 いつもと同じ、うっすらと笑みを浮かべた顔。
 しかし今は、その中に僅かながらの陰りが見える。
「何…でぃ君には少しばかりみぃさんとデートをして貰っただけですよ。
 野暮な邪魔が入らないような状況をお膳立てしてね。」
 タカラギコが世間話でもするかのように言った。
 そういえば、外出したでぃ君には見張りがついていた筈だ。
 それなのにどうして『大日本ブレイク党』を前に何もしなかったのだ?

「!?何だってそんな事を…」
 そう言いかけて、ふさしぃがはっと気づいたような表情を見せた。
「…まさか、あなた、こうなる事を予想して……!?」
 ふさしぃが信じられないといった目で、タカラギコを見る。
「そうです…流石に理解が早い。」
 タカラギコがカップに再びコーヒーを注ぎ、口をつけた。
「!!!!!
 あなた何で……!!!」
 今にもタカラギコに掴み掛かりそうになったふさしぃを、
 私は手で抑えた。
「待つょぅ、ふさしぃ。
 まだ話の途中だょぅ。」
 ふさしぃが押し止まったのを確認し、タカラギコに向き直る。
「聞かせてくれょぅ。君が何で、みぃ君がマニーに連れ去られる事を予想出来たのか。」
 私は正面からタカラギコの目をじっと見据えた。
 タカラギコは、目をそらす事なく涼しげな眼で視線を合わせてくる。

「…分かりました。お教えしましょう。
 そしてこれがこの場にでぃ君を呼ばなかった理由の一つです。」
 タカラギコが、机の上に資料を広げた。
 資料には、マニーについて調べられた情報が記載されていた。
 これがどうしたというのだろうか?
 特にこれと言って目ぼしい情報は一つも無かった筈だ。
 いや、よく見たらこの前には無かった資料が幾つか追加されている…?

392ブック:2004/02/25(水) 21:22

「!!!!!」
 私の目が、新しい資料の赤ペンで括弧された部分に釘付けになった。
 ギコえもん達も、同様に言葉を失う。
 …そうか、そういう事か……!

「これがマニーとみぃさんの接点ですよ。」
 タカラギコが二杯目のコーヒーを飲み終えてから言った。

「……!マニーの奴、最低の下衆野郎だぜ…!」
 ギコえもんが資料の内容に目を通し、憤慨する。
 私も思わず反吐を部屋中に撒き散らしそうになる。

「何でこんな大事な事黙ってたモナ!?」
 小耳モナーがタカラギコに詰め寄った。
 タカラギコが一瞬だけだが悲しそうな表情になる。
 しかし彼はすぐに表情を元に戻した。

「…その理由がこれですよ。」
 タカラギコが懐から手帳ぐらいの大きさの機械を取り出した。
 地図が映った液晶の画面の一部に、赤い点が点滅している。
 これは、発信機?

「まさか…」
 ふさしぃが目を見開いた。
 場の空気が、凍ったように動かなくなる。
 まさか、タカラギコ、君は…

「お察しの通りです。
 みぃさんが身に着けている首飾りには、ちょっとした細工がありましてね。
 これで『大日本ブレイク党』のアジトの一つの場所を突き止められます。」
 頭がぐらぐらする。
 タカラギコの言葉が耳に入ってこない。
 そんな、タカラギコ。
 嘘だろう?
 嘘だと言ってくれ…!

「いやしかし、みぃさんが初日から連れ去られるとは嬉しい誤算でした。
 もう少し時間がかかると思っていた…」
 最後まで喋り切らないうちに、タカラギコはギコえもんに殴り飛ばされた。
 その勢いのまま、タカラギコは尻餅をつく。

「…お前……!何で俺達に一言も言わなかった!!!」
 ギコえもんが叫んだ。
 その顔には、心の中の怒りがそのまま貼り付けられている。
「…そんな風に怒ると思ったからですよ。」
 タカラギコが立ち上がり、汚れた服の裾を払う。
「当たり前だろうが!!!」
 立ち上がったタカラギコに、ギコえもんが再び殴りかかった。
 馬乗りになり、タカラギコの顔に次々と拳をぶつけていく。
 タカラギコはまるで罪を甘んじて受け入れる罪人のように、
 一切の抵抗をしなかった。

「やめるょぅ!!ギコえもん!!!」
 私はギコえもんを後ろから羽交い絞めにする事で止めた。
 ギコえもんがそれを振りほどこうと暴れる。
 ギコえもんの気持ちは痛い程分かる。
 しかし、いくら何でもやりすぎだ。

393ブック:2004/02/25(水) 21:23

「…いいんです、ぃょぅさん。こうなるのが当然です。
 指揮官殿も言っていたでしょう?
 でぃ君には使い道があると…正確にはみぃさんも、ですが。
 そして私はその手助けをした。
 つまりは、私はそういう人間なんですよ……」
 顔を腫らし、鼻血を流しながらも、
 タカラギコは普段と変わらぬ口調で話す。
 それは、我々には内緒で上と結託して今回の事を進めたという事を、暗に示していた。

「…前にも言ったでしょう?
 あなた達は、優し過ぎる……。
 それは美徳ですが、時として邪魔になる事もあるんですよ。」
 と、今度はふさしぃが彼に近づき、
 彼の頬に平手打ちを喰らわせた。
 その目からは、止めど無く涙が溢れている。

 それを見て僅かに動揺した隙をついて、
 ギコえもんが私の腕から抜け出した。
 そのままもう一度タカラギコに殴りかかろうとしたが、
 寸前でギコえもんはその動きを止め、諦めたような表情で腕を下ろした。
「タカラギコ……俺はな、
 いつも一言多かったり、気に入らねぇにやけ顔で笑ったり、
 スカして気取った素振りばっかりするお前に、
 腹が立つ事がしょっちゅうあったさ。
 ぶん殴ってやろうと考えた事だってあったさ。」
 ギコえもんが、搾り出すように言葉を吐き出した。
「だけどな…それでも俺は、
 細かいことまで気を利かせたり、
 さり気ない優しさを見せたりするお前が、嫌いじゃなかった。
 考え方は違っても、同じ方向を向いてる仲間だと思ってたんだ!!」
 ギコえもんがタカラギコの襟首を掴んだ。
「分かってんのか!?
 お前は俺を、いや、俺だけじゃ無ぇ。
 ぃょぅを、ふさしぃを、小耳モナーを、
 皆の信頼を裏切ったんだぞゴルァ!!!!!」
 今にも泣き出しそうな顔で、ギコえもんがタカラギコに訴えかけた。
 タカラギコは、無表情のまま何も言わずに押し黙ったままだった。

「何とか言えよ!!
 言えって言ってんだろうがゴルァ!!!」
 ギコえもんがタカラギコを激しく揺さぶる。
 しかしそれでもタカラギコは口を閉ざしたままだった。

「……ぇ…ひっく……ぐす……ぅぇ………」
 突然、部屋の中に啜り泣きが響く。
 その音の方向に目をやると、小耳モナーが顔を皺くちゃにして泣いていた。
「……だモナ…。
 …こんなのもう、嫌だモナ……
 どうして皆、喧嘩するモナか?
 この前までは、あんなに仲良しだったじゃないモナか―――!」
 とうとう小耳モナーは大声で泣きじゃくり始めた。
 その悲痛な泣き声が、その場に居る全員の心に刺さり、
 その悲痛な涙が、その場に居る全員の心を濡らす。

 …どうしてこんな事になったのだろう。
 いつから、歯車が噛み合わなくなっていたのだろう。

 小耳モナーの泣き声が支配する部屋の中で、
 私はただ魂を抜かれたように立ちつくすだけだった。



    TO BE CONTINUED…

394:2004/02/25(水) 22:35

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その5」



「『砕けろ』ッ!!」
 『アルカディア』は叫んだ。
 『蒐集者』の腕が曲がり、無残なまでに粉砕する。

 同時に、『蒐集者』は『アルカディア』に接近した。
 そのまま『アルカディア』の顔面に向けてバヨネットを振り下ろす。
 『アルカディア』は素早く背後に飛び退いた。
 かわしきれず、額から血が噴き出す。

 それを拭って、その手を舐める『アルカディア』。
「テメェは、『異端者』とは違う。オレを完全に殺そうとはしていない。
 何故なら… オレの空想具現化の能力が欲しいからだろう?」
「その通り」
 『蒐集者』は微笑を浮かべて頷いた。

「それなら付け入る隙もあるってもんだぜ。テメェは、致命傷級の攻撃は繰り出せないんだからな!!」
 『アルカディア』は拳を構えた。
 それを見て『蒐集者』は薄笑いを浮かべる。
 いつしか、砕けたはずの腕は再生していた。
「『アヴェ・マリア』…!」
 『蒐集者』の体から、ヴィジョンが浮かび上がった。
 瞬間的な熱量の収束が、炎の渦を形成する。
 それは、『アルカディア』に向かって放たれた。

「『吹き飛べ』ェッ!!」
 『アルカディア』は叫んだ。
 強風にあおられたように、炎の渦が掻き消える。

「この…!!」
 『アルカディア』が反撃を試みた時、すでに『蒐集者』の姿は無かった。
 素早く周囲を見回す。
 奴はどこへ…!!

 足元が僅かに揺らいだ。
 コンクリートの床から、『蒐集者』の生身の腕が突き出る。
 その腕は、『アルカディア』−しぃの足首を掴んだ。
「うおッ!!」
 腕に力が込められた。
 このままじゃ、床の中に引き込まれる!!
「『外れろ』ッ!!」
 ギリギリのタイミング。
 しぃの足からすっぽ抜けた靴は、そのままコンクリートの床に引き込まれていった。

 『アルカディア』は飛び退く。
「『砕けろ』ォォォォッ!!」
 先程の床に、無数の亀裂が入った。
 ハンマーで叩き割ったように、コンクリート床は粉々になる。
 しかし、そこに『蒐集者』の姿は無かった。
 コンクリート片と完全に一体化した靴しか見当たらない。

「!!」
 背後に気配を感じた。
 『蒐集者』の拳が、無防備な背中に振るわれる。
 ガードは間に合わない…!
「『砕けろ』ッ!!」
 咄嗟に叫ぶ。
 『蒐集者』の腕の骨がバキバキと砕けた。
 同時に、その攻撃が背中に直撃する。
「ぐはッ!!」
 血を吐きながら吹き飛ぶしぃの肉体。
 そのまま、コンクリートの冷たい床に転がる。

「テメェ… 何て馬鹿力してやがんだ…!!」
 ヨロヨロと立ち上がる『アルカディア』。
 咄嗟に向こうの拳を砕かなければ、間違いなく体を貫通していただろう。

「逃げてばかりで、私に勝とうと?
 これが先程偉そうに言っていた貴方の戦い方なのですか…?」
 『蒐集者』は、嘲笑を込めて言った。

 その目を睨み返す『アルカディア』。
「仕方ねェな、様子見は終わりだ。テメェ自身の理想郷で、死に溺れな…!」
 『アルカディア』は右腕を高く掲げた。

   ア ル カ デ ィ ア
「『血塗られた理想郷』…!!」

 それに呼応するように、『蒐集者』の腕が破裂した。
 続けて、足、腹、頭と次々に破裂していく。
 まるで、体内に爆弾が埋め込まれたかのように。
「…これは?」
 『蒐集者』の声に、先程までの余裕は消えていた。
 再生した途端、次々に吹き飛んでいく。
 全身から噴き出した血が、コンクリートの床を濡らした。
 先程までの『アルカディア』の攻撃よりも、明らかにダメージが大きい。
 ヨロヨロと膝を付いて、『蒐集者』は口を開いた。
「一体、何を…?」

 『アルカディア』は腕を組んで言った。
「言っただろう、これがテメェの願望だ。
 『異端者』と違って、テメェは自己破壊願望が極端に強いんだよ。
 何故かは知らねぇがな。おそらく、同化しすぎた副作用じゃねぇか?」

「なるほど、そういう事か…」
 『蒐集者』の足がふらついている。
 破壊と再生の綱の引き合いだ。

395:2004/02/25(水) 22:38

「オレは自分のイメージを具現化できるが、他者の願望を叶える場合の方が強い力を発揮できる。
 さらに、テメェ自身の破壊願望を転用したからな。そりゃ絶大なもんさ。
 テメェのスタンド… と言うか、テメェ自身が強力すぎるんだ。それが裏目に出たな」

「くっ…」
 『蒐集者』の体から『アヴェ・マリア』のヴィジョンが浮かび上がる。

 『アルカディア』は人差し指を軽く左右に振った。
「おっと、止めといた方がいい。何をしようが、テメェの体を壊すだけだぜ」

「!!」
 『蒐集者』の身体が炎に包まれた。
 自らのスタンドの炎に焼かれている。

「これしきで、私が、倒せるとでも…?」
 そのまま『蒐集者』は、『アルカディア』に足を引き摺って歩み寄ってきた。
 全身を爆裂させ、紅蓮の炎に包まれながら。

「なんて奴だ、タフなんてもんじゃねェな…」
 『アルカディア』は一歩たじろいだ。
 下手したら、ダメージよりも再生力が上回る可能性もある。
 仕方がない。奥の手を使うか…
 消費が激しいため、余りやりたくはなかったが。

 『アルカディア』は、『蒐集者』の願望を解析した。
 探る。探る。探る。
 奴の破滅願望を、もっと違う形で…
 探る。探る。探る。
 何らかの形での、自己破壊願望の象徴を…!

 …!!
 奴の中に、妙な人影が見えた。
 心の奥深い部分。
 殺したい、殺されたい鬱屈な感情。
 …間違いない。
 『蒐集者』は、無意識にこの人物に殺される事を願っている。
 そして、この人物を殺したがっている。
 かなり屈折した感情だが、具現化するには充分…!

「よし、こいつだな…!」
 『アルカディア』は、その姿を現実世界に構築した。
 イメージの転用。記憶の流用。願望の具現化。
 『アルカディア』の横に、真っ黒な影が姿を現す。
 『蒐集者』の破壊願望を転用したにも関わらず、自身のスタンドパワーがほとんど持っていかれた。
 この影は、恐ろしく強力だ。
 おそらく、具現化できる時間はかなり短い。

 その影を見た『蒐集者』は、顔色を変えた。
「貴様ッ…! 貴様ァァッ!! 貴様ァァァァァッ!!!」
 『蒐集者』の反応は、『アルカディア』の想像を遥かに超えていた。
 その怒りの感情は、影よりも『アルカディア』に向けられている。
「おい、どーした? これもテメェの願望だぜ。
 そこまで狼狽するたァ、よっぽど因縁のある相手らしいな…」

「黙れッ!!」
 怒りの形相で、その影を凝視する『蒐集者』。
 『アルカディア』も、横目でその影に視線を送る。
 尋常ではない殺気。圧倒的な存在感。
 自分で具現化しながら、この影に異常なほどの不気味さを感じた。
 何者なんだ、こいつは…?

 『アルカディア』は、硬直している『蒐集者』に視線を戻した。
「こいつが誰だか知らんが、テメェ自身が望んだ『テメェを殺せる者』を具現化したんだ。
 自らの願望、その身でたっぷり味わいな…!」

 それに呼応するように、影は重く暗い声で呟いた。
「−mental sketch modified−…」

 『アルカディア』は、空間が閉ざされるような閉塞感を感じた。
 存在するもの全てが、『死』を意識するような。
 彼自身も『朽ち果てる』イメージをメインの攻撃手段にしているが、それとはケタが違う。
 まるで、質量を持った殺意。
 それに、今のはスタンド名とは違うようだが…
 スタンドのヴィジョンもどこにも見当たらない。

「こんや異装のげん月のした…」
 影が跳ねた。
 『蒐集者』に向けて、一直線に疾走する。
 影は、中型の刃物のようなものを手にしていた。
 あれには見覚えがある。
 ――バヨネット。
 代行者が好んで使う武器だ。

 『蒐集者』は、迎え撃つがごとく袖から取り出したバヨネットを構えた。
「この、紛い物ごときがァァァッ!!」

 ――そして、一閃。
「わたるは夢と黒夜神…」
 閃光が『蒐集者』の体を這った。
 たちまちにして、『蒐集者』の全身が切り刻まれる。
 バラバラになった肉片がボトボトと地面に落ちた。
 バケツでぶち撒けたように、周囲に血が広がる。

396:2004/02/25(水) 22:39

「!!」
 凄まじいまでの疾さ。
 『アルカディア』には、何が起きたか理解できない。

「こんな… 紛い物を、この私の前にッ!!」
 再生しながら叫ぶ『蒐集者』。
 その目は、影を無視して『アルカディア』を睨んでいる。
 たちまちにして人型が形成され、『蒐集者』は起き上がった。
 そのまま、一直線に『アルカディア』に向かって走り寄る。
「こんな偽者の力が、この私に通用するかァァァァァッ!!」

「太刀は稲妻萓穂のさやぎ…」
 再び、影が揺らめいた。
 そして、『アルカディア』に駆け寄る『蒐集者』を背後から切り裂く。
 ズタズタの肉片になって飛び散る『蒐集者』の肉片。
 それを見下ろして、無表情に影は呟いた。
「消えてあとない天のがはら、打つも果てるもひとつのいのち…」

 『アルカディア』は、その影を凝視する。
 手に持っているバヨネット一本で、こいつは『蒐集者』の体を容易くミンチにした。
 そして、影の『眼』に見覚えがある。
 全てが視えているようなその『眼』。
 間違いない、こいつは――

「貴様ァァァァァッ!!」
 『蒐集者』は一瞬で再生した。
 そして、影にバヨネットを振るう。
 その攻撃は虚しく空を切った。
 影は『蒐集者』の頭に手をつくと、その手を重心にして軽く跳んだ。
 そのまま、『蒐集者』の首にバヨネットを突き立てる。
「高原の風とひかりにさゝげ、菩提樹皮と縄とをまとふ…」

 軽やかに着地する影。
 その眼前に、切断されたばかりの『蒐集者』の頭部が落ちてくる。
 そして、バヨネットが瞬き――
 その頭部は血煙となった。

「何なんだ、アイツは…」
 『アルカディア』は思わず呟いた。
 目に見える肉片が残らないほどに、『蒐集者』の頭部を空中で幾重にも斬り刻んだのだ。

「偽者如きがッ! 偽者如きがァッ! 偽者如きがァァァァァッ!」
 それでも『蒐集者』の頭部は一瞬で再生した。
 怒りに顔を歪ませながら、影に斬りかかる『蒐集者』。
「夜風とどろきひのきはみだれ、月は射そそぐ銀の矢並…」
「偽者の振るう刃など、微塵の力なども持たんッ!! 故に貴様が、『それ』を語るなァァァァァァッ!!」
 激しくバヨネットを交える両者。
 そのスピードは、全くの互角。

「しまったな、オレの割り込める勝負じゃねェぞ、これは…」
 『アルカディア』は呟いた。
 あいつは、何と戦っているんだ?
 あの『蒐集者』の様子が、そして口振りが尋常ではない。
 傷を負わされた事による怒り… ではない事は確かなようだが。

「まるめろの匂のそらに、あたらしい星雲を燃せ…」
「語るなと言っているッ!!」
 打ち合う刃。
 一歩も退かない両者。
 ズタズタに切り刻まれるロングコート。
 しかし、それは瞬時に再生していく。
 一方、影も所々に傷を負っている。

「燃えろォォォッ!!」
 『蒐集者』は飛び退くと、『アヴェ・マリア』の火球を繰り出した。
 影は、それをバヨネットで『破壊』する。
 同時に、一瞬で間合いを詰めた。
「…!!」
 そのまま『蒐集者』の顔面を串刺しにした。
 それと時を同じくして、『蒐集者』のバヨネットが影の胸部に突き刺さる。
 影は、風のように消えてしまった。
 立ち込めていた不気味な殺気も、たちどころにして消滅する。

「な…!!」
 『アルカディア』は顔色を変えた。
 確かに、『蒐集者』と影の力量は互角だった。
 やられたとは思えない。
 もしかして… エネルギー切れ!?
 『アルカディア』のほとんどの力と『蒐集者』自身の願望の力を使ってなお、あれだけの時間しか持たなかった?

397:2004/02/25(水) 22:40

「やってくれたな、『アルカディア』…」
 『蒐集者』は『アルカディア』を睨みつけた。
 …まずい!
 何故かは分からないが、今のこいつは完全にキレている!
 しかも、オレのパワーはほとんど残っていない!!
 『アルカディア』は身を翻した。

「逃がさんよ」
 いつの間にか背後に回っていた『蒐集者』が、素手で『アルカディア』−しぃの顔面を掴む。
「その能力、頂こう」
「このッ…」
 『アルカディア』は、その腕を引き剥がしにかかった。
 しかし、顔面を掴んでいる腕はビクともしない。
「しょせん、『理想郷』は理想に過ぎなかったという事だ…!」
 『蒐集者』は勝ち誇ったように言った。
 その体から、『アヴェ・マリア』のヴィジョンが浮かび上がる。
 
 ――『アヴェ・マリア』起動。
 ――同化、開始。
 ――対象、スタンド『アルカディア』。
 ――構成要素、抽出中………

 顔面を掴まれたまま、『アルカディア』は呟いた。
「3択。ひとつだけ選びなさい、ってやつだな。
 答え①、ナイスガイの『アルカディア』は突如、反撃のアィデアがひらめく。
 答え②、仲間が来て助けてくれる。
 答え③、このまま同化。現実は非情である…」

「フッ…」
 『蒐集者』は笑って口を開いた。
「①は不可能。そこまで力を失ってる状態で、もう何もできまい。
 ②も却下。モナー達が助けには来ているようだが、ここに着くまで15分はかかる。
 答えは、希望も慈悲もなく③のみだ…!」

 『アルカディア』は観念したように呟く。
「確かにそうだな。答え①も②も期待できねェ…」
「故に、それが…」
 『蒐集者』の言葉を遮り、笑みを浮かべる『アルカディア』。
「――だから、答え②を具現化させた」

「なっ…!!」
 その瞬間、『アルカディア』の顔面を掴んでいた腕が切断された。
 上腕から切り離された手が、血液を撒き散らしながら宙を舞う。
 コンクリートの床に倒れる『アルカディア』。
 同時に、『蒐集者』の体は背後から日本刀で貫かれた。

 『アルカディア』は、地を這いながら呟く。
「オレ自身の願望の具現化だ…
 実際こいつらはここに向かってたし、距離を縮めただけだから、大してパワーは使わねェ…」

「ほう…」
 『蒐集者』は、胸から突き出ているスタンドの刀に視線を送る。
 そして、背後に立っているギコに向き直った。
「他の連中は…? 貴方だけという事はないでしょう」

「さあな。テメェに説明する義理はねぇ」
 ギコは、『蒐集者』の体から『レイラ』の刀を引き抜いた。
「…そこらへんに隠れているという訳ですか」
 『蒐集者』は、コートの埃を軽く払う。
「まあ、いいでしょう。貴方を痛めつけたら出てくるでしょうしね…」

 ――ギコは見抜いた。
 何があったかは分からないが、目の前の男は相当に消耗している。
「お前が、全ての黒幕か…?」
「そうですが、それが何か?」
 さらりと答える『蒐集者』。

「テメェは、何がしたいんだ…?」
 ギコは、『蒐集者』を睨みつけた。
「主に救済。次に真理の探求。ついでに、より多く人が滅べば尚良しかと」
 まるで時間を聞かれたように、あっさりと答える『蒐集者』。

「そうか…」
 ギコは『レイラ』を発動させた。
 日本刀を正眼に構える女性のヴィジョン。
 そして、『蒐集者』を正面に見据える。
「――分かった。お前は、ここで死んでいい」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

398新手のスタンド使い:2004/02/25(水) 23:46
ageつつ乙!

3993−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:02
「スロウテンポ・ウォー」

12使徒急襲、悪夢の一週間・一日目

【日曜】
歴史ある神社がある犬神通りの一角。
自警団のニダーは急いでいた。
気配は無いのに、誰かに追われている気がするのだ。

「はぁ……!はぁ……!!(な、何が……起こっとる…!?)」
不気味なほどに満月が映える夜、ニダーの他には誰も居なかった。

あるのは、死体だけだった。

「ぐぁっ!!」
男の死体に躓き、派手に転ぶニダー…
この死体だらけの表通りに、彼は一人座り込んだ。
突然の大量虐殺…)」
街の外に出ている街の住人達は全滅…恐らく、屋内も同じ状況だと見ていい。
「(…連中が焦る要素は、ない。此処最近はワシらにも動きはなかったし、向こうも同じ…)」
呼吸を整える…波紋が使えるわけではないが、息が乱れると集中力が削がれてしまう。
息の乱れが戻ると同時に、辺りから死臭が漂いだした…
―――何故だ?

「(今まで、ZEROはストリートギャングの皮を被っとった…それが、
吐き気が止まらない。怒りも止まりそうになかった。
「くそお!!何が起こっとる!!何を考えとるんや!!ゼロォォ!!!」

『別に意味はないから。』
声がした。
「!!!」
空中からの声がした。
『ただ……ただ、“マリア”の騎士、12使徒が揃っただけだから。』
話す声は恐ろしいほどに淡々としていた。
「どういう事や……!!」

4003−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:03
『要するに、俺達が動き出す“時が来た”ってだけだから』
影の中に現れる、毛むくじゃらの男…フサギコがそこに立っていた。
「……ZERO……!!お前ら……時が来たから、こいつら全員ぶっ殺したんかぁぁぁ!!!」

「当たり前だ。だって俺らの目的…“世界を作り変える”ことなんだから」
「…世界を……作り変える……?」
フサギコの答えはひどく抽象的で、要領を得ない。
「そう。今、ここに存在する世界を壊して、新しい世界を作り出す。だから……」

足元の死体を蹴り飛ばし…表情の無い顔で、ニダーへと告げた。

「……今生きてる奴ら、“いらない”から。だから殺した。」

「……お前は……!!!いや……お前らは……人の命をなんやと思っとるんじゃああ!!!!」
怒りに身を任せ、シー・アネモネの触手をフサギコへと飛ばす!!
それを避け、前へ一歩進む…彼の姿は光に溶けるように消えた。

「…!!(消えた!?)」
周囲を見渡す…だが、フサギコの姿は見当たらない…
ただ、殺気だけは周囲に漂ったまま…

「うぐっ!!!(く、首が……締められとる…!!)」
突然だった。突然ロープが絡まったように、首を何かが締め上げてきたのだ。
『…俺達は、もうこの世界に用はない。だから、俺たちの思うようにやらせてもらうから。』
声は酷く近くに居る事は確かだった。

4013−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:03
「シー………ア…ネモネ……!!……うぐ……ぁぁ………!!」
シー・アネモネの触手が、ニダーの首を更に締め上げる……
自殺ではなく、撒きついているはずのフサギコを締め上げる為に。
頚動脈が、気管が圧迫されていく…それ以上に、首の骨がヘシ折れそうな程の強さで
彼は自分の首を締めていたのだ。
「…お前も味わえや……このフッサリ猫………ぉ……!!」
『……クッ!!…これだ、これがあるから…自警団は邪魔なんだ』
痛みが引く…どうやら、フサギコが首を締めるのを止めたようだった。
ニダーも、シー・アネモネを解除する…

『次は、容赦しないから。自警団、ニダー。俺の名前はフサギコ。ああ、あと俺は犬だから。』

気絶するニダーを尻目に…フサギコは何処かへ消え去った。

2月22日…ZEROによる被害
死者:143人(犬神通り近辺の住人は全滅)
重傷:1人

4023−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:04
【月曜・2日目】

「ん?」
ノートパソコンで半角巡りをしていたDが首をかしげた。
「どうした?ブラクラでも踏んだか( ´,_ゝ`)プッ」
コタツの対面に8フーンが座り、みかんの皮を剥きながら呟いた。
「いや……何にも踏んでねーのによー…変な画面が出てくるんだよ」
相変わらず首を傾げたままのD…みかんを置き、8フーンが尋ねた。

「なんだ?どんな画面か見せてみろ」
8フーンが身を乗り出し、Dがノーパソを横に一回転させた。
「あー…これなんだけどよー…」
其処にはフルスクリーンでこんな画像が貼り付けられていた。



       ∧∧   
       (д`* )
       (⊃⌒*⌒⊂)
        /__ノωヽ__)


                          (※DのPCの画面)


――ギリギリギリ…
「これは俺をおちょくっているのか、D…答えろ。すぐ答えろ」
「OKOK、わかったからソル・ナシエンテを速やかに外してくれ。」
間接を締め上げる8フーン。そろそろ骨がヤバイ事になっているD…

4033−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:05
「とにかく…さっさと片付けておけ。俺は出かける…!」
「ベヒュ!!…は、はひ……(は、鼻が……潰れた…)」
顔面にニードロップを落とし、8フーンはさっさと立ち去ってしまった。

「……クソ、なんなんだよ!むかつくぜ、このAA!!」
喚きながらDがノートパソコンの蓋を閉じかけたその瞬間…!!
「うわぁあ!!!」

ディスプレイから伸ばされた腕はDの首を掴み、画面の“中”へと引きずり込んだ……

「……こ、ここは……!!」
「電脳空間。まぁ言ってみれば“インターネット”という世界です(リン」
「ん?……アライグマ?」

そこに立っていたのは某世紀末救世主の格好をしたマッチョなアライグマだった。
「わたスの名はたもん君。“2004年度イケてる削除人部門第一位”の実力者ですよ!?(゚д゚)」
「いやいやいや、しらねーから。俺、半角しか見ねーから。」
Dは首を振るが、たもん君は小さく笑い、こう言った。

「さてと…この街の連中を“削除”したんですが、そろそろ貴方たちの番なんですよ。」
「削除…?」
「そう、この街の“荒らし”…まとめてボコーンと削除しますた。」

後ろを指差すたもん君…そこには、心臓に穴をあけて死んでいる…夥しい数の死体があったのだ。
「……!?」
「心臓をあぼーんしたんですけどね(リン まさか穴があくなんて思わないでしょ!?(゚д゚)」
「てめえ……!!」

4043−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/02/26(木) 01:05
「早速、あぼーん!!Dのスタンドの右腕!!」

――ドンッ!!

瞬間、Dの右腕に鋭い痛みが走った。まるで引き裂かれたような痛みだった。
「…ぐぉぉお!!!!…スプーキィが……発動してねぇ…だとぉ…!?」
「……電脳世界はわたスの世界。スタンド能力を封殺くらいできないで削除人は勤まらないでしょ(リン」

「てめええ!!ただで済むと思うな!!……今度はガチでやってやる!!」
笑うアライグマ…一瞬の隙が生まれ、その瞬間…ディスプレイからDは抜け出した!!

「あらやだ!わたスのスタンド出入り自由なのに気付かれてしまった!!( ゚д゚)」
呆然とするたもん君だったが、立ち直りも早かった。

「まぁ、それでもアッサリサラダ感覚で始末させてもらうんですけど。-=・=- -=・=- 」

その目はやたらと鋭かった。


2月23日…ZEROによる被害
死者…78名(公式には失踪)
重傷…1名

<To Be Continued>

405ブック:2004/02/26(木) 20:16
      救い無き世界
      第三十一話・罅 〜その一〜


 タカラギコの話を聞いた後で、すぐさま僕達特務A班に招集がかけられた。
 理由は分かっている。
 マニーのいるアジトに強襲をかけるためだろう。

 僕には未だに信じられなかった。
 タカラギコがあんな酷い事に加担していたなんて。
 そりゃあ、タカラギコの事を一から十まで知っていた訳じゃない。
 だけど、それでも…

 さっきのギコえもんと、タカラギコの喧嘩を思い出す。
 それだけで、また涙が目から流れ出てきた。

「…小耳モナー、今は泣いている場合じゃないぞゴルァ。」
 ギコえもんが僕を見かねたのか声をかけた。
「…っく……だって、嫌だモナ…
 皆仲良しじゃないと嫌だモナ……
 何でギコえもんは、タカラギコにあんな事したんだモナ…?」
 嗚咽で声を詰まらせながら、僕はギコえもんに言った。

「……やりすぎたとは思ってるよ。
 だけどな、今回のタカラギコの作戦は、
 一歩間違えれば取り返しのつかない事になったんだぞ?
 もし発信機がばれて、みぃの嬢ちゃんの居場所が掴めなくなってたら、
 どうなってると思う?
 お前はそん時も、仲間のやった事だから仕方が無いって考えられるのか!?」
 ギコえもんが怒ったような顔をする。
 しかし、その目はどことなく哀しそうだった。

「でも…別に今回は上手くいったんだから……」
 僕はギコえもんに訴えかけた。
「そういう問題じゃねぇんだ。分かってんだろ。」
 ギコえもんが俯く。

 …分かっていた。
 そんな事、痛い位に。
 だけど、それでも僕は、皆がまた仲良しに戻って欲しかった。
 また一緒にいられれば良いなと思っていのだ。
 だって…タカラギコは、僕達は…友達じゃないか……!

「…タカラギコは?」
 ふさしぃが、彼がこの場に居ないのに気付いて尋ねた。
「何か、用事があると言っていたょぅ。」
 ぃょぅがそれに答える。
「けっ、どうせまた碌でも無い事…」
 そう言いかけて、ギコえもんは口を閉ざした。
 ぃょぅとふさしぃが苦虫を噛み潰したような顔をしたのに気がついたからだ。

「…ぅ……ひっく…ぐす……」
 僕は堪えきれずにまた泣き出した。
 今は泣いている場合じゃない。
 泣いたって何も解決しない。
 そう思ってはいても、涙を止める事が出来なかった。

406ブック:2004/02/26(木) 20:16

「…小耳モナー、タカラギコの事は取り敢えず後回しにしましょう。
 今は、マニーをやつける。みぃちゃんを助け出す。
 その事だけに集中するべきよ。」
 ふさしぃがきっぱりと言い放つ。
「…だな。余計な事に気を取られてたら、死ぬぜ。」
 ギコえもんが拳を打ち合わせた。
「往くょぅ、皆。」
 ぃょぅが決意を固めた顔つきになる。
 僕達はこうして、マニーのいる場所に向かって出発した。


 ―――僕はこの時、心のどこかで感じていた。
 もう二度と僕達が五人揃って、
 行きつけの繁華街に飲みに行ったり、
 賭け麻雀をしたり、
 カラオケに行ったり、
 下らない話で盛り上がったりする事は無いだろうと。

 それは漠然とした不安に過ぎなかった。
 そう、今この時点においてはまだ。



     ・     ・     ・



 俺は薄暗い部屋に閉じ込められていた。
 腕をスタンド化。
 扉を思い切り殴りつける。

「!!!!!」
 案の定扉はビクともしない。
 代わりに俺の体に取り付けられた機械から、電流が流れる。
 これで通算十五回、同じ事を試したことになる。
 しかし、一向に埒は開きそうに無かった。

 糞。
 早いとこ、ここを何とかして抜け出さなくては。
 こうしている間にも、みぃは…!


 と、いきなり扉が重い音を立てて開き始めた。
 その間から、タカラギコの姿が現れていく。
「!!!!!」
 俺はすぐにタカラギコをぶん殴ろうとした。
 だが、その顔がすでに誰かに殴られたように
 痣だらけになっているのを見て、思わずたじろいだ。

「どうしました。かかってこないのですか?」
 タカラギコが微笑む。
 反射的に殴りかかりそうになったが、やめた。
 今はこいつと闘っている場合では無い。
 それに正直な所、こいつとまともにやりあって勝てる気がしない。

407ブック:2004/02/26(木) 20:17

『何の用だ。』
 そう紙に書いてタカラギコに見せる。
「いえ、私の用事が済んだので、もうあなたを拘束する必要が無くなった。
 それだけですよ。」
 タカラギコが、相変わらず人を喰ったような口調で喋る。

「ああそれと、今回の件でふさしぃさんの名前を出しましたが、
 彼女は実際には何の関わりもありませんので、どうか誤解無きよう。
 もちろん、他の特務A班の方々もです。
 ですから、彼らの事は嫌わないであげて下さい。」
 タカラギコが珍しく真面目そうな顔をして言った。

 そうか。
 まあ何となくは気づいていたが。
 あんなお人好し達が、こんな真似をするとは思えなかった。

「どうぞ。」
 そう言ってタカラギコが俺に一枚の地図を渡した。
 見ると、その一部に赤鉛筆で丸がつけられている。

『…これは?』
 タカラギコに尋ねる。
 何だこれは。
 お勧めのラーメン屋の場所か何かか?

「そこにみぃさんが連れ去られています。」
 タカラギコがそう告げる。
「!!!!!」
 俺の体が一気に熱くなった。
 しかし、どういう風の吹き回しだ。
 こいつが、こんな事をするなんて…

「…どうするかは、あなたの自由です。
 しかしこれだけは忠告しておきましょう。
 行けば、恐らくあなたにとっても、みぃさんにとっても、
 知りたくない、知られたくない事を、知る事になる。」
 タカラギコが断定するように言った。

 知りたくない事…?
 一体、何だってんだ。

「もしあなたが、みぃさんの全てを受け止める自信が無いなら、
 行くのはお止しなさい。
 そんな人に来られても、邪魔になりますし、
 あなたもみぃさんも、不幸になるだけでしょう。」
 そう言ってタカラギコは俺に背を向けた。

(待て!)
 俺は後ろからタカラギコの肩を掴んだ。
『あんたは…何で俺にこんな事を教えた?』
 その質問に、タカラギコがふっと笑う。
「これは個人的な意見ですが、
 私はあなたがみぃさんを助けに行くべきだと思っています。」
 タカラギコが振り向いて、俺の目を見据える。
「確かに、行けばそこで、みぃさんにとって
 あなたにだけは知られたくない事を、知ってしまう筈です。
 ですが、だからこそあなたが助けに行くべきだ。
 それはただ単に、みぃさんをマニーの下から助けるというのではなく、
 本当の意味で助ける事に繋がるからです。」
 まるで試すような視線を、タカラギコが俺に向けてきた。

 俺は頭の中で自問自答を繰り返していた。
 こいつの言う、みぃの過去とやらは分からない。
 だが、尋常で無い事は何となく分かる。
 …出来るのか、俺に?
 助けられるのか、あいつを…

408ブック:2004/02/26(木) 20:18

「…それに、自分を隠したり、騙したりする関係なんて、いつか破綻します。
 私がいい例ですよ…」
 タカラギコが、そこで俺に初めて寂しそうな顔を見せた。
 こいつもこんな顔をするとは、はっきり言って以外だ。

「…喋り過ぎましたね。
 私はもう行きます。
 あなたも、決断するなら早くしなさい。
 悩む時間を許す程、事態は悠長では無い。」
 タカラギコはその場から去っていった。

 …どうする。
 いや、どうするかなんて、
 もう決まっているじゃないか。

 あいつを、みぃを助けに行く。
 何が待ち受けていようが知ったことか。
 全て正面きって相手にしてやる…!

 俺は外に向かって駆け出した。



     ・     ・     ・



 横からでぃが自分を抜き去って走って行くのを見て、
 タカラギコは一つ溜息を吐いた。
「…やはり行きましたか。」
 少し満足そうに、タカラギコが呟く。
「しかし私も、何をやっているんだか。
 こんな勝手な真似をしては、『あの人』に怒られてしまう。」
 タカラギコはギコえもんに殴られた頬に痛みを感じ、
 そこにそっと手を当てた。

『皆の信頼を裏切ったんだぞゴルァ!!!!!』
 そのギコえもんの言葉がタカラギコの脳裏によぎった。
 タカラギコは頭を振り、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「…裏切り者なんて言われるのには、慣れていた筈なんですけどねぇ。」
 タカラギコは立ち止まり、そっと目を瞑った。
「ここは、それだけ居心地が良かったんでしょうね…」
 その声は、タカラギコ以外の耳に入ること無く、
 空に霧散していった。



     ・     ・     ・



 私は体を縛られて部屋の中に転がされていた。
 …恐らくこんなものじゃ済まないだろう。
 あのマニーが、これしきで済ます筈が無い。

「大人しくしていたかな?」
 ドアを開け、マニーが入って来た。
 その手には、ビデオテープのようなものが握られている。
「まず手始めに、お前にこれを見せようと思ってね…」
 部屋のテレビのビデオデッキに、テープを差し込む。
「君と一緒に逃げ出した女だがな、運良く生きていたんだよ。」
 そのマニーの言葉に、私は目を見開いた。

 生きていた…
 銃で撃たれて、死んでしまったと思ったけど、
 生きていたんだ…!

409ブック:2004/02/26(木) 20:18

「その人は…!」
 私はマニーに必死に聞いた。
 その人に会わなければ。
 会って、謝らなければ…!

「そう焦らなくても、今見せてやるさ。
 その女がどうなったかを。」
 マニーがビデオのスイッチを入れた。
 そしてその画面に―――

『ぎゃああああああああああああああ!!!!!!!』
 テレビのスピーカーから溢れんばかりに聞こえてくる絶叫。
 叫んでいるのは、紛れも無いあの時の女性だった。
「逃げるような悪い足は要らないからな。
 硫酸のプールに足をつけて溶かしたんだよ。」
 マニーがそれを見ながら薄ら笑いを浮かべた。
「やめて…!やめて下さい!!!」
 私は体に縄が食い込むのも構わず、
 身を捩じらせてマニーに対して叫んだ。

「やめろと言われても、これはもう起こったことだ。
 おお、完全に溶けたようだな。
 見てみろ、今度はこれから五寸釘を目に…」
 マニーが画面から顔を背けようとする私の顔を掴み、
 強引に顔を画面に向けさせる。

 あまりの惨劇に私は目を閉じて画面を見ないようにする。
 しかし、目を閉じても耳からは次々と悲痛な叫びが流れ込んできた。
「どうした!?会いたかったのだろう?
 最期の瞬間位見てやれ。
 それもこれも、お前と一緒に逃げ出したりしたからだ!
 全部お前の所為だ!!
 それなのにお前はのうのうと生きている!!!」
 マニーがテレビの音量をさらに上げた。
 部屋中に、断末魔の悲鳴が響き渡った。

「……!!!」
 …そうだ。
 私の所為だ。
 私はあの時、あの女性を助けられなかった。
 見捨ててしまった。
 全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
 全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
 私の所為だ…!

「くっははは…お前は何一つ変わっていないなぁ。
 何といったか。
 ああ、自分が傷つくより他人が傷つけられる方が耐えられない、
 とかいうやつか。
 いや実に結構。
 だからこそお前は私のお気に入りだった。」
 マニーが私の頭を踏みつけた。
「しかし今からは自分の身を心配したほうがいい…
 お前に飽きたら、これよりもっと酷い事をするつもりだからな。」
 マニーはそう言うと、声を上げて笑い出す。。
 その笑い声がテレビからの絶叫と重なり、
 地獄のようなハーモニーを奏でていた。



     TO BE CONTINUED…

410N2:2004/02/27(金) 14:13

 椎名編 前回までの登場人物紹介

  ∧ ∧      .  ∩ ∩          ∩_∩   ./V\
  (*゚ー゚).       ( ´∇`).        ( ´(・)`).  ( ・−・ )
 椎名先生  森田先生(モネ姐さん)   熊野   静川先生


   ∩_∩.     〃ノ^ヾ    
  (´ー`)     リ´−´ル..    (,,・θ・)
 初ケ谷校長  神尾先生   鳥井先生







 熊野を

    ∩___∩
   | ノ      ヽ
  /  ●   ● | クマ──!!
  |    ( _●_)  ミ
 彡、   |∪|  、`\

 だと思ったヤシ。表(ry

411N2:2004/02/27(金) 14:14

椎名先生の華麗なる教員生活 第2話 〜忍び寄る狂気〜

「…悪いが君とはもう続けられない」
彼は私から目を逸らして言った。
予期せぬ一言に、私は錯乱状態に陥った。
「そっ…それってどういうこと!?まさか私と別れるってこと!?」
彼はどこかむっとしたような表情をした。
「俺に二度も同じ事を言わせるのか…?
だから、君とこれ以上付き合うことは出来ないと言っているんだ」

私を見る彼の目は、冷たい。
いつも私の心に溢れんばかりの愛という名の油を注ぎ、私の身を情熱で焦がしてくれたはずの彼の視線は、
今軽蔑という名の冷たい風となって私の心を悲しみで凍らせる。

不意に、涙が頬を伝った。

「なん…で……?私のどこが…そんなにあなたの気に…召さなかった…の…?
わたし…精一杯努力する…。もし…それがなければ満足して…くれるんだったら…!」

彼の眉間にしわが寄った。
今までに見せたこともない、私が想像もしなかった、鬼のような形相。

「つべこべ言ってんじゃねえ!俺はてめえに欠点があるから別れるんじゃねえ!!」

反論する私の声も自然に荒くなった。

「何よそれ!じゃあ何で…!!」

「…要するに、他の女に惚れててめえにゃ飽きたって事だよ!!」

私の身体は、膝から崩れ落ちた。

412N2:2004/02/27(金) 14:15

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「ジリリリリリリリ!!!!」
枕元で騒がしく鳴るベルが、私を深い眠りから覚ました。
眠い目を擦りながら、私は上半身を起こすとそのまま伸びをした。



…またあの日の夢を見た。
彼と別れた日から、あの時の光景が度々夢となって私に襲い掛かる。
早く忘れたいのにも関わらず、私の脳はその記憶を何度でも掘り起こしてくる。
モネ姐さんに相談はしたけれども、とてもそれで私の気は晴れそうにはない。
そう言えば、昨日はうちのクラスの子に最近やつれているとまで言われてしまった。
…カウンセリングを真面目に考えてしまう。
でも精神科医に通うほどのお金も今は無いし、だったら今度「こころの教室」に行ってみようか。

…でもモネ姐さんに相談しても治らなかったんだ。
それほど深刻なのに、人が変わっただけであっさりと治るはずもないか。
やっぱり精神安定剤とかでも処方してもらおうかな…。



アパートのドアを開けると、外は雨が降っていた。
朝っぱらから嫌な夢を見たっていうのに…。
私は傘立てから一本傘を取り出し、1階へと降りていった。

いつもと変わらない通勤路。
それでも雨が降っているからかどこか静けさが漂っている。
雨音に包まれながら、私は今朝の夢の事を思い出していた。

…何で彼が浮気してるって気付けなかったんだろ?
チャンスはいくらでもあったはずなのに。
時々彼の携帯にかかってきた私以外の女性からの電話・メール。
今年のお正月に彼の家へ遊びに行ったら、女の友人の方が男よりも年賀状が多かったし。

…あれから高校時代の友人に会ってこの事を話したら、バカって言われた。
当然か、フツーの女だったらこの段階で怪しがるよね。
でも私は疑わなかった―――いいえ、疑いたくなかった。
今までの人生で出会った中で、一番私に優しくしてくれた男性。
私はこの人と一生を共にしていくものだと信じていた。
そしてその夢に溺れていた。
別れるなんて…想像すらしなかった。

…通勤途中なのに、不覚にも涙ぐんでしまった。
人に見られたらみっともないのに、我慢しても涙はとめどなく流れ落ちる。
あなたの…バカ…!

413N2:2004/02/27(金) 14:16

「すみませーん、『痛みを分かち合う会』をよろしくお願いしまーす」
不意に私を呼び止める声がした。
驚いて振り向くと、そこには若い男性が立っていた。

「おや、失礼…」
目を真っ赤にした私の顔を見た男性の方がかえってビックリしてしまった。
私はあわてて男性に謝った。

「あ、いえ、すみません!ちょっと辛いことを思い出してただけなんで…。
それで、何か御用ですか?」

「ええ、我々は『痛みを分かち合う会』と言いまして、まあ一種のサークルみたいなもんなんですがね、
教祖モララー様とモナー様が我々一般会員の告白を聞き、それを皆で分かち合うことで
皆の心の傷を癒し合おうという信念の下に活動しております」

…教祖って、あやしい宗教団体なの?
一気に私は引いてしまった。

「すみません、私そういうのには…」

「…あなたは最近相当辛い目に遭いましたね?」
男性は突然私の心を見透かしたかのような顔をして言った。
そりゃさっき言ったんだから分かって当然のはず…だったのに、
私は何かに取り付かれたように素直に返事をしてしまった。
「ええ、はい…」

「お二人は実に素晴らしい方々です…。
今まで数多くの迷える者達の苦しみをその身へ一心に受け止めて来られました。
そしてその苦しみを皆に伝えあい、心の傷をケアすることで我々の心をお救いになられてきました。
あなたも是非…どうでしょうか?」

男の眼からは異様なまでの雰囲気が漂っている。
それを見つめているうちに、私の心は段々男の言葉の方へとシフトしていった。
…ひょっとしたら…本当に私は救われるのかも…。

…とその時。

『そんな胡散臭い悪徳宗教に引っ掛かるの?
それじゃあ何もあなたは成長していないわね。
もっとしっかりとしなさい、しっかりと!一教師としての自覚を持ちなさい!!』

心の中にモネ姐さんの声が響く。
その声に私の意識は正常な世界へ引き戻された。
…危ない危ない。危うくこのまま入会してしまうところだった。

「…すみません、それでも私は興味はありませんので…」
勇気を振り絞って拒絶すると、存外男の表情は穏やかなままであった。

「いいえ、構いませんよ。我々は無理強いをするつもりなど毛頭御座いません。
…ただし…いつかどうしようもなく貴女様が現実に打ちのめされて…耐え切れなくなって…
どこにも救いが見つからなくなったその時は…是非とも我々の事を思い出して下さい。
我々はいつでも貴女がいらっしゃるのを待っておりますよ…」

男はそう言って私から離れると、そのまま秋雨の中に消えていった。
…一体何だったのだろう?本当に普通の勧誘だったのかなあ…?
と時計を見ると、時刻は既に7時50分であった。
…ヤバイ、遅れる!!
私はさっきまでの事も忘れ、一心不乱に駆け出した。

414N2:2004/02/27(金) 14:17



「いづれにしましても、教育委員会の方から厳重に注意するよう呼びかけられております故、
先生方は児童への通告を怠らぬよう宜しくお願いします…」
初ケ谷校長の頼りない声が、また今日も夢想に走る私の思考の片隅を通り抜けた。
…職員会議中によそ事を考える方が間違ってるんだけど。
でも今朝の勧誘がやっぱり気になってしまう。

「椎名先生!今の校長のお話をちゃんとお聞きになっていたのですか!?」
と、今度は熊野のガラガラ声が私の意識に割り込んできた。
この間の会議以来事ある毎に私に因縁を吹っ掛けてきて困る。
私に言わせればあんたも人の観察してたんだろという事になるけれども、
流石にそんな事を面と向かって言ってしまっては元も子もない。

「…ええ、はい。クラスの児童には引き続き注意を呼びかけます」
どうせ議題はあれに決まってる。
私の予想は的中したらしく、熊野は不機嫌そうに足を組んで椅子にドカッと座り込んだ。



先週、安穏とした生活を送る私たちの耳に、ある重大事件が飛び込んできた。
町内の児童が失踪したというのだ。
もちろんこれが1人だけでも大問題であるけれども、今回はその程度では済まなかった。

一度に、31人。
集団下校をしていた児童及び引率の教師が、下校中にそのまま消えてしまった。
警察もすぐに動いたが、結局子供達がどこに消えてしまったのかは分からず仕舞いである。

町民達は奇怪な事件に恐れおののき、全国ニュースでは「現代の神隠し」などと称されたが、
事件はこれだけでは終わらなかった。
最初の事件の2日後、4日後、5日後に再び失踪者が出たのだ。
いずれも町内の園児・児童が被害に遭っている。
最初のケースと違い、後の事件では集団下校に限らずあらゆる子供達が突然消えてしまった。

警察やマスコミも当初は誘拐の線を疑ったが、何分人数の膨大さに加え引率の教師も消えたという事実から
捜査は完全に暗礁に乗り上げてしまったらしい。
新聞では、「神隠し」の言葉が消えた代わりに今度は「現代に甦ったハーメルンの笛吹き男」の言葉が踊っている。
(…そんなおとぎ話を喩えに出すなんてナンセンス…と思っていたら、
実はドイツで実際に起こった事件だと知ったのにはビックリしたけれども)

そして昨日は遂に一般人の失踪者まで出た。
もうこの町にいる誰もがこの奇怪な事件の被害者と成り得るのだ。
児童に警告するなら町内全校閉鎖でもしてしまえ、とは神尾先生とか鳥井先生とかの談だ。

415N2:2004/02/27(金) 14:20

「しかし恐ろしい事件ですわね…。これでは私達までいつ消えてしまうか分かりませんもの」
神尾先生が随分と普段の姿に似合わぬ弱気な意見を述べた。
彼女だってそりゃおっかないに決まってる。
彼女だけじゃない、校長だってモネ姐さんだって鳥井先生だって静川先生だって、
そして噂では熊野でさえも裏ではガクガクブルブルしているとか言われているのだ。
たった一名を除いては。

「うんうん、確かにおっかないよね、僕も自分(の)とこ(ろ)の生徒が消えたらと思うとゾッとするよ。
でもこの町で150人以上の人が消えてしまってるんだ、これは偶然じゃない、事件だ!!
事件、それは実況!実況と来れば祭り!!祭り即ち是ワッショイ!!!
ここで盛り上がらなかったら男ではない!!」
(そのままダッシュで会議室を出る、1分ほど後、校内放送のチャイムが鳴る)
『(ピンポンパンポーン…)
さあさあまだ学校に残っている生徒共よ、盛り上がれ盛り上がれ!!
会議室でダンマリしている先公共よ、沸き上がれ沸き上がれ!!
大量失踪ワッショイ!!大量失踪ワッショイ!!あら(この世の物とは思えないほど『鈍い音』が鳴る)ギャァ―――ッ!!』
『…まだ校内に残っている生徒諸君、とっとと家路に着きなさい、以上』

………とりあえず、不謹慎なバカは放っておこう。

416N2:2004/02/27(金) 14:21

「…まあ何にしても」
突然普段は無口な八木先生が発言した。
その瞬間、私の隣に座っていた一野先生の身体がビクッと痙攣した。
八木先生と言えば、「あんた学校のグレードを一段階間違えたんじゃないの」的な、
まあ要するに中学校の剣道部顧問的な先生だ。
おっかないことはおっかないが、それでも言う事には筋が通っているし、
本当なら彼がこの学校の首領になってもおかしくはないはずなのだけれども、
如何せん彼はそういう事には興味を示さないので熊野の横暴振りの抑制には全然なっていない。
そしてどうしてもわからないのが、彼が非常に真面目で気さくな一野先生を目の仇にしている事だ。
何がそんなに気に食わないのかは知らないけれども…一種の生理的嫌悪ってヤツ?

「この件に関して言わして貰えるなら、そもそも一連の失踪が人為的なものであんのか、
それともそうでないのか…この段階ですらまだハッキリしとらん訳ですからな、
ここで我々が机上の空論を踊らせても仕方が無いっつーもんじゃないんですかね、校長?」

低く太い枯れた声に伴う威圧感と共に、校長を鋭い視線で睨み付ける八木先生。
気の弱い校長はやはりそれに従うしかなかったが―――熊野の時よりは明らかに生き生きしている。
「うむ、八木先生の仰る通りです。とにかくまずは生徒に注意を促す、これしかありません。
それと同時に先生方も十分に気を付けて下さい…私から言えるのはこれだけです」

つくづく思うのだけれども、熊野とか八木先生が強引に会議を閉じるのを見ると
大人ってどうしてかえって事をややこしくしたがるのかと疑問に感じてしまう。
初めからそんな事だけ言っていれば十分なのに…どうせロクな意見が出るはずがないんだし。

『(ピンポンパンポーン…)
さーて、そろそろ職員会議も終わった頃かな?
それでは皆さん、かったるい会議が終わった後は、お楽しみの飲み会が待っております!!
皆の衆、ありったけの酒を頼め!そして飲め!!
気持ち悪くなってウエウエ吐くがいい!急性アル中でそのまま逝ってもいい!!
酔い潰れた男と女が過ちを犯したってぜ―――――んぜんオッケー!!
野郎共、飲みまくれ飲みまくれ!!皆の衆、吐きまくれ吐きまくれ!!
飲み会ワッショイ!!飲み会ワッショイ!!あ(この世ry)ア゛―――――ッッッ!!』
『…こんな時間になっても校内に残っているクソガキ諸君、  と  っ  と  と  帰  れ  』

「…今回は荒井先生は留守番という事でよろしいかな?」
その場にいた全員が静かにうなずいた。
これがこの会議唯一の満場一致の意見となった。

417N2:2004/02/27(金) 14:22



「好きだあ〜ったのよっ、あ〜なたぁ 胸のおーくでずーぅっとー♪」
広い宴会場には神尾先生の歌声と周囲の手拍子、それにオッサン共の雑談が響き合う。

…本音を言わせてもらうと、私はこういう雰囲気が嫌いだ。
それでも「大人の事情」で断ることは出来ないけれども…こうして騒ぎ合って、一体何が楽しいというの?
別にこの程度のことで親睦が深まる訳でもないし、
第一そこまで他人と仲良くしたところでいつ裏切られるか知ったことじゃない―――。

ふと私は、いつの間にか貰った覚えの無いパンフレットをカバンから取り出していた。
「痛みを分かち合う会」―――。
本当に、私の痛みを理解してくれるというの―――?
本当に、私の痛みを癒してくれるというの―――?

『お二人は実に素晴らしい方々です…。
今まで数多くの迷える者達の苦しみをその身へ一心に受け止めて来られました。
そしてその苦しみを皆に伝えあい、心の傷をケアすることで我々の心をお救いになられてきました。
あなたも是非…どうでしょうか?』

私は―――

『止めといた方がいいわよ…そういうの。最後は身の破滅よ』

後ろから私に向けられた声がする。
ビックリして振り返ると、そこにはいつの間にか自分の歌を歌い終えていた神尾先生がいた。

「その『痛みを分かち合う会』って言った?
何だか最近そこに入った奴らが多いって言うけれど、家族の話じゃもう何日も家に帰ってこないし、
挙句100万、人によっちゃ1,000万単位で『お布施』を納入してるのだっているって言うじゃない。
…それでも良いんだったら私は別に止めないけれど…」

神尾先生はそのまま自分の席へと帰ってしまった。
…何だかそんな話を聞いたら怖くなってきた。
私はパンフレットをもう一度見つめ直した。
そこには教祖らしき人と恍惚の表情を浮かべる信者達の姿があった。
私は彼らをしわだらけにして丸めると、そのままクズかごの中へと投げ捨てた。

418N2:2004/02/27(金) 14:22



夜道を顔の火照った上機嫌な大人達が歩く。
小さい頃は見るだけでも嫌だった光景なのに、自分がそうなってみると早く抜け出したい思いで一杯になる。
私の望んだ大人像って―――本当にこんなのだったの?
私の抱いていた大人のイメージは、もっと力強くて誇り高かったはずだった。
それなのに…。

「そんじゃあこれから二次会といきますかあ!!ガハハハハハハ!!」
親しい者同士で静かに談話していた一行の中で、突然熊野が叫び出した。

「ちょっと熊野先生、いい加減夜も遅いんですし、もう止めにした方が…」
すかさずモネ姐さんが止めに入る。
しかし熊野は譲らない。

「何ですと!?宴会と言ったら二次会・三次会は当たり前の話じゃないですか!!
そう言うあなたのほうがよほどどうかしていると…」

モネ姐さんの表情は険しい。
「…お言葉ですが、私達は明日も仕事があるのですよ!
それだけじゃありません、最近失踪事件が相次いでいるというのに、遅くまで飲み続けるなんて危険…」

モネ姐さんの「口撃」に我慢出来なくなった熊野は、とうとう怒鳴り出した。
「何だと、人が酒を飲みたいって言ってんだ、勝手に飲ませろ!!
しかもよりにもよって失踪事件を持ち出しやがって、せっかくの酔いが醒めちまったじゃねえか!!
…もういい、俺は行かせてもらうぞ。来い、静川!!」

静川先生の身体が一瞬動いたのが分かった。
その表情は完全に怯えているし、全身が震えている。

「どうした静川!!とっととついて来いっつってんだろ!!」

静川先生は答えようとしない。と言うか、答えられる状態にない。
彼はこの失踪事件を大そうおっかながっていた。
そりゃあ夜遅くまで男2人(しかも嫌な相手と)飲み明かすなんて、今では(本当は今に限らないが)恐怖以外の何物でもない。
これでは彼があんまりにも可哀想だ。

419N2:2004/02/27(金) 14:23

「行くぞ、静川!!」

熊野は静川先生の背広を掴もうとした。
私はとっさの判断でその手を止めた。
熊野の表情が曇る。

「あんだこのアマ…!てめえにゃ関係ねえだろ!!何だこの真似は!!」

ドスの利いた声で脅しを掛けてくる熊野。
恐怖心で足が震えてくるが、それでも私は引き下がりたくはなかった。

「こんなに嫌がってる人を無理やり連れて行ってもしょうがないじゃありませんか!
そんなに飲みたいんだったら一人で勝手に飲んでて下さい!!
…それとも、一人で飲みに行くのがそんなに怖いんですか?」

遂に熊野はキレた。
「このアマがあああああぁぁぁぁぁっっっ!!」

私に向けて振り出された拳。
だがその手は今度は八木先生の手によって止められた。

「もうその辺にしといたらどうっすか…?
無理強いする酒ほど不味いもんはないと思いやすがね…」

モネ姐さんもそこに加わる。
「そうですよ、あなただっていい大人なんでしょ?だったら一人で飲みに行けばいいじゃないですか!!」

熊野はバツが悪くなって辺りを見回した。
だが周囲の目線は完全に自分を非難するものであった。
熊野は誰に向けてでもなく勝手に吠えた。

「…ケッ!一人で行きゃいいんだろ、一人で行きゃ…」

熊野はそのまま進路を帰ると、一人繁華街の中へと消えていった。

420N2:2004/02/27(金) 14:24



熊野の姿が完全に見えなくなると、周りの先生方がワッと盛り上がった。
「やるじゃないですか、椎名先生!」
「…随分と言うときゃ言うじゃない」
「さあさああの熊野を追っ払ったんだ、手前ら盛り上がれ盛り上がれ!!」

…何だか違和感を感じるけど…まあいいか。
ふと気になって横を向くと、その静川先生は何と感極まって泣き出していた。

「ず…ずみまぜん…私ごどぎのだめに…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

…何とも情けない人だなあ…と思ったけれども、
それはそれで…可愛いかも知れない。

「ちょっと、こんな所で泣かないで下さいよ!
…それに、私がどうこうした訳じゃありませんよ。
私はモネね…森田先生に便乗しただけですし、それに八木先生があそこで助けて下さらなかったら…」

後ろを向くと、八木先生は今まで一度も見せた事もない照れくさそうな笑顔を浮かべていた。
「…椎名先生、私はあんたがあそこまで言ったから行動に移っただけです。
あそこであんたが熊野先生に噛み付かんかったら…私はそのまま傍観しとったでしょう」

モネ姐さんも言う。
「そうよ、あなたが動いたから私達も皆で反対することが出来たのよ。
私はほんのきっかけ…本当の功労者はむしろあなたの方よ」

…私が…功労者?

「そうさ、君があそこでビシッと決めてくれたからさ!
にしてもよく熊野に反対出来たなあ、感心するよ、全く」

…私…褒められたの?

「…思ったよりやるじゃない、あんた。見直したわよ」

………何年振り…だろ。
人から…褒められるの…。

「…どうしたんですか?椎名先生?」

…いけない、ちょっと褒められた位でいい気になって…。

「ひょっとして…泣いてるんですか?」

そんなハッキリと言わないでよ…!
私…私だって…!

421N2:2004/02/27(金) 14:25

「ああうん、それじゃあ本当はこれから椎名先生に敬意を表して二次会…と行きたいところですが、
それじゃ元の木阿弥ですので、これにて解散としましょう。
解散―――!!」

慌てた静川先生が全体を解散させた。
先生方が散り散りとなって去って行く。
後にはモネ姐さんと静川先生だけが残った。

「どうしたの、あなた?静川君はともかく、あなたが泣くなんて…」

「…私…嬉しかったんです。
ずっとずっと他人からバカにされて…必死の思いで学校の先生になって…
でも周りの皆の目が冷たくて…また昔に戻ったんじゃないかって…そんな風に考えていたから…」

私の視界に突然一切れのハンカチが飛び込んで来た。

「…どうぞ…使って下さい」

私は静川先生の手からそれを取ると、自分の目元に当てた。

「…あの…今日は本当にあの…ありがとうございました…!
あのまま熊野先生に連れて行かれてたら…どうなっていたか…」

私は静川先生の礼に答えた。
「いいえそんな…私も別にそんなつもりじゃなかったんです…。
ただふと彼が許せなくなって…」

私はハンカチを返した。
静川先生は私に諭すように言った。
「…私の…勝手な判断かも知れませんけど…この学校で椎名先生を嫌ってる人なんて…
…いないと思いますよ…熊野先生はどうか分かりませんけど…」

モネ姐さんも彼に続いた。
「そうよ、あなたみたいに純粋で優しい娘を嫌う奴がいるわけないじゃない!!
よっぽど腹の内が真っ黒で根性がひん曲がってる奴はどうか知らないけど」

私達は何だかおかしくなって、そのまま3人で笑ってしまった。
ちょっと熊野には悪い気もするけど…でも熊野だし、別にいいか。

「それじゃあ私はそろそろ帰ることにします…お気を付けて」
「じゃあ私も帰るわ。また明日ね!」
「はい、それじゃあさようなら!!」

私はそのまま2人に背を向け、家路に着いた。



…私はこの時、どうせなら熊野が失踪してしまえばいいのに、と考えていた。
でもそれはほんの一時の事…すぐに忘れてしまっていた。
…でも、それはすぐに現実の物となってしまった。

翌日、熊野は学校に姿を見せなかった。
自宅に連絡しても、両親は熊野が昨日から帰っていないと言う。
すぐさま私達は警察へ通報したが、結局我々は二度と熊野の姿を見ることはなかった。

…そしてこの時から、私の数奇な運命は動き始めていた…。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

422ブック:2004/02/27(金) 23:53
     救い無き世界
     第三十二話・罅 〜その三〜


 うっそうと木々の生い茂る山奥に建てられた、巨大な洋館。
 ここが、みぃの嬢ちゃんにつけられた発信機が示した場所だった。
 遠間から双眼鏡で入り口付近を観察する。
 見張りが、確認できるだけで五人。
 中には間違いなくそれ以上。
 その中に恐らくスタンド使いもいるだろう。

「…どうする?」
 俺は隣にいるぃょぅに聞いた。
「こちらの戦力は、我々を含めてスタンド使いが八名。
 武装歩兵が二十名。
 強行突破も出来ない事は無いと思うけど、
 徒に戦力を浪費するのは得策じゃなぃょぅ。」
 全員合わせて二十八人か…
 本当はもっと大勢で叩きたかったが、
 こちらの本部の防衛を疎かにする訳にはいかないし、
 何より前回の襲撃でかなりの人員を失逸してしまっている。
 これで我慢するしかないだろう。

「この前の強化兵が配備されていると思うか?」
 今度はふさしぃにそう尋ねる。
「そう考えるのが、無難でしょうね。
 敵だって馬鹿じゃない。
 SSS(私達の所)から誘拐をしたんですもの、
 何らかの用心はしてる筈よ。」
 ふさしぃが答える。

「武装ヘリとかであの屋敷にミサイルとか打ち込んだら駄目モナか?」
 小耳モナーがそう提案した。
「そんなことしたら、間違いなく接近中に気付かれて逃げられるでしょうね。
 それに報道規制や事実隠蔽工作で、余計な金は使いたくないってのが
 上の考えでしょうしね。」
 ふさしぃがやれやれといった風に言う。

「…人が死ぬほうが安くつくってことかよ、ゴルァ……!」
 俺は火の塊のような言葉を吐き出した。
 なめやがって。
 俺達を、何だと思ってやがる。

「しかし、どうするょぅ。
 いつまでもここでこうしていても、仕方が無ぃょぅ。」
 ぃょぅが腕を組んだ。
 と、ぃょぅの携帯電話が振動し、
 ぃょぅが電話に出る。

「もしもし?…ああ、うん。分かったょぅ…」
 何やら話をした後で、ぃょぅが電話を切った。
「誰だゴルァ?」
 俺はぃょぅに聞いた。
「タカラギコだょぅ。
 後五分もすれば合流するらしぃょぅ。」
 そのぃょぅの言葉に、車内の空気が重くなる。

423ブック:2004/02/27(金) 23:55

「…ぃょぅ、車一台貸せ。」
 俺は煙草を取り出して口に咥えた。
 ライターでそれに火を点ける。
「何をする気だょぅ?」
 ぃょぅが聞き返してくる。
「俺が今から正面から突っ込む。
 お前らはその騒ぎに乗じて、警備の薄くなった所から進入しろ。」
 いわゆる陽動作戦というやつだ。

「!?危険すぎるわ!
 それにせめてタカラギコが来るのを待ってから…」
 ふさしぃが俺を制するように言った。
「いや、いい。早いとこ事を起こさにゃあ、みぃの嬢ちゃんが心配だ。
 お前らはタカラギコと合流してから来ればいいさ。
 それに、鉛玉で死ぬくらいなら
 とっくの昔にふさしぃに殺されてるぜ。」
 俺は冗談混じりに喋る。
「馬鹿、こんなときに何言ってるのよ!」
 ふさしぃが口を尖らせる。

 …実際のところ、タカラギコと顔を合わせづらいというのが本音だった。
 小耳モナーには余計な事に気を取られるなとは言ったが、
 俺もまだまだ大人に成りきれないみたいだ。

「…分かったょぅ。
 但し、ぃょぅも一緒に行くょぅ。」
 ぃょぅが俺に腕を差し出す。
「ああ、お前ならと心強いぜ。」
 俺はぃょぅとがっしりと腕を組ませた。

「そんじゃあまあ、ちっとばっかし行ってくるぞゴルァ。」
 ふさしぃと小耳モナーを降ろし、俺は窓からそう言葉を投げかけた。
「気をつけるモナ…!」
「どうか、無事で…」
 ふさしぃと小耳モナーが心配そうな顔をする。
「任せとけって。そんなに俺達信用ねぇのか?」
 俺は二人に歯を見せて笑った。
「いえ…ぃょぅはともかく、ギコえもんが…」
 ふさしぃがさらに心配そうな顔をする。
 ひでえ。
 何て言い草だ。

「…と、とにかく行くぞゴルァ!!」
 俺は車のエンジンを起動させた。



 アクセルを目一杯踏み込んで加速。
 洋館の入り口に向かって突っ込んだ。
「な…!う、撃てーーーーー!!!」
 すかさず車に向かって花吹雪のように浴びせられる銃弾。
 だが、これしきどうって事無い。

「『マイティボンジャック』!」
 スタンド能力を発動。
 車に与えられるダメージを先送り。
 フロントガラスに次々と銃弾が当たるが、そこには罅一つ入らない。

424ブック:2004/02/27(金) 23:55

「ゴルァア!!」
 俺はハンドルを切って、車を見張りの兵士の一人に衝突させた。
 ゴムボールのように跳ね飛ぶ兵士。
 普通ならこれで戦闘不能だが、強化兵だった場合立ち上がってくる可能性がある。
「一。」
 車から降りて、スタンドでそいつの脳天を砕く。

 それから一気に残党に向かって走っていく。
 放たれる銃弾。
 それを全て『マイティボンジャック』で防御。
 後十メートル…九…八…七………射程内。
 『マイティボンジャック』発動。
 銃弾が銃口から出るという結果を先送り。
 嘘のように止む銃声。
 うろたえる兵士達。
 そしてお前らの命もここまでだ。

「二。」
 一人の兵士にスタンドによる右からの張り手。
 兵士の首が捻じ曲がり、顔がぐるりと後ろへ向く。
「三。」
 別の兵士の胸をスタンドの腕で貫く。
 血を撒き散らして絶命する兵士。
「四。」
 残った二人の偶々目が合った奴にハイキック。
 脳を揺さぶられてそいつは転倒する。
 そこに向かって頭部へのサッカーボールキック。
 首がもげて、頭がサッカーボールそのままに茂みの中に飛んでいく。
「五。」
 最後の一人に、金的への蹴り上げ。
 睾丸が潰れる感触と共に、そいつの体が二十センチ程浮かぶ。
 その浮かんだところに左の順突き。
 どてっぱらに大穴を開けられて、二度と動かなくなる。


「…片付いたぜ。」
 俺は煙草を咥えて火を点けた。
 まるで歯応えが無い。
 準備運動にもなりやしねぇ。

「どうやら、団体さんのご到着みたいだょぅ。」
 ぃょぅのその言葉と同時に、洋館の入り口の扉が開け放たれる。
 そこにズラリと並んでこちらに向けて銃を構える何人もの兵士達。
 とたんにそこからの一斉射撃。
 直径僅か数ミリの死神が、俺達に襲い掛かる。

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが叫ぶ。
 巻き起こる風。
 銃弾が、全て風の壁に弾き飛ばされた。

 とはいえぃょぅのこの風は、そう長い間は起こせない。
 取り敢えず風の壁が持続しているうちに、遮蔽物へと身を隠す。

「…ざっと十五人は居たな。」
 火薬の炸裂音と、遮蔽物に穴が穿たれる音が響く中で、
 俺はぃょぅに言った。
「…で、これからどうするつもりだょぅ。」
 ぃょぅが俺に尋ねる。
「決まってる。このまま、ここでこいつらを引き付けとく。
 で、キリのいい所で全員殺す。」
 俺はしれっとそう言った。
 この程度なら、時間は掛かるが倒しきる位わけない。
「いっちょ派手に暴れてやろうぜ。
 この前の雪辱戦だ。」
 俺の言葉に、ぃょぅもニヤリと笑みを浮かべた。

425ブック:2004/02/27(金) 23:55



 およそ十分後、辺りには屍の山が築かれていた。
「…援軍は来ないようだな。」
 俺は咥えていた煙草を地面に吐き捨てた。
 足で踏んで火を揉み消す。
「そろそろふさしぃ達も別口から突入している頃だょぅ。
 こっちが囮って事に気付いたみたいだょぅ。」
 ぃょぅがポンポンと服についた埃をはたく。
「はん。ならこっちも正面から行く事にしようぜ。」
 俺は入り口に歩を進めた。
 倒れている兵士の死体には目もくれない。

 当然だ。
 こいつらだって、こうなる事は覚悟の上で、
 ここに立ち、ここで俺たちに銃を向けたのだろう。
 そこに同情や憐憫が介入する余地は無い。

「…気をつけて進むょぅ。」
 ぃょぅが俺の後に続いてきた。



 屋敷の中は、おんぼろな外見とはうってかわって整然としていた。
 廊下には、高価そうな置物が所々に置かれている。
 いつも思うが、何で金というものはある所にはあるのだろう。
 天下の回り物ならば、もう少し俺の所に回って来てもいいものなのだが。

「…しっ、ギコえもん……
 何か聞こえないかょぅ…!」
 いきなりぃょぅが俺の肩を掴んだ。
 …そういえば、右のドアの向こうから何か声が聞こえる。
 これは…女の声?
 まさか、みぃの嬢ちゃんか?

 無言で頷き合う俺達。
 ゆっくりとドアノブに手をかけ、
 そこから一気にドアを開け放つ。

「!!!!!!」
 部屋の中にいた人間の視線が一斉に俺達に集中する。
 その部屋には、何人もの女性が鎖に繋がれて監禁されていた。

「お…お願い、助けて……」
 力無い声で、一人の女性が俺達に訴えてきた。
 見るとその女性には、片腕が、無い。

「……!!」
 俺達は絶句した。
 部屋の中の女性の中には、同じように五体満足でない人が何人かいる。
 …タカラギコの資料を見てはいたが、まさかここまでだったとは……!

 マニー…『大日本ブレイク党』の参謀が一人。
 そして、そのもう一つの顔、
 『人形』のブローカー。
 猟奇的・異常的・狂気的性的嗜好を持った糞野郎共に、
 そのオーダーに合った『人形』を提供する腐れ外道。
 普通の女に満足出来なくなった奴が、
 足の無い女を抱いてみたいといえば、
 平然と足を切り取って『人形』を渡すらしい。
 そして『人形』が自分に逆らったり、逃げ出したりするのは決して許さない、
 『人形』を完全に支配しないと気が済まない、狂的執着心の持ち主。
 絶後のサディスト。
 考えるだけで反吐が出そうになる……!!

426ブック:2004/02/27(金) 23:56

「ギコえもん!?」
 ぃょぅの言葉でハッと我に返る。
 そうだ。
 今は感傷に浸っている場合じゃない。
 これ以上こんな事が起こらないように、
 マニーの奴をぶっ倒さなければ。

「…取り敢えず、この人達はほとぼりが冷めるまでここに置いておこう。
 悪いとは思うが、迂闊に外に連れ出したら、
 闘いに巻き込まれる可能性が高い。」
 俺は歯を食いしばりながらも、そう決断した。
 本来ならすぐにでもここから出してやりたいが、
 流石に今外に出すのは危険過ぎる。

 もう一度部屋の中を見回す。
 みぃの嬢ちゃんは…いない?

「…君達、ここにみぃと言う少女が連れて来られなかったかょぅ。」
 ぃょぅが女性の一人に聞いた。
「…その人かどうかは知りませんが、
 今日、新しくここに一人連れて来られました。」
 その女性が答える。
「その子どこに!?」
 ぃょぅが声を荒げた。

「多分…マニーの部屋かと。」
 少し考えて、女性が口を開いた。
「それはどこだょぅ。」
 ぃょぅが尋ねる。
「屋敷の最上階です…」
 女性がそう答えた。
「…分かったょぅ。
 済まないけど、君達はもう少しだけここで大人しくしててくれょぅ。
 後で必ず助けるょぅ。」
 ぃょぅが女性に言った。
 それでも、取り敢えずではあるが一応女性達を鎖から解放しておく。

「あの…ありがとうございます。」
 女性が深く礼をする。
「なあに、気にするなって。」
 そう言って俺達は部屋を後にした。

427ブック:2004/02/27(金) 23:56



「…あのマニーの糞は最上階だったな。」
 廊下を走りながら、俺はぃょぅに話しかけた。
「煙と何とやらは高いところが好きとは、よく言ったものだょぅ。」
 ぃょぅがそれに応じる。
 しかし妙だ…
 敵が誰もこちらに向かって来ない。
 ふさしぃの方で、手一杯か?

「!?」
 その時、異変が起こった。
 何時の間にか、廊下が深い霧に包まれている。
「こりゃ一体何だってんだ!?」
 思わず叫んでしまう。
 その間にも益々霧は深くなり、
 傍にいるぃょぅさえ目視が難しくなる。
「分からなぃょぅ。とにかく、決して離れないように進むょぅ。」
 俺達はそのぃょぅの言葉通りにゆっくりと歩く事にした。

「なあ、ぃょぅ。これはひょっとしなくても敵のスタンド…」
 しばらく歩いたところで、俺はぃょぅにそう言おうとした。

「!!!!!」
 居ない…!
 ぃょぅが、いつの間にか。
 何故だ。
 いつから居なくなっていた!?

「こんな山奥に客人とは珍しいんじゃネーノ。」
 不意に後ろから声をかけられる。
 …!!
 ぃょぅの声じゃない!

「誰だ…手前は。」
 振り返り、後ろの男にドスを利かせた声で聞く。
「これから死ぬ奴に、名乗るだけ無駄じゃネーノ?」
 霧の所為で、男の顔はよく見えない。
 だが、こいつ、間違いなく敵だ。

「この霧は手前の仕業か?」
 俺は男に質問した。
「答える必要は無いんじゃネーノ。」
 男はそう答えない。
「ぃょぅは何処にいる?」
 俺は質問を変えた。
「それも答える必要は無いんじゃネーノ。」
 しかしそれにも男は答えなかった。

「…いいぜ。それなら、手前の方から是非答えさせて下さい、
 と泣きついてくるまで、痛めつけるまでだ。」
 俺はスタンドを発動させた。
「やれるものなら、やってみればいいんじゃネーノ?
 この俺の『スウィートホーム』に。」
 霧の中に、男のスタンドのビジョンが浮かび上がった。


     TO BE CONTINUED…

428:2004/02/28(土) 17:49
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・萌えと萎えのはざまで
       
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 俺達はコタツを囲んでいた。
 そう。この重大な議題について語り合う為に…
「『萎え』…だな」
 ギコは、重い顔で呟く。
 そう。
「うん。やっぱり、僕も『萌え』の対立項は『萎え』だと思うね」
 モララーは言った。
 この場にいるのは、俺、モララー、ギコの3人だけ。
「『萌え』の徹底排除、及び『萎え』化の促進。なかなか難しい問題モナね…」
 俺は頭を抱えた。
 だが、やらねばなるまい。
 俺達は、この世界から『萌え』を排除しなければならない…!

「じゃあまず、最大の問題人物からモナね…」
 俺は大きく息を吸った。
「おーい、リナー! 入ってくるモナ!」

「…」
 障子を開けて、肩を落としながらリナーが入ってきた。
「まあ、座れ」
 ギコは言った。
 俺達は3人なので、コタツには1人分のスペースが空いていた。

 リナーは力無くコタツに入る。
「とりあえず、リナーを『萎え』化させるという事だけど…」
 どうしたらいいんだろう?
 俺は頭を抱えた。

「向こうから、リナーの事を『幻滅! 最低! つまんない女』って思えばいいんじゃない?」
 モララーは手を叩いて言った。
 ふむ。それはなかなかに良案だ。
「何をすれば… 私の事を『最低!』だと思うんだ…?」
 リナーは言った。

 俺はしばし考える。
「まあ… 『マザコン』はともかくとして『不潔な女』とかはどうモナ?」
「ところ構わず屁をたれろゴルァ」
「あと、『将来性がない』とかもいいな」
 口々に言う俺達。
 ふと考えて、モララーは口を開いた。
「『将来性がない』ってのは問題ないんじゃないの? 実際に、本編でも『将来性がない』んだし…」

 俺達は視線を落とした。
「…そ、それには、触れないでおくモナ」
 俺はおずおずと言った。

「自分は『レズ』ですって告白するとか、どっかでセコイもん万引きすんのはどーだ?」
 ギコは提案した。
「うーん、『レズ』に関しては、妙な支持層を得る可能性があるモナね。万引きも微妙なとこモナ…」

「バトル中に万引きはどうだい?」
 モララーは言った。
「おう、そりゃいいな!」
 ギコは快活な声を上げた。
「『塵の夜・その2』あたりで、万引きシーンを挿入するモナね。それは大いに萎えるモナ」
 俺は頷いた。
「あとは… やっぱり、『不潔な女』が一番妥当なんじゃない…?」
 モララーは、先程の提案を再度持ち出す。
「『不潔な女』ねぇ…」
 ギコは腕を組んだ。
 俺は、リナーに視線を送る。
「そういえば、ふと気になったけど… 本編でいつも同じ服着てないモナ?」

「…」
「…」
 沈黙に包まれる一座。
 どうやら、触れてはいけない事に触れてしまったようだ。

「とりあえず、部分改変ではどうしようもないモナね…」
 俺はため息をついて言った。
「そうだな…」
 二人とも同意する。
「ここはサクッとやっちまうモナか…」
 俺は、天井から不自然にぶら下がっているヒモに手をかけた。

「…今からこれを引くから、最高に萎える悲鳴をお願いするモナよ」
 真剣な顔をして頷くリナー。
 俺は、ヒモを思いっきり引っ張った。
 リナーの座っている床の部分が、カパッと観音開きに開く。

「うわらば!」
 リナーはそう言い残して、漆黒の穴の中に落ちて行った。

「うん。なかなかに萎える断末魔モナね」
 俺は頷いた。
「そうかなぁ… 『うわらば』はむしろ『燃え』だよ?」
 モララーは妙な事を口走る。

429:2004/02/28(土) 17:49

「『燃え』と言えば… 『燃え』要素も『萎え』要素に変換する必要があるな…」
 ギコは真顔で言った。
 確かにその通りだ。
 『萌え』と同じく、『燃え』も排除しなければならないだろう。

「そうすると… 『レイラ』の日本刀は没収モナね」
 俺はギコに言った。

「ああ。俺達から率先して襟元を正すべきだろうな…」
 ギコは、不満そうではあるが承諾した。
「で、代わりに何を持てばいいと思う…?」

 ううむ。
 スタンドが徒手空拳だと、武道マニアのギコの事だから『鉄山靠』とかブチかますかもしれない。
「…大根は?」
 モララーは提案した。
 うむ。スタンドが大根を振り回してたら、萎える事この上ない。
「っていうか、折れるだろう」
 俺は思わず反論した。
「折れたら、食えばいいだろ」
 ギコは当然のように言った。

 ふむ。
 戦闘中に万引きするリナーに、大根を食うギコ。しかも生で。
 これはなかなかに萎える。
 ギコに関しては、この位でいいだろう。

「次はモララーだな、ゴルァ!」
 俺とギコの目線が、モララーに向けられる。

「まず、『矢の男』という名称が駄目だモナ」
「そうだな。俺も前から弓が可哀想だと思ってたんだ」
 ギコは大きく頷いた。

「じ、じゃあ僕は『弓の男』で…」
 モララーは渋々承諾する。
「スタンド使いを増やす時は、弓でぶんなぐれ」
 ギコは言った。
「あと、『次元の亀裂』も『瞬間移動』も封印モナ。代わりに…」
 何を持たせよう?

 腕を組んでいたギコが口を開いた。
「『おろしがね』はどうだゴルァ! 俺も大根食う時に役に立つし」
 おお!
 ナイス・アィディアだ。戦闘にも有用な上に、支援にも使えるとは…

 ギコはさらに続けた。
「いっその事、お前は『おろしがねの男』でいけ。
 スタンドを目覚めさせる時は、『おろしがね』で頭をガリガリしろ!」

 …痛そうだな。
 まあ、モララーはこの程度でいいか。

 次は… いよいよ俺か。
「どのような屈辱でも、甘んじて受けるモナ…」
 俺は観念して言った。
 プライドの高い二人ですら、大根とおろしがねになったのだ。
 俺だけ綺麗な位置にいる訳にもいくまい。

「まず… 主武器のバヨネットはボツだな。最強武器、『バールのようなもの』を使え」
 ギコは言った。

 『バールのようなもの』…
 ニュースで1日に1回は耳にするという、究極の武器か。
 ドアを壊したり、窓を割ったり、人の頭を殴ったりと万能の武器。
 それが、俺の手に…

「あと… 『殺人鬼』ってのも駄目だね。
 っていうか、二重人格で殺人鬼なんて100年も前からあるネタじゃないか。却下」
 モララーが駄目出しをする。

「じゃあ、代わりにどうしたらいいモナ…?」
 俺はおずおずと訊ねた。 
 モララーが答える。
「『放火魔』なんてどうだい?
 モナー君のもう一つの人格が目覚めた時、『放火魔』が現れて火をつけまくるんだ。
 そして、決め台詞が『中の人などいない!』でどう?」

 『放火魔』か。
 かなり残虐で、重罪な割りにはしょぼいイメージだな。
 重要なシーンでおもむろに出てきて火を放つのも、なかなかに萎える。

「…って、『バールのようなもの』を振り回して、周囲に火をつけるなんて、ただのヤバイ人モナ!」
 俺は抗議した。
 いくらなんでも、組み合わせ的にまずい。
「いや、本編のお前もそう変わらんと思うがな…」
 ギコは呆れながら言った。
 確かに、そんな気もする。
「あと、覗きとかはどうだい? スタンド能力を悪用して、風呂場とかを覗きまくるんだ」
「うおっ! 最低な主人公だな。『キ○ガイ』で『放火魔』で『覗き』なんて… 警察に捕まってもおかしくないぞ!」
 俺は無言で目を伏せた。

「さて、モナ達の『萎え』化はこの位にするモナ。まだまだ他の人もいるモナ」
 俺は、気を取り直して言った。
「そうだな。やけにキャラも多いし、俺達に関してはこのへんにするか…」
 ギコは話題を切り上げる。

430:2004/02/28(土) 17:50

 では、次は…
「しぃちゃん、入るモナ!」
 俺は声をかけた。
 障子が開いて、しぃが入ってきた。
 そのままコタツに入るしぃ。
「俺は、心を鬼にするからな…!」
 ギコは唇を噛んで言った。

「まず、『アルカディア』…!」
 俺は言った。

「お、おう…」
 しぃの体から、『アルカディア』のヴィジョンが浮かび上がる。

 俺は机を叩いた。
「お前、最近目立ち過ぎ!
 ここぞとばかりに俺達に協力して、票を伸ばそうなどとは… 絶対に許されないモナ!」

「そうだな。いくら何でも変わり身が早過ぎる」
 ギコは腕を組んで頷いた。
「とりあえず、『アルカディア』の武器はイモだね。イモ投げ」
 モララーは言った。
 …何故にイモ?
 あっ、そうか。
 俺が放火したところでヤキイモにして、それをリナーが食べて、ところ構わず屁をたれる…と。
 うむ、論理に破綻が無い。
 この戦略はいける。

「じゃあ、お前の武器はイモで決定モナね」
 俺は言った。

「まあ、栄養はあるがな…」
 『アルカディア』は渋々頷く。
 俺は、しぃに目線を移動させた。
「しぃちゃんは、これといって萌え要素がないので問題なしモナ…」
 しぃの額に血管マークが浮かぶ。
 だから、そういうのが怖いんだって。

「まあ、こんなもんだね…」
 モララーは言った。
「じゃあ、行くモナよ。準備はいいモナか?」
 俺はヒモに手をかけた。そのまま引っ張る俺。

「のりしおッ!!」
 断末魔の叫びを残して、しぃと『アルカディア』は穴の中に消えていった。


「はい、次はレモナ!」
 俺は叫ぶ。
 障子を開けて、レモナが入ってきた。
「ええと、お手柔らかにお願いします…」

 ギコが顎に手を当てた。
「ううむ。意外と作品中の露出が低いんだよな。出れば出たで暴れてるし… 『萌え』からはほど遠いな」
「そうだね。時間も押してるし、とっとと落として先に行こうか」

「まあ、そういう事モナ。萎え萎えの悲鳴をお願いするモナ」
 俺は、ヒモに手をかけた。
「なっ… ちょっと扱いひどいんじゃない!?」
 レモナは立ち上がって抗議する。
 俺は構わずヒモを引いた。

「ぎょえー」
 品の無い悲鳴を上げて、レモナは穴の中に落ちていった。
 『萎え』度では合格点だ。


「さて、次はつー!!」
 俺は怒鳴る。
「アヒャ…」
 障子を開けて、覇気の無いつーが入ってきた。
「また微妙な役所だな…」
 ギコはため息をついた。
「とりあえず、必殺技は『稲妻十字空烈刃(サンダークロス・スプリットアタック)』だね」
 モララーは提案する。
「ナッ…イヤダゾ、オレハ!」
 つーは抵抗した。
「ダイアーさんは、本当はまじめに闘おうとしているのかもしれない…
 それも… 街のゴロツキ相手ならいい…
 しかし、こいつらに対しては完全にういてしまっている。
 遠吠えする負け犬のように、悲しいほどこっけいに見えるッ! ってやつモナね」
 俺は腕を組んで頷いた。
 そこはかとない役立たなさがいい味を出している。

「じゃあ、そろそろ行くモナよ…」
 俺は、ヒモに手をかけた。
「チョットマテ――ッ!」
 つーが何か言いかけたが、構わずヒモを引く俺。
「ヤッダーバァァァァァァァ」
 つーは断末魔の悲鳴を残して、漆黒の闇の中に落ちて行った。
 チョコ先生か。微妙なところを突いてくる。
「『萎え』かどうか、微妙だが… まあ良しとしようか…」
 ギコは、ぽっかりと開く穴を見下ろして言った。

「次! おにぎりッ!!」
「久々の…出番だぜェェェッ!!」
 おにぎりが、障子を開けて力強く入ってきた。
 そして、足を踏み出す。
 俺は失念していた。
 足元の穴が開きっぱなしだった事を。

「このままでは終わらんぞォォォォォ!」
 そのまま、おにぎりは落ちていった。

431:2004/02/28(土) 17:50

「次! ガナー!!」
 俺は、穴を閉じてから叫んだ。
 おずおずとガナーが居間に入ってくる。
「問題無し…モナね」
 俺は思わず口走った。

「な…なんでよッ!!」
 ガナーは机を叩く。
「世の中には、妹萌えの人間がいっぱい…」

「恥を知りなさいッ! 妹に萌えるなどとはッ!!」
 ――モララーはいきなりキレた。

 ギコは、俺に視線を移動させる。
「ううむ。ふと思ったんだが、『萎え』化の効果的促進の為には、
 『萌え』や『燃え』の排除だけじゃなく、『萎え』キャラの有効活用っていうのも重要なんじゃないか?」

「…なるほど。ヒロイン役がガナーってのは、かってない『萎え』モナね」
 俺は大きく頷いた。
「いっその事、『12人の妹』ってのを前面に押し出すのはどうだい?
 もちろん、12人ともガナー。誰を選んでもガナー」
「うわっ! 萎えるにも程があるモナ!」

 ガナーは俯いて、肩を震わせている。
 …まずい。
 ブチ切れる一歩手前だ。

「黙って聞いてたら…!!」
 ガナーはコタツを引っくり返す勢いで立ち上がった。
 俺は、素早くヒモに手をかける。
「落ちろォォォォッ!!」
 思いっきりヒモを引く俺。

「お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」
 そう叫びながら、ガナーは闇の中に落ちていった。
 なかなかに『萎え』な断末魔。
 最後まで萌えない妹であった。兄として誇りに思う。


「次! しぃタナ!!」
 障子を開けて、しぃタナが入ってきた。
「あ…よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げるしぃタナ。

「ってか、今後の登場予定はあるのかゴルァ!」
 ギコは訊ねた。
「えーと、結構重要な役割を担っているとありますが…」
 しぃタナは首をかしげる。
「とは言え、キャラ立ちしてない以上、扱いは微妙だね…」
 モララーは腕を組んだ。

「まあいいや。落としとこう」
 俺はおもむろにヒモを引っ張った。
 ガゴンと床が開いて、しぃタナは正座した姿勢のまま落ちていった。
「何か、ぞんざいになってきたなゴルァ」
 ギコは言った。
「まあ、ASAや『教会』の面々も控えているからね…」
 モララーはため息をついた。
 そう。まだ先は長い。

「次! じぃちゃん!!」
 俺は叫ぶ。
 障子を開けて、じぃちゃんが入ってきた。

「えーと… 私、もう死んだんですけど…」
 じぃは控えめに言った。
「死者とて、この断罪から逃れはしないのだよ…」
「あ、うん…」
 じぃは、困惑しながらコタツに入ってきた。
「とは言え、もう死んでるからなぁ…」
 ギコは両手を頭の上で組んだ。
「実は生きてました、ってのはかなり『萎え』るんじゃない?」
 モララーは提案する。
「そりゃいいな。よし! じぃちゃん、生き返れ。『男塾』のごとく、何の説明も無く生き返れ」
 俺は言った。
 そして、ヒモを引く。
「ロスじゃこの位、日常茶飯事だったぜ!」
 じぃちゃんは、『萎え』な断末魔を残して落ちていった。

「なんか、容赦ないなオマエ…」
 ギコは俺に視線を向けた。
「回転率は早く早く。死人には構っちゃいられないモナ!」
 

「次! 1さんと簞ちゃん!! 二人一緒でいい!!」
 1さんと簞ちゃんが、うかない顔で居間に入ってきた。
 そして、並んでコタツに座る。
「簞ちゃんに関しては、元々が萌えキャラだからなぁ、ゴルァ!」
 ギコはため息をついて腕を組んだ。
「とりあえず、あの武器は駄目だね。どっかの執事みたいだし」
「代わりに何を持たせるか…って事になるモナね…」

「もう、『バールのようなもの』で統一すればいいんじゃないか?
 出て来る武器は、大根、おろしがね、イモ、『バールのようなもの』のみで」
 ギコは提案した。
 ふむ。なかなかにストイック。
 『バールのようなもの』で打ち合うなんて、『萎え』もいいところだ。
「1さんに関しては、戦闘シーンがないので省略!」
 俺はヒモを引いた。
「ひでぶ!」
「あべし!」
 『萎え』な断末魔を残して、落ちていく二人。

「フン… 二人一緒に行ける事を、この俺に感謝するんだなッ!!」
 俺は、既にいない二人に呼びかけた。

432:2004/02/28(土) 17:51

「次! しぃ助教授!!」
 俺は叫んだ。
 轟音と共に、障子が吹き飛ぶ。
 愛用の特大ハンマーを肩に担いで、ゆっくりと居間に入ってくるしぃ助教授。
「こりゃ、大物だなぁ…」
 ギコは呆れたように呟いた。
 そう。
 『萌え』要素が全然無いのに、何故かリナーと1位を奪い合っている謎の存在。
 しぃ助教授は無言でコタツに入る。
「リナーとライバルってのがマズいんじゃないか?」
 ギコは言った。
 …確かに。
「じゃあ、ライバル変更。しぃ助教授の天敵はダイアーさんで」
 俺は言った。
「いや、ダイアーさん出てこないでしょう…」
 しぃ助教授は反論するが、聞く耳など持たない。
「あと、離婚暦アリってのも『萎え』だね」
 モララーは言った。
「キャラ的に、離婚暦1回や2回じゃ説得力に欠けるな…
 いっその事、七縦七禽にちなんで離婚暦7回、バツナナでどうだゴルァ!」
 ギコは言った。
「武器は、もちろん特大大根モナね!」
「そうすると、ASA側にもおろしがねを武器にする奴がいるな…」

「じゃあ、補佐の丸耳でお願いします…」
 しぃ助教授は力無く言った。
「よし、これでコンビネーションも完璧だね」
 モララーは頷く。
「じゃあ落ちろッ! 『萎え』な悲鳴を頼むぜッ! 31歳ッ!!」
 俺はヒモを引いた。
「のわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 しぃ助教授が、穴の中に飲み込まれていった。

「今の悲鳴、素だったな…」
 ギコは呟く。
 俺達は、黙って頷いた。


「次! 丸耳!!」
 俺は叫ぶ。
 丸耳がゆっくりと入ってきた。
「お前の武器、おろしがねな」
 ギコはすかさず言った。
「…ええっ!」
 丸耳は叫ぶ。
「しぃ助教授との会談で、話はついてるんだからな…」
 モララーは被虐的な笑みを浮かべた。
「つまり…」
 俺は立ち上がった。
「お前はしぃ助教授に売られたんだよォ! 丸耳ィィィッ!!」

「馬鹿なッ!!」
 丸耳は机を叩いて立ち上がった。
「しぃ助教授は私を信頼してくれている。
 それが… カエルの小便よりもゲスなおろしがねなどと…
 ウソをつくなァァァァァァッ!!」

 俺は、ヒモに手をかけた。
「絶対に許せない事が2つ…
 まず、その机を叩いた事。それは、お前の命より高い!!
 2つ目は、おろしがねを公然と侮辱した事だぁぁぁぁッ!!」
 紐を引く俺。
 床がパカッと開いた。
「させるかッ!!」
 それより一瞬早く、丸耳は机の上に上がった。
「机に… 足を掛けるなッ!!」
 ギコが、丸耳の顔面を大根でぶん殴る。
 真ん中でブチ折れる大根。
「あじゃぱー!!」
 丸耳は、悲鳴を上げながら穴の中に落ちていった。
 折れた大根も一緒に…

「俺からの餞別だ。永遠に大根でもおろしてるんだな、ゴルァ!!」
 ギコは反り返ってポーズをつけながら言った。
 だから、机の上に乗るなと。
「って言うか、段々容赦なくなっていくね…」
 モララーは呆れたように言った。

「端キャラに構ってたら日が暮れるモナ… 次! ねここ!」
「はい!」
 ねここが障子を開けて入ってくる。
「うーん… こいつも、元々が萌えキャラだからなぁ…」
 ギコは顎に手を当てた。
「まず、このねこ帽子が駄目だな。ミスタ印の矢印ヘルメットをかぶれ」
「くっ、臭いわッ!!」
 ねここが悲鳴を上げる。
「よ〜ぉしよしよしよしよしよしよしよし。『萎え』ってもんが分かってきてるな、テメーはよ…」
 俺は、その反応に満足して言った。そして、ヒモに手をかける。
「じゃあ、落ちろォォォッ!!」
 そして、真っ直ぐにヒモを引いた。
「ぎゃびりーん!!」
 ねここは、穴の中に消えていった。


「次! ありす!」
 ありすが、無表情で居間に入ってきた。
「うーむ。こいつも未知数だしなぁ…」
 ギコは腕を組んだ。
「出現率が低い奴にまで、構っている時間は無い!」
 俺はヒモを引いた。
「…」
 無言で落ちていくありす。


「サクサク行こう、サクサク! 次! クックル!」
 俺は叫ぶ。
 障子を開けて、サラリーマン風の男が入ってきた。
 そのまま、コタツに足を入れる。

「…誰?」
 モララーが首をかしげる。
「さぁ…」
 俺も困惑した。
 サラリーマンは、机の上にあったミカンを食べている。
 俺は、ヒモを引いた。
 サラリーマンの姿は、たちまちにして穴の中に消えていった。

433:2004/02/28(土) 17:51

「…つ、次! 『解読者』ことキバヤシ!!」

「ああ、待たせたな!」
 キバヤシが障子を開けて入ってきた。
 さて… こいつを『萎え』化させるには…
「取り合えず、スタンド能力はボツだな。それに代わって…」
 俺は顎に手を当てた。
「オプティック・ブラストはどうだ、ゴルァ?」

 …なるほど。
 常に眼からビームが出っ放しの為、特別な眼鏡を掛けて制御している訳だな。
「キバヤシ、眼鏡を外してみろ」
 俺は言った。
「ああ」
 眼鏡を外すキバヤシ。
 その眼から、バシュゥゥゥゥと破壊光線が飛び出す。
「よし、なかなかに『萎え』だ!!」
 俺はヒモを引いた。

「ユゥニバァァァァァスッ!!」
 キバヤシは、オプティック・ブラストを放ちながら穴の中に落ちていった。


「次! 『破壊者』ことヌケドナルド!!」
 障子を開けて、ヌケドが入ってきた。
 マクドナルドの袋を手にしている。
「これ、差し入れだ…」
 ヌケドは、袋を机の上に置いた。
「おお! ちょうど腹が減ってたところだゴルァ!」
 ギコがハンバーガーにかぶりつく。

「ところで知っているか?」
 ヌケドはコタツに足を突っ込んだ。
「フレオフィッシュには、川魚の肉が使われているらしいぞ…」
「へぇ〜 海の魚じゃなかったモナね」
 俺はチーズバーガーを頬張りながら言った。

 …と、こんな役に立たないトリビアはどうでもいい。
「阿部高和、きれいなジャイアン、ムスカ、スミス、入ってこい!!」
 俺は、代行者達をまとめて呼んだ。
 どやどやと入ってくる変人達。

「落ちろ! 蚊トンボッ!!」
 俺はヒモを引いた。
「な、なにをするきさまらー」
 まとめて落ちていく5人の代行者。

「つーか、随分とまとめて殺ったな…」
 ギコが呆れて言った。
「だって、まだほとんど活躍してないしなぁ…」
 俺は呟く。
「さて… 残りはクセ者ばっかりだね」
 モララーは深呼吸をして言った。
 俺も、そろそろ気合を入れなければ。


「次! 『蒐集者』!!」
 俺は叫ぶ。
「まったく… 忙しい中、なぜこんな所へ…」
 部屋へ入るなり、文句を抜かす『蒐集者』。

「まずは… ロングコートだな」
 ギコが呟く。
 そう。この格好は駄目だ。
 俺は、『蒐集者』のロングコートを剥ぎ取ろうとした。
「…あれ? これって、もしかして体の一部?」
 俺はふと気になって訊ねた。
「そうですよ。いつも一緒に再生しているでしょう?」
 『蒐集者』は腕を組んで言った。
「再生した時、裸じゃまずいんじゃないかっていう配慮がありまして…」

「いらん」
 ギコは冷たく言った。
「こんな昔話を耳にした事がある…
 昔、仲の良い親子がいた!
 父親は女性の手が好きで、息子は盗撮が好きだった!
 二人は、仲良く風呂に入った!!
 父親は、裸にもかかわらず…
 自らのモノだけは決して見えないよう、巧みに周囲のモノで隠したという。
 タオルでバケツで椅子で早人で、父親は無敵のガードを誇り…
 とうとうモノを露出させる事は無かった!!」

 そ、それは…!!
 ギコは、『蒐集者』に大根を投げ渡す。
「ほら、これで隠せ。あと…口調がなんかムカつくな。
 コロ助みたいな喋り方にしろ」

「…分かったナリ」
 『蒐集者』は、大根で股間を隠している。
 もう、威厳もクソも無い。
「じゃあ、落とすモナよ」
 なんか、見てて哀れになってきた。
 俺はヒモに手をかけると、一気に引っ張った。

「ひどいナリッ!! キテレツ――ッ!!」
 『蒐集者』は、穴の中に落ちていった。
 なんか怖いので、脱ぎ捨てられたロングコートも穴の中に投げ込んでおく。


「次、公安五課局長!!」
 俺は叫ぶ。
 いつものように、スーツを着こなした局長が居間に入ってきた。
「つーかお前、『蒐集者』とキャラかぶってんだ!
 二人で会話してたら、どっちがどっちか分かんねぇんだよゴルァ!」
 ギコが叫ぶ。
「まず、そのネクタイは頭に巻け!」
 俺は局長の赤のネクタイを解くと、その頭に巻いた。
「あと、これを持てゴルァ!」
 菓子折りを渡すギコ。
「小指を立てるのを忘れるな」

 さらに俺は、シャツの裾を引っ張り出した。
 これで、完璧な酔っ払いスタイルだ。
「お前のスタンド能力は『酔拳』な。酔えば酔うほど強くなるってやつだ」
 ギコは満足そうに言った。

「OK!! 『萎え』度もマックス!! じゃあ落ちろ!!」
 俺はヒモを引く。
「上から来るぞ! 気をつけろッ!!」
 そう言い残して、局長は穴の中に消えていった。

434:2004/02/28(土) 17:53

「次! ぽろろ!!」
「えーと、都合によりここには来れないようなので、『教会』の地下60m地点に電話が繋がっております」
 ギコが、俺に携帯電話を差し出した。

「もしもし?」
「…はい」
 子供の声が聞こえる。
「えーと、取り合えず『萎え』化促進って事で、君にはとってもウザイ子供になってもらおう。えーと…
 ゴミ箱の中に潜んだり、ヘリコプター見てハシャいだり、まぶたが降りてくるッ!!とか言ったり、
 血尿がァあ〜〜〜〜〜!!とか騒いだりする、やかましいガキだ。いいね?」
 俺はぽろろに告げた。
「で、最後のオイシイところまで持っていかれるって事だな…」
 ギコは呟く。
「話がまとまったところで、落ちろ――ッ!!」
 俺はヒモを引っ張った。
 ギコの携帯電話が、穴の中に消えていく。

「次ッ! フサギコッ!!」

 フサギコが、障子を開けて入ってきた。
「あ、オヤジ…」
 ギコは、フサギコと目を合わせる。
「とりあえず、89式小銃は没収だな。あれは『燃え』だ」
 そう言って、手にしていた銃を奪い取った。
 ひょっとして、自分が欲しいだけでは…

「代わりに、64式小銃を進呈しよう。海自や空自の素人が触ると、すぐに撃てなくなる銃だ」
 俺は、フサギコに64式小銃を渡した。
 かなり部品が多く、分解してからもう一度組み立てると、部品が余ってしまうというビックリ銃だ。
 ついでに、部品が余っても撃てるという不思議な銃でもある。
 これも、自衛隊七不思議の一つだ。

「まあ、使えんことも無いが…」
 64式小銃を受け取るフサギコ。
「あと、ヘリ落ち過ぎ。と言うか、ちゃんとした兵器運用がされなさすぎ」
 モララーが突っ込みを入れる。
 確かにメインローターをやられたくらいなら、ヘリはしばらくは落ちない。
「つーか、スティンガーを対人にかました公安五課もどうかと思うぞ…」
 ギコはさらに突っ込んだ。

「まあ、話が逸れるのもなんなんで…」
 俺は、ヒモを引いた。
「マスター、ロビンズネスト…!」
 フサギコは穴の中に落ちていく。

435:2004/02/28(土) 17:53

「次! ってか、これで最後! 枢機卿!!」

「…呼んだかな?」
 SSの制服を着込んだ男が、居間に足を踏み込んできた。
「つーか、ドイツ関連はダメだね」
 モララーは早くも駄目出しをする。
「ドイツというだけで、『燃え』る連中もいるからな。 ――とどのつまりは、我々のような」
 ギコはニヤリと笑って言った。
「つーわけで、隠し持ってる武器、全部出せ!」
 俺は机を叩く。

「仕方がないな…」
 枢機卿は、袖からP08を2挺出した。
「それだけっていう事があるか! お前の事だから、モーゼルやシュマイザーも持ってるだろう!?」
 ギコは怒鳴りつける。
「ほう、ご名答だ」
 服の中をゴソゴソする枢機卿。
 手榴弾、拳銃、軽機関銃。中から武器が出るわ出るわ…

「これ、もらった」
 ギコはシュマイザーを奪い取った。
 サンタナがバラした、あれを覚えるのに何時間かかかるというやつだ。
「じゃあ、お前の武器は全部イタリア製な」
「なっ! なんだとォッ!!」
 枢機卿は顔色を変えた。
 俺は、イタリア製の手榴弾を手渡す。
 ちなみに、イタリアの手榴弾はショックを受けると爆発するタイプである。
 その不安定さから『赤い悪魔』と呼ばれ、敵味方を問わず恐れられていたそうだ。
「拳銃だけは、特別にクリムゾンガンを贈呈しよう」
「ふざけるなッ!! デフォルトで照準が右にズレてるような銃が使い物になるかッ!!」
 枢機卿は怒鳴る。

「あと、ケーニヒス・ティーガーも全両没収。イタリア製の戦車で充分だ」
「五段階後退ギアのついた戦車で何をしろと…!?」
 枢機卿は食って掛かる。
「メッサーシュミットも全機没収。イタリアのCR42ファルコで充分だ」
「そんな複葉戦闘機、冗談にしかならん!」
 枢機卿は机を叩いた。

 余談だが、あの軍事弱小国家イタリアが、第二次大戦中イギリス本土に爆撃を仕掛けた事がある。
 イタリア軍にとっては大真面目な作戦行動だったが、英民間人には珍事扱いされた。
 まあ、スピットファイアVSメッサーシュミットという最新鋭戦闘機による激戦が繰り広げられている中、
 突如としてイタリア製の骨董品・複葉戦闘機が現れれば無理もないが…

「あと、イタリア帽子を被れ。毎日スパゲッティを食べろ」
 ギコは厳しい要求を突きつける。
「ううむ…」
 ツェペリ帽を被って、顎に手を当てる枢機卿。
 似合わない事この上ない。
「じゃあ、そろそろいいモナか?」
 俺は、ヒモに手を掛けた。
「君達は根本的に間違えていないか? 私を『萎え』させるのが目的なのか?」
 枢機卿は、人差し指で帽子を持ち上げて言った。

「なッ… 間違えてなどいない!! 豚のような悲鳴を上げろッ!!」
 俺はヒモを引いた。
「アメリア――ッ!!」
 穴の中に落ちていく枢機卿。

436:2004/02/28(土) 17:54


 …
 ……
 ………

 しかし、俺の心は晴れない。
 枢機卿の言葉が、重く心にのしかかる。
 これは、本当に『萎え』なのか…?
 俺達が今までやっていたことは、間違っていたとでも言うのか…!?

 警官風の男が、穴の周りを掃除していく。
 ミカンや、ヌケドの差し入れのポテトなどが散らばっているのだ。

「なあ、ギコ! モララー! 761行もかけて俺達のやった事は、全部無駄だったのか!?」
「…」
 ギコとモララーは、視線を落として答えようともしない。
 それは… 肯定を意味していた。
「これだけやって、何の『結果』も出さずに終わったら…!」
 俺は頭を抱えて言った。

「いいや、君達はよくやったさ…」
 掃除をしていた警官風の男が、ふと顔を上げた。
「え?」
 俺達はあっけにとられる。

 警官風の男は言った。
「『結果』だけを求めてはいけない…
 『結果』だけを求めていると、人は近道をしたがるものだ。
 近道した時、真実を見失うかもしれない。やる気もしだいに失せていく」

「あ、あんた… もしかして…」
 俺は呆然と口を開けた。

「大切なのは、『萎え』に向かおうとする意志だと思っている」
 警官は言った。
「君達は、立派にやったのだよ… そう、私が誇りに思うくらい立派にね…」
 
「…誰?」
 ギコが訊ねる。
「さあ」
 俺は首をかしげながらヒモを引いた。
「うわぁぁぁぁぁッ!」
 警官風の男は、穴の中に落ちていった。

「…まあ、これでよかったのかもしれないな」
 俺は、窓を開けた。
 光が差し込む。
 まるで、今にも落ちてきそうな空だ。

 ふと、みんなが空で笑っているような気がした。
 俺は、ギコとモララーを振り返る。
「犠牲になったみんなの為にも、精一杯『萎え』ないとな…」

 ギコとモララーは、無言で頷いた。
 俺は、いつまでも青い空を見上げていた。



  /└─────────────┬┐
. < To Be Continuedするわけが無い  | |
  \┌─────────────┴┘

437ブック:2004/02/28(土) 21:37
    救い無き世界
    第三十三話・罅 〜その四〜


 ―――走る。
 脚をスタンド化させ、ただひたすらに走っていく。
 地図の通りなら、半分あたりの地点まで進んでいる筈だ。

「ひっ…!何あれ!?」
「化け物だ!!警察を呼べ!!!」
 俺の姿を見た奴らが、
 俺を指差し、嫌悪と恐怖の入り混じった視線と言葉をぶつけてくる。

 …そんなものは、もはや気にならなかった。
 何とでも言うがいいさ。
 お前らの言う通り、俺は唯の『化け物』だ。
 それで構わない。

 あいつを助ける為なら、いくらでも罵声など被ってやる。
 いくらでも『化け物』になってやる。

 あいつが笑えるなら、俺はそれだけで闘える。
 その為なら…俺の体など……!

 俺はさらに、走るスピードを加速させた。



     ・     ・     ・



「『スウィートホーム』!!」
 男のスタンドが俺に殴りかかってくる。

 …!!
 速い!

 『マイティボンジャック』ですかさずガードするが、
 その反動で後方へと吹き飛ばされる。
 何てパワーとスピードだ。
 近距離パワーである俺の『マイティボンジャック』をさらに凌駕している。

「ちっ…『マイティボンジャック』!!」
 しかしどうしようも無い程の差の開きがあるわけではない。
 俺は奴に向かって正面から突っ込んでいく。

 あれだけのパワーとスピードなら、
 他に特殊能力は持っていない筈だ。
 この霧は別の誰かが発生させていると考えるのが妥当だろう。
 それなら、下手にややこしい能力を持った奴より、まだやり易いというものだ。

「くくっ、『スウィートホーム』…」
 男が嫌らしい笑みを浮かべる。
 瞬間、俺の足元から無数の剣が突き出てくる。

「何ぃ!!」
 反射的に飛びのいた。
 が、避け切れなかったらしく右足にぱっくりと傷が開く。

「まだまだいくんじゃじゃネーノ?」
 男のスタンドが腕を凪と、
 そこから青白い電撃が放たれる。

 避けられない。
 電撃に打たれ、俺は無様に床に転がる。

 何だ、こいつのスタンドは!?
 いくら何でも、能力が多すぎる。

438ブック:2004/02/28(土) 21:38

「死ぬんじゃネーノ?」
 今度は倒れた俺の上から剣が降ってきた。
 させるか。
 床を転がり寸前でかわす。
 それと同時に跳ね起き、男に突進する。

「『スウィートホーム』。」
 男のスタンドが俺を迎え撃つ。
 繰り出される拳。
 しかし俺はそれに構わず男の所へと走った。

 スタンドの拳が俺に命中。
 『マイティボンジャック』でそのダメージを先送りすることで、
 怯むのを防ぐ。
 射程距離に届いた。
 決める!

「おぉああぁ!!!!!」
 男に『マイティボンジャック』の拳を叩きつけた。
 男がそれで身を屈めた所に、さらに連続でラッシュをぶち込む。
 ぶっ飛ぶ男。
 よし、勝―――

「無駄なんじゃネーノ?」
 後ろからかけられる声。

 何?
 後ろから!?
 馬鹿な、こいつは今俺が…

 打ち出される拳。
 身を捩じらせ、なんとかかわす。
 拳が俺の目前を横切って、壁にぶつけられた。

「!?」
 そこで俺は、信じられない光景を目にした。
 あれだけのパワーとスピードを持つスタンドが、
 壁を叩いたというのに、
 壁には『傷一つついていない』。

「命拾いしたんじゃネーノ?
 ほんの僅かな間だけ。」
 男が俺を見下した目で言った。

「…分かったぜ、お前の能力が。」
 俺の言葉に、男が少し眉をひそめる。
「お前は俺に、幻覚を見せているんだ。
 この霧も、剣も、電撃も、スタンドも、
 全部まやかしだ。そうだろ?」
 それならば、この多彩な能力も、壁に傷がつかなかったのも説明できる。
 分かってしまえば何という事は無い。

「当たりなんじゃネーノ?半分だけ。」
 男がスタンドを俺に向かわせる。
 もうこんなもの、どうという事は無い。
 全部幻覚…

439ブック:2004/02/28(土) 22:02

「ぐばぁ!!!」
 男のスタンドの拳が俺の胸に突き刺さる。
 膝をつき、口からボタボタと血が流れる。

 何故だ!?
 幻覚という事は分かっていたはずだ。
 なのに、何で痛みが。
 そして口から流れる血は紛れもない本物。
 そういえば…幻覚と気付いたのに足の傷は残ったままだ。

「思い込みは実現する。」
 男がやおら喋りだした。
「ある高名なグラップラーの言葉なんじゃネーノ。
 強烈な思い込みは、実際に人の肉体に影響を及ぼすらしい。
 そして…俺の『スウィートホーム』の作り出す幻覚を見た以上、
 頭では幻覚だと考えていても、
 お前の体は本当におこっている事と思い込んでしまうんじゃネーノ。」
 男が俺に歩み寄る。

「偉そうに、べらべら自分の能力解説してんじゃねぇ!!!」
 俺は男に殴りかかった。
 男に拳を叩きこむ。
 だが…

「無駄なんじゃネーノ?」
 殴った筈の男の姿は消え、
 変わりに何人もの男の姿が俺の周囲を囲む。

 これも幻覚か…!
 それなら!

 俺は目を閉じた。
 どうだ。
 これなら幻覚も通用しまい。

「お前、馬鹿なんじゃネーノ。」
 俺の背筋にゾクリと鳥肌が立ち、
 本能が俺に危険を警告する。
 反射的にその場を動く。
 刹那、俺の腕に何かが突き立てられ、
 熱いという感覚がそこに生じた。

「…が!」
 思わず目を開き、壁に寄りかかる。
「外したか。勘のいい奴なんじゃネーノ。」
 男の声が、霧の中から響いた。

 少し考えれば分かる事だった。
 奴の本体は確実にここにいるのだ。
 目なんかつぶったら、格好の標的になるのは当然の事である。

 男のスタンドが、パンチを打ち下ろしてくる。
 俺はくぐもった声を上げ、地面に叩きつけられる。

 その衝撃で、お守り代わりに懐に忍ばせておいた、
 ギコミが生前買ってくれた手鏡が地面に転がり出た。

 …ギコミ。
 兄ちゃん、思ったより早くお前の所に行くことになりそうだ…

440ブック:2004/02/28(土) 22:02


「!!!!!」
 その時俺は手鏡を見て目を見開いた。
 霧が…映っていない!

「そうか…そういう事か。」
 俺は立ち上がった。
「ちょっとしつこ過ぎるんじゃネーノ。
 もう死んだ方がいいんじゃネーノ?」
 男がやれやれといった風に喋る。

「…死ぬのは手前だ。
 見つけたぜ、手前の本当の居場所を探る方法を!!!」
 俺は鏡を覗き込んだ。
 やはり霧は微塵も映っていない。
 当然だ。
 霧は幻覚。
 本当はそこには存在していない。
 壁と同じで、『思い込む』心を持たない鏡には幻覚は通用しない。
 そして…鏡は実際にそこにあるものを映す!

 鏡に男の姿が映し出された。
 見えた。
 お前の本体はここだ!!

「うおおおおおおおおおお!!!!!」
 俺は鏡が映し出した男の場所目掛けて突っ込んだ。
「な、何い!?何故…!」
 あからさまに狼狽した声を出す男。
 命乞いの時間すら与えねぇ。
 せめて生まれて来た事を後悔するんだな…!

「あっしゃあああああぁぁぁ!!!!!!!」
 男が居る筈の空間に連打を打ち込む。
 手に加わる確かな手応え。
 打撃音に混じって、男の悲鳴が聞こえてくる。
 どうやら、今度こそ本物のようだ。

 止めの一撃。
 男を壁に叩きつける。
「げぶっ……!!」
 男が壁からずり落ち、その場に倒れ伏した。
 それと共に、霧が掻き消えていく。

「…悪いなギコミ。
 どうやらまだ、お前の所には行ってやれないらしい。」
 俺は鏡を懐にしまった。

 …ありがとよ、ギコミ。
 助けてくれて。



「ギコえもん!ここに居たのかょぅ!!」
 廊下の向こうから、ぃょぅがやって来た。
「!!その傷は!」
 ぃょぅが俺を見て心配そうな顔をする。
「気にするな。掠り傷だ。」
 俺は煙草を咥えて火をつけた。
 煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

「こいつが霧を出してた奴だぜ。」
 俺は倒れている男を足で小突いた。
 どうやら、完全に絶命しているようだ。

「余計な時間を喰った…とっとと進むぜ。」
「…分かってるょぅ。」
 俺とぃょぅは、再び二人で屋敷の中を進んで行った。



     TO BE CONTINUED…

441( (´∀` )  ):2004/02/28(土) 23:06
「・・・一つ、教えてやろう。私が一番嫌いなタイプはな、
『ポテトチップスを食べた後、ハサミで横を切って中に残った塩や破片を舐める』様な奴なんだよ。
そう、『巨耳モナー』。君のようなうすっぺらく、意地汚い奴だ。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―VS『矢の男』


太陽が差し込む特別課。
ホコリまみれでろくに掃除もしないが
日当たりだけはよい、とても心地よい部屋。
そんな心地よい部屋で俺は・・・・
「・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたんですZO?巨耳モナー。」
「一昨日から顔がやつれはじめているが。」
「元気出さないTO、キャンパスにやられちゃいますZO?」
「ふむ。すぐに足元をすくわれるぞ。」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
「誰のせいだと・・思ってるんだ・・馬鹿野郎どもォォォォッ!!!」
堪忍袋の緒が切れた。もう許さねぇ、絶対ブチ殺す殺す殺す殺すコッロォォォスゥゥゥァァッ!!!
「野郎とは失礼な。私はこれでも女・・」
「黙れェェッ!テメェらが給料日前の俺のなけなしの金で寿司特上3人前も頼むから俺はァァァッ!!」
「またまた、ろくに仕事もしない給料泥棒の癖NI♪」
「『NI♪』じゃねェェェェッ!!!!もう許さねェッ!!『ジェノサイア』ァッ!殺っちまえェェェェッ!」
俺はノートパソコンを赤毛玉と危険少女に向けるが
中から出てきたのは眼を擦りながら欠伸をするジェノサイアだった
「何?眠いんだけど。」
「テメェェェェッ!!スタンドのクセに寝てんじゃねェェェェッ!!!」
「大体、友達を殴れるわけ無いじゃないねー。殺ちゃん。」
「うむ。そうだな。」
「テメェらいつの間にそんな仲良しこよしなんじゃァァァァァァッ!!」
「ヤレヤレ・・少しうるさいですNA・・。眠らせましょうKA・・・。」
ゴン!
うほっ!?なんだ?
なんだかだんだん意識が・・うすれて・・い・・k・・
「うおあああああああああああァッ!!!」
はぁ・・はぁ・・・。なんだ・・署のベッ・・・ドッ!?

442( (´∀` )  ):2004/02/28(土) 23:06
俺の前に見えたのはボロ雑巾の様にグダグダになって倒れているムックと
血を流してはいつくばっている殺ちゃんだった。
「巨・・み・・み・・コイツは・・ヤバ・・い・・気をつ・・け・・」
バタッ
殺ちゃんはそのまま倒れた。
「殺ちゃんッ!!!」
「ヤレヤレ・・。口ほどにも無い・・。」
するとドアの外から何者かが姿を現した。
・・・・何やら矢の様なものを持っていて、
ソイツの手は、あらかさまな血痕が残っていた。
「テメェがやったのか・・?」
「聞こえんな。」
「テメェがやったのかッつってんだよォォォォォォォッ!!」
即座に俺は『ジェノサイア』を叩き込む
が、次の瞬間ソイツはその場から消えていた。
「・・ヤレヤレ。君もスタンド使いなのか・・。ならば、消さなくてはな・・。」
「なッ・・・(いつの間に!?)」
「氏ね・・。」
ソイツの拳に俺はジェノサイアを叩き込んだ
「パワーなら負けないわよ。」
「ほほう・・。中々だな・・しかしッ!」
!?
なんだ!?
何が起こった・・?
なんだこの腹から出てる赤いのは?
何でジェノサイアが倒れてんだ?
アイツの手は生身だぞ?
パワーには自信があるジェノサイアがなんで?
そして俺の腹に突き刺さってるのは・・
アイツの・・・手ッ!?
「あ・・あァ・・うわァアアァァァァアアァァァアァァッッ!!!!」
「・・・・・・・・馬鹿が・・。」
!?何故だ?俺もまだ死んでない。殺ちゃんやムックも病院に駆け込めば治る傷だ。
なのに何故トドメを刺さずに逃げようとする・・?
「チック・・ショウ・・・待ち・・ッやがれェェェッ・・ケホッ。」
俺は這い蹲りながら奴の脚をつかんだ
「何故引き止める?」
「だっタら・・ナぜ・・逃げル・・ッ?ケホッ・・。」
「私は敗者に鞭打つ真似はしない。」
そういうとアイツは俺をふりほどき、外に出ようとした。
「待テ・・ェッ!!テメェ・・ぜってェ・・許さねェ・・ぞォッ!!ケホッ・・ゲホッ!ゲホォッ!!」
ヤベェ・・段々目の前がグルグル回ってッ!
「怖イ・・のカ・・ッ?」
そう言うとアイツの足が止まった
「『もしかしたら死んだフリをしてるだけかもしれない』ンな事ガ頭をヨぎっテしょうがなイのカい・・?」
「もう一度言ってみろ。」
「・・・・・・聞こエないナ・・。」
そう言った・・いや、言い終わる前だった
アイツの拳は俺の額の何ミリか上にあった
もう・・駄目か?
・・・・・・・?
しかし、アイツの拳は止まった。
「・・・・言ったはずだ。敗者に鞭打ちはしないと。」
「・・ッ!」
「それじゃあ、さらばだ。」
ソイツが去ろうとしたとき、『ある事』に俺は気づいた。

443( (´∀` )  ):2004/02/28(土) 23:06
「オ前・・『矢ノ男』だロ・・?」
『矢の男』は驚いて振り向いた。
「こっチに・・左遷さセられテから・・『特別課』に来タ・・殺人数の内ノ『数百件』ガ・・『刃物による殺害』だ・・
その刃物の形状ハ・・『矢』ト推測されタ・・ソれかラ・・世間じャ、あんタの事・・・『恐怖の通り魔、『矢の男』』ッて・・
噂さレてるゼ・・ェッ?」
俺はほとんど虫の息で話した。
「ほほう。面白い。」
「ソれ・・ナら・・何の為に『矢』を使ウか・・?今マで解決した事件の犯人の中ノスタンド使いで・・『矢の男』ニ矢で打たれタ日かラ・・
スタンドを持ってル・・ッテ・・奴らガ何人かいてナ・・つまり・・ケホッ!・・その『矢』ハ・・スタンド能力を目覚めさセる『矢』なんダ・・。」
「そこまでわかっているとはな・・。」
「そウ・・そこまで・・ワカっていル・・からコそ・・俺ハ・・ヴァハァッ!ゲホッ!」
俺は脚を震えさせながら気力のみで立ち上がり、手錠を差し出した
「テめェ・・を・・『逮捕する』・・んダぜ・・ェッ!!」
「まさかソレほどの傷で立ち上がれるとはな。感心する。」
「感心ダけ・・かァッ?・・」
「尊敬でも抱いて欲しいか?」
「馬鹿イうナ・・ゲホッ。」
「大体お前のスタンドはソコで伸びてて再起不能だろう。」
俺は脚の震えを止め、口に残った血をすべて吐き出し、落ちてたタオルで腹を思いっきり縛り、
『矢の男』に指をつきつけた
「ハ・・ァッ・・ハァッ・・『拳』・・だッ!!」
「フフッ・・面白いッ!ならば行くぞッ!」
奴がそう言うと俺は目をつぶった
「・・・?祈ってでもいるのか?」
「いいから来いよ。」
俺がいっちょまえに挑発すると『矢の男』はソレにのり突っ込んできた
「終わりだッ!氏ねェィッ!」
奴は拳をふりあげ、思いっきり落としたが、拳は床を叩き割っただけだった。
「・・!?」
『矢の男』が上を見上げると眼をつぶり、いつのまにか矢を奪っている俺が居た。
「ば・・かな・・。」
「コレが、『本庁の頭脳』と呼ばれた男だよォッ!」
俺が殴りかかると奴は上体を左に曲げ、回避しようとした
が、俺の拳は見事に『矢の男』の頬にHITしていた。
「左に曲げる事は予想できた。」
「クゥッ・・・・・。」
「・・・だが、『本庁の頭脳』の実力は、コレだけじゃア無いぞ。」
俺は奴に奴が持っていた矢を鼻の頭に突きつけた
「お前、『矢の男』じゃァ、無いだろ。」
←To Be Continued

444( (´∀` )  ):2004/02/28(土) 23:07
登場人物

――――――――――巨耳派+α――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

445( (´∀` )  ):2004/02/28(土) 23:07
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  ( ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

446:2004/02/29(日) 00:37

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その6」



 ギコの操る『レイラ』は、大きく『蒐集者』に斬りかかった。
「…ふむ。なかなかに速い」
 『蒐集者』の身体が、縦に真っ二つになる。
「大したものですね。貴方は、スタンド使いになって3ヶ月程度のはず」
 まるで磁石が引き寄せ合うように、『蒐集者』の両半身は結合した。
 床に垂れた血の跡だけが残る。
 
「『士、別れて三日なれば、即ち更に刮目して相い待つべし』だぜ、ゴルァァァァッ!!」
 ギコは、さらに剣撃を打ち込んだ。
 それを避けようともしない『蒐集者』。
「類稀なる格闘センスですね。しかし、少々雅さに欠けるか…」
 『蒐集者』はギコの心臓目掛けてバヨネットを突き出した。
「おっと!」
 それを刀で防ぐ『レイラ』。
 『蒐集者』は微笑んだ。
「とはいえ、接近戦では無類の力を誇ると言える。その能力も欲しい。貴方も、私のものにしましょうか…」
 ギコは大きく踏み込んだ。
 『蒐集者』の右脇に飛び込み、そのまま胴を両断する。
「…悪ィな。そのセリフは、女に何度も言われて飽きてるんだよ」

「単純な物理的破壊手段しか持たない貴方のスタンドには、一生かかっても私は倒せませんよ…?」
 瞬時に再生した『蒐集者』が、両手に持ったバヨネットをかざしてギコに躍り掛かった。
 そのまま、激しく刃を交える二人。
「ゴルァァァァァァ!!」
「徒労だと言っています!!」

 『蒐集者』は、ギコの攻撃をかわそうとしない。
 平気でその身に攻撃を受けている。
 ギコはバヨネットでの攻撃を防がなければならない分、大いに不利だ。
 俺は踏み出そうとして、思い留まった。
 まだだ。
 俺が、『アウト・オブ・エデン』で奴を見極めなければならない。
 ギコが散々言ったはずだ。
 奴を倒す手が見つかるまでは、何があっても絶対に出てくるなと…

 奴の『再生力』を破壊しなければ、『蒐集者』を殺す事はできない。
 しかし、『再生力』を破壊する事なんて本当に可能なのか…?
 自分から能力を限定するなと、俺の中の『殺人鬼』は言った。
 だから、視ろ。
 奴の再生パターンを。
 再生にかかるまでの時間を。
 そして、『再生力』そのものを…
 それが視えれば…!!

 『レイラ』の刀が、『蒐集者』の心臓を貫いた。
「ゴルァァァァァァァッ!!」
 『蒐集者』を刀で串刺しにしたまま、ギコと『レイラ』は突進した。
 そのまま、給水塔が立っていた壁面に『蒐集者』を磔にする。
「よし、今だ!!」
 ギコは叫んだ。
 俺にではない。
 俺は最後まで伏せて、奴の再生力を『破壊』する役目だ。

「バルッ!!」
 ギコの足元のコンクリートをブチ割って、つーが飛び出した。
 そのまま、『レイラ』に磔にされている『蒐集者』に突撃する。
 両手から突き出した10本の爪が、鈍く瞬いた。
 …『BRSP』。
 『BAOH』の武装現象の一つで、あらゆる物を断ち切る刃だ。

 つーは、『蒐集者』の身体に爪を突き立てた。
「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
 バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル!!」
 斬り、刺し、刻み、抉り…
 ズタズタになる『蒐集者』に、攻撃の手を緩めないつー。
 常人なら、あっという間に肉片だ。

「つー! しゃがめ!!」
 潜んでいたモララーが叫ぶ。
 その背後には、『アナザー・ワールド・エキストラ』のヴィジョンが浮かび上がっていた。
 つーと共に、ギコも飛び退いた。
 磔になっていた『蒐集者』の身体がドサリと崩れ落ちる。
 モララーは右手を『蒐集者』に向けて構えた。
「『次元の亀裂』ッ!!」

 裂けた次元の断層が、『蒐集者』の体を薙ぎ払った。
 それに飲み込まれた背後の壁が、給水塔の残骸が、破片すら残らず消滅していく。
 ロングコートの切れ端や、『次元の亀裂』に呑み込まれなかった肉片が宙を舞った。

「とどめだ! やれェッ!!」
 モララーは振り返り、空を見上げて叫ぶ。
 モララーの視線の先には、羽根を広げて滑空するレモナの姿があった。
 その右腕は巨大なライフルに変化している。
 その照準を、『蒐集者』のいた地点に合わせた。

447:2004/02/29(日) 00:39

「消えなさいッ!!」
 閃光が走る。
 銃口から放たれた光の束は、屋上の角に降り注いだ。
 その熱の塊は、『蒐集者』の肉片を吹き飛ばす。
 それだけではない。
 光の軌道上にある物体は、全て持っていかれた。
 給水塔周辺は、綺麗に削り取られてしまっている。
 屋上は、事実上半壊だ。

「やったモナか…?」
 俺は、潜んでいた陰から出てきた。
 と言うか、俺は何もしていない。
 俺は、素早く倒れているリナーに駆け寄った。
 今まで、リナーに駆け寄りたい気持ちを抑えて、ずっと『蒐集者』を視てきたのだ。
「大丈夫モナ…?」
 返事はない。
 服は血で汚れていた。
 今は気を失っているようだが、息はある。

 …よかった。
 俺は安堵のため息をついた。
 リナーを失ったら、俺は…

「良かったですねぇ。愛しの彼女が無事で…」
 丁寧で嘲るような独特の口調が、夜の闇に響いた。

「!!」
 俺達は、同時に反応した。
 場に、ノイズが集まる。
 それは一点に集中し、たちまちにして人の形を成した。

「まさか、波状攻撃とは。仲の悪いあなた方にすれば上出来ですね…」
 『蒐集者』は、髪を掻き上げながら言った。
 その体は、完全に再生している。

「テメェの体は… どうなってやがるんだ…?」
 ギコは、『蒐集者』を見据えて言った。
「『アヴェ・マリア』及び私の体には、2種類の再生力が働いています。
 1つは、生物的再生。特に説明は不要ですね。
 もう1つは、時間の逆行。致命傷を受けた時、私の体に作用する時間だけが全快時まで逆行する。
 そういうスタンド能力を、この身に同化させました。
 …これは、再生力と言うより呪縛に近い」

 時間の逆転?
 つまり、どれだけ『蒐集者』を殺しても、『蒐集者』は全快時に戻るって事か…!?

「…だから、たとえ私の体を素粒子にまで分解したとしても、私を殺す事はできない」
 『蒐集者』は口の端を持ち上げて笑った。

「てめェ…!!」
 ギコは唇を噛んで、俺を横目で見た。
 ――奴の再生力は『破壊』できないのか?
 そういう眼だ。
 その答えは、不可能。
 呪縛とはよく言ったものだ。
 厳密に言えば、『蒐集者』の身体に作用している『それ』は再生力ではない。

「そういえば…最近手に入れた力で、このようなものがあります」
 『蒐集者』は、右腕を目線の高さまで上げた。
 その手の甲から、刃が突き出る。
 刃は弧を描き、肘のあたりまでの長さがあった。
 あれには見覚えが…

「そう。『BAOH』の武装現象の一つ、『BRSP』のオーソドックスな形です。
 そこのつーは、爪の部分に刃を移動させましたがね」

「お前、『BAOH』を…!」
 モララーは口を開いた。
「ええ。先行量産した実験体を何人か取り込みました。なかなかに優れた力だ。
 さて、説明は以上。それでは、そろそろ――」
 『蒐集者』は両手をプラプラさせる。
「――こちらから行くとしましょうか」

「!!」
 俺達は、それぞれがそれぞれの構えを取った。
 『蒐集者』の体が、一瞬にしてコンクリートの床に沈み込む。

 ――どこだッ!?
 俺達は周囲を見回した。
 『アウト・オブ・エデン』を展開させて…!

「グァァァァァァァッ!!」
 つーの悲鳴が上がった。
 同時に、つーの足が旋回しながら吹っ飛ぶ。
 その足元の床から、『蒐集者』の腕が突き出ていた。
 腕から張り出した刃は、つーの血で濡れている。
 その鋭利な足の切断面が、たちまちにして炎に包まれた。
 つーの身体が、一瞬で火だるまになる。

「このッ…!! 『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」
 モララーは、つーの足元に向かって両腕を構えた。
「それで、どこへ向かって攻撃する気なのかな…?」
 その瞬間、『蒐集者』の姿はモララーの背後にいた。

「なッ…!!」
 モララーは飛び退きつつ、放とうとしていた『次元の亀裂』の向きを変えた。
 そのまま、背後の『蒐集者』に向けて放つ。
 同時に、『BRSP』の刃がモララーの肩の肉を大きく抉り取った。
 『蒐集者』の肩から上は、『次元の亀裂』に削り取られた。
 この攻撃が無かったら、モララーは大きく踏み込んでいた『蒐集者』に寸断されていただろう。

 しかし、『蒐集者』の攻撃は止まらない。
 必死にかわすモララーに、刃を振るう『蒐集者』。

448:2004/02/29(日) 00:40

「このッ!!」
 『蒐集者』にギコが斬りかかった。
 その瞬間、『レイラ』の刀が輪切りになる。
「なッ…!」

「友の危機の為なら、士道に背くといえど背後から斬りかかる、か。
 そういう覚悟も、悪くはありませんねぇ…」
 『蒐集者』は、そのままギコの腹に蹴りを見舞った。
「ごはっ…!!」
 血を吐きながら吹き飛ぶギコ。
 …まずい!
 肋骨を何本か持ってかれただけじゃなく、内臓にも損傷が…

 行くか…!?
 今、『蒐集者』に斬りかかるか?
 俺は、倒れているリナーに視線を移した。
 いや。俺が出来る事は、『視る』事だ。
 ギコもモララーも、自分がどれだけやられても手を出すなと言っていた。
 奴の再生力を『破壊』できる可能性があるのは、俺だけだからだ。
 その俺が殺られれば、奴を倒せる可能性は無くなる。
 今『蒐集者』に攻撃を仕掛けるのは、ギコとモララーの信頼をも裏切る行為だ…!!
 俺は歯軋りをした。
 視るんだ。
 奴の全てを…!

「このォッ!!」
 モララーが、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を突き出した。
「おっと。無軌道に拳を振り回すのはよくない…」
 『蒐集者』はモララーの首を掴むと、コンクリートの床に叩きつけた。
 床面を突き破り、階下に叩き落されるモララーの体。
 それと同時に、『蒐集者』の身体に無数の穴が空いた。
 頭上から、削り取るような銃声が響いている。
「『Re-Monar』か…」
 『蒐集者』は、20mほど上にいるレモナを見上げた。

「どこを… 見てるッ!!」
 コンクリートをぶち破って、階下に落とされたはずのモララーが飛び出した。
「喰らえッ!! 『次元の亀裂』…」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』の腕を構えるモララーに、『蒐集者』は素早く駆け寄った。
 その胴部に、『次元の亀裂』が直撃する。
 同時に、『蒐集者』は跳んだ。
 上半身のほとんどは吹き飛び、残った頭部が転がり落ちる。
「…四肢のどれかが残れば、特に問題はありませんね」
 下半身だけになった『蒐集者』の肉体が、モララーに突き上げるような蹴りを喰らわせる。
「がっ…!!」
 モララーの身体がボールのように飛んだ。
 その軌道の先にはレモナの姿がある。
 『蒐集者』は、レモナ目掛けてモララーの体を蹴り飛ばしたのだ。

「このッ…!」
 レモナは、モララーの体を受け止めた。
 この高さで落ちれば、モララーといえども命が危ない。

 レモナは、モララーの体を抱えたまま少し高度を落とした。
「奴はどこに…?」
 そう言えば、『蒐集者』の姿がどこにも見当たらない…!!
 その瞬間、抱えていたモララーの体から、『蒐集者』の腕が突き出した。
 『BRSP』の刃が、レモナの胸に突き刺さる。
「な…!!」
 そのまま、モララーの体から『蒐集者』が這い出てくる。

 …モララーを蹴り飛ばした時、その体の中に潜り込んだのだ。
 そして、モララーの体内で再生した…!!

 さらに、『蒐集者』の刃はレモナの胸を抉った。
 レモナから離れたモララーの身体が、落下していく。
「チィッ!!」
 俺は、落下地点に走り出した。
 幸い、10mほどの距離だ。

「この…!!」
 レモナの振るった拳を受け止め、そのまま捻じ切る『蒐集者』。
「くッ…!!」
 レモナは間合いを開こうとした。
 その瞬間、『蒐集者』はレモナの顔面に回し蹴りを叩き込む。
「…落ちろ、失敗作。貴様では到底、奴に届かなかった」
 そのまま、レモナは校庭の方向へブッ飛んでいった。


 ――俺は、馬鹿みたいに突っ立っていた。
 周囲には、ギコやモララー、つー、しぃ、そしてリナーが倒れている。
 幸い、みんな息がある。
 …いや、幸いでも何でもない。
 奴が止めを刺さない理由は一つしかないからだ。

 レモナを蹴り飛ばした『蒐集者』は、そのまま俺の眼前に着地した。
「で、視えましたか…?」
 笑みを浮かべながら、『蒐集者』は言った。
 こいつ、俺の役割まで理解している…

449:2004/02/29(日) 00:42

 …視えなかった。
 こいつを殺す手段は、1つとして視えなかった。
 なら、仕方がない。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 以前、『蒐集者』の身体をズタズタに寸断した事がある。
 もちろん、俺の中の『殺人鬼』の仕業だ。
 ならば、その時の記憶を視る。
 俺の身体に残った記憶を。
 それをトレースして、今の俺の身体に展開すれば…!

「やめろ… 奴とは戦うな…」
 リナーの声。
 俺は振り向いた。
 胸を抑えて立ち上がっているリナー。
 しかし、その足はフラついている。

「おやおや、健気な事だ…」
 『蒐集者』は肩をすくめた。
「もう長くない体を引き摺って、私を止める気ですか…?」

「長くないだと…? どういう事だッ!!」
 俺は『蒐集者』を睨みつけた。

「特に婉曲的な意味は無い。理性を保てるのは、あと数ヶ月という意味ですよ」
 『蒐集者』は涼しげに口を開く。
「彼女は、吸血鬼の血を長年に渡って抑えてきました。その反動で、大きくガタが来ている。
 もう、彼女は普通の吸血鬼にもなれない。その末は、理性を失った化物です」

「リ、リナー…?」
 俺は、振り返ってリナーを見た。
 無言で視線を落とすリナー。

 『蒐集者』は、ため息をついた。
「吸血鬼の血を抑えてきた代償は大きいんですよ。
 その歪みが、『矢の男』との戦いで受けた傷を修復する際にピークを迎えた。
 しかも、その攻撃は貴方をかばって受けたものだ!!」
 『蒐集者』は、心底楽しそうに俺の顔を見た。
「つまり、貴方にも責任がある… いや!
 貴方のせいで、『異端者』は人間としての道を踏み外したと言える…!」

 『蒐集者』の言葉が、まるで呪詛のように俺の頭に響いた。
 …その通りだ。
 俺をかばわなければ、ここまで酷い事には…
 
「お前は… 誰に対しても同じような事を言うな…」
 リナーは息も絶え絶えに言った。
「気にするな、モナー。どちらにしろ、いつかはこうなったんだ」

 俺は、振り返ってリナーの顔を見た。
 リナーは微笑む。
「私は君を助けた。その事が、無為に生き、死ぬだけだった私の人生に、大きな意味をもたらしたんだ。
 君の命を救えた。これで、私の人生は無駄じゃなかった…」

「過去形で語るなァッ!!」
 俺は、思わず叫んだ。
 …こういう物言いが、俺は許せないんだ。
「なんで、終わりを前提にした物言いしかできないんだッ!
 自分で自分の人生を卑下して、自分でピリオドを打って… そんな悲しい事、頼むから止めてくれ」
 俺は、『蒐集者』に視線を戻した。

 奴は不愉快な笑みを浮かている。
「あと1つ、貴方に伝えておくべき事があります。
 どうやら貴方は、『異端者』に『エンジェル・ダスト』があったからこそ吸血鬼化を免れていたと思い込んでいる。
 しかし、それは間違った認識です。
 『エンジェル・ダスト』が無かったら、彼女はそもそも吸血鬼にはなっていない。なぜなら――」

450:2004/02/29(日) 00:43

 ――これは聞いてはいけない。
 容易に想像できたからこそ、俺は意図的に意識しなかった。
 そうでないと、リナーは今まで何を守る為に戦ってきたのか分からない。
 道化もいいところだ。
 彼女は、自身に残酷な運命を与えた奴等に尽くしてきた事になる。
 本当に無為な人生だ。
 彼女は、『使命』だけを支えに生き抜いてきた。
 これ以上、彼女から信じるものを奪うのは――

「――『エンジェル・ダスト』を持っていたからこそ、『異端者』は吸血鬼化の被検体になったんです」
 『蒐集者』は、あっさりと言った。
「彼女は、幼少時に実験的に吸血鬼の血を混ぜられました。
 今から15年前、『教会』による吸血鬼化技術の研究のためにね。
 彼女が選ばれた理由は、『エンジェル・ダスト』の存在の一点のみ」

 被検体。
 リナーにそんな辛い人生を押し付けた根源が、吸血鬼化技術の研究…
 そんなカスみたいな事のために、リナーは血に塗れた十字架を背負う事になった。
 そんな事のために、リナーは自分を追い詰めて…

 俺は唇を噛んだ。
 身を乗り出す『蒐集者』。
 手を伸ばせば届くくらいまで、顔を近づけてくる。
 そして、俺の表情を可笑しそうに眺めてきた。
「さて、誰だと思います…?
 『教会』において、吸血鬼化の実験を行ったのは誰だと思います?」

 まさか…!!

「被検体に彼女を選んだのは、誰だと思います?」

 じぃを、つーをモルモットにしただけじゃなく…

「彼女の身体に、吸血鬼の血を注いだのは誰だと思います?」

 それより、15年も前に…

「貴方の愛しい人の運命を血で彩ったのは、誰だと思います?」

 こいつが――

 まるで、誇りを持っているように。
 重要な事を成し遂げた勝利者の顔で、奴は告げた。
「――そう。私です」


 音を立てて弾けた。
 俺の脳内で、感情を司るモノが。

(――分かったか)

 頭の中が煮えたぎる。
 目の前の対象に対する憎悪で、視界が黒く染まる。

(――理解したら、殺せ。)

 こいつは殺す。
 絶対に俺の手で殺す。
 そもそも、俺はこいつを殺す為に――

「自らの中の化物に悩む少年、その愛した女もまた化物だった…!!
 寄り添い、傷を舐め合おうにも、時間はそれすらも許してくれない!!
 悲劇だ! なんて悲劇だ! ああ… なんて、なんて悲劇!」
 『蒐集者』は顔に手を当てると、身を反らして笑った。

「面白い! 実に創作意欲を掻き立てる素材だ!!
 全て終わった後、一筆取ってみるのも悪くはない!!」
 大声で笑い続ける『蒐集者』の声が、耳に響く。

「――笑うな。耳障りだ」
 俺は、バヨネットを腰の高さに構えた。
「見せてやるよ――」

「ほう、面白い! さらに、この私に娯楽を与えてくれるとは!!」
 『蒐集者』は笑みを浮かべたまま叫んだ。

 バヨネットを軽く回転させて逆手に持つ俺。
「――全てを捨てた人間に、どれだけの事が出来るのかをな」


(奴は、もはや人ではない。生物の枠からも逸脱した)
 俺は耐えられない。
 『蒐集者』という奴が、この世に存在している事が耐えられない。

 だからお前は――
(故に貴様は――)
 ――絶対にブッ殺す!
(――冥府に還れ)

「−mental sketch modified−…!!」
 俺は『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 視ろ。
 全てを視ろ。
 俺の身体に残った記憶を。
 殺す為に存在する、『殺人鬼』の全てを。
 それを、俺の身体で再現しろ…!!

 ――心象のは■■ろ■が■■ら
 ――■■びの■るはく■■■■まり
 ――のばらのやぶや腐植■■地
 ――い■め■■いちめんの諂曲模様

 奴を視る。
 筋肉、血管、骨格、内臓…
 その全てを、俺の脳内に構築する。
 壊し方を。
 そのもっとも効率的な壊し方を。

 ――いかりのにが■また青■
 ――四月の気■のひかり■■を
 ――唾し はぎ■りゆき■する
 ――お■はひとりの修羅な■だ

 人体破壊。
 組織断裂。
 『再生力』など、所詮『ソフト』に過ぎない。
 『ハード』ごと破壊すれば終わり。
 視えた物を破壊できるならば――
 『概念』すら例外ではない。

 ――(まこ■のことばはここになく修羅のなみだはつちにふ■)

451:2004/02/29(日) 00:45

 奴に走り寄る必要すらない。
 奴に至る空間を全て『破壊』する。
 収束した空間が、俺の身体を瞬時に移動させた。
 そのまま奴の眼前へ…!

「『アヴェ・マリア』!!」
 ――遅すぎる。
 そんなものを今さら出したところで、切り刻む回数が増えるだけだ。

 奴の身体に、刃を這わせる。
 ひたすらに刻み込む。
 その肉を削り、悉くを破壊する。
 身体を寸断するのではなく――
 奴を、生物たらしめている根源を『破壊』する。
 糖・脂肪酸・アミノ酸・ヌクレオチド。
 さらに、塩基の概念――
 アデニン・グアニン・シトシン・ウラシル・チミン。
 その全てを『破壊』。
 奴の身体は微塵と化し、虚空に飛び散った。

 ――解体終了。


「やはり、時の楔までは断ち切れないか…」
 俺は呟いた。

 微塵と化した奴の身体が、次々に再生していく。
 生物的には、奴の身体を完全に『破壊』したと言える。
 だが…

「お前を殺す為には、時間を『破壊』する必要がある訳だな…」
 俺は、『蒐集者』に視線を移した。
 時間など、どれだけのキャパシティがあったとしても『破壊』できるわけがない。
 この宇宙が内包する無限の時間を『破壊』する事など、神であっても不可能だ。
 
 完全に再生される『蒐集者』の肉体。
 その体は震えていた。
「何という事だ…」
 そして、ゆっくりとこっちを向く。
 その顔は、歓喜に溢れていた。

「は… ははは… あははははははははははははは!!」
 『蒐集者』は、身体を反り返らせて笑った。
「ははははははははははははははははははは!!
 まさか、『これ』をもう一度見る事になるとは…
 何と… 何と言う日なんだ今日は!!
 素晴らしい! なんて素晴らしい!!
 もう、諦めていたと言うのに! ははははははははは!!」

 『蒐集者』は、自らの顔面を右手で掴んだ。
 その握力で、頭蓋がベキベキと音を立てる。
「一度目は様子見だった。二度目は、見る影も無いものを見せられた。
 次に、紛いモノを見た。三番目は… 本物だったんだよ!!
 分かるか!? これが!! 
 あははははははははははははははははははははははは!!」

 そのまま、腕を掻き下ろす『蒐集者』。
 その顔に残った爪跡から血が噴き出した。
 足元の床にミシミシとヒビが入る。
「はははははははははははははははははははは!!
 殺すか? 今殺すか?
 いや、駄目だ駄目だ駄目だ! ここでは駄目だ!
 こんな場所では冒涜に過ぎない!!
 もっと、もっと、もっっっっっっっっっっっっっっっと素敵な場所がいい!!
 どこだ!? どこにする!? ランデブーはどこがいい!?
 あの教室が相応しいか? いや、それもいいが、やはり月光の下がいい!!」

 『蒐集者』の狂声はピタリと止まった。
 眼だけで俺の方を見る。
「…っと、失礼。多少、取り乱してしまいましたね。少しやるべき事ができました」
 『蒐集者』はロングコートを翻した。
「では、また今度お会いしましょう…」

 そのまま、『蒐集者』の姿は消えてしまった。
 俺は、その場に立ち尽くす。
 奴の… 『蒐集者』の立っていた場所をただ見つめながら。

 ――弱いからこそ、強さを求める。
 奴は、『最強』でなければならない。
 『最強』のスタンド使いとして造られた以上、奴は『最強』でなければならないのだ。
 自らに『最強』を課したというような、生易しいものではない。
 『最強』を求めて、追い求めて、追い求め続けて…
 そして、壊れてしまった。
 狂ってもなお、妄執だけで『最強』を求めている。

 奴も、運命に全てを狂わされた男なのだ。
 運命は、奴に『最強』である事を求めた。
 奴は… 『アヴェ・マリア』は、器だけは広かった。
 その器を、余りにも多くのもので満たしたのだ。
 そして、多くのものがこぼれ出ててしまった。

 ――『強くありたい』。
 本来ならまっとうであるはずの望みが、奴を完全に破壊してしまった。
 『『最強』とは、『永遠』を内包している』と、かつてあの男は言った。
 そうだとしたら、奴の存在は永遠に続く苦痛に過ぎない。
 お互い、失ったものは大きいな――。

 そんな事を、俺は… いや、俺の中の『殺人鬼』は考えていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

452>>452:2004/02/29(日) 01:07



              『隕石』と『矢』と突然の出来事



・・・・・・。

まだ少し頭が痛い。12月の夜風は冷たい。
何だったんだろう。誰だったんだろう。さっき僕を殴った――おそらく男――は。

何があったか。
急に肉まんが食べたくなったので、近所のコンビニへ行く途中、一人の男とすれ違った。
あたりは真っ暗。僕とそいつ以外は誰もいない。

今思うと、不気味な奴だったな。
黒い靴、黒いズボン、黒い上着、黒い手袋、黒い帽子。
夜の闇と完全に同化しているという感じだ。
そして何より、はっきりと見えなかった顔。
あれは本当に暗いから見えなかったのだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・まさか。

さて、僕はそいつとすれ違って半歩歩いたところで、そいつに後頭部をおもいきり殴られた。
何か・・・手にすっぽり収まるサイズの石だった。それだけは確認できた。

そのとき確信した。こいつ、知ってるぞ。
最近この辺で『鈍器のようなもの』で殴られて殺されるという事件が多発している。
多分、その犯人だな。

・・・そしてそのまま、意識を失ってしまった。


しばらくして目が覚めて、今に至る。

そいつのことも気になるが、僕の考え方は『過ぎた疑問より目先の疑問』である。


文字通り僕の『目先』にいる変なチビ共・・・一体何なんだ?

               ヾソゞヾヾソゞヾノ
               (゚∀゚Я(゚∀゚Яリ
              m_/( m_/( m_/)
                _| _|  _| _|
            ∧_∧
           (   ;´)
           (    )
           | | |
           (_(__)

453>>452:2004/02/29(日) 01:08


ちょうどそこへ、誰かがむこうから歩いてきた。
チビ共はそいつのほうに向き直って凝視しているようだ。
手には・・・弓と矢。ああ、こいつ・・・知ってるぞ。
最近この辺で『矢』で射抜かれて殺されるという事件が多発している。
多分、その犯人だな。

・・・・・・逃げよう・・・・・・。

きびすを返して駆け出そうとした。
しかし、20mほど前方にいたそいつが僕のすぐ後ろに立っているのには驚いた。


「君は・・・すでに『スタンド』を使えるのか。」

・・・・・・???

理解を超えた出来事に何がなんだか分からない僕のことなどお構いなしに、そいつは勝手にしゃべりだした。

「その様子だと、発現したばかりのようだな・・・。
 君・・・ついさっき、隕石で殴られたんだな・・・?」


「アア、ソノトオリ。 ツイサッキ、イシデ ナグラレタ!」
「ツーカ、ハヤク ニゲタイヨ-!」

今度は何だ?さっきのチビ共がまるで電子音のような声を上げた。
というか、僕が今思ったことをそのまま言いやがった。

「・・・。チッ、一足遅かったか・・・。」

・・・・・・なんだ、こいつ?

「・・・・・・君を射抜く気は無い。」

「「ハァ?」」

今度は声をそろえて言われた。
こいつら、僕「コイツラ、ボクガ イイタイ コトガ ワカルンダロウカ?」 ・・・・・・。

どうやらそのまんま正解だったらしい。

・・・はっ!そうだ、呆気にとられてすっかり忘れていた。
「ハヤク ニゲナキャ!」
そう、その通り。早く逃げ・・・

「まあ、そう急くなよ。話だけでも聞いてくれないか?」
また背後に・・・。心底さっさと逃げ出したいが、賢い奴は諦めて話を聞くんだろうな・・・。

454>>452:2004/02/29(日) 01:10


「まず、君の隣にいるおしゃべりなチビ共は、スタンドと呼ばれているものだ。
 スタンドというのは・・・」




そんなわけで、僕は近所の空き地で約40分間、彼の話を聞かされた。
スタンドのこと、彼の正体、『矢』のこと、『隕石』のこと、僕を殴った奴――否、隕石の男――のこと。
話をまとめよう。

彼の名はポリゴンモナー。
この町に隠れ家があるらしい。
そこには彼に協力する者たちが数人いて、いずれもスタンド使いらしい。
彼のスタンドの名前はヒマリア。近距離戦闘を得意とするらしいが、それ以上は教えてくれなかった。
「自分ひとりでヒマリアの能力を見抜ければ教えてあげよう。」とのこと。

僕のスタンドは、特殊攻撃型の群体型に分類されるらしい。
能力は、スタンドが通った後の空間を削り取ること。なぜ分かったのかというと、
ここに来る際、空き地の柵を消し去ってしまったからである。
そして、独立した意思を持っている。

『隕石の男』は、一人歩きをしているスタンドそのものであるらしい。
即ち、厳密には『男』ではない。
その能力はポリゴンモナーにも分からないらしいが、少なくとも『消し去らねばならぬ者』だという。

ポリゴンモナーが言うには、『矢』と『隕石』は同じ効果があり、『矢』は『隕石』から造ったもの。
『隕石』は何万年も前に北極に落ちてきたものらしい。

目的は分からないものの、『隕石の男』は『隕石』を使ってスタンド使いを増やしている。
当然、死ぬ者も多く出てくる。
ポリゴンモナーは『隕石の男』を止めるために『矢』を使ってスタンド使いを増やしている。
やはり、死ぬ者も多く出てくる。
そして、彼は目的を達成した後、自らの命を絶つつもりらしい・・・。

殺人者を倒すために、殺人者と手を組むか。

ただの一般市民だった僕に、突然大きな課題がのしかかってきた。
彼は協力を強制する気は無いらしいが、僕は悪人を放っとける奴じゃない。

僕は、彼に協力することにした。

とりあえず帰ってコタツに入り、肉まんを食べながらモナーは決意した。

455ブック:2004/02/29(日) 18:15
      救い無き世界
      第三十四話・罅 〜その五〜


「何人残ったの!!」
 服についた血を払う。
 一面には、何体もの屍が転がっていた。
「半分取られました。思ったよりやる。」
 タカラギコが、空になったマガジンを銃から落とす。

「撃てえぇ!!」
 そこに向かって新たに飛んでくる銃弾。
 『キングスナイト』で防御。
 急いで遮蔽物に身を隠す。
「次から次へと…!」
 これで何人目だろうか。
 兵士の中には背後にスタンドのビジョンを浮かべている奴もいる。
 流石に『大日本ブレイク党』の参謀のいるアジト。
 警備も並みではないという事か。

「!!!!!!!」
 と、いきなり私達の背後の壁が爆散した。
 驚いて後ろを振り返と、
 煙の中から一人の男が姿を現す。

「!でぃ君!?何でここに!?」
 私は自分の目を疑った。
 何故彼が、この場所に来ているのだ?
 彼は確かSSSに…

 でぃ君は、戸惑う私に脇目も振らず、
 無造作に弾幕の中に突っ込んだ。
 彼の異形と化した脚が、尋常ならざる脚力を生み、
 兵士たちの頭上を一瞬で飛び去っていく。

 そこに向かって、でぃ君の背後から何発もの銃弾が撃ち込まれ、
 彼の背中にいくつもの穴が穿たれる。
 しかし、彼はそんな事に一切意を解さない様子で、
 瞬く間に過ぎ去って行った。

「…まさか、タカラギコ!」
 私はタカラギコに目を向けた。
「ええ。私が彼に、この場所を教えました。」
 タカラギコが頷く。
「!!何で…!!!」
 私は戦闘中にも構わず、タカラギコに詰め寄った。
 何故そんな事を。
 みぃちゃんは、マニーとのことを彼に知られたくないことなど、
 簡単に予想出来るのに…!

「…過去を隠し、負い目を感じながら関係を続けても、
 碌な事にはなりませんよ。
 それに―――」
 タカラギコは言葉を続けた。
「―――見てみたい。
 タガの外れた彼が、どこまでの事をやらかすのかを。」
 …!!
 まさか、タカラギコはでぃ君の隠された力を試すために、
 ここに来るようにけしかけて…!

 気付いた時には私はタカラギコの頬を打っていた。
「…あなた、最低ね……!」
 吐き捨てるように言う。
「…それは失礼。」
 タカラギコが打たれた頬に手を当てた。

456ブック:2004/02/29(日) 18:15

「…これも上の命令?」
 私はタカラギコに尋ねた。
「いえ、違います。
 単なる個人的興味ですよ。
 それより、今はこんな事をしている場合じゃないでしょう。」
 タカラギコは目を向こうにやった。
 そこからは以前銃弾が飛び交ってきている。

「…話は後で、じっくりと聞かせてもらうわよ。」
 私はタカラギコから目を逸らし、スタンドを発動させる。
「まあ、今はここから生きて帰る事に専念しましょう。」
 タカラギコが拳銃を兵士達に向かって構えた。



     ・     ・     ・



 走りながら、被弾した箇所を痛みで確認する。
 右腕に三発。うち一発は掠った程度。
 左腕に二発。
 右脚に四発。
 左脚に三発。
 これらは特に問題が無いと言えるだろう。
 実際、すでに殆ど再生しかけている。

 問題は…
 背中への七発。
 これは大きい。
 内臓に傷がいったのか、口からは血が溢れてくる。
 スタンド化出来ない為、回復速度も遅い。

 だが、まだ走れる。
 まだ俺は闘える。
 こんな痛み、気にしてなどいられるか。

 俺はひたすらに走った。
 この屋敷に入った時、
 兵士の一人を脅して、みぃらしき人物が最上階のマニーの部屋に居る事は
 聞いていた。
 確かここは四階建てくらいだったから、
 俺の判断が正しければここがその最上階の筈だ。
 ぃょぅ達の方に戦力は投入されているらしく、
 特に邪魔してくる奴も出てこない。
 待ってろ、みぃ。
 今、行くぞ…!


 突き当たりの一際豪華な扉の前で、俺は足を止めた。
 …ここだ。
 間違い無い。
 あいつは、この中にいる。

 確証など無い。
 しかし俺は、部屋の中から引力のようなものを、確かに感じ取っていた。

 スタンド化させた脚で、ドアを蹴り破る。
 四散するドア。
 その向こうに、マニーと、拘束されたみぃの姿があった。

457ブック:2004/02/29(日) 18:16

「ドアくらい、もう少し丁寧に開けて入ってきてはどうかね?
 勇ましき騎士殿?」
 マニーが椅子に座ったまま俺に語りかける。

「!!でぃさん!何で…!」
 みぃが驚いた表情で俺を見る。
 良かった。
 どうやら、無事のようだ。

 俺はそれを確認すると、一気にマニーとの距離を詰めるべく跳躍した。
 手前がみぃとどういう関係かは知らねぇ。
 だが、みぃは返してもらう!

「『ドルアーガ』。」
 座ったままのマニーの背後から、
 奴のスタンドのビジョンが姿を現す。

「!!!!!!!!!!」
 その瞬間、地面がいきなりせり上がり、
 俺の進行を阻むように壁を形成した。

「―――!!」
 腕をスタンド化させ、その壁に拳を打ち込む。
 たちまち砕ける壁。
 小細工を。
 だが、このまま一気に…

 その砕けた壁の向こうから、
 今度は地面が俺に向かって、隆起してきた。
 その先端が俺の腹部に突き刺さり、その勢いのまま吹き飛ばされる。
 地面の隆起の速度+俺の突っ込む速度でのカウンター。
 胃液が、血と混じって腹から逆流し、俺の口から床に滴り落ちた。
 まずい。
 今ので、肋を何本かやったか…!

「ッ!」
 しかし怯んでいる暇など無い。
 もう一度地面を蹴る。
 しかし今度はマニーに向かって一直線に飛ぶのではなく、
 横の壁に向かって。

 SSSでの兵士との戦闘のときのように、
 壁、床、天井、あらゆる面を足場に跳ね回る。
 正面からが無理なら、スピードで翻弄して…

「――ッ!」
 天井に脚をつけようとした刹那、
 天井の面が湾曲し、無数の腕を形作った。
 その腕の一本一本が、俺の体を掴んで天井に貼り付けにする。
 こいつ、
 床だけじゃなく、天井の面まで…!

 と、急に腕が俺の体から手を放した。
 いや…放したというよりは、床に向かって投げつけた。
 その、床が変形して、棘の様にせり出している部分目掛けて。

458ブック:2004/02/29(日) 18:17

「―――!!!!!」
 棘の先端が、俺の腹を貫いた。
 それを待ちかねていたかのように、
 次々と床の面が槍のように形を変え、
 俺の両腕、両足を串刺しにしていく。

「いやあああああああああああ!!!」
 みぃが悲鳴を上げるのが聞こえる。
 しかし、近くで叫んでいる筈なのに、何故かとても遠く感じる。

 と、棘が元の床の形に戻り、
 俺の体が地面に落ちた。

 困った…
 どうやら再生が追いつかないみたいだ。
 口から、鼻から、傷口から、とめど無く血が流れ出ていくのが分かる。

 …それでも、俺は、まだ、生きてる……
 あいつの為に、闘える…

 …これは多分、悪いマニーをやっつけようとか、
 困ってるみぃを助けようとか、そういう正義感じゃない。
 それに、そんな正義とやらが、今まで俺を助けてくれた事などなかった。
 そんなものに縋り付く程、俺は善人じゃない。
 これは…
 これは単なる俺の我侭だ。
 ただ…もう一度だけ……あいつが笑った顔が見れるのなら……!

 俺はよろめきながらも立ち上がった。
 既に体は満身創痍。
 それに比べて、マニーは椅子から動いてすらいない。

 …闘える。
 …これしきの傷など……!

 しかしそんな俺の思いも虚しく、
 マニーの奴が少し、俺の足元の床の形を変形させただけで、
 俺は再び地面に這いつくばった。
 それでも、俺はまた立ち上がる。
 足元には血の水溜りができている。
 俺の体は、すでに痛みすら感じなくなっていた。

 ―――頭の中で不吉の鐘がけたたましく鳴り響いている

                はずなのに


                        今は聞こえない―――



     TO BE CONTINUED…

459ブック:2004/03/01(月) 18:35
      救い無き世界
      第三十五話・罅 〜その六〜


 血を全身から垂れ流しながらも、なお立ち上がる俺を見て、
 マニーが僅かに驚いたような顔を見せた。
「凄まじいまでの生命力、…いや、精神力だな。
 指一本動かすことすら、想像を絶する苦痛だろうに。」
 マニーが感嘆しながら言う。

「もう、やめて下さい!
 私はどうなっても構いません!
 だから、でぃさんだけは…!」
 みぃがマニーに叫んだ。
「貴様が誰の所有物か忘れたのかぁ!!!」
 マニーはそんなみぃを、足で蹴り飛ばした。

(てめ…!)
 許さない。
 マニーにすぐさま駆け寄ろうとする。
 しかし、もはや体は限界だった。
 一歩足を踏み出しただけで、口から血を吐いて倒れる。

「くっくははははは…
 健気な事だ。
 そんなにこの女が大事か?
 いや分かるよ。私も一番のお気に入りだった。」
 マニーがみぃの髪を掴んで、無理矢理顔をあげさせる。
 やめろ。
 汚い手で、みぃにさわるんじゃねぇ…!

「で、どうだった?
 使用してみた感想は。
 胴元としては、是非ユーザーの声を聞いておきたい。」
 …使用?
 ユーザー?

「!!!」
 みぃの顔が強張る。
 まさか…
 これがタカラギコの言ってた、『知られたくない』事なのか?

「!?これは驚いた!
 何だ、こいつには何も言っていなかったのか!!
 くっく、こいつは良い…」
 マニーが心底愉快そうに笑い出した。
「やめ…!」
 みぃが言い切らないうちに、マニーはみぃの顔を床に押し付けた。

「駄目じゃあないか。
 会った人には、きちんと自己紹介しないと。
 お前はこの男に教えていないのか?」
 マニーが嘲りの笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んできた。
「私と幾度も夜を共にしたことは!?
 昼夜問わず変態共の慰み者になっていたことは!?
 孕んでは堕ろしてを繰り返した挙句、
 子供すら産めない体になったことは!?
 全て教えたのか!?」

 …何だこいつ。
 何を、言っている…?

「あぁ、そうか。
 お前はこのことの方が知られたくないんだった。
 お前が、自分が助かる為なら他人を見殺しにするような奴ということをなぁ!!」
 俺には、分かった。
 この一言が、一番みぃの心を傷つけたということが。

460ブック:2004/03/01(月) 18:36



 ―――跳んだ。
 マニー目掛けて。
 自分の体のどこに、これだけの力が残っていたかは分からない。
 ただ、一つ、分かっている事は、
 マニー、貴様は、殺す。
 それだけだった。

「『ドルアーガ』!」
 床からせり出す棘。
 たちまち、俺の体は空中で串刺しになった。
 意識が、一気に遠のいていく。

「ははははははは!!!
 そして!たった今、この男もお前の為に命を落とした!!
 それもこれも、全部お前の所為だ!!!
 全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
 全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
 お前の所為だ!!!!!」
 マニーが部屋中に響く声で高らかに笑った。
 みぃは、自分を責めるように、ただ、泣いていた。


 …違う。
 お前の所為じゃ、無い。
 これは、俺が勝手にやった上での結果だ。
 断じて、お前の所為なんかじゃ、無い。

 …『自分が助かる為なら他人を見殺しにする』。
 お前の過去に、何があったのかは知らない。
 だけど、マニーの言うそれだって、多分、お前の所為じゃ無い。
 何となくだけど、俺はそう信じれる。
 お前が、馬鹿なお前が、そんな事出来るものか。

 だから…
 だから動け…!
 俺の体よ。
 それをマニーの奴に叩き込んでやるまででいい、
 動いてくれ…!!


(…お前は無力だ。)

 ―――お前か。
 やめろ、出てくるな。

(それにも関わらず、高尚な志だけは持つ。)
 うるさい。
 黙れ。

(だが、それがいい。
 だからこそ、その狭間に大きな歪みが生まれる。
 皮肉なものだな。
 もっとも…それのおかげで私はここまで大きくなれた。)
 黙れ…
 黙れ、『デビルワールド』……!

(嫌われたものだ。
 せっかく力を貸してやろうというのに…)
 やめろ。
 余計なお世話だ。

(お前の体を貰うぞ…)
 やめ―――――――――――――

461ブック:2004/03/01(月) 18:37






 ――――我が名称(な)を呼べよ。
 我が力(な)を呼べよ。
 我が存在(な)を呼べよ。」
 …声?
 誰の声だ?

「我を欲求(もと)めよ。
 我を渇望(もと)めよ。
 我を飢餓(もと)めよ。」
 どこから…
 どこから声がしているんだ?

「我を視覚(し)れよ。
 我を知覚(し)れよ。
 我を認識(し)れよ。」
 …まさか、俺?
 この声を出しているのは、俺なのか?
 馬鹿な。
 だって、俺は声を出すことは…

「我は『句読点の丸』。
 我は『ピリオド』。
 我は『鉤括弧閉じる』。
 我は『Z』。
 我は『Ω』。
 我は『ん』。
 我は『地平線』。
 我は『深淵の底』。
 我は『世界の果て』。」
 違う。
 俺じゃない。
 確かに、声を出しているのは俺の体だ。
                ・・・・・
 だが、声を発しているのは決して俺じゃない。

「我は我が我こそが、
 幾千万の怨念により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『最果ての使者』、『虚無の権化』、『終焉の化身』、
 ―――『デビルワールド』。」
 …この体は、もはや俺のものではない。
 俺の全身は、あの『化け物』のそれに変わっていた。



     ・     ・     ・



「見えた!!きっとあそこだょぅ!!」
 私は廊下の突き当たりの、ドアの砕けた部屋を指差した。
 ふさしぃと合流してから、でぃ君が一人で突っ込んでいった事を聞かされた。
 何て無茶を。
 一人で闘いに挑むなんて。

「でぃ君、大丈…!」
 私が部屋に入ろうとしたその瞬間、
 私の意志とは裏腹に、部屋に入る寸前で体が動かなくなった。

「な…!」
「!!」
「―――っ!!」
「……!」
 ふさしぃも、ギコえもんも、小耳モナーも、タカラギコも、
 縫い付けられたように、その場に立ち尽くす。

 何だ?
 部屋の中の『あれ』は何なのだ?
 腕や脚の形は、でぃ君がスタンドを発動させたときのそれだ。
 だが…
 そこから漂う、全てを飲み込むような威圧感は、
 でぃ君のものではない。
 そもそも、何故世界が、あんなものをこの世に存在させている事を許しているのだ?

462ブック:2004/03/01(月) 18:37

「我が名称(な)を呼べよ。
 我が力(な)を呼べよ。
 我が存在(な)を呼べよ…」
 『化け物』が何かを呟きながら、
 自分に刺さっている棘のようなものを、残らず粉砕した。
 棘が刺さっていた所に開いていた穴が、瞬時に塞がる。

「我を欲求(もと)めよ。
 我を渇望(もと)めよ。
 我を飢餓(もと)めよ。」
 『化け物』は、マニーに向かって歩き始めた。
 急ぐでもなく、
 慌てるでもなく
 ただ、ゆっくりと。

 入れない。
 見えない壁が目の前にあるかのように、
 部屋の中に入れない。

「ド…『ドルアーガ』!!!」
 マニーがスタンドを発動させた。
 床が槍のように突き出し、
 『化け物』へと襲い掛かる。

「!!!!!!」
 マニーが絶句する。
 槍は、『化け物』に到達する目前で、その動きを止めた。
 『化け物』は、なおもマニーに歩み寄っていく。

「この…『化け物』めえぇ!!!」
 次々と床が槍のように形を変えて、『化け物』に向かう。
 しかしその悉くが、途中で動きを停止する。
「無駄だ…
 そんなもの、全て私に届く前に、動きを『終える』。」
 『化け物』が哀れむようにマニーに言った。

「く…来るなぁ!
 でないと、この女の命は…!」
 マニーがみぃ君に視線を移そうとした時、
 すでに『化け物』は右手でマニーの頭を掴んでいた。

「あ…!がぁ……!!
 うぎ……ぐえ………!!!」
 マニーの頭部が万力で締められていくかの如く、軋む音を立てながら潰れていく。
 『化け物』はマニーの頭を掴んだまま、片手で持ち上げた。

「…まだ、存在までは無理か。
 ならば、仕方が無い。」
 『化け物』はそう言うと、マニーの体をメンコのように地面に叩きつけた。
 マニーの体が、原型を留めない程に破裂し、
 床に大きな罅割れと、赤黒い染みを作る。

463ブック:2004/03/01(月) 18:38


「…くっくっく、はっはっはっはっは。
 はあぁっはははははははははははははははははは!!!!!!!!」
 『化け物』がやおら笑い始めた。
 するといきなり右手の人差し指を、自らの頭に差し込む。
「馴染む!実に良く馴染むぞ!!!
 この世に産まれ落ち、様々な人や畜生共の体を渡り歩いて幾星霜。
 ここまで私と馴染む体に巡り会えたのは初めてだ!!!」
 『化け物』は人差し指をで頭を掻き回しながら、狂ったように笑い続ける。
 すると、いきなり笑うのをやめて、我々の方を向いた。

 全身の細胞が死の危険を告げる。
 冷や汗が体中から噴き出した。
 …!
 まさか私は、見られただけで死を覚悟しているとでもいうのか!?

「そんなに怖がるな。
 私がここまで力を取り戻すことが出来たのは、
 お前達が、我が宿主たる男を援助してくれたおかげでもあるのだからな。」
 『化け物』が笑う。
「まだ殺さぬよ。
 お前達には、世界が終わっていく様を、
 宿主と共に特等席で観賞して貰いたいからな。」
 それは言い換えれば、
 我々など、その気になればいつでも殺せるという事だった。

「一応言っておくが、宿主を殺した所で無駄だぞ?
 これほどの入れ物を失うのは惜しいが、
 また別の入れ物を探せばいいだけだからな。」
 と、『化け物』の体が徐々にでぃ君の姿に戻っていく。
 どうやら、まだ完全にはでぃ君の体を支配してはいないらしい。

「ふむ…時間切れか。
 思ったより、力を使い過ぎ手しまったようだな。
 仕方がない。しばらく、眠りにつくとしようか。」
 スタンドが解除され、でぃ君が元の姿に戻る。


「!!
 でぃ君!!!」
 膝を折って屈みこむでぃ君に、私は駆け寄った。
 倒れそうになる彼を、肩で支える。

「……」
 彼が、みぃ君の方に目をやる。
『俺のことはいいから、あいつを。』
 その目は、そう言っていた。
 急いで、みぃ君を保護させる。

 …彼の中にあの『化け物』が。
 どうする。
 どうすればいい。
 私が出来ることはなんだ。
 それとも…
 いつか、彼と闘わなければならないのか…!?

 答えなど分かる訳が無い。
 しかしそれでも、私はそんな事ばかり考え続けていた。



     TO BE CONTINUED…

464ブック:2004/03/02(火) 20:57
     救い無き世界
     第三十六話・暗夜行路 〜その一〜


「…一先ずは、ご苦労様と言っておきましょうか。」
 『矢の男』は座ったまま、目の前の男に言った・
「何やら不満そうな顔ですが、
 ひょっとして私は、気づかないうちにお気に触るような事を
 してしまいましたかねぇ。」
 男はわざとらしい口調で答える。

「あの『化け物』を無闇に刺激するなと、言っておいた筈ですが?」
 『矢の男』が男の顔を見た。
「ああ、それは済みません。
 いや何せ、拘束を破って飛び出してくるとは予想も出来ませんでして。
 それに、余計な手出しをするなとも、あなたに命令されていましたから、
 放っておいた方が良いかな、と思ったんですよ。
 それにあなた様程のお人が恐れるのです。
 私如きにどうこう出来る筈もないでしょう。」
 男は嫌味な位丁寧に喋る。

「…本当でしょうね?」
 『矢の男』が、じっと男の目を見つめる。
「お疑いならば、私の魂を覗いてみてはどうです?」
 男がにっこりと微笑む。
 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れた。

「相変わらず…君の魂には靄がかかっていて、本心が見れない。
 初めてですよ。
 私の『サイコカリバー』で魂を覗けない人間がいるとは。」
 『矢の男』が軽く頭を横に振った。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。
 私の様に矮小な人間だと、色々と自己保身の手段が必要になりますからね。」
 男が『矢の男』に頭を下げた。

「そういえば、その顔の傷はどうしたのです?」
 『矢の男』が男に尋ねた。
「ああ、これですか。
 ちょっと、同僚と喧嘩になりましてね…」
 その時『矢の男』は、一瞬だけ男の魂にかかっている靄が揺らいだのを感じた。
 しかし、その揺らぎはすぐに収まる。
「しかし、あなたもきつい仕事をおっしゃる。
 SSSと『大日本ブレイク党』を、上手く誘導して潰し合わせろなどと…
 おかげで、せっかくの美形が台無しですよ。」
 男が冗談めかした様子で言った。

「『大日本ブレイク党』には、暴れるだけ暴れてもらった後には
 速やかに消えて貰いたいのでね…
 それに、SSSも大人しくなっておいて貰っておくに、越した事は無い。」
 『矢の男』が呟くように言葉を紡ぐ。

「その『大日本ブレイク党』ですけど、どうするのです?
 参謀の一人まで殺されて、いつ暴走してもおかしくないですよ?」
 男が『矢の男』に聞いた。
「構いませんよ。
 『魂』は、もう十分な程集まりつつある。
 あとは彼らに『神』の降臨のお膳立てをして貰うだけです。
 せっかくの祭りだ。相応の舞台に仕立てあげなくては…」
 『矢の男』が、ふと遠くを見つめるような目をした。

465ブック:2004/03/02(火) 20:58


「…一つ聞きたいのですが、あの『化け物』は一体何なのです?」
 男が不意に『矢の男』に尋ねた。
「あなたが物事に興味を示すとは、珍しいですね。」
 『矢の男』が意外そうな顔をする。
「いえ、それほど関心があるわけじゃありません。
 まあでも、言ってみればいつ臨界突破するか分からない原子炉の監視員を
 しているみたいなものですからね。
 身の安全の向上に役立てる為にも、聞いておいた方がいいと思いまして。
 もちろん、答えたくなければ構いませんが…」
 男はあくまで笑顔を崩さぬまま答えた。

「ふ…あなたは自分の命にすら興味が無いと思っていたのですがね。」
 『矢の男』が男にそう言った。
「まさか。私はそこまで人格は破綻していませんよ…」
 男がさらりと否定する。
 しかし『矢の男』は、心のどこかで『嘘だ』と感じていた。

「…悪いですが、まだあなたに話す訳にはいきませんね。
 まあ焦らなくとも、神が降臨した時に全て教えますよ。」
 『矢の男』は男の要求を退けた。
「やあそうですか。それは残念。
 まあでも、仕方ありませんね。」
 男はさして気にしていない様子で答える。
「おっと、もうこんな時間か。
 それでは私は、これで失礼させてもらいますね。」
 男は時計を見ると、そそくさと部屋から出て行った。

「…何を考えているのでしょうねぇ、彼は。」
 『矢の男』は大きく息を吐くと、
 椅子の背もたれに深く拠りかかった。
「あの『化け物』…どんどん大きくなっている……」
 『矢の男』はそう呟くと、
 目を閉じて過去を思い起こし始めた。



     ・     ・     ・



 ―――数百年前、ある宗教の狂信者が一つの組織を立ち上げた。
 『神をこの世に降臨させる』、そのたった一つの理念に向かい、
 組織は徐々に力を伸ばしていった。
 …しかし、もちろん『神を降臨させる』などといった、事が実現出来る筈も無く、
 時間の経過と規模の拡大と共に、組織は当初の崇高な理念を忘れ、
 ただ利権を貪るだけの団体と成り果てた。

 そんな組織の末端に、『矢の男』は所属していた。
 彼も、最初は神の降臨などといったものには、興味など全く無かった。
 それはある意味当然とも言える。
 実際『神の降臨』など、正常な神経を持つ者にしてみれば、
 世迷言以外の何者でもない。

 しかし…彼がとある遺跡の観光をしていた時に、
 偶然発見した『矢』が、彼の考えを百八十度転換させた。

 彼は『矢』の力で、スタンド能力に目覚めた。
 そしてこう直感したのだ。
「この『矢』と『スタンド』があれば、神の降臨も夢ではない」―――と。

 そして彼は仲間の何人かを『矢』でスタンド能力に目覚めさせ、
 着実に組織内での地位を確立していった。
 そしてある日、試行錯誤の末ついに見つけたのだ。
 『矢』と『スタンド』で神を降臨させる方法を。

 彼は狂喜した。
 組織がどれ程の年月を重ねても実現出来なかった悲願を、
 己の手で成しえる事が出来る。
 そして、あわよくば自分に神の力を宿す事が出来る…!

 そして、彼は計画を実行に移した。
 これで神がこの世に降臨なされる…
 その場の誰もがそう信じていた。
 もちろん、『矢の男』自身も。

 しかしそこで生み出されたのは、『神』ではなかった。
 人智の及ばぬ、超常の存在には間違い無い。
 だが…それは、
 神というよりもむしろ、『悪―――

466ブック:2004/03/02(火) 20:59



「!!!!!!!!」
 『矢の男』は椅子から跳ね起きた。
 体中から、じっとりと脂汗が滲んでいる。

「…!『最果ての使者』め……!!
 『虚無の権化』め……!!
 『終焉の化身』め……!!
 『化け物』め……!!!」
 息を切らしながら、『矢の男』は拳を強く握り締めた。

「どうなされました!?」
 部屋の中に、従者の一人が飛び込んできた。
「…いや、ついうたた寝をした隙に、
 悪い夢を見ただけですよ。
 心配はいりません。」
 『矢の男』は、出来るだけ平静を装って従者に告げた。
「しかし…」
 従者が『矢の男』に声をかける。
「下がりなさい。」
 その『矢の男』の言葉に、従者は黙って一礼をしてから部屋を出て行く。

「何故だ…
 何故あの時消えなかった…!
 何故あんなものが、まだ存在している……!!」
 握り締めた手から、血が滴り落ちていく。
 『矢の男』は目を血走らせ、部屋を覆う闇を見つめていた。



     ・     ・     ・



「マニーが、死にました…」
 梅おにぎりが、1総統に告げた。
 1総統は何も言わず、机の上で手を組む。
「1総統、もはや限界です!
 兵士たちの士気も、天を突く程に昂ぶっております!
 スポンサーの事など、今更何を気にする必要がありましょうか!?
 どうか、御英断を!!
 1総統…!!!」
 梅おにぎりが、今にも泣き出さんばかりの必死の形相で、
 1総統に訴えた。

「…梅おにぎり。」
 1総統が梅おにぎりに目を向けた。
「…はっ。」
 梅おにぎりが短く答える。

「これから急いで、兵士、武器弾薬の準備を進めろ。
 有り金を残らずはたいても構わん。
 お前が思う、最高の軍隊を創り上げろ。」
 1総統は、梅おにぎりにそう命令を下した。
 梅おにぎりが、それを聞いて目を輝かせる。

「1総統!!
 それでは!!!!!」
 梅おにぎりが歓喜の悲鳴を上げた。
「そうだ。始めるぞ、戦争を。
 見せてやる、この世界の赤子達に。
 見せてやる、この世界の子供達に。
 見せてやる、この世界の少年達に。
 見せてやる、この世界の青年達に。
 見せてやる、この世界の壮年達に。
 見せてやる、この世界の老人達に。
 見せてやる、この世界の畜生達に。
 見せてやる、この世界の有象無象に。
 見せてやる、この世界のすべてに、
 凡てに、
 総てに、
 全てに!!!!!
 見せつけてくれる、我々を!
 我々の存在を!
 我々の戦争を!!!」
 1総統が立ち上がり、辺り一面に広がるような大声で叫んだ。
 その双眸には、狂気の光がらんらんと輝いている。

「かしこまりました。
 すぐに準備に取り掛かります!」
 梅おにぎりは頭を下げ、
 物凄い勢いで部屋から出て行った。

「…スポンサーめ、我々が操り人形のまま甘んじていると思うてか!
 その糸を自ら断ち切り、
 己の思うがまま踊り狂ってくれよう!!」
 1総統が、その手を机に叩きつけた。



     TO BE CONTINUED…

467SS書き:2004/03/02(火) 22:31
 穴の戦い −オールウェイズ・オン・マイ・マインド−

「最悪だ。」
と、モララーは呟いた。
『最悪だと言っていられる間はまだ最悪ではない。』
 なんてことを誰かが言っていた。
 それが本当のことだとしたら、今はまだ最悪ではないのかもしれない。
 しかし、もうすぐ最悪だとも思わなくなるだろう。
 そうなったときが真の『最悪』なのだろうか。
 
 このままでは自分は再起不能になる。
 そして、もうモナーたちに会うこともできない。
 これが最悪だということなのだろうか。
 確かにモナーたちに会えなくなるのは寂しい。
 だが、同じ再起不能なら自分はかなり恵まれているのではないだろうか。
 なにしろこの攻撃は痛くも痒くもない。
 いや、正確には攻撃といえるのかどうかも分からない。
 なにしろ楽しいくらいなのだから。
 ああ、すでにこの状況を『最悪』だと思わなくなってきている・・・・・・
 そもそも、なぜこんなことになったのか。


 モララーは買い物からの帰り道にいた。
 カップラーメンと、雑誌と、飲み物と、親父から頼まれた甘食。
 いい歳をして『急に食べたくなったから買ってきて』ときたものだ。
 ついでだから買ってきてやるが、たまには父親の威厳を見せて欲しいものだ。
 まったく、何であんなのが自分の父親なのだろう。
 まあいい。その分自分がしっかりすればいいさ。
 もうすぐ家に着く。この細い路地を抜ければ・・・・・・
 
 突然ガタガタという音とともに地面が揺れた。
 何事かと思いモララーは辺りを見回す。
 音の正体はすぐに分かった。後ろからトラックが迫ってきている。
 トラックは一直線にこちらへ向かってくる。スピードを落とす様子はない。
「嘘だろ・・・・・・」
 逃げなければ。しかしこんな狭い路地では逃げる場所なんかない。
「スライドー!」
 モララーは自分のスタンドで壁を破壊し逃げ道を作ろうとする。
 しかし、壁は意外に頑丈でなかなか壊れない。
 このままでは間に合わない。
 何とかして逃げなければ。
 トラック一台をマターリさせる?
 そんなパワーがあるのか?
 トラックはすぐそこまで来ている。
 もう、逃げら・れ・・な

 ・・・・・・
 モララーはだだっ広い原っぱに立っていた。
 どこか普通の野原とは違う気がするがよく分からない。
 まさか天国ではないだろうな。などとモララーは考えていた。
 ――あのとき、
 トラックが目前まで迫っってきたとき、突然モララーの足元に大きな穴が開いた。
 迷っている暇はなかった。
 怪しいと思う気持ちも忘れて、モララーは穴に飛び込んだのだった。
 何故自分は穴の中に入ったのに、こんなところにいるのだろうか。
 地下にこんな原っぱがあるとは考えられない。
 とにかく家に帰ろう。ここがどこか分かるものはないか・・・・・・

468SS書き:2004/03/02(火) 22:33
 遠くに何かが見える。
 はじめは小動物が丸くなっているのかと思った。
 近づいてみると、それは頭だけが地面の上に置かれているようであった。
 さらに近づいてみると誰かが地面から首だけ出していることが分かった。
 モララーは穴に埋まっている男に声をかけた。
「やあ、何をしているんだい?」
「・・・穴に埋まっているんだ。」
「どうして穴に埋まっているんだい?」
「・・・だって、穴だもの。」
「・・・ なるほどね。」
「・・・」
「・・・」
「君の名前はなんていうんだい?」
「僕の名前はモララーだよ。」
「じゃあ、僕は誰ですか?」
「『ディスコ』さんじゃないですか?」
「それはあなたの名前でしょう。」
「そんなことは知っていました。」
「まあ、からかったのね。ひどい人!」
 モララーは我に返った。
 なんだ? 途中から自分が何を言っているのか分からなくなった。
 なんで僕が『ディスコ』なんだ?
 とりあえず目の前の男を『穴モナー』と呼ぶことにした。
 穴モナーにここが何処かを聞いて早くここを離れよう。

「ところでここは何処なんだい?」
「穴の中さ。」
「穴の中か。」
「穴の中さ。」
「ところで、『穴モナー』のように二つの言葉をつなげると
 妖怪みたい聞こえるね。」
「なるほどね。狼男、人魚、猫娘、真珠夫人、みんなそうだね。」
「・・・・・・」
「砂かけ婆とか子泣き爺とか一つ目小僧とか『真珠夫人』とかもね。」
「・・・・・・」
 モララーは晩御飯にタワシのコロッケを出された。
「・・・・・・いや、ちょっと待て。何が起こったんだ。なんだ晩御飯て?」
 何かがおかしい。こいつと会話しているとおかしなことになっていく。
 ここは早く離れたほうがいい。
 モララーはその場をあとにした。

 しばらく行くと何かが見えてきた。
 それは誰かが埋まって穴から首だけ出していた姿だった。
「やあ、何をしているんだい?」
「・・・穴に埋まっているんだ。」
「どうして穴に・・・・・・って、なんでおまえがここにいるんだ!」
「・・・だって、穴だもの。」
 おかしい。これはいったい何なんだ?
 敵の攻撃?
 モララーは空気が変わるのを感じた。

 ドドドドドドド・・・・・・

 空中に無数の『ド』の文字が浮かんでいるのが見える。
「ほら、やっぱり緊迫した雰囲気が・・・・・・って、何で見えるんだよ!」
「よかったら、おひとついかがですか?」
「やあ、効果音かと思ったらチョコレートでしたか。」
 モララーはチョコレートをいただいた。
「歌でもうたいたい気分だね。ちょっこれ〜と、ちょっこれ〜と、チョコレートは、
 カカオ豆を炒ってすりつぶし、砂糖、バター、ミルクなどを加え、練って固めたお菓子。」
「いや、いや。こんなもの食べている場合じゃないからな!
 とにかくこれはおかしい。理屈に合わない、これは『現実』ではない!」
「そんなこと言ってないで現実見たら?」
 駄目だ。こいつと会話してはいけない。
 おそらくこれはスタンド攻撃だ。意識を奪う攻撃か?
 いや、すでに異世界に引きずり込まれているのか?
 なんとかしてこの世界から出る方法を見つけなくてはならない。

469SS書き:2004/03/02(火) 22:34
人物紹介
 モララー:表向きはボランティアで引きこもりの社会復帰の手助けをしているが、
      実は2ちゃんねらーのヒッキーの耳元で『だれもレスをつけない』と囁いて
      絶望的な気分にさせている。

「なんか変な紹介されてる! こんなことしてないからな!」
「あと、わざと萌え度の高い画像を与えて2次元依存度をあげたりもしているね。」
「・・・・・・それは、いい人か悪い人か分からないな。」
「せっかくだからもっと君の事を教えてくれないかい?」
「ちょっと待って。『人にものを聞くときは自分から語れ法案』が本国会に提出中だよ。」
「泣く子と国家権力には勝てないね。何でも聞いてよ。」
「じゃあ、特技は?」
「銃声のような口づけ音が出せること。」
「別に痺れもしないし憧れもしないね。じゃあ次ね、あなたの夢は?」
「質問には質問で返すように学校で教えること。」
「叶うといいね。好きなAAは?」
「『これはウソをついている味だぜ』ってAAあるじゃないですか。
 あれの改造です。台詞が『これはミソのついている味だぜ』になっています。」
「和の心だね。」
「ちなみに『ミ』の代わりに『ク』になっているものもあるよ。」
 それを聞いてモララーさんは大喜びではしゃいたのでございました。
「『厨房じゃあるまいし、そんなネタで騒ぐなよ。』って、7歳になる姪御に言われるよ。」
「・・・・・・。」
 その日モララーは夕日を見に海へ走りました。
「・・・・・・いや、いや、いや。どこに海があるんだ? それに7歳の姪なんていないからな!」
「掘った芋いじるな。」
「掘った土器埋めるな。
 ……だから、なんで僕は反応してしまうんだよ!」
「言われたことはちゃんと答えないとね。挨拶は大切だよ。」
「そうだね。コミュニケーションの基本だからね。」

 次の元日に穴モナーからモララーへ年始の挨拶である年賀状が届いた。
『おかげさまで、私の中のMonsterもこんなに大きくなりました。』
 と。

「何だよ元日って!」
 くそ、なんておかしな空間なんだ・・・・・・
 この空間で起こることはすべてがおかしい。
 ここがどこなのか見当もつかないし、ここから出る方法も見つからない。
 そして、僕自身もおかしくなってきている・・・・・・
 このまま元の世界に戻れず自分は再起不能になるのか。
 ここでモララーは呟いた。
「最悪だ。」と。

470SS書き:2004/03/02(火) 22:36
 正気でいられるうちに、早くここから脱出しなければ・・・・・・

 3択―ひとつだけ選びなさい
 答え①ハンサムのモララーは突如ここから出るアイデアがひらめく
 答え②仲間がきて助けてくれる
 答え③出られない。現実は非情である。

 ③は選ぶつもりはないからな。②を選びたいところだけど期待はできない。
 やはりここは①しかないな。

 モララーがそんなことを考えていると、不意に声が聞こえた。
「ぃょぅ! モララーじゃないかょぅ!」
 その声、そのしゃべり方は・・・・・・
「死んだはずのッ!」
「ぃょぅは死んでなんてないょぅ!」
「冗談だよ。(ノリ悪いなぁ)」

「モララーもここに来たのかょぅ。」
「そっちこそ。しばらく見ないと思ったら、こんなところにいたのか。」
「そうだょぅ。ずっとここにいたょぅ。ここから出られないんだょぅ。」
「冗談じゃないからな。僕は早くここから出たいんだ!
 何で自分がこんなところにいるかも分からないだから。」
「出る必要なんてないょぅ。ぃょぅはスタンド使いに狙われて逃げてたんだょぅ。
 捕まりそうになったとき目の前に穴が現れて、そこに飛び込んだらここにいたょぅ。」
「それは本当かい? 僕のときと似ているな。」
「きっと穴モナーが助けてくれたんだょぅ。」

「僕はそんなに楽天的じゃないからな。
 きっとこれは『この場から逃げたい』と思った相手に発動するスタンドなんだ。
 そして、逃げたいと思った者が入るところといえば自分の殻の中だ。
 なんとなく分かってきたよ。これは普通のスタンドとは逆なんだ。
 普通のスタンドが『自分の精神を具現化させて現実世界に干渉する』のに対して、
 この能力は『現実世界にあるものを自分の精神に引きずり込む』能力なんだ!」
「強引な気がするけど、そうなのかょぅ?」
「もちろんこれは僕の推測だけどね。きっとここは穴モナーの『精神世界』なんだ。
 精神世界だからなんだってありなのさ。それこそどんな厨房設定だってね。」
「言われてみれば、そんな気がしてきたょぅ。
 そうすると、あの穴モナーは自分自身の精神世界に入っているのかょぅ。」
「多分ね。穴に入っているのはその表れなのかもね。」

「とにかく二人でここから出る方法を考えよう。」
「ぃょぅはここから出たくないょぅ。」
「なんだって!?」
「ここはいいところだょぅ。外に出てもまた虐められるだけだょぅ。
 ここにいればそんな心配しなくていいょぅ。」
「なに言ってるんだ! この世界は夢とおんなじだからな!
 ここは現実世界じゃないんだぞ!」
「ぃょぅは現実より夢の方がいいょぅ。
 サンタクロースもいるって信じている方が楽しいょぅ。」
「そんないつまでも子供みたいなこと言ってちゃ駄目だからな!
 ちゃんと現実を見るんだよ。」
「モララーは厳しぃょぅ。」
「現実を知ることにだっていいところはあるんだからな。
 夢の中のサンタクロースは一年に一回プレゼントをくれるだけだけど、
 現実を知ればサンタクロースはいつも見守ってくれているって分かるんだからな!
 それに、君がいつまでもサンタクロースを信じたままだったら、
 誰が君の子供にサンタクロースの夢を見させてあげられるんだい?」
「・・・・・・その台詞はちょっとクサぃょぅ。」
「会心の名台詞に、それは失礼だぞ。」

471SS書き:2004/03/02(火) 22:39
 前回までのあらすじ―
  「『おにいちゃん』って呼んでいいですか?」
  そう言って一人暮らしの僕のもとに押し掛けてきたのは
  どう見ても自分よりも年上のおっさんで・・・・・・

「なんか変なことが起こっている気がするな。」
「ここではそんなこと日常茶飯事だょぅ。」
「話を戻すからな。ぃょぅ、いっしょに現実世界に戻ろう。」
「モララーの言いたいことは分かったょぅ。
 でも、同じだょぅ。この世界からは出られないんだょぅ。」
「ぜんぜん違うさ。『出られない』ことと『出たくない』ことはね。」
「そうなのかょぅ?」
「大切なのは現実に向かおうとする意志なんだ。
 向かおうとする意志さえあれば、いつかはたどり着くだろう?
 向かっているわけだからな。・・・・・・・・・・・・違うかい?」
「そうかも知れないょぅ。」

「じゃあ、一緒にここから出る方法を考えよう。
 まずは、スタンド攻撃なんだからスタンド使い本体を叩くことを考えよう。」
「スタンド使いって、穴モナーのことかょぅ。
 たぶん攻撃は無理だょぅ。モララーはここに来てからスタンドだしてみたかょぅ?」
「そういえば試してなかったな。スライドー!」
 モララーの叫びとともに出てきたものは、メロンパンだった。
「な、なんじゃこりゃー!」
「ここではスタンドも出せないんだょぅ。ぃょぅはクリームパンが出てきたょぅ。」
「で、でも相手は穴に入って身動きできないんだ。スタンドなしでもやれるさ。」

 あ!やせいの穴モナーがとびだしてきた!
 モララーの筆舌に尽くしがたい攻撃!
 穴モナーには効果がないようだ・・・・・・

「駄目だょぅ。ここでは暴力行為はできなんだょぅ。」
「じゃあ別の方法を考えよう。僕たちが入ってきた穴を探してそこから出るんだ。」
「どうやって探し出すんだょぅ。それに穴がずっと開いたままかも分からなぃょぅ。」
「ならば、穴モナーの方から僕たちを追い出したいと思わせるとか。」
「攻撃できない上にまともな会話もできないのにかょぅ?」
「クソッ! じゃあ、どうしたらいいんだ! 最強のスタンドじゃないか!」

472SS書き:2004/03/02(火) 22:41
 モララーの頭に嫌な考えがよぎる。
 答え③出られない。現実は非情である。
 ③、③、③・・・・・・
 そして出たいと思っても出れないので−そのうちモララーは考えるのをやめた。

「絶対そんなことはさせないからな! なんとしても出口を見つけるんだ!」
 しかし、いくらモララーとぃょぅが出口を探しても一向に見つからなかった。
「駄目なのか・・・・・・本当にここで暮らすしかないのか・・・・・・」
「新生活にはいろいろ新しいものをそろえないとね。」
 と、いつの間にか足元にいた穴モナーが言った。
「僕は新しいキャッチフレーズが欲しいな。
『体は大人、頭脳は子供、足元はお留守』こんなのはどうかな。」
「激しくヤムチャキャラの予感。」
「アンラッキーアイテムはサイバイマンだょぅ。」
「彼らもまた穴出身だね。」
「穴の命は結構長い。」
「長居は無用だからな。」
「じゃあ、帰れ。」
「あなたならそう言うと思っていたよ。」
 そう言った直後、モララーの体がふわふわと宙に浮かんだ。
「大丈夫かょぅ!」
 ぃょぅがモララーの体につかまった。
 しかし、モララーは浮かんだままだ。二人はそのまま上昇する。
「どうなってるんだ?」
 ふわふわと二人は空間の穴に吸い込まれていく。

 気がつくとモララーがトラックに襲われた路地に出ていた。
 しかし、二人はまだ宙に浮いている。
 二人はそのまま空中を移動し、モララーの家までたどり着いた。
 家にはモラパパがスタンドを出していた。
「おかえり。心配していたよ。」
 と、モラパパは言った。
 そこでモララーとぃょぅは着地した。
「戻ってこれたのかょぅ?」
 でもなんで?
「・・・・・・そうか。親父の『バウンス』に引き寄せられてきたんだ!」

「親父ぃ!」
 モララーはモラパパに抱きついた。
「おやおや、モララーは甘えんぼさんだね。」
「モララーの言ったとおりだょぅ!
 本物のサンタクロースはクリスマスだけじゃなくって、
 いつだって子供を見守っているんだょぅ!」

 モララーは思った。
 穴モナー、君は間違いなく世界最強だ。
 なにしろ、あの世界にはもう君一人しかいないのだから。

 ここで、ぃょぅはふと思った。
「でも、結局現実に戻りたいって意志は関係なかった気がするょぅ・・・・・・」
 答え②仲間がきて助けてくれる
 ――②、②、②。


ぃょぅ
――現実世界でがんばることにした。

モララー
――親孝行を思い立つが3日でやめる。

モラパパ
――3日後、心配していたのは甘食だと口を滑らせる。

穴モナー
――いまも、どこかの穴の中に。
  ちなみに穴モナーに外の世界に戻りたい旨を伝えれば普通出してくれる。

END

473SS書き:2004/03/02(火) 22:42
スタンド名:オールウェイズ・オン・マイ・マインド
本体:穴モナー

パワー‐− スピード‐− 射程距離‐B
持続力‐A 精密動作性‐− 成長性‐E

『逃げたい』と思っている者の前に穴を出現させる。
その穴に入った者はこの能力者本体の『精神世界』へ引きずり込まれる。
そこはすべてが本体の思い通りになる世界である。
この世界にいるものは、この能力以外のスタンドを発現することはできない。
穴に入った者は穴の中の本体と会話することで思い通りになってしまう。
現実と精神世界を結ぶ穴は常に存在し、新しいターゲットが現れるまで同じ場所にある。

474SS書き:2004/03/02(火) 22:43
 おまけ

 裏の戦い

 ひろゆきはマァブを自分の前に呼びつけた。
「あなたにひとつ仕事を任せます。赤井邦道とコンタクトを取ってください。」
「何者ですか? 赤井邦道とは。」
「彼は間違いなく2chのキャラです。しかし、AAにはなっていません。
 なぜなら誰も彼の姿を見たことがないからです。名前も偽名です。
 彼は2chにおいて最高の釣り師と呼ばれる男です。」
「その男とコンタクトをとってどうすればいいのでしょうか。」
「モナーたちの始末を依頼してください。彼の仕事は独特です。
 自分では直接手を下さずに、誰かを煽って戦うように仕向けるのです。
 『矢の男』のせいでこの町にはスタンド使いがあふれかえっています。
 そのスタンド使いたちを利用してモナーたちを襲うように仕向けるのです。
 ただでさえスタンド使い同士は引かれあう。彼の仕事にはうってつけの状況でしょう。」
「わかりました。早速やってみます。」

 そんなわけで依頼を受けた赤井ですけど、ずっと失敗続きッス。
 ストーカーやコソ泥を煽って戦うように仕向けたり、
 復讐に狂った女に偽情報を流して釣ったりしたけど、一向にモナーたちを倒せやしない。
 そして、あの禁断のスタンドを投下したもののまたもや失敗。
 そもそも、スタンド使わないでそのままトラックで轢いた方が早かったじゃん。
 ああ、このままでは組織から始末される。逃げたい・・・・・・ここから逃・げた・・

 赤井邦道はだだっ広い原っぱに立っていた。
 足元には地面から首だけ出した男がいた。
 赤井邦道はその男に話しかけた。
「やあ、何をしているんだい?」
「・・・穴に埋まっているんだ。」
 ・・・・・・

 END

475:2004/03/03(水) 23:23

「―― モナーの愉快な冒険 ――   塵の夜・その7」



「大丈夫モナか…?」
 俺は、一番近くにいるモララーを揺り起こした。
 リナーはギコの胸に手を置き、傷を治療している。
 彼女自身もかなり回復したようだ。
 もっとも、この戦闘のダメージだけだろうが…

「あれ… 戦いは…?」
 目を覚まし、ゆっくりと周囲を見回すモララー。
「『蒐集者』は、とりあえず追い払ったモナ」
 俺は告げる。
 つーも焼け焦げてはいるが、命に別状はないようだ。
 切断された足もくっついている。
 このタフさは、正直うらやましい。
 校庭の方に蹴り飛ばされたレモナは大丈夫か…?

「う…」
 ギコは目を覚ました。
「はっ!! しぃは…!?」
 リナーを押しのける勢いで、ガバッと起き上がるギコ。

「私? 私なら平気よ…?」
 しぃは笑顔で応えた。
 そして、つかつかとギコに近付いていく。
「ギコ君、ありがとう… 私の為に、こんな傷ついて…」
「あっ、おう。カスリ傷みたいなもんだったけどな」
 口笛を吹きながら両腕を頭の上で組むギコ。
「好きだよ、ギコ君…」
 しぃは、ギコにゆっくりと顔を寄せた。
「おっ、おい…! みんな見てるし…」
 慌てるギコ。

 見るに見かねて、俺は声を掛けた。
「オマエ、『アルカディア』だろ…」

「チッ、バレたか」
 しぃはつまらなそうに舌打ちをした。
 ギコは凄い顔をして固まっている。
 しぃは頭をバリバリと掻いた。
「まァいいか。今日は疲れた。 …寝る」
「あっ、おい…!」
 ギコはしぃの肩に手を掛けた。

「………あれ? ここは?」
 きょとんとした顔を浮かべるしぃ。
 先程までとは打って変わり、全然毒気が無い。
「…」
 再び呆気にとられるギコ。
 あの二人、今後が色々と大変そうだ…


 校庭の方から、フラフラとレモナが飛んできた。
 損傷は大きそうだが、つーにバラバラにされても回復したくらいだから心配はいらないだろう。
 それより…
 俺は、リナーに視線を合わせた。
 腕を組んで、視線を落としている。
 俺を意識しているのは明白。
 頑なに、俺とのコンタクトを拒絶するような雰囲気だ。

「みんな、先に帰っといてくれないモナか…?」
 俺はリナーを見つめたまま、ギコ達に言った。

「ああ、おう…」
 心中を察してくれたのか、ギコが返事をした。
「でも、『アルカディア』の処遇とかもあるし、一旦どこかへ集まった方がいいんじゃないか?」
 そう言いながら、横目でしぃを見るギコ。
 しぃの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ… ように見えた。
「そうモナね。それなら、モナの家に先に行ってほしいモナ」
 俺は、鍵をギコに投げ渡した。
 それを受け取って、ポケットに入れるギコ。
「じゃあ、先に行くぜ…」
 ギコとモララー、レモナ、つー、そして、いまいち状況の分かっていないしぃは、スタスタと階段を降りていった。


 屋上でリナーと2人きりになる。
 夜風が身に染みる。
 リナーは無言で立っていた。
 意図的に、俺に視線を合わそうとしない。
「それで… これからどうする気だ?」
 俺は、リナーを見据えて言った。
 リナーとの距離は約10m。この位がちょうどいい。

「分からない… が、君と一緒にいられないのは確かだ。
 『蒐集者』の言った通り、私が理性を保っていられるのもあと1ヶ月ほどだろう。
 そうなる前に、自ら命を絶つ」
 俺に視線を合わせないまま、リナーは口を開いた。
「理性を失った姿など、君に見られたくないからな…」

 俺はため息をつく。
「でも、治る方法が見つかるかもしれない。
 『教会』は吸血鬼に関する研究をしてるみたいだし、吸血鬼の血を長年抑えてきた事が原因なら…!」
 さすがに躊躇して、俺は言葉を切った。
 リナーは俺を睨みつける。
「心行くまで血を吸え…、か? 君は残酷だな」

476:2004/03/03(水) 23:25

 そう。
 リナーが生きれば、どういう事になるのかは分かっている。
 120人。
 たった3ヶ月で、この町の人間が120人も命を落とした。
 でも…
 俺は躊躇しつつも口を開いた。
「リナーが生き延びる為なら…」

「モナー…!」
 リナーは大声を上げて、俺の言葉を遮った。
 残響音が学校の屋上に響き渡る。
「君は、そんな事を考えるべきじゃない。
 私自身の命と、私の延命による犠牲者の命を天秤にかけるような事を、君は考えてはいけないんだ。
 そういう事は、人間ではなくなった者が考えれば充分だ…」

 リナーは月を見上げた。
 その眼には、何も映ってはいない。
「…そして、私は結論を出した。もう疲れたんだ。吸血鬼を殺すのも、何の罪も無い人間を殺すのにも。
 そろそろ自由にさせてくれないか?」

 俺は、なるべく感情を抑えながら口にした。
「それでも、そんなひどい話があるか…!!
 『教会』の奴等がリナーを吸血鬼にしたんだろ。それを散々に働かせて…
 『教会』の命令で、吸血鬼を殺して… 散々に『教会』に尽くして…!!
 それで、自ら命を絶ってお終いなんて、そんなひどい話があってたまるか!!」
 感情を抑えようと意識しても、自然に溢れ出てしまう。

 リナーは月を眺めたまま、自嘲気味に口を開いた。
「本当に… ひどい話だな。
 私が信じたものは、私がやった事は何だったのか…
 だからこそ、私自身が終止符を打つと決めたんだ。君に干渉されるいわれは無い」
 そして、俺に冷たい視線を送る。
「だから、迷惑なんだ。君の顔なんて見たくもない。もう私に構わないでくれないか…」

 俺とリナーの視線が交差する。
「一つ言っていいか…?」
 俺は口を開いた。
 リナーは視線を逸らさない。
 俺はため息をついて言葉を続けた。
「『俺の顔が見たくもない』って言ったけど… それは嘘だ。
 リナーが嘘をつく時、拳を強く握るクセがある」

「…!!」
 リナーは、素早く自分の手に視線をやった。
「まあ、それも嘘なんだけどな…」
 俺は笑って言った。
 その反応から、リナーの本心は明らかだ。

「君は…!」
 悔しそうに俺を睨むリナー。
 こんなに簡単に騙されるような奴を、放っておけるものか。

 リナーは観念したようにため息をついた。
「…認めよう。君から離れたくない。
 でも、仮に吸血鬼の血の変調が治ったところで、私が吸血鬼であるという事実は変わらない。
 吸血鬼であった人間が元に戻るという事は、絶対に不可能なんだ。
 これは、今まで『エンジェル・ダスト』で抑えてきたからこそ断言できる。
 私は死ぬまで吸血鬼なんだ。到底、君と釣り合う存在じゃない」

 抱えている負い目からの距離感。
 リナーは、自責の念で潰れそうになっている。
 それを和らげられるのは、俺しかいない。
「分かった。決心がついた…」
 俺はバヨネットを取り出した。

477:2004/03/03(水) 23:28

「ああ。私の人生は、私が決着をつけるさ」
 リナーは寂しげに微笑む。
「誤解するな。決心っていうのは、リナーの為に全てを捨てる覚悟ができたって事だ。
 リナーを生かす為なら何だってやってやる…!!」
 バヨネットで、自らの右掌を刺す俺。
 …痛い。
 想像よりもずっと痛い。
 ポタポタと血が垂れる。
 コンクリートの床を赤く濡らす俺の血。

「何を…? その血を私に飲めと?」
 リナーは表情を歪めた。

「いいや… これは…」
 俺は左手を懐に入れると、ずっと仕舞っていた『モノ』を取り出した。
 『アルカディア』の部屋で拾った『モノ』。
「モナー!! お前…!!」
 リナーは『それ』を見るなり血相を変えた。
 彼女は、一瞬で俺の行為の意味を理解したのだ。

「こうする為だ…!!」
 俺は、『それ』を顔面に装着した。
 ――石仮面。
 その用途を理解できたのは、拾った後だった。
 これを着服したのは、必要になるという予感があったから。

「やめろ―――ッ!!」
 リナーが刀を抜いた。
 同時に、こちらに駆け出す。
 だが、無駄だ。
 その距離からだと、俺の行動の方が早い。
 これを予想して、あらかじめ距離を10m開けておいたのだ。
 リナーに阻止されない間合いを。

「言ったはずだ! 一緒に歩む覚悟は出来てるってな!」
 俺は、装着した石仮面に自らの血を塗りつけた。

   僅かな作動音。

     頭部に衝撃を感じる。

       リナーの叫び声が聞こえる。

     頭の中で稲妻が弾け… そして、嘘のように静まった。

   たちまち、頭の中が晴れていく。

 まるで、生まれ変わったみたいに…


 刀が一閃して、石仮面は両断された。
 リナーが踏み込んで、斬り下ろしたのだ。
 真っ二つになって、地面に落ちる石仮面。
 しかし、その役目は既に果たされた。

 ――俺は、人間を辞めた。


 じっと手を見る俺。
 ゆっくりと指を動かしてみる。
「想像してたより、なんてことはないな…」
 そう呟いてみた。

 その俺に、リナーが体当たりしてきた。
 いや、抱きついたのか…
 どうでもいいが、もっと女の子らしく抱きつけないのか?
 毎回タックルされたら、俺の身がもたない。
「何を考えているんだ、君は…! 分かっているのか?
 そうなってしまったら、もう人の生命を吸わないと…」
 リナーは俺の身体にしがみついたまま、責めるような口調で言い放った。

「リナーが選んだように、俺も選んだ。一緒に生きていくってな。
 だから、もういい。人を殺さないとか、町を守るとか… そういうのは昨日までだ」
 俺はリナーの髪を撫でる。
 硝煙と血の匂いが伝わってくる。

「私と生きていく為だって? こんな不器用なやり方しか考えられなかったのか…?
 だから君は短慮なんだ、このバカ…!!」
 震えた声で呟くリナー。
 そのまま、俺達は抱き合っていた。

 最初にリナーに会った日、『俺がリナーを守る』と言った。
 それから、吸血鬼を殺す、町を守る、などと戦う理由は増えていったが…
 最後まで残ったのは、最初の一つだけだった。
 だが、この想いだけは絶対に揺るがない。

「君は…卑怯だな」
 俺を見上げ、そう言ってリナーは微笑んだ。
「嫌いになった…?」
 俺も無言で笑いかける。
「ああ。大嫌いだ」
 笑顔のまま言うリナー。
 その拳は、強く握り締められていた。
 …これも、嘘だ。
 指摘しようと思って… 止めた。
 この世界は惚れた者負けだ。
 ただでさえ不利なのだから、このアドバンテージは取って置こう。

「…さあ、家に帰ろう」
 俺は優しく言った。
 リナーは頷く。
 そう。
 物語の終わりは、いつだってハッピーエンドなんだ。
 たとえ全人類を殺し尽くしても、俺達にとってのハッピーエンドなら…

478:2004/03/03(水) 23:30


 夜道を2人で歩いた。
 会話は無い。
 だが、別に気まずいわけでもない。

 もし、本当にリナーのタイムリミットが1カ月だったとしたら、俺の行為は無駄になるのだろうか。
 だが、死なせはしない。
 何があっても、リナーを死なせはしない。
 何か方法があるはずだ。
 リナーを、普通の吸血鬼に戻せる方法が…

「気をつけろ…」
 リナーの押し殺した声が、俺を現実へ引き戻した。
 そして、繋いでいた手を離す。

 その瞬間、俺の『アウト・オブ・エデン』は尋常ではない殺気を感じ取った。
「飛べ!!」
 リナーが叫ぶ。
 同時に、頭上から高速で落下してくる影。
「うおっ!!」
 俺は飛び退いた。
 同時に、リナーも高く跳ぶ。

 光が瞬き、ブロック塀や道路に幾筋ものラインが走った。
 そのまま、ケーキでも切るようにバラバラになるブロック塀。
 地面に食い込んだ断裂も、かなり深い。
 ちょうど俺達の歩いていた場所だ。

 月光を背に、一人の影が立っていた。
「『異端者』… 『教会』の命により、貴女を追討します」
 女の声で、その人物は言った。
 その声は耳にした事がある。

 ――簞ちゃん。
 『守護者』の名を持つ代行者。
 1さんの家に居候しながら、町に滞在していた少女。

 リナーは、屋根の上で簞ちゃんを見下ろしていた。
「なるほど。『教会』は、私を敵だと判断したか…」
 そう言いながら、バヨネットを抜くリナー。

 何故…?
 リナーの話によれば、簞ちゃんとは代行者の中で最も仲が良かったはず…
 だが、簞ちゃんの身体から立ち昇る殺気は本物だ。
 憎しみと言っても過言ではない。

「なぜ、貴女は吸血鬼の本性を抑えられなかったのです…?
 3ケタに及ぶ犠牲者を出して、貴女はどう償う気なのです!!」
 簞ちゃんは、リナーを見上げて叫んだ。

 …そうか。
 こんなのが、これから繰り返される風景な訳か。

「御託は不要だ。教わらなかったのか? 標的は迅速に殲滅すべしと…」
 リナーは、簞ちゃんを見据えて言った。

「見損ないました。懺悔も何も無いなのですね…!」
 簞ちゃんは右手を水平に振った。
 風を切る音。
 僅かな月光の反射。
 簞ちゃんは、両手にワイヤーのようなものを持っているようだ。
 左右に、それぞれ4本ずつ。
 おそらく、ギャロットと呼ばれる絞殺用の細いワイヤーを改造したものだ。
 『アウト・オブ・エデン』は、そこに波紋が流れているのを看破した。
 これが、簞ちゃん… いや、『守護者』の武装か。

「火の粉は払う… たとえ顔見知りでもな!!」
「処断します!!」
 二人の影は、同時に跳ねた。



          @          @          @



 5人の人影が夜道を歩いていた。
「なんとなく、覚えてはいるんだけどね…」
 ため息をつきながら呟くしぃ。
 ギコが、『アルカディア』についての経緯を説明し終わったところだ。

「本当にごめんなさい。みんなに迷惑をかけて…」
 しぃはぺこりと頭を下げる。
「まあ、しぃちゃんが謝る事でもないんだけどね。とりあえず… 『アルカディア』をどうする?」
 モララーは腕を組んで言った。
 レモナとつーは、少し距離を置いてついて来ている。
 スタンドの話には興味がないようだ。

「『アルカディア』と話はできるのか?」
 ギコは、しぃに訊ねる。
「…うん」
 しぃは頷いた。
「今までは、『アルカディア』が起きてる時には私の意識は無かったんだけど、共存体制に切り替えたんだって。
 だから、ある程度は操作できるし、会話もできるよ。
 今は、『あんな目に合うくらいなら、オマエラに協力した方がマシだ』って言ってる」

「どんな目に合ったのかはよく知らないが、信用できるのか?」
 ギコは怪訝そうに訊ねる。
「多分、嘘じゃないと思う。恐怖の感情がありありと伝わってくるからね。よっぽど怖かったんじゃない?」
 しぃは少し笑って言った。

「まあ、『アルカディア』の処遇は帰ってからだな…」
 そう言いつつも、ギコは安堵していた。
 『アルカディア』がしぃの体にいる以上、人質になっているも同然である。
 しぃを守りつつ『アルカディア』を駆除する方法は思い浮かばなかった。
 『アルカディア』にもう敵意がないという事で、問題の一つは解決したといえる。
 もちろん、手放しで喜ぶ訳にはいかないとしても。

479:2004/03/03(水) 23:32

「『アルカディア』にも、色々尋問せにゃならんしな…」
 ギコはため息をついた。
 しぃの身体にいる以上、拷問は無理だ。
 『アルカディア』が、素直に話すとも思えない。

「それにしても、ASAに連絡がつかないのは妙だね…」
 モララーは言った。
 ASAの関係者の携帯が、全然繋がらないのだ。
 何かあったのだろうか。
 ギコは顎に手を当てる。
 それに、ASAは監視衛星で見張っているはず。
 四六時中監視の目を行き渡らせているという訳ではないだろうが、この町での出来事には目を光らせているはずだ。
 屋上であれだけドンパチやらかしたのに、何の反応もないというのは妙だ。


 モナーの家の前に到着した。
 ギコは、モナーから受け取った鍵を鍵穴に突っ込み、鍵を開ける。
「それにしても… よくお前等が、モナーとリナーを2人っきりにするのを承諾したな」
 玄関を開けて、靴を脱ぎながらギコは言った。

 4人も玄関に詰め掛ける。
「あそこまで真剣な顔をされるとね」
 モララーも靴を脱いだ。
「まあ、後から略奪するのもアリだし…」
 レモナは笑みを浮かべたまま呟く。

 ギコはため息をついた。
「それで…」

 ――何だ?
 ギコは、廊下に立ち尽くした。
 妙だ。
 特に気配は感じないが、空気が妙だ。

「何か変な感じだね…」
 モララーが呟く。
 ギコは静かに頷くと、居間に続くフスマをゆっくりと開けた。
 馴染んだ居間に、見慣れない男達の姿が目に入る。

 その数、5人。
 退屈そうに座っている者、本を読んでいる者、寝転がっている者… その行動はバラバラだ。
 全く気配は感じなかった。
 目の前にいる今においても、不気味なほどに気配は感じない。
 こいつら、相当の達人だ…!
「誰だ、お前達!!」
 ギコは身構える。

「…どうやら、モナヤはいないみたいだな」
 本を畳むと、眼鏡を掛けた青年が顔を上げた。
 ギコは、この男に微かに見覚えがある。
「『異端者』もいない。任務の半分は不遂行だ…」
 寝転んでいたピエロが、起き上がって言った。

「こいつら、代行者だぜ!!」
 しぃ… いや、『アルカディア』が叫んだ。

「その通りだ…」
 サングラスを掛けた黒ずくめの男が腰を上げた。
「『教会』の名において、『アルカディア』および『異端者』に連なる者を殲滅させてもらう」

「…ヘッ、そういうことかい!」
 『アルカディア』は大きく一歩踏み出した。
 そして、ギコ達に告げる。
「あのメガネが『解読者』、サングラスが『支配者』、ピエロが『破壊者』、濃い顔が『調停者』、バカ面が『狩猟者』だ。
 …おそらく、どこかに『暗殺者』も潜んでるはずだ。奴等、やる気だぜッ!!」

「ったく… 人ん家でくつろぐとは、常識のねぇ奴等だな…!」
 ギコは舌打ちをする。
「その根性、叩きなおしてやるぜ!」

「やる気充分で嬉しい。逃げ惑う者達を殲滅するのは性に合わんからな…」
 『支配者』がサングラスの位置を正す。

「では、処断させてもらう。諦めろ…!」
「恨むなら、俺以外を恨め…」
「お前ら、表へ出ろ!!」
「たっぷりよろこばせてやるからな…」
「いっしょに、拳を交えよう!!」
 バラバラの行動を取っていた代行者達が、ゆらりと立ち上がった。
 強烈な殺気がギコ達に浴びせられる。

「『レイラ』ッ!!」
「『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」
「『アルカディア』!!」
「行くわよ…!」
「バルバルバルバルバルバル!!」
 それぞれ、戦闘態勢に入るギコ達。

 両陣は、モナーの家において向かい合う。
 戦闘の火蓋が、切って落とされた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

480ブック:2004/03/04(木) 14:01
     救い無き世界
     第三十七話・暗夜行路 〜その二〜


 俺はSSSの一室で、ベッドの上に横たわっていた。
 マニーの屋敷での騒動から、今でちょうど二十七時間後くらい。
 部屋には、一台の監視カメラが備え付けられている。

 みぃはふとした隙に、あの場所から姿を消してしまっていた。
 まるで、自分がそこに居るのが耐えられなかったかの様に。

 俺は首につけられた首輪に触る。
 本当なら、すぐにでもあいつを探しに行きたい。
 しかし、この首輪がそれを許さなかった。
 SSSの連中が言うには、
 連中の持っているスイッチを押したり、SSSの敷地から離れたりすると、
 首輪が爆発を起こすらしい。

(くっ…)
 俺は自分の不甲斐無さに唇を噛んだ。
 こんな玩具で、身動きが取れなくなるなんて…!

 とは言え、首や頭部への致命傷は流石にまずい。
 あれから試してみたが、
 俺の意思では未だに脚と腕しかスタンド化させられない。
 その上、でしゃばり過ぎて疲れたのか、
 心なしか『化け物』の力が弱まっている。
 こんな状態で頭部を破壊されたりしては、
 無事でいられる保障など全く無い。

「お困りのようですね。」
 いきなり、俺の耳にだけ入るような囁き声が、ベットの下から響いて来た。
 驚いて、音のしたあたりを見回す。
「あまりきょろきょろしないで下さい。
 不審な行動をされては気付かれてしまう。」
 この声は…
 タカラギコだ。
「ベッドの下に小型通信機を仕込んでいます。」
 声はごく小さく、注意しないと聞き取り難い。
 しかし、あまり大きいと気づかれてしまう為、
 こうなるのも仕方が無いのだろう。

「その首輪、作動しませんよ。
 取り付ける前に、私が少し細工をしておきました。」
 ひそひそとタカラギコが話しかけてくる。
「信じる信じないは勝手です。
 これからどうするかは、あなたのご自由に。」
 姿を見せぬまま、タカラギコの声だけが聞こえてくる。
 …マニーの時といい、こいつは俺に何をさせたいのだ?

「…期待しているのですよ。
 あなたが、大番狂わせを起こす事を。」
 俺の心を見透かしたように、タカラギコが言った。
 気に入らない。
 俺の反応などお見通しということか。
 しかし、そんな事いきなり言われたところで、
 何の事だかさっぱり訳が分からない。
 何となく分かるのは、俺がいいようにタカラギコに操縦されているという事だ。

 だが、まあいい。
 何を企んでいるかは知らないが、乗ってやる。
 実際このままでは手詰まりなのには変わりは無い。
 それなら、癪だがタカラギコの思惑通りだとしても動くしかない。

「ああ、言い忘れていました。
 あなたがSSSで、ある程度人権を保障された生活を送れたのは、
 ぃょぅさん達があちこちに駆け回って、尽力してくれたおかげですよ。
 SSSから出るのなら、一言でもお礼を言っておきなさい。」
 待て。
 そんな事、初めて聞くぞ。
 まさか今まで何度も、ぃょぅ達は知らないうちに、
 俺を何度も庇ってくれていたというのか?
 俺なんかを庇った所為で、立場を悪くした事だってあっただろう。
 それなのに、あの人達はそれを臆面にも出さず…

「それと、この事に私が関わっている事は、
 ぃょぅさん達には内緒にしといて下さい。
 嫌われ者は、嫌われ者のまま舞台を降りるのが華ですしね…」
 タカラギコが喋る。
 やっぱり、何を言っているのか分からない。
 頼むから会話の途中で、勝手に自己完結するのはやめてくれ。
 まあ一応ここまで手助けしてくれたのだ。
 何かは知らないが黙っておいてやろう。

「では、お達者で。」
 そう言い残してタカラギコは通信を切った。
 最初から最後まで、とことん何を考えているのか分からない野郎だった。

「……」
 腕と脚に神経を集中させる。
 そこが、みるみる異形に姿を変えていった。

481ブック:2004/03/04(木) 14:02



     ・     ・     ・



「長官!もう一度お考え下さぃょぅ!!」
 私はSSS日本支部長官に向かって叫んだ。
「でぃ君に緊縛処置をするなんて、いくら何でも酷すぎます!」
 ふさしぃも嘆願する。
 しかし、長官は椅子に腰掛けたまま、眉一つ動かさなかった。

「…これはもう、決定事項だ。」
 長官が、顔を見回した。
「君達があのでぃを保護してから、
 あちこちに駆け回って、色々と便宜を図ってやっていたようだが、
 私にまで特務特権が通用するとは思わない事だ。」
 長官は机に肘をつけて言う。

「でも別に、彼はまだ何も悪い事してないモナ!!」
 小耳モナーが長官に詰めかかる。
 しかし、長官はそれを受けても微動だにしない。
「君も見たのだろう?あの『化け物』の力を。
 それが暴走しないと保障できるのかね?」
 指揮官が当たり前のように言った。

「しかし…他にも方法がある筈だょぅ!」
 私は長官に、掴みかからんばかりの勢いで訴えた。
 確かに合理的な方法なのかもしれない。
 しかしそれは、人として絶対に間違っている。
「…何度も言わせるな。これは決定事項だ。
 特務A班と言えど、もはや口出し出来る問題ではない。
 分かったら、下がりたまえ。」
 長官のその声と共に、長官の横の黒服達が私達を押し出そうとする。

 駄目だ。
 そんな事はさせない。
 何としても聞き入れて貰わなくては…!

「長官!大変です!!」
 その時、長官室に職員の一人が駆け込んできた。
「何だ?騒々しい。」
 長官がその職員に尋ねる。
「あのでぃが…逃亡しました!!」
 この言葉に、長官が始めて僅かながらにも動揺を顔に出した。
「彼が…!?」
 私は思わず言葉を漏らした。

「どういうことだ。
 『首輪』は作動させなかったのか!?」
 長官が語尾を荒げて聞く。
「それが…
 でぃの能力かどうかは分かりませんが、
 作動しなかった模様です!」
 職員が、自分にも訳が分からないといった風に答える。
「……!
 すぐに探し出せ!
 決して野放しにするな!!」
 長官のその命令と共に、職員は慌てた様子で部屋から飛び出していった。

「……何をしている?
 君達も早く行きたまえ。
 もちろん、わざと逃がすような事は決して許さん。」
 長官が私達を睨む。
 私達は、黙って部屋から出て行った。



「…どうするよ。」
 ギコえもんが私達に言った。
「正直、気が乗らなぃょぅ。
 かといって、このまま彼を放っておくのも、
 やはりまずいと思うょぅ。」
 私は腕を組んで考え込む。
 皆も一様に押し黙ってしまった。

 …どうすればいい。
 一体、私達はどうすればいいのだ。

「取り敢えず、いったん私達の部屋に戻ってから考えましょう。」
 そのふさしぃの提案に従い、我々は一度特務A班の部屋に戻ることにした。


 部屋のドアを開ける。
 中には誰もいない。
 そういえば、先程からタカラギコの姿が見えないが、
 どこに居るのだろうか。

「?これ…」
 小耳モナーが、いつのまにか机の上にあった紙切れを手に取った。
「!!!!!」
 私達はそこに書かれている文字を見て、言葉を失った。
「あの…馬鹿……!」
 ふさしぃが、やり切れなさそうな顔で低く呟く。

 癖の強い、しかしまっすぐ芯の通った特徴的な文字。
 私達が、幾度と無く目にしてきた馴染みのある文字。

 …そんな文字で、たった一言だけ、紙の上に書き殴られていた。
『ありがとうございました。』

482ブック:2004/03/04(木) 14:04



     ・     ・     ・



 俺はSSSを飛び出し、夜の街を疾走していた。
 物騒な首輪は、外に出てすぐに引きちぎった。

 これでSSSには戻れない。
 それどころか、追われる立場になるだろう。
 もう、ぃょぅ達とは多分会えない。

 だけど、それで良かった。
 あそこにいたままだと、きっとあの人達にさらに迷惑をかけてしまう。
 …それに、そんなに大した事じゃない。
 別れの時が少し早まっただけ。
 ただ、それだけだ…


 …本当は、みぃにももう会わない方がいいのかもしれない。
 今更会った所で、俺に何が出来る?
 それに俺の中には『化け物』がいる。
 いつまたみぃを傷つけてしまうかも分からない。
 だって、俺は―――


 ―――それでも、会いたかった。
 会ってどうするのかは、自分でも分からない。

 何もしてやれないかもしれない。
 何も言ってやれないかもしれない。
 何も与えてやれないかもしれない。
 それでも、ただ、会いたかった。

 俺は見えない糸に導かれるように、
 迷う事無くある場所に向かって進んでいた。
 あの場所に、あいつはいる。
 根拠は何も無い。
 だけど、俺は何故か確信していた。
 あそこに行けば、あいつに会える。
 俺達が初めて会った、あの場所に―――



 …居た。
 みぃは、その場所に一人でぽつんと立ち尽くしていた。

「!!!!!」
 みぃが俺に気付く。
 たちまちみぃの顔が悲しそうな表情になり、
 急いで振り返ってその場から逃げ出そうとした。
「―――ッ―――ァ――…!」
 行くな。
 必死にそう叫ぼうとした。
 だが、俺の喉からは空気の掠れる音が漏れるばかり。
 それでも俺の意思が通じたのか、
 みぃが背を向けたままで立ち止まる。

「…何で、追いかけて来たんですか。」
 みぃがこちらを向いて喋る。
 その顔は、今にも泣き出してしまいそうだった。

「……」
 俺は何も言わず…いや、何か言おうにも言えず、
 ただ、みぃを見据えていた。

 一歩、あいつに向かって歩き出す。
 しかしその二倍の距離、みぃは後ずさった。
「来ないで下さい…!
 私は…駄目なんです。
 私はとても、あなたの近くに居られるような……」
 俺は構わず前に進んだ。

 近くにいられるような、何だ。
 そんな事、俺が決める事だ。
 だから…行くな。
 行かないでくれ…!

「私があなたに優しくしたのは、好意なんかじゃない…
 私みたいな汚れた女でも、
 あなたみたいなでぃなら対等、それ以上かもしれない…
 そんな醜い優越感からくる哀れみ、それだけなんです。
 だから…私に、優しくしないで下さい……」
 みぃが訴えかける。

 …やめろ。
 そんな事を言うのはやめろ。
 言葉は、そんな事の為にあるんじゃない。
 そんな悲しい嘘を吐く為にあるんじゃない。
 だから、自分の言葉で自分を傷つけるのはやめてくれ…!

483ブック:2004/03/04(木) 14:04

「私には何も出来ない!
 あの時だって、一緒に逃げのびようと約束した人を助けられなかった…!
 あなたの事もいつかきっと―――」
 みぃが俺から目を逸らそうとする。
 だが、俺は目を逸らさない。
 絶対に、逸らさない。
 俺はどんどん、みぃとの距離を縮めていった。

「……」
 俺はみぃの手前まで近づいた。
 その距離、僅か一足長。
「…!
 私は…私……」
 みぃの瞳から大粒の涙がぽろぽろんこぼれた。
 俺は黙ったまま、ただ手を差し出す。


「……!!」
 みぃが俺の胸に飛び込んできた。
 両手を背中に回し、強く抱きしめてくる。
「…助けたかったんです……!
 あの人を、心から……!!
 だけど、駄目だった……!
 それどころか、私と一緒に逃げた所為で、あんな事に……!!」
 みぃが泣きじゃくる。
 俺はしっかりと、みぃを抱き返した。
 詳しい事はまるで分からない。
 だけどその何かの所為で、みぃは深く傷ついている。
 それだけは、痛い程伝わってきた。


 ―――神様。
 たった一時だけでいい。
 たった一言だけでいい。
 俺に
 もう一度
 言葉を
 下さい―――


 俺は自分の声で、あいつに何も伝えれなかった。
 何も言ってやれなかった。

 声も出せない。
 表情も変えられない。
 ただ、抱きしめる。
 それが、それだけが、俺の精一杯だった。


 しばらく抱き合った後、俺達はどちらからともなく体を離した。
 みぃの顔を見る。
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
 だけど、俺の顔だって多分似たようなものだろう。
 そんな俺の顔を見て、みぃが思わず吹き出した。
 …やっと、笑った……


 月は隠れ、星明りすら無い夜。
 裏路地には街灯の光すら差し込まない。
 そんな闇の帳の中を、
 俺達はゆっくりと歩き出した。



     TO BE CONTINUED…

484ブック:2004/03/05(金) 01:28
     救い無き世界
     第三十八話・暗夜行路 〜その三〜


 でぃ君がSSSを飛び出してから三日。
 彼の足取りは未だに掴めていない。
 焦りと苛立ちだけが、無闇に積もっていくだけだった。

「…お疲れ様。」
 午後五時、ふさしぃが椅子を立って部屋を出て行った。
 しかし、そこにいる誰一人として部屋を去るふさしぃに送りの言葉をかけなかった。
 いや、この特務A班室からは、急速に会話が失われつつあると言える。
「……ぅ…ひっ……」
 小耳モナーが、沈黙に耐えれずに嗚咽を漏らす。

 タカラギコとの確執。
 でぃ君の離別。
 それらに対して何も出来ない私達。
 噛み合わなくなった歯車が、ゆっくりと、しかし確実に私達の関係を蝕んでいった。

 …会話が少なくなっただけじゃない。
 歪みは、他の形でも現れていた。
 ふさしぃは、仕事場から逃げるように早めに帰宅するようになった。
 小耳モナーは別人に見える程に顔つきが暗くなり、
 仕事中に何度も泣いていた。
 ギコえもんは、煙草の量が明らかに増えた。
 タカラギコも、いつもみたいな笑顔を見せる事が少なくなった。
 私は…
 そんな皆から、距離を取るようになった。

 こんなものだったのか、と思った。
 どんな事があろうと、私達の信頼は揺るがないと思っていた。
 いつまでも、仲間のままでいられると思っていた。
 しかし、そんな思いは全て幻想に過ぎなかったのか。
 私達の絆は、こんなにも簡単に崩れる程、脆いものだったというのか。

 無力感と喪失感だけが、
 胸に開いた穴を埋め尽くしていた。


「…俺も帰るぜ。」
 今度はギコえもんが席を立つ。
 やはり、誰も声をかけない。
 黙ったまま、ギコえもんは部屋から出て行った。


「…モナも帰るモナ。」
 それから五分位して、小耳モナーも部屋を出た。


「…ぃょぅさん、私もそろそろお暇させて貰いますね。」
 二人きりの空間から弾き出されるように、
 タカラギコも席を離れる。
「すみません…」
 部屋を出る時、タカラギコは一言そう言い残して言った。


「!!!!!!!」
 私は机を叩いた。

 何故だ…!
 何故こうなってしまった!!
 本当は皆また、元通りの関係に戻りたい筈なのに。
 一歩自分から歩み寄ればいい。
 ただそれだけの筈なのに。

 それなのに、何故…
 何故私は……
 何も、出来ない…!!

 私達は、完全に壊れてしまっていた。
 一人ぼっちになってしまった部屋の中に、
 壁にかけられた時計の針の音だけが響く。
 時計は無情に、無慈悲に、いつもと変わらぬ速さで時を刻み続けていた。

485ブック:2004/03/05(金) 01:29



     ・     ・     ・



 うらびれたバーで、俺は浴びるように酒を呑んでいた。
 酒で嫌な気分を紛らわせるのは、久しぶりだ。

 あいつらと出会ってからは、こんな事はしなくなった筈だったのに。
 グラスを軽く回して、中の氷を躍らせながら、
 俺は自嘲的に笑う。
 妹が死んでから、俺は自分の体を壊すのもお構い無しに、
 ただ酒に溺れていた。
 そんな俺を心配し、力になってくれたのが、他ならぬあいつらだった。

「…ギコえもんさん。飲みすぎですよ。」
 バーのマスターが心配して声をかけてくる。
「うるせえ…
 俺の金で何杯呑もうが、俺の勝手だろがゴルァ。
 黙って新しい酒持って来い!」
 俺はマスターに万札を投げつけた。
 最悪だ、
 俺は。
 マスターに八つ当たりして、一体何になるというのだ。

「…失礼しました。」
 マスターが空になった俺のグラスに新しい酒を注ぐ。

 …思い出した。
 そういえば、あの時俺を一番心配して声をかけてくれたのは、
 確か、タカラギコだった…
 俺がいくら反抗しても、
 あいつは嫌って程しつこく、俺に酒を呑むのを止めるように言ってきたっけ。

「糞…!」
 俺はグラスを一気に飲み干した。
 分かってる。
 マニーの件にでは、あいつにはあいつなりの考えがあった事ぐらい。
 あれしか、いい方法は無かったかもしれない。
 だけど…
 それでも俺はあいつを許すことが……!

「おい兄ちゃん、自棄酒かぁ?」
 いきなり、チンピラ風の二人組みが俺に絡んできた。
 無視して、ボトルの酒をグラスに注ぐ。
「おいおいシカトかよ?
 いい度胸してるなぁ!?」
 男が俺の肩を掴む。
「…邪魔だ。
 死にたくなかったら、消えろ。」
 俺はそいつらとは目も合わさずに、そう言い放った。
「おやおや。どうやら酔っ払ってるみたいですねぇ?」
 その男が、俺の頭に持っていたコップの中の水をかける。
 頭の外側が液体で冷やされるのとは裏腹に、
 俺の頭の中は爆発寸前まで燃え盛る。

「お客様、店内での揉め事は…!」
 マスターがそれを見かねて仲裁に割って入ろうとする。
「どけ!!!」
 男の一人が、邪魔だと言わんばかりにマスターを突き飛ばした。
 マスターが床に倒れ込む。

「…表出ろ、お前ら。
 望み通り相手してやる。」
 俺は椅子から立ち上がった。

「マスター、救急車呼んどけ。」
 俺は倒れているマスターにそう言った。
「ははは、自分が運ばれる救急車を呼んどくなんて用意がいいねぇ。
 それともお兄さん、俺達に勝つつもりなの?」
 男の一人が挑発してくる。
 馬鹿な奴だ。
 相手の力量さえ推し量れないとは。

「……」
 俺は店の外に出て行く

 運が悪かったな。
 今日の俺は機嫌が悪い。
 いつもなら適当にあしらう所だが、
 今回に限っては、お前らには俺のストレス発散に役立って貰うぜ…!

 俺は店のドアをくぐりながら、
 男達のいたぶり方に、あれこれ思案を巡らせていた。

486ブック:2004/03/05(金) 01:29



     ・     ・     ・



 僕は自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
 少しでも気を緩めると、目からは涙が溢れてくる。

 僕は今の皆のギクシャクした雰囲気が耐えられなかった。
 そりゃあ、今までだってちょっとした喧嘩は何回もあった。
 けど、その度に同じ数だけ仲直りして、
 前よりずっと仲良しになっていった。

 …でも、
 今回のは、今までの喧嘩とは多分訳が違う。
 もしかしたら、二度と元通りに戻れないかもしれない。
 そんな漠然とした不安が、いつまでも僕を苛んでいた。

「…ぐ…うぅっ……」
 泣くな。
 泣いてばかりじゃ駄目だ。
 僕だって、男の子なんだぞ!

 テレビからは、バラエティー番組の面白おかしい笑い声が流れてくる。
 しかし、いつもなら楽しい筈のその番組が、
 今日はちっとも面白く感じられなかった。

 嫌だ。
 こんなの嫌だ。
 また皆と一緒に遊びたい。
 一緒に笑いあっていたい。

 ギコえもんが馬鹿な事をやって、
 ふさしぃがそれを怒って、
 ぃょぅがそれをなだめて、
 タカラギコが遠巻きにそれを観察しながら呆れて、
 僕がそれを見ながらおろおろして、
 それで、最後には皆で大笑いして…

「…ぁ、うわああああああああああああ!!!!!」
 僕は、大声で泣き叫んだ。
 泣いてもどうしようもない事は分かっていた。
 だけど、泣くのを止める事が出来なかった。

 外は夜雨が降りしきり、
 雲と雨音が、街を闇に覆い隠す。
 夜は、さらに更けていくばかりだった。

487ブック:2004/03/05(金) 01:30



     ・     ・     ・



 私は、自分の部屋から明かりが漏れているのを確認した。
 どうやら、彼はもう来ているみたいだ。
 インターホンを指で押す。
 少し間が開いた後、ドアから鍵の開く音がした。

「ただいま。」
 私は丸耳ギコ君に向かって言った。
「おかえり。」
 彼はそっけない態度で私を迎える。

「ごめんなさい。
 急に会いたいなんて、言っちゃって。」
 私は丸耳ギコ君に謝った。
「別に、いい。」
 彼が答える。
 帰る途中、彼を携帯電話で家に来るように伝えておいたのだ。

 …これは逃げだ。
 私は、同僚達の関係の悪化の重圧に潰されそうになって、
 丸耳ギコ君に逃げたのだ。
 問題と向き合うのを一時でも放棄しようとしているのだ。
 自分がこんなにも弱い人間だった事が、
 恥ずかしくて悔しくてならなかった。

「…何があった?」
 彼は単刀直入にそう聞いてきた。
「べ、別に何も…」
 私は急いで誤魔化そうとする。
 彼に、私の個人的な事情で気苦労をかけたくない。

「嘘吐くな。
 お前は馬鹿正直だからな、顔に書いてある。」
 彼は私にまっすぐな瞳を向けてきた。
 …敵わない。
 全部、お見通しか。

「ふさしぃ、俺じゃ役不足か?
 俺じゃ、お前の力になれないのか?」
 丸耳ギコ君が、私に訴えかける。
 私は、彼の顔をとても直視出来なかった。

「俺…まだ学生だし、年下だし、
 頼りないかもしれないけど、それでも…!」
 彼が言い切る前に、私は彼を抱きしめた。
「頼りない事なんか、ないよ……」
 …不思議だ。
 私より一回りも小さいのに、
 彼の体には私に無いものがたくさん詰まっている。
 それに、いつも私は助けられている。

「…!ちょ…待て…!
 せ…せぼ……背骨が……!」
 しまった。
 つい力を込めすぎた。
 慌てて彼から腕を放す。
 彼が床に膝をついて、ぜえぜえと息を切らした。

「…ったく、殺す気か!?」
 彼が必死な形相で言う。
「ご、ごめんなさい。」
 私は謝りながらも、彼のその様子が可笑しくてつい吹き出してしまう。
「人を殺しかけておいて笑うな。」
 彼が荒く息を吐きながら言った。

「…で、何があったんだよ?」
 息を整えて、彼が尋ねてくる。
 私は覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。
 やっぱり、彼の前では隠し事は出来ない。
「…実は、友達と喧嘩しちゃってね。」
 私は一言そう答える。

「はあ?なんだそりゃ。
 珍しく落ち込んでるから、もっと大仰な悩みかと思ったぞ。」
 丸耳ギコが肩をすかされたような感じで言った。
「そんなの、お互いに謝って仲直りすれば済む話じゃねぇか。」
 その通りだ。
 彼の言う通り、とても簡単な事だ。
 そんな事は、痛い程わかっている。

「…大人はね、そう簡単にはいかないのよ。」
 私は思わず目を伏せた。
「ふさしぃ、俺が子供だから分からないだけかもしれないけど、
 それは、大人って言葉に逃げてるだけだ。」
 彼のその言葉に、私は喉を詰まらせた。
 責めるような視線がぶつかる。
 …情けない話だ。
 何時の間にか、私は駄目な大人になってしまっていたのだ。

 外から雨の音が聞こえてくる。
 その音の一つ一つが、私の弱い心を打ちつけていった。

488ブック:2004/03/05(金) 01:30



     ・     ・     ・



「でぃ君を逃がした事が『あの方』に知れたら、
 間違いなく粛清が下されるというのに…
 私もいよいよヤキが回ったものだ。」
 タカラギコの独り言が部屋の中に響く。
 タカラギコは自分の部屋の机に座っていた。

 ただっ広い部屋の中には、その机と一台のテレビとベッド、
 それに備え付けの電話。
 それだけしか置かれていなかった。
 部屋は生活感が全く感じられない位に整頓されており、
 そこには廃墟然とした空気が漂っていた。

 タカラギコは、机に立てかけられているケースの中の写真を見つめていた。
 冷え切った部屋の中で、
 その写真のあたりだけが、僅かに暖かみを持っているようであった。

「ふっ…」
 タカラギコは自嘲気味に笑うと、机から離れて窓から外の景色を見つめた。
 暗闇の中、雨の音だけが外から聞こえてくる。

「…私のような人間が、今更何を望んでいるというのか。」
 タカラギコはそう呟くと、
 もう一度だけ写真を一瞥した。

 …以前に、特務A班の面子で温泉旅行に行った時に撮った写真。
 その写真の中で、彼は同僚達に囲まれながら、
 自分ですら知らなかったような笑顔で笑っていた。



     TO BE CONTINUED…

489ブック:2004/03/05(金) 23:34
     救い無き世界
     第三十九話・黒『凶宴』 〜その一〜


 ―――それは、いつもと変わらぬ静かな夜の筈だった。
 いつもと同じ夜の筈だった。
 そう、ついさっきまでは―――


 PM;20:32

 五人がそれぞれの机に座って仕事をこなしていく。
 あれから『大日本ブレイク党』に大きな動きは無い。
 それが、かえって不気味に感じられた。
 そして、でぃ君とみぃ君も、依然として見つからないままだった。

「お先に…」
 ふさしぃが、机を立とうと―――


「!!!!!!」
 地震。
 かなり、大きい。
 本棚が倒れ、机の上の書類が散乱する。
 私は小学校の時に習ったように、素早く机の下に潜り込んだ。


「…おさまったみたいだょぅ。」
 私は机の下から這い出した。
 急いで周囲を確認する。
 幸い、皆も無事のようだ。

「かなり大きかったわね…」
 ふさしぃも机の下から出てくる。
 確かにそうだ。
 街にも、かなりの被害が出ているだろう。

「お、おい!!
 窓の外見てみろ!!!」
 ギコえもんが驚いた様子で窓の外を指差した。
「!!!!!!」
 その光景に私達は言葉を失う。
 外には、嵐のような風が吹き荒れている。
 雨が、割らんばかりの勢いで窓ガラスを打ちつけていた。

「台風でも来たモナか…?」
 小耳モナーが呆然と呟いた。
「馬鹿言うなゴルァ!
 昨日の天気予報じゃ、台風が来てるなんて一言も言ってなかったぞ!!
 それとも、この街にいきなり台風ができたとでもいうのかよ!?」
 ギコえもんが叫ぶ。
 私もこれが現実の光景とは、とてもじゃないが信じられなかった。

「!!!!!!」
 再び地震が我々を襲った。
 その場にいた全員が、体勢を崩して床に膝をつく。

「余震!?」
 ふさしぃが言った。
「いや…それにしては大きすぎるょぅ!」
 私はすぐにそれに返す。

 有り得ない。
 常識で考えて、こんな事は有り得ない。
 !?
 まさか―――

490ブック:2004/03/05(金) 23:36


「大変です!!!」
 地震がおさまった後で、一人の職員が私達の部屋に飛び込んできた。
「どうしたのですか?」
 タカラギコが彼に尋ねる。
「街で武装した集団が、破壊活動を展開いるとの報告を受けました!!
 先程の地震や暴風と相まって、被害がどんどん拡大していっています!!」
 職員が息を切らしながら、報告した。

「『大日本ブレイク党』…!」
 私は唇を噛んだ。
 やはり…
 やはりあいつらか…!

「待てよ!
 それじゃあ、この地震とか嵐とかの災害も、
 奴らの仕業とでも言うのか!?」
 ギコえもんが大声を出す。
「…そう考えても良いでしょうね。」
 タカラギコが一人、冷静な口調で喋る。
「嘘モナ!
 そんなスタンド能力が…」
 小耳モナーが信じられないといった顔をする。
「しかし、実際に起こっている。
 腹を括って、目の前の問題に対処するしかありませんよ。」
 タカラギコが、机の引き出しから拳銃を取り出した。

「この災害が、スタンドの力で引き起こされたものだとするならば、
 エネルギーの殆どを能力に使っている筈です。
 近づきさえすれば、本体を倒すのは簡単でしょう。
 尤も…本体の周りには護衛がついているでしょうけどね。」
 タカラギコがマガジンを拳銃に装填すながら言う。

「だけど、どうやって本体の位置を割り出すの?」
 ギコえもんがタカラギコに尋ねた。
「簡単ですよ。
 災害の中心部分に行けばいい。
 そこに本体が高確率でいる筈です。」
 タカラギコが事も無げに答える。
 そして彼は椅子から立ち上がり、外に出ようとした。

「タカラギコ、何処へ!?」
 私は彼を呼び止めた。
「決まっているでしょう?
 外ですよ。
 こうしている間にも、事態はどんどん悪い方に進んでいる。」
 タカラギコは振り返って答えた。
「なら、ぃょぅ達も一緒に…」
 私はタカラギコにそう声をかけた。

「いえ…私は一人で別行動を取ります。」
 タカラギコがその申し出を断った。
「何を言っているんだょぅ!?
 一人で行くなんて無茶だょぅ!!」
 私はタカラギコに詰め寄った。

「…私があなた達と共に行動しては、
 チームワークが乱れる恐れがある。
 その方が、余計に危険です。」
 タカラギコが私から目を逸らした。
「なに、心配は無用ですよ。
 私だって特務A班の一員ですからね。
 むざむざ死ぬような真似はしません。」
 彼はそう言うと、その場から駆け出して行った。
 慌てて追いかけようとしたが、
 彼の姿はたちまちのうちに見えなくなっていた。


「…私達も行きましょう、ぃょぅ。」
 ふさしぃが、立ち尽くす私の背中から声をかけてくる。
「分かってるょぅ。」
 私は拳を固め、皆と顔を見合わせてお互いに頷いた。

491ブック:2004/03/05(金) 23:37



     ・     ・     ・



 PM;20:40


「始まりましたか…」
 『矢の男』は従者たちを前に、そう呟いた。
「『大日本ブレイク党』、やはり暴走したか。」
 従者の一人が不服そうに言う。

「如何いたしますか?」
 別の従者が『矢の男』に尋ねる。
「余程抜き差しなら無い状況に陥るまでは、放っておきなさい。
 それまでは、SSSに頑張って貰いましょう。」
 『矢の男』がそう答える。

「そういえば、あ奴は?」
 従者が口を開く。
「トラギコでしたら、『孤児院を守る』と言って飛び出していきましたよ。」
 『矢の男』がそれに答えた。
「…ふん。やはりあ奴は半人前。
 情に流され、現世に未練を残すなど、私達と行動を共にするには相応しくない。」
 トラギコを毛嫌いしている従者が苦言を洩らした。

「まあ、そう言わないであげて下さい。
 可愛らしいものじゃないですか。」
 『矢の男』が微笑む

「さて…SSSも、『大日本ブレイク党』も、
 しっかり私の手の平の上で踊って下さいよ。」
 『矢の男』は手を組んで机の上に置き、
 愉快そうに笑うのであった。



     ・     ・     ・



 PM;20:45


「ははははははははははははははははは。」
 一台のリムジンが、地獄のような街の中をゆっくりと走っていく。
 1総統が、そのリムジンの中で笑い続けていた。
 車の周囲は、何人もの兵士達により護衛されている。

「楽しそうですね、1総統。」
 横にいた梅おにぎりが1総統に喋る。
「ああ、楽しい。
 とてもとても楽しい。」
 1総統が笑ったまま答えた。

「凶の箱は開かれた。
 これより厄災が街を覆い尽くす。
 止めれるものならば止めてみろ。
 神も、
 悪魔も、
 スポンサーも、
 SSSも!
 私の『エックスボックス』を止めてみろ。」
 1総統の体からは、黒いオーラのようなものが湧き出ていた。
 そのオーラが車から染み出し、夜の闇へと溶けていく。

「くくくくく…はぁっははははははははははははははは!!!!!」
 1総統の笑い声が、壊れていく街に飲み込まれていった。

492ブック:2004/03/05(金) 23:38



     ・     ・     ・



 PM;20:51


 三度目の地震が起こる。
 辺りには風が吹き荒れ、雨が街を水没させる位の勢いで降りしきっていた。

「……」
 みぃが俺の体の腕にしがみつく。
 雨に打たれ過ぎて体を冷やした為か、体が小刻みに震えている。
 まずい。
 早いとこ、雨宿りできそうな場所を探さないと…

「!!!」
 突然、近くから銃声が響いてきた。

(一体、何が…)
 みぃをその場に留まらせ、
 慎重に陰から音のした場所を盗み見る。

(あいつらは…!)
 銃を肩に下げて行進する兵士達。
 その姿にははっきりと見覚えがあった。
 こいつらは、確かSSSを襲撃してきた時の…!

「でぃさん…」
 みぃが不安そうな顔で俺の方を見る。
 大丈夫だ、心配するな。
 お前だけは、何があろうと護ってやる。

 しかし、何だこれは。
 一体この街で何が起こっている?
 さっきのような連中が、まだ他にもうようよしているというのか!?

(!!!!!)
 突然、俺の頭にあの孤児院の事が浮かんできた。
 孤児院の子供達。
 そして、あそこで働いてる、俺の…


 ……!!
 何だ。
 俺は何を考えてる。
 知った事か。
 あいつらの事など知った事か。
 あの兵士達に殺された所で、俺には何も関係無い…!



 …俺はみぃの手を取り、その手の平の上に指を這わせた。
『行く所がある。…来てくれるか?』
 みぃはその言葉に、黙って頷く事で答えてくれた。



     TO BE CONTINUED…

493ブック:2004/03/05(金) 23:40
 〜おまけ〜
 ジョジョ3部を見ていて思いついた企画
 タロットカードの大アルカナを使った、主人公サイド登場人物紹介

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 でぃ…ⅩⅤ・THE DEVIL(悪魔)

 悪魔、それは古より存在する邪悪な存在。
 悪魔はその大きな力により、人間を誘惑する。
 そしてその誘惑に負けた人間の末路は、
 悪魔の鎖に囚われ堕落と破滅に向かうのみ。
 中には自分から鎖に繋がれる事で、一時の安心を得ようとする者もいる。
 しかし、その悪魔の正体は他ならぬ自分自身なのだ。
 それに気づき誘惑に打ち勝てたのならば、
 その者は自由への解放と、更なる力を得ることが出来るだろう。

 正位置でのキーワード
 束縛 呪縛 破壊 誘惑 欲望 抑圧 醜悪 異形 人智の及ばぬ力 自我
 悪意 大罪 堕落 惰性 執念

 逆位置でのキーワード
 解放 決別 終止符 力の制御 一心不乱 赦し 無欲 超越 純真
 ふんぎりがつく
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 みぃ…ⅩⅡ・THE HANDED MAN(吊るされた男)

 縄で吊り下げられてしまった状態。
 人生の途中には、望む望まないに関係なく、いつかはこのような苦難が訪れる。
 身動き一つ取れず、出来る事といえば、ただ黙って耐えるのみ。
 いつこの苦しみが終わるのかは、誰にも分からない。
 しかし苦しみを知るからこそ、幸福の意味を誰よりも実感出来るし、
 人の痛みを知って、分かち合える。
 本当の安らぎや優しさ、それは苦しみの中にこそ在るのかもしれない。

 正位置でのキーワード
 忍耐 努力 苦労 停止 困難 自己犠牲 宙ぶらりん 苦行 我慢 献身
 立ち止まってみる事での発見 試練

 逆位置でのキーワード
 受難 陰気 自暴自棄 利己主義 報われない 我が身だけを考える エゴ
 無力 無気力 悪い状況のままでの停滞 どん詰まり あきらめ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ぃょぅ…ⅩⅠ・JUSTICE(正義)

 右手に剣、左手に天秤。
 天秤で公平に物事を量り、剣で悪に罪を下す。
 彼の者の前では一切の不公平は許されない。
 だが人間は不完全故に、そこには必ず偏りが生じ、
 そんな現実と、己の信ずる正義の狭間で、彼は今日も悩み続ける。
 仲間だから助けたい、仲間だから力になりたい、
 この思いも言ってみれば一種の不公平である。
 しかし、それは本当に正義では無いのだろうか?

 正位置でのキーワード
 バランス 公平 平等 判断 熟考 公正 理性 冷静 調和 均衡 均等
 公平無私 交渉の成功

 逆位置でのキーワード
 バランスの崩壊 不公平 不均衡 短慮 公私混同 一方的 独善 偏見
 八方美人 偽善 不調和 交渉決裂 贔屓
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ふさしぃ…Ⅲ・THE EMPRESS(女帝)

 全てを包み込むような女性。
 その暖かさは、近くにいるもの全てに安らぎを与える。
 彼女は母性の象徴、女性の持つ魅力の体現。
 男達を魅了してやまない、女性美そのものである。
 しかし見方を変えれば、女性特有の欠点の集大成であるとも言える。
 それが自分の長所をより際立たせるのか、
 それとも台無しにしてしまうのかは、
 全て本人しだいであろう。

 正位置でのキーワード
 母性 繁栄 豊か 幸福 快楽 美 良い結果 妊娠 厳しさを伴った優しさ
 懐の広さ 安心 愛 平和

 逆位置でのキーワード
 贅沢 嫉妬 過保護 我侭 道ならぬ恋 見栄っ張り 不妊 一方的過ぎる愛情

494ブック:2004/03/05(金) 23:40
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 小耳モナー…0・THE FOOL(愚者)

 彼は何も持たない、何も知らない。
 着の身着のまま、気の向くまま、道無き道をマイペースで歩く。
 先に待ち受けているかもしれない苦難など気にも止めず、飄々と。
 彼は無知故に純粋で、穢れを知らない。
 彼の無邪気な笑顔は、周りの者達の不安すら吹き飛ばす。
 しかし彼は知らないのだ。
 彼のすぐ傍には大きな崖が手ぐすねをひいて待ち構えている事を。
 次の瞬間にでも、そこに落ちてしまうかもしれない事を。

 正位置でのキーワード
 自由 純粋 無垢 無邪気 門出 出発 大胆 独創 可能性 無知故の発見
 幸運 好奇心旺盛 突拍子も無い思考

 逆位置でのキーワード
 路頭に迷う 脆弱 袋小路 未熟 無鉄砲 別れ 向こう見ず 自分勝手 浪費
 無知無能 世間知らず 無謀
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ギコえもん…Ⅶ・THE CHARIOT(戦車)

 戦車とは力の象徴、勝利の象徴。
 戦車はあらゆる障害を物ともせず、逆に力で押しのけていく。
 彼は戦車に乗って突き進む。
 その先にある筈の栄光に向かって。
 背後に勝利を積み重ねて。
 速度を増しながら突き進む。
 しかしそれは時として、邪魔をするものは何であれ排除するという
 危うさも兼ね備えている。
 そしてもう一つ。
 走る速度が速ければ速い程、転んだ時には痛いのだ。

 正位置でのキーワード
 勝利 栄光 猪突猛進 勇気 力 情熱 前進 突進 自信 成功 闘争 戦争

 逆位置でのキーワード
 敗北 敗走 遁走 暴走 蛮勇 失敗 ライバル ジレンマ 衝突 無配慮 無分別
 挫折 交通事故 粗暴 粗野 乱暴
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 タカラギコ…ⅩⅧ・THE MOON(月)

 夜空に浮かぶ月。
 それは夜毎に満ち欠けを繰り返し、形を一つに定めない。
 まるで、己の姿を偽り続けるかのように。
 嘘をつき続けるかのように。
 だが、嘘を吐く時に騙すのは他人だけではない。
 自分自身すら、騙しているのだ。
 それでも月は、嘘で己を塗り固めていく。
 それしか生きる術を持たぬと言うかの如く。
 しかし同時に、夜の闇に光を与えるのもまた月なのである。
 その淡い光が己の心の闇を照らす時、
 人は真実と、嘘を吐き続ける事の虚しさに気がつくだろう。

 正位置でのキーワード
 不安 疑惑 嘘 虚偽 前途多難 闇 夜 秘密 神秘 暗中模索 偽り 浮気
 裏切り お先真っ暗 誤解 不信

 逆位置でのキーワード
 真実 浄化 良い兆し 間違いに気がつく 誤解が解ける 信頼 闇に光が差す
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 終わり

495新手のスタンド使い:2004/03/06(土) 06:22
ageるぜ

496( (´∀` )  ):2004/03/06(土) 14:54
「全員生き延びて勝利。そんなハッピーうれピーな展開は雑魚にしか通用しない。
わかるか?『巨耳モナー』必ずしも『正義が勝つ』とは限らないのだよ。
ソコで一生寝ていろ。」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―VS『矢の男』②

「お前、『矢の男』じゃァ、ないだろ。」
俺は誇らしげに言ってやった。
「ほほぅ・・。」
「『矢の男』に矢を貫かれて『スタンド』を手に入れた、って奴らの証言によるとな。矢の男は
『弓』と『矢』を持っているんだ。しかしお前が今もってるのは『矢』のみな上
この『矢』の大きさからすると、お前の体のドコにも隠せない、つまり―――・・」
「『お前は矢の男じゃない』と。」
むッ。一番言いたかった所をとりやがって
「ならば私は何者だというのだ?」
奴は興味を示したのか、俺の話を聞き入ってきた。
「アンタは、『矢の男の部下』ってところだろうな。目的はしらんが。」
「クク・・すばらしい。」
「すばらしいぞ巨耳モナーッ!今私はッ!その頭脳に敬意を表しッ!嬲り殺してやろうッ!!」
ゲッ。余計な事言っちまったかな・・。
「氏ねェィッ!」
奴はすぐさま俺に飛び掛り、俺の両手を掴んだ。
おいおい。さっきとスピードが桁外れじゃねぇかよ。
「その矢は所詮レプリカよッ!渡してやるッ!冥土の土産に持っていきなァッ!」
そういうと奴は膝蹴りで俺の鳩尾を的確に狙いやがった
「―――ァッ!?」
「どうしたッ!どうしたァッ!?『本庁の頭脳』さんよォッ!」
この野郎・・。キャラが違いすぎるぞ・・。矢張りさっきまでは『矢の男』を演じる為に猫かぶってたってわけか・・。
クソォッ!余計な事言うんじゃなかったぜッ!
「ホラァッ!ホーラァッ!!」
奴は何回も俺の鳩尾にけりを入れてきやがる。
しかもさっきから妙にいたいと思ったらさっきの傷口までピンポイントで狙ってやがるのか・・。
「ちょ・・ッと・・待ちやがれ・・ッ・・。」
俺は声を絞り出した
「冥土の・・土産によォ・・教えてくれねぇか・・?お前が『ココに来た理由』って奴を・・ッ。」
「ふむ・・。良いだろう。」
奴は念の為か、俺の手を握ったまましゃべりだした。
「俺がココに来たのは、お前の推理どおり、『矢の男』に命令されたからだ。
俺は『矢の男』に『スタンドの才能』を見抜かれ、部下としてもらった・・。
そして、いくつもの任務をこなしていった。
まぁ、大抵は『矢の男』に扮しての任務だったがな・・。
そして、俺がココに来たのは・・・――――ッ!?」
俺の目の前が紅一色にそまった次の瞬間、
さっきの傷口に感じたことも無い激痛が走り
無言の二人の叫び声が響き渡った。

497( (´∀` )  ):2004/03/06(土) 14:55
「そんな・・・『矢の男』様・・。なん・・デ・・。」
そう。ヤツの後ろでヤツごと俺に矢を突き刺しているのが本物の『矢の男』である。
「お前は実に役に立った。だから少し『長い休暇』を与えてやろう・・。
いや、『永遠』に休んでおけ・・。任務続きで疲れただろう・・?」
「そンな・・・カハァッ!・・・。」
ッ!『矢の男』は一気に矢を引き抜き奴にトドメをさした。
すると。奴の体は俺にもたれかかった。・・・既にその体は冷たく、硬く、血の涙を流しながら・・・死んでいた。
「テ・・メェッ!」
俺が痛みを抑え殴りかかろうとすると『矢の男』は俺の鼻の頭に『矢』を突きつけた。
「・・・一つ、教えてやろう。私が一番嫌いなタイプはな、
『ポテトチップスを食べた後、ハサミで横を切って中に残った塩や破片を舐める』様な奴なんだよ。
そう、『巨耳モナー』。君のようなうすっぺらく、意地汚い奴だ。」
コレが・・『矢の男』ッ!偽者とは違う・・。
圧倒的な『威圧感』をもち、その目にはとてつもない『恐怖』を覚えた。
この目は殺ちゃんの『魔眼』の様だが、全く違う。
見てるだけで息がとまってしまいそうだ。
―――声が出なくなる。
数秒の沈黙が場を支配すると、『矢の男』は再び口を開いた
「どうやら。『茂名王町』には極秘で私の捜査を行っていたらしいな。」
・・・そうかッ!コイツの任務は・・。
「コイツの任務は『私について調べている者どもを抹殺する』事だった。
だが、ツメが甘かったようだな。あんなわかりやすい捜査本部に気づかないとは・・。」
ッ!?
アイツの掌をよく見ると俺や奴の者とは違う血がついている。
まさか・・。
「既に捜査本部にかかわっている人間は皆殺しだ。
今捜査本部は『血の海』と言ってもおかしくない状況だぞ。」
「馬鹿・・な・・。」
「ククッ。さて。じゃあ死んでもらおうか・・。」
『矢の男』は矢を振り上げた
「全員生き延びて勝利。そんなハッピーうれピーな展開は雑魚にしか通用しない。
わかるか?『巨耳モナー』必ずしも『正義が勝つ』とは限らないのだよ。
ソコで一生寝ていろ。」
そう言うと矢の男は物凄い勢いで矢を振り下ろしてきた
しかし、その『矢』は俺の顔面の数センチ前に刺さった。
・・外したのか?
しかし、よくみると『矢の男』の足を奴が引っ張っていた
「・・・まさか死んだ後にこんな事をするとはな・・。流石は『自己強化』のスタンド使い・・。
『回復力』を高め『蘇生』したのか・・。ならばもう蘇生できないようにしてやろう。」
パキャッ
妙な音がした
俺の目に見えたのは首の無い奴の死体だった
    .,.,,., _
  ⊂(,.:;:::;:;;)つ ̄つ 
    ;:;;:;:
  .,,.:;:;:;:;:;;::;;,
 :;;:∠;:;;;:;;;;:;:;:;::;;:;;;
  :;:;:;:;;:::;;:;:;:;∧:;

―――ツゥッ!
震えが止まらない。
殺ちゃんの時や先輩の時とは違う。
まるでこの部屋すべてが『支配』されたような感じ。
「・・・コイツに免じて今の所は去ってやろう。
だがコレ以上私にかかわる気なら次こそ殺してやろう。」
そう言うと矢の男は戻ろうとした。
・・・・だが俺は無意識の内にマズい台詞を言ってしまった。
「それ・・も・・か・・」
「ム?」
「それで・・も・・かょ・・」
「何だ?」
「それでも人間かよッ!!」
俺が奴に殴りかかろうとした瞬間。目の前が真っ白になった
・・・俺は、死んだのか?
そう思った俺の耳に一つの言葉が届いた。
「貴様とは、また戦うことになろう。今の所は生かしておいてやる。」
←To Be Continued

498( (´∀` )  ):2004/03/06(土) 14:55
登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

499( (´∀` )  ):2004/03/06(土) 14:57
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

500( (´∀` )  ):2004/03/06(土) 14:57
――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(?)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。

501ブック:2004/03/06(土) 21:14
     救い無き世界
     第四十話・黒「凶宴」 〜その二〜


 吹き荒ぶ嵐。
 揺れる大地。
 打ちつける雨。
 轟く稲光。
 燃え盛る炎。
 泣き叫びながら逃げ惑う人々。
 地獄が、地獄の全てがここにある。

 俺は部下を何名も従えて、
 地獄と化した街中を闊歩していた。
「撃て!生きている者は全て撃ち殺せ!!」
 部下の兵隊達に命令を下す。。
 フルオートで銃弾が吐き出される音に、
 哀れな標的の断末魔が重なる。
 素晴らしい。
 何という官能的な音楽。

「きゃあああああ!!!」
 女の悲鳴。
 だがこの叫び方は即死じゃない。
 まだ息がある筈だ。
 たまらない。
 断末魔の悲鳴も良いものではあるが、
 このような悲鳴も、また違った風情がある。

 俺は部下に撃つのを止めさせて、倒れている女に近寄っていった。
 よく見ると、子供も一緒のようだ。
 子供の服のあちこちには血が滲んでおり、
 既に虫の息だった。
「お…お願いです!
 私はどうなっても構いません!
 だからこの子だけは…!」
 女が必死に叫んでくる。
「殺れ。」
 俺はパチンと指を鳴らした。
 同時に女と子供に何発もの銃弾が撃ち込まれる。
 声すら出せぬまま、女と子供の体が原型を留めなくなるまで破壊される。

「ははははははは。
 はぁははははははははははははははははは。」
 俺は腹の底から笑い転げた。
 楽しい。
 楽し過ぎる。
 『大日本ブレイク党』に入って、本当に良かった。

502ブック:2004/03/06(土) 21:15


「!!!!!!!」
 突然、俺の横に居た兵士の頭から、脳症がぶちまけられた。
 それに見た時には、さらに三人もの兵士が同じ様に頭を撃ち抜かれている。
「何だ!
 敵襲か!?」
 俺は驚いて声を上げた。
「分かりません!
 キッコーマソ様、気をつけて下さ…」
 そう答えようとした兵士も、次の瞬間仲間と同じ末路を辿った。

 ヤバい。
 何か知らないがとにかくヤバい。
 すぐにスタンドを…

「な!」
 そう思った時には、もう一発の銃弾が俺の目前まで迫ってい―――

「!!!!!!」
 俺の眉間に命中する弾丸。
 しかし弾丸は俺の頭部には侵入せず、
 命中した時と同じスピードで跳ね返った。

 …危なかった。
 あとほんの数瞬、『ギャラガ』を発動させるのが遅かったら、
 確実に死んでいた。

「!!!
 あいつだ!!!」
 兵士の一人が遠くを指差す。
 そこには、一人の男が何事も無いかのように佇んでいた。

 男は一個師団を形成している我々を前にしても、
 全く尻込みしていない様子で、平然と我々に向かって歩いてきた。
 両手には、拳銃が握られている。
 馬鹿な。
 まさかあんな物で、あの距離から、あそこまでの精密射撃を!?

 男が、その顔をはっきりと目視出来る位まで、近づいてくる。
 柔和な微笑を浮かべた、
 人の良さそうな顔。
 だが、まやかしだ。
 この笑顔は、擬態にすぎない。
 俺の本能が、そう告げていた。

「…当たったと思ったんですけどねぇ。」
 男が足を止めて言った。
「ああ、申し遅れました。
 私、SSSスタンド犯罪制圧特務係A班の、タカラギコと言います。」
 SSS…!
 やはり、動いてきたか。

「大した度胸だな、これだけの軍勢を前に。
 それとも、恐怖のネジが外れてるのか?」
 俺は男に尋ねた。
「はは、まさか。
 人間が蟻の行列を前にした所で、怖がったりはしないでしょう?
 そう言う事ですよ。」
 その男の挑発に、部下が一斉に銃口を男に向けた。

「この場には四十人…いや、お前に殺された分を引いて三十五人か。
 それだけの強化兵がいる。
 それらが、お前にとっては蟻の行列に過ぎないと?」
 俺は男に聞いた。
 計三十五個の銃口が、自分に向けられているというのに、
 それでも男は全く笑顔を崩さない。

「あれ?そう言ったつもりでしたが、伝わりませんでしたか。
 これは失礼。
 私もまだまだボキャブラリーに乏しいですねぇ。」
 男が答えた。
「―――殺せ。」
 俺は短く、そう告げた。


 男に向かって何十何百もの鉛玉が放たれる。
 しかしその時にはもう、男の姿は着弾地点にいない。
 近距離パワー型の俺でさえ、目で追うのがやっとな程の速度で、
 男はその場から離脱していた。

「ぐあ!!」
「ぎゃ!!」
 お返しとばかりに、兵士の二人の脳天に弾丸が撃ち込まれる。

 男は素早く横に移動しながら銃弾をかわしつつ、
 同時に銃弾を発射して、次々と兵士達を屠っていった。
 それは信じられない光景だった。
 数で圧倒的に勝っている筈の兵士達の弾丸は、一発たりとも命中しないのに、
 男の放つ弾丸は、まるで当たらない方がおかしいと言わんばかりに、
 全て兵士たちの頭部に吸い込まれていく。

 誓って言うが、
 別に兵士達が決して弱いという訳ではない。
 ましてや強化兵。
 並みの人間など相手にもならない筈なのだ…!

503ブック:2004/03/06(土) 21:15

「鈍い。」
 銃弾を射出しながら、男が言った。
「少々の事では死なない肉体を持っている。
 常人離れした身体能力を持っている。
 それ自体は恐ろしい。」
 兵士の一人が、背後から男に向かって自動小銃を乱射する。
 男は跳び上がってそれを避けると、
 空中で銃を構えて、逆にその兵士の頭に銃弾を見舞う。

「しかし、そんな肉体を持っている事に、あなた達は慢心している。
 その慢心は、油断を生み、隙を生み、
 行動を鈍らせる。」
 男の拳銃がホールドアウトする。
 それを好機と見て、兵士が跳びかかる。
 しかし次の瞬間、男の袖口からナイフが飛び出した。
 それが男の手の平におさまるや否や、
 向かっていく兵士の頚動脈を両断した。
 血飛沫をあげて、絶命する兵士。

 そこに他の兵士達が、ありったけの銃弾を撃ち込む。
 だが男は、先程自分が殺したばかりの死体を盾に、
 銃弾の雨を受け止めた。
 そしてそのまま、銃を撃つ兵士達に突っ込んでいく。

「…故に、あなた達は恐くない。
 自分の力を慢心し、死を軽視しているから恐くない。
 これならば、そこら辺のギャングの方が、まだ恐ろしいというものです。」
 闇夜に白刃が煌き、
 傍の兵士達が次々と赤い液体を撒き散らしながら倒れていった。
 男がそれを見た兵士が動揺している隙に、
 神業めいた速さで、拳銃のリロードを完了する。

 美しい。
 目の前で自分の仲間が殺されているというのに、
 俺は無意識のうちにそんな事を考えていた。

 男の行動には、一切の無駄が無い。
 最短の手順で、
 最短の距離を通して、人に死を届けていく。
 そして何より美しいのは、
 そこに自分の感情を何ら持ち込んでいない事。
 殺意、闘争心、怒り、悲しみ、良心、歓喜、
 その他ありとあらゆる感情が、
 行動の中に存在していない。
 全て無駄なものとして切り捨てている。
 だから美しく、そして、速い。
 男の動きには一片の陰りさえ見つからない。
 容赦なく殺す。
 躊躇無く殺す。
 逡巡無く殺す。
 空気を吸う様に殺す。

 恐らく、男の中では俺達は既に死んでいる。
 男の頭の中には俺達をどうやって殺すかが、
 明確なイメージとして出来上がっているのだ。
 奴は、一ミリの狂いも無くそのイメージ通りに動き、
 そのイメージを忠実に現実に再現している。
 まるでそれを、さも当たり前の事のように…

504ブック:2004/03/06(土) 21:16


 …気がついた時には、
 生きている兵士は一人として残っていなかった。
 屍が回りに転がる中、
 俺と奴だけがその場に生きて立っていた。

「あとは…あなただけですね。」
 男が微笑む。
 あれだけの事をして、その服には一滴たりとも血がついていない。

「成る程…確かに相当の使い手だ。
 しかし、それでは俺には絶対に勝てない。」
 これは強がりではない。
 奴の攻撃手段が単純物理攻撃しか無い以上、
 奴に俺を殺す手段は無いのだ。
 俺のスタンド『ギャラガ』の前には、
 一切の物理攻撃は通用しない。

「そうですか。
 では本当かどうか試してみましょうか。」
 男が拳銃を撃つ。
 俺の頭部に向かって迫る弾丸。
 しかし俺はあえてそれを受けた。

「!!!」
 男が僅かながら驚いた顔をする。
 弾丸は、前と同じ様に当たった瞬間に跳ね返された。

「…やはり、先程あなたに銃を撃った時に、
 弾丸が体に弾かれたように見えたのは、
 見間違いではなかったようですね。」
 男が呟く。
「それがあなたのスタンド能力ですか?」
 男が、俺に尋ねてくる。
「さて、どうなんだろうな?」
 俺はそう言って答えをはぐらかした。

「まあ、良いでしょう。
 それなら思いつく限りの殺し方を、
 一つ一つ試していくとしましょうかねぇ。」
 男がやれやれといったポーズを取った。
 どうやら、自分が圧倒的不利な事には気がついていないらしい。

 確かに戦闘能力では貴様の方が上だろう。
 しかし、俺を殺す手段が無い以上、
 いつかは俺に勝機が回ってくる。
 その時が、お前の最後だ。

「さて…
 それでは、そろそろ行きますよ。」
 男が、俺に向かって銃を構えた。



     TO BE CONTINUED…

5053−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/03/07(日) 02:01
「スロウテンポ・ウォー」

12使徒急襲・2

【火曜】

一昨日から自警団の電話は鳴り止まない。
とうとう動き出したZEROの幹部軍団…「12使徒」の急襲によって、街は混乱に陥っていた。
ニュースで流れている日本町は、町の外や上空から撮影した映像ばかりだった。
余りにも危険……この前代未聞のテロに対し、国家が取った判断は……

「住民の緊急避難勧告」「日本町の完全封鎖」だった。

「……クソッ。」
8フーンは不機嫌だった。否、キレていた。
日曜にはニダーが、月曜にはDが襲撃を受け戦線から離脱…
残る自警団員は8フーン、8ネーノ、☆モララー、★シーン、1ネーノ、そしてノー……
☆モララーと★シーンを二人で一組にすれば、丁度四人。
水曜、木曜、金曜、そして土曜……4日間に一人ずつ始末されるとすれば、計算が合う。
ZEROはこの一週間で自警団を全滅させる気だと8フーンは推測した。
そんなフザけたマネ、させない。
自宅の電話線を引き抜くと、8フーンは家から出た。

「…随分、気が荒いのね。八頭身フーン…自警団のエース。」
声はアパートの外の駐車場からだった。
8フーンがそちらに目を向けると、三人の人物が見えた。

5063−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/03/07(日) 02:01
一人は日傘を差した女性…一人は車椅子に乗った虚ろな少年…もう一人は鋭い眼光を持つ男。

「貴方は私たちを知らない。でも、私たちの“組織の名”は知っている筈よ。」
日傘の女が呟く。次の瞬間、8フーンは二階から駐車場へと飛び降りていた。
「…言わなくてもいい。……ここにワザワザ何の用だ……ZERO……!!」
「宣戦布告よ。初めまして、私の名はシィク=ワン…ZEROの長にして、新たなる創世を紡ぐ者」
芝居がかった口調でシィクは言った。あたかも、それが当然のように。
「神にでもなったつもりか、このクソ厨房女……!街一つ潰しておいて…!!」
「これは始まりに過ぎない。大事の前の小事だ…」
眼光鋭い男は呟く。低い声だったが、よく通る声だった。
「始まりだと……?」
シィクが、大きく両手を広げた。

「そうよ。この街は私たちにとってはノアの箱舟…新たなる創世、全てを“ZERO”からやり直すために
…私たちは動き出したの。今のZEROに居るのは、心に…体に…酷い傷を負った人たちばかり。
この世界によって、傷つけられた悲しい人たちが今のZEROを形成しているわ。
だから……こんな世界はいらないの。私達が創り直してあげる。私達が正しく導いてあげるわ。
悲しき“Agnus Dei”の為の世界を導くのよ…私はその為に、“聖母(マリア)”となる。
……だから、傷を負わせた世界の咎人達を皆殺しにする必要があるの……」

「だったら…どこぞの違う星にでも行きやがれ…お前らに俺らを殺す権利なんてどこにある……!!」

「あるわ。この子を見なさい…私の愛する弟……ディス=ワン。元はギコ種だったけど、2年前“でぃ”になったわ。
虐殺厨に襲われた私を助ける為に、全身を切り刻まれて…今もこの子は全身がツギハギだらけなのよ?
そして、心を失ったわ……最後まで見つからなかった右耳は、私があげたわ……!!
この子を、優しいディスを苦しめた世界を…12使徒達を苦しめた世界を…ZEROの皆を苦しめた世界を……!!!

私 が 滅 ぼ し て あ げ る 。」

5073−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/03/07(日) 02:01
その目は、狂気。信念の旗を掲げた、紛う事のない狂気の瞳だった。片耳のしぃが狂っている。
そして、それにつき従うファナティック(狂信者)が居る…

「お前の事情はわかった……だが、俺は……そんなもんぶっ潰す。」
「そう言うのは予想済みよ、八頭身フーン…だから、貴方の愛する子供たちを襲わせたわ。」
「!!」
「“小さくて、とても大きい”勇敢な騎士…リトルナイトにね。」

駐車場に、3つの小さな影が現れたのはその時だった。
「ふ、フーン!!」「た、大変だよ!!ね、ネーノが!ネーノがぁっ!!!」
1ネーノと、☆モララー、★シーンが八頭身の体を支えながら歩いてきた。
もう、今にも泣きそうな顔だった。★シーンはもう泣いていた。
彼らが支えていたのは、八頭身ネーノだった。全身に裂傷を負った、無残すぎる姿だった。

「…う、うあ……ふ、フーン…?…悪……ぃ…トチ……った……。油…断し…た…」
8ネーノは顔を伏せたまま気を失った。三人の子供たちは無傷だったが、精神的ダメージは大きい。
父親であり、大親友であった8ネーノがやられたのだ。
「どうした…!コイツは馬鹿親日本町代表だが、そう簡単にやられたりする訳が……!」
「犬……犬が、大きくなって……突然…!皆を、皆を食い殺して……うわああ!!」
「…あれも、スタンド能力だと思うけど…!でも、いきなりすぎて…!!俺ら、何も出来なかった…最低じゃネーノ…!」
☆モララーと1ネーノがボロボロと涙を流しながら言う。思い出すのも辛い筈だ。
8ネーノだけでなく、見知らぬ逃げ遅れた一般人までも…その“リトルナイト”に殺られているのだから。
強い子だ……8フーンは、そう思った。

「……つーわけで、な。本来ならネーノがお前らをぶっ殺すんだが……今日は俺が相手をしてやる……!!」
子供たちの頭を撫でながら、8フーンが振り返る。しかし、そこにはもう三人の姿はなかった。

ただ空中に巨大すぎるトンボが居た。そこに3人は居たのだ。

「…まだ前奏曲の途中。これからが、本当に破滅の始まり。それまで、貴方達は泳がせておくわ。」
「……我らの計画は永久不滅にして、完全無欠……お前達程度、何の障害にもならないんだよ。」
そして、トンボは飛び去った。行く先は、この周辺で一番目立つ…巨大なホテルだった。

「……くそっ!!」
地面を殴り、8フーンは歯軋りをするしか出来なかった…

5083−2 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/03/07(日) 02:02
「……うふふ……あはは……!!エース格を二人潰せれば上出来ね。」
「……シィク…無茶だ。あの狂犬どもが何をしでかすかわからないのに、近寄るなど…」
「あら、いい機会だったわよ?」
穏やかな笑みを浮かべたまま、シィクは言った。

「私達の怒り、悲しみ、絶望、憎悪……何も知らずに、勧善懲悪に酔ってるあの子達を苦しめるには。」
「なるほど。」

「…ふふ……さぁ自警団の勇者達、ZEROを憎みなさい。その怒りを、悲しみを私達に向けなさい…
そして、知るがいいわ。私達の味わった……絶望を。この世界の誰よりも、知るのよ…絶望の意味を…!!」
「……あぁ……う……ね……ぇ……さん………」
ディズが呟く。途切れ途切れの言葉。
「…ごめんなさい、ディズ…優しい貴方には、この光景を見せたくはなかったわ……」
空から見る日本町は、あちらこちらで火の手があがり、黒煙が立ち昇り、戦場のような景色を写している。
「……ああ、ディズ…ディズ……!とても、とても優しいディズ……貴方の為なら、私は……!」
「…そこまでだ、マリア・シィク。貴女だけがこの粛清の罪を被る事はない…。我ら12使徒、そして」
今にも泣き崩れてしまいそうなシィクをコロッソは抱きとめる。強く。
「貴女に付き従う、全てのZEROが…同じ罪を背負っている。貴女はもう独りではないんだ…」
「ね……ぇ…さ………?な……か、ない………で…?お……れは、だい……じょ…ぶ……だ…よ?」
「…ありがとう、コロッソ……ありがとう、ディズ……私は幸せ者だわ……」

ホテルの屋上に降り立ち、三人は町を見下ろす。
今日だけで、死者は数千に及ぶだろう。避難し遅れた人間は、間違いなく死ぬであろう。
そして、この町に残るのは……ZEROと自警団のみになるだろう。

「私が、悲しみの涙を流すのもこれで最後…」

「私はZERO…全てを元に戻す者…」

「私は神…」

「…新たなる世界を、我らが手に。」


「さぁ、破壊を。再生の為の大いなる破滅を!この世界に与えなさい!我が下僕達!!!」

『仰せのままに、マリア・シィク…そして、ディス・ザ・クリスト…』

スタンドを通した声は、不気味に空へと響いた。
破滅とは程遠い、良く晴れた青空だった。

<TO BE CONTINUED>

509:2004/03/07(日) 20:29

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ASAビルに遊びに行こう その1」



          @          @          @



「あっ、もうすぐ交代時間ですね…」
 受付嬢は、傍らにいる女性に告げた。
 そう言った彼女自身も、ここASA本部ビルの受付嬢である。
「もう1時か… 先に戻って、紅茶入れといてくれない?」
「はい、先輩」
 後輩受付嬢が頷いた瞬間、1階ホールは闇に落ちた。

「停電…?」
 先輩受付嬢は呟く。
「困りましたね… 懐中電灯を探しに行かないと…」
 後輩受付嬢がブースを出ようとしたが、先輩受付嬢はその肩を掴んだ。
「おかしい。さっきから、外の車道を一台も車が走っていない…
 貴方の『ブラック・ドッグ』で索敵してみて」

「あ、はい…」
 後輩受付嬢は、ヘッドホン型のスタンドを頭に嵌めた。
「えーと、正面に1、2、3、4、5、10、20… 500人!!
 ビルの裏口にも500人! 左右にも!! 少し距離を置いて、3000人以上!!
 至急、三幹部に報告を…!!」

 先輩受付嬢は暗闇の中、手探りで内線電話の受話器を取った。
 しかし、受話器からは何の音も聞こえてこない。
「この…!!」
 先輩受付嬢は受話器を叩きつけた。

 その瞬間、ガラスの割れる音が響いた。
 大勢の人間の靴音。
 何人もの人間が、このホールに踏み込んでいる…!
 均整の取れた動き。無駄の無い展開。
 こいつら、軍人…!?

 しかし、この闇の中だ。
 向こうからも、こちらの姿はよく見えないはず。
 ならば、闇に乗じて先制攻撃を…!!
「『アスファ…!!」
 心の中でスタンド名を呼ぼうとした瞬間、彼女の体は何十発もの鉛玉に撃ち抜かれた。
 痛みは感じない。
 ただ、撃たれた箇所が熱いだけ。
 …きっと、致命傷だ。
 受付嬢は、そのまま床に崩れ落ちた。

 彼女は薄れ行く意識の中、二つのものを見た。
 ガンフラッシュで照らされた、軍人達の姿。
 彼等は、全員が暗視装置を装着していた。
 それと、全身を撃ち抜かれて倒れる後輩受付嬢の姿。

 軍人達は、倒れている受付嬢達から10mの距離を置いている。
 その距離から決して近付こうとはせず、2人の受付嬢に止めの弾丸を見舞った。
 10mとは、平均的な近〜中距離型スタンドの射程距離である。

510:2004/03/07(日) 20:30


          @          @          @



 フサギコは、90式戦車の車体にもたれて本を読んでいた。
 戦車から漏れる光でも、活字を追うには充分である。
 夜風が少し身に染みた。
 眼前のビルからは、絶えず銃声が響いている。
 フサギコの前に、軍服を来た男が現れた。
 その肩章の桜の数は3個。
 軍人は、フサギコに向かって厳かに敬礼する。

「…首尾は?」
 本を閉じてフサギコが訊ねた。
「先遣隊より、1階ホールの制圧を完了したとの連絡が入りました」
 軍人は報告する。

「…よし。後は各個撃破だ。
 10mを越えた距離で複数の人間を殺傷できる程のスタンド使いは、全体の15%にも満たない。
 くれぐれも、10m以内には近付かないよう徹底させろ」
 フサギコは姿勢を正して言った。
「はっ、心得ております」
 軍人も姿勢を正す。

「…絶対に一対一では対応するなよ。必ず、7人単位の小隊で一斉射撃だ」
 フサギコは、再び戦車にもたれた。
「了解しておりますよ。大将殿は後方で、偉そうにふんぞり返っておいて下さい」
 軍人は笑って言った。
「残念だが、そういう性分じゃないんでな」
 笑顔で返すフサギコ。

「ところで、その本は…?」
 軍人は不思議そうに言った。
 本の背表紙には、『家庭でできる菜園』とある。
 フサギコは無造作に本を置いた。
「これか? 野菜型のスタンドと戦う時に、必要になると思ってな…」
 本の表紙を軽く叩きながらフサギコは言った。

 それを聞いて、軍人は笑みを浮かべる。
「軍人ジョークは結構ですよ」
 フサギコは不服そうに腕を組んだ。
「『知識でも技能でも、覚えられるものは何でも覚えとけ』ってのが俺の信条なんだ。
 いつか、何かのカタチで役立つ事があるかもしれんからな」

 軍人は微笑んで腕を組んだ。
「…なるほど。とにかく、余り読書に熱中されぬよう。
 100m以上の高射程を誇るスタンドも存在すると聞きます。
 この場所ですら、安全とは言い難いですからね」

 フサギコはため息をついた。
「注意はしてるさ。過剰なくらいな。なにしろ、奴等は人間じゃない。
 我が隊は、初めて人間外の生物と交戦した軍事組織となる」

「スタンド使いは、もはや人間とは呼べない…ですか」
 軍人は視線を落として腕を組んだ。
「しかし、肉体そのものは我々と変わらないという話ですが」

 フサギコは、脇に置いてある89式小銃に目を向けた。
「それでも、逸脱者は社会から駆逐される。 …そういうことさ」

 突如、ガラスの破壊音が響いた。
 ビルの10階ほどの窓が破れ、人が落下していく。
 その人影は、スーツを着ているのが確認できた。
 こちら側の人間ではない。

「なかなかに、成果は出ているようだな…」
 フサギコは腕を組んで、満足そうにASAビルを見上げた。

 人間の落下地点と思しき場所に、大勢の軍人達が駆け寄っていく。
 その直後に何発もの銃声が響いた。

「完全に止めを刺せ、というのも徹底していますな…」
 フサギコと話していた軍人が、そちらの方向に目を向ける。
「兵単体のスペックではこちらが遥かに劣る。油断はせんよ。
 状況は整い、場は掃討戦を様してきた。こうなってきた時が一番危ない。
 奇襲の効果も薄れる頃合だ。向こうも体勢を立て直してくるだろうからな…」

「では、そろそろ最後の…」
 そう言いかけた軍人の言葉を遮るフサギコ。
「いや、まだ早い」
 フサギコは戦車から腰を上げると、横に置いてあった89式小銃を手に取った。
「統合幕僚長、何を…?」
 軍人は驚きの表情を浮かべる。

 フサギコは、それには構わず89式小銃を肩に掛ける。
「大した事はない。ただの散歩だ…」
 そう言って、フサギコは戦車から腰を上げた。

511:2004/03/07(日) 20:31


          @          @          @



 軍人は、ドアに向けてショットガンを発射した。
 ノブが吹き飛び、歪んだ音を立てて開くドア。
 7人で組の小隊は素早く部屋の中に入っていった。
 部屋内は真っ暗だが、暗視装置を完備している軍人達には何の問題もない。
 そのまま、射撃の隊列を組む。

「撃て!!」
 銃弾の雨が、部屋の隅に潜んでいた人物に浴びせられた。
「くそッ!!」
 男はスタンドを発動させ、銃弾を弾こうとする。
 だが、暗闇の中で7人からのフルオート一斉射撃を防ぎきれるはずがない。
 たちまち、男は肉塊と化した。

 同時に、軍人の一人の腕が捻じ切れる。
「うわぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げ、腕から血を噴き出しながら床に倒れた。
 軍人達は、素早く周囲に視線を這わせる。
 しかし、人の姿はどこにもない。

「E−1地点にて、中〜遠距離型の攻撃を受けた! 隊員一人が軽症!」
 小隊長が、ヘルメットに備え付けられた無線機に告げた。
『…了解。ただちに周囲50mを索敵・掃討させる』
 司令部から、即座に応答が返ってくる。

 小隊は、負傷者を確保しながら部屋を出た。
 スタンドの追撃はない。
 廊下の向こうから、銃声と悲鳴が聞こえた。
『033小隊より、該当すると思われるスタンド使いを射殺したとの報が入った』
 無線機から連絡がある。

 突然、廊下の壁が崩れた。
 壁の穴から、男が飛び出してくる。
「『プリティー・フライ』!!」
 男は叫んだ。

「撃てッ!!」
 軍人達が反応するよりも早く、男のスタンドは2人の首をへし折った。
 同時に、小隊長が男に向けて引き金を引く。
 その瞬間、銃が暴発した。
 …おそらく、これが男のスタンド能力。
「ぐあッ!!」
 小隊長は大きくのけぞる。
 その顔面目掛けて、男はスタンドの拳を振り下ろした。

 残る小隊3人は、素早く床に伏せる。
「!? 何を…」
 男はその行動に困惑しつつも、さらにスタンドの拳を振るおうとする。
 その瞬間、足元で轟音がした。
 小隊長が事切れる寸前に落とした手榴弾が炸裂したのだ。
 足元の爆発には抗いきれず、男は床に倒れた。
「うう…」
 床に這う男の頭部に、3つの銃口が向けられた。

 銃声が鳴り響いた後、小隊の1人は無線のスィッチを押した。
 司令部に連絡を取る。
「第014小隊、隊長が殉職しました。隊員2名も殉職、1名が軽症。指示を願いたい」
『E−5地点の第064小隊と合流せよ』
 司令部から返答が返ってくる。
『あと、062小隊が全滅した。野獣のような唸り声が聞こえたという事で、獣型のスタンドのようだ。
 状況から見て近距離型と考えられるが、自動操縦の遠距離型という可能性もある。映像を送信しよう…』

 ヘルメットに備え付けられたディスプレイに、映像が流れる。
 獣の咆哮と共に、次々に爪のようなもので引き裂かれていく軍人達。
 まるで、見えない獣に襲われているかのようだ。
 映像が激しく揺れ、ノイズが混ざる。
 10秒ほどのち、立っている人間はいなくなった。
 虚しく天井が映し出されるのみ。

『以上、062小隊を全滅させた敵だ。その付近から索敵しつつ、064小隊と合同で掃討せよ』
 再び、司令部からの声が流れてきた。
「了解!」
 3人の小隊は、暗視装置を赤外線サーモグラフィ仕様に切り替える。
 早くも、壁の向こうが赤く反応した。
「距離45。割合、近くにいたようだな…」
 3人は、壁で遮られている対象に銃口を向けた。
 廊下の向こうから獣の咆哮が聞こえる。
 徐々に足音が近付いてきた。

 だが、間に合わない。
 3つのOICWから発射された5.56mm弾が、軽く壁を貫通してスタンド使いの全身を撃ち抜いた。
 獣の唸り声が消滅する。
「…こちら014小隊。獣のスタンド使いを掃討した。これより、064小隊と合流する」

512:2004/03/07(日) 20:32


          @          @          @



 ASAビル内の各所には、カメラが配置されている。
 しぃ助教授は、コンソールからその映像を見ていた。
 ASA職員が虐殺される様子を。

「敵の武装、多様すぎますね…」
 しぃ助教授は静かに呟いた。
 アサルトライフルとグレネードの統合兵器・OICWの他にも、軍人達は多彩な銃器を手にしていた。
 MP7から、ミニミ、SPAS15、バレットライフルに至るまで。
「…おそらく、スタンドの多様性を考慮しての事でしょう」
 丸耳は答える。
「拳銃弾ならまだしも、フルオートでのライフル弾やグレネードを防げるスタンド使いは限られます。
 まして、この闇の中では圧倒的にこちらが不利。しかも、物量差が余りに大きいとなると…」

 丸耳の分析を、しぃ助教授が補足した。
「さらに、敵は無知ではありません。スタンドについて熟知している」
 そして、敵全員が装備しているIHAS(統合型ヘルメット・アッセンブリー)に目をやる。
「これに登載されたビデオカメラ機能で、司令部に映像を転送できます。
 つまり、こちらのスタンド使いが敵を倒したところで、能力の特徴が瞬時に司令部に把握される。
 だから、向こうは容易く対策が立てられる」

 丸耳は息を呑んだ。
 しぃ助教授は話を続ける。
「…これは、犠牲前提でこちらの能力を探る戦法です。単なる物量作戦とは性質が違う。
 完全に統制された戦術情報共有システム…
 能力が割れる事が大きな痛手になるスタンド使いにとって、まさに天敵と言えるでしょうね」

 しぃ助教授はディスプレイから目を離すと、部屋に控えていた職員の方に振り返って言った。
「とにかく電源の復旧を急ぎなさい! このままでは、こちらは的です!
 コンピューター等の重要機器用の予備電源を流用しても構いません!」
「はっ!」
 懐中電灯を持った伝令役の職員が、慌てて駆け出していく。

「ですが… これほどの軍事行動を起こしながら、監視衛星に捉えられなかったというのは…」
 丸耳が呟く。
「監視衛星からの昨日の映像と、今日の映像を比較してみなさい」
 しぃ助教授は、コンソールを操作した。
 二画面分割で、昨日と今日の同時刻の映像が表示される。
 それは、寸分まで違わず同じだった。
 曇り具合から、通行人の数まで。

「昨日と全く同じ風景…! 馬鹿な、これは…!!」
 丸耳は絶句した。
「外部から、今日の映像を昨日の映像に差し替えたんでしょう」
 しぃ助教授が表情を歪める。
「監視衛星ジャックなど、自衛隊の技術では不可能…
 あのランドウォーリア・システムから見ても、米軍の援助があるのは間違いないようですね」

 ドアが開き、懐中電灯を持ったねこことありすが入ってきた。
「クックルさんの姿が、どこにもありません…!」
 ねここは慌てた声を出す。
「もう行きましたか… 相変わらず、行動が早い」
 しぃ助教授はため息をついて言った。

「サムイ…?」
 ありすが無表情で訊ねる。
 しぃ助教授は頷いた。
「ええ。とんでもなく寒い事態ですね。状況を見るに、10階までは制圧されたようです」

513:2004/03/07(日) 20:35

 突如、廊下から10人ほどの足音が響いた。
 全員の意識がそこに集中する。
 その足音は、この幹部室のドア前で止まった。
「!!」
 しぃ助教授達は一斉に構えた。
 銃声と共にドアが吹き飛ぶ。
 舞い散る木片。
 その向こうに立っていた軍人達が、並んで銃口を向けた。

「丸耳! ねここ!」
 しぃ助教授が声を上げる。
 軍人達が、引き金に指を掛けた。

「『メタル・マスター』!!」
「『ドクター・ジョーンズ』!!」
 丸耳とねここが同時に叫んだ。

 丸耳の背後に、人型スタンドのヴィジョンが浮かび上がる。
 そのまま指を鳴らす丸耳。
 それが合図のように、一斉に放たれた銃弾が虚空に消え去る。

 同時に、死神のような外見のスタンドが軍人達の正面に躍り出た。
 間髪置かず、巨大な鎌で軍人達の頸部をまとめて切断する。
 ゴロゴロと床に転がる首。
 頭部を無くし、ドサドサと崩れる体。
 床や壁は、一瞬で血塗れになった。

「こいつら、一体どこから侵入を…」
 軍人達の死体を見下ろして、しぃ助教授は呟く。
「まさか屋上? こいつら、空挺部隊ですか…!」

「上と下から挟み撃ち、って訳ですね…」
 丸耳がスタンドを解除して言った。

 しぃ助教授は、ディスプレイをビル内カメラの映像に切り替えた。
 全身に弾を浴びて、命を奪われていくASA職員。
 しかし、多くの軍人も道連れに倒されていく。
 軍人の死体と職員の死体で、廊下は血塗れだ。
 軍人の死体の方が多いが、全体の総数から見て明らかに押されている。
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
「ありす… 貴方は、屋上から押し寄せてくる空挺部隊を食い止めて下さい。1人で事足りますね?」
 こくこくと頷くありす。

 しぃ助教授は、丸耳に視線を移した。
「後の指揮権は、全て丸耳に移行します…」
「えっ!? では、しぃ助教授は!?」
 困惑する丸耳。
 しぃ助教授は、無言でハンマーを手にする。
 その様子を見て、丸耳は理解した。
 彼女は、物凄く怒っている…

 丸耳は、再びディスプレイに目をやった。
 机の下に隠れ隙をうかがっていた職員が、机ごと蜂の巣となる。
 熱線映像装置と赤外線サーモグラフィーを併用する軍人達の前では、隠れ場所は無いに等しい。
「まるで敗残兵狩りですね。もう勝った気なのか…」
 丸耳は怒りを抑えながら呟いた。

 しぃ助教授は、ハンマーを軽く振ってから肩に掛けた。
「そうらしいですね。ひとつ教育してやりましょうか…」




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

514新手のスタンド使い:2004/03/07(日) 23:08
新作ラッシュ乙ッ!

515新手のスタンド使い:2004/03/07(日) 23:50
age忘れ。

516ブック:2004/03/08(月) 02:14
     救い無き世界
     第四十一話・黒「凶宴」 〜その三〜


 男の拳銃から、弾丸が射出される。
 その弾丸は正確に、俺の眉間と心臓に着弾する。
 しかし、無駄。
 弾丸は今迄と同じように、全て命中と同時に跳ね返る。
 これこそが『ギャラガ』の能力。

「やっぱり、駄目ですか。」
 男は弾丸をしまうと、今度は俺に向かって走り出す。
 瞬く間に距離が詰まり、
 男が俺に、右上段回し蹴りを繰り出す。
 だが―――

「『ギャラガ』!!」
 俺はスタンドを発動させ、男が放つ蹴りを防いだ。
 その瞬間、男は蹴りの勢いそのままに、
 蹴りとは間逆のベクトルの方向にすっ飛んだ。
 男が尻餅をついて倒れる。

「うらあ!!!」
 チャンス。
 倒れた男に『ギャラガ』で追撃。
 『ギャラガ』の左腕が唸りを上げる。

「当たりません。」
 男が寸前で、潜り込む形で『ギャラガ』の左ストレートをかわす。
 その時には既に、男の手にはナイフが握られ、
 俺の心臓を一突きにせんと、そのナイフを突き出した。

「…!」
 男が微かに眉をしかめる。
 ナイフは体には刺さらない。
 代わりに、ナイフを持つ手が弾かれる。

(今!)
 男が体勢を崩した所に、
 『ギャラガ』が右拳を打ち込む。
 こちらの体勢も万全とは言えないが、問題ない。
 『ギャラガ』の能力を発動する。

「!!!!!」
 拳が男の胸部に命中した。
 男が後方に吹き飛ばされる。
 だが、今のは―――

「いやはや危ない所でした。
 もう少しで胸骨を粉砕される所でしたよ。」
 男が平然と立ち上がる。
 …やはり。
 拳の命中の瞬間に、自分から後方に跳ぶ事で、威力を殺したのだ。

「ごほっ、ごほっ。
 いや、全く酷い事をしてくれたものです。」
 男が咳き込む。
 いくら威力を殺したとはいえ、
 完全には攻撃を無力化する事は出来なかったようだ。

517ブック:2004/03/08(月) 02:15

「ですが、大体分かりました。
 あなたの能力が。」
 男が口元をハンカチで拭いながら言う。

「『作用と反作用の操作』…違いますか?」
 正解だ。
 少し能力を見せすぎたか。
 しかし、俺はその問いには何も答えない。
 男はそれを正解の合図と受け取ったのか、止めずに口を開く。

「銃弾が命中する瞬間、その作用の力を全て反作用に代えた。
 だから、幾ら撃ち込んでも弾丸はあなたにダメージを与えられなかった。
 蹴りや、ナイフによる刺突も同様ですね。」
 男が解説を続ける。
「そして、先程のパンチはそれとは逆に、
 パンチが命中した時に、拳が受ける反作用を、全て作用の方に転化させた。
 だからあんな不完全な体勢からでも、威力のある攻撃が出来た。
 どうです、当たりでしょう?」
 男が笑顔を見せる。
 自分には勝機が無い事を、自分で説明したのも同然なのに、
 何故こいつはまだ、笑うまでの余裕があるのだ?

「それで、どうした。
 俺の能力が分かった所で、俺を倒せるのか?」
 俺はそう言い放つ。
「ふむ、確かに一見無敵の能力です。
 ですが、火炎放射器や爆弾ではどうでしょうね?」
 男のその言葉に、俺は内心冷や汗を掻いた。
 そう、『ギャラガ』も万能な訳ではない。
 熱や電気といったものにまでは、流石に無力だ。

「まあ、今私はそんなもの持ってないんですけどね。」
 男が俺をからかうように言った。
 その顔には、さっきの俺の動揺を嘲るような笑みが浮かんでいる。

(こいつ、舐めやがって…!)
 俺は男に向かって突っ込んだ。
 恐らく、男が火炎放射器や、爆弾等の類を持っていないのは本当だ。
 持っているなら、わざわざあんな事を言ったりせずに、
 迷わず使っている筈だからだ。
 それならば、やはり俺の敵ではない。

「『ギャラガ』!」
 男にスタンドの拳を打ち込む。
 男は、それを苦も無い様子で回避する。
 精々上手く逃げ続けるがいいさ。
 どうせお前にはそれしか出来まい…!

 と、パンチのかわしざまに、男が俺の服を掴んだ。
 その次の瞬間には、俺の体が奴を支点に回転する。

「馬鹿め。
 そんなものが俺に通用するか!」
 『ギャラガ』を発動。
 背中が地面に叩きつけられた時の作用の力を、
 全て反作用に転換。
 俺の体が地面に激突すると同時に、
 トランポリンのように跳ね上がる。
 もちろん一切のダメージは無い。
 そのまま足から着地する。

「投げ技とは考えたが、無駄だぞ。
 普通の白兵戦では、俺は殺せん!」
 どうだ、万策尽きたろう。
 泣け。
 喚け。
 絶望の顔を浮かべて命乞いをしろ…!

518ブック:2004/03/08(月) 02:15

「くっくっくっくっく…
 あははははははははははははははははは!」
 しかし俺のその思いとは裏腹に、
 男は愉快そうに笑い出す。
「何がおかしい!」
 俺は奴に怒鳴りちらした。
 何故だ。
 何故奴は少しも絶望しないのだ。

「いや失礼。あなたがあまりにも間抜けな事をおっしゃるので。」
 男が笑いを堪えながら喋る。
 それが、益々俺を不愉快にさせた。
「あなた、さっきので気づいていないんですか?
 自分の能力の、致命的な欠陥に。」
 男が言う。
「欠陥…!?」
 何だ。
 何の事なのだ?

「やれやれ…救いようの無いお馬鹿さんだ。
 本体のあなたがそれでは、せっかくの能力も宝の持ち腐れですね。」
 すると、男がナイフや拳銃を地面に投げ捨てた。
 こいつ、一体何を考えている!?
「では、今からご教授して差し上げますよ。
 その欠陥を。」

 男が、駆けた。
 ただ一直線に、俺に向かって走ってくる。

 何をするかと思えば、
 今までとまるで一緒ではないか。
 びびらせやがって。
 『致命的な欠陥』だと?
 ただのはったりもいい所だ。

 向かってくる奴に合わせて右拳を打ち出す。
 例え避けられたとしても問題無い。
 こいつには俺を殺す手段など…

「!!!!!!!」
 と、男が飛び上がり、俺の突き出した腕に絡みついた。
「跳びつき腕挫逆十字固め。」
 男が呟く。
 その刹那、俺の右腕に激痛が走った。

「ぎゃああああああ!!!」
 腕を、折られた。
 意識とは無関係に、口から悲鳴が漏れ出る。

「双手刈り。」
 足を掴まれ、仰向けに倒される。
 とっさに『ギャラガ』で防御。
 作用が反作用に転化され
 体が地面に倒されると同時に跳ね上がる。
 だがその時には既に、
 男は俺の左足に蛇のように巻きついていた。

「ヒールホールド。」
 ぶちぶちという音を立てて、
 俺のアキレス腱が引き千切られていった。
「いいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
 肺の中の空気を全て吐き出して、絶叫する。
 奴はそんな事にはお構いなしに、
 俺の首をに腕を絡み付ける。

「裸絞め。」
 男の腕が、俺の気道と頚動脈を圧迫する。
 頭に酸素が供給されなくなり、
 一気に視界と思考がぼやける。

「先程あなたを投げた時に確信しました。
 あなたが作用と反作用を操れるのは、瞬間的に力を加えられる場合のみ。
 握る、押す、引っ張る、掴む、捻じる、絞める等、
 持続的な力の加えられ方には全くの無力だ。
 まさか、そんな事にも気づいていなかったとは。」
 男が俺の耳元で囁く。
 その間にも、男の腕は万力のように俺の首を絞めつけていく。

「自分の能力すら正確に把握出来ていないとは、
 スタンド使いとして三流もいい所ですね。」
 男がさらに、腕に力を込めた。
「では、さようなら。」
 男が俺の頭を捻じる。
 首の骨が破壊される音。
 それが、俺の聞いた最後の音だった。


     TO BE CONTINUED…

519ブック:2004/03/08(月) 20:59
     救い無き世界
     番外・かめはめ波を撃ちたい。


 俺と特務A班のメンバーは、とあるプロジェクトの完遂の為に、
 一つの部屋に集まっていた。
「か〜め〜は〜め〜…」
 ふさしぃが、手を虎のような形にして腰の横の位置まで持っていき、
 そこに気合を集中させる。
「波ーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 その掛け声と共に、手の平を前に突き出す。
 だが、そこからは当然何も出てこない。

「…やはり駄目かょぅ。」
 ぃょぅが、がっくりと肩を落とす。
「過ぎた事を悔やんでも仕方ありません。
 我々がすべきは失敗を後悔することではなく、
 次に繋げる為に研究することですよ。」
 タカラギコが、パソコンに何やらデータを打ち込んでいく。
「おかしいモナ…
 どうしてスタンドは使えるのに、かめはめ波は撃てないモナ?」
 小耳モナーが呟いた。

『あの…もう止めにしませんか?』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
 もうかれこれ、このプロジェクトを始めてから三時間が経過している。
「でぃ君、何を言っているんだょぅ!
 君はかめはめ波の発射という、人類最大の命題を諦めると言うのかょぅ!!」
 ぃょぅが力説する。
 いや、そりゃあ俺だって、
 小さい頃にかめはめ波を撃とうとした事ぐらいあるさ。
 寧ろこの日本において、自分がかめはめ波を撃てるかどうか試した事が無い奴は、
 非国民と言っても過言では無いだろう。
 だけど、どう考えても無理だって。

「俺もその意見に賛成だぞゴルァ。」
 ギコえもんが椅子から立ち上がった。
「大体かめはめ波なんて、撃てるわけがねぇんだ。
 俺はもう、こんな事に付き合うなんて御免だぜ。」
 ギコえもんが部屋から出ようとする。

「クラスに一人はいるのよねぇ、こういう人。
 本気にならない自分が、クールで格好良いとか勘違いしてるのよね。」
 ふさしぃが厭味を言う。
「けっ、言ってろ。
 そもそも俺は、餓鬼の時分でもこんな下らねぇ事なんかやってねぇよ。」
 ギコえもんが、そう言って軽く流そうとする。

「ほぉ、それはいい事を聞きました。」
 タカラギコが、どこからか出てきたテレビをリモコンで操作した。
 画面に、ギコえもんの子供の頃の姿が映し出される。

「地球の皆、オラにちょっとだけ元気を分けてくれ!!」
 テレビの中で、子供のギコえもんが両手を天に掲げながらそう叫んだ。
 ギコえもんの顔が、たちまち真っ赤になる。

「うわあ…」
「あ〜あ、やっちゃったモナ。」
「いやはや、まさか元気玉とは…」
「恥ずかしいわねぇ…」
 ぃょぅ達が、にやにやしながらギコえもんを見る。
 ギコえもんの顔中に、青筋が浮かんでいた。

「絶対に許さんぞ貴様ら!!
 じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!」
 ギコえもんが、ぃょぅ達に飛び掛った。
「ドドン波!!」
 ふさしぃの手から閃光が放たれ、ギコえもんを吹き飛ばす。
 ギコえもんは壁に激突して、そこに大穴を開けた。

「…ドドン波なら出来るんだけどねぇ。」
 ふさしぃが残念そうに呟く。
 というか、はっきり言ってそれだけ出来れば十分なのではないか?
「しかし駄目だょぅ。
 所詮はドドン波。かめはめ波とは天と地程の開きがあるょぅ。」
 ぃょぅが言う。
 だけど、かめはめ波とドドン波の違いって、一体何なのだ?

520ブック:2004/03/08(月) 21:00

「ここはもう一度、皆で一斉にかめはめ波を試してみましょう。
 何か新しい事に気づくかもしれない。」
 タカラギコが提案する。
「そうモナね。取り敢えず、やってみるモナ。」
 小耳モナー達が、かめはめ波の構えを取る。

「か〜め〜は〜め〜…」
 全員が、声をそろえて掛け声を合唱する。
 大の大人が、本気でかめはめ波を撃とうとしている。
 中々にシュールな光景だ。
「波ーーーーーーーーーー!!!!!」
 やはり、手の平からは何も出てこなかった。
 何でドドン波が撃てて、かめはめ波が撃てないのだ?


「皆さん、お茶が入りましたよ。
 そろそろ一息つきませんか?」
 みぃが、お盆にティーカップとお茶菓子を乗せて、
 部屋に入ってきた。
「…そうですね、少し休憩しましょうか。」
 タカラギコが椅子に深く腰掛けた。
 他の人も、それぞれ体を休める。
 そこにみぃが、一人ずつ紅茶の入ったカップを渡していった。
 ギコえもんは壁の穴に埋まったまま、まだ出てこない。

「どうぞ。」
 みぃが最後に俺にカップを差し出した。
 ありがたく受け取り、琥珀色の液体に口を付ける。
「どうですか?
 プロジェクトの方は。」
 みぃが尋ねてくる。
『…まあ、前途多難だな。』
 俺はそう答えた。
 というか無理だって、絶対。
 ドドン波撃ててる時点で奇跡に等しいもん。

「あの…ちょっとだけかめはめ波のポーズしてみてくれませんか?」
 本当は嫌だが、他ならぬみぃの頼みだ。仕方がない。
 俺は立ち上がって、渋々かめはめ波の構えをした。
(か〜め〜は〜め〜…)
 投げやりに心の中で掛け声を唱える。
 こんなもので、エネルギー砲が撃てたら苦労しねぇよ。
(波ーーーーーーーーー。)
 やる気無さげに手を前に出す。
 やれやれ、こんなので本当に…

「!!!!!!!!!」
 その時、信じられない事が起こった。
 手の平から、閃光が放たれる。
 その奔流は、壁に大穴をぶち開けた。

『やった!!
 見ましたか、今の!!
 かめはめ波撃てましたよ!!
 これでこのプロジェクトも…』
 その時、喜び勇む俺に、ハリセンでの突っ込みが入った。
 見ると、ギコえもんがいつの間にか復活している。

「この馬鹿者がーーー!!」
 ギコえもんが叫んだ。
 俺には何が何やら分からない。
「かめはめ波を撃っただと?
 ふざけるのも大概にしとけよゴルァ!!」
 いきなり何を言い出すのだ、この青狸は。
 ひがみか?

「かめはめ波…その他あらゆる必殺技を必殺技足らしめるのは、構えだけに非ず!
 構えと共に出される掛け声を伴って、始めて必殺技は完成するのだ!!
 掛け声の無いかめはめ波など、ライスの無いカレーライスも同然。
 そんなもの、到底かめはめ波と認められぬわ!!!」

(!!!!!!!!)
 俺の背景に稲妻が走る。
 何という事だ。
 すっかり失念していた…!
 膝をつき、その場に崩れ落ちる。
 確かに、その通りだ。
 技を放つ時の掛け声、
 それがあるからこそ人々は必殺技に惹かれる。
 つまり、声の出せない俺には一生かかっても、
 かめはめ波及びその他あらゆる必殺技が、使えないということか…!

521ブック:2004/03/08(月) 21:00

「理解したか、自分の欠点を。」
 ギコえもんが俺を見下ろす。
 畜生…
 俺は、ここまでなのか。

「が、それではあまりに可哀想だからな。
 特別に一つだけ、必殺技を使う事を許可しよう。」
 何だ。
 その必殺技とは、一体…

「『狼牙風風拳』、これこそお前に相応しいだろう。」
 …!
 よりにもよって、ヤムチャの技か…!
 冗談じゃ無い。
 せっかくヤムチャ状態から脱出したというのに、あんまりすぎる。

「ヤムチャと言えば、戦闘での扱いも酷かったですけど、
 恋愛においてもかなりの負け犬っぷりでしたね。」
 タカラギコが横から口を挟んだ。
「そうモナね。
 あれだけブルマとの関係に伏線が張られまくっていたというのに、
 そのブルマがいきなり味方に寝返ったべジータと結婚、
 そしてすぐにトランクスが誕生なんて、
 悲惨にも程があるというものモナよね……はっ!!」
 小耳モナーが何かに気き、俺に急いで振り向いた。
 同時に、その場の全員の視線が、一瞬にして俺とみぃに集中する。

「……」
 その場に気まずい沈黙が流れる。
 いやいやいや、皆何を考えているんだ?
 俺はもうヤムチャじゃない。
 だから寝取られイベントなんて起こるわけが…

「それはどうかな?」
 いきなり部屋の中に男が入ってきた。
 あれは…トラギコ!

「お前に刻まれたヤムチャの呪縛が、そう簡単に断ち切れるとでも?
 悪いが、俺が主人公サイドにつけば、恐らくその女は…」
「クルクル波ーー!!!」
 みぃの掛け声と共に、その手からエネルギー波が放たれ、
 トラギコを一瞬にして消し炭に変えた。

 …しかし、まさかクルクル波とは。
 みぃ、お前実はかなりの使い手(オタク)だな…?


「そ、そういえば、さっきのクルクル波のように、
 かめはめ波以外にも有名な必殺技はありましたね。」
 タカラギコが場の雰囲気を変えようと、
 別の話題に切り替えた。

「ああ、そういえば北斗神拳とかもあったなあ。」
 ギコえもんが相槌を打つ。
「北斗百烈拳!
 お前はもう死んでいる…
 くぅ〜、やっぱりかっこいぃょぅ!!」
 ぃょぅが体を震わせた。

「それでそれを喰らった相手が、『たわば』とか『ちんにゃ』とか言って、
 爆死するのよね。」
 ふさしぃがうんうんと頷きながら言う。
「友達と体を突きあって、秘孔を探したりしたモナ。」
 小耳モナーが昔を思い出しながら喋る。

「でも、結局起こりませんでしたねぇ…
 偶然秘孔を突かれて変死とかいう事件。」
 タカラギコが溜息を吐いた。
 こいつは、マジで心底期待してそうで恐い。

「ケンシロウは、PTAなんか知ったことかと言わんばかりに、
 雑魚を容赦なく虐殺しまくってたよな。」
 ギコえもんが茶菓子のクッキーを口に入れた。
「そうですね。
 今の少年誌では、あそこまでの非人道的な殺戮は難しいでしょう。」
 タカラギコがそれに返す。

522ブック:2004/03/08(月) 21:01

「アタァ!!」
 いきなりふさしぃが、ギコえもんの体を指で突いた。
「ぶべら!!!」
 ギコえもんの頭が異様な形に歪み、爆散する。

「いや〜、一度でいいからやってみたかったのよねぇ。」
 ふさしぃが悪びれもせず微笑む。
 どうせ再生するだろうし、
 ギコえもんは放っておくことにした。


「必殺技といえば、魁男塾も外せなぃょぅ。」
 ぃょぅが身を乗り出した。
「確かにそうですが…
 あれは戦闘の度に新しい技がバンバン出てくるので、
 いまいち一つ一つの技のインパクトが薄いですね。」
 タカラギコが腕を組んだ。
「そうね。
 男塾は寧ろ民明書房がメインと言えるのじゃないかしら?」
 民明書房。
 あの、MMRも吃驚のトンデモ解説書。
 何人の小学生が、本屋さんにあの本を探しに走ったことか。

「待て待て、男塾なら俺に…」
 ギコえもんが会話に加わろうとする。
 何と。
 もう復活したのか。
「アバンストラーーーッシュ!!」
 ふさしぃが『キングスナイト』に剣を逆手に持たせ、
 横方向に凪いだ。
 剣が光を帯びて閃き、ギコえもんの体が両断される。
 てーか、何でそれだけの事が出来て、
 かめはめ波が撃てないのだ。

「そうそうそれで思い出したょぅ。
 ダイの大冒険も、必殺技が魅力的だったょぅ。」
 ぃょぅが思い出したように手を叩いた。
 例によって、ギコえもんは無視である。

「先のアバンストラッシュは言うに及ばず、
 ギガブレイクとか、ブラッディースクライドも外せないモナ!」
 小耳モナーが手を振りながら喋る。

「少し脱線しますけど、メラとかギラも子供の頃撃とうとしましたねぇ。」
 タカラギコが紅茶を啜る。

「メラと言えば、メラメーラとかいう呪文もありましたよね。
 あついよあついよ〜、めらめらあついよ〜〜、とか言って…」
 そのみぃの言葉に、全員が言葉を詰まらせた。

「あの…私、何か間違えましたか?」
 みぃが不安そうな顔をする。
 いや、確かにメラメーラという単語は実在するよ。
 だがしかし、さっきのクルクル波といい、
 お前は何でそんなマニアックな事まで知っているのだ?
 どう考えても、キャラに合っていないぞ。


「ああ!そういえば、ドラゴニックオーラっていうのもあったわね!」
 ふさしぃが話題を元に戻した。
「そうだったょぅ!
 ぃょぅなんか、額に竜の紋章をマジックで書いたりしたょぅ。」
 ぃょぅがその話題に乗っかる。
「いやいや、額にマジックで書くといったら、
 『肉』の一択でしょう。」
 タカラギコがそう反論する。
「そうモナ、筋肉マンも燃えるモナー。」
 小耳モナーが爛々と目を輝かせた。

「筋肉マンの必殺技と言ったら、
 筋肉フラッシュと筋肉ビームですよね!」
 再びみぃが場の空気を凍りつかせた。
 何故。
 何故に筋肉バスターとか筋肉ドライバーではなく、
 筋肉フラッシュと筋肉ビームが一番に出てくるのだ!?

「わ…私、変なんでしょうか…?」
 みぃが泣きそうになる。
 済まん、みぃ。
 流石の俺でも、今回ばかりはお前を守ってやれそうにない。
 かなり、変だ。

523ブック:2004/03/08(月) 21:02


「そ、そうだ!肝心な事を忘れてましたよ!
 やはりこのジョジョスレと言えば、波紋とかスタンドじゃないですか!!」
 タカラギコが何とか場を取り持とうとした。
「そ、そうよね!
 スタンド発動スレに存在している以上、
 その二つは外せないわよね!!」
 ふさしぃも、慌てて空気を入れ替えようとする。

「スタンドはもう使えるから一旦除外するとして…
 やはり問題は波紋だょぅ。」
 ぃょぅが顎に手をやる。
「かめはめ波とかに比べると、知名度は低いと言わざるを得ないけど、
 呼吸からエネルギーを引き出すというのは、かなり独創的な着眼点よね。」
 俺もそう思う。
 そしてあの荒木節が、さらに読者を熱狂させるのだ。

「スティール・ボール・ランのジャイロ・ツェペリの能力って、
 やっぱり波紋に関係しているモナかねえ?」
 小耳モナーが考え込んだ。
「さあどうでしょうねぇ。
 回転がキーワードみたいですけど…」
 タカラギコも同じように思案を巡らせる。

「まあ聞け、俺の考えでは…」
「山吹色の波紋疾走!!!」
 再生を完了し、再び会話に入ろうとしたギコえもんに、
 ふさしぃが波紋を叩き込んだ。
「何をするだァーーーーー!!!!!」
 体を蒸発させながら吹っ飛ぶギコえもん。
 成る程。
 あの再生力は吸血鬼だった為か。

524ブック:2004/03/08(月) 21:02



「…そう言えば、何か大切な事忘れてないモナか?」
 小耳モナーが、突然口を開いた。
「そう言えばそうですね…」
 タカラギコも首をかしげる。

 何故か俺もそんな気がする。
 何だっけ。
 そもそも俺達は何でここに…

「あ!!!」
 不意にぃょぅが大声を上げた。
 何だ。
 どうしたというのだ?

「すっかり忘れてたょぅ!
 ぃょぅ達は、かめはめ波を撃たなくちゃいけないんだょぅ!!」
 …!!
 そうだ、思い出した。
 俺達はその為に集まっていたのだ。
 すっかり忘れてしまっていた。

「…いいえ。皆、もうその必要は無いわ。」
 ふさしぃが穏やかな口調で喋りだした。
「!?
 どういう事モナ?」
 小耳モナーが尋ねる。
「ギコえもんが命を賭す事で教えてくれたわ。
 本当のかめはめ波は、私達の心の中にあるのよ…」
 嘘だ。
 ギコえもんは、一言もそんな事言って無かったじゃないか。

「そうですね…
 その通りでした。」
「ああ、そうだょぅ…」
 待て。
 ぃょぅとタカラギコまで、何を言っている。

 !!
 まさかお前ら、飽きたから適当にケリつけて帰ろうとしているな!?

「ギコえもん…ありがとうモナ……」
 小耳モナーが涙ぐむ。
 悪魔だ。
 お前ら、本物の悪魔だ…!


 気がつくと、舞台がいつの間にか夕焼けの海岸にかわり、
 空の向こうにうっすらとギコえもんの姿が映る。
 そしてギコえもんは、天使に導かれて空の彼方へと昇っていった。

 俺は目を閉じて、ただギコえもんの冥福の為に黙祷を捧げる。
 ギコえもんの死後に、幸あれ。


     EPISOAD END…

 なお、今回の話は本編とは一切関係ありませんし、
 ギコえもんも吸血鬼ではありません。

525:2004/03/08(月) 23:27

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ASAビルに遊びに行こう その2」




          @          @          @



「第140小隊、35階の制圧を完了しました…」
 小隊長は無線機に告げた。
 その脇には、全身を撃ち抜かれたASA職員の死体が転がっている。
『了解。任務を続行せよ』
 無線機から応答が返ってくる。

 小隊長が一歩踏み出した時、電灯が灯火した。
 廊下は光で包まれる。
「もう電力が復旧したようですね…」
 軍人は、ヘルメットに装着された暗視装置を外しながら言った。
 小隊長は、隊員達の方に振り返る。
「油断するな。向こうの…」

 その瞬間、頭上から轟音がした。
 たちまち天井が崩れ出す。
「総員、退避―――ッ!!」
 小隊長は怒鳴った。
 だが、間に合わない。
 小隊は、そのまま上から降ってきた瓦礫に埋もれてしまった。


 天井に開いた大穴から飛び降りてくる一つの影。
 影の主、しぃ助教授は圧死している軍人達を見下ろした。
「こんな所まで侵攻しているなんて…」
 ハンマーを肩に置いて呟くしぃ助教授。

「あっちだ!!」
 軍靴の足音が響く。
 軍人達は、廊下の角から飛び出すなり一斉射撃してきた。

「無駄です! 『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は叫ぶ。
 弾丸が空中で180度向きを変え、軍人達に降り注いだ。
「うわぁぁぁぁッ!!」
 自分達の撃った弾丸を全身に喰らう軍人達。

 その瞬間、しぃ助教授は背後に衝撃を感じた。
「狙撃か…!」
 しぃ助教授は素早く振り返った。
 廊下の遥か向かい側に、M24SWSスナイパーライフルを構えた軍人が目に入る。
 しぃ助教授を狙った弾丸は、完全に弾道を逸らされて天井に穴を開けた。
「それも無駄ですね…」
 しぃ助教授は冷酷な笑みを浮かべた。
「『セブンス・ヘブン』が形成した指向性の防護壁『サウンド・オブ・サイレンス』は、
 あらゆる物理的攻撃を無効化させます…」

 しぃ助教授は、ハンマーを横の壁に叩きつけた。
 そのときに発生した衝撃エネルギーを、『セブンス・ヘブン』で空間に固着させる。
「喰らえッ!!」
 しぃ助教授は、黒い渦状の衝撃エネルギーをハンマーで弾き飛ばした。
 スナイパー目掛けて、高速で空間を伝導していく衝撃エネルギー。
「ぐあっ!!」
 直撃を受けたスナイパーは、悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 しぃ助教授は傍らに横たわるASA職員の遺体を見下ろした。
 そして静かに呟く。
「奴等には血をもって償わせます。どうか安らかに…」
 しぃ助教授はハンマーを肩に掛けると、そのまま階段を降りていった。

526:2004/03/08(月) 23:28


          @          @          @



「サムイ…」
 ありすは、呟きながら廊下を歩いた。
 突き当たりの非常階段を上がれば屋上に出る。

「な…! 女の子…?」
「女だからといって、油断するなよ…」
 廊下に展開していた7人の軍人達が、一斉にありすに銃を向ける。
「撃てッ!!」
 軍人達は引き金を引いた。
 
 しかし、その銃弾は空中でピタリと静止した。
 まるで、壁にぶつかったように。
 そのままバラバラと床に落ちる100発近い弾丸。
「な…!?」
 軍人達は驚愕の表情を浮かべた。
 もしも彼等がスタンド使いなら、弾丸を受け止める巨大な掌が見えただろう。

「チッ…!」
 小隊長はありす向けてグレネードを放った。
 HE弾が、白煙を噴きながらありすの眼前に落ちる。
 床に着弾した瞬間に、大音響が響き渡った。
 周囲に白煙が立ち込める。

「さすがに、これで…」
 徐々に白煙が薄れてきた。
 うっすらと浮かぶ人影。
「なっ…!」
 小隊長は思わず声を上げる。
 ありすは、何一つ変わらぬ姿でそこに立っていた。
 その前には、巨大な掌がバリアのように広がっている。

 小隊長は、射撃体勢を維持したまま無線機に告げた。
「グレネードでも効果なし! 弾体の破片効果、炸薬の爆風を完全に無効化するスタンド使いだ。
 攻撃法は今もって不明だが…」

 その瞬間、小隊長の身体が圧迫された。
「ぐえッ…」
 全身の骨がミシミシと砕ける。
 彼の体は巨大な腕に掴まれていた。
 ありす本体を銃弾から防ぎきったものと同じものだ。
 ゆっくりと持ち上げられる小隊長の体。
「が…!」
 そのまま、怪力で天井に叩きつけられた。
 頭蓋骨が砕ける鈍い音が響く。

「…」
 軍人達は息を呑んだ。
 天井から、小隊長の身体が垂れ下がっている。
 頭部から肩口までを天井にめり込ませて、ぶらぶらと揺れる小隊長の体。
 まるで、ギャグ漫画のような光景だった。
 血が滴って、ポタポタと床を濡らす。

「…サムイ?」
 ありすは首を傾げて言った。

「…小隊長、殉職。手持ちの火器では撃退できず」
 軍人の一人が、無線機に告げる。
「よって、撤退する…!」
 軍人達は、ありすに向けて一斉に発砲した。
 そのまま素早く後ろに下がっていく。

 放たれた弾丸は、やはり巨大な掌によって遮られた。
 ありすはゆっくりと歩いていく。
 小銃を乱射する軍人達に向かって、一歩一歩…
 そのまま、巨大な2本の腕で軍人の上半身と下半身を掴んだ。
 まるで雑巾を絞るように、軍人の身体が捻じ切られる。

「急げッ!!」
 軍人達は、弾幕が足止めにもならない事を悟った。
 踵を返し、ありすに背中を見せて駆け出す。
「…」
 その様子を無表情で見つめるありす。
 撤退する彼等に、何本もの腕が伸びた。
 軍人達は握り潰され、捻じ切られ、叩きつけられ、四肢を契られ、あっという間に命を絶たれた。
 人の形をした死体は一つもない。
 まるで子供が遊んだ後のように、周囲には肉片が散乱する。

「アトデ、オソウジ…」
 ありすはそのまま廊下を進んだ。
 豪華なスカートの裾が、血や臓物で濡れる。
 しぃ助教授は、上から来る連中を食い止めろと言っていた。
 屋上に続く階段を、てくてくと上がるありす。
 そして、ありすは屋上に出た。

 眩しい光に、ありすは思わず目を閉じた。
 屋上を滑空する何機ものヘリ。
 アパッチ・ロングボウ3機から投射されたライトが、ありすを眩しく照らした。
 CH−47JA大型輸送ヘリコプター・通称チヌークからは、パラシュートをつけた空挺部隊が屋上に舞い降りていく。
 ASAのヘリポートは、完全に破壊されていた。

 屋上で展開していた軍人達は、横隊を組んで銃を構えた。
 その数、ざっと100人以上。
 全ての銃口がありすに向けられる。

「オモチャ、イッパイ…」
 ありすは人の群れを眺めて呟いた。

527:2004/03/08(月) 23:29


          @          @          @



「このおおおッ!!」
 軍人達は、駆け寄ってくるしぃ助教授にライフルを斉射した。
 しかし、銃弾は全て逸れてしまう。
「効きません!!」
 しぃ助教授はハンマーを大きく薙いで、軍人達を吹き飛ばした。

「この階は、大体片付きましたか…」
 廊下をこつこつと歩くしぃ助教授。
 遥か前方に、一人の人間が立っているのが目に入る。

 その男は、他の軍人達のように迷彩服を纏ってはいなかった。
 彼が着ているのは、陸上自衛官の制服である。
 肩章の桜は4つ。幕僚クラスだ。
 男は腕を組んで、真っ直ぐにしぃ助教授を凝視している。
 その肩には小銃を掛けていた。

 幕僚クラスの人間が、護衛もつけずに…
 しぃ助教授は警戒しながら男に近付いた。

「ASA三幹部の一人、しぃ助教授とお見受けした」
 男は、しぃ助教授の顔を見据えて口を開く。

「そうですが… 貴方は?」
 しぃ助教授は警戒を緩めずに応えた。
「統合幕僚会議議長、フサギコ… この戦いの総指揮官だ」
 右手を差し出すフサギコ。
 しかし、しぃ助教授は握手に応じない。
「なるほど… この国の軍では、奇襲は伝統のようですね」
 そう言って、しぃ助教授はフサギコを睨みつけた。

 フサギコは口の端を持ち上げ、笑顔を見せた。
「パールハーバーは奇襲ではない。単なる対応の遅れだ。そして、今回もな…」
 1枚の書類を取り出すと、それをヒラヒラさせるフサギコ。
「宣戦布告状を届けるのを忘れていた。これを渡そうと参った次第だ」
 そう言って、フサギコはしぃ助教授に書状を差し出した。

「よくも、ぬけぬけと…」
 しぃ助教授が書状に手を伸ばす。
 その瞬間、つんざくような銃声が響いた。
 50口径弾がしぃ助教授の真横の窓をブチ破って飛来する。
「くっ…!!」
 その銃弾は、しぃ助教授の身体に届く寸前に大きく逸れ、壁に大穴を開けた。

 しぃ助教授は、素早く弾丸の飛んできた方向に目をやる。
 弾丸は、確かに窓の外から飛んできたのだ。
 しぃ助教授の目に、窓の向こう側50mほどの地点でホバリングしているヘリが映った。
 そして、ヘリ内でバレットライフルを構えるスナイパーの姿。

 フサギコは顎に手を当てた。
「ふむ、50口径弾ですら通用しないとは。これでは、携行火器ではとても歯が立たんな…」
 そんなフサギコを睨みつけるしぃ助教授。
「気が逸れたところで、外のヘリから狙撃とは…
 50口径弾での対人狙撃は、国際協定で禁止されているのではないのですか…!?」

「それは戦時協約だ。この書状が貴君の手に渡っていない以上、まだ戦争ではないからな…」
 フサギコは笑みを浮かべながら宣戦布告状をヒラヒラと振る。
「それに、大人の事情というものもある。
 実弾演習を行う際、演習場に向かう途中にたまたまASAビル内部に迷い込んでしまったり、
 威嚇射撃がたまたま命中してしまったり、警告がたまたま遅れてしまったり、
 身に危険が及び、やむなく発砲してしまったり… そういう幾多の止む終えない事情だ」
 そう言って、再度フサギコは宣戦布告状を差し出した。
「それが、自衛隊流というヤツですか…」
 しぃ助教授は警戒しながらそれを受け取る。

「確かに受け取りました。さて…」
 しぃ助教授は、宣戦布告状を裏返した。
 そのまま、懐から取り出したペンを走らせる。
「適した紙が見当たりませんでしたので、代用させていただきました」
 そう言って、しぃ助教授はその紙を差し出した。

「…ASAからの宣戦布告状です」
 しぃ助教授は、フサギコを見据えて言った。
「ふむ…」
 フサギコはその書状を手に取ると、素早く畳んで懐に仕舞う。
「確かに受け取った」

528:2004/03/08(月) 23:29

 激しく睨み合う両者。
 しぃ助教授が再び口を開いた。
「さて、最初に聞いておくべきでしたね… この戦いの目的は?
 私達と戦うメリットが、あなた達にあるのですか?」

「スタンド使いなど、世界に存在しなくていい。これは総意だ」
 フサギコは淀みなく言った。
 そして、手にしていた89式小銃の銃口をしぃ助教授に向ける。
「…ここは人間の社会だ。お前達バケモノのいていい場所じゃない」

「…言ってくれる」
 フサギコを睨みつけるしぃ助教授。
 そのまま、ハンマーを真っ直ぐフサギコに向けた。
「『わたし達は、羊の群れに潜む狼なんかじゃない。牙を持って生まれた羊なのよ』ってとこですね…」

 しぃ助教授は手許でハンマーを軽く回転させた。
「敵首魁、今ここで討ちます!!」
 ハンマーをかざすと、フサギコ目掛け真っ直ぐに駆けるしぃ助教授。

 フサギコは小銃の銃口を真横のドアに向けると、引き金を引いた。
「何を…!?」
 その瞬間、しぃ助教授は足元の異常に気付いた。
「クレイモア(指向性対人地雷)!?」

 フサギコはすかさずドアに体当たりする。
 銃撃で脆くなっていたドアは、容易く破れた。
 フサギコの体が隣の部屋に転がり込む。

 クレイモアが、しぃ助教授の足元で炸裂した。
「『セブンス・ヘブン』!!」
 スタンドを発動させるしぃ助教授。
 至近距離にもかかわらず、クレイモアの威力を全て相殺する。

「小細工をッ…!」
 フサギコの入った部屋に飛び込むしぃ助教授。
 しかし、フサギコの姿はどこにもない。
 …だが、窓が開いている。

 しぃ助教授は、窓に駆け寄った。
 遠くにヘリが見える。
 そして、縄梯子に掴まっているフサギコの姿。
 彼は余裕の笑みを浮かべて、こちらに手を振っていた。
 すぐにヘリは見えなくなる。

「くッ…! 逃がしたか…!」
 しぃ助教授は低く呟いた。


 肩を落として部屋を出るしぃ助教授。
 どこかから、ノイズの混じった丸耳の声が聞こえる。
 しぃ助教授は無線機を取り出した。
「…はい、私です」
 しぃ助教授は無線機に言った。
『電話のノリで応対するのは止めて下さい… それより、至急幹部室に引き返して下さい!』
 丸耳の慌てた声。
 どうやら、ただ事ではないようだ。
「…了解しました。すぐ戻ります」
 そう言って、無線機を仕舞うしぃ助教授。
「全く、次から次へと…」
 しぃ助教授は大きくため息をついた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

529新手のスタンド使い:2004/03/09(火) 14:10
ageるぜ

530ブック:2004/03/09(火) 18:31
     救い無き世界
     第四十二話・黒「共演」 〜その一〜


「はぁっ…はぁっ……はっ…!」
 機動隊の制服に身を包んだ青年が、
 崩壊していく街の中を走っていた。
 雨と風は勢いをさらに増し、
 青年を容赦無く打ち据える。

「!!!」
 突風に煽られ、青年がバランスを崩してその場に倒れた。
「あ…くそっ!」
 舌打ちをして立ち上がると、青年は再び走り出した。
 遠くからは、銃声や爆発音や悲鳴が、休む事なく聞こえてくる。

「何なんだ…
 あいつらは一体何なんだ!!」
 誰に聞かせるでもなく叫ぶ。


『怯むな!!
 撃て!!撃てえーーーー!!!』
『馬鹿な!弾は命中してる筈なのに何で…!』
『木下、死ぬな!死ぬなーーーー!!!』
『冗談じゃねぇ、あいつら化け物…ぐわぁ!!!!』
『嫌だ…死にたくない、死にたくない…!』
『足が!俺の足がぁ!!』
『助けてくれ…目が……目が見えないんだよぉ…』
『駄目だ!逃げ…ぎゃああああああ!!!』
『健司…恵美…父さんは……』


 青年の頭に、つい先程の出来事が鮮明に思い返されてきた。

 ―――ほんの数十分前、青年はこの異常気象と共に
 街に出現した暴徒の鎮圧に駆り出され、『大日本ブレイク党』の兵士達と交戦していた。
 …いや、それは交戦とはとても呼べない、
 ただの一方的な虐殺に等しかった。
 それは当然である。
 銃弾が命中しても、怯まず攻撃してくる、
 人外の身体能力と耐久力を持った重武装歩兵と、
 普通の人間とでは、まともな戦いになる訳が無い。
 あっという間に戦線は崩壊。
 青年は、その地獄のような場所から命からがら逃げ出して来たのだ。


「畜生、何で…」
 青年の顔を濡らしているのは、雨だけではなかった。
 何人もの同僚達が、戦闘で命を落としたというのに、
 自分一人がこうやって逃げ延びている。
 その自責の念が、青年を苛んでいた。

「糞…畜生!畜生…!」
 青年は、涙を流しながら逃走を続けた。


「た…助けて……」
 道の横からの声が、青年を呼び止めた。
「!?」
 青年が驚いてそちらに目を向ける。
 そこには、一人の少女が苦しそうに屈んでいた。

「おい、どうした君!
 大丈夫か!!」
 青年が急いで駆け寄る。
 少女は力無く青年に顔を向けた。
「きゅ…急に恐い兵隊さん達がやってきて…
 何がなんだか分からなくなって、ただ逃げるしか……」
 少女が青年に抱きつく。
 その体は小刻みに震えていた。

「分かった…もう大丈夫だ。
 これからすぐに警察に行こう。
 そこなら安全だ。」
 自分は仲間を助けられなかった。
 ならばせめて、この少女だけは必ず…!
 そんな使命感が、青年の胸を焦がした。

531ブック:2004/03/09(火) 18:31


「おい、どうした!何があった!!」
 そこに、青年とは別部隊の機動隊員達がやってきた。
 その数、八名。
 交戦をした為か、その隊員の殆どが負傷している。
「ああ、民間人を保護した。
 急いで警察署に避難を…」
 青年はそう言って少女を隊員達に向けさせる。
「!!!!!」
 いきなり、隊員達の顔が強張った。
 青年がそれを見て、不思議がる。。

「そいつから離れろ!!
 そいつはB03部隊を壊滅させた…!」
 隊員の部隊長らしき人物がそう言い切らないうちに、
 彼の胸に穴が開けられた。

 青年は訳も分からないといった風な顔で、少女に目を向けた。
 少女は、先程までとは別人のような邪悪な笑顔を浮かべている。
「君は一体…」
 次の瞬間、青年の胸にも部隊長らしき人物と同様の穴が開いた。
 青年は何度か口をパクパクと動かし、
 そしてそのまま絶命してうつ伏せに倒れる。

「お馬鹿さんねぇ。
 こんなにも簡単に騙されるなんて…」
 少女が青年の死体に侮蔑の視線を向ける。

「う、撃てーーーーー!!!!!!」
 怒号と共に、少女に向かって銃弾が銃口から吐き出される。
「『バブルボブル』。」
 しかしその少女の呟きと共に、少女の体が一瞬にして上昇し、
 銃弾がその下を虚しく通過した。
 それと同時に、少女が指を隊員達に向けると、その全員の体に次々と穴が開いていく。
 瞬く間に、一個小隊はあっけなく全滅した。



「ここにおられたのですか。」
 少女が機動隊を片付けたところに、
 『大日本ブレイク党』の兵士達がやってきた。
「あら、あなた達。」
 少女が彼らに目を向ける。

「困りますよ。
 命令も下されないまま勝手に出て行かれては。」
 兵士の一人が苦言を漏らす。
「あらら、それは悪かったわね。
 それじゃあ…」
 少女がしばし考え込む。

「よし、好き勝手殺しまくりなさい。
 以上解散!」
 少女が朗らかに答えた。
 兵士達がそれを受けて歯を見せながら笑う。

「了解しました。
 して、あなた様は?」
 兵士が尋ねた。
「私はもう少し一人で散歩してみるわ。
 何かあったら連絡頂戴。」
 少女はそれだけ言い残すと、兵士達を背に歩き始めた。
 兵士達は苦笑しながらそれを見送る。

「みる、みる、みるまら〜。」
 少女はピクニックにでも行くような軽い足取りで、
 街の中へと出かけていった。

532ブック:2004/03/09(火) 18:32



     ・     ・     ・



 俺はみぃを背負い、街の中を疾走していた。
 道中を逃げ惑う人々を避けながら進んで行く。
 幸い、まだこの辺りには兵士達は来ていないらしく、
 みぃを危険にさらす様な事にはならなかった。
 しかし、いつまでもこの辺りが安全とは限らない。
 早く、あの孤児院に行かなければ。

 …もう二度と、あそこには行かないつもりだった。
 行けば、自分が惨めになるから。
 行けば、そこにいる奴らを憎んでしまうから。
 …殺してしまうかもしれないから。
 あの『化け物』が、いつか言ったように。

 それなのに、今、俺はそこを守りに行く為に走っている。
 何でだろう。
 あんなに憎かった筈なのに。
 あんなに妬ましかった筈なのに。
 あんなに恨めしかった筈なのに。
 あんなに殺したかった筈なのに。
 何で…

 俺は考えるのをやめた。
 下らない。
 どうでもいい事だ。
 そんな事は、あそこに着いてから考えよう。


「!!!!!!!」
 何度目かの地震。
 回数を重ねる度に、明らかに揺れが強くなっている。
 近くで何かが崩れるような大きな音。
 どこかで、家が潰れたか。

 こうしてはいられない。
 少し急いだ方が良さそうだ。


「誰か!
 助けて!!
 助けて下さい!!!」
 その時、雨や風の音を裂くような叫び声が聞こえてきた。
 見ると、三十歳前半位の女性が、
 潰れた家の近くにしゃがみ込んで、何やら大声を出している。
 よく見ると、その女性の子供らしき男の子が、
 倒れた家に挟まれて出られなくなっていた。

 しかし道を行く人々は、
 自分が逃げるのに精一杯なのか、その二人には目もくれない。
 そうさ、それが正しいよ。
 こんな時に他の人に構っている余裕なんざ誰にも…

「でぃさん…」
 みぃが何かを訴えるように、
 後ろから俺の体を強く掴んできた。

 何考えてる、こいつは。
 今の状況が分かってるのか?
 下手したら、自分が死ぬかもしれないんだぞ?
 それなのに…



 俺は母親と子供の所に駆け寄った。
(…これは俺の意思じゃ無いからな。
 みぃの奴が頼むから、仕方なく…)
 心の中で、そう言い訳をする。
 しかし、自分に言い訳してどうするのだろう。

「……」
 俺は男の子を押し付けている瓦礫に手を掛けた。
 しかし、ビクともしない。
 やはり一人の力では無理みたいだ。
 かといって、周りの奴らが助けてくれるとも思えない。

 …仕方ない。
 『デビルワールド』発動。
 腕をスタンド化。
 一気に瓦礫を持ち上げる。

 男の子が、その隙に瓦礫の下から這い出した。
 やれやれ、これで一先ず…

533ブック:2004/03/09(火) 18:33


「!!!!!!!」
 その時、母親と子供が俺に向けきたのは、
 感謝の言葉などではなく、
 恐怖に満ちた視線だった。

 …!!
 忘れていた。
 俺のスタンドは、一般人にも見えるのだ。

「ば…化け物……化け物!!」
 母親が叫ぶ。

(違う、俺は…)
 俺はその母子に近づこうした。
 しかし、母子は怯えた顔つきで後ろずさる。

「化け物!!
 お母さんには、指一本触れさせないからな!!!」
 瓦礫に挟まれて、体に酷い怪我をしているだろうに、
 男の子が力を振り絞って、俺に石を投げつけた。
「!!!」
 石が顔に当たり、そこから血が流れる。

「違います!でぃさんは…!」
 必死に説得しようとするみぃを、俺は腕で制した。
 いいんだ、みぃ。
 この二人の言う通り、俺は『化け物』なんだ。

 俺はみぃを担ぐと、
 逃げるようにそこから走り去った。
 後ろから、男の子がさらに石を投げつけてくる。

 …いい子だ。
 これからも、そんな風にお母さんを守ってやれ。



 俺は、走った。
 ひたすらに、走った。
 雨の中を。
 風の中を。
 雨が、頭から流れる血を加速させる。
 風が、傷をさらに押し広げようとする。

「ごめんなさい…
 でぃさん……ごめんなさい……」
 背中でみぃが泣いている。

 …阿呆か、お前は。
 お前が傷つけられた訳じゃないだろうが。
 それに、あの二人を助けた事に、
 お前が責任を感じる必要なんて無い。
 俺が勝手にやった事だ。

 お前は、あの母子を助けるのが正しいと思ったんだろう?
 俺もお前の考えた事が、正しいと信じている。
 だから、もっと胸を張れ。

「……」
 みぃが後ろから俺を抱き締める。
(馬鹿、走りにくいだろうが…)
 そう心の中で毒づきながらも、
 俺はほんの少しだけ、癒されているように感じていた。

534ブック:2004/03/09(火) 18:33



     ・     ・     ・



「トラギコ兄ちゃん、恐いよう…」
 坊主が、俺にしがみついてくる。
 外からは、雨や風の音に混じって、
 銃声や爆発音まで聞こえてくる。
 孤児院の中は、地震の所為で目茶苦茶だった。

「心配すんな。
 何があろうと、お前達は俺が守ってやる。」
 そう言いながらも、
 俺の心のどこかで後ろめたさを感じていた。

 この騒ぎは間違いなく『大日本ブレイク党』の仕業だ。
 そして、その『大日本ブレイク党』を援助していたのは『矢の男』。
 俺はその『矢の男』に、金を貰う事で協力していた。
 つまり、俺は今回の騒ぎの手助けを…

「!!!!!!!」
 俺は頭を振って、その考えを頭から追い出した。

 仕方が無かった…
 仕方が無かったんだ。
 実際金が無ければ、この孤児院はとっくに潰れている。
 そしたら、ここの人達は、皆路頭に迷う事になってしまう。
 この孤児院を守る為には、金が必要だったんだ。
 そしてそんな大金、まともな方法で俺みたいなチンピラが用意出来る訳が無い。
 少々悪事に手を染めでもしないと、無理だ。
 仕方が無かった。
 こうするより、仕方が無かったんだ…!


「…?
 トラギコ兄ちゃん、どうしたの?」
 子供達が不安そうに俺を見つめていた。
 しまった、柄にも無く考えすぎていた。

「…何でもねぇよ。
 いい子だから、もう少しだけ大人しくしてな。」
 そう言って子供達の頭を撫でてやる。

 …俺はもう、こいつらを抱く資格なんか、とっくに無くしているのだろう。
 この血で染まった手では、
 抱いてもこいつらを汚してしまうだけだ。

 それでも、守らなくては。
 例え俺が地獄に堕ちようと、こいつらだけは守り切らなくては。
 こいつらは、先生達は、
 かけがえの無い家族なのだから…!


 風と雨が、雨戸を強く打ちつける。
 その音が、孤児院の中の静寂をさらに際立たせていた。



     TO BE CONTINUED…

535:2004/03/09(火) 22:02

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ASAビルに遊びに行こう その3」



          @          @          @



 しぃ助教授は、幹部室のドアを開けた。
「どうしました…?」
 コンソールを操作している丸耳に訊ねる。

 丸耳は、顔を上げてしぃ助教授を見た。
「…敵の動きが妙なんですよ。向こうが優勢にもかかわらず、次々に撤退しています」
「このタイミングで撤退…? 追撃をかける格好の機会のはず。腑に落ちませんね…」
 しぃ助教授は顎に手を当てた。

 『ドクター・ジョーンズ』で負傷者を治療しているねここの姿が目に入る。
 死神のようなスタンドが、笑いながら患部を縫合していた。
 部屋の隅には、無言でたたずむありすの姿もある。
 返り血を浴びたのか、豪華な服は赤で染まっていた。

「…こちらの被害は?」
 しぃ助教授は、丸耳に視線を戻して訊ねる。
「はっきりとは分かりませんが、150人ほどは討たれたと思われます」
 丸耳は視線を落とす。
「半分以上ですか…」
 全身に銃弾を喰らったASA職員の亡骸を思い出し、しぃ助教授は唇を噛んだ。

 丸耳は、再びコンソールを操作する。
「あと、ASAヨーロッパ支部が壊滅したという一報が入ってきました。
 警護隊は全滅。支部長は敵に討たれたようです」
「オンドゥルが…? 彼は言語能力こそアレですが、強力なスタンド使いのはず」
 しぃ助教授は驚いて顔を上げた。

 丸耳は、ヨーロッパ支部から届いた映像を表示させる。
「敵はたった3人… この服装は、ナチス親衛隊!?」
 丸耳は言葉を詰まらせる。
 こんなものを好んで着ている人間など、よく言えば好事家、普通に言えば狂人だ。
「『金髪の野獣』…!」
 しぃ助教授はディスプレイを見て呟いた。

「まさか、『教会』の…」
 丸耳はしぃ助教授の顔に視線を向ける。
 しぃ助教授は口を開いた。
「そう。現在、枢機卿の地位にある人物です。まさか、奴自身が出てくるとは…!」

 丸耳は再びディスプレイを凝視する。
「しかし、奴は高齢のはず。どう見ても20代にしか…」
 そこで言葉を切る丸耳。
「まさか、吸血鬼…!?」
 しぃ助教授は険しい顔のまま頷いた。
「吸血鬼殲滅機関の長が、自ら吸血鬼に成り下がるとは…」

「ヨーロッパ支部壊滅と本部ビル襲撃は関係ないとは思えません。『教会』と自衛隊は手を組んでいるのでは…?」
 丸耳は少し考えて言った。
「それはどうですかね…」
 首をかしげるしぃ助教授。
「さっき敵の総司令官と会いましたが、そういうタイプではないような感じがします。
 彼は戦争狂なんかじゃなく、国民を守るという観念で動く軍人に過ぎません。
 無駄な犠牲や、意味のない戦闘行為は彼自身が何より厭うでしょう」
 さすが、彼の父親…
 しぃ助教授はため息をついた。

「無駄な犠牲を厭うですって!? こっちの犠牲者は150人を超えているんですよ!!」
 丸耳は声を荒げた。
「彼の『人間』の範疇に、私達スタンド使いは入っていない。 …それだけですよ」
 しぃ助教授は静かに告げる。
 丸耳は何かを言いかけ、そのまま黙り込んだ。

536:2004/03/09(火) 22:04

 沈黙の後、しぃ助教授は話を戻す。
「…とは言え、『教会』が呼応して動いたのは間違いないようですね。
 これでアメリカ支部をも失ったら、ASAはこの島国に封じ込められたも同然です」
 しぃ助教授はため息をついた。
 制空権は完全に自衛隊にある。制海権も怪しいものだ。
 このままでは、ASAは敵地で完全に孤立する。
 戦略的に大きな後手を取ってしまったようだ。
 これをどう覆すか…

「しぃ助教授!!」
 丸耳の叫びが、しぃ助教授の思案を中断させた。
 彼は目を剥いてコンソールを凝視している。
「…今度は何ですか?」
 しぃ助教授が、丸耳に目を向けた。

「ここから10km先の湾岸に、国籍不明の艦隊が展開!!」
 丸耳は叫ぶ。
「10kmですって…!?」
 しぃ助教授は驚愕の声を上げた。
 余りにも近い。
 そんな所で一体、何を…!?

「海上自衛隊の護衛艦群ではありません! 米軍の第七艦隊とも違います…!」
 丸耳は素早くコンソールを操作し、データ解析を急ぐ。
「なぜ、このタイミングで艦隊が…!?」
 しぃ助教授が顎に手を当てた。
 何の為に、こんな近距離まで接近した…?

「…照合が終わりました!」
 丸耳はディスプレイに見入った。
「ネウストラシムイ級フリゲートが4隻! ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦が2隻!」
 …全艦、ロシア国籍!! バルチック艦隊です!!」

「ロシアですって!? そんな馬鹿な!!」
 しぃ助教授は大声を上げた。

 ――思い出した。
 フサギコはこう言っていたではないか。
 『スタンド使いなど、世界に存在しなくていい。これは総意だ』と。

 この国に存在しなくていいと言ったのではない。
 彼は確かに、『世界に存在しなくていい』と言った。
 そして、『総意』という言葉。
 この国だけの総意ではなかったという事か…!!

 しぃ助教授は顔を上げた。
「想定していた敵の規模を、大きく修正する必要がありそうですね…」

 そして、しぃ助教授はバルチック艦隊の動きについて思案した。
 ASAの所有する艦隊への威嚇?
 いや、このタイミングで10kmもの近距離に展開する必要などない。
 敵は、何を企んでいる…?
 腑に落ちないことばかりだ。
 強襲部隊の急速な撤退。そして、湾岸に展開したバルチック艦隊…
 まさか…!!

「ありす!!」
 しぃ助教授は、顔を上げて叫んだ。
「私を、今すぐに高度100mまで放り投げなさい!」

「…サムイ?」
 ありすが訊ねる。
「寒いですけど耐えます!! 早く!!」
 しぃ助教授は大声を上げた。

537:2004/03/09(火) 22:08


 ありすは頷くと、スタンドを発動させた。
 巨大な腕でしぃ助教授の体を掴む。
 そのまま、天井に向けて放り投げた。
 しぃ助教授の体は、天井をブチ抜いて屋上に飛び出す。
 それだけで勢いは消えず、天高く舞うしぃ助教授の体。

「痛たたた…」
 天井を抜けた時の衝撃は、『セブンス・ヘブン』で無効化した。
 とは言え、完全に衝撃を散らす事はできなかったようだ。
 体は擦り傷だらけ。
 ありすのスタンドの腕に掴まれた時の衝撃も大きい。
 全く、少しは加減というものを…
 心の中で呟くしぃ助教授。
 だが、痛がってはいられないようだ。

 敵が、ここから10km先の湾岸にバルチック艦隊を配置した理由はただ一つ。
 ミサイルによる超至近距離からの一斉攻撃。
 ある程度の人的被害を与えた後で、ビルごと地上から消す気だったのだ。

 空を舞うしぃ助教授の目は、飛来するミサイルを捉えた。
 その形状には見覚えがある。
 SS−N−22サンバーン艦対艦ミサイル。
 米海軍のイージス艦に対抗して開発された、ロシア製の超音速ミサイルだ。

「私に、イージス艦以上の働きをしろという事ですね…」
 ため息をついて呟くしぃ助教授。
 ソブレメンヌイ級駆逐艦のミサイル搭載数は8基。
 駆逐艦は2隻確認されたので、発射されたミサイルは合わせて16基だ。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授は、空中でスタンドを発動させた。
 向かってくる初弾4基の指向性を狂わせる。
 弾道が大きく逸れ、空中爆発する4基のミサイル。
 衝撃と熱気がしぃ助教授の身体に浴びせられた。

「あと12基…」
 しぃ助教授は、周囲に視線を這わせた。
 その体は高度100に達し、徐々に落下していく。
 4基のミサイルが真上から飛来するのを捉えた。
 その軌道を逸らせ、空中爆発に導く。

「あと、8基…」
 落下していくしぃ助教授の体。
 屋上に激突する衝撃にも備える必要がある。
 だが、その前に…!!
「落ちろッ!!」
 弧の軌道を描きながら飛来するミサイル4基を撃墜した。

「あと4基…!」
 4基編成で飛来しているので、あと1群…!!
 空中で身を翻し、全方位に視線をやる。
 少しだけ、『アウト・オブ・エデン』が欲しいと思った。
 あの能力ならば、1km先程度なら余裕で探知できるだろう。

 しぃ助教授は、真っ直ぐ慣性落下してくるミサイル群を捉えた。
「ラストッ!!」
 次々にミサイルを撃墜するしぃ助教授。
 だが、最後の4基目が見当たらない。

 しぃ助教授は、落下しながら最後のミサイルの行方を探った。
 眼の端に、白煙を噴出しながら迫ってくるミサイルを捉える。
 前3基よりも遥かに低い高度を巡航してきたのだ。

「くッ…!! 1基だけ、軌道をズラしたのか…!!」
 完全に撃破のタイミングが遅れたようだ。
 舌打ちするしぃ助教授。

 ミサイルはASAビルの間近まで迫っていた。
 一方、落下するしぃ助教授の肉体も加速を続けている。
 もうすぐ体が屋上に激突するだろう。
 スタンドで落下の衝撃を散らさなければ…!!
 しかし落下衝撃の分散に力を注げば、ミサイルの着弾を許すことになる。
「自分の身を守る…」

 屋上の床がみるみる近くなった。
 ミサイルは速度を緩めず、真っ直ぐにビルに突っ込んでくる。
 このままでは直撃だ。
「ミサイルも撃墜する…」

 ミサイルの空を切る音が聞こえた。
 屋上の床が目前にまで迫る。
「両方やらなきゃいけないってのが…」

 コンクリートの床に激突するしぃ助教授の体。
 しぃ助教授は、落下の衝撃エネルギーを空間に固着させた。
 衝撃エネルギーは黒い球状の渦となる。

「幹部の辛いところですねッ!!」

 しぃ助教授は、そのエネルギーの塊をミサイル目掛けて蹴り飛ばした。
 エネルギーの塊は空間を伝導し、今にもビルに着弾しようとしていたミサイルに直撃する。
 ASAビルのすぐ近くで、ミサイルは爆発した。
 大音響が響き、爆風と紅蓮の炎が屋上を包む。
 ASAビル屋上は、完全に崩壊した。

538:2004/03/09(火) 22:10


          @          @          @



 ビルの屋上部から、爆炎と煙が立ち昇る。
「命中したのが、16発中1発だけとは…」
 フサギコの脇に立っていた軍人が、驚愕の表情を浮かべた。
「あのスタンド使いを甲板に立たせておけば、イージス艦の代わりになるな…」
 フサギコは腕を組んで呟く。

 突然、無線機から妙な声が響いた。
「何だ…!?」
 素早く反応するフサギコ。
『ニ、ニワトリが… うわぁぁぁ―――ッ!!』
 無線から、悲痛な叫び声が伝わってくる。
 同時に、銃声や爆発音が聞こえてきた。
 無線からではなく、背後から伝わってくる実際の音だ。

「ニワトリだと…?」
 89式小銃を掴むと、銃声の方向へ駆け出すフサギコ。
 封鎖されている夜の道路を一直線に走った。

 背後から90式戦車の走行音がする。
「統合幕僚長! お乗り下さい!」
 戦車長が、ハッチから顔を出して言った。
「ふむ、すまんな…」
 フサギコは横部装甲に手をつくと、車体に飛び乗った。
 そのまま道路を直進する。


 フサギコはその場に着いた。
 戦車の車体から飛び降りる。
「凄まじいな…」
 思わず呟くフサギコ。
 彼は、信じられない光景を目にしていた。
 ニワトリが、軍人達の隊列の間を縦横無尽に駆けている。
 ズタズタに引き千切れ、吹き飛ぶ軍人達。
 まるで、人で溢れた歩道に暴走車が突っ込んできたようなものだ。
 銃弾を何発か喰らっているが、全く効いていない。

「…三幹部の一人、クックルだな」
 フサギコは呟いた。
「射撃準備だ」
 そして、隣の90式戦車に指示を出す。
 クックルは軍人の1人に馬乗りになって、何度も何度も拳を振り下ろしていた。
 軍人の体は、もはや原型を留めていない。

「総員、撤退ッ!!」
 フサギコの大声が場に響き渡る。
 軍人達は、素早く散り散りになった。
 そのまま、次々に輸送用トラック・疾風に乗り込んで走り去っていく。
 クックルはゆっくりと顔を上げた。
 無機質な目を、フサギコと隣の戦車の方に向ける。

「睨むなよ、鳥野郎…」
 フサギコは腕を組んだ。
 そして、戦車長の方に向き直る。
「撃てッ!!」
 フサギコは指示を出した。

 90式戦車の主砲・120mm滑腔砲が発射される。
 クックル目掛けて、APFSDS弾が超音速で突っ込んでいった。
「…」
 クックルは飛び退いてかわす。
 弾丸は、そのまま轟音を立てて地面にめり込んだ。

「かわしただとッ!? 次弾を…!」
 砲手は叫ぶ。
 その瞬間、クックルは高速で戦車に接近した。
 そのまま車体に拳を叩きつけるクックル。
 衝撃音が響き、戦車は1mほど後退した。
 車体前面装甲が大きく凹む。

 2打目を加えようとクックルが拳を振り上げた瞬間、戦車の副装である12.7mm車載重機関銃が火を噴いた。
 直撃を受けたクックルは、大きく吹き飛ぶ。
 そのまま地面に倒れるクックル。
「今だッ!!」
 戦車長が怒鳴る。
 FCS(射撃統制装置)は、倒れているクックルを完全にロックした。
 多少動いたくらいでは避けきれない。

 轟音を立てて、2度目のAPFSDS弾が発射された。
 それは、倒れているクックルに直撃する。
 クックルの体は回転して吹っ飛んだ。
 そのまま地面に激突し、ゴロゴロと転がった後動かなくなる。

「自動装填装置が、先程の一撃で故障しました…!」
 砲手が報告する。
 それを聞いて、フサギコはため息をついた。
「生身で、第三世代MBT(主力戦車)に損傷を与えるとは… バケモノの相手は嫌になるな」

539:2004/03/09(火) 22:11

 倒れているクックルの腕が、僅かに動いた。
「まだ息があるだと…!?」
 フサギコは、双眼鏡でクックルを見る。
 APFSDS弾の直撃を受けたと言うのに、ダメージは余りに少ない。
 フサギコは双眼鏡を下ろして言った。
「…踏め」

「…は?」
 戦車長が困惑して訊ね返す。
「まだ生きてる。次弾が撃てないのなら、戦車で踏め」
 フサギコは繰り返した。

「…はっ!!」
 90式戦車はクックルに向かって前進した。
 メリメリと音を立て、キャタピラの下敷きになるクックルの体。

「50トンの重量では、流石に…」
 フサギコの言葉は途切れた。
 徐々に、戦車の車体が傾いていく。
 下からクックルが持ち上げているのだ。
「う、うわッ!!」
 戦車長が、ハッチから顔を出した。

「退避しろッ!!」
 フサギコが叫ぶ。
 戦車から、3人の乗員が飛び出した。
 素早く無線機を取り出すフサギコ。

「総員の撤退は終了したか?」
 フサギコは無線機に言った。
『はい、完了しました!』
 無線機から即座に返答がある。
「我々も撤退だッ!!」
 フサギコは大声で叫んだ。

 それが合図のように、96式装輪装甲車が突っ込んでくる。
 フサギコや戦車乗員は、そのまま装甲車に飛び乗った。
 ゆっくりと戦車を持ち上げるクックル。
「車を出せ!!」
 フサギコは大声で怒鳴った。

 フサギコ達を乗せ、高速発進する装甲車。
 クックルは、装甲車目掛け戦車を投げつけた。
 戦車の車体がかなりの速度で飛んでくる。
「アクセルを踏めぇぇぇッ!!」
 フサギコは絶叫した。
 それに従い、急加速する装甲車。
 クックルが投げた戦車の車体が、装甲車のすぐ後ろに叩きつけられた。

 地面に激突した90式戦車の主砲は折れ、見るも無残な残骸を晒した。
 その姿を見て、フサギコは安堵のため息をつく。
「もう少しで下敷きだったな…」
 フサギコは、腕を組んで立っているクックルの姿を見据えた。
「人間の枠から外れるにも、限度ってものがある…」
 クックルに追う気はないらしい。
 さすがに疲れているのだろうか。

「向こうの戦力は半分以上削り、強力なスタンド使いのデータも採取できた。成果は上々と言ったところか…」
 フサギコは、小さくなっていくクックルの姿を見て呟いた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘



 〜おまけ〜

 時流に乗って(?)、猫耳をつけてみました

   ,-j´ ̄(†)ヽ-,,
   ゙ヾノノノ)))))ノ              ∧_∧
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi <…        (´∀`* )
  /,ノノくj_''(†)jlつ               (    )
 ん〜''く/_l|ハゝ            | | |
      し'ノ             (__.(__)


 お気に召さなかったようです
__________________
        \  \      / :: :: ヽ
          \  \    |:: :: ::|
       () ̄ ̄) ̄ ̄) ̄ ̄)゙☆:: ::| ))
   ,-j´ ̄(†)ヽ  ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄|____|
   ゙ヾノノノ)))))/      (( [____] 
   ノノ)ル,,゚ -゚∩          ⊂  ⊂)
  /,ノノくj_''(†)jlフ          / / /
 ん〜''く/_l|ハゝ         (__.(__)
      し'ノ

540ブック:2004/03/10(水) 17:34
     救い無き世界
     第四十三話・黒「共演」 〜その二〜


「『イーアールカンフー』!!」
 男の背後に、上半身裸の拳法着を着た男のビジョンが浮かび上がる。
「『キングスナイト』!!」
 ふさしぃがその男を即座に両断する。

「くそっ!
 『カラテカ』!!」
 それを見た別の男が、自分のスタンドを発動させようとした。
「『マイティボンジャック』!!」
 させない。
 相手が何かする前に、その首をへし折る。



「…これで十人目かょぅ。」
 ぃょぅが二人の死体を見下ろしながら言った。
「『大日本ブレイク党』…相当の数のスタンド使いを囲っているようね。」
 ふさしぃが『キングスナイト』を引っ込める。

「加えて何人もの強化兵に自然災害、状況は最悪だな…」
 俺は溜息を吐いた。
 酷い嵐と土砂降りで、煙草を吸う事すら出来ない。

「SSSの他の皆は大丈夫モナ?」
 小耳モナーが不安に顔を曇らせた。
「…間違いなく、多数の死傷者が出ているでしょうね。
 いえ、SSSだけじゃないわ。
 何も知らない民間人にだって、何人の犠牲者が出ていることか…」
 ふさしぃが重く口を開いた。

「そんな…!」
 小耳モナーが泣きそうになる。
「泣いている暇は無いわよ。
 今私達がすべき事は、この騒ぎを一刻も早く収める。
 それだけよ。」
 ふさしぃが自分に言い聞かせるように言った。

 …そうだ。
 こいつだって、マルミミギコの事が心配でならない筈だ。
 外面では平静を装ってはいるが、
 本当は気が気でないだろう。
 すぐにでもマルミミギコの所に行ってやりたいのだろう。
 それなのに、こいつは…

「どうしたの、ギコえもん?
 さっきから私の事じろじろ見て。」
 そのふさしぃの言葉に、俺ははっと我に返った。
「…何でもねぇよ。
 ただ、厚化粧が落ちて大変そうだな、て思ってな。」
 俺の頭にふさしぃのげんこつが飛んでくる。
 これでいい。
 ただでさえ、いっぱいいっぱいなのだろうに、
 これ以上こいつに余計な気を使わせてはならない。

 そうだ。
 ふさしぃの言うとおり、マルミミギコを含めた街の奴等の為にも、
 一秒でも早くこの状況を解決しなくては…!

 俺はそう決心を固めて、拳を握った。

541ブック:2004/03/10(水) 17:35



 後ろに『大日本ブレイク党』の連中の屍の山を築きながら、
 災害の中心部分に向かって走って行く。

 進む毎に、風と雨と地震が、その強さを増していく。
 間違いない。
 本体は、この先だ。

「!!!!!!」
 その時の体に電流みたいなものが走った。
 皆も同じものを感じたのか、その場で足を止める。

「…どうやら、今までの雑魚とは違うみたいだょぅ。」
 ぃょぅが慎重に周囲を警戒する。
 姿は見えない。
 だが確実に、近くに誰か居る。

「…お前ら、先に行ってろ。」
 俺は皆の方を向いてそう言った。
「ギコえもん!?」
 小耳モナーが、驚いて尋ねてくる。

「どこのどなたかは知らねぇが、俺が相手しといてやる。
 お前らは先に行っててくれ。」
 この嵐や雨を突き抜けて届いてくるプレッシャー。
 負けはしないだろうが、少し手こずりそうだ。
 しかし今は一刻を争う。
 こんな所で仲良く足止めを食ってる訳にはいかない。

「…分かったょぅ。」
 ぃょぅが頷いた。
 流石に理解が早くて助かる。

「私もギコえもんの意見に賛成するわ。
 ただし…」
 ふさしぃが、俺に向かって一歩踏み出した。
「私もご一緒させて貰うわよ。」
 ふさしぃがスタンドを発動させた。

「いらね。
 俺一人で十分だって。」
 俺はそう言って断ろうとした。
「あら、私じゃ役不足かしら?」
 ふさしぃがにっこりと微笑む。
「…い、いや、そういう訳じゃ。」
 ヤバい。
 この笑顔、断ったら、殺される。

「そう、なら決定ね。」
 ふさしぃがぃょぅ達の方を向いた。
「そういう事だから、頼むわよ。
 ぃょぅ、小耳モナー。」
 ぃょぅと小耳モナーが首を立てに振って、
 駆け出していく。
 俺とふさしぃは、それを黙って見送った。



「…おい、ふさしぃ。無茶すんなよ。
 お前には、待ってる奴が居るんだろうが。」
 俺はふさしぃの顔は見ず、吐き捨てるように言う。
「あら、心配してくれているの?
 大丈夫よ。彼は、あなたよりよっぽどしっかりしてるから。」
 ふさしぃが笑いながら返す。
「けっ、言ってろ。」
 強がりやがって。
 本当は不安でならないくせに。

「…!来るわよ。」
 ふさしぃが身構る。
 すると、通りの向こうから朧げながら人影が見えてきた。

「お、お願いです。助けて下さい…」
 やって来たのは、一人の少女だった。
 息も絶え絶えといった様子で、
 こちらに向かってくる。

「いきなり兵隊に襲われて、私…」
 少女が泣きそうな顔をしながら近寄る。
 あと5メートル、4…3…

542ブック:2004/03/10(水) 17:35

「ゴルァ!!!」
 射程距離。
 俺はスタンドを発動させ、少女に殴りかかる。
 間一髪の所で、少女は『マイティボンジャック』の拳を回避した。

「…!
 酷いです!いきなり何を…」
 少女が信じられないといった風に喋ってきた。
「猫被ってんじゃねぇよ、『大日本ブレイク党』。」
 俺は冷ややかな目で少女を見据えた。

「…やれやれ、ばれちゃったか。
 上手く演技できてたと思ったのに。」
 少女が、別人のような顔つきになる。
 ようやく、本性を現しやがったな。

「手前の体からは、匂いがするんだよ。
 どうしようもねぇ、最悪の人殺しの匂いがな。」
 だから一発で本性を見抜けた。
 それにしても、ここまで臭い匂いを持った奴をみるのは初めてだ。

「覚悟はいいかしら?」
 ふさしぃが『キングスナイト』を発動させる。
 そしてその剣の切っ先を少女に向けた。

「あなた達、こんな年端もいかない女の子相手に二人掛かりで闘うわけ?」
 少女が挑発してくる。
「悪いな。こっちも時間が惜しいんだ。
 二人掛りで、手っ取り早く終わらせてもらう。
 それとも何か?
 お前は戦場で、相手の良心なんかに期待しているのか?」
 そうだ。
 ここは日常じゃない。
 命の重さが、弾丸一発の重さまで下落する非日常、
 血と硝煙の匂いの支配する戦場だ。

「やれやれ…ただ腕が立つってだけじゃなさそうね。
 まあ、いいわ。
 どちらにせよ、勝つのは私な訳だし。」
 少女の体がスーツのようなものに包まれる。
 身に纏うタイプのスタンドか。

「みる、みる、みるまら〜!」
 少女が快活な声を上げた。



     ・     ・     ・



 俺は目的地である孤児院の近く間で到着していた。
 遠目に孤児院が見える。
 どうやら、まだ無事みたいだ。
 それを確認し、俺は足を止める。

「…?でぃさん?」
 おぶられたまま、みぃが背中から不思議そうに声をかけてきた。
 俺は答えず、しゃがんでみぃを地面に下ろす。

『ここまでだ。』
 俺はみぃの手の平にそう書いた。
「…!?どういう事ですか?」
 みぃが尋ねる。
 俺は向こうの方に見える孤児院を指差してから、
 再びみぃの手に指を這わせた。
『お前は一人であの孤児院に行ってろ。
 あそこの人達ならきっと匿ってくれる。』
 俺の答えに、みぃが顔を強張らせる。

「そんな!
 でぃさんは!?」
 みぃが必死な形相で聞き返した。
『俺はこの辺りで見張りをしておく。
 大丈夫、孤児院には絶対に誰も近寄らせない。
 守ってやる、お前を。』
 ここでにっこり微笑んだりすれば、
 ビシッと決まるのだろうが、俺には無理な芸当だった。

「駄目です!
 外にいるなんて、危険過ぎます!!」
 みぃが叫ぶ。

「……」
 俺は黙って首を横に振った。

543ブック:2004/03/10(水) 17:36

「嫌です…!
 私、でぃさんを一人に置いたまま行けません!!
 でぃさんも一緒に……」
 俺はみぃの口に人差し指を当てて、
 言葉を止めた。
『…俺は、行けない。
 俺はあそこには、行けないんだよ。』
 会いたくなかった。
 会いたかった。
 あそこにいる、俺の…

 だけど、行けない。
 今更会ったところで何になる?
 実は私があなた達の息子ですとでも打ち明けるか?
 そんな事してところで、余計にややこしくなるだけだ。
 会わなくていい。
 他人のままでいい。
 この事は、俺だけが知っていればいい事だ。

「嫌です!
 行かせません…!
 絶対に、一人でなんか……!」
 みぃが俺に、泣きながら抱きついてきた。
 腕を背中に回し、放すまいと強く締め付けてくる。

「……!」
 俺もみぃの背中に腕を回し、抱きしめようとして…
 …寸前で思い止まった。

 駄目だ。
 ここで抱き返したら、俺は、離れられなくなる。
 あの孤児院に、入ってしまう。
 だから…


 …俺は、そっとみぃの体を押しのけた。
『…いい子だから、言う事を聞いてくれ。
 お前が近くにいたら、闘いにお前を巻き込んでしまう。
 そしたら、俺はお前を守りきれないかもしれない。』
 みぃの柔らかい手に、そっと言葉を記す。
「構いません…!私は……」
 当て身。
 みぃが意識を失い、体が糸を失ったまりおねっとのように崩れる。
 俺は、地面に倒れないように、みぃの体を肩で支えた。

 そのままみぃを担いで孤児院まで行くと、
 外に誰も居ない事を確認してから敷地に入り、
 みぃを玄関口に置いてから、ドアを数回叩たうえにチャイムを鳴らした。
 そして、人が来ないうちに急いでその場から離れる。


 これでいい。
 これでいいんだ。

 ごめんな、みぃ。
 乱暴な事しちまって。
 だけど、俺はここには入れないんだ。
 入る資格は、俺には無い。

 …それに、見せたくないんだ、これ以上。
 俺が『化け物』に成り果てて、人を殺す姿を、
 お前にだけは…

544ブック:2004/03/10(水) 17:37



 俺は雨と風に打たれながら、道端に立ち尽くしていた。
 みぃは孤児院に入れて貰えただろうか…
 まあ、いいか。
 もし孤児院に入れて貰っていなくとも、
 俺の傍に居るよりかは、よっぽど安全だ。
 あいつが無事なら、俺は…

(お優しい事だな。)
 …!
 『デビルワールド』…!!
(おいおい、そう嫌わなくてもいいだろう。
 これから、間違いなく私の力が必要になるというのに。)

 …俺は何も言い返せなかった。
 こいつの言う通り、スタンドが使えなければ、
 俺には何も出来ない。

(しかし不思議なものだな。
 前は殺したい程、あそこにいるお前の両親や子供達を憎んでいたというのに、
 今はそいつらを守ろうとしている。
 矛盾だ。
 理解に苦しむな。)
 うるせえ。
 俺は別に、あいつらを守るつもりな訳じゃない。
 あの孤児院にはみぃがいるから、そのついでに結果的に守る事になるだけだ。

(ならば何故、その孤児院まであの女を連れて来たのだ?)
 それは、
 雨や、風を凌ぐ為に都合がいいから…

(まあ、そういう事にしておいてやろう。)
 うるさい。
 用が済んだならさっさと消えろ!

(くっくっく…しかし、それ程までにあの女が大事か。)
 …何が言いたい……!?
(いやいや、ただお二人の仲を祝福してやろうと思ってね。
 醜い社会のゴミと、肉玩具だった女、釣り合いの取れる組み合わせじゃないか。)
 黙れ!!
 俺はそんなつもりであいつを…!

(そんなつもりが無い…と言い切れるのか?
 心の底から?
 嘘を吐くなよ。お前はあの女を哀れむと同時に、安心したのだろう?
 あの女にも醜い過去があって、それがお前の劣等感を少しでも和らげた事に。)
 違う!!
 俺は、俺は…!

(それと一つ忠告しておいてやる。
 あの女、いつかお前を捨てるぞ?)
 何でお前にそんな事が…

(白々しいな。お前だって薄々感づいているのだろう?
 実の両親ですら、お前を捨てたのだぞ。
 いやんや赤の他人であるあの女をや、というやつだな。)
 …!!
 違う、あいつは違う!!!

(それは信頼では無く、願望だ。
 お前はあの女に依存しているだけに過ぎない。)
 黙れ!
 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!

(そう怒るな。図星なのだろう?)
 やめろ…
 違う。
 絶対に違う!!

545ブック:2004/03/10(水) 17:37

(…おっと、どうやらお喋りはここまでのようだ。
 お客様が来たみたいだからな。)
 帰れ。
 そして二度と俺に話しかけるな!!

(せいぜい頑張る事だ。
 お前に死なれては、私も困る。)
 そういい残すと、『デビルワールド』の声は聞こえなくなった。

 あいつの声…
 どんどんはっきりと聞こえるようになっている……



「……」
 俺は神経を集中して、心を落ち着かせた。

 忘れろ。
 さっきの『デビルワールド』の言葉は忘れろ。
 迷いながら闘えば、それが死に繋がる。
 闘いだけに、集中するんだ…!

 遠くから人の気配が近づいてくる。
 それも、大勢。
 十人か、
 二十人か、
 三十人か、
 それとも、もっと沢山か。

 どうでもいい。
 何人だろうが、全員殺す。
 みぃの所には、ただの一人も近寄らせない。

 来るなら来い。
 殺し合いがしたいんだろ?
 俺が相手になってやる。
 化け物同士、踊ろうぜ。
 殺戮の舞踏(ダンスマカブル)をな…!!



     TO BE CONTINUED…

546ブック:2004/03/11(木) 19:06
     救い無き世界
     第四十四話・黒「共演」 〜その三〜


「『バブルボブル』。」
 少女がふさしぃに向かって指差す。
「!!!」
 少女の指先から何かが放たれた。
 あれは…弾丸?
「『キングスナイト』!!」
 しかし、それを見切れないふさしぃでは無い。
 軽く『キングスナイト』の剣の刃で弾き落と―――

「あっ……!!!」
 いきなり、ふさしぃの肩口に散弾銃で撃たれたみたいに、
 穴が幾つも穿たれた。
 ふさしぃが痛みに声を漏らす。
 確かに剣で防いだのに、何故!?

 それに、間違いなく何かを発射した筈なのに、
 発射されたらしき者はどこにも転がっていない。
 何だ。
 奴は何を発射したのだ!?

「呆けている場合かしら?」
 今度は、少女が俺に向かって狙いを定める。
 そして、再び指先から何かが放たれる。
「ちっ!!!」
 飛びのいて、かわす。
 何を発射しているのか分からない以上、
 迂闊に受けるのは得策ではない。

「ほらほらほら!」
 少女が正体不明の弾丸を連発してくる。
 まずい。
 避けきれるか!?

「避ける必要は無いわよ。」
 ふさしぃが俺の前に、背中を向けて立ちはだかった。
「お前、何を…!」
 よせ、さっきお前はあの弾丸を防ぎ切れなかったじゃ…

「はあっ!!」
 ふさしぃが剣を振り回す。
 すると、衝突音が雨音や風音に混じって鳴り響いた。
 しかも先程とはうってかわって、ふさしぃには傷一つついていない。

「へぇ…」
 少女が嘆息した。
 しかし、まだその表情の中には余裕が残っている。

「あなたが何を撃っているか分かったわ。」
 ふさしぃが『キングスナイト』の剣を少女に向ける。
「水…ね。当たりでしょう?
 撃たれた時に出来た傷口に、
 何も残っていない事から分かったわ。」
 少女はその言葉には何も答えずに、
 黙ったままふさしぃに指先を向けた。

「無駄。」
 ふさしぃが放たれた水の弾丸を、剣の刀身の平の部分で受けた。
 水がそこに命中すると同時に四散する。
「さっきは、剣の刃の部分で斬り落とそうとしたから、
 完全には防げなかった。
 だけど、表面積の広い平たい部分でなら、
 何も問題無いわね。」
 ふさしぃが得意げに笑う。
 成る程。
 分かってしまえば、そんな事か。

「そう。それで?」
 能力が明かされたというのに、
 少女はまるで気落ちしていない様子で言った。
「分からないの?
 種さえ知ったら、あなたの攻撃はもう通用しないという事よ。」
 ふさしぃがやれやれと答える。

547ブック:2004/03/11(木) 19:07

「ふ…あはははははははははは!!」
 少女が笑い出す。
「何がおかしい?」
 俺は少女に尋ねた。
「笑っちゃうわねぇ。
 そんな事が分かったくらいで、そんなに得意げになるなんて。
 あんな曲芸使わなくても、あなた達位殺せるわよ。」
 少女が笑いながら答える。

「…そうかい。
 なら、試してみようか!!」
 俺はスタンドを発動させて少女に向かった。
 少女がそこに向けて水の弾丸を放ってくる。

「ふっ!!」
 拳で水の弾丸を弾く。
 ふさしぃの剣とは違い、拳でならどの部分で受けようが、
 水を全て受けきれる。
 さっきのふさしぃのように、
 刃先で分裂した水が、止まらずに襲ってくるという事は無い。

 『マイティボンジャック』の拳の射程距離に入る。
 どうだ、ここまで近づけば、
 俺の拳の方が弾丸より速い。
 身に纏うタイプのスタンドという事は、
 お前も近距離パワー型なのだろう。
 それなら一つ、ラッシュの速さ比べといこうぜ。

「ゴルァ!!」
 少女に拳を繰り出す。
 よし、先に出した。
 同じ近距離パワー型なら、これから奴が攻撃してきたとしても、
 先に出した俺の方が、奴より早く命中す―――

「みる!」
 胸部に少女の拳がめり込む。
「!?
 なあっ!!?」
 突然の出来事に、全く思考が追いていかない。
 しかしそれでも体が半無意識のままに、
 怯む事なく反撃の拳を撃とうとする。
「みるまら!!」
 しかし、明らかに俺より後に出している筈の少女の攻撃に、
 俺の攻撃は全て撃墜された。

 何故だ!?
 同じ近距離パワー型のなのに、どうしてここまでの差が…


「ギコえもん!!」
 横から、ふさしぃが少女に斬りかかる。
 気をつけろ、ふさしぃ。
 こいつ、能力に何か秘密がある…!

「おっと、危ない。」
 その瞬間、少女の足元から物凄い勢いで水が噴き出し、
 その勢いを利用して少女が猛スピードで後ろに跳躍する。
 ふさしぃの剣は、それを捉える事は出来なかった。

 しかし、今ので分かった。
 この少女の能力、
 それは、身に纏っているスタンドから、
 何かを高速で噴出させる事…!

 それなら今までの現象にも説明がつく。
 弾丸は、指先から水を射出させた。
 そしてさっきの、近距離パワー型すら凌ぐスピードでの攻撃…
 それは、攻撃の瞬間に、肩や肘の部分から水を噴出し、
 その勢いでパンチを加速した。
 だから、あそこまでの速さでパンチが飛んできた。
 そして…その為に必要な水は、
 この豪雨から幾らでも取り出せる…!

「その顔だと、理解出来たようね。
 私の『バブルボブル』の能力が。
 そして、今この状況が、私にとって非常に有利な事も。
 あなた達に、万に一つも勝ち目は無い事も。」
 少女がにっこりと笑う。

「…一つだけ、間違いがある。」
 俺は少女を睨んだ。
「あら、何かしら?」
 少女が不思議そうに聞き返す。
「最後の『万に一つも俺達に勝ち目は無い』、って部分だゴルァ。
 正解は、『お前のぶちのめし方を理解した』、だ。」
 俺はわざとおどけて言ってみせた。

「冗談にしては、下らな過ぎるわね。」
 少女が、自分の勝ちを少しも疑わないような顔で言う。
「そいつはどうかな。
 俺達は二人いるんだぜ?
 その時点で、お前の負けは決定してるんだよ。」
 俺はふさしぃの方を見る。
 ふさしぃも、自信満々といった感じで頷いた。

「見せてやるよ。
 数の暴力って奴をな。」
 俺は地面に血の混じった唾を吐き捨てた。

548ブック:2004/03/11(木) 19:07



     ・     ・     ・



 『大日本ブレイク党』の兵士達が、
 崩壊していく街を行進していく。
 逃げ惑う人々を殺しながら。
 男を殺しながら。
 女を殺しながら。
 赤子を殺しながら。
 子供を殺しながら。
 大人を殺しながら。
 老人を殺しながら。
 犬を殺しながら。
 猫を殺しながら。
 あらゆるものに万遍無く、
 銃弾と共に死を叩き込んでいく。

 兵士の一人が、とある民家のドアをこじ開ける。
 その中に、他の兵士達がなだれ込む。
 家中を探索し、
 やがて兵士の一人が押入れに隠れていた家族を発見した。

 恐怖に顔を引きつらせ、泣き叫ぶことすら出来ない父、母、二人の姉弟。
 命乞いの暇すら与えられず、
 フルオートの斉射で、仲良くミンチに成り果てる。
 笑う兵士達。
 何も言わない家族。
 笑う兵士達。
 動かない家族。
 笑う兵士達。
 笑う兵士達。
 笑う兵士達。

 兵士達はそれに味をしめたのか、
 次々と民家へと襲撃していく。
 もちろん既にもぬけのからの家もあり、
 その度に兵士達は憤慨した。
 そしてたまたま逃げ遅れたりして、
 家の中に隠れていた人々に、その鬱憤をぶちまける。

 隠れ場所を暴かれ、小動物のように怯える人間の顔。
 それは麻薬のように兵士達を魅了した。
 その快感を求め、兵士達はなおも蛮行を繰り返す。

 狂う。
 狂う。
 狂う。
 善悪の価値観が。
 善悪の優劣が。
 命の価値が。
 死の価値が。
 命の意味が。
 死の意味が。
 肉体が。
 精神が。
 思考が。
 思想が。
 信念が。
 信条が。
 人間が。
 非人間が。
 狂う。
 狂う。
 狂う。
 狂っていく。


 と、兵士の一人が一際大きい建物に目をつけた。
 どうやら何かの施設のようだ。
 その兵士が、周りの兵士に耳打ちする。
 そして兵士達は、その施設へと目標を定め―――

 ―――最前列にいた兵士二人の首が、突然消失した。

549ブック:2004/03/11(木) 19:08



     ・     ・     ・



 飛翔。
 脚をスタンド化させて、兵士達に跳びかかった。
 常人では反応不可能な跳躍速度。
 すれ違いざまに、一番前にいた兵士の頭を、
 右手左手で一つずつもぎ取っていく。

 すぐさま俺に無数の銃弾がばら撒かれる。
 急いで跳び―――

 ―――三発被弾。
 右腕、左肩、左腹部。
 痛。
 熱。
 糞。
 考えるな。
 今は痛みは無視しろ。

 近くの奴に右拳。
 心臓を貫く。
 休む間も無く銃弾の雨。
 近くの奴を引き寄せて盾代わりに、
 しかしあっという間に肉塊になり、役に立たなくなる。
 早く回避を―――

 被弾。
 一発被弾。
 二発被弾。
 三発被弾。
 四発被弾。
 五発被弾。
 六発被弾
 七発被弾。
 上等だ。
 これだけ撃たれて七発しか当たってないなら上等だ。

 かわしながら攻撃。
 左のハイ。
 兵士の首だけがサッカーボールのように飛んでいく。

 何人だ。
 あと何人だ。
 今までに死んだのは五人。
 最初ぱっと見たとき大体二十人以上はいたから、
 少なくとも残り…

「!!!!!」
 そう考えたのが間違いだった。
 その思考が数瞬ではあるが、思考と動作を停止させた。
 それを逃さず襲いかかる、鉛の死神の雨。
 回避が遅れ、弾丸が俺の右脚をズタズタに喰い散らかした。
 痛みと衝撃が脚に走る。
 俺は転倒し、コンクリートの壁に激突した。

「パンツァーファウスト!!」
 兵士の叫び声が聞こえる。
 兵士が大仰な筒を肩に担ぐ。
 何だ。
 あれは。
 ロケット、砲…?
 爆発!?

 ヤバい。
 避――!脚が――再生――まだ時間が――
 動け――無理――でも、避けないと――
 ――駄目――発射――今、――
 死―――…

550ブック:2004/03/11(木) 19:08


「『オウガバトル』!」
 声!?
 誰の…

 そんな事を気にしている場合か。
 目の前まで、放たれた砲弾が迫ってくる。
 腕で体を覆うように交差させる。
 だが、もう…


「!!!!!!!!」
 目の前で砲弾が爆発する。
 しかし、その爆風や爆発は、
 まるで「目の前に見えない壁でも出来た」かのように、
 俺の目前十センチ以内に決して入って来なかった。

 何だ、これは!?
 俺は夢でも―――

「まさか、あのお嬢ちゃんの言った通り、
 本当に一人で闘ってたなんてな。」
 後ろからの声に、俺は呆然としながら振り向く。
 この人は、トラギコ…!

「撃て!!!」
 突然の乱入者を銃弾と銃声の交響曲が出迎えた。
「『オウガバトル』。」
 トラギコの背後に鬼のようなビジョンが浮かぶ。
 刹那、銃弾は壁に当たったかの如く、全て空中で跳ね返された。

「なっ……!」
 兵士達が絶句する。
「驚いている暇があるのか?」
 トラギコのスタンドが、宙を凪ぐ。
 その瞬間、近くに居た兵士達は、驚いた顔のままで首を落とされた。

 そのままトラギコは残りの兵士に突っ込む。
 トラギコに近づかれると同時に、
 兵士達の体がバターのように両断されていった。
 兵士達も自動小銃で応戦するが、
 その銃弾はただの一発もトラギコには到達しなかった。
 一体、何が起こっているというのだ。
 これが奴の能力か!?

「あばよ。」
 トラギコが、最後の兵士を正中線上で真っ二つにする。
 ものの数分で、兵士は残らず屍となった。

 …この男、強い。
 ぃょぅ達と同じ位…
 いや、もしかしたらそれ以上に…!


「おい。」
 トラギコが、俺の方を向いて声をかけてきた。
 反射的に、身構える。
「そう構えるな。今お前と闘うつもりは無い。」
 トラギコはなだめるような声で言う。
 …信用している訳ではないが、
 この男と闘うのは無謀すぎる。

「……」
 俺は観念して、警戒を解く事にした。
 トラギコも、それを見て表情を崩す。

「…お前がどういう理由で、俺ん所の孤児院を守るのかは知らないし、
 知るつもりも無い。」
 トラギコが俺と目を合わせたまま喋る。
「しかし、どうやら孤児院を守るという点で、
 俺達の利害は今の所一致しているようだ。
 だから、今日この場限りにおいてのみ、手を組むのもやぶさかじゃねぇ。」
 そう言って、トラギコは通りの向こうに目を移した。
 俺も、それにつられて同じ方向に視線を移動させる。

「来るぞ…」
 トラギコが低く呟く。
 雨と風の中から、二つの人影がゆっくりと近づいて来た。


     TO BE CONTINUED…

551ブック:2004/03/12(金) 11:43
     救い無き世界
     第四十五話・黒「共演」 〜その四〜


「みるまら〜!」
 少女が足の裏から水を噴出させ、
 その勢いを利用して俺に向かって突進してくる。
 どうやら、俺から始末する事に決めたらしい。
 尤も、俺には微塵も始末されるつもりは無いが。

「『マイティボンジャック』!!」
 向かってくる少女にパンチを放つ。
 一発くらいは貰ってやる。
 こいつでカウンターを…

「『バブルボブル』!」
 突然、少女が真横に移動した。
 !!
 こいつ、体の横から水を噴出させる事で、
 急速な方向転換を。

「!!!!!」
 俺の右側面から少女の拳が襲いかかる。
「ゴル…ぐあ!!!」
 防御が間に合わず、肝臓部分にボディブローが叩き込まれる。
 やはり、水の噴出による推進力の分、
 奴の方がスピードとパワーは上…!

「『キングスナイト』!」
 少女が俺に追撃を加えようとした所で、
 ふさしぃが横から斬りかかった。
 大上段から、剣が地面と垂直に振り下ろされる。

「甘いわねぇ。」
 しかし、少女は全く動じる事は無かった。
 少女の纏っているスタンドの腹部に、
 噴出孔みたいな物が形成されると…

「があああぁ!!!」
 大砲のような圧力で、全身に水を叩きつけられる。
 それと同時に、その噴出力で少女が後方に跳び、
 ふさしぃの剣をかわす。
 『キングスナイト』の剣が、目標を失い地面を斬り裂く。

「こういう使い方もある、って訳よ。」
 少女が自慢げに笑う。
「…この……間抜けめ…」
 俺はえづきながら、何とか立ち上がった。
「へぇ…すぐに立てるんだ。
 頑丈なのね。」
 そりゃまあ、いつもふさしぃに殺されかけられてる事で鍛えられてるからな。
 しかし、それでも重度の全身打撲症といった所か。
 骨に異常は無さそうなのが、せめてもの救いだ。

「…笑ってる暇があるなら、
 俺がダメージから立ち直る前に、さっさと止めを刺しに来るべきだったな。」
 俺は不敵な口調で言う。
 とんだトーシロだ。
 絶好のチャンスをむざむざ見逃すとは。
 大方、いつでも俺たちを殺れるという自信の表れだろうが、
 それがお前の命取りだ。
 こっちは既に『準備』は完了した。
 後は、お前をそこにハメるだけだ。

「…行くぞゴルァ!!」
 俺は少女に走り寄った。
「やれやれ、何発殴られれば懲りるのかしら。」
 少女が呆たように呟く。

552ブック:2004/03/12(金) 11:44

「『マイティボンジャック』!!」
 拳を撃つ。
 しかし俺の拳が命中するより早く、
 少女の攻撃が悉く俺の攻撃を撃ち落す。
 右から、左から、正面から、
 少女の拳が、蹴りが飛んでくる。

 あっという間に攻撃すら出来なくなり、防戦一方となる。
 しかしそれでも全ての攻撃を防ぎきれない。
 体のあちこちに打撃が叩き込まれていく。
 耐え切れず、下がる。
 しかしこれは逃げる為に下がるのではない。
 勝つ為に下がっているのだ。
 慎重に、ゆっくりと、ゆっくりと、
 決して怪しまれないように、これでもかと言う程ゆっくりと、
 少女を『あの場所』へと誘導するように少しずつ下がる。

「薄情なお仲間さんねぇ。
 仲間がたこ殴りにされてるのに、助けに来ないなんて。」
 少女がパンチを出しながら話しかけてきた。
「…お前なんざ、俺一人で十分って事だよ。」
 負けずに、言い返す。
「あらあら、これだけやられてて、
 どうしてそんな言葉がまだ出てくるのかしら?」
 俺にそれ以上喋らせないかのように、
 少女がラッシュの速度を増した。

 ちらりと横を見る。
 ふさしぃが、心配そうな顔で俺を見ている。
 まだだ。
 堪えろ、ふさしぃ。
 まだ出てくるな。
 俺なら大丈夫だ。
 ダメージは片端から『マイティボンジャック』で先送りにしている。
 例え百発喰らった所で、あと五分は俺は倒れない。
 だから、焦るな。
 研ぎ澄ませ。
 『あの場所』に来た所で、必殺の一撃を出すために。

 ゆっくりと後ろに下がる。
 位置を気づかれないように微調整しながら。
 まだだ、もう少し。
 あと後方右45度に一メートル…
 …ここだ!

「今だ、ふさしぃ!!」
 俺は叫んだ。
 同時にマイティボンジャック解除。
 さっきふさしぃがつけておいた地面の斬り傷が、
 先送りにしていた『キングスナイト』の、
 傷口をどこまでも広げるという能力の先送りを解除され、
 深い亀裂となって俺と少女を飲み込む。

 少女に生まれる驚愕。
 それによる一瞬の隙。
 その隙が、戦場では命取り。

「『キングスナイト』!!」
 ふさしぃが体勢を崩した少女に斬撃を放つ。
 急いでかわそうとする少女。
 遅い。
 ほんのコンマ数秒でも、お前は思考を停止させた。
 それを逃す程、ふさしぃは甘くない。

 一閃。
 足の裏から水を噴出させて、少女が上に跳ぼうとするが間に合わない。
 胴こそ両断されなかったものの、
 代わりに胴があった部分まで来ていた少女の両足が、斬り飛ばされて宙を舞う。

「きゃあああああああああああああ!!!!!」
 雨の中に、少女の悲鳴が響く。
 傷口からは、大量の血が流れ出ていった。

553ブック:2004/03/12(金) 11:45

「……」
 俺は少女に止めを刺すべく、
 少女へと歩み寄った。

「…!
 ちょっと、ねぇ、冗談でしょ…?
 私はまだ子供で、しかも女なのよ!?
 いくら何でも殺すなんて…」
 俺はその言葉には聞く耳を持たずに、黙って歩いていく。
「やめなさいよ!!
 あんたそれでも正義の味方なの!?」
少女が怯えた顔で叫んだ。

「…殺してきた。」
 俺は低い声で言った。
「え…?」
 少女が聞き返す。
「仕事で、もう何人も殺してきた。」
 そう、殺した。
 何人も。
 男も、女も。
「別にそれを正当化するつもりは全く無い。
 俺は、最低の人殺しだ。
 軽蔑されたって当然だと覚悟してる。」
 俺は少女のすぐ傍まで来ると、そこで足を止めた。
 自分でも驚く位の冷酷なめで、少女を見下ろす。

「それに、お前がまだ子供だからとか、
 女だからとかいう理由で見逃したら、
 今迄に俺が殺してきた連中を冒涜になる。
 だからお前は絶対に殺す。
 それが、俺と闘って死んだ者に対する、せめてもの礼儀だ。」
 少女が、絶望に目を曇らせた。

「…お前だって、知ってたんだろ?
 人を殺す以上、自分が殺されても仕方が無いって事を。
 知ってて、今の道を選んだんだろ?」
 俺はスタンドの拳を振り上げた。
「心配すんな。
 俺も多分、あとから地獄(そっち)に行く…」
 …そして、俺は少女の胸を貫いた。



「…ギコえもん。」
 ふさしぃが後ろから声をかけてきた。
「…大丈夫だ。気にしちゃいねぇよ。
 たまたま、今日は殺した相手がおっさんとかじゃなく、
 女の子だったってだけの事だ。」
 わざと作り笑いをしながら、ふさしぃに振り返る。

「それに…感傷に浸ってる暇なんざ、今は無ぇ。
 急いで、ぃょぅと小耳モナーに追いつかなくちゃな。」
 俺はそう言うと、ぃょぅ達の向かった方向に走り出した。
 ふさしぃが、その後ろに続いてくる。

(…ギコミ。
 悪いけど、兄ちゃんはあの世でお前に逢えそうに無ぇや。
 閻魔様は、俺を天国には行かせてくれないだろうからな。)
 そんな考えを振り切るように走る。
 雨は、俺の体をしたたか打ちつけていった。



     ・     ・     ・



 二つの人影が、近づくと共にその輪郭を徐々に明瞭にしていく。
 あれは…
 ゴリラと、虎!?

「全滅…か。
 …お前達の仕業か?」
 虎が俺達に向かって口を開いた。
「だったら何だ?」
 トラギコがそれに答える。

「グウゥゥゥゥゥゥゥゥレイトォォォォォ!!
 かなりの使い手のようだな。」
 虎がガッツポーズをする。
「言う事はそれだけか?
 なら、さっさと来いよ。
 そして後悔する間も無くくたばれ。」
 トラギコがスタンドを発動させた。

「…ふむ。」
 虎が考える素振りを見せる。
「どうやら、隣にいるでぃより、
 お前の方がかなり出来るようだな。」
 虎が呟く。
 …弱そうで悪かったな。

554ブック:2004/03/12(金) 11:46

「…よし。
 お前はあっちのでぃを殺れ。
 あの男は俺が相手をする。」
 虎が俺を指差しながら、隣のゴリラにそう言った。
 それを受けて、ゴリラが虚ろな瞳を俺に向ける。

 俺は自分の脚に目をやった。
 大丈夫だ。
 再生は大方終わっている。
 まだ痛むが、闘う分には支障は無い。
 他の傷も、かなり痛むだけだ。
 問題無い。
 闘える…!

「それでは、始めようか。」
 虎の背後に、鎌を持った男のビジョンが現れる。
「…来るぞ。気を抜くな。」
 トラギコが身構える。
 あの男達から受ける威圧感は、
 先程の兵士とは比べ物にならない。
 桁が違うという事か。

「『ベラボーマン』!」
 その掛け声と同時に、虎の姿が掻き消えた。
 俺はその信じられない現象に、一瞬目を奪われる。

「余所見をするな!!」
 トラギコが叫んだ。
 気がつくと、もう目の前までゴリラが迫ってきていた。

「!!!!!」
 ゴリラが力任せに拳を突き出してくる。
 瞬時に腕をスタンド化して防御。

 …!
 重い…!
 生身の筈なのに、この力。
 だが所詮は普通の生物だ。
 単なる力比べなら、まだ俺に分が…

「モウ…ガマン…デキナイ……」
 追い討ちをかけてくるかと思いきや、
 ゴリラは俺との距離を離して、何やらアンプルの様な物を取り出した。
 そして、それを首筋に当てて、中身の液体を注入する。

「!!!!!!!!!?」
 それと同時に、ゴリラの体が一回り…
 いや、二周りも三周りも大きくなった。
 体中に太い血管が浮き出て、皮膚が異様な色に変色する。

「『アンジェリーク』ゥ!!!」
 と、ゴリラの手元に剣の柄が出現した。
 あれが奴のスタンド?
 だが、肝心の刀身はどこに…

「!?」
 ゴリラが剣を振る動作をする。
 何だ。
 何をやっている?
 あんな遠くから刀身の無い剣なんか振った所で、
 痛くも痒くも…

「モウガマンデキナイ!!」
 いきなりゴリラが突っ込んできた。
 何だ。
 結局近づいてくるんじゃないか。
 だったら、さっきの剣の素振りに何の意味があったんだ?
 いや、考えるな。
 今は闘いに集中しろ。
 ゴリラが来た。
 ここは一つ右に避けて―――


(!!!!!!!!!)
 馬鹿な!?
 脚が、動かない!!?

「!!!!!!」
 ヤバい、ゴリラから目を離した!
 拳。
 来る。
 受け―――

 ―――ゴリラの拳が腹に打ち込まれ、俺は派手にぶっ飛ばされた。



     TO BE CONTINUED…

555( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 10:57
短いようで長い期間。お前と一緒に敵と戦ってきた。
戦っただけじゃない。皆で騒いだりして、戯れた時も一緒だった。
そして、今私は『ある感情』にやっと気づくことができた・・・。
巨耳モナー。私はお前のことが―――

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―束の間の休息

・・・・鳥のさえずりが聞こえる。
ココはドコだ?天国?
しかし、俺の目の前に見えたのは、天国とは程遠い世界だった。
キツい薬品のにおい。古びている白い壁。そしてギシギシとした古いベッド
―――病院だ。
「おお!起きましたですZO!」
「ん・・?おお、ムック!」
ムックもどうやら無事だったみたいだが傷は深かったらしく全身包帯が巻かれ、
点滴もされていた。
「無事だったのか・・。」
「えE、多分一番傷が浅かったのは私でSHOW。何せ巨耳モナーさんは3日も寝てたSHI・・殺さんはまだ起きませんSHI・・。」

聞き違いか?
「・・・俺が何日寝てたって?」
「HE?3日・・ですGA?」
み・・み・・・
「三日ァァァァァァ――ッ!?」
「えぇ、あぁ、そうDA。コレ、三日前の新聞ですZO。」
呆然としている俺にムックは新聞を差し出した。
そして、その一面記事を見たとき、俺の顔色が一変した
「コ・・コレは・・。」
「『茂名王町・矢の男極秘捜査本部、全員惨殺 警察信用ガタ落ちか!?』ですZO。」
俺はその時思い出した。本物の『矢の男』が言った言葉を。
『―既に捜査本部にかかわっている人間は皆殺しだ。今捜査本部は『血の海』と言ってもおかしくない状況だぞ。―』
そして少ししたの方を見るとムックのい顔写真が載っていた。
「AH。コレは取材されたんですZO。警察にも聞き込みをされましたSHI・・。やっぱり犯人は『矢の男』ですよNE?」
・・・そういえばコイツは自分を倒した奴が『偽者』だとは気づいてないんだっけかな・・。
しかし下手に教えると『自分は偽者にあんなボロボロに・・』とか言って落ち込みそうだし黙っておこう。
とか思っていると俺のベッドの横に置いてあるノートパソコンからジェノサイアが現れた。
「あ!意識戻ったの!?」
ジェノサイアはそう言うと物凄いスピードで俺に抱きついてきた
「グハァッ!お前・・ノートパソコンから出たときの威力・・馬鹿にならねぇんだぞ・・。」
「あ。ゴメンゴメン。おっと!そういえばね、今丁度殺ちゃんが目覚ましたよ!」
どうやら殺ちゃんは俺達の部屋とは別室で寝てるらしい、一番傷が深かったみたいで。
「・・行ってあげたらどうですKA?」
ムックは俺に言った。
「・・そだな。」
そう言うと俺は絶対安静の身って事を忘れて点滴まで取って走ってった。
・・・不思議と足が動く
・・・ソレに、不思議と『行かなきゃ行けない』と思った。
そして俺は、殺ちゃんの病室の扉を開いた

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

556( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 10:57
「・・・気になるんでSHOW?」
ムックは私に問いかけた。
「そ・・そんな事・・ないわ・・よ・・。」
「MATAMATA。強がっちゃっTE。きっと巨耳モナーさんぐらいですYO?」
ムックはニヤニヤしながら言う
「・・・?何が?」
首をかしげる私にムックは顔を近づけた
「アナタの巨耳さんに対する『気持ち』DESU。」
「なッ・・・・!?」
私の顔が一気に赤くなった。
ムックのニヤニヤ度が増す
「ちょ・・ッか・・からかわないでよね・・ッ!」
・・・恥ずかしい
「行って見たらどうですKA?」
ムックからさっきのニヤニヤ顔が消える
「・・無理よ。」
「私は、スタンド。ずっと昔から居るっていっても所詮は巨耳クンの『精神』。
ソレに比べて殺ちゃんは『人』なの。『スタンド』じゃあ・・『人』には勝てないのよ・・。」
私は自分の思いをぶちまけた。
すると、ムックはさっきのニヤニヤ顔とは違う、優しい微笑を見せた。
「そんな事ないですZO。」
「やってみなきゃわからNAI。そんな事はいっぱいあるんですKARA。」
そう言うとムックは突然ノートパソコンを抱え、部屋を出た。
「ちょ・・ッ!?」
「少し時間はかかりますGA、行きまSHOW。」
いつもならとめてたんだろうけど、私はその時止めなかった。何より、行きたかったから――。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

557( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 10:58
「殺ちゃん!」
俺は扉を開いたとともに殺ちゃんの名前を呼んだ。
「あ・・・。」
病み上がりだからもっと酷い容態かと思いきや結構元気そうだ。
「大丈夫か?」
俺は置いてあったイスに座る
「・・・お前こそ大丈夫なのか?」
「・・え?」
「お前も病み上がりな上、『本物の』矢の男にやられたのだろう?」

「・・・気づいてたんだ。」
「私をなめるでない。」
殺ちゃんはちょっと顔を下に向け、肩を揺らしながら『くっくっく』と笑う
慣れない人にはちょっと不気味な殺ちゃんスマイルを見せ付けた。
どうやら結構元気そうだ
「それじゃ、俺一応病室戻っておくね。医者に怒られそうだし。」
そう言うと俺は腰を上げた。
「あ・・っ・・待って!」
殺ちゃんは行こうとする俺の手をひっぱった。
「話が・・あるのだ。」
殺ちゃんの深刻そうな顔を見て、俺は再び座る。
「短いようで長い期間。お前と一緒に敵と戦ってきた。」
小さい深呼吸をすると殺ちゃんは話を始めた。
「戦っただけじゃない。皆で騒いだりして、戯れた時も一緒だった。」
俺の脳裏に殺ちゃんとの思い出が見えた。
「そして、今私は『ある感情』にやっと気づくことができた・・・。」
・・・え?
「巨耳モナー。私はお前のことが―――」
まさか・・コレって・・。
沈黙が病室に走った。
そして、殺ちゃんの口が重く開こうとする。
「s・・・」
「HELLO!!殺ちゃんごきげんIKAGA!?」
!!!・・ムックがノートパソコンを持って入ってきやがった
「SAァ!ジェノサイアSAN!巨耳サンに一こ・・ARE?」
ムックはノートパソコンをあけるが、ソコにジェノサイアは居なく、呆然とする
「ムック・・テメェふざけるのも大概にしろやァァァァァァァァッ!!!」
俺はムック砲おも上回るであろうパンチをムックにしてやった。
人間怒りを上乗せするとすごい力が出るもんだ。
「AHHHHHHHHHHHhhhhhhhhhh・・・・・・・.......」
ガタガタガタガタガタ
階段から落っこちた様な音が鳴った・・ご愁傷様。
「・・・・・・すまない。今日はちょっと私も疲れているようだ。戻ってくれないか・・?」
殺ちゃんは窓を見ながらしゃべった。・・・俺の方を向いてくれない。
「・・なんか、ゴメンな?」
俺はそういうと、帰りたくないが、重い腰をあげ、病室を出た。

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

俺が自分の病室に戻るとムックはピンピンしていた。
・・・スタンドか。
「お前な・・。何であんな良い所で・・。」
「巨耳さんが気づかないからですYO。」
・・?
「何に?」
「何ってそりゃあ・・ジェノサイアさんn」
次の瞬間ノートパソコンから巨大な手が現れムックをふっとばした。
ガタガタガタガタガタ
またも階段から落ちたような音がする。
「・・・なんて言おうとしてたんだろうか。」
「か・・階段から落ちたショックで頭がおかしくなったんだよ!きっとそう!それじゃあ今日はもう休もう!ね!?」
『休もう』って言ってるがその目は『休め』と脅迫じみた目をしている。
その目が怖くて俺はとりあえずベッドに入った。
するとドアが開く音がする。
ムックかと思いきやどうやら主治医の様だ。
「おやおや・・。ムックさんは居ないし、巨耳さんは点滴外しちゃったんですか?仕方ありませんね。付け直しましょうか。」
そういうと主治医は俺の点滴を治そうとする。
しかしその時誰からもらったのか記憶が無いが置いてあったみかんをおとしてしまった。
「おっと、申し訳ございません。今拾いますから・・。」
そういうと主治医はミカンを拾おうとした。
だがその手はミカンでは無く床の方に伸び、更にその手は床に入っていった
「なッ!?」
「もらったッ!氏ねェィッ!」
俺のまくらから巨大な手が現れたが、間一髪、ムックがパンチで俺をふっとばした。
「・・危なかったですNE・・。」
「・・あんがとさん。」
スタンドつかいらしき主治医は白衣を脱ぎ、帽子とマスクをとった。
その時、ムックの顔色(?)がガラリと変わった。
「チィッ・・。矢張り不意打ちは無駄か・・しかし今のパンチは
じじいのファックの方がまだ気合いが入ってるぞムックッ!ソレでも俺に育てられた部下かこのウジ虫がッ!!」
←To Be Continued

558( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 10:58
登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

559( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 10:59
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

560( (´∀` )  ):2004/03/13(土) 11:00
――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(?)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。

561ブック:2004/03/13(土) 15:03
     救い無き世界
     第四十六話・黒「強縁」 〜その一〜


 凄まじい音を立てながら、
 雨と風が吹き荒れていた。

 でぃの奴がゴリラに殴られて吹っ飛ばされていく。
 しかし、助けている余裕は無い。
 恐らく、姿を消した虎がどこからか俺を狙っている筈だ。
 迂闊な行動は出来ない。

 俺は周りを見回しながら、消えた虎の気配を探った。
 しかし、どこからも虎の気配を感じ取る事は出来ない。
 どこだ。
 奴はどこに消えた!?

「!!!!!」
 不意に、背後から殺気を感じた。
 こいつ、いつの間に後ろに…!

「『ベラボーマン』!」
 俺に向かって鎌が振り下ろされる。
「『オウガバトル』!!」
 とっさにスタンドを発動。
 そして、目の前の『空間を分断』。
 空間が『分断』される事で、空間に境界線が生まれ、
 その境界面に虎のスタンドの鎌が当たって跳ね返される。
 境界面で空間と空間が切り離されている為、
 いかなる攻撃もその境界面を超えて俺に到達する事は無い。

「りぃやああぁ!!!」
 続けざまに、『オウガバトル』の能力で虎の首あたりで『空間を分断』。
 だが、その寸前で虎は再び姿を消した。
 だが、あのタイミングなら、例え姿を消していても
 攻撃は命中してる筈…

「!!!」
 刹那、真横から首筋に向かって鎌の刃が襲ってくる。
 とっさに『オウガバトル』の『空間分断』で防御。
 首まであと一センチの所で鎌が止まる。

「ちぃっ!!」
 虎のスタンドがいる空間を分断する。
 しかし、またしても空間ごと切り裂く直前で、
 虎とそのスタンドは姿を消す。
 手応え、無し。
 このスタンド…
 姿を消している間は一切干渉出来ないのか。

 しかし、それは多分奴にしても同じ事だ。
 何故なら、姿を消したままでも攻撃が出来るなら、
 わざわざ姿を見せてから攻撃するなんて危険は犯さない筈だ。
 だが、それなら奴はどのようにして姿を消している?
 さっきから地面を注意深く観察しているが、
 奴の移動する時の足跡すら見つけられない。
 もしかして、別の次元に移動しているのか?
 いや、そこまでの能力なら、
 『大日本ブレイク党』の部下の立場になんて甘んじていないだろう。

 それに、完璧な能力などこの世にはありはしない。
 奴の能力にも、何かしらの欠陥がある筈だ。

「!!くっ!」
 そう考えている所に、三度目の鎌での攻撃が襲い来る。
 『空間を分断』。
 鎌が俺の体に到達する前に防御。
 しかし、やはり虎野郎は俺の攻撃が当たる前に姿を消す。

 …仕方無い。
 こうなったら捨て身だ。
 もう鎌を防御する事は考えない。
 相打ち覚悟で、奴の出現と同時に『空間分断』で真っ二つにする。
 こちらも鎌を喰らうだろうが、
 どっちにせよこのままじゃジリ貧だ。

562ブック:2004/03/13(土) 15:03

 精神を張り詰めさせる。
 早く、
 早く出て来い。
 その瞬間に『オウガバトル』でぶった斬って…

「!!!!!」
 左後方に何かの気配を感じた。
 来た。
 ここだ…

「なっ!!」
 しかし、俺が『空間分断』で真っ二つにしたのは、ただの空き缶だった。

 まずい、囮…!
 しまっ―――

「ぐあ!!!」
 背中に鋭い痛みが走った。
 右肩から左わき腹にかけて、ざっくりと切り裂かれる。
 しかし囮に気づいた瞬間に、急いで身をかわそうとしたおかげで、
 傷は致命傷には達しなかった。
 だが、かなりの深手を負った事には違いない。

 畜生め。
 俺とした事が…!

「不覚を取ったな…」
 たっぷりと俺との距離を離した所で、虎が姿を現し俺に喋りかけてきた。
「……」
 俺はそれには答えず、黙って奴を見据える。

「君の能力は確かにグウゥゥゥゥレイトォォォだが、私には通用しない。
 まあ、運が悪かったな。」
 虎が含み笑いをする。
「さて、そろそろ止めといくか…」
 虎が姿を消す。

 かなりヤバいな。
 どうする?
 何とかして、奴の隠れ場所を見つけないと…

「!!!!!」
 その時、閃光と共に雷鳴が雨と風を裂くように鳴り響いた。
 かなり、近い。
 まあ、これだけ天気が悪ければ、雷が落ちてもおかしくは…

「な!?」
 俺は、見た。
 ほんの一瞬ではあるが、奴の姿が。
 何故だ。
 攻撃を仕掛ける距離でもないのに、
 奴は何で姿を…

 …!!
 まさか、奴は姿を見せたのではなく、
 何らかの理由で見せざるを得なかったのか!?
 だとしたら、どうして。
 待てよ。
 確か、雷が鳴ると同時に、奴の姿が…


(!!!!!!)
 頭の中に、一筋の光が差し込んだ。
 そうか、分かったぞ!
 奴の姿が見えた理由が、
 そして、奴を殺す方法が…!


 俺はそこらじゅうに散乱している兵士達の死骸に目を向けた。
 そして、その中から目当ての物を探す。
 見つけた。
 さっきでぃに対して撃ったのと同じ型のロケット砲。

563ブック:2004/03/13(土) 15:04

 急いで駆け寄り、それを手に取る。
 もちろんこれで虎野郎を直接攻撃する訳じゃない。
 どう使うのかは…
「こうする為だぁ!!」
 俺は近くに駐車してあった車に、
 ロケット砲を発射した。
 命中。
 鼓膜を破る程の爆音と共に、爆風と爆炎が車を粉々にする。
 そして―――…

「見つけたぜ、虎野郎。」
 奴の姿が、くっきりと映し出された。
 その顔に、先程までの余裕は無い。

「ようやく分かったぜ。
 お前は、音の中に隠れてたんだ。
 雨とか風とかの音の中に。
 そしてその弱点は、隠れている音より大きな音がしたら、
 姿が見えてしまう事。
 だから、さっき雷が落ちた時に、一瞬姿が見えた!」
 俺は虎に向かって走った。
 虎が尻尾を巻いて逃げようとする。
 逃がすか。
 お前の命はここで終わりだ!

「そして今、ロケット砲の爆発音でお前の姿を焙り出した!
 姿が見えれば、お前に攻撃できる!!」
 『オウガバトル』発動。
 今だ。
 射程距離…!
「終わりだ!
 『オウガバトル』!!」
 虎を頭から真っ二つにする形で、『空間を分断』。
 奴の体が左右にぱっくりと分かれて地面に落ちた。



「…手こずらせやがって。」
 俺は死んだばかりの死体を一瞥しながら吐き捨てるように言う。

(さて、あのでぃの奴は大丈夫だろうか…)
 俺はでぃが飛んで行った方に向かって歩き出した。



     TO BE CONTINUED…

564:2004/03/14(日) 00:02
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・モナーの結婚

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 炎上する教会。
 ウェディングドレスを着たリナーが、銃を持ってたたずんでいた。

 ――そんな夢を見た。
 たぶん、正夢だよママン…

 結納はパス。
 俺もリナーも両親はいないし、特に拘る必要もないだろう。
 式の準備や衣装の用意なども、ギコと式場に任せておいた。
 引き出物も、ヴァチカンが良質のバヨネットを用意してくれているようだ。
 結婚指輪はない。高いので、また次の機会だ。
 婚姻関係の書類とかも、あっちで準備してくれているらしい。

 …そういう訳で、俺はゴンドラ『愛の1号』の上で深呼吸をした。
 隣には、ウェディングドレスを着たリナー。
 その姿を見たときの感動は、筆舌に尽くし難かったので省略する。

 そう。
 もう式は始まっているのだ。
 覗き穴から、式場に集まった人達の頭が見える。
 今まさに、新郎新婦が式場に入場する… といったところだ。

「しかし、本当に大丈夫なのか…?」
 リナーが呟いた。
 本来、カトリックの式は非常に厳正なものである。
 だが司祭役を務める枢機卿の意向で、式も披露宴も何もかも一緒くたに行う事になってしまった。
 プログラムの順番も、何やらえらい事になっているらしい。
 ギコや『教会』に任せたのは失敗だったのかも…

 とは言え、このサン・ピエトロ大聖堂のデカさと豪華さには驚いた。
 コネを利用した形になった訳だが、普通に式を上げたらいくらぐらいかかるのだろうか。

「それでは、新郎新婦の入場です!!」
 司会のギコが叫んだ。

 ――早くも爆発。
 俺達が乗っているゴンドラのいたるところで爆発が巻き起こった。
 『愛の1号』が地面に降りてから、火薬に火がつくはずだ。
 それが、降りる前から爆発した。
 そのまま落下する『愛の1号』。

「飛び降りるぞ!!」
 リナーは叫ぶ。
「うわぁぁぁぁ!!」
 俺達は、爆発・落下するゴンドラから飛び降りた。

 リナーは一回転して軽く着地し、俺はそのまま床に激突した。
 背後で、落下した『愛の1号』が派手に爆発する。
 リナーのウェディングドレスが、爆風で激しくはためいた。
 まるで、戦隊モノの出現シーンだ。

「二人の門出を象徴するような入場ですね。では、みささん拍手!!」
 司会のギコは言った。
「…火薬、多過ぎたかな」
 ギコがこっそりと呟くのを、俺は聞き逃さない。
 後で覚えてろ。

 激しい拍手に、リナーは軽く手を振って答える。
 俺はヨロヨロと立ち上がった。
 目の前には大きな祭壇がある。
 よく見ると、妙なスィッチが並んでいた。
 祭壇の上には、3mほどの十字架が備え付けられている。
 十字架はなぜか布に覆われていた。
 全体的に怪しい。怪しすぎる…

 そう言えば、妙だ。
 司祭役の枢機卿の姿がどこにも見当たらない。

565:2004/03/14(日) 00:02

「じゃあ、二人はこちらへ…」
 ギコは用意された席を指し示した。
 俺達は新郎新婦席に座る。
 そして、参列者を見回した。
 俺とリナーの共通の知り合いが多いため、新郎側と新婦側に分かれていないようだ。

 萌えない妹、ガナーの姿が目に入る。
 あいつも、いつか結婚する日が来るのだろうか。
 しぃは、しぃタナと一緒にいた。
 ギコが司会をやっていて、一緒にいれないので不満そうだ。
 1さんと簞ちゃんもいる。
 キバヤシをはじめ、代行者達の姿もあった。
 …と言うかお前ら、何しに来た。

 あと、ASAの面々。
 公安五課の局長もいる。
 そして、ぎっちりと並んだ自衛隊の皆さん…
 アメリカやロシアの軍人らしき人々もいる。
 見知らぬ軍人さん、多すぎ…
 ロシア軍人達など、酒が飲めるから来たといった感じだ。
 レモナ、つー、モララーの姿は無い。
 …凄くイヤな予感がする。
 どうか、この輝かしい門出に死人だけは出ませんように…

「では、新郎新婦の紹介をさせて頂きます。まず新郎モナーの紹介を、友人代表の私から…」
 ギコは紙を広げて言った。
「新郎は、6歳以前の記憶がありませんので省略させていただきます。
 …後は、普通に学生です。強いて言えば、何故か人外にだけモテます。
 今現在、その人外の姿が見えません。皆さん、襲撃に備えておいて下さい。
 …以上、新郎の紹介を終わります」
 ぺこりと礼をするギコ。
 紹介する気はまるで無しだ。
 なんか悲しくなってきた。

 ギコは再びマイクを持った。
「では新婦の紹介を、仕事仲間のキバヤシさんからお願いします」

 …お前かッ!!

 キバヤシがマイクを持って立ち上がった。
「では…」

  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./
         ` ー==--‐'´(__,.   ..、  ̄ ̄ ̄      i/‐'/
          i       .:::ト、  ̄ ´            l、_/::|

 アップになった瞬間、スミスがキバヤシの体を押さえつけた。
 そのままキバヤシは、ムスカやきれいなジャイアン達と共に、隅の方へ引き摺られていった。
 柱の陰に隠れる代行者一団。

「うぐゥッ! ぐぼァッ!」
「顔は止めときなよ。ボディーにしときな、ボディーに…」
「ぐふぉァッ!!」
 柱の陰から、妙な声と打撲音が聞こえてきた。

 しばらくして、柱の陰からヨロヨロと出て来るキバヤシ。
 見た感じ、かなり弱っている。
 彼は再びマイクを手にした。

    \__ ̄   //\     ;!
      ,ゞi ̄ ̄l‐! ̄ ̄|- 、!
       i `ー‐"||"---' |b |'
        |    /     | /

「え〜 彼女は非常に仕事熱心で、日々のノルマを達成するのに意欲的です。以上」
 そして、キバヤシは崩れるように椅子に倒れ込んだ。

566:2004/03/14(日) 00:04

「はい、新郎新婦の紹介でした」
 ギコが強引に式を進行させた。
 このくらいのハプニング、いちいち気にしてはいられない。
「次は、神父入場です!」

 聖堂の照明が消える。
 たちまち周囲は真っ暗になった。
 そして、1本の柱にスポットライトが当たる。
 石段をコツコツと歩く足音。
「この結婚式は、『試練』だ…」

 立派な礼服を着た男が、足音を立てながら歩いていた。
 スポットがゆっくりとそれを追っている。
 枢機卿…!!
 なんで新郎新婦よりも登場が派手なんだ…
 枢機卿は、礼服の胸元に手を掛けた。
「新郎新婦に打ち勝てという『試練』と、私は受け取った…」

 枢機卿は、そのまま礼服を脱ぎ捨てる。
 その下には、なんと武装SSの制服を着込んでいた。
「ミミズはバラバラにしてやっても、石の下からミミズのように這い出てくる…」

 一斉に照明がついた。
 ステッキーな軍服を着こなした枢機卿は、そのまま祭壇の前まで歩み寄った。
 そして十字架を仰ぎ見る。
「これより、結婚の儀を始めたい」
 くるりと振り向く枢機卿。
「では、新郎新婦。こちらへ…」

 俺達は、祭壇の前に立った。
 目の前には、場違いな事この上ない制服を着た枢機卿。
「あの… モナは個人の趣味は尊重するモナ。でも今くらいは、神父らしい服を着てほしいモナ…」
 俺はおずおずと言った。
「ふむ、仕方がないな…」
 枢機卿はSS制服の襟に手を掛け、そのまま脱ぎ捨てる。
 その下には、きらびやかな礼服を着込んでいた。

「さて… 本来ならここで聖歌隊が賛美歌を斉唱するのだが、この聖堂に一般人を入れるのは好ましくない。
 よって、割愛させてもらう。なお日光アレルギーな参列者も多いので、ステンドグラス等は塗り潰させてもらった」
 枢機卿は早口に言った。
「では、聖書朗読に移ろう。『We are gathered here for it』… 以上!」
 たちまち聖書を閉じてしまう枢機卿。
 こいつ、盛大にハショりやがった…

 そして、枢機卿は俺達の顔を見比べるような視線を送った。
「では、新郎新婦。この女または男を娶り、神の定めに従いて、病める時も健やかなる時も
 死が二人を別つまで、一生涯愛し抜くと誓いますか?」
 こいつ、新郎用と新婦用の宣誓を混ぜやがった…
 俺とリナーは、仕方なく同時に「はい」と言った。

「では、誓いのキスを…」
 枢機卿は当然のように告げる。
 な、なんだってー!!

 動揺する俺をよそに、リナーは自分でベールを上げた。
 それ、新郎である俺の役目じゃなかったか…?

 静まり返る聖堂。
 俺は、ゆっくりとリナーの肩に手を置いた。

「…!!」
 突然、枢機卿が俺の肩を掴んだ。
 そのまま、床に引き倒す。
 俺はみっともなく床に転がった。
 せせせ、せっかくの熱いヴェーゼがッ!!
 な、何をするだァーッ!!

 その俺の眼前に、弧を描いた形状の刃物が落ちてきた。
 それは、地面に真っ直ぐに突き立つ。
 あの位置にいれば、俺は…!

「やはり来たか!!」
 枢機卿は真上を見上げた。
 そこには、天井に張り付くつーの姿があった。

「テメェ! ナンデ ジャマ シヤガル!」
 つーは叫ぶ。
「この式を受け持った以上、いかなる妨害も認めんよ…!」
 枢機卿は素早く祭壇に駆け寄ると、飾ってあった3m大の十字架を持ち上げた。
 そして、布をビリビリと剥がした。
 十字架の先端が開き、銃口が覗く。
 中心には引き金。
 十字架自体が、一つの大きな銃だった。

 …パニッシャー!?

 そのまま、十字架をつーに向ける枢機卿。
 銃口から発射された弾丸が、つーの身体に浴びせられた。

「チッ…」
 被弾したつーは、床に着地した。
「ヤリヤガッタナ…!!」

 その瞬間、枢機卿は祭壇についていたスィッチを押した。
 つーの足元の床が観音開きになる。
 チャラッチャラッチャーン! ミョォォォォォ〜ンという効果音と共に、つーは床の穴に消えていった。

「さて、式を再開するか…」
 十字架を元の位置に戻して呟く枢機卿。

567:2004/03/14(日) 00:05

「…次は、仲人による挨拶です」
 ギコはマイクを持って言った。
 この立ち直りの早さは流石だ。

 おもむろに『蒐集者』が立ち上がった。
「ふむ… 私が、仲人の『蒐集者』です」
 そう挨拶する『蒐集者』。
 大体、なんで仲人がこいつなんだ…

「まあ、二人の仲を取り持ったのは私ですので。とにかく、二人には幸せな家庭を築いてもらいたいものです。
 私自身、一言多かったせいで斬り刻まれる機会が多いです。
 新郎のモナー君は私ほどの再生力はありませんので、くれぐれも言動には気をつけてください。
 さて、挨拶はこの辺にしておきましょうか…」
 『蒐集者』は言うだけ言い終わって、とっとと座ってしまった。

「次は、主賓挨拶ですゴルァ!」
 ギコは円滑に式を進行させていく。
 俺は、ギコに小さな声で話しかけた。
「やけに、みんな大人しいモナね… もっと派手に乱闘とかやるものかと思ってたモナ…」
「ほら、本編でまだスタンドを明かしてない奴が多いから…」
 ギコは露骨に目を逸らした。
 なるほど、そういう事情か…
「早過ぎたんだよ、この企画…」
 ギコは目を逸らしたまま呟いた。
「2月14日時点で、話がもう少し進むと思ってたんだゴルァ…」
「つまり、今頃は代行者達のスタンドなどはとっくに明かされている予定だったと…」
 俺の言葉に、無言で頷くギコ。

 その間に、枢機卿の挨拶は終わっていたようだ。
 テーマが『ドイツ軍の興亡と盛衰について』だし、どうせロクでもない話だろう。

「次は私ですね…」
 『蒐集者』が立ち上がった。
「私の高尚な話を皆さんが理解できるとは思えません。そこで、一曲奏でるとしましょうか…」
 そう言って、『蒐集者』はオルガンに向かって座った。
 おもむろに『トリオ・ソナタ第1番』を奏でる『蒐集者』。
 その素晴らしい響き、感動的なまでの旋律。
 心に染み入るとはこの事だ。
 『蒐集者』の素晴らしい演奏に、その場の誰しもが酔いしれた。

「ざっとこんなものですか…」
 演奏を終える『蒐集者』。
 たちまち、拍手と歓声が巻き起こった。
 そう言えば昨日の新聞に、世界的なオルガン奏者が失踪したという記事が載ってたな…

 次に、フサギコが立ち上がった。
「祝辞、省略。以上」
 一瞬で終わるフサギコのスピーチ。
 まさに男の鑑だ。

 次に立ち上がる黒スーツの男。
 あれ、誰だ…?
「次は、モナソン=モナップス議員による『上院議員は砕けない』です」
 ギコは進行表に目を通しながら言った。

 上院議員は咳払いをした後、紙を広げる。
「…諸君、私は上院議員だ。諸君、私は上院議員だ。諸君、私は大上院議員だ。
 上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。
 上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。上院議員だ。
 高校で 大学で レスリング部で ハワイで 千坪の別荘で
 美人モデルで 税金で エジプトで 車内で 広い歩道で
 この地上で行われる、ありとあらゆる上院議員的行動が大好きだ。
 戦列をならべた企業戦士の一斉帰宅を、アクセルと共に吹き飛ばすのが好きだ。
 空中高く放り上げられたウォーリーが、やる気のない表情を浮かべている時など心がおどる。
 花京院に「なにか」扱いされるのが好きだ。
 トラックにカミカゼアタックをかまし、苦悶の声を上げるジョゼフにかかと落としを食らわせた時など
 胸がすくような気持ちだった。
 エメラルドスプラッシュで車を蹂躙されるのが好きだ。
 DIO様が何気に私の身を守ってくれた様など、感動すら覚える。
 その照れ隠しに、「ちゃんと前を見て運転しろ」などと仰せられるDIO様はもうたまらない。
 泣き叫ぶ私を安心させるかのように、「フン」と余裕の笑みを浮かべるのも最高だ。
 トラックに投げつけられた後、無言で私の亡骸を見つめるDIO様の様子など絶頂すら覚える。
 最後まで帽子を脱がないのが好きだ。
 その栄光が承太郎の専売特許のように語られる様は、とてもとても悲しいものだ。
 リトル・フィートの攻撃を受けるのが好きだ。
 最初に縮んだのは私なのに、その株すら康一君や間田、小林玉美に奪われるのは屈辱の極みだ。
 諸君、私は上院議員を、地獄の様な上院議員を望んでいる。
 諸君、私に付き従うカージャッカー諸君。君達は一体、何を望んでいる?
 更なる上院議員を望むか? 情け容赦のない、糞の様な上院議員を望むか?
 税金を他人の50倍払い、美人モデルを妻にする、嵐の様な上院議員を望むか?」

568:2004/03/14(日) 00:06

 そこで群集を眺める上院議員。
「USA!! USA!! USA!!」
 米軍の方達がノリノリで歓声を上げた。

「…よろしい、ならば上院議員だ。
 私はいずれ大統領にもなれる。高校・大学の成績も一番だ。
 レスリング部のキャプテンをつとめ、社会に出ても尊敬され政治家になった。ただの上院議員ではもはや足りない!!
 上院議員を!! 一心不乱の上院議員を!!」

 拍手が巻き起こる。
 上院議員は静かに椅子に座った。

「さて、次は乾杯です。かんぱーいッ!!」
 高速で式を進めるギコ。

「次はケーキカットだッ! ケーキ、カモーン!」
 ガラガラと運ばれてくるケーキ。
 リナーはウェディングドレスから日本刀を取り出すと、正眼に構えた。

 その瞬間、聖堂のドアが破れる。
 全員の視線が集中した。
 そこには、バイクにまたがるモララーの姿。
 そう。モララーがバイクで突っ込んできたのだ。
 …こいつ、映画の見過ぎだ。

「モナー君! さあ、後ろに乗って!!」
 モララーがエンジンを吹かせた。
 このまま突っ込んでくるつもりだ。
「ケーキの前に両断されたいとは…」
 日本刀を構えるリナー。

 いきなり破裂音がした。
 どうやら、バイクの前輪がパンクしたようだ。
 モララーはバイクから投げ出され、地面を滑った。

「こんな事もあろうかと、入り口周辺にマキビシを撒いておいたのだよ」
 枢機卿は腕を組んで言った。
「この…」
 モララーが立ち上がった瞬間、足元の床がパカッと開いた。

「その技は、一度見たんだからなッ!!」
 高く跳んでかわすモララー。
 そのまま、枢機卿に向かって駆けた。

「ふむ…」
 枢機卿は祭壇の裏に手を伸ばした。
 そして、長い棒のようなものを取り出す。
 1.5m程の棒の先に、人の頭態度の大きさの弾頭が付いていた。
「パンツァーファウスト…!!」
 それを見て、ギコが大声を上げる。

「ナチスドイツが生んだ、世界初の対戦車砲だ。
 便宜的にロケット砲に分類される場合が多いが、弾頭自体に推進能力はない。
 正確に言えば、ロケット砲ではなく無反動砲の一種だな。
 装甲貫通能力は140mm程度しかないが、当時の戦車なら問題なく葬れた。
 戦車戦の概念を変えた兵器と言ってもいいだろう」
 聞いてもいないのに解説してくれるリナー。

 枢機卿はパンツァーファウストを手許で軽く回転させると、柄のかなり端の方を左手で掴んだ。
 そのまま左肘を曲げ、弾頭部分をモララーに真っ直ぐに向けつつ体の後ろに引く。
 右手は、大きく前面に突き出していた。
 まるで、パンツァーファウストを矢に見立て、弓矢を射るような構えだ。
 体は大きく左側に捻り、弾頭下部に真っ直ぐに伸ばした右掌を添えている。
 その視線は、真っ直ぐモララーに向いていた。
 もしかして、あの構えは…!!

 枢機卿は跳ねた。
 まるで、日本刀による強烈な突き。
 パンツァーファウストによる渾身の力を込めた一撃が、モララーの腹にめり込む。
 そのまま弾頭が発射され、モララーは後ろに吹っ飛んだ。
 ドアを破り、聖堂の外に投げ出されるモララーの体。
 その直後に、外から爆音が響いた。

「炸薬量を通常の2倍にしてある。神聖なる儀式を冒涜した愚、しかと噛み締めろ」
 残った柄の部分を投げ捨てる枢機卿。
 いつからこの結婚式は悪・即・斬になったんだ。
 …あいつ体は生身だし、今ので死んだじゃないか?

「咄嗟に『対物エントロピー減少』を使って中和したようだ。それでも、しばらくは起き上がれないがな。
 スタンドの能力を10%も使いこなせていないが、危険に関する嗅覚は一流と言ったところか…」
 俺の心を読んだように、枢機卿は呟いた。

569:2004/03/14(日) 00:07

「さて、次は会食だゴルァ! 食えゴルァ!」
 なかばヤケクソ気味に叫ぶギコ。
 ケーキはまだ切っていない。
「あれ、俺達のお色直しは…?」
 俺は困惑して言った。
「…省略!」
 ギコは俺に目線も合わさない。

 場は、ようやく安穏とした雰囲気に包まれる。
 つー、モララーは撃退済みだ。
 あとはレモナだけ…
 このまま倒せずに、初夜を邪魔されるのだけは勘弁だ。
 そうなったら、もう3Pでいいや…

 聖堂では、余興が展開されている。
 国家を歌う自衛隊。
 盛大に祝砲を鳴らしまくっている。
 あれも税金だろうか。

 米軍とロシア軍人達がケンカを始めた。
 全く、どうしょうもないメリケンとイワンどもだ。
 吸血鬼達が、次々に代行者に狩られていく。

「テメェラ! ちょっとは大人しくしやがれ!!」
 突然、怒鳴り声が響いた。
 それを発したのは、机の上に立っている人物。
 あれは…!!

「おにぎりッ!!」
 俺は怒鳴った。
 死んだはずの、おにぎりがなぜ…!

「地獄から蘇ったぜ…」
 不敵な笑みを浮かべるおにぎり。
 それに、あのカッコはなんだ?
 顔面には妙な機械。
 腹には機関銃。
 そして、卍マークの入った腕章をつけている。

「それは私が説明しましょう…」
 なぜか白衣を着ているしぃ助教授が立ち上がった。
「死んだはずの彼を、ナチスドイツの技術によって復活させてみたんです。
 伊達に助教授を名乗っている訳ではありませんよ…」
 腕を組んで胸を張るしぃ助教授。

「ASAの技術じゃなく、ナチスドイツの技術…?」
 俺は訪ねる。
「…ええ、私の趣味です」
 しぃ助教授は頷いた。
「ゆくゆくはイタリアVerや日本Ver、ソ連Verも作る予定ですよ」
 いくらナチスの科学力は世界一ィィィィィィとは言え、50年以上前の技術じゃないか…
 本当におにぎりはちゃんと稼動してるのか?

 おにぎりは不適に笑った。
「そう、俺は死の淵を彷徨っていた… そんな俺に、一通のハガキが届いたんだ。
 『あーん オニ様が死んだー』で始まる、女子中高生からと思われるハガキがな…
 それを読んで俺は思った。みんなの元に戻って、何とかして活躍しようってな…!」

「女史、1ついいか…?」
 不意に、枢機卿はしぃ助教授に訪ねた。
「…何です?」
 しぃ助教授は枢機卿に視線を移す。
「ハーケンクロイツの向きが逆だ。卍は寺のマークだ」
 枢機卿は言った。
「…!!」
 黙り込むしぃ助教授。
 おにぎりも、驚愕の表情で固まってしまった。

「さァて! 祝電披露だ〜ッ!!」
 荒れそうな場を有耶無耶にするギコ。
 さすが、巻き込まれ要員ナンバーワンだ。タイミングを心得ている。
「え〜と… オヤジと愉快な仲間達によって首相官邸に軟禁されている首相から祝電が来ています。
 『いなくなってしまった人達のこと、時々でいいから思い出してください…』との事ですゴルァ!」
 ほろりと涙を流す参列者達。

570:2004/03/14(日) 00:08

 …さて、式も終盤だ。
 レモナはどこだ? いないはずがない。
 どこだ? 奴は、どこへ潜んでいる…?

「では、ブーケ投げです!! 新婦投げろゴルァ!!」
 ギコは飛び上がって言った。

 リナーは、参列者の方を見据えてニヤリと笑う。
「で、受け取る気はあるか…?」
 その眼は、参列者の中の一人を明確に捉えていた。

「私に情けをかけようと…?」
 しぃ助教授が立ち上がる。
 冷静さを装ってはいるが、その顔は怒りに震えていた。

「ほう? 迷信にすがるほど必死だと思ったがな…」
 リナーはつかつかと歩み寄ると、軽くブーケを投げた。
 それを空中で華麗にキャッチするクックル。
 しぃ助教授は、ブーケに目もくれない。

「本当、いっぺんシメないと分からないみたいですね…」
 しぃ助教授はハンマーを取り出した。
 って言うか、持って来るな。
 俺の結婚式を何だと思ってるんだ?

「もう少し、おしとやかにするべきだな。
 ただでさえ天文学的に少ない嫁の貰い手が、さらに少なくなる…」
 ウェディングドレスの中から軽機関銃を取り出すリナー。
 お前も、結婚式を何だと思ってるんだ!?

「オヤジ! 周辺の住民を避難させろ!!」
 ギコが叫ぶ。
 フサギコは立ち上がると、自衛隊の皆さんに指示を出した。
 瞬く間に駆け出していく自衛隊。
 さすが、避難誘導のエキスパート。
 続いて米軍が出て行く。
 ロシアの軍人達は全員酔っ払っていて使い物にならない。

「行くぞ!!」
 リナーが軽機関銃をかまえた瞬間、異様な気配がした。
 ロシアの軍人の1人が、素早くリナーに飛び掛る。

「!!」
 リナーは標的を変更し、ロシア兵に銃口を向けた。
 ヘルメットが吹き飛び、長い髪が露わになる。
「やはり、貴様か…!」
 リナーは、ロシア兵の格好をして紛れ込んでいたレモナに言った。
 ロシア兵の皆さん… なぜ今まで気付かない。

「…という訳で、この結婚を認める訳にはいかないから!」
 レモナは凄んで言った。

 睨み合うレモナ&しぃ助教授とリナー。
 流石にリナーと言えど、実力者2人が相手では不利だ。
 飛び込んで加勢しようとした瞬間、真上で閃光が瞬いた。

 何かが、真上から矢のように降り注いでいる。
 リナーの眼前に、黒い物体が次々に突き刺さった。
 ズダダダダという音が聖堂に響く。

「これは…」
 俺は、眼前の光景に思わず呟いた。
 しぃ助教授達とリナーの間の床に、50を越える数の銃が突き刺さっている。
 MP40、トミーガン、MP7、ウージー、ペーペーシャ、スコーピオン、シュマイザー、M14、M16
 SG550、AUG、89式小銃、FAL、G36、ガリル、AK47、AK74、M1、ドラグノフ、
 M1891、PSG1、M60、ミニミ、ヒトラーバズソゥ、トレンチガン、SPAS12、M3、M1100…
 果てはM1917、スティンガー、RPG、バレットライフルまで。
 そして、その真ん中に立つ枢機卿の姿。
 彼は右手を真横に広げて、レモナとしぃ助教授を見据えていた。

571:2004/03/14(日) 00:08

「この聖堂を、そして厳正なる式典を何と心得ている…?」
 枢機卿は、全く説得力がない台詞を口にした。
 そして、床に刺さっている銃器の中からシュマイザーとSG550を引き抜く。
「奴等は私が食い止める。君達は、胸を張ってこの聖堂を出たまえ」

「え、でも…?」
 俺は困惑した。
 枢機卿はシュマイザーを回転させる。
「この式を任された以上、これも私の仕事だ。
 …行きたまえ。こいつらは一歩も外へは出さん!」

「…すまん! おもしろ神父!!」
 俺はリナーの手を引いて走り出す。
「どこへ行く気ですか!!」
 しぃ助教授が、リナー目掛けてハンマーを振りかざそうとする。
 そのしぃ助教授の顔面に向けて、銃弾が撃ち込まれた。
 弾丸は『サウンド・オブ・サイレンス』によって逸らされる。
「どこを見ている? お前の相手は私だと言ったはずだ…」
 枢機卿はしぃ助教授を見据えて言った。

「…邪魔をするようなら、容赦はしませんよ?」
 ハンマーを構え、枢機卿を睨みつけるしぃ助教授。
「だからどうした、ASA。つまらない事に拘っていると、婚期を逃すぞ?」
 枢機卿は露骨に挑発した。

「もう、殺します…!」
 しぃ助教授のこめかみにブチギレマークが浮かぶ。

「『蒐集者』、援護を頼もうか…」
 枢機卿は言った。
「仕方ないですねぇ。貴方の頼みとあっては…」
 楽しそうに様子を眺めていた『蒐集者』が立ち上がる。

「クックル! ありす! 丸耳! ねここ! 行きますよ!!」
 しぃ助教授は叫んだ。
 それに呼応して、ASA勢が立ち上がる。

「『解読者』、『破壊者』、『調停者』、『支配者』、『暗殺者』、『狩猟者』、『守護者』…!
 神罰の代行者達よ。神の御名のもと、眼前の彼奴等を殲滅する事を許可する!」
 枢機卿は言いながら礼服を脱ぎ捨てた。
 その下はやっぱりSSの制服だ。

 …ヤバい! 奴等本気だ!
 俺はリナーの手を引いて、聖堂から飛び出した。


 俺達は外へ出た。
 ほぼ同時に、炎上するサン・ピエトロ大聖堂。
 中からは銃声や打撃音が響いてくる。
 俺とリナーは、聖堂の前で立ち尽くしていた。
 やっぱりこうなるのか…
 でも、今回は俺達に罪はないよな…?

「おう、円滑に式も終了したな」
 先に避難していたギコが声を掛けてきた。
 炎上する聖堂からは頑なに目を逸らしている。

「後は、新婚旅行モナね…」
 俺は胸をトキめかせて言った。
 そう。今夜はあのドキドキイベントが…
 初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜初夜…

「ああ、俺達もついて行くから」
 さらりと言い放つギコ。
 ハァ?

「ほら… お前、リナーと二人でいたら手出すだろ?」
 ギコは腕を組んで言った。
「当たり前モナ!! …って言うか、俺の初夜はどうなるんだ!!」
 俺は怒鳴りつける。
「ほら、色々マズイじゃん。色々、色々、色々…」
 ギコは目を伏せて言った。

 俺は肩を落とした。
 しょせんは番外、思い切った事はできないという事か…!!
「まあ、そういう事だ…」
 ギコは俺の肩に手を置いた。

「まあ、私はこの服が着れただけで満足だしな…」
 我関せずと言った感じで、ウェディングドレスの裾をヒラヒラさせているリナー。

「…という訳で、俺達も新婚旅行に同行するからなゴルァ!」
 ギコは言った。

 ――畜生、いつか殺してやる。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・モナーの結婚
        ―THE END−

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



 ――その日の夜、悲劇は起きた。
 新婚旅行先のペンションに響き渡る「ワショ―――ィ!!」という悲鳴。
 しかし、彼の部屋は中から施錠されていた。
「これは密室殺人なんだよ!!」
 突如乱入してきた探偵・キバヤシが叫ぶ。
 都合のいい雪によって、ペンションは外界から隔離された。
 次々に殺人鬼の歯牙にかかる仲間達。
 そして、「婚姻に関する書類がみんな燃えた」という枢機卿からの最悪の報が…!
 婚約者を守るため、僕は推理を開始した!

 『モナいたちの夜』、近日公開予定全く無し。

572ブック:2004/03/14(日) 00:24
 本編では人死にとか人死にとか人死にとかが起こってますが、
 せめて番外編はまったりと。
 あとこの話は、前回の「ふさしぃのバレンタイン」と同じく、
 SSS特務A班がでぃと出会う一年くらい前のお話です。


     救い無き世界
     時事ネタ番外・丸耳ギコのホワイトデー


「ふわあああああああぁぁ…」
 一時間目の授業が終わった後での休み時間、
 俺は大口を開けて欠伸をした。
「よお、どうした?丸耳ギコ。
 眠そうだな。」
 同じクラスの友達が、俺に話しかけてくる。

「いや、ちょっと寝不足でな…」
 もう一度大きな欠伸。
 まだあと五時間も授業があるというのに、この調子で大丈夫だろうか。

「あ、分かったぜ。
 彼女が昨晩寝かせてくれなかったんだろ〜?」
 友達が冷やかす。
「そうですが、それが何か?」
 俺は躊躇う事なくそう答えた。
 友達が、思いがけぬ答えに石化する。

 そう、確かに俺は昨日ふさしぃに眠らせて貰えなかった。
 何があったかというと…



     ・     ・     ・



 〜以下、丸耳ギコの回想〜

「お、お邪魔します…」
 俺は初めてふさしぃの家に足を踏み入れようとしていた。
 訳も無く、心臓が破裂しそうな程に早鐘を打っている。
「さ、どうぞ。
 遠慮無く上がって。」
 ふさしぃが俺を招き入れる。
 俺は靴を脱ぎ、部屋に上がった。

「うわぁ…」
 部屋に上がるなり、俺は呆然と溜め息を吐いた。
 部屋の至る所に、これでもかと言う位のファンシーなヌイグルミが置かれている。
 はっきり言って、普段のふさしぃのイメージとは全く合っていない。
 だが、それを指摘したとたん、
 俺の人生がそこで終わってしまいそうなので、言うのは止めておく。

「すぐに晩御飯作るから、もう少し待っててね。」
 ふさしぃがエプロンをつけながら言った。
 …何か、良いな。

「…ああ、俺も手伝うよ」
 んな事考えている場合ではない。
 俺は、邪念を払うようにその場を動いた。



「いや〜、丸耳ギコ君って、本当にお料理上手なのね。」
 ふさしぃがどんどんおかずを口に運んでいく。
 結局、少し手伝うだけのつもりが、
 料理の殆どを俺が作る羽目になった。

「別に。
 お袋が死んでから、親父と当番で料理作ってたからこれ位は…」
 俺は、照れ隠しに頭を掻きながらそう言った。
「!!
 ごめんなさい、私…」
 ふさしぃが悲しそうな顔をする。
 …しまった。
 これは言うべきではなかった。

「……」
 気まずい沈黙が、二人の間に流れる。
 まずい。
 何とかして、この現状を打破しないと…

「!!!」
 と、俺の目にうってつけの物が飛び込んできた。
 よし、あれだ!

「な、なあふさしぃ。
 あそこのゲーム、やっていいか?」
 俺は床のゲームを指差しながら、ふさしぃに尋ねた。
「いいわよ。
 それじゃ、二人で対戦しましょうか?」
 ふさしぃが了解する。

 …これがまさか地獄の幕開けになろうとは、
 今の俺に知る由は無かった……

573ブック:2004/03/14(日) 00:25



 ふさしぃがゲームを起動させた。
 協議の末、俺達は『え〜え〜おんふぁいと』で対戦する事にした。
 殴って避けて、外にぶっ飛ばすというシンプルな格闘ゲームだ。
 しばしのローディングの後、
 テレビにタイトル画面が表示される。

「いっとくけど、手加減はしないわよ。」
 ふさしぃが俺の顔を見た。
「それはこっちの台詞だ。」
 負けずに言い返す。
 自慢じゃないが、俺はこのゲームをかなりやり込んでいる。
 そして、精神的動揺による操作ミスは、
 この丸耳ギコには無いと思っていただこう!

 お互いに操作キャラを指定し、
 かくして長い戦いが幕を開けようとしていた…


 〜一時間後。〜
「よっしゃ、また勝った!」
 俺はガッツポーズをした。
「ちょっと、何で一回も勝てないのよ!」
 ふさしぃが激昂する。
「どうする?もう止めにするか?」
 俺は挑発するようにふさしぃに尋ねた。
「ふざけないで!
 勝つまで絶対に止めないわよ!!」
 ふさしぃが今度は別のキャラに変えて挑んでくる。
 甘い。
 操作キャラを変えた所で無駄無駄無駄ァ!


 〜三時間後〜
「…懲りないやっちゃなぁ。
 まだやるの?」
 俺は辟易しながら言った。
 手にはコントロール蛸ができ始めている。
「当たり前よ!
 勝つまでやる、っていったでしょう!?」
 ふさしぃはますますやる気になっている。
 いい加減、手を抜いて負けようかな…


 〜五時間後〜
「あの、ふさしぃ…
 俺、そろそろ帰らなきゃ……」
 時計は既に深夜一時を回っている。
 いくら父子家庭で放任主義とはいえ、流石にここまで遅くなるとヤバい。
「駄目よ!
 勝つまで止めない、って言ったでしょう!?」
 ふさしぃが俺を引き止めた。

「いや、俺さっき負けたじゃん…」
 俺は力無くそう答える。
「それは手を抜いたからでしょう?
 そんなのに勝った所で、勝ちには入らないわ。」
 ふさしぃの手元で、「六個目」のコントローラーが音を立てて壊れる。
 …駄目だ。
 やるしかない。
 断れば、殺される。


 〜八時間後〜
「…は、わははははははははははははははははははは!!!」
 俺は意味も無く大声で笑った。
 何度目だ!?
 これで対戦回数は何度目だ!?
 百回目からは、もう数えられない。

「…ふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!」
 ふさしぃも狂ったように笑い出す。
 もういい。
 こうなりゃヤケクソだ。
 死ぬまでゲームを続けてやる…!


 〜十二時間後〜
 空には太陽が昇り始め、
 小鳥のさえずりが朝の訪れを告げていた。

「……」
 俺達は、放心状態でテレビ画面に向かっていた。
 と、あまりの疲労に手元が狂い、ついに俺はふさしぃに敗北した。

「……」
 ふさしぃは何も言わず、ただテレビ画面を見つめている。
 もはや、喜ぶ元気も残っていないらしい。

「…俺、学校行くから……」
 俺はふらふらと立ち上がり、そのままふさしぃの家を出る。
 朝日が、いやに眩しかった。

574ブック:2004/03/14(日) 00:25



     ・    ・    ・



 …以上が、事の顛末である。
 嘘は言っていない。
 確かに俺はふさしぃに眠らせて貰えなかった。
 しかし…
 これって恋人同士の付き合いとしてどうなのよ?

 隣では、友達がまだ石化している。
 面倒くさいので、
 こいつには詳しくは説明しない事にした。



     ・     ・     ・



「お、終わった…」
 ふさしぃが机の上に倒れ込んだ。
 そういえば、朝から何だかふさしぃは元気が無い。

「ふさしぃ、大丈夫かょぅ。」
 私はふさしぃにそう聞いた。
「大丈夫、ちょっと寝不足だっただけ…」
 ふさしぃが弱弱しくそう答える。

「何だ、ふさしぃ。
 もしかしてこれか?」
 ギコえもんが、右手の親指を人差し指と中指の間に入れて、
 ふさしぃに見せた。

「ぎゃわーーーーー!!!」
 それと同時に、ふさしぃに人中に一本拳を打ち込まれてギコえもんが悲鳴を上げる。
 ふさしぃ、それは下手したらリアルで死ぬぞ。

「失礼ね!!
 丸耳ギコ君と明け方までずっとゲームしてただけよ!!」
 そう叫んだ後、自分が何を言ったかに気づいたのか、
 ふさしぃの顔が見る見るうちに赤くなった。

「…それはどういう事か、詳しく聞きたいですねぇ。」
 タカラギコがにやにや笑う。
「い、いや、私は別に、本当に何もしてな…」
 ふさしぃがシドロモドロになる。

「えーーー!
 ふさしぃエッチだモナー!
 キャーーーーーーーーーーーー!!!」
 小耳モナーが、恥ずかしがって両手で顔を覆う。
「だから違うって言ってるでしょ!!」
 ふさしぃが全力で否定ながら暴れた。
 部屋の中が、瞬く間に目茶苦茶になっていく。

(…で、この部屋を誰が掃除するのだ?)
 私は仕事がさらに増えた事に、頭を痛めた。



 私達は特務A班の部屋を全員で掃除していた。
 というか、何で私まで掃除を手伝わされているのだ?
 こうなった原因は、ふさしぃとギコえもんと小耳モナーにあると思うのだが…

「丸耳ギコ君と言えば、もうすぐですね。」
 タカラギコが、不意にふさしぃに話題を振った。
「え?」
 ふさしぃが、不思議そうに聞き返す。
「やだなあ、ホワイトデーですよ。」
 タカラギコが意外そうに言う。
 そうか、あれからもう一ヶ月か。
 早いものだ。

「別に…これといった事なんて……
 彼、学生だから、あんまりそういう事に負担かけさせたくないし…」
 ふさしぃがどぎまぎしながら喋った。

「『ふさしぃ、俺がプレゼントだ』なんつったりして…がばぁ!!!」
 ギコえもんがふさしぃの踵落としで床に這いつくばる。
 だから、頼むから仕事を増やすな。
 もう九時を過ぎてるのだぞ。

「…あなた達、余計な事をするんじゃないわよ。」
 ふさしぃが私達を…
 主にギコえもんを睨みつけた。
「おいおい、何もしやしねぇって。」
 ギコえもんが笑いながら答える。

 …嘘だ。
 絶対に何かする。
 あの目は、そういう目だ。
 どうやら、今のうちに香典代の出費を覚悟しておいた方がいいかもしれない。

 私はギコえもんの命よりも、財布の中身を心配するのだった。

575ブック:2004/03/14(日) 00:26



     ・     ・    ・



 俺は自分のベッドに寝転がりながら思案に耽っていた。
 ふさしぃにホワイトデーに何をお返しするか。
 これが今回の脳内会議の議題である。

 まず、案その一。
 『オーソドックスに、キャンデーやマシュマロ等のお菓子類。』
 …いまいち決め手に欠けるな。
 失敗する事はまず無いだろうが、余りにありきたり過ぎる。
 これで二人の関係が急接近するとは考えられないだろう。
 取り敢えず、この案は保留と…

 案その二。
 『ここは一つ、ブランド物で行こう!』
 …俺あんまりブランド物に詳しくないや。
 ふさしぃも、そういうのあんまり喜ばなそうだし。
 却下。

 案その三。
 『給料の三ヶ月分、ダイヤモンドは永遠の輝き。これ、最強。』
 う〜ん。良いんだけど、指輪のサイズ聞いた時点で、
 プレゼントがばれる可能性が高いな。
 却下。

 案その四。
 『直球勝負!自分自身がプレゼントだ!!』
 …俺はヒモかっつうの。
 却下。

 案その五。
 『シチュエーションで攻めろ!大人のムードに相手もメロメロ。』
 とある三ツ星ホテルのレストラン。
 俺とふさしぃはワイングラスを合わせて乾杯する。
 窓の外には一面の夜景。
 薄暗い店内が、雰囲気を静かに盛り上げる。
 そして料理を食べ終わったころ、
 そっとテーブルに鍵を置いてこう囁く。
「屋上のスイートに、部屋をとってあるんだ…」
 そして二人は、部屋の中自然と体を重ね…

(!!!)
 いいな〜、おい!
 よっしゃ、この作戦で行こう!!
 それにはまず先立つものを…

「どれ位あったかな…」
 貯金箱の中をひっくり返して、有り金を確認する。
 千…二千…三千…
 …三千五百六十七円。

 いや、本当はもう少しあるかもしれない。
 もう一度…
 …やっぱり、何回数えても三千五百六十七円。
 …足りるのか?
 これで。

 いやいやいや、諦めるにはまだ早い。
 何事も、ものは相談だ。

 タウンページで、適当なホテルを探して、そこに電話をかける。
「はい、こちら『ホテルHAMON』ですが。」
 若い男性の声が、受話器から聞こえてきた。
「あ、すいません。
 そこのホテルの部屋とレストランに、三月十四日に予約を入れたいんですが。
 予算は三千五百円以内で。」
 俺は藁にも縋る思いでそう言ってみた。
「……ガチャッ。ツー、ツー、ツー。」
 即座に、電話を切られる。
 …やはり、駄目だったか。

 …しかしどうする。
 持ち弾はたった三千五百六十七円。
 これでは、案その五はおろか、その二その三も不可能だ。
 いっそ玉砕覚悟でその四を試してみるか!?
 いや、それだと失敗した時に目も当てられない。
 つーか、俺がふさしぃの立場だったら、確実に引く。

「…やはり、案その一しかないか……」
 俺はがっくりと肩を落とした。

576ブック:2004/03/14(日) 00:26



     ・     ・     ・



 丸耳ギコが近くのデパートの中に入っていく。
 恐らく、明日に迫ったホワイトデーのプレゼントを買う為だろう。
 見つからないように、こっそりと後をつける。

「ギコえもん…やっぱりやめたほうが……」
 小耳モナーが俺の袖を引っ張る。
「阿呆か!ここまで来て、今更後に引けるかよ!」
 俺は小耳モナーの手を振り払った。
 全く、根性の無い野郎だ。
 こんな絶好の機会、逃せるか。

 見てろよふさしぃ。
 バレンタインでは不覚を取ったが、
 このホワイトデーではきっちりと日頃の恨みを晴らさせて貰うぜ…!

「くくく、こいつを使えば…」
 俺は用意してきた箱を取り出した。
「何モナ?それは。」
 小耳モナーが尋ねてきた。
「ダミープレゼントボックス〜〜!!」
 今日も大山のぶ代の声真似が冴える。
 いつになく絶好調だ。
「これは前回のバレンタインデーの時に使えなかったものの再利用!
 し・か・も、今回は前回の中身に加え、
 さらに空気を抜いた『ANTARCTIC No・2』。
 そして伝説のオーパーツ『YES/NO枕』まで追加しちゃいました〜!
 これを丸耳ギコに渡して、ふさしぃにプレゼントするように言えば、
 当日箱を開けてみて吃驚、せっかくの雰囲気ぶち壊し、ってもんよ。」
 完璧だ。
 完璧過ぎる。
 我ながら自分の頭脳に惚れ惚れするぜ。

 …待てよ。
 確かこの前もそんな事考えていて…

「確かに完璧な作戦ね。唯一不可能という点を除いては。」
 そうそう、こんな風に後ろからふさしぃに声をかけられて…
 …っておい、まさか!

 俺は恐る恐る振り向いた。
「ごきげんいかが?青狸。」
 待て。
 ふさしぃ。
 話せば分かる。
 やめろ。
 誰か助けてくれ。
 ここに人殺しが…

 そして俺はトイレの個室に連れ込まれ、
 肉体を完全に破壊された上で、
 便器を嫌というほど舌で舐めさせられるのであった…



     ・     ・     ・



「それじゃ、お先に。」
 ふさしぃが席を立ち、部屋から出て行った。

「…さて、と。」
 タカラギコが懐に拳銃を忍ばせた。
 小耳モナーとギコえもんも、服の下に防弾チョッキを着込む。
 ついに来た。
 三月十四日、ホワイトデー。
 今回の作戦内容は、ふさしぃと丸耳ギコ君とのデートの追跡。
 作戦の失敗は、即ち、死。

 我々は足早に、待ち合わせの公園に先回りするのであった。

577ブック:2004/03/14(日) 00:27



     ・     ・     ・



 俺はバレンタインの時の待ち合わせ場所だった公園で、
 ふさしぃを待っていた。
 待ち合わせの五時まで、あと十分。
 まさか、今回も大遅刻されるって事はないだろう。

「…?」
 不意に視線を感じ、辺りを見回す。
 おかしいな。
 どうもさっきから、誰かに見られているような…

「お待たせ。」
 ふさしぃが向こうからやってきた。
 手を挙げて、それを迎える。

「ん。」
 俺は昨日デパートで買ったホワイトチョコを、
 ふさしぃに突き出した。
 いろいろ考えたが、やはり未だ学生の俺では、
 これ位が精一杯だ。
「ありがとう、丸耳ギコ君。」
 ふさしぃがにっこりと微笑む。
 不覚にも、俺はその仕草にときめいてしまった。

 …いつか、俺が大人になったら、
 もっと凄い物をプレゼントしよう。
 そしたら、もっと素敵な笑顔を、
 ふさしぃは見せてくれるのだろうか。

「それじゃあ、どっか行くか?」
 俺は照れ隠しに、わざとぶっきらぼうにふさしぃに言った。
「丸耳ギコ君は、どこに行きたい?」
 ふさしぃがそう聞き返す。
「…そうだな。」
 俺は顎に手を当てて考えた。
「それじゃあ…」



     ・     ・     ・



「Hidy Hidy little Rascal  Like the Wind, O little Rascal
 Hidy Hidy my friend Rascal  Come with me, O little Rascal
 Hidy ! (Here Rascal)」
 小耳モナーが熱唱する。
 俺達は、街中の商店街にあるカラオケボックスに来ていた。

「あ、すみません。
 焼き蕎麦二つとウーロン茶二杯お願いします。」
 タカラギコが部屋に備え付いてある電話で、何やら注文している。

「さーて、次は何を歌おうかょぅ。」
 ぃょぅが選曲リストをパラパラとめくる。

「…お前ら、何普通にカラオケしてんだ!!」
 俺はマイクを握り、三人に向かって怒鳴った。
 狭い部屋の中に、マイクで増幅された大声が響き渡り、
 三人が顔をしかめて耳を塞ぐ。

「え〜。だって、皆とカラオケに来るの久しぶりなんだものモナ〜。」
 小耳モナーが口を尖らせた。
「そうですよ、ギコえもんさん。
 せっかくだから、楽しみましょうよ。」
 タカラギコが笑いながら言う。
「その通りだょぅ。」
 ぃょぅがそれに頷いた。

「あのなぁ、俺達はふさしぃと丸耳ギコのデートの追跡に来たんだぜ。
 決して遊びに来たわけじゃ…」
「すみませーん。
 焼き蕎麦二つと、ウーロン茶二杯お持ちしました。」
 俺の言葉を、カラオケ屋のスタッフが中断した。

 俺達は、ふさしぃと丸耳ギコの一つ部屋を挟んだ隣の部屋に陣取っていた。
 もちろん、ふさしぃ達のデートの監視が目的だが、
 こいつらときたら…

「カ〜リメロねぇ、こっち向いて。
 きょうはど〜こに急ぎ足。」
「お前もさっきからアニソンばっか歌ってんじゃねぇ!!」
 俺は小耳モナーからマイクを取り上げた。
「ひ、酷いモナー!ギコえもん!!」
 小耳モナーが涙目になりながら抗議してくる。
 こいつ、本当に何しに来たか忘れてるんじゃないだろうな?

578ブック:2004/03/14(日) 00:27

「まあまあ、ギコえもんさん。
 私も何もしていないという訳ではありませんよ。」
 と、タカラギコが鞄から四角い箱を取り出した。
 耳を済ませると、そのから声のようなものが聞こえてくる。
「タカラギコ、これは…?」
 ぃょぅがタカラギコに尋ねた。
「ふさしぃさんに盗聴器をこっそりと仕掛けておきました。
 これで何をしているのかは一目瞭然ですよ。」
 タカラギコがニヤリと笑う。
「凄いモナ!
 さっすがタカラギコ!!
 そこに痺れる憧れるぅ!!」
 小耳モナーが目を輝かせた。
 犯罪一歩手前どころか、ばれたら問答無用で現行犯逮捕の気もするが、
 それは考えない事にしておく。
 用はばれなければいいのだ、ばれなければ。


「…しかし、あんまり大した事にはなってないな。」
 俺達は箱からの声を聞きながら、落胆を隠せなかった。
 聞こえてくるのは、最近の流行曲を歌う二人の声ばかりで、
 特にこれといって面白い事はない。
 まあ、当たり前と言えば、当たり前なのだが。

「…AVとかなら、部屋の中で本番行為に及ぶとか、
 そういう事があるんですけどねぇ。」
 タカラギコがつまらなそうに言う。
「…時々、君の考えについて行けない事があるょぅ。」
 ぃょぅが重い声で呟いた。

「丸耳ギコ君、結構いい声だょぅ。」
 ぃょぅの言う通り、中々の歌声だ。
 しかし、俺達が聞きたいのはそういうものではない。

「ごめんなさい。
 ちょっと化粧室に行ってくるわね。」
 箱からふさしぃの声が聞こえた。
 …!
 ふさしぃが動く!
 俺達は万が一に備え、全員マスクや帽子等で顔を隠した。
 ばれてはいないだろうが、念には念を…


「!!!!!!!」
 いきなり、タカラギコが硬直する。
 何だ。
 どうしたって…

「!!!!!!!」
 次の瞬間、俺達も同じように体を引きつらせた。
 ドアの窓から、タカラギコが仕掛けたであろう盗聴器を持って、
 ふさしぃがこちらを覗いている。

「……」
 俺達はただただ絶句して、その場に固まっていた。
 ふさしぃが、ゆっくりとドアを開ける。

「…何してるのかしら?あなた達……」
 背筋が凍りそうな程優しい声で、
 ふさしぃが話しかけてきた。
「い、いやあ奇遇ですねぇ。ふさしぃさん。
 実は私達も、ここに歌いに来ていたんですよ。」
 タカラギコが苦し紛れの言い訳をする。
 もちろん、ふさしぃにはそんなもの通用しないだろう。

「そおぉ。それじゃあ、私も是非ご一緒させて貰おうかしら…?」
 ふさしぃが拳を鳴らす。
 いや、何でカラオケするのにそんな事する必要が…

 いや、待て。
 助け…!

579ブック:2004/03/14(日) 00:28


「何してんだ?ふさしぃ。」
 不意にふさしぃの後ろから声がして、
 ふさしぃの殺気が収まった。
「!!
 い、いや、何でもないのよ。
 ちょっと偶然友達を見つけちゃって…」
 丸耳ギコか!
 助かった。
 お前は命の恩人だ…!

「あ、この前の…」
 丸耳ギコが俺に目を向けた。
 どうやら、あの時の事を覚えていたようだ。
「ギコえもんだ。よろしくな。」
 俺は丸耳ギコに手を差し出した。
「丸耳ギコです。」
 丸耳ギコが、その手を握り返す。

「そ、そうモナ!
 ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に歌おうモナ!」
 ナイスだ、小耳モナー。
 丸耳ギコさえ居れば、ふさしぃもめったな事は出来ない筈だ。

「そ、そうだなゴルァ!
 お前も一緒に歌おうぜ!!」
 丸耳ギコを半ば強引に引き寄せる。
 というか、ここでこいつに行かれたら、俺達は死ぬ。
 それが分かっているから、
 全員が必死に丸耳ギコを引き止めた。

「どうする?ふさしぃ。」
 丸耳ギコがふさしぃに聞いた。
「わ、私は別にいいけど…」
 ふさしぃが渋々了解する。
 やった。
 これで一応の安全は確保出来た。

「おっと、俺ちょっと便所に行ってくるわ。」
 安心したからか、急に催してきたので、
 俺は便所に行く事にした。



「ふんふふんふ〜ふふ〜。」
 鼻歌を歌いながら、俺は用をたしていた。
 それにしても、さっきは危ない所だった。
 丸耳ギコが来なければ、どうなっていた事か。

 俺は用をたし終えて、ズボンのチャックを上げた。
 後は、この後どうやってばっくれるか…

「!!!!!!!」
 振り返ると、真後ろにふさしぃが立ちはだかっていた。
「あ…あの、ふさしぃさん。
 ここ男子便所…」
 震える声で、ふさしぃに言う。
「あらごめんなさい。
 気がつかなかったわ。」
 ふさしぃは俺の首を掴み、片手で持ち上げた。
「どうやら、バレンタインの時で懲りなかったみたいねぇ。」


 ―――俺が次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。

580ブック:2004/03/14(日) 00:28



     ・     ・     ・



「ごめんなさい。せっかくのデートだったのに…」
 私は帰り道を歩きながら、横を歩く丸耳ギコ君に謝った。
 全く、あの馬鹿達のおかげで余計な力を使ったわ。

「別にいい。
 結構楽しかったし。」
 丸耳ギコ君が答える。
「そういえば、ギコえもんって人は?
 急に居なくなったけど。」
 丸耳ギコ君が私に聞いてくる。
「ああ、何か用事が出来たから帰るって言ってたわよ。」
 丸耳ギコ君には、私がギコえもんを半殺しにして、
 店の外に放置しておいた事はふせておいた。
 救急車は呼んでおいたから、
 今頃、ギコえもんは病院に担ぎ込まれている筈だ。


「…ふさしぃが、羨ましいな。」
 彼が唐突にそう言った。
「どうして?」
 私は彼に聞き返す。

「あんな良い友達がいて。」
 彼がはにかむ。
「別に、うるさいだけで彼らはあなたが思っている程…」
 私はそこで言葉を止めた。
「…そうね。
 すっごく良い人達だと思う。」
 …そう言った後で、何だか急に体がむず痒くなった。
 だけど、本当の気持ちだ。
 信頼して命を預けられる、大切な仲間達。
 彼らと会えた事は、最高の幸運だろう。

「…俺はまだ、あの人達には敵わないんだと思う。」
 丸耳ギコ君が顔を曇らせる。
「違…!私はそんなつもりじゃ……」
 しまった…!
 今のはかなりの失言だ。
 慌てて丸耳ギコくんへの弁解の言葉を考える。

「分かってる。」
 丸耳ギコ君が、私に向かって微笑む。


「ふさしぃ。目、瞑って。」
 丸耳ギコ君が急に立ち止まって言った。
「…?」
 私は不思議に思いながらも、言われた通りに目を閉じる。
 …そして数拍おいて、私の唇に柔らかい物が重ねられた。

「……!」
 私の頭のてっぺんから足の先までが、一気に熱くなった。
「…俺、負けないから。」
 丸耳ギコ君が、顔を真っ赤にして口を開く。
「いつか、ふさしぃの一番になってみせるから。」
 …馬鹿。
 そんな心配しなくても、私はあなたが…

「…そういういっちょまえな事は、
 もう少し大人になってから言いなさい。」
 本当はとても嬉しいくせに、
 私の口から気持ちと裏腹な意地悪な言葉が出る。
 言った後で、私は軽い自己嫌悪に苛まれた。

「馬鹿にすんな。
 これでも前より身長伸びてんだぞ。」
 丸耳ギコ君がそう言い返す。
「…そう。」
 そう言って、今度は私の方から彼と唇を合わせた。
 …本当だ。
 前より、少しだけ背が高くなっている。

「ばっ…!」
 自分もさっき同じ事をしたくせに、
 丸耳ギコ君は慌てふためく。
 私はそれを見て、つい吹き出してしまった。

「お、おい!笑うな!」
 彼が憤慨する。
 こんな反応するなんて、まだまだ子供だ。


「あ…」
 空に一つの流れ星が流れる。
 私は目を閉じて、心の中で三回願い事を繰り返した。

「なんだよ、お前まだ流れ星が願いを叶えるなんて信じてるのか?」
 丸耳ギコ君が呆れた風に言う。
「あら、願うだけなら只よ。
 それに、私は願いを叶える為の努力を決心する為に、
 お祈りを捧げているの。」
 そう、祈るだけなら誰でも出来る。
 重要なのは、それに向かって自分で何をするかだ。

「ふーん。
 それじゃあ、何をお願いしたんだ?」
 丸耳ギコが私に尋ねた。
 私は顔を上げて今にも落ちてきそうな星空を見つめ、
 そして丸耳ギコ君の顔に視線を合わせる。
「それはね…」



     EPISOAD END…

581ブック:2004/03/15(月) 12:05
     救い無き世界
     第四十七話・黒「強縁」 〜その二〜


 ゴリラに吹っ飛ばされ、無様に地面を転がる。
 ヤバい。
 今ので何本かイッちまったようだ。

 だが、そんな事よりさっきのは何だったんだ?
 脚が、いきなり動かなくなった。
 もしかして、ゴリラの刀身の無い剣と関係があるのか?

「モウガマンデキナイ!!」
 しかし、それ以上考えている時間は俺には無かった。
 ゴリラの左腕が変形し、その中から銃口が顔を覗かせる。

 隠し銃。
 こいつそんな物まで…!

「!!!!!!」
 銃口から無数の弾丸が放たれる。
 腕をスタンド化して、それを弾く。
 しかし弾けなかった何発かは、確実に俺の体を抉った。
 まずい。
 このままじゃ…

「!!!」
 その時、俺の脚に感覚が戻ってきた。
 脚が、動く…!?

 考えている場合じゃない。
 地面を蹴り、その場から跳んで銃弾の雨から逃れる。
 さっきまで俺の居た場所に、幾重もの弾痕が穿たれた。

 そのまま高速で移動しながら、
 ゴリラとの距離を縮めていく。
 右に左に飛び飛び跳ねて、銃弾をかわしながらゴリラに迫る。

 見てろ。
 近づいたら俺の拳をたらふく食わせてやる。

「『アンジェリーク』!」
 ゴリラが刀身の無い剣を振る。
「!!!」
 俺はとっさに身を翻した。
 よく分からないが、あの剣は何か危険だ。
 攻撃は受けないに越した事はない。

 よし。
 射程距離まで接近した。
 このままパンチを…

「!!!」
 右腕が、動かない!?
 馬鹿な。
 斬られた感触は、微塵も無かった。
 なのに、さっきの脚の時と同じように、
 右腕が無くなったように動かない…!

「ガマンデキナイ!」
 ゴリラが腕を振りかぶった。
 右腕が突然動かなくなった事での動揺による隙をつかれ、
 顔面に拳を撃ち込まれる。
 さっき腹に喰らった時と同じように、
 俺の体が宙を舞った。

「……!!」
 背中から地面に落ちた。
 頭を強く揺さぶられた所為で、意識が朦朧とする。
 糞が。
 何て様だ…!

582ブック:2004/03/15(月) 12:06


(全くもってその通りだな。)
 体の内側から直接声が響いてきた。

 …!
 『デビルワールド』…!

(一体何をやっているんだ?
 明らかにいつもより動きが鈍っているぞ?)
 うるさい。
 今取り込み中だ。
 あっち行ってろ。

(愚かな。
 あの孤児院の者共を、本当に自分は守りたいのかどうか迷っているな?
 それがお前の力を奪っている。)
 余計なお世話だ。
 黙って見てろ!

(そんな事よりいいのか?
 あのゴリラが向かってきているぞ。)
 な――

「モウガマンデキナイ!!」
 ゴリラに頭を掴まれ、倒れている所を引きずり起こされる。
 そして、そのまま砲丸投げのように空に放り投げられた。
 壁に叩きつけられ、折れていた肋骨をさらに痛める。
 内臓から血が口までせり上がり、口から溢れた。

(くっくっく…
 言わん事ではない。)
 『デビルワールド』がせせら笑う。
 体の痛みよりも、こいつに対する怒りの方が、俺の感情を支配した。

(もう孤児院の事など考えるな。
 切り捨てろ、何もかも。無駄極まりない。)
 やかましい。
 出てくるな。
 出てくるな、『化け物』!

(あいつらの為に闘って何になる?
 感謝してくれるとでも思っているのか?
 それとも…
 両親に褒めて貰いたいのかな?)
 黙れ!!!
 俺は、俺のやりたいようにやる!!!!!

 無理矢理『デビルワールド』を押し黙らせた。
 そうだ。
 これはあいつらなんかの為じゃない。
 俺が俺の為にやっているだけだ。


「……」
 俺はよろめきながらも、何とか立ち上がった。
 地面に口の中に残っていた血を吐き出し、ゴリラを見据える。

「モウガマンデキナイ!!」
 再びゴリラが剣を振る。
「!!!!!!!」
 急に俺の視界が閉ざされた。
 目の前が真っ暗になり、何も見えなくなる。

 馬鹿な。
 これは一体何だ!?
 あの刀身の無い剣に、一体何の秘密が…

「!!!」
 そうか。
 奴の能力が、何となくだが分かったぞ。
 あの剣は、刀身が『無い』んじゃない。
 『見えない』んだ。
 そして、その刀身で『神経の流れだけ』を斬っている。
 だから、肉体には何らダメージが無いのに、
 斬られた部分が動かなくなる。
 恐らく、今ので『視神経』を斬られた。
 だから目が見えなくなった。
 そして、最初脚が動かなくなった時、
 かなりの距離が開いていたにも関わらず、
 脚の『神経』を切断された事から、
 剣はかなりのリーチがあると予想できる。

 だが、この能力も万能ではない。
 さっき脚を斬られた時、少し時間が経ったら脚が動くようになった。
 右腕も、もうちゃんと稼動する。
 多分ある程度時間が経過すれば、神経は元に戻る。
 しかし…果たして俺の視力が回復するまで、
 あのゴリラが待ってくれるかどうか―――

583ブック:2004/03/15(月) 12:07


「!!!!!!!」
 胸部に強い衝撃。
 本日三度目の空中浮遊。
 やはり俺の回復を待ってくれる程、敵は優しくなかったみたいだ。

 今度は背中に軽い衝撃と共に、ガラスの割れる乾いた音。
 そのすぐ後に、地面に叩きつけられる。
 しかし、地面の感触がアスファルトとは違う。

「きゃああああああああああ!!!」
 暗闇の中から子供の悲鳴が聞こえてきた。
 どうやら、どこかの家の中に突っ込んでしまったようだ。
 まずいな。
 巻き込まないうちに、早く移動しないと…

 腕と脚をスタンド化させ、
 痛みを押さえつけながら体を起こす。
 よし。
 どうやら視力も戻ってき―――


「!!!!!!!!」
 おい。
 待てよ。
 ここは、ここはどこだ?

 俺の視界に、見た事のある子供達の顔が飛び込んできた。
 俺の記憶が正しければ、こいつらは孤児院の…

「!!!!!!!!」
 俺は急いで辺りを見回した。

 頼む。
 居るな。
 居ないでくれ。
 あいつらだけには、俺の今の姿を見せたくないんだ…!


「……!」
 …子供達の真ん中に、そいつらは居た。
 恐怖に怯えた四つの目から向けられる視線が、俺に突き刺さる。
 俺を産んだ、俺を育てた、俺を捨てた、俺の―――


(くっ…ははははははははははははははははは!!!
 どうした!?
 みるみる力が抜けていっているぞ!?)
 『デビルワールド』が嘲笑する。
 しかし、もはや俺の心には怒りすら湧いてこなかった。

(何を呆然と突っ立っている?
 せっかくの親子の感動的な再会じゃないか、
 もっと自分の立派になった姿を見せつけてやれ。)
 …そうだ。
 これが、俺の本当の姿なんだ。
 これが…

「……」
 もう一度、あいつらに目を向ける。
 先程と変わらぬ、恐怖に歪んだ顔。

 そうだろうな。
 それが普通さ。
 昔、あんたらが俺を捨てたのは正しいよ。
 もう、俺はあんたらの子供どころか、人間ですらないんだ。

「でぃさん…!」
 みぃが俺に駆け寄ってきた。
 良かった。
 ここに入れて貰えたんだな。
 お前さえ無事なら、俺は…


「!!!!!!!!」
 孤児院の壁を突き破って、ゴリラが中に侵入してきた。
 すぐにみぃを押しのけ、俺から離れさせる。

「きゃあああ!!」
「ひっ…!」
 子供達が、あいつらが、俺とゴリラに怯えた様な眼差しを向ける。

584ブック:2004/03/15(月) 12:07


(何だよ、お前ら。『化け物』でも見たような顔しやがって。)
 捨てる。
 理性を、感情を、その他闘いに関係ないもの全てを捨てる。
 不要だ。
 何もかも不要だ。
 いらない。
 何もかもいらない。

(教えてやるよ…)
 燃やす。
 捨てたものに火を点けて、あらゆるものを燃やす。
 捨てた分だけ空っぽになった心を、
 その黒い炎が埋め尽くしていく。

(『化け物』ってのは…)
 燃えろ燃えろ燃えろ。
 全て燃えろ。
 何もかも燃えろ。

(本当の『化け物』ってものは…)
 力が体に漲る。
 炎が俺に無限の活力を供給する。
 燃やす。
 この炎で、あらゆるものを焼き尽くしてやる。

(こういうのを言うんだよおぉ!!!!!!)
 左腕を右腕で引き千切る。
 傷口から、血が噴水のように噴き出した。
「!!!!!!!!」
 その左腕を、ゴリラに向かって投げつける。
 思わぬ飛び道具に、一瞬怯むゴリラ。
 その隙を逃さず、ゴリラに向かって突進する。

「モウガマンデキナイ!!」
 ゴリラが剣を振る。

 無駄だ。
 いくら刀身が見えなくとも、
 手の動きを見れば、刀身の動きも予測できる。
「!!!」
 苦も無く、見えない刃をかわす。
 もうその攻撃は喰らわない。

「ガマンデキナイ!!」
 剣では仕留められないと踏んだのか、
 ゴリラが今度は仕込み銃を乱射してきた。
 銃弾を弾いて、周りの奴らにとばっちりがいってはまずいので、
 全て残った右腕で受け止める。
 弾幕に晒され、吹き飛ばされる右腕。
 問題無い。
 少々両腕が無くなろうが、何も問題は無い。

「モウガマ…!」
 俺はゴリラの傍まで近づくと、
 剣を持ったゴリラの右腕に噛み付いた。
(ごおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!!!)
 『デビルワールド』発動。
 全身をスタンド化。
 ゴリラの肉に歯を突き立てたまま、
 背筋力でゴリラを口で投げ飛ばす。

「ガ…!!」
 大きな音を立てて、ゴリラの巨体が地面に叩きつけられる。
 決める。
 俺は倒れているゴリラの上に馬乗りになった。

(あああああああああああ!!!)
 腕にスタンドを発動させる要領で神経を集中させる。
 すると、両腕の傷口から蜥蜴の尻尾のように、
 再び腕が生え揃った。
 『化け物』だ。
 俺は完璧な『化け物』だ。

「!!!!!」
 俺は生えてきたばかりの腕で、ゴリラの頭を掴んだ。
 そしてそのまま首を明後日の方向に捻る。
 メキメキという音がゴリラの首からすると共に、
 それきりゴリラの体は動かなくなった。

「―――ッ―――ァ―――ァ―――…」
 俺は、笑った。
 生まれて初めて、心の底から笑った。
 喉から空気の漏れる掠れた音が、孤児院の中に響き渡る。
「―――ァ―――ッ―――」
 俺は笑い続けた。
 いつまでもいつまでも、笑い続けた。



     TO BE CONTINUED…

585丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:21

 茂名達が『矢の男』と対峙している十数分程前、SPM財団日本支部オフィス。
一人のジエン族が、デスクで弁当を食べていた。
年齢は二十代後半を過ぎた頃だが、小柄なせいでもう少し若く見られている。

  ラ・ウスラ・デ・ラ・ギ・ポンデ・リルカ・ニョキニョキ・ニョキニョキ〜♪

 と、机の上に置かれた携帯から着歌が流れ出した。
箸を置いて女性の声で歌い続ける携帯を手に取り、着信ボタンを押す。

「はい、ジエンで御座います」

 彼の名は、ネヴィア・ジャスティン・ジサクジエン。
普通であって普通でない、『普通に喋る自作自演』というジエン族の希少種だ。
 聴き取りづらいジエン族特有の発音ではなく、澱みも歪みもない鮮やかな声。
むしろ、モナー族やギコ族よりも美しい発音をしていると言っても良いだろう。
「もしもしー。ジエンデチか?」

 携帯の向こうから聞こえてきたのは、ジエンと対照的に舌っ足らずな声。
「ああ、『チーフ』ですか…」
「何か嫌そうな言い方デチね」

 『チーフ』と呼ばれた電話の向こうの彼は、ジエンの上司だ。
本名は不明で、仲間内からは只『チーフ』とだけ呼ばれている。
 こんな喋り方をしているが、ジエンよりも年上らしい。

「ま、いいデチ。茂名さんから『矢の男』絡みで連絡あったから、来て欲しいんデチ」
「またですか?今月で二十件超えていますよ…」
「『矢の男』も、はた迷惑な奴デチよ。去年までは遊んでれば給料もらえてたのに」
 やる気の感じられない『チーフ』を、ジエンがたしなめる。
「不謹慎ですよ。…まあ、私達のような職種は暇にこしたことは無いのですがね」
「あは、確かに。とりあえず、来るのはゴハン食べてからゆーっくりでいいデチから」
「承知しました…それでは」
 ぴ、と携帯を切り、再び弁当に箸をつけ始めた。

 シャケフレークがまぶされたご飯をかき込み、最後まで残しておいた唐揚げを放り込んで席を立つ。
「―――さて、行きますか…」
 空になった弁当箱を元通りに包み直し、ナフキンで口を拭ってドアを開けた。

586丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:26


 ――――――SPM財団・スタンド研究局。
証拠を残さずに犯罪を行う事のできるスタンド使い達を取り締まるため、造り出された団体だ。
 スタンドのデータを収集して、カテゴリーごとに分類・整理し、保管する。
そして、危険度が高い者はいわゆる『闇から闇へ』。
一応存在を秘匿されているが、彼等のことを知るものは多い。
 マスコミ・政治家・警察内・大企業の中から一般人。
果てはヤクザの内部まで、社会の水面下には多くの<協力者>が存在している。
今回連絡をくれた茂名やマルミミ達も、<協力者>の一人だ。
 SPMの研究局は彼等とちょっとした契約を交わし、スタンドデータの収集に協力させている。


 こつん、とジエンが足を止めた。
『スタンド研究局』とプレートの下がったドアの前。襟を正し、ノックを四回、ノブをひねり…
「失礼します。N・J・ジエン、参りまし…ッ」

 …目に飛び込んできた光景に、ぽかんと口を開けたまま絶句した。

「ぎゃあふさたんはあの人との交わりを部下に目撃され
 されどふさたんの涅槃は部下の視線が注がれている事に未だかつて感じたことのない快楽を」

 掃除の行き届いた部屋の中央で、二人の少年が絡み合っている。
筋肉の薄い華奢なその裸身は汗に濡れ光り、いつものような貼り付けた笑みが快楽のためか僅かに歪められている。
背徳感に満ちたその眺めは、あるいは男と女の交わりよりも淫靡で―――


「見られて感じてるんデチか?悪い子デチね。そんな子にはもっと深く深くふーかーくー」
「ぎゃあふさたんの涅槃は壊れそうなほどに犯されてぎゃあふさたんの目の前は真っ白な光りに包まれ―――」
                                              ドロー・ポイント・ファイア
――――― 一瞬の自失、思考は停止したまま掌は懐に、両手に銃の感触、抜き、狙い、撃つッ

587丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:28

「お逝きなさい!!」
 左右6発ずつ、計十二発の22LR弾が銃声と共にオフィスの壁に突き刺さる。
固まる二人に歩み寄りながら、二枚の写真を取りだした。
 両手に一枚ずつつまんだその印画紙をぴらりと振ると、次の瞬間ジエンの両手に大口径の拳銃が握られていた。

左右の手に現れた銃をくるくると回し、絡み合ったまま固まる二人に突きつけ、静かに言い放つ。

「長年あなた方の下で働いてきましたが、もう我慢の限界。
 斯くなる上はそのイカレた頭を撃ち抜き、私の能力で証拠を隠滅させて頂きたいと存じます」
「ぎゃあふさたんの顔に長くて太くて大きくてゴツくて黒光りするモノが押しつけられ」
「人生最後のセリフはそれで良いですか?墓に刻んで差し上げましょう」

 全く表情を変えずに言い放つジエンに、二人の血の気が引いた。
先程まで貼り付けたような笑みを一転させ、大あわてで両手を振る。


「タンマタンマ!服着るデチッ!」
「ぎゃあ銃を降ろしてー」

「フン!赤塚不二雄のお巡りさん張りに室内で銃乱射するヒトにイカレ脳なんて言われたく無いデチ」
…と切り返したかったが、そんなことを言える空気ではなかった。


〜着替え中〜



        、_,,,__          ∧ ∧
     ┌γ[三}=ー┘_,,,__  ∧ ∧(・∀・;)
      (#・∀・)ノγ[三}=ー┘)・∀・;ミ 淫c_)



〜しばらくお待ち下さい〜

588丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:32

「―――とりあえず、貴方達が同性愛者だということについては何も言いません。
 私にもそういった趣向があるのは認めますし、最近は社会的にも認められてきています。
 …しかし。何を考えて勤務中にそんなことをしていたのか教えて頂けますか?」
ピシリと背広を着こなした二人に、こめかみを引きつらせつつジエンが問うた。
 双方ともちびギコだが、ジエンから見て右の方に座っている方は長毛種である。

短毛種は、先程話していた『チーフ』。
長毛種の名は、『G・Y・A・フサ』、通称フサ。
 二人ともローティーンの少年にしか見えないが、実はれっきとした成人男性である。
ホルモンだか何だかの異常で、成長が止まっているらしい。羨ましいことだ。
「イヤイヤ、まさかあんなに早く来ちゃうなんて思ってもみなかったんデチよ。
 言ったデチ?『ご飯食べてからゆーっくりでいい』って」
「ぎゃあふさたんはそんなあの人の誘惑に耐えることが出来る筈もなく」


 ―――絶ッッッッ対に嘘だ。
私は先程、作法に従い四回もノックをした筈。
わざわざ見せつけるために技とこんな所でこんなコトを―――

 口に出しかけたそのセリフを、奥歯でスリ潰す。
このまま漫談をやっていてはいつまでも話が進まない。


「…で。用件は何でしょうか?」
「イヤ、さっき言った通りデチ。 『矢の男』の退治に、キミまで狩り出されるようになったんデチ。
 とりあえず任務は、茂名さん・マルミミ君の両名と合流して矢の男の索敵・撃破だそうデチ」
「ぎゃあふさたん暇だったあの日にはもう戻れない」
 『矢の男』には、ずいぶん前からSPMのスタンド使いを送り込んでいる。
だが、結果としてスタンド能力は未だ不明のまま。
 『高い基本スペック』があるだの『瞬間移動』が出来るだのと言われているが、確信に至るような情報は一切無いと言っていい。
『瞬間移動』なんたらも、返り討ちにあって命からがら逃げてきたスタンド使いのうろ覚えによる証言だ。
 いや、そんなことは良いとして…                   エージェント
「よろしいのですか?茂名の御隠居はともかく、マルミミ君は只の仲介人です」

589丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:34
      エージェント
 ―――仲介人。
SPMへの<協力者>は、大きく二通りに分けられる。        ソルジャー
 一つは、SPM専属でスタンド犯罪に対処するジエン達のような<兵士>。      エージェント
もう一つは、普段はフリーで暮らせ、SPMへの情報提供や証拠の隠滅などを行う<仲介人>で、
茂名やマルミミ達はこちらにあたる。
ソルジャー
<兵士>の方が得られる権利は多いが、厳しい審査や強制的な戦闘への参加など、相応に苦労も多い。
 エージェント                           ソルジャー
 <仲介人>への戦闘参加依頼は無いわけでもないが、<兵士>と違って『命令』ではなく、あくまで『依頼』である。
断る権利はあるし、断ってもペナルティのような物はない。
 <仲介人>の立場は『一般人』なので、無理矢理戦わせることは出来ないのだ。

「『矢の男』を相手取るなど引き受けてくれるのですか?
 もし断られた場合、私のスタンドだけで『矢の男』を相手取るのは些か荷が重いのですが…」

 このままマルミミ達が依頼を断ったら、最悪ジエンだけで戦うことになる。
『チーフ』とフサも援護には来てくれるだろうが、生憎三人とも面と向かっての殴り合いはそれほど得意ではない。
 だが、その言葉に『チーフ』が小さく笑いを漏らした。

「いや、大丈夫。彼の『胸の孔』はまだ塞がっていない。『滅び』を欲する彼にはこれ以上ない獲物…」

「…『チーフ』?何か仰りましたか?」

「あ、イヤイヤ、何でも無いデチ。只の独り言デチよ。気にしない気にしない…
 …それはともかく、マルミミ君なら依頼は受けてくれるデチよ。
 技能的にも信頼できるから、安心して行ってくればいいデチ」」
一瞬訝しげな顔をしたジエンだったが、さして気にもせずに頭を下げる。
「左様ですか。では、十分後にまた参ります」
 そのまま踵を返し、荷物を取りに自室へと向かった。

590丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:36


 ジエンがオフィスから出て行ったのを確認すると、『チーフ』が胸を撫で下ろした。
「―――っふー…危なかったデチ」
「ぎゃあふさたんは極秘事項をベラベラと喋るあの人に肝を冷やし」
フサの糾弾に、『チーフ』が冷や汗を拭いながら弁解する。         ・ ・ ・
「そんなこと言ってもしょうがないデチ。キミも知ってるデチ?ボクの能力の副作用」
 言葉を終えると、思い出したようにデスクの上に置かれた書類へと手を伸ばした。
細かいデータが書かれたA4の紙に、茂名とマルミミの写真がクリップで留められている。
「けどまあ…いつ思い出しても恐ろしいデチね。こんな少年と老人ですら町一つ滅ぼせるなんて」
 書類のそれぞれ一番初めに記されている、二人の呼称と危険度評価。
       コード オーガ                           コード トリックスター
 茂名 初、呼称『羅刹』、危険度C評価。茂名・マルグリッド・ミュンツァー、呼称『変動因子』、危険度A評価。

 ―――危険度A。
その最低基準は、『町一つを滅ぼせる能力と、危険な思想を持った者』とされている。

「表の顔は、『好々爺とその孫』。茂名 初は、息子夫婦に変わって病院を経営中。
 ちゃんと医師免許も持ってるし、信用も厚いそうデチ。
 八十歳にもなるのにボケ一つ無く腰も曲がらず、オバさん達の羨望のマト。
 しかし、その正体は五年ほど前まで世界中で人殺しやってた伝説の傭兵。   オーガ
 要人から民間人まで幅広く虐殺する…傭兵って言うよりも脚色無しの殺し屋、『羅刹』。
 マルミミ君は九歳の時に不幸な自己で両親を失ってるけど、
 そんな悲しみを感じさせないような笑顔を見せてくれるとご近所でも評判デチ。
 背が低くて童顔なのが悩みの、ごく普通の十六歳。
 しかし、その正体は吸血鬼との混ざりものでありながら『人間』の思考を保ち、
 七歳の時点で親を殺され人殺しを経験し、更に戦いの場に身を置き、
 リーチもパワーもスタミナもないスタンドしか発現しなかったが、未だに生き延びている。
                                       トリックスター
 まったくもって常識の範疇に入れることのできない変わり種、『変動因子』」

 そこまで資料を読み上げ、二人の顔に貼り付けられた笑みが消えた。
「…いやいや、どうなるんだろうね?あの二人は」
「さあ?無知なふさたんには判るはずもなく…」

 先程とはうって変わった冷徹な声が、SPMのオフィスに響く。
それきりで、二人の会話は終わりを告げた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

591丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:38

   (・∀・) 大変よろしいですね。
  ネ ビ ワ
 『根日輪・ジャスティン・ジサクジエン』(通称『ジエン』)

 普通であって普通でない『普通に喋る自作自演』というジエン族の希少種。
『チーフ』達の部下だが、彼等の破天荒ぶりに胃を痛める日々。
普段は彼等と組んで、運び屋の仕事をやっている。
常識人ではあるが、銃を乱射する悪癖を持つ。周囲の被害は気にしていない。

こんにちわ=根日輪=ネニチリーンというのはあまり知られていないようで。

∧_∧
(,,・∀・)
(_uu)

『チーフ』(本名不明)
短毛種の方。
SPM財団スタンド研究局の構成員で、ジエンの上司。
成人男性だが、ホルモン異常で外見はチビギコ。
やっちまった801…_| ̄|○

592丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:39
∧,,∧
ミ,,・∀・ミ
ミuu_@

『G・Y・A・フサ』(通称『フサ』)
長毛種。
『チーフ』と同じくホルモン異常で成長がストップしている。無口・無表情。
ギャグ担当のつもりだったが、ひとたびシリアス面にはいると動かしにくいことこの上ない。
仕方がないので、『チーフ』共々エセ二重人格に。
やっちまった801その二。_| ̄|○
ぎゃあふさたんスレの雰囲気を出せているのかどうか不安。
駄目だったら叩いて下さい。遠慮無く。


嗚呼、ショタ・ホモ・ジジイと萌えから離れていく…
……もういいや。萌えは絵板に任せよう。



イヤムシロショタニ萌エサセ(ry

593丸耳達のビート:2004/03/16(火) 00:57


            │人気七位!投票ありがとう!
            └y┬────────────────――――
            │『華は無いけど堅実』『萌えはないけどガンバレ』
            │とのコメント。益々精進致します。
            └────────────y───────





               ∩_∩    ∩_∩
              ( ´∀`) 旦 (ー` )
              / ============= ヽ  
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~


            │…ところで、そろそろコタツしまわない?
            └y┬────────────────――――
            │いいんじゃよ。『丸耳達のビート』では、
            │季節設定が初冬なんじゃから。
            └────────────y───────





               ∩_∩    ∩ ∩
              (;´∀`) 旦 (д`;)
              / ============= ヽ  
             (丶 ※※※※※※ゞノ,)
               ~~~~~~~~~~~~~~~~~

594N2:2004/03/16(火) 14:12
『第1回小説スレキャラ限定人気投票』ギコ屋編内部結果発表ォ─────ッ!!

 1位 逝きのいいギコ屋 7票 (総合9位)

    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | 投票して下さった皆さんのお陰です
    \_____________ _______
                       V
                       ∩_∩
               ,        |___|F
  \ バ ン サ ゙ ー イ /   ..      (・∀・ .∩
                ,,∵      ( ~Y~ ,.ノ
ハニャーン      ∧_∧  ) * ∫ [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄]
 ∧∧  ∧∧ ( ・∀・)⊿∴;, .  | ̄@ ̄ ̄:|
∩*゚ー゚)∩,,゚Д゚)(  つ /  ⌒" .  |  パチパチパチ
  _∧__∧__∧ パーン  ∧_∧ ∧∧ ∧∧
/             ̄ ̄ ̄\(    )(  ,,)(゚,,
|   お め で と う !  |
|.   あ り が と う !  |


    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   |  本当はあと64票ぐらい欲しかったけどな!
    \_____________ _______
                       V
                      ∩_∩
               ,       |___|F
                      (・∀・ ∩
    シーン          ,,λ     ( ~Y~ ,.ノ
          ∧_∧ ) * ∫ [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄]
 ∧∧  ∧∧ (  ゚∀゚)⊿∴;, .  | ̄@ ̄ ̄:|
∩ ゚ー゚)∩,,゚Д゚)( つ /  ⌒   .|       :|
                   ∧_∧ ∧∧ ∧∧
          .        (    ).(  ,,)(゚,,   )
               


  (⌒\ ∧ ∧
   \ ヽ(#゚ー゚)
    (m   ⌒\
     ノ  ∩_∩
     (   |___|F
  ミヘ丿 ∩∀・ ; )
   (ヽ_ノゝ _ノ
             


          ,;⌒⌒i.
  ∧ ∧⌒ヽ (   ;;;;;)   _______
 (゚ー゚#)  ミ)     ,,:;;;)   |          |
/⌒\/(   ) ヽ| |/ |;,ノ  | 表彰取り消し |
( ミ   ∪∪  | /  .,i  |________|
 ノ  /     | | ,,i; ,, . ,;⌒ヽ‖
( \/ヽ ,,,丶, | |,,,;.    ;i,   ‖ヽ
 \ ) ) ..   ,,   ´ヽ (,,.   ‖丿.,,,
 ///   ,,   ,,  .. ´ヽ    ‖,,, ..,
`ヾ ヽミ ,,  .、 ヽ .. ヽ丶,.ヽ   ‖、,,

595N2:2004/03/16(火) 14:12

 2位 あらくれ 1票 (総合20位)

     \\ 投票者ワッショイ!!        //
        \\ 投票者ワッショイ!!     //
          \\ 投票者ワッショイ!!  //
    |\__/ ̄ ̄\__/|..|\__/ ̄ ̄.\__/| .|\__/ ̄ ̄.\_/|   +
.   +\__| ▼ ▼.|_._/ \__| ▼ ▼ |__/ .\__| ▼ ▼ |_/  +
      ..\ 皿 ∩       \ 皿 ∩/      \  皿 /
 +  ..(( (つ   ノ       (つ  丿       (つ  つ ))  +
    ..   ヽ  ( ノ        ( ヽノ         ) ) )
       (_)し'         し(_)        (_)_)


 3位 相棒ギコ ギコ兄 大将 ジョナ=ジョーンズ
     『もう一人の矢の男』 ミィ 『電気スタンド』使い シャイタマー ジョナを暗殺しようとした女(レモナっぽい)
     空条モナ太郎 DIO プッチ神学校生
     椎名先生 モネ姐 神尾先生 初ケ谷校長 鳥井先生 熊野 静川先生
     八木先生 一野先生 椎名の元彼 あらくれのツッコミ役(フーンの予定) 『痛みを分かち合う会』会員
     倉庫で虐殺されたしぃ・ちびしぃ・モナー・ギコ・モララー・ぞぬ・ニダー・アヒャ・クックル・モンスターしぃ・ぽろろ
     あらやだ 『ギコら〜めん』の客 擬古谷町町長 擬古瀬 伍琉央 県知事 茂羅
     衆議院議員 左菅谷 阿仁 参議院議員 左菅谷 逐梼 運動会のピストル役のy=ー( ゚д゚)・∵;;ターン etc... 0票 (総合順位なし)

  |         |  |
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  |         |  | ̄ ̄ ̄ /|
  |         |  |   / /|
  |        /\ |  /|/|/|
  |      /  / |// / /|
  |   /  / |_|/|/|/|/|
  |  /  /  |文|/ // /     ∧∧ 兄貴…俺達って…
  |/  /.  _.| ̄|/|/|/      /⌒ヽ)
/|\/  / /  |/ /       [ 祭 _]    ∧∧ 泣くな弟…
/|    / /  /ヽ         三____|∪   /⌒ヽ)  辛いのはお兄ちゃんだって一緒なんだ…
  |   | ̄|  | |ヽ/l         (/~ ∪    [ 祭 _]
  |   |  |/| |__|/       三三      三___|∪
  |   |/|  |/         三三       (/~∪
  |   |  |/         三三      三三
  |   |/                    三三
  |  /                    三三
  |/                    三三


596N2:2004/03/16(火) 14:14

リル子さんの奇妙な見合い その①

「違う!そこで攻撃しても避けられることは目に見えてるだろうが!
もう一歩相手を追い込んでから、絶対に相手がかわせない状況を作ってから一気にドンだ!!
分かったか!!」
「はいッ!!」

河原に大将の罵声が響く。
俺達3人は大将の入団試験に合格し、それから「サザンクロス」の一員としての活動を始めた。
と言ってもまだ特別な任務なんてのは無く、大将直伝の荒修行を受けているだけではあるが。


「サザンクロス」とは大将が指揮するこの町――擬古谷町のスタンド使いによる自警団だ。
つっても当然スタンド使いが引き起こす事件なんてのは常識的に考えても滅多にあるもんじゃないから、
主な活動内容は夜間のパトロールとかそんな程度ではあるらしいが。
でも実際そのお陰で未然に防げた放火事件とかもあるらしいし、
この町で過去最大の事件だと言われる「擬古谷銀行強盗事件」においては
機動隊を差し置いて大将が単身銀行に潜入し、強盗団を全員拿捕したこともあるそうだ。
その為か、「サザンクロス」の活動は警察公認のものとして扱われており、
町の人々からも厚い信頼を受けている。

意外だったのは、その構成人数だ。
俺はてっきりそれなりの大人数かと思っていたのだが、いざ入ってびっくり
何とそれまで「サザンクロス」はたったの4人しかいなかったと言うのだ。

まず「サザンクロス」団長・ギコらーめん大将。
この間の試験最後でも痛感していたが、やはりただもんじゃない。
大将は俺達の修行において、「基本・応用実戦訓練」を担当しているのだが、
はっきり言ってこの実力はヤバすぎる。
まずスピードが異常だ。
俺達3人の中で一番スピードのある「バーニング・レイン」が全く追い着けない。
それだけじゃない、大将の繰り出す包丁は常に1mmの狂いも無く急所目掛けて放たれるし、
大将自身も体術・運動能力・洞察力・状況判断どれを取っても非の打ちようがない。

その次に強いのが副団長のリル子さんだ。
無論大将には及ばないのだが、その実力は折り紙付き。
特にパワーがスタンドだけじゃなく…本体でさえ「こいつ女か?」と疑いたくなる程高い。
彼女は「特殊状況下に置ける実戦訓練」を担当しているのだが、その特訓も小姑の嫁いびりみたいな内容ばかり。
「逆立ちしながら犬の散歩をしている時の戦闘」だの「横向きでポールを上りながらの戦闘」だの
んな実戦があるわきゃねえだろ!と突っ込みたくなるもんばかり。
でも文句を言ってはいけない、あとで殺されるから。
現に相棒と兄貴が何回被害に遭っただろうか…。

その2人とは少々毛色が違うのがキッコーマソ。
彼は「筋力トレーニング・本体のみの実戦訓練」を担当している。
まあ、見た目で分かるんだが一種の筋肉バカだ。
だが戦闘においてはとてもバカなんて定義できるレベルじゃない。
彼はスタンドのヴィジョンが無いらしく、そのせいで総合的にはリル子さんに劣ってはいるが、
実際の技量なら彼女と十分張り合える。
そのせいかトレーニング内容もとてもじゃないが命に関わるものさえある始末だ。

そして全くこの修行に関与していない…強いて言えばマネージャーみたいなのがジサクジエン。
こいつの場合一体強いのか弱いのか全然はっきりしないんだが…。
しかし大将との付き合いは前の2人よりも遥かに長いそうだし(そうとは思えない年齢だが)、
何より2人曰く「ジサクジエンは強い」のだそうだ。
まあ何にしても彼の最大の貢献は「組織のイメージアップ効果」だというのが全体意見ではあるのだが。

597N2:2004/03/16(火) 14:16


「そうじゃない!そこで相手の首を掻っ切るんだ!!」
大将の厳しいコーチングは続く。
正直な所言って、俺は入団前にここまで実力のある組織だなんて思っていなかった。
だから特訓が厳しいのはむしろ大いに歓迎だし、それで強くなれるんだったらどんな特訓でも挑むつもりだ。
…だが………。

「…どうした相棒ギコ。何か思い詰めるようなことでもあるのか?」
「…大将、俺にはこの特訓がどうしても納得いきません」

突然俺の不満を聞いた大将は、一瞬驚いたようであったけれども、すぐに顔に平静が戻った。
「…訳を聞こう」

「…俺はご存知の通り…奴らに洗脳されて結果何人もの罪無き人々の命を、何の意味も無く奪ってしまいました。
だからどうしても…大将の相手を確実に仕留める殺人術を会得するのが…嫌なんです。
そりゃもちろん俺はあの男を倒す…いえ、殺す為に戦うんです、そりゃ当たり前な事ですし、
初めから殺すことが目的なのだからこんな事抜かすのは矛盾してるってのは分かっています。
…でも……これ以上無駄な命を奪うのは…」

俺はふと大将の顔を見た。
こんな軟弱な事を言っているんだ、さぞかし機嫌を悪くしただろうし、こうなりゃ殴られる覚悟も必要か…、
と思っていたが、その顔はむしろどこか哀愁が漂っていた。

「…普通だったら軟弱だと怒鳴ってる所だろうがな…流石にこればかりはそうもいかない」

大将は手に持っている包丁を眺めた。
しかしその目に映っているのは、決して使い慣れた『包丁』ではなかった。

「…いいか相棒ギコ…お前が無駄な殺しをしたくないって気持ち、それは俺にも痛いほど分かる。
俺も実戦で相手がどんなに俺に殺意を持っていても、絶対に命だけは奪わないと心に決めている。
だからお前のその気持ちはむしろ大切にしなくてはならない」
「…だったら何故……!!」

598N2:2004/03/16(火) 14:17

俺の言葉を遮るように、大将の包丁が俺の眼前まで飛んで来た。
そして、ぴたりと止まった。

「だがな、今のお前の最大の弱点はそれに自分の心が捕らわれていることだ。
お前は敵の身を案ずる余り、自分の力を完全に押さえ込んでしまっている。
それではお前は邪悪な敵を救う為に自分が犠牲になるということになるぞ。それでも良いのか?」
「…それは…」

俺は返答に窮した。
そんなのは流石に俺だって嫌だ。

「ならばまずは、狂い無き殺人術をその身に叩き込むのだ!!
そして一瞬の隙を生み出した敵の心臓を、頚動脈を、脳を、手首を、腕を、足を、
寸分の狂いも無く正確に破壊出来るようになったその時!!
…今度はその急所を正確に外し、相手を『生かす』攻撃へと発展させるのだ。
始めから生かすことを考えたのでは攻撃が甘くなるばかりだ。
お前の気持ちはよく分かるが、ここは何とか耐え凌いでくれ…大丈夫か?」

俺の中で、何かが吹っ切れた。
そうだ、俺は何の為にここで修行をしているのだ?
戦うということ。
それは誰かを傷付けるということ。
誰かを殺すということ。
俺は望んでその世界に身を投じたというのに…。

…いや、俺は始めからそんなことは望んでなんかいなかった。
俺は二度と戦いたくなんかなかったはずだ。
でも、それ以上に奴らが許せなかった。奴らへの殺意と復讐心が俺を戦いへと導いたのだ。
人を殺したくない。でも奴らは殺したい。
…俺は何を馬鹿で愚かな事を考えていたのだろうか。

俺はもう決して逃げない。現実から目を背けない。
俺が大量殺人を犯したこと。これは紛れもなく消せない事実。
では命を落とした者の為に、俺は戦うべきか、それともこれ以上の殺しは重ねぬべきか…。
答えは1つしかない。

「…はいッ!!」
俺は渾身の力を込めて返事をした。
俺は戦う。
それはこれ以上、無駄な犠牲を重ねぬ為にも。
そして、自分自身の為にも。

「…いい返事だ」
そんな俺を見た大将は、どこか安心したような表情を浮かべた。

599N2:2004/03/16(火) 14:18



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「うおりゃあああああああああ!!」

意識しなくとも、持ち上げようとすれば勝手に声が上がる。
オレはキッコーマソに命じられて、そんな殺人級の重さを誇るバーベルに挑戦している。
その重量、何と300kg!
今のベンチプレス世界記録が237.5だかそれくらいだそうだから、軽く超越している。

「どうしたどうした!それくらい持ち上げられなくては一流の戦士にはなれないぞ!!」

…随分と無茶言ってくれるよ。
オレも流石に黙ってはいられない。

「…じゃあ一つ聞きますけどね、このサザンクロスでこの300kgバーベルを持ち上げられる人がいるんですか?」
「………」

急に黙ってしまったキッコーマソ。
まさか。

「…一流戦士たるもの!己に与えられた試練は文句を言わず全て乗り越えるものなんだよ!
さあ、持ち上げろ!!」

…自分も持ち上げられないくせにオレには偉そうに要求していたのか…。
てかあんたの論理じゃ大将もリル子さんもあんたも三流ってことになるぞ…。

…待てよ。
逆に言えば、オレがこれを持ち上げたらオレは大将よりも凄いってことになるじゃん!!

600N2:2004/03/16(火) 14:19

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

そう思うと、俄然燃えてくる。
意地とど根性で、何としても…!!

「…!? な…バカな…!!」

キッコーマソの顔色がみるみる青ざめていった。
少しずつ宙に浮いてゆくバーベル。
徐々に徐々に腕にかける力を増してゆく。
頑張れオレ!あと一歩だ!!


…完全に持ち上がった時には既に全身は汗ビッショリだった。
こんなに体力消費したことなんて今までなかったぞ…。

「…ギコ屋、君は一体今まで何をしてきていたんだ…?」

キッコーマソもオレの偉業に心底驚いている様子だ。
オレはバーベルを持ち上げたまま彼に顔を向けて言った。

「…ったり前だ!!こちとら…一体今まで何回三陸海岸まで歩いて…
一人で丸木のイカダを押して…沖まで漕いで…ギコ釣った後にそいつらを台車に乗せて
また歩いて帰ってると思ってんだ!クラァ!!」

…言った後で気付いたが、オレって結構身体鍛えてるじゃん。
まあ何にしてもこれでオレは大将よりも…

「凄いな…大将とリル子嬢に続いてこれで3人目だ…!」

…一気に全身の力が抜ける。
そんな…もう先を越されてたなんて…。
(ガクッ)

「…ギコ屋? おいッ!!しっかりしろッ!!ギコ屋ッ!!」

…もう…だめぽ…。
遠のく意識の中で、オレはやかましく叫ぶキッコーマソの声が少しずつ薄らいでいくのを感じていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

601ブック:2004/03/16(火) 20:36
     救い無き世界
     第四十八話・黒「強縁」 〜その三〜


 ―――俺が孤児院に初めて来たのは、もう十年以上前の事だ。
 事故で両親を亡くした後、親戚中をたらい回しにされ、
 邪魔者扱いされたあげく、この孤児院に厄介払い同然にあずけられた。
 俺は大嫌いだった。
 俺を独りぼっちにした世間が。
 …独りぼっちになった自分が。

『トラギコ君、今日からここが君のお家よ。』
 孤児院に入った時、夫婦でここの先生をやってるおばさんが、
 俺に微笑みながらそう言った。

 だけど、さんざんあちこちで除け者にされてきた俺は、
 その言葉を素直に受け取る事など出来なかった。
 学校でも孤児院でも、俺は自分から壁を作って孤立していた。
 俺の傍に立つもの、『スタンド』に気づいたのも、この頃だった。

 俺が高校生になった時、荒れた。
 ろくに勉強もせず、夜中孤児院を抜け出しては街をぶらつき、
 毎日喧嘩に明け暮れていた。
 『スタンド』のおかげで、喧嘩に負けた事は一度も無かった。

 先公も、クラスメイト達も、俺の事は見放していた。
 俺を恐れて、近寄りすらしなかった。
 そんなのは、全然気になどならなかった。
 どうでもよかった。
 何もかも煩わしかったんだ。


 …だけど、あの人達は、違った。
 俺が警察の御厄介になった時、
 夫婦先生達が、息を切らしながら警察署まで飛び込んできた。

 そして…初めて、俺をぶった。
 涙を流して、怒りながら。
 周りの奴らは、俺とは関わり合いにならないべく、俺の事を避けていたのに、
 あの人達は真剣に俺を怒ってくれた。
 心から、心配してくれた。

 そこで、俺はやっと自分の馬鹿さ加減に気がついたのだ。
 俺は独りぼっちなんかじゃない。
 勝手にそう思い込んで、
 誰かに構って欲しくて暴れていた駄々っ子だったんだ。

 泣きながら、夫婦先生に引かれて孤児院まで帰った。
 院長は何も言わず、そっと俺に暖かい飲み物を差し出して迎え入れてくれた。
 坊主達も、皆心配そうに俺の帰りを待っててくれていた。

 …俺は一度家族を失った。
 だけど、再び素晴らしい家族に巡り会えた。
 だから、守ろうと思った。
 今度は無くさないように。
 今度は失わないように。


 そして大人になるにつれ、
 難しい事が少しずつ分かるようになってきた。
 そう、例えば孤児院の経営状態が思わしくない事とか。
 近いうちに、土地を明け渡さねばならなくなる事とか。

 金が、必要だった。
 ただ金が必要だった。
 神様は救ってくれない。
 祈っても、空からは一円だって降って来きやしない。
 『スタンド』という力も、資本主義経済の前では無力なもので、
 俺には何もする事が出来なかった。

 …『矢の男』に出会ったのは、そんな時だった。
 『矢の男』は言った。
 『君は優れたスタンド使いだ。私に協力するなら、望む物を何でも与えよう。』、と。

 選択の余地など無かった。
 俺は、日の当たらない世界の住人となり、闇にその身を沈めていった。

 守りたかったんだ。
 本当に、ただ純粋に、家族を守りたかったんだ。
 その為には、金が必要だった。
 仕方が無かった。
 仕方が無かったんだ…!

602ブック:2004/03/16(火) 20:37



     ・     ・     ・



 幼い男の子が、若い夫婦に泣きついた。
「あらあら、どうしたの?
 傷だらけになって。
 また苛められたの?」
 母親が、男の子の頭を撫でる。

「うえっ…ひっぐ……
 だって、あいつらが野良猫に意地悪してたから、
 止めようと思って…」
 声を詰まらせながら、男の子が喋った。
 父親が、そんな男の子を抱き上げる。
「そうか、えらいぞ。
 人の痛みを知って、人の為に闘える。
 それは、人間として一番大切な事だからね。」
 父親が男の子に微笑んだ。

「ほら、もう泣くのはおよしなさい。
 今日の晩御飯は、あなたの大好きなハンバーグを作ってあげるから。」
 母親が優しい声で語りかける。
「本当?」
 男の子が泣き止んだ。
「ええ、約束。」
 母親が男の子に小指を差し出す。
 男の子がそれに自分の小指を絡めて、指切りをした。
「さあ、それじゃあ家に帰ろうか。」
 父親が、男の子を肩車して担いだ。



「ねー。お父さん、お母さん。」
 帰り道、男の子が肩車の上から言った。。
「なあに?」
 母親が聞き返す。
「お父さんとお母さんって、どうして結婚したの?」
 男の子はそう両親に尋ねた。
 夫婦が、顔を見合わせる。

「そうね…やっぱり、お父さんもお母さんも、
 お互いの事が大好きだからかな。」
 母親が、少し考えた後そう答えた。
「じゃあ何で、お母さんはお父さんの事好きになったの?」
 男の子が続けて聞く。
「それは…上手く説明出来ないわね。」
 母親が苦笑する。

「よく分からないのに結婚したの?変なの。」
 少年が不思議そうな顔をする。
「ふふ。あなたにも、いずれ分かる時がくるわ。」
 そう言って、母親は父親の方を向く。
 父親が、それを受けて笑いながら頷いた。

「それなら、僕にもいつかお母さんみたいなお嫁さんと結婚出来る?」
 男の子が目を輝かせながら言った。
「ああ。お前が、今と同じ本当の優しさを忘れなければ、
 きっと出来るさ。」
 父親が穏やかな声で答える。
「本当!?」
 男の子が聞き返す。
「ああ、本当だとも。」
 父親が念を押すように言った。

「じゃあさ、じゃあさ、もし僕が結婚したら、
 お嫁さんとお父さんとお母さんと一緒に暮らすんだ。
 ずっとずっとずーーっと一緒に暮らすんだ!」
 少年が朗らかに笑う。
 夫婦はそんな我が子の姿を愛しむように見つめた。

「そうね。
 そうなったら良いわね…」
 母親が目を閉じて呟いく。
 夕日が三人を祝福するように、街を黄金色に彩っていった。

603ブック:2004/03/16(火) 20:37



     ・     ・     ・



 ゴリラの上から降りて、『デビルワールド』を解除した。
 俺の体が、元の醜い姿に戻る。

「……」
 孤児院の連中は、黙ったまま俺を見つめていた。
 その瞳には、恐怖と嫌悪が宿っている。

 俺はあいつらに目を向けた。
 その目は、どう見ても自分の子を見ているような目ではない。
 まあ、当然か。
 俺がこいつらの息子である事を知っているのは俺だけだ。
 こいつらにとっては、俺は単なる化け物だ。
 それでいい。
 それでいいんだ。

「……あ…」
 夫婦が、俺に何か言いたげな素振りをして、やめた。
 何だよ。
 これ以上、何か言う事でもあるというのか?
 こんな化け物に。
 一度捨てた子供に。
「……」
 顔を背け、夫婦の視線を黙殺する。

「…でぃさん。」
 みぃが俺に歩み寄ってきた。

 …俺は、いいのか?
 本当にこいつと一緒にいていいのか?
 『デビルワールド』は、始めの時とは比べ物にならない位大きくなっている。
 そしてこうしている今もなお、少しずつ大きくなっていっている。
 いつか、『デビルワールド』を抑えられなくなって、
 みぃを傷つけてしまうかもしれない。

 だけど、
 それでも俺は、こいつと…


「危ない!!」
 夫婦の妻の方が叫んだ。
 何だ。
 一体何―――

「!!!!!!」
 ゴリラが俺とみぃに向けて、腕の仕込み銃を構えていた。
 しまった、まだ完全に殺しきっていなかったか…!

 やばい。
 スタンドを発動させていない状態で喰らったら、
 いくら何でもまずい。
 それにこのままだと、みぃまで巻き添えになる…!
 急いでスタンドを!
 駄目だ、間に合わな…

「!!!!!!!!!」
 連続する銃声。
 俺は思わず目を瞑った。


 …―――しかし、銃は確実に発砲された筈なのに、
 俺の体に銃弾が当たる感触は、一つとしてなかった。
 馬鹿な。
 何故―――

「!!!!!!!!」
 その時、気づいた。
 あいつらが、二人で俺とみぃを銃弾から庇ってくれた事に。

 …待てよ。
 何だよ、これは…
 これは一体、何なんだよ!!


 …―――跳躍。
 ゴリラの頭を叩き潰し、今度こそ確実に止めを刺す。

「!!!!!!!」
 そして、俺は急いであいつらの元へと駆け寄った。
 みぃが、『マザー』の手を二人にあてがっている。

「……!」
 みぃの目からは涙がこぼれていた。
 まさか、まさか駄目だというのか?
 傷が深すぎてもう『マザー』でも手遅れなのか!?

 駄目だ。
 頼む、みぃ。
 治してくれ。
 お願いだから、助けてやってくれ…!

604ブック:2004/03/16(火) 20:38


「……あ…う。」
 二人の手が、何かを求めるように持ち上がった。
「……!!」
 俺はその二人の手をしっかりと握りしめた。
 そこから、二人の命の力が急速に失われていくのが分かる。

「………さい。」
 お母さんが、俺の顔を見ながら何か言おうと口を開いた。
 もういい。
 もういいから、喋るな…!

「…ごめんなさい……」
 …そう言い遺し、お母さんの体が一気に冷たくなっていった。
 その後を追うように、お父さんも動かなくなる。

 やめろよ…!
 冗談はよしてくれ!!
 何がごめんなさいだ!?
 どういうつもりで言ったのか、まるで分からねぇだろうが!!
 好き勝手言いたい事だけ言って死ぬな!!!
 俺には、俺にはまだあんたらに言いたい事が山程あるんだぞ!!
 だから、死ぬな…!
 死なないでくれ!!
 お父さん…お母さん…!!

 俺の瞳から涙が溢れ出した。
 …殺そうと思っていたんだ。
 俺は、一時こいつらを殺そうとまで思っていたんだぞ!?
 それなのに、なんで…!


「!!!!!!」
 その時、体がぶつけられた殺気に反応して、
 反射的にその場から飛びのいた。
 次の瞬間、背中にぱっくりと亀裂が入ってそこから血が噴き出す。

「!?」
 俺は急いで後ろを振り返った。
「!!!!!」
 そこには、トラギコがスタンドを発動させ、
 殺意のこもった目で俺を睨みつけていた。
 目の端には、涙が浮かんでいる。

「……いで。」
 トラギコが、先程よりさらに大きい殺気を俺に叩きつける。
「貴様の所為でぇ!!!!!」
 トラギコが俺に突っ込んでくる。

「!!!」
 俺の体の全身が、死を警告した。
 ヤバい。
 よく分からないが、何かヤバい。
 言い知れぬ危険を感じ取り、咄嗟に右に跳ぶ。

「!!!!!!!!」
 刹那、俺の左腕が切断された。
 もしもう少し動くのが遅かったなら、胴体を真っ二つにされていただろう。
 だが、何だ。
 今、一体何をされたんだ!?

「あの人達は、俺の家族だった…」
 トラギコが、ゆっくりと俺に歩み寄って来る。
「お前は、それを奪ったんだ。」
 と、トラギコが途中で足を止めた。
 そして、脇に目を向ける。
 ―――!
 まさか、こいつ!!

「この罪は、お前の大切な奴の死で償って貰う!!!」
 トラギコがみぃに対してスタンドを発動させる。

「!!!!!!」
 させない。
 絶対に、それだけはさせない…!

 脚をスタンド化。
 一気に加速し、トラギコよりも早くみぃに接近。
 残った右腕でみぃを掴むと、孤児院の外へと向かった。
「!!!!!」
 みぃに向けられたであろうトラギコの正体不明の攻撃が、
 俺の右脚を両断する。
 だが、ここで止まる訳にはいかない。
 残った左脚の力で孤児院から飛び出す。

「でぃ!!
 貴様は、貴様だけは殺す!!
 地の果てまでも追い詰めて、必ず俺が殺してやるからな!!!」
 後ろから、トラギコの叫びが俺の背中に浴びせられた。



 片腕片脚のまま、嵐を中を切り分けて進む。
『お前の所為で!!!』
 さっきのトラギコの声が、頭の中で再び繰り返された。

 …そうだ。
 俺の所為だ。
 俺が、お父さんと、お母さんを…


 腕と脚の切断面から、血が流れ出ていく。
 しかし血と一緒に、それ以外の何か別のものが
 そこから確かに失われていくのを、俺は感じていた。



     TO BE CONTINUED…

605ブック:2004/03/17(水) 21:42
     救い無き世界
     第四十九話・黒「狂焔」 〜その一〜


 災厄の中心部に向かってひた走る。
 街はもはや、以前とは全く別物と言っていい程その姿を変えていた。
 地面は割れ、建物は崩れ、道にあるは生者ではなく死者の屍。
 それらを雨と風が容赦なく打ち据える。
 ここは、まさに地獄だった。

「小耳モナー、あれは!!」
 私は前方にリムジンを発見し、それを指差した。

「ああ、あれだモナ!」
 小耳モナーが叫ぶ。
 リムジンからは、どす黒く禍々しいオーラが立ち込め、
 それが夜の闇へと混ざっていっている。
 間違いない。
 あの中に、この天変地異を引き起こしている張本人がいる。

「……!?」
 と、車が進むのを止めて、その場に停車した。
 そこから、一人の男が車のドアを開けて出てくる。
 そして、リムジンは再び発進してその場を走り去っていく。

「待…!」
 私はすぐにリムジンを追おうとした。
「……!」
 しかし、その意思とは裏腹に足が止まる。
 小耳モナーも、その場に固まっていた。
 理由はすぐに分かった。
 リムジンから降りたあの男…
 そいつから発せられる殺気の所為だ…!

「…ようこそ、お初にお目にかかる。
 SSSのエージェント諸君。」
 男が私と小耳モナーに目を向けた。
 この男の顔、どこかで見た事がある。
 そうだ、こいつは…

「梅おにぎり…!」
 私はそう言って身構えた。
 『大日本ブレイク党』参謀の片割れ、梅おにぎり。
 こいつ程の男が車を護衛していたとは。

「…その車の中に、この災害を起こしているスタンド使いが居るのかょぅ。」
 私は梅おにぎりに尋ねた。
「そうだとしたら?」
 梅おにぎりが不敵に笑う。
「そこを退くょぅ。
 これ以上、街を目茶苦茶にはさせなぃょぅ。」
 私は梅おにぎりに向かって一歩踏み出した。
「それをさせない為に、私がいるのだがね?」
 梅おにぎりが答える。

「…そうか。
 なら……」
 私は『ザナドゥ』を発動させた。
「力ずくで退いて貰うまでだょぅ!!」
 私は梅おにぎりに向かって突進した。
 この強風の中では、『ザナドゥ』の力は存分には発揮出来ない。
 しかし、それでも私の『ザナドゥ』は近距離パワー型。
 純粋な接近戦でも闘える。
 それに、こちらにはもう一人小耳モナーが居るのだ。
 勝機は十分にある。

606ブック:2004/03/17(水) 21:42

「『ザナドゥ』!!」
 スタンドの右拳を梅おにぎりに繰り出す。
「『ヘルファイアー』!!」
 梅おにぎりの傍に、スタンドのビジョンが現れ、
 『ザナドゥ』の拳を受け止めた。
 このパワーとスピード…
 こいつも近距離パワー型!

「ならば!!」
 私は今度は左腕を突き出した。
 こうなれば、ラッシュの打ち合いで…

「!!!!!」
 突然、左腕が発火した。
 馬鹿な。
 一体、何をされたのだ!?

「喰らえ、『ヘルファイアー』!!」
 私が突然の出来事に驚いている隙をついて、
 梅おにぎりが攻撃を仕掛けてきた。
「ぐあ!!」
 胸部にパンチを叩き込まれて、ぶっ飛ばされる。

「!!!なあ!?」
 その瞬間、今度は全身から炎が噴き出した。
 これだけの強風と豪雨にも関わらず、炎はその勢いを何ら弱める事なく燃え盛る。

「くっ…!」
 私はそのまま地面に叩きつけられた。
 この炎…
 これが奴の能力か…!

「!?」
 その時信じられない事が起こった。
 風と雨に晒されてもあれだけ激しく燃えていた炎が、
 地面に落ちたと同時に風と雨によって沈下したのだ。
 何故だ?
 さっきまでは風や雨では消せなかったのに、何故…?
 いや、それよりも、梅おにぎりはいつ私に炎による攻撃を仕掛けたのだ?

「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 小耳モナーが自身のスタンドを発動させた。
「行くモナ、『アルナム』!!」
 小耳モナーが『ファング・オブ・アルナム』に命令する。
「合点だ!!」
 『ファング・オブ・アルナム』が梅おにぎりに飛び掛った。

「『ファング・オブ・アルナム』!!
 梅おにぎりに触れては駄目だょぅ!!」
 私は『ファング・オブ・アルナム』に向かって叫んだ。
「!?」
 『ファング・オブ・アルナム』が驚いて動きを止める。

「…ぃょぅの体から火が出たのは、奴に触ってからだょぅ。
 恐らく、奴の能力はあいつに接触する事で発動するんだょぅ。」
 しかし、どういう理屈で体が発火するのかは未だ分からない。
 早く、早く攻撃のスイッチを見つけなければ…!

「流石に機転が利く。
 しかし、私に触らずにどうやって私を倒す?」
 梅おにぎりが失笑した。
「それなら、既にお前に触っているぃょぅが…!」
 私はそう言って梅おにぎりに駆け寄――…

「あ…!!!」
 全身が炎に包まれる。
 まただ。
 またしても体からの突然の発火。
 一体、奴はどうやって私に攻撃しているのだ!?
 しかしこの炎、心なしかさっきぶっ飛ばされた時より火力が弱い…?

「お前はそこでじっとしていろ。」
 梅おにぎりは小耳モナーへと狙いを定め、彼に向かって行った。
 まずい。
 小耳モナーまで攻撃されたら、状況はかなり悪くなってしまう。

607ブック:2004/03/17(水) 21:43

「小耳の親分!」
 『ファング・オブ・アルナム』が、小耳モナーを背に担いで
 梅おにぎりから彼を遠ざける。
 ナイスだ、『ファング・オブ・アルナム』。
 よし、梅おにぎりの注意が小耳モナーにいっているうちに、
 私が奴を―――

「!!!!!」
 再び、私の体から炎が立ち昇った。
 糞。
 動こうと思ったらすぐこれだ…
 だが、やはり妙だ。
 炎の勢いが、やはり今までのとは全然違―――

「!!!!!!」
 そうか、分かったぞ。
 攻撃のスイッチが!

 奴の能力、
 それは多分、『奴と接触したものを、それが移動する事をスイッチに自然発火させる事』。
 だから、さっき奴に駆け寄ろうとしたり、攻撃されてぶっ飛ばされた時に、
 体から炎が出てきた。
 そして…恐らく速く移動すればする程、勢い良く発火する…!

「…その様子だと、どうやら私の能力に気がついたみたいだな。」
 梅おにぎりが私の顔を見て言った。
「『動くと発火する』。それで当たりだよ。
 だが、それを知ってどうする?
 もはや君は我が能力の支配下にある。」
 梅おにぎりが余裕の笑みを浮かべた。

「動かなくとも、攻撃は出来るょぅ!
 『ザナドゥ』!!」
 風の流れに逆らって風を起こすのではなく、
 風の流れに沿うように、能力を発動させる。

「なっ…!!」
 梅おにぎりが、風で吹き飛ばされた。
 奴がそのままの勢いで壁に叩きつけられる。
「がっ!!」
 梅おにぎりの口から、苦渋の声が漏れた。

「ここだ!!」
 『ファング・オブ・アルナム』が、倒れた梅おにぎりに踊りかかる。
 しかし、その時私は見た。
 梅おにぎりの目が、まだ死んでいないのを。
「行くなょぅ、『アルナム』!!
 そいつはまだ戦えるょぅ!!」
 そう言うが早いか、梅おにぎりのスタンドの拳が
 『ファング・オブ・アルナム』に伸びる。
 とっさにかわす『アルナム』。
 寸前の所で、梅おにぎりのパンチは空をきった。

「…ぃょぅの旦那に言われなければ、貰ってましたぜ。」
 『ファング・オブ・アルナム』が呟いた。


「はっ…はぁ……
 『風』か、貴様の能力は……」
 梅おにぎりが、私を睨んだ。
 その口からは、血が流れている。

「…ならば、これならどうする!?」
 梅おにぎりは、そう言うとその場から走り出した。
 …!
 まずい。
 あの場所に移動されては駄目だ…!

「くっ、『ザナドゥ』!!」
 急いで風を起こす。
 だが―――


「やはり、この位置なら安全だな。」
 突風をぶつけたにも関わらず、梅おにぎりは僅かに身じろいだだけだった。

 風上に、立たれた。
 これでは、奴に向かって風を起こしても、
 向かい風でその勢いを相殺されてしまう。
 もし向かい風の流れに沿わせて風を起こしたら、
 私まで巻き添えだ。
 …いや、動けば燃えてしまう分、私の方が圧倒的に不利……!

「あの狼は私に直接攻撃出来ない。風も駄目。
 八方塞がりとはこの事だな。」
 梅おにぎりが、私に歩み寄って来る。
「まずはお前からだ!
 死ねぃ!!!」
 梅おにぎりが、一気に私との距離を詰めた。



     TO BE CONTINUED…

608( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:22
ハートマン軍曹は、まだ幼い私の『才能』を見抜き
私の『才能』を100%引き出す為に訓練してくれたおKATA・・。
この人が居なかったら私は今頃ただの『グズ』でしTA・・。
スイマSEN。巨耳モナーSAN・・・私はこの人を裏切る事はできまSENUッ!

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―裏切者の末路

「ハー・・トマン・・軍曹・・・ッ!」
ムックの体が震え始めた。どうやら知り合いらしい。
そしてこの『ハートマン』という名前、何処かで聞いた事が・・
「まだそうやって怖い者を見ると震えてやがんのかウジ虫が。所詮鍛えた所でウジ虫はウジ虫なのだな。」
「なッ・・テメェッ!!」
俺が殴りかかろうとするとムックが俺の肩をつかんだ。
「駄目・・DESU・・。」
「ククッ・・裏切ってもまだ『忠誠』だ何だいってやがんのか。これだからクソはいかん。なんの役にも立たないしぼりかすだというのに
妙に臭いだけを発する。」
??話が読めん・・一体この二人って・・?
「しかし、類は友を呼ぶ。というのだな。」
「あ?」
「ウジ虫が呼び寄せるのはウジ虫だ。という事だ。」
プッツン
今俺の中の何かが『キレ』た。許せねぇ。コイツがムックとどんな関係だろうがもう『許せねぇ』ッ!!
「フザけんなこの味噌粕がァ――ッ!」
俺はムックの手を振り払いノートパソコンを開きジェノサイアを突進させた
「クソはいくら集まっても肥溜めにしかならんのだァッ!」
ハートマンはまたも地面に手を突っ込むと巨大な手が地面から現れ突っ込んでく俺の首根っこを的確につかんだ。
「ァ・・ッ!ガ・・ァ・・ゥッ!」
「足掻いても無駄だ腐れウジ虫がッ!」
ハートマンは俺の首根っこを掴む手を強める
「・・がッ・・ハ・・・ァッ『ヅェ・・ノ・・ザ・・ィ・・ァ』ッ!・・」
俺が決死でそう叫ぶとジェノサイアはノートパソコンから出てきてハートマンの後頭部をブン殴った
「アガグゥッ!」
ハートマンは間抜けな叫び声を上げると手が少し緩まった。俺はそのスキを突き手から離れた
しかし、俺が突っ込もうとすると俺は思いっきり誰かに掴まれた

609( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:23
「・・ムックッ!?」
「・・・・・。」
「ほほぅ・・ムック・・。『もう一度戻りたい』というのだな?」
ハートマンは立ち上がった
「・・・HI・・。」
!?
「フザけるな!大声出せ!金玉落としたかッ!!」
「HIッ!!」
!!!?
「お・・おいッ!ムックッ!?」
「ハートマン軍曹は、まだ幼い私の『才能』を見抜き
私の『才能』を100%引き出す為に訓練してくれたおKATA・・。
この人が居なかったら私は今頃ただの『グズ』でしTA・・。
スイマSEN。巨耳モナーSAN・・・私はこの人を裏切る事はできまSENUッ!」
そう言うとムックは俺から手を離し、背中にパンチを放ってきた
「ムック砲ゼロ式ィッ!」
「アグッ・・・ァッ・・ッ!」
「クク・・巨耳モナー。貴様にも話がある。」
ハートマンはもだえ苦しむ俺を見下して言った
「我ら『キャンパス』の仲間にならんか?」
!?
「え・・・」
「ムックも居るし、問題は無いだろう?悪い条件じゃああるまい。俺らは貴様らを歓迎しよう」
「ふ・・ざけ・・」
もだえ苦しんでる俺の顔の真横に何かがかすった。
・・腕だ。
「口でクソ垂れる前に『サー!』と言え!!」
「s・・」
ハッ!
危ねぇ危ねぇ!もうすぐで『サー』っていっちまうところだった!
なんちゅう誘導だ!まるで口が動かされてるような・・
「フザけるな!大声出せ!タマ落としたか!!」
「s・・」
マズい!もう駄目だ!言っちまう言っちまう言っちまう・・
「フザけてるのはどっちだ。」
俺の頭上に何か高速の物が通った
そしてその物体は腕についているマシンガンをいきなりブッぱなした
「ヌアァッ!?貴様ッ!何者だァッ!?」
その物体は地面に無事着地し、そのシルエットを見せた
灰色の髪
圧倒的な存在感
いつのまにか着替えたのやらキュートな制服
そして、今地面でもだえ苦しみ転がっている俺しか見えないであろうパンt・・ゲホゲホ
間違いない。彼女は・・
「岳画殺。『殺す』と書いて『さつ』と読む。」
「ククッ・・なかなかキュートなお嬢さんではないか。じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる! 」
「殺ちゃ・・ん・・怪我・・は・・?」
殺ちゃんはハートマンのから目を離さず俺に言い放った
「・・そんなもので休んでいるヒマはない。それとなるべく上を見上げるな。」
・・バレてたか
俺は下手すると殺されそうなのでとりあえず上を見上げないようにした
「行くぞ。」
「来いッ!ウジ虫がッ!」
二人の姿が消える。
と思ったら天井近くまでジャンプしていた。
おっと、そういえば上を見上げてしまった
「跳躍力、スピードともに中々あるようだな・・『ドブネズミ』って所かッ!」
「・・それはどうも」
殺ちゃんは火炎放射器を構え、ハートマンに向かって放った。
が、ハートマンの全身はみるみる内に天井に引きずりこまれた
「なッ!?」
殺ちゃんは唖然とする。・・矢張りアレはアイツの『スタンド能力』か・・。
「ククッ・・どうやら貴様らはウジ虫様の能力じゃ駄目なようだな・・『ドブネズミ』としてみてやって・・俺の『全身芸』を披露してやる!」

610( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:24
すると天井から二本の足が
そして床からは両手が現れた。
「そん・・な・・一本・・だけぢゃ・・。」
「死ねェいッ!ドブネズミどもがァ――ッ!」
「・・!」
殺ちゃんは何かをみつけた様子で窓の方を向き、全身の武器を向けた。
「死ぬのはお前だ。巨耳モナー!伏せろッ!」
・・さっきから伏せてるんだけどなぁ・・。
しかし殺ちゃんは戦闘開始からずっと『魔眼』でいるようで、
痛みは治まったのに俺は怖くて立てない。
ムックが俺に攻撃しないのもそのせいだ。
・・なのにあの『ハートマン』とかいう軍曹・・。さっきから顔色一つ変えないでいやがる・・。
どうやら『キャンパス』っつうのは相当ヤバい奴の集まりの様だな・・。
「『死ぬが良い』」
殺ちゃんはそう言うと全身の武器をぶっ放した。
窓・・いや、病室の3分の2が吹っ飛んだ。なんちゅう威力だ。
「ヤレヤレ・・。ここまで私を・・」
「本気にさせるとはな。」
!!
ハ・・ハートマン!殺ちゃんが後ろをふりむくとソコにはハートマンの野郎がたっていやがった。
「しかし、あと数秒遅れていたら俺は死んでいただろう。中々やるじゃア、ないかッ!」
ハートマンは唖然としてる殺ちゃんの鳩尾に拳を放つ
「カ・・ハァッ!」
あの殺ちゃんが鳩尾といえど、たったの一撃で倒れた。
「フンッ。私はムックを育てた男だぞ。筋力はムックの倍以上ある。」
ば・・馬鹿な・・・。あの威力の倍?大丈夫なのか殺ちゃん・・。
「さて、巨耳モナー。考えはついただろう?どうだ?われらが『キャンパス』に来ないか?」
アレを言われる前に言うんだ!言うぞ!言うぞ!
「・・だが断るッ!」
俺は『決まったッ』と思いつつ立ち上がる。
「俺が一番好きなことは・・」
ヒュオッ!
ハートマンのパンチが風を切りながら俺の顔を横切る
「そうか・・ならば良い。ムックッ!」
「HIッ!」
さっきまで腰を抜かしてたムックはすっかり元気になりハートマンの前に立った。
ムックが俺に向かって来る時、ハートマンは不審な行動をした
手を地面に向けて伸ばしだしたのだ

611( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:24
・・・まさかッ!
「ムックゥッ!危なッ――」
俺の声は遅く、次の瞬間には巨大な手がムックの体を貫いていた
「ゾ・・ん・・な゛・・バートま゛ん・・ざま・・?」
「俺がこの世でただ一つ我慢できんのは―――2回以上『裏切った』奴だッ!
まずわれ等が『キャンパス』を裏切った後は『巨耳モナー』を裏切るだァ―?
セイウチのケツにド頭つっこんでおっ死ね!ドブネズミがッ!」
ハートマンはムックの毛を掴み、メンチをきりながら言った
そして、しゃべり終わると毛を毟り取って放り投げた
「ア゛・・が・・バ・・バー゛ドま゛ン゛ざばァ゛・・」
ムックはピクピク痙攣しながらズルズルと体をひきずりハートマンの足を掴んだ
するとハートマンはその手を蹴飛ばし
またもムックにメンチをきった
「死ぬか? 俺のせいで死ぬつもりか? さっさと死ね! 」
今度は投げ飛ばさず床に顔面を思いっきりたたきつけた
「死ねッ!死ねッ!死ねェ―――ィッ!!」
ドゴッ、ドゴッ、ドゴォッ!
段々とムックの顔が血で染まって紅くなって行く(変わってない
「テんメェェェェッ!許さねぇぞッ!ハァァァァァトマ―――ァンッ!『ジェノサイア』ァァッ!」
俺は近くに置いてあったテレビをハートマンに投げつけ、そこからジェノサイアを出した。
しかしハートマンは軽々と避けてみせる
「チクショウッ!こうなりゃあ巨耳家に代々伝わる『秘策』を使うしかねぇ!」
「ほほぅ。面白いな。やってみろドブネズミ。」
「・・・逃げるんじゃよォ――ッ!!」
俺はそういうと一気に走り出し、病院の廊下に出た。
「どうしたハートマンッ!怖くて追って来れねぇかァッ!?」
俺が挑発するとハートマンはキレたらしくすごいスピードで向かってきた
(よしッ!このままおびき寄せればッ!)
俺はひょいひょいっと階段を下っていった。
しかし後ろからハートマンが物凄い形相で吹っ飛んでくる
「・・・まるで地獄のかけっこだな・・。」
だが、もうゴールはすぐそこだッ!行けるッ!勝ったッ!
「あ・・っ!」
ワックスで磨き上げられていたのか、俺は何も無い床で大転倒した
「フッハハハハアハハハハ!!ドブネズミにお似合いの格好だなぁッ!
そしてッ!この無様な格好のまま・・死ねェィッ!」
ハートマンが床に腕を突っ込もうとしたその時
「かかったなッ!アホがッ!!」
ハートマンの腕の何十倍もの腕が現れ、ハートマンの全身を吹き飛ばした
「ば・・かなァッ!」
超巨大の拳を食らったハートマンは吹っ飛んでいく最中にあるモノを見つけた。
「そうか・・逃げたわけじゃなく・・貴様・・おびき寄せたのだなッ!!
この・・『超巨大TV』があるロビーにッ!!」
そう。この病院にはお年寄りにもちゃんと見えるように
映画画面級の超巨大TVが用意されている。
「かかってからじゃア、もう遅いッ!死ねェィッ!」
ハートマンはそのまま吹っ飛び柱に当たった・・かと思いきや
ハートマンはそのまま柱に吸い込まれていった
「そんなッ・・!」
「ハァ・・ハァ・・危なかったぞ・・もう少しダメージを受けていたら・・
気を失い『死んでいた』だろうな・・ッ!だがッ!これで俺の勝利は確定だッ!」
ハートマンはTV画面にスタンドを突っ込し、超巨大TVを破壊した
「ク・・ッ!」
「そしてッ!死ねェィッ!ドブネズミがァッ!」
俺はとっさに携帯電話を構え小さなジェノサイアを出した
「ハハッ!『溺れる者は藁をも掴む』というのは本当だったのだなァ――ッ!」
・・・・・なんだ?
・・ハートマンの手が止まっている
いや、『ブレ』ている
それもジェノサイアが携帯から出て人型で俺の隣に立っている。
・・コレは、聞いたことがある・・
「スタンドの進化・・。『ジェノサイアact2』・・?」
←To Be Continued

612( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:28
登場人物

――――――――――巨耳派――――――――――

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。
 スタンドは『ジェノサイア』。↓参照。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  彡. (・) (・) ミ
 彡        ミ
 彡   ▲    ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 ただ、↑の言葉はダテじゃなく、戦闘能力はズバ抜け

 スタンドは『ソウル・フラワー』。ビジョンは下半身の無い人型で胸にバラ。額にひまわり、両肩に紫陽花が咲いている。
 能力は『花を咲かす』こと。ただし、花の栄養分をコントロールして傷等の回復を早めたり、
『どんな風に咲いたどんな花か』などの詳細情報も操作可能。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・ひょんな事から巨耳モナーに協力する事になった少女。
 『魔眼』を持ち、ソレを隠してるコンタクトレンズを外すと
 どんな者でもその場にたったり、目を合わせる事ができなくなる
 普通の成人男性でも気を失わない様にするだけで必死。
 コンタクトをつけた後でも震えは止まらない。

 スタンド能力は『リーサル・ウエポン』。ビジョンは無し。
 体の一部を『自分が一度でも見た事がある重火器』にする能力
 ただし、その重火器が破壊されるとその重火器に変えていた体にダメージを受け
 もう一度その武器を見ないとその重火器は使えない。
 また、結構重い為、出しっ放しは難しく、すばやい移動が出来ない。
 更に体中重火器な為、チャッカマンで弾丸に火をつけただけで大爆発する。
 必殺技は『死ぬが良い』。『死ぬが良い』という決め台詞と共に体中の武器をぶっ放す一斉射撃。

613( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:29
――――――――――キャンパス――――――――――

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい

  ∧_∧
  ( ´Д`)128等身(?)

・『キャンパス』の幹部。かなり長い。アンシャス猫達の『ペット』
 『危険レベル97』(最高は100)という称号を持つ怪物
 ちなみにこのレベルがどれくらい高いかと言うと、世界同時多発テロくらい危険。
 その体だけで相手を絞め殺す事も可能。組織の特攻幹部。早い強いキモい。
 でもかなりナイーブで傷つき安い為、扱い難い。
 『氏ね』って言っただけで泣く。『不細工』なんていわれたら立ち直れない人。
 しかしあまりにけなされると『超暴走状態』となり最強の怪物とかす。
 しかもとてつもない量の涙を流し、その涙の水圧で人の頭を吹っ飛ばす事ができる
 この時の状態で『危険レベル97』となる。

 スタンドは『アクア・ブギー』ビジョンは手が生えている水色の蛇型。
 能力は『水を弾丸並みの強度に変える事』。
 暴走状態のときの涙も弾丸並みの強度になるのでとてつもなく強い。

  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 l v lミ l v l)アンシャス猫(?)

・『キャンパス』の幹部。『2匹で一匹』がモットーらしい
 決め台詞は『鈴木宗男デシタ!!』。
 煽るのと心の隙間に漬け込むのがとても上手い。組織中でも洗脳のスペシャリスト。
 失敗するとただ怒らせるだけ。ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。

 鈴木さんのスタンドは『ピュア・エスケイキズム』。
 半径5メートル以内に現在の自分の心境によって震度が変わる地震を発生させる。
 最大で関東大震災レベルの震度を出すことが出来る。ビジョンはマッチョな男型。
 宗男さんのスタンドは『エンチャント・メント』。
 ビジョンは矢をもった白い女神像。当たった相手の『運』を吸い取る事が出来る。
 この矢に刺されれば刺されるほどジブンは不運になっていき、矢は幸運になる。
 連続で放てる矢は最大で10本まで。

   /ノ 0ヽ
  _|___|_
 ヽ( # ゚Д゚)ノハートマン軍曹(?)

・『キャンパス』の上級幹部。教育係。
 超スパルタで有名でムックを『育てた』張本人。
 口が悪いながらも人望は結構厚い人

 スタンドの能力の詳細は不明。
 どうやら床や壁に体をもぐらせ、巨大化させて出す能力


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

 スタンドは『ザット・ガール』。ビジョンはドス黒い顔に鉄製のマスクをつけたスタイル抜群のメイド。
 能力は通常の重力の1.5倍の重力を与える『重力球』と150〜200倍の重力を与える『重力弾』を作り、放つ事。
 因みに重力球の重力発動条件は『相手に当てるor触れる』事だが重力弾の重力発動条件はわかっていない。

614( (´∀` )  ):2004/03/18(木) 09:30

――――――――――謎の敵――――――――――

   〆⌒ヽ
  ( :::::::::::)緑の男(?)

・ 殺を助けた男。一応背は八頭身。
 ムックを殺そうとしているらしく、ジブンの個人情報を漏らすのも嫌う謎の人物。
 アンシャス猫の攻撃を全て防ぎ、さらに始末した。
 普段は結構明るくおちゃらけた性格だが、ムックの事や『食』に関することとなると一変する
 決め台詞は『食 べ ち ゃ う ぞ 』。怖い。

 スタンドは『ジミー・イート・ワールド』。ビジョンは蛙の様な四足歩行で緑色の怪物。
 歩いた跡にカタツムリが這った跡の様な分泌液が付く(無害)
 完全な雑食でゴムから金やダイヤまで噛み砕く顎を持つ。スピードはとてつもなく早く、
 一旦目を付けられたらもう諦めるしかないのかもしれない。

  ∧_∧
  ( :::::::::::)矢の男(?)

・すべてにおいて謎の男。『弓と矢』でスタンド使いを増やしているが
 その目的は不明。部下を殺す非情さと全てを支配するかのような眼をもっている。
 その眼に睨まれた者は精神がイッてしまったりする。
 更に彼がいるだけで周りの空気が変貌し、かなり重くなるらしい。
 スタンドについてはまだ何もわかっていないが、かなりの実力者。

615アヒャ作者:2004/03/18(木) 20:46
壊れていたパソがやっと直った・・・・。

合言葉はwell kill them!(仮)第八話―二つの刃その②

ツーははその手に無造作に刀を構え、大雑把な動きでアサピーに一歩づつ近寄っていく。

「いっくぜええぇ!」
地面を蹴って跳躍。猛り狂った雄牛のように突進していく。
ツーは一気に間合いを詰めると獲物目掛けて炎を纏った刀を振り下ろした。

アサピーは身を沈めると、危険地帯から体ごと転がり出た。

大振りに振り払われた一撃。その切れ味よりも目を見張るのは圧倒的パワー!
塀をただの一振りでバラバラに吹き飛ばす。

(一撃であの威力か!?よっぽどの事が無い限りかわす事は難しくないが、もし受け止めたりしたら俺の体が持たないぞ・・・。)
アサピーは距離を取ると刀を上段に構えなおした。

ツーは地面ににめり込んでもキックバックさえ許さない異常なパワーで刀を引き抜くと足下でわずかに振りかぶり
「テ…テメェッ!ただじゃおか……おぉっ!?」
ゴルフクラブのように斬り上げると、慣性を利用して回転斬り、
更に前回転一足飛びからの縦斬りまでを一連の動作として済ませると、
「え…あ?どわぁあっ!」
不覚にも尻餅をついたアサピーめがけて一気に振り下ろした。

しかしアサピー、これくらいでやられる男ではありません。
刀が振り下ろされる前にツーの顔面に蹴りををお見舞いしてやりました。

ゲシャア!!
「ぐあァァッ!」
ツーが顔面を押さえてよろめいた。

アサピーが立ち上がった。
「なかなかやるじゃねえか。久しぶりだな、腕の立つ相手は。」
「お褒めの言葉ありがとさん。一応剣道や喧嘩で鍛えているからな。」
ツーも一旦距離をおくと刀を構えなおす。

「しぇやぁぁッ!」
アサピーは身を躍らせた。

ヒュバッ!
白刃の連撃が風を切る

「オラァッ!」

ガッキィィィィィンッ!

ツーの刀が受け止める。そして間髪居れずに斬り上げる。
だがアサピーの反応も迅かった。電光石火でスタンドの刀が斜めに地面を打ち下ろす。

「歪められた空間は・・・・俺とお前の間合いを広げる!」
「なにィッ!?」

信じられない速度でアサピーは回避して後方へと移動!ツーの刀は虚しく空を切った。

「…そうか!分かったぞお前の能力が!」

こいつの能力は空間を歪ませる事!
これで先ほどの自分とアサピーの間の距離が、一瞬倍近くの長さに伸びたような感じたことも説明が付く。

616アヒャ作者:2004/03/18(木) 20:47

「ほう。俺の能力が分かったのか。しかしそれがどうしたというのだッ!」
アサピーが突っ込んでくる。

「そうだ。お前には俺の能力を見せていなかったな・・・。せっかくだから見せてやるぜッ!」

ツーの刀にまとわりついた何条もの燃える炎が勢いを増す。
大蛇さながらに、うねうねと蠢き締め上げるスタンド炎!

シュゴオオオオオオオオオッ!

「くらえッ!火炎烈風斬!」

ドオッ!

炎熱がほとばしる!
火炎の塊がアサピー目掛けて飛んでいった。

「なにいィッ!炎を・・・・これがお前の能力!?」

ドゴオッ!

「グアァッ!」
炎がブチ当たり、アサピーは吹き飛んだ。

「フウゥー…やっと終わった。あれじゃあ一週間ほど入院だな。」
ツーはアサピーが気絶したのを確認すると家路へと急いだ。

・・・しかしなんだか引っかかる。
『空間を歪める力』を使えばさっきの攻撃はかわせたはずだ。
なぜ能力を使わなかったのか?
そんな事をふと考えながらツーは走っていった。

気を失った本体の傍らでハナミズキが思念を立ち昇らせていた。
(呼び寄せなくては・・・・・・新しい使い手を。)

しかしあいにくの時刻、誰かが通りかかる気配はない。
新しい使い手はスタンド使いが望ましい。
そうそう都合良くこの辺りに他のスタンド使いがいるなど、無理な相談かも知れないけど・・・。

(できれば若い奴の方がいいな。今まで使っていたアサピーといっていた奴の体は使い難かったからな。
 あ、可愛い女の子もいいかも・・・・。)

ハナミズキはそんな事を考えていた。
コイツの『空間を歪める力』、相手との間合いを自由自在に変えられるこの能力は無敵だ。
たった一つだけの弱点を除いては・・・・

617アヒャ作者:2004/03/18(木) 20:49

ツーはコンビニで購入した当たりつきアイス。『ポルポル君(ぶどうサワー味)』を食べ歩きしていた。
「はぁ〜、やっぱ体を動かしたした後は甘い物に限る!」
その着物姿はもちろんコンビニの定員さんにも怪しまれていました。

しばらく食べていると何か棒に書いてあります。
「おっし!当たりか!?」
しかしそこに書かれていたのは・・・・

『まけ』

(・・・・・何に負けたんだ?俺・・・・)

チッと舌打ちしてアイスの棒をくずかごに放り込みました。

「さてと・・・そろそろ帰るか・・・」
そう呟いたときだった。

スパァッ!

右のわき腹に激痛!何かに切られた。
「うぐぁッ!」
たまらずうめく。しかしすぐに身を起す。
何故なら、すでに殺気はまっしぐらツー目掛けて飛びかかってきているから。

月明かりを背負って、細身のシルエットが襲いかかる。
その頭上高くで白刃が青白くきらめく。

「しぇやぁぁッ!」
「うらぁッ!」

すぐさまスタンドで防御する。
「クククッ・・・また会ったなぁ〜、津田紅葉!」
「だ、誰だお前!?」

ツーが驚くのも無理は無い。見ず知らずの少年がそこに立っていたのだから。

「丁度この本体が俺のそばを通りがかってさ。体を乗っ取らせてもらったのさ。」
「なんだと!?まさか刀が・・・、刀が操っているのか?」
「その通り!俺は精神を操り、使い手を変えて生きるスタンドなのさ!」

少年は刀を正眼に構える。
ツーは先ほど斬られた傷口をスタンド炎で焼いて応急処置をする。

「くっ・・・・お前いったい何が目的なんだ?」
用心深く、後ずさりながら問い詰める。
「理由はただ一つ!いろんな奴と戦って自分がどこまで強くなれるか試したいからさ!」
やや前傾姿勢で刀を構える少年ももまた、ツーの動きに合わせて回りこむ。

(・・・・やれやれ、そう簡単には帰らしてくれそうにないか。)
ため息をつきながらツーは戦闘態勢に入った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

618ブック:2004/03/18(木) 23:40
     救い無き世界
     第五十話・黒「狂焔」 〜その二〜


 梅おにぎりの拳が私の目前まで迫る。
 已むを得ない。
 炎でのダメージ覚悟で防御を―――

「なっ…!」
 突然、梅おにぎりの動きが止まった。
 その肩口から、血が僅かに滲み出している。
「この…狼……!」
 梅おにぎりが舌打ちをした。

「『ファング・オブ・アルナム』…!」
 そうか、『ファング・オブ・アルナム』ならば、
 奴に直接触れずともその影を攻撃できる。
 だが…

「それしきで、私がころせるか!」
 梅おにぎりが『ファング・オブ・アルナム』を蹴り払おうとする。
 『ファング・オブ・アルナム』は後方に飛んで、
 梅おにぎりとの接触を何とか避ける。

「やっぱり、駄目モナ…」
 小耳モナーが悔しげに呟く。
 『ファング・オブ・アルナム』の牙は、
 梅おにぎりには殆どダメージを与えられていなかった。

 その理由は明白だ。
 辺りが暗い所為で影が薄く、
 影へのダメージを十分に本体にフィードバック出来ないのだ。

「余計な邪魔が入ったな。」
 梅おにぎりが再び私を狙う。
「『ヘルファイアー』!」
 梅おにぎりがフック気味に右拳を繰り出す。
「くっ、『ザナドゥ』!」
 こちらもそれをスタンドで防御。
「が…!」
 しかし、防御の為に高速で動かした腕がたちまち発火する。
 その痛みが、数瞬私を怯ませた。

「!!!!!!」
 その隙を掻い潜って梅おにぎりのスタンドが私を打ち据える。
 殴り飛ばされ、宙を舞い、
 私の体が火達磨になって肉を焦がす。

「ぃょぅの旦那!」
 『ファング・オブ・アルナム』が、梅おにぎりに飛びかかろうとする。
「……!」
 私はそれを目で制した。
 駄目だ、行くな『ファング・オブ・アルナム』。
 お前まで梅おにぎりの能力にかかったら、
 完全に手詰まりになってしまう。

 だが、どうする。
 風も駄目。
 『ファング・オブ・アルナム』の影攻撃も決定打にならない。
 もちろん直接攻撃は御法度。
 悔しいが、梅おにぎりに触れずに攻撃出来る方法は思いつかない。
 どうする。
 どうやって…

「……!」
 いや、一つだけ、ある。
 奴に触れる事なく、攻撃させる方法が。

 しかし、これはかなり命懸けになる。
 下手をしたら、死ぬかもしれない。
 …だが、やるしかない!

619ブック:2004/03/18(木) 23:40

「うおおおおおおおおおおお!!!」
 私は跳ね起きて、全力で梅おにぎりに突進した。
 全身を、紅蓮の炎が包む。
「馬鹿め…
 そんな事をした所で、勝てると思うてか!」
 梅おにぎりが自身のスタンドで迎え撃つ。

「『ザナドゥ』!!」
「『ヘルファイアー』!!」
 拳と拳が、脚と脚とが打ち合わされる。
 やはり、近距離パワー型同士、接近戦では互角…!

「……くあ!」
 そうこうしている間にも、炎は容赦無く私の体を蝕む。
 肉の焼ける独特の匂いが、私の鼻をついた。
 だが、今は痛みに気を取られている場合ではない。

「いくら炎のダメージを気力で振り払おうと、無駄だ!
 どれだけ頑張っても、お前はもうすぐ消し炭に……!」

 そこで、梅おにぎりの動きが止まった。
「……!
 なあ…!?」
 梅おにぎりの腕から血が滴り落ちる。
「!!!まさか!?」
 梅おにぎりが慌てて振り返る。
 そこには、『ファング・オブ・アルナム』が、梅おにぎりの影に噛み付いていた。

「…ぃょぅが火達磨になったのは、
 お前をぃょぅのスタンドで倒す為じゃなぃょぅ。」
 私は体中を火で包まれながらもなお、会心の笑みを梅おにぎりに見せ付けた。
「その狼、『ファング・オブ・アルナム』は、
 影を攻撃する事で、その影の持ち主にダメージを与える事が出来るょぅ…
 確かに今は真っ暗で、普通は薄い影しか生まれなぃょぅ。」
 私は言葉を続けた。
「だが!
 ぃょぅが激しく燃えれば、そこに濃い影を作り出す事が出来るょぅ!!」
 そして、小耳モナーと『ファング・オブ・アルナム』は、
 その作戦を読み取ってくれた。
 貰った。
 私達の、勝ちだ…!!

「貴様等なんぞにいぃぃぃ!!!」
 梅おにぎりが、反撃しようとする。
「『アルナム』!!」
 小耳モナーが叫ぶ。
 それと同時に、『ファング・オブ・アルナム』が
 梅おにぎりの影を縦横無尽に引き裂いた。

「ぐああああぁぁ!!」
 影のダメージがフィードバックし、全身から血を噴き出しながら、
 梅おにぎりが崩れ落ちる。
「馬鹿な…!
 この、私が!?
 だが、行かせん、行かせんぞぉ!!!」
 と、梅おにぎりが何かスイッチのような物を押した。

「!!!!!」
 瞬間、梅おにぎりの体が発光する。
 まずい。
 これは、自爆―――!?

 凄まじい爆音が、辺りに響き渡った。

620ブック:2004/03/18(木) 23:41



     ・     ・     ・



 リムジンの後ろの座席に、二人の男が座っていた。
 いや。人間の肉体は、リムジンの中には三つあるのだが、
 運転手はすでに眉間を打ち抜かれて絶命している為、
 正確には二人とするのが妥当だろう。

「チェックメイトですね。」
 右に座っている男が、隣の男に拳銃をつきつけた。
 にも関わらず、銃口を向けられた男には微塵の動揺も見られない。


 遠くから、何かが爆発する音がした。
「……」
 男が、その音に少しだけ耳を傾ける。
「…どうやら、大きな花火があがったみたいですね。」
 拳銃を突きつけたまま、男は世間話でもするように言った。

「…SSSか?」
 男が、拳銃を突きつけている男に尋ねた。
「ええ、『半分』は正解です。
 申し送れました。
 私、タカラギコと申します。」
 男が微笑みながら答えた。

「あなたは『大日本ブレイク党』の1総統で、相違ありませんね?」
 今度はタカラギコが聞き返す。
「そうだが、それで?」
 1総統がタカラギコに目をやる。
「外の有様は、あなたのスタンドの能力ですか?」
 タカラギコが質問を続けた。
「そうだ。」
 1総統が答える。

「そうですか。
 分かりました、もう死んで下さい。
 いい加減、邪魔なので。」
 タカラギコが引き金に指をかける。
「待て、こちらの質問にも答えて貰おう。」
 死を前にしてもなお、落ち着いた感じで1総統が問う。
「いいでしょう。
 で、何ですか?」
 タカラギコがその1総統の振る前に関心するかのように言った。
「先程私が『SSSか?』と聞いた時、『半分』と答えたな。
 では、もう半分は何かね?」
 1総統がタカラギコの顔を見る。

「ああ、それはですね……」
 タカラギコがその問いに対する『答え』を口にした。

「…はっ、ははは……!
 そうか。
 あ奴の差し金か。」
 1総統が笑い出す。
「異な事だ。
 さんざん手助けをしておいて、手の平を返すとは。」
 1総統が笑い続ける。

「…手助けした心算はありませんよ。
 体よく利用させて貰っただけです。」
 タカラギコが無表情な顔で答える。
「ですが、それもここまでです。
 用済みになった大根役者は、さっさと舞台から退場して下さい。」
 タカラギコが、1総統の頭に照準を合わせた。

「…お前達は、何が目的なのだ?」
 1総統がタカラギコに聞く。
「さあ?
 何でしょうねぇ。」
 そして、タカラギコは引き金を引いた。

621ブック:2004/03/18(木) 23:41



     ・     ・     ・



「う…痛てててててて……」
 私は何とか体を引きずり起こした。

 …危なかった。
 あと少し、風を利用して『ザナドゥ』で私の体を吹き飛ばして
 爆心から逃れるのがおそかったら、間違いなく死んでいた筈だ。

「…小耳モナー!?」
 私は辺りを見回した。
 彼は、
 彼は大丈夫なのか!?

「ここだモナ〜…」
 後ろから、彼の力無い声が聞こえてきた。
 良かった。
 『ファング・オブ・アルナム』が、無事避難させてくれたらしい。

「…はた迷惑な奴だょぅ。
 まさか、自爆するなんて…」
 爆心地に目をやる。
 梅おにぎりの体は、爆発で全て消し飛んでしまったようだ。


「…!!
 ぃょぅ、風と雨が!!」
 小耳モナーが叫ぶ。
 私も、その突然の事態に驚きを隠せなかった。
 さっきまでの天変地異が、嘘のようにおさまっている…!

「これは…」
 私は思わず呟いた。
「本体が、スタンドを解除したモナか?」
 小耳モナーがおずおずと尋ねてきた。

「…いや、恐らく、本体が倒されたんだょぅ。」
 しかし、誰に…?


「おーーーい!!」
 遠くから、私達に声がかかった。
 見ると、ギコえもんとふさしぃが、手を振りながら駆け寄って来ている。

「!!!
 ぃょぅ、大丈夫…!?」
 ふさしぃが私の火傷だらけの体を見て、心配そうに言った。
「ああ…
 大丈夫だょぅ。」
 本当はかなり痛いが、泣き言は言っていられない。

「…君達が、スタンドの本体を?」
 私はギコえもん達にそう聞いた。
「いや。
 俺はてっきり、お前達が殺ったものだと…」
 やはり、ギコえもん達ではなかった。
 とすると…

「とにかく、進みましょう。」
 ふさしぃが、鶴の一声を上げた。

622ブック:2004/03/18(木) 23:42



 私は『ファング・オブ・アルナム』に背負われながら、
 皆と先に進んだ。
 先程までの嵐とはうってかわって、
 不気味な程の静寂が、夜闇に沈んだ街を支配していた。

「あれは!」
 小耳モナーが遠くを指差す。
 そこには、さっき見失ったリムジンが停車していた。

「……!」
 全員が動きを止め、身構えながら少しずつ車に接近する。
 しかしあの車からは、以前のような禍々しい気配は感じられない。


「あの車に乗っていた人なら、もう片付けましたよ。」
 車の陰から、ひょっこりとタカラギコが姿を現した。
「タカラギコ、それは…?」
 私は思わず尋ねる。

「言葉通りです。
 もう、天変地異は起こりません。」
 タカラギコが拳銃を懐にしまった。
「ああ、そうそう。
 あの物騒なスタンドの本体は、1総統でしたよ。
 蛇の頭は潰れました。
 後は、残党狩りですね。」
 タカラギコが私達に歩み寄る。

「…1総統から、何か聞き出せたの?」
 ふさしぃがタカラギコに聞いた。
「いえ、倒すのに精一杯だったので、特に何も…
 …すみません。」
 タカラギコが頭を下げる。

 …嘘だ。
 私は何故か、直感的にそう思った。
 タカラギコは、嘘を吐いている。

「…分かったょぅ。
 それじゃあ、早い所全てを片付けようょぅ。」
 しかし、私は言えなかった。
 タカラギコに、問いただす事が出来なかった。

 …多分、それでも私は信じたかったのだろう。
 タカラギコを。

 しかし、疑念の黒い霧は晴れる事無く私の心を覆い尽くしていた。



     TO BE CONTINUED…





 〜後書き〜

 早いもので、『救い無き世界』も連載五十回に到達しました。
 これもひとえに皆様方の心温かい御声援あればこそです。
 今まで私の小説を読んで頂くだけでなく、
 時には感想・批評まで下さり、もはや言葉もございません。
 まだまだ至らぬ部分ばかりの未熟者ではありますが、
 少しでも皆様に楽しんで頂けるよう日々精進を心掛けますので、
 これからもでぃやみぃやぃょぅ達の活劇にお付き合い頂ければ幸いです。
 最後に、今まで私の小説を読んで下さった全ての方々に心よりの感謝を捧げる事で、
 この後書きの締め括りとさせて頂きます。
 皆様、本当に今までありがとうございました。
 そして、この先もどうか宜しくお願いいたします。

                            ブック

623ブック:2004/03/19(金) 15:02
 〜警告!!〜
 今回の番外編は、今までのものと比べてかなりトバしています。
 酷いグロ描写や、性描写があるわけではありませんが、
 何というか…その、人によっては受け付けられないかもしれません。
 もし、猫耳とかそういうのに苦手な人がおられましたら、
 気分を害されるかもしれませんので、読まない事をお勧めします。
 先に謝っておきます。
 なんかもう、本当にごめんなさい。





     (勝手に)連載五十回記念!

     救い無き世界
     番外・救いようの無い奴らの、救い無き座談会


「もっとも萌えるべき容姿を持つキャラクターとは何か わかるかねでぃ。」
『……猫娘』
「そうだその通りだよ 我らがアイドル猫娘だよでぃ。
 ではなぜ猫娘はそれほどまでに萌える?
 猫娘は弱点だらけだ。
 犬を嫌い 光るペットボトルを嫌い 熱い食べ物は舌を焼く。
 川・湖・湖畔・流れる川を泳げず 三次元に目をそむけ リアリティに目をそむけ
 ほとんどの猫娘はその設定を活かせず 安息のねぐらは唯一つ二次元創作の画面の上。
 それでも猫娘は無敵の萌えキャラと呼ばれる。
 でぃ 何故だかわかるかな。」
『肉球?』
「それは決定的ではない。」
『お尻から尻尾が生えてる?』
「少々役不足だ。尻尾を持つ半獣娘はそれに限らん。」
『会話の語尾に「にゃ」とか「みゅう」とかいう言葉をつける?』
「それは確かに萌えるべきことだ。だが容姿が萌えるか、とは少し違う。
 もっともっともっともっと単純なことだ。」
『……猫耳?』
「そうだ。猫耳はとても素晴らしいのだよでぃ。
 俊敏性 非現実性 可憐性 従順性 特殊言語能力
 ドジっ子性 敏捷性 変身能力 献身性 etc etc
 しかし最も萌えるべきはその純粋な付属オプション…『猫耳』だ。
 オタク達をぼろ雑巾の様に萌え殺す。
 そして達の悪いことに猫娘達はその力を自覚していない。
 単一能しか無いのに そこに居るだけで無邪気に萌えを振りまく『暴君』だ。
 猫娘との近接交流は萌え死にを意味する。
 いいかねでぃ 猫娘とは擬人化された
 猫耳を持つ『娘』なのだ これを最萌といわず何をいうのか。」



『……で?』
 俺はギコえもんに尋ねた。
「今言った通りだゴルァ。
 今回の議題は、猫耳の素晴らしさについて研究する事だ。」
 ギコえもんが答える。
 俺達は再び、前回かめはめ波を撃つ為に集まった部屋へと集合していた。

『あのですね、お前ら馬鹿か!?
 今本編がどうなってるか分かってんの?
 俺、片腕と片脚がチョン斬られてんのよ!?」
 俺はギコえもん達に喰いかかった。
 せっかくの連載五十回の記念の番外が、
 よりにもよってこんなものとは、頭がおかしいとしか思えない。

「うるさいわねぇ。
 どうせまた生えてくるんでしょ?」
 ふさしぃが俺を迷惑そうにあしらう。
 いや、確かにその通りだが、
 それにしてもこの議題は無いだろう。

「お前な、猫耳娘がどれだけ素晴らしいか分かってんのか!?
 まず美少女、これだけでももちろん萌える。
 そして猫、これまた萌える。
 そしてそれらが組み合わされる事により、
 1+1が3にも4にもなるんだぞ!?
 この質量保存の法則すら超越した究極の萌えが、
 貴様には理解出来んというのかーーー!!!」
 ギコえもんが激怒した。
 本当に救いようねぇなあ、こいつ。

624ブック:2004/03/19(金) 15:02

「でぃ君は放っておいて…
 まずはやはり、猫耳ヒロインであるみぃ君の考察をするとしようょぅ。」
 ぃょぅが勝手に話を進める。
 もはや、俺の事など歯牙にもかけていないようだ。

「あ…あの、私は別に……」
 その場のただならぬ雰囲気に、みぃが尻込みする。
「バカ!バカ!○んこ!!」
 ギコえもんがいきなり卑猥な罵声をみぃに浴びせた。
 みぃが訳も分からないままそのような事を言われて、
 泣きそうになる。
「ご、ごめんなさい…!
 私、何かいけない事しましたか……!?」
 みぃが深く頭を下げた。

「『何かしましたか?』じゃねぇよ、この似非猫娘!!
 お前には、猫娘として大切なものが欠けている!!」
 ギコえもんが叫ぶ。
 この廃人、何をトチ狂った事をのたまってんだ。

「そ、それは…?」
 みぃがギコえもんに尋ねる。
「それについては、私がお答えしましょう。」
 タカラギコが横から口を挟んだ。

「あなたに欠けているもの…
 それは、猫娘特有の言葉使いですよ。」
 タカラギコがみぃを見ながら言う。
「……!」
 みぃがはっとした顔つきになる。
 いや、お前まで何感化されてるのだ。

「猫娘…確かに猫耳だけでも相当の萌えを発揮出来ますが、
 やはりそれだけでは何か物足りない。
 そこで編み出されたのが、語尾に『にゃ』とかに代表される
 特殊言語なのです。
 あなたは登場してから一度も、その言葉使いをしていない。
 寝ても覚めても丁寧語ばかりだ。」
 タカラギコ達が、責めるような視線をみぃに向けた。

「…それは……」
 みぃが押し黙る。
 いや、猫娘だからって、そんな言葉使いする必要無いと思うんだが。
 お前ら、頭暖かいんじゃないか?


「待つモナ、皆…
 一番大切な事を忘れているモナ。」
 と、小耳モナーが口を開く。
 全員の視線が、小耳モナーに集中した。

「小耳モナー、それは何だょぅ。」
 ぃょぅが小耳モナーに尋ねる。

「言葉使いで一番大切な要素…
 それは、『御主人様』だモナ!!!!!」
 小耳モナーの言葉に、全員が硬直した。

「……!
 そうだった!
 俺とした事が、そんな事を忘れていたとは…!!」
 ギコえもんが絶句する。
「…迂闊でした……!」
 タカラギコも悔しそうな顔をする。
「そんな簡単な事を見落としていたなんて…!」
 ふさしぃもその場に崩れ落ちる。
 狂ってる。
 こいつら皆狂ってるよ。

625ブック:2004/03/19(金) 15:03

「確かに『御主人様』は、
 『世の男性が一度でいいから女性に呼ばれてみたい言葉ランキング』ベストスリーに、
 毎年入っている程の言葉だょぅ。
 うっかりしていたょぅ。
 やはりこの言葉は萌えには不可欠だょぅ。」
 ぃょぅが考え込む。
 つーか、そんなランキングいつの間に出来た。

「みぃちゃん。
 あなた、これからでぃ君を呼ぶ時は『でぃさん』ではなく、
 『御主人様』と呼びなさい。
 もちろん語尾には『にゃ』をつけて。」
 ふさしぃがみぃにそう言う。
 阿呆か、こいつ。
 何いらん事吹き込んでるんだ。
 いや、確かに俺もそうしてもらうと嬉しいが、
 んな事したら読者が引くに決まってるだろうが。


「しかし、『御主人様』…
 いつ聞いても良い響きだなゴルァ…」
 ギコえもんが悦に耽る。
「そうですね…
 猫耳とメイドさんとの相性が良いのも、恐らくそれ故でしょう。
 美少女+猫+メイド…
 もはやその答えは3ではおさまりません。
 5?6?いや、ひょっとしたら10?」
 タカラギコもそれに賛同する。
 こういう奴らがいるから、
 秋葉原のイメージが落ちるんだろうなぁ…

「よし、みぃの嬢ちゃん。
 お前これからはメイド服を着ろ。
 猫耳メイド、これ最強。」
 ギコえもんが、腹のポケットからメイド服を取り出した。
「メイド服!出た!メイド服出た!得意技!メイド服出た!
 メイド服!これ!メイド服出たよ〜〜!」
 小耳モナーが狂喜する。
 俺は限界だと思った。

「いえ、みぃちゃん。
 あなたはこちらの和服を着なさい。
 着物姿の猫耳、これこそ至高の萌え。
 メイド服なんて邪道も良い所よ。」
 と、脇からふさしぃがギコえもんを押しのけるように
 みぃに着物を差し出した。

「ハア?
 ふさしぃ、お前何言ってんだ?
 着物なんか地味過ぎんだよ。
 メイド服こそが、究極に萌えるんだよ。」
 ギコえもんが、負けじとふさしぃを押し返す。

「どうやら、力ずくで分かって貰うしか無いようねぇ…」
 ふさしぃが『キングスナイト』を発動した。
 ヤバい。
 本気でやる気だ。

「くっ!
 『マイティボンジャック』…!」
 ギコえもんも自分のスタンドを出す。
 しかし、やはりふさしぃには…

626ブック:2004/03/19(金) 15:03

「ギコえもん、モナも助太刀するモナ!
 『ファング・オブ・アルナム』!!」
「争い事は好みではありませんが、
 人生にはどうしても避けられない闘いがあります。
 今がまさにその時!
 加勢しますよ、ギコえもん!!」
 タカラギコがふさしぃに銃を向ける。

 何と。
 小耳モナーとタカラギコがギコえもんにつくとは。
「……くっ、あなた達……!」
 ふさしぃが唇を噛む
 やはり、これでは流石にふさしぃと言えど…

「ふさしぃ、諦めては駄目だょぅ!!」
 そこへ、ぃょぅが乱入した。
「和服美人、これは日本の国宝だょぅ!
 断じて、伴天連の服などに屈する訳にはいかなぃょぅ!!!」
 ぃょぅはふさしぃの側についたか。
 数ではふさしぃ側が劣るが、
 ふさしぃは、ギコえもんと小耳モナー二人分の戦力を有すると見ていいだろう。
 ならば、両陣営は互角。
 この勝負、どちらに軍配があがる…!

「『マイティボンジャック』!!」
「『ファング・オブ・アルナム』!!」
「『グラディウス』!!」
 ギコえもん達が、ふさしぃ達に飛び掛る。
 タカラギコに至っては、まだ本編では正体不明のスタンドまで出している。
 それだけ本気という事か。
「『キングスナイト』!!」
「『ザナドゥ』!!」
 ふさしぃ達も負けてはいない。
 スタンドでギコえもん達を迎え撃つ。

「何故、和服の素晴らしさを理解しようとしなぃょぅ!!」
 ぃょぅが、突風をギコえもんに叩き付けた。
「うっせー、メイド服こそ人類最高の発明なんだよ!
 ばーか、ばーか!!」
 ギコえもんがそれをかわす。

「あぎゃーー!」
「うぎーーー!」
 ふさしぃとタカラギコがお互いの髪を引っ張り合う。
 もはや本編での格好良さなど微塵も無い。
 子供の喧嘩と同レベルだ。


「あの……みなさん。」
 いきなり、今まで完全に蚊帳の外だったみぃが口を開いた。

「…挿絵も無い小説で、外見について談義しても
 全く意味が無いと思うのですが……」
 その今までの議論を全て帳消しにするようなみぃの言葉に、
 その場の全員が凍りついた。

 …よく考えてみれば、
 いや、よく考えなくともその通りである。
 何で、誰もこの事に気がつかなかったのだ?


「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 気まずい沈黙が辺りに流れる。

「…帰るか、ゴルァ……」
 ギコえもんが半ば放心状態でそう呟いた。
「…ええ。」
 ふさしぃ達も、それに続いて部屋から出て行く。

 …結局、あいつら何がしたかったんだ?
 いや、そもそもこんな番外編をやって良かったのか?

「……」
 俺は部屋の中に取り残され、ただ一人立ち尽くすのみだった。



     EPISOAD END…





     〜おまけ〜

 僕は猫耳が見たいとかあんまし思わないんですが、
 なんで世の殿方は猫耳とかつけ猫耳とかを珍重するのでしょうか。耳じゃん。
 わかんない。コスプレとかもわかんない。得るものが少ないと思います。
 したがって漫画とかに出てくる猫耳をメインテーマにしたキャラクターというか
 猫耳キャラもよくわかりません。耳です。

 さらにそもそも猫娘はなぜ猫耳の出るような半獣化をするのですか。
 あまつさえ半獣化の定番にしたりするのですか。僕は賛成ですが。
 いや賛成なのは猫耳が出るからじゃないです。なんとなくいいからです。
 僕は半獣化の猫娘とかそういうものは大好きです。

 いや問題なのは半獣化の猫娘ではなくて猫耳です。
 猫耳が見えててもかまいませんが、耳だと思います。

 いやそうではなくて、なぜ猫耳の出るような半獣化をするかということです。
 僕は賛成ですが。

 すいません。まちがいました。もういいです。



     …お父さん、お母さん、こんな風に育ってごめんなさい。

627:2004/03/19(金) 19:11

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その1」



 リナーのバヨネットと簞ちゃんのワイヤーが、空中で鋭く交差した。
 リナーの頬から血が垂れる。
「どうやら、本気らしいな…」

 簞ちゃんの肩からも血が流れ出ていた。
 簞ちゃんはそれに怯まず、リナーを睨みつけている。
 この感情は何だ?
 1さんの話によれば、簞ちゃんは吸血鬼相手ですら殺すのをためらうほど争いを嫌うらしい。
 だが… 目の前の彼女は、とてもそうは思えない。
 リナーに対する明確な殺意。
 そして、怒りと憎悪。

 …とにかく、リナーに加勢しなければ。
 俺は、バヨネットを取り出した。
「…近寄るな」
 俺の様子を見て、リナーは低く告げる。
「この相手は、君にとって相性が悪過ぎる」

 …そうだ。
 現在の俺にとって、波紋は致命傷なのだ。
 俺は歯軋りをした。

 簞ちゃんは再びワイヤーを振るう。
 リナーは大きく踏み込んでそれを避けると、顔面目掛けてバヨネットを突き出した。
 瞬時に上体を逸らしてかわす簞ちゃん。

「やはり、吸血鬼の血が変成してしまったのですね…」
 簞ちゃんは、そのまま後ろに飛び退いた。
 その額に、薄い切り傷ができている。
 流れ出た血が、簞ちゃんの長い髪を濡らした。

「…もともと、吸血鬼とは石仮面を被って変成するものです。
 頭部に刺さった骨針によって、普段は使えない脳の機能を呼び覚ます… それが、吸血鬼です」
 簞ちゃんは額の血を拭う。

「…」
 リナーは無言で簞ちゃんを睨んだ。
 それに構わず、簞ちゃんは言葉を続ける。
「しかし、貴女は幼い頃に吸血鬼の血を混ぜられるというイレギュラーな手法をとられた。
 ある吸血鬼が、忠誠を誓う部下に血を与え吸血鬼化させた…
 そういうケースもありますが、決して正規の手段ではありません。
 吸血鬼の血に、脳の機能が耐えられないという事も起こり得ます。
 さらに、貴女はスタンド能力で吸血鬼の血を長い間抑えつけてきました。
 …その反動で、貴女はもう普通の吸血鬼ですらないんです」

 ――ふざけるな。
 そうしたのは、お前ら『教会』じゃないか!
 俺は怒鳴ろうとした。
 …だが。
 俺は、簞ちゃんの言葉の響きに微かな哀れみの情を感じ取った。
 殺意、怒り、憎悪、憐憫…
 今の簞ちゃんの中では、幾多の感情が渦巻いている。


「…それがどうした? 私の体の事など、私自身が一番よく分かっている」
 リナーは簞ちゃんの顔を見据えた。
 それでも、簞ちゃんは怯まない。
「そうなってしまった以上、もう元には戻れない…
 自制が効かなくなり、じきに肉体を維持できなくなるのです」

 …やはり、そうなのか。
 『蒐集者』の言葉など、信じたくなかった。
 …いや、3ヶ月前にしぃ助教授も言っていたではないか。
 リナーに、何か刹那的ものを感じると。
 リナーは吸血鬼の血を抑えすぎたせいで…
 人間である事に固執したせいで…
 人の血を吸うにしても吸わないにしても、リナーはもう長くはないのだ。

「…だから、それがどうした? 私の体がどうなっていようが、狩る側には関係あるまい」
 リナーは、簞ちゃんを凝視して告げた。
 そして、ふと表情を緩める。
「それに… こんな私でも、共に歩いてくれる人がいる。お前にとやかく言われる筋合いはない」

628:2004/03/19(金) 19:12

「モナーさんですか? あの人を信用…」
 簞ちゃんは俺に視線を移して…
 そして、眼の色を変えた。

 ――気付いたのだ。
 俺が、もはや人間ではなく…
 『教会』の敵、吸血鬼である事に。

「『異端者』ッ!! 貴女はッ…!!」
 簞ちゃんは怒りを帯びた目で、再びリナーを睨みつける。
「モナーさんを道連れにしたのですか!! 吸血鬼になる事を強要してまで!!」

「…」
 今までの態度とは一変し、表情を曇らせて視線を落とすリナー。
 …彼女は決して否定しないだろう。
 リナーは、責任は自分にあると思い込んでいる。
 全てを背負い込んで、何でも自分が悪いと思い込んで、自分一人で決着をつけようとする。
 人一倍繊細なくせに、無駄にプライドが高く素直じゃない。
 全く、面倒な奴に惚れたもんだ…

「…俺が吸血鬼になったのは、俺自身の意思だ」
 俺は、二人の話に割り込んだ。
 簞ちゃんの眼を凝視して告げる。
「だから、リナーを責めるのは筋違いだな」

 簞ちゃんは俺に視線を移す。
「…『異端者』は、あと1ヶ月ほどしかもたないのです。
 そのたった1ヶ月のために、貴方はそこまで愚かな選択をしたのですか…!?」

「分からないさ、お子様にはな…」
 俺は、簞ちゃんを見据えて言った。
 簞ちゃんは憮然とした表情を浮かべる。
「貴方は輸血用の血液でも生きられますが、現在の『異端者』はそうはいきません!
 それでも、1ヶ月は持たないんですよ!! 貴方は、それでも…」

「…リナーは死なせない」
 俺はきっぱりと言った。
「貴方も… 人に害を為す吸血鬼なのですね…」
 呆れたように呟く簞ちゃん。

 ――殺気。
 簞ちゃんは跳んだ。
 しまった! 俺を狙ってきたのか!

 ワイヤーが微かに煌く。
 全方位からの、波紋を帯びたワイヤーの攻撃。
 その複雑な軌道に、俺は対処しきれなかった。
 かわしきれない…!!

 ワイヤーでの攻撃は、大きく右に逸れた。
 リナーが簞ちゃんの右手を掴んで捻り上げたからだ。
 数本のワイヤーが俺の頭先を掠める。

「くっ…!」
 簞ちゃんは右手を押さえて飛び退いた。
 その腹に、リナーの蹴りが命中する。
 地面を転がる簞ちゃん。

 這いつくばる簞ちゃんを、リナーは殺気を帯びた眼で見下ろした。
 その、冷徹な殺意に彩られた眼で。
「…モナーに指一本でも触れてみろ。この世で最も残酷な方法で殺してやる」

「貴女はそうやって、今後も周囲の人間に災いを振りまくのです…」
 簞ちゃんは起き上がると、ワイヤーを振るった。
 そのワイヤーの攻撃をかいくぐって、リナーは接近する。

「山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!」
 簞ちゃんのスタンド、『シスター・スレッジ』が拳を突き出した。
 リナーはよけようともせず、その拳を胸に受ける。
 だが、リナーはビクともしない。
「波紋さえなければ、お前のスタンドのパワーは普通の人間程度だな…」
 リナーは軽く胸をはたいて言った。

 …あれが、『エンジェル・ダスト』の応用。
 波紋を食らう瞬間に、その箇所だけ人間の肉体に戻している。
 あれならば、波紋を食らってもせいぜい痺れる程度だろう。

「永遠に後悔しろ。神の御許でな…」
 そう言って、拳銃を取り出すリナー。

 ――リナーは簞ちゃんを殺す気だ。
 その何が悪い?
 向こうもこちらを殺す気だ。
 これは、命の駆け引きなんだ。

629:2004/03/19(金) 19:13

 簞ちゃんは飛び退いた。
 リナーは、簞ちゃんに向かって何度も引き金を引く。
「…!!」
 簞ちゃんは自らの髪の毛を何本か抜くと、それを空中に投げた。
 波紋を帯びた髪の毛が、弾丸を全て弾き飛ばす。

「遅い…!」
 その一瞬で、リナーは簞ちゃんに接近していた。
 簞ちゃんは腕を交差させ、ワイヤーを眼前のリナーに向ける。

 ――簞ちゃんは、リナーに勝てない。
 簞ちゃんの能力は、リナー相手では絶対的に相性が悪い。
 俺は、このまま指をくわえて見ていてもいいのか?
 リナーは間違いなく簞ちゃんを殺すだろう。
 いや、リナーはすでに多くの人間の命を奪ってしまった。
 今さら、一人の命に躊躇する事はない。

 リナーはバヨネットでワイヤーを巻き取る。
「くっ…!」
 簞ちゃんは、服の中から水の入ったペットボトルを取り出した。

「青緑の波紋疾走(ターコイズブルー・オーバードライブ)!!」
 ペットボトルが弾け飛び、強力な波紋を帯びた水が周囲に拡散する。
「チッ…」
 リナーは素早く背後に飛び退いた。
 滴を浴びた左手から微かに蒸気が出ているが、大したダメージではない。

 間合いが開いた隙を狙い、簞ちゃんはワイヤーをリナーに向けた。
 高く跳んで避けるリナー。
 リナーの背後に立っていた電柱が、たちまち切り裂かれてバラバラになる。

 リナーはそのまま日本刀を振り下ろした。
「『シスター・スレッジ』!!」
 簞ちゃんのスタンドが、その一撃を受け止める。

 そして『シスター・スレッジ』は刀身を強く掴んだ。
「銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)!!」
 金属を伝わる波紋が日本刀に流れる。
 それが腕に達する前に、リナーは日本刀を離した。
 そのまま、簞ちゃんの懐に入る。

「くっ…!!」
 簞ちゃんは両手を大きく引いた。
 ワイヤーがリナーの身体に向けられる。
 それをかわそうとせず、簞ちゃんの首を掴むリナー。
 同時に、4本のワイヤーがリナーの背中、右肩、左手の肉を深く裂いた。
 大量に流れ出る血が服を濡らす。

「そんな…! そこまでのダメージを覚悟で…!」
 簞ちゃんの体に、リナーの返り血が降り掛かった。

「血を恐れるようでは… 代行者も、女も、吸血鬼も務まらん!!」
 そのまま、リナーはブロック塀に簞ちゃんを叩きつけた。
 簞ちゃんの体はブロック塀を突き破り、冷たい地面に転がる。
 いかに波紋が痛みを和らげるとは言え、あの衝撃では…

 ――俺は何の為に吸血鬼になった?
 リナーと共に歩む為だ。
 その道は、間違いなく血で汚れているはず。
 もちろん、その血は他人の血だ。
 そんな事、当然覚悟はしている。
 覚悟はしていたはずだ。
 それが、なぜ――


「気は済んだか?」
 地面に倒れ伏す簞ちゃんを、冷たく見下ろすリナー。
「どうして…」
 簞ちゃんは、よろめきながら起き上がった。
「どうして、吸血鬼の血などに屈してしまったのです…? あの人に、何と詫びればいいのです!!」
 悲痛な感情を込めて、叫ぶ簞ちゃん。


 ――何だ?
 妙な風景が、視界に流れ込んでくる。
 『アウト・オブ・エデン』が勝手に発動したのか?

 ――どこか異国の風景。
 長い長い道。
 そして、道の傍らでひたすらに泣く二人の女児。
 その手は固く繋がれている。
 男が、子供の前で足を止めた。

 『姉妹の捨て子か…』
 『スタンド使いか。いつの世も、異能者は忌み嫌われるものだな』
 『…私もスタンド使いの端くれだ』
 『私と来るか? このままではのたれ死ぬぞ』
 『スタンド使いだからといって、血塗られた運命に身を置くことはない』
 『己の境遇を嘆いても始まらん。未来は存外に明るいものさ…』
 『生きてさえいれば、いつかは幸せになれるものだ』
 『楽観主義者か… よく友人に言われる』
 『私の名は…』

 ――男は、何と名乗ったのか。
 何の風景かは分からない。
 ただ… ひどく懐かしい。

630:2004/03/19(金) 19:13

「…誰にも詫びる必要はない」
 リナーの声が、俺を現実に引き戻した。
「ただ、お前は己の非力を悔いろ」

 バヨネットを構え、簞ちゃんに歩み寄るリナー。
 簞ちゃんは、服の中から宝石のようなものを取り出した。
 ――真紅の宝石。
 その赤石を左手で持つと、そこに広げた右掌を押し当てた。
「…何のつもりだ?」
 リナーは気にせず近付いていく。

 ――駄目だ!
 あの赤石は危険だ!!

「リナー!! 伏せろ――ッ!!」
 俺は全力で叫ぶ。
 同時に、赤石が瞬いた。
 眩い閃光が走る。
 
 赤石から放たれた光の束が、空間を駆けた。
 リナーはそれを紙一重で避ける。
 光の束はリナーの顔の横を通り、夜空の彼方に消えていった。

 今のは一体…
 赤石が、波紋を増幅したようだが…?

「…」
 簞ちゃんは、がっくりと片膝をついた。
 呼吸が乱れている。
 もう体力の限界なのだ。

「エイジャだと…? なぜお前が、『教会』の失われた秘宝を持っている…?」
 リナーは驚愕の表情を隠さずに呟く。
「あの人が、託してくれたのです…」
 簞ちゃんは息を切らして言った。
 奥の手がかわされた事により、戦意を喪失したのだろう。

「そうか。まさか、内部の人間が隠匿していたとはな…」
 リナーは意外そうに言った。
「それを長年に渡って隠し通すとは、大したものだ」
 バヨネットを掲げ、膝を付く簞ちゃんに歩み寄るリナー。
 簞ちゃんは表情を歪め、視線を落としている。

 ――これでいいのか?
 俺は、本当にこれで…


「これしか、ないのですね…」
 簞ちゃんは立ち上がった。
 尋常じゃなく強い殺気。
 戦意を喪失した訳ではなかったのだ。
 簞ちゃんは、何故そこまでリナーを…

「しぶとい奴だ…」
 リナーは歩を止めて、バヨネットを構えた。

「…絶対無色の波紋疾空(オーバーロード・ゼロ)!!」
 簞ちゃんの声が鋭く響く。
 『シスター・スレッジ』が大きく腕を広げ、周囲の空気が変わった。
 空間ごと圧縮されるような重圧。
 これは…!?

「モナー! すぐここから離れろ!!」
 リナーは俺の方を向くと、血相を変えて叫んだ。
「えっ!?」
 俺は当惑する。
「あれは空気を伝導し、周囲に拡散する波紋だ!!」
 そう叫んで、簞ちゃんに視線を戻すリナー。
「馬鹿な… こんな所で刺し違える気か…?」

 空気を伝わる波紋…!?
 それだけの量の波紋を、一人の人間が練り出せるものなのか…?

 波紋法とは、血液の流れを利用して生み出されるエネルギー。
 それを、あそこまで大量に練り出そうとすれば…
「生命と引き換えか…」
 俺は思わず呟いた。

「何をしている!? 早く逃げろ!! 半径100m内にいる吸血鬼は、塵も残さず消し飛ぶぞッ!!」
 リナーは叫ぶ。
「でも…!」
 俺は躊躇した。
 いかにリナーが『エンジェル・ダスト』で人間の肉体に戻れるといっても、その威力に耐え切れるのか…?
 普通の人間でも、大量の波紋を浴びれば…!

631:2004/03/19(金) 19:15

「簞ちゃん、駄目だ!」
 その場に、俺でもリナーでもない声が響いた。
 あの声は確か… 1さん!?

 簞ちゃんの動きが止まった。
「おにーさん…?」
 こちらに走ってくる1さんを、呆然と見つめている。

 1さんは、一目散に走ってきた。
「駄目です! 近寄ると殺されるのです!!」
 簞ちゃんは叫ぶ。
 だが、1さんは聞く耳を持たない。

「このォォ――ッ!!」
 1さんは、なぜか俺に殴りかかってきた。
 確かに状況だけ見れば、俺とリナーの2人掛かりで簞ちゃんを攻撃していたようにしか見えないだろう。

 眼前に迫る1さんの拳。
 …かわす気すらしない。
 余りにも遅く、普通のパンチ。
 1さんの拳が俺の頬に命中する。

「…?」
 何か妙な感触だ。
 1さんの拳がやけに熱い。
 俺は違和感を感じて飛び退いた。

「…微量の波紋だな」
 それを見て、リナーは言った。
「どうやら、『守護者』から波紋を教わったらしいな。
 この短期間で微量の波紋が練れるようになるとは大したものだ。
 10年もすれば、かなりの使い手になるだろう。だが――」

 リナーは高く跳ぶと、そのまま1さんの後頭部に回し蹴りを放った。
 その動きに反応すらできない1さん。
 彼の体は派手に吹っ飛んで、地面を転がる。
「この場に混じるには100年早い…!」
 リナーは軽く地面に着地した。

「おにーさん!!」
 簞ちゃんが、1さんに駆け寄る。
「うう…」
 頭を押さえ、苦しそうに呻く1さん。
 リナーが本気で蹴れば、普通の人間である1さんなど即死だろう。
 加減したとはいえ、1さんのダメージは大きい。
「さて… 子供は寝る時間だ」
 ゆっくりと2人に歩み寄るリナー。

「来い、8頭身…!!」
 1さんはおもむろに叫んだ。
 その背後に、妙なヴィジョンが浮かび上がる。
 手足の極端に長い、不気味な生物。
 しかも、それが3体も…!!
 その3体がリナーに飛び掛った。

632:2004/03/19(金) 19:15

「――『アウト・オブ・エデン』!!」
 俺は、バヨネットを掲げてリナーの前に躍り出た。
 その3体のヴィジョンを瞬時に『破壊』する。

「ぐゥッ!!」
 1さんが表情を歪めた。
 スタンドを葬られたにしては、余りにダメージが小さいようだが…

「群体型か…」
 リナーは呟いた。
「やけに大型のヴィジョンだが、あれは群体型のスタンドだ。一体一体は弱いが、集団になると脅威だぞ…」
 そう言って、銃を抜くリナー。
 銃口を1さんに向ける。

「8頭身!!」
 再び3体の8頭身が飛び出し、1さんと簞ちゃんの前にかばうように立った。
 リナーは銃の引き金を引く。
 8頭身は銃弾をその身で受けた。
 銃弾では、スタンドを殺す事は不可能。
 それでも、8頭身の姿は消えてしまった。

「…まだスタンドを使いこなせていないのか? 同時に出せるのは3体が限度。出せる時間も短い…」
 リナーは2人を見下ろして言った。
「うるさいッ!! 絶対に簞ちゃんを殺させやしない!!」
 1さんは怒鳴る。

 ――あれは、俺だ。
 立場が逆なら、俺もああしているだろう。
 自分の体を盾にしてでも、リナーを守る。

「じゃあ、二人仲良く旅立つんだな…」
 リナーはバヨネットを掲げた。

 ――いいのか?
 リナーがまた一つ罪を犯すのを、見ている事しかできないのか?
 リナーを生かす為なら、俺は何でもやると誓ったはず。
 でも、リナーにはこれ以上人を殺してほしくない。
 そうだ。
 正義感でも偽善でもない。
 俺は、愛する人間にこれ以上手を汚してほしくないだけだ。

「…リナー」
 俺は、その名を呼んだ。

 リナーの動きが止まる。
「結局、君は止めると思っていた…」
 そして、微笑んで振り向いた。
「君はそういう人間だよ。割り切った思考をしながらも、眼前の犠牲は認めない。
 現実認識能力が低く、行動に一貫性がない。それでいて、異常に卓見している。
 極端な結論を安易に出すのに、薄甘い理想からは決して離れられない…」

 そう言った割には、リナーは不快そうではなかった。
 そのままバヨネットを服の中に収めるリナー。

「…まあ、そういう事だ。モナーに感謝するんだな」
 リナーは、簞ちゃんと1さんに言った。

「…」
 簞ちゃんは顔を上げる。
 どこか安堵したような表情だ。
 命が助かったから…?
 いや。そんな軽い覚悟なら、自爆紛いの攻撃など仕掛けようとはしない。
 簞ちゃんは、リナーの顔を見上げて口を開いた。
「急いで家に帰った方がいいのです。貴女の仲間の元にも、6人の代行者が派遣されています。
 任務は、『異端者』に与した者への殲滅…」

「何だって…!?」
 俺は思わず声を上げた。
 6人もの代行者が、ギコ達の元へ…!?
「リナー!!」
 俺は素早くリナーに視線を移した。
「…ああ」
 リナーは真剣な顔で頷く。
 俺とリナーは、簞ちゃんと1さんをその場に残して走り出した。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

633( (´∀` )  ):2004/03/19(金) 20:36
スタンドの『進化』・・・。
ソレはありえない事ではないらしい。
実際に何件かスタンドの『進化』という話を聞いたことがある
しかし、ぶっちゃけ半身半疑だった。まさか真実だとは・・

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―『流石だよな俺ら』

―茂名王署・特別課―

・・・・あの後、俺はハートマンに逃げられてしまった
いや、見逃されたというべきか。
奴の巨大な右腕はブレた直後砂になってしまった。
ハートマンは危険を感じたのか片腕がなくなったまま逃げた。
俺は追おうとしたが、病み上がりの体で無茶したせいか
その場で高熱が出て倒れてしまった。
そして気づいたら署にいて・・
「スタンドが出ない。」
「HE?」
ムックが間抜けな声を出す
「いや、ジェノサイアを呼んでも出てこないんだ。」
「散歩でもしてるんじゃないですKA?」
「いや、散歩してるにしても3日だぞ。3日。」
すると殺ちゃんが紅茶をすすり話に入ってきた
「ふむ。ソレは危険だな。」
「あのな・・。コレは大事件だぞ。スタンドが出ない内に戦ったら・・」
「ソレは私がしっかりガードしよう。」
何気に単数形でムックが入っていない
「でも・・。」
「!巨耳SAN巨耳SAN!」
「んあ?」
「KOREですZO!KORE!」
ムックは無断で何気なく使ってる俺のパソコンのディスプレイを指差した
「こ・・こりゃあ・・。」
『キャンパス―公式HP―』・・キャンパス違いである事を願いたいが
「どうやら『キャンパス』違いではありませんNE・・。『一緒に新世界を目指しませんか?』って・・。」
はたから見たらキティな宗教だな
「ん・・。『お知らせ』にNEWのアイコンが・・」
俺はムックからマウスを奪い取りクリックした
「!!こりゃあ・・。」
『キャンパス引っ越します』だと・・?
「引越しさきはヒ・ミ・ツってかいてありますZO・・。」
畜生ッ!やられたッ!
「ム、『前のアジト様子』とかいてあるが。」
殺ちゃんは紅茶のカップを片手に俺からマウスを奪い、クリックした。
「こりゃあ・・。」
そこには中央から円形につぶされた跡があった。
「ネクロマララーですNA・・。」
間違いない。先輩がブッつぶれた時の跡と一緒だ。アイツの能力だな。
「ムックがいるから頼む必要は無いと思ったが・・矢張り『彼ら』の力は必要か・・。」
俺は思わせぶってつぶやくとムックと殺ちゃんは清清しいほど反応してくれた
「・・・誰だ?」
「まぁ、とりあえずこのままじっとしてたら奴らの元へ行く前に潰されちまうからな。
さきに奴らの陣地に特攻してブッ潰すしかないだろ。」
「だからその『彼ら』って誰なんですZO!」
「『彼ら』の元に行きながら説明するさ。」

634( (´∀` )  ):2004/03/19(金) 20:37
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「俺がキャンパスの存在を知る一週間前ほど、初めて特別課の捜査に『俺以外』のスタンド使いを導入する事になってな。
犯人の居場所を探す為だった。俺の『ジェノサイア』じゃあ遠くまで逃げられると厄介だしな。」
「して、その人物は?」
「『流石兄弟』。」
「・・聞いた事ないですNA。」
「そりゃあそうだろ。元々一般人でな。その時は兄だけがスタンド使いだったっけか?近頃『弟』も『妹』もスタンド使いになった。
っていう話も聞いたがな。確か『パソコン』のスタンドで人を探すのはもちろん。実戦にも向いてるらしい。
彼とはその事件のとき結構親しくなってな。何せ趣味が合うもんで。」
どうやら二人とも『流石兄弟』のイメージが一気に固定されたみたいだ。
「はぁ・・そりゃ凄いですNA。」
俺がそこで止まる
「お。ついたぞ。ここだ。」
ピンポーン
ブザーをならすとドタドタと走る音が聞こえ玄関が開いた
「はいはーい?」
「久しぶりだな。えーっと・・弟者くん。」
俺は親しげに挨拶をした。
「・・あ!巨耳モナーさんッ!何か御用事で?」
「いやね。また『捜査』に協力して欲しいんだが。」
「あ。そうですか。じゃあとりあえず上がってください。」
そう言うと弟者くんは俺たちを兄者くんの居る二階へ案内してくれた
「・・想像してた感じと違うな。」
・・・殺ちゃんがどんなイメージを思い浮かべていたのか手に取るようにわかる
「いや、こっちは『弟者』くんだ。俺が言ってたのは違うよ。『兄』の方だ。」
「ささ。こちらです。」
弟者くんが丁寧に扉をあけるとデジャヴを覚える光景が目に入る
『あの時』と全く変わりない。パソコンにかぶりつく『彼』の姿。
「おい。兄者。客人だ。」
弟者くんが兄者くんに色々説明してるようだ
「・・何?捜査?・・まさかッ!」
兄者くんがこっちを振り向く
「巨耳サァ――――ンッ!」
「久しいなMyアミーゴ!」
俺と兄者くんが熱い抱擁を交わす
横目で殺ちゃんとムックをみると『イメージどおり』というような顔をしている
「ところで捜査っていうと・・また?」
「ああ。ある場所を探して欲しい。」
「うーん・・いくら巨耳サンの頼みでも・・忙しくて・・。」
「おや、この前の捜査の事忘れたのかい?」
俺がそう言うと兄者くんは思い出す様に天井をみる

捜査の依頼を受ける
  ↓
楽勝クリア
  ↓
結構な額の報酬をうけとる
  ↓
アニメイトでグッズ超購入
  ↓
更にパソコンをパワーアップさせた
 ↓
(゚д゚)ウマー

「巨耳さん・・」
「ん?」
「Good Job!!」
「流石だぜMyアミーゴ!」
俺と兄者くんはまたも抱擁を交わす
心なしか他の三人の目が冷たい。
「で、ドコを探せと?」
「ああ。『キャンパス』って所だ。」
「了解したッ!また少し時間がかかるので後日辺りにまた来てください。」
「解った。じゃあまた明日。」
そう言うと俺達は扉を閉めて帰っていった

635( (´∀` )  ):2004/03/19(金) 20:37
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「しっかしこう見ると変ってないなぁ・・あの人も・・兄者も。」
弟者はため息をつきながら言った
「ソレは『進歩してない』と言いたいのか?」
俺はパソコンのディスプレイを見ながらも言葉で弟者を睨む
「いや、そういうわけじゃ・・。」
「・・・まぁ良い。」
俺はとにかく今は熱中していたかった。
「キャンパスキャンパス・・。うーむ。大学関係ばかりで『キャンパス』のみのファイルは・・。」
俺が早くもあきらめかけていたその時『キャンパス』のみの文字を見つける
「おお!見つけたぞ弟者!」
「マジか。流石だな。」
半分あきれたような感じで弟者が言う
「まさかこんなに早く見つかるとはな・・。」
俺は得意げに言った。
「・・しかし。見たことがないな。このアイコン・・。」
俺はその怪しげな『キャンパス』のアイコンを睨む
「まぁ良いッ!どんなファイルも恐れないのがこの『兄者』よォッ!」
ソファでくつろいでいた弟者が冷や汗をかいていきなり立ち上がった
(まずいッ!兄者が未知のファイルを開く時はいい事がないッ!)
「兄者!待っ・・・」
時既に遅し、俺は既にファイルを開いてしまった
するとディスプレイから謎の両腕が現れ、俺の両腕をおもいっきり引っ張った
「ぬぅッ!?お・・弟者ッ!助け・・」
「クソッ!だから言ったのにッ!今助けてー・・」
しかしまたも遅かったか、俺はすぐに引きずり込まれてしまった
「兄者ッ!」
弟者がディスプレイにしがみつくとどうやらマウスポインタが俺になっていたようだ。
「弟者ッ!助けてくれェッ!」
弟者はどうやら結構危機感が薄れたのかやる気なさそうに手を挙げた
「あー・・。『マイ・ウェイ』ッ!」
弟者は『マイ・ウェイ』を発動させた
「とりあえずどうしたらいいか教えてくれ。」
「ウーン・・。ソダナ。コレハアニジャヘノ『チュウコク』ダ。『サカラウナ』タダソレダ・・ッ!?」
マイウェイが消えたかと思うと今度は弟者が倒れてきた。
「弟者ッ!?」
弟者が倒れると後ろから謎の男が現れた
「貴様が・・ッ!」
「ヤレヤレ・・。何かと困るんだよねぇ・・。『アドバイス』されちゃあさ。」
ソイツはイスに座ると偉そうにパソコンデスクに足を上げた
「・・お前まさか・・モララーか?」
「『あんな奴』と一緒にしないでほしいねッ!この『秀才』の僕をッ!」
←To Be Continued

636ブック:2004/03/20(土) 17:12
     救い無き世界
     第五十一話・嘘 〜その一〜


 真っ暗な空間に、俺は一人立ち尽くしていた。
「…お前の所為だ。」
 暗闇の中から、トラギコが姿を現した。
 憎しみのこもった目で、俺を睨みつけている。

「ああ…でぃ……」
 その声と共に、トラギコの横に俺の両親の姿までが闇から浮き出てきた。

「あなたは、間接的とはいえ私達を殺した。」
「実の親である私達を…」
 …違う!
 俺は、あんた達を守ろうと…

「何を心にも無い事を…
 私達を憎んでいたくせに。
 殺そうとまで思っていたくせに。」
 お母さんが責め立てるようになじった。

「お前さえ居なければ…」
「あなたさえ産まなければ…」
 やめろ…
 もうやめてくれ…!
 俺は、ただ、あなた達に―――

「!!!!!」
 と、三人の体が、突然現れた『化け物』に打ち砕かれた。
 いや、違う。
 あの『化け物』は…

「お前はこうしたかったんだろう?」
 『俺』が、俺に向かってそう言った



     ・     ・     ・



「―――ッ―――ァ―――!」
 でぃさんの声にならない叫びで、私は目を覚ました。

「―――ァ―――!」
 錯乱状態になりながら、でぃさんが自分の腕を掻き毟る。
 爪が肉を抉り、血がそこから滲み出る。
 しかし、その傷は瞬く間に再生していった。

「……!」
 私は抱きつく事で、でぃさんを止めた。
 これ以上、でいさんが自分を傷つさせる訳にはいかない。

「…くっ……!」
 でぃさんの爪が、私の背中に突き立てられた。
 歯を食いしばって、その痛みに耐える。
 背中から血が流れていくのが、
 見えなくとも液体が背中をつたう感触で分かる。


 …あの孤児院での出来事の後から、もう五日が経つ。
 でぃさんは、日を追うにつれみるみる衰弱していった。
 多分、あそこにいた壮年の夫婦が死んでしまったからという事が、
 何となくだが分かる。

 瞳からは輝きが失われ、私の呼びかけにもだんだん反応しなくなっていた。
 そして、夜が来て眠りにつけば、
 今回のように悪夢に苛まれて自分を傷つける。
 …それらは、日を重ねる毎にどんどん酷くなっていった。

 でぃさんの斬り落とされた腕は、もう元通りに生えていた。
 しかし、心の中の何かが、代わりにごっそりと抜け落ちてしまっている。
 それが、でぃさんを苦しめている。


 …何があったのか聞いても、でぃさんは教えてくれなかった。
 いや…
 私が無理矢理にでも、聞き出せなかっただけだ。

 私には何も出来ない。
 苦しむでぃさんの何の助けにもなれない。

 ただ、抱きしめるしか、
 それだけしか出来なかった。

637ブック:2004/03/20(土) 17:13



     ・     ・     ・



 俺は、夕暮れの街の中をパトロールしていた。
 何気なく辺りを見渡すと、街のあちこちにあの夜の爪痕を見て取る事が出来る。

 …あの夜から、もう一週間。
 あれだけの騒ぎだったにも関わらず、幕は余りにも呆気なく下ろされた。
 1総統という頭を失った『大日本ブレイク党』の戦線は崩壊し、
 SSSやその他の組織に討ち取られた。
 街ではもう復旧作業が進められている。

「…しっかし、何で俺まで街の警備に出ばらなきゃいけねんだゴルァ。」
 俺は悪態をつきながら、ポケットから煙草を取り出し口に咥えた。
「大体、こういうのは本来警察の仕事だろ?
 SSS(俺達)の管轄外だっつーの。」
 ライターで、煙草に火を点ける。
 最近、少し吸い過ぎかな。
 そろそろ禁煙した方がいいかもしれない。

「…ったく、いくら騒ぎの被害が大きくて、人手不足だとはいえ、
 馬車馬のようにこき使いやがって…」
 俺は煙を口から吸った後、吐き出した。
 いい加減、独り言も空しくなってきたな…


「ぎゃあああああああああ!!」
 いきなり、裏通りの方から男の悲鳴が聞こえてきた。
「!!
 何だ、ゴルァ!?」
 咄嗟にその方向へ駆け出す。
 まさか、『大日本ブレイク党』か!?

「!!!!!」
 急いで現場に駆けつけると、そこには一人の男が胸から血を出して倒れていた。
「ちっ…!」
 と、その場に居たもう一人の男が逃げ出す。

 待て。
 何だ、あの男の持っているものは。
 …『矢』?

「……!『矢の男』!!」
 俺はすぐさまその男を追いかけた。

「…くっ……!」
 しかし、複雑な裏路地の為、あっという間にその姿を見失ってしまう。
 糞ッ!
 小耳モナーの『ファング・オブ・アルナム』が居りゃあ…


「!?」
 ふと、背後に人の気配を感じた。
 何者かと思い、振り返る。
 そこには、よく見知った男が立っていた。

「何だ、お前か。
 いい所に来たな。
 さっき『矢の男』らしき人物を見かけたんだが、見失っちまってな。
 一瞬だけ、顔は見れたんだが…」
 そう言って、『矢の男』が逃げた方向に目を移す―――

638ブック:2004/03/20(土) 17:13


「―――?…」
 銃声。
 それとほぼ同時に、俺の胴体に熱いものが突き刺されたような痛みが走った。

 何だ、これは。
 一体何を…

「!!!!!!」
 続けざまに、俺に銃弾が撃ち込まれる。
 俺は後ろに吹っ飛びながら地面に倒れた。

 馬鹿な。
 何で、『こいつ』が。
 何故『こいつ』が俺を撃つ!?

「……!!」
 驚く俺にはお構い無しに、『そいつ』は俺の脚に向けて銃弾を放った。
 必死に『マイティボンジャック』で防ぐ。
 しかし、先程のダメージが大きすぎてまともにスタンドを動かせない。
「がっ…!」
 急所こそは何とか外したものの、
 銃弾は確実に俺の体へと侵入してその肉を食い千切った。
 だが、俺にはその痛みよりも、
 『こいつ』が俺を殺そうとしている事が、
 より強い衝撃を俺に与えていた。

 …まずい。
 逃げないと。
 逃げて、この事を皆に伝えないと。
 駄目だ。
 もう体が、動かない。
 だけど、何とかして…


「『マイティボンジャック』!!
 …俺の……体を…殴り飛ばせーーーーー!!!」
 俺は最後の力を振り絞り、自身のスタンドに自分の体を殴らせた。
 その勢いで、俺の体が宙を舞い、
 大通りへと向かって飛んでいく。

「……!」
 『そいつ』が狼狽した顔を見せる。
 様ぁ見ろ。
 そう簡単に、お前の思い通りになってたまるか…!


「!!!!!!」
 俺の体が裏路地から飛び出し、地面に叩きつけられた。
 周りから、何事かと野次馬共が駆けつけてくる。
 『あいつ』は、人が集まって来たのを見ると、
 追撃を断念したのかそそくさと姿を隠した。

 だけど…何故だ。
 何で、『あいつ』が……

「……!」
 口から血が溢れ出る。
 まずい。
 思った以上にダメージが大きい。

 駄目だ。
 ここで死んでは駄目だ…
 あいつらに―――…

639ブック:2004/03/20(土) 17:14



     ・     ・     ・



 私は特務A班の部屋で、事後処理の為の書類の山に追われていた。
 ある意味、どんなスタンド使いより厄介な相手だ。

 …あの夜だけで、街には甚大な被害が出た。
 数えられない位の人が死んだ。
 数えられない位の人が傷ついた。
 数え切れない位の人が悲しんだ。
 その傷痕は、どれだけ時間が経とうと、決して塞がらないだろう。

「……不甲斐無ぃょぅ。」
 私は黙ったまま首を振る。

 もっと助けられたかもしれない。
 もっと守れたかもしれない。
 そんな無念が、私の肩に重く圧し掛かってきていた。


「?これは何だょぅ…」
 と、私は部屋の真ん中の机の上に、何かが置かれているのに気がついた。
 それを手に取って見てみる。

 ああ。
 確かこれは、ギコえもんの妹の形見の手鏡だ。
 でも、いつもギコえもんはこれを肌身離さず持ち歩いている筈なのに、
 何で今日に限って…

「!?」
 すると、突然鏡の部分に亀裂が入った。
 何もしていないのに、何故…

「まさか、ギコえもんに何か…!?」
 言いようのない不安が、私を襲った。
 馬鹿な。
 鏡が割れた位で、何を。
 非科学的にも程がありすぎる。

「……」
 しかし、そう自分に言い聞かせようとしても、
 不安の影は一向に消えなかった。
 それどころか、影は一層その暗さを増してくる。

「ギコえもん…」
 私は祈るように呟いた。
 何だ。
 このいやに現実味のある不安は何なのだ。
 いや、思い過ごしだ。
 そうに決まっている…!



 …しかしそんな私の思いも虚しく、
 それからすぐに、私の不安が的中した事を知る事になるのであった。



     TO BE CONTINUED…

640SS書き:2004/03/20(土) 22:23
 数の戦い −カミング・ダウン・アゲイン−

「隣よろしいですか?」
 私はエラの張った男の横に座った。
 隣の男は一人でこの場末のバーで飲んでいた。
 誰かと待ち合わせをしているようでもない。
 静かに一人で飲みたいという様子でもない。
 むしろ話し相手を欲しがっていたように見えた。
 この場で私が話しかけても不自然ではない。
 私は男から視線をはずし呼吸を整えた。
 これが今回のターゲット、『ニダー』か・・・・・・

「この店にはよく来るのですか? ここは繁華街からは遠いが住宅地には近い。」
「・・・・・・いや、初めてニダ。」
 男は答えた。
 男がこの店に来るのが始めてだということは知っていた。
 自己防衛のためか『なじみの店』を作るつもりはないらしい。
 とにかく私と会話する気があるようだ。
 ・・・・・・これで仕事がやりやすくなった。
 すでに私の攻撃は始まっている。
 あとはこのまま会話を続ければいい。
 本当は男の方を見て話したいところだが度胸のない私にはとても見れない。

「私もよく来るわけではないんです。急に飲みたくなったとき、こうして来るんですよ。」
「男にはそういう夜もあるニダ。」 
 男は私のことを怪しんでいる様子はない。
 しかしまったく警戒していないわけでもあるまい。
 これは至極簡単なルールのゲームだ。
 男が最期まで私の攻撃に気がつかなければ私の勝ち。
 気がつけば私の負け。唯一の能力が封じられてしまえばもはや私に対抗手段はない。
 この男が私をどう見ているのか。正直私にはそんな微妙な空気は分からない。
 私は自分が裏世界の住人だという意識はない。
 なにしろずっと経理として金勘定ばかりしてきた人生なのだから・・・・・・

「ここなら上司と鉢合わせなんてこともないですからね。ゆっくり飲めます。」
「・・・・・・。」
 男は黙ってしまった。
 サラリーマンの愚痴には興味ないと言わんばかりだ。
 まずい。何とか会話を続けられる雰囲気を作らねば。
 そもそも人と会話することは苦手なんだよ・・・・・・。
 もともと私には金を数えることしか能がないんだ。
 それがスタンド能力を身につけたおかげでこんなことをやる羽目になるなんて・・・・・・
 それより会話を続けるんだ。このまま沈黙が続くのはまずい。
 何か、何か話を振らないと・・・・・・
「ええと、あなたは何のお仕事をなさってるんですか?」
 言ったあとで『しまった』と思った。
 目の前の男のことは組織がいろいろ調べてある。
 この男は人前で言えるようなことはやっていない。
 こんな答えにくいことを聞いたらますます空気が悪くなる。
 しかし、私の心配をよそに男は平然と答えた。
「『正義の味方』をやっているニダ。」

641SS書き:2004/03/20(土) 22:24
「な 何だってー!!」
 私は叫んだ。
 我ながらずいぶん不自然な驚き方をしたものだと思った。
「・・・・・・冗談ニダ。」
「ハハハ・・・・・・。」
「でも全くの嘘というわけではないニダ。なにしろウリはテコンドーの達人ニダ。」
「おお、それはすごい。」
「祖国ではちょっとした英雄ニダ。この国に来てからもその勢いは止まらないニダ。」
「そうなんですか。」
 会話が弾みだした。いいぞ。このままいけば・・・・・・
「なにしろ『ウリが通れば道理が引っ込む』と言われるほどの猛者ニダ。」
 それは猛者を表現する言葉ではないですよぉぉぉ!
 それにしても世の中にはうまいことを言う人がいるものだ・・・・・・。
「大会に出れば優勝間違いなしニダ。」
 なんだ実際に大会に出たことはないのか。
 男は気持ちよさそうにしゃべっている。
 この男酔っているのか? 
 さっきからグラスを傾けはするが酒はぜんぜん進んでいないのに。
 ・・・・・・ああ、分かった。この男自分に酔っているのだ。

「わたしも生きているうちに何か記録を残したいものですな。」
 チャンスだったので話をあわせて相槌を打つ。
「記録なんてろくなモンじゃないニダ。大切なのは自分自身の限界と戦うことニダ。」
 私は一瞬ひやりとした。自分の攻撃が気づかれたかと思ったからだ。
 男の切り返しに焦りはしたが、おそらくはただの偶然であろう。
「人は常に新しいことに挑戦していかなければならないニダ。」
 さすが『チョウセン人』と言おうとして言葉を呑んだ。余計なことは言わないほうがいい。
 どうやら男はまだ私の能力に気がついていないようだ。
 男は延々と自分の人生観とやらを繰り返している。
 ・・・・・・胃が痛い。
 何で自分はこんな目に遭っているのだろう。
 そもそも私は経理として組織にはいったはずなのに・・・・・・
 確かに特別な力が欲しいと思ったこともあった。
 そして実際に『スタンド』という能力を手に入れた。
 だが、なんでこんな能力なんだ。この能力がなんの役に立つんだ。
 もっと自分にあった能力はなかったのか。
 スタンドにはいろいろなタイプがあるらしい。
 『近距離型』・・・喧嘩なんかしたことない私には不向きだ。
 『遠隔操作型』・・・スタンドが自分のそばから離れてしまうのは不安だ。
 『自動操縦型』・・・同上。しかもスタンドがどこで何をしてるか分からないのは心配だ。
 『暴走・自立型』・・・制御できないスタンドなんて要らない。
 ・・・・・・やっぱりこのスタンドが自分に合っているかもしれない。
 私は人と争うのが苦手だ。はっきりいって人と話をすることも得意ではない。
 だが、このスタンドなら相手に気づかれないで攻撃できる。
 しかし、この一方意的な能力を活かす方法が『会話すること』だとは皮肉なものだ。
「ちゃんと聞いているニダか?」
 演説をやめて男が話しかけてきた。

「ご、ごめんなさい。以後気をつけます。今後は・・・・・・」
「そんなにくどくど言わなくていいニダ。」
 それもそうだ。
「普段なら謝罪と賠償を求めるところニダ。今日は気分がいいから許してやるニダ。」
「それはどうも・・・・・・」
「まだまだ行くニダ。ウリの武勇伝のネタは尽きないニダ。」
 そもそも経理の私が、なんで前線で戦わなければならないんだ。
 確かに私の能力でおにぎりとモララーは始末した。
 おにぎりは祭りの話しで盛り上げたら簡単にひっかかった。
 モララーは怪しんではいたようだが私の攻撃に最期まで気づかなかった。
 今回の相手は一流のスタンド使いだ。今のところ順調だがいつ気づかれるか分からない。
 そして、私が敗れればおにぎりとモララーはもとに戻ってしまう。
 あの厄介な能力を持った二人を倒したんだ。もう十分じゃないか。
 それなのにこの男の始末まで任されてしまうとは。
 あの組織は駄目だ。リスクマネジメントができていない。
 ・・・・・・あんな組織辞めてやる。

642SS書き:2004/03/20(土) 22:26
「あなたほどの達人なら相手の心を読んでしまうことなんてこともできるんですかね?」
 それでも思わず攻撃を続けてしまっている自分がいた。
「心を読むというわけではないニダが、予想することはできる二ダ。」
 そりゃそうだろう。私の心が読めたら今すぐこの会話をやめるはずだ。
 最も今の私は組織を辞めたあとの再就職のことしか考えていないが。
 男は戦いにおける覚悟について語っている。
 男の話を聞いていても仕方がない。
 再就職試験の面接に向けてなにか自分のアピールポイントを考えることにしよう。
 スタンド能力・・・・・・なんてものはアピールできないよな・・・・・・
 なにか自分の長所はないか。特技、資格、技能・・・・・・
「それで、お前はどんな能力を持っているニダ?」
「はい。そろばん3級を・・・・・・」
「・・・・・・そうニダか。」
 ん? 今、なんで能力を聞かれたんだ?
 もしかして、私がスタンド使いかもしれないとカマをかけてきたのか?
 ・・・・・・だとしたら危なかった。
 もし答えに詰まるようなことがあったら怪しまれていただろう。
 さすがは幾つもの死線をくぐり抜けてきたというスタンド使いだ。油断できない。
 だが、これで逆にこの男の警戒はだいぶ薄れたのではあるまいか。
 これは大きなチャンスだ。
 もしかしたらこのままこの男を倒してしまえるかもしれない。

「参考になにか格闘技の技を見せていただけませんかね。」
「何ならウリのネリチャギを喰らってみるニダか?」
「いえ、遠慮しておきます・・・・・・」
 余計なことを言ってスタンドバトルと関係ないところで再起不能になるところだった。
 落ち着け、落ち着くんだ。もう少し、もう少しで私の勝ちだ。
 時間よ早く過ぎてくれ。
 男はまたグラスを傾けている。
 そういえばさっきから沈黙が続いている。
 男が話すのをやめているのだ。
 まずい、会話を続けないと・・・・・・ここまできて引き返すわけにはいかない・・・・・・
 私は時計を見た。
 次の攻撃の時間だ。
 私から話を振らねば・・・・・・
 なんでもいい、『あの言葉』を使って何か言うんだ・・・・・・

「ニ、ニダーさんはこの国に来て長いんですか?」
「今、なんて言ったニダ?」
 ・・・・・・なんだ、なにかまずいことを言ったか?
「ウリはお前に名前を名乗った覚えはないニダ。」
 し、しまった。なんという基本的なところでミスをしてしまったんだ・・・・・・
 あの言葉に気をとられすぎた。
 くそ、『名前は宿帳に書いてあった』ってわけにはいかないしな・・・・・・
 こんなことなら初めに名刺交換でもしておけばよかった。
 いや、この男が名刺を持っているわけがないか・・・・・・
「納得のいく説明を聞かせてもらいたいニダ。」
「いや、それは・・・・・・」
 まずい、まずい、まずい、まずい・・・・・・
 この場で終わるわけにはいかない。
 落ち着け、落ち着くんだ。
 状況をよく見極めるんだ。
 幸いニダーは私の攻撃にはまだ気づいていないようだ。
 すぐに私を攻撃する様子でもない。
 なんとかこのまま時間を稼ぐことができればまだ私に勝つ見込みがある・・・・・・
「さあ、答えるニダ。」
 私は時計を見た。・・・・・・次の攻撃の時間だ。

643SS書き:2004/03/20(土) 22:27
「一度、前に一度だけ会ったことがあるじゃないですか。さ、さっき思い出したんですよ。」
「ウリにはそんな記憶ないニダ。いつ、どこで会ったのか言ってもらうニダ。」
「それは・・・・・・」
 ここまできたんだ。あと、もうほんの少しなんだ。
 私の能力『カミング・ダウン・アゲイン』は対象の前でカウントダウンを行い攻撃する。
 まず、ターゲットに『10』という言葉を聞かせることで相手の額に『10』という数字を浮かばせる。
 そして『9』から『0』までの数を相手に聞かせることで額の数字を減らしていく。
 その数字が0になったとき、相手の魂を奪える能力だ。
 ただし一度数字を減らしたら次に減らすには1分以上の間を要する。
 この能力は私のセリフの中にこっそり数字を紛れ込ませることで、
 相手に気づかれずに攻撃できることができる。
 そして、私はすでに『1』までのカウントダウンを成功している・・・・・・。
 しかも、『1』と言ってからもうすぐで1分たつ。
 このまま、このまま『ゼロ』と言ってしまえば、私の勝ち・・・・・・
 そうだ、ゼロと言ってしまおう。
『模型店で零戦を見たときに会った』と言おう。
 言ってしまえば私の勝ちだ・・・・・・
 今まで誰も倒せなかったこの男を、私が、この私が倒すんだ。
 心臓がバクバクいっている。
 最後の攻撃の時間だ。
 後一言、たった一言で私の逆転勝ちだ・・・・・・

「わ、私が、あな、あなたと、・・・・・・ど、どこで、会ったかというと・・・・・・も、模型店で、ゼ、ゼ・・・・・・」
 ここまで言って私の意識は途絶えその場に倒れた。
「だ、大丈夫ですかお客さん?」
 店の人間が駆けつける。
「心労で倒れたようニダ。なにか思いつめていたみたいニダね。
 さっきから『能力』がどうとか呟いていたニダ。」
「お客さん、この方とお知り合いですか?」
「いや、違うニダ。どこかで会ったことがあるらしいニダが。
 ・・・・・・もう心配無用ニダ。心臓麻痺は『なかったこと』にしたニダ。」
 意識を取り戻した私はニダーの額を見た。数字はすでになくなっている。
 気を失ったことで能力が解けたのだろう。
 私の負けだ。結局能力に気づかれることはなかったのに。
 あの時、ただ『ゼロ』とだけ言えばよかったのに。
 とてももう一度攻撃を仕掛ける気力はない。
 その場で呆けている私の耳元でニダーが囁いた。
「まったくこんな素人が出てくるようでは組織はよほど人材不足ニダね。
 こんなバレバレな攻撃をしかけてくるしかなかったニダか。
 額に数字が書いてあったのがグラスにばっちり映っていたニダ。
 もちろんバイオレット・キムチで『なかったこと』にしたニダ。
 今回は見逃してやるニダ。二度とウリの前に現れないことニダ。」
 私の心臓は再び止まりそうになった。
 そして誓った。『あんな組織絶対辞めてやる』と。

ニダー
――このあとそのままこの店で酒を飲んだ。

おにぎりとモララー
――能力者が敗北を認めたことで魂がもとに戻る。
  おにぎりはこのことをべらべらしゃべったがモララーは黙っていた。

スタンド名 カミング・ダウン・アゲイン
本体 気弱なギコ
――このあと組織を辞めた。(リタイア)

END

644SS書き:2004/03/20(土) 22:28
スタンド名:カミング・ダウン・アゲイン
本体:気の弱いギコ

パワー‐− スピード‐− 射程距離‐D
持続力‐C 精密動作性‐− 成長性‐E

ビジョンのないスタンド。対象の前でカウントダウンを行うことで攻撃する。
最初にターゲットに『10』という言葉を聞かせることで相手の額に『10』という数字を浮かばせる。
そして『9』から『0』までの数を相手に聞かせることで額の数字を減らしていく。
その数字が0になったとき、攻撃対象の魂を奪える。
一度数字を減らしたあと次に減らすには1分以上の間を要する。
本体が数字言ったときターゲットがそれを数字と認識することを必要としない。

645ブック:2004/03/21(日) 16:31
     救い無き世界
     第五十二話・嘘 〜その二〜


 ギコえもんが、担架に乗せられて病院に担ぎこまれてきた。
 服が、夥しい程の血で紅に染まっている。
「ギコえもん、しっかりするょぅ!」
 私は担架に併走しながら、必死にギコえもんに向かって呼びかけ続けた。

 鏡が割れた後、どうにも気になって
 私は外にパトロールに行っているギコえもんを探しに行った。
 …そこで見つけたのは、血塗れになって倒れているギコえもんだった。

 誰だ…
 誰が彼を、こんな目に…!

「タ…………」
 と、ギコえもんが虚ろな目を私に向け、何か言おうと口を動かした。
「ギコえもん!
 何だょぅ!
 何が言いたいんだょぅ!!」
 泣きそうになりながら、ギコえもんに叫ぶ。

「…カ………」
 ギコえもんが、懸命に声を出そうとした。
 しかし、その声は途切れ途切れで上手く聞き取れない。
「何だょぅ!
 一体、ぃょぅに何を伝えたいんだょぅ。」
 私はギコえもんの手を強く握りながら聞いた。

「……ラ…コ。」
 ギコえもんが、苦しみながらも、一つの言葉を私に告げた。

 …!?
 ギコえもん。
 どういう事なんだ!?
 何故、こんな時に『彼』の名前を…

「…!!」
 まさか。
 そんな。
 まさか『彼』が…!?


「これ以上は入らないで下さい!!」
 ICUの前で、医者が私を止めた。
 私は一人、部屋の前に取り残される。

「……」
 私は呆然と立ち尽くしていた。
 ギコえもんが言った『彼』の名前。
 それがどういう意味かは明白だ。
 だが…
 だが、しかし…!

「……くっ!」
 私は、壁を思い切り拳を当てた。

646ブック:2004/03/21(日) 16:32



     ・     ・     ・



「ぃょぅ!!
 何があったんだモナ!?」
 僕はICUの前の椅子で座っているぃょぅに、
 大きな声で尋ねた。
 病院内は静かに、とかいう張り紙がされているが、
 知った事か。

 さっきぃょぅから『ギコえもんが重体だ』という連絡が入った時は、
 半信半疑だった。
 だって、ギコえもんみたいな奴は、殺しても死にそうにないんだもの。
 だけど…
 こうして病院に駆けつけぃょぅの深刻な顔を見る事で、
 現実なのだという事を嫌でも実感させられる。

「…さっき、道端で倒れているギコえもんを見つけたょぅ。
 全身に、銃創があったょぅ。」
 ぃょぅが重く呟く。

「…容態は、どうなの?」
 ふさしぃがぃょぅに尋ねた。
 その顔は、いつものふさしぃからは考えられない程に暗い。
「…かなり悪いみたいだょぅ。
 その上、この前の騒ぎの所為で怪我人に医者や薬が追いつかなくて、
 十分な治療も出来ないそうだょぅ。」
 ぃょぅが頭を振った。

「そんな…」
 僕の目から涙が勝手に流れる。
 嘘だ。
 こんな事絶対に嘘だ。

「…しかし、一体誰がギコえもんを……
 彼程の男をここまでする使い手なんて…」
 タカラギコが顎に手を当てた。
 そういえばそうだ。
 あれでもギコえもんは特務A班のメンバー。
 簡単にやられるなんて思えない。


「!!!!!」
 と、ICUの部屋のドアの上の電気が落ちた。
 扉が開いて、その中からお医者様達が出てくる。

「先生、ギコえもんは!?」
 僕はおもむろに先生に詰め寄って尋ねた。

「…一命は取り留めましたが、未だ予断を許さない状況です。
 今夜が、山となるでしょう……」
 医者が沈痛な面持ちで口を開く。

「ギコえもんは助かるモナか!?
 ねえ、助かるに決まってるモナよね!?」
 僕は医者の服を掴みながら言った。
 しかし、医者は押し黙ったまま何も答えない。

「助かるモナ!
 絶対に助かると言うモナ!
 その為なら、僕の内臓だって何だってあげるから、
 だから、
 だからギコえもんを……!」
 僕は泣きながら医者に訴え続けた。

 駄目だ。
 ギコえもんが居なくなるなんて、絶対に駄目だ…!


「…小耳モナー、やめるょぅ……」
 ぃょぅが、僕の肩を掴んで医者から引き離した。

「ぃょぅ、何で止めるモナ!
 ギコえもんが死にそうなのに、何でそんなに落ち着いていられるモナ!
 ぃょぅは、ギコえもんが居なくなっても悲しくないモナか!?」
 僕は、やり場のない怒りと悲しみをぃょぅにぶつけた。

「小耳モナー!」
 その時、ふさしぃの平手が僕の頬を打った。
「あなた、本気でそんな事言ってるの!?
 悲しくない訳ないでしょう!?
 ギコえもんが心配じゃない訳ないでしょう!?
 自分一人が辛いと勘違いしないで!!」
 ふさしぃが、涙を流しながら僕を叱る。

 …分かっている。
 そんな事、分かってるんだ…!

「え…うえええええええ……
 うえええええええええええええええ……!」
 堪えきれず、僕は子供の様に声を上げて泣き出した。
 嫌だった。
 僕達の内、誰か一人欠けてしまうのも嫌だった。

「うえええええええええええええええ…!」
 僕は、泣き続けた。
 泣き続けた。

647ブック:2004/03/21(日) 16:32



     ・     ・     ・



 『彼』は何に対しても執着する事が無かった。
 そんなものは無駄だと思っていたから。
 いらないと思っていたから。
 『彼』には心を許す友達など居なかった。
 そんなものは無駄だと思っていたから。
 いらないと思っていたから。

 『彼』は生まれてから、人を殺す術、人を欺く術のみを教えられてきた。
 その他の事は、教えられなかった。
 『彼』自身、教わる気もなかった。
 いや…
 『彼』にしてみれば、人を殺す術や人を欺く術すら、
 意味が無いと考えていたに違いない。

 『彼』は、全てがどうでもよかった。
 全てが茶番でしかなかった。
 そう、自分の命さえ。
 自分の人生でさえ。

 『彼』は惰性のみで生きていた。
 『彼』にとっては、死さえ無意味無価値だったから。
 だから『彼』は死ぬ事など恐くなかった。
 自殺しないのは、死ぬことにすら意味を見つけられなかったから、
 ただそれだけだ。

 『彼』は自分が操り人形である自分の境遇を嘆きはしなかった。
 むしろ、自分が考えなくても勝手にやる事を与えてくれる分、
 ありがたかったのかもしれない。

 『彼』は全てを騙しながら生きてきた。
 他者を騙し、自分すら騙して生きてきた。

 それでも『彼』は構わなかった。
 そう、どうでもよかったのだ…



     ・     ・     ・



「どうしたんです?
 こんな所に呼び出して。」
 『彼』が、特務A班室に入ってきた。
 私は何も言わずに彼に目を向ける。

「他の方々が見えませんね…
 病院ですか?」
 部屋の中に私だけしかいない事に気づき、『彼』が私に尋ねる。
「…ああ。
 二人で、話がしたいと思ったからょぅ……。」
 私は彼に向かって静かに言った。

「…ギコえもんから、君の名前を聞いたょぅ。」
 私は、単刀直入に『彼』に告げた。
 彼は表情を崩さないまま、私の言葉を聞く。

「どういう事か、教えてくれょぅ。
 タカラギコ…」
 私は、彼の目を正面から見据えた。

「…さあ?
 いきなりそんな事言われましても、私には何が何だかさっぱり…」
 いつもと同じ表情で、いつもと同じおどけた口調で、
 タカラギコが答える。

 …この素振りはまやかしだ。
 しかし、そう確信していながらも、
 私はそれでも心のどこかで、私の思い違いであったらなどと、
 甘い考えを捨てきれずにいた。

 そんな事を考えながら、
 私はただタカラギコを睨むように見つめ続けた。

648ブック:2004/03/21(日) 16:33


「…ふ……しらばっくれても、やはり無駄ですよね。」
 タカラギコが、観念したように呟やく。
 一度でも疑われた以上、内通者としてやっていくのは無理だと思ったからだろう。

「…いつからなんだょぅ。」
 私はタカラギコに尋ねた。
 二人の間に、重苦しい空気が流れる。
「…最初から、ですよ。
 初めてあなた達と会った時から、私の仕事は開始していたのです。」
 タカラギコが世間話でもするかのように答える。

「……!
 君は何で…!」
 正しい答えが返ってくる筈など無いと悟りながらも、
 私は彼にそう聞かずにはいられなかった。

 まさか、今までの彼と共に過ごした時間は、
 全て偽りだったとでもいうのか?

「…何故に、と問われたら、故に、と答えるしかないですね。
 私は、その為に『作られた』のですから。」
 タカラギコが机の上に手を置いた。

「…誰が、君の親玉なんだょぅ。」
 私は一歩タカラギコに近づいた。
「…もう、大体察しはついているでしょう?
 『矢の男』ですよ。」
 タカラギコは目を逸らさずに私に告げる。
 …やはり、そうだったのか。

「…私は、『矢の男』の支配する組織の潜入工作員として『作られ』ました。
 あなた達に出会う前にも、幾つもの邪魔な組織に潜入しては、
 悉く裏切って内部から壊滅させましたよ。」
 タカラギコが、誇るでもなく、自嘲するでもなく語った。

「なんで、君はギコえもんを…!」
 私はタカラギコに語感を荒げて問いかけた。
 『裏切られた』。
 その事実が、私から理性を失わせていく。

「いやですね、『矢の男』様が最後の戯れにと『矢』で人を射った所を、
 偶然ギコえもんさんに見つかってしまいましてね。
 しかもギコえもんさんは『矢の男』様の顔まで見たと言うじゃありませんか。
 ですから、殺すしか無いと思いましてね。
 いやはやしかし…不意打ちしても殺しきれないとは、計算外でした。
 流石は、特務A班。簡単には殺らせてくれませんね。
 しかし『矢の男』様にも困ったものです。
 だから遊びは自重するように言っておいたのに…」
 タカラギコが微笑みを浮かべながら答える。
 それが、私の理性をさらに奪っていった。

「この…裏切り者……!!」
 私は、叫んだ。
 憤怒悲哀無力感絶望感全てをその言葉に乗せて、
 彼に叩き付けた。

 信じていたのに。
 仲間だと思っていたのに…!

649ブック:2004/03/21(日) 16:33

「…裏切り者、か。
 その言葉はもう、聞き飽きましたよ……」
 タカラギコが懐から銃を抜いて両手に構える。

「何故あなたにここまでの事を話したか、もうお分かりですよね。
 あなたには、ここで死んで貰います。
 本当に、愚かな人ですよ。
 余計な感傷なんか無視して、ふさしぃや小耳モナーもこの場に呼べば良かったのに。」
 タカラギコが、私に銃口を向けた。
 私も、『ザナドゥ』を発動させる。

「そういえば…
 あなた達に初めて会ったのもこの場所でしたね……」
 その時、一瞬だけタカラギコの顔に揺らぎのようなものが見て取れた。

 …いや、違う!
 あれもまやかしだ!
 そうに、決まっている…!

「全ての清算を全ての始まりの場所で…か。
 なかなか趣向としてはおあつらえ向きですね……」
 タカラギコが、小さく笑いながら呟いた。

「…喋り過ぎました。
 そろそろ、始めましょうか……」
 タカラギコの周囲に、何個かの銀色の球体が出現した。

 初めて見る。
 あれが、タカラギコのスタンド…!

「実力を出し惜しみして、あなたに勝てるとは思いません。
 今回に限り、遠慮せずにスタンドをフルに使って闘います。」
 と、みるみる内にタカラギコの姿が掻き消えていく。
 何だ、これは。
 これが、タカラギコのスタンド能力…!?

「『グラディウス』…!」
 タカラギコの姿が完全に消え、
 何も無い空間から彼の声だけが響いてきた。



     TO BE CONTINUED…

650ブック:2004/03/22(月) 16:14
     救い無き世界
     第五十三話・嘘 〜その三〜


「刻は満ちた…」
 従者達を前にして、『矢の男』が呟いた。
「『魂』は集まり、『場』も整えられた。
 後は、救いを求めし『魂』と『場』に呼ばれ、
 『矢』により導かれて、神を現世に降りるのみ。」
 『矢の男』とその従者達の目は、狂気と狂喜に彩られている。

「トラギコと、タカラギコはどうしました…?」
 二人の姿がその場に居ないのに気づき、
 『矢の男』が、近くの従者に尋ねた。
「タカラギコは、もう少ししたら来るとの伝言がありました。」
 従者がそう『矢の男』に告げた。

「そうですか。
 それでは、トラギコは?」
 『矢の男』が聞き返す。
「あ奴は、あの『悪魔』を身に宿せしでぃを殺すとか言いながら、
 街の中をうろつき回っています。
 全く、この大切な時を前にして、何をやっているのか…!」
 従者が不快気に答える。

「…仕方ありませんね。
 では、すみませんがトラギコを呼び戻しておいて下さい。」
 『矢の男』が従者の顔を見て言う。
「…!!
 私が、ですか!?」
 普段からトラギコと反りの合わないその従者が、
 露骨に嫌そうな顔をする。

「…何か、問題でも?」
 『矢の男』が微笑む。
「…いえ。」
 従者は、渋々ながらも承諾した。

「頼みますよ。
 この大事に立ち会えないなんて、気の毒過ぎますからね。」
 『矢の男』が従者に念を押す。
「はっ…」
 従者が、トラギコを探す為に部屋を後にした。


「…いよいよ、いよいよだ。
 長き永き、幾年月を経て、ようやく我等の悲願が実を結ぶ…!」
 『矢の男』が、拳を固く握り締めた。
「見ているがいい、
 『終焉の化身』、『デビルワールド』め…!
 神が降臨せし暁には、貴様を跡形も無く屠り去ってくれる…!!」
 『矢の男』は、怒っているとも笑っているともつかない表情で、
 吐き捨てるように呟いた。

651ブック:2004/03/22(月) 16:15



     ・     ・     ・



 タカラギコの姿が完全に見えなくなった。
 気配も完全に絶たれ、タカラギコの居場所が全く掴めなくなる。

「!!!!!」
 銃声。
 何も無い空間から、銃弾が射出される。
 咄嗟に『ザナドゥ』で防御。
 銃弾が弾かれ、壁に当たって地面に落ちる。

「流石は近距離パワー型。
 素晴らしい反射能力です。」
 虚空から、タカラギコの声が耳に入ってくる。
 どこだ。
 彼は、どこに…

「!!!」
 再び、銃声。
 しかし、それでも何とかなる。
 近距離パワー型のスピードならば、
 銃弾の軌跡を読み取って防御する事など…

「!?」
 その時、信じられない事が起こった。
 銃弾をスタンドの拳で受けたと思ったのに、
 拳には何の感触も得られなかったのだ。
 いや、拳が銃弾をすり抜けた!?

「……が!!」
 脇腹に鋭い痛みが走る。
 横から、銃弾…!?
 馬鹿な。
 横から銃弾が飛んでくるのは見えなかったのに、何故。


「くっ……!」
 ここでじっとしているのは、ヤバい。
 私はすぐさま壁際まで走り、壁を背にしてもたれかかった。
 そして、『ザナドゥ』を発動して目の前に壁の障壁を作り出す。

「ほう…考えましたね。
 壁を背にする事で、私からの攻撃方向を限定し、
 それにより銃弾を弾く為の風の障壁を出来る限り縮小する事で、
 スタンドパワーの消費を節約するとは…」
 と、タカラギコが私から少し距離をおいた所に姿を現した。
 その顔には、いつもと変わらぬ笑みを浮かべている。

「ですが、それでもあなたの能力は持続力に乏しく、
 あまり長い時間は風を起こし続けられない。
 いつまでその体勢を維持出来ますかねぇ。」
 タカラギコがそう言いつつまたもや姿を消した。

 …焦るな。
 時間がないのは、向こうだって同じだ。
 この部屋に誰かが来たら、タカラギコにとって圧倒的に不利。
 彼は一刻も早く私を倒す必要がある。
 だから、彼は私のスタンドパワーが切れるのを悠長に待つ事はしない筈。
 しかし、彼の言う通りこの風の障壁はあまり長い時間作ってはおけない。

「……」
 私は少しずつ、風を起こす範囲を広げていった。
 感じ取れ、風の流れを。
 タカラギコは間違いなくこの部屋の中に存在しているのだ。
 ならば、風が彼のいる部分に吹けば、
 当然そこに風の揺らぎが生じる。
 そこさえ分かれば、彼の居場所が特定出来る!

652ブック:2004/03/22(月) 16:16


「…!?」
 しかし部屋中に風を起こしても、風の揺らぎを見つける事は出来なかった。
 …まさか!

「地面に、伏せている…!?」
 私は、思わず口を開いた。

 間違いない。
 地面に伏せる事で、体が風を受ける面積を減らして、
 風のレーダーから逃れている。
 だから、風の揺らぎで彼の居場所を特定出来ない。


「!!!!!」
 突然、全身に鳥肌が立つ。
 第六感が、私に危険を告げたのだ。
 その警告を受けて、瞬時にその場から動く。

「!!!あ……!!」
 私の左腕に穴が穿たれた。
 さっきまで私の胴体があった場所だ。
 もう少し反応が遅れていたら、心臓を打ち抜かれていたであろう。

「くぁ……!!」
 私は痛みに顔をしかめた。
 今の攻撃は、何だ!?
 銃弾は、風の障壁で跳ね返される筈だ。
 例え他の物質による射撃であっても、等しく風にはじき飛ばされる。
 なのに、何で…

 …!!
 まさか、物質以外によるものでの攻撃!?


「今ので、仕留められたと思ったんですけどねぇ…」
 部屋のどこからか、タカラギコの声が響いてきた。
 気配は全くしないのに、声だけが聞こえてくる。
 ある種、異様な状況であった。

「正直、小耳モナーさんが居なくてほっとしていますよ。
 あのスタンドだと、匂いで私の位置を探られてしまいますからね。」
 タカラギコが言葉を続ける。
 その声を聞いただけで、あの皮肉めいた笑顔が容易に連想された。

「…君は……この時の為に、自分のスタンドを明かさなかったのかょぅ…!」
 私はどこかにいる筈のタカラギコに対して尋ねた。
「それ以外の、何があると?」
 呆れたようにタカラギコが言う。

「私はあなたのスタンドの、長所も短所も、
 パワーもスピードも、持続力も射程距離も知り尽くしている。
 対して、あなたは私のスタンドについて全く知らない。
 これが如何に闘いの優劣おいて比重を占めるか、
 今更言うまでも無いでしょう。」
 …やはり、そうだったのか。
 タカラギコは、最初から裏切るつもりでSSSに入ってきた。
 だから、いざという時には確実に殺せるように、
 私達には決してスタンド能力を明かさなかった…!


「おっと…喋り過ぎました。
 悪い癖だ…」
 次の瞬間、私の両足に腕と同じような穴が開けられた。
「ぐあ!!!」
 脚を打ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。
 まただ。
 またしても、風の障壁を無視して攻撃が私に命中した。

「王手詰みです。
 これで、もうさっきの様にかわす事は出来ない。」
 タカラギコの冷徹な声が、私の耳に届いてくる。
「かつての同僚としての情けです。
 せめて、苦しまないように殺してあげましょう…」
 タカラギコが呟く。

「……あ!!」
 タカラギコがその言葉を言い終わると同時に、
 私の胸の部分に衝撃が走った。



     TO BE CONTINUED…

653ブック:2004/03/24(水) 00:35
     救い無き世界
     第五十四話・嘘 〜その四〜


 タカラギコの正体不明の一撃が、私の胸に命中した。

 ああ…
 駄目だったか。
 私は、ここで死ぬ……

「……?」
 しかし、私の体は毛ほどの怪我も負っていなかった。
 何故だ。
 どうして、何も…

「…これは。」
 胸の撃たれた部分に手をやってみると、
 硬い感触を感じる事が出来た。
「……!」
 思い出した。
 ギコえもんを探しに外に出る前に、
 彼に渡そうと思って、彼の妹の形見の手鏡を懐にしまっておいたのだ。
 それが、入れっぱなしになっていたのだ。

「…!?」
 珍しく、タカラギコが狼狽する。
 しかし、肝心の私も何が起こったのかさっぱり分からない。

 どうしてこんなもので。
 こんな手鏡では、銃弾を防ぎ切れるなんて思えない。
 よしんば弾が鏡を貫通しなかったとしても、
 弾が着弾した時に、凄まじい衝撃を喰らう筈だ。
 だが、今のはそれすらなかった。
 彼は、一体何で攻撃を…

 …待てよ!
 タカラギコの姿が消える。
 銃弾の幻影。
 風の影響を受けない攻撃。
 攻撃が、鏡で無力化する。


「分かったょぅ…!
 君のスタンドの秘密が!!」
 私はそう叫ぶと、手鏡を地面に叩きつけて粉々に砕いた。
 すまない、ギコえもん。
 妹の形見を壊してしまって。
 この償いは、何でもする…!

「『ザナドゥ』!!」
 そして、その細かく砕かれた鏡の破片を、
 風に乗せて宙にばら撒いた。

「く……!」
 タカラギコの姿が、みるみると現れていく。
 思った通りだ。
 彼のスタンドの能力は…

「タカラギコ、君のスタンド能力は、『光を操る事』だょぅ!
 物質を我々が視覚出来るのは、光による反射が目に入ってくるからだょぅ!
 だから、君は光の反射率屈折率等を操作して、完全に姿を消したょぅ!!」
 タカラギコの姿はもはや完全に露になっていた。
「さっきの攻撃は、光を収束してレーザーのようなものを撃ち出していたんだょぅ。
 だから、風では防げなかったょぅ!」
 タカラギコが苦虫を噛み潰したような顔で、私の顔を睨む。
「だが、もうそのスタンドは役に立たなぃょぅ。
 空中に散りばめられた鏡の破片が、光をあらゆる方向に乱反射させるょぅ。
 そうなったら、君はもう光を自在に操る事は…」

654ブック:2004/03/24(水) 00:35


「!!!」
 タカラギコが私を拳銃で撃つ事で、私の言葉を中断させた。
 しかしもうそんな攻撃は脅威ではない。
 姿さえ見えていれば、近距離パワー型の私のスタンドは銃弾を弾くのは容易な事。
 拳で、射出された銃弾を軽く弾く。

「…何をべらべらと余計なお喋りを。
 スタンドを封じた程度で、私に勝ったつもりですか?」
 その言葉と同時に、タカラギコが引き金を一気に引き絞り、
 マガジンの中に残されている銃弾を根こそぎ私に撃ち放った。
 咄嗟に、スタンドで防御する。

「!!!!!」
 速い…!
 銃弾を私が防ぎきった時にはもう既に、
 タカラギコは私の目前まで距離を縮めていた。

「……!」
 タカラギコの左のジャブ。
 鼻が潰され、鼻血がそこから滴る。
 休む間も無く、今度は右のストレートが飛んでくる。
 これは、何とか『ザナドゥ』で防御。

「が……!」
 右足に重い痛み。
 思わず体勢を崩してしまう。
 今のは…ローキック。
 左ジャブから繋げる、ワンツーパンチからのロー。
 お手本のようなコンビネーション。

「はぁ!!」
 タカラギコが掛け声と共に、左のハイキックで止めを刺しに来た。
 私は体勢を立て直すのではなく、
 逆にそのまま上体を沈める事でその蹴りをかわした。
 よし。
 このまま反撃を…

「!!!!!」
 直後、私の顔面を足の裏が直撃した。
 そのまま、無様に床に蹴り飛ばされる。

 ハイキックからの中段後ろ回し蹴り…!
 ハイキックは、大きな餌だったのか。

 しかし、呑気に倒れている暇は無い。
 すぐさま跳ね起き、タカラギコの追撃の下段かかと蹴りを避ける。

「しゅあ!!」
 タカラギコの手元が光る。
 ナイフだ。
 そう思った時には、タカラギコは既に私に向かってナイフの刃を振り下ろしていた。
 『ザナドゥ』で、ナイフではなくナイフを持つ腕を止める事で、
 ナイフが私に到達するのを防ぐ。

 しかし、それすら読みきっていたかのように、
 タカラギコが私の金的めがけて蹴り上げを放ってきた。
 瞬時に股を閉めて、蹴りを防御する。

「!!!!!」
 刹那、頸部に飛来してきた閃光を、私は紙一重で回避した。
 頬が切り裂かれ、ぱっくり割れた傷口から血が流れる。
 いつの間にか、タカラギコのもう片方の手にもナイフが逆手に握られていた。
 今の一撃は、あれか。

「!!!!!」
 攻撃はそれだけでは止まらない。
 休む間も無く、タカラギコが次々と攻撃を繰り出してくる。

 凄い。
 凄いぞ、タカラギコ。
 何て奴なんだ、君は。
 近距離パワー型のスタンド使いである僕が、生身の君に押されている。
 信じられない程の体術の切れ味。
 一体どれ程過酷な修練を君が重ねてきたのか、
 僕には想像もつかない。

 …だけど。
 だけど、もう……

「『ザナドゥ』!」
 タカラギコに向かって、風を巻き起こす。
 彼の体が、風に持ち上げられて宙に舞う。

「……!」
 タカラギコの顔が強張る。
 如何なる達人とはいえ、空中では自在な動きは出来ない。
 それは、彼も当然承知の上だろう。

「タカラギコ…!!」
 私は、風に巻き上げられた彼に、
 渾身の力と、やりきれない、ごちゃ混ぜになった感情を拳に込めて、
 最後の一撃を打ち込んだ。

「がは……!」
 タカラギコが、その勢いのままに壁に打ち付けられる。
 彼の口から吐き出された血が、地面を赤色に染めた。

655ブック:2004/03/24(水) 00:36



「…タカラギコ。」
 私は、壁にもたれ掛かっている彼に、ゆっくりと近づいていった。

「…やられましたよ。
 流石は、ぃょぅさんだ……」
 タカラギコが力無く私に言葉を投げかける。
「…ぃょぅだけの力じゃなぃょぅ。
 ギコえもんの、おかげだょぅ。」
 私は首を振りながら答えた。
 実際彼の手鏡が無ければ、私は間違いなく死んでいた。

「…どうしました?
 止めを、刺さないんですか?」
 タカラギコが不思議そうに尋ねる。
「そんな事はしなぃょぅ。
 君には、喋ってもらいたい事が山程あるょぅ。」
 …違う。
 本当は、違う。
 私は、ただ彼を殺したくないだけだ。
 まだ信じたいのだ、彼を…
 タカラギコを…!

「…ははは。
 私が喋る訳無いって事位、あなたも分かっているでしょう?」
 タカラギコが、笑いながら話す。
「タカラギコ…それでも、ぃょぅは君を…!」
 分かっている。
 これは立派な公私混同だ。
 それに、タカラギコを信じてはいけない事ぐらい、
 誰の目に見ても明らかだ。
 現に、彼は私達を裏切っていたじゃないか。

「…甘いですねぇ、本当に……
 さっきだってそうです。
 すぐに風の力を使えば、傷つかずに私を倒せた筈です。
 それなのに、あなたはギリギリまでそうしなかった。
 駄目ですよ、裏切り者なんかに感情移入したら。」
 タカラギコが咳き込む。
 恐らく、さっきの一撃のダメージの所為だろう。

「待っているょぅ。
 すぐに、医務室に…」
 私はそう言って彼に手を差し伸べようと―――

「!!!!!」
 その瞬間、彼の手元にナイフが出現し、
 私の喉元目掛けて迫ってきた。

 しくじった。
 情に流されて、私は何てドジを…!

656ブック:2004/03/24(水) 00:37



「!!!!!!!」
 しかし、ナイフの刃は突如軌道を変え、
 タカラギコの胸元へと突き刺さった。

「ごふっ……!」
 タカラギコが苦悶の声を上げ、その場に崩れ落ちる。

「…!!
 タカラギコ!?」
 私は、彼の体を抱きかかえた。
 腕を通して、彼の体からどんどん力が失われていくのが伝わってくる。

「…愚かですねぇ……
 甘過ぎますよ、あなた達は……」
 タカラギコが虚ろな目で呟く。
 彼の着ているシャツが、瞬く間に血で染まっていった。

「タカラギコ!!
 君は、何でこんな…!!」
 私はそれ以上言葉を繋げる事が出来なかった。
 言いたい言葉がどんどん頭に溢れてくるのに、
 それが喉に届いた時点で全て失われてしまう。

「…これほどの事をやっておいて……
 むざむざ生き延びるなんて無様な真似は、
 出来ませんよ……」
 タカラギコの顔色が、土気色に変わっていく。
「本当は、あなたに殺して貰いたかったのですけど…
 それだと…あなたに嫌な思いをさせてしまいますからね……」
 タカラギコが、苦しそうに口を開いた。

「すぐに、医者を…!」
 しかし、立ち上がろうとする私を、
 タカラギコは私の服を掴む事で引き止めた。
「もう、助かりませんよ…
 それ位、見れば分かるでしょう…?」
 そう言って、彼は無理矢理にっこりと笑ってみせた。

 …畜生!
 何だって、こんな時までいつもと同じように笑うんだ…!


「ぃょぅ、ギコえもんが…!!」
 と、ふさしぃと小耳モナーが部屋の中に入って来た。
 そして、タカラギコを見て絶句する。

「タカラギコ!!」
 二人が、私達の元まで駆け寄って来た。
「ぃょぅ、何があったんだモナ!?」
 小耳モナーが、半泣きの顔で私に掴みかかる。

「…ギコえもんさんに、何があったんですか?」
 タカラギコが、ふさしぃ達に尋ねた。
「そんな事より、あなた…」
「教えて下さい…!」
 タカラギコが、必死な形相でふさしぃを見つめる。
 そのあまりの気迫に、ふさしぃは一瞬たじろいだ・

「…お医者様が、峠は越えたって。
 もう、心配無いって…」
 ふさしぃが、観念したようにタカラギコに告げた。
「……やれやれ…
 不意打ちまでして殺せなかったとは……
 私の腕も、衰えた……」
 タカラギコが、言い終わらないうちに大量の血を吐き出した。

657ブック:2004/03/24(水) 00:38

「タカラギコ!!」
 私達は一斉に彼の名を呼んだ。

「…大した事じゃないですよ、皆さん。
 来るべき時が来た、それだけです……」
 タカラギコは、それでも私達に笑って見せた。

「…なあに、心配しないで下さい。
 私は、死ぬ事はこれっぽっちも恐くなどないのですから……」
 タカラギコが、ポケットをまさぐり、
 一枚のフロッピーを私達に差し出した。

「『矢の男』についての、私が知り得る限りの情報が入っています…
 どうするかは、任せますよ……」
 私は、彼の震える手を握り、そのフロッピーを受け取った。
「それと…でぃ君を見つけて下さい……
 よく分かりませんが…『矢の男』は、彼をおそれていた…
 多分、彼が、鍵になる筈です……」
 タカラギコが、途切れ途切れになりながらも、
 必死に私達に訴えかける。

「タカラギコ、やっぱり、君は…」
 私の目からは涙が零れ落ちていた。
「…勘違いしないで下さい。
 裏切り者と名乗る以上……
 あなた達だけ裏切るのは…フェアじゃありませんからね……」
 タカラギコの瞳には、もう殆ど命の火は宿っていなかった。

「…あなた達には、嘘ばかりついてきました……」
 タカラギコが、うわ言のように呟いた。
「それでも…あなた達と過ごした時間は、本当に楽しかった……
 生まれて初めて、生きる事に意味を見つけられた気がしたんです……」
 私達は、泣きながらタカラギコの言葉に黙って耳を傾けた。

「…はは…嘘ですよ……」
 タカラギコが笑いながら言う。
 多分、最後の笑顔。

「…そんな顔しないで下さい……
 死ぬのが、恐くなるじゃ…ありませんか………」

 ―――そして、タカラギコは、
 ゆっくりと、目を閉じた。



     TO BE CONTINUED…

658PORORO:2004/03/24(水) 13:58
─アナザーフェイス

「タ・タスケテ・・・・」
「クルナァァァ!!コノバケモノガァァァ!!」
「ウワァァァァァァ!!」

「止めて、止めてよ...こんな声聞きたくないよ!」

まだ夜も明けぬ頃、ある少年が目を覚ました。
季節はまだ春だというのに熱帯夜のように彼はひどい汗だった
「この夢見るなんて久しぶりだな...」

彼の名は誰が名付けたか分からない、彼がきづいた時には造り主は分からなくなっていた
そう、彼の名は『ぽろろ』。ある博士によって作られたAA、なぜ作ったのか...目的は分かっていない。
しかし、分かっていることもある。それは...

彼は台所の蛇口をひねり、汗を流した。だれでも汗ばんだからだは好きではないだろう。
タオルで顔を拭いたあと、小さな棚の引き出しを開けた。
彼がそこから取り出した物は何かカプセルのような形をしていた。
「残り1つか...明日にでも取りにいかないと」

彼はカプセルを口に含むと、水で流した。毎晩行われる一連の動作が終わると元のベッドのある部屋に戻った。
彼の家の周りは今だけ静かな住宅地が広がっている。彼の部屋は目前にある電灯のおかげで明るかったが、
今日はどういう理由か、彼の部屋は真っ暗だった。
しかし、彼はそんなことを気にすることなく今日二度目の眠りについた。
またあの夢を見たらどうしようと、不安はあったが睡魔は彼の抵抗を邪魔した。
彼の部屋は再び静けさを取り戻した

659PORORO:2004/03/24(水) 13:59
・・・・・次の日

彼は出かける準備をしていた。その目的は昨日底をついた薬を取りに行くためだ。
その薬は一種の鎮静剤で、彼の行動を抑圧していた。
しかし、彼にとってこの薬は無くてはならない物であり、彼の本能を静める物であった。
準備が整うと、彼はある所に向かって部屋を出た。

彼が部屋を出るとなんだかすごく変な気分に見舞われた。外の空気がぴりぴりしている。
具体的に言えばだれかににらまれている感じだ。出かけたくない...と彼は自分の中で抵抗した。
しかし、あの薬を一日でも逃すわけにはいかなかった。彼は自分の抵抗を殺し歩き出した。

重い・・・まるで肩に石が乗っているようだ。こんなにも距離が遠いなんて...
そう、その目的地とは彼の家から10分足らずで着ける場所であった。
しかし、彼はかれこれ30分も歩いてきたのだ。どう考えてもおかしい。

その時、彼は額に針が刺さったような感じを覚えた。いや、正確に言うと刺さっていたのだ。
彼は突然睡魔に襲われた。彼が眠かったわけではなく、意図的な物だった。
薄れていく意識の中、彼が見たのは・・・・・・ 白衣を着た(ギコ族と思われる)二人組みだった……
「ターゲット捕獲、帰還する」
白衣を着た二人組の一人は無線機(のようなもの)に帰還の連絡を入れた。
二人組が素早く持っていた布袋に彼を押し込むと、その場を立ち去ろうとした。
その時、彼の目前に銃を向けた警官(のような格好をしている)二人組が道を阻めた。

「その布袋に入ってる物を置いて立ち去れ、この命令を無視するのなら
・・・・どうなるか分かってるよな?」
片方の警官らしき人物が乱暴な声つきで言った。
性格や顔つきからして、彼女はつー族と思われる。
「お前らは誰だ?私たちは急いでいるのだ。そこを通してくれ。」
一人のギコが言った。その言葉を返すように警官の一人が言う。

「俺たちのことを言うつもりはない。どうせ奴の命令だろう?」
もうひとりのギコが動揺した素振りで言った。
「どうしてそのことを?その事を知っているのなら生かしておくことはできない。
残念だがお前らはここで死んでもらう。」
「おい、早まるな俺たちはこいつをすぐにでも運ばなければならないんだ。」
「しかし、こいつらがそうはさせてくれなさそうだぜ。
俺がこの場を持つから言ってくれ。」
「しかし・・・・・・」
二人のギコが言い争ってる間に口を挟むようにもう一人の警官が言った。
「渡すのですか?渡さないのですか?もしあなたたちが渡すつもりがないのですなら...」
彼女は彼らに向けて銃を放った。

660PORORO:2004/03/24(水) 14:00
「言い争っている暇はなさそうだな」
「激しく同意だ」
「俺がこの場を持つからお前は行ってくれ」
「あぁ...分かった、Aギコ・・・・・死ぬんじゃねーぞ」
そう言うと、彼は布袋を背負い去っていった。
「あら、行ってしましましたね?づーさん、彼を追ってください。
私は彼を捕まえてから後を追いますので...」
「あぁ、分かった」
そう言うと彼女は布袋を背負ったギコを追いにいった。
「待て!」
「あら、敵に背を向けるなんて素人のすることですよ。
あなたのお相手はここにいるじゃないですか。」
「だいたいお前らは何なんだよ?なぜ博士のことを知り、邪魔をする?」
「私たちはあなたが言う博士を間接的にしか聞いたことがないです。
すべては署長の命令で...」
彼女はしまったという顔をしている。それを聞いていたAギコは追いうちをかけるように言った
「署長?博士からそんな話は聞いたことがないぞ...だれだ?その署長というのは?」
「しゃべりすぎましたね...私はづーさんを追わなくてはいけないので...」
そう言い残すと彼女の後ろにスタンド(と思われる)が現れた。
「な...スタンドだと?なぜお前はそんな物を持っている?」
「これが見えるということはあなたも...」
彼女がしゃべり終わらないうちにAギコの後ろにスタンドが現れた。
「あぁ、その通りだ。これを見て退いてもらいたかったが... しょうがない、頃合だ。」

661PORORO:2004/03/24(水) 14:01
彼は彼女の懐にAAとも思えないスピードでとびかかった。
「あら?女性に不意打ちなんて嫌われますよ」
彼がとびかかった場所とは別の場所から声が聞こえた。
また彼が出したスタンドの一撃も(そこにいた)彼女は難無く(素手で)受け止めた。
「素手で受け止めただと?!それに奴がもう一人いる?」
彼は素早く立ち退いた。額にはひどく汗をかいている。
彼の頭ではこの現状を突き止めようと解析が行われている。
「これが奴のスタンド能力だとすると、コピー能力が主だろう...
しかし、俺のスタンドの一撃を止めたのはどういうわけだ?」
彼の頭の中ではあーでもないこーでもないと論争が行われている。
「ふふふ...わけがわからないようですね。ではこれならどうです?」
彼女がそう言うと、彼女の背後から夥しい人数のAAが迫ってきている。
それもそのスピードが尋常じゃない。まるで何かに憑かれているように...
彼はここを退くわけにはいかない。仲間のためにも...
「それがどうした!!!これでもくらぇ!」
そう言うと彼のスタンドから夥しい蜂が出てきた。
「蜂ですか...厄介ですね」
「ただの蜂じゃない!こいつの針に触れると深い眠りに就くって代物さ」
「ほぉ、それは怖いですね。ではこれでどうでしょうか?」
彼女は後ろに手を引っ込めるとどこに隠してあったのだろうか火炎放射器を取り出した。
彼の能力であった夥しい蜂は勢いよく燃えている。
「もう打つ手がない...撤退する」
彼は無線機にそう言い残すと去っていった。
「あら、蜂に夢中で取り逃がしてしまいました...とんだ失態ですね
まぁ敵を追い払うだけでもよしとしましょう」
彼女はそう呟くと、もう一人のギコを追っていった...

本体:Aギコ 
スタンド名:キラー・ビー

パワー/ スピードB 射程距離A
持続性B 精密動作性B 成長性A

夥しい蜂を出すスタンド、蜂ぞれぞれには個性があり
素早いもの、毒があるものそれぞれである。(見極めることはできない)
蜂は限りが無くどこまで追うことができ、数も無限である。

662スタンドアイデアスレの139:2004/03/24(水) 16:39
−現実と仮想の狭間で−

「・・・ここは・・・どこだ・・・?」
確か・・・俺は・・・『ひろゆきを暗殺してくれニダ』とニダーに依頼されて
あいつの身辺に近づいたんだ・・・
距離は十分、あいつの笑い顔がスコープに入った・・・
後は引き金を引くだけ・・・
その瞬間、俺は何かに後ろから引っ張られたんだ・・・
『な、何だ!?これは!?・・・手・・・?
 うわぁぁぁぁ!!!』
後は覚えてない
気付いたらこの場所にいた・・・
瞬間移動で飛ばされた、としか思えないが
誰に言ってもこんな話通じる訳ないし・・・
・・・あれは夢だったのか・・・?
「ひろゆき」なんて人間は知らないってみんな言ってるし
ニダーに聞いても「ひろゆき?組織?何言ってるんだニダ?」と返される始末

もしかして、あれは夢だったんだろうか・・・?
そうだ、きっとそうに違いない・・・
そう思って、俺は歩き出した・・・

ドーン!

ト、トラック・・・?
ク・・・お、俺って・・・う、運がねえ・・・な・・・

(ひろゆき、それをパソコンの画面で見ながら)
ひ「ほぉ〜。彼の始末は交通事故で、ですか・・・
  なかなか酷いですね・・・
  彼は私の事を諦めたというのに・・・」
パソコン「・・・」
夜勤「・・・何を話しておられるので?」
ひ「いやあ、長さんの葬式について独り言ですよ・・・」

ひ『ま、危険な芽は早い内に摘み取る、という事ですか・・・
  確かに、もうこの世界には2、300人のAAが住んでますしね・・・
  周りの世界、AAはプログラムされた仮想空間だとも知らずに・・・』

ひろゆきのにやりとする顔でEND

663PORORO:2004/03/24(水) 16:47
─ アナザーフェイス 後編

もう少しで博士の下に着ける...その可能性はすぐに打ち砕かれた。
そう、さっき会った警官の一人がどういうわけか目前にいるのだ。
彼女の手には銃口がBギコに向けている銃があった。
「Aギコはどうした?」
「あぁ、お前の相棒はうちの相方と戦闘中だ。
ま、勝てる見込みは万が一もないけどな」
彼女は嘲笑う。
「どういう事だ?」
「続きが聞きたかったらその荷物を置いてきな。
まぁ、痛い目にあいたいのなら強制はしないがな。」
彼女の背後にスタンドが現れる。
「な?! スタンド使いだと?」
「ほぉ、お前がこれを見る事ができるとはな... 少しは楽しめそうだな」
彼女のスタンドは今までに見たことのない代物だった。
そのスタンドの右と左には○と×が宙に浮き、スタンドは止まることをしらない。
やはりBギコはAギコと同じように場を考察し、頭ではスタンド能力を見抜こうと解析を進めていた。
「早くお前のスタンド出せよ。こちとらいつまでもマターリとしている余裕なんて無いんだよ!」
彼女は素早くBギコの背後に移る。このスピード尋常じゃない...余程訓練されたAAでないとできない動きだ。
とっさにBギコは彼女出した攻撃をかわす。Bギコの背後にスタンドが現れた。
「やっと見せたな...」
彼女の顔には不安なんてものはなかった。まるでこの場を楽しんでいるかのように。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

布袋の中ではぽろろがぐっすりと眠っていた。今、周りで自分をめぐり戦闘が起こっているなども知りもせずに...
「ぽろろ... ...の声...えるか... 」
ぽろろの頭に声が響いてきた。それはだんだんとはっきりと聞こえてくる。
「ぽろろ... お前はこの世界を救うために開発されたAAだ」
「この声は博士なの?」
「あぁ、お前を作った主だ。お前が生まれた目的、それは虐殺厨を殺すため
今、この世はスタンドと呼ばれる物がある。彼らはこの能力のために争い。
多くの血が流れている。お前はこのような輩を殺すために生まれた」
「いやだ!僕はもうだれも殺さないんだ!」
「だめだよ、ぽろろ。君は私の命令には逆らえない
奴らを殺すんだ、ぽろろ...」
「殺せ!」
ぽろろの中では何かが弾けようとしていた...

664PORORO:2004/03/24(水) 16:48
「くっ!強い...」
「そろそろ投降する気になったかな?」
「だれがお前なんかに!?」
この警官のパワーとスピードは凄まじいものだった。どう考えてもAAが持つ能力を超えていた。
さっきから反撃はしているがあたる気配がない。
「こうなったら...」
Bギコ耳栓をして、隠し持っていた試作品のボタンを押す。
「キーキーキーキーキーキーキーキーキー...」
「何だ?その電波は...眠たく...」
この警官はスピード、パワーは凄まじいものだが頭はいいわけではなさそうだと過信していた。
あっという間に彼女は深い眠りについた。すると彼女の体が次第に薄くなり消えていった。
「な?!どういうことだ?」
Aギコは動揺する。それもそうだ、今まで戦ってきた相手が急に消えるのだから...
その時背後から彼女の声が聞こえた。
「催眠電波か...あぶねえもん使ってくるじゃねえか」
そう言うと彼女は銃を向け発砲した。Aギコの持っていた試作品はたちまち壊れてしまった。
「お前の能力はコピー(複写)か!」
「あぁ、その通りだ。だがそれが分かったとしてもお前に打つ手はもう残ってない
素直に投降しやがれ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「うわぁぁぁああ!!!止めろぉぉぉおお!!!」
今まで戦っていた二人は止まった。袋から聞こえる叫びとともに原型を留めない「彼」に声も出なくなっていた。
「麻酔が効かなかったのか?いくらなんでも早すぎる!」
そのうちAギコがBギコの元に辿り着く。
「おい!逃げるぞ!こうなっちゃ我々の手には負えない」
「了解!」
白衣を着た二人のスタンド使いは去っていった
「て・・・・・てめえら!場が悪くなったら逃げるのかよ!」
しかしその声も空しく二人にはとどかなかった。
そのうちにもう一人の警官が到着した。
「あらあら、どういうことでしょうか?」
「正直スマンカッタ。でもこうなったら俺たちの手には負えないぞ」
「大丈夫、まだ彼の中では理性と本能が戦ってる状態、このアンプル(鎮静剤)を預かってきました。」
「OK、なるほどこれをアンプルシューターと組合せて使うんだな?」
「その通りです、外さないで下さいよ」
少しの笑みを混ぜて射撃のサインを出した。づーは言われた通りアンプルを放つ。
彼のからだはどんどん小さくなり、元の姿に戻った。
「では引き続き、彼を見守りますか。
私たちの存在は彼に知られてはいけないですからね」
「御意」
彼女たちは素早くその場から消えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼は悪夢から覚めるように起きだした。しかし、彼の周りは静けさを保っていた。
まるで今まで自分が亜空間にいたかのような感覚ではあったが、実際は何も変わっていなかった。
あれは夢だったのか、それとも現だったのか?何かもやもやしたものが自分の中にあった。
彼は当初の目的を思い出し、その場所に駆けてくのであった。

665:2004/03/24(水) 22:02

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その2」



          @          @          @



 山田は、甲板から夜の海を眺めていた。
 寄せては返す波。
 その音が、山田の心を和ませる。
 いつの時代でも変わらない風景。
 枢機卿が何やら話しているのも上の空である。

「――いよいよだ」
 枢機卿は大きな声で言った。
 周囲では、ハートマン軍曹をはじめ屈強のスタンド使い達が話を聞いている。
「到着は、明日の午後3時。無論、向こうの時刻だ。
 戦略目標の達成は、我が揮下の吸血鬼部隊によって行う。
 諸君はそれぞれ師団を率い、かの国を引き裂きたまえ」

 山田は枢機卿に視線を戻した。
 甲板には軍用機が並んでいる。
 ――航空母艦『グラーフ・ツェッペリンⅡ』。
 それが、この艦の名称だ。
 後方には、同級空母『ウェーザーⅡ』、『ペーター・ストラッセル』。
 そして、超々弩級戦艦『ビスマルクⅡ』…

 枢機卿は組んでいた手を軽く広げた。
「まず、バッジ・システムを完全沈黙させる。制空権の確保は絶対条件だ」
 PSG1を手にしたハートマン軍曹が口を開く。
「バッジ・システム… 航空自衛隊が誇る自動警戒管制システムか。
 かの国周辺の全空域を常時監視し、侵攻機を探知するという…」

 枢機卿は頷いた。
「そう。防空網が生きていては、何かと面倒なのでな。
 まず、私が率いる強襲攻撃隊でスクランブル・アラートをかけさせる。
 百里基地から第204飛行隊と第305飛行隊が出るだろうから、それを迎撃しよう。
 …だが、これは陽動だ」

 言葉を切る枢機卿。
 一同の顔を眺め、再び口を開いた。
「その隙に、バッジ・システムを構成するレーダー・サイトを壊滅させる。
 稚内・網走・根室・当別・奥尻島・襟裳岬・大湊・山田・加茂・大滝根山・嶺岡山・
 佐渡・輪島・御前崎・笠取山・経ヶ岬・串本・高尾山・見島・脊振山・海栗島・福江島・
 高畑山・下甑島・沖永良部島・久米島・与座岳・宮古島の28箇所に、同時攻撃を仕掛ける」

 甲板に不自然に置かれていたダンボールから、ガサガサと音がした。
 中に誰かいるのだ。
 その中から、男の声が質問を投げかけた。
「陽動だけで上手くいくとは思えんな… そもそも、攻撃部隊が近寄る前に察知されるだろう。
 防空網を破る部隊が、真っ先に防空網に引っ掛かれば世話はない」

「無論、手はある」
 枢機卿は腕を組んだ。
「周知の通り、海面スレスレの超低空を飛行すればレーダーの探知距離は縮む。…燃料は食うがな。
 この超低空飛行で敵レーダー・サイトまで接近する」

 地球表面の湾曲、そしてシー・クラッター(海面で反射したレーダー波)の相互作用。
 これにより、低空飛行する機体はレーダーに察知されにくい。
 …ただ、あくまで察知されにくいだけの話だ。
「それでも、接近したらバレるだろう。それに、内陸部にあるレーダー・サイトはどうする?」
 ハートマンはすかさず反論した。

 予想されていた反論… とでも言いたげに、枢機卿は笑みを浮かべる。
「そう。この超低空飛行で接近する部隊… これもブラフだ。
 そちらに目を向かせておいて、上空からの急降下攻撃をお見舞いする。
 我が『教会』の最新鋭爆撃機『ワルキューレ』でな」

「『ワルキューレ』? 聞かん名だな…」
 ハートマンが首を捻る。
 枢機卿は言った。
「XB−70ヴァルキリーを参考に設計した機体だ。最大速度マッハ3.2、上昇高度は約30Kmを誇る。
 アメリカの機体にしては名前も悪くないし、設計思想もドイツ的だ」
「…夢のある話だ」
 ダンボールの中の男が口を挟む。

 山田は思案した。
 航空自衛隊の対空レーダーは、相手が水平軌道で到来するという前提で作られているので頭上が脆い。
 アンテナの主ビームが仰角10度程度しかない為、高度からの接近には対処できないのだ。
「超高度からの急降下爆撃か。それならば…」
 山田の言葉を、枢機卿は遮る。
「誰が爆撃すると言った? 超高度からそのまま突入し、全機体当たりを仕掛ける。
 上空30Kmから、マッハ3での逆落としだ。ペトリオットですら撃墜できまい。
 そして、激突前に脱出したパイロットがそのまま制圧を行う。
 吸血鬼の肉体強度がなければ不可能な作戦だ」

666:2004/03/24(水) 22:04

「…北海道の6サイトは、僕に任せてくれないかい?」
 不意に、山田の後ろにいた男が言った。
「僕のスタンド能力は、大規模な破壊にしか向かないからね。その規模だと肩慣らしにちょうどいい」

 枢機卿は頷いた。
「構わんよ、ウララー殿。ただし、移動時間も含めて3時間以内に終わらせたまえ」
 ウララーと呼ばれた男は笑みを浮かべる。
「3時間…? サイトの一つ一つを潰して回っても、10分もかからないね」

「…ふむ、期待している」
 枢機卿は腕を組んだ。そして、全員の顔を見渡す。
「防空網を遮断した後は、各地の自衛隊基地を爆撃だ。敵戦闘機は地上で破壊しろ。
 制空権を完全に奪った上で都市爆撃を行い、かの国を完全に焦土にする。
 その後、いよいよ諸君の出番だ。強襲揚陸作戦ののち、戦車及び歩兵で一斉殲滅を行う。
 …さて、何か質問は?」
 枢機卿はそう言って、一同を見渡した。

 ダンボールの中から声がする。
「俺は、兵を率いるのは性に合わん。単独行動でも構わないか?」
 腕を組んだまま頷く枢機卿。
「構わんよ。兵に対しては、適当な指示でも出しておけばいい。
 かの国を混乱に叩き落すのが諸君の任務であり、戦略目標を持つ必要はない」

「…敵の反撃はどの程度予想される?」
 山田は訪ねた。
 少しの間の後、枢機卿は口を開いた。
「自衛隊も馬鹿ではない。そう易々とは駆逐できんだろう。さらにASAもいる。
 三幹部クラスのスタンド使いと相対すれば、戦局が大きく覆る事も予想される。
 …とは言え、現在両者は激突している。漁夫の利というやつだ」
「もちろん、ASAの奴等を殺しても構わんのだろう?」
 ハートマンは言った。
 枢機卿は笑みを浮かべる。
「勿論だ。あと、ASAに属さないスタンド使いも何人か存在する。
 現在、先遣した代行者達が相手をしているところだが… まあ、特に問題はないだろう。
 ちなみに、代行者達も主要都市の破壊に回す予定だ」
「『矢の男』は、僕が殺すけどね…」
 ウララーは呟いた。

「他に質問は?」
 枢機卿が一同の顔を見回す。
 反応はない。
「…よし、以上だ。諸君の働きに期待する」
 そう言って、枢機卿は甲板の前部に歩いていった。
 その後姿を眺め、山田はため息をつく。
 一同も、思い思いに散っていった。

「まったく… ゴミ掃除も面倒だな。あァ?」
 ハートマンが山田に話しかけてきた。
 不思議とこの男とはウマが合う。
 軍人同士、深い所で分かり合える部分があるのだろうか。
 もっとも、下品な物言いはどうしても好きになれないが。

「ふむ… やはり、無抵抗の民を殺めるのは気が咎めるな…」
 山田は表情を変えずに言った。
「そんなウスラ甘い考えで戦場に臨んだら、真っ先に死ぬのはキサマだな」
 ハートマンは吐き捨てた。
 彼は、狙撃銃PSG1を抱えている。
 スタンドの能力を発揮するのに、どうしても必要だと言っていた。
 …だが、それが真実であるという保証は無い。
 それがただのハッタリで、銃などなくとも発動できる能力なのかもしれない。
 スタンド使いである以上、能力の偽証は当然の自衛行為だ。

「…私は、もう少しここにいよう」
 山田はハートマンに言った。
「フン、中国人ってやつは物好きだな…」
 そう言って、ハートマンはアイランド(空母の艦橋)に引っ込んでいった。

 ふと空を見上げる山田。
 綺麗な星が一面に瞬いている。
 この夜空が、今の山田の全てだ。
 吸血鬼と化した肉体では、澄み渡る青空を見上げる事はできない。
 それは、この艦に乗っている全員に言えたことだが。

667:2004/03/24(水) 22:05

「…ままならんものよな」
 山田は呟いた。
 そして、甲板前部へ歩き出す。
 整然と並ぶ軍用機の間を抜ける山田。
 滑走路として使う空母の甲板は、ひたすらに広い。
 カツカツという足音が夜の海に響いた。

 枢機卿の姿が目に入る。
 彼は、先程までの山田と同じように空を見上げていた。
「少し良いか?」
 山田は、枢機卿に話しかける。

「…星を見ていた」
 枢機卿は山田に視線を合わせた。
「質問の時に訪ねなかったという事は… 個人的な用件だろう?」

「さっきの作戦だが… 枢機卿殿が自ら陽動を担当する必要があるのか?」
 山田は訪ねた。
 それに対し、枢機卿は笑みを浮かべる。
「人類史上、敵機を100機以上撃墜した戦闘機乗りは107人いる。
 そして、その全員がドイツ空軍の軍人なのだよ」
「…だからどうした。関係ないではないか」
 山田は、枢機卿の話に割って入った。
「まさか、貴殿が戦いたいだけではないだろうな?」

「…海は広い。全てを包んでくれるかのようだ」
 露骨に話を変える枢機卿。
「それで、そんな話をしに来たのか?」

「…この戦争の目的は?」
 山田は単刀直入に訪ねた。
「貴殿は、この戦争の戦略目的について全く言及しておらん。むしろ、無差別攻撃のみが目的のようにも思える」

 枢機卿は再び空を見上げる。
「…当たらずとも遠からずだな。私は、軍事力によって全人類を恐怖のどん底に叩き落したいのだよ。
 家を焼き、人を焼き、国を焼いてな。この戦いの主目的は、恐怖を刻む事だ。
 別に、かの国に恨みはない。ただ、制圧の足がかりにちょうどいい広さだった事、戦略的に最良な場所な事、
 ASAを孤立させるのに最良な規模だった事などの条件が重なっただけだ。
 贖罪は、全人類に等しく受けさせる」

「…解せんな」
 山田は呟いた。
「枢機卿殿は、反戦主義者なのだろう?」
 枢機卿の目が、微かな驚きの色を帯びた。
 そのまま、ゆっくりと山田に視線を移す。
「…なぜ、そう思う?」

668:2004/03/24(水) 22:06

 その目を、まっすぐに見返す山田。
「私の生きた時代、何人もの戦争狂を目にした。破壊と殺戮を生き甲斐にした連中をな。
 …だが、枢機卿殿は明らかに違う。貴殿は、戦争を嫌っているように思える」
 枢機卿は肩をすくめた。
「私がde jure war(戦争法上の戦争)を嫌うというのは、以前も言ったことだ」

 それに対し、山田が口を開く。
「あの時私は、貴殿が戦争法規に縛られる事を嫌っているのだと思っていた。
 残虐な手段を用いて殺戮行為を行いたいのだとな。 …しかし、貴殿の本心は別にある。
 貴殿は、『戦争』の存在を暗に認める『戦争法規』の存在そのものを…
 ひいては、『戦争』を国策として認める実状を嫌ったのではないか?」

「…相互確証破壊という言葉がある」
 枢機卿は口を開いた。
「Mutual Assured Destruction… 略してMADだ。現在の戦争で核攻撃を行えば、必ず報復攻撃を受ける。
 結果的に双方が消滅する事態になる為、核兵器の使用は抑制されるのだ。この現象を相互確証破壊と呼ぶ。
 …まさにMAD(気違い)だな。なぜ、このような事態が起こると思う?」

「それは、根源的な問いか?」
 山田は訪ね返した。
「表層的でも根源的でも違いはない。全ての問題は、想像力の欠如だ。
 かつてエラスムスは、『戦争の経験無き者には戦争は楽しい』と言った。
 …つまりは、そういう事だよ」
「想像力の補完…か。では、貴殿の理想は…」
 山田は呟く。
 それを遮るように、枢機卿は口を開いた。
 腕を後ろに組み、懐かしそうに夜空を眺める。
「これは、聞いた話だが…
 1945年、ある米駆逐艦に一人の神父が乗っていた。
 その艦に、日本の特攻機が体当たりしてきた。
 その機のパイロットは機体から投げ出され、米艦が拾い上げた時は虫の息だったらしい。
 彼は、最期に「OH,SUN」と言い残して息絶えた。
 それを聞いて神父や米兵達は首を傾げた。太陽がどうしたんだ?、とな。
 結局、神父はこう結論を出した。『彼等の宗教では、太陽が神聖なものだったんじゃないか』とな」

「天照神というやつだな…」
 山田の言葉に、枢機卿は頷いた。
「ああ。あの国には一種の太陽信仰があった。 …だが、この話には続きがある。
 結局、その日本人兵の亡骸は神父によって水葬に伏された。
 立場は違えど、国の為に殉じた男だ。米兵達は彼の冥福を祈った。
 だが、神父はどうしても納得できなかったのだよ。
 日本人が「OH,SUN」と英語で言うのは明らかに不自然だからな。
 それから30年が経ち、神父は日本人の来客を迎えた。
 そこで、彼にその時の事を質問してみたんだ。なぜ、死の間際の兵士が「OH,SUN」と口走ったのかをな。
 すると、日本人は答えた。「それは、きっと『お母さん(Mother)』と言ったのだと思う」とな。
 そう。その日本兵は死に瀕して家族を思い、別れを告げていたのだ」

「…」
 山田は、腕を組んで神妙な表情を浮かべていた。
 話を続ける枢機卿。
「カミカゼのパイロットと言えども、決して戦争に狂ったバーサーカーではない。
 彼らは等身大の人間であり、軍の消費材などでは決してないんだ。
 兵士の一人一人にも家族があり、故郷があり、そして人生がある。
 その事を念頭に置き、彼等の人生の意味に思いを馳せ――」

 枢機卿は言葉を切って背中を向けた。
「――その上で、躊躇なく皆殺しにせよ」

669:2004/03/24(水) 22:06


          @          @          @



 モナーの家で、向かい合う両陣。
 代行者達は、出方を伺うようにギコ達を見ている。

「行くぜ、ゴルァ――ッ!!」
 ギコは高く跳んだ。
 そして、『レイラ』が刀で真横に薙ぎ払う。

「!!」
 瞬時に飛び退く代行者達。
 同時に、『アルカディア』が『狩猟者』に、モララーが『調停者』に攻撃を仕掛けた。

 『狩猟者』・きれいなジャイアンは、ギターケースで『アルカディア』の拳を防ぐ。
「…すごいパンチだね」
 『狩猟者』は綺麗な目を輝かせながら言った。
「スタンドの拳を撥ね除けるたぁ… そのギター、スタンドだな…」
 『アルカディア』は、『狩猟者』との距離を置いた。
 二人は睨み合う。
 相手のスタンドは、明らかに特殊なタイプだ。
 迂闊に攻撃を仕掛ける訳にもいかない。

 その横では、モララーと『調停者』が激突していた。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』ッ!!」
 モララーのスタンドが、『調停者』に拳の連打を繰り出す。

「『メルト・イン・ハニー』…」
 『調停者』・阿部高和の背後に若い男のヴィジョンが浮かび上がった。
 瞬時に前に飛び出し、『アナザー・ワールド・エキストラ』に対して拳を振るう。
 空中でスタンド同士の拳が何度も激突した。

「近距離パワー型か…」
 モララーは呟いた。
「そうみたいだな。俺も始めて使った」
 不可解な事を口走る『調停者』。
 それに、スタンドのヴィジョンが余りにも不自然だ。
 『メルト・イン・ハニー』とやらは、人間と見分けがつかない外観をしているのだ。

 スタンドというのは、独特のデザインをしている。
 ギコの『レイラ』でも、着物を着た女性型のスタンドではあるが、やはり普通の人間とは似ても似つかない。
 だが、この『メルト・イン・ハニー』は、スタンド特有の外観は一切無い。
 普通の若い男にしか見えないのだ。
 それでいて、近距離型のスタンドには違いないようだが…

「『空間の亀裂』ッ!!」
 モララーは距離を置くと、空間を引き裂いて攻撃した。
「うおっ! くっ…!」
 それを必死で避ける『調停者』。
「これが、目に見えない『亀裂』とやらか…
 君の殺気と構えのみで攻撃を予測しなければならないとは――最高さ!」

670:2004/03/24(水) 22:07

「ふむ。やはり、『矢の男』は厄介だな…」
 『支配者』・スミスが、激突する二人に歩を進める。
 そして、懐から銃を取り出した。
 刹那、何かが背後から『支配者』の心臓を貫いた。

 ――爪?
 『支配者』は、自らの胸から突き出した突起物を見下ろした。
 その瞬間、首が落ちる。
 胴から切り離された『支配者』の首が、音を立てて地面を転がった。

「ヘッ、味気ネェ…」
 つーは倒れ伏す『支配者』の肉体を見下ろして呟く。
「…それは失礼した」
 つーの背後から、男の声が聞こえた。

「!!」
 つーは素早く振り向く。
 そこには、何一つ怪我のない『支配者』が立っていた。

「テメェ…」
 つーは、先程首を切断した『支配者』の死体に目をやる。
 先程のように倒れたまま、何の変化もない。

「それは、スタンドではないし幻覚でもない。れっきとした『私』だ」
 『支配者』は、つーを見据えて言った。
 その背後にドアが浮かび上がる。
 まるで、どこでもドアのように。
 もちろん、スタンド使いではないつーにはドアは見えない。

「その亡骸は、依然としてそこに存在する。決してスタンドでも幻覚でもない。
 もちろん、君の前に立つ私の姿も実体…」
 もう1つ、ドアが増えた。
 つーは異常な気配を感じ取る。
「ナンナンダ、テメェ…」

 『支配者』は無表情で言葉を続けた。
「まだ解らないのか? 頭の筋肉は使っていないのか…?」
 彼の背後で増え続けるドア、ドア、ドア…
 その数は、20に達していた。

「私の一番の利点は――」
 『支配者』は、つーに一歩踏み出した。
 つーは爪を出して構える。

「――大勢の私だ」
 同時に、ドアが一斉に開いた。
 20以上ものドアから、次々と『支配者』が飛び出してくる。
 彼等は複数でつーに掴みかかった。

「バルバルバルバルバルバルバルバルッ!!」
 つーは、後ろからしがみついてきた『支配者』2人を斬り払った。
 それでも、『支配者』は次々に押し寄せてくる。
 つーは大勢の『支配者』を相手に、爪を振り回した。

「何よ、あいつら…!!」
 レモナは『支配者』の群れに飛び込もうとする。
 その瞬間、クマらしき生物が突っ込んできた。
 強靭な爪での一撃を、拳で受け止めるレモナ。

「『Re-Monar』… 俺の『カナディアン・サンセット』で足止めさせてもらおう」
 クマの脇には、ピエロのような扮装をした『破壊者』が立っていた。
「――表へ出ろ」

671:2004/03/24(水) 22:07

 クマが『破壊者』の体を掴む。
「クマ―――ッ!!」
 そのまま、クマは『破壊者』をレモナに投げつけた。
「おわぁぁぁぁッ!!」
 『破壊者』の体は、レモナ目掛けて高速で宙を駆ける。
 レモナは、右手でそれを弾き返した。
 『破壊者』は窓を突き破って、庭へ投げ出される。

「クマ―――ッ!!」
 クマはレモナに飛び掛った。
 太い腕での打撃を受け止めるレモナ。
 そのままクマはレモナの体を掴むと、居間の壁に叩きつけた。
 レモナの体は、隣の部屋まで突っ込んでいく。

「クマ―――ッ!!」
 壁を突き破り、さらに追撃するクマ。
 しかし、逆にクマの身体が吹っ飛んだ。
 至近距離から榴弾を浴びせられたのだ。

 レモナは倒れたクマの両足を掴むと、そのまま高速で回転した。
「え―――いッ!!」
 遠心力を加え、天井目掛けてクマをブン投げる。
 クマの体は、轟音を立てて天井をブチ破った。
 それを追って、レモナは外へ飛び出していった。

「ふむ… 加勢が必要かもな」
 『解読者』・キバヤシは縁側から外へ出ようとした。
「一歩も動くな…」
 『解読者』の背後から、ギコは刀を突きつける。

 『解読者』は軽く両腕を上げた。
「俺の能力の概要は、モナヤから聞いているだろう…?」
 動揺した風もなく、『解読者』は言った。

「…妙な素振りを見せたら、即座に叩き斬る」
 ギコは告げる。
「俺が君なら、妙な素振りなど見せなくとも斬るがね…」
 『解読者』は余裕を崩さない。
「俺の能力の一番恐ろしいところは、受けた本人に自覚が無いところだ。
 もし俺を斬り殺して、倒れていたのがしぃだったら… 君はどうする?」

「そんな事が…!」
 ギコは声を荒げる。
「一瞬でも信じたら、もう君の負けだ」
 『解読者』はゆっくりと振り向いた。
「ちっ…!」
 ギコは素早く飛び退く。

 『解読者』はゆっくりと部屋の真ん中に歩み寄ると、畳を引き剥がした。
「…何をしてやがる!?」
 当惑するギコ。
「あった、これだ…」
 『解読者』は、畳の下からあるモノを拾い上げた。

「それは――」
 ギコは驚愕した。

 ――それは、『矢』だ。
 ギコは、これに貫かれた事がある。
 『矢の男』が所持していた『矢』。
 確か、モララーはリナーに渡したはずだが…

 『解読者』は、『矢』を服の中に収めた。
 そしてギコに視線を移す。
「この『矢』は、君達の知っている『矢』とは別物だ。
 君達の知っているのは、『アルカディア』の力で具現化された模造品でね。
 本物は、11年前からずっとここにあった…」

 モナーの家に…?
 しかも、11年も前から?
 …どういう事だ!?

「モナヤの記憶には、暗示が掛かっていた。『畳の下には触れてはいけない』という強い暗示がな。
 通常、顕在意識下に刷り込んだ暗示は長くもって6ヶ月。
 しかし、モナヤは11年もこの『矢』の存在を無意識に避け続けてきた。
 …まあ、避けていたのはそれだけじゃないが」

「モナーは… あいつは、一体何なんだ…?」
 ギコは訪ねる。
「…犠牲者、だよ。強いて言うならな」
 『解読者』は言った。
「それより、この場の事を考えなくていいのか? 『暗殺者』もどこぞに潜伏して、隙をうかがっているぞ?」
「意識を散らそうったって…そうはいかねぇな」
 ギコは、刀を真っ直ぐ『解読者』に向けた。

「仕方ない、相手をしよう…」
 『解読者』は、ポケットからライターを取り出した。
 何の変哲もない、普通のジッポライターだ。

「『イゴールナク』…!」
 『解読者』は自らのスタンドの名を呼んだ。
「『レイラ』ッ!!」
 ギコもスタンドを発動させる。
 『解読者』のスタンドは未知数。
 だが、守りに入るとマズい。ギコはそう直感した。
 何とか力で捻じ伏せるのみ…

「行くぜ! ゴルァァァァァ!!」
 ギコは、『解読者』との間合いを詰める。
「――君は、俺と相対した時点ですでに負けている」
 『解読者』は、軽くライターを振った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

672ブック:2004/03/25(木) 04:01
     救い無き世界
     第五十五話・逢魔ヶ刻 〜その一〜


 …悪夢は決して終わる事なく、毎夜俺を苛み続けた。
 もう、いい。
 もう、沢山だ。
 俺は…もう、俺には…

「……」
 隣に寄り添うみぃに目をやる。
 俺達は瓦解した裏通りの壁にもたれ掛かれて、座っていた。

「……」
 みぃが泣きそうな目で俺を見つめ返す。

 もう、何もしたくなかった。
 もう、スタンドを使いたくなどなかった。
 もう、闘いたくなかった。
 ただ、
 ただ俺は、
 こいつと静かに、ひっそりと生きていければよかった。
 俺が、『デビルワールド』を抑えられなくなるその日まで…


「…でぃ君。」
 と、通りの向こうから聞き覚えのある男の声がした。
 ゆっくりと、そちらに目を向ける。

「探したょぅ…
 こんな所に、居たのかょぅ。」
 …ぃょぅだ。
 恐らく、俺を連れ戻しに来たのだろう。

「『矢の男』の居場所が分かったょぅ。
 君にも、協力して欲しぃょぅ。」
 協力?
 俺に?

 馬鹿げた冗談だ。
 俺に、何が出来る。
 俺は守れなかった。
 お父さんも、お母さんも、守れなかった。
 そんな俺に、今更何を求めるというのだ。

「……」
 俺は首を横に振った。
 やめてくれ。
 これ以上、俺に関わるな。
 もう、そっとしておいてくれ…!

「でぃ君、このとおりだょぅ!
 『矢の男』が『大日本ブレイク党』を陰から支援して、
 この街を目茶苦茶にしたんだょぅ!
 絶対に許せなぃょぅ!」
 やめろ。
 この街の事なんか、知った事か。
 この街が、俺に何をしてくれた?
 俺を虐げてきただけじゃないか。
 それなのに、俺がその為に闘う義理なんて無い。

「『矢の男』は、君の力を恐れているんだょぅ!
 君の力が必要なんだょぅ!
 ぃょぅが、俺の腕を掴む。
 俺は、乱暴にその手を引き剥がした。

 関係無い。
 俺には、関係無い…!

「お願いだょぅ!
 でぃ君!!」
 ぃょぅが、なおも食い下がった。
 しかし、俺はそれには一切聞く耳を持たず、
 駄々っ子の如くぃょぅを頑なに拒絶した。

 やめろ。
 頼むから、そっとしておいてくれ…!

673ブック:2004/03/25(木) 04:02


「自分だけが悲劇の主人公だと思っているんじゃなぃょぅ!!」
 今にも泣き出しそうな声で、ぃょぅが叫んだ。
 初めて見るその剣幕に、俺は思わず後ずさる。
 何だ。
 この人に、何かあったのか…?

「…すまなぃょぅ。
 少し、取り乱してしまったょぅ……」
 涙を隠すょぅに、ぃょぅが俺に背を向けた。

「…分かったょぅ。
 もう、君には頼まなぃょぅ。
 君は一般人。我々に協力する義務など、微塵も無いのだからょぅ。」
 丁寧な、しかしその内に激情を確かに秘めた口調で、
 ぃょぅが俺に告げた。

「…肝心な君がこんなだったとは……
 タカラギコが、浮かばれなぃょぅ……」
 ぃょぅはそう呟き、その場を後にした。


「……」
 俺は去り行くぃょぅの姿を、黙ったまま見送った。

 …待て。
 最後にぃょぅは何と言った?
 『タカラギコが浮かばれない』?
 まさか、あいつが死んだのか?
 馬鹿な。
 あの、死神の鎌すらヘラヘラ笑いながらすり抜けそうな奴が、
 簡単に死ぬわけなど無い。

 だけど…
 さっきのぃょぅの様子は、明らかにいつもと違っていた。
 …本当に、タカラギコが死んだのか?

「……」
 へっ、死んで清々するぜ。
 前から奴は気に入らなかったんだ。
 ぃょぅは大分気にしてたようだが、そんな事知った事か…

『…期待しているのですよ。
 あなたが、大番狂わせを起こす事を。』
 急に、いつかのタカラギコの言葉が脳裏によぎった。
 そういえば、何故あの時、あいつは俺をSSSから逃がしたのだろう。
 自分の立場がヤバくなるにも関わらず。
 まさか、この時の為に。
 ぃょぅ達を、助ける為に…

「……!!」
 違う!
 惑わされるな!
 あいつは、俺やみぃを騙したんだ!
 そんな奴の事が信じられるか!!

 あんな奴の思い道理に等なりはしない。
 俺は、
 俺は―――

「!!!!!」
 俺は、苛立たしげに壁に拳をぶつけた。

674ブック:2004/03/25(木) 04:02



     ・     ・     ・



「遅いですね、タカラギコは。」
 『矢の男』が呟いた。

「…SSSが、不穏な動きを始めたとの情報が入りました。
 恐らく、我々の存在に気づいたのかと。」
 従者の一人が『矢の男』に進言する。
「まさか、タカラギコめしくじったか!?」
 別の従者がそれを聞いて叫ぶ。

「彼奴が敗れ拷問を受けたとして、
 我々について高らかに歌い上げるとは思えぬ。
 あれは、そういう奴だ。」
 もう一人の従者が訝しむ。

「…最後の最後で、私達すら裏切りましたか……」
 『矢の男』が無表情のまま口を開いた。

「……!!
 あの裏切り者め…!」
 先程『矢の男』に進言した従者が、忌々しげに舌打ちをした。


「過ぎた事に文句言っても始まらねぇだろ。
 SSSが動いてる事には間違い無いんだ。
 急いだ方がいいんじゃねぇか?」
 トラギコが、我関せずといった風に言い放った。

「…それもそうですね。
 ではトラギコ、Z武をこれへ。」
 『矢の男』がトラギコにお願いした。
 それを受けて、トラギコが車椅子に乗ったZ武を連れてくる。

「キャンデー、キャンデー…」
 Z武と呼ばれた男が、正気の宿らぬ目でキャンデーを催促した。
 トラギコが、懐から飴玉の包みを取り出して彼にそれを与える。

「えへへへへ。キャンデー…」
 Z武が笑いながら飴玉を頬張り、口の中で転がし始めた。
 そして、彼の背後にスタンドのビジョンが浮かび上がる。

「さあ、Z武。
 開いてください。『エグゼドエグゼス』で、魂の器を。」
 『矢の男』がそう語りかけると、
 Z武のスタンドが何も無い空間に手を差し込んで押し広げた。
 そこから、膨大な量のエーテル体が姿を現す。

「…ようやくここまで漕ぎ着けた。」
 『矢の男』が、恍惚の表情を浮かべてそのエーテル体を眺めた。
 他の従者達も同様である。

「…ふん。」
 ただ一人、トラギコだけが冷ややかな顔でその様子を観察していた。

675ブック:2004/03/25(木) 04:03



     ・     ・     ・



 ぃょぅが、とぼとぼと私達の元へと帰って来た。
「…駄目だったの?」
 私は彼にそう尋ねた。
「…ああ。説得する事は出来なかったょぅ。
 申し訳無いょぅ…」
 ぃょぅが、すまなそうに頭を下げる。

「…仕方が無いわね。
 私が、無理矢理に引きずってでも……」
「駄目だょぅ。」
 私の言葉を、ぃょぅが遮った。

「でも、ぃょぅ…」
 駄目だ。
 でぃ君には、絶対に来て貰わねばならない。
 詳しい理由は分からないが、タカラギコはでぃ君が鍵になると言っていた。
 死ぬ間際に、私達にそう託してくれたのだ。
 死んだ彼の為にも、でぃ君を連れていかないと…!

「…半端な覚悟のまま彼を連れて行っても、
 無駄に命を散らせるだけだょぅ。
 彼は我々の切り札になるかもしれない男だょぅ。
 タカラギコの為にも、でぃ君自身の為にも、死なせる訳にはいかなぃょぅ。」
 ぃょぅが厳しい顔で言う。

 …それは分かっている。
 だけど。

「信じようょぅ、でぃ君を。
 私達に出来るのは、それだけだょぅ。」
 そのぃょぅの言葉に、私は何も言い出せなくなった。

 信じる。
 私達には、それしか出来ないのか…!


「……ぅ…え……!」
 小耳モナーが、啜り泣いていた。
 …無理もない。
 ついさっき、タカラギコの死を見取ったばかりなのだ。
 こんな状況でなければ、私も泣きたい位だ。

「…小耳モナー、泣くのは後にしなさい。
 私達は、これからやらなければならない事があるのよ…」
 私はそう言って小耳モナーを励ました。

 そうだ。
 私達には泣いている時間は無い。
 これから、タカラギコの渡してくれたフロッピーから掴んだ、
 『矢の男』の隠れ家を急襲する。
 タカラギコは死んで、ギコえもんもまだベッドの上だ。
 現在特務A班は二人も戦力を失っているのである。
 泣いて余計なエネルギーを消耗するなんてもっての外だ。


「…タカラギコ……」
 私は誰にも聞こえないように小さく呟いた。

 彼が、どういう経緯で、どういう理由で、
 『矢の男』に仕えていたのかは分からない。

 だけど、私達は間違い無く、掛け替えの無い仲間だった。
 それだけは、心の底から信じられる。

 …全てが終わったら、私はきっと、思い切り泣くのだろう。
 多分、ぃょぅや小耳モナーやギコえもんもそうだ。
 だからこそ、生きて帰らねばならない。
 タカラギコの為にも。

「……」
 私は目を閉じ、タカラギコにしばしの黙祷を捧げた。

676ブック:2004/03/25(木) 04:04



     ・     ・     ・



 体の奥が震えるような感覚が俺を襲った。

 …呼んでいる、何かが。
 俺を……
 …いや、
 俺の中の『デビルワールド』を…

「……」
 『矢の男』だ。
 俺は何故かそう確信した。
 『デビルワールド』が、俺にそう伝えているのか。

 …関係無い。
 俺には、関係無い―――



 ―――俺は、呼ばれている方向に向かって足を踏み出した。
「…行くんですね。」
 みぃが、俺の背中から小さい声で告げた。
「……」
 背を向けたまま、頷く。

 これは、街の奴らとか、正義とやらの為じゃない。
 タカラギコには、SSSから出して貰った借りがある。
 それを、返しておくだけだ。

 それに、『大日本ブレイク党』を支援していたという事は、
 あの孤児院が襲われた原因は『矢の男』にあるという事だ。
 『矢の男』には、その事について死を持って償って貰わねば気がすまない。

 …それとも、これも『デビルワールド』の所為なのか。
 奴が、俺を進ませようとしているのか。


「でぃさん…」
 みぃが後ろから俺に抱きついてきた。
 俺は俯き、ただ、虚空を見つめる。

「…お願いです……
 必ず、帰って来て下さい……」
 みぃが泣き声で呟いた。

 …心配するな。
 俺は、死なない。
 お前を残したままで、死ぬもんか。


「……」
 決して振り返らずに、進む。
 振り返ったら、進めなくなってしまうかもしれないから。

 何かが、さらに激しく『デビルワールド』を呼ぶのが分かる。
 何が呼んでいるのか。
 何故呼んでいるのか。

 …どうでもいい。
 これは、俺の闘いだ…!

 俺は、正面を見据えたまま進み続けた。



     TO BE CONTINUED…

677ブック:2004/03/25(木) 21:45
     救い無き世界
     第五十六話・逢魔ヶ刻 〜その二〜


 都市の外れの、閑散とした場所に立てられた教会。
 そこに、『矢の男』と従者達は集っていた。
 彼らは皆、Z武と呼ばれた者のスタンドが作り出した
 空間の裂け目から覗くエーテル体に見入っていた。


「『矢の男』!!!」
 と、教会の入り口の扉が荒々しく開け放たれた。
 そこから、ぃょぅ達SSS特務A班と、
 それに続いてSSSの隊員達がなだれ込んでくる。
 そして、『矢の男』達に向かって幾つもの銃の照準が合わせられた。

「…来ましたか、SSS。」
 『矢の男』が、待ち構えていたようにSSS達に顔を向けた。
 その顔には、およそこの場に似合わぬ柔和な笑みが浮かんでいる。

「『矢の男』、大人しく投降するょぅ!
 『神の降臨』なんて馬鹿げた事は、絶対にさせなぃょぅ。」
 ぃょぅが吼える。
 『矢の男』は、鼻で笑ってその気迫をいなす。

「それはできませんね。
 やっとここまで来たのです。
 今更やめるなんて、殺生な事を言わないでもらいましょうか。」
 『矢の男』を護衛するように、トラギコを含めた従者達が、
 彼の周りを取り囲んだ。

「しかし、もう『神の降臨』についてまで知っていましたか。
 タカラギコが裏切ったのですね?
 そういえば彼の姿が見えませんが、彼はどうしたのですか?」
 ぃょぅ達は、それについては何も答えない。

「…成る程、彼は自分で命を絶ったのですね。」
 ぃょぅ達がその言葉を聞いて驚く。
 『矢の男』が、ぃょぅ達の考えている事を言い当てたからだ。

「別にそれ程驚く事ではありませんよ。
 これが、私の能力の一部です。」
 『矢の男』が、面白そうに笑った。

「…それが、神を呼ぶ為の魂なの?」
 ふさしぃが空間の裂け目のエーテル体を見て、『矢の男』に尋ねた。
「そうです。
 よく集められたものでしょう?
 ここまで集めるのに、二百年以上かかりました。」
 『矢の男』が、コレクションを自慢するように言った。

「…二百年。」
 ふさしぃが呟く。
 はっきり言って、彼の言っている事は異常である。
 人が二百年も行き続けるなど、不可能に近い。
 それに、『矢の男』達の姿は、どう見ても青年にしか見えないのだ。
 しかし、ぃょぅ達は別段驚くような事はしなかった。

678ブック:2004/03/25(木) 21:46

「タカラギコのフロッピーには、『矢の男』とその従者達は、
 肉体を次々と取り替えながら生き続けているとあったけど…
 まさか、本当だったなんてね…」
 ふさしぃが、信じられないといった表情をする。

「私の能力は、『生物の魂に触れる事が出来る』事。
 そしてこれこそが、『神の降臨』をもたらす為の能力。」
 『矢の男』が、エーテル対の方を向きながら喋った。

「見なさい。
 これが私の『サイコカリバー』で取り出した魂達です。
 美しいでしょう…」
 『矢の男』が目を輝かせる。

「お前は、許さないモナ!
 その為に、今まで何人の人を犠牲にしてきたんだモナ!!」
 小耳モナーが叫んだ。

 魂を取り出す。
 そうして得られた魂の数は、同時に生贄の数でもあるのだ。

「さあ、何人でしょうね?
 今まで何回も我々の魂を新しい肉体に移し変え、
 それだけ人より長く生きてきたせいか、
 どうも昔の事は思い出せないものでしてね…」
 『矢の男』が悪びれもせず話しだす。

「今まで、数え切れない程の紛争の火種を起こしては、
 人々を傷つけ合わせてきましたからねぇ…
 まあ、両手の指の数では足りない事は確実ですね。」
 『矢の男』が邪悪な笑顔を見せた。

「何で、そんな事を…!」
 小耳モナーが、堪えきれずに訴えかけた。
「そんな事、少し考えれば分かるでしょう。
 無闇やたらに人から魂を抜き出していては、すぐに大事になってしまう。
 しかし大量に人が死ねば、それを隠れ蓑にして、
 闇から闇に葬る事は容易い…」
 『矢の男』が微笑みながら答えた。

「それに…
 世が乱れ、人が傷つき、人が死に、人がそれを悲しみ世に絶望し、
 人智の及ばぬ何かに救いを求める。
 そのような魂こそ、『神の降臨』には必要なのですよ。」
 『矢の男』のその言葉に、ぃょぅ達はさらに『矢の男』に対する怒りを燃やした。

「『大日本ブレイク党』も、その為に…!!」
 ぃょぅが激昂した。
 今にも飛び掛らん程の怒りを瞳にたたえて、『矢の男』を睨みつける。

「そういう事です。
 ですが、彼らは思った以上に狂暴でして、
 私達が望む以上の働きをしてくれましたがね。」
 『矢の男』がやれやれといった風に肩をすくめた。

679ブック:2004/03/25(木) 21:46

「…まあ、それでも結果オーライといった所ですか。
 彼等は街を徹底的に破壊し、人々を絶望のどん底にまで沈めてくれた。
 そのような場こそ、救いの象徴たる神が降臨するに相応しい。」
 その言葉が、ぃょぅ達の堪忍袋の緒を完全に切り裂いた。

「貴様、人の命をを何だと思って―――!!!」
 ぃょぅがそう叫び終わらないうちに、
 SSSの隊員たちの構える自動小銃が一斉に火を噴いた。
 音速を突き破る速度で、何百発もの銃弾が『矢の男』達に襲い掛かる。

「『オウガバトル』!!」
 トラギコがスタンドを発動させた。
 そして、彼の目の前の空間を分断する。
 空間と空間が切り離されて、その部分にあらゆるものを遮断する壁が生まれ、
 その壁によって銃弾が全て『矢の男』達に到達する事なく弾かれる。
 ぃょぅ達を含むSSSの面々は、その光景に驚きを隠せなかった。


「酷い事をする。
 問答無用とは…」
 傷一つ負わぬ姿のまま、『矢の男』が口を開いた。

「…あなた達、神を降臨させるなんて、本当に出来ると思っているの!?
 そんな大それた事が、人間に出来る訳ないでしょう!」
 ふさしぃが、『矢の男』を見据えて言った。
「ええ。
 確かに、『神の降臨』などという事が、簡単に出来る訳がない。
 実際、一度我々は神を降臨させようとして失敗しています。
 その時、代わりに生まれたのが…」


「!!!!!!!!!!」
 突然、教会の天井の一部が轟音を立てて崩壊した。
 そこから、瓦礫と共に、一つの人影が地面に降ちてくる。
 瓦礫の破片や埃が空中に巻き上げられ、その煙が視界を覆った。

「……!!」
 煙がおさまるにつれ、徐々に突如天井から飛来した人物の姿が明らかになっていく。
 それは、ぃょぅ達が何度も見てきた男だった。

「…そう、この『悪魔』でした。」
 『矢の男』が突然の来客者を見据えて言った。

「……」
 招かれざる客は、黙ったまま『矢の男』を見つめ返す。

 異形と化した腕。
 異形と化した脚。
 醜い体。
 そして、澄みきった輝きを持つ瞳。


 ―――それは、哀しい一匹の『化け物』だった。



     TO BE CONTINUED…

680ブック:2004/03/26(金) 15:18
     救い無き世界
     第五十七話・逢魔ヶ刻 〜その三〜


 俺は祭壇に佇む『矢の男』であろう男と、その取り巻き達を見据えた。
 『デビルワールド』が、これまでに無い程昂ぶる。

「……ぉ………」
 『デビルワールド』が俺の意思とは無関係に発動。
 俺の声帯を変化させ、声を出せれるように構築していく。

「う゛る゛ろおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおお!!!!!!!!」
 『デビルワールド』が俺の体を使って咆哮した。
 大気が震え、壁や床に亀裂が走る。
 そして、部屋中に心臓が止まる程の圧迫感が駆け巡り、
 SSSの平隊員達はその気に当てられて残らず失神した。

「……!」
 ぃょぅ達が身構える。
 咆哮が終わった時、その場に立っているのは
 ぃょぅ達と、『矢の男』とその従者のみだった。


「…邪魔者は、片付けておいたぞ。」
 俺の喉が、勝手に言葉を作り出す。
 これは俺の言葉ではない。
 『デビルワールド』の言葉だ。

「久し振りですねぇ、『デビルワールド』…」
 『矢の男』が呟く。
 その顔には、怒り恐怖がせめぎあったすえの無表情が浮かんでいた。
「…ああ。三百年振りといった所か。」
 三百年?
 馬鹿な。
 目の前の男はどう見てもまだ若い青年にしか見えない。
 こんな奴が、三百歳を超えた人間だというのか!?


「でぃ!!!!!」
 と、いきなり一人の男が俺に向かって突っ込んで来た。
 こいつは、トラギコ!?
 何故、こいつがこんな所に。

「……!!」
 俺はすぐさまその場を動こうとした。
 しかし、俺の体の筈なのに、体がピクリとも動かせない。
 まさか、『デビルワールド』にここまで体を乗っ取られているのか!?

「死ねええええええぇぇ!!!」
 トラギコのスタンドが腕を横に凪ぎ、
 それに合わせて極細の線のようなものが俺に向かってくる。
 これが、以前俺の四肢をぶった切った攻撃の正体なのか?
 おい、何をやっている『デビルワールド』
 動け。
 動かないと、死―――

681ブック:2004/03/26(金) 15:19


「『終われ』。」
 『デビルワールド』が、その亀裂に向かってゆっくりと手をかざした。
 それと同時に、俺の体に到達する直前で亀裂が動きを止める。
 これは、マニーの時と同じだ…!

「な!!?」
 トラギコがその光景に驚愕する。

「引っ込んでいろ。」
 『デビルワールド』が俺の腕を勝手に動かし、
 トラギコをぶっきらぼうに突き飛ばした。
 驚いた表情のままトラギコが吹っ飛ばされて壁に激突し、
 そのまま動かなくなる。


「折角の旧い知人との逢瀬を邪魔するとは、
 随分と無作法な輩を飼っているのだな…」
 『デビルワールド』がトラギコを一瞥しながら言った。
「それはすみません。
 しかし、彼はああ見えて結構愛嬌があるのですよ?」
 『矢の男』が無表情を崩さぬまま答える。

「…そういえば、話の途中でしたね。」
 『矢の男』が、ぃょぅの方を向いた。
 ぃょぅ達は、固まったようにその場から動かない。
 …いや、動けないのか。

「全てはこの『矢』が始まりでした…」
 『矢の男』が、『矢』の取り出してぃょぅ達に見せた。
「この『矢』は、その刃で傷つけた者を稀にスタンド使いにします。
 私はこれで幾人もの人を射抜き、時には私の協力者とし、
 時には世に災いを振り撒いてもらう為の凶人を作り出してきました。」
 昔を思い出すように、『矢の男』が喋り続ける。

「…そして、ある時ふと思いついたのですよ。
 もし私の『サイコカリバー』で取り出した魂をこの『矢』で射抜いたら、
 どうなるのだろう、とね…」
 ぃょぅ達が、顔を強張らせたまま『矢の男』の話に耳を傾ける。

「結果は、大成功でした。
 魂だけでも、『矢』はその力を発揮したのです。」
 『矢の男』が誇らしげに言い放った。

「そしてその時、こう考えました。
 大量の魂を混ぜ合わせ、それを『矢』で射抜いたら、
 人智を超える『神』すら作り出せる…と。」
 『矢の男』が『矢』に目をやる。

「幸運な事に、その時私の傍にはZ武というスタンド使いがいました。」
 『矢の男』が、車椅子に座る男に視線を移した。
「私の取り出した魂は、長時間肉体から出したままだと消滅してしまう。
 しかし、彼の『エグゼドエグゼス』で異次元に保管すれば、その心配も無かった。
 …狂喜しましたよ、私は。
 これで『神』を呼ぶ事が出来ると確信出来たのですから…」
 『矢の男』の目は、まさに狂人のそれだった。

「私達は早速行動を開始しました。
 『神』を呼ぶとなると、大量の魂が必要になる。
 しかし、それだけの魂を集めるのはかなり手間が掛かるうえに危険だ。
 そこで、私達は死んでも社会に影響を与えないようなでぃ達を集め、
 その魂を使って『神』を呼ぼうとしたのです。」
 すると、突然『矢の男』の表情が曇った。
 まるで、思い出したくない事を思い出してしまったかのように。

682ブック:2004/03/26(金) 15:19

「…そして、私が生まれた。」
 『デビルワールド』が口を開いた。

 そうか、こいつはそうやって生まれたのか。
 だから、『矢の男』と浅からぬ因縁があったんだ。

「そう。
 でぃを使ったのがそもそもの間違いでした。
 虐げられし彼らの心の奥底に渦巻く破滅願望が生み出したのは、
 『神』などではなく、この世に終わりをもたらす『悪魔』だったのです。」
 『矢の男』が唇を噛んだ。

「…あの時起こった事は、今でも忘れられませんよ。
 『デビルワールド』、あなたは生まれると同時に、
 周囲のもの全てを塵一つ残さず消滅させた…!」
 『矢の男』が初めて、その顔に感情を顕にした。

「それは少し違う。
 消滅させたのではなく、万物がそこに存在する限り、
 等しくその身に内包する『終わり』という宿命に従わせたまでだ。」
 『デビルワールド』が『矢の男』を見つめた。

「あの時は、心の底から恐怖し、絶望しました…
 Z武は精神を病み、沢山の同胞もその場で失った…!」
 『矢の男』が俺を、『デビルワールド』を睨んだ。

「すぐさま、あなたが完全に実体化する前に拠り代となった魂を
 撒き散らして消滅させました。
 そして、それと共にあなたもこの世から完全に消え去る筈でした…
 それなのに…!
 それなのに、何故、お前は…!!」
 『矢の男』が『矢』を握り締めた。
 その手からは、血が滴り落ちる。

「…私ももう駄目かと思ったよ。
 しかし、かろうじてこの世に留まる事が出来た。
 尤も…力の殆どは失ったがね。」
 『デビルワールド』が『矢の男』に向かって言った。

「お陰で随分と辛酸を舐める羽目になった…
 消滅してしまわぬよう、様々な仮の本体に乗り移り世を彷徨い続け、
 私が生まれる原動力となった負の感情を喰らいながら
 少しずつ力を蓄えていった。
 もう駄目かと思った事も、一度や二度では無い…」
 成る程、そして今回俺に乗り移ったって訳か。

「…『デビルワールド』……あなたのお陰で、
 私には決して消えない恐怖の刻印が刻まれました。
 あの時の夢を見て、寝小便をした事だって数え切れません。」
 『矢の男』がそう言って、背後にあるエーテル体の方に体を向けた。

「しかし!それもこれまでだ!!
 今度こそは失敗しない!!
 この純粋な救いを求める魂ならば、必ず『神』を呼び出せる!!
 そして、貴様という試練を克服し、私は現人神となる!!!」
 『矢の男』が、エーテル体に『矢』を差し込んだ。
 その瞬間、エーテル体が眩いばかりに発光し、
 極彩色に光が教会内を包み込んだ。

「面白い…
 全てを終わらせる前に、『神』とやらの力がどれ程のものか、見ておくのも一興か…」
 『デビルワールド』が、愉快そうにその様を観察する。

 馬鹿。
 やめろ、動け。
 奴を止めろ!
 このままじゃ、取り返しのつかない事に…!

683ブック:2004/03/26(金) 15:19


「『矢の男』!!」
 突如、『矢の男』に向かって一つの人影が突進した。
「…!長官!!!」
 ぃょぅ達が叫ぶ。
「『スーパーマリ……』!!」
 男の体から、赤い服を着た男と、緑の服を着た男が姿を現す。
 それらが、『矢の男』に向かって飛び掛かり―――

「!!!!!!!!!」
 一際眩しい光が、エーテル体から放たれた。
 何も見えなくなる程の閃光。
 思わず目を閉じ、腕で顔を覆う。

 何だ。
 一体、何―――…



 …―――光がおさまり、まず目に飛び込んできたのは、長官と呼ばれた男の死体だった。
 そして、その傍に背中から透き通る程白い翼を生やした男が佇んでいる。

 …あれが、『神』なのか…?

「……!!」
 俺もぃょぅ達も、放心状態で立ち尽くしていた。

「…素晴らしい、素晴らしい!!」
 『矢の男』が、半ば錯乱状態で喚き散らすように叫んだ。

「『神』よ!!
 あなたに我が身を捧げます!!
 どうかそのお力で、我らをお導き下さい!!!」
 その『矢の男』の言葉に反応したのか、『神』が翼を広げ、
 『矢の男』の元へと近づいた。
 そして『矢の男』の胸に手を置き、
 ゆっくりと『矢の男』と一体化していく。

「ああ…分かる……
 今、『神』と一つになっていく……!」
 『矢の男』が恍惚の表情を浮かべる。
 …そして、『神』と『矢の男』が、完全に重なった。

684ブック:2004/03/26(金) 15:20



「我が銘称(な)を呼べよ。
 我が業(な)を呼べよ。
 我が概念(な)を呼べよ。」
 『矢の男』が、静かに言葉を紡ぎ始めた。
「我が名称(な)を呼べよ。
 我が力(な)を呼べよ。
 我が存在(な)を呼べよ。」
 『デビルワールド』がそれに呼応するかのように呟く。


「我を信奉(もと)めよ。
 我を切望(もと)めよ。
 我を懇願(もと)めよ。」

「我を欲求(もと)めよ。
 我を渇望(もと)めよ。
 我を飢餓(もと)めよ。」


「我を自覚(し)れよ。
 我を直感(し)れよ。
 我を盲信(し)れよ。」

「我を視覚(し)れよ。
 我を知覚(し)れよ。
 我を認識(し)れよ。」


「我は『段落の頭』。
 我は『始めの一文字』。
 我は『鉤括弧開く』。
 我は『A』。
 我は『α』。
 我は『あ』。
 我は『広がる空』。
 我は『天のさらに向こう』。
 我は『果て無き世界』。」

「我は『句読点の丸』。
 我は『ピリオド』。
 我は『鉤括弧閉じる』。
 我は『Z』。
 我は『Ω』。
 我は『ん』。
 我は『地平線』。
 我は『深遠の底』。
 我は『世界の果て』。」


「我は我が我こそが、
 幾千万の希望により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『無限の使者』、『可能性の権化』、『誕生の化身』、
 ―――『アクトレイザー』。」

「我は我が我こそが、
 幾千万の怨念により、魂を現世に賜りし我こそが、
 『矢』により、肉を現世に賜りし我こそが、
 『最果ての使者』、『虚無の権化』、『終焉の化身』、
 ―――『デビルワールド』。」

685ブック:2004/03/26(金) 15:20



 『デビルワールド』と『アクトレイザー』との間に、
 張り裂けんばかりの圧力がかかる。
 常人なら、そこに居るだけで絶命してしまいそうなプレッシャー。
 その只中に、俺は存在していた。

「…はっきりと分かる……
 『神』の力が、その奇跡の能力が…
 これならば、あの『悪魔』をも…!」
 『矢の男』が、『デビルワールド』を見据えて言った。

「…しかし、まだ馴染みきっていませんね……
 完全に『神』の力を使いこなすには、時間が掛かる…」
 そう言うと、『矢の男』は振り返った。
 従者の一人が背後の壁に穴を開けて、出口を作る。

「…トラギコを、連れて帰ってあげなさい。」
 『矢の男』が別の従者に命令した。
 その従者が、渋々といった感じでトラギコを担ぐ。

「それでは、近いうちに会いましょう。
 どうかお達者で、SSSの皆さん。
 …そして…『デビルワールド』……」
 そう言い残すと、『矢の男』達は瞬く間に居なくなった。
 俺達は、馬鹿みたいに立ち尽くし、
 何も出来ないまま奴らを見送るのみだった。


「……!!」
 『デビルワールド』が解除され、体の自由が戻ってきた。
「!!!!!」
 すぐさま、『矢の男』達が出て行った壁の穴へと駆け出す。
 しかし、奴らの姿はもうすでにそこには在りはしなかった。


「―――ァ―――ッ―――!!」
 俺は、吼えた。
「―――ゥ―――ァ―――!!」
 誰も居ない空間に向かって、吼え続けた。





     ―――『救い無き世界・第一部』 〜完〜―――

686ブック:2004/03/28(日) 18:22
 需要があるかどうかは分かりませんが、
 第二十六話から第五十七話までの人物紹介をさせて頂きます。


でぃ…もはやかつてのヤムチャの面影は無く、立派に主人公としての威厳が出てきた。
   しかし、その分『おいしいキャラ』ではなくなってしまったのが残念。
   でも番外編では全く活躍していない。
   自分に悩みながらも闘うのは構わないが、おめー碇シンジかっつーの。
   あと、下手したらストーカー一歩手前だぞ。
   でもまあいいや、所詮元クロコダインだし。
   実は早漏との疑惑が浮上しているが、真偽は不明。
   基本的につっこみだが、たまにボケる。

スタンド…名称『デビルワールド』。『矢の男』が神の降臨に失敗する事で、
     この世に呼び出された。
     人をおちょくるのが趣味かと思う位、でぃに一々話しかけては
     怒らせる。
     近距離パワー型で、『終わり』に関係する能力を持つ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
みぃ…あまり話に絡んでこない、この物語のヒロインとは名ばかりの脇役。
   みのもんたも真っ青のヘビーな過去をもっているが、正直やり過ぎたと思う。
   でぃ以上に番外編でも活躍しない。
   以前書いた、『各主人公側キャラクターを象徴する大アルカナ』で
   彼女に割り振られた大アルカナは『ハングドマン』。
   第三部でこのスタンドを持つのはJ・ガイル。なんちゅうヒロインだ。
   もういい。もういいよ。
   猫又なんて設定はもういいよ。猫耳がメインだったんだよ。
   何というか本当にもう、廃人でごめんなさい。
   ただ一つ言わせて貰うならば、私の脳内設定ではみぃは黒髪ロングストレートです。
   黒髪は猫耳や姐さん女房に匹敵するくらい良いものなのです。
   はにゃーん。
   天然。

スタンド…名称『マザー』。自分の生命エネルギーを、他者に分け与える能力。
     戦闘能力が皆無という設定の所為で、全く活躍出来ない。
     薬箱代わりにしか使えない非業のスタンド。

687ブック:2004/03/28(日) 18:22
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
     ・     ・     ・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
SSS…正式名称『STAND SECURITY SERVICE』。
    ぃょぅ達が所属している組織だが、ぃょぅ達以外殆ど役に立っていない。
    給料泥棒もいいところだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ぃょぅ…『SSSスタンド犯罪制圧特務係A班』に所属している。
    良くも悪くも灰汁のない無味無臭のキャラクターであり、
    個性が無いのが個性とも言える。
    しかし、こいつ本当に書く事ねぇなぁ…
    つっこみ。

スタンド…名称『ザナドゥ』。近距離パワー型で、射程内に自在に風を起こせる能力。
     汎用性が高く、近接戦闘では無類の強さを誇る。
     ふさしぃやギコえもんが暴走しにくいのは、
     ぃょぅがこのスタンドを持っている事も一因となっているのだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふさしぃ…ショタコン。
     かなり強い腕っ節とキャラクターを持ち、ギコえもんを殺すのが生き甲斐。
     人気投票では、『一度殺されてみたい』『the king of destrouer』等、
     およそ乙女とは思えないようなコメントを受ける。
     でもしょうが無い気もする。
     実際、その通りなんだもん。
     つっこみ。

スタンド…名称『キングスナイト』。黄金の甲冑を身に纏った騎士のビジョンの
     スタンド。その剣でつけられた傷は、どこまでも広がる。
     近距離パワー型。
     ふさしぃの執念深さが具現化した能力かもしれないが、
     もちろんそんな事を本人に聞かれたら、その末路は死あるのみ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
小耳モナー…この物語の真のヒロイン。
      理由はみぃやふさしぃを超える程の癒し系だから。
      よく泣くのでたまにうざったい。
      裏表の無い、気の好い性格と言えば聞こえはいいが、
      有り体に言ってしまえばただの馬鹿。
      天然+ボケ。

スタンド…名称『ファング・オブ・アルナム』。自動操縦型で、独立意思を持つ。
     影へのダメージをその影の主にフィードバックさせる能力を持ち、
     匂いで敵を追跡出来る。
     地味に強い。つーか、強すぎ。
     その所為で小耳モナーはフーゴの様にあまり活躍させられない。
     だって、タカラギコ戦に彼が居たら一発で勝負ついちゃうし。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ギコえもん…ふさしぃに殺されては復活を繰り返すゾンビ。
      番外編では誰よりも活躍しているが、
      本編では第一部のラストに登場出来なかった哀れな男。
      小耳モナーよりは頭がいいが、やっぱり馬鹿。
      ボケ。

スタンド…名称『マイティボンジャック』。近距離パワー型で、
     射程内で引き起こされる結果を先送りにするという能力を持つ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タカラギコ…SSSに所属していたが、真の顔は『矢の男』の従者の一人だった。
      最後の最後まで裏切り者であり続けようとして自害。
      ぃょぅ達に看取られるながら安らかに息を引き取った。
      最初から殺すつもりで登場させたのですが、
      本当に殺していいのかどうかについてはかなり悩みました。
      今でも、まだ少し悩んでいます。
      ボケとつっこみを両方そつ無くこなす。

スタンド…名称『グラディウス』。遠隔操作型で、いくつもの銀色の飛行物体が
     そのビジョン。
     光を操る能力を持ち、隠密工作に最適。
     反面直接戦闘能力は無いが、タカラギコは本体である自分を強くする事で、
     その弱点を補っていた。

688ブック:2004/03/28(日) 18:23
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     ・     ・     ・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
大日本ブレイク党…『矢の男』にいいように操られた後、SSSに壊滅させられた
         不遇の組織。
         所詮は中ボスで、あっさりその存在に幕を下ろす。
         でぃを超える咬ませ犬っぷりを披露した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1総統…『大日本ブレイク党』の長。
    にも関わらず、登場したとたんにタカラギコに瞬殺された。
    そのあまりのあっけなさは芸術級で、ボスに有るまじき死に方であった。

スタンド…名称『エックスボックス』。ビジョンを持たないスタンドで、
     本体を中心に災害を周囲に撒き散らす迷惑極まりない能力を持つ。
     が、殆ど活躍出来ず、1総統がこのスタンドを使ってやった事は、
     モブキャラクターを殺す事だけだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
梅おにぎり…『大日本ブレイク党』が参謀の一人。
      1総統と同じく、登場と同時に大した見せ場も無いまま退場。

スタンド…名称『ヘルファイアー』。接触したものが速く動けば動くほど
     激しく発火させるというインチキ臭い能力を持つ。
     近距離パワー型。
     ぃょぅと小耳モナーを苦しめるも、状況によっては
     あっという間に惨敗してもおかしくなかった。
     というか、ぃょぅと小耳モナー強いわ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
マニー…『大日本ブレイク党』の参謀のもう一人。
    『人形』のブローカーという側面を持ち、みぃもかつて彼の『人形』だった。
    調教エロゲーでもやってろ、外道。
    悪役らしく、無様にでぃにぶち殺される。

スタンド…名称『ドルアーガ』。物質の表面を自在に操作する能力を持つ近距離パワー型。
     でぃの『デビルワールド』の力を引き出して終了。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
黒耳モララー…マニー直属の部下。
       でぃの足止めをマニーに命令されるも、力及ばずでぃに敗北。
       でぃが自力で勝ったスタンド使いの記念すべき一人目。

スタンド…名称『パイプライン』。遠隔操作型で、体から管を射出する事が出来る。
     その管はあらゆるエネルギーを吸収してその中を移動し、
     管についている栓の蓋からそのエネルギーを射出出来る。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ネーノ…マニー直属の部下。
    マニーの屋敷でギコえもんと交戦。
    そして敗北して死亡。

スタンド…名称『スウィートホーム』。実体を持たないスタンドで、
     様々な幻影を作り出す能力を持つ。
     その幻影を見た者は、現実であると強く思い込まされる為、
     肉体にも直接影響を及ぼされる。
     ただし、裏設定では屋内でしか発動出来ないという弱点があった。

689ブック:2004/03/28(日) 18:24
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キッコーマソ…強化兵を率いて、街で大量虐殺を行っていた。
       自分の能力を性格に把握しておらず、
       そこをつかれてタカラギコに殺された。

スタンド…名称『ギャラガ』。近距離パワー型で、作用と反作用を操作する能力。
     ただし、瞬間的な力しか操作は出来ず、持続的に力を加えられたら
     全くの無力と化す。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
みるまら…キッコーマソと同じく、街で人を殺していた。
     ギコえもんとふさしぃと闘うが、多勢に無勢で彼らのコンビネーションの
     前に敗れる。
     命乞いをするも、そんな都合のいい事が通用する筈も無く、
     闘いの厳しさを自らの死で知る事となる。

スタンド…名称『バブルボブル』。近距離パワー型で、身に纏うタイプのスタンド。
     スタンドの表面から液体を吸収、それを高速で射出する能力を持つ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トニー・ザ・タイガー…コンボとコンビを組んでいた虎。
           トラギコに善戦するも、やはり負けてしまう。

スタンド…名称『ベラボーマン』。近距離パワー型で、音の中にものを隠すという
     特殊能力を持つ。
     音の中に隠されたものには干渉する事が不可能となるが、
     隠れている音より大きな音がすると、強制的に能力が解除される。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コンボ…正式名称は忘れました。
    でぃと戦闘するが、紙一重の所で敗北。
    最後っ屁に、でぃの両親を殺す。

スタンド…名称『アンジェリーク』。刀身の見えない剣のスタンドで、
     神経の流れのみを断ち切るという能力を持つ。
     幻想虎徹レベル1。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
強化兵…強化兵とはもう名ばかりの雑魚。
    別名スライムベス。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
     ・     ・     ・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『矢の男』…神の降臨を目指している電波。
      第五十七話で実はお漏らししていましたと衝撃の告白。
      いい歳こいて寝小便なんかするなよ…

スタンド…名称『サイコカリバー』。魂に干渉出来るという能力を持つ。
     『矢の男』は、この能力を使って自身と従者の体を何度も取り替えて、
     永い時間を生きながら神を降臨させる計画を進めてきた。

スタンド…名称『アクトレイザー』。『矢の男』が『矢』により呼び出した『神』。
     『デビルワールド』と対極の存在。
     降臨後、『矢の男』に乗り移り彼の新たなスタンドとなった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
トラギコ…孤児院のOBで、自分の事を棚に上げてでぃを一方的に恨む
     自己中逆ギレ逆恨み野郎。
     タカラギコの穴を埋める為に、ベジータの如くでぃ側に
     寝返らそうかとも思ったが、やめた。
     だって、もしかしたらみぃが寝取られるかもしれないし。

スタンド…名称『オウガバトル』。近距離パワー型。
     射程内の空間を分断することが出来る。
     はっきり言って、こいつ反則な位強いです。
     まともに闘ったらまず負けません。

690ブック:2004/03/28(日) 18:24
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Z武…矢の男の従者の一人。
   『デビルワールド』の降臨時、その影響で精神が崩壊してしまう。

スタンド…名称『エグゼドエグゼス』。
     亜空間を開き、その中にあらゆるものを閉じ込めておく事が出来る。
     闘えばかなり手強いのだろうが、本体が壊れてしまっている為、
     もう戦闘能力はゼロに等しい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
従者…『矢の男』には他にも何名かの従者がいる。
    彼等はトラギコや『矢の男』と違い、遥か昔から『矢の男』と共に
    肉体を代えながら行動している。
    その内の一人は、トラギコと特に仲が悪い。

スタンド…今の所不明。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
     ・     ・     ・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
丸耳ギコ…本編には出すつもりは無いと言っておきながら、出してしまいました。
     ですが、本編には決して影響は与えません。
     ふさしぃと付き合っているが、破局の時が彼の命日になる事には、
     未だに気づいていない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
機動隊隊員…使命に燃える好青年。
      しかし、みるまらに騙されて死んでしまう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
でぃの両親…孤児院で働いている。
      トラギコを我が子のように可愛がり、トラギコもまた彼らを慕っていた。
      最後でぃを庇って絶命する。
      本当はでぃが自分たちの子供である事に気付いていたのかもしれないが、
      今となっては確かめようが無い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
長官…ぃょぅの所属するSSS支部の長官。
   しかし、二回目の登場時にいきなり死亡。
   最早何の為に登場したのか分からない。
   長官に、敬礼。

スタンド…名称『スーパーマリオブラザーズ』。
     能力の発動前に本体である長官もろとも退場。
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     終わり

691ブック:2004/03/29(月) 19:29
 注)これはでぃがSSSと出会う前の物語です。

     救い無き世界
     番外・春だ!桜だ!温泉だ!!
        チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その一〜


「春モナね…」
 小耳モナーがほぅ、と溜息を吐いた。
「春よねぇ…」
 ふさしぃがそれに合わせるように呟く。

「うおっ!?
 俺のお気に入りだったスレが厨に荒らされてるぞゴルァ!!!」
 ギコえもんがパソコンの画面を見ながら大声を上げた。
「春モナね…」
「春よねぇ…」
 小耳モナーとふさしぃがギコえもんとは対照的に、
 うららかな様子でお茶を啜る。


「タカラギコ、そういえば君に幹事を任せた慰安旅行の件はどうなっているょぅ?」
 私は書類をまとめているタカラギコに声をかけた。
「ああ、それでしたら抜かりありませんよ。
 もうすでにとある温泉旅館に予約を入れてあります。」
 タカラギコが私の方を向いて言った。

「温泉かょぅ!
 それはとても楽しみだょぅ。」
 我々特務A班の面々は、親睦をより深める事も兼ねて以前より慰安旅行を計画していた。
 皆と一緒に旅行をするのも久し振りなので、今から待ち遠しい。

「はいは〜い!
 先生、おやつは何円まで持って行っていいモナか?」
 小耳モナーが挙手して尋ねた。
「おやつは二百円までです。
 もしそれを超えて持って来たら先生が没収しますよ。」
 タカラギコが小耳モナーに釘をさす。
「バナナはおやつに入るのかしら?」
 ふさしぃがそう質問した。
「お弁当箱に入っているならセーフです。
 そうでない果物はおやつと判定しますので悪しからず。」
 そういえば、私が小学生だったころ
 お弁当箱に果物だけを詰めて持って来た奴がいたな…
 彼は今、何をやっているのだろうか。


「集合は今週の金曜日、駅入り口に午前十一時でお願いします。
 遅れたら容赦なく置いて行きますので、
 くれぐれも遅刻しないで下さいね。」
 タカラギコが念を押すように言った。

 今週の金曜日か…
 今が月曜だからあと四日。
 もし時間を加速させるスタンドがあるならば、
 四日だけ加速して欲しいと、私は思うのであった。

692ブック:2004/03/29(月) 19:29



 〜四日後〜

「おえええええええええええええ!!!」
 新幹線の中のトイレから、ギコえもんの嘔吐の声が聞こえてきた。
「ギ…ギコえもん……
 早く出てきて欲しいモナ……
 じゃないと、モナももう……うえっぷ!」
 小耳モナーがえずく。

「ここで吐いたら駄目だょぅ、小耳モナー。」
 小耳モナーに喋りかける。

 あろう事か、この馬鹿二人は前日に二日酔いになるまで飲んでから、
 待ち合わせ場所にやって来た。
 で、電車に乗ってみれば案の定この様だ。
 こいつら、ふさしぃに殺してもらおうか…

「おええええええええええええええええ!!!」
 トイレの中からは、相変わらずギコえもんの吐く声が聞こえてくる。

「ああ…モナも、もう……」
 小耳モナーが臨界寸前の目になる。
「こ、小耳モナー!!
 駄目だょ……!」
 しかし、全てはもう遅すぎた。
「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ〜〜〜〜〜!!」
「うぎゃあああああああああああああああ!!!!!」
 小耳モナーの吐寫物が、私の服にぶちまけられた。





「………」
 私はしかめっ面をしながら宿に向かって歩いていた。
「ぃ…ぃょぅ、ごめんモナー…」
 小耳モナーがすまなそうに私に謝る。

「………」
 私は小耳モナーには目を合わせないまま歩き続けた。
 まったく、信じられない奴だ。
 お陰で一張羅が台無しだ。

「おいおい、心が狭いぞぃょぅ。
 それ位許してやれゴルァ。」
 吐くだけ吐いてすっきりしたのか、ギコえもんが快活な声で私に言った。

「君も同罪だょぅ!」
 私はギコえもんに向かって叫んだ。
 こいつら、このおとしまえはいつかきっちりと取ってもらうからな。


「お…見えてきましたね。
 あれが私達の止まる旅館ですよ。」
 タカラギコがそう言って指を指す。
 そこには、中くらいの大きさの旅館が建てられていた。
 その作りは落ち着いた感じで居心地が良さそうである。
 ただ…

「この名前はいかがなものかと思うょぅ…」
 私は思わず苦言を漏らした。
 旅館の入り口にある看板には、大きな文字で『もうこねえよ温泉』と書いてある。
 正直、ネーミングセンスは最悪と言わざるを得ない。

「いやいや、名前とは裏腹、結構いい旅館とのふれこみですよ。」
 タカラギコが笑いながら話す。
「それでは、チェックインを済ませましょうか。」
 我々はタカラギコの後に続きながら、旅館の中へと入っていった。



「お客様のお部屋はこちらになります。」
 女中さんが私達を部屋へと案内してくれた。

「へぇ〜、中々いい所だょぅ。」
 私は部屋の中を見渡して言った。
 窓からの眺めも格別で、静かな渓谷と山桜を楽しむ事が出来る。
 これならば、「もうこねえよ」どころか、
 是非ともまた来てみたいものだ。

「私の部屋は隣みたいだから、そっちに行っておくわね。」
 ふさしぃがそう言って私達と離れた。

「さてと……」
 私は腕時計を見てみた。
 現在午後四時十分前。
 日も少し傾いてきている。

「取り敢えず、ぃょぅは早速お風呂に入りに行くょぅ。」
 私はゲロまみれになった上着を脱いだ。
 体についたゲロを落とす為にも、温泉に入ってさっぱりとしたい。

「それなら俺も行くぞゴルァ。」
 ギコえもんが私につられて立ち上がった。
「モナも行くモナ。」
「私もご一緒しましょうか。」
 小耳モナーとタカラギコも、それに合わせてくる。


「ふさしぃ、いるかょぅ。」
 私は部屋を出ると、ふさしぃの部屋をノックした。
「何?」
 部屋の中からふさしぃの声が聞こえてくる。
「ぃょぅ達はこれから温泉に行ってくるょぅ。
 それだけだょぅ。」
 私はドア越しにふさしぃに告げた。
「そう、分かったわ。私も後から行くわね。」
 ふさしぃの言葉が返ってくる。
「それじゃあ、行ってくるょぅ。」
 そして、私達は露天風呂へと向かうのであった。

693ブック:2004/03/29(月) 19:31



「い〜い湯だ〜な。はははん。」
 私は温泉に浸かりながら鼻歌を歌った。
 時間がまだ早めな所為か、露天風呂には私達しか入っていない。

「…ところでぃょぅ、男同士で風呂に入ったからには、
 やっておく事があるよな。」
 ギコえもんはそう言うといきなり私の股間を覗き込んできた。
「…ふっ、勝ったな。」
 ギコえもんが勝ち誇ったように呟く。

「……!
 無闇に大きければいいってもんじゃ無ぃょぅ!!
 形だって重要だょぅ!!」
 私は悔しくなって、つい負け惜しみを言った。
 断っておくが、これでも私は並よりは大きい方だ。
 決して、小さいという訳ではない。

「やれやれ、あなた達何をしているのですか。」
 タカラギコが股間を手拭いで隠しながら私達の浸かっている湯船に近づいてくる。
「そういうお前はどうなんだゴルァ!」
 ギコえもんがタカラギコの手拭いを剥ぎ取った。

「…普通だな、ゴルァ。」
 ギコえもんが呟いた。
「…普通だょぅ。」
 タカラギコのブツは、色、大きさ、形と共に全て人並みで、
 そこにはある種の美しさすら存在していた。

「みんな〜、何してるモナか?」
 小耳モナーが私達の方へと寄って来た。
「お、いい所へ来たな小耳モナー。
 お前のブツがどれ程のものか一つ見せて―――」

「!!!!!!!!!!」
 その時、私達は皆言葉を失った。

 こ、こやつ。
 顔に似ぬ何たる一物…!!

「……」
「……」
「……」
 私とギコえもんとタカラギコは、ひたすらに敗北感に打ちひしがれた。
 男としての完全な敗北。
 その事実が無情にも私達を苛んだ。

694ブック:2004/03/29(月) 19:31



「あら、あなた達どうしたの?」
 意気消沈とした様子で風呂から出てきた私達を見て、
 ふさしぃが不思議そうに声をかけてきた。
「…何でもなぃょぅ。」
 力なく言葉を返す。
 この敗北感は、女であるふさしぃに言った所で到底分かるまい。

「皆、突然元気が無くなっちゃったモナー。」
 小耳モナーは、自分がその直接の原因である事には気づいていないらしい。


「…皆、ちょっといいか?」
 不意にギコえもんが口を開いた。
「何だょぅ?」
 思わず聞き返す。

「俺達が出会ってからもう随分と経つよな…
 喧嘩をする事もあったが、
 それでも俺達は心の通じ合った仲間同士と言って差し支えないだろう。」
 何だ。
 ギコえもんは、つまり何が言いたいのだ?

「…しかし、それでもそろそろはっきりと決めておく必要があると思うわけよ。
 俺達の中で、誰がヒエラルキーの頂点に立つのかをな…!」
 それは、つまり…

「つまり、私達の中で誰が帝王なのかを決めたい、という事?」
 ふさしぃがギコえもんに尋ねる。
「その通りだ、ゴルァ。」
 ギコえもんがそれに答えた。

「どうやって決めるモナか?
 モナは皆と闘うのは嫌だモナ…」
 小耳モナーが不安そうに言った。
「安心しな、直接戦闘をすればお互いに無事で済まないのは百も承知よ。
 だから、このような事を考えた。」
 と、ギコえもんが一つの紙切れを取り出した。


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チキチキSSS特務A班麻雀勝負

「ルール」
1・時間制限は明朝六時まで。
2・トビはその時点で終了。
3・四打ちだと一人余ってしまうので、半荘毎にメンバーを入れ替える。
  一人は脇で見学。
4・半荘毎に点数精算。
  一位は四位から8000点、二位は三位から4000点徴収出来る。
5・ダブル役満、トリプル役満等、複合役満有り。
6・喰いタン、後付け何でも有りのアリアリ。
7・最終的に最も多く点数を持っていた者の優勝。


「禁止事項」
1・徒手、鈍器、刀剣、銃器、もしくはスタンド等あらゆる凶器によった、
  他者もしくは備品への直接打撃行為。
2・イカサマ(ばれなければイカサマではない)。
3・その他この国の法律で罪に問われる一切の行為。
4・以上の禁止行為が発覚した場合、チョンボとして全員に役満払い。
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 …いつからこんな事考えていたのだ、ギコえもんは。

「しかし、ただ帝王を決めるだけでは張り合いがありませんね。
 どうです、それぞれが二十万円ずつ出し合って、
 トップの人がその百万円を総取りというのは。」
 タカラギコがそう提案した。

「…おもしろいわね。
 いいわ、受けて立ちましょう。」
 ふさしぃがポキポキと指を鳴らした。

「ぃょぅも、絶対に負けなぃょぅ…!」
 私も強く拳を握る。

 空はもう日が沈みかけ、夜の帳が下りようとしている。
 かくして、長い闘いの火蓋がきって落とされようとしていた。



     TO BE CONTINUED…

695アヒャ作者:2004/03/29(月) 23:04
合言葉はwell kill them!(仮)第八話―二つの刃その③

夜の公園にて・・・・
ツーとハナミズキ。
お互いが間合いを取り、慎重に相手を見据える。そんな状態がしばらく続いただろうか。

均衡を破ったのはツーからだった。ふいに構えを解いて穏やかに話し始める。

「なぁ、この勝負やめにしないか?お前は俺に一度負けているんだしさ、俺だってお前とは戦う気なんてないし。」
だが、その言葉もハナミズキには無意味だった。

「無駄だぜ。今更この俺を懐柔しようとしてもな。」

「・・・なにッ!?」
「俺はお前を倒さねーと気が済まないんだよ・・・・負けたままだとカッコ悪いからな。」

するとツーが笑い出した。

「アハハハハッ!安っぽい三文芝居ですまなかったねぇ。戦うのが面倒くさいから見逃してもらおうと
 思っていたんだけどな。これはもう『闘る』しかねえなァ〜?」

「おい、こっちはとっくに『闘る』気だぜーッ!マヌケがッ!一瞬でカタをつけるッ!」
「一瞬でカタをつけるだと?俺に一度負けたくせに、相当うぬぼれがすぎやしねーか?」

ユラリ・・・・
ハナミズキが動いた。

「このオレをうぬぼれというのか?このオレの剣さばきが・・・」

「!?」
ツーが大きく目を見開いた。

「うぬぼれだとッ!」

気合と共に無数の乱撃が繰り出されるッ!
「あっしゃ――――ッ!! 」

スパァァァ!
再び血が周囲に飛び散った。

「クククッ・・・これでもうぬぼれだと言うのか?」

勝ち誇るッ!ハナミズキの勝利宣言だ。

「・・・・嘘だろ・・・・さっきとは全然動きが違う・・・・すげぇ。」
全身をごく浅く切り裂かれたツーは愕然として言葉を漏らした。敬意すら含まれていたかもしれない。

「やっぱり肉体は若い奴の物にかぎるなぁ。動きやすいからな。」
ハナミズキがゴキリと首を鳴らす。

(コイツ結構強いじゃねーか。さっきは乗っ取った肉体が馴染んでいなくて本気が出せなかったのか・・・。)

「ちっ・・・・こうなったら奥の手を使うしかないな。」
ツーがぽつりと呟いた。

「何だって?奥の手?」
「ああ、俺にはアヒャって言うダチが居るんだ。そいつから教えてもらった策がなぁ。」
「へー、どんな策だ?」

するとツーはハナミズキに背を向けた。

「簡単な事さ。『やばくなったらとっとと逃げる』」
ツーは地をけって駆け出した。

ハナミズキはしばらく呆気にとられてその場に立ちつくしていた。
「・・・・・ハッ!待てやコラァ!敵に背中を返すとは卑怯なり!返せ!戻せ!」
彼も慌てて後を追った。

696アヒャ作者:2004/03/29(月) 23:05

ツーは夜の道を全力疾走していた。

(ヤッベェ〜な、あの野郎のこと甘く見てたぜ。本気モードになった今のアイツと闘ったら怪我どころじゃ済まないぞ!
 俺の『サムライマニア』は一撃の威力はデカイが一振りした後の隙が大きいんだ。その隙を狙われてあの乱撃を食らったら・・・
 ここは三十六計逃げるにしかず、これが一番の戦法だ。)
そんな事を考えていたときだった。

メキメキメキメキメキッ!

いきなり街灯がツーに向かって倒れてきた!
ツーのいる通りには街灯が規則正しく立っている。
そのうちの一本が斬られて倒れてきたのだ!

(何ィッ!あの野郎もう追いついてきたのか!?)
そのむこうから声が聞こえた。
「バ〜カ〜もぉぉぉのめがぁッ!『空間を歪ませる能力』はなにも間合いを離すだけのものじゃないぜ!
 空間を縮めて瞬間移動しながら追いかけてきたぜ!」

そこにはハナミズキの姿があった。
「今度こそテメェを討ち取る・・・・・覚悟しな!」
言い放ちざまハナミズキは身を躍らせた。

「いいだろう、やってやるぜこのバカが!」
ツーも自分のスタンドを発動する。

「うおおおおお――――――ッ!」

ギィイイイン! ガキィッ! ジャギイィィィィィィンッ! ギギィンッ!
猛撃とでも表現しようのないハナミズキの斬撃の嵐が吹き荒れる。

「しゃえあぁッ!」
ツーだって負けてはいない。相手の隙を見て大振りの一撃を食らわせようとする。
しかし『空間を歪ませる能力』によって避けられてしまう。

ズバッ!
ハナミズキの剣先がツーの肩口をかすめた。

「痛ッ!」
「次の一撃で終わりにしてやるぜ!」

ハナミズキが腰を落とした。
来る!ツーは本能で直感した。

「俺の能力で空間を縮める!」
突き!一直線のそのスピードをツーはかわせない。
防御しようにも一瞬の出来事なので防げない。
刀はそのままツーの左肩を貫いた。

「ぐあぁッ!」
思わず悲鳴をあげた。
そして自分のスタンドを落としてしまった。

697アヒャ作者:2004/03/29(月) 23:06
「仕留めたりィ〜ィ!一ついい事を教えてやろう。俺の能力は誰にも負けない・・・・しかしだ、空間は連続して
 歪められないというのが唯一の弱点だ。だけどこのアドバイスも俺に討ち取られるお前には無意味だよなぁ〜
 ヒィヤハハハハーッ!」

ツーは刺されてそのまま後ろに倒れた。そしてハナミズキはツーを見てニヤニヤと笑った。

「う、うわあ!来るな〜、来ないでくれぇ〜。」
ツーは必死でそこいらに転がっていた石ころをハナミズキに投げつけた。

「ほほぉ〜う、命乞いですか・・・・だ め だ ね!」
ハナミズキはツーの左肩に刺さった刀を抜こうと彼に近づいた。

その時だった。
ビキイッ!ビキビキビキッ!

「な、何だ!?」
ハナミズキの足元から亀裂が四方八方に走った。

「気づかなかったのか?俺のスタンドの炎がお前の下の地面を炎で溶かして掘っていたことに!」
今度はツーがニヤニヤと笑った。

「さっきの命乞いは時間稼ぎのための演技だったんだよ!」
「な・・・・・・なんだとォーッ!?」

ドゴオオオオオオオーッ!
ハナミズキの足元から巨大な火柱が噴出した!

「ぎゃああああああぁッ!」
彼はそのまま空中を舞うと地面に叩きつけられた。
「『相手が勝ち誇っている時、そいつは既に敗北している』。これも俺のダチの言葉さ。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ツーは鼻歌を歌いながら歩いていた。
腰には木刀と、ハナミズキが鞘に収められて差してあった

「まさか鞘にぴっちりと収めただけでお前の能力が封じられちまうなんてなぁ。」
《テ、テメェ!俺をどうする気だ!?》
「このままオメーを砕いちまおうかと思ったんだけどさ、それも可哀相だから俺の刃物コレクションに加える事にしたよ。」
《畜生ーッ!そーはさせるかッ!おのれ!お前が油断したときに操ってくれるッ!》
「うるせー!俺に二回も負けたくせにゴチャゴチャいってんじゃねェ!」
《・・・・・あい。(泣)》

その時不意に誰かに声を掛けられた。
「あのーちょっといいかい?君その刀どうしたのかな?明らかに本物だよね?」
「・・・・え?」

振り向くと警官風の男が立っていた。
目がクリクリしていて可愛い。
「ちょっと署まで来い。」
「・・・・・・・・・・・」

まっさらな静寂の時が、今、ツーと警官との間にながれている。
どうやらツーはまたもや簡単に家には帰してもらえない様だ。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘



おまけ:ある少年の手紙より抜粋

前略、母上様、
今日住宅地を歩いていたところ、着物姿の二刀流の男が警官に追われていました。
都会は怖いところです。

698N2:2004/03/30(火) 13:46
絵板の影響で、試しに渋い服装にしてみました

                  ∩_∩
                 G|___|
                  ( ・∀・)∩
                .⊂| 逝||.v||逝.ノ       ∧ ∧
                  |_.|||||||_|        (゚Д゚ ) ̄ ̄ ゝ〜
                 (_) (_)           UU ̄ ̄UU


…案外アリかも知れません

                  ∩_∩
                 G|___|
                  ( *・∀・)∩
                .⊂| 逝||.v||逝.ノ       ∧ ∧
                  |_.|||||||_|        (゚Д゚;) ̄ ̄ ゝ〜
                 (_) (_)           UU ̄ ̄UU


独特のアレンジを加えて絵を描いて下さったシジミ氏に感謝。
下手っぴなAAで再現度も低いですが…。

699N2:2004/03/30(火) 13:48

 リル子さんの奇妙な見合い その②

ここ数年、異常気象で秋になっても暑い日が続くが、
10月の終わりにこんだけの運動をすれば寒くたって汗まみれになってるだろう。
俺と相棒は、木陰で汗の始末をしながらスポーツドリンクを飲んでいた。

「…ところで最近思うんだけどさ」

急に相棒が話題を変えだした。
折角特訓の話で盛り上がっていたのに…と思ったが、その顔つきはいつになく神妙だ。

「何の話だ?つまらん話だったら承知しないぞ」
俺は軽いジョークで相棒を脅してみたが、その表情は相変わらず真面目である。
俺もかつてないまでの相棒の真剣さに襟元を正さずにはいられなかった。

「…一体何の話だ?」

改めて問うと、相棒はその重い口を開きだした。

「…あのさ、最近街中を歩いてると何か同じような女の子が大量に発生しているような気がするんだけど…。
オレの気のせいかな…?」

…よりにもよって荒らしキャラの話か。
まあ、たまには相棒と真面目にこういう話をするのも悪くはないか。

「…気のせいではないと思うんだがな…。
昨日なんか通りを歩いてたら向こうから前を向かずにゲームやってる女の子がやって来てよ…。
『親の教育がなってねえ奴だな』なんて思ってたら1分も経たねえ内にまた同じ奴が…」

「…フゥ…」
「…ハァ…」

「…でもさ、向こうだって別にほっときゃ何にも悪い事はしないんだし、放置プレーに徹すれば…」
「…もう結構な数の奴が鎌で首落とされたって聞いたぞ」

「…フゥ…」
「…ハァ…」

…疲れがドッと出てきてしまった。
こんなんだったら始めから話題に乗らなきゃ良かった…。

700N2:2004/03/30(火) 13:49



と、向こうから兄貴がやって来た。
兄貴の担当はリル子さんだから、さぞかし疲れてることであろうに…。
…と思ったのだが、兄貴の足取りは結構軽い。
今日はそんなに楽だったのか?とも思ったが、あの人の特訓でそれは有り得ない。

「おい、リル子さん見なかったか?」
兄貴は俺達の傍までやって来て質問した。
俺達は全身汗だくだが、兄貴の顔には全く汗が流れていない。
…どういうことだ?

「ギコ兄、お前何で全然汗かいてないんだよ!?
俺達がこんな必死になって特訓したってのに、お前そんなに楽な練習でも…」
相棒は納得がいかないらしい。
正直な所俺もそうではあるが。

「実はだな、いつまで待ってもリル子さんが来ないんだよ。
昨日はそんな事全然言ってなかったんだがな…それでお前らに所在を知らないか、と」

「…てことは、お前はこの数時間何もしていなかった、と…?」
眉間にしわを寄せながら問い詰める相棒。

「ああ。その間に暇だから「日経マネー」と「Arms」と「愛刀」とそれから…」
兄貴は相棒の変化にも気付かず、あっけらかんと答えた。
やばい、これでは…。

「クラァッ!!」
恐れていた通り、相棒の怒りが爆発した。
スタンドのパンチが兄貴目掛けて放たれた。
…のだが、今回の兄貴は今までとは一味違った。

「…私がいつまで貧弱キャラで通すと思ったかァ―――ッ!!
甘いッ!甘いぞォォ―――――ッ!!」
パワー馬鹿(とは言い過ぎだが)の「クリアランス・セール」の一撃を、
能力馬鹿(これも言い過ぎだが)の「カタパルト」が横から弾く。
軌道を狂わされた一撃は、見事にあさっての方向へと向かっていった。

「…の野郎ッ…!!」
相棒の怒りはますます募るばかり。
「フハハハハッ、貴様は私の実力を今まで完全に見くびっていたなッ!!
だがッ!ここで肝に銘じて貰おうッ!!戦闘経験においては貴様は私の遥か格下だということをなッ!!」
対する兄貴は余裕綽々である。
…てかあんたの戦闘経験ってそんなに積まれてたのか…?

701N2:2004/03/30(火) 13:51


「おいおいどうした、またお前らケンカか?」
騒ぎを聞きつけて大将がやって来た。
その眉間には薄っすらとしわが寄せられている。「またか」といった感じなのだろう。

「ッ大将ォ!こいつひどいんですよ、こいつリル子さんが今日来ないからってずっと練習サボって本読んでたって…」
相棒が真っ先に自分の正当性を主張した。
俺から言わせりゃどっちもどっちなんだがな…。

「…失礼ですが、私は今日リル子さんが休みだという事を全く存じておりませんでした。
ですので、その時間を無駄にするよりも有効に活用すべきだと判断して…」
兄貴も負けじと大将に訴える。

「何だとッ、だったら自分で筋トレするってのが筋だろうが!!」
「…貴様には身体を動かすことしか能が無いのか?」
ああ、お互いの確執は深まるばかり。
もういい加減に止めてくれ。

「…分かった分かった、もうそんなにお互い気に食わないならいっそ正々堂々殴り合って決着付けたらどうだ?
それで勝った方が勝ちでもういいじゃねえか」
…(゚д゚)ハァ?
大将、あんた何を無責任な…。

「…上等だ…ここは拳でどっちの言い分が正しいか決めてやろうじゃん…」
「…私と素手で勝負する時はそれなりの『覚悟』が必要だぞ…」
やっぱりお互いともやる気満々だッ…!

「大将!!あんた何ケンカ煽ってるんすか!!
ここはあんたが止めなかったら一体誰が抑えるんだと…」
耐えずして怒鳴りつけた俺を大将は手を広げて抑えた。

「まあ見てろって。どうせまともなケンカなんて出来るはずがねえからな」
…???
一体どういうことだ?
「…それって一体…」

俺が尋ねようとしたその時、2人はとうとう相手目掛けて殴りかかった。
「ッおおおおおおおッッッ!!」
「ラァアアアアアアアッッッ!!」
…もう駄目だ。ここまで来たんじゃもう誰にも止められる訳が…

…と俺も思ったのだが、次の瞬間俺の目に飛び込んできたのは信じられない情景であった。
一歩駆け出した2人の様子が、どこかおかしい。
最初は漠然としていたその違和感は、2人が歩を進める毎にはっきりしてきた。

「こッ、この感覚はッ!!」
「……『速い』ッ!!」
2人の速度は、徐々に加速していった。
その距離はあっという間に縮まり…気が付いたら遥か彼方へと遠のいてしまっていた。

「誰かッ!止めてェェ――――ッ!!」
「るおおォォォ―――ッ!!」
2人の叫びも空しく、すぐにその姿は見えなくなった。

702N2:2004/03/30(火) 13:52



…俺はこの能力を知っている。
だが、何故今ここで…?

「疑問ニ オ答エスルヨ!」
俺の背後から、不意に幼い声が届いた。
驚いて振り向くとそこには3人のシャイタマーがいた。
…そもそも何でこいつらがここに?

「アレカラ 僕達ハ コノ能力ヲ ドウスベキカ 考エテイタンダ」
「ソシタラ タマタマ コノ間ノコトヲ 聞キ付ツケタ 大将ニ会ッテ・・・」
「俺達ハ見事! 『サザンクロス』ニ スカウトサレタッテ ワケサッ!!」

…へぇ〜。大将にスカウトされてね〜。
…っておい。

「大将!じゃあ俺達は何のために試験なんてわざわざ受けたんですかッ!?」
理不尽だ!いくら何でもこりゃ理不尽極まりない!

「まあまあまあ抑えて抑えて…。子供相手に入団試験なんてやったって受かるわけないだろ?」
大将はばつの悪そうな笑みを浮かべながら俺を諭した。
だがそれで俺の怒りが治まるはずもない。

「んじゃあ始めっから入れなきゃいいじゃないですか! それを何で…!!」

「…お前ら以上に成長の可能性を感じたから…文句あるか?」
とうとう大将は耐え切れなくなったのかぶっちゃけてしまった。
ぶっちゃけたのはいいが…そりゃねえだろ…。

「…悪い、今のは冗談だ。一度あの男の監視下に置かれた以上洗脳が解かれたら奴の手先に始末されかれないから、
それで俺の目の行き届く所に置いておこうと…おい、相棒ギコ?どこ行くんだ、おいッ!!」

…最高に『鬱』ってやつだ…。

   ||
 Λ||Λ
( / ⌒ヽ
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  ∪∪
   :
   :

 ‐ニ三ニ‐

703N2:2004/03/30(火) 13:52



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「親御さんからこんだけ預かってきたんだが…どうだ?」

前日の夜、とある一室で大将とリル子さんがテーブルを挟んで向かい合っていた。
大将は自分の横に置いてあった封筒から、そこに入っている更に小さな封筒をいくつも取り出した。

「…また父さんと母さんが送りつけてきたんですか?もういい加減にしてって言ってるんですけどね…」
(あのジジイとババアめ、大きなお世話じゃ!)

柔らかなリル子の言葉に秘められた真意を大将はすぐに理解したが、
彼女の両親の必死さも知っているだけにすぐさま諦める訳にもいかなかった。

「まあ…よ、親御さんもそろそろお前さんに結婚して欲しいって思ってるんだ、
お前さんの気持ちも分からんでもないが、せめてちょっと写真に目を通すくらいは…」

「…仕方ありませんね」
(どうせなら屋台でも年収十分な大将がプロポーズしてくれればすぐに乗るってのに…ハァ)

リル子は眼前に広がる封筒の中から、無作為に1つ取り出した。
その封を開け、逆さにして振るとある写真が彼女の目に飛び込んだ。

「あら、この男の人…」

┌──────────────────────────────────
│┌─────────────────────────────────
││
││             , '´  ̄ ̄ ` 、
││           i r-ー-┬-‐、i
││            | |,,_   _,{|
││           N| "゚'` {"゚`lリ     見 合 い や ら な い か?
││              ト.i   ,__''_  !
││           /i/ l\ ー .イ|、                  安 部 高 和
││     ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、
││     /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.
││   /    ∨     l   |!  |   `> |  i
││   /     |`二^>  l.  |  | <__,|  |
││ _|      |.|-<    \ i / ,イ____!/ \
││   .|     {.|  ` - 、 ,.---ァ^! |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
││ __{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
││   }/ -= ヽ__ - 'ヽ   -‐ ,r'゙   l                  |
││ __f゙// ̄ ̄     _ -'     |_____ ,. -  ̄ \____|
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└──────────────────────────────────

「…………………………」
(ウホッ!いい男…)

「…リル子、どうした?」
全てを忘れて写真に見入るリル子。
あれほど嫌がっていたのが嘘のような変貌振りには大将も流石に不気味に感じた。

「…大将、お願いがあるんですけど」
「な…何だゴルァ」
リル子は大将へと顔を向け、かっと目を見開いて言った。

「…この人と明日すぐにでも見合いしたいんですけど」
(一日でも遅かったら間に合わないかも知れない…ここは速攻で行くしかないわね)

突然の注文には大将もたじろいだ。
「そんな明日って急に言われても、向こうには向こうの都合だってあろうし…」

「…………………………………………」
(…今日ここで大将消そうかしら)

「…分かったぞ、ゴルァ…」
無言の殺気。
身の危険を感じた大将は、素直に求めに応じるしかなかった。

704N2:2004/03/30(火) 13:53



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



「…んで、今日突然休んだ、と…」

「まあ、そういうことになるな」
大将は答えた。
アホらしい。
あの女、いつもはこっちがサボっていれば何だかんだ文句付けてくるくせに、自分の事は棚に上げるだなんて。

「しかし本当にこの男がそんなに良さそうに見えるか?
俺にはただの顔の濃い奴にしか…」
写真を眺める相棒から本音が漏れる。
全くもってオレも同感だ。

「…ノンケの男には理解出来ない世界なんだろうよ」
ギコ兄はそんなオレ達の意見を一蹴した。
…てか、何でそこでホモ系の話に飛躍するんだ?
お前はこの男の事を知ってるとでもいうのか?

「安部高和…お前らには馴染みの無い名だろうが、そっちの世界では知らぬ物はいない。
ホモは勿論の事、ノンケさえもそっちへと引き込んでしまうという神とも悪魔とも呼ばれている男だ…!」
オレの心を見透かしたかのようにギコ兄は解説する。
…まさか相棒に対するブラコンの激しさといい、こいつもしや…。

「だが考えてみれば面白い話じゃないか、あの並の男じゃ太刀打ち出来ないリル子さんと
気弱な男じゃ簡単に引導を渡される安部って奴との見合いだなんてさ!
…これって、ちょっと一見の価値ありってやつじゃねえか?」
さっきまで退屈そうにしていた相棒が、やけに生き生きして言い出した。

「おいギコ、それはちょっと個人のプライバシーに関わるんじゃあ…」
「いや、相棒ギコの言うとおりだ」
オレの言葉を遮って大将が言った。
…あの、もしもし?

「今日この場には都合の良いことにシャイタマー達が来ている。
リル子の奴が居ないお陰で練習にも支障が出ていることだし、今日は実戦練習は止めにして
あいつの見合いを観察することでこいつらにいっちょ『社会勉強』してやろうじゃねえか!」

…大将までとうとうワケワカラン事を言い始めた。
第一、もしもリル子さんに見つかりでもしたらどうなるか…!

「ヤッター!今日ハ 社会見学ダッテー!!」
「ワーイ楽シミー!!」

早速子供達は乗り気になっている。
オレは大将に訴えた。

「大将、分かってるんですか!?
『あの』リル子さんの見合いを覗きに行くだなんて、しかも子連れって…無謀で危険すぎます!!」

大将は余裕の笑みを浮かべて答える。
「なーに、心配要らんよ、いざって時にゃ俺がどうにかしてやるさ」
そりゃ確かに大将の方が強いことには違い無いけど、けどこれはそういう問題じゃないだろ…。

「あの…ってか、『社会教育』つってもそんなの何の為ですか?
やっぱり、将来結婚する時の為に見合いとはこういうものなんだと…」

大将はオレの方を一瞬向くと、すぐに目線を逸らしてオレをあざけるような笑みを浮かべた。
「…分かってないな。確かに将来の為ではあるが、そんな生易しいもんじゃない。
こいつらはまだお子様だから綺麗事を夢見ているんだろうが現実とはそんなものなんかじゃない、
『結婚とは妥協である』って事を教えてやるのさ…!」

あんたの方がよっぽど非常識で分かってないよ!!
ったく、こうなったら相棒とギコ兄に行くなって説得するしか…

「お前ら、リル子の見合いを覗きたいかァ―――ッ!?」
「おおォ―――――ッ!!」
「オオォーーーーーッ!!」

…アメリカ大陸横断ウルトラクイズよろしく完全に皆乗り気になっている。
もうこの調子じゃ止めても無駄だろうな…。

705N2:2004/03/30(火) 13:54



「んじゃあ各自荷物を持って30分後に出発だ。
それとギコ兄、お前は別行動で、『例のモノ』を用意しとくように」
「ラジャー!!」

…例のモノって一体何する気だよ…。
ギコ兄が関わるんじゃ、ろくなもんじゃなさそうだがな…。

「…しっかしこんな男に一目惚れするだなんて、リル子さんの気が知れないよ、全く…」
オレは改めてその安部とかいう男の写真を見た。

…妖しい、もとい怪しい。
その目は写真越しに見ているだけで引き込まれそう…もとい、気持ち悪くなりそうだ。
筋肉質な肉体は見ているだけでもウットリ…じゃなくて、かえって気味が悪いし、
何だか一晩身を任せてもよさそうな…んなわけねえだろ!!

…これ以上こいつの顔を直視してると、何だかロクなことがなさそうだ。
オレは慌てて写真から目を離そうとしか…のだが、その時ある違和感を覚えた。

「あれ…、この写真…?」
…もう一度写真をよく見てみる。
確かに写っているのはその安部って男だ。安部って男なんだが…。

この写真のどこかから、違う者の気配を感じる。
それが一体どこに潜んでいるのか…?


「おいッ、相棒!そんな所で突っ立ってて支度はいいのかよ!?」
相棒がオレを呼ぶ声がした。

「ああ、分かったよ。すぐそっち行くよ!」
オレは違和感もろとも写真を再び封筒へ収め、相棒の所へと走って行った。
この後に控える大波乱など知る由も無く…。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

706丸耳達のビート:2004/03/30(火) 17:36
「ぐ…っ!」
 突然の衝撃波に、茂名が吹き飛ばされた。
ごろごろと路地裏を転がり、その勢いを利用して再び立ち上がる。               AA
 茂名の視線の先にあったのは、先程までの真っ黒い影とは対照的な、真っ白い体をした人間だった。
だが、その顔はのっぺらぼうのように目も鼻も口も存在しない。
「貴様…『矢の男』…か…?」
「…その通り…確かに私は『矢の男』だった。だが、今となってはその呼び名も意味はない。
 素晴らしい気分だよ。私という心の中に、幾つもの新しい人格がある。
 その全てがお互いを補い、完璧に近い精神を形作っている。     King of The World
 これからは…そうだな。<インコグニート>とでも呼んでくれ。この姿こそ…世界の帝王に相応しい」

  Icognito
 匿名希望が名前とは、つくづくスカした男だ。
だが、それだけ余裕を抜かす実力があるのもまた事実。
こうして向かい合っているだけでも、息の詰まるような緊張感が茂名の心臓を締め付ける。
「…るな…」
 と、背後でうずくまっていたマルミミの方から、小さな声が上がった。
「…?何か言ったか…?いや、まあいいさ。記念すべき最初の犠牲者となるわけだ。
 ここまで喋ったんだ。生かすつもりは無い。…手アカの付いたセリフだが、『冥土の土産』というヤツだよ」
「…ふざけるな…」



  人間に取り憑いて虐殺をするよう仕向け、負の感情を持った思念を増やす―――――地味で退屈な仕事だったよ。



  帝王になりたい?そんな理由で?
  そんな理由で僕の両親を殺したのか?
  そんな理由でしぃを虐待したのか?
  そんな理由で町の住人を虐殺してきたのか?

そんな理由で。そんな理由で。そんな理由で。そんな理由でそんな理由でそんな理由でそんな理由で―――――

「…ふざけるな…ふざけるな…ッ!ふざけるなぁ―――――――――ッッ !! !! !! !!」

707丸耳達のビート:2004/03/30(火) 17:38
  B ・ T ・ H
 ビート・トゥ・ヒート発動。心拍のクロックを吸血鬼のものへと変え、更に『加速』。
体重が消える。世界がスローに見え、その中で唯一、自分だけが普通に動ける独特の視界。
 一挙動で立ち上がり、警棒を引き抜き、大地を蹴って駆けだした。

 痛覚遮断はしていない。そんなことに集中するくらいなら、その分はとっくに身体強化に使っていた。
焼けただれた皮膚も、極限まで疲労した筋肉も、信じられない苦痛を脳に送ってくる。
だが、火傷の痛みもへたり込んでしまいそうな苦しさも、マルミミの心には届かない。

 筋肉が悲鳴を上げるが無視。骨格が軋むが無視。血管が千切れるが無視。

 両親の敵が目の前にいると言う事実に、全ての感覚がシャットアウトされている。
 ウゥゥゥゥルルルルリィィイイイイイ               イィィィィャ
「UuuuuuRRRRRyyYYYY――――――――――Yyyyya―――――ッッッッッ!!」

 吸血鬼特有の、甲高い声。
心拍を強化して、野生の豹を超えるスピードで<インコグニート>へと跳んだ。

 足下のアスファルトを砕き、一歩目の跳躍。
毛細血管が破裂し、血の霧がマルミミを追うように赤い軌跡を描き出した。

 同時に<インコグニート>が、ついと指を動かす。

「見せてやろう」

 周囲に満ちる思念がマルミミの眼前に集約し、巨大な刃を形成した。

「私に宿りし『名無し』達の力をッ!」

 視認する間もなく、右腕の鼓動を加速。加速。加速加速加速加速加速加速―――――
 リャァァァァァァ
「Ryaaaaa!」

 めぎめぎと、警棒が折れ曲がる音。

 ぶちぶちと、腕の中で腱が千切れる音。

二種類の耳障りな音と共に、刃渡り約五メートル以上はある巨大な刃をはね除けて更にもう一歩跳躍。

708丸耳達のビート:2004/03/30(火) 17:40


 再び、<インコグニート>が指を動かす。
今度の形は一本が二メートルほどの槍。
「面白いな…思った通りに形を作れる」
マルミミの周りを三六〇度ぐるりと取り囲み、全方向から串刺しにしようとして―――動きを止めた。
 細い糸が、薄暗い中でキラリと光る。
いつの間にか立ち上がっていた茂名の波紋糸が、マルミミの進行方向にある槍を縛っていた。
完治していない茂名の右腕が、ぎしりと軋みながら鮮血を垂らす。
「マルミミ―――――ッ!!!」
 茂名の叫びを意識の端に捉え、最後の跳躍。

 二十メートルの間合いを三歩で消化し、<インコグニート>の眼前に降り立った。

 能力を使う時間も驚愕の声をあげる時間も目を見開く時間も与えず、アゴに向けて助走のスピードを乗せた鉄拳。
<インコグニート>の脳が揺さぶられ、具現化しかけていた刃が煙のように拡散して消えた。

(…思った通りだ…人間の姿をとってる限り、身体構造は人と同じ。だったら―――――心臓を止める!)

 『生命のビート』が無くとも、スタンド自体の鼓動は感知できる。
そして、感知できるなら止める事も可能。
<インコグニート>の両手首を掴んで、B・T・Hを解除。
スローモーションだった世界が加速し、身体強化を失った掌から握力が抜けそうになる。
「貴…様ァァ!!」
力を失ったマルミミの手を振り解き、<インコグニート>の拳がマルミミに向かい―――

バヂィッ!

「むぅっ……!」
 茂名の掌に受け止められた。
慌てて拳を退こうとするが、掌がピタリと張り付いたように離れない。
"反発"と"吸着"の、異なる波紋を掌に集める高等波紋防御術。
          シスイ
茂名式波紋法 "止水"。

 攻撃はまだ終わらない。拳を貼り付けたまま掌を退き、体勢を崩す。
もう片方の手が関節を無視して、<インコグニート>の腕に巻き付いた。
「りゃぁッ!」
 同時に両足を<インコグニート>の上半身に絡め、体を捻って右腕を破壊。
          ネジカズラ
茂名式波紋法 "螺旋葛"。

709丸耳達のビート:2004/03/30(火) 17:42

「がッ!!」

<インコグニート>が、ぶらりと下がった腕に驚愕の声をあげた。

「今じゃ!」
「ぅあああっ!!」
 意味を成さない叫び声。
萎えそうになる両足に力をこめ、震える手を握り締めた。
<インコグニート>の残った腕を壁に押さえつけ、B・T・Bを具現化。
                         クゥゥ―――――ルッッッ
(刻むぞ静寂のビート!)(凍てつくほどにCoo―――――ooolll !!)
                  B ・ T ・ C
 一瞬のタイムラグも無しにビート・トゥ・クールを発動。閃光の拳を心臓へと打ち込み―――

「…―――――ッぁ…!」

――――――そこまでだった。
 限界を迎えていた体が力を失い、がくりと両膝をついて倒れ込んだ。
「ゼッ…ヒュー…ッゥ……!」
 気管に焼けた鉄棒を突っ込まれた様な灼熱感。痛みが全身を駆けめぐり、呼吸もままならない。
(…<インコグニート>は…!?)
 それでもなけなしの力を振り絞って、首を向ける。
(頼むからくたばっててくれ―――)
「…ッ貴様アァ――――――ッ !! !!」
(―――ッ!)
 希望の全てを打ち砕くが如き、矢の男の咆吼。
二人の表情に、初めて絶望が浮かびあがった。
―――やっぱり、浅かった―――!
 心拍分析もロクにせず撃ったB・T・Cでは、心臓を停止させるには至らなかったのだ。
「許さない!許さないィイいいいい!お前等は帝王となるこの私に!この体に傷を与えた!」
 この屈辱!貴様の肉片一つたりとも残しはしない!」
折れていない方の腕を、天に向けて高々と掲げた。
それに呼応して、空間に満ちる思念が凝縮し、槍を、斧を、剣を形取る。
「死んで償えェェェ―――――ェ !! !!」
 百を超える刃をマルミミへ向けて撃ち込むべく、咆吼と共に腕を振り下ろし―――――

710丸耳達のビート:2004/03/30(火) 17:44


  ぱきん。

 ―――枯れ枝が折れるようなあっけない音と共に、インコグニートの右腕が砕け散った。
撃ち込まれようとしていた刃も同じように、マルミミの体に傷を穿つ事無く拡散する。
「ぇ…あ…?」
 茂名も、マルミミも、<インコグニート>自身も、全員の視線が砕けた右腕に注がれた。
濃密で騒々しい筈の戦いの空気が一瞬で変わり、不思議な静寂に包まれる。
 沈黙を破ったのは、腕を失った本人だった。
「――――――な……何故だ!?何故壊れる!?この私が…!私が!?」
 狼狽える<インコグニート>に反して、茂名の頭が冷静さを取り戻してきた。
(そうか…!)
 以前、マルミミから聞いたことがある。
『心拍』というのは、いわば体全体のリズムを司る『メトロノーム』のような物だと言っていた。
激しい動きをするときは早く、眠るときは遅く。
 そして、とんでもない量の思念を一気に吸収し姿を変えた奴は、いわば脱皮したての羽虫のようなもの。
そんな不安定な状態で、心拍を思いっきり狂わされたのだ。


 心に生まれた一片の希望が、茂名の絶望を打ち砕く。


 マルミミの援護は期待できないが、乱れた鼓動に肉体が対応できていない今の状態なら―――

(―――倒せる…ッ!)

「貴様は帝王になどなれん…人の上に立つのは、貴様のように誰かを傷つける者ではない。
 人の上に立っていい者は、誰かを救える者だけじゃ」
―――あの、マルミミのようにな。
 最後の最後まで力を振り絞った誇るべき孫へと、心の中で付け加える。
「もう一度言うぞ。貴様は帝王になどなれん。今、ここで、儂が」
 茂名の周りで、糸が踊った。
「ぶち殺す!」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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711丸耳達の禁断の愛:2004/03/30(火) 17:49


     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ   ∩_∩
        ∧,,∧  ∧_∧         (´Д` ;) ヒィィィィィッ
        ミ,, ∀ ミ (,, ∀ )        (  つつ
        ミuu_@ (_uu)        ( ̄__)__)

ぎゃあふさたん達はマルミミ君の男を知らぬ涅槃を狙い



    ∩∩  診療所で何やっとんじゃお前等
   (#´ー`)   | | ガッ
  ⊂   )    | |
    Y /ノ    人                 ∩_∩
     / )    < ∧,,∧  ∧_∧         (´∀` ;) オジーチャン!
   _/し' // ミ,,・∀・ミ (・∀・;)        (  つつ
  (_フ彡   ミuu_@  (_uu)        ( ̄__)__)

ぎゃあ間一髪茂名のご隠居が救援に





            ∧||__∧       ∩||__∩   ∧||∧  ∧||∧
          (; ´д`)    (; ´Д`)  ミ,,・∀・ミ (,,・∀・)
          ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j  ミ≡≡j  ミ≡≡j                        ∩∩
          ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j  ミ≡≡j  ミ≡≡j                        (д´#)<連帯責任!ぶら下がって反省じゃ!
          ミ≡≡≡j     ミ≡≡≡j ぎゃあみんな仲良く軒下にハングドマソ            (   )
           ヽ)ヽ)      ヽ)ヽ)  ぎゃあふさたんこれもSMプレイかと            人  Y
       −今日の虐待− −今日の虐待−                                し(_)
        【スレ違い再び】 【被害者なのに】
                     ∧
                 僕は無実だー!

                                  チャンチャン♪

712ブック:2004/03/31(水) 17:09
     救い無き世界
     番外・春だ!桜だ!温泉だ!!
        チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その二〜


 かくして勝負の宴は幕を開けた。
 最初の抜け番はぃょぅ。
 残りの四人は席に座り、席順を決める。

 東家…小耳モナー 25000
 南家…ふさしぃ 25000
 西家…ギコえもん 25000
 北家…タカラギコ 25000

 注)一…マンズ ①…ピンズ 1…ソウズ

 唸るような機械音と共に、全自動雀卓から雀牌がせり出てきた。
 小耳モナーがサイコロを振り、全員が四つずつ牌を取っていく。

「ちょん、ちょんと…」
 親の小耳モナーが最後の二牌を取って手牌にいれ、洗牌を始める。
 が、小耳モナーはいつまでたっても牌を切らない。

「どうした?
 早く切れよゴルァ。」
 ギコえもんが小耳モナーをせかした。
「え〜と、切る牌が無いモナ〜…」
 小耳モナーが困ったような声を上げる。
「切る牌が無いなら、天和でしょ。」
 ふさしぃが笑いながら言う。

「あ、じゃあそれモナ。
 ツモ、天和。16000オール。」
 小耳モナーが手牌を倒す。

 一二三③④⑤888西西

「ぎゃびーん!!」
 ギコえもんがひっくり返った。
 勝負の幕開けはまさかの天和大炸裂。
 これにはさしもののギコえもん達もぶったまげる。

「…やりますね。」
 タカラギコが点棒を渡しながら低く呻いた。

713ブック:2004/03/31(水) 17:09

「わはははは!見たかモナ!このモナの勇士を!
 やっぱりモナは最強だモナ!!
 所詮手前ら凡人とは遺伝子レベルで違うんだモナ!!
 こりゃあもう勝負は決まったも同然モナね!
 モナが帝王となった暁には、全員モナの尻を舐めるモナ!!!」
 小耳モナーが勝ち誇って笑う。
 しかし、これが小耳モナーの運命を決定付けた。

「……」
「……」
「……」
 ギコえもん達の目の色が明らかに変わる。
 そう、彼らは生粋の玄人。
 このままコケにされて終わるほどヤワではない。

「止めのダブルリーチだモナーー!!」
 小耳モナーが1000点棒を卓上に叩きつける。
 天和を和がった後にもこの勢い。
 運命の女神が、今日小耳モナーに微笑んでいる事は間違い無かった。
 …だが、ならばそれを強引に捻じ曲げればいい。

「なあ、ぃょぅ。
 この前お前に貸したCDどうだった?」
 ギコえもんが、不意に小耳モナーの後ろに立つぃょぅに声をかけた。
 もちろんこれはCDの事を聞く為ではなく、
 小耳モナーの手牌を覗くぃょぅに、小耳モナーの待ちを聞く為である。
 このように、一見麻雀とは関係無い事で、
 お互いに意思疎通をする事を一般的にローズと言う。
 もちろんこれは立派なイカサマで、ばれれば当然只では済まないのだが、
 ふさしぃもタカラギコも小耳モナーをぶちのめそうと思っているので指摘しない。

「ああ、確か爆風スランプだったかょぅ。
 結構良かったょぅ(小耳モナーの待ちは258の三面張)。」
 ぃょぅがこれまたローズで返す。
「そうか。それじゃあ今度はミスチル貸してやるよ。
 (ふさしぃ、タカラギコ、二六④⑤3寄こせ。)」
 次の瞬間、小耳モナーに気づかれないように、
 卓の下では都合五枚の牌が交換される。
 もちろん、これも完璧なイカサマ。
 しかし、ばれなければイカサマではない。
 小耳モナーは、運は良いかもしれないが、勝負師としての実力は無かった。

「まあ、一度家に来いやゴルァ。
 いろいろCD聞かせてやるぜ。(タカラギコ、小耳モナーのツモ牌を四とすり替えろ)
 よっしゃ、俺も追っかけダブルリーチ!!」
 ギコえもんはそう言いながら東を横に寝かせて切る。
 当然小耳モナーは和がれない。
 続くふさしぃも東。
 まあ、ぃょぅのローズで小耳モナーの待ちはすけすけなので、振り込む筈も無いが。

「さてと…」
 タカラギコがツモる為に山に手を伸ばした。
 そしてツモる瞬間、次の小耳モナーのツモる牌を、
 こっそり手に握っていた四とすり替えた。
 言うまでも無いが、これもイカサマである。
 そしてタカラギコは何事も無かったかのように西切り。

「おっしゃ来いモナ、一発ツモ!!」
 小耳モナーが気合を込めながら牌をツモる。
 さっきタカラギコがすり替えた四である。
「これじゃ無いモナ〜。」
 リーチをかけているので、和がれない以上ツモ切り。
 小耳モナーが残念そうに四を卓上に置いた。

「ロン!!
 ダブリー一発タンヤオピンフドラドラ、裏が六で倍満だゴルァ!!」

 二三四伍六③④⑤22678   ロン四   ドラ2 裏ドラ六

 ギコえもんのイカサマ倍満が小耳モナーに直撃した。
 これで、ギコえもんはさっきの16000点を全部取り返した事になる。

714ブック:2004/03/31(水) 17:09

「ぐう!
 で、でもモナにはまだまだアドバンテージがあるモナ!!」
 倍満に放銃したものの、小耳モナーはまだまだ元気である。
 16000点など、さっき和がった天和で十分お釣りが来るからだ。
 しかし、当然ギコえもん達の反撃がこんなもので終わる訳が無い。

「タカラギコ、そう言えば丸耳ギコ君の事で、ちょっと相談に乗って欲しいんだけど
 (タカラギコ、三五④45頂戴)。」
 ふさしぃがタカラギコの方を向く。
「何です?痴話喧嘩ですか?(④と5は持っていません。ギコえもんさんは?)。」
 タカラギコがそう答える。
「おいおい、惚気話は勘弁してくれよ(持ってるぜ。今渡す)。」
 またもや卓下で盛大に牌の交換が行われた。

「リーチ!」
 ふさしぃが1000点棒を卓に置く。
 ギコえもんは現物切り。
 タカラギコは小耳モナーが一発で振り込むように牌をすり替える。

「うえ〜、いらないモナ…」
 小耳モナーはその牌をツモ切り。

「ロンよ!!
 リーチ一発タンピン三色、親の跳ね満は18000!!」
 ふさしぃが小耳モナーにこれ見よがしに牌を倒す。

「まだまだ…これからモナ!!」
 小耳モナーはそれでも挫けない。
 歯を喰いしばりながら牌を切る。
「御無礼ロンです。倍満。」
 タカラギコが無情にも小耳モナーに鉄槌を下す。
 もちろんこの和がりもイカサマ。

「ロン。」
「ロン!」
「ロン。」
 ギコえもん達が、小耳モナーのみから和がり続ける。
「ぎゃああああああああああああ!!!」
 小耳モナーが断末魔の悲鳴を上げた。
 小耳モナー、ぶっトビ第一号。



「あはははは〜〜〜…
 麻雀は楽しいモナー……」
 精気の無い目で小耳モナーがうわ言のように呟く。
 これで、小耳モナーは再起不能。

「さて…いよいよこれからが本当の勝負だょぅ……」
 ぃょぅが小耳モナーを押しのけて彼の席に座った。

 そう、勝負はこれからである。
 果たして夜が明けたとき、誰が最後まで立っているのか?
 それは誰にも分からない…


     TO BE CONTINUED…

715:2004/03/31(水) 23:22

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その3」



「このォォォォッ!!」
「クマ――――ッ!!」
 レモナの拳とクマの爪が交差した。
 クマの顔面にレモナの正拳が直撃し、大きく吹っ飛ぶ。
 そのまま、クマの体は電柱に激突した。
 電線がブチブチと引き千切れ、大きな音を立てて倒れる電柱。
 同時に、レモナの腹からも血が流れ出ている。
 クマの爪が突き刺さったのだ。

「…クマ――――――――ッ!!!」
 クマは起き上がると、大きく咆哮した。
 そして、傍らに転がった電柱を掴む。
 ミシミシと崩れながらも、持ち上がるコンクリートの塊。
 そのまま、クマは電柱を振り回した。
 レモナ目掛けて電柱を大きく薙ぐクマ。

「…!!」
 レモナは第一撃を後ろに飛んでかわした。
 瞬時にクマは体勢を整えると、電柱を振り下ろす。
 レモナは頭上に右腕を掲げて受け止めた。

「クマ――――ッ!!」
 さらに、クマは電柱を振るった。
 レモナはその攻撃を両腕でガードする。
 それでも、クマは攻撃の手を緩めない。

「クマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマ
 クマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマ
 クマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマクマ
 クマ――――――――ッ!!!」
 電柱の乱打。
 それを受け止めるレモナの両腕も限界だ。

「いい加減に…」
 レモナの左手がバルカン砲に変形する。
「しなさ――い!!」
 右手で砲身を固定し、クマ目掛けてぶっ放した。
 1分間に6000発の発射速度を可能とするバルカン砲の弾丸が、クマに直撃する。
 クマの持っていた電柱は粉々に砕け、クマ自身も大きくよろめいた。

 レモナは素早く飛び退く。
「行くわよ…!」
 ふわりと浮き上がるレモナの髪。
 背中からミサイル状の弾体が発射される。
 そのまま上昇したグレーの弾体は、空中で弾け飛んだ。

 ――クラスター爆弾。
 多数の子弾を内蔵した爆弾だ。
 200以上の小爆弾がクマの頭上に降り注ぐ。

「ク、クマ―――ッ!!」
 咆哮が響く。
 同時に、周囲は爆炎に包まれた。
 あちこちで子弾が弾け、小規模な爆発が巻き起こる。

「Mk7ロックアイⅡの直撃を受ければ、流石に…」
 レモナは右手で髪を流す。
 白煙の中に、平気そうな顔をしたクマが浮かぶ。
 その全身は、少しコゲていた。

「嫌になるわね、ホントに…」
 クマの姿を見据えて、レモナは呟いた。

716:2004/03/31(水) 23:23


          @          @          @



 睨み合うギコと『解読者』。
「行くぜ、ゴルァァァァッ!!」
 『レイラ』とともに、ギコは大きく踏み込んだ。

「――来なくていい。もう終わっている」
 『解読者』はライターをポケットに仕舞った。

「な…」
 突然、ギコの踏み込んだ右足が逆方向に折れ曲がった。
「ぐぅッ!!」
 ギコは大きく転倒した。
 逆方向に曲がった膝を押さえ、そのまま畳を転がる。
「テメェ、何をやりやがった…!」
 苦痛を抑えながら、ギコは口走った。

 その姿を見下ろし、眼鏡の位置を直す『解読者』。
「特に何もしていないさ。その負傷は、君自身の筋肉の力なんだよ!」

「『なんだってー』とでも言ってほしいのか…?」
 ギコは強がりを言った。
 それに対し、『解読者』は興味無さげにため息をつく。
「最初に俺の目を見ただろう? その時に、暗示を刷り込んだんだよ。
 『スィッチが入ったら、自らの足を筋力でヘシ折れ』とな。
 人間の潜在筋力をフルに使えば、自らの肉体を破壊するくらいの力が出る事は知っているだろう?
 ちなみに、スィッチは『ゴルァ!』という掛け声に設定させてもらった」

「それが、テメェのスタンド能力か…!」
 ギコは足を押さえながら言った。
 関節が、完全に逆方向に曲がっている。
 痛みはマヒしていた。
 …まだ戦える。

 ギコの言葉を聞き、意外そうな表情を浮かべる『解読者』。
「…それは違うな。暗示を簡略化する為にスタンドを用いただけだ。
 スィッチの設定は単なる後催眠の応用であり、技術に過ぎない。
 努力さえ惜しまなければ、誰でも習得は可能だ。
 ASAから封印指定を受けた『イゴールナク』が、こんなチャチな能力だと思ったか?」

「黙れ、ゴ… このヤロウ!!」
 ギコは全身のバネを使って、高く跳んだ。
 そして、上段から刀を振り下ろす。
 『解読者』は全く警戒していなかった。
 その頭上は隙だらけだ。
「…もらった!」

 その瞬間、ギコの右肘が逆方向に折れ曲がった。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
 悲鳴を上げて、ギコは畳の上に転がる。
 右膝と右肘の関節が完全に折れ曲がっていた。

「言い忘れていたが… 仕込めるスィッチは1つじゃない。『俺に向けた上段斬り』が、そのスィッチだ」
 『解読者』は、ギコと相対してから一歩も動いていない。
 そのまま、倒れ伏すギコを見下ろしていた。
「言っただろう? 君は、俺と相対した時点ですでに負けているとな…」

717:2004/03/31(水) 23:24

「ギコ君!!」
 『狩猟者』と対峙していたしぃが叫んだ。
「…!! 起きたのか…!」
 自らの本体を見返し、『アルカディア』は呟く。
 しぃはそのままギコに駆け寄った。

「バカ野郎ッ! 迂闊に動くなァ!!」
 しぃの体から発現している『アルカディア』が叫ぶ。
 それを無視しするしぃ。
「…ヨソ見はいけないよ」
 ギコに駆け寄るしぃに向かって、『狩猟者』はギターケースを振り下ろす。

「邪魔ッ!! 『砕け』なさいッ!!」
 しぃが叫ぶ。
 その瞬間、『狩猟者』の足元の畳が音を立てて潰れた。
 足を取られ、大きく体勢を崩す『狩猟者』。

「『アルカディア』ッ!!」
 しぃは自らのスタンド名を呼んだ。
「…おうよッ!!」
 『アルカディア』が、一瞬無防備になった『狩猟者』に拳を振るう。
 その拳は『狩猟者』の顔面を直撃した。

「うわぁっ!!」
 『アルカディア』の一撃を受けた『狩猟者』は、大きく吹き飛んだ。
 ゴロゴロと畳を転がる『狩猟者』。
 しかし、すぐさま彼は起き上がった。

「テメェ…ッ!!」
 起き上がった『狩猟者』の顔は、怒りに染まっていた。
 綺麗な眼は、見る影もなく憤怒の色に染まっている。
「ギッタンギッタンにしてやるからな!!」
 彼は荒々しく吐き捨てた。


「まずいな。『狩猟者』こときれいなジャイアンは、普段こそ綺麗な心を持っているが…
 一撃でもダメージを受けると、『きたないジャイアン』になってしまうんだよ!!」
 『解読者』はアップになって叫ぶ。
「『きたないジャイアン』だと…ッ?」
 ギコは呻き声混じりに言った。
 只事ではない雰囲気は、ギコにも感じ取れる。
 今の『狩猟者』は危険だ…!
「しぃ…ッ!!」
 ギコは起き上がろうとするが、足も腕も完全にイカれている。
 しぃに加勢するどころか、立つ事すらできない。


「チッ、ヤベぇな…!」
 『アルカディア』は、『狩猟者』を見据えて構えた。
 彼の様子は、先程までとは完全に異なっている。
 今までの爽やかな雰囲気は微塵もない。
 暴力と暴虐の化身。
 それが、現在の『狩猟者』を表現する言葉だ。
「しぃ、覚悟を決めろよ…!」
 『アルカディア』は自らの本体に告げる。
 しぃは無言で唾を呑み込んだ。

 ギターケースを開き、おもむろに1本のギターを取り出す『狩猟者』。
「今宵はオレのリサイタルだぜッ!!」
 『狩猟者』は、スタンドらしきギターを掻き鳴らす。

 そして、それに続く歌声。
 形容しがたい大音響。
 文字にするなら、『ボエ〜』という響き。
 その怖気が、生理的嫌悪感を引き起こす。
 そして、全てを拒絶するような破壊音。
 もはや歌ですらない。
 空気を伝播し、周囲に吹き荒れる『暴力』そのものだ。
 しぃ−『アルカディア』は、肉体と精神を同時に揺さぶられた。
 電灯や窓が砕け散り、家全体がグラグラと揺れる。

「『聞こえねえ』ッ!!」
 咄嗟に『アルカディア』は叫ぶ。
 大音響と『アルカディア』の力が相殺され、歌声はたちまち掻き消えた。
 それでも、残響音が耳を揺さぶる。

「チッ… 『ラ』の音の出が悪ィな…!」
 『狩猟者』は舌を打った。
「ぐっ…」
 しぃ−『アルカディア』は畳に膝を付く。
 一瞬とは言え直撃を受けたのだ。
 足が震え、身体に力が入らない。
 その様子を見て、『狩猟者』は笑った。
「…間近で聞いて感動しただろ? 万雷の拍手をおくれ、世の中のボケども」

718:2004/03/31(水) 23:25

「きれいなジャイアンの能力は我々まで巻き込んでしまう。うまく相殺した『アルカディア』に感謝だな…」
 『解読者』はため息をついて言った。
 そして、倒れているギコを見下ろす。
「『狩猟者』は、『音』を武器にする代行者だ。彼の放つ超広帯域空気振動は、精神と肉体を同時に破壊する。
 その絶技ゆえ、彼はこう呼ばれ恐れられた。――『音界の支配者』とな」
「『音界の支配者』? ミッドバレイ…」
 思わず呟くギコ。

「さて…」
 庭の方に視線をやる『解読者』。
 ギコもその視線を追う。
 庭は、何十人もの『支配者』に埋め尽くされていた。
 つーが必死に奮戦しているようだが、数が多すぎる。
 吹き飛ばされた『支配者』の1人が、窓を破って家の中に突っ込んできた。

 『解読者』は再びギコに向き直る。
「…あっちも白熱しているようだな。
 『BAOH』には暗示が通じない分、スミスには頑張ってもらわなければ」

 その横で、『調停者』のスタンドとモララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』が拳を打ち合わせている。
 激しい打撃音が居間中に響いた。
 それを横目で見て、『解読者』は眼鏡の位置を直す。
「『矢の男』も『調停者』に苦戦している。どうやら、ムスカ…『暗殺者』の出番は必要ないようだな」

 ギコは思わず周囲を見回した。
 そう。代行者がもう1人潜んでいるのだ。
 唇を噛むギコ。
 いくら自分がスタンドを身につけて間がないとは言え、ここまで歯が立たないとは…
 しかも、こいつはまるで本気じゃない…!

「さて、引導の時間だな」
 『解読者』は懐から拳銃を取り出した。
「――塵に与し者よ、神の御許に帰るがいい」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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719ブック:2004/04/01(木) 17:45
     救い無き世界
     番外・春だ!桜だ!温泉だ!!
        チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その三〜


「小耳モナーきもちいすぎてバンザイしちゃうぅっ
 バンザイっばんじゃいっばんじゃいっ
 ぱんに゛ゃんじゃんじゃいぃぃっ!」

 精神の完全に崩壊した小耳モナーは放っておいて、
 ぃょぅ達が卓順を決める。

 東家ギコえもん…25000
 南家タカラギコ…25000
 西家ふさしぃ…25000
 北家ぃょぅ…25000

 起家…ギコえもん


 ギコえもんがサイコロのボタンを押した。
 カラカラと音を立てながら、サイコロがケースの中で回る。
「対七だゴルァ。」
 それを受け、ふさしぃが目の前の山の右から七つ目の段まで避けて、
 ドラ表示牌をめくった。
 ドラ表示牌は3。
 つまり、この場合4がドラ牌と言う事になる。

「さて…始めましょうか。」
 ふさしぃが呟いた。
 明らかに、さっきまでとは雰囲気が違う。

 しかしそれも当然である。
 さっきの局と違い、面子の中には小耳モナーのような素人は居ない。
 これからは、喰うか喰われるかの完全ガチンコ勝負である。


「ツモ。ゴットー。」

 二三四四五④④④34577  ツモ三

 東一局はふさしぃの安和がりであっけなく流れた。
 上手くすれば一盃口、ツモの流れ次第では345の三色まで狙える手であったが、
 ふさしぃは無理せず和がり。
 まあこれも、戦術の一つではある。
 それに、時間制限の明朝六時まではまだかなりの時間があるのだ。
 最初から飛ばし過ぎては朝まで持たない。
 それは他の人にとっても同じである。


(…確かに、こんな序盤から焦るのは禁物です。だが…)
 タカラギコは心の中でふさしぃの和がりに異を唱えた。
(序盤での小さな積み重ねが、終盤で大きな差となるのです。
 手の内は明かし過ぎません。
 しかし、私は最初から全力で行く!!)
 親になったタカラギコが、気合を込めつつサイコロのボタンを押した。

720ブック:2004/04/01(木) 17:45


 〜八順目〜
 タカラギコ手牌
 九九九④⑤⑥⑥⑥22237   ドラ表示牌…四

 捨て牌
 ⑨①西98二⑨

 好形での一向聴である。
 運気としては申し分なし。
 これを和がりきれば、間違いなく流れはタカラギコに傾く筈である。

(来て下さいよ…)
 タカラギコは祈りつつ山から牌をツモる。
 ツモって来た牌は4。
 これまた絶好の所である。

 彼の手牌は現在
 九九九④⑤⑥⑥⑥222347

 7を切れば③⑥25の四面張。
 ③か2ならば三暗刻のつく高目である。
 2は彼が三枚使い切っているから出てくる可能性は少ないが、
 ③はまだ十分に山に残っている可能性がある。

 問題は、リーチをかけるかどうかである。
 リーチをかけたら、ぃょぅ達はそう簡単には振り込まないだろう。
 まだ八順目だし、ダマテンならば甘い牌が出てくる可能性も高い。
 しかし、この勢いならばリーチをかければ間違いなく裏ドラが乗る。
 そうすれば一気に勝負を決められるだろう。

「リーチです。」
 迷った末、タカラギコはリーチをかけた。
 やはりここは素直に流れに乗っておくべと考えたからである。

「ポンだょぅ。」
 その時、ぃょぅが動いた。
 77の形から7をポンして一発を消し、
 タカラギコの現物である①切り。

「…オリだゴルァ。」
 ギコえもんもベタオリ宣言をしてタカラギコの現物の⑨切り。

「来い!」
 タカラギコが牌をツモる。
 しかし、引いてきた牌は東。
 仕方なくタカラギコはその牌を捨てる。

「これは通る、と。」
 ふさしぃも現物の二切り。
 まあ、親のリーチに真正面から向かっていく奴はそうはいない。

「ツモ。五本三本だょぅ。」
 ぃょぅが手牌を倒した。

 二三四②④34445 ポン七七七   ツモ③

「……!」
 タカラギコの顔が強張る。
 タカラギコの和がり牌を食いとってのツモ和がり。
 まさに、絶妙の哭きである。

(やりますね…
 流石は『哭きのぃょぅ』…!)
 そう、これこそがぃょぅの二つ名である、
 哭くことで卓上の流れを支配し、神がかった強運で勝ちまくる。
 その事からつけられた通り名だ。

(しかし、私も『むこうぶち』と呼ばれた男。
 そう簡単にはやられません!)
 タカラギコはそう決意を燃やすのであった。

721ブック:2004/04/01(木) 17:46



 そして続いて東三局。
 親はふさしぃ。

「リーチ!!」
 十順目、ふさしぃが先制リーチをかける。
 ぃょぅ達はスジなどを頼りに何とか放銃をさけるが、
 ギコえもんはただ一人無スジ牌を強打し続けた。
 それもその筈、ギコえもんの手牌は…

 ②②③③③④⑤⑦⑧⑧⑨⑨⑨

 メンチンの一向聴。
 これならば、多少無茶をするのも頷けるというものである。
 というか、私でもここまで来たらオリない。
 しかし、そんな時に限ってギコえもんがツモってきた牌は三

「……!」
 ギコえもんはチラリとふさしぃの捨て牌を見てみる。
 ふさしぃの捨て牌は
 西發七⑨①中八⑧9「リーチ二」4東一

 七の出が早い上に、その後八切り、挙句の果てには二を切ってリーチ。
 その後一まで捨てている。
 はっきり言ってこの三−六のスジは、超がつく程の危険牌である。

「俺は清一をやめるぞふさしぃーーーーーーー!!!!!」
 ギコえもん、打⑨。
 清々しいくらいのベタオリ。

 その後ギコえもん⑦ツモ。
 本来ならばこれで聴牌だった筈である。
 しかし今更方向修正出来ない。
 またしても打⑨。

 次のツモは⑥。
 もしさっきの⑦ツモの時点でリーチをかけていれば一発ツモ。
 だがすでに後の祭りである。
 ギコえもん、歯を喰いしばりながら打⑨。

「ツモ。」
 ふさしぃが手牌を倒した。

 一二三三四五34567南南  ツモ5

 リーピンツモ、ドラも裏も無しで2000オール。

「やっだあばああああああああ!!!!!」
 ギコえもんが泡を吹いて倒れた。
 三−六スジは既に出来面子。
 思い切って三を打っていれば、
 リーチ一発ツモ清一色一盃口を和がっていたのである。

722ブック:2004/04/01(木) 17:46


「まだだ…まだ終わらんよ!!」
 ギコえもんはなおも食い下がる。
 しかしその姿は、悲しいかなボクサーの前のサンドバッグも同然であった。

 ギコえもんにまたしてもピンズのメンチンの手が入る。
 そしてまた後一歩の所で今度はタカラギコのリーチ。

 タカラギコの捨て牌

 六5東⑤④西西五八リーチ二     ドラ表示牌…八

 見るからに純チャン臭い捨て牌である。
 それか下の三色123か234。
 そんな時に限ってギコえもんは一をツモってくる。
 またもや裏スジも裏スジの危険牌。

「ひいいいいいい〜〜〜〜〜!
 切ってやる、切ってやるうぅ〜〜〜〜〜〜!
 俺は世界一の麻雀打ちだあ〜〜〜!!」
 ギコえもん、半狂乱で一ツモ切り。

「御無礼、一発です。」
 タカラギコが冷酷な声で告げた。

「純チャンですかぁ〜〜〜〜〜!?」
 ギコえもんがタカラギコに尋ねる。
「NONONONONONO…」
 タカラギコが答える。

「三色ですかぁ〜〜〜〜〜〜!!?」
「NONONONONONONONONONO…」

「両方ですかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
「YESYESYESYESYES…」

「ドラドラですかあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
「YESYESYESYESYESYESYESYESYES…
 OH MY GOD」
 タカラギコが手牌を倒した。

 二三九九①②③⑦⑧⑨123   ロン一  裏ドラ…⑦

 リーチ一発純チャン三色同順平和ドラドラ裏一、24000。
 ギコえもん、ぶっトビ。



   TO BE CONTINUED…



 …何か、思っていたよりこの番外編長くなりそうです。
 本編をお待ちになられている皆さん、ごめんなさい。

723ブック:2004/04/02(金) 18:59
     救い無き世界
     番外・春だ!桜だ!温泉だ!!
        チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その四〜


「よし。宇宙へ行こう。学校へ行こう。」
「あははははは。こんな時にギャグを言うなよ!あははは。」

 小耳モナーとギコえもんは、トンだショックでぶっ壊れた。
 しかし勝負は終わらない。
 次の抜け番はギコえもん。
 放心状態のギコえもんが席を離れ、代わりに同じく狂った小耳モナーが席に着く。

 そして、決められた席順は以下の通り。

 東家 小耳モナー…25000
 南家 ふさしぃ…25000
 西家 タカラギコ…25000
 北家 ぃょぅ…25000

 タチ親は小耳モナー。
 焦点の定まらない目のままサイコロを転がす。
 出目は自五。
 ドラ表示牌は7

「SUCK MY DICK!(和訳…しゃぶれ)」
 ツモ切りマシーンと化した小耳モナーが、
 狂言をのたまいながらいきなりの8切り。
 もはや彼にはドラを認識する精神力すら残されていない。
 この局は、実質三打ちに等しかった。

「ツモ、1000・2000。」
 ぃょぅがさくっとツモ和がって小耳モナーの親を流す。


 続いての親はふさしぃ。
 六順目、ふさしぃの手配は、
 二二二三三四③③⑥⑦⑧45   ドラ③

 捨て牌
 1東西九六

 ここでふさしぃ6ツモ。
 六順目にしてテンパイである。
 ここで大多数の人は、二を切るであろう。
 両面待ちになる上、四ならタンヤオと一盃口がつく。
 私だってこんな手牌なら迷わず二を打つ。
 しかし、ふさしぃは少し違う。

「リーチ!」
 ふさしぃが四を横に倒し、1000点棒を置いてリーチをかけた。
 せっかくの高目を捨て、ピンフすらつかなくなる三③のシャボ待ち。
 しかも③はドラ。
 親のリーチにこんな牌だれも振る訳が無い。
 素人でも、ふさしぃの正気を疑うリーチである。

「……」
 タカラギコが山から牌をツモる。

 タカラギコの手牌
 三五六③④⑤⑤⑥⑦5688  ツモ7

(さて…)
 タカラギコは考えた。
 親のリーチに安牌無し。
 しかし自分もタンピン三色テンパイである。
 めくり合いになれば恐らく五分。
 問題は、三が通るかどうかである。

「……」
 タカラギコはふさしぃの捨て牌を見た。
(二を切ってリーチをかけているから、三はもろに裏スジ。
 しかし、ふさしぃさんはその前に九六と切っている。
 その捨て方で三は無い。
 ならばふさしぃさんの待ちは、一−四のスジ一点…!)

「リーチです。」
 タカラギコが三を切った。
「点棒はいらないわ。一発ロン。」
 ふさしぃが手牌を倒した。
 リーチ一発タンヤオドラ2、裏は乗らずに親の満貫12000。

「…!
 爆牌……!!」
 タカラギコが冷や汗を流した。
 そう、これこそがふさしぃの打法、爆牌である。
 対戦相手の手牌を読み、余剰牌を狙い撃つ。
 この戦法に葬られた者は数知れない。

724ブック:2004/04/02(金) 19:00


「リーチ!」
 親満を和がって勢いのついたふさしぃが、またもや七順目で先制リーチ。

 ふさしぃ手牌
 四四四④④④4445688

 捨て牌
 白九①2東中「リーチ6」

 ツモり四暗刻を崩しての爆牌である。
 狙いはもちろん先程振り込んで運気の落ちたタカラギコ。

「……!」
 タカラギコが牌をツモる。
 またもや一手遅れでのテンパイ。

 一二三四五六七⑦⑧⑨466  ツモ八

 7を切れば、九で一通の高めになる三面張。
 しかし自分が狙われている以上、4はあからさまな危険牌。
 だが、例え回ったところでふさしぃがツモ和がっては流れを変えられない。
 タカラギコにとってはここが正念場である。

(…しかた無い。少しズルをしますか。)
 そしてタカラギコは4を手に取り―――

「現物。」
 タカラギコが牌を切った。
 しかし、ふさしぃからの「ロン」という発声は無い。
 信じられない事に、タカラギコが切った牌は、
 手の内にすら無かった白なのである。

「……!」
 ふさしぃがやや顔をしかめた。
 自分の読みが外れたのか、という迷いがその理由である。
 続くぃょぅも現物切り。
 小耳モナーは無スジの五を切るも、ふさしぃは和がれず。

「くっ…!」
 ふさしぃが一をツモ切り。

 タカラギコが今度は7をツモってくる。
 これもふさしぃの当たり牌である。
 しかし、タカラギコは躊躇する事無く7を切った。

「ロン!」
 ふさしぃが声を張り上げて手牌を倒した。
 しかし、タカラギコは微動だにしない。

「…ふさしぃさん。
 それ、チョンボですよ。」
 タカラギコがふさしぃの手牌を指差した。

「チョンボ?
 一体何を言って…」
 その時、ふさしぃの目の色が変わった。
 先程タカラギコが捨てた筈の白が、いつの間にか4にすり変わっている。

「!!!!!
 あなた、いつイカサマを…!!」
 ふさしぃがタカラギコに詰め寄った。
 ふさしぃは信じられないといった顔つきである。
 何故なら、タカラギコは少しもイカサマをする素振りなど見せなかったからだ。

「イカサマ?
 人聞きの悪い事を言うのはよして下さいよ。
 私がいつ何をやったっていうんです。」
 タカラギコが白々しく弁解する。
「…それに、仮に私がイカサマをしたとして、その証拠は?
 ルールにもある通り、バレなければイカサマではないんですよ。」
 タカラギコが嫌らしい笑みを浮かべた。
 ふさしぃが顔中に青筋を立てながらチョンボ代の満貫分を払う。

 事の顛末はこうである。
 タカラギコは4を切る時、密かに彼のスタンドである『グラディウス』を発動。
 光を操作して、4を白に見せかけたのである。
 タカラギコが彼のスタンドを皆に教えていないからこそ出来たイカサマだと言える。

(…しかし、使えるのはこれっきりですね。
 私のスタンドをこの人達に見せる訳にはいかない。)
 タカラギコが心の中で呟いた。

725ブック:2004/04/02(金) 19:01


 ふさしぃのチョンボで場が流れて、次の親はタカラギコ。
 ドラは②
 三順目、タカラギコが⑦を切る。

「チーだょぅ。」
 ぃょぅが⑥⑧から⑦チー。

(…!いよいよ動きますか。『哭きのぃょぅ』!)
 タカラギコの背筋の産毛がゾワリと立った。

「えいモナ!」
 小耳モナーが9切り。
「ポン!」
 ぃょぅがそれをポン。
 そして手牌から中切り。

(…ぃょぅ、何を……)
 ふさしぃが困惑しながら牌をツモった。

 ふさしぃ手牌
 三四五③③③④發發發556   ツモ5

 絶好の引きである。
 しかし、ふさしぃは素直にそれを喜べなかった。
(『哭きのぃょぅ』が動いた。
 だけど、一体なにを狙っていると言うの?
 風牌である東と白は既に三枚切れ。
 中もぃょぅ自身が切っているし、發は私の手の内に三枚。
 役牌での和がりは無い。
 9をポンしているからタンヤオも駄目。
 ⑥⑦⑧のチーでトイトイも無理。
 ぃょぅは、どうやってそこから和がるのかしら?)
 しかしふさしぃはそこで考えるのを止めた。
(関係無いわ。
 ぃょぅが何を考えていようと、先に和がればいいだけの事。)
 ふさしぃ、6を切ってリーチ。

「カン!」
 ぃょぅ、すかさずその6をカン。
 リンシャン牌をツモる。
「カン!」
 今度は②を暗カン。
「カン!」
 さらにそのリンシャン牌で9をカン。
 これまでのカンで追加されたドラ表示牌は85である。
 ぃょぅ、この時点でドラ12。

(三カンツドラ12、数え役満…!!)
 ふさしぃは驚愕した。
 そのぃょぅの強運に。
 これこそが、『哭きのぃょぅ』。

 ぃょぅ、①切り。
 当然ふさしぃは和がれず。

「くっ…!」
 ふさしぃが③をツモる。
 待ちが変わる為、カン出来ず。
 叩きつける様にふさしぃが③を切った。

「――ロン。
 三カンツドラ12、32000だょぅ。」

 ぃょぅ手牌
 ④⑤33  ■②②■ 6666 9999   ロン③

「あぎえ!!」
 ふさしぃが昇天する。
 ふさしぃのトビで三回戦目終了。

726ブック:2004/04/02(金) 19:01



「ロン!」
「ツモだょぅ!」
「ツモ!」
「ロンだょぅ!」

 徹底的に叩きのめされた小耳モナーとギコえもんとふさしぃに、
 もはや闘うだけの力は残されていなかった。
 ぃょぅとタカラギコの声のみが、卓上に響き渡る。
 そうこうしているうちに空は明るみ始め、期限の朝六時はすぐそこまで迫っていた。

 今までの累計ポイント
 ぃょぅ…245・6
 タカラギコ…247・2
 ふさしぃ…−56・1
 ギコえもん…−49・3
 小耳モナー…−387・4


「…間も無く時間です。次にトップを取った方がこの勝負の勝者ですね、ぃょぅさん。」
 タカラギコがぃょぅの方を向く。
「……」
 ぃょぅは無言でそれに返す。

 最終局
 東家 ギコえもん…25000
 南家 ぃょぅ…25000
 西家 ふさしぃ…25000
 北家 タカラギコ…25000

 起家…ギコえもん


「ポンだょぅ。」
 ぃょぅ、六順目に⑨ポン。
「一つ晒せば自分を晒す…」
 タカラギコが、それに呼応するかのように呟いた。

「チー。」
 ぃょぅ、続いて②③から①チー。
「二つ晒せば全てが見える…」
 タカラギコがまたしても呟く。
 もちろん、近くの雀荘でこんな事をしたら間違いなく怒られる。

「チー。」
 怯む事なくぃょぅ⑦⑧から⑨チー。
 見え見えの染め手である。
「三つ晒せば地獄が見える…」
 タカラギコ、いい加減にしたほうがいいぞ。

「見える見える堕ちる様。」
 タカラギコ、リーチ。
 ふさしぃ、現物切り。

「……」
 ぃょぅが、無表情のまま③を河に捨てた。

「ロン。」
 タカラギコが手牌を倒す。

 一二三④④④⑤⑥⑥⑥678

 対するぃょぅの手牌は、
 ⑤⑤⑤⑥

 つまり、どれを切ってもタカラギコに当たりだったのである。
 これで、タカラギコに流れがそっくり移った。

「ロン。」
「ツモ。」
「ロン。」
 タカラギコは止まらない。
 ぃょぅ達も申し訳程度に上がるものの、焼け石に水であった。

 そして、いよいよ南四局のオーラス。

 点数
 ギコえもん…12000
 ぃょぅ…18000
 ふさしぃ…12000
 タカラギコ…58000

 もはや、勝負は決定的であった。
「ぃょぅさん、もはやあなたにはラス親も残されていない。
 連荘での逆転は無理だ。
 あなたが勝つには、役満ツモか、私からの三倍満直撃。
 しかしそんな事は不可能に近い。
 もはや、闘うまでもありませんね…」
 タカラギコが勝ち誇りながら山から牌を取って手牌に入れる。
 そして打2。

「ポン。」
 ぃょぅがそれをポンした。

「ぃょぅさん…一つ晒せば自分を晒す。」
 タカラギコが哀れむように言う。
 しかしぃょぅはそれを聞くと、フッと笑ってこう言った。

「自分を晒せば…」

 自分を晒せば―――

「己がまた哭きたがるょぅ。」



     TO BE CONTINUED…

727N2:2004/04/03(土) 06:12

結ばれた契約の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その⑤)

「…つまり、アヒャは敗れたと…」
「…そういうことになりますね」

茂名王町郊外には、とある廃ビルがある。
以前はそこに何かの会社が入っていたらしいが、もう15年以上も前に倒産してから
以来誰も入らぬまま解体もされずに放置されてきた。

『矢の男』はそこにいた。

彼の近くには3匹のコウモリ…もとい「鳩」が飛び交っている。
その内の1匹が口を開く。

「しかし『モナ本モ蔵』抹殺が失敗したのでは、
貴方様の行く先に少なからず不安材料を残すことになると思いますが…。
こうなれば新しく優秀なスタンド使いを生み出して奴らにぶつけないと…」

「…その必要は無い」
『矢の男』が置き去りにされたソファーから立ち上がる。
「今回アヒャをぶつけたのは、確かに上手くいけばモ蔵を始末出来るだけの実力があると判断したからだ。
…だがそれがあっさり成功するとは…彼には悪いがそれ程期待はしていなかった。
確かにモ蔵でも苦戦したそうだが、そこで負けていれば
ここまで奴の名も裏の世界で売れるはずがないというものであろう」

「…失礼致しました」
鳩は着地してから申し訳なさそうに頭を下げた。

「良い、気にするな」
『矢の男』は諭すように鳩を見て言った。

「では、モ蔵は今後監視しておく程度に留めておいて構わないと…?」
別の1匹が『矢の男』に尋ねた。

「そうだ、いずれ私は奴と再び対峙すべき時を迎えるだろう。
…しかしまだその時ではない。
私がスタンド使いを更に増やし、この町に更なる混沌が訪れた時…、
その時『機は熟した』ということになるのだろうな」

728N2:2004/04/03(土) 06:13

『矢の男』は窓際から外に広がる満天の星空を見上げて言った。
しかしその目には無数の瞬きは映ってはいない。
「それよりも気にせねばならないのはこの町の住人達だ…。
今日『矢』が反応を示した者は18人、うち『選ばれた者』1人、『そうでなかったもの』16人…」

「…ではあとの1人とは?」
地に足を降ろしていた鳩が言った。

「…元々スタンド使いだったのだ。しかも生まれつきのな」
『矢の男』は外を眺めたまま答えた。

「それはそれは…」
質問をした鳩は、動揺を隠せない。
だが実際にその事実に驚いているのは、むしろ『矢の男』の方であった。

「…私もまさかここまで早くスタンド使いがこの町に集うとは思わなかった。
それにあの男――ニダーと言ったか――直感だけで私を敵だと判断し、
早速私に反撃までしてきたよ…」
『矢の男』は不気味な笑いを含みながら語った。
その言葉が実は自分達に向けられたものではないと3匹はすぐに直感した。

「この町に滞在した昨日までの3日間…『矢』の洗礼で命を落とした者は
40人…いや、50人は下らない。
既にそれだけの人数を殺しているのだ、そろそろ私の存在を疎ましく思う者が現れ始めるところだろう。
だが私はまだそいつらの手にかかる訳にはいかない。
この町に異常なまでの数のスタンド使いを居座らせなくてはな。
そうだな…まずは…『100人』。『100人』が目標だ」

「倍率を20倍とすれば…1,900人は無駄死にですね」
残りの一匹が皮肉っぽく言った。

「別に構わん…それでこの町がゴーストタウンになるわけでもあるまい…」
振り返った『矢の男』の顔は――暗闇に紛れてはっきりとは見えないが、
そこに狂気の笑みが浮かんでいることは容易に判断がついた。

「それに君たちとて私に射られて自発的に協力を申し出たのだ…。
それなりの活躍を期待しているよ…」

男はそのまま部屋を後にして、闇の中へ消えた。
取り残された3匹は男の威圧感の余韻に怯えていたが、やがて顔を見合わせ、やはり部屋を後にした。

729N2:2004/04/03(土) 06:14



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



私たちの間に流れるものは沈黙だけであった。
初代モナーはフェンス越しに町の夜景を眺め、私はそんな彼を見ている。
眼下に広がる寝静まった町は、先程までの悪夢も忘れて安らかな表情をしている。

「…いつから…気付いてたんですか?」
不意に青年は私に問うた。
突然の質問に私はたじろぐ。

「…気付くとは、何の事だ?」
私は何の事か分からず、そのまま彼に聞いてしまった。
しかし彼は私の返答を最初冗談だと思ったらしく、こう再び尋ねた。
「嫌だなあ、分かってて言っているんでしょう?
ほら、私がスタンド使いだっていうことに…」

「…いや、先刻お主があの男に使うまでは、全く」
私は有りのままを答えた。本当に気が付かなかったのだ。
それで鈍いと言われてしまえばそれまでだが、青年は私に怪しませる程の素振りすら見せなかったのだ。

「…本当ですか?実は気付いていただなんてこと…」
青年は相変わらず疑っているようであった。
私は少々機嫌が悪くなった。

「疑い深いな。第一、私が早くに気付いていようがいまいが大した違いも無かろうに」

「…いやね、おっさんが気付いていたならともかく、そうでなかったのならずっと騙してたってことになりますから」
青年は急にこれまでのふざけた表情から顔付きが引き締まった。
…騙す?
この青年が、私を?

「…どういうことだ?説明願いたいな」

青年はバツが悪そうに下を向いた。
そして語った。

「あの日、俺は日課にしている深夜の町内パトロールをしていました。
そしたら、あの町外れの倉庫で偶然におっさんが腹に穴を開けて血まみれになって倒れていて…」

「…つまり、まずそこで1つ嘘を付いた」
青年は静かに頷いた。

「辺りには人影は全く見当たらなくて…、でも状況から判断してそれが生身の人間とか道具とかじゃない…
スタンド攻撃だってことは容易に判断が付きました」

「幸運だったな…そこに人影があったらお主は今生きてはおらぬぞ」
私は皮肉っぽく笑った。

730N2:2004/04/03(土) 06:15

「…そこんところは後でまた別に話しましょう。
ともかく俺は動揺しました。何とか助けたい。でも自分は回復にそれほど特化したスタンドではない…」

「『それほど』?お主のスタンド、先程見た限りでは不可能とは言わぬがほとんど向いていないと思うが。
…『回復する感覚』というものが肉体をサポート出来るのにも限界があるだろう」

青年は驚きつつもやはり、という顔をした。
「やっぱりおっさん位のスタンド使いにゃバレバレでしたか…。
もう隠しても仕方ないから言いますけど、おっしゃる通り俺のスタンド『フィーリング・メーカー』は感覚を操るスタンドです。
相手に直接叩き込むことも出来るし、無生物に地雷的に感覚を潜ませて触った途端熱さとか冷たさを相手に加えることも出来ます。
でまあ、相手の神経に強烈な刺激を与えますから、相手の肉体は実際に刺激を受けたのと同じ反応をする、と…」

「それで、私の腹の穴は自己治癒力に頼っていたのでは追い着かなかっただろうに」
私は再び疑問をぶつけた。

「ええ、それでもうこれまでか、と思った時、ふとひらめいたんです。
細胞に『分裂する感覚』を叩き込めばどうなるか、って。
まあ結果はご覧の通りですがね」

私は青年の努力に感謝するも、一方では呆れてしまった。
「やれやれ、それならそうと言ってくれても良かったではないか。
そうすればわざわざ血の始末をしてまで嘘を貫き通す必要も無かったであろう」

私は軽く冗談めいて言ったのだが、青年は突然真剣な眼差しをして私を見た。
「…ええ、でも始めはおっさんが熟練の戦士だなんて知りませんでしたし…。
…いや、心のどこかでは気付いていたはずです。あんな負傷をしてるなんて普通じゃありませんから。
…でも………」
青年は再び口をつぐんだ。
私は青年に促した。
「でも?」

「…でも…その時思ったんです。
それは確信の無い直感みたいなものでしたが…俺はそれまで、このスタンドで治せる傷は
せいぜい骨折位が関の山だったんです。
でもおっさんの絶望的な怪我を見て、そして怪我を回復させることが出来て…、
その時、根拠も無いのにふっと俺の頭の中にある考えが過ぎりました。
『ああ、俺はこの人と一緒に居たら強くなれるかも知れない』…ってね。
それでおっさんが起きるのを待って、たまたま見つけた一般人を装って…」

「食事に誘い、自分の家へと招いた。
つまりそれは私の為ではなく、自分の為であった…それが2つ目の嘘」
青年は再び首を縦に振った。

…なるほどな、と私は思った。
この青年が一体どういう経緯でこのような行動に出たのか、それは大体把握出来た。

731N2:2004/04/03(土) 06:16

「しかし私にどうしても理解出来ないのは、どうして私を発見した時に自力でどうにかしようと考えたところだ。
お主の考えの中には救急車を呼ぶとか――それ以前にその場から逃げるという選択肢は無かったのか?」

私が問うと、青年は鋭い視線を向けた。
「…全く俺の中にはありませんでした。
何故なら、この町でこんな不可解な事件が起きればその犯人の素性は明らかですから」

「両親の仇――この町で暗躍しているテロ組織か」

青年はきょとんとした。
「おっさん…どこでその話を聞いたんですか!?
俺はまだ一言も喋ってないはずですよ!?」

私はその答えを目線で示した。
「…そこで眠っている婦人に聞いたよ。
君の両親がどんな人であったか、どんな悲劇に遭ったのか、君がこれまでどんな人生を歩んできたのか…
失礼だが全てお話しして貰った」

青年は明らかに不機嫌な様子を見せた。
「ったく小母さん、人のプライバシーを全然考えねえんだから…!」

「…まあ待て。お主の話の内容ではお主が勘違いしているようであるから
どうしてもここではっきりしておかなくてはならない事があるからな」

「…はっきりとしておかなくてはならない事?
なんすかそれは?」

私は先程の青年と同じように、彼の方を真剣な面立ちをして向いた。
「実は私もお主に嘘を付いている事があってな…その侘びも含めて話そう。
まず私は確かにこの町にある男を殺しにやって来た――だがそれは誰の依頼でもない、
強いて言うなれば己が依頼主であると言ったところだ」

「…つまり自分の恨みのある相手だってことか」

「ああ、そうだ。私はその相手がこの町に向かっているという情報を得、先回りをして勝負を挑み…結果はあの様だ。
そしてその男はまだこの町に潜んでいる…つまり私を殺そうとした者とその組織には関係が無い」

青年は驚いた様子で私の元に駆け寄ってきた。
「そんな…いや、あいつらと関係が無いってのはこの際どうだっていい、
だがそれよりもその男ってのはまだこの町に居るってのか?」

「…ああ。だがまるでお主と無関係という訳でもない。
その男の目的はただ1つ…『矢』によるこの町におけるスタンド使いの増殖…
ひいては大量虐殺へと繋がる悪魔の行為だ…!!」

「……!!」
青年の顔が引きつる。
無理も無い。
それは無差別破壊活動と何ら変わりないのだから。

「…私も人の生き死にを左右する商売をしているからな、本当は奴を非難する資格など無いはずだ。
だが、それでも私は奴を許すことが出来ない。
かつて奴を野放しにしてしまった私自身が許せない…」

私は「サムライ・スピリット」を月夜にかざした。
妖しくも美しく光る剣身。
私のような荒んだ心の持ち主でもこんな美しさをまだ放てるというのか。
うっすらと自信が復活してくるのを感じた。

「だから私はこの剣で奴を討ち果たそうと決意した。
仮にも荒らしを殲滅するのが本職である以上、奴の愚行をこれ以上続けさせるわけにはいかない。
前回は大敗を喫したが、次は必ず奴の能力の真髄を見極め、打ち滅ぼす…!!」

732N2:2004/04/03(土) 06:17

「…馬鹿言ってんじゃないよ!
まさかおっさん、そいつの能力がまだ分かってないのか!?」
青年は私を非難した。
彼も熟練の戦士、私の考えがどれほど無謀であるのかはよく分かるのだろう。

「…我々の立場が逆であれば、私もお主と同じことをしたであろう。
だがな、それでも私は諦めるわけにはいかない…否、諦められないのだ。
これは私に課された宿命…いや、むしろ呪いと言うべきものだな」
私とて自らの愚かさは重々承知している。
だが、それでも私は立ち止まることは許されない。
もし諦めたならば、私の生の価値はそこで失われるのだろう。

「…だったら」
青年は言った。

「だったら俺も同行させてくれ!
そりゃおっさんには及ばないかも知れないけど、少しは役に…」

「…馬鹿を言うな。
奴はお主の想像を遥かに超える実力と能力を兼ね備えた男だ。
そんないずれ見殺しにするような真似は…」
彼の実力は先の戦いで明らかだ。
確かに比類なき強力な戦士ではあるが、あの男に勝てるとは思えない。

「なら何で知っていながら俺の敵討ちは止めようとしないんだ?」
彼の言葉が私の胸に突き刺さった。
…随分と痛い所を突いてくれる。

「…考えようによっちゃ、いや明らかに俺1人でテロ組織に立ち向かうなんて
多勢に無勢でおっさんよりも俺は無謀な真似をしようとしているはずだ。
…でもおっさんは止めなかった。いや、止められないんだ。
俺のやってることを否定したら、自分を否定することになるもんな」
青年の顔は物怖じせず、強い意志がそこには感じられた。
そして、自分と似た境遇に立たされた者に対する同情も。

「放っとけないんだ。詳しい事情は知らないけれど、そこまで誰かを殺したいほど憎んでいる人を。
…それに丸二日一緒に飯と寝床を一緒にした仲だもんな」
前半まで真剣に話していた青年が、最後になっていつもの冗談を交えた。
不意に2人の顔がほころぶ。

「…あと自分勝手な事を言わせてもらえば、そんな裏世界の奴の情報を調べていれば、
俺の目指す目標にもいつか辿り付けるかも知れない。
だから、俺にとっても決して悪い話じゃないんだ」
青年は大そう明るく話す。
そこには恐怖心が微塵も感じられない。
…先の戦いといい、相当に強い精神の持ち主のようだ。

733N2:2004/04/03(土) 06:18

「…いいのか?私を斯様に殺せる者だ、同じ様に殺される可能性は高いぞ」

「俺の実力がそんなに低いとお思いですか?」
最後の意思確認も、青年は独特のおちゃらけさでサラリと流した。

「…相分かった。それならば私もお主の敵討ちに協力しよう。
これからは、お互い手を合わせて自分の目的を果たせるよう頑張ろう」
「分かりました。それじゃあこれからも宜しくお願いします、モナ本モ蔵さん」
我々はお互いの手を固く握り締め合った。


「…あ、でもこれからは単なる居候と宿貸しの関係じゃありませんからね、
これからはちゃんと『モナ本さん』と呼ばせて頂きますから」
青年は再び改まって私に進言した。
義理堅い彼にとっては、こうなった以上馴れ馴れしい関係を続けるわけにもいかないのだろう。

「いや待て、今まで通りの言葉遣いで構わん」

「いや、しかし…!」
青年は申し訳無さそうに食い下がった。

「私はそんな契約的な関係をお主と結んだ訳ではない。
お主の覚悟と信念の固さに敬意を表し、互いに協力するという形を取ったのだ、
そんな私が格上のような状況を作り出したくはないのだ。
…それに、『おっさん』と馴れ馴れしく呼ばれるのも悪くないものだからな」
最後の最後につい本音が出てしまった。
少々恥ずかしい。

「…分かったよ、『おっさん』!
それじゃあ、明日からまた頑張ってくぞ!!」
早速青年は悪乗りした。
私が少し下手に出たと思えば…!

「待てっ、そこまで馴れ馴れしくしろと言った覚えは無いぞ!」
笑いながら逃げる青年を、やはり私も笑いながら追いかけていった。

734N2:2004/04/03(土) 06:19



 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆



再び、朝。
降り注ぐ朝日が、昨日の悪夢を全て浄化しているようにも思える。

「…本当に、良いのか?」
私は重荷を背負う青年に尋ねた。

「…ああ。俺がおっさんに協力するのは俺の勝手だが、
それでまた昨日みたいな惨事に小父さんや小母さん、それに近所の皆さんを巻き込む訳にはいかないからな…。
名残惜しいが、住処を移すのが懸命だろう」
青年は自分の想い出の詰まったアパートを見渡した。
住み心地は悪かったかも知れないが、近所の人々との楽しい想い出に溢れた『家』。
そこを人の為に手放すのには、彼とて相当思い悩んだ末の決断だったのであろう。



「行くぞ」
私は未だに新しい一歩を踏み出せない青年を後押しした。
青年は静かに頷いた。

「待つて」
不意に霞の中から我々を呼び止める声がした。
そこにはあの婦人が、静かに佇んでいた。

「…いづれこんな時が來るとは思つてゐたけれども、本當に行つてしまふのね」
婦人は寂しそうに語る。
それを青年は申し訳無さそうに聞き、やがて婦人を見据えた。

「…小母さん、俺はこれからとても褒められないような真似をしに行く。
だけど…だけど絶対に止めないでくれよ!!」
青年は口ではそう言ってはいるが、そこには後悔の色が滲み出している。

「分かつてゐます。
貴方の受けた心の傷の深さを知つてゐるから、私には貴方を止めることが出來ません」
婦人は冷静そうに答えたが―――

「でも…必ず…必ず生きて歸つてきて…!」
―――やがてその目からは大粒の涙が溢れ出てきた。

「………はい……!!
必ず…必ず生きて貴方の所に戻ります…!!
それと…今まで俺のことを面倒見てくれて…本当に有難う…御座いました……!!」
青年はそんな婦人を直視することが出来なかった。
地に水滴が落ちてゆくのが私にもよく分かった。

「行つてらつしやい…!
必ず…御兩親の仇を討つて來るのですよ!」
婦人は涙を拭い、力強く青年に訴えた。
そこには友を殺された彼女の、組織に対する恨みの念が確かにあった。

「…はい…ッ……!!」
青年もそんな婦人に応えるように、震えながらも力の籠もった返事をした。



「…言っておくがな、我々はこれから更に辛い局面に遭遇するかも知れないのだ。
育ての親との別離で悲しんでいるようでは、先が思い遣られるぞ」
道中、私は青年に忠告した。
本音では嘘だと思っていたが、彼にはそれ位の覚悟をして貰わなくてはならない。

「大丈夫ですよ」
青年はさらっと応えた。

「俺にはあの人達以外にもう失うものはありませんからね。
もうこれ以上の悲しみなんてのは俺には存在しませんよ」
冗談めいてはいながらも、そこには彼の強い意志が流れていた。

「…上等だ!それでは、行くぞ!!」
「…オッス!!」

私達は、力強く新たなる一歩を踏み出した。
『矢』による大量虐殺を食い止める為に。
両親の仇を討ち、自分と同じ境遇に立たされる者をこれ以上増やさぬ為に。
降り注ぐ朝日は、まるで我々を祝福しているように感じられた。

735N2:2004/04/03(土) 06:21














私は、愚かであった。
後に私は後悔した。
何故、こんなことになってしまったのか。
全ての悲劇の始まりは、既に起こっていた。
誰にも、どうしようもなかったのかも知れない。

だが、私は過ちを繰り返した。
私の軽率な判断で、無関係な人間を悲劇へと巻き込んでしまった。
私は少しも成長してはいなかったのだ。

――『大丈夫、私達はオジサンを信じてるアルよ』
――『…奴には俺も恨みがあるんでね、微力ながら協力させてもらえないか?』
後に私を信じ、行動を共にする若き戦士達。

――『我々警察をなめてもらっちゃ困るんだからな!』
――『…私たちは傍観者…お茶を頂きながら静かに事の成り行きを見届けるだけでございますわ』
少しずつ、運命のうねりへと飲み込まれてゆく町民達。

――『…『矢』の男を知ってるモナ?』
――『…てめえらをこのまま放っとく訳にゃいかねえんだよ!ゴルァ!!』
共通の目的を持ちながらも、僅かな見解の相違から対立することとなる、
「茂名王町」のスタンド使い達。

――『とりあえず…泳がせておいて大丈夫です。我々とは『同士』なのですから』
――『…ひろゆき様を殺す気であるのなら…我々家臣団が貴様らを殲滅するッ!!』
『矢』の男を討ち取る材料として、我々を利用しようとする「2ちゃんねる運営陣」の面々。

――『再び遭ったな、モナ免モナ蔵…否、モナ本モ蔵…!』
――『…今の私を突き動かすもの…それは貴様に対する『個人的かつ人間的感情』に他ならないッ!!』
…そして、全ての元凶であり、私にとって絶対的な敵である「はずであった」『矢』の男自身…。

これら全てのものが、実はある別の人間達によって弄ばれているだけであるとは、
この時の私が知る由も無かった…。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

736N2:2004/04/03(土) 06:21

                        ∩_∩
                       (´ー`)
                       (   )
                        | | |
                       (___)__)

NAME 初代モナー
                         ・ ・
「茂名王町」に住む初代モナー族の青年。
幼い頃、スタンド使い専門の課に所属していた警察官である両親を
当時から存在していたテロ組織に殺されたことから
組織に対する復讐心に燃え、日々トレーニングに励むと共に
自発的に町内のパトロールを行っている。
この春(と言っても2003年3月だが)東京ギコ大学を卒業したばかり。
口調は彼の一族にしては乱暴にも思われるが、その精神はそんじょそこらの
若者よりも遥かに卓越し、成熟している。

初代モナー族であるのに青年というキャラ設定には正直悩んだが、
彼以外に本編で使われていない適当なキャラもいなかったので已むを得ず採用。
まあ、ニラ茶猫やしたらば君を使うよりも妥当だったと今となっては思う。
本編キャラでありながら余りに作り上げすぎた過去を持つということに
後になって気付いたのだが、もうこうなったら本編を名乗るのも止めだ
(と言うか元々サイドストーリーを描くつもりだったし)と言う事でそのまま突き進んだ。
…まあまだそこの所は一応現状維持の方針ではいますが。

737N2:2004/04/03(土) 06:22

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃            スタンド名:フィーリング・メーカー            .┃
┃               本体名:初代モナー                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃ 精密動作性 -A  . ┃   成長性 -A     .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃「感覚」を生物・無生物に叩き込む。                     .┃
┃感覚を叩き込まれた生物は、その感覚を味わう(視聴覚も操作)。......┃
┃無生物は、例えば「熱い」感覚を叩き込まれると熱くなり、     .....┃
┃「重い」感覚を叩き込まれると重くなるといったように触れた者の .....┃
┃感覚に影響する(物自体の性質が変化しているわけではない)。   .┃
┃また催眠術的な用法も可能で、多少の怪我や病気なら         .┃
┃感覚操作で治療することも出来る。                    ┃
┃大きな負傷の場合だと、失敗する可能性も大きいし、テロメアの .....┃
┃関係上寿命が縮むので多用出来ない、                  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

初代スタンドアイデアスレよりも主役キャラということで若干強化。

738N2:2004/04/03(土) 06:23

                      lヽ
                      l 」∧_∧
                      ‖( ゚∀゚ )
                      ⊂    つ
                        人  Y
                       し(_)

NAME アヒャ

初代モナー同様、「茂名王町」に住む青年である。
実は彼と同じ病室で生まれたという設定を突けようかと思ったが面倒だったので止めにした。
未だに日本に残る差別の被害者で、その悲劇の連鎖を食い止めるべく発現したばかりのスタンドで
地球上に住む全人民をアヒャ化、精神を自らの支配下に置くことで差別というものを根絶しようとするも、
お互いの事情を知らぬ初代モナーと対峙、儚くも敗れ去った。
完全に「正義対悪」の図式で突き進めるギコ屋編に対し、「正義対正義」「悪対悪」を描きたいと目論む
モ蔵編においては、ある意味彼がその象徴的存在とも言える。

…全く関係無いが、もたもたしていたら本編キャラで似たような能力者が出てきてしまった。
鬱。

739N2:2004/04/03(土) 06:24

                     ∧_∧    ../|
                     <」 ゚∀゚ )   /::::|
                 /⌒:E`‡´ヨ:⌒ヽ.‖:::|
                ( ヽ_ [ Π ]  ...ヽ |‖:::|
                ヽ_、ミヽ: √ ヽ_(ξ)
                 |ヽ ∧_∧..     ||
                 | 」( ゚∀゚ )
                 ⊂    つ
                   人 Y
                  し (_)
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名・クレイジー・キャット             ┃
┃                本体名・アヒャ                     ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃   パワー - B   ┃   スピード - B    .┃  射程距離 - B   .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃   持続力 - C   .┃ .精密動作性 - E ....┃   成長性 - A    .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃スタンドの包丁で傷付けた者を徐々に(゚∀゚)アヒャらせる。        ┃
┃少しの傷でも放っておけばやがて(゚∀゚)アヒャってしまうし、包丁に    ┃
┃よるダメージが重なればそれだけ早く(゚∀゚)アヒャってしまう。       ┃
┃そして完全に(゚∀゚)アヒャった者はその意識を失い、完全に本体に   ┃
┃肉体の操作権を掌握されてしまう。                           .┃
┃町の住人をほとんど洗脳してしかも操作しただけあって、         .┃
┃そのスタンドパワーは計り知れない。                        ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

初代スタンドアイデアスレの77さん、小説ですがヴィジョンと基本パラメータをお借りします。
設定の都合上、スピードを弱体化、成長性を強化しました。

740N2:2004/04/03(土) 06:29

                                    ||
                       ∧ ∧   /ノ人ヽ ||
                       (,,゚Д゚)   (゚ー゚*) ||о__
                       < |=| >━┳(/  | ||###
                       ( /つ)  ||(  )⊃||###
                      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

NAME 擬古夫婦

明治・大正・昭和初期を彷彿とさせる生活を未だに送り続ける、美しき夫婦。
夫は物書きで妻は専業主婦。
夫人は初代モナーの母親の友人で、彼女とその夫の死後
孤児となった初代モナーを実子のように可愛がった。
出番は少なかったが、夫の方も彼を相当可愛がったらしい。

キャラとしては、作品のなかでもかなり好きな部類に入るキャラである。
しかし、いちいち台詞を旧仮名変換スクリプトを通してコピペしなくてはならないので、
二度と登場させたくないキャラでもある(笑)。



と言う訳で、モ蔵編序章が6ヶ月半経ってようやく終了です(大半が休載期間)。

モ蔵編は今後2,3話挟んだ後、ウンコーの中の人さんから設定をお借りした
「vsテロ組織編」へと本格的に移行する予定です。
今後ギコ屋編もそうですがますます掲載ペースが遅くなりますが、
2作品共々今後とも宜しくお願い致します。

741:2004/04/03(土) 14:49

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その4」




「喰らえッ!!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』が、『調停者』のスタンドに拳を振るった。
 それを軽く受け止める『調停者』のスタンド。

 『調停者』は畳の上にあぐらをかいて座っている。
 異常に劇画チックな顔に、涼しげな表情を浮かべて。
「ウホッ!! いいスタンド… こいつは『エメラルド・シティー』とでも名づけようか」
 『調停者』は自らのスタンドを見て言った。

 …どういう事だ?
 この男のスタンドは、『メルト・イン・ハニー』という名のはず。
 『調停者』自身が最初に言っていたではないか。
 それに、普通の人間と寸分違わぬ外観。
 それでも、スタンド使いでない者には見えないだろう。
 このスタンドは、明らかに通常のスタンドとは異なる。

 モララーは疑念を持ちながらも攻撃の手を緩めない。
 どうやら、特殊な能力は持たない代わりに接近戦に優れているタイプのスタンドだ。

 『アナザー・ワールド・エキストラ』の大振りの拳が、『エメラルド・シティー』の頭先を掠めた。
 そのまま、『エメラルド・シティー』は懐に入り込む。
「どうやら、『エメラルド・シティー』はキミのスタンドよりパワー・スピードともに上回っているようだ。
 よし、いい感じだぞ…」
 『調停者』は唇の端を歪めた。

 『エメラルド・シティー』の拳が、『アナザー・ワールド・エキストラ』の腹に直撃する。
「ぐはっ!!」
 のけぞって血を吐くモララー。

「さて、そろそろ観念したかい?」
 勝ち誇る『調停者』。
 モララーは血を拭って言った。
「観念…? 僕の『アナザー・ワールド・エキストラ』は、時空の導出すら可能なスタンドだからな。
 芸の無いパワー型ごときが相手になるか!」

「なんだと…?」
 『調停者』が笑みを崩す。
 モララーは一歩踏み出した。
「あの隙だらけの大振りが、僕のミスだと思ったかい?
 お前のスタンドは、自分から網に掛かりに来たんだ…」

「…!!」
 『調停者』は『エメラルド・シティー』を引き戻そうとする。
 しかし、スタンドに全く反応が無い。
 『エメラルド・シティー』は木のように突っ立っている。

「『波束の瞬間的崩壊』を引き起こし、空間ごと遮断したからな。
 君のスタンドには何も伝わらないだろ? 観測者がいなければ、存在しないも同然ってね…」
 モララーは、ゆっくりと『エメラルド・シティー』に歩み寄った。
「…さて、そろそろ観念したかい?」

「してやられたな。さすが封印指定のスタンド。能力の応用は底知れないという事か…」
 『調停者』はあぐらをかいたまま腕を組んだ。
「『次元の亀裂』!!」
 モララーは腕を大きく振った。
 引き裂かれた次元の断層が、動けない『エメラルド・シティー』の上半身を呑み込む。
 下半身だけとなった『エメラルド・シティー』のヴィジョンは、煙のように消失した。

 しかし、『調停者』は微動だにしない。
 少し表情を歪めただけだ。
 ダメージのフィードバックはないのか…?
 モララーは疑念を抱きつつ『調停者』の顔を見据えた。

「参ったね。『エメラルド・シティー』、なかなか強そうなスタンドだったのにな…」
 『調停者』はため息をついて立ち上がった。
 庭をはじめ、そこら中につーにやられた『支配者』の死体が転がっている。
 そのうちの1つに歩み寄る『調停者』。

「…1人借りるぜ、スミス」
 『調停者』は言った。
「ふむ。好きに使え」
 庭を埋め尽くす勢いで増殖している『支配者』の1人が、『調停者』に頷く。
 『調停者』は『支配者』の死体の傍らに屈みこんだ。

「『メルト・イン・ハニー』!!」
 『調停者』の体から、スタンドのヴィジョンが浮かび上がった。
 人型のヴィジョン。
 先程の『エメラルド・シティー』とは違い、スタンド独特のデザイン。
 これが、こいつの本来のスタンド?
 じゃあ、『エメラルド・シティー』とは一体…?

「――時よ留まれ。汝はかくも美しい」
 『支配者』の死体に手をかざし、『調停者』は告げた。
 横たわる『支配者』の死体が青く輝く。
「な…!?」
 モララーは距離を置いて、その光景を注視していた。

「さて… では、行こうか」
 『調停者』は立ち上がる。
 『支配者』の死体は、横たわったまま。
 青い光も収まっている。

742:2004/04/03(土) 14:50

「『ロック・イズ・デッド』…!!」
 『調停者』はその名を告げた。
 彼の背後に、『支配者』・スミスと瓜二つの姿をしたヴィジョンが浮かび上がる。
 モララーは息を呑んだ。
 その性質は、紛れもないスタンド。
 スタンド使いにしか見えず、スタンドを持ってしか倒せない。
 それでいて、外見は『支配者』そのもの…

「俺のスタンド『メルト・イン・ハニー』は、死者をスタンド化する」
 『調停者』は、モララーの顔に視線を向けて口を開く。
「スタンドが… 死体?」
 モララーは呟いた。
 それに対し、『調停者』は首を振る。
「それは違う。スタンド化するのは死体じゃなく、死者の魂だ。
 元の人間の意志も残るし、一体一能の原則通りスタンド能力も持っている。
 区分すれば、遠隔自動操縦型になるのかな…
 とにかく自らの意思で動き、思考も分離している」

「…そういう事だ、『矢の男』」
 スタンド化した『支配者』… いや、『ロック・イズ・デッド』が言った。
 『調停者』が言葉を継ぐ。
「そして、俺の能力はスミスと組んだ時に無類の強さを発揮する。
 あいつが何人もいる限り、俺のスタンドも無尽蔵だ」

「…」
 モララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』は拳を構えた。
 そして、『ロック・イズ・デッド』を見据える。
 口振りからして、このスタンドを相当使い慣れているだろう。
 だが、どうやら死者をスタンド化できるのは同時に1体のようだ。
 このスタンドを撃破した直後に本体を攻撃すれば…

 思考するモララー。
 その眼の端に、銃をギコに向ける『解読者』の姿が映った。
「さて、引導の時間だな…」
 『解読者』は呟いた。
 ギコの右腕と右足は無残に折れ曲がっている。

 誰か、フォローに回れる者は…!!
 しぃは、『アルカディア』で『狩猟者』のギターでの打撃を受け止めている。
 先程の大音響の直撃を受けたのか、その動きは鈍い。
 かなり押されている事は明白だ。
 つーも、庭で『支配者』の群れと激闘を繰り広げている。
 レモナとクマは外へ飛び出していってしまった。

「チッ…!! 『次元の亀裂』!!」
 モララーは『解読者』に向けて右手を構えた。

「眼前の敵を無視するとは、いい根性をしている…」
 『ロック・イズ・デッド』は懐から銃を取り出した。
 50口径のデザートイーグルが、モララーに狙いを定める。
 モララーは素早く視線を『ロック・イズ・デッド』に戻した。
 あの銃も、スタンドの一部。
 もしかしたら、奴のスタンド能力に関わっているかもしれない…!

 『ロック・イズ・デッド』から発射された銃弾を弾き返すモララー。
 座標の設定に手間取る為、瞬間移動は咄嗟には使えない。
 このままじゃ、ギコは…!
「間に合わんよ。――諦めろ」
 『ロック・イズ・デッド』は勝ち誇って言った。

 無情にも、『解読者』はギコ目掛けて引き金を引いた。
 居間に響き渡る銃声。

「ギコッ!!」
「ギコ君!!」
 モララーとしぃが異口同音に叫んだ。

「…!?」
 『解読者』が驚きの表情を浮かべる。
 そこには、頭を撃ち抜かれたギコが転がっているはずだった。
 しかし、ギコに変化は無い。
「あ… え…?」
 当のギコ自身も、当惑の表情を浮かべている。

743:2004/04/03(土) 14:52

「…どういう事だ?」
 『解読者』は、ギコ目掛けて何度も引き金を引いた。
 しかし、銃弾はギコに着弾する瞬間に消える。
 そして、そのまま畳に穴を開けた。
 まるでギコの体だけをすり抜けたように。


「誰だ、お前は…?」
 『解読者』は、いつのまにか背後にいた男に言った。
 彼は、腕を組んで壁にもたれている。
「『異端者』に与するスタンド使いは、これで全部だと思ったがな…」
 男に向け、ゆっくりと振り向く『解読者』。

「――この国の法律で、スタンドを使用した私闘は禁じられています」
 男は言った。
 着込なされたスーツに、赤のネクタイが目立つ。
 口許は緩んでいるが、その眼は笑っていない。
 男は、眼鏡越しの鋭い眼光を『解読者』の方に向けている。

「…対スタンド公安組織の者か?」
 『解読者』は、その視線を正面から受けた。
「いかにも。公安五課の局長を務めています」
 男は壁にもたれていた体を起こすと、『解読者』に近寄った。
 『解読者』の能力を警戒してか、視線は僅かに彼から逸らしている。

 局長は、クマとレモナによって大穴の開いた天井を見上げた。
 次に、粉々に割れた窓や机に視線を移す。
「刑法260条・建造物損壊罪及び建造物損壊致傷罪、刑法261条・器物損壊罪――」
 さらに、倒れているギコを見る局長。
「刑法204条・傷害罪、刑法201条・殺人予備罪――」

 そして、『解読者』の手にしている拳銃を見た。
「銃刀法違反――」

「…公僕が何をしに来たんだ?」
 『解読者』が銃を局長に向ける。
 局長は臆さずに歩み寄った。
「刑法95条1項・公務執行妨害罪及び95条2項・職務強要罪――」

 『解読者』の脇を通り抜ける局長。
 そのまま、『狩猟者』と『調停者』の方に歩いていく。
「何だオマエは!? ギタギタにするぞ!!」
 『狩猟者』は叫んだ。
 それを無視して、局長は歩いていく。
「刑法222条・脅迫罪。
 それに刑法208条の3、第2項・凶器準備結集罪及び第1項・凶器準備集合罪――」

 そして、局長は部屋の隅まで移動した。
 くるりと振り返り、代行者達を見据える。
「さらに、刑法130条・住居侵入罪及び不退去罪、刑法106条・騒乱罪に違反している。
 即刻ここから退去しなさい」

「出て行けと言われて、出て行くバカがいるかよ!!」
 『狩猟者』は怒鳴った。
「退去する気は無いのですか?」
 さらに局長は訪ねる。
「…ない。こちらも職務を全うするまでは帰れないんだよ」
 『解読者』は口を開いた。
「本当に?」
 念を押す局長。
「…くどいな」
 『解読者』は吐き捨てた。

 それを聞き、局長は腕を組む。
「――ふむ。3回の警告にも応じなかったので、刑法107条・多衆不解散罪成立。
 全員現行犯逮捕。ただちに公務を執行する… 『アルケルメス』!!」
 局長の背後に、6本の腕を持った女性型のヴィジョンが浮かび上がった。

「お前、確かモナーを逮捕したヤツじゃなかったのか… なぜ、俺達を助ける…?」
 ギコは息絶え絶えに言った。
「モナー君にも言いましたが…」
 局長はため息をついた。
「敵と味方の二元論だけで物事を捉えるのは危険です。
 全員、それぞれの思惑があって動いているんですからね。それに――」
 局長は代行者達に向き直った。
「――スタンドを使用した犯罪の摘発は、我々公安五課の職務だ」

744:2004/04/03(土) 14:54

「フフ…」
 『解読者』は眼鏡の位置を直し、笑みを浮かべる。

 同時に、局長の頭上から銃声が響いた。
 天井を貫通して飛来する銃弾。
 それは、完全に局長の虚を突いたように見えた。
 しかし、銃弾は局長に当たる直前で消失する。

「『アルケルメス』!!」
 局長のスタンドが、6本の腕で天井を殴りつけた。
 天板が粉々に崩れ、破片が周囲に飛び散る。
 それに混じる、一つの影。
 その人影は、実を翻し着地した。

 その男は、ロシア製の狙撃銃・ドラグノフを手にしている。
「参ったな。服が汚れてしまったよ…」
 服の埃を払う男。
 その頭上から、男に向けて1発の銃弾が飛来した。
 先程、局長を狙ったものと全く同一のものだ。

 男は、難なく銃の柄で弾丸を弾き飛ばした。
「先程のお返しという訳かね?」
 局長を見据え、男は言った。
 無言で肩をすくめる局長。

「完全に気配は殺していたはずだが… よく気付いたな。制服サンの割りに、なかなかやる」
 男は余裕の表情を崩さずに言った。
 局長は腕を組む。
「この仕事をやっている以上、暗殺のターゲットとなるのは一度や二度ではないですからね。
 前任者も、前々任者も暗殺によって命を落としています。
 生半可な覚悟では、こんな仕事はやってられませんよ…」

「…気をつけろ、ムスカ」
 『解読者』は、狙撃銃を手にした男に言った。
「公安五課の現局長と言えば、ASAと『教会』の勧誘を共に蹴った男だ。
 何を考えて、こんな小国のスタンド対策部に所属しているかは分からんが…
 相当に出来る事は間違いないぞ!」

「そんな事は、私の一撃をかわした事でも明らかだよ…」
 男は、再び局長の方へ向き直った。
「私はムスカ… ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。代行者名は『暗殺者』。
 『ウル』とは、ラピュタ語で『王』を意味する」

「ふむ… 調書を取る手間が省けましたね。それ以上は署で聞くとしましょう」
 局長の背後に『アルケルメス』のヴィジョンが浮かび上がる。

「見せてあげよう、ラピュタの雷を…!! 」
 『暗殺者』はドラグノフを立射で構えた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

745ブック:2004/04/03(土) 16:24
     救い無き世界
     春だ!桜だ!温泉だ!!
     チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その五〜


「自分を晒せば、己れがまた哭きたがるょぅ。」
 ぃょぅ、2ポン。
 そして⑤切り。

「ゴルァ!」
 ギコえもん打4。
「ポン。」
 ぃょぅ、これもポン。
 それを見て、タカラギコが僅かに顔をしかめる。

(間違い無い。ぃょぅさんの手は緑一色。
 まさかこんな土壇場でこれほどの手が入るとは…
 ぃょぅさん、やはり『哭きのぃょぅ』の二つ名を持つだけはある。)
 十二順目、タカラギコが山から牌をツモる。

 タカラギコ手牌
 一二二二三三三⑧⑧⑨789  ツモ8   ドラ表示牌…東

(緑一色のぃょぅさんに打8は論外。
ここは…)
 タカラギコ、打9。

「カンだょぅ!」
 ぃょぅ、2カン。
 リンシャン牌をツモって五切り。

 ギコえもんとふさしぃはもはやかやの外。
 テンパる事も出来ずにただただ安牌切り。

 続いてタカラギコ⑧ツモ。

 タカラギコ手牌
 一二二二三三三⑧⑧⑨788   ツモ⑧

(…押されているというのか、この私が。
 どうする…
 どれを切る?)

「早く打ちなよ……時の流れはあンただけのものじゃなぃょぅ。」
 ぃょぅがタカラギコに呟いた。

「…くっ!」
 タカラギコ、7切り。

「カン。」
 次順、ぃょぅ4をカン。
 リンシャン牌を手牌に入れて、続いて3を暗カン。

746ブック:2004/04/03(土) 16:24

(遂に来ましたか。
 しかし、勝つのは私です…!)
 タカラギコが力を込めて牌をツモる。

 タカラギコ手牌
 一二二二三三三⑧⑧⑧⑨88   ツモ8

 四暗刻単騎待ちテンパイ。
 問題は、一と⑨どちらを切るかである。
(一切りだと⑦⑨待ち。
 それに対して打⑨なら一二三待ち。
 しかし二三はすでに自分で三枚使っている。
 ならば―――…)
 タカラギコは一を手に取った。

「…ぃょぅさん、ここまでです。
 この激闘の幕切れに相応しく、役満で終わらせてあげましょう。」
 タカラギコ、打一。

「……」
 次順、ぃょぅ打一。

「……!」
 タカラギコが狼狽する。
(気にするな…よくある事です。)
 しかし、続くタカラギコのツモも一。
 今更待ちを変える訳にもいかず、タカラギコ一切り。

「―――あンた、背中が煤けてるょぅ。」
 ぃょぅがタカラギコを見据えて呟いた。

「背中が煤けている?何を訳の分からない事を…」
 タカラギコ、5ツモ。

(ぃょぅさんは緑一色。
 チンイツだとしても、私には届かない。
 ならば、これは通る…!!)
 タカラギコ、打5。

「カン。」
 ぃょぅ、5カン。

(5カン!?
 馬鹿な、それじゃあ私との点差は埋まらない。
 …!!
 いや、違う!
 ぃょぅさん、あなたはまさか―――!)

「…ツモ。」
 ぃょぅがリンシャン牌の⑨と共に手牌を倒した。

 ⑨   2222 ■33■ 4444 5555   ツモ⑨

 四カンツ四連刻―――、ダブル役満64000点。
 大明カンさせてツモ和がらせたタカラギコの責任払いである。

747ブック:2004/04/03(土) 16:25

「……!」
 タカラギコがその場にがっくりとうなだれた。

「…全ては、あなたの手の平の上だった訳ですか。」
 タカラギコがぃょぅの顔を見る。
「いや、ぃょぅが勝てたのはたまたまだょぅ。
 次も君に勝てるかは正直分からなぃょぅ。」
 ぃょぅがタカラギコに優しく声をかける。

「それでも負けは負けです。
 ぃょぅさん、あなたこそが特務A班の帝王ですよ。」
 タカラギコがぃょぅの腕を取って天井へと掲げた。

「…ぃょぅは、帝王なんかになりたくなぃょぅ。」
 ぃょぅが呟く。
「ぃょぅ、それじゃあ…」
 ふさしぃがぃょぅに尋ねた。
「ああ、上も下も無い、皆仲良しが一番だょぅ!」
 ぃょぅがはにかみながら答えた。
 他の全員も、同じように清々しい笑顔をする。


「―――…でも、百万円は頂くょぅ。」
 そのぃょぅの一言が、折角のムードをぶち壊した。
 ぃょぅはそれに構わず皆で出し合った百万円に手を伸ばし―――

「!!!!!」
 ぃょぅが百万円を手に取る寸前に、ギコえもんがそれを横からひったくった。
「悪いな!
 この百万円は俺が有効活用させて貰……ごはあ!!!」
 ギコえもんの体を、後ろから『キングスナイト』の剣が貫いた。
 百万円がギコえもんの手から離れて地面に落ちる。
 ギコえもんは血塗れになって倒れ伏した。

「欲しいものは力づくで奪い取る…
 それも悪くないわね。」
 ふさしぃが『キングスナイト』の剣をぃょぅ達に向けた。
 完全にやる気である。

「百万円はモナが頂くモナ!」
 小耳モナーも負けじと『ファング・オブ・アルナム』を発動させた。
「そういう事ならば…お相手しましょう!」
 タカラギコが両手に拳銃を構える。

「君達、ズルぃょぅ!!」
 ぃょぅも『ザナドゥ』を出して応戦する。
 こうして、第二ラウンドが幕を開ける事になった。


 ―――後日談だが、この闘いでぃょぅ達は旅館を出禁。
 修理費と迷惑料で百万円は全て消えたという。



     EPISOAD END…

748丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:32
「準備はいいみたいデチね…ジエン?それ、何の書類デチか?」
「ああ、これですか?茂名さんが戸籍一人分用意してほしいとか」
 ジエンの言葉に、『チーフ』が呆れたように呟いた。
「またデチか?行き倒れ同然のしぃ族拾いこんで介抱して、
 なーんにもせずに帰しちゃう…
 お金だってかかるだろうし、茂名さんも道楽者デチねー」
「いやいや、素晴らしいことではないですか」
「フン。いいデチね、ボクみたいにねじけてないヒトは。…行くデチよ」
「はい」
 頷きながら、ドアをくぐる。SPM財団スタンド研究局の一室に、再び三人が集まっていた。
「それじゃ、送るデチよ。フサー」
「ぎゃあ。…『ロリガン』」
 パソコンの前に座るフサが短く応え、その背からヴィジョンが抜け出した。
細い手足を持った、女性型スタンド。
 ロリガン
『貴婦人』
 それが、フサに宿ったスタンドの名だ。

「能力ヲ発動シマス…」
 暗い声で宣言し、静かに両手を掲げた。
同時に、フサの指がキーボード上を軽やかに滑る。
茂名王町に設置された警備カメラに侵入、画面上に茂名王町の郊外が映し出された。

 ロリガンが、掲げた両手を胸の前でゆるゆると動かす。
数秒ほどそれを続けると、彼女の目の前に黒い球体が現れた。
さらに、画面に表示されている商店街の路地に同じ色と大きさの球体が現れる。
 ロリガン
 彼女の能力は、『空間に穴を開ける』事。
ある程度鮮明なリアルタイムの画像が必要だが、条件さえあえば地球の裏側でも『穴』は開けられる。
 非常に便利な能力ではあるのだが―――
「あ、開きましたね」
「じゃ、言って来るデチ。七時には帰るから後よろしくデチ。じゃ」 

「…ぎゃあふさたんは一人残ってお留守番」
 誰もいなくなったオフィスで、フサが一人呟く。

―――便利すぎてSPMの下駄代わりに使われたりしていた。

749丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:33


 ぴんぽーん。
「はいはいはーい」
 浴衣の襟元を正し、ドアを開けた。
「御免下さい。茂名のご隠居はおいでですか?」
「えと、はい、いえ、おいでじゃないです」
 落ち着いた男性の声。丁寧な言葉遣いにつられて、変な返答をしてしまった。
「そうデチか。待たせてもらっても構わないデチね?」
 疑問形ではあるものの、返事も待たずに奥へとあがりこんでいく。
「え、あの、ちょっと…」
「申し訳御座いません。彼はあのような性分ですので。
 悪いことはさせませんので、許してやってください」
「はあ…」


 コポポポポポッ。
「粗茶デチね」
 無礼な『チーフ』をスコーンとひっぱたき、ジエンがお茶に口をつけた。
「さて…貴方がシュシュさんですか?…ああ、いや、失礼。私から名乗るのが礼儀ですね」
 名刺をしぃへ渡し、軽く頭を下げる。
「私はSPM財団の根日輪・ジャスティン・ジサクジエンと申します。
 茂名のご隠居から、貴方の戸籍を用意するようにと頼まれていました。
 丁度いいのでここで手続きをしてしまいましょう」
手渡された名刺に視線を落とす。
 『SPM財団』。政治だの経済だのがさっぱりな私でも知っている名前だ。
確かに『近いうちに戸籍も用意せんとなぁ』とは言っていたものの、こんな人たちと繋がりがあったなんて。
(茂名さんって…何者…?)
「シュシュさん?どうかいたしましたか?」
「あ、ごめんなさい!聞いてませんでした!」
「いえ、まだ何も申しておりません。…とりあえず、この書類に必要事項を記入して下さい。
 わからない事があれば私にお聞き下さい。お役所仕事なので、適当でも良いですよ」
「はい」
 渡された一枚の書類とペンを受け取り、かりかりと書き込む音が診療所の待合室に響いた。

750丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:35
「あの、私…苗字無いんですけど」
「適当に決めてしまいましょう。『ヒューポクライテ』で良いですね?
 『シュシュ・ヒューポクライテ』。うん。語呂もよろしいではないですか」
「はぁ…」


「年齢が…十四歳!?失礼ですがサバを読まれては…」
「無いみたいデチ。ホントに十四デチ」
 しぃが口を開くまえに、『チーフ』が口を挟んだ。
「…左様ですか。貴方がそう言うなら間違いは無いでしょう。
 しかし…大人びておられる。二十歳かそれ以上にも見えますね。」
「ありがとうございます」



「写真を撮らせて頂きます…あ、笑ってはいけません」
「そうなんですか?」
「無表情の方が照合しやすいのです。…はい、撮れましたよ」
ビッ、とカメラから写真を取り出す。
しぃの目の前に置かれる頃には、もう写真が浮き出ていた。
「わー、ポラロイドカメラって初めてー。ずいぶん早く出るんですね」
「…SPMの新型ですよ。うん」



「書けましたー」
「はい、確かに…それにしても遅いですね…ご隠居」
「…ジエン」―――さっきから、思念の動きが普通じゃない。マズいことになってるかも。
 耳ではなく、頭に直接響く声。『スタンド』を使った会話だ。
同じように、思念の声を返す。

―――場所は?解っておられるのですか?
―――商店街の路地裏。すぐフサに飛ばしてもらう。
―――了解。

751丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:36


「あの、どうかしましたか?」
 不自然に黙り込んだ二人に、しぃが訝しげな顔をした。
「いや、ちょっと迎えに行ってくるデチ。ちょっと待ってて欲しいデチ」
「では」
「え、あの、ちょっと…」
 いきなりドアをくぐる二人を追い、再びドアを開ける。
「って…あれ?」
 ドアノブにもわずかに体温がに残っているというのに、開け放たれたドアの向こうにはアリ一匹見あたらなかった。
「どう…なってるの…?」
…虐待された後遺症か何かで、幻覚でも見た…の、かな…?
 そういえば、思い当たる事はいくつかある。
マルミミ君のそばで針と糸が勝手に物凄いスピードで裁縫してたり。
お風呂で全裸の茂名さんがお湯の上に立ってたり。
 ぐっ、とまぶたの上から目を揉む。今度、茂名さんに相談してみようか。
「…疲れてるのかなー…」



 ととんっ、とジエンと『チーフ』がアスファルトに降り立った。
「現在地は?」
「さっき言った路地から四〇〇メートル。走るよ」
 デチデチ言う余裕もないのか、切羽詰まった表情で『チーフ』が言う。
この町に降り立ってからずっと感じていた、圧倒的な『思念』の群れ。
―――何なんだろう、この町は。普通の町は、こんなに嫌な思念に満ちていない。
     負の感情しか持ってないような、薄暗く醜悪な思念の群れ。
     それらが町中のそこかしこにあふれて溢れてあふれてあふれてあふれて
     ああ嫌だイヤだ厭だいやだイヤだ嫌だいヤダイヤだ―――――――

                     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「…『チーフ』。『副作用』ですか?思考が漏れています。
 少々辛いので押さえて頂けますか?」
「ああ、すまないね。つい」
「急ぎますよ。マルミミ君達が危ないのでしょう」
「了ー解」

752丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:38
 誰もいない路地裏で、茂名の舞踏は続く。
―――やはり、そうそう甘くはないか。
右腕を失ってもなお、思念の刃と<インコグニート>自身のスピード・パワー。
さらに、先程からの瞬間移動じみた動き。
素直に逃げれば良かったかと思いもするが、被害が広がるのが関の山だろう。
覚悟を決めるしかない。傷つく覚悟を、死ぬ覚悟を。
(じゃが…)
再び、構えを取る。
「犬死にはしてやらぬぞ。マルミミだけは…」
 呼吸を整え、体中をめぐる生命エネルギーに集中する。
「殺」
足の裏に波紋を集中、ビル壁に向けて飛ぶ。
「さ」
そのまま足の裏を壁に吸着、九〇度傾いた視界で<インコグニート>を見据える。
「せんっ!」
襲い来る<インコグニート>の刃を波紋糸で反らし、金銭瓢を投げつけた。
「無駄だ無駄だ無駄だ無駄無駄無駄無駄だァ!『死』の存在するこの世界にいる限り!お前は―――」
 投げつけた先から、<インコグニート>の姿が消える。
「私に勝つことはできない!」
 背後から声。圧倒的な殺意が膨れ上がり、脊髄に向けて放たれ―――
 ウォォオオオリャァァア
「WooOOORyaaA!!」
 マルミミの叫びと共に、僅かだが狙いをそらされた。
派手に脇腹を抉られたが、致命傷ではない。
 波紋で痛みと出血を食い止め、再び戦闘態勢をとる。
視線だけで後ろを向くと、マルミミが<インコグニート>の首を掴んでいた。
 吸血のために、マルミミの爪が緋色に染まる。

  どくんっ。

「馬鹿が。無駄だと言った筈だ!私は貴様一人で吸い尽くせる程甘くは無い!」
「ぐっ…うあああっ!」
 ばしばしと、突き刺さったマルミミの腕にいくつもの裂傷が刻まれる。
(何というエネルギー量じゃ…吸血鬼でも、負荷に耐えきておらぬ)
 壁に向けてはじき飛ばされ、コンクリートに激突した。
いけないと解っていても、茂名の視線がそちらに向けられる。
その瞬間を狙い、右から槍。
 糸を引き戻そうとするが、槍の方が早い。
止められない。襲い来る衝撃を覚悟し、筋肉に力を込め―――

753丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:42

  パァンッ!

 一発の銃声とともに、槍が砕かれた。
「そこまでだ」
 路地の入り口に、大口径の拳銃を構えて一人の少年が立っている。
「『チーフ』…」
「お待たせー。ボクが来たからにはもう大丈夫デチ!」―――逃げるよ。勝てそうにない。
 言葉とは裏腹の、スタンドの声。
マルミミと茂名が、静かにうなずく。
        タブー
―――僕の『禁忌』なら、時間稼ぎに向いてる。行くよ。

 <インコグニート>の姿が消える。次の瞬間、『チーフ』の背後に<インコグニート>が移動し―――その先に銃口があった。
発射音。<インコグニート>の顔に銃弾が命中し、頭を仰け反らせる。
 『チーフ』の肩越しに構えた拳銃が、硝煙をくゆらせていた。
「―――ッ!?」
 驚愕の気配が伝わってくる。           ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
見てから撃ったのではない。今のは明らかに、何も見ないまま発射していた。
「…貴様…只の餓鬼ではないな…?」
「えー?ボクは只のお子チャマデチよ♪」
 軽口を叩きながらも、茂名達の方へ拳銃を放る。
  タブー
「『禁忌』」

 『チーフ』の呟きに応え、彼のスタンドがフル稼働を始めた。


  スタンド名『タブー』、SPM危険度D評価。


―――僕のスタンドは弱い。ヴィジョンを形作ることもできないし、持続力だって五分程度。
     だけど、SPMでもっとも恐れられてるスタンドも―――

「僕の、『タブー』だ!」

 叫びと共に、右手の大型拳銃を発射。
五発の四五口径弾が、すべて<インコグニート>へ向かった。
 即座に<インコグニート>の周りに刃が形成され、茂名達の方へ向かってくる。

――― 一秒後に茂名さんの右上方、そのまた〇,五秒後にマルミミ君の下!

 スタンドの声を使っての指示。それに従い、二人が飛ぶ。

―――茂名さん、<インコグニート>前方七十センチに二発、マルミミ君は本体に向けて一発。

 指示通りに放たれた二人の銃弾が、刃と<インコグニート>本体を足止めした。
さらに、『チーフ』が即座に放った左手の9mm弾が<インコグニート>の腹部に命中する。
「無・駄・だ・と言ったはずだ!そんな豆鉄砲で『スタンド』を貫けるか!」
『チーフ』の首に<インコグニート>の手が伸びる。そのまま首を捕まれ、壁に押さえつけられた。
視界の端で、思念の槍が具現化を始める。
頭を砕こうと、形作った槍を頭に向けて打ち込み―――

754丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:43

―――今だ!

思念の槍が、『チーフ』の額の皮膚に触れるか触れないかと言ったところで、『チーフ』の姿が消えた。

「―――ク…逃がした…か」
口惜しげに<インコグニート>が呟き、思念の槍を消して荒い息を吐いた。
そのまま砕け散った右腕の根本を押さえ、ふらりとその場から歩み去る。
姿を消した後の路地裏を、再び静寂が支配した。




「…行きました…か」
 路地の両側にそびえ立つ、廃ビルの屋上。
ジエンが気配を殺し、ポラロイドカメラを手に座り込んでいた。
 けして、怖気付いて隠れていた訳ではない。
「『ジズ・ピクチャー』…」
 ビッ、とポラロイドカメラから写真を抜き取った。
引き出したばかりだというのに、印画紙にははっきりと上から見た『チーフ』の姿が写り込んでいる。
 ジエンが写真に触れると、印刷された面が沼のようにジエンの手首から先を飲み込んだ。
そのまま印画紙の中をまさぐり、手を引き抜く。

  ずぬるんっ。

 印刷面が水面のように揺らめき、印画紙の中から『チーフ』の体が出てきた。
「…ッぷはー…怖かったデチ。茂名さん達は?」
「既に『回収』しました」

 そういって、懐から取り出した二枚の写真をぴらぴらと振った。
それぞれ、上から見たアングルの茂名とマルミミが写っている。
 撮影したものを、写真内に封印する―――それが、ジエンのスタンド『ジズ・ピクチャー』の能力。
SPMの派遣員達に送る銃器なども、手続きをすっ飛ばして写真で送っている。

「茂名さん達は出してあげないんデチか?」
「二人とも重傷ですし、人目があります。診療所まで写真の中で我慢して頂きましょう」
「了ー解デチ。しっかし…本格的にエライ事になりそうデチね…」
 ふざけた口調、ふさげた声。
だが、その手にはしっとりと汗が握られていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

755丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:44
        ズゴゴゴゴゴゴゴ
           ∧ ∧    
          (,,・∀・)∧ ∧ ぎゃあいつでもどこでもやることは同じであって
       ((( (_っ立ミ,・∀・ミ   ふさたんの涅槃は煙を上げそうな激しさで蹂躙され

       ボクノ スタンドハ マダ秘密デチヨ

        ロリガン
スタンド名:『貴婦人』

本体名:G・Y・A・フサ

破壊力:C  スピード:C 射程距離:A
持続力:E 精密動作性:A 成長性:E

スレンダーな体型の女性型スタンド。
空間に穴を開け、瞬間移動のできる扉を作る。
穴を開けるためには、『ある程度鮮明なリアルタイムの映像』が必要。
条件さえ合えば、地球の裏側でも穴は開けられる。
便利な能力故に、SPMではタクシー代わりに使われている。

756丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:45
 (・∀・)ノ[◎]
     大変よろしゅう御座います。

スタンド名:『ジズ・ピクチャー』

本体名:N・J・ジサクジエン

破壊力:無  スピード:無  射程距離:E
持続力:A 精密動作性:無  成長性:E

ポラロイドカメラ型の実体化スタンド。
映した物を写真の中に封じ込めることが出来る。
ただし、ピンボケだったりはみ出したりしていた場合は無効。
封じ込めた物以外の部分は白くなって映らない。
写真内の物は誰でも自由に出し入れが可能。
普通のポラロイドカメラとしても使用可能。

757丸耳達のビート:2004/04/04(日) 16:46
    ∧∧
    (*゚ー゚)
    /  |
  〜(,,,_,,)

シュシュ・ヒューポクライテ

しぃ族の十四歳。
虐殺されそうになっていたところを、茂名とマルミミに助けられた。
助けられる前は娼婦で、色々と酷い扱いを受けていたらしい。
虐殺されかけた時の傷により、右耳は義耳。
苗字はジエンによって(適当に)命名。
由来は有名な某スレのあの人。
長身・巨乳・細い腰と、パッと見が二十歳に見えるようなモデル体型。
今作中一番JOJO体型かも。AAじゃわからない?気にしない。

ちなみに他キャラの擬人化身長設定は
マルミミ/155、茂名/160、しぃ/175となっている。

マルミミのコンセプトは単純にショタだが、しぃはちょっとひねって『年下でお姉さん』を目指してみたり。
趣味丸出し。ゴメンナサイ。              スペースリパースティンギーアイズ
ショタ×お姉様はガード不能なのです。タメ後の 空 烈 眼 刺 驚 なのです。

今作『丸耳達のビート』ヒロインなのだが、いかんせん影が薄い。

758ブック:2004/04/04(日) 16:51
 ぎをんしやうじやのかねのこゑ しよぎやうむじやうのひびきあり
 しやらさうじゆのはなのいろ しやうしやひつすゐのことわりをあらはす
 おごれるものもひさしからず ただはるのよのゆめのゆめのごとし
 たけきものもつひにはほろびぬ ひとへにかぜのまへのちりにおなじ

                         ―『平家物語・序文』―



     救い無き世界
     第五十八話・無常


 私達はギコえもんのお見舞いに来ていた。
「傷は大丈夫かょぅ、ギコえもん。」
 ギコえもんにそう声をかける。
 ふさしぃが林檎の皮を剥き、小耳モナーが花瓶に花を添えた。

「ああ、もう問題ねぇ。
 みぃの嬢ちゃんのお陰ですっかり治ったぜ。」
 ギコえもんが笑いながら力こぶをつくってみせる。
「そんな事より、そっちの方はどうなってる?」
 ギコえもんが私に尋ねた。

「…『大日本ブレイク党』で多数の人員を失逸たうえ、
 この前の『矢の男』との接触で、長官までが亡くなったょぅ。
 目だった混乱は起こっていないものの、
 SSSの内部機構はズタボロだょぅ……」
 私は拳を握りながら答えた。
 他の支部からも数名の応援は来ているものの、
 スタンド使いがそう何人も居る訳は無く、
 本当に申し訳程度といった人員しか補充出来ていない。
 現状は、半壊滅状態と言っても差し支え無かった。

「…上は上で、居なくなった長官の後釜の座を巡っての派閥争いに御執心よ。」
 ふさしぃがギコえもんに林檎をのせた皿を差し出した。
「ちっ…あの狸共が……!
 今がどんな事態か分かってんのか!?」
 ギコえもんが苛立たしげに林檎を口いっぱいに頬張る。

「『矢の男』…
 あの『アクトレイザー』とかいうスタンドは、
 まさに『神』の如き威圧感だったょぅ……」
 私は『アクトレイザー』と対峙した時の事を思い起こして、思わず身震いした。
 自分で言うのもなんだが、
 私はスタンド使いとしてはかなりの使い手に属すると思う。
 しかし、それでもあの時は指一本すら動かせなかった。
 『矢の男』を前に、何も出来なかったのだ。

「……」
 ふさしぃと小耳モナーも同じように思う所があるのか、私同様顔を曇らせた。

「おいおい、何暗い顔してんだよ!
 お前らがそんなんでどうする!?」
 私達の淀んだ空気を察知して、ギコえもんが何とか場を持ち直そうとした。
「…そうね、私達が沈んでちゃしょうがないわよね。」
「モナは誰にも負けないモナ!」
 それでようやく、ふさしぃと小耳モナーが表情を明るくする。

759ブック:2004/04/04(日) 16:51

「…しかし、実際の所どうするか、だ……」
 ギコえもんが呟く。
「『矢の男』…やはりあの絶対的な力に対抗出来るのは……」
 ふさしぃが口ごもった。

「…でぃ君、かょぅ。」
 私がふさしぃの代わりに言う。

「…確かに、あの時のでぃ君は『矢の男』と同じ位恐かったモナ。
 でも……」
 小耳モナーが言葉を濁す。

「同時に、俺達の最後の脅威でもある訳だな…」
 ギコえもんが重く口を開いた。

「やりきれないわね…世界の趨勢を左右するような力が、
 まだほんの子供に過ぎない彼に架せられるなんて……」
 ふさしぃが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「…『矢の男』に、何か行動はあったのか?」
 ギコえもんが私の方を見る。
「いや…
 今の所奴らからの接触等は無ぃょぅ。
 ただ、向こうもでぃ君に宿る力を軽視してはいない筈、
 必ず何かを仕掛けて来ると考えて間違い無ぃょぅ。」
 そう答えながら、私は皿から一つ林檎を失敬した。

「…私達に出来る事は、切り札である彼を守りきる事だけかもしれないわね。」
 ふさしぃが溜息を吐く。
「…不甲斐無ぃょぅ。」
 私は唇を噛んだ。



「…あいつは…タカラギコは……?」
 沈黙が続く中、ギコえもんがそれを破るように口を開いた。
「…私達で埋葬したょぅ。
 『矢の男』について知る事が出来たのは、彼のお陰だょぅ。」
 私は俯きながらギコえもんに告げた。

「…彼を許してあげて。
 彼は、あなたが無事だと聞いて、本当に嬉しそうだった……」
 ふさしぃがギコえもんを涙目になりながら見つめる。
 小耳モナーは、部屋の隅で声を押し殺して泣いていた。

「…あの、馬鹿野郎……!」
 ギコえもんが、窓の外を見つめながら呟く。
 その目の端には、一粒の雫が輝いていた。

760ブック:2004/04/04(日) 16:52



     ・     ・     ・



 SSSの敷地内の広場で、俺は壁に向いて佇んでいた。
「……」
 遊具の置いてある部屋から失敬してきたボールを手に取り、
 壁に向かって思い切り投げつける。
 ボールが壁に当たって、俺に向かって跳ね返ってきた。

 『終われ。』
 心の中でそう念じる。
 するとボールは一瞬にしてその勢いを失い、俺の目の前で地面と垂直に落下した。

「……!」
 精神力を急激に消耗し、その場に方膝をつく。
 たったあれだけで、ここまでの疲弊。
 およそ戦闘では乱発出来ない。


「……」
 いつまでも広場の真ん中で屈み込んでるのも変なので、
 俺は近くのベンチに腰掛けて体を休めた。

(理解したようだな、私の能力を…
 尤も、本来の力には足の先の爪程にも及ばぬが。)
 毎度同じく唐突に話しかけてくる『デビルワールド』。

(『終わり』。それが私の力だ。)
 そうかい、そりゃあ良かった。
 もう話しかけてくるな。

(そしてこの力で、世界に絶対の終焉をもたらす。)
 …それがお前の望みか。
 冗談じゃねぇ。
 そんな世界お前一人で行ってろ。

(…違うな。これは私の望みではない。)
 やかましい。
 だったら、誰の望みだって言うんだ。

(三百年前私の拠り代となった者達の…
 いや、この世界の森羅万象全ての望みとでも言おうか。)
 馬鹿な!
 そんなものを望むような気違いが、そうそうこの世に居て堪るか!

(いいや、望んでいるさ。無意識の内にな…)
 黙れ。
 よくもそんなでたらめを…

(お前は、生きたいか?)
 …?
 いきなり、何を聞くんだ?

(答えろ。生きていたいのか?)
 …自殺願望のある奴以外に、生きていたくないなんて考える奴が居るのかよ。

(そうだ。それがこの世界に存在するものとして当然だ。
 そして生きたいという事は、明日を望むという事。
 より素晴らしい、より尊い明日を望む事こそが、生の原動力。
 世界に固着しようとする存在力の全てだ。)
 何をそんな当たり前の事を、鬼の首でも取ったように言いやがる。

(…しかし、矛盾がそこには存在するとは思わないか。
 明日が来るという事は、人生の終わりに一歩近づくという事だ。)
 ……!

(この世に存在する万物は、等しく『終わり』を内包している。
 いや。もしかしたら終わると定められているからこそ、存在出来るのかもしれん。
 それは世界自体とて例外ではない。)
 何だ。
 貴様、何が言いたい…!

(故に私が生まれたとも考えられる。
 世界自体が内包する終焉の因子として『矢』により生み出された存在、それが私だ。)
 なら…お前は自分が世界の敵だとでも言いたいのか!?

(半分だけ正解だ。
 私は世界の敵であると同時に、世界の最も親しい隣人でもあるのだよ。)
 黙れ!
 何を訳の分からない事を…!

(まあいい。いずれ分かるさ…
 それより、お客様だぞ。)
 『デビルワールド』がせせら笑う。
 俺はそれでようやく、後ろから近づく気配に気がついた。

761ブック:2004/04/04(日) 16:53

「でぃさん、ここで何をしてるんですか?」
 みぃか。
 お前こそ何しに来たんだ?

『別に、何も。』
 俺はぶっきらぼうにホワイトボードに書き殴る。

「隣、いいですか…?」
 みぃは遠慮がちにそう尋ねた。
 俺は頷く事で答える。
 みぃは五センチ程の間を開けて、俺の右隣に座った。

「……」
「……」
 無言のまま時間だけが流れる。
 …どうにも落ち着かない。

(仲良き事は美しきかな…か。いや、実に結構。)
 喋るな、『デビルワールド』。
 出歯亀とは趣味が悪いぞ。

(言い忘れていたが、私はその気になれば一分位ならば
 お前の体を完全に支配下に置くことが出来る。)
 だから、何だってんだ。

(無論こんな短時間では、出来る事などかなり限定されるが…
 それでも多少の事は可能だ。)
 …何が言いたい。

(例えば…そう、近くの者一人を殺すなど、
 充分過ぎる時間だとは思わないかな?)
 ……!!
 手前、みぃに手を出してみやがれ!
 地獄まで貴様を道連れにしてやるからな!!

(冗談だよ…そうカッカするな。
 『矢の男』を討つには、間違い無く私の力が必要になるのだぞ?
 それまでは仲良くしようじゃないか。)
 黙れ!
 消えろ!
 消えろ…!!


「…?どうしたんですか?」
 みぃの声が俺を現実に引き戻した。
 『デビルワールド』の声は、もう聞こえない。

『何でも無い…』
 俺はそう返すのがやっとだった。



     ・     ・     ・



「体の具合はどうですか…?」
 従者の一人が椅子に座る『矢の男』に尋ねた。

「まあまあと言った所ですね、ギコエル…
 流石にこれ程の力となると、馴染むのにも時間が掛かる。」
 『矢の男』が気だるそうに答える。

「トラギコはどうしています?」
 『矢の男』が従者に聞く。
「でぃに受けた傷が思ったより深く、治療に専念しています。
 全く、あの役立たずめ…」
 従者が忌々しそうに言った。
「まあまあいいじゃないですか。
 今の内くらいゆっくり休ませてあげなさい。」
 『矢の男』がそれをとりなした。

「あのでぃは如何いたしましょうか?」
 従者が『矢の男』の顔を見た。

「私の『アクトレイザー』が完全に覚醒すれば、敵ではありませんが…
 それにはもう少し時間が必要だ。
 『アクトレイザー』と『デビルワールド』は言わば裏と表、光と影。
 互いに呼び合い、引かれ合う…
 私が『デビルワールド』の場所を感覚で感じるように、
 向こうも私を感じている筈です。
 今攻め込まれては厄介ですね…」
 『矢の男』は考え込むと、おもむろに顔を上げた。

「モナエル、しぃエル、モララエル。」
 『矢の男』がそう名前を呼ぶと、その場に残りの従者達が姿を現した。
「お呼びでしょうか…?」
 従者達が『矢の男』の前に傅く。

「話は聞きましたね。
 そこでお願いがあるのです。
 私の力が完成するまで、でぃとSSSを足止めして欲しいのですが。」
 『矢の男』が従者達を見渡して言った。

「…それならば、まずは私が参りましょう。」
 従者の一人が立ち上がり、『矢の男』の前に進み出る。

「モナエルですか…
 すみませんが、それではよろしくお願いしますよ。」
 『矢の男』がモナエルの方を向いた。

「必ずやご期待に答えて御覧にいれましょう。
 この私の『アーガス』で…!」
 モナエルの背後に、無数の羽虫が出現した。



     TO BE CONTINUED…

762ブック:2004/04/05(月) 22:52
     救い無き世界
     第五十九話・STAND ALONE COMPLEX 〜その一〜


 モナエルはSSSの前で足を止めた。
「……」
 モナエルはしばし立ち止まり、SSSの全景を見渡す。
(焦りは死を招く…
 一人一人、ゆっくりと確実に始末してくれる。)
 モナエルは彼のスタンドを発動させた。
 無数の羽虫が、彼の体を包む。
 そして暫くの後彼の体から羽虫が離れ、
 彼はSSSの正面玄関から堂々と内部へと侵入した。
 しかしその突然の来訪者に、SSSの職員の目は全く向けられない。

(…私の『アーガス』は、全くと言っていいほど物理的破壊力は無い。)
 モナエルがSSSの廊下を我が物顔で闊歩する。
 SSSの職員達はそんな彼を気にも留めない。
 と、モナエルの正面から男の職員が歩いてきた。
 しかし、モナエルはそれを避けようともせずに直進した。

(しかし人が殺せないかと問われれば、答えは否だ。)
 モナエルと男がぶつかるその瞬間、モナエルの体が男の体をすり抜けた。
 男はその事には微塵も気がついていない様子で歩き去った。

(人の死とは、肉体の死のみでは無い事を、とくと教えてやろう。
 先ずは、SSSの主戦力たる特務A班から抹殺してくれる。)
 モナエルはきょろきょろと辺りを見回しながら、廊下を歩いていった。
 そこへ、一人の男の姿が目に飛び込んでくる。

(見つけたぞ…
 最初の生贄はお前だ……!)
 モナエルの背後に、羽虫の姿が現れた。



     ・     ・     ・



 僕は娯楽室のテレビで『笑っていいかも』を見ていた。
 今がとても大変な状況である事は分かっているが、
 こういう時こそ息抜きを忘れたくは無い。

「……」
 しかし、矢張り素直には楽しむ事は出来ない。
 どうしても暗い考えばかりが頭をよぎる。
 今にも、取り返しのつかない事が起こってしまうかもしれない…と。

「…もうテレビはやめるモナ。」
 僕はテレビの電源をきってソファを立った。
 やっぱり仕事でもして気分を紛らわ―――

「?」
 と、背中に僅かに蚊にさされたような感覚が走った。
 何だ?
 虫か?
 思わず後ろを振り返る。

「!!!!!!!!」
 僕は目を見開いた。
 後ろには、夥しい程の数の虫が飛び交っていた。

「おわあ!!!!!」
 情けない悲鳴を上げて、娯楽室から飛び出る。
 何だ、こいつら!?
 部屋に入った時には居なかった筈だ!
 まさか、スタンド能力!?

763ブック:2004/04/05(月) 22:53

「!!!!!!」
 と、廊下の角を曲がった所で誰かにぶつかった。
 その衝撃でその場に尻餅をついて倒れる。

「いたたたた…
 誰?気をつけなさいよ!」
 ぶつかった相手はふさしぃだった。
 良かった、ここはふさしぃに協力をしてもらおう。

「ふさしぃ、大変モナ!
 SSSの中にスタンド使いが潜入しているかもしれないモナ!」
 僕は早口でふさしぃに告げた。
 しかし、ふさしぃは何故か呆然としたような顔をしている。

「…あなた、誰?」
 ふさしぃが僕の顔を見ながら言った。

 …?
 僕はその思いがけない質問に思わず硬直する。

「…ふさしぃ、何を言ってるモナ?
 僕は小耳モナーモナよ。
 忘れたモナか!?」
 ふさしぃはいきなり何を言い出すのだろう。
 今は冗談を言ってる場合では無いというのに。

「小耳モナー?知らないわ。
 それより、あなたどうやってここに入って来たの?」
 ふさしぃが僕に尋ねる。

 待ってくれ。
 いくら何でも悪ふざけが過ぎるぞ、ふさしぃ。
 僕は君の同僚の小耳モナーだ。
 まさか記憶喪失にでもなったのか!?

「!!!!!!!」
 と、僕の後ろからぶんぶんという虫の羽ばたく音が聞こえてきた。
 振り返ると、虫が今にも僕に襲いかかろうとしている。

「うわあ!!!」
 僕は地面に伏せて何とか虫をかわした。
 糞。
 何なんだ、この虫は!

「あなた、何してるの?」
 ふさしぃが怪訝そうな顔をする。
「何言ってるモナ!
 あの虫が恐くないモナか!?」
 僕は虫を指差して叫んだ。

「…虫?
 そんなものがどこに居るというの?
 あなた、おかしいわよ?」
 …!?
 ふさしぃには、あの虫が見えていない!?

「くっ!」
 再び虫が僕に襲い掛かる。
「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 僕はスタンドを発動させ、『アルナム』に何とか虫を払わせた。
 しかし、いかんせん数が多過ぎる。
 のれんに腕押しといった所だ。

764ブック:2004/04/05(月) 22:53

「…!!
 あなた…!!」
 ふさしぃが顔を強張らせた。
 良かった、やっと僕を思い出して―――

「『矢の男』のスタンド使いね!
 どうやってここまで侵入したのかは知らないけど、
 ここで会ったが運の尽きよ!!」
 ふさしぃが『キングスナイト』を発動させ、僕に向かって来た。

「違うモナ!
 僕はふさしぃの友達モナ!」
 僕は必死に否定する。

「何を訳の分からない事を!
 私のSSSでの友達はぃょぅとギコえもんとタカラギコよ!
 あなたなんか知らないわ!!」
 『キングスナイト』の剣が僕の頬のすぐ傍を横切った。
 咄嗟にかわさなかったら間違いなく死んでいただろう。

「ふさしぃ!
 待ってくれモナ、モナは―――」
「言い訳ならベッドの上で聞きましょうか!?」
 ふさしぃが追撃をしかける。
 寸前でかわす。
 駄目だ、説得は出来そうに無い。

「ふさしぃ、何があったょぅ?」
 そこにぃょぅがやってきた。
 チャンスだ、ぃょぅにふさしぃを止めてもらおう!

「ぃょぅ、手伝って!
 侵入者よ!」
 ふさしぃが叫ぶ。
 頼む、ぃょぅ。
 ふさしぃがさっきからおかしいんだ。
 ガツンと言ってやってくれ…

「怪しい奴、何者だょぅ!?」
 しかし僕の望みとは間逆に、ぃょぅまでが僕に敵意を剥き出しにした。
 ぃょぅの体から『ザナドゥ』の姿が浮き出てくる。

「モ、モナーーーーーー!!!!!」
 僕は後ろを向いて駆け出した。
 おかしい。
 絶対におかしい。

765ブック:2004/04/05(月) 22:54

「待ちなさい!!」
「待つょぅ!!」
 ふさしぃとぃょぅが、鬼の形相で僕を追いかけてくる。

「小耳の親分!
 あっしの背中に!!」
 と、『ファング・オブ・アルナム』が僕の横に駆け寄って来た。
 すぐさまその背中に乗る。
 良かった。
 どうやら僕のスタンドである『アルナム』だけは、
 僕を忘れていないらしい。

「誰か!!
 早く来て!!
 侵入者よ!!!」
 ふさしぃが叫んだ。
 ヤバい。
 このままSSSの中に居ては、すぐに追い詰められてしまう!

「小耳の親分、少しばかり無茶しますぜ!!」
 『ファング・オブ・アルナム』が加速する。
 そしてそのまま窓に向かって跳躍し―――


「!!!!!!!!」
 窓ガラスが乾いた音を立てて砕け散る。
 三階の高さから、『ファング・オブ・アルナム』はSSSの外へと飛び出した。
 そして四本足で華麗に着地する。

「取り合えずここから離れますぜ!」
 『ファング・オブ・アルナム』が大地を蹴る。
 SSSの姿は、瞬く間に小さくなっていった。


 何だ。
 一体何が起こった。
 何故皆が僕を忘れてしまったのだ?

 …!!
 まさか、あの虫のスタンドの能力がそれか!?
 いや、やはりそれしか考えられない。
 あの虫に刺されたのが、直接の原因だ。

「…くっ。」
 僕は歯を喰いしばった。
 何とかしてあのスタンドをやっつけなくては。
 でないとSSSに戻れないどころか、さっきのでお尋ね者にされてしまう。

「誰だか知らないけどやってやるモナ。
 モナをあまり甘く見ない事モナね…!」
 僕は誰とも知らない敵に向かって呟いた。



     TO BE CONTINUED…

766ブック:2004/04/06(火) 17:27
     救い無き世界
     第六十話・STAND ALONE COMPLEX 〜その二〜


「さてと…」
 僕はそのコンビニの前に立ち止まって考えた。
 意気込んだはいいが、どうする?
 SSSにはおいそれとは戻れない。
 かといって、このまま逃げる訳にもいかない。
 このままぃょぅ達の元から離れる事は、
 事実上『矢の男』との闘いから戦闘不能(リタイヤ)になるも同然だし、
 僕が逃げたと悟ったならば敵は別の人に狙いを移すだろう。
 他の人までが敵の能力に攻撃されたらかなりまずい。
 機動力のある『ファング・オブ・アルナム』だからこそ、
 僕は何とか逃げ延びる事が出来たが、ギコえもんやふさしぃではそうはいかない。
 下手をしなくとも、同士討ちになってしまう可能性が高い。

「…やっぱり、行くしか無いモナか……」
 僕はSSSの方向を向きなおした。
 そうだ。まだ望みが絶たれた訳ではない。
 さっきはいきなりだった為に、ふさしぃ達も驚いて僕に攻撃したのだろう。
 僕の事を忘れているとはいえ、ちゃんと話せば分かってくれるかも…


「……!」
 しかし、SSSにある程度近づいた所で僕のそんな甘い考えは儚くも打ち砕かれた。
 僕の目の前に先程と同じ無数の虫達が立ちはだかる。

 …よく考えたら当然か。
 敵は僕に自分の能力を見せているのだ。
 僕を易々と見逃す訳が無い。
 僕がさっきみたいな事を考えて近い内にSSSに戻ってくると読んで、
 待ち伏せをしてるかもしれない事位、少し考えれば分かるじゃないか。

「!!!!!!!!」
 虫が僕に向かって飛び掛かる。
「『ファング・オブ・アルナム』!!」
 スタンドを発動。
 『アルナム』が虫の影を引き裂き、虫の何匹かを破壊する。
 しかし、虫は少しも怯んだ様子を見せない。
 やはりこいつらは群体型スタンド。
 少々の数を倒した所でダメージにはならない…!

「うああああああーーーーー!!!」
 虫が僕の体に襲い掛かった。
 虫達は僕の体にその針を突き刺す。
 しかし、最初こいつらに攻撃を喰らった時と同様、
 ダメージは殆ど無かった。

「くう!!」
 両腕で虫を振り払おうとするが、全く追いつかない。
 相変わらずダメージは無いに等しいが、この攻撃を喰い続けるのは得策ではない。

 いや、そんな事よりも。
 探せ。
 このスタンドの本体を。
 さっきからこの虫は僕だけに集中して攻撃をしかけている。
 だから多分このスタンドは自動操縦型ではない。
 自動操縦型ならば、もっと周りの人間にも無差別に襲い掛かる筈だ。
 だからこのスタンドは恐らく遠隔操作型だ。
 ならば、敵の本体は必ずどこかから僕の事を観察している…!

「小耳の親分!!」
 『ファング・オブ・アルナム』が僕の服を口に咥えて、
 僕を虫の大群の中から強引に救い出した。
 『ファング・オブ・アルナム』が走り去る後を、虫達が追いかけて来る。
 が、何とか『ファング・オブ・アルナム』は虫を引き離した。

767ブック:2004/04/06(火) 17:28



「…死ぬかと思ったモナ。」
 虫達が後に居ない事を確認して、僕は安堵の溜息を吐いた。
 糞、やっかいなスタンドだ。
 ぃょぅならば『ザナドゥ』の風で一網打尽にする事が出来るだろうが、
 単一目標にしか攻撃出来ない僕の『アルナム』では分が悪過ぎる。
 しかし、奴は僕を一体どうするつもりなのだ?
 先程虫に襲われたが、あれで人を殺せるとは思えない。
 奴は僕を始末する気がないのか?

「『アルナム』、怪しい人は居たモナか…?」
 僕は隣の『アルナム』に尋ねた。
「…申し訳ありやせん。
 なにぶん周りには大勢の人が居る所為で、本体を特定する事は……」
 『アルナム』は横に首を振る。

「…仕方無いモナ。
 でも、敵はまだモナ達を狙っているという事モナ。
 闘い続けていればチャンスは必ず来る筈だモナ。」
 僕は無理矢理明るい声で言った。

 しかし、実際どうやって敵の本体を見つけよう。
 人気の無い所まで誘い込むか?
 いや、駄目だ。
 敵にしてみれば、僕に本体を特定される事がそのまま敗北に繋がるのだ。
 そんな見え透いた手に引っかかるとは思えない。

 やはり一か八かSSSに行ってぃょぅ達にこの事を説明して
 何とか僕を信用して貰うしか…


「!!!」
 と、考え事に夢中になってしまっていた為に、
 通行人の男性にぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさいモナ。」
 僕はぶつかってしまった男の人に軽く会釈して侘びをする。

「……?」
 しかし、ぶつかった人は何故か素っ頓狂な顔をして考え込んだ。

「…おかしいな。何もない所で何かにぶつかったぞ…?」
 ……?
 この人は、何を言っている!?
 僕にぶつかったのが分からないのか!?

「あの、すみませんモナ。
 謝ってるのが分かるモナか?」
 恐る恐る男性に尋ねる。

「…?何だ?幻聴か?
 最近疲れてるのかな……」
 そのまま男は僕を無視して過ぎ去って行ってしまった。

 まさか、
 『僕が居る事を、周りの人が認識しなくなってしまっている』!?


「……!!」
 僕はあわてて携帯電話を取り出して、ぃょぅに電話をかけた。
 ヤバい。
 何かよく分からないが、とにかくヤバい。
 何とかぃょぅ達を説得して助けを…

「はい、もしもし。ぃょぅだょぅ。」
 ぃょぅが電話に出た。
「もしもし!ぃょぅモナか!?
 モナは小耳モナーというモナ!
 どうか助けて欲しいモナ!!」
 僕は受話器に向かって叫んだ。

「…もしもし?もしもーし。」
 しかし、ぃょぅは僕のその問いかけには答えない。
「ぃょぅ!何をやってるモナ!!
 悪ふざけしてないで助けてくれモナ!!!」
 僕は藁にも縋る思い出訴える。

「…何だょぅ。
 無言電話かょぅ……」
 そう言ってぃょぅは電話を切ってしまった。

「……!!!!!」
 これが敵の攻撃か……!
 恐ろしい。
 何て恐ろしい能力だ。
 パワーは無いが、目標を社会的に確実に抹殺する…!

768ブック:2004/04/06(火) 17:28


「『アルナム』!!!」
 僕はアルナムの背に跨り、SSSへと向かった。

 伝えなければ。
 何とかしてこの敵の能力を皆に伝えなければ。
 この能力は、凄まじく危険過ぎる。
 このままでは間違いなく一人ずつ消されていってしまう。

 そして、分かった。
 敵がどのようにしてSSSに乗り込んで僕に攻撃したか。
 敵は自分にこの能力を使い、周囲の者に自分を認識させない事で、
 周りの者に見つかる事無く侵入してきたのだ。
 だが、同時にそれは僕にとっても勝算でもある。
 虫の針で刺されてから、僕はあの虫が見えるようになった。
 つまり、僕は今敵と同じ状態になっているのである。
 そして、敵は『居ないも同然になっている』筈の僕を認識して攻撃してきた。
 逆を言えば、僕にも敵が見えるという事だ…!


「!!!!!」
 またもやSSSに近づいた所で虫の群れが待ち構えていた。
 だが、もう逃げない。
 針にさされる事を覚悟で正面から突っ切る。

「くっ!!!」
 体に突き立てられる針。
 肉体的にダメージは無い。

(そういえば、この針を喰らい続けたら一体どうなるんだろう?)
 僕は不意にそんな事を考えた。
 そして、その答えはすぐに知る事になった。

 『ファング・オブ・アルナム』の前に、人が飛び出してくる。
 スピードがついている為避けきれない。

(ぶつかる…!)
 そう思った瞬間、信じられない事が起こった。
 僕の体が、『その人の体をすり抜けた』のだ。

「……!!
 どうやら、もう少しで本物の幽霊になってしまうみたいモナね…」
 僕の背筋を冷や汗が流れた。



     TO BE CONTINUED…

769ブック:2004/04/08(木) 22:16
     救い無き世界
     第六十一話・STAND ALONE COMPLEX 〜その三〜


 『ファング・オブ・アルナム』の背に乗ってSSSの中へと飛び込む。
 しかし誰も僕に振り向きもしない。
 すでに他の人にとっては、僕は道端の石ころも同然なのだろう。

「走れ、『アルナム』!!」
 人の体をすり抜けながら、風のように廊下を駆け抜ける。

 もしこれ以上、あの虫から攻撃を受けたらどうなってしまうのだろう?
 もう僕は、他の人に気づかれないどころか干渉する事すら出来ない。
 客観的には死んでいるも同然だ。
 まさか、このまま敵の能力を喰らい続けたら、
 本当にこの世から消滅してしまうとでもいうのか!?

「……!」
 僕はぃょぅ達の元へと急いだ。
 早く、早く皆にこの敵の事を伝えなければ…!


「居たモナ…!」
 僕は特務A班の部屋でようやくぃょぅを見つけた。
「ぃょぅ!」
 僕はぃょぅの肩を掴もうととした。
 しかし、やはりその手には何の手応えも無しにぃょぅの体をすり抜ける。

「…それなら。」
 僕は近くにあったサインペンを手に取った。
 そして近くにあった紙に『助けてくれ 小耳モナー』と書いて、
 ぃょぅの前に突きつけた。
 これなら、もしかしたら気づいてくれるかもしれない。

「……」
 しかし、ぃょぅはそれにすら全く反応を示さなかった。
 僕が必死に紙を指差そうとも、目の前の紙など無いかのように振る舞い続ける。

「糞!」
 僕は今度はゴミ箱を持ち上げて、それをぃょぅに向かって投げつけた。
 僕が直接ぃょぅに触れる事が出来なくとも、これなら…

「!!!!!!」
 しかし、そんな望みも空しくゴミ箱はぃょぅの体をすり抜けた。

 …!
 何てことだ。
 最早、僕の行動は全て他の人にとって無い事にされているのか!?

「……?
 誰だょぅ、ゴミ箱を転がしたままにしてるのは…」
 ぃょぅが、ぶつぶつと文句を言いながら倒れたゴミ箱を片付け始める。

 駄目だ、やはりもうぃょぅ達とはコミュニケーションが取れない。
 やはり、敵を倒すしか現状を脱出する術は無いのか…!?


「!!!!!」
 と、僕の耳に聞き覚えのある低く唸る様な音が入ってきた。
 すぐさま振り返る。
 そこには、大量の虫達が僕のすぐ傍まで迫っていた。

「うわあああああああああ!!!」
 僕は急いで『ファング・オブ・アルナム』に跨った。
 具体的にどうなるかは分からないが、
 これ以上あの虫から攻撃を喰らうのはとてつもなくヤバい気がする。
 何としてでも逃げなければ…!

「くっ!」
 『ファング・オブ・アルナム』が虫を掻い潜るように駆ける。
 しかし、部屋の中という動きにくく閉鎖された空間の為、
 全ての虫は避けきれずに何箇所か針で刺される。

「うおおおおおおおおお!!!」
 僕と『アルナム』は、虫に追い立てられる形でSSSを飛び出した。

770ブック:2004/04/08(木) 22:17
     救い無き世界
     第六十一話・STAND ALONE COMPLEX 〜その三〜


 『ファング・オブ・アルナム』の背に乗ってSSSの中へと飛び込む。
 しかし誰も僕に振り向きもしない。
 すでに他の人にとっては、僕は道端の石ころも同然なのだろう。

「走れ、『アルナム』!!」
 人の体をすり抜けながら、風のように廊下を駆け抜ける。

 もしこれ以上、あの虫から攻撃を受けたらどうなってしまうのだろう?
 もう僕は、他の人に気づかれないどころか干渉する事すら出来ない。
 客観的には死んでいるも同然だ。
 まさか、このまま敵の能力を喰らい続けたら、
 本当にこの世から消滅してしまうとでもいうのか!?

「……!」
 僕はぃょぅ達の元へと急いだ。
 早く、早く皆にこの敵の事を伝えなければ…!


「居たモナ…!」
 僕は特務A班の部屋でようやくぃょぅを見つけた。
「ぃょぅ!」
 僕はぃょぅの肩を掴もうととした。
 しかし、やはりその手には何の手応えも無しにぃょぅの体をすり抜ける。

「…それなら。」
 僕は近くにあったサインペンを手に取った。
 そして近くにあった紙に『助けてくれ 小耳モナー』と書いて、
 ぃょぅの前に突きつけた。
 これなら、もしかしたら気づいてくれるかもしれない。

「……」
 しかし、ぃょぅはそれにすら全く反応を示さなかった。
 僕が必死に紙を指差そうとも、目の前の紙など無いかのように振る舞い続ける。

「糞!」
 僕は今度はゴミ箱を持ち上げて、それをぃょぅに向かって投げつけた。
 僕が直接ぃょぅに触れる事が出来なくとも、これなら…

「!!!!!!」
 しかし、そんな望みも空しくゴミ箱はぃょぅの体をすり抜けた。

 …!
 何てことだ。
 最早、僕の行動は全て他の人にとって無い事にされているのか!?

「……?
 誰だょぅ、ゴミ箱を転がしたままにしてるのは…」
 ぃょぅが、ぶつぶつと文句を言いながら倒れたゴミ箱を片付け始める。

 駄目だ、やはりもうぃょぅ達とはコミュニケーションが取れない。
 やはり、敵を倒すしか現状を脱出する術は無いのか…!?


「!!!!!」
 と、僕の耳に聞き覚えのある低く唸る様な音が入ってきた。
 すぐさま振り返る。
 そこには、大量の虫達が僕のすぐ傍まで迫っていた。

「うわあああああああああ!!!」
 僕は急いで『ファング・オブ・アルナム』に跨った。
 具体的にどうなるかは分からないが、
 これ以上あの虫から攻撃を喰らうのはとてつもなくヤバい気がする。
 何としてでも逃げなければ…!

「くっ!」
 『ファング・オブ・アルナム』が虫を掻い潜るように駆ける。
 しかし、部屋の中という動きにくく閉鎖された空間の為、
 全ての虫は避けきれずに何箇所か針で刺される。

「うおおおおおおおおお!!!」
 僕と『アルナム』は、虫に追い立てられる形でSSSを飛び出した。

771ブック:2004/04/08(木) 22:17



     ・     ・     ・



 小耳モナーと、奴のスタンドである狼が外へと逃げていくのを、
 モナエルは缶コーヒーを飲みながらゆっくりと観察していた。

(ふむ…消し去る前に逃がしてしまったか。
 だが、いい。
 もう既に奴は私を倒すより他に手立ては無い事には気づいているだろう。
 だから、奴は再びここに戻ってくる。
 もし戻ってこなくとも、それはそれで構わない。
 止めは刺せないが、小耳モナーをリタイヤさせたも同然だ。
 それならば私は別の標的を狙うまでの事よ…)
 モナエルは缶コーヒーを飲み干し、空き缶を廊下に投げ捨てた。
 そしてSSSを出て、他の通行人に紛れながら小耳モナーを待ち構える。

「…来たか。」
 数分後、モナエルが小耳モナーの姿を確認した。
(…?あの狼はどうした?)
 モナエルが、小耳モナーの傍に『ファング・オブ・アルナム』が居ないのに気づいて
 首を傾げる。
(ふん…狼に本体である私を探させようとしているのか。無駄な事を…
 ここに何人の人間が居ると思っているのだ?
 その中から私をピンポイントで見つけるなど、不可能よ…)
 モナエルが『アーガス』を小耳モナーへと向かわせる。

(くくく…もう奴の体は、同じように他人の認識から消え去っている私が見ても、
 ぼんやりと消えかかっている。
 完全に存在を消し去るまであと一歩…
 次で確実に仕留めてくれる…!)
 『アーガス』小耳モナーに襲い掛かる。
 小耳モナーは必死に抵抗するも、流石に数が多過ぎる。
「うわあああああああああ!!!」
 小耳モナーが悲鳴を上げながら、虫から何とか逃れようと車道に飛び出る。
 そして―――


「!!!!!!!!!!」
 トラックが小耳モナーを跳ね飛ばした。

「んあ?猫でも引いたか?」
 しかしトラックの運転手は気にも留める事無くそのまま走り去る。
 小耳モナーはガードレールに叩きつけられ、死んだようにうずくまる。
 モナエルが、そんな小耳モナーを冷ややかに見つめる。

(愚かな…
 しかし困ったな。
 『アーガス』で止めを刺さなければ、SSSが小耳モナーに気づいてしまう。
 まあ、いい。
 予定より人数は少なくなるが、連中が小耳モナーの死に気がつく前に
 あと二・三人消し去って…)
「!!!!!」
 突如脚に走った痛みが、モナエルの思考を中断させた。
 モナエルがその場に崩れ落ちる。

「―――な!?」
 モナエルが驚愕の表情を浮かべた。
 そしてその彼の前に、一匹の狼が立ちはだかる。

「お前さん…今、小耳の親分の事を見つめていただろ。」
 狼がゆっくりと口を開く。
「…小耳の親分は誰も気にも留めない筈なのに、
 お前さんは小耳の親分が交通事故に合ったのを見ていた。
 いや、見なければならなかった。
 ちゃんと仕留めたかどうか確認する為にな…!」
 『ファング・オブ・アルナム』がモナエルににじり寄る。
「そして、お前さんの体からはアドレナリンの匂いがしたんだよ…
 人が興奮したりした時に分泌される化学物質の匂いが、
 特に激しい運動をしている訳でも、誰かと喧嘩をしている訳でもない
 お前さんの体から!
 それは何故か!?
 小耳の親分を倒したと思って精神が昂ぶったからだ!!」
 『ファング・オブ・アルナム』がじりじりとモナエルとの距離を詰める。

「そして、お前さんが小耳の親分を認識しているという事は、
 こちらからもお前に干渉出来るという事だ!!」
 『ファング・オブ・アルナム』がモナエルに飛び掛かった。
「『アーガス』!!
 あいつに早く止めを―――」
 その台詞は最後まで発せられなかった。
 『ファング・オブ・アルナム』がモナエルの喉笛を食い千切る。
「―――が――ひゅー―――」
 首から鮮血を撒き散らし、モナエルはそこへ倒れ付す。
 アスファルトの地面に血が滲み、モナエルはそれきり動かなくなった。

772ブック:2004/04/08(木) 22:18



     ・     ・     ・



「お、おい見ろあそこ!
 人が倒れてるぞ!?」
「きゃあああああ!!あそこにも人が!!!」
 道端から悲鳴が聞こえてくる。
 良かった…
 どうやら、敵の能力が解除されたみたいだ。

「小耳の親分!」
 『ファング・オブ・アルナム』が僕の傍に駆け寄ってくる。
「…ああ、『アルナム』。
 上手くやってくれたみたいモナね。
 お前が自動操縦型で、本当に助かったモナ…」
 全身が激しく痛むが、僕は何とか『アルナム』の頭を撫でてやった。

「親分、大丈夫でやんすか!?」
 『ファング・オブ・アルナム』が心配そうに僕の顔を舐める。
「…かなりヤバいモナ……
 敵を発見する為とはいえ、あんな危険な事するんじゃなかったモナ…」
 咳き込むと、口から血が溢れてくる。
 まずいな…
 はやくみぃちゃんのスタンドで治してもらわないと…

「……」
 僕はポケットから携帯電話を取り出した。
 幸いにも、衝突した時に壊れてはいなかったようだ。
 体中の力を振り絞って、ぃょぅに電話をかける。

「もしもし、ぃょぅだょぅ。」
 四コールでぃょぅが電話に出た。
「…ぃょぅ、ちょっと助けに来て欲しいモナ。」
 息も絶え絶えに、ぃょぅにそう告げる。

「小耳モナー!
 どうしたょぅ!?何があったんだょぅ!?」
 電話口からぃょぅががなり立てた。
 ようやく、僕の事を思い出してくれたようだ。
 僕の心に安心感が宿る。

 …ああ、忘れる所だった。
 これだけは、ぃょぅに伝えておかないと。
「…後で覚えてるモナ。」
 敵の能力の所為とはいえ僕を無視し続けたぃょぅに、
 僕は精一杯の恨み言をぶつけるのだった。


     TO BE CONTINUED…

773:2004/04/08(木) 23:35

「―― モナーの愉快な冒険 ――   灰と生者と聖餐の夜・その5」



          @          @          @



「バルバルバルバルバル!!」
 つーは、素早く突進した。
 そのまま、眼前に立つ『支配者』の体を斬り裂く。
 上半身と下半身が分かれた『支配者』が、地面に横たわった。
 数人の『支配者』は、その亡骸を見下ろす。
 サングラスが、彼の表情を遮断していた。

「…いかなる強者といえど、物量の前には屈服を余儀なくされる」
 無表情で『支配者』は告げた。
 つーの息は荒い。
 いかに『BAOH』といえど、無尽蔵に体力がある訳ではない。

 左右から挟みこむように、2人の『支配者』がつーの両腕を押さえつけた。
「コノッ…!!」
 つーの眼前に並んでいた『支配者』が、一斉に懐からデザートイーグルを抜く。
 そして、銃口をつーに向けた。

「バルッ!!」
 つーは『BAOH BREAK DARK THUNDER PHENOMENON』を放った。
 『BAOH』による生体放電現象。
 それが、つーを押さえ付けている2人の『支配者』に直撃した。
 全身を焦がし、地面に膝をついて倒れる2人。

 同時に、『支配者』達は一斉に引き金を引いた。
「バルバルバルバルバル!!」
 飛来する幾多もの銃弾を、爪で弾き飛ばすつー。
 そのまま、眼前の『支配者』4人を撫で斬りにする。

「数が減ってきたな…」
 『支配者』は呟いた。
 その途端、背後のドアが開く。
 さらに押し寄せてくる『支配者』達。
 『支配者』は無表情な口端をほんの少し持ち上げ、呟いた。
「私、私、私…」



          @          @          @



 庭では、つーと『支配者』が激戦を繰り広げていた。
 局長はちらりと目をやる。
「他人を気にしている暇があるのかね?」
 目の前の『暗殺者』が、余裕気に告げた。

 局長は『暗殺者』に視線を戻す。
「ドラグノフなどという時代遅れの狙撃銃を愛用する暗殺者が存在し、
 多くのスタンド使いを暗殺しているという話を聞いた事がありますが… 貴方の事ですか?」
 『暗殺者』は笑みを浮かべた。
「吸血鬼共を狩るのが私の本業だが… 暗殺稼業も多少は営んでいる。それがどうかしたかね?」

「貴方には、殺人罪も追加ですね。余罪の追及が楽しみです…」
 局長は、『暗殺者』に向かって駆けた。
「そんな貧弱なスタンドで、私と勝負するのかね!!」
 『暗殺者』は、局長に向かってドラグノフの引き金を引く。
「『アルケルメス』!!」
 局長は叫んだ。
 同時に、着弾の瞬間をカットする。

 ――膝に衝撃。
 局長は自らの足に視線をやった。
 右膝から、血が流れ出している。
 銃創に近い傷。
 確かに、ドラグノフから放たれた銃弾はかわしたはず…

「!!」
 局長は再び時間をカットした。
 背後から、かわしたはずの銃弾が飛んできたのだ。
 その銃弾は、後ろから局長の頭部を抜けるルートで飛来していった。
 確かに、銃声は一発だったはず…

774:2004/04/08(木) 23:36

「フフ…」
 『暗殺者』が不適に笑う。
 2度に渡り局長に飛来した弾丸は、『暗殺者』の方に飛んでいく。
 『暗殺者』の影が、にゅるりと起き上がった。
 平面であるはずの影が、ゼリーのように伸びる。
 そして、影は飛来する弾丸を弾いた。
 銃弾は、再び局長に向かう。

「チッ…!」
 局長は、『アルケルメス』の拳で銃弾を弾いた。
 弾かれた弾丸は失速し、割れた机の方向に飛んでいく。
 机の影が、大きく動いた。
 先程と同様に、机の影は飛来する銃弾を弾く。
 再び、局長の方向に向かう弾丸。

「そういう事か…」
 『アルケルメス』は、飛来する弾丸を指先で摘んだ。
「…それだけじゃないがな」
 笑みを崩さず、『暗殺者』は口を開いた。
 その弾丸の影が、局長目掛けて槍のように伸びる。

「!!」
 咄嗟に、それを足で防ぐ『アルケルメス』。
 さっき膝を貫いたのは、これか…!

 ――影を使った攻撃。
 それが、『暗殺者』のスタンド能力。
 局長は、天井からぶら下がっている電灯に向き直った。
「『アルケルメス』ッ!!」
 天井に張り付き、電灯に拳を向ける局長のスタンド。

 電灯には、笠が付いている。
 そして、笠から天井にかけて影が出来ていた。
 その影が、槍のように尖りつつ『アルケルメス』に伸びる。
 咄嗟に退がる『アルケルメス』。
 影から突き出た刃は、『アルケルメス』の頭先を掠めた。

「影の中を移動するスタンド… いや、影そのものを扱うスタンドですか…」
 局長の額が切れ、血が流れ出している。
「その通り。ただし、影の中を移動するのは…」
 トプン、と『暗殺者』は自らの影の中に沈んだ。
 まるで、沼に沈み込むように。

「…スタンドではなく、私自身だがね」
 局長の背後から、『暗殺者』の声がした。
「!!」
 局長は素早く後ろを振り向く。
 局長自身の影の中から、ドラグノフが突き出した。

 同時に響く銃声。
「『アルケルメス』!!」
 局長は、着弾の瞬間をカットした。
 しかし、瞬時に弾丸は跳ね返ってくる。
 どこかの影で弾いたのだろう。

 局長は、身を退こうとする。
 その途端、局長の影が起き上がり、局長自身の足を掴んだ。
「くっ…!」
 『アルケルメス』で自らの影を攻撃する局長。
 その彼の左腕を、先程の銃弾が貫通した。

「…どうだね? これが私のスタンド能力だ」
 机の影から、『暗殺者』の上半身が突き出た。
「この部屋には影が多い。 …さて、次に君は何を考えるかな?
 まず、電灯の破壊は不可能だ。君の予想通り、私のスタンド能力の生命線である以上、全力で守らせてもらう。
 次に君はこう考えるだろうな。大きい光を放って、影そのものを消滅させようと…」
 笑みを浮かべながら、『暗殺者』は言った。
 つまり、それに対抗する手段も用意されているという事。
 そう思わせておいて…というフェイクにしても、今の言葉は意味が無さ過ぎる。

 局長は血の吹き出る左腕を抑えた。
 幸い、弾は抜けている。軽傷だ。
「しぃ君、モララー君…!」
 『狩猟者』『調停者』と激突している2人に向かって、局長は語りかけた。

 ため息をつく『暗殺者』。
「他人を頼るのかね。だが、私の能力は多人数だろうが…」
 局長は、『暗殺者』の言葉を遮った。
「この3人の相手は私が引き受けましょう。君達はギコ君と協力し、3人掛かりで『解読者』を討ちなさい!」

775:2004/04/08(木) 23:37

 『暗殺者』は驚きの表情を浮かべた。
 若干、呆れているようにも見える。
「…君は馬鹿かね? 代行者3人を同時に相手にしようとは、正気とは思えないな…」

「任せていいのかい?」
 モララーは、疑念の混じった視線を局長に投げかけた。
 それに頷く局長。
「30秒で片付けて下さい。それ以上かかると、私が死にますからね…」

「分かった! 任せろ!!」
 正面に立つ『調停者』に背を向け、モララーは走り出した。

「黙って見ている訳にはいかないんだよな…」
 『調停者』のスタンド、『ロック・イズ・デッド』がモララーの背中に銃口を合わせる。
 そのまま、『ロック・イズ・デッド』は何度も引き金を引いた。

「それは、こちらのセリフですよ…」
 局長は『アルケルメス』を発動させる。
 そして、モララーに被弾する瞬間をカットした。
 スタンドの弾丸が、モララーをすり抜けるようにも見える。

 モララーは、そのまま『解読者』とギコに駆け寄った。
 それと同時に、しぃが倒れているギコの傍らにしゃがみこんだ。
 モララーと同様に、『狩猟者』の相手を局長に任せ、駆けつけたのだろう。

 ギコのダメージは大きい。
 右膝と右肘が、完全に逆方向に折れ曲がっている。
「しぃ、元気な時のギコのイメージを脳裏に描け…!」
 『アルカディア』はしぃに言った。
 そして、ギコに手をかざす『アルカディア』。
 みるみるギコの傷が塞がっていく。
「…よし、これで動けるだろ」
 『アルカディア』の言葉に、しぃは安堵のため息をついた。

「確かに動けるけど… 痛みは無くならないのか?」
 ギコは苦痛を抑えながら言った。
「贅沢抜かすな。俺の能力は、治療用じゃねーんだよ」
 『アルカディア』は吐き捨てる。
「まあ、仕方ないか…」
 ギコは立ち上がると、『解読者』を見据えた。
 モララーとしぃの3人で、彼の周囲を囲む。
「ふむ… 困ったな」
 『解読者』は、ため息をついて眼鏡の位置を直した。



 局長と睨み合う、『暗殺者』、『調停者』、『狩猟者』の3人。
「さて、本当に30秒も持つのかね…?」
 『暗殺者』は、局長を見据えて言った。
「よかったのか? ホイホイそんな約束して…」
 濃い顔に、ニヤニヤした笑みを浮かべる『調停者』。
「ギッタンギッタンにしてやるぜぇ!! この『クロマニヨン』でなッ!!」
 『狩猟者』はスタンドのギターを構えた。

 その3人を、落ち着いた顔で眺める局長。
「貴方達は、一つ考え違いをしていますね…」
 局長はネクタイを外すと、肩の傷口を縛った。
「考え違いだって…?」
 『調停者』は笑みを崩した。
 この局長の余裕は、どう考えても妙だ。

 襟を正し、笑みを浮かべる局長。
「公安五課の長たるこの私が、たった1人でこんな所に出向いたとでも…?」
 局長はゆっくりと右腕を上げると、大きく指を鳴らした。

「!!」
 代行者3人は、入り口の方向に素早く視線を送った。
 ――だが、そこには誰もいない。

「そう。残念ながら、たった1人で出向いて来たんです…」
 局長は、その一瞬で『調停者』の間近まで接近していた。
「…でも、大きな隙は出来たでしょう?」

「このッ…!!」
 背後に飛び退こうとする『調停者』。
 だが、『アルケルメス』の拳は完全に『調停者』を捉えていた。
「『ロック・イズ・デッド』!!」
 咄嗟にスタンドで防御する『調停者』。
 しかし、『アルケルメス』の拳の威力を殺しきれない。
「くっ…!!」
 『調停者』の体は大きく吹っ飛んで、柱に激突した。

「テメェ!!」
 『狩猟者』はギターを掻き鳴らし、自らのテーマソングを熱唱した。
 『ボエ〜』という破壊音が、周囲に満ちる。

 音とは、空気の振動である。
 即ち、体に届く瞬間は必ず存在する。
「『アルケルメス』ッ!!」
 局長は、大音響が自らに届く瞬間をカットした。
 その広帯域空気振動は、局長の体をすり抜けモナーの家を引き裂く。

「ほお。やるじゃんか、メガネ…!」
 『狩猟者』はギターを構え直して局長を見据えた。
「それより、横にいる人を見てみなさい」
 局長は、人差し指で隣を指差す。
「そんな子供騙しに、このオレ様が何度も引っ掛かるとでも…!?」
 そう言いつつも、『狩猟者』は横目で隣の『暗殺者』に視線をやった。
 彼は大音響の直撃を受け、片膝を付いている。

「君は… 後先考えず、スタンドを使うなと…」
 『暗殺者』は憤慨の視線を『狩猟者』に向けると、切れ切れに口走った。
「うわー! すまん、ムスカ!!」
 平謝りの『狩猟者』。

776:2004/04/08(木) 23:39

 その様子を見て、局長は馬鹿にしたようにため息をついた。
「確かに、一人一人の戦闘能力は卓越している… その分、チームワークが悪過ぎますね。
 特に、『狩猟者』。貴方のスタンド能力は、否応無く周囲を巻き込む」

「なるほど。きれいなジャイアンの能力で、最初から同士討ちを狙っていたのか…」
 フラつきながら、『暗殺者』は言った。
「だが、そんなのは一度しか使えん戦術だぞ…?」

 局長は、『暗殺者』の言葉を無視する。
 そして、再び大きくため息をついた。
「あと、『暗殺者』。改名する事をお勧めします。自己顕示欲が強い貴方に、暗殺者は向かない…」

「な、何だと…ッ!!」
 『暗殺者』は激昂した。
「そんなに死にたいなら、望み通りにしてやろう!! 『アルハンブラ・ロイヤル』!!」

 周囲の影という影が、一斉に持ち上がる。
 そのまま、『暗殺者』はドラグノフを乱射した。
 影が弾丸を弾き、様々な方向から局長目掛けて飛来する。
「…!!」
 『アルケルメス』で、弾丸を弾き返す局長。
 まるでビリヤードのように、周囲を銃弾が跳ね回った。
 回避したはずの弾丸が、何度も飛来する。
 かわすだけで精一杯だ。
 弾丸が何度も掠り、スーツのあちこちが千切れ飛ぶ。

「防戦一方で、いつまで耐え切れるかな…?」
 『暗殺者』は、影に沈み込みながら言った。

777:2004/04/08(木) 23:40
「この人数相手に、勝てると思ってるのかい…?」
 モララーは『解読者』を見据えた。
 その背後に、『アナザー・ワールド・エキストラ』が浮かび上がる。

「まいったな…」
 『解読者』はモララーに視線をやった。
「…!!」
 瞬時に自らの視線を逸らすモララー。

「タネの割れた手品ほど、使えないモンはねーんだよ!」
「まあ、そういう事ね…」
 『アルカディア』としぃが口を開いた。

「さて、年貢の納め時だぜ…」
 ギコが『解読者』ににじり寄る。
「おっと、ギコは止めといた方がいい」
 モララーが、ギコを制止した。
「君には、他にどんなスィッチが仕込まれてるか分からないからね…」
 そう言って、一歩踏み出すモララー。

 『解読者』は、俯いたまま眼鏡の位置を直した。
「まいったな。俺の目を見なければ、暗示にはかからないなんて言った覚えはないのにな…」

「なッ!!」
 モララーは、驚きの表情を浮かべて立ち止まった。
 同様に、ギコとしぃの表情も凍りつく。
 ゆっくりと顔を上げる『解読者』。
 そして、『解読者』は告げた。

「…『カーテンを閉じたまえ』」

 その言葉を聞いた瞬間、モララーの視界が閉ざされた。
 周囲が暗黒に包まれる。
 何も見えない。
 スタンドの視力すら、全く役に立たない。
 これは一体…!!

「テメェ! 何をしやがった!!」
「前が見えない…!」
 闇の中で、ギコとしぃの声が聞こえる。
 2人も同様の状態のようだ。

 そんな彼等の耳に、『解読者』の声が響いた。
「暗示によって、視力を閉ざさせてもらったよ… と言っても、一時的なものだがな。
 スィッチは、『カーテンを閉じたまえ』というキーワードを聞く事だ」

「いつ暗示をかけた…ッ!?」
 モララーは、声の方向を頼りに突進した。
 しかし、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳は虚しく空を切る。

「…忘れたのか? 正月に会っただろう?」
 『解読者』は、事も無げに告げた。
「くっ…! あの時に…!!」
 モララーは唇を噛む。

「テメェッ!!!」
 ギコは、声の方向にがむしゃらに飛びかかった。
「やめろ、ギコッ!!」
 モララーが叫ぶ。

「踏み込んでの袈裟切り。それもスィッチなんだよ…!」
 『解読者』はため息をついた。
「…実行内容は、自らの胸を貫いての自害だ」

「…え?」
 くるりと反転する『レイラ』の日本刀。
 刀先が、ギコ自身の胸に押し当てられた。
 スタンドを操作しているのは、他ならぬギコ自身。
 抗えない力が、ギコの心を縛っている。

 このまま力を込めれば、心臓が串刺しになるのは分かっている。
 それでも、やらなければいけないという義務感がギコを強烈に後押ししていた。
 あとほんの少しの力を込めれば…!
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 ギコは叫び声を上げた。
 その声が他人事のように、ギコは狙いを定め、自らの胸を一気に突く…!!

 ――刃が煌いた。
 鋭いバヨネットが、ギコの額を掠める。
 その瞬間、ギコの心の中で何かが砕けた。
 まるで、呪縛から開放されたかのような…
 同時に、視界に光が差し込んだ。
 目が見えるようになったのだ。

「暗示を『破壊』したか。まさか、そこまで出来るとはな…」
 『解読者』は、驚きの色を隠さずに言った。

 ギコの隣には、バヨネットを手にした男が立っていた。
 彼は、真っ直ぐに『解読者』を見据える。
 まるで、全てを見透かすかのような眼で。
「何でこんな事をするのか… 説明を聞きたいモナね」

「遅いぞ! モナー!!」
 ギコは叫んだ。
 ――その瞬間、ギコは微かな違和感を感じ取った。
 目の前に立っているのは、確かにモナーだ。
 だが、何か違う。
 今までのモナーとは、確実にどこか違っている。

「そうか。人間を辞めたか、モナヤ…」
 『解読者』は寂しげに呟いた。
「!!」
 ギコはモナーの顔を凝視した。
 モナーはバヨネットを構え、キバヤシを真っ直ぐに見据えていた…



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

778N2:2004/04/10(土) 04:25

□『スタンド小説スレッド2ページ』作品紹介


◎完全番外編

.  ∧_,,,.
  (#゚;;-゚)
救い無き世界  (作者:ブック)
☆第一部
◇「大日本ブレイク党」が動き出した。
その力を余すことなく使い殺戮を行う彼らの前に、街はかつてない悪夢へと包まれる。
そして彼らの背後で静かに笑む「矢の男」たち。
愛する女性の為に、自分自身の為に、
でぃ、そして『デビルワールド』は立ち上がる!!

 第十一話・美女?と野獣 〜その3〜──>>17-19
 第十二話・美女?と野獣 〜その4〜──>>46-49
 第十三話・軋轢 〜その一〜──>>59-64
 第十四話・軋轢 〜その二〜──>>71-77
 第十五話・リアル鬼ごっこ 〜その一〜──>>100-103
 第十六話・リアル鬼ごっこ 〜その二〜──>>110-114
 第十七話・リアル鬼ごっこ 〜その3〜──>>140-144
 第十八話・流動──>>151-157
 第十九話・異形 〜その1〜──>>173-176
 第二十話・異形 〜その二〜──>>193-197
 第二十一話・異形 〜その三〜──>>198-202

 時事ネタ番外・ふさしぃのバレンタイン──>>214-231

 第二十二話・闘鬼──>>247-250
 第二十三話・ファントム・ブラッド 〜その1〜──>>288-293
 第二十四話・ファントム・ブラッド 〜その二〜──>>302-307
 第二十五話・ファントム・ブラッド 〜その三〜──>>319-328

 よい子の救い無き世界迷作劇場 「シンデレラ」──>>346-350

 第二十六話・鎖 〜その一〜──>>355-358
 第二十七話・鎖 〜その二〜──>>369-373
 第二十八話・鎖 〜その三〜──>>374-377
 第二十九話・鎖 〜その四〜──>>387-390
 第三十話・罅 〜その一〜──>>391-393
 第三十一話・罅 〜その二〜──>>405-409
 第三十二話・罅 〜その三〜──>>422-427
 第三十三話・罅 〜その四〜──>>437-440
 第三十四話・罅 〜その五〜──>>455-458
 第三十五話・罅 〜その六〜──>>459-463
 第三十六話・暗夜行路 〜その一〜──>>464-466
 第三十七話・暗夜行路 〜その二〜──>>480-483
 第三十八話・暗夜行路 〜その三〜──>>484-488
 第三十九話・黒『凶宴』 〜その一〜──>>489-494
 第四十話・黒「凶宴」 〜その二〜──>>501-504
 第四十一話・黒「凶宴」 〜その三〜──>>516-518

 番外・かめはめ波を撃ちたい。──>>519-524

 第四十二話・黒「共演」 〜その一〜──>>530-534
 第四十三話・黒「共演」 〜その二〜──>>540-545
 第四十四話・黒「共演」 〜その三〜──>>546-550
 第四十五話・黒「共演」 〜その四〜──>>551-554
 第四十六話・黒「強縁」 〜その一〜──>>561-563

 時事ネタ番外・丸耳ギコのホワイトデー──>>572-580

 第四十七話・黒「強縁」 〜その二〜──>>581-584
 第四十八話・黒「強縁」 〜その三〜──>>601-604
 第四十九話・黒「狂焔」 〜その一〜──>>605-607
 第五十話・黒「狂焔」 〜その二〜──>>618-622

 番外・救いようの無い奴らの、救い無き座談会──>>623-626

 第五十一話・嘘 〜その一〜──>>636-639
 第五十二話・嘘 〜その二〜──>>645-649
 第五十三話・嘘 〜その三〜──>>650-652
 第五十四話・嘘 〜その四〜──>>653-657
 第五十五話・逢魔ヶ刻 〜その一〜──>>672-676
 第五十六話・逢魔ヶ刻 〜その二〜──>>677-679
 第五十七話・逢魔ヶ刻 〜その三〜──>>680-690

 番外・春だ!桜だ!温泉だ!!
        チキチキSSS特務A班ガチンコ麻雀勝負 〜その一〜──>>691-694
                                       〜その二〜──>>712-714
                                       〜その三〜──>>719-722
                                       〜その四〜──>>723-726
                                       〜その五〜──>>745-747

779N2:2004/04/10(土) 04:25

☆第二部
◇遂に「神」は目覚めた。
『無限の使者・アクトレイザー』と『最果ての使者・デビルワールド』。
            スタンド
相対する2つの化身の戦いが遂に幕を開ける!!

 第五十八話・無常──>>758-761
 第五十九話・STAND ALONE COMPLEX 〜その一〜──>>762-765
 第六十話・STAND ALONE COMPLEX 〜その二〜──>>766-768
 第六十一話・STAND ALONE COMPLEX 〜その三〜──>>770-772


    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さいたま)

◇遂に明かされたリナーの真実。
その驚愕の事実の前にモナーの取った行動とは…。
そして、狂気の聖職者・枢機卿がとうとう行動を開始した!
個々の理念を掲げ、全ての想いが今日本で衝突する!!

 モナとみんなの三ヶ月 〜俺の場合〜――>>8-16
                 〜みんなの場合〜──>>28-35

 逮捕されてしまったっス!・その1──>>55-58
                    その2──>>65-69
                    その3──>>78-82

 『アルカディア』・その1──>>86-90
.            その2──>>135-138
.            その3──>>164-172
.            その4──>>181-185
.            その5──>>204-208

 番外・バレンタインを突き抜けて──>>232-237

 『アルカディア』・その6──>>251-254

 塵の夜・その1──>>308-312
.        その2──>>351-354
.        その3──>>359-362
.        その4──>>378-382
.        その5──>>394-397

 番外・萌えと萎えのはざまで──>>428-436

 塵の夜・その6──>>446-451
.        その7──>>475-479

 ASAビルに遊びに行こう その1──>>509-513
                 その2──>>525-528
                 その3──>>535-539

 番外・モナーの結婚──>>564-571

 灰と生者と聖餐の夜・その1──>>627-632
                   その2──>>665-671
                   その3──>>715-718
                   その4──>>741-744
                   その5──>>773-777

780N2:2004/04/10(土) 04:26

◎番外編(茂名王町内)

   / ̄ ) ( ̄\
  (  ( ´∀`)  )
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―  (作者:( (´∀` )  ) )
◇ムック・殺ちゃんと手を組み、秘密組織『キャンパス』と戦う巨耳モナー。
次第に彼らとの絆は深まっていったが、しかしそんな3人の前に突如『矢の男』が現れる!
予期せぬ邂逅に不意を打たれ、負傷した仲間を守るべく
男・巨耳は一人『矢の男』との戦いを決意する!!

 『岳画 殺』――>>3-7

 バケモノ バケモノ
 怪獣VS怪獣──>>37-41

 鈴木宗男デシタ!!──>>105-109
 地震と幸運と──>>145-149

 『ザット・ガール』──>>363-368

 VS『矢の男』──>>441-445
 VS『矢の男』②──>>496-500

 束の間の休息──>>555-560
 裏切者の末路──>>608-614

 『流石だよな俺ら』──>>633-635


   ∧_∧
  (  ゚∀゚ )
合言葉はWe'll kill them!  (作者:アヒャ作者)
◇『顔面に十字の傷のある男』を追う青年と女。
彼らの手助けをするべくアヒャは共闘を誓うが、
遂に彼の友人にも未知のスタンド使いの魔の手が及び始めた!!
果たして彼らの運命や如何に!?

 空からの狂気その③──>>42-45
          その④──>>83-85
          その⑤──>>115-119

 ソウルマリオネット──>>150-151
 ソウルマリオネット②──>>186-189

 バレンタイン番外編――ロマンス一直線(前編)──>>243-245
                            (後編)──>>299-301

 二つの刃──>>383-386
 二つの刃その②──>>615-617
.       その③──>>695-697


   ∩_∩    ∩_∩
  (´ー`)  ( ´∀`)
丸耳達のビート  (作者:丸餅(旧:丸耳作者))
◇しぃ族の娘・シュシュを狙っていた虐殺厨を始末した茂名・マルミミ。
しかし満身創痍の2人の前に現れたのは―――『矢の男』!?
絶体絶命の危機に陥った彼らを救うべく、SPM財団の
ジエン・『チーフ』・フサが動き出した!!

 第6話――>>120-126
 第7話──>>238-242

 オマケ小ネタ──>>246

 第8話──>>338-345
 第9話──>>585-593
 第10話──>>706-711
 第11話──>>748-757

781N2:2004/04/10(土) 04:26

◎番外編(茂名王町外)

   ∧∧   ∧_∧
  ( *゚A゚)  <丶`∀´>
スロウテンポ・ウォー(休載中)  (作者:302)
◇「ZERO」から町を守るため、ノーとニダやんは自警団へと加わる。
しかし「ZERO」は着実にその力を蓄えつつあった!
“聖母”の元に集う傷を抱えた“12使途”。
そして騎士達が揃いし時、世界は「ZERO」に還る…。

 影色の輪舞曲(ロンド)・1──>>20-23
                2──>>51-54
                3──>>127-129
                4──>>158-163

 閑話休題・その1<放浪人D・前編>──>>177-180
.              <放浪人D・後編>──>>210-213
 閑話休題その2<音速FUNKYヒーロー・前編>──>>285-287
              <音速FUNKYヒーロー・後編>──>>294-298

 新章への前奏曲――Agnus Dei──>>314-318

 12使徒急襲、悪夢の一週間──>>399-404
 12使徒急襲・2──>>505-508


   ∩_∩
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  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇空条モナ太郎の勧めでギコら〜めん大将の元を尋ねたギコ屋・相棒ギコ・ギコ兄。
何と大将は町の自警団「サザンクロス」の団長であった!
3人は入団すべく大将直々の試験を受けることとなるが…。
そして彼らに接近する謎の男「ジョナ=ジョーンズ」とは一体!?

 南方戦線に集結せよ その①──>>24-27
                その②──>>257-284

 椎名先生の華麗なる教員生活 第2話 〜忍び寄る狂気〜──>>410-421

 リル子さんの奇妙な見合い その①──>>594-600
                    その②──>>698-705

782N2:2004/04/10(土) 04:26

◎本編(連載)

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モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇残酷な差別を受け、全ての差別を根絶すべく凶行に及んだアヒャと
町の平和を守るべく戦う初代モナー。
相反する理念が遂に茂名王グランドホテルで前面衝突する!!
戦いを勝ち抜き、己の正義を貫き通すのは一体!?

 クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その④──>>93-99
                                 その⑤──>>727-740


◎本編(SS)  (作者:SS書き)

 家の戦い −グレン・ミラー−──>>130-134
◇変身能力を持つスタンド『グレンミラー』を操るあらくれ。
彼は次の『リアルオレオレ詐欺』の標的を流石一家に選んだ!
姉者に姿を変えたスタンドが平穏な一家へと侵入する!!

 餌の戦い −バスケット・ケース & ベイビー・アピール−──>>329-336
◇時として人は、自分に身に覚えの無い所で他人を傷付ける。
軽いジョークも、時として他人の心に容赦なく傷を残す。
そんなお話。

 穴の戦い −オールウェイズ・オン・マイ・マインド−──>>467-474
◇穴に入ったモララー―――そこに広がるのは『モナー穴』の世界!?
脅威のマイペーススタンド『オールウェイズ・オン・マイ・マインド』にモララーは手も足も出ない!
まさしく「世界最強」のスタンドの脅威から彼を救ったのは!?

 数の戦い −カミング・ダウン・アゲイン−──>>640-644
◇仕事に不平を抱きながらも、ひろゆきの命で気弱なギコはニダー討伐へと向かった。
平静を装う彼とニダーとの間で、熾烈な心理戦が繰り広げられる!!


※敬称略

783新手のスタンド使い:2004/08/05(木) 21:44
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784fusianasan:2008/03/15(土) 08:39:19
test


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