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スタンドスレ小説スレッド

1新手のスタンド使い:2003/11/08(土) 01:58
●このスレッドは『 2CHのキャラにスタンドを発現させるスレ 』の為の小説スレッドです。●

このスレでは本スレの本編に絡む物、本スレ内の独立した外伝・番外編に絡む物、
本スレには絡まないオリジナルのストーリーを問わずに
自由に小説を投稿する事が出来ます。

◆このスレでのお約束。

 ○本編及び外伝・番外編に絡ませるのは可。
   但し、本編の流れを変えてしまわない様に気を付けるのが望ましい。
   番外編に絡ませる場合は出来る限り作者に許可を取る事。
   特別な場合を除き、勝手に続き及び関連を作るのはトラブルの元になりかねない。

 ○AAを挿絵代わりに使うのは可(コピペ・オリジナルは問わない)。
   但し、AAと小説の割合が『 5 : 5 (目安として)』を超えてしまう
   場合は『 練習帳スレ 』に投稿するのが望ましい。

 ○原則的に『 2CHキャラクターにスタンドを発動させる 』事。
   オリジナルキャラクターの作成は自由だが、それのみで話を作るのは
   望ましくない。

 ○登場させるスタンドは本編の物・オリジナルの物一切を問わない。
   例えばギコなら本編では『 アンチ・クライスト・スーパースター 』を使用するが、
   小説中のギコにこのスタンドを発動させるのも、ギコにオリジナルのスタンドを
   発動させるのも自由。

 ★AA描きがこのスレの小説をAA化する際には、『 小説の作者に許可を取る事 』。
   そして、『 許可を取った後もなるべく二者間で話し合いをする 』のが望ましい。
   その際の話し合いは『 雑談所スレ 』で行う事。

2:2003/11/09(日) 10:09
では、前掲示板で消滅してしまった「モ夏」をもいっかい貼ります。
「9月15日・その1」から「9月17日・その3」までで、
かなり量が多いですがご容赦下さい。

3:2003/11/09(日) 10:10

「〜モナーの夏〜  9月15日・その1」



キーン コーン カーン コーン…

 授業の終わりを告げる、無機質なチャイムが鳴り響いた。
 俺は思う。なぜ、学校のチャイムはこんなに味のない音なのだろうか。
 ベートーベンの第九や、FFの勝利ファンファーレなど、ふさわしい曲があるはずだ。

 …などと考えているうちに、先生の姿は消えていた。にわかに周囲が騒がしくなる。
 今は、6時間目が終わったところだ。
 一般的に言えば、放課後である。もっとも、一般的に言わなくとも放課後だが。


「よぉ、モナー」ギコが話しかけてきた。「どうした? ボーッとして…」
 俺は決してボーッしていた訳ではない。授業の終わりにふさわしい曲を選ぶという命題に取り組んでいたのだ。
 だが、それをいちいち説明しても仕方がない。
 俺はいつものように、「オマエモナー」とだけ返した。
「逝ってよし!」ギコは即答する。つくづく芸のない奴だ。

「まあまあ、マターリしようよ」モララーのヤツが近づいてきて言った。
 一番マターリしていないヤツが何を言うか。
「黙れ、虐殺厨。」ギコは、モララーの方に顔を向けず吐き捨てた。
「それは心外だな…」モララーは憤慨したようだ。「確かに、虐殺行為を繰り返すモララーがいるのは認めよう。
でも、僕は僕。彼らは彼らだ。『虐殺厨』というレッテルを僕に貼るのは…」
「ほれ、前に借りたマンガ返すよ。」ギコはモララーの言葉を遮ると、俺に一冊のマンガを差し出した。
 俺はマンガを受け取るり、カバンにしまってから訊ねた。「で、どうだったモナ?」
「ああ、おもしろかった」ギコは答えた。「たぶん、真のラスボスはひろゆきだな」
 モララーが口を挟む。「分かってないな、ラスボスはやっぱり矢の男だよ。ひろゆきはあくまで第三勢力さ」
「二人とも、同じくらいの強さだと思うモナ」俺は自分の意見を述べた。
 正直、語尾に「モナ」とつけるのは本意ではない。
 俺はもともと理知的で聡明かつ思慮深いのだが、語尾に「モナ」とつけただけで、脳が軽そうな印象になる。
 だが、これはモナーとしてのアイデンティティ、「低脳」というレッテルも甘んじて受けようと思う。


「どうした? ボーッとして…」ギコが言った。
 俺は決してボーッしていた訳ではない。モナーとしてのアイデンティティについて熟考していたのだ。
 だが、それをいちいち説明しても仕方がない。
 俺はただ、「オマエモナー」とだけ返した。
「逝ってよし!」ギコは即答する。芸のあるなし以前に、話がループしている。

「ほら、ケンカしないの。」
 そこに割り込んできたのは、モララーではなかった。
「まったく、いつもケンカして…」しぃは呆れるように言った。
 もっとも、俺達が本当にケンカしていた訳ではないという事は、しぃにも分かっているはずである。
 俺達の会話は、いつでもあんな感じだ。
 俺、ギコ、モララー、しぃ、おにぎりは仲が良いと言われている。
 そして実際に仲がいいのだろう、休み時間や放課後にはいつも五人で集まってダベっている。

「そういえば、おにぎり君は?」しぃが訊ねた。
 予断だが、しぃは半角カナでしゃべっている。俺が脳内変換しているだけだ。
「ほら、今だんじり祭りだろ?」ギコは答える。「あいつ、祭り好きだから…」
 だんじり祭りは、相当荒っぽい祭りのはず。あの米頭は大丈夫だろうか…

4:2003/11/09(日) 10:10

「ギコ、今日は部活はいいモナ?」ふと、俺はギコに訪ねた。
「ああ、今日は休みだ。」ギコは答えた。
 ギコはサッカー部に所属している。そして、当然のようにモテモテだ。
 バレンタインデーなど、食べきれないほどのチョコを貰うらしい。
 もっとも、モテモテ度では俺も負けていない。
 ただ、俺に惚れる女はシャイなのだ。
 チョコを作ったはいいが、恥ずかしくて渡せない…そんな女ばかりなのだろう。
 何故か涙が出てきた。俺は自分自身を騙すことすらできない、ちっぽけな男だ。
 とはいえ、俺もバレンタインに手作りチョコをもらったことくらいはある。
 妹だ。
 しかも、思い人に渡すものを作っていて、失敗したらしい。
 さらに、渡す時のセリフが「惨めだから」。
 そして俺は、どこの馬の骨とも分からぬ男の名が刻まれた失敗チョコを食べた。
 トッピングは涙。
 甘さと塩味が合うことを発見した、有意義な去年のバレンタイン…


「うおっ! 何泣いてんだ!」ギコの声が、俺を現実に引き戻した。
「モナーもサッカー部に入るモナ!」俺は叫んだ。
 そして、鼻血を垂らしながら、「あー、今年もチョコ食べ過ぎたぜ…」などとのたまうのだ。
「そのブヨブヨの体で、サッカーは無理だゴルァ!」ギコは冷たく言う。
 俺は大いに傷ついた。ブヨブヨとはなんだ。ちょっとポッチャリしているだけだ。
 だいたい俺が痩せたら、別のキャラになってしまう。
「不純な動機で部活をやるのは駄目だよ」しぃまで、キツい事を言う。
 しかも意図までバレている。こいつ、何気に鋭い。
「でも、サッカー部が休みって珍しいね」モララーが話題を変えた。
「ああ。この辺で、真夜中に女ばかりを狙った連続通り魔事件が起こってるだろ。練習があると、
帰りが遅くなるからな。しばらく、どの部も休みって話だ。」ギコは残念そうに言った。
「通り魔事件?」初耳だった。「そんなのが起きてるモナ?」

「何だよ、知らないのか?19人も殺されてるんだぞ?」
「毎日ニュースでやってるよ?」
「君はマターリしすぎだね。」

 全員から一斉に集中砲火を受けた。
 19人も犠牲者が出てるのか…
「大体、一ヶ月前くらいからだね…」聞いてもいないのに、モララーが語り出した。
「行方不明になってたどこかのOLがね、死体で見つかったんだよ。どうやら、夜にふらふらしていたところを、
通り魔に襲われたみたいなんだ。それから、毎日のように死体が見つかるんだよ。早朝、道に放置されてるのがね。
いずれも、前日の真夜中に殺されてるんだ。」
 まったく知らなかった。
「まさか、矢のようなもので刺されていたとかはないモナ?」
 俺は冗談交じりに言った。それは、さっきのマンガの話だ。
 モララーは首を振る。
「まさか。ただね、手口が残酷なんだよ。腹をかっさばいて、内臓を引きずり出すらしい。」
 モララーは嬉しそうに話す。こいつ、やっぱり虐殺厨だ。というか、こいつが犯人じゃないだろうな?

「じゃあ、私は帰るね。」しぃが立ち上がる。
「おう、じゃあな。」「また明日モナ。」「気をつけなよ。」
 俺達は口々に別れの言葉を告げる。
「じゃあ、バイバイ」そう言って、しぃは教室から出て行った。
 俺達は、その後も他愛ない話を続けた。
 5分ほどして、ギコはカバンを持って立ち上がった。
「それじゃあ、俺も帰るわ。」
「バイバイモナ。」俺は手を振る。
「じゃあな。」ギコは、教室から立ち去った。

5:2003/11/09(日) 10:11

 俺はたちどころにして見抜いた。これは時間差攻撃だ。
 まず、しぃが先に帰った振りをする。それから少し後に、ギコが合流する。そして、二人で帰るのだ。
 確かに周到な計画だ。だが、天は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せない!!

「あいつら、デキてるね…」モララーが呟いた。下卑た表現だ。
「帰りに出会ったら気まずいから、図書館でも寄って帰るよ。」モララーは言った。
「モナーもそろそろ帰るモナ。」俺もカバンを持って立ち上がる。
 そして俺達は教室を出た。
 廊下でモララーと別れ、靴箱で靴を履き替える。


「モナーく〜ん! 一緒に帰ろ!」


 背後から、聞き覚えのある声がした。
 振り向くと、レモナが立っていた。
 こいつは、確かに見た目は可愛らしい。そして、俺に惚れている。

 だが………男だ。

 女子生徒の格好をしていて、周囲には女で通っているが、俺は知っている。
「ノォォォォ!!モナーはノーマルモナー!!」俺は即効で駆け出した。
 コイツのお陰で、俺は逃げ足だけは速いのだ。
 3分ほど必死で走った。どうやら上手くまいたようだ。
 それにしても、なんであんなのに好かれたんだろうか。
 どうせなら、じぃちゃんと一緒に帰りたかったのに…
 ちなみに、「じぃちゃん」とはわがクラスのアイドル「じぃ」のことで、決して俺の祖父のことではない。

 じぃちゃんに想いを馳せながら歩いていると、道端に何かが倒れているのに気付いた。
 あれは…人間?
 そう、道端に誰かが倒れているのだ。
 俺の頭の中に、通り魔事件の事がよぎった。
 どうする!? ただちに警察に届けるべきか!?
 普通なら、まず確認すべきだろう。
 だが、俺は自他共に認めるチキンだ。死体など見ようものなら、三日はメシが食えなくなる。
 さて、どうするべきか…

 用心深い俺は、遠くから観察してみることにした。
 大量の血などは出ていないようだ。少し安心して、距離を詰める。
 どうやら、俺と同い年くらいの女のコだ。
 その時、少し腕が動いた気がした。
 息はあるようだ。

「ウホッ!」

 顔が確認できるくらいの距離に近づいて、俺は思わず声を上げた。
 かなりの美人だ。これは恩を売るに限る。いや、ここで恩を売らずして何が男か。
 俺は、すぐ傍まで近寄った。苦しそうな顔をしている。

「あの…大丈夫モナ?」
 取りあえず声をかけてみた。だが、苦悶の表情に変化はない。
 意識は無いようだ。
 どうしよう。
 とりあえず、家も近いし、連れて帰るか。
 いや、もちろん介抱するためだ。
 不純な動機など、塵芥ほども存在しない。
 救急車を呼ぶほどではないかもしれないし、何か事情がある人かもしれない。
 倒れている人を自宅で解放して何が悪い?

 ひとしきり自己弁護を終えると、俺は女を抱き起こした。
 その時、女はこう呟いた。

「早く… ヤツを止めないと…」

「えっ!?」俺は聞き返した。
 俺に言ったのではないようだ。ただのうわ言だろう。

「この町で、起きる事…」


 何を言っているのだろうか。意味がさっぱり分からない。
 女は、さらに理解不能な単語を口にした。

「空想具現化(マーブルファンタズム)・・・」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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6:2003/11/09(日) 10:12

「〜モナーの夏〜  9月15日・その2」


 その娘は、奇抜な服装をしていた。
 十字架のマークが刻まれた帽子。
 衣服にも、いたるところに十字架模様が刻まれている。
 そして、腰まで届く長さの美しい黒髪。
 ミニスカートからすらりと伸びた綺麗な足。
 白く繊細な手… 右手がない!?
 よく見ると、勘違いだったことに気付いた。
 右手を袖から抜いて、服の中に納めているようだ。
 服を着ている途中で、右手だけ袖を通すのをやめてしまったような感じ。
 俺が小さい頃、『ドラゴンボール』という漫画が流行していた。
 その作中に、緑色の宇宙人が、切断された腕を気合と共に再生するという描写があった。
 俺達はよくそれをマネして、服の中に腕をしまった後、「はあぁぁぁ…」といいながら
 ニョッキリ生やしたものだ。
 この女も、そうやって遊んでいたのだろう。

 そんなアホな事よりも、困ったことがある。
 この女、重すぎて家に運ぼうにも動かないのだ。
 今までの人生の中で、気絶している女を運んだという事は一度としてないが、
 ここまで重いものなのだろうか。
 しかも今の状況を誰かに見られれば、俺は間違いなく不審者だ。
 俺は思わず周囲を見渡した。
 …仕方ない。不本意ながら、俺はこの娘を引きずって家に連れて帰ることにした。



 ひたすらに重い。
 いくらなんでも重すぎだ。
 この娘、どう見ても太ってはいない。俺のほうがよっぽど太っている。
 それが、なぜここまで重いのだろうか。
 おぶって運ぼうとも考えたが、そんなことをすれば、そのまま崩れて動けなくなるだろう。
 一分ほどで、足と腕が限界になった。少し休憩しよう。
 俺は女を地面に寝かせると、道端に腰を下ろして塀にもたれた。
 家まで後一分ほど。
 それにしても、車がほとんど通らない道でよかった。
 なぜあんな場所で倒れていたのだろうか。ケガなどはないようだが。
 俺は女の顔を覗き込んだ。とても綺麗な顔だ。
 俺の脳内ウホッ!いい女ランキングで1位に君臨していたじぃちゃんが、2位に転落した。
 1位はもちろんこの娘だ。
 これがムサい男だったら、迷わず放置していたところだ。

 そう言えば、少し気になることがあった。
 この娘、重いだけじゃなく、なにか服がゴツゴツしているのだ。
 何か持っているのか?
 俺は、女のスカートを触ってみた。
 断っておくが、この時の俺にやましい気持ちは半分くらいしかなかった。
 何か硬いものが手に当たった。ここに、何かある。
 俺はハァハァと息を荒立てながら、少しずつスカートをめくっていった。
 ここを他人に見られたら、俺は間違いなく変態だ。

「これは…!」

 少しめくっただけで、その物の正体は分かった。
 それは、拳銃だ。
 何というか、これはマズいのではないか。どう見ても、モデルガンには見えない。
 この女を家に連れて帰ると、ヤバイ事になるような気がする。
 だが…
 俺は女の顔を見た。固く目を閉じ、綺麗な顔を少し歪ませている。
「ミステリアスな美女も悪くはない…」俺は呟いた。間違いなく似合わないセリフだ。
 ギコの言うとおり、もう少し痩せた方がいいのかもしれない。
 さあ、家まであと少し。がんばって運ぶとするか。
 しつこいようだが、あくまで道徳的親切だ。下心などない。

7:2003/11/09(日) 10:12

 なんとか家に辿り着いた。
 手も足も感覚はない。明日は間違いなく筋肉痛だ。
 ここで一つ、大きな問題がある。妹だ。
 俺は妹と二人暮しである。さて、何と言い訳するか…

「ここは…?」

 背後から声がした。
 俺は驚いて振り向く。女は目を覚ましていた。
「ここはどこだ?」女は俺を凝視して言った。思ったよりも低い声だ。だが、それがいい。
「ここはモナーの家モナ」俺は心臓をドキドキいわせながら言った。
「君は?」女は真っ直ぐに俺の目を見つめている。
「モナはモナーモナ」俺は名を名乗った。
「君が道で倒れていたから、連れてきたモナ。モナの家でゆっくり休んだ方がいいモナ」
「君は…誰彼構わず、道に倒れている者を連れてくるのか?」女は痛いところを突いてきた。
 君があまりに美人だからハァハァして連れてきた、とは言えない。
 俺が口ごもっているのを見て、女は言った。
「まあ、君は悪い人には見えない。何より、私の体は休息を欲している。君の好意に甘えるとしよう」
 やった!
 …いや、もちろん道徳的理由による喜びだ。
「じゃあ、家に入るモナ。妹には、モナの友達ということで通すモナ」俺はドアノブを握りつつ言った。
「君の妹に、虚偽の申告をすればいいのだな。その方が、面倒が少なくていいが」女はそう言って、俺の後ろに立った。

 俺は玄関のドアを開け、家の中に入った。女が俺の後に続く。
 奥から、妹が出てきた。
「ちょっと兄さん! 私のプリン食べたでしょ!!」出た。萌えない妹、ガナー。
「あれ?その人は?」ガナーは、俺の後ろに立っている女の存在に気付いた。
「ああ、モナの友達モナ」俺はなるべく普通に言い、靴を脱いで家に上がった。
「友達です。よろしく」女は軽く頭を下げた。
「とりあえず、こっちモナ」俺は女を案内しつつ、立ち尽くす妹に声をかけた。「あっ、布団の用意をしといてほしいモナ」
「こ、こんな昼間っからッ!?」ガナーは真っ赤になった。なにか物凄い想像をしているようだ。


「じゃあ、しばらく休むモナ」
 女は、ガナーが敷いた布団に体を横たえた。
「すまない。この恩はかならず返す」女は申し訳なさそうに言った。
「気にすることはないモナよ」俺は首を振った。
「何であんな所に倒れていたのかとか、聞きたいことは一杯あるけど… とりあえずはゆっくり休むモナ」
 女は無言で頷いた。
 一番気になったのは銃の事だが、それにはあえて触れなかった。
 おっと。俺は、最も重要なことを聞くのを忘れていた。
「あ、名前を聞かせてほしいモナ」
 女は少しきょとんとした。
「私の名前か…? リナーライト・ヴェル・アレクシアだが。」
 余りに長い。
「…リナーと呼んでもいいモナ?」
「…特に問題はない」女はきょとんとして言った。「君は変わっているな。わざわざ私の名前を聞きたがるとは…」
 君のほうが変わってる、と言いかけてやめた。
「では…おやすみ」女は布団にもぐっていった。
 そのまま寝顔を眺めるているのも変なので(本当はそうしたかったが)、俺は自分の部屋に戻った。

8:2003/11/09(日) 10:13

 リナーはいつまで家にいるのだろうか。
 1時間もしたら起き上がって、どこかへ去ってもおかしくはない。
 なんとか、家に留めたいが…
 リナーの分まで夕食を作っていれば、引き留められるかもしれない。
 ガナーに一食分多く作るのを頼みに行こうとしたその時、ドアがノックされた。
 もしかして、リナーか!?
 「どうぞモナ!!」期待に胸が躍る。
 ドアが開く。
 そこに立っていたのは、萌えない妹、ガナーだった。
「ん?どうしたモナ?」俺は落胆交じりに言った。見ると、膨らんだスポーツバッグを肩にかけている。
「今夜は、友達の家に泊まってくるから」ガナーはそう言った。
「今から?急に?」俺は当惑する。ガナーがいなくなったら、誰が夕食を作るんだ?
「今の私、どう考えても邪魔者でしょ?」ガナーが答えた。
 ガナーなりに、勘違いしつつも気を遣ったのだ。
「全く… どんな手を使って、あんなに綺麗な人を引っ掛けたのやら…」ガナーは呟く。
「どんな手って… 失礼モナ」


 妹は、行ってしまった。
 自慢じゃないが、俺は食事など作れない。
 そうだ!リナーがいるではないか。
 休息の場を提供した代わりに夕食を作ってくれと言えば、断れないかもしれない。
 リナーを家に押し留められるし、リナーの手料理が食べれる。一石二鳥だ。
 なにか卑怯な気がしたが、こちらもリナーを家に連れてくるまでに、かなりの努力をしたのだ。
 それくらい要求しても、バチは当たらないだろう。
 俺は嬉々として、リナーのいる部屋に向かった。






 俺はこの時から既に、リナーに心を奪われていた。
 俺は思う。この時にリナーに出会わなければ、後に起こる悲劇は防げたのだろうか。
 俺は思う。あの時にリナーを放置していれば、俺は何も知らずにそのままの日常を過ごせたのだろうか。
 俺は思う。その時に俺がリナーに好意を抱かなければ、命を落としたはずの多くの人は救われたのだろうか。
 なぜ、俺はリナーと出会ったのか。
 どこまでが、俺の意思なのか。
 どこまでが、リナーの意思なのか。
 どこまでが、奴等の意図なのか。
 運命は、何を求めているのか。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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9:2003/11/09(日) 10:14
「〜モナーの夏〜  9月15日・その3」


          *          *          *


月。
煌々と私を照らす月光。
私の足下には、女の死体。
今、私がその命を奪ったばかりである。
この女のことは何も知らない。
夜、私に出会った。それだけだ。
そう。私は殺人鬼だ。

私は女を殺す時、必ずその腹を切り開き内臓を露出させる。
馬鹿な犯罪心理学者は、その行為に意味を見出すだろう。
だがそれは、その学者自身の闇であり私の闇ではない。
意味を問う事。それ自体が愚かな事に気付いている人は少ない。

私は女を殺す事により、性的快感を感じているわけではない。
「女」というものを憎んでいる訳ではない。
そして、おそらく常人が想像できる範囲の理由でもない。
私は・殺すために・生まれた。
それだけだ。
では、次の夜にまた会うとしよう。


          *          *          *


俺は、リナーが寝ている部屋に向かった。
起こすといけないので、ゆっくりとドアを開ける。
リナーは布団の上で座って、窓の外を眺めていた。
「あっ、起きてたモナか」
「ああ。もう体も大丈夫だ。世話をかけた」リナーは無表情に言った。
これはマズい。帰る気マンマンだ。
俺はあわてて言った。
「あ、せっかくだから、夕食を作ってほしいモナ」
リナーは怪訝な表情を浮かべた。
自分自身で、押し付けがましい言い方だったのに気付く。
俺は単にリナーにもっと居てもらいたいだけなのだが。
だが、リナーは俺の言葉に気分を害したのではないようだ。
「私が…作るのか?」意外そうにリナーは言った。
「そうモナ。リナーが作る食事が食べたいモナ」
俺は半ばヤケクソだ。どう考えても、出会ってすぐの人間に対する要求ではない。
「私の料理を食べるだと…?」リナーは驚いた顔で言った。
「君の思考は理解不能だ。それは勇気とは言わん。ただの無謀だ」
何か、話が噛み合っていない。リナーが言葉を続けた。
「サバイバル技術の一環として、ほとんどの食材の調理法は習得している。だが…」
リナーは下を向いた。俺は当惑する。
彼女はさらに呟いた。「いや、君がそれを望むならば、止めはしない…」
俺は一言も言葉を発せない。
リナーは澄んだ瞳で俺を見据えて言った。
「最後に問う。君は覚悟があるのだな?」
一体、なんなんだ。俺は早くもピンチなのか。
俺は無言で頷いた。ここで退けば、リナーと二度と顔を合わせられない。そんな気がした。
「ならば、行くか…」
リナーは台所に進んでいった。

10:2003/11/09(日) 10:15

台所に着くと、リナーは冷蔵庫の中などをチェックした。
「牛肉…ジャガイモ… この国の伝統料理、肉じゃがが調理できそうだな」
俺は驚く。
「えっ!リナーは肉じゃが作れるモナ!?」
そう、女の料理の腕を見るのには、肉じゃがが一番だ。
「調理経験はない。だが知識はある」リナーは冷蔵庫をゴソりながら言った。
リナーは一体、どこの国の人なのだろうか。少なくとも、日本語は流暢に喋れている。
「…鮭か。焼き鮭などはどうだ?」リナーは鮭を発見して言った。
「いいモナ。焼き鮭なんてよく知ってるモナね」
俺は感心する。
「私を甘く見てもらっては困る。鮭に塩を振り、焼却すれば完成だろう?」
「焼却しては駄目モナ…」
「では、調理開始といこうか」
心なしか、リナーは少し楽しそうだ。無表情を崩してはいないが。
料理する姿を横で眺めているのも変なので、テーブルに座って眺める事にした。
何というか、無駄のない動きだ。料理中にも右腕を出さないのが気になるが…
美女が料理をしている姿は、それだけで絵になる。
これを毎日見れるならば、悪魔に魂を売っても後悔はない。
率直に言おう。後ろから抱き付きたい。
そしてハァハァしたい。

「くッ…! 油断した!!」
リナーの声が、俺を現実に引き戻した。
「どうしたモナ?」俺はリナーに声をかける。
「単純なフェイクに引っ掛かってしまった。端的に言えば、砂糖と塩を間違えたのだ…」
伝説の大技だ。時は21世紀にもなる世の中、そんなミスをやらかす人間はそう多くない。
見ると、肉じゃがの鍋に塩がブチ撒けられていた。
リナーは言った。「まあいい。焼き鮭に砂糖を振れば、プラスマイナスはゼロだ」
リナーとの付き合いは浅い俺でも、本気で言っている事は分かった。
「いや、それは止めた方がいいモナ…」
リナーは俺を睨む。
「私に料理を委ねたのではなかったのか?君に口を挟まれるいわれはない」
その迫力に気圧され、俺は台所から出て行った。
まあ、食卓に何が並ぼうか構わない。
リナーと一緒ならば、地獄でも平気だ。


「完成だ。待たせたな」
リナーは4つの皿を器用に左手に乗せて運んできた。
それは、リナーの手によってテーブルに並べられる。
肉じゃがは、見た目は普通だが、塩入り。
焼き鮭は本当に焼却してしまったらしく、2cmほどの炭屑になってしまった。
ご飯からは香ばしい洗剤の香りがする。何をやったかは言うまでもない。
味噌汁は、形容不能だ。この世界に存在するあらゆる表現技法を超越している。
味噌汁の存在そのものを誤解しているとしか思えない。
リナーは俺を凝視している。
これは一歩も退けない。
「覚悟は…出来てる」俺はそう呟いた。
とりあえずご飯以外は、食べても命に別状はなさそうだ。
俺は、肉じゃがを一気に食べた。ひたすら塩辛い。
途中で舌がマヒしたので、それほど苦痛ではなかった。
そのまま、かって鮭であった消し炭を口の中に放り込み、味噌汁を超えしものを一気飲みした。
さすがにご飯は無理だ。中性洗剤とは言え、命にかかわる。
「お腹いっぱいだから、ご飯は今度おにぎりにして食べるモナ」俺は嘘を言った。
「よく食べましたね…」リナーは驚嘆の声を上げる。
「君の作った料理ならば、食べれるモナ。あ、愛の力モナ…!」俺は虚勢を張った。
「少し錯乱しているな。やはり私にとって、料理はオーバースキルか…」リナーはそう呟いた。

俺は洗剤入りのご飯をラップでくるむと、冷蔵庫に入れた。
さすがにリナーの目の前では捨てられない。
「だが、他人のために食事を作るというのも悪くはないな。このような感情を思い出させてくれた君に感謝しよう」
リナーは少し微笑んで言った。少し、いやかなり罪悪感を感じる。
思えば、初めてリナーの笑顔を見た。余りにも素敵過ぎる。
俺も微笑みを返した。もっとも俺は普段から笑っている顔なので、余り変わらないが。
その時、俺は幸福だった。
そう、しょせんは崩れていく幸福に過ぎないが…




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11:2003/11/09(日) 10:15

「〜モナーの夏〜  9月15日・その4」



          *          *          *


今夜も月は美しい。
殺すには、とてもいい夜だ。
だが、最近は女が一人で歩いている事も少ない。
流石に短期間に殺しすぎたようだ。
こんな時は、無為に町を彷徨うのがいい。

妹と同じような年齢の、二人連れの女を見かけた。
二人連れに興味はない。私はその女達を見送った。
そう、私には妹がいる。
もちろん、私の行いに気付いてはいない。
私が連続殺人鬼だと知った時、妹はどう反応するだろうか。
私を恐れるだろうか。脅えるだろうか。悲しむだろうか。嘆くだろうか。
私を畏れるだろうか。怯えるだろうか。哀しむだろうか。怒るだろうか。
私を殺そうとするのが、一番よい。

そう徒然と物思ううち、私は足を止めた。
私の足下には、女の死体。
驚くまでもない。私はこれと同じものを生産し続けている。
しかし、これは私が殺したものではない。

今月、私が殺した女は15人。
しかし報道によると、19人の犠牲者が出ているのだという。
つまり、4人余分に殺されている事になる。
私の仕業に見せかけて、殺人を犯している愚か者が存在するということだ。

それが証拠に、この女の死体。
私の殺し方と同じように、腹が大きく裂かれていた。
だがそのやり方は、私の業とは大きく異なる。
まず腹を切開した際に、胃に傷をつけてしまっている。
内容物が漏れ出して、ひどい臭いだ。
さらに、血液も周囲に飛び散っていて見苦しい。
おそらく、死後すぐに切開したのだろう。
他にも、目立つ位置に死斑があったり、頭部にも傷があったりと、仕事が粗い。
見るに耐えない。不快だ。

このような稚拙なやり方で殺された女に、同情を禁じえない。
そして、こんなものが私の仕業と思われるのは、大いに不快だ。
犠牲になった4人の女を弔うためにも、この犯人は私の手で捕らえなければいけない。
私はそう決意した。犯人を、捕らえ屠る。
これからは、嫌な夜になりそうだ。
月はあんなに美しいのに。


          *          *          *

12:2003/11/09(日) 10:16

俺の経験した「初・肉親以外の手料理」は、非常に塩辛い結果に終わった。
だが、俺は満足だった。こんな日々が続くなら、他に望むものはない。
しかし、リナーはいつ俺の前から消えてもおかしくない。
料理を作ってくれたのは、休息場所を与えたという恩を返すためだ。決して親しくなった訳ではないのだ。
何とか、連絡先を聞くなどしてリナーと接点を持たなくては…
とは言え… リナーはなかなかに天然のようだ。
電話番号くらい、深く考えずに教えてくれるような気もする。
俺は、台所で後片付けをしているリナーの元に向かった。


「リナー。ちょっと聞きたいことがあるモナ」
俺は皿を洗うリナーの後姿に声をかけた。何枚か割れた皿があるが、見なかった事にする。
「この作業は非常に気を使う。あとにしてくれないか」
リナーは後ろを向いたまま言った。
「じゃあ、待ってるモナ」
俺はイスに腰をかけた。
そして、リナーの後姿を眺める。
皿を洗う時くらい、右腕を出せばいいのだが…
それにしても、美味しいシチュエーションだ。
まるで新婚さんではないか。
たまに聞こえるパリーンという音など、気にもならない。

「さて…で、何だ?」
俺が妄想している間に、皿洗いが終わったようだ。
「あの、連絡先とか、教えてもらえたらいいなーって…」俺はドキドキしながら聞いた。
「私の連絡先か? それは教えられない」
リナーはきっぱりと答える。俺は落胆した。
「そもそも君が私に何を連絡するのか疑問なのだが… とにかく、教える事はできない」
「そうモナか…」
俺はため息をついた。さっきまでバラ色だった周囲の空間が、真っ黒に見える。
余りにもヘコんでいる俺を、哀れに思ったのだろうか。リナーは優しく言った。
「すまない。たとえ親兄弟にさえ… いや、親しい者ならばなおのこと教えられんのだ」
それを聞いた時、俺の頭に数式がよぎった。

・俺=教えられない
・親しい者=教えられない
よって、「俺=親しい者」が成り立つではないか!!
ウッヒョー!!
なんと、俺はリナーにとって最も親しい人だったのか!!

「…あの。聞いているか?」
リナーが何か言っていたようだ。
「君が言いたい事は分かったモナ。モナも同じ気持ちモナ」俺は激しく頷きながら言った。
「君は大丈夫か?何か悪いものでも食べたのではないか?」
大丈夫。愛さえあれば、それにもすぐに慣れるさ。
…とか行っている場合ではない。事実上、リナーを引き止める材料は尽きたのだ。

13:2003/11/09(日) 10:17

「…まあいい。君には大変世話になって感謝している。私はそろそろ…」
来た!! 
このままではリナーが帰ってしまう。どうしよう。何とかして引き止めないと…
俺の苦悩は全く知らず、リナーは言った。
「おっと。一つ聞きたいのだが。商店街にはどう行けばいい?」
商店街?
この辺は住宅地なので、商店街はない。
買い物ならば、そこらのスーパーで済ませている。
俺はそれをリナーに伝えた。
「それは困るな。流石にスーパーにテントは売っていないだろうし…」
テント?
「テントで何をするモナ?」俺は思わず問い返す。
リナーは呆れたように言った。
「テントでする事と言えば、中で寝る以外にあるのか?
 他の使用法が思いつかない。君の質問はいつも意味不明だ」

ちょっと待て。
この女、こんな都会でテントを張るつもりか。どう考えても浮いている。
こんな自然から離れた場所でアウトドアとは、常人の発想ではない。
それより、これは大大大チャンスではないのか!?
「もしかして、今日泊まるところがないモナ?」俺は目を輝かせて聞いた。
「しばらくこの町を調査するので、その間はテント暮らしの予定だが?」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

「な、なら、しばらくウチに泊まったらどうモナ?」
リナーは少し考えてから、言った。
「私に断る理由はない。が、その意図が分からない。君に見返りがある訳ではあるまい?」
見返りならば、もう十分に!!
「キミみたいな華奢な子が、そんな何日もテント暮らししちゃ駄目モナ。風邪ひくモナ」
「…華奢な子か」リナーは少し嬉しそうに、そして悲しそうに微笑んだ。
「私にそんな事を言ったのは、君が初めてだ」
初めて… そうか。俺は初めての男だったのか。
満足げな表情を浮かべる俺に、リナーは言った。
「では、君の親切にもうしばらく甘えさせてもらう」

「禍福はあざなえる縄の如し」という格言が正しければ、とんでもない不幸が俺の身を襲っても
おかしくはないだろう。
俺は今、それくらい幸福だった。
だが、うかれてばかりはいられない。先に聞いておく事がいくつかある。
「じゃあ、リナー。聞きたい事があるモナ」
リナーは頷いた。
「ああ。君には聞く権利があるな。だが答えられない質問もあるということは、あらかじめ断っておく」
「言いたくない事は無理に言わなくていいモナ」
「すまない。知ってしまえば、君の身にも危険が迫る場合があるからな」
「気にしなくていいモナよ。まず…どうしてリナーはあんな道端に倒れてたモナ?」
「すまない。それには答えられない」リナーは申し訳なさそうに答えた。
「じゃあ、さっきこの町を調査するって言ったモナね。
 何を調査するモナ?そもそもリナーは何をしている人モナ?」
リナーはうつむいて言った。
「調査内容に関しては…分からない。とりあえず、この町で起こっている事を正確に知るのが第一だ。
 そして私は…ある組織から派遣されてこの町に来た。その組織に関しては言えない」
この町で起こっている事…? 
そういえば初めて気絶しているリナーに会ったとき、マーブルなんとかと呟いていた。
最近起きているという連続殺人事件と関係あるのだろうか。
「この町で起きている事って何モナ?マーブル何とかや、連続通り魔事件と関係あるモナ?」
リナーは驚いたようだ。
「空想具現化(マーブルファンタズム)を知っているのか!?」
「リナーがうわごとで口走ってたモナ」
「そうか…だが、詳細は言えない。おそらくその連続通り魔事件と関連はあるのだろうが…」
次に俺は、ずっと気になっていた質問をした。
「リナーは、なんのために銃を持っているモナ…?」
リナーは俺の目を見つめた。
「…知っていたのか。それでよく、私を家に連れ帰る気になったな」
まったくだ。
「答えは単純。私に必要だからだ」
答えていないも同然だ。使途には一切触れていない。だが、言及する気にはなれなかった。

「じゃあ、最後の質問モナ。リナーは、人を殺した事があるモナ?」

それを聞いて、リナーは深くため息をついた。
「何も分かっていない親切者と思いきや… 君の質問は痛いところばかりついてくるな」
それまでじっと俺をを見つめていたリナーが、目を逸らした。
「『人』という定義次第だろうが… 純粋な人間ならば、殺した事はない。
 人である事をやめてしまったものならば、今まで殺してきたし、これからも殺し続ける」
リナーはじっとうつむいて、自分の左手を見つめている。
俺はその重苦しい空気に耐えられない。
「と、とりあえず、普通の人は殺してないモナね。なら、気にしないモナ」
「それよりも…」リナーは顔を上げた。「君の言っていた、通り魔事件について聞かせてくれないか?」

14:2003/11/09(日) 10:17

俺も、モララーに聞いたくらいしか知らない。とりあえず、その範囲で説明した。
俺の話を聞き終わると、リナーは怖い顔をした。
「犯行は常に夜か。おそらく、当たりだな…」
リナーが怖い顔をすると、何とも言えない迫力がある。
怒らせるととても怖そうだ。
「とりあえず、今夜当たり調べてみるか。出会えればいいが…」
えっ!出会うって、もしかして…
「ああ。今夜にでも、外をウロついてみる。」リナーは俺の表情を読んで言った。
普通なら、止めるところだ。
だが、調査のために組織から派遣されたと言っていた。
これまでの様子を見る限り、言って聞くようなリナーではない。
止めても無駄だろう。なら・・・!
「モナもいっしょに行くモナ!」
リナーは呆れ果てた様子で言った。
「君の脳は満足に働いているのか?19人も殺した犯人にわざわざ会って、どうするつもりだ?」
それはこちらのセリフだ。
「だって…リナー一人じゃ、心配モナ…」
リナーはさらに呆れたような表情を浮かべた。この顔を見るのも、もう何度目だろう。
「杞憂もいいところだ。君が付いてきたところで、何が出来る?
 単純に戦闘能力を比較しても、君は私の足元にも及ばない」
確かにその通りかもしれない。俺は銃なんか触ったことがない。
だが、リナー自身はか弱い女の子なのだ。
それにも関わらず、リナーは続ける。
「例え君が1個師団で襲ってきたとしても、私なら1時間で殲滅できる。それでもついて来たいと言うのか?」
俺は頷いた。それでも、一人にはできない。
「それでも…俺がリナーを守るモナ!!」俺は立ち上がって叫んだ。
その拍子に、椅子が倒れて床を転がる。
リナーはこれ以上ないほど激しく呆れ果てた様子だ。
「全く…君ほど意味不明な者は初めてだ。なら、好きなようにしてくれ」
ようやくリナーは折れたようだ。
これで、話はまとまった。

「今は7時か… とりあえず、12時まで寝ておく」
リナーは椅子から立ち上がると、そう言った。
「そう、お休みモナ」
リナーは台所のドアを開け、そして振り向いて言った。
「悪いな。君の寝床を狭くしてしまって」
一瞬、意味が分からなかった。
俺は困惑しつつ告げる。
「モナの布団は、ちゃんとリナーとは別なのがあるモナ。一つしかない訳じゃないモナ…」
リナーは意外そうな顔をして言った。
「そうなのか。君の妹はそのせいで、他の場所に泊まりに行ったと思い込んでいた」
「そ、そうモナか…」
もしかして、とても美味しい話を、結果的に蹴ってしまったのではないだろうか。

「ところでリナー」俺は台所から去ろうとしているリナーに声をかけた。
「犯人に会ってどうするつもりモナ?」
「無論、殺す」
そう言って振り向いた時のリナーの目は、ゾッとするほど冷たかった。



  /└────────┬┐
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15:2003/11/09(日) 10:19
※リナーAA図

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
  /,ノノくj_''(†)jlつ
 ん〜''く/_l|ハゝ
      し'ノ

16:2003/11/09(日) 10:20

「〜モナーの夏〜  9月15日〜9月16日」


          @          @          @


サラリーマンは、久し振りの帰国に喜びを感じていた。
今までずっと仕事でヨーロッパにいたのだが、3ヶ月ぶりに帰ってきたのだ。
「では、私はこれで…」
飛行機内で知り合った青年が頭を下げた。
その動きを一つとっても、気品が漂っている。
サラリーマンもつられて頭を下げた。
こちらは、サラリーマンという職業ならではの現実的な頭の下げ方だ。

その青年は、飛行機で隣の席だった。
大きく十字架が刻印された礼服を着ていたその青年は、若くして神父をやっているらしい。
いくつか世間話を交わしたが、残念ながら名前までは聞かなかった。
柔らかい、人懐っこい話し方の青年だった。
一般に思われるような説教臭さなど、微塵もない。
日本語の発音も完璧で、話題もウィットに富んでいた。
日本には仕事で来たのだという。布教活動だろうか。

サラリーマンと青年は、空港のロビーで別れた。
サラリーマンは、青年の後姿を見ていた。歩き方も、実に様になる。
その時、予想外の事態が起きた。
前方を歩いていたガラの悪そうな若者と肩が当たったのだ。
どう控えめに見ても、若者がヨソ見をしているのが原因だった。
にも関わらず、若者と二人の仲間は青年に絡み出した。
サラリーマンに、間に入る度胸はなかった。
彼は、距離を置いて青年の無事を祈っていたのだ。
そのまま青年は若者3人に連れて行かれた。
サラリーマンはその後を追う。助けには入れなかったが、知らない振りも出来なかったのだ。

若者3人は青年をトイレに連れ込んだ。
何という事だ。中でリンチを受けていてもおかしくはない。
サラリーマンが警察への連絡を考えたその時、トイレのドアが開いた。
平気な顔をして、青年が出てきたのだ。服には汚れ一つない。
サラリーマンは、事実上見捨てることになった手前、青年に声をかける事はできなかった。
青年はそのまま人ごみに混ざってしまう。
どういう事だ?
サラリーマンは恐る恐るトイレに入ってみた。
そこには、血まみれの若者3人が転がっていた…という事は無かった。
清掃が行き届いていて、綺麗なトイレだ。
その時、サラリーマンは個室の方から呻き声がするのに気付いた。
ロックはされていない。サラリーマンは、そっとドアを開いた。

そこには、さっきの若者3人が倒れていた。
いや、3人であって3人ではない。
彼の胴体からは、もう一人の胴体が生えている。
肩の部分、つまり頭の横からは、もう一人の頭が突き出ていた。
残る一つの頭は、腹から生えている。
左手は3本まとまって肩から生えていたが、右手のうちの一本は背中から伸びていた。
足も同様に、奇妙な位置から合計六本生えている。
若者3人の体は、一つに混ざっていたのだ。
切り取って繋げた、という感じではないし、一滴の血も流れてはいない。
ただ、人体同士が綺麗に融合しているのだ。
そして、それぞれの顔が、苦悶の声を上げていた。
サラリーマンはそのまま気を失った。


          @          @          @

17:2003/11/09(日) 10:20

もうすぐ12時だ。
俺はあれからずっと、台所のテーブルに座っている。
もうすぐ、リナーと殺人鬼探しに行く訳だが…
これはッ! もしかしてッ! 深夜のデートではないかッ!!
でも目的は殺人鬼探し。
美味しいのか、美味しくないのか分からなくなってきた。
ついでに、明日は普通に学校がある。
いや、そんな事はどうでもいい。リナーは本気で犯人を殺す気なのだろうか。
あの目は、冗談の目ではない。
そう、俺はリナーについて何一つ知らないも同然なのだ。

「モナー、行くぞ」
突然呼びかけられた。心臓が止まりそうになる。
物音や気配などは全くなかった。
「じゃあ、行くモナ」
俺は動揺を隠して言った。
「おっと、その前に…」
リナーはスカートから、一本の大きなナイフのようなものを取り出した。
長さは30cmほどある。こんなものがどうやってスカートの中に収まっていたのだろうか。
リナーはその物騒なものを、俺のほうに差し出した。
「これは?」 俺は困惑した。今まで、こんなデカい刃物など扱ったことがない。
リナーは答えた。
「バヨネット(銃剣)。主に刺突用の武器だ。本来はその名の通り銃に装着して槍のように扱う。
 17世紀ごろからヨーロッパ諸国を中心に普及し始め、装填時や射撃後に無防備であるという銃兵の問題が
 解消された。初期のは銃口に直接差し込む『プラグ式』だったが、時代が進むにつれて装着したままでも
 装填・射撃が可能な『ソケット式』や『リング式』が発明され…」
「いや、そうじゃなくて…」 俺はリナーの聞きたくもない説明に割り込んだ。
「これを、モナがどうするモナ?」
「無論、護身用だ」 リナーはさらりと答える。
こんなもの、いきなり渡されても扱える訳がない。
が、いちおう所持しておく事にした。
こんなものを真夜中に持ち歩いていたら、間違いなくこちらが不審者だが。
「では、行くぞ」 リナーはそう言って、台所から出て行った。
このままでは置いてけぼりだ。俺は慌ててその後を追った。


とりあえず、家を出た。
だが殺人鬼を探すのに、どこへ行く気なのだろう。
「とりあえず、どこへ行くモナ?」
俺はリナーに訊ねた。
「特に当てはない。だが、奴等が好みそうな場所の見当はつく。人通りが少なく、薄暗い場所だ。
 適当に歩きながら、そういう場所をチェックしていく」
奴等…? 言い回しが少し気になったが、問い返しはしなかった。
「じゃあ、町を一周してみるモナ?」
「そうだな」
リナーは、俺の提案に乗った。
俺とリナーは2人で夜道を歩き出した。

俺達の間に、会話はなかった。
家にいた時のリナーと今のリナーはどこか違う。
どこか、張り詰めた雰囲気なのだ。
いわゆる、何者をも寄せ付けない雰囲気、というやつである。
ふと、リナーが足を止めた。
「前方にいる男、様子が変だ…」

俺は目を凝らした。
かなり離れた場所に、一人の男が立っていた。こちらに気付いている様子はない。
「ウヒ… ヒヒヒ…」 不気味な笑い声が聞こえる。明らかに、前方にいる男から発せられたものだ。
「イヒ… イッヒーーーーーーッ!!」 突然、男が背を反らし痙攣しだした。
激しく痙攣しつつも、裏返った声で爆笑している。
不審者どころではない。完全にいっちゃった人だ。
男は笑いながら、近くにあったポストに近寄った。
「赤… 血… チ! ウヒッ! ヒャヒーーーーッ!!」
奇声を上げながら、ポストを殴り始める。
みるみるポストはひしゃげ、バリバリと裂けた。
何という馬鹿力だ。やはり馬鹿力とは、その名の通り馬鹿に宿るものらしい。
ポストの裂け目から、投函されていた郵便物がボトボトと落ちた。
「ヒャッヒーーーッ! 血ーーッ!! イヒヒッ!!」
男は両手を高く上げると、奇声を上げながら再び痙攣しだした。

「念のため、聞いておく」 リナーは俺に視線を移動させて言った。
「私はこの国の文化に詳しくはない。今の行為は、この国の風習や慣習、または伝統行事に由来するものか?」
「由来するわけないモナ」俺はきっぱりと言った。
これだけは自信を持って言える。あの男はヤバい。
「では、今のは異常な行為と見て間違いないな?」
俺は大きく頷いた。
リナーはそれを確認すると… 何と、男の方へつかつかと歩み寄っていった。
「リ、リナー!!」
俺は、あんな男の近くになど寄りたくない。だが、そうも言っていられないようだ。
俺はリナーに渡されたバヨネットのグリップをしっかりと握ると、早足でリナーの後についていった。

18:2003/11/09(日) 10:21

男は俺達の存在に気付いたようだ。
「…ヒヒッ! …女!! 女女女女女ーーッ!!」
その途端、男は素早くリナーの方に駆け出した。
その手には、どこからか取り出したナイフが握られている。
このままじゃ、リナーが!! 俺は血相を変えてリナーに走り寄った。

銃声が響く。
男が地面に倒れる音。
冷たい瞳をした、リナーの横顔。
月明かりに照らされ、病的なまでに美しい。
その左手には銃が握られていた。
銃口からは、煙がうっすらと立ち昇っている。
仰向けに倒れた男の額に、十円玉ほどの穴が開いていた。
そこから冗談のように血が垂れている。
俺は… そのまま硬直した。状況の把握に時間がかかった。
リナーは汚物でも見るような目で、倒れ伏した男を見下ろす。
男の体は小刻みに痙攣していたが、すぐに動かなくなった。

「とんだ雑魚だったな。てっきり、吸血鬼が出てくるものとばかり思っていたが…」 
リナーは表情を変えずに言い放った。
「殺したのか…!?」
俺は独り言のように呟く。
「ああ。見て分からないか?」
リナーは当然のことのように言った。
そう、リナーにとっては当然のことなのだ。
「人間は殺さないって…!」 俺は絞り出すような声で言った。
「落ち着け。一応こいつは人間だが、ここに存在する人間ではない」
リナーは意味不明なことを言った。
「どういう事モナ?」
「こいつは多分、『殺人鬼』という属性だけを具現化した存在だ。元々この世にいる人間ではない」
「…?」 俺には、さっぱり意味が分からない。
「つまり…」 リナーは男の死体を見下ろす。「この男は、存在してはいない」
「でも、ここにいるモナ。意味が分からないモナ」
リナーはため息をついた。
「核心に触れないように説明しているのだから、分からないのは仕方がない。
 この男は、いわば真の殺人鬼の影だ。」
「ということは、この男は殺人鬼ではないモナ?」
「『殺人鬼』ではある。むしろ、『殺人鬼』そのものだ。だがこいつは、一連の殺人事件の犯人ではない。
 もっとも、犠牲者のうちの何人かは、こいつによる被害者なのかもしれんが…」
「じゃあ、本当の殺人鬼の部下みたいなものモナ?」
「それは違う。おそらく本物の殺人鬼は、こいつの存在は知らないはず」
さっぱり要領を得ない。
リナーは、銃をスカートにしまいながら言った。
「とりあえずは…一刻も早く、本当の殺人鬼を探し出さないといけないな。
 こんな影を何人も倒したところで、全く意味がない」
俺は仰天した。
「何人も、って… こんなのが何人もいるモナか?」
「ああ。このままだと、こいつのような殺人鬼の影が増えるだろうな」
俺はぞっとした。こんなアレな人達が大挙して現れるのだけは勘弁してほしい。
「じゃあ、行くぞ。殺人鬼捜索の続きだ」
「えっ!まだやるモナ?」
明日は学校だ。さすがに辛い。
「当然だ」そう言って、リナーは歩き出した。
死体はこのままにしていいのだろうか。
まあいいか。俺は慌ててリナーの後を追いかけた。

再び俺達は、無言で夜道を歩き出した。
率直に言って、俺はリナーに恐怖を感じていた。
いかに存在していない(意味は分らないが)とはいえ、見た目は人間だ。
それを、表情一つ変えずに撃ち殺した。
リナーはやはり、俺とは住む世界が違う人間なのだ。
何か、リナーが以前よりも遠くに感じた。



  /└────────┬┐
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19:2003/11/09(日) 10:21

「〜モナーの夏〜  9月16日・その1」


          @          @          @


スーツを着込んだ男は、ビルの最上階でため息をついた。
そのビルは8階建て。
男がここにいる目的は、向かいのマンションを監視するためである。
夏ももう終わりとはいえ、まだまだ暑い。
汗をぬぐいながら、スーツの男は手元の写真を見た。
雑踏に紛れて、一人の青年が写っている。
柔和そうな表情。
大きく十字架が刻印された礼服。
背景は、おそらくヨーロッパのどこかであろう。
男は写真から目を離すと、双眼鏡を覗いた。
向かいのマンション、4階。いちばん右端の部屋。
青年はそこで眠っていた。その姿がここからよく見える。
写真に写っている青年と完全に一致していた。顔も、体格も、衣服さえも。
カーテンをかけず、ベッドは窓際。
油断しているのか、誘っているのか…

「どうだ?」
不意に背後から声がした。
スーツ男は双眼鏡を下げて振り向く。
そこには、かなり長身の男が立っていた。手にはコンビニの袋を下げている。
「動きはありませんね。なさすぎるのが、逆に気になりますが」
スーツ男はそう言って、再びため息をつく。
長身の男は、コンビニの袋からサンドイッチを取り出した。
それを、スーツ男に差し出す。
「ほれ。で、どう思う?」
「誘いの可能性が高いでしょうね…」 そう言いながら、スーツ男はサンドイッチを受け取る。
包みを破いて取り出すと、無造作に口に放り込んだ。
長身の男は、スーツ男から双眼鏡を受け取り、覗き込んだ。
やはり、青年は眠っているように見える。
「協定違反ってことは承知の上か…」
憎々しげにつぶやくと、双眼鏡を下ろした。
袋からおにぎりを取り出すと、包みを破いて一口かじる。
サンドイッチを平らげたスーツ男が口を開いた。
「やはり、例の連続殺人の一件でしょうか…」
「その程度で、『教会』は動きやしない。まして、ここは無神論者の国だからな」
そう言って、長身の男はさらにおにぎりをかじった。
スーツ男は3度目のため息をつく。
「異教徒は何人死んでも構わないって訳ですね」
そのままサンドイッチの包みをコンビニ袋に入れる。
「公安の動きは?」 長身の男は訊ねた。
「テロリストという事で逮捕状を申請してるみたいですが…」
スーツ男は、そう言って肩をすくめた。
長身の男は呟く。「テロリストか。それなら楽なんだがな…」
「やはり、生け捕りは難しいですかね?」
スーツ男は双眼鏡を片付けつつ訊ねた。
「無理だろうな。空港のトイレに残った残骸から、奴の能力は判明したが…」
長身の男は、『混ざってしまった』3人の姿を思い返してしまった。少し吐き気がする。
「人体の結合ですか… かなり厄介な能力ですね…」
スーツ男も同様だったのだろう。冴えない表情をしている。
長身の男は腕時計を見た。もうすぐ、時間だ。
「あと15分だ。そろそろ行くぞ」
スーツ男の表情に、緊張の色が走った。


ピンポーン
来客を告げるチャイムが鳴った。
青年は目を覚ます。ドアの向こうに、人の気配。
ドアまで歩み寄ると、ノブを回す。
配達服に身を包んだ男が、ダンボールの包みを抱えて立っていた。
「お届け物です。ハンコお願いできますか?」
青年は微笑んだ。
「あ、はいはい。ちょっと待って下さいね…」
背を向け、部屋の奥に引っ込む。
少しの間の後、ハンコを片手に戻ってきた。
「どうぞ」
青年は、宅配便の男にハンコを差し出した。
「あっ!」宅配便の男は、ハンコを受け取りそこなった。
そのままハンコは音を立てて床に落ちる。
「あ、すみません…」 青年はハンコを拾おうとして腰をかがめた。
その刹那、宅配便の男の身体から、人型のヴィジョンが浮き上がる。
そのヴィジョンは、拳を青年の後頭部めがけて振り下ろした。
しかし、その拳が青年の頭部に命中する事はなかった。
宅配便の男の腹部に、バヨネットが深々と突き刺さったからだ。
「ぐっ…」
宅配便の男は、床に膝を着いた。持っていたダンボールが地面に落ちる。
刺し貫かれた傷から血が垂れて、床を真っ赤に濡らした。間違いなく致命傷だ。
青年は立ち上がると、右手についた返り血を払った。
「強盗には見えませんね。この国の対策部の人間…ってとこですか」

宅配便の男は、かすれた声で言った。
「5秒だ…」
青年は穏やかな笑みを浮かべる。
「何が5秒です? あなたの残り寿命ですか?」
「俺の手から離れて、5秒だ…」
「!!」
青年は、床に投げ出されたダンボールに目をやった。

20:2003/11/09(日) 10:22

轟音と爆炎。
「よし、突入だ!」廊下に待機していた長身の男とスーツ男が、爆発の起きた部屋の前へ駆け寄った。
足元には、焼け焦げた仲間の屍があった。腹部に刃物が突き刺さっている。
青年の姿はどこにもない。
逃げたのか、部屋の中に潜んでいるのか…
長身の男が、警戒しながら一歩ずつ部屋へ踏み込む。スーツ男が後に続いた。
元々、部屋に物がほとんどなかったのだろう。余り散らかってはいない。
窓ガラスは割れている。爆風の影響だろう。
他に目に付くのは…ベッドのみ。
その他に、隠れられそうな場所はない。
周囲の警戒を怠らず、2人はベッドに近づく。
長身の男は、振り返ってスーツ男を見た。
スーツ男は緊迫した表情で頷く。
長身の男の身体から、人型のヴィジョンが立ち上がった。
木製のベッドは拳の乱打を浴び、たちまち木片となる。
しかし、その中に人影はない。
長身の男は考えた。窓から逃げたのだろうか?
しかし、奴ほど戦闘経験が豊富な人間なら、自分に攻撃を仕掛けたものを放置はしないだろう。
それでも逃げたということは…爆風でダメージを受けたのだろうが。

「うわっ!」
背後から、スーツ男の声がした。
「!!」
長身の男は素早く振り返る。
だが、スーツ男の姿はない。
そこにいたはずなのに…忽然と消えていた。
「お、おい! どこへ行った!?」
長身の男は、周囲を見回した。姿どころか、気配すらない。
「おい! どこだ!?」

「神を信じぬ愚か者の行き場所は、地獄と相場が決まっています」
長身の男は、声のした方向を注視した。
床から、青年の頭が突き出ている。
そう、首を切り取って床に載せたように。

ズズズズ…

そのまま、青年の身体が床からせり上がってきた。
腕を組んだ姿勢のままで、昇降機に乗ったように。

「そんなことも、できるのか…」
長身の男は素直に感心した。
どこか他人事だ、男は自分でそう思って、可笑しくなった。
「天にまします我らの父よ。願わくば、御名をあがめさせたまえ…」
青年は、どこか観念したような男にゆっくりと歩み寄っていった。


          @          @          @


あれから町を一周したが、不審な者には会わなかった。
家に着いたとき、すでに4時を回っていた。
俺はいつも7時に起床しているので、あと3時間しか眠れない。
「じゃあ、モナは寝るモナ。リナーも休んだ方がいいモナ」
俺はそっけなく言うと、返事も聞かずに部屋に戻った。
リナーに対する不信感が、確実に俺に芽生えていたのだ。
そう言えば、リナーから受け取ったバヨネットを返すのを忘れていた。
まあ、明日でいいか。今は部屋の隅っこにでも置いておこう。
俺はベッドに寝転がる。
たちまち、深い眠りに落ちていった…


「助けて…」 リナーは俺にそういった。
ここはどこだろう?
そう、ここは地下牢だ。リナーは牢に幽閉されていた。
「ここから出して…」 リナーはそう哀願する。
俺の手には、鍵が握られていた。間違いなく、あの牢の鍵だ。
「ここは、嫌だ。暗い。狭い。怖い…」 リナーの目に涙が滲む。
普段の気丈さはカケラもない。
リナーは嘘をついている、そう俺は思った。
リナーは、暗くても、狭くても、怖くても平気だ。ただ、独りでいたくないんだ。
俺は、牢の前に歩み寄った。
「君のせいだ。これは…」リナーはそう言いながら、涙目でこちらを睨む。
その仕草は、殺してやりたいほど愛しかった。

「待て待て。私は、この牢を開けるつもりか?」
背後から、声がした。
そこには、俺が立っていた。
俺と寸分違わぬ外見。
だが、こいつは俺じゃない。私だ。
私は薄笑いを浮かべながら俺に言った。
「止めておけ。その怪物を解き放つのは止すんだ」
リナーが怪物?何を言っている?
目がおかしいんじゃないか?
俺は、私の正常に機能していないと思われる目をバヨネットで抉り出した。
そう、リナーから受け取ったバヨネットだ。
しかし、私はニヤニヤしたその不快なムカつく神経を苛立たせる殺したくなるような笑みを絶やさない。
「目を逸らすな。それとも、俺の目は節穴なのか?もっとも、私の目は本当に節穴になってしまったが」
そう言って、ゲラゲラと笑った。
心臓を一突きにし、首を切断する。
嘘のように静かになった。
もう、邪魔する奴はいなくなった。鍵を鍵穴に差し込む。
牢が開いた。
リナーは無言で俺の胸に飛び込んできた。
俺はそれを抱きとめる。
リナーの長い髪が俺の首筋に触れてくすぐったい。
これで、ゆっくりと、リナーを、殺せる。

21:2003/11/09(日) 10:23

目覚まし時計が鳴った。
せっかくいいところなのに… 
そう思いながら、俺は目覚まし時計を止めた。
夢を見ていた気がする。
どんな夢かは思い出せない。まあ、夢とはそういうものだ。
起き上がろうとして、身体の異常に気付いた。
腕と足がひどい筋肉痛だ。
リナーを運んだ時の影響だろう。腰もかなり痛い。
睡眠時間も短かったせいで、疲れも取れていない。
俺はよろよろと立ち上がった。
とりあえず、朝食だ。

台所には、萌えない妹、ガナーがいた。
「あれ、帰ってきたモナ?」
「うん。そのまま学校に行こうと思ったんだけど、
 友達の家で朝食まで厄介になるのも悪いから…」
「ま、そりゃそうモナ」
俺はパンを焼くと、すぐさま頬張った。
ガナーは冷蔵庫を開けた。
「あ、ご飯がある。あっためなおして食べよっと」
俺はパンを食べ終わると、フラフラしながら立ち上がった。
駄目だ。すごい筋肉痛だ。
俺はヨロヨロしながら台所を出る。
「兄さん、身体どうかしたの?」
ガナーが聞いてきた。
「いや、ただの筋肉痛モナ。普段使ってない筋肉を使ったから…」
「き、昨日はそんなに激しく…」
何か大変な勘違いをしているガナーを残して、俺は台所を後にした。


学校に行く仕度は整えた。
リナーをほっておく訳にはいかない。
だが正直、リナーに顔を合わせるのは気まずかった。
得体の知れない女…
平気で人を殺す女…
やはり、棲む世界が違いすぎるのだろうか。
覚悟を決めて、リナーがいる部屋をノックする。
「おーい、起きてるモナ?」
「ああ」
中から声がした。
「開けるモナよ」 俺はそう前置きしてから、ドアを開けた。
リナーは布団の上にちょこんと座っていた。
畜生、やっぱり可愛い。
「じゃあ、モナは学校に行ってくるモナ。今ガナーもいるけど、なんか遠慮してるみたいだから
 挨拶とかはいいモナ」
そう、ガナーは明らかに遠慮していた。朝から、リナーに関する事は全く聞かなかった。
もっとも、逆の立場だったら(ガナーが彼氏を家に連れ帰ったら)俺だっていろいろ遠慮するだろう。
ガナーは、リナーがしばらく家に泊まることは知らないはずだ。これも伝えとかないといけない。
「モナーが学校に行ってる間、ヒマだったらモナの部屋の本とか読んでてもいいモナ」
「了解した。私も本は好きだ」
実は、俺はかなりの読書家だ。
俺の部屋の本棚には、漫画・小説合わせてかなりの冊数が詰まっている。
リナーは言った。
「それと、一つ質問がある。私の荷物はコインロッカーに預けているのだが、この部屋に
 運びこんでも構わないか?」
「いいモナよ。その部屋はしばらくリナーの部屋モナ」
二人暮しで家が一軒。部屋は余っている。
「あと、お腹が減ったら適当に何か食べるモナ。じゃ、行ってくるモナ」
俺は、ヨロヨロしながら学校に向かった。

22:2003/11/09(日) 10:23

「おい、どうした?」
会うなり、ギコはそう言った。
「おはようモナ… なぁに、ちょっとした筋肉痛モナ…」
俺はそれだけを告げた。
「運動不足だ」 ギコは冷たく言った。
その後、他愛のない会話を交わしながら、学校についた。

靴箱まで来るだけでも、かなりの苦痛だった。
俺の靴箱は低い位置にある。
腰の痛みをこらえながら靴箱を開けた瞬間…
爆発した。
俺はその衝撃で、ぶっ倒れる。
「うおっ!モナーーー!!」 ギコが叫んだ。
そうだ、すっかり油断していた。

「アヒャ! ヒッカカッタナ!!」
靴箱の隅から、アイツが顔を出した。
そう、つーだ。
性別は不詳。行動は予測不可能。
ただ、一つだけ確かな事がある。つーは、多分俺の事が大嫌いなのだ。
しょっちゅうトラップを仕掛けて、俺を虐待してくる。
「アッヒャーーー!!」
そのままつーは走り去っていった。
「いくらなんでもやりすぎだ、ゴルァ!!」
ギコが叫ぶ。
「それはいいから、起こしてモナ…」
俺はひっくり返った姿勢のままで、ギコに嘆願した。

何とか教室についた。
机と椅子にトラップがないかチェックした後、腰を下ろす。
そこに一人の女子生徒が近づいてきた。
「すごい音がしたね。またやられちゃったの?」
おおう。憧れのじぃちゃんだ。
そう、得体の知れない女より、じぃちゃんの方がいい気がしてきた。
「朝からひどいモナ。つーちゃんは、モナの事が大嫌いだモナ」
俺は愚痴を吐いた。
「そうかなー? 多分、つーちゃんはモナー君のことが大好きなんだと思うけど」
驚きの返答だ。何をどうすれば、そんな発想が出てくるんだ?
「つーちゃんはモナー君の気が引きたくて、意地悪ばっかりするんだよ。
 そのくらいの愛情表現は見抜いてあげないと、つーちゃんが可愛そう」
とてもそうは思えない。たまに生命の危険を感じる事がある。
じぃちゃんはさらに続けた。
「好きな人に話しかけたくて、でも話しかけられなくて…
 で、いざ話しかけても、気恥ずかしくなって逃げちゃう…そういう気持ち、分かるな」
じぃちゃんは、何故だか悲しそうに言った。
そういう経験あり、ということだろう。
誰だろうか、じぃちゃんの思いに気付かない不届き者は。
「だから、つーちゃんはモナー君のことが好きなんだって」
結局、話が戻ってしまった。
「でも、モナの事を好きになってくれる物好きなんていないモナよ」
俺は話題を変えた。
つーの話をしていたら本人が忍び寄っていた…なんてのはゴメンだ。
「そうかなぁ…」じぃちゃんは首をかしげる。「モナー君の笑顔とか、私は好きだよ」
そう言って、じぃちゃんは席に戻っていった。
チャイムが鳴った。
ホームルームだ。


俺は、授業中にいろいろ思い返していた。
なぜ、リナーは倒れていたのだろう。
理由は不明だ。
そして、この町に危機が迫っている。
それにはマーベルなんたらが関連していて、連続殺人事件が起きている。
真犯人のほかにも、殺人鬼の影とやらがいる。それも複数。日がたつごとに、増えていくらしい。
そして、リナーはそいつを躊躇なく撃ち殺した…

『とんだ雑魚だったな。てっきり、吸血鬼が出てくるものとばかり思っていたが…』

不意に、その時のリナーのセリフを思い出した。
吸血鬼だって!?
そんなものが存在するとは思えないが…
まあいい。どうせリナーは肝心な事は教えてくれない。
リナーの調査とやらはいつ終わるのだろうか。
おそらく、今日の夜中も町を一周するのだろう。

真犯人を見つければ、それで終わりだろうか。
それが終われば、リナーは俺の前から姿を消してしまうのだろうか。
分からない。
俺自身が、リナーにいてほしいのか、いてほしくないのかも分からない。
分からない事だらけだ。
俺は、ため息をついた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

23:2003/11/09(日) 10:25
※お怒りリナー
            ,、
    /´ ̄(†)ヽ  // `ヽ lヽ/ヽヘ/レz
   ,゙-ノノノ))))) //     V ガッガッガッ Z
   ノノ)ル#゚ -゚ノiv'/   ☆ }´レvヘ/ヽ!ヽl`
  /,ノノくj_''(†)jlつZIニニニ>∧ ∧
 ん〜''く/_l|ハゝ リ  ☆ (;・∀・)つ <アアン
      し'ノ        /ヽ_) /

24:2003/11/09(日) 10:25

「〜モナーの夏〜  9月16日・その2」


今は4時間目。授業はさっぱり頭に入らない。
そういえば、今朝は連続殺人のニュースはなかった。
新たな犠牲者は出なかったのだろう。
だが、リナーが殺したあの男の事すらニュースにならないのが気にかかる。
まあ、まだ昨晩の出来事だ。ニュースになるには早いか。

リナーは、今何をしているのだろう。
リナーの日常なんて、想像もつかない。
まあ、俺の部屋の本を読んでもいいと言っておいたので、退屈は…

「うぁああぁあーーッ!!」
俺はとんでもないことに気がついてしまった。

「モナー、どうした?」
先生が言った。教室中の注目が俺に集まる。
そうだ。今は授業中だ。
「いえ、何でもありませんモナ」
「…」
先生は少し不審そうな顔をしていたが、すぐに授業は再開された。
じぃちゃんがこっちを見てクスリと笑った。

俺は頭を抱えた。
さっき気付いたとんでもないことというのは…俺のベッドの下に隠してある本の存在。
そう、俺は健全な高校生だ。それがベットの下にあることは悪くないと思う。
だが、本は自由に読んでいいと言ってしまった。
もし、リナーがそれを見つけてしまったら…
軽蔑されるだろうか。呆れられるだろうか。命を取られることはないと思うが…
見つけているだろうか… 見つけていないだろうか…
まあ、今さら悩んでも仕方がない。
チャイムが鳴った。昼食の時間だ。

今日は弁当を持ってきていないので、学食だ。
誰かを連れて行こうと思ったが、ギコもモララーも見当たらない。
仕方がない、一人で行くか… 
そう思いながら立ち上がった時、教室の前側の戸がガラガラと開いた。
「モナーく〜ん! いっしょにお昼ごはん食べようよ〜!」
うげっ!!レモナだ!!
「ノォーーッ!!」
俺は慌てて駆け出した。
そして、教室の後ろ側の戸を開けた瞬間…
プツン!
ワイヤーの切れた音がした。
俺の周囲が炎に包まれる。あらかじめ油を撒いていたようだ。
「アヒャ!モナーヤキダ!!」
またしてもつーだ。
「アッヒャー!」つーちゃんはバケツの水をブチ撒けた。
炎は消えたが、周囲は水浸し。もちろん俺の体も例外ではない。
つーちゃんは逃げようと背を向ける。
しかし、そこにレモナが猛烈な勢いで走ってきた。
「ちょっとー!! モナーくんに何てことするのよー!!」
レモナはそのまま、つーちゃんに体当たりをかまそうとした。
つーちゃんは素早く右に飛び退く。
レモナの体は、壁にめり込んでいった。ガラガラと崩れる壁。
だが、レモナは平気な顔で崩れた壁の中から出てきた。
レモナは笑みを浮かべる。
「はは〜ん、分かった。 つーちゃんも、モナーくんの事好きなんでしょ?」
つーは首を振って叫んだ。「バ、バカナコトイウナ!コノネカマ!!」
「素直になりなさいよ〜。 まあ、つーちゃんがどう思おうと、モナーくんは私のものだけど…」
つーちゃんはナイフをレモナの顔面目掛けて投げつけた。
「そんなの…」
レモナはナイフを軽く弾く。
だが、つーちゃんはその瞬間に間合いを詰めていた。
つーちゃんの鋭い爪が一閃する。
レモナは素早くバク転して、それをかわした…かに見えた。
だが、着地したレモナの頬には薄く切り傷が。
そこから、一筋の血が垂れる。
「ひっどーい!! 乙女の顔に…」
「ネカマノクセニ、ナニイッテヤガル!」
二人は睨み合った。
「ちょっとだけ、本気出しちゃおうかな…」 レモナは両手で髪を後ろに流す。
「コッチノセリフダ!アヒャ!」 つーちゃんは両手をプラプラさせた。
俺は… 昼メシを食いに食堂へ向かった。

25:2003/11/09(日) 10:26

パンと飲み物を買ってから、空いている席に座った。
身体はビショ濡れ。ところどころ火傷。
だが、筋肉痛は大分マシになっていた。
「また派手にやられたねー」
隣の席に、モララーが腰を下ろした。
「まったく、ひどすぎるモナ…」
俺は呟いた。チャームポイントのしっぽまで焦げている。
「モナー君は、レモナのこと好きなのかい?」
モララーは突然、脈絡のない質問をしてきた。
「確かに可愛いけど…男は勘弁モナ」
「じゃあ、つーちゃんは好き?」
「嫌いじゃないけど、たぶん向こうはモナのこと嫌いモナ」
「じゃあ…」 モララーは頬を染めた。「僕の事は好き?」
俺は飲んでいたジュースをブーと吹き出した。
モララーは恋する乙女の目で、じっと俺を見つめている。
すごいぜ! 俺、モテモテだッ!!
…家に帰りたい。

「モナー君、何やってるの? 汚いよ…」
いつの間にか、向かいにじぃちゃんが立っていた。
「…あ、汚いモナね」
俺はティッシュを取り出して、ジュースで汚れた机を拭き始めた。
神の助けとはこの事だ。この場でモララーと二人きりはヤバ過ぎる。
じぃちゃんは、俺の向かいの席に座った。
持っていた袋から、サンドイッチを取り出す。
「あれ?じぃちゃんって、弁当じゃなかったモナ?」
「あ、うん… 今日はたまたま」
じぃちゃんはそう言って包みを開けた。
「ところでモナー君…」モララーが話しかけてくる。
殺気!! 俺は素早く振り返った。
モララーの背後に、ギコが立っていた。
「…当て身」 ギコは、モララーの首筋に手刀を叩き込んだ。
「ぐはっ!」 机に突っ伏すモララー。
「…よっと」 ギコは意識を失ったモララーを抱え上げた。
「じゃあ、しっかりやれよ」 そう言い残して、ギコはモララーを引き摺りながら食堂を出て行った。
「な…何だったモナ」
「さあ、何だろうね」じぃちゃんは、当然のように答えた。
「…」
「…」
全く会話がない。
俺は、ちょうど昼食を食べ終えた。
「そろそろ、モナは教室に戻るモナ」 俺はそう言って、席を立つ。
「え?もう?」じぃちゃんは焦った顔をした。
「じゃあ、またモナ」
俺はそのまま食堂を出ていった。


教室前廊下はボロボロだった。
壁の何箇所かに大穴が開いている。
また、派手にやったものだ。
俺は教室に入った。
ギコとしぃが、何やら話している。
「邪魔者は潰したから、今頃は…」
アベックの語らいを邪魔するほど俺は野暮ではない。
…と思って横を通ろうとしたら、向こうの方から話しかけてきた。
「あれ!?何でここにいるんだ!?」 ギコは意外そうに言った。
「何でって言われても… 食べ終わったからモナ」
しぃは訊ねる。「えーと、じぃちゃん食堂にいなかった?」
「いたモナよ。今もお昼を食べているはずモナ」
ギコが急に大声をあげた。
「じゃあ、じぃをほっといて戻ってきたのか!?」
「そうだけど…何モナ?」
ギコは呆れきった表情を浮かべる。「お前って…信じられないほど馬鹿だな」
「馬鹿って言った方が馬鹿モナ!!」
俺は理知的かつ論理的に言い返した。叱責されるいわれはない。
「いくら何でも、あんまりだよ…」 しぃまでギコの邪魔をする。
あれだ。バカップルというやつだ。もっと、他人の気持ちを考慮した方がいい。
俺は頭を抱えながら席に戻った。
しばらくして、じいちゃんが教室に戻ってきた。
やけに暗い顔をしたじぃちゃんに、ギコとしぃが駆け寄る。
そして、3人で何やら話し始めた。
「どうしようもないほど鈍感だから…」
会話の断片が耳に入る。ギコの声だ。
どうせ、3人そろって俺のことを馬鹿にしているのだろう。
なぜ、俺がそんな扱いを受けるのだろうか。悲しくなってきた。
その時、5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

26:2003/11/09(日) 10:27

今日の授業は終わりだ。
俺はいそいそと帰り支度を始めた。
そういえば、5時間目からモララーの姿がない。早退でもしたのだろうか。
「おーい、一緒に帰ろうぜ」
ギコが声をかけてきた。そういえば、しばらくは部活は休みだと言っていたっけ。
その後ろには、しぃとじぃちゃんもいた。
俺は立ち上がってカバンを肩にかける。
「じぃちゃんが一緒に帰るって珍しいモナね」
じぃちゃんも、何か部活をやっていたはずだ。
やはり連続通り魔殺人の影響で休みなのだろうか。
俺達は4人で学校を出た。


「それで、昨日のドラマでね…」 しぃは言った。
「…ああ」 ギコは返事をする。
「可愛そうだと思わない?」 しぃは話を続けた。
「…ああ」 ギコがさっきと変わらない返事をした。
…こいつ、絶対に話を聞いていない。
ギコとしぃが二人きりになったら、どんな話をしているのだろう。
ギコのことだから、天気の話くらいしかしないのではないだろうか。
「アヒャ!オイ!オマエラ!」
背後から、聞き覚えのある声がした。
足音が近づいてくる。
やはり、つーちゃんだった。
「オレモ イッショニ カエルゾ!アヒャ!」
俺は周囲を警戒するが、トラップはなさそうだ。
どうやら、本当に偶然の遭遇だったらしい。

こうして、つーちゃんが合流した。
ギコとしぃが何やらヒソヒソ話している。
「また厄介な奴が…」
「どうするの…」
「オレが何とかする…」
そういう会話の断片が聞こえてきた。
いくらつーちゃんとはいえ、今はおとなしい。
そのつーちゃんを疎外するのは、ひどくないか?
ギコは、何やら携帯を取り出した。
誰かと話しているようだが、内容までは聞こえない。
「モナー君は部活には入らないの?」
不意にじーちゃんが話しかけてきた。
「運動は苦手モナ…」
俺は肩を落とす。
サッカー部に所属し、スポーツ全般が得意なギコとは正反対だ。
「タヌキダカラナ。アヒャヒャ…」
「つーちゃん、それはひどすぎるモナ…」
他愛ない事をしゃべりながら、俺達5人は繁華街に足を踏み入れた。
俺たちの高校に通っている生徒は、ほとんどがこの繁華街を通って帰る。
今は下校時なので、たくさんの生徒で賑わっていた。
「あ、何か飲み物配ってるよ」 しぃが、進行方向を指差した。

「新製品でーす。どうぞー」
何かのドリンクの、新製品キャンペーンらしい。
一口サイズの缶ジュースを無料で配っていた。
配っている人は…リナー!?
いや、違う。
リナーとは似ても似つかない、柔和そうな青年だ。
社員にしては若すぎる。おそらくバイトだろう。
顔も服装も全く違う。距離があったとはいえ、なぜリナーと間違えたのだろうか。
「もらいに行こうよ!」
「アッヒャー!」
しぃとつーちゃんが走り出した。
「全く、元気な奴らだ…」
ギコが後に続く。
「行こうか、モナー君」 じぃちゃんは言った。
俺は頷いて、じぃちゃんと共に3人を追いかけた。

27:2003/11/09(日) 10:28

俺達は、その青年からドリンクを受け取った。
「炭酸入りか?」
ギコは青年に訊ねた。
「はい…」 青年は頷く。
「じゃ、俺はいいわ」
ギコはドリンクを受け取らない。
「ギコは炭酸が嫌いモナ?」
「いちおう、スポーツやってるからな。炭酸飲料は禁物」
そう言えばそうだ。
俺達は再び歩き出した。
つーは、もう飲んでしまったようだ。
「ウマイゾ!アヒャ!」 そう言って、引き返そうと後ろを向いた。
もう1本もらいに行く気だろうか。
「あ、私のあげるよ」しぃが、つーちゃんに缶を差し出した。
「アッヒャー!」つーは受け取ると、嬉しそうに缶を開けて飲み干す。
「コーラとあんまり変わらない味だね」じぃちゃんは言った。
「そうモナか…」 俺は缶を開けた。

          *          *          *

「やめておけ。モルモットになりたくないならな…」

          *          *          *

「ん? 何か言ったモナ?」
俺は周囲を見回した。
「誰も何も言ってないぞ?」 ギコは不審そうに言う。
おかしいな。今、確かに誰かの声が…
何となく、飲む気が失せてしまった。
その時、空中で何かがキラリと光る。
「…流れ星?」
今は午後4時。そんなものが見えるはずがない。
「それ」はだんだん近づいてきて… なんと、目の前に着地した。
「レ…レモナ!!」俺達は驚愕した。
こいつ、空を飛んでなかったか!?
「ちょっとつーちゃん! またモナーくんをいじめたんだって!?」
「ソンナコト シテネーゾ!!」
現れるなり、レモナとつーちゃんは言い争いを始めた。
「嘘ばっかり! ちゃんと聞いたんだから!」
レモナは袖を捲り上げた。
「ヤッテネェッテ、イッテルダロ!!」
つーの爪が鈍く光る。
「避難するぞ!!」
ギコが叫ぶ。
俺達は、急いでその場から離れた。
「毒をもって、毒を制す…」
逃げる途中、ギコはそう呟いた。


繁華街の真ん中くらいまで走った。
「ここまで来れば大丈夫だな」
ギコは全く息が乱れていない。流石、鍛えている奴は違う。
ふと、ギコとしぃが顔を見合わせた。
「じゃあ、私達は寄るところがあるから…」と、しぃ。
「この辺でお別れだ、ゴルァ!」と、ギコ。
二人でどこかにシケ込むつもりか。
これだから、バカップルってやつは…
「じゃあ、がんばってね…」しぃはそう言って、ギコと共に繁華街に消えていった。

…あれ、もしかして、じぃちゃんと二人っきり?
どうしよう。俺は何を話せばいいんだ。
「…今日はいい天気モナね」
「…そうだね」
会話終了。

「…」
「…」
俺とじぃちゃんは、無言で歩き続ける。
とんでもなく気まずい。
「ねえ」 不意にじぃちゃんが声をかけてきた。
「さっき走って疲れたから、マクドナルドでも行かない?」
ちょうど、俺も小腹が空いていた。
「それはいいモナね」
俺とじぃちゃんは、マクドナルドに入っていった。

28:2003/11/09(日) 10:28

店内はそこそこに混んでいた。
俺はビッグマック2個とポテトLとコーラLを注文した。
じぃちゃんの注文は、チーズバーガーにポテトS、コーラS。かなり小食だ。
「ご会計はご一緒でよろしいですか?」
女性店員は、俺の方を向いて言った。
『男女二人連れの場合は、男の方が料金を払え』と暗に言っているのだろうか。
これは、男女差別ではないか!!
「別々で」
俺の葛藤を知ってか知らずか、じぃちゃんはさらりと言った。

俺とじぃちゃんは、2人掛けの席に座った。
俺はおもむろにビックマックの包みを開ける。
しまったッ!
ピクルスを抜いてもらうのを忘れていた。
そう、俺はピクルスが大嫌いなのだ。
ご丁寧に、ビックマックにはピクルスが2個も入っている。
俺はビッグマックを割って、ピクルスを抜き取った。
「あれ? モナー君、ピクルス嫌い?」
じぃちゃんは、俺の指につままれているピクルスを見て言った。
「隙とか嫌いとか… 前提が間違っているモナ。これは食べ物ですらないモナ。
 お弁当に入っている緑のギザギザと同じだモナ」
俺は胸を張って力説した。
「じゃあ、もらっていい?」
「いいモナよ」
俺はつまんでいたピクルスを、じぃちゃんに差し出した。
じぃちゃんは、それに顔を近づけてきて… 俺の手から直に食べてしまった。
てっきり、受け取ってから食べるものと思っていたのに。
じぃちゃんは、俺の顔をじっと見つめる。
その様子を見て、俺は言った。
「意地汚いマネは、やめた方がいいモナ」
じぃちゃんは、まるでギャグマンガのように前につんのめった。
机にヘッドバットをかました影響で、コーラがこぼれそうになる。
「ど、どうしたモナ!」
「な…なんでもないよ…」 じぃちゃんは頭を起こすと、ズレた帽子の位置を直した。
「全く…君の行動は意味不明モナ」 俺は言った。
「はあ…」 何故か、じぃちゃんは深くため息をつく。
俺は、ビッグマックを2個まとめて口に放り込んだ。
そのままポテトを口に中に流し込み、コーラを一気飲みした。
ふう。よく食べた。
「それ、消化に悪そう…」 じぃちゃんは、チーズバーガーをチビチビと食べていた。
「じぃちゃんは、そんなに少ない量で満足するモナ?」
「私もビッグマックとか食べたいんだけど… 好きな人の前で大口開ける訳にもいかないし…」
女心って奴か。
リナーはどうなのだろうか。
少なくとも、恥らったりはしなさそうだ。平気で人殺すし。
そんな事を考えているうちに、じぃちゃんも食べ終わったようだ。
こうして、俺達は店を出た。

そう言えば、すっかり忘れていた。
リナーがベッドの下の本を見つける前に、帰らないといけないのだ。
俺は少し急ぎ始めた。
「やけに急ぐんだね…」じぃちゃんが早歩きしながら言った。
「あ、いや、少し身体を鍛えようと思ってモナ」
「私も体鍛えようかな…」
じぃちゃんは速度を上げながら言った。
「今のままだと、レモナさんやつーちゃんと戦っても勝てないしね」
「?」 そりゃそうだ。ってか、なぜ戦う必要があるのだろう。
「でも、一番の強敵はモナー君だな…」
「??」
意味が分からない。きっと、じぃちゃんは疲れているのではないか?
ほら、何かすごい疲れた顔をしている。
じぃちゃんを、これ以上疲れさせる訳にはいかない。
「じゃあ、また明日モナーー!!」
俺は、高速でじぃちゃんから離れていった。
ちらりと振り向くと、じぃちゃんは究極に疲れきった顔をしていた。


俺は、家に帰るとすぐに、リナーの部屋に駆け込んだ。
リナーは本を読んでいた。もちろん、ベッドの下の本ではない。
「ああ、本を借りているぞ」
「それはいいけど………ベッドの下は見たモナ?」
俺は恐る恐る聞いた。
「なぜ、そんなところを見る必要がある? 何かあるのか?」
「いや、それならいいモナ! 何もないモナ!」
ふう。よかった。
「さて…日も暮れたことだし、そろそろ行ってくる」
リナーは本を置いて立ち上がった。
「あれ? 殺人鬼探しは真夜中じゃないモナ?」
「朝にも言ったが、駅のコインロッカーに私の荷物が入っていてな。
 それを回収してくる。人目につくわけにもいかないので、日が暮れるのを待っていた」
なるほど。
「モナも手伝うモナ」
「…君が役に立つとは思えないが」
なかなか失礼な発言だ。
「まあいい。君が来たいのならば、私は拒みはしない」
全く…これでも、リナーの細腕よりは力があるに決まっている。
やはり、俺は信頼されていないのか。

29:2003/11/09(日) 10:28

俺とリナーは、駅に向かった。駅まで片道5分もかからない。
すぐに駅のコインロッカー前に着いた。
リナーは鍵を取り出して、5つのロッカーを次々と開ける。
それぞれのロッカーに、リュックサックが入っていた。
家に運ぶのは、5つのリュックサック。
「じゃあ、モナが3つ持つモナ」
俺は、ロッカーからリュックを出そうとした。だが…
…重すぎて動かない。
何だ!? 何が入ってるんだ!?
俺は、そのリュックを開いてみた。
全部手榴弾だ。リュックの中にみっしりと。
「人目につく。ここでは開けるな」
リナーに注意された。俺はビビリながらリュックの口を閉じる。
リナーは一番左端にあったリュックを差し出した。
「君はこれを持つといい」
なるほど、結構軽い。これなら運べそうだ。
「それには、着替えや生活用品が入っている」
リナーはそう言いながら、リュック4個をひとまとめにして持ち上げた。
「ちなみに、この4つが武器や弾薬だ」
…なんて力だ。


帰途に着く途中で、ギコとしぃに会った。
「ん? 何でこんなとこに? じぃは…いや、それより…誰?」
ギコはリナーをじっと見つめた。こころなしか、赤くなっている。
そう。リナーは表向きはかなりの美人なのだ。裏では何を考えているか分からないが。
「ああ、友達のリナーモナ」
俺はリナーを紹介した。
「友達のリナーだ。よろしく」 リナーは軽く頭を下げた。
「いや、こちらこそ… よろしくお願いします」 
ギコも頭を下げる。なぜか丁寧語だ。
しぃのちょっと吊り上っている口の端が、ピクピク震えている。
これは血の雨が降るな…
「じゃあ、モナ達はこれで!」
俺はリナーの腕を引いて、急いでその場を離れた。
何か、今日はこんなのばっかりだ。
リナーは言った。
「女の方が殺意を抱いていたようだが… 放置していいのか?」
「…ほっといていいモナ」
「今、打撃音と男の悲鳴が聞こえたが…」
「さあ、早く帰るモナ」
俺達は、家路を急いだ。

家に帰ると、ガナーがいた。
「リナー、しばらく家に住むから」 俺はそれだけを告げた。
「なッ!!」
ガナーは仰天したようだ。
「嫌モナ?」
「嫌じゃないけど…兄さんが、遠くに見える…」
勘違いしているリナーを尻目に、俺はリュックをリナーの部屋に運び込んだ。

ガナーは、3人分の夕食を作った。
リナーの分は、俺が部屋に運んでいった。
いきなり3人そろって食卓というのは無理がある。
それから、台所に戻って夕食を食べた。
「リナーさんといっしょに食べればいいのに」
ガナーはそう言った。もっともだ。本音を言えば、俺もそうしたい。
そうこう考えながら、夕食を食べ終える。
俺は椅子から立って、ふと思い出して言った。
「あ、そうだ。モナとリナーで夜中に外出するけど、気にしないでほしいモナ」
「気になるけど、気にしない…」 ガナーは不服そうに言った。
まあ、もっともだろう。
そう思いながら、台所を後にした。


12時。
殺人鬼探しの時間だ。
部屋がノックされる。
ドアを開けると、リナーが立っていた。
「時間だ。行くぞ」
俺は、昨日渡されたバヨネットを手にした。
「じゃあ、行くモナ!」
俺とリナーは、夜の町に歩み出した。



  /└────────┬┐
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  \┌────────┴┘

30:2003/11/09(日) 10:29

「〜モナーの夏〜  9月17日・その1」


          *          *          *


私は急いでいた。このところ暇がない。
あの女のせいで、私の活動できる時間が限られてしまう。
不本意だ。殺してしまうか。

あの女の姿を思い描く。
『教会』からの派遣者。
「代行者」「聖堂騎士」などと称される、対吸血鬼戦のスペシャリスト。
その中でも、トップクラスに位置する女。
そして――――おそらく、混ざっている。

「でよーーー!そしたら、ソイツがーーー!」
知能の低そうな声が私の思考を妨げた。
前方から男が3人歩いてくる。
路傍の石ほどの興味すらわかない。

「オレ、死ぬほどムカついてよー!! ブッ殺してやろうかと思ってよーー!!」

死…
おそらく、この男は「死」の重さを知らない。
生命の終着。「生」の対立命題。
殺…
おそらく、この男は「殺す」という行為の深さを知らない。
存在の抹消。外部からの動的干渉。

「おい、そこのヤツ!」
男は、唐突に私に向けて言った。
「何、ジロジロ見てんだ…ああ!?」

夏ももう終わりだというのに、飛んで日にいる虫がいるとは。
「てめー、ヒドい目に合いたいのか…?」
男はつかつかと歩み寄ってくると、私の襟首を掴んだ。
「ぶっ殺…」
そんな台詞、最後まで言わせるものか。
瞬時に男の首を寸断した。
殺そうという意志を抱いたとき、肉体は行動を終えている。
行動の前にいちいち相手に殺意を伝えるなど、三流以下だ。
事のついでだ。残り二人も殺しておいた。

31:2003/11/09(日) 10:30

町外れの教会。
その重い扉を開ける。
その青年、「蒐集者」はそこに居た。
大きな十字が刻印された、黒のロングコート。
暗殺装束に身を包んでいるあたり、私の来訪は予測済みだったようだ。
「ようこそ。懺悔の時間ですか?」
「蒐集者」は微笑みをたたえる。
私はバヨネットを取り出した。
その距離、15m。まだ遠い。
「まさか、あなたがこの極東の地にいるとは…偶然とは怖いものです」
「蒐集者」は、こちらにゆっくりと近づいてきた。
あと12m。
「猿芝居はいい。どうせ貴様の采配だろう?」
殺す相手に口をきくのは不本意だが、仕方がない。
「ハッ…ハッハッハ!」
「蒐集者」は可笑しそうに笑った。
あと10m。
「駒の配置はなかなかに難しいんですよ…」
「蒐集者」はそこから一歩踏み込んだ。
私は隠し持っていたナイフを、真上に投げつける。
ナイフは、シャンデリアの重量負荷部分を切断した。
シャンデリアは、轟音を立てて落下する。
その音や粉塵が「蒐集者」の五感を麻痺させる。
私は高く床を蹴って、飛び上がった。
そのまま天井を蹴って加速をつけ、「蒐集者」の脳天にバヨネットを打ち下ろす。
「蒐集者」は、左右の袖から3本ずつバヨネットを取り出すと、総計6本のバヨネットで私の攻撃を受け止めた。
そのまま着地して、首を狙う。
が、その攻撃も届かない。
「法儀式済みのバヨネットとは…どこで手に入れたんです?」
「蒐集者」の体から、スタンドが浮かび上がる。
この体勢では、避けきれない。
スタンドは私の左腕を掴むと、壁に押し付けた。
泥に押し付けられたように、私の左腕は壁に沈んでいく。
左腕は、肘の付け根あたりまで壁に埋め込まれた。
「これで、あなたの左腕は、完全に壁と融合してしまった」
「蒐集者」は下卑た笑いを浮かべた。「チェックメイト…ですか?」

私は、壁と左手を「視た」。
たしかに融合している。皮膚と壁の境界は曖昧で、神経や血管の一部は壁にまで侵食している。
だが、この程度ならば…
私はバヨネットを壁に差し込んだ。
壁に融合した皮膚、血管、神経などを、本来の手の型に切り出していく。
作業は5秒も経たずに完遂した。
左手は皮でも剥いだように血まみれだが、機能に損傷はない。
「蒐集者」は追撃もせずに、その様子をじっと見ていた。
やはり、こいつは私とは違う。
攻撃のチャンスを無駄に費やす愚かな男。
「素晴らしい…! あなたは、人体を知り尽くしている…!」
「蒐集者」は拍手を送った。
「その技術、そしてその目、是非欲しい!」
「蒐集者」は一瞬で間合いを詰めた。
鋭い突き。続く横凪ぎ。
それ自体をフェイントにしての、左からの切り上げ。
全てかわした。
一瞬の隙を突いて、私は懐に入り込む。
心臓を狙っての一撃。
だが予想通り、軽く防がれた。
互いに後ろへ飛び退く。
…もう時間だ。
面倒な奴が起きてしまう。
私は「蒐集者」に背を向け、入り口の扉へ向かった。
「蒐集者」はそのまま何もせずに私の背を見つめている。
「…追撃はしないのか?」
「大きな隙を作るのは、フェイントの基本でしょう?」
「蒐集者」は楽しそうに言った。
「『空城の計』ということもある…」
私はそう言って、教会から出ていった。


          *          *          *

32:2003/11/09(日) 10:30

昼と夜でリナーは違う。
昼間でも只者ではない雰囲気を醸してはいるが、夜の方が凄みが増す。
気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
やはり空気は重かった。

「…モナー」
いきなり名前を呼ばれて、俺は動揺した。
「君はここで帰れ」
「な…」
なんて事を言うのだろうか。
おそらく、何か危機が迫っている。リナーはそれを察知したのだ。
俺に何もできない事は分かっている。
だが、リナーを置いていくなんて出来るわけがない。
「帰らないモナ」
俺はそう告げた。
「…では、気を抜くな」
リナーはすぐに折れる。
…と思ったら、あらぬ方向に走り出した。
俺は急いでついていく。しっかりとバヨネットのグリップを握ったまま。

リナーは路地裏の真ん中で立ち止まった。
「出て来い、吸血鬼。そこにいるのは分かっている」
そして、虚空に声をかける。
その瞬間、完全に空気が変わった。
塀の上に、一人の男が立っていた。
リナーはあの男を吸血鬼と呼んだ。
漆黒の羽根が生えているわけでもないし、口元から血がしたたっているという事も無い。
別段、普通の服装である。
だが…人間じゃない。人のカタチをした、別の生き物だ。
なぜか、俺にはそれが理解できた。
空気が凍りつく。
寒気がする。
あの生物と戦ってはいけない…俺の本能はそう告げていた。



  /└────────┬┐
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33:2003/11/09(日) 10:31

「〜モナーの夏〜  9月17日・その2」


「女、何の用だ…?」
吸血鬼は静かに口を開く。
「愚かな事を聞く…貴様を葬るためだ」
リナーは鋭く言った。
殺気が強くなった。
足が震える。
一刻も早く、ここから立ち去りたい。
リナーは平気なのだろうか。
吸血鬼は、口の端を歪ませた。笑っているのだ。
「まったく愉快な夜だ。見知らぬマドモアゼルが、吸血鬼である私を土に還すと言う…」
「…土に還しはしない」
リナーは吸血鬼の言葉を遮った。
「この極東の地の土になる事すら許さん。貴様が還るのは、土ではなく塵だ」
やめろ。
それ以上、ヤツを挑発するな…
リナーを諌めようにも、声が出ない。

「非常に面白い…貴様の血も、我が糧にしてくれるゥゥ!!」
吸血鬼が、獣じみたスピードでリナーに飛び掛った。
だが、リナーが銃を抜く方が早い。
「そんなオモチャが、この私に通用するとでも…!」
銃声。
吸血鬼は吹き飛んで、塀に激突する。
「GYAAA!! これはァァァ! 『波紋』だとォォォ!!」
吸血鬼は悲鳴を上げながら転げ回った。
シュゥゥ…という音。
その胸の銃創から、肉体が蒸発しているのだ。
「私の武器は全て法儀式済みだ。貴様ら不浄の肉体に、『波紋』と同じ衝撃を与える…」
リナーは、吸血鬼にゆっくりと歩み寄った。
まずい! まだ、そいつは…!!
「確かにその銃は脅威だ… だが! 接近すればァァ…!!」
吸血鬼は、倒れた状態からバク転して起き上がった。
そして…
「SYAAAAAA!!この売女がァァ!!」
吸血鬼は一直線にリナーに飛びかかった。
リナーは懐から右腕を出した。
4本のバヨネットが指の間に挟まれている。まるで、爪のように。
その瞬間の、恐ろしいまでのプレッシャー。
俺は理解した。
さっきから感じていた人間離れした殺気は、全てリナーのものだ。
リナーは高く跳んだ。
吸血鬼など比較にならないほど、美しい身のこなし。
そのまま吸血鬼の頭を踏みつけた。
「ぐォォ!!」
吸血鬼の体が、うつぶせに地面に叩きつけられる。
「なぜ、ただの人間が…」
起き上がろうとした吸血鬼の首に、4本のバヨネットが横一列に突き刺さる。
「GUOAAAAA!!」
「接近すれば…何だ?」
リナーは言った。
殺気というより、憎悪。
そう、さっきから俺の足をすくませているのは、リナーの吸血鬼に対する憎悪。

34:2003/11/09(日) 10:31

吸血鬼は、地面に串刺しになってもがいていた。
リナーは、その姿を見下ろす。
「吸血鬼よ。まだ、その傷は致命傷に至っていない。今から私の質問に答えるなら、命だけは助けてやる」
「こ、答えるからッ! 命だけは…!!」
リナーは冷たく微笑った。
「ヤツの居場所を… スタンド『アルカディア』の居場所を言え」
「…し、知らん」
吸血鬼は嗚咽を漏らす。バヨネットが刺さった首筋からも蒸気が出ている。
「そうか」
リナーはどこからか取り出した日本刀を高く掲げた。
「いや、本当に知らんのだ!! 私がこの町に来たのも、ほんの最近なんだ!」
「では、知っている事を全て話せ」
「私の他にも、何人か吸血鬼がこの町にいるが…全員、最近集まったヤツだ…
 もともと、この国は吸血鬼が潜伏するのには都合が悪いからな…
 だが、これからは違う。『アルカディア』の力で、この町は変革する。
 これからも、アレに惹かれて集まるだろう… 吸血鬼やスタンド使いが…
 もう、この町は滅びたも同然だ…!! さあ、ここまで話したのだ。命だけは…」
「ああ、そういう約束だったな」
リナーは日本刀を掲げると、軽く振った。
吸血鬼の首が、胴体から離れる。
吸血鬼は、断末魔の悲鳴を上げる時間さえないまま蒸発してしまった。
そこには、バヨネットが4本刺さっているのみ。
「急がなければ…」
リナーは呟く。
殺気も憎悪も治まっていた。
そして、少し驚いたようにこちらを見た。
まるで、初めて気がついたように。
俺はおそらく、恐怖に満ちた目でリナーを見ていた。
そう、化物を見る目で。

リナーは無言で日本刀を腰の鞘に納め、右手を元通り懐に引っ込めた。
そして、「そのような目は、慣れている…」ポツリとそう言った。
嘘だ。
本当に慣れていたら、そんな事を口にしやしない。
さらにリナーは口を開く。
「いつでも、私を放り出して構わないんだぞ…」
それを恐れているくせに…
拒絶を恐れているくせに、自分から口にする。そう、この娘は不器用なのだ。
「そんな事はしないモナ」 俺はそう断言した。
「君は以前、私の事を『華奢な子』と言ったな。
 だが…私はそんな人間ではない事が分かっただろう?」
「そんな事は…最初から分かってたモナ」
「承知の上、という事か。君はやはり、意味不明だ」
リナーはそう言って、俺に背を向けて歩き始めた。
その声には、さっきまでのような暗さはない。
「ほら、何を呆けている?夜が更けてしまうぞ」
リナーは振り返って言った。
「待つモナー!!」
俺は走り出した。
この夜、良かったコトが一つだけある。
リナーの照れ隠しが判別できるようになった事だ。

35:2003/11/09(日) 10:31

もうすぐ今晩の見回りが終わる。時計の針は三時を指していた。
こんなことで、真の殺人鬼が見つかるのだろうか?
そして、俺の知らないことは余りにも多い。
さっきリナーが殺した奴は、吸血鬼と自称していた。
「リナー、吸血鬼について教えてほしいモナ」
俺はそう訊ねた。
「吸血鬼とは…その名の通り、血を吸う鬼だ」
リナーはあっさりと話し始めた。
実際にさっき目撃してしまったのだから、隠す意味はないと判断したのだろう。
「血を吸うといっても、厳密には違う。奴らは、血を媒介に生命エネルギーを吸い取る。
 そして吸血鬼を倒すには、脳を完全に破壊するか…もしくは、『波紋』と呼ばれるエネルギーを
 その体に流し込むか、そのくらいしか手段はない。それ以外の攻撃でダメージを与えても再生してしまう」
『波紋』… さっきの吸血鬼も言っていた。
「そして、私の所持している武器や弾薬は全て法儀式済みだ。これにより『波紋』と同じ効果を敵に与える」
俺は、リナーから受け取ったバヨネットをじっと見た。
「そう、それも法儀式済みだ。吸血鬼に対してのみ、大きなダメージを与える…」
そこでリナーは言葉を切った。
どこまで話すか考えているのだろうか。
「私は、『教会』と呼ばれる組織から派遣されてきた。この町で起こる危機を回避するために」
『教会』…?
俺は、町外れに立つ教会を思い浮かべた。
「『教会』とは、吸血鬼殲滅において最も古い起源を持つ機関。すなわち、ヴァチカンの法王庁。
 私は、その中の単独実行部隊の一員だ」
「…もしかして、知ってしまうとマズい話モナ?」
「そうだな。命が惜しければ、口外しない方がいい」
リナーはあっさりと答えた。
「で、話の続きだ。我々『教会』は、吸血鬼を異端として排除してきた。
 にも関わらず、吸血鬼は全滅することがない。なぜなら吸血鬼とは、人間が成るものだからだ」
「元は人間…」
俺は、何となく嫌な感じがした。
「そう。人間が吸血鬼になる方法は2つある。1つ目は、石仮面を使った方法。
 これを被って血を塗りつけると骨針が脳に刺さり、人は吸血鬼となる」
「結構お手軽モナ…」
「ああ。こんな簡単な方法で、吸血鬼になれる。だが、世に出ていた石仮面は全て『教会』が破壊した。
 今では、ヴァチカンに研究用が残っているのみだ」
なるほど。
では、石仮面による吸血鬼は増えないということか。
「吸血鬼になるもう1つの方法は、吸血鬼の血を体内に取り入れること。だが、これは非常に例が少ない。
 それも、ただ体内に吸血鬼の血を注入すればいいという訳ではないのだ」
「他にも、条件があるモナ?」
「その通り。その吸血鬼に対する忠誠心が非常に高くないといけないとか、いろいろ説があるが…
 はっきりしないのが現状だ。また、不完全な吸血鬼が生まれる可能性も高い。
 下手に吸血鬼の細胞を体内に取り入れれば、その親元の吸血鬼が死んだ時、細胞が暴走するという例もある。
 こちらは、言わばイレギュラーな方法だな」
何故か、動機が早くなった。
そんなのをどこかで見たような気が…
「話は以上だ。そして、この町に吸血鬼が集まりつつある。私は、それを全て滅ぼす必要がある、という事だ」
なるほど。
まだ腑に落ちない点がいくつかあるが、今日はこれ位にしておこう。
俺の理解力にも限度がある。
一言で言うなら、殺人鬼以外に吸血鬼も倒さないといけないという事だ。

36:2003/11/09(日) 10:32

その時、見覚えのある姿を目にした。
前方から、モララーが歩いてくる。
三時を過ぎたこんな時間に何をしているのだろうか。
「おーい、モララー!」 俺はモララーに呼びかけた。
「あ、モナー君! 僕に会いに来てくれたんだね!!」
モララーはこちらに満面の笑みを浮かべて走り寄ってきた。
そういえば、リナー連れだ。少し軽率な行動だったかもしれない。
「モナー君…その女は?」
モララーは、敵意を込めた目でジロジロとリナーを眺め回した。
「友達のリナーだ。よろしく」 リナーは軽く頭を下げる。
「友達ねぇ… こんな時間にねぇ…」
モララーは嫉妬に満ちた目で、リナーを見つめた。
「…私に敵意でも?」 リナーは睨み返した。
「ヒッ!」
モララーは身をすくめる。いくらなんでも相手が悪い。
「で、こんな時間に何をしているモナ?」
「誰かさんが学校で冷たい態度を取るもんだから、ヤケ酒してたのさ…」
そう言われれば、少し酔っているようだ。
「で、さっき店を追い出されたところだからな!」
いや、それ以前に未成年だろ。俺は心の中で突っ込んだ。
「そうだ、モナー君。これからいっしょにBARにでも飲みに行かないか?」
BAR!!
当然だが、未成年である俺はそんなアダルトな場所に行ったことがない。
BARというものを想像してみる。

俺   :「君の瞳をツーフィンガーで」
バーテン:「ホレ、坊主」
俺   :「なんだ、牛乳じゃねえか」
バーテン:「ハン、お子様にはそれがお似合いさ」

な、なんて恐ろしい…
そのような恐ろしい場所、俺には行けない。
ついでに明日は学校だ。夜更かしもできない。

「悪くない。私は賛成だ」
リナーは意外な言葉を口にした。
リナーは酒が飲めるのだろうか?
「まあ、リナーが行くのなら…」 俺はしぶしぶ承諾する。
モララーは複雑な表情を浮かべた。
「リナーとやらは、どう考えても邪魔!! だが、モナー君がBARに行くことに乗り気ではない以上、
 リナーを連れて行かなければモナー君も来ないのは明白!! …今日のところは、コブつきで我慢するか…」
「…全部、聞こえてるモナ…」
こうして、三時を回ったにもかかわらず、俺達3人はBARに向かった。


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37:2003/11/09(日) 10:33
※ア○デル○ン・リナー

 我らは神の代理人
 神罰の地上代行者
        __
      ( Amen )       我らが使命は
       `─‐v' __     我が神に逆らう愚者を
              .'´ (†) ヽ   その肉の最後の一片までも
           ⊂匚^',ヾ   絶滅すること――
          |ル ゚ ゚ノ ノ 、
.         ──┼∩アr"/ _ゝ
          |く/_l|ハゝ'´
          .......し'ノ......
          ::::::::::::::::::::::::::::::
           ::::::::::::::::::::::::
          :::::::::::::::::
          :::::::::::

38:2003/11/09(日) 10:33

「〜モナーの夏〜  9月17日・その3」


BARに到着した。
どうやら、モララーの馴染みの店のようだ。
モララーが先頭で、その立派な扉を開けて中に入った。
照明は薄暗く、ジャズのような曲が流れている。
アダルトだ。
アダルトな雰囲気だ。
俺が女なら、こんな雰囲気の場所で口説かれたらその気になってしまう。
なんとなく横目でリナーを見た。特に普通そうだ。
幸い、カウンター席が空いていた。正面にはバーテンらしき人がいる。
「カ、カツカレーはありませんよ!」 マスターは怯えた声でモララーに言った。
どうやら顔見知りのようだ。
モララーは人差し指を立てて、チッチッチと左右に振る。
「今日はプライベートだからな。ちゃんと注文するよ」
「じゃあ、普段はビジネスでやってるんですか…?」 マスターは不服そうに言った。
モララーはマスターの正面の席に腰を下ろした後、
「さ、モナー君も座って」 と言いながら隣の席をポンポンと叩いた。
それまで、俺は雰囲気に呑まれて固まっていた。
ゆっくりと、モララーの隣の席に座る。リナーは、その俺の横に座った。
「ってか、あなたたち未成年じゃ…」 マスターが言った。もっともだ。
モララーはニッコリ笑って、
「じゃあ、カツカレー3人分」 と言った。
「す、すみませんでした…」 マスターは謝る。
このマスター、モララーに弱みでも握られているのだろうか。

「じゃあ …ドライ・マティーニで」
モララーが、斜め45度を意識したポーズをキメながら注文した。
「ブラッディーメアリを」
リナーも場慣れしているようだ。
「モ、モナは…オレンジジュース…」
俺はちっぽけな人間だった。
「オレンジジュースだって!?」
モララーは大声を上げた。
「せっかくだから、飲まないと!」
モララーはマスターの方に向き直った。
「マスター、モナーに…ウ、ウオッカオレンジを…!」
気のせいか、モララーの息が荒い。
「モ、モナはアルコールなんて飲めないモナ!!」
「大丈夫だよ。軽いお酒だからね…」 
そう言って、モララーはニヤリと笑った。

「ところで、昨日じぃちゃんと一緒に帰ったらしいね」
モララーは不意に訊ねてきた。
「そうモナよ。ギコとしぃちゃんもいたけど、すぐ帰っちゃったモナ」
「あいつら… そこまで、僕の邪魔をしたいんだな…」
モララーはそう呟いて、黙ってしまった。
「ところで、リナーはお酒飲むモナか?」
「ああ。たまには悪くない」
正直、俺が持っているリナーのイメージと合わない。
リナーのことだから、「酒など、飲むことに意義を感じない」などと言いそうなんだが…
「私を、感情のない女とでも思っているのか?」
俺の心を見透かしたように、リナーは言った。
何となく、気まずくなってしまった。

39:2003/11/09(日) 10:34

俺たちの前にグラスが並べられる。
三者三様にグラスを手に取った。
とはいえ、俺は何となく躊躇している。
モララーは一口飲んだ後、
「ドライ・マティーニってのは男のたしなみさ …クール!」 などと呟いた。
さらに斜め45度を意識したポーズを繰り出しながら、妙な流し目を送ってくる。
そこはかとなくウザい。
リナーはグラスを置いて、「見苦しい… 自分に酔う位なら、せめて酒に酔え」と呟いた。
「なッ…」
モララーは立ち上がった。
そして、きっとリナーを睨む。
「さっきから思っていたけど…僕は、君が気にいらないんだからな、この泥棒猫!!」
リナーは無視して、血のように赤い酒が注がれたグラスを傾けている。
モララーは両手を大きく広げた。
「男には、外に出たら7人の敵がいるという!
 僕にとっての7人の敵は…
 露骨にモナー君に擦り寄る恥知らずのネカマ、レモナ!!
 モナー君に気がある癖に虐待する精神幼児、つー!!
 泥棒猫候補その3!知名度微妙なじぃちゃん!!
 じぃちゃんとモナー君をくっつけようとする超余計な世話焼きバカップル、ギコとしぃ!!
 そして…君を最後の一人に認定しよう!!」
「一人、数が足りないようだが…」
リナーは冷たく突っ込んだ。案外律儀だ。

「ガタガタうるせーんだよ、クソガキがッ!!」
突然怒鳴り声がした。
奥のテーブルに座っていたオッサンが、こちらに近寄ってくる。
「大体、何でこんな時間にガキが酒飲んでんだ? とっととお家に帰って、学校行く準備でもしてな!」
ステロタイプの酔っ払いってやつだ。言ってる事が正論なのがちょっとアレだが。
「お前達、少し黙れ」
リナーはモララーと酔っ払いを一纏めにして言った。
少し、いつものリナーと様子が違う。
酔ってるのか?
「ウホッ!綺麗なネーチャンがいるじゃねぇか…」
酔っ払いはリナーの肩に手を置いた。
「危ない!!」
俺は咄嗟に、オッサンに体当たりした。
オッサンは全く警戒していなかったのか、俺のタックルがクリーンヒット。
体勢を崩した俺とオッサンは床に転がった。
「このガキ…!」
オッサンがヨロヨロと立ち上がる。
本当に危なかった。
もうちょっとで、このオッサンの腕が切断されていたところだ。
この素人の俺にもわかるほどの殺気。
どうやらリナーには酒を飲ませない方がいいらしい。
たった1杯なのに…

「なーネーチャン、俺とホテルに行かねーか…?」
ヤバい!こいつ、まだ諦めていない。
このままではオッサンが塵に還される。
俺の心配をよそに、リナーは言った。
「いいだろう。私に勝てるなら、ホテルでも何でも好きにするがいい」
「…あ? 勝てるってどういう意味だ? ケンカでもするのかよ?」
「その認識で、特に問題はない」
リナーは立ち上がる。「ここでは迷惑だ。外でやろうか」
「ヘヘッ!俺はこれでも、空手二段だぜ…!」
空手二段VS吸血鬼殲滅のエキスパート。
とてもオッズは成立しない。
俺はリナーをじっと見た。
「大丈夫だ。心配するな」
大いに心配だ。オッサンの身が。
「ヘッヘッヘ…ヒーヒー言わせてやるぜ…」
オッサンはリナーを連れて店の外へ出て行った。

40:2003/11/09(日) 10:34

しばらくして、ヒー!ヒー!という男の悲鳴が聞こえてきた。
オッサンの無事を祈りつつ、俺はようやくグラスに口をつけてみた。
思ったより口当たりがいい。
軽い酒、というのは本当だったようだ。
「ほっといて大丈夫なのかい?」 モララーは言った。
「命までは取らないと思うモナ …多分」
…多分。

結局、リナーが気になったのでほとんど飲めなかった。
リナーはすぐに戻ってきた。
「あのオッサンはどうなったモナ…?」
「殺してはいない」
リナーはそれだけを答えた。
ほんの少ししか飲んでいないのに、アタマがぐらぐらする。
何か変だ。
リナーが何かを言っているが、聞こえない。
床が揺れている。俺が揺れているのか?
意識が遠のいている。
モララーが心配そうな、なおかつ何かを期待しているような顔が印象に残っていた。
俺は…意識を失った。


どこかの教会で神父みたいな人と剣を交えた。
そこでの俺は信じられないほど強く、化物じみた強さの神父と互角に戦った。
そんな夢を見た。

ここは…どこだ?
確か、BARで意識を失って…

俺は起き上がった。
窓から太陽の光が差し込んでいる。
ここは…俺の家だ。
そうだ。思い出した。
俺は昨夜のBARで、少量の酒にもかかわらずぶっ倒れたのだ。
時計を見た。ちょうど、7時。起きる時間だ。
ここまで連れてきてくれたのはリナーだろうか。
大きく伸びをする。
左手に、僅かな異物感。
見ると、少し全体が火傷したようになっていた。
別に痛くはないし、動くのにも支障はない。
だが…全く覚えがない。
昨日のBARで、何かしたのだろうか。

そう思いながらベッドから降りた時、俺は珍妙なものを目にした。
黄色い煙?
ドアの隙間から、黄色い煙のようなものが部屋に入ってくる。
その黄色い煙は、ゆっくりと部屋中に広がっていった。
「どうやら、まだ酔ってるみたいモナ…」
俺は口に出して言ってみた。
少し頭はガンガンするが、体調は悪くない。
この黄色い煙は何なんだ?
手を振ってみた。
まるで本当の煙のように、空気中に拡散される。
パンの焼けた匂いがした。
そう、これは…匂い?
そう思った瞬間、黄色い煙はまったく見えなくなった。
まるで、今までが冗談のように。


俺は台所へ出た。
リナーが食パンを焼いていた。
「おはようモナ」
「ああ。おはよう」
リナーと挨拶を交わす。
そういえば、ガナーは?
いつもガナーのほうが先に起きているはず。
リナーがいるので遠慮しているのだろうか?
「ああリナー、昨日はありがとうモナー。ここまで運んでくれたモナ?」
「礼を言う必要はない。君があそこまで酒に弱いとは思わなかった。私の配慮が欠けていた」
やはり、リナーが運んでくれたようだ。
不覚だ。
酔い潰れて、女の子に家まで運んでもらうなんて…
「君の朝食も作ってみたが」
テーブルの上に、食パンとコーヒーが並んでいた。
質素だが、リナーの配慮に素直に感謝した。
こうして、俺はリナーの作った朝食をモシャモシャと食べ始めた。
食パンが真っ黒だったが、まあ気にはならない。
黒い液体はコーヒーじゃかった。温めた醤油だ。
まあいい。こういう朝も、たまにはいい。

41:2003/11/09(日) 10:35

ガナーの部屋をノックした。
「おい、遅刻するぞー!!」
中から、ガナーの呻き声が聞こえた。
まさか、ガナーの身に何かが!?
いかに萌えない妹といえども、放ってはおけない。
「ガナー、入るぞ!」
俺はドアを開けて、部屋に駆け込んだ。
ガナーは、ベッドで横になっていた。
「オナカ痛い…」
ガナーは、俺の姿を確認すると言った。
「何か悪いものでも食べたモナ?」
俺はガナーの腹を視た。
少し痛んではいるが、特に深刻なダメージはない。
冗談抜きで、悪いものでも食べたと思われる。
1日ゆっくり休めば、十分に回復可能…
「おなか壊したみたいモナね。今日はゆっくり休むモナ」
「うん。そうする…」
大したことはなかった。俺はガナーの部屋を出て行った。


台所では、リナーが温めた醤油を飲んでいた。
「リナー、ガナーが体調を崩して、今日は一日家にいるモナ」
念のため、俺は伝えておいた。
「了解した」
リナーはポツリと答える。
無愛想なのではなく、これがリナーにとっての普通なのだ。
いつも思うのだが、無機質な喋り方はなんとかならないだろうか。
「リナー、もうちょっと別の喋り方はできないモナ?今の喋り方は怖すぎるモナ…」
リナーは少し考えた後に、口を開いた。
「ど、努力してみる…モナ」
「モナが悪かったモナ…」
俺は素直に謝罪して、台所を後にした。


俺は学校へ向かった。
いつもの、変わり映えのない通学路。
だが…何かへンだ。
体調が悪い、というのではない。
言うなれば、感覚が研ぎ澄まされているのである。
自分の周囲の人間の配置が、足音だけで分かる。
後ろ3mに2人。その2mほど後ろには3人。
一番右端の人間は陸上をやっているのだろう、足の筋肉が発達している。
また、後方30mほど離れた場所にギコがいる。
少し早足で駆けてきて、今から5秒後に合流してくるだろう。

…5。

…4。

…3。

…2。

…1。

「よお、モナー」
やはり、ギコが話しかけてきた。
「どうした?妙な顔をして…」
「いや、何でもないモナ」
俺とギコは、そのまま歩き出した。
そういえばガナーの時も、一目見ただけで体調が分かった。
何か…変だ。
「ところでモナー」
ギコが話しかけてきた。
「昨日、一緒に歩いてた女の人は誰だったんだ?」
リナーのことか。しぃがいる分際で、なんでリナーの事を気にするんだ?
「ちょっとした知り合いモナ。別に彼女とか、そんなんじゃないモナ」
「おお、そうか」
ギコは納得したように言った。
俺は、ギコを視た。
この感情は…自分がリナーに横恋慕しているとか、そんなんではない。
むしろ、誰か友人に対する気遣い…?

「じゃあ、ちょっと先に行くわ」
ギコはそう言って、学校に走り出した。
おそらく、今のを誰かに伝えるため。
しぃ…だろうか。しぃも入っているが、メインではない。
その情報を誰に伝えようと…
「痛ッ!」
一瞬、頭に衝撃が走った。まるで、脳細胞が焼き切れるような。
何か、今日は変だ。

42:2003/11/09(日) 10:36

学校についた。
席に腰を下ろす。
ギコとしぃが何やら話していた。
内容も視ることが出来るが、意図的にカットする。
後方左斜め20m後ろから、視線。
戸惑いと親愛が混じった視線だ。
そう、話しかけるタイミングを計っている。
「じぃちゃん、何か用モナ?」
俺は後ろを振り向いた。
「あ…」
じぃちゃんは困惑したようだ。当然だろう。
「あのね…」
こっちに近づいて来た。
すこし離れたところで立ち止まる。
「今日の夜9時、この学校の中庭まで来てほしいんだ…」
その微妙な距離は、拒絶への恐怖を顕している。
「随分遅い時間モナね…分かったモナ。行くモナ」
じぃちゃんは、ぱっと明るい顔をした。
「本当!?絶対来てね!」
俺はじぃちゃんを視た。
心理的には、明るく振舞っているようで―――――
無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。
無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。無理をしている。
痛いのに 苦しいのに 体が裂けそうなのに もう限界なのに ここにいる資格も何もないのに
もう笑えないのに笑って その肉体は既にヒトのものではなく 精神は崩壊し 肉体は完全超過
それでも取り繕って取り繕って取り繕って取り繕って ただここにいたいために取り繕って

―――それでもただ、最期まで人でありたいと思っている―――


「!!!」
凄まじい頭痛。まるで高圧電流が流されたようだ。
俺は机に突っ伏してしまった。
「モナー君!」
じぃちゃんが叫ぶ。
「大変だ!!」
「先生を呼べ!!」
周囲から口々にノイズが聞こえる。
ブラック・アウト。
俺は…気を失った。

43:2003/11/09(日) 10:36

夜の教室。
生徒は誰一人いない。
俺だけが馬鹿みたいに机に座っていた。
そう、これは夢だ。それだけがはっきりと分かった。

「…あまり無理はするな」
一人の男が教卓にもたれかかっていた。
「その能力は体に負担がかかる。濫用すればたちまち寿命が縮むぞ。そうなっては私も困るのだ」
男はゆっくりと言った。
そう、あれも俺だ。
「私はあまり君に干渉したくはない… が、そうも言ってられんのでな。こうして君に会いに来た」
男はそう言って少し笑った。
何が可笑しいのだろうか。
「で、似合わんレクチャー役と相成った訳だ」
本当に似合わない。コイツは人にものを説明をするガラではない。
「最近、回路が少し違ってしまった。君に見えないモノが視えるようになったのはその影響だ。
 本来、君には能力が使えないシステムにしていたのだがな… いや、能力が君にも流出したというべきか」
やはり、よく分からない説明だ。
重点をボカして語る。そう、リナーと同じだ。
「この能力を理解するのは非常に難しい。一言で言うなら、『不可視領域に干渉できる』…というところか。
 だが、君はまだこの能力を完全には使いこなせない。
 今の君に『視る』ことのできるのは…心理・思考・感情・温度・匂い・殺気・生命エネルギーなど、その程度だ。
 実際に見えるモノに毛が生えたようなものだな」

能力…
なるほど、それで大体は納得できる。
夢だからか、信じがたい話でも抵抗なく受け入れられた。
いや、一つだけ納得できない事があった。
「ギコが合流する時間が分かったのはなぜモナ?未来を『視た』モナか?」

「いや、違う」
男は即座に否定した。
「あの時に君が『視た』のは、動きと距離、速度だ。それを無意識で計算して、合流時間を算出した。
 あれは、言わば「予測」だな。「未来予知」とは似ているようで根本的に異なる。
 …もっとも、君が能力を使いこなせば、概念なども可視化できる。「未来」といえども、例外ではない」

分かったような…分からないような…

「だが、心しておけ。さっきも言ったが、視にくいものを無理して視れば、脳に負担がかかる。
 あの頭痛を君は「脳細胞が焼き切れるよう」と表現したが、誠に正鵠を射た表現だ。
 現に、あんな女の内面を見てしまうから、君はこのザマだ。今後、軽挙妄動は慎め」

ぐにゃりと、男が教室の背景ごと波打った。
世界が歪んでいる。

「どうやら、目が覚めるようだな」

男の体が希薄になる。

「このスタンドは…ヴィジョンを持たないタイプだ」

教室も消えていく。

「スタンドパワーは全て能力に傾けられているのだな。故に、ヴィジョンを維持できない」

男の声が遠くに聞こえる。

「このスタンドを、ヴァチカンの連中はこう呼んだ…」

この世界はもう維持できない。現実に戻ってしまう。


「楽園の外を視る力…『アウト・オブ・エデン』」




俺は目を覚ました。
ここは…保健室だ。
あの後、すぐに保健室に運ばれたのだろう。
頭痛は嘘のように消えていた。
カーテンの向こう…校医が本を読んでいる。
本の内容までも視る事が出来る。
この程度なら、とくに脳に影響はないようだ。
俺はベッドから起き上がった。

物音を聞きつけて、校医がカーテンを開けた。
「あら、もう大丈夫なの?」
「はい、ただの睡眠不足でしたモナ」
嘘ではない。
実際、状態はそう変わらなかったのだろう。
意識を失って倒れたにもかかわらず、救急車も呼ばれことなく保健室で寝かされていたのだから。
「じゃあ、授業に行ってくるモナ」
時計を見ると、まだ11時だ。
「また、ここへ来ることのないように」
校医が腕を組んで言った。
「はいモナ」
俺は保健室から出て、教室に向かった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

44:2003/11/09(日) 10:37
過去に貼ったものは以上です。
ご迷惑おかけしました。

45N2:2003/11/12(水) 18:15
随分と遅くなってしまい、申し訳ありません。
今からモナ本モ蔵編第1〜4話を貼ります。
余談ですが、あらすじ製作中に「(タイトル)――その①」という表現が
原作に準じていないことに気付いたので、それだけ変更しました。

46N2:2003/11/12(水) 18:16

 始まりを告げる再開の巻 (モナ本モ蔵と『矢の男』 その①)

 最早丑の刻も過ぎた頃であった。
 ある男が、とある町へとその足を踏み入れた。
 近くで何か行事があった訳でもなく、それどころか今はそういう時期でもないのに和服をその身にまとっていることから、彼が随分と古風な精神の持ち主であるいうことは想像に難くない。それだけでなく、その立ち振る舞いが彼の荘厳さをより一層際立たせている。
 辺りを見回しても、こんな時間に繁華街ならともかく町外れを歩く者は彼以外にはいないし、それどころか近くに人が住んでいる気配もない。ただ夏の虫の音ばかりが響き渡っていた。

 刹那、彼の身に戦慄が走る。それまでの穏やかな「気」を簡単に打ち壊す、それでいてどこかそれ自身が穏やかな「殺気」。――間違い無い。奴だ。
 自分の背後からアスファルトの上を歩く乾いた音がする。後ろには、彼の「目的」がすぐそばにあった。

 後ろからやって来た男は、一瞬表情が固まったが、すぐにその顔はほころんだ。「まさか…君なのか!?久し振りじゃないか!何故君がここに…?」
 相手の戸惑いと喜びに満ちた言葉を否定するかのように、彼は答えた。「…貴様をこの手で討ち取る為だ」
 彼は腰に差した二刀は抜かず、それまでどこにも持っていなかったはずの3本目を突然手に持ち、その男に斬りかかる。――速いッ!!
 後から来た男は斬撃を辛うじてかわした。突然の出来事に、男の心臓は鼓動を速くする。男は気を取り直し、彼に向かって叫んだ。「…再会を懐かしむ言葉も無しにいきなり斬りかかるとは…、一体何のつもりなんだ!?」
 彼は相手の驚きに満ちた言葉に対し、眉一つ動かさず、ごく冷静に答えた。「…今言った通りだ。貴様を殺す。だから斬りかかった」

47N2:2003/11/12(水) 18:17

 ある少年――モナ免モナ蔵は生まれついてからある「宿命」をその身に背負っていた。
 その宿命とは、2ちゃんねるの各所に立てられた糞スレを立てた>>1・荒らしをその手で始末していくことである。幼少の頃から義父であるモナ免モ二斎による厳しい稽古を受け、その身に「擬古流」の剣術を叩き込まれた。
 元々彼は決して争い事を好む性格ではなかったが、かと言って自らの境遇を疑うこともなかった。…正確に言うなれば、そんなことを疑う余裕も無いほど過酷な特訓の日々が続いていたのである。

 もって生まれた「スタンド使い」である彼は、同じくスタンド使いである父に、その使い方も(ひょっとすれば剣術以上に)厳しく教え込まれた。
 彼のスタンドは、一般的なものと違い、ヴィジョンはまさに刀そのものであった。何か特別な能力を持つ訳でもなく、全くの刀でしかない。モナ蔵が手に持たねば、動くことすらない。モ二斎は彼のスタンドに成長の可能性がほとんど無いと考え、大いに落胆したが、それでも何もしないわけにはいかない。モ二斎はモナ蔵自身が「剣士のスタンド」となって戦うというイメージの下、彼の日常の一挙一動から厳しく指導した(そのことが後の彼の強さへと繋がるわけだが)。

 やがて彼は、その「宿命」を背に修羅の道を歩み始めることとなる。
 その道中で彼は数多くの>>1・荒らしを殺め、またその心は徐々に自らの行いに対する疑問と自責の念に捕らわれていった。已むを得ないことだ。いくら相手が罪人であるとは言え、己の宿命とやらに従って人を殺すのである。
 本当に自分の行いは正しい事なのか?彼は常にその疑問を抱き続けていた。そして徐々に、自らの命を絶つことでその苦悩を捨ててしまおうと考え始めるようになってしまった。少年の心はこのままその葛藤に押し潰されてしまうのか?

48N2:2003/11/12(水) 18:17

 ある時のことである。彼は道中で一人の青年が数多くの男達から集団で暴行を受けているのを目撃する。既にその青年が虫の息であることは遠くからでもよく分かった。
 彼は思わずその男達に斬りかかった。…見てくれは恐ろしくとも、結局は集団でいなければ何も出来ない弱い男達の集まりなのである。一人だけとは言え、殺気漂ういかにもその肉体が鍛えあげられたような男が真剣を持って襲い掛かって来たのだ。彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 数日後、彼の元にその青年が尋ねて来てこう言った。「君に是非ともお礼がしたい」
 彼には当然の事をしたという意識しかなかったが、素直にその求めに応じた。それからも青年はちょくちょく彼の下を訪れ、二人の間にはいつしか友情が芽生えた。

 彼には友人と呼べる者はほとんどおらず、いるとすればただの二人――同郷の友人であるモラ位田マタ八、それにおつーだけであった。
 幼い頃の大事な時間をも特訓に費やされ、友情というものをほとんど知らぬ彼の心には、非常に友好的な態度で接してくる青年ははすぐに受け入れられた。

 話をしている内に、彼は青年がどんな人物であるかを掴んできた。青年も一人で各地を旅していること。その目的は言えないが、それが大いなる目的のためであること。青年も彼と同じくスタンド使いであること。そして、口には出さなくとも青年もまた彼を必要としていること。
 その物腰は柔らかく非常に紳士的で、言葉遣いも丁寧であり、また博識である青年はまさに友人とするにこの上なく相応しい人物である、と彼は心の底から思うようになった。

 程なくして、彼は自らの行いに対しての疑問も打ち明けた。その時、青年がちゃんとした答えを返してくれる保障は無かったが、しかし彼には直感的に青年が自らの指針となってくれるような気がしていた。
 青年はこう言った。「君の行いを…100%善ということは確かに難しい。その事で君が大いに悩んでいるのもよく分かる。だがしかし、君はその行いに対してちゃんと『理由』を持っているのだろう?その『理由』がこの世の過半数の人々から指示されるものであるならば、君は正義の立場にいることになる。…君は正義だ。私が保障するよ」
 この言葉は、彼にとって大いに救いとなった。自らの行いを、生まれて初めて認めてもらえたのだ。彼は全面的に(そして半狂信的に)青年の事を信頼するようになった。

49N2:2003/11/12(水) 18:18

 青年は愛読家であった。
 青年に会いに行くと、本を読んでいないことの方がかえって珍しかった。
 彼はその度、青年に何を読んでいるのか尋ねた。青年はいつもその本の概要を丁寧に説明したが――、一度たりとも、「これは以前君に教えたことがある」とは言われなかった。それは単に青年が勘違いしていた訳ではなく、彼もそのことには気付いていた。
 彼が青年に自分から会いに行ったことは100回は下らないが、旅の身であるのにそれほどの本を一体どこに持っていたのか?その真相は定かではない。

 彼は青年の勧めで度々その手持ちの本の中から数冊を貸してもらっていた。その中に、どこかの大学教授の著書と、ホラー怪奇小説があった。そのどちらもが、彼にとっては新鮮な内容であった(小説の内容を簡単に説明するなれば、主人公は友人の奇病を治す為に敵陣へ乗り込むが、そこで彼は自らの師の裏切りに遭い、更にはその師が怪物と化してしまうというものである)。
 そのいずれか、それはもう彼は記憶してはいないが、確かにそのどちらかに印象的なフレーズがあった。
 「現実は非情である」
 修羅の道を歩んできた彼にとっては、そんなことはもう分かり切っている――それどころか、著者よりも分かっているつもりだと彼は思ったが、しかし今大切な友人と安息の日々を送る彼にとっては、少なくとも今はそれが嘘である、そう信じたかった。

 しかし、その直後、彼はその身をもって体験する!!まさにその教授か、あるいは主人公の師が言う通り、現実とは「常に」「無差別に」その非情なる牙を剥くことをッ!!

 数日が経ち、彼が川べりで剣術の訓練をしていると、遠くに土手を歩く青年の姿が見えた。
 駆け寄って声をかけようと土手を駆け上った彼は、ふと青年のすぐ後ろの土手下、そこに茫々と茂っている草むらの中に横たわる「もの」を目にした。彼は思わず駆け寄った。そしてその時から彼は大きな受難の道を歩み始めることとなる…。

 死体だった…。まだ体は暖かい。死んで間も無いと言ったところだ。そしてその死体には…心臓をあたかも『矢』で射られたような傷が残されていた…。

50N2:2003/11/12(水) 18:19

 モ蔵の決意――裏切られた友情の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その②)

 直後、彼は青年の方を見やった。青年は彼に全く気付いていない様子だった。彼は青年を呼び止め、手助けをして貰おうとした。…が、ある疑いが彼の脳裏を過ぎった。
 「青年が殺したんじゃないのか?」
 状況から見ても、その可能性は十分にあった。彼が見ていない内にこの男を殺し、そのまま立ち去ったと考えれば全く不自然ではない。
 しかし、それにしては青年の後姿は余りに冷静過ぎる。普通人を殺しておいて何事も無かったかのようにその場を去れるものだろうか?そして…あの青年が本当に人を殺したのか?それが出来てしまう程にあの青年の内面は穢れているのか?
 非常に人当たりの良い、良心的な青年のイメージと、それとは真っ向から対立する邪悪な青年のイメージ。ここで青年に声を掛ければ、自分はその邪悪な青年のイメージを肯定することになる。
 そうこう悩んでいる内に、彼は青年を見失ってしまった。気が付くと、辺りは大分薄暗くなってしまった。彼はそのまま警察に通報もせず、その場を立ち去ってしまった。

 翌日、青年に会うと、彼は全く普段と変わらぬ様子で接してきた。しかし昨日の夕刻の事が、どうしても彼には頭から離れなかった。
 青年は言った。「どうしたんだ?今日の君は様子が変じゃないのか?」
 ここで変に感付かれるのはマズい。彼は平静を装ったが――その時の「マズい」と察した心理がどうも真剣勝負の時の感覚――敵が一瞬の隙を付いて斬りかかってくる時の感覚に酷似していたのが、彼には恐ろしかった。
 折角出会えた親友が信頼出来なくなること、同時に青年の内面に相当な「邪悪」の片鱗が見え隠れすること。いずれもが彼にはショックだった。

51N2:2003/11/12(水) 18:19

 それから幾日かして、彼は青年に手合いを申し込んだ。お互いがスタンド使いであると知ってからは、2人は頻繁にスタンドバトルの訓練をしていた。だが、真剣勝負をしたことは一度も無い。青年は最初は乗り気ではなかったが、彼の熱気に圧され、応じた。

 決闘の場所は、敢えてあの川べりを選んだ。
 例の死体は、もう無かった。あれから、地元の新聞やニュースでは謎の殺人事件発生と大きく騒がれていたが、青年との会話でその事が話題に上ることは無かった。
 彼は青年に事件の話題を振ってみると、青年は「全く、この辺も平和かと思ったら随分物騒になったもんだな」と、動揺した様子もなく普通に返事をした。青年の顔はあの時、つまりこの間川べりを歩いていた時と同じように、全く平然としていた。その顔を見て、彼は「君は何か知っているんじゃないのか?」という言葉を発することが出来なくなってしまった。

 決闘は、初めは青年の方が若干優勢であった。具体的な人の形をしたヴィジョンは、全くの剣でしかない彼のスタンドになかなか一本を取らせない。しかも見るにタイプは近距離パワー型である。拳の一振り一振りが素早く、重い。がしかし、流石に幼少から修行を積んできた経験の差からか、最後はその攻撃の隙を見極め、鋭い一撃を青年に入れた。
 結局の所、彼が決闘を挑んだのは、青年に対する恐怖心を和らげる為でしかなかった。心のどこかに「闇」を潜めているかも知れない青年が万一自分に牙を剥いた時、勝てる自信が欲しかったのだ。彼は大いに安堵したが――、その感情が本来二人の間には起こってはいけないものであるとはもう考えてはいなかった。

 それからはまた、かつてと同じような日々が続いた。ただ、最初の決闘以来、2人は何度か真剣勝負をしたが、それらは全てモ蔵が勝利を収め(しかも勝負の度にその実力差は離れているようであった)、日に日に青年はモ蔵に対して闘いに関しては敵わない、と考えるようになり、またモ蔵は少しずつ(表には出さなくとも)青年に対して疑惑の目を向けていった。
 しかし、結局彼はその事を一度も口にすることは出来なかった。一人でいる時に募った不信感が、青年に会った途端に浄化されてしまうのだ。それだけ青年は清く、正しく、美しい雰囲気を放っていたのだ。

52N2:2003/11/12(水) 18:20

 青年と出会ってから7、8ヶ月経ち、彼は遠方で糞スレを乱立する者の噂を聞いた。2人に別れの時が来た。青年もこれを期にまた旅を再開すると言った。2人は別れの言葉を交わし、彼は去り行く青年を見送った。彼にとって、この青年との関わりはこれで終わる――はずであった。
 青年は別れ際に、何かを落としてしまった。それを拾ってみると…『矢』であった。矢尻は金色の石で出来ており、シャフトや羽根はかなり古いものであった。
 彼は青年を呼び止めた。『矢』を見せると、青年はモ蔵が『矢』を拾ってくれたことに大変感謝しているようであった。その『矢』は何か、と聞くと青年は「まあ…お守りみたいなものさ」と答えるだけであった。しかし、この時も彼は青年の穢れなき態度を目の当たりにして、その『矢』で人を射殺す青年の姿を全く想像することが出来なかった。

 それから何年か経ち、彼はとある町へと立ち寄り、何気なく酒場へと入っていった。隣ではどうやら常連とおぼしき男とマスターが話をしていた。
 「しかし、もうあんなひでえ事件から1年経つんだっけ?」常連は言う。大分酔っているようだ。
 「ええ、おっしゃる通りです。」マスターが返す。
 「あれって何人位死んだんだっけ?3人?4人?」酒が結構入っているせいか、あまり呂律が回っていない。
 「6人だった思いますが」若干その様子に対して呆れている様子だ。
 「ホント酷い真似する奴がいるもんだなあ。だってよ、あれ…何だか手口が全部同じで、心臓を何かで打ち抜かれてたんだろ?」
 彼の身に戦慄が走った。まさか、と思った。口に手を突っ込まれて腸をかき出されるかのように記憶を引きずり出された感じがした。彼は全く興味が無い振りをしながら、その続きを聞いた。
 「ええ、その通り…犯人は依然捕まっていませんしね。何でも当時この町にやって来た男が怪しい、とは噂されていましたけど」
 「へえ、そいつはどんな奴だってんだ?」
 「ええ、何でも物腰がとても柔らかくて紳士的で、言葉遣いも割と丁寧なんだけど、それでいてどこかヤバそうな雰囲気の男だと」モ蔵の中ではある答えが導き出されようとしていた。しかし、決め手が無い。
 「おいおい、1年も前の事件の犯人像を、あんたどうしてそこまでハッキリ覚えているんだい?」
 「ええ…実は私…見たんです。その犯人を」横目でチラッとモ蔵の方を見てから、マスターは小言で常連に言った。
 「…マジかよ。それってどんな奴だったんだ?」常連の顔色が変わった。その一言で酔いも醒めてしまったらしい。
 「ええ、あれは確か…冬の寒い、少し吹雪いていた夜でした。私はスーパーへと買い物に行って帰ってくる途中に、この辺で見かけたことの無い男と出会ったんです。彼は無表情ですが…でも何となく穏やかな顔で雪の道を向こうから歩いて来たんです。その表情は何て言うかその…まあ一言で言うなら何だか王様みたいな威厳が漂っていました。それで私が何となくそいつの顔に見とれてしまっていると…、向こうから『…何か用があるのかい?』と声を掛けてきたんです。わたしはその声に無性に怖くなってしまいました。本当のところを言うと、とても温かみがあって優しい声だったんですが、その裏にはドス黒いものが潜んでいるような気がしたんです。そうしたら今度は、『君が私に興味を持ったのも…何かの運命かも知れない。試してみるか?この『矢』の試練を…』と言っておもむろに弓矢を手に持ったんです」
 「…相当にクレイジーな奴だな。キテるぜ絶対」グラスのブランデーを飲み干してから、常連はこう返した。
 「…もうそれからは自分でもどうしたのか憶えていません。無我夢中で逃げに逃げて…、気が付いたらこの店の前に着いていたんです。もうその時には自分がどの道を通って来たのかさえ忘れていました。男の顔は覚えていても、どんな服装だったかとか、身長はどの位だったかとかも全て忘れていました。でも忘れられません、奴の持っていた『矢』だけは。あれは矢尻が金ピカな石で出来ていて、他の部分はもう相当に古びていました。なのにその矢尻が古そうな感じがしないって言うか、まあ異彩を放っていたのが印象に残ったんです。そしたら翌日、その男の会った近くで『矢』に撃たれた様な痕の残った死体が見つかったって言うし…」
 もう彼には後の会話が耳に入らなかった。間違いなく、あの青年である。疑惑は確信へと変化した。

53N2:2003/11/12(水) 18:20

 それからも彼は行く先々で『青年』の良くない噂を聞いた。しかもそれは、日を追う毎に数を増していった。
 彼は自責の念に駆られた。あの時命を救った相手が、今では数多くの罪無き人々の命を奪っている。気付くチャンスは幾らでもあったはずだ。そもそも、川べりで死体を見つけた直後に青年に声をかけて話を聞いていれば。その時でなくとも、青年を問いただしていれば。あるいは…例え後悔することになっても青年の「ヤバさ」に恐怖を感じ、寝込みを襲ってでも殺していたならば。それなのに、彼は青年の雰囲気に圧倒され、何もすることが出来なかったのだ。全ての責は、自分にある。
 彼は決心した。何としてでもあの青年の凶行を止めねばならない。それが、彼を殺めることでしか得られない結果であったとしても。
 彼はその名をモナ本モ蔵と改め、本来の旅の目的を果たす合間に必死で青年の行方を追った。そしてその中で、彼は大よその『矢』についての知識も身につけていった。

 そして彼は、最近になって青年の強行がピタリと止んだこと、そしてとある町へと向かっているのではないかという情報を耳にした。彼はすぐさまその町へと向かって行った…。

54N2:2003/11/12(水) 18:22

 友との決別の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その③)

 最初の一撃をかわした時、かつての青年――『矢』の男には全てが理解出来た。今自分が果たそうとしている目的、その過程における活動をモナ蔵――今ではモ蔵であるが――は知り、自分を討ち取ろうとしているのだろう。
 かつて彼が自分に対してどこか疑惑の念を抱いていたのを『矢』の男は知っていた。しかし結局そのことを口に出来なかったからこそ、それに対する責任として自分を殺そうとしているのだ。その事は良く理解出来る。
 が、しかしッ!ここで彼に討ち取られたならば、それではこれまで自分のやってきたことが全て無駄になってしまうッ!!ここは何としても無事に生き延びなければッ!!

 当然モ蔵は、彼が逃げ出そうとすることは容易に予想がついた。かつての試合ではっきりしていた実力差は、今ここで自分を討ち取ることによって生き延びようとする考えを彼には決して与えはしないことを。本当に命懸けではなかったにしても負けた相手をここで倒そうとするほど、こいつは馬鹿ではない。間違いなく、こいつは逃げることを念頭に入れる。しかし、決して逃がしはしないッ!!

55N2:2003/11/12(水) 18:22

 「サムライ・スピリットッッッ!!!」モ蔵が目にも留まらぬ速さで突きを連発する。人間技とはとても思えない。しかも、かつてのそれよりも格段にスピードが上がっている。
 「くっ…、うおおおおおおおおッッッ!!!」耐え切れず、『矢』の男は後ろに倒れ込みながら自らのスタンドでラッシュを打ち込む。近距離パワー型、しかもその中でもトップクラスの能力だ。
 「かつての試合のときはまだ直接戦闘の能力が完成してはいなかったッ!がしかし、今ではお前の突きに対抗できるッ!!」
 「…甘いッ!!」強い口調で叫んだ直後、モ蔵はラッシュの一発一発を全て避けながら、突きの速さを加速させた。――こいつ、まだ本気を出していなかったのか!!まずいッ!!
 突きは簡単にラッシュの間をすり抜ける。ふと『矢』の男が自らの腕に目をやると、そこには鋭い切り傷が幾筋も入ろうとしていた。緋色の鮮血がそこから勢いよくほとばしる。

 「う…うおおおおおおおお」吹き出す血を見て、気が動転する。
 「貴様の足跡を追う中で…」モ蔵はゆっくりとこちらへと歩いてくる。
 「貴様がどれだけの悪事を働いてきたか、否が応でも知る羽目になった…。貴様は何の目的かは知らんがッ!一般凡人に『矢』を打ち込むことによってッ!スタンド使いを増やそうとしているッ!同時に数多くの人々の命を奪ったッ!」
 息を荒くしながら『矢』の男は答える。「それは…君が私に対して偉そうな口を…利けることでは…ないんじゃない…のか?」
 「違う。確かに私も多くの者の命を奪った。しかしそれは、数多くの人々の平和を維持する為のこと!私利私欲の為だかは知らんが好き勝手に人を殺す貴様とは違う!」彼は厳しくも自信に満ちた表情で答えた。
 「フン…私の受け売りじゃ…ないか…」
 「確かにな…。だが貴様の言った事は確かに真実だった。だからこそ貴様は今こんな状況に陥っているのではないか?」モ蔵は『矢』の男から幾らか距離を置いて立ち止まり、見下すようにこう言った。
 「確かにそうだ…私の目的はその過程で…大きな犠牲を払うことは決して…避けられない。しかしその先には私なりの理想があるのだよ…」
 「…己の為だけに!人を殺して得ようとする理想が理想と呼べるか!」
 「なるほど…君の心はかつてと同じ、自分の信念へと真っ直ぐに向いているな…」
 「そして貴様の心は目的に向かって更に捻じ曲がった」皮肉と怒りを込めてモ蔵は返した。
 「…残念だよ、モナ蔵。こんな形で再会しなければならないなんて…」
 「それは…貴様の自業自得だッッッ!!!!」再び斬りかかるモ蔵。『矢』の男は反射的にスタンドでパンチを打ち込まずにはいられなかった。そうしなければ、まず命は無いからだ。しかし…刃に真正面からぶつかった拳には、いとも簡単に、そう、言うなれば包丁で豆腐を切るように、その中程までに鋭い隙間が出来た。
 「…っぐああああああああああ!!!!」
 「…喚け、叫べ。そして自らが殺めた者達と同じ気持ちを知るがいいッ!!」

56N2:2003/11/12(水) 18:22

 モ蔵はここで男は完全に追い詰められていると考えた。もうこいつは逃げることも出来ないし、戦うことも出来ない。
 「もう終わりだ。最後はかつての友の情けとして、一瞬で首を刎ねてやろう。何か言い残す事はあるか?」
 が、しかし、『矢』の男は全く予想外のことを口走った。
 「…随分といい気になったものだな、モナ蔵。君は今、私がもう何も出来ずに絶望していると考えているな…。だがッ!私は君如きの浅知恵に行動を予測されるほど愚かではないッ!!私が死ねば、私の目的は永久に失われるッ!!私は何としても!この場から逃れてみせるッ!!」
 『矢』の男は立ち上がろうとしている。予想外の行動に一瞬焦りを覚えたが、ここで奴を立たせれば逃げ出されるかも知れない。この刹那で決めなくては!
 「…哀れな。ならば死を実感させる間も無く命を絶ってくれようッ!喰らえッ!!奥義ッ!!暗・剣・殺ッッ!!!!」
 「!!!!!!」
 瞬間、モ蔵は『矢』の男の背後に回っていた。終わったか…。彼はそう思った。『矢』の男を仕留めたのだ…。

57N2:2003/11/12(水) 18:23

 仕留めたはずであった。しかし、手ごたえは無い。後ろを振り向くと、その姿は既に無かった。
 「ちっ…逃げられたか…」

 その瞬間、ズドン、と体に衝撃が走った。

58N2:2003/11/12(水) 18:23

 当然のことだ…。奴の素振りは明らかに私には敵わないと自覚している様子だったのだ…。誰もがあんな様子を見たら、何としても逃げ出すことを念頭に置いている、と予測するに違いない。事実、私はそうであった。だから、奴は『暗・剣・殺』をかわし、どこかにそのまま身を潜めたのだろう…。私も最初はそう思ったし、それは極自然のことだ。
 しかしッ!こいつは初めからッ!!私から逃げるつもりではなかったッッ!!今ここで私を確実に仕留め、平穏無事を獲得しようとしていたのだ――――ッッッ!!!!

 『矢』の男は、更に自分の背後に回っていた。そしてそのスタンドの腕は、無情にもモ蔵の腹を貫いている。
 「き……さ…ま」腹をやられてしまい、声になっていない。息にアクセントがついただけのようである。
 『矢』の男は、その腕から多量の血を流している。息は相変わらず荒い。更に、全身には相当の汗をかいている。
 「ハァッ…ハァー…ハァー……本当に…危なかったよ…君に…両断されても…全くおかしくなかった…やはり君は…強いな」
 貴様何を今更、と言いたくても、力が入らない。
 「だが…強いからこそ…ここで君を排除しなければならない…残念だったな」
 その言葉は、どちらかと言えばモ蔵に対してのものではなかった。むしろ、ここまで大いに苦戦してしまい、完全に動揺し、傷付いた自分を落ち着かせる暗示的なものにも聞こえた。彼は続けた。
 「そして…待っていろ、ひろゆき…かつて私が不運にも一度手放してしまったあの『矢』を自らのコレクションに加えおって…だが見ていろ…これから私は貴様の下へと行き、『矢』を取り返してみせるッ!…そして再びスタンド使いをこの手で増やし…我が崇高なる目的を達成させるッ!!」
 薄れ行く意識の中で、モ蔵は『矢』の男の表情を見た。先程までの恐怖と緊張は全く無い。むしろ完全に王者の尊厳さと恍惚に満ちた、敵であるにも関わらず、偉大の一言でしか表せない表情であった。
 
 「この町での私の目的はッッ!!何の障害も無く無事に遂行されるッッッッ!!!!!!」

59N2:2003/11/12(水) 18:24

 それぞれの再始動の巻 (モナ本モ蔵と『矢』の男 その④)

 既にモ蔵の意識はほとんど薄れていた。しかし、自分の命が失われてでも『矢』の男は倒さなくてはならない。彼は半ば無意識のうちにスタンドを再発動した。
 「既に瀕死の重傷を負っているのに…君はまだ何かするつもりなのか?」モ蔵の動きに、『矢』の男はすぐに気付いた。
 「その状態でスタンドを出したところで、私に傷一つ負わせることも不可能だろうが…、ここは君の強さに敬意を表し、最大限の警戒を払っておくとするか」
 『矢』の男はそう言うと、モ蔵のスタンドを掴み、自らのそれで砕き割った。痛みが腕の辺りに走る。が、最早うめき声すら出ない。
 「…ともかく、今日は忙しいんだ。これ以上君に構っている暇も無いんでね。ここらでお別れだ」
 『矢』の男は自らのスタンドの腕からモ蔵を振り払った。その勢いでモ蔵の身体は、近くの倉庫の壁へと激突した。腹から更に血飛沫が飛び出す。
 「…さよならだ、モナ蔵。安らかな眠りを…」そう言い残して、『矢』の男は市街地の方へと歩き出した。
 ――待て…行くな…。薄れ行く意識の中、必死に心の中でそう叫んだところで、その思いは相手に伝わることはない。やがてその姿は、漆黒の闇へと消えていった。
 ――ここまで…か…。無……様…な…も…の……だ………な…………。
 ……………………。
 彼の意識は、途絶えた。

60N2:2003/11/12(水) 18:25



 しばらくして、『矢』の男はとある建物の前にいた。随分と立派なビルである。が、その割には(時間も時間ではあるが)警備はそれ程厳重というわけでもなさそうである。彼はその内部へと侵入した。

 ビルの最上階の一室では、そこを拠点とするある一団の総帥と思しき男が仮眠をとっていた。その男は飲みかけのワインをテーブルの上に置いたまま、ソファーの上で横になっている。部屋の中には、柱時計の時を刻む音と彼の寝息しかしない。
 その静寂に同化するかの如く、『矢』の男は部屋へと忍び込んだ。
 仮眠している男の顔を見る。彼は正直言ってここでこの男を始末してしまいたかった。ここで生かしておけば、自分がここでの目的を果たしても男は執拗に自分を追い続けるだろう。それだけではなく、彼がかつて所有していた『矢』を自らの手中に収めているという事実が、彼には恨めしくて仕方なかった。しかし…先程のモ蔵との戦いで受けた傷は深く、一撃で男を仕留めることは難しい。そしてもしここで男に能力を使われてしまったなら…この状況下では、目的達成どころか命まで危ぶまれる。
 彼は男を放っておき、部屋の奥にある扉へと向かった。鍵は掛かっていたが、手持ちの万能キーで簡単に開いた。

 真っ暗な部屋の奥には金庫が1つ、重々しい雰囲気を放ちながら置かれている。それ以外には、何も無い。だがその重々しさは、決して部屋そのもの、あるいは漆黒の金庫から発せられたものでもない。今は視界に無い金庫の中身が、異様な空気を生み出しているのだ。彼はその雰囲気に覚えはあったが、その体感したこともない程の強さに身震いした。
 彼は思った。――今隣の部屋で寝ている奴は…、この金庫の中身を守り抜く為に(決してそれだけではないにせよ)ここまで巨大な組織を作り上げたのだろう。しかしながら、実際のところはその誰をも本当の意味で信用出来ず、金庫を自らの手元に置いておかねば安心出来ない。奴は表向きこそ尊大なサル山の大将ではあるが、実際はその従者達の裏切りに怯え、心の片隅で震えている子ザル同然である。だからこそ――奴はかつて、強大な悪の前に簡単に屈したのだ。
 金庫にはダイヤル式の鍵が付いていたが…、あらかじめ番号を知っていたのか、たまたまの偶然だったのか、あるいはスタンド能力によるものなのかは分からないが、彼はいとも簡単に解除してしまった。その中には、目的の『矢』が、それも3本も入っていた。

61N2:2003/11/12(水) 18:26

 突然、虫の騒ぎの様な予感めいたものに襲われ、ソファーに横たわっていた男は目を覚ました。激しい胸騒ぎがする。彼は何の証拠も無いが、しかし強い確信を持って奥の部屋へと繋がる扉のノブへと手を伸ばした。鍵は開いている。

 部屋の奥には、男が金庫の扉を閉めているところだった。彼は思わずあっ、と声を上げてしまった。
 その時、奥の男も彼の存在に気が付いた。手には『矢』を一本持っている。
 「あ…あなたはあの時の…!」その顔を見て彼は驚愕した。男はかつてエジプトで出会い、そして彼に『石仮面』なるものを手渡した者だったのだ。
 「久し振りだな…ひろゆき」追い詰められた、という感じは全く受けない。むしろ今自分の方が優位に立っている、という表情である。
 「そ…そこで一体何を…?」
 「…言わなくても分かっているんじゃあないのか?」全くその通りであった。この部屋に侵入している以上、目的は知れている。
 「私には3本も要らない…。かつて私が所有していたもの『だけ』で十分だ…。もう私は帰らせてもらうよ。」
 「くっ…逃がしはしませんッ!」彼は自分のスタンドを発現し、男に飛びかかった。しかしそれも簡単にかわされ、それどころか自分達の立ち位置を逆転されてしまった。
 「待つです!」振り向いて彼は走り出したが、男は既に部屋の窓を開け、その縁の上に立っていた。
 「ひろゆきよ…、君は本来私に構わず石仮面の力を得ていれば良かったんじゃあないか?」男は彼に問う。
 月光に照らされた男の腕は、先程は薄暗くて気付かなかったが、包帯でグルグル巻きにされている。しかもそれは真っ赤な血で染められていた。
 しかし今この組織で、この男にここまで傷を負わせられる者は、ましてやこの時間帯に建物の中にいる者の中にはいるはずがない。彼は強い疑問に襲われたが、それよりも男の問いに答えることが今の彼には最重要課題だった。
 「私は…あなたの言葉を信用したわけではないです…。あの石仮面を被ることで何が得られ、何を失うのか…。それがはっきりするまでは、私はあの石仮面は封印するです。そしてその全ての謎が解明され、不老不死の力を得たなら…、私はあなたを殺すです…!」
 「フッ、面と向かって殺害予告か。だが確かに…その声からは全く意思の曇りが感じ取れない。しかし!いずれ君は君自身の弱さが元となりこの私の前に屈することとなるだろう!その日を楽しみに待っているんだな!」男は窓から飛び降りるとそのまま姿を消してしまった。
 「……逃げられたです…」
 彼は金庫の中身を確認した。やはり『矢』は一本減っていた。
 彼は部屋にある電話の受話器を取り、夜勤の者へと内線を繋げた。そして、組織の幹部クラスの者達に召集をかけるよう要求した。

62N2:2003/11/12(水) 18:26

 何も見えない、真っ暗闇の中に彼はいた。何も考えられない。自分の肉体ばかりか、意識すら自分の意思の管理下に置かれていない。しかし、自らの周りが闇に包まれていることは『分かる』。まさしくこれは『死』であるのかも知れない。
 しかし、その闇を打ち崩すかの様に、ある声が頭の中に響いてきた。
 「起きろ!目を覚ませ!」天からの魂の導きであるのか、とも最初は思えた。しかし、その声は確かに現世から自分を呼び戻す声であった。
 「こんなところで何寝てるんだ、おっさん!早く起きろ!」
 モ蔵は目を覚ました。辺りはすっかり明るくなっている。目の前には、1人の初代モナー族の青年が立っていた。
 「やっと起きたか、おっさん。ひょっとして野垂れ死にじゃないかと思い始めてたところだったんだぞ?」青年はどこか自分を見下すかのように苦笑いした。
 「…私は…」虚ろな意識の中、昨夜自分の身に起こったことを思い出し、その瞬間目はすっかり覚めてしまった。彼は思わず自分の腹に手をやった。
 「…馬鹿な…傷が…」自分の腹には、風穴どころか傷一つ無かった。昨日のことは夢だったのか、とも一瞬疑ったが、あの戦いは決して夢などではない。確かに私は昨日、あの男に負けたのだ。
 「お主に一つ聞きたい…私はここにどの様にして寝ていたのだ?」
 「別に…ただそこの壁に寄りかかってグースカ寝てたんだよ。あんた浮浪者かい?」青年は呆れたような声で答えた。
 「いや…そんなことは、断じてない」彼は青年の疑問をきっぱり否定した。

 全くもって不可解であった。昨夜の出来事は紛れもなく事実である。ならばあの腹の傷は一体どうして治っていたのか?誰かの手によってならば、それは一体誰か?それだけではない。何故彼はあの時私の背後に回りこめたのか?彼の目的とは何か?全ての疑問がいっぺんに彼に襲い掛かる。そして、彼を取り逃がしたという重圧がそれら全てを上回ってモ蔵にのしかかる。が、しかし、ここで考えあぐねても仕方ない。モ蔵は腹の虫が鳴いていることに気が付いた。
 「この辺りにどこか飯を食える所はないか?」彼は尋ねた。突然の全く先程とは話題のベクトルが異なる問いには青年の方が驚いた。
 「ああ、そうだ、俺は最初マクドメルドに食べに行くつもりで出かけたんだ。そしたらおっさんが寝っころがってたってワケ。一緒に来るかい?」
 「…分かった。お主の好意に感謝する」彼は青年について行くことにした。時計は既に7時を回っていた。

 モナーが『矢』に射られたのは、その日の昼過ぎのことであった…。

┌───────────────────────────────────────────────────┐
|  モナ本モ蔵――『矢』の男に腹を打ち破られ、死亡…のはずが、何故かその時の傷が完全に治癒され、目を覚ました。 ..|
|            一体誰が彼の傷を治療したのか?また、何の為に?                            ............|
|  『矢』の男――‐ ひろゆきからかつて所有していた『矢』を奪い返し、「目的」の為に活動を再開。             .......|
|  ひろゆき―――『矢』を奪われた直後、組織の幹部達を招集し、「『矢』の男 対策本部」を設置した。          .......|
|  青年――――‐ この後、ファーストフード店でモ蔵と朝食をとった。                                 ..|
└───────────────────────────────────────────────────┘

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

63N2:2003/11/12(水) 18:26

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃               スタンド名:サムライ・スピリット          ┃
┃              本体名:モナ本モ蔵              ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - A〜0 .┃   スピード - ―    .┃   射程距離 - E    ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - A   .┃ 精密動作性 - ―  .┃  成長性 ― C     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ .「刀」のスタンド。スタンドをそれ単体で動かすことは出来ず、本体...┃
┃ が自分の手に持たなければならない。                  .┃
┃ しかしその切れ味は凄まじく、ダイアモンドでも一刀両断すること .┃
┃ が出来る(ただし、本体の意思によってその切れ味は自由に調 ...┃
┃ 節出来る。切れ味を0にすることも可)。                  ┃
┃ また、これは恐らくスタンド能力の一端なのだろうが、本体はこの...┃
┃ スタンドを発現し、手に持って戦うことでスピードA、精密動作性A....┃
┃ クラスの運動能力を得ることが出来る。                 ..┃
┃ スタンドが破壊された場合、ダメージは腕にフィードバックするが、.┃
┃ その伝導率は低い。                           .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

64N2:2003/11/12(水) 18:31
以上、前スレに貼ったモナ本モ蔵編でした。
明日はギコ屋編2つを貼ります。

…でも、やっぱり改行増やすくらいの編集はすべきだったかな…。

>>さいたまさん
勝手で申し訳ないのですが、前掲示板でお貼りになった
リナー想像図をもう一度貼って頂けないでしょうか?
小説スレも一応あらすじを作っておこうかな、と考えているのですが、
モナーよりかは彼女の顔を入れた方が適切かと考えたので。

65:2003/11/12(水) 18:51
>>N2氏
このスレ>>15>>23>>37に貼ってあります。

66:2003/11/12(水) 18:52

「〜モナーの夏〜  9月17日・その4」


授業中、俺は色々と能力を試してみた。
思考までは視えないが、感情や体調は視ることが出来る。
透視のようなことも出来るようだ。
前の奴の背中を透かして、さらに前の奴が見える。

…待てよ。
この能力を生かして、女子の服だけを透かすことも…
俺はそっと、隣の女子を視た。

…ウホッ!!

その瞬間、頭に衝撃が走った。
よこしまな事に能力を使った罰だろうか。
俺は、本日3回目の気絶を体験した。


目が覚める。
学校の教室という空間特有の喧騒が、俺を覚醒させた。
俺は机に突っ伏していた。
周囲の人間は、ただの居眠りと思っているのだろう。
誰も、俺が気絶したことに気付いてはいないようだ。
まあ、面倒がなくていい。
ゆっくりと頭を上げる。
…ん? 妙なものが目に入った。
ノートに、覚えのない文字が書き込まれていたのだ。

「能力を使えば、脳に負担がかかると言ったはず。
 つまらない事で力を使うな」

…誰だ?
俺の字よりも遥かに達筆だ。
誰か、俺を監視しているのだろうか。
まあいい。些細なことだ。
とにかく誰かの忠告通り、この能力は普段は使わずにおいた方が良さそうだ。
時計を見る。12:00ちょうど。
まだ4時限目の途中のはずだ。
何故か、みんな休み時間のように立ち歩いている。
不審に思った俺は、前の席のフーンの肩をつついた。
「…何だ?」
「今、4時間目じゃないモナ?世界史の授業はどうなったモナ?」
フーンは椅子の上で反り返って、机の上で両足を組んでいる。
そう、こいつは授業中の態度が極端に悪いのだ。中身は八頭身フーンに近い。
「ああ、先生が欠席で自習だとよ」
フーンは面倒くさそうに答えた。
そういう事か。
自習の時間に、本当に自習をする馬鹿はいない。
仕方ない。もう一眠りするか…

67:2003/11/12(水) 18:53

昼食の時間になった。
誰とも話したくない気分だったので、一人で食堂に行こうかと思ったが…
ギコに捕まってしまった。
「おい、メシ食おうぜ」
ギコはそう言って、しぃ同伴で強引に俺を食堂まで連れていった。

「ところで、今日のじぃとの約束、ちゃんと守るんだろうな?」
食堂の椅子に座ってすぐに、ギコは訊ねてきた。
…今日の夜9時、中庭で会う約束。
気が重くなった。
「…その約束、なんでギコが知ってるモナ?」
「質問を質問で答えるんじゃねえよ、ゴルァ!」
ギコは逆切れで誤魔化した。
しぃはそんな俺たちを心配そうに見ている。
いや、俺の返答を待っているのか。
「…そりゃもちろん守るモナよ」
俺はそれだけを言った。
「そうか。確かに聞いたぞ。これは、俺との約束でもある。破ったら… ただじゃおかないからな」
「わ、分かったモナ…」
ギコは剣道の有段者だ。
それに限らず武道・格闘技マニアでもあり、筋トレは欠かさないらしい。
その彼がただじゃおかないと言った以上、破ったらシャレにならない。

「やあ、モナー君」
モララーが隣に腰を下ろした。
「昨日は大丈夫だったかい?」
「…ああ、大丈夫モナよ」
ギコが首をかしげる。
「昨日?何かあったのか?」
「僕とモナー君と、あと泥棒猫1匹で飲みに行ったんだよ。で、モナー君が酒に弱すぎて倒れちゃったんだ」
「不覚だったモナ」
俺はポリポリと頭を掻いた。
「自分の許容量くらいは分かっとけ、ゴルァ!」
ギコは言った。コイツはとにかく強そうだ。
モララーは悔しげな表情を浮かべてうつむく。
「あの後、僕がモナー君をホテルにでも連れて行こうと思ってたら… クソッ、あの忌々しい女が… あの女が…
 ことごとく僕の予定を邪魔しやがって… 泥棒猫…! 次に会った時は、覚悟した方がいいんだからな…!」
「全部聞こえてるモナ」
なるほど。リナーがいなかったら、俺は婿に行けない体になっていたかもしれないのか。
サンクス、リナー。
「また、いっしょにBARに行こうねモナー君。今度は二人で…」
モララーが頬を染めながら言った。
…お断りだ。
ギコは、突然大声を上げた。
「そうだ、今度、じぃちゃんと2人でそのBARに行ってみたらどうだ!?」
それに反応したのはモララーだった。
「…な! 僕は絶対に許さないからな!! モナー君は僕のものだからな!!
 ネカマにも精神幼児にも泥棒猫にもマイナーキャラにも渡さないんだからな!!」
そう叫びながら立ち上がったモララーだが、突然に前のめりにぶっ飛んで行った。
そのまま、炎上しながら食堂の壁に突っ込む。
めり込むモララー。パラパラと崩れる壁。
モララーの首がありえない方向に曲がっているような気が…

「ネカマって私のこと? 言うに事欠いて、モナー君は僕のもの?
 余りにも聞き捨てならなくて、ちょっとミサイルぶっ放しちゃった…」
そこにはレモナが笑顔で立っていた。
そして、俺の方を向く。
「モナーくん、一緒にご飯食べよ〜?」
「残念ながら、ほとんど食べ終わったモナ」
「なぁんだ…」
レモナはがっくりと肩を落とす。
そう言えば… 今日はトラップの脅威を感じない。
「つーちゃんはどうしたモナ?」
俺はレモナに訊ねた。
つーちゃんとレモナは同じクラスだ。
レモナが笑顔で答えた。「体壊しちゃって欠席だって。あのつーちゃんがねー」
信じられない。
あのつーちゃんが体調を崩すなんて…
鬼の霍乱というやつか。
「おい、そろそろ教室に帰るぞ」
ギコは唐突に言った。
気がつけば、昼食を全て平らげていた。もう、昼休みも終わる時間だ。
俺達はレモナに別れを告げて、教室に戻った。

68:2003/11/12(水) 18:54

あっという間に放課後。
すっかり眠っていて、最後の授業が終わったのにも気付かなかった。
今日は寝てばっかりだ。
俺は帰り支度を整えると、カバンを持って腰を上げた。
そういえば、モララーの姿を見ない。早退でもしたのだろうか。
ギコの姿も見当たらない。
しぃちゃんもいないので、一緒に帰ったのだろう。
さらに言えば、最近おにぎりの存在を忘れている。
学校休んでだんじり祭りを見に行ったとのことだが、つぶされてモチになってるんじゃないか?
とりあえず、仕方ないので一人で帰るか。


家に着いた。
リナーは、ガナーの部屋にいた。
驚いたことに、ガナーを看病しているらしい。
この機会に二人には仲良くなってほしいものだ。
いや、仲が悪いという訳ではないのだが、互いに遠慮しあう関係ってのも息が詰まる。
というか、さっきリナーの部屋を覗いたが、 …ダンボール増えてないか?
ダンボールの中に入っているモノは容易に想像できる。
なにやら、怪しい宅配業者も出入りしているらしいし…
まあ、細かいことは考えないことにした。
家の一角が武器庫になってしまった。それだけだ。
そう言えば、夕飯係のガナーが倒れたという事は…
そう、俺かリナーしかいない。
リナーに作らせるとまた犠牲者が出るので、俺が作るしか…
無理!!
俺にそんな甲斐性などない!!
しゃーない、コンビニ弁当でいいか。

という訳で、夕食を終えた。
ガナーには、おかゆを作ってやった。
ごはんをお湯に叩き込んでふやかすくらい、俺にもできる。
何て優しいお兄ちゃんなんだ、俺は。
そういう訳で、ガナーは部屋で眠っている。
台所には俺とリナー2人きりだ。
「あ、今日の9時ごろちょっと外出するモナ」
俺はリナーに告げた。
「最近は物騒だ。気をつけてな」
毎日殺人鬼探しで夜道をウロついているのに、物騒とは言いえて妙だ。
俺は少し可笑しくなった。
「もし、殺人鬼探しの時間に間に合わなかったら、先に行ってほしいモナ」
「ああ」
リナーはうなづく。
俺は、コンビニ弁当の残骸を袋に入れた。
それをまとめてゴミ箱に放り込む。
「さて…」
リナーは腰を上げた。ガナーの部屋に行くようだ。
俺は、リナーに訊ねた。
「もし今のモナが吸血鬼と出会ったら、どの程度戦えるモナ?」
「どの程度も戦えはしない。君には、奴等のスピードをとらえることは出来ないからな。
 あっという間に八つ裂きだ。意味不明な質問だな」
リナーは当然のように答えて、台所から出て行った。
「やっぱり、そうモナか…」
俺は呟いた。
だからといって、リナーに頼るわけにはいかない。
これは、俺の約束だ。俺一人でやる。

69:2003/11/12(水) 18:56

8時45分。
今から行けば、ちょうど9時には学校に到着する。
俺は、殺人鬼探しの時に所持しているバヨネットを手にした。
リナーから受け取った護身用。
法儀式済みの、対吸血器用の刺突用武器。
それを懐にしまう。
こんなものを使う事態など考えてもみなかった。
俺の今まで生きていた日常、そんなものは遠い過去だ。
俺は、踏み込んでしまった。
もう戻れない。
そう、戻れないのだ。俺も、あの子も。
だが感慨にふける時間はない。
躊躇も、恐怖も諦観も必要ない。
約束した… それで十分だ。


夜の学校に、全く人気はない。
そう。夜の学校は、昼間とは異質な空間だ。
俺はそんなことを思いながら中庭に出た。

鮮やかな月の光。
それを存分に浴びながら、じぃちゃんは立っていた。
一本だけ植えられた大きな木にもたれながら。
「…じぃちゃん」
俺は呼びかける。
じぃちゃんはゆっくりと振り向いた。
月光に照らされるじぃちゃんの姿。
妖艶――その言葉が一番似合う。
「来てくれたんだ…」
じぃちゃんは嬉しそうに、少し悲しそうに言った。
「そりゃ、約束だから来るモナよ」


俺はじぃちゃんに近づいていった。
「こうやって、二人で話せるって今までなかったよね」
「そうモナか?昨日、一緒に帰った時だって…」
じぃちゃんは、少しむっとした表情を浮かべた。
「全然話してないじゃない。モナー君、私の話なんか聞いちゃいなかったくせに」
「そ。そうだったモナか…?」
そういえば、そんな気もする。
「今までずっとモナー君がそんなんだったから… 私、嫌われてるのかと思って…
 モナー君、私がずっと好きだったこと、気付いてなかったでしょ?」
「すまないモナ。モナは鈍いから、全然気付いてなかったモナ…」
つくづくその通りだ。俺は、全く気付いてなかった。
「本当にねぇ…今までの私の努力は何だったのか…」
じぃちゃんがため息をついた。
このため息ももう何度目だ。
「本当に、モナは鈍いモナ… だから、聞きたいことが一杯あるモナ」
「うん、いいよ。なんでも聞いて」
じぃちゃんは嬉しそうに言った。
俺と話せることが、楽しくて仕方がないみたいに。
「ギコとしぃちゃんは、モナ達をくっつけようとしてたモナ?」
「そうだよ。あの二人、ずっと協力してくれて… 普通、あそこまで露骨なら気付くもんだけどね」
今まで、全く気付いていなかった。
俺の愚鈍ここに極まれり。
「いつからモナのこと好きだったモナ?」
「もう、覚えてないくらいずっと前から」
じいちゃんは頬を赤くした。
たぶん、俺の顔も真っ赤だろう。
「じゃあ…」
俺は、最後の質問に少しの間躊躇した。

「肉体を維持するために、何人の命を犠牲にした?」

じぃちゃんはうつむいた。
「5人、かな… 今のところは」
今のところは。
いずれ、その数は数え切れないほどに膨れ上がる。
そう、今まで食べたパンの枚数を覚えていないように。
「やっぱり、気づいてたんだね… 昨日から、体の調子が悪くて…
 人の血を吸わないと、生きれなくなったみたい…」
じぃちゃんは、うつむいたままで言った。
俺は、その姿をじっと見つめている。
「私の気持ちには気付かなかったくせに、そんな事は気付いちゃうんだね、モナー君は…」
じぃちゃんは、ため息をついた。
俺のせいでため息をつかせるのも、これが最後だ。
「…ごめんモナ」
俺は謝った。何に謝ったのかは、自分でも判らない。
今までのコトか。これからのコトか。
「こんな時に謝るなんて…本当に鈍いというか、デリカシーがないというか…」
じぃちゃんは顔を上げた。笑っていた。だが、哀しそうだった。

「じゃあ…殺し合おっか」
じぃちゃんは、寂しそうな笑顔を浮かべて言った。
「ああ…」
俺は懐からバヨネットを取り出した。

今日は本当に嫌な夜だ。
月はあんなに美しいのに。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

70ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/12(水) 19:40
N2 さん、さ さん
二人とも乙です。
二人の作品 SAVE しときました。
これからもかんばって下さい。

71N2:2003/11/12(水) 20:10
乙です!!
日常と異常の境界線がパッと見では気付かないくらい自然で、
ゾクッとしました。頑張って下さい。

後、リナーAAの件スイマセンでした。気付いておりませんでした。
嗚呼、我が節穴の目…。

72N2:2003/11/13(木) 22:59
予告しました通り、ギコ屋編を貼り直します。
…しかし、改めて読むと特に最初の2話が厨臭い…。

73N2:2003/11/13(木) 23:00

             本編と時間軸は同じだが違う町という設定である。
           〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                      ○
                     O
                    o
                ゴルァ ゴルァ
                   ∧ ∧  |1匹300円|
             ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
               | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |____|     ||    ∩_∩ <今から「番外・逝きのいいギコ屋編」が始まるよ〜
                              G|___|  \_____
|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄             ( ・∀・)∩
|:;;:|Д゚;)< 私も出るぞ・・・              ⊂     ノ
|::;;|::U .:::...\________             ) _ (
|::;:|;;;|:::.::::::.:...                       (_) (_)∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
|:;::|::U.:::::.::::::::::...    ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀`  ) (    ) (    )
             (    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
             ( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
              (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

74N2:2003/11/13(木) 23:00

 アナザーワールド・アナザーマインド その①

 血――それは生命の象徴であり、かつ自らの先祖との繋がりの証である。
 我々は血を、単なる酸素運搬器官としてではなく、むしろ神秘的な存在として捉えている。
 しかしこの血を――、全く関係の無い者が他者の血を渇望することなど、果たしてあるのだろうか?
 いや、我々は知っている…。生けとし生けるものの血を糧とし、己の力とする怪物の存在を…。

75N2:2003/11/13(木) 23:01

 風の噂で、どこかの町では『矢』だか何だかで騒動が巻き起こっている、とは耳にしたが、そんなことはギコ屋の商売には一切関係が無かった。
 彼にとっては、その地での売れ行きが全てであった。
 「今なら逝きのいいギコが1匹300円だよ〜!はいはいそこの皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい、三陸沖で獲ったピチピチのギコ、こんなに逝きのいいのは滅多に手にはいらないよ〜!」
 「…全然売れねえな、ゴルァ」
 「…あ〜あ、全くだよ。最近売れ行きがとても悪いし、このまんまじゃまた夜逃げしなきゃいけないかな…。こうなったら、最近俺が習得したパフォーマンスで一気に客寄せするしかないぞ!」
 「…本気か?」
 「本気さ!じゃあやってみるよ!はいはい皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい、今から逝きのいいギコ屋の世にも不思議なパフォーマンスが始まるよ〜!!」

 宣伝の効果で、少しずつ通行人が彼の方を向き始めた。
 「まずこちらに、逝きのいいギコがいます。そして彼の首に注目!!」
 ギコ屋は相棒ギコの頭を掴んだ。かと思うと、相棒ギコの首は引っこ抜けてしまった。
 「はい、何とギコの首が抜けてしまいました〜!あ、皆さん待って待って、何もここで皆さんには虐殺ショーを見てもらおうとしたんじゃないんですよ、まだ続きがあります、続きが。で、ここで首と胴を近くに置きます。で、この切断面に私の頭に巻いてるタオルを被せます。そしてここで私が3つ数えると、何とギコの首は元に戻っているのです!あ、ちなみにちびしぃはどこにもいませんからね〜。ではいきますよ。1,2,3!!」
 ギコ屋がタオルを取り払うと、ゴルァ!という威勢のいい鳴き声と共にギコは飛び上がった。勿論、彼の首は繋がっている。
 「はい、皆さんいかがでしたか〜?この世にも奇妙なマジックは以上です〜!!」
 周囲の観客達は、大いに盛り上がった。
 (よし、これなら最低20匹は下らないぞ)
 ギコ屋は売り上げを期待したが…、観客達は盛り上がっただけだった。中にはこれがただの大道芸と思って小銭を投げつける者までいた。
 「…駄目じゃねぇか」
 「うう…、せっかくこんな不思議な力を手に入れたのに…」
 「…大体な、これをやられる方のことも少しは考えろよ。はっきり言って生きた心地がしねえんだぞ、ありゃ。大体お前もなんで自分がそんな事出来んのか分かってねえんだろ?」
 「いやまあ、それもそうだけどさ…。でも原理が何だろうと客がウケれば万事良しって…」
 「駄目なもんはどう手を尽くしても駄目だぞ、ゴルァ」
 「…商売って 難しいね…」

76N2:2003/11/13(木) 23:02

 観客達は徐々に彼の元を離れ始めた。しかしその中に、頭からフードを被り、マントを羽織った男が一人、ギコ屋の元へと歩いてきた。
 彼はギコ屋の前に札束を落とした。
 「…これでそのギコを…いや、お前を含めたこの場にいる全員を買いたい」
 突拍子もない質問にギコ屋は目を丸くしたが、とりあえず自分の相棒を買いたいということだけはまず理解した。
 「お客さ〜ん、こいつは済みませんけど売りもんじゃないんですよ。それに私を含めたこの場にいる全員っていった…」
 ギコ屋の返事が終わるのを待たずに、男は突然袖から『矢』を出すと、手馴れた感じでギコ屋の胸を一刺しにした。
 「…!? かはっ…」
 「!!?? おい、お前ッ!!俺の相棒に何を…」
 「…最も、金を払ったところで才能が無ければ何の意味も無いのだがな…」
 そう言うと、男は観客達が悲鳴を上げる前に、その全てを『矢』で貫いた。
 「てめぇッ!大事なお客さん達まで…!!」
 「…無論、君とて例外ではない」
 男は、今度はギコの首に『矢』を突き立てた。
 「あがっ…、て、てめぇ…」
 「どうやらそこらのクズどもとは違って、こいつには『才能』があるらしいな…。やはり私の見込み通りであった」
 男はギコの首から『矢』を抜き取り、そして彼の耳元で一言、こう言った。
 「君は『矢』に選ばれた。おめでとう」
 その言葉を聞き終える前に、彼は気を失った。
 「しかし、それでも他に一人二人は見つかるだろうかと期待していたが、結局こいつだけだとはな…。だがしかし、ここ最近はハズレばかりに当たっていたし、まあ良しとするか」
 そう言うと男はギコを抱きかかえ、その場を去ろうとした。しかし、自分の背後から只ならぬ殺気を感じ、男は振り返った。

 そこには、有り得る筈の無い光景があった。先程確かに『矢』に貫かれたギコ屋が、『矢』で貫いた瞬間には全く『能力の手ごたえ』を感じなかったギコ屋が、ふらつきながらも立ち上がり、こちらに鋭い眼光を浴びせていたのだ。
 「お前…お客さんたちを殺した挙句にうちの相棒をさらおうなんて…どういう神経してやがんだ〜!?」
 (こいつ、確かに才能は感じなかったのに…)
 「お前に何かで刺されたおかげで…何だか変に力が湧いてくる感じがするしよぉ〜」
 (まずいな…普通なら『矢』に刺されればどんな者でも気を失うのに…。そうすればその隙に連れて行くことも出来るが、こいつはまさに私と戦う気満々ではないか…)
 「ならばッ!貴様の能力は惜しいが!私の前に立ちはだかる以上は貴様を全力で駆逐するまでよぉ――ッ!!」
 男はスタンドを発現し、ギコ屋の心臓めがけて拳を振った。
 しかし、男の拳がまさにギコ屋の胸にヒットしようとした瞬間…、男の腕は、音も無く拳と肘の間でスッパリと切り落とされた。
 「…!!?? 何ィ――ッ!!こっ、これはッ!!」
 「お前は絶ッ……………対に許さん!!ギコをとっとと返せ!!さもないと今度はお前の全身がニクコプーンになるぞ、クラァ!!」
 (馬鹿な…一体こいつ、何の能力を…。いや、それ以前に何故『矢』に刺されて…)
 男は瞬間、全てを理解した。先程のギコ屋の路上パフォーマンス、あれがギコ屋のスタンド能力によるものだとしたら。そして彼もあの時は自らのスタンド能力を自覚できるほど能力が覚醒しておらず、この『矢』がその覚醒の最後の鍵となったのだとしたら!
 (まずいな…どうやら今回も『ハズレ』らしい…。しかも最悪の…)

77N2:2003/11/13(木) 23:02

                  どうでもいいがとっとと助けろ、ゴルァ
            〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                      ○
                     O
                    o
                ゴルァ ゴルァ
                   ∧ ∧  |1匹300円|
             ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
               | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |____|     ||   ∩_∩ <謎の男の腕が落ちた!!さてこれから先の展開は如何に!!
                             G|___|  \_____
|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄            ( ・∀・)∩
|:;;:|Д゚;)< 私もいよいよ・・・            ⊂      ノ
|::;;|::U .:::...\________            ) _ ( セツメイクサ…
|::;:|;;;|:::.::::::.:...                      (_) (_)∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
|:;::|::U.:::::.::::::::::...    ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀`  ) (    ) (    ) モトネタト セリフノカンジガ チガウゾ
            (    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
            ( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
             (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

78N2:2003/11/13(木) 23:03

 アナザーワールド・アナザーマインド その②

 ギコ屋は自分が今何をしているのか、実の所よく分かっていなかった。ただ何かに刺されたことで力が湧き、この男に対する憎悪をぶつけんが為に自らの『超能力』を使ったのだ。男の頭上に何か見たこともないようなものが漂っていることさえも、既に当然の如く感じられた。ともかく、ギコを何としても救わねば。彼の頭にはそれしかなかった。
 「さあ、ぼけっと突っ立ってないで、早くギコを返したらどうだ!」
 (まずいぞ…こうなれば、私の真の能力を使わねばならんのかも知れん…。しかしその上で万が一こいつに逃げられてしまったなら…これから『王』となる者として…、いや、スタンド使いとして敗北することになる…。ここで消えるか、それともこいつを消すか…)
 「何にもしないんだったら、こっちからいくぞ!!クラァ!!」
 ギコ屋は、やはり当然のように自らのスタンドのビジョンを出した。流石に商売柄からか、その顔はギコそのものである。しかしながら、どちらかと言えばその全体像は人に近く…、かつその四肢は人工の物の様である。
 (こいつッ、既にここまで…)

 「クラァ!!」
 ギコ屋はそのスタンドで一気に振りかぶった。そのパンチは男の顔をかすめた。
 (危なかった…いや、違う。こいつはスタンドを発現して本当にまだ間も無い。だからこそ、その扱いに慣れておらず、まだパンチの振りが必要以上に大きいし、しかも狙いが全然定まっていない。…だが、それでいてこのスピード、このパワーは何だ?このスタンド、想像以上に…危険だ!!)
 確かに男の予想通り、ギコ屋の拳の軌道は全く定まっておらず、すぐ背後の店のショーウインドウのガラスは見るも無残に割り砕かれていた。何発打とうとも、その全てが彼の頭上とか、あるいは胴を逸れてマントに当たるだけだった。だが、初心者対ベテランの戦いではあったが、そこには大きなハンディが存在した。
 (クソッ、だがいくら初心者相手とは言え、近距離パワー型に片腕一本で立ち向かうのは余りに辛い!もしこの状態でラッシュを打ち込まれたなら…)

79N2:2003/11/13(木) 23:03

 その時、男は気付いた。切り落とされた腕に、全く痛みが走っていないのだ。
 (…先程は余りに急な出来事の連続だったから気付かなかったが…、痛みが無いどころか、血の一滴すら落ちてこない)
 その落ちた手を見ると、それはまるで携帯電話のバイブレーションの様に震え出していた。かと思うと、腕は独りでに浮き上がり、凄まじいスピードで男の元へと戻って来た。そして、その切断面がピッタリと合わさると、何事も無かったかの様にまた一本の腕となった。
 「フ、フフ…。貴様の能力!見破ったぞ!!貴様の能力は!物体を一時的に切り離し!そしてまた元に戻るというものだな!!それさえ分かれば何も恐ろしいことは無い!」
 「…ちょっと違うな…。『切り離す』んじゃなくて、『分解』するんだ…」
 「それがどうした、たかがその程度の違いなど、無意味!!」
 男はギコ屋に対してラッシュの構えをした。
 「それはどうかな…?自分の周りをよくご覧よ」
 「何…!?」

 その一言で男が周りを見回すと、その壮絶な光景に恐怖した。彼の周囲には、まるで水晶で造られた剣の様なガラスの破片が無数に浮かんでいた。
 「俺がさっき、無意味に後ろのガラスを割ってたと思うなよ。ガラスを無数に分解し、その破片の一つをお前のマントの中に仕込んだ。今浮かんでいるガラスの破片はッ!お前のマントの中にある『破片』(パーツ)に引き寄せられるッ!!」
 「だがそれ位、私が防げないとでも思ったのか!!」
 「確かに、あんたの能力は凄いかも知れないが…、俺のラッシュがそこへと組み合わされば…どうかな?」
 男の返事を待たずして、ガラスの破片とギコ屋のラッシュが男に襲い掛かる。
 「クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァッ!!」
 「こうなったら仕方あるまいッ!『アナザー・ワールド』!!」

80N2:2003/11/13(木) 23:04

 彼が自らのスタンドの名を叫ぶと、途端に彼以外の全てのものは活動を停止した。…そして、じっくりとじっくりと、あたかもテープの逆再生の様に巻き戻されていった。
 「貴様には何を言っても分かるまい…いや、聞いても聞いていない過去へと巻き戻される訳だがな。我が『アナザー・ワールド』の能力は!世界の時間を巻き戻す!!そしてこの私だけが、無生物限定ではあるがその世界に干渉出来る!!時が戻る中で私が新たに『書き込んだ』活動は、再び時が再生された時に『逆再生』されるのだよ!!…丁度いい処刑方法を思い付いたぞ。果たして貴様ごときに防ぎ切れるかな…?」
 そう言うと男は、一本のナイフを懐から取り出し、その刃を持ってギコ屋の額へと投げ付けた。そのナイフは、柄の方からギコ屋の頭をすり抜けていった。
 「時が『再生』されれば、ナイフはお前の後頭部に突き刺さる。そしてお前は何も知らずに死んでいく訳だ。…私はこんな所で死ぬ訳にはいかないのだよ。必ずや…かの『DIO』の能力へと追い付き…空条モナ太郎、ひろゆき、そしてあの『矢の男』を超越してやる!!行くぞ、時よ、『再再生』しろッッッッ!!!!」
 再びガラスは動き出し、ギコ屋はラッシュを打ち出した。が、その場所には既に男はおらず、ギコ屋が仕込んだガラスの破片だけがその場に残されていた。

 「ば、馬鹿なッ!?」
 そして、彼がその突然の事態に気を取られている間に、ナイフは高速でギコ屋の後頭部目がけ飛んできていた。その様子を、男はギコ屋の遥か後方で眺めていた。
 「馬鹿は貴様だッ、ぶっ刺されぇぇ――――!!」
 その瞬間、近くの電柱の裏からまるでロボットの様な腕が飛び出し、そのナイフを弾き飛ばした。
 「…お前に弟が任せておけるものか、こうなったら私が救出しに行くまでだ!!待てえ――――ッ!!」
 電柱裏から一匹のどこかで見たようなギコが飛び出し、相棒ギコを抱えた男を追いかけていった。
 「えっと…、あれ誰だっけ???…ってそんな事は問題じゃない!」
 そう叫んで、ギコ屋も彼らの後を追いかけていった。だが、その時ふとあの客達が気になって後ろを見ると、彼は驚愕した。何と、あの男に刺された客達の傷が、全て塞がっていたのだ。しかし客も心配ではあったが、理由は分からなくとも傷が治っているし、目を覚ましはじめる者も中にはいたので、恐らくは放っておいても問題無いだろう、と彼は判断し、追跡を再開した。

 …スタンド使いはスタンド使いに引き寄せられる…。

 To Be Continued...

81N2:2003/11/13(木) 23:05

                        .______
                        │        .│
                        │都合により │
                        │無期限休業 |
                        | 致します。....│
            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ . . .|______|
   ドルァ ドルァ < By ギコ屋         ||
      ∧ ∧   \_____         .||
⊂  ̄ ̄つ゜д゜)つ                  ||
   | ̄ ̄ ̄ ̄|                    .||
   |____|                   


                        ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀` ; ) (    ) (    )
(    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
 (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

82N2:2003/11/13(木) 23:05

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①

 結局、あれから相棒もあの男も、正体不明のギコも見つけることは出来なかった。
 それ以来、店は無期限臨時休業にして相棒探しを始めた。もう3日目だ。
 …あの日のことは、今でもよく分からないというのが本音だ。
 ワケワカラン男が突然現れたかと思うと何かで刺され、更には相棒を連れ去られた。
 心の中には、ぽっかりと穴が開いてしまった感じがする。
 オレにとっては、余りにも大きな損失だ。
 しかし、その矢みたいな物で刺されてからは、それ以前はおぼろげなものでしかなかった『超能力』が、もっと形ある物になったような気がする。

 「クラァ!!」
 叫び声と共に、オレの後ろからギコみたいな姿をしたやつが現れる。
 出て来い、と思えばこいつはすぐに出てくる。
 どことなく相棒のやつに顔が似ている気がしないでもないが、そんなことはどうでもいい。
 パンチを打て、と思えばパンチを打つ。
 キックを放て、と思えばキックを放つ。
 とにかくこいつは、オレの思うがままに動いてくれる。
 そして、こいつが何かを殴る時に「分解しろ!」と強く念じると、その物は粉々に、そして見えないほど小さく分解してしまう。
 が、どんなに強く念じても、必ず10数秒もすれば少しの狂いも無く元に戻ってしまう。
 …一体こいつは何者なのだろう?
 オレが言葉を掛けても、こいつは全然返事をしない。
 全く不気味だな…とは思うが、まあ、せっかくなんだし、使える物は有効活用させてもらおう。

83N2:2003/11/13(木) 23:06

 「すみませーん、この辺でこんなギコ見ませんでした?」(やべ、あらやだに声掛けちまった)
 「いやあ、全然見なかったわねぇ」
 「…そうですか、どうもすみません」(とっととこの場はずらからせてもらおう…)
 「あらやだ、でもこのギコちゃん、可愛い顔してるわね〜。家の近くの野良ギコちゃんもまたこれが可愛いんだけど、やっぱり人に飼われてるのは違うのかしらね〜」
 「は、はあ…。そうじゃないんですか?」(んなこと聞いてねえぞ)
 「でも、こんなに可愛いとあの野良しぃちゃんと一度会わせたくなってくるわぁ」
 「そ、そうですか…」(勝手なこと言うなよ…)
 「うん、そうよ!やっぱりこの子にはあの野良しぃちゃんがぴったりよ!」
 「そりゃ、どうも…」(…あんた、人様の飼い猫に野良をくっつけさせようなんてどんな神経してやがるんだ?)
 「ほらあんた、のんびりしてないで早くこのギコちゃん連れて来なさいよ!」
 「…あの、ですからそのギコを探しているんですが…」(てめえ、人の話聞いてたのか!?)
 「何よ、あんたいざって時に使えないわね〜」
 「……(去る)」(貴様、 頭   飛   ば   す   ぞ)

84N2:2003/11/13(木) 23:06

 もうこの町は片っ端から聞き込みをした。
 …だのに、全っ然目撃情報が無い。
 「はぁ…、あいつどこ行っちまったんだろ…」
 もうあいつとの付き合いは長い。
 お客さんから「こいつは、お前さんのところにいたほうがいいじゃろう」と返品されて、それを機にこれまでずっと2人3脚でこの商売を営んできた。
 いつも威勢のいい掛け声で客引きをしてくれた。時には大道芸もしてくれた。
 あいつをさらおうとした奴を帽子で撃退した時もあった(あの後相棒がやたら落ち込んでたのが気になったが)。
 どうしてもあいつがいいと言って聞かない客に駄目だと断ったら、そいつが運悪く地元の有力者で、見事に地域ぐるみで不買運動を喰らったこともあった。
 …いつもそばで支えてくれたのに、どうしてこんなことに…。
 …目の奥が熱くなってきた。こんな所で泣いたら大恥だ。
 オレは急ぎ足で裏通りへと入った。

 と、その時である。オレの前方に、見覚えのある姿が映った。
 「…あれっ!?」
 信じられない光景に、つい何度も目をこすってしまった。
 少し遠くて見え辛いが間違いない。相棒だ!!
 「お――いッ!ギコ――ッ!!」
 思わずあいつの名前を叫んでしまった。無意識の内に、足は勝手にあいつの方へと向かって地を蹴っていた。
 ところが…、あいつはオレの声を聞いてこちらをチラリと見るなり、走って逃げてしまったのだ。
 「あれっ…え…?」
 予想外の事態に一瞬戸惑ってしまったが、ここで逃げられたらもう一生会えなくなるかも知れない。
 オレは迷わずあいつの後を追った。
 「待て、ギコ――――ッ!後ろにマタタビ落ちてんぞ――ッ!」
 …全然見向きもしない。
 あいつは時折こちらを見ては、建物の間を野良猫の様に(元々猫だが…)スルリスルリと潜り抜けて行く。
 だが、決してオレの視界からは消えない。
 その様子は、オレを撒くと言うよりはむしろどこかへと誘導しているようであった。
 時々ポリバケツにぶつかったり、ドブにつまずいたりしながらも、オレは必死にあいつの後を追った。
 ふと、潮風が鼻へと飛び込んできた。
 「海…?」
 古びた雑居ビル郡を抜けると、そこは港だった。
 そこにある大きな倉庫の扉を開け、あいつはその中へと消えていった。
 オレもそこへと足を踏み入れようと、扉を引いた。
 …その瞬間、ある強烈な臭いが漂ってきた。血だ。
 マグロの解体作業か?んなこたぁーない。
 こんなに強烈な血の臭いがするだなんて、一体この中はどんなことになっているのか?
 そして、相棒は何故この倉庫に入ったのか?
 足が自然とすくむ。
 「が…頑張れ逝きのいいギコ屋!こん…こんな所でおじ…怖気付いてどうするんら…!!」
 …舌が回らない。
 それでも、いつまでこんな所に立ち往生していたら何のためにここまで来たのか、ということになってしまう。
 オレは意を決して、一気に扉を引くとその中へと飛び込んだ。

85N2:2003/11/13(木) 23:07

 相棒であるだなんて気付かなければ良かったのかも知れない。
 追っている途中でバテて諦めれば良かったのかも知れない。
 怖気付いて倉庫を前にして帰ったほうが良かったのかも知れない。

 中は、地獄絵図であった。
 地獄絵図と言うよりもむしろ地獄そのものであった。

 倉庫に入ってまず目に映ったのは、床に飛び散る大量の血肉だった。
 気が動転しているくせに、頭はすぐ冷静に自体を把握し始めた。
 まず、その大半が、元々はしぃ・ちびしぃであった『もの』であるということはすぐに判断出来た。
 しかし、そのどれもが、その肉体に大きな裂け目が入っている。
 次の瞬間には、これがただのしぃ虐殺厨の仕業ではないということを思い知らされた。
 奥には、多種多彩な者達だった『もの』が、所狭しと転がり、山積みにされていた。
 モナー、ギコ、モララー…、ぞぬ、ニダー、アヒャ…、とにかくそのどれもが誰だかすぐ分かる著名な連中ばかりであった。
 壮絶な光景に、オレも卒倒しそうになるが、かえって強烈過ぎて気を失えない。
 更に驚愕の事実は続く。
 奥の壁に、真っ赤な血人形が磔にされていたのだ。
 八頭身モナー?ギコ?フーン?
 …ところが、オレの予想はどれもハズレだった。
 血人形の下には、散りばめられた『白』が広がっていた。
 その『白』とは、よく見ると…羽毛である。
 …クックルだ。
 そんな馬鹿な。あのクックルがここまで無残な目に遭うはずがない。
 一体どこの虐殺厨の仕業だ?
 その瞬間、横でブボン、と鈍い爆発音がした。
 「グボエガロギガ…」
 「…骨がねぇーなぁー(w こいつも所詮はあの糞虫と同族ってことか…」
 何者かが、あのモンスターしぃを持ち上げていた。
 しかし、見た瞬間でこそまだモンスターしぃと判断出来たが、次第に肉は崩れ、血は吹き出し、すぐにそこらの肉塊と同じになってしまった。
 そして、その何者かとは…相棒であった。
 「……!!!!」
 「なあ、相棒よぉ――」
 突然声を掛けられ、身体がビクン、と飛び上がった。
 返事はとても出来ない。
 「虐殺…ってのはよ、しぃみてえに無抵抗で非力な連中にするのも面白いが…、普段強ぇ強ぇと呼ばれてる奴らを絶対的な力でねじ伏せるのはもっと爽快だな(藁」
 「ギコ…お前正気か?」
 聞かずにはいられなかった。あの口は悪くとも仁義に厚い相棒が、こんな虐殺なんて真似を出来るはずがない。
 「オレが正気かどうかは、顔見れば分かんだろ、ゴルァ」
 顔は…、アヒャってない。目も普通だ。普段の相棒と何ら変わりない。ただ1つ違うとすれば、その表情が異様に清々しいことくらいか。
 「おい…嘘だろ…お前はこんなことする奴じゃないだろ…」
 身体の奥底から、悲しみと怒りの震えが込み上げる。こんなやり場の無い怒りは初めてだ。
 だが、相棒はオレの想いを踏みにじるように、冷たく言い放った。
 「いいや、漏れの仕業だ…。この惨劇は、全てこの漏れが引き起こしたのさ!そう!この狭く暗い空間に閉じ込められた哀れな生贄達の絶望と苦しみの鎮魂歌!その指揮を執ったのは、まさしくこの漏」
 「黙れ!!!!」
 込み上げる怒りは、抑えられなかった。溢れ出る涙は、堰き止められなかった。
 「お前、一体何があったんだよ!?あの男に連れられてから、お前何が変わっちまったんだよ!!」
 「何も変わってはいないさ…。ただ1つ、あの『矢』に突かれてことで、この『バーニング・レイン』が発現したのを除けばな」
 相棒の後ろから、何者かが飛び出した。オレのものと同じ、『超能力』の塊だ。
 「まだ惨劇は終わっていない…。あと1人、最後の生贄がいる」
 「何!?」

86N2:2003/11/13(木) 23:07

 相棒の目線の先には、一匹のぽろろがいた。その様子は、ひどく怯えている。あの「最強」と謳われたぽろろが怯えるだなんて…。
 「てめえのやり方は最初っから気に入らなかった…。純真そうな振りをして何も知らねえ連中を喰らう、とはな…。漏れの『正々堂々』の心理に最も反する、最悪の大罪者だ。だからこそ、てめえは最後までとっといてやったんだぜ?他の手慣れの連中どもが為す術も無く肉塊に帰すのをただ見るしかねえ絶望を味わい、ギリギリまで追い詰められてから氏んでゆけ!!!!」
 相棒はその『バーニング・レイン』とやらを出したまま、ぽろろへと猛進していった。
 「氏ねッ、『最強』!!」
 ぽろろは壁の方へと後ずさりしていった。もうその表情は絶望の色しかない。
 「終わりだぁ――――!!」
 だが、相棒がぽろろを掴もうとした瞬間、ぽろろの顔つきが急に変わった。
 「ぃぇぁ!!」
 突然、ぽろろが巨大化した。
 「何ッ!!」
 ぽろろは敢えて腹を掴ませ、間髪入れずそのまま破壊される前に相棒を取り込んだ。
 「…ぃぇぁ」
 「こ…の下衆…や…ろ………」
 間も無く、相棒の声は聞こえなくなった。
 「………」
 ぽろろがこちらを見ている。その目は、どこかオレに申し訳なさそうであった。
 「…仕方ないよ、君のやったことは已むを得なかったんだ。確かにオレの大事な相棒ではあったけど、こんな目に遭ったのなら…」
 ふと、ぽろろを見る。様子がおかしい。
 「…おい、どうした!?ぽろろ、ぽろろ!!」
 「…ぃ…ぇ…」
 全身が痙攣している。目は白目を剥いている。オレの声は、もう耳には入っていない。
 次の瞬間、ボンと大きな音と共にぽろろの首が破裂した。
 直後、雪上がりの朝、屋根から水がまとめて垂れるような、ビチャビチャという音が倉庫に響く。
 そして…、ぽろろの首の代わりに、そこには血まみれの相棒の頭が生えていた。
 「…ぁ…」
 「『バーニング・レイン クラッシュアウト』…。てめえの身体には、有り余るほどのエネルギーを流し込んでやったぜ」
 相棒は、先程までぽろろ『だった』肉体から抜け出し、オレの方へと蹴り飛ばした。
 目の前に転がってきた首無し死体。一瞬うっ、と思うが、あのぽろろだ。首が無くなった位では、死ぬはずがない。
 「おい、ぽろろ、起きろよ!お前なら復活出来るだろ!!」
 首なしぽろろの肉体を必死に揺り動かす。普通なら、どんなに微塵になってもぽろろは復活できる。
 しかし、そんな兆候は一切表れない。
 「無駄だぜ」
 オレのすぐそばに、相棒は立っていた。
 「うわあ!!」
 掴まれる、という危機感を感じ、オレはすぐに後ろへと飛び退いた。事実、相棒が腕を振る姿が見えた。
 「漏れのスタンドは、物質にエネルギーを流し込む能力!ここにある屍は全て、『バーニング・レイン クラッシュアウト』で破壊した。過剰なエネルギーを注入された肉体は、その全ての細胞が核まで破壊される!核まで破壊されれば、何者でも蘇生は出来ない!ぽろろも!吸血鬼でさえも!!そう、こんな風にな!!」
 相棒はぽろろの身体を掴んだ。間も無く、その身体は崩れていった。
 「いいザマだ。これで『最強』はこのギコの手中にあるということが証明された!ギコハハハハハハハハ!!」
 「スタンド…吸血鬼?一体何のことだ?」
 吸血鬼はともかく、スタンドという聞き覚えのない単語。何を意味するか、思わず相棒に尋ねてしまった。
 「てめえは知る必要はねえ、ここで肉塊になるんだからな!!」

87N2:2003/11/13(木) 23:13



 「まさか、あれ程までとは…」
 暗闇の部屋で、かの男は悔やんでいた。
 (『矢』であのギコを貫いた瞬間、爆発的なエネルギーの流れを感じた。そこに天才的な才能を見出したからこそ、私は奴に部下のスタンドで洗脳を施したが…、よもやスタンドの方が暴走するとは思わなかった。あの『暴走バーニング・レイン』、奴はまだ私の意のままに動いてはいるが、もし私に牙を剥いたりでもしたなら…。クソッ、案じても仕方ない。ギコ屋よ…、あの私を差し置いて『最強』の座に君臨しようとしている愚か者を貴様の手で始末してくれよ…)



 「ここで貴様を頃し、あの男も頃す!『最強』のスタンド使いは、このギコ様だ!ギコハハハハハハハハハハ!!」
 「お前は…相棒なんかじゃない!絶対に化けの皮を剥いでやるッ!」
 (相棒はさっき、『正々堂々の精神』と言った…。本当の虐殺厨なら、あんなことは言わないはず。ということは、相棒には違いないがあの男に洗脳されている可能性が高い!待ってろ相棒!絶対にその目を覚まさせてやるからよ!)

88N2:2003/11/13(木) 23:13

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃        スタンド名:バーニング・レイン・コンチェルト        .┃
┃             本体:相棒ギコ(洗脳)              .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃   パワー - A   ┃   スピード - A    .┃   射程距離 - D  .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力- C  ....┃  精密動作性- A  .┃    成長性 -C  ....┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃物体にエネルギーを流し、あらゆる効果を及ぼす。         ....┃
┃燃焼・冷却・電流・推進・放射能等のエネルギーを使う事が出来る。.┃
┃小さい物体であれば、銃弾のように発射できる。             .┃
┃更に放射能を直接流せば、細胞の核を破壊する事が出来る。   .┃
┃尚、洗脳によって本来よりスタンドは格段に力が上がっている。   .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

89N2:2003/11/13(木) 23:15
以上です。
ご迷惑をお掛けしました。

90:2003/11/14(金) 20:54

「〜モナーの夏〜  9月17日・その5」


煌々と照りつける月光の下、俺達は殺し合う。
命を賭け、生を削ぎ合う。
こんなにも鮮やかな月の光。
その下で、俺達の舞台は幕を開けた。


じぃはこちらに突進して、その勢いで真横に爪を薙ぐ。
それがはっきりと視えた。
その動きをトレースするように、じぃは攻撃を繰り出す。
その場にしゃがみ込む事により、攻撃をかわしつつ懐に入ることができた。
心臓を狙ってバヨネットを突き出したが、いとも簡単にかわされる。
そう、この結果も視えていた。

俺の攻撃はスピードに欠ける。かすることすらできない。
一方、俺はかわすのが精一杯だ。
右から攻撃。頭部を狙った突き。じぃの攻撃は全て視える。
だが、かわしきれているかすら怪しい状況だ。

俺の体の様々な箇所から血が流れている。
じぃの攻撃は重すぎて、かすっただけでもダメージは大きいのだ。
だが、致命傷には達していない。
痛みも麻痺している。
弱音を吐く瞬間すら許されない。これこそが殺し合いだ。

じぃは高く跳び、そのまま爪を振り下ろした。
あと0.1秒、その場に留まれば即死。
だが、そう簡単に殺されてはやれない。
対象を失ったじぃの一撃は、地面に小規模のクレーターを作った。
砂が巻き上がる。
故意か偶然か、視界が阻まれる。
だが、俺の能力にいささかの遜色もない。
砂煙に紛れての一撃ですら、俺はかわすことができた。

だが… 決して俺が有利という訳ではない。
むしろ、俺のほうがはるかに死に近い。
じぃの体は人間のものではなく、スタミナも無尽蔵だ。
それは、俺が負けるのに充分な理由。
防戦一方では、疲労した俺がじぃの攻撃を食らってしまうのは目に見えている。
おそらく… 約7分後。
この目は、そんなことまで視えてしまう。

なら、俺の行動は明白。
右からの鋭い突き。そのあとの左腕の横薙ぎ。
何とか、それをかわす。
この攻撃をかいくぐって、体力が残っているうちに反撃しないと…
パワー、スピード、生命力、スタミナ、全てにおいて俺はじぃに遅れを取っている。
俺が勝っているのは、『視る』という能力のみ。
なら、この能力に勝機をかける…!!

91:2003/11/14(金) 20:56

俺は視た。
4秒後に、胸を狙ったじぃの突きが来る。
さらに視る。
動きだけではない。
もっと広く。もっと多角的に…
速さ、軌道、攻撃点、そして、俺自身を視る。
激しい頭痛。
しかし、構ってはいられない。
一瞬の勝機を視逃す訳にはいかないのだから。

じぃの腕が、俺の胸を貫いた。
通常なら即死。
そう、通常ならば。
俺は、貫かれる寸前に俺自身の身体を視た。
心臓はもちろん、肺にも脊髄にも重要血管にも影響がない隙間。
そのポイントを、意図的に貫かせた。

…もらった。
溢れ出る血液。勝利の余韻。一瞬の油断。
その全てが、じぃの判断を遅らせる。
今しかない。
だが、俺のダメージもかなり大きい。
立っていられるのも、あと7秒。
激痛に構ってなどいられない。
苦しみ悶えるのは、全てが終わってからだ。
俺はバヨネットをじぃの額に突き立てようとした。
だが… 俺はその手を止めた。

…見てしまったからだ。
じぃの瞳を。
そして思い出した。じぃとの思い出。
一緒に帰ったり、他愛ない話をしたり、一緒に食事をしたり…
この場には明らかに不必要な感情。
命を奪う相手の目を見てしまうとは―――なんて迂闊。
その躊躇が勝敗を決める。
そう、俺は完全に勝機を失った。

92:2003/11/14(金) 20:56

じぃは、腕を俺の身体から乱暴に抜き取る。
それだけの動きで、俺は地面に倒れそうになる。
溢れる血。感覚は完全に麻痺している。
じぃは右腕を高く上げた。
何の抵抗もなく、俺の身体を斬り裂くであろう鋭い爪。
俺は視た。
そのまま腕は振り下ろされ、俺の身体は袈裟斬り。
それでデッド・エンド。
もうかわす体力も気力も残っていない。
立っているだけで精一杯だ。

死ぬ寸前に、走馬灯のように記憶が呼び起こされるなんて嘘だ。
今の俺には、リナーの顔しか見えない。
もう、リナーと夜の町回りはできなくなるな… それだけが残念だった。
そして、振り下ろされる右手…

          *          *          *

そういう訳で、私に替わる。
『私』が舞台に立つのは不本意だが、これ以上のダメージは拙い。
振り下ろされる右手を切断。

驚きと共に飛び退く敵。
だが、戦意は喪失しない。
実力の差すら理解不能ときた。
吸血鬼として三流、戦闘者としては失格。
――ひどく無様。

突進しつつ、大きく振るう左手。
工夫がない。
もう見飽きた。その攻撃も、貴様の顔も。

緩慢で直線的な攻撃ごと、敵を斬り裂く。
左手を寸断し、胴体を袈裟斬り。返す刃でもう一度斬る。
心臓と頭部に一撃ずつ突き。そのまま首を刎ねる。
以上。
断末魔の悲鳴も別れの言葉も不要。

          *          *          *

ドサドサッ…
悪夢のような音。
バラバラになったじぃの身体が地面に落ちる音。
俺は…今、何をした?

地面に落ちたじぃの断片は、瞬く間に蒸発していく。

「うわあああぁぁぁぁ!!」
俺はその場に崩れ落ちた。
胸に激痛。
じぃに傷つけられた傷?
心の痛み?
分からない。何も分からない。

93:2003/11/14(金) 20:57

俺はじぃを殺すつもりだった。
学校でじぃの内面を見た時、吸血鬼化している事を理解した。
その時から、俺は殺すつもりだった。
そして、殺し終えた。
完膚なきまでに殺しきった。
じぃの身体は、一片たりとも残っていない。
俺は目的を果たした。
だが、それをやったのは「俺」ではない。
そもそも、なぜ俺はじぃを殺そうと思った?
楽にしてやりたかったから?
犠牲者が出ているから?
…それとも、単に殺したかったから?
じぃを殺したがっていたのは誰だ?

「…お前だったんだな!! 全部、お前がやったんだな!!」
俺は叫んだ。
こいつが…!
俺の中にいるこいつが…!
そう、少し前から薄々気付いていたのだ。
ただ認めたくなかっただけ。
「お前が…!!」
俺の叫びは中庭にこだました。
学校の中庭。
校舎に囲まれた空間。
俺がじぃを殺害した場所。
視界がボヤける。
胸の痛み。激しい眩暈。
もう、俺は壊れているのかもしれない。

「なあ、俺は何なんだ…?」
俺は、隠れているリナーに訊ねた。
「…気付いていたのか」
リナーが木の陰から姿を現した。
「彼女は、もう吸血鬼だった。人も殺している。君は、良い事をしたんだ。それ以上は考えなくていい」
「…黙れ!!」
俺は叫んだ。
「良い事だっただと!ふざけるな!!」
リナーに当たっても仕方がない。
分かってはいるが、言葉を止める術がない。
感情をブチ撒けないと、心がどうにかなってしまいそうだ。
「相手が吸血鬼だとか、人を殺してるとか… そんなんで割り切れる訳がないだろ!!
 俺は、お前のような化物とは違うんだ!!」

リナーは、驚いた顔をした後、うつむいた。
…長い沈黙
俺は、最低だ。

しばらくの沈黙の後、リナーは顔を上げた。

リナーは微笑んでいた。
――――――リナーは悲しみに満ちた表情を見せた。

「そうだな。私は…君から見ればしょせん化物だ」
――――――私は化物なんかじゃない。

「もう、殺すことにも心が麻痺してしまった」
――――――そうしないと、心が悲鳴を上げる。

「感情など、とうに無くしてしまった」
――――――そう思い込まないと、生きていくことすら立ち行かない。

全て視えてしまう。
俺は、自分の首を切り落としたくなった。
何がリナーを守る、だ。
そんな資格は、もうこれっぽっちもない。
じぃを殺した罪悪感…
俺が味わった以上の苦しみを、リナーは何度も何度も何度も経験してきたのだ。
「ごめん…」
今さら謝ったところでどうしようもない。
「いや、気にはしないさ」
リナーはまた嘘をついた。
「そんな事よりも…」
リナーは言葉を濁す。
そう、後に続く言葉を俺は知っている。
それは…聞きたくない。
だが、逃げるわけにはいかない。
耳を塞ごうと、顔を背けようと、真実は変わらないのだから。

リナーは、しっかりと俺の目を見据えて言った。

「…君が、殺人鬼だったんだな」





俺が戻れなくなったのはいつからだろうか?
リナーに会った時? いや、それは予兆に過ぎない。
吸血鬼に会った時? 関わらずに生きることもできたはず。
月光の下で吸血鬼と化した親しい女を殺した時、俺は戻れない場所に立ったのだ。
どこかで歌が聞こえた。
ひどく、哀しい旋律。
ここから俺の物語が幕を開ける…



「モナーの愉快な冒険」/プロローグ・〜モナーの夏〜 END

94N2:2003/11/14(金) 21:44
乙です!!プロローグとは思えません。
俺も明日には張れる!!…かも。

95ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/14(金) 21:56
昨日、最初から読み直してみましたが、
やはりモナーがそうでしたか。
ところで、小説を書いている時に
気をつけていることって何かあるのですか?
よければ教えてください。

…長々とすみません。

96N2:2003/11/15(土) 20:51
>>95
ぎゃあそれでは結末をほのめかす描写を気にせずに
最後の最後でびっくりした漏れは

次スレテンプレ議論スレに貼るのもどうかと思ったので、
こちらに小説のあらすじを貼ります。
不都合等御座いましたら指摘お願いします。

97N2:2003/11/15(土) 20:52

□小説スレ作品紹介

◎本編

.      /
   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇かつて『矢の男』と親交のあったモナ本モ蔵。
男の素性に薄々感付きながらも何も出来なかった
自分を責めるモ蔵は、男を討つべく茂名王町へと乗り込む!

 モナ本モ蔵と『矢』の男 その①──>>46-49
.                その②──>>50-53
.                その③──>>54-58
.                その④──>>59-63

◎不完全番外編

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧  |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇「すいませーん、このギコください。スタンド持ってるんですよね?」
「はい、しかしお客さん、こいつは売りAAじゃないんですよ。」
「何だと、この三流夜逃げ商売人がうわ何をするやめr」
「ギコ、証拠隠滅手伝え。クリ(ry)!!」

 アナザーワールド・アナザーマインド その①──>>73-76
                        その②──>>77-80

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①──>>81-88

◎完全番外編

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さいたま)

プロローグ・〜モナーの夏〜
◇俺、モナーは普通の学生として、普通の生活を送っていた。
しかし、謎の行き倒れの女・リナーを助けた日から、俺の日常は完全に狂ってしまった。
吸血鬼、「空想具現化」、殺人鬼…。
それら全てが繋がった時、俺の物語が始まる。

 9月15日・その1──>>3-5
.        その2──>>6-8
.        その3──>>9-10
.        その4──>>11-14

 9月15日〜9月16日──>>16-18

 9月16日・その1──>>19-22
.        その2──>>24-29

 9月17日・その1──>>30-32
.        その2──>>33-36
.        その3──>>38-43
.        その4──>>66-69
.        その5──>>90-93

※敬称略

98新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 21:44
前掲示板で消滅してしまったやつ書き直し(少し改造)。

合言葉はwell kill them!その①―アヒャと矢の男


虐殺ブラザーズを倒したつーは、自分の家へと急いでいた。
自分に付いている返り血はそのままなので、つーの事を見て気を失った人もいたが。
彼女の家は茂名王町(仮)の中にある私怨寺商店街の肉屋で結構お客の評判もいい。
「アーヒャヒャヒャヒャ!オメー何処で道草くってたんだよ!」
扉を開けると早速父親の声が飛んできた。エプロンがよく似合っている。
つーの家の家族構成は自分、父、兄、弟の四人で、母親はとっくに亡くなっている。
「ああ父ちゃん、何か知らんが俺に喧嘩ふっかけて来た奴らがいたから
 叩きのめしてやったんだ。」
「ほう、まだそんな命知らずな奴が居たのか!一般人でお前に勝てる奴なんて
 そうは居ないだろ。そんな事より夕飯の支度手伝え!今日は鍋だぞ。」
「了解!」
台所には所狭しと刃物が並べられている。もし地震なんかが起きた時に
こんな所に居ては、間違いなく怪我はするだろう。
「ところでアヒャの野郎は何処行きやがったんだぁ?俺より先に学校から
 帰ってきてるはずだぞ。」
「奴なら葱と豆腐が無かったから買いに行かしたぞ。それにしても遅いな、
 もう行ってから30分以上たってるぞ。」
「俺みたいに道草食っていたりしてな!」
二人は大きな声を出して笑った。はっきり言って五月蝿い。
そのせいで隣に住んでいる老人が心臓発作を起こし、危うく『天国の階段』を
昇りかけたのは内緒だ。


「あ〜〜〜ムカつく!何であんなとろいババア雇うかねぇあのスーパー!
 俺がナイフちらつかせなけりゃぁいったい何時間かかってたのか想像できねえよ!
 ちっくしょ〜!」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながらアヒャは家へと歩いていた。
「あーあ。退屈な日常だなー。なーんかこう人生まるっと変わるサプライズな事件とかって
 起きないもんなのかねー。」
その時だった。彼の言う事件が起こったのは。
「うわあああああああああ!!!!!!」
「おわっ!何だ何だ今の悲鳴は!?家とは反対の方向からだぞ!」

この後の彼の行動は大体の人が想像がつくでしょう。


「事件の香り・・・・・。行きますか!」

99新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 22:24

「くそ!こいつも駄目だったか・・・。」
ひっそりとした闇の中、二つの影が見える。
一つは何処にでも居そうなサラリーマン風の男で、もう息をしていない。
そしてもう一つが矢の男の物だった。
「まあいい。次の人材を探せばいいことか・・・。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「・・・誰かが来るな。」

「おっかしいなー、悲鳴が聞こえたのは確かここいら辺だった筈だぞ。
 もしかして俺の聞き間違いだったのか?」
やって来たのはアヒャだった。よく悲鳴一つで場所が割り当てられたもんだと
つくづく感心してしまう。
「・・・丁度いい。アイツならがあるかもしれん。物は試しだ。」
矢の男は懐から弓と矢を取り出すと、アヒャに向けて狙いを定めた。
「さあ、お前の『素質』、確かめさせてもらうぞ!」
パシュン!


ヒュウウウン・・・・。ズシャアァ!!
「があっ!な、何が起きたんだって・・・・これって・・・『矢』!?」
「ほう、死ななかった所を見ると私の予想どうり、君にはスタンド使いとしての
 『素質』が有ったのだな。しかしスタンドのヴィジョンが見当たらないとはどう言う事だ?
 確かに君からスタンドのエネルギーが出ているのだが・・。」
「な!てめえは矢の男じゃねーかどうしてこんな所に!」
「む?何故この私が君の言う矢の男だと判ったのかい?」
矢の男は少し以外だという顔をして尋ねた。
「俺の姉ちゃんと兄ちゃんがお前に出会ってそのスタンドとやらが発現してんだよ!」
「なるほど。兄弟そろってスタンド使いになったと言う訳か。
アヒャは自分に刺さった矢を抜くと男にむかって放り投げた。
「お前の目的は俺にもわかんねぇ。だけどスタンドを出してくれた事については
 礼を言う。ありがとうよ。」
「ふっ、礼を言われたのはこれが初めてだな。では、有効に使ってくれ。」
そういい残すと男は風のようにいなくなった。

100新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 22:54

「うわー滅多刺しにされてんなー。ご愁傷さまー。」
アヒャは矢の男が殺したサラリーマンを見つけた。
「とりあえず諭吉でも抜いておきますか。・・・にしても俺のスタンドって一体なんだ?」
そういって死体に近いた時だった。
・・・・じわり・・じわり・・・・・。
・・・・じわり・・じわり・・・・・。
「なんだ?なんか音がするぞ。」
よく見ると死体の周りの血液が、だんだんと自分の方へ向かってきている音だった。
「何だよこれ!なんで血が俺の方へ流れてんだよ!?・・・・まさか・・・。
 これがあいつの言ってた・・スタンド!?」
みるみるうちにアヒャの目の前で血液が集まり、人の形を作り出している。
「これか!これが俺のスタンドか!」
「ソウダ!俺ハオ前ノ分身ッテ訳サ!」
「なーるほど、ところでお前には名前ってついてんのか?」
「イイヤ。俺ニハ名前ナンテ無イ。コテハン名乗レヌ名無シサンッテ訳ダ!」
「じゃあ俺が名付親になってやんよ。そうだな・・・・。血・・。ブラッド・・。
 そんじゃブラッド・レッド・スカイってのどうよ?」
「イイナソレ!気ニ入ッタゾ!」



「案外この買出しも結構意味あったじゃん!行っといて正解だったな。」
アヒャは上機嫌で家へと向かった。

しかしアヒャは気づいていない。
自分がスタンド使いになった事でこれから巻き起こる
闘いの日々のことを・・・。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

101新手のスタンド使い:2003/11/15(土) 23:09
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 ヽ   WWW+/ヽ+  つ
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スタンド名:ブラッド・レッド・スカイ
本体:アヒャ

破壊力-C スピード-B 射程距離-A
持続力-B 精密動作性-C 成長性-C

スタンド像単体では発現できず、血液と一体化する。姿は決まっていない。
能力は、血液と一体化し、自由に操作する。
攻撃時に、「切る」、「縛る」、「ぶん殴る」等の攻撃手段を得意とする。
意志を持ち、性格は楽天的。

思考分離型、一体化、直接攻撃型。

102N2:2003/11/16(日) 10:11
乙です。
頑張って下さい。

103新手のスタンド使い:2003/11/16(日) 10:14
コメありがとうございます。

104ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/16(日) 12:51
遅れて乙ッ!!

105:2003/11/16(日) 13:26
>>95
AA作品を作る時も注意してる事ですが…

まず、キャラの行動やバトル発生の妥当性。
よく分からないシチュエーションでいきなりバトルが始まっても、
読む側はこれっぽっちも感情移入できないと思います。
勝っても負けてもどうでもいい、と読者に思われた時点で、作者としては負けですから。

あとは、セリフとか雰囲気作りとか伏線張りとか。
とりあえず、読む人間を意識するという点を重視。

106新手のスタンド使い:2003/11/16(日) 13:51
JOJOっぽくするなら、比喩表現などにカギカッコを使えばいいと思われ。
例「『ジョー・モンタナ』の投げるタッチダウンパスのように」
あと、長音は『ー』の代わりに『―』こんな風なダッシュを使うとベネ。
例「このクソ野郎がァ――――――ッ!!」
さじ加減を間違えると逆に格好悪いので注意。

107ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/16(日) 14:00
>>105->>106
グレート!!
ナルホド、よく分かりました。
自分も注意しなければ…。

108新手のスタンド使い:2003/11/16(日) 14:02

いいアドバイス有難うございます!

109N2:2003/11/16(日) 15:16
ようやく完成した…。
ギコ屋編第4話貼ります。
長くて重いですが、ご容赦を…。

110N2:2003/11/16(日) 15:16

              (\(ヽ从,.λ
             (\巛(ヽ′`゜`ヽ
             (ヽζノ)  ・/W,・ヾ
             (ノγ《   ,ノ从ゝノ        / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              (/ξ(ソ .,_,,,.ζ        |正直、スマンカッタ
               (/ν´```^         \_______  __
                                          ヽ|
                ∩_∩                        ∧ ∧
                ( ;・Д・,)                       (゚Д゚;) ̄ ̄ ゝ〜
               と    つ                        UU ̄ ̄UU
                |   x |
.                U'⌒'U
               | ̄ ̄ ̄ ̄|                / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |____|          ∩_∩ < 逝きのいいスタンド使いのぽろろは今日も茂名王町で元気に生活中だよ〜!
                              G|___|  \_________________________________
|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄            (; ・∀・)∩
|:;;:|Д゚;)< 弟が謝罪してる…             ⊂     ノ
|::;;|::U .:::...\________            ) _ (  ナレナイマネスルカラ…
|::;:|;;;|:::.::::::.:...                      (_) (_)∧_∧  ∧_∧  ∩_∩
|:;::|::U.:::::.::::::::::...    ∧_∧  ∧_∧  ∩_∩      (∀`  ) (    ) (    )
            (    )(    ) (    )      ( ∧_∧(    ) ∧_∧
            ( ∧_∧(    ) ∧_∧        (    )∩_∩ (    )
             (    )∩_∩ (    )        (    )(    )(    )

111N2:2003/11/16(日) 15:18

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その②

 オレが倉庫に入ってから、まだものの2分も経っていないだろう。
 そう、時間にして、約2分。
 しかし、この2分間の内に、オレは本来普通の生活を送る奴が見るべきよりも何十倍多くの
 死体を目にしたことだろうか。
 相棒に壊された「未来」の数は、どれだけあるのだろう。
 そんなこと、考えたくもない…。



 「虚勢を張るのは簡単だ。しかし、それも単なる一時的なもの。喪前は随分と口では威勢の良いことを言ってるが、
 膝から下が笑ってんぞ!?(藁)」
 内心をあっけなく見抜かれた。
 当たり前だ。目の前でクックルも、モンスターしぃも、ぽろろさえも死んでいったのだ。
 彼らを上回る凶悪性を誇る、まさに「怪物」。
 そんな奴に目を付けられて、安心出来る筈が無い。

 しかし…、希望はある。
 この「怪物」は間違い無く相棒である。
 ただ、何かしらの術に掛かり、操られている。
 そうであるならば、やるべき事はただの一つである。
 「お前、あの男に何かされたんだろ?」
 この質問に対して、相棒は平然な顔をしていた。
 そして、大声で笑いながらこう言った。
 「ハァ? 俺はまともだぜ。俺はあの方に出会い、スタンドなどついて教わり、やっと理解したんだよ。
 お前と糞マターリと過ごしてきた日々がどれだけ間抜けで愚かで汚らしい物だったかという事をなぁ――――――!!」
 大声で叫び終えてから、相棒は大きく深呼吸する。
 絶対的な信頼で結ばれた筈の相棒の口から出たとは思えない言葉。
 分かっていても、ショックが大きい。
 でも、そのままボサっと突っ立っていれば、周りの奴らと同じ目に遭う。
 突進する事猛虎の如し。
 その相棒に向かって、オレは「スタンド」で攻撃する。
 右アッパー。
 外れる。
 すかさず左ストレート。
 駄目だ。生身のギコとは思えないスピードだ。
 「そんなの無駄無駄無駄無駄」
 今度は相棒が「スタンド」でラッシュを打ち込んでくる。速い。俺のよりも数段格上だ。
 「くそっ、『スタンド』ッ!ラッシュを防げ!!」
 こちらも負けじとラッシュを打つ。しかし、後出しだったのがまずかった。
 こちらの拳がギコの拳とぶつかる前に、向こうはオレの「スタンド」の腹にパンチを一撃打ち込んでしまった。
 …効く。強烈だ。口から血が吹き出し、立っていられない。
 「おやおやおや、腹痛そうだねぇ〜。いくらなあ、お前のスタンドのパワーが凄まじく、スピードも速かろうと、
 この『バーニング・レイン』のスピードには敵わない。ましてや、俺に攻撃を当てる事など出来る訳が無いんだよ」
 しかし、パンチ一発でここまで苦しいというのは、どういうことだ?
 ふと、腹に目を遣ると、そこには…裂け目が入っていた。
 幸い、致命的な傷ではないらしい。
 「その傷はそこらの死体のと同じ原理だ。殴ったのと同時に推進エネルギーを流せば、細胞が破壊され身体が裂けたようになる。
 尤も一発二発じゃ、てめえの肝っ玉のような小さい傷しか作れないがな、ギコハハハハハハハハ!!」
 では何十発も喰らえば他の者と同じ運命を辿るというのか。
 長期戦では分が悪い。早く決着を着けなくては。

112N2:2003/11/16(日) 15:18

 …ここでオレはある違和感に気が付く。
 さっきから相棒、喋り過ぎだ。と言うより、手の内を晒し過ぎだ。
 オレだったら、自分の「スタンド」の能力をベラベラ喋って、敵に塩を送るような真似はしない。
 では何故?
 自信過剰?――確かにそれはあるが、にしても言いすぎだ。
 ただの間抜け?――あいつは昔から頭の切れる奴だ。洗脳されていたって、そこまで変わりはしないだろう。
 なめ猫?――関係無い…。
 とすると、奴は逆にそうする事で何かを果たそうとしているのか?
 では何を?
 1つの可能性が浮かぶ。しかし、普通に考えれば絶対に有り得ない。
 だが、オレと相棒の仲であるならば、あるいは…。

 「お前、ひょっとしてさっきからベラベラ能力のことを喋ってんの、オレに倒してもらうためじゃないのか?
 あの男によって自分の意思とは違う行動をさせられている自分を、オレに解放してもらうために!!」
 余裕綽々といった相棒の顔付きが変わる。
 冗談抜きでマジギレした顔だ。
 「何言ってんだ…この漏れがそんな事、絶ッッッッッ………対にする訳ねーだろ!!!」
 明らかな態度の変貌。
 間違い無い。行動こそ何者かの意思に操られているが、心の底からは洗脳されていない。
 「俺はお前を絶対に元に戻す。その為には、再起不能もやむを得ないと思っている!!」
 「喪前は…最高に逝ってよしってやつだぁぁ―――――――ッ!!」
 大振りのパンチ一発。先程までとはまるで違う。
 その隙を、オレは逃さない。
 手近な鉄棒を手に取り、部分的に分解。
 鋭い槍にして、相棒目掛けて突きを放つ。
 右胸に命中。激しく血飛沫がほとばしる。
 しかし、ギコはまるでひるむ様子が無い。そのまま伸びたままのオレの腕を掴む。
 「馬鹿め、隙を作りやがったな!このまま推進力を与えて腕を吹っ飛ばしてやる!」
 貫かれた右胸から血を吹き出しながらも、力強く深呼吸をするギコ。
 オレの腕を、ぽろろ達の時同様強く掴む。
 しかし、何の変化も無い。
 「さっきオレにラッシュを打ち込む前に、お前が一回深呼吸した…あれが気になってたんだ。
 お前のエネルギーは、ひょっとするとその呼吸で作ってるんじゃないのか?」
 何も言わない。図星だな。
 「さあ、いい加減に観念したらどうだ?右肺が潰れたんじゃ、もうそのエネルギーもあてにならない」
 「…なめるな」
 ボソッと一言つぶやき、鉄槍を「スタンド」でへし折る。
 傷口からそれを抜き取ると、その痕に手を当て、例の呼吸をする。
 みるみるうちに、相棒の出血は収まり、傷口も塞がっていく。
 「呼吸が少なくなればエネルギーが減るが、0になる訳じゃあない。
 体中のエネルギーを集めれば血を固め、傷を塞ぐ事ぐらい出来る。そして、喪前は漏れの罠にはまっている」
 「何ッ!?」
 「お前の言う通り、漏れのスタンドは呼吸からあらゆるエネルギーを作り出す事が出来る。熱も冷却も推進力も…電力もな!!」
 周囲を見回す。オレの周りには、沢山の肉塊から流出した血の海が広がっていた。
 「クソッ、俺の周りの血を分解しろ―――ッ!!」
 「もう遅い!!回避不可能よぉ――――ッ」
 高圧的な嘲笑の後、相棒は廃タイヤの上からありったけの電流を流した。
 「ぐあああああああ!!」
 その隙に、相棒は倉庫から脱出してしまった。

113N2:2003/11/16(日) 15:20



 相棒は倉庫から数百m離れた公園にいた。
 追跡者が迫り来る気配は、無い。
 「偉そうな事言って、結局あの程度の電流でお陀仏とはな。さて、あの方と合流しなきゃな」
 「あの方って誰?」
 不意に上方から聞こえてくる声に釣られて見上げると、天から巨大な何かが降ってきている。
 「ロードローラーだッ!!!安心しな、潰れても死なない程度に壊してあるからな!!」
 「何故、お前はここまで…!!ゴラララララララララァ―――!!」
 オレがしぶとく立ち向かってくる事に一瞬焦りを覚えるが、そんな事を気にしている場合ではない。
 すかさずラッシュで応戦姿勢に入る。
 「無駄無駄無駄無駄…じゃなかった…。クラクラクラクラクラクラクラァ―――!!」
 落下するロードローラーをラッシュで攻撃する相棒。
 対して、オレはその圧倒的重量に自身のスタンドのラッシュで更に重みを加える。
 このままならオレの方が押し切れるのは、目に見えている。そう、このままの状態が続けば。
 「俺のパワーでは、この大きさでも跳ね返すのは不可能だ。諦めよう。だが、潰れるのを防ぐ事は出来る」
 質問するまでもなく、オレはその言葉の真意を理解した。
 ロードローラーの部品が、ポップコーンが弾けるように飛んでいった。
 「機械の部品に推進力を与えれば、この程度なら破壊する事が出来る!!
 漏れの身を按じて構造を脆くした喪前の甘さが敗因だ!!」
 ロードローラーが弾け飛び、激しく吹き飛ばされる。
 スタンドをクッションに、地面との摩擦によるダメージを防ぐ。
 すかさず起き上がろうとするが、もう目の前には相棒が立っている。
 この隙を逃さず止めを刺すつもりなのだろう。
 「く…クラァ――――ッ!!」
 「だから遅いつってんだろうが」
 凄まじいスピードで首根っこを掴まれる。間髪入れず、相棒は、「ぽろろを滅したエネルギー」を流す。
 その瞬間に、オレの身体は砂状になって散っていった。

 「やっとくたばったか…」
 激戦を追え、ギコは少し安堵した。
 ふと、ギコ屋のいた場所を見ると、何者かの毛が落ちている。
 よく見てみると、それは自分のものであった。
 「なるほどな、漏れが逃げる時に漏れの体毛を分解して、体内に仕込んでいたのか…
 そして戻るエネルギーに乗じてオレに接近するがてらにロードローラーを掴み、そのまま持って来る、と…」
 つくづく抜け目の無い奴、とギコは考える。
 この能力に目覚めてまだ日は浅いが、ここまで苦戦した相手は初めてだ。
 あの男の手下の者とも戦ったが、まるで格が違う。
 しかし、ここまで追い詰められても、そのプライドは決して傷付いてはいない。
 あとに残ったのは、これほどまでの強敵を打ち倒した『満足感』だけである。

 しかし、少しずつ少しずつ、心の中に『後悔』の念が浮かんでくる。
 折角の強敵を、こうもあっさりと殺してしまったのではつまらない、というのもある。
 だが、そんな物ではない、何か取り返しの付かない事をしたのではないかという罪悪感が、彼に襲い掛かる。
 徐々に晴れ晴れとしていた気分が沈んでゆく。

114N2:2003/11/16(日) 15:21

 その隙を、「オレ」は逃さない。

 「クラァ!!」
 背後から、強烈なパンチが命中。相棒の身体は、呆気なく吹き飛んでゆく。
 体制を取り直し、すぐさま振り返ると、そこに立っているのはオレであった。
 「馬鹿なッ、貴様はたった今『バーニング・レイン クラッシュアウト』で…」
 「危なかったよ…。放射能が来るのと同時に、自分を『原子』に分解しなかったらやられてた。流石に力使うな、コレは…」
 相棒の表情に絶望の色が浮かぶのが手に取るようによく分かる。
 当然だ。取って置きの技を破られたとあっては、自信も何もあったもんじゃない。

 …だが、それでもまだ目が勝負を捨てていない。
 お互い睨み合いの状態が続く。
 オレも、相棒も、どちらもが先手を打てない。
 先に動いた方の負けである。

 しかし、相棒の勝利に対するハングリー精神は、彼に最後の決定的チャンスを呼び込んだ。
 何も知らぬ子供が、この公園へとやって来たのだ。
 オレがその子に逃げろ、と叫ぶ前に、相棒は行動を終えていた。
 すかさず少年へと近寄り、その「スタンド」で掴み上げる。
 突発的に起こった超常現象に、少年は完全に困惑している様子だ。
 勝手に身体が浮かび上がり、同時に喉を圧迫されるような感じがしていることだろう。
 誰か助けを呼ぼうにも、声が出せないのだ。
 「クソッ、おい、止めろ!何も関係の無い民間人をこれ以上巻き込むのはよせ!」
 今更1人2人犠牲者が増えたところで全体的には大して問題ではないのかも知れない。
 だが、その1人2人が、オレにとっては大事なのだ。

 客商売を続けていると、沢山の人たちと出会う。
 中には本当に嫌味ったらしい奴だっているけど、でもやっぱり皆良い人ばかりだ。
 そういう人達を毎日見ていると、ああ、彼らはそれぞれが「自分」として生活しているのだなと思う。
 それぞれが皆この世に生を受け、それぞれが自分の意思の下に生活する。
 時には、利害関係だって生じる。
 オレは、儲けるために、なるべく高く商品を売りたい。
 客にしてみれば、なるべく安く良い品を買いたい。
 時には喧嘩沙汰にだってなるし、それがもっと大きな人間の集団同士のものだったなら、それは戦争となる。
 だけど、オレは思う。
 自分から見た世界を全てと捉えるのではなく、自分を客観視して他人から見た世界を考えれば、
 もっといつもの暮らしというやつが楽しくなる、と。
 オレも悪徳商売人じゃないから、なるべくお客さんには良い思いをして商品を買って欲しい。
 価格面でも、サービス面でも、出来る限りの最善をいつも尽くしているつもりだ。
 そうすると、不思議とまたお客さんが寄ってくる。
 そうしてまたギリギリの頑張りをすれば、それでまたお客さんが来てくれる。
 この一連の流れが、オレには楽しいし、またとてもいとおしい。
 そうしていると、段々とこのオレ以外の「自分」達がとてもかけがえの無い、大事な物に見えてくるのだ。
 だからオレは思う。
 自分の都合云々だけでそんな「自分」を抹殺する奴は、心の底から逝ってよしだ、と。

 もう今の相棒にとっては、この子供などたまたまやって来た虐殺№○○○程度にしか思えていないのだろう。
 だが、この子にとっては、その人生はそれで全てなのだ。
 倉庫の中では、数多くの「自分」が終わりを告げた。
 それをオレは、出来る範囲で守ることも出来なかった。
 ならば、彼らへの償いにもならないだろうが、せめてこれから絶たれようとしている命だけは絶対に守るしかない!!

115N2:2003/11/16(日) 15:21

 「民間人がどうした?漏れにとってはこの世の連中は全て、『漏れ』『その他クズども』、これしかないんだぜ!?
 だったら何の関係もねえ『その他クズども』は公平に利用したって何の問題もねぇだろッ!!」
 頭の中で、何かが切れた。決定的な何かが。
 「『バーニング・レイン』ッッ!!」
 再び深呼吸し、相棒のスタンドが子供にエネルギーを流し込む。
 時間は無い。
 「クラァァッッッ!!」
 スタンドと共に、相棒へと飛び掛る。
 だが、これは相棒の計算通りであった。
 「来ると思ったぞ…。喪前なら私に飛び掛ると思っていたッ!だがな、至近距離で果たして私の『バーニング・レイン』が
 エネルギーを流し込んで肉爆弾と化したこのガキンチョを防ぎきれるかッ!?」
 そう言って、相棒は子供を勢い良くオレへとぶん投げてくる。
 すでに子供の身体には裂け目が入りつつあり、その顔は苦悶の表情を浮かべている。
 「砕け飛び散る骨の雨に突き刺されてくたばりなぁ――――ッ!!」
 だが、相棒がこうすることもオレには予想出来た。
 子供の身体が内からはじけ飛ぶギリギリ寸前、彼はオレの射程内に入った。
 間一髪、ギリギリセーフである。
 「クラクラクラクラクラクラクラクラクラァ―――ッ!」
 スタンドのラッシュを子供に打ち込む。
 「馬鹿め、自分の身可愛さにガキを殺す道を選んだか!だがな、そいつが死んだところで、
 肉爆弾の炸裂は止められはしねえぜッ!」
 「…誰がそんなことすると言った?」
 「!! ・ ・ ・ 」
 子供の身体は、もう全身が張り裂けんばかりになっていた。
 だが、血は出ていない。
 子供の表情も、先程より穏やかだ。
 「砕け散れッ!」
 その声と共に、少年の身体は「分解」された。
 ミクロレベルで分解された身体に、エネルギーは留まれない。そのまま拡散してしまった。
 「こ…の策士が…!!」
 「いよいよ、いや、ようやくサシで勝負が出来るな、ギコ」
 相棒の感情は、完全に高まりきった。
 オレの怒りも、頂点に達する寸前である。
 と、ここで相棒が急に笑い出す。
 「…喪前、本当に漏れに敵うなんて思ってんのか!?(禿藁)確かに喪前のスタンドのパワーは凄い、それは認める。
 だがな、この漏れ様の『バーニング・レイン』のスピードには全然追いついてねえんだぜッ!」
 だが、その笑いには、最早余裕が無い。
 相棒がラッシュの構えを取る。同時に、深々と、最後の深呼吸をする。
 オレもパンチを打ち込みやすい姿勢になる。

 沈黙が続く。再びどちらも動けなくなる。
 その静寂を破ったのは、あの子供であった。
 オレのスタンドによる分解が限界に達したのだ。
 どさり、と少年が着地した音を聞き、相棒は再び少年を利用しようとした。
 隠し持っていたさっきの鉄槍の先端を少年に投げつける。
 当然、オレはそれをキャッチしようとする。
 その隙を、相棒は狙っていた。
 「ゴラララララララララァ――ッ!!」

116N2:2003/11/16(日) 15:22
 
 絶対負ける筈が無い。
 そう彼は確信した。
 圧倒的スピード差。
 直接戦闘における能力の有用性。
 そしてこの状況。
 何をとってもギコには負ける要素が無い。
 だが、1つだけ彼が考えていない点があった。
 それは――――
 「クラァッ」
 鉄槍を右手でキャッチしながら、ギコ屋のスタンドの左ストレートがギコの右頬にクリーンヒットする。
 「! ! ? ?」
 (そんな馬鹿なッ、こいつのスタンドは明らかにオレよりもスピードが遅…)
 もしや、と彼は思った。
 ひょっとすると、ギコ屋は極度の興奮状態におかれたことで、スタンドが本来以上の力を出しているのではないか。

 人体は、通常はその破壊を防ぐために限界まで力が出せないようになっている。
 だが、極限状態に追い込まれる事で、その抑制が消えて爆発的な力を出したという事例は世界に数多く存在する。
 ならば、スタンドでそれが絶対に出来ないという事は無い。

 相棒がひるんだ隙を、オレは逃さない。
 「クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァァァァ――――――ッッ!!!!」
 「ウがアッ、バアぁァァァ――――ッ」
 苦悶の雄叫びを上げながら相棒は吹っ飛んで行った。
 椎の木に勢い良くぶつかり、そこに倒れこむ相棒。木の幹には、大きなヒビが入った。
 「こ…このDQNめ…許さん…許さんぞ…貴様は絶対に許さんッ!!」
 独り言をつぶやきながら、再び相棒が立ち上がる。
 だが、もう勝負は決まっていた。
 駆け出そうとする相棒。
 しかし、思うように身体が動いてくれない。
 つまづき、全身が痙攣する。
 地に手を付けて立ち上がろうとすると、その甲に傷が入っている。
 血は出ていない。まさか。
 「き、貴様ッ、もしやこの漏れに分解エネルギーを…!!」
 オレは何も言わない。黙ってその様子を眺めるだけだ。
 「や…止めるんだ!そうだ、この漏れにここまで善戦した喪前の強さに敬意を表し、一緒に手を組もうじゃないか!
 我々2人が手を組めば、世界征服だって決して夢じゃ…」
 やはりオレは黙っている。相棒の最後の悪足掻きを、嘲笑するかの如く見下すだけだ。
 「…………この…このちっぽけな三流商人がああああああああ」
 最後の力を振り絞り、相棒が跳びかかる。
 だが、もう限界だ。
 「Crumble(粉々になりな)」
 相棒の身体は、砕け散った。

 ふと、そこから異様な煙みたいな物が飛び出す。
 煙はよく見ると、人の顔のようにも見える。
 恐らくは、こいつが取り憑いたことで相棒もおかしくなったのだろう。
 行き場を失った霊魂は、次の憑依対象をオレに選んだ。
 しかし、沈み掛けた西日の強い光がオレと相棒の間に挟まっていた事を、こいつは知らなかった。
 強烈な光を受け、いやあるいはスタンドの分解能力がこいつにも効いていたからなのかも知れない、
 霊魂は苦しみながら崩れ散っていった。
 と同時に、相棒の身体も分解状態から解放された。
 これで相棒も元に戻ってくれるだろう。
 気が抜けたと同時に力も抜けた。オレはそのまま倒れてしまった。

117N2:2003/11/16(日) 15:22

 「ご苦労だったな、逝きのいいギコ屋君」
 例の男が、日が沈んだのを見計らってギコ屋達の前に現れた。
 尤も、その声は2人の耳には入っていないが。
 「どちらも素晴らしいスタンドだ。これ程の能力とは私も予想していなかったよ。…だがな、残念な事に、君らは強過ぎる。
 今後成長して私の脅威と十分に成り得る存在だ。実に惜しいが、ここで死んで貰おう」
 男はまずギコ屋の方へと歩き出した。
 横たわるギコ屋の前へと辿り着き、スタンドを発現する。
 「『アナザー・ワールド』…」
 男はここで躊躇した。
 実際、ギコ屋のスタンドはここで殺すには実に惜しい。
 いっそのこと、両方に今度は強烈な洗脳を施してもいいと初めは思っていた。
 その為に、ギコを彼の前へと差し向けたのだ。
 しかし、取り憑かせた霊が悪かった。
 悪霊はギコの能力を極限まで引き出し、暴走させた。
 その引き出された能力の奥深さに、男は危機感を覚えた。
 ならば、いっそのことこの2人にはそもそも会わなかったも同じにしてしまった方が余程精神的には楽である。
 「さらばだ、ギコ屋!お前は『磔刑』だあああ――――ッ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (ドォ――――――ン)
 周囲の風景が暗転する。
 男は空中に停止し、他の全てのものも動きを止める。
 大柄の男が2人の間に入り込み彼もまたスタンドを発現させる。
 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ―ッ!」
 「そして時は動き出す」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ふと、男の視界から急にギコ屋が消えた。
 (そんな馬鹿な?奴には瞬間移動の能力など無い!それ以前にそもそも意識が…)
 だが、おかしなことはそれだけではない。
 天が下に、地が上に見える。 
 こんな姿勢で跳んだ覚えは無い。
 そして、少しずつ湧き上がる痛み。
 飛び散る血の雫。
 遠ざかっていくギコ屋。彼は動いてはいない。
 この事から導き出される答えは1つだけであった。
 「そんなッ、まさかッ!攻撃されて吹き飛んでいたのはッ!!私の方だったああああ――――ッッ!!!!」
 地面に落ち、そのまま転がり木にぶつかってようやく動きが止まる。
 向こうに見えるのは、大柄な男であった。顔には見覚えがある。
 「空条モナ太郎ぉ――ッ」
 モナ太郎は男の叫びには耳を傾けなかった。
 「やれやれ、財団の調査で『矢』があると聞きつけて来てみれば、まさか吸血鬼までいるとは、な…」

   /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

118:2003/11/17(月) 22:58
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       影・その1
       
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


これは夢だ。
遠い遠い世界。
遥か遥か昔。
目が冴えてくる。
夢にもかかわらず目が冴えるとは妙な話だが、目が冴えるには違いない。
そう、今は約100年前の異国。
おそらく大英帝国。
高級感の漂う部屋だ。
だが薄暗い照明のせいで、高級さは打ち消されている。
時計の音がやけに大きく聞こえた。
そんな部屋で、二人の人間が話している。

「『最強』とは、どういう意味か――――――」
不意に、男は訊ねた。
「どういう意味でもなく、最強なのが『最強』たる所以。そうではないですか?『破壊者』よ」
青年は微笑を浮かべながら答えた。
なぜだろう、俺はこの青年の顔に見覚えがある。
十字が刻印されたロングコートに覚えがある。
「それを、あえて答えてみようという趣向だよ…」
『破壊者』と呼称された男は、皮肉な笑みを浮かべて言った。
少しの間。
時計が時間を刻む音。
『破壊者』が口を開く。
「例えば―――――全てを破壊する、力」
「否」青年は答えた。 「偏に破壊のみの力など、『最強』には程遠い」

「例えば―――――人智を超えた、速さ」
「否」青年は答えた。 「それにも限界がある。物理的制約を受ける限り、『最強』とは言えない」

「例えば―――――鋼の如き、生命力」
「否」青年は答えた。 「しょせん片翼の盾、『最強』と呼ぶに足りない」

「例えば―――――誰をも及ばない、能力」
「…否」青年は答えた。 「「誰をも及ばない」と限定した時点でダブルスタンダード。その解は成立しない」
そして、大きく息をついた。「だが、真理には最も近い」

「『最強』の能力――レクイエムか…」
『破壊者』は呟く。
しかし、青年は首を横に振った。
「だが、矢に二度も審判を仰ぐとは…馬鹿げている。
 まして、あれは魂に作用する力。即ち『最強』か… とは、少し違う」

「なら… 何をもって『最強』とする?『蒐集者』よ」
『破壊者』は、最初と同じ問いを投げかけた。
間。
無慈悲な時計の音が、部屋に響き続ける。

「永遠――――」
青年は口を開いた。
「『最強』とは、『永遠』を内包している…」
青年はそう断言した。

「『永遠』か、…それも、まだ命題に過ぎん」
『破壊者』は言った。 「死を超越した『永遠』は本当に存在するのだろうか?」
「それは、司教として? それとも、代行者としての問いですか?『破壊者』… いや、我が友ブラムよ…」
青年は笑顔を見せた。
幼ささえ感じさせる笑み。
「もちろん、友人としての問いだ」
『破壊者』は、青年から危うささえ感じ取った。

しばしの沈黙。
『破壊者』は、青年に問いを投げた。
「『永遠』が存在するとしたら、君はあえてそれを手に入れようと思うかな?」
「かもしれませんね。魂を失わないですむのなら…」
青年は微笑んで言った。

―――――嘘だ。
―――――それは嘘だ。

彼は既に魅入られていたのだ。
彼は、其を手に入れ―――そして、失った。

119:2003/11/17(月) 22:59

目が覚めた。
小鳥がさえずっている。
ベッドから身体を起こし、時計を見た。
午前7時30分。普段起きる時間をとうに過ぎていた。
俺はゆっくりと体を起こす。
胸に激痛。
傷は塞がっているものの、痛みはある。
ヨロつきながら、ベッドから出た。
急がないと、学校に遅刻する。
ふと、鏡を見た。
胸に、大きな傷跡。
じぃに空けられた胸の穴。
傷自体は治っても、この傷跡は一生残るだろう。
「は、はははは…!!」
突然、笑いが漏れた。
俺は何をのうのうと生きているんだ?
殺人鬼が、学校に遅刻だって?
笑える冗談だ。
だから、笑い飛ばそう。
腹が空いた。
早く、朝食を食べないと。

階段を降りるだけで、胸に激痛が走った。
いかに重要器官に損傷はなかったとはいえ、あれだけの傷が一日で塞がるはずがない。
通常なら、入院ものだろう。
その俺がある程度動けるのは、リナーのおかげだ。
もっともリナーは「君自身の自然治癒力を活発にしただけで、私が傷を治した訳ではない」と言っていたが。
これがリナーのスタンド能力なのだろうか。
腹が鳴る。昨日は動き回った後、何も食べていない。
俺はキッチンまで急いだ。

キッチンにはリナーがいた。
「もう傷は良さそうだな」
無表情のままリナーは言った。
「なんとか動けるモナ。ありがとうモナ」
俺は礼を言った。
「そう言えば、ガナーは?」
「もう学校に言った。部活の練習と言っていた」
どうやら、妹の腹痛は治ったようだ。
俺は椅子に座ると、ちょっと冷めたトーストを口にした。

昨日、リナーに俺は殺人鬼であることを告げられた。
正確には、殺人を繰り返していたのは、俺の中にいるもう一人の俺だった事を指摘された。
それを告げられた時、リナーに殺されることを覚悟した。
だが、リナーはこう言ったのだ。
「君には恩がある。殺したりはしない」
俺は、驚きの表情を浮かべていたと思う。
その俺を、リナーは呆れた顔で見た。
「そこまで恩知らずじゃない。私を何だと思っているんだ?」

そして、リナーは俺をこう擁護した。
俺ともう一人は、身体を共有しているだけの他人な事。
だから、俺が罪の意識を感じるのは筋違いな事。
「君は、人を殺したいとは思わないだろう?」
もちろんだ。俺は大きく頷いた。
「なら、君は殺人者なんかじゃないさ。罪を犯したのは君の中の別人なんだから、
 君を責める理由はない。殺したのは、君の意思ではないのだから…」
リナーはそう言った。

120:2003/11/17(月) 22:59

そう簡単に割り切れるものではなかったが、かなり楽になったのも事実だ。
そして、リナーは今まで通り俺の家に滞在する事を告げた。
まだ町に吸血鬼は残存しているためと言っていたが、俺を監視する意図もあるんだろう。
まあ仕方ない。むしろ、その方が安心できる。
町の探索も今まで通り行うらしい。
探す対象が、殺人鬼から吸血鬼に代わっただけだ。
そう、しばらくはリナーと共にいられるのだ。
日常に戻れなくなった… なんて、なんのことはない。
昨晩だけ、日常から切り取られただけだ。
俺はこれからは日常に生きていく。

「何か楽しいことでもあったのか?」
リナーは言った。
俺はトーストを齧りながら、笑みを浮かべていたようだ。
それでいい。ネガティブに考えていても仕方がない。
俺の同居人を抑えながら、リナーと楽しく暮らす方がいいに決まっている。
だが、その為には、俺自身について深く知る必要がある。
「二重人格について、教えてほしいモナ」
俺は訊ねた。
「私は専門じゃないが…」
そう前置きして、リナーは語りだした。
「二重人格というのは俗称に過ぎない。正式な診断名は「解離性同一性障害」。症例は…まあ、知っての通りだ。
 原因に関しては多因子説が主流だな。特にKluft.R.P.の4因子説とBraun.B.G.の3Pモデルがよく知られている。
 4因子とは、解離能力、外傷体験、外的影響力と内的素質の相互作用、保護や慰めの欠如。3Pというのは、
 predisposing factors(脆弱性因子)、precipitating event(促進的事件)、perpetuating phenomena(永続性現象)だ」
「…面白いほどに意味不明モナ」
「つまり、子供の時の虐待経験などが、原因になるケースが多いということだ。心的外傷にさらされている子供が、
 『これは自分に起こっている出来事ではない』『だから痛くない』と自己暗示を続けることによって、
 本来の自分とは別の人格が生まれる」
そういう話は聞いたことがある。
「別人格の役割は様々だ。孤独な主人格を慰める友人であったり、主人格の代りに痛みや悲しみをひき受けたり、
 主人格には許されないような積極さや活動性を持っていたり、主人格が戻りたい幼児期であったり、
 主人格が持つには危険すぎる攻撃性や自殺衝動を持っていたりといった具合だ」
リナーは、言葉を選んで説明しているようだ。気を使ってくれているのだ。
だが、俺は虐待を受けた記憶など全くない。

それより、俺はもっと現実的な問題に気付いた。
「モナとモナの中の人が別人で、罪を感じる必要はないといっても…
 警察とかにその理屈は通じないモナ。捕まってしまうかもしれないモナ!」
「その心配は不要だ」 リナーは断言した。
「もう一人の君は、卓越した殺人者のようだ。警察から資料を取り寄せたのだが、
 指紋・毛髪・体液等の証拠は一切なし。目撃者もなし。凶器も、鋭利な刃物という以外手掛かりなし。
 夜という以外、犯行時刻もまちまち。犯罪生活曲線も不安定。どのアプローチからの接触でもお手上げらしい」
そうか。
俺は安堵のため息をついた。
素直に喜んでいいのか微妙だが、それでも捕まるよりはいい。
そんな話をしている間に、8時を回っていた。
このままでは遅刻してしまう。
「じゃ、行ってくるモナ!」
俺はそう言って家を出た。

121:2003/11/17(月) 23:00

教室に飛び込んで席についた。
案外、早く着いてしまった。
胸の痛みをこらえて走った甲斐がない。
先に来ていたギコが話しかけてきた。
「よう。モナー」
「おはようモナ」
「で、昨日の夜は、ちゃんとじぃとの約束を守ったんだろうな」
…胸に衝撃。
眩暈がする。
早くなる動悸。
胸が抉られるように痛い。
「そういえば、今日はまだ来てないな。朝は早いはずなのに…」
来るはずがない。俺が殺したんだから。
―――殺したから。
今までずっと忘れていた。
いや、意図的に思い出さないようにしていただけだ。
直接殺したのは奴だとはいえ、俺も殺意を抱いていたことに違いはない。
俺は、こんなところで被害者ヅラして何をしているんだ?

「おい、モナー!」
ギコは大声を上げる。「大丈夫か?ボーッとして…」
「…大丈夫モナ」
そう、大丈夫だ。
じぃは、既に人を殺していた。
人の血を糧にしていた。
もう戻れない身体だった。
ああするのが、俺の正しい道だったはず…
「で、結局昨日はどうなったんだ?」
「告白されちゃったモナ。でも…断ったモナよ」
俺は、何とか平静を装いつつ言った。
「そうか… それがお前の判断なら、何も言わんよ」
ギコは残念そうに言った。
「でも、この時間にじぃが来てないのは妙だな。お前、じぃを傷つけたんじゃないのかゴルァ!」
―――傷つけた。
これ以上ないほど傷つけた。

彼女の命を奪った。

「ああするより他に仕方なかったんだ!!」
思わず、立ち上がって怒鳴ってしまった。
「俺だってあんなことしたくなかった…! 好きでやったんじゃない!!」
ギコは目を点にして固まっている。
教室中の注目が俺に集まる。
「俺は狂ってなんかない!!狂ってるのは奴だけだ!!」
俺は教室を飛び出した。
訳の分からないままに走る。
時間の感覚がない。
足がもつれる。
胸が痛い。
俺は立ち止まって、大きく深呼吸した。
今頃、授業が始まっているだろう。
今さら教室に戻るのも気が引ける。
結局、俺は家に帰ることにした。


リナーは、居間で本を読んでいた。
「ん?今日は早いな」
「ちょっと、気分が悪くてモナ…」
リナーは心配そうな表情を浮かべた。
「…そうか。もともと、その胸の傷は一日で治るようなものではないからな」
「でも、リナーが治してくれたんじゃないモナか?」
リナーは首を振った。
「昨日も言ったが、治したのは君自身の治癒力だ。私はそれを促進させただけ。
 5日で治る怪我を1日に縮めただけだ。その分、君の身体には負担がかかっている。
 今日はゆっくり休んだ方がいいだろうな」
「…そうするモナ」
俺は部屋に戻って、ベッドに入った。

122:2003/11/17(月) 23:00

当然ながら、眠れない。
時間が時間だ。今は10時。
授業中なら寝れるのに、ベッドに入ると寝れないとは、なんて天邪鬼な体だ。
目を瞑ると、じぃの顔が浮かんでくる。
俺に思いを寄せてくれた女。
俺が殺した女。
…俺は、一生彼女に囚われたままなのだろうか。
ふと、疑問が湧いた。
なぜ、じぃは吸血鬼になったのか。
リナーは、二つの方法があると言っていた。
石仮面を使う方法と、吸血鬼の血を取り込む方法。
じぃに吸血鬼の血を取り込む機会があったとは思えないし、石仮面など問題外だ。
リナーに聞いてみるか。
俺はベッドから体を起こした。

「じぃ…昨日の女吸血鬼は、どうやって吸血鬼になったんだと思うモナ?」
居間で読書しているリナーに訊ねた。
「元々吸血鬼で、人間社会に紛れていたのではないか?」
リナーは本を閉じて脇に置いた。
「それはないモナ。確かに、吸血鬼になったのは最近モナ。
 本人もそう言っていたし、普通に日光の当たるところに…」

…俺は何かを見逃している。

「…いや、昨日の朝、学校でじぃに会った時はじぃは既に吸血鬼だったモナ。
 だけど…そのとき、教室には日が差していたモナ」
つまり、日光でも平気だった?
「それはありえないな」
リナーは断言した。
「吸血鬼は決して日光を克服できない。人間がいくら訓練しても、水中では呼吸ができないのと同じだ」
「でも、確かに…」
あれが間違いではありえない。
じぃが吸血鬼だと看破した時、確かに教室に日光が差し込んでいた。
リナーは首を振る。
「究極生物でもない限り、太陽の光を克服した吸血鬼などありえないな。
 私の見た限り、あの吸血鬼の身体能力は通常の吸血鬼と比べても劣る」
…究極生物?
どこかで聞き覚えがあるような…
何かが、脳内に押し寄せてくる。
…究極。最強。赤石。永遠の内包。観測者の不在。矛盾。時計の音。因子。原初の海。最強の不死者。
遺伝子。サン=ジェルマン。接合点。暗い部屋。太陽の克服。黒点。ロストメモリー。破られた約束。
何だ?
これは何なんだ?

「どうした?」
硬直した俺を見かねて、リナーが声をかけたようだ。
「…究極生物って、何モナ?」
「何でもない」
リナーは興味無さげに言った。
「ただのおとぎ話だ。公式な記録には、そんなモノの記載は無い。
 そんなのが存在するのなら、一度お目にかかりたいくらいだ」
そして、リナーはため息をつく。
「だが、君が嘘を言っているようには見えないな。日光が平気な吸血鬼か… 変種か、進化か、あるいは…」
そこで言葉を切った。
「あるいは?」
俺は聞き質す。
「天然の吸血鬼ではないのかもな」
「どういうことモナ?」
「いや、冗談だ」
冗談と言った割には、リナーは怖い顔をしている。
これ以上は聞くな、と言っているも同然だ。
仕方がないので話題を変えた。
「リナーは昼食はどうするモナ?」
「適当に食べるが、君は?」
「イマイチ食欲がないから、いらないモナ。まだ気分が悪いから、しばらく寝るモナ」
リナーは心配そうな目線を投げかける。
「大丈夫モナ。おやすみモナ」
俺は部屋に戻った。

123:2003/11/17(月) 23:01

結局、じぃが吸血鬼になった原因も、日光が平気な理由も不明って事か…
俺はベッドに入って、天井を眺めながら考えていた。
リナーは、またもや何かを隠しているようだった。
今の俺なら心の中を「視る」こともできるだろうが、倫理的に抵抗がある。
とりあえず、俺の心は決まった。
人に仇なす吸血鬼を殺す。
一匹でも多くの吸血鬼を殺す。
あの時じぃを殺そうとした理由は、正義感だ。
これ以上の犠牲者を出さないため。
そして、じぃを救うため。
ならば、その正義感を持ち続ける。
詭弁には違いない。
だが、あの時の動機を嘘にしないためにも、俺は自分を貫く。
方向性が間違っているのは分かっている。
傲慢な自己満足である事も分かっている。
だが、こうでもしないと…じぃに顔向けできない。
かなり気が楽になった。
同時に、俺は不器用だな…と自嘲した。


…眠ってしまったようだ。
まあいい。元々眠るつもりだった。
時計を見ると、午後7時。ちょうど夕食の時間だ。
いかに悲劇の主人公ぶろうと、空腹には勝てはしない。
キッチンに行ってみると、リナーとガナーの姿があった。
俺が寝ている間に、ガナーも学校から帰ってきたようだ。
驚いたことに、二人は談笑している。
と言っても、ガナーが一方的に話しかけ、リナーは相槌をうっているだけだが。
これまでのギクシャクした雰囲気は全くない。
やはり、昨日の看病のおかげでガナーが心を開いたのだろうか。
俺の分の夕食も用意されていた。
ガナーが作ったやつなので、安心かつ安全だ。

リナーが一番先に食べ終えて、部屋に戻っていった。
「リナーさん、綺麗だよね…」
ガナーは呟く。萌えない妹なりに、思うことがあるようだ。
「最初、綺麗なだけで嫌な女かなと思ってたけど。兄さん、見かけに騙されたのかなって…」
なかなか失礼なことをぬかしてくれる。
「でも、本当はすごく優しい人だね。無口だから分かり難いけど」
そう言われると、自分の事でもないのに照れてしまう。
俺は耳まで赤くしながら、ごはんを口の中に流し込んだ。
「ホントに、あんないい人をどうやってつかまえたんだか…」
「つかまえたって何モナ!モナはただ…」
道で気絶していたリナーを、連れて帰っただけだ。
拉致同然。つかまえるよりもタチが悪い。
そう、リナーは倒れていたのだ。
吸血鬼を赤子同然に扱うリナーが、なぜ気を失うほど追い込まれていたのだろう。
俺はあらためて疑問に思った。特に外傷もなかったはず。
さらに、町に迫る脅威。この町に潜んでいるという吸血鬼やスタンド使い。空想具現化。疑問はいくらでもある。
…それより、なぜ俺は「スタンド」という言葉を何の抵抗もなく受け入れている?
夢の中でもう一人の俺と話した時は、能力の説明だけで、スタンドについての説明はなかった。
なぜ、俺はスタンドを知っている?
そうか、あれだ。
俺の読んでいた漫画。
『矢の男』が、スタンド使いを増やす話だった。
…いや、どこか違和感がある。

「お兄ちゃん!?」
ガナーの声。
「どうしたの?急に固まって…」
どうも、俺は思考に没頭してしまう癖がある。
とはいえ、夕食はキレイに食べ終わっていた。
思考しながらも、口は動いていたようだ。なんて便利な体。
さて、体調はいいとは言えない。
夜の見回りまで、ゆっくり休むか。


…10時。
リナーと夜の町へ出かける時間だ。
今までと何も変化はない。
「殺人鬼探し」が「夜の見回り」に代わっただけだ。
何せ「殺人鬼」とは俺のことだったのだから、笑い話だ。
俺は居間に出た。
リナーが待っている。
「今日は、君は休むべきだと思うが」
リナーは俺の顔を見るなり言った。
「いや、行くモナ」
1人でも多くの吸血鬼を殺す。
リナーと共にいても出番はないだろうが、戦闘経験を積むことが重要だと思う。
何より、俺一人になったら、またあの殺人鬼が出てくるかもしれない。
「リナー」
俺はリナーに呼びかけた。
「もしモナの精神が殺人鬼に支配されたら、迷わずモナを殺してほしいモナ」
望まぬ罪を重ねるより、リナーに断罪された方がいい。
「…そうならない事を期待している」
リナーは関心が無さそうに言った。
俺達は、家を出た。

124:2003/11/17(月) 23:02

吸血鬼はすぐに見つかった。
スタンド使い同士は惹かれ合うという話があるが、吸血鬼も例外ではないのだろうか。
吸血鬼は、リナーの姿を見るなり逃げ出した。
「一昨日の吸血鬼よりは上質のようだな…」
リナーは追いながら呟いていた。
一昨日の吸血鬼は、リナーに正面から戦いを仕掛けて返り討ちにあったのだ。
リナーは『教会』に所属する、吸血鬼専門の殺し屋である。
「この服は、暗殺装束だ」 リナーは言っていた。
「この服に刻まれた十字を目にする事は、奴等にとっては断頭台に頭を乗せる事に等しい」
その通りだろう。
吸血鬼は十字架に弱いという伝承がある。
だが、吸血鬼達が十字架そのものを恐れている訳ではない。
奴等は、十字が刻印された集団を恐れているのだ。

リナーはたちまち吸血鬼に追いついた。
俺は、リナーの遥か後ろを走っている。
どうせ、俺は戦力にならない。
ならば、リナーの動きを「視て」戦いのセンスを磨く。
俺一人でも吸血鬼を葬れるようになるために。

リナーはその場からバヨネットを投げつけた。
逃げる吸血鬼の足を貫通し、地面に突き刺さる。
「GYYYYAAAA!!」
吸血鬼の動きが止まる…
と思ったら、地面に縫い付けられた左足を自分で切断した。
そして、逃げられないと判断したのか、そのままリナーに飛び掛った。
「塵ごときが。開き直ったつもりか?」
リナーは吸血鬼の顔を左手で鷲掴みにした。
右手にはショットガン。
それを吸血鬼の腹に押し当て、何度も引き鉄を引いた。
飛び散る血飛沫は、瞬く間に蒸発していく。
あの弾丸も法儀式済みなのだろう。
これ以上ないほどのゼロ距離に下半身は千切れ飛び、腹部は四散する。
リナーが、吸血鬼の顔を掴んでいる左手を離した。
吸血鬼の上半身は、イヤな音を立てて地面に落ちた。
「さて、話してもらおうか…」
問い質すリナー。
吸血鬼は不快な声を上げた。
「なんて不運なんだ、俺は… 『アルカディア』のいる町に着いたと思ったら、代行者に会っちまうなんて…」
「黙れ。貴様に許される言動は、『アルカディア』の居場所だけだ」
「へへへ… アンタほどの奴がそれを聞くのか? 見たとこ、5位よりも上位だろ? 奴の居場所なんて、
 能力の性質を考えれば明らかじゃないか?「空想具現化」の力が存分に振るえる場所さ…!」
「何だと?」
まずい。
リナーに隙が生まれた。
俺が行動を起こす前に、吸血鬼は右手を地面に叩きつけた。
巻き上がる砂煙。
その一瞬の隙に、吸血鬼は姿を消した。
「まだ、それだけの余力があったとはな… だが、塵への猶予期間は短い」
吸血鬼は上半身だけだった。
その地面を這っていった後が、くっきりと残っていた。

125:2003/11/17(月) 23:02

俺達は後を追った。
今日は追いかけてばかりだ。
おそらく、上半身だけなので動きは遅いだろう。
すぐに追いつけるはず。
路地裏のような場所に、その跡は続いていた。
あそこは行き止まりのはず。それで、袋のネズミ…

―――何だ?

路地裏に、さっきの吸血鬼以外の何かがいる。
ひどく嫌な感じ。
身の毛がよだつ、という感覚だろうか。
初めて吸血鬼を見たときとも違う、同種でありながら相容れない感じ。

リナーも立ち止まった。
その何者かの存在を感じたようだ。
「…何かいる。吸血鬼ではない…」
リナーは服の中からサブマシンガンを取り出した。
全く関係ないが、あれだけの量の武器をどうやって隠しているのだろうか。
「気を抜くな。普通じゃないぞ…」
そんな事、言われなくても分かる。
場の雰囲気が視える。
路地裏に、黒い霧のようなものが立ち込めているようだ。
視覚化された、何者かの気配。
こんなものは視た事がない
余りにも異常過ぎる。
俺達は、警戒しながら路地裏へと踏み込んだ。


先ほどの吸血鬼がゴミのように地面に転がっている。
既に絶命しているのは明らかだ。
その胸には、「矢」が刺さっていた。
明らかに古いものと分かる、骨董品といっても差し支えない「矢」。
そして、死骸の傍らに立つ男。
顔は影になっていてよく見えない。
どちらにしろ、その異様な雰囲気のせいで顔を直視できないが。
男は「弓」を携えていた。
こいつは人なのか?
この男に比べれば、吸血鬼の方がまだ人間らしい。

その男は、俺達の存在を意に介していないようだ。
「こいつも… 選ばれた者ではなかった…」
男は吸血鬼から矢を引き抜いた。
そして…男はこちらを見た。
視線を受けただけ。
それだけで、死を意識した。
やはり、あれは違う。
俺達と根本的に違う。
絶対に関わってはいけない生物。

男は矢をこちらへ向けた。
「お前達は…どうだ…?」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

126N2:2003/11/17(月) 23:33
Newシリーズ突入ですね。
乙です。これからが凄まじく気になります。

127ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/18(火) 00:20
遅れながら乙です。
二つの原作がうまく入り混じっており、
それでいて微妙に違うオリジナルっぽさがあり、
とっても面白いです。

128誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/18(火) 17:33
茂名王町繁華街
その中心に流れる茂名川に架かる橋の下
そこに一匹のギコ族の男がいた
彼の名はボロギコ
どうして彼はここに住んでいるのか?
それは覚えていない、気づくとここで生活をしていた。
小さな頃から生きるための盗みはやってきたし、時には店主にばれてぶちのめされた。
町の不良チームに集団で襲われたこともあった。
そんな争いの中片方の耳はとれてしまっていた。
しかし、それでもボロギコはこの町が好きだった。
明日の食い扶持に困る生活だったが厳しい生活は彼にしたたかさを授けた。
そして・・・そんなある日

カァー
「っ・・・カラスに睨まれて泣かれたぜ・・・・縁起悪りーな」
橋の下に建てられた掘っ立て小屋、これがボロギコの家である。
「ま、そんなことちーとも気にしないがな、さ・・・生きるために・・・つりでもするかな」
そう言うとボロギコは川の前に立つ。
「つっ・・・・と」
ボロギコが竿を振るとポチャンと音が鳴り浮きが浮かび上がる。
「・・・今日は釣れねーぞ、ゴルァ」
ついつい出てしまったギコ族特有の口癖
それを気にすることもなくボロギコはつりを続ける
「・・・!来たっ!!・・・・・って長靴かい・・・・古典的な・・・・」
今日はえらくついていない、ボロギコがそう思ったとき
「えっ・・・・!?うぉおおおおおおお!!!」
一台の車が橋のガードレールを突き破りボロギコの方につっこんできたのだ!!
「セパレート・ウェイズ!!身を守れ!!」
ボロギコはとっさに彼自身のスタンドを発現させた
「ゴルァアアアアアアアアアア!!」
セパレート・ウェイズと呼ばれた人型スタンドが繰り出す数発の拳が車の向きを変えさせる
「はぁはぁはぁ・・・・」
「やっぱり・・・スタンド使いだったね・・・」
ボロギコの右方向から声がする
ボロギコとっさに土手の方を向いた
そこには一人の男が立っている
モナー族のようではあったが普通のモナーとは違い耳がつの状になっていた
「僕の名はつのモナー、ひろゆき様の命により、この町のスタンド使いを狩りに来た一人だ」
「何言ってやがるんだ?スタンド・・・この力のことかゴルァ」
「ふん・・・スタンド使いとわかった以上は本気で始末するのみよ!!」
そう言うと男は自分のスタンドを発現させた
「フォーチュン・イズ・バッド!」
フォーチュン・イズ・バッド
そう呼ばれたスタンドは手にしたコインを上空へと放り投げた。
「説明してやろう!我がスタンド、フォーチュン・イズ・バッドは!運を操作するスタンドだ!このコイントスの結果が表だったときッ!
貴様に不運が起こるッ!そしてっ!!」
スタンドがコインを受け取る
「結果は表だ・・・」
「・・・・ぐぁ」
ボロギコは突然うめき声を上げうずくまる
ボロギコの腕には先ほどの車の窓ガラスの破片が深々と突き刺さっていた
「ふふふ・・・ボロギコって言ったっけ?ついてないなぁ・・・普通なら無いよ・・・今頃ガラスが突き刺さるなんて」
「・・・これが貴様の」
「だが・・・貴様の不運は俺を幸運にするッ!貴様の死という形でなッ!!」
「てめぇ・・・」
ボロギコは立ち上がる
そして、ボロギコの脳裏にはこの不思議な力を身につけたときのことが浮かんでいた。

129誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/18(火) 17:34
数年前のある日
ボロギコはいつものように生活をしていた。
その日も今日のように下手なつりをしながらかろうじて生活していたのだ。
そして、ようやく数匹の魚を釣り上げたボロギコは、掘っ立て小屋に戻ろうとした。
その時だ
ボロギコは自分の胸に生暖かい感触を感じた。
矢だ。
自分の胸に矢が刺さっている。
見ただけで致命傷とわかる位置、心臓。
ボロギコはその場に倒れると、すぐに自分の死を意識した。
その時、自分の正面に何らかの気配を感じた。
かろうじて首を動かし前方を見る
弓を持った男が立っていた。
ボロギコを見下すようにして、だ。
それを見たボロギコは全身の毛が逆立つほどの怒りを覚えた。
「この男はッ!自分の命を何とも感じていないッ!!」
彼はつらい生活は送ってはいたが自分の命に誇りを持っていた。
それは彼の誇りに対するかつて無いほどの侮辱だったのだ。
そのかつて無いほどの怒りを原動力に!ボロギコはなんとッ!
立ち上がりッ!
心臓を貫通している矢を自ら引き抜き!
ボロギコが立ち上がったことに驚く男の顔面をッ!!
力一杯ッ!!ぶん殴ったのだ!!
そして男が地面に倒れるのとほぼ同時に、ボロギコは意識を失った。

そこから先は覚えていない。
目が覚めたときには男はいなかった。
不思議なことに傷はふさがっていた。
数日後、ボロギコは自分に備わった不思議な力・・・スタンド「セパレート・ウェイズ」の存在に気付くことになる
こうしてボロギコは、スタンド使いとなったのだ!!


立ち上がったボロギコは、あのときと同じ怒りを胸に感じながらゆっくりとした口調でしゃべり出した。
「俺は・・・今現在社会的地位に置ける最下層にいる・・・生まれた時から親はおらず、今日まで生きるために片耳を失った」
「だが、こんな生活をしていても・・・いや!こんな生活だからこそ!
俺は自分の命に対しては誇りを持っているッ!貴様は今ッ!!俺の命を侮辱したッ!!!」
「この失った片耳にかけて!貴様は俺が徹底的にぶちのめしてやるぞゴルァ!!!」
ボロギコはそう叫ぶとありったけの殺気を乗せた眼で○○を睨み付けた
「うっ・・・吼えたところで何になる!貴様は今ついてないんだ!!お前は俺に近づくことさえできないんだよ!!」
○○はボロギコの殺気に一瞬おびえたが自分を無理矢理奮い立たせ再びコイントスをする
「表だ!!」
「やかましぃ!!俺は占いなんぞ信じねぇぞゴルァ!!」
ボロギコが走り出そうとした瞬間!
ボロギコの前方に火の手が上がった
「なにぃ!」
「ふはははは!!車から漏れだしたガソリンに電気系統のスパークで着火し土手の草に燃え広がったようだな!!」
○○はボロギコの不運に大声を張り上げる
「ところで・・先ほど見せた貴様のスタンドは・・・近距離パワー型だったなぁ」
「・・・・・」
「もう一度コイントスすれば貴様は確実に死ぬ!今までの経験からそれがわかる!!
だが貴様はコインが落ちるまでにここに来ることはできない!勝った!!フォーチュンイズ・・・」
フォーチュン・イズ・バッドがコインを上空に放り投げる
瞬間ッ!!
「セパレート・ウェイズ!!」
セパレートウエイズが前方に左腕をかざした。
すると!その腕が切り離され!エネルギー化し!発射される!!
「ブグァ」
そのエネルギーの弾丸は確実に○○の顔面に命中した
「ば、馬鹿な・・・貴様のスタンドは・・・近距離パワー型のはず・・・」
「俺のスタンド・・・セパレート・ウェイズは体の一部をエネルギーの弾丸として発射する、まさに身を粉にして戦うスタンドだ」
「貴様のような運に頼る温室育ちにッ!!負けるはずがねぇんだよ!ゴルァ!!!」
右腕!左足!右足!連続して発射される!!
「ゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ボロギコの方向とともに!とどめと言わんばかりに胴体が発射された!!
「ウゲェフ!!」
全弾直撃を喰らったつのモナーは土手に縫いつけられた

「勝つには勝ったが・・・飯は食い損ねるし、腕には怪我、おまけに火の海・・・マジでついてねぇぞゴルァ・・・・」


ボロギコ→家が燃えていることに気づき本日何回目かの「ついてねぇ」を言うことになる

つのモナー→全治6ヶ月、再起不能

130誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/18(火) 17:34
スタンド名:セパレート・ウェイズ
本体:ボロギコ
破壊力:B スピード:A 射程距離:5m(エネルギー弾は約20m)
持続力:D 精密動作性:B 成長性:C
能力
スタンドヴィジョンの一部を切り離し破壊のエネルギーとして発射するスタンド。
発射したヴィジョンは20秒ほどで元に戻る。また、その破壊力は使用する部分の大きさに比例する。
そしてエネルギータンとして発射するために、分離→エネルギー弾化→発射のプロセスを取るため次のようなことが可能
1,分離してエネルギー化しない状態での射程5m以内における個別での操作(EX.分離した腕と腕のないスタンドで挟み撃ちなど)
2.エネルギー弾化した状態での射程20m以内における「設置」と好きなタイミングでの「発射」
また、この形態ならばダメージのフィードバックはないが「発射」以外の操作は不能。
すべてのスタンドヴィジョンをエネルギー弾化してしまうと戻ってくるまでスタンドの見えない一般人と同じになる。



スタンド名:フォーチュン・イズ・バッド
本体名:つのモナー
破壊力:D スピード:B 射程距離:B
持続力:D 精密動作性:A 成長性:D
能力
スタンドが「コイントス」をして表だったときのみ、指定した相手に不運を訪れさせる能力。
一回のコイントスで一度の不運を訪れさせる。コイントスの時対象にできるのは一人のみ。
スタンドの高い精密動作性と本体の訓練により、ほぼ確実に表を出すことが可能である。

131誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/18(火) 17:38
初めてですが、書いてみました。
どうでしょうか?
「セパレート・ウェイズ」は依然僕がスタンドアイディアに書いたものを
改造して使っています

132新手のスタンド使い:2003/11/18(火) 20:26
初めの方は雰囲気が出ていていいと思うんだけど、
車が突っ込んできてからの展開があまりにも早すぎて、話についていけなかった。
演出的な部分をもっと端々に散りばめて、文章に深みを持たせる必要があると思われる。
本編の場合AAがついているだけまだマシに見えるのだけれど、
文章だけだとそれが強調されて感じられた。
今回の話を2〜3話分くらいの量にすると、ちょうど良いんじゃないだろうか。

133:2003/11/18(火) 22:17

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その2」


          @          @          @


フサギコは大きな欠伸をした。
そして、そのドアの前に足を踏み出す。
馬鹿みたいに格式染みた自動ドアが、静かに開いた。
高級な自動ドアというのは、全く音がしない。
行きつけのコンビニの自動ドアはバリバリ言うのに。
全く… 官公庁の建物はいつもこうだ。
フサギコはため息をついた。
体制批判をするつもりはないが、もっとマシな国税の使い方があると思う。
いや、それこそ、骨の髄まで体制側の自分が言えた義理ではないんだが…
そんな事を思いながら、やけにいい響きの足音がする床をつかつかと進んだ。

ここに来た時、毎回顔を合わせるしぃ族の受付嬢の姿があった。
フサギコはブースにもたれながら話しかける。
「よお。最近どうだ?」
「大変なことがありましたよー!」
受付嬢は嬉しそうな声を上げた。
「昨日、オバちゃんが税金が高いってクレームつけてきて、1時間くらい熱弁を振るってたんですよ!」
フサギコは思わず笑ってしまった。
しかし、受付嬢はムッとした表情を浮かべる。
「笑い事じゃないですよー!! そのオバちゃん、「どうせ私達の税金で食べてるクセに…」って言ったんですよ!
 住民税も納めてないくせに、何言ってるのかって感じですよね! 消費税は国税だから、私の給料には関係ないし…」
受付嬢の愚痴は、意外かつ当然の成り行きで遮られた。
後ろに、彼女の上司が立っていたのだ。
「勤務中ですよ」
上司はぶっきらぼうに注意した。
受付嬢は口をつぐむ。
さらに上司は、こっちにも敵意のこもった視線を向けた。
「あなたも、そんな所で長話に興じられては困ります。私達も暇ではありませんからね」
つまり、とっとと用を済ませて帰れ、という意味だ。
確かにごもっとも。ここでは、自分は招かざる客だ。
嫌味の一つでも言い返してもいいのだが、あんまりここでのんびりする訳にもいかない。
さっきの皮肉ではないが、自分も、今から会う男も、決して暇ではないのだ。
とっとと用事を済ますか。
フサギコはその場を離れて、エレベーターに乗り込んだ。
「R」のボタンを押す。
エレベーターの揺れはほとんどない。
何から何まで、いいモノを使っている。
そして、すぐに屋上へ出た。
地上35階のビルの屋上。
とにかくだだっ広い。
遮蔽物も何もない。
自分があの男と話すときは、いつもこの場所だ。
「庁内では、誰が聞き耳を立てているか分からないですからね…」
それが、あの男の言い分だった。
まあ、ご大層な賓客室に通されるよりは遥かにマシだが。
ああいう場所は息が詰まる。
つまり、ブルジョアには縁がないということだ。

134:2003/11/18(火) 22:17

男は先に来ていた。
エリート然とした風貌。
切れ者を思わせる眼鏡。
冷たい目。
人間味を感じない、と噂されているらしい。
スタイリストでもついているかのような、スーツの着こなし。
そのネクタイは風になびいている。
構成要素の全てが癪に障る。
そう、自分はこの男が嫌いなのだ。

フサギコの姿を見て、男は言った。
「大失敗ですよ。3人送ったのに、『蒐集者』の前であっという間に殉職だ…」
やれやれ、といった感じで肩を竦める。
部下の命を何とも思っていない。
とことん気に障る。
「一人は爆死、一人は床と完全に融合して窒息死。一人は心臓を貫かれ即死。
 全く、遺族に何と説明したらいいのか…」
面倒事が増えた、とでも言いたようだ。
部下の死を悼む気は全くないらしい。
「でも…私としては、『蒐集者』をほっておく訳にもいかないんですよ」
男は言った。

この男は、警視庁警備局公安五課―――通称、『スタンド犯罪対策局』の局長を務めている。
そして、こいつ自身もスタンド使いらしい。
つまり、純粋な人間ではないという事だ。
生命エネルギーのヴィジョンを自在に操る。
手を触れずに物を破壊できる。
そして、様々な異能。
そういう者を、自分は人間と認めない。
スタンド使いどもも、化物の仲間だ。
フサギコはそう考えている。

「で、折り入って貴方に話があるんですが…」
局長は話を切り出した。
「まさか、俺に動けと言うんじゃないだろうな? それなら断るぞ」
フサギコは先手を打つ。
「そうですか…」
残念そうな表情を浮かべつつ、口元には笑み。不気味な男だ。

内心、フサギコは頭を抱えたい気分だ。
この男は、自分の属する組織を暗殺集団か何かと勘違いしてはいないか?
局長は話を続ける。
「この一件で、外務省から苦情が来ましてね… 国際問題になるとか、ヴァチカンに合わす顔がないとか…」
そして、わざとらしく手を叩いた。
「そうだ。外務省の連中を皆殺しにしてくれませんか?」
「馬鹿言うな。俺の立場でそれをやったらクーデターだ」
局長は意に介さずに話し続けた。
「おまけに、公安の奴等まで文句をつけてくる… 全く、クレームを処理できるスタンドが欲しいですね」
自分も公安に属している事を棚に上げての発言だ。
こいつらは、自分達を公安課の一つであると認めていない。
スタンド使いを相手にしているのだから、自分達は特別だとでも思っているのだろう。
馬鹿な選民意識だ。

局長は一人で喋り続けている。
「ところで、ヴァチカンでは我が国へのツアーパックが流行っているようですね。
 『異端者』、『蒐集者』に続いて、『破壊者』と『調停者』が入国したようですよ…」
流石に今のは聞き流せなかった。
教会が派遣した代行者が4人。
卓越した暗殺技術。吸血鬼殲滅に特化した強力なスタンド。
それらを併せ持つものだけが代行者を名乗る事を許され、スタンド能力を象徴した異名を与えられる。
つまり、そいつらも化物だ。
何のことはない、化物が化物に敵対しているだけの話。
そんな連中が、この国に集まっているのだ。
「なんだとオイ!!連中、この国で何をやらかすつもりだ?」
フサギコを驚かせたからなのか、局長は満足そうだ。
「さあ?ミサでないのは確かでしょうね」
そう言って笑った。
フサギコは呆れかえる。
しかし、笑いが止んだあとの局長の顔は真剣だった。
「…代行者が4人。これだけで、軍事的パワーバランスが変化する。他国の軍隊が駐留しているも同然なんだ。
 我が国の喉元にナイフが突きつけられたんだよ…」
これが、この男の本当の顔だ。
「で、公安五課としてはどうするんだ?」
フサギコは訊ねた。
「貴方達が皆殺しにしたらどうです?」
帰ってきた返事は、やはりふざけたものだった。
「いい加減にしろ。そう簡単に俺達が動けるか」
フサギコは言う。
局長は不服そうに言った。
「いいじゃないですか。侵略を受けてるも同然なんだから。マスコミも大目に見てくれるでしょう?
 貴方も、赤絨毯の上で「集団的自衛権を行使する!」なんて言いたくないですか? 憧れでしょう…」
付き合っていられない。
適当に返事をして、フサギコはその場を後にした。
やはり、あの男は嫌いだ。


          @          @          @

135:2003/11/18(火) 22:18

俺達の眼前には、矢を手にしてたたずむ男。
――――矢の男。
不意にその名が浮かんだ。
馬鹿な。それは創作上の人物だ。
だが… あの姿は、それと一致しすぎている。

俺は、男の内面を視た。
空白。
何も無い。
感情も思考も存在しない。
存在の意味も目的も持っていない。
なんだ、この不安定な存在は。
これが、生きていると言えるのだろうか。
それでいて、圧倒的な存在感。
圧迫感。威圧感。
矛盾だ。全くもって矛盾だ。

リナーは両手のサブマシンガンを『矢の男』に向けると、躊躇する事なく発砲した。
パララララ…という軽い銃声。
だが『矢の男』の姿は既にない。
ブロック塀が、意味もなく蜂の巣になっただけだ。

『矢の男』は、リナーの後ろに立っていた。
俺は確かに視た。
今の移動は、消えてから現れるまで1コンマのタイムラグもない。
スピードじゃない。何かの能力だ。
「貴様、スタンド使いだな…」
『矢の男』の声。
まずい!!
俺は飛び込もうとしたが、その間すら無かった。
うっすらと浮かび上がる『矢の男』のスタンド。
その拳が、リナーの背中に命中する。

…間違いなく即死レベル。脊髄を破壊するに充分な威力。
リナーの体は大きく吹っ飛んで、ブロック塀に激突した。
「リナー!!」
俺はリナーに駆け寄った。
しかし…
「大丈夫、カスリ傷だ」
リナーは素早く立ち上がった。
そんな馬鹿な。
今の攻撃は、武道の達人だろうとも受け流せるレベルじゃない。

「何をボーッとしてるッ!!」
リナーの声で我に帰った。
『矢の男』は、いつの間にか俺の真横にいた。
スタンドが、大きく真横に腕を振るうのが視える。
命中すれば、頭蓋骨ブチ割れ&飛び散る脳漿。
俺は、姿勢を低くしてその攻撃をかわした。
正確には、腰を抜かした。
その後に来る『矢の男』の追撃。
スタンドの拳が、腰を抜かしている俺に振り下ろされた。

その瞬間、リナーが日本刀で斬りかかる。
俺の顔面をスクラップにするはずだった拳は、その攻撃を防ぐのに使われた。
「…!」
『矢の男』のスタンドが、日本刀を押し返す。
リナーは一歩退き、日本刀を構えた。
左手を刀の柄に軽く添える。
それを腹の前で構え、相手の方に軽く傾かせる。
ギコに聞いた事があった。
――正眼。
あらゆる剣術において、基本にして最強の型。
一分の隙すら視えなかった。
鉄壁の防御でありながら、最強の攻撃態勢。
俺ならば、ああなった相手は絶対に倒せない。

まさに一閃。
リナーの体が、『矢の男』の眼前まで一瞬で移動した。
今のは、『矢の男』とは明らかに性質が異なる。
紛う事無き、スピードによる移動。
磨き抜かれた肉体が可能にする「速さ」。
その勢いを殺す事無く、リナーは刀を振り下ろす。
だが、『矢の男』にはそれすらも通じない。
拳で軽く受け流された。
さらにリナーは日本刀を振るう。

136:2003/11/18(火) 22:18

二の手、三の手を意識した動き。
それでいて、相手を殺傷することのみに洗練された攻撃を繰り出すリナー。
機械のような正確さ。
そして、最小限の動きでそれを捌く『矢の男』。
どっちも速過ぎる。
視えてはいるものの、俺の介入できるレベルではない。
だが、素人目に見てもリナーは不利だ。
日本刀ではスタンドは斬れない。狙うは本体のみ。
一方、スタンドの攻撃は日本刀では防げない。リナーにはかわすしか手段がないようだ。

リナーは、剣を大きく振りかぶって、左斜めに斬り下ろした。
まずい!
今のは、大きく隙ができる動きだ。
『矢の男』が、それを見逃すはずがなかった。
その攻撃を受け止めず、ガラ空きになった右側に瞬間移動する。
リナーは、完全に体勢を崩していた。
男のスタンドの拳が、リナーの胸を貫く…はずだった。
「甘いな…」
リナーは呟く。
日本刀に添えられていたのは左手だけ。
右手は背中側に回っていた。
そこから出てきたのは、なんとアサルトライフル。
『矢の男』は、用意された隙に引き込まれたのだ。
奴は完全に攻撃態勢に入っていて、反応しきれない。

引き鉄が引かれる。
フルオートで発射される弾丸のシャワー。
「…!」
『矢の男』の姿が消えた。
またもや瞬間移動。
しかし、攻撃の隙と心理の隙の両面をついたフェイントだ。
何発かは確実に当たったはず。

『矢の男』は5mほど後ろに現れた。
左腕から血を流している。
どうやら2発ほど命中したようだ。
たった、あれだけのダメージか。
あの距離からフルオートで撃たれて、あれっぽっちのダメージ。
やはり化物だ。
絶対に関わってはいけない、という勘は正しかった。
奴は、俺達に対抗できる相手ではない…

「相当訓練されたスタンド能力だ… 自身の動きと完全に調和し、美しくすらある…」
なんと、『矢の男』は笑った。
表情には出ないが、感情の変化を俺は視た。
「そして…」
『矢の男』はいまだに腰を抜かしている俺に顔を向ける。
「未来予知型のスタンドか… 私の動きを目で追えるとはな… 
 それに体が付いていくようになれば、かなりの力を発揮する…」
なんと『矢の男』は俺達に背を向けた。
「そのスタンド、大切に扱え…」
そう言い残して、『矢の男』は消えてしまった。

その場に立ち込めていた、異様な雰囲気も消滅してしまう。
逃げた…のか?
いや、奴を追い詰めたとは考えられない。
状況を考えれば、見逃されたとしか思えない。
しかし、一体なぜ?
俺は腰を抜かしたまま、呆然としていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

137丸耳達のビート:2003/11/18(火) 22:28
   たったったったったっ…………………
 うっすらと朝霧の立ちこめる田んぼの側を、二人の男が走っていた。
二人とも『モナー族』特有の優しそうな目をしている。
 片方はひょろりと細い体つきをした『初老の男性』で、もう片方は標準的な体型の『少年』だ。
走るペースに合わせて、頭の上の丸い耳がぴこぴこと揺れている。
 かなり息の上がっていた少年が、前を走る初老の男性に向かって音を上げた。
「おじぃちゃん、ちょと、休憩、しよ…!」
「何じゃ、情けないのぉ…儂の若い頃は二〇㌔くらい余裕じゃったぞ?」
 息一つ乱していない初老の男性が、呆れたように呟いた。
「そんな、事、いっても、もう、だめ、ぽー…」
「しょうがないのぉ…あそこのコンビニで休憩するか」
「おー…」
 コンビニに辿り着くなりベンチでぶっ倒れた少年を尻目に、財布を取り出してドアをくぐる。
       モナ ハジメ
 彼の名は茂名 初。本名よりも『ご隠居』と呼ばれることが多く、年齢より十歳は若くみられると近所のマダム達に評判だ。
古流武術を代々伝える茂名家の頭首だが、息子を若くして亡くし、今は外でヘバっている孫の『マルミミ』に稽古を付けている。
 付けているのだが…
「…この程度で音を上げるようじゃ免許皆伝は遠いのぉ…」
 ベンチに寝そべって必死で呼吸をしている孫にひとり嘆息し、ペットボトルに入ったスポーツドリンクをレジへと持っていく。
料金を払い、二本のボトルを孫の元へと持っていった。
「マルミミー。飲み物じゃよー」
「ありがと、おじいちゃん」
 ベンチから身を起こし、息継ぎ無しで半分ほどを飲み干す仕草に、自然と目が細まった。
まだまだ未熟だが、そんなこととは別に孫とは可愛い物だ。
「そろそろ学校の時間じゃの。もう帰るぞ」
「はーい」
「飲み終わったら出発じゃ」
「へーい…」
 空のペットボトルをゴミ箱へ放り込み、二,三回ほど深呼吸をすると、上がっていた息も収まった。
店員のあいさつに手を振って答え、家へと向かって走り出す。
 のどかな田園風景から、段々と家の密度が増えてきた。
周りの景色も、両脇にシャッターの閉じた店の並ぶ商店街へと移り変わる。
 しんと静まりかえった路地の前を通ると、急に茂名が足を止めた。
「…おじいちゃん?」
 訝しげに問い掛けるが、掌で制される。
「…マルミミ。"探って"もらえるかの?」
「探るって…何があるの?」
          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「いいから早く。間に合わないかも知れん」
 表情は先程までと同じ柔和な物だが、その下にある物が違う。
ピンと張りつめた、『ナイフ』のような緊張感。
 それを感じ取ったのか、マルミミの表情が固くなる。
「…判った」
息を吸い、吐き、呼吸を整えて静かに両手を挙げ―――――

138丸耳達のビート:2003/11/18(火) 22:29
「シィイイァアァアア――――――ッ!! !?…許し…てぇ…!っ!!」
「っるせーな。やめるワケねーじゃん?こんな『楽しいコト』」
 モララー族の男性が二人、しぃ族の女性に暴行を加えていた。
いや、暴行というような生やさしいモノではない。
 四肢には何本ものナイフが突き立てられ、服をはぎ取られた体には刃物で卑猥な言葉が刻まれている。
夜明けも近いとは言え、狭い路地裏には彼等以外誰も踏みいることはない。
涙と涎を垂れ流しながら懇願するしぃ族の女性の『頭部』を掴み、地面に叩き付ける。
「ヒャッハー!ワルいね〜!」
 頬がアスファルトで削れ、元々は美しかったであろう顔が血で汚れ、隣の相棒から笑いが漏れた。
「大体、お前等、『しぃ族』、ってのは、虐待、する事、にしか、価値、ねぇ、だろがッ!」
 言葉の句切りと共に、がつがつと地面に額を叩き付ける。
女性は意識がなくなっているのか、されるがままで抵抗もしない。
「な、そろそろ朝になっちまうぜ?」
「あ〜?マジ?もうそんな時間かよ?」
「じゃ、ま…『死刑』にすっか〜!」
 ず、と四肢に突き刺していたナイフの一本を抜き取り、頭の上に振り上げる。
絶望に塗りつぶされた女性の心臓を突き刺すべく振り下ろそうとしたその瞬間―――――

  バシィッ!!

 『何か』が男達の真ん中で破裂した。
「わっ!? !!」
「何だこれ!目に染み…っ!?」
 言葉を全て続けることができず、片方の男が強烈なフックを喰らってその場にうずくまった。
「…間に合った…と言っていいものでは無いな…」
 ひょろりと細い『初老の男性』、茂名。
「大丈夫。まだ、生きてる」
 丸い耳の優しそうな『少年』、マルミミ。
「『モララー族の男』が二人、『しぃ族の女』が一人…コイツらで間違いは無いね」
「そうか」
 短く言うと、茂名が先程から振っていた『炭酸飲料』の缶を無造作に投げる。
掌を離れた缶は緩やかな放物線を描き、男達の目の高さで破裂した。

139丸耳達のビート:2003/11/18(火) 22:31
「わっ!? !!」
「何だこれ!目に染み…っ!?」
 言葉を全て続けることができず、片方の男が強烈なフックを喰らってその場にうずくまった。
「…間に合った…と言っていいものでは無いな…」
 ひょろりと細い『初老の男性』、茂名。
「大丈夫。まだ、生きてる」
 丸い耳の優しそうな『少年』、マルミミ。
「『モララー族の男』が二人、『しぃ族の女』が一人…コイツらで間違いは無いね」
「そうか」
 短く言うと、茂名が先程から振っていた『炭酸飲料』の缶を無造作に投げる。
掌を離れた缶は緩やかな放物線を描き、男達の目の高さで破裂した。
「うわっ…!」
 視界を奪われた一瞬で、後ろから首を掴まれる。細い腕をした老人のどこにこんな力があるのか、簡単に吊り上げられてしまった。
「なっ…なぁっ…!?」
 咄嗟に辺りを見回すと、先程フックを喰らった男も襟首を掴まれて立たされている。
動きはおろか、何をされたのか、老人と少年どっちどう動いたのかすらも判らない。
 『心臓』が不快に高鳴る。
それを見透かしたかのように、相棒の背中を掴んでいるマルミミが落ち着いた口調で話しかけてきた。
「怖いかい…?息も荒いし『心拍数』が上がってる」
「『何をされたのか判らない』『自分がコイツらに勝てるか判らない』―――『判らない』ことは『恐怖』を呼び込む」
「ひぃぃえっいぇぇあっ―――――」
空中で足をバタバタと振りながら、意味を成さない呻きが漏れた。
「あっあ〜!そんなに怖がらんでも殺しはせんよ。今後一切『虐殺』をやめて、『マターリ』と暮らせ。そうすれば危害を加えないでやろう」
「はっ…はははははははいっ!!誓ってもう『虐殺』なんかはいたしません!『ナイフ』も捨てますっ!だからぁっ!」
 声の裏に隠された威圧感に、がくがくと震えながら首を縦に振る。
「このしぃは預かるぞ。早急に手当てをせにゃならん」
そう言うと、掴んでいた手を離して血だらけのしぃをひょいと担ぎ上げた。
 マルミミも捨てられた『ナイフ』を拾い上げて、使えないように刃をへし折る。
何の『警戒』もせずに後ろを向けて、二人は大通りへと歩き出した。
                                ・ ・ ・ ・ ・
 その背中をみて、男達の恐怖に歪んでいた表情が獰猛な笑みへと変わった。
靴の裏に隠しておいた小振りのナイフを取り出し、逆手に構える。
相棒と目配せし、タイミングを計る。
(―――――劣等種の丸耳が。とんだ甘ちゃんだ!下らない情け。下らない慈悲そんなモンたった一本の『ナイフ』にも値しないことを教えてやるこの劣等種の奇形の糞耳共ォッ!!!)
   一…二…三ッ!
「てめぇぁ―――――――――ッ!!!!」
 心地よい重みを感じ、たった二歩で少年と老人の背中にそれぞれナイフを振り下ろし、振り抜いて―――――
                          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
完全に死角から放たれたはずの一撃は、まるで最初から見抜かれていたかのように二人に受け止められた。
            ・ ・ ・ ・ ・ ・
「―――――僕に嘘は通じない。僕がお前の便所コオロギの糞にも劣る『心』を見抜けないとでも思ったのかい?」
                     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・
「あっあ〜…案ずるな。最初も今も殺す気は無い。殺す気は、な」
 老人の掌が相棒の『頭部』を包み、自らの『胸』に連続した軽い衝撃を感じ―――――



 男達の意識は闇に塗りつぶされた。

140丸耳達のビート:2003/11/18(火) 22:33
「一応『救急車』は呼んでおくよ」
「『正義』も、『罪悪』も、『信念』も、『理由』すらなく…何故じゃろうな…」
そう呟くと、女性に振動を与えないよう、静かに家に向けて走り始めた。
「マルミミ。『戦争』の話をしてやった事があったじゃろ?」
女性をおぶったまま、僅かな哀愁を込めて言う。
「うん。小さい頃だけどね」
「儂は結局死に損なった訳じゃが…あんな輩を見ると『戦友』達が不憫でならんよ。儂らはあんな輩の為に命をかけたわけでは無いのに…のぉ」
「・・・・・・・」
 マルミミは何も言わない。老人の言葉に、ただ耳を傾けるだけ。
                 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
茂名は最近こう思う。何か得体の知れない空気のようなモノがこの世に充満していて、
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
名もないそいつらが人間を狂気に導いているのではないか―――と。
                                          ・ ・
その言葉はやけに抽象的でありながら実感を伴って茂名の心に思い澱みを形作っていた。
「何故じゃろうな―――」

何も知らないまま、彼等は走る。
慈悲無き運命の狭間で、行き着く先も判らぬまま。
一寸先も見えない闇で、彼等は何を視るのだろうか。
答えは誰も、判らない――――――――




  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

141新手のスタンド使い:2003/11/18(火) 22:40
アアンコピーペミスッ。 つД`)
脳内補正お願いします。

142新手のスタンド使い:2003/11/18(火) 23:22
乙です!

143N2:2003/11/19(水) 00:08
見てみたら作品ラッシュだー!!
皆さん、乙です!
今のオレの小説のパワーは「恋人」並になってきとる…。

144ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/19(水) 17:06
>>143
「恋人」並=最も恐ろしい

145新手のスタンド使い:2003/11/19(水) 22:42

合言葉はwell kill them!その②―Runner 前編

はあ・・・・、はあ・・・・・、
俺の名前はアヒャ。この前「矢の男」にスタンド使いの素質と言う物を
引き出され、めでたくスタンド使いになった。
今、俺はある男を追っている。いや、追う羽目になった。
その男と言っても年齢は俺より下ぐらいの糞餓鬼なのだが・・・。

事の始まりは40分ぐらい前に遡る。
「ふう、やっと詰め替え作業が終わったよ。」
その時間俺は部屋に篭ってある事に専念していた。まあお世辞には綺麗とは言い難い部屋ですが。
壁は所々剥れていて、ポスターとナイフが刺さったダーツの的が掛けてあり、
床にはお気に入りの漫画や小説、MDプレイヤーとプレステ2がでんと置いてある。
こんな部屋でも窓からの景色はよく。高台の上の墓地が夕日に照らされている時が俺のお気に入りだ。

「おーい。アヒャは居るかー?」
部屋に入ってきたのは俺の兄貴、ネオ麦茶。野球部に所属している。
「居ますけど何かー?」
「今お前暇か?ちょっと行って貰いたいとこが在るんだけど。」
はあ、またかよ。野暮用でどっかいくんだったら人に頼まず自分で行けよ!
「どんな用事?」
「まず郵便局でこの手紙を出してきてくれ。後もう一つがこの本を買って来る事。」
兄貴は俺の目の前でチラシを見せた。
「『どすこい超常現象』何この本!?」
「いやいや、『どんとこい超常現象』だから。皆が今売れてるから買いだって言っててさ。
 それにしてもお前何してたんだ?」
兄貴は机の上にあった大量の血液パックと御煎餅が入っていた空き缶。そして
田舎でよく見る背負い籠を見て言った。
「ああ、俺のスタンドは何か『血液』を媒体にしないと出れないらしくてさ、
 近所の総合病院からパック詰めのをかっぱらって来たんだ。で、この空き缶に
 入れて血を保存しておこうとしたら、丁度いい入れ物が無かった。で、この田舎の爺ちゃんがくれた
 籠の登場ってわけ。」
「なーんかややこしいな。とりあえず後で駄賃やるから行って来い。俺の財布を
 あずとくから。」
「はいはい、ブラジャー(古いなこのギャグ。)」

146新手のスタンド使い:2003/11/19(水) 22:49
>誇り高き愚者ボロギコ
敵が自分の能力ばらし杉だと思います

147新手のスタンド使い:2003/11/19(水) 23:01

「で、手紙出しの任務は完了。後、何の本買う予定だっけ?
 たしか『どすこい超常現象』・・・・。」
「マスター。ソレ違イマスヨ!俺ガ聞イタノハタシカ『ドボルザーク超常現象』
 ダッタハズッスヨ。」
アヒャは動きやすさの実験も兼ねて、空き缶入りの背負い籠を背負っていた。
その空き缶の口からアヒャのスタンド、ブラッドが顔をのぞかせている。
二人とも・・・。何度も言ってるけど、『どんとこい超常現象』だから・・・。
いい加減覚えてくれよ。ブラッド、なんでドボルザークなんだよ・・。
二人は雑談しながら本屋へと向かった。
「あったあった。この本か・・・。」
アヒャがそう言って会計のため懐から財布を取り出したときだった。

ヒュン!

「あれ?財布が消えた・・・。」
「マ、マスター。アレアレ・・・。」
ブラッドが指差した方向を見ると。一人の餓鬼が走っていた。
手にはアヒャの財布を持っている。 スリだ。
「・・・・あんの餓鬼!店から出てきた瞬間にスリやがったな!追いかけるぞ!」
「了解!」
二人は全速力で走り始めた。手にあの本を持ったまま・・・。
「お、お客さん!お勘定ー!」
店の主人の声など届く筈もない。
「丁度いい。俺の相棒の能力、試してみますか!」


  /└────────┬┐
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148新手のスタンド使い:2003/11/19(水) 23:02
親にパソ規制されてるので後編はいつ貼れんのか分かりません。
つД`)アアン・・。

149_| ̄|○。o〇(102:2003/11/20(木) 02:17
「・・・まだ3時か」仕事にもまだ早い・・・だがこれ以上寝ているのもったいないような気がした。
まだ寝ようとする体と起こしてひとまず外に出た。
大したものは何も無い、普通の町並み。普通の中で一人だけ異常な俺。
人が避けて通っていく普通にももう慣れた。むしろ今では避けられなかった時のことすら思い出せない。
俺はただひたすら行きつけのBarへ向かった。
「ぃらっしゃ・・・なんだ、あんたかょぅ。」 ・・・客をあんた呼ばわりとはいい度胸だ。
「ぃぃかげんツケはらってくれょぅ。」 「まぁ・・・そんな細かいこと言うな、俺とマスターの仲じゃないか。」
「あんたがうちの店に来て一週間もたってなぃょぅ!」 「マスター、ダイキリお願い。」
「・・・ょぅ」
俺だって払えるなら払ってる。しかし金が無い。食うに困るのにツケなど払っている余裕などまったくをもって無い。
他のギコ種はもっと働き場所があるというのに・・・
俺に出来る仕事と言ったら今やっている深夜の肉体労働ぐらいのもんだろう。
この片耳を失った俺には・・・
この俺が対人の仕事が出来ることは皆無に近い、ただ耳が無いだけで。
Z武のように同情を集めるにも耳だけでは足りないだろう。
「・・・中途半端になっちまったもんだ・・・」
無言で出されたダイキリを流し込んだ。空きっ腹にアルコールが浸み込む。残ったのはグラスと空腹感だけだった。
「ありがとよマスター、またな。」「代金払ってけょぅ!」
「出世払いで、」「・・・・・・・・ょぅ。」
マスターの睨みを背中に受け、俺は家へ向かった。
行きと変わらない道のりだった。ただ背中に衝撃が走ったことを除けば。
「なッ・・・!」何が起こったのかさっぱりだった。背中に激痛が走る。
通り魔に襲われて死ぬとはなんとも情けない・・・死ぬとはこんなものか・・・
「おめでとう、片耳のギコ君。これで君もスタンド使いだ。」
・・・言い返す言葉はいくつも出てきたが俺に返せる言葉はなかった・・・

150_| ̄|○。o〇(102:2003/11/20(木) 02:20

「・・・コさん・・・ギコさん」

やかましい声で目が覚めた。・・・最悪の気分だ。
なんで俺の部屋に人がいるんだよ・・・耳障りだからさわぐんじゃねぇよ・・・
重い瞼を開けたその先にはいつもとは違う冷たいコンクリートの天井があった。

「ギコさん、しっかりしてくださいよ。」
どうやらこいつがやかましい声の正体らしい。
「聞こえてますか?ギコさん」「あぁ・・・聞こえてるよ。」
辺りを見回すとどうやら病院らしい・・・うるさい声の持ち主は看護師の格好をしていた。
あぁ・・・そういや俺は通り魔にやられたんだっけ・・・助かるとはまた中途半端な・・・
「まったくもう・・・自分に合ったお酒の量ぐらい理解しておいてください!」
「・・・はぁ?」なんで酒を飲むと通り魔にやられるんだ?
「あなたは急性アルコール中毒で道端でぶっ倒れてる所を助けられたんです!!」
「な・・・ちょっと待て、背中の傷は?何かに刺されて倒れてたんだぞ。俺は」
「誰の背中に傷かあるんですか!?まったく酒飲みはいっつもそうやって言い訳ばっかり・・・」
なんつー強烈な女だ。それはともかく・・・傷が無い?ありえないだろ、そんな事。
恐る恐る衝撃のあった場所にに触れてみた。・・・いつもの背中だ。
「ど・・・どういう事だ?」
「と・に・か・く、これからは飲酒も適度にしてくださいね!分かりましたか!?」
「ぁ・・・・・あぁ。」


最初から出てくまで終始騒がしい女だ。
しかし・・・なぜ傷が無い?まさか本当に酔って感じた幻想だったのか?
「どうやら何もお分かりでないようだ・・・ククク」
声?まだ誰かいるのか?
「もう戻れない・・・いままでの日常とおさらばするがいいサァ」
いた・・・今まで見たこと無い・・・奇妙な・・・猿?人?青毛の獣人のような外見・・・
「なんなんだ!?お前は!!」
「俺は俺サァ・・・それ以外の何者でもない。」
「病院で騒ぐな!!!」
やかましい看護師が鬼の形相で入ってきた。
「おぃ!お前、これはなんだよ!?」「な・・・お前って、私にはしぃってちゃんとした名前が・・・それにッ」
「あんたが指差してるとこには何も無いわよ!!!」
・・・嘘だろ?そんな・・・
「あれには見えないよォ・・・選ばれた者じゃないから。ククク」
・・・まだ幻想の中にいるのか・・・今日は厄日だな・・・

151_| ̄|○。o〇(102:2003/11/20(木) 02:42
以上・・・覚醒編でした・・・_| ̄|○もぅダメポですね・・・
上の間取りし忘れたし_| ̄|○文が厨なのが一番痛・・・

んで登場人物説明・・・

片耳ギコ・・・幼児期に事故で両親と片耳を失ったギコ種。
      2年前まで孤児院にいたが不況で潰れる。
      基本的にクール。そして激情。人並みはずれた適応能力があり
      どんな所でもすぐに馴染む。

看護師しぃ・・・片耳ギコ宅の近所の病院にいる看護士。
       某先生スレや教授スレのしぃのように
       性格は男勝り、凶暴、姉御肌。

青猿・・・某小説からのパクリ。性格は陰湿、非情、狡猾。

_| ̄|○コイツさんとかあんま先生とかもだしたいなぁ・・・

152:2003/11/20(木) 20:26

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その3」


『矢の男』は去っていった。
立ち込めていた不気味な気配も嘘のように消えてしまった。
「なんで逃げたモナ? ヤツの方が有利だったはずなのに…」
リナーは日本刀やサブマシンガンを拾って、服の中に収めている。
「私達のスタンドや戦闘能力を試していたようだったな」
「試してた…!? その割には、殺す気マンマンだったモナよ?」
「こちらが死んでもいいくらいの気持ちだったんだろう」
確かにそうだ。
向こうは、明らかに手を抜いていた。
奴のスタンド能力、単なる瞬間移動だとは思えない。
もっと奥深い何かだ。
おそらく、あれは能力の応用に過ぎない…
奴の余裕さから、そんな事を感じた。
ふと見ると、リナーは肩膝をついていた。息も荒い。
「リナー! やっぱり、さっきの傷が…」
俺はリナーに駆け寄った。
「いや、大丈夫だ」
「でも、あんな威力の攻撃を受けて…」
「これは、さっきの打撃とは関係ない」
リナーは立ち上がった。
もう、苦しみの表情は消えている。
「それより、奴は君の事を未来予知型のスタンドと言っていたが?」
そうだ、リナーには俺のスタンドについて何も言っていなかった。
俺は、夢の中でもう一人の俺から受けた説明を繰り返した。
「楽園の外を視る力…『アウト・オブ・エデン』か…」
リナーは怪訝そうな顔をした。
「解せないな。能力が強すぎてヴィジョンが維持できないという事だが…
 そこまで強力とは思えない。実質、感覚補助に近い能力なのにな…」
「モナも、アイツの言動を100%信じている訳じゃないモナ…」
アイツは、俺の中に17年も潜み続けてきたのだ。
俺を騙すくらい朝飯前だろう。
「そして、確かにヴァチカンの名を出したんだな…?」
リナーは言った。
物覚えの悪い俺だが、アイツの言葉は覚えている。

『このスタンドは…ヴィジョンを持たないタイプだ。
 スタンドパワーは全て能力に傾けられているのだな。故に、ヴィジョンを維持できない。
 このスタンドを、ヴァチカンの連中はこう呼んだ…
 楽園の外を視る力…『アウト・オブ・エデン』 』

確かにこう言った。
「…」
何やら、リナーは下を向いて押し黙っている。
「何を考え込んでいるモナ?」
リナーは視線を上げた。
「君と私の出会いが本当に偶然なのか、と思ってな…」
「モナを疑ってるモナ?」
たちまち不安になる。
リナーに拒絶されたら、俺は…
「いや、君を疑っている訳ではない。君が黒幕なら、さっきのような話は何の得にもならんしな」
俺は胸を撫で下ろした。
そして、撫で下ろしついでに聞いた。
「リナーのスタンドって、どんな能力モナ?」
能力を容易くバラすのは三流。
聞いたところで、教えてくれるはずがないが。

「スタンド名は『エンジェル・ダスト』。私の体内を循環している液体状のスタンドだ」
…なんと、あっさりと答えてくれた。
リナーは戦闘者として三流だったのか?
俺のスタンド能力を教えたから、自分も律儀にバラしているのか?
驚く俺を尻目に、リナーの説明は続く。
「能力は、液体の『流れ』を操ること。だが、その力も射程も極めて低い。
 影響を及ぼせるのは、私の体内か、直接手で触れた箇所くらいだな。
 君の怪我の治癒を促進させたのも、この能力を応用したものだ」
なるほど。
別に、治療のための目的ではないのか。
「戦闘時には、脳内物質の分泌を自分でコントロールできる。アドレナリンやエンドルフィンなどだな。
 これによって、常人以上の身体能力を発揮できる」
だから、『矢の男』と戦ったときの動きは普通の人間の動きを凌駕していたのか。
「弱点は… 対スタンド使い戦では、本体を狙う以外に攻撃方法がない事だな」
そう、まさにさっきの戦いだ。
…リナーが容易く能力を説明した理由が分かった。
能力を知られても、いっさい影響がないからだ。
さらに、リナーはスタンド能力に頼ってはいない。
それどころか、どこか能力を嫌悪しているような…
別に、卑怯でもなければ周囲の害にもならない能力である。
俺の気のせいだろうか。

153:2003/11/20(木) 20:27

まだ質問はある。
「さっきのヤツは何モナ?」
『矢の男』に余りにも酷似している。
だが、『矢の男』はあくまで創作上の人物のはず。
リナーは少し考えて口を開いた。
「ASAの調査では、この町にはスタンド使いは存在しないはず。君がスタンド能力に目覚めたのも最近だしな。
 しかも、あの強力さ… ASAの脅威分布を適用するなら、間違いなくランクS。
 ただちに懐柔あるいは抹殺が必要なレベルだ。『空想具現化』の産物とみて間違いないな」
空想…具現化…?
創作上の人物、『矢の男』。
何だろう、この奇妙な符合は。
「その『空想具現化』ってのは、漫画のキャラでも問題ないモナ?」
「条件さえクリアされれば、創作上の人物が具現化されてもおかしくないが… 何か心当たりでもあるのか?」
俺は、『矢の男』に関する説明をした。
「なるほど。あれも、殺人者としての一つのカタチか。あれも当たりだな」
リナーは納得したようだ。
もう、俺だけ何も知らないのはたくさんだ。
「リナー!!モナにもこの町に潜む脅威ってやつを説明してほしいモナ!
 モナもスタンド使いだし、戻れないところまで踏み込んでしまったモナ!」
「戦闘中に腰を抜かしていた人間がよく言う…」
もっともだ。
返す言葉もない。
「リナーを守る」と言っておいて、肝心な時に腰を抜かし、守る対象に助けられるとは…
しかし、リナーは言った。
「しかし、今さら君をただの部外者と捉えるのは無理があるな…」
そして、リナーは語り出した。
「私は『教会』の指示で、あるスタンドを追っている。そのスタンドの名は『アルカディア』。
 『空想具現化』という強力な能力を持つ」
「? リナーは確か、吸血鬼を退治するのが仕事のはずモナ?」
そもそも、『教会』というのは吸血鬼を殲滅する機関のはず。
スタンド使いを相手にするのはお門違いではないだろうか?
「『アルカディア』の本体は、約150年前に死んでいる。その本体は吸血鬼で、『教会』が始末した」
本体が死んでも、スタンドが残るなんて…そんな事がありえるのだろうか。
「スタンドというのは生命エネルギーのヴィジョンだ。その生命エネルギーは本体から供給されている。
 よって本体が息絶えた時、生命エネルギーの供給がストップし、スタンドも消滅する。…通常のスタンドならばな」
つまり、『アルカディア』とやらは通常のスタンドではなかったという事か。
「本体を替えるタイプのスタンドと、死んでから発動するタイプのスタンドが、その例外に位置する。
 前者の場合は、物質を拠り代にして、所有者を仮の本体にするというのが多い。
 また、特定条件で元の本体を殺して移動する、というスタンドも存在する。
 このタイプのスタンドは、大抵意思を持っている」
そして、仮の本体の生命エネルギーで活動するという訳か。
まるで、憑依霊だ。
「そして、死んでから発動するタイプ。これは極めて例が少ない。発動すると暴走状態になるようだが…
 これは、『アルカディア』には当てはまらない」
「ということは、『アルカディア』は本体を替えるタイプのスタンドモナね?」
「その通りだ」
リナーは頷いた。

154:2003/11/20(木) 20:28

「『アルカディア』の特殊なところは、本体を持たない状態でもある程度は行動できるという事だ。
 キャパシティの高い本体候補を探したり、制限を受けながらも能力を使用する事が可能だ」
でも、スタンドは生命エネルギーのヴィジョンとリナー自身が言ったはず。
生命エネルギーの供給がない状態でウロウロするのは、理屈に合わない。
「生命エネルギーといっても、その質は様々だ。先ほど述べた、死んだ後に発動するタイプのスタンドは、
 怨念のエネルギーで動いているらしい。これも、生命エネルギーの一つと言える」
俺は、話についていくだけで精一杯である。
「『アルカディア』は、希望・願望のエネルギーで動いている。
 そして、その生命エネルギーを活動源にする代替に、人々の希望や願望を実現する。
 『アルカディア』は、そういう特殊な行動システムを構築した。完全な自律行動型だ。
 それを可能にするのが、『空想具現化』。 …奴の能力だ」
人々の望みを叶えてくれるなら、善良なスタンドではないのか。
「じゃあ、モナが大金持ちになりたいという願望を抱いてたら…」
「無効だ。『アルカディア』も、そんな個人個人の願望を叶えるようなヒマなことはしない。
 それなら、短冊にでも書いておいたほうがまだマシだ」
自分の人間性の低さが露呈したようで、何となくしょんぼりした。
「奴は、多くの人間が同時に抱いた願望を実現させる。その方が生命エネルギーを集めるのに効率がいいからな。
 奴の手段は主に、噂の実現だ」
噂?
希望・願望とは別物のように思えるが…
「噂というのは、希望・願望と紙一重なんだ。特に、無意識での願望がクセモノだ。
 現に、今回の連続殺人事件。恐れられる一方で、センセーショナルに騒ぎ立てる連中も多い。
 犠牲者が出る度に、マスコミが興味本位で書き立てる。それを受け取る側も、心のどこかで事件の継続を願っている。
 これは、悪いことではないんだ。無自覚なんだからな。
 人間である以上、他人の不幸を楽しんだり、どこかで日常からの脱却を願っているのは仕方がない。
 その闇を、『アルカディア』は利用してくる…」
そうして、噂が実現する訳か…

155:2003/11/20(木) 20:29

「話を戻そう。仮の本体を持っていない状態では、そんな風に希望・願望を実現させて生命エネルギーを得ている。
 しかし、仮の本体を得た場合、その性質が変わる。
 馴染むには時間がかかるものの、そいつから生命エネルギーを吸い上げることが可能になるからな。
 その状態では、『空想具現化』は強力になり、自身の思考をそのまま具現化する事が可能になる。
 人格も『アルカディア』に乗っ取られ、仮の本体は奴の操り人形と化す。
 今はその状態には達していないはず。そうなる前に一刻も早く見つけ出し、消滅させないとな…」
そんな厄介で危険な奴が、この町に潜伏しているとは…
「そして、その能力のおこぼれを預かるためか、また混乱に乗じて暴れるためか、この町に多くの吸血鬼が集まってきている。
 『アルカディア』の元の本体は吸血鬼だったし、奴等の世界では有名なスタンドだ。
 そいつら有象無象の殲滅も、私の任務のうちだ」
なるほど。だからリナーはこの町に来たのか。
「そんな折り、連続殺人事件が起きた。人々は納得のいく殺人鬼像を予想し、口々に噂する。それらが具現化していき…」
「…殺人鬼の影が発生する、ってことモナね」
「『アルカディア』はこの町を混乱させたいのだから、殺人鬼の噂はまさにうってつけだ。
 もう一人の君は、私が来てから殺人をやめているようだが… こうなってしまうと、元の事件はもう関係ない。
 殺人鬼の影が殺人を繰り返し、それが噂になり、さらに殺人鬼の影が増殖して… 悪循環だ」
とんでもない脅威だ。
『アルカディア』の存在が、この町を壊滅に追い込む可能性もある。
しかも、もう一人の俺が起こした事件が発端だ。
俺の思いを察してか、リナーが言った。
「もっとも、あの事件がなくても結果は同じだ。ただのきっかけに過ぎない」
そうだ。割り切って考えよう。

「ところで、噂になったら、何でも実現するモナか?」
「基本的に制限はないが…あまりに無茶な噂や、奴に不利な噂は実現しないだろうな」
…そうか。
『アルカディア』は死にましたデマ作戦は早くもボツのようだ。
「で、リナーは『アルカディア』の居場所を探しているモナね…?」
「ああ。さっきの吸血鬼のセリフを覚えているか?」

『奴の居場所なんて、能力の性質を考えれば明らかじゃないか?
 「空想具現化」の力が存分に振るえる場所さ…!』

そう言っていた。
リナーは、俺の目を見据えて言った。
「そう。つまり、この町で一番噂が囁かれる場所だ」
噂といえば…近所のオバチャン?
俺の頭に、「井戸端会議」という言葉が思い浮かんだ。
そして、付随して浮かぶヴィジョン。

ここに隠れてると、いろんな人の
愚痴が聞けて楽しいYO。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

.        ∧_∧
.       ( ・∀・ )
        と,     つ
   ┌──┴‐‐‐┴‐─┐
   └┬─┬─┬─┬┘
     ├┬┴┬┴┬┤
     ├┴┬┴┬┴┤ww
   ⌒⌒ ̄ ̄ ̄⌒⌒ ̄  ⌒

「…井戸の中?」
「馬鹿か、君は」
リナーは心の底から蔑んだ目を寄越した。
「大体、この町のどこに井戸があるんだ? 何時代に生きてるんだ、君は?」
全くその通りだ。
「この町で一番噂が囁かれる場所。君がいつも通っている場所だ」
「…学校!?」
俺は驚きの声を上げた。
リナーは頷く。
何てことだ… そんな身近な場所に…
「まあ、まだ確定した訳ではないが」

156:2003/11/20(木) 20:30

さらに、今や脅威は『アルカディア』だけではない。
「で、あの『矢の男』も殺人鬼の影ということモナか…」
「そう。無差別にスタンド使いを増やそうとする、最悪の影だ」
あれも、殺人鬼の正体として噂になったのだろうか?
いや… 3日ほど前に学校で、連続殺人事件の話が出た時…

『まさか、矢のようなもので刺されていたとかはないモナ?』

…そんな馬鹿な。
冗談で言っただけだ。噂になったなどというレベルじゃない。

「一人の願望や希望なら、実現はしないってさっき言ったモナね」
「ああ」
リナーは頷く。
「それが『アルカディア』にとっても都合がいい願望なら違ってくるが。
 しかし、そういう都合のいい話が潜伏しているはずの奴の耳に入ったら、だが…」
そうか、なら関係ないはずだ。

リナーは、話を続けた。
「『矢の男』は、作中で目的が明かされていない。スタンド能力も不明。その状態で奴は具現化してしまった。
 奴は、目的を失い、ただ矢でスタンド使いを増やす空っぽの人格に過ぎない。
 いや、目的を失ったというのは違うな。目的はないんだ。具現化した時点で、目的が不明だったんだから。
 すなわち、具現化する要素からこそぎ落ちた。君の能力で『矢の男』を見た時の空虚感はこれが原因だ。
 奴はあくまで、作中のあの時点での『矢の男』の疑似人格なんだ」
目的を持たず、スタンド使いを増やす、という行動だけが具現化した存在…
それが、奴だ。
「だから奴は、スタンド使いは相手にしないんだ。奴にとっては増やすべき存在だからな。
 邪魔をされない限り、スタンド使いを殺すのは奴の行動論理に反する」
「モナ達、思いっきり邪魔をしてた気が…」
「君は腰を抜かして戦闘不能だったし、私は撤退を考えていた。だから奴も見逃したんだろう」
リナーは少し不機嫌そうだ。
やはりムカついているのだろう。
戦闘者としてのプライドってやつだ。
「とにかく、奴はただ矢で人を射抜くだけの存在と化している。犠牲者も増える一方だろう。
 この町に生きていてもいい存在じゃないな…」

このままだと、奴の矢での犠牲者は雪だるま式に増えていく。
その中に、ギコやしぃ、モララーやガナーがいないとは限らない。
断然ガッツが燃えてきた。
「よし、奴をやっつけるモナ!!」
「いや、無理だ」
リナーの冷たい返事。
俺はズッコケそうになった。
「あのスタンドは強力すぎる。何より、私は対スタンド戦は専門外なんでな」
「じゃあ、どうするモナ!?」
「おそらく、『矢の男』は… この国のスタンド対策局・公安五課では対応できない。
 ASAに連絡して、討伐隊の出動を要請する」

ASA?
さっきも聞いた気がする。
「ASAって何モナ?」
「Anti-Stand Association。人に仇を為すスタンド使いを抹殺する組織だ。
なるほど。
スタンドを悪事に使う連中がいる限り、抑止力が必要という事か。
リナーは話を続ける。
「吸血鬼の殲滅組織は、世界にただ一つ。『教会』だけだ。
 だが、スタンド使いに対する組織は世界中に散在する。各国にも対応部署が存在するし、私的な結社・財団も多い。
 古くは『自由石工』や『Rosen Creutzes』、最近では『スピードモナゴン財団』などだな。
 その中で、最も強力かつ武闘派の組織がASAだ」
当然だが、そんなものの存在は知らなかった。
その存在は、一般人には極秘中の極秘だったことは想像に難くない。
「スタンド使いは、吸血鬼と違って徒党を組むことが多い。
 例えば…スタンド使いで構成されたマフィアやテロリストだな。当然、警察の手には負えない。
 そして各国のスタンド使い対策部署でさえも手に負えない事件が起きた時、ASAの支援が要請される。
 完全に武力行使専門だ。皆殺し機関という点では、『教会』といい勝負だ」
そして、そのASAに『矢の男』の討伐を要請するのか。

「今、連絡したとして…明日の昼に到着、夜に討伐実行といったところか」
明日の夜!?
「遅すぎはしないモナか?」
「『空想具現化』の能力は、夜の間しか効果を発揮しない。今日はもうすぐ夜も明けるし、問題はない」
なるほど。そう言えば、本体はかって吸血鬼だったと聞いた。
ふと時計を見る。
午前五時。
明日は土曜日なので半日授業だが、学校があることに違いはない。
が、そんな事は大した問題じゃない。
討伐部隊を要請したといっても、事情だけ告げて「頑張ってね」では終わらないだろう。
俺もそれでは納得できない。
なにせ、奴に見逃してもらうという屈辱を味わっている。

…忙しい一日になりそうだ。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

157ダンボール </b><font color=#FF0000>(M.nd32Bk)</font><b>:2003/11/20(木) 22:02
乙ッ!!

158N2:2003/11/21(金) 00:50
小説スレ、かなり盛り上がってきましたね。
乙です。

>>144
じゃあ、『サバイバー』に変更します。(プッチとDIOの会話の「どっちが強い」レベルで)

159:2003/11/21(金) 21:12
                    (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
                    ( そろそろ人物紹介いるかな?
                 O  ( なんて言えないよなぁ…
               ο    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   /´ ̄(†)ヽ      。                       ∧_∧
_ ,゙-ノノノ))))) _∧_∧__                    (・∀・; )
  ノノ)ル,,゚ -゚ノi ( ;´∀`)                      /   /⌒ヽ
―/,ノくj_''(†)j l> (    )―┘、                  /⌒/⌒/ / |
‐―― く/_ハ_|ハゝ┐ ) )――┐                  (つ/_/ /\ |
      (_ノ_ノ  .(__ノ__ノ     |                (____/  ヽ
                                 _/ / /  \  丿
                   "~"    """  :::  (__( __ )  "~""  "~"
                """    :::          """

160新手のスタンド使い:2003/11/21(金) 21:24
>>N2
あのさ、こんなこと言える立場じゃないだろうけどそうやって自分を卑下する
コメントはしないほうがいいんじゃない?
本気で言っているなら「じゃあ投稿すんなよ」と思うし
謙遜だったとしても「『いやそんなことありませんよ』とでも言ってほしいの?」って
感じる人もいるだろうに。

161新手のスタンド使い:2003/11/21(金) 22:47
>>145より

合言葉はwell kill them!その③―Runner 後編


はあ・・・・、はあ・・・・・、
と、まあこんな事が起こったせいで俺は財布を盗った餓鬼を追いかけている。
しかし何かが引っかかる。どう見てもおかしい。
相手は俺より年下のチン毛も生えてなさそうなジュノンボーイ。
俺は奴より遥かに年期の入った高校生、それは事実だ。
ところがこの距離の差はどういうことだ?
本当だったらとっくに俺が餓鬼を捕まえているはずなのだ。
だが奴と俺の距離は縮むどころかだんだん広がっていく。
トリビアでもやっていたが、某金メダルランナーが一般人のスリに逃げられた(しかも餓鬼)
と言う事件は知っている。そう考えれば納得する。だが俺はどうしても納得できなかった。

「畜生!なんだってんだいったい!何でアイツは足が速いんだよ!」
「マスター、落チ着イタ方ガイイゼ。何ニデモ言エル事ダガ落チ着キヲ無クシタラ
 何ヲヤッテモウマクイカナイッスヨ」
そうだ、ここで奴を逃がしたら兄貴に何言われるか分かったもんじゃない。
ここは冷静に物事を見ることが大事だ。
ブラッドの言うように少し落ち着いて奴の行動を見てみた。
するとある事に気がついた。
「アイツ、よく見たら走っていない・・。『滑っている』んだ!」
奴はコンクリートの道路の上を、まるでスケートのようにして滑っていた。
「まさかアイツもスタンド使いじゃないか!?」
「ソノヨウッスネ。ケド地面ニハ何モ起コッテナイ。地面ヲ凍ラシテルンジャ無イナ・・。」
「あ!あの角をまがった。」
そこで奴に追いついた。天の助けと言うべきか、行き止まりになっていた。
「もう逃げ場はねーぞ。堪忍しな!」
だが、餓鬼はニヤッと笑うとこう言った
「バーカ!ここへ来たのはワザとだよ!」
そして餓鬼は壁に向かって走り出した。
次の光景に、俺は目を疑った

162N2:2003/11/21(金) 22:57
>>160
すいません…。
あれは、どちらかといえば洒落のつもりで言ったものですけど、
人に不快感を与えるような形になってしまいました。
皆さんにお詫び申し上げます。

163N2:2003/11/21(金) 23:02
>>161
割り込みしてしまい、すいません。
続きをどうぞ。

164新手のスタンド使い:2003/11/21(金) 23:11

「おいおい・・・。これって有りかよ。」
なんと餓鬼は壁を垂直に登り始めた。まるでお猿の次郎だ。
「これが俺の能力!摩擦をコントロールして滑って移動したり壁を登ったりできるんだ!
 お前にはできないだろ!やーい!」
餓鬼はどんどん壁を登って一番上までいくと消えた。
「きーーーーーー!憎たらしい糞餓鬼がぁ!とっ捕まえてぶっ潰す!」
「デモ見失ッチャッタデショ。」
「うっ!・・・鋭いなお前・・・。」
「トニカクドッカ辺リヲ見渡セル所ヘイコウ。ソウスレバミツカルカモ。」

俺たちは近くのマンションの屋上へ上がった。
ここからだと町が見渡せる。
「何処行きやがった糞餓鬼が・・・。」
「ア、イタ。」
ブラッドが指差す方を見ると、さっきの餓鬼が屋根の上を逃げていた。
やっぱり猿そっくりだ。
「どうする?何か策でもあんのか?」
「アルヨ。耳貸シテ。」

「ここまでくればあいつらも追ってこないだろう。さて、いくら入ってんのかな〜。」
餓鬼がアヒャから盗った財布を開けようとした時だった。
「まーてールパ〜ン!!!!」
後ろから聞き覚えのある声がした。
餓鬼が振り返ると・・・・。
ハンググライダーのような形になったブラッドにつかまったアヒャが屋上から飛んできた。
「げー!あいつあんな事もできるのか!?」
餓鬼はあんぐりと口を開けている。
「まさかお前がこんな事ができるとはな。アイツまでの距離が縮まったぜ!
 で、どうやって止まるの?」
「ナスガママ、運命二身ヲ任セル事。」
「へ?ブレーキとかって付いてないの?」
「コレダケハ言エル。無理。」
・・・・・・・・・
「悪いな・・・・。避けてくれえええええええええええ!!!!!」
「う、うわあああああああああああ!!!!!」
ドガシャアアアアン!ガラガラガラ!
メキメキ!ボキイ!!!!


シュウウウウウウウウ・・・・・。

165新手のスタンド使い:2003/11/21(金) 23:29

「あら、頼まれていた本いつの間にか持っていたよ。ま、いいか。」
「ソレヨリコイツドウスル?」
「ちっくしょう!もうちょっとだったのに!ウワアアアアン!」
「ま、コイツも怪我したし許してやるか。だけどお前何でこんな事したんだ?」
「家が貧乏だから少しでも父ちゃんと母ちゃんに楽させてやりたかったんだよー!」
「そうか、でもこんな事してお前の父ちゃんと母ちゃんは喜ぶか?折角もらったスタンドなんだから、
 もっといいことに使えよ。」
「分かったよ!ウワアアアアン!」
「さ、財布の中身が盗られてないかチェックしよっと。」
アヒャは自分の財布を振ってみた。

ちゃり〜ん
・・・・・・・・
「5円・・・・。お前抜いたか?」
「抜くわけねーだろ!」
「じゃあお前の所持金は?」

ちゃり〜ん
・・・・・・・
「7円・・・・俺のと合わせても12円か・・・・。」
ひゅううううう・・・・。
二人の間に北風が吹き荒れていた。

アヒャ――餓鬼と二人で駄菓子屋へ。後で分かったことだが、財布にはもともと
     5円しか入ってなかったらしい。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘



スタンド名・・・不明
本体・・・ウワアアン

摩擦力を操る。摩擦を0にすれば滑る事ができ、
最大にすれば壁も登れる。

このスタンド案の人、居ましたらこの名前とスターテスを・・・。

166新手のスタンド使い:2003/11/22(土) 14:55
>>165の最後に追加。

二人は何故12円だけで駄菓子屋へ行けたのか?答えは簡単。
協力してかっぱら・・・・ゴホッ!ゴホン!
仲が良くなり万引き仲間に。

所持金5円の件はただ単にネオ麦茶の手違い。

167誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:13
〜凶悪なスーパーボール1〜
その日は嵐だった。
前回の戦闘が終わった後、ボロギコは家を失った。
土手に広がった炎が彼の家をも巻き込んだのだ。
多少の雨風なら頭上の橋が防いでくれるが、風が伴う横殴りの雨となれば当然ぬれてしまう。
そこいらの人間よりははるかに抵抗力のあるボロギコでも、風邪を引くかもしれない。
薬や布団どころか家まで失ってしまったボロギコにとってそれは致命的なことだ。
ボロギコは雨を一時的にしのぐために、家が無かったころよく使っていた場所へ向かった。



新茂名王駅
地下鉄駅として建設されたこの駅は近隣の大都市、茂羅羅町への交通の便もよく多くの人が利用する。
一方、数年来の不況によって巻き起こったリストラの嵐により家を失ったものたちが集まっている場所でもあった。
S市はたびたび対策を練って入るのだが一向にその数は減らない。
ついには駅の一角はホームレス・ストリートと化してしまっているのだ。
雨風を逃れるためにボロギコが訪れたのはここだった。
「おお、ボロギコじゃねぇか」
ボロギコの姿を見るとすぐに一人の老人がボロギコに声をかけた
「や、じーさん。ちょっとした事故でね、家が燃えちまったんだ。しばらくここで雨風しのがせてくれねぇか?」
「おお、かまわねぇよ。何ならもうここに住んじまいなよ」
「へっ、勘弁してくれよ。市の浮浪者施設に入れられたらたまらんしね・・・」
「そうかい、おめぇさんがいると楽しいんだがなぁ」
老人は少々残念そうに、しかし孫のような年齢のボロギコと話せたからか何処か嬉しそうに喋った
「さて・・・土産に魚もってきたぜ、食うか?」
「ん・・・おお、ありがたい。ちょうど腹がへっとったとこだ」
「そうか、七輪はあるかい?」
「七輪はあるが炭が無いな・・・わしとお前さんだ、生でも問題なかろう」
「違いねぇ」
そういうと二人は生の魚を丸々食べ始める
談笑しながら魚を食べていると
バシィ
突如そんな音がした
他のホームレスたちの会話でうるさいここではよく聞こえなかったが、確かにそんな音がした
「ん・・・じーさん、今変な音しなかったか?」
「んー?きこえんかったぞ?」
「そうか・・・」
老人の発言を聞いて空耳かと思ったそのとき
バシィバシィ
今度は続けて、2度
それも先ほどより大きい音でだ
「・・・ジーさん今のは聞こえたろ?」
「あーん・・・なんもきこえんぞ」
ボロギコはとたんに不信感を抱いた
この老人は年こそとっているが難聴を起こしているわけでもない、地獄耳だとまで言われている人なのだ
ボロギコの脳裏にひとつの考えが浮かんだ
自分の不思議な能力・・・スタンド能力は普通の人間には見えないようだ・・・
では・・・今まで気にも留めなかったが・・・音はどうなのだろう?
スタンドの音というのは聞こえるものなのか?
もし聞こえないとしたら?
「まさか・・・こないだの奴の仲間か・・・?」
ボロギコがそう思った瞬間
「ギャァアアアアア!!」
突如通路を曲がった向こうから断末魔が響いた
「じーさん!俺少し見てくるわ!」
ボロギコはそういうと走り出した

168誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:15
〜凶悪なスーパーボール2〜
バシィバシィバシィ
音の間隔は徐々に早くなっている
ボロギコは角を曲がる
そこには
「うっぐ・・・・・」
体の一部に穴をあけられているものが数人倒れている
そしてその奥には
「ボール・・・?」
ひとつのボールが狭い通路の中であちこちバウンドしていたのだ
普通ボールが壁等にぶつかって跳ね返ると力が減って速度も落ちるはずだ
しかし、このボールは逆に壁にぶつかるたびに加速しているのだ
「・・・あのボールが敵のスタンドか?・・・おいあんた!あれが見えるか?」
ボロギコは倒れている男にを起こして問い掛けた
「あれ・・・?そんなことより・・・ここは異常だ、急に足がえぐられちまった・・・」
見えていない
ボロギコはあれがスタンドだと確信した
「・・・畜生、無差別に攻撃するスタンドか・・・なんて迷惑な野郎だ」
ボロギコは男を寝かすとボールのほうを向いて立ち上がった
きっとこのボールの本体はこの間の奴の仲間であろう。
次の敵がくることも十分予想できたはずだ。
なのに自分は顔見知りの多くいるここにきてしまった。
ボロギコは思った
「始末は自分でつけるッ!これ以上気傷つけさせはしない!!」
「近づくのはやばそうだが・・・あの程度の速度ならッ!俺のセパレート・ウェイズのエネルギー弾で安全に打ち落とせるッ!!」
ボロギコはスタンドを発現させるとボールが弾んでいる方向に指を向けた
セパレート・ウェイズの指が切り離され、エネルギー弾を形成する
「前回襲われてから少々訓練した・・・精度はは上がってるぜ!シュート・ヒムッ(狙撃)!!!」
セパレート・ウェイズのエネルギー弾はボールに向かって突っ込んでいく
ボロギコは生来サバイバルな生活を送っている、その中で生まれた天性の狙いは完璧だった
しかし
エネルギー弾がボールに直撃した瞬間
バシィ
壁にぶつかったときと同じ音がして、そのボールはエネルギー弾と同じ方向にすっ飛んでいったのだ
そして、反対側の通路の壁にぶつかり、バウンドして
「なにぃ!どこも傷ついていない!!俺のエネルギー弾にもバウンドしやがった!?」
先ほどの攻撃など暖簾に腕押し、柳に風といった感じで
元気いっぱいッボロギコのほうに飛んできたのだ
「ま・・・まずい!!」
ボロギコは間一髪それを避ける
「攻撃目標はそいつだ・・・バウンド・ドッグ」
ボロギコが来た角の奥から声がした
その声と同時に再びボロギコをめがけてバウンドしてきたのだ
「うおっ!!」
再びボロギコはそれを避ける
しかし、また壁に反射しボロギコに向かってくる
「はじけ!セパレート・ウェイズ」
ボロギコはスタンドにガードさせる
「十分な速さになったようだね・・・僕の名はトララー」
先ほどの声の男が角から姿をあらわす

169誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:16
〜凶悪なスーパーボール3〜
明らかにこのスタンドの本体だが、ボールを避けているボロギコは一瞬男のほうを見ただけだった
「うん・・・賢明だね、中には出てきた僕に気を取られて即死なんて馬鹿もいるから」
ボロギコの行動に少し嬉しそうにトララーは言う
「うん・・・僕のスタンド・・・バウンド・ドッグっていうんだけど・・・避けるの、だんだんつらくなってきただろ?」
「・・・・」
「徐々に加速してるのさ、最初はそれこそ幼児が投げたボールより遅いんだけどね」
「くっ・・・」
「でね・・・バウンド・ドッグは、有機物はえぐりとって無機物にに跳ね返るんだ・・・わかるかい?」
「スタンドで攻撃したとしてもバウンドしてダメージを受け流してしまう、かといってスタンドじゃなければスタンドは攻撃できない」
「・・・・・」
「そして!スタンドで防御するってことは跳ね返る上に拳のの動きの分だけ余計に加速させているんだよ・・・」
「・・・ぐあ」
ボールがボロギコのわき腹を掠める
「あはは、ちょっと食らったね・・・・いつまで避けられるのかな?」
「・・・有機物をえぐりとる」
ボロギコがつぶやいた
「ん?」
「ならてめぇがえぐりとられやがれ!ゴルァ!!」
バシィ
セパレート・ウェイズの拳がバウンド・ドッグのボールをトララーめがけて飛ぶようバウンドさせた
「てめぇのスタンドをくらいやがれ!例え解除したとしてもその瞬間ぶん殴ってやるぞゴルァ!!」
ボールがトララーに直撃する
バシィ
トララーに直撃したボールは跳ね返り速さを増してボロギコに突っ込む
「うぐぅあ!!」
ボールはボロギコの右足を掠めた
「ふふ・・・無駄さ、まだ説明してなかったけど僕のスタンドには二つのモードがある」
「ひとつはさっき無差別攻撃してたときみたいな無差別自動モード、・・・そして今の標的のみに向かっていく標的追尾モードだ」
「そしてこの近距離追尾がえぐりとるのは標的のみ・・・僕にぶつけようとしたって無駄、跳ね返るだけさ」
「そう、そして次に君のとる行動は『バウンド・ドッグをスタンドでつかもうとする』だ」
喋り終えるとトララーはボロギコを指差した
「なら・・・捕らえるまでだ・・・・はっ!?」
「そしてそれも無駄に終わる・・・」
バシィ
ボロギコの行動は完璧に予想されていた、ボールはセパレート・ウェイズが手を閉じるより先に跳ね返ったのだ
「さて・・・足を怪我した君はもうスタンドで防御し続けるしかすべは無い・・・このままならいつかは死ぬだろう」
「・・・・」
「しかし僕は早く帰りたい、大好きな野球中継が始まってしまうからなぁ。そこでだ・・・私もこの拳銃で攻撃するとしよう」
「!?」
そういうとトララーは銃口をボロギコに向けた
「君の近距離パワー型スタンドならこの銃弾ぐらい防げるだろう・・・しかし、防御もままならない私のスタンドと同時ではどうかな?」
「う・・・てめぇ」
「野球中継まであと30分・・・十分間に合うかな」
そういうとトララーは連続で引き金を引いた

駅には銃声が木霊する・・・

170誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:17
〜凶悪なスーパーボール4〜
「ふふ・・・終わったな・・・」
トララーは倒れているボロギコを見下しながらつぶやいた
「さて・・・スタンドを戻して帰るとするか」
トララーはあたりを見回した
「ん・・・!?私のスタンドが・・・ない!?ばかな!まだ標的追尾モードは解除していない!この場からなくなるなんてありえない!」
「ふふふふふ」
倒れているボロギコから笑い声がする
「きさま・・・生きている!?」
「はまったな・・・・」
そういいながらボロギコはゆっくり起き上がる
「どうやって・・・いや、バウンド・ドッグはどこに!?」
「てめぇのスタンドは・・・あそこだ」
ボロギコが指差した先、それは空気供給のダクトッ!
ボロギコはまず、バウンド・ドッグの軌道を読んでその方向にセパレート・ウェイズを発射!空気供給ダクトに穴をあけるッ!!
そしてできた穴にバウンド・ドッグが入り込むと同時に別の部品で蓋をするッ!
これで!無機物に反射する、すなわち有機物以外破壊できないスタンド、バウンド・ドックを閉じ込めることに成功したのだッ!!
「とはいえ・・・銃弾が脳天にあたればアウトだからな・・・やばい賭けではあったぜ・・・」
「ぐぅううううう!!」
スタンドを使用不能に追い込まれたトララーはうめき声をあげる
「そうッ!そして次にてめーのとる行動は『じーさんに銃を突きつけて人質にする』だ!!」
ボロギコがトララーを指差す
「う・・・うごくなぁー!!このじじい撃ち殺すぞ!!・・・はっ!?」
「そしてそれも無駄に終わる・・・」
「うぐあ・・・」
ボロギコがそういうと同時にトララーの腕が打ちぬかれ、銃は床に落ちる
「こっちにくる前に、じーさんのことを考えてセパレート・ウェイズの一部をエネルギー化してじーさんの肩に張り付けておいた」
「ボロギコ・・・」
老人がボロギコを見て言う
「じーさん、もう安心していいぜ・・・さて・・・トララーだっけ?」
「ひ・・・ひぃいいいいい!!」
ボロギコのどすの利いた声にトララーはおびえ逃げようとする
「逃げるんじゃねぇ!!」
セパレートウェイズが残った左腕を飛ばして壁に押さえつける
「やめろ・・・やめてくれ・・・・」
「無差別攻撃・・・人質・・・さらには戦闘中さんざんこけにしやがって・・・許してもらえると思ってんのかゴルァ!!」
両腕の無いセパレート・ウェイズはとび上がり
「ゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
トララーに連続してけりを食らわせ
「セパレート・ウェイズ!!」
トララーを押さえつけていた左腕がエネルギー化して発射されるッ!!
「オゴァアアアアアアアア!!」
零距離でエネルギー弾を食らったトララーは壁の奥深くにめり込んだ
「二度と弾めないよう・・・そこで貼り付けになってやがれ」


ボロギコ→病院で銃弾摘出、治療費払えず借金を背負う
老人→変わらず
トララー→再起不能

171誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:17
スタンド名 バウンド・ドッグ
本体    トララー
破壊力 E(有機物に対してのみA) スピード E〜∞(バウンドの数に対応) 射程距離 A
持続力 A            精密動作性 D             成長性 E
能力
野球ボールぐらいの大きさと形をしたスタンド。
有機物にぶつかるとそれをえぐりとり、無機物にぶつかるとバウンドし速度が上がる。
なおこのスタンドには二つのモードがある。
1、無差別自動モード:有機物ならば人だろうが生ごみだろうがえぐりとる。バウンドの仕方は、物理法則にのっとる。
2、標的追尾モード:本体が標的を視認すれば設定可能。このときえぐりとるのは標的のみで、他の有機物にあたっても
  バウンドする。バウンドの仕方は物理法則を無視して標的に向かっていく。

172誇り高き愚者ボロギコ:2003/11/23(日) 18:19
前回、指摘してもらった点を注意して書いてみたつもりです。
直しきれていないところ、新しい注意点などありましたら教えてください

173新手のスタンド使い:2003/11/23(日) 21:23
乙!ところで小説で小ネタはありでしたっけ?

174N2:2003/11/23(日) 21:59
>>173
大丈夫だと思います。

175N2:2003/11/23(日) 22:01

 忍び寄る狂気の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その①)

 あの町外れの倉庫から歩いて約30分の所にある、新茂名王駅。
 もちろん、到底大都市にあるものとは比較出来ないが、それでも地方駅にしては随分大きくて贅沢な造りの駅だ。
 そのすぐ近くにあるハンバーガーショップ、「マクドメルド」に2人はやって来た。



 「いらっしゃいませー!」店員が笑顔であいさつをする。
 「ああ、悪いけどいつものお願いできる?」青年は、慣れたように彼女に話し掛ける。
 恐らく、彼はこの店に顔が利く位通い詰めているのだろう。
 …不健康極まりない。
 「分かりましたー。…ところで、後ろの方は…?」見慣れぬ男の存在に、彼女は首を傾げた。
 「ああ、この人?まあ、俺のちょっとした知り合いってところ」
 「そうなんだ…。あ、失礼しました。それでは、後ろの方は何になさいますか?」
 「…彼と同じで構わん」
 こんな所で食事するのは初めてのことだ。
 未知のメニューに多少の恐れを感じつつも、モ蔵は青年の感性を信じることにした。

 「…さてと、それではまずお互いに自己紹介でもしましょうか?」窓際の席に着いてすぐに、青年はこう切り出した。
 「…別に何だろうと構わんが…」
 「俺は初代モナー。この町で生まれ育った、生粋の茂名王人だ。
 今はバイトしながらアパートで暮らしてる。いわゆる『フリーター』ってやつだな」
 …最初に青年に話し掛けられた時から、モ蔵はある疑問を感じていた。
 この青年、初代モナー族にしては、言葉遣いが悪い。
 もっと初代モナー族というのは落ち着きがあって、人格も成熟しているものではないのか?
 それなのに彼は…どう考えてもそこら辺でプラプラしている若者達と同じに見えてしまう。
 「で、おっさんはなんて名前なんだい?」
 「私の名はモナ本モ蔵。…その道では名の知れた、暗殺者だ」
 「…っヒュー、御冗談がきついなあ」
 「決して冗談などではない」
 強い口調と眼つきに、青年はそれが単なる冗談ではないと察した。
 「…俺、ひょっとしてもの凄ーくヤバいことしちまったのか?」
 「…かもな」
 どことなく青年の眼が自分を怖れているのが分かる。
 そうモ蔵は考えたが、彼がその気まずい状況を打破しようとする前に青年の方が口を開いた。
 「けど、じゃあ何で『暗殺者』さんが町外れで寝っ転がっていたんだい?」
 「…私は、本当にあそこでただ眠っていただけなのか…?」
 思わず、質問に質問で答えてしまった。
 相手が相手なら感情を逆撫でしているところだ。
 「いや…何でそんなことを聞くんだ?」
 「いいから教えてくれ」
 「…別に、ただ倉庫の壁に寄っ掛かって寝てただけだよ。自分でもそんな事が分からないのか?」
 「…いや、それなら別に、それでいい…」
 青年は、どうやらモ蔵が昨晩どの様な状況にあったのか、本当に知らないらしい。
 それならばそちらの方が都合が良い。無意味にあの男の存在を知ってしまう位なら、全く知らないよりも余程ましというものだ。
 「…ははーん、ひょっとしておっさん、記憶喪失か!」
 「何ッ!?私は決してそのような…!」突然の予想だにしなかった言葉に、思わず大声を上げてしまう。
 周囲の冷ややかな視線が突き刺さる。
 「ハッハハ、冗談冗談。もしそうだったら、そんなに口調がはっきりとはしてないだろ」
 「……」随分とお調子者である。時と場合によっては、切り捨てていたかも知れない。
 「で、話は戻るが何であんな所で寝てたんだ?」
 「…私はこの町に、ある男を暗殺しにやって来た。しかし何分急ぎだったもので、宿の手配など全くしていなかったのだ。
 そこで已むを得ず、あのようなへんぴな場所で野宿した、ということだ」
 あの男のことに触れぬよう、私は嘘を付いた。
 あるいは惨めな敗北の事実を曝け出したくなかったからかも知れない。
 「………へぇ〜。随分呑気な暗殺者さんだな」テーブルを叩く仕草をしながら、青年は返事をした。
 かえって見下されてしまったようだが、これも青年の為だ。
 「お待たせしましたー。ビッグマック2つとマックシェイク2つ、お持ちしましたー」
 2人の話に割り込むように、店員が我々の朝食を運んで来た。
 「んじゃおっさん、雑談は一時中断して、朝食を頂くとしますか」

176N2:2003/11/23(日) 22:02

 「ところでおっさん、これから一体どうするんだい?」
 想像していたよりも遥かに大きなサイズであるハンバーガーを頬張りながら、青年が不意に質問してきた。
 「…その男を始末する」
 「あー、そうじゃなくて、これから泊まる宿とかってどうすんの、って意味。さっき宿の手配はしてないって言ってたからさ」
 「全く考えていない」不意を衝かれた質問の内容だったが、即答した。本当に考えていないのだ。
 「んじゃあさ…、これから俺の家に泊まるってのはどうだい?」
 「何!?」更に想像もしなかった返事に、今度は驚きの声を上げてしまった。
 再び周囲の冷ややかな視線が突き刺さる。
 「別に、悪くない話だろ。決して部屋は広くないけど、2人で暮らすには十分だと思うぞ」
 確かに悪くない話だ。これから何ヶ月もこの町に滞在するとなると、宿代も馬鹿にならない。
 それなりのホテルを借りるとすれば、相当な金額になる。この青年の誘いは、乗るのに十分な内容である。
 しかし、そうもいかない。
 「いや、お主の誘いは有り難いのだが…、しかし悪いが断らせて貰う」
 「え、そりゃ何で…?」
 「私は、こう言うと自慢に聞こえるかも知れないが、この業界ではかなり名が知れている。
 恐らくはもう裏の世界の者達には私がこの町に来たことが知れてしまっているだろう。
 となると、無関係なお主の家に宿借りするということはお主の身にも危険が及びかねない。だから、折角だがその誘いは断らせて貰う」
 事実、これは本当のことであった。
 暗殺の依頼が届き、その者の下へと向かう途中、全く無関係の賞金稼ぎから命を狙われたことは何度かあった。
 しかも今回はそれだけではない。私が生きていることを知れば、奴は必ずや私に刺客を差し向けるであろう(そしてこれもすぐに現実のものとなるのだが)。
 ここで青年を巻き込んではいけない。
 「大丈夫だって、俺だってこれでも色んなスポーツとか武術とか習ってきたんだぞ」そんなモ蔵の思いをよそに、青年は自信満々の表情でこう答えた。
 「馬鹿言うな、暗殺者は並の武術が通用する者のことを指しているのではないのだぞ」
 たかだか趣味の運動で暗殺者が撃退出来るなら、皆が暗殺者である。
 「平気平気、それにおっさんだってどっかの公園で寝てる方がよっぽど危険だろ?」
 「まあ、確かにな…」実際、野宿している時に遠くから狙撃されて危うく死にかけた経験がある。
 「よし、それじゃあ決まりだ!これを食い終わったら早速案内するよ」
 ここまで言われるともう断りきれない。もうこうなったら彼が巻き添えを喰らっても自分を家に招きいれた彼の自己責任として片付けるしかない。
 レジで清算を済ませ、モ蔵は青年の案内するがままについて行った。

177N2:2003/11/23(日) 22:02

 「ここが、俺の家だ」
 青年が住むのは、築20年以上と思しきアパートであった。
 外壁にはツタが這い登り、その古めかしさがより一層強く見える。
 丁度灯篭なんとかとか、いちご云々とか、何々川とかいう曲の流行った頃には多くの若者が生活していたのだろうか。
 建物に入ると、そこはかなり年代を感じさせる空間であった。
 古びて薄っすらとひびの入ったコンクリート作りの廊下。
 廊下に剥きだしになった共用の男子便所。
 この携帯電話の流行る時勢にはほとんど需要の無いピンクの公衆電話。
 天井からは電球がぶら下がり、窓からは隣を流れるドブ川が見える。
 …まさしく、オンボロアパートと呼ぶに相応しい。
 「で、ここが俺の部屋だ」
 狭い廊下を歩いた突き当たりにあるドアを潜ると、そこは畳張りの狭苦しい部屋であった。
 男一人が住んでいるにしては割と片付いている。
 「さてと、じゃあ早速家事の役割分担でもするか。おっさんは何かやりたいもんでもある?」
 「…特にそんな物はないが…」
 「じゃあ適当に割り振るけど、別にいいかい?」
 「構わん」
 そうして青年が部屋にあるチラシの裏に書いたのが、以下の家事分担であった。


 初代モナー:朝食・夕食・食器洗い・共用便所掃除
 おっさん:昼食・部屋掃除

 ※自分の身の回りの始末は自分でするように!


 「……?」
 「何か不服な点でも?」
 「…いや、全くそんなことはないぞ。別にこれで構わないが」
 「んじゃ、決定ね」
 確かに、全く問題は無い。
 しかし、問題が無さ過ぎる。
 モ蔵は最初、青年が自分に食器洗いとか便所掃除とか嫌な仕事を押し付けてくるものだと思っていた。
 実際に採用するしないは別として、彼の性格ならそういうジョーク(本気かも知れないが)は十分有り得た。
 しかし、実際には仕事はほとんど青年任せである。
 仕事の量だけの問題ではない。青年の仕事は、面倒臭い朝夕の食事に食器洗い、そして一番やりたくないはずの便所掃除だ。
 大してモ蔵は簡単に済ませられる昼食、それに取って付けたような部屋掃除。
 不真面目そうな青年にしては、意外な提案である。

 しかし、彼にとってはある疑問の方が余程重大であった。
 (しかし青年が昨晩の出来事を全く知らないということは…では私の傷を治療したのは一体どこの誰なんだ?
 そうしたところで、一体その者には何の利益があるというんだ?
 そもそも、彼が全く知らないということもそもそもおかしな話であるし…。
 …駄目だ、全く解せん。まあ、どこぞの格好付けのお人好しが私を治療した後にそのまま去って行ったという可能性もあるが…。
 明日にでも、そのお人よしを目撃した者がいないか探してみるとするか)

178N2:2003/11/23(日) 22:03

                ∧ ∧
                (゚Д゚,,)⌒ ̄`ヽ、
.                 (  ー\  _」_,∠⌒`ヽ
                 \   、 ( ノ 、ー'⌒`  \
                  \ (_ノ   ) _,-―_\
                    /'`    く \
                   / \     >   ̄>
                 /     \_/〉─く__ノ
                /       (_/

NAME モナ本モ蔵

駄スレ・糞スレを立てた>>1を一刀両断するべく2ch内を渡り歩く、名実共に『最強の剣士』。
擬古流の剣術を継承し、「酷いスレを立てる」という
愚かしい>>1の壱の太刀に対して繰り出す弐の太刀「暗・剣・殺」を得意とする。

これまで幾多の暗殺を成功させたことから彼の元には無数の依頼が届き、
その名は裏の世界では広く知れ渡っている。
かつて『矢の男』と親交があり、彼の本性に薄々感付きながらも
何も出来ずに見逃してしまい被害者を増やしてしまったという自責の念から
彼に先回りする形で茂名王町に乗り込む。

179:2003/11/23(日) 23:29

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その4」


          @          @          @


局長は居眠りをしていた。
イスにもたれ、顔の上に開いた新聞をかけてイビキを立てている。
漫画などでよくあるシチェーションだが、リアルでは初めて見る。
仕方なく、局員は声をかけた。
「局長!起きて下さい!局長!」
新聞がパサリと落ちた。
「う〜ん…」
局長は大きく伸びをすると、眠気を振り払うように首を振った。
「ああ、おはよう…」
言いながら、眼鏡のズレを直す局長。
どうも、インテリジェンス風の外見と行動が一致していない。
黙って座っていたらエリート以外の何者でもないのだが、言動のせいで丸潰しだ。
「おはようございます」
カタチばかりの挨拶を済ますと、局員は本題を切り出した。
「警視庁捜査一課から、資料が届いています」
そう言って、ファイルを差し出す。
局長は興味無さげに受け取ると、無造作にページをパラパラとめくった。
「ああ…例の、連続殺人鬼ですか…」
局長はつまらなそうに呟いた。
「はい、犠牲者は19人にのぼり、手がかりはまったくありません。マスコミの警察叩きも加熱する一方です」
「ははは…」
局長は笑い声をあげた。
「愉快じゃないですか。一課の面目丸潰れですね」
「いえ、笑い事じゃありません」
局員の言葉を聞き流しながら、局長はファイルを机の上に投げ置いた。
「で、これがウチに回ってくるってことは…」
「犯人は、スタンド使いである可能性が高いということです」
局員はそう断言した。
「まったく…ただでさえ、人員不足だというのに…」
ここ、公安五課は少数精鋭である。
よって、少数の欠員でも業務に響く。

180:2003/11/23(日) 23:30

「で、そのファイルにも記載されていますが…」
局長は明らかにやる気がない。放っておけば、ファイルをこれ以上読みもしないだろう。
局員は仕方なく説明を始めた。
「気になる点が2つあるんですよ」
局長は椅子180度回転させて、背後の窓から景色を眺めだした。
まともに聞く気もないようだ。
「まず1つ目。犠牲者のうち、最初の15人と後の4人は、実行犯が異なる可能性が高いんです」
局員は机の上のファイルをめくった。
現場および殺害状況のページで手を止める。
「見た目はそう変わらないんですがね… 一言で言うと、後の4人の殺害は、手際が悪いんですよ」
局長は相槌すら打たない。
「後の4人は、とにかく荒っぽいんです。
 まず、外傷が多い。後ろから首を刺したり、心臓を刺したりしてから、腹を切ってます。
 つまり、殺してから腹を開くんですよ。刺されてからも被害者が動き回るから、身体も血まみれ。
 で、腹部の切開も雑だし、腸を引きずり出す際に途中でちぎれたりもしてるんです。
 そこらのチンピラでもできますよ。これくらいなら」
次に局員は、最初の犠牲者のページを開けた。
「で、最初の15人を見ると… 腹部以外に外傷はなし。
 腹部の傷に生活反応あり。つまり、この時点で被害者には息があったんです。
 腸を引きずり出す行為一つをとっても、腸間膜からきちんと小腸を切り離したりと、芸が細かい。
 さらに、主要な血管にも傷をつけていないので、極端に出血が少ないんですよ。監察医も驚いてました」
「腹部以外に傷がないってことは…」
局長が言った。話は聞いていたようだ。
局員が言葉の後を継ぐ。
「正面から、一瞬で切られたという事です。逃げる間もなく」
恐るべき手際の良さだ。
被害者に気付かれること無く接近し、逃げるという動作を起こす前に腹部を切断。そのまま解剖に入っている。
普通の人間に出来ることではない。
やはり、犯人はスタンド使いだとしか考えられない。
しかも、高い医学知識を持っている。
局長が口を開いた。
「じゃあ、後の4人を殺したのはコピーキャットでしょうね」
「そう考えられます。もっとも、捜査の目を欺くためにやり方を変えた、という可能性もありますが…」
局長は冷ややかな目線を浴びせた。
「そんな事を言っているから、君は出世できないんですよ」
「と言うと?」
局長は椅子を回転させて、局員の方に向き直った。
「手段と目的の逆転。これで分からなければ、辞表を書く事を勧めますよ」
この人間を上司にしている限り、この類の皮肉から開放されることはない。
「では、やはり別の人間の犯行なのですか?」
そんな事も分からないのか。局長の目がそう言っている。
「そうですよ。後の4人を殺したのは、どこぞの素人でしょう。それこそ、警察にでも任せておけばいい」
局長はそう断言した。
普段の態度はアレだが、洞察力や判断力は卓越している。
だからこそ、この国で唯一のスタンド対策機関局長の座に上り詰めたのだ。
その言は信用できる。
つまり、最初の15人を殺した奴だけが「殺人鬼」の名に値する存在であるという事だ。
局員は話を続けた。
「で、気になる点があと一つ。15人目の犠牲者が出た次の日に、『異端者』がその町に到着したんです。
 つまり、『異端者』が来てから、犯人は殺人をやめた、という事になります。
 おまけに、あの『蒐集者』が潜伏しているマンションは町からすぐ近くです」
相変わらず相槌がない。
適当に聞き流しているのか… 局員はそう思ったが、それは違った。
局長は左手を額に当て、何やら考え込んでいたのだ。
「なぜそれを最初に言わない?」
それだけを言うと、ファイルを手にとって丁寧に見始めた。

「代行者が絡んでいる以上、犯人は吸血鬼なのでしょうか…?」
先程までとは打って変わって熱心にファイルを見る局長に訊ねた。
吸血鬼が相手なら、部署が違う。
この国に吸血鬼の対抗機関はない。結局、『教会』の手を借りることになってしまう。
局長はファイルから顔を上げると、冷たく言った。
「やはり、君には辞表を書く事をお勧めしますよ」
どうやら、局員の推論は大ハズレだったようだ。
局長は再び、ファイルを机の上に投げ出した。
しかし、さっきまでの行為とは明らかに意味が異なる。
ファイルに載っている情報は、全て局長の脳に刻み込まれたのだ。
「…忙しくなるな」
局長は椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がった。
「『教会』、殺人鬼… いつまでも大手を振っていられると思うな…」


          @          @          @

181:2003/11/23(日) 23:30

起床して、いつものように朝食を食べ、家を出た。
今日は土曜日なので、午前中しか授業はない。
それは、俺にとって好都合だ。
午後1時ごろに、ASAの討伐隊が到着するらしい。
リナーを交えて作戦会議をやるとの事だ。
もちろん、俺も参加させてもらうつもりだ。
俺だってスタンド使いである。部外者とは言わせない。

学校に到着した。
朝のHRが終わる。
じぃは当然欠席。先生からの説明はない。
じぃの死体は、完全に消滅した。
家出扱いにでもなっているのだろう。
俺は、何も思うことはない。
いや、何も思ってはいけない。
俺は強くならなければならない。
そう言えば、モララーも珍しく欠席だった。
彼が学校を休むのは珍しい。


1時間目終了。
よく寝た。
最近、夜の見回りのせいで睡眠時間が致命的に足りない。
その分をこうやって解消している。
「よぉ、今日は大丈夫か?」
ギコが声をかけてきた。
そういえば、昨日は叫びながら教室を飛び出したのだ。
たぶん早退扱いになっているだろう。

「チッ♪ チッ♪ チッ♪ チッ♪」

背後から、妙な声が聞こえる。
ギコも、その存在に気付いているはずだ。
俺は強引に無視した。
「昨日は熱があって、訳の分からないことを口走ってしまったモナ。迷惑をかけたモナ」
「顔色悪かったもんな。それにしても、風邪が流行ってんのか…? じぃも2日連続で休みだし」
深呼吸して、平静を保つ。
よし、大丈夫だ。
目的を持つと人は強くなる。
たとえ、それが自己満足だったとしても。
「今日はモララー君も来てないよね」
しぃちゃんも話に加わった。

「チッ♪ チッ♪ チッ♪ チッ♪」

無視だ、無視。
「モララーも風邪か?」
ギコが首を傾げる。
何とかとハサミは風邪をひかないとよく言われるが、モララーは例外だったようだ。
微妙に心配だ。微妙にだが。

「チッ♪ チッ♪ チッ♪ チッ♪」

「…それはそうと、お前、ちゃんと寝てるのか?目にクマができてるぞ」
ギコは頑なに話を続けようとする。
「最近、寝不足モナ…」
どうでもいい返答。
例の声はだんだん大きくなってくる。
仕方がない。もう無視するのも限界だ。
俺は後ろを振り向いて言った。
「死んだはずのッ!」
そこには、おにぎりが立っていた。
「チッ♪ チッ♪」
おにぎりは、不敵な笑みを浮かべながら人差し指を立て、左右に軽く振った。
「おにぎり!!」 そして俺は、奴の名を呼んだ。

「YES I AM!」

おにぎりは、立てていた人差し指を真下に向けた。
そして、「チッ♪ チッ♪」と言いながら親指だけ立てた右手を振る。

「気は済んだか?」
ギコは言った。
だんじり祭りに行っていたおにぎりが帰ってきたのだ。
「いやー! 相変わらずシケたツラしとんのォー、お前ら!」
おにぎりは俺達の顔を見回して言った。
こいつは、おにぎり族には珍しくアグレッシブな性格をしている。
正確に言うと、単にハジケているだけである。
他のおにぎりとは馴染まず、ワッショイする仲間もいないらしいが、本人は全然気にしていない。
「ありゃ〜? モラ公はどこ行った?」
おにぎりはキョロキョロする。
「黙れ、米野郎」
ギコは冷たくあしらった。
「で、だんじり祭りはどうだった?」
しぃちゃんが訊ねた。
「グレート!神輿が…」
おにぎりが語りだそうとした時、2時間目開始のチャイムが鳴った。

182:2003/11/23(日) 23:33

4時間目が終わった。
今日の授業はこれで終わりだ。
ギコとしぃが近寄ってきた。
「おい、今日はどこに食べに行く?」
土曜日の放課後は、俺・モララー・ギコ・しぃ・おにぎりの五人で繁華街へ繰り出して昼飯を食べるのが習慣だった。
だが、今日は早く帰らなければならない。
「今日は用事があるから、遠慮しとくモナ…」
「デートか?」
ギコはすかさず言った。
ふっ、甘いな… 俺は心の中でほくそえんだ。
深夜のデートなら毎日だ。
「いや、違うモナよ」
俺はそれだけを言って、つっこまれる前に教室を出た。

校門を出るところで、レモナにつかまってしまった。
「モナーくぅん、いっしょにゴハン食べようよー」
「パス。今日は用事があるモナ」
即効で断る俺。
「な〜んだ…」
意外にも、レモナはあっさりと引き下がった。
「あれ…? 今日はしつこく誘わないモナね?」
「重要な用事があるんでしょ? モナーくん、すごく真剣な目だよ」
こいつ、何も考えていないような顔をして、なかなか侮れない。
「決意を胸に秘めた男、って感じ。すごくカッコいいよ」
少し照れ臭い。
せっかくなので、無下に追っ払うようなことはしないでおこう。

「モナーくん、用事かぁ… せっかく、邪魔なつーちゃんもいないのになぁ…」
意外な事を耳にした。
「つーちゃん、今日も休みモナ?」
「うん。病気が治らないんだって」
いくら何でも妙だ。
殺しても死なないつーちゃんが、病気ごときでダウンなんて…
何か、イヤな予感がした。

183:2003/11/23(日) 23:33

その後、帰りながらレモナと他愛もない話を続けた。
普段の破天荒な行動に隠されがちだが、レモナは思いやりがあって心優しい子だ。
(過剰に)積極的だし、もしこいつが女だったら… とっくに俺達は付き合っていただろう。
「ホント、レモナって男に見えないモナね…」
「え?私、男じゃないよ?」
「またまた… 前に、自分で言ってたモナよ」
つーちゃんはネカマ呼ばわりしているし。
レモナは、何かに気がついたように言った。
「あ、前に私が『女じゃない』って言ったのを勘違いしたのかな…?」
勘違いだって?
「私、女じゃないけど、男でもないよ?」
「…両性具有とかモナ?」
それだと、医学的には男に分類されるはずだが。
しかし、レモナは無言で首を振った。
少し思いつめたような顔だ。
嘘を言っているようには見えない。
男でも女でも、その真ん中でもない人間なんてありえるのか?
…いや、俺は人間ではない存在を何人か見たはずだ。
「まさか、吸血鬼なんて言わないモナね?」
「吸血鬼…?」
レモナは首を傾げる。
「モナーくん、ホラーマニアなの?」
「いや、違うモナよ…」
そうだ。レモナは吸血鬼の存在を知らない、ただの人間なんだ。
最近の出来事に呑まれて、感覚が麻痺していた。
「ねぇ、モナーくん… 吸血鬼って、人間の血を吸って仲間を増やすんだよね…」
不意にレモナが訊ねた。
それは違う。吸血鬼に血を吸われても、ゾンビになるだけだ。
だが、否定するのも変だ。
つくづく、俺は踏み込んでしまった事を実感した。
「そうらしいモナね」
とりあえず肯定しておく。
「じゃあ、吸血鬼って、造られた存在になるのかな?」
造られた存在?
確かに、人間の立場で見るならそうだろう。
吸血鬼によって、造られる存在。
もっとも、血を吸われると吸血鬼になるというのは俗説に過ぎないが。

「私も、『造られた存在』なんだ…」

レモナはそう呟いた。
以前の俺なら、「誰に?」などと聞き返していただろう。
最近、やっとデリカシーについて分かってきたところだ。
レモナはいつもの笑顔を崩さない。
ふと思った。レモナは、本当にいつも笑っているのだろうか?
「そんなの…別にどうでもいいモナよ」
レモナは驚いたようにこちらを見た。
「別に、レモナが造られた存在だろうが造った存在だろうがどうでもいいモナ。
 モナにとって重要なのは、レモナは、すごく優しくて、思いやりのある子だってことモナ。
 モナは、普段のレモナが大好きモナよ」
「モナーく〜ん!」
レモナは、俺に抱きつこうとした。
しかし、その動きはすでに視えている。
俺は上体を反らしてかわした。
レモナの体が電柱に激突する。
「ひど〜い!!」
電柱に頭突きをかましたレモナが両手をバタバタさせながら立ち上がった。
「レモナの動きは読みやすいモナ。モナに不意討ちしたいなら、予想を超えたパターンで来るがいいモナ」
気がつけば、繁華街を過ぎていた。
レモナの家は、次の角を右だ。
「じゃあ、さよならモナ」
「モナーくんが『造られた存在でも気にしない』って言ってくれたこと、忘れないよ。じゃあね」
すぐにレモナの姿は見えなくなった。
何やら、その場のノリで適当に言ったセリフに感銘を受けたようだ。
喜んでいたみたいだし、まあいいか。

184:2003/11/23(日) 23:34

家に到着した。
玄関には、今にも出ようとするリナーがいた。
「あ、もう出るところモナ?」
「ああ。時間ちょうどだな。では行くぞ」
もう少しで、置いていかれるところだった。
「ところで、ASAの人はどこに来るモナか?」
てっきり、俺の家に集まってくるものと思っていた。
「この近くに、グラウンドがあるだろう」
リナーは答える。
グラウンド?
そんなだだっ広いところで作戦会議?
…凄く、妙な話だ。
「さあ、行くぞ」
俺はリナーに急かされて、家を出た。


グラウンドに、リナーと二人で立っている。他に人はいない。
それにしても…一体、なんなんだ。
こんなところで作戦会議なんて、どう考えてもおかしい。
ここは、話し合いには全く適さない場所だろう。
野球でもするつもりなのだろうか?
リナーに何か言おうとした時、頭上から機械音が聞こえた。
バラララララ…という奇妙な音。
そう、ヘリコプターだ。
しかも、1機や2機じゃない。
30機を越える大編隊が、空の彼方から押し寄せてくる。
「まさか、あれは…」
「ASAだ。時間ちょうどだな」
リナーは当たり前のように言った。
俺は…ただ呆気に取られていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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185新手のスタンド使い:2003/11/24(月) 21:23
いろいろ考えた結果、本編に関りそうなつーを勝手に使ったのはよくないと思い、
アヒャ編の第一話を改造。

合言葉はwell kill them!その①―アヒャと矢の男


「はひ〜疲れた〜。今日も俺様部活の練習ご苦労さんと!」
一人の青年が夕日に照らされた土手を歩いている。
彼の名はネオ麦茶。部活の後らしくダラダラと大汗を流していた。
「早く帰って風呂でも入るか。」

彼の家は茂名王町(仮)の中にある私怨寺商店街の肉屋で結構お客の評判もいい。
「ただ〜いま〜。」
「アーヒャヒャヒャヒャ!オメー何処で道草くってたんだよ!」
扉を開けると早速父親の声が飛んできた。エプロンがよく似合っている。
ネオ麦の家の家族構成は自分、父、弟の三人で、母親はとっくに亡くなっている。
「しかたね〜だろ!部活の練習があったんだから!」
「ふーん。てめえも大変なんだな。そんな事より手伝え!今日は鍋だぞ!」
「了解。」
台所には父親の趣味で集めた刃物が所狭しと並べられている。もし地震なんかが起きた時に
こんな所に居ては、間違いなく怪我はするだろう。
「ところでアヒャの野郎は何処行きやがったんだぁ?俺より先に学校から
 帰ってきてるはずだぞ。」
「奴なら葱と豆腐が無かったから買いに行かしたぞ。それにしても遅いな、
 もう行ってから30分以上たってるぞ。」
「俺みたいに道草食っていたりしてな!」
二人は大きな声を出して笑った。はっきり言って五月蝿い。
そのせいで隣に住んでいる老人が心臓発作を起こし、危うく『天国の階段』を
昇りかけたのは内緒だ。


「あ〜〜〜ムカつく!何であんなとろいババア雇うかねぇあのスーパー!
 俺がナイフちらつかせなけりゃぁいったい何時間かかってたのか想像できねえよ!
 ちっくしょ〜!」
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら一人の少年が歩いている。
彼の名はアヒャ、ネオ麦とは一つ違いの弟だ。
「あーあ。退屈な日常だなー。なーんかこう人生まるっと変わるサプライズな事件とかって
 起きないもんなのかねー。」
その時だった。彼の言う事件が起こったのは。
人の言葉と言う物は恐ろしい、誰かが呟いた事が本当に起きてしまう事があるのだから。
「うわあああああああああ!!!!!!」
突然の悲鳴。どんなに強気な人でもいきなり悲鳴が聞こえたら驚いてしまうものだ。
「おわっ!何だ何だ今の悲鳴は!?家とは反対の方向からだぞ!」

この後の彼の行動は大体の人が想像がつくでしょう。
好奇心が強い彼の行動を・・・。

「事件の香り・・・・・。行きますか!」

やっぱり・・・・。

186新手のスタンド使い:2003/11/24(月) 21:32

「くそ!こいつも駄目だったか・・・。」
ひっそりとした闇の中、二つの影が見える。
一つは何処にでも居そうなサラリーマン風の男で、もう息をしていない。
そしてもう一つが矢の男の物だった。
「まあいい。次の人材を探せばいいことか・・・。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「・・・誰かが来るな。」

「おっかしいなー、悲鳴が聞こえたのは確かここいら辺だった筈だぞ。
 もしかして俺の聞き間違いだったのか?」
やって来たのはアヒャだった。よく悲鳴一つで場所が割り当てられたもんだと
つくづく感心してしまう。
「・・・丁度いい。アイツならがあるかもしれん。物は試しだ。」
矢の男は懐から弓と矢を取り出すと、アヒャに向けて狙いを定めた。
「さあ、お前の『素質』、確かめさせてもらうぞ!」
パシュン!


ヒュウウウン・・・・。ズシャアァ!!
「があっ!な、何が起きたんだって・・・・これって・・・『矢』!?」

「ほう、死ななかった所を見ると私の予想どうり、君にはスタンド使いとしての
 『素質』が有ったのだな。しかしスタンドのヴィジョンが見当たらないとはどう言う事だ?
 確かに君からスタンドのエネルギーが出ているのだが・・。」
「な!てめえはもしかして矢の男!?どうしてこんな所に!」
「む?何故この私が君の言う矢の男だと判ったのかい?」
矢の男は少し以外だという顔をして尋ねた。
「俺の兄ちゃんがお前に出会ってそのスタンドとやらが発現してんだよ!幸な事に兄ちゃんのスタンドはは
 他の者に取り憑いていて、俺でも見えたから信じることができたけどよ!」
「なるほど。兄弟そろってスタンド使いになったと言う訳か。
アヒャは自分に刺さった矢を抜くと男にむかって放り投げた。
「お前の目的は俺にもわかんねぇ。だけどスタンドを出してくれた事については
 礼を言う。ありがとうよ。」
「ふっ、礼を言われたのはこれが初めてだな。では、有効に使ってくれ。」
そういい残すと男は風のように消えていった。

「兄ちゃんの言っていたとおりだな・・・。『矢の男』。何か知らないが
 アイツを見てると、とらえどころが無くてどうもしっくりこなくなるんだよな・・・。」

187新手のスタンド使い:2003/11/24(月) 21:38
「うわー滅多刺しにされてんなー。ご愁傷さまー。」
アヒャは矢の男が殺したサラリーマンを見つけた。
警察にでも通報するのか?いや、彼の場合は違う。金目のものを抜くためだ。
「とりあえず諭吉でも抜いておきますか。・・・にしても俺のスタンドって一体なんだ?」
そういって死体に近いた時だった。

・・・・じわり・・じわり・・・・・。
・・・・じわり・・じわり・・・・・。

「なんだ?なんか音がするぞ・・・・・!。」
よく見ると死体の周りの血液が、まるで引き寄せられるかのようにだんだんと自分の方へ向かってきている音だった。
みるみるうちにアヒャの目の前で血液が集まり、人の形を作り出していった。
「何だよこれ!なんで血が俺の方へ流れてんだよ!?・・・・まさか・・・。
 これがあいつの言ってた・・スタンド!?」
「ソウダ!俺ハオ前ノスタンド!オ前ノ分身ッテ訳サ!」
「しゃ、しゃべれんのかおまえ!?」
「アア、オ前トハ別々ノ意思ヲ持ッテイルカラナ。」
「なーるほど、ところでお前には名前ってついてんのか?」
「イイヤ。俺ニハ名前ナンテ無イ。コテハン名乗レヌ名無シサンッテ訳ダ!」
「じゃあ俺が名付親になってやんよ。そうだな・・・・。血・・。ブラッド・・。
 そんじゃブラッド・レッド・スカイってのどうよ?」
「イイナソレ!気ニ入ッタゾ!」



「案外この買出しも結構意味あったじゃん!行っといて正解だったな。」
アヒャは上機嫌で家へと向かった。

しかしアヒャは気づいていない。
自分がスタンド使いになった事でこれから巻き起こる
闘いの日々のことを・・・。

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188新手のスタンド使い:2003/11/24(月) 21:39
以上です。無駄に容量つかってすいません。

189キャットフード:2003/11/27(木) 21:35
キャットフード、ギコタクに出会う

 ある日の昼下がりのある喫茶店の中。
 右耳に何か怪我でもしたのか、ガーゼを張った男が、コーヒーを飲んでいた。
 テーブルの上にはプラスチック製の皿がある。彼はこの皿以外で食事をするのを嫌い、レストランでもこれを使用していた。
「くそ…何でこう悪いことが続くんだ…気分が悪いな…」
 彼はコーヒーカップをテーブルに置き、空っぽの皿を見ながら呟いた。
「まあ、これが無事ならいいけどな。これで食う飯は最高だ」
 この男の名はキャットフード。最近この茂名王町にやってきた。
 ここをおとずれた人が皆思うように、彼も思った。
「いい町だ」と。
 しかし、第一印象はその後急激に悪化することとなる。

 人通りの少ない路地を闊歩していたキャットフードは、頭に紙袋を被った人物に、背後からいきなり切りつけられた。
 幸い直前に気づき飛びのいたため、耳を切られただけですんだ。
(な、何だ!?こいついきなり…)
 その表情は紙袋で窺い知ることができなかったが、雰囲気を一言で言えば『ヤヴァイ』だった。『殺気』とでも言えばいいのか、今からお前を殺す、とヒシヒシと伝わってきた。
 その次にキャットフードは、その男が手ぶらであることに気づいた。
(何で俺の耳を切ったんだ!?って、そんな場合じゃあない!)
 男は二発目を繰り出そうとしている。見えないが、『切られた』という事実がある。こいつは手ぶらでも自分を殺害できる、と認識するのと同時に、キャットフードは背を向けて走りだした。
(ヤヴァイ!何なんだあいつは!?)
 後ろをちらりと見ると、男は追いかけてこない。しかしキャットフードは、恐怖が消えるまで走り続けた。
 耳からは大量ではないが、血が出続けている。
 走り続けて10分。電車のレール下のトンネルに入り、足を止めた。

190キャットフード:2003/11/27(木) 21:36
 毒毒しい色のスプレーで絵や字が描かれた壁にもたれ、キャットフードは一息ついた。
 心臓はさっきの緊張と急激な運動で、爆発しそうだった。顔中に汗がかいていて、耳から垂れた血液と交じり合っている。
(それにしても、あんな危ない香具師がいるとは…まったく躊躇せず俺を殺す気だったぞ、あいつは)
 普段全く意識せずできている『息を吸う』という行為が、とても困難に感じられた。やがて、呼吸の乱れは回復していった。
 トンネルから出て歩きだそうとしたとき、向こうから誰かが入ってきた。太陽のある方向から来るので、逆光で顔がはっきり見えない。
 手に何か持っている…あれは…どうやら『弓』と『矢』のようだ。
 弓道部に所属する学生か何かだろうか。何て思っていると、その人物はいきなり弓を引いた。しかも、自分に向けて。
(な!何だ!?)
 さっきの感覚がよみがえった。こいつは自分を撃とうとしている!そう思う前に体が動いていた。
 電車が、真上を通った。音はトンネル内に反響し、町の音が遮断される。
 弓を引いている人物と反対側に走りだした瞬間、足がもつれた。さっき走った時の疲労が、まだ残っていた。
 キャットフードは転倒した。地面に体がつく前に弓が飛んできて、切られた方の耳の傷をさらに広げた。
 手に持っていた皿が、地面に当たって転がる。
 地面の冷たさと、顔に触れる血の暖かさを同時に感じていた。
(…まいったな、一日に二回も通り魔に襲われるなんて…しかも同じ傷口を…そんな香具師他にいるかな)
 電車の通過音が鳴り響いている中、矢を撃った奴の足音が地面を通して、まだ無傷な方の耳に入ってくる。
(俺はここで殺されるのか…まったく、どうせなら腹いっぱいの状態で死にたかったな)
 しかしその人物はキャットフードの横を素通りし、さっきの矢を拾った。
「…生きているな。君には『スタンド』の才能があったようだ。有効に使ってくれ」
 声から男だと分かったが、言っている内容は理解できなかった。『スタンド』?何だそれは…
 電車の音はやんだ。

191キャットフード:2003/11/27(木) 21:36
 キャットフードが前を見ると、既に男の姿はなかった。
(…何なんだ、今の男は。『スタンド』って、電気スタンドか?)
 起き上がり、皿を探す。あった。
 拾おうと思ったとき、皿は宙に浮いた。
「何!?」
 浮いたのではなかった。自分の隣に、半透明の青い影が立っていて、そいつが皿を拾っていたのだった。
(い、いつ接近したんだ!?)
 こいつは何なんだ?とりあえず、話してみよう。
「おい、何者だお前は?俺は今日ちょっと用心深いから、キャッチセールスは受け付けないぞ!」
 俺は何言ってるんだ、と思いながら、耳の痛みがないことに気づいた。
 触ってみるが、どうやら血は止まったようだ。
(おかしいな…結構深いと思ったが…)
 目の前の影は、自分を見続けている。
「何だよ…用がないならさっさと消えろ」
 言った瞬間、そいつは接近して来た。歩いているんじゃあない、浮かんでいる。幽霊のようだ。
 だが、何故か危険は感じなかった。
 そいつは、キャットフードの中に入った。もともといた場所に戻った、という感じだった。
(…こいつは、俺の体から出てきたものだ…しかもよく分からないが、俺の言うことを聞くみたいだ…)
 もう一度出るように、頭で思った。すると次の瞬間にはもう前に立っていた。
(やっぱりだ。こいつがさっきの奴の言ってた『スタンド』なのか…?…まあいい、後で考えよう。そして『こいつ』じゃあ呼びづらいな。…そうだな、昼飯まだだったから『ノー・ランチ』。それに決定だ)

 こうして彼は、手に入れたばかりの『スタンド』について、少しだけ分かった。
 まず、自分の思った通りに動くこと。そして、周りの人間は『ノー・ランチ』を見ることや触ることができないと知った。
 歩きながら『ノー・ランチ』を出し並んで通行していると、前から走ってきた子供が、いきなり体を突き抜けた。
(見えてないのか、今のガキ…しかも、触れずに通り抜けた。どうやら、俺から意識して触らないと、普通の奴は触れないようだな)
 その発見からキャットフードは、あることを考えた。
(あの紙袋を被った通り魔、もしかしてスタンドで俺を切ったのか?だから俺は見れなかったんだ)
 とにかく、ああいう危険なやつにまたあったら、やっぱり逃げるのが一番だと思った。

192キャットフード:2003/11/27(木) 21:37
 その後キャットーフードは、喫茶店で軽めの昼食を取った。耳はコンビニで買ったガーゼで手当てした。もう血は止まっているが、ばい菌が入ったらまずいと彼は思った。
(危ない町なのか…ここは。もうしばらく、ここの店にいるか)
 周りを何気なく見渡したキャットフードは、自分の後ろにいる人物に気づいた。
(…暇だし、こいつを驚かしてやるか)
 パソコンに熱中するその人物に、キャットフードは声をかけた。
「おい、今から手品を見せてやるよ」
 その人物はビクッと一瞬反応し、後ろを振り返った。
「…何だ、違う人か。手品?ああ、見せてくれ」
前半はよく分からなかったが、許可されたようだ。キャットフードは頭の中で、「そこのコーヒーカップをもちあげろ」と指示した。
『ノー・ランチ』は、その人物の隣のコーヒーカップを持ち上げた。
 いきなり浮き上がってさぞかし驚いたろう、と思ったが、その人物が注目しているのはコーヒーカップではなく、青色の影のほうだった。
(…まさか、こいつ!?)
「あんたも『スタンド使い』か…」
と、その人物、ギコタクは、キャットフードに言った。

193キャットフード:2003/11/27(木) 21:42
ギコタクは出たばかりですが、小説にしてみました。
台詞があんまりジョジョっぽくない…

194:2003/11/27(木) 22:31

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その5」



 驚く俺を尻目に、輸送ヘリは次々と着陸していった。
 その数、約30機。
 いくらなんでも多すぎる。
 俺は、4人ぐらいが高級外車に乗って現れると思っていたのだ。
「討伐隊って…あんなに多いモナ?」
 リナーも怪訝な顔をしている。
「…いや、いくらなんでも多すぎる。何か、彼らなりの思惑があるだろうな…」


 呆ける俺の眼前に、一際立派な装飾の施されたヘリが着陸した。
 ローターの回転で周囲の砂が舞い散る。
「…驚いたな」 リナーが呟いた。
「要人用ヘリだ。あれに乗れるのは、ASAの三幹部のみ…」
「三幹部? それって偉いモナか?」
「ASAの最高決定権を持つ3人だ。この3人によって組織が動いているといっても過言ではない」
 じゃあ、あれに乗ってるのはASAトップ3人のうちの1人、ということか。
「3人とも強力なスタンド使いだ。対スタンド使い殲滅機関の長だからな」
 何か、緊張してきた。
 リナーの話を総合すれば… スタンド使いのテログループなどに対応するため、各国政府が協力を要請するほどの機関。
 その最高権力者のうちの一人と今から顔を合わすわけだ。
 俺のような最近スタンドに目覚めたばかりのルーキーがおいそれと会ってもいいのだろうか?
 無礼な口の聞き方をすれば、その場で殺されるかもしれない。
 思わず俺は身震いした。

 先に着陸したヘリから、次々に人が降りてきている。
 全員、全身黒のスーツにサングラス着用。あれがASAの制服なのだろうか。
 この上もなく怪しい。怪しすぎる。
 彼らはそれぞれのヘリの前から動こうとしない。
 周囲に、異様な気配が立ち込めた。
 こいつら、全員スタンド使い。それも、かなりできる。
 
 例の装飾ヘリから、似つかわしくないタラップが降りてきた。
 さすが要人用ヘリだ。
 そのタラップを、ゆっくりと降りてくる一人の人物。
 丸耳モナーに区分される種族だ。
 思ったより若い。まだ20代だろうか。
 後ろには、秘書らしきしぃ族を従えている。
 只者ではないことは、気配で分かった。
「あれが… 三幹部の一人…」
 俺は思わず呟いた。
 そんな俺に、リナーは言った。
「いや、その後ろだ」
「え? 後ろには秘書しか…」
 まさか、あれが?

195:2003/11/27(木) 22:31

 丸耳はタラップを降りると、サッと横に避けた。
 その後をゆっくりと降りるしぃ族の女性に、うやうやしく頭を下げる。
 どうやら、秘書は丸耳の方のようだ。
 そのしぃは、当然ながら俺のクラスメイトのしぃよりは年上に見える。
 頭には学帽のようなものを被っていた。
 俺達の寸前までつかつかと歩いてきて、スッ… と右手を差し出す。
「どうも。三幹部の一人、しぃ助教授といいます。以後よろしく」
 手の方向は、明らかに俺の方を向いていた。
「あ、ああ… モナーですモナ」
 俺はその手を握り返した。
 何というか、予想していたより全然温厚そうだ。
 しぃ助教授は手を離すと、リナーに向けて微笑んだ。
「そして、久し振りですね。『異端者』…」
 しぃ助教授は、リナーに左手を差し出した。
 その手を軽く握り返すリナー。
「その通り名は不要だ。以後、リナーと呼んでもらいたい」
 しぃ助教授は握手したまま、可笑しそうにリナーの顔を見た。
「あら、代行者としての名が不要だなんて… 何か心変わりでも、『異端者』?」
 リナーもその手を離さない。
「あなたもASAなら、そんなことに興味を抱かずとも、任務だけこなしていればいいのでは?」
 二人の握手する手に力がこもる。
 しぃ助教授は、涼やかな微笑を浮かべて言った。
「私達の任務は、野蛮な『教会』みたいに、目に入る獲物を片っ端から殺せばいいってもんじゃないですからね…
 あくまで人間が相手のデリケートな仕事ですから…」
 リナーも笑顔で応じている。
「それは結構。こちらは、任務といえば殺すか殺されるかだからな。
 寡聞にして、平和的解決が見込める退屈な任務というのを聞いたことがない。暇な仕事が羨ましくもあるな…」
 両者の握力は、とんでもない圧力(G)に達している。
 あれが俺なら、一瞬で骨が砕けてしまうほどの破壊力。
 ああ、一触即発だ。
「ちょ、ちょっとリナー…!」
 俺は、リナーの肩を軽く抑えた。
 動揺に、先程の丸耳がしぃ助教授を抑えている。
 二人は、ようやく握手をやめた。
「…そうですね。では、その『矢の男』とやらの話を聞きましょうか」
 しぃ助教授は思い出したように言った。
 おそらく、左手は相当に痛かったはず。
 何事もなかったかのようにプラプラさせているのがクールだ。
「ああ。そうだな…」
 そして、『矢の男』の説明を始めるリナー。
 こちらも、左手の痛みに耐えている。
 両者ともクールだ。

196:2003/11/27(木) 22:32

「なるほど… 瞬間移動は能力そのものじゃなく、応用に過ぎない…ですか」
 しぃ助教授は、あごに手を当てて呟く。
「まあ、確証はないが。そうだな、モナー?」
 突然、話が俺に振られた。
「え、…そうモナよ。あれは、恐ろしい能力の片鱗に過ぎないと思うモナ」
 俺は当惑しつつ答える。
「それは、あなたの能力による推測? それとも勘?」
「…両方モナ」
 俺はそう答えた。
 俺には、『矢の男』のスタンド能力の全貌が視えない。
 視えたのは、もっと大きな何か。
 それは、瞬間移動などというチャチなものでは断じてない。
「ふぅむ…」
 しぃ助教授はため息をついた。
「まあ仕方ないですね。むしろ、幸運な事と考えますか。
 一部とはいえ、戦う前から敵の能力が分かるだけでも有利ですから…」
 リナーは提案する。
「それで、私達は遊軍として…」
「いや、その必要はありませんよ」
 しぃ助教授は、リナーの言葉を遮った。
「部外者にしゃしゃり出られては、私達の任務の遂行の邪魔になります」
これは明らかに挑発だ。
「…何だと?」
 リナー、半ギレ。
 抑えるか、様子を見るか、避難するか…
「私は『すっこんでろ』、って言ったんですが… 分かりませんでしたか?」
 しぃ助教授はアルカイック=スマイルを浮かべて言った。
「…いいだろう。代行者を前にしてのその言動、『教会』への冒涜と受け取った」
 リナーは両手に4本ずつのバヨネットを取り出した。
「これだから、ヴァチカンの連中は… 痛い目を見ないと分からないようですね」
 しぃ助教授は、どこからかドでかいハンマーを取り出した。
 かなりの大きさだ。
 俺の身長よりもでかいハンマーを、しぃ助教授は軽々と構えた。
 …これはマズい。
「リナー!!落ち着くモナ!!」
 俺は慌ててリナーを止めた。
 同様に、しぃ助教授を必死で止めている丸耳。
 俺は彼に親近感を覚えた。

 何とか、事態は収まった。
 俺はリナーを、丸耳はしぃ助教授をなだめきった。
 いつか丸耳と酒でも酌み交わしたい気分だ。
「確かに、私に多少感情的な言動があったのは認めますが… それでも、あなた達を同行させる訳にはいきません」
 しぃ助教授がまたも断言した。
「任務の遂行の邪魔というやつか?」
 リナーが訊ねる。相変わらず、両者とも敵意はムキ出しだ。
「あくまでも、『矢の男』討伐はASAの任務だという事です。貴方達は通報者に過ぎない。
 もしもこれが吸血鬼殲滅の任務だったとして、私達ASAがしゃしゃり出てきたら、代行者の貴方はどう思います?」
「確かにそれは認められないが…」
 しぃ助教授は満足げに頷いた。
「自分がされて嫌な事を、人に押し付ける道理はありませんね?」
 俺はリナーの横顔を盗み見た。
「…」
 リナーは憮然とした表情を浮かべている。
「私達に敗北はありません。ASAの集団戦術は、近距離型・遠距離型・自動操縦型の全てに対処できるんです。
 いかに強力とはいえ相手は一人。問題ありませんよ」
 これでリナーは納得しただろうか。
 いい加減、しぃ助教授の言葉の方が正論のように思えてきた。
 向こうは専門だ。任せておいてもいいのではないか?

「あなた達には勝てないな…」
 吐き捨てるようにリナーは言った。
「何事でもテンプレートに当てはめようとする愚か者に、勝利の女神は微笑んだりはしない」
 しぃ助教授はため息をついた。
「…分かりました。同行を認めます」
 リナーの粘り勝ちのようだ。
「ただし、条件があります。討伐隊が致命的打撃を受けない限り、貴方達は戦闘には参加しないこと。
 貴方の論調だと私達が負けるみたいですから、文句はないでしょう?」
「…ああ」
 リナーは頷く。
「それじゃあ、今日の午後9時にこのグラウンドへ来て下さい」
 しぃ助教授はそう言って、もう用は無いとばかりにヘリに乗り込んでいった。
 丸耳はこちらへ向かって軽く頭を下げる。
「…君も苦労するな。暴走女のおもりは疲れるだろう?」
 リナーは彼に語りかけた。
 …本当にその通りだ。
「私の立場では、その質問への回答はお答えできません」
 丸耳は回答同然の返答をして、ヘリに戻っていった。
 思えば、ずっとこの場にいたにもかかわらず、彼の声を聞いたのはこの時が初めてだ。
 三幹部の側近を務めているほどなのだから、彼も相当のスタンド使いなのだろう。

197:2003/11/27(木) 22:32

 結局、俺達は同行できる事となった。ASAの戦い振りをこの目で見ることができる。
 今の俺は、雑魚同然だ。少しでも強くならなければ。
 ヘリは次々に離陸していく。
 30台近くのヘリは、全て飛び去ってしまった。
「他の人は、何しに来たモナ?」
「護衛か… いや、それにしては多いな」
 結局、リナーにも分からないようだ。
「おそらく、何か企んでいるんだろうが…」
 しぃ助教授の話し振りからして、『矢の男』討伐は10人ほどのチームで行うようだ。
 それでも、スタンド使い10人がかりというのはとんでもない事なんだろうが…
 それに、彼らはどこへ飛び去ってしまったのだろうか。
 全員でホテルにでも泊まるつもりか?
 あんな格好をした連中が押し寄せてきたら、営業妨害もいいところだ。
「さて、一旦家に戻るか」
 リナーはそう言った。
 確かに、9時までここで待っている道理はない。
 俺とリナーは帰宅の途についた。

 俺は、歩きながら先程の会談を思い出していた。
 リナーとしぃ助教授は個人的に仲が悪いのだろうか。
 それとも、『教会』とASAが相容れないのだろうか。
 さすがに、リナー本人に聞くことは憚られる。
 その点を除けば、しぃ助教授は温厚そうな人だった。
 そして、かなりの実力者だろう。
「リナーとしぃ助教授はどっちが強いモナ?」
 俺は不意にそんな質問をした。
「スタンドでの戦いなら、私には万に一つの勝ち目もないな」
 リナーにしては弱気な発言。ただし、限定条件付きだ。
「何でもアリの戦いなら?」
「総合的なスペックは互角だな。まあ、勝つのは私だが」
 リナーは断言する。
 そう言えば、リナーも『教会』有数の殺し屋だ。
 たまに、その事実を忘れてしまう。
 …ふと気になった。
 三幹部という以上、残り二人もいるはずである。
「他の二人って、どんな人モナ?」
「私は、しぃ助教授以外とは面識がない。会ったことも、見たこともない。
 三人とも、スタンドだけではなく肉体の強度や敏捷性も並外れているという話だが」
 確かに。しぃ助教授は、あのバカでかいハンマーを片手で持っていた。
 あれはスタンド能力なんかじゃなく、純粋な腕力だ。
 それで言うなら、リナーの腕力はどうなるのだろう。
 スタンド能力によってアドレナリンなどの脳内物質をコントロールしているという話だが…
 常に火事場の馬鹿力を発揮しているような状態なのだろうか。

198:2003/11/27(木) 22:33

 家に到着した。
 リナーはすぐに部屋に引っ込む。
 今晩に備えての、銃器の整備があるらしい。
 夜には大仕事が控えているので、俺も今のところはゆっくり休むことにした。
 部屋に戻って、ベッドに寝転がる。
 幸い、明日は日曜だ。次の日の学校を気にする必要はない。
 それにしても、ASA… 好ましからざるスタンド使いの抹殺組織…
 あの場にいた全員に、闇の領域に踏み込んだ者特有の凄味を感じた。
 ふと思う。
 もう一人の俺は、『殺人鬼』である。
 俺自身、好ましからざるスタンド使いに大いに当てはまってしまうのではないか?
 いや、もう一人の俺の殺人行為は、スタンドを悪用したものではない。
 あれは純粋な技術だ。絶命から解体における殺人志向。なおのこと悪い気もするが。
 俺はバラバラになったじぃの死体を思い出して、少し吐き気を催した。
 それにしても――――なぜ、俺の中にあんな残虐な人格が芽生えたんだ?
 俺の潜在意識が、殺人を望んでいたとでも言うのだろうか?
 いや、俺は生粋のヘタレだ。死体など見たくもない。
 その抑圧に対する発露… とも言えなくはないが、それでも腑に落ちない。
 人格乖離の原因は、幼児期の虐待が多いという事だが…
 俺には虐待を受けたような記憶はない。
 それどころか、両親の顔すらよく思い出せない。

 ――――なぜ思い出せない?
 それは異常じゃないか?
 だいたい、俺の両親はなぜ家にいないんだ?
 死んだ? いや、そんな記憶はない。
 仕事? そんなことも聞いた事がない。
 物心ついた時から、俺はずっと妹との二人暮らしだった。
 しかも、なぜ今まで疑問にも思わなかったんだ? どう考えても不自然だ。

 思い出す。
 過去の出来事を必死に思い出す。
 小学校に入学してからのことは覚えている。
 その前――――どうしても、思い出せない。
 時間が遡るにしたがって、記憶が薄くなっていくという訳ではない。
 小学校以前の記憶。つまり、6歳以前で記憶がスッパリ切れている。
 そう、俺の人生は6歳の時点から突然始まっているのだ。
 そして、その頃から親はいなかった。疑問にも思わなかった。
 ――――いや、変だ。
 俺は6歳で、ガナーは5歳。そんな子供が二人で暮らしていけるはずがない。
 さらに思い出す。
 そうだ。隣のおばさんだ。
 隣のおばさんがよく来てくれて、食事の用意や家事をしてくれた。
 今は、そんな人は存在しない。
 俺が中学校に上がった時から、おばさんは来なくなったのだ。
「モナー君ももう中学生だから、家の事ぐらいガナーちゃんと2人でできるわね?」
 おばさんは最後にそう言った。
 そして、それからすぐに引っ越してしまったと記憶している。
 なぜ忘れていたのだろう。
 じゃあ、生活資金は?
 金の事はガナーの管轄だが… 確か、銀行に毎月振り込まれているはずだ。
 もちろん、現在も。
 一体、金を振り込んでいるのは誰だ?
 そして、この家はいつから存在した?
 11年前… 俺が6歳だった以前に、この家は存在したのか?
 俺はベッドから起き上がると、押入れの奥深くに仕舞い込まれていたアルバムを引っ張り出した。
 ほとんど見たことがないので、ページが張り付いてしまっている。
 俺はアルバムを開けた。

 その内容は、大きく俺の予想を裏切った。
 あったのだ。6歳以前の写真も、当たり前のように存在した。
 赤ん坊の時の写真。揺りかごの中で無邪気に笑っている写真。よちよち歩いている写真。ガナーの赤ん坊の時の写真。
 妹と二人で手を繋いでいる写真。公園で遊んでいる写真。動物園らしき場所での写真。三輪車に乗っている写真。
 写真には、当然ながら撮影された時の年号が刻印されている。
 写真の下には、俺やガナーの年齢も書かれていた。

「ははは…」
 俺は力なく笑った。
 これ以上、誰かの欺瞞に付き合ってはいられない。
 俺の人生を嘘で彩られる事は、この俺自身が認めない。
 俺は写真を「視た」。
 撮影された時期を可視化する。

赤ん坊の時の写真 ――――――11年前に撮影。
2歳の時の写真 ―――――――11年前に撮影。
俺が4歳。妹が3歳 ―――――11年前に撮影。
小学校入学の時の写真 ――――11年前に撮影。

 予想通りだ。
 俺が6歳以前の写真は、全て11年前に撮影されている。
 このアルバムは、誰が用意した?
 足元がグラついた。眩暈で倒れそうになる。
 俺は――――誰なんだ?

199:2003/11/27(木) 22:33

 すぐに平静を取り戻す。
 最近、感情の転換が容易になった。
 これも人体の防衛機構だろうか?
 とにかく、確かな事は一つ。
 俺の日常は、誰かに与えられたものだった。
 日常に戻れるとか戻れないとか、最近ずっと一喜一憂していたが――――何のことはない。
 俺が生きてきた日常は、最初から欺瞞だった。

 今までの俺なら、打ちひしがれて絶望していただろう。
 だが、今は違う。短期間に数多くの絶望を経験した。
 少し、胸の傷が痛む。
 俺が殺したじぃに報いるためにも、俺は歩き続けなければならない。
 倒れる時も、前を向いて倒れよう。

 正直、今の俺は怒りに似た感情を抱いていた。
 11年も騙されていたのだ。
 俺やガナーは、その誰かに飼われていたも同然。
 これは、許しがたい行為だ。
 とにかく、俺は俺自身の事を知らなければならない。
 もう一人の俺、『殺人鬼』の台頭と、俺の消された過去には何らかの関わりがある。
 これは間違いない。一本の糸で繋がっているはず。
 問題は、この糸が他の何に繋がっているかだ。
 『アルカディア』がこの町に来たのは最近だという。
 俺の中の『殺人鬼』も、ごく最近まで息を潜めてきた。
 この時期の一致は、果たして偶然だろうか?
 そして、リナーの存在。
 リナーが俺の家に来たのも偶然?
 いや、あれは俺の意思で連れてきたはず。
 それさえも、仕組まれたものだとしたら…
 リナーを疑いたくはない。
 そもそも、リナーは嘘が下手だ。
 誰かに欺かれているのは、リナーも同様ではないか…、と思うのは俺の欲目だろうか。
 そうだとしたら、リナーの属する組織である『教会』が怪しい。
 調べる必要があるか。だが、どうやって…?

 とりあえず、ガナーに話を聞くか?
 いや、妹も俺と同じ境遇である可能性が高い。
 それなら、下手な事を言ってガナーを混乱させるのはマズい。
 とりあえず、俺はガナーの部屋に向かった。

 扉をノックする。
「何?」
 ガナーが出てきた。
 俺は素早くガナーの手を取ると、隠し持っていた爪切りで親指の爪を切った。
 それを、用意していたビニール袋に詰める。
「あ… え…?」
 戸惑うガナー。まあ当然だ。
「ウヘヘヘヘ… モナは、妹の爪をコレクションして愉しむヘンタイ兄貴だったのだよ…」
 ポカーンと口を開けて固まるガナー。
「ではさらばッ!!」
 俺は笑いながらガナーの部屋を後にした。

 リナーの部屋に向かう途中、自分の爪を切って先程のビニール袋に入れた。
 そして、リナーの部屋の扉をノックする。
 返事があったので、扉を開けた。
 リナーは分解した銃を、何やらガチャガチャしていた。
「何だ?」
 リナーはこちらに顔を向ける。
 俺は、リナーの眼前に二人分の爪が入っているビニール袋を差し出した。
「DNA鑑定ってあるモナね? そういうのをやってくれる施設にコネはないモナか?」
「ああ、大学病院にコネクションがあるが…」
 さすがのリナーも面食らったようだ。
「じゃあ、この二つの爪を鑑定して、二人の関係を調べてほしいモナ」
「…ああ、分かった」
リナーは怪訝そうな顔をしながら、ビニール袋を受け取った。
「あと、その大学病院は『教会』の管轄モナ?」
「いや、私の個人的な知り合いだが…」
「OKモナ!」
 俺は挨拶もそこそこに、リナーの部屋を出て行った。
 
 部屋に戻る。
 とりあえず、検査の結果待ちだ。
 それはそれ。
 これ以上考えて込んでも仕方がない。
 今の俺は、『矢の男』との決戦を間近に控えている。(もっとも、俺自身が戦う訳ではないが)
 そちらに集中しなければ…
 そう。
 奴は普通じゃないのだから。
 俺は再び決意を固くした。

200:2003/11/27(木) 22:34

 風が強い。少し肌寒いほどだ。
 もう、夏も終わりか。
「リナー、そのカッコ、寒くないモナか?」
 俺は訊ねた。
「…特に」
 リナーはいつもにも増して素っ気無く答えた。
 服やスカートも、普段よりこんもりしている。
 今日はかなりの重武装なのだろう。
 腕時計を見る。8時58分。
 約束の時間までもう少し。
 俺はバヨネットの柄を強く握った。
 『矢の男』の能力も、詳細は不明だ。
 リナーは、奴の能力が物語内で決定しないままに具現化したと言っていた。

 遠くからヘリの音がする。
「来たようだな…」
 リナーは言った。
 今度は1機のみだ。
 だが、昼間のような輸送ヘリとは全く違う。
 明らかに戦闘を目的とした流線型のスタイル。
 横に突き出した羽根のようなものには、ミサイルが取り付けられている。
 ローターが空を切る音も、昼のヘリより格段に小さい。
「RAH−66…」
 リナーは呆然とした表情で呟いた。
 そのヘリは、驚くべき速さで俺達の眼前に着陸した。
 今度はタラップは降りない。
 羽根の下の狭い空間が開き、しぃ助教授が窮屈そうに出てきた。
「時間ちょうどですね。さて、行きましょうか」
 固まっていたリナーが、不意に口を開いた。
「なぜ、ASAがこれを所有している? 今のところ、試作機2機とプロトタイプ6機しか存在していないはずだが…」
「ああ、羨ましいですか?」
 しぃ助教授は微笑んで言った。
 リナーはその笑顔を睨みつける。羨ましいのだろう。
「そのプロトタイプ機を払い下げてもらったんですよ。
 単座式にして、後ろにも人乗れるように改造しました。おかげで、ウェポンベイが出たままになってますが」
 リナーはショーウィンドーのトランペッドを眺める子供のように、そのヘリをじっと見ていた。
 素敵な紳士も、これをプレゼントするのはちょっと無理だろう。
「そんなにすごいヘリコプターモナか?」
 俺は何気なく訊ねた。
 リナーは物凄い剣幕でこちらを見る。
「すごいヘリコプター? 君は、あのRAH−66を目の前にしてその程度の感想しか抱けないのか?
 RAH−66とは、ステルス性と対ヘリ同士の空戦能力を主眼に開発された偵察ヘリだ。
 ここで注意したいのは、便宜上偵察ヘリとなっているにも関わらず、攻撃ヘリと同等の武器搭載能力を有している
 点だ。それでいて、そのステルス能力は妥協を許さない。機体構造及び外環は二次局面で構成され、
 武装及び降着装置を全て内部引き込み式にしている他、レーダー断面積を極限まで抑えている。
 また、アパッチに匹敵する出力を有しており、良好かつ俊敏な運動性能を達成している!」
「は、はあ…」
 俺は、とりあえず頷く。
 流石のしぃ助教授も硬直しているようだ。
 リナーは軽く息を吸って… 再開した。
「また、ステルス性を損なうもののスタブ・ウイングを装着すれば強襲打撃任務もこなせる能力を持っている。
 それに、開発当初より緊急展開能力を考慮して設計された為、良好な整備性と機体の小型化に成功した。
 それにより大型輸送機による前線展開力が極めて高く、戦闘段階において迅速な運用を可能としている。
 さらに、最新のアビオニクスも導入していて、任務上欠かせない夜間低空飛行能力は当然として…
 統合型のディスプレイとHIDSS(ヘルメット統合表示視認システム)で夜間における高い戦闘能力を発揮する」
 しぃ助教授は、チラリと俺を見た。
 何とかしなさい、そう訴えている。
「その操縦装置は、ヘリとしては初の3重系統のフライ・バイ・ワイヤー方式で…」
「あの、ちょっといいモナか…?」
「何だ?」
 リナーは俺を睨んだ。
「このヘリが大変に素晴らしいことは存分に分かり過ぎたモナ。
 でも、今は『矢の男』を倒しにいかないといけないモナ。早く行かないと、無駄な犠牲者が出るモナ…」
「そうだな… 多少取り乱したようだ」
 リナーはヘリに乗り込もうと、つかつかと歩み寄った。
 俺としぃ助教授も後に続く。
「まあ、それほどお褒め預かり光栄ですが…」
 しぃ助教授の声を、リナーは遮った。
「ほめてなどいないッ!! 大体、なぜ胴体部分にスペースを開けた? ステルスにこだわった設計が台無しだ!
 おかげでウェポンベイが出しっぱなしになるなど…無様極まりないッ!! 兵器運用を無視した改造など、
 存在自体が罪悪だ!!」
「す、すみませんでした…」
 しぃ助教授は素直に謝った。
 ここで反論したら、朝まで多分このままだ。そう判断したのだろう。
 それは大いに慧眼だ。
 こうして、俺達3人はヘリに乗り込んだ。

201:2003/11/27(木) 22:35

 当然ながら、乗り心地は悪い。
 もともと、人が乗るスペースではないのだから。
 当然、外を見る窓もない。何と言うか、最悪だ。
 ただ、振動は驚くほど小さい。
 その時、俺は重大な事実に気付いた。
「そういやみんな… さっきから『矢の男』を倒すとか、『矢の男』と戦う事ばかり言ってるモナ…
 モ… モナ! とんでもない事に気がついたモナ!
 モナが気付いたからいいようなものの… みんな、大変な事を忘れてやしないモナか!!
 『矢の男』を倒すって、いる場所が分からないモナ!!」
 リナーもしぃ助教授も、その衝撃の事実に唖然としている。
「ここまで来てこんな大切な事を忘れてどうする気モナッ!!」
 俺は呆れた。
 しかし…2人は、さらに呆れているようだ。
「あのですね…」
 しぃ助教授は口を開いた。
「矢の男の位置くらい、衛星で把握してますよ。今日の昼、何の為に特徴を聞いたんだと思ってますか?」
「衛星?」
 俺は聞き返す。人工衛星のことか? 『ひまわり』くらいしか俺は知らない。
「どうせ、君は『ひまわり』程度しか耳にした事がないだろうが…」
 失礼な前置きで、リナーは説明しだした。
「軍事目的で使われる人工衛星は… 思いつくところで、軍事気象衛星、軍事航法衛星、軍事通信衛星、
 軍事偵察衛星、早期警戒衛星、通信傍受衛星などだな。この場合は、軍事偵察衛星に相当する。
 通常は、2〜3mの識別が可能だ。もっとも、ASAがどの程度の衛星を保有しているかは知らんが…」
 リナーは、しぃ助教授の顔を横目で見た。
「詳しくは言えませんが… KH−11レベルですね」
 しぃ助教授は口を挟んだ。
「インプルーブド・クリスタルか…」
 リナーは感嘆したように呟く。
「私達ASAは、常に最新のテクノロジーで武装しているんですよ。
 どこかの古めかしい…おっと、格式を重んじる組織とは違いますから」
「…!」
 リナーは何かを言い返そうとして、結局止めた。
 指摘は的を射ていたのだろう。

「お楽しみのところ失礼しますが、もう1分もすれば『矢の男』のいるポイントに到着します」
 しぃ助教授の持っている無線から、パイロットの声がした。
 彼もスタンド使いなのだろうか。

 …近い。
 前に感じた、ドス黒い気配が視えてくる。
「ヤツは、いるモナ…」
 俺はそれだけを告げた。ヘリ内に緊張が走る。
 その時突然、俺の視界に「ある情景」が視えた。

『お前は… 選ばれたものか…』
 奴が狙いをつけているのは、男と女。
 女をかばうように、男が前に立ちはだかる。
『お前は逃げろ!』
 しかし、女は腰を抜かして立てはしない。

遠隔視能力。
視えるはずのものなのに、声まで聞こえる。音声の視覚化。

これは… 今まさに繰り広げられている情景だ。 
「急ぐモナ! ヤツが、一般人を襲ってるモナ!!」
 リナーとしぃ助教授は、俺のほうを向いた。
 しぃ助教授が無線で何かを喋っている。パイロットを急かしているのだろうか。
 しかし、そんなものは目に入らなくなった。

 一歩一歩、近づいていく『矢の男』
 女が逃げられない以上、男は動けない。
 そして、『矢の男』は矢を放った。
 それは、男に直撃する。
『いやああぁぁぁッ!!」
 女の絶叫。

「クソッ!!」
 視界が、ヘリ内に戻った。
 …何も出来なかった。
 一人の男が、俺の視える範囲内で命を落とした。
 女の方は…

202:2003/11/27(木) 22:37

「前方!!『矢の男』が見えます!!民間人女性は無事の様子!!」
 パイロットは叫んだ。
 俺、しぃ助教授、リナーは一斉に身を乗り出す。
 奴はそこにいた。

 ―――『矢の男』

 こちらを睨んでいる。
 邪魔が入って、気分を害したのだろう。
 奴は理解した。
 こちらに、奴を消滅させる意図がある事を。
 そして、俺は理解した。
 ―――今度は、本気で来る!

「先遣部隊は!?」
 しぃ助教授が叫ぶ。
「追い越してしまったようです。あと4分は、バックアップなしで…」
 大したチームワークだ。
 いや、俺が急かしてしまったのが原因か。

「まったく… 前言撤回します!! 私があの女性を救出しますから、貴方達は『矢の男』を引き付けておいて!!」
 しぃ助教授はそう言うと、返事も聞かずにヘリから飛び降りていった。
 高さは、約100m。まあ、しぃ助教授なら大丈夫だろう。
「リナー! 俺達も…」
「ああ。だが、その前に…」
 リナーは無線を拾い上げる。
「全弾、撃ち込め」
 その無線を通して、パイロットに告げた。
「はぁ?」
 当然の返答。
「奴に全弾撃ち込めと言っている!!
 ヘルファイア24発! ロケット弾24発! スティンガー24発! 全部だ!!」
 リナーは叫んだ。
「は、はい!!」
 無線機からの返事。
 俺はとリナーは再び外に乗り出した。
 『矢の男』は、そこに動かず立っていた。
 ただ、俺とリナーを見据えている。
 空を切るような発射音。
 俺たちの乗っているヘリから、70発を超える発射物が撃ち尽くされる。
 振動と轟音。
 それらの兵器は、目の前を構造物を全て消滅させた。
 瓦礫すら残らない。代わりに残ったのは、周囲を覆いつくす白煙。
 真下は住宅地だ。
 相当の被害が出たのではないだろうか?
「やったか…?」
 リナーが身を乗り出す。
 …その瞬間に、俺は視た。
 殺意。
 死の波動。
「リナー!! 引っ込め―――ッ!!」
 俺は、全力でリナーの身体を引っ張った。
 そのリナーのまさに眼前を、何かが高速で通っていった。
 いや、通っていったとは異なる。ヒビのような亀裂が空間を駆け抜けていった、というのが正解だろうか。
 大きくヘリが揺れた。
 俺とリナーは機体にしがみつく。
「尾部に損害!」
 パイロットが叫んだ。
「くっ…!」
 リナーの額が切れて、血が流れ出ている。
 間違いなく、さっきの攻撃。
 リナーの額を掠めて、ヘリの尾部に直撃したのだ。
「MBTの攻撃にすら耐えられる装甲だぞ…? あいつ、何をした…?」
 リナーが憎々しげに呟く。
 俺は体勢を整えると、身を乗り出して攻撃を食らった部分を見た。
 「視る」必要はなかった。
 あれは、損害とは言わない。
 ヘリの尾部は、綺麗に消滅していた。

203:2003/11/27(木) 22:37

 傾いたヘリの機体が、微妙に回転しだした。
 尾部を失ったからだ。
「このヘリは、もう持ちません!! 脱出してください!!」
 パイロットが叫ぶ。
「脱出っても… パラシュートもなしでどうやって…」
 言葉を言い終える前に、リナーが俺を抱きかかえた。
「なっ… あ…!!」
 まさか…
「喋るな!!舌を噛むぞ!!」
 なんと、リナーは俺を抱えたまま外に飛び出した!

「うわあああああ!!」
 長い落下。
 生きた心地がしない。
 女の子に抱きかかえられながら、紐なしバンジーをやる破目になるとは思ってもみなかった。
 月曜日になったら、学校で自慢しよう。
 その時までに、この命があったら…

 リナーは空中で体勢を変え、見事に着地した。
 だが、さすがに衝撃は大きい。
「流石に足がイカれたな…」
 リナーが呟く。
「修復まで、あと15分というところか…」
 まずい。こんな状態で、俺達は奴と戦えるのか?
 周囲には確実に『矢の男』がいるはず。

 その時… 凄まじい爆音がした。
 吹き寄せる爆風。
 さっきミサイルをブッ放した時の比ではない。
 そう、俺たちの乗っていたヘリが墜落したのだ。
 冗談のように民家に突っ込んだヘリは、激しく炎を噴き出していた。
 その炎は、恐ろしい勢いで周囲を覆い尽くしていく。
「まずいな… 被害が大きすぎる…」
 リナーは呟いた。

「貴方達、怪我は… あるようですね」
 不意に背後から声が聞こえた。
 しぃ助教授だ。
 彼女は、矢が刺さった男の死体と、泣きじゃくる女を抱えていた。
「私達も、この場から離れた方がよさそうですね…」
 そんな言葉は、俺の耳に届かなかった。
 なぜ、今まで気付かなかったのだろう。
 俺は、その二人と毎日顔を合わせていた。
 ―――矢が突き刺さっているのはギコ、泣きじゃくっているのはしぃだった。


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204新手のスタンド使い:2003/11/28(金) 00:51
なんだこれわ。すごく面白い。

205新手のスタンド使い:2003/11/28(金) 23:26
合言葉はwell kill them!その④―オヤジ狩りに行こう。


ジリリリリリリ・・・・。
ああ、何時もの様に無機質な目覚ましの音が響いている。
ジリリリリリリ・・・・。
ぐわっしゃあああん!!!
・・・また壊しちまった、これで3回目だ。

アヒャはまだ朦朧としている意識の中、布団の上でボリボリと頭を掻いた。
「ふあぁ〜まだ眠いな。遅刻してもいいからも一回寝ようかな・・。」

何時もと変わらない朝。つまらない朝。
この後何時ものように顔を洗い、飯を食い、歯を磨き、着替えて学校へ行く。
その繰り返し。平凡な日常が始まったと言う訳だ。
ま、アヒャはスタンド使いなので日常から逸脱している点が在るが・・。

「はぁ〜、何か俺自分の部屋に一人で居ると独身のワカゾーみてーだな・・。」
彼はたまにこんな下らない事を考えたりしている。
「たまには誰かと一緒に寝たいよなー。可愛い女の子が隣に居てさ・・・・。
 そんでくんずほぐれつ・・・・。ムフフ・・・。」
ヤバイ。ハッキリと言ってヤバ過ぎる。彼がヤバイのは子供の頃からなので
なんら心配はないが・・。まあ、宅間のような犯罪者にならぬことを祈ろう。

「さ、ちゃっちゃと起きますか。・・ん?」
彼は布団から出ようとして奇妙な違和感を感じた。
布団が湿っている。
「やばっ。俺この年で寝小便か!?」
慌てて布団を捲って見ると、布団が血だらけになっていた。
しかも、彼の目を疑うような光景もおまけで・・。

布団に隠れて気がつかなかったが、彼の寝ていたすぐ傍に一人の少女が寝ていた。
しかも真っ裸で・・・・。

「ぎゃあjrtkldふぉp度phlkrすぇぉg!!!!!!」
余りの事に驚き、アヒャは部屋の隅に飛び退く。
無理もない。こんな光景誰がすんなり受け止めるというのだ。
彼はただ呆然とする他なかった・・。

206新手のスタンド使い:2003/11/28(金) 23:49

「落ち着け・・・。落ち着くんだ俺!こんな時こそ素数を数えながら気を沈めるんだ!
 ええっと・・・。2・・・3・・5・・7・・・12・・・違う11・・。」
アヒャが素数を数え始めた時、少女が起き上がってこう言った。
「あーはっはっは!!!ナイスリアクションだぜマスター!まさかこんなにも驚くとは
 思っても見ませんでしたよ!」

・・・・・・マスター!?

「ま、マスターって・・・・お前・・まさか!!」
「いま気がついたんですか!?にぶいっすね〜。」
少女の体が段々と溶けて、別の姿になる。それは・・・
「てめえの仕業か!ブラッド!!」
「ピンポ〜ン!御名答〜。」

数分後・・・。

「まさかお前に変身能力があるとはな・・。てゆうかお前何時出てきたんだ?」
「昨日一緒に三国無双3やったじゃないですか〜。憶えてないんですか〜?」
「そうか、そん時お前をしまうのを忘れて寝ちまったのか・・。でも本当にビビッたんだからな!
 これでもし心臓止まったって事になったらお前も俺も死んじまうんだからな!」
「メンゴメンゴ〜。流石だな俺様!」
まったく・・・奴に反省の色と言うのが在るのか?(多分無い)
「処で、お前今のところ何に化けれるんだ?」
「今のところは人間や犬や猫なんかの動物が限界ですね〜。ま、血液がタップリ有れば
 大型動物も可能なんですが・・。機械類は無理っすね〜。」
「ふ〜ん・・・。」

アヒャは。腕を組んで考え事を始めた・・・。
「そうだ!お前の能力で金稼ぐイイ方法を思いついた!」
「なんすか?見世物だったらマジ勘弁してくださいよ!」
「そんな柔なもんじゃねえ。今の時代だからこその金儲けさ・・・。」


用事があるのでちょっと止めます。すいません。

207新手のスタンド使い:2003/11/29(土) 22:17
>>206より

一日は過ぎ・・・・。

ここは茂名王町繁華街。
夜の街にはたくさんの人が出歩いている。
学校帰りの学生、強面のお兄さん、金目当てで自分の体を売る女子高生、
そしてそれに食いつく中年親父、目が逝っちゃってる人・・・。
人生の縮図がここにはある。

駅前の待ち合わせスポットになっている『絶望する人の像』の前。
そこに一人の少女がちょこんと座っていた。
年はまだ中学生位だろうか。
ピンク色をメインにした服装。
茶色く染めた短い髪。
ミニスカートからすらりと伸びた白くて細い足。
誰かと待ち合わせでもしているのだろうか?
こんな可愛い少女一人きりでは、エロ親父の格好の餌食にされてしまう。

数分後・・・。
心配していた事態が起こってしまった。
彼女に一人の親父が擦り寄ってきたのだ。もち体目当てで。
「ね、ねえお嬢ちゃん。いっ今一人っきりなの?」
「そ、家帰ってもつまんないだけだし〜。ここいら辺でぶらついてるの。」
「だ、だったらオジサンと一緒にカラオケでもどう?」
「じゃあね〜。4万払ってくれたらいいよ〜」
この一連の流れ・・・何処をどう見たって援助交際の流れだ。
こんな乱れた性生活を送る近頃の女子高生はそう少なくはない。
「ええ!ほ、本当!?」
「5万だったらホテルもOKだよ〜。」
「そ・・そうなの!?なら今すぐ行こうじゃないか!」
「賛成〜。」
少女はのこのことエロ親父に付いていった。
口元に不敵な笑みを浮かべて・・・・。

数時間後、二人はホテルへと入っていった。
その後を尾行するかのごとく、男が一人物影から様子を窺っていた・・。

208新手のスタンド使い:2003/11/29(土) 22:42

男は懐から何かを取り出した。
小型のトランシーバーだ。
即座にスイッチを入れると男は自分の耳に押し当てた。
「さ、ハッピーで爽やかな気分を象徴した断末魔の悲鳴を聞かせて
 貰いましょうかねぇ!」

トランシーバーから音が漏れている。
どうやらホテルの中の会話らしい。

「ザーッ・・ザザッ・・・・・・・『はあ・・・。はあ・・・。・・・・
 さあ・・・・オジサンの臭いのを・・。』・・ガシイッ・・『ええっ!?
 な・・何するんだい可愛い子ちゃ・・。』・・ボグシャアアアア!!!!
 『ウギャアアアア!!!!!』・・・ドカッ!・・バキィ!・・・・・・
 『い・・痛いじゃない!何でこんなことを!?』ドムウ!『ふぐう!』
 ・・・・・・・・・・・・・・・・ゴソゴソ・・・・・プッ。」

「順調じゃあねーか。あいつもやりおるなあ。」
今の出来事を聞いて男はほくそえんだ。

「おお〜い。ガッポリ稼いできましたよ〜。」
先程の少女が男の所にやって来た。
「でかした!・・で、幾ら?」
「18万も持っていましたよあの親父。流石ですねマスター!こんな
 金儲けの方法考え付くなんて・・。」

そう。この少女の正体は変身能力で女の子に化けたブラッドで、
物陰に潜んでいた男はアヒャ。
外にいるアヒャとはトランシーバーで連絡を取り合えるようにしていたのだ。
「ま、このご時世こういうビジネスも有りってことよ!」
「流石だよな俺ら。」
二人は高らかな笑い声を上げた。

駅前の待ち合わせスポット
次なる獲物を求め、ブラッドが罠を張っていた。
「さ、次なる獲物は・・・ん?」
気がついたとき、ブラッドの目の前に一人の男が立っていた・・。

  /└────────┬┐
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209:2003/11/29(土) 22:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その6」


「モ、モナー君…?」
 しぃは、俺の顔を見て泣きじゃくりながら言った。
 ギコはぐったりしている。
 顔は真っ青。かなりの出血。
 正直、息があるとは思えない。
「ギ、ギコ…」
 俺は呟いた。
 いや、しぃ助教授がわざわざ運んできたという事は、まだ息があるんじゃないか?
 その考えを裏付けるように、ギコは「う…」と唸った。
 俺は胸を撫で下ろした。
 いや、マターリしてる場合じゃない。
 周囲は炎に包まれている。
 凄まじい熱気。このままここにいると、炎にまかれてしまう。
 さらに、リナーは両足を負傷。100m近くの高さから飛び降りたのだ。
 ギコも半死半生。当然ながら、しぃも戦力にならない。
 泣きじゃくるしぃを尻目に、こちらの戦力分析をしている自分にふと嫌気がさした。
 …いや。精神的に強くなるとは、こういう事か。

 しぃ助教授はギコを地面に寝かせると、ハンマーを取り出した。
「来ますよ…」
 炎の中から、ゆっくりと『矢の男』が現れた。
 炎に乗じて奇襲する気はないようだ。
 『矢の男』は口を開く。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』…!」
 御託も何もなく、ただスタンドの名のみを呟いた。
 男の体から浮かび上がる、攻撃的なヴィジョン。
 本体よりも一回り大きい、人型のスタンドだ。
 全身には力が漲っている。
 これが、『アナザー・ワールド・エキストラ』…
 殺る気は充分のようだ。
 しぃ助教授も、男の姿を凝視している。
 不意に、『矢の男』の姿が消えた。
 ―――瞬間移動。
 奴は、リナーの横に現れる。
 動けない相手から先に狙ってきやがった…!
「!!」
 リナーは銃を抜くと、何度も引き鉄を引いた。
 当然のように、『アナザー・ワールド・エキストラ』は弾丸を弾き飛ばす。
「まずは、お前だ…」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』が右腕を構え…
 その瞬間、しぃ助教授が『矢の男』の背後に翻った。
 旋回させ、加速をつけたハンマーでの一撃。
 直撃を受け、『矢の男』は20mほど吹っ飛ぶ。
 轟音を立てて、崩れ落ちた瓦礫の中に突っ込んだ。
 そのまま、奴は瓦礫に埋もれてしまう。
「やったか!?」
 俺は、リナーとしぃ助教授のそばに駆け寄る。
 しぃ助教授は、口惜しげに首を振った。
「いえ、奴のスタンドにガードされました。あのタイミングで、死角からの攻撃を防ぐなんて…」
 そして、俺の方に向き直った。
「今すぐ、他の3人を連れてここから離れなさい!」
「え…、だけど…!」
 俺は困惑する。尻尾を巻いて逃げろという事か?
「ここは私が食い止めます。早く!!」
「逃げるなんて、できないモナ!」
 そう、俺は強くならなければならない。
 敵に後ろなど見せられるものか。
「あなたの今すべき事は何ですか? 大した戦力にもなれずに、私の傍をウロウロする事ですか?
 それとも、瀕死の人間を病院に運ぶことですか?」
 …そうだ。俺は馬鹿だ。
 ギコを、俺のエゴの犠牲にするところだった。
 『矢の男』は瓦礫を吹き飛ばして出てくる。
 そして、こちらにゆっくりと近づいてきた。
 もう、一刻の猶予もない。
 俺はリナーに肩を貸した。そのままギコを背負う。
 しぃはへたばったままだ。
「しぃちゃん!」
 呆然とした表情で、こちらを見るしぃ。
「早く、ギコを病院まで運ぶモナ!」
 その言葉を聞いて、しぃは夢から覚めたように立ち上がった。
 『矢の男』が、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
 しぃ助教授は、そちらを凝視しながらハンマーを構えた。
「じゃあ、後は任せるモナ!」
 しぃ助教授は、『矢の男』への視線を維持したままで頷いた。
 俺はしぃを連れて走り出した。

210:2003/11/29(土) 22:46

 凄まじい炎。
 吹き寄せる熱気。
 ヘリの墜落から始まった火災は、なおも延焼を続けている。
 かなりの犠牲者が出たのではないだろうか。
 悲鳴や怒鳴り声があちこちで聞こえる。周囲は、凶気と喧騒で包まれていた。
 人々はパニックを起こし、とにかく火から逃げ惑っている。
 俺達は、そんな人達の流れに乗って、戦いの場からかなり距離を置いた。
「とりあえず、車を見つけるべきだな…」
 俺の肩を借りているリナーは言った。
 どうでもいいが、かなり重い。
 一体、どれだけの量の武器を所持しているのだろうか。
「でも、誰が運転を…?」
 高校生である俺やしぃは論外だ。今のリナーの足でも、辛いものがあるだろう。
 車自体は、すぐに見つかった。
 おあつらえ向きに、黒のリムジンが停めてある。
「よし、あれに乗るぞ…」
 リナーは言った。でも、運転はどうするのだろう?
 よろよろと車に近づくリナー。まだ足は完治していないようだが…
 そして、リムジンの後部座席のドアを開けた。
「おい、きさま… なにしてるんだよ?」
 ガタイのいい男が、後ろからリナーの肩を掴む。
「誰の車だと思ってんだ? モナソン・モナップス上院議員のもんだぞ!」
 大声を上げて凄む男。
 リナーは無言で肩に乗せられていた男の腕を掴むと、時計回りにねじった。
 バキバキと音を立てて砕ける男の骨。
「おおお、おがあ……ぢゃ………ん」
 呻きながら、男はその場に崩れ落ちた。
 リナーは明らかに機嫌が悪い。
 理由は明白。
 天敵のしぃ助教授に、さっきのピンチを救ってもらったからだ。
 リナーはそのまま後部座席に乗り込む。
「何をしてる!? 早く乗れ!」
 リナーはそう言った。俺達は車に駆け寄る。
 後部座席、そしてリナーの隣には初老の紳士が座っていた。
「これこれ……若いお方というものは、血気がさかんすぎていかんことだのう、フッフッフッ…」
 温和な顔で笑う紳士。
 リナーは左腕を紳士の顔の前に掲げると、おもむろに前歯を引っこ抜いた。
「ブツブツ言ってないで前座席へ行け。運転してもらおう…」
「おげぇぇぁぁぁ〜〜っ! イイデェーッ!」
 悲鳴を上げる紳士。
「き…きさま何者だァーッ! わしに…」
 リナーは紳士の鼻先を掴んで、運転席へ放り投げた。
「悪いが、貴様の長口上を聞いている暇はない」
 
 俺はギコを後部座席に乗せた。しぃがその隣に座る。
 これ以上は後部座席に乗れないので、俺は助手席まで回った。
「上院議員にできないことはないからだッ! ワハハハハハハハーッ」
 可哀想に、上院議員はすっかり壊れてしまったようだ。
「とりあえず、近くの病院へ向かえ。場所は分かるな?」
 リナーはそう命令した。
「はっ…はい――ッ」
 上院議員はヒステリックな叫び声を上げ、その嬌声と共に車は急発進した。

211:2003/11/29(土) 22:47

          @          @          @


 ゆっくりと歩み寄ってくる『矢の男』。
 70発以上ものミサイルをいなし、至近距離からのハンマーでの一撃をも防ぎきった。
 この男、間違いなく強い。
 私は汗をぬぐって、ハンマーを構えた。
 一瞬の油断も許されない。
 ここまで緊張感のある戦いは久し振りだ。

 『矢の男』は、ゆっくりと左手をこちらへ差し出した。
 連動して、奴のスタンド『アナザー・ワールド・エキストラ』の左腕が上がる。
 …直感だが、あの動きは危険だ。
 私は素早く真横に飛びのいた。
 同時に、巻き起こる衝撃。
 奴の腕先から、私のいた場所。そしてその直線上にあったもの全てが吹き飛んだ。
 その衝撃は地面を削り取り、一直線のラインを形作る。
 そう、100mもの上空にいたヘリを撃墜した力だ。
 大地に残った爪跡は、遥か彼方まで続いている。奴の能力の射程距離は測りきれない。
 この力は、確かに脅威である。
 だが…私は見抜いた。
 あの衝撃波を放つには、手を差し出すという予備動作が必要なようだ。
 単純にして、致命的な弱点。
 さらに第二撃。
 ―――予備動作を見逃さない限り、あんな攻撃など当たりはしない。
 私は高く跳んで、民家の屋根に着地した。
 …だが、『矢の男』は、屋根の上に瞬間移動で先回りしていた。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』の攻撃を2度も回避したことは賞賛に値する…が、これで終わりだ…」
 奴は手を差し出そうとする…が、遅すぎる。私の間合いを見誤っているようだ。
 私は一瞬で間合いを詰めると、空中で一回転してハンマーを振り下ろした。
「…!!」
 スタンドの両腕を頭上で交差させて、攻撃を防ごうとする『矢の男』。
 そんなもので、この一撃の威力は殺せない。

212:2003/11/29(土) 22:47

 直撃を食らい、奴は屋根を突き抜けて階下に落ちた。
 その衝撃は屋根のみに及ばず、民家そのものを破壊する。
 私はそこから飛び退いて、地面に着地した。
 倒壊する民家。住民は避難済みであることを祈るばかり。
 今度は殺ったか…?
 私は、数秒前まで民家であった瓦礫に一歩近づいた。
 その刹那、放たれる衝撃波。
 それは、私の頭上をかすめていった。
 あと一歩近づいていたら、完全に腰から上が消し飛んでいただろう。
 向こうもこちらが見えていないのか、正確に狙った一撃ではなかったのが幸いした。
 この戦いでは、不用意な動きは死に直結する。
 瓦礫を吹き飛ばして、『矢の男』が姿を現した。
「なかなかやってくれるな、女…」
 『矢の男』は、その位置から衝撃波を連発した。
 手の向きと視線で攻撃方向は読めるものの、これでは近づけない。
 周囲への被害も大きすぎる。
 無造作に放たれる一撃一撃が大地を抉り、民家を粉砕した。
 不意に、『矢の男』の姿が消える。
 ――真後ろか!
 『矢の男』は、現れると同時に衝撃波を放った。
 咄嗟に飛び退く。
 なんとか直撃は免れたが、学帽が半分消し飛んでしまった。
 瞬間移動と衝撃波を併用しての波状攻撃。
 なんという厄介な能力だ。
 小細工を弄しないのは本体の志向だろうが、狡猾に来られたら誰も太刀打ちできないのではないか?
 間違いなく、あの能力は封印指定レベルだ。

 早く勝負を決めなければ、持久戦ではこちらが不利である。
 さらに姿を消す『矢の男』
 ――今度は、頭上!
 落下しながら、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振るう。
 この距離ではかわしきれない。
 ――仕方ない。
 これは、最後の切り札にしたかったが…

「『サウンド・オブ・サイレンス』!!」

 全力で打ち下ろされた『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳は、私に届く20cm手前で止まった。
 まるで、見えない壁にぶち当たったように。
 散らしきれなかった『力』が、周囲の空間に放射状に弾け飛んだ。
 『矢の男』は飛び退いて間合いを開ける。
「…力が逸らされた、だと…?」
「本当は、逸らすんじゃなくはね返したかったんですけどね」
 『力』が強すぎて、一瞬では指向性を持たせられなかった。
 発散させるだけで精一杯だ。
 少しの間を置いて、『矢の男』は口を開いた。
「…なるほど。『力』の方向を変え、衝撃の伝播を操作するのが貴様の能力か…」
「ご名答。拳での攻撃は、私には届きませんよ?」
「…面倒だな」
 言葉とは裏腹に、『矢の男』は笑みを浮かべたように見えた。
 スタンド使いの強者を求めるのは、この男の本能だろうか。
「貴様を葬るのは難儀そうだ…」
 そう言って、『矢の男』は姿を消した。
 ―――今度はどこから来る!?
 私は身構えた。
 周囲に感覚を広げる。
 例の衝撃波は、物理的特性にとらわれずに物質を消滅させるようだ。
 その『力』は、『サウンド・オブ・サイレンス』では逸らせない。
 だが、かわすことは充分に可能。
 拳で来ようが、間合いをおいて衝撃波を放とうが、次に現れた時が『矢の男』の最期…!

 『矢の男』が姿を消してから、10秒が経過した。
 奴は現れない。
 油断を誘っているのか?
 いや、奴は姿を消す直前に何と言っていた?

『貴様を葬るのは難儀そうだ…』

 …しまった。
 奴は、私との戦いを先延ばしにしたのだ。
 目先の邪魔者を放置してまで奴が優先することといえばただ一つ。
 ―――矢の回収。
 矢は、あのギコに刺さったままだ。
 なんという失態、みすみす奴を逃がしてしまった…!


          @          @          @

213:2003/11/29(土) 22:48

 あれから、かなりの距離を走った。
 夜も遅いので、車道が空いていたのが幸いした。
 もし渋滞に巻き込まれようものなら…
 今のリナーなら、何を命じていたか目に浮かぶようだ。

「大体、足も回復したようだ」
 リナーは言った。
「ギコは?」
 助手席に座っている俺は、振り向いて訊ねた。
「応急処置は施した。出血は止まったようだが…」
 リナーは前に言っていた。
 リナーの治療は、あくまで本人の治癒力を促進させるのみだ。
 簡単に傷が塞がったりはしないし、致命傷なら効果はない。
 とは言え、先程まで死人のようだったギコの顔色は幾分良くなった。
 息は荒いが、さっきまではその呼吸自体が止まっていたのだ。
「なんで… なんで、こんな事に…」
 しぃが涙声で呟いた。
 何と説明したらいいのだろうか。
「えっと…ギコを矢で射た奴は、悪い奴モナ。それで、モナとリナーはそいつと戦ってるモナよ」
 しぃは、俺の顔をじっと見た。
「それで、ギコとしぃちゃんが巻き込まれたのは…」

 ――――運命。

 嫌な言葉が頭をよぎる。
「たまたま、あそこにいたからモナ」
「私が、あんな時間にギコ君を誘ったから…」
 しぃはうつむく。
 深夜のデートの代償は高くついたようだ。
「過去の事を嘆いても仕方がない」
 リナーは言った。「たまたま不幸に巻き込まれただけだ。特に思い悩む必要はない」
 その通りだ。反省ならば意味はあるが、後悔は不要だ。
「それに、ギコの命に別状はない。入院は必要だろうがな…」
 リナーは、しぃに対する慰めを口にした。
 しかし、あの矢に刺さって息があるという事は…
 
 急に、寒気がした。
 黒いモヤのようなものが、後ろから広がってくる。
 この気配(視覚化されているので、厳密には気配という言葉は当て嵌まらないが) は、間違いない。
 そう、『矢の男』だ。
「…来たようだな」
 リナーも、奴の存在に気付いた。
 しかし、奴が追ってきたということは… 
 しぃ助教授は、まさか…!?

 いや… しぃ助教授の現在の姿を視ることができた。
 ここから20Kmほど離れた場所を走っている。
 かなり離れた位置だ。
 『矢の男』は、瞬間移動を繰り返してここまで来たのだろう。
「何があっても速度を落とすな!!」
 リナーは上院議員に命令した。
 哀れな上院議員は、壊れたように何度も頷く。
「それにしても… なんでこの車の位置が…!」
 俺は呟く。ヘリを落とされた場所からかなり移動したはずだ。
 なぜ、奴に位置がバレたのだろうか。
「恐らく、その『矢』だ」
 リナーは断定した。
 ギコの止血をする時にリナーが抜いた『矢』は、今もシートに転がっている。
「あれを投げ捨てて、距離を開ければ…」
 『矢の男』の追撃から逃れることができるんじゃないか?
「いや、それは得策じゃないな…」
 リナーは言った。何か考えがあるのだろうか。

 『矢の男』は、かなり車に接近してきた。
 俺は窓を開けて顔を出す。
 すでに、目視できる距離まで近づいていた。
「ヘリを落とした能力を使われたら、こんな車は跡形も残らないモナ…」
 あの能力は、大きな脅威だ。
 リナーは、銃を取り出しながら言った。
「この車は80Kmで走行している。流石に狙い撃ちは無理だろう」
 確かにその通りだ。だからこそ、減速を禁じたのか。

 瞬間移動を繰り返しながら、奴は車の真横まで現れた。
 奴のスタンド、『アナザー・ワールド・エキストラ』の姿が浮かび上がる。
 直接、攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
「…来るぞ!!」
 リナーは銃を構えた。
 

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

214新手のスタンド使い:2003/11/29(土) 23:25
乙です。上院議員にワロタ。

215新手のスタンド使い:2003/11/29(土) 23:40
やばい、すっげぇ気になる

216新手のスタンド使い:2003/11/29(土) 23:53
     茂名王町の市街に位置する、茂名王中央病院。


「さてと…院長さん。何なのコイツら?」
 人気のない病室で、一人の刑事がベッドに横たわる二人の人影を顎で指した。
「さぁな。私にもさっぱり解らない。救急車で運ばれてきたんだが、
 こっちの奴は永遠に眠り続けてもおかしくないような『昏睡状態』。
 そっちの奴は人工心肺がないと数分も持たない完全な『心停止』。
       ・ ・ ・ ・ ・
 二人とも『死んでない』ってだけで、『寝返り』一つうてやしない。
                                            ・ ・ ・ ・ ・ ・
 これだけならまだ『脳卒中』とか『心筋梗塞』で済むんだが、こんな症状が一緒に二人ときた。
 『外傷』も『持病』も『スタンガンみたいな道具使った痕』もないし、『何なのコイツら』だなんて私の方が聞きたいよ」
 『もうお手上げ』とばかりに、両手を挙げて首を振った。
「現場には多数の『ナイフ』と『血痕』。ただ、血痕の血もナイフについてた血も『モララー族』のモノじゃなくて、『しぃ族』の血だ。
 血の持ち主は現在捜索中だが、なにぶんにもしぃ族は数が多い上に『虐殺』されて戸籍がしっちゃかめっちゃかの状態でな。
 リストを検索しても出てこない可能性が高い」
「今の段階で一番常識的な意見を挙げるとすれば、『コイツら二人がしぃ族を『虐待』して、
 十代の健康な男二人がまったく同時に脳卒中と心臓マヒ起こしてぶっ倒れた』って事か?」
 常識を著しく外れた推測に、刑事が苦笑した。
「おいおい、そんな無茶な…『他殺』…いや、死んでないんだったな。『第三者の介入』とか、そんな痕跡はないのか?」
                           ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そっちの方が無茶だろうが。どこの世界に道具も使わず心筋梗塞や脳障害を人為的に引き起こせる人間がいるんだよ。
 『ヨボヨボの年寄り』ならともかくとして、『健康な十代の男性』だぞ?絶ッッッッッッ対に不可能だ。ま、できるとすれば…」
 そこで一旦言葉を切り、くるくると人差し指を回し始めた。
興奮した面持ちで刑事が体を乗り出し、続きを促す。
「なに、できる奴がいるのか!」
「『コンピューター並の分析能力と、工業機械並の精密さと、最新モーター並のスピードを持ってる奴』
 なら、出来なくもないと思う。多分。恐らく」
院長の言葉に、刑事ががっくりと方を起こした。
「……期待させやがって。そんなモン最先端技術の粋を集めても作れるわけ無いだろ」
「まーな。『脳卒中』の方はそれでも不可能だ。あんたの前で言うのも何だが、迷宮入り確実だろ」
「まったく…推理小説じゃねぇんだぞ?」

217丸耳達のビート:2003/11/29(土) 23:54

 その推理小説じみた状況を作った人間達は、茂名王町の診療所にいた。
しぃ族の女性の掌に、マルミミが自分の手を乗せている。
「『骨折』五ヶ所。内臓の『破裂』に、『耳』の欠損。四肢に『刺突』の傷多数。『失血』多し」
 掌を重ねただけで、的確に負傷箇所を言い当てていく。
「手ひどくやられたのぅ…。マルミミ、『輸血』。『麻酔と止血』は儂がやろう」
「うん。『心拍』は?」
「今のところは良いが、乱れたら『調節』しておいてくれ」
 輸血用パックを受け取り、静脈に差し込む。
茂名も針を取り出して、女性の体に突き立てた。『針灸術』と呼ばれる、大陸の麻酔術だ。
「『骨折』は儂が治す。お前は傷の縫合を」
「わかった。右足からいこう」
「うむ」
 そう言うと、茂名が呼吸を切り替えた。
ハンマー投げの選手がぐるぐる回りながら力を蓄えていくように、体内に溢れる生命エネルギーを掌の一点に集めていく。
 折れた右足にその手を当て、静かに呟いた。
                 サンライトイエローオーバードライヴ
「流し込む…太陽の波紋…山 吹 色 の 波 紋 疾 走 ッ」
 仄かに当てられた手が光り、折れた右足が痙攣を起こした。
ぶるぶると震えながら激しく動き回り、折れた骨格が見る見るうちに整形されていく。
 茂名家に代々伝えられる、特殊な呼吸によって生命エネルギーを操り利用する名も無き東洋の秘術。
『仙道』『気功』『頸力』――――――様々な呼び名で呼ばれるが、太陽のエネルギー『波紋』と、彼は呼んでいる。
 何度か同じ動作を繰り返し、体中の骨折を次々に整形していった。
「…処置は終わった。裂傷は任せるぞ」
「うん。…頼んだよ」
 マルミミの一言と同時に、針と糸がケースを離れた。だが、彼は指一本動かしてはいない。
もしも彼と同じ『才能』を持つ者がこの光景を見たら、マルミミの体から伸びるもう一本の腕が見えただろう。
                                   ・ ・ ・ ・ ・ ・
静かに瞳を閉じ、己の目で見るよりも貼るかに鮮明なもう一つの視界を通して世界を視る。
『皮膚』のライン、『筋肉』の損傷、『血管』の走向、『神経』の流れ―――――
その気になれば『細胞』の一片一片すらも視る事ができるであろう『彼』の視界。
 マルミミの胸あたりにふよふよと浮いていた針が、突然霞んだ。
傷口の断面に針が刺さり、突き抜け、手術糸を通す。
生身の目を閉じ、肉眼では捉えられないようなスピードで動きながらも、女性の『傷口』はほんの僅かも傷んでいない。
 それは正に、『コンピューター並の分析能力と、工業機械並の精密さと、最新モーター並のスピード』だった。
血管を縫い、神経を通し、筋肉をつなぎ、皮膚を塞ぎ――――――

218丸耳達のビート:2003/11/29(土) 23:55
 熟練の医者でも数時間はかかるような処置は、ものの数分で完了した。
「っあ――…肩こった…」
「後は『波紋』を送り込んで安静にしておけばすぐに回復できるはずじゃ。…そう言えば、『学校』は良いのか?」
 茂名の声に、がばぁっと時計を見た。
午前八時十五分。
「しまったァ――――――アァッ!! !! 忘れてたッ!おじいちゃん何でもっと早く教え」
「儂も忘れとった。スマンスマン」
 言葉が終わるのを待たず、奥の居住スペースへと駆け込む。
着替えに十秒、準備に二十秒、トーストと牛乳を三十秒で流し込み、歯を磨くのに三分。
「逝ってきまアアアアアアァァァ――――――すッ!」
 ドップラー効果のかかったあいさつを残して、嵐の如く家を出た。
「…良いのぉ、若くて」
 細い目を更に細め、微笑みながら孫を見送る。
安らかな寝息を立てている女性の方に振り向き、そっと頬を撫でた。
「『手前味噌』と思われるかもしれんが…若い奴等もなかなか捨てたものではないぞ。お嬢さん」
 聞こえないと知りつつも、ささやかな孫自慢を語りかける。
気のせいか、彼女の表情がほんの少しだけ緩んだような気がした。

219丸耳達のビート:2003/11/29(土) 23:58
 かちゃ、と音を立てて、診療所のドアが開かれた。
「ただいまー」
「お帰り。学校には間に合ったか?」
「何とか」
「そうか。良かった」
 この茂名王診療所は、マルミミと茂名の二人だけでささやかに切り盛りしている。
茂名王町には三つの医療施設があるが、ここが一番規模の小さい所だ。
「おじいちゃんの古武術教えて謝礼とかもらえば?どうせ暇なんだし。看護婦一人くらい雇おうよ」
「ここは二人でも充分なんじゃよ。大体のぅ、波紋法の習得はどんなに早くても十年以上かかる。
 自分で言うのも何じゃが、『才能』と『努力』両方に恵まれた儂でも数十年間費やしてやっとこの程度じゃ。
 『戦国時代』ならいざ知らず、そんなモノは今どき流行らんよ」
「うーん…そっか。ところで、もうあの女の人起きてるんじゃない?」
 鞄を降ろして、カーテンに包まれたベッドを指した。
「そうか?どれ…」
 しゃ、とカーテンを開ける。しぃ族の女性は、目を閉じたままベッドに横たわっていた。
「…僕には『タヌキ寝入り』なんて通じないよ。虐待なんてしないから」
「……………………本当に?」
 長い沈黙の後、呟きと共にぱちりと女性の瞼が開いた。
「本当に。『ご飯』食べる?ちょうど良く冷めてるはずだよ。内臓の損傷がひどいから固体食は我慢してもらうけど」
 差し出された椀をじっと眺め、くんくんと匂いを嗅ぐ。
その仕草に、茂名が苦笑しながら手を振った。
「『毒』なんぞ入っとらんよ」
「…いただきます」
 しぃ族の猫舌にほどよく冷めた病人用の流動食を、喉の奥に流し込む。
「…美味しい」
「そうじゃろ?腹に優しく消化も良い。卵黄にバナナとパンを、トロトロになるまでミルクで煮込んだ自信作じゃ」
「三日もリハビリすれば元通りに動ける筈だよ。欲しい物があったら出来る限り持ってくる。あと、カルテ取るから名前教えて」
「お礼なんて出来ないよ?貯金も無いし」
 女性の声に、茂名が大袈裟に首を振った。
「礼なぞいらんよ。好きでやってる事じゃからな。罪滅ぼしのような物じゃ」
「『罪滅ぼし』?…あ、いい。言いたくないなら。それより名前だっけ?私、『戸籍』無いんだけど…」
「構わんよ、無いなら無いで。いくらでも作れる」
「そう…『シュシュ』。苗字とかは無いけど、『しぃ』でいいよ」
「そうか。シュ…シュ…と。いい名前じゃな。…どうした?鳩が豆鉄砲喰らったような顔して」
 茂名の問いに、開いたままの口を閉じて僅かに頬を赤くする。恥ずかしそうに俯いて、つっかえながらこう答えた。
「あ…ごめんなさい。その…『名前』誉められたのなんて…なんて言うか…『初めて』だったから…」
その言葉に、ぎり、とマルミミが奥歯を噛み締めた。

220丸耳達のビート:2003/11/30(日) 00:00
                    AA
 ようやく二十歳を過ぎた程度の人間が、名前を誉められたこともない。
こんなに綺麗な女の人が、生まれた時からずっと苦労をしているのに。
(僕は何ができる?体は直せても、心の傷なんて塞げない。肉体を直せる人間にしたって、苦しんでる人達のほんの一握り…
『助ける』ことはできても、誰一人『救う』事なんてできない…!)
「…謝る必要はないよ。一眠りすれば傷は殆ど塞がるから。早く寝るといい」
 心の『葛藤』を隠して、しぃに向かって微笑みを向ける。
「…ありがとう」
 そう言って微笑み返した彼女の顔は、マルミミの葛藤を吹き飛ばす程に―――――
「…………」
 とても、綺麗だと思った。

221丸耳達のビート:2003/11/30(日) 00:02
コツゥ――――――……ン……
コツゥ――――――……ン……
コツゥ――――――……ン……

 深夜二時。
古い言い方をすれば、『草木も眠る丑三つ時』と言ったところか。
 モララー族の二人組が寝ている病室に、『足音』が響いていた。
監視カメラが作動し、警備員も見回りをしている筈なのに誰も足音の主に気がついた様子はない。
 薄暗い夜の病院では顔の造形もよくわからないが、非常に印象が薄い男だった。
出逢って数分もすれば忘れてしまうような男の中で、唯一目に止まるのは手に持っている古びた『矢』だろう。
鈍い輝きに精緻な彫刻が施され、迫力と存在感を宿している。
印象の薄い男と相まって、奇妙な空気が男の周りに形成されていた。

コツゥ――――――……ン

 足音が止まった。声の主がベッドの前で立ち止まり、永遠に目を覚まさないはずの二人に語り始める。
「さて…と。君達に『チャンス』をやろう。
                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 体中に医療機器を繋がれ、寝返り一つうてないまま死ぬか。
                      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 はたまた『力』を手に入れて、より鮮やかな世界で生きるか。
 これは『賭け』だ。降りることは…」
 す、と言葉を切り、持っていた矢を振り上げ―――――
「許されないッ!!」
 一声叫び、一瞬で二人の心臓に突き立てた。
二人の体から噴水のように血が噴き出し、清潔なシーツを紅く汚す。
 だが、本当の『異変』はここからだった。確かに貫いた胸の穴が、見る見るうちに塞がりだしたのだ。
噴き出してシーツに染み込んだはずの『血』も、生き物のようにうねりながら『傷口』へと向かう。
 傷は見る間に小さくなり、血痕も残らず完全に消えた。
「…傷は塞がった―――――『成功』だ。おめでとう、選ばれた者達よ。
 君らの体には新たなる力…『スタンド』が宿った。虐殺でも荒らしでも、好きなことをすればいい…気分はどうかな?」
 ぱちりと男達の瞳が開き、肉食獣のように獰猛な笑みをその顔に浮かべた。
男達の体から、半透明のヴィジョンがずるりと這い出してくる。
一つは逞しい男性の姿。もう一つはグネグネと蠢く不定形。
「――――――最高だ」
「ああ、初めて殺しを知ったときみてぇな最高の気分…『新しい世界に目覚めた』っつーのか?」
 熱を帯びた口調で呟きながら、二人の男が次々と起き上がる。
「そうか…それは良かった。では、好きなことをしてその世界を試してみるといい。
『荒らし』でも『虐殺』でも…な」
 言葉が終わるか終わらないかのうちに『矢の男』の体はゆらりと薄れ―――――消えた。

222丸耳達のビート:2003/11/30(日) 00:03
       「『判らない』事は『恐怖』を呼ぶ…」
          
           ∩_∩ 
          (´ー`) 
          (   ) 
           | | |  
          (___)__) 
 
          茂名 初 

  スタンド使いではないが、波紋の達人。
 ご近所の奥様方に人気で、よく差し入れをもらっている。
 茂名診療所で接骨・打撲・止血などの処置を担当。
 マルミミと違いちゃんと免許あり。
 ご近所での通称はご隠居さん。

223丸耳達のビート:2003/11/30(日) 00:03
          ∩_∩
         (´∀` )
         Σ⊂    )「僕に『嘘』は通じないッ!」
          人 ヽノ
         (__(__)
 マルミミ

茂名王町で祖父と診療所を営む高校一年生。
虐待を受けたAAを無償で治療している。
傷口の縫合と雑用を担当。当然だが免許はない。
小柄で童顔。

224N2:2003/11/30(日) 01:33
皆さん、乙です!!
上手いなぁ、ホント。

しかし、小説書きたいが、テストがぁぁぁ!!
ガクセーはガクセーらしくですよ。

225新手のスタンド使い:2003/11/30(日) 12:20
皆さん乙!!!!!!!
しかしなんか本編よりもこっちの方が楽しみにうわなにをするやめ(ry

226新手のスタンド使い:2003/11/30(日) 13:26
マジで!?N2さん学生だったの!?

227新手のスタンド使い:2003/11/30(日) 14:27
以前からちらほら言われているが、
スタンドスレの住人には学生比率がけっこう多い罠。
前掲示板管理人のジョン=ジョースター氏も学生だったような。

228新手のスタンド使い:2003/11/30(日) 15:33
だがそうやって自らが学生であると言う奴は厨っぽい。
…言動から推測出来る奴も多いし…
学生であることをハンデにするなら最初から描くなとかね。
まあそういうつもりで言っているんでは無いとは思うけど
社会人で書いてる人(いるかどうかはさておき)のほうがよっぽど大変だろ。

っていうかコテハン、職人がでしゃばり過ぎると荒れるのは以前のダンボールの件で
はっきりしていると思うがな。職人としての意見を述べる以外でのコテハンは
自分の評価を下げかねないし、荒れるもと。
たとえどんな厨な発言でも名無しなら匿名世界の大衆の一人として処理できるが
コテハンでやられるとな…そういう意味で面白い、凄い作品を描いてる職人さんの
一部が必要なとき以外姿を現さない、名前を出さないのは賢明な判断だと思う。

229このレスは、こなみじんになって消えた:このレスは、こなみじんになって消えた
このレスは、こなみじんになって消えた

230N2:2003/11/30(日) 18:27
>>226-228
また余計な問題を引き起こしたみたいですみません。
発現を控えるようにします。

231:2003/12/02(火) 20:47

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その7」


 『矢の男』は車に併走してきた。
 この車は、100Kmは出ているはずだ。
 瞬間移動を併用しているとはいえ、とんでもない機動力。
 リナーは、運転している上院議員に告げた。
「病院へ向かうのは却下だ! このままの速度で一直線に走り続けろ!」
「はッ、はィ―――!」
 上院議員は、悲鳴に似た返事を上げる。哀れだ。
「どうしたの? 何が…」
 しぃは状況が把握できていない。
「しぃちゃんは、ギコの事を頼むモナ!」
 俺はそれだけを告げた。
 素早く銃を抜くリナー。
 そのグリップを、後部座席の窓に叩きつける。
 ガラスは綺麗に割れた。
「ぁぁ… 私の車が…」
 上院議員が悲しげに呟く。
 その嘆きを無視して、リナーは『矢の男』に銃を向けた。
 そして、何度もトリガーを引く。
「そんなものが私に通用するかどうか… 前の戦闘で理解していると思ったが…?」
『矢の男』は、苦もなく銃弾を弾き飛ばした。
 やはりあの男のスタンドの前には、正面から撃った銃弾など通用しない。
「リナー、悪いけど、意見させてもらうモナ!」
「何だ…? つまらない話なら後にしろ…」
 リナーはトリガーを絞る手を緩めない。
「『矢の男』に、そんな攻撃は通じないモナ! それより、銃弾を温存して…」
「私が撃つのを止めたら、どうなるのか考えろ」
 …どうなるか?
 俺は、答えが浮かばなかった。
 リナーは左手で素早く二挺目の拳銃を取り出す。
 今まで撃っていた銃をシートに投げ捨てると、取り出したばかりの銃を撃ち始めた。
 攻撃の手を休めるつもりはないらしい。
「いいか、よく考えろ。私のスタンドは体内にしか展開できないし、君のスタンドはヴィジョンを持たない。
 つまり、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳による攻撃を防ぐ手段を、私達は持っていない!」
 …そうだ、リナーの言う通りだ。
 攻撃を防げないなら、奴に攻撃のチャンスを与えないようにするしかない。
 奴の両手は常に塞いでおかなければならないのだ。
 たとえ、銃弾による攻撃が通用しないと分かっていても。

「分かったなら、これを受け取れ」
 リナーはスカートの中から銃を取り出すと、俺に投げてよこした。
「…えっ!?」
 それは、ずっしりと重い。
 直方体から、長い銃口部分が飛び出している感じだ。
 グリップはなく、本体の真ん中に親指を通す穴がある。
「P90。正確にはサブマシンガンではないが、性能はほぼ同じだ」
「ちょ、ちょっと待つモナ… モナは銃なんて撃った事は…」
「リコイルショックは少ないから、天井に穴を開ける心配はない。保持はしっかりと、トリガーはゆっくり絞れ!」
 リナーも、今撃っている銃を撃ち尽くしたようだ。
 素早くサブマシンガンを取り出すと、『矢の男』に向けて撃った。
 高速で飛来する弾丸を正確に叩き落しながら、『矢の男』は笑みを浮かべる。
「その玩具も無限ではあるまい…」
 リナーはそれには答えず、俺に向かって言った。
「ただし、私が撃っている時には、君は決して撃つな…」
「えっ! 何でモナ?」
「弾薬の温存だ。さっき奴も言った通り、銃弾には限りがある…」
「でも…どっちにしろ、弾薬が尽きるのは時間の問題モナよ!?」
 そう、時間の問題なのだ。 
 俺達に反撃のチャンスはあるのか?
「ある程度、奴を車から離すことができたら、勝機はある…!」
 リナーは、サブマシンガンを撃ち尽くした。
 その一瞬の隙に、奴が接近してくる。
「モナー! 撃て!!」
 こうなりゃヤケだ。四の五の言ってられない。
「うわぁぁぁぁ!!」
 俺は窓から身を乗り出すと、P90とやらを乱射した。
 まるで銃弾のシャワーだ。これなら、射手の腕にかかわらず命中するだろう。
 さすが、サブマシンガンが近距離では無敵の性能を誇るだけはある。
 もっとも、相手が普通の人間の場合の話だが…

232:2003/12/02(火) 20:47

 奴は軽く弾丸を弾き飛ばす。
 それでいい。そうしている間は、奴も攻撃はできない。
「いつまで陳腐な攻撃を繰り返すつもりだ…?」
 『矢の男』は俺の方に言った。凄まじい威圧感。
「…無論、貴様が果てるまでだ」
 リナーは後部座席のドアを蹴り飛ばした。
 外れたドアが道路に落ち、すぐに見えなくなる。
「きゃぁっ!」
 しぃはギコの上に覆い被さった。
 そのままリナーはアサルトライフルを構えると、『矢の男』に銃弾を撃ち込む。
 あらかじめ言われていた通り、リナーが撃っている間は、俺は撃つのをやめた。
「戦闘の際は、敵の心理・思考を自己に投影させろ」
 1mほどもあるマシンガンを連射しながら、リナーは言った。
「え?」
「敵の気持ちになって考えろ、ということだ。『矢の男』にとっても、今はなかなか厄介な状況だと言える。
 時速100Kmで走る車。奴は、追いつくだけでも精一杯だ。
 そして、近づいたら浴びせられる銃弾。防ぐ事はできても、向こうからの攻撃はできない。
 ヘリを落とした能力も、双方100Km近く出ているこの状態では、流石に狙えない」
 …なるほど。向こうにとっても、ヘビーな状況ということか。
 しかし、それは弾薬の残っている今だけの話だ。
 この銃弾が尽きれば、奴は車体を攻撃してくるはず。そうなれば…後は言うまでもない。

 リナーのマシンガンの銃弾が尽きたようだ。
 俺は素早くP90を『矢の男』に向けると、落ち着いて引き鉄を絞った。
 奴に攻撃する時間を与えてはならない。
 だが、奴は車体に徐々に接近してきた。
「いい加減に飽いたな… そんなもので、いつまでも時間が稼げるとでも…」
「近付いたな…!」
 リナーは、『矢の男』の言葉を遮った。
「そう、お前が痺れを切らして近付くのを待っていた。単発の弾丸を弾くのには、そろそろ慣れてきたと思ってな…!」
 リナーは、ショットガンを構えていた。
 拳銃同様に近接戦用だが、その威力は比較にならないほど強力な武器。
 双方共に100Km以上のスピードが出ている状態で、『矢の男』といえど全ての散弾が防ぎきれるだろうか。
 ―――そう、今までの単発的な射撃は、まずは奴の両腕を塞ぐ意図。
 そして、ショットガンの間合いに引き込む餌。
 リナーは、何度もショットガンのトリガーを引いた。
「…!!」
 姿を消す『矢の男』。
 またお得意の瞬間移動か。だが、今のは避けきれない。
 車の2mほど後ろに現れた『矢の男』は、左腕のいたるところから血を噴き出していた。
 負傷にもかかわらず、なおも追ってくる『矢の男』
「やったモナ! これで、奴の左手は…」
「次に、奴は何をしてくると思う?」
 俺の喜びの声は、リナーの問いに遮られた。
「えっと…」
 俺が、奴の立場なら…
 窓から顔を出して、追ってくる矢の男を見る。
 先程より、多少距離をとっているようだ。
「しばらく、様子を見るモナ」
 リナーは首を振った。
「いや、違うな…」
 不意に、矢の男の姿が消える。
 移動してくる場所は…

 ―――車のボンネットの上。

 俺の真正面に、『矢の男』が立っていた。
「ヴァヒィィィ―――ッ!!」
 上院議員が悲鳴を上げる。
 窓から後ろ向きに顔を乗り出していた俺が、正面を向いて銃を構えるスピード。
 奴が右手をこちらに差し出すスピード。
 どちらが早いかは明白だ。
 俺の体は車ごと、謎の能力による衝撃波で消滅するのか…

233:2003/12/02(火) 20:48

 助手席に座っている俺の顔の真横から、何かが突き出された。
 ショットガンの銃口。
 リナーが、あらかじめ予想していたように『矢の男』に銃を向けたのだ。
「一気に勝負をつけてくると思っていた…!」
 リナーは、静かに言った。その言には、勝利の響きが含まれている。
「貴様…ッ!!」
 素早く防御姿勢に入る奴のスタンド。
 リナーはトリガーを引いた。
 凄まじい銃声。
 外側に砕け散るフロントガラス。
 しぃの絶叫が他人事のように聞こえる。
 『矢の男』の体は道路に投げ出され、回転しながら遠ざかっていった。
 俺は、思わず窓から乗り出す。
「やった!今度こそ…!」
「至近距離から、スラッグ弾の直撃を受けたんだ。
 咄嗟にスタンドでガードしたとはいえ、あの衝撃を殺しきれるはずは…」
 リナーの言葉が止まった。
 再び近付いてくるドス黒い気配。
 まだ、『矢の男』は追ってきている…
「不死身か、奴は…!」
 さすがのリナーも驚きの声を上げた。
 こちらの様子を伺うように、『矢の男』は車から距離を置いている。
 流石に、二度も攻撃を食らって懲りたのだろう。
 どうでもいいが、リナーがフロントガラスを吹っ飛ばしたせいで、俺に時速100Kmの風圧が直撃する。
 かなり息苦しいが、そうも言っていられない。
 強力な戦力であるしぃ助教授との距離も、こちらが車をかっ飛ばす事によりどんどん開いている。
 アメリカン・コミック・ヒーローのようにジャジャジャーンと登場して「まってました!」と
 間一髪助けてくれるってわけにはいかないようだ。

「さっき言ってた、奴を車から離せば、勝機があるというのは…?」
 残された最後の希望に賭けてみる。
「この程度では無理だな。最低でも、30秒は余裕がほしい」
「そうか…」
 『矢の男』が、30秒も時間を与えてくれるだろうか。
 俺の不安を拭うように、リナーは言った。
「奴は、卓越した肉体性能と強力なスタンドを持っている。だが、具現化されて間もないという事が仇になった。
 『矢の男』には、戦闘経験が絶対的に不足している。そこに私達の付け入る隙があるはず…」
 そう。奴は反射神経は鋭いが、フェイントには引っ掛かってばかりだ。
 これも経験不足から来る迂闊さだろう。
「そして、奴は当たり前の行動しかできない。心理も思考も簡単に読める」
 俺は、リナーが以前に言っていた言葉を反芻した。

『『矢の男』は、作中で目的が明かされていない。スタンド能力も不明。その状態で奴は具現化してしまった。
 奴は、目的を失い、ただ矢でスタンド使いを増やす空っぽの人格に過ぎない。
 いや、目的を失ったというのは違うな。目的はないんだ。具現化した時点で、目的が不明だったんだから。
 すなわち、具現化する要素からこそぎ落ちた。君の能力で『矢の男』を見た時の空虚感はこれが原因だ。
 奴はあくまで、作中のあの時点での『矢の男』の疑似人格なんだ』

 空っぽの人格だからこそ…奴にとっての戦闘とは、手段ではなく反応に過ぎないという事か。

「あまり、長話に興じてもいられんようだ! 来るぞ!!」
 ぴったりと車を尾行していた『矢の男』が、姿を消した。
 今度は、どこから来る気だ…?
 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視覚を360度に展開させる。

234:2003/12/02(火) 20:49

 何と、奴は車の80mほど正面に現れた。
 無理やり車を止めるつもりか?
「馬鹿な! いくら何でも、この速度で走っている車に激突すれば…!」
 リナーが驚きの声を上げた。
 おそらく接触の瞬間に『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳のラッシュを叩き込むつもりだろうが…
 正面からぶつかれば、奴の身体も無事では済まない。
 俺は、『矢の男』の顔を視た。
 先程までのように、余裕を滲ませてはいない。
 戦闘経験が全くないという事は、今の戦闘で学習していると言えはしないか。
 そう。奴は、自分にも覚悟がなければ勝利がないということを学習したのだ。

「なら… こちらも、覚悟を決めるだけだ!」
 俺は助手席から腰を浮かせた。
 フロントガラスは、リナーが吹き飛ばしてもうない。
 そこから、身をかがめてゆっくりと外へ出て行く。
 俺はバヨネットを手にしてボンネットに立った。
 風圧をモロに受け、少しヨロけそうになった。
 流石に、この速度だと風圧も並じゃない。
 時速100Kmだ。風を切る音が耳につく。

 路上に立っている『矢の男』と向かい合った。
 …待ってろ。覚悟を決めてるのは、お前だけじゃない。

「リナー! モナが奴を引き止めるから、その隙に全速力で離れるモナ!」
 風を切る音にかき消されないように、俺は大声で叫んだ。
「馬鹿を言うな!! このスピードで飛び降りたら即死だ!!」
 リナーの声は聞こえない。
 俺は視た。
 大したダメージがなく飛び降りることのできる向きやタイミング…
 いや、そんなものがある訳がない。
 なら… 奴に、最高のダメージを与えられるタイミングだ!!

 まるで時間が止まったかのように、周囲がスローに視える。
「やめろ――ッ!!」
 珍しく、リナーが平静を崩しているようだ。
 奴の体から浮き上がる、『アナザー・ワールド・エキストラ』。
 もう、先程までのプレッシャーは毛の先ほども感じない。
 徐々に進行していく車。
 同時に、奴と俺の距離は近付き…
 俺は、バヨネットを掲げて跳んだ。
 時速100Kmの走行速度に、俺の跳躍力が加わる。
 奴は、一瞬だけ気を取られた。
 突っ込んでくる車と、一直線に攻撃を仕掛ける俺。
 どちらを優先して攻撃するか、奴は一瞬だけ迷ったのだ。
 ―――未熟。
 そのロスタイムが、貴様の敗因だ。
 俺の全力で放った突きが、『矢の男』の胸部に命中した。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

235:2003/12/04(木) 23:32

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その8」


 時速100Kmの加速をつけての一撃は、『矢の男』の胸を抉った。
 俺の身体にも衝撃が走る。
 …まだだ。
 まだ、最高の一撃が残っている…!
 俺は空中で身体を反転させると、奴の身体を踏み台にして真横に飛び退いた。
 ここにいると、俺まで巻き込まれる。

 奴目掛けて、さっきまで俺の乗っていた車が突っ込んだ。
 スタンドで防ぐ暇などありはしない。
 まるで、俺の一撃との波状攻撃。
 時速100Kmで走る車の直撃を受けた奴の身体は、回転しながら道路に叩きつけられた。
 そのままかなりの勢いで転がる。
 一方、俺の体も道路に激突した。
 ベシャァッ!! という嫌な音。そして、凄まじい衝撃。
 奴との一瞬の接触でかなり相殺したとはいえ、とんでもないダメージだ。
 骨が何箇所折れたのか、よく分からない。
 体が痛すぎて、痛くなくなってしまった。
 ダメージはかなり大きいようだ。
 もしかしたら、死に至るほどの傷かもしれない。
 体が麻痺しすぎてよく分からない。
 確かなのは、『矢の男』の胸を抉ったものの、心臓は貫いていないことだ。

 ブレーキ音が響く。
 タイヤと道路が擦れる強烈な音が、俺の耳を刺した。
 俺の乗っていた車は激しくスリップして、電柱に激突する。
 当然ながら、車はそこで止まった。
 …なんで止まるんだ。
 『矢の男』は、死んでいない。
 今の内に遠くに離れて、奴を倒す手段を実行するんじゃなかったのか…
 運転席の上院議員に銃を突きつけているリナーの姿が視えた。
 そう、強引にブレーキを踏ませたのだ。
 俺は「覚悟」していたのに…
 俺の命惜しさで勝機を逃してどうするんだ…!

「全く… 意外だ…」
 ゾッとした。
 ―――『矢の男』。
 奴は、まだ立ち上がってきた。
 あれだけのダメージを受けて…
 70発近くのミサイルを受けて、しぃ助教授との戦いを経て、ショットガンの攻撃を食らい、
 至近距離からのスラッグ弾の直撃を受け、俺に胸を抉られ、時速100kmの車に激突され、
 それでもなお、奴はまだ立てるのか…?
 スタンドでガードしていたにしろ、並外れている事実には変わりない。
「流石に、さっきのは効いた…」
 ゆっくりと、こちらへ歩み寄ってくる。
 このまま、俺は殺されるのだ。
「さて… 望みの殺され方を言え…!」
 こういう所が、この男の「弱さ」だ。
 余裕めかしてのんびりと歩いて来るなら、とっとと衝撃波なり何なりで吹っ飛ばせばいい。
 こいつは、心のどこかで「殺し合い」を楽しんでいる。
 つまり、三流だ。
 殺しを楽しむようでは、プロにはなれない。
 傲慢なガキが、強い力を手にして粋がっているだけの話。
 だから―――――とっとと替われ。
 私が殺してやる。

236:2003/12/04(木) 23:33

「黙れ!!」
 俺は叫んだ。
「お前は喋るな。俺の戦いだ…!」
 アイツの… 『殺人鬼』の力など、死んでも借りない。
「死への恐怖で錯乱したか…?」
 『矢の男』が近付いてくる。
 俺は妙なものを視た。
 奴は、独りではない。もう一人混じっている。
 そいつは、奴の中で少しずつ大きくなってきている。
 これは… 何だ?
 その時、車から飛び出したリナーが、『矢の男』の背後から日本刀で斬りかかった。
「そろそろ、来る頃だと思っていた…」
 迎え撃つように、『矢の男』のスタンドはリナーに拳を振るう。
 日本刀と拳が激突する。
 刀は、真ん中でヘシ折れてしまった。
 飛び退くリナー。
 そのまま身体を翻して、俺の方まで駆けてきた。
「モナー! 大丈夫か…?」
 言いながら、両手を俺の身体に掲げる。
 エネルギーが供給されるような感覚。体が熱くなる。
 錯覚という事は分かっている。俺自身の治癒能力が促進しているだけだ。
 麻痺していた身体に、徐々に感覚が戻ってきた。

 ―――だが、今はそんな事をしている場合ではない。
 奴が歩み寄ってきているのだ。
「リナー! 俺のことはいいから、『矢の男』を!!」
「馬鹿を言うな! 治療を止めれば、君は失血死するぞ!」
 馬鹿を言っているのはどっちなんだ…
 二人仲良く死ぬ気か?

 『矢の男』がゆっくりと…
 そう、まるで俺達のやり取りを楽しんでいるかのように近付いてくる。
「さて…仲良く旅立つ覚悟は出来たか?」
 奴はリナーの後ろに立つと、『アナザー・ワールド・エキストラ』の腕を高く掲げた。
「リナー! よけろ―――ッ!!」
「静かにしてくれないか。もう少しで、血は止まるんだ」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳が、背後からリナーの胸を貫いた。
「…!!!」
 ―――声も出ない。
 リナーの血が、俺の身体に降りかかった。
「大丈夫だ。これ位では私は死なない…」
 リナーは微笑んで言った。
 引き抜かれる『アナザー・ワールド・エキストラ』の腕。朱に染まっている。
「…よし、これで君は大丈夫だ。ある程度は戦える…」
 そう言って、リナーはそのまま俺の方に倒れこんできた。
 同時に、動くようになる体。
 リナーの身体を抱きとめる。
 何が、『君は大丈夫』だ。
 自分は全然大丈夫じゃないではないか。

237:2003/12/04(木) 23:33

「まず、一人…」
 『矢の男』は言った。下卑た表情だ。
 こちらの反応を見ている。
 目の前で仲間を殺されたこちらの反応を。
 俺が怒り狂うのを予想しているに違いない。

「悪いな…」
 俺は立ち上がった。体中に激痛が走るが、そんなもの苦にもならない。
 リナーの痛みはこんなもんじゃなかったはずだ。
「俺は…お前の望む事は何一つとして、してやれない」
 ブチ切れただけで強くなるなんて、そんな上手い話は無い。
「何だと…?」
 奴は少したじろいだ。予想外の反応だったのだろう。
 リナーは、『これ位で私は死なない』と言った。
 だから、大丈夫だ。死んでたまるか。
 一刻も早く『矢の男』を倒し、リナーを病院に連れて行かないと…
「時間をかけてられない。行くぞ…」
 俺はバヨネットを構え、眼に精神を集中させた。
 『アウト・オブ・エデン』。楽園の外を視る力。
 奴は明らかに不安を感じていた。
 今までとは違う俺の態度。そして俺のスタンドに…
 戦闘経験が少ないからこそ、本能で脅威を感じ取ったのだ。

「馬鹿な… 感情の変化で、個人の力量が変化するなど… ありえん…!!」
 『矢の男』は、自分に言い聞かせるように呟くと、姿を消した。
 芸の無い瞬間移動だ。
 奴は、自分で認めてしまった。
 今の俺は、さっきまでの俺とは違う事を。
 俺の能力は、「視る」こと。
 集中力こそが、その力を引き出す起因となる。
 リナーは、俺を守ってくれた。
 今の負傷もそのせいだ。俺をかばったから受けたダメージ。
 そして、俺はリナーを守ると言った。
 ―――今が、その時だ。
 
 姿を消した『矢の男』が、もう一つの世界――アナザー・ワールド――を移動しているのが
はっきりと視えた。
 …瞬間移動の正体はこれか。
 移動経路もはっきりと視える。あっちの世界の時間の流れも、奴は操作できるようだ。
 だからこそ、奴は油断しきっている…!!
「そこだ――ッ!!」
 もう一つの世界を無防備に移動している『矢の男』に、俺はバヨネットを突き立てた。
 刃は、嘘のように奴の腹にめり込む。
 …何が起きたか分からない、そんな表情を奴は浮かべた。
「な… なんだと…!?」
 奴は瞬時にこちらの世界に復帰すると、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振るった。
 その攻撃は俺の腹に命中する。
「ぐは…ッ!」
 俺の身体は10mほど吹き飛んだ。だが、ダメージは大したことはない。
 奴にとっても、咄嗟の攻撃だったのだろう。

 『矢の男』の腹に、バヨネットが突き刺さっていた。そこから血が滴っている。
「馬鹿な…! もう一つの世界にいる私に… 攻撃が届くだと…!?」
 奴は腹からバヨネットを引っこ抜いて、忌々しげに投げ捨てた。
「貴様のスタンドは未来予知型だったはず… その貴様が… なぜ次元を突き抜けた攻撃を…」
 直接のダメージよりも、あっちの世界にいる『矢の男』に攻撃を当てたという事実の方が、
奴にとって衝撃が大きかったようだ。言葉も胡乱になっている。
「まさか、他次元に干渉できる能力を…」
 心当たりのない話だ。それに、俺にはそんな能力はない。
 ただ、視えたものを斬っただけだ。
 アイツは、『アウト・オブ・エデン』とは『不可視領域に干渉できる』能力と言っていた。
 そう、「視る」ためだけの力だなんて、一言も言っていない。
 ―――視える以上は破壊できるのだ。これこそが、俺の能力。

 『矢の男』は、明らかに取り乱している。
「不気味だ…お前の能力は得体が知れない…! ここで殺しておくべきと、私の本能が警告している…!!」
 ―――妙だ。
 あれは本当に、さっきまで戦っていた『矢の男』なのか?
 さっきも感じたが、何かが違う。
 抑圧されていた奴の中の「何か」が徐々に目覚めていっているような…
 それに従って、今まで『矢の男』であった「何か」が少しずつ押されていっているような…

238:2003/12/04(木) 23:34

 奴は、後ろに飛び退いて距離を置いた。
 そして、右腕をこちらに差し出す。
 …アレはやばい。
 あの動作に付随する「死」の波動が視えた。
 俺は全力で真横に飛び退いた。
 破壊の衝撃が、大地を駆け抜けていく。
 あの衝撃波の正体はなんだ? 全く視えない。
 ヘリの時は、一瞬視ることができたんだが…
 さらに、第二撃、第三撃と連続で繰り出してくる。
 …よく視ろ。あの攻撃は、予備動作が大きい。
 そして、撃つ側にもかなりの集中力が必要らしく、その分狙いが読み易い。
 とはいえ、磨き抜かれた戦いのセンスがないと、動作だけで見えない衝撃波を予測するというのは不可能だろう。
 だが、俺は違う。「視る」というのが俺の能力だ。
 撃つ前から、衝撃波の軌道が視えている。
 素早くかわす俺に、連続で衝撃波を繰り出す『矢の男』。
 だが… 衝撃波そのものは視えない。
 よけきれず巻き込まれる可能性はある。
 さらに、巻き起こるコンクリート片までは避けきれない。
 俺の身体にブチ当たるコンクリ片は、確実に俺の生命力を削っていく。

 俺は、『矢の男』の思考を視た。
 決して、奴は俺のそばには近付いてこないだろう。
 俺のスタミナ切れを狙っているはずだ。
 以前、じぃと戦った時と同じような状況である。
 違う点は一つ。
 じぃとの戦いの時のように、食らったフリ(実際に食らったが)をして誘い込むのは不可能だという事だ。
 あの衝撃波が直撃すれば、俺の体はチリも残らない。
 だが、あっちのダメージの蓄積もかなり大きいようだ。
 以前のような動作の精細さは、今の『矢の男』には微塵もない。
 俺は、必死でかわしながらバヨネットを拾った。
 こうなれば、我慢比べだ。
 俺のスタミナが尽きるのが先か、奴の体力がなくなるのが先か…
 
 しかし、『矢の男』は意外な行動に出た。
 差し伸べていた手を、軽く横に振ったのだ。
 奴の1mほど先の地面が真横に抉れる。
 …何をしている? まるで、ちょっと試してみたような動き。
 そう、俺はすぐに気付いた。
 奴は実際に試したのだ。衝撃波を横に凪ぐやり方を。
 これは強烈にヤバい。
 直線で飛んでくる衝撃波ですら、よけるのが精一杯だ。
 横に凪ぐパターンが加わったら、俺には絶対に避けきれない。
 まして、衝撃波の動きは全く視えないのだ。

「ゾッと…しただろう?」
 『矢の男』は、俺に顔を向けて言った。
 いつの間にか余裕を取り戻している。
「お前を見習ったのだよ… 昨日の夜に会った時は、お前は無力だった。無様に腰を抜かしてすらいた…」
 俺は、『矢の男』の顔をじっと見た。
「それが何だ…? 貴様は短期間で成長を続け、この私の『次元の亀裂』すらかわせるようになった…
 あのハンマー女もそうだったように、お前も私の動作を察知してかわしているのだろう…?」
 奴は、嘲るように言った。
「なら、どうするか…私は考えた。動きを悟られない位置から撃つか? いや、それでは私も狙いをつけられない。
 それならば…、攻撃パターンを複雑化すればいいんじゃないか、とね…」
 奴は、真横に抉られた地面を満足そうに見下ろした。
「お前は、驚くべき早さで成長した… その事実が、私にも新たな成長をもたらした…!
 礼を言おう。お前がいなければ、この地平には辿り着けなかった…!!」
 もういい。
 もううんざりだ。
「御託はいいから、殺す気ならとっととやれ。そういう所が、お前の三流たる所以なんだ!」
「安い挑発には乗らんよ…」
 『矢の男』は右手を高く掲げると、真下に振り下ろした。
 どこだ? 奴はどこに『次元の亀裂』を放った?
 足元に衝撃。
「…!?」
 俺は視線を下げる。
 道路が大きく削れ、ふくらはぎの肉がゴッソリと持っていかれた。
「うわぁぁぁぁ…!」
 激痛。
 俺は悲鳴を上げて地面に転がった。
 溢れ出る血が道路を濡らす。
「その程度で何だ? 私は、もっと大きいダメージを受け続けたんだぞ…?」
 『矢の男』はニヤつきながら言った。
 やはり、以前と違う。
 奴の中で、何かがせめぎ合っているかのようだ。
 だが、今の俺にそんな事を気にする余裕はない。

239:2003/12/04(木) 23:35

 『矢の男』は、腕を大きく右に振るった。
「くっ…!」
 俺は力を振り絞って横に転がった。
 視えないながらも、俺のいる位置を狙ったのだから、その場から移動すれば直撃は避けられるはずだ。
 地面が大きく削れる。
 俺の左上腕部が持っていかれた。肩の部分が削れ、傷口から骨が見えている。
「まったく… チョロチョロと…」
 それでも、奴は近付いてこない。
 先程の一撃がよほど懲りているのだろう。
「『次元の亀裂』を歪曲できたのはいいが、まだ精度に問題があるな…」
 『矢の男』は呟く。
 そして、今までのように俺の方にまっすぐ右手を差し出した。
「お前に賛辞を送ろう。そして、さらば…」
 もう体が動かない。
 俺は、リナーを助けられずにこんな所で終わるのか…

 ――― 一閃。
 何かが、『矢の男』の脇を疾風のように通り過ぎた。
 それと同時に、地面に一直線の大きな亀裂が刻まれる。
 『矢の男』の衝撃波は、地面を削り取る破壊痕である。
 それとは違い、その亀裂は細く、そして深い。
 
 同時に、『矢の男』の左肩から血が噴き出した。
 地面を深く抉った一撃を避けきれなかったのだ。
「くっ… イレギュラーな出来事ばかりが起きる…」
 『矢の男』は憎々しげに呟いた。「この状況で…覚醒を目にするとは…」
 …覚醒。
 そう、『矢』が刺さったにもかかわらず、命を落とさなかった男。
 
 ギコが、地面に転がっている俺の真横に立っていた。
 その傍らには、日本刀を持って着物を着用した女性のヴィジョンを寄り添わせている。
 あれが、ギコのスタンド…!

「貴様…! 何をした…!?」
 『矢の男』が肩を抑えて言った。
 ギコは不適に笑う。
「何の事はねぇ、ただの右雁金だぜ…」
 雁金。
 上段から肩口を垂直に斬り下ろす剣技。
 前に、ギコ自身がそう言っていた。
 ギコは俺の方を向く。
「オイ、大丈夫か…?」
「かなり痛いけど、なんとか大丈夫モナ…」
 しぃが、リナーのそばに駆け寄っていた。
 そして、こっちを向いて頷く。息はあるようだ。
 俺は心からホッとした。
 上院議員は… とっくに逃げ去ったようだ。
 まあ、どうでもいい事か。逆転ムードに浮かれていてはいけない。
「貴様ら…!」
 『矢の男』が俺たちに向けて腕を差し出そうとする。
 しかし、その時には既に、ギコとそのスタンドは奴に接近していた。
 動きがまるで見えなかった。あの距離をそうやって詰めたんだ…?
「覚えとけ。古流の剣客にとって、五間程度の距離なんぞ無いも同然だ!!」
 ギコのスタンドは刀を振るった。
 余りにも早過ぎる打ち下ろし。
 それを拳で受け止めようとする『アナザー・ワールド・エキストラ』。
 昨日の夜、リナーとの戦いでも見た光景だ。
 異なる点は一つ。リナーの日本刀とは違い、あのスタンドが手にしている刀もスタンドの一部だ。
「…!!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳が裂ける。
 同時に、『矢の男』の拳からも血が噴き出した。
「この…、目覚めたての分際でッ…!」
「そういうお前も、戦いは素人だけどな、ゴルァ!!」
 刀と拳の激しい攻防。
 ただし、日本刀を拳で受け止めることは出来ない。
 奴には、ギコの攻撃はかわすしかないのだ。
 前のリナーの場合とちょうど逆である。
 そして、明らかにギコの方が押していた。

240:2003/12/04(木) 23:36

「あのスタンドは…強いな」
「うわっ!!」
 不意に、横から声がした。
 声の主は、なんとリナーだった。
「け、け、怪我は…?」
 勿論、リナーが無事でとても嬉しい。
 が、あれだけのダメージだ。胸をブチ抜かれたんだぞ…
 何でもう歩けるんだ…?
「まだ、激しい動きは無理だな。内部の損傷が激しすぎる」
 これも、リナーの体内に流れるスタンド『エンジェル・ダスト』の力なのか?
 リナーは俺の身体に腕をかざす。徐々に痛みが引いていった。
「あのギコのスタンド… 愚直なまでに典型的な近距離パワー型だ。
 特殊な能力を持たず、卓越した技能のみで戦う。
 だが… 正面からあのスタンドを打ち負かせるスタンド使いは、そうはいない」
 俺は、戦火を散らす二人を見た。
 『矢の男』の『アナザー・ワールド・エキストラ』でも、よけるのが精一杯だ。
 『次元の亀裂』を使う隙を与えない、相手の動きを封じた戦い方。
 リナーは口を開いた。
「普通は、覚醒してすぐのスタンドをあそこまでは扱えない。
 彼は、元々の得意技能とスタンドの相性が合っていたんだろう」
 ギコはスポーツ全般が得意だが、剣道の達人でもある。
 彼にとって、その技能をスタンドにトレースさせているだけに過ぎない。
 足に感覚が戻ってきた。もう歩けるだろう。
「次は腕を…」
 左腕を癒そうとするリナーを、俺は制した。
「いや、これで充分だ」
 バヨネットを手にする。いつまでもギコ一人にやらせておく訳にもいくまい。

 胴を狙って、『アナザー・ワールド・エキストラ』は一撃を放つ。
 が、ギコのスタンドはその攻撃を軽く透かすと、刀を斬り上げた。
 回避する動作が、そのまま攻撃の加速になっている。
 『矢の男』は、一歩下がってその攻撃をかわした。
「確かに、貴様のスタンドは強力だ… 私の負傷を差し引いてもな…」
 『矢の男』は、さらに背後に飛び退く。
「だがッ…!!」
 奴は、軽く腕を振るった。
 地面から衝撃波が吹き上げる。『次元の亀裂』の応用だ。
 ギコは瞬間的にかわすものの、『矢の男』との距離は大きく開いてしまった。
 まずい、ああなってしまえば…
「貴様のスタンドは、近距離でのみ無類の強さを誇る!! だが、距離さえ置けば…」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』が両手を差し出す。
 両手から、同時に放たれる『次元の亀裂』。
 その破壊の波動は、ギコを挟み込むような軌道を見せた。
「くっ… しまったッ…!」
 ギコが呟く。

 俺は視た。
 空間を切り裂く『次元の亀裂』が、はっきりと視える。
 俺は素早くギコと『矢の男』の間に割り込んで、『次元の亀裂』にバヨネットを突き刺した。
 『亀裂』は遮断され、たちまち消滅する。
 ―――『次元の亀裂』は完全に『破壊』された。

「な… 馬鹿な…!!」
 『矢の男』は目を見開いた。
「貴様…! 何をしたッ!!」
 奴は続けて二撃目、三撃目を撃ってくる。
 この攻撃が脅威なのは、目視できないからだ。『亀裂』自体のスピードはかなり遅い。
 俺は迫ってくる『次元の亀裂』を、その位置から一歩も動かずに『破壊』した。
「―――連発しすぎなんだよ」
 俺は、『矢の男』をしっかりと見据える。 「おかげで、やっと視えた」

 ―――視える以上、『アウト・オブ・エデン』で破壊できる。
 これこそが、『不可視領域に干渉できる』という本当の意味。

「馬鹿な…!馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァ――――ッ!!」

 『矢の男』は、狂ったように『次元の亀裂』を連発する。
「残念だが…その攻撃は、もう視えてる…」
 俺はバヨネットを振るって『亀裂』の悉くを『破壊』した。

「馬鹿はテメェだよ…」
 その一瞬の隙に『矢の男』に接近するギコ。
 そのスタンドは、日本刀を上段に構える。
「俺にブチ込んでくれた『矢』の分、しぃを怖がらせた分、モナーに散々やらかしてくれた分、
 卑怯にも背後からあのねーちゃんをブチ抜いた分、まとめて返すぜ…!!」
 神速で諸手上段から斬り下ろし、すかさず逆胴に斬り上げる。
 ――――あれが、燕返し。
 『矢の男』の体が、玩具のように吹っ飛んだ。
 そのまま路面に激突する。

241:2003/12/04(木) 23:37

「やったモナ!!」
 俺はギコに駆け寄った。
 リナーも俺達の方に歩み寄ってくる。
「いやー、すごいモナ! メチャクチャ強いモナね!!」
「経験の差だろ…」
 ギコは冷ややかに言った。
「あいつは、適当に殴りかかってきた。戦術も何もあったもんじゃねぇ。俺はいちおう色々訓練してるからな…」
 それでも、試合レベルの話だろう。
 『矢の男』とあそこまで渡り合ったギコの戦闘センスは卓越している。
「そもそも、ギコが参戦した時点で、『矢の男』はかなり弱っていた」
 リナーは言った。
「そうモナ?」
 俺は、リナーの方を向いた。
 その時、信じられないものを目にした。
 『矢の男』が、ゆっくりと立ち上がったのだ。

「は、ははは…」
 『矢の男』は力無く笑う。
「やはり、お前達は愚かだよ。私の生死を確認しないとはな…」
 そう、明らかに俺達の失策だ。
 戦闘のエキスパートであるリナーまでいたっていうのに…

 『矢の男』の足取りはおぼつかない。
 こちらを向きながら、ゆっくりと後ろに下がっていく。
「残念ながら、もう私に戦う力は残されていない… 悪いが、瞬間移動を使って逃げさせてもらう…」
 そして、奴は俺達の乗っていた車にもたれた。
 俺は、奴に駆け寄ろうとする。
 逃がしてたまるものか…!
「おっと、その距離では無理だ。私の瞬間移動の方が早い…」
 奴は、何故か車の中に入っていった。
 奇妙な行動だ。瞬間移動で逃げるのではないのか?
 中に、一体何が…
「しまったッ!! 『矢』だッ!!」
 俺は叫び声を上げた。
 シートには、ギコの体から抜いたままの『矢』が転がっているはずだ。
 再び奴が車から出てきた時には、既に矢を『手』にしていた。
 『矢の男』は、嘲りを込めて言った。
「最後の最後で、私には運が向いていたようだな…!」

「――いいや、運など向いちゃいないさ」

 リナーは言った。
 リナーの右腕は、普段のように服の中にしまわれている。
「お前に息があることは、当然予測していた」
「何を、負け惜しみを…」
 『矢の男』の言葉を遮るリナー。
「そんな風に無様に逃げることも予測済みだ」
 俺は、リナーを注視した。
 服の中に入れている右手に、何かを持っているようだ。

「そして、『矢』を回収していく事すら予測済みだ。
 お前の動きは、最期まで予測通りだった…」

 あの右手に持っているのは、まさか…
 『矢の男』は、手にしていた『矢』を凝視する。
「仕掛けさせてもらったよ。『矢』にC4。あと、車内にはTNTを2Kgほどな…」
「貴様…!!」
 『矢の男』は、リナーを睨みつけた。

 リナーが冷たい微笑を浮かべる。
「―――予測しよう。お前の最期の台詞は、『この私が、こんな所で…』だ」


「そんな…!!この私が、こんな所で…!」
 『矢の男』の声は、一瞬でかき消された。
 凄まじい爆発と熱気が周囲を包み込んだのだ。

242:2003/12/04(木) 23:38

 もう少し距離が近ければ、俺たちも巻き込まれていた。
 周囲に白煙が立ち込めた。
 耳鳴りがする。
「やり過ぎだぞ、ゴルァ…」
 ギコは呟いた。
 どうでもいいが、リナーはあれだけの爆発物をいつも持ち歩いてるのか?
 徐々に白煙が引いてきた。
 車など、跡形も残っていない。
 地面に倒れている人影が見える。
 そして、そいつが僅かに呼吸しているのが見えた。
 完璧に意識は失っているようだが…

「リナー… 『矢の男』は、まだ生きてるモナ…」
 本当に、奴は不死身だろうか。
「…頑丈にも限度があるな」
 流石のリナーも驚いているようだ。
「まあ…気絶しているし、このままトドメを…」
 俺達は『矢の男』に近付き、そして硬直した。

 ―――最後の最後まで、『矢の男』には驚かされっぱなしだ。

 そこに倒れていたのは、モララーだった。
 そう、『矢の男』の正体はモララーだったのだ。


「…どういう事モナ?」
 俺は、誰ともなく呟いた。
「おそらく、『矢の男の正体はモララーである』という虚構が具現化したのだろうな」
 リナーはあっさりと答えた。
「でも、物語中で確定した訳じゃないモナよ…」
 そう、確か色々と問題があったはずだ。
「あくまで、物語内では『矢の男=モララー』というのは可能性の一つに過ぎない。
 その可能性が、具現化の際にたまたま選ばれたという事だろう」
 リナーはモララーの傍にしゃがみこむと、怪我の様子を見た。
「命に別状はなさそうだな… どういう体の構造をしているんだ…?」
「でも…」 俺はリナーに訊ねた。
「モララーにとって、これはどういう感じモナ? 誰かに身体を乗っ取られる感じモナ? 
 それとも、モララー自身が邪悪な心を持ってしまったモナ?」
「そこまでは判らんが…」
 リナーは返答に詰まる。
 そういえば、俺は『矢の男』との戦いの中で、奴の中にもう一つの意思のようなものが視えたのだ。
「それより、彼をどうするかだな…」
 硬直していたギコが、ようやく口を開いた。
「なんか話についていけないが… さっきまで暴れてた奴の正体は、モララーだったって事でいいんだな?」
 俺は頷く。そして、リナーに言った。
「一応言っとくけど、モララーを殺すなんて許さないモナよ?」
 モララーは俺の大切な友人なのだ。
 リナーは口を開く。
「彼がどんな状態だったのかによるな… 心まで『矢の男』に染まってしまったのなら…」

「―――それは関係ありませんよ」

 背後から聞きなれた声。
 しぃ助教授が、そこに立っていた。
 そして、つかつかとこちらへ歩み寄って来る。
「彼は危険ですので、ASAの名において滅殺します」
「なん…だって?」
 俺は搾り出すように呟いた。
 今さら出てきて、この女は何を言っているんだ?

「待てや、ゴルァ…」
 しぃ助教授の前に、ギコが立ち塞がった。
「何様か知らねぇが… いきなり出てきて、俺のダチを殺すだと…!?」

「部外者は黙っていて下さい…」
 しぃ助教授は指を鳴らした。
 突然、ギコの周囲を囲むようにに5人もの人間が現れる。
 5人ともスタンドを出して、臨戦態勢に入っていた。
 おそらく、『矢の男』討伐隊の連中。
「クソッ、てめぇら…」
 流石のギコも、一歩も動けない。

「私達も、好きでやっている訳ではありません」
 5人と睨みあっているギコを尻目に、しぃ助教授はモララーに近付く。
 俺は、その前に立ち塞がった。
「悪いけど… モララーを殺すって言うんなら、全力で歯向かわせてもらうモナ」
 しぃ助教授は、少し悲しそうな目をした。
「彼をかばうとういうのなら、貴方まで殺さなければならなくなります。
 武器を収めてください。私は、貴方が気に入ってるんですよ…?」
 悲しそうな目をしたのは、本気である証明。
 しぃ助教授は今、俺を殺す可能性まで考慮に入れている。

「まあ、今さら言うまでも無い事だろうが…」
 しゃがみ込んでモララーの様子を見ていたリナーが、ゆっくりと立ち上がった。
 すでに、腰の日本刀に手がかかっている。
「私は―――あなたが嫌いだ」

「…」
 しぃ助教授も、ハンマーを取り出した。
「戦る気は充分という訳ですね。こちらも任務、容赦はしませんよ…」


 一触即発。
 戦いは、避け切れない。
 『矢の男』との戦いで、俺達の身体はかなりのダメージを受けている。
 だが、やるしかない…! 


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

243新手のスタンド使い:2003/12/05(金) 01:39
さいたま氏、乙。予想はしていたが、やはりか・・・
前から思ってたけど、伏線の貼り方がすごく上手。
次の展開に期待。

244新手のスタンド使い:2003/12/05(金) 14:55

合言葉はwell kill them!その⑤―オヤジ狩りに行こう!その2


その男は、どんなに忘れようとしても忘れられないほどの
強烈な印象を持っていた。
灰色のスーツに蝶ネクタイ
妙に突出した長い鼻
南米ラテン系の容貌
そしてインパクト大のパンチパーマー。

いきなりこんなのが来たのだからたまらない。
ブラッドはただあんぐりと口をあけてその男に見入っていた。
いや、男のへアースタイルと言い直した方がいいだろう。

(スゲーな・・・、コイツの髪の毛・・・。大仏だよ、マスターに
 見せてもらったあの奈良の大仏の写真そっくりだ・・・・。)
しばらく見つめていたら、その男がブラッドに話しかけた。

「君、そこのお嬢さん。今『僕の髪の毛を物珍しげに眺めた』ねぇ。
 もしかしてこの僕に気でもあるんじゃあ無いかな?」

何を言っているんだ?この男。
ブラッドはそう思った。
もしこれがナンパの手段だったとしても、こんな訳の分からない事を言って
近寄ってくる男には誰も近寄らないだろう。

(何だよこの男。コイツは少し頭がおかしいのか?いや、さしずめナルシストってとこかな。
もうちょっとマシな口説き文句考えろってんだよ。気分悪いな〜。)
そう考えて場所を変えるため移動しようとしたときだった。
変化が起こったのは・・・

ドクッ・・・ドクッ・・・

(な、何なんだ!?いきなり脈が早くなったぞ!俺の心臓の心拍数が上がっている・・。
 いったいどうしたって言うんだよ!あの男を見た後だ・・。なんだか体が
 火照ってきた・・・。・・・はっ!まさか・・・いや、そんな事はありえない。
 あってはならないんだこんな事!・・・この俺が、『あの男を見て好きになった』・・
 う、嘘だ・・・嘘だ!)

困惑しているブラッドの表情を見て、男は少し笑ったような気がした。

245新手のスタンド使い:2003/12/05(金) 15:11


ブラッドはこう考えた。
(い、いいから落ち着け・・落ち着くんだ俺!いいか、考えを整理してみるぞ。
 俺は男、これは紛れも無い『事実』だ、だがしかし!あの男を見て俺が
 惚れ始めていると言うのも紛れも無い『事実』!これはいったい
 どうしたと言うんだよ・・・。俺はホモには興味が無いはずだ・・。
 まさか、頭では俺はノーマルと考えていても、本能の方が男を求めている
 と言うのか?・・・やばい!この展開はやばい!このままだと・・・・
 ああ、このままだと・・・・・。


           '´  ̄ ̄ ` 、
          i r-ー-┬-‐、i
           | |,,_   _,{|
          N| "゚'` {"゚`lリ     今 夜 や ら な い か ?
             ト.i   ,__''_  !
          /i/ l\ ー .イ|、
    ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、
    /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.
  /    ∨     l   |!  |   `> |  i
  /     |`二^>  l.  |  | <__,|  |
_|      |.|-<    \ i / ,イ____!/ \
  .|     {.|  ` - 、 ,.---ァ^! |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
__{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
  }/ -= ヽ__ - 'ヽ   -‐ ,r'゙   l                  |
__f゙// ̄ ̄     _ -'     |_____ ,. -  ̄ \____|
  | |  -  ̄   /   |     _ | ̄ ̄ ̄ ̄ /       \  ̄|
___`\ __ /    _l - ̄  l___ /   , /     ヽi___.|
 ̄ ̄ ̄    |    _ 二 =〒  ̄  } ̄ /     l |      ! ̄ ̄|
_______l       -ヾ ̄  l/         l|       |___|



いか―――ん!これじゃあ俺は『あちらの世界』の住民になってしまうでは
ないか!何とかならないのかこのトキメキは――!!しかし、たしか何かで
書いてあったな・・。本能を無理に抑えるとストレスになる。・・・・・・
うう、しかたない。ここは流れに任せよう・・・。ストレスで早死にだけは
したくないからな・・・。もしホテルなんかに連れられたら断ればいいことだ・・・。)

「どうする?僕とどこかに遊びに行かない?」

男の質問にブラッドはただ頷くしかなかった。

246新手のスタンド使い:2003/12/05(金) 15:55

「ブラッドー!何処行ったんだブラッドー!」

ブラッドが男について行ってから30分経ったころ、
アヒャはいなくなった相棒を探していた。
「まいったなー。あいつのこと引き戻せねえよ。どこにいるんだ・・?」

アヒャのスタンドのブラッド・レッド・スカイには2つのモードがある。
一つ目はアヒャ自身がスタンドを操る中距離型。
二つ目はスタンド自体が勝手に行動する(遠隔)自動操縦型。

一つ目のモードの射程はおよそ半径10数m〜30m程度。
だが、二つ目のモードはほぼ∞の射程を持っている。
ただし、二つ目のモードにすると、半径10数m〜30mにスタンドがいないと
本体に戻せないと言う欠点があるのだ。

「もしあいつが事故にでもあったら俺が困るんだよ。トランシーバーは繋がんねーし、
 ったく・・・。しかたねえ、もうちょっと捜索範囲広げますか。」


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

おちはいつ貼れるか分かりません。アアン・・・。

247新手のスタンド使い:2003/12/06(土) 16:02
「雁金」の読み方がわからないよウワーン
「カリガネ」でいいのかな?

248SAFAIA:2003/12/07(日) 11:08
>>246
かなりワロタ。
ブラット〜、戻ってこ〜い!

249SAFAIA:2003/12/07(日) 11:18
>>245だった。スマソ。

250:2003/12/08(月) 21:14

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その9」


 周囲はまだ暗い。今は何時くらいだろうか?
 そんな事を、他人事のように一瞬だけ考えた。
 それは、片時の現実逃避に過ぎない。
 既に、戦いの火蓋は切られた。
 ASAとの共闘関係は、完全に決裂したのだ。
 俺とリナーは、同時にしぃ教授に突進した。
 しぃ助教授は、俺達を迎え撃つようにハンマーを大きく横に薙ぐ。
 それを飛んでかわした…が、ハンマーの柄の部分での突きが俺の脇腹に命中した。
 俺は無様に地面に転がる。息ができない。
 リナーは銃を連射したが、見えない壁に防がれたように、弾は空中で止まってしまった。
「効きませんよ…」
 しぃ助教授が軽く指を鳴らすと、弾はバラバラと地面に落ちた。
「くッ…!」
 リナーは飛び退きながらバヨネットを投げつけた。
 それは空中で止まるばかりか、180度回転してリナーの方に跳ね返ってきた。
 リナーは、それを袖から取り出したバヨネットで弾き落とす。

「『力』の方向を変えたり、その場に固着する…それが、私の能力です」
 しぃ助教授は余裕をかもしながら告げた。
 それは、鉄壁の防御ではないか…?
 拳でも弾丸でも、方向を変えられてしまえば当たらない。
 スタンドの攻撃ですら同様だろう。
 それこそ『次元の亀裂』のように物理的制約を受けない攻撃でない限り、しぃ助教授には触れられない。
 つまり、普通の攻撃しかできない人間にとって、しぃ助教授は無敵ではないか?
「あなた達の攻撃は、何一つとして私の体に届きません。観念なさい…」


 ギコの周囲は、5人のスタンド使いによって囲まれていた。
「怪我したくないんなら、そこをどきやがれ…!」
 ギコは凄んだ。
 当然ながら、その言葉に応じる者はいない。
 ギコのスタンドが、一回転して刀で薙ぎ払った。
 スタンド使い達は、素早く後ろに飛び退く。
「――もらった!」
 一番正面にいたスタンド使い目掛けてギコは突きを放とうとする。
 ギコの意識が一人に集中した刹那。
 ギコのスタンドは、真横から攻撃を受けた。
「くっ…」
 咄嗟に受け流したのでダメージは軽く済んだが、他のスタンド使いの接近を許してしまった。
 高速で拳のラッシュを繰り出してくる2体のスタンド使い。
 両方とも、近距離パワー型である。
 拳の乱打をかわしきれず、数発の攻撃を受けた。
 ギコの足元がふらつく。
 突然、足が重くなった。まるで、重りをつけられたように。
 5人のうちの誰かの能力に違いない。
 …これは、ヤベェ。
 そう判断したギコは、真後ろに大きく飛び退いた。

251:2003/12/08(月) 21:18

 ギコは俺とリナーのすぐ傍まで飛び退いてきた。
 しかし、5人のスタンド使いは追撃をしようとはしなかった。
 しぃ助教授が、ゆっくりと俺達に近付いてきたからだ。
「観念なさい…」
 しぃ助教授は、再度降伏を促した。
「何も、貴方達を殺そうという訳ではないのです。私達の目的は、『矢の男』の抹殺ですから」
「…同じ事モナ」
 それを聞いて、しぃ助教授は呆れた顔をした。聞き分けの無い子供に対する表情だ。
「貴方達にとっても、彼は危険なのですよ?」
「そんな事は百も承知だよ、ゴルァ!」
 ギコは答える。
 しぃ助教授は俺とギコに対する説得を諦めたのか、今度はリナーに話を向けた。
「『矢の男』のスタンド、『アナザー・ワールド・エキストラ』は封印指定レベルです」
「そうだろうな。あそこまで破壊に適した能力は、類を見ない」
 戦闘態勢を維持したまま、リナーは答えた。
 確かに、俺達の周囲の道路は、削れたり吹き飛んだりとひどい有様だ。
 最初の戦場になった住宅街の被害も凄まじいだろう。

 しぃ助教授は首を左右に振った。そして口を開く。
「破壊に適した能力なんて… あれは、そんな低級な力ではありません。
 『矢の男』のスタンドは、量子力学的現象をマクロの世界に適用させる能力を持っています」

「…!」
 リナーは絶句したようだ。
 『矢の男』は、あの衝撃渦を『次元の亀裂』と言っていた。
 瞬間移動も、もう一つの世界を通ったものだった。それも、おそらく別の次元だろう。
 奴のスタンド能力は、他次元への穴を開く力だと俺は解釈していたが…
「どういう事モナ? 『量子力学的現象をマクロの世界に適用させる能力』って、凄い能力モナ?」
「ああ。薄々想像はしていたがな…」
 リナーは言った。
「じゃあ、次元を操る云々は嘘だったモナ?」
「いや、『瞬間移動』という技術が『別の次元への穴を開く』という能力の一部だったように…
 『別の次元への穴を開く』という技術は、奴の真の能力の一部に過ぎない。
 もっとも、奴自身ですら、自分の力を『別の次元への穴を開く』能力と思い込んでいたようだがな」
「でも、おかしいモナ。スタンド能力は一人につき一つのはずモナ?」
 俺の質問に対して、しぃ助教授が口を開いた。
「かっては、スタンドは一人に一体なのが『真理』と言われてきました。
 ですが、近年になってその『真理』が覆されました。群体スタンドの存在です。
 一人のスタンド使いが、500体を越えるような小型のスタンドを操る…そんな者もこの世には存在しました。
 こんな風に、『真理』とは簡単に覆されるもの。しかし、絶対に覆されない一つの『真理』があります。
 それが、『1人1能力』の法則です」
 そう。それがスタンド能力のルールのはずだ。
 しぃ助教授は言葉を続けた。
「では、例えば『物を冷却する能力』と『物を加熱する能力』を持ったスタンドがいるとします。
 このスタンドは、2つの能力を持っていると言えますか?」
 ギコがすぐに答えた。
「いや、それは『熱を操る能力』に集約される」
 しぃ助教授が頷いた。
「その通り。2つの能力に見えるのは、使用法の違いですね。
 『アナザー・ワールド・エキストラ』もそうです。その能力の源流はただ一つ。
 それを定義するなら、『量子力学的現象をマクロの世界に適用させる能力』です」
 前半は理解できたが、後半は分からない。
 そもそも、量子力学的現象って何だ?

252:2003/12/08(月) 21:19

「その、量子力学的現象って何モナ…?」
 俺はしぃ助教授に訊ねた。
 その問いに答えたのはリナーだった。
「君は、『シュレーディンガーの猫』というのを知っているか?」
 何だ、それは?
 シャム猫の親戚だろうか。
 質問の言葉を放とうとした俺より先に、ギコが口を開いた。
「ああ、知ってる。いちおう俺も猫だから、死活問題だ」
 リナーは頷いた。
「なかなか博識だな。まあ、モナーはシャム猫くらいしか知らないだろうから、説明しよう」
 何か、すごく失礼な言い分だ。
 俺の知性をかなり低く見積もられているような気がする。
 そんな俺の憤りを知らず、リナーは説明を始めた。
「『シュレーディンガーの猫』とは、物理学者シュレーディンガーが提唱した、量子論の確率解釈の問題点を
 端的に表現したパラドックスだ。
 鉄の箱の中に放射性物質と放射線検出器に連動した毒ガス発生器を設置し、箱の中に一緒に猫を入れておく。
 放射性物質は1時間に原子核崩壊を起こして放射線を放出する確率は50%で、放射線が放出されれば
 検出器に連動した毒ガスが発生し猫が死んでしまう、という仕掛けを作るとしよう」
 何でそんな事をするんだ。立派な動物虐待ではないか。
「で、放射線が出なければ毒ガスは発生せず猫は生きている事になる。
 量子力学では原子核崩壊を起こす状態と起こしていない状態が重なり合っている状態だから、
 それと連動している猫の生死も「生きている」状態と「死んでる」状態が鉄の箱の中で
 重なり合って共存している状態、つまり「半死半生」状態になっている、という事になる。
 それで1時間後に鉄の箱を開けて観測した瞬間に猫の生死が確定するが、それまでは箱の中の猫は、
 「生きていながら死んでいる」状態になる」
 ハア? 意味がわからない。
 そんなの、猫は生きてるか死んでるかのどちらかだろう。その真ん中なんてありえない。
「そこでシュレーディンガーは、『箱の中を観測する前から猫の生死はどちらかに決まっているはずで、
 半死半生とか、観測したとたん生死が収縮してどちらか一方に決まるのは明らかにおかしい』と述べ、
 量子力学および不確定性原理を批判した」

253:2003/12/08(月) 21:20

 しぃ助教授が口を挟む。
「批判した、ってのはちょっと的外れな表現ではありませんか?
 そもそもシュレーディンガーは、波動方程式で量子論の発展に多大な貢献を果たした人ですから。
 彼自身戸惑っていた、というのが正解でしょう」
 リナーは反論した。
「それには賛同できないな。彼は決定論にとらわれていた。確率的解釈にはとうてい同意できなかった。
 もっとも、私は物理屋じゃない。それに、今は『矢の男』のスタンド能力の話だからな。
 そこら辺の差異は置いておこう」
 話を本筋に戻した…ようだ。
 内容についていけないので、本筋がどこなのかも分からないが。
「で、なぜそんな解釈が生じるのかというと、かの有名な不確定性原理がかかわってくる」
 かの有名なと言われても、そんなものは初めて耳にする。
 何やら難しい顔をして頷いているギコも、本当は何も理解してないんじゃないか?
 そのギコが口を開いた。
「すまねえが、もう少し量子論そのものについて細かく解説してくれねぇか?
 不確定性原理は、概念を理解したくらいで理論はさっぱり分からねぇんだ」
 ほら、ギコも分かっていないようだ。
 分からない同士なのに、何やら大きな開きがあるような気がするが…
「概念だけで問題はない。理論まで説明しだすと、どれだけ時間がかかるか分からないからな。
 とにかく、量子論とは相対性理論と並び賞される物理学界の二本柱であり、双璧の理論だ。
 相対性理論は我々の世界、つまりマクロの世界で通用する物質観だが、量子論は極微な世界、
 つまりミクロの世界で通用する物質観なんだ」
 そもそも、何の話だったっけ?
 ああ、モララーのスタンド能力か。
「物理学の世界では、マクロとミクロの世界の力学が異なる。我々の住む世界で通用する力学の常識が、
 ミクロの世界では適用されない。ミクロの世界は我々の常識を遥かに越えた不思議で神秘的な世界観が
 原理として存在しているんだ」
 しぃ助教授がリナーの雄弁を認めているのは、モララーのスタンド能力について語っているからだろう。
 だが俺やギコは、モララーがどれだけ危険な能力を持っていようと、抹殺に同意したりはしない。
「その量子論の中でも特に衝撃的だったのが、観測する事によって生じる『あいまいさ』だ。
 その不確かさを発見し量子論を確立したのが、物理学者ハイゼンベルクだった。
 彼が発表した不確定性原理とは、ある物質の位置と運動量を観測する時、位置を確定すると
 運動量は確定できず、運動量を確定すると位置は確定できなくなる。 つまりミクロの世界では、
 物質がその位置にいてどのくらいの速度で運動しているのかを正確には測定できないという理論だ」
 ギコはリナーの話に熱心に耳を傾けている。
 そう、こいつはスポーツ万能のくせに勉強までできるのだ。
 こいつの座右の銘は確か、『知識でも技能でも、覚えられるものは何でも覚えとけ』である。
 なおかつ性格はサッパリしていて、驕ったり威張ったりはしない。
 粗暴な言動に反して、思いやりもある。
 そりゃ、女にモテるはずだ。

254:2003/12/08(月) 21:20

「で、最初に言った『シュレーディンガーの猫』のパラドックスに一つの回答を見出したのが、
 量子コンピューターの基本的な理論を提唱した教授デビッド・ドイチュ教授だ。
 彼は観測した瞬間に生きている猫がいる世界と、死んでいる猫がいる世界にそれぞれ枝分かれすると述べ、
 あらゆる量子論的観測の結果は「多重宇宙論」で解釈できるとしている。
 つまり、『重ね合わせ』の状態の数だけ宇宙は枝分かれしていくというもので、
 『シュレーディンガーの猫』のパラドックスでは、『生きている猫を見ている私がいる世界』と
 『死んでいる猫を見ている私がいる世界』の二つの世界に枝分かれし、それぞれの『私』は
 この世界が唯一の世界だと認識し枝分かれした世界(宇宙)は物理的に孤立している為、
 別の世界の『私』を見ることも干渉する事も不可能である。観測するたびに枝分かれし、
 それぞれの世界が同時進行していく解釈を『多世界解釈(パラレルワールド)』という。
 この解釈は量子力学の不可思議で難解な性質を理解できる一つの解釈として受け入れられており、
 人間が決して見ることの出来ない「波の収縮」をある程度説明している」
 俺は、理解しようという意思すらとっくに放棄している。
 関係ないが、こうして見るとリナーはすごく美人だな…
「ここで、『スーパー・ストリングス理論』…いや、今は単に紐理論と言うのだったな、それが絡んでくる。
 まあ、ここで素粒子に関する話をしても、モナーあたりにはついていけないので省略するが…」
 まさか、今までの話についてきていると思われているのだろうか?
 俺の知性をかなり高く見積もられているような気がする。
「つまり、モララーの能力とはミクロの領域の物質感、すなわち量子論を我々の世界に適応させる能力だ。
 それが、『アナザー・ワールド・エキストラ』の正体。
 他次元にコンタクトできるというのは、あくまで『多世界解釈』という擬似解釈に過ぎない」

255:2003/12/08(月) 21:21

「理解したようですね。『矢の男』がどれだけ危険なのかを…」
 リナーの話が終わったのを見計らって、しぃ助教授は言った。
「そこまで分かったら、『矢の男』抹殺に同意してくれますね…?」
 しぃ助教授は俺達を見回した。
「同意するわけないモナよ」
 俺はあっさりと告げた。
「あんな長い話を聞いただけで、友達を殺すことに同意する奴がいたら、ぜひ顔が見たいモナ」
「…あなたは、今の話を聞いて何も思わなかったんですか…?」
 呆れきったようなしぃ助教授の顔。
「モナが思ったのは3つ。
 シュなんとかの猫ってのが可哀想なのと、ギコが女にモテるって事と… あと一つはまた今度モナ」
 説明してるリナーが美人だった、って事である。
「『矢の男』は戦闘経験が全く無く、自分の能力ですら使いこなせていなかったんです。
 その状況ですら、貴方達はあれだけ苦戦したのですよ!? これで、奴が力をつけたら…」
「その時は、またブッ飛ばせばいいモナ」
 俺は笑って答える。
 しぃ助教授は少し激昂したように見えた。
「その時は、今回みたいに死者が出ないとは限らないのですよ!!」
 そうか、死者は出なかったのか。
 ASAが避難や治療に力を入れたのだろう。これだけは彼らに感謝だ。
「それと、今は『矢の男』じゃなく『モララー』モナ。
 確かにモララーは馬鹿だけど、そんな大それた事ができる奴じゃないモナ」
 そう、俺は確かに視た。
 『矢の男』の内部で、モララーと『矢の男』の意識がせめぎ合っているのを。
 そして、モララーは『矢の男』に屈したりはしない。
 決して、もう一人の自分なんかに操られたりするものか…
 自分の意思に関わり無く狂気に走るなんて、俺は許さない。
「もう、モナの前で人が死ぬのは嫌モナ…」
 俺は、しぃ助教授にそれだけを告げた。
「貴方ほど単純なら、世の中も生き易いでしょうね…」
 しぃ助教授の呟きに、嘲りの色は無い。むしろ、羨んでいるように感じられた。
「では、貴方は…?」
 しぃ助教授は、ギコの方に向き直った。
「俺は、コイツほど人情家じゃねぇよ」
 ギコは詰まらなそうに言った。
「だがな…、俺のツレの命が懸かってる。そして、その命を奪おうとしてるお前らも命を懸けてる。
 ―――なら、俺も命を懸ける他にないだろう…?」
 ギコのスタンドは、日本刀を一直線にしぃ助教授に向けた。

256:2003/12/08(月) 21:21

「貴方達の、友人を思う気持ちは分かりました。そこまで言うのなら…」
 しぃ助教授は、やっと分かってくれた…
「貴方達ごと、抹殺するしかないんですね…!」
 …訳ではない。
 本気だ。
 しぃ助教授は、本気で俺達を殺そうとしている。
「その女は、仮にもASAの三幹部の一人だ」
 リナーは言った。 「そんな言葉など、届きはしない」

「そう、貴方達の言葉も、そして攻撃も私には届かない…!」
 しぃ助教授はハンマーを構えた。
「さようなら。一人を除いて、貴方達のこと嫌いではありませんでした」
 しぃ助教授は、ハンマーを何度も眼前の地面へ叩きつけた。
 餅つきに似た動きだ。
 あれは…何をやっている?
 その場所に、黒い渦のようなものができていた。
 そう。しぃ助教授の能力は、『力』の方向変換、そして固着。
 すると、あれは…
 「衝撃エネルギー」を、あの場所に固着させた…?
「散りなさい!!」
 しぃ助教授はノックを行うように、その「衝撃エネルギー」をハンマーで打ちつけた。
 放射状に広がる「衝撃エネルギー」。
 俺達の身体に、その衝撃が浴びせられた。
 まるで、小規模の爆弾が爆発したようだ。
 地面は大きく削れ、周囲の物を破壊される。
 俺達の身体は弾き飛ばされ、地面を這った。
 そこには、大きなクレーターが形成された。
 
 こんな風に地面に寝転がるのも、今日何度目だろう。
 体中にくまなく浴びせられた「衝撃エネルギー」は、俺の身体に大きなダメージを与えた。
 どうやら、アバラが数本折れたようだ。痛くて体が動かせない。
 リナーも、俺のすぐ傍に倒れていた。
 ギコは… 咄嗟にかわしたのだろう。
 一直線にしぃ助教授に斬りかかっていった。
「…届かないといったはずです」
 刀は、しぃ助教授の体に当たる前に止まった。
「ちっ…!」
 一瞬で距離を置いて、鋭い突きを放つギコのスタンド。
 しかし、それすらも空中で止められてしまう。
「磨きぬかれた技…、貴方はかなりの鍛錬を積んだのでしょうね」
 しぃ助教授は言った。
「黙れ!」
 さらに剣を振るうギコ。
 下段をすくうように刀を薙ぎ払う。
 しかし、その攻撃が当たる事は無かった。
 しぃ助教授は地面にハンマーを突き立てた状態で、柄の部分の上に立っていた。
「猿爬棍… テメェ、棍術なんてマイナーな…」
「棍術の技を知ってる貴方も、大したものですよ」
 しぃ助教授はその体勢から軽く後ろに飛んで、今まで乗っていたハンマーを振り上げた。
 ギコは直撃を受け、宙を飛んだ。

257:2003/12/08(月) 21:22

「さあ、もう邪魔者はいないみたいですね…」
 モララーに歩み寄るしぃ助教授。
 その背中に、リナーはバヨネットを投げつけた。
 それはしぃ助教授の背中に当たる30cmほど手前で直角に曲がり、まっすぐ地面に突き刺さった。
「いい加減にしなさい、『異端者』…」
 しぃ助教授は振り向いた。
「その名で私を呼ぶなと言ったはず…」
 リナーはゆっくりと起き上がる。
「今後は気をつけますよ、『異端者』。
 それより、貴方の身体は、『矢の男』との戦いで既にボロボロです。
 そんな状態で私と勝負になるかどうかは、貴方が一番良く分かっているでしょう?」
 確かに今のリナーは、立っているだけでも辛そうだ。
 しかし、リナーは言った。
「馬鹿を言うな。私が本気でやれば、お前など一瞬で肉塊だ…」
 しぃ助教授は軽く両手を広げた。
 そして嘲るように口を開く。
「馬鹿を言ってるのは貴方の方です。まさかそこまで現状認識が…」
 リナーはしぃ助教授の言葉に耳を貸さない。
「今から、私のスタンド『エンジェルダスト』を解除する。今のうちなら、まだ逃げられるぞ…」
 スタンドを解除… それはどういう脅しだ?
 『エンジェルダスト』はリナーの体内に展開しているスタンドで、リナーの身体能力を高めているはず…
「どうしたんです? 錯乱したんですか?」
 しぃ助教授がそう言った刹那、リナーの姿が消えた。
 この最近、数々の「速さ」を目にした。
 吸血鬼の動き。『矢の男』のスタンドの拳。ギコの踏み込み。
 リナー自身が日本刀を持った時も、相当の速さだった。
 だが、今の動きはそれらの全てを凌駕していた。
 それは訓練されたものではない。無秩序な「速さ」だ。
 俺が見た中では、吸血鬼の動きが一番近い。
 俺に『視る』という能力がなければ、絶対に視認できはしない動き。
 いつの間にか高速でしぃ助教授の背後に移動したリナーが、鋭い回し蹴りを放った。 
 俺の驚きとしぃ助教授の反応は同時。
 その蹴りは、しぃ助教授に当たるほんの手前で止められた。
 今までとは違い、明らかに反応が遅れている。
 リナーはそのまましぃ助教授の首を掴み、無造作に地面に叩きつけた。
 先程のしぃ助教授の一撃の影響で、舗装された路面は全て吹き飛んで土を晒していた。
 その地面にめり込むしぃ助教授の身体。
 リナーはそこから飛び退いた。

 しぃ助教授が、ゆっくりと地面から這い出してくる。
 表情が、今までとは違っていた。
「油断してましたね… まさか、この期に及んでそんな力を隠し持っているとは…
 ですが、その異常な瞬発力と破壊力には、何か刹那的なものを感じます。
 蝋燭の最後に燃える火のような…ね。 かなり身体に負担をかけてるんじゃないですか?」
 リナーは髪を掻き上げた。
「負担などかけているものか。こうなってしまえば、私を殺す事は絶対に不可能だ」
 しぃ助教授はハンマーを構える。
「貴方の攻撃は私に届きません。先程のような油断があるとは思わないように」
 両者が激突しようとしていたまさにその時…

「―――全く、本人のいない所で、生かすの殺すのと…」

 聞きなれた声が聞こえた。
 その声に、二人は動きを止める。
 っして、両者は一点を凝視した。
 そこには、目を醒ましたモララーが立っていた。

258:2003/12/08(月) 21:22

 あれは、『矢の男』ではない。確かにモララーだ。
「…もう、目を醒ましたんですね…」
 しぃ助教授が憎々しげに呟いた。
「あれだけ長話されれば、嫌でも目が覚めるよ」
 モララーは面倒くさそうに言った。
「本当は、話の途中から起きてたんだ。
 不用意に近付いてきたところに、思いっきりブチかましてやろうと思ったんだけどね…」
「…!!」
 今まで成り行きを見守っていたASAの5人のスタンド使いが動こうとした。
「…おっと、やめた方がいい」
 モララーは言った。
「そこら辺に、『次元の亀裂』を7箇所ほど作っておいた。
 こなみじんになりたくないなら、そこでじっとしてた方がいいよ…」
 5人のスタンド使いは、驚愕の表情で周囲を見回す。

「さて、次は君か…」
 モララーはしぃ助教授の方へ向き直った。
「確かに、今の僕は君より弱いね。
 でも、『次元の亀裂』は物理的な力じゃないから、君には曲げられないし止めることもできない。
 まあ、こっちも穴を開けるのには時間がかかるから、正面から撃ったりはしない。
 だから、リナーやギコ、モナー君の攻撃をかわす隙にでもブチ込むとするよ」
 モララーの背後から、『アナザー・ワールド・エキストラ』のヴィジョンが浮かび上がる。
 今まで俺達を散々に苦しめたスタンド、『アナザー・ワールド・エキストラ』。
 その強力さは、俺達全員が痛感している。

 しぃ助教授は悔しげな表情を浮かべた。
「…流石に、得体の知れない強さを発揮している『異端者』に、モナーとギコ、さらに『矢の男』まで
 加わっては私に勝ち目はありませんね」
「安心しなよ。『矢の男』は、僕が押さえ込んでるからね。ってか、奴はほとんど消えたよ。
 今いる『矢の男』は、ただの残りカスさ」
「さっきも言いましたが、そのような事は関係ありません。
 貴方は、個人が持つには大きすぎる力を手にしてしまった。
 ASAは、貴方の抹殺を諦めた訳ではありませんよ…!」

「その時は、俺が相手をするぞゴルァ!!」
「人を殺すのは許さないモナ!」
 俺とギコは異口同音に言った。
 ASAのスタンド使い5人が、しぃ助教授の方を見る。
「ああ、『次元の亀裂』は解除しといた。もう動いても大丈夫だよ」
 モララーがニヤニヤ笑いながら言った。
「では、また会いましょう…」
 そう言い残して、しぃ助教授とASA5人は夜の闇の中に消えていった。

259:2003/12/08(月) 21:23

「モナー君!!」
 モララーは俺に駆け寄ってきて、抱きつこうとした。
 俺はそれを振り払う。
「僕、聞こえたんだよ。『矢の男』に振り回されて、君に攻撃をしてしまった時…
 『愛しのモララー、そんな奴に支配されるな!』という、モナー君の声がね…
 そのおかげで、僕は僕自身に戻れたんだ…」
 モララーは目をウルウルさせている。
「その時は『矢の男』の正体がモララーって気付いてなかったから、間違いなく空耳モナ」
 俺はモララーをあしらうと、リナーに言った。
「リナー、怪我は大丈夫モナ!?」
「…ああ、大体は完治した」
 リナーは力無く頷いた。
 モララーは、そのリナーの方をキッと見る。
「僕は負けたなんて思ってないからな!! もし立場が逆でも、僕は君と同じ事をしたからな!!」
 モララーが『矢の男』だった時、俺の治療を優先したリナーは、背後からブチ抜かれるまで俺の治療を
続けたのだ。
 リナーがそうしなければ、俺は死んでいただろう。その事をモララーは言っているのだ。
「僕のモナー君への愛の深さは、たとえこの身が削られようとも…」
 まくしたてるモララーの後頭部に、ギコが強烈な蹴りを入れた。
「アアン」
 地面に倒れるモララー。
「何するんだ! 大体、君達は僕を助けるために命を懸けてハンマー女と戦ったんだろ!?
 その僕を足蹴にするなんて…」
「黙れ、ゴルァ!」
 ギコはさらにモララーを足蹴にする。相当ハラが立っていたようだ。
「でも、みんな無事でよかったじゃない」
 いつの間にか、リナーの横にしぃちゃんがいた。
「あれ、今までどこにいたモナ?」
 最後に見たのは、瀕死のリナーの傍らにいた時だ。
「私が、しばらくここから離れるように言っておいた」
 リナーは言った。
 周囲はしぃ助教授の一撃のせいでひどい有様だ。
 そのままここにいたら、しぃちゃんも巻き込まれていただろう。


 ギコに蹴られて地面に伸びていたモララーが、ヨロヨロと立ち上がる。
「…ひどいや。なんで、僕ばっかり…」
 ギコは、恨み言を無視してリナーに訊ねた。
「で、こいつはどうするんだ?」
 ギコの身体から、日本刀を持った着物姿の女性のヴィジョンが浮かび上がった。
「これって、俺のスタンドなんだよな?」
 ギコにしてみれば、突然身についたものだから戸惑っているのだろう。
「特殊な場合を除けば、スタンドはあって損というものではない。気に入らなければ使わなければいい」
 リナーは落ちているバヨネットを回収しながら返答する。
「まあ、身についた以上は使わせてもらうが… 名前とかはどうすんだ?」
「君が自分で決めればいい」
 リナーは、武器を服の中に収めながら言った。
「まあ、考えとくか…」
 ギコは自分のスタンドを見上げる。
「それにしても、ギコのスタンドが女性型とは意外モナね。ギコに似合うのはもっと…」
「…もっと、何だ? 粗野で乱暴な方が似合ってるか…?」
 ギコのスタンドが、俺の背後から首に刀を突きつけていた。
 今のままでも充分に乱暴だ。
 墓穴を掘るのは勘弁なので、俺はモララーに話を振った。
「それにしても、『次元の亀裂』を7つも同時に作るなんて…
 モララーもかなりスタンド能力を使いこなせるようになったモナね」
「ああ… あれは嘘だよ。今の僕にそこまでの技術はないからね」
 モララーはあっさりと言った。
 こいつはあれだけの状況でハッタリをかましたのか。
 俺は少し感心してしまった。

260:2003/12/08(月) 21:23

 周囲は、少し明るくなってきた。夜も明けようとしている。
「さて、そろそろ家に帰るモナよ…」
 俺は言った。
 そもそもここはどこだ。
 『矢の男』に追われて車を走らせたせいで、俺達の町よりかなり離れているんじゃないか?
「これ、歩いて帰るのか…?」
 ギコは言った。
 俺達の身体は疲れきっている。
 車を調達しようにも、こんな時間には1台も走ってはいない。
 もっとも、そのおかげで路上の戦いでは一般人を巻き込まなかった訳だが。
 とにかく、ここから歩くのは苦行以外の何でもない。
 モララーはニヤリと笑った。
「さて、ここで僕のスタンドの出番となるわけだ…」
 モララーの体から浮かび上がる、『アナザー・ワールド・エキストラ』。
 その拳で、何も無い空間を弄り始めた。
「あれ… 座標の調整が意外と難しいな… よいしょっと」
 20秒ほど経って、モララーは言った。
「よし。僕らの町までの穴を開いたんで、これを通ればすぐに帰れるからな」
 それを聞いて、ギコは不安そうに言った。
「本当に大丈夫なのか…? 中に入ったらこなみじんとか、勘弁だぞ…」
「僕を信用しなよ。さあ、行くよ」
 俺達は、その目には見えない穴を通った。
 出た先は…風呂場だ。
 しかも…、俺の家!?
 そう、確かに俺の家の風呂場だ。
 確かに俺達の町には違いないが、何でよりにもよってこんな場所に…
 ギコやしぃも流石に戸惑っている。
 どうでもいいが、狭い風呂場に5人もの人間が密集しているのは奇妙な風景だろう。
「どういう事モナ?」
 俺は訊ねる。
 その問いには、モララーではなくリナーが答えた。
「まだ、モララーは能力を使いこなせていない。彼の無意識の願望が影響したんだろう」
「なぁんだ。だからモナの家の風呂場に…って、オイ!!」
 俺はモララーの頭をブン殴った。
「アアン! 無意識だからしょうがないだろー!」
 そんな俺達を見て、ギコが言った。
「まあ、モナーの家に着いたのは好都合だな。今の俺達には休息が必要だろうが、
 それ以上に説明してもらうべき事が多いからな」
 そう、ギコ達は何も知らない。
 なぜ、モララーが『矢の男』になったのか。
 そして、『アルカディア』の存在。
 そう、この町に対する脅威の大元は依然として存在する。
 ギコとモララーのスタンドは、『アルカディア』と戦う上でも大きな力となるだろう。
 だが、確実に危険に足を踏み込む事となる。
 俺は黙ってリナーの顔を見た。
「ここまで踏み込んでしまえば、情報を持たない方が逆に危険だと私は思うが…」
 リナーはそう言って言葉を切った。
 彼等は俺の友人だから、俺に判断を委ねているのだ。
「分かったモナ。説明するモナよ…」
 だが、風呂場じゃいくらなんでも狭すぎる。
 俺は、全員を居間に導いた。
 現在の時刻は午前5時だが、今日は日曜だ。
 学校の心配は無い。
「モナは説明が苦手だから、リナーがやってほしいモナ…」
 俺は説明をリナーに任せた。
 そう。俺には、絶対に触れたくは無い傷があるから。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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261新手のスタンド使い:2003/12/09(火) 18:39


           乙!!

262神々の遺産:2003/12/11(木) 00:32
さぁぁぁぁぁ・・・・・
風に草原がなびく。
とてつもなく広い草原。
その中にただ一人、俺は立っていた。
一体ここはどこだろう?モンゴルか?
背後に人の気配がする。
振り向くと、そこには、ワンピースを着ている女の子が一人立っていた。
女の子はじっと俺を見つめている。
さぁぁぁぁぁ・・・・
風にまた、草原がなびく。
女の子が口を開いた。
何かを言っている。だが、その声は俺に届いていない。
女の子の表情が暗くなる。俺に声が届いていないのが分かったようだ。
しかし、それでも彼女は俺に何かを伝えようとした。
俺の意識が、少しずつ遠のいていく。
声が聞こえる。
あの女の子の声だろうか?
しかし、もうほとんど何も見えないし、何も聞こえない。
そんな俺に、あの女の子の声が届く。
「世界の終焉は近い。『彼女』のこと、お願いね・・・『神の誤算』。」

263神々の遺産:2003/12/11(木) 00:33

「うっ・・・・・」
俺は目を覚ました。どうやら寝てしまったらしい。
頬が張っている。顔には時計の跡がついている。・・・・・格好悪い。
どうやらもう放課後らしい。時計を見て確認した。
「・・・・・どうして誰も起こしてくれないんだよ。」
俺は少し、悲しみと寂しさと涙が込み上げてきた。
教室には数人がいるだけで、閑散としている。
かばんを持って、ヨロヨロと立ち上がった。
「あっ、いたいた。ねぇ、黒耳君。」
その声を聞き、俺は振り向く。
声の主は、同じのクラスのしぃだった。
「ほらっ、何してるの?早く出てきなよ。」
そう言われて、もじもじしながらドアのところから出てきたのは、同じクラスのつーだった。
しぃとつーは姉妹だ。もっとも、血がつながっているわけではない。
しぃの両親が、孤児院にいたつーを引き取ったらしい。
「あの・・・その・・・・」
つーがもじもじしながら俺を見る。
俺に何かを用事があるようだが、もじもじしていて何を言いたいのかまったく分からない。
しぃの両親は出来た人らしく、しぃにもつーにも分け隔てなく育ててきたらしいのだが、
なぜか、つーはおとなしい性格になってしまったらしい。
まぁ、なんでこんなにつーのことに詳しいのかと言うと、俺としぃ達の両親は、昔から面識があったからだ。
つまり、幼馴染ってやつだ。
酒の席で、もっとも俺はいるだけだったが、色々聞かしてもらった。
「あの・・・その・・・」
つーはまだもじもじしている。
その様子にしぃが我慢ならんっと言った感じで
「あぁもう!つーが言わないんだったらあたしが言っちゃうよ!?」
「え・・・・、分かったよぉ、私から言うよ・・・・」
つーが俺のほうにくるっと向き直った。
「あ、あのね、こ、今度の日曜日、私の誕生日なんだけど・・・・・」
「あぁ、そういえばそうだな。」
「そ、それでね、今度、私のうちで誕生パーティーするんだけど・・・・・」
「それに俺に来い、と。」
「う、うん。ダメ・・・かな?」
つーの誕生パーティーか・・・別に行ってやらんこともないがしかし・・・
そういう誕生パーティーというものには、大概、男は誰もいなく、女の子だけと言う場合が多い。
そんな中、俺一人男と言うのは・・・・・かなりきつい。
「なぁ、それって男も来るのか?」
「ん?それなら安心だよ。あんたの他に、一応ギコも呼んであるけど。」
「ギコ?ギコも呼んであるのヴァ!?」
俺の背中に衝撃が走る。つーたちの顔が横に流れていく。
俺はそのまま、地面とキスをした。
「呼んだか?」
ギコは俺の背中に足を置いたまま、俺に聞いてきた。
一体どこから現れたんだ・・・・?
ギコはしぃ、つーと同じく、俺と同じクラスだ。
小さい頃、親が死んで、行く当てもなかったので、孤児院で暮らしているらしい。
ぞれにしても何故に蹴るんだ・・・?俺ってばなかなかひ弱なんだぞ?折れたらどうするんだ。
「いや、呼んでないぞ・・・」
俺は、俺の背中にある足を無理やりどけて立ち上がった。
「そうか?それならいいんだが。」
俺にわびる様子もなく、そのまま帰ろうとする。
「あっ、そうだ。お前、つーの誕生パーティーに行くのか?」
「あぁ、誘われたからな。もちろん行く。」
ギコはそっけなく返す。
そうか・・・ギコがいくのか。意外だな。
俺は内心、かなり驚いていた。
ギコは、教室の窓側のほうでよく小説を読んでいる、おとなしい(?)奴だ。
だから、こういう騒がしいパーティーみたいなものはあまり来たがらない。
「そうか、なら俺も行くよ。」
俺がそう答えた瞬間、つーの顔がぱっと明るくなった。
「ほ、ほんとぉ!?じゃ、じゃあ場所と時間は折り入って連絡するから!」
そのまま教室を走って出て行った。
一体何なんだ?
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
しぃは、つーの後を追って教室を出て行った。
「さて・・・・・」
俺はかばんを持ち直して、ギコと一緒に教室を出て行った。

264神々の遺産:2003/12/11(木) 00:34

俺とギコが一緒に帰っていると、人が二人倒れているのを見つけた。
片方は腰の辺りまで伸びたロールが掛かった金髪の髪、フランス人形みたいな綺麗・・・と言うよりかわいい女の子。
来ている服もフリルやリボンの付いた可愛らしい服だ。
もう片方は、ロングコートを着ていて、帽子を深く被り、マスク、サングラスをしているので、顔が分からない。
まるで、身体がなるべく見えないようにしているみたいだ。
「うぅ・・・」
ロングコートの男が気づいたようだ。
「大丈夫か?」
俺たちは駆け寄った。
すると、ロングコートの男は酷く怯えて
「く、くるなぁ!!」
ロングコートの男は俺を睨んだ。
その瞬間、俺の頭の中に何かが入ってくるような感じがした。
頭の中を探られている。そんな気がする。
俺は、何が起こっているのか分からずに、困惑していると、ロングコートの男が突然ビクっとして
「そ、そうか。お前も『神々の遺産の』なのか・・・。頼む、この子をこれ以上悲しませないでくれ・・・・」
俺にそう告げて、ロングコートの男はまた気絶してしまった。
すると、何時の間にか頭の中の悪寒が消えていた。
「・・・どうする?」
俺はギコに聞いた。ギコは、大きなため息をついた。
「仕方がないだろう?とりあえず、どこかに運ぼう。」
俺は女の子を負ぶさって、俺の家に運んだ。
本当は、病院に運んだほうがよいと思うのだが、とギコに言ったら、
「何か分けありらしいから、とりあえず病院はよそう。」
と言う答えが返ってきたので、俺の家のほうが近いので、俺の家に運ぶことになった。
俺が女の子、ギコがロングコートの男を運んでいる。
情けないことに、三分も経たずに汗だくになった。
骨が軋んでいる気がする。
・・・・・俺ってこんなにひ弱だったかなぁ?

265神々の遺産:2003/12/11(木) 00:35

俺の家に着いた。
どこにでもありそうなフツーの家。
家には誰もいない。
俺の母親は死んでしまっていないし、
父親は海外で働いているので、当然といったら当然だ。
ロングコートの男と女の子は、まだ眠っている。
とりあえず、俺とギコはロングコートの男と女の子を床において、二人が目覚めるのを待った。
二十分後、女の子のほうが先に目を覚ました。
きょろきょろ周りを見回している。
俺と目が会うと、俺に向かって、やけに落ち着いた様子で、
「やっと会えたわね、『神の誤算』。」

この時、夢の中で出会った少女が歌っているのが頭に浮かんだ。
まるで、俺達の運命を慈しむように。
歌う歌う。運命を歌う。
回る回る。運命が回る。



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266新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 11:38
>>246の続き

ブラッドは男の家に連れて行かれていた。
所々壁が剥れかけている古臭いボロアパートだ。
(よかった・・・。どうやらホテルへGO!の展開は免れたようだな。)
「さ、中へどうぞ。」
そういって男はドアを開けた。
部屋はちょっと狭かったがなかなか綺麗に片付いていた。

男は上着を脱ぐと台所へと向かう。
「そういやあなたの名前聞いてなかったけど、なんて名前なの?」
「僕の名前はフェラーチョって言うんだ。」
そう言うとフェラーチョは冷蔵庫から食材を取り出し料理を始めた。
「君さっきお腹すいてるって言ってたよね。いま僕の特製カレー作るから
 ちょっと待ってて。」
「分かった。手短に頼むよ。」

しばらくして・・・。
「出来たよー。たっぷりと召し上がれー。」
フェラーチョは皿に大盛のカレーを持って来た。
「有難う。じゃあ頂まーす。」
ブラッドはカレーを一口口に含んだ。
(お、結構いけるじゃねーかこのカレー。バーモントのルーだけでもこんなに
 美味くなるなんて驚いたな。後で作り方を教わっておくか。)
美味いカレーと言うものは何杯でいけるもので、ブラッドは少なくとも5杯は平らげた。

だがこのカレーが普通のカレーでは無いことにブラッドはまだ気がついてなかった。

267新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 12:02

異変に気がついたのは5杯目に突入した時だった。

ガリッ!

(イテッ!何だ?何かが舌に刺さったぞ。)
ブラッドは恐る恐る口から刺さったものを取り出した。
(これは・・・人間の爪?マニキュアが塗ってある所を見ると、女の爪の様だな。
 何でカレーにこんなのが入っているんだ?)
そんな事は気にも留めないで、5杯目も完食した。

「ご馳走様。じゃあ帰るね。」
そう言ってブラッドが帰ろうとした時だった。
「待って。折角だから一緒にお風呂でも・・。」
(きゃあ〜〜〜〜〜!ホテルでなくともこの展開が起きるのね〜!やばい!
 早くここを出ないと!)
慌ててドアノブに手をかけた瞬間。フェラーチョがボソッと呟いた。
「第二のスイッチ・・・押したね。」
だがブラッドにこの声は届いていなかった。

(くそー!焦っていてドアが開かねー!・・ん?)

ドクッ・・・ドクッ・・・

(こ・・この心拍数の上昇は・・!や、やばいまたあの時と同じ状況に!
 ああ、俺はノーマルなのに・・・。諦めるしかねーよ。)

268新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 12:45

「おかしい!何かがおかしい!あのフェラーチョって奴に会った時からだ!
 あいつが元凶なんだ!きっとそうだ!」
ブラッドは独り言を言いながら脱衣場で服を脱いでいた。
その服も血液を固めて作った物なのだが。
風呂場に入るともうお湯がたまっていた。
「さ、入るとしますか。・・・で、当のフェラーチョ様は何処へ行ったかのかと。」
その時、ブラッドはいきなり何者かに後頭部を掴まれ、湯船に押し込められた。
「ゴボッ!ガバアッ!な、何が!?」
「ふふ・・・。君みたいな女の子は食べちゃいたい位好きなんだよね〜。
 そう、『食べちゃいたい』位にね。」
声の主はフェラーチョだった。手には何処にあったのか鋸が握られている。
「さ、君が死んだら解体作業を始めて・・」

グシャアア!!!
「ぐええっ!」
ブラッドの腕が180度回転してフェラーチョの顔面に拳を叩き込んだ。
体が元々液体だからこのような芸当もお手の物なのだ。
「ひいい!い、いったい・・・。」
「そうか、分かったぞ!さっきのカレーに入っていた爪の意味が!お前は
 俺みたいに女を誘い、そして今のように解体して食ってたんだな!」
変身能力を解除したブラッドがフェラーチョに詰め寄る。
「!お、お前は女じゃなかったのか!?」
その言葉でブラッドはふと気がついた。
「あ―――!俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿―!最初から変身を解除してりゃあこんな事には
 ならなかったんじゃねーのかー!あ―――!」
「くそ!僕の秘密を知ったからには生かしちゃ置けない!」
「俺だってお前のことを許さない!そのパンチパーマーもこれが見納めだな!」
そう言って殴りかかろうとした時。
「第一のスイッチ・・。」

269新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 13:29

ガクン!
「なっ!か、体が重い!」
いきなりブラッドは誰かにのしかかられたように身動きが取れなくなった。
「これは・・。てめえもスタンド能力者か!」
「御名答〜。だがもう遅いよ〜。」

フェラーチョは洗面所からドライヤーを持って来た。
「君は見たところ体が液体だから打撃系の攻撃は効かないみたいだねえ。
 だが、この漏電したヘアドライヤーを・・。どうすると思うね〜?
 乾かしてやるんじゃねーぞ!ひゃははは!」
フェラーチョは甲高い笑い声を上げている。
(くそ!ここまでか・・。)
そう諦めかけたときだった。

ドカアアアン!
「ぎゃあああ!」
フェラーチョがいきなり吹っ飛ばされた。
後頭部に回し蹴りの直撃を受けたようだ。
「まったく。探したんだぞお前。」
そこにいたのは・・・・。
「死んだはずのッ!」
そこにはアヒャが立っていた。
「マスター!」

「YES I AM!」

アヒャは、立てていた人差し指を真下に向けた。
そして、「チッ♪ チッ♪」と言いながら親指だけ立てた右手を振る。

「お、お前はいったい・・。」
「俺か?俺はコイツの本体。アヒャってよんでくれ。」
アヒャはフェラーチョの首根っこを掴むと茶の間にブン投げた
ガシャアアアン!!
ちゃぶ台が豪快な音をたてて割れた。
「お、お前僕達のこと尾行していたな!」
「尾行?俺はコイツを見失って探していただけさ。」
アヒャは風呂場で動けないブラッドを指して言った。
「なら、なぜここの位置が分かったんだ!?」
「ならば玄関をよ〜く見てみな。」
フェラーチョが玄関を見ると、血のついた足跡がべっとりと付いていた。
「ま、まさかこの後をたどって・・。」
「そ、そういうこと。」
「だが外はこの暗闇の中、どうやって見つけたんだ!?」
「悪い、俺んち肉屋でたまに手伝いで解体なんかやらされているから、
 血の臭いには敏感なんだよ!」
アヒャがボキボキと手を鳴らす。
「さ、罰としてその立派なパンチパーマーを取らして貰いましょうかね!」
その時ブラッドが叫んだ。
「そいつの髪を見ちゃだめだ〜!」

270新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 14:21

アヒャの拳がフェラーチョを捕らえた。
パシイッ
「あれ?」
だが奇妙なことにパンチが平手一つで防がれている。
「フフ・・僕には勝てないよ・・。」
フェラーチョは懐から電動ドライバーを取り出した。
「これで君の目玉を取らせて貰うよ!」
そういってフェラーチョがアヒャに馬乗りになった。
「な、何だ!?ち、力が入らない!」
ギュイイイイイン!
ドライバーがアヒャのほほの皮膚を削っていく。
「うわあああ!く、ブラッド!何やってんだ!早く助けろ!」
「そんなこと言ったって俺動けないんだよ!こっちが助けてほしいよ!」

ブラッドが動けない?
その時、アヒャの頭にある疑問がうかんだ。
スタンドが動くことが出来ないなら、こちらも動けないはずだ、
だが、なぜスタンドだけが身動きがとれずにいて、
本体である自分が動けるのか?
もう一つ。
兄から聞いたが、スタンドは一人一能力のはず。
だが自分とブラッドに起きている現象は明らかに別のもの、
これはいったいどういうことか。

「フフフ・・君もしぶといね。さあ、これで終わりにするよ!」
フェラーチョの声が頭に響く。

ああ、俺は死ぬんだ。決定的に。
アヒャはそう思った。

人が死ぬ間際って、ドーパミンかなんかの作用で動きがゆっくりになる
って聞いたな。これもその一つか・・・。
テレビの音が何時もより大きく聞こえる。
最後に「笑っていいと」も見たかったな・・・。
タモさん・・・。

「恐るべし!ピグマリオンの暗示効果!」
テレビから聞こえていたのはこれか・・・。

・・・・・暗示!?

ぐいっ!
アヒャの腕に力がこもる。
「な、なにい!?」
「気が付いたぜぇ〜お前の能力!お前のスタンドは、対象に「暗示」をかける。
 ただし暗示をかける際なんかしらの「スイッチ」をスタンドで設定しとかなきゃ
 ならない・・・そうだろ!」
「くっ、なぜ僕の能力が分かった!?」
「テレビだよ。今テレビの特集で暗示についてやっていた。それを聞いて閃いたのさ。
 俺のスタンドが動けないのに俺が動けるのはおかしいと思ってさ。
 どうやら、対象がそれは「暗示」であることに気がついた瞬間、効果は失効するみたいだなあ。」
いつのまにかブラッドが茶の間にやってきていた。
「さんざん人を弄びやがって!ただじゃ済まねえぞ!」
「ひ、ひえええ!!デッドチャップリン!攻撃しろ!」
フェラーチョの体からスタンドが浮かび上がり、
ブラッドに向けて拳を放った。

ぺちっ・・・・・・

「・・あれ?な、なんで!?」
「ほほう。能力が強い分スタンドの格闘戦闘能力はかなり低めのようだな。
 俺だってコイツの能力に殺されかけたんだからなあ。」
「二ヒヒ。マスター。駄目押し、行きますか!」
「OK!」

「せいやああああああ!!!!!」
本体、スタンド、二人分のラッシュをフェラーチョに打ち込む。
「ウゲェフェエイ!!」
ドガシャアアアン!
フェラーチョは壁に叩き付けられ意識を失った
「ハブ ア ナイストリップ!」

世界のフィンガー「くたばりやがれ」日本式のポーズをとって
アヒャはそう言った。

フェラーチョ→騒ぎを聞きつけたお隣さんの通報で警察が。家の中を調べられた結果。女性の「一部」が見つかり
       タイ━━||Φ|(|・|≧|・|)|Φ|━ホ!!! 再起不能。

アヒャ&ブラッド→この事件に懲りたのかオヤジ狩りをやめる。戦利品、
         オヤジ達から計二十六万円。

271新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 14:27
スタンド名:デッドチャップリン
本体:フェラーチョ

破壊力:E スピード:C 射程距離:(可変)スタンドそのものはE
持続力:B 精密動作:B(能力)スタンドそのものはD 成長性:C

能力:対象に「暗示」をかける。
スタンドが予め定めた「スイッチ」を踏むと、対象に暗示をかけることができる。
かける暗示は本体が考えたことがかかる。
スイッチの例。髪をじろじろと眺めた。家の内側のドアノブに触れたなど。
暗示のかかりかたは強力で、「目が見えない」と思い込まされれば本当に目が見えなくなり、
「自分では勝つことが出来ない」と思い込まされればそれに従って、行動を起こしてしまう。

ただし、対象がそれは「暗示」であることに気がついた瞬間、効果は失効する。
これは別に自分で悟らなくても、他人に「それは思い込みだ」ということを教えてもらい、対象が信じたらその時点で失効する。

弱点は、対策をとった人にはかなり情報を伝える手段が限定されること
スタンドの格闘戦闘能力はかなり低めであること、等があげられる。
ちなみに、「自己暗示」は使えない。

アイデアスレの>>238氏、提供有難うございます。

272新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 14:30
※ブラッド女装イメージAA図

  /ノハヾ(ヽ
  (゚ヮ ゚ リシ
  ,<'lYl´llゝ    ←こんな感じ
  (/ノハヾ[l])
   ノ-ハ-l、

273新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 16:39
>>272
(´Д`*)ハァハァ

274新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 16:46
>>272
男と言う事をお忘れなく。

275新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 16:51
>>274
でも変身中は完全に女型であろう、
本体も焦るくらいに…。

276新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 17:45
                               ∧_∧
                             (゜∀゜ )  
                             /    ヽ
                        _/⌒  ||   イ |    
 .                       // /\ リ   | |    
                       /./ λ   ヽ   Λ  :..     
                  _ ,(⌒  /:::\__  _/::::: _)::..  
                 ( __ )ー'       ̄


NAME アヒャ

笑っていいとも好きの高校一年生。
犯罪歴:万引き、傷害、無賃乗車など
性格は深く考え込まない明朗快活な楽天家。
近所の人達からは、親しみを込めて「悪餓鬼」と呼ばれている。
『矢の男』に関しては別段詮索する気は無いらしい。

277新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 18:17
高校生だとリアルタイムでいいとも見れないと思うんだが、
増刊号を欠かさず見てるのかな。それとも録画?
どっちにしてもかわいい・・・

278新手のスタンド使い:2003/12/11(木) 19:21
授業サボって職員室とか視聴覚室とか用務員室に忍び込んで見るくらいは
やりそうな気がするw

279:2003/12/11(木) 22:21

「―― モナーの愉快な冒険 ――   影・その10」


 半刻余りで、リナーは説明を終えた。
 リナー自身のこと。
 吸血鬼のこと。
 スタンド使いのこと。
 『アルカディア』のこと。
 『教会』のこと。
 ASAのこと。
 ただ、連続殺人の犯人がもう一人の俺であった事と、俺がじぃを殺した事は伏せていた。

「じぃは完全に吸血鬼になった為、『教会』が葬った」
 リナーは、皆にはそう説明した。
 しぃが泣き崩れる。
 そう言えば、しぃとじぃは親友だった。
 ギコとモララーもうつむいている。
 クラスメイトが死んだ。しかも、吸血鬼となって…
 彼らも、この非現実に足を踏み込んだのだ。
 俺は… 眩暈がした。胸の傷も痛い。
 じぃを思い出すたびに、俺はこの苦しみに襲われる。
 突然、ギコは顔を上げて叫んだ。
「何で、そんな事になったんだ…! アイツは、普通に生きていたはずだろうが!」
 かなり憤慨しているようだ。
 リナーは冷ややかに答える。
「原因は不明だ。だが、彼女は吸血鬼としては不可解な点が多かった。
 日光が平気だった代わりに、吸血鬼としての能力は著しく低い」
「んな事、どうだっていいんだよ!!」
 ギコは叫びながら立ち上がり…
「…悪い、あんたに言っても仕方なかったな…」
 冷静になって座った。
「それも、『アルカディア』って奴がやったっていう可能性は?」
 黙って腕を組んでいたモララーが言った。
 リナーが首を振る。
「分からん。だが、彼女を吸血鬼化したところで、『アルカディア』に得することもないだろうし…
 そんな個人単位の噂が『アルカディア』の耳に届くほどに流れたとも思えん」
 『じぃは吸血鬼の出来損ない』。
 そんな噂、当然だが耳にしたこともない。
 女同士の確執は大きいと耳にするが、そういう噂を立てたりするものだろうか?
 ふと、泣いているしぃに視線をやった。
 彼女の悲しみは本物である。
 黒い嘆きの感情が、視ようとしなくても伝わってくる。

「で、その『アルカディア』ってやつが、俺達の学校に潜伏してるかもしれないんだな?」
 ギコが、今度は幾分落ち着いたように言った。
「ああ…」
 リナーは力無く頷く。
「だが、さっき説明したとおり、ある吸血鬼の言葉からの類推だが…」
 いまいち、リナーも自信が持てないようだ。

『奴の居場所なんて、能力の性質を考えれば明らかじゃないか?
 「空想具現化」の力が存分に振るえる場所さ…!』

 あの吸血鬼は確かにそう言っていた。
「ふざけた話だな…!」
 ギコは再び憤慨しだした。
「俺達の町を、何だと思ってんだ…! アルカディア(理想郷)だと…、ふざけやがって!!」
 そして、立ち上がった。
「俺は手伝うぜ! 吸血鬼? 殺人鬼? 『矢の男』? そんな奴ら、関係ねぇ!!
 この町の誇りは、この町に住んでいる俺たちが守る!!」
 一気にまくし立てたギコに続いて、モララーが口を開いた。
「まあ、『矢の男』だった僕が言うのも何だけど…
 ここは、僕達の生まれ育った町なんだ。そんな危ない奴、放ってはおけないね…」
 どうやら、二人ともやる気のようだ。
「あの… 私も…!」
 しぃが声を上げた。もう泣き止んでいるようだ。
「学校とか道とかで怪しい人を見たら、すぐみんなに伝えるようにする…!」
「ああ、頼んだぜ。でも、絶対に危ない事はするなよな…」
 ギコは優しく言った。

280:2003/12/11(木) 22:22

「よく言うモナね。あんな夜中に二人で外をウロついてて。お熱いのは結構だけど…」
 俺は笑って言った。
 その俺の首に、日本刀が突きつけられている。
「すいません。もう言いません。このスタンドを引っ込めて下さいモナ…」
 着物を着た女性のヴィジョンは、刀を鞘に納めた。
 そして、ギコのもとへ戻っていく。
「そう言えば、スタンドに名前はつけたの?」
 モララーが訊ねた。
「ああ。これしかない、って名前があるぜ…」
 ギコは、少し言葉を置いた。

「『レイラ』だ…!」

 スタンドが女性型だけに、女の名前なのだろうか。
「由来は?」
 モララーが聞いた。
 ギコは、待ってましたとばかりに立ち上がる。
「デレク&ザ・ドミノスの名曲だ。デュアン・オールマンのギターのイントロがもう最高にカッコいいんだ。
 まあ、彼はバイクで事故って24歳で死んだんだがな…
 とにかくこの曲は、言わば『男の叫び』だ。親友をとるか、愛してしまった女をとるか、
 その苦痛、葛藤、悩みと言った感情が痛いほど伝わってくる激しい歌い方が最高に勃起モンで…」
「しぃちゃん。アレ、何とかしてほしいモナ」
 俺はしぃにこっそりと伝える。
 しぃは頷いて言った。
「それで、ギコ君なら親友をとるの? 愛してしまった女をとるの?」
 にっこり微笑むしぃ。
「おぉ!? あ… うう…」
 ギコはたちまち黙ってしまった。
 さすがだ。

「ところで、『矢』の事なんだけど…」
 モララーが口を開いた。
「そう言えば、あの『矢』はどこへ行ったモナ?」
 確かリナーがC4を仕掛けて、爆発に巻き込まれたはず…
「僕が持ってるよ」
 モララーは、見せびらかすように『矢』を取り出した。
 あの爆発でも無傷なんて、どれだけ頑丈な『矢』なんだ。
 もっとも、それはモララー自身にも言えたことだが。
「それは、どうするつもりだ?」
 リナーが訊ねる。
「嫌じゃないなら、君に預かっててもらいたいんだけどね。
 『矢の男』にとっては命より大切なんだろうけど、僕にとってはただの骨董品だ」
 モララーは嫌そうに言った。
 正直、見たくもないのだろう。
「分かった。私が保管しておこう。無駄にスタンド使いを増やすこの『矢』は危険すぎるからな…」
 リナーは『矢』を受け取ると、服の中にしまった。
 いつも思うのだが、あの服はどういう仕組みになっているのだろうが。
 是非、脱がしてみたいところだ。いや、変な意味じゃなく。

281:2003/12/11(木) 22:22

「最後に… 一つ、聞きたい事がある」
 ギコは、真剣な目でリナーを見据えて言った。
「何だ…?」
 リナーもギコの目を見返した。
 それを受け、ギコは口を開く。
「しぃ助教授と戦ってた時に使ってた銃、ひょっとしてCz75の初期型じゃないか…?」
 リナーの目が一瞬輝いたように見えた。
 懐にから銃を取り出すと、無言でギコに投げ渡す。
 それを一目見て、ギコは嬌声を上げた。
「ウオー! やっぱりそうだ!! この、まるで手に吸い付くようなグリップ…!」
 いきなり、俺の方を見るギコ。
「いいか、モナー。このCz75はな、チェコスロバキアの国営銃器工場が開発した9mm自動拳銃だ。
 その命中精度の高さもさる事ながら、人間工学を考慮したグリップは『まるで手に吸い付くよう』と評され、
 世界有数の名銃と称されたんだよ…!」
「そ、そうモナか…」
 俺は呆気に取られていた。
 リナーの同類がこんな身近なところにいたとは…
「銃とは、テクノロジーの産物でありながら芸術品だ。優れた銃というのは、洗練された機能美と様式美を併せ持っている」
 リナーは腕を組んで言った。
「あんた…話が分かるな…!」
 ギコは嬉しそうに言った。 「他には…! 持ってたら、見せてほしいんだが…」
「これなんかどうだ?」
 リナーはスカートから拳銃を取り出した。
 そして、ギコに渡したCz75とやらと交換する。
「おお! ザウエルP220!! しかも、自衛隊モデル!!」
 ギコは大はしゃぎしている。
 しぃとモララーも、口をポカーンと開けて固まっていた。
「そ、それもスゴいモナか…?」
 突っ込み役は俺しかいないようだ。
「スイスのシグ社とドイツのザウエル社が共同開発した軍・警察向けの自動拳銃だ。
 SEALで使用されるほど性能がいい。多くの特殊部隊でも扱っている逸品だ。
 改良型のP226は、『X−FI●E』のモ●ダー捜査官が使ってたので有名だな」
「変り種だと、これなんかどうだ?」
 リナーはさらにサブマシンガンを取り出した。
 あれは確か、車が『矢の男』に追われていた時、俺が迎撃に使用した銃だ。
「それも、有名な銃モナか?」
「何言ってんだ、ゴルァ! このP90は『拳銃弾より貫通力に優れ、突撃銃より取り回しの良い銃』っていうアメリカ陸軍の
 ニーズに応えてFN社が開発した名銃だぞ!!」
「そ、そうモナか…」
 俺はただ圧倒された。ギコの話はまだ続く。
「P90は専用に開発された新型弾を採用してる。この弾は、ライフル弾を小型化した様な鋭利な形状をしてるから
 貫通力に優れ、なおかつストッピングパワーにも優れてるんだ」
「欠点は、弾丸が高いということだな…」
 リナーは口を挟んだ。
 今の言葉は、何も考えずに撃ちまくった俺に対する当てつけだろうか。
「じゃあ、デザートイーグルなんてどうだ?」
 リナーは背中からバカでかい拳銃を取り出した。
「重っ! しかも、50AE弾モデル!!」
 それを受け取って大はしゃぎするギコ。
「1発だけなら撃ってもいいぞ」
 リナーは恐ろしい事を言い出した。
「ええっ! 本当か!!」
 ギコはガラガラと窓を開けると、空に向かってブッ放した。
 耳をつんざくような銃声。
「片腕で撃ったから肩が外れちまったよ! 最高だぜゴルァ!!」
 片腕をプラプラさせながらはしゃぐギコ。
 もう、こいつらにはついていけない。

「ところで、君は刀には興味があるか?」
 リナーは話を変えた…のか?
「そりゃもう。俺は剣士だぜ!?」
 ギコは銃をリナーに返しながら言った。
「じゃあ、これを君にやろう」
 リナーは、鞘に納まった一本の日本刀を差し出す。
「『一本』って何だ!! 刀は、『一振り』って数えるんだよゴルァ!!」
 ギコは、とうとう俺のモノローグにまで文句をつけ始めた。
 そして、厳かに受け取るギコ。
 軽く一礼して、刀を鞘から抜いた。何と言うか、刀を見る目がヤヴァイ。
「どうだ? 四つ胴の最上大業物だ」
 リナーは誇らしげに言った。
「本当に… もらってもよろしいのでしょうか…」
 なぜかギコは敬語だ。それに答えて無言で頷くリナー。

282:2003/12/11(木) 22:23

「おいモナー見てみろよ、この美しさを…」
 ひとしきりリナーに礼を言った後、ギコは言った。
 俺は、仕方なく刀身に顔を近づける。
「何すんだ、ゴルァ!!」
 いきなり、ギコのスタンド『レイラ』に棟打ちをかまされた。
 今のは罠か。
 見ろと言われたから見ただけなのに…
「刀身に息をかけるんじゃねえよ!!」
 ギコは大声を上げた。殴った理由はそれだったらしい。
「武士が刀を見る時、口に紙をくわえるだろ。あれは、刀身に息がかからないようにするためだ!!」
「それはごめんモナ…」
 俺はなぜか謝った。
「それにしても、いい刀だな… 四つ胴ともなると、輝きが違う…」
 ギコはうっとりと言った。
 そして、俺の方をチラリと見る。
「『四つ胴』というのは、切れ味を示す単位みたいなもんだ…」
 えー! 聞いてないのに、しゃべりだしたー!!
「まあ、死体を四つ重ねて真っ二つにできるって事だな。試し切りの指針でもある。
 最高記録は『七つ胴』なんだが、ここまで来ると使い手の腕の方が問われてくるな。
 もちろん現在は、そんな死体で試し切りなんてできないが…」
 ギコは刀身を見てニヤリと笑った。
 もしこの町に辻斬り事件が起きたら、犯人は間違いなくこいつだ。
 ふと見ると、モララーとしぃはすでに床に転がって眠っていた。
 よほど疲れていたのだろう。
 俺も、この2人につきあっていると無駄に疲れる。
 ふと時計を見る。もう、朝の6時だ。
 結局、一晩中起きていたことになる。
 そのまま身体を横たえた。
 たちまち、意識が遠のいていく。
 そして、俺は眠りに落ちていった。
 夢か現か、ギコの嬌声と銃声が遠くから何度も聞こえてきた…

283:2003/12/11(木) 22:24

 目が覚めた。
 何故か、自分の部屋のベッドで寝ていた。
 無意識に移動したのか、リナーに運んでもらったのか。
 俺は身体を動かそうとした。
「ウボァー!!」
 雷に打たれたように、全身に激痛が走る。
 昨日あれだけのダメージを受けたのだ。
 リナーに治療してもらったものの、肉体にかなりの負担がかかっているのだろう。
 時計を見ると、午後1時。
 あれから、7時間近く寝ていたことになる。
 まあ、今日は日曜日。特に問題は無い。
 そう言えば、ギコやしぃはどうしたんだろう。
 俺はフラフラと起き上がると、居間へ向かった。

 居間には、ガナーとしぃがいた。
 二人は、『ぷよぷよ』などという懐かしいゲームをやっている。
「あ、お邪魔してます!」
 しぃは、俺に気付くとペコリと頭を下げた。
 ああ。彼女はしぃじゃなくて、しぃの妹だ。
 ガナーと仲が良く、たまに家に遊びに来ている。
「ああ、いらっしゃいモナ」
 俺は居間を見回しながら言った。
 どうやら、ギコ、モララー、しぃは3人とも家に帰ったようだ。
 俺は欠伸をして目をこすった。
「兄さん… いくら日曜だからって、寝過ぎじゃないの?」
 うるさい。お前の誇るべきお兄様は馬鹿な友人のために夜の町を疾走していたのだ。
「リナーは?」
 俺は訊ねた。
「はあ… 起きるなりそれですか。お熱いですね…
 なんか『昨日の夜は久し振りに疲れた』って言って、部屋で寝てるみたいだけど…」
「リナーって誰?」
 しぃ妹は興味津々でガナーに訊ねた。
「ああ。兄さんの彼女で、今この家に住んでる人」
 ガナーはとんでもない回答をする。
 当然のごとく俺は慌てた。
「ちちち違うモナ!」
 ニヤけながら否定する俺。
「はー、そーですか…」
 その様子を見て、しぃ妹もニヤニヤしている。
 そして、思い出したように言った。
「そう言えば、お姉ちゃんも今日は朝帰りだったなぁ…
 帰ってくるなり、すぐ寝ちゃって… ギコさんと、どこで何やってきたんだか…」
 やはり、みんな疲れているのだろう。
 まあ、当然か。
 俺ももう少し眠ることにした。
 居間から出ようとする俺の背中に、ガナーは語りかけた。
「ところで兄さん。昨日の明け方、花火してる人いなかった? うるさくて目が覚めちゃった…」
「ああ、馬鹿はほっとくモナ」
 俺は部屋に戻ると、再び床についた。
 そう、夕食まで一眠りする予定だった。
 だが、思った以上に俺の身体は睡眠を欲していたのだろう。
 次に目を覚ましたのは、なんと月曜の朝だった。

284:2003/12/11(木) 22:24

          @          @          @


 静かな夜の繁華街を2人の男が歩いていた。
 一人は作業服のようなツナギ。ハンサムの部類に入るのだろうが、異常なほど濃い顔をしている。
 もう一人は、ピエロのような奇抜な服装をしていた。服の赤と黄色のコーディネートが目に優しくない。
 また、真っ赤なアフロも不気味だ。
「平和だねェ…」
 ツナギの男は周囲を見回して言った。
「この町に吸血鬼が集まってるなんて、嘘みたいだ……な!」
「…」
 ピエロの扮装をした男の返事はない。
「まあ、昨日はあれだけの騒ぎがあったからな。人影もまばらか…」
「…」
 ピエロは横目で睨んだ。
「愛想ないねェ、『破壊者』さんよ。もうちょっとコミニュケーションを取ろうって気はないかい?
 男は度胸! 何でも試してみるのさ」
「黙ってろ、『調停者』」
 『破壊者』と呼ばれたピエロの男は、不機嫌そうに呟いた。
「やれやれ、つれないねぇ…」
 『調停者』と呼ばれたツナギの男は、軽く肩をすくめる。
「それにしても…最後に戦った場所は、ここからはるか遠い。よし、いい事思いついた。そこらの車に乗せてもらおうぜ」
「…そうしよう」
 『破壊者』も異論はなかったようだ。
「よしきた!」
 『調停者』は再び周囲を見回した。
 新車と思しきリムジンが目に止まる。
「ウホッ! いい外車…」
 『調停者』はそのリムジンに近付いていった。『破壊者』が後に続く。
 そして、『調停者』はリムジンの後部座席のドアを開けた。
「あの、そこの貴方… 何をしておられるのです…?」
 ガタイのいい男が、『調停者』の肩に優しく手を置いた。
「この車は、モナソン・モナップス上院議員の所有物です。そちら様にもいろいろ事情がおありでしょうが…」
 『調停者』の肩に手を置いた男は、顔に似合わず丁寧な口調でそう言った。
 見れば、右腕にギプスをはめている。
「いいのかい? 俺の肩に手なんか置いて…
 俺はノンケだってかまわず食っちまうような男なんだぜ…!」
「で、ですが…」
 男はなおも食い下がる。
 『破壊者』はその男の腕を掴むと、時計回りにねじった。
 バキバキと音を立てて砕ける男の骨。
「おおお、おどお……ぢゃ………ん」
 呻きながら、男はその場に崩れ落ちた。
「おお、ありがとさん」
 『調停者』と『破壊者』はそのまま後部座席に乗り込んだ。
 そこには初老の紳士が座っていた。何故か前歯が二本ほど欠けている。
「お前ら、表へ出ろ」
 『破壊者』は、紳士に向かって言った。
「おいおい、外へ出してどうするんだい」
 『調停者』が口を挟む。
「いい事思いついた。お前、運転しろ」
「はいィ! どこへなりとも、運転させて頂きマスゥ…!!」
 紳士は敬礼のポーズを取ると、運転席へ飛び乗った。
「このまま真っ直ぐだ。しっかり運転してくんな…」
 リムジンは、2人を乗せて走り出した。

285:2003/12/11(木) 22:25

「…この辺でいい」
 『破壊者』は車を止めた。
 2人は車から降りる。
「ウホッ! 大した有様だねェ…」
 『調停者』は思わず声を上げた。
 周囲のアスファルトは剥がれ、土が剥き出しになっている。
 ところどころにクレーターができ、木は一本残らずなぎ倒されていた。
「これだけ派手にやったんなら、『矢』もブッつぶれたんじゃないか?」
 『調停者』が周囲を見回す。
 『破壊者』が周りを調べようとした時、僅かな違和感を感じた。
 微かな空気の淀み。
 近くに、誰かがいる。
「――お前ら、表へ出ろ」
 『破壊者』は夜の闇に呼びかけた。
 闇から、青年が姿を現す。その青年は親しげに二人に声をかけた。
「久し振りですね。こんな極東で顔を合わすなんて、奇遇なこともあるものだ…」
 十字架が刻印された季節外れのロングコートに、『破壊者』は見覚えがあった。
「お前、『蒐集者』か…!」
 青年は笑みを浮かべる。
「ここには、もう何も残っていませんよ。『矢の男』もここで潰えた。あの『矢』も、『異端者』達が持ち去ったようです」
「チッ… あの女か…!」
 『破壊者』は舌打ちして呟いた。
「それより、あんたは何してるんだい?」
 『調停者』が言った。
「私ですか?」
 青年は可笑しそうに言った。
「『教会』を離反したあんたが、こんな辺境の国で何をしてるのか、って事さ」
 『調停者』の語気が荒くなる。
 それとは裏腹に、青年は微笑を浮かべた。
「…実験ですよ。この国は、私の実験場ですから」

「Dr.モローを気取ってるって訳かい…」
 『調停者』は鼻で笑う。 「でも、あんたにしゃしゃり出られると困るんだ…!」
 青年は軽く肩をすくめた。
「確かに私は『教会』から離れた身でが、完全に切れてしまった訳でもありませんよ。
 私の行っている『実験』は、『教会』にとっても有益だ。
 だからこそ、この国での私の行動がヴァチカンに黙認されてるんですよ」
 この男なら、黙認されようがされまいが関係なく『実験』とやらを行うだろう。
 『破壊者』はそう考えていた。
「さらに言うなら、この国のスタンド対策局の相手をしているのも私です。
 私の存在のおかげで、対策局の注意があなた達に向かないのをお忘れなく」
「ハッ!」
 『調停者』は再び鼻で笑った。
「色男さんよ。そういう、あんたの鼻につくところが気に入らないんだ。
 このままじゃおさまりがつかないんだよな…」
 『調停者』は一歩前に出た。
「やめとけ」
 『破壊者』は、『調停者』の肩を掴む。
「お前は知らんだろうが、こいつには誰も勝てん」
 『調停者』は振り向いて言った。
「でも、俺とアンタの二人がかりなら…」
「誰にも勝てんと言った。例えASAの三幹部と言えども、あいつを殺す事は絶対にできない」
 青年は二人の会話を楽しそうに聞いている。
 『調停者』はなおも言った。
「でも、『蒐集者』ってのは、吸血鬼の殲滅数は9人の代行者の中でも最下位だったじゃないか?」
 『破壊者』は首を振る。
「我々代行者の存在というのは、法王庁という組織内の暗部だ。その代行者の中のさらに暗部に関わった奴が、
 あの『蒐集者』だ。迂闊に触れると火傷じゃ済まん」
 普段無口のはずの『破壊者』が、やけに饒舌だ。
 それだけ、『蒐集者』と向かい合うというのは異常事態なのだろうか。
「分かった。そんなに言うならやめとくよ。俺はな…」
 『調停者』はようやく折れた。
「そう、かっては私達は仲間でした。穏便に行きましょう…」
 その言葉が、さらに『調停者』を苛つかせる。

286:2003/12/11(木) 22:25

「本来なら、今日辺りにあんたが『矢の男』を倒す予定だったんじゃないか?」
 話が途切れた隙を見て、『破壊者』はそう言った。
「その通りです。ですが、『異端者』とその一派が頑張ったおかげで、私の出番がなくなってしまった。
 まあ、それはそれで面白い。明日にでも、彼らと接触するとしましょうか。『矢の男』の力も、是非欲しいですしね…」
 青年は楽しそうに言った。
「そういう訳で、あなた達が上から指示されている『矢』の回収の任務は反故にして結構です。
 『教会』には私から話をつけますから。あなた達は当初通り、この町の吸血鬼殲滅に精を出して下さい」
「チッ!」
 『調停者』は、わざと青年に聞こえるように舌打ちした。

「最後に聞きたいんだが…」
 『破壊者』は口を開いた。 「あんたの最終目的は何だ?」
 少し考えて、青年は答えた。
「真実の探求ってとこですか…」
「真実?」
 『調停者』は聞き返す。
「『神は死んだ』んですが、その行く末を確かめたくてね…」
 青年は、代行者にとっての禁忌を口にした。
「それは、哲学者かぶれの言葉か? それとも、文字通りにとっていいのか?」
 『破壊者』は問い詰める。
「おっと、失言でした。あなた達は、カタチだけは聖職者でしたね」
 青年は笑顔を崩さずに言った。

 ―――この笑顔は作り物だ。 
 そう直感しつつ、『破壊者』は言った。
「お前は、神になるつもりなのか…?」
 首を振る青年。
「そんなものになる気はありませんよ。殺されるだけですからね」
 『破壊者』も、『調停者』も黙ってしまった。
 その言動は、明らかに狂気の色を帯びている。

 青年、いや『蒐集者』は両手を大きく広げた。
 ロングコートが風で大きくはためく。
「素晴らしくないですか? 被創世者が創世者を抹消する妙味。
 その存在領域を区切られ区切られ区切られ、ガリレオにダーウィンにフロイトに区切られ
 宇宙の中心の座を失い非直系という孤独に追いやり個々の支配という手綱さえ外され
 ホーキングにハートレに区切られ区切られ区切られ区切られ
 特異点を持たない『無境界宇宙』の存在で神はとうとう宇宙開闢の瞬間からも追いやられた。
 そう、『神は死んだ』。『ラプラスの悪魔』と共に神は死んだ。
 アルベルト・アインシュタインですら神を守れなかった。
 決定論に生きる神は、サイコロ遊びをしない亡霊だ!!
 おお、父よ。幾ら願えども、汝の御名すら崇められない!!
 残ったのは人間だけ …笑えるでしょう。今、神の名を口にするのは背信者のみ。
 なら、最後まで見届けるべきじゃないですか?
 『エデンの庭』を出てしまった人間が何を目にするのか。
 この胡乱な世界は、悪魔も神も介在しない世界はどこへ行くのかを…
 過程そのものが妙味。故に私は『蒐集』します。
 磐石をもって神にあらず、輪廻をもって神となす。
 そう、この国の神話にもありましたね。
 私は、認めませんがね…
 アハハハハ ハ ハ  ハ   ハ――――」

 狂ったように笑い続ける『蒐集者』
 ああ、この男は壊れているのか…
 『破壊者』はそう考えていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

287:2003/12/11(木) 22:26

       | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       |   『ツーチャンはシンデレラに憧れる』
       |   『阿部高和は恋をする』
       |   『逮捕されてしまったっス!』
   /´ ̄(†)ヽ.  『ラブホテルへ行こう!』
.  ,゙-ノノノ)))))   。           。   ∧_∧
  ノノ)ル;゚ -゚ノi /             \ (´∀` )
  /,ノノくj_''(†)jつ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ⊂    )
  ┌───┐                ┌───┐
  │      |                │      |
____∧___     ________∧____________
            \/   
私の喋るスペースが <  今後の予定モナ。順番は変わるかもしれないモナ
            /\
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

288新手のスタンド使い:2003/12/13(土) 09:06
乙です!銃の情報って何処で仕入れてくるんですか?
それにしてもモナソン・モナップス上院議員・・・。2度目でちょっと悲惨。

289新手のスタンド使い:2003/12/13(土) 11:38
さ 氏って銃の情報以外でもかなりいろいろ知ってるしな。
(シュレーディンガーの猫とか…、よう分からんが…。)

さいたま…おまえ物知り博士か?
とリキエルみたく言ってしまいそうなくらいに。

290新手のスタンド使い:2003/12/13(土) 13:02
ピエロ風の男ってドメルドかな。
顔文字板系のキャラが出てくるとは意外。

291:2003/12/13(土) 22:30
「モナーの愉快な冒険」のキャラ紹介です。あくまでこの作品内のみの設定であり、
実際の2chキャラの設定に介入するものではない事をお断りしときます。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モナー :この話の主人公。男や人外に超モテモテの17歳。
     性格は穏やかだが、時々荒れる。
     別人格が存在し、6歳より前の記憶がない。

     スタンド名 『アウト・オブ・エデン』
     目に見えないものを『視る』ことができ、視えたものは破壊できる。
     ヴィジョンを持たないスタンド。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ギコ :モナーのクラスメイトで、サッカー部に所属する武道マニア。
     スポーツ万能で頭も良く、女の子にモテモテ。
     しぃと付き合う前はかなり遊んでいたらしい。

     スタンド名 『レイラ』
     日本刀を所持した女性型スタンド。
     近距離パワー型で、特に能力は持たない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モララー:モナーのクラスメイト。モナーに思いを寄せるホモ。
      未成年にも関わらずBARに通っている。
      一時期『矢の男』だったが、克服したらしい。

     スタンド名 『アナザー・ワールド・エキストラ』
     近距離パワー型。
     量子力学的現象を顕在化させる。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ   :モナーのクラスメイトで、大人しく心優しい優等生。
      ギコとつきあっている。
      実は漫画好き。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
おにぎり:出番が少ない。弱いフーゴ。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
レモナ :最終兵器。モナーに思いを寄せている。
      積極的なアタックは実を結ぶか?
      エロ担当。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
つー  :性別不明のいたずらっ子。
      校則に「校内での対人地雷の使用を禁ずる」という項目を増やした原因。
      モナーに意地悪するのは愛ゆえか?
      DV担当。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
じぃ  :モナーのクラスメイトであり、クラスのアイドル。
     密かに、モナーに思いを寄せていたが…

292:2003/12/13(土) 22:32
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ガナー :モナーと一つ違いの萌えない妹。
      年相応の普通の女の子。
      しぃ妹とはクラスメイトであり親友。
      居候しているリナーを「お義姉さん」として慕っている。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ妹  :しぃの妹。
      しぃに比べて活発。姉妹仲は悪くない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ助教授:ASA三幹部の一人。
       年齢不詳だが、わざわざ虎の尾を踏む者もいない。
       理知的で温和に見えるが、怒らせると危ない。
       怒りの導火線もかなり短い。

       スタンド名不明
       近距離パワー型。
       「力」の指向性を操ることができる。
       この能力を本体の周囲の空間に使うと、物理的な攻撃が当たらなくなる。
       この鉄壁の防御を、本人は『サウンド・オブ・サイレンス』と呼称している。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
丸耳  :しぃ助教授のお付きの人。おそらく20代後半。
      主人の暴走を止めるのが主な仕事。
      ASAでも上位に位置する強力なスタンド使いらしい。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
リナー :『教会』の代行者。
      見た目は17歳程度だが、正確な年齢は不明。
      現在、モナーの家に居候中。
      隠し事が多い武器・兵器マニア。
      代行者としての称号は『異端者』。

      スタンド名 『エンジェル・ダスト』
     体内にのみ展開できるスタンドで、液体の「流れ」をコントロールできる。
     手で触れれば、他人の自然治癒力を促進させる事もできる。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『アルカディア』:独立した意思を持ったスタンドで、本体だった吸血鬼はすでに死亡している。
          現在はモナーの住んでいる町に潜伏している。

          スタンド名:『アルカディア』
          他者の「望み」や「願い」を実現させることで糧を得る。
          基本的には個人の願いなどは扱わず、噂規模に発達した
          「無意識の願望」を具現化させる。
          スタンド単体の時は、噂を顕実化する能力のみだが、
          仮の本体を得た時は、完全な『空想具現化』が可能となる。

293:2003/12/13(土) 22:33
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『蒐集者』:『教会』の元代行者。
       爽やかな青年の外見をしていて、夏でも黒のロングコートを愛用している。
       いろいろな場所に顔を出しては、不審な行動をとっている。
       『教会』から離反しているようだが、称号は使い続けている。

       スタンド名 不明
       ――――詳細不明。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『調停者』:『教会』の代行者。
       普段はツナギを着てベンチに座っている。
       その称号は、スタンド能力を象徴していたり、組織内での立場を表していたりする。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
『破壊者』:『教会』の代行者。
       ピエロのような格好をしている。
       常に「お前ら、表へ出ろ」と口走り、周囲を威嚇している。
       ちなみに、称号は代替わりすることもあるらしい。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
局長   :警視庁警備局公安五課(スタンド犯罪対策局)の局長。
       スタンド関連では、この国で一番偉い人らしい。
       ASAからも勧誘を受けるほど優秀なスタンド使い。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
フサギコ:ある大きな武力組織の幹部らしい。
      スタンド能力を持っていない。
      その危険性から、スタンド使いを嫌悪している。
      局長とは古くからの付き合いだが、仲は決して良くない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
殺人鬼:モナーの別人格で、高い知能と戦闘能力を持つ。
     また、『アウト・オブ・エデン』の能力をモナー以上に引き出せる。
     『教会』と繋がりがあるようだが…
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

294:2003/12/13(土) 22:34
以上です。
まだ序盤なのに、登場人物がとんでもなく多く申し訳ないです。
後半の乱戦での対立構図の関係上、早めに出しとくべきキャラが多いもんで…
>288
ただの趣味です。

295新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 02:11
>さ 氏

月姫好きでしょ。

296新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 03:18
阿部高和とドメルド・・・あまりにも濃すぎる組み合わせだ・・・
この2人を使おうと思い立ったさいたま氏に敬意を表したい。

297新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 08:58
調停者・・・。やらないかの人?

298新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 10:19
破壊者…。

ttp://www.moonfactory.org/moe/src/up0155.jpg

299新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 11:04
>>298
コーヒー吹き出した

300新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 11:31
っていうか月姫と、一歩間違えれば確実に厨臭くなる叩かれやすい内容なのに
ここまで批判が無く、それ以上に上手いと言われるのは文章が上手いからだろうな。
確かに上手い。っていうかこの小説スレの中じゃ群を抜いている。




でも俺はさいたまの奇妙な冒険書いてるときのほうが好きだったかな・・・
気兼ねなく取っ付ける面白い話だったし、こっちの小説が小難しい説明多かったりして
読みづらい&さいたま編とのギャップで。
別に批判できる立場じゃあないけど1月以降楽しみに待ってます。

301:2003/12/14(日) 12:44
>295
yes。
月姫に限らず、吸血鬼モノは大概好きです。
月姫ネタは、知ってる人だけがニヤリとするつもりで入れたんですが、
意外と知名度が高いですね。
他にも、いろいろ分かる人にだけ分かるネタを仕込んでますが、
全部分かった人は凄いです。

>300
明るい話はAAの方で、暗く入り組んだ話は小説の方でやるつもりです。
同じようなノリでやるのなら、異なるジャンルでやる意味がないですし。


今後の路線は、ヘル●ングのように派手に町をうわなんだおまえやめr

302新手のスタンド使い:2003/12/14(日) 23:59
>>301
どうせなら例のデンドロもどき兵器も出してくだsギャッ!・・・・・・イエ、ナンデモアリマセン。

303新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 03:26
いや、「空想具現化」をまんま出しちゃうのはちょっと引いた・・・
でもまぁ、そこだけ。

304新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 18:39

合言葉はwell kill them!(仮)第四話―ウワアアンはトイレに嫌われる


「ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・。」
無機質な鉄でできた迷路の中、一人の男が道に迷っていた。

自分も一度巨大迷路と言うものに挑戦した事があるが、あれはヤバイ。
いくら道を覚えていたつもりでも、ふと後ろを振り向くともう駄目。
自分がどの位置にいるのか分からなくなってしまう。
この男もきっとこの状況にはまってしまったのだろう。

「なんでだよ・・・。なんで『トイレ』に入っただけでこんな事に・・・。」

男は腹を押さえ、その場にうずくまった。額からは汗がだらだらと流れ落ちている。
「も・・・、『もう限界』だ・・・。」
男はそうつぶやいた。
そのとたん。迷路の壁から二本の腕が伸びてきて、男の体を通り過ぎた。
「う、うわあああああああ!!!」

ジャアアアアア・・・・・ゴボゴボ・・・・。


          @          @          @


「は〜、今日も平和だな〜。」
「そんな事ないよ。町の中心部では、連続殺人事件が起きてるってニュースで
 やってたぞ。それもすべて『矢』のようなもので一突きだってさ。怖いねぇ〜。」
「じゃあ、もしお前がその事件の犯人に出くわしたらどうしますか?」
「問答無用で逃げる、これ最強。」
「やっぱりな。お前はまだ餓鬼だからな。」
「酷いよあんちゃん!俺のこと餓鬼扱いすんなよ!」

二人の少年が笑いながら歩いている。
一人はアヒャ。そしてもう一人がアヒャの財布をパクった張本人、ウワアアンだ。
二人はこの前の事件をきっかけに仲良くなり、たまに二人で万引きするようになったのだ。

「それにしてもこの「のしいか太郎」なかなかいけるよな。」
「なにいってんだよ!男は黙って「ンまい棒」が通じゃねーか!」
二人ともさっき駄菓子屋「福ちゃん」でパクった戦利品を食べている。

「ンまい棒だったらお前は何味が好きなんだ?俺はチョコ味だけど。」
「納豆。以上」
「げ!んなもん好きなのかよお前は、ちょっと引いたぞ・・・。」
二人が一段と高い笑い声を出したので、おばちゃんが怪訝そうな顔をして通り過ぎていった。

だけど、平気で万引きする子はカーズ様・・・いや、神様が許すわけありません。
案の定、二人にはこの後天罰が下りました。

305新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 19:05

ぎゅるるるるる・・・・。

「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」

初めは騒がしかった二人だったが、時が経つにつれて段々無口になっていった。

「おい、ウワアアン、お前もなのか・・・・・?」
「・・・・・・コクリ・・・・・・。」
ウワアアンは黙ってうなずいた。

「・・・なあ、福ちゃんに寄るだいぶ前に、駄菓子屋シャンゼリゼってとこで
 ポカリスエットパクったよな・・・・。あれ、なんか妙に酸っぱかったよな・・?」
「・・・・・うん・・・・・。」
「あれがまずかったのか・・・・・?」
「・・・そうみたい・・・・・。」
二人とも冷や汗を額から流し始めた。

ぎゅるるるるる・・・・。

「ぐああっ!やっぱりそうだ!あのポカリが原因だ、間違いない!
 あれが腐っていたせいで腹が痛くなって・・・。」
「あんちゃん・・・おれも段々と腹が痛くなってきているよ〜。」
「何だよあの店!店に平然と腐った商品なんか置いておいて・・・
 あんなんで客が来るかっつ〜のよ!ぐああああ・・・・・。」
まったく、自分達が盗んでおいてこの言い方はないでしょう。

「このままじゃ家までもたねえ・・は、早く『トイレ』を見つけないと・・。」
二人は腹を抱えて歩き始めた。


数分後・・・。

「あった・・・。仮設トイレだ!」
二人はやっとトイレを見つけることができた。
少々汚れているが、今はそんな事言っている場合ではない。
「お、俺が先に入るからお前は待ってろ・・・。」
そういってアヒャがトイレに入ろうとした時だった。

「ドント・レット・ミー・ダウン!俺の靴の裏の『摩擦を0』にしろ!」

バシュッ!
スタンド能力で加速したウワアアンがアヒャの脇をすり抜け、トイレに駆け込んだ。

「あ!卑怯だぞお前!」
「何事も早い者勝ちなんだよ。そんじゃ!」
そういってウワアアンはトイレのドアをしめた。

306新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 19:31

「・・・・あれ?何で俺こんな所に?」
ウワアアンは呆気にとられた様な顔をしている。

驚くのも無理はない。
彼はトイレに入ったはずだ。
だが彼の目の前には無機質な鉄でできた迷路が広がっている。
幅は4〜5メートル。高さは6メートル以上あるだろうか。
天井にはガラス球で覆われたランプが灯されており、
ウワアアンの真上のランプは壊れて火が消えていた。

「おっかしいな〜俺の目の錯覚か!?」
驚きのあまり、ウワアアンは腹が痛かったことさえ忘れていた。

「Welcome Welcome・・・ようこそ我が幻覚世界の中へ・・。」
いきなり床から一本の腕が伸びてきた。手にはスピーカーが握られていて、
そこから声が出ている。
「な、何だよお前は!?」
「おっと自己紹介が遅れました・・・。私の名前はデス・トイレ。スタンドです。」
「スタンド!?お前の本体は何処に居るんだ!」
「残念ながら私の本体は亡くなっており、私だけが生き残った・・。いわゆる
 一人歩き方のスタンドです。そんな事よりせっかくこのトイレに来た事ですし、
 ちょっとしたゲームをしませんか?」
「ゲーム?」
「ルールはいたってシンプル。この迷路の何処かにある便器に到達し水を流せば、
 あなたは元の世界に戻れます。ただし、もし途中で諦めたりしたら、あなたの
 魂を頂戴いたします・・・。」
ウワアアンは少し考えてこう言った。
「つまり、どう足掻こうとゴールにたどり着けなきゃここから一生出られない
 って事だな?」
「exactly(その通りだ)それでは…its show time!」
そう言い残し、スピーカーと腕が引っ込んだ。

「くっそ〜!なんで俺がこんな目に合わなくちゃならないんだ!
 とりあえずゴールを探すぞ!」

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

307新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 19:35

スタンド名:ドント・レット・ミー・ダウン
本体名:ウワアアン

破壊力 - C スピード - D 射程距離 - D
持続力 - A 精密動作性 - D 成長性 - B

スタンドが触れた場所の摩擦の大きさを変える。
摩擦を限界まで小さくすると0、最大にすると全く滑らなくなる。
最大にすると/←くらいの坂(?)も上れるようになる。
地面と本体のすぐ前にスタンドを配置し、空気と地面の摩擦を0にす
れば、半永久的に(死ぬまで)滑り続けることもできる。

308新手のスタンド使い:2003/12/15(月) 20:22
乙!

309新手のスタンド使い:2003/12/16(火) 18:32
すいません、月姫ってマンガですか?
非常に興味をそそられるんですが

310新手のスタンド使い:2003/12/16(火) 19:02
乙!!何か自分が考えたアイディアが使われるのってすごいうれしい

311新手のスタンド使い:2003/12/16(火) 19:09
>>309ぐぐれ

312:2003/12/16(火) 22:03

作品内の武器紹介

    /´ ̄(†)ヽ                   ビシュ!!
   ,゙-ノノノ)))))  バラララ…          ∧_∧,,;; ;''
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi ,、 ヽ从/            (・∀・".)・∵"< アアン
  /,ノノ(⊇二∩ヲ]i===:;, :;.             ( ・. ・.);";"
 ん〜''く/_l|ハゝ^  /Wヽ            | |・,|∴;";"
      し'ノ                   (__.(__)ビシュ!!`'''
                          ビシュ!!
P90
ボディアーマーを装着した相手にも通用し、なおかつ携帯性に優れる銃。
専用弾を採用していて、その性質はライフル弾に近い。
1996年のペルー日本大使館占拠事件において突入部隊が使用し、成功を収めた。
室内戦闘が多い特殊部隊用の火器としても注目されている。


                               ∧_,,, ・´;.>
    /´ ̄(†)ヽ      pan!!!            (・∀・ );,:..< アアン
   ,゙-ノノノ)))))       、,、!'             ...,;,:.:,.,:,.:´..
   ノノ)ル,,゚ -゚ノiy'二二iiニニl;;;'、        、__,.,:ィ,:;,:.;∵,:,,:.;.
  /,ノノくj_''(†)jlつ_/" ̄    'v`         ( ・. ・);";"
 ん〜''く/_l|ハゝ                 | |・,|∴;";"
      し'ノ                   (__.(__)`'''
SPAS12
イタリアのフランキ社が開発したコンバット・ショッガン。
散弾銃としては珍しく軍用に開発されたため、オート射撃が可能。
セミオートとポンプアクションの切替えが可能な反面、かなりの重量を誇る。

313神々の遺産:2003/12/16(火) 22:04

>>256の続き

「久しぶりね、『神の誤算』。」
久しぶり?久しぶりって・・・・・一度も会ったことないのに!?
「お、おい・・・、俺、君に会ったことなんか一度も・・・・・。」
女の子はポンっと手を叩く。
「あぁ、そうか。『この時代』では初めてだったね。」
俺の頭の中にまた?マークが浮かぶ。
この時代?じゃあ俺って明治とか江戸時代の人なのか?
「そうそう、まだ名前を言ってなかったね。あたしの名前は・・・・・」
「『パンドラ』、だ。」
ロングコートの男が起き上がって、女の子の名前(?)を答えた。
「ちょっとぉ、そう呼ばれるの、あたし嫌いなんだけど、『ビナー』さん。」
「・・・・・知ったことか。」
ロングコートの男が、素っ気なく返す。
「で、なんでその『パンドラ』は道で倒れていたんだ?」
ギコが口をはさむ。
「それは・・・・今はいえない。」
女の子の表情が暗くなる。何かいやなことでもあったのだろうか?
「それに、そう呼ばれるの嫌いっていったよね?」
女の子がギコにずいっと詰め寄る。
「じゃあ、なんと呼べばいいんだ?」
「『ソフィア』。そう呼んで。」
ソフィアちゃんかぁ・・・・・なかなか可愛い名前だな。
「とにかく!今あなた達と会えたのは不幸中の幸いだったわ。」
ソフィアはピンっと人差し指をたて、俺に向ける。
「今、この町で何が起こっているのか分かる?」
はぁ?この町で起こっていること?
今やっているのは町内清掃ぐらいかなぁ。
「・・・・・町内清掃?」
俺は、思ったことを率直に述べた。
ソフィアがはぁ、とため息をついた。
「・・・・・馬鹿?」
「だ、だって今この町で起こっていることって言っただろ?」
「そんなこと聞いてどうするのよ!
 とにかく!今この町で起こっているのは、町がごみで溢れかえることよりもっと重要なこと!」
そんなこと言われてもなぁ・・・・・
ソフィアがまた指をピンっと伸ばす。
「スタンド使いが増えているの。」
・・・・スタンド?スタンドって何だ?
あれか?車とかにガソリンを入れたりするやつか?いや、それはガソリンスタンド。近いけど、違うな。
「スタンド?ってなんだ?」
ソフィアがまたため息をつく。
「あんたねぇ・・・・・、仮にも『神の誤算』って付く位だからそれくらい・・・」
「ソフィア。」
ロングコートの男がソフィアの言葉をさえぎる。
「こいつらは知らなくて当然だ。俺とお前みたいに『記憶』までは受け継がれていない。」
一体こいつらは何を話しているんだ?
スタンドとか記憶を受け継ぐとか・・・・一体何なんだ?

314神々の遺産:2003/12/16(火) 22:04

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

その時、外から悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ!?」
俺達は外へ出る。すると、そこには、ちびギコ・・・いやミニギコの男の子と、モララー族の男がいた。
まさか、虐待でもされているのだろうか?
しかし、現状は、俺が考えているほど甘くはなかった。
モララー族の男が、ミニギコに酷く怯えていた。
ミニギコが、モララー族の男にじりじり詰め寄る。
モララー族の男は、こちらに気づいた様子でこちらに走って来た。
「た、助けてくれ!」
「助けるって・・・、相手はミニギコだろう?」
「そ、そうなんだ。相手はミニギコなんだ!だけど、そのミニギコに俺の友達はやられてしまったんだ!」
モララー族の男はミニギコの足元にある白い粉を指差した。
「俺達が、ミニギコにぶつかったんだ。少しムシャクシャしてて。
 そしたら、俺の友達がいきなり宙に浮かんで、足先から白くなって粉になっちまったんだ!」
・・・・何言ってんだこいつ?電波か?
「ほ、本当なんだ!信じてくれよぉ!?」
モララー族の男は必死で訴えかけてくる。
その様子をミニギコはじっと見ている。
すると、話を静かに聞いていたソフィアがモララー族の男に優しく話し掛けた。
「そう。もう大丈夫だから。安心して。」
すると、あれほど混乱していたモララー族の男は、急におとなしくなった。
「残念だけど・・・・、あなたの友達はもうもとには戻らないわ。ここは私達に任せて。」
モララ-族の男は、泣き崩れてしまった。
「お、おい。」
俺はソフィアに話し掛けた。
ソフィアがくるっとこちらに振り向いた。
「なんであんなに混乱していたのに急におとなしくなったんだ?」
「セリーヌ・ディオン。」
「はぁ?」
「それがあたしの『スタンド』の名前。」
ソフィアの背後がぼやけて見える。その形は人の形をしているように見える。
「な、何だそれは!?」
ギコがソフィアに向かって怒鳴る。
どうやら、俺にはぼやけているものがギコにははっきりと見えるらしい。
「あら、あなたはもう使えるようになっていたのね。『スタンド』。」
ソフィアは、ギコに歩み寄り、ギコの手を取る。
「じゃあ、あのミニギコ、お願いね。」
ソフィアがギコに微笑んだ。
すると、ギコの雰囲気が一変した。
ギロっとギコはミニギコを睨む。
明らかにミニギコに殺意を向けていた。
ミニギコは、無表情のままだった。
次の瞬間、ギコはミニギコの目の前にいた。
何時の間に!?
ギコはミニギコに殴りかかる。
しかし、その拳は、俺に見えない何かに阻まれ、ミニギコには届かなかった。
それでもギコは殴り掛かる。
ミニギコは、そのラッシュを何とか防御する。
「・・・・くらえ。」
今度はミニギコがギコに殴り掛かる。
ギコは難なく避ける。しかし、
「ぐわぁぁぁ!?」
ギコが避けた、ミニギコの拳の先には、さっきまでここで泣きじゃくっていたモララー族の男がいた。
モララー族の男が宙に浮く。モララー族の男は、頭を押さえてじたばたする。頭を掴まれたようだ。
すると、モララー族の男の足元から少しずつ白くなっていく。
「いかん!!」
ロングコートの男がモララー族の男を助けるために走った。
しかし、もうモララ-族の男の身体はもうほとんど真っ白になってしまっていた。
「う・・・ぁ・・・・」
モララ-族の男は苦しそうに声を出す。
ミニギコがにやりと笑う。
すると、モララ-族の男を身体がみるみるうちに白い粉になっていく。
あいつの言っていることは本当だった。
「さぁて、今度はおまえ達の番だ。」

315神々の遺産:2003/12/16(火) 22:05

ミニギコがこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。
ギコが後ろから蹴りかかる。
しかし、それも止められてしまう。
ミニギコはそのままギコの足を掴み、投げ捨てる。
ギコは、壁に穴をあけ、そのまま気絶してしまった。
「さぁて、これで守ってくれる人はいないぞ。」
ミニギコがにやりと笑う。
見た目は子供なのに、雰囲気がぜんぜんヤバイ。
「さぁ、『ゾハル』の居場所を吐け!」
ミニギコがソフィアに向かって言った。
・・・『ゾハル』?何だ?それ?
今日は何だかわけのわからないばかり聞くなぁ。
「・・・・・あたし達も今探しているの。」
ちっとミニギコが舌打ちする。本当に子供なのか?
見たところ、レッサーギコ種でないようだが・・・・・
「おーい!ミニギクォォォォ、どこだぁぁぁ!?」
遠くのほうから声がする。
「ちっ、『あいつ』が来やがった。いいか、今度会うまでに『ゾハル』を見つけておくんだな。
 そしたらお前達だけは生かしておいてやる。」
そう言って、ミニギコは、声のするほうにかけていった。
ミニギコが残していった死体のようなものが風に吹かれて消えていった。
『神の誤算』、『スタンド』、『ゾハル』
一体この町で何が始まろうといているんだ?

草原の中で、ワンピース姿の少女が一人。
少女が微笑む。満たされる。そんな気がする。
少女が口を開く。
その声を聞くと、癒される。そんな気がする。
「愛しい痛みに引き裂かれる、あなたは天使もうらやむ青い目と白い翼を持っている。」
少女はまた微笑む。
まるで、人々の行く道を案じるように。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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316:2003/12/16(火) 22:07
>>302
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 拠点防衛用長々距離砲撃戦装備モナコンネンII


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317:2003/12/16(火) 22:08

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        ,゙-ノノノ)))))             O二二X二二)
        ノノ)ル,,゚ -゚ノi <いいかも・・・      |: |
       /,ノノくj_''(†)jlつ                    |: |
      ん〜''く/_l|ハゝ              ,_,,_|; |,_ 、
           し'ノ              /::::::::;;:::: ::ヽ ,、
""""  """"""""""   """"""" """"""" """"""""""""ヾ

※ネタです。他意はありません。

318新手のスタンド使い:2003/12/16(火) 22:09
さ氏割り込みスマソ

319:2003/12/16(火) 22:11
>>318
‐- 、           ,. -‐-...| す 気 |
::::::::::ヽ        /::::::::::::::::! る に│
:::::::::i^、i      /::,.、::::ハ::;ィ;:.| な   |
:::::::::`li `      レノv ┃ ┃ メ、__/
::::,iハlノ  f~ヽ    l  r─、 /'::::::`、
:/ ア    \_j`- ,,/::`':.、ー ',.イゝ::::::::`、
~,-`ヽ    `-、::::::l::::::i〈<H>〉/::::\:::::ヽ

320新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 17:19
合言葉はwell kill them!(仮)第四話―ウワアアンはトイレに嫌われる


「何時までも立ち止ったままじゃあ何も始まらないな。とりあえず歩きますか。」
ウワアアンは最初は意気揚々と歩き始めた。最初はすぐにゴール出来るだろうと
軽い気持ちで望んだのだろう。だが現実はそう甘くはない。

分かれ道を左に曲がれば同じ風景。右に曲がってもこれまた同じ風景。
戻ろうとして後ろを向けばまた同じ風景。何処もかしこも同じ壁、壁、壁・・・・。
迷路とは元々人が迷うように作られた物で、誰でも簡単にゴールに着いたら
お話にもなりゃしない。

ギリシア神話の一つにミノタウロスと言う怪物が出てくるが、こいつは物語の中では
どんな人でも絶対に迷って出ることが出来ない迷路の中に閉じ込められていて、
最後に迷路に入った勇者に倒されてしまう。その勇者は毛糸玉を持っていて毛糸の
端を入り口に括り付けて、出る時に糸をたどったので迷わなかった。
だが、ウワアアンが毛糸玉など持っているはずがない。
そこで彼は、独自の方法で迷路を攻略しようとしていた。

迷路の壁と言っても、どれも完全には同じではない。
傷が付いている物、へこんでいる物、汚れている物など様々で、
それを覚えて頭の中に地図を作りながら歩いていたのだ。
ウワアアンは結構記憶力がいい方で、その特技を使って茂名王町全土の至る所に有る
独自の逃走ルート(勿論、K察に追われた時用の)を覚えている。

「今度はこっちに行って見るか。・・・駄目だ、あの人の顔に見える壁はさっき
 通った所じゃねーか。」
こんな特技が有ったとしても、急いでゴールしなくてはならない。
先程デス・トイレに出くわした時のショックで治まっていた腹痛がまた襲ってきたのだ。

ぎゅるるるるる・・・・。

「あ〜、また来た〜。さっさとゴールに着かないと・・・。」
ウワアアンは少し歩みを早めた。

ガッ!
「うわっ!」
何かに足が引っかかり、顔から地面に叩き付けられた。
痛みをこらえて足元を見ると、数cmほどの段差になっていた。
「ちっくしょ〜。ついてねーな。」
ふと顔を上げて、ウワアアンは青ざめた。
さっき転んだせいで、覚えていた地図が頭から抜けていた。

しまった!迷った!

321新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 17:55

ここは一体どの辺りだろう?

見回してみてもどの壁も同じように見える。
腹の痛みも段々と激しくなってくる。
ウワアアンは無我夢中で走り始めた。もう道順を忘れた以上とにかく走るしかない。
彼はそう考えていた。だが迷路の中でパニックになる事が最も危険なのだ。

走るときの振動が直に腹部に伝わり痛みの激しさが増してくる。
いっそのこと諦めてしまおうか?しかしデス・トイレの言葉が頭をよぎる。
『もし途中で諦めたりしたら、あなたの魂を頂戴いたします・・・。』
これを思い出したおかげで何とか思いとどまれた。
「くそっ!こんな所で諦められるか!」
思い切り叫んだので、少しは冷静になる事は出来た。
いくら走ってもゴールできなきゃ意味がない。取り合えずこの場所から
また地図を描き始めよう。そう思って辺りを見回してみると、ある物が
目に飛び込んできた。

それは天井に吊るしてある壊れて火が消えていたランプだった。
そう。この迷路のスタート地点!ウワアアンがデス・トイレに出くわした場所!
見る見るうちに彼の頭に先程の地図が浮かんできた。
「やった!思い出したぞ!」
喜んでいる暇は無い。とにかく先を急がないと。

ここに来て30分以上が経っただろうか。
今度は転ぶまいと注意しながら壁を覚えていく。
「ここは前にも来たな・・・・今度はこっちか・・・・・また駄目だ・・。」
腹の痛みを堪えられるのもそろそろ辛くなって来る。
腹を抑えながら突き当たりの壁を曲がってみた。

ウワアアンは一瞬目を疑った。

便器がある。
何度も目をこすってみた。間違いない、幻覚ではなく便器がある。
助かった!万歳!
痛みを忘れて便器に駆け寄った。その時だった。

ボグシャアアッ
「ぐほっ!」
壁から腕が伸びてウワアアンのわき腹を捕らえた。
あまりの衝撃に彼は壁にぶつかった。

322新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 18:37

「ブラボー、おおブラボー!よくぞゴールまでたどり着きました。だがここで終わりです。
 貴方は私に倒されるからだ!」
壁からデス・トイレが姿を現した。丁度便器の前を塞ぐ様に立っていた。
「て、てめえ何のつもりだ!?」
「この便器の水を流せば貴方は元の世界に戻れる。しかしそうすれば私も一緒に
 流されて消滅してしまう・・・。そうなるのはご免です。どうしても流すと言うのなら
 この私を倒す事ですね!」
デス・トイレがラッシュを放ってきた。
「ドント・レット・ミー・ダウン!俺の身を守れ!」
ウワアアンのスタンドがラッシュを受け止めた。
「ちっ、パワーが違いすぎる!」
「ほう、貴方もスタンド使いだったとは・・・。しかし貴方のスタンドは私に比べて
 パワーが劣っている・・・。私の勝ちですね。」
デス・トイレがもう一度ラッシュを放ってきた。
「ならばこっちも!」
ウワアアンのスタンドもラッシュを放つ。
しかし圧倒的に向こうのほうが強く、案の定吹き飛ばされて、またもや壁に
叩き付けられてしまった。
…効く。強烈だ。
「ぐああっ!く・・・・・。」
「フフフ・・・もうお終いですよ・・・。これで終わりにしましょう!」
駄目だ、ウワアアンは隙だらけ。
デス・トイレのラッシュも先程とは桁違いの早さだ!
拳が完全にウワアアンの体を捕らえた。
だが・・・・。

つるっ!
拳はウワアアンの体の上を滑るばかり
「な、何だ!?何が起こった!?」
デス・トイレは事態を飲み込めてないようだ。
「フフ・・・俺のドント・レット・ミー・ダウンの能力は、触れた場所の摩擦の大きさを変える!
 さっきのラッシュの打ち合いの時、お前の拳の摩擦を0にしておいた。ついでに俺の体の表面の摩擦も
 0にしておいたけどな!」
デス・トイレの動きが止まった。今!
ウワアアンがデス・トイレの脇をすり抜け、水を流した。
「しまった――――!」
デス・トイレの体が、どんどんトイレに流されていく。
「そしてお前は『俺が負けるはずが…』と言う!」
ウワアアンが言い放った。
「こ、この私が・・・この私が――――!!!!!」
ジャアアアアア・・・・・ゴボゴボ・・・・。

「・・・・外しちゃったよ・・・・。」

323新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 18:46

「お前長かったなー。10分以上入ってたぞ。」
トイレの外でアヒャが待っていた。
どうやら幻覚世界と現実世界では時間の進み方が違うらしい。
「わりーわりー。ちょっと緊急事態が有ってな。さ、どうぞお入りに・・。」
「いや、その必要はない。」
「・・・・へ?」
「この仮設トイレの近くに公衆トイレ見つけてさ、そっちの方が綺麗だったぞ。
 ほら、あそこに・・・。」
アヒャが指差した方向には、たしかに公衆トイレがあった。

(・・・・・じゃあ、俺の苦労はいったい・・・。)

ウワアアンはがっくりと肩を落とした。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

324新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 19:13
スタンド名・・・『デス・トイレ』
本体・・・不明

破壊力−A スピード−C 射程距離−なし
持続力−A 精密動作性−B 成長性−完成

能力:本体は既に死亡しており、スタンドだけが『トイレ』に寄生している
   寄生しているトイレに入った者は、迷路の幻覚を見せられる。
   その者が「もうだめぽ・・・」「限界だゴルァ・・」などと諦めてしまった時
   魂はスタンドに吸収され、本体は流される。
   そして最後にはそのスタンドと戦い
   そしてみごとに便器に到達し水を流せた時、『デス・トイレ』も流され
   ようやく用を足す事ができる
   『デス・トイレ』は、何も知らずに入ってきた人間の魂をエネルギーにして
   生きてきたが、ウワアアンとの戦いで流され消滅。

325新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 19:21
キャラ紹介№2

                             ┌(`Д´) 
                             ≡/\丿>  キコキコキコキコキコキコ…  
                             ≡\/≡  
                             /     

NAME ウワアアン

母親が万引きの常習犯、父親が現役の泥棒と言う家庭で育った
4人兄弟の末っ子で、現在小学校4年生。両親から窃盗のイロハを教え込まれ、
スリ、引ったくり、万引き何でもござれ。逃げ足だけなら世界一。
アヒャとは万引き仲間。

326新手のスタンド使い:2003/12/18(木) 19:32
乙?
書き貼りはもし次に貼りたいと思っている人がいても、
なかなか貼れないからやめたほうがいいよ。

327新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:40
貼ります

328新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:40
 救い無き世界
第一話「終わりの始まり」



「目障りなんだよ!!この糞でぃが!!!」
その言葉と共に腹部に蹴りが叩き込まれた。俺はその場に倒れこみ、うずくまる。
「どうした?悲鳴の一つでも上げてみろよ?」
今度は別の男に頭を蹴られた。無茶な事を言う。
俺の声帯はでぃになった時にいかれてしまっている。
声を出そうにも、小さく「キィ・・・」と呻くのが関の山だ。
そんな事を考えていると、三人目の男に胸ぐらを掴まれ、強引に引き起こされた。
「おいおい、もっと恐怖に顔を引きつらせてくんないと、
こっちにも張り合いってもんがねぇんだけどよお。」
それも無理な話だ。
俺には笑ったり怒ったりといったように顔の筋肉を自由に動かすことなどできない。
一生無表情のままだ。
「何とか言えよ!!」
次の瞬間俺の顔の形は男の拳で強引に歪められた。
だから無理なんだって。声を出すのは。
「氏ね!氏ね!氏ね!氏ね!氏ね!」
「ゴルァ!ゴルァ!ゴルァ!ゴルァ!ゴルァ!」
「逝ってよし!逝ってよし!逝ってよし!逝ってよし!逝ってよし!」
殴られ蹴られ、倒れた所をさらに踏みつけられ、
踏みつけるのに飽きたら引きずり起こされ、また殴られ蹴られる。
こんな風に罵声と暴力を浴びせられるのは何回目だろうか。
あまりにも多すぎてもはや数えられない。
全身を叩かれて、体のあちこちが痛みという名の悲鳴を上げる。
だけどそんなことはもはやどうでもいい。
だいぶ前からそんなことは気にならなくなった。

「まったく、お前みたいなゴミはさっさと死んじまいな!!」
一人の男が去り際、唾と共にその言葉を俺に浴びせた。
俺がゴミか。
成る程それは大正解だ。百点をあげてもいい。
まだ小さい子供だった頃、大きな事故のせいで俺はでぃになった。
それから一ヶ月もしないうちに、
両親は俺を置き去りにして何処かへ消えた。
でぃなんか自分たちの子供に要らなかったんだろう。
俺は両親に必要とされずに捨てられたのだ。
そして、この町でも俺を必用としている者などいやしない。
さっきのが良い例だ。
つまり、俺はこの町からも捨てられたことになる。
だから、俺はゴミだ。
だって、必要が無くて捨てられるものなんて、ゴミ以外に無いじゃないか。
「あらやだ!あんな所に汚いでぃが転がってるわょぅ。」
「ほんと。早くあんなゴミ、業者が駆除してくれないかしらょぅ。」
 通りかかったおばさん達がわざと俺に聞こえるように言った。
好きなだけ言っているがいいさ。
心の痛みとやらも、俺はもう感じない。

329新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:41
その日の夜、俺はボロボロになった体を引きずりながら
ゴミ箱から夕食の残飯を漁っていた。
大した期待はしていなかったが、
なんとその日は全くといっていい程手のつけられていない弁当を
二箱も見つけることができた。
これで明日必死に残飯を漁らなくても良いと考えると、最高にハイってやつだった。
 せっかくの食事を邪魔されては敵わないので、
人気の無い路地裏で弁当を食べることにした。
飲み物は捨てられていた空き缶に公園の水道を汲んだものだ。
早速食べようと弁当の蓋を開けた時、近くに何かの気配を感じた。
「・・・・・・!!」
 俺は一瞬全身を強張らせたが、次の瞬間その緊張はほぐれた。
「にゃあ・・・・・」
 そこにいたのは一匹の猫だった。おそらく腹を空かせているのだろう、
足取りに力が無い。
なにより、弁当を食おうとしている俺に対する目が尋常ではない。
 俺は戸惑った。
確かに腹を空かせているのはかわいそうだとは思うし、
何とかしてやりたいとも思う。
だが、俺だって生きるのに必死だ。
明日も今日と同じように首尾よく食料を見つけられる保障などどこにも無い。
俺には他人を助けるような余裕などこれっぽっちも無いのだ。
気の毒だが、この猫にはあきらめて帰ってもら・・・
「にゃあ・・・・・」
 この猫め。すがりつくような猫なで声を出しやがって。
そんなものでこの俺をどうにかできるとでも思ったか。
何があろうと駄目なものは駄目・・・

「にゃあ、にゃあ、にゃあ」 
俺は猫と一緒に弁当を食べていた。何故、こんな事になってしまったのか。
こんな事をしても何にもなりはしないのに。猫に対する同情だろうか。
おかしな話だ。ゴミが野良猫に同情なんて。
(どうすんだ、大切な食い物を野良猫なんぞにやっちまって。
恩返しにこの猫が助けてくれるなんて、
おとぎ話でしか有り得ないような事でも考えか?
小さな命を助けて善人気取りかよ。)
 俺は軽い自己嫌悪と後悔にさいなまれた。が、さっさと忘れることにした。
後悔しても弁当が帰って来る訳でもない。

「にゃあ。」
 猫は弁当を食い終わると、丁寧に深々と御辞儀をし、
くるりと回って闇夜へと消えていった。
案の定、食うだけ食って猫はさっさとどっかへ行った。
まあしかたがない。野良猫に何か見返りを求めるほうがどうかしている。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ俺は心が何かで満たされるのを感じていた。
(下らない。偽善をなして自己満足に浸っているだけだ。
そんなもんでお前の人生は何一つ変わりやしないぞ。)
 そうだ、その通りだ。何を俺は勘違いしていたのだろう。
俺に救いなんてもたらされやしないってことぐらい、
とっくの昔から判りきっていた事じゃないか。
こんな便所紙程度にも役に立たない満足感など、
弁当箱の空と一緒に捨ててしまうことにする。

330新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:42
ふと、近くで物音がした。
さっきの猫かと思ってそちらを向いたが、そこにいたのは中年のおっさんだった。
が、何やら様子がおかしい。
おっさんは酔っ払っているのか体はフラフラだし、目の焦点も定まっていない。
すると、おっさんはいきなり膝を着いてうずくまり、何やら叫び始めた。
「出てけ!!俺から出て行ってくれえええええ!!!!」
 次の瞬間、俺は信じられない光景を目にした。
おっさんの体が、みるみるうちに崩れていくのだ。
「・・・この体も、私の器には相応しくなかったか・・・・・・」
 俺はさらに自分の目を疑った。
崩れていくおっさんの体から、変なものが現れたのだ。
そいつは一応人のような姿はしていたが、到底普通の存在とは思えなかった。
何だ、これは?
俺の目の前で、いったい何が起こっている?
俺は逃げることも忘れて、ただ呆然としていた。
「丁度良い・・・そこのお前、体を貰うぞ・・・・・・」
 そいつと、目が合った。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 もし声を出すことが出来たなら、俺はこの島中に響く声で叫んでいただろう。
いつもリンチを受けている島のチンピラとは次元の違う、圧倒的なプレッシャー。
すぐさま振り返り、逃げようとする。
だが、あまりの恐怖により足をもつれさせその場で倒れた。
急いで立ち上がろうとする。出来ない。腰が抜けてしまった。
ヤバい。奴はどんどん近づいてくる。逃げないと・・・死ぬ!!
「何を怯えているんだ?出会ったばかりなのに、
そんなに邪険にすることも無いだろう?」
 ついに奴は目の前まで迫ってきた。俺に向かってゆっくりと腕を伸ばす。
(やめろ!
来るな!!
来ないでくれ!!!
やめろ!!!!
いやだあああああああ!!!!!)
 俺の意識は、そこで途切れた。

331新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:43
俺は真っ黒な空間を漂っていた。
どこまでも続く、漆黒の世界。
決して光の差し込まない、暗闇の底。
ゴミの俺に相応しい、最下層の掃き溜め。
その世界の中心には、周りの闇よりもさらに昏い、
総てを飲み込むような巨大な何かが渦巻いていた。
そっとそのうねりの中に手を差し込んでみる。

殺す殺す焼き尽くす殺すコロス殺す消えろころす殺す俺を捨てた世界など殺す朽ち果て
るがいい許さない殺す一人残らず痛いのは嫌だ皆殺しに殺す倍返しだ殺す踏み躙る捨てら
れたくない死んじまえ殺す壊す消し炭にしてやる死にたくない消えて無くなれ殺す殺す

おぞましいほど歪にねじれた不の感情が、溢れんばかりになだれ込んでくる。
そうか。分かった。分かったぞ。俺はここが何処だか知っている。
ここは、そう、ここは、俺の心の中だ。

あれ?待てよ。何だ?何か居る。うねりの中に何か居るぞ。
何だ、あれは?何なんだ、あれは?
ああ、あいつは、あいつには見覚えがある。おっさんの中の人だ。
何でこんな所に?何の為に?何をしているんだ?
喰ってる。何かを喰っている。何を食っている?
まさか。あいつが喰っているのは、まさか。
いや、間違いない。あいつが喰っているのは、俺の、俺の・・・・・・
 
 
目が覚めた。
すでに日は昇っている。
周りを見渡す。どうやら、昨日と同じ場所みたいだ。
(生き・・・てる・・・・・・?)
 自分の体を見て調べてみる。
足は付いているから幽霊にはなっていないらしい。いつもと同じ、醜い体だ。
 昨日おっさんが崩れていった場所を見てみる。そこには、何も無かった。
(・・・・・・夢・・・?)
 いや、それにしては余りに鮮明に記憶が残っている。
昨日ここで起こったことは、間違いなく「現実」だ。
だけど、俺の体には見た所何も異常は無い。
あの変な奴は、結局俺に何もせず去ったのだろうか。でも、何故?
 俺は考えるのをやめた。考えたところで、俺に何かが分かるとも思えない。
気にするだけ、時間の無駄だ。
 俺は、今日の食い物を探すことにした。

332新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:44
(ろくなものが見つからないな・・・)
 あれから一時間以上ゴミ箱のあさってみたが、食い物はなかなか見つからなかった。
 俺は昨日猫に弁当をあげた事を、今更ながら後悔していた。
 本当に何であんな事をしてしまったのか。こうなる事は目に見えていたじゃないか。
「はははは。見ろよ、必死こいて逃げようとしてるぜ。」
「おお、本当だ。こりゃあ傑作だな。」
「これだから虐待は止められないよな。」
 通りの向こうから、聞き覚えのある声が聞こえた。
 視線をそちらに移してみる。
声の主は、昨日俺がリンチを受けた三人組だった。
 一体、今度は何を虐めているのか。暇な奴らだ。
「にゃあああああ!!にゃああああああ!!!」
 その泣き声にも、聞き覚えがあった。
 昨日の、野良猫だった。
尻尾を掴まれて逃げられないところを、ライターの火であぶられていた。
 運の悪い奴だ。あんな奴らに目を付けられるなんて。
 弁当を食うだけ食って大した礼もせずに消えるから、罰が当たったんだ。
 俺には関係無い。俺まで巻き込まれないようにさっさと逃げるに限る。
「にゃああああああ!!!にゃああああああああ!!!!」
 俺には関係無い。関係・・・無いんだ。
 
 気が付いたときには、俺は奴らに向かって突っ込んでいた。
 猫の尻尾を掴んでいる奴に体当たりをぶちかます。
 いきなりの不意打ちで男は体勢を崩し、その拍子で猫の尻尾を持つ手を離した。
「何するんだ、手前ぇ!!」
「おい、こいつ昨日のでぃだぜ。」
「どうやらまだ殴られ足りないようだなぁ。」
 すぐさま奴らの攻撃対象は俺へと移された。
 昨日よりさらに激しい暴力。
 容赦ない仕打ちの雨霰。
打撃で意識が遠のきそうになる度に、更なる打撃で無理やり叩き起こされる。
(何やってんだ、俺は。)
 俺は自分の馬鹿さ加減にうんざりしていた。
 弁当を分けてやるのとは訳が違うって事ぐらい、分かってたじゃないか。
 だから、見て見ぬふりして、逃げようとした。
 それが俺にとって最善の手段だって事ぐらい赤ん坊でも分かることじゃないか。
 糞、糞、糞。
 何だって俺がこんな目に。何だって俺はあんな事を。
「ほらどうしたぁ!もうお寝んねかぁ!?」
「勝手にくたばってんじゃねぇぞ!」
 男達の暴力は、さらに苛烈になる一方だった。
 思い切り踏み付けられた右手には、もう殆ど感覚が無い。
 肋も何本か折れてるみたいだ。
 ふと、視界の片隅にあの猫の姿が入ってきた。
 怯えきった目で、こっちを見ている。
 お前、まだそんな所に居たのか。さっさと逃げろ
 お前がまた捕まりでもしたら、俺がこんな目にあってる意味が無くなる。
 そうなったら、俺は唯の阿呆じゃないか。
 おい、何をやっている。そっちじゃない。向かう方向が逆だ。
 こっちに近づいて来てどうする。
 違う。さっさと尻尾巻いて逃げろ。分かってるのか。
 おい、一体何を・・・
「いってええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
 あろうことか、猫は男達に跳びかかり、一人の顔面を爪で引っ掻いた。
 馬鹿か、あいつは。
 俺が作ったせっかくの逃亡のチャンスを無駄にしやがって。
 救いようの無い大馬鹿だ。
「この糞猫がああああああああ!!ぶっ殺してやるぁ!!!」
 男は怒髪天を突く勢いで逆上した。
 懐に手を入れてナイフを取り出す。手の先が鈍い輝きを放つ。
 ヤバいぞ。猫、さっさと逃げろ。本当に殺されるぞ。
 何やってる。早くしろ。死ぬぞ。
 駄目だ。このままじゃ、刺し殺され・・・・・・

333新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:45
腹部に突き刺さる強烈な異物感。
 最初に感じたのは、熱いという感覚だった。
 熱さはすぐに鋭い痛みへと変わり、今度は体中が一気に寒くなる。
 刺された場所から、血が大量に失われていくのが分かった。
 猫は・・・どうやら大丈夫みたいだ。
「何だ、こいつ!?いきなり前に飛び出してきやがった!」
 救いようの無い大馬鹿は、どうやら俺の方だったみたいだ。
 他人を庇って命を落とし、天国へと召されましょう、てか。
 お目出てーな。
 そんな事を考えてる場合じゃない。
体からどんどん力が抜けていく。指一本動かせない。
「おいおいおい、どーするよ。やべーんじゃねーの。」
「大丈夫だろ。こんなゴミ、死んだ所で誰も気にしやしない。
 寧ろ、道端のゴミを掃除したって褒めてもらいたいぐらいだぜ。」
「ははは、違いねえや。
 それよりまだ生きてるみたいだし、早く殺っちまおうぜ。」
 男達はそう言うとじゃんけんを始めた。
 誰が俺に止めを刺すのか、決めているのだろう。
 今までのことが、走馬灯として浮かびあがる。
 だが、そこには何一つ楽しかった事、嬉しかった事など無い。

死ぬのか。
 俺はここで死ぬのか。
 こんな奴らに殺されるのか。
 生きるものとして何の尊厳も認められる事もなく、
 ゴミのように。
 俺が死んだら、この町の奴らはさぞかしせいせいすることだろう。
 奴らの笑い顔が目に浮かぶ。
嫌だ。
 俺は死にたくない。
 生きていたいんだ。
 普通に笑って暮らしたいんだ。
 何故、何で俺はこんな目に会わねばならない。
俺には生きる資格さえ無いというのか。
 俺はそれ程の罪を犯したとでもいうのか。
 でぃであることは、それだけで罪なのか。
 俺だって、好き好んででぃになった訳じゃない。
畜生、畜生。
 嫌だ、死にたくない。
 嫌だ。
 嫌だ。
      
      ドクン

 体の中で、何かが動いた。
 何だ?
 今のは何なんだ?

       ドクン

 俺の内に、何かが居る・・・?

334新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:46
「よーし、俺の勝ち!」
「ちっ、しょうがねえなあ。」
「今度奢れよ。」
 男達がこちらを向いた。
どうやら、死刑執行人が決まったようだ。
「さーてと。それじゃ、殺りますか。」
 俺の体に向かってナイフが振り下ろされる。
 その光景が何だかひどくスローモーに見えた。
 
       ドクン
 
まただ。
 
      ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
 
胎動が、速くなる。
俺の体がそのリズムと少しずつ重なっていく。
何て、心地良い。
 ナイフがみるみる迫って来る。
 俺は、ゆっくりと腕を伸ばした。

「うぎゃああああああああああああ!!!!!」
 気がつくと、ナイフを振り下ろしていた筈の男が吹っ飛んでいた。
 何だ?
 何が起こった?
「どうした!!大丈夫か!?」
「おっおい、見ろよあいつ!!マトモじゃねえよ!!!」
 男達はひどく慌てている様子だった。
 一体、何だというんだ。
「やべーぞ!!逃げろぉ!!!」
 吹き飛んで倒れた男を抱えて、三人は一目散に逃げて行った。
 俺は訳が分からなかった。
 瀕死の俺を前にして、何故あいつらは血相変えて逃げたのだろう。
 俺はただ、腕を少し動かしただけ・・・

335新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 02:46
(!!!!!!!!!!)
 俺は思わず目を剥いた。
 俺の腕が、見たことも無い形に変わっているのだ。
 何だ、何だこの腕は。
 いや違う。俺はこの腕を見たことがある。
 これは、昨日会った、あの「化け物」の・・・
 
急に意識が朦朧とした。
 腹に穴が開いて血がそこから流れ出ているのだから、
当然といえば当然と言える。
 自分の腕が別の何かに変わるという信じられない出来事による
精神的ショックも、大きな原因の一つだろう。
目が霞み、視界がぼやける。
抗い難い睡魔が、俺を襲う。
瞼が落ちる。
駄目だ、このまま目をつぶっていたら死ぬぞ。
目を開けろ。
だが、必死の抵抗も空しく思考はそこで断絶し、
俺の意識は暗い闇の底へと沈んでいった・・・


TO BE CONTINUED

336新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 21:24
乙!

337ギガバイト:2003/12/19(金) 22:04
>>292
アルカディアの能力って・・・

ペルソナから取りました?

338:2003/12/19(金) 22:38
>>337
ニャル+タタリ

339:2003/12/19(金) 22:38

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その1」

 
 まさに、惨状という表現がふさわしい。
 焼け焦げて、屑鉄となり果てたヘリが民家に刺さっている。
 ヘリの尾部は、鋭利な刃物で切り取られたかのように消滅していた。
 さらに、周囲の家屋は悉く倒壊している。
 大きなクレーターが、かって道路であった場所に形成されていた。
 死者が出なかったのは奇跡に近い。
 よほど、避難誘導及び救護が的確だったのだろう。

「これは、自衛隊のヘリがエンジントラブルを起こし墜落した事故です」
 ポケットに手を突っ込んでヘリを見上げていた局長が、不意に口を開いた。
 そう報道機関には根回ししておくように、という事だろう。
 局員は携帯を取り出すと、部下にそう指示した。

「まったく…せっかくの日曜がぶち壊しですよ…」
 局長は舌打ちして呟いた。
 そして、局員の方を横目で見る。
「ASAの連中は?」
「事情説明を終えて、引き上げました」
 局員は、何やら疲れきった顔をした丸耳の姿を思い出した。
 上司に振り回される組織人の顔だ。そう、自分と同じ。
「では、そのASA職員の事情説明とやらを反芻してみなさい」
 局員は、丸耳の説明を思い返す。
「この町に、危険性の高いスタンド使いが出現。偵察時に民間人に被害者が出たため、止む終えず戦闘。
 車を強奪して逃げるスタンド使いを、そのまま抹殺…という事ですが」
 局長は頷いて言った。
「で、その話の矛盾点は?」
「まず、民間人の被害者とやらが確認できません。戦火に巻き込まれた住民は多いですが、直接スタンド使いに
 危害を加えられた人というのは、特定できませんでした。また、偵察任務という割にはヘリは重装備です」
 局員は、そこで言葉を切る。局長が後を継いだ。
「そもそも、RAH−66はASAにとっても貴重な装備。偵察などには使わないでしょう。
 また、危険なスタンド使いとやらが車を強奪して逃げた、というのも目撃証言と食い違います。
 車を奪うところを目撃されたのは、モナー族の男性、奇抜な服装の女性、怪我をしたギコ族一人としぃ族が一人。
 この4人は、一緒に行動していたようです」
 その通り。証言によれば、彼らが車を奪ってその場から逃走したようだ。
 局長は話を続ける。
「他には、ハンマーを持った女性も目撃されているが、彼女には心当たりがあります」
 局員自身も、ASAの三幹部の一人が、自分の身長以上のハンマーを振り回すという話は聞いたことがあった。
 だが、それほどの重要人物が直接戦闘に関わるものだろうか?
「そして、ハンマー女と4人のグループが会話を交わしていた、という証言もある。
 この5人はASA側、もしくは協力する者とみて間違いないでしょう」
 すると、危険なスタンド使いが車を奪って逃げた、というASAの説明に矛盾が出てくる。
「では、その危険なスタンド使いとは誰だったのか…」
 局長は言葉を切ると、局員の顔を見た。
「『奇妙な男』、という証言が採れています」
 局員は答えた。
 ―――『奇妙な男』。
 目撃者は、そう口を揃えていた。
 顔は暗くて見えなかったが、とにかく不気味な男だったと。

340:2003/12/19(金) 22:39

 そこへ突然、車が突っ込んできた。
 どう贔屓目に見てもスクラップ一歩手前のボロ車だ。
 その車は2人の手前で止まった。
 運転席から、1人の男が降りてくる。
「ああ、遅かったですね」
 局長は、男に呼びかけた。
「黙れよ、役人」
 男は不機嫌そうに答える。いや、実際に不機嫌なのだろう。
 局員は、この男に見覚えがあった。
 ―――フサギコ。
 この国で唯一、集団的自衛権を行使できる組織の幕僚幹部である。
「あなただって公務員でしょう…?」
 局長が口を開く。
「俺は公僕だが、役人じゃない」
 フサギコはそう答えると、先程の局長のように墜落したヘリを見上げた。
「で、今日は公務で…?」
 局長は訊ねる。
「そんな訳ないだろ」 フサギコは吐き捨てた。
「明日、この件で閣議に呼ばれる。現場くらい見ときたくてな…」
「で、どうです?」
 局長は、様子を伺うようにフサギコの顔を見た。
「シッポの部分が綺麗にブッ飛んでるな。あんな断面を作るのは、既存の兵器では不可能だ…」
 そして、フサギコは空を見上げた。まるで、飛んでいたはずのヘリを見るように。
「そもそも、墜落原因が問題だな。空中でシッポが切断されて、安定性に問題が出たんだろう。
 テイルローターの制御が出来なくなると、ヘリは旋回して墜落する。ちょうどあんな感じにな」
 フサギコの見解は、目撃証言と一致する。
 墜落時、ヘリは激しく旋回していたらしい。
「すると…ホバリングしてるヘリを、兵器を使わずにあんな風にした奴がいる、って事になる。
 そいつは間違いなくバケモンだ。後は、お前達の仕事だろ?」
「私達の仕事でもありませんよ」
 局長は、フサギコの言葉を受けて素早く答えた。 「もう、ASAによって片がつきましたから」
 フサギコは、局長を睨む。
「俺が閣議に呼ばれたのも、そのせいなんだよ…」
「と、言うと?」
 理解しているにも関わらず、局長は問いかけた。
「ASAの連中、この法治国家でドンパチやらかしやがって…この国をナメてるとしか思えねぇな!」
 フサギコの不機嫌の理由は、そこにあったようだ。
 まあ、彼の立場からすれば当然の反応だろう。
「…ったく、スタンド使いって奴等は…!」
 フサギコは憎々しげに呟く。
「たった一人のスタンド使いを討伐するためだけに、武装ヘリで飛び回りやがって…
 ASAも、同じ穴の狢だ! この国にスタンド使いなんざいらないんだよ!」
 感情を爆発させたフサギコを見て、局員は思い出した。
 この男は、ずっと前からスタンド使いを敵視してきたのだ。
 しかし、スタンド対策局の人間がこれだけ周囲にいる中で、こんな事を豪語するとは…
 フサギコの度胸も大したものだ。
 局員は、無骨なこの男に少しだけ好感を持った。
 それに、局員自身もスタンド使いでありながら、フサギコの主張に怒りは感じなかった。
 フサギコのようなスタンドを持たない人間にとって、スタンド使いである我々は、
 不気味な力を持った存在としかその目に映らないだろう。
 人は、得体の知れないモノに強い恐怖心を持つ。
 そう。フサギコは、スタンド使いが社会に及ぼす影響を恐れているのだ。
「ハハッ、またお得意のスタンド使い不要論ですか…」
 局長は笑って言った。
 その様子から察するに、何度も聞いているのだろう。
「好きでスタンド使いになった人間なんて、この世にはいませんよ。
 『弓と矢』なんて民間伝承のようなものだし、今存在するスタンド使いは、ほぼ全員が生まれつきだ。
 その生まれつきのスタンド使いでも、自分の能力に気付く人間は少ない。
 さらに、他のスタンド使いに出会う可能性はさらに少ない。
 スタンド使いですら、我々公安五課の存在を知っている者は少ないですからね…」
 『スタンド使い同士はひかれあう』という言葉を、局員は思い出していた。
 スタンドそのものが引き合うのか、無意識による同能力者の共感なのか、それとも『運命』のなせるワザなのか…
 確かに、そういう事もままある。
 だが、そもそもスタンド使いの絶対数は少ないのだから、スタンド使い同士の出会いは少ない。
 そういう自分も、警視庁捜査一課から引き抜かれるまで、同じような能力を持つものがいるとは思ってもみなかった。

341:2003/12/19(金) 22:40

 局長はフサギコに言った。
「そういえば、貴方の嫌いなASAが大挙して我が国に押し寄せてきたようですよ?」
「…何だと、いつからだ?」
 フサギコは局長を睨む。
「昨日、専用輸送機で30人が入国しました。この騒ぎを起こした連中ですね。
 討伐隊にしては多いと思ってたんですが… それでも、先遣隊に過ぎなかったようです。
 今日の早朝には、一般旅客機で220人が入国しました」
「ASAの奴等が250人だと…!?」
 フサギコは驚きの声を上げる。
「そう。『教会』の代行者に続いて、今度はASAまでこのちっぽけな町に集まってきました。
 あいつらは、何の意図があってこの町に集まってくるんでしょうね…」
 局長がため息をついた。
 局長は、すでに多くの情報を掴んでいるはず。
 白々しい素振りだ。
「で、そのASAの奴等はどこに潜伏してるんだ?」
 フサギコは訊ねる。
「潜伏も何もないですよ。駅前に、一夜にして巨大な高層ビルが出現しました。
 これも何らかの能力なんでしょうが、とにかくそこが奴等の根城です」
 フサギコは、その言葉で我慢の限界を超えたようだ。
「ASAの奴等… この国でミサイルをぶっ放すだけじゃ飽き足らず、根城まで構えやがったのか!!」
「何なら、見てきたらどうです?」
 局長は可笑しそうに言った。
「よし、見てこよう」
 フサギコはいきなり車に乗り込むと、そのまま走り去っていった。
 局員は、呆気に取られて局長の顔を見る。
「敵情視察のつもりでしょうかねぇ…」
 局長はそう呟いていた。
 いくら敵意を持っていても、まさかいきなり乗り込んだりはしないだろう。
 とにかく彼は、スタンド使いが大嫌いなのだ。
 局員は、フサギコの態度からつくづくそれを実感した。


          @          @          @


 俺は、呆然としつつ時計を見た。
 …7時。
 今は午前? 午後?
 いや、午後の7時にしては明るすぎる。
 間違いなく朝の7時だ。
 すると、俺は楽しい日曜日をほぼ寝て過ごしたのか…?
 ゆっくりと身体を起こす。
 まだ、体中が痛い。
 今日は月曜日。最悪の週明けだ。

 台所では、リナーが朝食を食べていた。
 ガナーは部活の朝練の為、すでに学校に行ったようだ。
 例の連続殺人で部活が遅くまで練習できないようになったので、どこの部活も朝練が活発らしい。
 俺は用意されていたパンを食べる。
 コーヒーも、冷めているものの他に異常はない。
 食べ終えて一息つくと、俺は新聞を広げた。
『自衛隊機、住宅街へ墜落』という文字が目に入る。
 昨日のアレか…

「でも、どうして自衛隊が出てくるモナ?」
 俺は、既に新聞を読んでいるであろうリナーに訊ねた。
「隠蔽工作だ。事実をそのまま伝えるわけにもいかんだろう」
「ふーん」
 俺は、新聞を流し読みした。
 不意に、この町の名が目に入る。

『あの連続殺人の町で、新たな犠牲者!?』

 ―――!!
 記事を読み進める。
 深夜の12時、路上で24歳の男性の遺体が発見されたようだ。
 もう一人の俺は、男は狙わないはず…
 死因は…失血死。
 首筋に牙の跡のような傷が見つかり、獣害も考慮に入れて捜査しているとあるが…

 …失血死。
 …首筋に牙の跡。
 間違いない。
「リナー! これは…」
 俺は新聞を無造作に畳むと、リナーを見た。
「ああ。吸血鬼だ」
 リナーは、あっさりと断言した。
 
 奴等、とうとう町の人間の血を…
 絶対に許せない。
 目を見開いて握り拳をつくった俺を見て、リナーは言った。
「だが、吸血鬼を一匹一匹狩っていったところでキリがない。元を断たねばな…」
 『アルカディア』…
 そう、この町に潜む諸悪の根源を倒さなければならない。
「しかも、この事件が『吸血鬼による殺人』としてセンセーショナルに報道される事は目に見えている。
 そうなれば、吸血鬼の噂が囁かれ…」
 人々の想像する吸血鬼像が、そのまま具現化してしまう訳か。
 一刻も早く、『アルカディア』を倒さないと…
「それで、モナは何をしたらいいモナ?」
 俺は逸る気持ちを抑えて、リナーに訊ねた。
「何もする必要はない。君に、この町の調査ができるのか?」
 その通り。俺は調査に関しては素人なのだ。
 もっとも、戦いに関しても玄人には遥かに遠いが。
 まあいい。ここまで関わってしまった俺を、リナーは除け者にしないだろう。
 それより、もう家を出る時間だ。

342:2003/12/19(金) 22:41

 玄関を出ると、目の前のブロック塀にもたれて腕を組んでいる男の姿が目に入った。
 眼鏡をかけていて、その眼は意志の強さを感じさせる。
 七三に分けられた髪は、右側で軽くカールしていた。
 また、着ているセーターは異様にダサい。
 その男は、じっと俺を注視していた。
「あの…何ですかモナ?」
「『教会』の者だよ…」
 男は言った。
 俺は衝撃を受ける。つまり、リナーの仲間か?
「そう緊張しなくていい。俺の名はキバ…いや、『解読者』だ。君も知っての通り、代行者の通り名だよ」
「そうですか。モナーですモナ…」
 俺は頭を下げながら、用心深く男を見た。
 『教会』の中でも、暗殺技術と強力なスタンド能力の両方を持っているもののみ、代行者としての
 通り名を持つことが許されるとリナーに聞いた。
 確かに、目の前のこの男も、かなり強そうだ。
 さっき名乗りかけていた「牙」という名前も、戦場でついた異名だろう。
 俺に接触して何を企んでいるのだろうか。
「モナー君か…」
 『解読者』は、口に手をあてて何やら考え込んで…

「――――わかったぞ!!」

 不意に、男はアップになって言った。

  ヽ、.三 ミニ、_ ___ _,. ‐'´//-─=====-、ヾ       /ヽ
        ,.‐'´ `''‐- 、._ヽ   /.i ∠,. -─;==:- 、ゝ‐;----// ヾ.、
       [ |、!  /' ̄r'bゝ}二. {`´ '´__ (_Y_),. |.r-'‐┬‐l l⌒ | }
        ゙l |`} ..:ヽ--゙‐´リ ̄ヽd、 ''''   ̄ ̄  |l   !ニ! !⌒ //
.         i.! l .:::::     ソ;;:..  ヽ、._     _,ノ'     ゞ)ノ./

「まず、「モナー」をローマ字にする。(monar)
 次に、今日が9月21日であることを考え末尾に「ノストラダムス」を加える。(monarノストラダムス)
 そして最後に意味不明な文字「monar」。
 アルファベットが混じっているのは不自然なので、削除し残りの文字を取り出す。
 するとできあがる言葉は……「ノストラダムス」。
 モナーとは、ノストラダムスを表す言葉だったんだよ!!」

 な、なんだってー!!
 さらに、『解読者』は言葉を続けた。

「時空を超えて、あなたは一体何度――――
 我々の前に立ちはだかってくるというのだ! ノストラダムス!!」

 学校に遅刻してしまう。
 俺は、急いで学校へ向かった。

343:2003/12/19(金) 22:42

 普段なら走るところだが、どうにも体が痛い。
 まあ、1時間目に間に合えばいいか。
 そう思いつつ学校に到着した。
 教室に入った時には、すでにHRは終わっていた。

「ふぅ」
 俺は席に着く。
 不思議なことに、ギコもモララーもしぃも見当たらない。
 俺の机に、奴が後ろから近付いてくる。
「よぉ、重役出勤とは大したモンだな!」
 俺は振り向いた。
「お前は…久し振りに登場した、おにぎりィ!!」
「『さん』をつけろよ、デコ助野郎ォ!!」
「で、ギコやモララーやしぃはどうしたモナ?」
 俺は、久し振りに登場したおにぎりに訊ねた。
「ああ? 風邪ひいてダウウンらしーぞ?」
 全員ダウン?
 みんな、そこまでダメージが大きかったのか?
 俺は携帯を取り出して、ギコに掛けてみた。
「もしもし…」
 ギコの声だ。
「モナーモナ。どうしたモナ?」
「やっぱ、無理しすぎたようだ。土日に暴れ回ったせいで、体が動かねぇ… ま、明日は行くけどな。
 それと、しぃもヘタれてるみたいだ。疲れてるみたいだったし、じぃの事も相当こたえてるんじゃないか…」
「そうモナ。お大事にモナ」
 じぃの名を聞いて、俺は慌てて電話を切った。
 次に、モララーに掛けてみる。
「モナー君! 僕のこと心配なんだね…!! でも…」
 俺は電話を切った。
 元気であることが分かれば、もういい。
 どうやら、学校に来れるほど体力があったのは俺だけだったようだ。
 そうしているうちに、1時間目の授業が始まった。


 たちまち、昼休み。
 食堂へ行く途中に、レモナに捕まった。
 追っ払うのも可哀想なので、一緒に学食へ行く事になった。
 パンを買って、適当に椅子に座る。
 レモナは俺の隣に座った。
「つーちゃん、土日が空けてもまだ休みなんだって…」
 今日も休み?
 いくらなんでも欠席日数が長すぎる。
 さすがのレモナもちょっと心配そうだ。
 まあ、あのつーちゃんが5日近くも音沙汰がないとなれば、当然か。
「今日学校が終わってからでも、様子を見に行ってみるモナ?」
 俺は提案した。
「そうねぇ… つーちゃんの住んでるマンションなら大体分かるし、行ってみよっか」
 つーちゃんは、意外にもマンション暮らしだったのか。
 と言うか、家族構成とかはどうなってるんだろう。
 とにかく、学校が終わったらレモナと二人でつーちゃんの家を訪ねる事になった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

344新手のスタンド使い:2003/12/19(金) 23:59
乙!

345新手のスタンド使い:2003/12/20(土) 18:44
乙です。まさかキバヤシが出てくるとは・・・・。
俺も自分の作品中に波heギャッ!・・・・・・イエ、ナンデモアリマセン。

346新手のスタンド使い:2003/12/20(土) 18:55
キバヤシ…

347:2003/12/21(日) 20:18
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    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))     少女に与えられたのは、
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  ∩    大きな銃と小さな幸せ。
  /,ノノくj_''(†)jlつ[( )
 ん〜''く/_l|ハゝ((_)
      し'ノ     ̄
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  ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ( ;・∀・)< …少女?
 (    )  \______
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 (__)_)

      /´ ̄(†)ヽ
     ,゙-ノノノ))))) <!!
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             /´ ̄(†)ヽ ヽ   lヽ/レ
            ,゙-ノノノ)))))`ヽヽ  V ガッ!! Z
            ノノ)ル#゚ -゚ノi  ∩   レvヘ/
           /,ノノくj_''(†)jlつ[( )☆
          ん〜''く/_l|ハゝ((_)∧_∧
               し'ノ    ☆(;・∀・)つ <アアン
                      /ヽ_) /
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                     /´ ̄(†)ヽ
                    ,゙-ノノノ)))))  バラララ…     ビシュ!!
                    ノノ)ル#゚ -゚ノi ,、 ヽ从/      ∧_∧,,;; ;''
               ∩    /,ノノ(⊇二∩ヲ]i===:;, :;.    (;・∀・)つ・∵"< アアン
                [( )  ん〜''く/_l|ハゝ^  /Wヽ    /ヽ_)・/∴;";"
             ((_)      し'ノ            ビシュ!!`'''
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                             ,;⌒⌒i.)
                            (   ;; ;;;)      _________
                            (     ,,:;,;;)     |          ..|
                              ヽ| |/;,,,ノ      |    『 教会 』    |
                  /´ ̄(†)ヽ        | |'        |_________|
                 ,゙-ノノノ)))))⌒ヽ   ,,| | ,,         ,    ||
                 ノノ)ル,,゚ -゚ノ    )  ノノ从ヽ、            ||
                /,ノノ(つ'(†)jノV ̄V  ...,,               ||
               ん〜''く/_l|ハゝ           ,,             ||
                    (_ノヽ_)                        ||、,
       「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その2」
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

348:2003/12/21(日) 20:19

 6時間目、世界史。
 今日はこの授業で終わりだ。
 そういえば、前回の世界史の授業は自習だった。
 その理由は、なんと世界史の先生が失踪してしまったかららしい。
 今日から、新しい先生が来るという。
 若くてかっこいい男だと、女子が噂していた。
 まあ、俺は寝るだけだから関係ないが。

 教室の戸が開き、そいつが入ってくる。
 その姿を見て、俺は寒気がした。

 ―――真っ黒。

 全身が真っ黒に視える。
 塗り潰されたような漆黒。
 気持ち悪いほどの黒。
 余りにも黒過ぎて、身体の輪郭しか判別できない。
 何なんだ、あいつは?
 あれでも人間か?
 そもそも、俺は「視る」つもりなどなかったはずなのに。
 無理やり、『アウト・オブ・エデン』を解除した。
 素の俺の目に映ったのは、教師と言うには若すぎる青年である。
 季節に合わないロングコートを着用していた。とても教師の服装ではない。

「―――です。よろしく」
 その青年は、黒板に自分の名前を書いた。
 どうせ、偽名だ。
「えーと、こんな中途半端な時期ですが、一生懸命頑張りますので…」
 バケモノが何か言っている。
 こいつは何者だ?
 確かに人間である。それは分かる。
 そして、おそらくスタンド使いだ。
 『アウト・オブ・エデン』は、発動していないスタンドをも視ることができる。
 だが、なんで奴自身が真っ黒に視えるんだ?

『さあ、何故でしょうね…』

 何だ、今のは…!?
 俺は周囲を見回す。
 一瞬、その教師と目が合った。
 彼は口の端に微笑を浮かべていた。
 今のは、奴の思念…?

『その通りです。貴方のスタンドは、思念すら視覚化できるんでしょう?』
「では時間もないので、教科書の――」

 また聞こえた。
 間違いない。奴は、俺の『エンド・オブ・エデン』で拾えるくらい強い思念を送っている。
 こいつ、俺の能力を知っている…!

『久し振りです。いや、貴方とは始めまして…かな?」
「では、120ページ。とりあえず、前に進んでいた中世から――」
 奴は、何食わぬ善人顔で授業を続けている。
『私の事は、『蒐集者』と呼んで下さい。心配しなくても、こんな場所で事を起こそうとは考えていませんよ…』
 また、代行者か。
 だがこいつは、人間離れの度合いが、リナーや朝に会った『解読者』とは桁が違う。
 『矢の男』の内部は空っぽで何も視えなかったが、こいつは黒すぎて何も視えない。
 あくまで視覚化したイメージに過ぎないが、それでも異常すぎる。
 そもそも、『教会』の人間が俺の学校に何の用だ?
『あなた達と同じですよ。『アルカディア』を追っているんです』
 嘘だ。
 単なる直感だが、こいつは虚偽を語っている。
 俺の思考は、奴に伝わったようだ。
『そう敵意を持たないで下さいよ。私のスタンドはとても弱いんです。
 たぶん、生身の人間との殴り合いですら負ける。もっとも、人間にスタンドは触れませんがね…』
 そんな事、信用できるか…!
 『教会』だって、何をやっているか分からないような組織だ。
 俺の失われた過去に関わっているのも、おそらく『教会』のはず。
『では、少しだけ真実を語りましょう。私は沢山の実験をしています。そのうち幾つかは君にも関連がある』
 何だって!?
『2体の実験体のうち、1体はファージの伝播が上手くいかず失敗しました。
 ですが、もう一体は完全に成功です。素体が優れていたというのが最も大きな要因でしょうが、
 それだと汎用性に欠ける、という事にもなる。何しろ量産が前提ですからね…』
 何が真実を語る、だ。
 理解できない言葉で語るなら、何も言わないのと同じだ。
『まあ、そういう訳です。実際のところ、貴方にはまだ用はありません。せいぜい、勉学に励んでおきなさい』
 …あ、ちょっと待て! おい!!

「という訳で、1096年には…」
 奴の思念は視えなくなってしまった。
 平然と授業を続けている『蒐集者』。
 俺は何回も心の中で呼びかけたが、返事はなかった。
 そのまま、授業の終わりのチャイムが鳴る。
 『蒐集者』は俺に一瞥すると、笑みを浮かべて教室から出て行った。

349:2003/12/21(日) 20:20

 とにかく、放課後である。
 『蒐集者』の事は、帰ってリナーにでも聞くとしよう。
 とりあえず、レモナと一緒につーちゃんの家に行くという約束がある。
 レモナの教室へ行こうと思ったが、その前にレモナの方から迎えに来た。
「じゃあモナーくん、れっつご〜」
「はいはいモナ…」
 俺とレモナは学校を出た。

 校門の前に、見た事のある奴が立っている。
 あれは、『解読者』…!
 あのダサいセーターは間違いない。
 『解読者』は、顔を上げて俺の方を見た。
「やあ、偶然だな。人類は滅亡する!」
「レモナ、急ぐモナ…」
 俺はレモナを急かす。
「まあ待て。俺は君の味方だよ」
 『解読者』は、後ろから俺の肩に手を乗せた。
 仕方がない。話だけは聞いてやろう。
 無視したら、この先も付きまとわれそうだ。
「あの、レモナ… 先に行っといてほしいモナ。モナもすぐ行くモナ」
 つーちゃんの住んでいるマンションの場所は、さっきレモナに聞いた。
「うん。じゃあ、また後でねー!」
 レモナは、その場から走り去った。

 さて…
「モナに何の用モナ?」
 『解読者』はメガネの位置を直す。
「君に、伝えたい事と聞きたい事と、そして頼みたい事があってね。
 まず質問からいこう。今日、君は『蒐集者』に会ったのではないか?」
 とりあえず、正直に答えておく事にした。
「会ったモナ。教師として赴任してきたモナよ」
 『解読者』は悔しげにうつむく。
「そうか… 我々人類は、何もかも遅かったようだ…」
 やはり言動がアッチの人だ。
 だが、何故『蒐集者』の事を俺に聞く?
 『蒐集者』はこいつの仲間じゃないのか?

350:2003/12/21(日) 20:21

「『教会』の代行者といっても、一枚岩じゃないんだよ!!」
 『解読者』は無駄に声を張り上げる。
「代行者は9人いるが、それぞれ思想や考えが異なるんだよ。ただでさえ、異能の集団なんだ。
 良く言えば個性的。悪く言えば、全員ぶっ飛んでいる。俺を除いてはな…」
 いや、こいつも充分ぶっ飛んでいる。
「さらに言うなら、『蒐集者』は『教会』を離反したも同然なんだよ。だから俺達代行者は、奴を快く思っていない」
 なるほど。『教会』内でも、いろいろあるという事だ…
「で、伝える事ってのは何モナ?」
「…奴には関わるな」
 『解読者』は一言で答えた。
 『蒐集者』の異常性は、一目見たときから承知している。
 こちらも、係わり合いになろうとは思わない。
「で、頼みたい事ってのは何モナ?」
 俺は訊ねた。代行者が、俺に何を頼む気なんだ?
「簡単なことだ。君の家にいる『異端者』に伝言を頼みたい。
 『守護者』が倒れた。彼女は律儀に要求に応えている。ほどほどにしておけ、とな」
 『異端者』とは、確かリナーの代行者としての名前だ。
 伝言くらいなら別に構わないが、内容が大いに気になる。
「『守護者』が倒れたって…どういう事モナ?」
 俺は『解読者』に訊ねた。
 彼はアゴに手を当てる。
「聞いて分かる通り、『守護者』も代行者の一人で、心優しい女性だ。
 その仕事は、吸血鬼殲滅が任務の我らとは違う。法儀式というものを知っているか?」
 知っている…と言うか、法儀式済みの武器を今も持ち歩いている。
「その法儀式は、『守護者』の手によるものなんだよ!!」
 『解読者』はアップになって叫んだ。
 どうやらこの『解読者』は、説明が好きなようだ。
「どんな波紋の達人でも、無機物に波紋を流す場合、常に手で触れていなければならない。
 だが、『守護者』は違う。彼女は、波紋を物質に固着させるスタンド能力を持っている」
 波紋を物質に固着…?
 俺は、思わず胸ポケットに入っているバヨネットのグリップを強く握った。
「そして、波紋を武器に固着させる作業を法儀式と称する。
 それは、『守護者』のスタンド『シスター・スレッジ』があってこそ可能なんだ。
 『シスター・スレッジ』は、訓練を積んだ波紋使いよりも様々な『波紋』が使える。
 そもそもスタンド自身『幽波紋』と呼ばれるくらいだからな、その波紋力も絶大だ…、とはいえ限界がある。
 千発以上の銃弾と六十本のバヨネットに法儀式を施して潜伏先に送れ、と電話で無茶を言ってきた女がいてな。
 『守護者』も律儀にその要求に応じたものだから、体力の限界で倒れてしまったんだよ」
 リナー…。
 事情は分かった。リナーに注意しておこう。
 どうせ、聞きやしないだろうが…
「分かったモナ。じゃあ、モナはこれで…」
 俺は『解読者』に背を向けて、その場から離れようとした。
「待て!!」
 『解読者』は俺の肩を掴む。
「俺と同盟を組まないか?」
 『解読者』は、意外な言葉を口にした。
 一体、どういうつもりだ?
「同盟…?」
「そうだ。俺と組んで、世界を滅ぼそうとする奴等に立ち向かおう」
 普通なら、だが断るところだが…
 『教会』側の情報が入ってくるというのは美味い話だ。
 だが、『解読者』が何かを企んでいる可能性というのも捨てられない。
 そもそも向こうにとって、俺と協力する事にメリットはないと思うが。
「モナは無力モナ。協力したって、そっちにいい事はないと思うモナ…」
 俺はそう言ってみる。
 『解読者』は、真っ直ぐに俺の瞳を見た。
「俺は、大きな権力に真っ向から対立するヤツを黙って見ていられないんだよ…
 そう、かっての俺を見ているようでな…」
 その言葉は嘘ではなさそうだ。
 涼やかな外見に似合わず、実は熱い男なのかもしれない。
 よし、俺の心は決まった!
 俺は『解読者』に右手を差し出す。
「じゃあ、協力するモナ。よろしくモナ」
「ああ、新生MMR結成だ!!」
 俺は『解読者』と熱い握手を交わした。
 何やら、不穏な単語を耳にした気がするが…

351:2003/12/21(日) 20:21

「じゃあ、俺の事はキバヤシと呼んでくれ。君はモナヤだ」
 モ、モナ屋…!?
「では行くぞ、モナヤ! MMR出動だ!!」
 どこへ行く気だ、キバヤシ!!
 状況についていけない俺に、キバヤシは言った。
「とりあえず、つーとやらの家に行くぞ!」
 …!?
 なんで、キバヤシがつーの事を知ってるんだ?
 彼の前でレモナと会話した時にも、つーの名前は出していない。
「なんで、つーちゃんの事を知ってるモナ…?」
「何!? もしかして、知り合いなのか?」
 キバヤシは意外そうに言った。
 どうやら、向こうにとっても意外な事実だったらしい。
「モナの友達で、ずっと学校を休んでるモナ…」
「ふむ…」
 キバヤシは口に手を当てる。
「これは、調査する必要があるな… 実は、昨日『蒐集者』のマンションからメモを何枚か入手したのだが…」
 それは窃盗だ。
 MMRとは犯罪組織なのか。
「そこに、つーとやらの名前や住所などのデータがあってな。とりあえず会ってみようと思ったんだが…
 君が知り合いなら話は早い。行くぞ、モナヤ!」
「おう、キバヤシ!」
 こうして俺達は、つーちゃんのマンションに向かった。


                         `ヽ.      . .; : ’                          ' ,:‘.
       N│ ヽ. `                 ヽ        _,,.-‐-..,,_       _,,..--v--..,_,:‘.      +
..' ,:‘.   N.ヽ.ヽ、            ,        }.. ' ,:‘. /     `''.v'ν Σ´        `、_,.-'""`´""ヽ  . ...:: ’‘
’‘ .;.   ヽヽ.\         ,.ィイハ       |’‘    i'   / ̄""''--i 7   | ,.イi,i,i,、 、,、 Σ          ヽ
      ヾニー __ _ -=_彡ソノ  _\ヽ、   |     !ヘ /‐- 、 .   |'     |ノ-、 ' ` `,_` | /i'i^iヘ、 ,、、   |    。
.  。     ゙̄r=<‐モミ、ニr;==ェ;ュ<_ゞ-=7´ヽ.    |'' !゙ i.oニ'ー'〈ュニ!     iiヽ~oj.`'<_o.7 !'.__ ' ' ``_,,....、 .|
 '+。.       l    ̄リーh ` ー‐‐' l‐''´冫)'./ '+。,  `|        ..ゝ!     ‖  .j     (} 'o〉 `''o'ヽ |',`i
          ゙iー- イ'__ ヽ、..___ノ   トr‐'  _,,..-<:::::\   ー- /      !  `ー フ  / |  7   ̄  |i'/.. ' ,:‘.
:: ...        l   `          ./│:: .... .. . |、 \:::::\ '' /        \ '' /〃.ヽ `''ー フ  , 'v>、.. ' ,:‘.
  ,  ,:‘.  . ヽ.   ー--‐'    ./  ト,  ,  !、\  \. , ̄        γ/| ̄ 〃   \二-‐' //`
            >、   ̄´  ./  / |ヽ            + ,,.. . /└────────┬┐ +       ’。
 ,:‘.。 .. . . ::: _,./| ヽ`ー--‐ _´.. ‐''´   ./  \、 ,:‘. 。   .. . <   To Be Continued... | |。  , .. .    +
                                        \┌────────┴┘

352丸耳作者:2003/12/22(月) 00:12
乙。
レベル高い上にペース早いですなー。
私もがんばりまつ。

353新手のスタンド使い:2003/12/22(月) 00:13
エンド・オブ・エデン

いや、なんでもない。乙。
毎回楽しみにしてますよ。

354新手のスタンド使い:2003/12/22(月) 00:52
MMRってあるじゃないですか
あれ初めて読んだとき、なんていうかその…下品なんですが…
…勃起…しちゃいましてね…






                       キバヤシ/ヽァ/ヽァ(´д`*)

355:2003/12/22(月) 01:58
>>353
○エンド・オブ・エデン

   /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::〈
   |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
   ヽ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::〈
    i::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/
   _ノ::::::::::::/´ ̄(†)ヽ:::::::::::::::::|ボウッ!!
 _)::::::::::::,゙-ノノノ)))))::::::::::::/                     ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄
 \::::::::::::ノ  ル,,゚ -゚ノi 、::::(_ < 受けてみよ!       (´∀` )<  ・・・・・・
 __)::::::::/   くj_''(†)jlつ _ゝ:::/   我が力をッ!!     ( 353 .)  \____
 ヽ::::::::ん〜''く/_l|ハゝ'´:::::::::(                 | | |
  `ヽ、::::::::::::::::し'ノ:::::::::::::::/                 (__.(__)

※都合により、全身タイツは着用しておりません。

                                      从
         ‥…─────     i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/λ,.;.;;;;)
       ‥…━━━━━      _ノ:::::::::/´ ̄(†)ヽ:::::::::::::|)''':,''::,;")
        ‥…─────   _)::::::::::,゙-ノノノ))))):::::::/)∧_∧.;;)ゴォォォォ!!
       ‥…━━━━━    \:::::::::::ノ  ル,,゚ -ノi:::::::((,",:,';,;;Д`)(
         ‥…─────  __):::::::/ くj_''(†)つ:::::/.,:';:,( つ つ_).,:
       ‥…━━━━━    ヽ::::::ん''く/_l| l|'´::::::( .,::,''::,ゝ ) )';:,'"
          ‥…─────  `ヽ、:::::::しヽ_):::::::/ :,'':::,;":し し';:,'"

356:2003/12/22(月) 01:58

                   i:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/    人ノ゙';:⌒ヽ
                  _ノ:::::::::/´ ̄(†)ヽ:::::::::::::|  .,,从.ノ';:,''::,;":;.';:)
                _)::::::::::,゙-ノノノ))))):::::::;`'"..,,从.、;;:∧';:,''::,":;.';:彡
                \:::::::::::ノ  ル,,゚ -ノi:::::_,,..、;;:〜-:''Д`';:,''::,;":;.';:ミ
                __):::::::/ くj_''(†)つ、'.".;;`;゙゙;~"~;;;~"つ';:,''::,;":;.';:)
                ヽ::::::ん''く/_l| l|'´::::::~~〜~;;彡⌒〜;;~〜 彡''"
                 `ヽ、:::::::::し'ノ:::::::/ :,'':::,;":し し'';:,'"シュゥゥゥゥゥ!!



:::::::...... ....:::::::゜::::::::::..   (___ )(___ ) ::::。::::::::::::::::: ゜ (___ )(___ ):::::::
:. :。:..... . .::::::::::::::::: _ i/ = =ヽi :::::::::::::。:::::::::::_ i/ = =ヽi ..__.:.... .... ..
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:.... .... ..   く  /     三三三∠⌒>: く  /     三三三∠⌒>.... ....
:::::::::::    ....::::::::::::。..::::.::>302 :::::.     __..::::::::::::::.__ >353  :::.............
::::::::.....  :::::::::::::::::::::      .... ...::: ::: :::: : |: | .... .:::::|; |
:::::::::::........   ..::/´ ̄(†)ヽ:::......      ::::::...:|; |....... : ::::|; |:::
        ,゙-ノノノ)))))         O二二X 二二二X二二)    ;`'"..,
        ノノ)ル,,゚ -゚ノi <・・・       |: |     .|: |    ';:,'"::,'":;.
       /,ノノくj_''(†)jlつ              |: |     .|: | ';:,''::,;":;.';:シュゥゥゥゥ…
      ん〜''く/_l|ハゝ           ,_,_|; |,_ ,_,,_,,_.|; |';:,'"::,'":;.
           し'ノ          /::::::::;;:::: :::::::::;;:::: ::ヽ ,
""""  """"""""""   """"""" """"""" """"""""""""ヾ

※ネタです。他意はありません。

357新手のスタンド使い:2003/12/22(月) 13:04
墓が増えてゆく…

358353:2003/12/22(月) 20:33
さいたま氏に埋められるなら本望よ。

よくわからない人は348を参照

359新手のスタンド使い:2003/12/22(月) 20:57
>>358
君の意思、確かに伝わったぞ。

360N2:2003/12/22(月) 23:37

          (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
           ( 一ヶ月以上新作小説の制作からドロン!していたのに復帰早々
          O ( 「オレ達のスタンドヴィジョン募集中だよ〜!」なんて言えないよなあ、、、
        ο    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ∩_∩。
_ G|___|___
   ( ; ・∀・)
――(    )―┘、          コノフトドキモノ!!   N2ヒッシダナw
‐――┐ ) )――┐         ≡≡∧,,∧   ≡≡∧ ∧
    (__ノ__ノ    . |         ≡≡ミ,,>∀<ミ ≡≡(,,・∀・)
                     ≡≡ミ_u,,uノ  ≡≡ミ_u,,uノ
                   "~"    """  :::     "~""~"
                """    :::

361N2:2003/12/22(月) 23:39

 Rising・Sun

 最強のスタンドとは何か?
 今まで数多くのスタンド使いがこの難問に頭を悩ませたことであろう。
 ある男は、かつてこう言った。
 「適材適所」
 スタンドバトルにおいて、全ての局面において優位に立てるスタンド使いなど
 そうそう存在するものではない。
 全くのヴィジョンを持たぬスタンドであっても、勢いに乗りさえすれば
 近距離パワー型のスタンドを接近戦でも簡単に打ち崩すことが出来る。
 要は相性、そして状況次第なのだ。
 最強など、本来人のこじ付けにしか過ぎないのだ。

 されど、「力」を手にした者は、自ずとその呪縛へと捕らわれてしまう。
 これも、強大な「力」を手にする上での一つの宿命なのであろうか。

362N2:2003/12/22(月) 23:41

 「お前には色々と聞きたいことがある…かつてDIOが所有していた『矢』を一体どんな経緯で入手し、何の目的で使っているのか…。
 そして何より、お前は一体どこで『石仮面』を被った?スピードモナゴン財団の者として、お前には色々と喋ってもらわなくちゃならない」
 大柄の男――空条モナ太郎は冷酷に黒マントに身を包んだ男を睨み付けた。
 モナ太郎のスタンドによって多大なるダメージを受け、黒マントの男はその場に寝転がったまま、立ち上がろうとしない。
 「どうした?白を切るつもりか?それともここで私を殺そうとでも考えているのか?」
 「私を殺す」、この言葉に反応して、黒マントの男は立ち上がった。
 先程の傷はもう癒えかけている。
 「陽が沈むまで陰からは現れようとせず、更にはその治癒能力…これでお前が吸血鬼であることが
 完全に証明されたわけだ。さあ、お前は一体、いつどこで『石仮面』を被った!?
 答えないならもっと再生のしようが無い位に叩きのめすことになるぞ」
 そう言ってモナ太郎は彼のスタンド――スタープラモナを出した。
 その力が一体どんなものであるか…それはもうスタンド使い同士の間では非常に有名な話であるし、
 もちろんこの男も承知していた。いや、むしろ彼にとっては絶対に承知せざるを得ないのだが。

 スタープラモナは典型的な近距離パワー型スタンドである。
 圧倒的なパワーとスピード、それに絶対的な正確さを誇る精密動作で敵を圧倒する。
 だが、彼のスタンドの本当の恐ろしさはこんなものではない。
 スタープラモナは、この世の時を2秒ほど停止させられるのだ。
 これによって、如何なるスタンド使いもこの間は全くの無防備となり、為す術も無く彼の前に倒れるばかりである。
                                   ザ・ワールド
 そして、彼と全く同じ能力を持った吸血鬼・DIOのスタンド『世界』を十数年前に倒したことで、
 その道では彼が今世界最強のスタンド使いなのではないか?という声が自然と耳に入る、それほどのスタンドなのだ。

 圧倒的な力が目の前に具現化したことで、黒マントの男は圧倒された。
 そして…笑い始めた。
 「クックックック…ハハハハハ、ハァーッハッハッハッハ!!」
 目の前の男が壊れ始めたのを見て、モナ太郎は怪しむよりもむしろ不気味に思った。
 そして、厳しい口調で問いただした。
 「…何がおかしい?私の質問がそんなに面白かったか?」
 「ハハハ…いや、貴様の考えが随分私のそれから大きく逸脱しているのでね…」
 「…何だと?」
 挑発的にセリフに、冷静に男と向かい合っていたモナ太郎も流石に苛立ちを感じた。
 黒マントの男は、そんなことお構いなしに話を続ける。
 「私は別に貴様を殺そうなんて考えてはいない…むしろその逆だ。貴様にこんな所で対面して、正直殺されることへの恐れで
 頭の中は一杯だ。私の能力などでは決して貴様に敵いはしない」
 「…なら大して笑うことではない」
 「…ただし、それは今現在の話だ」
 「…何?」

363N2:2003/12/22(月) 23:42

 「私が目指すもの…それは『最強』。絶対に何人たりとも到達することの出来ない究極の能力。
                                                        ・ ・ ・ ・ ・
 その座に未来永劫君臨し続けることが私の目的なのだ。既にこの世に永久に留まり続ける肉体的資格は得た。
 あとはこの能力を『最強』にしさえすれば、その時こそ私はこの世の頂点に立つことが出来る」
 「…随分と馬鹿げた話をするものだな」
 モナ太郎にとって、男の話は余りに現実味に欠けるものであった。
 100歩譲って不老不死の力は認めるものの、未来永劫『最強』の座に君臨し続けられる能力…?
 そんなもの、ありはしないというのが彼の見解であった。
 「第一、お前には既にその『私に敵わない』スタンドがある。その時点で、既に最強への道は閉ざされているんじゃないのか?」
 「…分かっていないのは貴様の方だな、空条モナ太郎。貴様ら財団が一体どこまでスタンドの知識を得ているのか
 私には分からんがな、これだけは言っておく。『スタンドは進化する』。」
 「そういうケースは私も見たことがあるが?」
 実際、彼の知り合いに3回スタンドがそのヴィジョンの変化を伴う進化をした者がいる。
 「そんな単純なものではない。私の場合は『最強への進化』だ。最強になるための道はまだ私の前に開けてはいないが、
 もしそうなれば貴様さえも私にひれ伏すこととなるだろう。…それを考えていると、今貴様が私に自分を殺そうとしているのでは、
 という言葉が非常に滑稽に思えてな…『今』でこそ私は負けているが、いずれ私が最強となった時、絶望に染まる貴様の顔を見ながら
 その胸に拳を突き立てる…その姿を思い浮かべるだけでもおかしくてな、フフ…フフフ…」
 再び辺りに響いた男の笑い声に、モナ太郎は遂に苛立ちと呆れの感情を抑えられなくなった。
 「…どうやらただの気違いらしいな。『石仮面』と『矢』のことも聞きたかったが、もうこいつからは何を聞いても仕様が無い。
 悪いが、この世のチリになってもらうぞ」
 恍惚の世界に引き込まれていた男は、その言葉で我を取り戻した。
 「そうはいかない。私は最強となるためにも、ここで貴様に敗れるわけにはいかんのだ!」
 睨み合いの姿勢となった。
 両者一歩も退かず、また攻め入ろうともしない。
 先に動いたのは、黒マントの男だった。
 彼が一歩退こうとした瞬間、そのスタンドも姿を現した。
 「アナザー・ワール…!!」

 「スタープラモナ・ザ・2ちゃんねる」

364N2:2003/12/22(月) 23:42

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 (ドォォ――――ン)
 「やれやれ、まさか逃げ出すと同時に能力を使うとは…何とも逃げ腰な野郎だな…。
 だがそうであるからこそ、今この場で始末しておかなくてはな」
 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ――――――ッ!!」
 「時は動き出す」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 「ドグわラバぁ――――ッ!!」
 再び男は殴り飛ばされた。
 「さてと、あとはお前の頭を砕き割って燃やし尽くし、日の出を待つだけだ」
 いよいよ止めを刺さんと、モナ太郎は男に歩み寄る。
 男の表情は完全に敗北の色で塗り潰されている。
 眼は完全に死に、足掻こうとする気配すらしない。
 だがモナ太郎が男の前に立ち止まったとき、彼は急に堰を切ったかのように話し始めた。
 「待った!待ってくれ!!今までしてきたことは全て謝る!だから命だけは勘弁してくれ!!」
 「…この期に及んで命乞いとは、ふとい奴だ。言っとくが、どんな命乞いをしようとも見逃すつもりはない。
 それはお前が悪人だからとか以前に、お前が人の道を踏み外した者だからだ」
 「頼む!この通りだ!」
 男は先程までの気高き態度が嘘と思えるほどに強く、頭を地に押し付けた。
 「…もう言っても分からないなら仕方ないな。死刑執行の時間だ」
 「こんなに頼んでもか?」
 「駄目だ」
 「ホントのホントに?」
 「しつこいな、駄目なものは駄目だ」
 「それなら貴様の負けだな、空条モナ太郎」
 「何ッ!?」
 余りにも挑発的な断末魔の命乞いは、モナ太郎に男が吸血鬼であることを忘れさせた。
 その隙に、男の傷はみるみるうちに癒え切った。
 男の背中からは翼が生え、モナ太郎が時を止めようとした時には既に彼の遥か上空まで逃れていた。
 「空条モナ太郎!貴様、今日のことは決して忘れはせんぞ!いずれ私が最強となった時、
 貴様には今日以上の屈辱を味合わせてやる!その日を楽しみに待っていろよ!!」
 そう言い残し、男は漆黒の闇夜へと消えていった。
 「…やれやれ、どこまでも馬鹿なやつだ…」

365N2:2003/12/22(月) 23:42

 「う、う〜ん…ってあれっ!?ここは…!」
 「…ようやく眼を覚ましたか」
 眼が覚めると、そこは海浜公園であった。
 海浜公園…そうか、相棒と戦って、最後はここに行き着いたんだ。
 「ギコ…そうだ!ギコは!?」
 「お前さんの言うギコかどうかは知らんが、そこにギコ猫が一匹寝ているぞ」
 それは紛れもなく相棒であった。
 「ギコ!しっかりしろ!!」
 揺さぶったり声を掛けたりしていると、その内にギコは目を覚ました。
 幸いにもどうやら悪霊も分解も相棒の身体には影響しなかったらしい。
 「ふあああ…よく寝た。ん、ってわぁっ!人が目を覚ました時に目の前に顔持ってくんな、ゴルァ!」
 何事も無かったかのような相棒の言葉に、これまでの緊張とか、それらが全て吹っ飛び、後には安心感だけが残った。
 全て、無事に終わったのだ。
 「…良かった」
 「は?」
 不意に、涙が頬を伝う。
 「…本当に…良かった……本当に…………!!」
 「おい、何急に泣き出してんだゴルァ!!訳分かんねえぞ!!」
 「取り込み中悪いが…」
 急に男が話に割り込んできた。
 「っててめえもてめえで何者だゴルァ!」
 「…ってか、あんた誰?」
 ギコのことばかり頭に浮かんで男のことなんぞすっかり忘れていた。
 「立ち直りが早いな…それはともかく、私はスピードモナゴン財団という所に所属している、空条モナ太郎という」
 「あ、オレは全国で売り回ってる逝きのいいギコ屋。一匹300円だから後で一匹どうです?」
 「俺はその相棒だ。こいつに付き添い続けて幾年月、今まで色んな辛いことがあったけど、二人三脚でこれまで数々の苦労を乗り越え…」
 しかし、そのモナ太郎という男は、オレの宣伝も相棒の身の上話も無視して話を進めた。
 「…私は別に、君にギコ猫を売ってもらうためにここに来たのではない。あの、『矢』を持つ男に用があったのだ」
 『時には地元の有力者に目を付けられ、不買運動を喰らいその地を立ち去り…』
 更にその言葉さえも無視するギコ。
 「『矢』を持つ男って…、例の黒いマントを被った」
 「そう、それだ。私は財団の命を受け、その男の『矢』を回収しに来たのだ」
 『時には相棒の古い知り合いに絡まれ…』
 …まだやってるのか。
 「その、そもそもあの『矢』ってのは一体何ですか?あれに刺されてから、その『スタンド』ってものが出せるようになったんですが」
 「…君のスタンドも、奴に刺されたことで発現したのか。ならば君も、もう無関係ではいられないだろうな」
 『しかしその時俺は勇敢にも叫んだ。「てめえ、こいつに手を出す気かゴルァ!」』
 ………。
 「仕方ない、教えよう。これから君達があの男に襲われるようなことがあって、何も知らないままではいけないからな…」
 『「この厨房め、逝ってよし!!」とな!ギコハハハハハ(ドグシャ)グハァ――――ッ!!」
 あっ、飛んだ。

366N2:2003/12/22(月) 23:44



 「そもそもスタンドというのは、使い手の精神が具現化したものだ。元々才能があったか…あるいは生まれ付き使える場合もあるが、
 そういう者が、何かしらの影響である日突然こういう能力に目覚めるんだ」
 「で、オレの場合は、この分解する能力が…」
 「そういうことだ。これからも君達が戦うようなことがあった時のことを考え教えておくが、スタンドと一口に言ってもその種類は様々だ。
 元々『超能力』と呼ばれるものに近いから、戦闘向きのものもあれば、争い事には全く無縁のものもある。
 だがどんなものでも、大抵は何かしらのヴィジョンを持っているものだ。人型、獣型…、あるいは機械なんて時もある。
 但し、全てのスタンドに言えるのだが、どんなスタンドでも『1人1能力』の原則には逆らえない」
 「じゃあ、俺はどう足掻いてもこのエネルギーを司る能力しか使えないってことか!?」
 急にギコが話に割り込んできた。
 さっき殴られて吐血しながら吹っ飛んだのに、何という立ち直りの早さか。
 「…基本的にはな。ただ、厳密には『1人1能力』と言うよりかは『1人1テーマ』の方が適切かも知れない」
 「1人…1テーマ?」
 「そうだ。例えば私の知り合いに、「ものをなおす」スタンド使いがいる。
 その「なおす」というのも、例えば壊れた物を「直」したり、傷付いた者を「治」したり、あるいは落ちている物を元の位置に戻したり、
 アスファルトをコールタールの段階まで戻すなんてことも出来る。つまり、スタンド自体が自分の思いによって
 この世の物質に影響を及ぼす存在なのだから、解釈次第で能力は幾らでも広がるということだ」
 「なるほどな〜。考え方1つで応用可能か…」
 「それで、他にはスタンドについては…?」
 「ああ、それにスタンドは能力以外にも分類されるものがある。それは、スタンドの操作上の分類だ。
 私や君達みたいなスタンドは、『近距離パワー型』と言って、スタンドは自分の近くにしか出せないが、パワーやスピードにとても優れている。
 だが、世の中には『遠隔操作型』というものもあり、パワーは劣るが本体の遠くまでスタンドが移動出来る。
 また『自動操縦型』というものもあり、スタンドが自分の意思を持ち、高い戦闘能力を持ちながらにして遥か遠くまで行動出来る。
 また、スタンドはヴィジョンを持つと言ったが、中には全くその姿を持たない能力だけのものもあるし、
 時には何かの物質に憑依して実体化しているものまでいたりする」
 「つまり、スタンドも十人十色、ってことか」
 「Exactly(その通りだ)」
 発音が上手い。
 日本人にしては背が高いし…どっちかの親が英米人なのか?

367N2:2003/12/22(月) 23:44

 「まあ、それでスタンドについては分かったんだが、それでその『矢』ってのは一体何なんだ?」
 「それなんだが、スタンドの発現方法にも色々あって、生まれ付きスタンドが使えた、という者も時にはいるが、
 他には自分に身近な人間がスタンド能力に目覚めたことで連鎖的に発現するケースもあるし、
 職業とか、信念とか、そんなものが時間をかけて能力となることもある。
 だが、これら自然な発現はむしろ稀な方だ。一番多いのは…『矢』に射られて発現するケースだ」
 「なるほどあの『矢』にはそんな能力が…。道理で刺された時に変な感じがしたと思ったぜ」
 そんな物がこの世に存在するだなんて、多分こんな事になる前だったら信じられなかっただろう。
 しかし、現にこうして今『矢』の恩恵を受けている事が、その話の真実性を証明する何よりもの証拠であった。
 「モナ太郎さん、それでどうしてそんな物騒な代物がこんな田舎町にあるんですか?」
 スタンドとは何か。それは分かった。
 『矢』とは何か。それも分かった。
 それでは次に知るべきなのは、『矢』の存在理由。そして、それによってこれから何が起こるのか、という事である。
 「…俺も是非聞かせて欲しい」
 さっきまでの態度が嘘のように、ギコが急に真剣になった。
 こいつにも、きっと思うところがあるのだろう。
 「詳細に付いてはまだ私も全く知らないというのが現状なのだが…、私の知る範囲では、あの男はここ数ヶ月前からこの町を拠点として活動を始め、
 日々あの『矢』でスタンド使いを増やしているというのだ。スタンド使いが増えるという事は、当然その力を悪用する者が出てくるということだ。
 だから我々もこうして奴から『矢』を回収しようとやって来たのだ。
 しかし謎なのは、一体奴が何の目的があってスタンド使いを増やしているのかということだが…」
 「それは部下を増やす為だぜ」
 急にギコが喋り出した。
 「あいつは言っていた。『私は「最強」となる為にスタンド使いを増やしているのだ』ってな。
 一体そこにどんな関係があるのかは知らねえが、奴は『矢』でスタンド使いを増やした後、自分の気に入った奴を
 洗脳して自分の言いなりにしているんだ。俺もそのせいで…!」
 喋っているギコの表情が険しくなっている。
 ここまで言うということは…、恐らく洗脳中の記憶が残っているという事だろう。
 自分の行った大量虐殺までも…。
 「なるほどな…私もさっき奴の口から、『最強』という言葉を聞いた。
 奴は『最強』となる為に、スタンド使いを増やしている、これで間違いないのだな?」
 「ああ、恐らく」
 「さてと、それでは今日は急に話を聞かせてもらって悪かったな。これから何かあった時に備えて、携帯の番号を渡しておく。
 そう言ってモナ太郎さんは、手帳に番号を書くとそれをちぎってオレに渡した。
 「では、何かあったらすぐに連絡をくれ。…そうだ、大事な事があった。奴は吸血鬼だ」
 「吸血鬼!?」
 スタンド使い、『矢』と来て今度は吸血鬼?
 もうここまで来ると、信じるとか疑うとかそんな気持ちさえ浮かばない。
 「私はかつてとある吸血鬼のスタンド使いと戦ったことがあってな、その時に色々知ったのだが、奴ら吸血鬼はどんな傷を受けても
 頭を砕く位のことをしなけりゃ決して死なないし、それにすぐにその傷も治ってしまう」
 「そんな…じゃあ打つ手無しじゃないですか!」
 「但し、そんな吸血鬼にも弱点があってな…、奴らは太陽の光とか紫外線とか、後はそれに準ずる『波紋』というエネルギーに弱い。
 それを喰らうと、たちまち身体は崩れ落ちていってしまうのだ。
 まあこの『波紋』についてはそれ相応の修行が必要だと聞いているから、当てには出来ないがな」
 「…でも向こうもみすみす陽の出ている内にやって来てはくれないでしょうね…」
 「だから、今の内は出来るだけ奴らとの関わりは持たない方がいい。吸血鬼はその身体能力だけでも人間を遥かに超越しているからな…」
 …何とも恐ろしい敵に目を付けられてしまったものだ。
 本当にこのまま無事に生きていられるのだろうか。
 「我々としては、このまますぐにこの町を去るべきだと忠告しておくが…そう言えば、君の連れはどこへ行った?」
 そう言えば、あいつの姿がさっきから見えない。
 ひょっとしたら…。

368N2:2003/12/22(月) 23:44

 日も暮れ、明かりの無い倉庫の中には生臭い血の臭いだけが漂っていた。
 ギコはそこで、自分の業を自分自身の目で確かめていた。
 「…やっぱりそこにいたのか」
 オレが声を掛けると、ギコはちらりとこちらを向いて、またオレに背を向けた。
 「…なあ相棒、やっぱりこれは、夢じゃなかったんだな」
 「…ああ」
 自分でもこの惨劇を肯定したくなどない。
 洗脳されていたとは言え、これが相棒の手によって引き起こされたことに違いはないのだ。
 「…ギコ、あのさ」
 「相棒」
 「…何?」
 「俺はあの男に捕らえられ、そして洗脳された結果、こんな償いようのない大罪を犯してしまった。
 いくら俺自身のせいではないと周りから言われようとも、俺の中での罪の十字架は決して消えることはないだろう」
 「………」
 「…だがな、俺も幸か不幸か奴と同じ力を手に入れたんだ。俺は今、奴と同じ土俵に立っているんだ。
 ここでもしこのままこの町から去れば、俺は一生この罪の償いようを失っちまう。
 お前が何と言おうとも、俺はこの町に残って奴との決着を付けるつもりだぜ」
 「オレだって、勿論ギコと同じ気持ちさ。
 こうやって事件に関わっちまった以上、けじめを付けなきゃ『逝きのいいギコ屋』の名が廃るってもんさ!
 …ということですよ、モナ太郎さん」
 モナ太郎さんもオレを追って倉庫の入り口に来ていた。
 その表情は、どことなく厳しい。
 「そりゃオレ達はスタンドに付いてはド素人ですし、吸血鬼となんかと戦えるほどの力だってありはしません。
 でも、オレ達は何かの縁でやって来た土地でただ商売をさせて貰うだけじゃなく、何かの形で恩返しをしなきゃいけない、
 それがオレ達の義務だって考えているんです。…随分と浅はかな考えだとは分かっていますが…これがオレ達の意思です」
 最後までオレ達の話を聞いて、なおモナ太郎さんの顔は厳しかった。
 だが、ふっとその顔から笑みがこぼれた。
 「…君達のことだから、きっとそういう答えが返ってくるだろうとは薄々感付いてはいたよ。
 分かった、君達にも我々に協力してもらおう。それでいいんだな?」
 「モチロンのロンモチだからな!」
 「ッたり前だゴルァ!」

369N2:2003/12/22(月) 23:46



 「ときに相棒」
 「何だギコ」
 「お前そう言えばスタンドの名前考えてないのか?」
 「…あ」
 そう言われてみればそうだ。
 相棒はもうさっきの戦いの時点で名前を付けていたじゃないか。
 「えーと、えーと、あああああどうしようどうしようどうしよう」
 「お前なぁ、名前ってのはそんなに根詰めて考えても浮かぶじゃねえぞ。
 俺なんかの場合にゃフィーリングだよ、フィーリング」
 「なまえなまえなまえなまえうわあああ」
 「…お前、頭堅いな」
 そんないきなり名前なんて言われても…というオレの目に、ある洋品店が飛び込んできた。
 閉店間近なのか、店のガラスには「在庫一掃セール」のポスターがわんさかと…。
 これだ!!
 「よし、決めた!『クリアランス・セール』!!」
 「…くりあらんす・せーる…?」
 何を言っているんだこいつは、と言わんばかりの呆れ顔だ。
 「そうだよ!この名前はオレにぴったりじゃないか!『在庫一掃セール』という名前はまさしくオレの職業に合ってるし、
 それに『Clearance』は消すという意味の単語『Clear』と縁が深いから、これは分解してキレイサッパリにするというオレの能力にもまさにぴったり…」
 「フーン…プッ…クックック…アーッハッハッハッハ!!!!」
 「ギコ!何がおかしい!!」
 「だってよ、お前のそのネーミングセンスがあんまりにも厨臭くてよ…あー腹が痛ぇ」
 「…全く」
 何もこんなに爆笑することだってないじゃないか。
 これでも結構いい線行ってると思ったのに。
 …でも、ギコの心の傷がこれで少しでも癒えてくれるなら、その方がずっといい。
 「…そうかな、私は結構いい名前だと思うぞ」
 オレのセンス理解してくれる人キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
 さすが、格好いい人は目の付け所が違う。
 「ちょっとちょっと空条さん、あんたいくら何でもそりゃないでしょ。だってこいつが付けた名前ですよ」
 …何て言い方だ。今までこいつのことを心配して損した。
 「フフ、まるで兄弟ゲンカのようだな。…いや、むしろ君達は実の兄弟のようにさえ思えてくるよ。…君達は仲がいいな」
 オレ達の事が兄弟みたいだなんて…そんな風に言われたのは初めてだ。
 でもこれまでずっと一緒に過ごしてきたんだ、確かにそう言われればそうかも知れない。
 けれど今のモナ太郎さんの目…どこかオレ達のことを凄く羨んでいるような…遠い目をしていた。
 …ひょっとして、家族関係がうまくいっていなかったりしているのだろうか…?
 ま、他人の家庭の事情にあんまり首を突っ込むのも良くないことだし、これは気にしないでおいた方が良さそうか。

370N2:2003/12/22(月) 23:46

 「んじゃそろそろ帰るぞギコ…ギコ?」
 ギコの顔色が悪い。オレの言葉がまるで全く耳に入っていないかのようだ。
 「おい、ギコ!どうかしたのか?…まさか、また…」
 「…何てこった」
 「…は?」
 「大変だ相棒、今から奴のアジトに突っ込むぞ」
 「………は??」
 何言ってんだこいつは。
 「おいギコ、ついさっきモナ太郎さんが『奴らとはなるべく関わりは持つな』っていったばかりなのに…」
 「…何だかんだあってすっかり忘れてたが、このままじゃどうなるか分からん!」
 「いや、だからさっきからお前は何を言ってるんだっつーの!」
 「だから、俺の兄貴が奴らに捕まってるんだ!!」
 「・ ・ ・ ・ ・ ・」

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371N2:2003/12/22(月) 23:47

 「ちょっと待った、オレはお前に兄貴がいるだなんて知らないぞ!」
 「…あれ?言わなかったっけ?」
 そう言えば、昔ギコが言っていたような気がする。
 確か、両親が離婚して生き別れになった後、飛行機事故に巻き込まれたとか…。
 あれ、アルカモナズから青汁とドクターペッパーを100個ずつくすねて脱走したまま行方知れずになったのかな?
 いやそれとも、3億円事件の真犯人だって言ってたのか…?
 ん?小さい頃ミャンマーの王子に謁見して炎の紋章を探すよう命じられたんだっけ?
 ああそうだ!彼はビッグバンを超えてやって来た覚悟を決めた幸福な人間なんだ!!
 …ギコの兄貴よ、お前は一体何者なんだァ――――ッ!!
 ってんなこと言ってる場合じゃない!
 「そ、それじゃあお前の洗脳が解けたってことは、もう…」
 ギコの兄貴は始末されてしまったのか!?
 「いや、それはないな。むしろ奴らは兄貴を生かしておくことで、俺らが自分からやって来ることを狙っているんだろう」
 何てこった…。
 ようやく相棒探しに決着が付いたと思ったら、今度はギコの兄貴救出だとは…。
 「…やれやれ、この様子だとまだ一悶着ありそうだな…。仕方ない、私も同行しよう」
 「おお、それは助かるぞ!!それと決まれば、いざ特攻!2人とも遅れんなよ、ゴルァ!」
 まあ、そりゃこの様子だとあの男を追っ払う位の実力があるんだったらきっとモナ太郎さんはもっと強いんだろうけどさ…。

372N2:2003/12/22(月) 23:48

 「…あれ、ちょっと待てよ?」
 「おい、どうした相棒?」
 「あのさ、オレ達これから敵のアジトに突っ込むんだろ?」
 「ああ、その通りだが?」
 「じゃあさ、ひょっとしてこのままあの男と最終決戦の可能性も大有りってことか!?」
 「んー、そうなんじゃないか?」
 「…って、まだこのギコ屋編が始まってから5話しか経ってないぞ!!」
 「話の長さなんて関係あるか!!」
 「この1ヶ月位ずっと連載滞ってたのにか!?」
 「んなもん俺たちが知ったことか!さあ行くぞ、いざ奴との最終決戦へ!!」
 「待てよギコ!じゃあせめてもう少し奴の手下とかと戦ったりしてから突っ込もうじゃないか!!
 こんなタイミングで話が終わったら、まさしくうt…」
 「さー忙しくなってきたぞー!!奴をヌッ殺したらギコ屋編打ち切りだー!!」
      ∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
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.      |〃、!ミ:  u -─ゝ 、   _ _ . l      .  i::::::::::::::::::〃   , /ヾ  ヽヽ:::::i'
      !_ヒ;    L(.:)_ `ー'"〈:)_,` /..           i::::::::::::::〃;;::-‐…ー‐‐----::::::,,,;;i
      /`゙i u       ´ u   ヽ u !..        i::::::::::;=-''",::::::--、 --+;;:::::::.:...._ ~''-、
    _/:::::::!   u          ,,..ゝ!.        _|:::::::( ,ヾ:;;;::..,,_ ,.〉 | 《   __,:::::::ヽ ヽ
_,,. -‐ヘ::::::::::::::ヽ、u    r'´~`''‐、 u /          / 、ヾ:::::;i. 、_;;三ヾ!、 i._/,:::::;;;;;ゞ''7:::::ソ ,/
 !    \::::::::::::::ヽ  u `ー─ ' /         〉 ,) ':/ ,:,<l: j'>' )  ソ;'ィ-r、={;;/^'Y´
 i、     \:::::::::::::::..、  ~"u /           ( ::;ゝ 《   `~´ ''"i, ,:;i.ヾ'ー'=' ,l/.ィ/
 .! \     `‐、.    `ー:--'...            ゙ー=;;i  l; u    /  '、   u ,イ::;;i'
                              !::;::;:l; :! ,; u   '、  〉   ;' !;;;ノ
                           _,,,:::=!;:::!:i.   l'   _ 」' ´_ u ヽ i'/
                         <''::::::://:|;::!''ヽ  i  (:-‐=w=‐-;,  |,//
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  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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373新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:29
貼ります。

374新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:30
     救い無き世界
     第二話「出会い・その一」


 それは小さい頃の思い出。

 怖い夢を見て泣きじゃくる俺を母親は優しく抱き締め、
一緒の布団で眠ってくれた。

あったかくて、安心で、幸せだった。

その時の母親はとても大きな存在に見えた。
両親がどんな時でも俺を守ってくれると信じきっていた。
子供だった俺にとって、母親は神様も同然だった。
いつまでもこんな日が続くと思っていた。
いつまでもこんな日が続けばいいなと思っていた。

だけど、そんな日は長く続かなかった。
そんな日が二度と来ることはなかった。
そんな日がまた来るとは思えなかった。

もう戻れないあの頃。
もう手に入らない幸せ。

俺は声を出すことも出来ずに、ただ哭いていた。


(・・・・・・・・・・・・・)
 目を開けると、見たことのない少女(俺と同じ位か?)の顔が
俺の目に映った。
「!気がついたんですね。良かった・・・」
(・・・天使?て事はここは天国か・・・・・・?)
 だが、どうやらそうでは無いみたいだ。
 見慣れた子汚い裏路地に、俺は横たわっていた。
 お馴染みの掃き溜め。
ここがもし天国というなら、ずいぶんと公衆衛生が行き届いてない。
 神様の職務怠慢だ。
 
となれば、俺は生きているということになる。
 あのナイフは運良く急所を外れたのだろうか?
 俺は腹の傷口を確かめようとした。
「だめです!まだ傷が完全に塞がってないから、
 動かないでください!」
 傷口が塞がる?
 おかしな事を言う女だ。
 結構深くナイフは刺さったのだ。そんな一朝一夕に治ってたまるか。
 こいつ俺を化け物か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな。

375新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:31
しかし妙だ。
 腹部からは殆ど痛みを感じない。
 あれだけ深い傷を負ったのだから、それなりに痛いはずだ。
 よくアドレナリンが出ていたら痛みをあまり感じないと言われるが、
 今そんなにアドレナリンが出ているとも思えないし、
 仮に出ているとしても、これほどの効果があるかは怪しい。
 だったら何で・・・
(・・・・・・・!!!!!)
 よく見ると、俺の腹の傷の辺りに、
変な奴が手を当てているではないか。
 そいつは、多少姿は違うが、
この前の夜にあった「化け物」に似ていた。
 俺はすぐさま跳ね起きて、逃げ出そうとした。
 が、やめた。
 こいつがもし俺を殺そうとするつもりなら、
 さっき気絶してたときにやってるはずだし、
 何よりこいつからはあの「化け物」のような
 底知れぬ悪意を感じなかったからだ。
(暖かい・・・)
寧ろこの感覚は、まるで母親のごとき優しさのようで、
 それが傷口に触れられた手から、
直接体や心の中に流れ込んでくるみたいだった。
 さっきあんな夢を見たのは、このせいだろうか。
「・・・終わりました。もう大丈夫です。」
 少女がそう言うと、さっきまでいた変な奴が一瞬で掻き消えた。
 そして俺に安心したような表情を見せると、
 そのまま地面に倒れこんだ。
 慌てて顔を覗き込む。
 少女は気を失っているようで、
蒼白の顔にじっとりと脂汗が滲んでいた。
(何だってんだよ、これは。)
 俺の傷はすっかりと治っていた。
 代わりに、少女が倒れている。
 状況が上手く判断出来ない。
 体の痛みは消えていたが、今度は頭が痛くなっていた。

376新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:32
 俺の横で猫が眠っている。
 いや、おそらく一般的に認識されている「猫」とは
 全く違うであろう。
 だが、今のこの姿は紛れもなく唯の猫である。
 なので、一先ずこいつは「猫」と呼ぶことにしておく。
「・・・にゃあ・・・」
 どうやら「猫」が目を覚ましたようだ。
 猫はしばらくボーっとした後、
自分の姿が「猫になっている」と気付いたらしく、
慌てて逃げようとした。
が、俺は「猫」の首の後ろを掴んでそれを阻止した。
猫はジタバタと必死に抵抗する。
気の毒ではあるが、逃げられては困る。
こいつには聞きたい事が山ほどあるのだ。
『君の正体はもう分かってる。
悪いけど、逃げる前にいくつか質問させてくれないか。』
俺は地面に指でそう文字を書いた。
「にゃあ・・・」
 猫は観念したのか、暴れるのを止めた。
 もう逃げる気は無さそうなので、
俺は猫から手を放してやることにした。
 
猫はしばし躊躇した後、くるりと後方宙返りをした。
次の瞬間猫の体がドロンと煙に包まれ、
 その中から「少女」が姿を表す。
 信じ難い光景である。
 先程少女が倒れて、「猫」へとその姿を変えていくのを見たとはいえ、
 常識では考えられない出来事だ。
 気の弱い人なら卒倒しているに違いない。
 俺は取り敢えず少女に空き缶に入れた公園の水を渡してやった。
 少女は水を受け取ると、一気に飲み干す。
 さっきは真っ青だった顔が少し生気を帯びた様子である。
 体調は、少しは良くなっているみたいだった。
「ごめんなさい・・・何度もご迷惑をおかけしてしまって・・・」
 少女は済まなそうに俺に頭を下げた。
 俺は少々バツが悪くなった。
 確かに俺はこいつを助けてやったが、
それは俺の勝手でやったことで、そのことで謝られる筋合いなどない。
『別にいいよ。それより体はもう大丈夫なのか?』
 俺は照れ隠しに急いで地面に文字を書いた。
「あ・・・はい。もう平気です。ご心配かけてすみません。」
 少女はそう言ったが、まだ少し無理をしているようだった。
『そうか。ならいいけど。
 それじゃ、ええと・・・・・・』
 俺はそこで言葉に詰まってしまった。
 どうやって俺の傷を治したのか、
 あの化け物は何なのか。
 なぜ猫に変身出来るのか。
聞きたいことが山のようにありすぎて、上手くまとまらないのだ。
 気まずい沈黙が、その場を支配した。

377新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:33
「あ・・・あの、私は猫又のみぃと言います。
 危ない所を助けて頂いて、本当にありがとうございました。」
 少女は堪えられなくなったのか、自分から口を開いた。
 俺に深々と二回目のお辞儀をする。
 律儀な奴だ。
 こっちが申し訳ない気分になってしまうじゃないか。
『猫又?』
 でも向こうから会話のきっかけを作ってくれたのはありがたかった。
 会話を途切れさせない為に、俺はすぐに質問を返す。
「はい、そうです。
 猫又というのは、長く生きた猫が妖怪になったもので、
 人間に変身したり、いろいろ不思議な力を使えたりするんです。」
 成る程。確か昔見た絵本や昔話に、そういうのがあった気がする。
『何で正体が猫ってばれて、いきなり逃げようとするくらいなら、
 わざわざ俺の前で変身した姿を見せたりしたんだ?』
 俺は質問を返す。
「それはその・・・猫又にはむやみに正体をばらしてはいけないという掟があって、
 でも、あなたにはきちんと言葉でお礼を言いたくて・・・」
 しどろもどろになる様が、少し滑稽だった。
もちろん普通なら、自分がそういう生き物だなんていう奴は、
 電波を受信してるキチガイか、妄想癖のあるDQN位だろうから、
 黙って放置しとくところだ。
 が、目の前で実際に人間に変身するのを見せられたのでは、
 嫌でも信じてしまう。
 しかし長く生きた猫といったが、いったいどれくらいなのだろうか。
 もしかしたら、この少女は俺よりずっと年上ということも有り得る。
『さっきいた変な奴も、君の言う猫又の力ってやつなのか?』
 本当は『君って幾つ?』と質問したかったのだが、
 流石に初対面の女性にこんな質問をするのは憚られるし、
 ナンパをしてると勘違いされても困るので、止めておく事にした。
「いえ、確かにあれは私の持つ特殊能力ですが、
 猫又特有の力か、と言われたらそうではありません。
 あなたもあれを、『スタンド』を扱えるのがその証拠です。」
 俺があの力を使える?
 そんなはずは無い。
 今まで生きてきた中で、あんな化け物みたいなのを使ったことなど
 一度たりとも無いではないか・・・
 
待てよ、違うぞ。「一度だけ」あるかもしれない。
 あの時の俺の「腕」、まさか、「あれ」がそうだというのか?
 じゃあ、おっさんの中から出てきた奴も、もしかしてそうなのか?
 「俺の腕」が「奴の腕」に変わったのも、それと何か関係しているのか?
 あの時、奴は確か俺にこう言った。

「お前の体を貰うぞ。」
 
 まさか、それはまさか・・・

378新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:34
「・・・『スタンド』というのは分かりやすく言えば、
 その人の魂の具現化であり、一種の才能みたいなものなんです。
 だから、人それぞれが違う個性を持っているように、
 その力も千差万別です。
あ、あと『スタンド』は基本的に
 『スタンド使い』にしか見えないんですよ。」
 みぃの言葉が、俺を現実に引き戻した。
「・・・どうしました?
 まさか、まだ体の具合が悪いんですか!?」
 みぃが俺の顔を覗き込んで来た。
 お互いのの顔が触れそうな位に近づいて、俺は思わず距離を取る。
『何でもない。それじゃ、俺の傷を治したのは、
君の『スタンド』とかいうやつの力なのか?』
俺はさっきのことは考えないことにした。
というより、考えたくなかった。
「はい。自分の生命エネルギーを他の者に与える。
 それが私のスタンド、『マザー』の能力です。」
 自分の生命エネルギーを他人に与える能力。
 そうか、それなら俺の傷を治した後、
いきなり倒れたというのも納得がいく。
あれだけの傷を完治させるのだ。
かなりの量の生命エネルギーが必要だったはずだ。
だがここで、一つの疑問が浮かび上がった。
『そんな力が使えるんなら、
 さっき捕まってた時『スタンド』を使って
 逃げれば良かったじゃないか。』
 これは重要な質問である。
 もし「スタンドを使うのを忘れてました」などという答えが返ってきたら、
こいつも馬鹿だが、そのせいで死に掛けた俺も大馬鹿になってしまう。
「・・・私のスタンドには、抵抗するだけのパワーは無いんです。
スタンドがあったって、私はどうしようもない位に無力なんです・・・」
 みぃは静かに首を横に振って、そう答えた。
表情が明らかに暗くなる。
 ヤバい。
 何か知らんが思い切り地雷を踏んでしまったようだ。
 俺は何かまずい事を聞いてしまったのだろうか。
『で、でも、その力のおかげで俺は死なずに済んだんだから、
 丸っきり無駄な力って訳でもないだろ。』
 必死にフォローするが、みぃの表情は曇ったままだった。
「・・・ごめんなさい。
 余計な気を使わせてしまって。
 何でもないんです。何でも・・・」
 明らかに何でもある。
 だが、俺はそれ以上深く追求することは出来なかった。

379新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:34
『・・・最後に一ついいか?』
 俺は話題を変えることにした。
『何で、俺なんかをわざわざ助けたりしたんだ?』
 俺の質問に、みぃはやや驚いた様子だった。
「え・・・もしかして、私何か余計な事をしてしまいましたか・・・?」
 みぃは恐る恐る俺に訊ねる。
『いや、そんな事はない。
 けど、下手したら俺の代わりに自分が死ぬかもしれなかったんだぞ。
 俺なんか放っておいてさっさと行こうとか考えなかったのか?』
 これが、俺の一番の疑問だった。
 俺みたいなでぃ、助けたところで一文の得になるとも思えない。
 なのに、何故?
「それは・・・あなたが、私を助けてくれたから・・・」
 有り得ない。まさかたったそれだけで、俺を助けたとでもいうのか?
 こいつ底抜けの馬鹿か?
『馬鹿馬鹿しい。恩返しのつもりか?
 そんな事して、いったい何の役に立つって言うんだよ。』
 俺はつい、言葉を荒げてしまった。
俺の言葉に、みぃはとても哀しそうな顔になった。
今にも泣き出しそうなその顔にを見て、
激しい自己嫌悪に苛まれる。
何故こんな言葉を伝えてしまったんだ。
そんなつもりじゃなかったのに。
「じゃあ・・・じゃあ何で、あなたは私を助けてくれたんですか?」
 みぃの必死に投げかけた言葉が、俺に突き刺さった。
言い返せない。
そうだ、俺は何でこいつを助けたのだろう。
他人を助けたって何にも良い事は無いってことは、
身にしみて分かってた筈じゃないか。
なら、何で俺は、こいつを・・・

380新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 04:35
「ストロベリってる所悪いが、そこのでぃ、ちょっといいか?」
 不意に声が掛けられた。
 俺は反射的にそちらに顔を向ける。
 そこには、歩く猥褻物陳列罪といった形容詞の似合う
風貌の男が立って(勃って?)いた。
「俺の名はマララー。
 お前が痛めつけてくれた奴の、兄貴分だ・・・」
 俺に向けられる研ぎ澄まされた殺意。
 奴が言うにはあのチンピラ三人組の兄貴分らしいが、
 あいつらとは明らかに格が違うことが、
 その体から漂う威圧感から感じる事が出来た。
「あいつ、全治三ヶ月なんだとさ・・・
 それで最低でも二週間はベッドの上に寝たきりらしい。」
 そんなの知った事か。
 あいつも俺を殺そうとしたんだ。
 自業自得ってやつだろう。
「かわいい弟分だった・・・
 いつもマララーの兄貴、兄貴っつてな。
 そんなあいつが今病床で苦しんでるって思ったら、
 それだけで悲しい。
とてもとても悲しい。
 俺の心には、悲しみという名の穴が開いちまった・・・」
 マララーとかいう奴の体が小刻みに震え始めた。
殺意が、大きくなる。
 みぃが思わずたじろぐ。
みぃはすでにそのプレッシャーに呑まれかけているようだった。
かくいう俺も、内心では圧倒されまくっている。
「この!心の穴は!!貴様の死で!!!埋めてやるぜ!!!!」
 奴の震えが、止まった。
 あまりの緊張感に、周りの景色が歪むような錯覚に陥る。
 もし今逃げようとしても、背中を見せた瞬間に
こいつは必殺の一撃を背後から叩き込んでくるだろう。
そう思わせるだけの凄みがこいつにはあった。
闘いは避けられそうになかった。
理性的に話を聞いてもらい、平和的解決を望める相手とは
毛の先ほども思えない。
「妙な力を使うと弟分達から聞いたが、それが自分だけだと思うなよ・・・」
奴の背後に、俺や、みぃのとは違う「化け物」の姿が現れる。
「気をつけて!!あの人も『スタンド使い』です!!!」
みぃが叫ぶ。
「喰らえ!!!『デュアルショック』!!!」
みぃの叫びとほぼ同時に、マララーが俺に向かって一直線に突っ込んで来た。
やるしか・・・ない・・・!!
 

 TO BE CONTINUED・・・

381新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 13:35
>>380
乙。
誰もいないの?

382新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 19:41
乙ー

383神々の遺産:2003/12/23(火) 19:48

「うっ・・・・」
「よかった。気づいたみたいだ。」
ギコは頭を左右に振る。
「ここは・・・?」
「ここ?俺の家だけど。」
ミニギコが去った後、俺達はとりあえずギコを家に運んだ。
元気はないが、こうやって起き上がってくれたのでホッとする。
ソフィアとロングコートの男は、ギコに応急処置をした後、「また後で。」と言って、どこかに行ってしまった。
一体なんだったんだ・・・?
そんなことより、今はギコのことが気になった。
「なぁ、あれは一体なんだったんだ?」
「・・・?何のことだ?」
ギコは、何のことか、心底分からないというような顔をした。覚えてないのか?
「・・・・覚えてないのか?」
ギコは黙って俯いてしまった。
「じゃあ、何か覚えていることは?」
「ソフィアと目が合うまでなら。」
そうえば、その時からギコの様子が変わった。
いつものギコなら絶対に見せないような表情。
怒りと殺意が混じった表情。
一体・・・・ソフィアは何をしたんだ?
ソフィアは、俺達の何を求めているんだ?

ジリリリリリリリリリリ!!

俺は二つの目覚し時計を止めた。
カーテンの隙間から光がこぼれる。
ゆっくりと上半身を起こした。
部屋を見回す。・・・・・いつもの部屋だ。
俺は、ベッドから降りて壁にかけてあるハンガーから、
俺の通っている高校の制服を取り、パジャマから着替える。
真っ白なこの制服はこの高校特有なもので、他の高校にはない。
どこにいても目立つ。非行防止のためなのかもしれない。
・・・・・何考えてんだ?俺。
いつもの朝、いつもの部屋、見慣れた制服。
変わっているものは何一つない。しいて言うならば、誰かに見られている、そんな気がする。
「・・・・・・」
まぁどうでもいいか、そんなことを考え、部屋を出ようとすると

ゾク

身体に悪寒が走る。部屋をもう一度見回した。
ベッド、机、本棚、MDコンポ。隠れられるような場所は何一つない。
シンプル・イズ・ベスト。
「・・・・・・」
まぁどうでもいいか。見られていてもそんなに困らないと思う。多分。
階段を下り、リビングに出る。
誰もいない。父は仕事で海外だし、母は死んでしまった。
俺は冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、それをそのまま飲む。
ジリリリリリリリリリリリリ!!
目覚し時計がまた鳴っている。ちゃんときってなかったか・・・。
ピピピピピピピピピピピピ!!
別の目覚ましが鳴っている。いつも二つセットしているのを忘れていた。
ジリリリリリリリリリリリリ!!
ピピピピピピピピピピピ!!
あぁうるさいなぁ。分かったって。今行くから。
ジリリリリリリ!!
ピピピピピピ!!
まだ鳴っている。まったく仲のいいやつらめ。ラブラブだよな。
「・・・・・!!」
時計の表示に目が行く。ヤヴァイ、遅刻する!!

384神々の遺産:2003/12/23(火) 19:49

家の門を背に、外に出るまでジャスト三分。その間、俺は歯を磨き、顔を洗ったのだ。
我ながら素早い。
住宅街に、人影はまったくない。この時間帯は誰も出てこないのである。
何気なく上を向いてみる。何か空がやけに綺麗に見える。
足早に歩いていると、いつもの交差点に着く。
何かいい匂いがする。上向きだった視線を下に向ける。
「おはよう、黒耳君。」
そこには幼馴染のつーが目の前にいた。
「つー?今日はやけに遅い出発だな。」
セーラー服をそのまま真っ白にして、襟と袖は黒。胸の所には薄いピンクのリボンがついている。
その上に薄い黄色のカーディガンを着ている。もうそんな時期なのか・・・・・
「えへへ。ちょっと寝坊しちゃって。」
間延びしたソプラノの声で返事をし、人懐っこそうな笑顔を浮かべる。
「急がないと遅刻するぞ。」
この交差点で俺たちはよく会う。しかし、待ち合わせをしているわけではない。
いわゆるランデヴーポイントなのだ。
しかし、いつもはこんな遅い時間では会わない。
まぁ本人も寝坊したと言っているのだから、多分そうなのだろう。
「・・・?、どうしたんだ?そんなにニヤニヤして?何かいいことでもあったのか?」
さっきからつーがニヤニヤしているのがやけに気になった。
「だってぇ・・・、この時間に会うなんて珍しいじゃない?・・・だからぁ、何かうれしくて。」
つーとは幼稚園も、小学校も、中学校も、高校、クラスまでも一緒で、小さい頃はいつも一緒に遊んでた。
そんなもの、偶然にしちゃあ凄すぎる。ほとんど運命?みたいなものかも――――
その瞬間、視界が混濁した。
「だっ、だいじょーぶ!?」
思考が止まる。いろいろなことが頭の中に流れてくるような気がする。
バチッと音が鳴った気がした。漆黒の靴が見える。
つーの靴だ。俺は・・・倒れているのか?
目の前がグルグル回っている。視界と意識がグチャグチャになる。
・・・耳君!
・・・・・ろ耳君!
誰の声なんだろう?まったく分からない。
「黒耳君!!」
俺はビクンっとして頭を上げる。石鹸のいい匂いがする。
つーが俺の肩を揺すっている。
「しっかりして!黒耳君!?」
何か癒される気がした。身体も、傷も、心も。
「あ、あぁ。だいじょーぶだ。」
俺は返事をする。
いつもの景色が広がっている。違うのはつーの顔が目の前にあることだけ。
「ホントに?ホントにだじょーぶ?病院行く?」
心配そうな顔をしてこっちを見てくる。少し涙目になっていた。そういう性格なのだ。彼女は。
「だいじょーぶだって。ちょっと目眩がしただけだ。」
「ホントにぃ?」
「うたがり深いな。このままマラソンでもいけそうな感じだ。」
とまぁ、言ってみたものの、俺にマラソンなんかできるわけない。そんな体力など皆無だ。
「ほらさっさと行くぞ。でないと本当に遅刻しちまう。」
つーを急かして俺は走った。
「あっ、待ってよぉ!」

385神々の遺産:2003/12/23(火) 19:49

情けないことに息がすぐに上がった。
俺がぜいぜい言っているのに、つーは全然余裕そうだ。
ちくしょう、ちゃんと運動はするべきだな。
俺とつーは学校に着くまでとりとめのない話をしていた。
そんなとき、ソフィアは俺とつーの前に現れた。
ソフィアがつーを睨む。
つーはビクっと震え、俺の後ろに隠れる。
「・・・・何のようだ?」
俺は威嚇するように低い声で言った。
ソフィアは、俺のことなど全然気にしていないようにつーをじっと見ている。
「へぇ・・・・、彼女がもう一人の・・・・・。」
つーはまたビクっとする。
俺は、無言のままつーの手を引っ張り、ソフィアを通り過ぎようとした。
すると、ソフィアが俺の腕を掴み、俺の手のひらの中に何かを渡してきた。
俺は自分の手のひらを広げ、渡されたものを見た。
それは、まるで血の色のような輝きをしている赤い水晶だった。
「それが『ゾハル』よ。」
『ゾハル』?昨日のミニギコとソフィアが話していた?
何でその『ゾハル』を俺に渡すんだ?
ソフィアは、俺に『ゾハル』を渡すと、すぐどこかに行こうとしていた。
「お、おい!」
ソフィアがこちらに振り向く。
俺は突っ返す『つもり』だった。
しかし、ソフィアが振り向いた時、俺はそれをすることが出来なくなった。
なぜなら、ソフィアが今にも泣きそうな顔をしているからだ。
俺は言葉が詰まってしまった。
そんな顔をされたらいらない、なんて言えないじゃないか。
そんな俺の口から出た言葉は
「・・・・・・ありがとう、大切にする。」
ソフィアはありがとう、と言って歩き出した。
ソフィアの後姿は、とても儚く、消えてしまいそうな気がした。
俺はもう一度『ゾハル』を見た。
俺の手の中で赤く光っている。血のように赤く、赤く、赤く。
まるで、俺のたどる道が血に染まっていく運命なのだと、そう告げるように、赤く。
俺は考えるのをやめた。早く学校に行こう。遅刻する。
俺はつーに声をかけ、学校への道を走った。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

386新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 20:29
つーっぽく無いと思う・・・。
どちらかというとしぃっぽい。

387新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 21:47
合言葉はwell kill them!(仮)第五話―王牙高校の人々

ジリリリリリリ・・・・。
ああ、何時もの様に無機質な目覚ましの音が響いている。
ジリリリリリリ・・・・。
ぐわっしゃあああん!!!
・・・また壊しちまった、これで4回目だ。
ま、100円ショップで買ったものだからいいのだが・・・。

茶の間へ行くと、父ちゃんが朝食の用意をしていた。
「おはよう。兄貴はどうした?」
「朝練あるからって早めに学校行ったぞ。」
座布団に座り、ご飯を食べる。
日本の朝飯はご飯、味噌汁、納豆、焼き魚、牛乳、これ最強。
これが無くては俺の朝は始まらない。
歯を磨くと学校へ行くための支度を始める。
俺の学校には制服なんて物は無いので、全員私服。
着替えが終わるとバッグと『篭』を持って家を出る。
外はまだ肌寒く、吐く息も白くなっている。
俺は上着のフードを被り、歩みを速めた。

俺の学校、王牙高校は歩いて15〜20分ほどで着く。
校門には生活指導の先公が竹刀を持って立っていた。
着ているジャージがテツにそっくりだと思った。
「よっ!おはよーさん!」
正直この挨拶が頭に響いて迷惑している。
上履きに履き替えて自分の教室一年三組へと向かう。
HRがまだ始まってないので騒がしいものだ。
「おはよー。」
一番後ろの窓際の席に荷物を置くと、本を読み耽っているモララーに声をかける。
「やあ、おはよう。最近調子どう?」
「バッチリだぜ。いつもの事じゃん。」
「あ、そうそう、前貸してって言ってたストーンオーシャンの4巻持って来たよ。」
「サンキュー。いつもありがとな。」
俺はマンガを受け取り、カバンにしまいこんだ。

388神々の遺産を書いている人?:2003/12/23(火) 21:53
>>386
設定は>>263に書いてあります。

389新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 22:14

おもむろに教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。
「HR始めんぞー静かにしろー。」
学校一いい加減な講師ことうちの担任、八先生が入ってきた。
教室が少し静かになり、皆が自分の席に着く。
「今日は面倒なことに転校生がいる。」
うおーー!!
静かだった教室がまたざわつき始めた。
「ちなみに男だ。」
先生の言葉に野郎共が一喜一憂してる。
女子の大半は男子に白い目を向けている。
何ともノリのいいクラスだ。
「じゃあ入って来い。」
ガラガラ
一人の男子生徒が教室に入ってきた。
・・・・あれ?何か見覚えがあるな?・・・・
「それじゃあ自己紹介でも始めて。」
「ツーです。よろしく。」
名前までそっくりだな・・・。
その時転校生の顔に釘付けになった。
あのほっぺたの花の刺青・・・間違いない、奴だ!
「じゃあ一番後ろの窓際から2番目の席に座って。」
「分かりました。」
俺のお隣さんと言うわけである。
「さ、他には連絡事項無いから終わるぞー。」
先生が出て行き、ほんの少しの休憩時間が訪れる。
外では遅刻してきた奴らが生活指導の先公に竹刀でケツを叩かれている。
おもむろに転校生が話しかけてきた。
「お前はもしかしていいとも大好きで、毎年皆勤賞を貰っていたアヒャ君だね?」
にゃろう、ならばこっちも・・・。
「そういう君は銃刀法違反者のツー君だね?」
「うるせー!バレなきゃいいんだよ!そんな事言っているお前も銃刀法違反者だろ!」
教室に静寂が訪れた。
いきなり初対面であるはずの転校生と親しげに俺が話しているのだから無理も無い。
「「あっはははは――――!!!」」
俺とツーはたまらず大笑いした。
クラスの連中は俺たちのやり取りをただ唖然として見ている。
「ひさしぶりだな。」
「ふっ他に言うことは無いのか?」
一時間目の講師が来て、再び時が動き出す。
これから少しは面白くなるかもな・・・。
俺は外を見て一人ほくそえんだ。

390新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 22:44

一時間目が終わり・・・・
「ねえアヒャ君。ツー君とは知り合いなの?」
前の席のベレー帽を被ったショートヘアーの女子が話しかけてきた。
たしかヅーと言ったっけな。
この学校には隣町からの生徒も通ってきていて、ヅーもその一人だ。
「ああ、幼稚園、小学校、中学校と一緒でな、中三の頃ツーが一度引っ越して
 別れて居たんだ。ま、マブダチを超えた『鬼ダチ』ってわけ。」
「うまい事言うな〜お前。」
「へえ、彼がアヒャ君の言ってた『鬼ダチ』か〜」
「マスター、俺にも喋らせてくれよ!」
俺はいきなり会話に乱入してきた人たちに目をやる。
たしか右から順に男子はモララー、山崎、シーン。
女子はのーちゃん、でぃ、ヅーのはずだ。
もっとも、俺の記憶が正しければ。
ブラッドも話に入ってきたが、誰も驚いていない。
なぜなら、ここに居る全員がスタンドについて知っているからだ。
初めてブラッドを紹介したとき、流石に皆驚いていたが、
実際に『矢』に射られたり、生まれつきや突然能力に目覚めた奴もいる。
ま、大半が一般の人間だが、スタンド能力はなじみの深い物になっている。
本人に直接聞いたが、ツーもスタンド使いらしい。
何の気兼ねも無く転校生と喋っている俺たちに皆の視線が集まっていた。
こ、こいつら気がついてないのか?それともただ鈍いだけなのか?
そんな事はほっておいて俺たちは会話を続けた。
「俺の名前はツー、よろしく!」
ヅーやシーン達の挨拶にアイツは好青年風に挨拶を返していた。
その時ふと今朝の占いが頭をよぎった。
「今日は隠していたことがバレてしまうかも。」
俺は面倒なことになりそうな予感にため息をついた。

後編へ

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

391新手のスタンド使い:2003/12/23(火) 22:51
乙彼〜
急展開の予感!

392新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 01:57
 乙。
 でも作りながら貼るのは止めといたほうがいいよ。
他の書き手さんが貼っていいか微妙だし、割り込みされやすくなるし、
既に貼った部分の訂正もできないし。

 テキトーなテキストエディタ(メモ帳でも可)に一話分全部書き込んで、
保存した後で貼れば、書き込みミスってログが消えることもなく安心。
共有のマシン使ってても、デスクトップに一時的に保存して貼った後
消せばOK。

 「貼ろう」と思ったときには・・既に作品は出来てるんだぜ・・・
  俺たち「書き手」の世界ではな。

393:2003/12/24(水) 13:32
少し長いですが、「モナーの愉快な冒険」・番外編を張ります。
「モナーの愉快な冒険」の劇中は現在9月なので、少し先の話となります。

394:2003/12/24(水) 13:33

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・ラブホテルへ行こう!
       
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 ジングルベール! ジングルベール! すずがーなるー♪
 今日はたのしいー ク・リ・ス・マ・スー♪
 俺は、大きな靴下をベッドの脇に備え付けていた。
 目が覚めた時には、靴下に素敵なプレゼントが…
 希望に満ちる俺を地獄に突き落とすような、不穏な気配。
 突然、窓が割れた。
 誰かが窓から侵入したのだ。

 そこに立っていたのは、真っ赤な服を着用したリナー。
 いや、あれは… 服が返り血で真っ赤に染まっている!!
 彼女は、大きな白い袋を背負っていた。
 その袋から、リナーはバヨネットを取り出した。

「靴下は吊るしたか? サンタにお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」

 バヨネットを十字に構えて、リナーは一歩一歩こちらに近付いてくる。
 ヒェーーッ!!
 助けてーー!!

 そして、リナーは俺の耳元で囁いた。
「Merry Christmas & Hello cut off…」
 


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 俺はベッドから飛び起きた。
 爽やかな朝の光が、部屋に差し込んでいる。
 リナーの姿は…どこにもない。
 そりゃそうだ。
 そもそも、今の時刻は12月24日の朝である。
 サンタには1日早い。
「ふう、夢か…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 身体は汗でグッショリだ。
 俺はいそいそと服を着替えると、台所に向かった。

395:2003/12/24(水) 13:33

          @          @          @


 兄さんがスッとろい仕草でキッチンに下りてきた。
「あ、兄さん。おはよう」
 私は、とりあえず朝の挨拶をする。
 兄さんは頭をボリボリと掻きながら、欠伸をして言った。
「おはようモナ…」
 こうして見ると、つくづく冴えない兄だ。
 寝起きという点を差し引いても、全身からその弛緩っぷりが漂っている。
 恋人など一生できないのではないか、最近まで私はそう思っていた。
「朝メシは〜?」
 のっそりと椅子に座る兄。
 自分で作れ、スッタコ! 
「分かったモナ…」
 私の表情を見て、言いたい事が分かったようだ。
 兄さんは食パンをトースターに突っ込み、コーヒーを淹れる。

 キッチンに、女性が入ってきた。
 ちょっと前からこの家に居候しているリナーさんだ。
「…おはよう」
 リナーさんは私達に軽く挨拶した。
「おはようモナ!」
 突然元気になる兄さん。
「お義姉さん、おはようございます」
 私も挨拶を返した。
 リナーさんは、そのまま兄の正面に座った。
 その席には、あらかじめトーストが置いてある。
 兄さんは、2人分トーストを用意していたのだ。
 意外なところで気が回る。
 私は、朝食を食べているリナーさんの横顔を盗み見た。
 同じ女の私から見ても、惚れそうになるほど端正な容姿。
 うちの冴えない馬鹿兄が、どうやってこの美人と同棲にまでこぎつけたのかは謎のままだ。
 先を越された感があって、非常に悔しい。

「私、もうすぐ友達の家に行ってくるから…」
 私は兄に告げた。
 兄は意外そうな表情を浮かべる。
「友達って…男? 女?」
 なんと失礼な質問を抜かすのだろうか、このアホ兄は…!
 デリカシーが無さすぎる。リナーさんもさぞかし苦労しているのだろう。
「…女。クリスマスパーティーがあるから…」
 私は、歯軋りをしながら答えた。
 どうせ、私にはクリスマスを共に過ごす恋人などいない。
 そういう輩が三人集まって、さぶいクリスマスパーティーを行う予定なのだ。
「そうモナか…」
 甲斐性無しの兄は、やっぱりな、という表情を浮かべた。
 リナーさんがいなければ、間違いなくそのニヤケ面に蹴りを入れていただろう。
 そりゃ私だって、ギコさんみたいにハンサムで頭が良くてスポーツもできる素敵な人を見つけて、
 クリスマスにはどこかの高級ホテルで夜景を見ながら食事をして、不意にその人が、
 『これは君へのプレゼントだよ、シニョリーナ』って言いながらテーブルの隅にプレゼントとおぼしき小箱を置いて、
 私が『なぜそんなテーブルの隅に置くの?』って聞いたら、その人は、
 『君が手をのばすところを見たいからだよ。その美しい手をできるだけ長い間見ていたい… 
 あなたの『手』… とてもなめらかな関節と皮膚をしていますね… 白くってカワイイ指だ。
 『ほおずり』…してもいいですか? フウウウウ〜 レオナルド・ダビンチの『モナリザ』ってありますよね…』

 ヒィィッ!!
 何か、最後の方が凄く嫌な展開だったような…!
 とにかく、私にはクリスマスを一緒に過ごしてくれる男なんていない。
「まあ、いくら萌えない妹って言っても、男は星の数ほどいるモナよ…」
「ガツンとみかん!」
 私の拳が、兄の顔面にクリーンヒット。
 兄は台所の床にゆっくりと崩れ落ちる。
 リナーさんは、その様子を見て言った。
「見事な一撃だ」
 やった! ガナー、褒められちゃった☆
 …じゃなくて、つい突発的に殴ってしまった。
 まあいいか。


          @          @          @

396:2003/12/24(水) 13:33

「あいたたた…」
 俺は痛みをこらえながら立ち上がった。
 ガナーめ…
 兄さんが温和なのをいい事に、ドメスティック・バイオレンスを行うとは…
 あれ、そのガナーは…?
「君の妹なら、もう家を出たぞ」
 テーブルに座っていたリナーが言った。
「ああ、クリスマスパーティーとか言ってたモナね…」
 俺は、不意に今朝の悪夢を思い出した。
 思わず、リナーの顔から目を逸らしてしまう。
「ん? どうかしたのか?」
「いや、何もないモナ…」
 それより、今日は全国のカプールが煩悩と電波に舞い踊る日、クリスマスイブだ!
 世界最大の詐欺師の誕生日にふさわしく、欺瞞に満ちたバカップル共が盛り上がる。
 そんなマスコミに毒された日こそが、クリスマスの真実である。
 俺はこの17年間、ずっとそう思い続けてきた。
 ―――ただし『今年』までだ!

 俺は、ジッとリナーの方を見た。
「…何だ?」
 リナーも俺を見返す。
 とりあえず、ここは軽いジャブだ。
「リナー、今日はクリスマスイブモナね…」
 リナーはため息をつく。
「それがどうした? 私はクリスチャンじゃないから関係ない」
 ジャブ失敗か…
 って言うか、今とんでもない事を言わなかったか!?
 まあいい。とにかく、ここらでストレートを…!
「今日はいい天気モナね…」
「ああ、そうだな」
 どこがストレートなんだよ、俺。
 仕方がない。奥義を放つ時が来たようだ。
「…買い物に行くけど、モナは力がないから一人じゃ持ちきれないモナ! 荷物持ちについてきてほしいモナァ!」
「…仕方ないな」
 リナーは頷く。
 よっしゃ!! OKを貰ったァ!
 リナーには、家に居候しているという負い目がある。
 さらに、俺自身の劣等感を逆手にとってわがままばかりの上策だ。
 なんか男としてのプライドもへったくれもないが、まあいい。

 こうして、リナーと二人で町に出かけた。
 とりあえず、初デートである。
 いや、深夜に二人で町をウロついた事は何度もあるが、あれは例外だろう。
「で、何を買うんだ?」
 リナーは痛いところをついてきた。
 …どうする? どうフォローする?

 でっかいぬいぐるみとかを買って、
    俺:「君へのプレゼントさ…」
  リナー:「さすがモナー! そこにシビれる! あこがれるゥ!」
 そこで、熱いキスをズキュゥゥゥンとかまして、
    俺:初めての相手は、このモナーだ―――ッ!
 しかし、リナーはドロ水で口を洗って…
 いや、駄目じゃないか。
 
「えーと、リナーは、何か欲しい物ってないモナか…?」
 リナーは怪訝な顔をした。
「強いて言うなら、ステアーが…」
「銃器以外モナ…」
「うーん… 特に無いな」
 まあ、リナーは普通の女の子ではないのだ。
 とりあえず、アクセサリーショップにでも行ってみるか。


          @          @          @


 女は、今日初めてこの町に足を踏み入れた。
 この町は、かなり人口が多い。女の力を振るうのに、まさにうってつけだ。
 そう、女はスタンド使いであった。
 女は、町から町へと移動する。
 そして、毎年この12月24日の深夜に自らのスタンドを発動させる。
 そうやって、もう何年も経過してきた。
 そして今年、彼女はこの町に目をつけたのだ。

「まだ、夜まで時間があるわね…」
 女は時計を見て呟いた。
 そう、彼女のスタンドは深夜しか力を発揮しない。
「仕方ないわね。『あそこ』で、時間をつぶそうか…」
 女は、そのまま雑踏に紛れてしまう。
 その女の名は、モニカといった。


          @          @          @

397:2003/12/24(水) 13:34

 アクセサリーショップは、アベックでごったがえしていた。
 リナーはかなり興味なさげだ。
 ただでさえ俺はまともにデートなんてした事ないのに、相手は筋金入りの武装女だ。
 一般のデートコースなんかじゃ喜ばないのだろうか。
「何か欲しいのあるモナ?」
「…別に」
 うーむ。
 ここはベタにティファニーなどを…

「まぁ、今どきクリスマスにティファニーなんてベタな奴はいないだろうけどな」
「そうだね…」

 どこぞのカップルの会話が耳に入る。
 では、奮発してカルティエあたりを…

 その瞬間、45万の文字が目に入る。
 俺は、今までクリスマスなんぞ広告業界の陰謀だと思っていた。
 そして今日、リナーを連れて家を出る時、その考えを改めた。
 だが… それは敗者の僻みなんかではない事を確信する。
 間違いない、これは陰謀だ。
「リナー、店を出るモナ!」
 俺はリナーの手を引いて店から出た。

 …今から、どうしよう?
 よし、ここは安くつく映画だ。
 しかし、リナーは映画を見て喜ぶのか?
 とりあえず、本人に聞いてみるか。
「リナー、映画を見ようモナ…?」
「別に、君が見たいのなら構わないが… 買い物はいいのか?」
 そんなの、どうせ口実だし…
 映画館はすぐそこである。
 というか、混み過ぎだ。
 特に、恋愛映画など凄まじい。
「ホラーがまだ空いてるモナね…」
 これは確か、吸血鬼が町を襲う話… いや、これをリナーに見せるのはまずくないか?
「どうした? 入らないのか?」
「あ、……………モナッ!」
 仕方がない。俺はリナーを連れて映画館へ入っていった。


 悲鳴を上げながら逃げ惑うヒロイン。
 しかし、車のエンジンはかからない。
 かっての恋人であった男がゾンビとなって、ヒロインに襲い掛かる…!
「あの…面白いモナ?」
 リナーは意外にも、熱心に画面を見つめていた。
「別に面白くはないが、2年前のルーマニアでの戦いを思い出してな。
 あの時は、もっと絶望的な状況だった。町一つ分の住人が全員ゾンビに…」
「いや、生々しい話はいいモナ…」
 俺達二人は、そのまま無言で映画を見続ける。
 何というか、失敗だ。
 やはり、俺にはまともなデートなどできないのか…!
 1時間後、映画は終わった。結末なんて覚えていない。
「さて、行くモナ…」
 俺達は腰を上げた。
 もういい。適当に買い物して、家に帰ろう…

 映画館から一歩出た時、リナーの目つきが変わった。
 行き交う人の波の一点を凝視している。
「あいつは…!」
「どうしたモナ?」
 どうやら、何の変哲もない一人の女性を注視しているようだ。
「君の『アウト・オブ・エデン』で、あの女がスタンド使いかどうか視てくれないか?」
「分かったモナ…」
 視てはみたが、これだけ人数がいるとよく分からない。
 生命エネルギーが混じってしまって、今の俺では個体識別は不可能だ。
「うーん、ちょっと分からないモナね」
「そうか…」
 リナーは携帯電話を取り出すと、その女を撮影した。
 そして、慣れた手つきで携帯を操作する。
「ASAに照会を依頼した。とりあえず、あの女を尾行するぞ」
 話からすると、あの女はスタンド使いなのだろうか。
 とりあえずリナーの言葉に従って、俺達は女の後を尾ける事となった。

398:2003/12/24(水) 13:34

 女はどんどん狭い道へ入っていく。
 一体、どこへ行くつもりだ?
「…照会の結果が来た。やはり間違いない。あの女は有名なスタンド使いだ」
「有名って…どんなスタンドモナ?」
「それが、分からない。スタンド名は『サイレント・ナイト』。能力に関しては、『知るべきではない』と記載されている」
 何だそれは。スタンド名だけ分かっても、全く意味がないだろう。
「ASAの怠慢モナ?」
 リナーは首を左右に振った。
「いや、不明なら不明と記載されているはず。知ること自体が、こちらの不利になる類の能力なのだろうな…」
「それって、厄介な能力モナ…?」
 リナーは頷いた。
「当然だ。知る事によって発動するタイプのスタンドなら、まともに戦う事は不可能だ。ただ…」
 言葉を切るリナー。
「ただ?」
「ASAの定めた危険度が、何故か著しく低い。だが、放っておく訳にもいかないな」

 モニカは、俺達の尾行に気付いた様子はない。
「この距離でも気付かんとは、相当の素人だな…。このまま暗殺するか、それとも…」
「こんな聖なる日に、そんな物騒なことは止めるモナ!」
 俺は慌ててリナーを止めた。
「では、もう少し様子を見るか」
 モニカは尾行に気付かずに歩き続ける。
 繁華街からかなり外れて、ホテル街に足を踏み入れた。
 周囲にカップルが増えていく。
 この時期、どこのホテルも満員のはず。
 そう、彼らはあぶれ出した難民なのだ。

「…尾けられているな」
 リナーは不意に言った。
「えっ! 誰に!?」
 俺は周囲を見回す。
「キョロキョロするな。これだけ周囲に人がいるならば、特定は不可能だ。泳がせておく」
 …二重尾行!
 なら、俺達を尾けているのはモニカの仲間か。
 当のモニカは… なんと、一人でホテルに入っていった!

「な…なんだってェー!!」
 俺は叫ぶ。
「声を上げるな。追うぞ!」
 追うぞって、もしかして…
「あのホテルに…入るって事ですかァ――ッ!」
「当たり前だ。ここでずっと待っている訳にもいかないだろう?」
 リナーはサラリと答えた。
「モナとリナーの…二人で入るって事ですかァ――ッ!」
「その方が自然だ。男女のアベックを装える」
 リナーはサラリと答えた。
 装えるって…リナーの中では、俺達はアベックではないのですね。
 いや、そんな事よりッ!
「モナは高校生なのに…ホテルに入るって事ですかァ――ッ!」
「申告しなければバレはしない」
 リナーはサラリと答えた。
「大人の階段を…のぼるのですかァ――ッ!」
「君はまだ、シンデレラさ…と言うか、早く入るぞ」
 リナーはサラリと答えた。
「まあ! リナーったらいけないひとッ!」
 リナーはため息をついた。
「何より… ホテルの正面で入るの入らないのとモメている方が、恥ずかしいと思うがな…」
 見れば、道行く人達が俺を指差して笑っている。
「のわぁーッ!!」
 俺は、リナーの手を引いてホテルへ飛び込んだ。
 …その一瞬、不穏な視線を感じた。
 明らかに、俺達へ向けられたものだ。
 その視線に付随する感情は… 強い憎しみ。
 ほんの一瞬だ。もう感じない。
 だが、只者じゃなかった。
 一体、何者なんだ…?

399:2003/12/24(水) 13:35

 ロビーは、意外と狭かった。
 部屋の写真が載ったパネルが並んでいる。
「こ、これは…ッ!」
 点灯しているパネルと点灯していないパネルがあった。
 まず、どうするんだ、俺。
 心臓がバクバクいっている。
 ボタンを押せばいいのか? 
 リナーのほうをチラリと見た。
「彼女の近くの部屋に入ろう。モニカがどの部屋にいるか視てくれないか?」
「分かったモナ…!」
 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視線をホテル中に展開した。
 さて、モニカはどこに…

ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
アンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシ
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
アンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシ
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
アンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシ
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
アンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシ

「邪念が混じって集中できないモナ〜ッ!!」
「…」
 リナーは、軽蔑の視線をよこしている。
 そして口を開いた。
「過去を視る事はできないか? どのボタンを押したのか分かれば、彼女がいる部屋が分かるのだが…」
 …過去を視る?
 試したことがない。
 だが、やってみるか…
 俺はパネル付近を凝視した。
 頭が痛い。やはり、オーバースキルだ。
 一瞬、ボタンを押す指先のようなものが見えた。
「このボタンモナ!」
 俺は、そのボタンを指差す。
「406号室か… 両隣とも空いてないな。仕方ない。真下の306号室にするか」
 リナーは、306号室のボタンを押した。
 そして、フロントの方に歩いていく。
 このままでは、男の面目丸潰れだ!
 俺はリナーの前に躍り出た。鍵くらいは、この俺が受け取るッ!

「お泊まりですか? 休憩ですか?」
 …えッ?
 フロントのオバさんは問いかけた。
 「休憩」といったら、何時間かで終えて出るのだろう。
 何かせわしない感じがして、集中できない。余り気が乗らなかった。
 「お泊り」といったら、まあそのままだ。
 だが翌朝に、このオバさんに『きのうは おたのしみ でしたね』と言われるのも、何か嫌だ。
 俺は、リナーの方をチラッと見た。
「フリータイムは?」
 リナーはオバさんに尋ねた。
「午前十時から午後七時まで。4200円になります」
「安いな… この時期なのに特別料金は課金していないのか?」
「Exactry(そのとおりでございます)」
「グッド! 気に入ったッ!」
 リナーは、スカートの中から5千円札を取り出す。
 それを受け取ったオバさんは、お釣りとカードキーを差し出した。
 俺は割って入って、キーを受け取った。お釣りはリナーに渡す。
「これが鍵(キー)かッ!!」
 感銘に震える俺。
「さあ、行くぞ」
 リナーは、熱くなる俺とは裏腹に、平然とエレベーターに向かった。

400:2003/12/24(水) 13:36

 エレベーターを降りると、そこは3階だった。
 それにしても狭いエレベーターだ。2人も乗ったら身体が密着してしまうではないか…!
 俺はヨダレを拭いて、長い廊下を歩き出した。リナーが後からついてくる。

『ギシギシアンアン』
『すごいわケンイチッ!! もう4時間よッ!』
『メーン!!』
『そこ以外を切り刻む!』

「なんか… 壁が薄いモナね…」
 音が丸聞こえだ。
 俺は、桃色の雰囲気に圧倒されていた。
「まあ、こんなものだ」
 あっさりと言うリナー。
 俺は、意を決して聞いてみた。
「リナーは、こういうホテルとか良く使うモナか…?」
「ああ。よく利用している」
 何だってーッ!!
 俺は振り向いて、リナーの顔を凝視する。
「この国に滞在した時は、よく利用した。身元を明らかにする必要がないからな」
 リナーは照れたように言った。
「そうモナか!」
 俺は胸を撫で下ろすと、再び歩き出した。
 そして、その部屋の前で立ち止まる。
「306号室… 間違いないモナ…!」
 そう、今からリナーと二人でこの部屋に入るのだ。
 胸が躍り、動悸が激しくなる。
 自然と息も荒くなる。
 だが、俺は上手くやってみせる!
 俺はカードキーを握り締めた。
「おい! 何してる! キーを曲げるな!!」
 リナーの声も、今の俺には聞こえなかった。


          @          @          @


 その男は、ホテルを見上げた。
 ずっと、あの二人を尾行してきたのだ。
 そう、二人がこのホテルに入るまで。
 男の拳は、怒りに震えていた。
「あの泥棒猫… 僕のモナー君を… 絶対に許さないんだからなッ!!!」
 だが… 男は冷静ではなかったが、妥当な判断を下すことは出来た。
 女の方には、単純な戦闘ではおそらく適わない。
 男はそれを痛感していた。
 スペックはともかくとして、戦闘経験の差は埋め難い。
「…仕方ない」
 気は進まないが、一人で勝てないなら仲間を呼ぶまでだ。
 そう、目的を同じとするあの二人を…

401:2003/12/24(水) 13:36

 『モナーとリナーが二人でホテルに入った』
 男は、その事実と場所を告げただけだ。
 しかし、それだけで充分である。
 連絡して1分ほどして、二人とも駆けつけてきた。
 二人は怪物(モンスター)だ。
 実を言えば、男はこいつらの手だけは借りたくなかった。
「しかしッ! この事態は非常にマズいッ!! 今日だけ同盟を組まないかッ!? レモナ! つー!」
 男は、二人に右手を差し出した。
「そうねぇ。今日ばかりは協力しちゃおうかな? 私に隠れてそんな…ちょっと、許せないしねェ…!」
 レモナは、男の右手に自分の手を重ねる。
「ソンナノ、ドウデモイイガ… モナーヲ イタメツケルノハ タノシソウダナ… アヒャ!!」
 つーも、同様に手を重ねた。
 三人の手の平がピッタリと重なる。
「よしっ!! じゃあ行くぞ!! モナー君を泥棒猫から僕達のもとに奪還だッ!!」
 その男、モララーが言った。
「それにしても、つーちゃんったら〜 やっぱり、モナーくんの事好きだったのね〜」
 レモナがニヤニヤしながら言った。
「ナッ… チガウ! オレハタダ、モナーヲ イジメタイカラ…」
 モララーが、二人の間に割って入った。
「まあまあ。仲間割れは次の機会に。とりあえず、ニ人が入った306号室の隣にチェックインだ」
 モララーは、305号室のボタンを押した。
「お泊まりですか? 休憩ですか?」
 フロントの中年女性が問いかける。
「…ドウスルンダ?」
 つーは二人に訊ねる。
 モララーはあごに手を当てた。
「とりあえず、休憩でいいんじゃない? いざとなったら延長料金払えばいいし…」
 レモナは言った。
「そうだな。休憩で」
 モララーは1万円札を差し出す。
「あ、3名様ですので、ご利用料金は通常の1.5倍となりますが」
「なんだって!!」
 モララーは抗議した。 「なんでそうなるんだ!? 普通、こーいうのは部屋代だろ!?」
「規則ですので」
 中年女性は食い下がる。
「ほら、あんまりガメついこと言わない」
「ソウダゾ。 チョットグライ、イイジャナイカ」
 レモナとつーが、二人して口を挟んでくる。
「あの… 割り勘なんだけど、分かってる?」
 モララーは恐る恐る言った。
「ちょっと! 男の癖にホテル代ぐらい払いなさいよ!!」
「ソウダゾ! カイショウナシガ!」
「やかましィ――ッ!! 性差別発言してんじゃねェ――ッ! このネカマと性別不詳がッ!!」
 モララーはいきなりキレた。
「ネ、ネカマですって…!」
「ネカマをネカマと言って何が悪いッ!」
「ガタガタ イッテンジャネェゼ、ダボハゼガッ!」
「あの、料金を…」
 こうして3人は、1時間近くフロントでモメ続けた。

402:2003/12/24(水) 13:37

          @          @          @


 俺は、ラブホテルとは狭くて汚い場所という偏見を持っていた。
 だが、この部屋はとても綺麗だ。
 リナーはつかつかと部屋に入ると、椅子に腰を下ろした。
 そして、天井を凝視している。
 モニカのいる406号室だ。
 俺は、部屋の中に一歩踏み込んだ。
 後ろから、カチャリという音。
 鍵が閉まった…?
「大変だ、リナー!! 閉じ込められたモナ!!」
「…オートロックだ」
 リナーは冷たく言った。
「…」
 俺は頭を掻くと、ゆっくりとベッドに近寄った。
 風の噂では、このベッドは回るという話を聞いた。
 だから俺は油断しない。
 さあ来い! 回るなら回れ!!
「残念だが、回転ベッドは条例で禁止されている」
 リナーは衝撃の事実を告げた。
 それにしても、リナーは何で俺の考えが分かるんだ?
 もしや、心を読むスタンドを…!
「君の考えてる事ぐらい、大体見当がつく」
 俺は、肩を落とした。
 どうせ、俺は単純人間だ…
 ふと、ボタンやレバーが並んでいるのが目に入った。
「ポチッとな」
 俺は適当にボタンを押してみる。
 ミラーボールが回転するように、たくさんの赤い光が部屋を彩る。
「…」
 リナーに睨まれた。
 それにしても、趣味が悪すぎる。
 こんな照明、使う奴いるのか?
 あっ、ノートだ!!
 俺は、部屋に備え付けられているノートを手に取った。
「君は、大人しくできないのか…?」
 リナーは呆れて言った。
 だが、俺の好奇心は抑えられない。
 俺はノートを開いた。

『奥さんと別れてくれない』
『私を愛していないのではないか』
『子供なんて捨てればいい』
 そんな事が、ビッシリと書かれていた。
「ヒィィィィーッ!!」
 ヤバイ世界だ。
 このノートはヤバイ。
「リナー! ノートに呪いの言葉が綴られてるモナ!!」
「どうせ男が風呂に入ってる間にでも、2号の悲哀を書き綴ったんだろう。特に珍しいものじゃない」
 …ディープな世界だ。
 もちろん、ノートの中身は恨み言ばっかりじゃない。
 相合傘や、楽しげな報告も多い。
 俺も何か書いてみるか。
 最後のページには、浮気する彼氏への不満が書かれている。
 その彼氏の浮気歴が、全てブチまけられていた。
 その怒りに満ちた文章は、『こんな彼氏、どう思いますか?』という一文でくくられていた。
 世の中には、ヒドい男もいるものだ。
「書いといてやるよ」
 『地獄に行く』と…
「おっ、これは何モナ!?」
 今度は、机の上に置いてあった利用案内表を見つけた。
 俺のようなビギナーは、こういうのから先に目を通すべきだろう。
「へー、結構色々注文できるモナね…」
 カレーやカツ丼やピザ、パスタ、チョコレートパフェまである。
 流石に料金は高いが…
 他にも、ルームサービスは多い。
 有料だが、貸し衣装なども…
 って、コスプレ用品じゃねぇかッ!!
 何ということだ。世の中にはホテルから衣装を借りて、女に着せてハアハアする変態がいるというのか…!
「あ、メイド服とセーラー服と巫女衣装をお願いします」
 俺はフロントに内線電話をかけた。
 物凄く冷たい視線が俺の背中に注がれているが、気にしないでおこう。
 問題は、どうやって着せるかだ。
「あっ、プレステもあるモナね」
 ソフトは、ぷよぷよとバイオハザード3… まあ、古いのは仕方がないか。
 俺はテレビをつける。
「リナー、対戦しないモナ?」
「…私達が何しにここへ来たのか、分かってるのか?」
 またもや睨まれてしまった。
 仕方がないので、バイオハザード3でもやるか。
 久し振りなんで、感覚が掴めない。さっそくゾンビに齧られる俺。
 即効でゲームオーバーとなった。
「あー、腕が落ちてるモナね…」
 ふと見ると、リナーがじっとこちらを見ていた。
「やりたいモナ?」
 こくこくと頷くリナー。
 俺は、リナーにコントローラーを渡した。

403:2003/12/24(水) 13:38

「くっ… この…! ああっ!!」
 あっという間にゾンビに齧られてゲームオーバーになるリナー。
「最初の方は、あんまりゾンビを相手にせずに逃げた方がいいモナよ」
 俺はアドバイスする。
「この私が、ゾンビごときに後ろを見せろと言うのか!」
 もう一度、ゲームスタートするリナー。
 だが、同じ所でゲームオーバーになった。
「こんな屈辱、コティングレー村での戦闘以来だ…!」
 本気だ。
 リナーが本気になっている。
 リナーの方こそ、何しにここへ来たのか忘れてしまったようだ。
「あっ! カラオケセットモナ!!」
 俺はカラオケセットを発見した。
 だが、この壁の薄さじゃ隣に丸聞こえじゃないだろうか。
 それでも…歌いたいッ!
「リナー… カラオケしてもいいモナ?」
 リナーはゲームに没頭している。
 返事がないという事は、異論がないという事だろう。
 よし。
 俺は、ユニコーンの名曲、『大迷惑』をリモコンで入力する。
 そして、マイクを握り締めた。


          @          @          @


 女は、ラブホテルなるものを使用するのは今回が初めてだった。
 パネルで部屋を選ぶのも、鍵を受け取るのもみんな男の方がやってくれた。
「ごめんね。こういう所初めてだから、どうしていいのか分からなくて…」
「俺だって初めてだぞ、ゴルァ!」
 男はそう言った。
 実は、男の方は以前から遊んでいるという噂があった。
 事実そうなのだろう。彼は、典型的なモテる男なのだ。
 だが、女はそれでいいと思っている。
 例え過去に何があろうが、今現在自分を愛してくれるならば、それで構わない…
「ほら、呆けてないで部屋に行くぞ、ゴルァ!」
 男は力強く言った。
 狭いエレベーターへ乗り込み、3階で降りる。
 女は、先を進む男の後をついていった。
 やはり、この男の仕草からはホテルを使い慣れているという印象を受ける。
 それでも、女はこの男の言動を信じようと思う。
 彼がホテルへ来たのが初めてと言ったのなら、それが真実なのだろう。

404:2003/12/24(水) 13:38

 男は部屋のドアを開けて、女を先に導き入れた。
 そして、ドアを閉める男。
「一旦入るとチェックアウトまで外出はできないから、ドアは開けるなよ。
 ルームサービスは横の小窓から受け取ればいいから。あ、風呂に湯を張ってくるわ」
 男は、バスルームに姿を消した。
「思いっきり使い慣れてるんじゃない!!」
 怒鳴り声を上げる女。
「うおお!?」
 バスルームから男の動揺した声が響いた。
 慌てて駆け出してくる男。
「分かった、分かったから落ち着け!」
「…」
 女は、男を睨みつける。
「やっぱり、ギコ君が遊び人だってのは本当だったんだね…」
 男は、否定しても無駄だと悟った。
「…確かに、お前と付き合う前までは遊んでたと言っても間違いじゃない。
 でも、お前と付き合ってからは違うぞ! 俺は浮気なんて絶対にしない!!」
「…本当に?」
 女は、首を30度傾けて言った。
「本当だぞゴルァ! そもそもさっきホテルに来た事がないって言ったのだって、
 お前を心配させたくなかったからだ!」

『ま〜くらが♪ 変わっても〜♪ や〜っぱり♪ するこた同〜じ〜♪』

「ギコ君…」
 女は、男の瞳を真っ直ぐに見つめた。
 その目には、一点の曇りもない。
「これは誓って本当だぞ、しぃ。お前がいるなら、他の女に誘われたって突っぱねるからな」
 
『ボ〜インの♪ 誘惑に〜♪ 出来〜心♪ 三年二ヶ月の…いわゆるひーとりたびーイェイ イェイ イェイ イェイ♪』

「…ありがとう」
 女は、目に涙を浮かべた。
「あっ、おい… 泣くことないだろ、ゴルァ!」

『この悲しみをどうすりゃいいの♪ 誰が僕を救ってくれるの♪』

 男は、女を抱き寄せた。
「…あっ!」
 女は、涙で濡れた目で男を見上げる。
 男は微笑んで言った。
「もう、お前を泣かせたりなんてしないから…」

『僕が寛一♪ 君はお宮♪ まさにこの世の大・迷・惑!』

「テメェが迷惑なんだよッ!! ゴルァ――――ッ!!!」
 男は、壁に思いっきり蹴りを入れた。
 せっかく、いい雰囲気だったのに…
「全く…ホテルに来てまでカラオケなんてしやがって…!」
「えっ! カラオケあるの!?」
 女は嬉しそうな声を上げた。
「あ、ああ…」
 困惑して頷く男。
「ギコ君! デュエットしようよ!」
 はしゃぎ出す女。
 まあ、機嫌が直ったのだから文句はない。
 男はベッドに腰を下ろして、いつものように備え付けの灰皿を自分のカバンに入れた。
「ちょっとギコ君… 今、何したの?」
 男はきょとんとした表情を浮かべる。
「え? ホテルに来た時は、戦利品に灰皿ガメるようにしてんだけど…」
「そう…」
 女は殺気を放ちながら、男に近付いていく。
「ま、待て! とにかく落ち着け!」
 慌てふためく男。
「一つ、教えてあげる…」
 女は呟く。
「『落ち着け』なんて言われて落ち着く女、この世にいないわッ!!」
 女の鉄拳が、男の顔面に炸裂した。

405:2003/12/24(水) 13:38

          @          @          @


「うおっ!! 何モナ!?」
 隣の部屋から、何かすごい音がした。
 俺はマイクを机に置く。
「リナーも確かに聞いたモナね?」
「ああ。だが、私が監視しているのは、あくまで真上の406号室だ。隣の部屋は関係ない」
 監視してるって…、ずっとゲームしてたじゃないか…
「ゲームをしながら監視してるんだ…!」
 少しリナーはムキになっている。
「でも、凄い音だったモナよ…?」
 仕方ないので、俺は話を最初に戻した。
「そんなに気になるなら、『アウト・オブ・エデン』で視てみたらどうだ?」
「隣の部屋を視るって…。いくら何でも、この場所でその行為は人としてマズいモナ…!」
「なら、黙っててくれないか。せっかくいい所まで行ったんだ」
 リナーは再び画面と向き合った。
 …まずい。
 これは、余りにもラブ分が不足している。
 よし! ここは、ラブラブな歌を歌わなければ…!
 『愛』の歌と言えば、アレしかない。

 俺は、コードを入力した。 
 カラオケのモニターに、題名が映し出される。

『哀・戦士』

チャララランラララ♪
チャララランラララ♪
チャララランラララ♪
チャラララララララ…

「あいー♪ ふるえーる、あいー♪」


          @          @          @


「それは、別れ唄ー♪」
 隣から流れてくるメロディに沿って、俺は呟いた。
 よし、8連鎖。
 しぃの側の画面に、大量のお邪魔ぷよが降り注ぐ。
「きゃぁー!」
 悲鳴を上げるしぃ。

『ひろう骨も♪ 燃えつーきーて♪ ぬれる肌もー♪』

「土にーかえるー♪」
 つい、呟いてしまう俺。
「あの…ギコ君、隣のカラオケに合わせてハミングするのやめてほしいんだけど…」
「あっ、悪い…」
 俺は思わず口を押さえた。
 今度は5連鎖。
 それでも、トドメを刺すには充分だ。
「ひどーい!」
 しぃが声を上げた。
「悪いな… 勝負の世界は非常なんだ」
 勝負である以上、手を抜くわけにはいかない。
 しぃはコントローラーを床に置くと、俺の方を見て言った。
「で、おフロはどうするの?」
「俺は後でいい」
「それじゃ、先に入らせてもらうね…」
 しぃがバスルームへ消えていった。

 腹が鳴った。
 利用案内表を手に取る。
 多少高いが、腹が減ったので仕方がない。
 カツ丼でも頼むか…
 あと、しぃのためにチョコパフェも頼んでおくことにしよう。
 ふと、レンタルコスプレコーナーに目が行った。
 こんなところでコスプレを頼む奴がいるとは… 馬鹿じゃないか?
「あ、カツ丼とチョコパフェ。あと、ナース服とチャイナドレスとサンタ服お願いします」
 俺はフロントに内線電話をかけた。

 何となく、カラオケセットが目に付く。
 しぃが出てくるまで、一曲行くか。
 どうやら俺とした事が、隣で歌っている馬鹿に触発されたようだ。
 コードを入力し、マイクを手に取った。
 流れてくる、うねるようなイントロ。

「You built me up with your wishing hell… I didn't have to sell you…」


          @          @          @

406:2003/12/24(水) 13:39

「オイ!! カラオケガ アルゾ!!」
 好奇心旺盛なつーは、目ざとくカラオケセットを発見した。
「そんなのはいいから、これからの計画を練るんだからな!」

「じゃあ、私が歌おっと!」
 レモナはマイクを手にとって、コードを入力した。

「あんまりソワソワしないで♪ あなたはいつでもキョロキョロ♪
 よそ見をするのはやめてよ♪ 私が誰よりいちばん好きよ♪」

「って、何で歌ってるんだ!!」
 モララーが大声を上げる。

「星たちが輝く夜ふけ♪ 夢見るのあなたの全て♪」
 レモナは、モララーの叫びに構わず歌い続けた。

「アイシテモアナタハ シランプリデ♪ イマゴロハダレカニ ムチュウ♪」
 いつの間にか、マイクを手にしているつー。

「ああー♪ 男の人ってー♪ いくつも愛を持っているのねー♪
 ああー♪ あちこちにバラまいてー♪ 私を悩ませるわー♪」
 モララーはポーズをつけながら熱唱した。

「あんまりソワソワしないで♪ あなたはいつでもキョロキョロ♪
 よそ見をするのはやめてよ♪ 私が誰よりいちばん好きよ♪」
 そして、綺麗にハモる三人であった。


          @          @          @


『あんまりソワソワしないで♪』

「…あなたはいつでもキョロキョロ♪」
 俺はつい口走った。
「悪いが、隣のカラオケに合わせて歌うのは止めてくれないか?」
「ハッ! すまないモナ…」

『Our antichrist is almost here…』

 逆側から、渋い歌が聞こえてくる。
「…it is done!」
 また、つい言ってしまった。
「ホテルって、騒がしいところモナね…」
「まあ、この時期だからな」
 リナーは、画面から目を離そうとしない。
 カラオケにも飽きたので、俺は部屋中を物色し始めた。
 変なガウンが目に入る。
 こんな妙なもの、着る奴がいるんだろうか。
 キバヤシのセーターより趣味が悪い。

「…おっ!?」
 どうやら、注文したコスチュームが届いたようだ。
 俺はメイド服とセーラー服と巫女衣装を受け取って、リナーをチラリと見た。
「私は着ないぞ…」
 全てを拒絶するリナーの冷たい目。
 強要すれば命に関わる。
「いいモナよ! モナは、自分で着る為に頼んだモナ!」
 俺は泣きながら虚勢を張った。

「肩が凝ったな…」
 リナーはコントローラーを置いた。 
 チャーンスッ!!
「ゲームに慣れてないのにやり過ぎるからモナ。じゃあ、モナが肩を揉んであげるモナ…」
 俺は、素早くリナーに接近した。
「そうか、悪いな」
「じゃあ、そのままじゃ揉みにくいんで、これを着るモナ」
 俺はメイド服を差し出した。
「…」
 殺気のこもった目で睨まれる俺。
「じょうだん! じょうだんだってばさあリナーさんッ! ハハハハハ…」
「次にやったら、君が泣くまで殴るのをやめないからな…」
 リナーは、こちらを睨み続けている。
 仕方ない。
「じゃあ、普通にマッサージするモナ…」
 俺はヨダレを抑えて、リナーの背後に回った。

407:2003/12/24(水) 13:39

          @          @          @


 注文していたカツ丼とチョコパフェ、そして衣装が届いた。
 ちょうど、しぃも風呂から上がったところだ。
 しぃは、ホテル備え付けの変なガウンを着ていた。
「なあ、これ着てみないか」
 俺はサンタ服を差し出す。
 しぃの冷たい目線。
「いや、決して他意はなくて…! その、今日はクリスマスだから…!」
 俺は慌てて弁解する。
「そうだよね。クリスマスだから、サンタの格好なんだよね。一瞬、ギコ君が変なマニアかと思っちゃった」
「もちろんだ、俺がコスプレマニアな訳ないだろ、ゴルァ…!」
 俺は、ナース服とチャイナドレスを身体の後ろに隠した。
「そうだよね、アハハハハ…!」
「そうだぜ、ギコハハハ…!」
 部屋はほがらかな笑いに包まれ…

「――じゃあ、後ろに隠した物を出しなさいッ!!」
 しぃは立ち上がって叫んだ。
「待てッ! これは違うんだ…!」
「何が違うのッ!?」
 しぃは、俺を睨みつける。
 俺は観念して、チャイナドレスとナース服を前に出した。
「…じゃあ、これ着てみるね!」
 しぃは3着のコスチュームを手に取ると、バスルームに消えていった。
 何だ、結局着たかったんじゃないか…
 俺は、バスルームの方を眺めてニヤニヤしていた。


          @          @          @


「誰よッ! ハートの8止めてるのはッ…!」
 レモナは手札を握りつぶす勢いで叫んだ。
「そういう事を言い出す当の本人が、止めてる事が多いんだからな」
 モララーは呟く。
「あんたでしょ、つー!!」
 レモナはキッとつーの方を睨みつける。
「サァテ… ナンノコトヤラ…」
「大体、最初からおかしかったのよッ! 6を3枚も持ってるなんて…! 配る時イカサマしたでしょうッ!!」
 大声でまくしたてるレモナ。
「バレナキャア イカサマジャ ナインダゼ…」
 つーはレモナを凝視して言った。
「今に見てなさい…、私だって、いつまでも笑ってないんだから…!」
「どうでもいいけど、レモナの番だよ」
 モララーが促す。
「…パス」
 レモナは悔しげに呟いた。
「アヒャ! モウ アトガナイナ!!」
 その言葉を受けて、レモナはつーを睨んだ。
「このままじゃ、終わらせないから…!」
 モララーはため息をついた。
「あンた、背中が煤けてるぜ…」
 今度は、モララーを睨みつけるレモナ。
「もう、みんなして…」
 その時、レモナの耳に信じられない音声が入った。

『そう。そこ…』

 ――今の声は…!
「ちょっと! 今の声は!!」
 レモナは叫ぶ。
「マケソウダカラッテ、ウヤムヤニ スルキカ?」
「そうだぞ、男らしくないぞ?」
 モララーとつーは取り合わない。
「いいから、少しだけ黙って…!」
 何か不穏なものを感じたモララーとつーは、大人しく口をつぐんだ。

『ウィンウィンウィン…』
『そこだ… いいぞ…』
『ウィンウィンウィン…』
『そう… 意外に上手だな…』

「このヒワイな声は…、モナーくん!?」
 モララーは驚きの声を上げた。
 そして喘いでいる方の声は、リナーに間違いない!!
「どうするッ!!」
 モララーが大声を上げた。

「言うまでもないわ!」
 レモナは背中から張り出した砲塔を壁に向ける。
「ブチヤブッタ シュンカンニ、オレガ キシュウヲ カケルカラナ…!」
 戦闘態勢に入るつー。
「なら、僕が中距離からアシストするよ! 『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」
 スタンドを発動させるモララー

「行くわよッ!!」
 壁に向けて粒子ビームを放つレモナ。
 その薄い壁は、一瞬で吹き飛ぶ。
 そこで目にした光景に、三人は固まった。
 モナーは、リナーの肩を揉んでいたのだ。

408:2003/12/24(水) 13:40

          @          @          @


 俺は、呆然としていた。
 突然壁がぶっ壊れたと思ったら、そこにレモナ、つー、モララーの三人が立っていた。
 状況がさっぱり分からない。
 何故か、向こうも呆けているようだった。

「ホテルまで来て… 何やってるの?」
 レモナは言った。
「え? 肩が凝ったっていうから、マッサージを…」
 俺は、かろうじて質問に答える。
「普通、ホテルに来てやる事は一つだろ…?」
「オレタチモ ヒトノコト イエナイケドナ! アヒャ!!」
 モララーは『アナザー・ワールド・エキストラ』を発動させている。なんで戦闘態勢なんだ…?
「いや、そうしたいのはヤマヤマなんだけど…」
 俺は答える。


「(モララー君、この気マズいシチェーションをどうするの!?)」
「(アトノ フォローハ ドウスルンダ…?)」
「(仕方ない、強行手段だ…!)」
 三人は何やらヒソヒソと話している。
 …と思ったら、リナーの方へ突っ込んできた。

「行くぞ!」
 走ってくる三人の身体が重なって、一人に見える。
 先頭にレモナ、その後ろにつー、一番後ろにモララーだ。
「…」
 リナーはジャンプしてレモナの攻撃をかわすと、つーの頭を踏みつけた。
「オレヲ フミダイニシタ…!?」
 そのまま、バヨネットでモララーに切りかかる。
「うわっ!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』でバヨネットでの突きを防ぐモララー。
 リナーはその勢いでモララーの顔を掴むと、壁に向かって投げつけた。
 壁を突き破り、隣の部屋まで突っ込んでいくモララー。
 とうとう、よそ様の部屋にまで迷惑をかけてしまった。


          @          @          @


 ナース服を着たしぃが、バスルームから出てきた。
「おお、なかなか似合ってるな…!」
「そうかな…?」
 嬉しそうにくるりと回るしぃ。

 その時、隣の部屋から轟音が聞こえた。
 そして、人の怒鳴り声。

『ホテルまで来て…!』
『肩が凝ったっていうから…!』
『普通、ホテルに…!』

「ギコ君、ホテルって怖い所だね…」
 しぃは呟く。
「ここ、普段は静かなホテルなんだがな…、とりあえず、風呂入ってくるわ」
 俺は、バスルームに向かった。
 服を脱いで、カゴに叩き込む。
 その瞬間…

 ボゴォッ!!

 という轟音がした。すぐ近くだ。
 同時に、「きゃあああぁぁーッ!!」というしぃの悲鳴。
 俺は咄嗟に飛び出そうと思ったが、しぃの前にフルチンで出て行くわけにもいかない。
 まあ、どうせさらす事になるとはいえ…
 ハンガーで吊るしてあった服をとっさに羽織ると、俺はバスルームを飛び出した。

 腰を抜かしてへたばっているしぃ。
 壁には大きな穴が空いていて、誰かが倒れている。
 何と、そいつはモララーだった。

409:2003/12/24(水) 13:40

          @          @          @


 即効でモララーをぶっ飛ばしたリナー。
 だが、レモナとつーを二人同時に相手にするのはキツ過ぎる。
 リナーは言った。
「お前達二人が私を倒したところで、その後どうする気だ…?」
 レモナとつーが顔を見合わせる。
「…同盟関係も、ここまでのようね」
「オウ! ノゾムトコロダ!」
 対峙するレモナとつー。
 その刹那、レモナの拳がつーの顔面にヒット。
 つーの爪もレモナの腹に突き刺さっている。
「グハッ…! ガハ…! ネカマァッ(レモナ)!!」
「がっはァ! もうガマンできないってか!! 性別不詳(つー)!!」
 なんと、レモナとつーは同士討ちを始めた。

 リナーは、スカートからバヨネットを取り出した。
「さて、殺るか。化物を打ち倒すのは、いつだって人間だ…!」
 戦っている2人に、リナーが突っ込んでいく。
 2対1の不利な状況が、三つ巴の戦いになったのはいいが… もう収束不能だ。
 俺は部屋から飛び出すと、非常ベルを押した。
 その後、隣の部屋へ飛び込む。
「ちわ〜ッス。お楽しみのとこすみませんが、邪魔者を回収しに来たッス〜!!」
 つかつかと部屋に踏み込むと、明らかに見覚えのあるサンタと看護婦を無視して、倒れているモララーに往復ビンタをかました。
「うん…、僕は…?」
「ホラ! 起きるモナ!!」
 ゆっくりと起き上がるモララー。
「『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」
 モララーは起きるなりスタンドを出した。
「モナー君は渡さないからな…!!」
 モララーは、叫びながら三つ巴の戦いの真ん中に突っ込んでいった。
 とりあえず、俺もモララーがブチ開けた壁の穴を通って306号室に戻る。

 轟音がした。306号室の床の真ん中に、大穴が開いている。
 大穴の脇で、肩で息をするリナーの姿。
「馬鹿三人は、階下に叩き落した」
 リナーはバヨネットを服にしまいながら言った。
 その大穴からは、なおも爆音と怒号が聞こえている。
 たまに、グラグラとホテル全体が揺れた。
 まだ三人は戦っているのだ。
 鳴り響く非常ベルの音。
 他の部屋からも、次々に人が飛び出してくる。
 そして、非常階段に殺到するホテルの客達。
 ホテル中は大混乱だ。

410:2003/12/24(水) 13:40

「こうなったら、混乱に乗じて当初の目的を達成する。モニカのいる406号室に乗り込むぞ!!」
 本当に今さらといった感じだが、それがそもそもの目的なのだ。
 しかし、そう言ったリナーは306号室を名残惜しそうに見ていた。
「すまない。やり残した仕事がある。先に406号室に行ってくれないか? すぐに私も駆けつける」
「まさか、まだゲームをするつもりモナ…?」
「君は、私を何だと思っている? 遊興に流されて、目的を見失ったりはしない!」
 途中で思いっきり見失っていた気もするが、それに突っ込んでも始まらない。
「分かったモナ! 先に行くモナ!」
 俺はリナーにそう告げて、走り出した。
 エレベーターは止まっている。
 俺は、非常階段を駆け上がった。
 突然、携帯が鳴った。
 出ている余裕などない… が、一応誰からかは確かめておくか。
 ディスプレイに表示されている名前は… しぃ助教授!?
「もしもしモナ!」
 俺は電話に出た。
「あっ、モナー君。さっき、『異端者』がモニカのスタンドについてASA本部に照会しましたよね…?」
「そうモナ!」
 そして、今から接触するところだ。
「やっぱり。そうすると、彼女がこの町にいるという事ですか。いいクリスマスになりそうですね」
 しぃ教授は、嬉しそうに言った。
 …えっ?
 どういう事だ?
 俺はその場に立ち止まった。
「まあ、私は彼女の能力を知っちゃってるから、恩恵には預かれないんですけどね」
 恩恵を預かるってことは…
「モニカって、いいスタンド使いモナか?」
 俺は驚いて訊ねた。
「スタンドにいいも悪いもありませんよ。ただ、彼女の『サイレント・ナイト』は周囲の人に幸せを振りまく能力ですね」
 何だってー!!
 じゃあ、俺達がやった事は…?
「じゃあ、いいクリスマスを…」
 しぃ助教授からの電話は切れてしまった。
 何てことだ。モニカは無害なばかりか、幸をもたらすスタンド使いだったのか。
 とんだ勘違いだ。
 俺は急遽、306号室に戻る事にした。
 今でも、階下でレモナ、つー、モララーの三人が暴れているのだ。
 このホテルも長くはもたない。
 急がなければ。

 俺は306号室に駆け込んだ。
「来るなッ!! 来るんじゃないッ!!」
 バスルームから、リナーの叫び声が聞こえる。
 どうした!?
 ひょっとして、誰かの攻撃を受けているのか!?
「どうした、リナーッ!!」
 俺はバスルームに駆け込んだ。
 鏡の前で、メイド服を着ているリナーの姿が目に入る。
「…」
「…」
 見つめ合う俺達。
 静寂を破るように、複数のバヨネットが飛んできた。
 『アウト・オブ・エデン』で視たその数、24本。
 俺は、その内の22本に当たって意識を失った。


 目を覚ました時は、もうホテルの前だった。 
 リナーが運び出してくれたのだろう。
 周囲は、消防車と野次馬でごったがえしている。
「苦節30年… 私のホテルが…」
 泣き崩れているフロントのオバさんが目に入る。
 俺は、炎上して崩れていくホテルを見上げた。
 あの三馬鹿は、いまだに戦っているのだろう。

 何故か、俺の隣には看護婦を従えたサンタが立っていた。
「俺の服…あの中だったんだよ…」
 サンタは、悲しげな目でホテルを見上げながら言った。
「それは…災難モナね…」
 俺は呟く。
「着るか?」
 サンタは、チャイナドレスを差し出した。
 俺は頷いて、それを受け取る。
 そんな俺達に、リナーは冷たい視線を送っていた。

411:2003/12/24(水) 13:41

          @          @          @


 「こんな日に、ホテル火災に遭うなんて…」
 モニカはため息をついた。
 自分は、いつもそうだ。
 自分のスタンドが人々に幸福を与える代償のように、彼女自身は運が悪い。
 まあいい。
 他のホテルでふて寝するか…
 モニカは燃えさかるホテルを尻目に、その場を後にした。


          @          @          @


「メリー・クリスマース!!」
 俺達は乾杯した。
 どうでもいいが、なんでみんな俺の家に集まってくるんだ?
 リナーはいいとして、ギコにしぃ、レモナ、つー、モララーまでいる。
「まあ聖夜なんだし、細かい事はいいじゃないかゴルァ!」
 ギコは俺の肩をバンバンと叩く。
「まあいいけど、モナの家での性行為は控えてほしいモナ…」
「俺は動物かゴルァ!!」
 ギコに拳骨をもらう俺。
 だって、猫じゃないか…


 俺は、盛り上がる座から抜け出した。
 そして、ギコから受け取ったチャイナドレスをそっとタンスにしまった。
 タンスの中にメイド服が入っているのを目にしたが、何も見なかったことにする。
 さて… また居間に戻って馬鹿達の相手でもするか…
 廊下を歩いていると、居間から出てきたリナーにかち合った。
「今日は疲れた…寝る」
 リナーは言った。
 俺は頷く。
「ああ、今日は本当に…」
 残念だ。せっかくホテルに入ったのだから、もっと何かあってもいいだろうに。
「まったく…リナーは、ああいう場所に二人で入るって意味を分かってるモナか?」
 俺は愚痴を言った。
 軽率にホテルに入ってしまったばっかりに、三馬鹿にあらぬ誤解を受けてしまったのだ。
 そりゃ、リナーの感覚が普通の人とは違うのは分かっているが…
「それぐらい知ってるさ。了承済みだ」
 リナーは俺を一瞥すると、俺の横をすり抜けていった。
「ああいう場合、普通は男の方から行動するものだろう?」
 そう告げて、リナーは部屋に戻っていった。
 俺は… いつまでも馬鹿のように、その場に突っ立っていた。


          @          @          @


 …朝。
 俺は、居間で目を覚ました。
 あのまま馬鹿騒ぎしたあげく、眠ってしまったのだ。
 俺は身体を起こした。
 みんな、居間の至るところに転がって寝息を立てていた。
 ふと、妙なものが目に入る。
 人でも入るくらいの大きな袋が、俺の傍にあったのだ。
 …何だ、これ?
 俺は、眠い目をこすりながら袋を開けてみた。
 中には、ぐっすり寝ているリナーが入っていた。

 ウホッ! リナーの寝姿…じゃなくて、何だこれは――ッ!!
 敵スタンドの攻撃か!?
 俺は周囲を見回す。
 リナーを袋詰めにするなんて、何と猟奇的な事を…
 そこで、俺は気付いた。
 袋は一つではなかったのだ。
 俺のそばのが特に大きいから目立っただけで、寝ているみんなの傍らにも袋はあった。
 大きさは違えど、袋の質は同じ。
 俺は、ギコのそばの袋を開けて… みようとして思いとどまった。
 袋のやけに長い形で、中身が分かる。
 明らかに、刀剣のたぐいだ。
 しぃの近くの袋を開けると、指輪が入っていた。
 レモナの近くの袋には… 紙切れが一枚。その紙には、『重複』とだけ書かれている。
 つーの袋にも、モララーの袋にも、全く同じ紙切れが入っていた。
 これは… どういうことだ?
 不意に、携帯が鳴った。
 キバヤシからだ。
「もしもしモナ?」
「大変だ、モナヤ! 俺の枕元に、袋に入った「諸世紀」の原本が置かれていたんだよ!!」
「な、何だってー!!」
「俺の仮説が正しければ、サンタは実在するかもしれない…
 MMR緊急出動だ!! ノルウェーへ飛ぶぞ!!」
「行ってらっしゃいモナ」
 俺は電話を切った。
 そうか、これはプレゼントだったのか…
 俺は袋の中で気持ち良さそうに熟睡しているリナーをチラリと見た。
「Hair 2 U(君に幸あれ)…」
 俺はそう呟いた。
 聖夜は過ぎた。
 祭りの後は、寂しいものだ。
 今年も、間もなく終わる。
 だが、来年もこうして馬鹿騒ぎできれば、それで構わない…
 俺は、何となくそんな事を考えていた。


  /└─────────┬┐
. <  Merry Xmas & Hair 2 U | |
  \┌─────────┴┘

412新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 14:19
(´-`).。oO(俺のところにもミニスカサンタこねえかなあ


とにかく乙ッ!

413新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 14:35
乙ッ!!
モナーの欲しいものはそれか…。

414新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 15:54
こんなに爆笑した小説は初めてです。乙!

415新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 16:02
DQネタワロタ

416新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 16:35
イイヨ(・∀・)イイヨ-

417新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 17:47
合言葉はwell kill them!(仮)第五話―王牙高校の人々 後編


そして放課後・・・
なぜか俺はツー、ヅー、モララー、のーちゃん達と商店街を歩いている。
簡単に説明すると、一人で帰ろうとした所にツーが現れ『拉致』されたのであった。
そこへ他の奴らが合流して今の状態になったと言うわけだ。
そしておまけがもう一人、マララーの野郎だ。
奴は音も無く俺達の後方からやってきて、ちゃっかり合流しやがった。
まあこいつがいても何一つ問題は無い。ただの下ネタ大王なだけだから。
今俺達は暇をもてあまして茂名王町の隣町、海宮町の商店街にきている。
俺はここに来るのは初めてだが、ヅーやのーちゃんなんかがここに住んでいるので、ガイド役を任せている。
「ねえ、私達って目立ってない?」
ふいにヅーが話しかけてきた。
「ああ。」
「それもそうね。」
「だろうな。」
さっきから俺達6人にいろんな視線が飛んでくる。
今分かっている原因は二つ。
一つは俺の背負っている『篭』
もう一つがマララーの被っている「男根」とプリントされている帽子だ。
まあ、そんなことを気にしていたらきりが無い。俺達は無視を決め込んだ。
しばらく歩くとヅーが立ち止まった。
「ここ、ここ。」
そこには喫茶店「豆」という看板があった。
店内に入ると落ち着いた雰囲気の中にのなかに心地よいBGMとコーヒーの香りが漂っていた。
お客は何人かいて、カウンターに髭を生やしたマスターがいた。
「ただいまー。」
ただいま?俺の疑問が顔に出たらしくヅーが説明した。
「あ、ここ私の家なの。で、マスターがお父さん。」
「いらっしゃい。よく来たね。いやー男を連れてくるとはヅーもそんな年頃か。俺も若い頃は・・・。」
「ちょっとお父さん!」
暴走しようとしている父親をヅーが必死で止めている。
「あらどうしたの?」
騒ぎを聞きつけ、母親らしき女性が奥から出てきた。
「丁度いいところへ来た。ヅーが男を連れてきて・・・。」
「やめてー!」
ドムウッ!
「うっ!」
見事なソバットが腹部を直撃し、父親が崩れ落ちた。
「あらあら、ヅーもそんな年頃に・・・。」
「わー!」
顔を真っ赤にして今度は母親を止めに入る。
おいおい、ヅー。お前のとこの両親はこんなのなのか?
うちの親父にはかなわないがタチ悪い。
「・・・・おいアヒャ。」
いきなりツーが話しかけてきた。
「帰りたくなった。」
「俺もだ。」
「「はあ。」」
二人そろってため息をついた。
モララー達はいじけて席でメニューを選んでいた。いつのまにかでてきたブラッドも一緒だ

418新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 17:50

騒動が収まり、ヅーの両親達も交えて俺達は雑談をしていた。
「そういえばツー君。アヒャ君は中学のときどんなだった?」
のーちゃんがツーに尋ねる。
「ああ、今も昔も変わらずってとこかな。」
「ソレで終わりかよ俺の紹介はよお〜。」
まったく。もっと話すことはあるだろうに。
その時ツーの目が妖しく光った。いやな予感がする・・・。
「こいつ中学のとき文化祭のミスコンに女装で飛び入りで参加して優勝したことがあるんだぜ!」
「ええええええーーーーー!!!!」
異口同音、全員が驚きの声を上げ、俺は人生の汚点とも言うべきあの事件を思い出し、あの日の自分を呪った。
「ほれ、これが証拠写真。」
「嘘?」
「ほう。」
「可愛い!」
「おお。」
「最高に萌えってやつだ!」
みんながそれぞれの反応を示す。
「何で、んなモン持ってんだーーーーー!!!!」
俺の怒号が店内に響く。
「え?ネタのため。」
ツーはあっけらかんと答えた。
「うう、俺のキャラがどんどんだめな方向に・・・あの日の俺の馬鹿ぁ。」
俺は床でいじいじといじけた。
「・・・でも可愛い。」
本心か(絶対本心だ。)ヅーが誉めてくれた。全然嬉しくない。
「いや〜あれは文化祭のノリと空気に理性がのっとられて〜。」
「でも自分から参加したんでしょ?」
「・・・はい。」
俺はへなへなとその場に崩れ落ちた。
あの占いはきっとこのことを暗示していたんだな・・・・。

ほい、証拠写真。

   /川川   
  ∠|| ゚∀)
   ∪─⊃  
 ⊂/_____|
   ∪∪

419新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 17:51
夕方。俺は家の近くにある首吊りの大銀杏の木の下で物思いにふけっていた。
ここからの夕日がまた美しいのだ。
「やれやれ・・・。まさかあの事がばれるなんてね・・・。」
今日はまた随分と喋って笑ったな。
こんなに笑ったのも久しぶりだ。
「ふ。」
俺は自分の考えに自嘲した。
俺もこんなことを考えるようになるとはな・・・ま、それも悪くない。
そう思い俺は家へと急いだ。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

420新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 18:34
乙。
今日は新作ラッシュだー(´▽`)ノ

421新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 19:09
リナーを見ると某錬金術漫画の顔に傷がある人を思い出す

422新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 19:29
俺はアニメにもなったシスターと悪魔が悪魔と闘う某漫画を思い出す。
まあ服の十字と銃大量に持ってるってところくらいしか共通点無い気もするけど。

423新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 19:34
>>422 自分もそう思うんだが何でだろう?

424新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 19:43
>服の十字と銃大量に持ってるってところくらいしか共通点無い

よく考えたら人にイメージを連想させるにはこれで充分な気がするな。

425新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 20:43
なるほど、そう言われるとそうだな
そこにきずくとは流石だな>>424

426新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 22:07
誰かリナーを書いてください
想像できない訳じゃないけどいちよう…

427新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 22:36
絵の事か?

428新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 22:36
リナーハァハァ (´Д`*)

429新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 22:41
>>428
そんな事を言ってると埋めrはなせなにをするやめ(ry

430新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 23:15
絶対に着ないとか言いつつ着たうえに持ち帰ってるリナー萌え(´Д`*)

431新手のスタンド使い:2003/12/24(水) 23:24
このスレ、モナーがいっぱいいるよママン…。

432新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 02:33
このスレの連中、エロいヤツらばかりだな。

433新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 09:29
モナーがリナーを透視しないのが不思議に感じr…?
…謝りますからその刃物をしまってくだs

434新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:08
>>428オマエモナー

435新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:09
>>433オマエモナー

436新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 10:35
>>421
俺も(´・ω・`)ノシ

437新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 11:44
>>434
>>428にオマエモナーとはどうゆう事だ説明してくれ
それとも間違えたのか?

438新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 12:47
>>437
オレモナーと言いたかったんじゃないか?
そして>>430、オレモナー

439428:2003/12/25(木) 13:40
この私の、私の一言でこのスレはある方向へ動き出した!

440434:2003/12/25(木) 17:18
(いまさら書き間違いなんていえない…)

441N2:2003/12/25(木) 17:45
「居る」の過剰変換が有るかも知れません。
お気付きの点御座いましたら突っ込みお願いします。

442N2:2003/12/25(木) 17:47
 青年の過去の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その②)

 「奴は―――生きているッ!」
 『矢の男』は、そう確信した。
 モ蔵を討ち取り、ひろゆきから矢を奪還した後、彼は腕の傷を治療してその日の内にはもう矢で4、5人は撃っていた。
 しかしその間、彼は常に形容しがたい不安に駆られていた。
 その夜、彼は再びあの町外れの倉庫へと行ってみた。
 あれからこの辺りで人の死体が見つかったという話は広まっていない。
 ということは、モ蔵の死体はまだ誰にも見つかっていない。本来ならば、そうであるはずだった。

 しかし、そこには腹に穴の開いた、夏の炎天下にさらされ腐敗し、悪臭を放つ男の死体は存在しなかった。
 彼も、昨晩の出来事は夢ではなかったのかと一瞬疑ってしまった。
 だが確かに彼はモナ蔵を「殺し」た。あのスタンドごしに伝わる生温かい血肉の感触は偽りではなかった。
 「有り得る可能性は2つ…。1つはあの後モナ蔵が何らかの能力で復活したか、あるいは初めから私は奴のスタンドの幻術にかかっていたということだ」
 しかし奴のスタンドは「サムライ・スピリット」。接近戦では恐らく右に出る者はいないだろうが、そんな能力が備わっているとはスタンドの常識上からも、またこれまでの奴のスタンドの情報を分析してみても到底考えられない。
 「となると、残るもう1つの可能性…、何者かが奴の傷を治療したということか…!!」

 本来、自分が仕留めたと思った者がその後生きていようが死んでいようが、彼にはどうでも良かった。
 彼に挑む者は、今までそのほとんどが場当たり的な危機回避、あるいは復讐心を目的としていた。
 矢で射ろうとした相手が既にスタンドを身に着けており、命の危険を察して攻撃する。
 あるいは、集団をまとめて矢の試練にかけ、その中でスタンドを発現させた者が仲間の敵を討とうと攻撃する。
 今まで彼はそんな奴らは適当に戦って殺すかやり過ごすかしてきたのだが…、決して二度と戦うことはなかった。
 しかしモ蔵は違う。
 もし彼が生きているならば、また再び自分を討たんとして探し出すだろう。
 更に運の悪いことに、自分はこれからこの町で『目的』を果たそうとしているまさにその時にモ蔵と出会ってしまった。
 この町に滞在するということは、それだけまた彼と出会いやすいということでもある。
 次に戦ったとき、果たしてまた彼に勝てるだろうか…?
 …決して無理な話ではない。
 だが、彼がその時までに更に実力を上げていたとすれば、どうなるかは分からない。

 「まずいな…、何としても手を打たねば」
 と、その瞬間、矢が何か反応を示した。
 その向こうには、一人の男が歩いていた。
 矢からはその男のスタンドの才能が、そしてそれが今の自分の救いとなるものであるということがエネルギーとして伝わってくる。
 「私の運命もまだまだ捨てたものではないらしいな…」
 彼は口元に笑みを浮かべながらそう呟くと、その男へと近寄り、そして背後から矢の狙いを定めた…。

443N2:2003/12/25(木) 17:47

 モ蔵が眼を覚ますと、時計は6時前を指していた。
 部屋の中には、青年の姿は無い。
 (例の『日課』とやらにでも出掛けたのか…)
 そう思うとモ蔵は起き上がり、寝間着から作務衣に着替えると、部屋のラジオを付けた。
 そして周波数をNHKに合わせると、ニュースを聴きながら静かに6時半を待った。


 昨晩のことだ。
 初代モナーが作った夕食はご飯・味噌汁・アジの開き・梅干と質素なものであった。
 だが、モ蔵にはむしろその方が良かった。
 碗に盛られた飯が半分ほど減った頃、突然初代モナーがモ蔵に話し掛けた。
 「ああ、そうだ、おっさんに言っておくことがあった。明日から朝オレがいなくても、別に心配しなくていいから」
 「…どういうことだ?」
 「オレ、毎朝5時頃からランニングしてるんだ」
 「ランニングに?お主が?」
 卓上に並ぶ料理に伸ばした箸を戻して、モ蔵は初代モナーに聞いた。
 「何だよ、その信じられないって言いたそうな顔はー。オレが毎朝そうして何が悪い?」
 少々不機嫌そうな顔をしながら、初代モナーは言い返した。
 「すまぬが…決してそういうことが似合うとは思えなかった」
 率直な感想を述べると、初代モナーはばつの悪そうな笑みを浮かべた。
 「ああ…まあ確かにそりゃそうだ。今までにもオレの習慣を聞いてびっくりしなかった奴の方がまれだ。
 そりゃ普段の素行だけを見てればそう考えられても仕方ないけど。
 …でもなおっさん、おっさんだって、オレのこの習慣が無かったら今頃どうなっていたか分かんねえぞ?」
 「…それは一体どういうことだ?」
 「昨日オレがおっさんを見つけたのも、あそこがオレの町内一周ランニングのルートだったからさ。
 びっくりしたぞ、ホントあの時は。今まで何年も毎日欠かさず走ってたけど、こんなことは初めてだったんだから」
 「…それもそうだな、無礼なことを言って済まなかった」
 「ん、いいよ。別に気にしてないから。それと、朝飯は部屋にあるもので適当に済ませてくれ。
 オレは行った先で食っちまうから、何か自分で勝手に作っても構わないから」
 
 
 「皆さん、おはようございまーす!!」
 (おはようございまーす!!)
 ラジオから、若い男と群集の声が響く。
 8月14日、木曜日。
 この町にやって来て今日で2日目。
 初めからそうなることは予想していたが、やはりすぐに『矢の男』と決着を付けることは出来なかった。
 では果たして、今度まみえる時には彼を討ち取ることは本当に出来るのだろうか?
 昨日戦ったとき、「暗・剣・殺」は確かに当たったはずであった。
 しかし、実際にはかわされ、結果はあのザマだ。
 それでは何故男は自分の攻撃を瞬間的に避けることが出来たのだろうか。
 自分の記憶が正しければ、以前の彼にはそんな能力は無かったはずだ。
 と言うことは成長したのか?
 …分からない。
 何度考えても頭の中では疑問が渦巻くばかりだ。
 それよりも、彼の能力を暴く前に、剣を避けられた自分の腕を恥じるべきである。
 …精進せねば。
 と、ラジオからはピアノの音が鳴り始めた。
 モ蔵は男の声に合わせて、背伸びを始めた。

444N2:2003/12/25(木) 17:49

 時計の針が9時を指しても初代モナーは帰って来なかった。
 モ蔵は、一瞬躊躇したが、こんなボロい所に盗みに入る奴もいまいと思い、部屋の鍵を掛けぬまま郊外の倉庫へと向かった。



 何の収穫も無くモ蔵がアパートへと帰ってきたのは、結局夕方の4時過ぎであった。
 カビ臭い建物の中に足を踏み入れると、自分達の部屋から見覚えの無い女が出てきた。
 もしや鍵を掛けなかったから空き巣にでも入られたのではないか。
 青年に無断で外出し、部屋の物を盗まれたとあっては一大事だ。

 「あら…?」
 「失礼だが、お主…何者だ?」
 必死に駆け寄ると、しぃ族の女はきょとんとした表情でモ蔵の顔を覗き込んだ。
 明らかに時代を間違えた服装。
 身にまとっているのは裾模様、足元は足袋と草履。
 髪は結って後ろでまとめてあり、まさに「明治・大正の女」と呼ぶに相応しい。
 だがそれでも場違いな者に見えないのは、彼女がこの服装をごく自然に着こなしているからだ。
 恐らく、平時からこの調子で過ごしているのだろう。
 歳は30代前半に見えるが、どこか落ち着きと芯の強さが感じられる、非常に日本的で美しい女性である。
 遠くから見たのでは気付かない、その内から染み出す魅力には流石に堅物のモ蔵も一瞬どぎまぎしたが、それよりも今は素性の方が問題である。
 「私…ですか?私は、この近所の者ですわ。さう言ふ貴方は、どちら樣ですか?」
 話し方さえも、美しい。小さい頃からきちんとした躾を受けていなければ、自然とこんな話し方が出来たりはしない。
 どこか呆けたように自分の顔を眺めているモ蔵に、女の不信感も少しずつ増していった。
 「ちよつと、聞いてらつしやゐますか!?」
 「…あ、ああ、申し遅れた。拙者はつい昨日からこの部屋に住まわせて貰っておる、モナ本モ蔵と申す」
 彼女の声に眼を覚まされたモ蔵は、慌てて返事をした。
 「…本當に、あの子の知り合ひでいらつしやいますの?」
 彼女の声には、明らかに自分のことを疑っている感情が見え隠れしている。気を抜きすぎた結末だ。
 焦りを感じて完全に気を取り直したモ蔵は、改まった口調で女の問いに答えた。
 「本当のことだ。そこまで疑うなら、あの男に直接聞いてみれば良い」
 言葉の中に、先程までは無かった真剣さを感じ取った女は、それ以上モ蔵に疑いを抱かなかった。
 「…そこまでな仰るなら、きつと本當の事なのでせうね。
 變に疑つてしまつて、申し譯ありませんでしたわ」
 「いや、こちらも貴女のことを疑っており、無礼な言葉を掛けてしまいました。
 本当に詫びねばならぬのは、こちらの方であります」
 女の態度に、こちらも腰を低くせずにはいられなくなった。
 だが、どうやらこの女も嘘を申しているわけではないらしい。

445N2:2003/12/25(木) 17:49

 「ところで、貴女は彼に何か用でもあるのですか?」
 「えゝ、さう/\、實は今日の御夕飯にと思つて作つた里芋の煮物がとても(゚д゚)ウマーく出來上がりましたから是非あの子にも、
 と思つて參りましたら、部屋の鍵だけ開て誰もいらつしやいませんから…」
 しまった。別にいいだろうと思って鍵を開け放しておいて失敗した。
 「…それが、実は彼が朝から出掛けてなかなか戻りませんでしたから、待っていても仕方が無いので私も鍵を掛けずに出掛けておって、
 丁度戻って来た時に貴女が部屋から出てきたものですから…」
 「あら/\、鍵も掛けずにお出掛けなさるなんて、隨分と無用心では御座いませんか」
 「…申し訳ありません。拙者の不注意でした。後で彼には詫びの言葉を入れることにします」
 本当なら鍵を残さなかった青年のことも言いたかったが、今更そんなことを言っても仕方が無い。
 モ蔵は女が自分のことを責めるだろうと思って平謝りしたが、彼女の反応は全くの予想外のものであった。
 「ウフフ、別にそんなにお堅くなられなくても良いぢやあゝりませんか。
 よく言ふでしよ、『友逹の友逹は友逹』つて。私逹もあの子を挾んだ知り合ひなんですもの、もう少し和やかにお話ししません?」
 女の方から自分に歩み寄って来てくれたお陰で、モ蔵も彼女に対して親近感を持ち始めた。
 「…では、お言葉に甘えて」
 「ほら/\、『分かりました』くらゐで構ひませんよ」
 「『分かりました』。…よろしいでしょうか?」
 「フフフ…モナ本様、でしたっけ?貴方、本當に面白い方ですわね」
 「面白い…拙者が?」
 面白い人などとこれまで呼ばれたことのなかったモ蔵は、女の思いも寄らない言葉に動揺した。
 これまで剣とスタンドの道にのみ生き、数多くの命を奪い、一方では「剣聖」と崇められながらも、また一方では「剣魔」と恐れられてきた。
 今まで、他者が自分を見る時は全て戦いにおいての面のみであり、その人間性については存在すら意識されなかった。
 「剣」そのもの。モ蔵は今まで、そういう存在だと思われてきた。そして彼自身にも。
 「えゝ、さうですわ。だつて本當にお堅い喋り方が染み付いておられて…。
 私、最初に話し掛けられた時に一體この方いつの時代からやつて來られたのかと考へてしまつたくらゐですもの」
 「それは、貴女が言えたことではありませんよ」
 あらさう言へば、女が口にすると、2人は何だかおかしくなってしまい、そのまま大笑いしてしまった。
 ここ最近心の底から笑うことの無かったモ蔵も、この時は本当に愉快な気持ちになった。
 それは単純に愉快だったからではなく、久々に人の温かみに触れたからでもあった。

 「そう言えば、貴女は先程彼のことを『あの子』と呼んでいらっしゃいましたね」
 一通り笑い終えてすっきりした後、モ蔵はふと先の女の言葉を聞いた時の疑問を思い出し、彼女にぶつけてみた。
 「ええ、こゝの初代モナー君とは昔から付き合ひが有りますの」
 「では一つお願いがあるのですが、彼のことについて色々とお聞かせ下さいませんか?」
 「あら、それはどうして?」
 「はい、実は彼が毎朝ランニングをしているという話を昨日聞いたのですが、私にはどうしてもそれが信じられなくて…。
 それだけではありません、彼も男の一人暮らしにしては割と部屋も片付いていますし、それに昨日彼が家事の分担を申し出たのですが、
 それも彼の方に大変な仕事が偏っていまして…。勿論、それだけならただの真面目な青年で片付けられるのですが、
 彼の言動があまりそういう風には見えないものですから…」
 それを聞いて、今まで明るい顔をしていた女の顔が急に厳しくなった。
 「それは、幾らなんでもモナ本樣の偏見と言ふしかありませんわ。彼は本當に心の底から正直で眞面目な子ですわ」
 突然語調を強めた女の反応に、モ蔵は深い理由を察した。
 「…しかし、私の見た限りではなかなかそういう者には見えないのが実際の所です。
 それとも、貴女が彼のことをそこまで真面目だと言い張るのには、何か理由が…」
 女の顔は、何か辛い決断をしたような表情であった。
 その顔を見て最後まで言い切れなくなったモ蔵を横目で見ると、女はしみじみと語り始めた。

446N2:2003/12/25(木) 17:50

 「…そうですわね、モナ本樣でしたらお話しゝても宜しいでせう。
 あの子の兩親と私は古くからの知り合ひでした。
 2人とも警察官で、この町の危險を守る爲にといつも危險な現場へと率先して出向くやうな人逹でした。
 2人は時として2週間以上も家を空けることもあり、あの子はその度に私の家に泊まりに來て居ました。
 私が危ないんぢやないの、あなた逹にもしもの事があつたら子供はどうするの、と言ふと、いつも決まつて
 『どんなに危險な現場であらうと、誰かゞ行かなければならないんです』と答へて居ました。
 そんな兩親をいつも見てゐたからなんでせうかね、あの子も隨分と生眞面目で融通の利かない子に育つていきましたわ。

 …でも、私の恐れてゐたことがとうたふ起こつて仕舞ひました。
 あの日、私は蟲の知らせがして、朝2人が出勤する前に會ひに行つたんです。
 2人はいつもと變はらない調子でおはやう、と答へました。
 でも私はその朝2人の後ろに黒い影が付き纒つてゐるのを感じたんです。
 そこで私は單刀直入に、あなた逹はひよつとして何か危險な事件に關はつてゐるんぢやないのと問ひました。
 2人は危險な事件に關はらない警察官などゐない、と言ひましたが、その後直ぐに、
 『若しも私逹に萬が一の事が有れば、其の時はあの子の事を頼みます』と言ひ直しました。
 それは2人の口癖でもありましたが、その時は何時にも増してその言葉が現實味を帶びて居ました。

 2人の訃報を聞いたのは、それから1月程經つてからでした。
 後で聞いた話ですが、2人は破壞活動を行ふ一團に潛入調査をして居たらしいのですが、
 正體がばれてしまひ始末されたらしかつたのです。
 2人の遺體が家に屆けられても、あの子は決して私逹の前で涙を見せることはありませんでした。
 私が泣かないの、悲しくないのと言ふと、あの子は『僕は警察官の親を持つた時點でかういふ日がいつか來るかも知れないとは思つて居ました。
 だから今こゝで泣いても仕方ない、それよりもこれからどうするかを考へなくてはいけない』と答へました。
 まだ10歳にも滿たない子供がですよ?
 きつとあの子も本當は氣の濟むまでずつと泣いてゐたかつたんでせうね。
 けれど、突然天涯孤獨の身になつてしまひ、頼れる者がほとんど居ない状態ではいつまでも悲しみに耽つてはいけない、
 自分でなんとかしなくてはと考へた…また兩親もあの子にさう育つやうに教育したんでせう。
 でも、あの子にとつての本當の辛さは、むしろこの先でした。

447N2:2003/12/25(木) 17:50

 あの子の兩親は、自分逹が死んだ時の事を考へ、彼の爲にある程度の生活費を遺して居ました。
 けれども今まで私逹が見たことも聞いたこともなひ2人の親族を名乘る心無い大人逹が、そのなけなしのお金をほとんど奪つていつてしまつたんです。
 その時は私も必死になつてそのお金の意義を主張しました、けれども彼らはどこかゝら辯護士を連れて來ると、
 難癖を付けて法律の上ではどうだかうだと言ひ張り、私逹の言ふ事には聞く耳も持つてくれはしませんでした。
 結局その大人逹はあの子からお金も、財産も、住む家さへも奪つてしまひました。
 そして更には行き場を失つたあの子をどこか遠い孤兒の施設へと入れて仕舞はうとさへしたのです。
 けれどもあの子は應じませんでした。
 大人逹が強引に連れて行かうとすると、あの子はかう言ひました。
 『僕は確かに兩親を失ひ、保護してくれる人間は誰も居なくなりました。
 だから確かに、あなた方にこれから先の僕の生活を選ばれてしまつてもそれはある意味では仕方の無い事だとは思ひます。
 けれども今の僕には、兩親が命を賭してまで守らうとしたこの町を、あなた逹の判斷で去らなくてはならないといふ現實を受け入れることが出來ません』
 それを聞いて、私もあの人逹に言つてやりましたわ。
 あなた逹はこの子から財産を全て奪つて、それだけでは飽き足らず今度は自分逹とこの子との關係を失くさうとこの町への『思ひ』さへも奪はうと言ふのですか。
 保護者がゐないと言ふなら、私が保護者にならうぢやないですか…つて。
 流石にそれを聞いてあの人逹もそれだけは勘辨してくれました。

 でもあの子は決して私逹大人の世話にならうとはしませんでした。
 それは遺産相續の件があつたからだけではなく、周圍の者逹には決して迷惑を掛けたくないといふ配慮の精神のみから來たものでした。
 私が一緒に暮らしませうと言ふと、あの子は『子供を1人抱へるだけでも小母さんの家計には大きな負擔になります、
 僕にはまだ僅かながら兩親の遺してくれた蓄へが有りますから、後は自分で何とかします』と言ひました。
 それからと言ふものはあの子は決して他人の世話にならず、いつも1人で生きて居ました。
 私の家の近所といふことでこゝに部屋を借りてからは、毎朝毎朝新聞を配逹して、牛乳を配逹して、學校が終はればバイトに明け暮れる日々…。
 そんな生活を繰り返すあの子を、確かに同情の目で見る者も少なく有りませんでしたが、けれども中には生意氣だとか、氣に食はないとかいふ者だつて居ました。
 中等部や高等部では、柄の惡い上級生や同級生は平氣でバイトをしてゐる彼を妬み、あるいは教師の中にも事情を知つてか知らずか偏見の目で見る者さへ居たと言ひます。
 決して口には出しませんでしたけど、あの子は相當酷い虐めを受けて居ました。
 いつも顏にはあざが殘って居ましたし、ずたぼろの制服で歸つてきたり、鞄を持たずに歸つてきた事さへ有りました。
 若しも私がそんな目に遭つたら、きつと自殺を考へてしまふでせう。
 …けれども、あの子はそんな酷い目に遭ひながらも、決して卑屈になつたりとか、荒れたりすることは有りませんでした。
 いつだつたか、あの子は言ひました。

448N2:2003/12/25(木) 17:50

 『小母さん、僕は小さい頃から町の爲に働く兩親の姿を見てきました。
 大人逹の中には殉職した兩親のことを惡く言ふ奴だつて居ますけど、僕は決してそんな事は無いと思ひます。
 兩親は死ぬ前にも、數多くのこの町の平和と安息を壞さんとする輩どもを潰滅してきました。
 葬儀の時も、兩親の上司は「君逹が居なかつたらこの町は今頃どうなつて居たか分からない」とまで仰つて下さいました。
 兩親が若し町の爲に命を捨てる覺悟をしてゐなければ、今の我々はこゝまで平和な生活を送れては居ないはずなのです。
 それなのに、今我々は彼らの働きによつて平和を得てゐるのに、その志半ばで倒れた兩親の事を惡く言ふ權利など我々にはあるのでせうか?
 俺は今でも兩親の事を誇りに思つて居ます。
 だから俺もいつか必ず、何かしらの形でこの町を守る仕事に就きたいと思つて居ます。』

 あの子は自分の夢を果たす爲に必死になつて勉強し、働きました。
 普通の子だつたら絶對に途中で倒れてしまふやうな、そんな過酷なスケジュールを毎日毎日こなしてきました。
 朝も早くから新聞や牛乳の配逹は勿論の事、學校が終はればすぐに仕事を2つも3つもこなして、家に歸るのはもう夜遲くになることばかりでした。
 聞くところでは工事現場とか色々氣性の荒い人逹の集まるバイトさへ經驗したと言ひますもの、少々言葉遣ひが荒くなるのも已むを得ないでせうね。
 そんな仕事をすれば身體は疲れ切つて居る筈なのに、あの子は大學に入る爲に寢る間も惜しんで勉學に勵み、
 ある時私の家に泊まつた時でさへ3時位まで起きて居ました。
 それでまた早朝から仕事が始まり、そんな日々が何日も何日も…。
 でもあの子は倒れるどころか、決して泣き言の一つさへ上げませんでした。
 でもいざ受驗といふ時になつて、どうしても上京して一人暮らしをするだけのお金が無いといふ事になつてしまひました。
 彼はまたずつと働いてゐればいつかはお金が貯まるでせうと氣樂さうには言つては居ましたが、
 彼の稼ぐお金から生活費を引いたらそれだけのお金を稼ぐのに何年かゝるのか分からないことは私逹にもはつきり分かつて居ました。
 このまゝではあの子の今までの頑張りが無駄になつてしまふ、さう思つた私は近所の人逹や彼の働き先の人逹に頼んで、募金を募りました。
 皆あの子がどれだけ苦しんでゐるのか分かつて居たんでせうか、どの方も澤山のお金を出して下さいました。
 それでそのお金を渡した時には、流石にあの子も泣いて喜んでくれました。
 それからもあの子は決して慢心することなく勉強し、それで東京ギコ大學に現役で合格して、この春卒業して戻つてきたばかりなんですわ」

449N2:2003/12/25(木) 17:51

 女の話を聞き終え、モ蔵は青年を表面的な部分だけを見て不真面目だと決め付けた自分の貧しい心を恥じた。
 女は、話の途中から感極まって涙を流していた。
 2人の間に沈黙が走る。
 モ蔵はこれまでの想像の上での青年の姿が頭の中で崩れてゆくのを感じていた。
 女は傷付きながらも弱音を吐かずに生きてきた青年の姿が走馬灯のように浮かんでいた。
 「…私がお話出來るのはこれだけですわ」
 女は気が付いたようにその静寂を破った。
 女はこれだけとは言ったが、青年はこの女が語った以上に辛い人生を歩んできていてもおかしくはない、とモ蔵は思った。
 「やはり私は彼に詫びねばなりませんね」
 「どうして?」唐突な男の言葉に女はその真意を尋ねずにはいられなかった。
 「私は先程も申しましたが、彼をその表面的な振る舞いだけできっと不真面目であるに違いない、むしろ多少の真面目そうな行いの方が
 何かの間違いだろうとまで考えてしまいました。
 しかし実際は彼は私の想像を絶する半生を歩んできていました。
 私は自分の偏見で彼の人間性を疑ってしまっていたのです。
 それを隠したままでこのままここに同居させて貰っては、それはまさしく彼に対する冒涜に等しいものです」

 モ蔵は青年と自分のこれまでの人生を重ね合わせていた。
 誰にも頼らず、自分の力だけで生きてきた日々。
 だが両者の間には決定的な違いがあった。
 自分は確かに父に痛めつけられてきたも同然ではあったが、そこには父なりの考えと愛情が感じ取れた。
 そのことが今のモ蔵の信念がこれまで折れずに保たれてきた一因であると彼は考える。
 しかし青年は、モ蔵が旅に出るよりも早くに両親を失い、更には人に頼るどころか、人から虐げられ、見下されて生きてきたのだ。
 その彼が両親の遺志をこれまで失わずにやって来れたのは、自分よりも遥かに強い精神があったからに他ならない。
 モ蔵は青年をある種の尊敬の眼差しで見るようになったと同時に、どうしても彼に詫びずにはいられなくなった。

450N2:2003/12/25(木) 17:52

 「モナ本樣のお考へは確かにごもつともですわ。…でも、出來ればそれは止めて下さいませんか?」
 モ蔵の告白に、女は意外な返事をした。
 「一体それは何故ですか?このままでは、私の気が治まりません」
 モ蔵の語調が少し強くなったのを女は感じたが、変わらず落ち着いた調子で答えた。
 「えゝ、モナ本樣の御氣持ちは私にも良く分かります。でも、正直なところを申しますと、あの子は今でも昔の事が心の傷になつて居るやうなんです。
 勿論あの子もそんな事はおくびにも出しませんけど、でも今でも昔の事は決して語らうとはしませんもの。
 …ですからモナ本樣、この事はどうか貴方の心の内にしまつて置いて、これからはさういふお氣持ちにあの子に接してやつて下さい。それで宜しいではありませんか」
 「しかし…!!」

 「おい、お前は斯くなる所で何をしたるるゝのだ」
 不意に男の低い声が割り込んできた。
 後ろを見ると、これまた明治・大正人のような格好をしたギコが廊下の端に立っていた。
 「あら、さういふあなたもどうしてこちらへ?」
 「否、散歩から歸つてきたらお前が居なかりしもの故に、きつと此方へ來てゐるならんと思ひて見に來たのだ」
 「…ださうですわ。彼れの人も本當に堪へ性のあらざる人ですわね。はい/\、其れでは今參りますわ。
 其れではモナ本樣、御機嫌やう」
 女は男の元へ行き、そのまま会釈をして2人で帰っていった。
 「…既婚者だったのか…」
 モ蔵の中では、青年の過去よりもそちらの方が驚きであった。



 青年が帰ってきたのはその日の7時過ぎであった。
 青年は昨日と変わらず、どこかとぼけた調子でモ蔵に接していた。
 モ蔵は余程頭を下げようと思ったが、それでも女の制止が頭に引っ掛かり、遂にその日は何も言わずに終わってしまった。

451N2:2003/12/25(木) 17:52

 夜道、もう明かりの付いている窓は見当たらない。
 夜空には右側が欠け始めた月が輝いている。
 道を歩く姿は無く、遥か遠くからは犬の遠吠えが響く。
 そこに遠くから響く足音。
 それは少しずつこちらへと近付いて来る。
 足音の正体は男。
 目には狂気が渦巻いていることは誰の目にも明らかである。
 「アーヒャヒャヒャヒャ!アノ男ノオ陰デ身ニ付イタ『スタンド』ッ!!マズハコノ町ヲ実験体ニシテヤルゼ!!
 アーッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

452新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 19:58
乙彼ー。

453新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:35
貼ります

454新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:35
   救い無き世界
   第三話「出会い・その2」


「『デュアルショック』!!」
 マララーのスタンドの右拳が、俺に向かって迫ってくる。
 とてつもないスピード。
 反射的に、その場から飛びのく。
 間一髪、拳は空を切った。
 俺という目標を失った右拳は、代わりに壁にそれと同じ大きさの穴を開ける。
 冗談じゃない。
 こんなパンチ、生命保険に入ってても御免被りだ。
「どうした?何をやってる。来いよ。
 使わないのか?スタンドを。」
 うるせえ。
 使えるならとっくに使っている。
 だけど、どうする。
 どうすればいい。
 さっきは何とか避けれたが、あんなパンチ何度も同じようにかわせるとは思えない。
 もし次に連続で打ってこられたら完全にお手上げだ。
 スタンドとやらを使わないと、確実に、死ぬ。
 だが、どうやって。
 俺はどうやってあの時、スタンドを使ったんだ。
 思い出せ。
 思い出すんだ。
 俺はあの時何をどうやった。
「そっちから来ないなら、こっちから行くぜぇ!!!」
 マララーがパンチを繰り出す。
 まだスタンドの出し方は全く分からない。

 奴の拳が俺の顔面に到達するまであと二十センチ。

 みぃが悲鳴を上げるのが聞こえる。
 馬鹿が。
 そんな暇があるならさっさと逃げろ。

 あと十五センチ。

 駄目だ。
 避けられない。
 死・・・・・・・・・

      ドクン

 俺の体の内側から、覚えのある鼓動が伝わった。

 あと十センチ。

      ドクン ドクン

 そうだ、思い出した。
 あの時俺は

 あと五センチ

      ドクン ドクン ドクン ドクン

 この鼓動と同調して・・・

 一センチ


 肉と肉とがぶつかったことによる衝撃音。
 奴の攻撃は、異形と化した俺の腕にしっかりと受け止めていた。

 出せた。
 これが、スタンド。

455新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:37

「・・・出しやがったな。」
 感心したようにマララーは言うと、
一旦俺から距離を取った。
「弟分達の言ってた通りだ。
 その奇妙な『腕』。
 それがお前のスタンドか。」
 違う。
 正確に言えば「俺の」ではない。
 俺の中にいる、俺とは別の「何か」の力だ。
 感覚で、それが分かる。
「しかし、妙な話だ・・・
 スタンドはスタンド使いにしか見たり、触れたり出来ない筈だ。
 にもかかわらず、あいつらはお前のその腕を『見た』という。
 これはどういう事なんだ・・・?」
 マララーはふと考え込むそぶりを見せた。
 知るか、そんな事。
 こっちが聞きたいくらいだ。
「まあ、いい。
 お前はどうせここで死ぬんだ。
 そんなことを考えることに、意味は無い。」
 マララーが俺に近寄って来た。
 俺はすぐに身構えて迎撃態勢を整える。
「もう手加減はしねえ。
 使わせてもらうぜ!!
 俺のスタンド、『デュアルショック』の能力を!!!」
 再び俺に右拳が迫ってくる。
 だが、今度はさっきみたいに怯んだりしない。
 見える。
 奴の攻撃がはっきりと。
 これもスタンドのおかげだろうか。
 これなら大丈夫だ。
 このパンチを左腕で受け止めたら、右をお返しに叩き込む。
 今の俺なら、出来る。
 来た。
 まずはこいつを左で受ける。

(!!!!!!!!!!!!!)
 その時信じられない事が起こった。
 俺の左腕が、激しい衝撃と共に奴のパンチに弾かれたのだ。
 左腕に激痛が走る。
 しかも奴の拳を受けた所だけでなく、腕全体に。
 何故だ!?
 さっき奴の攻撃を受けたとき、
 そんなにパワーの違いは感じなかった筈だ。
 奴はこれ程の力を隠していたとでもいうのか?
 いや、違う。
 今の衝撃は、単純な力だけのもののそれではない。

 そんな事を考えている間に、
 奴の返しの左が俺に襲い掛かる。
(まずい・・・・・・・!!!)
 必死にかわす。
 奴の拳が側頭部を掠った。
 大丈夫だ。
 ちょっと掠っただけで、ダメージは無い。
 すぐに、反撃を・・・

456新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:37
 次の瞬間、俺は地面と熱い口付けを交わしていた。
 あれ?
 どういうことだ?
 これはどういうことだ?
 何で俺は倒れてる?
 何してんだ。
 急いで立たなくちゃ・・・

(・・・・・・・!?)
 足に力が入らない。
 視界が波打つ。
 頭が揺れる。
 酷い吐き気がする。
 駄目だ。
 立てない。

 みぃが俺に駆け寄って来た。
 しゃがみ込み、俺に向かって必死に何か言っているが
 意識が朦朧として、全く聞き取れない。
 何やってる。
 早く逃げろ。
 さっきも同じことを考えたぞ。

 だけど、何故だ?
 何故俺は倒れている?
 さっきのパンチか?
 有り得ない。
 確かにパンチは当たりはした。
 だけど、掠っただけだ。
 それだけで、ここまでなるわけがない。
 だけど、現実に俺はここに倒れている。
 何が、何が起こった!?
 俺に一体・・・

「一体何が起こったのか分かんないって所か?
 なあ、おい。」
 マララーの声だ
 かろうじて、音が聞き取れるようになったみたいだ。
「冥途の土産に教えてやるよ。
 何故ガードした腕が簡単に弾かれたのか。
 何故掠っただけでお前が倒れたのか。」
 マララーが勝ち誇ったように喋りだした。
「俺のスタンド『デュアルショック』の能力、
 それは触れたものを高速振動させる!
 これが手品のタネだ。」
 そうか、そういうことか。
 腕全体にダメージがあったのも、
 掠っただけで倒れたのも、そのせいか。
「こういう風に自分の能力をペラペラ喋るのは、
 スタンド使いにとって最も犯してはならないミスだが、今回は別だ。
 何故なら、俺の能力を知った奴は今、ここで、
 確実に始末するからだ!」
 奴のスタンドが、俺に止めを刺すために拳を振り上げる。
 糞が。
 ここまでか・・・・・・!!

457新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:38

「止めて下さい・・・
 もう、十分でしょう・・・!!」
 みぃが、マララーの前に立ち塞がった。
 背後にスタンドを出している。
 しかし、みぃの体は恐怖からか小さく震えており、
 彼女にマララーと闘えるだけの力が無い事は端から見ても明らかだった。
「くくくく・・・はぁっはははははは!
 いや、美しい光景だねえ。
 身を挺してでも、そいつを守ろうってか。
 だけどな、下がってろ、お譲ちゃん
 お前は後だ。」
 マララーはみぃのことは完全に敵足りえるとは
 見なしていない様子だった。
 そして、ほぼ間違い無くその判断は正しい。
「出来ません・・・
 あなたみたいな人、この人には絶対に近づけさせはしません!」
 馬鹿。
 何故逃げない。
 お前がそいつに敵わないことぐらい分かるだろうが。
 自分で言ってたろ、私のスタンドには闘う力は無いと。
 なのに何故俺なんか守ろうとする。
 殺されるぞ。
「どけっつってんだよ!!!」
 案の定、ものの一撃でみぃは吹き飛ばされた。
 地面に倒れ込み、みぃは小さく苦悶の声を漏らす。
「・・・気が変わったぜ、女。
 まずてめえを、そこに転がってる男の前で、犯してやる。
 それから、ゆっくりと時間を掛けて、虐殺してやる。
 ネチネチと、てめえから殺してくれってお願いする程にな・・・」
 マララーが、みぃにゆっくりと歩み寄った。
 やめろ。
 お前の目当ては俺だろうが。
 みぃに手を出すな。
 やめろ。

     ドクン

 みぃに指一本触れてみやがれ。

      ドクン ドクン ドクン

 殺す

      ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

 殺す殺す殺す殺す壊せ殺す殺す殺す壊せ殺す殺す殺す殺す壊せ殺す

458新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:39
「そこまでだょぅ!!」
 俺の体から「何か」が溢れ出ようとしたその刹那、
 裏路地に甲高い声が響いた。
 そこに、一人の男がいた。
「なんだぁ?お前。」
 マララーは男にうざった気に声を投げかけた。
「抵抗はするだけ無駄だょぅ。
 大人しく投降するょぅ。
 そうすれば危害は加えなぃょぅ。」
 助けが来たみたいだが、
 全くあてに出来そうになかった。
 なんたって相手はスタンド使いなのだ。
 一般人にどうこう出来るとは思えない。
「それは無理な相談だなぁ。」
 マララーがぃょぅに向かってスタンドによる攻撃を繰り出した。
 拳が吸い込まれるように頭へと伸びていく。
 駄目だ、殺られる・・・・・・!!

「『ザナドゥ』!!!」

 旋風――――
 吹き抜ける烈風が、マララーの体を宙へと舞い上げた。
「触れられさえしなければ、君のスタンドは恐くなぃょぅ。」
 マララーは訳が分からないといった表情で、
 今度は重力に導かれるまま地面へと落下していく。
 見ると、ぃょぅの傍にスタンドの姿が浮き出ていた。
「ぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぃょぅ!!!!!」
 落下してくるマララーの体に、ぃょぅは猛烈なラッシュを叩き込んだ。
 マララーに次々と拳が打ち込まれていく。
「やっだああああーーーーー!!!ばああ!!!」
 マララーは下品な悲鳴を上げて再び宙を舞い、
 今度こそ地面に叩き付けられ、
 気を失ったのかピクリとも動かなくなった。
 それにしても、今のは、何だ。
 こいつもスタンド使いなのか?
「壁に耳あり障子に目あり。
 周りに他に誰も居ないと思い込んで、
 迂闊に自分の能力を喋ったのが、君の敗因だょぅ。」
 ぃょぅが誇らしげに言った。
 言うのは勝手だが、もう当の本人には聞こえていないと思うぞ。
「さて・・・君たち、大丈夫かょぅ。」
 ぃょぅがこちらを向いた。
 大丈夫じゃない事ぐらい、見りゃ分かるだろうと思ったが、
 助けてもらった立場上、余り強くは言えない。
「悪いけど、少しそこで待っててもらうょぅ。」
 そう言うとぃょぅは携帯電話を取り出し、
 何やら電話を掛け始めた。
 そして、電話の相手に向かってこう言った。
「こちらぃょぅだょぅ。スタンド使いを『三名確保した』ょぅ。
 直ちに事後処理班をよこして欲しぃょぅ。」


 TO BE CONTINUED・・・

45917:2003/12/25(木) 23:53
      乙です
>>457あのままぃょぅが来なかった場面も見てみたいもんだ

460新手のスタンド使い:2003/12/25(木) 23:58


461:2003/12/26(金) 00:20
>>428-429
              / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
              |  ハァハァ (´Д`*)
              \_   _______________
                 | / /
                  ∨  |   そんな事を言ってると埋め…
              日 ▽ Ⅱ\  _______________
              ≡≡≡≡≡| /   ∧∧  /
<カランカラン           Ⅲ  ∩  [] ∨目  (゚Д゚,,)<  いらっしゃ…!
                           |つ∽  \_________
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                (  ゚)  (  ゚)∇
              ―(428つ―.(429つ―――
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462:2003/12/26(金) 00:21
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                                                  ブゥゥゥゥン!!


              日 ▽ Ⅱ [] Ⅲ                           ┃
              ≡≡≡≡≡≡≡≡ ∧∧                          ┃
               Ⅲ ∩ []   目  (゚Д゚;)                         ┃
                           |つ∽                           ┃
               ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄                   ┃
                    /´(†) ̄ヽτ├<っ                    ┃
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                   しし (_ノヽ)   (´⌒(´⌒;;            ⊂(。Д。 )┃

463:2003/12/26(金) 00:22

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ブゥゥゥゥン!!




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          /´(†) ̄ ヽ /////
         (((((((( -、,i
          |i、゚  ゚ 从从 スタスタスタ…

※ネタです。他意は(r

464新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 00:39
>>461-463を見て
夜なのに大笑いしてしまった…
リナーハァハァ (´Д`*)で殺られましたか…

465新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 09:13
キングオブファイターズを思い出した。

466新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 10:35
モナーの脳内ウホッ!いい女ランキングが何故か知りたい…

467新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 10:46
わーいリナーにヤられたー/ヽァ/ヽァ(´д`*)

468429:2003/12/26(金) 13:40
>>428ハイイケド 
な、何故に僕までkぎにゃぁあぁぁぁぁ!

469新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 17:11
ミニスカートからすらりと伸びた綺麗な足/ヽァ/ヽァ(´д`*)

470新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 19:17
小説スレッドが違う意味で進んでる…

471430:2003/12/26(金) 20:37
まだだ、まだ漏れは殺られていない!

472新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 20:45
>>430
そんな事言っていると殺られますよ!
ひええええ〜俺は見逃してくださいいい〜!

473新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:02
……モナー君がいっぱい

474新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:09
『重複』と書かれた紙がいくつも…

475新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:35
重複の意味が分からなかった・・。

476新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 21:57
>>475
わからなかった‥、と言うことは
今は分かっているのだね。

477新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:00
今も分かりません・・・。

478N2:2003/12/26(金) 22:17
>>477
「欲しい物がダブっている人がいます、この世に1つしかないものなので
1人を贔屓する事が出来ませんから我慢して下さい」
の意でしょう。
欲しい物が何かは…お分かりでしょう。

479新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:21
(・∀・)ニヤニヤ

480新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 22:24
  ・
今年も寂しいクリスマスだった…。

481新手のスタンド使い:2003/12/26(金) 23:45
『重複』はッ! このスレに居るモナーたちによってッ! 解決するッツ!

482新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 00:43
袋に詰めておきました。

      ∧_∧   ∧_∧   ∧_∧
      ( ´∀`)  ( ´∀`)  ( ´∀`)
     / ̄ ̄ ̄ヽ  / ̄ ̄ ̄ヽ  / ̄ ̄ ̄ヽ
     |      |  |      |  |      |
     ヽ    /  ヽ    /  ヽ    / 
       ̄ ̄ ̄    ̄ ̄ ̄     ̄ ̄ ̄

483N2:2003/12/27(土) 06:45

/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 実に今更だけど、『アナザー・ワールド』の名前がかぶっちゃったよ・・・
\_  ___________________________
   ∨
 ∩_∩
G|___|     ΛΛ
 (;・∀・)∬ ∬ (゚Д゚) リナー葬されるぞオイ
 (__   ⊃目 目⊂ ノ
  し__)┳━┳ (_っ

|;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|:;;:|Д゚;)< スイマセンスイマセンスイ(ry
|::;;|::U .:::...\______
|::;:|;;;|:::.::::::.:...
|:;::|::U.:::::.::::::::::...

484N2:2003/12/27(土) 06:46

感染拡大.com

ふと手持ちの時計を見ると、もう8時を回っていた。
相棒を見つけた時には、まさかこんな事になるだなんて予想だにしなかった。
倉庫の中での惨劇、相棒との戦い、あの『矢』を持つ男、空条モナ太郎さん、それに初めて存在を知ったギコの兄貴…。
この3,4時間の間に、何だか1年分位の驚きを受けたような感じだ。
それはともかく、オレ達は今ギコの案内で敵のアジトへ向かっている。
そこにギコの兄貴は捕らえられているというが…、オレ達…オレタチ?オレンジとカラタチの配合種…。
「ところで相棒に一つ聞きたいんだが」
「何だいギコ。今家でミカンは切らしているけど?」
「…ハァ? 何を突然ワケワカランこと言い出してんだお前は」
「…それはともかく、質問って何さ?」
「さっきお前が俺と戦った時、お前は自分や俺の身体を分解したりはしたが、何で俺のスタンドは分解しなかったんだ?
それさえしてりゃ俺がガードしても簡単に崩せるんだからとっとと決着も付いただろうに…」
「それなんだけどさ、実はクリアランス・セールが発現してすぐ、一体分解能力がどこまで使えるのか試してみたんだ。
自分の身の回りにある物は片っ端から試したし、自分の身体でも試してみた。そしたら全部上手くいったんだけど、どうしてもスタンド自身だけは無理だったんだ」
モナ太郎さんがここで口を挟んだ。
「つまりはこの世で質量のあるもの限定ということだな」
なるほど、その道のプロの言う事は説得力がある。
質量があるとかないとかで何が違うかなんて全然分かんないけど…。

「ここが、兄貴の捕まってる場所だ」
ギコがオレ達を案内したのは、人目に付かない廃ビルだった。
「確かにここなら誰かに入られる心配もないな。しかもこの雰囲気、まさしく吸血鬼が潜むには相応しいな」
辺りには街灯も無く、ただ月の光だけが頼りである。
きっと向こうはオレ達が来る事は予想しているに違いない。
一体どんなスタンド使いがどれだけ襲って来ることであろうか。
「相棒、怖気付いたのか?身体が痙攣してるぞ」
「チッチッチッ、甘いな少年。人はこれを武者震いと言うのだ」
「…要するに、怖いだけだろ」
ず、図星ッ!!
「2人とも、遊んでないで早く入るぞ」
モナ太郎さんのお叱りが飛んで来た。
…どうでもいいが、そういや何でこの人がいつの間にかリーダー格になってんだ!?
オレがリーダーになるべきなのにッ!
何故かって?だって僕は、主人公だから。
「ギコ屋、ギコ、先導を頼む。私は後ろからの攻撃に備える」
って無視かい!
てかオレ達が前かよ!!
「ちょっと空条さん、確かに俺はここの内装を承知してはいますけどね、でもこういう時こそ皆で仲良く…」
ギコも不満らしい。
「言っておくが、スタンドバトルは正々堂々と正面から挑むようなスポーツとは違う。
騙し、不意打ち、とにかく相手を倒すためには何でもあり…それがスタンド使い同士での戦いだ。
だからこそ私は、一番危険な背後を担当させてもらう」
…確かにごもっともな意見だ。
空条さんは今日初めて会ったオレ達の事をそこまで…。
「…って結局前に出たくないだけだろゴルァ!」
…それもそうだ。
tu−kaまんまと騙されるところだったじゃん!
「細かい事は気にするな…行くぞ」
「無視かい!」
「ギコ…もうここは覚悟を決めるしかないよ」
もうこの人は何言っても無理そうだ。
流石にギコももう諦めが付いたらしい、何かぶつくさ言ってはいたがオレと共に扉の前に並んだ。

485N2:2003/12/27(土) 06:46

「…それじゃ一発」
「ド派手にかますぞゴルァ!!」

「クラァッ!!」「ゴルァッ!!」
オレの蹴りとギコの正拳を受けた扉は、変形しながら吹っ飛び地に落ちても滑り続けてようやく壁にぶつかって静止した。
「…君達は、普通にドアを開けると言う事を知らないのか?」
「閉じてるドアを見つけたら」
「蹴り飛ばすのが世の情け」
「…決まった…」

「こんなに音を立てたら、中にいる者達に丸分かりだな」
…完全スルーだ。
この人、実はクールなんじゃなくて本当はただのイヤミか!?

…と、相棒が何かに気付いた。
「おい、ドアの所…よく見てみろ」
さっき吹っ飛ばしたドア…見てみると、何だか動いているようだ。
「…アサルトドアーッ!?まずい、9ディメンジョンがあッ、キマイラブレインがあ――――ッ!!」
「すいません空条さん、こいつ少し妄想癖がありましてね…。
(おいッ、相棒ッ!!ドアの下だ、下!!)
ドアの下…?
よく見ると…何かがうごめいているッ!?
「まずいッ、奴は既にキマイラブレインを召還していたのかァ―――(ドグシャア)ぐはァッ」

「…あのドアに突き飛ばされて下敷きになって意識があるとは…」
「まずいな…空条さん、こいつはちとヤバい奴が警護に就いちまってますね…」
「はッ!あ、アサルトドアーはッ?(ドガッ)ぐハっ」
「相棒、お前にはどこをどうすれは奴が融合モンスターに見えるんだ?」
…奴ってもしや、キマイラブレ…ってあれ?
よく見ると…しぃ…じゃないな、片耳が黒い。
つーことは…何者だあいつ?
「何だか知らんが、とにかくオレ達の邪魔する奴らは片っ端から分解してやるぞ、クラァッ!!」
「待て、相棒ッ!奴には接近戦はまずいッ!まずは対策を…」
「知るかッ、いくぜ、『クリアランス・セ――――ル』ッッッ!!」
「・・・ダマッテレバ カタミミダケデ スマセテオイテアゲタノニ・・・」
片耳だけで済ます…?
「オレは言われなくても全身を分解してやるぜッ!クラクラクラクラクラクラクラクラァ――――ッ!!」
「相棒ォ――――――――――――ッッッッ!!!!」

486N2:2003/12/27(土) 06:48

「『シック・ポップ・パラサイト』ッ!」
予想通り、やはりこいつもスタンド使いだったか!
「ミィッ!!」
オレのラッシュに対抗し、向こうも負けじとラッシュを放ってくる。
だが…そのパンチはオレの物に比べれば明らかにパワーでもスピードでも負けている。
向こうの全身は、あっと言う間にオレのラッシュの嵐にさらされた。
「はッ!こいつ、言うほど強くないじゃないか!」
このまま押し切って、分解し尽す!
だが…この殴られても苦痛1つ感じていなさそうな表情は何だ?
それにこのオレを嘲る様な笑みは一体…?
「ソウダヨ・・・ソウヤッテ ミィヲイクラデモ ナグッテテイイヨ・・・デモ ソレハミィノ ケイサンノウチ・・・スコシズツ スコシズツ・・・コノミィノセカイニ ヒキズリコンデアゲルヨ」
少シズつ・・・スコしズツ・・・おレモ ミぃノセカイヘ・・・

「相棒ォ――――――ッ!!」
はッ!!
オレは一体どうしていたんだ?
何だか途中から自分の意識が違う物に変化したような…
「相棒ッ、そこの鏡で自分の頭を見ろッ!!」
頭…?オレの頭が一体どうし…
「…ってな、なんじゃこりゃぁ――ッ!」
か、片耳が真っ黒にッ…!?
「奴はな、確かに純粋なスタンドの強さだったら明らかにお前の方が勝ってはいる!
だが奴の恐ろしさはそんなもんじゃない、奴のスタンドは微細なウィルスを身体に培養し、触れた者をそのウィルスに皮膚感染させ
喰らった奴は徐々に侵食されて最終的に奴と同化させられるんだァ―――ッ!!」
「ってそれスタンドの意味無いやん」
「ともかく、そこまで感染したんじゃ耳ちょん切らんと全身に転移するぞッ!」
「モウ オソイヨ・・・ソコマデカンセンシタラ アトハ ノトナレ ヤマトナレ・・・サァ、コワガラナイデ・・・コッチノセカイハ タノシイヨ・・・」
怖ッ!てかキモッ!
「そんなのッ!嫌だァ―――ッ!!『クリアランス・セール』ッ!!」
「!?何をする気だ、相棒ッ!」
「…なるほどな」
「・・・?」
「自分のッ、身体をッ!分解するゥ―――ッ!!」
オレの身体は、跡形も無く分解された。

487N2:2003/12/27(土) 06:48

「…相棒は一体何を…」
十数秒、オレが今の所分解出来る限界の時間。
急に意識が戻り、改めて自分が生きていることを認識する。
「相棒ッ、その耳はどうした、その耳は!」
ギコに言われて鏡を見ると、案の定感染は治っていた。
「・・・ソンナ バカナ・・・ミィノカンセンハ ゼッタイヨ!」
「確かにお前の感染はヤバい…ヤバ過ぎるよ…。但し、オレも馬鹿じゃあなくてね。
ウィルスの中には空気中に放出させると数秒で死んでしまうものがあると聞いたことがある。
だから、自分の身体『だけ』を分解し、ウィルスを残しておけば、もしそういうタイプのものだったら戻った時には再び感染することはないって訳さ。
…尤も、もしそのウィルスが空気中でもずっとピンピン出来るようなものだったらオレもお前の仲間入りだったんだろうけど、
ここはオレの作戦勝ちってところだな!!」
「・・・コノ コシャクナ サンリュウショウバイニンメ・・・」
「どうだ相棒、オレってやっぱ凄いだろ!」
「…それさ、お前が以前『風俗に通うんだったらやっぱりエイズには気を付けないとな!』とか言ってHIVウィルスの勉強した結果だろうが!!」
「う、うるせー!!」
「モウ ユルサナイヨ・・・コウナッタラ スタンドノウィルスダケジャナクテ ミィジシンノ ドウカノウリョクヲ カイホウシテアゲル・・・
ソウナッタラ モウブンカイシテモ タスカラナイ・・・ココマデ ミィヲオコラセタ キミタチガワルインダヨ・・・」
「おい、2人とも、とうとう向こうも本気を出しそうな雰囲気だぞ…。
ちっ、私の『スタープラモナ・ザ・2ちゃんねる』ならどうにかなりそうだが…。
ギコ屋、私がもし奴のウィルスに感染したら、その時はよろしく頼むぞ」
「で、でも奴は今度は分解じゃ治せないと…!!」
「…ならここは俺が行くぜ!」
ギコ!!
「…大丈夫なのか?奴の攻撃はもう一撃たりとも喰らう事は許されないぞ」
「大丈夫だって、へっちゃらさ!」
何てウソ臭さだ…。

488新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 19:43
気になったんだが『エンジェル・ダスト』って
漫画のシ○ィー・ハ○ターで出ていた薬物に
効果も名前も似てるきがするんだが気のせいか?

489:2003/12/27(土) 20:39
>>488
残念ながら、シテ○ー・ハン○ーの方は知りません。


エンジェル・ダスト【Angel Dust】

①『フェイス・ノー・モア』というグループが出したアルバム。

②実在するドラッグの名称。PCP(フェンサイクリディン)の数ある俗称の一つで、
 サイケデリック系(幻覚剤系)では、おそらく最強の破壊力。
 睡眠薬を投与した象とかを目覚めさせるために合成された本当の意味での"覚醒剤"で、
 これを薄めて人間に使用しようと考えたとんでもないアホにより広まった。
 その作用は酩酊から譫妄に至り、感覚麻痺や精神錯乱を引き起こす。
 トリップの時間は6時間程度で、粉状の為に用途も広い。

③ア○デル○ン神父の異名。


民明書房『よくわかるスタンド名の由来』より抜粋。

490:2003/12/27(土) 20:40
>>430
    /´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀` ) 右手出てるモナよ…
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄



430 名前: 新手のスタンド使い 投稿日: 2003/12/24(水) 23:15
絶対に着ないとか言いつつ着たうえに持ち帰ってるリナー萌え(´Д`*)



  何これ……?
    /´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀`; )
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄

491:2003/12/27(土) 20:41
    _________________
  /
  |  このチンピラが! 私をナメてんのかッ!
  |  何回埋めりゃ理解できんだコラァ!
  \
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

              /´ ̄(†)ヽ
              ,゙-ノノノ)))))        ∧_∧
 ''⌒)          ノ  ル,,゚ -ノ           (´∀` )
  ' ''') ⌒)         / くj_''(†),jつ        ( 430 .)
≡≡≡;;;⌒)≡≡≡ん''く/_l| ハゝ        | | |
     ;;;⌒) ⌒)     しヽ_)         (__.(__)



                /´ ̄(†)ヽ
               ,゙-ノノノ)))))   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               ノ∩ル,,゚ -゚ノi  < 萌えるなって言ってんのに、
              / ヽヾ_''(†)jl_∧ \__なんで萌えるんだ、この…
             ん〜''く/_l|∩Д`;)
                 (ヽ__)__)



           \ヽ
            \\ヽ/´ ̄(†)ヽ
          \ \mヽ,゙-ノノノ)))))   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          \ヽ(m\mル,,゚ -゚ノi  < ド低脳がァ――ッ!!
              /\mヽ\m\mヽ:,.,:,.:´  ・´;.>____
             ん〜m\ヽ m∩Д`∴;"')
                 (ヽ__)_,:.;∵,:,,_)


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:.:::::::::::::: _ i/ = =ヽi :::::::::::::。::::::::::: .
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く  /     三三三∠⌒>:........ ..::::.....:::
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 ,_,,_|; |,_ 、 埋葬完了…
/::::::::;;::/´ ̄(†)ヽ.  ∧_∧
    ,゙-ノノノ)))))  (´∀`; ) ………
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi  /   ⌒i
  /,ノノ/j_''(†)/ ̄ ̄ ̄ ̄/ |
 ん〜(__ニつ/. 教会製 ./ | |
   ̄ ̄ \/____/ (u ⊃ ̄

※あくまでネタです。
 この埋めネタを、このスレでやると迷惑なのでは…って気がする。
 かと言って、小説スレから出るのもどうかと…

492新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:53
………犠牲者が

493新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:55
小説スレの感想スレを立てればいいじゃない(マリー

494488:2003/12/27(土) 20:57
さいたま氏私の勘違いに貴重な時間を
使わせてしまってすいません

495新手のスタンド使い:2003/12/27(土) 20:58
今<<493がいい事言った

496新手のスタンド使い:2003/12/28(日) 02:19
立ててきますがかまいませんねっ!

497丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:01



       外の世界を夢に視て 叶わぬ夢と悲しんで

       動けぬ体を嘆けども いかなる言葉も知らぬまま

       硝子の壁に爪を立て 己の指を傷付ける

       何も聞かず 何も見ず 何も食べず 何も触れず

       何も感じず 何も成さず 何もせず

498丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:02
「せー…のっ!」
 ぐっ、と両足に力を入れる。ゆっくりと、体が車イスから持ち上がった。
 私がこの診療所に来てから四日目。マルミミ君も茂名さんも、私にとても良くしてくれている。
治療も順調に進み、あとはリハビリを残すだけとなった。
抜糸も終えて、傷はよく見ないとわからないくらい小さな痕しか残っていない。
「ほら、頑張れー」
 数メートル先で、マルミミ君の呑気そうな声。
そんなことを言われても、ベッドの上で鈍った足には体を支えるだけでも結構な重労働だった。
「こっちまで来てみてー。はい、いち、にー。いち、にー」
ああもう他人事みたいに…って基本的には他人事なのか。
 考え事で集中が途切れ、右足が左足に引っかかった。
『あ』
 マルミミ君の声と私の声が綺麗にハモり、スローモーションのように私の体が倒れていく。
この部屋には倒れても大丈夫なように布団が敷かれているので、転んでも大丈夫の筈。
 さすがに、布団を敷かれた部屋に案内された時にはかなり引いたけ

ゴヅッ!!バタバタバタッ!

 一瞬の思考を止める凄い音。予想を上回る凄い衝撃。そして激痛。更に色々な物が顔に降ってきた。
「ぅあ痛ー…」
 呟いたのはマルミミ君の声。当の私は痛みで意味のある言葉を話すどころじゃない。
「〜〜〜〜〜〜ッ! !! !?」
「タンスに当たったねー。コブできてる」
 呑気そうな声。そして頭に再び激痛。
「〜〜!!!!!痛!痛!触らないで〜!!」
「あ、ごめん。かなり見事なコブだったから。氷持ってくるよ」
そう言い残して、部屋を出て行った。

499丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:04
 部屋に一人残された私は、とりあえず両手を使って身を起こす。
「痛たた…ん…?」
 頭のコブをさすっていると、フォトスタンドに入れられた一枚の写真が目に入った。
先程私の顔面に落ちてきた色々のうちの一つ。
色白の女の人と、色黒の男の人、そして小さな男の子が映っている。
抜けるように白い女の人と、真っ黒に焼けた男の人が対照的だった。
全員丸耳系のモナー族で、幸せそうに笑っている。
「おまたせー。はい、氷」
 氷嚢を持って、マルミミ君が戻ってきた。流石は病院育ちだけあって早い。
「あ、マルミミ君。これ…」
氷嚢を受け取りながら、写真を差し出す。
「ん?ああ、懐かしい物が出てきたね」
「親御さん?」
「うん。父さんが海外飛び回ってたから黒くて、んで母さんは皮膚が弱くて太陽当たれないから白いの」
マルミミ君も、日本に住んでる割に色が白い。お母さん似なのだろうか。
「今はどこの国にいるの?」
 少し躊躇い、答えが返ってきた答えに私は息を呑んだ。
「んー…多分天国」
 私の驚きに気付いたのか、慌ててフォローを入れてきた。
「いや、気にしなくていいよ。もう十年くらい前のことなんだし」
「…ごめんなさい」
「だからいいって。…もうこんな時間だね。ご飯にしようか。作っておくよ」
 あからさまに話題をそらしたのが、私にもわかった。
これ以上両親の話を続けたくないのか、そう言うとまた部屋を出て行ってしまった。
(駄目だなー…私…)
ただでさえ世話になりっぱなしなのに、これ以上迷惑かけてどうするんだろう。
 閉められたドアを眺めて、しょんぼりと下を向く。
車イスによじ登る作業が、ひどく重い。
自分がひどく、ちっぽけな存在に思えた。

500丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:06
「ご飯だよー」
 15分ほどして、マルミミ君の呑気そうな声が聞こえてきた。
「ありがと。もうお粥じゃないの?」
 マルミミ君が持っているのは、魚のフライにスープにパン。
「とっても病院らしいしみったれたメニューだけど、結構美味しいよ。調子が良くなって来たから、もう固体食でも大丈夫」
「そっか。アレはアレで美味しかったけどな」
 固体食が食べられるのは嬉しかったけど、あのお粥が食べられなくなるのは少し寂しい気がした。
そんな私の心情を察したのか、薄く微笑んで人差し指を立てた。
「あのお粥はベビーフードにも使えるからね。しぃがお母さんになれば作ってあげればいいよ。
 ベビーフードを上手く作れるお母さんの子は将来好き嫌い無く育つってさ。しぃならきっといいお母さんになれるよ」
「…ありがと」
 ちり、と胸が痛んだ。
        AA
私みたいな人間…しぃ族で、しかも戸籍のない奴が生きるためには、体でも売らなきゃのたれ死ぬしかない。
                ビッチ
どこに行こうが私みたいな淫売を好きになる奴なんているわけがないのに。
「…なれるの、かな。私なんかに」
 だけど、けれど、でもしかし、それでもほんの少しだけ―――――
「なれるよ。絶対」
ほんの少しだけ、信じてもいいと思った。
 私に向けられた、彼の優しい微笑みを。

501丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:08
 目をこらす。どんな変化も見逃すまいと。
腕の神経に精神の全てを集中する。コンマ0.001秒たりとも狂うまいと。
タイミングを計り―――――拳を、落とした。
ガッ、ガッ、ガッ。
 軽い音。拳の上に目を向けると、パチンコ台のスロットに見事なスリーセブンが揃っていた。
『五八番台、確変です』
「よし!非常―――によしっ!」
 フィーバーを讃える女性のアナウンスに、茂名がガッツポーズを作った。
ジャラジャラと音を立てて、見る見るうちに球が台に落ちてくる。
 ドル箱七杯の球を景品と交換し、両手の紙袋一杯に缶詰やら菓子やらジュースやらを詰め込んで意気揚々と店を出た。
波紋使いの動体視力と反射神経なら、フィーバーの二つや三つ簡単に叩き出すことが出来る。
 店に目を付けられるので滅多にやらないが、たまの息抜きにはちょうどいい。
「甘い物が食べたいと言っとったからの。お嬢さんも喜ぶじゃろ」
 嬉しそうに呟いて、角を曲がる。普通ならまっすぐ家に帰るところだったが、ふと思うところがあって商店街へと足を向けた。
「あらやだ!茂名さんじゃないの〜。買い物帰り?」
「えー、ま、そんなもんです」
「あらやだ!茂名さん、いつもありがとうねぇ。今夜煮物持って行くから」
「や、そりゃありがたいですな。いただきます」
「あらやだょ〜ぅ。茂名さん、アナタの薬息子の風邪にすっごく効いたょぅ」
「そりゃ良かった。お大事に」
 入って数歩も歩かない内に、近所のオバさん達に囲まれた。
「いや、あの、失礼、少し、急がんと、いかんので」
「あらやだ、ちょっとくらいいいじゃないの。ねぇ?」
「いえ、ほんとに、お構い、無くッ」
ずるずるとオバさん達の間を通り抜け、路地へと入っていく。
「あらやだ。茂名さんあんな所で何するつもりなのかしら?」
「近道じゃないの?そんなことより、後五分でタイムセールよ!」
「あらやだ!急がないと!」
数人のオバさんが訝しげに眉をひそめていたが、すぐに興味を失っていった。

502丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:11
 路地へ入ると、騒がしい商店街の空気ががらりと変わる。
そのまま奥へと進み、四日前に彼女が虐殺されていた路地へと出る。
 結局あの後虐殺されていたと思われるしぃは見つからず、昏睡状態の二人も病院からいなくなった。
警察も度重なる虐殺で人手が足りず、この事件も早いうちに忘れ去られるだろう。
                  AA
 最近はしぃやモララー族の人間のみならず、ヒッキーやさいたま等の種族も手酷い虐待を受けているという。
彼等の処理で、警察の事件処理も飽和状態にあるらしい。
「…昔は良かった…長編板もモナー板も活気が溢れて、幾多の名スレが生まれておった。
 この世界…『2ちゃんねる』が一番輝いていた時期だったように思える。
 荒らす者も虐殺する者も少なかった。マターリスレがあっても、誰も荒らそうとはしなかった。
 そして…この街ですら表通りを外れれば虐殺を受けてもおかしくはない。
 いつからだったろうかのぉ…貴様等のような者が現れ始めたのは」
 
 両手の紙袋を道の端に放り、静かに、だが威圧感を伴って振り返る。
「尾行していたのは最初から気付いておる。望み通り人気のないところに来てやったぞ?」
「チッ…気付いてやがったか…」
「生憎、な」
 路地の影から、モララー族の男達が顔を出した。
四日前に昏睡状態にしてやった、あの二人だ。
「…何故目覚めたのかは知らんが―――貴様のような奴を生かしておくわけにはいかん。今度は『永眠』してもらうぞ」
静かな殺気を込めた声で宣言し、戦闘態勢を取った。
 両足を肩幅より少し広めに広げ、均等に体重をかける。左手は拳を作り、鳩尾の前に。右手は手刀の形にして、胸の前に。
Cooooo………!
息を吸い、吐く、独特の呼吸音。呼吸法によって蓄積された生命のパワーが、緩やかに、そして徐々に早く体内を巡りだした。
チベットから伝えられた波紋法に、日本の古流武術を組み合わせた『茂名式波紋法』。
「行くぞ」
張りつめた空気が途切れ―――――二人が動いた。

503丸耳達のビート:2003/12/28(日) 22:15
           ∩ ∩ 
          (  ´o) Coooooo…… 
           (つ  つ
           ( )ヽヽ
              (_) (___)
  
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  能力名   ハモン・オーバードライヴ                  ┃
┃  本体名  茂名 初                                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - B    ┃  スピード - B    ┃ 射程距離 - E〜C ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - C.    ┃ 精密動作性 - B  ┃   成長性 - E.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 呼吸法によって、生命のエネルギー『波紋』を操る。            ┃
┃ 壁に張り付いたり水の上に立ったりと、結構汎用性は高い。  .   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

504新手のスタンド使い:2003/12/28(日) 23:08
新作来た!!
乙カレ様です

505N2:2003/12/29(月) 22:30

          (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
           ( HDDが逝って1作品丸々書き直すのがこんなに立ち直るのに
          O (   精神力を必要とするなんて思わなかったよ
        ο    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
    ∩_∩。
_ G|___|__
   ( ・∀・)
――(    )―┘、          マツデチ!!    キャッキャッ!!
‐――┐ ) )――┐         ≡≡∧,,∧   ≡≡∧ ∧
    (__ノ__ノ    . |         ≡≡ミ,,>∀<ミ ≡≡(,,・∀・)
                     ≡≡ミ_u,,uノ  ≡≡ミ_u,,uノ
                   "~"    """  :::     "~""~"
                """    :::

506N2:2003/12/29(月) 22:30

狂気の町の巻 (クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その③)

暗闇に包まれた部屋の中には、壁に掛けられた時計が時を刻む音だけが響いていた。
針は3時近くを指し、男達は既に眠りに就いている。
こんな質素な部屋に似合わないはずの柱時計が存在しているのは、それは青年が手元に残しておけた数少ない両親の遺品だからだろう。
2人はただ静かに、それぞれの抱える事情の深刻さが窺えぬほど安らかな顔で眠っていた。

その静寂を破ったのは、けたたましく鳴り響くドアを叩く音であった。
何度も何度も、力強く繰り返されるその音に2人は目を覚ました。
「…何なんだ一体?こんな真夜中に人の家ののドアを叩きまくるなんて、どこのどいつだ?」
温和な青年もそのしつこさには苛立ちを隠せなかった。
それでもドアを叩く音はいつまで経っても止む気配を見せない。
青年もとうとうその音を我慢し切れなくなった。
「…おっさん、ちょっと見て来る」
そう言って起き上がろうとする青年を、モ蔵は制止した。
「待て、私が行こう」
不意な願い出に青年は少々驚いた。
「いいよおっさん、ここは俺の家だからさ、こういう問題まで別に関わらなくてもいいからさ」
「…嫌な予感がするんだ。ここは私に行かせてくれ。お前は部屋の中で万一の場合の準備をしておきなさい」
「全く、大袈裟だなぁおっさんも」
そう言いながらも、青年は部屋に置いてあった木刀を手元に置いた。
モ蔵は青年を尻目に部屋を後にし、襖を閉めると「サムライ・スピリット」を発現させた。
未だに止むことを知らないドアの音は、そこに不吉な雰囲気を漂わせていた。
モ蔵は万が一外にいる者が出会い頭に襲って来た時の事を考え、万全の姿勢で構えてからドアを勢い良く開けた。

「何者だ!!」
だがドアの外には銃口を向ける刺客も、血に飢えた猛獣も、あるいはスタンドさえもおらず、
ただしぃ族の女だけが1人、怯えたように震えながら座っているだけだった。
暗闇でその姿が最初はよく見えなかったが、すぐにそれが昼間の女であることが分かった。
「どうなさったんですか、こんな真夜中に。何か用があるならそうと言って下されば良かったのに…」
女は返事をせず、その目は全くこちらを向いてはいない。
…様子がおかしい。
「どうされたんですか、一体!!何かあったんですか!!」
モ蔵がしゃがみ女の肩を揺らすと、彼女は少しずつ目線を上げ始めた。
「モ…モナ本樣…わたし…わたし…」
「奥さん!しっかりして下さい!!何があったんですか!!」
だが女の目は少しずつ横へと逸れていった。
「あ…あ…」
モ蔵がその視線の先を見ると、1人の男が今まさに自分たちへと斬りかかろうとしていた。

507N2:2003/12/29(月) 22:31

一閃。
モ蔵の一撃により一瞬で勝負は付いた。
男が自分達を斬り付けるよりも早く、モ蔵の剣が男の首に当たった。
と言っても殺した訳ではない。
「サムライ・スピリット」はその硬度・切れ味を自在に変化させられるので、今のはさしずめ竹刀程度と言ったところか。
だが瞬間的な速度で振られた「竹刀」は、男の気を失わせるのには十分な威力であった。
「この私に不意打ちを食らわせようなど10年早い」
そう言ってモ蔵が男の顔を持ち上げると、その顔にはどこか見覚えがあった。
「この男…どこかで…?」
すると隣では、男のぐったりとした様子と死んだような顔をした女が泣き崩れていた。
「あ…あなた…あなたァ――――ッ!!」
そうであった。この男は夕方、モ蔵と立ち話をしていた女を迎えに来た彼女の夫である。
だが一体何故こんな真似をしたのかは皆目見当が付かない。
昼間の様子から見ても精神分裂症とか、情緒不安定とかには見えなかった。
「モナ本樣…あなたは…しゆ、主人を…」
と、男の行動について考えていたモ蔵に、完全に勘違いをしている女の目線が突き刺さった。
このまま夫の仇と思われていては堪らない。モ蔵はすぐに弁明をした。
「いや、奥さん落ち着いて。私は確かにご主人を攻撃はしましたが、命を奪ってはいません。
先程のは…まあ…峰打ちのようなものです。しばらく放っておけばその内目を覚ますでしょう」
その言葉を聞いて女は一瞬安堵の表情を見せたが、ところがすぐにその顔は恐怖の色で塗り潰された。
「だ…駄目です!主人が目を覺ましてはいけません!」
「奥さん、本当に一体何があったのですか?あなたがこんな深夜に我々を訪ねてきた理由、今のご主人の行動、
それが把握できなければ私としてもあなたに何をどう答えればよいか分かりません」
女はそれを告げること――と言うよりもそれを思い出すことに恐怖心を抱いているようであったが、ついに決心してモ蔵に全てを打ち明けた。

508N2:2003/12/29(月) 22:33

「…私逹が眠りに就いてゐる時の事でした。ふと家の何處からか大きな物音がしたのです。私逹はその音で目を覺ましました。
主人は『私が見て來やう』と樣子を見に行きました。ところが何時まで經つても戻つて來ないのです。私が不安に刈られてゐると、主人が戻つて來ました。
ところが樣子がをかしかつたのです。目は白目を剥き、手には疱丁を持つてゐました。そして私を見るなり…、笑ひながら私を切りつけたのです。
幸ひ疱丁は腕をかすめたゞけで濟みました。
…氣が付いたら、私は無意識の内に此處を目指して走つてゐました。何故此處を選んだのかは分かりませんが、此處だつたら助かるやうな氣がしたのです。
けれども必死になつて夜道を走つてゐると、主人の樣に疱丁を持つた人逹で一杯で、しかも遠くから澤山の笑ひ聲が響きあつて、私まで氣がをかしくなつて仕舞ひさうでした…」
女は途中で涙ぐみ始めた。夫に切りつけられ、狂人達の中を走ってきたのだ、無理もない。
「奥さん、落ち着いてください。とにかくいつまでもここにはいられません、まずはどこかへ避難…」
そう言ってモ蔵が廊下の先に目をやると、そこには10人以上の男がこちらへ向かって少しずつ少しずつ歩いて来ていた。
白目を剥き、手には包丁…アヒャ笑い…
1人残さず完全にアヒャっていた。
(参ったな…)
とその時、部屋のドアが激しい勢いで開き、青年が飛び出して来た。
「くそっ!!」
青年は飛び出すなり出てきたドアをすぐに蹴り閉じ、持っていた鍵を掛けた。
「初代モナー君!無事だつたのね、良かつた…」
女は知人の無事に安堵したが、当の本人は大量の冷や汗を流しながらモ蔵に訴えた。
「大変だおっさん!部屋にいたら包丁を持ったアヒャ達がガラスを割って乗り込んできたんだ!
とりあえず応戦したけど押さえ切れない!早くここから逃げるぞ!!」
「ああ…そうしたいのは山々なんだが…」
モ蔵の指差す先には10人以上のアヒャ達が、先程までよりも更に近くまで寄って来ていた。
「さて参ったな、部屋には入れず、廊下は塞がれた。近くには窓も無いし、一体どうしたものか…」
「…となると、どうやらこれしかないらしいな」
青年は手に持っていた木刀を掲げた。モ蔵はその意味をすぐに理解した。
「待て、お前は奥さんの護衛をしろ。私がまず先陣を切る」
「OK、それじゃおっさん、頼むぜ!」
「行くぞッ!!」
モ蔵は腰に差した刀を逆手に握ると、男達の中へ飛び込んだ。
多勢に無勢ではあったが、所詮素人集団ではモ蔵の敵ではなかった。
男達を皆気絶させ、外に飛び出すとそこはまさにアヒャの巣窟と化していた。
(これはまずいな、これら全てを相手にしたのでは到底私の体が持たない)
明らかに特異な状況はまず間違いなくスタンド攻撃によるものである。
となると、この状況を打破するためには本体を倒さなくてはならないのだが、
このような不特定多数の人間に影響を及ぼすスタンドは必ずしも現場のすぐ傍にいなくてはならない訳ではない。
むしろ、どこか遠くでこちらの様子を傍観したり、あるいは何も知らないように悠々と過ごしていることの方が多い。
確かにモ蔵1人だけだったならば本体を見つけ出すのは無理な作業ではない。
しかし今彼は自称武術が得意な青年と、戦いには全く縁の無さそうな女を同時に守らなくてはならないのだ。
果たして守り切れるか…
(…仕方ない、ここは一旦安全な場所へと逃れて、体勢を立て直してから次の作戦を考えよう)
「おいっ、まずは一度安全を確保しよう!私について来い!」
そう言ってモ蔵は走り出した。
「じゃあおばさん、俺達も行こう」
青年は恐怖心で足のすくんでいる女に促した。
「…本當に大丈夫なのかしら…?」
女はどこか不安そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だって、俺だって1日一緒に過ごして悪い人じゃなさそうだって確信があるんだからさ、さあ、行こう」
「…不安だわ」
青年の説得に女も渋々応じ、3人は出来るだけアヒャのいない、安全そうな道を選んで逃げていった。

509N2:2003/12/29(月) 22:34

モ蔵が自分達が罠にはめられたことに気が付いたのは、彼らが「茂名王グランドホテル」の前に到着した時だった。
自分達は少しでも安全な道を選ぼうと、アヒャの少ない道を選んでいった。
だが考えてみれば、その多い道と少ない道の差が余りにも激しかった。
となると、自分達は安全な道を通ったつもりで、実は追い詰められていたことになる。
(くそっ!私としたことが…)
アヒャ達は、自分達のためにヴァージンロードを築いているようであった。
間違い無く、このまま進めば自分達の負けだ。
「仕方ない、2人とも、まずは私がこの者達を殲滅する!初代モナー、お前は何としても奥さんを守るんだ!」
「分かった!」
「…應じかねますわ」
女は突然、2人の作戦に異を唱えた。
「ちょっとおばさん、何を急に…」
「見て御覽なさい、今このアヒヤ逹は都合良く逃げ道を作つてゐるではありませんか。
なのにわざ/\敵陣を崩して逃げ道を開くなんて、其方のはうが餘程危險ですわ!…私、1人で行かせて頂きますわ」
「おばさん!いい加減にしてくれ!!」
「好い加減にするのは貴方の方よ!第一つい2、3日前に出會つた人のことを其處まで信用するなんて、貴方の方が餘程どうかしてゐるわ!」
女はそう言い残して1人でホテルへと走っていった。
「ちょっと、おばさん…」
「來ないで!」
青年は今まで親しかった大人が急に自分を突き放つような発言をしたことに大きなショックを受けていた。
彼にはただ、女の姿をみていることしか出来なかった。
「おい、何をしているんだ!早く追うぞ!」
モ蔵の声にも、青年は反応し切れていないようであった。
「あ…ああ…分かったよ」
2人は女の後を追ってホテルへと潜入した。



ホテルの自動ドアは開き切っており、その中も既にアヒャで埋め尽くされていた。
しかし彼らはモ蔵達に興味を示さず、ただ階段へ続く一本道を形成していた。
後ろからは外にいたアヒャ達が迫り、地下へと続く下りの階段も同じであった。
「くそっ、面倒な真似をしてくれたものだな!」
「その事なんだけど、おっさん…」
「何だ!?」
モ蔵は完全に怒りきっており、その件についてはもう耳にしたくないと言わんばかりであった。
「そりゃ俺だっておっさんの事を完全に信用し切ったかと言えば…まだそうでもないってのが本音だ。
でも1晩一緒に過ごして、ああ、この人は良い人なんだな、って思ったんだ。
それは別に何かおっさんがしてくれたからとか、そんなんじゃなくて、何となく伝わって来ただけなんだけどさ」
「…本来なら、自分以外の人間と深く交際するなど暗殺者として失格の行為だがな」
「俺は昔色々あってさ、一時期他人が全然信用出来なかったんだ。それでどんな奴であってもいつも敵意を剥き出しにして…、
気が付いたら、俺の周りには敵しかいなくなってたんだ。けど、『どんな人でも必ず1つは良い所がある、それを信じてまずは自分から動け』って言葉を聞いて、
それで何とか今では人間不信を克服出来たんだ。そして、その言葉を掛けてくれたのは他でもない、あのおばさんなんだ」
「…確かにな、私も彼女の発言には不審な点があると思っていた。彼女には今日の夕方初めて会ったのだが、
最初でこそ怪しいと思っていたが最後には親しみを持って話をしてくれていた。それが今になって『どうかしてる』とはな…
とにかく、その理由が何であれまずは奥さんを見つけることが先決だ」
「ああ!」
2人は階段を駆け上がって行った。
途中の階へ続くドアの向こうからはどれも不気味な笑い声が響いていた。
2人は、必然的に屋上まで上らざるを得なかった。

510N2:2003/12/29(月) 22:36

「あ…あ…」
屋上まで辿り着いた女は絶望した。
屋上は、完全にアヒャで埋め尽くされていた。
「そんな…」
その大群の中から1人、異質な雰囲気を放つ者が出て来た。
「アーッヒャッヒャッヒャ、オマエハ ジブンノ『イシ』デ ココマデ タドリツイタンダヨ。
サア、オマエモ オレタチト イッショニ タノシモウジャナイカ!アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」
「い…嫌ァ――――ッ!」
「奥さん!」
モ蔵達がそこへと到着した。
「ホウ…ヨウヤク シンウチノ オデマシッテ ワケカ…。オマエハナア、 アノヤヲモッタ オトコカラ ジキジキニ シマツスルヨウニ タノマレタンダゼ!」
「何だと…!?」
予期せぬ所で『矢の男』の名を聞き、モ蔵は驚愕した。
一体この男と奴とに何の関係があるというのだろうか。
「ダガナ、ソノマエニ オマエタチニハ オレニタテツクコトガ ドンナニオロカナコトカ オシエテヤルゼッ!マズハ!オレノ ノウリョクノ オソロシサヲ トクト アジワイナァッ!!」
中心核の男は、手下達に女を囲ませた。
「な、何をするの!」
「ヤレ…」
男が命じると、大群の内の1人が押さえ付けられた女に包丁を向けた。
「止めろッ!」
「おばさァ―――んッ!!」
2人の叫びも空しく、包丁は女の胸に落とされた。
「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!ヨクヤッタナ!ジョウデキダゾ!」
「…貴様ァァ――――!!」
青年は逆上して走り出そうとした。
「止めろ、今突っ込んでも彼女の二の舞になるだけだ!」
「…でも……!!」
「ソウダゼ、ソイツノ イウトオリダ。ソレニ オンナハ シンジャイナイゼ。ヨク ミテミナ!」
「何だって…?」
男の言う通り、確かに女は無事であった。
彼女は胸に負ったはずの傷も、出血も無く、何事も無かったかのように立ち上がった。
だが、青年が「良かった」と言葉を発する前に、2人は彼女の異変に気が付いた。
目が…白い。
口元が笑っている。
そして…手には無かったはずの包丁が…。
「貴様…おばさんに何をしたァ――ッ!!」
「ナニモカニモナイサ!コレガ オレガテニイレタ 『チョウノウリョク』ッ!コレサエアレバ、コノクソミテエナ セカイダッテ
オレノ『ラクエン』ヘト カエラレルゼェッ!
サア、アキラメナ!マズハソコノマルミミ!テメエヲコッチノセカイヘ ヒキズリコンデカラ モサシ!キサマノ クビヲ トッテヤルゼェ!
アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!!!!」
「まずいことになったな…こうなったら仕方ない、多大な犠牲を払うことにはなるが…」
モ蔵がもう1本の剣を抜こうとすると、青年が言った。
「…待って下さい、おっさん。奴は今、『超能力』と言いましたね?」
「…ああ、そうだが」
「ならば任せて下さい、これからちょっと信じられないような事が起こるかも知れませんが、気にしないで下さい」
「おい、初代モナー!お前は一体何を…」
「…アヒャよ、貴様は自分の快楽の為だけにこれだけ多くの人達を傷付けた。その罪は、決して許し難いものだ」
「ユルス ヒツヨウナンテ ナイゼ!ドッチミチ テメエモ アヒャッチマウンダカラナ!アヒャヒャ!」
「…『フィーリング・メーカー』ッ!」
叫び声と共に、青年の身体からスタンドが飛び出した。
「…テメエモ オレトオナジ チカラノ モチヌシカ…」
(…なっ、まさか彼もスタンド使いだったとは…)
「ならば俺は両親の誇りに掛けて、貴様をこの手で裁いてくれる!」
アヒャは簡単に片が付くと思っていた勝負がそうでもなさそうであると知ってか不機嫌そうになったが、すぐにその顔には不気味な笑みがこぼれた。
「…ナンダカ シラネエガナァ…、ダガヨクミテミロ、テメエノマワリニャ オレノ チュウジツナ『ブカ』タチガ イルンダゼ!マサカ ソイツラヲ ヌッコロスツモリジャ ネエヨナァー?」
だが、青年はそれに怯むことなく逆に笑い返した。
「…貴様の敗因はただ1つ、俺に手の内を晒し過ぎたことだ」
「…ナンダッテ?」
「行くぞ、覚悟しな!!」

511N2:2003/12/29(月) 22:37
以上です。

512新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 00:00
乙。ひっぱらせるねぇ

513新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:45
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その①

キーン コーン カーン コーン…

授業の終わりを告げる、チャイムが鳴り響いた。
この音を聞くとやっと授業から開放された気分になる。
今は、6時間目が終わったところで、皆帰り支度を始めている。
「やっと終わった〜。疲れた〜。」
「さー部活へいくぞー!」
そんな声が至る所から聞こえてきた。
「さーてと、俺も帰ろうかなっと。」
俺はサブバックを担ぐと教室を後にした。帰宅部は楽でいい。
下駄箱の所で喫茶店「豆」にでも立ち寄ろうかなと考えていた時だった。
「お〜い。アヒャ〜!」
同じクラスの田中だ。いったい何の用だ?
「どうしたんだよ?」
「八先生が呼んでいたぞ。職員室に来いってさ。」
そう言い残すと田中は何処かへと走っていった。
(何で俺が呼び出されなきゃならないんだ?)
俺は思い当る事を考えてみた。

授業中に持ち込んだ小型テレビでいいとも見てさぼっていた。
パソコン室のパソの一台で2ちゃん見ていてブラクラ踏んで壊した。
夜の学校に侵入して打ち上げ花火をぶっ放した。
食堂の厨房にブラッドを侵入させておかずを失敬した。
などなど・・・・・。

「はあ〜とりあえず行って見ますか。」
俺はため息をつきながらつぶやいた。
          *          *          *

「おお〜よく来たな。お前の事だから来ないと思っていたぞ〜。」
職員室のドアを開けたとたん八の声が飛んできた。
机がまるで大掃除の途中のように書類やお菓子なんかが山積みされている。
自分で呼んでおいて来ないと思ったはないでしょうが。
「で、何の用ですか?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「実はお前に頼みたいことが有るんだけど。」
なんだ。てっきり説教されるのかと思ったじゃあないか。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「で、頼みって何です?」
「うちのクラスの級長いるじゃない。名前はえっとー、いいや忘れたから。とにかく女子の級長。」
おいおい、自分の受け持ちのクラスの級長の名前を忘れんなよ・・・・。
俺も忘れたが。
「ああ、あいつがどうかしたんですか?」
「最近学校に来なくなる回数が多くなってね。親にも連絡したんだけど理由が分からないって言っていた。そこでだ。
 悪いけどお前に様子を見に行ってほしいんだよ。」
「はあ!?何で俺が?」
「地図で見たらお前の家が近かったからな。んじゃ、そういうことで。」
「お前自分の生徒だろ!自分で行けよ!」
「俺が行っても理由を話してくれるとは思えないからな。だからお前に頼むんだよ。」
なるほど。たしかに八先生が頼りになるとは思えない。
授業中生徒に混じって居眠りしたり、痴漢と間違えられて危うく逮捕されかけた先生なんてコイツだけだからな。
「分かりましたよ。学校に来いって言えばいいんですね。」
「よろしくな〜。」

514新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:45
「ここか・・・。」
俺はやっとの思いで級長の家を探し当てた。
5回も道を間違えこんな住宅街で遭難するかと思ったのは内緒だ。

ピンポーン

「は〜い。どちらさまですか?」
級長の母親だろうか。
「すいませ〜ん。同じクラスのアヒャって言うんですけど。ちょっと級長居ますか?」
「あ、レモナのクラスメートね。ちょっと呼んでくるから。」
しばらくたってから扉が開いた。
「あ・・・アヒャ君。」
顔をのぞかせたのはうちのクラスの級長。名前はレモナ。
何故か知らないが少しばかりやつれて見える。
「よっ。八先生がお前の事心配してたぞ。どうしたんだよ?体の具合でも悪いのか?」
「・・・とりあえずここで話すのもなんだから私の部屋に来ない?相談したいことがあるんだ。」
え? マジ?
俺は耳を疑った。
やばいよ・・・・。俺女の子の部屋なんて入ったことねーよ。・・・どうすりゃいいんだよー。
そんな考えが頭の中を駆け巡った。
「あ、ああ。だったら遠慮なくお邪魔するぜ・・・。」
考えても仕方ない。ここは流れに任せるとしよう。

「な、なんだって〜!?ストーカー!?」
「うん。一ヶ月前からずっとつき回されているんだ・・・。」
レモナは俺にこう話してくれた。
だいたい二週間ぐらい前だろうか。レモナの下駄箱に一通の封筒が置いてあった。
最初は自分宛のラブレターかと思っていたが。家に帰って空けて見て驚いた。
そこには写真が何枚か入っていて、全部自分の姿を撮られていたという。
しかも通学途中の写真ならまだしも、授業中や食堂で食事している写真まであり、
写真の他にあった手紙には、「僕はずっと君の事を見ているからね。」
など気味の悪いことが書かれていた。
俺は実際にその封筒の中身を見せてもらった。
「ちょっと待てよオイ!こんな大事なこと何で先生や親に言わないんだよ!」
「だって・・・この手紙の裏見てよ・・。」
言われるがままに見てみると、
「注意。もし誰かに僕のことしゃべったら君の事殺しちゃうかもね。(はあと」
などと書き足されていた。
「くそっ!なんてヤローだ!とにかく安心しな。俺たちで何とかするから。」
「・・本当?」
「ああ、俺は困っている奴は放っておけない性質なんでね!」

515新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 19:47
翌日。

「なるほど。それが原因だったのか。」
俺は八先生とたまたま部屋に来ていたヅーに事の真相を話した。
「ひどい・・・そんな事許せないのだ!」
ヅーは級長とは結構仲がよく。彼女が学校に来る回数が減ったことを真っ先に心配していた。
「とにかく何とかしてそのストーカー野郎を気付かれる前に見つけ出さないと。奴はこの学校の中に
 何かしらの方法で潜入しているんだ。それが分かればなぁ。」
その時ふいに八先生が口を開いた。
「それだったら俺の『能力』が使えるかもしれないな・・・。」
俺とヅーは一瞬顔を見合わせた。
「せ、先生も『スタンド能力』が使えるのか!?」
「ああ、前に仕事からの帰り道『矢』みたいなもので撃たれたんだ。その時から使えるようになったかな。
 とにかく撃ってきた奴が訳の分からない奴なんだ。マントで顔と体を隠していて、しゃべり方から男と分かった。」
マントで顔と体を隠している男・・・。もしかして俺の能力を引き出してくれた『矢の男』の事じゃないか!?
アヒャはそう考えた。
「とにかく行動開始だ!」
八先生の体からスタンドのヴィジョンが飛び出た。
てんとう虫の様なすがたをしていてメカニックなデザイン。
体から突き出した六本の足には車輪のようなものが付いて、スタンドの周りを衛星らしきものが飛んでいる。
すると突然、衛星がパカッと開き、カメラのようなものが突き出た。
「じゃ、ちゃっちゃと行ってきちゃって。」
先生が指示を出すと、そいつはラジコンのような動きをして職員室から出て行った。
「さてと、何か物体が映りそうなもの無い?」
映る物・・・。
「校長の頭?」
「馬鹿かお前は。」
すかさず先生が突っ込みをいれる。
するとヅーが手鏡を持ってきた。
「他の先生が使っていたのを借りてきたのだ。これで大丈夫?」
「ああ、それで十分だ。」
手鏡を受け取ると先生が何やら細工をほどこした。
「おい。見てみろ。」
俺たちが鏡をのぞいた時、思わずあっと叫びそうになった。
鏡には学校の廊下が映っていて、そこを通る生徒達の顔や声などがはっきりと聞こえる。
「これが・・・先生の能力か。」
「そう。俺のスタンド『ワールド・イン・マイ・アイズ』は、どんな出来事も見逃さないッ!これで犯人を見つけ出す!」
やれやれ、こんな担任でも役に立つことがあるんだな・・・。
アヒャはそう思った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

516新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 20:23
乙!ですよ

517:2003/12/30(火) 21:12
 ※留守番中。
             /´ ̄(†)ヽ
            ,゙-ノノノ)))))
            ノノ)ル,,゚ -゚ノi!
       ___/,ノくj_''日と)__
      / \ (´::)     ___\
     .<\※ \______|i\___ヽ.
        ヽ\ ※ ※ ※|i i|.====B|i.ヽ < ボスケテ!!
        \`ー──-.|\.|___|__◎_|_i‐>
          ̄ ̄ ̄ ̄| .| ̄ ̄ ̄ ̄|
               \|        |〜

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その3」



          @          @          @



「神は世界と相互作用しない――」

 『蒐集者』は呟く。
「そう結論するのは、神の不在証明が破られてからではないですか?」
 局長は、そう言い放った。

「神のアリバイを問うとは、なかなかに面白い…」
 『蒐集者』ベッドから身体を起こす。
 目の前には、公安五課・スタンド対策局の局長の姿がある。
 ベッドの周囲はスーツ姿の男に取り囲まれていた。
 その数、約6人。
 スタンド対策局の局長であり、全員がスタンド使い。
「また、大勢でお越しで…」
 『蒐集者』はため息をつく。
 局長は腕を組んだ。
「このマンションは完全に包囲しています」
「それはそれは…」
 『蒐集者』はロングコートの襟を正す。
 その様子を見て、局長は言った。
「忠告ですが…寝る時は、コートなど着ないほうがいい。シワになります」
「それはどうも」
 ベッドから降りて、大きく伸びをする『蒐集者』。
 周囲を取り囲んでいる6人の顔に、緊張が走る。
 局長は左手を軽く後ろに振る。
 6人は1歩ずつ下がった。
 局長は口を開く。
「あなたは近距離パワー型のスタンド使い。能力は、無機物・有機物の区別なしに物体同士を接合させる事…」
「ああ。前の三人の死体を回収・解析しましたか…、それで?」
「あなたと相性の悪いスタンド使いを用意させてもらいました。
 こっちも公務なんで、これ以上犠牲を出すわけに行かないんですよ」
 『蒐集者』は全員の顔をゆっくりと見回した。
「外にも配置してますよ。射撃班と遠距離型スタンド使いをね」
「それは、用意のいい事ですねぇ…」
 『蒐集者』は、局長に一歩近付いた。
 2人の局員が、局長をかばうように前に出る。
「『矢の男』の能力を知っていますか?」
 『蒐集者』は局長に語りかけた。
「我が課の「鑑識」が分析しました。大体のところは分かっています」
 『蒐集者』はロングコートの形を直しながら口を開いた。
「世の中には、人智を超えたスタンド使いがいる… 今までにも、私は幾人ものスタンド使いを目にしました。
 時間を操作するスタンド、光速を越えるスピードを持つスタンド、ブラックホールを作り出すスタンド、
 反物質を精製するスタンド… もちろん、全て片付けましたが。その中でも、『矢の男』の能力は特異です。破滅的ですらある」
「だからどうしました? この国のスタンド使いは、我々公安五課が対応します。あなたに出る幕はない…」
 余裕がありすぎる。異常だ。
 ただの馬鹿か? それとも…
「私は、たまに思うんですよ。『シュレーディンガーの猫』は、いないんじゃないか、ってね…
 そう、最初から箱の中に猫などいなかった」
 局長は手で合図を出した。
 何人かが、『蒐集者』の背後に回り込む。
 その様子に構わず、『蒐集者』は語り続けた。
「あの『矢』もそうです。存在そのものが虚偽。こうなる事を見越して作成された捏造。
 にも関わらず、この世に存在してしまった…」

「攻撃!!」
 局長は叫ぶ。
 6体のスタンドの拳が、それぞれの方向から同時に『蒐集者』に放たれた。
 それを避けようともしない『蒐集者』。
 顔面、背中、腹部、後頭部、頸部2箇所に打撃を食らい、『蒐集者』の身体はひしゃげ、押し潰された。
 骨の砕ける音。捻じ切れた肉から噴き出す血。
 それでも、『蒐集者』の顔は笑っている。

518:2003/12/30(火) 21:14

「OVER KILL! 原型を留めるな…!」
 局長の命令に従って、6人のスタンド使いは高速で拳を叩き込む。
 6方向からの攻撃を食らった『蒐集者』の肉体は、地面に倒れる事もできない。
 打撃音が、徐々に濁った音に変化する。硬い部分はほぼ砕けたのだろう。
「よし! もういい!」
 局長が号令を出す。
 局員達は素早くスタンドを引っ込めた。
 びちゃり、という音。
 『蒐集者』であった肉体が、フローリングに崩れ落ちる。
 赤黒く崩れグズグズになった肉塊からは、ところどころ白いものがのぞいていた。
 
「これを見た後は、ミートソースのパスタは食べれませんね…」
 軽口を叩く局長。
 先程までの緊張を払拭し、局員の一人が笑顔で応答しようとした時…

「うわぁぁぁぁぁ!!」
 背後から悲鳴が上がる。
 全員の注意が、『蒐集者』であった肉塊に集中した。

 まるで映像を巻き戻しているように、『蒐集者』の体が再生していく。
 砕けていた骨が接合し、散乱していた血が集まり、筋肉が形成され、人としての形を取る。
 筋肉を露出させたまま、ニヤリと笑う『蒐集者』。
「随分と派手にやったものだ…」
 その声には、ゴボゴボという音が混じっている。
 『蒐集者』は、ゆっくりと立ち上がった。
 内臓や骨、血管が露出している。まるで、人体標本のような姿。
「き、吸血鬼…?」
 局員の一人が口走った。
 『蒐集者』は笑みを見せる。
 頭蓋骨に薄い筋肉が張っただけの姿で見せる笑みは、これ以上ないほど気味が悪い。
「いえいえ、違いますよ。私はれっきとした人間です」

「攻撃だ!!」
 右手を掲げて指示を出す局長。
 局員達6人は、再びスタンドを発動した。

 攻撃してどうなる? 
 局長は自問自答していた。
 あれほど攻撃したのに、完膚なきまでに肉体を破壊したのに、あのザマだ。
 奴は、ただの近距離パワー型のスタンドではない。
 物質を結合させる能力、と断定したのは早計だった。
 こちらは、奴を殺すのには圧倒的に火力が足りない。
 ならば…!
「総員、攻撃態勢を維持しつつ退避ッ!」

 局員達の意識が局長の言葉に逸れた瞬間…
 『蒐集者』は、一人の腕を掴んだ。
「な…!」
 その局員の言葉は続かない。
 一瞬で塵と化す局員の身体。
 その情景を、局長は凝視していた。
 何だ、今のは…!? スタンド能力か?
「ちィッ!!」
 局長は、出口の方へ駆け出す。

「…『アヴェ・マリア』…!!」
 『蒐集者』の体から浮かび上がる不気味な亜人型のヴィジョン。
 その全身から、炎が噴き出した。
 異常な熱に包まれる『蒐集者』の肉体。
 その狙いを出口の方向に定める。
「行きますよ…!」
 移動線上に存在する物を焼き尽くしながら、『蒐集者』の体は火球となって出口へ突っ込んだ。

「くッ!!」
 出口から廊下に飛び出そうとしていた局長は、咄嗟に真横に飛び退いた。
 轟音と共に壁が崩れ落ちる。
 その衝撃で、局長の身体は後ろに弾き飛ばされた。
 体を反転させ、壁を蹴って着地する局長。
 瓦礫と炎で、出口は埋まってしまった。
「…」 
 局長は生唾を飲み込む。
 驚くべきものを見てしまったからだ。
 『蒐集者』の高速移動に巻き込まれて、3人もの局員の身体が生命ごと焼き尽くされる姿を。

「なかなかに、いい反射神経ですね…」
 『蒐集者』が、一歩一歩こちらへ向かってくる。
 その身体は、先程よりも再生していた。
「どういう事だ? スタンド能力は一つのはず…」
 局長は、真っ直ぐに『蒐集者』を見定めた。
 背後には窓がある。ここは7階だが、そこから飛び降りるしかない…!
「一つですよ。私の能力はね…」
 そう言いながら近付いてくる『蒐集者』。
 簡単に逃がしてくれるとは思えない。

「この…野郎!!」
 『蒐集者』の背後から殴りかかる、二人の局員のスタンド。
 しかし『蒐集者』が軽く指を鳴らしただけで、二人のスタンドは本体ごとバラバラになった。
 空中で輪切りになって、ゴトゴトと床に落ちる二人の身体。

519:2003/12/30(火) 21:15

「何をした…? 貴様、どういう能力だ…?」
 後ずさる局長。
 窓まで、あと10m。
 
「貴方だけ、スタンドも見せずに逃げるつもりですか? 殉職した部下達に失礼でしょう…?」
 『蒐集者』はこちらに迫ってくる。
 もう一歩下がる局長。
「そっちこそ、失礼な言動だな。私のスタンドは、既に見せている…」
「何…?」
 『蒐集者』の頭上の天井に、8本の腕を持った女型のスタンドが張り付いていた。
 ギギギ…と顔を『蒐集者』に向ける局長のスタンド。
「喰らい尽くせ!! 『アルケルメス』!!」
 局長のスタンド、『アルケルメス』は『蒐集者』の頭上から攻撃をしかけた。

「ふん… 『アヴェ・マリア』!!」
 『蒐集者』のスタンドが、『アルケルメス』に拳を振るう。
 その攻撃は、『アルケルメス』の腹部を貫いた…はずだった。
 その瞬間、『アルケルメス』は『蒐集者』の背後へ移動した。
 いや、違う。
 局長のスタンドは動いてはいない。『蒐集者』の位置が変わったのだ。

「今のが、貴方の能力ですか…」
 ゆっくりと振り向いて、局長の顔を凝視する『蒐集者』。
 局長は、もう一歩退いた。
「確かに、貴方のスタンドの腹を貫いたはず。そのはずが… 私が後ろに立っていた。
 時間を飛ばした…? いや、それもどこか違う…」
 『蒐集者』は、顎に手を当てた。
 …今だ!!
 局長は、窓に体当たりをした。
 砕け散るガラス。
 局長の体は、窓の外へ飛び出した。
「…逃がしません」
 それを追って、『蒐集者』も窓の外へ飛び出す。
「B班!! 今だ!!」
 局長は、向かいのビルの屋上で待機していたスタンド使い達に指示を出した。
「くっ…!!」
 一直線に突っ込んでくる遠距離型スタンドの攻撃を受け、マンションの壁に叩きつけられる『蒐集者』。
「射撃班!! 撃て!!」
 向かいのビルに立っていたスーツの男が、重火器を構える。
 FIM−92スティンガー低高度地対空ミサイル・システム。
 通称、スティンガー。
 航空機、ヘリ、巡航ミサイル等の破壊を目的とした、個人携帯用の対空ミサイル兵器である。
 射撃班の男は、マンションの壁に激突した『蒐集者』めがけて、ミサイルを発射した。
 赤外線で誘導された弾頭は、『蒐集者』の身体にブチ当たる。

 轟音が響き、激しい爆発が起こった
 爆風・破片炸薬1kg分の大爆発。
 しかし、局長にそれを気にしている暇はない。
 『アルケルメス』で落下の衝撃に備えなければ…

 突然、身体が反転する。
 局長の身体が、マンションの壁に激突した。
 何が起きた…?
 局長は体を起こす。
「なっ…!!」
 局長は、マンションの壁に立っていた。
 足元には、たくさんの窓。
 視線の先には、壁のようにそびえたつ地面。

「貴方の周囲だけ、重力の方向を90度ズラしました…」
 背後から、『蒐集者』の声がした。
 スティンガーの直撃を受けたはずの『蒐集者』は、爆煙の中から姿を現す。
 今の局長と同じく、マンションの壁に垂直に立っていた。
 左腕は完全に消滅し、右腕も肘から先がない。
 胸部も腹部も無残に抉れ、頭部も半分ほどしかない。
 頭蓋からは脳漿がこぼれている。
 それでも、『蒐集者』はこちらへ歩み寄ってくる。

520:2003/12/30(火) 21:15

「貴様… 本当にスタンド使いか?」
 近付いてくる『蒐集者』に、局長は言った。
 こいつは、スタンド使いの範疇に収まる生物とは思えない。

「何度言わせるんです? 私はただの人間で、ちっぽけなスタンド使いですよ…」
 一歩一歩近付いてくる『蒐集者』。
 その体は徐々に再生していく。

「馬鹿を言うなよ… お前の耐久性は、戦車以上か?」
 スティンガーの直撃を受けて無事という事は、事実上そういう事だ。
 いや、無事とは少し異なる。確かにダメージは受けているのだ。
 だが、奴は回復してしまう。
 吸血鬼ですら、あそこまで脳が破壊されれば再生は不可能だ。
 それにも関わらず、奴はなぜ…!

「そろそろ、チェックメイトですね…」
 『蒐集者』のスタンド・『アヴェ・マリア』が、熱を放ちだした。
 高熱によって周囲が歪む。
 また、あれが来る…!
 『蒐集者』の体が火球となって、局長に突っ込んでくる。
 その攻撃が確かに局長の体に直撃した瞬間、何もなかったかのように通り過ぎた。
 やはり、局長は無事である。
「また、それですか。そんなものが、何度も通用するとでも…!」
 その刹那、『蒐集者』の頭上から何かが高速で突っ込んできた。
 上空から高熱を放ちながら突っ込んできたのは、先程の『蒐集者』そのものだった。
「これはッ…!」 
 その直撃を食らって、『蒐集者』は地面であるマンションの壁にめり込んだ。
 
 今だ…!
 局長は地面目掛けて走り出す。
 その瞬間、足元から腕が生えてきた。
 マンションの壁から唐突に生えた腕は、局長の足を掴む。
 腕は1本ではない。
 20本以上の手が壁から突き出して、局長の足を掴む。
「くっ… 『アルケルメス』!!」
 局長のスタンドは、8本の腕を振るって足を掴むコンクリートの手を破壊した。
 その間に、『蒐集者』は追いついてきた。
 『蒐集者』は口を開く。
「なるほど… 貴方の能力が分かりました。『カット&ペースト』ですね…?」
 口か喉の部分の再生が上手くいっていないらしく、少し歪んだ声だ。

 …気付かれたか。
 まあ、あそこまで能力を見せてしまえば仕方がない。
 カットだけならともかく、それをペーストしたのは本当に久し振りだ。
 そう。それだけ自分は追い詰められている。

 『蒐集者』はズレた顎の位置を直した。体はほぼ再生している。
 仕方がない。時間稼ぎと行くか…
 局長は口を開く。
「その通り。私のスタンドは、時間をカットできる。つまり、任意の時間を、我々の時間軸から切り取ることができる。
 さっきは、貴様の攻撃が私の体に当たる時間だけをカットした」
 『蒐集者』も、時間稼ぎであることに気付いているはずだ。
 それにも関わらず、大人しく聞いているという事は…
「そして切り取った時間は、貼り付ける事ができる。貴様が言った『カット&ペースト』そのものだ…」
「素晴らしい…」
 『蒐集者』は感嘆の呟きを漏らした。
「素晴らしい能力だ。その能力も、是非欲しい…!」

 ――今、こいつは何と言った?
 『その能力も、是非欲しい…!』
 そうか、こいつのスタンド能力は…

521:2003/12/30(火) 21:16

 車のクラクションがした。高速で車が近付いてくる。
 ――やっと来たか。
「ここまでだ! 私の部下が、この状況を見て呆としてるほどの役立たずだと思ったか!?」
 局長は地面目掛けて走り出した。
「局長!!」
 後部座席のドアが開く。しかし、車のスピードは落とさない。
 重力が90度傾いているこの状態で、車に飛び乗るのは多少キツいが、文句は言っていられない。
 足元の感覚が変わった。
 コンクリートの壁面が、ぐにゃりと歪む。
 足元が柔らかい。
「なんだと…!?」
 底なし沼に踏み込んだように、足がマンションの壁面に沈み込んだ。

「…最後の最後で、当てが外れましたね…!」
 『蒐集者』は素早く接近すると、『アヴェ・マリア』の腕で局長の顔面を掴んだ。

「…影響しない…」 局長は呟く。
「カットされた時間は、我々の時間軸とは異なる… そこで起きた事は、この時空に影響しない…」

「そうでしょうね…」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「だからこそ、カットされてもいいようにこの状態に持ち込ませてもらったんですよ。
 今から貴方の顔面を握り潰します。どうせ、その瞬間をカットするでしょうが… 
 その次の瞬間に、再び貴方の顔面を握り潰す。これを何度も繰り返します。あなたのスタンドパワーが尽きるまでね…」
 『蒐集者』は、局長の頭を握り潰した。

「影響しないと言ったはずだ…」
 全くの別方向から、局長の声が聞こえた。
「な…!」
 車の中。局長を迎えに来た車の中に、既に彼は乗っていた。
 同時に、『アヴェ・マリア』に顔面を掴まれていた局長の姿が蜃気楼のように消え去る。
「なるほど、そういう事か…」
 『蒐集者』は舌打ちをした。
「…自分自身をカットして、ここに貼り付けておいたんですね。
 当の貴方自身は、とっくに脱出済みという訳ですか」
 局長は『蒐集者』を一瞥した。
 猛スピードで走っている車は、すぐにその場から離れていった。


 ――自分は負けた。
 その言葉が、局長にのしかかる。
 部下をあれだけ犠牲にして、利益はほとんどなかった。
 逃げるのがやっとだとは…

 局長は、無言で車の窓ガラスを殴りつけた。
 粉末状になって砕け散るガラス。
「どうしたんです!?」
 運転席の局員が、驚きの声を上げてこちらを見た。
「…何でもありません」
 口調を戻して、局長は言った。
 何なんだ、さっきまでの必死なザマは…!
 局長は、自分自身を嫌悪する。そして心に刻んだ。

 『蒐集者』は必ず私が葬る。公安五課がこのまま引き下がりはしない…!



          @          @          @

522:2003/12/30(火) 21:16

 俺達は、つーのマンションの前に立っていた。
 なかなか高級そうなマンションだ。
「確か、ここの3階のはずだな…」
 『解読者』… いや、キバヤシは手許のメモを確認しながら言った。
「じゃあ、行くモナ」
 俺は入り口に足を踏み出す。
「待て」
 俺の背中に、キバヤシは語りかけた。
「状況を考えるに、俺は居ない方が効率が良さそうだ」
 キバヤシは、急にしおらしい事を言い出した。
 俺は慌てて弁解する。
「いや、多少デンパが入ってても、そこまで自分を卑下する事はないモナよ。
 妙な発言を抑えれば、調査とかフィールドワークとかも出来るようになるモナ…
 変なセーターを何とかすれば、怪しい雰囲気も払拭されると思うモナ」

 キバヤシは不服そうな目で俺を睨む。
「親しい人間のみの方が情報を引き出せる、という意味で言ったんだがな。俺は…」

 …しまった。
 そのまま、不機嫌な表情を崩さないキバヤシ。
「とにかく、君一人で行ってくれ。俺は外から様子を見張っている。聞く事は、最近の体調の変化についてだ」
「…体調の変化?」
 俺は首を捻る。
「『蒐集者』の部屋にあったメモに、つーの生活習慣や健康状態に関する事細かなメモがあった。
 奴は、バイオテクノロジーに精通している。また、生体兵器を研究していた機関と懇意にしていた事もある…」
 不意にキバヤシの顔がアップになった。

「俺の予想が正しければ、『蒐集者』はつーに人体実験を施している…!!」

 な、何だってー!!
 という風にあしらうには、『蒐集者』の話と符号しすぎている。
「確かに、『蒐集者』は実験をしているとか言ってたモナ!!」
 俺は声を荒げた。
「内容については、何か言っていなかったか?」
「実験体が2体いて、1体はファージの何たらが上手くいかなかったとか…
 もう1体は、素体がよかったから成功したとか…」
 俺は、『蒐集者』の話を思い出す。
「そうか…」
 キバヤシは口に手を当て、視線を泳がせた。
「何か分かったのか、キバヤシ!?」
 俺はキバヤシに言う。
「お前たち、『ファージ』とは何か知っているか?」
 俺は首を左右に振った。
 『お前たち』と呼びかけられたものの、俺一人しかいないという事はこの際無視だ。
「ファージとは… バクテリオファージの通称で、細菌に感染するウイルスの事だ。
 言わば、自然界の遺伝子組み換えだ。
 『蒐集者』はそれを利用して、人体に『何か』を適合しやすいように埋め込んだんだよ!」
「じゃあ、奴はつーの身体に…! でも、埋め込んだとは限らないんじゃ…」
「いや…」
 キバヤシは視線を落とす。
 そして、クワッと目を見開いた。
「『蒐集者』は、民衆の意思が統制された社会を作ろうとしているんだよ!!」
 キバヤシは一歩歩いて、流し目で俺の方を見た。
「考えても見ろ、その埋め込んだ『何か』が感情に影響を与えるものだとしたら…
 俺達の意思までが、埋め込んだ奴に操作される事になる!!
 こうして、奴は理想の社会を作り上げようとしているんだ…! それが…」
 キバヤシは少し間を置く。 そして、アップになった。
「全人類総洗脳計画だよ!!」
「な、何だってー!!」
 俺は驚きを隠せない… ような素振りを見せた。
「いまや地球の人口は爆発的に増え続けている。 だが、支配者層がこの技術を応用すれば…
 人口統制の」ため、群発自殺を引き起こす事が出来るんだよ!!」
 キバヤシはアップになりすぎて、目しか見えない。

523:2003/12/30(火) 21:17

「そんな… なぜそんな事が分かるんだモナ!!」
「その謎を解く鍵は…」
 キバヤシはセーターの中に手を突っ込んだ。
 そこから、ブ厚い本を取り出す。
「この『諸世紀』の中に、集団洗脳による危機を示唆する詩があるんだよ!!」
 代行者は、服の中に物をしまうのが習慣なのか?
 キバヤシは、ノストラダムスの預言書を広げた。
「第一章六十四詩だが…」

『真夜中に 彼らは 太陽を見るだろう
 半人半豚を 目にする時 
 雑音、絶叫、空の戦いが見えるだろう
 獣の語らいが 聞こえるだろう』

「彼らというのは、一般民衆を指している。太陽というのは空にあるやつだ。
 そして、この『半人半豚を 目にする時』というのは、例のファージを応用して
 脳に何かが埋め込まれるという事なんだよ!!」
「…キ、キバヤシ!!」
 特にコメントもないので、とりあえず名前を呼んでおいた。
「そして後半の詩は、人々が集団自殺に導かれる様子をあらわしている。
 つまり最初から――ノストラダムスは全てを預言していたんだよ!!」
 キバヤシばかりか、ノストラダムスの顔までアップになっている。

「時空を超えて、あなたは一体何度――――
 我々の前に立ちはだかってくるというのだ! ノストラダムス!!」

 俺は驚愕していた。
 仮説のはずが、いつしか当然のように扱われ、それを前提としたトンデモ説が構成される。
 そのトンデモ説は、さらに大きな陰謀論を導いてしまい、ノストラダムスに帰結する。
 そして、いつしかノストラダムスが当初の仮説を裏付けたと主張する循環論法。
 ――これが、キバヤシスパイラル…!!

 さて、この場に来てからもう20分も経つ。
「イッちゃってるとこ悪いけど、そろそろ中に入るモナ…」
「そうだなモナヤ。では、俺は外から見張っていよう」
 キバヤシは、その場から離れようとして、俺の方をチラリと見た。
「…セーターは脱いでおこう」
 ボソッ言い放った後、マンションの裏側の方に消えていくキバヤシ。
 変なセーターと言った事を根に持っているようだ。

524:2003/12/30(火) 21:17

 つーの部屋の前まで来た。
 レモナが先に来ているはずなので、俺の来訪も知っているだろう。
 チャイムを押した。
 ピンポーンという音が中から聞こえる。
「ハイ!?」
 乱暴に扉が開く。
 つーだ。
 何だ、元気そうではないか。
「モナー ジャネェカ!! ナニシニ キタンダ!?」
 俺の姿を見て、ただでさえ丸い目をさらに丸くするつー。
「つーちゃんが体を壊したって聞いたから、お見舞いに来たモナよ」
「ソリャ、ワザワザ ワルイナ… トリアエズ、アガレヨ、アヒャ!」
 何故か普段よりしおらしいつー。
 俺は、部屋に上がることにする。
 果たして、あのつーの部屋とはどんなんだろうか…?


「意外と普通モナね…」
 部屋の真ん中に突っ立って、俺は思わず呟いた。
 普通に女の子の部屋だ。
「そういえば、レモナは?」
「レモナ…?」
 つーはきょとんとした表情を浮かべる。
「あれ? レモナが先に来てるはずモナ?」
「ソンナネカマ、キテネーゾ?」
 おかしい。
 俺とキバヤシで話し込んでいた時間を含めれば、30分ほど前には来ているはず。
 どこかで事故にでもあったのだろうか。
 いや、あのレモナに限ってそれは…

「ソコデ スワッテテクレ。ココアデモ イレテクルワ。アヒャヒャヒャ…」
 台所に姿を消すつー。
 俺はテーブルの椅子に腰を下ろした。
 そして、周囲を見回す。
 何も異常な点はない。
 いや、あのつーが女の子っぽい部屋に住んでいる事自体が異常と言えば異常だ。
 もっと血がしたたっていたり、地雷が仕掛けられていたりするのかと思っていたが。

 …ポタリ。

 何か、水の滴るような音が聞こえた。
 本当に血でもしたたっているのか?
 いや、そんなはずはない。雨漏りでもしているのだろうか。
「アッ! オシイレノ ナカヲ ノゾクナヨ!!」
 台所から、つーの声が聞こえる。
 いくら俺が礼儀知らずでも、他人の家の押入れを覗いたりはしない。

525:2003/12/30(火) 21:18

「ホレ、ノメ。」
 しばらくして、つーが2人分のココアを運んできた。
 まさか、ヤバい薬が入ってるとかはないだろうな?
 俺は『アウト・オブ・エデン』を発動させ、構成成分を視た。
 食物繊維、ポリフェノール、ミネラル、テオブロミン、カカオFAA、IP6、ギャバ・アミノ酸…
 うん。普通の美味しそうなココアだ。
「…ナンダ?」
 つーは急に周囲を見回し始めた。
「どうしたモナ?」
「サッキ、ヘンナニオイガ… イマハ キエテルンダケドナ…」
 俺は、特に何も感じなかった。

「このココア、本当につーちゃんが淹れたモナ?」
 俺は訊ねた。
「ソウダケド… オレイガイニ ダレカ イルカ?」
 つーは怪訝そうな表情を浮かべる。
「もしかして、つーちゃんって料理とかも得意モナ?」
「マ、マア、ヒトリグラシ ダカラナ…」
 つーはそう言って黙ってしまった。
「ふうん… じゃ、頂きますモナ」
 俺はテーブルに置かれたカップを手に取ると、温かいココアを喉に流し込んだ。
 普通に美味い。

 …ポタリ。

 ん? また、さっきの音だ。

 …ズルズル…

 何かを引き摺るような音まで聞こえる。
「これは、何の音モナ?」
 俺はつーに訊ねた。
「アマモリ ジャネーカ?」
 特に気にしないつー。
 まあいい、そろそろ本題に入るか…
「つーちゃんは、ずっと風邪ひいてたモナ?」
 ココアを飲んでいたつーは目線を上げた。
「チョット タイチョウヲ クズシテテナ… モウ、ダイジョウブダ… アッヒャー!」
 こうして見る限り、つーは健康そうだ。
 念のため、『アウト・オブ・エデン』でつーの身体を視てみる。
 …とくに問題はない。異常も無さそうだ。

「!?」
 急につーが周囲をキョロキョロし始めた。
 俺は慌てて『アウト・オブ・エデン』を解除する。
「ど、どうしたモナ…?」
「ナンカ、ミラレテル カンジガシテナ…」
 不審気に、周囲を見回すつー。
 『アウト・オブ・エデン』の視線に反応した事は間違いない。
 なんて知覚力が高いんだ…
 まあ、体に異常はないことははっきりした。
 どうやら、キバヤシの杞憂だったらしい。
 ところでキバヤシは…

 ブーッ!!

 俺は飲んでいたココアを噴き出した。
 正面の窓から、キバヤシの顔が覗いている。
 さすがに代行者、完璧に気配は消えている。
 だが、ここは3階。
 マンションの壁に張り付く変態的なキバヤシの姿は、外から大いに目立つはずだ。
 ターゲットにバレなければ、何をしてもいい訳じゃないと思うが…
 キバヤシは、さっきの言葉どおりセーターは脱いでいた。
 『MMR』の文字が大きく刻印された怪しいTシャツ姿である。

「ン? ナニカイルノカ…?」
 俺の視線を追って、窓の方を見るつー。
 キバヤシの頭は素早く引っ込んだ。
「ナニモ イネージャネーカ…」
 つーは苛立たしげに言った。
「いや、今日はいい天気だなーと思ってモナ…!」
「イイテンキ ダッタラ、オマエハ ココアヲ フキダスノカ!!」
 怒られてしまった。

 …ズルズル…

 まだ、不気味な音はする。
 どうも、押入れの方から音がしているような気がするんだが…
 だが、『アウト・オブ・エデン』を使うわけにもいかない。
 つーの感受性は並外れているのだ。
 こうなったら、つーが席を外した隙にこっそり確認するしかない。

526:2003/12/30(火) 21:18

「…デ、ガッコウハ タノシイカ?」
 つーは不意に言った。
 つまり、自分がいなかった間での学校の話を聞きたいのだ。
 そこらへんが素直に言えないなんて、意外と可愛いヤツだ。
 俺は微笑んでカップをテーブルに置いた。
「つーちゃんがいなくなって、みんな意外と心配してるモナよ」
「『イガイト』ッテ ナンダ…!」
 つーは、天井から釣り下がっていた怪しげな紐を引っ張った。
 俺の足元の床がカパッと開く。
 俺は、椅子ごとその穴に落ちた。
「うわぁぁぁぁ!!」

 いつものクセで叫び声を上げてみたものの…意外と浅い。
 70cmほどの深さだ。
 流石にマンションなので、大穴を開けるには無理があったのだろう。
 それにしても、自分の部屋にまでワナを作るとは…

「あいたたた…」
 腰を強打した俺は、穴から這い出した。
 つーが紐を離すと、元通り床が閉じた。

 …あ。椅子、中だ。
 仕方ない。立ったままで我慢するか。
 ふと、つーの右手に撒いている包帯が目に入った。
「つーちゃん、怪我でもしたモナか!?」
 俺はつーに駆け寄る。
「ア、アア… ナンカ、ヒフニ ブツブツガデキテナ。スグ ナオルト オモウケド…」
「そりゃよかったモナ。何か大きい怪我でもしたと思ったモナよ!」
「ソ、ソウカ…」
 何か動揺したような様子を見せるつー。
「まったく… (多分)女の子なんだから、体を大切にしないと駄目モナよ」
「ソ、ソウカナ…」
 つーは落ち着きなく動き回っている。
「ただでさえ乱暴でオヨメの貰い手も少なそうなのに、キズモノにでもなったら…」

 ――殺気!
 つーが手許のボタンを押した。
 前方から突っ込んでくるコンペイトウ型の鉄球。
「ヤッダーバァァァァァァ…」
 直撃を受けて、吹っ飛ぶ俺の体。
 つーは、俺以外の人間をトラップに嵌めているところなど見た事がない。
 そのつーの家に、トラップが配置してあるという事は…
 …トラップは趣味だということか…!
 俺は地面に激突して、そのまま気を失った。


 目覚めた時、布団に寝かされていた。
 10分ほど気絶していたらしい。
 頭を振りながら、ゆっくりと体を起こした。
「アヒャ!ヤット オキタカ!」
 台所の方から、つーがやって来た。
 なんと、エプロンをしている。
 意外に似合っているが、その性格を考慮に入れると違和感バクハツだ。
 まあ、これ以上トラップを喰らいたくはないので、エプロン姿の感想は口にしない。
「アノクライデ キゼツスルナンテ、ヤワナ カラダダナ!アヒャ!」
「ああ、寝かせてもらったモナね… すまないモナ」
 例を言うべきかどうか微妙なところだが、とりあえず謝っておいた。
「ベツニ イーヨ。ソウダ!バンメシ クッテケ!」
 晩飯だって!?
 夕食にはまだ早いが、腹は減っている。
 俺は、その提案に甘える事にした。
 つーが何を作ってくれるのかにも興味がある。
「ナラ、デキルマデ ネテロ。ソウダ、ドラヤキ クウカ?」
「食べるモナ!」
 俺はヨダレを流して答えた。
「タヌキハ ドラヤキガ スキダカラナ、アヒャヒャ…」
 捨て台詞を残して、台所に姿を消すつー。
「モナも某猫型ロボットもタヌキじゃないモナ!」
 俺は、その背中に向かって悲痛に訴えていた。

527:2003/12/30(火) 21:19

 何だかんだ言いつつも、ドラやきは美味しかった。
 俺は布団の上に寝っ転がる。
 ふと、窓の外を見た。
 キバヤシと目が合う。気マズい事この上ない。

「フンフンフーン フフフーン♪」
 台所から、つーの鼻歌が聞こえる。『天国の階段』のメロディだ。

 …ポタリ。
 …ズルズル…

 また、例の音。
 やはり、押し入れから聞こえる。
 俺は、チラリと台所のほうを見た。
 つーは、こちらの様子を気にしてはいない。

 俺は、ゆっくりと押入れに近付いた。
 水が滴る音と引き摺るような音は徐々に大きくなる。
 間違いなく、この中からの音だ。
「…」
 生唾を飲み込む。
 変わらないつーの鼻歌。こちらの様子には気付いていない。

 俺は押入れに手をかけると、ゆっくりと開け放った。

 一面の赤。
 引き裂かれた肉体。
 手や足は、まだ原型を留めていた。
 もっとも、胴体からは引き離されていたが。
 その頭部は、こちらを向いていた。
 まるで見られる事を恥ずかしがるように、手の残骸が顔の半分を隠している。
 その、よく見知った顔を。

 ――あれはレモナだ。
 押入れの中には、手足をバラバラに引き裂かれたレモナが入っていた。
 
「うわぁぁぁぁ!!」
 俺はその場にへたり込んで、悲鳴を上げた。

 レモナの頭部が僅かに動くと、その口が開いた。
「やだ、恥ずかしい… モナーくんに、こんなみっともない姿を見せちゃうなんて…」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 俺は、さっきより大きい悲鳴を上げる。
 レモナの腕は、胴から切断されたにも関わらずズルズルと這い回っていた。
 首から垂れた血が、ポタリという音を立てて落ちる。

「モナーくん! 後ろ!!」
 レモナの頭部が、鋭い声を上げた。
 俺はゆっくりと後ろを振り向く。
 そこには、つーが無表情で立っていた。
 さっきのエプロンをしたままで…

528:2003/12/30(火) 21:19

「ミタナ…!」
 ゆっくりと、こちらへ近付いてくるつー。
「ひぃぃ…」
 腰を抜かしたまま、俺は後ずさった。
「ジャア、コレヲ ミロヨ…」
 つーは、スルスルと右手に巻かれていた包帯を外す。
 何か、湿疹のようなものができているようだが…

「それはッ!!」

 不意に窓に張り付いていたキバヤシが大声を上げた。
「!!」
 つーの視線がそちらへ向く。
「しまったバレた!!」
 キバヤシは大声で叫ぶ。

「ナンダ、オマエ…!」
 つーは呟いた。
 凶悪な視線だ。確実に、殺意がこもっている。
 こうなったら…俺は関係ないと、とぼけきってやる!!

「どうするモナー! 見つかってしまったぞ!!」
 俺の方を見て叫ぶキバヤシ。
 何でこういう時だけ本名で呼ぶ!?

「ソウカ… オマエラ、グルデ オレヲ ミハッテタンダナ…」
 つーの様子がおかしい。
 小刻みに痙攣している。
 俺は、『アウト・オブ・エデン』を発動させた。
 心臓の鼓動が異常なほど早い。
 先程まで普通の人間と何ら変わりのなかったつーの肉体が、大きく変化している。
 …いや、変貌を遂げようとしているのだ。

 ――麻酔作用開始!

 その目が大きく開き、額の皮膚が裂ける。

 ――瞳孔散大! 平滑筋弛緩!

 ひび割れたように皮膚が剥がれ落ち、その下からメタリックな肌が姿を現す。

 ――皮膚を特殊なプロテクターに変える!

 鋭い爪。満ち溢れる力。
 筋組織も完全に変化している。

 ――筋肉・骨格・腱に強力なパワーを与えるッ!

 変化は収まったようだ。エプロンは破けて、形も残っていない。
 つーの体は、異形の肉体へと変貌を遂げていた。

 ――そいつに触れることは死を意味するッ!


「マズい事になったな…」
 いつの間にか、キバヤシが隣に来ている。
 いや、事態の大半はあんたのせいだ。
 とにかくこの状況を何とかしなければ、俺の命も危ういかもしれない…



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

529新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 21:45
もう何てコメントしていいか言葉が見つからないので
乙ッ!!とだけ言わせてもらいますね

530新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 22:34
喰われながら生きているレモナにワロ他。

531新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 23:28
ボスケテはすごいよマサルさんですかな?

532新手のスタンド使い:2003/12/30(火) 23:58
「ボス 決して走らず急いで歩いてきて
そして早く僕らを助けて」の略

533N2:2003/12/31(水) 20:39
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      ヽ::××_)⊃ ∧ ∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
        )::○_:: ヽ:::: (::  ,,)  < んなこと言ってると鬼が笑うぞゴルァ!!
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 ::::::::::| 来年は週1で連載やっていけるのかな…?
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       (::)ノ (::::_):: /::: /U   \_____
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534N2:2003/12/31(水) 20:40

絶対包囲.com

「よし、それじゃ行ってくるぞ!」
ギコ、本当に大丈夫なのか…?
はっきり言って、虚勢を張っているようにしか見えない。
「…モナ太郎さんッ、あいつ本当に大丈夫なんでしょうか?」
「彼もスタンドが発現してもう何日か経っているのだ、きっと彼なりに策があるのだろう」
モナ太郎さんも随分と楽観的な意見だし…当てにならない。
「でももし駄目だったとしたら…」
オレが押さえ切れない不安をぶつけると、モナ太郎さんは気まずそうに目線をオレから逸らした。
「その時は…諦めろ」
な なんだってー!(AA略)
「言っておくがなギコ屋、戦いの世界においてはいざと言う時には自分の身内さえも見捨てて生き延びなくてはならないこともある。
私としても確かに彼を易々と見捨てたくはないが、もしそれで駄目だったら我々だけでも逃げて策を練り直すしかない」
「そんな…」
そりゃ確かにこの人の言うことは正論だ。
でも…オレにそんな事が出来るのだろうか?
もしギコが危機に陥ったなら、オレがどんな行動に出るか…はっきり言って自分でも予測出来ない。
とにかく今は、ギコの無事と勝利を祈るしかない。
「ギコ、絶対負けるなよ!!」
ミィの元へと向かう相棒はオレの声を聞いて一瞬立ち止まり、( ̄ー ̄) ニヤリと笑ってこちらを振り向いた。
「OK牧場」
…古い。お前何歳だ。

「ギコクン、マズハ キミカラ ミィノナカマニ ナリタイヨウダネ」
ミィと対峙したギコを、彼女は純粋無垢な笑顔を浮かべながら嘲笑った。
顔と言ってる事のギャップが大きすぎる。やっぱり怖い。
「…誰が手前なんかと同類になりたいと思うか、ゴルァ!」
ギコも負けじと言い返す。誰だってそー思う。オレもそー思う。
「激しく同意!!」
しかし彼女は尚も言い放った。
「・・・アーア、キミモ オトナシク センノウニ カカッタママノホウガ シアワセダッタノニネ・・・。 アノカタハ コレカラ セカイサイキョウノ AAトシテ コノヨニ クンリンナサルノヨ。
ソレナノニ ヤスヤスト ギコヤニ センノウヲトカレテ、ソレデ サイゴハ ワタシノチカラデ シンジャウンダカラ」
「…言っとくがな、俺は奴を最強になんかさせるつもりはねえ!多大なる犠牲を払ってまで強さが欲しいのか!?」
「おかしいぞ!ぜったいおかしい!!」
「ツヨサトハ タタカイヲモッテ シメサレルモノ、ヘイワトハ タダイナル ギセイニヨッテ カチエラレルモノヨ」
いきなりミィが思想的な話を持ち出した。これまでが感情論だったのに、御都合主義も甚だしい。
「ふざけるな、奴は別に世界平和の為にやってるんじゃねえ、ただの自己満足の為に人を殺しているだけだ!」
「そーだそーだ!」
明らかにあの男を侮蔑した発言に一瞬ミィの表情が乱れたが、じきにもう付き合っていられないと言いたげな顔をした。
「・・・モウ キミニハ カエスコトバモ ナイワ。サア、オトナシク ミィトオナジセカイノ ジュウニンニナリナサイ! テイコウシナケレバ ラクニイケルヨ」
「やってみな、手前の攻撃は俺には通用しない!」
「ソレジャア エンリョナク・・・ ダッコ♪」
ミィは自分が飛びかかる形でギコに接近し、スタンドで抱き付こうとした。
「ギコッ!!」
だがギコは全く抵抗しようとしない。
いや、むしろ全てを受け入れようとしているようにさえ見える。
そしてとうとう彼女のスタンドはギコをその腕の中に抱き込んだ。
「サア・・・ネムリナサイ。
・・・ツカレキッタ、カラダヲォーナゲダシテ♪」
ミィは自分のセリフが某歌謡曲の一節である事に気付き、調子に乗って途中から歌い始めた。
…やっぱり古い。こいつも何歳だ。
それでも相棒は何もせず、ただじっと目をつぶっていた。
…やる気が感じられない。こいつホントに死ぬ気か!?
「コーノーマチワー、センジョオーダカラ、オトコーハミンナ、キズヲ、オッタ、センシ♪」
「ギコ、何やってんだ!お前、遂におかしくなったのかァ―――ッ!?」
しかしギコはオレの言葉にさえも全く応じようとしない。

535N2:2003/12/31(水) 20:41

だがここでモナ太郎さんがある事に気付いた。
「ギコ屋よ、ちょっと彼を見ておかしいとは思わないか?」
おかしいって言っても…全然何も変わった様子は無い。
「失礼ですけど、何にもいつもと変わった様子はありませんよ」
「…その事自体がおかしいとは思わないか?」
その事自体が、って言っても、別にギコの顔に何か付いてる訳でも…。
…ってあれ?
「そう言えば何でミィのスタンドに抱きつかれて平気なんだ!?」
ギコの耳は全くいつもと変わり無く、また変化する兆しすら見られない。
「だが一体どうして…。彼には一体まだどんな能力が備わっているというのだ?」
よく見ると、ミィの表情に余裕が無くなっている。彼女もまたこの異変に気が付いたようだ。
「ドウゾーココロノ! イタミヲー! ヌグウッッテェーチイサナコドモノ! ムカシニ! カエェッテ! アツイムネーニー! アマエェーテェー!!」
もう歌もやけくそになっている。…失礼だが、さっきまでと大して変わっていないような気もするのだが。
そうして一番を聞き終えると、ようやくギコは目を開けて喋り出した。
「…どうだ?やっぱり手前の攻撃は俺には通用しないだろ?」
そう言ってギコは、今まで見えてなかったスタンドを出した。
「『バーニング・レイン』!ゴルァ!!」
ギコのスタンドの一振りは、呆気に取られていたミィの顔面に綺麗に入った。
高速で吹っ飛ばされたミィは壁に衝突し、見事にそこには穴が開いたが、それでも彼女は瓦礫の中から這い上がってきた。
言ってる事の不気味さにも増して、このタフネスさはバイオ級の恐怖だ。
「…推進力を加えたってのにまだ立ち上がれるとは…」
ミィの顔面はモウ ミテランナイ有様だったが、少しずつ再生しているようであった。
戻る様がまたグロテスクだ。
「・・・ドウシテ? ドウシテ ミィノウィルスガ キカナイノ? ドウシテ? ダレカオシエテ・・・」
彼女は半分錯乱しているようである。
ギコはちょっと勝ち誇ったような顔をして、ミィに言い放った。
「手前はこの音に聞き覚えはあるか?」
そう言ってギコは目をつぶり深呼吸をした。
Coooooo…という呼吸音には、オレも聞き覚えがあった。
この呼吸音は…、確か倉庫で戦った時にも聞いたはずだ。
そしてモナ太郎さんも知っているのか、相当に驚いているようだった。
「馬鹿な…この呼吸はッ!じじいのッ!!」
「どうしたんですか、一体!?あの呼吸は…?」
モナ太郎さんが答える前にギコが口を挟んだ。
「これは『波紋』と言ってな…特殊な呼吸によって生み出されるエネルギーであり、その力は言うなれば太陽のエネルギー…」
ああ、何だあれが波紋か。
「ギコ、波紋の事はもうモナ太郎さんから聞いたから…」
自信満々に知識の披露をしようとしていたギコは、突然知らされた驚愕の事実に唖然とした。
「もしかして説明不要ですかーッ!?」
「YES!YES!YES!“OH MY GOD”]
「…どこかでこんな会話を聞いたような…」
モナ太郎さんはデジャヴュにでもあったかのような顔をした。
一方ギコは最初はいじけているようだったが、急に何かを思い立ったのか立ち上がった。
「…それはともかく、俺も元々はこの能力が身に付いていた訳じゃなかった。
しかし、あの男は俺に波紋の才能があると見抜き、ちょっとしたトレーニングを課した。
奴もあの時は洗脳によって俺が完全服従していたからな、吸血鬼にとっては忌むべき存在の波紋使いを自分で生み出すことにはなるが、俺が更に強力な部下となる事の方が得に思えたんだろう。
…ところが俺に取り憑かせた霊魂が出来損ないの奴で、その内俺が奴を倒して自分こそが最強になろうと目論見始めたもんだから、
それで目障りになって奴はお前に俺を始末させようとしたんだ」
「なるほどな、自分で生み出してしまった波紋使いを始末するのは危険が伴うからか」
「そして俺のスタンド『バーニング・レイン』は本来エネルギーを司る能力!波紋が無ければその捻出には相当苦労したんだろうが、
今の俺には幾らでもエネルギーを作ることは出来るぞ!」

536N2:2003/12/31(水) 20:42

再びギコは『波紋の呼吸』をした。するとみるみるうちにスタンドの手には赤い光がともり、その輝きはますます強くなっていった。
       バーニング・ショット
「喰らいなッ、『火炎弾』!!」
そうギコが叫ぶと、「バーニング・レイン」の掌からは無数の紅い色をした銃弾が放たれた。
マシンガンかのような銃撃を受けたミィは、その傷口から炎が吹き出ていた。
「さて、これだけやればいい加減くたばるはずなんだが…」
しかしそれでもミィは生きていた。
しかもその表情には余裕すら感じられる。余計不気味だ。
「ギコクン・・・ミヤブッタワ、アナタノ ケッテイテキナ ジャクテンヲ。 ワタシヲ ココマデ イタメツケタカラニハ モウユルサナイ・・・ モウトリカエシノツカナイ ハイジンニシテクレルワ!」
「何だと!?手前まだ減らず口を利くなら今度は完全に冷やし切った後に粉々に粉砕してやるぜ!」
「・・・アナタ、ドウシテ スタンドノ カタテシカ ツカワナイノ?」
その指摘にギコははっと驚いた。一体何がまずいのだろう。
「アナタノ ハモンジュツナラ タシカニ ワタシノウィルストカモ フセゲル・・・ケドソレハ コキュウダケデハ フカンゼン。
アナタハ スタンドノカタテヲ ジブンノタイナイニ イレルコトノヨッテ! ジカニ ハモンヲナガシテ ワタシノウィルスヲフセグノニ ジュウブンナハモンヲ ナガシテイルノネ!!」
…えーと、読みづらい。
「くそッ、まさかネタがばれちまうとは…」
「だからネタって何だよ!?」
「ソウトワカレバ! スタンドト ワタシジシン! ソノダブルコウゲキデ マズハアナタヲ イタメツケテアゲル! アノカタハ「バーニング・レイン」ハ スピードニトッカシタ スタンドダト オッシャッテイタワ。
タシカニ アナタハカタテデ ワタシノスタンドニハ ジュウブンタイショデキルワ。 デモテカズガフエレバ・・・ドウカシラ?」
ああもう何を言っているのやら。
と困惑するオレには全く関心を持たずにミィはスタンドと共にギコへと突っ込んだ。
「なら手前自身をぶっ潰すまでよ!」
ギコの攻撃は完全に相手の本体狙いだった。
しかし、攻撃を入れども入れども向こうは平然としている。
「ギコクン、アナタハ ホントウニ ツヨイオトコダワ・・・。ケド アイテガワルカッタワネ、 ワタシハナニヲサレテモ ゼッタイニシナナイ 『フジミキャラ』。
ワタシニハ カテナクテ トウゼンナノ。 ソレニキヅイテイナガラモ メサキノアンゼンヲモトメテ ホンタイネライスルナンテ・・・ アナタハ スタンドツカイトシテ マダマダワネ
ホントウハ コレカラ アナタノセイチョウヲ ミタカッタノダケレド・・・ アノカタニハ カンゼンニ シマツシロト イワレテイルシ、 ワタシヲココマデ キヅツケタウラミハ アナタノシヲモッテ ツグナッテモラウシカナイワ。
・・・ソロソロ オワリニシマショウ」

537N2:2003/12/31(水) 20:45

ギコが完全に無視していた「シック・ポップ・パラサイト」の一撃ががら空きの胴に入った。
ウィルスには感染せずとも、もろに喰らった攻撃は戦況を完全にミィ優勢のものとしてしまった。
ギコは血を吐きながら吹っ飛び、そのまま壁を破っても尚その勢いは収まらなかった。
すぐにプールに人が飛び込むような音がした。
「・・・オフロバマデ フキトンダヨウネ。 デモ イマノイチゲキデ モウアナタニハ タタカウヨリョクハ ノコサレテイナイ!
サア! マズハアナタヲ キノスムマデ イタメツケ、 ソシテ ジックリトジックリト ウィルスニオカシ、 ソノイシキガ ウシナワレルスンゼンデ クビヲ オトシテクレルワ!」
ギコ、絶体絶命である。
「ちっ、この距離では時を止めても彼を救えない…。ギコ屋、逃げる準備をした方が良さそうだな。さもないと全滅の可能性がある」
「そんな…! …おいッ、ミィ!お前の相手はオレがするぜ!」
戦闘に関して三流と言われるかも知れない。でもオレにはとても相棒を見捨てることなんて出来ない。
気が付いたら、口から勝手に言葉が飛び出していた。
「待て、死にたいのかッ!?」
モナ太郎さんの制止を振り切り、オレはミィ目がけて突っ走った。
しかし、彼女は全くオレには目も触れなかった。
「ワタシモ アノカタニ オツカエシテ モウ5ネン・・・ イママデ カズオオクノ シュラバヲクグリヌケ、 トキニハナカマヲ ミステサエモシタワ。
ケレド、 ソレハワタシニトッテハ ムシロセントウニオイテ ヨリテキカクナハンダンヲクダス ダイジナカテトナッタワ! アナタノ ヤスッポイチョウハツニノルホド ワタシハアマクナイワ!!」
距離の差はおよそ5m。オレのスタンドでは届かない距離だ。
「カクゴシナサイ、ギコッ! コレガ アノカタニ サカラウモノノ ケツマツヨッ!!」
スタンドのパンチが浴槽目がけて振り下ろされる。
「うおおおおォ――――ッ!!!!」
「クリアランス・セール」を全力で飛び出させる。しかし、射程が足りない。
「・・・オワッタワネ」

538N2:2003/12/31(水) 20:45

「…波紋の扱いが精密に行える者は、例えば水なんかに波紋を流して自在に形を操れるんだ」
相棒が浴槽の中から立ち上がった。その中にはまだ沢山残っているはずの湯が無い。
…否、それはギコの手の内で四角い形を帯びて存在していた。
「どおおりゃああぁ――――ッ!!」
ギコの手に持たれた水がスタンドによってミィに叩きつけようとされた。
確かに先手はミィの方であった。
しかしギコの「バーニング・レイン」はオレよりも更に数段上のスピードを誇っている。
ミィは水を真正面からぶつけられると、そのままその中へと閉じ込められた。
「・・・ゴボッ!? ガバゴボゴボゲボ!!」
「そして波紋にも通しやすい物と通しにくい物があってな、水とか油なんかは非常に伝導率が高いんだ。
例え不死身の貴様であっても水中に閉じ込められて俺の全力波紋を受けて無事でいられるかァ――ッ!?」
「ゴボゴボゴボゴボ!!!!」
        レモンイエローオーバードライブ
「喰らいなッ、『黄蘖色の波紋疾走』ッ!!」
スタンドの手から放たれた鮮やかな黄色をした波紋は、激しい放電音と共にミィを電流で包み込んだ。
「ガバ-------ッ!!!!」

数秒の後、ギコが波紋を解除すると形を失った水の中から黒焦げになったミィが力なく落ちてきた。
もう全く動く気配は無い。
「…やったのか、ギコ!!」
「いや分からん、こいつが『不死身キャラ』である以上は全く安心出来ん。だが今こいつが倒れている内に、早く兄貴を助けて目を覚ます前に逃げるぞ!」
ギコはそう言うとすぐに走り出して俺達を誘導した。
正直こいつを放置しておくのは不安極まりないが、かと言って連れて行った方が余計危ない。
オレは横たわるミィを尻目にギコを追って階段を上った。

539N2:2003/12/31(水) 20:47

廃ビルの3階。そこにギコの兄貴は捕まっていた。
俺たちがそこに着くと、その男は天井からロープで吊るされていた。
「兄貴ぃ――――ッ」
相棒ギコの姿を見たギコ兄貴は、最初はその光景が信じられないような顔をしていた。
「…お、お前は弟か!?弟なのか!!」
「兄貴、助けに来たぜ!!」
「…そうか、お兄ちゃんはお前が必ず来てくれるものだと信じていたぞ…」
…一人称が「お兄ちゃん」…。相当なブラコンと見た。
「嬉しいぜ、兄貴!俺のことを信じていてくれたなんて…」
それを平気で受け入れる相棒も然りだ。
「よし、あのミィが目を覚ます前に逃げるぜッ!!」
「あのミィって、あいつのことか?」
「…へ?」
ギコ兄貴が指差す先には、黒焦げになり立つことすらおぼつかないようだが、壁に寄り掛かりながらもまだ闘志を燃やすミィがいた。
「シツコクミィキタ━━━━━(゚∀゚;)━━━━━!!!!」
「何てこった…。これじゃあ何をやっても無駄じゃないか!!」
うろたえる俺たちの声が耳に入っていないのか、ミィは1人で喋り出した。
「・・・ニガサナイ・・・ケッシテ・・・ワタシハフジミ・・・ケッシテアナタタチニナゾ・・・」
「くそっ、こうなったら奴を分解してその隙に逃げるっきゃねぇ―――ッ!!」
「で、でもそれでもこいつが生きている限りはいつまでも追ってくるぞ!!」
「うろたえるな、弟、ギコ屋。既に決着は付いた」
「…は?」
理解不能のオレ達にギコ兄は語り始めた。
「よく見ていろ、あいつの顔を。どういう変化をするのかしっかりとその目で見届けろ」
「…?」
変化…と言ってもミィの顔は相変わらず怨念と闘志に満ちている。
…が、心なしか表情がさっきよりも穏やかなような…と思うと、みるみる無表情になっていった。
「おい、こりゃどうなってんだ!ミィ、手前一体…」
「・・・ヒガシ」
「はぁ?」
「ヒガシ・・・イカナキャ・・・ ヒガシ・・・ドコ?」
何だあれは。
あれは最早ミィとは呼べない。ミィの皮を被ったでぃだ。
「な…何なんだよこりゃ!?兄貴、一体何したんだ!?」
自分を揺さぶる弟を一見してからミィの方を向くと、ギコ兄はスタンドを発現させた。
「ってあんたまでスタンド使いかいッ!」
「私の能力『カタパルト』はスタンドによって分析した物質を材料から複製することが出来る。
今私はあのミィの脳細胞の一部から奴に気付かれぬうちに「でぃの脳細胞」を複製してそのまま埋め込んだのだ。
でぃ族の要素が少しでも加われば、しぃ族は呆気なく堕ちてゆく…。彼女は一生あのまま東を目指し続けるだろうな」
流石にちょっとやり過ぎのような気がするが…、でもこうしなけりゃオレ達が死んでいたのだ。
これが勝負の世界の掟なのだろうか。

540N2:2003/12/31(水) 20:48

モナ太郎が不審に気が付いたのは、3人が戦いを終え小休止している時であった。
蛍光灯の光が、おかしい。さっきから急に明るくなったり暗くなったりを繰り返している。
(…まさかッ!?)
3人は全く異変に気が付いていない。今から口で言っても間に合わない。
「スタープラモナ・ザ・2ちゃんねる」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ドォ――――――ン)
モナ太郎は3人をスタンドで掴むと、窓の方へと勢い良くぶん投げた。
そしてすぐに彼自身も窓へ向け駆け出し、まさに飛び込もうとしている時に時間が切れた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

4人がガラス窓を破って外へ出た次の瞬間、つい一瞬前までいた廃ビルは雷の如き電流に包まれた。
「………!!!!!!??????」
3人は時の止まる前後の状況の余り変化に全く思考がついていかなかった。
「って何じゃゴルァァ――――ッ!!」
「…なっ、これは一体…!?」
「うわああああああ!!!!」
建物は見るも無残に崩れ去っていった。
もしモナ太郎が何も気付かずにあのまま建物の中にいたら、命は無かっただろう。
着地した時には、もう廃ビルは完全に原型を留めていなかった。

541N2:2003/12/31(水) 20:49

「…酷い真似を…」
ギコは廃墟を見つめながら1人呟いていた。
ミィはあの電撃で焼失したのだろう。
確かに自分を殺そうとした相手ではあったし、あのまま生きていたとしても決して幸福な人生を歩んでいたとは思えないが、
それでもギコは突然の惨劇に憤りを感じずにいられないようであった。
ギコ兄はそんな弟を尻目に「カタパルト」をコンクリートの山に登らせていた。
「…『カタパルト』でこの瓦礫の山を視たのだが、炭素反応は確かにあるがどれも微塵に分散している。
ましてや、生体は全く存在していないな」
ミィの結末を、ギコ兄は確かなデータから証明付けた。
それをギコは、ガラスを爪で擦る音を聞くような顔で聞いていた。

でも、一体誰がこんな真似をしたというのだろう?
これが単なる事故のはずなんてない。
何者かがオレ達を始末するためにやった事に違いない。
「…モナ太郎さん、これは一体どういう事なんでしょう?」
この事態に気付いたのはモナ太郎さんだけだ。
彼に聞けば何か知っているかもしれない。
「…分からんな。ただこれがスタンド攻撃であることは間違い無いのだが…」
オレの期待も空しく、モナ太郎さんも何も知らないらしい。

542N2:2003/12/31(水) 20:50

「…そんなの、奴の仕業に決まっているさ。
…言っとくが、俺たちを今暗殺しようとしても無駄だ…止めておけ」
突然ギコは右の拳で左の掌を叩いた。
そこから高速で銃弾が飛び出す。
それは近くのビルの壁にぶつかって反射し、その先には…人!?
いや違う、あれは人ではなく、人の形をした…光?
その右手には相当な大きさの金色に光る球が乗っている。
その光る人は自分に迫る弾を左手で指さすと、バリッ!という音と共に放電してかき消した。
「やはりな、ビル1つ崩壊させる電気を使えるスタンドと言ったら、奴の部下では手前だけだ」
自分の目論見を見破られたことを知っても、そいつは余裕のある含み笑いをしながらギコを見下ろした。
「流石だよギコ。奇襲から見事に逃れた時点で作戦が失敗したことは分かっていたが、私の行動をここまで見破るとは思いもしなかった」
「作戦が失敗した…って言っときながらその手にある電気の塊は何だ?」
ってあれは電気の塊だったのか。
もしあんなもん落とされてたら真っ黒焦げじゃ済まされない。
ギコが気付いていなかったら今度こそ命が無かっただろう。
「ハハ、失礼失礼。まあ、これ以上ここに居座っていてもしょうがないから、そろそろ帰らせて貰うよ」
電気の男はそう言って手の上の光を消滅させた。
「…待て、貴様どうして自分の仲間さえも巻き添えにした?」
作戦も失敗し、いざ帰ろうとする男をギコは呼び止めた。
「…元々君の兄上は君たちを全滅させる為の囮だったのさ。本当はビルに入った途端に殺しても良かったんだけど、
そういうのは私の美学に反するんでね…。元々それはあの方直々の作戦だったんだけど、ミィの奴はそんな事も知らずに見張り役になると言い出してね、ハハ、笑っちゃうよ」
…こいつ、自分の仲間が死ぬと分かっていながら…!
「手前、分かってたんならそうだと言ってやれば良かったじゃねえか!それなのに何で見殺しに…」
怒るギコを呆れたような顔で男は見た。
「そもそもあの方はあいつを前々から鬱陶しく思われていてね、不死身の肉体に危険なウィルスのスタンド、
自分の言いなりになっている内は良いが、もし離反でもしたなら脅威になりかねないからね。
あの方をそれを前々から私に漏らしていたから、事のついでに奴を始末したって訳だ。ハハッ、哀れな女だよ。
まさか奴も自分が見捨てられる側に立つなんて思っちゃいなかっただろうに」
…こいつぁーメチャ許せんよなあー!
「おいッ、電気!お前幾ら何でもひどすぎだぞ!!」
ギコ兄はそんなオレを見て疲れたような顔をしながら言った。
「…お前はもう少し冷静になれないのか?」
「…ハアッ!?」
「奴らとて馬鹿じゃないんだ、そういう『粛清』も時として必要になるものなのだろう」
「でもッ、だからってあいつのやった事は…」
「まあ待て、私が言ったのは一般論だ。大きい組織を維持する為には時には無実の人間を始末する必要も出てくる。
…但し、こんな自分勝手な人間の我儘に付き合うような男にそんな事をする権利があるとは私は思わん」
何だ、ギコ兄も冷静な風で結構分かってるじゃん。
「だから既に鉄筋を寄せ集めて槍に作り変えた。喰らえッ!」
ギコ兄は背後に回りこませたスタンドに鉄槍を投げさせた。
だが、相手はそんな攻撃にはお構いなしであった。
「…そろそろ時間だ。いい加減スタンドを遠征させたままではあの方の電気マッサージの時間に間に合わなくなる。
今日はこの辺で帰ることにしよう」
電気の男はそう言い残すと、辺りは雷の落ちたような光に包まれた。
…見ると、もうあいつの姿は無かった。
「畜生、逃げやがったか!」
「この周辺には異常なイオンの流れは見つからない…、どうやら本当に逃げたらしい」
悔しいが、今日の所は勝負はお預けのようだ。

543N2:2003/12/31(水) 20:51



「…でも不安ですよ、あなたが帰っちゃうなんて」
アナウンスが聞こえてくる。モナ太郎さんが乗る飛行機の搭乗の時間が近いらしい。
「本当は私もまだここにいたいのだがな、私も財団の関係者である以上どうしても世界各地を回らなくてはならないのだ」
モナ太郎さんがいなくなってしまって、果たしてオレ達は大丈夫なんだろうか?
「心配すんな相棒!この人がいなくたって俺がいるじゃねえか、ゴルァ!」
「そうだ、君には心強い仲間がいるじゃないか」
…そうだ、そうだよな。
オレにはギコというこの世で最高の相棒がいるじゃないか。
こいつさえいてくれれば、どんな奴が出てきたって大丈夫…のような気がする。
「それじゃあ、元気でな。私も暇を見つけ次第なるべくこの町に来るよう心掛ける」
そう言ってモナ太郎さんは去って行った。

「よーし、ギコ!絶対にあいつらをブッ倒すぞ!!2人で頑張ろう!!」
そう意気込むオレを、ギコは不安そうな顔で見てくる。
「何だよ、いきなり怖気付いて!さっき大丈夫って言ったのはお前の方だろ?」
「…いや…さ…、何だか俺の後ろから鋭い視線が…」
後ろ…?
ギコの後ろにあるものと言ったら電柱くらいしかない。
とその陰に何かが見える。
…あ。
「…ギコ屋よ、貴様のせいで弟は危険に晒されているのだぞ…」
うわあ。黒いオーラと共に発せられる言葉には凄みがあるッ!
「だがな、弟が貴様如きにわざわざ力を貸すと言っているのだ、私もこの戦いに協力しよう…。
但しッ!それはあくまで弟に対してだ、お前にではないッ!!」
オレもそこまで邪険に扱われるとは…。
「…私はいつも最寄の電柱の陰から『お前』を暖かく見守っているぞ。
…それとギコ屋。…二度と私のことを忘れるな」
無視されたことを相当根に持っているらしい。何て陰湿な性格なんだ。
「ああ、だから友達がいないからいつまで経っても弟離れ出来ずに…」
ふと気が付くと、さっきまで近くに停めてあった自動車5,6台が無くなっていた。

「ロードローラーだッ!!
ウリイイイイヤアアアッーぶっつぶれよォォッ」
だが着地した時にはもうオレとギコは遠くを歩いていた。
「なあギコ、今日は大分遅くなっちゃったけど晩ご飯は何にする?」
「そうだな、じゃあ奮発して外食にするかゴルァ」
「よーしパパ奮発しちゃうぞー」

「弟にまでスルーされた…」
ギコ兄には夜風がより一層冷たく感じられた。

544N2:2003/12/31(水) 20:51



この町で起こるあの男の野望をめぐる戦い。
オレ達はこの戦いが奴の凶行を食い止める為のものでしかないと思っていた。
しかしそれがこの町のものだけではない、
この時はまだ存在も知らなかった町「茂名王町」で起こっている争いにまで関わっているなど、
オレ達は、いやあの男でさえも知る由は無かった。
夜空に輝く月は不気味に紅く染まっていた。
まるでこれから起こる血で血を洗うような戦いを予言するかのように。

この町に渦巻いているのは、あの男の陰謀だけではなかった。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

545N2:2003/12/31(水) 20:52

                  ∩_∩
                 G|___|
                  ( ・∀・)∩
                 ⊂     ノ
                  ) _ (
                 (_) (_)

NAME 逝きのいいギコ屋(通称ギコ屋)

各地でギコを売り歩く露天商(ほとんど赤字)。
基本的に能天気な性格だが、時として深刻に物事を捉えることもある。
情に厚く、サービス精神も旺盛。
だが時にはずる賢さが働くことも…。

たまたまやって来た町で「もう1人の『矢の男』」によって刺され、
以前から才能はあったスタンド能力が開花した。
どんなに滞在期間の短い町でも恩を忘れない精神から、
「もう1人の『矢の男』」討伐に燃える。

546N2:2003/12/31(水) 20:53

                ∧ ∧  |1匹300円|
          ⊂  ̄ ̄つ゚Д゚)つ|____|
            | ̄ ̄ ̄ ̄|     ||
            |____|     ||

NAME 相棒ギコ

ギコ屋に売られているギコ(見本)。
客相手にいつも商品の逝きの良さをアピールしている。
かつて一度本当に売られたことがあったが、
その売り主思いの性格に客は心打たれて返品し、以来生活を共にしている。

「もう1人の『矢の男』」によってスタンドが発現、洗脳された。
その時生来才能のあった波紋の呼吸法をマスターし、スタンドのエネルギーに活用している。
洗脳時に多くのAAを虐殺したことを心に病み、彼もまた「もう1人の『矢の男』」を討ち取ろうと意気込む。

ちなみに、一部設定では「彼と亡き妻の間には子供がいる」となっているが、
ここでは黙殺&無視している。

547N2:2003/12/31(水) 20:53

               |;;::|∧::::... / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
               |:;;:|Д゚;)< 弟が人物紹介されてる…
               |::;;|::U .:::...\________
               |::;:|;;;|:::.::::::.:...
               |:;::|::U.:::::.::::::::::...

NAME 相棒ギコ兄貴(通称ギコ兄)

相棒ギコの兄。
ギコ屋に売られる弟をいつも暖かく電柱の陰から見守っている。
いつか弟を奪還せんと考えており、一度だけ行動に移したことがあったが
その時はギコ屋に自分が何者であるかも知られることなく撃退された。

この「番外・逝きのいいギコ屋編」では遂にギコ屋と対面するが、どうやら彼とは反りが合わない模様。
彼のスタンド「カタパルト」は使い方次第でどんな悪事でも働けるが、
彼も真面目な性格であることからそういう事は考えていないらしい。
弟がギコ屋に協力することから、彼も仕方なく力を貸すことに。

548N2:2003/12/31(水) 20:53

             /;二ヽ
              {::/;;;;;;;}:}
             /::::::ソ::::)
             |:::::ノ^ヽ::ヽ
             ノ;;;/UU;;);;;;;ゝ


NAME もう1人の『矢の男』

ある町で『矢』を使いスタンド使いを増やしている吸血鬼。
その目的は謎に包まれているが、それは彼が「最強」となることと
何かしらの関係があるらしいが…。
また彼は『矢の男』、ひろゆき、モナ太郎の存在を知っており、
彼らに対して異常な嫉妬心を抱いているようだ。

ちなみに、彼の羽織っているマントは、姿を見られないためだけでなく
日光や波紋を遮断する効果を持つ特注品である。



※★AA作成依頼専用スレッド IN モナー板〜21★
195さんにイメージ図を作成して頂きました。
また採用は致しませんでしたが194 ◆ZRX/2gAGZg さんにも作成して頂きました。
御両名に、この場を借りてお礼申し上げます。

549N2:2003/12/31(水) 20:54

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃            スタンド名:クリアランス・セール          ...┃
┃             本体名:逝きのいいギコ              ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃ 精密動作性 -C   . ┃   成長性 -A  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃殴った物質を分解するスタンド。                       ┃
┃分解といってもその形式は様々で、ガラスが割れるようにも、   ....┃
┃砂がこぼれ落ちるようにも出来る。                    .┃
┃ただし、分解出来る時間は現状ではせいぜい十数秒が限界。    ..┃
┃(今後延びる可能性あり)                          ..┃
┃またスタンドなど幽体には効き目が無い。                .┃
┃また本人の感情が余りにも高まっていたりすると、          ..┃
┃果たしていつ分解が解除されるのかは不明である。         ....┃
┃ちなみに、分解の最高レベルは原子単位までである。        ...┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

550N2:2003/12/31(水) 20:54

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名:バーニング・レイン             .┃
┃               本体名:相棒ギコ                ...┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -B    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -E   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B    .┃ 精密動作性 -A   ...┃   成長性 -A  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃身体のエネルギーを使い、あらゆる力に変えるスタンド。       .┃
┃基本的にはカロリーを消費して力を生み出すのだが、       .....┃
┃本体は波紋の呼吸法をマスターしており、その分のエネルギーは ..┃
┃それによって賄われている。                       ..┃
┃また力を固形化することも可能で、例えば力を銃弾にして発射し、 . ┃
┃打ち抜いた敵にその効果を与えることも出来る。          .....┃
┃扱える力の種類は多様で、火力(応用で吸熱力)・電力・風力・  .....┃
┃その他原子力なども可能。                         ┃
┃ただし、暴走時代よりも力の生産量は低下し、            ...┃
┃放射能などの強烈な放射方法も使えなくなった。           ..┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

551N2:2003/12/31(水) 20:55

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃              スタンド名:カタパルト             ...┃
┃              本体名:相棒ギコ兄貴             .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -C  ....┃   スピード -B  ....┃  射程距離 -C  ....┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -B   . ..┃ 精密動作性 -A.  . .┃   成長性 -C   ..┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃物質を複製するスタンド。                           ┃
┃作るためには材料と構成のデータが必要であり、          ....┃
┃材料は分子構成が同じ、または似ている必要がある。       ....┃
┃またデータはスタンドがそのコピー元に触れて分析しなければ   ..┃
┃ならないが、一度分析したログは全てスタンドが覚えており、    ..┃
┃必要な時にいつでも使うことが出来る。                  .┃
┃複製の際に使用するデータは、細かい分子組成などは勿論の事、...┃
┃場合によっては分子の振動量(つまり温度)まで必要になる。   ....┃
┃また臓器なども作り出すことは可能であり、材料さえあれば      ...┃
┃人体を丸々製造することも出来るし、細胞も生きてはいるのだが  .┃
┃そこには意思が無く、結局は『死んだ』人間と同じである。      .┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

スタンドのアイデアスレ327さんに感謝。

552N2:2003/12/31(水) 20:55

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃            スタンド名:アナザー・ワールド          ..┃
┃             本体名:もう1人の『矢の男』           .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -A    .┃   スピード -A  ....┃  射程距離 -D    .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃  精密動作性 -A  .┃  成長性 -なし    .┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃時間を数秒間逆行させる能力を持つ。                  ┃
┃逆行中は彼のみがその流れに関わらず動け、その他のものは  ...┃
┃それまでと全く逆の行動を辿る。                      .┃
┃また彼自身のねじ曲げた運命は再び時が正常に流れた時に    ..┃
┃そのまま逆再生する(つまり、彼自身が攻撃しても再び時が再生  ..┃
┃した時には全く逆の動きで傷が治ってしまう)ので意味が無いが、 ..┃
┃そのねじ曲げた運命が他の物質に及ぼした物理的影響は      ┃
┃逆行中はすり抜けるが正常再生した時には効果がある         ┃
┃(つまり逆行中に銃で相手を撃てばその間はすり抜けるが、     .┃
┃再び再生した時には後ろから銃弾が当たる)。             .┃
┃ただし、余談であるが本体はこの能力には全く納得しておらず、 .....┃
┃その事がこのスタンド自体の成長の可能性を奪っている。     ...┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

553N2:2003/12/31(水) 20:56
    ∩_∩
 G|___|  ネタ被り防止のために
  ( ・∀・)

  ∧ ∧
  ( ゚Д゚)    一応今後予定のタイトルを張っとくぞゴルァ!

  |;;::|∧::::...
  |:;;:|Д゚;):::::.. それでは皆様、良いお年を…


  現在予定のタイトル(一部激しく課題)

  「ラーメン屋に食いに行こう」 「デムパ(・∀・)ハイッテル」 「バンガイ・シャイタマ」

554N2:2003/12/31(水) 20:57
以上です。長々と失礼しました。

555新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 20:58
乙ッ!!

556新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 21:18
お疲れです。「デムパ(・∀・)ハイッテル」吹いた。

557新手のスタンド使い:2003/12/31(水) 23:52
今年最後の作品乙です

558:2004/01/01(木) 00:02
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
       番外・正月は静かに過ごしたい
       
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 俺は、窓を開けて朝日を眺めた。
 冷たい風が身を切る。
 それも悪くは無い。
 年号が変わってから、もう7時間ほど経過している。
 去年も何とか無事に過ごすことができた。
 もう、命があるのが不思議なくらいに。
 いい加減、『モナーの愉快な冒険』というタイトルは何とかしたいところだ。
 これっぽっちも愉快じゃない。JAROに訴えてやろうか…

 さて、今年の正月は例年とは違う。
 去年のように、家でゴロゴロするなんて勿体無い事はしない。
 振袖を着たリナーを連れて初詣に行って、ずっと一緒にいれるようにお願いして、
 帰りに手を繋いで甘いナイストークを交わし、家に帰って2人寄り添って、静かかつハァハァな正月を過ごす…
 そう思ってたのに…

「おい、窓閉めろゴルァ! 寒くてしょうがねぇ!」
「物思いに耽るモナー君も素敵だよ、ハァハァ…」
「センチメンタル タヌキ…! アヒャ!」

「なんで正月早々からお前等がいるモナァッ!!」
 俺は振り返って大声を上げた。
 大勢の知り合い共が、コタツを囲んでおせち料理をつついている。
 確かにクリスマスの時は、来年もこうして馬鹿騒ぎできれば…、みたいな事を思った。
 だが、正月くらい静かに過ごしたい。
 それ以前に、人の家のおせち料理を食うな。
 俺の分がなくなるじゃないか!!

「ちょっと兄さん… お正月くらいみんなで騒いでもいいんじゃない?」
「あの… 私、邪魔だったですか…?」
 ガナーと、その親友のしぃ妹が同時に口を開く。
「まあ、君らは別にいいモナ… でも、ギコ! しぃ!」
 俺は、コタツに入って寄り添っている2人を睨んだ。
「な、なんだゴルァ!!」
「お前等は、どっか別の場所でイチャついてろやモ゙ナァ!!」
「だって、みんなで集まった方が楽しいじゃない…」
 しぃが口を挟む。
「だからって、何でモナの家に集まってくるモナ!!」
 そして、微妙に三竦みに入っているモララー、レモナ、つーに視線を移した。
 そのバックでは、龍と虎が睨み合っている。
「新年早々、喧嘩するなら外でやれモナ! この三馬鹿がァッ!!」
「やーねー。ここはモナーくんの家なんだから、あのときのホテルみたいに炎上させたりしないわよ…」
「ソウダゼ! ショウガツ クライ、オオメニ ミロヨ!」
 口答えするレモナとつー。
「大体、オマエラは今、大変な事になってるはずモナ!! こんなとこにまでしゃしゃり出てくるなモナ!」
「まあ、そういうメタな話は置いといて…」
 レモナはまあまあ、といった風に俺をなだめた。
 俺はさらに視線を移動させる。
 お雑煮をむさぼり喰らっている三角頭が目に入った。
「おにぎりィィ!! 出番ないクセにこんな時だけ出て来るなモナ!!」
「それは違うぜ。出番がないからこそ、こういう時はすかさず出てくるんだ」
 おにぎりはキラリと歯を光らせる。
 確かに、それももっともだ。
「…でも、この場に居辛くないモナ?」
 俺はこっそり訊ねた。
 涙をこらえながら頷くおにぎり。
「みんな、知らないうちに遠い世界に行っちゃって… 俺だけヤムチャで…」
 これ以上責めるのもどうかと思ったので、彼に関してはそっとしておいてやろう。

559:2004/01/01(木) 00:03

「…私はいいのか?」
 黒豆の数を数えていたリナーが口を開いた。
「リナーは全然構わないモナよ」
「ちょっと〜! 露骨に態度違うじゃない…」
 抗議するレモナ。
「差別だ! モナー君、これは差別だ!」
 モララーまでが騒ぎ立てる。
 無視だ、無視。

 突っ込むべきヤツは、まだいる。
 さっきからカズノコばっかり食べている男だ…!
「キバヤシィ! 何でここにいるモナ!」
 キバヤシは顔を上げる。
「今年、人類が滅びるかもしれないんだよ!」
「だからどうしたァ!! 電波野郎ォォォッ!!」
 もう我慢の限界だ。
 何で、正月早々から俺ばかりこんな目に合う…!?

「やっぱり、お正月は賑やかなのがいいですね」
 特大ハンマーを抱えた女性が、おせち料理をつつきながら口を開いた。
「しぃ助教授まで何しに来てるんですかァ!!」
「いや…本部にいると、周囲がスタンド使いだらけで落ち着かないんですよ」
 涼しげに答えるしぃ助教授。
 ここも、そんなに変わらないと思うが…

「暇そうで羨ましいな、ASAは…」
 リナーは、しぃ助教授を鋭く睨んだ。
「人の家に居候している貴方にとやかく言われる筋合いはありませんよ、『異端者』…!」
 しぃ助教授はリナーを睨み返す。
 リナーは軽く笑った。
「お前もこの場に居辛くないか? 全く、いい年をして…」
 しぃ助教授のこめかみに、肉眼でも見えるくらいのブチギレマークが浮かぶ。

「貴方を有害なスタンド使いだと認定しました。その存在を抹消します…!!」
 しぃ助教授はハンマーを構えて立ち上がる。
「そこまで望むなら、お前も塵に還してやろう…!」
 リナーもバヨネットを抜いた。

「みんな、2人を止めるモナァーッ!」
 このままでは俺の家が潰れてしまう。
「まあまあ、ここは落ち着いて…」
「正月なんだから、平和的に…」
 俺達は、2人を何とかなだめた。
「まったく… なんでみんな仲良く出来ないのかしら…」
 レモナがナメた口を叩く。
「お前が言うなっ…! お前がっ…!」
 もう、なんか涙が出てきた。
 早くこいつらを追い返さないと、あのホテルの二の舞だ。

「そうだ! みんなでゲームとかしない!?」
 ガナーがロクでもない提案をした。
「萌えない妹ごときが、馬鹿な事言うな――ッ!!」
 馬鹿な妹を怒鳴りつける俺。
 すかさずガナーは、俺の顔面にアイアンクローをかました。
 頭蓋骨がミシミシとイヤな音を立てる。
「ホンマすいません。兄さん調子に乗り過ぎました…」
 素直に陳謝する妹思いな俺。
 妹が手を離すと、俺の体は床に崩れ落ちた。

560:2004/01/01(木) 00:04

「麻雀なんてどうだ?」
 おにぎりは言った。
「でも人数的に辛いんじゃない? それに、正月早々に麻雀っていうのも…」
 レモナは手をヒラヒラと振る。
「モナー ギャクタイ ゲーム ハドウダ?」
「大却下モナ。そもそも、そんなゲーム作らないで欲しいモナ…」
「お医者さんゴッコはどうだい!?」
 モララーが頬を赤く染めながら言った。
 レモナが大きく反応する。
「キャッ! じゃあ、モナーくんがお医者さんで私が患者ね! …私が医者でもいいかな?」
「…却下」
 俺はチラリとリナーの方を見た。
「みんなでノストラダムスの預言書を解読してみるというのはどうだ、モナヤ?」
「なんで正月早々にそんな事しなきゃいけないモナ…」
 ギコはポンと手を打った。
「正月らしく、羽根突きはどうだゴルァ?」
「お前、ムチャクチャ強そうだからなぁ…」
 イマイチ気乗りしない。
「じゃあ、カルタ取りなんてどう?」
 しぃ妹は言った。
「でも、この多人数でカルタはちょっと…」
 もっともな事を言うしぃ。
 確かに、この人数では混乱するだけだろう。

「では、『オメガカルタ』はいかがですか?」
 しぃ助教授が口を開く。
 なんだ、その胡散臭い名前は。
 ヤバそうな匂いがプンプンするんだが…

 しぃ助教授は指をパチンと鳴らした。
 空中から突然、丸耳が現れる。
「説明させていただきます。『オメガカルタ』とは、かってアステカ族に伝わっていたと言われている
 多人数での決闘方法です。まあ一言で言えば、一対一で行うトーナメント形式の百人一首カルタ取りなんですが…
 ややこしいルールは一切無しで、とにかく読み上げられた札を早く取った者の勝ちです」
「単純に、取った枚数が多い方が勝ち、って訳だな…!」
 ギコは言った。
「Exactry(そのとおりでございます)。なお、フライング・お手つき一回につき、ペナルティとして指一本が
 折られます。また、札を破壊する行為、及び審判への攻撃もペナルティですのでご注意を。
                               オ サ
 そして、そのトーナメントを優勝した者は一日族長となり、敗北者達は何でも言う事を聞かなければなりません」

 俺は生唾を呑んだ。何て恐ろしいルールだ…
「グッド。なかなかおもしろいゲームだ」
 おにぎりは言った。こいつ、意味が分かってんのか?
 頭の中でルールを反芻する俺。
 もし俺が勝ったら、リナーが俺の命令を何でも聞く…?
 走馬灯のように、妄想が頭の中を駆け巡った。
 ――お医者さんごっこしたり。
 ――「パンティーあげちゃうッ!」って言わせたり。
 ―― ○×△□。
「ウエヘヘヘ…」
 思わず笑いが漏れる。

「これで優勝すれば、モナー君を好きなように…」
「アヒャヒャヒャ…」
「ノストラダムス…!」
 他者も同様に、やる気マンマンのようだ。

561:2004/01/01(木) 00:04

「下らん。私はやらんぞ…」
 リナーは吐き捨てた。
 そんな…
 それでは、モナの野望は…!

「負けるのが怖いんですね?」
 しぃ助教授はニヤニヤしながら言った。
 その姿を睨みつけるリナー。
「…前言撤回だ。その薄ら笑いを消してやる」
「やってみなさい、できるものならね…」
 睨み合う2人。周囲の空気が変わる。
 もう、この2人イヤだ…

 丸耳がいいタイミングで口を挟んだ。
「まあ血の雨を降らせるのはカルタが始まってからにして、トーナメント表を作りましょう。
 札の読み上げと審判は、この私がやらせて頂きます」

 俺達は丸耳の差し出したクジを次々に引いた。
 そして、トーナメント表ができあがる。


                    ┏━ ギコ
                ┏━┫
                ┃  ┗━ モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃  ┏━ キバヤシ
            ┃  ┗━┫
        ┏━┫      ┗━ しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃      ┏━ ガナー
        ┃  ┗━━━┫
        ┃          ┗━ しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃          ┏━ リナー
        ┃  ┏━━━┫
        ┃  ┃      ┗━ おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


 俺の最初の相手は、しぃの妹か。
 それは楽勝だとして… 次の相手が、どちらに転んでもとんでもない。
 そもそも、つーとレモナがいきなり激突しているのはマズいだろう。
 それを何とか勝ち抜いたとしても、その次にはリナーが…

 なかなか、厳しい組み合わせだ。
 だが、リナーとハァハァするためには、どんな困難も乗り越えてみせる!!

 俺達は、テーブルを脇によけてカルタを並べた。
 最初の試合は、ギコVSモララーだ。
 向かい合って座る二人。

「…行くぜ!」
 モララーを真っ直ぐに見据えて、『レイラ』を発動させるギコ。
「悪いけど、僕は負けないんだからな…!」
 同じく、モララーの身体から『アナザー・ワールド・エキストラ』が浮かび上がる。
 手元でのスピードならば、完全にギコの『レイラ』が上。
 しかし、『アナザー・ワールド・エキストラ』には『次元の亀裂』をはじめ、多彩な応用が可能だ。
 この勝負、先が読めない。

「それでは参ります…」
 丸耳が、伏せていた読み札を手に取る。

 ――戦いの火蓋が今、気って落とされた…!!


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

562新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 00:32
乙っっ!!
新年早々ワロタ

563N2:2004/01/01(木) 02:42
新年初作品乙です!!
今このスレに「朝まで生テレビ」以上の熱さを感じるッ!!

564新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 11:59
明けまして乙!絶対死者出るよこのゲームw

565新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 16:49
新年の作品乙です
キバヤシまで居るとは思わなかった…

566新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:48
              ∧_∧
              (   ゚) 
             /´    `ヽ
            / /l    l\\
            / / |    |  \\
_______(_/ ヽ___○__ヽ_ ヽ__)_________
/  /  /   /  /  /  /  /  /  /  /\
  /  /   /   /  /  /  /  /  /  / ## \
../  /   /  /  /  /  /  /  /  /   ##  \
   /   /  /  /  /  /  /  /  /         \

「もう2004年か〜。」
とりあえず明けましておめでとうございます。

567新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:49
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その②



「いませんね〜。」
「ああ、全然見つからないな〜。」

今俺は先生のスタンド『ワールド・イン・マイ・アイズ』で級長に付きまとうストーカー野郎を探しているのだが、
捜索を始めて数十分。
これがいっこうに見つからない。

「あ〜あ〜何やってんだあいつ。水道の蛇口外しやがって。ずぶ濡れになってるぞ。」
鏡には水道で水を飲もうとして蛇口を外してしまい、慌てふためいている
男子生徒が映っている。
「あ、大丈夫みたい何とか元に戻せたみたい。」
「やれやれ、あいつ大目玉くらうぞ〜。」
まあ、犯人が見つからない原因の半分、いやそれ以上が俺と先生に有る訳で、
捜索をよそに生徒達のプライベートの覗き見に浸っている。
これじゃあまるで田代ではないか・・・。

しばらくして、俺は変な歌が流れているのに気が付いた。
「・・・・なんか珍妙な歌が聞こえてきません?」
先生に尋ねてみる。
「ちょっと待ってろ。集音モードに切り替えてみる。」
そう言うと先生が鏡につけたダイアルを操作した。
すると・・・・。

『あつくなぁ〜った〜♪ ぎぃ〜んのmetalic hearts〜♪
 どぉかせぇ〜んに〜♪火をつぅけぇ〜て〜ageる〜♪ 』

聞こえる聞こえる。さきほどの歌がはっきりと。
「・・・何だこの米軍の怪音波兵器を思わせるダミ声は・・・。」
「何処かで聞いたことある声だな・・・。歌の発信源は屋上からだぞ。」
スタンドを屋上へと移動させてみた。
そこに映っていたのは・・・。
「!!!テツそっくりの生活指導の先公!何やってんだこんなとこで・・。」
見ると水飲み場で自分の体を洗っていた。
「そういやあいつ自分の家の風呂壊れたって言っていたな。自分家の近くに銭湯が無いとはいえ
 まさかここを風呂場代わりにしていたとは。寒くないのか?まだ5月も終わってないというのになあ。」
「・・・・毎朝見ていて想像してたけどやっぱり毛深いっすねー。」
そのうちに干してあったズボンのポケットから何かを取り出すのが見えた。

シュッシュッ

「あ〜〜〜!あいつビンテージ物の香水なんか自分の体にふりかけてるぞ!」
「あ、あいつにそんな趣味があったとは・・・。あ、あ、あ〜〜〜股間にまで〜!」
そうやって先生と二人ではしゃいで居たら・・・。
バンッ!
机を思いっきり叩く音が聞こえた。
「いいかげんにしてよね二人とも!真面目に犯人探しするんじゃなかったの!?」
ヅーのお叱りを受けてしまった。
「「許してソーリー・・・。」」
思わず先生との台詞がハモッた。

568新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:50
んでもって真面目に捜査開始。未だに成果0。
「・・・やっぱりいねーなー。」
「級長の勘違いってことは?」
「ありえねーよ。実際に写真があったもの。」
「ならば内部の者の犯行の線は?」
「ありえないとも言い切れないね〜。」
「それじゃあ別の場所探してみるか。」
そういって先生がスタンドを移動させようとしたときだった。
「ちょっちょっと待って!今カメラに何か映った!」
ヅーが叫んだので慌てて鏡を見る。
そこには明らかに不審人物と思われる男が立っていた。
しかも、いきなり空中から現れたのだ。
瞬間移動とかそんな柔な物じゃなく、別の空間から出てきたように・・・。
「な、なんじゃこりゃああ〜!」
俺は思わず大声で叫んだ。
「静かにッ!コイツ何か独り言を言っているぞ。」
集音モードにして聞いてみることにした。

『・・・うひひ・・・今日もばれる事無く侵入できたぜぇ〜!この前いきなり『矢』みたいなものでぶっさされて
 死ぬかと思ったがこんな力が手に入るとはねぇ〜!おっと危ない危ない。俺の能力はただマントのように羽織って
 他の奴らから見えなくするだけでばれやすいからな。誰かに見つかったら元も子もない。さ、今日も僕だけのレモナちゃんを
 撮りますか。ハァハァ ア ボッキシテキチャッタ 。』

そう言い残すと男はまた消えた。
「・・・・なんてこった。」
先生が呟いた。
「どうりで見つからない訳だよ。アイツはスタンド使いで、自分の消える能力でこの校内に侵入していた
 んだ。こんな能力があったなんて知らなかったな。すげ〜な〜。」
なに覗き魔に感心しているんだこの先公は。
「とにかく奴が校内に入った今ッ!叩くのはそこしかない!」
そう言って俺が走り出した時だった。
「ちょっと待てよ。どうやって見つけ出すんだ?奴は消えているんだぞ。」
「あっ・・・・・・。」
肝心なことを考えてなかった。
どうすりゃいいんだよ〜
「ねえ、そいつだったら私の『能力』で見つけ出せるかもしれないのだ。」
おもむろにヅーが口を開いた。
「ほ、本当か!?」
「うん。ただし、この空間からまったく姿が消えていたら無理だけど。」
「よし、早く行くぞ!」
俺はヅーの手を引いて職員室を後にした。

「なあ、どうやって犯人見つけ出すんだ?」
「簡単なことなのだ。いくら姿が見えなくなっても人間の『呼吸』『心拍数』『体温』なんかは
 どうやっても隠しようが無いのだ。」
ヅーの体からスタンドが浮き出した。
青い迷彩柄のガンダムのMSみたいなスタンドだ。
スタンドの出現と同時にヅーの顔にスカウターのような物が出た。
「いくよ!『メタル・ドラゴン』!」

569新手のスタンド使い:2004/01/01(木) 20:50
俺たちは下駄箱の近くに来た。
「時間から考えてこの付近に来ているはずだ。」
「とりあえず待ち伏せしてみるのだ。」
とにかくこの辺りに網を張る事にした。

しばらくして・・・。
「・・・・来た!」
ヅーが叫んだ。
「来たか!何処に居る!」
「佐藤君の斜め後方!今アヒャ君には目の前に5人しか居ないと思っているけど
 居るはずの無い6人目が見つかったのだ。」
ヅーが走り出したので俺も慌てて後を追う。
「位置は分かった!ならば狙うは顔面のッ正中線上ッ!」
『メタル・ドラゴン』の足が唸りをあげ、空を斬った。

メキャアアッツ!!!!
「ゴフアッ!」
――ジャストミート。
犯人の前歯が2〜3本吹き飛んだ。
と、同時に犯人自身も衝撃で壁に叩きつけられた。
「な、何でばれたんだ!?理解不能ッ!理解不能ッ!」
予想外の事態に奴はとまどっている。
「残念だったね。あいにく私も同じ能力が使えるんだ。さあ、レモナにしてきた事、
 全部償ってもらうのだ!」
「ひ、ひえええええぃ!!!」
男は慌てて逃げ出した。
「待ちな!逃がしはしないぜ!」
俺たちは後を追った。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

570:2004/01/01(木) 23:46

「―― モナーの愉快な冒険 ――   番外・正月は静かに過ごしたい 前編」



 俺は、モララーとギコの間に所狭しと並べられた百人一首を見つめていた。

 百人一首とは、その名の通り百首の歌で構成されたカルタである。
 1235年に、藤原定家が親戚に送ったという百枚の色紙がその起源となっており、
 江戸から明治時代に、本格的に庶民の遊びとして普及し始めたようだ。

 百人一首は、一つの歌につき、読み札と取り札の二種類ずつが用意されている。
 そして読み札とは、名前の通り読み手が読み上げる札で、取り札とは競技者の前に並べられる札である。
 ここで問題になるのは、読み札と取り札で記してある歌の部分が異なるという事だ。
 例をあげてみよう。

『秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ』

 田んぼで農作業していて服が濡れて冷たかったとかいう内容の、どっかの農民が詠んだ歌である。
 『秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ』の部分が上の句、『わが衣手は 露にぬれつつ』の部分が下の句であり、
 読み札には上の句と下の句の両方が記してあるが、取り札には下の句しか記していない。
 つまり、上の句と下の句を両方暗記している者は、読み手が「秋の田の かりほの庵の…」と読んだ段階で、
 『わが衣では 露にぬれつつ』の部分が連想できるのである。
 一方、暗記していない者にとっては、下の句が読み上げられるまで、どの札を取っていいか分からない。
 これは大きなハンデである。
 つまり、歌を丸暗記している者には手が出ないという事だ。
 ちなみに、全てしぃ助教授の受け売りである。

 だが、それはあくまで一般人の話。
 俺には『アウト・オブ・エデン』がある…

「リナーは、百人一首暗記してるモナ?」
 ふと、俺はリナーに訊ねた。
「そんなもの、覚えてるわけがないだろう…」
 まあ当然か。
 もっとも、リナーの最初の相手はおにぎり。
 奴が百人一首なんて高尚な物を暗記しているとは思えない。
 純粋なスピード勝負ならば、リナーの楽勝だろう。


 第一回戦が始まろうとしていた。
 ギコは、軽く頭を下げる。
 丸耳は一枚の札を手に取ると、表側を自分の方に向けた。
 ギコとモララーの二人に、緊張が走る。

571:2004/01/01(木) 23:47

 丸耳は厳かに口を開いた。
「め――」

「ゴルァッ!!」
 
 バシィッ!!! という乾いた音とともに、ギコは右腕を一枚の札に叩きつける。
 場の全員、相対しているモララーも含めて、その一撃に呆然としていた。

「めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな――紫式部だゴルァ!」
 ギコは取った札を、自分の方向に引き寄せる。

「――ぐりあひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな…」
 丸耳は最後まで歌を読み上げた。

 何だ、今のは?
 最初の一文字を聞いただけで、札を取りやがった…!

「ムスメフサホセだよ…」
 ギコは呟く。
 娘房ホセ?

「イカサマだァッ!!」
 モララーが立ち上がって、ギコを指差す。
「審判! こいつ、イカサマをしてるッ!!」
「ほぉ… 俺が、どんなイカサマをしてるっていうんだ、ゴルァ!?」
「そっ、それは…」
 言葉に詰まるモララー。

「ギコは何をやったモナ?」
 俺は、一番知識がありそうなしぃ助教授に訊ねた。
「彼が口にしたムスメフサホセ… これは、決まり字が一字の歌の総称です」
 しぃ助教授は言った。
「どういう意味モナ?」
「百人一首で、『め』から始まる歌は一首しかありません。今彼が取った紫式部の歌です。
 同様に、『む』で始まる歌は、『むらさめの』で始まる寂蓮法師の歌しかありません。
 こんな風に、最初の一文字が一枚きりしかない歌は全部で七首あります。
 そして、その頭文字を取って『ムスメフサホセ』と呼ばれているのです」
 なるほど。
 さらにしぃ助教授は説明を続ける。
「そして決まり字というのは、どの歌か確定させる文字を言います。
 例えば、『い』で始まる歌は…
 『今こむといひしばかりに長月の有明の月をまち出つるかな』。
 『いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな』。
 『今はただおもひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな』の三首です。
 このうち、『いに』と読み上げられた段階で、『いにしえの…』の歌であることが確定します。
 同様に、『いまこ』の時点で『今こむと…』の歌、『いまは』の時点で『今はただ』の歌であると分かります。
 こんな風に、判別の確定条件にある文字を決まり字と言います」
「じゃあ、ギコはその決まり字を…」
「ほとんど暗記しているのでしょうね。こうなった以上、モララーに勝ち目はありません」
 しぃ助教授は断言した。
「私がストレートで優勝すると思っていましたが、なかなか手強そうですね…」
 何げにとんでもないことを呟くしぃ助教授。


 試合はそのまま続行された。
 丸耳は歌を読み上げる。
「かさ――」

「ゴルァッ!!」
 
 札に右手を叩きつけるギコ。
 当然ながら、モララーはピクリとも動けない。
「この…!」
 モララーはギコを睨みつける。

 ギコはそれを無視して、丸耳に訊ねた。
「審判、一つ質問だ。札を破壊する行為はペナルティと言ったが、激しい取り方をした為に札が破損した、
 っていう場合はどうなるんだ?」
「問題はありません」
 丸耳は答える。
「札を破壊する行為に対してのペナルティというのは、、残り札を全て抹消してゲームを有耶無耶にするのを禁じる
 ために作られたものです。自札になった以上は、その札に何をしても問題ありません」
「そうか…」
 ギコは再び姿勢を正すと、札の方に向き直った。

「たご――」

「ゴルァッ!!」
 
 一瞬で札を取るギコ。

「なにし――」

「ゴルァッ!!」
 
 モララーはピクリとも動けない。
 駄目だ、実力の差がはっきりしすぎている。
 茶道の師範に、表千家と裏千家の違いも分からない野球部員が挑戦するようなものだ。
 みじめすぎる…

572:2004/01/01(木) 23:47

「しの――」

「ゴルァッ!!」

 モララーは、視線を下げてうつむいている。
 戦意を喪失したようだ。

「これ――」

「ゴルァッ!!」

 ギコの所持手札50枚に対して、モララーは0枚。
 ギコがあと1枚取れば、自動的にギコの勝ちとなる。

 丸耳が、読み札に視線を落とした。
 モララーはうつむいたままだ。
 敗北を受け入れたのだろうか。
 しかし俺は、モララーの口端が僅かに歪んだのを見逃さなかった。

 歌を読み上げる丸耳。
「あはれ――」

 ギコの右肩が上がる。
 その視線は、1枚の札に集中していた。
 ギコの手が、瞬時に伸びる。

 その瞬間、モララーの身体が宙を舞った。
「強行手段だッ! 『アナザー・ワールド・エキストラ』!!」

「…読めてんだよ。ゲス野郎のやる事くらいはな…!」
 ギコの手は、畳に伸びていた。
「ゴルァ――ッ!!」
 ギコは畳のへりに手をやると、思いっきり引っくり返した。

 あれは… 畳返し!!

「なッ…」
 モララーの体に畳がブチ当たる。
 その上に並んでいた札が、花びらのように宙を舞った。
「こんなもの…」
 畳を弾こうとするモララー。
 その刹那、ギコのスタンド『レイラ』の刀が、畳ごとモララーの体を貫いていた。
 それだけではない。
 空中に舞った一枚の札を、同時に刺し貫いている。
『あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな』
 丸耳が読み上げた札だ。

 丸耳は声高らかに宣言した。
「ギコ選手、51枚取得!! 彼の勝利です!!」

 ズッ…! とモララーの体から刀を引き抜く『レイラ』。
「安心しな、急所は外してある…」

 当たり前だ。俺の家で正月早々に人傷沙汰とか勘弁して欲しい。
 ともかく、ギコは準々決勝に歩を進めた。


                    ┏━○ギコ
                ┏━┛
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃  ┏━ キバヤシ
            ┃  ┗━┫
        ┏━┫      ┗━ しぃ


 第二回戦は、キバヤシVSしぃだ。

 畳を張りなおして、競技場(居間)は元通りになった。
 しぃとキバヤシは向かい合って座る。
「お、お願いします…」
 変人を相手に困惑気味にのしぃ。

573:2004/01/01(木) 23:48

 丸耳が、最初の歌を読み上げた。
「来ぬ人をまつほの浦の夕凪にやくや藻塩の身もこがれつつ…」
 必死で札を探し回るしぃ。
 キバヤシは、額に汗を浮かべて遠い目をしている。
「あっ… はい!」
 しぃは、札を取った。
 キバヤシは全くの無反応である。
 一体どうしたんだ…?

「――わかったぞ!」
 不意にキバヤシはアップになった。
「『来ぬ人』というのは、1999年に恐怖の大王が来なかったことを示しているんだよ!
 では、『来ぬ人をまつ』というのは、恐怖の大王を待っていた奴…
 ――レジデント・オブ・サン!!」
「な、何だってー!!」
「しかし、詩の後半がどうしても解読できない… 俺達は、何か重大な見落としをしているんじゃないだろうか…」

 アレな人には構わず、試合は進行していく。

「人もをし人もうらめしあぢきなく世を思ふゆゑに物思ふ身は…」
 丸耳が、札を読み上げた。

「はいっ!」
 札を取るしぃ。
 キバヤシは目の前の札には微塵の興味も示さない。

「そうか、そういう事か…!」
 キバヤシは顔を上げた。
「『世を思ふゆゑに物思ふ身は』という詩は、レジデント・オブ・サンの心情を表している。
 世界の事を考える故に…、そう。奴は、人類を統制する事が世界のためになると考えている…
 しかし、『物思う身は』の後が分からない… 詩がなぜ途中で切れているんだ…?
 後半を隠蔽した奴がいるという事か…!!」

 キバヤシが暴走している間にも、カルタ取りは進行している。
 しぃは、既に20枚近くの手札を所持していた。
「キバヤシ… そろそろカルタを取った方がいいモナよ…」
 俺はとりあえず忠告する。
「もう、どうでもいいんだ… そんな事は…」
 だめだ、こいつ完全にやる気が無い。

 そういう訳で、しぃが50枚先取のストレート勝ちとなった。

                    ┏━○ギコ
                ┏━┛
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┗━┓
        ┏━┫      ┗━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃      ┏━ ガナー
        ┃  ┗━━━┫
        ┃          ┗━ しぃ助教授

 そうすると、準々決勝ではギコVSしぃか…
 カップル同士の対決だろうが、ギコの圧勝で終わる事は予想できる。
 そして次の試合は、ガナーVSしぃ助教授だ。
 正直、これはヤバい。

 俺は、しぃ助教授に擦り寄った。
「あの… ウチの妹、一応一般人なんで、大きな怪我とかは勘弁してやってほしいモナ…」
「…私を何だと思ってるんです? 普通の人相手にそこまでやりゃしませんよ」
 しぃ助教授は憮然とした表情を浮かべた。
 いや、相手が普通の人だろうが、遠慮なくハンマーで叩き潰す人だと思っていた。
 俺は胸を撫で下ろす。
「それはよかったモナ。ただでさえ乱暴でオヨメの貰い手も少なそうなのに、キズモノにでもなったら…」
「ガツンとみかん!!」
 突如現れた妹の回し蹴りが、俺の後頭部を直撃する。
 気のせいか、前にもこんな事が(何度も)あったような気が…
 そして、俺は意識を失った。

574:2004/01/01(木) 23:49

「――はっ!」
 俺は目を覚ました。
 隣には、腹から血を流しているモララーが寝かされている。
 怪我人用の部屋か。
 というか、俺の家なんだけど…
 とりあえず身体を起こすと、試合場である居間に戻った。

 ちょうど、リナーとおにぎりの試合が始まるところだった。
 しぃ助教授とガナーの試合結果は!?
 俺は近くにいたギコに訊ねた。
「ん? しぃ助教授の圧勝だぞ」
 まあ、それは分かっている。
 一介の乱暴娘とASA三幹部の一人では比べるまでもないだろう。
 問題は、ガナーがどれほどの怪我を負ったかだ。
 キョロキョロする俺の目に、五体満足なガナーの姿が目に入る。
 勝負に負けた後のヤツは大概不機嫌なので、傍には寄らないでおくが…
 それにしても、無事でよかった。
 俺は、改めて胸を撫で下ろす。
 すると、トーナメントは…

                ┏━━━○ギコ
                ┃
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃          ┏━ リナー
        ┃  ┏━━━┫
        ┃  ┃      ┗━ おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ

 よく考えれば、次の試合も結構危ない。
 俺はおにぎりに擦り寄った。
「おい、棄権するモナ!」
「はぁ? 何言ってんだこの微笑みデブは…」
 俺を睨みつけるおにぎり。
 お前のために言ってるんだよ。
「いいから棄権した方がいいモナ。お前の身が危ないモナよ…!」
 おにぎりはニヤリと笑う。
「ハァ? あんなひ弱そうなネーチャンに、この俺がどうにかなるとでも?」
 いきなりおにぎりは立ち上がって、リナーを指差した。
「ヘイネーチャン! 俺が優勝した暁には、ハァハァな命令を与えてやるぜ!!」

 俺のリナーに何ぬかしやがるブッ殺すぞこの野郎!!
 と思ったが、俺の怒りは鋭い殺気の前に掻き消えた。

「――面白い事を言うな、お前…」

 突き刺されるような殺気。
 凍りつくような外気。
 リナーの方を直視できない。

 殺される殺される殺される殺される殺される。
 ――おにぎりは、リナーに、殺される。

 ギコは、殺気をモロに感じ取ったのか硬直していた。
 レモナやつー、しぃ助教授の動きも止まっている。
 ガナーやしぃ妹も、ただならぬ気配を感じたのか押し黙った。
 へらへらしているのは、おにぎりだけだ。

 止めなきゃヤバいんじゃ… 誰もがそう思っていただろう。
 だが、これは2人の戦いだ。俺達外野の出る幕は無い。

 丸耳が読み札を手に取る。
 全員が固唾を呑んで見守る中、第四試合が始まった!!

575:2004/01/01(木) 23:51



    /       ,,/
   /      r‐'"    /
  l゙      丿     ,ノ              … モナー …… モナー …
  ゙l     (     l゙  ,,-――‐- 、          こんなに突然、お別れすることになるとはね…
   `ヽ、   )     ,,-'"    `ヽ  `ヽ
     \  "   ,/       │   ヽ     君はやさしいからきっと僕のために泣くだろうけど
      ヽ !、 /          l     i      でも、悲しまないで……これはなるべくしてなったこと
      丿 ノ |      _   ヽ_    i'|       誰かが言った……我々はみな運命に選ばれた兵士……
     i´  (  ゙l        `   `' -ィ゙ |        自分の戦場から逃げだすことは許されないんだ……
     ヽ_  `i、,,,,゙l、       L    、 ,!
       `i,/  ゙''       | `''ッ‐ " /      いまこの街にある本当の危機と出逢ったとき……
          /            ''"`  _/        君のやさしさがみなの救いとなるよ………きっとだ…
       |                ー''" ヽ
        |     ヽ_            |  _,,,,,,,,_     この街で君たちと友達になれて本当に良かった……
         ヽ      ゙゙`''- 、  、    |`゙゙゛    ` ヽ    もう、行かなくちゃ…みんなによろしくね……
        |\         i  l    ,l        )
        ゙l  `''―--、 _,,ノ ,/   ,ノヽ、      /   ときどき思い出してワッショイしてくれるとうれしいな…
        ヽ 、   `"  /"  ,,/   ゙゙"'''''ー-、 (_
          ) |     ,r'ヽ   ,l゙ /゙!、       ヽ  ヽ   おにぎり ワショーイ・・・
         ( ゙i、    /  (`'''"  ゙ヘミヽ、      l゙   )          ワショーイ・・・
           ) ヽ  l   `ヽ、   ``"ヽ    ノ   ,ノ             ワショーイ・・・
          ノ   ゝ  ゙''ー-、  `ー-、   丿   (    i′

※上AAはイメージです。
 モラマタ氏、AAお借りしました。申し訳ありません。

576:2004/01/01(木) 23:51

        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫      ┏━ モナー
            ┃  ┏━┫
            ┃  ┃  ┗━ しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


 次は、いよいよ俺の出番だ…!
 相手はしぃ妹。
 俺はしぃ妹と向き合って、座布団の上に座った。
「お願いします!」
 頭を下げるしぃ妹。俺もつられて頭を下げる。

 丸耳が、読み札の一枚を手に取った。
 『アウト・オブ・エデン』を発動させる俺。
 その札は、『ながからむ心もしらず黒髪のみだれて今朝は物をこそ思へ』。
 えーと、みだれて… あっ、あった。

 丸耳が口を開く。
「な――」

「モナァッ!!」

 あらかじめ見つけていた札を取る俺。
 『視る』事が、『アウト・オブ・エデン』の能力。
 多少卑怯だが、勝つためには仕方が無い。

 次の札を手に取る丸耳。
 俺は札を視た。
 『音にきく高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ』…だな。
 かけじや…っと…。おっ、発見。

「お――」

「モナァッ!!」

 ギコのように、一文字でゲットする俺。
 いやぁ、スカッと爽やか!!

 げっ!
 ふと見ると、しぃ妹が泣きそうな顔になっている。
 確かに、あらかじめ読まれる札が判っているというのは、反則ギリギリかもしれない。
 最後にほんのチョッピリだけ勝つぐらいにするか。

「…」
 丸耳は、怪訝そうな顔でこちらを見ている。
 まるで、カンニングがバレたような気分になる俺。
 おもむろに丸耳は10枚ほど手札を取ると、扇状に広げた。
 これでは、どれが読み上げられるのか判らない!
 こうなったら、丸耳の視線と思考を視て…

「なげけとて月やは物を――」

 駄目だ、全然間に合わない!

「はいっ!」
 しかも、下の句を読み上げられないうちにしぃ妹が取ってしまった。
 ギコほどではないが、そこそこ暗記しているようだ。

「あらし吹く――」
 駄目だ、『アウト・オブ・エデン』の処理がまったく追いつかない。
 やはり、感受性の強い人間には『アウト・オブ・エデン』で視られている感じ、というのが分かるようだ。
 どうする? 純粋に百人一首での戦いになったら、全く暗記していない俺に勝ち目は無い。

「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の――」

「はいっ!」
 下の句を聞かないうちに取ってしまう、しぃ妹。
 こいつ、かなり強い…!

 どうする?
 このままでは、負ける。
 俺が負けてしまうと、リナーとハァハァできなくなってしまう…

『モナー… がんばれ…』

 今、リナーの声が聞こえた。
 俺は慌ててリナーの方を見る。
 みかんを食べててこっちの方なんぞ見ちゃいないが、間違いなく想いは届いた!!

577:2004/01/01(木) 23:52

「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の――」

「はいっ!」
 またしても札を取るしぃ妹。
 俺の2枚に対して、しぃ妹は20枚ほど。
 このまま、まともに戦ったところで負けは明白…!
 ならば、何を視る…?

「君がため春の野にいでて若菜つむ――」

「はいっ!」
 手札を増やすしぃ妹。
 視るものは唯一つ。
 しぃ妹の思考と視線だ…!

「世の中はつねにもがもな――」
 しぃ妹の視線が素早く移動する。
 狙っているのは、一番右端にある札だ…!

「はいっ!」
 無残にも、俺より先に容易く取ってしまうしぃ妹。
 他人の視線と思考を解析しつつ、当の本人よりも早く札を取るなんて無理だ。
 そういう技は、スピードがあってこそ可能なのを俺は実感した。

 考えろ、考えるんだ…
 どこかに勝つ手立てがあるはず…!
 そうだ! モララーのように、強行手段に出るというのはどうだ!?
 しぃ妹はしょせん一般人。
 それなりに戦ってきたこの俺の敵ではない。
 だが…
 ちらりとしぃの方を見る。
 姉の目の前で、妹を串刺しにするのもあんまりだ。
 そもそも人として、いや主人公として何か間違ってる気がする…



「もろともにあはれと思へ八重桜――」

「はいっ!」
 しぃ妹は、51枚目の札を取ってしまった。

 …俺は、早くも1試合目にして敗北してしまった。
 すまない、リナー…

 フスマが開いて、もう目を覚ましたらしいモララーが入ってきた。
 肩を落としている俺を見て、大声を上げる。
「あーっ! モナー君、負けちゃったのかい!?」
 俺は首を縦に振る。
 モララーは悲しげに視線を落とした。
「せっかく応援したのに… 僕の想い、届いたよね…?」
 あれ、お前か…
 俺は大きなタメ息をついた。
 もう、どうでもいい。
 夢破れて山河ありだ。俺もサンガとやらになろう…


        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗━┫
                    ┗━ レモナ


「モナーくん、モナーくん…」
「何モナ? モナは今からサンガになるから忙しいモナ…」
「今から私が試合するから、応援しててね!」
 …そうだ! 次はレモナVSつーだ!
 ヘコんではいられない。被害は最小限にとどめないと…

578:2004/01/01(木) 23:52

 座布団に座って、向かい合う2人。
 意外なことに、両者とも柔らかい笑顔を浮かべている。
 案外、平穏なカルタ取りになるか…!?

 固唾を呑んで見守る俺。
 ギコやしぃも不安そうだ。
 丸耳が、読み札を手に取る。

「夏の夜は――」

 2人は同時に動いた。
 つーの爪が、レモナの喉元に突きつけられれいる。
 だがレモナの左手に手首を掴まれていて、喉には届いていない。
 一方つーは、レモナによるボディへの打撃を左手で受け止めている。
 互いに右手に力を込めながら、左手で攻撃が届くのを防いでいた。
 その状態で、激しく睨みあう二人。
「あんまりナメた事しないでくれる? 私、いちおう兵器なんだからね…!」
「コッチ ノセリフダ。ブンカイ シテヤル… コノ ガラクタメ…!」
 いや、カルタ取りやれよ。

 2人は、互いの身体を弾き合って距離を取る。
 レモナは横に大きく飛び退くと、左腕から張り出した砲身を構えた。
 その際、テーブルがブチ割れてふすまが踏み壊された。
 それに並走して、何度も爪を振るうつー。
 レモナに撃つチャンスを与えない。
 畳や天井に爪痕がぁ…!
「この…!」
 レモナの右腕から、レーザーが噴き出した。
 それを剣のように扱って、つーの爪による攻撃を弾き返す。
「バルバルバルバルバルバルバルバル!!」
「こんのォ―――――ッ!!」
 激しく爪と剣を打ち合う2人。
 居間の壁をブチ壊して、2人の戦いは廊下にもつれ込む。

 レモナは、後ろに大きく飛び退いた。
 あの左腕から張り出した武器は、ある程度距離がないと使えないようだ。
 そして、つーはその特性を見抜いているのか距離を開けようとしない。
「えいっ!!」
 レモナは剣を大きく横に薙ぐ。
 つーは飛び上がると、天井を蹴ってレモナの眼前に着地した。
「バルッ!!」
 つーは左手でレモナの首を掴むと、思いっきり壁に押し付ける。
 貼ったばかりのカレンダーが、1月1日にして破れてしまった。

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル…!!」
 レモナを壁に押し付けたまま、つーは爪を何度も何度もレモナの腹に突き刺した。
 血を吐いて崩れ落ちるレモナ。
「トドメダッ!!」
 つーは、爪をレモナに振り下ろそうとする。
 地面に崩れてぐったりしているレモナは、左手をつーの腹に軽く当てた。
 左手の先端は、ガトリング・ガン状に変形している。
 独特の回転音と、飛び散る薬莢。
 つーは血を吐きながら吹き飛んで、階段に激突した。
 大きく凹む階段。手すりもヘシ折れた。
 ああ、モナの家が潰れていく…

579:2004/01/01(木) 23:53

「やってくれたわね… ホントに…」
 ユラリと立ち上がるレモナ。
「死体も拾い集められないくらい、綺麗に消してあげるんだからァッ!!」
 レモナの髪が舞い上がり、背中から何かが発射される。
 それは天井に大穴を開けて、大空高く舞い上がった。

「ヤバいぞっ! クラスター爆弾だっ!!」
 ギコの叫び声。
 親爆弾から200個以上の子爆弾が飛び出し、周囲に絨毯爆撃を食らわせるという迷惑な兵器だ。
「モララー! お願いモナッ!!」
 俺は叫んだ。
「ウホッ!! モナー君からのお願い… 『アナザー・ワールド・エキストラ』ッ!!」
 モララーの身体から、スタンドが浮かび上がる。
「『次元の亀裂』AND『対物エントロピー減少』!!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』は両手を交差させると、大きく真横に広げた。
 はるか真上で、大きな爆発音が響く。
「…これで大丈夫だよ。丸ごとブッ飛ばしてやった…!」

 ほんの真上で、何かが大爆発を起こした。
 グラグラと揺れる家。
 瓦が砕け散り、屋根の半分がぶっ飛んだ。
「ごめん… 一個残ってたみたいだ…」
 呆然とした顔で呟くモララー。
 多分俺は、もっと呆然とした顔をしているだろう。

「ザンネン ダッタナァ!ガラクタッ!!」
 その隙をついた、つーの奇襲。
 爆発に気を取られていたレモナに、避ける余裕はない。
 つーの爪は、レモナの左肩から入って右脇腹に抜けた。
 レモナの体は袈裟切りで真っ二つになり、上半身が地面に崩れ落ちる。
「アヒャヒャヒャヒャ… ヒャ!?」
 地面に転がったレモナの上半身は、右手を差し出していた。
 その右手の照準は、つーの方を向いている。
 まるでロケットパンチのように、その右手が発射された。
「グッ…」
 右手はつーの腹に命中した。
 手首から4本のアームが伸びて、つーの体を固定する。
 そして、つーの体ごと空中へ舞い上がった。まるで打ち上げ花火のように。
 屋根に大穴を開けて、はるか上空へとすっ飛んでいくレモナの右手とつー。

 上空で激しい大爆発が起きた。
 さっきのクラスター爆弾よりも高度は上なので、俺の家への被害はない。
「綺麗な花火モナ〜!」
 俺は嬌声を上げた。もうやけくそだ。

580:2004/01/01(木) 23:53

 ギコとしぃ助教授が、転がっているレモナに駆け寄った。
「オイ! 大丈夫か!?」
 レモナの上半身を揺り動かすギコ。
「動作不良60%ってとこね。システムもダウンしてないし、しばらくすれば自己補修するわ」
 レモナは、平気な顔で答える。
「じゃあ、しばらく放っておいても大丈夫ですね…」
 レモナの脇でしゃがみ込んで様子を見ていたしぃ助教授が、腰を上げた。
「やだわ〜 この程度のダメージじゃ、私は壊れないわよ…」
 アハハと笑うレモナ。
 壊れたのは俺の家だ。

 空から何かが降ってくる…!
 それは、高速で俺の眼前に落ちてきた。
「こっちも、派手にやったな…」
 ギコが呟く。
 落ちてきたのは、真っ黒に焼け焦げたつーだった。
「息は…あるようですね」
 しぃ助教授が、脈を取って言った。
 こっちも、つーの生命力ならばすぐに回復するレベルだ。

「この場合は、どうなるんだゴルァ?」
 ギコは、丸耳に訪ねた。
「この状況は、ダブルKOに該当します。公式ルールに則り、後ほどジャンケンで勝敗を決める事になります」
 丸耳は、瓦礫や屋根の破片を端にのけながら言った。
 カルタを続行できるほどには片付いたようだ。

「では、試合を再開しましょうか…」
 しぃ助教授は言った。
 次の試合は、準々決勝にあたるはず。


                ┏━━━○ギコ
                ┃
                ┃      ×モララー
            ┏━┫
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗(ジャンケン)
                    ┗━ レモナ


 ギコVSしぃ、そして次の試合がしぃ妹VSジャンケンで勝った方だ。
 しぃは問題ないとして、しぃ妹は人外を相手にして大丈夫なんだろうか…

 ギコとしぃの戦いは、間違いなくギコが勝つだろう。
 しぃ妹も、人外相手に勝ち目はない。
 そうすると、準決勝がギコVSしぃ助教授、そしてリナーVS人外のどっちかか…
 リナーは百人一首を全く覚えていないらしいので、例え人外に勝ったとしても、
 決勝で苦戦を強いられるだろう。
 まあ、家がここまで破壊されてしまえばいっそ清々しい。
 もう好きなようにしてくれーって感じだ。

 さて、次の試合はギコVSしぃのカップル対決だ。
 俺は風通しのよくなった屋根を見上げて、再度涙を流した。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

581新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 09:31
お疲れ〜。
おにぎりついに死んだか・・・。

582新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 11:01
お疲れさまです。
モナーが一回戦で負けるとは思わなかった

583新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:20
貼ります。

584新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:20
     救い無き世界
     第4話・交錯


 マララーとの闘いが終わってからものの十分も経たないうちに、
 物々しい車が数台やって来た。
 マララーは、気絶している所を厳重に拘束された上に、
 妙な注射まで打たれて車の中へと担ぎ込まれていく。
「・・・・・・・・・」
 みぃが俺の腕に強くしがみ付いて来た。
 怖がっているのか、微かに震えている。
 無理も無い。
 俺達もあれと同じ目に会うかもしれないのだ。
 かといって逃げようにも、
 既にあたりには何人ものぃょぅの仲間らしき連中が辺りを見張っている。
 俺達はまな板の上の鯉のように、ただその場でじっとしている他なかった。

「心配しなくてもいぃょぅ。
 君達にあんな事は決してしなぃょぅ。」
 ぃょぅは俺達の不安を感じ取ったのか、
 穏やかな口調で話しかけてきた。
「申し遅れたょぅ。我々はSSS(STAND−SECURITY−SERVICE)。
まあスタンド使い専門の警察みたいなものだょぅ。
君達にはただ、少し聞きたいことがあるだけだょぅ。
 それさえ済んだら、すぐに帰してあげるょぅ。」
 そんなの怪しいもんだ。
 唯のチンピラをあそこまでするような連中前にして、
 誰がそうそう信用出来る。

「あの人は…どうなるんですか…?」
 みぃが口を開いた。
「…彼はスタンドを行使出来ないように、
 然るべき処置を行ったうえで、
 我々の監視下に置かれる事になるよう。
 それがいつまでかは、ぃょぅにも分からなぃょぅ。」
 そうかい。
 つまり場合によっては俺達もそうなるという事か。
「・・・・・・。」
 みぃが沈痛な面持ちを浮かべる。
 やっぱり、こいつは馬鹿だ。
 あいつは俺達を殺そうとしたんだぞ?
 何故そんな奴を心配するんだ。
 というより俺達もああなるかもしれないんだぞ。
 人の事より自分の心配をしてろってんだ。
「…ぃょぅもやり過ぎかもしれないと思うょぅ。
 けど、もしスタンドを悪用する奴を野放しにしていたら、
 多くの人が傷ついたり、死んだりする事になるょぅ。
 スタンドはそれほどまでに大きな力なんだょぅ。
 どうかそれだけは、分かって欲しぃょぅ。」
 ぃょぅの言葉に、みぃは黙って頷いた。

 俺は自分の腕を見つめる。
 この腕。
 人を傷つけ、殺める大きな力。
 成る程、ぃょぅの言う通りだ。
 こんな物騒な力、そこかしこで好き勝手に振るわれては、
 たまったもんじゃない。
「それじゃあそろそろ、君達に話を聞かせてもらうょぅ。」
 ぃょぅが、俺に紙とペンを渡した。

585新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:21


「……俄には信じ難い話だょぅ。」
 これまでの経緯を聞いて、
 ぃょぅは髭をさすりながら考え込んだ。
 そらそうだ。
 俺だって未だに本当かどうか信じられない。
「スタンド使いの猫又…
 自立意思を持つだけでなく、人に乗り移り使い手とするスタンド…
 スタンド使い以外にもスタンドが見える…」
 ぃょぅは何やらブツブツと言い始めた。
 何と言うか、すっかり別の世界に行ってしまっている。
「…生まれ着いての才能でも、『矢』によるものでもなく
 誕生したスタンド使い…これは、一体…」
「『矢』?
 何なのですか?それは。」
 みぃがぃょぅに尋ねた。
「…はっ!!!
 何でもない、こっちの話だょぅ。
 気にしないでくれょぅ。」
 どうやらぃょぅがこちらの世界に戻って来たようだ。
 というか、『矢』って何なんだ。
 まあ、聞いたところで教えてくれるとも思えないが。

「…それよりも、非常に言い難い事なんだけれど、
 君達を、すぐ帰す訳にはいかなくなったょぅ。
 済まないけど、これから我々と同行してもらうょぅ。」
 俺はとっさに身構えた。
 周りの男達も、それに気付いて一斉に警戒態勢を取る。
 やっぱり、そうきたか。
 さんざ旨い事言っておきながら、結局は俺達も連れ去る腹だったのだ。
「違うょぅ!!
 決して、君達に危害を加えるつもりで言ったんじゃ無いょぅ!!」
 信用できるか。
 このままむざむざと捕まりはしない。

 だけど、どうする?
 相手は俺が歯が立たなかったマララーを一蹴した奴だ。
 周りには仲間もたくさん居る。
 はっきり言って、勝ち目は無い。
 だけど、上手くいけばみぃだけなら何とか逃げ出せるかもしれない。
(馬鹿だな、俺は。)
 俺は自嘲した。
 みぃには自分の心配してろと思っていたくせに、
 俺もこんなときに人の心配か。
 まあ、いい。
 やれるだけやってや…

586新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:22

「やめなさい。」
 俺がスタンドを発動しようとしたその時、
 不意に女の声がした。
 俺はそいつの顔を見て、背筋を凍らせた。
 端整な顔立ちをしており、微笑を浮かべて俺を見ている。
 だけど、目が少しも笑っていない。
 俺は視線だけで殺されるような錯覚に陥った。
「来ていたのかょぅ。ふさしぃ。」
 ぃょぅが女の名を呼んだ。
 どうやら、知り合いらしい。
「まったく、あなたは…
 順序を考えず、いきなり本題だけズバッと言うから、
 揉め事になるんじゃない!
 少しは状況を考えなさいよ!
 こんな場面でいきなり逮捕するみたいな事言ったら、
 怖がられて当たり前でしょう!」
 ふさしぃと呼ばれた女は、溜息を吐きながら言った。
「ごめんょぅ…少し配慮が足りなかったょぅ。」
 ぃょぅはしゅんと縮こまった。

 ふさしぃはそれを確認すると、今度は俺の方に体を向けた。
「あなたも!少しは自分の体が今どういう状況にあるのか少しは自覚しなさい!
 いい?スタンドっていうのはね、銃や刀剣よりずっと危険な代物なのよ。
 あなたはそれを完全には制御出来ていない。
 いつ暴走するかも定かでない。
 これがいかに危険な事か分かってるの!?
 もしこのまま町に出て、スタンドで人を傷つけるような事にでもなったら、
 あなたはどう責任を取るつもり!?」
 ふさしぃに叱責され、俺はぐうの音も出なかった。
 俺は、俺が化物同然であることをすっかりと忘れていた。
 何時何処で誰を傷つけるのかも分からないのに、
 そのまま逃げるだと?
 何ておこがましい事を考えていたんだろうか。

 ふさしぃは、今度はみぃの方を向く。
「ごめんなさいね〜。怖かったでしょう?
 大丈夫、私達の仕事場に行って、
 簡単な研究の協力をしてもらうだけだから。
 もし変な事をする奴がいたら、
 私が即ミンチにするから、心配しないで。
 あ、そうだ!
 あなたさえ良かったら、用事が済んだ後に一緒に
 服でも買いに行きましょう!
 元が良いから、きっと何着ても似合うわよ。
 うーん、何を着せるか、今から迷うわね…」
 …差別だ、これは。

587新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:23

「…と、とにかく、我々は別に、君達を監禁したり、
 拷問したりするつもりは全く無ぃょぅ。
 ただ、でぃ君のスタンドを制御する手助けをしたり、
 猫又であるみぃ君のスタンドと我々一般人とのスタンドに
 何か違いは無いか調べたいだけだょぅ。
 君達の尊厳を踏みにじるような真似は、絶対にさせなぃょぅ。」
 ぃょぅが気を取り直して言った。
「いざとなったら、私が何とかしてあげるから、安心して。」
 ふさしぃの目に、先程俺に向けられた殺気はもう、無い。

 はっきりいって、まだ完全にこいつらの事を信用出来てはいない。
 だけど、ぃょぅの俺を見る目に、
 ふさしぃが俺を見るの目に、
 嫌な感じは全く無い。
「大丈夫…この人達、良い人です…。」
 みぃが、俺の手をそっと握る。
「…来て、くれるかょぅ。」
 俺は、小さく頷いた。


「SSSにようこそモナー。」
「貴方達がぃょぅとふさしぃの言っていたご客人ですか。」
 SSSの拠点の一つというビルに着いた俺達を、
 二人の男が出迎えた。
「紹介するょぅ。
 右が小耳モナーで、左がタカラギコ。
 ぃょぅの同僚だょぅ。」
 ぃょぅがそれぞれを紹介した。
「初めまして、歓迎しますよ。」
「自分の家と思って、くつろぐモナー。」
 二人が手を差し伸べてきた。
『でぃです。よろしくお願いします。』
 俺はメモ用紙にそう書いて、二人と握手を交わした。
「あ…あの、みぃと言います…。初めまして…」
 みぃも、たどたどしく自己紹介しながら握手する。
 何か、拍子抜けしてしまった。
 スタンド使い専門の警察というからにはどんな凄い所かと
 思っていたら、普通の会社といった感じだ。

「あら…ギコえもんは?」
 ふさしぃが尋ねるように言った。
 何だろう。他にも誰かいるのか?
「…彼は迎えには来ないそうだモナー…」
 ふいに小耳モナーの顔が暗くなる。
 他の人も全員何やら思う所でもあるのか、気まずい雰囲気が辺りに流れた。
「ま、まあ、取り敢えずお二人の部屋でも案内しましょうか。」
 タカラギコが場の空気を打ち消すように口を開いた。
「そ、そうね。
 まず今日の寝床を案内してあげなくちゃね。」
 ふさしぃも話題を変えるように喋りだした。
 俺は何が起こったのか分からなかったが、
 何やら面倒そうなので聞くのはやめておくことにした。

588新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:23


「ご苦労様。これで今日の検査は終わりだょぅ。」
 ぃょぅが俺にタオルを渡しながら言った。
 SSSに来てからはや三日。
 正直、ここで俺はどんなひどい目に会うのかと内心怯えていたが、
 実際は町に居るときよりも遥かに良いものだった。
 まあ体に変な機会をつけられた状態でスタンドを出さされたり、
 スタンドでいろんな物を殴らされたりと、
 変な検査に付き合わされはしているのだが、
 まともな食事と寝床にありつけるのはかなりありがたかった。

『色々な事をやらされたけど、
 何か分かった事はあったのですか?』
 俺はここの職員から渡されたホワイトボードにそう書いた。
「…申し訳ないけど、詳しい事はまだ分からなぃょぅ。
 だから、ぃょぅの憶測でしか話せないけど、
 それでもいいかょぅ。」
 俺は頷いた。
「分かったょぅ。
 まず君のスタンドは、今は安定状態にあると言えるょぅ。
 君から聞いた話だと、感情の昂ぶりによって
 スタンドが発動したという事だから、
 もしまた激昂するようなことがあれば、
 暴走する可能性はあるかもしれないけど、
 そうでない限りは、安全だと思うょぅ。」
 つまりは、あんまり怒ったりするなという事か。

「で、次に君のスタンドの能力だけど、
 現在の観測結果から判断すると、
 何の特殊能力も無い唯の近距離パワー型だと考えられるょぅ。
 ただ、まだ君が完全にスタンドから能力を引き出せていなくて、
 未知の能力が内に眠っている可能性も十分にあるょぅ。」
 俺はただ、うんうんと頷きながらぃょぅの話を聞く。

「最後に君のスタンドがスタンド使い以外にも見える事だけど…
 これは正直よく分からなぃょぅ。
 スタンドの中には、能力の性質上例外的に一般人にも見える
 というタイプのものが、幾つか確認されているょぅ。
 だけど、君の場合スタンドが一般人に見える必要性が無ぃょぅ。
 これは大きな謎だょぅ。
 そこでぃょぅは一つの仮説を立てたょぅ。」
 ぃょぅの話は止まらない。
 俺はぃょぅに質問した事を後悔し始めていた。
「それは君のスタンドは、君の体を媒介にして発動している
 というものだょぅ。
 つまりはスタンドを発動すると、君の体が
 半人間、半スタンドという非常に曖昧な存在になり、
 それ故スタンド使い以外にも見えるという事なんだょぅ。」

 俺は愕然とした。
 馬鹿な。
 それじゃあ、俺の体が半分乗っ取られているって事じゃないか。
 冗談じゃ無い。
「体を貰う」とはそういう事か?
 そんな事、あってたまるか…!

「もちろん、これはあくまで仮説に過ぎなぃょぅ。
 そもそも、この説だと何で直接実体化せず、
 体を媒介にするなんて回りくどい方法を取るのか分からなぃょぅ。
 この事は、すぐ忘れてくれていぃょぅ。」
 ぃょぅはそう言ったが、俺は忘れるなんて出来そうになかった。
 自分の体が別の「何か」に変わるなんて、有り得ない。
 そんなこと、信じられなかった。
 信じたく、なかった。

589新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:24


 俺はぃょぅのいる部屋を出てから、
 何気なくSSS館内を散歩していた。
 というより、さっきのぃょぅから聞かされた事が頭にちらつき、
 じっとしていたら気が滅入ってしまいそうで、
 何かしておらずにはいられなかった。
 ふと、廊下に見知った姿が目に入る。
「あ…でぃさん、お久し振りです。今晩は。」
 みぃも俺に気付いて、声をかけてきた。
 みぃは俺とは別に検査を受けていたらしく、
 ここに来てから顔を合わせる機会は無かった。
 都合三日ぶりの再会といった所だ。
『ああ。久し振り。』
 俺もホワイトボードに文字を書き、
 挨拶を返した。
「あの…もし時間があるなら、少しだけ一緒にお話してもいいですか…?」
 みぃは小さな声で俺に聞いてきた。
 何でこいつはそんな事でいちいちそんなにかしこまるのか。
『別にいいけど。』
 俺もどうせ暇だったので、付き合ってやることにする。

 俺達は、近くにあった長椅子に並んで腰を掛けた。
「あの…でぃさん。
 どこも体の調子が悪い所はないですか?
 ひどい事、されてませんか?」
 みぃが心配そうに聞いてきた。
 つくづくこいつは人の心配ばかりする奴だ。
『別に心配無い。
 それよりそっちこそ大丈夫なのか?』
 俺もみぃの事を聞き返した。
「あ、はい。大丈夫です。
 みなさんとても良い人達ばかりです。
 特にふさしぃさんには、お世話になりっぱなしで…」

 この前ぃょぅから聞いた話によると、
 みぃにセクハラ紛いの事をしようとした奴が
 何者かのしわざで病院送りにされたらしい。
 犯人は間違いなく「あの人」だ。
 みぃには、この事は黙っておくことにする。

『あのさ…みぃ。ええと、何だ、その…
 この前はありがとう…』
 いきなりの俺のお礼に、みぃが目を白黒させる。
 俺は何をやっているのか。
 こんなこと唐突に伝えたって、相手を困らせるだけだろう。
『いや、その、ナイフで刺された時とか、
 マララーにやられた時の怪我を治してもらったお礼を、
 まだ言ってなかったから…』
 俺は恥ずかしさで頭に血が昇っていくのを感じた。
 ああ、糞。
 こんなことなら、助けてもらったとき、
 すぐに礼をいっとくべきだった。
 というか別に今礼を言う必要も無かったじゃないか。
「べ、別にそんな、お礼なんて…
 私のしたことなんか、そんな大したことじゃ…」
 みぃがしどろもどろになる。
 阿呆。
 お前までそんなリアクションされたら余計に困るだろうが。

590新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:24

 俺達の間には、気まずい沈黙が流れていた。
 と、そこへ一人の男がこちらに歩いてきた。
 そいつはまるで青い狸といったような姿で、
 腹にはポケットのような物がついていた。
「お前か。ぃょぅの連れてきたでぃってのは。」
 そいつは俺を蔑んだ眼つきで一瞥した。
「まったくぃょぅの奴も困ったもんだぜ。
 こんなゴミを拾って帰ってくるんだからな。」
 明らかに敵意剥き出しである。
 こんな事を言われるのはもう慣れきっていたが、
 ただ一つ気になる事に、その口調に込められていたのは、
 町の奴らのような嘲りや蔑みではなく、
 純粋なまでの憎悪だった。

「…でぃさんに、謝って下さい…」
 みぃが、青狸の前に立ち塞がった。
「謝る?何を?」
 青狸がわざとらしく挑発する。
「…でぃさんは、あなたにゴミだなんて言われる様な人じゃありません…!」
 こいつは、馬鹿か。
 弱いくせに、何やってんだ。
 お前に何の関係がある。
「はっ!!
 何寝惚けたことをいってんだ!!
 いいか!?知らないなら教えてやる。
 でぃってのは社会の何の役にも立たないゴミ同然の生物なんだよ!!
 人様に迷惑しか掛けられねえ、便所のタンカスだ!!
 そいつがスタンドなんか使えた日にゃあ、何するか分かったもんじゃねえ。
 本来なら即処分されて当然なんだよ!!
 生かしてやってるだけありがたいと思えってんだゴルァ!!」

 廊下に乾いた音が響く。
 みぃの平手が、青狸の左頬を打ったのだ。
「―――て…」
 青狸の目に怒りの色が浮かび、
 みぃに向かって手を振り上げる。
 俺が間に割って入ろうとしたその瞬間、
 青狸の腕は後ろから伸びた手に止められた。
「やりすぎだょぅ。
 ギコえもん。」
 手の主は、ぃょぅだった。
 ギコえもんと呼ばれた青狸は舌打ちをすると、
 掴まれた腕を乱暴に振り払って不機嫌そうに廊下の向こうへと
 歩いていった。
「…済まなぃょぅ。不愉快な思いをさせて。
 けど、あいつは、ギコえもんは本当はとても良い奴なんだょぅ。
 彼を、許してやって欲しぃょぅ。
 彼に、あんなことさえ無ければ―――…」

「ぃょぅ!!
 余計な事を言うなゴルァ!!!」
 ぃょぅの言葉は、ギコえもんの怒号で阻まれた。
 許すも何も、俺はもうあんな事を言われるのに何の感慨も無い。
 それよりも、俺には無関係であるはずのみぃが怒ることが
 理解出来なかった。
 みぃの方を見てみる。
 みぃは下に俯いて肩を小さく震わせていた。
 …泣き虫め。
 俺はみぃの頭を軽く撫でた。

 余計なことばかりしやがって…
 でも…

 …でも―――

 …ありがとう。

591新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:25


 私は今町の歓楽街にある行きつけの飲み屋にいる。
 乾ききった咽に、よく冷えたビールを流し込んだ。
 ―――美味い。
「悪ぃょぅ、ギコえもん。
 今日は俺の奢りだなんて。」
 私は机の向かいに居るギコえもんに礼を言った。
「別にかまわねぇよ。さっきの詫びだ、ゴルァ。
 けどな…」
 ギコえもんが周りに視線を移す。
「俺はお前に奢ると言ったんだぞ!!
 何でこいつらまでちゃっかり付いて来てんだゴルァ!!!」
 そこにはふさしぃ、小耳モナー、タカラギコと、
 SSSスタンド制圧特務係A班の面子が勢ぞろいしていた。
 正確に言えば、私が連れて来た。
 せっかくの飲みなのだ。
 久し振りに全員揃って飲むのも悪くない。
 どうせ、ギコえもんの奢りだし。

「アハハハハ!まあ良いじゃないですか。
 なかなか皆で飲む機会もなかったんですし。」
 タカラギコが笑う。
 別に彼は笑い上戸という訳ではない。
 癖みたいなものだ。
「モナ達だけ仲間はずれなんて、良くないモナ〜。」
 小耳モナーは上着を全部脱いで、ネクタイを鉢巻にしている。
 こちらは既に出来上がりかけているようだ。
「全く、何で俺がこいつらにまで…」
 ギコえもんは憮然とした様子だった。
 まあ、決して多くない給料から今夜だけで多大に散財する訳だから、
 当たり前と言えば当たり前だが。
「そう言うなょぅ。
 けど、ふさしぃだけにでもちゃんと奢っておくべきだょぅ。
 ぃょぅはまだ君には死んで欲しくなぃょぅ。」
 私はギコえもんに言った。

 ギコえもんがふさしぃの方を向く。
 ふさしぃの艶やかな毛が逆立ち、顔には血管が浮き出ている。
「ぃょぅに感謝することね、ギコえもん。
 もしあの子に指一本でも触れてたら、あなたミンチになってるわよ。」
 その口調も表情も、穏やかそのものだ。
 しかしそこには泣く子も黙るような威圧感が漂っている。
 と、ふさしぃの持つグラスにひびが入り、
 音を立てて砕け散る。
 これは、「お前もこうなるぞ」というメッセージだ。
 周りの客が一斉に引く。
 無理も無い。
 何の変哲も無い飲み屋の中に、凶暴な獣が放たれようとしているのだ。
「あら、つい力が入り過ぎちゃったみたいね。
 ごめんあそばせ。」
 ようやくふさしぃの体から威圧感が薄れた。
 飲み屋にいる人全員が、ほっと胸を撫で下ろす。
 もともと青いギコえもんの顔が、さらに真っ青だ。
 彼は今、自分が生きているという奇跡に感謝していることだろう。
 しかし、ふさしぃはよっぽどみぃ君のことを気に入ったみたいだ。
 その辺りの理由を、今度聞いてみよう。

「それにしても非紳士的ですねえ、女性に手をあげるなんて。
 野蛮な人だとは思っていましたけれど、
 まさかここまでとは…」
 タカラギコが皮肉っぽく言った。
「全くモナ!!
 ギコえもん、最低だモナー!!」
 べろんべろんになった小耳モナーもそれに続く。
 というか、これじゃ単に酔っ払いがクダを巻いてるだけだ。
 最低なのは、君の酒癖の悪さもそうだぞ。
「うるせーなー!
 分かってるよ!私が悪う御座いました!!
 だからこうして奢ってやってるんだろうがゴルァ!!」
 ギコえもんは半ば開き直りかけている。

592新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26

「…ギコえもん。
 分かっていると思うけど、君が本当に謝るべきなのは、
 ぃょぅ達じゃなく、でぃ君と、みぃ君だょぅ。」
 私はギコえもんに釘をさすように言った。
「……」
 ギコえもんは黙ってしまった。
 彼の性格のことだ。
 自分が悪いと認めることは出来ても、
 恥ずかしがってなかなか謝ろうとはしないだろう。
 しかし、それではギコえもんは卑怯者になってしまう。
 私は、彼が卑怯者になって欲しくはない。
「ギコえもん、君が過去に受けた傷の深さは、分かっているょぅ。
 だけど、その事と彼らとは、何の関係も無ぃょぅ。
 自分が悪いと分かっているのなら、
 ちゃんと謝らなければ駄目だょぅ。」
 言ってからすぐに、私はこの言葉を口に出したことを後悔した。
「…分かってる。
 そんなこたぁ、分かってるんだ…」
 ギコえもんは痛みを噛み締めるように呟いた。

 最低だ、私は。
 あの事件で彼がどんなに他人には計り知れないほど深く傷ついたか。
 それなのに抜け抜けと「傷の深さは分かっているつもり」だと?
 何て傲慢さだ。
 私は激しい自己嫌悪に苛まれた。
「ごめんょぅ…ギコえもん。
 ぃょぅは…」
 馬鹿か。
 一体この私がどの面下げて何を彼に言えるというのだ。
「!
 いいってことよ!気にすんなって!!
 さ、しけちまったし飲み直そうぜ!!」
 私の雰囲気を察したのか、
 ギコえもんは、わざとらしい程明るく振舞った。
 それが、いっそう私の心を痛めた。

593新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26

「すみません、こういう酒の席でなんですが、
 少し仕事の話をいいですか?」
 タカラギコが、ふいに喋り出した。
「?ぃょぅは別に良いけど、皆はどうだょぅ。」
 私は他の人に意見を促した。
「私は別に構わないわよ。」
「手短にな、ゴルァ。」
 ふさしぃとギコえもんはOKみたいだ。
 小耳モナーは…
 完璧にぶっ潰れて吐瀉物の海に沈んでいるので
 放っておくことにする。

「マララーを尋問したところ、
 どうやら変な男に『矢』で撃たれた事が原因で、
 スタンド能力に目覚めたという事を聞き出せました。」
 一同がやっぱりかといった顔をする。
「…これで『矢の男』によって引き起こされたスタンド犯罪が、
 検挙出来ただけで、十一件目って事か…」
 ギコえもんが硬い表情で呟く。
「『矢』に撃たれたらしき傷が原因で人が死亡した、
 殺人事件の件数と合わせると、五十五件になります。
 尤も、表沙汰になっていない事件がどれだけあるかは
 想像もつきませんけどね。」
 タカラギコが肩をすくめた。
 数ヶ月前突如この町に出現した『矢の男』。
 その被害はゆっくりと、だが確実に増えていっている。
 必死の捜査にも関わらず、私達は『矢の男』の足取りはおろか、
 目的さえ掴めずにいた。

「…ぃょぅ、でぃ君と、みぃちゃんは、
 本当に『矢の男』とは関係がないの?」
 ふさしぃが、私に尋ねてきた。
「嘘発見器にかけての質問でそれとなく聞いてみたけど、
 彼らが嘘吐きの達人でない限り、
 『矢の男』とは無関係だょぅ。」
 私は首を振りながら答えた。
「…そう…」
 ふさしぃが残念そうに俯く。
 またもやさしたる手がかりは無しという事になる。
 辺りを思い空気が包んだ。
「…何か、嫌な予感がするわね…
 『矢の男』もそうだけど、もっと大きな別の何かが…」
 ふさしぃが心配そうに言った。
「へえ、それはどうしてですか?」
 タカラギコが、ふさしぃに聞いた。
「良い女の勘!」
 ふさしぃが即答する。
「けっ、何が良い女だ。
 この妖怪暴力女が…」
 ギコえもんが、呟いた。

 杞憂であって欲しい。
 『矢の男』だけでも手一杯なのに、
 さらに何かが起こるような事があっては、
 さらなる人々が傷つくことになる。
 だが、昔からふさしぃの『良い女の勘』とやらは良く当たるのだ。
「これから、どうなるというんだょぅ…」
 思わず弱音が漏れてしまう。
 だけど、臆するわけにはいかない。
 私は、立ち向かわねばならない。
 それが、SSSたる私の務めなのだから。

 後ろからギコえもんの豚のような悲鳴が聞こえてくる。
 どうやら今取り敢えずの問題は、
 彼をどうやって死地から生還させるかのようだ。
 思わずタカラギコと目が合う。
 私達はお互い力なく微笑んだ後、
 溜め息をついてがっくりと肩を落とした。

594新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:26


 私は、夜道を行く人々を観察していた。
 そして、探していた。
 今夜の標的を。
 この『矢』で射るに相応しき者を。
 相手は、慎重に選ばなくてはならない。
 下手に撃ちまくっていては、
 後々私の邪魔になる可能性があるからだ。
 そんな自分で自分の敵をわざわざ増やすような愚行は、
 絶対に避けなければならないのだ。
 慎重になりすぎる事に、越したことはない。
 世界を憎む者を、世界に害悪を撒き散らす者を。
 そして、真の強者に成り得ない、
 矮小な心を持つ者を。
 そんな、弱き、哀れな者を。

 …居た。
 今日はあいつだ。
 私は気付かれないようにそいつの背後に回りこむと、
 弓を構え、弦を引き絞った。

595新手のスタンド使い:2004/01/02(金) 19:27


 男は、窓から夜景を眺めていた。
 広いその部屋には何もなく、明かりもついていなかった。
 月と、町の光だけがその部屋を照らしていた。
「…どうなされました、1総統。
 何やら物思いに耽られていらっしゃるようですが。」
 名を呼ばれ、男は声をかけた相手に顔を向けた。
「失礼、気を悪くなされましたか…」
 声を掛けた男は、うやうやしくお辞儀した。
「いや、いい。
 少し町の夜景を見ていただけだ。」
 1総統と呼ばれた男は、大儀そうに返事を返した。
「ほう、夜景を、ですか。」
 もう一人の男が、相槌を打った。
「ああ、いずれこの町の灯が、
 戦火によって、もっとさらにより見違うほどに
 大きく紅く熱く猛々しく勢いよく美しくなるのかと思ったら、
 ついつい見とれてしまってね。」
 男はその目に狂気を宿し、恍惚の表情を浮かべて言った。
「成る程成る程。
 困ったものです。
 総統は本当に好きなのですねえ、
 戦争が。」
 もう一人の男の目も、既に常人のそれではない。
「何を言う。
 君だって大好きなくせに。」
 男は相手の目に己と同じ狂気を見て、睦言のように囁いた。
「これは手厳しい…
 一本取られましたな…」
 男達は微笑を浮かべた。
 にっこりという表現が正に似合うような、
 しかし途轍もなくおぞましい笑みを。

「満ちた…
 いよいよ、時は満ちた…
 再び、我々は再び帰ってきた。」
 そう言うと、視線を再び夜景へと移した。
「命令だ、梅おにぎり。
 やり方は任せる。
 狼煙をあげろ。
 幕が開いた事を、
 全ての者に知らせるのだ。」
 男は、そう言い放った。
「かしこまりました。
 すぐに手配いたします…」
 梅おにぎりは、そう言うと音もなく
 その部屋から出て行った。

 男はまた独りになると、
 最初は静かに、しかしだんだんと大きく、
 最後には狂った様に大きな声で笑った。
 実際、彼はすでに正気など失っているのだろう。
 笑い声は、その部屋の闇へと、
 そして窓の外の夜景へと、吸い込まれていった。


  TO BE CONTINUED…

596:2004/01/04(日) 22:23

「―― モナーの愉快な冒険 ――   番外・正月は静かに過ごしたい 後編」



 ギコはどっしりと座布団に座った。
 対面に座り、着物の袖をまくるしぃ。
 そして、互いに礼をした。
「お手柔らかにお願いします…」
「お前には悪いが、真剣勝負だぜゴルァ!」

 この戦いの勝敗は明らかだ。
 しぃに、勝てる見込みは全く無い。

 丸耳は、読み札を読み上げた。
「む――」

「ゴルァッ!!」

 対モララー戦のごとく、一瞬で札を取ってしまうギコ。
 しぃは全く動けない、と思ったら…
 なんと、しぃの着物の帯がほどけてしまった。
「あ…! きゃぁっ!!」
 必死で前を押さえるしぃ。

 余談だが… 着物の正しい着方として、下着は着用しないのがマナーだ。
 そして着物というものは、帯を解いてしまえば、自然にスルスルと下に流れ落ちてしまう殿方便利設計である。
 今のしぃが下着をつけているかどうかは分からないが、つまりはそういう事だ。

「な…! 見るなゴルァ!!」
 俺達の視線を遮断するように、慌ててしぃの前に立ち塞がるギコ。
「審判、タイムだタイム!」
 ギコは叫んだ。

「ギコ君、帯結ぶの手伝ってくれる?」
「おう。一重太鼓でいいな?」
 前を押さえて立ち上がるしぃ。
 ギコは軽く帯を巻くと、ゴソゴソと巻く作業をしながらしぃの周囲を回り始めた。
 帯はみるみる形になっていく。

「ギコ君、帯の結び方知ってるんだね…」
 しぃは前を真っ直ぐ向きながら呟いた。
「あ、おお…」
 胡乱な返事をするギコ。
 それも当然だろう。
 ギコは以前に自分で言っていた。
 成人式帰りの年上の女性とホテルに行った時、着付けのやり方を完全にマスターしたと…

 程無くして、帯が結び終わった。
「流石ギコ君、随分上手だね」
 にっこりと笑うしぃ。
「あ、おお…」
 ギコは、ガクガクブルブルしている。

「じゃ、再開してください」
 しぃは、丸耳に言った。
「これからギコ君とたっぷり個人的な話をしますけど、構わず続けて下さいね…」

「了解しました」
 丸耳は、読み札を取る。
「夏の夜は――」

「…ゴルァ」
 ギコはちらりとしぃの顔色を盗み見て、その札を取った。
 しぃは微動だにせず、不意に口を開いた。
「…で、何人目?」
 凍りつく俺達。
 しぃの柔和な笑顔は崩れていない。
 
「な、何がでしょうかゴルァ」
 ギコは、明らかに動揺していた。
 手の震えが肉眼でも分かる。

597:2004/01/04(日) 22:24

 そんな2人に構わず、丸耳は札を読み上げた。
「秋風にたなびく雲の絶え間よりもれいづる月の影のさやけさ…」

 最後まで読み上げられてもなお、両者とも動かない。
 しぃは呟く。
「――何がって… そんなこと、聞かなきゃ分からないのかな…?」
 ギコは少し声を荒げた。
「聞かなきゃ分からない…ってお前、質問の意味が…」

 バシィッ!! と、しぃは床を叩いた。
 ビクッとするギコと俺達。
 いや、今のは札を取ったのか。
 獲得した札を、自分の手許に引き寄せるしぃ。
「――帯を結んであげた人の数、今までつきあった人の数、本当に愛した人の数、それぞれ私は何人目?」
 
 静まり返る座。
 丸耳の、読み札を読み上げる声が閑かに響く。
「世の中よ道こそなけれ思ひいる山の奥にも鹿ぞ鳴くなる」

「もちろん、本当に愛したのはお前一人に決まってるだろゴルァ…!」
 ギコは、札には目もくれず答えた。

 バシィッ!!
 再び、しぃは手を床に叩きつけた。
 …いや、札を取った。
「ギコ君がそのセリフを吐いた女の数、ってのも追加で…」
 その柔和な笑顔を崩さずに、しぃは告げた。
 ギコはかわいそうなくらいガクガクブルブルしている。

 それには一切構わず、丸耳は無機質に歌を読み上げていった。
「ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは…」

「この歌の作者、ギコ君なら知ってるよね…?」
 しぃはにっこり笑って言った。
「あ、在原業平ですゴルァ…」
 ギコは縮こまって答える。
 しぃは静かに札を取った後、口を開いた。
「在原業平って、すごく遊んでる人だったみたいだね。誰かとおんなじで…」

 段々小さくなっていくギコ。哀れすぎる。
 もはや公衆辱めだ。

「あと、その語尾のゴルァって何? 反抗的な態度を表してるの? 優位性が自分にあるのを主張したいの?
 それは誰に対して? 私? 周囲の人? それとも自分自身?」
 しぃは、札を取りながら上目遣いで言った。
 
 ギコは、スッと手を上げた。
「この勝負、棄権します…」
 
「…では、勝者はしぃさんとさせて頂きます」
 丸耳はそう宣言した。
 なんと、予想に反してしぃが勝ち残ってしまった…

 しぃは、青くなってガタガタブルブルしているギコに声をかけた。
「やだなぁ、ギコ君。冗談よ、冗談…」
 ぱっと顔を上げるギコ。
「そ、そうだよなぁ… すっかり騙されちまったぜ! ハハハ…」
 ギコは引きつった顔で笑い声を上げた。
「アハハハハ…」
 つられたように、しぃも笑う。


       (  _,, -''"      ',             __.__       ____
   ハ   ( l         ',____,、      (:::} l l l ,}      /      \
   ハ   ( .',         ト───‐'      l::l ̄ ̄l     l        │
   ハ   (  .',         |              l::|二二l     |  ハ こ  .|
       ( /ィ         h         , '´ ̄ ̄ ̄`ヽ   |  ハ や │
⌒⌒⌒ヽ(⌒ヽ/ ',         l.l         ,'  r──―‐tl.   |  ハ つ │
        ̄   ',       fllJ.        { r' ー-、ノ ,r‐l    |  ! め │
            ヾ     ル'ノ |ll       ,-l l ´~~ ‐ l~`ト,.  l        |
             〉vw'レハノ   l.lll       ヽl l ',   ,_ ! ,'ノ   ヽ  ____/
             l_,,, =====、_ !'lll       .ハ. l  r'"__゙,,`l|     )ノ
          _,,ノ※※※※※`ー,,,       / lヽノ ´'ー'´ハ
       -‐'"´ ヽ※※※※※_,, -''"`''ー-、 _,へ,_', ヽ,,二,,/ .l
              ̄ ̄ ̄ ̄ ̄       `''ー-、 l      ト、へ

 女の強さ、とくと見せてもらった。
 それにしても、開き直れる強さも必要だぞ、ギコ…

598:2004/01/04(日) 22:25
                        ×ギコ
               
                        ×モララー
            ┏━┓
            ┃  ┃      ×キバヤシ
            ┃  ┃
        ┏━┫  ┗━━━○しぃ
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×ガナー
        ┃  ┃
        ┃  ┗━━━━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━━━━○リナー
        ┃  ┃
        ┃  ┃          ×おにぎり
        ┃  ┃
        ┗━┫          ×モナー
            ┃
            ┃  ┏━━━○しぃ妹
            ┗━┫
                ┃  ┏━ つー
                ┗(ジャンケン)
                    ┗━ レモナ


 すると、準決勝1回戦はしぃVSしぃ助教授か…
 まさか、しぃ助教授に勝ったりしないだろうな…?

 とにかく次の試合だが、つーもレモナもくたばったままじゃないか?
 しぃ助教授が、ようやく身体が繋がったレモナと真っ黒コゲのつーを競技場まで引き摺ってきた。
「ちょっと〜 まだ直りきってないんだからね…」
 レモナは文句を言っている。
 しぃ助教授は、つーの顔に往復ビンタをかました。
「ナニシヤガル!!」
 ぱっと目を覚ますつー。

「では、ジャンケンして下さい」
 ほとんど説明もなく、しぃ助教授は二人に告げた。

 睨みあうレモナとしぃ。
「ズット、テメーガ ウットーシカッタンダヨ… モナーニ ベタベタベタベタ シヤガッテ…」
「羨ましかったんなら、素直にそう言ったら?、『オレモ ベタベタ シタイゼー』ってねェ!」
「フン、メイワク ガラレテルノニ キヅキモ シネーデ… ノウナイデ ヨロシク ヤッテロ、テメーハヨォ!!」
「あんたに言われる筋合いはないわよ! つー!!」
「『サン』ヲ ツケロヨ、ネカマ ヤロォ!!」
 いい具合にヒートアップしていく2人。

「はい、ジャーンケーン…」
 音頭を取るしぃ助教授。
「ホイ!」
 という合図とともに、つーの左ストレートがレモナの右頬にブチ込まれた。
 同時に、レモナの右ストレートがつーの顔面にメリ込んでいる。

 グーであいこ… というか、クロスカウンターだ!!

 つーは、そのままスローモーションで地面に崩れ落ちた。
「あんたの敗因はたった一つよ… 『あんたは私を怒らせた』」
 ポーズをキメて勝ち誇るレモナ。

「ホントの勝因は、ダメージからの回復力の差だったんですけどね」
 しぃ助教授は冷静なツッコミを入れる。

「相手が左ストレートを打ってきたところに、タイミング良く自分の右ストレートをかぶせてクロスさせる事によって、
 通常のパンチよりも4倍の破壊力を生む… それが、クロスカウンターなんだよ!」
 以上、解説のキバヤシさんでした。

「本来あいこなんですが、この際レモナさんの勝ちにしましょう…」
 丸耳は言った。
 段々、判定もいい加減になってきているようだ。
 ともかく、次の大戦はしぃ妹VSレモナである。
 だが… 何か様子がおかしい。

「あ、大きな光がついたり消えたりしている… おーい、誰かいませんか…?」
 レモナは意味の分からない事を口走っている。
 どうしたんだ? なんか、かなりヤバそうだぞ?

「レモナの方も、無事では済まなかったみたいですね…」
 ぶっ倒れたつーを運びながら、しぃ助教授が言った。
「上半身と下半身が繋がったところに強い衝撃を与えたから、少し思考回路がイッちゃったのかもしれません。
 ちょっと前も、相当興奮していたみたいですしね…」
 おいおい。
 とりあえず、俺はレモナに話しかけた。
「レモナ! 早くしぃ妹と勝負をしないと、いつまでたっても進まないモナよ」
 レモナはぎょろりと俺の方を見る。
 明らかに焦点が合っていない。
「勝負…? 俺が勝つ方に、花京院の魂を賭けよう…」
「分かったから、とっとと座るモナ…」
 俺はレモナを抱えると、座布団のところまで運んでいった。
 レモナは対面に座るしぃ妹を見据える。
「あの… お願いします」
 少し動揺しながら頭を下げるしぃ妹。
 久々に、普通の人間の反応を見たような気がする。

599:2004/01/04(日) 22:26

「では、始めさせて頂きます…」
 丸耳は読み札を手に取った。
「わたの原漕ぎいでてみれば久方の――」

「はい!」
 やはり、上の句だけで取ってしまうしぃ妹。
 さすが俺を破った相手だぜ…!

 一方、レモナは首を360度回転させたりと、不気味な行動を取っている。
「フフフフフ名まえがほしいな『しぃ妹』じゃあ今いち呼びにくいッ!
 そうだな……『メキシコに吹く熱風!』という意味の『しぃタナ』というのはどうかな!」
 頭を回転させながら、意味不明な事を口走るレモナ。
「あの… お断りします」
 しぃ妹… いや、しぃタナは拒絶する。

「夜もすがら物思ふころは――」

「はい!」
 何気にかなりの強さを見せるしぃタナ。
 これは、ギコやしぃ助教授クラスでないと太刀打ちできないのではないか?

「巻き舌宇宙で有名な紫ミミズの剥製はハラキリ岩の上で音叉が生まばたきするといいらしいぞ。要ハサミだ。61!」
 それに対して、壊れっぱなしのレモナ。
 勝敗の行方は明らかだ。


「51枚目の札を獲得しました。しぃタナさん、準決勝進出です!」
 丸耳は告げた。


            ┏━━○しぃ
        ┏━┫
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┫
            ┗━━○しぃタナ


 いよいよ、準決勝だ。
 4人中3人がしぃ族で占められているのが不気味だが、まあいいだろう。
 心配なのは、リナーVSしぃタナだ。
 しぃタナはギコほどのスピードはないにしろ、上の句だけで札を取れる。
 百人一首を覚えていないリナーに勝ち目があるのだろうか。
 おにぎりのように、瞬殺する訳にもいかないだろう。 …たぶん。

 当然、俺はリナーに勝ってほしい。
 普段はシャイで俺に積極的になれないリナーも、これを機に、
「モナー… 実は、君が欲しいんだ…」
 とか言っちゃったりして、俺は、
「モナも、同じ気持ちモナよ…」
 と優しく告げて、アハハハハと笑いながら二人で砂浜で追いかけっこしたりしなかったり
 ということがある可能性もないとは言い切れないだろう。
 いや、大いにあるはずだと言ってくれ。
 
 などと妄想しているうちに、しぃVSしぃ助教授の戦いが始まった。
 もしかしたら、しぃがまた黒さを発揮して、番狂わせがあるかもしれない…!

「ほ――」

「はいッ!!」
 バシッ! と札を叩くしぃ助教授。
 対ガナー戦は、気絶していて見れなかったが… メチャクチャ強いじゃないか。
 スピードもギコと同レベルだ。
 さすがのしぃも、全く手が出ない。
 勝負は瞬く間にしぃ助教授の圧勝に終わった。

「ちょっと、大人げなかったですかね…?」
「いえいえ、すごかったですよ!」
 なごやかに試合後の会話をする二人。
 そして、ガッチリと握手を交わした。
 今までこういう爽やかな展開はなかったな。
 みんな、遺恨とか残し過ぎだ。


              ━━×しぃ
        ┏━┓
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┫
            ┗━━○しぃタナ


 次は、リナーVSしぃタナである。
 果たして、リナーに勝機はあるのだろうか…!

 向かい合って座る二人。
 丸耳が最初の札を読み上げた。
「この――」

 バシィッ!!
 リナーは、瞬時に左手を札に叩きつけた。
 その札は、確かに丸耳が読み上げた札だ。

「リナー、百人一首は覚えてないって言ったモナ…!」
 驚愕した俺は、リナーに訊ねた。
「あれから何戦やったと思ってるんだ? あれだけ目の前で札を読み上げられれば、馬鹿でも覚える…」
 なんと、リナーは他人の戦いを見て、全ての札を覚えてしまったらしい。

「しら――」

 バシッと取ってしまうリナー。
 こうなってしまえば、スピードで致命的に劣るしぃタナに勝ち目は無い。

「51枚先取により、リナーさんの勝ちとなります」
 結局、リナーが軽く勝利を収めた。
 そう何度も番狂わせは起きなかったようだ。
 ゲッ! すると、決勝戦は…!!


              ━━×しぃ
        ┏━┓
        ┃  ┗━━○しぃ助教授
 族長 ━┫
        ┃  ┏━━○リナー
        ┗━┛
              ━━×しぃタナ


 しぃ助教授VSリナー…!
 ヤバい戦いになりそうだ…!!

600:2004/01/04(日) 22:26

「では決勝戦に向けて、10分間の休憩に入らせて頂きます」
 丸耳は告げた。
 弛緩した空気が場に流れる。
「リナー、強かったモナね!」
 俺はリナーの脇へ行った。
「別に…」
 無愛想に返事をするリナー。
 だが、その内面はしぃ助教授との激突に向けて昂ぶっていることは予想がつく。

「では、少し部屋に戻る…」
 そう言い残して、リナーはボロボロの居間を出て行ってしまった。
 たぶん、装備を整えに行ったのだろう。
 モナコンネンIIとか持ち出してこないだろうな…?

 一方、しぃ助教授は既に座布団の上に正座している。
 その横には、当然のようにハンマーが置いてあった。
 使う気マンマンだ…

「いよいよ決勝ね、モナーくん!」
 レモナが、不意に話しかけてきた。
「もう大丈夫モナか?」
 嬉しそうに頷くレモナ。
「もうシステムも安定したしね。あっ、つーちゃんも目覚めたみたい…」
 見れば、黒コゲのつーも座布団の上に座っている。
 つーにしてはやけに大人しい。やはりダメージが蓄積しているのだろうか。
 そして、並んでいるカルタの方に向き直るレモナ。
「さーて、どっちが勝つのかしらね〜」

 …妙だ。この態度は明らかに妙だ。
 レモナとて、自分が勝ちたかったはず。
 悔しさを微塵も見せないのはレモナのキャラクターゆえか、それとも…


 …ギシッ。 …ギシッ。 …ギシッ。
 ボロボロになった床板を踏む音。
 その足音は、ゆっくりとこの競技場に近付いてくる。

 ――来る。
 吸血鬼を殺す事のみに特化した存在、代行者。
 吸血鬼にとっての死神。
 そして、『異端者』の名を冠した女、リナーが居間に戻ってくる。
 フル装備状態なのは間違いない。
 彼女が一歩歩いただけで、廊下はギシギシと音を立てる。
 もう、この家は崩壊したも同然だ。

 フスマがゆっくりと開く。
 強い殺気を撒き散らしながら試合場に入ってくるリナー。
 彼女の手にしている武器に、驚きの視線が集中した。

 ――それは、剣と言うにはあまりにも大きすぎた。
 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
 それはまさに鉄塊であった。

 ゆっくりと、しぃ助教授の向かいまで移動するリナー。
 3mはある大剣を畳に突き立てると、座布団に座った。

「全く… ロクでもないものを持ち出してきますね…」
 しぃ助教授がため息をついた。
「お前のハンマーに対抗するため、『教会』から取り寄せた…」
 リナーはしぃ助教授を睨む。
 2人の間に火花が飛び散った。

601:2004/01/04(日) 22:27

「さて、それでは… これより、『オメガカルタ』決勝戦を開始します!」
 丸耳は高らかに宣言した。
 固唾を呑んで見守る俺達。
 リナーが勝つか、しぃ助教授が勝つか…
 両者の実力は伯仲している。予測は不可能。成り行きを見守るほかにない。

 丸耳は読み札を取った。
 そして、厳かに読み上げる。
「うか――」

 最初に、リナーが動いた。
 しぃ助教授目掛けて、大剣を大きく横に薙ぐ。
 姿勢をかがめてやり過ごすしぃ助教授。学帽の半分が吹き飛んだ。
 そのまましぃ助教授はハンマーを掴むと、低い姿勢から思いっきり振り上げる。
 それを剣で受け止めるリナー。
 重い金属同士がぶつかり合う衝撃音。
 互いの武器に力を込める2人。

「どうやら、力は互角のようですね…!」
 鍔迫り合いをしたまま、しぃ助教授は言った。
 それを聞いて笑みを浮かべるリナー。
「こういう場合、『互角だな』とか言い出した方が弱い。まして、目的をすっかり忘れるような奴はな…!」
「目的を忘れる…?」
 しぃ助教授は、瞬時にリナーの足元に目をやった。
 リナーの足は、一枚の札を踏んでいた。
 丸耳が読み上げた札だ。
 リナーは、足で札を取っていたのだ。

「くっ、そうきましたか…、卑怯な…」
 しぃ助教授は唇を噛んだ。
「卑怯?」
 リナーが薄く笑う。
「卑怯とは、こういう手段のことを言う…」
 リナーは、懐から何かを取り出した。
 あれは… 時限爆弾だ!!

「貴方、一体何を…!」
 流石のしぃ助教授も慌てている。
 時限爆弾は、すでに作動しているようだ。
 リナーはそれを無造作に床に置いた。
「あと1分で爆発する。だが、アナログタイマーを使った簡単な構造だ。お前なら1分あれば解除できるだろう?」
 とんでもない事を言い出すリナー。
 しぃ助教授は、リナーを睨みつけている。
「それが、本物の時限爆弾であるとは限りません。それに、貴方も爆発させる気はないでしょう?
 貴方が、ここにいるモナー君達や、近所の人達をも巻き込むとは思えません…!」
「では、そのまま放置してカルタ取りに熱中すればいい…」

「この…」
 しぃ助教授は何か言いたげに口を開いた後、爆弾の前にしゃがみ込んだ。
 たとえフェイクだと分かっていても、ASA三幹部の一人という立場がある限り、町を危険にさらす事はできない。
 テキパキと爆弾を解体するしぃ助教授。
 タイマーと起爆装置を完全に沈黙させる。
 その間に、リナーは2枚の札を手にした。

「コードを切って… これでよし!」
 言うが早いか、しぃ助教授は作業が終わるなりハンマーを手に取った。
 そのまま素早くリナーに接近すると、思いっきり振り下ろす。
 大剣を薙いで、それを弾くリナー。
「20秒もかからないとは、なかなかだな。そっち方面でもやっていけるんじゃないか?」
「あんまりナメた口を叩かないでくれませんか…! 私、そろそろブチ切れそうなんで…!」
 肩をブルブルと震わせているしぃ助教授。
 もうそろそろ、避難の頃合か?

602:2004/01/04(日) 22:27

「その割には、なぜスタンドを使わない…?」
 リナーはしぃ助教授を見据える。
「…」
 しぃ助教授は押し黙った。
「答えられないなら、私が言ってやろう。『サウンド・オブ・サイレンス』で力の方向を変えれば、
 散らしきれなかった『力』が、他の札を巻き添えにする可能性があるからだ。
 そうなれば、お前のお手付きになるんだろう…?」
 それに対して、しぃ助教授は口を開く。
「貴方も、威嚇以外で爆発物は使えませんがね…!」

「ひと――」
 札を読み上げる丸耳。

 2人は同時に動いた。
 ハンマーと大剣を激しく撃ち合う。
 互いの足を封じるために、下段への攻撃を交える2人。
 その戦いに見入っていた俺だが、ふと背後から違和感を感じた。 

 ――嫌な空気。
 妙な『敵意』が視える。
 俺は後ろを振り向いた。
 モララーと目が合う。
 奴は、口の端に笑みを浮かべていた。
 その口がゆっくりと開く。
「ねぇ、モナー君… この戦い、あの泥棒猫に勝たせる訳にはいかないんだよ…」

 …こいつ、まさか!?
 モララーは、しぃ助教授と打ち合うリナーに向けて右手を構えた。

 テメェ…!!
 モララーの『アナザー・ワールド・エキストラ』の腕から、『次元の亀裂』が放たれる。
 リナーはそれに気付いたが、しぃ助教授の猛攻によりかわしきれない。

「このォッ!!」
 『アウト・オブ・エデン』を開放。
 同時に俺はリナーの真横に飛び込むと、『次元の亀裂』を破壊した。

「悪いけど… リナーには指一本触れさせないモナ…」
 バヨネットを構えて、リナーの前に立ちはだかる俺。
「なんで… なんで、そんなやつをかばうんだァッ!!」
 モララーは歯軋りをした。
 そして、『次元の亀裂』を乱発してくる。

「くっ!!」
 その場から飛び退こうとするリナー。
「気が逸れましたねッ!」
 その隙を突いて、しぃ助教授が札を取ってしまった。

「リナー! しぃ助教授との戦いに専念するモナ! モララーはモナが相手をするモナ!」
 俺は叫んだ。
「…すまない」
 そう言うと、リナーはしぃ助教授に斬りかかった。
「あっ、この…!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』でリナーに殴りかかるモララー。
「どこを見てるモナァッ!!」
 俺は、『アナザー・ワールド・エキストラ』にバヨネットで思いっきり斬りつけた。
 『アウト・オブ・エデン』は、『不可視領域に干渉』できるスタンド。
 そして、視えたものは破壊できる。
 スタンドといえど、生命エネルギーのヴィジョン。
 視えた以上、『アウト・オブ・エデン』で破壊は可能。

「そこまでして、あの泥棒猫を守るんだな…!」
 モララーは憎々しげに呟いた。
「それ以上僕の邪魔をするんなら、モナー君には多少痛い目を見てもらうよ…?」
「御託はいいから来いよ、変態野郎…」
 俺は吐き捨てた。
 モララーの顔色が変わる。
「僕が、モナー君には何もできないって思ってるんだったら… 大間違いなんだからなッ!!」
 俺の挑発に乗って、狂ったように『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振るうモララー。
 その攻撃は、直線的で読み易い。
 スタンドのスペックに頼っているだけでは、戦いには勝てないことを判っていないのだ。

603:2004/01/04(日) 22:28

 その瞬間、俺の頭上を何かが高速で通り過ぎていった。
 『それ』は、リナーの前に着地する。
 あれは… レモナ!!

「全く… みんな、考える事は同じのようねぇ」
 レモナは涼しげに言った。
「お前も、邪魔をするという訳か…!」
 リナーは大剣から左手を離すと、その手を懐に突っ込んだ。
 そして、バヨネットを取り出す。
 右手に大剣、左手にバヨネットを構えるリナー。
 いくらなんでも無茶だ。レモナとしぃ助教授の2人を同時に相手にできる訳がない。
 助けに行こうにも、俺はモララーを抑えるので精一杯だ…!

「私は、あなたの心根が気に入らないのよ…」
 レモナは、リナーの目を見据えて言った。
「…何の事だ?」
 不審気に訊ね返すリナー。
「『何くわぬ顔してとぼける…』。泥棒猫って、みんなそんな態度を取るのよねェー」
 ニヤニヤしながら言い放つレモナ。
 だが、その目はこれっぽっちも笑っていない。
「で、お前は何が言いたい…?」
 リナーは睨みをきかせた。
 おにぎりの時に匹敵する殺気だ。

「モナー君に全部押し付けて、自分は受身でいようなんて… 
 そんな、傲慢で自信過剰で狡猾で卑怯な態度が気に入らないのよ!!」
 そう叫びながら、レモナはリナーに飛び掛った。
 激しく拳を振るうレモナ。
 リナーの大剣と互角に打ち合っている。

「ほらほらァ! よそ見をしてる暇があるのかい!」
 俺の意識はモララーの方に引き戻された。
 こいつの猛攻もかなり厄介だ。
 俺は必死で『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳をかわす。
 流石に『次元の亀裂』などの技は使ってこないものの、拳の攻撃を1発でも喰らえばKOだ。
 しかし、ここでモララーをレモナに加勢させる訳にはいかない…!
 その俺の耳に、ヤツの声が届いた。

「ジャア、ソロソロ オレノ デバン ダナ…」

 しまった! まだ、こいつがいた。
 手を交差させて、爪を出すつー。
「ネカマニ スケダチ スルノハ キニ サワルガ、シカタネェ…! バルバルバルバル!!」
 つーは一直線に、レモナと激戦を繰り広げているリナーの方へ向かう。
 まずい! このままじゃ…!

 突進するつーの背後に、影が躍り出る。
「ゴルァッ!!」
 『レイラ』の刀が、つーに振り下ろされた。

「テメェッ!!」
 つーは大きく跳ぶと、ギコの方を向いて着地した。
「ナンデ ジャマ シヤガル!!」
 大声で威嚇するつー。
 ギコは、『レイラ』の刀を真っ直ぐにつーに向けた。
「気にいらねーんだよ。真剣勝負に水を差すテメーらの性根がな…」

「ギコ! サンクスモナ!!」
 俺はギコに声援を送った。
 ギコはニヤリと笑う。
「なぁに、今日はカッコ悪いとこ見せちまったからな…」

 確かに、あれはホントにカッコ悪かった。
 今さら格好つけたって挽回不能な程に。

「おい、お前ら。今すぐここから離れろ。ここは戦場になる…!」
 ギコは後ろを振り返ると、しぃ達に言った。
 しぃは頷くと、しぃタナとガナーを連れて競技場を出て行った。
 流石に避難誘導も手馴れたものだ。

「さて…」
 睨み合うギコとつー。
 ギコの正眼に対して、つーの無形。
 その刹那、両者は激突した。
「ゴルァァァァァァァ――――ッ!!」
「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル!!」
 爪と剣を打ち合う二人。
 つーに、ギコのスタンド『レイラ』は見えていない。
 ヤツは勘だけで戦っているのだ。
 ギコの洗練された動きに対して、つーは思うがままに爪を振り回すだけ。
 しかし、両者はほぼ互角に打ち合っている。

604:2004/01/04(日) 22:29

 その一方で、リナーとレモナの激突も白熱していた。
 リナーに突進するレモナ。
 まるでそれを打ち返すように、リナーは大剣を大きく振る。
 レモナは素早く大剣の上に飛び乗ると、リナーの顔面に拳での一撃を食らわそうとした。
 その腕に、リナーは左手で持っていたバヨネットを突き刺す。
「この…」
 レモナはリナーに蹴りを入れた。
 思いっきり吹っ飛んで、壁に激突するリナー。

 レモナは右腕に刺さっているバヨネットを引っこ抜くと、ボロボロの畳の上に投げ捨てた。
 その右腕からは、血がポトポトと垂れている。
 レモナはその右手をじっと見ながら、開いたり閉じたりしていた。

「右手への伝達中枢を切断した。しばらく、その手は武器としては使えない…」
 リナーは立ち上がると、レモナへ歩み寄りながら言った。
 それを睨みつけるレモナ。
「ふん、やるじゃない… 抱かれるのを待ってる女のクセにッ…!」
 リナーは落ちていた大剣を拾い上げると、上段に構えた。
「その薄汚い口を開くな。解体されたくないならな…!」

 そんな二人の様子を、じっと眺めているしぃ助教授。
 その姿からは、『やな戦いに巻き込まれちゃったなー』的な雰囲気が漂っている。

 レモナは自分の右手を肘の部分から引っこ抜くと、無造作に投げ捨てた。
 その部分から、巨大な銃口がバキバキと突き出す。
 いや、右手そのものが巨大なライフルになった、と言った方が正確だろう。
 そして、リナーを睨みつけるレモナ。
「解体されるのはあんたよ。そうなったら、モナーくんの心に爪跡くらい残せるんじゃない…?
 モナーくんの背中に爪跡を残すのは、私の役目だけどねェ!!!」
「口を開くなと言ったはずだァッ!!」
 二人は、互いに向けて突進した。
 思いっきり大剣を振り下ろすリナー。
 レモナは、銃口の部分で弾き返した。
 そして、銃口をリナーに向ける。
 あんなのを喰らったら、例えリナーでも…!

 リナーは弾かれた衝撃を殺さずに、そのまま1回転した。
 レモナは射撃体勢をとる。
 銃口から弾丸が発射されるのと、リナーの大剣が銃口に直撃するのは同時だった。
 真ん中でへし折れ、真っ二つに砕け散る剣。
 その銃口も、レモナの右腕ごと大破した。
 その衝撃で二人の体は大きく吹き飛ばされる。

「では、そろそろ行きますか…!」
 しぃ助教授は、倒れているリナーに思いっきりハンマーを振り下ろした。
「漁夫の利を狙うとは… ASAもたかが知れているな!!」
 懐からマシンガンを取り出すと、乱射するリナー。
「そんなオモチャ、効きません!」 
 しぃ助教授は、ハンマーを振るって銃弾を叩き落した。

605:2004/01/04(日) 22:29

「モナー君… 忘れていたのかい…?」
 モララーの余裕たっぷりのセリフが、俺の意識をこちらに引き戻す。
「僕が、瞬間移動を使えるってことをね…!」
 …し、しまったぁ!!

「お前も忘れてたモナ?」
「仕方ないだろぉ! 『アナザー・ワールド・エキストラ』は応用性が広すぎるんだ!」
 そう言って、モララーは姿を消した。
「あの野郎…!」
 俺は、激闘を繰り広げているしぃ助教授とリナーの方に走り寄る。

 リナーの背後に現れて、『アナザー・ワールド・エキストラ』の拳を振りかぶるモララー。
 俺は、モララー目掛けてバヨネットを投げた。
 見事にヤツの右肩に突き刺さる。

 そこへ、ぶっ倒れていたレモナが突っ込んできた。
 リナーを狙ったタックルだ。
「うおおおおおお!!」
 俺はリナーが落としたマシンガンを拾うと、レモナに向けて乱射した。
 当然ながらビクともしない。
 このままじゃ、レモナの体当たりがリナーに直撃する…!

「伏せろ! モナー!!」
 ギコの声が響いた。
 俺は素早くその場にしゃがみ込む。
 俺の目に映ったのは、つーに背負い投げを掛けるギコの姿だった。
 高速でぶっ飛んで来る、つーの身体。
 それは、そのままレモナに激突した。

「あんまり、スタンドにばかり警戒してるから、こうなるん、だよゴルァ…」
 息を切らしながら言い放つギコ。
 どうやら『レイラ』の方をオトリにして、本体が投げたらしい。

「コノヤロウ…!!」
「痛った〜い!!」
 同時に起き上がるレモナとつー。
 事態はバトルロイヤルの様相を表してきた。
 カルタなど忘却の彼方だ。
 丸耳が札を読み上げているようだが、リナーもしぃ助教授も聞きやしない。

 …キバヤシはどこだ?
 俺は周囲を見回す。
 ブチ割れたテーブルで、お雑煮を食べている姿が目に入った。
 あれは俺の夜食だが、まあいい。
 奴まで戦いに加わってきたら、本当に収拾がつかなくなる。

 しぃ助教授とリナーの戦いも、佳境に入ってきたようだ。
 二人とも疲れきっている。
「そろそろ… 限界じゃないんですか…、『異端者』…」
「強がるな… お前も、フラフラだろうが…」
 あっちの勝敗が決まるのは近そうだ。

「おい! モナー!! 加勢してくれッ!!」
 ギコの叫びが耳に入ってきた。
 見れば、つーとレモナを相手に頑張っている。
 俺はマシンガンを手に取ると、ギコに加勢した。

「僕を忘れてないかい…?」
 いきなり乱入してくるモララー。
「やかましー! 喰らいやがれッー!!」
 マシンガンの銃口をモララーに向ける。
「ちょ、ちょっと…! あの人外どもと違って、僕は生身…!」
 『アナザー・ワールド・エキストラ』で、必死で銃弾を弾き返すモララー。
「うるせェ――ッ!!」
 もう、この戦場に立ち入るヤツは敵だ。みんな撃ち殺す。

606:2004/01/04(日) 22:30

 いきなり、ギコの身体が飛んできた。
 俺の身体にブチ当たり、もんどりうって倒れる俺とギコ。

「サッキノ オカエシダ…アヒャ!」
 どうやら、つーが投げつけてきたようだ。
 そして、つーは転がっていたタンスを持ち上げる。
「クラエ――ッ!!」
 つーは、そのまま俺達目掛けて投げつけてきた。

 …あれが直撃したら、ヤバい!
 ギコの体を払いのけて、素早く立ち上がる俺。
 『アウト・オブ・エデン』で、その軌道を視る。
「モナァ――ッ!!」
 俺は渾身の力を込めて、投げられたタンスを弾き飛ばした。

 俺が弾き飛ばしたタンスは、なんとしぃ助教授と向き合っていたリナーの後頭部に直撃した。
「…」
 無防備な後頭部に打撃を受け、ゆっくりと倒れるリナー。そのままタンスの下敷きになる。
 さすがのしぃ助教授も呆気にとられていた。

「ああっ! やっちまった――!!」
 頭を抱える俺。

 しぃ助教授がタンスをどけて、リナーの顔を覗き込んだ。
「これは… 完全に気絶してますね。元々、フラフラでしたから…」
 そう呟くしぃ助教授。
 そう言う彼女自身もフラフラだ。

「ちょっと待て… じゃあ…」
 ヨロヨロと立ち上がるギコ。

「『オメガカルタ』の優勝を勝ち取ったのは、しぃ助教授となりました!! 彼女に一日族長の資格が与えられます!!」
 丸耳は右手を大きく掲げて宣言した。

  オ サ   オ サ   オ サ
 族長! 族長! 族長!

 アステカの民衆達も、声援に駆けつけたようだ。

 まあいい。俺はリナーを背負った。
「じゃあ、気絶してるリナーを部屋まで運んでくるモナ…」
 これで、当初の目的は達成できる。

「…うん?」
 俺の背中で声を上げるリナー。
 チッ、目を覚ましたか…
「私は、気を失っていたようだな…」
 リナーは自分の足で立つと、軽く頭を振った。
「リナーが気絶してる間に、しぃ助教授が優勝したモナ…」
 俺は、リナーに告げた。

「私は、あれで負けたとは思っていない…」
 しぃ助教授を睨みつけながら、リナーは言った。
 学帽を被り直すしぃ助教授。
「正直、決着をつけたかったんですが。これ以上モナー君の家を破壊するのも気が引けますしね…」
 何を今さら…
 もう、ここまでやられたら一緒だ。
「確かにそうだな。決着は、次の機会まで預けておくか…」
 リナーは武器を服にしまいながら言った。
 あの、ブチ折れてしまった大剣はどうするつもりだろうか…

「でも、この『オメガカルタ』の勝者は私ですよね…」
 ニヤリと笑うしぃ助教授。
 一体、どんな恐ろしい命令を…!
 しぃ助教授は、スタスタと俺の前まで歩いてきた。
 そしてにっこり笑う。
「今から、私とデートしましょうか」

 ゲッ!! それはヤバい!!
 何がヤバいって、レモナが巨大な銃口でこっちを狙っている。
 モララーは『アナザー・ワールド・エキストラ』を発動させ、右腕を差し出している。
 つーは腕を交差させ、鋭く伸びた爪を輝かせている。
 リナーはバヨネットを構え… ウホッ! それって嫉妬…!?

「フフッ、冗談ですよ…」
 パッと俺から離れるしぃ助教授。
「モナー君を狙ったら、命が幾つあっても足りませんから… ねェ?」
 しぃ助教授は、イヤな目つきでリナーを見た。
「そういう訳で、私はそろそろ帰ります」
 しぃ助教授はハンマーを抱えると、玄関跡に向かった。
 その後ろを、丸耳がついていく。

607:2004/01/04(日) 22:31

 玄関跡には、しぃやしぃタナ、ガナーの姿があった。
 静かになったから戻ってきたようだ。
 玄関跡で俺達は解散する事となった。

「ASAは『矢の男』の存在を抹消しますので、ゆめゆめ忘れないように…」
 しぃ助教授はモララーに向き直って言った。
 なんか今さらだなぁ…
「それではみなさん、よいお年を…」
 しぃ助教授は頭を下げて、俺の家を後にした。

「じゃあ、俺達もこのへんでお暇するぞゴルァ!」
 ギコとしぃ、しぃタナも帰って行く。
「じゃあモナーくん、またね〜」
「アヒャヒャ… ジャアナ!」
 みんな、それぞれの家に帰って行ってしまった。
 俺は、ボロボロに半壊した俺の家を見上げる。

「まあ、費用はASAに請求すればいいだろうが…」
 リナーは呟いた。
 ガナーはさっきからポカーンとしている。
 精神的ショックが大きすぎたんだろう…

 俺達は再び家の中に入った。
 リナーの部屋は、扉がしっかり残っている。
 俺の部屋など見るも無残なのに…

「私の部屋は、比較的被害が少ないな…」
 無表情で呟くリナー。
 と言うか、リナーの部屋に引火したら大変な事になりそうな気がする。
 家での火遊びは控えるとしよう…

 ボロボロになった居間には、遠い目をしたキバヤシの姿があった。
 俺と目を合わせて、フッと笑うキバヤシ。
「みんないなくなると、急に静かになる。それはそれで少し寂しいな…」
「うるさい帰れ」
 なんでこの家の住人みたいな口を叩いてんだ、こいつは。

 俺はキバヤシを追い出すと、居間の真ん中にテーブルを置いた。
 そして、そのテーブルを囲んで座る俺達。
 俺は口を開いた。
「なんか異常に幸先悪いスタートとなりましたが… 今年も精一杯がんばるモナー!!」
「イェー! ニコガク、イェー!」
 大はしゃぎする妹。どうやら、一連の出来事で一皮剥けたようだ。
「まあ、私もいつまでここにいるか判らないが …今年もよろしく」
 リナーは寂しい事を言った。
「リ、リ、リ、リ…」
 『リナーはずっとこの家にいてもいいモナよ。モナのお嫁さんとして…』
 そう言おうとしたが、舌がもつれて言えなかった。
 俺のヘタレさここに極まる。
 こうして、俺の… 
 いや、みんなの苦難に彩られた一年は幕を開けようとしていたのだった。



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

      「モナーの愉快な冒険」
    番外・正月は静かに過ごしたい
        ―THE END−

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

608新手のスタンド使い:2004/01/04(日) 23:20
本当に乙です

609新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 07:20
大作乙!
結局最後まであのまんまの呼び名だったしぃ妹と
ルーキーズネタに大爆笑した。そのセンスの良さには脱帽です。

610新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 11:45
乙!
最後におにぎりがいない・・・・。

611新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:00
貼ります。

612新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:00
     救い無き世界
     第五話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
         〜ポロリもあるよ〜 その1


 ここはSSS内にある俺に割り振られた部屋。
 俺が昼食を取って腹休めに自分の部屋で横になっていると、
 突然部屋のドアがノックされた。
 俺は「どうぞ」ということは無理なので、
 面倒だがベッドから降りてドアを開けた。
 そこには、ふさしぃの姿があった。
「やっほう、でぃ君。
 元気にしてる?」
 この人は無駄に元気が有り余っている様子だ。
 うざったいので、適当にあしらうことにする。
『まあ、普通といったところです。』
 俺はホワイトボードにそう書いた。
「あらあら、『何の用だよ。うざってーなー。
 うっとおしいから適当にあしらっておくかー。』
 とでも言いたげな感じねえ。
 お邪魔だったかしら?」
 ふさしぃは笑顔のままそう言った。
 …この人はエスパーか何かか?
「ま、いいわ。
 それよりこれからみぃちゃんとデパートに買い物に行くんだけど、
 あなたも荷物持ちとして来てくれないかしら?
 もちろん、少しくらいはお礼するわよ。」
 俺は即首を横に振った。
 馬鹿馬鹿しい、何でそんなことせにゃならんのだ。
 俺がそんな人の多い所にいってみろ。
 周りの奴らがどういう反応するかぐらい分かるだろう。
『悪いけど、気が進まないので、
 他を当たってはくれませんか。』
 俺は丁重に断ろうとした。
「あらそう、残念ねえ。
 ぃょぅも一緒に行くって言ってるんだけど…」
 その時俺の背筋が一瞬で凍りついた。
 ふさしぃの握っているドアノブが、
 みるみる音を立てて握り潰されていくのだ。
 ふさしぃは相変わらず柔和な笑みを浮かべている。
 が、この時はそれが一層恐怖を駆り立てた。
 断れば、死。
 それはコーラを飲めばゲップがでるぐらいに確実ことだった。
『あ、何か俺、
 急に買い物に行きたくなってきたかなー。』
 俺はこう書く他無かった。
 今この場を人生の幕切れにする程の覚悟は、俺には無い。
「あら本当に!?
 悪いわねー。なんだか無理強いしちゃったみたいで。」
 「みたい」でなく「そのもの」だ。
 というかこれはむしろ脅迫に近い。
 だが俺には言い返すことなど出来る訳がなかった。
 『力こそ正義』、これがこの世の絶対の法理であることを
 俺は実感していた。
「あら、ドアノブが…
 全く安物は困るわねー。」
 そういうとふさしぃは、半壊したドアノブを木に生った果物のようにもぎ取り、
 地面に投げ捨てたのだった。

613新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:01
「う〜ん、どれにしようかしら。
 これ?いやでもあれも捨てがたいわね…」
「わ、私はあんまり派手なのは…」
 みぃとふさしぃが、色々と服を物色する。
 俺はぃょぅ、ふさしぃ、みぃと共に、
 町で一番大きいデパートに買い物に来ていた。
 もっともこれはふさしぃとみぃが自分達の買い物に
 俺とぃょぅを無理矢理荷物持ちとして引っ張ってきたからで、
 俺は本当はこんな場所になど来たくはなかった。
「ちょっと…あそこの…」
「しっ…指差しちゃ駄目だって…」
 すれ違う人すれ違う人が、俺に向かって奇異の視線や言葉を
 投げかけてくる。
 ぃょぅとみぃが、俺を心配そうな目で見てくる。

 やっぱり思った通りだ。
 こういうお互いが不愉快な事になると思ったから、
 俺は断ろうとしたのだ。
 ふさしぃは、一体どういうつもりで俺をこんな所に
 連れて来たのか。
「もっと胸を張りなさい、でぃ君。」
 ふさしぃが、言った。
「あなたは別に悪いことをしたり、
 人に迷惑をかけたりした訳ではないんでしょう。
 なら、あなたが周りに引け目を感じる必要なんて、
 全く無いわ。」

 …分かったような口利きやがって。
 それは強者の理屈だ。
 あんたはいいさ。
 強いんだから。
 けどな、あんたはゴミ溜めの中で、
 明日をも知れない生活をしたことがあるってのか。
 あんたは大勢の奴から殴りつけられたことがあるってのか。
 自分の無力さを呪ったことがあるのか。
 あんたに、俺の何が分かる。
 それとも、あんたが俺を助けてくれるとでも―――

 その時、凄まじい爆音と振動が俺たちを襲った。

614新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:02


 私の名は毒男。
 このデパートの警備員をしている。
 警備員暦十五年、独身である。
 もちろん童貞。
 今日もいつもと変わらない一日を漫然と浪費していた。
「ねえ、あれ買ってよー。」
「ははは、分かったよ。
 今日はお前の誕生日だもんな。
 何でも買ってやる。」
 カップルが楽しげにショッピングをしている姿が目に映る。
 こん畜生が。
 人目も憚らず、公衆の面前でイチャイチャしやがって。
 いっぺん死んできやがれ。

「ぎゃあああああああああああ!!!」
 突然場内に響き渡る絶叫。
 見ると、カップルの男の方が、腹を血まみれにして倒れていた。
「い、いやあああああああ!!!」
 女の方がそれを見て悲鳴を上げる。
 が、一人の男が女に近づくと、
 その胸に血まみれの大きいナイフを突き立てて
 その悲鳴を強制的に中断させる。
 女はしばし痙攣した後、すぐに動かなくなった。
 ざまあ見ろ、天罰だ…
 ではない。
 明らかに殺人事件である。
「お、おい!!何をやっている、貴様!!!」
 俺は職務を果たすべく、警棒を取り出し、男に近寄った。
「…ダライアス。」
 俺が男のナイフを握っている右手に警棒を振り下ろそうとした時、
 男が何かぼそりと呟いた。
「!!!!!!!」
 次の瞬間、俺の足が重力から開放されたかのように地面から離れた。
 俺は自分に何が起こっているのか、全く理解出来なかった。
 思わず手足をバタつかせる。
 すると信じられないことに、
 周りの空気がまるで水のように重く俺の体に纏わり付いてきた。
 何だ!?
 これは、これは何…

 突如俺の首筋に鋭い痛みが走る。
 次の瞬間、そこから血が噴水のように噴出した。
 しかし血は地面に落ちることなく、空中を漂う。
「は、はわわわわわわわ〜〜〜〜…」
 思わず情けない悲鳴が咽からもれた。
 同時に、私の意識が一気に遠のく。
 周りからは、耳をつんざくばかりの悲鳴と、
 断末魔の叫びが聞こえる。
 おそらく客がパニックを起こしているのだろう。
 しかし、やがてそれも聞こえなくなる。
「さあて…次は花火といこうか。」
 おびただしい数の死体の中、
 男が楽しそうに誰に言うでもなく喋りだす。
 それが、私の最後の記憶となった…

615新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:04
「!!!!!!!」
 激しい音と振動に、俺は思わず倒れこんだ。
 みぃも悲鳴を上げてその場に倒れる。
「!!何!?爆発!!?」
 ふさしぃが辺りを警戒しながら言った。
 周りを見ると、デパート内のあちこちから黒い煙が立ち込める中を、
 人々が逃げ惑っている。
「取り敢えず、早くここから避難するょぅ!!」
 ぃょぅが叫ぶ。
 俺達は無言で頷き、出口に向かって走り出した。

「えーん、えーん…痛いよぉ…痛いよぉ…!」
 俺たちが出口に近い吹き抜けのホールまで来た時、
 誰かの泣き声が耳に入ってきた。
 そちらに視線を移す。
 そこでは、小さな女の子が倒れて泣いていた。
 周りの人は、自分が逃げるのに必死で女の子に目もくれない。
「いけない!助けないと…!」
 みぃが急いで駆け寄る。
 俺達も、それに続いた。

「…駄目…左足が下敷きになってる…!」
 みぃの言葉通り、女の子の左足は完全に瓦礫の下に埋まっていた。
 瓦礫は大きく重く、普通の力では動かせそうになかった。
『どけっ!!!』
 俺はみぃを押しのけると、スタンドを発動させ、
 瓦礫を力ずくで持ち上げた。
 ふさしぃとぃょぅが、急いで女の子の足を引っ張り出す。
「……っ!!!!」
「…ぃょぅ……!」
 ふさしぃとぃょぅの顔がこわばる。
 女の子の足は、もうすでに原型を留めていなかった。
「…ひどい……」
 みぃが悲痛な声を上げる。
 足は完全に押し潰され、みぃのスタンドの力でも完全な修復は不可能なことは、
 明らかだ。
「痛いよぉ…ママ…ママぁ…ママはどこ…?」
 激しい痛みと出血のせいか、少女は意識を失いかけていた。
「まずいわ!早く外に出て医者に見せないと!!」
 ふさしぃが女の子を抱え上げた。
「わ、私が取り敢えず応急処置だけでも…!」
 みぃが女の子に触れようとする。
「駄目だょぅ!こんな危ない所にいつまでもいるわけにはいかなぃょぅ!!
 それに、ここで君まで倒れるようなことがあったら、
 どうするつもりだょぅ!!」
 ぃょぅがそれを制した
「分かりました…」
 みぃが涙をこらえて頷く。

616新手のスタンド使い:2004/01/05(月) 13:04
 俺はふと、周囲を見回してみた。
 その時…

「・・・・・・!!!?」

 …その時、俺の目に一人の男の姿が飛び込んできた。
 そいつは、吹き抜けのホールの上の方から、
 下の惨状を見下ろしていた。
 そいつの顔には、邪悪な、満足そうな笑みが浮かんでいる。

「!!!!!!」

 俺は直感的に理解した。
 あいつがこの惨事の原因であることを。
 あいつが、それを見て笑っていることを。
 あいつが、この女の子の、足を―――…

「!!?
 でぃ君!!!
 何処へ行くつもりだょぅ!!!」
 俺は気が付くと、奴に向かって走り出していた。
 奴は奥へと姿を消す。
 逃がさない…!
 報いは、受けてもらう!!!

 後ろの方でみぃ達の俺を制止させる為の悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
 だが、そんなものはもう耳には入らなかった。
 今、俺の頭の中にあることは唯一つ、
 奴を壊すことだけだった。


  TO BE CONTINUED…

617:2004/01/05(月) 23:08

   ∧_∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ( ;´∀`)< 劇中、9月・・・
  (    )  \_____
  | | |
  (__)_)     /´ ̄(†)ヽ
            ,゙-ノノノ)))))
            ノノ)ル;゚ -゚ノi! <・・・!!
       ___/,ノくj_'',凹と)__
      / \ (´::)     ___\
     .<\※ \______|i\___ヽ.
        ヽ\ ※ ※ ※|i i|.====B|i.ヽ <エイダァァァァァ――ッ!!
        \`ー──-.|\.|___|__◎_|_i‐>
          ̄ ̄ ̄ ̄| .| ̄ ̄ ̄ ̄|
               \|        |〜

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その4」




 その姿までも変わり果ててしまったつーは、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、つーの全身から放つ殺気をとらえていた。
「ど、どうするモナ…!」
 キバヤシに向き直る俺。
「ここから逃げるか、それとも戦うか… まあ、逃がしてくれそうにないがな…」
 キバヤシは眼鏡の位置を整えた。

 仕方ない、身を守る為だ…!
 俺はバヨネットを取り出して構える。
 向かってくるなら、やるしかない!!

 キバヤシめがけて突進するつー。
 両腕から飛び出しナイフのように、刃状のものが張り出した。

「くっ…」
 バク転して飛び退くキバヤシ。
 彼がいた床に、大きな亀裂が刻み込まれる。
 キバヤシの反応があと0.1秒遅れていれば、彼は完全に真っ二つだった。

 つーは、俺とキバヤシを見比べている。
 キバヤシは、豹変したつーの姿を見据えて口を開いた。
「その外見… そのスピード… やはり、『蒐集者』に何かされたらしいな…」

 『蒐集者』は実験とか言っていたが、一体これは…
 しかし、当のつーは動かない。
 さっきから、不思議そうに俺とキバヤシの顔を見比べたままだ。

 俺は『アウト・オブ・エデン』でその思考を視る。
 かなり視えづらいが… 何か戸惑っているような感じ。
 俺は、キバヤシに視線をやった。

「ああ、判っている。 モナヤは、つーは本当に敵か…?、と思っているんだろう?」
 その通りである。
 つーは、『矢の男』や『殺人鬼』のように、人格が乗っ取られているようには見えない。
 むしろ、姿こそ違うものの内面はいつものつーである。

「だが、あの女性をバラバラにしたのは、間違いなくつーの仕業なんだよ」
 キバヤシは言い切った。
 確かにその通りだ。返す言葉もない。
 レモナの無残な姿を思い出す俺。
「だから、俺達はこいつと戦わなければならない!」
 アップになるキバヤシ。
 だが、俺はつーを傷つけたりはしたくない。それは確かだ。
 俺はキバヤシの目をまっすぐに見て言った。
「でも… つーは大切な友達モナ!」

 キバヤシはニヤリと笑う。
「甘いな、モナヤは… だが、お前のそういう所は嫌いじゃないぜ…」
 お前…、それ80年代のセリフだ。

「仕方ない。俺が汚れ役を引き受けよう…」
 キバヤシは、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ。
 その様子を凝視するつー。
 キバヤシはポケットに両手を突っ込んだまま、つーの近くへ歩み寄った。

「俺が、スタンドを使いたくない理由は2つ…。 
 1つは、余りにも凶悪で卑怯だからだ。乱用は絶対に許されない。
 もう1つは… 俺の能力を知れば、仲間から間違いなく拒絶されるからなんだよ!
 簡単に仲間を信頼してしまう、馬鹿なお前の前だからこそ使うんだぜ、モナヤ…」
 横目で俺を見るキバヤシ。
 仲間からも拒絶されるような、凶悪で卑怯な能力…?

 キバヤシはつーの目前で立ち止まると、ポケットから片手を出した。
 その手には、何かが握られている。
「人間は、火とともに言葉を武器にした…」
 キバヤシは呟く。
 手に持っているのは、何の変哲もないジッポライターだった。
 そのライターに火を付けるキバヤシ。
 それを、自らの顔の前にかざす。
「『始めに言葉ありき』… 生きている限り、ヒトは言葉と言う呪縛からは逃れられないんだよ…!」

 つーが動いた。
 腕から張り出した刃が、キバヤシの腹部に吸い込まれるように突き刺さる。
 軽い金属音を立てて地面に落ちるライター。
「え…?」
 驚いたようなキバヤシの顔。
 そのまま、キバヤシは前のめりに崩れ落ちた。

618:2004/01/05(月) 23:08

 …ちょっと待て。
 事態についていけない。
 今の状況も含めて、キバヤシの能力なのか?
 …いや。キバヤシは、どう見てもぶっ倒れている。
 それを、汚物のように見下ろすつー。
 もしかして、スタンドが不発…!?

「この… 役立たずがァッ!!」
 俺はキバヤシに駆け寄った。
 こいつ、本当にリナーと同じ代行者なのか?
 つーは、そんな俺の様子をじっと見ている。動く気配は全くない。
「おい、起きろ! キバヤシ!!」
 必死でキバヤシを揺り動かす。
「何だ、モナヤ?」
 ぱっちりと目を開けるキバヤシ。何事もなかったかのように起き上がる。
 そして、懐に手を突っ込んだ。
「たまたま、このノストラダムスの『諸世紀』を懐に入れていたから助かったようだ…」
 何から突っ込めばいいのか…

 その自慢げに掲げていた『諸世紀』を掴む、つーの手。
 『諸世紀』は、アッという間にドロドロに溶けてしまった。
「なっ! 何をするだァ――ッ!!」
 英国の片田舎の方言で怒りをあらわにするキバヤシ。
 そして懐から銃を抜き出す。
 つーは素早く飛び退いた。

「喰らえッ!!」
 何度も引き鉄を引くキバヤシ。
「バルバルバルバルバルバル!!」
 つーは両腕から突き出た刃を振り回す。
 つーの体に届く前にバラバラになる弾丸。

「まずいな… あいつに通用するような武器は持ってきていないぞ…!」
 銃を投げ捨てるキバヤシ。その額を汗が伝う。
「キバヤシのスタンドは…?」
 俺は、恐る恐る訊ねた。
「ああ、効かなかったようだ」
 そよ風のように、あっさりと答えるキバヤシ。
 何か悲しくなってきた。
 こいつのせいで窮地に追い込まれて、これっぽっちも役に立ちやしない。
 本当に代行者なのかどうか疑わしくなってきた。
 キバヤシは、俺の不審の視線を感じ取ったようだ。
「俺の能力が効かないヤツなんて初めて会ったんだよ。目の前のあいつは、人間でも吸血鬼でもない…!
 それに今の俺は、代行者である『解読者』じゃなく、MMRのキバヤシなんだ。まともに武器も持ってきていないんだよ!」
 確かに、つーの様子が尋常でないのは俺にも分かるが、それにしても情けなすぎる。

 そんな俺達の様子を眺めていたつーが、不意に動き出した。
 体が激しく発光し、周囲がスパークしている。
 あれは、電気!?
「『アウト・オブ・エデン』!!」
 危機を感じ取った俺は、スタンドを発動させてバヨネットを構える。
 同時に、つーの全身から電撃が放たれた。
 あれは… 空中放電だ!!
 『アウト・オブ・エデン』で、つーの体から放たれる稲妻が確かに視えた。

「うおおぉぉッ!!」
 電光をバヨネットで切り裂く俺。
 『電気』を破壊。
 出来るかどうか分からなかったが、何とか成功したようだ。
 だが… キバヤシはまともに喰らって、地面にぶっ倒れた。
 MMRと大きくプリントされたTシャツは焼け焦げ、全身から煙を噴き出している。
 一方、つーの動きは再び止まっていた。

「キバヤシ!!」
 俺は再びキバヤシの体を揺さぶる。
 駄目だ。 息はあるが、完全に気を失っている。
 …もういい。
 俺は、つーの方に向き直った。
 こいつのチグハグな動きの意味が、やっと分かった。
 今のつーは、『敵意』というのを敏感に感じ取っているのだ。
 キバヤシは痛めつけても、本気で俺を殺そうとはしてこない。

619:2004/01/05(月) 23:10

 つーは最初に、俺とキバヤシの顔を見比べていた。
 俺から『敵意』を感じないのを不審に思いつつ、明らかに『敵意』を振りまいているキバヤシを攻撃したのだ。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、さらにつーを分析する。

 今のつーに、視覚はないのではないか?
 対象の方向に顔は動かすものの、視線というものを全く感じない。
 いや、聴覚も嗅覚も存在していないような印象を俺は受けた。
 つーの感覚が集中している箇所を視る。
 ――額の触角か。
 つーは、全てをあの触角で感じ取れるのだ。特に『敵意』を敏感に。
 なら、あの触角をチョン切ってしまうか?
 いや、そんなことをしようものなら、俺の体はたちまちブツ切りだ。

 仕方ない。こうなったら、ナ●シカ作戦でいくか…
 俺はバヨネットを地面に投げ捨てた。
 そして、にこやかな笑みを浮かべて両手を広げる。
「大丈夫、怖くないモナ…」
 ゆっくりとつーに近付く俺。
 つーは明らかに動揺しているが、先程までの殺意は嘘のように消えている。

「ほら… 怖くないモナ…」
 俺は、優しくつーちゃんを抱きしめた。
 プルプルと震え出すつーの体。
 どうやら、俺の作戦は上手くいったようだ…

「キモチワルインダヨ、コノ タヌキガ――ッ!!」
 つーのカエル跳びアッパーが俺の顎にヒットした。
「バベーッ!!」
 俺の体はオモチャのように吹っ飛んで、そのまま地面に激突した。

「いたた…」
 ヨロけながら立ち上がる俺。
 つーは、その一瞬の間にすっかり元の姿に戻っている。
「つーちゃん!!」
 俺は、つーに駆け寄った。
 つーは首をプルプルと左右に振る。
「アタマガ ボーット スル… マタ、ヤッチマッタ ラシイナ…」
 やっちまったとは、さっきの体の変化だろうか。
「トコロデ、アレハ ダレ ナンダ?」
 ブスブスと焦げながら、口から煙を噴き出しているキバヤシを指差すつー。
「今朝会ったばかりのどこかの馬鹿モナ…」
 俺は、ため息をついた。
 つーは疑わしそうに俺の顔を見る。
 そして、怪訝そうに口を開いた。
「マア、シンジトイテヤル…」
 嘘は言っていないし、正直キバヤシとの同盟も破棄したい気分だ。


「で、さっきのアレは何モナ?」
 俺は当然の疑問を口にする。
「武装現象(アームド・フェノメノン)よ」
 その疑問にレモナは答えた。

「で、そのアームド…うわぁぁぁぁぁぁッ!!」
 俺は悲鳴を上げた。
 レモナは首から下がなかった。
 満面の笑みを浮かべながら、レモナの生首が宙に浮いている。
 その髪飾りが激しく回転して、ヘリコプターのようにホバリングしているのだ。

「そこまで悲鳴を上げなくても… 胴体の復旧に時間がかかりそうだから、一時的に分離しただけよ」
 嬉しそうに言うレモナ。お前はジオングか。

「それで、私は今からモナー君に悲しい告白をしなきゃいけないの…」
 目を伏せるレモナ。
「実は私、人間じゃないのよ…!」
 いや、見りゃ分かる。

「オイ、オレノ コトハ イイノカ…?」
 つーが話しに割り込んできた。
 人間離れしてるのは、どっちもいい勝負だ。
「そうね、今はつーちゃんの話だったわね…」
 レモナの首は口を開いた。
「でも、話が長くなりそうだから、少し座らない?」

620:2004/01/05(月) 23:12


 座卓の周囲に、座布団が3つ。
 俺とつーが向かい合って座る。
 レモナの首は座布団の上に着陸したようだが、茶卓に隠れてよく見えない。
 キバヤシはもちろん放置。
「まず、今のつーちゃんは『BAOH』なの…」
 レモナは口を開く。
 つーも、自分の体に関する事だけに大人しく聞いている。
 レモナの言葉に熱心に耳を傾けるつーなど、初めて見た。
 それにしても、『BAOH』って何だ?
「もう何十年も前に、ある研究組織… 『ドリル』だったっけ? そういう名前の特殊兵器開発機関が存在したの…
 そこで生み出された生物兵器が、『BAOH』なのよ」
「『BAOH』が兵器… ということは、つーちゃんが兵器になったって事モナ?」
 俺は思わず声を上げた。
「うーん、厳密に言うとそうなんだけど… 『BAOH』は兵器と言うより、人体の強化変成って言うのかしら?
 そういう技術なのよ。兵器としての性能なら、私の方が遥かに上」
 何故か誇らしげなレモナ。
「それで『BAOH』の性質なんだけど、『敵意』に敏感に反応して、その体を戦闘用に変えるの。
 それが、さっき言った武装現象(アームド・フェノメノン)よ…」
 やっぱり、『敵意』か。
 そして、さっきの豹変した姿が武装現象…!
「さっきからモニターしてたんだけど、モナーくんも武装現象の種類をいくつか見たわよね」
 腕から刃が突き出したり、体から放電したアレだな。
「まず、腕から出た刃物が、『BAOH RESKINIHARDEN SABER PHENOMENON』…通称『BRSP』ね。
 手首の皮膚を鋭く硬質化させたブレードよ」
 俺は、床にできた亀裂に目をやった。人体くらい、苦もなく寸断されるだろう。
「私がやられたのもこれよ。部屋に上がろうとした一瞬の隙に刻まれて…」
 レモナは、つーの方を睨んでいるらしい。座卓に隠れて見えないが。
「オマエガ、テキイヲ モッテタ カラダロウ…」
 つーにしては弱々しい物言いだ。
 流石に、やり過ぎたと感じているのだろうか。
「BAOH化すると、『敵意』を持ってる相手に相手に対しては抑制が効きにくくなるのよ」
 それが、俺とキバヤシの差だな。
「で、武装現象に戻るわね。分厚い本を掴んで溶かしたのが、『BAOH MELTEDIN PALM PHENOMENON』。
 通称、『BMPP』。掌から特殊な液体を分泌して、ほとんどの物質を溶解してしまうのよ。
 そして電撃を放ったのが、『BAOH BREAK DARK THUNDER PHENOMENON』。『BBDTP』ね。
 TTP合成酵素っていうのかしら? とにかく、電気ウナギと同じメカニズムらしいわ」
 ただでさえ物騒なヤツなのに、厄介な能力を持ったものだ。

「でも、なんでつーちゃんが『BAOH』になったのかは謎なのよね… 『ドリル』はもう潰れたし…
 『バカチン』とかいう所に、データや技術が流れたとは聞いたけど…」
 バカチン? 間抜けそうな名前だな…
 などとボケている場合じゃない。
 ヴァチカン… 『教会』だ!!
 『蒐集者』が言っていた、成功した実験体とは、つーの事で間違いないようだ。

621:2004/01/05(月) 23:12

 それにしても、なぜレモナがそこまで詳しいのかも気にかかる。
「なんで、レモナがそんなに『BAOH』について知ってるモナ?」
 俺は何気なく訊ねた。
 レモナが目を伏せたのが雰囲気で分かる。
「私を造った組織も、その『ドリル』なのよ…」
 何だって!?
 どうでもいいが、『バカチン』という名が思いっきり間違っていた以上、『ドリル』という名称も怪しいものだ。

 だが、まだ気になる事はある。
 『蒐集者』が実験をしている以上、『ドリル』とやらの『BAOH』は未完成だったのだろうか?
 いや、レモナは既知の技術のように語っていた。
「その、『BAOH』ってのはどうやって作るモナ?」
 俺はレモナに訊ねる。
「『BAOH』って言うのは、バオー寄生虫っていうのが宿主の脳に取り付くことによって完成するの」
「ウゲッ…! キセイチュウ!?」
 つーが声を上げる。
 確かに、気味の悪い話だ。
「でも、おかしいのよね。さっきつーちゃんの脳をスキャンしてみたんだけど…
 本来ならバオー寄生虫はもっと活発なんだけど、大人しすぎるのよ。まるで眠ってるみたいに。
 それなのに、武装現象はちゃんと発動してるし…」
 レモナは首を傾げる。
 おそらく、『蒐集者』の実験とはそこらへんだろう。
 新種の『BAOH』を研究していたとか…
 俺は、ヤツの言葉を反芻した。

 『素体が優れていたというのが最も大きな要因でしょうが、それだと汎用性に欠ける、という事にもなる』

 『素体が優れていた』… つまり、つーの頑丈な体は『BAOH』に適していたという事か。
 汎用性に欠けるというのは、限られた者、…それこそつーのように頑強な者にしか、新種の『BAOH』の
 適正がないという事というのが想像できる。

 そして、奴はその後にとんでもない事を言ったのだ。
 『何しろ量産が前提ですからね…』と。
 量産だって…!?
 つーには悪いが、こんなバケモノを量産して何をする気なんだ…?

 ふと、気になった。
 つーが俺とキバヤシの前で武装現象を発動する際、『オマエラ、グルデ オレヲ ミハッテタンダナ…』と言っていた。
 ――見張っている。
 つーは、そう感じていた。
 誰が、何の目的で見張っている…?
 いや、そんなのは自明の事だ…!

「出て来いよ。ずっと、見てたんだろう…?」
 俺は立ち上がると、窓の方に向かって言った。

 どんな手段を使っているか分からないが、窓の外のすぐ近くに奴がいる。
 俺の『アウト・オブ・エデン』は、それを確かに感知した。

 窓が音を立てて開く。
 普通に見れば、誰もいないのに自然に窓が開いたようにしか見えないだろう。
 ストッ、という軽い着地音。
「見つかってしまったようですね。土足で失礼…」
 その勘に触るしゃべり方。人をなめた態度。
 窓の外から、風が吹き付ける。
 その場に薄く浮き上がる青年の姿。
 それが徐々に実体化していく。
 漆黒のロングコート。柔らかな笑み。
 そして、欺瞞に満ちた存在。
 『蒐集者』が、そこに立っていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

622新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:04
貼ります。

623新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:05
      救い無き世界
      第六話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
          〜ポロリもあるよ〜 その2


 でぃ君は何やらどこかを熱心に見つめていたと思ったら、
 急にデパートの奥へと走り出した。
「!!?
 でぃ君!!!
 何処へ行くつもりだょぅ!!!」
 私は思わず声を張り上げた。
「ちょっと!!待ちなさい!!でぃ君!!!」
「でぃさん!!!」
 ふさしぃやみぃ君も彼に向かって叫ぶ。
 しかし、でぃ君はそんなものには耳も貸さないといった様子で、
 そのまま止まらずに走り去って行った。

「…ふさしぃ、みぃ君とその女の子を頼んだょぅ。」
 私は、言った。
「!ぃょぅ、あなたは!?」
 ふさしぃが、聞き返してくる。
「ぃょぅはでぃ君を連れて帰るょぅ。
 君達は早く逃げるょぅ。」
 早くしないと、女の子の命が危ない。
 ここで立ち止まっている時間は、一秒たりとも無いのだ。

「…分かったわ、お願い。」
 ふさしぃはそれを察したらしく、素直に了解した。
「わ、私も一緒に…」
「駄目だょぅ!!!」
 私はみぃ君の申し出を即座に却下した。
「君の役目は早く外に出て、
 女の子に治療を受けさせてあげる事だょぅ!!
 ついてこられても、足手まといになるだけだょぅ!!!」
 みぃ君は顔を曇らせた。
 確かに、少し言い方が悪かったかもしれない。
 だが、今は皆で楽しくお買い物といった状況では断じて、無い。
 彼女を死なせない為にも、
 厳しい言葉をぶつけてでも絶対に連れて行くことは出来なかった。

「分かりました…
 でぃさんを、お願いします…」
 みぃ君は声を押し殺して言った。
「まかせるょぅ。
 でぃ君は必ず、無事に連れて帰るょぅ。」
 彼女の為にも、何としてもでぃ君は連れて帰らねばならない。
 全く、女を泣かせるような事をするなんて、
 でぃ君も相当罪な男だ。

「…ぃょぅ…絶対、生きて帰って来るのよ…」
 ふさしぃが、私を見つめて言った。
「大丈夫、すぐに戻って来るょぅ。」
 私もこんなところで死ぬつもりはさらさら無い。
 それに、生きて帰らなければ、ふさしぃに殺されてしまう。
 おっと…これは矛盾かな。
「みぃちゃん!走るわよ!!」
「は、はい!」
 ふさしぃ達は、出口へと駆け出した。
 私はそれを確認すると、でぃ君を追う為に
 走り出した。

 何故、こんな真似をしたのか。
 彼には小一時間ほど問い詰めたい所だった。
 しかしその為には兎にも角にも彼に追いつかねばならない。
 私はデパートの中を全力で走り抜けた。

624新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:06
「でぃ君!!!
 どこだょぅ!!!」
 彼の名を大声で叫びながら、私はデパートの中を探索していた。
 私は完全に彼を見失っていた。

「でぃ君!!
 聞こえたら返事をするょぅ!!」
 しかし返事は返って来ない。
 私はかなり焦っていた。
「!!!
 これは…!?」
 でぃ君を探していると、
 床に大量の奇妙な死体が倒れているフロアを見つけた。
 死体はここに来るまでにいくらか見てきたので、
 それ自体は珍しくは無い。
 しかしこれらの死体はおかしい。
 刃物による切り傷や刺し傷、
 銛のようなものが刺さっている等、
 死因が爆発とは関係が無さそうなものばかりなのだ。

 これはどういうことなんだ?
 この混乱に乗じて、何者かが殺人を行っている?
 私は何かその場に醜悪な悪意を感じた。

「ひいっ!
 お願い、誰か助けて…!!」
 いきなりこちらに向かって一人の女性が
 何かから逃げるように走って来た。
「!?
 君、一体何が…」
 私がその女性に声をかけようとしたその瞬間、
 彼女の心臓を一本の矢みたいなものが貫いた。
「!!!!!!!」
 彼女はしばし口を金魚のようにパクパクと開閉させると、
 悲鳴も上げることなくその場に倒れ伏し、絶命した。

625新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:06

「んん〜、命中。」
 女の後ろの方から、
 まるでゴミ箱に投げたゴミが入った時のような口調で喋りながら、
 一人の眼鏡をかけた男が姿を現した。
 その手には、水中銃のようなものを持っている。
「おやおや、まだこんなとこにも生存者がいたんだ。」
 そいつは、私に向かって喋りだした。
「なあ、何人死んでた?」
 男は唐突に質問してきた。
「…どういう意味だょぅ。」
 私は男に聞き返した。
「いや、君が来る途中に何人位死体があったかってこと。
 今回僕が何人殺せたか知っときたいんでね。
 一応僕も見回ってはみたんだけど、
 見逃してるかもしれないし。」
 男は悪びれもせずに言った。

「…言いたい事はそれだけかょぅ……!!」
 私は湧き上がる怒りを抑えられそうになかった。
 こいつは、救いようの無い悪だ。
 ゲロ以下の臭いがプンプンする。
 ここまで他人に対して怒りを覚えたのは、初めてだった。

「…いつもなら私は『抵抗しなければ危害は決して加えない』
 と言うょぅ…
 しかし、お前に対しては別だょぅ…
 好きなだけ抵抗するがいぃょぅ。
 けど……」
 私は私のスタンド『ザナドゥ』を発動した。
「こちらも遠慮せず危害を加えるょぅ!!!」
 私は奴に向かって突進した。
 許さない。
 命は取らないまでも、生まれて来たことを
 後悔するような目に合わせてやる。

「『ダライアス』!!」
 男の叫びと共に、男の体がダイバースーツのようなものに包まれた。

 !!
 まさか、こいつもスタンド使いだったとは。
 しかし、構わない。
 このまま奴の頭に拳をブチ込む!!

「!!!!なっ!!?」
 その時、私の体がいきなり宙に浮かんだ。
 しかも、まるで水の中にいるみたいな感覚に襲われる。
 まさか、これが奴の『能力』か。
「くっ…『ザナドゥ』!!!」
 私はすぐに奴を「風」で吹き飛ばそうとした。

626新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:07
「んん〜?心地良いそよ風だなぁ。
 何だ?これは。」
 馬鹿な。
 全力に近い力で「突風」をぶつけたはずだ。
 何故、奴は微動だにしない!?
「…まさか……」
 考えられることは一つだった。
 空気が水の様に重くなっているせいで、
 風がまともに起こせないのだ。
「ちっ!!!」
 急いで距離を取ろうとする。
 が、地に足が着いていないうえに、周りの空気が水の様に絡み付いてきて
 素早く行動出来ない。
「逃がすかよ!!!」
 奴が私にさっきの女性を殺した凶器と思われる
 水中銃を発射してきた。
 とっさにスタンドで防御しようとする。
 しかし、動きが鈍くなっているせいで上手く防げず、
 肩や足に何発か貰ってしまった。
「がは!!」
 痛みに思わず声が漏れる。
 だが、幸いにも、急所だけは外れているようだ。

「いや〜、驚いた。
 まさかスタンド使いだったとは。」
 奴が余裕綽々といった感じで喋った。
「しかし、怖いなあ。
 『危害を加える』だなんて。
 まあ、無理っぽいけどね」
 奴が皮肉を言う。
 内心腸が煮えくり返る思いだったが、
 ここで冷静さを失う訳にはいかなかった。
 認めたくはないが、私のスタンドの奴のスタンドに対する相性は、
 致命的に悪い。
 状況は最悪と言わざるを得なかった。
 そして、おそらく奴はそれに気付いている。
 冷静に対処しなければ、即死だ。

 私は今度は奴に向かって行く。
 奴との距離を詰めねばならない。
 このまま、奴に遠間から水中銃で攻撃されては
 こちらが圧倒的に不利だ。
 これだけの『能力』。
 奴のスタンドはその『能力』の方に殆どのパワーを
 使っているはずである。
 ならば、純粋な力による接近戦ならば私にも分があるはずだ。

「そうくると思ったよ。」
 男は、私が近づこうとすると、
 素早く身を翻し見事なフォームで泳ぎ、
 瞬く間に私との距離を開けた。
「近づけば何とかなると思ったんだろうけど、
 それは無理だね。
 確かに僕のスタンド『ダライアス』は
 パワーは大した事は無い。
 けど、この空間内でのスピードは、ちょっとしたもんだよ。」
 そう言うと奴は再び私に水中銃を発射してきた。
 必死に受けようとはするが、
 やはり全ては防ぎきれない。
 体に次々と矢が突き刺さる。
 まずい。
 このままではいずれ射殺される。
 万事休すか…!

(!?でぃ君!!!)
 その時、私の視界にでぃ君の姿が飛び込んで来た。
 彼は奴の後ろから今まさに奴をスタンドで殴りつけようとしていた。
「!?」
 男が私の視線に気付き、後ろを振り返る。
 しかしでぃ君の拳は、もう奴の目前まで迫っていた。

627新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 13:08
 俺はさんざん走り回った末、
 ようやく男を見つけた。
 ぃょぅがそいつと戦っているみたいだ。
 男の顔はダイバースーツのようなものに隠れてよく見えない。
 だが、俺はそいつが俺の追う男であることを確信していた。
 奴から感じる腐ったような悪意。
 それが全てを物語っていた。

 俺は気付かれないように男に近づく。
 と、ある程度近づいた所で
 体が水の中に居るかの如く、宙に浮かんだ。
(!?これは、何だ?)

 しかしそんな事はすぐにどうでも良くなった。
 何でもいい。
 俺が今考えるのは、
 奴に俺のスタンドを叩き込む。
 それだけだ。

 男の注意はぃょぅに完全に向いていて、
 俺には気が付いていない様子だった。
 俺はゆっくりと、しかし確実に、泳いで距離を詰める。

 近づいた。
 今だ!!

 腕をスタンド化させ、
 そのパワーでの腕かきにより一気に距離を詰める。
 そして男に向かって腕を振りかぶる。
 俺に気が付いたのか、
 男は振り返る。
 しかし俺は構う事無く、拳を突き出していった。


  TO BE CONTINUED…

628神々の遺産を書いている人:2004/01/06(火) 18:43
突然ですが、今、私が書いている「神々の遺産」の続きを書くことを
やめます。読まれている方には大変申し訳ないのですが(読まれている人
がいるのかが疑問ですが)ご了承ください。

629アヒャ編を書いている人:2004/01/06(火) 19:23
そうですか。続編は気になってたんですけどね。
お疲れさまでした。

630N2:2004/01/06(火) 20:30
大変残念です。
今までありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

631新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 22:04
>>628
お疲れ様。

632新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:37
貼ります。

633新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:38
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―姿の見えない変質者その③



「くそっ!太っているくせに逃げ足だけは速いんだなあいつ!ここで逃がしたらもう
 後は無い、絶対に捕まえてやる!」

俺は先ほど犯人の顔をじっくりと見ることができた。
秋葉原でうろついていそうな典型的なデブオタだ。
体が大きく動き辛そうなのに、とにかく早い早い。
俺たちは今全力疾走で奴を追いかけている。
『廊下は走るな』の張り紙など無視だ無視。
他の生徒をほとんど力ずくで弾き飛ばしているのは少々心が痛むが。
「はあ・・・はあ・・・い、息が切れてきたのだ・・・・。
 あの男スタミナあり過ぎなのだ・・・・。」
ヅーが弱音を吐き始める。
もう何メートル走っただろうか。
そろそろ俺も息切れしてきた。
こうなったらどっちかの体力が無くなるまでだ。
 俺のスタミナが尽きるのが先か、奴の体力がなくなるのが先か…
そう考えていた時だった。
「あ〜〜〜〜〜!もう我慢の限界なのだぁ!こうなったらあの男を蜂の巣にしてやるのだぁ!」
デブオタに追いつけない憤りからかついにヅーが切れた。
「お、おい待て!時に落ち着け!」
俺は慌てて制止しようとした。
だが、手遅れだった。
その時すでに『メタル・ドラゴン』の腕に装備してあるガトリング・ガンの銃口が男に向けられていた。
「てーーーーッ!」
他の生徒も居るというのに躊躇する事なく発砲した
ズドドドドドドドドッ!!
独特の回転音と、飛び散る薬莢。
廊下の壁に何箇所も穴が開く。
周囲を覆いつくす白煙。
それに加えて窓ガラスが割れる音と悲鳴も聞こえた。
バコッ!
「馬鹿野郎ッ、何考えてんだ!他の人に当たったらどーすんだよ!?つーかほとんど
 外れているぞ!」
俺はヅーの頭をぶっ叩いて怒鳴った。
「ごめ〜ん。精密機動性が低かったの忘れていたのだ〜。」
しばらくすると白煙が薄くなってきた。
見ると男がうずくまっている。
背中には7〜8発の銃撃の跡があり、出血している。
「あ、何発か当たっている。よかった〜。何とか足止めになったのだ。結果オーライ。」
ボカッ!
「結果オーライじゃね〜!」
もう一発ぶん殴っておく。
「痛いのだ〜。」
俺とヅーの二人で漫才やっているあいだにまた男が走り始めた。
「おい、あれだけ食らっているのに走っているぞ!」
「体内の脂肪が防弾チョッキ代わりになったのかな〜?しかたない。
 もう一回・・・・。」
「だー!もう止めろ!冗談抜きで死者出るから!」
俺たちはまた走り始めた。

気が付いたときには俺たちは校庭に出ていた。
まだ昼休みなので生徒達がサッカーやドッジボールに興じている
このまま校門から出て行くつもりだろうがそうはいかない。
だが、俺の予想はあっさりと外れた。
いきなり男が右に曲がったのだ。
いったいどうしたというのだ?
男の進行方向を見た俺はハッとした。
(あそこに居るのは・・・レモナ!?)
そこには何も知らないレモナが友人と歩いていた。
しかも男の手には何処にしまってあったのか小型ナイフが握られている。
―――しまった!
この後の展開はだいたい予想がつくだろう。
ヤバイ、とにかくヤバイ。それだけは確か。
「レモナ、逃げろ!」
「え…! きゃぁっ!!」
遅かったか・・・・。

634新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:39


悪い予感は的中した。
奴はレモナを羽交い絞めにするとナイフを突きつけたのだ。
「いやあっ!放してよ!」
「う、動くなぁ!動くとこの子がどうなるか分かるよな!」
突然の出来事に周りの生徒達が一斉に男を見た。
人質をとってまで逃げようとする。
人間として最低な野郎だ。
「ちっ!流石に人質とられちゃ下手には動けないよなあ。」
「アヒャ君質問。」
その時ヅーが質問してきた。
「はいヅーちゃん。」
「何であのキモオタ野郎は普通に逃げなかったのでしょうか?
 スタミナからしてあいつの方が上なのに。」
「あのね、俺たちが他の皆に声をかけりゃぁ一発じゃん。安全に逃げるには
 人質をとれば確実。そんぐらい分かれよなぁ。」
「なるほど。スッゲー分かりやすい。」
俺たちは夫婦漫才師かよ。

「フフフ・・・お困りのようですね。」
何処から来たのかマララーの野郎が近づいてきて言った。
「ここはこの愛に燃える哀・戦士この僕にお任せを・・・。」
「黙れ、エロス。」
俺はマララーの顔を向けずにに吐き捨てた。
「それは心外だな。僕だって役に立つことがあるんだから。」
「ほう、だったらあいつを止められるのか?」
「もちろん。僕には君みたいにスタンド能力は持ってないけど、
 ヒゲ部で鍛えた技があるからね・・・。」
えっ?今なんて・・・
奴は男に向かって行った。
「く、来るなぁぁ!!」
慌ててナイフを振り回す男。
「観念しろ・・・。これで終わりだ。」
そう言うとマララーは頭の上に手をかざした。
いったい何が始まるんだ?
そしてオーバーにゆっくりと弧を描くように手を下ろし・・・

ズボンのチャックを下ろした。

「・・・何やってんだ?」
「フフフ・・・これぞセクシーコマンドー『エリーゼの憂鬱』!(略してエッちゃん)」

俺の視界からマララーが消えた。
いや、ヅーの掌打を食らって吹き飛んだ。
大丈夫か?3〜4メートルは飛んだぞ。
「ヤバイ!顔面が内出血起こして腫れている!」
「ドドリアさんみたいな顔になってるぞ!」
ダウンしたマララーに駆け寄った男子生徒が叫んでいる。
マララー・・・いや、彼は・・
脳内で何を生み出そうとしていたのだろうか。
「やっぱり奴に期待した俺が馬鹿だった・・・・。何とかして
 あの男をレモナから離さないと。」
その時背中から声がした。
「俺だったら何とかなるかも。」
「本当かブラッド!?」
「ああ、ちょっと耳かしな・・。」

俺は男にじりじりと近づいた。
「な、何だよ?何がしたい!?」
俺はにこやかな笑みを浮かべて両手を広げる。
「俺はこのとおり無防備だ。俺の話を聞け。」
「い、いやだ・・・いやだ!」
男が後ずさりする。
その時、レモナと男の間にほんの少しばかり隙ができた。
「今だ!」
俺が叫ぶと同時に地面から腕が伸びて男の顎をとらえた。
「ぐえっ!」
――やった。
俺が男に向かっている時に、ブラッドが俺の体を伝わり男に見えないように
地面に滲みこんで男を完全に射程に捕らえていたのだ。
「せいやあああああああああ!!!!!」
ラッシュの嵐が男に直撃した。
「うげふっ!」
吹っ飛ばされていく男。
地面に落ち、そのまま転がり校舎の壁にぶつかってようやく動きが止まる。
「やれやれ。これにて一件落着か・・。」

635新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:39

しばらくして・・・・。
あの男は手錠を掛けられていた。
警察の人がやってきて、あいつは刑務所にいれられる事となった。
「これでやっとレモナも安心して学校に来れるな。」
「一時はどうなる事かと思ったのだ。」
ヅーと話をしていたらレモナがやってきた。
「あ、アヒャ君。その・・・どうもありがとう。」
「気にすんなって。」
俺は声を上げて笑った。
その時だった。
「うおおおおおおお!」
男が手錠を付けたまま警官を振り切り逃げ出した。
「あいつ、まだ懲りてないのか!?」
男は必死の形相で走っていた。
「いやだ・・・・つかまりたくない・・・。何でおれが・・・。」
すると何処からか声が聞こえた。
「お前はここまで来てまだ反省していないのか?」
「はあ・・はあ・・・な、何だよ!?僕は警察に捕まる様な事はしていない!
 ただレモナタンに好きになってもらいたいだけだ!」
「なるほど・・・話しても無駄か・・・。」
不意に上方から聞こえてくる声に釣られて見上げると、天から巨大な何かが降ってきている。
「・・・・え?」
ドグシャァァ!!!!
落ちてきたのはロードローラーだった。
そして男はそれに潰された。
「うわあああああ!」
「た・・・たいへんだ!男が下敷きになったぞ!」
「いそいでどかせ!」
「救急車を呼べ!」
辺りが急に騒がしくなる。
「君たち下がって!早くどきなさい!」
アヒャ達は未だに事態が飲み込めていないようだ。
しばらくして。
「・・・だめです。死亡してます。即死です。」
「死んだ・・?」
「信じられないことですが、突然現れたロードローラーに潰されたんです。
 よける暇も無かったでしょう。」
「事故死か・・・・ヤツの最期は『事故死』・・・。」
アヒャとヅーは顔を見合わせた。
「これでいいのだ。いくら捕まったっていつか釈放されるんだから・・・。
 これが一番いいのだ。」
「そうか。あいつの死に顔でも見ておくか・・。」
「やめたほうがいい。」
何処に居たのか今度はモララーが来た。
「アレは見ないほうがいい・・・。だって人が潰れてんだよ。アレを見た後もし夕飯に
 スパゲッティーカルボナーラが出るとしたら・・・ゾッとするよ・・・。」
「あっそ。だったらやめるよ。」
俺たちは自分の教室へと戻った。

636新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:40

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............................... ̄..............................(__)................................................

男は、ビルの屋上から夜景を眺めていた。
月の光がその男と持っている『矢』を照らしていた。
「ここに居たのね。」
一人の少女が男に話しかけてきた。
片方の目が荒々しく縫い付けられている。
「・・・お前か。どうした。」
「どうしてあのデブオタの事殺したの?」
「アイツは野放しにはしておけない・・・また犯罪を犯しても不思議じゃなかった。
 だから殺した。」
「ふーん。」
少女は男の隣に座り込んだ。
「ねえ、いつまでその『矢』でスタンド使いを増やすつもりなの?」
「・・・俺たちに協力してくれる奴が現れるまでかな・・。」
「でもいくら能力を引き出したって仲間になってくれるとは限らないよ。
 エゴだよそれは。」
「可能性は無いとは言い切れないだろ。『奴』がこの茂名王町か隣の海宮町に居るのは確実だ。
 アイツの能力で犠牲者が増えるのはもういやなんだ・・・。俺とお前の『能力』でも
『奴』のパワーとスピードに勝てるか分からない。」
二人はしばらく黙っていた。
「アヒャ・・・・それにブラッド・レッド・スカイ・・・。アイツは面白い奴だったな。
 矢でスタンドを出したときに礼を言う奴なんて初めてだ。今度会ってみる価値は
 あるかもな・・・。案外話が早かったりして。」
男は立ち上がると少女に言った。
「これ以上居たら風邪引くから帰るぞ。」
「わかった。」
二人の姿は夜の街へと消えていった。
今宵は月が美しい。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

637新手のスタンド使い:2004/01/06(火) 23:42
以上です。新スレテンプレの議論スレの作品紹介でN2さんが本編と
書いてくださいましたけど、この物語は番外編です。
N2さん説明遅れてすいません。

638:2004/01/06(火) 23:56

       /´ ̄(†)ヽ
      ,゙-ノノノ)))))
      ノノ)ル,,゚ -゚ノi  <・・・
     /,ノノ/+__y,,j~lつ
     ん〜l_,丿__,],/
        く_+|l_|

  グロい展開が続きますので、
  せめてアタマくらいは似合わない着物姿でも。


「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その5」



 窓から吹き込む風でロングコートがはためいた。
 学校で会った時のように、勝手に発動する『アウト・オブ・エデン』。
 やはり、真っ黒だ。
 顔も体も関係なく、何もかも真っ黒に塗りつぶされたように視える。
 奴の周囲に立ち込める『気配』も、今までに視たことがない。
 『気配』というものにも、それぞれに個性がある。
 『矢の男』の気配は、黒く立ち込めた霧のように視えた。
 周囲を覆いつくすような、息苦しい閉塞感。
 殺気を放っている時のリナーの気配は、鋭い冷気のように視える。
 周囲のもの全てを凍てつかせる極寒の刃。

 だが、この『蒐集者』の気配は全く性質が違う。
 情景が重なって視えるのだ。
 それは、夜の砂漠。そこに転がるいくつもの死体。それに内包する『生』と『死』。
 死体死体死体。全てを焼き尽くす太陽。転がる骨。人骨、死体。
 時計の音。そう。みんな死んだ。みんなみんな死んだ。
 学校の教室。廊下に山積みになった死体。
 それを、一つ一つそれぞれの席に座らせる。
 30人の死体。机に座る30人の死体。
 教会の鐘の音。時を刻み続ける時計。
「『最強』とは、どういう意味か――」
 こちらを見据えて、問いかける男。

 ―――!!
 俺は首を振る。
 精神が奴と同化しそうになった。
 ここは、確かにつーの家だ。
 この風景は何だ? 奴を見ていると、次から次へと不気味な情景が浮かんでくる…

 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「もうしばらくは経過を見たかったんですがね… 見つかってしまった以上は仕方がない…」
 両手を広げ、コートの裾をはためかせながらゆっくりと近付いてくる『蒐集者』。

 その『蒐集者』に向けて突進する影。
 つーだ。その体は、先程のように『BAOH』に豹変している。

「速い…!」
 『蒐集者』は呟いた。
 その身体に、腕から突き出した刃が突き通される。
 武装現象の一つ『BRSP』は、『蒐集者』の胸を一直線に貫いた。
「狙いも正確ですね。心臓を一撃とは…これは即死レベルだ。素晴らしい…!」
 胸部に刃を突き立てられたにも関わらず、平然と呟く『蒐集者』。
 これは… 幻か!?
 俺は、『アウト・オブ・エデン』の視線を展開した。
 だが、つーの刃を胸に受けている『蒐集者』は紛う事なき実体だ。
 吸血鬼? それとも奴のスタンド能力?

 つーは刃を引き抜くと、後ろに飛び退いた。
 そのまま『蒐集者』を見据える。
「どうしました? もう来ないのですか?」
 その胸の傷は早くも塞がっていた。
 それどころか、穴の空いたコートまで元に戻っていく。
 これは一体…!?

 つーは、自らの手首から突き出した刃を不審そうに見ていた。
 そして、おもむろに刃をもう片方の腕で掴む。
 掴んだ掌から血が噴き出した。そのまま、刃を引っ張っているようだ。
 あれは、何をしているんだ?

 『蒐集者』は、腕を組んでその様子を興味深げに眺めている。
 口元に薄笑いを浮かべながら。

 つーの腕から煙が噴き出す。
 腕を溶かしているのか?
 確かレモナは、掌から特殊な液体を分泌する武装現象があると言っていた。
 さっきも、俺の目の前で分厚い本をドロドロにしたのだ。
 しかし、つーは何を考えているんだ?
 その右手はドロドロに溶けてしまったではないか。

 その右腕をかざすつー。 
 みるみる再生して、元の形に戻った。
 しかし、刃の位置が前とは違う。
 『BRSP』は5本に分かれて爪の先に存在していた。
 つーの右手は、まるで鍵爪を装着したように変化したのだ。
 その右手をじっと見ながら指を動かすつー。

「そっちの方が、あなたにとって攻撃しやすいという事ですか。
 それなりの知恵もあるようですね。いや、本能に近いのかな…?」
 その様子をじっと観察していた『蒐集者』は口を開いた。

 同様に、つーは自分の左手を溶かす。
 右手で慣れたのか、左手は一瞬で形作られた。
 両指の爪の延長に存在する10本の『BRSP』を、試すように動かすつー。
 そして、強力な殺意を『蒐集者』に向けた。

「準備万端ですね… それでは、新しい『BRSP』の威力を見せてもらいましょうか」

639:2004/01/06(火) 23:57

 真っ直ぐに『蒐集者』に飛びかかるつー。
 そして、両腕の爪を振るう。
 『蒐集者』の体は、瞬く間に寸断された。
 輪切りになった『蒐集者』の体は、血を噴き出しながらゴトゴトと地面に落ちる。

 やった…! と思ったのは、ほんの束の間だった。
 魔法のように寸断された体が繋がると、何事もなかったかのように起き上がる『蒐集者』。
 床には血の跡すら残っていない。
「鋭さも抜本的に増している。まるで小規模な進化ですね…」
 笑顔を浮かべて呟く『蒐集者』。
 こいつは、一体…!

 つーは、さらに『蒐集者』の体を斬りつけた。
 だが、その傷は瞬時に塞がってしまう。
「ハ… ハハハハハハハハ!!!」
 狂ったような笑い声を上げる『蒐集者』。
 それに構わず、つーは何度も何度も『蒐集者』の体に爪を振るった。
 しかし『蒐集者』はビクともしない。
 いや、確かに肉が裂けて血は吹き出るが、1秒もすると元に戻ってしまう。
 手足や首が切り離されても同様だ。
 つーは凄まじいスピードで『蒐集者』の体を斬り刻み続ける。
 床や天井がその風圧で崩れ、血飛沫が舞い上がった。
 だが、『蒐集者』の笑い声が止む事はない。
「素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい
 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい
 素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい!! だが…」
 『蒐集者』は、つーの首を掴んで持ち上げた。
 生身の肉体で、高速で動いているつーの体を掴むなんて…!
 つーの体から炎が噴き出した。たちまち紅蓮の炎に包まれるつーの体。
「今の状態は大体分かりました。しばらく休みなさい…」
 炎に包まれて動かなくなったつーの体を、『蒐集者』は窓から外に放り出した。
 そして、奴は俺の方に向き直る。
「あれは後から回収するとして… あなたはかかって来ないんですか?」
 俺は一歩後ずさった。
 今の俺に適う相手じゃない。
 だが、こいつは俺を殺さないような予感がする。
 そこに付け込めば…

「確かに、貴方の命を奪ったりはしません。ですが、貴方の精神には死んでもらいましょう」
 『蒐集者』は、俺の心を読んだように言った。
 …やはり、考えが甘かったようだ。

「レモナ!」
 俺は『蒐集者』に目線を合わせたまま、首だけで飛んでいるレモナに呼びかけた。
「お前はここから離れるモナ!」
「イヤよ! モナーくんを放っておける訳ないでしょ!?」
「首だけで何ができるモナ!!」
 レモナの首は、押入れに転がっている体のところへ飛んでいった。
「ちょっと待ってて! 急いでシステムを復旧させるから…!」

 ちょっと待っててって言われても…
 俺はバヨネットを取り出して構えた。
 『アウト・オブ・エデン』は既に展開している。

 『蒐集者』は口を開いた。
「それにしても… 怒り狂って飛びかかってくるかと思っていたが、意外と冷静なんですね。
 それとも、まだ気付いていないのかな…?」
「何の事モナ?」
 俺は呼吸を落ち着かせて言った。
 本当に、この俺がこんな化物と戦えるのか?

 『蒐集者』はおどけた仕草を見せた。
「やれやれ… まだ気付いていなかったとは。あれだけヒントを上げたのに…ねェ?」
 こいつの言葉に耳を傾けるな。
 どうせ、こいつは適当な事しか言わない。
「察しの通り、私が研究していたのは新種の『BAOH』です。
 武装現象と、吸血鬼の特質や不死性を併せ持った究極の『BAOH』をね…」
 吸血鬼…だと!?
 こいつは、何でそんな物を…!

「そして…言ったはずですよね。実験体は2体いたと。成功した方が、外で転がっているつー。
 そして、失敗して破棄された実験体の名は… あなたのよく知っている、じぃです」
 その名を聞いて、頭が真っ白になった。
 血液が沸騰する。
 今、こいつは何と言った…?

 『蒐集者』は、薄汚い口を開いた。
「じぃは吸血鬼の特質が大きく発現してしまい、ただの吸血鬼の出来損ないになってしまった。
 故に、廃棄処分としました。まあ、実際に手を下したのは――」

 その言葉を聞く前に、俺の理性は弾け飛んだ。
「お前がァァァッ!!」
 俺は床を蹴って、そのまま壁を駆け上がった。
 そして、奴の頭上からバヨネットを振り下ろす。
「ほう…」
 『蒐集者』は袖から出したバヨネットでその攻撃を受け止めた。
 空中で体勢を整え、着地する俺。

640:2004/01/06(火) 23:57

 奴の身体から、凄まじい熱気が吹き寄せる。
「『アヴェ・マリア』…!」
 『蒐集者』の体からスタンドが浮き上がり、そこから噴き出した炎が俺に向けられた。

 ――『アウト・オブ・エデン』。
 バヨネットを軽く振って、炎を全て『破壊』する。
 
 その隙を狙って、『蒐集者』のスタンドが突っ込んできた。
 だが、『アウト・オブ・エデン』はその奇襲をも見越している。
 その拳をかわすと、無防備な『アヴェ・マリア』の顔面にバヨネットを突き立てた。

「面白い…! なかなかにやってくれますね…」
 『蒐集者』の顔面が大きく裂け、血が噴き出した。
 しかし、その顔にこびりついた笑みは消えない。

 『蒐集者』は指を鳴らした。
 俺の身体が、急に重くなる。
 まるで、全身に鉛でもつけられたように。
 いや、俺だけじゃない。
 電灯を釣っている紐が切れ、床に落ちて粉々になった。
 ビリビリと裂けるカーテン。
 俺はその重みに抗え切れず、床に片膝をついた。

 『蒐集者』はさっきの俺のように、天井を蹴って飛び掛ってくる。
 『アウト・オブ・エデン』でその動きは視えたが、体の重さのせいでかわしきれない。
 奴の攻撃が一閃した。
 着地すると、『蒐集者』はバヨネットから血を払う。
 同時に、俺の左肩から血が噴き出した。
 …この傷は、かなり深い。

 俺は立ち上がろうとした。だが、動けない。
 その重圧に抵抗する事ができない。
 ポタポタと床に落ちる俺の血。
 花瓶が倒れ、水が床を濡らす。
 テーブルの足が折れ、卓の部分が大きな落下音を立てた。

「さて…チェックメイトですね。何か言いたい事はありますか?
 これでも神に仕える身。あなたの大切な人に伝えておきますよ…」
 薄笑いを浮かべ、もう1本のバヨネットを取り出す『蒐集者』。
 両手にバヨネットを掲げて、こちらに歩み寄ってくる。
 俺はその姿を無言で睨みつけた。
「特に言い残す事はない、ということですか。慎み深い…。
 あの哀れな『異端者』に何も言う事がないとは、あなたも残酷ですねぇ…」
 …リナー?

「リナーには、手を出すな…!」
 俺は言葉を絞り出した。
 本来、『蒐集者』とリナーは『教会』の仲間であるはず。
 だが、奴が『異端者』の名を口に出す時、確かな悪意が感じられた。

「消え行く貴方の頼みでも、それは聞けませんねえ… あの女は、じきに私が葬ります」
 脳が焼け付く。
 リナーを殺すだって?
 こいつは、必ずブチ殺す…!

「バラバラだ…!」
 俺は呟いた。
「何です? 気が変わりましたか?」
 『蒐集者』はその顔を近づけてきた。
「テメェの体をバラバラにして空に撒いてやるッ!!!」
 俺は怒鳴った。
 さっきから、俺の動きを封じている重み。
『アウト・オブ・エデン』で、地面に向けて落ちていく黒い線が視える。
 これは… 重力だ!!
 『蒐集者』は高く跳んだ。
 そのまま、バヨネットで串刺しにする気だ。

「うおおぉぉぉッ!!」
 俺はバヨネットを思いきり床に突き立てた。
 ――重力を『破壊』。
 それと同時に横に飛び退く。
 目標を失った『蒐集者』の一撃が、床に突き刺さった。
 今が絶好の好機。

641:2004/01/06(火) 23:58

 俺は、床からバヨネットを引き抜こうとしていた『蒐集者』の一瞬の隙をついて、奴に突進した。
「くっ…!!」
 『蒐集者』の体が発火する。
 灼熱の炎に包まれる奴の体。
 近付いただけで、人体など炭化してしまうだろう。
 そう、普通なら。
 …だが、俺にそんな防御は通用しない。
 『アウト・オブ・エデン』の前では、炎など沈黙する。
 バヨネットを突き立てて、その炎を『破壊』した。
 あっという間に消滅する炎。
 その勢いで、『蒐集者』の体に思いっきり体当たりを食らわせた。
 そのまま、奴の喉にバヨネットを突き立てる。
「…!!」
 よろける『蒐集者』の肉体。
 刃が貫通し、剣先が首の後ろから覗く。
 タックルした勢いで、俺と『蒐集者』の体は窓に激突した。
 粉々に砕け散るガラス。
「素、晴―ッ――ァ―」
 喉からヒューヒューと空気を吹き出しながら呟く『蒐集者』。

「聞こえないな… はっきり言え…!」
 そのまま、俺と『蒐集者』の体は窓から外へ飛び出した。
 もつれあって落下する俺と『蒐集者』。
 俺は奴の喉からバヨネットを引っこ抜くと、胸に突き刺した。
 地面に到達するまで、あと2秒。
 俺は、『蒐集者』に語りかけた。
「言ったはずだ。お前は、バラバラにして空に撒くと…」

 空中で体勢を整えると、バヨネットを振るって『蒐集者』の四肢を切断した。
 そして、胸部から腹部にかけて垂直に切り下ろす。
 ぱっくりと裂ける胸腹部の筋肉。
 バヨネットを突き立てて胸骨および胸椎・肋骨を引き剥がし、空に撒いた。
 バケツから振り撒かれたかのような、おびただしい量の血液が空中に舞う。
 そのまま胸腔正中部に腕を突き入れて、胸管・気管・食道・大動脈弓・腕頭動脈・腕頭静脈・右総頚動脈・
 右鎖骨下動脈・右鎖骨下静脈・左総頚動脈・左鎖骨下動脈・左鎖骨下静脈・上大静脈・胸大動脈・内胸動脈・
 肋間動脈・肋間静脈・肋間神経・奇静脈の全てを引きちぎった。
 心臓は、左右冠状動脈を切断した後に左右心房・心室に切り分け、体外に放り出す。
 ついでに肺も引きずり出しておいた。
「―ゥ――ァ―…!!」
 ぱくぱくと口を動かす『蒐集者』。
 非常に気が散る。
「少し黙っていてくれ…」
 バヨネットを顔面に突き立て、前頭筋・後頭筋・眼輪筋・笑筋を切断した。
 これで、しばらくあの笑みは見ずに済む。
 頭蓋骨から下顎骨を引き剥がし、頭頂部を切除する。
 露出した脳を適度にスライスして、これも空に撒いた。

 地面に到達するまで、あと0.5秒ほど。
 少し急ぐ必要がある。
 横隔膜より上の部分を切断し、空っぽになった胸部を投げ捨てる。
 外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋を切り開き、腹部内臓器官を露出させた。
 胃〜十二指腸〜空腸〜回腸〜上行結腸〜横行結腸〜下行結腸〜S状結腸までを引きずり出し、細かく刻む。
 肝臓は、右葉・左葉・方形葉・尾状葉・門脈・総胆管・肝円索に至るまで丹念に破壊しておいた。
 腹大動脈・下大静脈・腹腔動脈・上腸間膜動脈・腎動脈・腎静脈・下腸間膜動脈・脾動脈・脾静脈の切断も忘れない。
 最後に腎臓を2個とも取り出し、腎盤・腎乳頭・腎錘体・腎杯・腎柱に切り分ける。

 ――解体終了。
 まだ心残りはあるが、与えられた時間ではこれが限界だ。

 私は身を翻して、路面に着地した。
 同時に、奴の体の断片や大量の血液が雨のように降り注ぐ。
 それらは路面に落ちて、湿った音を立てた。
 どうせすぐ再生するだろうが、しばらくは満足に動けはしないだろう。


 …俺は地面に片膝をついた。凄まじい頭痛。
 しかし、弱音を吐いてはいられない。
 アイツは、引っ込んでしまったようだ。
 いちいちしゃしゃり出て来やがって…!

 俺は返り血を払うと、周囲を見回した。
 辺りには、『蒐集者』の肉片が散乱していた。
 …気味が悪い事この上ない。
 ビクビクと動く『蒐集者』の肉片。
 ここまでやれば、流石に回復も遅いようだが…
 俺は頭を抑えた。体がギシギシと音を立てる。
 もう、俺の身体も限界のようだ。

642:2004/01/07(水) 00:00

 それで、今の俺に何ができる?
 おそらく、こいつにはどう足掻いても歯が立たない。
 つーは気を失っているし、レモナの体もボロボロだ。キバヤシも部屋で気絶したまま。
 かと言って、逃げたところで再生した『蒐集者』にあっという間に追いつかれる。
 『アウト・オブ・エデン』で視たところ、再生が完了するまであと30秒。
 ここまで器官の一つ一つにダメージを与えたのだから、再生したところで、しばらくは満足に動けはしないだろう。
 だが、それだけのハンデがあっても、俺に勝ち目はない。
 なら、俺にできる事はたった一つ。
 地面にバヨネットで『SOS』と大きく刻む俺。

 『蒐集者』の肉片が、一箇所に集まりだした。
「この…!!」
 重なり合う肉片にバヨネットを突き刺す。
 だが、奴の再生スピードの方が遥かに上だ。
 スタンド能力は一体につき一つのはず。
 こいつのスタンド能力は何なんだ?
 そもそも、こいつは人間なのか…?

 体組織が組み合わさり、歪な人型が組み上がる。
「ちッ…!」
 俺の振るったバヨネットは、筋肉が露出した腕に受け止められた。
 奴の蹴りが、俺の鳩尾に直撃する。
「げほっ…!」
 俺は、その場に膝をついた。
「正直、感嘆しましたよ… そこまでやるとはね…」
 喉からゴボゴボと音を立てる『蒐集者』。まるで人体標本だ。
 奴が動くたびに、体から肉片がボトボトと垂れ落ちる。
 身の毛がよだつような光景だ。

 奴の体から浮かび上がった『アヴェ・マリア』が、俺の顔面を殴りつけようとした。
「…くっ!」
 必死でかわそうとする俺。
 顔面への直撃は免れたものの、右肩にまともに喰らってしまった。
 ベキベキという音を立てて、右肩の骨が砕ける。
「うわぁぁッ!!」
 俺は肩を押さえて地面を転がった。
「それ位の痛みがどうしたんです。多分、私の方がもっと痛いんですよ?」
 腹部に腸を押し込みながら、グロテスクな笑みを見せる『蒐集者』。
 …バケモノと一緒にするな。

 『アヴェ・マリア』が、転がっている俺に拳を振り下ろした。
 とっさに左腕でガードする俺。
 だが、スタンド相手に防御なんて無駄だ。
 その一撃は左腕の骨ごと俺の肋骨をへし折った。
 …凄まじい激痛で、息ができない。
 それなのに、激しくむせてしまう。
 地面に転がりながら、ゴホゴホと血を吐く俺。

 同時に、『蒐集者』も片膝をついている。
 その右手が、根元から外れてゴトリと地に落ちた。
「本当にやってくれましたね… 器官損傷が多すぎて、再生が部分的にしか追いついていない…」
 ズレた眼球の位置を直す『蒐集者』。
「本来なら、さっきの一撃であなたの胸部ごと破壊できたはずなんですがね…
 貴方には無駄な苦痛を与えてしまったようだ…」

 …まだか?
 早く来てくれないと、俺の体がもたない。
 必ず来てくれるという保証がないのが辛いところだ…
 血を吐きながら咳き込む俺。
 呼吸音がおかしい。肺に損傷があるようだ。

「仕方がない… 意識の強い相手に、余りやりたくはありませんが…」
 『蒐集者』はため息をつく。
 そして、スタンドではなく生身の手を俺に差し伸べてきた。
 ――あれはヤバい。
 『アウト・オブ・エデン』が全力で危険を告げる。
 俺は力を振り絞って、その手にバヨネットを突き刺し、そのまま地面に縫い付けた。
 それが限界。もう、指一本動きやしない…

643:2004/01/07(水) 00:01

 『蒐集者』は、バヨネットで地面に縫い付けられた右腕を引き剥がそうとした。
 その腕は、手首からもげてしまう。
「まったく… 苦労をかけさせてくれますね…」
 奴はバヨネットを引っこ抜いて、右手を拾い上げた。
「往生際の悪い事だ… それか、何かを待っているのかな?」
 地面に転がっている俺を見下ろし、あざ笑うように言う『蒐集者』。
「そこらに転がっているつーは、あと1時間は目を覚ましません。火は『BAOH』の弱点ですからね。
 『Re-Monar』もしばらくは戦闘不能だ。完全稼動まで3時間ほどですかね…
 『解読者』は、完全に意識を失っている。代行者とはいえ、肉体の強度は普通の人間と変わりませんからね…」
 キバヤシなんぞには、ハナっから期待していない。
 俺が待っているのは…

 『蒐集者』は、先程俺が地面に刻んだ『SOS』の文字を見た。
「それとも… この冗談のようなメッセージで助けを呼ぼうとでも…?」
 俺は押し黙る。
 …図星だ。

 『蒐集者』は不快な笑い声を上げた。
「ハハハ… 雪山で遭難でもしたのですか、貴方は…!
 こんなもので助けを求めるとは、清々しいまでのアナログさだ…!」
「俺が、その文字を刻んでから、もう5分が経ってる…」
 俺は言葉を絞り出した。唇を動かすだけでも苦痛だ。

「何分経とうが、助けなんて来やしませんよ。たまたま飛行機やヘリが通りかかって、この『SOS』を発見する?
 そして、スタンド使いである私に対抗できるような助けが来る? 絶対にありえないと断言しましょう!!
 そんな偶然が起きるのなら…」
 俺は、『蒐集者』の言葉を遮った。
「俺は、偶然なんか期待するほど楽観的じゃない…
 つい最近聞いた話なんだが… 軍事目的で使われる人工衛星は、軍事気象衛星、軍事航法衛星、
 軍事通信衛星、軍事偵察衛星、早期警戒衛星、通信傍受衛星などの種類があるそうだ…。
 そして、軍事偵察衛星は2〜3mでの識別すら可能らしい… 全部、受け売りだけどな…」

 近付いてくるヘリのローター音。 
「まさか…ッ!」
 『蒐集者』は空を見上げた。

「俺は、助けなんて生易しいものは呼んでない…!
 俺が呼んだのは、お前みたいなスタンドを悪用するゲス野郎を抹殺する連中だッ!!」
 
 高速で飛来したヘリが、俺達の頭上を通過する。
 そのヘリから飛び降りる一つの影。
 …間違いない。
 その影は、巨大なハンマーを手にしていた。

「呼んだのか… ASAをッ!!」
 『蒐集者』にしては珍しく、語尾を荒げて俺を睨んだ。
 そして奴は、『アヴェ・マリア』を発動させた。
 『アヴェ・マリア』が、落下するしぃ助教授に向けて特大の火球を放つ。

「『セブンス・ヘブン』!!」
 しぃ助教授の身体から、女性型の華奢なスタンドが浮き上がった。
 その直後に、火球を食らうしぃ助教授。
 …いや、その身体にはいっさい届いていない。
 炎の塊は、しぃ助教授の身体を避けるように散っていく。
 彼女の体は、『力』の指向性を操作する防御壁、『サウンド・オブ・サイレンス』によって覆われているのだ。
 しぃ助教授のハンマーは、『蒐集者』を捉えていた。

「くッ…!」
 素早く飛び退く『蒐集者』。
 しかし、トランポリンで跳ね返るように元の位置に戻ってしまった。
 …今のも、しぃ助教授のスタンド能力だ。
 『蒐集者』の、移動する方向を180度転換させたのだ。

 『蒐集者』に、落下速度を加えたしぃ助教授の一撃が直撃した。
 そのハンマーでの渾身の一撃は、地面に大きなクレーターを形作る。
 『蒐集者』の体は完全に押し潰された。

 しぃ助教授はゆっくりとハンマーを持ち上げる。
 その下には、無残にひしゃげた死体。
 散らばった赤黒い器官の、どこが体のどの部分だったかすら判別できない。
 だが、それは今の一瞬だけだ。

644:2004/01/07(水) 00:02

「油断しちゃ駄目モナ! そいつはまだ…!」
 俺は大声を上げて忠告した。
 しぃ助教授はにっこりと微笑む。
「分かってますよ。それにしても、『蒐集者』を相手によくたった一人で戦いましたね…」

 肉塊がずるりと起き上がった。
 またもや再生する『蒐集者』の身体。
「まさか、三幹部の一人たる貴方が来るとは… 予想できませんでしたね…」
 『蒐集者』はゆっくりとしぃ助教授の方に向き直った。

 気のせいか、さっきから『蒐集者』の再生速度が上がっている感じがする。
 バラバラに解体した時は30秒ほどかかったのに、今度は3秒もかかっていない。
 それどころか、体に皮が張り、ロングコートまで再生している。

「せっかく来たはいいが… 貴方に私が殺せますか…?」
 『蒐集者』は口の端を引きつらせて、歪な笑みを浮かべた。
「私と互角には戦えても、私を殺しきる事は絶対に不可能…」
「殺しきれなくても…」
 しぃ助教授は『蒐集者』の言葉に割り込んだ。
「力技で何とかしますよ… 私達、ASA三幹部はね…!」

 ――異様な気配。
 しぃ助教授の背後に誰かいる。
 『アウト・オブ・エデン』でも、今までその存在を微塵も感じなかった。
 しかも、それが二人…!!
 俺の体は、圧倒的な存在感に気圧されていた。
 普通、強者ほどその存在を隠すものだ。
 だが、奴等は違う。その凄みを隠そうともしない。

 あれは… ニワトリ?
 腕組みをした、筋肉隆々のニワトリ。
 何を考えているのか分からない不気味な瞳。
 そして、異常なまでの暴力性が視える。

 もう一人は、女の子だ。
 何故か、一筋の涙を浮かべている。
 ゴスロリと言うのだろうか、フリルに包まれたような衣服を着用していた。
 ふわりと広がったスカートから、細い足が覗く。
 その無機質な瞳は、冷たく暗い。
 まともな感情は持ち合わせていないのではないか?
 いや、感情そのものを持っているか疑問だ。

 俺の体は、萎縮しきっていた。
 ケツの穴にツララを三本分突っ込まれたような感覚。
 足がすくむ。あれと敵対すれば、命はない。
 それを本能で実感する。
 あれが、ASA三幹部…!!

「ほう… 3人とも揃っているという事は、何か嗅ぎつけたのかな?」
 『蒐集者』はコートの襟を正しながら言った。

645:2004/01/07(水) 00:02

「貴方のスタンド、『アヴェ・マリア』の能力は調べましたよ。まさか代行者である貴方の能力が、
 データベースに登録されているとは思いませんでした…」
 そして、しぃ助教授は俺の方を見た。
「ASAのスタンド・データベースは、50年ほど前に成立しました。それ以前は、紙に記録していたんですが…
 その中に、あの『蒐集者』のスタンド能力について記された記録があったんですよ。120年前の記録の中にね…」

 120年前だって…!?
 目の前の『蒐集者』は、20歳かそこらにしか見えないが…

 しぃ助教授は、再び『蒐集者』に向き直った。
「いいえ、『アヴェ・マリア』に関してのみではありません。貴方自身についての、膨大な量のデータが存在しました。
 貴方の出生、年齢、遍歴、目的、モナー君との関係…」
「なるほど、ASAもマメな事だ」
 『蒐集者』はおどけたように肩をすくめた。
「で、三幹部総動員で私を殺しに来た、という訳ですか?」
 しぃ助教授は首を振った。
「貴方は死なないでしょう? ですが… いくら貴方とはいえ、三幹部を同時に相手にして勝ち目はない」
「つまり… 勝者なしって事ですね」
 『蒐集者』は笑みを浮かべる。

「退きなさい。モナーくんは殺させはしないし、つーを連れ去らせもしない…!」
 しぃ助教授は、『蒐集者』にハンマーを向けた。

「…いいでしょう。これ以上身体を潰されるのも勘弁願いたいですしね…」
 『蒐集者』はコートを翻した。
 その姿がたちまち希薄になる。
「今日は退いておきましょう。私も疲れた…」
 フッと消えてしまう『蒐集者』。
 
「大丈夫ですか?」
 しぃ助教授は、地面に寝転がっている俺に駆け寄ってきた。
「あいつ、スタンド能力いっぱい持ってるモナ… あんなの、反則モナ…!」
 今までの緊張感がどっと抜ける。
 しぃ助教授は首を振った。
「いいえ、彼のスタンド能力はたった一つですよ… 
 それより、大切な話があります。事態は、思ったよりもずっと切迫してるんです。
 私達ASAの本部に来て…って、モナー君!!」
 もう駄目だ。気が遠くなる…
 しぃ助教授の声が、遥か遠くに聞こえる。
 俺の意識は、深淵に落ちていった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

646新手のスタンド使い:2004/01/07(水) 00:08
クックルキターーーー
あとひとりのはAAは思い出せるけど名前忘れたなあ
おもしろかったです
キバヤシ役にたってねえなw

647丸耳作者:2004/01/07(水) 02:36
「遅いなー…おじいちゃん…ご飯も食べてないのに…」
 診療所で食器を洗いながら、マルミミがぼやいた。
『パチンコに行ってくる』と言い残したまま出て行って、もう一時間が経つ。
 いつもなら測ったように三十分で帰ってくるのだが、今日に限って随分と遅かった。
迎えに行こうにも、病み上がりのしぃを一人残したまま出て行くわけにはいかない。
「しょうがないなぁ…」
 カチャリと食器を置いて、手を拭いた。
プライバシーを侵害するようで悪いが仕方ない。
す、と体の力を抜く。息を吸い、吐き、瞼の裏にイメージが揺らめく。
 ココロ カケラ  パワー ヴィジョン
『魂の一部』、『力ある像』。
オノ                               シモベ
己が精神の奥底を映し出す『鏡』にして、最も忠実な『僕』。
「ふぅ―――――ッ…」

イメージが具象化する。
大気がざわめく。
空間が歪む。

誰が付けたのかは定かではないが、『彼等』はこう呼ばれている。
              Stand By Me
              『側に立つ者』――――――

「『ビート・トゥ・ビート』ッ!!」

             幽波絞
――――――即ち『スタンド』と。

 皮膚が泡立ち、脊髄のあたりから人形ヴィジョン―――『スタンド』が抜け出した。
「―――――何ノ御用デショウカ、御主人様?」
背後から現れたヴィジョンが、ヒラヒラした裾口を胸の前に置いて優雅に一礼した。
全体的なシルエットは人間に近いが、上半身だけで下半身が無い。
顔面は白粉を塗りたくったような白塗りで、目鼻に真っ赤なペイントが成されている。
                  ピエロ
一言で形容するのならば、『道化師』が一番近いだろう。
背中から出てきたピエロに向き直り、一言命じた。
「おじいちゃんを『探って』欲しい。頼んだよ」
「承知イタシマシタ」
再び一礼すると、観客に拍手をもとめるかのごとくヒラヒラの両手の平を目の高さまで掲げた。

648丸耳作者:2004/01/07(水) 02:37
      ビート・トゥ・ビート
マルミミと『B ・ T ・ B』の感覚がリンクする。彼の感じる『音』が、マルミミへと流れ込んでくる。

ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ―――――

心臓から発する、『生命のビート』。それを感知するのが彼、B・T・Bの能力だ。
まったく離れていないところに『小柄なモナー族』が一人、これは僕。
少し離れたところに『成人のしぃ族』が一人、これはしぃ。ビートがゆっくりなのは眠っているせいだろう。
「索敵半径広げて」
「Yes…索敵半径五百メートルニ拡大シマス」
B・T・Bが両手をあげると、五百メートル以内にいる全ての心拍が流れ込んできた。
年齢、種族、性別、体型、感情―――――
心音は、考えられているよりもずっと多くの事柄を教えてくれる。
(中年のッパ族、男、小デブ、上機嫌…いいことでもあったのかな?)
(若いモナー族、男、筋肉質、ちょっとイライラ…会社で叱られた?)
(中年のあらやだ族、女、小柄、興奮と緊張…今の時間だとタイムバーゲン?)
(ギコ族としぃ族、男と女、両方若い、極度の性的興奮…うわー、日の高いうちから元気のいい―――)
「御主人様」「はっ」
B・T・Bの声で、かなりプライバシーに踏み込んでいる事に気が付いた。
(―――いけないいけないいけない悪い癖悪い癖悪い癖…)
首を振ってビートを振り払い、精度を落として種族と体型だけの鼓動を拾う。
おにぎり、1、八頭身が大勢―――――細身のモナー族、老人、波紋使い。
「いた。えーと、現在位置は…この前の路地?」
「モウ少シ詳シク調ベマスカ?」
「お願い」
B・T・Bの感覚が、茂名の鼓動に集中した。
より鮮明になった心音に、マルミミが首をかしげる。
「…この音…『緊張』と『高揚』に『憤怒』、あと『激しい運動』―――まさか…戦ってる?」
てっきりあらやだ族のオバさん達にでもつかまっていると思っていたが、そんなのどかな物ではなかった。
「『戦ってる』のは間違いない…じゃあ『誰と』?」
メイクに包まれた瞳をつぶり、ピエロが静かに手を動かした。
数秒ほどその動作を続け、目を開く。        サノバビッチ
「コノ鼓動―――先日御主人様ガ心臓ヲ停止サセタSonofaBitch共デス」
「…嘘でしょ?完全に心臓を止めてやったのに。目を覚ますなんてあり得ない―――」
「イエ、鼓動ヲヨクオ聴キ下サイ」
 言われて、スタンド越しに伝わってくる心音へと注意を向けた。
まったく同じ鼓動が、二重に伝わって来る。
 片方は肉体の鼓動。奇妙な存在感を持ちながらそれでいて希薄なもう片方のビート…
マルミミのB・T・Bと同じ、スタンドの鼓動。
スタンド使い、死の淵からの回復―――二つの事柄が、マルミミの頭から一つの答えを導き出した。
「まさか…『矢』!?」
「Yes…ソノ可能性ガ高イト」
 皆まで聴かず、壁にかけられていたジャケットを羽織る。
「助けに行く」
「承知イタシマシタ」
 メモ用紙に外出してくる旨を書き留め、しぃの寝ているベッド側に置いた。
そのまま玄関へ走り『臨時休業』の札をかけて病院のドアを閉める直前、ちら、と壁を見る。

649丸耳作者:2004/01/07(水) 02:38
金色の輝きに、稠密な彫刻を施された一本の『矢』。
      スピードモナゴン
彼の父は、SPM財団の一員だった。
外国を放浪し、様々な事を調査していたらしい。
二〇年ほど前、アメリカの女性と結婚して土産に貰ってきた物の一つだそうだ。
その四年後にマルミミが生まれ、彼等はささやかながらも幸せな生活を送っていた。
(そう、送って『いた』)
何年前だったかは思い出せない。マルミミの心が思い出すのを拒否しているのだろうが、その日起きたことに比べれば小さな事だ。
ランドセルを背負っていたと思うから…多分小学生の頃だったのだろう。
マルミミが家へ帰ってきた時、真新しい診療所は血で染まっていた。
そこにいたのはいくつかの人影。
体中を撃ち抜かれて血を含んだボロ雑巾みたいになった父。
同じくらいの銃弾を浴びて、それでも生きていた母。
マルミミの姿を見て、獲物を殺す喜びに震える何人かの虐殺者達。
虐殺者達が猟銃を構えてマルミミを狙った。
(人間が動ける状態じゃなかったのに、僕の母さんは信じられない速さで僕の前に立って頭が吹っ飛んで)
偶然なのか何かの意図があったのか、母の手から滑り落ちた金色の『矢』が、マルミミの胸に突き刺さった。
そこから先は覚えていない。ただ、診療所へ入ってきた茂名が血の海の中で気絶したマルミミを見つけたと彼には伝えられた。
警察には、何も聴かれなかった。まあ無理もないことだろう。
                              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ムクロ
何しろ診療所の中には蜂の巣になった両親と、爆散した虐殺者達の躯が転がっていたのだから。
虐殺者達は仲間割れで双方死亡と結論づけられ、マルミミはショックを和らげるためしばらく精神科へと通わされた。
マルミミが何をしたのか、茂名以外は誰も知らない。
(…いや、今はうだうだ考えてる時じゃない)
 ほんの数瞬の事だったが、過去への思いを断ち切ってドアを閉めた。
鍵を掛けると庭に止めてある自転車のペダルを蹴り、自動車に匹敵する速度で道を走る。
(間に合ってくれよ…!)

650丸耳作者:2004/01/07(水) 02:42



ばぎゃっ!


 茂名の側にあるコンクリの壁が、音を立てて砕けた。
道路に転がって避けた瞬間、首筋に鳥肌。
両手をガードに回すが、衝撃を殺しきれずに壁へと叩き付けられる。
「『スタンド』っつーんだってな。コレ…あ、見えてないか」
「テメェこの前よくもやってくれたじゃねぇか。バラバラにして糞虫のエサにしてやるよ」
(…二人の立ち振る舞いから察するに…人間形と不定形か)
 ぱらぱらと降り注ぐ破片を払い、再び構えを作った。
 茂名の目にはスタンドが見えていない。二人の本体の動きや気配、周りの物体の動きでスタンドの動きを察知しているのだ。
(じゃが…厄介じゃの)
 人間形はともかくとして、不定形のスタンドはヴィジョンが見えなくては動きが読めない。
(さて…どうする…)

 三択です。一つだけ選びなさい。
①ナイスミドルの茂名が二人ともぶっ飛ばす
②逃げるんだよォ―――ッ!
③負ける。現実は非常である。

(…逃げるか?―――いや、行けばその先で誰かが巻き添えになる。
③はハナから選ぶ気はないし―――やはり答えは…①しかないようじゃの…!)
 ととっ、と爪先で地面を蹴る。
体勢を低く沈め、人間形のスタンド使いに向けて指を弾いた。
「がっ!?」
 茂名の手元から弾き出された直径一センチ足らずの鉄球が、狙い違わず人形スタンド使いの顔にぶつけられた。
間合いの外から繰り出された予想外の攻撃に、思わず怯む。
 拳や蹴りだけが、茂名の技ではない。彼の家に伝わる武術は、戦の為に洗練されてきた実践向けの技にその神髄がある。
今のパチンコ球…『指弾』もその一つで、訓練次第では強力な武器となる。
 タイミングをずらし、不定形のスタンド使いへと指弾を撃ち込んだ。
「テメッ…!」
 反応が早い。空中で、指弾が弾かれる。
だがこれでよかった。二回も同じ手で倒せるとはハナから思っていない。
 茂名の狙いは最初から一つ。不定形のスタンドがどう動いているか判ればいい。
指弾の弾かれた位置が教えてくれる。不定形のスタンドの形を、動きを教えてくれる。
不定形さえ倒せれば、人間形とは互角。
 勝負は一瞬。波紋を流す、〇,一秒。
頭を下げる。その二ミリ上を、不定形の腕が通り過ぎた。
白髪交じりの頭髪が、数本舞った。
 目の前を襲う見えない攻撃にも茂名はまったくスピードを緩めず、瞬きすらせずに跳んだ。
踏み込みと共に、頭部へと指を広げた手を伸ばす。
 男までの距離は三メートル。到底突きが届く距離ではない。
だが、波紋法ならその距離を超えられる。
ゴギリと音を立てて関節が外れ、腕が伸びた。六〇センチほどしかなかった腕の長さが、一メートルを超えて男の顔面へ向かう。
踏み込みと合わさったその掌のスピードは、一瞬にして間合いを削り取る。
           ジャコウ
茂名式波紋法 "蛇咬"。

チベットから渡り、茂名家に代々伝わる波紋の武術。
掌が触れるまで三〇センチ。二〇センチ。一〇センチ、九センチ、八,七,六五四三―――――!

どどどっ。

「かっ…」
 背後から衝撃。背中にハンマーでも投げつけられたかのような威力に、一瞬だけ意識が遠のいた。
(いや、『痛み』なんぞはどうでもいい…!本当にまずいのは『肺への衝撃』…!『呼吸』ができない…『波紋』が練れない!)
 頭部を掴んだ掌から、波紋エネルギーが失われる。
くたりと掌が離れ、アスファルトの地面に倒れ伏した。

 答え
―――③―――え③―――――答え③―――――

651丸耳作者:2004/01/07(水) 02:43
「な…っんつー爺ィだ…腕が伸びやがった。気色悪ィ」
「感謝しとけよ。俺の能力が無かったら永眠してたぜ?」
「…貴様…!ゴホッ」
 息を吸った瞬間、喉の奥から血の味がする咳が出てきた。肋骨が何本か折れている。
「うっせー爺ィ。今の状況判ってんのか?」
 呼吸を整えようとした矢先、脇腹にケリを入れられた。
「ガッ…!」
「ああ畜生この糞爺ィこの俺をビビらせやがってこの糞耳の分際で奇形が奇形が奇形が糞耳が―――――!! !!」
 句読点をすっ飛ばしながら、一言ごとに茂名の体を蹴る、蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴る。
何回蹴られたのか判らなくなった頃、ようやく蹴りの嵐が止んだ。
「俺のスタンド…『アンダー・プレッシャー』はさ。触ったモンの質量を自由に変えられんのよ。
 例えば―――アンタの跳ばしたパチンコ球の質量を百㌔くらいにして投げ返す…とかな」
人間形のスタンド使いが静かに言った。
「さ・て・と!種明かしも気晴らしも終えたし―――――死ねコラ。『アシッドジャズ』!!」
 不定形のスタンドが茂名の真上に現れる。
押し潰されるか、握り潰されるか、それとも他の能力か―――
 目をつむりかけた瞬間、物凄い力で横から引っ張られた。
視界の端で、不定形のスタンドがアスファルトを溶解させるのが見えた。
もう一瞬遅れていたら、茂名もそうなっていただろう。
そのまま数メートル上へと持ち上げられ、ビルの壁面に着地する。
「遅いぞ…」
「アメリカンコミックス・ヒーローみたいに、『ジャジャーン!待ってましたー!!』って出てくるのが真打ちって奴だよ」
 柔和な顔。呑気そうな声。そして、丸い耳。
少年が路地の両脇にそびえるビルの窓枠に指を引っかけて、茂名を担ぎ上げている。
「…マルミミ…」
「Yes・I・a〜m.チッ!チッ!チッ!」
老人の呟きに答えるように、B・T・Bが具現化して人差し指を上下に振った。
「ビート・トゥ・ビートッ!」
「Yes!」
 マルミミの叫びに応え、B・T・Bが茂名の心臓に拳を打ち込んだ。
呼吸の出来ない茂名の代わりに、心臓のリズムを調整。
波紋の鼓動と同じリズムで折れた肋骨を修復、呼吸を回復させる。
「大丈夫?おじいちゃん」
「…うむ。助かった」
 とっ、と壁面を蹴り、男達の前に降り立つ。
マルミミが軽く腕を振ると、ジャケットの裏に吊ってあった警棒が小気味よい音と共に伸びた。
「そのピエロがテメェの『スタンド』か…?」
不定形のスタンド使いが、マルミミのB・T・Bを睨んで言った。
「そうだよ。『ビート・トゥ・ビート』と名付けてる」
「…オイ、お前はその爺ィ殺れ。俺はコイツと」
「おう」
 言葉が終わるか終わらないかのうちに、人間形のスタンド使いが茂名へと突っ込んできた。
「おじいちゃん!」
「ぐっ…!?」
  腕を交差させて拳を受け止めたが、予想以上の重さに表情を歪める。
「テメェ…質量百キログラムの拳を受け止めるとは只モンじゃねぇな?」
「何、今どき流行らん『古武術』というヤツじゃよ。…ところで参考までに聴かせてもらうが―――貴様…今まで何人殺した?」
「テメェは今まで食った飯粒の数覚えてんのか?しぃ族の命なんざそんなモンだよ」
 その言葉に、ぎり、と奥歯が鳴った。
「外道めが…!」
 マルミミの能力で応急処置が出来たとはいえ、呼吸の度に鈍い痛みが胸を刺す。
だが、負けるわけにはいかない。許すわけにはいかない。
緩やかに息を吐き、痛みを押さえつける。
「貴様には空気を吸う資格すらない…解体してやろう!」
 一声強く言い放ち、地面を蹴った。

652丸耳作者:2004/01/07(水) 02:47
           ∩ ∩ 
          (  ´o) Coooooo…… 
           (つ  つ
           ( )ヽヽ
              (_) (___)
  
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  能力名   茂名式波紋法                           ┃
┃  本体名  茂名 初                                 ┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  パワー - B    ┃  スピード - B    ┃ 射程距離 - E〜C ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - C.    ┃ 精密動作性 - B  ┃   成長性 - E.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 呼吸法によって、生命のエネルギー『波紋』を操る。            ┃
┃ 戦国時代にチベットから伝わった波紋法に、             ┃
┃ 茂名の先祖が古流武術をかけ合わせた物。              ┃
┃ 一子相伝を守られ、現在の茂名は八代目にあたる。.          ┃
┃ 戦場で使われるバリバリの殺人武術なので、               .┃
┃ マルミミには空手に毛の生えた程度の事しか教えていない。.     ┃
┃ 壁に張り付いたり水の上に立ったりと、結構汎用性は高い。  .   ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


           ∩ ∩ 
          ( ´д)      ∧_∧
          (つ  二二二つ(゚д゚; )
         /// )     ⊂   つ
          (_/ (__)     // /
                  (_(__)

        茂名式波紋法『蛇咬』

653新手のスタンド使い:2004/01/07(水) 18:23


654N2:2004/01/07(水) 22:31
乙です。

655:2004/01/09(金) 00:50

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ツーチャンはシンデレラに憧れる・その6」

 
「うう…」
 俺は目を覚ました。
 …ここはどこだ?
 学校の保健室?
 …いや、保健室なんかより遥かに上級なベッドに俺は寝かされていた。
 壁や床も、驚くほど綺麗だ。

「…?」
 俺は顔を上げる。
「もう、いいみたいだね!」
 俺の横には、俺と同い年くらいの元気そうな少女が椅子に座っていた。
 猫の顔を模した、妙な帽子を被っている。
「ここは、どこモナ…?」
 俺はその少女に聞いた。
「ASAの医務室ですよ!」
 元気たっぷりに答える少女。
 どうでもいいが、この娘もかなり可愛い。
 『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加…っと。

 あれ…?
 そう言えば、体が全く痛くない。
 右肩なんて、完全にベキベキだったはずなのに…
 俺は右手をグルグルと回した。
 不思議な事に、違和感は全くない。

「私の能力で治しますた」
 少女は、妙ななまりで言った。
「大変だったんですよ。折れた肋骨が肺に損傷を与えてて…」
 俗に言う、『折れた肋骨が肺に突き刺さったー!』ってやつか。
 少女は、すっくりと立ち上がって言った。
「じゃ、ついて来て下さい」
「えっ?」
 困惑する俺。
「しぃ助教授さんから、大切な話があるそうです。もう立てますよね?」
 その点は、全然問題ない。
 身体の痛みは嘘のように消えていた。
 リナーのスタンドの治癒能力は副次的なものだが、この少女のスタンド能力は、本当に『治して』しまうものらしい。
「じゃ、行きますよ」
 少女は、ドアの前に立った。
 ウィーンと左右に開く自動ドア。
 少女の後について、廊下に出る俺。
 どうやら、ここは近代的な高層ビルのようだ。
 窓から、町の風景が一望できる。
 ここは30階といったところか。
 駅前に、一夜にして巨大なビルが建ったというふざけた話を聞いたことがあったが、ASAが絡んでいたのか…

 エレベーターの前で立ち止まる少女。
 そして、くるりとこちらを振り向いた。
「三幹部の部屋は、最上階の100階にあります」
「偉い人って、最上階が好きモナね…」
 にこりと笑う少女。
「煙とハサミは高い所が好きですからね…」
 何か、とんでもない事を口走っている。

「とにかく、このビルの100階にしぃ助教授さんはいます。
 そして、10階ごとに番人がいるのです。その番人を倒さない限り、上の階には行けません」
「そんな、冗談モナ!?」
「冗談ですた。では、行きましょうか」
 エレベーターの扉が開く。
 俺と少女は、エレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターはガラス張りで、町が一目で見下ろせる。

 高速で上昇するエレベーター。
 俺は、外の風景を見上げていた。
 この町に『アルカディア』は潜んでいる。
 そして、『蒐集者』。あいつは、何なんだ…?

656:2004/01/09(金) 00:51

「100階です…」

 階数を告げる機械音声。
「私の声色ですた」
 すかさず少女は言った。
 さっきから、この少女の言動は微妙にズレている。
 可愛いが、ちょっと変わった娘だ。
 エレベーターの扉が開く。
 ダダっ広い廊下が一直線。その突き当たりに扉がある。

 少女は、その扉をノックした。
「ねここです。モナーさんを連れてきますた」
「…入りなさい」
 しぃ助教授の声。
 ねここと名乗った少女は、ドアを開けた。

 予想に反して、中は普通のオフィスだった。
 ただ、窓からの眺めは絶景だ。
 オフィス中央に来客用と思われるソファーがある。
 しぃ助教授は、重役っぽく手を後ろに組んで外を眺めていた。
 立てかけているハンマーが違和感バクハツだが。
「どうぞ、座って下さい」
 俺の姿を認めると、しぃ助教授は口を開いた。

 その言葉通り、俺はソファーに腰掛けた。
 湯気が出ている紅茶が、俺の前にあらかじめ置いてある。
 しぃ助教授は、少女の方を向いて言った。
「で、ありすはどうしてます?」
「戻ってすぐにおやすみです」
 少女は答える。
「そうですか… では、貴方は下がっていいですよ」
「分かりますた」
 少女はぺこりと一礼すると、この部屋から出て行った。

 しぃ助教授は、俺の対面に座る。
「お茶、飲んでいいですよ」
 そう言ったしぃ助教授も、自分の紅茶をすすっている。
 俺は、少女が出て行ったドアを見ながら訊ねた。
「…あの子は誰モナ?」
 しぃ助教授はニヤニヤと笑う。
「気に入ったんですか?」
「ちちち違うモナ! モナにはリナーが… いや、リナーともそんなんじゃなくて…」
 自分でも、何を言っているのか分からない。
「若いっていいですね。あの娘はねここ。三幹部の一人、ありすの補佐役です」
 『ありす』っていうのは、名前からして女の子の方だろう。
 筋肉ニワトリの名が『ありす』だったら、夢に出そうだ。
「あの娘は、ASAでも稀有な『治癒』のスタンド能力を持っています。
 ねここのおかげで、あなたは今ここでお茶を飲んでいられるんですよ」
 そりゃ有難いことだ。礼を言うため、後で電話番号でも聞いておこう。
「で、治療費は8千万円です」
 さらりと言うしぃ助教授。
 俺は紅茶を噴き出しそうになった。
「な… 金取るモナ!?」
 しぃ助教授は笑顔を見せた。
「命に比べりゃ、はした金でしょう? まあ、特別にタダにしときますけどね」
「それは助かるモナ…」
 俺は胸を撫で下ろした。
 高校生のミソラで8千万はキツ過ぎる。
「で、本題といきましょう。この町に、『アルカディア』が潜んでいるのは知っていますね?」
 俺は頷いた。
「まさか、いよいよ奴が本格的に動き出したモナか…?」
 しぃ助教授は首を振った。
「いいえ、その逆です。静かすぎるんですよ、『アルカディア』は…」
 静か?
「でも、前にも吸血鬼による殺人が…」
 しぃ助教授は、俺の言葉を遮った。
「報道はされていませんが、1日に1人は血を抜かれた死体が見つかっています。
 ですが、『アルカディア』による被害は本来ならそんなモノでは済まないんですよ。
 1週間もあれば、人口5万人程度の町なんて壊滅しててもおかしくないんです。
 ですが… この町は平和そのもの。確認されている『空想具現化』の影響といったら、
 『矢の男』の出現だけなんです」
 あと、俺は殺人鬼の影とやらを見たことがあるが。
 確かに、この町に脅威が迫っていると聞かされながら1週間が経つが、特に変化はない。
「じゃあ、この町にはいないとか…?」
「それもありえません。詳しくは言えませんが、この町に潜伏しているのは確かです。
 しかし、24時間通して偵察衛星で監視していますが、その姿は捉えられない。
 ここからは推測ですが… まず、『アルカディア』には町を壊滅させる以外の目的がある。
 そして、奴はASAが所有している偵察衛星の存在を知っています」

657:2004/01/09(金) 00:52

 それは、つまり…!
「誰かが、糸を引いている…って事モナ?」
「その通りです」
 しぃ助教授が頷いた。
「そもそも、なぜ『アルカディア』はこの町に来たんでしょうか。『異端者』からは、そこら辺を聞いていますか?」
 俺は首を振った。
 リナーは、ただ『アルカディア』を追っているとしか言わなかった。
 しぃ助教授はカップをテーブルに置いた。
「『アルカディア』の本体が吸血鬼で、本体そのものは遥か昔に滅ぼされた事は聞きましたね。
 ですが、スタンドは死なずに残ってしまった。何とか捕獲したものの、ASAと『教会』の間でモメたようです…」
「『ようです…』って、しぃ助教授はその時はいなかったモナか?」
 ムッとした表情を見せるしぃ助教授。
「150年も前の話ですよ…! 私はまだ生まれてもいません!」
 身体がムズムズする。
 怒られるだろうが、気になって仕方がない。
 俺は心を決めると、その質問を口にした。
「しぃ助教授って、何歳モナ?」
「話の腰を折った上に、無礼極まりない質問ですね…! まあ、11番目の素数とだけ言っておきましょうか」
 落ち着け… 素数を数えろ…
「で、話を戻しますよ。150年前、『アルカディア』の処遇についてASAと『教会』がモメたんです。
 本来なら、スタンド関係はASAの管轄なんですが… 
 本体の吸血鬼は『教会』が抹殺した事もあって、『アルカディア』の処遇は『教会』に委ねられたんですよ。
 それから、『アルカディア』は『教会』の地下深くにずっと幽閉されていました…」

 待てよ、それじゃあ…
 しぃ助教授は、口を開いた。
「『教会』は、狩人と追っ手を同時にこの町に放ったんです…」
 この町に潜伏している『アルカディア』。
 それを追ってこの町に来たリナー。
 両者とも、『教会』が送り込んだだって…!?
「リナーが嘘をついてるとは思えないモナ…」
 俺はそれだけを言った。
「それは私も同感です。おそらく、『異端者』自身も満足な情報は持たされていない。
 だからこそ、『異端者』が先鋒に選ばれたんでしょう。『教会』の操り人形で、他の代行者との接触も少ない…」
 リナーが操り人形…?
「それは、どういう事モナ?」
 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方は、ことごとく話の腰を折ってくれますね。
 …まあいいでしょう。少し、『異端者』の話をしましょうか。
 今から3年前、ヨーロッパのある田舎町が吸血鬼に乗っ取られたんです。まあ、それ自体はよくある事なんですが…
 ゾンビの中に、生前にスタンド使いだった人がいたんで、ASAにも要請が来たんですよ。
 それで私が行ったんですが、その時に『異端者』と初めて会いました。
 彼女は… 当時から無愛想でしたね。しかも、『ASAの助けはいらない』『引っ込んでろ』の一点張り…!」

658:2004/01/09(金) 00:53

 その情景が目に浮かぶようだ。
 しぃ助教授は、その時の様子を思い出しているのか、少し不機嫌そうである。
「それで結局、私が譲歩したんです。
 たかだか15かそこらの小娘ですから、すぐに泣き言を抜かすと思っていました。
 ですが、彼女はやってのけましたよ。その時の戦い振りは、凄まじいものでした。
 いや、戦いとは言いませんね。あれは一方的な虐殺に等しい。
 人口2000人足らずの小さな町だったんですが、生者・死者を問わずに皆殺しです」
 
「生者・死者を問わず…って!」
 俺は思わず口を挟んだ。
「そうです。彼女が殲滅した者の中には、明らかにゾンビにはなっていない人間も混じっていました。
 私も憤慨して問い詰めましたよ。なんで、罪もない人間まで皆殺しにしたのか…とね」
 それに対する返答は聞くまでもない。
 しぃ助教授は口を開いた。
「『異端者』は涼しい顔で答えましたよ。『任務だから』とね…
 おそらく、彼女は『教会』が死ねと命令したら死ぬでしょう。
 あそこまでいくと、狂信と言うよりも、意思を放棄したと言ったほうが近いですね。
 その後に調べたんですが、『異端者』の出生も経歴も謎に包まれています。
 学校に通っていた記録もないし、国籍もない。
 代行者になれるほどの素質を持った人間ならば、どこかでASAの目についているはずなんですがね…」
 俺は、リナーに不信感は持ちたくない。
 いや、持つ事ができない。
 それに、意思など放棄しているようには見えないが…
「リナーは、モナの前ではそんなんじゃないモナ…」

 しぃ助教授はニヤニヤと笑った。
「そうでしょうねぇ。数日前に、久々に『異端者』と顔を合わせた時、本当に驚きましたよ。
 早朝に『異端者』からASA本部に連絡があったんです。
 『強力なスタンド使いが現れたので、支援を要請したい』とね…
 そりゃ、気が重くなりましたよ。またあの仏頂面に顔を合わせないといけないのか… なんて思いながら。
 で、いざ顔を合わせてみたら…、隣に彼氏はいるは、『異端者』って呼ぶなと言い張るは…
 恋する乙女に早変わりでしたね。…まあ、無愛想は相変わらずでしたが」

「モモモモナはかか彼氏なんて大層なものじゃないモナ!」
 俺は動揺した。
「その時はそう思ったって話ですよ。
 でも、『教会』への忠誠を生きる糧にしていた彼女が、『教会』での名前を呼ぶなとまで言ったんですから…
 下品な言い方ですが… 一体、どうやって彼女をオトしたんですか?」
 俺は、慌てまくった。
「モ、モナは特に何も…!」

 不意に、しぃ助教授は厳しい顔に変わった。
「ですが、彼女はやめておきなさい。貴方は、相当に彼女がお気に入りのようですが…
 不幸になるだけですよ。彼女も、貴方も…」
 
「何でそんな事が分かるモナ…?」
 俺はしぃ助教授を睨んだ。
「不幸になるかならないかなんて、横から言われる筋合いはないモナ!!」

 しぃ助教授はソファーから立ち上がった。
「その通りです。ですが、貴方と『異端者』が親しくなる事によって、大きな災いが振り撒かれるとしたら?
 貴方達の存在によって、多くの人が死に瀕するとしたら…?」
 俺は笑った。答えは言うまでもない。
「もしそうなったら、俺とリナーでその災いとやらを沈めるモナ」

 ため息をつくしぃ助教授。いつの間にか、その表情は柔和なものに戻っている。
「貴方の思いは分かりました。そこまで言うのなら、私は口を挟みません。
 貴方は絶対に… どんな事があっても、『異端者』を離してはいけませんよ。
 もし彼女を投げ出すようなら、私がこのハンマーで貴方を叩き潰しますからね…」
 しぃ助教授は、部屋の隅に立てかけていたハンマーを持ち上げた。
 日光が当たってキラリと光るハンマー。

「そんな事は絶対にありえないモナ。モナは、リナーを離したりはしないモナ」
 俺は断言した。
 ここまで来て、リナーとそのままお別れなんてありえない。
「若いっていいですね〜!」 
 再び、ニヤニヤするしぃ助教授。
「…っと、いつまでもこんな話をしている場合ではありませんね。話を戻しましょうか。
 え〜と、どこまで話しましたっけ…」
 突然、真横に丸耳が現れた。
「『アルカディア』を送り込んできたのも、『教会』というところです」
「あ、そうでしたね…」
 おそらく、彼がしぃ助教授の補佐役なのだろう。
 というか、補佐役の仕事ってこんなんなのか…?

659:2004/01/09(金) 00:53

 沈黙の後で、口を開くしぃ助教授。
「で、私の直感に過ぎませんが… 『異端者』は、多くを知らされていません。おそらく、彼女も利用されています」
 多分、俺もそう思う。
 しぃ助教授は話を続けた。
「それで『教会』の思惑なんですが… これが、よく分かりません。ここで『蒐集者』の存在が絡んできます」

 …『蒐集者』!
 つーとじぃを実験体にした、あの化物か…!

「彼も代行者の一人でしたが、今は『教会』から離反しています。その能力は、貴方も見ましたね…?」

 いや、見たは見たが… 再生したり燃やしたり重くしたり、いろいろありすぎだ。
「スタンド能力って、一つじゃないモナか…?」
 その質問に、しぃ助教授は答えた。
「一つですよ。『蒐集者』のスタンド『アヴェ・マリア』の能力は、特性の同化です」

 …特性の同化?
 しぃ助教授は、説明を補足した。
「平たく言えば、他者の能力を自分の物にしてしまえるって事ですよ。いや、能力に限りません。
 他の生物の特性や、無機物の特性をも自らに同化できるようです。あの再生力は、おそらく単細胞生物のものでしょうね…」
 それは、脅威の能力ではないか?
「スタンド能力でも同化できるモナか…?」
 俺は訊ねた。
「ええ。『蒐集者』は、様々な特性・性質をその身に同化させています。
 スタンド能力、その他の異能、物質の性質を問わずにね。だからこそ、『蒐集する者』なんでしょう」

 そう言えば… さっきの戦いで、倒れた俺にやろうとしていたではないか。
 あの時に俺が抵抗しなかったら、奴には便利な目がついていた訳か…
 今さらながら、俺は胸を撫で下ろした。
 その時、『意識の強い相手に、余りやりたくはありませんが…』と言っていたはず。
 俺はその事を告げた。

 口許に手をやるしぃ助教授。
「特性を自分のものにしてしまうといっても、例えばスタンド能力だけを奪い取るといった器用な事はできないようです。
 奪い取る際、いろいろと余計なものまで同化してしまうのでしょうね。
 彼の本体もスタンドも、完全に変成してしまっている。
 『蒐集者』は、余りにも色々なモノをその身に同化しすぎた。おそらく、意識なども混成しているのでしょう。
 それが、元の『蒐集者』の人格にも影響を及ぼしているようですね。人格が破綻しかけているのも、その為です…」

 俺は、『アウト・オブ・エデン』で奴の様子を視た時の事を思い出した。
「あいつは、真っ黒に塗り潰されてるように視えたモナ…」
 俺は呟いた。
 『蒐集者』は無敵なんかじゃない。そんなものじゃない。
 奴の内部は、混ざり過ぎてもうグチャグチャなんだ。
 あいつは、もう壊れている…

 しぃ助教授は口を開いた。
「では、『蒐集者』自身の話をしましょう。少し話が飛びますが、『教会』が組織として成立したのは1600年前の事です」
 俺は驚愕した。
「そんなに『教会』は古いモナか!?」
「吸血鬼は太古の昔から存在しましたからね。もちろん、スタンド使いもそうですが。
 『教会』の歴史は、吸血鬼との闘争の歴史です。当然、強い戦力が必要となります。
 常に『教会』には、その時代の最新の技術と最強の兵力が存在していました。
 もっとも、現在はかなり規模縮小していますがね」
 確か、『矢の男』との戦いに赴くヘリの中でしぃ助教授自身が言っていた。
 『教会』は、古めかしい戦い方に固執していると…

660:2004/01/09(金) 00:54

「とにかく、いつの時代でも『教会』は戦力を求めていたんです。まず、『教会』は波紋法に目をつけました。
 波紋法は『教会』の庇護を受け、その種類や用途も発展・洗練されていきました。
 しかし、それではまだ足りません。ゾンビ程度ならともかく、吸血鬼相手に波紋法のみでは荷が重い…
 吸血鬼は石仮面で簡単に仲間を増やせるのに比べ、一人前の波紋使いになるのは長く険しいですからね。
 一人の波紋戦士が、一匹の吸血鬼と互角程度では、とても間に合いません」

 俺は少し気になった。
「間に合わないって… 昔はそんなに吸血鬼が多かったモナか?」
 しぃ助教授は首を縦に振った。
「中世あたり、吸血鬼は一大勢力を築いていたようです。当時の伝承も吸血鬼に関するものが多いでしょう? 
 一人で数十匹の吸血鬼を葬るほどでないと、全ての吸血鬼を殲滅するには計算が合わなかった。
 次に『教会』が目をつけたのが、生命エネルギーのヴィジョンを自在に操る存在… スタンド使いです。
 優れたスタンド使いを養成し、対吸血鬼戦の訓練を施す… これが、代行者の始まりです」

 代行者…!
 卓越した暗殺技術と、強力なスタンドを併せ持った存在に与えられる称号。
「当時は500人近くの代行者が存在しましたが… 
 時代が進み、吸血鬼が駆逐されていくにつれ、少数精鋭のシステムへと移行していきました。
 それで、現在の代行者の数は9人に落ち着いている訳です。『蒐集者』が離反したので、正確には8人ですかね…」
 現在の代行者は8人か。
 リナーとキバヤシしか知らないが、あのキバヤシがそんな大層な人物だとは思えない。
 そういえば『守護者』って言うのも、名前だけは聞いたことがあった。
 波紋を物質に固着させる『シスタースレッジ』というスタンドで、武器の法儀式を担当しているいという…

 しぃ助教授は話を続ける。
「そんな風に、『教会』は常に強力な戦力を求めてきました。
 そして今から800年前、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトが『教会』内で発案されたんです」
 最強のスタンド使いを人工的に造る?
「でも、800年も前にそんなことが出来るはずないモナ…」
 俺の言葉を受けて、しぃ助教授が頷いた。
「そう。バイオテクノロジーどころか、遺伝子の存在なんて明らかになっていない時代です。
 『教会』は、最も原始的な手段を使ったんですよ。それこそ、完成まで何百年もかかる手段をね…」
 原始的な手段…?
 俺は首を傾げる。そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「優秀なスタンド使いを集めて、交配させたんです。
 そして、生まれた子をさらに優劣で選り分け、さらに交配を繰り返させました
 それを、何百年も繰り返す… それが、最強のスタンド使いを人工的に造ろうというプロジェクトです」

 俺は思わず机を叩いて立ち上がった。
「馬鹿げてるモナ…! 牛や馬じゃあるまいし、そんな家畜みたいな事を…!
 それに、そんなことしたって、血が濃くなるだけで…!」

 しぃ助教授は落ち着いて言った。
「その通りです。人を人だとすら思っていない。
 強制されたのか、すすんで協力したスタンド使いがいたのかは今となっては分かりません。
 ですが、非人道的な手段であった事は確かでしょう」
 しぃ助教授は話を切って、カップを啜った。
 そして再び口を開く。
「そもそも、『最強のスタンド使い』というコンセプトが間違っていたんです。
 『最強』というのは結果であり、最初から与えられたものではないんですから…
 そのプロジェクトは、1000年単位で実行される予定でした。気の遠くなる話、では済みませんね。
 それだけ長ければ、プロジェクト実行者も30回は代替わりするでしょう。
 至福千年ともじったのか、それとも際限無く続けるつもりだったのかは分かりません。
 当然、近親相姦を繰り返し、奇形児が多く産まれました。
 近年になると、プロジェクトの継続すら困難だったようです。
 しかし、そんな腐ったプロジェクトで産まれた… いや、産まれてしまった異能者がいた。
 それが…『蒐集者』です」

 俺はため息をついた。
 嫌になる話だ。
 極端に濃くなった血統が導いた異能。
 それが、『アヴェ・マリア』と『蒐集者』。
 800年をかけて『教会』が精製した最強のスタンド使い。
 それが、あんな精神破綻者。自分を保つ事すらできやしない化物。
 無様な話だ。
 俺は机に肘をついて、頭を抱えた。

661:2004/01/09(金) 00:55

 しぃ助教授は口を開く。
「で、現在の話なんですが… 『蒐集者』は『教会』を離反したとはいえ、完全に切れたわけではないようです。
 彼が『教会』と組んで何かを画策しているのでしょうね…」
 あいつは、実験をしていると言っていたのだ。
「『蒐集者』は、究極の『BAOH』を造るって言ってたモナ」
 しぃ助教授は頷いた。
「彼は、どうやら生体兵器を重点的に研究しているようですね」
 俺はソファーから立ち上がった。
「あいつ、量産が前提とか言ってたモナ…!!」
 あんなものが一杯いたら、町が壊滅するだけじゃ済まない。

 しぃ助教授は、カップを机に置いた。
 中身はすっかり空になっている。
「『蒐集者』が何を企んでいるのかは分かりませんが、少なくとも人の世の為にならない事は確かですよね。
 奴の企ては絶対阻止です。当面、ASAは『蒐集者』を追いますが…
 貴方も、『矢の男』も、『蒐集者』に能力を奪われないようにして下さい。
 『アルカディア』探しよりも、そちらを優先する事。分かりましたね?」
 俺は頷いた。
 俺の能力ならともかく、奴が『アナザー・ワールド・エキストラ』を得たらとんでもない事になる。
「本当は貴方達も隔離したいんですが、どうせ反抗するでしょう…?」
「当たり前モナ」
 俺はきっぱりと言った。そんなのはゴメンだ。
 そんな俺の様子を見て、しぃ助教授は口を開いた。
「ギコやモララー、しぃにもこの話は伝えてあります。あと、レモナとつーも無事ですよ」
 …そうか。俺は胸を撫で下ろした。

「それで、キバヤシは?」
 俺は訊ねる。
「そう言えば、モナが気絶する瞬間に、殺気を感じた気がしたモナ…」
 しぃ教授の顔が、一瞬強張った。
 まさか…!!
「…殺したモナか…?」

 しぃ助教授はため息をついた。
「貴方の前では隠せませんねぇ… 欲を言えば殺しておきたかったんですが、逃げられてしまいました」
 俺は胸を撫で下ろした。あんなヤツでも、殺されたら寝覚めが悪い。
 同時に、嫌な気分になる。
 しぃ助教授は嫌いではないが、簡単に人を殺すの殺さないのという物言いは好きになれない。
「『解読者』は、『教会』や『蒐集者』に不信感を持っているようでしたがね…」
 しぃ助教授は呟いた。
 だからこそキバヤシは、『蒐集者』の周囲を探っていたのだろう。

「…まあ、話はこんなところです。あと、ここでの話は『異端者』に伝えないようにして下さい」
「えっ? リナーには黙ってろって事モナか?」
 俺は隠し事が得意ではない。
「彼女にこれらの事実を伝えれば、必ず『教会』に確認を取ろうとするでしょう。
 そうなれば、彼女の身が危ないかもしれません…」
 そう言われたら、リナーに伝える訳にはいかない。

 しぃ助教授が指を鳴らした。
 ドアが開いて、ねここが顔を出す。
「彼を家まで車で送ります。ねここ、モナー君を1階まで連れて行ってあげて下さい。私もすぐに行きますから」
「はい! じゃ、こっちへ…」
 ねここは元気よく返事をすると、俺を部屋の外へ連れ出した。
「じゃあ、戻りましょうか」
 俺達は広い廊下を進んで、エレベータに乗り込んだ。

662:2004/01/09(金) 00:55


          @          @          @



 モナーは扉から出て行った。
 部屋には、しぃ助教授と丸耳が残される。

「…甘いと思いますか?」
 しぃ助教授は呟いた。

「…はい」
 丸耳は頷く。
「…ですが、仕方ないでしょう」

 しぃ助教授はため息をついた。
「モナー君は、殺気そのものは感じたようですが、『解読者』に向けられたものと勘違いしたようですね。
 まったく、鋭いのか鈍いのか…」
 丸耳は表情を崩さずに言った。
「彼は、我々を信用しきっているんでしょう…」

 しぃ助教授は窓の傍に歩み寄ると、町の全景を見下ろした。
 そして、重い声で丸耳に訪ねた。
「…で、配備は終わりましたか?」
 その言葉を受けて、丸耳は書類を取り出す。
「はい。2コ戦車師団、2コ空挺師団、1コ政経中枢防衛師団、1コ戦略機動師団、1コ空中機動旅団、1コ重爆撃連隊、
 1コ戦術航空軍が配備完了しました。並びに、第14艦隊及び潜水艦隊が太平洋上に展開しています。
 ICBM60基の調整も終了。衛星兵器『SOL-Ⅱ』も軌道上に配置しました」
「動かす機会が無い事を期待したいですねぇ…」
 しぃ助教授はしみじみと呟いた。
「…全くです」
 丸耳は書類を仕舞い込む。

 しぃ助教授は振り返ると、丸耳の方を向いた。
「彼、『異端者』を離さないと言い切りましたね…。もう、何を言っても聞かないでしょう。
 本当なら、あの返答を聞くと同時に殺してしまうべきだったんでしょうね…」
「…殺さなかった事を、後悔しているのですか?」
 しぃ助教授の視線を受けて、丸耳は口を開いた。
「そう見えますか?」
 しぃ助教授はおどけて言う。
 丸耳は軽く微笑った。
「いいえ、殺さなかった事を喜んでいるように見えますが」

 ふと笑って、しぃ助教授は再び窓の外を見た。
「彼らが普通の男と女なら、素晴らしいハッピーエンドだったのに…
 モナー君は、どんなことがあっても『異端者』を愛し続けるのでしょうね…」
 丸耳が無表情で口を開く。
「ねここに、電話番号を聞いているようですが…」
「…若いですね…」
 しぃ助教授は、それっきり口をつぐんでしまった。



          @          @          @



 俺とねここは1階に降り立った。とても広いホールである。
 つかつかと進むねここ。俺はその後に続く。
 ブースの前を通りかかった。
 無言で頭を下げる受付嬢。ねここも黙って会釈する。
 ここだけを見ると、典型的なオフィスビルだ。
 俺とねここは、そのままビルから出た。

「もうすぐしぃ助教授さんが来ますので、少し待ってて下さい」
「分かったモナ…」
 俺は、天高くそびえ立っているビルを見上げた。
 たった1日で、どうやってこんなものを建てたのだろうか。
「これを建てたのも、誰かのスタンド能力モナ?」
 俺はねここに訊ねた。
 ぷるぷると首を振るねここ。
「違います。本部のビルを、そのままこの町へ移動させたんです」
 …そんなとんでもない事をしたのも、誰かのスタンド能力だろう。

 クラクションが鳴った。
 ビルの駐車場からベンツが走ってくる。
「高級車モナね…」
「頑丈だからです。贅沢してる訳ではないのです」
 笑うねここ。
 俺達の前でベンツは停まった。
「じゃあ、乗って下さい」
 しぃ助教授が運転席から呼びかける。
 俺は、助手席に乗り込んだ。
「じゃあ、またモナ…」
 ねここに別れを告げる俺。
 それを受けて、ねここは手を振った。
「じゃあ、行きますよ」
 俺の返事を聞かず、車は発進した。

663:2004/01/09(金) 00:56

 正直、俺の家はここから近いので、車で送ってもらうまでもないのだが。
 運転していたしぃ助教授が、俺にメモを渡してきた。
「私の携帯の番号です。何かあったらすぐに連絡してください。まあ、私の番号をもらっても嬉しくないでしょうけどね…!」
 俺は無言で謹んで受け取った。
 迂闊な事を言うと、どうなるか分からない。車はかなりのスピードが出ている。
 このままガードレールとクラッシュしても、助かるのはしぃ助教授だけだ。
 俺は話題を変えた。
「そう言えば、『蒐集者』はリナーを殺すって言ってたモナ…」
「しばらくは、『蒐集者』も動けないはずです。私達ASAが目を光らせているし、この国の公安五課も彼を追っています。
 彼がこの地で実験とやらを行っている以上、実験場を失う真似はしないでしょう」

 しぃ助教授は、俺の家のすぐ近くの交差点で車を停めた。
「では、私が送るのはここまでです。家まで車で乗り付けてしまえば、『異端者』にバレてしまいますからね…」
 不倫してるんじゃあるまいし…
「じゃ、無理は控えるようにして下さい。何かあったら連絡して下さいね」
「分かったモナ。今日はいいろいろありがとうモナ」
 俺は頭を下げる。
 そのまま、ベンツは走り去ってしまった。


「ただいまモナー!」
 やっと家に帰ってこれた。
 玄関先には、リナーがいた。
 俺の帰りを待っていた… 訳ではないようだ。
 これから出かけるところだったのだろう。

「ああ、お帰り」
 リナーは無愛想に言った。
 ガナーの靴が無い。まだ学校だろう。
 そういえば、カバンはつーの家に置いてきてしまったようだ。

「…?」
 リナーは、じっと俺の顔を見ていた。
 そして、俺の頭に手を差し伸べる。
 …何だ?
 リナーは、俺の頭から何かをつまみ上げた。
 そして、それをじっと見た後、無造作に握り潰した。
「…今のは何モナ?」
「極小の盗聴器だ。ここまで小型化されてるとなると、ASAの仕業だろうな…」
 そんなもの仕掛けられてたのか…
 俺は全然気がつかなかった。
 リナーは眉を吊り上げる。
「それにしても… 頭のてっぺんにこんなものを付けられて気付かないなんて、君はどれだけ鈍いんだ?
 『アウト・オブ・エデン』を持っていながら、どれだけ隙が多いんだ…」
「ごめんモナ…」
 しょんぼりする俺。
「私に謝っても仕方がない。君のために言ってるんだ」

 どうでもいいが、この家の中はすごく空気が悪くないか?
 何かとても息苦しい。
 俺は靴を脱いで、家に上がった。
「とにかく、今日は大変だったモナよ…」
「何かあったのか?」
 聞き返してくるリナー。
 しまった。ASAでの事は口止めされてたんだった。
 『蒐集者』と戦った事も伏せておくべきだよな…

「キバヤシ… 『解読者』に会ったモナよ」
 仕方ないので、当たり障りのない話題をあげる。
 しかし、リナーは顔色を変えた。
「…『解読者』に会っただと…!?」
「そんなに驚く事モナ? あいつは、ただの馬鹿変人モナよ」
 それにしても、ここは空気が悪い。リナーは平気なのか? 
 換気した方がいいような気がするが…

「ただの馬鹿なものか…! 『解読者』は、戦闘技術こそ高くはない。だが、そのスタンド能力は手に負えないんだ。
 代行者の中で一番多く吸血鬼を狩っているのは奴なんだぞ…?」
 あのキバヤシが?
 デカい口を叩いたあげく、つーにボロボロにされていたではないか。
 リナーは言葉を続けた。
「あいつの能力は、ASAから封印指定を受けているんだ。
 代行者の中でも、封印指定のスタンド能力を持っているのは『蒐集者』と『解読者』だけだ。
 『矢の男』の例を見れば分かるように、封印指定レベルのスタンド能力というのは、持っているだけで抹殺の対象になる。
 だが、ASAですら奴には手が出せなかったんだぞ!」
「そんなにキバヤシは強いモナか…?」
 俺は思わず呟いた。
「強くはない。ASAの三幹部レベルと比べたら、戦闘能力では遥かに劣る。
 だが、そもそも奴は戦う必要すらないんだ。奴の武器は言葉だからな…!」
 では、つーになす術もなくやられたのは演技?
 いや、とてもそうは見えなかった。
 …あの時のつーは『BAOH』化していた。
 聴覚も視覚も破棄して、触角からの感覚のみに頼っていたのだ。
 その『言葉』が通じなかったのではないか?

664:2004/01/09(金) 00:56

 空気の悪さに耐えられなくなった俺は、玄関のドアを開けた。
 換気しなけりゃやってられない。
 外には、キバヤシが立っていた。
 これで、空気の悪さから開放される…

「『解読者』…!!」
 リナーは驚愕の声を上げた。
 何を訳の分からない事を言ってるんだ?
 キバヤシなんていないじゃないか。

「久し振りだな、『異端者』…」
 キバヤシは、ゆっくりと玄関に踏み込んできた。
「貴様…!!」
 リナーは一歩下がる。
 それにしても、リナーは誰と話してるんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み出した。
「…近寄るな!!」
 銃を取り出して、構えるリナー。
 キバヤシはジッポライターを取り出すと、そのフタをカチッと鳴らした。

 リナーの銃が、俺の方を向いている!!
 …ちょっと待て、何で俺を狙ってるんだ?
 そうだ。こういう場合は、マガジンを抜けばいいんだ。
 キバヤシに気を取られているリナーの銃に手を伸ばし、俺はマガジンを引っこ抜いた。

 マガジンが下に落ちて、軽い音を立てた。
 …カチッ。

 俺は何をしたんだ?
 キバヤシが、リナーと向き合っていた。
 リナーが銃をキバヤシに向けたが、俺がマガジンを抜き取ってしまったんだ。
 なぜ? 銃は俺の方なんか向いていなかったじゃないか…!
 それに、空気なんて全然悪くない。俺はなんでドアを開けたんだ?

 キバヤシはさらに一歩踏み込んだ。
 リナーを真っ直ぐに見据えている。
「…彼から聞かせてもらったよ。君は午前6時に起床し、午前7時に朝食をとる。
 その際、モナヤのためにパンを焼き、コーヒーを淹れる。昼はちょっと分からん。モナヤは学校に行ってるからな。
 で、午後7時に夕食。それは、モナヤの妹が作る。それから部屋に戻って、武器の整備をした後に読書。
 そして、午後10時に風呂。服を脱ぐ順番から、どこから洗うのかまで聞いているが、モナヤの名誉の為に黙っておこう。
 風呂から上がった後は、午前2時まで読書。それから就寝…だ」
「貴様…!!」
 リナーが唇を噛む。
 キバヤシは両手を軽く振った。
「以上、これがスィッチだ。どれが好みかな…? と言いたい所だが、君を害しに来た訳じゃない。
 今日は、忠告をしに来たんだよ」

「忠告だと…!?」
 リナーはバヨネットを取り出した。
「そんな物騒なもの仕舞っておいた方がいい。そこにいるモナヤを切り刻むハメになるかもしれないぞ?」
 ハッとして、俺に目線をやるリナー。
 そんなリナーの様子を見て、キバヤシは口を開いた。
「では忠告だ。しばらくは大人しくしておいた方がいい。この町には、代行者が全員集まってしまった」
 リナーは驚きの表情を浮かべる。
「全員…だと!? 『アルカディア』一人に、そこまでやる必要があるのか…!?」
 キバヤシは口を開いた。
「そういう類の詮索を禁じる事も含めて、大人しくしていろと言っているんだよ。
 上からの命令なんだ。黙って聞いておいた方がいい」
「…分かった。命令には従おう」
 リナーは悔しそうに言った。

「君が素直でよかった。本音を言えば、俺もスタンド能力を使いたくなかったからな…」
 キバヤシは、ライターをポケットに仕舞った。

「キバヤシ…! モナをだましてたモナか?」
 俺は、キバヤシに言った。
「何の事だ? 君をだました事なんて一度もないぞ?」
 あっさりと答えるキバヤシ。
「だが、俺はMMRのキバヤシであると同時に『教会』の『解読者』でもある。
 それだけは覚えておいてくれないか、モナヤ…」
 キバヤシはそう言って身を翻すと、俺の家から出て行った。

「さっきのは… 一体何モナ…?」
 俺は呟いた。
 リナーはマガジンを拾い上げると、銃に詰め直す。
「君が体験したのが、『解読者』のスタンド能力だ。狡猾にやると、あんなものでは済まないがな…」
 そして、バヨネットを取り出すリナー。

「一つ聞きたいモナ…」
 リナーはバヨネットを軽く回転させた。
「何だ…?」
「なんでキバヤシがいなくなったのに、武器を取り出してるモナ?」

 にっこりと笑うリナー。
「なんで君が、私が風呂に入るときの何やらを知っているんだ…?」
 …どうしよう。
 よし、ここは有無を言わさず逆ギレだ。

「質問を質問で返すなあ――っ!!」


 まあ、なんだ。
 どうせ自分で治すハメになるのに、痛めつけるってのは…
 一生懸命穴を掘って、自分で埋めるようなもんじゃないか?
 薄れゆく意識の中で、俺はそんな事を考えていた。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
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665新手のスタンド使い:2004/01/09(金) 01:35


666:2004/01/10(土) 01:19

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その1」

 
 キーン コーン カーン コーン…

 授業の終わりを告げる、無機質なチャイムが鳴り響いた。
 僕はノートや教科書を素早くカバンに仕舞い込む。

 ハァハァ…

 奇妙な息遣いが聞こえた。
 かなり近い。急がなければ…!
 休み時間になるといつもこうだ。
 まして、今は放課後。
 本格的に奴らが仕掛けてくる…!

 教室の戸が開いた。
 奴がヘラヘラした顔を出す。
「1さーん!」

 来たッ…!!
 その不気味な肢体。ヨダレを垂れ流すキモイ顔。ニュルニュルした動き。
 奴を構成する全てがキモイ。

「キモイヨー!」
 僕はカバンを抱えると、後ろの戸の方向へ駆け出す。
 しかし、僕が向かったはずの後ろの戸は、無情にもガラガラと開いた。
「ハアハア… こっちに来ると思ったよ…」
 奴は、そちらにも回り込んでいた。
 そう。奴は一人ではない。数えた事はないが、810人いるという話だ。

 戸は両方とも、奴らに押さえられてしまった。
 こうなれば、仕方がない。
「はぁっ!」
 僕は、前方に迫っていた奴の股下に飛び込んだ。
 奴らは体格がデカい分、敏捷性に欠ける。
 僕は奴の両足の隙間をくぐり抜けると、猛ダッシュで教室を抜け出した。
 同じクラスの女子が、何やらこっちを見てヒソヒソ話している。
 奴らのせいで、僕まで変な目で見られるのだ。
 クラスの中で僕に話しかけてくる人はいない。

「1さーん! 待ってー!」

 ゲッ、追いかけてきた…!
 僕は階段を駆け下りると、素早く靴を履き替えて校外に出た。
 

 ちらりと後ろを振り向く。
 どうやら、追ってきている気配はない。
 逃げ足の速さには自身がある。
 よく考えれば本末転倒だ。奴らのせいで足が速くなったのだから。
 僕はため息をつく。
 何で、毎日毎日こんな目に合わなきゃいけないんだ…?

 取り合えず、無事にアパートまで帰ってきた。
 僕の部屋は、このアパートの2階にある。
 ドアの鍵を開けて、奴らが来てないか入念にチェックしてから家の中に滑り込んだ。
 そして、すかさず鍵をかける。
 ふう、これで大丈夫だ…
 僕はカバンを置いて、TVをつけた。
 しばらくは一息つけるだろう。
 今日も疲れた…


 …僕は、テーブルから頭を上げた。
 テーブルに突っ伏して寝てしまったようだ。
 時刻は、ちょうど8時。
 TVからは、今日のニュースが流れていた。
 政治家が汚職で捕まったとか、どこかの国で50人近い人達が忽然と姿を消したとか…
 そう言えば、あの連続殺人事件はどうなったのだろうか?
 20人くらい連続で殺され、最後の方には吸血鬼の仕業というデマまで出る始末だ。
 さんざんマスコミで騒いだあげく、パッタリと報道されなくなってしまった。
 何か、変な圧力でもかかったんじゃないだろうな…?
 まあ、僕みたいな一般小市民にはどうでもいい話か。
 
 ピンポーン!
 呼び鈴が鳴った。
 身構える僕。
 だが、奴らはベルを鳴らして入ってきたという前例はない。
 念の為、ドアの覗き穴から覗いてみる。
 何の変哲もない宅急便のおじさんだ。
 背格好も、奴らとは違いすぎる。
「はーい」
 僕はドアを開けた。
「荷物です… よっこらしょっと!!」
 おじさんは、玄関先にその荷物を置いた。
 やけに重そうだ。何だろうか?
 とにかくハンコを渡す僕。
 手続きを済ますと、おじさんは礼をして去っていった。

 とりあえず、荷物を居間まで運び込む。
 メチャクチャに重い。中身は何なんだ?

667:2004/01/10(土) 01:20

「誰からだ…?」
 送り先の名前はない。
 もしや、奴らの新しい手段か…?
 フタを開けたら、「1さーん!」とか言いながら飛び出して来ないだろうな…?
 僕は、もしもの時のために用意しておいた金属バットを構えた。
 そして、荷物から3歩離れる。
 大きく息を吸い込むと、感情を込めずに言った。
「僕、実は8頭身の事が大好きなんだあー!」

 シーン…

 荷物からは何の反応もない。
 どうやら、奴らではないようだ。
 僕は金属バットを放り出すと、ガムテープをビリビリと剥いだ。
 そして、ゆっくりと蓋を開ける…
 
 ニュッと、箱の中から何かが突き出した。
 …顔?
 …女の子?
 そう。見知らぬ女の子が箱から出てきたのだ。
 しかも、女の子は服を着ていない。全裸だ。ハダカだ。

「…誰!?」
 僕は状況についていけない。とりあえず無難な質問が精一杯だ。
 きょとんとしていた女の子が、不意に口を開いた。
「…私の名前は簞(ばつ)なのです」
 簞? 変な名前だなぁ。

 …うわーぁっ!!
 ハ、ハダカじゃないか!!
 僕は慌てて顔を背けた。
 だってハダカなんだ。
 ちょっと待て。おかしいじゃないか。ハダカだよ?
 なんで女の子が宅配便で送られて来るんだ?
 しかも、ハダカだし。
 …エロいな。
 今だって、普通に名前を名乗ってたよ?
 それもハダカで。
 僕の脳内は、この女の子のハダカ祭りだ。

「とにかく、服を着て! 服を…」
 僕は鼻血を垂らしながら喚き立てた。

「服はないのです…」
 普通に返答する女の子。
「じゃあ、タンスの中に僕の服が入ってるから、適当に着てよ!」
「では、お借りするのです」
 後ろから、ゴソゴソいう音が聞こえてくる。
 …エロいな。

「着たのです」
 僕は、気を落ち着かせて振り返った。
 女の子は、僕のTシャツとGパンを着用している。
 当然のようにぶかぶかだ。
 …エロいな。

 とりあえず、僕は頭を抱えた。
 何から聞けばいいんだ?
「えーと… 名前は聞いたな。簞ちゃんだっけ? 何で宅配便で来たの?」
「分からないのです…」
 そうか。しかも、ハダカだしなぁ…
「何で、僕の家に?」
「それも、分からないのです… ただ、人を探しているだけなのです…」
 人探し? それで、何で僕の家に?
 うーん、困ったなぁ。

 簞ちゃんは困惑げな表情を見せた。
「ひょっとして… 私、迷惑をかけてますか…?」
「いや、そんな事はない、けど…」
 僕は言い淀んだ。
 迷惑云々より、状況が理解できないだけだ。
 ハダカだったしなぁ…
「そうですよね…」
 簞ちゃんはすっくと立ち上がった。
 そして、トタトタと玄関先に向かう。
「お邪魔してしまったのです。この服は、必ずお返しするのです。では…」

 ドアが閉まる音。
 その後に押し寄せる静寂。
 もしかして… 出て行ったのか?
 今は9時。
 連続殺人鬼はなりをひそめたものの、女の子が一人で外を歩くには遅すぎる。

 …まあ、僕が心配する筋合いじゃないか。
 迂闊に出て行って、奴らに出くわすのもゴメンだしな…
 でも、簞ちゃん、可愛かったな…
 いやいや。僕の小市民的第六感が警告している。
 関わり合いになると、絶対にロクな事にならない。
 でも、ハダカだったよな…
 いや、色事で運命変えるなんて僕のガラじゃない。
 …
 ……
 ………
 そうだ、コンビニに用があったのを忘れてた。
 あれだ。懐中電灯が壊れたんだ。急いで買いに行かないと。
 あれを今日中に買っとかないと、大変な事になるんだ。そりゃ大変だ。
 さて、急いで買いに行くとするか…

668:2004/01/10(土) 01:22

「簞ちゃーん! 簞ちゃーん!」
 夜道をさまよいながら、大声で呼びかける。
 全く… どこへ行ったんだ?
 役に立たない懐中電灯をくるくると回す僕。
 適当に町を巡っていたところで、見つかる可能性は低いだろう。
 僕は考えた。
 この町で、泊まるアテがあるとは思えないし、あったらあったで心配はないだろう。
 お金も持ってないだろうし、野宿の可能性が最も高い事は予想できる。
 さて、この辺りで野宿が出来るところといったら…
 とりあえず、公園にでも行ってみるか。

 僕は公園の前に到着した。
 さて、簞ちゃんはいるだろうか。
 よく考えれば、簞ちゃんが公園の場所を知っている可能性も少ないんじゃないか?
 結局、無駄足かもしれないな…

「きゃーっ!!」
 今のは… 悲鳴?
 しかも、簞ちゃんの声だ!!
 確かに、公園の中から声がした…!

 僕は慌てて公園へ飛び込んだ。
 腰を抜かして倒れている簞ちゃんが目に入る。
 その前には、不審な男が立っていた。
「大声を上げるから、変な奴が来てしまったではないか…
 男は余り趣味ではないが、今日もいっぱい吸ってやるとするかァァァァッ!」

 何だ?
 あの男、普通じゃない…!

「早く逃げてください!!」
 簞ちゃんは、僕に向かって叫んだ。
 もちろん、言われなくても逃げるさ。
 僕は典型的な小市民なんだから…
 ただし、簞ちゃんを連れてだ!!

 僕は簞ちゃんを素早く抱え起こすと、背中に背負って思いっきり走った。
 逃げ足だけは自信がある。
 物心ついた時から、奴らに追い回されてたんだ。
 変質者ごとき、僕の足に敵うもんか!

 公園を飛び出して、夜道を一直線に走る。
 とにかく、ここは警察だ…!
 こんな時に限って、携帯電話を置いてきてしまった。
 持っているのは、コンビニで意味もなく買った懐中電灯だけ。
「駄目です… 私を置いて逃げるのです…!」
 僕の背中で簞ちゃんが言った。
 残念ながら、太ももや胸の感触を楽しむ余裕はない。
「大丈夫さ、交番までもうすぐだ!」
 僕は走りながら言う。
「あれは、吸血鬼なのです! 警察の人では何もできないのです!」
 吸血鬼だって…!?
 吸血鬼って、人の血を吸ったり、日光で溶けたりするアレか?
 もしかして、簞ちゃんは錯乱してるのか…?
 怖い目に合ったのだ。それも仕方がないだろう。

 疾走する影。
 それは電柱を蹴って、僕の眼前に着地した。
「人間にしては、逃げ足が早いなァ?」

 …確かに、今の動きは人間にはできない。
 これはリアルだ。
 こいつは、どう考えても人間じゃない。
 夢でも見たんだろうとか、強引に自分を納得させる奴なら、ここで命を落とす。
 僕は小市民だけに、危険には敏感だ。
 こいつは、ヤバい!!

「今日はハラが減ってるんだ… 極上の女なんて、ついてるなァ、俺は…!」
 口をガパァッと開ける吸血鬼。その口から牙が覗く。
 やっぱり、人間じゃない。
 簞ちゃんの言うとおり、こいつは吸血鬼だ。
 吸血鬼が、一歩一歩こっちへ近付いてくる。
 完全にリアルなんだ。適応できないと、死んでしまう…!
 何とか、こいつから逃げないと…

「喰らえ、紫外線照射ッ!!」
 僕は叫びながら懐中電灯のスィッチを入れ、吸血鬼に浴びせかけた。
「ぬ、ぬぐわァァァッ……って、しまったァ!」
 奴が顔を逸らしてフェイクに引っ掛かってる間に、僕は吸血鬼の横を素早くすり抜ける。
「人間ごときがァ…! 一目散に逃げやがってェ!!」
 奴の叫びが聞こえてくる。
 そのまま、家に向かって駆け出した。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
 かなり引き離してやった。
 それにしても、なんでこんな夜に吸血鬼と追いかけっこやってんだ、僕は…
「大丈夫ですか?」
 背中の簞ちゃんが言った。
 僕は親指を立てる。
「足の速さには自身があるんだ。吸血鬼と比べても遜色がないことを証明したしね…」
 ようやくアパートの前まで辿り着いた。
 さて… これからどうしたらいいんだ?

「待てェェェェェッ!!」

 ゲッ!!
 吸血鬼が走ってきた。
 僕は、アパートの中に駆け込んだ。
 階段を駆け上がって、僕の部屋に飛び込む。
 そのまま後ろ手で鍵をかけた。

669:2004/01/10(土) 01:22

 僕は、簞ちゃんを下ろした。
 あの超人的な身のこなしからして、玄関のドアぐらい簡単に破れると思った方がいいだろう。
 武器を持って立ち向かうか…?
 例の金属バットが目に入る。

「開けろォォォッ!」
 ガンガンとドアを叩く音。
 ヤバい、もう来やがった…!
 よく考えたら、部屋に逃げ込んだのって、最悪の選択じゃないか?
 ドアがミシミシ言っている。
 ここは… 隠れるんだ!!
 僕は金属バットを拾い上げて、思いっきり窓に向かって投げつけた。
 ガシャーンという音とともに、粉々になる窓ガラス。
 …よし!
 僕は簞ちゃんの手を引くと、押入れに飛び込んだ。

 バキィッ!! という音を上げて、玄関のドアがブチ割れてしまった。
 ビクッとする簞ちゃん。
 しかし、音を立てたら終わりだ。
 簞ちゃんはぶるぶると震えている。
 ゆっくりと入ってくる吸血鬼。
 僕は、ふすまの穴から様子をうかがった。
 つかつかと入ってくると、割れている窓に目をやる。
「チッ… 窓から逃げたのか…」
 窓から外を見下ろして、悔しげに呟く吸血鬼。
 よし、いいぞ…

「…などと考えると思ったかァ?」
 吸血鬼はくるりとこちらを振り向いた。
 奴と目が合う。

「…!!」
 僕は、驚いてフスマの穴から目を離した。
 …気付かれた!
 しょせん小市民の僕が、吸血鬼を出し抜こうなんて無理だったのか…
 押入れなんて貧相な場所で血を吸われるなんて、小市民の僕にはピッタリかもしれない。
 簞ちゃんの震えが身体に伝わってくる。
 …温かい。
 僕は、簞ちゃんを僕の背中側にまわした。
 こうなったら、僕が盾になってやる。
 どうせ死ぬのなら、ちょっとぐらいカッコいい方がいいからな…

 吸血鬼は、押し入れの前に立った。
「さァて… もう、鬼ごっこも隠れんぼも終わりだ… 美味しい血をジュルジュル頂くとするかァ…!!」

「開けないで下さい!!」
 簞ちゃんは、大声で叫んだ。
「お願いです。どうか、このフスマは開けないで下さい…
 そして、このまま引き返してほしいのです。お願いなのです…」
 悲痛に訴えかける簞ちゃん。
 だが、泣き落としが通じる相手とは思えない…

「駄目だァ〜〜ッ!! ジュルジュル吸うまでは、帰れないなァ―――ッ!!」
 吸血鬼は奇声を上げると、一気にフスマを開けた…!!

 その瞬間、フスマに手をかけた吸血鬼の右腕が爆発した。
 僕にはそう見えた。
「な、なんだァ――ッ…!! これは波紋ッ!! オ、オレの手がァァァッ!!」
 煙を噴き出しながら溶けていく右手を押さえて、絶叫する吸血鬼。

「『シスター・スレッジ』は、既にフスマに触っていたのです… だから、開けないでって言ったのに…」
 簞ちゃんは、悲しげに言った。

 吸血鬼の溶けている部分は右手だけではない。肉体の崩壊は次々と全身に波及している。
「知っているぞォォォォッ!! お前、代行者だなァァァァァッ!! 今、やっと気付いたァァァァ!!
 もっと早く気付くべきだったんだァ……」
 喚き声を上げながら、その場に崩れ落ちる吸血鬼。
「……一目散に逃げるのは、オレの方だったのにィィィィィッ!!」
 断末魔をあげて、吸血鬼は溶けてしまった。
 塵のようになって、その場には死体の欠片すら残らない。

「ダスト・トゥ・ダスト。塵は塵に還るのです…」
 簞ちゃんは呟く。
「もう、こんな事はしたくないのです。こんな事、したくないのに…」
 そして、泣き崩れる簞ちゃん。

 僕は、吸血鬼を容易く灰にしながら、泣き続けるこの少女から目が離せなかった…



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670N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43
椎名が会議室へやって来た時には、既に他の教員は全員着席していた。
「遅いですぞ、椎名先生。教員たるもの自分が遅刻しているようでは、生徒に示しが付かないというものですぞ!
全く、これだから新任教師というのは…」
彼女の遅刻のせいで3分近く会議が遅れた事に、中年で髭面の熊野は苛立った様子で文句を言った。
「す、すみません…」

昨日の夜、高校以来の彼氏と別れたショックから立ち直れなかったという理由は熊野には言っても理解出来ないだろうと椎名は思った。
熊野は50代前半だそうだが、独身で彼女が出来る兆しすら見えない。
いや、この歳になるとむしろ絶望的なのだろうが。
最近も、70を過ぎた両親が必死に漕ぎ着けた縁談5つを全て駄目にしたそうだ。
これらは全て、熊野の同期で老若男女、熊野1人を除いて皆から好かれているおばさん教師・森田寧々、通称モネ姐が言っていた事だ。
実はモネ姐も熊野同様独身なのだが、そこには教職に人生を懸けたワーキングウーマンの気高さが漂っており、
同じ独身でも明らかに彼女の方が格好良く、椎名や他の若い女性教師からは憧れの存在であった。

「まあさて、椎名先生が来ましたから早速今朝の会議を始めることにしましょう」
椎名が遅刻した事に大して苛立つ様子も無く、校長・初ケ谷は穏やかな表情で職員会議を始めた。
彼は俗に言う「おじいさん先生」であり、実績こそあるがその生来からの気の弱さが災いし、今この学校での発言権は
熊野に握られてしまっているのが現状であった。

毎日毎日代わり映えの無い会議にはいつも椎名は退屈していたが、今日は特に昨晩の事が忘れられず、議事そっちのけで夢想にふけっていた。

―――何で今別れなきゃならないの?そんなのって、ひどいよ…

彼は彼女の今までの人生の中で唯一の男であり、自分の中では近い将来結婚するものだと信じていた。
浮気性も無く、彼もまた自分だけをずっと見つめていてくれたと思っていたのに。

―――やっぱりモネ姐さんが言うように、「男は信用出来ないもの」なのかなあ…

自分の二倍以上生きた女性の言葉には重みだけでなく信憑性もあった。
自分の事を応援してくれていたのに、彼女には何と言えば良いのだろうか。
椎名にとっては、遅刻よりもそちらの方が深刻であった。

671N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:43

「さて…、それでは最後に例の奇妙な話について話し合いましょう」
「例の奇妙な話」と聞いて、椎名の意識は空想から現実へ引き戻された。
つまらない教員生活の中で最近起こった奇妙な事件には、彼女のみならず数多くの同僚達が興味を示していた。
自分の興味のある話題だけに、彼女は聞き逃さぬよう話に集中した。

「えー皆さんご存知でしょうが、この学校で最近児童の運動能力が一時的に、しかも驚異的に向上するといった事態が起こっております。
体育の時間にクラス一番の鈍足と言われた子が突然国体級の速さで走ったり、
あるいは水泳のタイムが突然イアン・ソープを超えただとか…」
「分かりきった話は要らないわ、さっさと本題に入りましょうよ」
校長が儀礼的な事実確認を進めていくのを、30代前半の女教師、神尾純子―――何故か周囲からは「リル子」と呼ばれているが―――は
退屈で不機嫌そうな顔をして言った。
かなりの嫌味さで周囲からは嫌がられているが、何でもしつこく言い寄ってくる男の相手をするのに疲れているからだとか。
いつもはその理由をアホらしいと思う椎名も、今朝ばかりはむしろうらやましく思えた。

「…ええまあ、それで我々も当校の生徒が異常とは言え運動能力が向上する分には全く問題が無いという事で、
これまで詳細な事実確認を怠ってきたのですが、ここ数日その生徒達の親から苦情…と言うか不気味がる電話がよく入りまして、
『うちの子に何かしたんですか!?』とか『これからもずっとこうでいられる方法を教えて下さい』とかまあ色々でして、
それでとうとう教育委員会の方からお達しが来まして、事態の詳細な調査をするように、と指示されてしまいました」
哀れ校長、熊野だけでなくリル子にまでもなめられてしまった。
まあそんな事はずっと前から分かっていたのだが。

椎名は結局いつもと大して変わらぬ話題に少々がっかりした。
これが事件の真相が分かりましたとか、全国大会で優勝する生徒まで出ましたとかならよっぽど面白いのに。
尤も、後者は絶対に有り得ないというのは周知の事実であった。
今回の異常な運動能力向上は、どの場合も全くの一時的なもので終わっていた。
一番酷いケースでは、クラスで皆から除け者にされてきた子がこの一件で馬鹿みたいに足が速くなり、
とうとう県大会出場を決めたのに、その当日に急に元の速さに戻ったおかげで目も当てられない結果に終わり
結局今日まで登校拒否を続けている。

ただこの事件で1つ奇妙なのは、運動能力が上がるのはスプリントと水泳くらいで、
野球とかサッカーで腕が上がったという話は今まで1つたりとも挙がっていないことであった。
これがこの件でのキーポイントになると椎名は読んでいたが、あいにく彼女の頭は事件の真相を突き止められるだけの知能が無かった。

「それででして、今日は皆さんから何かこの件についてご存知のことがあるのではないかと思い、こういう時間を設けた訳ですが…
どなたかちょっとした事でも知っておりましたら、気兼ねなく発言して下さい」
「気兼ねなく」という言葉が明らかに嘘であることは全員が承知していた。
案の定、すぐに熊野が不平を言い出した。
「校長、恐縮ですが今日この様な時間を設けましても、何せ余りにも奇々怪々な事件でありますから誰かが何か知っていることもないでしょう。
それにほら、時間も押していますからそろそろお開きとした方が…」
言葉遣いこそ丁寧だが、結局熊野が言いたいのは「どうせ誰も何も知らないんだ、時間の無駄だからとっとと終わらせろ」ということだ。
何だかんだ偉そうな事を言って、結局は自分勝手な男である。
嫌われるのも当然だ。

「そう思うだろ、静川!!」
「…は、はいっ、そう…ですね…」
友人もいない熊野のストレスは、全てこの物静かな静川にぶつけられる。
いつもシーンとしている大人しさが、可哀想な事に熊野に言いなりにさせられる対象となる原因となってしまっている。
心無い発言が彼の本心に拠るものでないとは、(熊野以外は)全員分かっていた。

「そう言えば鳥井先生はこの事件に興味津々でいらっしゃいましたよねえ?ひょっとして、何かご存知とか…」
「苗字で呼ぶなコラァ!」
リル子が話しかけた鳥井は、何故か知らないが苗字で呼ばれるのを…と言うよりも、「鳥」と呼ばれるのを異常に嫌っている。
初めは誰彼構わず乱暴口調で反論することに周囲も腹を立てていたらしいが、最近ではもう彼の1つの個性として認められてしまっている。
だが悪いが、どう見ても鳥顔である。
以前急に姿が見えなくなったので、死んだとかいう噂が一時期流れたが、ある日何事も無かったかのように出勤してきた。
何とも不思議な男である。

672N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

ふと、椎名は以前から彼女だけが知っているある事実を思い出した。
それはもう一ヶ月近く前からこれは事件に絡んでいると睨んでいたのだが、忘れやすい彼女はいつもそれを誰かに言う前に
すぐ忘れてしまい結局今日まで過ごしてしまっていた。

「あの、すみません…」
椎名が恐縮そうに挙手すると、すぐに熊野が睨み付けた。
「何ですか、急に!もう会議を終わりにしようという時になって、何か言いたい事でも!?」
高圧的な態度は彼女に黙れと伝える無言のメッセージだった。
普通なら誰もがこんな場面では「すみません」と言って着席してしまうが、今日の椎名は違った。
「…ええ、今回の一件に関係しているのかも知れないことが1つありまして、一応この場で報告した方がいいかと…」
「関係無いんでしょう!?ならもう終わりにしましょう!全くあなたも『くまった』人ですねえ…。
ガハ…ガハハハハ…!!」

出た。熊野お決まりのオヤジギャク。
もう何度も何度も、(面白くないのに)しつこく繰り返されるギャグには全員が呆れ切っていた。
と言うより、人の事を勝手に責めておきながらギャグを言い、挙句自分で勝手に受けるなど、そちらの方が余程無礼である。
やり場の無い怒りがこみ上げてくると、モネ姐が馬鹿笑いする熊野に冷たく言い放った。
「…あなたもね」
侮蔑の込められた言葉に流石の熊野も咳払いをして黙ってしまった。
モネ姐は優しく隣に座る椎名の方を向いていった。
「(さあ、うるさいクマは黙らせといたわ。これで気にせず知ってる事を言ってちょうだい。)
椎名先生、続けて」
椎名はモネ姐に軽く会釈をして、熊野にちょっと目を向けた。
明らかに不満爆発といった感じだ。
彼女は熊野から目線を逸らすと、彼女の知っている事実を語り始めた。

「この突然の運動能力の向上が初めて確認されたのは1ヶ月前のことです。
これは1年3組――つまり私が受け持つクラスですが――の大耳萌奈美さんが水泳の授業中に突然200mを驚異的な速度で泳ぎ切ったという事件です。
それから今日までにおよそ70件以上の報告が為されていますが――実はその内40件以上は1年3組の生徒が当事者です」
今までそんな事実に気付いていなかった他の教員達は驚くと共に、事件のミステリー性が深まってむしろ面白がっていた。
しかしこんな大切な事に今まで皆気付かなかったのか?
椎名は教師と言うものの人間性を垣間見たような気がした。
「フン、面白そうじゃない…。それで?何でそんな事が分かったの?」
クールで嫌味そうな事を言っても、リル子が興味津々であることは丸分かりだった。
「はい、それで私も担任としてクラスの児童に色々と聞いて回りました。そうしたら、どの事件にも私のクラスのある生徒達が関わっていることが判明したのです」
いよいよ聴衆達の期待は高まり、ざわめきが辺りから聞こえてきた。
校長は慌てて教員達を黙らせた。
「み、皆さんお静かに。……それで、その生徒とは一体…?」
「はい、その生徒達はその大耳さんの事件が起こる前日に私のクラスに転入してきた子で、保護者と本人の強い要望で特別に同じクラスに所属することになりました。
彼らはどのケースにおいてもその運動能力が上がった児童達とその前に接触があった事が本人達の証言で分かっています」
聴衆達は再びざわめき出した。
校長も今度はそれを止めようとはしない。
ただ熊野1人だけが、腕を組んでむすっとしながら下を向いていた。
「もう、じらすわね…。それで、その子の名前は?」
「はい。その児童達の名前は…」

673N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:44

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シャイタマアキラメロシャイタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ  ∩_∩   シャイタマアキラメロシャタマ  シャイタマアキラメロシャイタマ
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 ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/  (; ・∀・)   ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/ヽ(゚∀゚)/
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674N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:45
シャイタマ小僧がやって来る! 前編

少し乾き気味の空気に炸裂音が響く。
1つ。また1つ。最後に1つ。
秋風に流されたその音は、町の住民全てに届くほどの大きさだった。

それは、今まさに始まらんとしている熾烈な戦いを知らせる祝砲であった。



「おいっ、相棒!なにのんびりしてんだよ!早く来んかい!!俺は先に行ってるぞ、ゴルァ!」
ギコがしきりに呼ぶ声が聞こえる。
「あ〜、分かったよ!」
…ったく、たまにはオレだって詩人になりたいのにさ。


「太古の昔より、オスはメスの気を引くため、熾烈な争いを繰り広げてきた。
その1つに、運動能力による優劣がある。
身体の強い奴は、それだけメスにとっては頼り甲斐があるからだ。
そしてヒトは知性的になっても、その本能を忘れなかった。
古代ギリシア人はその本能をいかんなく発揮する場所として、紀元前776年――これは学者の推定だが
オリンピック、つまりここでは古代オリンピックだな、それを設けた。
その後1169年間オリンピックは続いたが、オリンピックはその名の通りオリンピア信仰からなるものであった。
そのため392年にローマのテオドシウス帝がキリスト教をローマ帝国の国教と定めたために、
オリンピア信仰はそこで潰えてしまうこととなり、393年の第293回オリンピック競技大祭が最後のものとなってしまった。
ところが1892年、フランスのクーベルタン男爵は『ルネッサンス・オリンピック』という講演で、オリンピック復活の意志を世界に示した。
その思想は各国から賞賛され、そして1896年に記念すべき第1回近代オリンピックがギリシアで開催された。
俗に言う『ギリシアオリンピック』だ。
その後第二次大戦中は幾度か中止されることもあり、本当は1940年にも東京オリンピックは予定されていたが、
当時の世界情勢から延期という形で取り止めになってしまった。
そして戦争は終わり、1964年10月10日、記念すべきアジア初のオリンピックである『東京オリンピック』が
国立競技場で華やかに執り行われたのだ。
そもそもこの10月10日というのは、記念すべき開催式が雨であったら大変だということで、
過去の統計から晴れの確立が非常に高いことから選ばれた日であって、何の考えもなく適当に選ばれた日じゃないんだぞ!
お前達も見たことがあるだろう、カラー映像で映し出される入場行進とか、『空の五輪』とか…。
競技の方で有名なもんだったら、マラソンで円谷が銅を取ったとか、女子バレーの『東洋の魔女』とか…。
いやー、あれは見事だったな。世界最強のロシアを見事に倒した彼女達の勇士は…」

…知ったかぶりの知識披露もいいとこだ。
てかこのギコ兄、お前は一体何歳なのかと小一(ry
「…でさ、ギコ兄は結局何が言いたいのさ?」
「そう!そしてさっきも言ったが10月10日とはしっかりとした理由のある、
日本だけではない、アジア全体で記念すべき日であるはずなのだ!!
それなのに、ああそれなのに、あのオブチは何を血迷ったか『ハッピーマンデー法』なるものを提唱し、
大事な祝日の意義そのものを完全に潰してしまったのだ!!
これは過去の偉人達ばかりではない、世界史全体と古代ギリシア人に対する冒涜であって…
おいギコ屋、どこへ行くんだ。これから同士を募って『ハッピーマンデー法反対署名』を国会に突き付け、
冥土のオブチに一泡吹かせてやろうと…」
…もう付き合っていられん。



ま、ギコ兄の言うとおり何か釈然としないところもあるけれど、
結局何が言いたいかと言えば今日が「町内大運動会」である、ということだ。
正直言うと、オレも初めてこの大会の存在を知った時はビックリした。
今時こんなことを律儀にする町なんざ、今まで売り歩いた中で見たことがない。
で、今回オレ達も折角だから出場しようということになったのだ。
この商売も毎日労働とは言えるけど、まともな運動なんて何年振りだか…。
筋肉痛になったり、筋を切ったりしなきゃいいんだが。
「おいギコ屋、まだ私の話は終わってはいないぞ!」
あ、ギコ兄が追って来た。
準備運動も兼ね、オレは走って逃げた。

675N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

会場は既に人でごった返していた。
地方にしては無駄に広い運動場だが、それでも足りないと思えるくらいだ。
「おっ、やっと来たか相棒。お前は最初の競技なんだから、遅刻すんなとあれほど…、
あれ?兄貴は一緒じゃなかったのか?」
あんなのと一緒に来たら、それだけでフルマラソン3回分くらいの疲労が溜まりそうだ。
「…言っとくが、今日はなるべく会わない方がいい…。大変な目に遭うぞ…」
「…?まあいいや。そろそろ開会式が始まるから、適当に並ぶぞ」
「ああ、分かったよ」



『えー、町内の皆様、おはようございます。(住民、低い声であいさつを返す)
えー、今日はこの秋季町内大運動会も30回目という記念すべき年でありまして、
えー、そういうことで皆様にはいつもの運動不足を解消していただくべく!
えー、全力を尽くしていただきたいと…』
聞いててウザイ。「えー」が多すぎだ。
ってかオレも頭はそんなに良くないけど、何か日本語がおかしいって分かるぞ。
…この町長、頭悪いだろ?

『えー、またこの大会の開催に関しては、
えー、毎年お世話になっています町内商店街の皆様から今年も多大なる助力を頂きまして、
えー…』
よくある社交辞令。
聞いてる方にとっては一番ストレスの溜まる部分だ。
そんなもん酒の席ですませときゃいいじゃないかと問いたい。問い詰めたい。小一(ry

『平成十五年十月十三日  擬古谷町長  擬古瀬 伍琉央』
あー終わった終わった。んじゃさっさと走るとしますか…。

『(司会進行現れる)えー続きまして、県知事の茂羅様よりご挨拶を…』
な、なんだってー!
まだ続くのかよ…。

『えー続きまして、衆議院議員の左菅谷 阿仁様よりご挨拶を…』
んなもんわざわざ今日来てまですることか、仕事あんだろ!
政治家ってのはどうして無駄な選挙運動を…。

『えー続きまして、参議院議員の左菅谷 逐梼様よりご挨拶を…』
絶句失笑。

『えー続きまして、祝電披露』
これはどこかの卒業式か!!??
いい加減ディオ ブランドサマに無駄を削減してもらいたくなってきた。


『…今後の擬古谷町の発展を心よりお祈り申し上げます』
…もういいだろ?
テントの下にいるのでこれから話しそうな奴も見当たらないし…。
…あ、終わったらしい。
これでようやく…。

『えー続きまして、諸注意』
…もう…駄目…。
(ドサッ)
「…相棒…?おい、しっかりしろ、相棒!おい、誰か担架持って来い、担架!!」

676N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:46

額に冷たさを感じる。
失われた意識が一気に復活した。
「…ん、ここは…?」
「お、ようやく目を覚ましたか。こっちもびっくりしたぞ、お前ともあろうものが貧血で倒れるなんて…」
貧血…ああ、あのクソ長い開会式でオレは倒れたのか。
「…ってそうだ!オレの競技最初じゃんか!まさかもう…」
慌てるオレの顔を、相棒は呑気な顔で見つめた。
「大丈夫だぞ、実はあの後倒れる奴がお前以外にも続出してな、予定を変更して競技開始をちと遅らせることにしたんだ。
…ってか、お前は病み上がりで走るつもりなのかよ?」
ギコの顔はオレがまさかそうはしないだろうと思っていることを表していたが、オレは本気だ。
「もちろん初めっからそのつもりさ!何のために今日ここに来たと思ってんのさ!!」
ギコは深い溜め息を吐いてオレを見た。
「…呆れたぞ。お前のその異常な根性はどうかしてやがる…」
「ま、いいじゃないか。どうせオレも1つしか出ないんだしさ。さ!準備運動すっか!!」
オレは救護テントから出て、貧血で倒れたことも忘れて屈伸を始めた。

100m走。
それは極僅かな距離で繰り広げられる男達の全力勝負。
一瞬の手抜きすら許されない集中力と体力の競い合い。
そこにはまさに闘う者達の美学が…
『さあさあやって参りました、第30回擬古谷町秋季大・大・大運動会!!
今年も沢山の町の皆が参加してくれて、VERY VERY THANK YOU だ!
さあ猛者共!今日は己が持てる力を存分に出し切って、思いっきりはみだしてくれ、いやはみだせ!!」
…美学を解さない奴もいるし。
まあ、いっか。とにかく走る!これ。
よし、絶対1位を取ってやるぞ!
『さあさあ野郎共!ノってこいノってこい!!あらくれ共よ!気の済むまで暴れやがれ!!
あらくれワッショイ!!あらくれワッショイ!!あら(ドグシャ)グブゲェ―――ッ!!』
『…失礼致しました。んじゃ、とっとと選手の皆さん、並んで下さい』
…こういう時に限って妙に冷めた奴もいるし。

スタートラインに選手が並ぶ。
第1レースは大会の最初を飾る大事な競技だ。
この競技がうまくいかないと、大会全体がしけてしまう。
責任重大だ。くれぐれも、こけたりしないようにしないと。

「シモシモ? ミナサン ナラビマシタネ? ソレジャ イチニツイテ・・・ ヨ――――イ・・・
y=ー( ゚д゚)・∵;;ターン」

677N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:47

『さあこの秋季大運動会最初を飾る記念すべき最初のレースがスタートしました!
今大会は第30回という節目の大会だけあって、この町に縁のある多くの著名人が里帰りして参加しています。
この100m走でリードしているのは…おぉーーーっとギコ屋選手だ!
ギコ屋選手は今大会で特別に参加している、言わばゲスト!
ゲストだけあって、速い・速い・速い!!
でも彼はこの町には縁が無い・縁が無い・縁が無い!!
ただ商売してるだけ!それなのに速い!ぶっちぎりで速い!
空気も読まずに県知事を無視して突っ走る!議員君も頑張って!
しかしギコ屋速いギコ屋速い!ってか速すぎだァ―――ッ!!
…えー今ここで入った情報によると、現在男子100m走の世界最高記録は
モーリス・グリーンの記録した9秒79ですが、現在のギコ屋選手の走りはそれを遥かに超えた速さであるそうです!
頑張れギコ屋!頑張れギコ屋!
このまま世界の壁を破れぇ―――ッ!!
そして今!ギコ屋選手!
ゴ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ルッ!!!!
記録は?記録!
えー、記録は…
6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!6秒22!!!!!!
6秒22です!!!!
ギコ屋、せヵいぅおッ、くぁるくっ、こぉえたぁーーーー!!
ハレーギコ屋!ハレーギコ屋!

…ってギコ屋どこまで走る!?どこまで走る!?
そっちはフェンスだぞ!ギコ屋、止まらない!止まらない!
そしてフェンスを…
破ったァ――――ッ!!
どこまで走るギコ屋!お前は人間をやめたのかァ―――ッ!?』
『…それでは引き続き競技を始めます。次の選手、呆気に取られてないで早く位置について下さい』

678N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:48















…ってか、



なんじゃこりゃぁ――――――――――ッ!!!!

679N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:49

止まらない!いやむしろ止められない!
つーかこの走りは何なんだよ!?
オレこんなに速くないぞ!
6秒台っておかしいって!!
凡人の2倍速じゃないか!!

目の前に見える「50」。
オレは決死の覚悟でそれを支える支柱に飛びかかる。
慣性で腕が脱臼しそうになるが、なんとか止まることは出来た。
「おい、 ハァッ、 これは一体 ハァッ、 どういうことだよ! ハァッ、 一体何が ハァッ、 起きたんだ!?」

「ケーケケー! スゲーダロ? コレガ 俺様ノ 力サ!」

「!!!」
背後から声。
瞬間、振り向きざまに「クリアランス・セール」で裏拳を打ち込む。
…誰もいない。

「オイッ、 トロイゼ! コッチダゾ、 ケケ!!」

…まただ。
やはり背後には人影はない。

「ナンダ、 オメーハ 結構速イト 聞イテイタガ、 何テコト ナイジャネエカ!」

…小癪な。
こうなったら知能戦だ。
後ろ!
と見せかけて前!
でもなくてやっぱり後ろ!

…逃げ切れなかったな!
「クラァ!!」

「・・・ヤッパリ トレーナ テメーハ! ケケケケ!!」

拳目前の所で瞬間移動。
声の主は、今度は逃げはしない。
宙に漂う不気味な小物体は…スタンドか!

「ヤット 気付イタノカヨ! オ前 勘ガ ド鈍イゼェーッ!!」
小馬鹿にしたような口調が癪に障る。
機械的なボディーに描かれた…アヒャ…?らしき顔が喋っている。
その顔といいダサい形といいもう何から何まで相手に向かって挑発的だ。
「この異常は、やっぱりお前の仕業だな!」
オレが奴を指差しても、向こうは薄目を開けて笑ったままだった。
「・・・マ、 ソウイウコッタ。 俺様ノ 能力ハ 『暴走』。 取リ憑イタ相手ノ 肉体ヲ 暴走サセルコトガ 出来ルッテワケサ。
ケドナ、 ソレガ 分カッタトコロデ オ前ニャ 何ノ 解決策ニモ ナリャシネェ〜〜ヨ!! ケケケケケ!!」
…くそっ、だがこいつの言うとおりだ。
敵スタンドの能力が分かったところで、オレには今何の対抗策も無い。
となると、やっぱり本体を叩くしかなさそうだが…。

「オイッ、 トコロデ テメーハ 俺様ノ 本体ヲ 叩コウナンソザ 考エチャイネェーヨナァー?
残念ダガ ソイツァー無理ダゼ! 俺様ハ 『自動操縦型』ノスタンドダ! 本体ハ 今頃 遥カ遠クデ クツロイデルトコダロォーゥヨ!!」
何ッ!?そんな…それじゃ一体どうすりゃいいんだ!?
こうなりゃ、まずは何としてもギコ達と合流しなくては!

680N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

「オイオイオイ、 コンナ通行量ノ 多イ道路ヲ 本気デ 渡ル気カァーイ?」
普段だったら平気で車の隙を縫って行ける。
だが今回は…一台をかわしてもそのまま反対車線の車にぶつかってもおかしくない。
一か八か、一世一代の大勝負だ。
「行くぞッ!」
僅かな勘を頼りに、覚悟を決めて突っ走る。
スレスレのところで、2台とも回避出来た。
「ヘイヘイヘイヘイ! 随分 危ナイ真似 スンジャネーカ! 見テルコッチガ ヒヤヒヤモンダゼーェッ!?」
「…だったら、とっとと能力を解除するんだな」
こいつが喋るだけでも集中力が途切れかねない。
まずはこいつを黙らせておく必要がある。
と言っても、黙れと言って黙る奴でもないし、こうなったら…。
「『クリアランス・セール』ッ!」
自分の耳を殴り、鼓膜を分解する。
時間が来れば、またすぐ分解し直せばいい。
「オイオイオイ、 テメーハ 正気ノ沙汰ジャネーゼ! 遂ニ トチ狂ッタカ!?」
「…えー?何言ってんのか全然分かんねーよ!」
(・・・ハッ、 随分ト 考エタモンダナ、 ダガナ、 『耳』ヲ失ウッテノハ 相当ナリスクヲ ハランデンダゼ、 ケケッ・・・)

聴覚を失った以上、外界の様子は視覚に頼るしかない。
慎重に慎重を重ね、前後左右上下をしつこいほど確認し、忍び足で進んでゆく。
気が遠くなりそうだが、これしか方法は無い。

(ケケッ、ナラコッチモ 『頭脳戦』トヤラデ イカセテモライマスカ・・・)
敵スタンドはギコ屋の目を盗んで憑依を解除した。
向こうからは、自転車を漕ぐ一般人が向かってくる。
(コイツニ 憑依シテ 速度ヲ 倍増サセル!)
敵スタンドの効果に、一般人も徐々に気が付き始めた。
「…お?あれ、足が、足が止められん!」
その先には若者が1人、目の前の道路を渡ろうとしている。
「危ない!よけてくれェ―――ッ!!」
しかし、若者の耳には言葉は届かなかった。

「…はッ!」
気が付いた時には、1台の自転車がすぐ近くまで迫っていた。
「クリアランス・セール」を一瞬考えたが、反射的に身体の方が動いた。
思わず避けようと走り出すと…速くない!?
「今ダ! 再ビ ギコ屋ニ憑依! パワー全開ダァッ!」
あのいやらしい声が耳に入ると同時に、オレの身体はまた暴走を始めた。
しかも今度は、さっきよりも更に速い。
「くそッ、おいお前、やめろッ!」
「ハハッ、 ヤメロト言ワレテ ヤメル馬鹿ガイルカヨ、 ボケガァ!!」

681N2(ギコ屋):2004/01/10(土) 07:50

…何キロくらい走らされただろうか。
身体は全然疲れを感じないが、精神はもう荒廃寸前だ。
急に加速が終わり、オレの身体は急停止する。
「オイ、ボケナス! チャァーント 目ノ前ニ アルモンヲ 見テミヤガレ!」
眼前には、見覚えのある「50」の看板。
…まさか。
「カァーッカッカッカ!! 見事ニ 引ッ掛カカリヤガッタゼ コイツ! テメーデテメーノ 耳ヲ潰シテオイテ 墓穴掘ッテヤンノ! カァーッカッカッカ!
・・・オイ、ボケナス! コレガ 俺ノ力サ! テメーハ一生 コウヤッテ 同ジ所ヲ 延々ト 回リ続ケンダヨ!
シッカシ テメーノ 呆気ニ トラレル顔、 マジニ マヌケダゼ! カァーッカッカッカッカッカ!!」
…の野郎。
絶対に許さん。
ここまで人を馬鹿にするとはいい度胸じゃないか。
「…いいだろう、ここまでオレをコケにするんだ、もしオレがお前の本体を見つけたなら、
容赦無くぶっ飛ばしてやるぜ!その覚悟があってオレと勝負しようってんだな!」
対する敵スタンドの表情も、やはり自信に満ちている。
「ケケッ、 ソンナノゼッテーニ 無理ナ話ダヨ! ・・・マアイイダロウ、 コノ俺ノ本体ヲ 捕マエラレタラ、 後ハ煮ルナリ焼クナリ 好キニシヤガレ!
タダシ、 ソレハ貴様ニャ デキネーガヨ! ケケケケケ!!」
「…言ったな。ならこれで勝負は成立だ。
このオレと!お前の本体との『鬼ごっこ』!今からスタートだッ!!」

682新手のスタンド使い:2004/01/10(土) 12:31
乙です。

683( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:18
此処は茂名王町。とてもマターリした町だ。
・・・だが、ソレは只の一般人の幻想に過ぎない。
現にこの街では世界中でも異例だと言うほどの殺傷事件がおきている。
だが、一般人はそんな事実知らずに、今日も平和で暮らしている
・・・・俺もそう暮らしたい物だな・・。
「ドンドンドン!!」
俺が優雅にティータイムを楽しんでいると、ドアを叩く音が聞こえる
俺は渋々とティーカップを置いて、ドアを空ける。・・まぁどうせ『アレ』だろ・・
「巨耳モナー警部!!事件ですッ!!」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―

申し遅れたが、俺の名は『巨耳モナー』。IQ200(自称)の天才警部だ。
元々本庁で『特別課』と言うのに所属していて、
そこで事件を解決していく内にこんな田舎の辺境に飛ばされてしまったのだ。
畜生。あのクサレ上司どもめ。自分の地位が脅かされるのが怖いのか。
「警部。今回の事件の調書です。」
調書を手に取り一番最初に目に付いたのは白黒の写真。
そこらのグロ画像なんかにゃ負けないくらいグロい写真だ。
「・・・『心臓の中に無数の弾丸』・・?」
俺は首をかしげながら部下に聞く
「ええ。良くわからないのですが・・心臓の前に一つ銃で撃たれた穴が開いてて・・その中に銃弾がつまっていたそうです。」
・・・ハァ?
「銃弾の数は200以上。その時の銃弾は今鑑識が調べています。」
うーん・・いつもこうだ。俺達『特別課』にはこういう訳の解らない事件ばっかり来る・・
・・・・でも。大体誰がやったのかは目安がついてる・・
「『スタンド使い』・・か・・。」
俺が小さな声で呟き、残りの紅茶を一気飲みして鑑識の野郎どもが居る所へ向かった
此処で紅茶を飲んでおかないと帰って時には冷めているからだ。

684( (´∀` )  ):2004/01/10(土) 14:19
「おい。鑑識。」
俺はドアを開けると同時に言った。全員が振り向き、すぐにこう言った
「嗚呼。巨耳モナー警部。えっと・・お探しの物はコチラですね?」
目の前に200以上の銃弾がドチャッと置かれる。コレがさっきまで心臓に入ってたかと思うと気持ち悪い。
「・・ただワンホイールショットで心臓の中に入れたか、殺した後に捜査を妨害しようとしただけなんじゃないか?」
俺はその場で思いついた憶測を言う。間違ってると解っていても言うのは警察の仕事だ。
「ソレはありえませんね。200発もワンホイールショットできる人なんて居ません。」
・・・当たり前だよな
「後者についてはただ200発の弾丸代が無駄になるだけです。弾丸は結構高いですからね。」
・・それもそうか。それだったら死体を焼くとか隠すとかもっと安い方法をするハズだ。
俺は欠伸をしながら事件現場に向かう。・・もう大体どういう事なのか見えて来てしまった。
・・そろそろもっと難しい事件がやりたい。こういう事件ばっかりだと、犯人が断定される上
その断定された犯人はトリックがどうこういうわけじゃない。単純だ・・『能力』に違いないからな。
そんな事を考えてるうちに付いた。警備君がコチラに敬礼をする
「ごくろーさんです。」
俺もとりあえず敬礼をしてちょっとした挨拶をする
中ではまだ何人かの鑑識が調査してる。・・・邪魔になるだけかな。
「・・・・此処に犯人が倒れてたのか?」
俺はそこに座り込む
「あ。巨耳モナー警部・・。はい。そこに大の字に。」
「あんがと。此処に居ても邪魔になるだけだから、帰ってるわ。んじゃ。」
・・実を言うと寒いだけなんだけどね。
俺が署までの道を歩いていると妙な人物が離しかけてきた
「・・・なぁ、アンタあの事件を捜査してんのかい?」
・・・見てたのか・・
「やめときな、あの事件に関与しない方が良い・・『死ぬ』よ・・。」
「・・無理だね。俺は警察だ。これでもプライドはある。一度関与した事件は諦められないね。」
すると、妙な人物は口をひきつらせ
「だったら・・力づくでわからせるしかないなぁ――ッ!?」
途端にソイツらは増えた。ふむふむ。さしずめ『物や人を増幅する』能力って所だな。やっぱり犯人はコイツか・・。
「そらッ!死ねェッ!!」
100人くらいの犯人君がいっせいにかかってくる。脳が俺に命令をかざす
(・・・そういえばコイツら、スミスみたいだなぁ・・。)
っておい。俺の脳はそんな事しか考えられないのか。
「URYAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
彼らが俺の体を殴ろうとしたその時。俺は上体を少し右に反らした。すると、後ろの電気屋のプラズマテレビが姿を現した。
俺は不適な笑いを見せると、巨大なテレビから巨大な拳が現われ、彼らを一掃した。
犯人と思われる人物は呆然としている。
「え・・?そ・・それは・・?」
テレビから出てくる手を指差して震えている
「俺を誰だと思ってるんだ。特別課の巨耳モナー様だぜッ。」
俺は良く解らない決め台詞を言って呆然とする彼に手錠をかける。
・・ヤレヤレ。『コイツ』を使うのは避けたかったんだけどなぁ・・

←To Be Continued

685ブック:2004/01/10(土) 14:24
貼ります。
あと、いまさらですがコテハンつけます。

686ブック:2004/01/10(土) 14:27
    救い無き世界
    第七話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
        〜ポロリもあるよ〜 その3


 デパートの周りは、既に警察、消防署、救急隊、テレビ局、野次馬等、
 たくさんの人でごった返していた。

 私は先程女の子の治療の為に多量の生命エネルギーを
 消費したせいもあり、
 その喧騒に思わず倒れそうになった。

「大丈夫?みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私を倒れないように支えてくれた。

「私は大丈夫です。…でも……。」
 私は言葉を詰まらせた。

 お医者様の話では、女の子の足はもう切断するしかないとのことだった。
 私の『マザー』の力では、あの子を助けることが出来なかった。
 私は何も出来なかった。
 私には力が無かった。
 私は、私はまた…

 ポロリと涙が流れ出る。
 泣いても泣いても、とめどなく涙は溢れ続けた。

「みぃちゃん…」
 ふさしぃさんが、私を抱き締めた。
 子供をあやす様に、私の背中を軽くポンポンと叩く。

「みぃちゃん。
 あなたは良く頑張ったわ。
 もしあなたがあの子を必死に助けようとしなかったら、
 医者にかかる前にあの子は死んでいたかもしれない。
 あなたは立派に、あの子の命をすくったのよ。」
 ふさしぃさんは優しい声で私に慰めの言葉をかけてくれた。
 しかし、それでも私は自分を責めずにはいられなかった。

「違います…
 私は何も出来なかった!
 あの子を助けてあげることが出来なかった!
 私は…私にもっと力があったら…!」
 無力感と後悔で、私の心は埋め尽くされた。

「みぃちゃん。」
 ふさしぃさんが私から体を少し離し、
 私の顔をじっと見つめた。
「みぃちゃん。もしあなたが、
 自分のせいであの女の子が苦しむことになったと
 考えているなら、それは間違いよ。」
 ふさしぃさんはそう言った。
「いい?私達は神様なんかじゃ無い。
 だから何でも思い通りの結果を出せるとは限らない。
 それで当然なのよ。
 私達はほんのちっぽけな存在なのだから。
 それなのに、何でもかんでも自分の所為に決め付けるのは、
 美徳でも何でもない、ただの傲慢だわ。
 思い上がりもいいところよ。」
 ふさしぃさんはきっぱりと言い切った。
 その表情は、いつになく厳しいものになっている。

「でも…でも私は――」
 ふさしぃさんの言う事が正しいのは良く分かっている。
 それでも、あの子の事を考えると、
 私は涙を抑えることが出来なかった。

「…分かってる。
 あの子を助けられなかったことが、悔しいのね…」
 ふさしぃさんはそう言ってもう一度私を抱き締めてくれた。
 その口調と表情は、元の優しいものに戻っている。

687ブック:2004/01/10(土) 14:28

「さ、いつまでも泣かない。
 そんな顔で、でぃ君達をお迎えするつもり?」
「あ―――」
 そうだ。
 でぃさんに、ぃょぅさん。
 私は思わず時間を確認する。
 すでに、ぃょぅさんと別れてから二十分が経とうとしていた。
 私の顔から、さぁっと血の気が引く。

「彼らなら、心配ないわ。」
 私の顔色に気づいたのか、ふさしぃさんは私にそう言った。
「で、でも―――」
 私は不思議でならなかった。
 ふさしぃさんの顔には不安などかけらも見えない。
 なぜこの人は、こんなにも落ち着いていられるのだろう。

「大丈夫。
 なんたってあのぃょぅがついてるのよ。
 彼なら、絶対に何とかしてくれるわ。」
 ふさしぃさんは自信に満ちた表情で言った。

 ああ――そうか。
 ふさしぃさんと、ぃょぅさん、
 いいえ、たぶん小耳さんやタカラギコさんやギコえもんさん全員は
 強い信頼の絆で結ばれてるんだ。
 ちょっとやそっとの事じゃ、ビクともしない位の、確かな絆が。

 私は不安が少しずつ薄らいでいくのを感じた。
 きっと、これもふさしぃさん達の絆の力だ。

 私は、ふさしぃさんがとても羨ましかった。


     ・     ・     ・


 俺の拳が男の右胸部へと命中した。
「げぶぅ!!」
 男がくぐもった声を上げる。
 俺はさらにもう一撃を加えようとした。
「なめるなあああああああ!!」
 しかし今度はパンチをかわされてしまった。

688ブック:2004/01/10(土) 14:28

 しくじった…!
 俺は舌打ちをした。
 空気の抵抗が水のように重かったのと、
 直前で奴に気づかれて直撃だけは回避されてしまった為、
 さっきの一撃は致命傷にならなかったのだ。

「この…ビチ糞がああああ〜〜〜〜!!!」
 男が俺に水中銃を連射してきた。
 腕で防ごうとするが、
 矢は俺の腕をすり抜け、次々と体に喰らい込んだ。

 痛みに意識が遠のく。
 駄目だ、やられる!

「ぐあああ!!」
 その時男がいきなり悲鳴を上げた。
 見ると、男の左肩口に水中銃の矢が刺さっている。

 何が起こったのか分からず、俺は周囲を見回す。
 すると、ぃょぅの前に何やら小さな渦巻きが発生していた。

 そうか。
 自分に刺さった矢を、あの渦の中心部分を通過させることで、
 加速させて男に撃ち込んだのか。

 何て人だ…
 そんな事を、この状況でとっさに思いつくなんて。

「なぁめぇるぅなああああああ!!」
 男がその場から動こうとする。

(逃がすか!!)
 俺は男の左足首を掴んだ。
 その手に渾身の力を込める。
 握った部分が、ミシミシと音を立てた。

「っき、離せぇ!!」
 男が叫び、俺に至近距離から水中銃を乱射する。
 突き刺さっていく矢。
 しかし俺はひるむことなく手にさらに力を込める。

 放してたまるか。
 絶対に放さない。
 たとえ死のうとも。

 あの子の痛み…
 存分に味わえ!!

「ぎゃあああああああああ!!!!」
 骨と肉の潰れる感触。
 男の叫びが辺りに響く。

 男の足が完全に破壊されるのと、
 男の体に何本もの矢が突き刺さるのとは、
 ほぼ同時だった。

689ブック:2004/01/10(土) 14:29



 俺の足が重力に導かれるまま地面へとついた。
 体の周りを水が覆うような感覚はもう消えている。

「流石に、疲れたょぅ…
 小規模に力を一点集中させたとはいえ、
 あの空間であそこまでの風を起こすのは…」
 ぃょぅは疲労困憊といった様子で片膝をついている。

 俺はぃょぅに手を差し出した。
「済まなぃょぅ。」
 ぃょぅは俺の手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。

『肩を貸しましょうか?』
 ぃょぅにそう尋ねる。
「大丈夫だょぅ。それより…」
 ぃょぅはそう言って俺の申し出を断ると、
 男の方を指差した。

 男は、仰向けになって地面に倒れている。
 警戒しながら、俺達は男に近づいた。

「どうした、殺さないのか?」
 男が憎まれ口を叩いた。
 しかしスタンドを発動しないところを見ると、
 どうやらもう闘う力は残っていないようだ。

「まだ殺しやしなぃょぅ…
 君には今回の件で聞きたい事が山程あるょぅ。
 死んでもらうのは、それからだょぅ…」
 ぃょぅがさらりと恐ろしい言葉を口に出す。
 その顔に、いつもの人の良さげな表情は無い。

「は、ははははははははは!
 それは御免だ。」
 男はそう言うと、何やらスイッチの様な物を押した。
「!何を!?」
 ぃょぅが身構える。
「クク…あと五分で、このデパートに仕掛けられた
 残りの爆弾が全部爆発する。
 せいぜい逃げて――」

「!!!」
 その時天井がいきなり崩れた。
 俺達は何とかかわしたが、男はそのまま生き埋めになった。

「…でぃ君、急いで逃げるょぅ!」
 ぃょぅの声と共に、俺たちは急いで出口へと駆け出した。

 冗談じゃねぇ。
 こんな所であんなイカレ野郎と心中なんて、願い下げだ。



 俺達はひたすらに走った。
 さっきの戦闘のせいで、
 すぐに体が悲鳴を上げ始める。
 だが、止まる事は絶対に出来ない。
 走れなくなったら、その場所がそのまま墓場となる。

 爆発まで、あとどの位だ!?
 二分…それとも一分?

 恐怖と焦燥と生への執着とが、
 疲弊しきった肉体を突き動かした。

690ブック:2004/01/10(土) 14:30

「!!!!!!!!」
 出口に近づいて来た所で、
 ぃょぅと俺とに絶望の表情が浮かんだ。

 出口への道を、大きな瓦礫が塞いでいる。
 だが、回り道をするだけの時間は、もう無い…!

「『ザナドゥ』!!」
 ぃょぅが風で瓦礫をどかそうとする。
 しかし、さっきの闘いでの疲労と、
 あまりの瓦礫の大きさに、瓦礫はビクともしない。

(ちぃっ!)
 今度は俺が瓦礫へと拳を叩き込んだ。
 瓦礫の一部を粉砕する。
 だが、ほんの一部だ。
 道を開くには、遠く及ばない。
 もちろん、少しづつ壊していく時間など有ろうはずも無い。

 糞が…
 これまでか…!!

     ドクン

 突然の体の内からの鼓動。
 気のせいか、前よりも大きくなったように感じる。

     ドクン ドクン

(……で、…前に死……は困る。)

 !!?
 声!?
 誰だ。
 お前は誰だ!!

(お前……かげで…私…『力』……し戻……
 …れは……礼だ…受け…れ。)

     ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺の腕が、俺の意思とは無関係にスタンド化した。
 いや、それだけじゃな、
 脚まで、あの「化け物」のものになっている!


 あ アあ   あ    嗚呼 あ

 体の内側が燃える。

  あ  ああ  A  ア      阿

 視界が真っ白に  あ  なる

    ぁ    あアあ  亜  あ  a

 何も あ 考え Aあ られない  アa

   A亜あ  ぁ  嗚呼 あ     あAあア

 気 あア亜 が狂い あ阿 そ あA うだ…!!

 あ A 亜 a アぁ    あ

ああ阿あアああAああああああアああAAAA唖あああああaアあ嗚呼ああAああ亜Aa
亜ああぁあアぁAああ亞あAあ阿あああああaA阿あ亜ああ嗚呼あAAあa亜阿ああAあ
あああA亜あ亜ああああAAaあ阿あああああああああああああああああああ!!!!!

 理性が、吹っ飛んだ。
 俺は『力』に振り回されるが如く、拳を瓦礫へと突きたてた―――

691ブック:2004/01/10(土) 14:30


     ・     ・     ・


 私達は、一気にデパートの出入り口を駆け抜けた。
 そのすぐ後に、デパートから大爆発が起こる。
 野次馬が、それに合わせて悲鳴に似た歓声を上げた。

「でぃさん!!」
「ぃょぅ!!でぃ君!!」
 ふさしぃとみぃ君が、私達に駆け寄ってきた。
 みぃ君はそのままでぃ君に抱きつく。

「ぃょぅ…ご苦労様…」
 ふさしぃが私の肩に手を置いた。
 顔は笑っているが、目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

 …どうやら心配をかけてしまったみたいだ。
 不甲斐無い。

「危機一髪ってとこだったわね。
 まったくもう、ヒヤヒヤさせて。」
 ふさしぃが涙をごまかすように目をぬぐって言った。

「悪かったょぅ。少し立て込んでしまっていたょぅ。
 本当に、もしさっきでぃ君がいなかったら…」
 そうだ。
 でぃ君だ。
 あの時、でぃ君が瓦礫を壊してくれたおかげで…

 いや、違う。
 あれは「壊した」なんてものじゃない。
 「無くなった」のだ。
 瓦礫が、まるでそこに在った事自体が嘘のように、
 塵一つ残さず。
 あれは、あれは一体…

「!?
 でぃさん!!」
 みぃ君の叫び声。
 見ると、でぃ君がその場に倒れていた。

 急いで側へと駆ける。
 どうやら、でぃ君は気を失っているようだった。

 あの男との闘いが原因だろうか?
 それとも、さっきの―――

「…でぃ君…君は一体、何者なんだょぅ。」
 もはやでぃ君には私の声など聞こえてはいないだろう。
 しかし、それでも私は彼に向かってそう呟かずにはいられなかった。


  TO BE CONTINUED…

692302:2004/01/11(日) 01:33
スタンドアイディアスレで書いた「ファイナル・カウント・ダウン」を使った小説です。
今から貼らせていただきます…

693302:2004/01/11(日) 01:33
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・1

ウチの名前は「のー」と言います。当然やけど、あだ名やで?
関西訛りのAAで、18歳です。性別は…まぁ、つー族ですし不明で頼んますわ。

ウチは今…親友のニダやん(20歳男)と一緒に「ストリート漫才」をやってますねん。
コンビ名は「Nie da No!」っていいまして、こう書いて「ニダのー」って読むんやけど…
まぁ、大概厨房くさい名前やな…と思っとります。

で、今日も駅前で漫才を二本やって、帰る途中なんですわ。

「いやー!しっかし、ワシらも人気出てきたなぁ、のーちゃん!」
「ニダやん、可愛い女の子のファンが出来たからって…ハシャぎすぎやで?」
「なんや。妬いとるんか、のーちゃん?」
「アホぬかせ!」

ベキョッ。

「…路上でハイキックは酷いやんか…」
「いつもの事や。さ、とっとと帰って反省会やで。」

自慢&昔取った杵柄&商売道具の「ハイキック・ツッコミ」をニダやんに叩き込んで、
ウチは駅から徒歩十分の家に向かって歩き出しました。
でも、ニダやんが付いて来んのですわ。

「……のーちゃん、ちょっと待ったってや。」

694302:2004/01/11(日) 01:34
ニダやんは、(派手にダウンしたまま)路地裏を覗きこんどったんです。

「どした?首の骨がやっとイカれたか?」
「『やっと』ってなんやねん!そんな事と違うねん。あの路地…人、倒れとるで?」
「…うっわー、行き倒れっぽい服装やな…」

ニダやんが起き上がって、路地の方を目線で指しました。
ウチらの眼に入ったのは、黒マントの男がうつ伏せでグッタリしとる姿でしたわ。
暗くてよくわからへんかったんですけど、“何か”を大事そうに握り締めとったんですわ。

……まさか、それで刺されるとは知らず…ウチらは、そのオッサンに近寄ったんです。

「オッサンオッサン、飲みすぎか?行き倒れか?」
「死んどるやったら、そう言ってくれや?」
「死人が口利くかい!!」

狭かったんで、仕方なくニダやんに右フックを食らわしつつ、ウチはそのオッサンを起しました。
そうやなぁ…8頭身と同じくらいの身長(タッパ)やったな。うん。
ウチらは三頭身やし、あのデカさは8頭身やと思います。

「…クク、お人好し…だな」

そらもう低い男の声でしたわ。で、次の瞬間には…

695302:2004/01/11(日) 01:34
「…っ!?いったぁ………!!」

肩口に、オッサンの持ってた“矢”を刺されてしまったんですわ。…参りましたわ、ホンマ。

「なぁ!?オッサン、マイ・ディア・相方に何するねん!!」

青アザ作った顔で怒鳴るニダやんも、そらもう…あっという間に…

「のわー!!刺さっとる!刺さっとるってオッサン!!ニダにこの傷の謝罪と賠償を(ry」

同じ様に、矢で突き刺されてしまったんですわ。何や、ウチより余裕っぽかったんが腹立つんやけど。
でもまぁ、要求する前にニダやんはぶっ倒れてしまいましたわ…
ウチも、何やわからんまま…気が遠くなりよったんです。

「…だが、私はお前達の様な“お人好し”を探していた…“ヒーロー”は、お人好しでなければ勤まらぬ。」
「…お前達が無事に目覚めた時、それは“新しい力”の目覚めだ。その時、また会いに来る…」

…オッサンはそのまま、ウチらを残して立ち去ってしまいました。
……そしてウチとニダやんは、近場の総合病院に急患として運び込まれたんですわ……。

原因は二人して「原因不明の高熱」でした。で、とりあえず検査入院になったんやけど…

翌日、あの男が予告通り…現れたんですわ。

<TO BE CONTINUED…>

696:2004/01/11(日) 13:08

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その2」

 
「おはようなのです!」
「ああ、おはよう…」

 朝…、か…。
 僕は身体を起こした。
「あいててて…」
 素の畳の上で寝たのは、初めての経験だ。
「すみませんです…」
 簞ちゃんが、バツが悪そうに言った。
「いやいや、簞ちゃんが謝る事はないんだよ。何というか、男のケジメってやつだから…」
 …?
 男のケジメってのは、別物のような気がするな。
 とにかく、僕が普段使っている布団に簞ちゃんが寝て、僕は畳で寝たのだ。
「でも… おにーさんの顔に畳の後がついているのです…」
「人間、何でも経験だよ。畳の上で寝た事が、僕の人生に大きく作用することがあるかもしれないからね…」
 僕はそのまま学生服を羽織った。
 何か、部屋を仕切るようなものが欲しいな。
 僕はいいが、簞ちゃんの方が困るだろう。

 ちなみに、簞ちゃんは僕の事を『おにーさん』と呼んでいる。
 昨日、泣きじゃくる簞ちゃんに、僕は自分の名を名乗ったのだ。
「ぼくの名は1さんだよ」と…
 そう。僕は名前を名乗る暇さえなく、あれだけの騒動に巻き込まれたのだ。
「1さんさん…ですか?」
 簞ちゃんは顔を上げた。
「いや、さん付けはいいんだ。『1さん』で名前。
 いや、これもさん付けなのかな… でも『1』とは呼ばれたことないし…」
 何か、僕自身の存在に関する大きな問題にブチ当たってしまったようだ。

「…じゃあ、おにーさんって呼んでもいいですか?」
 お、おにーさん!?
 …エロいな。
「私は、おにーさんよりも1つ年下なのです。だから、おにーさんなのです」
「そうか…」
 何か、急に可愛い妹ができたみたいだ。
 こういうのも、悪くはないだろう。
 だが、走り回ったこともあって僕の疲れはMAXだ。
 とりあえず、細かい話は置いといて寝る事にした。
 これが、昨夜の話。
 そして朝を迎えたのだった。

697:2004/01/11(日) 13:09

 テーブルの上には、ご飯に味噌汁、焼き魚が並んでいた。
「わっ、美味しそうだなぁ… 簞ちゃん、料理上手なんだね…」
「お口に合うと嬉しいのです」
 僕は簞ちゃんが作ってくれた朝食を口に運んだ。
 …美味い。

「で、簞ちゃん。聞きたい事があるんだけど…」
 僕は話を切り出した。昨日の夜のことだ。
 この娘は、吸血鬼とやらを簡単にやっつけてしまった。
「一体、君は何者なんだい?」
 簞ちゃんは少し黙った後、話し始めた。
 本来なら、隠すはずの話だったのだろう。
 僕が、吸血鬼を目撃していなければ…

「私は、『教会』の代行者なのです」
 簞ちゃんは聞きなれない単語を口にした。
 話によれば、吸血鬼を退治する『教会』という組織があるらしい。
 簞ちゃんは、代行者と呼ばれるその組織のエリートだという。
「私は、『守護者』という称号を持っているのです…」
 簞ちゃんは少し誇らしそうに言った。
「ヴァンパイア・ハンターってとこ…?」
 僕は、自分の知っている言葉に置き換えてみる。
 簞ちゃんはうなづいた。
「そうなのです。ただし、私は吸血鬼と戦う事はほとんどないのです」
 …そうだろうな。
 昨日、吸血鬼をやっつけた時の様子は尋常じゃなかった。
 あんな化物だろうと、心優しい簞ちゃんは相手を傷つけるのが嫌なのだ。

「他の代行者のみなさんの武器を作るのが私の仕事なのです」
 簞ちゃんは言った。
 そう。この娘は、さらに僕の知らない単語を口にした。
 …スタンド。
 生命エネルギーのヴィジョンをそう呼ぶらしい。
 そして、このスタンドが使える者を『スタンド使い』と呼ぶのだという。
「私のスタンドの名は、『シスター・スレッジ』なのです。能力は、『波紋』を物質に固着させることなのです…」
 ちなみに、『波紋』とは吸血鬼の弱点らしい。
 昨日、あの吸血鬼を溶かしたやつだ。

「それで、何で僕の家に来たの?」
「迷惑だったでしょうか…」
 うつむく簞ちゃん。
「だから、違うって! 迷惑じゃないけど、気になるの!」
 僕は慌てて否定した。
「本来は、誰もいない潜伏場所に送られるはずだったのですが、手違いがあったようなのです」
 …手違い、か。
「それで、何で宅配便なんかで?」
「こっそり入国するためなのです。私達代行者が入ってくると、この国の偉い人はいい顔をしないのです」
 それって、まずいんじゃないか?
 それに、スタンド能力なんていう便利なものがあるなら、それを使ったらいいんような気がする。
 僕はその疑問を口にした。
「この国のスタンド使いの人は、スタンド能力を使った不法入国に特に警戒しているのです。
 こういうアナログな手が一番いい、と大司教様はおっしゃったのです」
 …なるほど。
 という事は、代行者という人達はみんな宅配便扱いでやってくるのだろうか。
 顔も知らない代行者の人達が、次々に小包に詰められていく情景を想像してしまった。

「それで、何でこの国へ来たんだい?」
 僕は核心に触れるような質問をした。
 簞ちゃんは少し考えた後に言った。
「人探しをしているのです」
 …人探し? 吸血鬼じゃなくて?
 簞ちゃんは口を開いた。
「私は、『異端者』という人に会わなければいけないのです」

698:2004/01/11(日) 13:10

 僕は、教室に入ると自分の席に座った。
 話の途中だったが、家を出る時間になってしまったのだ。
 簞ちゃんには、留守番を任せておいた。
 どうせ行くアテもないのだ。
 しばらく家に置いても構わないと思う。
 生活には潤いが必要だしね…

 そう言えば、今日は8頭身どもの姿を見ない。 
 あいつらの事も、簞ちゃんに説明しないといけないな。
 …奴らが僕にまとわりつくせいで、学校では友達が出来ない。
 クラスの人達には露骨に避けられている。
 毎日キモイ奴らと追いかけっこをやっているのだから、それも当然だろう。

 突然、隣の教室から爆音がした。
 僕の思考が中断される。
 グラグラと揺れる校舎。
 …またB組か。もう、いつもの事だ。
 僕はため息をついた。

 クラスメイトの話を横から聞いたのだが、B組には伝説の女ったらしがいるという。
 高校生にして美人と同棲し、なおかつ別のクラスの女子二人を周囲にはべらせている。
 B組のアイドルは彼にフラれて家出したというもっぱらの噂だ。
 さらに年上の女性に家まで高級外車で送ってもらったところも目撃され、ホモにまで思いを寄せられているという。
 彼はその幸せっぷりに、常に薄笑いを浮かべているらしい。
 また、彼の行く所には嫉妬の嵐が吹き荒れるという。
 この校舎も、彼をめぐる争いで何回も破壊されたということもあり、彼の名はもはや伝説と化している。
 まあ、僕には関係ない話だが…

 そして、放課後。
 今日は一度も8頭身達の姿を見なかった。
 どうしたんだろう?
 僕は晴れやかな気分で帰宅した。


 部屋に入ると、見慣れない物が目に入った。
 あれは… 大量の剣や銃弾!!
 その真ん中に、簞ちゃんが座っていた。

「こ、これって…!」
 僕は呟いた。
「お帰りなさいなのです」
 簞ちゃんは、僕の姿に気がつくと言った。
「ああ、ただいま… で、これは?」
 僕は部屋中を見回した。
 小型の剣から大型の剣。様々な大きさの弾丸が所狭しと並べられていた。
 それを、女性の姿をしたヴィジョンが一つずつ触っていっている。
「祝福儀礼というのです。朝も言ったとおり、武器に波紋を固着させて、吸血鬼に効くようにしているのです」
「なるほどね…」
 それにしても、これだけの武器をどこから…?

「ヴァチカンから宅急便で取り寄せたのです。
 こうしている間にも、世界のどこかで『教会』の方が吸血鬼と戦っているのです。
 武器は、常に不足しているのです…」
 なるほど、大変な仕事だなぁ…

 簞ちゃんは、こっちを見て嬉しそうに微笑んだ。
「こんなものも、届けてもらったのです…」
 ダンボールから、何かを取り出す簞ちゃん。
 あれは、僕の学校の女子の制服…!?
 一体、何に使う気なんだ?
 もしや、僕にそういうプレイを楽しんでもらうために…!!
 …エロいな。

「明日から、私も一緒に学校に連れて行ってほしいのです」
 簞ちゃんは驚くべき事を口にした。
 エエエエエエエエェェェェェェェッ!!

「…迷惑でしょうか…」
 表情を曇らせて、視線を落とす簞ちゃん。
「いや、迷惑なんかじゃ全然ないんだけど、何でまたどうして? それに、部外者は学校に入れないし…」
 簞ちゃんは、ぷるぷると首を振った。
「部外者じゃないのです。私は転校生なのです」
 えっ! もう転校手続きは済ませたって事…?
 それって、そんな早く許可が下りるもんなのか!?

「ヴァチカンを通じて、話をつけたらしいです。教育委員会じゃなく、文科省の偉い人に納得してもらったのです」
 簞ちゃんはあっさりと言った。
 うーむ。 アンタッチャブルな領域だなぁ…

 とりあえず立ちっ放しもなんなので、僕は腰を下ろした。
 周囲には、足の踏み場もないほど武器が敷き詰められている。
 カバンはどこに置こうか?

「あっ…! すぐ片付けるのです!」
 僕の様子に気付いた簞ちゃんは言った。
「あっ、いいよ。別に急がなくても…」
 僕は、さっきから黙々と作業をしている、その女性のヴィジョンを見た。
 普通の女性よりも、どことなくメカニックだ。
「で、これが簞ちゃんのスタンドってやつ?」
 僕は、何気なしに訊ねた。

 驚愕の表情を浮かべ、硬直する簞ちゃん。
「おにーさん… 私のスタンドが見えるのですか…!?」

699:2004/01/11(日) 13:11


          @          @          @



「どうぞ…」
 『蒐集者』は、ファイルを机の上に置いた。
 立派な礼服を着た初老の男性がそれを受け取って、パラパラとめくる。
「ふむ。確かに受け取った」
 ファイルを閉じて、男性は言った。

「性能は折り紙付きです。パワー、敏捷性、共に並外れている。
 環境適応力も高く、海底や宇宙空間での行動すら可能でしょうね」
 『蒐集者』は不服そうにため息をついた。
「その代わり、今の状態では素体を選びます。通常の人間に施したところで、適正は不可能でしょう」

 礼服の男性はそれを受けてうなづいた。
「了解した。うってつけの素体がいる。それにしても、君には感謝しているよ…」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「いえいえ… 私の親たる『教会』の頼みですからね。お安い御用ですよ、枢機卿」
 枢機卿と呼ばれた男性は『蒐集者』を見据えた。
「見え透いた嘘は結構だ、『蒐集者』。とりあえず、才能があると思われるスタンド使いを7人、例の場所に集めてある。
 『アヴェ・マリア』の糧にするがいい」
「それはそれは、奮発しましたね…」
「何があっても、君を敵に回すなという上からのお達しだ」
 微笑を浮かべる『蒐集者』。
「枢機卿の地位にあるあなたの、さらに上ですか… それは光栄な事だ」

「で、君はこれからどうするつもりだ?」
 枢機卿は言った。
 それに答える『蒐集者』。
「久々のヴァチカンですし、もう少しゆっくりさせてもらいましょうか… 
 と言いたいところですが、あっちで仕事があるのでね。
 今日中にはここを発ちます。まあ、しばらくは事を起こしませんよ。何事にも準備期間が必要ですからね。
 ASAや公安五課に目をつけられているのが辛いところですが…」
 枢機卿は顎に手をやった。
「ASAの介入、明らかに早いな…。奴らの『SOL-Ⅱ』、照準が法王庁に向いておる」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「本営を移動させ、三幹部を揃えたのですから、かなり本気とみて間違いありません。
 成功した方の実験体、『つー』にもASAの人間が張りついてましたよ。
 護衛じゃありません。『何かやったら、お前の大切な実験体を破壊するぞ…』という脅しでしょうね」


「史上初の『NOSFERATU-BAOH』の完成体か… 『つー』とやらは、そんなに良い素体だったのか?」
 枢機卿は、再びファイルをめくりながら言った。
 『蒐集者』は口を開く。
「素晴らしい出来栄えですね。正直、『monar』の周囲の人間を無作為に使ったのだが… 
 ここまで良い結果が出るとは予想していませんでした。やはり、素質ある人間は、素質ある人間の元に集まるものです」

「そうか…」
 枢機卿は、口に手を当てて考え込んだ。
 そして、おもむろに口を開く。
「実は、君にもう一つ頼みたい事がある」
「何です? 私に出来ることならば」
「この技術を使用する、素体の事だ…」
 枢機卿が、ファイルを右手で示した。
「素体そのものは選抜済みなのだ。おそらく…いや、絶対に『つー』とやらよりは優れている」
「ほう…」
 『蒐集者』は顎に手を当てた。
「しかし、その彼は… 我々では手に負えない。君に、その素体を説得してほしいのだ」

700:2004/01/11(日) 13:12

 『教会』の地下60m。
 そこに設置された特殊施設に、彼は幽閉されていた。
 設置されたエレベーターのみが、そこと外界を繋げる手段である。

 『蒐集者』は、エレベーターから降りた。
 その後ろから、『教会』の職員2人が続く。
 照明は薄暗い。
 廊下の四方は、結晶炭素繊維と高鋼延チタンで固められていた。
 壁の隅々を、コードが網のように這っている。
 コツコツという足音が重く響いた。

 巨大な扉に突き当たる。
 7mほどの高さで、その周囲は黄色と黒のペイントで縁取られていた。
 扉の横に設置されたコンソールパネルが、薄暗い空間に灯火を与えている。
「劣化ウラン装甲です」
 横のコンソールパネルを操作しながら、職員は言った。
 重い音を立てて、扉が左右に開く。
「奴の射程は20mです。これ以上は、私達は近づけません…」
 職員はおずおずと言った。
「分かりました。後は任せてください」
 『蒐集者』は、扉の奥に足を踏み入れる。
「どうか、お気をつけて…」
 職員は、『蒐集者』の背中に呼びかけた。

 廊下に『蒐集者』の足音が響く。
 背後から、扉が閉じる重い音がした。
 しばらく歩くと、今度は小型の扉に突き当たった。
 『蒐集者』は、コンソールパネルにあらかじめ教えられていた番号を入力する。
 音を立てて、その扉が開いた。
 その前には、また同じ扉。
「三重構造とは、厳重ですねぇ…」
 『蒐集者』は呟いた。
 そして、三番目の扉を開ける。

 今までとは打って変わって、明るい部屋。
 その部屋は、まるで子供部屋のような様相を示していた。
 …いや、実際に子供部屋なのだ。
 床には、積み木や画用紙、クレヨンが散らばっている。
 壁は、カラフルにペイントされていた。
 その壁に、プラスチック爆弾が埋め込まれているのを『蒐集者』は見逃さない。
 その量、約2トン。
 プラスチック爆弾の中に部屋を作ったようなものだ。
 何かあれば、ここは一瞬で灰塵と化す。
 これだけの設備を作ってまで、『教会』が恐れているモノ。
 真ん中にはその子供が座っていた。

 小動物のような小柄な身体。
 紫色をした不気味な肉体。
 その全身に、縦横に走る血管が浮き出ている。
 つぶらな瞳が、違和感を増大させていた。
 
「おじちゃん… 誰…?」
 子供は呟く。
「別に、名乗るほどの者ではありません…」
 『蒐集者』は、部屋に足を踏み入れた。

「…来ないで」

 グシャリ、という鈍い音が部屋に響いた。
 爆裂する『蒐集者』の頭部。
 その破壊痕は肩にまで達している。
「…」
 子供は、『蒐集者』の残骸を見つめていた。

「ほう… 大した歓迎ですね…」
 虚空に散った肉片が集まり、再び頭部が形成される。
 それを目にして、子供の態度が豹変した。
 子供は、突然はしゃぎ声を上げた。
「すごいや! もしかして、おじちゃんも『いらない子』?」

 『蒐集者』は腕を組んだ。
「『いらない』かどうかは分かりませんが… 世界にとっては、私が存在しない方が有益でしょうね。
 ただ、『子』ではない事は確かです…」

「なんだ… 違うのか…」
 がっくりと肩を落とす子供。

701:2004/01/11(日) 13:13

「では、君は『いらない子』なのですか?」
 『蒐集者』は訊ねた。
「うん… みんなが、ぼくのことを『いらない子』って言うんだよ… おかあさんも…」
 ――ぐにゅる。
 子供の頭部…頬の辺りから、女性の顔がゆっくりと突き出した。
 一見、生きているように見える。
 だが、その女性の瞳には何も映っていない。
 顎の部分までが突き出ると、女性の頭部はがっくりとうなだれた。
 髪が垂れて、顔が見えなくなる。
 間違いなく彼の母親だ。そう『蒐集者』は看破した。
 細胞組織は生きている。 …いや、生かされている。
 ただし、生きているのは体組織だけ。
 彼女はもう食われているのだ。

「おとうさんも、ぼくを『いらない子』って言った…」
 ――ぐにゅる。
 同様に、頭の先から突き出る男性の顔。

「おにぃちゃんも、いもうとも、おじぃちゃんも、おばぁちゃんも、おじさんも、おばさんも、せんせいも、
 となりのおねぇさんも、となりのおばさんも、ともだちも、ともだちのともだちも、ともだちのおかあさんも、
 ともだちのおにいさんも、ともだちのともだちのともだちも…」
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 ――ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。ぐにゅる。
 彼の顔や身体から次々と突き出す人面。
 子供の体は、人面で埋め尽くされた。

 枢機卿は言っていた。
 『ぽろろ』。
 それが、この子供の名前。
 だが、その名を呼ぶ者はいない。
 ぽろろの周囲の人間は、全て彼によって捕食された。
 この子供は、自分が何をやったか分かっていないという。
 『死』の意味を… そして、自分が殺したという事を知らないのだ。
 なまじ、自我を持っている事がこの子供の悲劇である。
 それだけではない。
 この子供は、自分のスタンドに食われている。
 そして、スタンドを食っている。
 自らの才能に食い尽くされ、そして逆に食い尽くしている。
 ――まるでウロボロスだ。

 ぽろろは言葉を続ける。
「だから、なかよくなろうと思ったのに… ねぇ、おかあさん」
 当然ながら、女性の顔はうなだれていて返事をしない。
 ぽろろは『蒐集者』の方に視線を移した。
「ぼくが『いらない子』だから、なにも言ってくれないんだ…」

 『蒐集者』は口を開いた。
「いるかいらないかは、自分で決める事です。
 自分が『いらない子』と思うのならば、ここで膝を抱えて閉じこもっていればいい」
 ぽろろは、無言で首を左右に振った。
 突き出た顔が全て引っ込んでしまう。
 後に残ったのは、ちっぽけな子供の姿だ。
「いやだよ… 外に出たい…」

 『蒐集者』は、ぽろろの前でしゃがみ込んだ。
 目線をぽろろの高さに合わせる。
「君のスタンドに名前をあげましょう。
 ――『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』と」

702:2004/01/11(日) 13:14

 きょとんとした表情を浮かべるぽろろ。
「てんし…? ぼく、天使になんかなれないよ…?」
 『蒐集者』は笑みを浮かべた。
「もちろん、君は普通の天使ではありませんよ。人の世に地獄を築く、黙示録の天使です」
 目をぱちくりさせるぽろろ。
「もくしろく…?」

「そう、『ヨハネの黙示録』に出て来る天使とは、あなたが知っている天使とは全く異なります。
 よく誤解されていますが、天使とは人間の味方ではありません。 
 現に、『黙示録』で人類のほとんどを滅ぼすのは、天使の仕業ですよ。
 彼ら七人の天使は、神から七つのラッパを授かっています。
 そのラッパが吹き鳴らされると、破滅的な災いが起こるのです。」
 ぽろろは、『蒐集者』の言葉を反復した。
「わざわい…?」

「そうです。人々が殺し合ったり、疫病が流行したり、人類のほとんどが虐殺されたり…ですね。
 人間ばかりでなく、あらゆる動物や植物、天体…すなわち全被造物が災いに晒されるのです。
 それはまさに、人にとっては地獄以外の何者でもありません。
 だから貴方は… 地獄を築く『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス(黙示の天使)』になるのです」
 目をぱちくりしているぽろろ。
 意味の大半は理解できていないのだろう。

「まあ『黙示録』自体は、どこぞのヨハネとやらが、自分の夢を書き綴っただけのつまらない文章ですがね。
 これが約2000年もの間、人類に伝え続けられた事に大きな意味があると私は思います」
 『蒐集者』は、ぽろろの瞳を見据えた。
「『黙示録』で生き残った人類の数は、僅か14万4千人。その全員が、神に選ばれた者です。
 『黙示の天使』である君には、大いなる選択権があるんですよ。
 『いらない子』と、『いる子』を選別する絶対権利がね…」
「ぼくが、えらぶ…?」
 ぽろろは、ただ『蒐集者』の言葉を繰り返した。
 それを受けて、うなづく『蒐集者』。
「手術の話は聞きましたよね。それを受けたら、君は『いらない子』ではなくなります。
 それどころか、君が『いる子』と『いらない子』を選り分けることができるようになれますよ…」

「でも、ぼく知ってるよ。その手術を受けたら、自分が自分じゃなくなっちゃうかもしれないって…
 ぼく、怖いよ…」
 ぽろろは震えて言った。
 『蒐集者』は笑顔を見せる。
「そんな事はないですよ。貴方なら大丈夫です」
「でも…」
 ぽろろは、うつむいてしまった。
 『蒐集者』は、ロングコートをはためかせて立ち上がる。
「では、こうしましょう。そこのテレビ、映りますか?」
 壁に設置されているTVを指差す『蒐集者』。
「うん。見れるよ…」
 ぽろろは答える。

「では、今から約4ヶ月半後の2月8日に、大きな花火を打ち上げます。そのTVに映るくらいのね…」
 『蒐集者』は言った。
「うそだ! ぼく知ってるよ? 花火は冬にはやらないんでしょ…?」
 ぽろろは床に転がっていた絵本を拾い上げると、ぱらぱらとめくる。
 夜空に花火が瞬いているページを開くと、『蒐集者』に見せた。
「花火は夏しかやらないって書いてるよ? それをTVでやるなんて、ぜったいに無理だよ…!」
 『蒐集者』は微笑を見せると、再びぽろろの前でしゃがみ込んだ。
「だから、これが私との約束なんです。最初に、私が約束を守って花火を上げる。君は、約束を守って手術を受ける。
 こうすれば、二人とも約束を守った事になります」

703:2004/01/11(日) 13:14

「約束、だね…!」
 ぽろろは、ぱっと明るい表情を見せた。
「ホントにTVにうつるほどの花火が上がったら、こわいけど僕も手術を受けてみるよ!
 おじちゃんが約束を守ったってことだからね!」
 『蒐集者』はうなづいた。
「私との約束、ですよ… 手術を受ければ、君も外に出れるようになる」
 ぽろろは目を輝かせた。
「そうなったら、僕は『いる子』になれるの!?」
「ええ、なれますよ。君はみんなに祝福される子になる」

「じゃあ、おかあさんもほめてくれる?」
 ――ぐにゅる。
 再び、彼の身体から母親の顔が張り出した。
 『蒐集者』は、ぽろろの無邪気な質問には答えなかった。

 手を伸ばし、ぽろろの頭を撫でる『蒐集者』。
「『いらない子』なんて、この世には存在しません。
 いかなる境遇にあろうとも、望まれない生命など存在してはならないのです。
 もし、『いらない子』なんてものが存在するならば――
 自分で、『いらない子』と思い込んでいる人間だけでしょう」
 ぽろろは、『蒐集者』の目をまっすぐに見た。

 言葉を続ける『蒐集者』。
「手術には、君の心と身体は耐えられる。それは私が保証しましょう。
 しかし、君が今まで自分のやってきた事の意味を知った時、君が自分を保てるかは分からない…」
 『蒐集者』はぽろろの顔を覗き込んだ。
「――そうなった時、私の言葉を思い出してください。
 君は、君自身を『いらない子』と決め付けた世界と戦えるだけの力を持っている。
 君こそが、『いる子』と『いらない子』を選別する地獄の天使だという事をね…」



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

704( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:43
・・いつもそうだった。
親は強盗に殺され
俺は義父と義母に虐待され
学校では虐められ
教師には放置され
動物には死なれ
神には見捨てられた
・・そんな俺に物心付いたときから傍に居た『友達』・・
名前の無いソイツを俺は『ジェノサイア』と名づけた・・。

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―幸せはやって来ない①

「・・・嫌な夢見たなぁ・・」
気付いたらパソコンを付けっぱなしにして椅子に座りながら寝てる俺。
時計は4時を指し、紅茶はすっかり冷めている。
・・・意識を無くしたのが12時・・4時間も寝てたのか・・。
昨日のスタンド使い君は自白によって逮捕された。
でも、スタンド使いを法律でしばる事は難しい。ならば何で縛るのか?
・・『力』だ。弱い者を捻じ伏せるのには力だ・・。
突然パソコンのデスクトップから顔が現われる
「随分と元気が無さそうじゃないか巨耳モナークン?」
彼女が俺のスタンド。『ジェノサイア』だ。昨日の犯人を一掃したのも彼女。
能力は『画面がある所を自由自在に移動する』事。
パソコンだろうがテレビだろうが携帯電話だろうが携帯ゲーム機であろうが
画面があればそこからでることが出来る。
「・・ちょっと嫌な夢を見てな・・。ハッキリとした。鮮明で、リアルな夢。」
俺はふと天井を見上げた
「へぇ・・?じゃあ教えてよ。」
ジェノサイアに言われると俺はソレを話し出した。・・ジェノサイアは知ってる事だ・・
・・何故なら俺が今見た夢は・・・昔の思い出なのだから

705( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:44

〜8年前〜

・・俺は雨が降る外を見て、涙を流しながらトンネルに居た。
ジェノサイアが俺の携帯から出てくる
「・・・どうして?どうして何も言わずに殴られるの?」
ジェノサイアは悲しそうに俺に聞く。
話は数分前にさかのぼる。
学力はクラスTOPと頭が良かった俺は、先輩に目を付けられ、絡まれていた
「ねーねー?どうしてんな頭が良いのオォォォオーん?」
「お兄さん達にも教えてよォォォォー。お・べ・ん・きょ・う。」
「お兄さん達も勉強したいんだけどねェー。お金が無いんだよォー。貸してくれなァァーんい?」
俺はいつも友達に虐められてる時の様に無視して帰ろうとする
・・・だが、今回は勝手が違った
「・・無視してんじゃねーぞッ!このスッタコがッ!」
先輩の拳が飛ぶ。
「頭が良いからってよォ〜調子ノッってんじゃねェッ!!」
蹴りがみぞおちに入り、俺は口から血を流す
「また明日よォ〜。今日と同じ時間でこのトンネルに来てよねェ〜?」
「来なかったらどうなってるかわかってるなァッ!?」
そういい残すと、先輩達は去っていった。
そして自分は、トンネルから出て、自分の家に向かった。
「・・・・鍵がかかってる・・。」
もう慣れた。呼び鈴を押しても空けてくれない。俺はドアの前に座る
後ろからふいに誰かに抱かれた様な感じになる
・・・・ジェノサイア。
ジェノサイアは画面と接してる状態ではその画面と同じくらいの大きさになるが
画面から離れると、大きさは普通のAA一体分くらいの大きさになる。
そして、俺はジェノサイアに抱かれながら、家の外で就寝する。

706( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:45
・・翌日。俺は普通に登校する。・・机が無い。
まぁ、教師に言ってもシカトされるだけだから地べたに座るか
「コラァッ!巨耳ィッ!ブチ殺されてェのかァ!?地べたに座ってんじゃねェー!!」
・・どうしろと言うのだ。俺はとりあえずシカトする。
―下校時間。もちろん俺は先輩達の待ち合わせ場所のトンネルは通らない。回り道して家へ帰る。
が、珍しく鍵がかかってない。とりあえず家に入ると、義母が俺を俺の部屋に投げ入れ、ドアの鍵を閉めた
――先輩だ。
金を出すのを拒否したら俺はフクロダタキにされた。
問題無い。金を出すくらいなら痛みに耐えた方がマシだ。
しかし、今回ばかりは勝手が違った。先輩の手に何かがぼやけて見える
・・・刃物。包丁だ。
「金を出してくれないならよぉ〜。殺して保険金をもらうしかねぇよなァ〜?もう親御さんからの許可も貰ってるんだぜェ〜ッ?」
・・・!!
俺に、新しい感情が生まれた。一つは『驚き』そして、もう一つは
・・・・・・・・・・・『恐怖』
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
先輩は本気だった。俺の心臓近くにナイフがもってかれる
「それじゃあ。お楽しみとまいりましょうかァ?」
先輩達が盛り上がる。・・・殺される。
そう思った瞬間。ふいにテレビから大きな拳が現われ、先輩をふっとばしてった。
ジェノサイアだ。
先輩達は驚き、慌てふためき、そこから逃げて行った。
俺は、その日。かなり久しぶりに『泣いた』。何故かはわからない。
ただ。涙が止まるのを待つだけだった。
翌日から俺は『悪魔』と呼ばれ、同級生や教師にも恐怖されていた。
・・不思議と心地よい。何か嫌味を言われるなら、避けられ、無視された方が良いからだ。

・・此処で俺の目が覚めた。
ジェノサイアはソレを聞いて何か思い出したのか悲しそうな顔をしている
・・場の空気が重い。この場合ギャグでも言ってみようか。
だが、失敗するともっと重くなる。こんな時巨耳家にはある秘策がある
――逃げるんじゃよォー。
俺はその場をごまかして散歩にでかけた
気付くとあの時のトンネルの前に居た。
そして、それと同時に驚きが俺を支配した。
   『奴』 が目の前に居る。』って所か
「よぉ・・。巨耳モナー君?お久しぶりだねぇ・・。『8年ぶりい?」

←To Be Continued

707( (´∀` )  ):2004/01/11(日) 16:46
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。

 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。

  ∧_∧
  (  ๔Д๖)先輩(がんたれモナー)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院遅れとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。

708新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:13
合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その①


海宮町繁華街。
空はそりゃもう嘘みたいに真っ青だ。快晴だ。
雲一つとして見当たりはしない。
そこの交差点で一組の男女が信号待ちをしていた。
男は黒いフードの付いた服を着ていて顔が見えない。
(サンデーの某格闘漫画に出てきたハーミ○トみたいな奴と思っていただこうッ!)
女のほうは 見た目は16歳程度でセミロングの灰色の髪をしている。
なぜか右の目が荒々しく縫い付けられていて、かなり痛々しい。
ウォークマンで音楽を聴いていて、目を閉じて足でリズムをとっている。
二人ともこの人ごみの中でもかなり目立つ。
男は女に話しかけた。
「どうやら見失ったようだな・・・・・。」
「・・・・」
女からの返事はない。
「俺が迂闊だった。よりによってあんな『能力』を引き出すなんて。」
「・・・・」
「とにかくアイツを捕らえなくては。これ以上被害者が出るのは御免だ・・。」
「・・・・」
「・・・おい・・おいッ! 聴いてんのか!?」
「zzz・・ZZzzz・・・」
「・・・寝てんじゃあねェェーッ!! 何やってんだお前はー!」
男が女のヘッドホンを外して怒鳴った。
「zz・・・ん、んあ?・・ああ・・・おはよう」
トロンとした目を擦りながら女が起きた。
「何が『おはよう』だよ!こんな所で寝るな!」
「いや・・・なんかこの陽気の中、音楽にノッていたら気持ちが良くてついウトウトと・・。」
「まったく・・・。もっとシャキっとしとけよなぁ〜シャキっと!」
「オ、オッス!」
「ホラ、信号変わったからいくぞ。」
男が歩き出したので、女は慌てて後を追いかけた。

709新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


みなさん、ご機嫌いかがですか?
…誰に言ってるかなんて聞かないでほしいのだ。あたしだってわかんないんだから。
まぁいいや。あたしは…あたしの名は杏子。皆から『ヅー』って呼ばれている。
王牙高校の一年生で家が喫茶店を営んでいる。
今日は週末で学校が休みなので店の手伝いをやらされている。
店には同じクラスのアヒャ、ツー、シーンの三人が来ていた。
本名は亜日野、津田、清水と言うんだけどほとんどニックネームで呼んでいる。
そしてその三人は何やら討論しているご様子。

「俺はランララランランランだと思うんだけどね」
「でも俺の耳にはランラララランランランって聴こえるんだよな」
「僕はランラン、ランララランランランって聞こえるな。」

ここはいつから2丁目になったのかしら。
なにかと思いつつ事情を聞いてみると、
なんでもナウシカのあのテーマ曲はなんて歌ってるのかみんなで話し合ってるんだとか。

「お〜アヒャ君じゃないか!」
出た。トラブルメーカーうちの父さん。
「あ、おやっさん!」
「いつも来てくれてありがとうね〜!今丁度新メニュー開発として新しいドリンク作っていたんだけど飲む?」
「飲む飲む!」

・・・さようなら。
私は心の中でそう呟いた。
何しろうちの父さんの作るオリジナルドリンクは、『当たり』の場合もあるが、大半の場合は『はずれ』なのだ。
何度か試しに飲んでみたが・・・素人にはおすすめできない。

「チャオ!みんな元気してるゥー?」
来た。見せる暴力野郎マララー。
今日も男根の帽子が眩しい。
「ん、アヒャ君。それは何?」
「ああ、おやっさんの特製ドリンクさ。まだ飲んでないけど一口飲む?」
「もちのロンさ!」
そういってアヒャ君からグラスを受け取るとマララーはドリンクを喉に流し込んだ。

「・・・・」
急に無口になるマララー。
ガシャアアン!
音を立てて地面に落ちたグラスが割れた。
と、同時にマララーが地面に倒れた。
やっぱり『はずれ』だったか。

「お、おい!大丈夫か!?しっかり!」
ツーが慌てて駆け寄る。
見ると手足は痙攣していて白目を剥いていた。
「う〜む。ハバネロの分量を間違えたか?」
父さんが顎を撫でながら呟いた。

おい、何を入れたんだ何を。

710新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14


仕事もひと段落ついたので皆とアイスティーを飲みながら雑談をする。
マララーは邪魔になるので店の隅に放置しておいた。
「そういえばさ、さっきここに来るとき生の事故現場見れたぞ。」
おもむろにアヒャが口を開く。
「何ッ!?」
するとツーがいきなり立ち上がった。
リアクション大袈裟すぎ。
「何処だ!何処で見た!?」
そういえばツーは祭りや事件なんかが好きだったな・・・。
「ああ、この近くに社宅があるじゃん。そこに大型ダンプカーが突っ込んだらしいぜ。
 けっこうボロかったから少しばかし衝撃で壁が崩れてたぞ。」
「そうか!ならば俺は行くぞ!祭り好きの血が騒いでしょうがねぇぜ!」

バン!

ドアを思いっきり開けてツーは走っていった。
「逝ってらっしゃ〜い。」
私達は彼を止めることはできなかった。
          *          *          *

「ひゃあ〜、凄いね〜。」
「あれだけの大きさのダンプが衝突したんだ。死者が出ていないのが幸いだ。」
その事故現場にあの二人はいた。
警察、消防署、救急隊、野次馬等が騒がしい。
原因はダンプカーのタイヤがパンク。スリップしてぶつかったらしい。
「あ!テレビ局の車が来たよ!せっかくだから写ろう!」
「・・・やめておけ。恥をかくぞ。」
二人が現場から立ち去ろうとした時だった。
「急げ!子供が一人瓦礫の下敷きになっているぞ!」
それを聞いて男が立ち止まる。
「・・・どうしたの?」
「・・決まっているだろ。ちょっとした人助けだ。」
影に隠れて分からないが、男は少し笑った気がした。

711新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:14

「うわーん!痛いよぉー!」
二人が人混みの近くに行くと、子供の泣き声が聞こえてきた。
声から男の子と分かる。
隣では母親らしき女性が泣き崩れている。
「すいません。ちょっと通りますよ。」
二人は野次馬をかき分けて声のする方へ近づいた。

「なんだ君達は!早く離れて!」
案の定、警官に制止される。
と、同時に彼の喉にサバイバルナイフが突きつけられた。

「・・・・邪魔しないでくれる?あの子を助けるんだから。」
女が警官を睨んだ。
殺気を帯びた眼差しに流石に警官は後ずさりした。

近くで見ると男の子は両足とも瓦礫に埋まっていた。
這い出そうと試した結果できてしまった擦り傷が腕にできている。
周りでは大人が数人瓦礫をどかそうとするが、なかなか持ち上がらない。
その時、男の子の顔に影が落ちた。
「…大丈夫。すぐに助けてあげるから泣くな。」
男は子供に優しく語りかけた。
「ちょっと待ってな。今すぐどかすから。」
男から半透明のヴィジョンが飛び出した。
人の形をしているスタンドだ。
「じっとしてな。」
スタンドが地面に触れた。

ボゴオオッ!

衝撃音と共に子供の足の上の圧迫感がふいに消えた
驚いて足を見ると足を潰していた瓦礫が吹き飛ばされている。
そして足の横にはさっきまでは無かった石の柱が何本か突き出ていた。
驚きのあまり、男の子は足の痛みを忘れていた。
「ひどいな・・・。両足とも折れている。」
「直せそう?」
「ああ、この程度だったらな。」
男のスタンドが子供の足に触れると同時に、一瞬足が細かな粒子になって飛び散った。

「・・・よし。これでいいだろ。さ、行こうか。」
男と女は、呆気に取られている周りの人々を尻目にその場を立ち去った。
二人の後ろでは、両足とも元の状態に戻った少年が何が起きたか分からないまま立っていた。

712新手のスタンド使い:2004/01/11(日) 23:16

「もう凄いのなんのって!そいつ名前も名乗らずに去っていったんだから!もうシビレたね。」

事故現場を見てきたツーが興奮交じりで皆に自分の見たことを話している。
男が少年を助けたとき、丁度ツーが現場に居合わせたのだ。
「ふーん。で、どんな奴だったの?」
シーンが尋ねる。
「えーっと、確かフードを被っていて顔は見えなかったけど・・・。」

その時店の扉が開いた。
「あ!あいつだ!」
中に入ってきた人を見てツーが叫んだ。
アヒャ達は一斉に扉の方を見た。
そこにいたのは紛れも無いあの二人だった。


  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

713ブック:2004/01/12(月) 00:56
      救い無き世界
      第八話・幕間 〜危険牌は通らない〜


「―――「○○デパート爆破テロ事件」の事件での被害者は、
 死者五十六名、重軽傷者二百三十一名、行方不明者四十八名と、
 甚大な数に昇っており、
 事件から一夜明けた今現在もなお、負傷者、行方不明者の
 捜索が続けられています。
 専門家の意見では今回の―――」
 ニュースキャスターが、四角い画面の中で喋っている。
 俺はSSS内にある医務室のベッドに、ぃょぅと並んで横たわりながら、
 テレビから放送されているニュースを見ていた。

「現場のズザギコさー…」
 ピッ
「…病院はどこも事件の被害者でいっぱいで…」
 ピッ
「…やはりこの国は自衛隊をもっと強化…」
 ピッ

 どこのチャンネルを見ても、やっているのは同じニュースばかりである。
 まあ、あれだけの事があったのだから、
 当然と言えば当然であるが。
 我ながら、よく生きて帰ってこれたものだ。

「でぃ君、傷はもう大丈夫なのかょぅ。」
 隣からぃょぅが話しかけてきた。
『もう、平気です。』
 ホワイトボードにそう書く。
 俺の怪我は、みぃのおかげで既に完治しかけていた。
 ぃょぅも、おそらくほとんど治っているはずである。

「でぃ君、あの時の事、何か思い出せたかょぅ。」
 ぃょぅの問いに、俺は黙って首を横に振った。
 あの時、瓦礫に道を塞がれて立ち往生していた時、
 俺は俺の内の『何か』に呼ばれて…
 そして、気付いたときには、瓦礫は跡形も無く消えていた。
 あれが俺のスタンドの『力』…?

 いや、違う。
 あんなものじゃない。
 たぶん、瓦礫を消し去るなんてほんの一端に過ぎない。
 何故か、そう確信することが出来る。
 あいつは、俺の中にいるあいつは、一体何なんだ…

「そうかょぅ…
 何か思い出せたら、些細なことでいいから教えてくれょぅ。」
 ぃょぅの言葉が俺を現実へと引き戻した。
 もし、俺が今さっき考えた事をぃょぅに伝えたら、
 ぃょぅは、そしてぃょぅの仲間達は俺をどうするだろうか。
 俺を一生監獄の中に閉じ込めるだろうか。
 それとも殺すのだろうか。
 漠然とした不安が、俺を襲った。

714ブック:2004/01/12(月) 00:57

「お邪魔するわよ。」
 不意に部屋のドアが開けられ、ふさしぃとみぃが部屋に入って来た。
 俺とぃょぅは、ベッドから体を起こす。
「お見舞いに来たわ。お二人とも、具合はどう?」
 果物の詰め合わせの籠を近くの机に置きながら、ふさしぃが尋ねてきた。
「ぃょぅは大丈夫だょぅ。
 今日にでも、復帰出来るょぅ。
 それもこれも、みぃ君のおかげだょぅ。」
「そ、そんな。
 私は大したことなんか何も…」
 ぃょぅの言葉に、みぃが恥ずかしがって縮こまる。
「でぃ君は、どう?」
 ふさしぃが俺にそう聞いてきた。
『はい。もうすっかり治りました。』
 俺はそう答えた。
「そう、なら大丈夫ね。」
 そう言ってふさしぃは微笑むと―――


 首から上が吹っ飛ぶような衝撃。
 ふさしぃの平手が、俺の顔面を正確に捉えた。
 俺はそのあまりの威力にベッドから転げ落ちる。
「でぃさんっ!!」
 みぃが俺に駆け寄り、体を抱える。
 あまりの平手の速さに、
 俺は一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

「馬鹿…っ!
 自分がどれだけ他人に心配をかけたか、分かってるの!?」
 ふさしぃが怒った。
 ある程度覚悟はしていたが、やっぱりか。
 まあ、しょうがない。
 あんな所で、勝手な行動をとって、皆に迷惑をかけたのだ。
 しかも迷惑をかけたのが俺みたいなでぃなら、
 余計に腹も立つだろうさ。
 所詮俺は―――

 次の瞬間、俺は目を見開いた。
 ふさしぃの目に、光るものを見つけたからだ。

 俺は、困惑した。
 何で、この人は泣いてるんだ?
 俺を怒るのは分かる。
 だけど、なんで泣く必要がある?
 いや、そもそも俺みたいなのが死のうが生きようが、
 この人には何も関係無いんだから、怒る必要すら無い。
 なのに、何でこの人は俺の事で、怒ったり泣いたりするんだ?

 ふと隣のみぃを見る。
 みぃも、泣いていた。
 分からない。
 なんでふさしぃも、こいつも、
 そんなに俺なんかに構う。
 両親だって、俺を見捨てたっていうのに…

 打たれた頬が酷く痛む。
 だけど、俺の胸の辺りは何故かそれよりもずっと痛かった。

715ブック:2004/01/12(月) 00:57


     ・     ・     ・


 私はふさしぃとタカラギコ、そしてギコえもんを相手に闘っていた。
 私は先程タカラギコから深手を負っており、
 おそらくこの四人の中では最も不利な状況にあると言える。
 それにも関わらず、彼らには油断の色はかけらも見られない。
(相手は百戦錬磨の兵ぞろい。
 簡単に勝てるとは思ってはいなかったけれど、
 まさかここまで追い込まれる事になるとはょぅ…)
 そして今、私は絶体絶命の窮地に立たされていた。
 三人は、私に止めの一太刀を浴びせようと身構えている。

 だが、同時に今は最大のチャンスでもあった。
 リスクは高い。
 しかし、これさえうまく行けば、大逆転が可能である。
 どうせこのままではじわじわとやられるだけである。
 やるしか…無い!

 私は最後の賭けに出ることを決心した。

 いくぞ!これが私の最後の手だ、喰らえ!!!


「リーーーーチ!!」
 私は牌を横に倒し、場に千点棒を置いた。
 私達は、SSS内の私達の職場となる部屋で、麻雀をしていた。
 誤解のないように言っておくが、もちろん勤務時間外である。

 チャッ、タン
 チャッ、タン
 チャッ、タン

 三人は案牌のみを切り出す。
 だが、問題は無い。
 この流れなら、間違いなく一発で上がり牌を引いてくる…!

「ツモっ!!!」

 一二三(12399)12233 ツモ1
 一…マンズ (1)…ピンズ 1…ソーズ

 リーチ一発ツモ純チャン一盃口ピンフ
 倍満できっちり逆転トップである。

「ちっ!!」
 ギコえもんが卓へと八千点を投げつけた。
 オーラス親っかぶりで最下位転落したからである。
 気の毒ではあるが仕方が無い。
 これが真剣勝負の世界だ。
「それじゃあ次の半荘といきますか。アハハ。」
 タカラギコが金を支払いながら言った。
 しかしその笑い声とは裏腹に、笑顔の裏には殺気にも似た
 気迫が見え隠れしている。

 そして次の半荘が開始された。
 レートは千点=千円。
 一瞬の気の緩みが致命傷となる。

716ブック:2004/01/12(月) 00:58

「…でぃ君に悪いことしてしまったかしら。」
 ふさしぃが(9)を切りなが言った。
「今日のビンタのことかょぅ?」
 私は白を切った。
「ポン。」
 タカラギコが白を鳴いた。
 捨て牌からしてマンズの混一?

「それもあるけど、違うの。でぃ君をデパートに連れて行ったこと。」
 ふさしぃは發を切る。
「ポン。」
 タカラギコがそれも鳴いた。
 ヤバイ。
 まさか大三元か!?

「あの事件に巻き込まれたのは、
 別に君の所為じゃ無いょぅ。
 不可抗力だょぅ。」
 私は牌をツモった。
 あろうことか中。
 これだけは死んでも切れない。
 私は仕方なくタカラギコの安牌である(7)を切る。

「ううん、違うの。
 私は、彼に自分がでぃであるなんて下らない事なんかで、
 他人から逃げるように生きて欲しくなかった。
 だから、あえてデパートに一緒に買い物に連れて行ったの。
 けど…」
 ふさしぃが、(4)を切った。
「けど…それは私の一方的なエゴの押し付けで、
 ただでぃ君を傷つけただけかもしれない…」
 ふさしぃが表情を暗くする。

「…心配ないと思うょぅ。
 でぃ君はきっとふさしぃの事を、
 分ってくれている筈だょぅ。」
 私はそう言った。
 そして、そうあって欲しいと願った。
「…だと、良いんだけどね。」
 ふさしぃは溜息をつく。
「大丈夫。
 悪い奴なら、みぃ君があそこまで懐いたりしないょぅ。」
 私はそう言って、2を切った。

「御無礼ロンです。満貫。」

 一一三三三22 白白白 發發發  ロン2

 …大三元はブラフだったか。
 私はしぶしぶ八千点を支払う。

「そのでぃ君なんですけどね、どうするんです?」
 タカラギコが点棒を受け取りながら言った。
「?どうって?」
 ふさしぃが尋ねた。
「彼の処遇ですよ。
 ぃょぅから聞いた話しか情報はありませんが、
 相当の能力と言えるでしょう。
 今も密かに監視はさせてますが、
 何か起こる前に、何らかの手を打っておくべきだと思うんですけどね。」
 タカラギコはそう答えた。
 私とふさしぃは、顔を曇らせた。

717ブック:2004/01/12(月) 00:58

 私は、そしておそらくふさしぃも、このことは
 努めて考えないようにしていた。
 だが、そうもいかない。
 彼の『力』は放置するにはあまりに物騒すぎる。
 最悪の場合、「処分」される事も有り得るだろう。

「けっ、だからでぃなんかさっさと始末するに限―――」
 ギコえもんは悪態をつこうとして、止めた。
 ふさしぃと、私の刺すような視線に気付いたからだ。
「…悪い。言い過ぎたゴルァ。」
 いつもならばふさしぃは即座にギコえもんを殺している
 はずである。
 だが、ふさしぃはそれをしなかった。
 ふさしぃも、ギコえもんの過去を知っているからだ。

「ま、この話はもうここら辺で止めときましょう。
 最終的にどうするかは、上が決めることです。」
 タカラギコはそう言って軽く伸びをした。
 我々対スタンド制圧特務係も、立場的には相当上に位置してはいる。
 が、流石に今回のことは我々だけでは決められない。
 しかし、それでも私は…

「…最悪の場合はあらゆる手段を使ってでも何とかする
 といった顔ですね、お二方。」
 タカラギコは私とふさしぃを見やった。
「全く、信じられませんね。
 自分の立場が悪くなるのは火を見るより明らかじゃないですか。
 会ったばかりの、音楽の好みすら知らない相手に
 そこまで入れ込むとは。」
 タカラギコはやれやれと言ったように肩をすくめた。
「でも、あなた方のそういう所、嫌いじゃありませんよ。」
 タカラギコはそう言って白を切った。
「それロンだょぅ。跳ね満。」

 (123456789)西西白白  ロン白

「…前言撤回。ぃょぅさんは好きになれそうに無いですね。」
「さっきのお返しだょぅ。」
 私とタカラギコとの間に、火花が散った。

718ブック:2004/01/12(月) 00:59

「そんなことより、結局あのデパート事件の犯人の
 スタンド使いは何だったんだゴルァ。」
 ギコえもんが口を開いた。
「残念だけど、分からないょぅ…
 済まなぃょぅ。
 生け捕りに出来なくて…」
 私は面目無い気持ちでいっぱいだった。
「まあ、仕方ありませんよ。状況が状況でしたから。
 犯人がスタンド使いと分かっただけでも見っけものです。
 その点では、でぃ君に感謝しないといけませんね。」
 タカラギコはそう言った。
「…いずれにせよ、早く背後を突き止める必要があるわね。」
 ふさしぃが深刻な顔をで呟いた。

「お、ツモだょぅ。
 1000・2000.ラストだょぅ。」
 再び私のトップでその半荘は終わった。
「か〜〜〜っ、うっそだろう。
 馬鹿ヅキじゃねえか、ぃょぅ。」
 ギコえもんが半分キレかけている。
 そろそろパンクといった所か。
「しかたないわね、次の半荘を…」
 ふさしぃがそう言いかけたところへ、
 いきなり小耳モナーが割り込んで口を挟んだ。
「さっきからじっとしてたら、皆酷いモナーーー!
 モナばかり仲間外れにして、モナも麻雀打ちたいモナー!!」
 後ろで観戦してばかりでは、さすがに退屈だったようだ。
 というか、さっきまでその存在をすっかりと忘れてしまっていた。
(ごめんょぅ。小耳モナー。)
 心の中で、小耳モナーに謝罪した。

「それじゃあ、ぃょぅと交替するょぅ。」
 私は小耳モナーに席を譲った。
 これ以上勝っては、命を狙われる可能性がある。
「わーい。勝って勝って勝ちまくるモナ〜〜!」
 小耳モナーは無邪気にはしゃいだ。

「ロン!跳ね満だゴルァ!!」
「あわわわわわわわわわわわわわわわ。」

「御無礼ロンです。
 親の倍満。トビましたね。」
「うやうやうやうやうやうやうやうやうやうやうや。」

 小耳モナーはあっという間にトバされた。
 何て弱いのだ。

「も、もう止めるモナー!!」
 小耳モナーが叫んだ。
 しかし、ふさしぃが小耳モナーを睨みつけて、
 抜けるのを許さない。

「さあ、どうしたの?
 まだ一度トバされただけよ。
 かかって来なさい。」
 ふさしぃが凄む。
「リーチ棒を出しなさい。
 鳴いて流れを変化させて。
 大物手を構築して立ち上がるのよ。
 役満をツモって反撃なさい。
 さあ夜はこれからよ。
 お楽しみはこれからよ。
 早く!
 早く早く!
 早く早く早く!」

「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
 小耳モナーが憐れな悲鳴を上げた。
 お終いだ。
 彼はもうお終いだ。
 彼は一騎当千の猛者が集う戦場に丸腰のまま放り出された
 赤子も同然。
 彼の末路はもはや唯一つ。
 搾取されつくし、
 無様に屍をそこにさらすのみ。
 私は小耳モナーに黙祷を捧げた。

719ブック:2004/01/12(月) 00:59


     ・    ・    ・


「アサピーが戻らなかったそうだな、梅おにぎり。」
 男が梅おにぎりに語りかけた。
「申し訳ございません…
 この責任は、必ず…」
 梅おにぎりは深々と頭を下げた。
「いや、いいんだ。
 狼煙は仔細なく上がったのだから。
 何ら問題は無い。」
 男は満足そうに言った。
「しかし…やはり動きましたか、SSSが。」
 梅おにぎりは顔を強ばらせた。
「構わぬ。
 むしろ歓迎したい位だ。
 邪魔者は多ければ多いほど面白い…」
 男が心底愉快そうに呟いた。
「さて…彼らはどこまで私を楽しませてくれるのかな?」


   TO BE CONTINUED…

720N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:40

   /;二ヽ
   {::/;;;;;;;}:}   私をズラして掲載し、10日以上も放置するとは              ∩_∩     ドウモスミマセン
  /::::::ソ::::)     いい度胸だな、N2…                           |___|F ヾ  スミマセンスミマセン
  |:::::ノ^ヽ::ヽ                                             (´Д`;)、      コノトオリデス
  ノ;;;/UU;;);;;;;ゝ.                                              ノノZ乙

721N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:41

シャイタマ小僧がやって来る! 後編

「ナンド ヤッタッテ 無駄ナンダゼ! カカカ!!」

…やはり正攻法では何度やっても駄目だった。
どんなにどんなに気を付けても、こいつはどこかでオレの隙を見付けては、
オレをこの「50」へと帰してしまう。

「オ前ハ 一生 俺ノ本体ヲ 見付ケラレナイバカリカ ココデ 不様ニモ 野垂レ死ニスルニ 決マッテンダ!
イイ加減 諦メテ ココデ 餓死デモスンノヲ 大人シク 待ッテヤガレヨ!!
俺様ダッテ 暇ジャネーンダヨ!!」

時計はもう11時を回った。
皆がオレのことを探しているかも知れないが、そんなのを待ってはいられない。
…ならば。


「・・・何シテンダ テメーハ? ヤッパリ トチ狂ッタカ?」
じっと時計を見つめるオレに、奴はまた難癖を付け始めた。
「…お前、オレがただの馬鹿だと思ってるのか?」
「ソリャオメー、 始メッカラ 分カリ切ッテイルジャ・・・」
酷い話だ。
ま、たかが遠隔操作型スタンドごときの考えにゃオレの策は見破れないか。

「じゃあお前は、オレが何も分からない迷子同然とでも思ってるのか?」
奴は当然の如く即答した。
「アッタリメージャネーカ! ンナモン サッキノ 馬鹿カドウカノ 質問ヨリモ 明ラカ・・・」
オレは続ける。
「今日は晴天…綺麗な秋晴れが広がっている。空にはさんさんと輝く太陽の光を遮るものは何も無い」
「・・・?」
何が何だか分かっていないらしい。
敵にさえも親切なオレは更に続けて差し上げる。
「そこの電柱を見ると、ここの番地は『南町』となっている…。オレ達が運動会をしていた運動場は町内の中央に位置しているから、
つまり大体北の方角に進めば帰れるということだ。
…お前、太陽とアナログ時計で方角を知る方法を知らないのか?」

「・・・???」
これでも分からないようだ。
本体はよっぽどの無知なのか。
敵にさえも寛大なるオレはその広き御心で丁寧に御説明なさる。
「確か太陽は一時間に約15度移動するはずだ。180÷12だからな。
そして時計の短針は一時間に360÷12…つまり30度動く。
と言うことは、時計の短針を太陽に向けると、そこと12時の方向の丁度真ん中が南ってことになる。
ってことは、その反対のこっちに直進すれば運動場に着けるってことさ!」
流石オレ。ナイス説明だ。
無駄に知識を披露するギコ兄とは訳が違う。

722N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:42

「・・・オメー、 ヤッパリ 馬鹿ダロ?」
って何でさ!!
「コノ 一本道ガ ドッチノ方角ニ 延ビテッカ 分カンネーノカ!? オメーノ目ニハ ココニ広ガル ブロック塀ガ 見エナイノカ!?」
…まあ、確かにごもっともだ。
「ソレデモ テメーガ 突ッ走ルッテンナラヨー・・・、 俺ハ容赦無ク テメーヲ コノ塀ニ 衝突サセテ 一気ニ アノ世ヘ 送ッテヤルゼ!!」
「…好きにしてな」

こいつの警告など関係ない。
無視して俺は塀向けて走り出す。
「餓死ガ嫌デ 激突死ヲ選ブノカ・・・ ソレナラ 手間ガ 掛カラネーデ 丁度イイゼ!!
ホラヨ! コンクリニ 血ノ海ヲ 作ッテナ!!」
予想通り、加速が始まる。
だが、始めっからこんなものは気にしていない。

「…さっきっから思ってたんだけどさ〜」
「アア!?」
「お前、オレのスタンドの事をちゃんと予習したのか?」
「・・・ンナモン スル訳ネーダロ! ソンナ事シナクテモ テメーニャ 楽勝ダカラヨ・・・」
どうやらこいつ、戦闘者としては三流らしいな。
オレが言えた話じゃないけど。

「『クリアランス・セール』!!」
壁激突寸前でスタンドのラッシュを打ち込む。
同時に細切れ状になって楽に通り抜けられるようになったコンクリート。

庭の植え込みの木も分解する。
木はそのまま倒れて屋根瓦を破壊したが…、ま、不可抗力と言う事で。

民家の壁もそのまま分解。
さっきから完全には分解していないので、こういう硬い物はくぐる時に身体に当たって痛いが、
そんな悠長にやってる暇も無いので、これは仕方ないか。

食堂で昼ご飯をとっている一家。
ちょっと痛いかも知れないが、食事ごと巻き添えにテーブルも、そして家族も分解。
上半身だけ宙に浮くおじいちゃんの驚いた顔がシュールだ。

「・・・テメー、 ヤッパリ トチ狂ッタダロ!? コンナ 突然ニ 民間人ヲ 巻キ添エニシヤガルナンテヨー!!」
こいつにだけは、そんな事は言われたくない。
オレも流石に突然偽善ぶる態度は頭に来た。
「だったらよ…、始めっからこんなざけた真似すんじゃねえ!クラァ!!」
本当は、オレだってこんな事したくはない。
出来ることなら、普通に道を通って運動場まで帰りたさ。
…けど、こいつがそれを許さない。
こいつはどんな手を使ってでもオレを帰さないつもりだ。
…たとえ無関係な人を殺してでも。
ならオレは、必要最小限の損害に留めながら、市民の皆さんに迷惑をかけてでも帰らなくてはならない。

723N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「・・・ウザッテー野郎ダ、 コウナッタラ 意地デモ 苦シミヲ伴ウ 死ニ方ヲ サセテヤル!」
次の瞬間、地を蹴ったオレの足が浮いた。
瞬間的にオレの脚力を強化し、大ジャンプさせたのか。
その先には、電線。
無論、分解する。
何世帯停電になるかな…。
そのまま何事も無く着地。まだ止まらない。

「・・・ナラヨー、 今度ハ コレデ ドウダッ!!」
車道に平行に近い角度で突入したオレに、小刻みに暴走をオン・オフにする。
突入してくる車・車・車。
こうなったらオレもヤケだ。
「クラクラクラクラクラクラクラクラァッ!!」
次から次へとやって来る車を片っ端から分解。
…高級車とか、ボンネットが凹んでいたりしなきゃいいが。

「・・・チクショー、 コイツ、 正気ジャネエ・・・」
正気じゃないのはどっちだ。
…と、遠くにあの運動場が見えてくる。
もう一息だ!!





「遅レタゼ! 呼ンダカ!?」





明らかに今までのものとは違う、しかしどこか似ている機械的なガラガラ声。
そこには、『暴走スタンド』が2体存在していた。

「畜生! オセーンダヨ コノノロマ! オ陰デ 今ヤバイトコマデ 行ッチマッタジャネーカ!!」
「悪リー悪リー、 チト オメーガ ドコニインノカ 分カンナクッテヨ・・・ マ、 来タダケ 有リ難イト 思イナ!!」

…これは一体。
何故同じスタンドが2体も…!?

「オイ! テメーハ 俺ノコトヲ 戦闘ニ関シテ ド素人ト 思ッタカモ知レネーガ、 ソリャ テメ-ノ方ダゼ!!」
「似通ッタ 信条トカ思想トカ・・・ ソウイウモンヲ 共通シテ 持ッテイル奴ラニャ 同ジスタンドガ 発現スルコトダッテ アンダヨ!
ソウ! 俺達ミタイニナ!」

…なんて骨体!!
確かにそう言われれば分からないでもないが、でもまさかこいつが2体もいるなんて考えもしなかった。
じゃあ、こいつまで協力したら……オレ、一体どうなるんだ?

724N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

「コウナンダヨ! ホラッ!」
激!加速!!
「んなああああああああああああああああ!!!!」
加速度がさっきまでの比ではない!
こりゃ時速100キロくらい出てるんじゃないのか!?
ってか冷静にんなこと考えていられん!!

運動場がッ!目前にッ!
な、何としても止まらなくては!!
おおーっと、目の前に再び『50』が!!
こうなったら、意地でも飛びついて止まってやる!!
「クラァッ!!」



ボキッ……



折れた…。

「カーカカカ! 暴走シテンノハ オメーノ足ダケジャネエ! 握力モ何モカモ、全身ナンダヨ!!」
奴の言葉さえももう耳に入らない!!
ってかまだ止まらん!

725N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:43

『さあこの運動会の目玉競技、団体リレーがいよいよスタートです。
………始まりました、スタートしてすぐ、赤がダッシュを決めて周りとの差を付けた!
負けじと負う、青・黄色・緑・白!
…っとお、ここで何者かがこの会場に乱入してきた!!
何だあれは!?何だあれは!?
あれは……ギコ屋だァ――――ッ!!
ってか今までどこほっつき歩いてたんだ!皆心配したんだぞ!
それでもギコ屋、先程から更にスピードアップして走る!走る!
そしてコースに乱入!おおーっと、その先には白の選手が!
危ない白!よけろ白!
しかし……蹴散らされたァ―――ッ!!
ギコ屋止まらない!ああ緑も!黄色も!青さえも!!
残ったのは赤!頑張れ赤!逃げ切れ赤!
しかし……吹っ飛ばされたァ―――!!
ギコ屋まだ走る!ギコ屋まだ走る!
そしてコーナーを曲がらず、まだ直進!そっちにはまたフェンスがあるぞ!
ギコ屋やっぱり止まらない!やっぱり止まらない!
そしてフェンスを…
今度は飛び越えたァ―――ッ!!
ってか高すぎだ!遠すぎだ!!
走り高跳びも幅跳びも世界記録を更新する気かギコ屋!
お前は北京原人かァ―――ッ!?』
『…選手の皆さん、んなとこで突っ伏してないでとっとと競技を再開して下さい』

726N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:44

…もう何キロ運動場から離れたんだ!?
依然止まる気配すらしない!ってか疲れない!!
もう勘弁してくれよォ―――ッ!

「マダダ、終ワランヨ」
「ソロソロ 時間ナンダガナ・・・」



「ヘイ! ヤット見付ケタゼ! オメーラ シッカリ ヤッテンノカ?」
…三体目?
「イイ加減ニシロ! テメー 遅刻シスギナンダヨ、 コノウスラボケナスガ!!」
「マア待テ、文句・苦情ハ後ニシロ。 マズハ アノ『矢』ヲ持ツオ方カラ 真ッ先ニ 始末スルヨウ 言ワレタ コノギコ屋ヲ ヌッコロス・・・ダロ?」

『矢』を持つお方…だって!?
「おいお前ら、あの男と何の関係があるんだ!」
だがオレの質問を聞いても、こいつらは何も答えようとはしない。
「死ニユク テメーニャ、 言ウ価値ナシ!」
「マサシク『逝ッテヨシ』ダナ!」
「カカカカカ!」
くそっ、やはりあいつの部下か…。

「ンジャ ソロソロ イクカヨ・・・」
「俺達ノ MAX暴走ノ 恐ロシサ・・・」
「トクト 味ワウンダナ! 冥土ノ土産ニ 喰ラットケ!!」

『Hail to SAITAMA!!』

悶絶。
苦悩。
思考停止。
無我境地突入。

野原。
河川敷。
鉄道。
彼方物体発見。
…新幹線?

…嫌予感。

加速。
加速。
加速。
音速突入。
停止兆無。

走・走・走・走・走。
線路向突進。
予感成現実。
無策。無術。無勝目。

………危険!!!!


「・・・ソロソロ 準備スンゾ!」
「『セーノ』デ 一気ニ イクカラナ!」
「イクゾ・・・・・・・・・セーノッ!!」



一気に解放される肉体。
新幹線は今まさにオレの肉体を木っ端微塵にしようとしている。
「クリアランス・セール」で攻撃を仕掛けたが、もう間に合わない。
最後に耳に入ったのは、奴らの勝ち誇ったような高笑い声であった。

727N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:45

「ヤッタッ!」
「勝ッタッ!!」
「シトメタッ!!」
三者はお互いの顔を見合わせながら勝利の余韻に浸っていた。
「遂ニ 俺達モ 人ヲ殺セタゼ、カカカカカ!!」
「『山椒ハ 小粒デモ ピリリト辛イ』ッテノハヨー 俺達ノタメニアル 言葉ジャネエカ? カカカカカ!!」
だがうかれる二者はじきにある異変に気付いた。
1人の様子がおかしい。
線路を見つめたまま、じっと固まっている。
「オイ、オメーモ ナンカ言エヨ!!」
「ソウダゼ! ・・・マサカ 人殺シノ道ヲ 歩ミ始メタコトガ ソンナニ嫌ダトカ 言イテエノカ!? ダトシタラ ブッ飛バスゾ!」
しかし、沈黙の理由はそこにはなかった。
「・・・ギコ屋ノ 死体ハ ドコダ?」
完全に自分達が勝ったものだと思っていた残りの二人も、事態の異常性に不安を抱き始めた。
「待テ、 奴ノ能力ハ 『分解』ダッタハズ! モシカシタラヨ、 ソレデ ヤリスゴシタトカ・・・」
1人の言葉に、残りの者も段々と不安を感じ始めた。
「ソウダゼ、奴ダッタラ 新幹線ガ 通ッテル間ニ 分解ヲ 解除シテ ソノママ 逃ゲルコトダッテ 出来ルハズダ!」
「・・・ドウスンダヨ、ソレジャ?」
答えは1つしかなかった。

擬古谷第一小学校、校庭。
そこには3人の少年が、何かを待つようにして木陰に腰掛けていた。
ふと、彼らの目に期待していたものがやって来る。
「ヤッテ来タミタイダ!」
上空から校庭向け降下するスタンド達。
3人はそこへと走り出す。

少年達は、嬉しそうに彼らのスタンドに質問した。
「ソレデ? チャント ギコ屋ハ シトメラレタノ?」
だが、スタンドの表情は暗い。
「・・・ソレガマスター、 作戦通リ 奴ヲ 新幹線ノ目前マデ 誘導ハシタンデスワ。
トコロガドッコイ、 ソレカラ 奴ノ姿ガ 消エチマイマシテ、 ヒョットシタラ ソノママ 新幹線ニ乗ッテ 逃ゲタンジャナイカトイウ 結論ニ至ッテ・・・
ソレデ 指示ヲ 仰ギニ来タンスワ」
報告を受け、1人の少年は激怒した。
「何ダト!? コノ、 役立タズメ! オ前達ハ 何ノタメニ ソンナ能力ヲ 持ッテルト 思ッテルンダ!」
スタンド達が一斉に下を向く。
すかさず、宙に浮く少年が右側の少年の怒りを抑えた。
「マアマア待チナヨ。 ・・・ジャアオ前達ハ 引キ続キギコ屋ヲ ソノ場所ヲ中心ニシテ 探スコト! 分カッタ?」
その言葉を聞き、スタンド達は少し元気を取り戻したようであった。

「落チ着キナヨ、ミギ。 マダ 始マッタ バカリジャナイカ。 イズレ ギコ屋モ 再ビコノ町ニ 姿ヲ見セルサ。
ソノ時ニ モウ一度 アイツヲ 殺シナオセバイイ・・・ダロ?」
宙に浮く少年は左側を向く少年を見た。
その少年も右側の少年に語り出す。
「ソウダヨ、 アンマリ 短気ナノハ スタンド使イニトッテハ 不利ダッテ、 アノオジチャンモ 言ッテタダロ?
大丈夫、 次ハ絶対ニ・・・」
だが、右側の少年の怒りは収まらない。
そして我慢ならなくなったのか、突然火山の噴火の如く怒鳴り始めた。
「・・・オ前達ハ ノー天気スギルンダ! イイカ、 僕達ハ 暗殺ニ 失敗シタンダゾ!?
下手スレバ 僕達ダッテ 始末サレルカモ 知レナインダ! ・・・ソレナノニ オ前達ハ マダアイツラヲ 擁護スルノカ!!
アソコデ 命令ヲ受ケテモ ボサット 突ッ立ッテルアイツラヲ!!」
2人が右側の少年が指差す方を見ると、なるほど3体のスタンドがまだそこにいた。
「オイ、 オ前達、 命令ヲ受ケニ 来タンダロ? 早ク行カナイト、 マタミギガ キレチャウゾ」
だがスタンド達は動かない。
…いや、むしろ反応しない。動けない。

「オイッ、 ドウシタンダ 一体・・・」
左側の少年が近寄ろうとすると、スタンド達の肉体は突然異様な変形を始めた。
そして、その変形が限界まで達した時、スタンド達は爆竹の如く炸裂し―――
消滅する幽体の中から実体の『破片』が飛び出し、集合し―――
そしてそれは、ギコ屋になった。

728N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「・・・!!!!」
「オマエハッ! 逃ゲタハズノッ!」
お約束通り、オレは親指を立てた右手を振りながら「チッ♪ チッ♪」と口を鳴らす。
「ギコ屋!!」

「YES I AM!」

「全く、ホント人をなめた真似をしてくれたな、お前達はァ―――ッ!
さんざ人を挑発した挙句、オレを新幹線に衝突させようとするなんて、子供の策とは思えないぞ…。
まあ、オレが急にいなくなったことで慌てたスタンド達が本体の居場所まで帰らずあそこに居座ってたら
オレの分解も時間切れになってただろうけど、ここはオレの作戦勝ちで決まりってところか」
やはり子供、いや子供でなくてもこうなったら動揺しない訳がない。
全身は痙攣し、中には腰を抜かした奴までいる。
「・・・デ、デモ! オ前ノ能力ハ 『分解』ノハズ! ナラ ドウヤッテ・・・!!」
釈然としないのか、子供達が問う。
本当はここまで馬鹿にされたら何も答えず問答無用で分解したいところだが、
ここはオレの聖母にも匹敵する海よりも深き慈愛でその答えを教えて進ぜよう。
「今まではただ分解して元に戻る…それだけだった。
でもオレは考えたんだ、分解して原子レベルまで小さくすれば、その間は形は自由に出来るんじゃないかって…」
こいつらはまたまた分かっていないらしい。
子供だからか、これじゃあスタンドの理解力が足らなかったのも無理はない。
                  ・ ・
「つまり分解中にオレの体を紙状にして3つに分け、そのスタンドの中に潜伏した。
これでかさ張らずに楽々入っていられるって訳さ!」

「・・・ア、ソウ」
って何じゃその冷めた返事は!
…まあ、それはともかく。
「いずれにせよこの『鬼ごっこ』、オレの勝ちで決まりらしいな。さ!諦めろ」
オレが近寄ると、少年達は観念したのか立ち上がってオレに手を差し伸べた。
そしてオレが捕まえようとすると…。
「馬鹿ガ! 最後ノ最後ニ 油断シタナ、 コノオヤジ!!」
お、オヤジだって!?失礼な、オレはそんなに歳食ってないぞ!
「サッキ スタンドガ 破裂シテモ コッチガ 無事ダッタノヲ 忘レタノカ?」
あ、そう言えば。
「シカモ 僕達ノ スタンドハ 『自動操縦型』! パワーナンゾ イクラデモ 持ッテルンダ!
更ニ 僕達ノ場合ハ、 破壊サレタクライジャ 死ニハシナイノサ!!」
おいおいおい、それじゃ…。

「自分達ノ身体ヲ『暴走』サセルッ!」
「アバヨ、駄目オヤジ!!」
「次ハ 絶対ニ オ前ヲ 仕留メテヤル! 覚悟シテイロ!!」

…言ったはずだ。
オレの勝ちは決まったはずだと…。
「お前達、やっぱり予習足りないだろ?」
理由が分からず、当惑する子供達の顔。
「ナ・・・何デ!!」
別にもう慈悲も慈愛も関係ない。
最後はただ負けゆく奴らに最後の精神的追い討ちを掛けるためだけだ。
「こんな至近距離で、たとえ暴走しようが『クリアランス・セール』のスピードから逃れられるか、ってこと」

729N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 13:46

「ハッピー・マ『クラクラクラクラクラクラクラクラクラクラクラァ―――ッ!!』」
ラッシュを食らって吹っ飛んでいく子供達。
もう彼らは逃げられない。
それにも気付かず起き上がろうとする3人。
「見ロ、都合良ク 奴カラ 離レラレタゾ!」
「今ノ内ダ! 逃ゲロ!!」
…本当は完膚無きまで叩きのめしたかったんだが、やっぱり相手が子供じゃあな…。
それにあくまでこれは『鬼ごっこ』。最後はやはり捕まえて締めなくてはならない。
「だから手加減しつつ手足だけを狙って叩いたんだ…寛大な慈悲に感謝しろよ。
『Crumble(解体されてな)』」

たちまち達磨と化す少年達。
最早逃げる術は皆無。
「そして…つーかまーえたー!!
あー終わった終わった、こんなハードな鬼ごっこは生まれて初めてだぞ!!」
少年達にはオレの言葉は聞こえていなかった。
完全に負けを認めた表情。
しかも今度は諦めがついているようだ。

3人の身体から飛び出す幽霊。
…やはり、相棒同様悪霊によって操られていたのか。
道理で凶悪すぎると思った。
でも、どこかその表情が清々しいのは気のせいだろうか。

「今回ハ 完敗ダ!」
「チックショー、 勝ッタト 思ッタノニヨー・・・」
「オイ、 今度 マタ 再戦スルゾ!!」
オレには最後に彼らの声が聞こえたような気がした。
だが…誰がやるか!!



「しかし困ったな…、問題はこの子達を家まで送らなきゃいけないことだ。
『クリアランス・セール』で果たして運び切れるかどうか…。
親はどこのどいつなんだよ、全く…!

…てかそう言えば…、
ここ…どこ?」

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

730N2(ギコ屋):2004/01/12(月) 14:06
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃           スタンド名:ハッピー・マンデーズ            ┃
┃               本体名:シャイタマー                 .┃
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫
┃  破壊力 -E   ...┃   スピード -A   ┃  射程距離 -A   ...┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 -A    .┃  精密動作性 -D  .┃   成長性 -B  ......┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃取り憑いた相手の肉体を『暴走』させる自動操縦型スタンド。      ┃
┃本体は3人のシャイタマーで、それぞれが同じ能力のスタンドを持ち  ...┃
┃(厳密に言うと、ヴィジョンについている顔はそれぞれの本体の  ....┃
┃顔であるので、全く同じスタンドではないが)、               .┃
┃取り憑いた数に比例して暴走の度合いも変化する。         ..┃
┃暴走している者は自分の運動を自分で制御出来なくなるが、    .┃
┃その間自身の体力を消耗することは一切無く、全てスタンドの     .┃
┃パワーによって運動エネルギーは賄われる。               .┃
┃ちなみに本体にも憑依可能であり、またスタンドが破壊されても   .┃
┃本体にはダメージは無く、すぐに再生可能。               ..┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

731丸耳作者:2004/01/12(月) 21:28
乙と言わせて頂こうッ。

732アヒャ作者:2004/01/12(月) 22:04
こちらからも乙!
N2さんの作品を参考に自分もがんばろう。

733302:2004/01/12(月) 22:16
N2さん乙です!

今夜辺り、やっと第2話できそうです。

734新手のスタンド使い:2004/01/12(月) 23:08
>>733
ガンガレー

735N2:2004/01/13(火) 00:24
>>733
頑張ってください。オイラも出来る限りガンガリマス。

皆様もどうもです。

736302:2004/01/13(火) 00:59
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・2


「まったく、検査入院やなんてツイとらんなぁ〜」
「悲観すなや、のーちゃん。お陰様で休みが出来たんやし」

ここは、某大学病院の病室。ウチとニダやんが高熱で運び込まれて1日過ぎましてん。
不思議な事に検査した結果…「高熱」はあっても「怪我」は無い…っちゅう事ですねん。

…おかしな話やで。ウチらは確かに、あの黒マントの八頭身に「矢」で刺されたはずや…
それなのに、怪我は全く無い…でも、高熱はある…それに、何や…誰かに見られてる気がするんやわ。

「のーちゃーん。」
「ん?」
「そっちに新聞あるやん?ちょっと、取ったって?」

さっきまで読んでた新聞を持って、ウチはニダやんに渡す為にカーテンを

「これで…ええ……よ、な?」

「ああ…あり……がと…さん…」

開けた瞬間……ウチらは絶句しましてん……

737302:2004/01/13(火) 00:59
『………』

(ゴゴゴゴゴゴゴ……)

ニダやんの後ろに…何や、変な男がおったんです。
両腕が、ツタのようなのが何十本もある…変な香具師が……
ニダやんも、ウチも…鳩が豆鉄砲を食らった顔してましたわ……

そんで

「「何やそれぇぇぇ!!!」」

お互い指差しあって絶叫して

「「はぁ!?何をゆーてん…」」

お互い振り返って

「「何やこれぇぇぇぇ!!!」」

お互い、後ろを見てまた絶叫しましてん…

『………』

ニダやんだけやない、ウチにもその「変なの」がおったんですわ…
ウチのは、妙にメカニカルで…額に「10」とデジタル数字があったのを、覚えてますわ。


「……病室で騒ぐのは、感心しないな」

低い声がしましたわ。ごく、最近聞いた声ですわ……

「あ、エライスイマセンなぁ、ホンマ!いやいや、ついビックリってコラァ!!」

点滴を引き千切り黒マントの男に近寄っていきましてん。

「おうおうおう!!あんさん、よーこんなとこに顔を出せたもんやな!!」
「うるさいと言っている。…やはり、お前達は“素質”があったか」
「ここで会ったが100年目やでぇぇ―――!!謝罪とぉ!!賠償をぉ!!要k(ry」

ニダやんが五月蝿いので、スリーパーをキュッとキメて…ウチは黒マントの男…
いや、「八頭身フーン」に尋ねましてん。

「…素質?この……後ろの人の事か?」
「ああ、それはスタンド能力。…矢で射抜かれた者に、発現する具現化された精神の像だ。」
「……精神の…像?」
「俺では説明が下手でな…まぁ、座れ。それと、そこのエラ張った香具師を起せ。」

738302:2004/01/13(火) 01:00
言われるがままに、ウチは八頭身フーンのスタンドや色んな事を説明してもらいましてん…

今、矢は二本ある事……スタンドを悪用させ、日本を混沌に落とそうとしている組織「ZERO」が居る事…
そして、ウチらを対「ZERO」組織にスカウトに来た事…

「……正直、ウチらがアンタらを信用するだけの“証拠”があれへん」
「…ワイもや。確かに!ワイらにそのスタンドっちゅーのが発現したのは認めるわ。」

いきなりの事でパニックになりそうやった頭を、無理矢理働かせて出た答えを告げましたわ。
八頭身フーンは…微動だに、せーへんかったんです。

「……マズイな。屋上に移動するぞ。」
「「ハァ?」」
「…俺のスタンドが鳴いている…“ZERO”だ!ZEROのスタンド使いが、お前達を狙っているっ!!」


……。


「「何でやねーんっ!!」」

二人でツッコんでもフーンは意に介さず…
そのまま、抱き上げられてウチらは屋上へと逃げ込んだんですわ……

739302:2004/01/13(火) 01:01
「……な、何でウチらがいきなり襲われなあかんねん!」
「ZEROの目的は“スタンド悪用での秩序破壊”だ。お前らを強制的にスカウトに来た…と言った所か。」
「だ、だ、だったらぁ!!こんな狭いとこに逃げんでもええやんかぁ!!」
「…お前達に、スタンドの使い方を教えるためだ。もし、我々の組織に入らずとも…いつかは襲われる。
ならば、早い内にスタンドを使いこなせるようにならなければ…待っているのは死だ。」

屋上の扉が、砕ける音が会話を遮りましてん。
其処には、確実に…フーンが言う所の「スタンド使い」がおったんですわ……

「…フーンよぉ…ゲヒュ…舐めた真似してくれんじゃんよぉ…ゲヒュヒュ…俺らの新人掻っ攫う気かぁ?」

気色悪い笑いを浮かべた男が…一歩ずつ、近寄って来たんですわ…。
ウチは、ただの漫才師見習いやけど…わかりましてん。…こいつは、最っ低最悪のクズいうんが…。

「……丸モラか。末端とは言えスタンド使いがわざわざ……必死だなw」
「な、何を挑発してんねん!!うわっ!来るぅ!!あんさんのスタンドで何とかしてーや!!」
「 断 る 」
「はぁ!?」
「お前達だけでやってみろ。集中し、怖れず…スタンドと心を通わせれば、出来るっ!!」
「何じゃそりゃあ!!」

ニダやんの抗議にも、判定は覆らず…ウチは、ニダやんの肩に手を置いて

「……やるで、ニダやん。ここで殺されたら、M1に出る夢も断たれてまうわ。…集中するんや…」
「……あーもう!!わーったわ!!浪花のど根性、見せたるわぁぁ!!」

「…ゲーヒュッヒュ…!!なりたてのスタンド使い二人ぃ?俺様の“狂気”に勝てるかぁ?!」

「………(そうか……お前の名前はそういうんか……)………」
「………(頼むで…ワイはのーちゃんと、未来を生きたいんや…!!)………」

「……!…出るかっ!」


「うおおお!!いくでぇ!!シー・アネモネぇ!!」
「…ファイナル・カウント・ダウンッ!!……さぁ、ウチらが相手やぁ!!」

<To Be Continued>

740N2:2004/01/13(火) 18:05
乙ですわ。関西弁 (・∀・)イイ!!

741新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その3」



          @          @          @



 フサギコは、机の上に広げた世界地図を眺めていた。
 雨が窓を叩いて、煩雑な音を立てる。
「国防の基本方針…」
 フサギコは呟いた。
 ここは、彼の自宅である。
 今日は、一歩も家を出ていない。
 ASA… あの恥知らずなスタンド使いの集団が、洋上に艦隊を展開したという。
「直接及び間接の侵略を未然に防止…」
 太平洋の真ん中にチェックを入れる。
 雨の勢いは増す一方だ。

 先日、防衛庁長官からの電話があった。
 ASAとは既に密約済みだという。
「ちゃんと、話はついている」
 長官はそう言っていた。
 …何が、話はついているだ。
 政治家ごときがしゃしゃり出てくるな…!

「防衛戦争の定義は…?」
 フサギコは、東京の位置にバツ印を付ける。
「専守防衛…!」
 ペンを床に投げ捨てるフサギコ。

「この国に武器を持って踏み込むという事が… どういう事が分かっているな、ASA!」
 フサギコは叫ぶと、電話の受話器を持ち上げた。
 そして、素早くボタンを押す。
「もしもし、フサギコだ。極秘裏に、陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長の3人を私の家に呼んでくれ。
 内局には勘付かれるな…」



          @          @          @


 
「おはようなのです!」
「おはよう、簞ちゃん」

 うん、快適な目覚め。
 やっぱり、女の子に起こしてもらうというのは新鮮だ。
 僕は、布団から体を起こした。
 美味そうな朝食の匂いがする。
 まるで、新婚みたいだな…

 流石にいつまでも畳には寝てられないので、昨日新しい布団を買った。
 簞ちゃん用の布団である。
 つまり、簞ちゃんはしばらく僕の家で暮らすという事だ。
 乗りかかった船というか、何とやらだ。

742新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:40

 簞ちゃんは、もうすでに制服に着替えている。
 今日から、一緒に学校に通うのだ。
 …って、何の為?
 この町には人を探しに来たんだよな。
 もしかして、僕と一緒に学校に行きたいとか?

「簞ちゃん、何しに学校に通うの?」
 僕は、テーブルの向かいに座って朝食を食べている簞ちゃんに話しかけた。
「聞いた話なのですが… 私が探している人と関係の深い人が、おにーさんの学校に通っているらしいのです。
 だから、その人に会って話を聞くのです」
「ホントにそれだけ…?」
 僕は、簞ちゃんの顔をじっと見た。
「おにーさんに隠し事はできないのです…
 私が探している『異端者』のターゲットが、学校に潜んでいるという話なのです。
 だから、学校を重点的に調べてみたいのです」
「その為に、わざわざ転校か…」
 代行者って大変な職業なんだな。
 簞ちゃんは笑った。
「催眠をちゃんと習っておけば、転校の手続きとかをしなくてもよかったのです…」
「催眠って、あなたはだんだん眠くなる…ってやつ?」
「眠らせちゃ駄目なのです。暗示を与えて、記憶をなくしたりすり替えたりするのです。
 代行者になる人は、みんなやり方を習っているのですが、私は苦手なのです。
 …と言うか、実際に催眠が使える人は代行者の中にもほとんどいないのです」
「みんな習ってるって…学校みたいに?」
 僕は訊ねた。
「代行者になるための厳しいカリキュラムがあって、任務を遂行する上で必要となる技術を叩き込まれるのです。
 催眠もその一つで、どこかに潜入する時などに、覚えておくと便利なのです。
 代行者の中には、この催眠技術をスタンド能力にまで昇華させた人もいるのです」
「スタンドに昇華って?」
 簞ちゃんは言った。
「スタンド能力は、その人の嗜好や性格が反映される事が多いのです。
 …おにーさんのスタンドの能力が気になるのです」

 …そう。僕には、簞ちゃんのスタンドが見えてしまった。
 実は、スタンドはスタンド使いにしか見えないのだという。
 だから、簞ちゃんのスタンドが見えた以上、僕もスタンド使いだったという事になる。
 しかし、僕はそんなもの出せない。
 どうやら簞ちゃんの話では、僕は潜在的なスタンド使いというやつで、まだヴィジョンは形成できないらしい。
 『自分の身を守ろうとする』とか『怒りをぶつける』という気持ちになればいいらしいが…

「スタンド…ねぇ。便利な能力だったらいいな…」
 僕は呟いた。
 あの8頭身を何とかできる能力だったらいいんだけどなぁ。

 そうだ、一つ注意しておかないと…
「簞ちゃん、もしかして、学校に武器を持っていくの?」
 簞ちゃんは答えた。
「持っていくのです。でも、武器には見えないので大丈夫なのです」
 そりゃよかった。
 銃とか剣とかを学校に持ち込まれたら、エラい騒ぎになるだろう。
 でも、少し興味が湧いた。
 武器には見えない武器ってどんなんだ?
「簞ちゃん、その武器っての見せてほしいな…」
「どうぞなのです」
 簞ちゃんは、メジャーのような物を僕に手渡した。
「わっ、触って危なくない?」
「波紋を流していないから、大丈夫なのです」
「メジャーみたいだね…」
 僕は呟いた。
 掌に収まるくらいの四角いケースに、引っ張れば伸びるワイヤーが収納されている。
 真ん中の突起を押すと、たちまちワイヤーはケースの中に戻っていった。
「構造は、ほとんどメジャーと同じなのです」
 簞ちゃんは言った。
 メジャーと違う点は、そのワイヤーが5本もついているという事である。
「私は非力だから、剣は重くて持てないのです」
 簞ちゃんは恥ずかしそうに言った。
 なるほど、これなら軽そうだ。
 もう一つ、同じ物を取り出す簞ちゃん。
「これを両手に持って、ワイヤーの部分に波紋を流すのです。波紋の収束作用を利用しますので、スパスパ切れるのです。
 でも、あまり使いたくはないのです…」
 そうだろうなぁ。
 簞ちゃんは、他者を傷付けるのがよほど嫌らしい。

 僕は朝食を食べ終えた。
 そろそろ登校の時間だな。
「私は、最初に職員室に行かないといけないので、少し遅めに出るのです」
 簞ちゃんは洗い物を片付けながら言った。
 なんだ、今日は一緒に登校できないのか…
「じゃあ、先に行ってるよ」
 僕は家を出た。

743新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:41

 教室に入って、いつものように席に座る。
 …変だ。
 絶対変だ。
 一昨日から、8頭身どもの姿をさっぱり見ない。
 そう、簞ちゃんが家に来てからだ。
 何か企んでいるのだろうか…
 いたらいたでキモイけど、いなかったらいなかったでキモイ。
 ほんと、キモイ奴等だ…

 ガラガラと戸を開けて、先生が入ってきた。
「急ですが、このクラスに転校生が編入します…」
 おっ、来た来た。
「イギリスからの帰国子女です。じゃ、入って」
 先生の言葉と共に、扉が開いた。
 てくてくと入ってくる簞ちゃん。
 それにしても、イギリス? またでっちあげたもんだなぁ。 
「簞なのです。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる簞ちゃん。

「可愛い…」
「帰国子女!?」
 ヒソヒソと囁き声が教室中で巻き起こる。
「じゃあ、そこの空いている席に座ってもらえるかな…」
 先生が指差した先には、当たり前のように空席があった。
 これも学校の七不思議。
 簞ちゃんはその席に腰を下ろした。
 座る時に、僕にふと視線を合わせて微笑んだ。
「えー、では出席を取ります…」
 HRはそのまま進行していった。
 すぐに1時間目が始まる。


 はやる心に流されるように、1限の授業は終わりを告げた。
 簞ちゃんが、僕の机の横に立つ。
「それにしても… クラスまで一緒なんだね。年は違うのに、変な感じだなぁ…」
 僕は頭を掻いた。
「『異端者』について知っている人と同学年の方がいいと思ったのです」
 でも、考えてみれば妙な話だ。
 『異端者』という名前からして、簞ちゃんと同じ代行者だろう。
 そうすると、『教会』の同僚にあたるはずである。
 『教会』は『異端者』の居場所を知らないのか?
 まあ、『異端者』なんて名前をつけられるくらいだから、『教会』を裏切ったのかもしれないな。
 僕は、それらの疑問を簞ちゃんに訊ねた。
「分からないのです… まあ、『教会』の秘密主義は今に始まった訳ではないのです。
 現に代行者同士でも、誰がどの任務を扱っているのかは分からないのです。
 それに、この任務に与えられた期間は半年と長過ぎるのです。多分、いろいろ込み入った事情があるのです」
「ふーん。で、その『異端者』ってどんな人なの?」
「ものすごく強い人なのです。直接戦闘のエキスパートで、全身に武器を隠し持っているのです。
 吸血鬼を物凄く嫌悪している人で、吸血鬼の殲滅数も、代行者の中で2番目なのです。
 1番の人はちょっとズルをしてますので、実質最も吸血鬼をやっつけている人と言っても差し支えないのです」
 僕は、ゴリラのようなムキムキのオッサンを想像した。
「重火器や兵器にも通じていて、現行兵器のほとんどのマニュアルが頭に入っているとも言われているのです。
 吸血鬼の間でも恐れられていて、『十字の死神』や『塵の鬼神』などと呼ばれているのです」
 顔面に十字の刺青を入れて、「HAHAHAHAHA!!」と笑いながらマシンガンを連射するオッサンが僕の脳内で暴れている。
 まあ、それくらいでないと吸血鬼とは戦えないのかもしれないな…
「とんでもない人を探してるんだね… で、その『異端者』について知っている人は、何て名前だい?」
 簞ちゃんは口を開いた。
「モナーさんと言うのです」

 …モナー?
 それって、B組の有名な女たらしじゃないか?
「次の休み時間、その人と会ってみるつもりなのです」
 僕の脳裏に、爽やかハンサムボーイ(モナー想像図)が簞ちゃんの肩に腕を回す情景が浮かんだ。
「ダ、ダメだ! そんな奴と一人で会ったら、簞ちゃんが食べられちゃうよ!!」
「…私、食べられてしまうのですか?」
 少し怯えた表情を見せる簞ちゃん。
「いや、詩的表現なんだけど… とにかく、簞ちゃんが一人でそいつと会うのは危険だよ」
 僕は少し考えた。
 そんな野獣の前に、簞ちゃんの清らかな身を晒す訳にはいかない。
「…だから、僕が一人で会ってみる」

 簞ちゃんはうなづいた。
「…じゃあ、そうしてもらうのです」
 自分で提案したものの、少し不安になってくる。
「まあ、簞ちゃんが一人で会った方が情報は引き出せるんだろうけど…」
「任務には半年も期間があるのです。多少マターリしても大丈夫なのです」
 そう言われればそうだな。
 今回失敗しても、あと半年あればいくらでもチャンスはある。
 2限開始のチャイムが鳴った。続きは2限後だ。

744新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:42

 2限終了。
 簞ちゃんは、授業が終わるとすぐに僕の所まで来た。
 こんな事ばかりしていて、簞ちゃんはクラスに馴染めるのだろうか。
 僕がいるから、クラスのみんなが近付いて来ないも同然である。
 まあ、簞ちゃんは学校生活を楽しむのが目的ではないだろうが、せっかくだしね。
「じゃあ、モナーさんに話を聞くのは、おにーさんにお任せするのです」
 僕の心を知ってか知らずか、簞ちゃんは言った。
 僕は席から立ち上がる。
「…おっと、話を聞くとき、簞ちゃんの事はどこまで話してもいいの?」
「別に、全部しゃべっても構わないのです」
「えっ! そうなの?」
 本当にいいのか?
 いろいろ、マズイと思うんだけど…
「関係ない人なら、どうせ信じないのです」
 確かにそうだな。
 僕自身、実際に吸血鬼やスタンドを目撃していなければ、とても信じられないだろう。
 でも、モナーが何も知らなかった場合、アレな人扱いされるのはイヤだなぁ…
「じゃ、行ってくるよ…」
 簞ちゃんに手を振ると、僕は教室を出た。

 B組の教室に入る。当然だが、教室内にはたくさんの生徒がいた。
 さて、誰がモナーだろう…?
 僕は教室中を見回した。
 …あれか?
 見るからにモテオーラを放っている男子生徒が目についた。
 机の上に座って、女の子と何やら会話を交わしている。
 多分、彼がモナーだな。
 ちょっと怖そうな人なので、話しかけるのは気が引ける。
 だが、このまま逃げ帰るわけにはいかない。
 僕は、彼の肩をつついた。
「あの…すみません…」
「何だゴルァ!」
 彼は、こっちに振り返った。
「えーと、君がモナー君?」
 僕はおずおずと訊ねる。
 彼は、ハァ? と言いたげな表情を浮かべた。
「いや、俺はギコだ。モナーなら… ほら、あそこだ」
 ギコと名乗った生徒が指差した先には、机に突っ伏して眠るタヌキの姿があった。
「えっ…あれが?」
 さすがに当惑した。
 伝説の女ったらしじゃなかったのか?
「あれが? って言われてもなぁ、しぃ…」
「うん。あれがモナー君だよ」
 ギコと話していた女子生徒が言った。
 どうやら、間違いないらしい。

 僕は2人に例を言うと、モナーの机に近付いた。
「あの…モナー君?」
 僕は呼びかけた。
 しかし、彼は机に突っ伏したままで反応はない。
「ちょっと、聞きたい事があるんだけど…!」
 僕は彼の体を揺すった。
「ウフフ…リナー…ウフフフ…」
 駄目だ。寝言を言ってるよ。
「起きてー! おーい!」
 ゆさゆさと彼の体を揺さぶる。
「おい、そんなんじゃコイツは起きやしねぇぞ!」
 さっきのギコが横から入ってきた。
「コイツを起こすには…こうやるんだよ!!」
 ギコは、モナーの頭にかかと落しを叩き込んだ。
「ギャー!」
 飛び起きるモナー。
 ギコは無言で去って行った。意外と、いい人なのかもしれない。

「い、痛いモナ…」
 頭をさすりながら呟くモナー。
 やはり、伝説の女ったらしには見えない。
 やっぱり、ものすごいテクを持ってるんだろうか。いろいろな…
「ん? 君は誰モナ?」
 モナーはようやく僕に気付いた。
「僕は、A組の1さんって言うんだけど…」
 とりあえず自己紹介からだ。
「は、はぁ…」
 戸惑うモナー。
 どうしよう。何て聞こう。
 単刀直入にいってみるか。
「…『異端者』って知ってるかい?」
 モナーは細い目をカッと見開いた。
「…知らないモナ」
 今の反応はただごとじゃない。
 やっぱり、彼は何か知っている。

745新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

「…で、『異端者』って何モナ? なんでモナに聞いてくるモナ?」
 モナーは逆に質問を投げかけてきた。
 一応、許可はもらっている。
 僕は、簞ちゃんが家に来た事、吸血鬼の事、スタンドの事を全て話した。
 もちろん、考えなしの行為ではない。
 ちゃんと反応を観察する事は忘れない。
 吸血鬼の話でもスタンドの話でも、彼は特に驚いた素振りを見せなかった。
 こんな話、普通の人が聞いたら一笑に付すだけだというのに。
 やはり、彼は何かを知っている。

 話が一通り終わると、モナーは口を開いた。
「その簞ちゃんが探している『異端者』に心当たりはないモナ。でも、簞ちゃんに会ってみたいモナ」
 モナーは困った事を言い出した。
 女ったらしの血がうずいたのか、それとも何か企んでいるのか…?
 もっとも、簞ちゃんは吸血鬼を一瞬で灰にしたのだ。
 このタヌキに大した事ができるとは思えない。
「分かった。すぐ連れてくるよ」
 僕はそう言ってB組の教室を出た。


 簞ちゃんを連れて、B組の教室に戻ってくる。
「簞なのです…」
 モナーに頭を下げる簞ちゃん。
「モナはモナーモナ」
 そう言いながら、モナーはじっと簞ちゃんを見つめている。
 何か、妙な感じだ。
 鋭い視線。
 先程までのマヌケなしゃべり方が嘘のようである。
 まるで、全てを見通すような眼…
「『脳内ウホッ! いい女ランキング』に追加モナね…」
 何を言っとるんだこのタヌキは…

「本当に、『異端者』を知らないのですか…?」
 簞ちゃんは訊ねる。
「知らないモナよ。それより、よく吸血鬼なんかと戦えるモナね…」
 モナーは言った。
「色々訓練したのです」
 それに答える簞ちゃん。
 何か、僕はどうでもいい人みたいだ。
「…この町はどうモナか?」
「かなりの数の吸血鬼が潜んでいるようなのです。でも、なぜか大人しいのです」
 簞ちゃんはモナーの瞳を見据えて言った。
「まあ、代行者がこれだけ町に集まれば、大人しくなるモナね…」
 そう言って、モナーは慌てて口を押さえた。
 今、確かに代行者が町に集まっていると言った。
「…とにかく、モナは何も知らないモナ。さてと、もう一眠りするモナ」
 モナーはいきなり机に突っ伏した。
 明らかに、拒絶の態度だ。
 これ以上話しかけても、無視されるだけだろう。
 仕方ない、今日は諦めるか…
 僕は簞ちゃんと目を合わせてうなづいた。
 簞ちゃんを先頭に、教室を出ようとする僕達。
 しかしモナーは、突っ伏した姿勢のままで、僕の制服の裾を掴んだ。
 それに気付かず、簞ちゃんは教室から出て行ってしまう。

「な…何…?」
 僕はモナーに言った。
 モナーは手を離すと、机から頭を起こした。
「さっきの話だけど… 簞ちゃんと会った日、1さんは簞ちゃんに自分の年齢を教えたモナ?」
 いきなり何を言い出すんだ?
「教えてないけど。名前を名乗るのも遅れたからね」
「でも、『私は、おにーさんよりも1つ年下なのです』って言ったモナね…」
 …!!
 そうだ。確かにそう言った。
 簞ちゃんは、偶然僕の家に着いたはず。
 それなのに、僕の年齢を知っていた…!

746新手のスタンド使い:2004/01/13(火) 23:43

 呆然とする僕を見ていたモナーが口を開いた。
「偶然は信用しない方がいいモナ。その偶然も、たぶん仕組まれたものモナ」
 仕組まれただって…? 一体、誰に…?
 その時、僕は気付いた。
 さっきモナーが、代行者が町に集まっていると言った。
 あれは、口を滑らせたんじゃない。
 僕達の… いや、簞ちゃんの反応を見るためにわざと言ったんだ。
 そして、簞ちゃんは特に反応しなかった。その事を知っていたのだろう。
 だとしたら、妙な話だ。
 今日の朝、簞ちゃんは、代行者は誰がどの任務を扱っているのか分からないと言っていた。
 決定的な矛盾とまではいかないが、どこか収まりの悪い話だ。

「…でも、僕は簞ちゃんを信じたいんだ」
 僕は、自分に言い聞かせるように呟く。
「その気持ちはよく分かるモナ」
 モナーは意外にも同意してくれた。
「簞ちゃん自身、『教会』に騙されている可能性も高いと思うモナ」
 …なるほど。
 僕もそんな気がするな。
「そういう事モナ。今度こそ本当に寝るモナ…」
 そう言って、モナーは机に突っ伏してしまう。
 僕は、自分の教室に戻った。

 自分の席につくと、簞ちゃんが話しかけてきた。
「…何かあったのですか?」
「いや、別に…」
 僕は答えた。
「で、簞ちゃん的には、モナーはどうだった?」
 とりあえず話を変えた。
 視線を落とす簞ちゃん。
「あの人は、とても怖い人なのです…」
 そうかなぁ。
 簞ちゃんは怖がりだな。
「あの人の言動は、鈍さと鋭さが表裏一体なのです。それと、あの眼。何人もの人間の死を見てきた眼なのです。
 あんな目をした人間が、あんなに普通に振る舞えるはずがないのです。
 多分モナーさんは、人を殺した事があると思うのです…」
 ええっ!?
 いくらなんでもそれは…
「彼は、相反するものをたくさん抱えているのです。生と死。罪と赦。善と悪。
 あの少し呑気すぎる振る舞いも、彼自身の防御機構に過ぎないと思うのです。
 あんな状態になっても、通常の精神を保っているのが、私は怖くて仕方がないのです」
 簞ちゃんはそう言って黙ってしまった。
 ただのタヌキでない事は分かったが、そこまでのヤツなのか…?

 3時間目が始まった。
 授業中も、僕はずっとモナーの事を考えていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

747302:2004/01/14(水) 02:01
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・3


「ゲヒュ…♪なーかなか、いいスタンド持ってるじゃんよゥ…!」

ウチらの敵…丸耳モララーは、“素手のまま”こっちへと近寄ってきましてん。
こいつらが…日本の秩序を壊そうとしてる……!!

「……ああ、言いそびれてたんだがな。そいつは、日本町(ひのもとちょう)を本拠地にしたストリートギャングだ。」
「え?…日本町って、茂名王町から一駅隣りの?」
「ああ。」
「………」

……なんか、急に体の力抜けましたわ……要するにDQN同士の縄張り争いやないかい!!

「だが、スタンドなんか使われたら一般人に迷惑だ。だから、我々はこいつらを取り締まる自警団ってわけだ。」
「……なんか、微妙にモチベーション下がるわあ……」
「…そう言うなや、ニダやん…なんとなくやけど、コイツ間違いなく人殺しとる…!」

…そう、ウチが感じた悪寒…それは。

「ヒトコロシにしか、出せないオーラって…あってよぉ〜…ゲヒュ…♪」

「…やっぱ、殺すにはよぉ〜、ちょーっとだけ狂気が必要なんでよぉ〜♪」

「……“マッド・ブラスト”…つまり、俺のスタンドでよぉ〜…殺しちゃってるわけよぉ。」

いつの間にか、丸モラの背後に「イカレた男の像」が浮かんどったんです。
右腕がバズーカ砲みたくなっとって、左腕は注射器状でしてん。

748302:2004/01/14(水) 02:02
「…ヤバイっ!!あっちもスタンド出してきおった!!…いくでぇ、F・C・Dぃ!!!」
「シー・アネモネぇ!!あのスタンドの腕を絡め取るんやぁ!!」

ウチがスタンドとダッシュで突っ込む両横を、ニダやんのスタンドの“無数の触手”がうねりながら突っ込んでいったんや。
ファイナル・カウント・ダウンは遠距離攻撃には向かない…逆にニダやんはある程度射程が長い…
なんていうんか、長年相方やってるとわかるもんですわ。

「せいやぁっ!!!」
(ブオン!!)
あかんっ!!慣れてないせいか知らんけど、遅いし非力ぃ!!

「ゲヒュヒュ…♪パワーもスピードもイマイチ…いや、イマサンかぁ?てめぇのスタンドはよぉっ!!」
(バキャッ!!)
バズーカ砲を振り回してきおった!!何とかガードは出来た…それに…!!
「くぅっ!!…今や、ニダやん!!!」
「はいなぁ!!シー・アネモネっ!!薙ぎ払うんやぁ!!」
ウチの背を踏み台に、ニダやんのスタンドの触手が丸モラの背を薙ぎ払った!!ナイスや、ニダやん!!

(ベシイッ!!)

「チィ…喰らっちまったかぁ…!」

ジリ…ジリと後退りする丸モラの表情が、なんとなくやけど笑っとったんです…
言いようのない、悪寒…それと、予感が…ウチの背筋を走り抜ける…!!

「ゲヒュ…♪ゲヒュヒュヒュヒュ!!!ゲヒュアアアアア――――――!!!!!」

「ニダやん!!深追いすなっ!!何か来るでぇ――!!」
「のーちゃん、心配すなぁ!!ワイのシー・アネモネは遠くからでも攻撃出来るっ!!
奴は、このまま近寄る事すら出来ずっ!!ザ・エンドやぁ!!シバキあげたらああああぁぁぁっ!!!」

それを言うなら「ジ・エンド」やろがぁっ!!とツッコむ暇もなく……


( D O O O N N ! ! ! )

749302:2004/01/14(水) 02:02
「カハッ……な、何や……っ…!?」

異常な爆発音と、炸裂音…ニダやんのスタンドの肩が抉れ、フィードバック現象でニダやん自身の肩も抉れてましてん…!!
何や、これはっ!?まさか……まさかっ!?

「そう…察しがいいね、ツー族のお兄さん…いや、お姉さんかな?」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

「狂気って言うのは、エネルギー……抑えきれぬ、精神エネルギーの暴走だと僕は考える……」

(ゴゴゴゴゴゴ……)

白煙の向こうに、今までとは別人のような丸モラが居ましてん……しかも…。
スタンドの“右腕のバズーカをこちらに構えて”…そして、“左手の注射針を丸モラ自身の頭に突き刺した”姿で……!!

「僕の“マッド・ブラスト”は……“狂気を吸い上げて”…それを“弾丸にして打ち出す”……つまり」

( ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … ! ! ! )

「僕の方が……ゲヒュ♪……より、遠くから攻撃出来るんだよ、このヘボどもがぁぁぁ!!ゲヒュヒャハアッ…!!」

再び、奴の顔が狂気に歪んでいくのが見えましてん。それも、さっきよりも更にイカレた顔に……!

「…キチガイに刃物(スタンド)やな。お前、本気で腐っとる。……ウチの癪に障るわ、ホンマ……っ!!」

今、決めた。ZEROがこんなんしかおれへんなら、ウチがぶっ潰す。ヘタすりゃ、ウチらのファンまで怪我してまう…!!
ウチの中の“正義感”が!!“倫理観”がっ!!「コイツを許すな」って、叫んどるんやぁ!!!

『……認証ヲ。カウントダウン認証ヲ、マスター。マスター。MASTER……!』
「っ!!?」
(ゴゴゴゴゴ……)

聞こえた。スタンドの声、F・C・Dがウチに何かを伝えようとしとる……!!

<To Be Continued>

750302:2004/01/14(水) 02:02
人物&スタンド紹介(スタンドの詳細はこの話が終わってから…)

本体名:のーちゃん
スタンド名:ファイナル・カウント・ダウン(F・C・D)
詳細
茂名王町の隣町、日本町(ひのもとちょう)に住む18歳の専門学生。
“ニダやん”と漫才コンビを組む大のお笑い好き。
正義感が強く妥協を好まない性格で、モットーは「人に優しく、自分に厳しく」
ひょんな事からストリートギャング集団「ZERO」と「自警団」のスタンドを使った抗争に巻き込まれてしまう。

本体名:ニダやん
スタンド名:シー・アネモネ
詳細
日本町に住む20歳の大学生。韓国人っぽい顔だが、関西人である。
“のーちゃん”と漫才コンビを組み、お笑い界を覇権する夢を持っている。
どちらかといえば、「面倒はキライ」だが、親友“のーちゃん”を守る事には苦労を厭わない。
“ZERO・自警団抗争”も、のーちゃんに付いていくように足を踏み入れていく。

本体名:八頭身フーン
スタンド名:(不明)
詳細
“日本町特別自警団”の幹部連の一人。実際は元DQNの23歳。
自分達がDQNから足を洗った後、表裏問わず秩序を乱しまくる“ZERO”を潰すと決意。
警察へと“ZERO”メンバーを引き渡す事を条件に、多少の不法行為を不問にしてもらっている。
その為か、割と無茶をする。

本体名:丸耳モララー(丸モラ)
スタンド名:マッド・ブラスト
詳細
“ZERO”の末端メンバー。ただし、スタンド使いなので下っ端の中では割とエライ。
普段は何処にでもいる若者だが、破壊行為・犯罪行為を行う姿はまさに「狂人」。
矢を持ってうろつくフーンの始末&自警団側スタンド使いの引き抜きを行っていた。

751新手のスタンド使い:2004/01/14(水) 18:44
乙です

752ブック:2004/01/15(木) 00:59
     救い無き世界
     第八話・美女?と野獣


 仕事も終わり、家へと愛車を走らせる。
 沈んでいく夕日がとても綺麗で溜息が出そう。

 おっと、紹介が遅れたね。
 僕の名前は小耳モナー。
 可愛いくってドジでお茶目なSSS一のアイドルさ。
 最近の悩みは、麻雀で同僚の皆から根こそぎ金を巻き上げられたせいで、
 財布の中身がすっからかんって事かな。
 でも、健気な小耳たんは挫けない!
 不幸で貧乏なのも、萌えるアイドルとして人気を得るのに必要だもの。
 これ位の試練、ガッツで乗り切ってやる!

「…人気はいらないからお金が欲しいモナ〜。」
 目から自然と涙が溢れる。
 素寒貧になってから早三日、
 あれから、僕は水しか胃の中に入れていない。
 次の給料日まではまだ半月近くある。

「…いっそ、この車を質に入れ…」
 僕はそう言いかけて慌てて頭を振った。
 絶対駄目だ。
 せっかくローンを組んでまで買ったばかりなのに、
 そんな事出来るもんか。
「でも、明日からどうやって暮らせばいいモナ…」
 考える度、気持ちが益々沈んでいく。
 皆に金を貸してくれと言ったって、
 どうせ法外な利息をふっかけてくるに決まっている。
 特にタカラギコあたりにそんな話を持ちかけたら、
 気づかないうちに変な契約書にサインさせられてそうだ。

 赤信号にかかったので、僕は車を停車させた。
 ふと窓の外の景色を除いてみる。
 すると、通りで募金活動をしている少年少女の姿が目に入った。
 どうやら、先の「デパート爆破事件」の被害者支援の為の募金のようだ。
 そういえば、あの事件の被害者救済の為に
 どこぞの宗教系列の慈善団体とかが積極的に義援活動をしているとか
 ニュースでやってたから、あれもその一環だろうか。
「そこの子供達〜、モナも今恵まれてないモナよ〜…」
 何というか、不謹慎なのは承知の上だが僕にも少しくらい恵んで欲しいものだ。

753ブック:2004/01/15(木) 01:00


 信号が青に変わり、僕は車を走らせる。
 すると、いきなり後ろから車が僕の車を追い抜き、
 すれ違いざまに窓から手を出し僕の車の車体を触ってきた。
「?変わった悪戯モナー。」
 こんな事で怒るのも馬鹿らしいので、僕はあまり気に止めなかった。

 次の瞬間、いきなり僕の車が反対車線へと飛び出した。
「!!!?なっ!?」
 慌ててハンドルを切る。
 しかしハンドルを切れども車は構わず動き続けた。
 とっさにブレーキを踏む。
 だが、速度は遅くなったものの車は動くのを止めない。

 と、信じられない光景が僕の目に飛び込んだ。
 一台の車が、僕の車目掛けて避けようともせず突っ込んで来るのだ。
 急いでそこから逃げようとアクセルを踏んだ。
 が、スピードを出した瞬間僕の車はその車に引き寄せられるように
 接近していった。

 そんな馬鹿な。
 あの車とは逆の方向にハンドルを切っているはずなのに、
 何故車は逆に近づこうとするのだ!?

「うわあああああああああああああああああ!!!」
 金属と金属がぶつかり、砕け、ひしゃげる音が響き渡った。
 衝突により大破して、僕と相手の車はようやく停止した。
 体中が痛む。
 しかし、幸いにも骨折などはしていないようだ。
 僕は、体を引きずりながら取り敢えず車を降りた。

「!これは!?」
 僕は自分の目を疑った。
 一度だけ、僕は交通事故が起こった瞬間というものを
 目撃したことがある。
 その時は、現場のあちこちに車の破片やら何やらが散乱していたはずだ。
 だが、何だ「これ」は。
 辺りにはガラス片一つ転がっていない。
 いや、違う。
 そもそも車同士が「吸い付いているかのように密着している」のだ。

「うう…」
 相手の車の中からの呻き声に、僕ははっと我に返った。
(そうだ、向こうの人は無事なのか?)
 急いで車相手の人の車のドアをこじ開け、安否を確認する。
 …一応息はあるみたいだが、気を失っているようだ。
 早く、救急車を…

「うわああああああああああああ!!!!!」
「きゃああああああああああああ!!!!!」
 その時、周りから幾つもの絶叫と衝突音とがあがった。
 周りを見回す。
 そこでは僕の時と同じように、何台もの車がお互いに
 引き寄せ合うかのように、接触事故を起こしていた。
 中には、人と車とがぶつかるようなものもあった。
 さっきまでの何気ない日常の風景が、一瞬にして地獄絵図と化す。

 警察と救急車に連絡を済ませた僕は、
 何がおこているのか調べる為に、次々と事故が起こった方向へと走った。
(何だっていうんだモナ…
 まさか、スタンド能力!?)
 僕の頭に、先日の「デパート爆破テロ事件」の事がよぎった。
 ぃょぅの話だと、あの事件の犯人はスタンド使いだったらしいが、
 まさか、これもそうなのか―――?

754ブック:2004/01/15(木) 01:01


 交差点の中央に、そいつは居た。
 全身を黒いタイツのようなもので包み、
 その顔の中心部にはぽっかりと穴が開いている。
 そいつの傍らには、フルフェイスメットをかぶった男の像があった。
 その右手にはN、左手にはSの文字が大きく張り付いている。

「よい子の諸君!
 天災は忘れたころにやって来るというが、
 天災みたいな最悪な出来事は無理やりにでも早く忘れたいものだよな!
 そう、例えば実の妹に妹系エロ同人誌を見つかるとかな!」
 男は誰に言うでもなく一人で何やらわけの分からない事を
 大声で喋りだした。

 間違いない。
 あいつは、スタンド使いだ。
 そして原理は分からないが、十中八九この惨事は
 あいつが引き起こした事だ。
 感覚で分かる。
 あいつはこの事態を楽しんでいる。
 一つの罪悪感さえ持つ事無く…!

 僕は応援を呼ぶために携帯電話を取り出して
 僕の所属するSSSスタンド制圧特務係へと連絡を入れた。
 ワンコールですぐに電話が繋がる。
「もしもし、どうしました?
 小耳さん。」
 声からするとどうやらタカラギコのようだ。
「大変モナ!
 今、四丁目のパチンコ屋の近くの交差点で、
 恐ろしい事が起こってるモナ!
 相手はスタンド使いモナ!
 すぐに応援を――」
 そう言いかけた所で、いきなり携帯電話を持っている手を
 後ろから掴まれた。
 突然の出来事に、思わず携帯電話が手から落ちる。
 見ると、交差点の男とは対照的に、
 今度は全身白タイツに包み、背中から羽を生やした男が、
 彼のスタンドらしき物の腕で、僕の腕を掴んでいた。
 その顔には、五芒星が描かれている。
「もしもし?小耳さん?もしもー…」
 そこで携帯電話は男の足に踏み砕かれ、
 その機能を停止した。
 今日は何て日だ。
 車だけでなく、携帯電話まで壊れるとは。
 いや、そんな事を考えている場合じゃない。

755ブック:2004/01/15(木) 01:01

「…お前今、『スタンド』と言ったな。
 そして、『応援をよこせ』とも言いかけた。
 お前、もしかしてSSSの一員か?」
 男が僕に喋りかけてきた。
「だったら……どうしたモナ!」
 柄にもなく声を荒げて威嚇する。
 ここで、気持ちで負けるわけにはいかない。
「なら丁度良い。お前には、SSSについて色々と喋ってもらう。」
 男は淡々とした声で話しかけた。
「そんなの…お断りモナあぁ!!」
 僕は自分のスタンドを発動させた。
「行け!『ファング・オブ・アルナム』!!」
 大きな黒い狼がそこに姿を現す。
 喰らえ、これが僕のスタンドだ!

「くっ!」
 白づくめの男は僕から手を離し、急いで距離を取った。
 だが少し遅い。
 『ファング・オブ・アルナム』の爪は男の右腕を捉え、
 男の服と腕の肉をごっそりと奪い取る。
 今だ。
 男が怯んだ隙に、応援が来るまで逃げる。
 男の相手は、『ファング・オブ・アルナム』に任せればいい。
 急いで逃げ―――

「うあああああああああ!!!」
 僕は痛みに叫び声を上げた。
 振り返って逃げようとした瞬間、
 地面の石につっかけて転びそうになり左手を着いた。
 だが…それだけで腕が「折れた」のだ。
 何故!?
 いわゆる骨粗鬆症ってやつか?
 いや、僕は毎朝たっぷりと牛乳を飲んでいる。
 多分そんな事は有り得ない。
 だが、現実にちょっと腕を着いただけで腕が折れたのだ。
 これは一体どういうことだ。
 まさか、これが奴のスタンド能力!?

「今お前は、何故あんな事で骨が折れたのか考えている。」
 男が腕から血を流しながら僕に近づいて来た。
 『ファング・オブ・アルナム』のビジョンは消えている。
 まずい、さっきので集中力を切らしてしまったか…!

「『ファング・オブ・アルナ…』!」
「させるかよ!」
 僕がスタンドを再び発動させようとした瞬間、
 男が僕の脚を踏みつけた。
 そしてそれだけでまた脚の骨が折れる。
「ぎゃああああああ!!!」
 本日二回目の悲鳴。
 やっぱりだ。
 いくらなんでもこんなに簡単に骨が折れるのは「おかしい」。
 分かったぞ、こいつの『能力』は…
 モノを「脆くする」能力…!!
「流石にもう気づいているだろう。
 察しの通り、俺のスタンド、『スペランカー』の能力は、
 『触れたモノを脆くする』能力!
 そして、さっきお前には十分に触らせてもらった。
 もう、お前はロクに逃げる事も出来ない。
 チェックメイトってやつだ。」
 男が勝ち誇ったように俺を見下す。
 やばい。
 悔しいが男の言う通りだ。
 僕がスタンドを出そうとしても、その前に男は僕に攻撃を入れるだろう。
 そして、男が軽く当てるだけで、僕は致命傷を負う。

756ブック:2004/01/15(木) 01:02

「どうした、ペンタゴン。
 何をして遊んでるんだ?」
 …状況は益々最悪な方向に傾いた。
 黒タイツの男が、こちらにやって来たのだ。
 これで二対一。
 万が一にも、僕に勝ち目は無い。
「おお、ブラックホール。
 いや何聞いてくれ。
 たった今SSSの一味を捕獲したところだ。」
 白タイツが誇らしげ喋る。
「おお、それは大手柄じゃないか!
 これで我ら『四次元殺法コンビ』の株も、
 大幅急上昇といったものだな。」
 黒タイツも嬉しそうな声で話す。
 何を勝手な事を。
 お前らの出世のネタになるなんて、願い下げだ。

「さて、君には可及的速やかにSSSについて吐いて貰いたいのだが。
 いちいち君を人気の無い所へ運んで拷問するのは
 我々も出来れば面倒くさいので避けたい。」
 白タイツが僕の方を向いて言った。
「…糞でも喰らいやがれ、だモナー。」
 僕がそう言うと、白タイツは僕の折れていない方の脚を踏んだ。
 骨がまるで発泡スチロールのように折れる。
「ひいいいいいいいいいい!!!」
 本日三回目の悲鳴。
 だが、死んでもこいつらの言いなりになんかなるものか。
 下種な裏切り者になる位なら、死んだほうがマシだ。

「では仕方が無い。
 君を連れ去って思いつく限りの拷問をさせてもらおう。」
 男が僕に手を伸ばした。
 もうお終いだ。
 小耳モナー二十三歳。
 恋人も出来ないままこの世を去ります…

757ブック:2004/01/15(木) 01:02


「『キングスナイト』!!」
 僕が覚悟を決めたその時、
 覚えの有る声が聞こえると共に、
 男達が僕の近くから飛びのいた。

 間に合った。
 ようやく来てくれたのか、応援が。
 声の方を向く。
 そこには、美しい艶やかな毛並みを持った女性が、
 黄金の騎士を従えて、優雅に佇んでいた。

「…遅いモナ…ふさしぃ…」
 僕は咽から声を絞り出して、彼女の名を呼んだ。
「御免なさい。
 でも、ヒロインは遅れてやって来るものよ。」
 ふさしぃはそう言って僕に軽くウインクを投げかけた。
「さて…貴方達、ここまでやって、
 よもや五体満足で帰れるとは思っていないでしょうね。」
 ふさしぃがスタンドの剣先を男たちに向けてかざした。

「いったん離れるぞ、ペンタゴン!」
「応!」
 男達は一瞬の互いに顔を見合わせると、
 すぐに振り返って逃げ始めた。
「!待ちなさい!!」
 ふさしぃは白黒の男達を追いかけようとした。
 が、僕を気にして追うのを止めようとする。

「僕の事は気にせず行くモナー!
 ふさしぃ!!」
 僕はありったけの力で叫んだ。
「モナは大丈夫モナ!
 心配してる暇があるなら、すぐに追いかけるモナー!
 あいつらは、前の『デパート爆破テロ事件』の犯人の
 関係者である可能性が高いモナ!
 逃がしちゃ、駄目モナー!!」
 逃がしてはならない。
 絶対にならない。
 こんな事をする奴らを、野放しにする事は、許されない!
「分かったわ…小耳。
 行ってくるわね…!」
 ふさしぃも今何を優先すべきか理解したようだ。
 その目に迷いの色は欠片も、無い。
「さっき白タイツの男の『服の切れ端』と、『肉』を
 少し頂いたモナ。
 僕も『これ』を使ってすぐに『ファング・オブ・アルナム』に
 援護させるモナー。」
 ふさしぃはそれを聞くと、一度頷いてすぐに白黒コンビを追い始めた。

「さて…モナも自分の仕事に取り掛かるモナー…」
 僕はふさしぃを見送り、『ファング・オブ・アルナム』を発動させた。
「『アルナム』。こいつを追跡して、やっつけるモナー。」
 僕はそう言って『ファング・オブ・アルナム』に
 白タイツの服と肉の切れ端を差し出した。


   TO BE CONTINUED…

758:2004/01/15(木) 23:22

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その4」



 僕は、食堂から戻ってきた。
 簞ちゃんは、教室でクラスの女の子とパンを食べていた。
 どうやら僅かな間に、大分クラスに打ち解けているようだ。

 僕はため息をつきながら席に着いた。
 簞ちゃんの為を考えるなら、あんまり僕がベタベタしない方がいいんだろうけど…
 でも、ちょっと寂しいな。
 そんな事を考えていたら、予鈴が鳴った。
 次は世界史の授業だ。
 最近赴任してきた世界史の先生は、最初はイケ好かなかった。
 なんか爽やかだし、この季節なのにロングコート着てくるし…
 見た目も若く、最初は教育実習生と見誤ったほどだ。
 また、そのルックスから女子には大人気のようだ。
 でも、なかなか面白い話をしてくれるので、今ではそれなりに気に入っている。


 五限開始のチャイムが鳴った。
 みんなが席につき始める。
 ガラガラと戸を開けて、先生が入ってきた。
「きりーつ、れーい!」
 日直が号令をかける。
 だが、起立も礼もしない人が目についた。
 …簞ちゃんだ。
 簞ちゃんは、呆然とした表情で固まっていた。

 全員が着席する。
 先生は、簞ちゃんの方を見て微笑んだ。
「まさか、君が来ているとはね…」
「…」
 これまで見た事もないような表情で、先生を睨む簞ちゃん。
 この二人、知り合いなのか?

「そう睨まないで下さいよ。私は別に何もしません…」
 先生は両手を広げた。
 ロングコートがはためく。
「あなたの言う事は、信用できないのです」
 簞ちゃんは厳しく言った。
 クラスの全員が仰天して注目している。
 一体、なんなんだ?
 この二人、知り合いなのか?

「ところで、私は昨日までちょっとヨーロッパに行っていたんですよ」
 先生は全員に向き直ると、教卓に手を突いて話し出した。
「で、知り合いの神父さんに会ったんですが…
 最近、神父の間に小児愛好者が増えているのが問題になっているらしいですね。
 それの対策に、神学校ってありますよね。神父になりたい人達が通うところです。
 そこに精神科医を派遣して、カウンセリングを行っているそうです。
 何か悲しくなりませんか? 神に仕える者が精神科にカウンセリングとはね…」
 先生は笑って言った。
 確かに、もっともな話だ。
 懺悔を聞くべき神父が精神科医にカウンセリングなんて、ギャグにもならない。

「さて、では授業を始めましょうか。
 11世紀末から13世紀にかけて、西ヨーロッパのキリスト教徒が聖地エルサレムを奪回すべく、
 数次にわたって行った十字軍の遠征については、前回に説明しましたね」
 僕は慌てて教科書を開けた。
 とは言っても、この先生は余り教科書に沿った授業をやらない。
 だが、この学校は特に進学校ではないのと、その教科書に沿わない授業が面白いので、文句を言う人は少ない。
「…ですが、みなさんは同じ頃にもう一つの十字軍があったことをご存じでしょうか。
 十字軍がイスラム教という異教との戦いで東方へ進出して行くものであったのに対して、
 こちらはキリスト教世界内部での異端とされた者との戦いで、南フランスが舞台になったのです。
 これをアルビジョワ十字軍といいます」
 それにしても、キリスト教内部の異端との戦いで、軍隊を差し向けるもんなのか?
 異教徒に対して激しく弾圧をしたのは知っていたけど…

「アルビジョワ十字軍とは、アルビジョワ派を討伐するために派遣された十字軍という意味です。
 ではアルビジョワ派とは何かと言うと、一般的にはカタリ派と呼ばれ、組織を持った始めての異端です。
 この新種の異端は独自の典礼と禁欲を掲げて、フランス、スペイン、イタリア、ドイツに蔓延しました。
 フランス南部のラングドックに根をおろしたカタリ派は、この地からローマカトリックの教権支配を駆逐してしまいます。
 そうして、ローマカトリック教会にとってカタリ派は最大の脅威になりました」
 組織を持った異端…か。
 僕はふと簞ちゃんを見た。
 まだ先生を睨みつけている。この2人の関係は一体…?

759:2004/01/15(木) 23:23

 先生は授業を続ける。
「そして、カタリ派の支持者による教皇特使暗殺をもって、
 インノケンティウス三世はカタリ派を撲滅する十字軍の派遣を決定します。
 こうして1209年7月、30万というアルビジョワ十字軍の兵士が、ラングドックをめざし進撃しました。
 そしてベジェという町で、同市の司教を通じて、市内に立てこもるカタリ派を引き渡すよう勧告します。
 それを住民が拒否したため、十字軍は大虐殺を始めました。
 ベジエの全住民はカタリ派であろうとなかろうと、守るはずのカトリック信者や女子供まですべて殺害されました。
 その数、約3万人。そして略奪・放火が行われ、町は二日間にわたって燃え続けたと言われています」
 十字軍による大虐殺か…
 キリスト教って愛に満ちてるんじゃなかったのかなぁ。
 やっぱり、宗教ってのはいろいろ大変そうだ。

「殺戮の途中、異端と救出すべきカトリック信者とをどうやって判別すればよいかを問う騎士がいました。
 その問いに、十字軍の指導者の一人であったシトー院長アルノー・アマルリックはこう答えたそうです。
 『みんな殺せ。その判別はあの世で神様がなしたもうであろう』
 そして1229年、パリ和約で南部制圧が完了し…」

「それを、あなた方は再びこの町でやろうと言うのですか…!?」
 簞ちゃんは机を叩いて立ち上がった。
 教室中の注目が集まる。
 一体どうしたんだ?
 僕は簞ちゃんを見つめながら唖然とした。

 簞ちゃんは、先生を睨みつけたまま口を開いた。
「カトリックの異端問題も、三位一体説など純教義的な範囲で収まっていたときは、
 論争を通じての勝利者側による異端者の破門で済むことだったのです。
 十字軍遠征が始まってから生じた異端者が、カトリックの組織そのものをターゲットにするようになったのは…
 …あなた方の無軌道な弾圧の代償なのです!
 結局、アルビジョア十字軍から『異端審問』という名の新たな十字軍が生まれたのです!」
 簞ちゃんは厳しく言い放った。

 静まり返る教室。
 先生は、簞ちゃんと目を合わせると言った。
「宗派である限り、教義的純粋性と組織的統一性を保つために異端者を排除するのは当然です。
 ローマカトリックも、成立から教義論争が何度も繰り返されたし、異端の教義を唱える者は破門というかたちで排除してきました。
 ローマ法皇庁は、政治的機能と宗教的機能を同時に志向した組織ですから、異端者の存在にはより過敏にならざるを得ません。
 異端者は、信仰的異物という存在にとどまらず、国家を転覆する革命家となる可能性が高いからです」

 簞ちゃんはそれに厳しく反論する。
「それは詭弁なのです。十字軍というのは、神の名を騙った略奪・殺戮行為としかとらえようがないのです。
 異教徒を殺せば天国に行けるという認識と、異教徒から解放するという情熱が相まって生まれた最悪の狂騒なのです。
 それをこの町で繰り返そうとしているあなた達は、東方正教会との分裂やホロコーストから一体何を学んだのです!!」

「何も学ぶ必要はありません。歴史は勝者のものですからね…」
 先生は、微笑を浮かべて言った。
 …禍々しい笑みだ。

「勝者が敗者を裁く欺瞞を仮に認めたとしても…
 異端であることが罪と言うならば、あなた達が千数百年に渡り周囲の民に強いてきた行いは――
 ――罪ではないと言うのですか!!」
 激昂する簞ちゃん。
 僕は、こんなに激しい口調で話す簞ちゃんを見た事がない。

「罪なものか。――あれは正義だ」
 先生は薄ら笑いを浮かべて言った。

 その瞬間、簞ちゃんは両手を広げて高く跳んだ。
「正義という言葉の裏で、どれだけの屍を転がせば気が済むのです!」
 シュル… という音がする。
 空中で、簞ちゃんは両手を素早く動かした。
 胸の前で両手を交差させる。
 教卓に2箇所のラインが入り、そこからバラバラになった。
 わずかに、ワイヤーらしきものが光を受けて反射する。
 あれは… 波紋の収束作用で物質を切断するという、簞ちゃんの武器だ。

760:2004/01/15(木) 23:25

 先生は二本の大型のナイフのようなもので、ワイヤーを受け止めていた。
 大型ナイフにはワイヤーが巻き付いている。
 簞ちゃんは、先生の目の前に着地した。

 先生が持っていたナイフの刀身が、バラバラになって床に落ちた。
 柄だけになった大型ナイフを床に投げ捨てる先生。
「何を憤慨する事があるのです。
 ローマカトリックは絶対の正義であり、『教会』は神罰の地上代行者であるはずでしょう?」

「その絶対の正義とやらが、歴史において何の力になったのです…?」
 簞ちゃんは、先生を睨みつけて言った。
「インノケンティウス三世やパウルス四世の布告と、ナチスのニュールンベルグ法との類似は見紛いようもないのです。
 最下級民、大地の汚染者、神殺害の犯罪種族として、家屋、土地の没収、強制移住、強制抑留、そして大量抹殺…
 ファシズムによる民族圧迫を黙認する習慣は、1932年にピウス十二世が就任した時に始まっていたのです。
 1942年、カンタベリー大司教が彼自らとイングランド国教会、および非国教会派を代表して
 ナチスのユダヤ人大量虐殺を告発した時も、聖ペテロの後継者たちは沈黙したままだったのです…」

 先生は可笑しそうに簞ちゃんを見ている。
 再び口を開く簞ちゃん。
「ヒトラーには、世界でただ一人、その証言を恐れる人間がいたのです。
 何故なら、彼の軍隊には数多くのカトリックがいたから…
 だが唯一であるこの人間が口を開くことは、遂になかったのです。
 第二次大戦中、ワルシャワにおけるポーランド人の絶望的な反乱を指揮した指導者の一人は、
 全世界の指導者たちの沈黙を嘆いてこう叫んだのです。
 『世界は沈黙している。世界は知っている。世界が知らないということは不可能である。
  それでも世界は沈黙している。ヴァチカンの神の代理人は沈黙している』…
 あなた達は、正義でも神の代理でもない…、ただの独善者です!
 自分が『悪』だと気付いていない、もっともドス黒い『悪』なのです!」
 簞ちゃんの左手が上がった。
 先生に向かって煌くワイヤー。
 しかし、先生はそれを素手で受け止めた。
 簞ちゃんの両手から伸びたワイヤーが、先生の突き出した右手で握り止められている。
 それは、まるであや取りの糸のようだ。
 ワイヤーがキリキリと音を立てた。
「そうであったとしても、貴方も共犯だ。『教会』に所属している以上はね…」
 先生は勝ち誇ったように言った。

 簞ちゃんはワイヤーを引く。
 しかし、先生は握り止めたまま動かない。ワイヤーを握った手から、血がポタポタと床に落ちる。
「私は、吸血鬼から人々を守る事においてのみ『教会』に協力します。
 もしあなた達が、この町を… いや、この国を焦土に変えようとするなら、
 私はそれを絶対に許さないのです…!!」

 二人の様子を見つめながら、呆然としている僕達。
 ふと、先生は固まっている僕たちを見た。
 そして、ロングコートの中から何かを取り出す。
 あれは…ライター!?

「おにーさん、見てはいけないのです!!」
 簞ちゃんの叫び声。
 僕は、慌てて目を閉じた。

761:2004/01/15(木) 23:26

「――私は、この時間、ずっと居眠りをしていました―― はい、復唱を…」
 訴えかけるような先生の声。
「…私は、この時間、ずっと居眠りをしていました…」
 僕以外のみんなが、声を揃えて言った。
 これは、もしかして催眠術というヤツか?
 代行者はみんなやり方を習うと簞ちゃんが言っていた。
 と言う事は、やっぱりこいつも代行者なのか?

「まったく… 私は、学校では騒ぎなど起こしたくないというのに…」
 先生は呟いている。
 それにつられて、僕は目を開けた。
 バラバラになった教卓が炎上してチリになるのが目に入る。
「それに、しばらくは何も起きませんよ…」
「あなたの言動は、信じられないのです!」
 簞ちゃんは先生を睨みつけている。
 他のみんなは、机に突っ伏して居眠りをしていた。

 そこで、五限終了のチャイムが鳴った。
「じゃあ私はこれで。あなたも学校に通っているのなら、もう少し適応した方が良い。
 授業中に暴れ回るなどもっての他だ。学生は学生らしく、ですよ…」
 そう言って、先生は教室から出て行った。
 簞ちゃんはその後姿を睨みつけ、ワイヤーを引っ込めると自分の席に戻っていった。

「ふわ〜ぁ… よく寝たなあ…」
 みんなが次々と起き始める。
 僕は自分の席を立つと、簞ちゃんの席まで行った。
「…一体、どうしたんだい?」
 僕は恐る恐る訊ねた。
「あの人は、物凄く悪い人なのです。だから、私もちょっと怒っちゃったのです…」
 簞ちゃんは申し訳無さそうに言った。
 これ以上、問い詰めるのも気が引ける。

「…少し調べる事ができたので、私は早退するのです」
 簞ちゃんは席を立った。
「あ、うん…。気をつけてね」
 何に気をつけるべきなのか分からないが、とりあえずそう言った。
「じゃあ、また家でなのです」
 簞ちゃんは、カバンを持って教室を出て行った。
 6限開始のチャイムが鳴る。

 6限の間もずっと、先生と簞ちゃんの言い争いの事を考えていた。
 簞ちゃんの様子も尋常じゃなかったが、その時の話も気になる。
 理解できない事も多かったが、『教会』がこの町で虐殺をやろうとしているように受け取れた。
 モナーも、簞ちゃんは『教会』に騙されている可能性が高いと言っていた。
 一体、『教会』っていうのは何を企んでいるんだ…?
 そんな事を考えていたら、いつの間にか6限は終わっていた。
 …家に帰るか。
 いろんな不安を抱えながら、僕は帰宅の途についた。



          @          @          @



 フサギコの自宅で、4人の人間が居間のテーブルを囲んで座っていた。
「これではまるで、私服での幕僚会議だな…」
 海上幕僚長は冗談めかして言った。

「さて… 知っての通り、ASAが我が国に『戦力』を持ち込んだ」
 フサギコは立ち上がって言った。
「そこで、諸君の考えを伺いたい」

 航空幕僚長がまず口を開いた。
「政府とは、話がついていると聞いたがな…」
「役人や政治家は、スタンド使い共の危険性をこれっぽっちも理解していない」
 フサギコは吐き捨てる。
「そんな密約など、俺は認めんよ」

「するとあんたは、ASAを外部からの侵攻と思ってる訳だ…」
 航空幕僚長は、フサギコに言を横目で睨んだ。
「当然だ」
 間を置かずフサギコは断言する。

「伝家の宝刀を抜くのか? 自衛権の行使を…」
 陸上幕僚長が口を開いた。
「無理に決まってるだろう! 長官も首相もASAには及び腰だ。世論だって許すはずがあるまい!」
 航空幕僚長は大声を上げる。
「そう興奮しなさんな。なにをカリカリしている? 雨の中、こんな用件で集められたのが気に入らんのか?
 それとも… 行使したくてもできないからか?」
 落ち着いた声でそれを諌める海上幕僚長。
「自国を蹂躙されて喜ぶ自衛官など、この世に存在しない… そして、私も自衛官だ」
 航空幕僚長は、腕組みをしたまま椅子にもたれて呟いた。

「で、君はどうなんだ?」
 フサギコは海上幕僚長に聞いた。
「自衛とは、外国からの急迫または現実の不正な侵害に対して、国家が自国を防衛するためにやむをえず行う
 一定の実力行使である… 今動かずして、いつ自衛権を行使すると言うんだ?」
「君は?」
 陸上幕僚長に視線を送るフサギコ。
「所詮、我らは違憲の軍隊… ならば、職務を全うするだけだ」
 陸上幕僚長は言った。

「全員一致だな。以上、我々『居間の内閣』は集団的自衛権を行使するに至った、と…」
 海上幕僚長はそう言って笑った。

762:2004/01/15(木) 23:27

「で、どうやってそれを上に認めさせるかだな…」
 航空幕僚長は再び腕を組む。
「私達制服組は、首相官邸にも入れてもらえんぞ」
 陸上幕僚長はため息をついた。
 フサギコは口を開く。
「そんなもの、強引にやるに決まってる。国会審議など邪魔なだけだ…!」

 三人の幕僚長は唖然とした。
「国会審議も無しで、首相決定も無く… それで、隊を動かそうとあんたは言うのか…!?」
 航空幕僚長が言葉を放った。
 フサギコは口を開く。
「俺は… 百年、二百年先のこの国の事を考えている。ファシズムと言われようが、軍の専横と言われようが構わん。
 悪鬼として歴史に名を残す覚悟は出来てる。
 だが… この国の為を思えばスタンド使いなど危険なだけだ。
 我が国の平和を願うなら、奴等は絶対に排除しなきゃならないんだよ!!」

 三人の幕僚は黙り込んだ。
「我らが独断で動くとなれば、事実上のクーデターだな。我々は全員内乱罪で死刑だ」
 航空幕僚長は腕を組んだまま口を開く。
「それだけじゃない。刑法93条の私戦予備・陰謀罪にも引っ掛かるぞ?」
 口に手を当てる陸上幕僚長。
「自首した場合、刑は免除だよ」
 海上幕僚長は笑って言った。

「ところがな、そう勝算がない話じゃないんだ。これを見てもらいたい…」
 フサギコは、一本のビデオテープをデッキに突っ込んだ。
 そして、再生ボタンを押す。

「これは…」
 陸上幕僚長は思わず呟いた。
 画面に戦闘ヘリが映っている。
 それを見て、陸上幕僚長はフサギコに視線をやった。
「RAH−66か? 米陸軍でも、配備は早くて2006年のはず…」
 フサギコがそれを受けて口を開く。
「ASA所有のヘリだ。9月19日、ASAは事もあろうに市街戦をやらかした」
「ほう、初耳だな…」
 海上幕僚長が画面を覗き込む。
 フサギコは忌々しそうに言った。
「情報が統制されてたからな。知っているのは次官より上のクラスと、公安五課だけだ」
「私は知っていたぞ。帳尻を合わせられたからな…」
 航空幕僚長は憎々しげに言った。
「おっと、そう言やそうだったか…」
 この事件は、一般には自衛隊機の墜落という事で処理されている。
 そのせいで、航空自衛隊はいわれのない避難を受けたのだ。

 画面には、戦闘ヘリの姿があった。
 撮った人間が下手なのか、手ブレがもろに伝わっている。
 そして、ヘリに対峙するように立っている不気味な男。
 夜なのではっきりとは顔が見えない。
「こいつは…?」
「通称、『矢の男』。スタンド使いだ」
 フサギコは答えた。
 幕僚長三人は、画面に見入っている。

763:2004/01/15(木) 23:27

 ヘリから、次々とミサイルが発射された。
 それらの発射物は、男に向かって飛来する。
 カメラワークが男の方に寄った。
 男に直撃するミサイル。
 爆音が割れて、不快な音が流れた。
 画面はもうもうと舞い上がった白煙で包まれる。
「これは…本当に我が国での出来事なのか?」
 陸上幕僚長の問いに、フサギコは無言で頷いた。

 数十秒ほど経って、じょじょに煙が薄くなっていく。
「そんな、馬鹿な…」
 航空幕僚長は思わず呟いた。
 男は、そのままの姿で立っていたのだ。
 周囲は炎上している。
 しかし、彼の体には損傷は全くない。
 ほんの少し、口の端が持ち上がったように見えた。
 …笑った?
 だが、映像が鮮明ではないせいで確認はできない。
 そこで映像は途切れた。
 画面に映る砂嵐を、三人は呆然と見つめていた。

「公安五課が押収した証拠映像だ。この後、ヘリは撃墜される」
 フサギコは言った。
「ヘルファイアの直撃を喰らって無傷…?」
 航空幕僚長はフサギコに視線を送った。
「いや、公安五課の分析によると、直撃はしていないらしい。
 『矢の男』の身体に当たる前に、ミサイルのほとんどが消失している。
 逸れて爆発したミサイルからの爆風すら、『矢の男』の身体に当たってはいない」
 そう言いながら、フサギコは視線を落として腕を組んだ。
「消した…? ミサイルも、爆風も…?」
 信じられない、といった表情で呟く海上幕僚長。

「だが、最も重要な点は、このビデオが存在する事だ」
 フサギコは言った。
「このビデオの存在は、我々にとって大きな武器になる。
 前半部だけを流せば、『軍事組織ASAによる民間人攻撃の瞬間』。
 フルに流せば、『これがスタンド使いだ! 政府が隠すその恐るべき力』。
 …ちょっとイマイチだな。
 まあ、見出しはマスコミが考えてくれるだろ。とにかく、世論はこっちに傾く」
 フサギコはビデオを片付けると、ソファーに腰を下ろした。

「フルに流すのはまずくないか? 下手すりゃ、魔女狩りの再来だ」
 海上幕僚長は言った。
「確かにそうだが… 治安維持の為には、この国からスタンド使いを完全に追放するのも有効ではないか?」
 航空幕僚長が口を開く。

「ビデオの前半部だけで喧伝すれば、世論は動かせる。
 国際法上も問題ないどころか、人道的にも問題があるとみなされるだろう。つまり――」
 フサギコはそこで言葉を切った。
「――専守防衛を行使できる」

 その言葉が響き渡った。
 一座は静寂に包まれる。
 しばしの間の後、フサギコは口を開いた。
「後半を見せるのはそれからだ。あくまで段階的に… だな。
 数による優位が戦闘での優位とは必ずしも一致しせず、多くの情報とメディアを制した者が勝利を収める。
 とりあえず、先程のビデオの前半と… 吸血鬼殺人についてマスコミにリークしよう」

764:2004/01/15(木) 23:28

「吸血鬼殺人?」
 航空幕僚長が聞き返す。
「ASAが情報を統制している機密だ。この町で、吸血鬼によるとしか思えない殺人事件が継続して起きている。
 その犠牲者の数はすでに20人にも達するという…」
 フサギコは答えた。
「なるほど。スタンド使いの存在が大きく世に出れば、その事件と結び付けて考える連中も出て来るだろう。
 そうなれば… 世論はますます我々に優位に傾くな」
 陸上幕僚長が言った。

「…ASAの大量派兵による米軍の対応は?」
 フサギコが、航空幕僚長に尋ねた。
「三沢や厚木、沖縄基地は、P−3C対潜哨戒機が昼夜問わずパトロール中だ」
 航空幕僚長は腕を組んで答えた。
「洋上では、第七艦隊が動いている。横須賀の司令部は大慌てだ。第三艦隊もパールハーバーで常備出撃可能」
 海上幕僚長は可笑しそうに言う。
 フサギコは口の端を持ち上げて笑った。
「無論、彼等にも協力してもらおう。我が国は、ASAの侵攻を受けている。
 アメリカには、安保条約を守ってもらわなくてはな…」

 しばしの沈黙の後、フサギコは海上幕僚長の方を向いて口を開いた。
「では、横須賀の第1護衛隊、佐世保の第2護衛隊をしばらく動かしてくれないか? ASAの艦隊への牽制でいい」
「了解…!」
 海上幕僚長は敬礼のポーズを取った。
 陸上幕僚長が口を開く。
「じゃあ私は、練馬の第1師団にハッパでもかけておこう。
 それと… 極秘裏に、東千歳の第7機甲師団を関東に移動させる」
 それに続いて、航空幕僚長が言った。
「まあ、ウチは常時警戒態勢だがな… より一層の警戒に当たろう」
 フサギコは再び海上幕僚長を見る。
「あと… 海中への威嚇も必要だな。ASAの潜水部隊の艦種は分かるか?」
 海上幕僚長は腕を組んで答える。
「セヴェロドヴィンスク級SSN(攻撃原潜)が3艦に、ボレイ級のSSBN(戦略原潜)が2艦ですな。
 ASAはよっぽど最新技術が好きと見える…」
 フサギコは立ち上がった。
「で… それだけの潜水艦を相手に、月単位での長期に渡って牽制を続行できるだけの人物が海自にはいるか?」
 海上幕僚長は笑顔を見せる。
「海上自衛隊の対潜技術は世界一だ。その中でも、一番優秀なヤツを派遣しよう」

 フサギコは窓の外を見た。
 雨はすっかり止んだようだ。
 表情を緩めて、ため息をつくフサギコ
「粗暴だの何だのと周囲から言われ続けて… 気がついたら、この俺が統合幕僚会議議長だ。
 そして、この国を戦渦に巻き込もうとしている。だが、俺はそれを正義として疑わない…」

「いや、決して疑ってはならん。正義という御旗を失えば、我々は単なる国賊だ」
 真面目な顔で言う海上幕僚長。
 それを受けて航空幕僚長が呟いた。
「我々は、まともな死に方はできんだろうな…」

765:2004/01/15(木) 23:28

 押し黙る4人。
「…で、勝算は?」
 航空幕僚長は訊ねた。
「勝算のない戦をやる軍人などおらん。そうなれば、もはや軍人ではない。
 最新のテクノロジーなど、奴等には過ぎたオモチャだ」
 フサギコは、つかつかと窓の方に歩み寄る。 
「恐れるべきは、スタンドのみという事だな…」
 そう呟きながら、海上幕僚長はテーブルに肘を着く。
 フサギコは窓の傍に立って息巻いた。
「例え人間単位で強力な力を持とうが、今は戦国時代ではない。歩兵が闊歩する戦争は過去の遺物だ。
 近代兵器の前では、スタンドなど何の役にも立たん事を教えてやる…!」

「スタンド使いか… 考えれば悲惨なものだな。
 なまじ異能を持ってしまったばっかりに、社会から排斥されようとしている…」
 陸上幕僚長は呟いた。

 …ガチャリ。
 突然に響く、玄関のドアが開く音。
 一座に緊張が走った。
「ああ、大丈夫だ。あれはウチのせがれだな。学校から帰ってきたんだろう」
 フサギコは言った。
 一同は胸を撫で下ろす。
「密室会談は、小心者には向かんな…」
 そう言って、海上幕僚長は笑った。
「俺達は、政治家にはなれんという事だな」
 フサギコもそう言って笑う。
 陸上幕僚長と航空幕僚長も笑みを見せた。

「ただいまだ、ゴルァ!」
 ドスドスと廊下を歩く音が近付いてくる。
「あれ、オヤジいるのか? 仕事は…?」
 豪快に居間に入ってくるフサギコの息子。
 そして、驚いた顔で一同を見回す。
「あ、…こりゃ失礼しました。来客中でしたか… でも、靴の数が… アレ?」
 彼は首をかしげる。

「おぅ、ギコ君。私の事を覚えているか…?」
 海上幕僚長は笑みを浮かべて言った。
「えーと… すいません。どちら様でしょうか…」
 かしこまるギコ。
「君がほんの小さい頃に、会った事があるんだが… そうか、小さかったもんな…」
 海上幕僚長はしみじみと言った。
「なかなか見込みがありそうだね。いい自衛官になりそうだ」
 陸上幕僚長は、ギコの瞳を真っ直ぐに見て頷いた。
「な… こいつは自衛官にはならんぞ!」
「な… オレは自衛隊には入りませんよ!」
 二人揃って同音異句に声を上げる親子。

「剣道の県大会で、いい成績を残しているようだね。君の父上がよく自慢しているよ」
 航空幕僚長が口を開く。
「今度、手合わせ願おうかな。私も二段を持っている」
「あ、是非お相手させて頂きます」
 ギコはかしこまって頭を下げた。
「別に自慢はしていないぞ!」
 フサギコは脇で文句をつけている。

「さて、話もまとまったところだし… そろそろお暇させてもらうよ」
 三人はソファーから立ち上がった。
「おう、帰りに気をつけろよ」
 フサギコは目配せしながら言う。
「君も自重しろ。無理はするなよ…」
 そう言って三人は、居間から出て行った。
 フサギコは見送りには出なかった。

 居間は、ギコとフサギコの二人だけになる。
「俺、邪魔だった?」
 ギコは言った。
「いや、ちょうど話は終わったとこだ」
 フサギコはソファーに腰を下ろした。

「客が来るんなら、あらかじめ言ってくれたらいいのに… なんか威圧感がハンパじゃない人達だったな」
 ギコは冷蔵庫を漁りながら言った。
「そこそこ偉い連中だからな。まあ、俺ほどじゃないが…」
 ソファーの上でふんぞり返るフサギコ。

「馬鹿か、オヤジ…」
 ギコは呆れてため息をついた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

766丸耳作者:2004/01/16(金) 00:08
新作乙!と言わせて頂きます。ペース早いなー。

767302:2004/01/16(金) 21:51
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・4

『MASTER…カウントダウン・承認ヲ……!!』
「承認…っ!?ど、どうやって…!」

突然聞こえたスタンドの呼び声に、ノーは浮き足立った。
丸耳モララーが、狂気を“吸い上げて”いるのに気付かず…

「ゲヒュヒュヒュヒュ!!!よそ見は死!死!死ぃ―――っ!!!!マァーッド!!ブラストォォォ!!!」

(D O O O O N N ! ! ! ! )

爆発。
足元のコンクリートが溶けた…一体どれだけの狂気のエネルギーを打ち込んでいるのか、わからない。
これを直撃すれば、大怪我大火傷じゃすまないだろう。
ニダーは未だにフラフラしている、ノー自身はスタンドの言葉の意図を飲み込めない。
八頭身フーンは静観…そして、丸耳モララーは再び狂気を充填している…

「か、カウントダウン…?ど、どうすればええの?」
『簡単ナコトデス、MASTER…“カウントダウン・開始”…ソウ言ウダケデス、ソレダケデス』
「それを言うと、どうなるんよ?わからへんのに、使うほど無茶できんよ…!?」
『今カラ、10分ダケノ間…私ノ“POWER”ガ上昇シマス。最後ノ一分間ハ、最高ノ“POWER”ヲ得レマス。』
「わ、わかった…とにかく、10分だけ強くなるんやな!?」

768302:2004/01/16(金) 21:52
「スタンドとおおぉぉ!!相談してる暇がぁぁ!!テメーにあんのかぁぁぁ!!?ゲヒュヒュヒュヒャアア――!!!!」
「な、なんや…!?し、しまった……!!!」

ノーに向かって飛んでくる、“マッド・ブラスト”の狂気弾…

「(あかん!殺られる!!!間違いなくっ!!)」

(Z D O O O N N N ! ! ! ! )

弾丸は、ノーに達する前に爆発した。
白煙の中から現れたのは、全身で狂気弾を防いだニダーとシー・アネモネの姿だった。

「…い……ったぁ……。流石に……これはキツイわ……ゲホッ……」
「に、ニダやんっ!!なんで……!?」
ノーの問いに、ニダーは“いつもの”笑顔でこう言った。
「…こ、ここで……相方守れんよーな奴が、他に何できる…?」
「……っ!」

「オイオイオイ…うつくしー、友情ごっこ……だーっいっきらーい!!ゲヒュヒャハーッ!!」
丸耳モララーの目は既に…オーバードラッグになった男と、同じ様な目をしていた。
一歩ずつ、近寄る。確実に射撃を当てるために。

「(さぁ…これで、こいつらもオシマイだァ…“ヘッド”にゃ、自警の新人ぶっ殺したって言えばOKだァ…!!)」

「……カウントダウン・発動…!」
ノーの声が、冷たく…響く。

『OK,MASTER…LET ME FINAL COUNT DOOOWN!!』

769302:2004/01/16(金) 21:52
ガチイィッ!!

額の数字が、一秒ずつ減っていく…『<09:57>』

「…お前はクズや。……狂って、殺して、反省などしない…!お前はぁ!お天道様が許してもぉ!!ウチが絶対許さん!!」
「(ケッ…吠えてろ、負け犬ぅ…どーせどーせ、テメーのスピードなんざ…)」

バキャッ!!

「がはっ……!(な、何だ…さっきよりスピードとパワーが上がってやがる……!!)」
「…残り、8分50秒…残りの時間は、お前の反省の時間や。」
「ち、チイイイィィッ!!(クソッ、この威力は半端じゃねえ…もし、これ以上パワーが上がったら…!)」

「テメエエエ!!近寄るんじゃネエエエエ!!!!」
バックステップで、ノーから距離を取り…スタンドの銃を構えて
「マッド・ブラストォォォッ!!!乱れ撃ちダァァァ!!!奴を近寄らせるんじゃネエエエエ!!!」

(DONN!!DONN!!DONN!!!)

「くっ…流石に、使い慣れとる…スタンドを……」

『<08:03>』

770302:2004/01/16(金) 21:53
(DONN!!DONN!!!DONNN!!)

後ろを振り向いた。屋上の金網フェンスは既に狂気弾で破られている。
「仕方ない…退くも地獄、進むも地獄…なら、ウチは!!“進む地獄”を選ぶっ!!」
「ファイナル・カウント・ダウン!!強行突破や!!!」
『OK,MASTER……!GO!GO!GO!』

狂気弾の暴風雨を潜り抜け、丸耳へと接近していくノー…だが、敵も然る者…

「近寄るなぁ!!テメーの大事な親友君がどうなっても…いいんだなぁああ!?」
そう叫んだ丸耳が踏みつけ…スタンドの銃口を向けていた先には…
「…す、すまん……のーちゃん…!」
傷つき、逃げ送れたニダーが居た。
「……どこまで卑怯なんや…お前はぁぁぁ!!!」
怒りに任せて、突進しようとした次の瞬間…

(DOON!!)

ノーの足元に、狂気弾が打ち込まれる。一歩も近づけさせない、そう主張するように。
「近寄るな…って、俺は言ったんだぜぇ…!?テメーの耳は“でぃ”と同じで使い物になんねーかぁぁ!?」
「……くっ……!!」
最悪の状況に陥ってしまった。丸耳モララーとの距離は5m…
それを残し、ノーは一歩も動けなくなってしまった。
「(奴を倒すより先に、ニダーを安全な場所に移すべきやった…クソ…ウチの甘さが憎いっ…!)」
「のーちゃん…何を迷っとる!ワイの事は気にするなぁ!!コイツにぶちかましたれぇぇ!!」
「…そんなん、できんよ…ニダやんっ……!」
「ああ!出来ないよなぁ!!お前ら“大親友”だもんなぁぁぁ!!ゲヒュハヒャハハハハハ!!!!」

時間は止まらない…ファイナル・カウント・ダウンのカウンターは確実に減りつづける……

『<05:22>』

<TO BE CONTINUED>

771新手のスタンド使い:2004/01/17(土) 18:49
乙。

772丸耳作者:2004/01/17(土) 19:03
「爺ィの心配してる暇はねぇぞ〜♪」
 不定形のスタンド使いが、挑発するように踵を打ち鳴らした。
「お前の『スタンド』…弱っちいだろ?」
「…何でそう思う?」
「長年虐殺やってるからな。面構え見れば判るのよ。
 『お前は絶対俺には勝てません。 汚らしく命乞いしながらブッッッッッ殺されて絶望の中で死んでいきます』ってなぁ!」
男の挑発にも、マルミミは動じない。警棒を中段に構えて、静かに応える。
「うん…確かにお前の言うことは的を射ているよ。僕の『ビート・トゥ・ビート』は、決して強いスタンドじゃない。
 無尽蔵にラッシュが出来るような『スタミナ』があるってわけでもないし、地球の裏側まで行けるような『射程距離』も、
 相対速度百キロ以上で走ってくるトラックを受け止められるような『パワー』もない。
 『能力』にしたって『鼓動の探知』以外は大したことは出来ないし、これ以上大きな成長もしないと思う。
 けど…僕は負けない。弱いヤツが判るだって?馬鹿が。一番弱いのは…お前だよ」
マルミミの切り返しに、青筋が男の額にびきりと走る。
男の体にまとわりついていた不定形のスタンドが、触手となってマルミミへと撃ち出された。
だがマルミミは眉一つ動かすことなく、半歩右に動くだけで触手をかわす。
 男の眉がしかめられ、再び触手が撃ち出された。
視認できるギリギリの速度で次々と襲い来る触手を、むしろゆっくりとした動作で避け、あるいは手元の警棒で受け流しながら距離を詰めていく。
「―――物事って言うのは『短所』が即ち『長所』になる。たとえ一メートルぐらいしか離れられなくても」
 また一歩、足を進めた。近付くたびに攻撃が激化しているというのに、涼しい顔でかわし続ける。 
「たとえ四歳児程度のパワーしかなくても。たとえ並の人間以下のスタミナしかなくても。
 僕には今お前の攻撃をかわしてるような『精密な分析』と―――」
踏み出した足が、頭の中で引いた『一メートル』のラインを超えた刹那、瞬時にビート・トゥ・ビートが具現化する。
「誰にも負けない『スピード』がある」

773丸耳作者:2004/01/17(土) 19:05

―――――1997年、アメリカ・フロリダ州のとある少年が、公園で友達と遊んでいた。
彼等がキャッチボールに興じていると、受け取り損なった少年の胸に軟式のボールがポンとぶつかった。
それだけなら、何のことはない遊びの中の一場面だろう。
ボールを拾い上げ、再びキャッチボールを続けると誰もが思うだろう。
                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 だが、その少年はいきなり苦しみだして数時間後に死亡した。
国内ではあまり知られていないが、この現象は『心臓震盪』と呼ばれている。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・
 心臓の『鼓動』。その僅かな隙間に、ボールの衝撃が偶然入り込んだのだ。
それが引き起こされるのには『パワー』も『スタミナ』も要らない。
ほんの僅かな衝撃を数発、絶妙のタイミングで入れればいい。
                             B ・ T ・ C
 それが、マルミミの編み出したスタンド攻撃『ビート・トゥ・クール』
スタンドを触手に変えたせいで、男の防御は穴だらけになっている。
B・T・Bの拳を阻む鎧はもはや無く、スタンドを引き戻すにも遅すぎた。

                      クゥゥ――ゥゥゥルッッ
「刻むぞ静寂のビート」「凍テツクホドニCoooooooooolllll!」


 マルミミの呟きにB・T・Bの声が重なり、閃光のラッシュが打ち込まれた。
男は反応すら出来なかった。B・T・Bの感覚を通して、急速に弱まる鼓動が伝わって――――――

774丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:07
(―――来ない!?)
 鼓動に変化がない。不定形のスタンドが再び動きを取り戻す。
「ッ戻れB・T・Bッ!」
 B・T・Bがマルミミの体内へと吸い込まれ、慌てて後ろへと飛び退いた。
「…ッチ」
 男が小さく舌を鳴らした。
数メートル後方に着地したマルミミが、再び構えをとる。背筋に冷たい汗が流れたのがわかった。
「服の中に『スタンド』を潜ませていたのか…」
 朝っぱらから虐殺などやっているから頭のネジがすっ飛んだ電波かと思っていたが、間違いだったようだ。
先を見通して布石を打っておくなど、ゆんゆん脳で出来ることではない。
(待てよ…ってことはまさか…素面で虐殺やってるって事!?)
 恐ろしい考えが頭に浮かんだ。狂気にも犯されないまま、正気の状態で虐殺を行う。
それがどんなに異常なことか。この男の中では、殺人が食事や睡眠と等列に考えられている―――!
 マルミミの戦慄を知ってか知らずか、男が更に言葉を続ける。
「俺の『アシッドジャズ』はあらゆる衝撃を吸収して、拡散させる。 ただでさえ弱っちいテメェの攻撃なんざ消えちまうのさ」
言葉の端々から余裕を漂わせ、挑発するようにスタンドの鎧を見せつけた。
      ビート・トゥ・クール
(マズいな…『B・T・C』は精密な動きが要求される…あんなグネグネしたモノ越しじゃあ上手く衝撃が伝わらない)
「さあまだテメェは策があるのか?無いよなぁ?その弱っちいスタンドで醜く抵抗してこの俺に絶望の表情見せながら死んでけ!」
まとわりついた不定形のスタンドが再び蠢く。今度の形は、ぬらぬらと光る巨大な腕。
「スゲェよなぁ、コイツは。コイツを使えば何が起こったのかすら判らないうちに虐殺されていくんだぜ?
 楽しいよなぁ面白いよなぁ最高だよなぁ!んでテメェもそんなカンジに苦しめ絶望しろ虐殺されろ!」
異様なまでのハイテンションに、マルミミが顔をしかめた。
「…『絶望しろ』?やだね。もう一つだけ僕のB・T・Bには『策』がある」
「何?」
 訝る男をよそに、B・T・Bがマルミミの体内に入ってしまった。

775丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:09
                                    ・ ・ ・ ・ ・ ・
「オイオイオイオイ、ひょっとしてその『策』っつーのはまさか降参することか?
言っとくが、泣いて土下座しても俺は許してやんねぇぞ? まぁ・それならそれで命乞いしてるテメェを思ッッッッ糞!」
男が構える。蠢く腕が抜き手の形を作り、引き絞られる弓の如く力を溜める。
「ブッ・殺・す!」
 今まで見た中で最も重い、最も早い男の一撃。
それを見据えて、口の中だけで小さく呟いた。
「刻むぞ灼熱のビート」
 体内のB・T・Bがそれに続ける。
「焼キ尽クスホドニHeat!」
  〇,一秒にも満たない時間が幾分にも感じられる。
  心臓が高鳴り、耳の中でごうごうと血流の音が聞こえる。
  右手の警棒を握り締める。体の重みが消失する。
  マルミミの中の、もう一つの鼓動が目を覚ます。
  その快感はまるで千年の獄から解き放たれた虜囚の如く。
  迫り来るスタンドすらも、快楽の一つでしかないと思えるほどに。
    B ・ T ・ H
「『ビート・トゥ・ヒィィィ―――――――――ト』ッ!!」

 マルミミの腕が霞み、襲い来る拳を警棒で打ち据えた。
「が…ッ!?」
 男の腕に、拳の受けた衝撃が伝わってくる。
生身でスタンドを打ちのめしたその力とスピードに、男の目が驚愕に見開かれた。

776丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:13
 ウ リ ャ ァ ァ ァァァ
「URYAAAAAAA―――――――――ッッッッッ !! !! !!」
 甲高い声で一声叫び、地面を蹴った。
ハリウッドのワイヤーアクションの如く、数メートルほどの高さまで跳躍する。
そのまま壁を蹴り、路地の両脇にそびえる廃ビルの間をゴムボールのように反射しながら男へと向かった。
「アシッドジャズ!」
 男の体から、再び不定形のスタンドが滲み出て、男の体を被う。
だが、スピードの乗ったマルミミの一撃は不定形のスタンドを超えていた。
衝撃をガードの向こうの本体にまで浸透させて、男の体が吹き飛ばされる。
 勢いのままに廃ビルの壁を突き破り、中へと転落した。
粉塵の立ちこめる廃ビル内に、マルミミの声が響き渡る。
  ビート・トゥ・ビート
「僕のB・T・Bは『鼓動』のスタンド…自分自身の鼓動が操れないとでも思ったのかい?」
「オイ…嘘だろ…?」
―――考えてなかった訳じゃない。あのスタンドを自分に叩き込むって事は、ある程度予測してた。
  だが、アレは間違いなく常識を外れてる。
  虐殺やってた俺だからわかる。人間の体はどれだけの力を加えれば壊れるか。
  どれだけの力に耐えられるか。だけど、アイツの動きはまるで違う。
「あんな動きが出来るわけがねぇ…鍛えてどうこうとかじゃねぇ…物理的に限界の筈なのに!テメェは何で動けるんだよ!!」

777丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:14
               ・ ・ ・ ・ ・
「限界…そうだな。僕が普通の人間ならな」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
 いつの間にやら、マルミミの爪先が細かいタップを刻んでいる。
「『吸血鬼』というのを知っているかい?」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
 言葉の合間にも、一定の間隔でビートが響く。
「古代アステカで、『石仮面』っていう物が発掘された。そいつを使って、人間をやめた人間」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「人の血を啜り、日光で気化する化け物…おとぎ話かもしれない。だけど、僕の母親は」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「『太陽アレルギー』とかで決して外に出なかった」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「診療所の輸血パックが、いつも減っていた」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「そして僕も、『B・T・H』を使っている間は太陽の光で肌が灼け…」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「本能的な『渇き』に襲われる事がある。…まぁ、信じようが信じまいがどっちでもいいさ」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「この際そんなことはどうでもいい。それよりも重要な事は、お前等が母さんを殺したこと」
ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――
「父さんは母さんを愛してた。それをお前等みたいな虐殺者達が壊したんだ」
たんっ!
 爪先が一際高く地面を叩いた。刻まれていたビートが途切れ、静寂が訪れる。
「そしてお前等はまたそんな悲しみを増やそうとしてる」
 気が付けば、もうマルミミの姿は男の目前にあった。
先程のような穏和な表情は掻き消え、血の色をした瞳の奥に深い憎悪が燃えている。
「―――アシッドジャz」
 ウ リ ャ ァ
「URYAA!」
 スタンドを具現化させる時間すら与えず、マルミミの警棒が男の両肘に食い込んだ。
関節が潰れる音。もう虐殺はおろか、ナイフとフォークも持てないだろう。

778丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:16
「がっ…あぁぁあっ!!」
「殺された側の痛み、残された家族の心、その友人達の気持ち。お前にそれが理解できるのか…!?」
 冷たく熱い、憎悪の瞳。その視線にあてられて、男の体が恐怖にすくみ上がる。
「あっ…いっ、ひあっ…すいませんでしたっ…!もう…虐殺も…!しません…っ!」
 がたがたと震えながら、折れた腕を地面につける。
「私の負けです!改心します悔い改めます悪いことしてました靴もなめます!」
 本当にペロペロ靴をなめだした。靴が汚れるじゃないか。
「いくら殴ってもいい!ブッてもいい!蹴ってもいい!だから命だけは許してくださいっ!」

ごぐゅっ!

 無言のまま、今度は膝を砕く。
「があああっぁあっ!! !! !! !!」
「その両手足の痛みで、シュシュの…あの路地裏で虐待されてたしぃの痛みは支払ったことにしてやる」
そのままB・T・Hを解除し、男に背を向けた。
「だからもう、僕の前にその顔を見せ…!」

ばがっ。

 唐突に、何の前触れもなく地面が割れた。
踏みしめるべき床が無くなり、浮遊感が体を包む。
「―――――ッ!!」
 上の方から、狂ったような哄笑が響き渡った。
「ヒッヒヒッヒヒヒャァアハハハハッハ!! !!馬ァ―――鹿ァッ!どうだァ!『アシッドジャズ』の強酸の粘液は!
 じわじわジワジワテメェの足下を浸食させた!」
マルミミの体が自由落下を始めようとする中、不定形のスタンドが闇の中でぬるりと光った。
反応する間もなく、ぐわっと不定形に飲み込まれる。酸に浸食され、体中の皮膚がぶすぶすと焦げ始めた。

779丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:20
B・T・Bを具現化させようとするが、ガッチリとスタンド自体が捉えられている。
 下の方で、警棒が落ちる音が聞こえた。いつの間にか落としていたらしい。
「ぐっ…!」
「どうだ?どうだ?どうだ!?自分の優位が一瞬でひっくり返される気分は!
 このまま溶かされたいか?それともグジャグヂャのジャムにされてぇか!?
 …いや決めた!タダじゃ殺さねぇ!ゆっくりゆっくりゆっくり溶かして苦しめながら握りツブしてやる!! !! !!」
逆さ吊りにされてスタンドも出せず、体中の皮膚は炎症を起こしている。
 挙げ句の果てに身動き一つとれない状況だが、マルミミの表情に恐怖はない。
「…っんだァ?テメェ…虚勢張ってんじゃねぇよ」
 顔面に酸をかけられた。まだあどけなさを残すマルミミの顔に、無惨な火傷の後が刻まれる。
「っぐぁ…!」
「スタンドも!武器も!テメェの身を守る物なんざ一ッッッッッッつも無ぇんだよ!」
口の端から涎を飛ばす男に向けて、苦痛に耐えながら声を振り絞る。
         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「…お前は…もっとも愚かな選択をした…」
「ああ?」
 耳を澄ませてようやく聞こえる程度の小さな声で、ぼそぼそと呟き続ける。
「『僕に嘘は通じない。僕がお前の便所コオロギの糞にも劣る『心』を見抜けないとでも思ったのかい?』
 ―――――僕はお前に四日前、そう言ったはずだ。
 お前が『改心する』と言ったとき…それが『本心からいった言葉』だったらその折れた手足を治してやった…
 『その場を誤魔化す嘘』だったなら…まぁ救急車くらいは呼んでやった……そして―――――」
一呼吸の間をおいて、再び言葉を紡ぎ出す。  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「―――『不意打ち』をしようとしたら―――――もっとも惨たらしく殺してやった」

780丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:21


ばずっ。


 言葉が終わるのとほぼ同時。何の前触れもなく、男の腕が爆発した。
損傷がスタンドへフィードバックし、マルミミを拘束していたスタンドも弾け飛ぶ。
「…!…!?…な…!…?」
 マルミミの体が宙づりの状態から解き放たれ、くるりと一回転して綺麗なフォームで着地した。
「骨が折れてもお前のような不定形のスタンドなら影響は少ない。その上遠隔操作もできるのか…
 いや、油断してたよ。でも、流石に腕をぶっ飛ばされちゃあ動くのは無理だろう?」

ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――

 B・T・Bが具現化し、再び廃ビル内でタップが始まった。
具現化したそのピエロは、右手首から先が無くなっている。           サ・ノ・バ・ビ――――ッチ
「先程殴ッタ時、貴様ノ心臓ニ私ノ右腕ヲ埋メコンダ。イツマデ『加速』ニ耐エキレルカナ?Son・of・a・Biiiiitcccch」
 マルミミに行うように精密でも、複雑でもない操作。乱暴に、単純に、只々鼓動を『加速』させていく。

ととんっ、ととんっ、ととんっ―――――

「あっ…ああぁっ…!」
 体が熱い。爆散した左手から、ぶしゅぶしゅと血が吹き出てくる。


ととんっ、ととんっ、とたんとたとたとたたたたタタタタ―――――

どくんっ、どくんっ、どぐんどぐどぐどどどどどドドドド―――――

781丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:23
「……………!!」
 ようやく男は、マルミミの奏でるタップの意味に気が付いた。
マルミミの爪先が奏でるリズムと、増幅された己の心音が重なっている。
「聴コエテイルカ?コレガオ前自身ノ『絶望ノビート』…」
「命…だけ…は…!お願いだ……!!」
「許しはお前が殺した被虐者たちに乞え。僕は最初からお前なんか許す気は―――」

ばすっ。

 加速されたビートに耐えきれず、今度は左腕が爆散した。
「無いのさ」
「あ、ぁあ、やめ、やめ゛―――――」
 眼球の毛細血管が破れ、血の涙を流しながら懇願する男に向けて、冷ややかに言う。
「僕は四日前に一回、お前に『警告』した。そしてさっきが『二回目』…『三度目』は無い。
 僕は仏でも聖人君子でもないからね。しかし…『自分の優位がひっくり返される気分』か…」
「例エテ言ウナラ…一分シカ潜レナイ男ガギリギリマデ潜リ、空気ヲ吸オウトシタソノ瞬間、『グイッ』ト足ヲ掴マレテ、水中ニ戻サレル…ソンナモノカ?」
「ん、なかなかいい例えだね」
「恐レ入リマス。…ダガシカシ…」
 背を向けて返り血が掛からない距離まで離れたところで、壁にもたれて座り込んだ。

「たの゙む゙…ゆ゙ る゙ じ」


ばっ。


 同時に、加速されたビートに耐えきれなかった男の体が爆散する。
ちょうど、マルミミの両親を殺した虐殺者達のように。
「オ前ノ場合―――全然カワイソートハ思ワン」
 物言わぬ躯に向けて、B・T・Bが言い放つ。
「…やれやれ…倒せたのはいいけど…とてもおじいちゃんを助けられるような状態じゃないね…」
 爆散した死体を前に、荒い息を吐いた。満身創痍の上に、B・T・Hの反動で既に疲労は限界に近い。
「No.問題ハアリマセン。茂名様ナラバ、キット生キテオラレルデショウ」
「そっか…じゃ、ちょっと…寝る…よ…」
 ようやくそれだけ絞り出して、マルミミはくたりと意識を失った。

782丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:28

          __
         /    \
        |/\__\
       ○  ( ★∀T)    サ・ノ・バ・ビ――――ッチ
         _ )8888888( _  Son・of・a・Biiiiitcccch…
        |♪(  ⌒Y⌒ )♪|
         |ヾ' \   /|'ヘ  ,、ヘ !ヽ_て
         (ミゞル゙ \/  ヾハソヾリ _()―' そ
          ̄ ソ       ̄ ̄`ソ   て

          ∩_∩
         (∀`  )
         Σ⊂    )
          人 ヽノ
         (__(__)


           __ 
          /    \ 
         |/\__\
         ○  ( ★Д)
             )88888( ─=_─三⌒)
          .  (  |♪|─ 三_─{⌒)
             \ ヽ= ̄─_三{⌒)
              \/ 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名  ビート・トゥ・ビート(B・T・B)                    ┃ 
┃  本体名  マルミミ                                ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃   .パワー - E .   ┃  スピード - A  .  ┃ 射程距離 - E(1m) .┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - D   .┃ 精密動作性 -. A   ┃  成長性 - D.     ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃ 周囲の人間の鼓動を感知する。パワーは全くないが、          ┃
┃ 鼓動のリズムで嘘を見抜いたり、索敵などに使用できる。.      ┃
┃ 鼓動を感知できるのは半径一キロまで。                 ┃
┃ 近づけば近付くほど正確に感知できる。                    ┃
┃ 唯一の攻撃法『ビート・トゥ・クール』(B・T・C)は、           ┃ 
┃ 正確に心臓を殴りつける事で『心臓震盪』を引き起こす。.      ┃
┃ 拳自体の威力は幼稚園児並だが、相手は『心臓震盪』         ┃
┃ によって心臓が強制的に停止させられる。                  ┃
┃ 『生命のビート』自体を止める事ができるので.               ┃
┃ スタンドにも有効だが、機械形・不定形などの、             ┃
┃ 心臓の存在しないタイプには効かない。                  ┃
┃ マルミミの鼓動がエネルギー源となっている。             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

783丸耳達のビート:2004/01/17(土) 19:29

       -二三_∩
     ー二三( `Д´)    ウリャァァァ―――――――――
    ―=二三三  ⊃  「URYAAAA――――――――ッ !! !!」
   一二≡≡三  ノ
  ―===二三__)

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  スタンド名  ビート・トゥ・ヒート (B・T・H)                 ┃ 
┃  本体名  マルミミ                                ┃ 
┣━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┫ 
┃  パワー - B    ┃  スピード - A    ┃ 射程距離 -E(0m). ┃
┣━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━┫
┃  持続力 - E   .┃ 精密動作性 - C  ┃  成長性 - A    ┃
┣━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┫
┃自分自身の鼓動を変化させ、吸血鬼の                 ┃
┃パワーとスピードを引き出す。                          ┃
┃鼓動を変化させない限り、本体は普通の人間と変わらない。     ┃
┃(太陽も平気だし、血も吸わなくて良い)                      ┃
┃スタンドは本体の中にいるので、 発動中はスタンドが出せない 。.  ┃
┃本体への負担が大きいため、長期発動・連続発動は不可能。    ┃
┃鍛えれば強くなる年齢なので、成長性は高い。                ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

784新手のスタンド使い:2004/01/17(土) 19:33
乙!

785:2004/01/17(土) 22:10

「―― モナーの愉快な冒険 ――   ぼくの名は1さん・その5」



          @          @          @



 港で、でぃはじっと海を見ていた。
「ヒガシ…」
 そう呟くでぃの眼前には、母なる海が広がっている。
 そのまま1時間ほど立ち尽くすでぃ。

「オイオイオイ、なんだ? このクソ猫は〜?」

 不意に、背後から声がした。
 ゆっくりと振り向くでぃ。
 そこには、学生服を着た三人の不良が立っていた。
「こんな汚いクソ猫、焼いちまった方がいいんじゃないのか、あァ?」
 三人はでぃを取り囲む。
「『汚物は焼却だ〜!』っていう格言もあるしなァ、ヒャハハハハ…」
 リーダー格の男は下卑た笑い声を上げた。
「…」
 でぃはその三人をじっと見ている。

「ウダラ、何ニヤついてんがァ――ッ!」
 リーダーは、でぃの顔面を平手で叩いた。
 その勢いで地面に倒れ込むでぃ。
「ナンデ、コンナコト スルノ…?」
 でぃは地面に這ったまま言った。
「テメーがゴミムシだからだよスッタコが!! 薄汚ねぇヤツをブッ殺したって文句いうヤツはいねーさ!
 この世は弱肉強食だから、弱っちぃヤツは何されても文句言えねーんだよッ!!」
 リーダーは大声で叫んだ。

「…いい事言うな。弱い奴は何されても文句は言えない、か…」
 不良たちの背後から声がした。
「誰だ、テメーはッ!!」
 三人は振り返る。
 そこには、ギコが立っていた。

「オイオイオイ、何を…」
 不良の一人が、ギコの胸倉を掴もうと近付いて…
 腹を押さえて崩れ落ちた。
 ギコは足元の不良を見下ろして、ため息をつく。
「自分から俺の間合いに近寄ってくるなんざ… お前等、まともに喧嘩した事ないだろ?」

「この野郎!」
 不良二人が一斉に飛び掛った。
 ギコは不良の拳をなんなくかわすと、二人の頭を掴んで打ち付けた。
「ぐえっ!!」
 悲鳴を上げて倒れる二人。

「な、何すんだテメェ・・・」
 リーダーがフラフラと起き上がりながら言った。
「ん? 弱い奴は何されても文句は言えないんじゃなかったか?」
 ギコはそう言って笑う。

 リーダーは胸の内ポケットに手を突っ込んだ。
「これ喰らっても笑ってられッかな…?」
 取り出したのは、1mはある伸縮式の警棒だった。
「出た! モル田さんの「殺人警棒」!!
 ドス持ったチンピラ五人… こいつで半殺しにしたのは有名な話だぜ!」
 倒れている不良は解説した。

「武器を使うからには… これは戦いだと見なしていいんだな?」
 ギコはリーダーを睨みつけた。
「…ひっ!!」
 リーダーはその迫力に気圧される。
「俺は、武器を持ってかかってくる相手は、どんなに小物だろうと容赦しないが…
 …本当にいいんだな?」

 リーダーは顔中から脂汗を垂らしている。
 ――絶対負ける、勝てっこない!
 そう悟るリーダー。
「きょ、今日のところはこのくらいで勘弁しといてやるぜ!!」
 リーダーは警棒を放り出すと、一目散に駆け出した。
「ま、ま、待って〜!」
 不良二人が後に続く。

786:2004/01/17(土) 22:10

「アリガトウ…」
 でぃは言った。
 浮浪者だろうが… 意外に年を取ってるんだな。
 でぃを間近に見て、ギコは思った。
「いいって事よ。熱心に眺めてたようだけど、海が好きなのか?」
 ギコは訊ねた。
「ムカシ、ハタライテタカラ…」
 でぃは先程のように海を眺めて呟いた。
「ふーん、漁師か何かか?」
 ギコの言葉にでぃは頷いた。
「かっては海の男、って訳だな。今度は絡まれるなよ。じゃあな」
 ギコは、そのまま立ち去ってしまった。

 しばらく、でぃは海を眺めていた。
「ヒガシ…」
 再びでぃは呟く。

「イテテテ… テメー、よくもやってくれたな…」
 背後から、聞いた声がした。
 ゆっくりと振り向くでぃ。
 そこには、先程の三人の不良が立っていた。
 その表情は怒りで歪んでいる。
「テメーのせいで、アザができたじゃねーか!!」
「三倍にして… いや、百億万倍にして返してやるぜ…ヒヒヒ」

 その背後から、音もなく現れる男達。
「こ、今度は何だ…! ギャッ!!」
 不良達は、突然現れた男達に押さえ込まれた。
 地面に頭を押し付けられ、腕を逆方向にねじられた不良達が、うめき声を上げる。
 そのまま、不良達はどこかへ連れて行かれた。

 男達がでぃの前に並ぶ。
 その中から、水兵のような制服を着こなした男が前に出た。
 男は敬礼のポーズを取る。
「お迎えに上がりました、でぃ一等海佐!」

 でぃはその男をじっと見た。
「…ドコ?」

「…東です。太平洋に展開する予定です」
 男は口を開く。
「ASAの組織的領海侵犯に対して、威嚇措置をとります。
 奴等の原潜を向こうに回して戦える潜水艦乗りは、我が国ではでぃ一佐だけでしょう?」

787:2004/01/17(土) 22:11

          @          @          @



 僕のアパートの前に、一台の車が停まっていた。
「邪魔だな…」
 僕はそう呟きながら、横を通り抜けようとする。
 運転席に座っていた男がこちらを見た。
「君が1さんかね?」
 ウィンドウを開けて、男は言った。
「あ、そうですけど…」
 僕はとりあえず返事をする。
 誰だ? 全く会った事がない人だ。
 助手席にも人が座っている。
 何か爽やかなヤツだ。
 目がキラキラしていて、口許には微笑を湛えている。
 僕には、二人とも心当たりは無かった。

「え〜と、どちら様でしょうか?」
 僕は訊ねる。
「言葉を慎みたまえ! 君はラピュタ王の前にいるのだ!」
 何か分からないが、運転席の男に理不尽に怒られてしまった。
「す、すみません…」
 揉め事はゴメンなので、僕は頭を下げておく。
「ふむ、君は素直だな。自己紹介といこうか。おっと、君の事はすでに知っているので省略したまえ。
 私は『暗殺者』、横の彼は『狩猟者』だ」
 『暗殺者』、『狩猟者』…?
 名前からして、代行者なのは間違いない。
「ぼくはきれいなジャイアン」
 助手席の人が口を開いた。
 簞ちゃんの代行者のとしての名が『守護者』なのと同じく、この「きれいなジャイアン」と名乗る爽やかな男の
代行者名が『狩猟者』なのだろう。
 おそらく、運転席の方に座っている男の本名も別にあると思われる。
 それにしても、『暗殺者』なんて物騒な名前だなぁ…
 当の『暗殺者』が口を開いた。
「今、君の部屋で『守護者』と『支配者』が話をしているよ」
 …簞ちゃんが?
 僕は、とりあえず部屋に戻る事にした。


 テーブルを挟んで、簞ちゃんと『支配者』と思われる男は座っていた。
 その男は、上下とも真っ黒のスーツを着込んで、サングラスをかけている。
 マフィアかスパイかシークレット・サービスにしか見えない。
 その格好は怪しさの極みである。
 その『支配者』は、立ち尽くす僕の姿を見て言った。
「ここの家主か? 座りたまえ。やましい話はしてはおらんよ」
「は、はぁ…」
 僕は簞ちゃんの横に腰を下ろす。

「まあ、話は以下の通りだ。しばらくは動かない方がいい。諦めろ」
 『支配者』は言った。
 どうやら、話のほとんどはもう終わったらしい。
「分かりました…」
 簞ちゃんは頷く。
「この家にでも待機しておけ。君の任務は、私達の任務とは異なるからな」
 そして、『支配者』は僕の方を見た。
「そういう訳で、しばらくの間、彼女を泊めてやってはくれないか?」
 僕は最初からそのつもりだ。
「は、はい…」
 僕は頷く。
「じゃあ、これを受け取れ」
 『支配者』は封筒を差し出した。
 僕は戸惑いながらそれを受け取る。
「…!!」
 中には、万札がぎっしりと入っていた。

「彼女の事は、もちろん他言無用だ」
 『支配者』は僕を見据えながら言った。
 簞ちゃんの許しがあったとはいえ、すでにモナーに喋ってしまっている。
 まあいいか。彼も一般人とは言い難いし。
「話は以上だ。じゃあ、諦めろ」
 『支配者』は腰を上げた。
 何を諦めればいいのかは分からない。
「任務、がんばって下さいなのです」
 簞ちゃんは言った。
 『支配者』は、そのまま部屋を出て行く。
 ドアを閉める音が、アパートの一室に響いた。

788:2004/01/17(土) 22:11

「あ、怪しい人だったね…」
 簞ちゃんと二人きりになった僕は呟いた。
「代行者というのは、みんな個性的な人達ばかりなのです」
 簞ちゃんは言う。
「で、何の話? 言えない話なら別にいいけど…」
「そんな事はないのです」
 簞ちゃんは首を振った。
「『支配者』さんの話ですと、何やら上の方の事情が変わってきたらしいのです。しばらくは待機という命令なのです」
「つまり、『異端者』と会うっていう命令は中止?」
「中止ではなく、待機なのです」
 中止になった訳ではないのか。

「『支配者』ってのは、『教会』で一番偉い人なの?」
 僕は訊ねた。
「違うのです。代行者の名前というのは、スタンド能力・『教会』内での立場・本人の意向などを考慮して
 付けられるのです。9人の代行者の中で、身分の高低はありません」
 なるほど。ついでだから、僕は気になっていた疑問を解消する事にした。
「『教会』ってのは、一般的な教会やキリスト教とどう関係があるの?」
 簞ちゃんは口を開いた。
「イタリアのローマ市内に、ヴァチカン市国という都市国家があります。
 これは、ローマ教皇を元首とした、ローマカトリック教会の正当な総本山なのです」
 そう言えば、世界で最も小さい国として聞いた事がある。
「そして、ヴァチカン市国に存在する組織はローマ教皇庁と呼ばれているのです。
 トップがもちろんローマ教皇で、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、神学生と続くのです。
 ちなみに教皇は一人ですが、枢機卿に任命されている方は百人を超えます。
 この国で、一般の教会を預かっている方はほとんど司祭ですね。
 『教会』というのは、このローマ教皇庁に属する機関の一つなのです。
 その仕事は、言うまでもなく吸血鬼退治なのです」
 なかなかややこしいな。
 つまり、『教会』はローマ教会の内部組織なわけか。
「『教会』の直接指揮権は、ある枢機卿が持っていますが、最高決定権は教皇にあります。
 その下に、実行部隊として私達代行者が存在します。代行者は幹部でも何でもなく、指揮権もありません。
 だから、戦闘力のみに特化した変人が多いのです」
 変人って… 簞ちゃん何気に口が悪い。

「うん、大体分かったよ」
 僕は床に寝転がった。
「とりあえず、簞ちゃんはこれからどうするの?」
 簞ちゃんは口を開く。
「しばらく待機という事で、この家にご厄介になりたいのですが… 構いませんか?」
「お金も受け取っちゃったからね。別に構わないよ」
 僕はなるべく感情を込めずに言った」
「じゃあ、これからもよろしくお願いしますなのです…」
 簞ちゃんはぺこりと頭を下げた。
 寝転がっていると、頭がボーッとしてきた。
 今日もいろいろあって疲れているのだろう。


 …僕は目を覚ました。
 寝転がってから、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
 周囲は暗い。
 僕は体を起こすと、電気をつけた。
 簞ちゃんは、テーブルに突っ伏して眠っていた。
「風邪引くよ…」
 僕は、簞ちゃんに布団をかける。
 時計を見ると、なんと午後9時。
 我ながら、よく寝たな…
 腹が鳴った。夕食を食べていないのだから当然だろう。
 コンビニで弁当でも買いに行くか…
 僕は簞ちゃんを起こさないように、ゆっくりと部屋を出た。

789:2004/01/17(土) 22:12

 コンビニで僕と簞ちゃんの分の弁当を買って、家路を急いだ。
 夜道を歩いていると、吸血鬼に追い回されたあの夜を思い出す。
 …何か嫌な予感がした。
 僕は歩を進める。
 街灯の下に、何かが転がっているのが目に入った。
 あれは… 死体?
 いや、泥酔しているだけか?
 確認しないと、警察に通報も出来ない。
 …死体だったらやだなぁ。
 早くなる心臓の鼓動を抑えて、僕は近寄った。

 女性だった。
 その目は、虚空を見ている。
 首筋から血を流していた。
 それ以外の外傷はないが、間違いなく死んでいる。

 …えらいモン見つけちゃったなぁ。
 こんな時間に外出するんじゃなかった。
 僕は、携帯を取り出した。

 ――背筋がゾッとした。
 何かがいる。
 ここから離れないと…!!

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 僕は悲鳴を上げて、無我夢中で駆け出した。
 背筋がゾクゾクする。
 あのままあの場にいたら、間違いなく命を落としていただろう。
 一目散に夜道を疾走する僕。
 その僕の目の前に、不気味な奴が立っていた。
 あれは…!?

 そいつは僕と目を合わせて言った。
「ちょうどいい、腹が減ってたところだ… SYAAAA!!」
 間違いない。こいつ、吸血鬼だ。
 たぶん、さっきの女性をやったのも…
 そいつは、こっちに疾走してくる。
「ひ、ヒィィィィ!!」
 僕は身を翻すと、そいつから逃げ出した。
 だが、前に会った吸血鬼よりも遥かに足が早い。
 あっという間に、僕は首根っこを掴まれた。

「観念しろ、人間…」
 そのまま、吸血鬼は片手で僕の体を持ち上げる。
「うわぁぁぁぁ!!」
 僕は足をバタつかせた。
 しかし、当たり前だが効果が無い。
 僕の首を掴んでいる吸血鬼の手が、首筋にめり込んだ。
 強烈な痛み。
 こうやって、僕の血を吸い取る気だ…!

 そうだ、思い出した。
 僕はスタンド使いなんだ。
 簞ちゃんに、スタンドの出し方も教えてもらった。
 『自分の身を守ろうとする』とか『怒りをぶつける』という気持ちを強く持てば、スタンドが発動するはず。
 強く心で念じる僕。
「出て来い、僕のスタンド!!」
 僕は思いっきり叫び声を上げた。

「スタンドだと…?」
 吸血鬼は手を離した。
 僕の体が地面に落ちる。
 しかし、スタンドは現れない。
 地面に転がっている僕を見て、吸血鬼は口を開いた。
「私にはスタンドが見えないが、その恐ろしさは知っている。ハッタリのつもりなのか知らんが…
 お前が本当にスタンド使いならば、私など軽く撃退されているだろう。 …なァ?」

 そう言いながら、吸血鬼は手を伸ばしてきた。
 やっぱり、僕はスタンド使いなんかじゃない。
 ただ関わってしまっただけで、僕自身ただの小市民に過ぎなかったんだ…

 その瞬間、吸血鬼の背後に影が翻った。
 そして、吸血鬼の胸から刃が突き出す。
「な… が…!!」
 刺された部分が気化している。
 まるで、簞ちゃんに倒された吸血鬼にように…
 吸血鬼は、その刃を掴もうとした。

 ズドドドド…
 肉を刻む音と共に、その吸血鬼の体はハリネズミのようになった。
 体中に大型の刃物を打ち込まれ、50本近い刃を全身から生やす吸血鬼。
 その一つ一つが、吸血鬼の身を焼く。
「GYAAAAA!! こんなァァァ…」
 吸血鬼は、そのままチリになった。

「Dust to Dust, Ash to Ash… 土は土に、灰は灰に、塵たる貴様は塵に還れ…」
 …女性の声?

 その影は、確かに女性だった。
 暗いので、顔は見えない。
 吸血鬼よりも遥かに小柄である。
 服に刻印された十字が目に入った。
 頭に被っている帽子のようなものにも、十字が刻まれている。

 強打した腰を押さえて、僕は立ち上がった。
「あの…」
 僕は女性に語りかけようとした。
 その女性は僕を一瞥すると、漆黒の闇の中に消えて行った。
 僕は、呆然としてそのまま立ち尽くしていた。



  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

790:2004/01/18(日) 00:36
登場人物が大体出揃ったので、登場人物紹介です。
とんでもない人数ですが、あとは減るだけなので大丈夫でしょう。

791:2004/01/18(日) 00:37
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――モナーとゆかいな仲間達――

 モナーの仲間や友人、家族など。
 否応無しに事件に巻き込まれていくゆかいな人達。

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モナー :この話の主人公。男や人外に超モテモテの17歳。
     食べる事と寝る事が趣味。性格は穏やかだが、時々荒れる。
     別人格が存在し、6歳より前の記憶がない。
     彼の『脳内ウホッ! いい女ランキング』には数々の女性がランキングされている。

     スタンド:『アウト・オブ・エデン』
     目に見えないものを『視る』ことができ、視えたものは破壊できる。
     ヴィジョンを持たないスタンド。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ギコ :モナーのクラスメイトで、サッカー部に所属する武道マニア。
     スポーツ万能で頭も良く、英語もペラペラ。
     女の子にモテモテだが、フェミニストな一面がたたって女に弱い。
     しぃと付き合う前はかなり遊んでいたらしいが…
     自衛官の父を持つ。

     スタンド:『レイラ』
     日本刀を所持した女性型スタンド。
     近距離パワー型で、特に能力は持たない。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
モララー:モナーのクラスメイト。モナーに思いを寄せるホモ。
      未成年にも関わらずBARに通っている。
      一時期『矢の男』だったが、克服したらしい。

     スタンド名 『アナザー・ワールド・エキストラ』
     近距離パワー型。
     量子力学的現象を顕在化させる。
     その応用方は数多く、成長性は並外れて高い。
     『次元の亀裂』:次元に亀裂を作り出し、巻き込んだ物を破壊する。
     『対物エントロピー減少』:爆発等、拡散するタイプの攻撃を中和して消し去る。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃ   :モナーのクラスメイトで、普段は大人しく心優しい優等生。
      ギコとつきあっていて、完全に尻に敷いている。実は漫画好き。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
おにぎり:出番がない。久々の登場で昇天。
      その亡骸はしぃ助教授が回収していったようだ。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

792:2004/01/18(日) 00:38
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
レモナ :最終兵器。モナーに思いを寄せているが、積極的なアタックは実を結びそうにない。
      『ドレス』の技術で開発されたらしい。
      現在は『ドレス』は解体され、その技術は『教会』に流れた。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
つー  :性別不明のいたずらっ子だが、『BAOH』に改造された。
      これも『ドレス』の技術によるものだが、本人はあまり気にしていない。
      モナーに意地悪するのは愛ゆえか?
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
じぃ  :モナーのクラスメイトであり、クラスのアイドル。
     密かに、モナーに思いを寄せていたが…
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
ガナー :モナーと一つ違いの萌えない妹で、年相応の普通の女の子。
      しぃタナとはクラスメイトであり親友。
      居候しているリナーを「お義姉さん」として慕っている。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
しぃタナ :しぃの妹で、しぃタナは暴走レモナによるあだ名。
      しぃに比べて活発。姉妹仲は悪くない。

793:2004/01/18(日) 00:38
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 ――ASA――

 Anti-Stand Associationの略で、人に仇を為すスタンド使いを抹殺する組織。
 国際的に活躍し、各国政府の要請で出動する。
 組織としては私立財団に近いが、スタンド使いに対抗する組織の中で、最も強力かつ武闘派。
 『ASA三幹部』と呼ばれる三人の意向によって組織の意向が決定される。
 その構成員はほとんどがスタンド使いであり、多くの兵器を保有している。
 現在、本部をモナー達の住む町に移動させた。

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しぃ助教授:ASA三幹部の一人。年齢に触れる事は大いなるタブー
       助教授と名乗ってはいるが、どこかの大学に属しているのかは不明。
       経歴詐称の可能性もあが、追求する者はいない。
       理知的で温和に見えるが、怒らせると危ない。怒りの導火線もかなり短い。

       スタンド:『セブンス・ヘブン』
       近距離パワー型と思わせておいて、実は遠距離型。
       パワーはとんどなく、遠距離型にもかかわらず視聴覚を持たない。
       「力」の指向性を操ることができる能力を持つ。
       この能力を本体の周囲の空間に使うと、物理的な攻撃が当たらなくなる。
       この鉄壁の防御を、『サウンド・オブ・サイレンス』と呼称する。
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ありす:ASA三幹部の一人。ゴスロリに身を包んだ女の子。
     よく「サムイ…」と呟いていて、得体が知れない。
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クックル:ASA三幹部の一人。筋肉に覆われたニワトリ。
      ちなみにASAは三幹部の会議制であるが、クックルとありすは運営に興味を
      示さないため、しぃ助教授の独断状態である。
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丸耳  :しぃ助教授の補佐。おそらく20代後半。
      主人の暴走を止めるのが主な仕事。
      雑事を黙々とこなす大人な組織人。
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ねここ :ありすの補佐。猫の顔を模した帽子をかぶった女の子。
      その言動はどこか変わっている。
      ありすとは、友人のように付き合っているらしい。

      スタンド:不明
      ASAでも稀有な、治療の能力を持つらしい。
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+激しく忍者+:クックルの補佐。作品内には未登場。
          クックルのストレス解消的存在。

794:2004/01/18(日) 00:39
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 ――『教会』――

 ローマ教会の内部組織で、吸血鬼殲滅を主な任務とする機関。
 唯一の吸血鬼殲滅機関と言っても過言ではないほど強大である。
 代行者と呼ばれる対吸血鬼のエキスパートを世界中に派遣し、吸血鬼に対抗している。

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リナー :『教会』の代行者で、称号は『異端者』。
      見た目は17歳程度だが、正確な年齢は不明。
      現在、モナーの家に居候中で、隠し事が多い武器・兵器マニア。

      スタンド:『エンジェル・ダスト』
     体内にのみ展開できるスタンドで、液体の「流れ」をコントロールできる。
     手で触れれば、他人の自然治癒力を促進させる事もできる。
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簞(ばつ):『教会』の代行者で、称号は『守護者』。
       現在は1さんの家に居候している。
       そのスタンド能力から、武器の法儀式処理を一手に任されている。

       スタンド:『シスター・スレッジ』
       人間よりも多量の波紋を練る事ができるスタンド。
       物質に波紋を固着させる事も可能。
       パワーはないに等しいので、戦闘時は波紋を流したワイヤーを使う。
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『解読者』:『教会』の代行者で、本名はキバヤシ。
       代行者の中で、吸血鬼の殲滅数は一番多い。
       『教会』の仕事以外ではスタンドは使いたがらず、それには理由があるようだ。
       モナーをMMRに引き込み、『蒐集者』を調べている。

       スタンド:不明
       催眠術を基盤とした能力だが、詳細不明。
       ASAから封印指定を受けている。
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『調停者』:『教会』の代行者。
       ハンサムの範疇に入るが、果てしなく濃い顔をしている。
       普段はツナギを着てベンチに座っている。
       特技は『エリーゼの憂鬱』。

795:2004/01/18(日) 00:40
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『破壊者』:『教会』の代行者。
       ピエロのような格好をしている。
       常に「お前ら、表へ出ろ」と口走り、周囲を威嚇している。
       前任の『破壊者』にコンプレックスを持っているらしい。
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『狩猟者』:『教会』の代行者で、「きれいなジャイアン」と自らを呼称している。
       爽やかな雰囲気と、素敵な瞳を持つ。
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『暗殺者』:『教会』の代行者。
       自称ラピュタ王。尊大な振る舞いだが、どことなく間が抜けている。
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『支配者』:『教会』の代行者。
       上下とも真っ黒なスーツを愛用しており、サングラスは決して外さない。
       「諦めろ」が口癖。
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『蒐集者』:『教会』の元代行者。
       爽やかな青年の外見をしていて、夏でも黒のロングコートを愛用している。
       いろいろな場所に顔を出しては、不審な行動をとっている。
       『教会』から離反しているようだが、称号は使い続けている。

       スタンド名:『アヴェ・マリア』
       対象を取り込んで同化できる。
       同化には、生物、無生物を問わない。
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ぽろろ:『NOSFERATU-BAOH』の実験体候補。
     『教会』の地下深くに軟禁されている。
     自らのスタンドを喰らい、スタンドに喰らわれている。

     スタンド:『エンジェルズ・オブ・ジ・アポカリプス』
     能力不明。
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 ――警視庁警備局公安五課――

 通称、スタンド犯罪対策局。
 増加を続けるスタンド犯罪に対抗して設立された部署。
 スタンド使いが多く所属する。

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局長   :公安五課(スタンド犯罪対策局)の局長。
       スタンド関連では、この国で一番偉い人らしい。

       スタンド:『アルケルメス』
       時間を「カット&ペースト」する能力。
       時間を切り取ったり、切り取った時間を貼り付けたりできる。
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796:2004/01/18(日) 00:41
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 ――自衛隊――

 内閣総理大臣を最高指揮監督者とする国防のための軍事組織。
 防衛庁長官が自衛隊の隊務を統括する。

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フサギコ:統合幕僚会議議長。自衛官の最上位に就いている。
      粗暴で口が悪いにもかかわらず、多くの部下から慕われている。
      その危険性から、スタンド使いを嫌悪している。
      局長とは古くからの付き合いだが、仲は決して良くない。
      ギコの父親。
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でぃ :海上自衛隊の一等海佐。
    高い操艦技術を持っているらしい。
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 ――その他――

 その他の人達。

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1さん :モナーと同じ学校に通う17歳。
     簞ちゃんとの出会いから、大きな運命の流れに引き込まれていく。
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『アルカディア』:独立した意思を持ったスタンドで、本体だった吸血鬼はすでに死亡している。
          現在はモナーの住んでいる町に潜伏している。

          スタンド名:『アルカディア』
          他者の「望み」や「願い」を実現させることで糧を得る。
          基本的には個人の願いなどは扱わず、噂規模に発達した
          「無意識の願望」を具現化させる。
          スタンド単体の時は、噂を顕実化する能力のみだが、
          仮の本体を得た時は、完全な『空想具現化』が可能となる。
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殺人鬼:モナーの別人格で、高い知能と戦闘能力を持つ。
     また、『アウト・オブ・エデン』の能力をモナー以上に引き出せる。
     たまに出てきてモナーを手助けするが、善意ではない事は明らかである。
     『教会』との繋がりがあるようだが…
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モナソン・モナップス:海外視察に来ていた上院議員。
             出て来るたびに、お供のボディーガードと共にヒドイ目に遭う。
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797新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 01:04
おおー
激しく忍者も一応いるのか
調停者、エリーゼの憂鬱ってあれか?セク○ーコ○ンドーか?
支配者のAAがわかんねー
登場人物紹介わかりやすくていい

798ぽろろ作者:2004/01/18(日) 01:14
       , --- 、_                 
      /ミミミヾヾヽ、_           
   ∠ヾヾヾヾヾヾjj┴彡ニヽ
  / , -ー‐'"´´´    ヾ.三ヽ
  ,' /            ヾ三ヽ
  j |             / }ミ i
  | |              / /ミ  !
  } | r、          l ゙iミ __」
  |]ムヽ、_    __∠二、__,ィ|/ ィ }
  |    ̄`ミl==r'´     / |lぅ lj 私を忘れてもらっては困るな…
  「!ヽ、_____j ヽ、_  -'  レ'r'/  アンダーソン君
   `!     j  ヽ        j_ノ
   ',    ヽァ_ '┘     ,i
    ヽ  ___'...__   i   ハ__
     ヽ ゙二二 `  ,' // 八  
      ヽ        /'´   / ヽ       
      |ヽ、__, '´ /   /   \ 
スミス登場はマトリクースヲタの俺としては嬉しい限り。期待してます。

799ぽろろ作者:2004/01/18(日) 01:15
すみません…感想スレに書くはずが間違って本スレに誤爆しました。
本当に申し訳御座いません。

800SS書き:2004/01/18(日) 04:07
はじめまして。本編のアイデアが思いついたのですが
AAの技術がないのでSS(ショート・ショート)を書いてみました。
『アンチ・クライスト・スーパースター』を使うギコの話です。
かなり短くてボロもあるでしょうが見逃してください。

801SS書き:2004/01/18(日) 04:08
音の戦い −テイク・マイ・ブレス・アウェイ−

「あなたの声を聞かせてください。」
 ギコとしぃが2人で街中を歩いていると突然見知らぬ男に声をかけられた。どうやら何かのアンケートをとっているようだ。
「忙しいからまた今度だゴルァ」
 と、ギコはその男をあしらってその場をやり過ごした。
「なんのアンケートだったのかしら」
「何かは知らねーけど、アンケートに見せかけてものを売りつけるマルチ商法もあるから気をつけないとな。ま、暇なときなら話を聞くだけ聞いて最後に『逝ってよし』って言ってやるんだけどよ」
「・・・・・・それってかなりの暇人のやることよね」
 そんな会話をするギコとしぃの後姿を見送っていた男がぼそりとつぶやいた。
「いいや、確かに聞かせてもらったぜ。お前の『声』をよ」

 男は漫画喫茶に入って時間を潰していた。そして考え事をしていた。

 犯罪捜査において指紋と同じ様に犯人特定の決め手となるものに『声紋』がある。
 声紋は指紋同様ひとりひとり異なるものだ。
 自分のスタンド『テイク・マイ・ブレス・アウェイ』はその声を追跡する遠隔自動操縦のスタンド。
 自分が聞いた声の持ち主をどこまで追いかけていき、スライム状の体でターゲットの口と鼻をふさぎ窒息させる。
 一度声を聞けばターゲットが黙っていてもその『呼吸音』を頼りに攻撃する。
 声を武器とするギコのスタンドにとっては最高に相性が悪い。
しかも遠隔自動操縦のためダメージフィードバックはない。
ターゲットの声を聞くときがもっとも危険だがそれは乗り切った。
もはや自分に負けはありえない。

 「僕のしぃタンに手を出す糞ギコはヌッ頃す」
 男は叫んでいた。

802SS書き:2004/01/18(日) 04:08
・・・・・・遅い。
遅すぎる。あれからもう2時間はたっている。しかしテイク・マイ・ブレス・アウェイは一向に戻ってくる様子はない。スタンドに何が起きているかが分からないのは遠隔自動操縦のスタンドの弱点だ。
「二人は公園の方に向かっていたな」
ギコが自分のスタンドを使うために人の少ないことへと移動したとすれば、あそこが戦いの舞台になっているはずだ。
「・・・・・・行ってみるか」

 公園に着いた男が見たものはベンチに座っているしぃとそのスタンド。そしてそのスタンドに纏わりつく自分のスタンド。
「な?」
 男が事態を理解できないでいるとギコの声が聞こえてきた。
「その様子からするとお前が本体だな。さっきのアンケートの男か。お前のスタンドにはよぉー、正直焦ったぜ。叩いても叫んでもまったくダメージがないからな。でも声を追ってくるだけのスタンドだって分かれば対処法はあったぜ。」
 声はしぃの方から聞こえてくるがギコの姿はない。
「オレのスタンドと相性がいいと思っていたのかもしれないが、調べるならオレのスタンドだけじゃ足りなかったみたいだぜ。オレと一緒にいるのが誰かも知らないといけなかった」
 いや、しぃタンのことはもっと調べていましたけど。と、男は思っていた。
「しぃの『ザード・エクスト・ボーイ』は『盗聴器になる光弾』を発射できるスタンドだ。スタンド本体には当然その『盗聴した音』を聞く『スピーカー』がある。へそみたいに見えるのがそれだ。オレは盗聴器に向かって小声でしゃべり、ザード・エクスト・ボーイから出る音量をあげた。それでお前のスタンドはそのスピーカーから出る音に纏わりついているってわけだ。お前のスタンドはしぃのスタンドと最っ高に相性が悪かったな。」
 ギコの声が後ろからも聞こえてきた。
「確か声が聞きたいといっていたな。思いっきり聞かせてやるぜ。」

「逝ってよし!」

 ステレオで音を叩き込まれた男はその場に倒れた。
 ちなみに男が倒れながら思ったことは、『しぃタン(のスタンド)に2時間もくっついてたのに何も感じことができないなんて、遠隔自動操縦のスタンドなんて大っキライだー』ということだった。
「終わったみたいね。」
 耳栓をはずしながらしぃが言った。
「ギコ君の攻撃、スタンドには効かなくても本体には有功だったみたいね。」
「おう。それにしても今回は助かったぜ。なんか礼をしないとな。昼飯でも・・・・・・」
「お礼なんていいよ。どうしてもって言うなら欲しかったアクセサリーがあるんだけど、そんな高価なものいいからね。」
「やれやれ。(マルチ商法のほうがマシだったかな)」

END

803SS書き:2004/01/18(日) 04:10
スタンド名:テイク・マイ・ブレス・アウェイ
本体:変態モララー

パワー‐E スピード‐A 射程距離‐A
持続力‐A 精密動作性‐D 成長性‐D

本体が聞いた声の持ち主を追っていく遠隔自動操縦のスタンド。
スライム状のスタンドであり認識した声の持ち主ものに引っ付いて窒息させる。
一度声を聞いたらターゲットがしゃべらなくてもその呼吸音を頼りに追跡&攻撃できる。
スタンドにカメラや発信機を持たせてターゲットに攻撃せず見張り続けることも可能。
電話やテープレコーダーなどの『機械を通した声』を識別でき、攻撃しない。

804( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:23
てきとーなあらすじ

巨耳モナーが寝てたら昔の夢を見てソレを話しながら思い出のトンネルにきたら
何か良くわからないけど目つきの鋭い人がいた。って感じ。
どうしても粗筋が知りたいって人は>>704-706を見t うわ。なんだおまえやめr

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―幸せはやって来ない②

・・・聞き覚えのある声・・
                 『先輩』だ。

「うっ・・わぁあああああああぁぁあああああぁあぁぁッァァッ!!!」
今まで出さずに溜まった悲鳴が一気に外に出てきた。
少年期から青年期にかけて、『喜怒哀楽』。全てを体の中にためてきた。
それのリミッターを外された感じ。
「クク・・やっぱり怖いかよォ・・殺されそうになったんだもんなァー?
 でもよォ・・この怖さは俺だって味わったんだぜェ・・?」
がんたれモナー(先輩)は怒りか、それともその時の恐怖を思い出しているのかわからないが震えていた
「いきなりよォ・・ふっとばされてよォ・・タンスの角に頭ぶつけてよォ・・
  頭の中が真っ白になってよォ・・『嗚呼。俺此処で死ぬのかなぁ』って思ってよォォォオオォォ・・」
この震えは100%純な『怒り』だ。恐怖は感じない。今、彼の脳が彼に命令してる事は一つ
『自らのスタンドで、巨耳モナーをふっとばす』事のみ。
「それで俺はよォ・・俺はある『男』にすれ違いざまに矢を刺された・・そして、お前と同じ『能力』を手に入れたんだよォォォオオッォオ!!!」
突然轟音をたてながら地面のコンクリートが捲れ上がるり、巨耳モナーの右耳をかする
「今のはわざと外した・・次は外さないぞ・・こらァッ!!」
震えが止まらない
声が出ない
足が立たない
目が開けられない
脳が命令を下さない
(どうする・・・・そうだ!!)
矢張り目には目を。恐怖で考え付かなかったが良く考えればソレしかない。
ジェノサイアを呼ぶのだ。よし来い!ジェノサイア!!
・・・・応答が無い。
ジェノサイアは一人歩き型のスタンド。本体の意思で呼ぶことは出来なかった。
いやしかし、普段は俺を気遣ってノートパソコンの画面の中にいてくれたはず。
何故居ない?いや、どこに居る?
そんな事を考える内に数分前の『大いなる過ち』に気付いた。
・・・・そうだ。俺はお茶を濁してジェノサイア置いていったんだった。
ヤバい。アイツはもう臨戦態勢だ。どうしよう。逃げるか?
いや、しかしさっきの床を避けきれる自信はないし、吹っ飛ばすなんてもっての他だ。
まずい。もうくる。あと2m、1m30、1m、30・・・・
俺はもう願うしかないとノートパソコンをしっかりと握りながら構え、神に祈った
『ジェノサイア・・来てくれ!!』と。
その瞬間。轟音がトンネル内に響く。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

805( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:24
「・・奇跡は起きないから奇跡・・。誰が言ったんだろうねぇ?」
砂煙の中から人の声がする
「なァッ・・!?」
『馬鹿なァッ』って言いたそうな馬鹿面でコッチをにらんできた。
・・生きてた。間一髪ジェノサイアがかけつけてくれた。
「ば・・馬鹿なァッ!?」
お。予感的中。
「ったく・・もうちょっと早くこれなかったのかねぇ?」
「あっ。何よその態度。せっかく来てあげたってのにねぇ。もしこなかったらアンタペシャンコだったのよ!?」
さっきまで切なくなってたのが嘘みたいに怒るジェノサイア
ガンたれモナーはその様子をポカンと見てる
「今回は電気街とかの戦闘とは違うぞ。お前が攻撃できるのは真正面。ノートパソコンだけだ。
 しかも『壊されたら終り』だぞ。わかってるな?」
「もちろん!」
「それじゃあ行くぞ!ガンたれモナーァッ!」
コッチもっさきまで震えてたのが嘘のようだ
「認めねぇ・・認めねぇぞ・・コラァァァアアアァァアァァァッ―――!!!!」
トンネルの両壁のコンクリがはがれ向かってくる。更に天井からもオマケつきだ。
おっと。コレはピンチだ。
この速度とジェノサイアの力を考えてみると、破壊できるのは一方のみ。
ジェノサイアは画面から両手を出すとラッシュができて、複数敵を相手に出来るのだが
その力は画面から片手を出してストレートパンチ一発だした時の2分の1。
しかし片手のストレートパンチは単数敵しか相手に出来ない上、隙が多い。
とか考えてる内にもう目の前。
ヤバい。と思った瞬間。俺の首ねっこが誰かにつかまれ、外に放りだされる
そして俺の首をひっぱった男は黒い球状の物を投げる。
ソレを見たガンたれモナーは顔を青くしてトンネルから飛び出る
すると次の瞬間洞窟が一瞬で潰れた。
「あ・・ああ・・ネクロマララー・・さ・・ま・・。」
酷くおびえている様子でがんたれモナーが言う。・・ん?ネクロマララー?どこかで聞いた事あるような・・
「やぁ。がんたれモナー。ごきげんよう。今日は一つ質問があるんだ。」
と。ネクロマララーがにこやかな顔で聞く。結構爽やかだ。
「え・・いえ・・えっと・・その・・あの・・・」
既に汗だく。顔は真っ青。ションベンまでチビっている。
「ま。私はどうでもいいんですけどね。」

806( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:25
ガンたれモナーがホッ。と一息つく。そこまで怯える様な人じゃ無いと思うんだが・・
「ですが、私達の神はソレを許しません。」
次の瞬間で叫びをあげる間もなくガンたれモナーはミートソースになっていた。
何が起こった?整理できない。ただわかる事。ソレは
『助けてもらったがコイツは殺人犯だと言う事』。
ネクロマララーと呼ばれる人物は去ろうとする
「おい!待ちやがれ!!」
俺が呼ぶと、ネクロマララーは振り返り
「アナタ、警察さんですよね?」
と一言言い放った
「あ、ああ・・。」
?別に制服着てないのに何でわかったんだろ。
「ならば私はアナタと闘う事になるでしょう。」
いや、もう殺した時点で闘うのは決定してるし。
「私はある『組織』の最上級幹部にして最強参謀です。鑑識かどこかに言って『ネクロマララー』という人物を知 ら な い か
 と聞いてごらんなさい。きっと驚くべき事実を聞く事でしょう・・。」
その言い方で驚かれる。とかそういうオチだったらぬッ殺してやる。
「ま。どうでもいいんですけどね。」
またこのシメ方かこの野郎。
とか思ってるうちにネクロマララーはまた歩き出した
「あっ!おいっ!待てよ!コラ!」
・・・・・夕暮れに静寂が響き、すっごい切ない感じになる。
気付けばネクロマララーは消えていた。・・・何者なんだろう。
俺は暫く呆然と立ち尽くした後、電話を取り出した。
「はい。もしもし。茂名王署鑑識課ですが。」
「もしもし。俺だ。」
「あ。巨耳さん?今忙しいんですが、何の用ですか?」
いや。それお前遠まわしに『邪魔だから切れ』って言ってるのか
「あのな・・コホン。『ネクロマララー』という人物を知 ら な い か」
ネクロマララーの言ったとおり、鑑識の野郎は静まった。
コレで本当に言い方で驚かれるっていうオチだったらマジでヌッ殺してやるあの野郎・・

←To Be Continued

807( (´∀` )  ):2004/01/18(日) 13:27
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


  ∧_∧
  (  ๔Д๖)がんたれモナー(故)(26)

・巨耳モナーを殺そうとしたAA。
 先輩の不良軍団の中でもリーダー的存在。
 ジェノサイアに吹っ飛ばされ病院送りとなった。
 親がアッチ系な人の為かとても乱暴。『ある組織』の一人らしい


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

808新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 15:04
乙です

809新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:12


喉痛いのにハバネロチップスイッキ食いした。
死ぬかと思った。

合言葉はwell kill them!(仮)第六話―空からの狂気その②


男と女はカウンター席にドカッと腰を下ろした。
男の服装はここでもやっぱり目立つ。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「・・・俺はコーヒーを。」
「あ、私はアイスミルクティーで。」
注文を終えると女はMDの電源を入れた。

タン、タタン、タタタタン、タン、タン――――

リズムに合わせて女はテーブルを指で叩き始める。
たぶん彼女の癖なのだろう。

「へぇ〜、あの人か〜。」
「顔を隠しているのが渋いねぇ〜。」
「隣に居る女の子は誰なんだ?」
「多分あの人の知り合いじゃないか?」

アヒャ達は男に視線を送りながらヒソヒソ声で喋っている。
ハバネロジュースから生還したマララーも一緒だ。

ふいに男がアヒャ達の方を向いた。
自分の事を話していたのを気がついたようだ。
「・・・・そこの君達。何を話しているんだ?」
「あっ、いや・・・その・・・え〜っと。」
思いもよらない出来事に慌てるアヒャ。
すると男がアヒャに近づいてこう言った。
「お前・・・久しぶりだな。」
「・・・え?」
アヒャはポカンと口を開けている。
無理も無い。見ず知らずの男に久しぶりと言われたら誰だって驚くだろう。
隣に居たツー達も例外ではない。
「ふっ、分からないのは無理も無いか。君のスタンド能力を引き出した日も今日のように
 顔を隠していたのだからな。」
スタンド能力を引き出した日?
アヒャは自分の記憶をたどってみた。

【アヒャの脳内コンピューターを覗いてみよう!】

「近所の川に落ちた」「カラオケで騒いだ」「通信簿オール3」
「どうする、アイフル」「ジョジョ中古でイッキ買い」「お隣さんが破産宣告」

(いや、これは違う。どの日もあの男に会ってない。)

*あの日の未来がフラッシュバック*

             i r-ー-┬-‐、i
              | |,,_   _,{|
  )'ーーノ(       N| "゚'` {"゚`lリ      |ー‐''"l
 / や  |       ト.i   ,__''_  !       l や ヽ
 l   ら  i´      i/ l\ ー .イ|_     /  ら  /
 |  な  l  トー-ヽ⌒          \  |  な |
 |  い   |/     | l ||        ll   ヽl  い |
 | か   |       | l |        ll     l  か  |
 |   !!  |     / | | |        ´|| ,   |  !! |
ノー‐---、,|    / │l、l         |レ' ,   ノハ、_ノヽ
 /        / ノ⌒ヾ、  ヽ    ノハ,      |
,/      ,イーf'´ /´  \ | ,/´ |ヽl      |
     /-ト、| ┼―- 、_ヽメr' , -=l''"ハ    |
   ,/   | ヽ  \  _,ノーf' ´  ノノ  ヽ   
、_    _ ‐''l  `ー‐―''" ⌒'ー--‐'´`ヽ、_   _,ノ 

(うわあっ!!な、何なんだ今のは?)

「蟹しゃぶ事件」「お前ら表へでろ。」「兄貴が筋肉痛」
「父ちゃんVs銀行強盗」「買い物帰りに矢に射抜かれる」

(・・・・ん?)

「買い物帰りに矢に射抜かれる」

          キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!

                    ∧_∧
                   (  ∀ ) カシャカシャカシャーン

                  /´     `ヽ
                  | |     | |



「旦那〜!ひっさしぶり〜。元気してった〜?」
「思い出したようだな。どうだ、スタンドのほうは?」
「旦那の言うとおり活用させてもらってますよ〜。」
「お、おい。この人知り合いなのか?」
ツーが訊ねた。
「ああ、この人が俺のスタンド能力を引き出してくれた矢の旦那さ。まさかまた会えるとは。」
アヒャは矢の男に再び会えた事を心の底から喜んでいた。
「どうしたんだ?そんなに嬉しそうな顔して?」
「だって旦那にスタンド出してもらったお礼がまだ済んでなかったんっすよ〜。もう一度会えたら
 何か出来ないかと思っていたんですよ。」
「・・ふっ、お前は本当に面白い奴だな。」
アヒャは矢の男の隣に座った。

810新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:13

「・・・おい、フィルター破れてんじゃないか?
 コーヒー豆がカップの中にいっぱい入ってるぞ?」
「ん、ああゴメンゴメン。ちょっとした果肉入りだと思って」
「うまいことを言うな。」
男は浮いているコーヒー豆をスプーンで掬うと砂糖とミルクを入れた。
「それにしても綺麗ですねー。旦那の持っている矢は。」
アヒャは男の持っていた矢を見せてもらっていた。
かなり古びた雰囲気があるが、サイズも外見も基本的にごく普通の矢。
『矢尻』部分には昆虫のような形の飾りが付いている。
「父さんと母さんが近所の骨董品屋で買ってきた物だ。・・・今は形見の品だけど。」
「あ!す、すんません!辛いこと思い出させたみたいで・・・。」
「いいんだ両親が居なくても祖父がいるから。」
「その隣に居るのは妹さん?」
男の隣の居眠りしている女の子を指差す。
「ああ、コイツは『同じ目的』で一緒になった俺の連れだ。」
「『同じ目的』?」
アヒャが訊ねた。
「俺たちは『顔面に十字の傷がある男』を捜しているんだ。」
「ソイツが何かしたんですか?」
すると男は女を見て言った。
「・・・コイツの母親と俺の兄弟を殺した・・・。」
男はコーヒーを一口飲むと話し始めた。
「俺がまだ中学一年の時だったかな・・・。その時俺には妹と兄が居たんだ。
 俺たち兄弟は3人ともスタンド使いだった。もちろんこの矢のおかげでな。
 ある日買い物に出て行った兄貴と妹がいつまで経っても帰ってこなかった。
 しばらくして家に病院から連絡が来た。その時妹は死亡、兄貴は危篤状態だった。
 急いで病院に駆けつけたら兄貴も妹も傷だらけになっていて、妹の死体には首筋に二つの穴が開いていた。
 兄貴は『顔面に十字の傷のある男』が犯人であること、そいつも俺たちと同じスタンド使いだと言うこと、
 それを言い残すと息を引き取った。」

男の話にアヒャ達はただ黙って聞く事しか出来なかった。

「隣にいるコイツも母親を奴に殺されている。」
再度男が女を見る。
「しかも厄介な事に奴は吸血鬼なんだ。」
「吸血鬼!?」
「知らないのか?『石仮面』という物をかぶって不老不死になった化け物だ。
 太陽の光に弱く、人の血を飲まないと生きていけない。
 倒す方法は頭を完全に潰すか日光に当てるかの二つだけだ。」
 
ゴクリと唾を飲み込むアヒャ。
「でも何でそいつが吸血鬼って分かったんですか?」
「さっき話した俺の妹の首筋の二つの穴。吸血鬼に血を吸われるとあんあふうな傷ができるんだ。」
「へぇ〜。」
「俺たちは今まで奴に対抗できるスタンド使いを探すためにこの矢を使ってスタンド使いを
 増やしていたんだ。これ以上奴の被害者が出るのは御免だからな。」
「そうか、俺もその一人に選ばれたって訳ですか。」

すると男が話を切り替えた。

「だが、今非常に面倒なな事がある。」
「何ですか?」
「厄介な奴をスタンド使いにしてしまったんだ。既にそいつは4人も襲っている。
 今はそいつを探しているんだ。」
「な、なんだってー!」
「しかももっと厄介な事に・・・。」
男はしばらく押し黙った。
「スタンド使いが『カラス』なんだ。」
「か、カラスー!?」
男は詳細を話し始めた。

811新手のスタンド使い:2004/01/18(日) 20:13

数日前。

男は一人の若者をスタンド使いにしようとしていた。
「あいつはこの矢が選んだ・・・。どんなスタンドが出るのやら・・・。」
男は矢を放った。と、同時に
「お、百円み〜っけ!」
ひょい
スカッ!
矢は若者の頭上5cmを越えた。
「な、なにぃ〜〜〜!?」
矢はそのまま飛んでいって・・・・。
ヒュウウウン・・・・。ズシャアァ!!
「ギャァッ!」
丁度塀にとまっていたカラスに刺さってしまった。
「・・・アチャー(ノ∀`)」
するとカラスは自分で矢を引き抜くと男に襲いかかった!
バシュウッ!
ドスウッ!
高速で何かが飛んできて男の足に刺さった。
「うおっ!こ、これがあいつの能力か!?」
カラスは男に一撃食らわすと空へと消えて行った・・・・。

「・・・・と言う訳だ。」
「はい質問。」
「なんだ、アヒャ君。」
「確かに厄介なのは分かったのですが、どうやって見つけるんですか?」
「その心配は無い。昨日見つけて捕まえられなかったものの、カラーボールをぶつけて赤く染めてやったから。」
 
なんて事を・・。

「もう一つ、奴の声に特徴がある。普通のカラスと奴の声は違うんだ。矢で射られたせいかもしれないが。」
「なるほど。」
「悪いが君も探すのを手伝ってくれないか?」
男が尋ねる。
「あたりまえですよ!」
「そうか。」

こうして俺たちのカラス大捜査が幕を開けた。

  /└────────┬┐
. <   To Be Continued... | |
  \┌────────┴┘

812( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:15
ハァ・・ハァ・・ハァ・・
お・・俺は・・もうこんな所・・帰りませんZO!!
こ・・こんな所・・ぢ・・ぢごくDA!!
「何処に行くんだい?」
「ヒィッ!?あ・・・あ・・」
「大丈夫。恐れる事は無い」
「寧ろ此処から逃げることが恐れることになる。」
「う・・嘘DA!!騙されませんZO!!」
「そう・・残念・・それじゃあお逃げ・・地の果てまでお逃げ・・。」
「そ・・そうさせてもら・・あ・・あれ?」
「おや、君の心はまだ此処に居たいみたいだね。ほら。もう一度やりなおそう・・ねぇ・・?」

―巨耳モナーの奇妙な事件簿―赤毛の『ムック』

俺は何とか警察署に戻り鑑識に『ネクロマララー』の情報をもらい、自室でティータイムを過ごし、
『ネクロマララー』という男の情報ファイルを眺めていた。
何より安心したことはたった一つだった。・・『俺がアッチの人なんて思われなかったこと』。
矢張りこのネクロマララーという単語で驚いただけだったみたいだ。
しかし、ファイルをもらって俺も驚いた。何より薄すぎる。
こんなんじゃ何の手がかりにもならん。どうしよう。
「・・『アレ』をやるか」
そう言うと俺はいきなりソファーに寝っ転がり足をソファーと直角にピシッとあげ、手の力だけで体を浮かし、目線はなるべく足を見る

      |
  ○__|
   /

こんな感じ。俺はコレを『神待ち』と称している。
現にこのポーズで今まで宿題の超難問も解いたし迷宮入り事件も解き明かした。
「・・・そうだ!!!」
そら見ろ。言い案が浮かんできた。
「『彼』に協力を求めよう!」
『彼』とは『山本悪司』という男。何をしたのかしらないが
自衛隊とFBI400人異常に囲まれて無傷で全員吹っ飛ばし、警察から恐れられた男。
・・・・コレはスタンド能力に違いない、それも超強力な。
しかもその『彼』は大阪一帯を仕切っている。
きっと部下もかなり居るだろう。そんな人を味方につければ犯罪者一人見つけるのは造作ないだろう。
・・・・しかし彼の住所なんて知らない。
それに大阪まで飛ぶのなんて面倒くさすぎる。どうしたものか。
大体楽して調べたいから俺は鑑識からこのファイルをもらったんだ。
それなのに大阪まで行ったら意味が・・・・。
いや、しかし『神待ち』が与えてくれた結果だ。
この結果を信じずして俺は何を信じるのか。
よし、飛ぼう。大阪に。
(費用はもちろん署に出してもらうとしてェー)

813( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:16
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

「と、いうわけでやって参りました『茂名田空港』!!!」
どうせ署から金が出てるんだからリッチに行かないとね。
「・・随分展開すっ飛ばして来たね・・。」
ジェノサイアが携帯から出てきてゴチャゴチャ言ってるが無視だ。俺に起承転結なんて存在しない。
神待ちで得た結果は絶対だ。案が出たら即実行。それが神待ちだ。
「・・・でも怖いことが一つあるんだよな。」
「へ?」
「飛行機の中で『敵』が襲ってくることだ。」
「・・・敵?」
「言ってただろ?ネクロマララーはある組織に居る。だったら部下が居るはずだし
 アイツは『闘うことになる』って言ってた。正体を探ってる俺に刺客を差し向けるのは当たり前だ。」
「・・そうか・・。旅客機の中じゃ民間人を巻き込んじゃうからね・・・。」
「そう。まぁ・・
       こうやって 陸地で 襲ってくる分には いいんだけど・・・な!!」

後方に居た人物に巨耳モナーの回し蹴りがHITし、吹っ飛んでいく。
「アタタタタタ・・地球のAAのくせNI・・やってくれますNAッ!!!」
吹っ飛んで行った毛むくじゃらの男はすぐ起き上がった。馬鹿な。確実にこめかみ辺りに当てたのに
「・・あれが『敵』?」
「どうやらそうみたいだな。でも、随分気持ち悪い事は確かだ。」
そう。なんかモジャモジャしててそのモジャモジャの体毛(?)の中から鋭い眼光が覗いている
「ンッフフフフフ・・気持ち悪いからと言ってなめてはいけませんZO!!!」
毛むくじゃら男はいっきに吹っ飛んでくる。並みの速さじゃない。スタンド能力か?
コスモパワーマックス    スーパームックキャノン
「宇宙力全開ィィッ!!超ムック砲ッ!!」
毛むくじゃら野郎のストレートパンチが俺のみぞおちを狙う。何とかガード出来たが、ガードした手に激痛が走る
「その様子ゥ。相当聞いておりますNAァッ!!。やはり地球のAAじゃ私には勝てませんZO!!」
ムカツク決めポーズをしてくる。
「クッ・・ソッ・・テメェ・・何者だ?」                                 コスモ
「気になりますかNEェッ!!私はアナタ達が調べようとしている『組織』の幹部にして最強の宇宙AA!!『ムック』でありますZO!!」
「・・『宇宙AA』・・?」
「そうなのでSUゥッ!偉大なる宇宙AAには地球AAじゃ勝ち目はないのですZO!!!」
わけのわからないことを抜かしやがるなさっきから・・
「やっぱり『組織』の事がバレるとマズいのか。」
「アナタは警察だから更にNE。だからこの私が直々にィッボレンプサパラァッ!?」
ノートパソコンからジェノサイアの不意打ちパンチがムックのみぞおちに入る
「戦闘中喋ってるとした噛むぞ。」
「KUUUUUuuuu・・・やってくれますNAァ・・」
・・やはりあの『体毛』・・凄い防御力だな・・ジェノサイアのストレートパンチが無力に等しくなってやがる・・
「許しませんZOォッ!!宇宙力超全開ィィィィィィッ!!真・超ムック砲改ッ!!」
無茶苦茶なネーミングセンスだとツッコむ間もなく吹っ飛んできやがった
「まずはそのノートパソコンからァッ!!」
「何ィッ!?」
バキィッ!

814( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:16
ああッ!俺のノートパソコンが!!高かったのに・・じゃなくて
まずいッ!これじゃジェノサイアの攻撃ができない!何か大型画面を・・
「おっと、逃がしはしませんZOォッ!ムックバーストォッ!」
ムックのラッシュが俺の胴体めがけて飛ぶ。肋骨が折れたかどうかはわからんが、ヒビは確実に入ってる。
「駄目押しの・・ムックアッパァッ!」
普通だが今まで一番普通のネーミングかもしれない。
とか考えてるうちに俺は吹っ飛んでいた
畜生、目の前が回りやがる。なんちゅう攻撃力だ。『宇宙AA』ってのも頷ける。
「フフフフフ・・本気を出せばこんなもんなのでSUゥッ!無駄に軍曹に指導されてきたわけじゃないのですZOォッ!!」
『宇宙一!』と言わんばかりにマッスルポーズをとる。やる事成す事イライラする野郎だ。
「I am 宇宙一!!HAHAHAHA!!」
ほら見ろ。意味はわからんが言った。
「さて・・それじゃあトドメをさしましょうかね・・『必殺、超旋回ムックギロチンⅡ』をお見舞いしましょうか・・。
そんな変な技で死んだら末代まで笑われてしまう!!畜生!体が動かねぇ!!
ノートパソコンは全壊しちまってジェノサイアは出せない・・携帯の画面じゃ倒せない・・
辺りに大きな画面は・・無い。・・・・絶体絶命か・・畜生・・。
「Fuuuuuu・・・Cooooooo・・・Suuuuuu・・・・・」
何やら深呼吸みたいなのを繰り返す。バラバラだから『呼吸法』とかじゃ無いみたいだけど。
「大宇宙神力完全再現!!ひっさァァァつゥッ!超旋回竜巻ムックギロチンⅢ!!!」
技の名前変わってるし
とか思ってるうちにムックの体が竜巻にかわり向かって来る
「この竜巻に巻き込まれたら最後、出てきたときは挽き肉ですZOォッ!!」
嫌なたとえしやがる。ふと目に入ったのはお土産屋さんの万年筆。
ギャギャギャギャギャギャギャ!!
凄い勢いで竜巻に飲み込まれたかと思ったらインクとなんか良くわからない千切りキャベツの様な物が出てきた
100%死ぬ。ヤバイ。
「そォーれェッ!あと5秒で巻き込まれますぞォッ!」
5・・
「4ッ!」
3・・
「2ィッ!」
1・・
一瞬会った事無いおじいちゃんの顔が見えたかと思ったら銃声のような音が鳴り響いた。
凄い轟音だ。鼓膜が破けるくらいの。
目を開けるとソコには腰を抜かしているムックと全身武器に包まれた少女が立っていた。
おっ。なんか可愛い。しかも制服じゃないかァ。
目に入った瞬間俺の萌えポイントにストレートで突っ込んできやがった。
「な・・なんDA!?お前HAァッ!?」
そうそう。誰よ君は。
「くっくっく。私の名前は、岳画殺。殺すと書いてさつと読む。」

←To Be Continued

815( (´∀` )  ):2004/01/19(月) 15:17
登場人物

 / ̄ ) ( ̄\
(  ( ´∀`)  )巨耳モナー(24)

・幼い頃とてつもなく不幸な境遇に居たAA。強盗さえ居なければ自分は不幸にならなかったと信じ
 警察に憧れ、試験にトップで合格。警察官になることができた。
 現在は義父と義母の家から遠く離れた場所に住んでいる。
 もともと本庁に居たのだが、頭が良かった為、上司達に左遷させられる。


 <ヽ从/>
  <)从人/>
 </゚∀゚ヽ>ジェノサイア(?)

・巨耳モナーのスタンド。能力は『画面のある物を自由に移動する』事。
 スタンドでありながら人間に酷似した思考を持ち、いつも自由気まま
 巨耳モナーの唯一の『友達』にしてお姉さん的存在。


 彡. (・) (・) ミ
 彡       ミ ムック(5)

・良くわからない。本人は『地球上のAAじゃ私には敵わないNE!!』を良くわからない事を抜かす
 元『ある組織』の幹部だったがその厳しい訓練と非情な作戦に逃亡するも
 ある幹部2人につかまり洗脳される。そして巨耳モナーと闘うも『殺』と名乗る少女に威嚇され惨敗
 スタンド能力は『花を咲かす』こと。意味は無い。ただ↑の台詞も伊達では無く格闘能力はズバ抜け。


   ( _ __  ノ
  '⌒/^ミ/^M'ヽヘ`ヽ 
    li/! リ从 リ)〉 }
   )' ゝ(l.゚ -゚ノl `!岳画殺(13)

・謎の少女。全身が武器。巨耳モナーを助けた。


  ∧,,∧∧_∧ 
 彡 :::::::::ミ :::::::)???(?)

・『組織』の幹部。『2匹で1匹』がモットーらしい
 心の隙間に入り込んだり煽ったりするのがとてつもなく上手い洗脳のスペシャリスト。
 ムックに洗脳をしていたのもこの2匹。


    /⌒\
   (    )
 ∈--→Ж←-∋  
  ) :::|    |::: (  
 ( ::( ・∀・):: )ネクロマララー(69)

・『ある組織』に属す超上級幹部らしい。
 がんたれモナーを瞬殺するほどの力の持ち主
 普段は結構優しいタイプの人なのだが、戦闘時は一変。組織の最強参謀。
 占いは当たる確立90%。外れた事は今まで『火星が落っこちる』くらい。

816302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:35
「スロウテンポ・ウォー」

イソギンチャクと最後の秒読み・5

『<02:56>』
ファイナル・カウント・ダウンの秒読みは三分を切った。
丸耳モナーにニダーが捕らえられて2分半…完全な硬直状態が続いている。
ノーと丸耳モララーの距離は約5m。今のF・C・Dなら、一跳躍で詰める事が出来るだろう。
しかし、動けない。原因は二つある。
1つ…ニダーが人質にされている事。
丸耳モララーの性格ならば、一歩近づけば迷わずマッド・ブラストの狂気弾をニダーに打ち込むだろう。
遠距離からでも威力の高い狂気弾を至近距離から喰らえば…間違いなくニダーは死ぬだろう。
2つ…丸耳モララーが狂気の充填を“2分30秒”続けているという事実だ。
今まで、狂気弾の充填は長くても10秒前後…だが、それでもバズーカ砲のような威力だった。
おそらく今発射されれば“波動砲”並の威力になっているのは間違いない。
マッド・ブラストの左手の注射針が波打っている。
「(一体…奴はどれほどの“狂気”を持っとるんや……!!)」
「ゲヒュ……いい感じだぜぇ〜……こーんなに、狂気溜めたのは初めてだぜぇ……」
「……クソ……」
ノーは舌打ちをする…ニダーさえ助け出せば、すぐにでも丸耳モララーを叩き潰せるのに。
『<02:20>』
「……のーちゃん。もうええ、早くコイツをブッ潰してくれ!!」
その声に思わずノーはニダーの目を見た。
「な、何言ってるんよ!!ウチがニダやん見捨てれる訳ないやんか!!」
「ええねんって!!コイツは許しちゃいかんやろ!?」
「そ、そりゃそうやけど!!でも…!!」
「だから!!ワシの事は気にしないでくれっ!!」
「…わかった…でも言うと思ったか!?相方見捨てる漫才師がどこにおるんよ!?」
「U-t○rnとかア○マル梯団とかビ○るとかフォークダンs」
「実例を出すなぁぁぁ!!!」

817302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:35
「……てめえら、俺の事無視してんじゃねえ!!あーそうかよ!!わかったよぉぉ!!」
マッド・ブラストの注射針が抜かれた…激怒する丸耳モララーの目の焦点は既に合っていない…
「てめぇら仲良くヌッ殺してやんよー!!!マーッド…!!」
「…さて、コントはこんくらいにしとこうや。ニダやん。」
「そやね。」
そう言って笑うニダーとノー…丸耳モララーの動きは、銃口を構えたまま止まった……!
「!?…う、うごかねえ……!てめぇぇ!!何をしやがった!?」
「後ろ見てみろや」
「な…ぁっ……!?」

『WEEEEE…Mr.ニダヤン…指定通リノ行動ヲ完了シマスタ…』
『ギュエエエエエエ!!!!離セ、クソボケガァァァァ!!!!』

シー・アネモネの触手が、マッド・ブラストの両腕、両足…それだけではなく、丸耳モララーの両手両足を絡めとっていた。
「…ワシのシー・アネモネは賢い。『ワシとのーちゃんが一芝居打つ間にこいつら動けなくしてくれ』って言ったら…」
ニダーが起き上がり、動けない丸耳モララーを指差し…
「ご覧の通りや。コントに必要な演技力…見習いとは言え、イカレたお前さんを騙くらかすには充分だったみたいやな。」
「ち……畜生……!!」
スウ…とノーが前に出た……スタンドのカウントは…

『<00:55>』

818302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:36

「……お前にとって、地獄に等しい50秒を与えてやるわ……覚悟しいや!?」
「シー・アネモネ!そいつらをのーちゃんに向かって突き飛ばせっ!!」
ドンッ…!
「うあああ!!や、やめええええてぇぇぇ!!!」

ゴオオオオっ……!!!!

「はああああああああっっ!!!!!!」
ドゴッ!!バキイッ!!ガッ!!グシャアッ!!ドガァッ!!!

正拳突き、廻し蹴り、肘鉄、膝蹴り、右ストレート…
ありとあらゆる打撃技がスタンドを介して丸耳モララーへと打ち込まれていく
「破嗚呼嗚呼嗚呼っ!!!!せいやああああっ!!!!」
ドゴオオオオっ!!!!
「げひゅ……ああ……」
爆発音を伴って、打ち込まれた正拳突きは丸耳モララーを吹き飛ばした。
「往生せいやっ!!」
『タイムアウト…マタ会イマショウ…MASTER…』

スタンドのヴィジョンが消える。
「(…そうか、カウンターが0になると消えるんか…)」
「う…ぐぇぇ……たす、たすけて……」
丸耳モララーが縋りついたのは、空を見上げて煙草を吸っていた八頭身フーンだった。
「…さて、助けてやるもやらないも…お前が俺の質問に答えるかどうかに掛かっている。」
フーンは腰を下ろし、丸耳モララーの目を睨みつけた。
「お前らのボスは誰だ?ZEROについて洗い浚い吐いてもらう…」
「…あ、ああ……話す、話すから…」

819302 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:37
「…メッチャ尋問しとるよ…」
「怖い兄さんって感じや……ん?こんな時期にトンボか?」
ニダーが空を見上げた。つられてノーも見上げる…
「…しかし…」
そして、二人は同様に口をだらしなく開いて
「…トンボにしては…」
その…
「「でかいわぁぁ!!!」」
1m以上はあるトンボを見送る。
耳障りな羽音を立てて、八頭身フーンへと向かっていく!
「危ないっ!!フーンさんっ!!!でかいトンボが!!」
ノーの叫びに身構えるフーン…だが
「う、うああああああ!!!ま、まってくれ俺はぁぁ!!」
トンボは“丸耳モララー”へと向かって飛んできたのだ。
一目散に逃げ出す丸モラを追いかけていくトンボ、そのスピードは恐ろしい速さだった。
満身創痍の丸モラを一瞬のうちに捕らえて…

「うああああああっ嫌だ嫌だぁぁぁ!!!」

(DGOOOOOOONNNN!!!!!)

爆ぜた。トンボと、丸耳モララーが。

「まさかあのトンボはっ…!ちいっ!」
舌打ちをするフーン…そして、ただ呆然と「爆死ショー」を見つめていたノーとニダー……

「…フーンさん、今の…」
「ああ。間違いなくスタンドだ…。それも、“ZEROがZEROを始末する”為の…な」
「…仲間割れ…って事?」
「いや……恐らく口封じだ。」
そして、しばらくの沈黙……それを破ったのは、フーンの言葉だった。

「…今から、お前達を“自警団本部”に連れて行く。これは強制だ」

『丸耳モララー:トンボ型スタンドの攻撃を受け再起不能(リタイア)』
『ニダー:重傷を負うも、脅威の回復力を見せ活動再開。自警団本部へ』
『ノー:無傷に近い軽傷。八頭身フーンに連れられ、自警団本部へ』
『八頭身フーン:爆風により、軽度の火傷。ニダー・ノーを連れ自警団本部へ』
<TO BE CONTINUED>

820302@スタンド紹介 </b><font color=#FF0000>(gjGSJ.oA)</font><b>:2004/01/19(月) 21:37
スタンド名:ファイナルカウントダウン
本体名:のーちゃん
破壊力:A〜D スピード:A〜D 射程距離:D
持続力:E 精密動作性:A〜D 成長性:C

人型のヴィジョンを持つスタンド。近距離パワータイプ。
額に「10」の数字が刻まれている。
「カウントダウン開始」と叫ぶ事で数字が一分ごとに減っていく。
数字が減るごとにパワーが増していき、最後の一分には凄まじいパワーを得る事が出来る。
しかし、カウントが0になると同時にスタンドは強制的に停止。
再度使用可能になるまで1時間かかる。
もちろんカウントダウン能力を使用しなくても戦闘は可能。
ただし、能力のフルパワーの三分の一程度の出力になる。


スタンド名:シー・アネモネ
本体名:ニダー
破壊力:C スピード:C 射程距離:C
持続力:B 精密動作性:A 成長性:D

人型のヴィジョンを持つ直接攻撃系スタンド。
両腕が無数の触手になっており、それを鞭して攻撃する。
かなり精密な動作が可能であり、相手をマリオネットの様に操る事も可能。
スタンド自体に意志があり、本体とはかなり心を通わせている。
本体の命令次第で、単独行動する事も出来る。


スタンド名:マッド・ブラスト
本体名:丸耳モララー
破壊力:A スピード:B 射程距離:B
持続力:C 精密動作性:E 成長性:E

左手が注射針、右手が砲身になっている人型スタンド。
本体の狂気を注射針で吸い上げ、弾丸に加工して放つ。
威力、弾速共に強力ではあるが本体が狂乱状態なので命中率が悪い。
謎のトンボ型スタンドによる攻撃を受け、本体の爆死と同時に消滅。

821ブック:2004/01/19(月) 21:52
    救い無き世界
    第十話・美女?と野獣 〜その2〜


 三分ほど追いかけたところで、私は白黒の二人組みに追いついた。
 いや、正確に言えば追いついたのではなく、
 二人が待ち伏せしている所に到着したのだ。
「ようこそ、ミセス。歓迎しますよ。」
 白タイツの男、ペンタゴンといったかしら…が、私に話しかけてきた。
 言葉使いこそ丁寧だが、声色は私を完全に見下しきっている。
 不愉快極まりない。
 ミンチにしてやる。
「出来ればミセスでなくて、レディと言って欲しいわね。」
 私はわざとおどけた感じで言った。
「くく、個人的な見解を述べさせて戴きますが、
 鏡か何かを買われたほうがよろしいのでは?」

 …決めた。
 ミンチにして卵とパン粉と玉葱の微塵切りを混ぜて
 よく捏ねて平たく伸ばしてこんがりジューシーに焼きあげて
 デミグラスソースをかけて人参とポテトを付け合せて
 犬畜生どもに喰わせてそいつらの糞としてひり出させてやる。

「勇敢な人だ。一人で追いかけてくるなんて。
 いや、まだ他のお仲間さん達は来ていないのかな?」
 今度は黒タイツが口を開く。
 その通りだ。
 たまたま私は近くにいたからすぐ小耳モナーの所へ駆けつける事が
 出来たが、他の仲間達もそうとは限らない。
 ましてや、道路はあの有様。
 ここで、すぐに仲間達がズバッと参上することを期待するのは、
 いささか楽観的過ぎるだろう。
「悪いが、他の奴が来る前に、速攻でお前を始末させてもらう。
 あの小耳はすでに満身創痍で、ここに来ることは出来ない。
 つまり今は一対二の状況、そちらが圧倒的に不利だ。」
 黒タイツが自身満々に喋る。
「何を偉そうに。
 そんな事にこの私が気づいていないとでも思ったのかしら。
 あなた達の下らない企みなど最初からお見通しだわ。」
 私はお返しにと相手よりさらに高慢な態度で言った。

「くっ、いつまでそんな態度をとっていられるかなぁ!」
 白タイツと黒タイツが同時に私へと踊りかかる。
 だが、何のことは無い。
 小耳モナーはたしか白タイツの男の服を『使う』と言った。
 ならば私は黒タイツの攻撃だけを防ぐ事に専念すればいい。
 そろそろよ。
 そろそろ『あの子』が来るはず。
 私の背後に強い気配を感じる。
 来た、『あの子』が来た。
 私は迫ってきた黒タイツのスタンドの腕を『キングスナイト』で
 防いだ。
 それにより生まれた隙を突いて、白タイツが畳み掛けようとする。
 白タイツの拳が今まさに私に―――

822ブック:2004/01/19(月) 21:53


「があああああああああああ!!」
 白タイツが、黒き疾風の突撃を受けて大きく吹っ飛ばされた。
「!?ペンタゴン!!」
 私に攻撃を止められた黒タイツが思わず仲間に声をかける。
 一瞬の隙。
 逃さず『キングスナイト』の一閃を黒タイツに見舞う。
「くぁ!!」
 私の『キングスナイト』の白刃は、男の左の二の腕あたりを切り裂いた。
 とっさに避けられたせいで、致命傷にはならなかったみたいだ。
 だけど、「十分」。
 傷さえつけられればそれで「十分」。

「ば、馬鹿な。こいつは、この狼は、あいつの…!」
 白タイツがよろめきながら立ち上がった。
「こいつは、あの小耳のスタンドだ!!」
 男達が、食い入るように小耳モナーのスタンド
 『ファング・オブ・アルナム』を見つめた。

「ふさしぃの姐さん。このアルナム、小耳の親分の命を受け、
 助太刀に馳せ参じましたぜ。」
 『ファング・オブ・アルナム』が私へと語りかける。
 いつもながら、喋り方が独特だ。
 時代劇か何かじゃあるまいし。
「あのね、『アルナム』。その姐さんって呼び方は止めなさいって
 いつも言ってるでしょ。」
 私は溜息を吐きながら言った。
 まあ、言ったところで止めるとは思えないけれど。
 何度この台詞を言ったことか。

「遠隔操作型、それか自動操縦型か。」
 黒タイツが呟く。
 流石に小耳モナーのスタンドのタイプに気づいたみたいだ。
 正解は自動操縦型なのだけれど、
 わざわざそれを教えてやる程、私はお人好しではない。

「あてが外れたわね。
 援軍がすぐに到着してしまって。」
 私は相手の神経を逆撫でするような声で言った。

「ペンタゴン!この女は任せろ!!
 お前はさっきの場所に戻って直接本体を叩け!
 あれだけの怪我だ。まだそう遠くには行ってないはずだ!!」
 黒タイツが叫んだ。
「分かった、ブラックホール!」
 白タイツがそれを受けて小耳の場所へと疾走する。

「『アルナム』!あいつは頼んだわよ!!」
 私も負けじと声を張り上げる。
「合点だ!!」
 そう言うと『ファング・オブ・アルナム』はすぐさま
 白タイツを追いかけた。

823ブック:2004/01/19(月) 21:53


 一人と一匹は、私と黒タイツを残してその場を去って行った。
「さあて、始めましょうかしら。一対一の決闘ってやつを。」
 私は『キングスナイト』に剣を構えさせる。
「…いい気になるなよ、女。
 さっき俺が貴様にさわった時点で、お前はもうわがスタンド
 『メット・マグ』の能力に侵されているのだぞ…」
 黒タイツは不気味な笑みを浮かべた。
「あらそう。でも私はには別に何も変わった様子は無いけど。」
 言われた所で、私の体には別にこれといった異常は見当たらない。
 一体、やつの言う『能力』とは何なのだろうか。

「これが答えだ!喰らえ!!」
 男はいきなり懐から拳銃を取り出すと、
 私に向かって一発発砲してきた。
 だが、私のスタンドは近距離パワー型。
 こんな銃弾など物の数では無い。
 軽々と剣で銃弾を弾き返す。
「大口きって、蓋を開けたらこれっぽっち?」
 私は肩を透かされた気分だった。
 まさかこんなものが『能力』だとでも言うのだろうか。
 だが奇妙な事に、男はそれでも笑みを崩さない。
 その自信は一体どこから来る―――

「!!!」
 私はすんでの所で襲い掛かる弾丸を防御した。

 弾丸!?
 何故!?
 奴は一発しか発砲していないはず。
 なら何故発射音も無しに銃弾が!?

 しかし、驚いている暇は私には無かった。
 何と、弾いたはずの弾丸が再び私に向かってくる。

「くっ!!」
 もう一度弾き返す。
 しかし、結果は同じ。
 弾丸は意思をもっているかの如く、私に向かって突っ込んでくる。

「無駄だ。
 勢いが無くなるまで、銃弾は何度でもお前に襲い掛かる。」
 黒タイツが言った。
 成る程、いい事を聞いた。
 それなら――

「はぁ!!」
 弾丸を地面へと叩き落す。
 弾丸は地中に埋まって、今度こそ動きを停止した。

「ほう、考えたな。
 なら…これならどうだぁ!!」
 黒タイツは今度は連続で何発も拳銃を発射してきた。
 まずい。
 これでは捌き切れない!

 何発かはさっきの様に地面へと叩き落す。
 しかし、叩き落し損ねた何発かは再び軌道を変え、
 弾くのがやっとだった弾丸と共に私を襲う。

「ああ!!!」
 三発の銃弾が、私の左脚と左肩と右腕の肉に喰らいこんだ。
 その衝撃で体が地面へと倒れる。

「くっくっく、どうだ?
 この『メット・マグ』の『能力』の恐ろしさは。
 もっとも、こんなもの『能力』の応用の一つに過ぎないがな…」
 黒タイツは含み笑いをすると、
 弾丸のリロードを始めた。

 何?
 この男の『能力』は一体何?
 弾丸操作!?
 いや、多分違う。
 そんなものではない。
 あの男はこれも『能力』の応用の一つに過ぎないと言った。
 それは、一体…

 その時、地面に埋まっていた弾丸の一つが、
 地面から飛び出して私にくっついた。
 !?これは―――…

824ブック:2004/01/19(月) 21:54

「!!!!!!!」
 そうか、分かった。
 分かったわ。
 あの黒タイツの『能力』が。

「女、何がおかしい?」
 私の顔に思わず浮かんだ笑みに、男が気づいたらしい。
 私に訝しげな声をかける。

「分かったわ…あなたの『能力』が!」
 私は黒タイツの顔を正面から見据えて言った。
「だからどうした。
 例え俺のスタンドの『能力』に気づいたとて、
 お前の圧倒的不利に変わりは無い。」
 黒タイツはそう言って私に銃を向けた。
「一つ忠告してあげるわ…『能力』に侵されているのは、
 私だけじゃない。あなたもそうよ。
 私がさっきあなたにつけた傷を見てみなさい。」
 私の言葉につられて、黒タイツは思わず自分の左腕を見た。

「!!?な、何じゃこりゃあああああああああ!!!?」
 黒タイツは絶叫した。
 無理も無い。
 あの自分の「腕の有様」を見れば。
「な、何で、何で傷がここまで!!」
 黒タイツの左腕の二の腕についた、ほんの小さな『剣』による斬り傷は、
 すでに大きく深くなり、肘の辺りまで達しようとしていた。
 それにしても、こんなになるまで気づかないとは、
 鈍感にも程がある。

「『キングスナイト』!!」
 そのチャンスを私は逃さない。
 一気に間合いを詰め、剣を振るう。
 流石に黒タイツもそれに気づいて避けようとする。
 しかし、私の『キングスナイト』の剣は、
 黒タイツにこそ当たらなかったものの、
 黒タイツの持つ拳銃を捉え、両断した。

「ああ…ってええええええ!!!」
 男が言葉にならない奇声をあげる。
 しかし、その目からは闘争意欲は失われていない。
 手負いの獣…
 戦場で一番厄介な手合いだ。
 武器の一つは破壊できたが、油断は出来ない。

「来なさい。まだこれからよ。」
 私は『キングスナイト』の剣の切っ先を男に向けて言い放った。



  TO BE CONTINUED…

825新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 17:02
 気がついたら1384㌔バイト。ホットゾヌだとスゲー重い。

    次スレ

 立 て な い か ?

826新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 20:28
立・て・て&hearts;

827新手のスタンド使い:2004/01/20(火) 21:46
ウホッ イイ次スレ

828新手のスタンド使い:2004/01/22(木) 23:39
スタンド紹介他等はカッコ内。

さ氏
>>3-5 >>6-8 >>9-10 >>11-14 >>16-18 >>19-22 >>24-29 >>30-32 >>33-36 >>38-43 >>66-69 >>90-93
>>118-125 >>133-136 >>152-156 >>179-184 >>194-203 >>209-213 >>231-234 >>235-242
>>250-260 >>279-286(>>287) (>>291-293) >>339-343 >>347-351 >>517-528 >>617-622 >>638-645
>>655-664 >>666-669 >>696-703 >>741-746 >>758-765 >>785-789(>>791-796)

番外
>>394-411 >>558-561 >>570-580 >>596-607

AA&小ネタ >>15 >>23 >>37 >>159 >>312 >>316-317 >>319 >>347 >>355-356 >>461-463 >>489-491

N2氏
>>46-49 >>50-53 >>54-58 >>59-62(>>63) >>73-76 >>77-80 >>81-87(>>88) >>111-117 >>175-177(>>178)
>>361-372 >>442-451 >>484-487 >>506-510 >>534-544(>>545-552) >>670-673 >>674-681 >>721-729(>>730)

AA&小ネタ >>110 >>360 >>483 >>505 >>533 >>553 >>673 >>720

合言葉はwell kill them!(98氏)
>>98-100(>>101) (←修正版 >>185-187) >>145>>147 >>161>>164-165 >>205-208 >>244-246>>266-270(>>271)
>>304-306(>>307) >>320-323(>>324-325) >>387>>389-390 >>417-419 >>513-515 >>567-569 >>633-637
>>708-712 >>809-811

AA >>272 >>566

丸耳達のビート氏
>>137-140 >>216-221(>>222-223) >>497-502(>>503) >>647-651(>>652) >>772-781(>>782-783)

ブック氏
>>328-335 >>374-380 >>454-458 >>584-595 >>612-616 >>623-627 >>686-691 >>713-719 >>752-757 >>821-824

( (´∀` )  )氏
>>683-684 >>704-706(>>707) >>804-806(>>807) >>812-814(>>815)

302氏
>>693-695 >>736-739 >>747-749(>>750) >>767-770 >>816-819(>>820)

SS書き氏
>>801-802(>>803)

キャットフード氏
>>189-192

829新手のスタンド使い:2004/01/23(金) 05:51


830N2:2004/01/31(土) 22:11

□『スタンド小説スレッド1ページ』作品紹介

◎本編

.      /
   、/
  /`
モナ本モ蔵編  (作者:N2)
◇かつて『矢の男』と親交のあったモナ本モ蔵。
男の素性に薄々感付きながらも何も出来なかった
自分を責めるモ蔵は、男を討つべく茂名王町へと乗り込む。
成り行きで青年・初代モナーと共同生活を営むこととなったモ蔵であったが、
そんな2人の元へと『矢の男』の刺客が差し向けられる!

 モナ本モ蔵と『矢』の男 その①──>>46-49
.                その②──>>50-53
.                その③──>>54-58
.                その④──>>59-63

 クレイジー・キャットとフィーリング・メーカー その①――>>175-178
..                           その②――>>442-451
..                           その③――>>505-510


◎番外編(茂名王町内)

   ∧_∧
  (  ゚∀゚ )
合言葉はWe'll kill them!  (作者:アヒャ作者)
◇『矢』を持つ謎の青年によって「レッド・ブラッド・スカイ」を発現させたアヒャ。
彼はその能力を活かして様々な(悪)事を成し遂げるが、
その青年との再会によって、次第に彼とその仲間達は
青年らと強大なる『邪悪』との抗争に巻き込まれてゆく…。
…のだが、本人はむしろその状況を楽しんでいる様子。

 アヒャと矢の男──>>98-101 (修正版 >>185-187)

 Runner 前編──>>145>>174
.      後編──>>161>>164-165

 オヤジ狩りに行こう。 その1――>>205-208
..              その2――>>244-246>>266-272

 ウワアアンはトイレに嫌われる その1――>>304-307
                      その2――>>320-325

 王牙高校の人々 前編――>>387>>389-390
..           後編――>>417-419

 姿の見えない変質者その①――>>513-515
.               その②――>>566-569
.               その③――>>633-636

 空からの狂気その①――>>708-712
          その②――>>809-811


   ∩_∩    ∩_∩
  (´ー`)  ( ´∀`)
丸耳達のビート  (作者:丸耳作者)
◇小さな診療所を営む波紋使い・茂名 初とその孫・マルミミ。
茂名の波紋とマルミミのスタンドによって今まで数多くの者の命を救ってきた2人だったが、
あるしぃ族の女を救ったことから2人は彼女を虐待した男達と戦うことになる。
最愛の家族を奪った者達と同じ悪を、初とマルミミの正義が裁く!

 第1話──>>137-140
 第2話――>>216-223
 第3話――>>497-503
 第4話――>>647-652
 第5話――>>772-783


   / ̄ ) ( ̄\
  (  ( ´∀`)  )
―巨耳モナーの奇妙な事件簿―  (作者:( (´∀` )  ) )
◇茂名王町に左遷させられた元警視庁特別課の刑事・巨耳モナーは
辛い過去を抱えながらも日々スタンドが引き起こす事件に立ち向かっていた。
ふとした事で謎の組織の存在を知った彼は、壊滅せんと一人立ち上がる。
そして組織のスタンド使いと戦い窮地に陥った彼の前に、謎の兵器少女が現れた!?

 プロローグ――>>683-684
 幸せはやって来ない①――>>704-707
               ②――>>804-807

 赤毛の『ムック』――>>812-815

831N2:2004/01/31(土) 22:12

◎番外編(茂名王町外)

   ∩_∩
 G|___|   ∧∧  |;;::|∧::::...
  ( ・∀・)  (,,゚Д゚)   |:;;:|Д゚;):::::::...
逝きのいいギコ屋編  (作者:N2)
◇彼らは夜逃げが年中行事の露天商。
ある日ギコ屋は『もう一人の矢の男』に襲われ、相棒ギコをさらわれた上に洗脳させられてしまう。
彼は大切な相棒を救うべく戦うが、それが彼らの滞在する町「擬古谷町」と
「茂名王町」とをまたぐ陰謀に巻き込まれる発端となるとは知る由も無かった…。
彼らを待ち受けるものは下らないオチか、それとも…。

 アナザーワールド・アナザーマインド その①──>>73-76
                        その②──>>77-80

 降り注ぐ『バーニング・レイン』 その①──>>81-88
                    その②──>>110-117
 Rising・Sun――>>360-372
 感染拡大.com――>>483-487
 絶対包囲.com――>>533-553

 シャイタマ小僧がやって来る! 前編――>>670-681
..                  後編――>>720-730


   ∧∧   ∧_∧
  ( *゚A゚)  <丶`∀´>
スロウテンポ・ウォー  (作者:302)
◇日本町に住む漫才コンビ、のーちゃんとニダやんは、
『矢』に刺されたことでスタンドが発現、同時に検査入院する羽目になる。
ところがそこで八頭身フーンと出会ったことによって、
2人はストリートギャング集団「ZERO」と「自警団」の抗争に巻き込まれることに…。

 イソギンチャクと最後の秒読み・1――>>693-695
.                    2――>>736-739
.                    3――>>747-750
.                    4――>>767-770
.                    5――>>816-820

832N2:2004/01/31(土) 22:13

◎完全番外編

    /´ ̄(†)ヽ
   ,゙-ノノノ)))))
   ノノ)ル,,゚ -゚ノi
モナーの愉快な冒険  (作者:さいたま)

◇何も知らぬまま、普通の学生として普通の生活を送っていたモナー。
しかし、謎の行き倒れの女・リナーを助けた日から、彼の日常は狂い始める。
殺人鬼・アルカディア・吸血鬼・『教会』・『代行者』・ヴァチカン・ASA・警視庁公安五課・自衛隊・『蒐集者』…
それぞれがそれぞれの野望を抱き、モナー達はそのうねりに巻き込まれてゆく。
そして無情にも崩れ去る日常の中から、浮かび上がる真実。
彼が「楽園の外側」に見い出すものとは。

プロローグ・〜モナーの夏〜
 9月15日・その1──>>3-5
.        その2──>>6-8
.        その3──>>9-10
.        その4──>>11-14

 9月15日〜9月16日──>>16-18

 9月16日・その1──>>19-22
.        その2──>>24-29

 9月17日・その1──>>30-32
.        その2──>>33-36
.        その3──>>38-43
.        その4──>>66-69
.        その5──>>90-93

「モナーの愉快な冒険」
 影・その1──>>118-125
.   その2──>>133-136
.   その3──>>152-156
.   その4──>>179-184
.   その5──>>194-203
.   その6──>>209-213
.   その7──>>231-234
.   その8──>>235-242
.   その9──>>250-260
.   その10──>>279-287

 人物紹介・その1――>>291-293

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その1──>>339-343
.                   その2──>>347-351

 番外・ラブホテルへ行こう!――>>394-411

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その3──>>517-528

 番外・正月は静かに過ごしたい――>>558-561
                  前編――>>570-580
                  後編――>>596-607

 ツーチャンはシンデレラに憧れる・その4――>>617-621
.                   その5――>>638-645
.                   その6――>>655-664

 ぼくの名は1さん・その1――>>666-669
...           その2――>>696-703
...           その3――>>741-746
...           その4――>>758-765
...           その5――>>785-789

 人物紹介・その2――>>791-796

 AA&小ネタ >>15 >>23 >>37 >>159 >>312 >>316-317 >>355-356 >>461-463 >>489-491


.  ∧_,,,.
  (#゚;;-゚)
救い無き世界  (作者:ブック)
◇謂れの無い虐待を日々受け続けるでぃは、ある日突然仮の本体を求め彷徨う
謎のスタンドに身体を半分乗っ取られてしまう。
『矢』を介せずに発現した彼のスタンドをSSSと名乗る組織は自分達の監視下に置くが、
その彼らと町で暗躍するスタンド使い集団との争いに彼は巻き込まれてゆくこととなる…。

 第一話「終わりの始まり」――>>328-335
 第二話「出会い・その一」――>>374-380
 第三話「出会い・その2」――>>454-458
 第4話・交錯――>>584-595
 第五話・ドキッ!スタンド使いだらけの水泳大会
 〜ポロリもあるよ〜 その1――>>612-616
.              その2――>>623-627
.              その3――>>686-691
 第八話・幕間 〜危険牌は通らない〜――>>713-719
 第九話・美女?と野獣〜その1〜――>>752-757
               〜その2〜――>>821-824


◎SS

音の戦い −テイク・マイ・ブレス・アウェイ−
                 (作者:SS書き)――>>801-803
◇激しいしぃ萌えに駆られる変態モララーは、ギコの手から彼女を奪おうと
「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」でギコを討ち取ろうとする。
絶対に負けない、と意気込む変態モララーであったが…。


※敬称略

8333−2:2004/08/08(日) 22:51
スロウテンポ・ウォー

「パニックファイトカーニバル」act.2

いくつもの鉄柱、そして壁や床一面の金属…
「ノーちゃん、気をつけな…あのニヤニヤした男、金属操作のスタンド使いだって前話したよな?
ここは奴にとって一番能力を発揮できる場所だぜ…360度、金属だらけだ」
珍しく、Dが警戒を促す。だが、それ以上に不気味なのは“かおりん”という少女だった。

黄色い人型のスタンドヴィジョン。そして、右手には巨大な槌が握られている。
あの槌が、何らかの能力を持っている事を、二人は漠然と察知していた。
それ以外、特徴らしき物がなかったので。

「あはは…“フェスタ”…貴方の能力が気になって仕方ないみたいですよ?」
その空気を察知したタカラギコが言った。
かおりんもまた、笑った。
「じゃあ、見せてあげましょうよー♪」
暢気な言葉だった。

「せーの……っ!!」
一気に前へと進み、かおりんが二人との距離を詰める。
Dは横に飛び退いて、距離を取った。
ノーは、スタンドヴィジョンを前に出し…迎撃を計る。
「エイッ!!」
振り下ろされたイエロー・パニック・タイムの槌はノーの目の前で地面を砕いた。
紙一重で、初撃を避けたノーがかおりんの横っ面に一撃を入れようとその瞬間

「うわぁああ!!」
ダメージを受けたのは、ノーの方だった。
吹き飛ばされ、スタンドヴィジョンも消えた。
「ノーちゃん!大丈夫か!!」
Dが駆け寄る。ノーの全身に、まるで散弾銃で撃たれたような痣が幾つも浮いていた。
内出血をしているようにも見える。

834新手のスタンド使い:2004/10/12(火) 17:05
ダレモイナイ・・・ヌルポスルナライマノウチ

835新手のスタンド使い:2004/10/12(火) 18:22
もなーのちんちんぬるぬるぽ!!!

836新手のスタンド使い:2005/02/02(水) 17:56:21
愚痴スレがだんだん影の権力を持ってきているような気がしてならない訳だが
どう思う?

837新手のスタンド使い:2005/02/04(金) 23:41:28

こんなところでそんなこと言われても……


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