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長編、長文支援スレ3

1名無しさん:2003/10/11(土) 22:26
巨大AAや長めのSS等等の投下にご利用ください。

前スレ
長編、長文支援スレ
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/7571/1064414148/

77</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 15:20
 魔夜 〜5〜

 うわあああああっっつつ――

 謁見の間をでてまもなく、凄まじい喧騒が襲い掛かってくる。もう、すぐ傍にまで
敵が迫っている!
 私は夢中で走った。
「ごほっ…… げほっっ 」
 しかし、西の方から漂ってきた煙が、気管支と喉を刺激し、激しくせきこんで
しまう。
 その時――

「王女がいたぞ」
「逃すな! 」
「生贄に必要だ。捕らえろ! 」
 男の叫び声が聞こえたかと思うと、数十の兵が、刃を向けて襲いかかってくる。
(そんな…… )
 敵意を剥き出しにした言葉に、私は愕然とした。魔物だけではない、人間界の
者も侵略に加担している。

「あぶないっっ」
 ばあやが私に覆い被さる。その直後、頭上すれすれに火矢が通り抜ける。
「中隊長! ここは我等が防ぎます。王女様を頼みます」
 敵と、私を護ってくれる兵士たちとの激戦が展開される中、一人の中年の
兵士が声をはりあげた。
「わかったわ」
 頷いたばあやは、私の手をとると、すばやく死闘の渦から抜け出していった。

78</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 15:21
 はぁはぁ……
 息が苦しい。わき腹が悲鳴をあげている。
「王女様、急いで! 」
 凄まじい喧騒と、闇と炎に恐怖を覚えながらも、ばあやの声と手を頼りに、
必死に走った。
「ごほっ、こほっ…… 」
 口内に唾が溢れて何度もえづくが、立ち止まることは許されない。

 そして、懸命に逃げる私達の行く手にも、魔物が立ちはだかってくる。
 ムーンブルク城周辺に生息する猿の化け物、マンドリルだ。
 格好の獲物をみつけた魔物達は、狂暴な犬歯を見せながら、低い唸り声をあげ、
じりじりと近寄ってくる。

 その直後――
「ベギラマっっ!!」
 魔法の杖を振りかざした、ばあやの透き通った声が、周囲に響いた。

 うぎゃ!
 青白い強烈な閃光が瞬き、短い悲鳴がおこる。
 一瞬のうちに、強烈な雷撃を浴びた4体のマンドリルは、黒焦げになって
息絶えていた。
「あの…… 容赦ない」
「何、呑気なことをいってるんです! はやくしてください 」

「え、ええ」
 ばあやの叱咤の声に、私はようやく我に返った。
 そして、彼女を怒らすことは金輪際しないと、固く心に誓いながら再び
走り始めた。

79</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 15:23
 次から次へと、様々な種類の敵が襲いかかってきたが、ばあやの攻撃魔法の
前には敵ではなかった。
 凶悪そのものの雷撃が、縦横無尽に走り、魔物や、魔物に加担した人間達を
黒い物体に変えていく。
「ばあや、すごいわ」
「まったく、次から次へと、きりがありませんわ」
 ともすれば、恐怖で押し潰されそうな私にとって、いまいましげに
はき捨てる彼女の声はとても心強かった。

 長い廊下を渡りきった後に、彼女はようやく立ち止まった。
「こちらですわ」
 ばあやは右手を伸ばして、廊下の奥を指し示している。しかし、闇と煙に阻まれて、
前方の様子はよく分からない。
 何時の間にか、あれほど激しかった剣戟の音は止んでいる。
 たぶん、私たちにとっては望ましくない方向で、戦いは終結に向かっているの
だろう。
 冷たく重いものが、胸の奥底を浸していくが、今は自分自身の命を守らなくては
ならない。

「ここを開けて降りれば、地下水路に繋がっていますの」
 ばあやは床にしゃがみこんだ。そして、備え付けられた丸い蓋を持ち上げようと
するが、重くてなかなか開かない。
「手伝うわ」
 駆けよって、手に力をこめる。
 さび付いた鉄製の蓋は、軋みながらもゆっくりと動き、何とか人の入れるだけの
隙間が広がった。しかし……

 グルルル……
 低い唸り声に気付いた瞬間。
 魔物の一匹が放った照明弾によって、煤とほこりまみれの二人の姿が、
はっきりと映し出された。

80</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 15:23
 私達は、すっかり囲まれていた。
 周囲は薄暗くて、種族は分からないが、二十匹以上はいると思う。
 その全てが敵意のこもった視線を向けているが、同時に、ばあやの強力な魔法に
警戒心を抱いているようでもあり、すぐには襲いかかってこない。
 しかし、時間の問題だろう。
「ばあや…… 」
 すっかり、気力が萎えてしまった私は、彼女にすがりついた。
 
「時間を稼ぎます。先にお逃げください」
 ばあやは冷静だった。絶望的な状況に対して、落ち着きすぎていた。
「そんなの嫌よ! ばあや、一緒じゃないといやあ」

 パチーン……
 頬が鳴った。
 呆然として、左手で赤く腫れたほっぺたを抑えながら、私は、彼女の顔を
見つめた。
「わがまま、言うんじゃありません」
 自分が、どれほど馬鹿なことを言ったのか……
 叩かれなくては、分からなかった自分が、とても情けなかった。
 
 だけど……
 限りない愛情を注いでくれたばあやに、感謝の想いだけは伝えたくて、
彼女の身体を抱きしめ、唇に振れた。

 2度目の、そして、おそらく最後の口付け。
「大好きよ、ばあや」
「貴方が好きです。王女様」
 二人の好きは微妙で、決定的に違っていたのだけど、今となってはどうでも
よいことだった。
 ばあやが微笑んでいるのを見届けて、私は、二人で作った隙間に身体を
滑りこませた。
 ごめんなさい…… ばあや。


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