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長編、長文支援スレ3

1名無しさん:2003/10/11(土) 22:26
巨大AAや長めのSS等等の投下にご利用ください。

前スレ
長編、長文支援スレ
http://jbbs.shitaraba.com/bbs/read.cgi/computer/7571/1064414148/

70</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:34
 魔夜〜4〜

 夢の中で……
 幼い頃の私が、お城の中庭にしゃがみこんでいる。そして、紫色の小さな花を
必死になって引き抜いている。

 突然、今よりも若いばあやが現れ、私の頭をぴしゃりとたたいた。
「お花を摘んではいけません」
 私は怖い顔をした彼女に、驚きながらも、
「ごめんなさい」
と、素直に謝った。
「分かって頂いて、嬉しいですわ」
 すると、ばあやはにっこりと微笑んで、優しく頭を撫でてくれた。

 なんだか、とっても嬉しくなって、ばあやに抱きつこうと立ち上がった。
 しかし、その直後――
 闇が周囲を覆い尽くした。彼女の姿も美しい庭園と一緒に消えてしまう。

 ばあや、ばあや…… どこにいるの。

 暗闇の中を、あてもなくさ迷う。一生懸命探しているのに、ばあやの姿を
見つけることができない
 私の泣き声だけが、空しく周囲に響き渡っている――

71</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:34
「王女様、王女様…… 」
 ばあやが、頬を軽く叩いている。
「ん…… むにゃ」
 小さな声をあげながら瞼を開くと、ばあやが、非常に険しい表情で、私を
見つめている。
 耳を澄ましてみると、低いざわめきが微かに聞こえてくる。

 ただならぬ気配を感じて、私は半身を起こした。何か嫌な予感がする。
「どうしたの? 」
「王女様、落ちついて聞いてくださいませ」
「ええ…… 」
 頷いたことを確認してから、ばあやはゆっくりと口を開いた。

「魔物の群れが、お城を攻撃しています」
 いくら世情に疎いとはいっても、西方にそびえる山岳地帯である、ロンダルギア
方面の不穏な情勢は知っていたから、冷静に事態を受け入れることは出来た。
「分かったわ」
「とりあえず、御着替えと杖を」
 ばあやの声とともに、彼女の部下である若い女性が、ローブと魔法の杖を
運んでくる。
 私は、努めて心を落ちつかせながら、真新しいドレスを脱ぎ、白と紫を基調とした
いつものローブを身に纏う。最後に、ロトの末裔であることを示す紋章が入った
紅い頭巾を被ると、自然と気が引き締まる。
「謁見の間で国王様と、王妃様がお待ちしています。お急ぎください」
 数分後――
 私たちは部屋を後にしていた。

72</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:36
「お父様、お母様…… 」
「おお、マリアか」
 豊かに蓄えたあごひげと、揺るぎ無い威厳をそなえた、ムーンブルク国王は、
厳しい表情を一瞬だけほころばせた。
 父の脇には、華奢な女性が不安そうな表情を浮かべて寄り添っている。
「戦いは、どうなっているのでしょうか」
「まだ、詳しい情報がはいっとらん。しかし、油断はできん」
「そう…… ですか」

「ルナ! 」
国王は、私のばあやの名前を呼んだ。
「はい」
敬礼をした彼女は、澄んだ鳶色の瞳を国王に向けている。

「王女を守れ。近衛兵の一隊を警護につける。それを指揮せよ」
「了解しました」
 彼女は、きびきびとした声で命令を受領すると、早速、周囲にいる兵士達に
指示を飛ばす。
「まず、戦況を把握する為に、斥候を放て…… 」
「はっ」
「残りの者を王女様の傍へ集合させよ」
「はっ! 」
国王の周囲に集まっていた兵士達の一部は、彼女の指示によって左右に散っていく。

 ばあやは、ただの侍女兼教育係ではない。
 10年程前に起こったロンダルギア戦役では、数少ない女性兵士でありながらも、
強力な攻撃魔法と、優れた状況判断によって、輝かしい武勲を立てていた。
 当然、国王である父の目にとまることになったのだけど、それが為に、国防の
第一線からは離れることになった。
 父が病に倒れた前任者に代わって、有能な彼女を、私の教育係に任命した為だ。
 ただ、戦役終了直前に得ていた、第3近衛中隊長の資格は失っておらず、
200名程度の兵を指揮する権限を、現在も有している。
 つまり、ばあやは、魔法と軍事の専門家でもあった。

73</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:37
 次第に大きくなる鬨の声に不安を覚え、私は窓をながめた。西の空が、ぼんやりと
赤く染まっている。
 だけど、ムーンブルクの兵は決して弱くはない。だから、きっとだいじょうぶ…… 

「マリア…… 」
 母は、心配そうに私を見つめている。
 彼女は身体の調子を崩すことが多く、床に臥していることもしばしばだった。
 頑健そのものの父や、風邪すらひいたことのないばあやとは対照的だ。

「大丈夫ですわ、お母様」
 精神の方も決して強靭とはいえない母を支えるために、彼女の掌を握りしめた。
 小刻みに震える手の皺が、増えているような気がする。
 残念で、悔しいことではあったけれど、兵士達に指令を出しつづける父や、
ばあやとは違って、これが私にできることの全てだった。

 重苦しい空気を残したまま、時だけが確実に刻まれていく。
 勝っているのだろうか、それとも上手くいっていないのだろうか。
 戦いの音は聞こえるのに、見えないという中途半端な状況が、心の中に生まれた
不安をどんどん膨らませていく。

 息の詰まるような状況に決定的な変化がおとずれたのは、1時間程が経った時の
ことだった。

74</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:37
「陛下! 」
 甲冑が軋む音を響かせながら、飛びこんできた伝令兵が大声をはりあげる。
「敵、撤退していきます! 」

 ざわっ……
 謁見の間に集結している近衛兵から、ざわめきがあがり、直後に弛緩した空気が
ひろがっていく。
「ほっ…… 」
 私も小さく息を吐いた。心なしか剣戟の音も遠ざかったように思える。どうやら、
ムーンブルクは危機を脱したらしい。
「現在、どうなっている」
 しかし、国王は厳しい表情を変えないまま、伝令兵に向かって更なる報告を求めた。

「はっ、魔物どもを全軍で追撃しております」
 その時の、父の顔の急激な変化は、今でも忘れられない。

「馬鹿者っ! それは罠だ」
 思わず立ち上がった国王は、普段はほとんど上げたこともない、怒鳴り声を
叩きつけた。
 表情からは威厳が消え失せ、焦燥だけがあらわれている。
「引き返せ…… 」
 父は、うめくような声を絞り出した。
 しかし、国王の異様な様子に、伝令兵は反応できず、ただ当惑するばかりである。
 誰もが呆然と立ち尽くしている時、2番目の伝令が駆けこんでくる。
「敵に新手です。味方は挟撃されて苦戦中!」
 間髪入れず、ばあやが先程放った斥候が、よろめきながら戻ってくる。矢傷を
負った右腕が赤く染まっている。
 
「魔将、ベリアル率いる一隊! 城門を突破しました」
 よく通ったその兵士の声は、城内で最も広い謁見の間の隅々までに響き渡った。

75</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:42
 状況は最悪だ。
 言いたくない事だけど、軍事に素人の当時の私からみても、味方にミスが多すぎた。
 軽率に偽りの撤退をおこなった魔物を追撃して、罠にはまったこと。
 敵の逆襲に狼狽して、城門を閉めることができず、侵入を許してしまったこと。
 父が逆上してもおかしくない程、軍は失態を重ねていた。
 しかし……

「そうか…… ご苦労だった」
 国王の声は落ちついていた。この時点で、自らの最期を覚悟していたのだろう。
 城の攻防戦において門を突破されることは、落城する、とほとんど同義語で
あったから。

 己の運命の行方を、はっきりと悟った父は、一時の焦りから立ち直り、威厳を
取り戻していた。
「一人でも多くの、国民を落ちのびさせる」
 国王は大きく息を吸い込むと、伝令兵に向かって鋭く指令を放った。
「指揮官に伝えよ。残存部隊を糾合して東門を全力で突破せよ、と」
「はっ」
 数名の兵士たちが外に飛び出していく。
「そして、お前たち」
 国王の周囲に集まっている、近衛兵を顔をゆっくりと見渡した。
「すまないが、私と行動を共にしてもらう。敵の主力を 『ここ』 に吸引する」
「はっ」
 近衛兵達も覚悟はできていたのだろうか。少なくとも、あからさまに狼狽している
者は一人もいなかった。

76</b><font color=#FF0000>(cwYYpqtk)</font><b>:2003/10/13(月) 11:43
「ルナ」
「はい」
「マリアを頼む…… 」
「ご安心ください。魔物どもには一指も触れさせません」
 ばあやの力強い言葉に安堵したのか、父の表情は穏やかなものになっている。
 それから、隣に佇んでいる母の顔をみつめた。
「どうする? 」
「貴方の、傍から離れたくはありませんわ」
 母は上品に微笑んだ。そして、優しく父の掌を握りしめた。

「マリア…… 」
「お父様っ 」
 私の頬からは、涙があふれている。
「絶対に、生きのびてくれ」
「お母さまあっ」
「元気でいるのよ…… 」
 ぽたぽたと落ちる水滴が床に染みをつくる。私は、悲痛な叫び声をあげながら、
父と母の胸に飛び込んでいった。
 泣きじゃくる自分を、ぎゅっと抱きしめてくれた両親の温もりは、一生忘れない。

 そして……
「王女様、おはやく 」
「わかったわ」
 ばあやと、近衛兵の一部に囲まれながら、父と母に別れを告げた。


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