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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
規約はこちら
>>2
◆決まりごと
・キャラの死を書くにあたって
バトロワ物の華であるがゆえに、書くときは注意深くね。
「ぞんざいな死」がダメなのはもちろんのこと、話全体の流れも良く考えて。
・UP宣言
本スレへのUP前に、検討スレにその旨を書き込みましょう。
半日以上前に宣言→UPの1時間前に最終宣言が主流のようです。
・ストーリーの流れ
参加者の一部はゲームそのものに反抗し、どこかの段階で主催者を倒します。
最後の一人になるまでは殺しあいません。
・知らないキャラクターを書く場合
過去ログを熟読して特徴をよく掴んでから書きましょう。
キャラクターについての疑問点があったら有識者に迷惑に聞いてみましょう。
・監察・刺客を書く場合
監察は、>>の『ルール違反』を犯した参加者に警告を与えます。
締めの言葉は「死ぬことになる」で、要件を伝えたら消えます。
刺客は、警告を無視した参加者にしか攻撃できません。
・バトンを受けるにあたって
書き出す前に時間、グループ、スタンス、現在位置、所持品、能力を把握して
矛盾無く繋ぎましょう。
どこかに矛盾がある場合は、修正依頼がかけられる場合もありますよ。
・特殊能力について
キャラ固有の特殊能力は原則、制限されていません。
流れとバランスを考えて使用したり、筋に沿って能力制限をかけたりして、
話を盛り上げましょう。
・書きたいキャラが被った、その展開は勘弁… etc.
ここで相談しましょう。落ち着いて。
◆書式のお約束
・名前欄に、そのSSのタイトルを記入しましょう。
・冒頭に半角で 『>(レス番)』と打ち、どの続きを書いているかを明示。
・冒頭及び必要だと思われる個所では、半角・24時間表記で『(時間)』を記入。
・一連の書きこみが終わったら最後に『↓』を記入。
・一連の書き込みで死人が出たら、↓マークの下に
【(参加者番号)(参加者名及び主催者名)(死亡 残り(数)人】と記入。
・一連の書き込みでグループ、スタンス、現在位置、所持品、能力制限が変更さ
れた場合、
その旨を↓マークの下に記入。
1 名前:こんな感じ 投稿日:2002/01/31(木)
>303
(21:18)
琢麿呂、雷蔵を銃殺。
↓
【No.13:海原琢磨呂】
【所持品:銃器(詳細不明)
:重い物(詳細不明)】
【スタンス:近づいてきたら殺る】
【能力制限:無し】
NO.10 貴神雷贈 死亡 ―――残り38人
それ以外では・・・↓
【グループ名:(名前を入記)・(名前〜)】
【現在位置:】
【スタンス:(一致していて、その必要があれば)】
【備考:(必要があれば)】
【(キャラ名)】
【現在位置:(グループ欄で書いてあれば必要なし)】
【スタンス:(グループ欄で書いてあれば必要なし)】
【所持品:】
【能力:】
【備考:】
・・・・・・と言った感じでお願いします。
◆設定
<世界>
・舞台となる孤島及び世界は、ルドラサウム(巨大な白い鯨型の絶対神@鬼畜王
ランス)が
ゲームの為に造ったもの
・参加者はルドラサウムが召喚した
・参加者たちは、言語の壁を越えて会話することができるが、文化の違いまで
はわからない
・ルドラサウムの部下、プランナーもそれに関わっている
<ゲーム>
・毎日0:00、6:00、12:00、18:00の四回、定時放送が入る
・参加者は首輪を装備している。首輪には爆弾、集音マイク・発信機が仕掛けら
れている
・参加者はランダム配布物(主に武器)、デイバックに非常食と水少量、地図を
所持
・監察は、ルール違反者に警告を発する役割
・ルール違反は以下4点で、上のものほど重要度が高い
:主催者への反乱
:ゲーム進行の阻害(首輪の破壊・解析など)
:島からの逃亡
:馴れ合い、戦意無し
・刺客は、監察の警告を無視した参加者を始末する
【過去作品スレ】
バトル・ロワイアル【今度は本気】第5部(html化待ち)
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1053422142/
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第3部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1029/10293/1029399672.html
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1012/10127/1012701866.html
リアル・バトル・ロワイアル。【今度は本気】
http://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html
編集サイト(現在休止中?)
ttp://syokikan.tripod.com/
◆参加者1(○=生存 ×=死亡)
○ 01:ユリーシャ DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作 遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作 臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作 鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト
× 07:堂島薫 果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也 とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈 大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦 ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト
× 13:海原琢磨呂 野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト デアボリカ@アリスソフト
× 15:高原美奈子 THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン
○ 16:朽木双葉 グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人 最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼 夜が来る!@アリスソフト
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver)果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一 悪夢、絶望@StudioMebius
◆参加者2(○=生存 ×=死亡)
× 21:柏木千鶴 痕@Leaf
× 22:紫堂神楽 神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙 君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛 ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男 Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂 五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア
× 33:クレア・バートン 殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛 家族計画@D.O.
○ 36:月夜御名紗霧 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる ねがぽじ@Active
× 39:シャロン WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳 とらいあんぐるハート2@ivory
◆運営側(○=生存 ×=死亡)
○ 主催者:ザドゥ 狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
○ 刺客1:素敵医師 大悪司@アリスソフト
○ 刺客2:カモミール・芹沢 行殺? 新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機 將姫@シーズウェア
○ 刺客4:ケイブリス 鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 監察官:御陵透子 sense off@otherwise
スレ建て成功!
期待していた方にはつくづく申し訳ありません。
とある参加人です。
恥ずかしながら・・・〆切破りの常連の私が言うのも何ですが、改めて完結に向
けて執筆を再開させていただきます。
その一環として、ここに検討スレを設けさせていただきました。
管理人さんに感謝。
スレタイには一応、企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議、と書か
れてますが、このバトロワ以外の二次創作小説のネタ探し等に利用しても構いま
せんので。
時たま私はアナザーとかも投下するかも知れませんが、企画3周年を迎える前に
は完結させたいと思います・・・・・。
本当は今の時間辺りにしたかったことですが・・・本スレ建て、及び作品投下は
明日の夕方以降へと・・・・ああ、情けない。
(できなければ作品のストックがたまるまでここに投稿・・・・)
それでは。
>>2
訂正です(泣)
【誤】 【正】
有識者に迷惑に聞いてみましょう。 → 有識者に聞いてみましょう
迷惑をかけないように
今から、葱板にスレッド立てます。
新作は挫折していた前スレの最終作のリメイクです。
ものすごく長くなりましたので、一部向こうに投下して、残りはここに投下します。
尚、これまでの自作品を読み返してみて、結構矛盾が見つかったので、
後ほど、改訂版をここに投下します。
(二日目 PM4:01 西の森)
「あの……紗霧さん、これは何なのですか?」
西の森に入ってすぐのところで、道中に回収したバッグの一つに入っていた
色とりどりのマジックペンらしき物体を見ながら、小柄でやや幼い水色ショートへアの
少女――ユリーシャはおずおずと尋ねた。
紗霧と呼ばれた、長い黒髪を黒いリボンで束ねた少女――月夜御名紗霧は
手に持った棒状の物体をどこか不満げな様子で見つめる。
「もしかしてハズレなのかな?」
と、そう言ったのは気絶したままの茶色の髪をした西洋剣士風の青年ランスを、
時たま羽を生やした右の方へぐらつきながらここまで運んだ、赤毛のショートカットの
少年(外見は少女)広場まひるである。
彼は同じく道中で回収したある参加者に支給されなかったバッグも背負っている。
「これは多分、筆の一種ですよ。
もし、ただのペンなら役立てるのは難しいそうですけどね」
まひるの後に続いて歩くかすりの着物を着た老人と身体に包帯を巻いた
真面目そうな青年が、自分らと同じように足を止めたのを見て紗霧は言った。
「参加者の支給品かな?」
後ろを歩いていた青年、高町恭也はそう言ってそのペンを見る。
横にいる老人――魔窟堂野武彦の所持品、ヘッドフォンステレオ等のように
彼らの敵である、殺人ゲームの運営者に没収されなかった物品もあったことを
思い出しての意見だった。
「どちらなんでしょうね?
このバッグには他に道具は入ってありませんでしたしね」
と、紗霧は言ってペンを自分のバッグに仕舞って、また小屋を目指して歩き出す。
森に向かう道中、茂みに捨てられてあった参加者用のバッグに入っていたのは、
色とりどりのマジックペンらしきものが16本入ったペンケース。
ペンケースには18本入るスペースがあったが、入ってあったのは16本。
それを紗霧が目ざとく見つけて回収したのである。
「まぁ…調べるのは小屋に着いてからで良いじゃろ」
と、魔窟堂が言った。
「おもちゃの銃でも意外な物が仕組まれてたな」
と、恭也はポケットの中に忍ばせた鋼糸に触れながら、笑みを浮かべて紗霧に言った。
それにあいずちをうちながら、紗霧は今後のアイテム収集のことを考え始める。
(もう参加者の支給品には期待はできないでしょうね。
やはり『例のモノ』と、鍵の使用場所の特定を急がなくてはなりません)
「おっ?」
そんな紗霧を尻目にランスを担いだまひるが声をあげた。
背に担いだランスが身動きしたからだ。
目を開き始め、頭痛がするのか頭を押さえながらランスは目覚めた。
(………なんで…俺は担がれてるんだ……?)
目覚めたランスの視界に入ったのは、地面から二メートル近い高さまで自分を
軽々と担いでいる見知らぬ赤毛の少女。
目覚めたランスに気づいたまひるがゆっくりとランスを地面に下ろしていく。
それに注目する10の視線。
ユリーシャが感激の声を上げるも、今のランスにはよく聞こえないし、よく見えない。
(……俺はどうしたんだ?…あのヤロウを殺ったのか……?)
と、ぼんやりと考える。
そして目をこすりながら周囲を見始めた。
「ランスさまっ!!」
「気が付いたようじゃの!」
ユリーシャと魔窟堂は、ほぼ同時に声を上げて、ランスのほうに駆け寄った。
(ユリーシャ……)
ランスはまとまらない思考で何とかその名を思い浮かべる。
そんな彼を周り囲む三人とは別に、紗霧と恭也は数メートル離れて観察する。
そして、ランスは周り囲む三人の姿を認め、言葉を発した。
「ユリーシャ…か……」
「はい……ランスさまのおかげで…こうして…」
安堵の息を漏らすランスに、ユリーシャはにかんだ笑顔で応えた。
(うんうん……恋人同士の再会…いつ見ても感動するシチュエーションじゃわい)
(姫さん良かった……)
そんな二人を見て魔窟堂とまひるは素直に感動する。
「…がはは…当然の結果だ……」
状況をよく把握出来てないものの、そうランスは返答する。
彼は再び周囲を見回し、ユリーシャに尋ねた。
「…ユリーシャ…ここはどこだ? それにこいつらは誰だ?」
「あ……ここは島の西の森の中です。
この方々に助けていただきました」
ユリーシャはやや慌てた様子でそれを伝えた。
その説明を聞いた途端、ランスの顔色が変わった。
「助けた…だと?」
「助けられたのはわしらも同じじゃよ、ランス殿
わしの名は魔窟堂野武彦。
我らは主催者打倒を目指して行動しておる。
お主さえ良ければ、ともに戦おう」
自らの首に手を当てながら、穏やかに魔窟堂は言った。
「おいっ、ユリーシャどういうことだ?
俺は…ケイブリスの野郎はどうなったんだ!?」
魔窟堂には目もくれず、半ば怒鳴るような感じでユリーシャに問う。
「そ、それは……」
「………」
「ランス殿、たいした怪我は負っておらんよ。
それにあの怪物はここには居らん。
じゃが、お嬢ちゃんが駆けつけてこなんだら、手遅れになる所じゃった」
「・・・・・・」
首輪を着けてない老人を一瞬、鬱陶しそうに見てからランスは言った。
「駆けつけただと?ユリーシャお前……」
「……ランスさま……」
(…この人)
まひるは心中でそう呟き、一歩下がった。
ランスの様子に嫌な違和感を感じ始めたからだ。
紗霧と恭也もそれを察したのか警戒し始める。
いまだ違和感に気づいてないのは魔窟堂だけ。
「ランス殿、悔しいのはわかるが…お嬢ちゃんを責めてはいかん」
「じじいは黙ってろ!俺は待っていろと……」
「・・・・・・・」
問うランスに対し、ユリーシャはただ黙って彼の目を見つめている。
「それに野郎の首輪を勝手に…」
たまりかねたまひるは、どういう意味?と言おうとした時。
ユリーシャは口を開いた。
「いろ…と…」
「…………」
まくし立てようとしたランスだったが、彼女の様子に黙り込む。
「………」
「……………」
しばしの沈黙の後、ユリーシャは言った。
「わた…私はランスさまに死んで欲しくありません……だから…だから…言いつ
けを破りました」
目を伏せ、だがしっかりとした様子でランスと対峙するユリーシャ。
「・・・・・・」
そんな彼女にランスは息を飲んだ。
一同は沈黙する。
そしてランスは彼なりに考え、深く息を吐いて言った。
「……でかした…ユリーシャ…」
「!」
彼女は顔を上げる。そしてランスは、
「心配かけちまって悪かったな…」と彼女に言ったのだった。
(二日目 PM4:10 西の森)
ランスが落ち着きを取り戻し、魔窟堂らは改めて彼と交渉を始めた。
魔窟堂では有利に交渉を進められないと判断した紗霧は前に出て自己紹介をしようとした。
「私は魔窟堂さんのどう…」
右掌を前方に出し、どこか自慢げにランスは彼女の台詞をさえぎった。
「言わなくていい、名前は知っている」
それを聞いて、紗霧は眉間にしわを寄せた。
彼女はゲーム中、自分の素性を他の参加者に極力、知られないようにしていたからだ。
「私は貴方の事を存じませんが?」
「俺様はこの島にいる女の子の名前は全部知ってるのだ」
と、言いつつ紗霧の顔を見つめた。
実はランスはゲーム開始前後、わずかな時間の内に例の教室にいた女性達の内、二人を観察していた。
その二人とはユリーシャと紗霧。
遠くに離れていてよく観察できなかったのと、ユリーシャが自分の前に出発した事もあって、ランスは最初のターゲットを彼女に選んだ。
「…むっ、むむむむむっ!」
紗霧をはっきりと眼前で確認したランスは感嘆の呻き声をあげる。
そして、改めて紗霧を目の前にし、いつものように寸評を入れようととするが、
うまく言葉にできなかった。
ランスの紗霧に対しての評価は決して低い訳ではない。
むしろランスにとって出会った女性参加者の中では最高と言え、
どこがいいのかと問われると、細かく言うのがのがはばかれるくらいだ。
北条まりなの手帳から参加者情報を得た彼は、上機嫌に親指を立てて言った。
尚、当人と魔窟堂を除いた面々が彼の態度に呆れているのに彼は気づいていない。
「と、とにかく!双葉ちゃんグッドだ!!!」
「「「……………………?」」」
「?」
「……………」
「どうした?」
「「「「…………………」」」」
「私の名は月夜御名紗霧です」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
彼はまちがえてた。
*
*
*
白けた空気の中、まひるの提案で(なかば強引に)彼らは自己紹介を続けた。
恭也の番が回ってきた。
「この方が高町恭也さんです」
「……………」
「ん?」
ユリーシャの口からまひる達が紹介されてく中。ランスは恭也を見て声を上げた。
「お前は………………………昼の奴か?」
ランスはまだ痛む頭で恭也の事を思い出し、同時に知佳のことを思い出そうとする。
「・・・・・・?」
頭を書きながら恭也と会ったなら、訊きたい事もあるのも思いだそうとするが、思い出せない。
ちなみに恭也の名前を彼は覚えていない。
「ランスさま? お知り合いなのですか?」
「……………」
「……………」
ユリーシャの疑問を他所に対峙する二人。
ランスは恭也の治療痕と他のメンバーを一通り一瞥し、言った。
「おい、知佳ちゃんはどうした?」
「……ここには…いない」
「何?」
二人の間に軽い緊張が走った。
空気を読んだのかユリーシャは嫉妬することなく、小声でまひるに尋ねた。
「あの…知佳さんって…どちらさまで…」
「えと…恭也さんの恋人だよ」
と、まひるも小声で返答した。
「え?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
今日の早朝までなら、恭也はまひるの発言に照れただろうが、今は状況が違う。
さらにランスの言葉は続いた。
「どこに行ったんだ?」
「…………」
頭を振る魔窟堂。
それを見ているのかいないのか、ランスは恭也の傷を再び見て言う。
「助けにいかんのか?」
「……っ」
恭也の予想だにしなかった、ほぼ反射的に出たランスの問い。
恭也が返答する前に、紗霧がランスに言った。
「その事も含めて、ランスさん貴方に訊きたい事があります」
ランスはゆっくりと振り向き、
「何だ?」
と、答えた。
「ランスさん……単刀直入に言いますが、貴方は我々に協力できるんですか?」
と、表情も語気も穏やかに紗霧は言った。
ランスは紗霧と魔窟堂を見比べる。
「リーダーは誰だ?」
「特に決めておりません」
実際の所、一応は魔窟堂がリーダーである。
ランスの表情がわずかに変わり、口に出す言葉を考える前に、紗霧は更に続けた。
「ランスさん……貴方、今でも男性を邪魔者と考えているでしょう」
これは怒り、興味、軽蔑、賞賛のいずれの感情が混ざった台詞ではない。
あくまで穏やかに真摯に言った紗霧の問いだ。
紗霧の真意がつかめないランスはすぐに返答できなかった。
理由はそれだけではない。
自身にとって非常に重要な局面に入っているのを直感で悟ったからだ。
「………!」
魔窟堂が紗霧に何か言おうとした。
それを止めようとする手があった。
「!!!」
指を口に当てた、まひるだった。
それを受けて、少し驚きながら魔窟堂は引き下がる。
ランスの本質を前もって知っている、恭也とユリーシャは緊張した様子だ。
特にユリーシャは冷や汗をかいていた。
「……」
ランスは沈黙している。
その行為は問いに肯定したも同然に写る。
魔窟堂が引き下がった直後に紗霧は言った。
「出来る事なら残った参加者全員で対主催者に挑みたい所ですが、足並みが揃えず、我々の行動の妨げになるとどうしようもありません。
その場合、足並みを揃えたユリーシャさんの方がずっと大きな働きができるでしょうし、戦力は現状のままで十分です」
「・・・・・・・!!!」
「!!」
思わぬ言葉に目を見開き、ランスはユリーシャを見る。
ユリーシャは驚きに口を開けていた。
そして我に帰ると、紗霧に向かって叫んだ。
「わ、私はランスさんと一緒でないと、皆さんと行動できませんっ!
ですから、ですからっ……」
と、自分のバッグから首輪解除装置をだそうとするが、いつのまにか手元になかった。
おろおろしているユリーシャを見ながらランスはこれまでの事を考えていた。
“参加者・運営者を問わず、女は全員犯して俺の女にし、男は皆殺しにする”
それはゲーム開始時のランスのスタンスだった。
彼はこれまで自由奔放に生きてきた。
自らの命を危険に晒した回数など数え切れない。
むしろそれに意を返さず、突っ込み、生還する。
それを可能とする実力も、自信も、悪運もあった。
だが、このゲームに至っては
女性参加者の大半を助けられず、彼について来た同行者二人も失った。
その上、ゲームの黒幕は自分の住む世界の神だった。
認めたくなかったが…彼はそういう自分をとても不甲斐なく感じていた。
かつて…この島に来る前にある国の兵隊に追われ続けた時以上に。
ランスは焦っていた。
「ユリーシャさん、さっきの私に対する彼の反応を見て、何とも思わなかったんですか?」
「……!」
ランスが黙ったままの会話は続き
相変わらず彼にとって、ユリーシャにとって不利な状況が続いている。
まひるがたまりかねて紗霧に何か言おうとしたのと、ランスが“ある覚悟”を決めようとした時、
紗霧は恭也の方へ視線を写して言った。
「高町さん。 貴方にとって彼の力は必要ですか?」と。
残りは今日中に…
ランスは内心、舌打ちをしながら恭也を見た。
それは昨日、恭也に戦闘を仕掛けてしまったからだ。
恭也もランスを見る。
そして恭也は続けて紗霧・ユリーシャを見た。
彼はここにはいない知佳・自分の奥義を破った猪乃・今、バッグに仕舞っている小太刀の
元の持ち主の事を考えた。
「・・・・・・」
わずか十数秒のち、彼はその疑問に答えた。
「…俺は必要だと思う……」
「!!」
紗霧は少し考えたのち言う。
「理由は何ですか?」
恭也は過去の苦い記憶をあえて思い出しながら言った。
「間違いなく、今の俺より強いから」
「単純な戦力として必要だからですか?」
そんなの見てわかります、とでも言いたげに僅かに眉を歪めさせて紗霧は言う。
すぐさま恭也はランスの方を向いて
「ランス……」
「何だ?」
「ユリーシャさんとは最初から同行してるのか?」
「そうだ」
「もし、さっきまで戦っていた怪物がここに現れたらどうするんだ?」
「? 戦うに決まってるだろう」
「もし今、動けなくなったユリーシャさんと二人きりで、そいつと戦わなきゃならないなら
どうするんだ?」
「…………っ」
ランスは答えに詰まった。
彼は誰かをかばいながらの戦いが苦手だからだ。
自由奔放がゆえに滅多に気を回せないのだ。
そんな彼を他の面々はじっと見詰めている。
「・・・・・っ」
それでもあえて彼はしぼりだすようにやけくそ気味に返答した。
「二人でとことん戦うしかねえだろ…」
「そうか……」
と答え、恭也は目を瞑った。
次に空を見上げて言う。
「この島で仁村さんと出会う前、俺はある人と同行してたんだ」
それは独白。
「?」
「……俺はある男と戦って、……攻撃を交わされた程度のことで負けを認めてしまった」
「? それでお前とそいつはどうなったんだ?」
恭也は続ける。
「無傷でその男に見逃してもらったよ。
でも、負けた事で落ち込んだ俺は、その人に愛想を尽かされたんだ」
「…情けない奴だな」
そう言うランスの表情に何故か嘲りの色はない。
「あの人は一人ででもあがこうとしていたと思う。
だけど、その人は数時間後に俺の知らない場所で命を落としてしまったんだ」
「…………」
場が更に静まった。
恭也は息を大きく吐き、紗霧に言った。
「少なくとも、彼は俺と同じ理由で心を折られることはない。
この状況でとんでもない間違いはしないと俺は思う」
突如、風が吹き森を揺らした。
一同はそれに気づいてないかのように静まっている。
紗霧はため息をついて恭也に問う。
「高町さん……彼は貴方や魔窟堂さんを助けるようなことはしませんよ。
それでも宜しいのですか?」
「俺はみんなが良ければ彼と手を組んでもいいと思う。
油断できないけど」
と、苦笑しながら言った。
ユリーシャと魔窟堂が安堵のため息を漏らす。
「・・・・・・・・・」
ランスは何か考え込んでいた。
「それなら、仕方ありません。まひるさんは……」
「待て」
と、紗霧の質問をランスが遮る。
「おい、お前」
と、恭也の前にズカズカと歩み寄り、釣られて恭也も後方へと下がる。
そして、彼にだけ聞こえるような小声で質問した。
「その死んだ人ってのは女か?」
恭也は思わず釣られて小声で「ああ」と答える。
「そうか」
淡々としたランスの返事。
男だったとしても返事は同じだったろう。
胸の内は別として。
「何、言ってるんですか?」
と、不機嫌そうに紗霧も近づく。
それに構わず、ランスは小声で言った。
「その女の名前は何て言った?」
「う…………」
迷う恭也。
だが、答えた。
「篠原秋穂さんだ」
二人の歩みがピタリと止まった。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
怪訝そうに二人を見る紗霧。
「……そうか………」
顔を下げず、表情をあえて変えないまま、ランスはかろうじて、そう答えた。
「・・・・・・・・・・・」
彼はきびすを返す。
そして、紗霧の方に向き合い、地面にドカッと座る。
「!?」
腕組みして、この場にいる全員に向けてランスは言った。
「言いなりにはなれんが……お前らが良ければ協力してやる」と。
*
*
*
「まひるさんは?」
「・・・・・・・」
まひるもさっきまでのランスの態度には嫌な違和感を多少なりとも感じていた。
だが、見捨てる見捨てないかとなると話は別だし、ユリーシャと恭也のことも
あり、ランスと一緒に行動するのに異論はない。
「あたしもいいよ。紗霧さんは?」
「条件付きでなら反対はしません」
「そ、それでは!」
喜びの声をユリーシャはあげる。
「条件については解っていると思いますが、質問は宜しいですか?」
「……手を出すなと言いたいんだろ?」
心底、残念そうにランスは答える。
「両方ともですよ?」
「わかってるって。その前に言いたい事がある」
「何でしょう?」
紗霧の持つ独特の迫力に身の危険を感じはじめたのかランスは、念を押すように紗霧に言った。
「あくまで協力はするが、言いなりにはならん。それでいいな?」
「…………随分と虫の良い話ですね。まあ良いでしょう。活躍を期待してますよ」
「あ、ああ、任しておけ」
彼にしては珍しく遠慮がちに返答する。
「魔窟堂さんも異論はありませんね?」
「うむ」
「み、皆様、有難うございます!」
それを見たユリーシャは感謝の言葉を述べて、彼らにおじぎをしたのだった。
再び腰を上げ、会話しながら西の森の小屋へ向かおうとする一同。
ユリーシャはランスに駆け寄って言う
「ランスさま、さっき高町さんと、どのようなお話を?」
「お前には関係のないことだ」
その返事に少し残念そうな表情を浮かべるもユリーシャは引き下がった。
仮にも秋穂の同行者であった彼女に気を使っての彼なりの配慮。
根本的な解決には決してなりえないが、今のふたりは少し幸せそうに見えた。
「……?」
何か、忘れている。
ケイブリスとの戦闘前に湧いた、ランスにとってささやかな疑問。
「ランス、朽木さんの事で話が……」
思い出した。
手帳に載ってた恭也に絡む情報を。
彼は言った。
その問いが再び、一同を混乱させる事態になることを知らないまま言った。
「お前、フィアッセって女と知り合いか?」
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・魔窟堂】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】
秋穂に関連するランスと恭也の会話内容は他の4人は知らない】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
男の運営者は殺す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン16本】
【能力:気合で背景を変えれる。????。???】
【備考:ちょっと自信喪失中】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(大)、下腹部に多少の傷有】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
グループが危険に晒されるなら、応戦する
島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】
一旦、終了です。
一気にコピペで本スレに全部投下したいけど、投稿規制があるからなあ……
投下終了。
これで即死はなくなったかな?
次は透子と他3人?の話の予定です。
復帰したのか。
昔残していたネタ、図々しいかもしれないが手伝いになればと投下してもいいか?
>>31
構いませんとも。
僅かでも手伝ってくれるとありがたいです。
ちなみにまた遅れ気味の新作ですが今日中に投下できそうです。
>>32
ありがとう。
運営方法は今まで通りでいいんでしょうか?
話内容
ケイブリスと智機の拠点(学校)での掛け合い。
前回の残された続き、智機がケイブリスの腕と鎧の補修をする。
そしてザドゥと透子に対して参加者への率先介入を好む智機がいざという時のためにもケイブリスと繋がりを深め組もうと提案する。
OKです。
ただ、今書いている話ではメール欄①がおこります。
本日の新作投下後、またここに書き込みます。
>>34
了解しました。
というか透子とも出会ってくれた方が>>33 の内容を書きやすくなりそうで良さそうですね。
楽しみに待っております。
う、>>34 のメール欄をしてくれた方がと書くべきでした。
以後、気をつけます。
加筆修正を繰り返した結果、一日伸びてしまいました。
次はあの六人の小ネタの予定です。
内容的にはかなりアドリブが効く上に変更点もありません。
早ければ今日の深夜でも投下できそうです。
あの魔人とはレイのことだったり…
>>37
お疲れさまです。
此方の方は遅くても三日後には投下予定です。
早ければ二日で(推敲したいのでできてから最低一日は開けたいのです、我侭で申し訳ない)
二つお聞きしたい点があるのですが、
一つ目は、手帳にレイの名前が書かれた経緯はどの話でしたっけ?
今確認しているのですが、途中からスレを一つ一つ読まないといけなく、該当個所が解ればとw
二つ目は、鍵と島の東西南北の塔(であってましたよね?)の関係について、どう考えているかを。
参考までに昔考えていたネタでは、主催者用の緊急回復アイテム、緊急脱出用ゲート(一気にルドラサウムの元へ)
または智機がこっそりと配備しておいた対ルドラサウム用の何か(ワーグとか・・・・・・)
とか考えていましたが、どのようにこの伏線を回収するつもりでしょうか?
この二つを話に盛り込んで流れをお手伝いできたらいいなと考えたものです。
追記:まとめサイトはやはり必要でしょうか?
時間はかかりますが本当に簡易なもので良ければ作る事は可能です(他にメインのものがあるため……)
それで構いませんとも、楽しみに待ってます。
>手帳にレイの名前が書かれた経緯はどの話でしたっけ
まりなの手帳には参加者やその候補、もしくは運営者候補の情報が断片的にいくつか
書かれてるんじゃないかなと思ってこうなりました。
よってレイの名が登場する話はありません。
初期の話に出てきましたが、何しろあの手帳には、何故か別世界のなみや星川翼の情報が書かれていたくらいですから。
手帳に関わる真相の一端はメール欄です。別の人が考えたネタを拾ったんですけどね。
ここでレイの名を出したのは、私がたまたま保存していた以前の総合検討会議スレの1に
彼が運営候補者としてエントリーされていたのを元にメタなネタとして使いました。
尚、2と3は保存できてませんでした。
東西南北の鍵の使い場所の二つ目は今回の話で知佳が見つけた地下部屋の
出入り口としました。
回復アイテムか強化アイテムの配置を考えてます。
後の二つはまだ特に考えておりません。
臨機応変に使っていくつもりです。
うち一つはランス救出時の魔窟堂が発見したかもと考えてます。
>まとめサイトはやはり必要でしょうか?
そうしていただけるとうれしいです。
次はメタな話なので一旦、ここに投下します。
(二日目 4:15 西の森)
「・・・・・・・・・!」
ランスの口から出た名、フィアッセ。
「当たったか」
恭也にとっては知り合いどころか、姉弟同然の間柄である。
「……どうして…その人の名を知ってるんだ……!?」
「…俺様も直に聞いたわけじゃねえが……」
ランスはそう言いながら、自分の身の回りを探り始める。
「……?」
手帳がない。
バッグは……東の森に放置したままだ。
更に探すが、鍵束もない。
それは紗霧が失敬したからだ。
ハリセンは……どうでもいい。
「………」
自分の身の回りのチェックを終えた、ランスは言った。
「手帳、無かったか?」
「なんと!! まりな殿の!」
「ああ……」
手帳を無くした事に気づいたランスは、探すより先に自分は人づてに手帳を手に入れ、記載されてたその内容の一部を読んでその名を知った事を語った。
「人づてという事は…ランスさん、その人は主催者にやられたんですか?」
と、誰かを気遣う演技をしながら紗霧。
「………」
紗霧の問いにランスは考えてから言おうとする前に
「そうですか」
と紗霧は落胆する振りして先に断定口調で言った。
「……そのとおりだ、紗霧ちゃん」
と、ランスはそれあわせるように言ってしまった。
ちゃん付けされた紗霧は一瞬眉をひそめるが、別に不愉快っていうわけでもなかったのか何も言わなかった。
もっとも、紗霧はランスが穏便なやり方で手帳を入手したとは露ほども思っていない。
あえてランスの都合の悪くない方へ会話を進めたのは、これ以上、会話が逸れる前に情報をスマートに集めたいからに過ぎない。
「なんと……グレン殿はやはり…!」
と、魔窟堂は怒りをにじませ、ぎり…と歯軋りをした。
「「「……………」」」
この会話の流れに対して、あえて口を挟まなかった他の三人は何を考えてたかというと…
(……………)
ユリーシャは半ば、思考停止状態だった。
ランスがグレン様を殺害したことがばれれば、彼自身の立場が危うくなるのでこうなるのは、ユリーシャにとっても都合がいいはず。
だが、ユリーシャは自分が騙されていないのに、何となく騙されている気がしてならず、静かに困惑していた。
(…変。 でも今、突っ込んじゃいけないところなんだろーな…)
と、こちらはまひる。
(グレン!? でも彼は……即死だったはず。 嘘なのか?)
と、こちらは未だ、この島にグレンの名を持つ者が二人いた事実を知らない恭也。
もっとも彼は七番目に出発した参加者だったし、今日の昼の放送も気絶していた事などもあって、気づかないのも無理はないのだが。
「グレン殿……まりな殿……おぬしらの仇はわし等が必ず…!」
と、自分の世界に入りこんで、意気込む魔窟堂。
ランスそんな燃える老人を見て、思わず自分の頭をかいていた。
「…優先しなければならないことがあるでしょう」
と、紗霧は魔窟堂を落ち着かせるようになだめてから、コホンと咳払いをしてから、他の四人に言った。
「色々と訊きたい事がありますが、先にランスさん『手帳』に関する情報提供をお願いします」
「ああ」
ランスは快く返事をして情報を話し始めた。
その内容とは、フィアッセを含めたランスの知らない人物数人の名前とそれに関する簡単な情報であった。
ランスの口から語られる、手帳のある二ページに記載された名前とは……
―――参加者にエントリーされる可能性有り
“高部絵里”
“フィアッセ=クリステラ”
“レティシア”
“八車文乃”
“綾小路 光”
“天上 照”
の六名。
* * *
「知ってる人の名前はないですね」
と、しゃがみこんで木の枝で六人の名前を書きながら紗霧は言った。
「私も心当たりが……他の皆さんは…」
とユリーシャはまひるらに尋ねた。
「あたしの知ってる人はいないよ」
「俺も他の五人については知らない…」
「何だ?本当に知らないのか?」
「女の人の名前ばかりですね」
「男の名前などいちいち覚えてられんしな」
「「「…………」」」
ランスの暴言に、恭也はため息をつき、まひる・紗霧は怪訝そうに彼をみた。
「…ぐ……悪りィ…。俺も二ページしか読んでないからなぁ…」
それに対してランスは気まずそうに言葉を吐いた。
「…レティシアさんにいたっては何故か外見的な記述もなく名前だけですしね」
「…ランスどの……わしもこの六人については知らんが、“綾小路 光”の関係者については心当たりがある」
「紫堂神楽さんのことですね」
と紗霧は言った。
「義理の姉って書いてたな」
「彼女も神楽殿と同じ力を持っておったんじゃろうか……」
魔窟堂は神楽に治療して貰った方の肩に触れた。そして
「まりな殿……お主は一体何者だったんじゃ…」
遠くを見るような目で魔窟堂は言った。
六人の女性についての議論はこれ以上、進展しようがなかった。
六人の内、五人はすでに死亡した参加者の関係者だからだ。
「違う話をしませんか?」
「う〜む…」
「そうだな…朽木さんのこともあるし」
「………」
紗霧はしゃがみこんだまま、地面に書いた名前を見て考える。
(姓名だけではほとんど判断できませんね)
と、木の枝で文字を消そうとする。
「?」
が、ある名前を改めて見てそれを止めた。
(天上 照…)
見知らぬ名前。
いや、彼女のいた世界にもあった、ある太陽神の名をもじったものというのはわかる。
ただ、彼女にとって不思議なのは、何故、会った事もない人の名前で急に興味が湧いてきたかだ。
紗霧はぼんやりとその名前を見続けた。
(……だとしたら……大げさな偽名みたいですね…それとも…これが言霊というものでしょうか…?)
「どうしたの紗霧さん」
「!」
まひるの声に紗霧は我に帰った。
「あは…おどかしちゃった…ゴメン、ゴメン」
「・・・・・・」
紗霧はジト目でまひるを見ながら、立ち上がり
「…………」
少し躊躇したものの、地面に書いた名前を靴で揉み消してから言った。
「双葉さんの話をしましょうか」
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・魔窟堂】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
男の運営者は殺す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【スタンス:運営者殲滅】
【所持品:レーザーガン、軍用オイルライター、白チョーク数本、スコップ(小)
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン16本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:ちょっと自信喪失中】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける。 モノの確保】
【所持品:対人レーダー、銃(45口径・残7×2+2)、薬品数種類
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、四本の鍵束、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
グループが危険に晒されるなら、応戦する
島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】
お疲れさまです。
この名前が後々どう生きてくるかが楽しみですね。
名前に関しても、ここまできたら自由に増やしてもいいかとw
智機・ケイブリス話の方も明日(もう今日ですが)か明後日には投下します。
頑張りましょう。
終了。
余裕があれば明日もう一本かけるかな?
今作は一応ルドラサウムに関する伏線話のつもりで書きました。
ちなみに今回、名前だけ出た女性六人は本編で出すつもりは今の所ありませんので。
出るとしたらエピローグかな。
ワーグ登場…考えようかな
>>49
ワーグですか。
上で述べたように智機がいざという時の切り札としてひっそりと隠しているとか考えてましたが……
どうしますか?
かなり対ルドラサウムへの伏線になりそうですし。
>>48
どうもです。
下の三人はこの手の作品に登場すれば大暴れしてくれそうと思いながら書きました。
>>50
それでは、登場させましょうか。
登場話はよければそちらでお願いします。
近々、公開の智機の過去話もそれに合わせますんで
では、今作を本スレに投下してきます。
>>51
了解しました。
ちと今、過去作を見直していたら、智機は魔人(ケイブリス)に関して無知であったようですね。
なので少し変更をして今は伏線の段階で処理をしておきます。
具体的にはケイブリスからワーグの存在を聴いてあれこれ思索する程度で……
これから数時間後に知佳と透子の話をここに投下します。
後に微調整して明日の夜明け以降に本スレに投下です。
ちょっと変更を加えてるため遅れてます。申し訳ない。
(二日目 PM4:25 学校へと続く道)
「わたしの名前…知ってたのね」
銀杏の木にたたずむ透子は知佳に言った。
黄色く変わり始めた銀杏の葉は陽光に照らされ、透子と知佳の亜麻色の
髪と似た色彩を再現していた。
風に吹かれていないそれは、今少なからず動揺している知佳と比べて対称的だ・
「……あ…あの人の…心を読んでしまったから…」
と、知佳は新校舎において、智機が心中で透子に悪態をついていた事を思い出しながら言った。
「そうなの」
「…そうなのって……」
「……」
透子の淡々として、どこかズレた反応。
だが、そこに冷たさは感じられなかった。
その為か知佳は自分の緊張が幾分か和らいでいるのを感じた。
「話はもういいの?」
「……」
知佳の言葉に透子の返事はない。
「………」
二人は会話を口にしてるが、別に読心能力が作用してないわけではない。
透子は心の声の返事さえ返してないのだ。
知佳はその沈黙に耐えられなくなったのか、透子に届くようにお礼の言葉が届くように念じた。
(さっきは……ありがとう…透子さん)
それはケイブリスを追っ払ってくれたことに関する感謝の念。
透子にも思惑があるかも知れないと解っていても知佳にはありがたかった。
後ろ髪、惹かれる思いを残しながら、この場を去ろうとした知佳に対して、
透子は言った。
「単独行動を続けなさい…」
空気が変わったような気がした。
知佳は足を止めた。
「…参加者の中にはあなたに対して危害を加える人がいる」
透子の心の声は聞こえてこない。
知佳は右手をぎゅっと握り締める。
「ゲームに戻りなさい」
「・・・・・・・・・」
殺人ゲームの強要。
それでも彼女の声には冷たさはなかった。
知佳は大きくかぶりを振って叫んだ。
「……そんなこと、できないよっ!!」
「……」
透子の心の声は聞こえない。
「透子さん!あなたは……」
「わたしは“こんな事”を望んでしている」
「・・・・・・!?」
“こんな事しちゃいけないよ”と言おうとした知佳はショックに言葉を詰まらせた。
それに構わず、遠い目で透子は言い続けた。
「もう、諦めかけていた…」
「……だから…ってこんな事したって」
透子だけは他の運営者とは違う。
それを願って、知佳は透子にゲームの運営をやめてくれるよう説得しようとした。
「……」
知佳には言えなかった。
そんなことしたってその人は喜ばないよとも、間違ってるよとも、はっきりと心の中で
そう思う事さえできなかった。
もし恭也が命を落とせば、自分も運営者のようになってしまいそうな予感がしたからだ。
透子は自分に言い聞かせるようなやや強い口調で続けた。
「諦められない確かな理由がわたしにはできた」
「・・・・・・!?」
偽りのない言葉。
聞こえ始めた心の声もそれに同調し、それは知佳の心にも聞こえ始める。
いつのまにか知佳の身体からは妖光が消えていた。
そして、知佳の心に透子の心の声が台詞と同調して聞こえ始めた。
「この仕事を終えた時だけ、わたしの手で『あの人』を元に戻す事が出来るようになる」
知佳の鼓動が早くなった。
「わたしが生まれた世界では『あの人』を復元できる方法はなかった…。 最初から……」
「だから…この仕事をやめることはできない」
「『あの人』を見捨てられないから」
知佳の耳に頭にその独白は響き渡った。
「……………」
それは知佳に有無を言わせない透子の威圧感。
「……………そん…な」
知佳はなんとかそう言うものの、地面にへたり込んでしまった。
「もし、あなたが最後の一人になった時…」
「叶える願いは…よく考えてから、口にした方がいいと思う」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
「どうして…どうして……わたしに話し掛けたの?」
「昨夜、あなたはわたしに心を閉ざさないでと伝えた」
「…………」
「言ってる意味がよく判らなかったけれど、印象に残った」
「………」
「だから気になった」
透子の姿が徐々に薄らいでいく。
「あなたは昨夜…“愛を知る人に、悪い人など居るはずがない”とも言った」
「…………」
「わたしは……」
透子は神から受け取ったロケットを握り締め、自らの能力が住んでいた世界に
どういう影響を与ええるかを思い出しながら、この島に来る前にその事を知った人が
どういう反応をしたかを思い出しながら言った。
「……逆だと思う」
そう言い、透子は知佳の前からすっと姿を消した。
* * *
「・・・・・・・・・・・・」
知佳はしばし、茫然自失だった。
我に返ったのは、遠くから何かが噴出される音を聞いてからだった。
今の知佳にその音源を探す気はなかった。
自分が甘かったことと、透子とも戦わなければならない現実が堪えたからだ。
彼女は今、自分の身の回りしか気が回らなかった。
「……何か、しなきゃ…」
知佳はそう呟くと立ち上がり、目の前にある手帳を拾いに行こうと歩き始めた。
歩く少女の周囲には微弱だが電気が漏電しているように、ぱちぱちと小さな音が響き渡る。
透子が去ったからか、知佳の身体には虹色のオーラと翅が具現している。
それはさっきまで比べて色は黒っぽくなっていた。
↓
【仁村知佳(№40)】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
主にアイテム探しや、主催者への妨害行為】
【所持品:???】
【能力:超能力(破壊力さらに上昇中・ただし制御は多少困難に)飛行、光合成】
【備考:疲労(小)、やや放心状態】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:学校へと続く道】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・静止、偵察。戦闘はまだしない】
【所持品:契約のロケット】
【能力:中距離での意志感知と読心
瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
原因は不明だが能力制限あり、
瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)】
投下終了。
ちなみに今作の噴出される音は智機ロケットが発射された音です。
また、昼か夕方に。
>>54
いえいえ、無理しない程度に互いにがんばりましょう。
本スレ投下終了。
次はあの六人のアイン・双葉に関する論議です。
今日、一日かけて完成させ、本スレに投下の予定です。
これで登場人物の時間軸は、ほぼ統一されるかな。
その後、どのグループに手をつけようかな?
今晩中には投下できそうです。
その前に一つ。
開始時間の方、先の話のやり取りと移動をその後の含めて
二日目PM5:20分くらいで大丈夫でしょうか?
大丈夫です。
ちなみにその頃の東の森の戦闘はメール欄になってます。
では、まず此方へ投下します。
問題なければ、夜に本スレへと投下します。
(二日目 PM5:00 本拠地・管制室)
辺り一面機械に包まれた部屋。
そこに大きな影が一つ招かれるようにして入ってきた。
「ありがとう、良く来てくれた」
そう言った彼女の前には巨大な影の主である魔獣が対峙していた。
しかめっ面で辺りを見回し、「ケッ」と言うと彼は用件を切り出した。
「俺様をわざわざ引き戻したんだ。それ相応の理由がなくちゃ納得しないぜ?」
魔獣ケイブリスの気がビリビリと場を振るわせる。
なるほど、気の弱い者が奴の姿を見れば発狂して止まないだろう。
機械である自分でさえ、場に漂う異質な気が体の表面から感じ取れて仕方がない。
所詮、解析能力から来る危険信号が反応を出しているものだ。そう理解はしているが、この魔獣の凶悪さは異常だ。
よくザドゥが易々と通したものだ。と思ったが、今ではその理由も良く解る。
通さざるを得なかったのだ。
戦えば自分とてタダではすまないと気づいたのだろう。
(これは予想以上に慎重に扱わねばいけないようだな……。特に機嫌に関しては……)
こんな奴に礼も何もない。
本来の智機の性格から考えれば、そう言いたい処だが、これから動いてもらいたい共謀者にもなるのだ。
奴が納得して『私のために』動いてもらうよう働きかけねば。
「では、まず主題から始めよう」
空中に高く持ち上げられた椅子の上から、見下すようにして智機はケイブリスへと語りかける。
「フン……」
その様子が酷く気に入らないケイブリス。それも智機の計算の内だ。
見た目とはいえ、このようにして奴との間に上下という差を作る。
こうする事で『私の方が上』という印象を無意識の内に与えつけるのだ。
頭の悪そうな魔獣だ。気にいらなさそうな顔はしているが、特に深くは考えていないのだろう。
交渉を有利に進める上での彼女なりの演出と言えた。
先のアズライトに対して持ちかけた時のように。
(その分、言葉の上では慎重に行かねばな……)
「単刀直入に言うぞ。“私と組まないか?”」
「ぁあ?」
不満げに漏らされたケイブリスの返答が部屋に響いた。
『何言ってるんだお前は?』とでもいいたげな声と顔をしている。
「組むも何も俺たちは……」
「まぁ、待て。今のはあくまでも主題だ。これからその訳を説明する」
パチリ。椅子の横にあるスイッチを押すと部屋にモニターが現われ光が映る。
「これを見て欲しい」
言われてモニターを見たケイブリスの目に映るのは五人の人物。
それぞれ細かく何やらデータが書かれているようだが……。
「んん〜。こりゃザドゥの奴……それにお前もいるじゃねぇか」
「その通り。これは、我々運営者五人のデータだ。そして今ここにいる新たに呼ばれたお前を含めて計六人となっている」
「だけどよ? こいつがどうしたってんだ? 見ない顔の奴もいるみたいだがよ」
「話の続きだ。モニターを見ながら聴いて欲しい」
モニターの方へとケイブリスが目を戻すのを確認すると智機は話を再開させる。
「我々運営者は、誰もが神と契約し、報奨の約束とともにこのゲームの運営に従事している」
智機が一区切りした所で、モニターに変化が訪れる。
具体的に言えば、人物の周りが色で分けられ、まるで勢力図かのように区分されたからだ。
「存じていると思うが、ザドゥをトップとし、我々はゲームを円滑に進めるための駒として配置されている。
それが我々の運営形態だ。だが……」
「だが……なんだ?」
「各々の求める運営形態と言うのが極端に違うのだ。
今、色で分けられた中、赤いのが消極派。青いのと緑が積極派と思ってもらえばいい」
それを言われたケイブリスは、モニターを凝視する。
確かにザドゥと透子は左側の赤か染められた中いた。
それに対するように智機が青色、そして名前の上に素敵医師とふられた長谷川均とカモミール・芹沢は緑色だった。
「ザドゥと透子の奴はテコでも動かないだろう。それこそゲームの崩壊の危機になるような事態でなくては動かない。
お前に首輪解除装置を奪取する命令を出した時点で、やっと動いたくらいだ」
「ほー……」
「だが、それもここまでだ。こうなった以上、今動いているのが収まれば、もうザドゥは動かないだろうな。
それに透子も期待できん……」
「あの女か……」
ここに来る途中、出会った少女の事をケイブリスは思い出す。
「あいつの能力は、運営に於いて必要と認められたもの以外、どうやら制限されているようだ。
能力と存在が相まって生半可な事では倒すのは不可能かもしれないが、それに対するように誰かを攻撃するという能力も欠けている」
「ふぅん……なるほどな」
「まぁ、話を戻そうか。恐らく、この二人は参加者達がここに直接乗り込んできても静観を保つだろう。
おそらく自分達に牙を向けられない限りはな」
再び椅子にあるスイッチを智機は押した。
すると画面が移り変わり、一つの動画が流れ始める。
「こいつはなんだ?」
いるのは一人の男、そして今ここにいる彼女の姿。
ケイブリスはそれを見入る。
「これは、以前校舎を襲ってきた参加者達とのやり取りを録画したものだ」
画面の中の男が少女の映し出されたモニターを眺めている。
その脇では同じくらいの年齢の幼い少女が大量の智機相手に奮戦している。
「おー、おー、あのちっこいの頑張るじゃねぇか」
『―――アズライトぉっ!!』
男が叫ぶ、少女が泣く。
そしてそれはアズライトと呼ばれた男の自爆で幕を閉じた。
「―――以上だ」
映像が終わるとモニターは元の勢力図に戻る。
「で、一通り見終わったが、こいつを見せた理由は?」
動画を見て抱いた疑問をケイブリスは、智機へと尋ねた。
「これだけの事があってもザドゥは動かなかった。
そしてあろう事か、この件に関して映像の通り対処した私を快く思わず咎めたよ」
「あぁ? 何言ってるんだ、こんなヤツラはボコボコのギタギタにするのが当然だろうが。
俺の眼から見てもお前が正しいぜ」
まるでガイの野郎みてぇだな。とケイブリスは思う。
鬱憤の溜まる千年を経験した自分にとって、手を出せないその気持ちは良くわかる。
「ありがとう。そう言って貰えると信じていた」
「で、青のヤツラが動かねぇのは解ったけどよ。
わざわざ違う色にしたんだ。この緑はお前と同じってわけじゃぁねぇよな?」
「その通りだ。同じ参加者へ積極的に介入していくスタンスこそ一緒だが、そこにある目的が違う」
モニターの一部分が光り焦点を浴びる男、長谷川均。
「私がやるのは、あくまでもゲームの運営を円滑にするための介入だ。“私の願いを叶えて貰うため”にな。
だが、彼は違う。無論、彼も願いを叶えて貰うために運営をしているのには違いない。
しかし、彼がゲームに介入する理由は異なる。」
「で?」
「介入したいから、面白そうだから。彼がゲームに手を出す理由はそれだけだ。
おかげで此方が命令しても、言う通りに動かない事もあった。
それどころか命令してない、余計な事までしだしたりもな……」
ちらりと智機がモニターの方を見る。
「その女がどうした?」
智機の見る先、同じく緑に囲まれた少女、カモミール・芹沢をケイブリスは指した。
「彼女もゲームを進めるべく、仕事を請け負って出動した。
しかし、長谷川均の手によって薬を投与され、彼のいいなり同然の廃人にされたよ」
「おいおい、仲間割れか?」
「今の我々も、おいそれと言える立場ではないと思うがな……。
まぁ、そうだ。奴は自分の好き勝手行動した挙句、同じ運営者にまで手をかけた。
これには、あのザドゥも切れた。素敵医師と呼ばれる奴はザドゥの命で運営者から外されたよ。
今、彼が席を外しているのも、長谷川均を処分するために動いているからだ」
「いないと思ったら、そう言うことか……」
「情勢は、極めてまずい事になっている。
仮にザドゥが長谷川均を処分し、カモミール・芹沢を助けたとしても、彼女はこのゲーム中はもう使い物にはならないだろうな。
そうなると残った運営者は、私を含めて四人しかいない。
しかもザドゥと透子は、参加者が直接襲い掛かってくるまで手を出そうとはしない。
例え拠点が襲撃されたとしても、ザドゥは私やお前に迎撃を命じ、参加者が彼の元に辿り着くまで椅子に座しているだけだろう。
透子の方は、私でもどうなるかは不明だが……制限されたこの状況でもある。迎撃の数として考えるのは止めた方がいいな」
「おいおい、何とかできねぇのか?」
「まだ早い。これはあくまでもマシな状況の方だ。
もし出撃しているザドゥが、既に首輪を外している参加者に襲われでもして見ろ。
また首輪をつけていたとしても、爆発させる暇もなく、不意を突かれるケースもある。
奴が負傷、最悪死んだ場合、残った運営は、私と透子と貴様と言うことになる。
最悪、素敵医師達を残した状態でな」
「するってぇと……」
「その場合は、実質、私が権限を握ることになるのは間違いない。
だが透子が素直に言う事を聞くとは思えない。お前に好き勝手動いてもわれても困る」
ポリポリと頬をケイブリスがかいた。流石の彼も思い当たる節に気づく。
実際、何もなければ自分は好き勝手動くだろうなと安易に想像がついた。
「そこでだ。最悪のケースを想定した事も含め、私とお前で手を組みたいのだ。
我々の願いを叶える為にな……。
「クック……」
ケイブリスがニヤリと笑った。
「俺達の願いを叶える為な……気にいった。いいぜ組んでやろうじゃねえか、ただし条件がある」
「ランスの処遇か?」
「解ってるなら話は早い。奴の始末だけは俺がやる」
「ふむ、私も見返りなしとは言わない。それを呑もう。その状況に手を貸す事、折れた手の補強と鎧の修理、これでどうだ?」
「OK、俺はお前に力を貸す。それで手を打とうじゃねぇえか」
「交渉は成立だな……」
「ところで具体的にこれからはどうするんだ?」
破損したケイブリスの鎧を智機が受け取り、修繕と補強をしている。
それと同時にケイブリスの身体データを収集し、彼の折れた腕を補佐するための機具の設計を創案していた。
「まずザドゥの方がどうなるかだな。
明確に我々が手を組んだ以上は、もう恐れるものは数少ない。
多少奴が文句を言おうとも、できる限り動いていくべきだろう」
今までは、思うように動きたくてもザドゥがいたせいで、動けなかった。
無視して動くと言う手もあったが、素敵医師とカモミール・芹沢という二つの駒が消えた以上、ザドゥとの衝突は避けたかった。
それにヘタして動けば、次は自分が粛清される可能性がある。
その結果、どちらかが勝ち、新たな覇権を握ったとしても、相応の被害がもたらされるだろう。
それで運営がお粗末になり、ゲームが崩壊したら本末転倒である。
だが、ケイブリスという協力者を得た今なら違う。
自分の持つ力と彼の強力な戦闘力を合わせれば、ザドゥと透子が組したとしても恐れる必要はない。
今までは、衝突を避けるためお互いに譲歩しあっていた……いや、智機が不利であった状況が一変する。
ザドゥが生きているのならば、彼に対する抑止力としてケイブリスの効果は大きい。
最悪、ザドゥが形振り構わず我々に牙を向いたとしても、二人なら確実に勝てる算段を幾つか考案できる。
ザドゥとてそれが解る人物だ。此方が動いたとしても、そうそうは形振り構わずなんて自体にはならないとふめる。
ザドゥが負傷したり、死亡して身動きが取れなくなったのなら、二人が結束しているというのは大きい。
透子も無下に反抗したりはしないだろう。もし素敵医師達が残っている場合も色々と工作しやすくなる。
元々、今にいたるように素敵医師がやりすぎなければ、ザドゥが彼を明確に敵と定めなければ、彼と組むという選択肢も有り得た。
その気概が彼との取引に応じたスタンスでもある。
最も、今となっては彼に対する何とも言えない扱いづらさも解っているので組む気にはなれないが。
それでも、ただ殺すのではなく、色々と工作しやすくなる。
もしもの時もケイブリスがいれば、始末する事は簡単だ。
それだけケイブリスと手を組めたというのは、それだけで大きい利益を生み出す。
「当面の目的は、組んだという事で達成された事ではあるが……。
運営としては、反抗者をどうするか。それとゲームに乗る二人を残すという事だ」
「ああ、あいつもそんな事伝えてきたっけな……」
「望みとしては最適な人物がいたのだが……」
その一人は、反主催のグループの中核として動いていた。着々と戦力を整え、抗う準備を整えつつある。
願いを叶う事に拘っているはずの彼女が、今だそのように動いているのだ。
恐らく、本心は『主催に参加者をぶつけ、勝てば良し。負けても自分が優勝すれば良し』と考えているのであろうが。
問題は、撃退されたとはいえ、戦闘における警告効果はあったはずなのに。それでもまだスタンスを変えないという点だ。
最低、確実に運営者と相打ちにもっていく自信はあるのだろう。
とすると残っている参加者は、もう変心させでもしない限りは難しい。
しおりと戦わせる存在がどうしても欲しいのだが……。
候補のアインと双葉の方は、手を出す準備は万端だ。
後は時間の問題。
どちらかが生き残っているなら望みはある。その為にも手を出し、確保をするべく動いているが、あそこにはザドゥがいるのだ。
万が一の可能性を考えると、時間と運という難しい勝負にもなる。
「どうにかして他も変心させる手段はないものか……」
「あー、そりゃ俺様の専門外だな。ワーグの野郎ならそう言うの得意なんだがよ」
「ワーグ? 少し話を聞かせてもらえないか?」
何気ないケイブリスの言葉に何かの活路を見出した智機は尋ねる。
「俺様の陣営にいた魔人でな。夢を操れるんだ」
ケイブリスは続ける。
ワーグという魔人は人を眠らせ、夢の中に入ることで、意識を操作し、洗脳する事が可能なのだという。
「夢、洗脳、そうか……!」
「おお、何かいい案が浮かんだのか?」
「ああ……」
素敵医師との取引であった薬物を使う手も考えてあるが、それだと対象を確保、投与、洗脳と面倒だ。
だが、そのワーグと呼ばれるものなら、何のリスクもなく、相手を変える事ができるという。
(直接、プランナーの奴に掛け合ってみるか? その効果を持つモノでも何とか用意できれば……)
智機がケイブリスに言った台詞は、ハッタリだけではなかった。
そう。ルドラサウムとはプランナーは彼女とひっそりと接触していたのだ。
と言っても今まで何かして貰っていたわけでもない。
そうそう呼ぶな。と釘も刺されている。
だが、彼女は唯一プランナーと連絡できる手段を持つ者だった。
今までは呼んだ時のリスクを考えて、または運営のできぬ無能者という烙印を押されたくがないために呼ばなかったが、こうなった情勢なら話は別だ。
一度は話し掛けてみる価値はあるかもしれない。
ルドラサウムと違い、彼は運営に酷く拘るのを彼女も知っていた。
だからこそ、自分と接触してきた事も。
「で、俺様はどうすればいい?」
考え込み、黙ってしまった智機にケイブリスが声をかける。
(期を見て交渉してみるか……。と言っても今の情勢ではあまり時間はないが……。
失敗したなら、此方で何とかその効果を出せる方法を試案してみよう)
「ん。あぁ、此方の作業が終わるまでは、じっとしていて欲しい。
今の内に身体を癒しておけ。その後、かなり動いてもらう事になるだろうからな」
「ッケ。解ったよ」
早く動きたい気持ちを抑え、ケイブリスは奥へと引き下がっていくとごろりと横になって寝た。
「さて。これから、やるべき事はいっぱいあるな」
【主催者:椎名智機】
【所持武器:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機
6体は島中を徘徊)
(本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折】
【現在位置:本拠地・管制室】
タイトルはまだ未定です。
中々、いいものが浮かばなく……。
状態欄に関しては間違いはないと思いますが、他にも突込みどころあったらお願いします。
連絡が遅れてしまい、すいません。
新作読ませていただきました。なかなか面白かったです。
おかげで先の展開も色々とイメージしやすくなりそうです。
今晩投下の新作はそれを匂わせる描写が入ってます。
これも今はなき前スレでの誰かのアイデアを拾ったものですが、
取引材料になりそうなアイデアの一つにメール欄を考えてます。
よければどうぞ。
タイトルが思いつかなければ〜話とかつけてみてはどうでしょう。
ちなみに次ので234話目です。味気ないですが……
多少、加筆修正を加えて投下しました。
多分、この時間でないと連投制限くらいまくりそうだったので。
改めて遅れて申し訳ありませんでした。
次のメール欄も結末は幾つか考えてあります。
智機の過去話と>>74 のメール欄に準じた匂わせる話によって、取り入れ上手く作りたいと思います。
今、智機(本体の方)達は休息状態なので、過去話の方の投下OKです。
その為に、時間も予定より早めておきました。
次に書きたい話で、まひると狭霧の掛け合いがあります。
もし、其方の都合と被らなければ、書きたく。
今後にあわせた彼女らの心情の描写といった感じになると思います。
こっちもようやく完成しました。
むこうに投下の予定でしたが連投規制が厄介そうなので一旦ここに投下します。
こっちもまひると紗霧の掛け合いが主ですので。
(二日目 PM4:25 西の森)
「そうだ紗霧ちゃん、長い紫髪をしたナイチチ娘と会わなかったか?」
(なぬっ……ナイチチ!?)
双葉の所在を知りたがっていたランスの質問に対し、少年まひるは“ナイチチ”という単語にびくっと身体を震わせ反応した。
「…………」
「………?」
「お前じゃないから、お前じゃないから」
とランスは呆れ顔で手をひらひらさせて否定する。
紗霧はランス以上の呆れ顔で一瞬まひるを見たが、それ以上取り合わずにランスに言った。
「ランスさんは双葉さんと私を間違えられましたが、彼女について他にも情報を?」
「手帳に載ってたんだ。 朽木双葉って名前と長い紫髪の少女ってな」
(言われてみれば……)
と、ユリーシャは反射的に紗霧の髪を見て納得した。
紗霧の黒髪は確かに紫がかっており、見方によってはそう見えないこともない。
「それと……バットって書かれていたなあ」
と、ランスは怪訝な顔で思い出す。
「「バット?」」
その単語に反応したのは本日『バット』に関わったまひるとユリーシャ。
「どうした」
ランスの問いに対して、まひるは智機との戦闘を思い出したが、ちょっと怖くなったので「話を進めて」と促した。
尚、魔窟堂は確かめたいことがあると言って、少し離れた所に移動している。
「………。 その手帳には私達、参加者の情報も書かれていたと言う訳ですか」
「まあな。 俺様が確認したのはそいつだけだが」
紗霧は腕組してをしながら息をついて、話を続けた。
「私は会った事はありませんが、魔窟堂さんなら」
と、別の人物に手がかりを訊き出そうとした。
「俺も会ったんだ」
と、その前に恭也は真剣な顔で口を挟んだ。
その様子にランスは何かを察しながら彼に言った。
「お前もあいつに襲われたのか?」
「!!」
その問いに恭也は一瞬ショックで凍りつく。
だが、ある意味暴言とも取れるランスの発言に異を唱えることもなく単刀直入に言った。
「……襲われたかどうかまでは、解らない……
でも、俺と仁村さんは……昨晩、星川翼と名乗る少年と出会ったんだ」
「!?」
「?」
「「!!?」」
* * *
―――恭也の双葉に関する情報提供から、五分以上の時が流れた
「………」
自分の知る双葉の情報を伝え終わった恭也も苦渋の表情で立ち尽くしている。
ランスと紗霧は無言で何かを考えている。
「まさか…まさか…このような事に……」
異変を伝えようと、ここに戻ってきた魔窟堂も眉間に苦悩からくる皺が刻まれていく。
「………………」
まひるはいつになく真剣な表情で誰もいない前方を見つめていた。
魔窟堂はさっき見つけた情報を伝えた後、恭也らに双葉とアインの事について尋ねられた。
魔窟堂は渋ったが、紗霧に促された四人に問いつめられ、話さざるをえなくなったのだ。
「早朝、私達を襲撃してきたのは双葉さんでしたか」
「……どうして…どうしてなんだ」
平然としてる紗霧に対して、恭也はうわごとのように呟き、頭を押さえている。
「今の星川ってのは当然、あいつの作った偽者だろうな」
「……恐らくは…双葉の式神じゃろう…」
先ほど、陰陽師の式神の事を思い出した魔窟堂はしぼり出すように言った。
「し、式神ですか……」
双葉の事を話題に出されて少なからず動揺していたユリーシャも、その動揺を紛らわせようと何とか口を挟む。意味はわからなかったが。
そんな彼女を紗霧は気づかれないように見た。
「きっと…心細かったんだな…」
そう呟く恭也を尻目に魔窟堂はまひるの方に視線を向けた。
「…………………」
アインの星川殺害の件を知ったまひるは無言のままうつむいている。
(この様子では、また繰り返し同じようなことを
魔窟堂は未だ皆に伝えきっていないことがある。
―――アインのタカさん殺害の件と、遙殺害の件
形はどうあれ、事実は事実。
素敵医師が絡んだ遙の件はともかく、自らの意思で殺害したタカさんの件を伝えれば、グループのアインに対する心象は更に悪くなる。
魔窟堂はどうしてもアインを仲間として迎えたかった。
だが、一方でまた同じような悲劇を繰り返してしまうんじゃないかという、
アインに対する恐れも芽生えているのも自覚したくはなかったが事実だった。
魔窟堂は自分のそんな考えを慌てて頭から消して、タカさんのことを話すには
まひるがそれに触れてからだと考え、沈黙を守っていた。
「それで、俺達はこれからナイチ…、双葉とアインに対してどうすればいいんだ?」
と、ランスは自らの考えを決めた上で紗霧に意見を求めた。
紗霧はそれを見透かしたように、彼等に対して言った。
「皆さんは朽木双葉さんとアインさんを我々の同士として加えたいですか?」
紗霧はランスの方を向き、彼もそれに答えた。
「双葉を加えるのは反対だ。いうか、ああいう奴は俺様のハイパー兵器で何とかしてやらんと、仲間に加えてなんて多分、言わないだろーな」
「ひねくれてますね」と、割とひねくれている紗霧が返す。
「それにあいつがアリスを殺したかも知れんのだ、それで俺の気がおさまるか」
「…………」
半ば吐き捨てるように言ったランスを見て、紗霧は少し考えて言った。
「参加者の中には首輪の盗聴器と発信機の両方を所持していた者がいたのをご存知ですか?」
「なんだと?」
海原琢麿呂の事である。
もっとも、彼が所持していたのは盗聴器だけであり、発信機は紗霧がずっと所持しているのだが。
「その人はもう亡くなってますが、どうやらそれらを行使して次々と参加者に手をかけて行ったみたいなんです」
「首輪にそんな仕掛けがあったのか?」
「ええ」
紗霧は貴方も気づいてなかったんですかと、言いたい気持ちをこらえて返事した。
「・・・・・・・」
ランスは思い出した。
今日の昼頃になるまで、自分の首輪が解除されてなかったことに。
それに気づく事で、あの時は大して気にも留めてなかったが、運営者が簡単に自分らを見つけられた理由が彼にも解ったのだった。
(グレンの奴……)
とランスは半ば呆れながら、殺した彼に毒づいた。
(ハイパー兵器って……)
と、続けて紗霧はその妙な単語に対して疑問をぶつけようとするが、悪い予感が頭をよぎり、とっさに次の質問をした。
「…アインさんはどう思います?」
ランスはすぐに答えた。
「俺様一人なら加えてやるところだが……無理に加えるのはやめた方がいいんじゃないか?」
ランスは仮にも一国の王である。
美人の武将なら多少性格に難があっても、配下に加えていったが、他の女の部下を殺害していくなら話は別である。
今回の場合は、アインによって他の女の子に危害を加えられるんじゃないかという危険を明確に提示されたが故の回答だった。
紗霧がアインと遭遇していた事を話していれば、別の回答が返ってきただろうが。
(話聞く限り、俺様のハイパー兵器をぶちこむ前にやりかねないからなぁ…)
と思いながらランスは自分の結論を言った。
「敵として現われたら、捕獲できるなら戦う、できないなら逃げるでどうだ?」
「そうですか…。 両者ともそれが出来ない場合は戦闘不能になるまで戦うで。
いいですね?」
紗霧のその問いにランスはうなづいたのだった。
紗霧は次は恭也の方を向いた。
「朽木さんとアインさん。 出来るなら両方とも加えたいと思う」
「…………」
「でも、説得してもだめだったら…」
と恭也はランスの方を見た。
「お前も俺の意見に賛成か?」
その問いに恭也は僅かに首を下げた。
「次は…」
紗霧は次にユリーシャの方を向いた。
「………」
ユリーシャは何かを思い出してそれを口にしようとしていたが、それは紗霧が求める答えと関係がなかったので、自分の率直な気持ちを口にした。
「私は双葉さんも……アインさんも怖い方だと思います…」
「……」
「ですが……皆さんがどうしてもとおっしゃるなら……」
と、ユリーシャはランスを見つめる。
「…」
紗霧は今度は魔窟堂の方を向いた。
ちなみに、ユリーシャが思い出したこととは、ゲーム開始前に自分に話しかけてきた少年のことである。
少年は自己紹介をしながら、ユリーシャを元気付けようとしていたが、精神的に余裕がなかったユリーシャはまともに取り合わずにさっさと教室を出たのだった。
その少年の名は星川翼と言った。
「魔窟堂さんも双方説得、でなければランスさんと同じで宜しいですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔窟堂は悩んでいた、自分は結局、アインと双葉にとって最悪に近い状況になるのをただ手をこまねいて見ていただけなのかと。
最悪、不幸な自分に陶酔して、努力を無意識に怠っていたのではないかと。
だが、それでも自分に出来ることを最大限努力してするしかないと言い聞かせて、紗霧に答えを返した。
「ああ……構わんよ…」
(もし、再び遭えたなら己の全てをぶつけて諭すのみじゃ!!)
と、魔窟堂は心の中で叫んだ。
「まひるさんは……」
「あたし……アインさんがしたことには、すごく腹が立ってる」
「!! ま、まひる殿」
覚悟していたとはいえ、その言葉に魔窟堂は少なからずショックを受ける。
紗霧を除く、他の三人は何事かと顔を見合わせた。
「…アインさんは加えない方針ですか?」
「あたしはアインさんも双葉さんも受け入れたいよ」
「……?」
「でもさ、それはものすごく難しいことなんでしょ?」
「……当然ですね」
まひるは手を自分の髪の結び目にやってから、言葉を続けた。
「それでも……あたしはアインさんに言いたいことがたくさんあるから、
それを目指したいよ」
と、言いつつ空を見上げるまひるに対して紗霧は胸の内を表に出さないように言った。
「まさか……今すぐあの三白眼ロボを追って東の森に行くおつもりですか?」
魔窟堂がさっき上空を見上げている時に見つけた、飛行型智機。
尋常ではない視力を誇る魔窟堂だから見分けがついた。
だが、それを見つけたからといって紗霧の当面の行動に変更はない。
運営側が準備を整えている内に、ここにいる全員で休憩を取りたいのが本音だからだ。
「あたし一人ならそうしてると思う。 でも、みんながいるから…」
まひるは靴で土をいじりながら、はるか昔の友人だった軍人数人を思い出しながら言った。
「結局、貴女は何が言いたいんですか?」
苛々した様子で紗霧は言った。
「あたしはランスの意見に賛成。それでいま、アインさんと双葉さんにあたしがしてやれることってないかなって考えてるんだ」
と、申し訳無さそうに笑いながら言うまひる。
「無いですね」
と、きっぱり紗霧は言った。
それに魔窟堂らは反応するが、正直言って魔窟堂とまひる以外の者にはそんな余裕は無い。
最速でも、午後六時の放送が終わってからでないと動けそうにない。
「そっか…やっぱり悔しいよね」
まひるは落胆した表情を見せず、笑顔で紗霧に言葉を返した。
「悔しいって何がですか……? アインさんのことですか?」
「紗霧さんは…ランスの意見に賛成でしょ?」
「……」
まひるの問いに紗霧は黙ってうなずく。
「このまま……言いたい事を言えずに会えなくなるなんて嫌だなって思っただけ」
「・・・・・・・・・。 私に何をしてほしいんです」
怒りも喜びも無い、淡々とした紗霧の問いにまひるはこう返した。
「紗霧さんがいなかったら、あたしはきっと力を出し切れないまま、あのメガネロボ軍団にやられてたと思う」
「………」
「あたし、頭良くないけど、そっちの方でもがんばるから…」
「・・・・・・・・・・・」
「…何か、あの二人を止めるのに、あたしがしてやれることって本当にない?」
「……」
紗霧は考えた。そして…
「申し訳ありませんが、まひるさんには出来ることはありません。 ですが…」
と、言いつつ魔窟堂の方へ顔を向ける。
「むっ…わしの出番か!!」
と、嬉々して魔窟堂は声を上げる。
「勘違いしないでください。 魔窟堂さんにはその『出来うる限りの』ことをしていただきます」
「気をつけてね…じっちゃん…」
と言って、しまったという感じでまひるは手に口を当てた。
つい、昔の知人のことを思い出して口に出してしまったからだ。
魔窟堂はそれに軽い違和感を覚えたものの、目を細めてやさしく語りかけた。
「そう、呼ばれるのも遠い昔のような気がするの…」
と、まひるの頭に手を置いた。
「くれぐれも東の森の深部には入らないで下さいね」
と、紗霧は釘を刺すのを忘れない。
「真のオタクを嘗めるでない」
と、魔窟堂は手に持った鍵束を懐にしまいこんで言った。
(充分嘗められそうな対象なんですが…)と、隠れオタクの紗霧が心中で毒づく。
「さっさと行け、じじい」
と横柄に空気に蹴りを入れながらランスは魔窟堂に催促する。
「では行ってくるぞ!!」
と魔窟堂は自分に気合を入れて、加速装置を発動させて、東の森・東部を目指して走り去ったのだった。
* * *
「まひるさん、これから嫌というほど働いて頂きますからね」
「やさしくしてよー」
紗霧は金属バットを取り出し、そんなまひるの頭を小突いた。
恭也はそんな二人を暖かく見守っている。
それとは対照的にランスとユリーシャはやや暗い雰囲気で思索していた。
(運営者の連中なら、秋穂やアリスを殺した奴が誰か知ってるはず)
(双葉さんと……アインさん……)
ランスはやや暗い炎をたぎらせ、ユリーシャは漠然とした不安を抱えて歩く。
紗霧は痛さに頭を抱えたまひるを余所に、チラっとユリーシャの方を見た。
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識、双葉・アインとは会いたくない】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保】
【所持品:対人レーダー、レーザーガン、薬品数種類、謎のペン8本
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
グループが危険に晒されるなら、応戦する
島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】
【グループ:魔窟堂野武彦(元№12)】
【現在位置:西の森→東の森:東部】
【スタンス:運営者殲滅、ある施設の調査、森のある二ヶ所に火を炊く】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)
ヘッドフォンステレオ、マジカルピュアソング、謎のペン8本】
【能力:気合で背景を変えれる、????、???】
【備考:特になし】
投下終了です。
明日、本スレに投下します。次は魔窟堂が見つけた隠し拠点の話です。
かなり初めの方の話にあった伏線を消化してます。プランナーも少し登場します。
次に東の森の決戦を一気に行きます。
幕間にヤク中前の素敵医師と、サイスと出会う前のアインの過去話が入ります。
まひるや紗霧のそれとは方向性がかなり違いますが。
昨日、隠し拠点のアイデアについてまとまったので早ければ今日あたりにも
ここに作品として投下します。
智機の過去話については一部を除いて、東の森の戦闘が片付いてからになると思いますので。
>>87
なるほど。
では、その魔窟堂〜東の森決戦の間を埋める形で残されたチームの掛け合いを描く事にします。
魔窟堂がどのくらいで戻ってくるか、どうなるかで若干変わるので、次の話を見てからいきますね。
智機での東西南北の鍵関連や手帳関連は、プランナーとのやり取りで絡める予定です。
此方は、時間軸のこともあるので決戦後にいく予定です。
今作品、本スレ投下終了です。
次は予定通り、魔窟堂の話です。
作中時刻で17:15ごろ地震がおきます。
日中から夕方にかけて本スレに投下予定です。
>>88
了解しました
『野武彦がゆく』投下終了です。
小ネタ入れれば良かったかな?
>>88
魔窟堂は5:30過ぎに戻って来れるよう調整しました。
次は東の森の決戦を4・5回に分けて一気に最後まで書く予定です。
その間良ければ、他のキャラのパートお任せします。
早ければ今日の夜以降に
>>90
お疲れさまです。
大分伏線が生み出されて絡んで来ましたね。
質問を何点か。
>ランスを救出した際、応急処置ができる場所を探して見つけた鍵が掛かっていた妙な建物の事を。
これは本編になかった今作での付け足し部分ですよね。
確認のために位置は東の森内でいいでしょうか?
>ゲームの舞台である『島』から異界へと通じる神々が創った空間ゲートはも含めて全部で四ヶ所。
作品を読んだ感じだと東西南北四つの建物全てがコレではなく、
魔窟堂が入った東の森内(?)の建物がコレであるという認識でいいでしょうか?
全部か全部でないかで智機話(メール欄)があるかどうか変わってくるので。
ぱっと思いついた構想では残りの一つはプランナー、一つは智機(ただし使用できない、プランナーとの連絡用)、最後はルドラサウムが管理してるというネタがあります。
お気づきになると思いますが、明日より三日ほど執筆が無理な環境になります。
その間の時間埋めにもなる掛け合い話は五日後ほどに投下予定です。
内、管理というより監視という言い方が正しいのもありますが……
>>91
>ランスを救出した際、応急処置ができる場所を探して見つけた鍵が掛かっていた妙な建物の事を。
はい。 それでOKです。
>ゲームの舞台である『島』から異界へと通じる神々が創った空間ゲートはも含めて全部で四ヶ所。
はい。 建物全部じゃなくて構いません。ゲートの種類もそれでOKです。
こちらはゲートの種類をルドラサウム用、プランナー用、智機・透子用、一部の建物用の四つで
考えてました。
施設はどんな建物でも構いません。
それと以前、ザドゥが言った「うまく利用すれば、どの参加者でも優勝できる可能性を
秘めていたのにか」の言葉の意味は、“そこに訪れることができた参加者はその時に
自分が望む効力を持つアイテムを一つ召喚できる”という施設の用途を知っていたが
故の発言だったというオチを考えてます。
その場合、当然効力には限度がありますし、参加者に相当するキャラの召喚はできないように調整されてます。
ちなみに施設一つにつき一回しか利用できません。
>執筆・投下期間
了解しました。
その間にこちらは東の森の戦いを決着直前まで進める予定です。
新作……遅れてしまってます。
今日の夕方あたりに一本ここに投下する予定です。
すみません。
事後処理(次回参加とか等)で此方も遅れてます。
ふぅ……やっと落ち着けました、スミマセン。
月曜辺りに投下予定です。
何度か書いてみたのですが、地震前で一度区切って、地震待ち。
その後、様子見て投下の二部構成予定にします。
前半部分、明日か明後日には投下できたらいいなぁ……
こちらも長らく留守にしてすいません。
今日の深夜には一本投下できそうです。
中々日々が忙しく難航してます、大変申し訳ない。
日曜を使って仕上げれたら……
かなり間があいてしまいましたが、今から本スレに投下します。
投下完了。
時間が空いた割には今回はほとんど進んでなくてすいません。
次はある勝負が決着するくらい先に進めます。
>>99
こちらも返事さえ返せず申し訳ないです。
ただいま執筆中。
作品が分化しそうです。
内ひとつを明日の午前12時以降に投下する予定です。
残りは余裕があれば明日の午後7時以降にここに一旦投下します。
どうもすみません。
先日は仕上げきれませんでした。
残りを土曜の夜を使って仕上げ、日曜に上げるよう善処します。
遅ればせながら、一日遅れてただいま完成しました。
一日遅れてしまいましたが、見直し含め、明日、必ず投下できます。
仕事先からです。
終電が……
お疲れ様です。
無理せずいきましょう。
こっちも早く投下せねば……
缶詰状態から解放されて帰宅っす。
意識切れなければ今夜には……
皆さん執筆お疲れ様です。
以前第二部〜第三部当たりでグレン&まりなや
アインVS遙などを書かせて頂いとりました者です。
ここ数ヶ月ほど葱板から離れていて、何気なく見てみてこのスレの
存在に今日気付きました。今から最初から読んでみます。
多忙な中での執筆、大変かと思いますが頑張って下さい。
恥ずかしながらまた帰ってきました。
諸事情でまた長期間更新できなくてすみません。
今週中に一.二本書けそうな感じです。
本スレで書くことを希望されてる方がいらっしゃるそうですが、
もしここを見ておられるのなら、一度ご連絡をお願いします。
こちらが長期間離れていたこともあるので、もし宜しければその件に関してはそちらの希望通りの展開に進めて
もらっても構いませんので。
>>108
色々とごめんなさい。
今度こそ、この流れで完結させねば。
あぁ、どうも同じくすみません。
ちなみに向こうでID変わってるのは後者が職場からだったから(バキューン
最近の私生活はそんな流れです。
おかげで書くのが凄いスローペース。
一応基盤がほぼ出来てるのは幾つかあるんですが、
続きなのが宣言していた狭霧たちのやり取り。
それと途中の構想を書き上げたもの幾つか。
そして(あくまで私が考えた構想での)EDとEPって感じです。
良ければ、それらだけ最後に投下しようかなぁと思っていた次第です。
一生懸命、最後までの道程色々と考えてみたんですが、どれもこれも分量がめちゃくちゃ多くなりそうなんですよね(;´Д`)
ですが書き手が集りそうですし、頑張れる所まで頑張ってみます。
途中シーンモノ、EDとEPはその内、「こんな結末」っていうアナザー的なものとしてあげようと思います。
どうもです。
ようやく作品が一本書きあがりました。
今回のは前編で、金曜日あたりに後編を投下できると思います。
展開はメール欄で。
こっちの考えた素敵医師とアインとの決着はすごく救いようのない内容なので
他の人に任せたほうがいいかもしれない。もしよければ内容を教えます。
今後の展開というかアイデアは他のメール欄にも書いてます。
では試験投下します。
(二日目 PM4:35 楡の木付近)
――――やはり、聞き入れてもらえる筈が無かったのだ。
彼はうつむき、洞の穴に背を向けた。
仲間達に助言を求め続けたが、返答はほぼ一緒だった。
結界の支配下からはずされている彼はさっき投げかけられた言葉を思い出し、考えた。
『あんたは……あんたは…やっぱり、あいつとは違う…………出てって!』
この場から逃げようという提案に対し、強張った声で彼女からこう返されたのも無理はなかった。
主の性格と立場を考えるならば、なおさら。
たとえ、主や自分達の力ではこの戦場にいる他の誰にも勝てないだろうという事実を告げたとしても。
罵倒された事に心を痛める暇さえ彼にはない。
それでも彼は最善を尽くせる方法を残り少ない時間で考えなければならなかった。
時間が経てば経つほど、多くの仲間も失っていく中で。
最善が何であるのかさえ、それが出来るかどうか解らなくても。
彼はひたすら考え続けた。
(二日目 PM4:40 楡の木広場)
タタタタタタタタタタッ……と、素敵医師の持つ自動小銃の軽やかな音が聞こえた。
地面と樹木に次々と穴を穿ったが、当の標的のザドゥにはかすりもしなかった。
「(や〜っぱ…射撃はセンセにはむかんき)」
素敵医師はそう考えながらも、残弾を意識しながらザドゥを見失わないよう、間合いを取り続けた。
ダァンッ!!と芹沢の銃弾も発射されたが、それも大きく外れた。
次にしびれを切らしたように芹沢は猛然とザドゥに向けてダッシュしようとする。
「ま、待つがよ!」
素敵医師の呼びかけに彼女は足を止め、とっさに距離を置く。
ザドゥも少し下がり、小さく舌打ちした。
「ひへ、ひへへひひ……」
超常能力であっても、火炎を伴わない物理攻撃のみなら警戒はしなかっただろう。
現にアインから至近距離のショットガンの射撃を受けても、短期間で蘇生するくらいだ。
芹沢もそれを受けても即死はしないように変化している。
「きひひひひひひひひひひひひひ……」
素敵医師は鞄から素早く何かを取り出し、ザドゥに向けて投擲した。
「!」
バンッ!と音がして、放たれた3本の試験管が爆発する。
ザドゥはそれをマントでガードしながら、それでも一定の距離を保った。
「………………」
素敵医師にはザドゥの狙いに気づいていた。
ゲーム開始直前にザドゥがタイガージョーに使用した奥義『死光掌』。
それを自分と芹沢に使用するつもりだと。
素敵医師は気功も多少は扱える。
それゆえか死光掌は自分らにとってやばい代物だと直感で悟っていた。
「…?」
足早に移動する彼の顔の横に白い小さな物体が寄ってきた。
空を舞っていた双葉の式神だ。
式神の目がキョロっとザドゥのいる方向に向き、次に素敵医師の方に向いて双葉の声で語りかけた。
『どういうことよ?』
「ふふ双葉の嬢ちゃん……いい今、取り込み中がよ!」
ザドゥが間合いを詰めてきた。
しばし無言で式神は素敵医師とザドゥを眺めて、少ししてから言った。
『まあ……いいわ…。 あんたの問題はあんた達で片付けて。
あたしはアイン相手で手一杯だから』
「……っ!? あああ……わかったが……わかったがよ…きへへへ…」
彼の本音はアインをここに連れてきた上で、ザドゥとの戦いに加勢してほしかったが、言いくるめる余裕はなかった。
式神はふいにザドゥの方を向いた。
「「…………」」
式神はしばし黙ったまま式神はザドゥを見つめていたが、やがてそれ以上取り合わずに楡の木に向けて飛び去っていった。
●
(二日目 PM4:40 楡の木の洞)
双葉はおなかを片手で押さえながら、聞いていた。
小さなささやくような幼い少女のつぶやきを聴き続けていた。
『このおねえちゃん、首輪してないね…』
『それがどうかしたの?』
『鬼作おじさんが言ってた、助けにきてくれた人かもしれないよ?』
『信用できない』
『でもぉ……』
双葉は一人で会話する獣耳の少女しおりとアインを観察していた。
「(あの子、生き残ってたのね)」
先日の昼の放送は聞けなかったが、双葉はしおりとさおりの事を覚えていた。
校舎内で、体操服姿の少女に宥められていた双子の少女は嫌でも目立つ。
自分だけでは生き残るのは難しいかも知れない。
雰囲気からして何らかの力を持っているのは想像に難くない。
しおりはあらゆる面で異様で、己の身の危険も感じていたが、それでも素敵医師らと比べればまだマシに思えた。
うまく立ち回れば、協力し合えるかもしれないと思った。
片方の姉妹を失っている幼い少女を利用するという罪悪感を抑えながら、アインへの攻撃を再開すべく、術の詠唱を始めた。
手で押さえていた、おなかがキリリと痛んだ。
●
「ぬ!?」
カカカカカカッ……と放たれたメス数本がマントを木に縫い付けた。
彼の前方には『虎徹』が転がっている。
素敵医師は芹沢が虎徹を拾おうするのを妨害しようとした一瞬の隙を突いたのだ。
「もらったがよ!ザドゥの大将!!」
歓喜の入り混じった声色で素敵医師は巨大メスを持って踊りかかり、木ごと
彼のマントを音もなく切り裂いた。
綺麗にスライスされた木片が地に落ち、マントの破片が素敵医師の前方を漂った。
「ひひひ…へぇきゃっきゃーーーーーー……?」
切り裂いたのはマントの一部分だけだった。
そして、ザドゥは素敵医師の右後方に立っていた。
「いいいいいいいつの間に……かかかわり……」
「格闘にかけては俺の蔵書は世界一だ!」
「そ…そそそ…それはちち…ぐばきゃーーーーーーー!!」
ザドゥの渾身のドロップキックが非難しようとし悲鳴を挙げた素敵医師を頭部を直撃し、彼をふっとばし、轟音を立てて木に衝突させた。
「(それは格闘違う、がよ……)」
めきめきと木が倒れる音がした。
ザドゥはふん…と言い、次に芹沢の方を向き、気を充実させた。
芹沢の手には既に虎徹が握られている。
「来い!カモミール!!」
ケタケタと笑いながら、上段に振りかぶり刃を下ろす。
ザドゥはかろうじて交わし、技を放った。
『死光掌!』
白銀色の気を纏った拳が芹沢を射抜いた。
反動はほとんど無かった。
「か、カモミール…」
すぐに体勢を整えた素敵医師はこれを見て、動揺する。
ザドゥと芹沢。
しばしの沈黙。
「これがどうかしたの?」
嘲りを含めた声だった。
同時に芹沢の斬撃がザドゥを襲った。
血がわずかに宙を舞った。
ザドゥの左腕がかすかに切れていた。
「どーやら、失敗したようがね…けきゃぎゃぎゃ」
素敵医師は銃を構え、芹沢は銃剣を構える。
奥義をくらった芹沢には表面上変化はない。
ザドゥは怪我には目をくれずに、間合いを取り始めた。
死光掌を使い続けるために。
●
(二日目 PM4:50 楡の木広場)
魔剣の斬撃が白銀の人型式神を切り裂く。
切った箇所から青白い燐光が立ち上るが、何も無かったかのように徒歩ながらも高速度かつ威力のある物理法則を無視したような体当たり攻撃を続けた。
アインは身体の節々に痛みを感じながらも、目の前にいる五体の式神を見据えた。
何度も切りつけたが、まだ一体も倒しきれていない。
通り抜けようにも散発的に幻術や木々による、攻撃が飛んでくるので、気の解放はし辛いのだ。
《確実に消耗しとるはずじゃ》
カオスのアドバイスを聞き流しながら、アインは少し離れたところにある者を見て目を見張った。
しおりが首を押さえながら、立ち上がってきたのだ。
「(早すぎる)」
式神の妨害が入って、完全に首をへし折るまでは行かなかったが、それ相応のダメージを受けて短時間で立ち上がってくるはずがないとアインは判断していたのだ。
「(わたしの認識もまだ、甘いわね)」
そう自嘲するアインを尻目に式神は、一斉に後ろ向きでしおりの傍に移動した。
「……?」
しおりは怪人の登場にとまどう。
そして、式神はたどたどしくもこう告げた。
『キョウリョク、シヨウ』
そして式神たちは再びアインへの攻撃を続ける。
アインは思わずしまったと毒づいた。
しおりはしばし呆然としていたが、一回うなずいてアインの方へ駆けた。
アインはとっさに魔剣を通じて気を解放させ、応戦する。
その時、カオスはしおりを見て、思った。
《……使徒…か。 いや……魔人か?》
刀と剣とが激しく打ち合った。
《それにしては…強すぎると感じるのは一体?》
↓
【アイン(元№23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ少々、肉体・精神疲労(小)】
【しおり(№28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害(ただし慎重に)、とりあえず式神と共闘、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、】
【所持品:日本刀】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、しおり人格が主導
首に多少のダメージ】
【朽木双葉(№16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘、???】
【所持品:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
兵器化の乱用は肉体にダメージ、
自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
楡の木を中心に結界を発動、強化された式神五体を使役、
(それぞれダメージ中)】
【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:双葉の守護、???】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【能力制限:幻術と植物との交信】
【備考:特になし】
【追記:アインVSしおり&双葉。 離れたところで、ザドゥVS素敵医師&カモミール芹沢。
楡の木のすぐ近くで双葉がアインに攻撃開始。
【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス8本、注射器数十本・薬品多数
小型自動小銃(弾数無数)、謎の黒い小型機械
カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ、ヘルメット】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)】
【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;素敵医師の指示次第。 ザドゥとの戦闘を楽しむ】
【所持品:虎徹銃身(弾数無数、二発装填可)、虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:薬物により身体能力上昇、、左腕硬質化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、やや体力回復】
【備考:重度の麻薬中毒により正常な判断力無し。薬物の影響により腹部損傷】
【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:マント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(小)】
【備考:なし】
投下終了。
何事もなければ午後8時くらいに本スレに投下したいと思います。
こっちもEDの構想はある程度浮かんでいるのですが、これも暗いし。
ではまた明日。
どもです、向こうのスレの133でカキコした者です。
自分も若干停止前の展開からアインVS双葉で書き始めていましたが、
こちらの展開で良いと思います。
ただ、個人的意見としてはここで各キャラの掘り下げを更に深めるよりかは
一気に状況を展開させた方が良いかと考えます。
これまでの中断の多くも、物語状況の停滞から多く起こっているようですし。
本スレ投下します。
投下終了。
>>121
こちらもどうもです。
>これまでの中断の多くも、物語状況の停滞から多く起こっているようですし。
おっしゃる通りです。
なので、予定にあった智機の過去話の前倒しを変更して
一気にアインVS素敵医師の決着まで書きあげていこうと思います。
アイン単独で〜の流れまでを今から書いて、明日辺りに投下。
しおりVS双葉話と前述にあった鬱結末までの話をここに投下して
流れしだいで本スレに投下したいと思います。
何しろまたややこしい展開になるので。
間に知佳の2・3レスくらいの作品が入る予定ですが、それは決着話の後で書きます。
書き始めの作品ですが、折角ですのでもしよければ書いていた作品をここに投下していただけないでしょうか?
興味があります。途中で終ってもいいので。
どうも、今日は昨日よりも長引きました。
>>121
どうも。これから頑張ってきましょう。
>>123
お疲れ様です。
智機の過去話も楽しみにしてます。
一旦落ち着くまで頑張って下さい。
此方の方は、今手直しを加えてる最中の狭霧チームを明日明後日には此方へ投下。
それが問題なく済めば、前にあった構想の智機とプランナーの接見をそのまま描こうかと。
それと、とある参加人氏だけに負担をかけさせてしまっているのも停滞の原因の一つでもあると思います、すみません。
もしよければ、知佳と透子のネタがあるので、此方で受け持とうかと思うのですが……。
>>124
了解しました。
先に知佳と透子の話お任せします。
>>124
こちらこそよろしくお願いします。
自分も何処か受け持てる所を考えなくては。
>>123
恐縮です。
それでは未完成の拙文ですがこちらに載せてみます。
前作品の最後に現れた式神の役割が判らなかったので
その辺は完全に憶測で進めています。ご了承ください。
……それは、一言で言えば「人形」だった。
身の丈六尺程度の人の形を持った、真っ白なのっぺりとした六体の怪物。
彼らはアインを包囲するかのように降り立ち、そのまま円陣を崩さずに沈黙する。
「な、何これ……?」
「………」
その包囲の中に共に置かれる形になったしおりも、その異様な光景に動けずにいた。
同様にアインもしおりを手にかけようとした動きを解き、様子を伺う。
「(……カオス、何か分かる?)」
「(フン……こりゃ『使い魔』みたいなモンじゃな。魔法使いとかの類が
自分の手を汚さんでいいように操る手下って所じゃ)」
「(強さは?)」
「(普通の人間が相手なら強敵じゃろうが……ま、ワシなら楽勝よ。一体一秒、六体で六秒……どうする?)」
アインの問いにカオスは軽く答える。
ぱか。
その時、人形の頭に当たる部分に空洞が生まれた。
「「「「「「……会いたかったよ、本当に」」」」」」
六体の口が同時に動き、全ての方向から響く声。
その口調はあくまで静かだが、その下の激情ははっきりと感じられる。
「朽木双葉ね」
それに対し、あくまで無感情に答えるアイン。
『アンタは星川を殺した』
「………」
『アイツは、ノリは軽いし、軟派なヤツだったけど……このゲームを
ぶっ壊そうと真剣に考えて、動いてた』
「………」
『それを、アンタは何も聞かずに殺した!』
次第に感情が溢れてくる。
『……だから、アタシはアンタを殺す。ゲームをぶっ壊すのはそれからよ』
「………だから?」
アインは無造作に答えた。
「ッ!」
「彼がエーリヒを殺したのは事実よ。それもまた、動かない事だわ」
怒りのあまり息を飲む気配。対してアインは全く表情を崩さない。
数秒の沈黙、それを破ったのは震える双葉の声だった。
『……安心したよ、これで本当に躊躇無くアンタを殺せる!』
「貴方では私は倒せないわ」
『ハッ、舐めてくれんじゃないさ!』
挑発的とも言えるアインの言葉に、双葉は激昂して答えた。
同時に周囲の式神がぐにゃりと歪む。のっぺりとした頭部に凹凸が生まれ、
六尺あった丈は急速に縮まり、手足がほそくなってゆく。
つるんとした肌は次第に服となり、皮膚となり、色を纏う。
そして怪物であった姿は人影となり、人影は……
「!?」
初めてアインの顔に動揺が浮かぶ。
桃色の髪、穏やかな表情。細い手足に透き通るような肌。
―――式神たちは、涼宮遙の姿に変貌していた。
『あの男から聞いたよ、アンタの事、色々とね……』
「……それででた行動がこれ?」
『今の表情だけで充分答えは出たよ。効果ありってね』
「……………」
アインが腰を落とし、足に力を込める。
『さあ、それじゃ……!』
『『『『『いきますね、アインさん』』』』』
五人の遙は同時に口を開き、アインに飛びかかった。
ほぼ同じタイミングで地面を蹴り、真正面に突っ込むアイン。
『!?』
そのまま正面にいた遙の横を高速ですり抜け、振り向く事無く森の茂みへと飛び込む。
『アハハ♥』
『逃がしませんよ!』
『大人しくしてください!』
『アインさんっ!』
遙の姿の式神……コピー遙とでも言うべきか。彼女達も口々に言葉を発しつつ
アインの背を追う。
そして、後に残されたのは……
「……ちょ、ちょっと待って……!」
突然周囲に誰もいなくなり、しおりははたと我に返った。
慌てて更にその後を追おうとする。しかし、
『邪魔はさせないよ』
「ッ!」
背後の声に、しおりはとっさに振り向いた。
果たして、まだそこに一体白い影が立っていた。
先ほどアインを追ったのが五体……その残り一体である。
『アイツを殺すのはアタシなんだ、アンタにはこいつの相手をしてもらう』
その言葉を合図に、また式神がぐにゃりと歪み―――
「マ……!?」
式神は、アズライトの姿となっていた。
藪を越え、枝をくぐり、木陰から木陰へと移る。
「(全く、つくづくお嬢ちゃんは不器用じゃのう)」
動きを止める事無く走るアインの手の中で、カオスは毒づいた。
「(何がいいたいの?)」
「(さっきのアレ、わざとあの子の怒りを煽ったじゃろ?)」
「(……………)」
アインは答えない。
「(お嬢ちゃん、わざと『憎い仇』を演じようとしとる)」
「(……………)」
「(安っぽい罪悪感は逆効果じゃぞ?)」
「(そんなつもりは無……)フッ!」
カオスに反論しようとした途中でアインは身体を捻り横に飛んだ。
瞬間、アインが一秒後にいたであろう位置を横切る遙の爪。
良く見れば、その指先は鉤爪のように鋭く尖っている。
『アインさん』
『アインさん♪』
『アインさ〜ん』
更に次々とアインの周囲に降り立つコピー遙。
その中の一人がトコトコとアインの前に進み出る。
『アインさん……お願い』
アインは動かない。爪を振り上げる遙。
『ここで』
動かない。振り上げが頂点に達する。
『死んで』
降ろされる爪。
『下さ―――』
動かな―――
『ガッ!?』
獣のような叫び。
「………」
アインの手の先、無造作に上げられたカオスの切っ先が遙の胸を貫いていた。
「私の腕の中にあの時の感触がある限り……どこまで精工でも貴方達は偽者よ」
静かに宣告し、剣を引き抜くアイン。
『ア……!』
遙は苦悶の声を上げるが、それが止む前にその全身は青い炎に包まれ、燃え尽きる。
使役者から授かった命を失った式神の最後の姿である。
ざわっ
残り四体の遙の気配が変わる。全員が爪を構え、威嚇するように包囲を狭めようとする。
が、アインの速度はその反応を遥かに上回っていた。
書いていたのはここまでです。この後式神星川が出撃し、
アイン「双葉は私に復讐しようとしている。それなら……」
カオス「負けは無い、か。全く……可愛げの無い嬢ちゃんじゃわい」
と、アインの前に姿を現す事を確信して締め、その次の対双葉決着編に
持ってゆく方向で考えていました。
駄文失礼。
おつかれさまです。
手段を選ばない双葉の必死さと、不器用なアインの描写が良かったです。
面白かったです。
ただいま、素敵医師の過去シーンを書いているけど、とても難しい。
大昔の彼が出てくるわけでもないのに。
でも、深夜に一本あげれそうです。
>>126
お疲れ様です。
これも戦闘シーンが格好良くていいですね。
ちょっと所要で昨日の夜が塞がってしまったので
早ければ今深夜。
遅ければ今日の夜。
くらいに此方へ投下します。
ここは下水道。
環境の劣悪さに顔をしかめながら、男は鞄の中身を確認する。
薬の数は残り少なかった。 煙草もきらした様だ。
彼はかつて自分を追放した組織の構成員に追われている。
また彼が麻薬の密売を組織に無断で始めたからだ。
その追っ手に麻薬を栽培していた隠れ家を留守中に発見されたのがまずかった。
地上には多くの追っ手が待ち構えている上、ここも捜索されているだろう。
ボディガードのデカオともはぐれたままなのに、これは面倒だと思った。
それに加え最近では低品質の麻薬しか使用していない。
これでは自分に移植してある変性細胞がいつ暴走しだすか解らない。
そういえば最近、気分も良くないような気がする。
痛覚などとっくの昔に消し去った筈なのにだ。
とりあえず男は自らの躰を維持する方法を考えた。
―――自らを異形化させる
これは駄目だ。
かつて、面白半分にシマント川に実験段階の薬品を垂れ流し、無数の人間を怪物化させてみたことがあったが、男にして見ればそれほど面白くはなかった。
ただの獣に興味は無い。
勿論、その実験薬を自らに使用するつもりなどなかった。
次に男はぼんやりとしながら制御法の手がかりを考え始めた。
移植している細胞を新しいのに取り替える。
『気力奪い』を使って、他人の気を自分の躰の制御にあてる。
脳細胞の一部を切除・または特定の薬品を注入する。
神や霊を自らに降ろして、その力に期待する。
海外に行って、わざと未知の病気に感染してみる。
オオアナにいって放射能に汚染されてみる。
噂にあったナントカという博士の開発した次元ドアとやらを利用してみる。
ろくでもない方法を次々と頭に思い浮かべながらも、男は仕方なく鞄から薬を取り出し、注入する準備を始めた。
男がそれらの方法を取るには、もう時間と技量が無さ過ぎたからだ。
断念せざるを得なかった。
男は薬を体内に注入し、恍惚とした表情のまま自らの躰を見回してみた。
全身火傷の包帯だらけで、変形した頭部。
白衣と貞操帯を身に付け、異臭を放ち続けている。
もっとも男は自分が不潔で悪趣味などとは思ってないのだが。
表面上、いつもと変化は無いように見える。
だが、男には自らの肉体の劣化が激しくなっているのに気づいていた。
―――まもなく朽ち果てて死ぬ
男に死の実感は薄かった。
だが、未練はある。
もっと開発した薬を使い続けたい。
新たな快楽を得られ続けられるのもある。
それ以上に新たな薬を作り続け、使用する行為そのものが男にとって重要だった。
●
投与してから幾分か時間が過ぎた。
もう薬はほとんど残っていない。
地上に出るしかない、と男は思った。
また殺されるかもしれないが、運がよければまた蘇生して、隙を見て薬物を奪えるかもしれない。
時間が無い、なぜなら男の頭部が脈動を始めたからだ。
梯子を目指しながら、男はこれまでの研究のことを思い出し……否、思い出せていた。
●
彼が子供の頃に故郷の海岸で出会った、屈強な外国人。
ある亡国の格闘家でもあり、薬理学者でもあったその男は不老不死を求めていた。
彼はその学者の思想の一部に同調し、医者になることを志した。
出会って数年後にその学者は何故か急速に老化して死去したが、一応弟子でもあった彼は研究成果である『変性ガン細胞のサンプル』を手にしていた。
自分と学者の成果を世界に役立てたいと強く望むようになった彼は、『それ』の欠陥部分を補うべく研究を始めた。
実験対象は自分だけにするつもりだった。
亡くなった学者は拉致を望んでいた節があったが、彼はそこまで非情にはなれなかった。
自分が人体実験に適するようになるには、一流の格闘家のような強靭な肉体と精神、そして高度な気功術を会得する必要があったからだ。
彼はまず薬理学の勉強をしながら、身体を鍛えた。
だが現実は厳しかった。
薬剤師の免許を取ることはできたが、実験に満足に耐えられると思える程までは強くなることが出来なかったからだ。
それに加え、医師免許取得試験に落ちた。
金銭的に余裕がなかった彼は自分に失望して悔やんだ。
彼は薬売りとなった。その時点では研究はほとんど進んでいなかった。
ある日、彼の行きつけの風俗店のスタッフから誘いがあった。
モグリの医者にでもなってみないかと。
最初は拒否したが、夢を諦めきれない彼は渋々、その誘いに乗った。
それから彼の環境が変わった。
大金が入るようになったし、コネもできた。
話し好きだった彼を慕う患者も多く出来た。
彼は趣味でも合った風俗店通いも辞め、私財で新薬を開発し始め、自分が中毒にならないよう気を配りながら、実験を進めた。
ただ1人で。
分かち合う同士もほしかったが、研究内容が内容だけにある程度安全に行えるまでそれを口外したくなかった。
ある日、海外のオカルト本を集めてみた。
それらには神の器となる人間の事や、北方のある国の洗脳術の事などが書かれていた。
それらは彼が住んでいる所では、実在さえ立証されてないものだったが、あの学者から聞かされていた話の中にもあったことから、一応参考程度には目を通した。
彼は非合法なことに手を染めてはいったが、極力、研究の実験に他人は使わなかったし、麻薬の開発や買売を避けていた。
彼は自分の力で患者に感謝されるのが、何よりの喜びだと思っていたからだ。
しかしその反面、研究の成就の願いは消えずに心の奥深くに残っていた。
ある日、彼の祖国ニホンが大国ウィミィに戦争を仕掛けられた。
彼は研究が中断されるのを悔しがりながらも、医師として当然の務めを果たそうとした。
研究はまだ実用段階に入っていない。
その事実が彼にとって一番悔しかった。
●
開戦直後、彼は戦火に巻き込まれた。
全身火傷を負い、痛みにのた打ち回りながら生死の境をさ迷った。
そんな彼を救おうと多くの者が治療を試みた。
彼の命は助かった。
モルヒネを大量投与し、痛みを消し去ったおかげで。
そして、彼の心に禁忌は無くなった。
皮肉なことにそれがきっかけで彼の能力は更に上がり、研究も一応の完成を迎えた。
変性ガン細胞が躰になじんだ。
彼は人間的な容姿と心を代償に、かりそめの不死を手に入れた。
自制心の無くなった彼は、日々その狂気の度合いを深め続けた。
戦時中、研究の大きな手がかりになるだろう患者が彼の前に現れた。
赤毛の女に連れてこられた子供。
その子供は高い治癒能力を持つ血液をその身に宿していた。
彼はそれに気づかなかった。 治療して返した。
以前の彼なら気づいただろう、その時の彼は新しい麻薬の開発に余念が無く、気づけなかったのだ。
彼の研究はもう進まなかった。
そんな男の名は長谷川均。
戦時中から、男は素敵医師と自ら名乗るようになった。
●
素敵医師はまるで普通人が白昼夢を見ているような感覚に包まれながら、歩を進めた。
こつ…こつ…と軽やかな足音が聞こえたような気がした。
素敵医師はそれに気を止めなかった。
薬を手に入れるのが先決だからだ。
突如、周囲が完全な闇に包まれた。
彼がその異変に反応するよりも早く、目前に白い塊が出現する。
『それ』は白鯨に酷似していた。
●
「キミなら、そう言ってくれると思ってたよ」
主に異世界人同士で行われる殺人ゲームの管理スタッフとしてのルドラサウムからの誘い。
報酬は永遠の命と、現状の改善。
素敵医師に断る理由などなかった。
むしろ、この状態でなくても望むところだ。
ゲームの説明はルドラサウムの部下からされるという。
素敵医師はすぐにでも、異世界に旅立っても良いと思っていた。
「その前に、前払いをしておかなきゃねー」
彼らの目前に赤黒い球体が現れた。
●
飲み込んだ赤黒い球体は血の味がした。
これで躰の崩壊は止められるはずだ。
ルドラサウムから報酬とその前払いの説明を受けた彼に突如、睡魔が忍びこむ。
「そうそう……言い忘れたけどー」
素敵医師は、どこかとぼけた感じの神の声を聞き逃さないように耳を傾けた。
「キミの願いさー、もしかしたらゲーム中に叶うかも……」
素敵医師は口を開けた。
「……知れないよ〜。 これって、キミだけのサービスかな?キャハハハハハハハハ……」
ザドゥにとって耳障りなその笑い声は、素敵医師には心地良く聞こえた。
●
素敵医師がいなくなった異空間。
ルドラサウムはさっきまで彼がいた空間を見つめていた。
その口元には無邪気な笑みが浮かんでいた。
――――それは正和37年 シコク某所での出来事
↓
前半部分、試験投下終了です。
屈強な学者は『大悪司』世界のクレイジーナックル2ラスボスをイメージしてます。
正直、このエピソードの作成には苦労しましたし、迷いました。
素敵医師関連の伏線はこれでほとんど回収できるかな?
変に素敵医師を喋らせると、完成できないので無口にしました。
実は後半部分も投下する予定でしたが、見落としがあり投下は今日か明日になりそうです。
この前半部分、話として読めるかどうか疑問な内容ですが。
付け足そうと思ったシーンの出来がイマイチ……。
今日無理だったらつけたすの止めてそのまま投下しようorz
本スレ投下します。
投下終了。
本当はもっと進める予定でしたが、バランスが悪くなりそうだったのでああなりました。
次は決着2歩手前くらい進める予定です。
決算期って帰してもらえませんよねorz
えーと、本当に申し訳ない。
今週の日曜に無理でしたら、狭霧たちの続き書きたい方いたら書いてくださいorz
此方のは空白の時間を埋める形でも十分対応できる話ですので……。
今日の深夜あたりに一本投下できそうです。
>>145
連絡が遅れてしまってすいません。
あの6人の話のネタのストックはあるので、今週中にここに投下できると思います。
あと、智機のプランナー謁見話の伏線として、アインと素敵医師との決着の直後の
展開(ネタバレ)でメール欄を考えてるんですが宜しいでしょうか?
出来れば今夜中にまたここに書き込みたいと思います。
投下終了。
また前半部分が膨らんでしまいました。
もっと先の展開に進めたかったです。
24過ぎればちょっと楽になるとは思うんですけどね。
現状、八割完成しているのでまとまった時間が二時間でも取れれば十分投下は可能なんですがそのまとまった時間が……orz
>>146
毎度、ご迷惑をおかけします。
お疲れ様です。
えぇ、日曜とかでも動きなければ、それこそ容赦なく投下してください。
魔窟堂が帰ってくるまでの空白の時間が1時間でもあれば、そこへ挿入と言う形で可能なので。
>メール欄
了解しました。結果は此方でお任せでもいいでしょうか?
4月入ればまず余裕はあると思うので、謁見話の方はスローペースかもしれませんが
着手してから遅れる事はないと思います。
了解しました。お任せします。
ラク ナッタ アス ヤスミ
今夜、ここに投下する予定の六人の話も時間軸は
いつでもいいのでお構いなく。
どれだけ進展できるか解りませんが、東の森は明日の日曜日に一本投下できそうです。
ただいまです。
やっと果たせるorz
仕上げ入る前にあまりにも内容がずれすぎてたり致命的なものがあったら申し訳ないと思って確認しに来たのですが。
多分、寝てしまうと夕方くらいになると思うのでその時にまた確認しにきますノシ
(二日目 PM5:10(暫定) 西の森)
魔窟堂が出発した後、五人は待ち合わせ場所より少し離れた所にいた。
「(靴跡から見て……一・二人以上の男性がここで休息を取っていた所でしょうか)」
焚き火の跡を木の枝で弄りながら、そう紗霧は推測した。
「この本は一体何だったのでしょうか?」
炭化した本を見て、ユリーシャ。
「恐らくハズレの支給品だったんでしょう」
「(廃村から持ち出す必要はないだろうしな)」
二人の会話に耳を傾けながら、恭也は斧の手入れをしているランスを見る。
「木の枝よりかマシだが……やっぱりランスアタックは使えねえな」
使用武器に不満げなランスに対して恭也は提案した。
「ナイフなら持ってるけど、使わないか?」
戦闘スタイルを変える事を決意したが故の恭也の判断だ。
「駄目だ。ナイフでは俺様の必殺技が使えん。 お前か、ジジイが持ってろ」
「ああ」
次に恭也はまひるの方を向いた。
「……」
まひるは手で後頭部を弄りながら、何かを思案していた様だった。
「……!」
彼は自分を見ている恭也に気づくと、単刀直入に言った。
「ねえ……あたし達が持ってた荷物どうなってんだろ?」
●
「現地に放置か、本拠地のどこかでしょうね」
「参ったな……」
恭也は修行中に所持していた、小太刀の事を思った。
あれは彼にとって大事な品なのだ。
「あたしの肉マン……」
「俺様の剣…」
「……」
召喚前から所持品がなかったユリーシャはただ黙ったままだ。
「(願いを言う前に…念入りに返却を求める必要がありますね)」
紗霧は鞄の中身(金属バット・トンカチ・教材・簡易スタンガン等)を思い出しながら、心中で呟いた。
「ん……心配するな、お前ら」
沈んだ空気に気づき、発破をかけるかのようにランスは言った。
「主催の金髪ムチムチねーちゃんが、刀を持ってた。
俺様の魅力で仲間にした後に、刀を借りて俺様が使う!
グッドだ! ガハハハハ…!」
楽天的なランスの発言にユリーシャと恭也思わず顔を見合わせてから苦笑いをし、まひるは何故か虚を突かれたようにキョトンとしている。
「…………」
紗霧はジト目で彼を見ながら思った。
「(そんなに上手く行く訳がないでしょ。
第一運営者を全滅させる以外、貴方が生き残る方法が無いのが解っておいでですか?)」
紗霧はランスの思惑通りに進める積もりはなかった。
ただ情報は必要なので芹沢の事を慎重に言葉を選びながら、紗霧は聞くことにした。
●
ランスは上機嫌に手に腰を当てて笑っている。
それを尻目に紗霧は芹沢の現状を推測した。
「(彼女は本拠地で治療されて動けないでいるか、用済みで殺されてる可能性が高いですね)」
考えを口に出さないのは、士気を下げたくなかったからだ。
ランスの発言を聞き、考えをまとめていたのは紗霧だけでは、なくまひるも同様だった。
「(この辺、タカさんとそっくりだなぁ……)」
ランスにタカさんと共通する部分を見出しての感想だった。
彼女と出会った時、まひるはゲームのスタンスについて言われた事を思い出す。
「(……ホントは運営者とも戦わない方がいいと思うけどね……)」
自分にだって願いを叶えたい気持ちはあった。
だから、運営者の気持ちもわかる。
それと同時に彼は生き残ってる参加者の事を考えざるを得なかった。
脱出の方法自体、思い浮かべさえも出来ない。
仮にあったとして、同行者の気持ちを無視してまで願いを諦めろなんて彼には言えなかった。
だから、これまで脱出しようとは提案しなかったのだ。
けど、言わなきゃならないことは言うべきだと思い、彼は他の四人に言った。
「あたし達が家に帰るにはどうしたら、いいんだろ?」
「? そんなの決まっている。 主催のヤロウを殺せばいいのだ」
「帰してくれるの?」
「「「…?」」」
「何言ってる?」
どこか気まずい沈黙が流れる。
先に口を開いたのはユリーシャだった。
「も、もしかして……帰るのに、その願いを言わなきゃいけないことになるのでは……」
少し空気が変わった。
そして、渋面でランスは言った。
「……それは、ありそうだな」
その言葉にまひるは頷いたのであった。
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・】
【現在位置:西の森】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、西の小屋へ向かう、魔窟堂を待つ、一応、脱出方法を考える】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(中)、紗霧に対して苦手意識】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力 、芹沢を探す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧、棍棒もどきの杖2 】
【能力:大剣がないので、ランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損・疲労(小)】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:知佳の捜索と説得、】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、鉄の杖、保存食】
【能力制限:神速使用不可】
【備考:失血で疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保】
【所持品:対人レーダー、レーザーガン、薬品数種類、謎のペン8本
スペツナズナイフ、金属バット、文房具とノート(雑貨屋で入手)、智機の残骸
の一部、 医療器具(メス・ピンセット)】
【能力:毒舌・隠匿】
【備考:隠しているけど疲労(中)、下腹部に多少の傷有】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
グループが危険に晒されるなら、応戦する
島からの脱出方法を探る】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、救急セット、竹篭、スコップ(大)
携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】
半日以上伸びましたが、とりあえず投下終了です。
五人が揃っている状態であれば、時間帯は問題ないので構わず投下してください。
一応、今後の展開の一つでメール欄を考えております。
出来れば今日中に東の森の続きを本スレに投下したいと思います。
今日中には無理でしたorz
いい感じでネタが少し被ったので続ける形で少し改訂加えてます。
もしかしたら前のシーン+後のシーンの二部構成になるかもしれませんが。
二日程休みなので余裕たっぷりっす。
ちょっと質問なんですが>>157 のメル欄は小屋につく前と後のどっちでしょう?
まだ書いてます。
メール欄は小屋についた後です。
了解しました。
小屋につく前「経路思索」の後だと思ってたので……。
修正してきます。
誘導・前半部分投下します。
投下終了。
一週間以上、間が空いてしまいました…
今日中に続きを投下できるといいなあ。
(二日目 PM5:30 東の森・西部)
二人の女性が横に並んで立っている。
場所は主戦場となっている楡の木広場から多少離れた所だ。
風が吹いた。
それは無数の木々を音をたてて揺らし、多くの枯れた葉と枝を地に落とし続ける。
その量は不自然な程、多かった。
《警告は?》
「(必要ない。ザドゥが既に行っているはずだからな)」
智機は透子の能力を通じ、心で会話をしていた。
智機はグレーのフードと手袋を装着し、首輪と袋の中身を吟味していた。
透子はそれを見て、微かに眉をひそめる。
「(オマエは他の参加者の捜索を続けろ)」
智機はそれに気を留めず、指示を出す。
透子は視線を改めて、智機の眼に合わせ伝える。
《忘れてました……伝言です。これから参加者に対しての直の支援、及び運営者による薬物投与は禁止との事です》
「……っ! (解った……他には)」
透子はしばし考えるそぶりを見せていたが、それ以上の反応は見せず、すっと姿を消した。
「(ゲームを成功させる気があるのか、あいつは?)」
予想通りの反応をとった透子に呆れながら、次に智機は薬品の入ったビンをじっと見つめた。
特に警告内容に不満はなかった。
用途は何も参加者を誘導するだけではない。
「(ま、呼び出しに間に合っただけでも、今回は良しとするか)」
ケイブリスとの交渉の後、智機は透子に計画に
必要な道具を持って来させようとしたが、それに応じたのは呼び出しから五分以上経ってからのことだった。
透子への苛立ちを覚えながら、智機は道具の確認作業を終え、巨木が見える方角を見る。
「(下手すれば……ザドゥ以外、共倒れになりかねんな。)
どうしたものか…)」
創造神がこの戦いに注目していることが確実である以上、不用意に手を出すわけにはいかない。
かと言って、参加者にバレないように素敵医師等だけに介入する器用な真似は
ここにいる戦力ではできそうもない。
「(透子なら出来るだろうが……あの三人の能力を考えると、過信はできないか)」
智機は双葉としおりの発言も注意深くチェックしていた。
「(ザドゥは性格上、『黒い剣』を放置しかねない。
後から回収してもいいが、仁村知佳や魔窟堂が戦闘中にここに来ないとも限らない)」
思案する智機を他所に、強化体も前方の木の陰に隠れている注意深く、決着の時を待ち続けている。
透子から、知佳はシークレットポイントの調査を断念したと伝えられた。
力のコントロールができずに、それを破壊してしまうことを危惧したからだと言う。
その後、東の森の入り口に移動しそこで立ち止まったままだ。
「(仁村知佳ならこいつで対応できるが、紗霧が他の参加者を率いてここに来れば、透子の力を借りない限りアウトだ)」
自らの分身でもある赤い機体を見ながら、智機は対策を考え続ける。
「(…紗霧の発信機はまもなく停止するだろう。
戦闘後、生き残った参加者がうまく分散すればいいのだが……)」
人質を取ろうかと考えたが、それは無駄だった。
唯一の例外であるアズライト除いて、参加者に対し、直に人質を取ったり、監禁したりすることは最初から禁止されている。
何故なら、それが許されると最初から二人拘束すればゲーム運営を簡単に進められるからだ。
「(早目にデータの継承と解放を行った方が良さそうだな)」
と、智機はまたも赤い機体を見る。
分身に向けたその眼差しは、どこか冷ややかだ。
「(流石に神鬼軍師も余裕がないと考えるべきなのか……)」
智機は口を歪ませ、空を見上げ苦笑しながら思った。
「(……一方を切り捨てるのが得策と判断したんだろうな)」
↓
【主催者:椎名智機】
【所持品:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機 、6体は島中を徘徊)
(本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】
【レプリカ智機】
【所持品:突撃銃二丁、ガス弾一個、ヒートブレイド、アタッシュケース
筋弛緩剤などの毒薬、注射3本、素敵医師の薬品の一部
変装用の服、アイン用の首輪爆弾、解除キー】
【レプリカ智機強化型(白兵タイプ)】
【武装:高周波ブレード二刀、車輪付、特殊装甲(冷火耐性、高防御)
内臓型ビーム砲】
【備考:レプリカは智機本体と同調、強化型は自動操縦 強化型は本拠地に後3体い
る】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:東の森:戦場付近→???】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・束縛、偵察。戦闘はまだしない】
【所持品:契約のロケット、通信機】
【能力:中距離での意志感知と読心
瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
原因は不明だが能力制限あり、
瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)】
【追記:楡の木広場から離れた位置に智機待機】
まだ続きを書いてます。
『誘導』が完成した後、『経路思索』を投下しても宜しいでしょうか?
>>169
OKっす。
やっとフォーマット固まった所で。
道中-小屋でやってたら致命的なミスを発見してしまったので
小屋シーンオンリーに直してました。
これで最後のプロットからの改訂と思って気合入れてます。
毎度、遅れてしまってすいません。
誘導・後編、かなりの量になりそうです。
一旦、残りをここに投下するかも知れません。
新作の本スレ投下は今日の午後以降になりそうなので、完成した分だけ今から試験投下します。
(二日目 5:15 楡の木周辺)
幼い少女の足元に微風で散らされた落ち葉が近づき、一瞬で燃え落ちた。
強風のごとき音をたてながら、薄いオレンジ色をした熱波は上へと立ち昇り続ける。
戦いの当事者たちの怒りを具現するかのような熱波の壁は、互いの敵の姿を歪ませて見せた。
幼い少女――しおりは肩で息をしながら前かがみの姿勢で、壁の向こうのアインを
睨み付ける。
その闘志の源は凶としての使命感だけではなく、内なるさおりの声によって膨れ上がった
敵意によって培われていた。
「カオス」
《ん?》
「あなた、あの娘を知ってるの?」
アインは小さな声で魔剣に問いかけた。
「素性は知らんな。じゃが、どういうタイプの……怪物かは心当たりがある」
「怪物?」
「正確にはそれに変化した奴じゃがな…」
『……』
飛空していた式神が、ゆっくりとアインの方に近寄って来た。
「…」
アインはすぐにそれに気づき、無造作に剣を振り上げようとする。
「!」
しおりはその動作を見、好機と見て突撃しようと刀を振り上げた。
「……」
アインは攻撃を諦め、ゆっくり剣を下ろす。
しおりもそれを見て、刀をゆっくりと下ろして隙を伺い続けた。
式神は刃が届くか届かないかの位置で止まった。
アインの敵が攻撃してくる様子は、今はない。
それを認めたカオスの目が動く。
《………。続けてええか?》
「……構わないわ」
アインはしばし迷うが、同意した。
《その前にだ、あの娘は参加者か?》
「間違いない筈よ。ゲーム開始時に見た時には、何かの力を持ってるようには見えなかったけれど」
《ゲームの途中からか……。…あいつはな…魔王が進化させる魔人、もしくは魔人が進化させる
使徒によう似とるんじゃ》
「魔人?使徒?」
《知らんのか?》
アインは僅かに頷いた。カオスはその反応にある確信を持ちつつも、言葉を続ける。
《そうだな……嬢ちゃんがこの島で見かけた者の中に、ピンクの髪の…美樹って名前の小柄な
女の子はおらんかったか?》
「…いなかったわ」
隙を見せない様、警戒しながらも両者は淡々と会話を続けていく。
『……』
双葉は人型の式神を通じて、しおりの様子を見た。
「…………」
今のしおりには会話を盗み聞く余裕はなさそうに見えた。
少々休んだくらいでは、疲労は消えないのだろう。
アインの強さに焦りつつ、ただ火の勢いを絶やさないよう、気をつけながらアインの動きを
見てるのがやっとの様子だった。
次は飛行型の式神がアインの方をじっと見た。
数秒後、式神の目が突然瞬きをした。
それは双葉の心の動きと同調しているようだった。
『(剣と会話をしてるの!?)』
●
かさり…と巨木の幹が又、剥がれ落ちる。
式神の星川はさっきから目を瞑って、徐々に朽ち果てていくその巨木に手を当てていた。
星川は顔を上げ、巨木に対して何かを呟く。
ザァ…と巨木から涼風が吹き、僅かな光がこぼれた。
光は少しずつ、星川に吸収されていく。
●
ぎゅばっ!! どずっ!
白銀色の気を纏った拳が芹沢の側頭部を掠めたのと、ブーツの踵がザドゥの腹に
食い込んだのは同時だった。
攻撃を受けた両者は一瞬身をびくんと震わせたものの、すぐさま戦闘態勢を整える。
ザドゥの額から汗が流れ落ち、髪を更に濡らす。
芹沢は水を被ったかのように、汗を全身から飛び散らせた。
そして両者は互いの得物を構えながら接近し、攻撃を繰り返す。
がッ…がッ…がッ…ががんっ……
虎徹と鉄扇とが幾度もぶつかり合う音が続いた。
素敵医師は慎重に間合いを計って、銃口をザドゥに向けて、トリガーを引く。
カチッ…カチ…カチ…
「………」
弾切れだった。
素敵医師は弾丸を素早く充填し、少し考えてから、銃を鞄に仕舞った。
弾数は残り少なかった。それ以上無駄に消費するわけにはいかない。
それに加え、ザドゥのスピードが落ち、爆弾を当てて斃す事ができそうになって来たのも
そう判断した理由の一つだった。
ガギィーーン!
「グ……」
衝撃に負け、地面を擦りながら後退したのはザドゥの方だった。
「…素手の…方が強いじゃん………」
優位に立っているはずの芹沢は不満げに愚痴をこぼす。
ザドゥはそれに応えるかのように、すぐさま身を沈め攻撃態勢を取った。
その動きはさっきと比べて、明らかに遅かった。
芹沢もそれに習うかのように、身をかがめる。
その動きの迅さはさっきと変わらなかった。
ザドゥはローキックを、芹沢は飛び蹴りを同時に放った。
「遅いよ!」
ゴッ……、芹沢の飛び蹴りがザドゥの顎に命中する。
ザドゥは仰け反り、手から虎徹が離れた。
「ウグッ…」
ザドゥは何とか踏みとどまるが、芹沢の追撃は止まらない。
バっ……と彼女の鉄扇が開く。
刃が露になったそれは、明らかにザドゥの首筋を狙っていた。
「…!」
芹沢の右手が突如、ぶるぶると震え始める。
「か、カモミール! ささ、下がるぜよ!」
素敵医師の警告。
芹沢は口を尖らせつつも、それに従いザドゥから離れた。
ザドゥは自ら動き、更に距離を置く。
「ほひ…ほひひひ……」
金属片を構えつつ、素敵医師は気の抜けたような笑い声をあげた。
「にゃははは……素っちゃん〜クスリきれはじめたみたい〜」
芹沢は少し困ったように苦笑しながら、震える片手をひらひらさせた。
「(も、もう時間切れがかっ!?)」
素敵医師にとって、状況は急激に悪化した。
投薬しようにも、自分と芹沢との距離は大分離れているし、仮に接近できたとしても
ザドゥの間合いに入るのは確実だ。
双葉に足止めを頼むもうにも、彼女はゲームに乗ったと智機から聞いていたのでザドゥ相手では
支援は期待できそうもない。
ザドゥを芹沢もろとも爆死させようとも考えたが、仮に相打ちに持ち込めたとしても
今度はしおり等の手から彼の身を守れる者がいなくなる。
仕方なく素敵医師は、少しでも状況を良くしようとザドゥに話を持ちかける。
「大将……そろそろ、カモミールにおクスリやらんとまずいき……きへへ…」
「………」
ザドゥは答えず、無言で虎徹を拾い上げる。
「で、ほれほれ……禁断症状…おこっちゅうたら、大将もつつ、都合が悪いと思うきね…」
「何故だ…?」
「センセのおクスリはき、効き目もばつぐんやき、じゃじゃが副作用もちくときついがよ」
「……………」
「へへへ、下手したら、カモミールはショック死してしまうが…。
ここ、ここは休戦して、カモミールをセンセのおクスリで……」
「………………」
「…………。けひゃひゃひゃ……もも、もしかして、た、大将はカモミールを
見捨てるっちゅうがか?」
素敵医師はくしゃみを堪えるかのような声色で言った。
ザドゥはそれに答えなかった。
そして虎徹を持ったまま構え、またも気を練り始めた。
「む、無駄がよ。いくらショック療法やかか、躰のツボついたとこで、こんてーどでは
元には戻らんが……へきゃきゃきゃ……」
ザドゥは芹沢と素敵医師を交互に見る。
「それに…あん時のカモミールをざんじ助けるにぁ、これしか方法はなかったんじゃか」
ザドゥはそれを聞き、目を細める。
「死んだら、ねね願いをかなえるちゅう事はできんが……センセはいいことを…」
「今の状態で本来の願いを口に出せるとは思えんがな」
「…………。へへ、へへへうへうへうへ……。大将……せ先日の放送の前をつごーよく
忘れとらんがか?」
「……」
「カモミールは、せせセンセのおクスリを欲しがってたがよ。
大将と違って、ここ心やさしいセンセは望みを叶えてあげたんやき。
ひひひひひ……非難されちゅうのは心外ぜよ」
「………。俺の部下に幽幻という、貴様と同じ薬剤師がいたが……」
「………?」
「伺いも無しに、勝手に投薬するような下品な奴では無かったな」
「……失礼なが……それは…ま、まるでセンセに品がないよーな言い方がね」
無数の糞尿垂れ流しのジャンキーを飼っていた男の言う台詞ではない。
「気付かないからこそ下品なのだ。カモミールは半ば自暴自棄に陥っていたに過ぎん……
貴様はそんなカモミールをわざとこうしたのだ。自らの手駒欲しさにな……」
ザドゥの口元には嘲笑ともとれる笑みが浮かんだ。
「なな、何言ってるがっ!?せせ、センセの何処が下品がよっ」
素敵医師は思惑を見破られた上、侮辱され腹を立てて怒鳴る。
「素っちゃん〜、おクスリまだ〜」
「………。ザドゥの大将が邪魔であげることはできんき……」
「ザっちゃん邪魔しないでよ〜」
ザドゥはゆっくり歩きながら、素敵医師の鞄を見た。
素敵医師はその様子に気付き、まだ勝機は自分らにあると確信し笑みを浮かべた。
「あーあー、大将の読みは大体、当たりぜよ……。じじ、実はオクスリの副作用をおさえる薬も
ちゃ、ちゃんと用意してあるきね」
と、素敵医師は鞄から薬品の入った二本の注射器を取り出す。
「だだ、だがよ……センセがこれを捨てりゃあ…どう……」
ザドゥは素敵医師の虚言に取り合わず、芹沢の方へと駆けた。
立ちながら身体を痙攣させている芹沢を見つつ、先日のアインと遙の対決の報告を思い出す。
それから、この島に来る前の出来事も思い出した。
「………………っ!」
ギリッ……と、芹沢は震える身体を歯を食いしばってなんとか抑えた。
芹沢は凄絶とも言える笑みを浮かべ、ザドゥを迎え撃とうと地を蹴った。
素敵医師と芹沢の二重攻撃を凌ぎつつ、ザドゥはチャンスが来るのを待った。
●
熱波が空気を震わせ、飛び散ったわずかな炭が散る。
その中で魔剣は淡々と語り続けた。
《本来なら魔人は不死身でな。その上、自らの血を与える事で手下を増やす事ができるんじゃ》
「……そんな存在をゲームの参加者に加えるとは考え難いわ」
カオスの話によれば人間にとって魔人とは、カオスともう一方の武器か、高度な特殊魔法を
もってしか倒すことができない、非常に高い戦闘力を持つ存在だという。
『(吸血鬼……?まさか…ね)』
双葉は両者の会話を盗聴していた。
口を挟みたい衝動に駆られながらも、黙って聞く。
《だろうな……。じゃが、あいつは使徒にしては強すぎるんじゃ。
元の素質が高かったようにも見えんし、武術や魔法の腕前も素人以下にしか感じんしな》
「………。似てるけど、別の存在ではないかしら?」
そう返答したアインだったが、そうだとしても疑問は消えそうもなかった。
力を与えるのが参加側にせよ、主催側にせよ、それができるのならゲームの進行を自らの
都合の良い様に進められるだろう。ゲーム企画者がそんな存在を許すのだろうか?
たとえ、手下を増やすごとに主の力が減じるとしてもだ。
《かもな……。現にあいつは儂の力抜きでもダメージを受けとるようだ》
しおりの能力に加点にならないだけマシだが、それでは攻略の糸口にはなり得ない。
アインはしおりの精神面から弱点を探ろうと考えた。
「魔人や使徒に変わった場合、当人が受ける代償は何?」
《……………》
カオスは返答に詰まった。
自分の知る限り、魔人や使徒そのものには欠点らしい欠点は見あたらなかったからだ。
「………」
アインは無言で構えた。
向こうのしおりの呼吸が落ち着いてきて来たからだ。
《欠点と呼べるものかどうかは、解らんが…》
「早く言って…」
《奴等は主に対して、無条件で服従せねばならん》
「……他には?」
アインの表情が僅かに曇った。
《使徒の場合、主が行動不能……例え、死んだとしてもそれは続く》
「!。それで……それから、どういう行動を取るの?」
《自らの主を復活させようとする》
「……!。あなたの世界では死者を蘇らせる事ができるの?」
昂ぶった感情を必死に抑えながら、アインは言った。
《……ほとんど不可能だが、魔人だと多少、確率は上がるじゃろうな》
アインは気持ちを静めながら、しおりを注視した。
しおりはいつこちらに攻撃を仕掛けてきてもおかしくない様子だった。
だがこちらの会話の内容には未だ気付いていないようだった。
《使徒は殺されるとそれまでじゃが、魔人は倒されると魔血玉というもんを残す。
これには元の魔人の意識が残っておってな、それを消し去らん限り本当の意味では死なん。
もっとも身動きは取れんがな》
「…あなたがこの島にいた理由が解ったような気がするわ」
カオスがいつからこの島にいたのかアインには知る由もない。
だがゲームの歯車に、魔人に類似する者が混ざっているのであれば、企画者が他の参加者に
何らかの救済措置を行うのはおかしくないとアインは思った。
仮に彼等がカオスを入手することがあったとしても、扱うこと自体にリスクが生じれば
そこに付け込む隙が出てくる可能性だってあると考えた。
《言っておくが……魔人や使徒も儂を扱えるからな。気をつけろよ》
それを聞いてアインは頷く。
《……。ところで、嬢ちゃんは儂とは別の世界に住んでるじゃろ?》
「……。その話は後にして」
唐突なカオスの質問に少し詰まりながら、アインはにべもなく言葉を返した。
カオスはやはりな、と思った。
彼は以前から幾度か、別世界の人間を見てきていた。
彼の住んでいた世界も、稀ではあるが別世界の生物が漂着して来る事があるのだ。
そもそも現魔王も、先代魔王の手によって召喚されてきた異世界の人間だったと聞いている。
だがカオスがその事実に気付いたのは、アインの自分への反応だけではなかった。
「!!」 しおりが刀を振りかぶり、熱波の壁を突っ切ってこっちに向かってきた。
その呼吸は整っていた。今度こそはと、しおりはアインに挑む。
アインも同時に気を解放していた。
《(日光も、あの違和感を感じてたんじゃろうか?)》
しおりの全力の斬撃を、アインは難なく受け止める。
火花が散って、地面に落ちる。
地面に落ちた其れは鉄粉。
また、刀の刃こぼれが増えた。
それに対し、魔剣は無傷のままだ。
数瞬、遅れて式神達もしおりに加勢しようと動く。
《(今、儂の体内を駆け巡っとる違和感……。今の使い手からも伝わってたんだろうか?)》
自分と同じ運命を辿って来た同胞と、現魔王と同じように異界から漂流してきた、ある青年を
思い浮かべながら、カオスは心で呟いた。
●
数本の注射器がザドゥ目掛けて飛ぶ。
ザドゥはマント翻らせ、それを何本かガードした。
「!」
ガードを掻い潜った一本の注射器が左腕に突き刺さっていた。
シリンダーが自動的に押し出され、薬物を体内に―――
「ふん」
―――注入される前にザドゥは気付き、注射器を手刀で破壊し事なきを得る。
「……」素敵医師はすぐさま、手に持った金属片をザドゥ目掛けて投げた!
キュボっ!!
金属片が破裂し、虚空に炎が発生する。
ザドゥがいた場所を中心に数メートルを業火が覆った。
閃光が辺りを包み、程なくして収まる。
「………」
爆発から十数メートル離れた所にザドゥがいた。
「はー…はー…」
呼吸こそ乱れているものの、彼は無傷だった。
「………!」
素敵医師は思わず顔を引きつらせた。
「さっすが!こここここ…これでやられちゃ…つまんないよねねね」
呂律が回らなくなってきた芹沢が喝采をあげる。
「(そろそろだな……)」
呼吸を整えながら、ザドゥは構えた。
「!!」
素敵医師はこれをチャンスと見た。
さっきのでザドゥと芹沢との距離は離れているからだ。
素敵医師は鞄から注射器数本と取り出した。
「カモミール!こっちに来るがよ!」「!」
ザドゥは弾かれた様に駆けた。
芹沢はぷるぷると身体を震わせながら、素敵医師の方へと歩み寄る。
ザドゥは虎徹を振りかぶった。
素敵医師は構わず、芹沢の方へ走る。
ザドゥは虎徹を投げた。
びゅん!がっ……
虎徹は素敵医師に命中したが、刃によるダメージは無い。
その代わり体勢を崩し、動きは止まる。
ザドゥは脚に力を入れ、芹沢に向けて頭から飛び掛った。
注射器が芹沢に刺さる前に、押し倒す事に成功する。
芹沢が抵抗し、地面をごろごろ回る。
ザドゥは芹沢を立たせ、体当たりで距離を置き、気を練り始めた。
芹沢はザドゥに近づき、素手で殴りつけて来る。
ごっ…ごっ…がすっ…
ザドゥは抵抗せず、黙って耐える。
「!?」
素敵医師は迷う、ザドゥを殺すか、芹沢に薬物を投与するかを。
ばがっ…!
芹沢のハイキックがザドゥの左側頭部を強打した。
「………っ」
ぐらりと、ザドゥの身体が傾いた。
素敵医師は自分の欲求に従い、芹沢に注射することに決めた。
「オクスリがよっ!」
注射器をかざし近寄る素敵医師。
禁断症状に耐えていた芹沢は攻撃を止め、彼の方を振り向く。
ザドゥの手が大地を着いた。
注射針と芹沢との距離が縮まっていく。
ザドゥの拳はもう芹沢には直撃しそうにない。
素敵医師はニタリと笑いながら言った。
『生き物っちゅうのは、化学反応で成り立ってるが。
いくら大将が小細工しても、センセが塗り潰してやるがよ」
嘲りに構わず、ザドゥは奥義を放つ。
『死光掌!!』
注射針と芹沢の肌との距離数センチの所だった。
ザドゥの掌は素敵医師と芹沢の腕に命中し、気の奔流は二人の間を通り過ぎた。
「ウグッ……」
ザドゥから苦悶のうめきが漏れた。
「なな、何度やったちムダだとゆーのが……」
勝ち誇ったかのように素敵医師は声をあげ、注射器を芹沢に投与しようとする。
「!?」
腕を動かせない。
「な、なななっ…なな…」
それどころか彼は、身体さえ満足に動かせないでいた。
「はーはー……貴様にも効いたようだな」
ザドゥは自らの身体に鞭打ち、距離を置き、虎徹を拾う。
それを地面に突き立てて、またも気を練り始めた。
「何したがっ!」
「……」
ザドゥは答えなかった。そんな余裕は無かったからだ。
「かか、カモミールの命がおよけなくないがかっ」
と言いつつ、素敵医師は目を動かし芹沢を見た。
「!?」
芹沢は座り込んでいた。
ところが素敵医師の予想とは逆に痙攣は少し治まっており、呼吸も弱くなってるような事はなかった。
ザドゥはそれを見て、思わず安堵の息を漏らしそうになった。
「こここ……こ答えるがよっ!」
自身が動けないのは、タイガージョーが食らった技を受けたからだというのは
素敵医師にも解っている。
だが芹沢の禁断症状が沈静化してる現象は理解できないでいた。
「…………」
―――十数秒経過した
びくっ…びくんっと芹沢の身体が痙攣し始めた。
素敵医師の右腕が動き始める。
それを険しい表情で見つめ、ザドゥは言い放つ。
「来い!!」
気はまだ練り切れていない。
麻痺が収まった素敵医師は注射器を両手で構え、宣言した。
「こーなったら、大将をセンセのおクスリの虜にしちゃる……」
飛び道具を使ったところで時間を与えるだけだ。
ならば、自らの再生能力に賭けつつ、相手の目標が芹沢であることを逆手に取って
攻めるまでと素敵医師は判断する。
「け、け、け、けぇ、けひゃぁぁぁああああああああっっ!!」
奇声を発しつつ、八本の注射器を武器に素敵医師は踊りかかった。
マントで注射針を防ぎつつ、ザドゥは攻撃を回避し続ける。
「………!」
その攻撃はザドゥの予想よりも正確で早かった。
奥義を放てるだけの気は防御しながらでも溜めることができる。
だが、今のザドゥに素敵医師を掻い潜れるだけの隙を見つけることは困難だった。
「へけけけけけけけけけ……さっきのの威勢はどうしたがかッ!?」
「っ……!」
いつまでも、防ぎきれるものではない。
狂撃掌を撃てば、攻撃ごと簡単に素敵医師に大ダメージを与えることができるかも知れない。
だが、今撃てば死光掌を使うのにまた気を溜める必要が出てくる。
それに素敵医師の見た目から察するに、不死身の怪物が持つような特殊能力を持っている
可能性があるのをザドゥには容易に想像できた。
ザドゥは素早く後方へ下がった。
それに素敵医師が追従し、注射器を突き出す。
ザドゥの右腕に針が刺さる。
左手で虎徹の柄を握り締め、右腕を素早く振る。
針は皮膚と肉を切り裂き、抜けた。
ザドゥのミドルキックが飛び、素敵医師は後方に跳んで避けた。
ザドゥは両手で虎徹を下段に構える。
ダァンっ!
銃声がした。
「「!」」
弾丸はザドゥにも素敵医師にも当たらなかった。
芹沢がガクガク震えながら、闘志を漲らせながら銃をザドゥに向けて撃っていた。
「き、きへへへ、きひゃひゃひゃひゃっ……流石がよ!新撰組局長ォ!!」
芹沢は焦点の合わない目で、ただし切羽詰った表情で尚も銃弾を放とうと構えていた。
「かはっ…かはっ……アタシがやややっらないと…」
ザドゥはすぐさま下がりながら虎徹を地面に降ろした。
「そうがよっ。はは、はようしやせんとセンセと新撰組のみんなが死きしまうぜよ!」
素敵医師は芝居がかった様子で芹沢を鼓舞した。
ザドゥは一瞬の隙を突いて、素早く素敵医師の背後に回った。
「…!?」
素敵医師の首が180度回って、ザドゥを見た。
ザドゥは死光掌の構えを取った。
銃弾を避ける自信はない。
芹沢は銃を構え、狙いを付け、大声で叫ぶ。
「あああああああ、アタシがやややらなきゃきゃ、みんながーーー……!!」
「くっ……」
ズゥンっ………
――――地面が揺れた
残りは午後に。
●
アインはゆっくりとした足取りでしおりの方へ歩み寄る。
ズ…ズ…ズ……。しおりは左足を引きずりながら、後退する。
「(い、いたいよぅ……)さおりちゃん…しっかり…」
左アキレス腱を踏み砕かれた痛みに耐えながら、しおりはさおりを励ます。
その光景に表情を変えないまま、アインは近づく。
その身体は小刻みに震えていたが、カオス以外誰も気付かなかった。
式神達は二人の周囲を囲んでいる。
内一体は右肩から斜めへ亀裂が入っていた。
ふっと一瞬、アインの視界が真っ暗になる。
彼女は疲労を表に出さず、しおりに語りかけた。
「わたしは参加者じゃないわ…」
「?」いきなりなアインの発言にしおりは困惑した。
飛空型式神が二人に近づこうとする。
「あなたの目的がどちらにしろ、これ以上、わたしと戦うべきではない」
『な、何寝ぼけた言ってんのよっ!』
双葉の激昂した非難の声が飛ぶが、アインはそれを無視して言葉を続ける。
「…あなたは生きて、望みを適えたいのでしょう?」
『アンタ!あれだけの事をこの娘にしといて、よくも、ぬけぬけとっ!!』
「…………」しおりはアインを黙って見つめていた。
「あなたは何の為に戦っているの?」
しおりにはアインに、今の所は攻撃するつもりが無いように見えた。
本来ならさおりが攻撃を急かしてくるはずだが、今はおとなしくしている。
しおり自身、短時間で消えないくらい疲労が溜まっている。
少しでも休みたかったし、何より話の内容に興味がある。
それに聞き慣れない怒号の主にも興味が出てきたのだ。
「…マスターに生き返ってもらうの……それで、さおりちゃんともいっしょに……いっしょに…」
「………………」
しおりは上目遣いに、たどたどしく自らの希望を口にした。
それを聞いたアインの目の光が一瞬、消えた。
「それで…それで…」
「………………。あなたは参加者を斃したいのね」
「! う、う……」
即座に返答しまうところだった。
だがその反応でアインには目的が解った。
『………!』 双葉もそれを察し、息を呑んだ。
「なら、わたしを殺せたとしても徒労に終わる。ゲームの外にいるから…」
『…!あんたも参加者でしょうが!あの娘を殺そうとしてたじゃない!!』「………」
しおりは何か言いたそうにアインを見た。
「その証拠にわたしは首輪を着けてない。わたしはあなたが攻撃してきたから反撃したまで。
…強いから手加減できなかった。ごめんなさい。」
そう言いつつ、アインは表情も声色も変えないまま、式神達を一瞥する。
「けれど彼らが参加者だと解った以上、あなたと戦い続ける理由は無い」
「え?」しおりは式神達を見た。
『ぐ…』式神達がぎぎぎ…という音と共に動き出す。
しおりはしばし迷い、言った。
「まって!……本当なの!?」
「本当よ…ただし彼らは本体じゃない。彼らを操っている首輪を着けた参加者が、ここの近くにいるはず」
『!』 式神が一斉に襲い掛かった。アインはそれらを避け続け、時折視線をしおりに向けた。
式神達の動きはさっきと比べ乱雑で今のアインにも容易に躱せた。
しおりが半ば呆然とそれを見守る。
やがて式神達の攻撃が止むと、すぐさまアインの近くへ移動した。
「じゃ、じゃあ、この人たちは…?」
「ゲームに乗った参加者があなたを利用してるんでしょうね」
『!! ち…、あたしはっ……!」
「だったら何故、声色を変えて協力を申し込んだのかしら? どうして自ら姿を現さないのかしら?」
『…………………………………』
双葉にはその理由を口に出せなかった。
ほぼ確実に殺されると予想できたから、姿を現せなかった。
彼女の意地がそれを口に出す事を許さないでいた。
この状況で運営者をも相手にする余裕がないから、真意を口に出せなかったのだ。
「……それにあなたの『マスター』は完全には死んでないかも知れない」
「え?」
「知らないようね。あなたのマスターは別の世界の住人でしょ?」
「ど、どうして知ってるの!?」
「わたしの目的の一つはゲームの調査。参加者は一部の例外を除いて、それぞれ別の世界を生きているわ。
常識は必ずしも通用しない。もう一度、その人を調べれば見なければ生死は判断できないわ」
「…………」
初めて病院で魔窟堂らと話した結果出た推測と、まりなの情報。
アインはそれらを合わして交渉の材料として使ったのだ。
「で、でも放送で…」
「主催者が本当の事を言うとは限らないわ」
『……この、うそつき…』かすれた声で双葉は言った。
アインは構える。
「!」しおりがはっと息をのんだ。
「この話を聞いても、まだわたしとの戦いを続けるのなら…」
震える手でしおりは刀を構える。
「わたしは最期まで、全力であなた達姉妹に抵抗するわ」
「…………!」
アインの言葉と眼差しに、しおりは思わず唾を飲み込む。
『上等…じゃない』
「仮にわたしを殺せたとしても、直後に彼らが裏切ったらあなた達はどうするの?」
「!?」
『!。あ、あたしは…そんなこと…』
「彼らはいくら傷ついても、それを操っている参加者は無傷のままよ。
あなたはそんな人を信用できるの?」
双葉の言葉を遮り、アインは続ける。
「…………」
「…それにもし、あなたがマスターを本当に想うのなら、よく考えなければ駄目」
アインは構えたまま、しおりの脇を見た。
「…………?」
「わたしはこの先に用があるの。おとなしく道を譲るなら、あなた達に危害を加えない。
譲らないのなら、あなたの願いはもう適えられない」
「で、でも…」しおりは迷った。
『…………』 式神達が動き始める。
「あなた一人の問題ではない筈よ。生き残らなければならないのでしょう?
それにわたしの方が上手く行けば、あなたの願いも早く適えられるかも知れないわ」
アインの身体から闘気がうっすらと湧き出る。
「(…………)」しおりは首を下げた。
「これが最後」その言葉と共に、アインは大地を蹴った。
式神達が走り出す。
しおりは顔を俯かせたまま動かない。
式神達の動きは乱雑なままだ。
「…!」「………」
アインがしおりの横を通り並んだ。
『!』 こぅっ…と式神が発光し、追跡スピードが上がった。
しおりの背後に控えてた式神二体が、アインへと向かう。
「!」『!』 しおりが動く。
「…」アインは気を完全には解放しなかった。
―――アインは式神の包囲網を抜けた
『…………え…?』
一体の式神が炎上していた。
しおりの目には惑いがあった。だが…
ざんっざんっざんっざんっざんっざん…
手に持った日本刀はもう一方の式神を無常に切り裂き続ける。
『…………!』バラバラになった式神は白い炎をあげて消滅した。
炎上を続けていた式神が強く発光した。
包んでいた炎は掻き消え、式神が元の姿に戻る。
『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…』
しおりは深呼吸した。
「ね、言ったとおりでしょ、楽になるって」『さおり』はしおりに言った。
「さおりちゃん……。
これはあいつほど強くないから、きりぬけられるよ。
でも…でも……しょうがないよね…」
しおりは式神達を見て、おずおずと攻撃態勢をとった。
「(このままじゃ…さおりちゃん、もたなかったもん)」
互いに慎重に、対峙するしおりと四体の式神達。
時間は刻々と流れる。双葉はしおりに言った。
『あんた……後でアイツに……殺される…よ…』
泣きそうな声。
「……………」しおりはこたえなかった。
―――それから大地が震え、それが互いの攻撃への合図となった。
●
「……」星川は自らの左手に持った棒状のものを見た。
それから自分の手を視認する。
安堵のため息をついた。
彼の顔色はあまり良くない。
彼は右手を自らの胸に突き立てた。
姿が揺らぎ、顔が苦痛に歪む。
その時、右手は棒状の物体を掴んでいた。
●
ダァン!
ザドゥの頭上を弾丸が通り過ぎた。
「「「………!」」」
突然、起こった地震に彼等の足元はすくわれていた。
ザドゥを除いては。
彼は素敵医師に飛び掛かり、マントを顔に巻き付ける。
「っ………」
それから、マントの上から顔を掴み、横に回した。
めきめきめき……と音がする。
「…」ザドゥは素敵医師の首を一周させても、なお回し続ける。
時折肘鉄も入れた。音が少し小さくなっていく。
ごぽっ…とヘルメットの中で素敵医師は吐血した。
ザドゥは油断なく首を回しもって、身体にも蹴りを打ち込みながら芹沢の様子を確認する。
「ふん……」
手を離し、地面に崩れ落ちる前に、念の為に素敵医師の右足に渾身の蹴りを入れる。
ばきッ…。骨が折れ、素敵医師は言葉もなく地面に倒れこんだ。
ザドゥは芹沢の方へ駆ける。彼の拳は握られていない。
数十秒のち、意識を失った素敵医師の頭部から赤い蒸気が立ち昇り始めた。
●
吐く息は荒い。
だが走るスピードはまだ、落ちていない。
これなら、まだ主催者と戦える。
アインはそう実感しながら、楡の木に向かって走る。
《…………。気は生命力でもあるからな、使いすぎに気をつけろよ》
カオスの忠告に、アインは頷く。
《どうした…?》
アインは顔を青ざめさせていた。
カオスの問いにも答えられなかった。
「………。こんな手に引っかかるなんて…」
どちらかといえば、切り抜けるわずかな隙を作るための方便で、同士討ちまでは期待してなかった。
アインの脳裏に数年前の出来事が浮ぶ。
夜。
そこには三人の男女がいた。
腹を撃たれ、意識を失った自分。
自分を抱えながら嘲笑する、銃を持った銀髪の中年男。
デザートイーグルを手に持ち、自分達に向かって叫ぶ少年。
「っ……」アインは顔をしかめながら、見えてたはずの無い光景を頭から振り払おうとした。
「…………」それくらいでは消えなかった。どうして、頭に浮かんだのかもよく解らないでいた。
《…油断するなよ》
アインは記憶を取り戻した直後の玲二とのやり取りを思い出す。
「(彼も、こんな気分を何度も味わったの?)」
身体の内部に冷たく重い何かが残留するような嫌な違和感。
アインはそれを消し去るべく、素敵医師への憎悪を呼び起こした。
「……」芥が焼却されるかのように徐々にソレが消えていくのを感じた。
アインは深いため息をついた。
相手が単独ならカオスの力抜きでも充分対処できる。しおりでもだ。
《…………》
走るスピードを上げる。
「………………」
苦肉の策だった。
●
真っ赤に染まった視界。
素敵医師は被ったヘルメットを取り、芹沢の姿を探した。
がくんっ…ぶらぶら……
「……………」
首が背中の方へ折れ曲がり、意識が飛んで、仰向けに倒れる。
一瞬だけだが、ザドゥが芹沢の背中に両手を当てている光景が見えた。
素敵医師の首の回りには、ぶくぶくと高熱の泡が吹き出し続けている。
―――何分か経った
意識がはっきりとしてきた。
素敵医師は立ち上がった。折れた足も完全に治っていた。
ザドゥはそれに気付き、息を切らしながらもこちらを見据えた。
次に素敵医師は芹沢の姿を探した。
「………!?」
芹沢の姿を発見した素敵医師は目を見張った。
彼女は倒れていた。
だが痙攣は治まり、呼吸も規則正しく動いていた。
有り得ない…と、素敵医師はもう一度、芹沢を見た。
「!?」なんと彼女の身体から、ザドゥのような気が湧き出ていた。
●
しおりの刀が式神を貫く。
それに笑みを浮かべていたさおりの顔が驚愕に歪む。
式神が発光し始めたのだ。
とっさに突き刺さった刀を抜こうとするが、抜けない。
式神は突如、駒のように回転し始める。
さおりは刀を掴んだままふんばるが、木に二回激突し、離してしまう。
刀を持った式神は動きを止め、ぶるぶると震えた。
その現象はさおりが再び動くよりも早く起こった。
ビキィィィンッッ!と音がして刺さっていた日本刀が砕け散った。
破片がぱらぱらと地面に落ちるのを見て、さおりはザドゥの言葉を思い出す。
『……ならば参加者を殺せ。その方が遥かに容易い。貴様の能力ならば
今残っている参加者の多くを屠る事ができる筈だ』
「うそつき……」
さおりの拳に火が点った。
『ッ………』式神は動こうとするものの、急激に気を消費し動けない。
さおりは高速度で式神の懐に潜り込み、火炎拳を連打した。
式神は一瞬で炎上し、崩れ落ちる。
「うそつき」さおりは残る三体の式神を睨み付けた。
●
地震が収まるのを確認し、アインは周囲の様子を探った。
「……」誰もいないようだ。
これは神が起したものなのだろうか?
アインはそう思った。
《近いぞ》
言われて、アインは気配を消し、足音を消しながら慎重に歩く。
「………」
視界が少し開けた。
―――ザドゥと素敵医師が対峙していた。
↓
【アイン(元№23)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:左眼失明、首輪解除済み、肉体にダメージ(中)、肉体・精神疲労(中)】
【しおり(№28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:しおり人格・参加者殺害、さおり人格・隙あらば無差別に殺害、双方とも慎重に行動】
【所持品:なし】
【能力:凶化・身体能力大幅に上昇、発火能力使用 、回復能力あり】
【備考:首輪を装着中、多重人格=現在、さおり人格が主導
全身打撲で能力低下、ダメージ(中)疲労(大)】
【朽木双葉(№16)】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アイン打倒、首輪の解除、素敵医師と一応共闘】
【所持品:呪符10枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
兵器化の乱用は肉体にダメージ、
自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
楡の木を中心に結界を発動、強化された式神三体を使役
疲労(大)、ダメージ(小)、士気低下
(内一体ダメージ(大)、内二体ダメージ(中))】
【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木付近→しおりのいる場所】
【スタンス:???】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【能力制限:幻術と植物との交信】
【備考:幻術をメインに使う】
【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
【備考:疲労により若干身体能力低下】
【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アインの鹵獲+???、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス2本、注射器数十本・薬品多数
小型自動小銃(予備弾丸なし)、謎の黒い小型機械
カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)
肉体ダメージ(小)】
【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;???】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:気絶。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
【追記:しおりVS双葉。 離れたところでザドゥVS素敵医師。少し離れてカモミール芹沢が気絶。
近くにアインが潜伏。式神星川移動中。更に離れた位置に智機待機 現在PM5:35】
試験投下終了。
時間の都合で本スレに投下できませんでした。ごめんなさい。
誘導の後半部分が異様に長くなってしまいました。
これでは本スレに投下しきるのに時間がかかりますね。
今から誘導後編と経路思索を投下します。
投下終了致しました。
智機・透子パートは次の作品で肉付けして新作として投下します。
今回は半月以上、間を空けてしまいました。
短くても、間隔を短くして投下した方がいいかもしれませんね……。
>>170
西の森の五人の作品投下を先延ばしにしてしまってすみません。
東の森決着まで、あと少し。
新作投下します。
「既に死亡した№34アリスメンディと同行し、クレアと遭遇した場合のケースだな」
台詞と共に、別枠でアリスのデータも映し出される。
「…この女悪魔も奴と同じように死ぬのかよっ?」
「あー…その可能性は高かったな」
「……。この女のくすりってなんだ…?」
「薬物調合にそれなりに長けていたという事実が信じられんのは無理は無いな……。
ま、大方酔っ払っていたんだろ」と、どうでもいい感じで呟く。
「……」
ケイブリスは怪訝な顔でモニターを見続けたが、少しして用を思い出し食料庫へと向かっていった。
「………」
二度目の地震が起こってから、智機は待ち続けている。
呼び出した透子から連絡が来るのを。
●
暗く狭いマンホールの下に其れはあった。
硬く閉ざされた木の扉が。
周囲の壁をよく調べれば、扉の向こうにある空間が狭いのが解るだろう。
扉には鍵穴がある。合う鍵があれば開けられる。
もしくは扉を破壊するだけの力があれば、向こうにあるものが何であるのか確かめられるかも知れない。
ただし向こうにあるものを使うには、扉だけを破壊しなければならない。
ここに最初に来た仁村知佳は、今の自分にはそれが出来ないと解っていたから、立ち去ったのだろう。
透子は扉の前で座り、向こう側を凝視しつつそう推測していた。
「……」 地震が起こってから、ロケットが小刻みに振動している。
智機からの呼び出しなのは解っていた。
それを無視していたのは、時空の歪みの原因を突き止めたかったからだ。
透子が上を見上げる。
扉の前から彼女の姿が消え、校庭の真ん中へに姿を現す。
透子は崩れた校舎を見る。
「…」そこに隠されているものをまだ参加者が見つけていないのを確認し、透子は東の森へと転移した。
●
「………!」
素敵医師が立ち上がったのを見て、ザドゥは背後の芹沢を庇う様に移動し、身構える。
彼の疲労の色は濃い。
「あー…あー…あー……」
素敵医師は右の眼を大きく見開き、呻く。
首を横に振ると、固まった体液がパリパリと剥がれ落ちた。
捻れた首は元に戻っていた。
ザドゥと素敵医師はしばし見つめ合った。
「おお、おだねのようがね……たいしょぉ……」
先に口を開いたのは素敵医師だった。
「センセの薬が欲しかったががやないがか……?
かか、カモミールになな何をしたがよ?おらぁに教えてくれが……」
「…………。貴様のやり方は涼宮遙の件で知ってたからな」
「……?」
「死ぬんだろう?貴様に投与された薬品のおかげでカモミールが生きている以上、解毒などされればな…」
自分と芹沢に向けられる攻撃を警戒しつつ、ザドゥは淡々と答える。
「へ、へひへひ……まいったが…最初から…センセを信用しとらんだったがか……」
素敵医師は珍しく素直に嘘を認め、注射器を出して構える。
「ふん。貴様の言う通りだ」
「な、何がいうとーりか?」
「生物は科学反応で成り立っていると言ったな。その通りだ。
だからこそ薬物を警戒できたのだ」
「そそ、それとカモミールとなんの関係がる?」
「貴様は知っているか?気功の本来の使い方を」
「…………?………っ!?」
素敵医師は芹沢が中毒者にも関わらず武術を使えた事と、『気』の意味を思い出しハッとする。
「そ、そそそ、そこまで都合よく使えるわけが、ないぜよっ!」
素敵医師が居た世界でも稀ではあるが気を身体の治療に使える者は存在している。
だが、自分の薬物の副作用を中和できる方法は彼の知る限り存在しなかった。
「貴様が居た世界ではそうかもな…」
ザドゥが死光掌の本来の使用法を使う戦法を取った理由は5つ。
一つ目は、素敵医師のやり方を知っていたから。
二つ目は、今の芹沢が武術を扱えたことで、正気に戻れる目があると思った。
三つ目は、自らの知識に自信を持っていたこと。
四つ目は、昨日双葉がランスに掛けられた呪いを解いたという報告を受けていたこと。
呪いの力を陰の気と考えれば、陽の気をぶつける事で中和できるという推測だ。
五つ目は、タイガージョー相手に死光掌を成功させたことで、コントロールできる自信が生まれたこと。
これだけの材料が揃っていたから、ザドゥはこういう行動に出たのだ。
「……ま、ま、まだカモミールが正気にもんたと決まったわけじゃーないが……」
素敵医師は震える口調でザドゥに言う。彼は不安だった。
そして、同時に期待もしていた。
もし芹沢を正気に戻すことができるなら、彼が長年追い求めてきたものが目の前に存在することになる。
彼は警戒をしつつ、ザドゥに話を持ちかけた。
●
其処には二人の女性が横に並んで立っていた。
場所は主戦場となっている楡の木広場から多少離れた所だ。
風が吹く。
それは無数の木々を音をたてて揺らし、多くの枯れた葉と枝を地に落とし続けた。
「(そうか。仁村知佳は手をつけなかったんだな)」
《はい…》
透子は楡の木の方に目を向けながら言う。
《彼女らに対する警告は?》
「(必要ない。ザドゥが既に行っているはずだからな)」
智機は透子の能力を通じ、心で会話をしていた。
智機はグレーのフードと手袋を装着し、首輪と袋の中身を吟味している。
透子はそれを見て、微かに眉をひそめた。
「(オマエは他の参加者の捜索か、仁村知佳の監視を続行していろ)」
智機はそれに気を留めず、指示を出す。
透子は視線を改めて、智機の眼に合わせ伝える。
《忘れてました……伝言です。これからは参加者に対しての直の支援、及び運営者による薬物投与は禁止との事です》
「………。(解った……他には?)」
透子はしばし考えるそぶりを見せた。
だがそれ以上の反応は見せず、すっと姿を消した。
「(ゲームを成功させる気があるのか、あいつは?)」
●
素敵医師は両手を挙げた。
「何のつもりだ?」
「ふへ、へへへへへ……。降参やき……」
ザドゥは首を捻り、口元を皮肉げに歪めて言う。
「………。それは、俺におとなしく殺される覚悟ができたってことか?」
「ち、違うがよっ!か、カモミールはおとなしく渡すがっ。そその代わりにセンセを見逃して欲しいが」
「言いたい事はそれだけか?」
「待つがっ!たた、大将にとっても、ざん……すぐにここから離れられるのは、わわわりぃ話じゃーないがだろ?」
「…………」
「いつ参加者に狙われるか解らんき、こここはお互い離れるが賢明ぜよ」
「俺が参加者に遅れを取ると思うのか?」
「ひ……か、カモミールは遅れをとったきね…」
「………」
今の素敵医師の言葉に嘘偽りはない。芹沢が倒れ一人である今、彼を守れる者はいないからだ。
勝機が全く無い訳でもなく、この場で満たしたい欲もある。
だがアインやしおりの生死が不明である以上、不用意にリスクを背負いたく無いのも事実だった。
「センセが憎いなら、ちょ、ちょ懲罰は後にするのが得策ぜよ。せっかく助けたのが、ぱーになってしまうがよ」
「…………」
ザドゥが黙って聞いているのを脈ありと見た素敵医師は畳み掛けた。
確かに素敵医師は憎いが、ザドゥにとって芹沢の救助は懲罰以上に重要だ。
「そそそその内、すぽんさーからもセンセについて連絡が来ると思うが…。それまで見逃しとーせ」
「見逃すと、今後のゲーム運営に支障が出る」
「た、大将は主催者のリーダーやき、アインとぶっち…同じやり方ではいかんが……」
「……どういう意味だ?」
「へけけけ……ぶっちゅ……おなじやり方でいけば、たた大将も、カモミールも全員破滅すするがで?」
「…貴様が死ねばどちらも起こりえない事だ」
「………。しょうまっことそう、思うか?」
「何?」
素敵医師は皮肉げな笑みを浮かべた。
「大将は……ああああ、あの女が高原美奈子を殺したがを知っちゅうか?」
「………」
「どーやら……知らんようじゃ?」
「それがどうしたんだ?」
「知ーらんがなら話にならんがっ。大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね」
「………」
芹沢を見る。呼吸は整ってはいるが、正気に戻れるか迄はまだ、解りそうもない。
「も、もしセンセと戦うがなら……」
素敵医師は黒い薬品が入った注射器を取り出す。
それに加え、彼の身体からは微量ながらも気が放つのがザドゥには見えた。
「…………」
素敵医師への敵意を込めた眼差しをそのままに、ザドゥはじりじりと芹沢の方へと後退を始めた。
「賢明がよ大将。せ、センセも下がらせて貰うが」
ザドゥの通信機から突如、小さなブザー音が鳴り始めた。
「!?」「(……この音量は)」
ザドゥが隙を見せてないのを確認し、素敵医師は恐る恐るそのまま立ち去ろうとした。
「………。どうやら互いに、都合よく物事は運ばんようだな」
「!」
その言葉を聞き、素敵医師は慌てて戦闘態勢を取る。
ザドゥも遅れて戦闘態勢を取った。
「…………」 実はザドゥは素敵医師と交戦する前、智機と連絡を取り合う直前に、直に透子から連絡を受けていた。
智機が撃退された事。首輪を外した参加者に対して注意して欲しいとの警告。
そして、自分の能力の及ぶ範囲内に参加者がいるなら、こうして支援するとの助言を。
「…………」
素敵医師は狙っていた。もし襲撃者が自分を狙うなら、そいつを。
ザドゥを狙うのなら、ザドゥを。自分の奥の手の餌食にする為に。
奥の手は素敵医師自身の身体に溜め込んだエネルギーを大きく消耗するので、普段は使わない。
だが、自らの目的に大きく近づけるなら使用することに躊躇いはなかった。
気力奪いの発展技―――『気力破壊』を使用するのに。
不意打ちの機会を逃した襲撃者―――アインは木々に隠れ、周囲を警戒し続けていた。
↓
智機は予想通りの反応をとった透子に呆れながら、次に薬品の入ったビンをじっと見つめる。
警告内容自体に不満はない。薬の用途は何も参加者を誘導するだけではないからだ。
「(ま、呼び出しに間に合っただけでも、今回は良しとするか)」
智機は透子に計画に必要な道具を持って来させようとしたが、それに応じたのは呼び出しから五分以上経ってからのことだった。
透子への苛立ちを覚えながら、智機は道具の確認作業を終え、巨木がある方角を見た。
「(下手すれば……共倒れになりかねんな。どうしたものか…)」
創造神がこの戦いに注目していることが確実である以上、不用意に手を出すわけにはいかない。
かと言って、参加者にバレないように素敵医師等だけに介入する器用な真似は
ここにいる戦力だけではできそうもなかった。
「(透子なら出来るだろうが……あの二人の能力を考えると、過信はできない)」
智機は双葉としおりの発言も注意深くチェックしていた。
「(ザドゥは性格上、『黒い剣』を放置しかねない。
後から回収してもいいが、仁村知佳や魔窟堂がここに来ないとも限らないしな)」
「……」思案する智機を他所に、強化体は前方の木の陰に隠れて待機している。
「(仁村知佳相手ならこいつで対処できるが、紗霧が他の参加者を率いてここに来れば、透子の力を借りない限りアウトだ)」
自らの分身でもある赤い機体を見ながら、智機は対策を考え続ける。
「(…紗霧の発信機はまもなく停止する筈。とりあえず奇襲狙いのセンが無くなった以上、来たとして次の放送から一時間後くらいか。
戦闘後、生き残った参加者がうまいこと分散してくれればいいのだが……)」
人質を取ろうかとも考えたが、それは無駄な思考だ。
唯一例外が認められていたアズライトを除いて、参加者に対して直に人質を取ったり、監禁したりすることは最初から禁止されている。
何故なら、それが許されると最初から二人以上拘束すればゲーム運営を簡単に進められるからだ。
「(早目にデータの継承と解放を行った方が良さそうだな)」
と、智機はまたも赤い機体を見る。
分身に向けたその眼差しは冷ややかだ。
「(流石に神鬼軍師も余裕がなくなったのか……)」
智機は口を歪ませ、空を見上げ苦笑しながら思った。
「(……はたまた、一方を切り捨てるのが得策と判断したかのどちらかだな)」
↓
【主催者:ザドゥ】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
【備考:疲労により若干身体能力低下】
【素敵医師(長谷川均)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:アイン・ザドゥ・仁村知佳への薬物投与、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス2本、注射器数十本・薬品多数
小型自動小銃(予備弾丸なし)、謎の黒い小型機械
カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)
肉体ダメージ(小)】
【カモミール・芹沢】
【現在位置:素敵医師に同じ】
【スタンス;???】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:気絶。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
【主催者:椎名智機】
【所持品:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機 、6体は島中を徘徊)
(本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:素敵医師の薬品の回収、アイン・双葉・しおりを利用・捕獲、ケイブリスと同盟・鎧修繕・腕の補強機具作成】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
【備考:楡の木広場付近にレプリカ一体と強化型一体を派遣】
【レプリカ智機】
【所持品:突撃銃二丁、ガス弾一個、ヒートブレイド、アタッシュケース
筋弛緩剤などの毒薬、注射3本、素敵医師の薬品の一部
変装用の服、アイン用の首輪爆弾、解除キー】
【レプリカ智機強化型(白兵タイプ)】
【武装:高周波ブレード二刀、車輪付、特殊装甲(冷火耐性、高防御)
内臓型ビーム砲】
【備考:レプリカは智機本体と同調、強化型は自動操縦 強化型は本拠地に後3体い
る】
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折】
【現在位置:本拠地・管制室】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:東の森:戦場付近→???】
【スタンス:ルール違反者に対する警告・束縛、偵察。ザドゥへの支援。戦闘はまだするつもりはない】
【所持品:契約のロケット、通信機】
【能力:中距離での意志感知と読心
瞬間移動、幽体化(連続使用は不可、ロケットの効果)
原因は不明だが能力制限あり、
瞬間移動はある程度の連続使用が可能。他にも特殊能力あり】
【備考:疲労(小)、ザドゥへの支援後、何処かへ移動】
【追記:しおりVS双葉。 離れたところでザドゥと素敵医師が。少し離れてカモミール芹沢が気絶。
その近くにアインが潜伏。式神星川移動中。更に離れた位置に智機待機 現在PM5:30】
連続投稿規制に引っかかって、これ以上投下できそうもありません(汗
代わりに>>211-220 までを本スレに投下していただける方がいれば助かるんですが…
ここを見てる人はほとんど居無さそうだし、また夕方にでもトライしてみます。
一読者ですが代理で投下させてもらいした。
今後とも期待しています。
>>222
代理投下ありがとうございました!
おかげで助かりました。
こうして作品を読んでいただける方がいるからこそ、創作のし甲斐があります。
期待に添えるよう頑張ります。
アインと素敵医師の因縁は次かその次の作品で決着が付く予定です。
作品の総文章量は過去最大になるかも知れません。
ただ完全に書き終えるまで投下しないでおくと、また間隔が空いてしまったり、
変に停滞する恐れがありそうなので、工夫して徐々に投下していきます。
状態表は話が完結した場合と、投下待ちである『あの五人』の話等が間に入りそうな
場合に挟みます。
それまでは、本日のレス投下終了の印に ↓ を入れます。
気が向けば投下待ちのとは別に、ユリーシャか恭也の短い話を投下するかも知れません。
アイデアが浮かんだので、今から仁村知佳の小ネタを試験投下します。
ほとんど進展もさせてませんが、差し支えが無ければ、今日の朝以降にも本スレに
投下します。
(二日目 PM5:13)
空は赤み始めていた。
とぼとぼと歩き続けている、灰色のオーラを纏う小柄な少女の上を数羽の鳥が通り過ぎる。
鳥の鳴き声を聞き、少女はふと顔を上げた。
「……」少女――仁村知佳は途方に暮れていた。
折角見つけた利用施設は自分では扱えそうもない。
それに加え、場所を伝えるべき仲間もいなかった。
「…わたしに…できること…ないのかな…」
そう言い、知佳は右手に持った手帳をきゅっと握った。手が震えた。
「(違う…できることが…ないんじゃない…)」
手帳の中身はまだ見ていない。何処と無く不吉な予感がしたからだ。
「(怖いから…何も)」
向こうには病院が見えた。
「(…あそこにいるのかな?)」
逢いたい。けど、それ以上に逢う勇気が今の知佳にはなかった。
知佳は不吉な考えをしないよう、恭也との明るい記憶を呼び起こそうとした。
今日の日中のことはあえて記憶から遠ざけ、病院に来る前のやり取りを無理に思い出した。
あの時、夜中の放送を聞いた時、自分は対してその事に気を止めていなかったんだなと知佳は思う。
いざとなれば自分の力があると思ったから。今にして思えば、それは傲慢に違いなかった。
そもそも、自分はこの島から脱出さえできなかったではないか。
『願い』がある以上、脱出という選択肢は知佳の中に存在していない。
知佳は視線をやや上に移した。
「(綺麗な…夕日…)」
赤とオレンジが絶妙にブレンドされたような色彩を持つそれは、微妙に円形を崩していた。
それを不恰好とは思わない。
夕日はこれから一時間以上も、昨日よりも島を美しく彩るに違いないからと知佳は思った。
何も夕日だけではない。この島は月も綺麗に見せてくれる。
「…………?」知佳の心にふと疑問が浮かんだ。
「(昨日の夜…)」放送直前だっただろうか?
綺麗な月が欠けていく光景を恭也と一緒に見たのは。
日本ではまだ月蝕が観測される時期ではないはずだ。
「(…………ーん?)」
知佳はこの島が何処であるかなんてまともに考えたことはなかった。
「(月蝕……)」
古来から月蝕は何かの怪異と関連つけられてきたという伝承があったのを知佳はぼんやりと思い出す。
だが、その詳細まではうまく思考が纏まらず、答えが出なかった。
「………」
改めて、知佳は手帳と病院を意識した。このまま惑っていても、何も進展しない。
今できる、何かをしないとますます鬱屈してしまうだろうと自らを叱咤した。
知佳は服の裾で顔をごしごし拭うと、足取りも確かに目的地へと向かった。
「(他の人なら……もっと詳しいこと知ってるかも)」と僅かに期待して。
その頃、恭也とユリーシャも丁度、月蝕の事を思い出していた事を知る由も無く。
↓
【仁村知佳(№40)】
【現在位置:学校・公園間道路→???】
【スタンス:恭也が生きている間は、単独で彼らの後方支援へ
主にアイテム探しや、できうる限りの情報収集、主催者への妨害行為】
【所持品:???、まりなの手帳】
【能力:超能力(破壊力さらに上昇中・ただし制御は多少困難に)飛行、光合成】
【備考:疲労(小)】
すみません、もうちょっとで完成できるのでご容赦を……。
本当にすみません。
了解です。
今、アインと素敵医師との決着話と、それから数分後(放送後)の話を書いてます。
完成次第、一部分を本スレに投下し、残りはここに試験投下しますので。
まだ執筆中。
また間が開いてしまい申し訳ありません。
新作の一部を投下します。
まだ戦いは終わってませんけど。
残りは明日の晩で。
●
もうすぐ範囲外ね……
双葉は徐々ではあるが、確実に『さおり』を楡の木から遠ざけると同時に追い詰めていた。
『さおり』が気力を振り絞って立ち上がり、走る。
それは彼女が出せる最高の速さだったが、双葉は少しも動揺しなかった。
『さおり』は式神達の背後に回りこみ、破壊しようと拳を振り上げた。
突然、何体かの式神が地面に落下した。
『さおり』は一瞬動きが止めたものの、攻撃を続行しようとする。
落下してない式神が彼女の死角から現れ、肩にぶつかる。
炎はかき消え、攻撃はまたも失敗に終わった。
もし双葉の視点が人型の式神からなら、動きについて来れなかっただろう。
視点は敵の攻撃が届かない上空に飛んでいる式神からだ。
背後に回り込もうが関係ない。
それに敵をはっきり見ないですむのでいろんな意味で攻撃しやすいのだ。
この子供がアイツだったら良かったのに
双葉は追い詰められた少女を見て心底そう思った。
技量はアインとは比べるまでもなく低く、双葉にも遠く及ばない。
その証拠にちょっとしたフェイントにも何度も引っかかるし、手数も極端に少ない。
ようするにスピードも火力も知能も冷静さも、しおりの時よりも格段に落ちている。
その上、疲弊している。
アインと比べればはるかに弱かった。
もっとも直に対面すれば、殺される可能性は高いだろうが、この条件下なら話は別だった。
●
無理しすぎた所為か星川は意識を失っていた。
星川は慌てて起き上がり、音もなく駆けた。
『仲間』達の屍を乗り越えながら。
あの少女を探すために。
彼が今取っている行動は本来、与えられた役目を放棄しただけでなく
彼らの主を更なる危険に曝すという愚行と言える。
彼はその事にまだ気付いていなかった。
●
つう……と双葉の肩の傷から血が流れた。
双葉は座り込みながら、それを感じた。
あの子に掛けた二度目の幻術のときだ…
あの時、身体中にまた痛みが走った
……原因は薬なんかじゃなかった……
双葉は少し焦ったが、今の戦闘に影響を及ぼすほど慌てなかった。
しおりに裏切られたショックからの虚脱感もほぼ消えている。
『さおり』が引きつった顔で後退して行くのが双葉には見えた。
式神達は動き、容易く敵を包囲した。
このまま総攻撃を仕掛ければ、ミンチ状にまで破壊して敵を葬ることができる。
もしくはこのまま彼女を十数メートル後退させれば、結界の範囲外。
双葉が降伏を勧告し、それに従う気があるのなら簡単に校舎跡まで逃がせるだろう。
双葉はどちらを選択しようかと迷っていた。
同時に迷ってる時間もないと自覚している。
ここまで追い詰めることができたのは
幻術で動きを止めた上で、回復させる間もなく攻撃を続けたからだ。
回復させてしまえば逆転されかねないのは解っている。
彼女は冷静さを維持した。
双葉は木を燃やした時の『さおり』の形相を思い出して、改めてこう思った。
野放しにできない
式神が動き、『さおり』の横面を張り倒す。
それを実行している術者の額から苦悩からくる汗が滴り落ちた。
標的は自らが護り、共に助け合おうと情を注ごうとした相手だった。
今度は大きく息を吐こうとした標的の背中を式神が殴打した。
苦悶する少女の様子を双葉は見ていた。
もう、どうでもいい……
あたしも、あの子も……
双葉はため息をついた。
最初は『さおり』を幻術で足止めして、その隙にアインと決着つけようと双葉は考えてた。
勝ち目がないのを承知の上で、だ。
だが、その前に星川の所在を確かめたかった。
楡の木の近くにはいなかった。
その事に彼女は慌てた、次にアインや素敵医師の所在を確かめようとした。
偶然、見つけたのだ透子と智機を。
双葉は主催側にここを包囲されてる事実に恐怖した。
気持ちを切り替え、やけくそ気味に攻撃してやろうかと思った。
だが星川の所在確認が先だと自分に言い聞かせ、行動を控えた。
首輪を爆破されるかも、という恐怖心があったのも要因だ。
透子が別の位置に転移するのを確認し、すぐに彼女の周囲を確かめた。
その先にアイン達はいた。
ザドゥと芹沢が明らかに疲弊している中、アインと素敵医師はまだ大丈夫そうに見えた。
素敵医師が生きていることに希望を見出した双葉は、すぐさま式神の集合地帯に意識を移した。
透子達がここに来ている事実を伝える余裕はなかったし、透子がここを離れたのを確認はできなかった。
そして、その時見てしまったのだ。
歪んだ笑みで嬉しそうに森を燃やそうとするしおりの姿を。
双葉は確信した。
もう駄目だ……あの子は…………
そして、あたしも……
むさい男相手だったら、こんな思いはしなかったと思う
双葉はそう自嘲しながら、『さおり』を攻撃する。
まともな奴から見れば、あたしが悪人以外の何者でもないんだろうな
もっとも自分が善人だとは思ったことなんかないけど
むしろ、今ではロクデナシ以外の何者でもないと確信していた。
それはそうだ……
恩人を……
好きな相手を……いや、好きだと思っていた相手を二度も裏切ったんだから
あの時、あいつはここから逃げようって言ってた
逃げ場所なんかないし、アイツに負けたくないからという理由で、あっさりあたしはあいつを拒絶した
だから、傍にいなくなったのかな
……もう少し言葉を選べばよかった
人型の式神がゆっくりと『さおり』を轢いていく。
骨が肉が次々と砕ける音が聞こえた気がした。
あの包帯男、やられたのかな……
間抜けな思いつきだと自分でも思った。
別にそれが滑稽とも何とも思わなかったが。
淡々と攻撃を続ける。
高い声が双葉の耳に入ったのは間もなくだった。
声の主は血まみれで所々に骨を露出させた、もはや原型を止めていなかった。
何を言ってるのか、双葉は聞き取ることができなかった。
顎の骨が砕けているのだろう、もしかしたら気管も潰れてるかも知れない。
ただ、何を伝えようとしてるのかは何となくわかった。
――――ごめんなさい
命乞いしているのは明らかだった。
懸命に同じ発音を少女は繰り返した。
常人なら目を背けるその光景を前に双葉は目を背けなかった。
自分が陰鬱になっていくのを感じながらも、どっちなんだかと心でぼやく。
構えは解かず、用心深く準備する。
目の前の少女を観察する。
時間が経ち、少女の顎の形が元通りになっていく。
一体の式神がそっと近づき、手を差し伸べたように少女には見えた。
初めて式神が柔かい声をだしたような気がした。
少女は式神に抱きつき、おとなしくした。
身体中は痛かったが、命拾いできたと安堵した。
身体全体が徐々に回復していく。
部位の中でも回復が早かったのは左手だった。
少女は突如痙攣にも似た身震いをした。
何かを押さえ込んでいるようだった。
式神はそれに無反応だった。
少女は口元を歪める。
『さおり』だった。
こいつがおやだまだ
今なら鉄をも溶かす業火を生み出せる。
少女は左手を動かそうとする。
背中に激痛が走ったのは、その時だった。
『さおり』の背に、いつのまにか三体の小型の式神が張り付いていた。
幻術を掛けられていたのだ。
少女が言葉を紡ぐ前に、双葉は告げた。
『本当に残念よ』
無感情だが、心に残る声だった。
式神達はそのまま躊躇いもなく、『さおり』の背骨を砕いた。
想像を絶する苦痛の中、自らが急速に無にかえるのを感じながら、『さおり』は自分達の敗北を悟った。
●
もうすぐ放送かな……
双葉はぼんやりとそう考えながら、耳を済ませた。
二人以上の人間が近づいてくるのが解った。
素敵医師の甲高い声と、何やら叫んでいるアインの声だ。
もうすぐか……と双葉は思った。
双葉はそれぞれの手を首輪と肩の傷に当てた。
じんわりと後悔と未練が彼女の心を満たした。
心の中でさえ、その全てを単語で表し切れそうもなかった。
彼女は厳めしい顔をした男の姿をあえてを思い出す。
それは彼女の父親だ。
「こんな人間のまま終わるんだったら、もう少し言う事、訊けばよかったかな……」
式神の方に意識を移した。
そこには背骨を砕かれた、しおりが横たわっていた。
瞳孔は開き、弱弱しく痙攣しながらも、まだ生きていた。
間もなくあたしはあの包帯男と組んでアイツと戦うことになる
だけど……
それを自覚したのはしおりに裏切られた時か、本物の星川が殺された時だったのか。
その時期は今となってはどうでもいいと考えたかったし、はっきりと認める決心がついた。
アイツには勝てない
別にアインほどの修羅場を潜っている訳ではない。
未来をはっきり予知できる異能力者でもない。
ただ……理屈抜きで双葉の心が自らの敗北を既に告げていたのだ。
彼女は泣き喚きたかった。
だが、それを我慢し勤めて平静を装った。
双葉はしおりを見て、二人の人間を思い出しつつ、自問した。
なんであたしはこの子を一思いに殺さなかったんだろう
双子を守ろうとしているように見えた、既に死んだ名も知らない少女のためか。
本物の星川の志を継ぎたかったからか。
ギリギリまであの子の良心に期待してたのか。
双葉にはもう解らなかった。
なら何でこの子を守ろうとしたんだろ
それに続く言葉はすんなりと浮かんだ。
そうだ、あたしは誰かを守ろうとして死にたかったんだ
その上でアインの苦しむ様を見たかったんだ
双葉は深いため息とともに立ち上がる。
彼女の眼はまだしおりを見据えている。
あれほど壊れていたとは思っても見なかった。
手を組めるなら生き残らせてやりたかった。
あの様子だと、周りに死を振りまき、自滅するのが落ちだ。
あんな状態でも時間が経てば動き出すに違いない。
彼女の心に沸き起こるは、更なる自己憎悪だった。
それも言い訳よね
反主催のために殺すなんて動機は要らない
……理由なんて、こんなのでいい
『アンタはあたしの復讐の邪魔になるのよ』
式神を通じて、しおりに言い放つ。
しおりからは何の反応もない。
双葉はうなだれ、自らの言葉を心に刻む。
……アイツ等と戦って、死のう
もう、この戦いに生き残った後の事など考えたくはなかった。
本物の星川を生き返らせたかったが、あんな神が相手では望み薄だと言い聞かせた。
反主催に助けて貰うというムシのいい未来を思い浮かべたくなかった。
勝利によってまた図に乗るのはもっと嫌だった。
それは心の片隅で今も願っている願望だから、なお更だ。
自らの憎悪と命をもって、アインに復讐するのみだ。
人型式神が発光し、しおりを踏み砕かんと動き出す。
そして、告げた。
『だから死んで』
誰かが叫んだ。
双葉はハッとし、声の主を探す。
『星川』
そこには式神の星川が居た。
そして、瀕死のしおりを悲しげに見つめていた。
それは定時放送まであと10分の出来事だった。
↓
【朽木双葉(№16)】
【現在位置:楡の木の洞】
【スタンス:アイン打倒、素敵医師と一応共闘、可能なら主催者に特攻
自己憎悪、まずは星川と会話からしおりを殺すつもり】
【所持品:呪符10枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
兵器化の乱用は肉体にダメージ、
自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている、首輪装着
楡の木を中心に結界を発動、強化された式神三体に加え、
偵察型の式神10体も攻撃可能
疲労(中)、ダメージ(小)、
(内一体ダメージ(大)、内二体ダメージ(中))】
【式神星川(双葉の式神)】
【現在位置:楡の木付近→しおりのいる場所】
【スタンス:???、双葉と会話】
【所持品:植物兵器化用の呪符10枚】
【能力制限:幻術と植物との交信】
【備考:疲労(小)、幻術をメインに使う】
【しおり(№28)】
【現在位置:楡の木広場付近】
【スタンス:????、マスターに会いたい】
【所持品:なし】
【能力:凶化、発火能力使用 、大幅に低下したが回復能力あり】
【備考:首輪を装着中、全身骨折・各内臓にダメージを受け瀕死の重傷
意識不明、行動可能になるのには数時間単位の休憩が必要
戦闘可能までには更に倍以上の時間が必要】
【現在、PM5:50】
仮投下終了。
相変わらず連投規制に引っかかりまくります。
どなたか本スレにコピペしていただければ非常に助かります。
伸びに伸びて決着まで後2話。
こんどこそ停滞させたくないので、完成の是非にも関わらず
今週中にメール欄にてネタバレします。
また今晩。
ぶっちゃけると一つの運営クラスの重要なお仕事をうけたので、夜な夜な執筆の時間が取れないほど忙しい日々が続いていましたorz
一度完成してあらかたできてるのに完成させる時間が全然取れないのが二週間前のソレが終わるまでの半年ほど続き……。
明日、一度書き終えたとはいえ自分的にはまだ未完成である魔窟堂チームのを投下させて頂きます。
スルーしても構いません。
中々出てこれなかったのは申し訳ない気持ちでサイ悩まされていたのもあるとはいえ、結局は自分の都合で長い時間迷惑をかけてすみませんでした。
昨日、全投下するつもりが時間がありませんでした……
残りは用事が済み次第、投下します。
>>248
了解しました
とりあえずネタバレのひとつはメール欄で
全投下終了。
今夜12時前後に一本ここに作品を投下するかも知れません。
本筋に絡むかも知れない、ネタバレ話を。
(二日目 PM5:58 本拠地・管制室)
管制室の中は熱気で蒸しかえりつつあった。
そんな中、白衣の女八人が赤いロボット2機を運ぶ作業が続けられていた。
その先にはかなりの小規模のカタパルトがあった。
暑さを気にもせず、モニターを見ていたケイブリスは言った。
「茶はねえのか?」
間髪要れず、智機が返事を返す。
「あるが……少し待ってくれ」
「あぁ……別にいいぜ」
智機はケイブリスの横に置かれているゴミ箱の中身を見て思った。
「………………(摂取物は人間とそう変わらないのだな……あとで茶を振舞ってやるか)」
加熱しているコンピュータの状態を気にしながら、そろそろオーバーホールが必要かと
考える智機にケイブリスは更なる質問をする。
「生き残ってる参加者の奴らで一番強えのは……ランスか?」
「……基本的にはそうだな。ま、詳しい事は後で話そう……」
「? ……まだ強い奴らがいるのか?」
「……ああ」
ケイブリスは少し頭をひねり、ちょっとした疑問を口にした。
「おめぇ……さっき病院で戦り合ってたよな?だったらよぉ……あの時、何で首輪を爆破しなかったんだ?」
「…………。 神の許可が必要なんだ」
まひる達との戦闘の事を言われた智機は、やや苦々しげに返答した。
「なんだ…そりゃ?」
「我々、運営者にも苦労して欲しいからだろうな。 透子は首輪の操作権を持ってるだろうがな」
「……あいつが? それ意味あんのか?」ケイブリスはせせら笑いながら言った。
「やはり君も彼女のやる気のなさは気になってたか」
彼は言葉で返すのも面倒だというそぶりで、鼻から息を吐いて返答した。
●
白衣の女達―――智機のレプリカ4機が作業を終えて、充電室に入っていく。
強化型二機を発射する準備は整った。
もし、反主催グループにランスが加入しているのなら、足止めがせいぜいかも知れない。
本当はケイブリスを派遣したかったが、カタパルトで飛ばせるのはロボットだけだ。
「そろそろ定時放送だ。 ケイブリス、悪いが引き続き放送をやってほしい」
「死んだ奴、ゼロかよ。 ま、いいや……」
「カンペはいるかな?」
「いらねぇよ。適当にやっていいか?」
「ああ」
↓
いじょ。
本スレで採用するかは未定ですが。
出来れば明日は続きの作品の一部でここに投下を。
「狭霧さんはどんな願い事をするの?」
ふいにまひるがそんな事を言い出した。
彼女には似つかわしくない内容、と思った狭霧は返答に詰まった。
他の誰よりもまひるは欲望からかけ離れた存在に思っていたから。
「……そうですね」
そんな小屋の中、対極に位置する場所では時たま「ぐが」とイビキを出しながらランスが寝ている。
気絶した後とはいえ、あれだけ睡眠をとったのに彼はまた寝ている。
その横には今にも壊れそうといった感じのユリーシャがランスの胸元に頭を寄せて寝ている。
彼女もまた心労と疲労が溜まっていたのだろう。
「俺様はしばらく休む、任せた」
西の小屋につくなり、そういうと彼は寝入ってしまった。
余程、ケイブリスとの戦いで疲れていたのか、それとも生来からそんな感じなのか。
主に狭霧が突っ込もうとする暇すらなく、ランスは横にぐてんとなってしまった。
「仕方ありませんね」
その様子を見た恭也はやれやれと行った感じで扉の前に立つ。
(彼が駄目な以上、順当に行って見張りは俺かな)
「いいの? 恭也さんも……」
申し訳なさそうにまひるが恭也へ尋ねる。
「俺も大分休ませて貰ったから大丈夫」
「でも……」
ランスに比べて薬を使い休んだとはいえ、元あった怪我の度合いは恭也の方が上である。
「大丈夫、見張りって言っても扉の前に突っ立ってる訳じゃない。
ちゃんと死角になってる所で気配を消しつつ周りに注意を払うから」
それに彼を除けば俺が一番見張りに適してる。そう一言付け加えて恭也は外へと出て行った。
「大丈夫ですよ。もう少しすればボケジジ……いえ魔窟堂さんも帰ってきますから」
それでも心配そうにしているまひるを狭霧が諭した。
彼女の言葉でようやくまひるも下がり、ゆっくりとだが腰を卸した。
それから間を置いた後での出来事である。
(私の願い……)
狭霧は考える。
第一目標はこんな場所から生きて生還する事。
だが、それは運営陣達を倒せれば狭霧以外の誰かが勝手に願ってくれるだろう。
魔窟堂やまひるなら、間違いなくそうするはずである。
では、純粋に願いとなるとどうか?
『彼』への未練があるわけではない。
だが、横にいる『彼女』を不幸にしてまで得たいものか?
それはすなわち心弄くられた『彼』もまた不幸にすることだ。
彼女にとってはその事の方が心を痛く締め付ける。
(しいて叶うなら、平行世界の一つ、『私』が選ばれた世界への転移……でしょうか)
創設とも一瞬思ったが、結局それは心を弄くった『彼』と何ら変わりない予定調和、ただの自己満足の玩具である。
彼女自身が勝ち得たと結果なくしては、彼女は満足しない。
だが……。
(いくら同じ自分とはいえ功労を横取りするのはどうなのでしょうかね)
普段やこの状況下では彼女はそれを厭わないとしても。
それだけは何か侵してはいけないモノとして彼女の心につっかえた。
願いが叶うなら叶うに越した事は無い。
生き延び、そして願いも叶えて貰う。
そう考えてあれから行動してきた。
しかし。今この場においてまひるに問い掛けられると、自分でも意志が曖昧なのに気づく。
それなら、それでこの場ははぐらかして適当に返そう。
そう思って狭霧は言葉を続けた。
「私の願いは……」
「……あたしはね。もし本当に願いが叶うなら、みんなの願いを叶えてあげて欲しい」
狭霧が答えようとした瞬間、まひるが先に口開いた。
「運営の人達も、願いが叶うって言うので集められたんだと思う。
どんなに悪い人たちでも叶えたい願いが、譲れない思いがあっていいなりになったんじゃないかと思う。
でなきゃ、悪人だってこんなのの運営になろうなんて思うはずないしね……」
(それは、本当に気が狂ってる人の場合は話が別ですけどね……)
その考えは口に出さず、狭霧はまひるの言葉を黙って聞く。
「あたし達と同じように参加させられた人たちも、運営の人たちも、みんな帰れて、みんな願いが叶えれたらきっと素敵だと思う」
「それは……理想論だと思いますね」
まひるの想いに対し、それだけは間違ってる、と狭霧は応える。
「うん、解ってる。でもね、もしそうなれたら……こんな今だけど、みんなそんな事忘れて幸せになれると思うんだ。
あたしもアインさんをまだ許せない……。けどそれだって参加してなかったら、そんな事もなかった。
知り合う事もなかったと思うけどね」
(何処までも甘いのか……それとも……)
狭霧は考える。
目の前の少女?は、言っている事だけを見れば甘い世間知らずのお嬢ちゃん?である。
だが、その実は異形の化け物。
今までのまひるの様子と話を聞く限りでは、彼女は極普通の世界で極普通の学園生活を送ってきた身に違いない。
そんな彼女が異能力と異形の姿を持っていると言う事は、どういう事だろうか?
狭霧にはソレが解らなかった。
気づかず過ごしてきた?
いや、まひるの様子から、少なくとも彼女?がこのような身であるという事は気づいていたようだ。
それでも普通の生活を送ってきたのだろうという異常。
きっと狭霧では経験した事も内容な、想像もできないような事を経験してきたのかもしれない。
平穏の大切さを知り、望む人間と言うのは須くして頭に御花が咲いている人か……決して人には言えぬ物を見た、抱えた、知った者のみかだ。
だとしたら、彼女は自分などより非常に心の強い存在だ。
まるで目の前の自分がチンケな存在にされてしまう程に。
狭霧は悩む。
今までは気にも止めなかった事がまひるの質問をきっかけに、持ち前の思考能力の高さを活かして考えもしなかった……いや考えようとしなかった事が次々と浮かんでくる。
直接聞くべきか?
だが、さしもの狭霧もその一歩を踏み出せずいた。
聞いた瞬間、今までの自分の行動が、考えが全て否定されてしまいそうな気がして。
(私は何を考えて……しているんでしょうか?
……いいえ、運営者を倒せるメドはあっても確実ではないんです。
何を甘い考えを……願いはあくまでも倒せた時の事……今はそんな事よりも当初の生き残る目的を……)
自分の考えを言い終えたまひるは狭霧の願いを聞くまでもなく満足そうにしている。
「俺様の願いはこんな下らない事考えたヤツラの首だな」
まひるが自分の思いを言って満足していると思った矢先、寝ていたはずのランスが答えた。
「あら、起きたんですか?」
助けの船。とばかりに狭霧は遮られていた口を解放してランスへと向けた。
「深寝入りする前に、そんな会話されちゃな。ユリーシャはまだ寝てるが……」
そういうとランスは未だ自分の胸に寄りかかって寝ているユリーシャ優しくそっとずらすと体をおき上げて喋りつづけた。
「決まってんだろ。こんな糞くだらない事考えて実行したやつらをギャフンと言わせてやらなきゃ後味が悪いだろ?」
「まさか、素直に『お前の首をよこせ』とでも言うつもりでも?」
まるで夢物語のようなランスの願いに狭霧が呆れたように言う。
「そこはほれ。おとぎ話にあるように上手く逆手に取ったり、裏技を使ったりしてだな……」
「で、その考えはあるんですか?」
「むむ……? それはこのハイパー美形な俺様の手にかかればそのうちだな……」
「はいはい、解りました。ですがあなたの事ならハーレムでも注文するかと思いましたけどね」
「そんなものこの俺様の手にかかれば簡単に築けるものだからな。願う必要なんかない」
本当はそれも欲しい。と言うのは止めてランスは強気を張る。
それに、そこまで言ってイメージを落とし、その願いのせいで信用をされなくなっては……とも思ったのかもしれない。
今更、ランスのイメージが向上するわけではないが、それでも最低限の信頼の部分は回避しようとしたのだろう。
「で、元気になったのなら恭也さんの代わりに……」
狭霧がその言葉を言い終える前に
「ぐがー」
加速装置を使ったのかのごとく、ランスは再び寝入ってしまった。
「現金な人だよねぇ……」
その様子を見たまひるが苦笑いをする。
やがて各々が移動の休息を取るかの如く静かになる。
その間も狭霧は、一人考えつづけた。
(そう、今は生き延びる事を……)
頭の中に浮かぶ己の小ささを必死に振り払うと狭霧は自分を落ち着かせるように言い聞かせる。
それでも、狭霧の心の中に浮かんだモノは片隅に残りつづけた。
遅れましたが、以上です。
この狭霧とまひるのやり取りと彼女らの位置付け、心情に悩み悩み悩みずっとスランプ状態でした。
もし、これでもいいと言って貰えるのなら、後日本スレに投下させて頂きたいと思います。
同じく以前の書き残し、あの接見話も近日中にここに上げます。
重ね重ねすみませんでした。
拝見させていただきました。
本スレに投下しても全く問題ないと思います。
私的には紗霧の願いはそっちの方がいいと思いました。
私が考えてたのはメール欄でしたし。
昨日は作品投下できませんでしたが、土曜日あたりには全投下出来そうです。
一作品にまとめます。
金曜日、メール欄にて戦闘結果をネタバレします。
>>260
ありがとうございます。
それを受けて多少加筆修正しました。
が、私も連投規制を見事に喰らったので続きは明日に張ります(苦笑
執筆中ですが仮投下は土曜日になりそうです。
ネタバレはメール欄。
時間軸等の問題があるだけにメール欄②は先延ばし、内容変更も視野に入れてます。
長く時間をかけただけにある地点まで結果を引っ張ってます。
地点以降の様々な結果は、ほぼ全て書けそうなのでこれもここに投下します。
追記、メール欄でした。
今日は投下できそうにありません……
投下完了です。
一日空けてしまってすみませんでした。
現在、接見話の作成を続けてます。
こっちは前回のようなスランプになるような大きく悩む部分が今の所ないので早ければ明日の夜に試作をここに投下します。
本日もちょっと投下できそうにありません。
今晩と明晩で、一本ずつ投下しようと思います。
数年ぶりのSSなので、文章的にちとアレですが。
今日投下予定の作品については
内容的にルールのちゃぶ台返しに見えるかもしれませんが、
(メール欄①)の視点で透子が
(メール欄②)について疑問を抱いていくという方向性で
(メール欄①)は(メール欄③)ので、
どうにか見逃して頂きたい次第。
ところで今でも連続投稿規制ってありますかね?
もし規制にひっかかったらこちらに残投稿分を上げますので
支援のほうよろしくお願いします。
新作乙です!
規制にひっかかって支援できませんが応援してます。
感想は後ほど。
投下、お疲れ様でした。
引き込まれる内容で、透子達の感情の機微や、先の読めない展開で楽しめました。
>智機の目に映るもの/透子の目に見えるもの
そりゃあ、パートナーの事が一番大事だよな……。
唯一つの願望ゆえに何百年何千年もの時を過ごしてきただけに、主催陣で一番情をはさまずに
任務を遂行できそうな冷徹さと空虚さを感じられて良かったです。
異能力者が力を制限された事の焦りも出てて良かった。
>>267 のメール欄は、魔窟堂と秋穂の話などで伏線は張られていたので、問題ないと思います。
真人や貴神にはない執念だw
> もう、泣くことしかできない。
さおり人格が消えたために、発火能力が変化する展開は予想できませんでした。
式神星川……。
暴走した双葉は、ただ、ただ、無残で何とも言えない気持ちになりました。
原作からして劣等感にさい悩まされてるもんなあ。
ようやく現実に気づくきっかけができたしおり。
このロワにおけるある種の到達点に辿り着けた気がしました。
双方暴走(かつバリア付き)したために周囲にいる連中の生死の行方もわからないカオスな状況にGJ!
魔窟堂め命拾いしたなw
これからも無理せず頑張ってくださいませ。
途切れて2年。
それでも諦めずに待ち続けていた甲斐がありましたーっ!!
あまりの歓びに初カキコです。
待っていてくれた方には済まない思いでいっぱいです。
楽しんでくれる方がいるとわかると俄然やる気が出てきます。
>>268-269 さん、
>>270 さん、
ありがとうございます。
今晩と明晩で一本ずつ投下予定。
描き始めのハイテンションはここらで沈静化させるので、
以降の投下ペースは落ちると思いますが、
粘り強くゆきたいと思います。無理しないよう気をつけて。
暫くの間、お付き合い頂けたらこれ幸い。
連日、乙です。
それでは感想を
>我も彼も
なんと!ロワ開始前ではアズと同格だと言われてた、知佳を圧倒した存在を瞬殺とは……!
透子の能力の恐ろしさを改めて認識させる描写見事です。
透子と神々容赦ないなあ……。
そして、さらば……D−01……N−13……世の中甘くなかったね。
台詞と名前を得られただけ幸運かも……てか喋れたのか!
それと管理役は辛いな智機よ……今の君は酒飲んで無理にテンション上げてるように見えるぞw
透子のお茶目さも見れて盛りだくさんな内容で楽しめました。
やはり貴方は投稿しすぎです。バイバイさるさん。
合言葉=好きな車は?
と、言われてしまいました……
どなたか支援転載願います。
転倒したアインはすぐさま立ち上がり、
まるで立ちくらみでも起こしたように再び崩れた。
うう、と嗚咽を漏らしながら。
なぜか顔色をバラのように赤くして。
「かーっはっはっ、けひゃひゃひゃひゃ!!」
素敵医師は狂喜した。哄笑した。
倒れ方を見ても顔色を見ても、アインの体調は崩れている。
いかような神の悪戯か。
めぐりめぐって結果としては、素敵医師の計画にどおりに
軌道が修正されていた。
「ごおおおおお!!」
腕に腕に気を込めながら駆け寄るザドゥが、
伏したアインの位置を、遂に越えた。
その顔が瞳が真っ赤に染まっているのは怒りゆえか。
迎え撃つは冷静さを取り戻した素敵医師。
まっすぐにザドゥを見つめ、迎撃の準備を完了。
(気力破壊の射程2mまで、あと……
100cm…… 50cm…… 0cm!!)
素敵医師は勝利の雄たけびの如く、技の名を叫んだ。
「気… 力… 破… 」「おっはよー♪」「壊っっっ!?」
D−01の号砲で動いたのは3人ではなかった。
4人目がいた。
素敵医師の眼前に突如現れた金髪碧眼の女。
カモミール・芹沢。
30分という時間は気絶からの目覚めには十分だった。
芹沢の腹部には鈍痛。喉には乾き。
肉体的にはかなり弱っているにもかかわらず、
しかし、目覚めはさわやかだった。
なぜだか楽しいから。
なぜだか気持ちいいから。
ザドゥが体を張って治療に当たったものの、
残念ながらまだ、薬の影響が抜けきってはいない。
自由意志で思考はできる。
自由意志で行動もできる。
しかし、過剰な多幸感とまばゆい色彩感覚だけは、
未だ深く彼女を蝕んでいた。
アッパー系と呼ばれるクスリの効果に類似する。
もともとハイテンションな女にそれがキマる。
じっとしていられるはずがない。
だから、彼女は元気に目覚めの挨拶をした。
一番初めに目に入った、お薬をくれたいい人に。
「おっはよー♪」
にぱっとひまわりのような笑みが突如現れ、
気力破壊の射出に失敗した素敵医師は……
「なんちゃー!? ……ひべっ!!」
当然の如く暴発した。
渦に飲み込まれるかの如く消失する素敵医師の気力。
素敵医師はへにゃりと座り込む。
「せんせ、元気ないなぁ? あははははー。
もっかいいくよー? おっはよー♪」
芹沢が素敵医師を覗き込んでにぱにぱ笑う。
肩をつかんでがくがく揺する。
素敵医師は無抵抗で無反応。
これが気力破壊の効果。
彼は暫くの間、立つことも物を持つこともできないだろう。
しかし、拳に気を込めたはずのザドゥは、
素敵医師のもとに現れなかった。
今が憎き素敵医師を屠る絶好の機であるにも関わらず。
「あれー? ザッちゃんだー。 あははははー。
おっはよー♪
……どーしたのかなー? 元気ないぞー?」
ザドゥは素敵医師の2m手前で膝をついていた。
激しいめまいと頭痛に襲われ、動けないでいた。
それはアインと同じ症状に見えた。
現場よりやや南に離れた木陰。
式神たちが身を寄せるシェルターの奥で、
一部始終を観察していた朽木双葉が、
歌うような口ぶりでひとりごちた。
「アイン、苦しい? 気持ち悪い?
あんたらは気づいていないけどね、
それ、一酸化炭素中毒ね」
中毒にかかっているのはアインとザドゥだけではない。
素敵医師も、芹沢も。それと気づかず等しく煙を吸っている。
アインとザドゥの症状が重いのは、全力疾走したが故。
「このままでも確実にみんな死ぬ。
……でも、アイン。あんただけは。
そんなに簡単な死は与えない」
暗い笑みを浮かべる双葉のその貌、鬼女か、悪魔か。
↓
【現在位置:東の森・楡の木広場東部】
【備考:火災に気づかない幻覚作用中】
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:素敵医師への懲罰、参加者への不干渉、カモミール救出】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒】
【素敵医師(長谷川均)】
【スタンス:アイン・ザドゥ・仁村知佳への薬物投与、朽木双葉と一応共闘】
【所持品:メス2本・専用メス2本、注射器数十本・薬品多数
小型自動小銃(予備弾丸なし)、謎の黒い小型機械
カード型爆弾二枚、閃光弾一つ、防弾チョッキ】
【能力:異常再生(限度あり)、擬似死】
【備考:独立勢力、主催者サイドから離脱、疲労(小)、肉体ダメージ(小)
行動不能(気力ゼロ)】
【カモミール・芹沢】
【スタンス;???】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。
疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
【アイン(元№23)】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:スパス12 、魔剣カオス、小型包丁4本、針数本
鉛筆、マッチ、包帯、手袋、ピアノ線】
【能力:カオス抜刀時、身体能力上昇(振るうたびに精神に負担)】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、軽い幻覚、
肉体にダメージ(中)、肉体・精神疲労(中)】
【朽木双葉(№16)】
【現在位置:東の森・楡の木広場東部】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符7枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
兵器化の乱用は肉体にダメージ、
自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:元・星川 幻術に集中。持続時間(耐火)=01分程度
式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=45分程度】
以上です。
よろしくお願いします。
支援投下します
9−11の3つで連投規制に引っかかりました
どなたか続きをお願いします
(情報1/2) で改行多すぎになったので素敵医師の所持品を2段にしました
厳しい投稿規制の中、新作乙です。
>>281 さんと>>283 さんも乙でした。
> おっはよー♪
この展開は予想ができませんでした。
三者を膠着させて時間を進め、D−01の爆発で長い均衡を崩し、上がったテンションをカモミールで落す。
見事な構成でした。 こんな形で素敵医師が戦線離脱するとは……その手があったかw
N−13の持ってた予備首輪と薬品もこれでロストかな?
ザドゥはキレてたけど、カモミールにとっちゃ素敵医師はまだ仲間か……そりゃそうか。
最後の双葉も薄気味悪くて良かったです。GJでした。
この度、バトル・ロワイアルの過去ログとこれまでのSSを可能な限り集め
独自に編集してHTMLで纏めました。纏めサイト風に作りました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2373.zip.html
PASSはrowaです。
お楽しみいただければ幸いです。
それと……こちらも何か書いてもいいですか?規制厳しいけど。
もし要望があれば、その都度UPします。
それと本スレにアドレス張っていただいてもOKです。
現状、規制で投下できないのでそうしていただけると助かります。
みなさん乙です。
最新作を読んで疑問なんですが、アインは素敵医師の本名をザドゥの口からじゃなく、まりなの口から知ったはずですよ。
明晩、恭也を中心とした「いずれ迎える日の為に」を、
金曜晩に魔窟堂視点の「亡きエーリヒ殿に問う」を、
それぞれ投下しようと思います。
定時放送前については以上2作で打ち止めとし、
その次の投下(来週半ば予定)で放送をかける予定です。
>284さんに放送前の出来事を書かれる予定がありましたら
その旨のレスを下さい。
投下されるまで放送分の投下を待ちます。
>>284 さん
まとめ、ありがとうございました。
前回/次回登場話に飛べたりアナザーが収録されていたりで
至れり尽くせりですね。
>>286 さん
ご指摘感謝です。
本スレに修正稿を上げさせていただきます。
修正乙です。
まとめお役に立てたようで何よりです。
現在考えてる話は放送後でも問題のない内容と思うのでかまわず先に進んでもOKです。
現在投稿できませんし、完成したらここに投下します。
今のアクセス規制の長さを考えると、代理投下スレのお世話になりそう。
新作楽しみにしてます。
>偽エンディング
力の入った良作ありがとうございます。
おかげでより創作意欲が湧いてきました。
まだ終局は先なので細かい感想は控えさせていただきますが、非常に後味のいい話でした。
>何度も上げるより、まとめサイトを作った方が良いと思う
私生活が不安定なので作れても放置になるかもしれませんが……
とりあえず十月いっぱい様子を見て判断してみます。
サイトの形式はWikiの方がいいかな?
まとめは今度の土曜か日曜にまたアップさせていただきます。
放置されてるのを拾う感じで日曜に放送前の話を一話投下します。
被ることは絶対にないと思います。
>まとめサイト
>284氏のをうpだけで良ければ暫定的でしましょうか?
と言っても私がまだ拾えてないので土日以降になりますが。
pukiwikiで良ければ設置はできますが、今はアットwikiがあるのでそっちがいいですかね。
>284氏のをうpだけで良ければ暫定的でしましょうか?
どうぞ、何らかの役に立てるなら作業の甲斐があったものです。
ご自由にご利用下さい。
ついでに最新版をUPさせていただきます。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0782.zip.html
PASSは negi です。
2、3日で消えるのでロードはお早めに。
物語の進行と共に、素材をこれからも上げていくつもりです。
>>291
ありがとうございます。
ttp://d1s.skr.jp/ergr/
早速上げさせていただきました。
一部web対応にするためにファイル名とリンク等弄ってある場所があります。
オリジナルのままでなく申し訳ない。
ミスがあれば報告お願いします。
web対応の方の圧縮は、著作元は私ではないので284氏のご要望がありましたら上げておきます。
ここから先、次のレスは日曜投下予定の話の流れです。
かなり本筋を佳境に向かわせる為に動向に変化を加える予定なので、
話の枠組だけ先に上げておこうと思います。
ネタバレを好みたくない方はこの名前をNG指定にして下さい。
そのための被らないような適当な名前ですw
登場キャラ:智機、プランナー、ケイブリス。番外で透子
プランナー接見
智機、プランナーに要求を蹴られ、己が駒であることを自覚し、機械であるはずなのに少々情緒不安定になりだす。
代わりに透子の能力の使用禁止(プランナーが協力している部分で)
ゲームの成功のために協力しないのだから、透子にも協力するな。と無謀にも突きつける。
プランナー、受け入れる理由も利益も自分にはないが、智機のもがく姿に何かを見て気まぐれに受け入れる。
以後、透子の『読み替え』の能力でプランナーに許可を求める程大きく変化させるものは行使不可に。
ここまでが前編。
後編ではケイブリスとの会話とスタンスの変化していく有様と説明。
「運営としてゲームを終わらせる」から「運営の立場を利用して願いを叶える」という形にスタンスへと変える予定です。
今までは『駒』として「運営を行なう」だったものからの変化で、今後は運営に課せられた最低限のルールさえ守れば願いかなえるためには何でも有り
(といっても既に何でも有り的なスタンスでしたが、最後の壁を取っ払った感じでしょうか?)
内容は。
「というわけでもう遠慮せずザドゥ殺っちまえ」「殺るにしてもどう殺すか」「内輪で処理では戦力の減少になるし、隙をつかれる可能性が」
「あの手この手で対主催チームを・にぶつければあっちの戦力もダウン、ザドゥが勝ってもそのバンバンザイ」
「透子? 邪魔するならザドゥと同じようにする」「残ったヤツラで無理矢理にでも殺し合いさせればいい」
という会話と彼女の考えで閉める予定です。
前編は日曜予定。
後編は完成しなければ放送後でも可なので来週末、
時間が取れないと再来週とかに伸びるかもしれませんが……頑張りますorz
>>292
まとめサイト設立ありがとうございます。
オリジナルのままでもOKです。
形になっただけでも嬉しい限りです。
最新話分も含めて、今度の日曜日の昼頃に新素材をアップさせていただきます。
それと>>293 の展開は私は構わないと思います。
>いずれ迎える日の為に
細かい仮想戦闘描写見事でした。恭也の実力を再確認。
神速抜きでも尋常ではない強さが伝わってきました。
恭也と紗霧のやりとりも緊張感があって面白かったです。
紗霧の黒さも再確認でしたw
本スレでの支援感謝です。
>>a154siyedさん
内容の件了解です。
これを受けて、次回投下予定の定時(から5分遅れ)放送話は
>>293 前編の裏イベントとして(メール欄①)をやろうと思っております。
それと、後編は放送後でお願いしたいのですがよろしいでしょうか?
よろしければ放送話を来週半ばに投下したいと思います。
新作乙です。感想はまた後日。
今度の月曜日までを期限に一本SSをここに仮投下したいと思います。
問題が無ければ本スレに投下します。
登場キャラはユリーシャ、まひる、ランス、ほか1名。
今回の話の前の時間の出来事ですが、放送直前に黒幕サイドの誰かのモノローグを入れる予定です。
間に合わなかった場合は没SSとして投下します。
放送話の件、了解しました。
大変遅れてすいません。ようやく完成しました。
予定の内容より大幅に削る羽目になり、まひるとユリーシャの会話の繋ぎのみになってしまいました。
このレスの後に仮投下し、明日の夜に少しばかりの加筆をした後に本投下します。
先に感想と更新分の素材をアップします。
> 亡きエーリヒ殿に問う
魔窟堂って、ランス達の会話聞いてたのね。
タイトルからしてしんみりとした回想話を期待してたのに、見事に予想を裏切られました。
そして期待以上に面白く笑える内容でした。 じじい……余計な事に気づきやがってw
用心?のためにユリーシャの所持品を隠匿した紗霧の方にもとばっちりが行きそうで、先が楽しみな展開でした。
智機といい、キャラ独自の描写上手いです。
今回は主に本編SSの目次と最新話関連を更新しました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4660.zip.html
パスは rowa です
以前上げた、同名のファイルに上書きしていただければ更新できます。
本スレ >>280
(二日目 PM5:45 西の小屋内)
仮眠を取っているランスとユリーシャを尻目にまひるは窓に手をかける。
窓を開けると涼やかな風が屋内に流れ込んで来た。
木々の隙間からは夕日の暁光が流れ込む。
紗霧は恭也に呼ばれ小屋の外に出たままだ。
まひるは側に置いている地図を手に取ると、それを再び覗き込みこう小さく呟いた。
「ここって地図に載っている小屋じゃないよね」
今、一行が滞在している小屋は参加者に支給された地図に描かれていない。
現状、地図に描かれている小屋は、生存している参加者中しおりを除いて確認していない。
まひるは地図の載っていない建造物の存在を疑問に思った。
だが主催者の基地の位置が記載されてない事を思い出し、ひとまずその疑問を心の隅に追いやる。
「行って見ようかな?」
魔窟堂が戻って来たら、地図に載ってある小屋の探索を提案しようかなと思った。
不意の襲撃等に備え森内の様子を少し把握したかったし、自身の好奇心もあった。
もっとも多かれ少なかれ危険な場所なのはわかっているので、反対されればおとなくしく引き下がるつもりだ。
まひるは思考を一旦打ち切ると、何気に天井を見上げた。
新しくもないがそれほど古くも見えない白い壁。それを照らす夕日。
日照りの色彩を見てまひるの気持ちは少し沈んだ。
もうすぐ放送だろうか?
「…………」
昼の放送時における参加者の生死も心配だが
死んだ参加者の遺族のその後も、まひるにとっては心配だった。
この島が作られた島でなければ、遺族の何人かには行方を伝える事ができたかも知れないのにと思う。
タカさんには姉がいたけど……と思った時、気配を感じ、まひるはゆっくりと振り向いた。
「て……まひるさん?」
寝起きのユリーシャだった。
「どうしたの?」
「いえ……何をなさってるのかと」
ユリーシャは遠慮がちに尋ねた。
「んー……この地図の事」
地図を片手でばたつかせながら、間延びして応える。
「気になる事があったのですか?」
「そうそう。 この小屋って地図に載ってないよね」
ユリーシャはその返答に眉を潜めたが、彼女にも思い当たる節があったようでこくりと頷いた。
「
主催もこの小屋の事を知らないのでしょうか?」
「それだったら、ちょっとラッキーかもね」
その言葉を皮切りに2人は地図にある施設についての議論を始めた。
記載されてる小屋の探索も彼女に提案したが、6人が出揃ってからって事で結論が出た。
「姫さんはどこの国に住んでるの? あたしはねー……」
議論がが他愛のない世間話に移行した。
まひるは学校での出来事を主に、ユリーシャは祖国にいる侍女や収穫祭の事を話題に出した。
「あの、まひるさん……話題を変えて悪いのですが、お聞きになっても構いませんか?」
「? どうしたの」
互いに少し緊張しつつ彼女は尋ねた。
「ランスさまと恭也さんは何をお話になっていたのでしょうか?」
「……」
返答に困った。
先に思い浮かんだのはあの時、彼女がランスに尋ねた時に「お前には関係のない事だ」とにべも無く返したところ。
ランスと恭也の会話の一部始終は、魔窟堂らと同じくまひるもすべて聞き取れていた。
秋穂と言う人物名を交えたランスと恭也の会話は短くも重く、悲しい空気が流れていたのも感じ取れていた。
「……どう答えていいのかわからない」
「え?」
「あの時、ランスは姫さんと……多分、恭也さんも気遣ってたみたいだから言いにくいや」
「私と……あの人をですか?」
思わぬ返答にユリーシャは戸惑い、それを遮るようにまひるは言葉を続けた。
「それに、これまで2人の間に何があったかわからないから」
「……それは」
ユリーシャは何とか問いただそうとするが、何かに気づいたのか顔少し俯かせた。
「……私は恭也さんの事、訊かされてませんでした」
「何で教えてくれなかったんだろね」
まひるは両目を閉じ、困ったように呟き、ユリーシャも曖昧に笑いながら返す。
「知らない方が良いのでしょうか……」
「ランスから先に話してくれるのが良いと思うんだけどね」
「……………………」
ユリーシャはしばし考え込んだ。 そして、まひるに目を向け言った。
「……それでも、少しだけでもお教えいただけませんか?」
「いいの? ランスは……」
「…………」
不安げにユリーシャの手が硬く握られる。
手に汗がにじみ出るのを自覚しながら、ユリーシャは言った。
「ランス様からの口から……いつかお聴きします」
「そっか」
まひるはそう言い微笑んだ。
ユリーシャはそれに会釈で返すと、脱力したように息を吐いた。
そして開いた窓を見る。陽の赤みが濃くなったように思えた。
まひるは歩み寄り、ユリーシャの背をぽんと叩いた。
「?」
「彼氏を起こしに行きなよ」
ユリーシャは戸惑ったが、その言葉の意味に気づき「ええ」と微笑みながら
仮眠を取ってるランスの方に行った。
ほぼ同時に紗霧が戻って来るのを気配で感じた。
まひるは窓から身を乗り出し、風景を眺めながら考える。
ランスとも話をしてみようかな、と。
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【現在位置:西の小屋】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランスを中心にグループに協力】
【所持品:ボウガン、スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
解除装置、白チョーク1箱…は紗霧に隠されてます】
【能力:勘が鋭い】
【備考:疲労(小)、紗霧に対して苦手意識】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:智機以外の相手との戦闘はなるべく避ける。
グループが危険に晒されるなら、応戦する
島からの脱出方法を探る、機会があれば西の森を更に探索してみる】
【所持品:せんべい袋、服3着、干し肉、斧、救急セット、竹篭、スコップ(大)
携帯用バズーカ(残1)、タイガージョーの支給バッグ(中身は不明)】
【能力:身体能力↑、????、怪力、爪、超嗅覚・感覚、片翼、衝撃波(練習中)使用】
【備考:疲労(小)】
仮投下終了です。
時系列的には前話より前なので、次の更新では話数を入れ変えた方が良いかもと考えてます。
問題なければですが。
何かNGワードでここに上手く書き込めない……。
>>304
乙です。
小屋は既存のmapにある小屋跡とは別に西の森にあるもので地図に載ってないということでおkでしょうか?
読み返してると小屋いっぱいあってワケワカランになってしまってw
はい、OKです。
東の森と西の森にはそれぞれ一件ずつ、地図には載ってない小屋がありました。
『頭が痛い』
もし生身の肉体を持つものならば発せられたであろう言葉の示すものに智機は襲われていた。
(違う。所詮、これは行き場のない答えの出ない複雑な演算処理によるもの!!)
椅子を掴む手に力が込められ、ギリギリと機械が軋むような音が聞こえる。
(No.16朽木双葉、No27しおりの確保はこれで不可能!! ザドゥに至ってももはや今からでは此方からは間に合わん!!
素敵医師もカモミール芹沢もどうすればいいというのだ!!)
己の目論見が完全に潰され、智機はやり場のない怒りに襲われていた。
(おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ!!)
口惜しい。
今、彼女を支配している『感情』は紛れもなく『怒り』であった。
(透子のやつめ!!)
忌々しく、思考の中で智機は先の会話をリピートした。
『主催者の命は、ゲームの進行を妨げてまでして
守るものではないのですね?』
『最初からそういってる』
―――ゲームの進行を妨げてまでして主催者の命を助ける理由がない。
確かに、彼女の言わんとする理は適っていた。
ゲームの進行とは別のところで運営陣同士の派閥争いが起きようが、
その結果殺害が起きようが、ゲームの進行さえ遂行されれば良いというのだ。
ザドゥが素敵医師を制裁しようとしても透子が止めようとしないのはそういうことだ。
参加者が参加者を殺すために広範囲にわたる攻撃を行なった際、近くにいた運営者が死ぬことになっても助けてはいけない。
それは近寄った運営者が悪いのであり、運営者を助けようとし、そのためにゲームの妨害をしてはならない。
つまり、その場にいる運営者の自業自得なのである。
(そんなことは解りきってる!! だが!)
尤も、それは先刻までの話だ。
既に運営者も舞台に引き上げられてる以上、降りかかる火の粉を払わねばどうすると言うのだ。
この後に及んで、素敵意思、ザドゥ、カモミール芹沢ら運営陣の巻き込みも狙いに含まれていたとしても。
双葉がアインを殺そうとしている意思がある以上、そちらが優先されるべき。
と言うのである。
双葉の行為は、確実に巻き込みを狙っている。
森の中にいる彼女が彼ら運営陣を気づかぬはずはないのだ。
しかし、その意図が明らかに見えていたとしても、それは智機のサイドからすれば確定の弁が取れているわけではないのだ。
即ち、透子はそれをもってして過剰な介入と警告を発した。
あくまで彼女は、
「仲たがいを起こし、このような結末を引き起こした運営が無能であったのであり、それは『上』の命令規定から外れたものではない。
よって、『上』の意思の元である」
と宣言しているのだ。
チェスの駒は決まった動きしかしてはいけないというのである。
それ以外が許されるはずがない。
しかし、智機はプランナーへの連絡権を与えられている。
プランナーとしても出来る限りゲームは成功させたいという意思があると彼女は思っている。
では、
―――主催者がゲームの進行を手助けするのは是非か。
先の智機の真の意図は此方だ。
素敵医師の介入が実力行使で止められなかったのは『ゲーム内を引っ掻き回すこと』ではあっても『ゲームの進行を妨げる』に抵触しなかったからだろう。
彼は、徹底的に参加者同士が争う為の混沌とした場を提供する道化師を演じつづけた。
参加者同士の殺し合いを煽るという結果の方が副産物と言えど、素敵医師の行動はその結果を生み出している。
つまり、ゲームの遂行を妨害しない行為は、先の運営陣同士の仲違いも、進行を加速させる行為も、許されるのだ。
度重なる警告に従わない首輪を外した反乱者を殺すのも、参加者の確保も、許されるのである。
―――はずなのである。
透子が智機の真の意図に気づいていないとは考えにくい。
仮に気づいてないのだとしても、それは言葉の警告で事足りた筈だ。
分機の破壊まで行なうのは、過剰な行為ではないだろうか。
つまり、気づいてないのだとしたら、運営者同士の仲違いだ。
己の力を誇示し、智機の力を削ごうとしているのであり、お互いに牽制しあっていた状態を崩すと明言しているに他ならない。
ならば、智機サイドによるルールに乗っ取っての透子への攻撃も許すと彼女は誘っているのかもしれない。
気づいているのだとしたら……。
反乱者への処遇を行なう間、参加者達を保護するのは一時的とはいえ、参加者同士のゲーム進行を妨げることであり、妨害に抵触するというのか。
だが、それが阻害になるのなら、かつて素敵医師も散々似たようなことをしている。
しかし、今は違う。
反乱者達が運営者を倒してしまい、反乱者達と参加者達が残りどちらが勝とうと『上』が新たに提示した達成条件はクリアされる。
参加者が自滅し、反乱者が残り運営者達と戦おうとも許可されるのだ。
つまりそれは……
―――ゲームの終了が運営者による反乱者の始末の場合は、運営陣に課せられた条約は達成されていない。
ギリッ!!
智機の椅子を掴む力が一段と強くなった。
これでは、ザドゥが何と言おうと最初から素敵医師のように積極的に介入すれば良かったのだろうか。
いや、過ぎたことを思考しても仕方がなかった。
では、もはや運営者達は運に身を任せるしかないということを透子は言っているのか。
だとしたら、これでは何のための契約だったか解らない。
透子の願いとは運次第で「適えばいいや」という気軽なものなのか。
彼女は諦めた気持ちでいるというのか。
(もはや猶予はない……)
透子の意図は測れない。
彼女に問い掛けたとしても返ってくることはないだろう。
(やるしかないか……)
ケイブリスとの会話で浮かんだ案、それがあってもギリギリまで粘ってきた。
無能者という烙印を押されたくないが故に。
しかし、問い掛けることが無謀だとしても己の願いに関わる譲れない一線である。
答えが解っていようとも賭けるしかない。
『上』が契約をどう捉えているのかを確かめるためにも。
『上』のゲームを成功させたいという意思は何であるのかを。
このゲームの真の形を確信させるためにも。
―――プランナーへの接見を。
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・管制室】
【所持品:レプリカ智機(学校付近に10体待機、本拠地に40体待機 、6体は島中を徘徊)
(本体と同じく内蔵型スタン・ナックルと軽・重火器多数所持)】
【スタンス:ゲームに関わる認識の再構築】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
久しぶりに本腰入れて筆取るとこれだけの量に一日費やしても足りないとかどんだけ腕落ちてるとorz
前編後編の予定でしたが、予想以上に智機の思考フェイズが長くなったので
これを前編として、接見が中編、ケイブリスとの会話と智機がどう変わりどう動くかを書く話は後編の三部作になってしまいました。
申し訳ない。
問題なければ明日にはスレに正式投下します。
>>295
後編の件、了承しました。
三部作になってしまいましたが、特に支障はないですので、気にせずそのまま予定通り放送行なってくださいな。
あ、やば。
ネタバレが含まれてるからNGID対策の名前と余白をつければよかったorz
何やってるんだ自分は……
ネタバレを見てしまった方には重ね重ね申し訳ないorz
これから、昨日仮投下したSSをタイトル「あの頃の感覚」に変えて本投下します。
投下終了しました。
いつになったら規制は解けるんでしょうか?と思いつつ投下。
本来は島民の行方を示唆する内容でしたが、推理できそうなのが知佳だけなので没にしました。
メール欄で考えちゃいるんですけどね
>>307-311
新作乙です。内容に問題ないと思います。
感想は本投下の時に
次の素材は地図を作る予定です。
参加者配布用と更新中の地図を。
>>315
投下乙です。
見ていなかったときで支援できず申し訳ない。
島民の行方があるってことは、この島は海の小さい大陸(ルドラサウム大陸の小さい海だけ版?)だけ作って既存のどっかの島をその上に持ってきたってことになりますね。
メル欄に関しては、メル欄で否定的で申し訳ない。
素材つくりもいつもありがとうございます。
いえいえ、どういたしまして。
島民についてはメール欄のつもりだったのでその内、参加者の誰かに質問させれば問題ないかと。
あとあの島は、21話と96話によるとグレンコリンズの世界から持って来たみたいです。
次回投下予定の「第七回放送 PM6:05」ですが、
>>284 さんの 黒幕サイドの誰かのモノローグ と
>>a154siyedさんの 中編 の投下終了後に上げようと思います。
>>284 、a154siyed 両氏
ちとご相談です。
当方、ごく初期にこのロワに参加していただけなので、
最近のここや他ロワの流儀がイマイチ判っていません。
1.前日までに投下宣言
2.宣言日に本スレに投下
の2ステップでOKという当時の感覚でいるのですが、
もし必要なら足並みを揃えて
1.投下宣言
2.仮投下
3.問題なければ本スレ投下
の手順を踏もうかとも思っています。
お手数ですがご意見のレスをお願いします。
>>318
私も最近の他ロワはもうここと全く流儀が違うようなのでそっちはチンプンカンなのですが、
総合検討の前スレだかに終盤ということで被らんようにするためと足並み揃えるために
執筆予定の作品に登場するキャラ、またはどんな感じの話かはメル欄なりで先に言っておこうかみたいな流れにはなってたので
それに従ってる感じです。
仮投下は別に義務ではないと思いますが、自分は足並み揃えで行なってるだけなので気にせずに。
それでいいと思います。
そうしていただけると、本編に組み込みやすいので助かります
合作形式はごく一部の他ロワでもあったと思いますし問題ないかと。
こちらの想定してる黒幕サイドが登場するSSはメール欄です。
時系列は放送前後で考えてたものですが、アイン達は絡みません。
多分、明日の夜8時までに仮投下できると思いますが、遅れた場合は構わず先に進んでOKです。
結構、内容の修正は利くと思うので大丈夫だと思います。
投下終わりました。
>>318
中編は日曜投下予定になりますが、よろしいでしょうか?
此方の都合で予定が遅れてしまうことになるので、まずければ気にせず投下して下さい。
中編に関して、相談したいネタがあるので、ネタバレを恐れる方は例の名前を再びNGワードにして下さい。
>>319-320
レス感謝です。
私も仮投下を行うことにします。
回避用空白
異界ゲートは特異点へのゲート。特異点=各世界へ繋げる為の中継地の空間=ルドラサウムやプランナーもそこのどこかにいる。
智機の管制室の下に異界ゲートが一つあり、管制室から物理的に行くことが可能。
その異界ゲートはプランナーのところへと繋がってる。
というものです。
一応、192話の
>「鏡」は彼が異世界を観賞し、時には干渉し、時にはその世界の
>生きる者、又は物品をこの世界に召喚する為の「門」。
からきてるものです。
別にルドラサウムが覗けるのが四つしかないではなく、島から向こうへの通行路の「門」は四つしかないという感じです。
まだ先ですが、ルドラサウムのいる空間から自分達の世界を映してる門をくぐれば帰ることは可能というネタも考えてはいます。
まずければ、普通にプランナーらのいる空間に繋がってるゲートが管制室の下にあるだけで済ませるので、不都合があればお気軽にご批判下さい。
いや、異界ゲートをくぐればくぐった人の世界に帰れる便利ドアではツマラナイカナトオモッタノデ(ガッ
とりあえず書き終わったので試験投下します。
〜カオス〜
(二日目 PM5:58 東の森・楡の木広場)
切っ先を地面に突き立てられた状態の黒い魔剣カオスは、現在の己の境遇を嘆いた。
現所持者であるアインに置いていかれたのが原因ではない。
原因は自らに起こった変化によるものだった。
<ぐっ……心のちんちんが出んのう……>
我が身こそ剣の形になってるものの、いつもなら心のちんちん――オーラーの触手のようなものを
発現させることができ、ある程度の自律行動を行えるはずだった。
だがここに来てからはまったく発現できそうになかった。
これまで森と廃村とこの場で3度自律行動の試みをしたが、ここまで力が出せないとなると一旦諦めた方が良いとカオスは苦渋の判断をし、
意識をこの場の戦闘の分析に切り替える。
背後から流れる黒煙をものともせず、茂みの向こうに聳え立つ巨木に目を向け考える。
巨木からは生命エネルギーによる威圧が、茂みの向こうからは強者達によって放たれる緊張が、背後からは熱が、
地面からはかすかな違和感がそれぞれ感じられる。
アイン達はいつ動く? カオスはそう思いつつも巨木に再度目を向けた。
(…………動かないのではなく、動けないのか?)
発火元はあの幼女だろうが、巨木から感じられる威圧感からしておそらく女術者は健在。
だが火と煙をこのまま放置すれば、半ば枯れた木々を中心に燃え広がり、
自分や発火元の人外の幼女はともかく、強くても人間であるアイン達は命の危険に曝される。
この威圧感が何らかの術の発動によるものだったら、足止めが目的か?
<しかし……>
確かに女術者の目的はアイン殺害だった。
だが、時折幼女をかばいながらの戦い方を見る限り、まったく手段を選ばないタイプとは思えなかったし、
それに加え自身は隠れて戦っていた事から、己の命も捨てる気がないのではなかったようにも思えた。
さっきまでと様子が違う。
火災を放置した上で、これだけ広範囲に力を振るえば、維持に何らかの代償を払うはず。
森林火災が広がりきれば、術の媒体元であろう巨木は燃え落ち、離脱は困難。
自他ともに巻き添えを食らわせる事前提で行動してるとするなら、カオスが出す結論は一つだった。
<……壊れたか>
幼女と術者を仲違いさせ、戦闘から離脱した前後の三者の様子を思い出す。
術者は泣いてるように叫んでいた、幼女は狂って笑っていた、アインは――あの時はらしくもないと思ったが
何か落ち込んでいた。
もしあの時――2人を死に追いやる行為ではなく、心を壊してしまう行為を行ってしまった事をアインは嘆いていたとしたら。
<……こりゃあ、共倒れになるかも知れんな>
幾人もの狂人、惨劇を長年見続けていて、なお自らも武器としてそれに深く関与してきたカオスには、アインの冷徹な行動を非難する主義や思考はない。
術者――双葉にも同情・共感する部分はあれど、使い手がアインである以上、直に対面するまでは武器として扱われるのみ。
ただし、カオスは実は双葉にも興味があった。
もし対面した際に双方に話しかける余裕があったら、アインと双葉と交渉(9割方決裂覚悟だが)するつもりだった。
だが、アインも双葉も目的達成の為なら、己の命や主義さえも厭わなくなっている。
互いの自棄が無自覚ならともかく、自覚しつつやってるなら、尚更厄介だ。
そしてカオスが魔剣化してから、これまで見てきたこの手の復讐劇の結末は大抵双方破滅。
<もったいない>
カオスはため息をつくかのように目を閉じ、地面からの発せられる違和感を感じつつ向こうを注視し続けた。
〜ルドラサウム〜
《キャハッ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……》
ここは無数の『門』が散らばる異空間。
どこか歪な子供のような笑い声が木霊している。
球状のモニターの一つに写っているのは、先ほど透子によって爆破された真紅の機械人形の残骸。
白鯨の姿をした声の主ルドラサウムは紅い双眸をソレに向けて笑い続けていた。
ひぃひぃ……と笑いを噛み殺しながら、ようやく言葉を発する。
《駄目じゃないかぁ、智機くん。ザドゥくんや双葉ちゃんのお邪魔をしちゃ。
途中までいい線突いてたけど、終わってからにしておくべきだったよねっ。 きゃはははははは!》
創造神があの場の智機に対して期待してたのは、乱入した他の参加者との対応や、
ザドゥらの戦闘後における生存者への対応であって、戦闘の介入ではない。
もし透子がフォロー?しなければ、この事についてプランナーと会話するつもりだった。
彼は笑いを止め、楡の木広場の方に更に注目する。 其処から流れていく思念に更に充実感を覚える。
《このままだと凶のしおりちゃん除いて全滅かな? それもいいけど、ちょっともったいないかな?》
そんな彼の言葉とは裏腹に不満はまったくない。 あくまで面白おかしく成り行きを見るまで。
向こうで苦しみあえぐザドゥとアインを見て口元を歪ませながら、彼は式神星川の事を考えた。
《もうすぐ消えそうだけど、『彼』はここに来るのかな?
それとも、まだ消えないかな?》
双葉によって道具にされる前、苦しみながら身体の中から木の枝を数本出して、地面に埋めていたのを思い出す。
今となっては何がしたかったのか解らないが、どちらにせよその内それも火に焼かれ消えるだろう。
とりあえず、気にしないことにした。
《そういえば、ボクの世界でもここには来ない固体が幾らかあったね。 やっぱり、来ないかな》
彼は次に火災の中心部であるしおりに注目する。
先程と違い、純粋な悲しみの感情しか流れて来ないがこれも悪くない。
それを味わいながら、彼はアズライトら既に死亡した参加者の事を思い、考えた。
そしてある事を再確認し、彼の目線がやや上を向いた。
《……まだ、来てないね》
彼の白い巨体がわずかに身じろぎした。
必要と思い、次に舞台の生存者の大まかな動向と性格を分析する。
ゲーム終了後の事も想定に入れて楽しむ為に考える。
《そのままでもいいけど、後でしちゃうと締まりがないかな?》
終了後における後始末は何もプランナーだけが行うことではない。
創造神である彼も多かれ少なかれ作業に携わらなければいけない。
彼の『世界』でもそう珍しくない現象がこの舞台にも発生した以上は特に。
それは最初に選択肢として入れていた『終了後に参加者ごと島を破壊する』行動を取るにしてもやらなければならない作業だ。
《ゲームの勝者には、望み通りの褒美をやらなくちゃね》
愉しげな色を滲ませた彼の右目は、ある『門』の一つに向けられたが、また視線を楡の木に戻す。
すべては広場での戦闘が終わってからだ。
《恭也くんは残るかな? 多分駄目だろうけどしおりちゃんも残るかな?》
歌うように楽しげに歪な考えを口に出す。
広場での戦いは膠着してるようだが、いつ動き出すか解らない。
その間に彼は方法を考える。時刻はまもなく午後六時。
六時になったとほぼ同時に案がひらめき、口に出した。
《そうだ》
↓
ここで必要か不明だけれども支援
仮投下終了です。
>>331 さんありがとうございます。
問題があればその点を削り、明日か明後日に加筆したのを本投下する予定です。
問題点かも知れないカオスの違和感の正体はメール欄①と考えました。
式神星川のはメール欄②のつもりだったのかなと思い描写しました。
採用されても②は今後放置しても問題ないと思います。
ご意見待ってます。
>>323
>歪な盤上の歪な駒
新作乙です。投下に気づかず支援できずに申し訳ない。
智機の殺スリストの一位には透子が入りましたかw
前半の反動からか身内に振り回されぱなしでちょっと不憫に感じさせる描写は中々良かったです。
この分だと鬼作の時も相当焦ってたに違いないと思い、彼女への見方が更に変わりましたw
スタンス変更への理由付けも自然でした。
明日か明後日に地図更新とは別に、素材全部をアップする予定です。
可能ならば放送まで入れる予定です。
ご存知でしょうが、今回のルドラサウムの目的遂行内容はメール欄のつもりで書きました。
>>332
消えてたorz
>>332
お疲れ様です。
ルドラサウムはゲームを気にする方でしたか。
ゲーム気にしてるのはプランナーの方で、一部参加者を誘ったり土台作ったりとかしてるようですが、
基本的にプランナーの用意してくれた箱庭を見て楽しんでるだけで、楽しければ結果オーライ主義だと思っていました。
それを前提にして>>293 の内容での行使不可等を考えていたのですが、
このままだとプランナーが行使不可をしたこと等に関して、ルドラサウムがプランナーに「何してるんだ?」と説明を求めると思うので
中編後か後編終了後にルドラサウムとプランナーとの会話で、プランナーとルドラサウムの会話(主に納得させるための)シーンを入れようと思いますが
ルドラサウムのスタンスを変化させてしまっても考えている展開等の都合は大丈夫でしょうか?
必要なのでしたら、今考えてる中編のプロットの方を考え直してみようと思います。
補足で。
スタンスというより、そのことや智機がこれから起す行動に関して「まぁ、楽しませてくれるならいいよ」と言ったくらいの感じになると思います、多分。
レスどうもです。
今回のルドラサウムはゲームの運営を気にしてるて言うよりも
>>333 のメール欄も含めて「そうした方が面白そうだから」て思考のつもりで描写しました。
よって>>293 の行使不可の理由付けにも影響がないと思ってました。
手間をおかけしたようで申し訳ない。
なのでスタンス変更等については、まったく異論はありません。
無論このまま進めてもOKです。
それと、こちらのSSを放送より先に投下してもいいでしょうか?
もしよければ連絡確認後、早くて夜7時くらいには本投下を始めます。
>284さん
>>337 の投下の件了解です。お待たせしてすみませんでした。
放送話は智機接見編の投下の後、仮投下したいと思います。
推敲と修正が終わりました。
タイトルを一部変更して、これから本投下します。
本投下終了です。
新素材のUPはは明日の夜か土曜日の夜になりそうです。
先ほど本スレににて昨日投下した作品の場所表記の修正を行いました。
あと最新話までのSS(修正済み)とリンク関連を微修正した素材をまとめてアップします。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org8887.zip.html
パスワードは negi です。
次回の素材更新は、前のが残っている時にするかもしれません。
>>332
亀レスながらこれらに問題はないと思います。
まだ先の話ですが、帰還しない方が幸せかも知れないキャラがいますが
これも異界クロスオーバーもののお約束ですかね。
間違えました。パスは同じです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org8895.zip.html
だめだ……丁度いいマップ作成ソフトが見つからない。
そう言う訳ですみませんが、地図は後回しにして別の素材を先に作りますorz
何だかんだで、どうにかMAPの素体が完成しました。
寄せ集めですが、何とか形になったと思います。
興味ある方は下のアドレスからどうぞ。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0834.zip.html
パスワードは rowa です。
灯台のチップだけは見つかりませんでした。
これに参加者の位置や建物の名称を追記していく予定です。
今週中には他の素材数点と共に次の更新ができると思います。
結婚式に参列したせいで日に書き終わりませんでした。
まだ時間を置いての推敲が終わってないので明日の夜に此方に試験投下します。
二日遅れとなってしまい申し訳ない。
ドンマイ
地図が完成しました。
これまで作った素材を含めてアップします。
地図はフォルダ内の二日目・18時をクリックすれば見れます。
おおまかなキャラの現在地、死体の場所が記載されてます。
アドレスは
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2461.zip.html
パスワードは nrowa です。
>>345
明日の晩に知佳単体でSSを投下しようと思ってるんですが、宜しいでしょうか?
内容はメール欄です。
もし明日の晩までに間に合わなければ破棄します。
レス待ってます。
すいません、下手したら推敲が日曜になってしまうかもしれないくらいまとまった時間が取れてないんです。
放送投下は気にせずにして下さい……。
>>284
此方の方は知佳のメール欄に関して予定はないので気にせずにやって下さいな。
すみませんが間に合いそうにないので、知佳の話は没にします。
気にせず続きを投下してください。
まあ一応放送後でも使えそうなネタではあるんで、機会があれば改変して仮投下します。
ひとまず素材作りに専念します。
とりあえず放送話「第七回放送 PM6:05」改め
「第七回放送 PM6:07」仮投下させていただきます。
>414
(二日目 PM6:06 東の森・楡の木広場西部)
枯死しつつあった森に、火の手は早い。
朽木双葉が人を捨て修羅へと堕ちたその場所―――
広場西部付近のごく浅い場所は、既に炎の禍が過ぎ去った後であった。
炭の黒と灰の白しか存在せぬモノトーンの世界。
草木の全てが崩れ落ち、均されているそこにただ一つ、
力強く屹立する姿があった。
煙を燻らせるその影は、朽木双葉が身勝手に使い捨てた仮初の命。
かつて星川と呼ばれた式神の残骸。
あるいは成れの果て。
芯の芯まで燃やし尽くされた彼が崩れることなく形を残すのは
地を確かに踏みしめる両の足で、埋めた何かを守る為か。
胸の前で固く組まれた両の手で、遠くの何かへ祈る為か。
それとも燃え尽きた今もなお、
星川としての双葉への想いをそこに留めている為か。
隅々まで炭化し、細かいひび割れを無数に走らせる彼の顔からは
もうその理由を読み取ることはできない。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(PM6:07 本拠地・管制室)
コールが乱れ飛んでいる。
哨戒機Pシリーズのうち東の森近辺にいた2機からは
火災状況の報告とその対応の相談が、
残りのPシリーズ4機からは放送の遅れへの問い合わせが、
オリジナルが目覚めさせたものの命令を与えぬまま放置している
学校待機のNシリーズ4機からは行動指示の請求が、
間断なく管制室の通信制御端末に電波を浴びせかけている。
しかし、それら全てに回線を繋ぐことなく、椎名智機は
情報管理端末から第7ピリオドの概略情報を吸い上げていた。
(よくもまぁ、これほどの問題を残したまま謁見などに行けたものだ。
しかも状況情報の一切を持たない私を代行者とするなど……
自己保存欲求とはかくも非論理的な思考ルーチンを生んでしまうものなのか、
それとも情動発生器の制御装置に変調をきたしているのか……)
なぜなら、この智機は目覚めたばかりの機体ゆえ。
どのコールに対応するにも、状況の把握が必須ゆえ。
彼女はスリープモードにあった40機のNシリーズの1機、N−22。
プランナーへの謁見を決意したオリジナル智機が、
その間の管制管理の代行を任せる為に急遽起動させた機体。
(Yes。とりあえず今ピリオドの死者情報は把握できた。
タスクは山積しているがまずは放送だ。7分も遅れているのだから……)
N−22が全島放送用のマイクミキサーを上げた。
「これより、第七回放送を行う。死者は無い。以上」
(御陵透子に放送させれば定時に放送されたのだと「読み替え」られたろうに、
その透子をも謁見に同席させるとはオリジナルは何を考えている?
この放送の遅れは主催側にアクシデントが発生したのだと、
参加者どもに宣言してやったようなものではないか)
オリジナル智機に毒づき情動振幅をいくぶん抑制させたN−22が、
バックグラウンドでの情報吸い上げを終えた。
N−22は直ちにデータの解析を開始する。
精査すべきは東の森での戦闘及び火災の状況。
しおりの紅涙。双葉の幻術。智機の判断。レプリカの爆散。透子の警告。
重要度の高い情報を抽出し、それらをキーに再走査。
―――N−22の情動波形が大いに乱れる。
目覚めて3分、放送して1分。
N−22は楡の木広場を中心とした事態の深刻さをようやく認識した。
(ザドゥらの安否も気遣わしいところだが、
火災の進行具合によっては全島焼失の危惧すら視野に入る。
これではゲームの進行どころではない)
そして、N−22のこの危惧は高い現実性を帯びていた。
朽木双葉の強引かつ大量の能力行使による東の森の木々の枯死が、
結果として延焼速度を大きく早めてしまっているが為に。
『椎名! 何が起きた!? 辺り一面が火の海だ。
状況の報告……ではない! 救助だ! 至急救助を寄越せ!』
N−22の動揺を断ち切るかの如くザドゥからのコールが飛び込んだ。
彼らしくない切羽詰った声が、幻術から醒めたことを伝えていた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(PM6:08 東の森・楡の木広場西部)
広場の草地を舐めるように這いずる炎は
すでに東の森の主、楡の巨木を蹂躙していた。
双葉のゆりかごだったその巨木は既に殆どの水分を失っていた。
故に瞬く間に炎を纏い、
故に瞬く間に倒壊した。
その振動で、式神の亡骸は散った。
散って、舞った。
一瞬で全てが解けて風に溶けた。
儚くも美しい漆黒の花火が如く。
―――第七ピリオドに死者は無い。
↓
【レプリカ智機・N−22】
【現在位置:本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
※式神星川が埋めた「何か」は燃えずに済んだようです。
※楡の木広場西部付近の「足跡」の場所に埋まっています。
>>334 のメール欄②については、
今回はこういう扱いにさせて頂きました。
また、透子が智機と共に謁見に向かったと書かれていますが、
謁見話が智機単独によるものなら該当部分を変更しますので
その旨レス下さい。
次回投下は「大きな楡の火の下で」。
楡の木広場のメンツを動かします。
>>284 さん、仮サイトの作成者さん
それと……
自分の書いた話の誤字脱字重複etc.を修正した.htmlファイルを
以下にアップしました。
もしよろしければ次回更新時にでも該当ファイルの差し替えを
お願い致します。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4635.zip.html
パス無しです。
仮投下&修正乙です。
放送7分遅れですか、楡の木以外にいる参加者はどう動くやら。
細かい感想は後ほど。
修正稿ロードさせていただきましたので、次回更新の際に上げさせていただきます。
帰宅。
明日は休みなので推敲できます……。
>>357
智機単独です。
此方の投下を待っていたのはこういう理由だったのですね。
申し訳ない。
地図へのリンクと追跡表とリンク関連の修正をしたまとめが完成したので上げます。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1649.zip.html
パスワードは rowa です。
>>358 の修正稿ありがたく使わせてせていただきました。
次回からはSSと一緒に徐々にコンテンツを追加していく予定です。
もうすぐ睡眠なので感想と報告を
>第七回放送 PM6:07
星川だけでなく、長老も逝ってしまわれたか……良く頑張ったよ。
焼失の様子が情緒深く書かれていて余韻に浸れました。
伏線使ってくれてありがとうございます。
新智機のキャラもオリジナルとやや違う感じで新鮮でした。
他にも別タイプの機体があったのかー。今回もGJでした。
地図のチェックをしていたら色々と見落としがあったので、再度アップします。
SSも7回放送とアナザーを一つずつ追加しました。
小屋の数が多いいいいいいいいいい。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2108.zip.html
パスは rowa です。
それと、いくつかアイデアが浮かんだのでキャラ予約します。
6人組か、知佳単体で。予約が被ればそっちの方を取り下げます。
それでなくても明日の月曜日にはどちらか決めます。
内容は6人の方はメール欄①で、知佳の方はメール欄②にする予定です。
今度の日曜日の午後までには本投下できると思います。
それを過ぎたら破棄します。
以下9レス、「大きな楡の火の下で 〜windward〜」の
仮投下とさせていただきます。
>>414
(二日目 PM6:08 東の森・楡の木広場方部)
最初にそれに気づいたのは素敵医師だった。
「あひーあひーひあああああああ!!」
激しい頭痛に体が慣れ始めたザドゥが彼の狼狽ぶりを見て訝しむ。
(なぜ長谷川は俺やアインではなく、頭上を見て怯えているのだ?)
解答は一挙動で得られた。
素敵医師に倣い上空を見上げたザドゥの眼前に、
真っ赤で巨大な質量が迫っていた。
「芹沢、こっちだ!」
ザドゥはぺしぺしと自分の額を叩いている芹沢の腰を抱き、横っ飛び。
直後、彼らが先ほどまでいた位置に楡の巨木が倒れてきた。
ずぅぅぅん!!
内臓まで響く地響き。接地時の風圧はさながら台風の如し。
誰もが堪らず目を閉じる。
突風が去った。
目を開けた。
彼らを取り巻く世界が劇的に変化していた。
嗅覚を支配するのは煙と煤の刺激臭。
触覚を支配するのは肌を焦げ付かせるかの如き熱気。
聴覚を支配するのは木々と炎とが奏でる破裂音。
味覚を支配するのは込み上げる吐き気の酸味。
視覚を支配するのは眼前に立ち昇る炎の赤。
倒壊した楡の巨木からは、
あちらとこちらを隔てる結界の如き炎の壁が立ち昇っていた。
「あはははは! ざ・きゃんぷふぁいやー♪」
はしゃぐ芹沢を片手で抱え込み、ザドゥは周囲を見回す。
少し離れた地点でアインがえずいている。素敵医師の存在は確認できない。
白煙に遮られて視界は不明瞭であるが、
どうやら楡の木広場をぐるりと炎が囲っているように見受けられる。
(いつの間に……?)
ザドゥは管制室にコールをかける。
その手が震えているのは一酸化炭素中毒によるものか、
あるいは流石の彼にとってもこの状況が恐怖に値するためか。
「椎名! 何が起きた!? 辺り一面が火の海だ。
状況の報告……ではない! 救助だ! 至急救助を寄越せ!」
『確約しかねます』
対する無線の向こうからの返答は簡潔にして非情。
ザドゥは思わず頭を振る。
流麗なサンディブロンドの髪に付着していた煤が辺りに散った。
『ザドゥ様、勘違いしないで頂きたい。
朽木双葉の幻術は解けたようだし、わたしとしても救助を出したい。
しかし、わたしは管制管理の代行権しか持たないレプリカです。
他のわたしたちを起動したり指示を与えたりすることが出来るのは
アドミニストレーター権限を有するオリジナル智機ただ一機。
透子とケイブリスに救助依頼をかけてはみようと思いますが、
果たして彼女らが素直に応じてくれるかどうか……』
「お前では話にならん。本体を出せ」
『No。オリジナルはプランナーと謁見中ですので、わたしには手出しできません』
プランナーを理由にされてはザドゥであっても口を噤む他にない。
皮膚が悲鳴をあげるほどの熱気に包まれているにも関わらず、
ザドゥの背が寒気に震えた。
ザドゥは改めて周囲を見渡す。
広場の西から火の手が迫っていた。
彼が思考のために費やせる時間が、刻一刻と削られてゆく。
(自力脱出しかないのか……)
脱出は可能だ。ザドゥはそう判断している。
特に根拠も計算も無いが、彼の尊大な自負心は揺ぎ無い。
ただし、腕の中できゃらきゃらと笑っている芹沢のことを考えなければ。
故に、ザドゥは救助要請を諦めぬ。
(椎名と俺の立場…… 代行…… オリジナルの不在……
指揮命令系統…… アドミニストレーター権限……
俺の権限!!)
辛抱強く思考を転がすザドゥに、ひらめきが宿った。
既に猶予はない。
おそらく通信に時間をかけられるのはこれが最後だろう。
焦りも苛立ちも恐怖も飲み込んで、ザドゥは代行レプリカに問う。
「アドミニストレーター権限、と言ったな。
首魁である俺がそれを与えることは可能だな?」
『そのようなルールはありません。が、それを否定するルールもまた然り。
緊急避難の概念から考察するに、
本来のアドミニストレーター・オリジナル智機が不在の今、
代行者として権限の一時委譲を受けることは可能であると解釈します』
「わかった。権限など幾らでもくれてやる。救助を寄越せ。至急だ」
『Yes。権限の一時委譲を確認。至急救助プロセスを構築、実行します』
答えたレプリカの声が、喜びに震えているように感じられた。
ザドゥは己の見通しに誤まりが無かったことに胸を撫で下ろす。
『今、学校待機の4機の私をそちらに救助に向かわせました。
また、救助物資を持たせた1機をカタパルトより射出すべく準備を進めます』
「どのくらいかかる?」
『カタパルト射出については10分以内にて。
この10分だけ、なんとか自助努力にて命を繋いで頂きたい。
その通信機はビーコン機能もついています。
それが壊れない限り、こちらがそちらをロストする心配はありません』
「わかった。―――頼んだぞ、智機」
『……最善を尽くしましょう』
通信は切れた。条件は明確になった。あとは行動だ。
ザドゥの胸に気力が満ちる。
胃液を吐けるだけ吐き、ようやく落ち着きを取り戻したアインへ
ザドゥが厚い掌を差し伸べた。
同じ素敵医師を追った者として相通じるものを感じたからだろうか。
彼の表情にらしくない気遣いが見て取れる。
「ファントム、立てるか?」
しかしアインは手を取ることなく、嗚咽に枯れた声でこう告げた。
「忠告するわ。むしろ立たないほうがいい。煙は高いところに昇るものだから」
ザドゥはアインの忠告に従い腰を落とす。
煙の量が少ないのか視界が広がり、呼吸も幾分楽になった。
「10分で救助が来るが、ここでは10分と保つまい。
風上になんとか活路を見出して、火の手を掻い潜りながら待つことになる。
ついて来い。脱出までの間は保護してやる」
「あなたはもう、長谷川を追わないのね?」
「長谷川が楡の木の下敷きになった今、追うも追わぬもなかろうよ」
「下敷きに? 憶測で物を言ってはいけないわ。
わたしは見たの。
楡の木が接地する瞬間、あの男が向こう側へ転がったのを」
「そうだとしても、だ。
長谷川とてこの炎の中、風下に身を置いていては助からんだろう。
懲罰の必要はくなった」
そう。風は強く吹いていた。
北東から南西へ。
炎の壁のこちらから、あちらへ。
ザドゥの見通しは正しい。
アインが見た光景が願望からくる幻影ではなく事実だったとしても、
気力破壊暴発の後遺症に身の自由を奪われている素敵医師が、
今後数分のうちに焼死することは明白だ。
だというのに。それがわかっていてもなお、アインはこう告げた。
「それは間違いないでしょう。でも―――
私が追いつくまで生きていてくれれば、それでいい」
呼吸が止まった。視線が交錯した。
アインの体がしなやかに後方へと跳ね、ザドゥの伸ばした腕が空を切った。
あくまでも素敵医師を追うのだと、アインの行動は語っていた。
おまえを助けたいのだと、ザドゥの行動は語っていた。
追跡のその先に待つは身の破滅なのだと、2人は悟っていた。
「―――お前に願いはないのか?
涼宮遙を、よみがえらせなくても?」
その問いは単にアインの思いを問うているだけではない。
復讐に頑なになっているアインに別の目的意識を与えたいだけではない。
愛妾チャームを蘇らせるという彼自身の渇望―――
アインの態度が、その自らの根本を否定しているかの如く感じられた。
だから、彼は問うた。
短い言葉に、ゲームに賭けた己の全ての思いを乗せて。
「……高みから見下ろす者の何を信じるの?
アリが人に何を求めるの?」
返答は冷めていた。ザドゥは否定された。
アインはさらに追い討ちをかけるかの如く言葉を紡ぐ。
「……あなたは信じているのね。
対等でもなく利害関係の一致もない契約を。
破棄することが相手の不利益とならない約束を。
そういう生き方も幸せだとは思うわ」
小娘に己を否定されるは愚か、哀れみすらかけられた。
傲慢とも思えるプライドの高さを誇るザドゥが黙っていられるはずがない。
はずがないが、しかし。
彼が取った行動は、眉間に深いしわを寄せ、沈黙を保つことに留まった。
それほど激しくザドゥの芯は激しく揺さぶられていた。
問いを発した本人が、問われていた。
(恃むは己のみ――― それは本来俺が言うべき台詞ではないか?)
自問の渦中にあるザドゥへ、アインの回答は結ばれてゆく。
「それでも、そうね―――
もし、何かを願わなくてはならないのだとしたら。
願いは、こう」
一呼吸。そして射抜くような視線をザドゥに向けて。
「―――わたしの邪魔をするな」
声量は少量。声質は穏やか。
しかしその声には、百戦錬磨のザドゥを震え上がらせるだけの迫力―――
あるいは覚悟が備わっていた。
もう交わす言葉は無い。
低い姿勢のまま、アインが駆ける。広場中央へと向けて。
足元に低く燃え盛る草々を気にもとめず。
炎の壁を迂回して、あくまで素敵医師を仕留めるべく。
「ふぁいやー♪ ふぁいやー♪」
ザドゥは童女の如くはしゃいでいるカモミールの手を引く。
アインに背を向け、北東方向へと。
素敵医師の懲罰を諦め、己の命を守るべく。
胸に去来するはアインへの圧倒的な敗北感。
(ファントム――― おまえはこの森で命を落とすだろう。
しかし、必ずその思いを遂げるだろう)
↓
【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:東の森・楡の木広場東部 → 北東方向】
【スタンス:炎から逃げつつ救助を待つ】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:ボロボロのマント、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒】
【カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ。禁断症状沈静化。中度の脱水症状だが、一応戦闘可能。
疲労(大)、薬物の影響により腹部損傷】
※ カタパルトによる救助は10分後、学校からの救助は到着時間未定
【アイン(元№23)】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、
肉体にダメージ(中)、肉体・精神疲労(中)】
※ 魔剣カオスは楡の木広場北東部外れに放置
※ アインの他の放置アイテムは焼失
【素敵医師:生死不明】
以上です。
長くなりすぎたのでパートを二つに分けました。
次回予定は明晩、「大きな楡の火の下で 〜leeward〜」。
素敵医師と朽木双葉です。
>284氏
素早いご対応ありがとうございます。
今後どんなコンテンツが追加されていくのか非常に楽しみです。
それと、6人組の件なのですが、
当方が準備している次々回投下予定「バンカラ夜叉姫・雌伏編」の
投下後にお願いできませんでしょうか?
内容的には紗霧が>>373 のメール欄①〜③について思考したり、
放送が死者ゼロだったことに他のメンツが沸いたり、
???だったタイガージョーの配布武器が>>374 のメール欄④で、
魔窟堂にメール欄⑤は可能かと聞いたりするものなので
やりようによっては283さんのアイデアと共存できると思います。
かぶっている部分、それはやめてという部分がありましたら修正します。
共存できそうにないようでしたら当方の分を破棄します。
お手数ですがレスの程を。
カツンと音が幾重にも響いた。
管制室から遥か下。
一つの影が光を灯して動き出した。
音の主は、智機……の分体の一つ。
しかし、その智機は他とは少し違う。
メインと何ら変わりない瞳。
分体特有の機械的な器質とは違った少々人間臭い光りが目に宿っている。
何故なら……メインたる智機の思考は今この時この機体にあるからだ。
(この奥にいる……)
彼女の前に門がある。
ルドラサウム達が待ち受けている空間へと繋がる入り口。
ゲームのために、島のためにある四つの門の内の一つ。
この先に彼らが存在する空間ある。
その空間を介して智機らはこの島に連れて来られた。
しかし、今智機が潜ろうとしている門は、それとは違う。
この四つの門の内の一つであるこれは、プランナーしか所在を知らない。
元々『見る』という視聴者のフェイズに移行したルドラサウムの預かり知らぬ所で用意された門。
プランナーの管理において智機のみの知り得るゲートだった。
(ここをくぐれば後には退けない……!!)
管制室には智機のメイン意識が抜けた本体が今も尚作業を行なっているだろう。
彼女はメインを門の手前に用意した謁見用の分体へと一時的に移したのだ。
何故か。
ルドラサウムは舞台を見る時に配役の思考までは読まない癖がある。
よほど意識し、意図して覗く時以外は、ぷちぷちを見て楽しんでるだけなのだ。
それは彼の大陸の時からの癖であるとプランナーから伝え聞いていた。
故にルドラサウムからすれば、覗いたとしても智機は怒りと共に作業を行なっているとしか見えていなかった。
現にルドラサウムはこのことにまだ気づいていない。
プランナーから言われなければ気づかぬだろう。
完全に智機とプランナーのみに許された時が始まるのだ。
そして意を決して門の奥に足を踏み込んだ。
「くっ!?」
眩い光がセンサーを覆い尽くす。
強烈な光は映し出す映像を白い世界へと導いた。
<<良く来た……>>
ずっしりとした声が智機のセンサーに、空間に響き渡る。
<<歓迎しよう……>>
光が少しずつ弱まっていく。
不思議なクリスタルのようなものに囲まれた空間。
光が明けると智機の目の前に黄色く輝く巨体が浮かび上がる。
<<さて……何のようだ?>>
彼こそが三超神が一人にして、このゲームのメインクリエイター。
―――プランナーである。
「……お聞きしたいことがあって参りました」
傅く。
本心ではバカバカしいと判断しながらも、相手もそのくらい見破っているだろうと判定しながらも
雇用主であるプランナーへと智機は雇用者としての構えを取りつつ音声を出した。
<<……何をだ?>>
ばかばかしい、と智機は思った。
プランナーはルドラサウムと違って今この目の前の自分が何を演算しているかくらい読む性格だ。
そうでなくても当たりをつけているはずだった。
「まず確認したいことが一点……」
<<ほう……?>>
「つい先程、私の分体が二体“破壊されました”。
あれは、プランナー様かルドラサウム様、どちらかの手によるものなのでしょうか?」
ピクリ。
プランナーの顔が一瞬動いた。
ここに来るまでの間に智機はアレはどちらかの二神が行なったに違いないと予見していた。
智機といえど透子の能力を全て把握してるわけではない。
しかし、それでもあの爆発は歪なものに見えた。
まず、超能力……ひとえに言っても念動力、発火能力、電磁波、様々なものがあるがどれも該当する形跡がなかった。
超能力者が対象や空間を爆発させる時は、大きな力……不自然な磁場等が計測できる。
機体に何か大きな力がかかった節はなし、発火後である熱源もなし、電磁気の狂いもなし。
では、逆操作による自爆ないし暴走だろうか。
それもありえなかった。
もし逆操作を起こされたなら記録が残るはずである。
飛び散ったチップからはそのような記録は一切残っていなかった。
その他にも考え得る能力を幾つもシミュレートした。
しかし、どれもが当てはまらなかった。
記録を何度も計測しても何の痕跡もない。
機体でも空間でもない、歪な爆発。
まるで存在の否定。
こんなことができるのは、二神を置いて他にあろうか。
<<……そうだ>>
プランナーは認めた。
ここで嘘を言う必要性も透子への義理も彼にはない。
「……やり過ぎではないでしょうか?」
智機の言わんとしてることは、これにより運営側の貴重な戦力を欠けたということ。
他にやりようがあったのではないか、ということ。
そしてもう一つは……自分のスタンスと行動はそれだけに値するものなのかということ。
<<解った……説明しよう>>
智機の思惑を理解したプランナーは透子の能力に関して説明を始めた。
彼女の『読み替え』について。
そしてプランナー自身は、智機のことについて特段思ったわけでもなく、彼女の能力に対して『許可』を与えたに過ぎない、と。
「私は……『願い』という代価の元に契約を結び、代償として持てる労力を全身でつぎ込んでいるつもりです」
プランナーの説明を聞き終えた智機がぽつぽつと切り出し始めた。
「……貴方様方の盤上を進行する駒であることも重々に承知しています」
所詮、己も盤上の駒の一つでしかない。
精々クィーンでしかないのだ。
今までの思い上がっていた智機からすれば、とても想像できない認識。
「ですが、今回、定められた動きを果たしても『願い』が叶うという可能性が見えなくなりました」
―――ゲームの終了が運営者による反乱者の始末の場合は、運営陣に課せられた条約は達成されていない。
「だからこそ問います……私は……いや、私達は何をすれば良いのですか!?」
<<………>>
智機の叫びをじっと見つめるプランナー。
「駒! そう、私は駒の一つでしかない! しかし、それでも私は意思を持っている! 叶えたい願いがある!
そのための契約であったはずです! それがもはや既に叶わないと言うのであるならば、私は何のために存在しているのでしょうか!?
ボーンであった参加者達は昇格し、もはや自由に動ける! しかしキングである我々は逆に枷が増えた!
それでもゲームを成功させるためならば、私は全力を持って尽くす!
何故なら、これにすがる以外に願いは叶わないのだから!
しかし、あなたは今言った! 何事を思ったわけでもなく、ただルール通り透子の要請を許諾しただけだと!
願いがもはや叶う段階でないなら、運営をする意味はないはずだ!
今一度、教えていただきたい! このゲームの有り方を! 我々の役目を!」
無謀なことだった。
この暴言で智機は消されてもおかしくない。
しかし、願いの叶わない以上は、彼女は存在価値を見出せなかった。
怒り。
透子の時とは比べ物にならない程の感情が智機を支配していた。
プランナーの何気ない一言に智機は臨界点を超えた。
何のために尽くしてきたのだ。
既に願いが叶わないなら、運営をする意味がない。
対して参加者は何を目的にしてもいい、枷が外された存在である。
希望を携えた参加者と崖っぷちに立たされた自分。
戦力と言う差はある。
しかし、目的と言う道は参加者達に広く与えられている。
溜まった感情をぶつけ終えた智機をプランナーは見つづけた。
じろりとした彼の黄色い巨体が智機を上から見下ろす。
<<主を楽しませることだ……>>
少しの沈黙の後、プランナーは口開いた。
<<主を楽しませること、それ以外に何の目的も理由もない……。
お前も、ザドゥも、素敵医師も、透子も、参加者も……そして私も>>
「ならば!」
プランナーの答えに智機が続けようとする。
しかし、
<<好きにするといい>>
遮って放たれたプランナーの言葉は智機にしては意外なものだった。
<<お前のやりたいように、望むように、『ゲームを成功させればいい』。
それが契約を果たすことだ>>
「それは……」
<<今後は、『許可』は行なわない。お前がどのような行動に移ろうと役目を果たしているのならば好きにするがいい。
私は『お前達』に今後『干渉』しない……>>
「では……!?」
プランナーに問い返そうとする智機のセンサーが再び眩い光に包まれた。
「くっ……!? お待ち下さい!?」
<<覚えておけ、お前達の役目はルドラサウムを楽しませることだ。精一杯もがけ。
それが何よりのルドラサウムの楽しみになるだろう>>
そう言い残し、プランナーの姿は消えた。
「…………」
光が過ぎ去った時、智機は門の向こう側にいた。
扉は閉じられている。
「はは……はははははははっはははは!!!!!!!!」
誰もいない。『誰も』見てない。
智機は声を上げて笑った。
「やってやろうではないか! 役目を守れというのなら守ってやる!」
彼女は気づかない。
段々と人になりつつあるのを。
「私の持てる力全てを以ってして! このゲームを成功させよう!」
お待たせしました。
中編以上です。
当初プランナー視点もいれるのを考えていたのですが、
前にも言った通り、中編か後編後にメール欄を入れる考えが出来たのでそちらでカバーした方が良くなりそうなので省きました。
次は、後編前にそのままメール欄の予定です。
後編の方はザドゥ達がどうなったか森の騒乱がどうなったか決着ついてから書いた方が良いと思うので
その後に入るつもりです。
以上、遅れて申し訳ありませんでした。
問題がなければ明日の夜に本投下します。
>>366
>『No。オリジナルはプランナーと謁見中ですので、わたしには手出しできません』
233話に
>そう。ルドラサウムとは別にプランナーは彼女にひっそりと接触していたのだ。
中略
>だが、彼女は唯一プランナーと連絡できる手段を持つ者だった。
てっきりザドゥとかその他はこのことを知らないものかと思ってました。
智機が「私はプランナーに連絡が取れる」とザドゥ達に伝えてあるケースのようなので
該当の下りを修正しようと思います。
修正のために色々と読み返してたら
218話で
>『私はゲームの管理者だ。他の主催者には知らされていないルールも把握している」
233話で
>>386 のものと
>智機がケイブリスに言った台詞は、ハッタリだけではなかった。
とあったのでザドゥ達が知ってる方が逆におかしかったorz
接見を伝えたら、逆にザドゥは最低でも「今また何かあったのか?」と酷く驚くと思いますが
それさえ除けば、ルドラサウムに接見することがばれてるだけで済みそうなので、その方向性で良ければ修正します。
(接見自体はルドラサウムは覗かなかったことにする流れの感じです)
>>362
>ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org2108.zip.html
>ERROR
> [!] ファイルがありません
>2108.----./uploda/2108._/2108. ファイルが存在しません。
あぎゃー、パス入力画面は出るのに入れてもダメでしたorz
何か小屋が凄い多いようですね、お疲れ様です。
今週末にそろそろ新作分の更新をしようとと思うので、次のアップデートの時に一括をお願いできないでしょうか?
執筆&仮投下お疲れ様です。
細かい感想は本投下の時に
>>274
「>バンカラ夜叉姫・雌伏編」の投下後にお願いできませんでしょうか?
OKこちらは一向に構いません。心置きなくご執筆を。
次回作と次々回作の放送の6人の反応が楽しみです。
ひとまず知佳の方を考えて見ます。
>>388
どうやら流れてしまったようですorz
長持ちするアップローダーを探さねばならないですかね。
流れてしまったのと同じ内容のまとめをアップします。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0301.zip.html
パスは rowa
念のために今夜もう一度アップすると思います。
カオスや小屋関連で地図を修正するので最新版を手に入れたい方は
今夜のファイルをロードした方が無難だと思います。
>>386 でのご提案については、
自分の方を訂正したほうがよいと思いますので、
「大きな楡の火の下で 〜windward〜」にて、
以下の修正を行おうと思います。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
>>366 の9行目から
『No。現在オリジナルは誰にも連絡が取れない状況となっています』
「どういうことだ?」
『お察し下さい…… としか申し上げられません』
プランナーと智機が裏でつながっていることは当人たち以外誰も知らぬ。
故に、智機の歯切れの悪い返答からザドゥが思い浮かべたのは哄笑する巨大な鯨。
それは勘違いだが、これ以上の追求が不可能な相手である点では勘違いとも言い切れぬ。
どのみちザドゥが選べる対応は沈黙しかないのだから。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
歪な磐石の駒・中編 の書き手さんにお願いがあります。
>>376 の 管制室には智機のメイン意識が抜けた本体が今も尚作業を行なっているだろう。
この一文を変更していただけませんでしょうか。
と、申しますのも。
当方の「第七回放送〜」や「大きな楡の〜」でN−22なるレプリカを出してしまっており、
当該機がまっさらなレプリカかつ管制代行機であることを割と大きく取り上げておりますので、
上記一文にあわせて当方の2作を修正するのは少々ホネでして……
勝手言って済みませんが、ご検討の程を。
SS分更新は本投下待ちにします。
今回、地図は二つあります。
地図・仮更新分を直接クリックすれば修正版が見れます。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0633.zip.html
パスは rowa です。
以下11レス、「大きな楡の火の下で 〜leeward〜」の
仮投下とさせていただきます。
>>414
(二日目 PM6:08 東の森・楡の木広場方部)
最初にそれに気づいたのは素敵医師だった。
「あひーあひーひあああああああ!!」
それは、頭上に猛烈な勢いで振り下ろされる真っ赤で巨大な質量。
気力尽き果てし素敵医師は指先一つとて動かせぬ。
即ち彼にとっての楡の巨木は、決して避け得ぬ死の実像。
(シシしし死ヌのは嫌がよ!! 助けとおせ! 誰かっっっ!!?)
間近に迫る巨木の恐怖に目を閉じ祈る素敵医師。
その瞼の裏に目眩くは薄ら汚れた人生走馬灯。
苦悩がくるくる。転落がゆらゆら。
罪と快楽と汚濁と狂気が、ドドメ色の灯りに照らされる。
(―――こんなモン見とる場合じゃないがよ!?)
往生際の悪いこの男が、黄泉路の送りの走馬灯を拒否する。
その時感じた、強烈な衝撃。その時失われた、天地の認識。
ずぅぅぅん!!
すぐ脇から発生した内臓まで響く地響き。そして突風。
突風が去った。
目を開けた。
彼を取り巻く世界が劇的に変化していた。
「……地獄、やか?」
素敵医師が呆けた口調でつぶやく。
彼の周囲は熱気と煙と炎とで満ちていた。
ここが地獄だとするならば、それは焦熱地獄か。
「地獄、ね。確かにあんたに相応しい場所だけど……
残念、ここはまだ森の中。
あんたは生きてるの。あたしの式が助けたから」
素敵医師に語りかけながら近づいて来たのは朽木双葉。
こんな状況下にありながら、心もち声が弾んでいる。
焦りも恐怖も感じられない。
その様子から素敵医師は直感的に悟った。
「こ、こん火事ば…… 双葉の嬢ちゃんの仕込みがか?」
「火事自体は偶然だけどね。
あんたたちがそれに気づかなかったのはあたしの幻術」
双葉がようやく素敵医師の視界に入った。
その姿を見て彼はなるほどこれは用意周到だと感心する。
双葉の左右に侍るは大きな人型式神。
彼らは肩を組み、背を曲げ、双葉を炎と熱気から守っている。
そして口元には小型の式神。
遠目にもわかる十分に潤んだ式神は、双葉の渇きを癒し、
また、煙や煤を吸い込むのを防ぐフィルターになっているようだ。
さらに周囲を飛び回る数体の飛行型式神は、
火の粉や爆ぜる木の枝を、その身を以って防いでいる。
「それにしてもあんたの救助は高くついたわ」
双葉が指差すその先には楡の巨木と炎の壁。
その木の下に、潰れて焼け焦げた飛行型式神が翼のみを見せていた。
協力依頼がこんなところで生きてくる―――
素敵医師は己の悪運の強さを噛み締める。
「あんた、楡の木に気づいてのに逃げようとしなかったじゃない?
仕方ないからアレを使ってあんたを弾き飛ばしたんだけど、
腰でも抜かしてたの?」
「へけ、へけけ。お恥ずかしい話じゃけど、
センセは気力が尽きて動けんようになってしもたがよ」
「えー、ならあんたを式で運ばなきゃいけないってこと?
勘弁してよね。
こういう環境で式をコントロールするのって大変なんだからさ」
文句を垂れながらも双葉に素敵医師を放置するつもりは無いようだ。
左側の人型式神が空いている左肩に素敵医師を担ぎ、さらに風下へと、
広場の南西の外れへと移動する。
「どこに向かってるがか?」
「最終ステージ」
進む先に、道があった。
広場をぐるりと囲んで立ち上る炎に穿たれた亀裂。
燃え残っている潅木の緑が眼に鮮やかに飛び込む。
それは、双葉が森の木々に鞭をうち剣をふるい作成した、
アインを誘い込むための専用通路。
式神の肩に揺られながら、素敵医師は知恵を巡らせる。
身動きが全く取れない自分がひとまずこの煉獄から生き延びる為には、
朽木双葉を言葉のみで操る必要がある。
その双葉が何故自分を助けたのかといえば―――
(センセを囮にアインの嬢ちゃんば仕留める為。
じゃけん、双葉の嬢ちゃんはセンセをそこで使い捨てても、
ふところばちくとも痛まんち。それがこじゃんとマズかよ。
なにか双葉の嬢ちゃんに捨てられんよーな方法は……)
そして、素敵医師が他人を篭絡する手段と言えば決まりきっていた。
(おクスリをぶっこむしかなか)
バカの一つ覚えとの謗りもあろう。
しかし、今回の方策は今までとは一味違った。
(ただし、ただし―――
今回に限っては副作用の無い、効能の高い、
つまらないおクスリをお勧めするのがええがよ。
センセがアインの嬢ちゃんへの囮以外にも役に立つことを、
どうにかして双葉の嬢ちゃんに判って貰わんと、
センセ、こんどこそオシマイじゃき)
邪道の医師が正道の医療でアピールをかける。
しかし、そこに改心があるわけではない。
あるのはただ打算のみ。
双葉の道はL字構造だった。
その行き止まりの袋小路に素敵医師は乱雑に下ろされた。
並んで腰を下ろした双葉に彼はプッシュを開始する。
ここぞ好機と言わんばかりに。
「双葉の嬢ちゃん、その顔色はなんちゃー?
そんな疲れた顔ばしちょったら折角のお美人系のお顔が台無しがよ」
「こんな状況でなに言ってんの?」
「センセ、仲間の健康状態を気にしてるがよ。
な、ちくとセンセのウエストポーチを開けとおせ。
ぎっちり効く栄養剤が入ってるがよ」
会話は、自然な流れだった。
双葉はウエストポーチに手を伸ばすだろう。
素敵医師はそう思っていた。
しかし、双葉はそれ以前の意外なところに食って掛かった。
「はぁ? 仲間? 何言ってるの?
あんたはあたしの部下。そうでしょう?」
確かに以前、そのような約束を交わした。
ここが勝負所。
序列を気にする相手には謙って尽くせばよい。
素敵医師はそう思っていた。
「けひゃひゃひゃ、忘れちょらんよ。言葉の綾じゃき許しとおせ、な?」
この後、上司を気遣う素振りを1つ2つ見せ、栄養剤を自ら打たせる。
素敵医師はそう思っていた。
「部下である以上は私の指示に従う事。 あんたはそれを呑んだわね?」
双葉が続けたのは更なる約束の確認。
こういう手合いはとことん肯定してやらないといけない。
逆に全ての確認に淀みなく肯定すれば、強い信用を得られるはず。
素敵医師はそう思っていた。
「お手だってちんちんだってやって見せるが」
「そう? なら早速命令してみようかしら?」
双葉の目に点る喜悦の色。もう受け入れられたのか。
素敵医師はそう思っていた。
「センセに出来ることならなんだって!」
調子のいい返答に、双葉が笑顔を向ける。
所詮小娘、ちょろいもんだが。
素敵医師はそう思っていた。
だから、双葉の最初の命令が最後の命令でもあることに、
すぐには気づけなかった。
「死になさい」
処刑は即座に行われた。
人型式神の一体が素敵医師を羽交い絞めにし、
もう一体が腰を押さえつけた。
人型式神の一体が素敵医師を上方に持ち上げ、
もう一体が下方にひっぱった。
全てが瞬間で、全力だった。
「へけ?」
みちちちち…… ぱん。
素敵医師は腰から2つに引きちぎられた。
この男もまた、オリジナル智機と同じ思い違いをしていた。
双葉はアインを殺して生き延びようとしていると。
生き汚いこの男には思いも寄らなかった。
双葉が選んだのが無理心中なのだと。
つまり、最初から双葉に素敵医師を生かす気は無かったのだ。
生存への期待を繋いだ分、
素敵医師にとって結果はより無残だった。
「へべべべべ!!」
上半身からは大量の血液が零れ落ちる。
下半身からは大量の血液が吹き上がる。
5秒と待たずに出血量が致死量を超えた。
「セ、センセ、まっぷたつがよ!!!?」
神に与えられた異常再生力の影響は凄まじい。
両の切断面から伸びる血管が、神経が、背骨が、内臓が。
千切れた先のパーツを探し、結合しようと蠢いた。
うねうね。にょろにょろ。
うねうね。にょろにょろ。
血塗れている分、ケイブリスの触手より遙かにグロテスクと言えよう。
「ちょ、なにそれ。キモい。
なんかくっ付いたら復活でもしそうだから、
下半身は捨てといて」
忠実な飛行型式神がくちばしに下半身をくわえ、引きずる。
引きずって燃え盛る炎の中に放り込んだ。
「センセの下半身!! センセの下半身!!」
炎の中に横たわり、微動だにしない下半身。
炎の中で踊り、あくまで接続先を探そうとゆらめく臓器。
この時点で希代の道化師の死亡は確定した。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
―――結果から述べると、素敵医師は12分後に絶命した。
通常の人間であれば胴を引きちぎられた時に即死していたであろう。
意志の強さと温度条件などが整っていても1分と意識は保つまい。
しかし、素敵医師にそのような安楽な死は与えられなかった。
神から贈られた異常再生力。
それが彼の死を徒に先延ばししていた。
故に確定している死を、死に等しい痛みを友に待ち続けることになった。
また、痛みに遠くなる意識をも異常再生力が引き戻すため、
素敵医師は絶命の間際まで正気を保っていた。
最初の1分の間、彼は死にたくないと思っていた。
2分めには既に、早く死にたいと願うようになっていた。
3分経つ頃には双葉にトドメを刺して欲しいと懇願していた。
しかしその懇願は声にならず、双葉に届くことはなかった。
その後の8分間もがき続け
その後の8分間苦しみ続け
その後の8分間死を望み続け
12分を迎えて蘇った2度目の走馬灯は
最後まで彼の記憶を映し、回った。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
血の匂いは炎と熱に飛んだ。
血の色も炭と灰に飲まれた。
その場で起きた惨劇の跡は全て失われた。
偵察に放っていた飛行型式神が、アインの接近を伝える。
朽木双葉は素敵医師の上半身を燃え残った茂みの中に隠す。
少しだけ、ほんの少しだけ包帯をほどいて。
わざとらしくない程度に、しかし、それに気づかれる程度に。
「ようやく追い詰めた憎い憎い憎いカタキが、
既に殺された後だと気付いた時に、
あんたはどんな顔を見せてくれるかな?」
朽木双葉は、身を潜める。
素敵医師の死体を隠した茂みの近く、炎の中に身を潜める。
胸を躍らせて、身を潜める。
最後の招待客の到着を、今か今かと待ちわびながら。
形ある破滅・朽木双葉の影が炎に揺らめく。
↓
【朽木双葉(№16)】
【現在位置:東の森・双葉の道】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符7枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【能力:植物の交信と陰陽術と幻術、植物の兵器化
兵器化の乱用は肉体にダメージ、
自家製解毒剤服用により一時的に毒物に耐性】
【備考:式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=20分程度】
素敵医師(長谷川均)死亡――――
主催者 あと4名
>>391
ありがとうございます。
>管制室には智機のメイン意識が抜けた本体が今も尚作業を行なっているだろう。
該当部分を以下のように変更しました。
これならば大丈夫と思いますがどうでしょうか?
了解が得られれば、本投下したいと思います。
>管制室には智機のメイン意識が抜けた本体がある。
>彼女はメインを門の手前に用意した謁見用の分機へと一時的に移したのだ。
>何故か。
>ルドラサウムは舞台を見る時に配役の思考までは読まない癖がある。
>よほど意識し、意図して覗く時以外は、ぷちぷちを見て楽しんでるだけなのだ。
>それは彼の大陸の時からの癖であるとプランナーから伝え聞いていた。
>現在、代行権を同じく分機であるN-22に渡し、
>彼女の本機は先の件による演算思考の繰り返しによる回路の過剰な負荷、その他諸々の理由をつけ必要のない小メンテナンスを行っている。
>ルドラサウムからすれば、覗いたとしても智機はメンテナンスのために小停止しているとしか見えなかった。
感想を
>大きな楡の火の下で 〜windward〜
ここまで来てもアインはクールかつドライで刹那的だなあ……。
会話にそれぞれ“らしさ”が出ていてよかったです。ザドゥも。
芹沢は……まあw 本体と違って素直な智機は新鮮だ。
アインの所持アイテムは焼失ですか。
バズーカでさえも恭也の噛ませに終わるとは支給品に厳しい世界だw
>>405
これでばっちりです。ご対応ありがとうございます。
ご返答遅くなりましてすみませんでした。
二日程覗けない日々が続いたので投下遅れました。
これにて中編完了です。
次作の予定は>>385 の通りです。
申しわけありません。
知佳パート中々纏まらないので一旦破棄します。
予約入れたい方は先にどうぞです。
使用するネタは大分先でも大丈夫だと思うので、完成したら仮投下します。
その間は他キャラの予約は控えます。
>歪な磐石の駒-再び-
透子恨まれてるなあ……智機に一番嫌われてないか、これw
高飛車だった智機の追い詰められ具合が上手い。
これからの彼女の行動にますます注目できる一作でした。
コンテンツ更新は月曜日になりそうです。
「大きな楡の火の下で 〜leeward〜」を本スレに投下してきました。
毎度の支援感謝です。
次回「バンカラ夜叉姫・雌伏編」、明晩仮投下いたします。
>>466
やあ、久しぶりだね、みんな。
また会えて嬉しいよ。
―――おっと、ぼくのキモチなんてどうでもいいか。
皆が知りたいのは小屋組の様子だもんね。
小屋の中はね、今、さっきの放送でちょっとしたフィーバー状態なんだ。
だって、死者がゼロなのは7回目の放送にして初めてだもの。
知佳ちゃんとかアインちゃんとかの安否も気になってたしね。
おや?
そんな中で一人、難しい顔をして考え込んでいる人がいるね。
なんだか醒めた目で喜ぶ仲間たちを見下してるしさ……
ずっとこのロワを読んでくれてた皆なら、これが誰だか判るよね?
そう、彼女はバンカラ夜叉姫・月夜御名紗霧。
二つ名を神鬼軍師。
彼女は何を面白くないって感じてるんだろう?
ちょっと様子を見てみようか。
<紗霧の思考>
はぁ…… 皆さんお人のよろしいことで。
死者が出なかったことを喜ぶなとは言いませんよ。
風が主催者打倒に方向に吹き始めたのだと、私も感じていますし。
でも、もうすこし、こう、考えることがあるでしょうに。
例えば――― 放送が7分も遅れた事について。
一日四回、六時間ごとの定時放送、と宣言されているんですよ。
その遅れの理由が気にならないんですか?
主催者側になんらかのトラブルがあったとは考えられませんか?
シンプルに過ぎる放送にも逆に取り繕いが感じられますよね。
もしかしたら彼らに楔を打ち込むチャンスなのかも知れないんですよ?
それの可能性を調査・追求しようとは思わないのですか?
例えば――― 今の放送の声について。
あの声、病院で戦ったあのロボットの声でしたよ?
戦って完全に破壊したはずのロボットの。
そりゃ、複数のロボットを破壊した実績はありますよ。
あの時いなかったランスやジジイも合流していますよ。
私がわざわざ指揮しなくても、あの程度の連中、いくらでも撃退できるでしょうね。
でも、もしあと100機いたらどうするんですか?
そいつらが一斉に攻撃してきたら?
あるいはがこの小屋を取り囲んで兵糧攻めをしてきたら?
そうなったらもう、私の策略をもってしても「詰み」なんですよ。
そんな程度のことに気づきもしないくせに、
よく主催者打倒なんて恥ずかしげも無く囀れるものですね!
ギャンブルに喩えてみましょうか?
こちらは場慣れぬカモ。
あちらは場慣れたディーラー。
こちらの手札の殆どはオープン。
あちらの手札の殆どはクローズ。
こちらのチップは底が見えている。
あちらのチップは天井が見えていない。
数少ないこちらのクローズな手札を切り札に、
あちらのクローズされた手札をどうにか読み解いて、
こちらの少ないチップの賭け処を絞って、
少しずつあちらのチップを崩してゆく……
主催者を倒す戦いとは、そういう戦いなんですよ?
それだというのに、もう……
なんでこうも思考の反射速度が日の光を浴びる前の変温動物並みにすっとろいんですか?
あなたがたはカメなんですか?
ドジでノロマが売りなんですか?
爬虫綱で主竜形下綱でカメ目なのですね?
そんなあなたがたは学名Testudinesなのです!!
はぁ…… いいですよ、もう。
結局、作戦立案やら下準備やら権謀術数やらの種々雑多は私の仕事なんですね、ここでも。
もう、あなたがたに自律思考してもらおうなんて高望みはやめにします。
私が刻むリズムに合わせてアホみたいに踊ってて下さい。
それが一番効率いいですから。
だからせめて、私の提示する策くらいは完璧に飲み込んで従順に従って下さいね。
それすらできないというのでしたら、私、勝ち残り方向に軌道修正しますよ?
言っておきますけど、私にとってはそっちのほうが簡単なんですからね。
その為の策だって10策以上用意できてるんですよ。
そこのところ、わかってます?
……なんでしょう。
なにかこう、背筋がぞわりとしたような?
<紗霧の思考、中断>
「なんですかジジイ。人の顔をじろじろと…… 惚れましたか?」
「……ぴーぴーぷー♪ ぴーぴーぷー♪」
「半端に上手い口笛でごまかしてるんじゃありません」
「うう…… その…… おぬしの荷物を見ておったのじゃよ」
「荷物を?」
「わしが持ち帰ったスピーカーとまひる殿の集音マイクセットだけでは
通信機を作るには少々部品が足りぬようでの。
紗霧殿はなにやら方々でモノを拾い集めておるようじゃし、
他に部品を調達できそうなものを持っておらんかと思ったのじゃ」
「それならそうとさっさと言いなさい、このウスノロジジイ。
確か女性型ロボットの残骸が…… このへんに……(がさごそ)」
「(じーっ……)」
「女の子のカバンの中を覗くもんじゃありません。このセクハラジジイ」
「セクハラとは失敬な! わしは既に三次元からの解脱を果たした……」
「なんだかこの部屋暑いですね。スカートの内に熱が篭っていけません。(ちらっ)」
「おおっ!」
「……どの口が解脱などと抜かしますか」
「違う! これは孔明のワナじゃ!」
「選択肢をあげましょう。
このロボットの部品で思い切り殴られるか(ガツン!)、
思い切り投げつけられるか(ドカッ!)。
どちらにします?」
「あうあう…… せめて選択してから攻撃してくれい……」
「ご心配なく。体験版です。さ、それを返しなさい。そして選びなさい」
「こ、これが壊れては本末転倒じゃでの。わしが預かっておくのじゃ。
よーし、頑張って分解するぞい!」
「ちっ。逃げたかジジイ」
<紗霧の思考、再開>
ジジイ、甘いですね。
誤魔化しは及第点あげてもいい出来でしたけど、最後にホッとした顔をしたから台無しです。
単独行から戻ってからのぎこちない態度も気にかかってましたが、ようやく確信が持てました。
ズバリ、私に不信感を抱きましたね?
まあ、疑われるのなんて慣れっこです。
疑われてから意識を逸らすのも、疑いを信用に変えるのも慣れっこです。
人の顔色と呼吸を読んで泳ぎ続けた私ですから、もう習性として染み付いてます。
ジジイの疑念も「何を気にしているか」さえ把握できればなんとかなるでしょう。
広場まひるとランスはなんとでもなるでしょう。
ユリーシャもランスさえ抑えておけば問題無いでしょう。
ただ…… 高町恭也。
ああいうタイプは初めてです。
初めて会った頃は単に生真面目でナイーブな体育会系かと思ってましたが、
どうもそれだけではない奥深さと安定感を見せ始めています。
―――俺は月夜御名さんを信用していない―――
―――でも、月夜御名さんという才能を信じることはできます―――
なんですか、その空前絶後のばっさり感は?
私個人のことなんてどうでもいいっていう風にも取れますよ?
それってちょっと失礼じゃないですか?
逆に猛烈に信用させたくなったんですけど?
……なんだか感情的になってしまいましたね。
頭を冷やす為にこの小屋で見つけたアイテムでも吟味しましょうか。
さて―――
使い捨てカメラと香辛料、日用品。これはユリーシャに持たせましょう。
戦力として勘定できないんです。
せめて荷物持ちくらいはやってもらわないと。
でも、失ってもそれほど惜しくない物しか持たせられませんね。
次、人死にが出るとしたらまずこの子でしょうから。
釘セットは恭也さんに渡しましょう。
飛針とやらは釘のような形状とのことですから、代用品として使えるはずです。
工具一式は…… 既にジジイに渡してましたね。
あとは…………
…………
……
<紗霧の思考、終了>
あれれ、意外にも夜叉姫は対主催も視野に入れているんだね。
てっきりステルス100%だと思ってたよ。
それにしてもパーティーにとっての彼女の存在は難しいところだよね……
敵に回しても味方につけても厄介なのは間違いないけど、
このパーティーを集団としてまとめられそうなのって彼女しかいないしね。
恭也くんの判断はけっこう良いトコ突いてると思うよ。
おや?
まひるくんがきゃあきゃあ言ってるね。
ああ、なるほど。
目覚めたランスくんが、スラックスを突き破らんばかりの朝勃ちを、
まひるくんとユリーシャちゃんに誇示してるからなんだ。
がはは、と高笑いしながらね。
いいのかな、そんな下品なバカをやっても。
夜叉姫はそういうの嫌がるよ?
しかも思考中は静かにしてたいタイプだし。
あーあ。
ランスくん調子に乗って、夜叉姫に向けて突き出しちゃったよ。
ほら、彼女が不機嫌な顔して後ろ手にバットを握ったよ?
まあ、フルスイングしてもランスくんは死なないと思うけど……
同じ男としてバットにバットを叩きつけるのは勘弁してあげて欲しいな。
……ダメ?
「目障りです」
「ぅぎゃぁぁああああああァ!!」
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【現在位置:西の小屋】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【ユリ―シャ(元№01)】
【所持品:生活用品(new)、香辛料(new)、使い捨てカメラ(new)】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
釘セット(new)】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
スピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセット、工具(new)】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】
※ 魔窟堂はスピーカーの部品、智機の残骸の一部、集音マイクセットの
改造・組み合わせで、通信機的なモノが作れないかと検討中
>>419 に以下一文を追加
※ タイガージョーの支給品は集音マイクセットでした
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
以上です。
問題なければ土曜あたりに本スレに投下します。
多忙&風邪につき、更新が大幅に遅れてしまってすみません。
風邪は治ったので明晩くらいにSSは更新できそうです。
コンテンツはいつになるか分かりませんが。
>大きな楡の火の下で 〜leeward〜
ついに主催陣に死者が。
双葉の行動はえげつないのに、不快感を殆ど感じないのは標的が素敵医師だからかなw
芹沢と双葉を使い潰すつもりが、逆に振り回されて終わるとは道化に相応しい最後でした。
素敵医師の回想話とも繋がっていて上手いと思いました。アインどうするんだ?
残り主催者は4名ってことは、透子はカウントしないのかな?
仮投下も含めて乙でした。
仮投下分の内容は問題ないと思います。
こちらのまとめはSS仮投下時にアップします。
>>420
此方も問題なしです。
むしろ創作意欲が広がって、メール欄を書こうと思い立ったくらいでした。
>>284 さんの作品が投下終了後、よければ書きたいと思います。
此方の例の話は連休明けに仮投下を予定してます。
その次にメール欄、決着がつき次第、後編へと移ろうと思います。
大変遅れてしまいましたが、新作仮投下します。
サイレンの音が聞こえる。
わたし……いつの間にかねちゃったんだ。
「……!」
その意味を理解してわたしの胸を不安と恐怖が覆いつくす。
恭也さんの顔が頭をよぎり、わたしはきゅっと眼をつぶった。
『これより、第七回放送を行う。死者は無い。以上』
放送は唐突で簡単だった。
その朗報に不安が消え、安堵がじわじわとわたしの心を満たしていく。
よかった……。
いまのわたしにはそう思うのがやっとだった。
あの手帳を読んだ後、わたしはまた力をコントロールできなくなったからだ。
透子さんと別れたあと、近くの『蓋』の先を確かめようと蓋を開けた。
開けた下には通路があって、おの先には扉があった。
鍵が掛かっていたので、上へ引き返し、それからあの手帳を読んだ。
それがわたしの力が暴走しかけたきっかけだった。
いくつか力の暴走の痕跡を残しながら、昔の事やリスティのこと恭也さん達のことを思い出しながら
わたし自身を落ち着かせて、かろうじておさえることができた。
ようやく荷物を持てる様になった時にはわたしはへとへとに疲れていた。
そして、気がついたらこの家の前にいた。
わたしは頭の中を整理するために頭を動かし、部屋を見渡した。
幸い、部屋は荒れてない。
疲れは残ってるけど、たいしたことない。
窓のほうを見る、まだ日は暮れてない。
次に首を左の方へ向けると、そこには表紙が少し焦げてる一冊の手帳があった。
あの後何気に拾った、先日に亡くなった北条まりなさんって人の手帳。
それを見てとくんとくんと、わたしの心の鼓動がまた早くなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
―――情報提供者による参加候補者達(今大会不参加)
神崎愁、鳴海孝之、天城小次郎、沢村司、遠場透、槙原耕介
加えて、高部絵里、フィアッセ=クリステラ、レティシア、八車文乃、綾小路 光、天上 照
―――――――――――――――――――――――――――――――
わたしの目はひとつの名前にふたたび釘付けになる。
――槙原耕介
わたしたちの住むさざなみ荘の管理人であり、わたし達にとって大事な人。
殺し合いが始まったあの時、わたしがこの島から逃げ出そうとしたのは、わたしの知ってる人が参加者にいなかったからだ。
恭也さん達がいたから、今は逃げきれなくてよかったとおもってる。
「……」
さっき確認したとき、女の人らしき参加者候補の情報は前のページにあった。
情報提供者のとまりなさんが勤めていた組織の情報のとで二つに分けられてる。
例えば共通する情報ではフィアッセさんて人は恭也さんの知り合いだった。
ちょっと興味あるけど、今は“槙原耕介”がわたしの知ってるおにーちゃんかどうか確認するのが先。
力を暴走させないように意識しながら、わたしは覚悟を決めて手帳を読み続けた。
□ ■ □ ■
わたしは手で目をこすりながら、手帳から目をはなす。
途中から小さな字でびっしり書かれているので読みにくい。
わたしは深呼吸をしながら、ひとつの事に結論をつけた。
……少なくても、その手帳に書かれていた“槙原耕介”って人は、わたしの知ってるおにーちゃんとは違う。
年齢、背の高さ、などはわたしの知ってる限りのおにーちゃんと同じ。
データを取った時期もあの夏の日とほぼ同じ。
だけど、さざなみ荘の管理人じゃないし、性格もわたしの知ってるのとは違う。
愛お姉ちゃんの事も少し書かれてるけど、それもわたしの知ってる人とちょっと違っていた。
何より海鳴市の事が書かれてない。
「……………………」
すべて嘘だと思えばかんたん。
だけど、この島で起こってることを考えればまったく嘘だと思えない。
わたしは混乱した頭を落ち着かせようと深呼吸をしようとした瞬間、ある単語が頭にうかんだ。
――平行世界
この島には色んな異世界にいたとしか思えない人が多くいる。
だけどもし、よく似た……よく確かめないとわからないくらいくらいの世界があるなら……。
まりなさんがいた世界にまた違うおにーちゃんやわたしがいてもおかしくない。
じゃあ……わたし達は勘違いで連れさられたの?
も、もしかしたら恭也さんも……!
わたしは慌てて別のページをめくった。
そのページにはまりなさんの仲間の前に何度か現れ、情報を提供したレイって名乗った人の事が書かれていた。
彼自身の情報は乏しく、わたしと同じ超能力者らしいって事と、容貌くらいしか書かれてない。
(まりなさんはこの人を犯人の一味と思ってたらしい)
これだけじゃ何で選ばれたのか……恭也さん達がわたしのいた世界の人かどうか分からない。
「!」
わたしは力の暴走の危険に気づき、振り返った。
「はあ……」
暴走の兆候はない。
高まる動悸を意識しながら、今度は参加させられた人のページを探して、見つけた。
木ノ下泰男・日本・夏
法条まりな・日本・春
高橋美奈子・日本・夏
涼宮 遙・日本・夏
伊頭遺作・日本・夏―――
何人か放送で聞いた名が載ってた。 でも先のページをめくる。
首輪を解除できるかも知れない人のリストも載ってたけど、後回し。
「!」
――高町恭也
見つけた。
わたしは恭也さんの――別人かもしれないけど、彼の項目を読み始めた。
□ ■ □ ■
「………………」
恭也さんも違ってた。
風芽丘に通ってなかったから。
手帳を閉じてわたしはベッドに寝転がった。
わたしの胸に不安とわずかな安堵が胸を満たす。
整理しながら、全部読むのは時間がかかりそうだ。
怖いけどやっぱり、恭也さん達と会わなきゃいけない。
それと、あまりやりたくないけど……主催者からも情報を集めなきゃいけない。
まりなさんの世界だけかも知れないけど、すでに何度も殺し合いの大会が開かれてる。
もしかしたらわたしのいた世界でも行われてるかもしれない。
……それでなくてもいつさざなみ荘のみんなが巻き込まれるかわからない。
何もこの殺し合いの元凶が別の殺し合いのと同じとは限らないから。
わたしは手帳をかたく握り締めた。
紛失しちゃったらいけえない、必要な分メモしよう。わたしは筆記具を探す。
すぐにメモ用紙と鉛筆を見つけたわたしは、窓の方を見た。
もうすぐ日が沈そう。
疲れを少しでも取るために、光合成をしようとわたしは出入り口の前に立ち、ノブを握った。
「……」
些細だけど、気になることを思い出した。
まりなさんのいた世界の恭也さん、わたしよりも年下だったんだ。
↓
【仁村知佳(№40)】
【現在位置:廃村・井戸付近の民家】
【スタンス:恭也達との再会、主催者達と場合によっては他の参加者達の
心を読んでの情報収集
手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
恭也が死ねばスタンス変更を考える】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)】
【備考:まだ知佳は森林火災の事や定時放送のズレには気づいていません。
大会不参加のキャラや手帳記載の対象参加者の中には
いわゆる“同一の別人”が何人か混ざってます】
仮投下終了です。
内容説明等で色々書きたいのですが、今日は用事があるので続きは今夜に。
SSまとめをアップしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org11621.zip.html
パスは rowa です。
連休中にもう一度上げると思います。
本投下時には多少描写を追加しますが内容の大筋は変わらないです。
現生存者などの情報が、これ以上記載されてるかどうかは、今後の展開次第ということで。
前にしてた6人組SS予約は一旦取り下げます。他の人にお任せします。
問題が無ければ今度の月曜日の夜に本投下します。
>>421 でご指摘の件の修正と本投下、終了しました。
次回予定は「絶望20:00」。
透子と紳一、レプリカN−22が登場、
週末に仮投下を予定しております。
>>431
質問を一つしたく。
このケースに限らずなのですが
まりなのいた方はスパロボのように世界が一緒の所にいる同一人物
(知佳のいた世界にはまりながいない原作準拠orまりながいない世界、まりながいた世界は別の知佳がいるスパロボのような世界)
と
両者とも同じ構成の世界、どの世界から誰が連れて来られてあっちでは連れて来られてない世界
(無限にある木の枝のような可能性の平行世界Ver)
と
まりな世界ではまりなと知佳が混在してるけど知佳世界はまりなはおらず知佳とファントムが混在してるみたいに組み合わせが複数ある
(あくまで例なので事実とは違います)
のどちらでしょう?
基本存在を知ってたりと混在してる参加者達も多ければ、仮にAを認知してそうなの立場にいるのに知らない人もいるので
2番目の人達もいれば3番目の人達もいる(ファンタジー系は絶対にそうですね)だと思うのですが
どうでしょうか?
あぁ、自分でも何だか書いてて混乱気味ですみませんw
質問の一番基本な意図を忘れていたorz
どういう平行世界関係か、です。
もうちょっと解りやすく変えてみました。
まりなの世界はスパロボ基準は確定
他の人達は別である(一番目と三番目)
基本構成は同じ(二番目)
のどれかかな?
で二番目と三番目の混在かな、と思いました。
携帯からなので長いレスができませんが。
まりなと知佳に限らず大体の現代風の世界には現代風限定でのキャラがいてもおかしくないという感じで書きました。
当然、ファンタジーキャラはいませんし、時代が大きく違うキャラもいません。居てもおかしくないのに存在しないケースも選択できるように現生存のキャラの名前を出しませんでした。電池が残り少ないので、
詳しい説明はまた夜9時に。
帰還しました。
>まりな世界ではまりなと知佳が混在してるけど
知佳世界はまりなはおらず知佳とファントムが混在してるみたいに組み合わせが複数ある
>まりなの世界はスパロボ基準は確定
他の人達は別である(一番目と三番目)
どちらかと言えばこっちのつもりで書きました。
ただ、>>429 で挙げられたのを加えた分で、まりな世界住人は全員出揃ってしまうかもしれませんね。
現生存者や紳一のは扱いが難しそうなので。
それと追加・修正の為に、すいませんが本投下と素材UPは一日延長させていただきます。
明日の夜8時頃に本投下させていただきます。
>>438
了解しました、ありがとうございます。
頭の中がごっちゃになっていたのですみませんでした。
此方のルドプラ会話は明日または明後日の夜に試験投下いたします。
これから本投下します。
投下終了です。
>バンカラ夜叉姫・雌伏編
予約時、状況は前より良くなってるのに何故雌伏?と思いましたが……なるほど。
苦労性だなあ……紗霧の一人称見ていてちょっとムカつきましたがwwww
魔窟堂の評価、話が進む度に低下の一途を辿ってるなあ……遅刻続きだからだろうか?
恭也は地味ながらに貢献してるのが印象的。
そしてランスとまひる合掌。
それぞれのキャラが立っていて面白かったです。
今回のを収録したまとめは明日UPします。
その時に次の予約を入れる予定です。
参加者配布用の地図ができました。
それに加え、一部修正したまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org16773.zip.html
パスは negi です。
ケイブリス単体を予約します。
内容はメール欄の予定ですので、こちらの本投下が後の方になっても大丈夫だと思います。
今週の土曜日には仮投下ができると思います。
メール欄忘れてました。
少々遅れ気味です。
日曜の夜には……
以下17レス、「絶望20:00」改め「絶望+」を
仮投下させて頂きます。
問題なければ火曜晩に本スレに投下しようと思います。
次回は「( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!」。
カモちゃんとカオス、ザドゥが登場。火曜晩の仮投下予定です。
>400
(二日目 PM6:23 E−8・漁協付近)
夕陽が遠く水平線へと溶け、宵月が薄ぼんやりと浮かび上がる。
その月の化生の如きなま白い少女が、集落から漁協詰所へと歩みを進めていた。
彼女は監察官・御陵透子。
楡の木広場にて検索網に掛かった勝沼紳一の有り得ぬ記録に違和感を覚え、
その理由を探るべく、彼の足跡を辿っている。
(わたしの直感も当てにならない)
(これ以上の追跡に意味なんてないかも)
ここまで追跡してきた紳一の記録は、透子の常識を揺さぶるに十分なものだった。
しかし、その彼が行ってきたことや今後行うと予想できることは、
ゲームの進行にはなんら影響はないと、透子は考えていた。
(それに…… この男はくだらなすぎる)
(―――頭痛い)
透子はうんざりした表情でため息をつく。
無表情・無感動で以って知られる透子からこれほどの反応を引き出すとは、
ある意味、紳一は快挙を達成したといえよう。
(それでもここまで来たのだし)
(漁協詰所での記録までは読んでおこう)
透子は歩きながら、拾い集めた紳一の記録を思い出す。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(一日目 PM4:18 D-8地点・衣装小屋付近)
前後の記憶ははっきりしない。
気付けば俺は真人と一緒に走っていた。
磯で転倒したとき足元から広がった黄緑色のガスに包まれたこと。
それが記憶にある最後の情景。
おそらくあれは毒ガスで、俺は一旦そこで気絶したのだろう。
その時点から、集落の入り口までの記憶が欠落している。
まあいい。
その辺りは腰を落ち着けてから真人に聞こう。
それにしても宙に浮いているかと思えるほど体が軽い。
心臓の痛みも息苦しさも無い。
それに引きかえ、真人はかなり不調のようだ。
俺があいつのペースに合わせて速度を落とさなくてはならないのだから、
よほどあの毒ガスを吸い込んでしまったのだな。
《追ってくる気配は無いな。適当な民家に入ってお前の怪我を手当てをしよう》
「……」
《真人、聞こえないのか?》
「……」
返答はなく、真人の足も止まらない。
どうやら返事をする余裕もないらしい。
それとも、鼓膜がやられたのか?
俺は時折咳き込みながらやや後方を走っている真人に目線を送る。
その時、俺は初めて気づいた。
真人がその背に小柄な男を背負っていることに。
ああ、なるほどな。
幾ら俺が絶好調とはいえ、走りでお前に先行するなんておかしな話だと思っていた。
しかし、なぜ背負っているんだ?
女を運ぶなら判るが、そんな男を助けてやる義理や余裕はないだろう。
それとも、俺の途切れた記憶の中のどこかで、
その男を助けなくてはならない事情が発生したのか?
必勝はちまきなぞを巻いている妖しげな男を助けねばならない事情が。
ん?
必勝はちまき……
!!
待て。
待て待て待て待て。
ソレは無い。
流石にソレは無いだろう。
見覚えのあるスーツだ。見覚えのあるパンツだ。見覚えのある革靴だ。
全てオーダーメイドだ。俺が身に着けているはずのものだ。
だからといって、そんな。
幾らなんでも、お前が背負っているソレが俺だなどと……
だとしたらお前の隣を走っている俺はなんなのだ!?
まるで俺は―――
《亡霊、みたいじゃないか》
どのくらい立ち尽くしていたのだろう。
気付けば真人を見失っていた。
俺はあいつを求めて手当たり次第に集落の家々を覗いて回った。
ドアノブに触れられないことが判ったとき「まさか」と思った。
扉を通り抜けられることが判ったとき「もしや」と思った。
そして横たわる自分の肉体を発見したとき―――
俺は「やはり」と思わざるを得なかった。
《ふ、ふははははははははははははははははは……》
笑うしかなかった。
あまりに惨めで滑稽な死に様だったから。
だってそうだろう?
俺はまだこの島でまだ一枚の処女膜すら破っていない!
あっちからもこっちからも処女の匂いが漂ってくるというのに!
ははっ…… つまりはそういうことか。
処女を犯すことなく絶命した俺の絶望が未練となり、
成仏できずに亡霊と化したのだな。
ならば為すべきは明白だ。
死してなお犯す。
少女を犯さなければ、死んでいる甲斐も無いというものだ。
《ははっ》
右頬がいやらしく吊り上がり、俺らしい歪んだ笑みが浮かんだ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
つまり有り得ない記録とは死後の記録。
つまり辿るべき足跡とは亡霊の足跡。
その予想を超えるイレギュラーな存在のあり方は透子に衝撃を与えた。
しかし。
(くだらない)
透子は紳一の執着の源を思い出して思わずそう呟いた。
(でも、とても厄介)
透子は、亡霊そのものを見ることはできない。
感じることも話すことも出来ない。
なぜなら彼女が行使できる能力は、記録の検索/閲覧。
生者の残した思いを読み取るが如く、亡霊の発した残留思念を読み取ったに過ぎない。
例えば目の前に紳一の亡霊がいるとして、その存在に透子が気づくのは、
周辺の空間検索をして紳一の情報を拾った上で、その内容を読み解いて後となる。
時間にして分単位のタイムラグが発生してしまうのだ。
しかも、明確な位置は捉えられない。
それを指して透子は厄介だと判ずるのだ。
そしてまた、このゲームの全ての記録を司る智機にも紳一は捉えられない。
集音マイクにも赤外線カメラにもサーモグラフィにも引っかかることは無い。
それは紳一が己が亡霊だと認識してから5分後に、
ほかならぬ智機自身の手によって証明されていた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
かちゃり。ドアノブか静かに回転し、ゆっくりと玄関が開いた。
「こちらP−4。現在地、D-8地点・衣装小屋1F」
現れたのは白衣に身を包んだ眼鏡の少女だった。
ボリュームたっぷりの硬質な銀髪は寸分の狂い無く切り揃えられている。
一瞬、彼女と目が合ったように感じられて身じろぎしたが、
彼女は俺の存在に気づくことなく遺体のそばまで寄ってきた。
そうか。俺の姿は見えないのか。
「これより、ナンバー20:勝沼紳一の遺体検分と記録を開始する」
少女は白衣のポケットから取り出した医療器具を用いて遺体を調べ始めた。
独り言をぶつぶつと呟く様は、トランス状態に陥っているかのようだ。
俺はしばし彼女を観察することに決めた。
彼女の後頭部からは排気口のような2本の筒が出ている。
青い手袋を両腕に嵌めているのかと思っていたが、あれは自前の腕だ。
そして首筋と指先の関節部分を曲げたとき、僅かに走る亀裂のようなライン。
この少女、もしやロボットか?
―――まあいい。
人か機械かの違いなど些細なこと。
問題は処女か非処女か。
この一点に尽きる。
俺はしゃがみ込んでいる彼女の正面にポジションを移し、
警戒心なく開かれた両膝の付け根に目を凝らす。
そこには金属の光沢を持った下着が装着されていた。
《貞操帯…… だとっ!?》
俺はあまりのショックに思わず声を上げてしまった。
気づかれたか!?
慌てて少女を見やるが、彼女は俺の焦りなどどこ吹く風で検分を続けている。
そうか。声も聞こえないのか。
真人からの返事がなかったのも、そういうことだったのか。
しかし…… 貞操帯か。それはいい。
すなわち導き出される真実は2つ。
1つ この少女ロボットはセックスが出来る。
2つ この少女ロボットは処女である。
ははは、これは洒落が効いている!!
アイアンメイデンをファントムペニスがレイプとはな!!
「それにしてもこの男、期待はずれもいいところだ。
聖エクセレント女学院バスジャック事件の主犯という経歴から、
もうすこし活躍してくれるものと思っていたのだが……」
検分を終えたらしい少女はまたぶつぶつと独り言。
俺ほどの男を前に随分勝手なことを言っているが、それがいい。
生意気な女を恥と苦痛と快楽で堕とすことこそが至高の快楽なのだから。
《ならば今こそ期待に応えよう!》
リビドー、装填完了。剛直、レディーセット。
俺は両腕を広げ、がばりと彼女を抱きすくめた!
―――すかっ。
俺がすり抜けたことにも気づかず、少女ロボットは小屋を出て行った。
まあ、そうだろう。
壁抜けができるしな。
姿も見えないしな。
声も聞こえないしな。
触れることが出来ぬのも、また必然だ。
しかし、しかしだ!
少女を犯す為に亡霊となった俺だ。
例外的に少女くらい触れるはずだと思うだろう!
少なくとも剛直だけなら突っ込めると期待するだろう!
だというのに…… なんという……
なんという絶望!!
ただひたすら少女を犯す為だけに亡霊と化したというのに、
その本願を亡霊ゆえに成就できぬとは!!
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(やっぱりくだらない)
透子は軽い眩暈を覚え、目を瞑る。
(くだらないけど……)
(この在り方は、未知)
透子思うところの「この在り方」とは、以下のようなものを指す。
・思考する
・移動する
・感情がある
・性欲がある
・陰茎が勃起する
それらは透子の知る幽霊という存在にはありえない特徴だ。
透子が認識する幽霊とは、すなわち―――
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
あまりの絶望に滂沱たる涙を流し頭上を振り仰ぐ俺の耳に、声が届いた。
微かな、微かな、声が。
《ただいま、フォスター》
女の声だ。鈴を転がすような、清楚で上品な声だ。
その声だけで美少女なのだと確信が持てる、美しい声だ。
だが―――それがなんだと?
いかに美少女とて、犯すことのできない俺には意味のないことだ。
いや、目の前のご馳走に手をつけることができないのなら、
いっそご馳走に気づかないほうが幸せなのに。
《ただいま、フォスター》
だというのに俺ときたら……
なぜ、息を殺して声を捉えようとしている?
なぜ、耳を凝らして位置を探ろうとしている?
なぜ、導かれるように階段を上ろうとしている?
理性では押さえが利かぬ、これは業か本能か。
頭の中を埋め尽くすのは処女だけだ。
心に赤々と燃えているのは強姦だけだ。
無駄であっても無意味であっても、傷つく結果になるとわかりきっていても、
俺は禁断の青い果実を追い求めてしまうのだな。
虹の橋を渡らんと荒野を行く孤独な旅人のように。
《留守中ご迷惑を……》
果たして2Fで俺の到着を待っていたのは、メイド服の亡霊だった。
情熱的な長い赤髪に、憂いを含んだ顔立ちの少女だった。
ゆらゆらと輪郭が安定していない。
足許に倒れているのは心臓と思しき位置に僅かな血痕を残す少女の死体。
俺が死んでから初めて出会う亡霊だった。
俺の唇の端が再び吊り上がる。
生身の人間には触れられなかった。
しかし、亡霊同士ならどうだ?
俺は恐る恐る手を伸ばし、メイド少女の肩を軽く叩く。
おお、やったぞ!
俺の手が少女の方に触れている!
《君はそれなりに楽に逝けたようだな》
《留守中ご迷惑を……》
《1Fに俺の死体があるのだが、笑えるぞ?》
《ただいま、フォスター》
この焦点の合わぬ目…… 成り立たぬ会話…… 繰り返されるうわごと……
まるで2回目の陵辱を加えた少女のようだな。
殺されるのも犯されるのも同じ絶望だということか。
残念だ。
正気の少女が陵辱で壊れていく様が楽しいのだが、この際贅沢は言ってられんな。
まあ、手間をかけずに犯せるというメリットもあるしな。
《まずは顔に似合わぬそのけしからん乳から味わわしてもらおうか》
ああ、なんという胸のやわらかさよ!
普段なら鬱陶しい衣服の戦意の感触すら今は心地良い。
俺は少女の胸に顔を埋め、その青い香りを存分に吸い込む。
《ただいま、フォスター》
少女はこの期に及んでなお、錯乱したままうわごとを繰り返している。
それはいい。想定内だ。
しかし、俺の鼻腔がとらえた香りが想定外だった。
まさか、この女……
俺は重いエプロンドレスのスカートをめくり上げ、
その下のペチコートもめくり上げ、
レースの意匠がまぶしい下着に鼻先を潜り込ませた。
そして、臭いを嗅ぐ。
祈る思いで。
《頼む、俺の思い違いであってくれ……》
俺の危惧は正しく、現実は非情だった。
俺は再び絶望した。
中 古 女 だ !
こんな清楚な声と外見をしているというのに、なんという裏切り!!
ふざけるなこの糞ビッチめ!!
一瞬感じてしまったときめきを返せ!!
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(ほんとうにくだらない)
透子は頭痛すら覚え、眉間を揉み解す。
閉じた瞼のその裏で、クレアの霊体を思い返す。
(あれが普通)
そう、透子の認識する亡霊とはこのメイド服の少女クレアの如きものだった。
死を迎えた現場から動くこと無き残留思念。
死の瞬間に抱いた思いを何度も繰り返し、
記録空間にひたすらばら撒き、
ばら撒いた分だけ己を消費し、
やがて輪廻の流れに飲み込まれてゆく。
空間検索者・透子にとっては、屑データで空間を圧迫する鬱陶しい存在。
透子の世界に於いての霊とはそうしたもの。
決して能動的に行動したり新たな思念を発生させられる存在ではないのだ。
その常識を、紳一が覆した。
透子にとってはあまりにもくだらない執着によって。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
キッチンには見苦しいデブの亡霊がいた。
この男も存在が希薄で、うわごとを繰り返していた。
《エネミー》《これは毒?》《エネミー》
俺はなんとなしに理解する。これが普通なのだ。俺が特殊なのだ。
はは…… なんとも皮肉な話だ。
生きている間、心臓病で不自由な生活を送っていた俺が、
死んでしまえば誰よりも健常だというのだから。
よし、状況は飲み込めた。
メイドの裏切りには絶望したが、殺し上等のこの島ならば、
他にも死んだ少女にはこと欠かないだろうしな。
俺の欲望を満たすことはいくらでもできそうだ。
そうだ。
昼間真人とともに攫ったあの少女……
まひるといったか。
あの娘のところへ行こう。
俺たちへの逆レイプの後、あの連中はウチに帰るといって、
漁港方面へと向かったはずだ。
あの辺りの建物を虱潰せば見つかるだろう。
どうせ俺は誰にも気づかれないんだ。
まひるをストーキングしてやる。
まひるが誰かに殺されるまで尾行してやる。
そして殺されて亡霊になったら……
ははっ。
その時こそ犯して犯して犯しまくってやるぞ!
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(くだらない)
(ほんとうにくだらない)
何度目かの溜息をつく透子が漁協詰所を視界に捉えたその時、
管制室のレプリカ智機・N−22からコールが入った。
『御陵透子、聞こえますか』
「聞こえる」
『ザドゥ様と芹沢の救助に協力していただきたい』
「まだ懲りないの?」
『状況が変わりました。
現在朽木双葉の幻術は解け、ザドゥ様から救助要請が入っています。
また2人は戦線から離脱し参加者3名とは距離があります』
透子とて強い望みを持ちゲームの成功を願う者。
彼女なりに現状が主催者対参加者の構図へと書き換わりだしたと理解しているし、
ザドゥ、芹沢の2人を欠いては益々天秤が参加者に傾くことも理解している。
今、智機から入った状況の変化が事実ならば、協力するに吝かでない。
「……やってみる」
透子は強く願う。
具体的な手段などは考えない。
現出する変化は世界と指輪が勝手に決めることだから。
(ザドゥと芹沢が無事に森から脱出できるように―――)
透子が感じる世界の読み替え。
それは感覚的なもので理屈では説明しづらいが、彼女は「通る」と表現している。
透子がルドラサウムから与えられた契約のロケット。
世界の読み替えを行うとき、ここを彼女の願い―――
彼女の感覚では思惟/情報が通ってゆく感じがするのだ。
透子の胸に、その「通った」感じがしなかった。
(願いの強さが足りないのかも)
透子はさらに念じる。
念じるがしかし、一向に通る感じがしない。
感じるとすればそれは「止められている」感覚。
『なんの変化も捉えられませんが……』
N−22の声に篭る不安の響きは、透子の不安が伝染した故か。
透子は胸に垂らした契約のロケットに指を伸ばす。
人差し指がロケットに触れた。
途端、透子の象牙細工の如き肌からさらに血の気が引き、白磁の如き肌となった。
「……読み替えは出来ない」
『どういうことです?』
「だって」
透子が持ち上げたロケットはひび割れ、色を失っていた。
↓
【監察官:御陵透子】
【現在位置:F−8・漁協詰所付近】
【スタンス:① 紳一(亡霊)の記憶検索
② ルール違反者に対する警告・束縛、偵察】
【所持品:契約のロケット(破損)、通信機】
【能力:記録/記憶を読む】
【備考:疲労(小)】
※ 世界の読み替えに大きく制限が掛かった模様。現時点では詳細不明。
※ 記録/記憶を読む力は、世界の読み替え由来の能力ではありません。
>>445
仮投下乙です。
紳一、おまいの気持ちはよくわかるぞ……。某スレ住人としてだが。
でももう確実な処女は双葉と透子だけなんだよなあ。
アインは黒に近いグレーだし。本感想は本投下の時に。
内容に問題はないと思います。
遅れてしまいましたが、これから新作『考える魔獣』を仮投下します。
>>224
(二日目 PM6:10 本拠地・管制室)
主催者の基地はそれなりに広い。
地上にある病院や学校と比べてもかなり広い。
それぞれ、主催者の個室、管制室、集会場、食糧庫、武器庫、参加者の所持品保管庫、
書斎、トレーニングルームなど、大小多くの部屋や通路があり未だ使われてない部屋も多い。
その部屋のひとつは現在、加入者ケイブリスの個室として使われている。
当の彼は現在その部屋でまだ食事を取っていた。
ズズズ……。
茶をすする。
ケイブリスは目を閉じ香りを愉しみつつ、茶の味を存分に味わう。
――美味い。
今はなき友人の家にいた茶飲み友達でもあった某執事が出していたものには到底及ばないが
これは中々のものだ。丁寧に入れ方まで張り紙で説明されている。
自分に合った座布団と湯飲みがない不満はあったが、そんな不満はとうに吹き飛んだ。
次に巨大なスプーンを冷えた鍋の中に入れ、その中身を口に運んで、味わいながら飲み込む。
デザート代わりのクリームもそれなりに美味だ。
誰が準備したか知らないが中々、気が利くじゃねえかとケイブリスは思った。
もう一度茶をすすり中身を空にする。
彼は湯のみ代わりの壷を脇に置いて仰向けに寝転がった。
何度か、げぷっ……とゲップをしている内に、心地よい睡魔が彼に訪れる。
だが、食事中にスピーカーを通じて智機から一言、
『動いてもらうことになるかも知れんから、次の連絡が来るまで寝ないでここで待機してほしい』
と言われたのを思い出して、これはまずいなと思い彼は身を起こした。
「あいつ何してんだ?」
ケイブリスは怪訝に思う。もっとも何をしてるか確かめる気はないが。
鎧の修繕もランスを探すのも今は智機に頼る他なく、ゲームの成功条件や透子の存在がある以上、
うかつに動けないのはケイブリス自身も理解していることだ。
「ち、しょうがねえ」
ケイブリスはぶっきらぼうにそう呟くと、彼は部屋に備え付けられたスピーカーを見た。
部屋の外の音はほぼ聞こえない、防音仕様の個室。
今は静寂が包む部屋に居て、彼は思う。
あの妙な所よりはマシだなと。
□ ■ □ ■
ケイブリスがこの島に来る前、プランナーの誘いに乗ったその直後。
彼は気を失った。
気が付けば彼はあたり一面黒い部屋にいた。
地面はあるが、どこが上か下かよく解らない、周囲は黒なのにどこか明るいという妙な空間。
神はしばらくここで待てといってすぐに去っていった。
乏しいが食料が足元にあったのでとりあえず待つことにした。
10数分経った、が何の連絡もなかった。
プランナーを呼んでみたが、返事はない。
呼びかけはすぐに怒鳴り声に変わったが、それでも返事はなかった。
彼は怒鳴りちらしつつも、彼は空間内を歩き、走り、暴れた。
それでも景色は変わらず、神も現れなかった。
その後、彼は諦めてふて寝してしまった。
ケイブリスはぶっきらぼうにそう呟くと、彼は部屋に備え付けられたスピーカーを見た。
部屋の外の音はほぼ聞こえない、防音仕様の個室。
今は静寂が包む部屋に居て、彼は思う。
あの妙な所よりはマシだなと。
□ ■ □ ■
ケイブリスがこの島に来る前、プランナーの誘いに乗ったその直後。
彼は気を失った。
気が付けば彼はあたり一面黒い部屋にいた。
地面はあるが、どこが上か下かよく解らない、周囲は黒なのにどこか明るいという妙な空間。
神はしばらくここで待てといってすぐに去っていった。
乏しいが食料が足元?にあったのでとりあえず待つことにした。
10数分経ったが、何の連絡もない。
プランナーを呼んでみたが、返事はなかった。
呼びかけはすぐに怒鳴り声に変わったがそれでも返事はなかった。
彼は怒鳴りちらしつつも、彼は空間内を歩き、走り、暴れた。
それでも景色は変わらず、神も現れなかった。
次第に彼は疲れ寝てしまった。
気が付けば、また一面の黒だった。
それに失望しつつ 飯を食い、物思いにふけった。
思索に飽き、また寝る。
再び起きた時、プランナーが目の前に現れ告げた。
<<仕事だ>>
□ ■ □ ■
「俺様はどれくらい待たされたんだろうな?」
思い出してると腹が立って来た。
暴れたいが、怪我とお茶の葉のこともあり、自制し触手を伸ばして茶を入れる作業を始める。
「あー腹立つぜ。でも、あいつも同じ目にあったんだろうな」
ケイブリスは口元に嘲りの笑みを浮かべ、かつて敵対していたある魔人の顔を脳裏に浮かべた。
まりなの手帳で大きく要注意人物と振られていたのと同名のレイという男。
何とか読めた文章から外見的特長が一致。
ケイブリスは“レイ"を同一人物とみなし、同時に自分よりも前にあの神に使われていたと判断した。
何であの神に従ってたのかの判断まではできなかったが。
(まあ、ここにはいねえだろうがな)
智機から説明を受けた時、運営陣の中にはレイは含まれてはいなかった。
だからケイブリスはシンプルにいないと判断した。運営陣にいないならそれに越した事はない。
そもそもこちらは恋人を人質をとって利用していたんだ、顔を合わせば確実に敵対する。
だから仲間ではない方がいい。
フンッと鼻息を立てると、彼の触手が器用に動きこぽこぽと壷にお湯を注ぐ。
(あいつを復活させるくらいならカミーラさん達を復活させろよな……)
魔獣は苛立ちに歯を噛み締めながら、思い人や茶飲み友達を想う。
ランスに対する憎悪をも募らせながら。
(終わったら、やってみるか)
この仕事を成功させ、魔王となったなら今度は知人の復活を神に依頼してみるかと考える。
魔王となった己を誇示した時の彼女らの反応も楽しみだ。
想像すればするほど心が躍り、やる気がみなぎる。
壷を手で掴み、一度臭いを嗅いで茶の湯を一気に飲み干す。
ケイブリスは壷を元の位置に戻し、胡坐をかいて同盟者である智機の連絡を悠然と待ち続けた。
↓
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:反逆者の始末・ランス優先、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋】
>>466 と>>467 を重複してしまいましたorz
問題がなければ月曜日の夜に本投下させていただきます。
予約は未定、まとめは今週の水曜日までにUPする予定です。
修正
>>462 の(二日目 PM6:10 本拠地・管制室)
は(二日目 PM6:10 本拠地・ケイブリスの部屋) です。
これから本投下を始めます。
本投下終了。
初期構想はケイブリスのエロ本探しでした。
どうしても智機とかち合ってしまうので没に。
メール欄も出す予定でしたが、入れるタイミングがなかったのでこれまた没に。
『今一度、教えていただきたい! このゲームの有り方を! 我々の役目を!』
「役目か……」
静けさを取り戻した空間にぽつんと浮かび続けているプランナーは先程の来訪者の言葉を思い出していた。
機械と思えぬ強い意思を持った目が思い起こされる。
『……私達は……いや、私は何をすれば良いのですか!?』
「そんなことは解りきってることだ……。唯一つ我が主プランナーを喜ばせるだけ」
初めはなんだっただろう。
気づけば自分とハーモニットとローベンパーンがいた。
命じられた役割は唯一つ、ルドラサウムを楽しませる。
逆らえばその存在は抹消。
ただそれだけを永遠に行ない、これからも行ないつづける為の道具。
理不尽……と思ったことがなかったわけでもない。
見てて面白くない。
飽きた。
たったそれだけの気まぐれで何度世界をリセットし、三人で構築しなおしたか解らない。
思い望んだものとかけ離れ、自身らの判断でリセットしたこともあったが、時にはルドラサウムの気まぐれでリセットを止められ続けさせられたこともある。
トロスと呼ばれる魔王を作った。
彼に従うべき七人の魔人を作った。
やがて魔人の一人が力をつけ、トロスを倒した。
故にリセットした。
才能限界値を取り入れた。
魔人が魔王に従うべく、魔人は魔王が作り出す存在にし血の盟約を作った。
魔王の起源は1000年とした。
臆病なスラルが他の生物達に脅かされて頼みにきたので無敵属性を与えた。
その結果、スラルは500年で死んだ。
スラルが消滅したので新たにナイチサを任命した。
ところがナイチサがあまりにも人類を殺しすぎたためにルドラサウムが飽き掛けた。
対抗策として生物の死滅数に応じて力を増し、神にすら対抗できる勇者を作った。
結果、魔王倒せるまで力の上がった勇者との戦いでナイチサは、何とか勇者を倒すものの致命傷を負い、寿命が縮まった。
次の魔王はナイチサに任命されたジルだった。
ジルはナイチサの件を反省し、人間牧場を作ることで勇者の力があがらないよう人間の数を維持しつづけた。
やがてエターナルヒーローと呼ばれる人間たちが謁見に来た。
彼らの願いを面白いように叶えてやった。
魔剣カオス、聖刀日光、これで人類にも多少の希望と反抗の目ができた。
次の魔王はジルの愛人であり、先のエターナルヒーローであるカオスの使い手であったガイだった。
二重人格の隙をつかれ、ジルに無理矢理愛人にされたガイはジルが寿命の延命を図るとカオスを用いてジルを斬り、封印した。
その時の返り血で彼は魔王になった。
こともあろうにガイは人間領に不干渉を決め込んだ。
思い望んだものとかけ離れたのでリセットしようとしたが、人間同士が争いをはじめルドラサウムが喜んでいたので取りやめた。
聖魔戦争による魔人と人間の戦いはルドラサウムを大いに喜ばせた。
やがてガイも寿命が来た。
次の魔王はガイが異世界から呼寄せた人間の少女だった。
人間の少女は魔王に覚醒するのを嫌がり、逃走した。
これにより魔人達が真っ二つに分かれ、魔人同士の戦争が起き、プランナーのレールと違うもののまたルドラサウムを楽しませた。
その折、人間に一人の王が誕生した。
その王は今までとは桁外れのスピードで戦争を行い、次々と人間の国を統一していった。
ルドラサウムはその様子を見て今までにないほど喜んでいた。
人間の国を統一し終えたと思うと今度は魔人達に戦争を仕掛けた。
ルドラサウムは更に喜んだ。
そして予想を覆し、魔人の領土すら統一してしまった。
その後、無理な統一がたたり、各国は再びばらばらになりつつある。
「敷かれたレールか……」
どれだけ色々なものを講じたか解らない。
その度に自分が作り出し任命したものたちに覆された。
トロスを殺した魔人。
無敵を欲しがったスラル。
メインプレイヤーを全滅させかけたナイチサ。
勇者を無効化させたジル。
魔王率いる魔人と魔物が人間を蹂躙する構図を打ち破ったガイ。
魔王不在とはいえ、あろうことか魔人領すら支配下に置いた人間の王。
彼の思い望んだ構図の通りに世界が動いていったことなど殆どない。
常に何時も彼らはプランナー達の思惑とかけ離れた行動を取り続ける。
与えられた役目にもがきつづけ、抵抗し、束縛から離れて行く。
「結局何をしても常に同じと言うわけだな……」
反乱する参加者達
願いを叶えることに躍起になる運営者達
結局今までと同じなのだ、とプランナーは思った。
違う存在があるとすれば……
「我々か……」
何をしてもルドラサウムのためだけに存在する三超神である己。
何があろうとルドラサウムのためだけに動く己。
己らだけが常に違う。
(何を考えることがある。
そうやってずっと過ごしてきたではないか。
弄ることを楽しく思わなければやっていけなかった。
……やっていけなかった?
違う、楽しんでいたのだ。
そうしなければ……)
「下らないな……」
そこまで考えるとプランナーは思考を止めた。
「何が楽しくなければか……。
己はただそれだけ。ルドラサウムを楽しませるためだけの存在。
楽しくある必要などない」
『今後は、『許可』は行なわない。お前がどのような行動に移ろうと役目を果たしているのならば好きにするがいい。
私は『お前達』に今後『干渉』しない……』
「……だからこんなことを言ったわけではない」
不公平な肩入れは箱庭のバランスを崩してしまう。
それがプランナーの気質であり、敷くレールだからだ。
『……やり過ぎではないでしょうか?』
智機の言い分が最もであり、そう思ったから不公平を止めただけではないか。
<<んー、いいね、いいね。盛り上がってきたよ>>
鏡を介して島を覗いているルドラサウム。
<<爆発になったおかげで反乱してるぷちぷちにも大分目が出てきたね。
ザドゥもあの様子じゃただではすまなさそうだし……。
機能停止だったら、あの後で即座に救助が可能だったのにねぇ。
もしかしたら願いを叶える場が回ってくるかな?
そしたらどんな風に叶えてやろう?
素直に適えてやろうかな、それともひねくれてやろうかな。
楽しみだな>>
<<ルドラサウム様……>>
ルドラサウムの前にプランナーが現われる。
全長2kmを超えるルドラサウムの前にはプランナーの巨体と言えど、赤子以下にすら過ぎない。
普段、ルドラサウムの前では、我侭な彼の楽しみの一環としてため口を使っているプランナーだが、このゲームにおいては主に対してと敬語を用いていた。
<<あ、プランナー。どう? さっきの爆発で反乱の成功する目も大きくなったし、楽しみが増えそうで良かったよ>>
機能停止じゃなくて爆発ってところが域だね。
と無邪気にプランナーに対してルドラサウム。
ランダムな結果ではあるが、解りきりながらもルドラサウムはそれを喜んでいる。
(結局、そうなのか……)
自分が幾ら構築しようとルドラサウムの楽しみなど彼の気分次第。
<<そのことで一つ申し上げたい旨がありまして参りました>>
<<ん? なに?>>
<<やはり先程の爆発は少々やりすぎではなかったかと思いまして……>>
<<良いよ。おかげで盛り上がりそうだからね>>
<<いえ、そうではなく。彼女にだけ手を貸すのはやはり不公平であるべきかと……>>
<<硬いなぁ、プランナーは……。別に良いじゃないか>>
<<それに許可し続けるのは、ゲームバランスの崩壊を招いて面白くもないかと……>>
今後、彼女の許可を許しつづけていたら、引き起こされる方法がランダムであるとはいえ、
反乱者や運営内部のゴタゴタがある以上、使う機会、透子が使わざるを得ない場は何度も巡ってくるだろう。
そこで使われつづけてはつまらないものになる可能性が高い。
そのようにプランナーは進言した。
<<んー、まぁ、確かにそうなんだけど……>>
透子の性格からそうそう使うことはないともルドラサウムは思うが、プランナーの言うことも一理ある。
今はであって、なってからでは遅いだろうし、いちいちあれは許可してこれは許可しないとプランナーが判断を介入するのも
解りきったツマラナイ結果しかもたらさないだろう。
それに基本的な運営はプランナーに任せてるのだ。
せっかくの面白い舞台を潰すようなことならいざ知らず、彼は自分を楽しませる為の存在なのだ。
彼は面白くするために奔走しているのだ。
以前のように面白くて見つづけたいから続行させたい、というわけでもない彼なりの考え合ってのものだから別に良いだろう。
<<まぁいいか。別に彼女の『読み替え』自体は前報酬じゃなくて、この世界において許してただけだしね>>
<<ありがとうございます>>
(通ったか……。所詮、ルドラサウムにしてみれば面白くなれば何とでも良いのであろうからな……)
<<用件はそれだけかな?>>
<<はい。ありがとうございました。
それでは、私の方は備えなければならないので……失礼させていただきます>>
プランナーがルドラサウムのいた場所から消え去っていく。
<<さぁて、話してる間にどうなったかな、と……>>
先程まで彼がいたことなど何事もなかったかのようにルドラサウムは再び島を覗き始めた。
(これでいいのだ……)
彼の場所へと戻ったプランナーもまた島を見出した。
これで箱庭の中の人物達は、正しく平等になっただろう。
後は各々の既に所有してるものだけ。
果たして箱庭の中の人物達はどう動くのだろうか。
また予想外のことをしでかしてくれるのだろうか。
と思いながら。
お待たせしました。
設定をどうするか等で悩み遅れていました。
鬼畜王ということもあり、今ロワの開始時の設定でもあったトロス設定の方を用いることにしました。
途中の競合しても良い部分は新情報の設定を用いてます。
どうでもいいですね、はいorz
問題がなければ、明日の晩には本投下したいと思います。
仮投下乙です。
問題はないと思います。
色々と参考になる話だと思いました。
前報酬は透子の読み替えを容易に行えるようにしてたのと解釈して良いのですね。
以下8レス、「( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!」を
仮投下させて頂きます。
問題なければ週末の晩に本スレに投下しようと思います。
次回は「最優先事項」。
レプリカ智機たちが登場予定で、週末の晩の仮投下予定です。
物が燃えるということは一種の化学反応だ。
ある一定の温度に達すると、酸素が物体と連続して結合し続ける。
故に周りを火に囲まれようとも、酸素さえなければ燃えることは無い。
これを今回の森林火災に当てはめて、導き出される解答は次の如し。
足元の草があまり燃えない楡の木広場は既に酸欠状態にある。
ザドゥが早々に広場を放棄し、風上へと移動したのはこの判断による。
全く正しい。
それが、通常の科学の範疇にある火事ならば。
結論を述べよう。
風上に向かうというザドゥの判断は誤まりだ。
ベストの選択は救援物資が届くまでその場で待機すること。
なぜならこの火災は尋常の火災ではなく、
朽木双葉とその下僕たる木々が命を削って炎の流れを制御していたから。
少なくとも双葉が絶命するまでは、楡の木広場の酸素が尽きることはない。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
>>505
(二日目 PM6:12 G−4地点 楡の木広場・北東外れ)
楡の木広場、北東の外れ。
ザドゥは森林の手前で立ち尽くし、次の一歩を踏み出せずにいた。
風上にゆけばなんとかなる。その思いが吹き飛んでいた。
ザドゥの歩みを阻むは煙。
尋常の数倍ではない。異常を数倍した量と密度で煙が満ちている。
密集する木々が各々に煙を上げ、それが枝葉に絡んで滞留するからだ。
視界の確保は事実上不可能。5歩先の炎すら目視できない。
ばさりばさり。ザドゥはマントを大きく振るう。
左右に何度も繰り返し、繰り返し。
それは火の粉を払う為ではなく、煙を払う試みだ。
煙が散った。
散った煙が周囲の煙を呼んだ。
視界を占めるのは変わらぬ白煙。
試みは失敗に終わった。
ザドゥは煙を視線で殺せとばかりに睨めつける。
(立ち止まるは後退するに等しい。迷っていても埒が開かぬ。
視界が確保できぬなら、他の四感を駆使するまで!)
打つ手を失ったザドゥは森林への突撃を決意する。
即断即決。躊躇は害悪。
ザドゥのその気質、吉と出るか凶と出るか。
「よし、行くぞ芹沢!」
―――返答がない。
嫌な予感を胸に、ザドゥが振り返る。
予感は的中。
後ろに待機していたはずの芹沢が、姿を消していた。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「わったしをよーぶのはだぁれっかなっ♪
わったしをよーぶのはどぉこっかなっ♪」
誰かに呼ばれている。
ふとそのように感じたカモミール・芹沢は、ザドゥに動くなと命じられたことを
瞬時に忘れて、呼ばれたと思しき方向へと進んでいる。
姿勢は四つん這い。そのことについてはザドゥの言いつけを守っている。
《……おーい…… こじゃあ……》
また聞こえた。それは前方の炎の中からの声だった。
芹沢にとって聞き覚えのない声だった。
しわがれた老人のような、或いは煙草で喉が焼けたような。
どちらかというと不快な声質の。
「あれぇ? だーれもいないんだけどぉ?」
芹沢は大げさにきょろきょろと頭を振って周囲を確認。
人影は無い。
あるのはただ、禍々しい暗紫の刀身を炎に晒す一本の剣。
柄に施された目のような装飾がぎょろりと動いて、視線が芹沢の胸に固定された。
《わぁ〜おぅ♪ ダイナマイツ!》
親父臭い下品な野次を上げたのはその刀、魔剣カオス。
この剣は軽量化を図ったアインに捨てられていた。
《もうちょっと胸を突き出して。肘でこう、おっぱいを持ち上げるように!》
「んー、こう?」
《うほほほーい! 女豹のポーズ完成じゃ!
アインの嬢ちゃんみたいなスレンダーボディも悪かないが、
やっぱり女はぱっつんぱっつんのむっちんむっちんが一番じゃのう!》
「あはは、えっちな刀さんだねぇ」
《おうともエッチじゃわい。エッチが全てじゃわい。
だからもっとエッチに、そのまま尻を左右に振ってくれぃ!》
「がおー、がおー♪」
《この……ねえ、ぷりんって。お尻がぷりんぷりんってなってますよ?
ああああっ、心のちんちんを今すぐ出したい!挟みたい!擦りたい!》
そのやりとりは場末のキャバクラが如し。
生死が一瞬で交錯する火災の只中にあって信じられぬ程の能天気さを晒している。
しかし、それもむべなるかな。
未だ芹沢を蝕み続けるクスリは彼女を過剰に過ぎる多幸間で包み込んでいた。
彼女はこの状況を危機だと認識できないのだ。
「でねぇ、刀さん。どうしてあたしを呼んだのかな? おっぱいが見たかっただけ?」
《そうそう、儂、誰かに拾ってもらおうと呼びかけておったんじゃ。
のぅねーちゃん、儂を拾ってみませんか? 意外とお役にたちますよ?》
「おっけー♪」
芹沢は快諾すると即座に左腕を伸ばし、炎に巻かれるカオスを躊躇い無く掴む。
彼女はかなりの熱さを覚悟していた。
感覚がすこぶる鈍い異形の腕ならば耐えられるかな、と思っていた。
しかし、掴んだその柄は、ひんやりと心地よい温度を掌に伝えてきた。
「冷たくてきもちーね♪」
《このカオス、火災程度ではびくともせんのじゃよ。
じゃからね、ねーちゃん。
儂をそのぷりんぷりんの胸に、こうぎゅーっと挟み込んでくれんかの。
火照った体をひんやり冷まして気持ちいいこと請け合いですよ?》
「うんいーよー。ぎゅーーっ!」
《げへへへへ。おっぱい!おっぱい!》
芹沢の抱擁に、正確にはその胸の感触にカオスの両眼がだらしなく歪む。
ザドゥが声を頼りに芹沢を発見したのはその時だった。
「何をしている芹沢!!」
ザドゥが怒りの形相で芹沢ににじり寄る。
芹沢は振り返ってにぱっと笑い、ぶんぶんと勢いよく手を振った。
「あははー、ザッちゃん、やほー♪」
「やほーではない! あれほど俺から離れるなと……」
《まあまあザッちゃんとやら、そう憤るでない》
芹沢の胸に抱かれた刀剣から聞こえる声に一瞬身を固くしたザドゥだが、
その剣が性欲丸出しの目線を芹沢の胸に向けていることに呆れ、
ほぼ反射的にそれを叩き落した。
「ややこしい荷物を増やすな。行くぞ。もう離れるなよ」
《ああっ、捨てないで捨てないで!
この火災から脱出したいのじゃろ。ならば儂が役立つ…… かもよ?》
「役に立つ、と?」
ザドゥはカオスの言葉を復唱し、続きを促す。
《状況もおまえさんの精神も切羽詰っとるようじゃし、要点だけ言うぞ。
儂を振れば闘気が疾る。闘気はすなわち剣風を生む。周囲の煙を払える程度にはな》
「ほう」
視界の確保。
それは今のザドゥが最も欲している事。
《但し、儂を振るえば振るうほど、その心は闇に飲まれやすうなる。
気をしっかり持ち、心を穏やかに振るうんですよ?》
「ふん。それがどうした」
ザドゥはカオスの忠告を鼻で笑う。
笑いながら一度捨てたその剣を拾い上げて、言った。
「俺の心はとうに漆黒だ」
ザドゥはカオスを左手に握り、刃を寝かせて右肩に担ぐ。
煙に覆われた森林を向き、膝を落とす。
瞑目。深呼吸。―――瞠目。
「しっ!」
口腔より迸る気合一閃。その豪腕より放たれたるは横薙ぎ。
巻き上がる剣風が煙を鋭く切り裂いた。
……わずか3mほど。
「……ふん。意外としょぼいな」
《あー……済まん。威力はな、剣士としての資質に比例するんじゃ》
カオスの世界において、各種技能は単純化されレベルという単位で表される。
その格付けにザドゥを当てはめるなら、格闘レベルは伝説級の3にすら達しようか。
しかし、物事には得手不得手がある。
《わしの見立てによると、ザッちゃんの剣レベルは0の素人級じゃな。
逆にねーちゃんの剣レベルはギリギリ2の達人級かの。
上手くすれば必殺技なんかが出せちゃいますよ?》
「はいはーい! あたしがやりまーす! ひっさーつ!」
「ダメだ!」
「びぇぇぇん! ザッちゃんが怒ったぁ!」
「今のおまえはな、芹沢……」
ザドゥはそこで口を閉ざした。
今の芹沢に余力は無い。体力も、気力も、判断力も。
そこに来て精神を消耗するこの剣を持たせることは自殺行為だ。
噛んで含めるように諭したとて今の芹沢には理解できまい。
しかし、その思いを渦中の魔剣は理解したようだった。
《……女をかばうか。男じゃな、ザッちゃん》
「女ではない。部下だ」
斜に構えた笑みを一つ。
ザドゥはカオスを擦り上げる。
↓
【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G−4地点 楡の木広場北東外れ → 東の森北東部】
【スタンス:炎から逃げつつ救助を待つ】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:ボロボロのマント、通信機、魔剣カオス(new)】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、右手に中度の火傷あり、疲労(大)、ダメージ(小)】
【カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(大)、腹部損傷】
※ カタパルトによる救助は7分後、学校からの救助は到着時間未定
>>484 さん
前報酬等については、以下のように考えていました。
「巡る因果」とも共存可能かと思います。
【前報酬】
パートナーの記憶/記録を島内にばら撒くこと
【契約のロケット】
世界の読み替えを制限するアイテム。
通常であれば
①透子が願う
②願いに準じた世界に読み変わる
の2ステップで発動する能力を、
①透子が願う
②プランナー(あるいはその手下)が願いを認めるか否か判定する
③願いに準じた世界に読み変わるor発動しない
の3ステップかかる&発動しない場合がある
ようにするもの。
また、ロケット破損による能力制限は(メール欄)な上に、
強くイメージしないと通らない、と考えています。
もう一つ。
次回予定の「最優先事項」の冒頭で、レプリカ智機の種類や残機数を
整理したく思っています。
素案を以下2レスに上げますので、ご意見ありましたらお願いします。
ここで、オートマン・椎名智機が保有するレプリカについて整理しよう。
レプリカには大まかに数えて3種類ある。
1つ、白兵戦仕様、Dシリーズ。識別色は赤。
1つ、通常仕様、Nシリーズ。識別色は橙。
1つ、情報収集仕様、Pシリーズ。識別色は青。
識別色はアンテナ機能を備えたカチューシャにペイントされている。
Dシリーズの機体数は3/4機(残存/開始時)。
稼働時間は戦闘モードで4時間だが、後述のアタッチメントによって増減する。
基本身体能力はランス程度、基本装甲はなみ以下。
ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭たち。
各種アタッチメントを装備することでその能力は大きく変化する。
キャタピラ、軽ジェットエンジンなどの移動機器。
耐熱装甲、工学迷彩スーツなどの装甲。
高周波ブレード、ビーム砲などの武装
無限のバリエーションであらゆる局面に対応できる万能さが魅力だ。
但し、強化パーツの制御には多大なリソースを占有する為、
オリジナルが同期できないというデメリットもある。
なお、強化パーツの一つは、虎の子として本拠地の倉庫に保管されている。
このパーツを後述のNシリーズに組み込むことで、Dシリーズに昇格させることが可能となる。
Nシリーズの機体数は38/150機。
稼働時間は戦闘モードで4時間、デスクワークモードで10時間。
基本身体能力は月夜御名紗霧程度、基本装甲は通常の作業用ロボット程度。
正しい意味でのレプリカで、ハード/ソフト共にオリジナルに等しい。
基本身体能力を超えない範囲での武装は可能で、内蔵型スタンナックルを有する。
Pシリーズの機体数は6/6機。
スペックその他はNシリーズに等しく、識別されるのは役割と権限の違い故。
担う役割は現場での情報収集。哨戒活動。
有する権限は情報収集端末への常時アクセス権と、優先レベル3以下の命令拒否権。
特殊装備はスタングレネードと最高速40Km/hのカスタムジンジャー(セグウェイ)、
バッテリーパック×2。
ゲーム開始前から今に至るまで島内の担当領域から情報を収集/発信し続けている。
参加者に対して隠密行動を是とし、被発見時には交戦せず闘争するよう刷り込まれている。
また、Pシリーズが破壊された場合はNシリーズに同種の装備と権限を与え、
新たなPシリーズとして登録変更される仕組みだ。
最後に、全てのレプリカに共通する特徴を記そう。
この種の機械の例に漏れず、智機も基本的に熱に弱い。
冷却ユニットは水冷式。蒸気の排出は後頭部の排気口から、冷却水の補充は口から行われる。
内臓しているのは通信機と充電コード。
充電については全機ともに本拠地と学校の専用充電機にて3時間、
島内各所の建物のいくつかに仕込まれた特殊なコンセントにて10時間が必要となる。
そして―――最優先事項に【ゲーム進行の円滑化】が設定されていること。
マザーボードに焼き付けられているそれは、決して覆ることはない。
ようやく本投下終了できました。
毎度の支援に感謝です。
>>497 8行目 修正
× 交戦せず闘争するよう
○ 交戦せず逃走するよう
さらに訂正。すみません。
起動中(&直近起動予定)のレプリカの数を抜いてました。
>>496 23行目
× Nシリーズの機体数は38/150機。
○ Nシリーズの機体数は46/150機。
>>483 >>485
仮投下お疲れ様でした。
ともあれ感想
>絶望
本投下乙です。
各登場人物の様々な絶望の形の表現と、記憶を辿ってのみの紳一の登場はうまいと思いました。
タカさんのまひるに対する強チン未遂は見たんだろうかw
透子達の世界の死の解釈もなるほど……。
クレア……夢はあくまで夢か。
イノケン再登場は意外でした。何故か対主催だっただけにちょっとカワイソス。
>>496-497
智機のまとめと整理参考になります。
ただ218話で説明されていた高機動型が抜けていますよ。
それと184話で鬼作に致命傷を与えたレプリカも、結構怪力だったみたいです。
もっともそれらは全部破壊されましたし、218話の機体説明は一部と取れますので
もし修正されるならちょっと補足するだけで大丈夫だと思います。
>ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭たち。
よく考えてみれば、これってメール欄のが今後使われる可能性があるって事ですよね。
それは強いわw
所用で休暇を取っていたので、眠くてダウンしてしまい、
昼間の投稿となりました。
この時間の支援ありがとうございました。
>>484
>前報酬は透子の読み替えを容易に行えるようにしてた
>>494
此方が考えていたのは245話から『存在の維持』+『記憶の維持』+『記録を島内にばら撒く事(この辺はプランナーとルドラサウムの意地の悪さですね)』でした。
ので>>494 とほぼ同じです。
ですので、巡る因果においては、ルドの台詞で
読み替え自体は、世界において行使を許していただけで、前報酬ではない
という風にしました。
ですが、前報酬が具体的に何であるか明示してるわけではないので
この辺りの下りを書く時にその方がご自由に弄っていいと思います。
次の投下は、今週末で内容は>>422 のメール欄の予定です。
その話かもしくは後編の中で
事実、智機が外へと自在に動かしきれる手駒はもはや20を切り始めていた。(ここは数を合わせれると思います)
うち10体は管制室の防衛として、そこで何が起きても対処されるべくスタンバイされている。
これを割けば、事実、丸裸を意味する。
運営本拠地の防衛に現在10体は常備している。
此方をなくせば、管制室が最初と最後の砦となってしまう。
つまり、もう無駄に投下することが厳しくなってきたと言うことだ。
というような描写をしようと思っていたのですが
>>496-497 との競合は大丈夫でしょうか?
後編は( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!の投下後に取り掛かろうと思います。
>>501
本投下乙でした。
>巡る因果
鬼畜王の設定をうまくまとめたと思いました。
おかげでこれから先進めやすくなったと思います。
なんかプランナーが気の毒になってきた(^^;
プランナーの口調など、謎が色々と解けた内容で興味深かったです。
透子の方、こちらも把握しました。
最新262話までのまとめと地図を更新しました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org24043.zip.html
パスは rowa です。
新コンテンツはもう少し掛かりそうです、申し訳ありません……。
アイン単体で予約します。双葉にたどり着く前です。
内容はメール欄なので、先に構わず進んでも大丈夫な内容だと思います。
新コンテンツ素材も含めて、今度の日曜日中までに仮投下する予定です。
予定タイトルは「檻の外、箱庭の中」です。
レプリカ智機関連のご意見ありがとうございます。
>>500 さん
Nシリーズについて、下記のような記述を追加しようと思います。
リソースを大量消費するパーツ―――
例えば高機動レッグや強化アームなどの換装も物理的には換装可能だが、
フリーズやシステムクラッシュを誘発してしまう欠点もある。
この場合、常駐ソフトを切る事で実運用可能なレベルまで緩和できるのだが、
無論、切ったソフト(例えば他のパーツ制御)に由来する機能は使用不可となる。
>>503 さん
「最優先事項」のあらすじは以下の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
(>>505 のメール欄①)した結果(>>505 のメール欄②)と判明。
しかし(メール欄③)で頼れず(メール欄④)に踏み切る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
そこで提案なのですが、こんな対応はどうでしょうか。
①>>422 の作品と「最優先事項」を、同じ時間の出来事とする
②>>422 の作品を先に投下していただく。>>503 の描写はそのまま
③「最優先事項」を後から投下する。内容は上記のまま
オリジナルの思惑をレプリカたちがいきなりひっくり返すことで、
本能に根ざした認識のズレやら落差やらが逆に強調できるのでは、
と考えます。
お手数ですがご返答または代案のほう、お願いいたします。
>>506
ども、ありがとうございます。
>>505 ->>506 のメール欄は当メール欄の①と②で①ですよね。
①であるなら>>506 の通りの方向で、此方で>>503 を強調しつつ
①がやっちまってありゃりゃーと言う側面を混ぜ当方作で上手く合作できると思いますので
此方は>>506 の案でOKです。
細かい部分での擦り合わせは作品投下しあわないと解らないでしょうからその時に。
もし②で行ないたかったというのがあれば、後編に最優先事項にあわせたシーンを挿入することもできます。
>>507
①です。
その頃②は>>293 の後編の状態にあるのだと「最優先事項」で少し触れる予定です。
では、>>506 の流れということで、宜しくお願い致します。
ttp://d1s.skr.jp/ergr/
>>504 に対応しました。
各話のlinkだけは修正しきれてませんが、それ以外は全てweb対応にファイル名やリンク箇所の全角文字を変更できてると思います。
一応>>284 氏にと圧縮したものも上げておきます。
ttp://d1s.skr.jp/ergr/negibr.zip
此方は284氏の受け取りを確認次第消します。
>>509
更新乙です!
圧縮したものも受け取りました。
ありがたく使わせていただきます。
それでは作業に戻ります。
遅れてしまいましたがこれから仮投下します。
タイトルは本投下の際に変えると思います。
描写は追加すると思いますが、それほど加えません。
まとめは先日を含めた都合により火曜日の夜のUPになりそうです。
ゴメンナサイ。
>>505
(二日目 PM6:13 東の森・双葉への道)
広場中央に長谷川の姿はなかった。
辺りは炎と煙に囲まれ、巨木にいたであろう双葉の姿を確認する事もできそうにない。
わたしは長谷川追跡を続行すべく即座に広場の外周を観察する。
見つけた。
一ヶ所だけ火が途切れてる箇所がある。
罠の可能性も考えて、わたしは他に抜け道がないかどうか観察する。
今度は見当たらない……長谷川はあそこから逃げたんだろうか?
顎から汗が流れ落ちた。その直後、どこかの木が爆ぜ大きな欠片が地面に落ちる音がした。
燃え盛る音と熱風が一層強くなったような気がした。
頭の奥から鼓膜にかけてキーンと耳鳴りがする。
わたしは他に道はないと悟り、抜け道の入り口まで走った。
突如、目の前が暗くなった。
「!?」
わたしは急停止して、視線を下にして目を何度も瞬かせた。
目が見えなくなったらという不安を打ち払いたくて。
地面を凝視すると火に照らされた枯れ草がはっきり確認できた。
幸いにも視力が失われた訳ではなさそうだ。
ザドゥから一気に離れたのがいけなかったのだろうか?
わたしは前を見つめ思った。
これも敵の誘いだろうか?
わたしはこれまで罠と知りつつあえて何度も敵の誘いに乗り続けた。
けど今度は違うものであってほしいと思う。
病院で撃った時、猛獣でさえ殺せる攻撃を当てたのにも関わらず奴は生きていた。
今度は止めを刺して、本当に死んだのかを確認しなきゃいけない。
結果、わたしが火に巻かれ命を落とす事になってでも。
「……」
不安と焦りが心を満たしつつあるのを感じ取り、振り払うようにわたしは頭を振る。
道自体が何かのまやかしか何かでないか凝視し、耳を澄ませ、決断しその道に足を踏み入れる。
両端には遠目ながらも燃え移っていない木や草がところどころ確認できた。
わたしは煙を吸わないように姿勢を屈め、ゆっくり前進していく。
きーんと言う耳鳴りは未だに続いている。
戦闘に支障がなければいいけど……。片目失明はもとより胃とわき腹も痛む。
力を出し切れるだろうか……わたしがアインであり続ける以上、命を失う事に恐れはない。
けど……長谷川に返り討ちにされるのは怖い。
人質を取っていたとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手、どんな方法で来るか。
「……………………………………………………」
ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……
突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
まった火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながら進む。
未だに鳴る耳鳴りに連動するように後方から熱風が流れる音が聞こえた。
そしていきなり目の前に黒い塊が降ってきて、音を立てて地面を叩いた。
「!」
遅れた!
大木の欠片が砕け、周囲に飛び交い、わたしは腕で防御しながら全速力で迂回、息を止め一気に前進した。
一瞬振り向き、後方から火の手が来ないのを確認。 息継ぎをしさらに前進した。
「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」
火の粉はわたしに移らなかったが、ちょっと煙を吸いこんでしまった。
わたしはすすを吐き出そうと何度も咳をする。
胃と肺がきりきり痛む。
そんな状態でも耳鳴りはして、ちょっと鬱陶しかった。
わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
右を見て、今いる場所の横が燃え移ってないことを確認する。
それ以外は相変わらず炎と煙に覆われている、火の手が上がるのが早すぎる気がする。
次にわたしの口から出た言葉は、思いとは別に陳腐な感想だった
「地獄のようね」
自らの不幸を嘆いてのことじゃない。
こんな陳腐な台詞口にしなきゃよかったと思ったに過ぎない。
この火災で死んだ者なんて一人も出ないかも知れないのに。
その時だった。
「……っ」
左腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。
右目で左腕を見る。
服の裾が燃えていた。
「!?」
火を消そうと、身を屈み左腕を地面に擦り付けた。
左端には火の手が上がっていたのだ。
そんな、気づけなかった?
懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。
「……」
わたしは息を吐きつつ、おぼつかない足取りながら進んだ。
焼けた裾の布を払うと、左腕に火傷があった。
それは少し痛むが支障があるようには見えない軽度のもの。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。
こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まり、冷や汗が流れ落ちる。
数えられる範囲でだけど、戦闘や訓練で傷を負ったことは何度かあった。
けど、こんな事で怪我をしたことは記憶のある限り、なかった。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それは石だった。
自らの迂闊さに頭が痛くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足が重くなったような気がした。
「わたしは……」
思わず出てしまった呟きは力なかった。
その言葉には続きがある。けどその先は言ってはいけない。
目の前が突然真っ暗になった。
□ ■ □ ■
――今日、わたしはここを出る。
目の前には薄暗く、古びた木の板で作られた部屋があった。
そこは昨日までのわたしの居場所だった。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られたという。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。
でもそれほど自分を不幸と思ったことはない。
聞いた話とラジオからの情報を合わせると、わたしの故郷と思わしき国は飢饉や暴力に見舞われて、
多くの住民は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要だろう。
何度も町の外を見ていただけに解る。
積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いない。
いつの日だったか、憂さ払いにわたしを虐めに来た女の子を返討ちにした時でさえ、
後の非難と恨みのこもった眼差しには結構応えたんだ。
そんな道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいいと思った。
何だかんだで勉強させてくれたし、わたしだけかも知れないが特別扱いさせてくれたのが解ってたから。
……けど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを幼女にしたいと申し出にきたどこかの国の富豪。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。
引き取り先が臓器密売所や、外国の特殊部隊だったらどうしようかと思ってただけに安心した。
ちょっと胡散臭そうなのが不安だったけど、こんな理由で拒んでも仕方ない。
おばあさん達には大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ食い扶持が減る。
何より周りに疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
少し寂しいけど。
わたしは感慨に浸りつつ部屋を凝視する。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
たまにお香が炊かれなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたことだ。
わたしは口元に笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえた。強い風が吹いているのだろうか?
もし心地よい風に煽られながらここを発てるなら、わたしにとってそれは幸先のいいことだ。
空が晴れてるなら、なおいい。
わたしの夢。
いつの日かわたしが見つけたいと願う、理想の場所を探す励みに――
□ ■ □ ■
意識が覚醒すると、わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめた。
息を荒く吐くと、ゆっくりと視界が開けた。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実。
やや上方を見る。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスだと思い、やや上に顔を持ち上げ、歩行スピードをちょっとだけ上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められる。
やかましいまでの耳鳴りはいつの間にか止んでいた。
さっき浮かんだ部屋は双葉のまやかしか、カオス使用の後遺症だったんだろう。
わたしはそう思いつつ、気を引き締めながら先に進もうとした。
なのに、意に反して足は止まった。 胸の奥にむかつきを覚える。
それは幻惑され行動をまともに取れない、わたしの不甲斐なさだけから来るものではなかった。
「……できるの?」
わたしに。
左腕の火傷を見る。
用心すれば素人でも充分に回避できたはず。
それなのに手傷を負ったファントムと呼ばれていた暗殺者のわたし。
多少の疲れはあるけれど、長谷川を殺せるだけの余力は充分にある。
なのに……。
「死ぬのは覚悟してたけど、これは無いわね」
死ぬのはこわくない。アインという殺人人形である限りは。
もうひとつの名前のわたしにしても玲二と一緒にいられるなら、
彼を生かし続ける事が出来るなら命は惜しくは無い。
でも……この様は……。
「……!」
きーんと耳鳴りがまた聞こえ始めた。
脳裏におぼろげながら記憶に無いはずの映像が浮かんでいくのを自覚する。
わたしは縋るように空を見た。
目に入ったのは炎と黒煙。
好みじゃない。
耳鳴りはまた消えていた。
「……わたしにも……あったのね」
玲二に対して口にしないと決めてたけれど、わたしは失われた記憶に関してこう考えたことがある。
死ねば記憶も元に戻る。または思い出したくないから思い出さないのとさえ。
玲二が思ってるほど、失われた記憶に関してわたしは希望を懐いていない。
この島に来る前の生きる目的は玲二とマスターの存在そのもの。
島に来て、遙が死んだ今は長谷川をこの手で殺すことが生きる目的となっていた。
他の事はできるだけ思い出さないようにしていた。
なのに、こんな時に……期待してなかった事が……。
殺意で心を黒く塗りつぶさなきゃいけないのに、なんで。
「遙」
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せれば良かったとさえ思ってたから。
だけど願いを叶えさせる力が自称プランナー達以外にも利用可能ならどうなのだろう。
蘇生とまではいかなくても、何らかの形で償いが出来るなら。
たとえ可能性がゼロに等しくても。玲二に起こったような希望がここにもあるなら……。
「……」
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえる。
わたしは深くため息をついて、言った。
「でも、どうしようもないわ」
この先進んで長谷川を絶対に殺せるまでの自信はもうない。
例え、すぐに殺せたにしてもこの火の中、自身が生き残れる手段は思いつかない。
だから叶わないだろう希望はもう考えないことにした。
ただ、今持ってる力を最大限に使う為に。
わたしはまっすぐ先を見つめて、今度こそ迷わず前を進んだ。
↓
【アイン(元№23)】
【スタンス:素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、 肉体にダメージ(中)
肉体・精神疲労(中)、右腕上腕部に軽度の火傷】
仮投下終了です。
問題が無ければ火曜日に本投下使用と思います。
もうちょっと状態表いじった方が良いかなあ。
それでは次は感想を
>( ゚∀゚)o彡゚ おっぱい!おっぱい!
本投下乙です。
カオス良かったなwある意味ランス以上に相性のよさそうな相手に出会えて。
対主催の希望が主催の手に渡り、力関係が大きく変わりそうで面白い。
相変わらず予断を許さないザドゥ達の状況も緊迫感があってよかったです。
タイトルが良いなあ。
すいませんが明日は忙しいので、本投下は水曜日になるかもしれません。
まとめUPもそれくらいになると思います。
明日の本投下の前に後半部分をメール欄のように変更します。
おおまかな内容は同じです。
これから本投下します。
UPはパソコンとネット環境の都合でまだできません。
すみません。
すみません。
規制でこれ以上本投下できません。
ks3hR5Lp0さん支援ありがとうございます。
続きはここで投下させていただきます。
コピペしていただけるとありがたいです。
そうでなくても明日の晩、続きを投下します。
「ごめんなさい玲二」
わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名を呼んだ。
もしわたしが今この道程を歩んでいなければ、生き残って――主催者を倒した上で
彼の元に帰る可能性が残っていたなら、互いにとって最高の喜びを分かち合うことができたに違いない。
でも、それはもう選び取る事はできそうにない。
何故なら、道はひとつしかないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見る。
「……わたしはできるの」
長谷川に倒されてしまえば、わたしにとって最悪な結果が訪れる。
薬に打たれて、奴の欲望を叶えるだけの人形にされてしまう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
今の確実に弱くなったかも知れないわたしに奴を殺すことができるの?
わたしは右手を持ち上げ、拳を音もなく額に叩き付けた。
「…………何を弱気な事を言ってるのかしらね」
痛みとともに、不安が霧散していくのを感じる。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を。
「……」
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せれば良かったとさえ思ってたから。
だけどもし願いを叶えられる力が、自称プランナー達以外にも利用することが可能だったなら。
蘇生とまではいかなくても、何らかの形でこれまでの償いが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
魔窟堂のように他の主催者や自称神に全力で立ち向かってこそ、意味を見出せる結果を出せるかも知れない。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深くため息をついて、言った。
「でも、どうしようもないわ」
長谷川は主催の中の駒の一つに過ぎない。
奴相手でさえわたしは翻弄され続けた。そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに殺せたにしてもこの火の中、自身が生き残れる手段は思いつかない。
失った記憶を戻す時間も、多分ない。
だから、叶わないだろう希望はもう考えないことにした。
ただ今は持ってる力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。
わたしはまっすぐ前を見つめて、今度こそ迷わず先を進んだ。
↓
【アイン(元№23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害、双葉としおりを警戒(だが素敵医師殺害を最優先)】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:軽度の一酸化炭素中毒、左眼失明、首輪解除済み、 肉体にダメージ(中)
肉体・精神疲労(中)、左腕上腕部に軽度の火傷、行動に支障がない程度の記憶混濁】
終了です。
無題なのはタイトルが考え付かなかったからです。
それではまた明日。
代理投下終了しました。
>>422 遅れてます。
メール欄をつぎ込んだせいで30KBいきそうな予感が……
230さん、先日は代理投下ありがとうございました。
現在、予約希望なしです。素材作りを続けます。
>>422 にもう少し時間がかかる模様であること、
「無題」が無事本スレ投下されたことなどから、
投下の予定を一部繰り上げたいと思います。
次回は「妄執ルミネセンス」。
双葉とアインが登場、仮投下は週末深夜を予定しています。
以下14レス、「妄執ルミネセンス」を仮投下致します。
問題なければ火曜あたりで本スレ投下したいと思います。
次回予定は「紅蓮の挙句」。
双葉とアインの決着編で、火曜晩の仮投下予定です。
>>627
(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)
アインは歩いていた。
双葉の道の奥へ奥へと、まっすぐに、ひたすらに。
横幅は約4m。
広場とは桁違いの音が、熱が、煙が、左右から間断なくアインを苛んだ。
それでも。
僅かな視覚。僅かな聴覚。僅かな嗅覚。
アインはその全てを研ぎ澄ませて、ここに辿り着いた。
彼女を悩ませていた頭痛と吐き気は、いつの間にか収まっていた。
しかし、それは決して回復を意味しているわけではない。
意志の力が肉体を凌駕したわけでもない。
頭痛や吐き気などのサインを脳に伝える余裕が無くなって、
彼女の全細胞全神経が生命を繋ぐことのみに注力しているからだ。
単に生命力が尽きようとしているだけだ。
例えば仮にこの奥に素敵医師がいなかったとして、
道を引き返し広場に戻るだけの体力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は進む。
確信しているからだ。
素敵医師はこの奥にいると。
かさり。ちいさなちいさな音。
ごうごうと唸る炎の音にかき消される前に、アインの耳がその異質な音を拾った。
それはこの道の最奥、10m程前方にある茂みの中から聞こえてきた。
アインは無言で包丁を握り締める。
>>530
(二日目 PM6:19 F−5地点 東の森・双葉の道)
双葉は潜んでいた。
素敵医師の死体が隠されている茂みのすぐ脇の、炎の中に。
また一体、式神が燃え尽きた。
既に10体以上を炎の犠牲としている。
そのうえ。
森の木々。素敵医師。式神星川。
双葉はそれら全てを生贄に捧げ、アインをここまで導いた。
彼女を今、最も責め苛んでいるのは眠気だった。
精神の集中を要する木々や式の使役を広範囲・長時間行ってきたことで
限界を超えた脳が、休眠を求めて意識を落としに掛かっているのだ。
自暴自棄と復讐心が油を注ぎはしたが、それも蝋燭の最後の揺らめきのようなもの。
そのことを彼女は自覚していた。
例えば仮にアインがここから引き返したとして、
アインを追って広場に戻るだけの精神力は、もう彼女には無い。
それでも、彼女は潜む。
確信しているからだ。
アインは決して引き返さないと。
ゆらり。炎に照らされて伸びる影。
もうもうと立ち込める煙のカーテンの向こうに、双葉はアインの姿を捉えた。
仇が、目測で10m程前方から近づいてくる。
双葉は心の中でカウントダウンを開始した。
閃光と轟音が2人を襲ったのは、その時だった。
.
アインは瞬時に理解した。
この種の閃光と轟音を発するものは、スタングレネードと呼ばれる兵器であることを。
理解したがしかし、対処は出来なかった。
出来るはずがなかった。
100万カンデラの閃光と、170デシベルの爆音。
それを身近に受ければあらゆる人間は機能停止に陥るが故に。
どれほどの修練を積み、警戒状態していたと、最低で2秒間は麻痺してしまう。
アインはその稀有な修練を積み、警戒心を持っている人間だ。
故に麻痺状態はデータに等しい2秒で解けた。
しかし、その2秒が致命的だった。
閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生したのだ。
アインに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、アインに撃ち付けられた。
アインの麻痺が解けたのは、それらの猛威になす術も無く倒れ伏した後だった。
双葉は何が起こったのか判らなかった。
何処から、如何して閃光と爆音が発生したか判らぬままに意識を失い、くず折れた。
主を守ることを厳命されている式神たちとて、
意識の外から浴びせかけられた衝撃から双葉を守ることは出来なかった。
閃光弾の炸裂よりコンマ数秒後、更なる爆発が発生した。
双葉たちに襲い掛かったのは爆風。
そしてその風に飛ばされた炎と木の破片と土塊。
全てが灼熱の温度を伴い、双葉たちに撃ち付けられた。
爆発の地点は左側の人型式神の脇で、直撃を食らったのもこの式神だった。
衝撃の予兆を感じた刹那、この式神は双葉に背を向け仁王立ち、その身を双葉の盾とした。
決して怯まず、決して恐れず。
全身に燃土を浴び終えて後、膝をつき、前のめりに倒れ、その機能を終えた。
それでもなお防ぎきれなかった拳大の焼け石が、双葉の左二の腕に喰らい付いていた。
石は狂猛に皮膚を破り、肉を燃やし、脂肪を溶かし、骨を砕いた。
双葉の意識は、その痛みと衝撃によって取り戻された。
閃光と轟音の発生源は1発の閃光弾。
爆発の発生源は2枚のカード型爆弾。
それらは双葉が素敵医師の遺体から回収した道具の一部。
用途がわからなかった双葉はデイパックに詰め込んだまま放置していた。
兵器の知識が皆無の双葉にはそれが爆弾であると理解できなかった。
それが、高温に耐え切れなくなって爆発したのだ。
つまり、一連の出来事は双葉の策略ではない。
アインの先制攻撃でもない。
無知が産んだ、偶発的な事故だった。
アインが立ち上がった。
体の前面のいたるところが焼け爛れている。
木片が右の肺に突き刺さっている。
左腕は出血すること夥しい。
頬の皮がべろりと剥けている。
肋骨5本と右足の腓骨が折れている。
それでもなお立ち上がる事が出来るのは、人体の神秘か、女の執念か。
怪我の状況を確かめることも。
さらなる罠や攻撃への警戒も。
今の爆発がなぜ起きたのかも。
自分に残された時間さえも。
意識が朦朧な今のアインの頭にはよぎらない。
取り戻した遠い昔の記憶も。
ファントムという二つ名も。
かつて愛した少年の面影も。
涼宮遙への憧れすらも。
全て爆風と散弾の衝撃に吹き飛ばされた。
双葉は動かなかった。
未曾有の痛みが双葉を襲っている。
生肉が焼け、脂肪が溶ける異臭が漂っている。
それが他ならぬ自分の腕から煙と共に立ち上っている。
常人であれば泣き喚きのた打ち回るであろう惨状だが、
それでも双葉は微動だにしなかった。
悲鳴の一つも上げなかった。
眉間に深い皺を寄せ、歯を食いしばって耐えていた。
右に侍る式神も動かなかった。
この式神は双葉に覆いかぶさることで炎から守ろうとしたが、
それを察した双葉に動くなと命じられていた。
ほんの数m先に、アインがいる。
自分の悲鳴が耳に届くかもしれない。
式神の動きが目に止まるかもしれない。
そうなったら逃げるかもしれない。
それだけは避けねばならなかった。
痛みに負けるわけにはいかなかった。
ガラクタに成り果て、終わりが間近に迫るアインの肉体に留まったのは、
たった4つの妄執の欠片。
長谷川。
首。
わたし。
包丁。
ただその4つの単語が、アインの命を繋いでいる。
ただその4つの単語が、アインの足を前へ前へと進めている。
遂に双葉の左腕が焼け落ちた。
こみ上げる悲鳴を飲み込ませるのは、どろどろと渦巻くたった4つの妄執の欠片。
星川。
恋。
アイン。
憎。
ただその4つの単語が、双葉に痛みを耐え忍ばせる。
ただその4つの単語が、双葉を炎の中に縛り付けている。
見つけたわ、長谷川。
アインが呟いた。
来たわね、アイン。
双葉が囁いた。
アインが茂みまであと3歩の距離に達したとき、茂みの揺れがピタリと止んだ。
―――来る。
直感したアインが包丁を腹部に対して直角に構えた。
―――行け。
飛行型式神に命じつつ双葉がポケットから何かを取り出した。
直後、素敵医師が茂みからアイン目掛けて飛び出した。
その下半身は無い。無論命も無い。
素敵医師と共に茂みの中に潜み、枝葉を揺らしていた飛行型式神が
双葉の命に従い、彼の遺体をアインに向けて弾き飛ばしたのだ。
アインが素敵医師に向けて包丁を突き出す。
双葉がアイン目掛けて炎の中から飛び出す。
研ぎ澄まされた妄執と熟成された妄執が、今、かみ合わぬまま重なった。
↓
【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】
【アイン(元№23)】
【スタンス:確実に素敵医師殺害】
【所持品:小型包丁2本】
【備考:重態】
【朽木双葉(№16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符7枚程度、薬草多数、自家製解毒剤1人分
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、メス1本】
【備考:左腕喪失、ダメージ(大)、疲労(大)、
式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=3分程度】
>>533-547
遅れてしまいましたが、仮投下乙です。
ようやく今深夜に新コンテンツを加えたまとめが更新できそうです。
ただ扱う情報が膨大な為に完成には相当の時間が掛かりそうです。
なので今回は骨組み程度で。詳細は更新の度に追記していきます。
間に合わなくてもSSと地図の方はUPします。
まとめをチェックした所、ミスがいくつか見つかったので報告を……
「妄執ルミネセンス」内でカード型爆弾二枚と出てますが実は一枚です。
本スレ>>163 では一枚に減っていたので、>>213 から表記ミスが生じてしまったようです。
幸い、本編では触れられてませんので各状態表を修正すれば大丈夫だと思います。
なので本投下の際はご注意を。
本スレ>>25 で
>秋穂に関連するランスと恭也の会話内容は他の4人は知らない
との記述があったので、時間軸的には『亡きエーリヒ殿に問う』より前の
『あの頃の感覚』内にて以下の文章を入れようと思います。
「ランスを迎え入れた時の恭也とのあのやり取りの後、
魔窟堂が恭也にその詳細を聞いた事により大体の成り行きは彼に伝わっていた。
まひるはその会話を聞き取っていた。
秋穂と言う人物名を交えた恭也の語気は短くも重く、そのゆえ不用意に返答するのはためらわれた」
それと『無題』におけるアインのマスターの呼称はちょっとあれなので
サイスに変更し、所々描写の追加と修正をします。内容は変わりません。
まとめ収録時のタイトルは『終わる長い夢』です。
レスが付き次第、本スレにそれらの修正文を投稿します。
時間がなくなってきたので、まとめをUPします。
264話まで地図とSSを更新です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org10797.zip.html
パスは rowa です。
カード型爆弾と秋穂関連は修正済みですが、『無題』は編集しただけです。
『無題』修正版は264+のテキストファイルに書かれてます。
548に対するレスで確認が取れ次第、本スレ及びここでの投下を考えてます。
不完全ながらアイテムリスト追加と、HP素材として使いやすいようにと思い
ファイル名を一部変更しました。
以降のUPではアイテムリストの追記とキャラクター紹介追加を行う予定です。
すみません。
今日中に「紅蓮の挙句」を仮投下できそうにありません。
勝手ながら明日or明後日に延期させて頂きたいと思います。
「妄執ルミネセンス」の本スレ投下もその折に。
ですので、>>548 の修正文の本スレ投稿はお先にどうぞ。
延長了解しました。
先ほど修正文を投下しましたが、『終わる長い夢』については
本スレの容量のこともありますので、投下は『妄執ルミネセンス』本投下後に
するかどうか検討します。
他にも本編の状況が状況だけに、没になりそうな6人組ネタもあるので近い内に投下しようかと。
それと予約という訳でないですが、次の次くらいの透子登場話でメール欄の
事に触れようかと思っています。
延長了解です。
ってか此方も長くなりすぎて延長してるのですみません。
もう少しで完成するので明日明後日には……。
これより9レス「だって、あいつは(略」を、
その後15レス「紅蓮の挙句」を、仮投下いたします。
「だって、あいつは(略」は、双葉単独(但し回想で何人か登場)で、
「紅蓮の挙句」を書く中で長くなりすぎた双葉のモノローグを独立させたものです。
了承が得られれば「妄執ルミネセンス」より先に本スレに投下したいと考えています。
ダメならアナザー入りとします。
>>530
(二日目 PM6:21 F−5地点 東の森・双葉の道)
眠い……
気怠い……
頭が全然働かない……
炎の中に潜めば熱気が倦怠感を覚ましてくれるかと思ったけど、
そんなに上手くはいかないみたい。
そりゃそうよね。
陰陽術の使い過ぎであたしの精神力はすっからかん。
逆さに振っても埃も出ない。
気を失ってない今の状況の方がどうかしてる。
《もういいや》
《もう寝ちゃお?》
あたしの心の中でリフレインする誘惑の声。
今眠ったらきっと目覚めることなく焼け死ねる。
死ぬことは怖くない。
てゆーか死にたい。
むしろ死ぬべき。
心の底からそう思ってる。
でも、あたしがここで全てを投げ出したら、星川の無念の行き所はどうなるの?
あたししかいないんだ。あいつのことを想っている人間は。
あたししかできないんだ。あいつの仇を討つことは。
眠る前に、気絶する前に、死ぬ前に。それだけは果たさなくちゃダメだ。
迷いと躊躇だらけの半端なあたしだけど、あいつへの想いだけは貫き通したい。
だから、折れるな。
負けるな、あたし。
誘惑なんかに屈するな。
思い出せ。
あの病室を。
思い出せ。
思い出せ。
丁寧に丹念に思い出せ。
一挙一動逃さず思い出せ。
希望が絶望に塗り変わった出来事を。
思い出せ。
思い出せ。
胸を痛めながら思い出せ。
慟哭を飲み込んで思い出せ。
星川の死の瞬間を。
心の痛みで、目を覚ませ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(一日目 AM11:35 E−6地点 病院)
「その『目貫』という能力で君は双葉殿の首輪を破壊したというわけか…」
エーリヒさんの言葉に感嘆のため息を漏らす2人の女の子。
ちっちゃくて肌の白い巫女ちゃん・神楽と、
柔らかそうで幸薄そうなお姉さん・遙。
2人はまるで英雄でも見るみたいな眼差しで、星川を見つめてる。
ふふん。
あたしの彼氏は凄いでしょ?
だって、あいつは王子様。あたしの大事な王子様。
サイコーなヤツに決まってんじゃない!
「では…では、私たちにお力添えいただけませんでしょうか?」
「もちろん♪」
でもね。
あいつったらあたしの熱い視線に気づきもしないで、
軽薄なノリで神楽ちゃんの手を握ったり、
爽やかな笑顔を遙さんに向けたりするんだ。
「な〜に鼻の下伸ばしてんのよ」
「…やきもちはみっともないよ、双葉ちゃん?」
「誰がっ!」
どうしてあいつってばあたしにキ…… キス…… したくせに、
他の女の子の手をぎゅって握ったり、優しい瞳で見つめたりできるわけ?
好きなコがいるならその人のことしか目に入らないもんじゃないの?
少なくともあたしは…… そうだよ?
「取り込んでいるところ申し訳ないが善は急げという、
早速だが星川君、まずは私からお願いできるかな?」
「OK」
張りのある渋い声が星川に目貫の使用を促した。
星川がわたしの手からアイスピックを持ってゆく。
手を伸ばしたあいつの唇が、こう動いてた。
ご め ん ね ♪
そして、軽くウインク。あたしにだけ伝わるように。
ちっちゃな2人だけの秘密。
やだ、もう。ドキドキするじゃない。
今のあたしの顔、絶対真っ赤だ。
こんなに照れた顔、みんなに見せらんないよ。
「少し顎をあげてもらえますか?…OK、行きますよ」
でも、星川の声が聞こえてくると目で追っちゃう。
いつものチャラい態度じゃなくて、真剣な声と顔つきをしてた。
あたしの胸がきゅんってなる。
―――カッコいい。
あたしって意地っ張りだし、素直じゃないし、あいつの前じゃ絶対言えないけどね。
心の中ではずっと思ってるんだよ?
出会ったときからずっと、ね。
あんたは王子様。
大事な大事なあたしの王子様。
だから絶対上手くいく。
エーリヒさんや魔窟堂さんや他のみんなの首輪を解除して、
力を合わせて主催者たちをやっつけて、それぞれの故郷に帰るんだ。
だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。
そんなふたりのおはなしだから、最後はきっと「めでたしめでたし」。
日本に帰って、いつまでも2人で幸せに―――
パ ァ ン ! ! !
―――暮らしましたとさ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
って、思ってたところだったのに。
「…ぁ………」
悪い予感なんて全然なかったのに。
「どうして……」
どうしてエーリヒさんが血まみれで倒れちゃったの?
どうして遙さんまで倒れたの?
どうして神楽ちゃんが悲痛な顔をしてるの?
どうして…… 星川が血に染まってるの……
だって、あいつは王子様だよ?
こんなことになるわけないじゃない?
これじゃまるで、星川がエーリヒさんを殺しちゃったみたいじゃない!
時間が止まってた。
動いているのはエーリヒさんの首から流れる鮮血だけ。
「待ってください、この人は…」
時間を動かしたのは神楽ちゃんの切羽詰った声。
待ってって…… 誰に向かって?
声のするほうに目をやる。
「チッ!」
部屋に入ってきたのは、天パでセーラー服の女のコ。
神楽ちゃんとそのコが重なって。
神楽ちゃんが倒れて。
そのコは倒れる神楽ちゃんを振り返りもしないで。
足を止めなくて。
……星川に向かってる?
あれ? 今、キラッて。
あの子の手の中で光ったのは……
星川っ、後ろに女のコ!
女の子があんたの背中にキラって光る腕を伸ばしてる!
「…まずは、一人。」
まずはひとり?
何が? 何を? 神楽ちゃんと合わせて2人じゃないの?
ちょ、ちょっと待ってよ。思考が追いつかないから。
てゆーか星川、なにひっくり返ってんの?
小柄なコに背中を軽く叩かれたくらいでだらしなくない?
「え…?」
あのコの手の光るモノが今は光ってない。
神楽ちゃんとぶつかった後で光ってたアレが、星川とぶつかったら光らなくなった。
赤く濡れてる。
どういうこと? あの赤いのってエーリヒさんの血と同じ色じゃない?
それじゃあ……
「星川ッ!?」
うそ…… やだ…… だって、あいつは王子様でしょ?
こんなあっけなく…… ありえないでしょ!!
ねえ、めでたしめでたしは!? いつまでも幸せに暮らしましたは!?
あのコ、爬虫類みたいな目でこっち見て……
来た!! あたしだ!! あたしも!?
敵、星川、血、ナイフ、神楽、老人の亡骸、ゲーム、ゲーム、ゲーム、殺人ゲーム
迫る無機質な目、ベッド、あたし、手の中の鉄砲、ゲーム、ゲーム、殺人ゲーム…………
……………………
……………
……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
何度思い出しても色あせない。
何度思い出しても吐き気がこみ上げる。
何度思い出しても…… あの女が許せない。
見開いた視界が赤く染まってた。
炎の赤じゃない。鮮血の赤に。あの病室の赤に。
―――来た。
思い出から滴り落ちて来た。
ドス黒い殺意の凝縮液が。
半紙に垂らした墨汁が染み込んで広がるように、
あたしの意識に殺意が染み込んで広がってゆく。
殺意はじわじわと染め上げる。
眠気を、疲労を、倦怠感を、黒く、黒く、ひたすら黒く。
うん。
もう大丈夫。もう目は醒めた。
恨みは最高の気付け薬。
諦めへと誘う声は聞こえない。
星川、もうちょっとだけ待っててね。
あんたの無念は、絶対晴らしてみせるから。
↓
【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】
【朽木双葉(№16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符×7、薬草多数、自家製解毒剤×1、メス×1、
ベレッタM92F(装填数15+1×3)、カード型爆弾×1、閃光弾×1】
【備考:疲労(大)、式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=8分程度】
>>???
(二日目 PM6:26 F−5地点 東の森・双葉の道)
復讐に必要な条件ってなんだろう?
無念を晴らすってどういうことだろう?
星川が死んでからずっと断続的に、あたしはその事を考えてた。
仇の命を奪うこと?
それはもちろん必要だ。
でも、それだけじゃまだ足りない。
仇を苦しませること?
それは絶対に必要ってわけじゃないけど、あった方がいい。
だから、まだ足りない。
仇に自覚させること?
うん、これは大事。
自分がどうして死ぬのか、誰に殺されるのか。
それを理解させないまま命を奪うだけでは、消化不良もいいとこだ。
星川を殺したからあんたが殺される。因果応報。
それを思い知らせてから、殺す。
よし、あと1つ。
復讐に必要な最後の条件。
それはあいつに星川と同じ無念さを味わわせること。
あいつは死体を前に呆然とする星川を、無防備な背後から襲い、刺した。
卑怯に、無慈悲に。
あたしも死体を前に呆然とするアインを、無防備な背後から襲い、刺してやる。
卑怯に、無慈悲に。
自分がどれほど卑怯なやり方で星川を殺したのか思い知らせるために。
だからあたしはこの状況を作った。
状況を再現するために。
あの油断も隙も無いアインを星川みたく呆然とさせる―――
ここが一番悩ましいところだったけど、上手い具合に素敵医師がいた。
アインが唯一、執着しているらしいこいつが。
あの女と交わした言葉はそれほど多くないけれど、目を見ればわかる。
あれは、あたしと同じ目だ。あたしと同じ目で素敵医師を追っていた。
だからこいつを殺した。
殺したい相手を殺されたことに気づけば、あの女もきっと自失するから。
よし、舞台装置は整った。
血で真っ赤な病室が炎で真っ赤な森の中だ。
遙さんと神楽ちゃんが式たちだ。
エーリヒの死体が素敵医師の死体だ。
その亡骸を前に呆然と立ち尽くす星川がアインだ。
その無防備な背中を刺したアインがあたしだ。
だからあたしは攻撃に式神を使わない。
兵器化した植物をしない。
この鉄砲だって使わない。
あたしが使うのは―――メス。
この攻撃だけはあたし自身の手で刃物によって行わなければならない。
あたし自身が刺さなくちゃいけない。
それがあたしの選んだ、復讐。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
素敵医師の喉首にアイン必殺の包丁が鋭く突き込まれた。
既に絶命している素敵医師は包丁に勢いが削がれたものの、
四肢に力の入らないアインは素敵医師の重量を支えきれず、
包丁を手放してしまった。
仰向けに地面へ叩きつけられる素敵医師。
アインの目が足元に落ちた彼を追い―――
2歩、3歩。
後ろへとよろめいた。
そのアインの背に、炎の中から飛び出した朽木双葉が衝突した。
手には医療用のメス。
それを、彼女は突き込んだ。
双葉なりの渾身ではあったが、腰の入っていないぬるい刺突だった。
故に刃先はアインの肋骨に刃を留め、勢い余った双葉の柔い掌を
深く切りつけてしまう。
しかし双葉は、それを意に介さない。
刃を握りこんだままアインにぴったりと身を寄せると、
吐息で耳朶を愛撫するかの如く、艶かしく濡れた声で思いを吐き出した。
怒りと恨みと憎しみがたっぷり篭ったどろどろの呪詛を。
「――――いきなり後ろから刺される気持ちはどう?
星川もね、あんたにこうやって殺されたのよ?」
たかがメスだ。
この一撃で殺せるなどとは双葉も考えていなかった。
ただ、お前が星川を殺したのだと、
卑怯にもこうして星川を背後から襲ったのだと
アインに伝わりさえすればそれで良かった。
たとえ振り返りざまの一撃で返り討ちにあったとしても、もはや悔いは無い。
双葉が命を失えば、制御を失った炎がたちまちに双葉の道を飲み込む。
アインの命は必ず奪われる。
復讐は成った。
朽木双葉は緩やかに瞼を閉じる。
(星川、今、あんたのとこ行くからね……)
双葉に達成感はなかった。
満足感も恍惚も無く、嫌悪感も後悔も無かった。
彼女の五体を包み込んでいるのは、開放感。
やっと終わった。
五体に張り詰めていた緊張が解きほぐされていくのを感じた。
今まで蓄積してきた疲労が一気に噴出するのを感じた。
ただ疲れていた。
もう眠りたかった。
その永劫の眠りがアインによって与えられるのを待っていた。
しかし―――
予測していたアインからの反撃がまるで来ない。
そのことが、一度は弛緩したはずの双葉の心と体に再び緊張を与える。
(もしかして…… あたしのメスで死んじゃった?)
双葉の背筋を駆け昇ったのは動揺。
メスの一突きでアインが絶命したとするならば、
状況を再現するという条件については青写真以上の成果を上げたと言える。
逆に。
仇に自覚させるという条件についてはまるで達成できていない事になる。
双葉の呪詛が、アインの耳に届いていない事になる。
完璧なはずの復讐に大きな瑕疵が生じてしまう。
(目を開けて、状況を確認しなくちゃ……
でも、もし目に入ったのがアインの死体だったら……?
もう取り返しはつかないのに……)
葛藤が双葉の胸を大きく揺さぶる。
双葉の額に冷や汗が流れる。
その彼女の耳に―――
ざり。
ざり。
音が、聞こえてきた。
双葉がその短い生涯の中で、一度たりとも聞いたことの無い音が。
たまらなく不吉な響きを伴った、単調で重厚な音が。
ざり。
ざり。
音の重圧に負けて開いた双葉の瞳に映ったものは、
素敵医師の遺体に馬乗りになり、その首を切断せんと包丁を鋸の如く
挽いている、アインの姿だった。
「なにを……」
鬼気迫る光景だった。
アインからはかつての彼女が持っていた機敏さやしなやかさが失われていた。
代わりに得ているのは緩慢さバランスの悪さ。
これがかつてファントムの2つ名で恐れられた暗殺者の姿なのか?
彼女の過去を知るものが見れば、目を疑うに違いない。
「煙で目をやられたの? 良く見なさい、アイン。
あんたが死に物狂いで追いかけてた男はもう死んでるの。
あたしが殺してあげたから」
双葉が悪寒を堪え、アインへと告げる。
アインは、無反応だった。
包丁に体重をかけて一心不乱に首を挽いている。
「もう死んでるって言ってるでしょ!!」
双葉は叫びと共にアインを蹴り飛ばす。
アインは腰砕け転がった。
糸の切れた操り人形を思わせる、無様な転がり方だった。
それでも。
ゆらぁり……
炎に不気味な影を揺らしてアインは立ち上がった。
墓場から蘇る屍鬼の如く、緩慢に、鈍重に。
双葉をその意識に捉えることなく、素敵医師の側へ。
そしてまた、首を挽く。ざり。ざり。
哀れな双葉が膝をつく。
メスを突き込んだ時とは似て非なる、重々しい疲労感が彼女を飲み込む。
意図せぬ2種類の爆弾の炸裂。
それが閃光弾だけだったら、アインにダメージは無かっただろう。
それがカード型爆弾だけだったら、アインはダメージを軽減できただろう。
2つの要素が、この順番で、そのタイミングで、あの距離で。
全て揃ってしまったが故に。
長谷川。首。わたし。包丁。
その4つのことだけしか判らないくらい追い込まれた。
長谷川やわたしの生死も判らないくらい追い込まれた。
……ごとり。
執念が実ったか、ついに素敵医師の首は落ちた。
アインはそれを拾い上げると、大切な宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめた。
その首の重さも、既にアインの腕の許容量を超えていたらしい。
膝立ちのアインはふらりと後ろに倒れた。
その後ろでしゃがみこんでいた双葉の胸に抱かれるように。
「アイン……」
虚ろな目で仇の名を呟く双葉。
その声にか人肌の感触にか、ともあれ、アインが反応した。
「そこに誰かいるのね……
聞いてくれるかしら……?
わたしの話を……」
双葉が息を呑み、アインを見つめる。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
ねえ、あなた。運命って信じるかしら?
わたしは信じるわ。
今までのすべてことがこの瞬間のために用意されていたような気がするのだもの。
きっと、わたしが今まで生きてきたのもこの日のためよ。
わたしは人を殺すために生かされていたの。
殺して、殺して、殺して、殺す。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
様々な技術を身につけたわ。
雑多な知識も学んだわ。
全ては人を効率良く、高精度で殺す為に。
誰かが命じるままに、誰かに与えられるままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
それだけしか無い人生だったわ。
いつだったかしら。
そんなわたしに転機が来て、しがらみから逃げ出したの。
その時から、人を殺すために生かされていたわたしが、
人を殺さなくても生きてゆけるわたしに変わったわ。
それからのわたしの隣にはいつも彼がいたわ。
今はもう、上手く彼のことを思い出せないけれど、
彼はいつだってわたしの手を引いてくれたの。
だからね。
わたしは振舞ったわ。
彼が望むままに。彼の愛するままに。
ただ受け入れてただこなしたの。
受動的に、機械的に。
わたしはそういう人間だったの。
環境が変わっても、立場が変わっても。危険な時でも、平和な時でも。
誰かが指し示す方向にしか進めない人間。
機能だけを磨かれた、ヒトガタの道具。
この首はね。
そんなわたしが初めて、自分が欲しいって思ったものなの。
憎かったような気もする。
愛しかったような気もする。
悲しかったような気もする。
どうしてこれが欲しいと思ったかなんて、もう思い出せないけれど。
それでもね。
わたしはずっとこの首のことを想っていたの。
そのことだけを願っていたの。
欲しい、欲しい、あの首が欲しいって。
これでなくちゃいけない。そんな固執を抱いたのは初めてだったし、
その気持ちを理性で制御できないことも、初めてだったわ。
感情の波に揺さぶられる。眩暈がするほど鮮烈な経験よ。
それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。
わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの
わたしの全てを、わたしだけの為に使って。
だからね、はっきりといえるわ。
わたしは、いま、しあわせよ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」
アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。
「なによその顔はぁっっ!!」
一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。
「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
こっちを見ろ! あたしを見ろ!」
満ち足りて死ぬ―――
そんな死に様は双葉にとって完全に予想外だった。
可能性が頭に掠めもしなかった。
たとえ双葉の掲げた復讐の条件を全て満たしていたとしても、
この一手で全てがひっくり返る。全てが無駄になる。
そんな身勝手な死に様、許すものか。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の方向を向ける。
「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
あたしがあんたを殺すんだ!!」
アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。
朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。
「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」
思わず手が出た。平手を見舞った。
「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。
「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。
「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。
「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。
「星川っっっっ!!!!!」
双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。
「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」
双葉の声が歓喜に震える。
復讐が遂に実を結ぶ。その予感に。
「……って……」
「…………………………何だったかしら」
誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え、四肢がだらりと垂れ下がる。
双葉は絶句するのみ。
その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。
「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」
言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も、打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。
アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。
満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。
↓
【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】
―――――――――残り 8 人
>>553-576
仮投下お疲れ様です。
だってあいつは(略の、の投下の方了解しました。
こちらはOKです。妄執レミネセンスの前でも一向に構いませんので。
名前欄入れ忘れましたorz
「紅蓮の挙句」の方も内容に問題はないと思います。
明日か明後日の夜に6人組の小ネタをここに仮投下する予定です。
「最優先事項」等との兼ね合いができそうなら本投下も考えてます。
ぎりぎり本スレ埋められる容量だといいのですが。
「終わる長い夢」は次スレかここの投下にします。
「最優先事項」等の内容次第で、次は透子の方を予約します。
気づいたことですが、どうもアインの参戦時期はメール欄みたいですね。
「……ちと良いかの狭霧殿?」
地獄の苦しみに悶絶して自らのバットを抑えるランス。
ふんっ。といい気味といった表情でバットを地面につけたつ狭霧。
男とてその様子に少々怯えながら魔窟堂は後ろから狭霧に話し掛けた。
「あぁ、魔窟堂さんですか」
ニコニコとしながらジジイではなく名前で呼ぶ狭霧の顔が魔窟堂や横にいるまひるたちには少々怖く感じれた。
なにしろ、ランスのハイパー兵器を破壊?した直ぐ後である。
「い、いやの、話したいことがあるんじゃが……」
魔窟堂の言葉で心の中でピクリとだけ動いた狭霧が魔窟堂の顔を覗く。
(さて、ジジイ? もしかして先ほどのことですかね? それとも探りを入れてくるのか……)
ジジイこと魔窟堂が不信感を抱いたのは先ほどのやり取りで感づいた。
このタイミングで話し掛けてくるということは、その気づいた不信感を直接か、
遠まわしか、どちらにせよぶつけてくるのか。
それとも確信を持つために探りを入れてくるのか。
騙しあいが始まりますかね? と狭霧は心の中で呟く。
「なんでしょう?」
まずは切り出してみないことには始まらない。
魔窟堂の声にとてもランスのハイパー兵器をバットで……とは思えないほど爽やかに返事する狭霧。
その様子が余計にまひる達の顔を青く引きつらせる。
「う、うむ。……有体に言えばこれからのことにあたってなんじゃが」
「……と言いますと?」
どうやら今のところ先ほどのこととは無関係であるようだ。
尤もこの先に何があるか、狭霧は油断できないが。
「此方側の戦力・状況分析はほぼ終わったと言ってよいじゃろう。
で、これからの指針になるわけじゃが……、その前に運営者達のことについてじゃ」
「なるほど。脱出が成功するにしろ彼らとの衝突は避けれない。
これからの行動を決める前に、その為にも私達と同じように彼らの戦力と状況を分析すると言うことですね?」
「流石狭霧殿じゃ。解りが早くて助かる」
純粋にそれだけの理由で魔窟堂は話している。
それは例えかすかな不信感があったとしても、やはり知能という面においては最も狭霧が頼りになるからであろう。
ふむ。と内面で思考した狭霧は、警戒を解く。
必要以上に張れば、何処かで警戒を相手にも気づかせてしまう。
それは必要以上に不信感を煽ってしまう、と判断した。
魔窟堂の方も必要以上に勘繰れば彼女に警戒と不信感を抱かせてしまうのがわかっている。
今まで通り普通に接するべき部分ではそうしていくべきだろう、と判断し、これからのことも兼ね揃え、話題を切り出した。
「では、順番に行きましょうか。
まずはあのザドゥという男ですね」
アソコを抑えてフーフーしてるランスと心配するユリーシャもようやく彼らの会話が耳に届く余裕を取り戻す。
「あぁ、あの野郎か……」
低い声を出しながらランスはザドゥのことを思い出す。
同じく、全ての始まりであったあの時を各々は思い出していた。
「最初の彼の立ち位置から大体想像できますが……タイプ的にも駒というよりは彼の役割はリーダーでしょうね。
恐らく頂点にどっしりと構え座り、まとめ役に立つものだと思いますが……」
「ワシもそう思う。そのためにも圧倒的強さを持つ彼なのじゃろうな……じゃが……」
「ええ、倒せないわけではありません」
あくまで倒せない『わけではない』ですけどね、と付け加わる。
タイガージョーとの打ち合い。
凄まじい攻防の果てにザドゥはタイガージョーを打ち倒し、その自らの強さを示した。
その強さは参加者を畏怖させる。
が、今この時をもってして、それは手の内を晒したという事実に他ならなかった。
「格闘家に間違いないでしょうね。それも生粋の」
「ったくこのアマ……。
格闘家なのは解るが、あいつの打撃一つで虎野郎の動きが止まったぞ?」
「何か言いましたか?」
狭霧に対して少々ぼやきながらもランスはあの時見えた光景の疑問を吐き出す。
彼の世界にも格闘家は存在している。
例えば、かつて世界最強と謳われたフレッチャー・モーデル……本人はもはやただのデブだったが、
その弟子は真空破のような物を出したし、ランスの良く知るヘルマンの皇子パットン・ミスナルジは、
格闘レベル2であり、武闘乱武という奥義を使える。
……周囲の認識は自爆技では有るが。
「俺様のランスアタックのように気を使ってるのは解ったんだが……あれはちと厄介だぞ?」
タイガージョーが放った奥義といい、ザドゥが使った死光掌といい、どちらも気を利用している。
同じく気を利用した必殺技を放てるランスは、全てを捉えきることは不可能だったが、彼らの気の動きを原理は解らぬが垣間見ることができた。
「ふむ、気か……。それなら恐らく。
気を相手の身体に打ち込んで相手の体の動きを止めたり、支配権を封じて自由に動かすとかかのう……。
YOU は SHOCK〜 愛で空が落ちてくる〜。というやつじゃな」
世紀末覇者達が繰り広げる漫画のテーマソングを歌いながら魔窟堂がそこから読み取った推測を重ねる。
あの時は何をしたのかどんな技か解らなかったが、気を使ってるという事実さえ解れば、無駄なオタク知識が導いてくれる。
「……触れられたらアウトってことですかね?」
歌う魔窟堂に呆れつつ狭霧が推測を尋ねる。
もし、それが事実であるなら、真正面からの戦いではほぼ無敵と言っていいだろう。
「それはないんじゃねーかな。俺様のランスアタックもそうだが、気を整えるための時間が必要だし、この手の技は練った時間と込めた力に応じたモンになるからな。
あの時、あの野郎も気を練ってやがったのは感じ取れた。
速射性はなし、触れられたらアウトってこたないと思うぜ」
「うむ。わしもそう思う。全力全開で撃ったものがどのくらいの威力でどういう効果を出すかまでは解らぬが、
漫画のように指先一つで秘孔を押せばダウンということはなかろうて」
「なにその漫画?」
「なに世紀末覇者達の集う熱い漫画じゃよ。無事戻れたらまひる殿も読むといい。なんならワシが貸して……」
「はいはい、それはいいですから。続けましょう」
「ちょっとくらい語らせてくれてもいいじゃろう。オタクの本分は語ることに……」
さみしいのう。とさめざめという魔窟堂を横に狭霧は情報を皆の前で整理する。
ザドゥ。
格闘家であり、その実力は計り知れない。
彼の役割は、ゲーム運営実行者達のリーダー。
運営実行者達を纏めている象徴が彼なのだろう。
が、真正面からでもこのメンバーで勝つ事は可能と判断できる。
スピードにおいては魔窟堂の方が圧倒的であるし、ランスや恭也の戦闘力、まひるのトリック的な能力、
そして今はいないが知佳、更にもしアインが加われば、益々負ける要素はない。
また人間である以上、粉塵爆弾のようなトラップを防ぎきる事は不可能だろう。
しかし、ザドゥの格闘家としての戦闘力もまた達人を超えたものであり、その一撃もさることながら、
相手の動きを止める奥義も所有していると判断できる。
攻撃力は非常に高く、一撃一撃が下手をすれば致命傷に繋がる可能性もある。
真正面からぶつかれば、何人かは命を落とす可能性が高い……いや落とす方が確実だろう。
あくまで真正面から闘った場合であり、奇襲をされた場合の対処は難しいといえる。
倒すのは難しい。
しかし、方法がないわけではない。倒す方法を取れないわけでもない。
みなの指揮を高めるためにも『希望は見える』と強調する。
「奇襲してくるようなやつにはみえなかったけどな」
「あの手のタイプは正々堂々真正面から制裁を加えに来るタイプじゃな」
と最後にランスと魔窟堂の意見が付け加わった。
「では次に行きましょうか」
「関わった順番からいけばあの嬢ちゃんかのう……」
「それって……」
「どれだ?」
察したまひるに対して、嬢ちゃんと言われて、最初にいた三人のうちどちらであろうかと尋ねるランス。
「御陵透子……警告者の方じゃな」
「おー、あのねーちゃんか」
んむ、あのねーちゃんも中々えがった。とランスはニヤケタ顔で思い出す。
警告を喰らったことより彼の中ではいい女という印象の方が強い。
「「…………」」
その様子をジト目で見る狭霧とまひる。
狭霧は重要な情報なのにと呆れつつ、まひるはこの人は相変わらずだなぁと苦笑しながら。
「まず共通している事は、神出鬼没。恐らく何らかの移動能力を持ってるのじゃろう。
次にどうやら初期の頃からゲームに消極的なもの、反抗的なものや行為を取るものに警告を加えていたようじゃな」
「……何というか得体の知れない不気味な感じでしたね」
「でも攻撃的じゃなかったよね……」
「総合するとその移動能力を持って警告と監視をするのが彼女の役割じゃろうな」
事実、病院では透子の警告の後に狭霧達は襲われている。
ランスは、その後にケイブリスの襲撃を受けている。
透子の役目は警告者に徹するものだろう。と彼らは判断する。
「戦力としては不明じゃな……あの神出鬼没な移動能力は厄介じゃが」
故に不気味である。
ザドゥやケイブリスのように見るものを畏怖させるような『強い』という感じはないが、
先ほど、狭霧が言ったように何かを隠してるような不気味さがある。
「実際に戦闘になってみないと解らんが、知佳殿やまひる殿のように特殊能力的な何かを使うタイプかのう……」
「直接戦うタイプではなさそうですからね……。ま、現状ではこのくらいでしょう」
「では次じゃな……」
「包帯ぐるぐる男ですか?」
「んむ……嫌な声をしとった」
あまり思い出したくない、語りたくないといった風に魔窟堂が口篭もりつつ語る。
狭霧の方も遺作に捕まった時に少々の事は聞いていたし、因縁のある物が多い相手である。
「トリックスター……と言ったところかの」
素敵医師の行なったことは、ゲームを加速させること。
薬と話術を用いて、遺作のようなゲームに乗っているものにはサポートを。
遥やアインのような消極的なものには薬を用いて混乱を。
彼らの知らぬ所では藍にグレン達にと様々な手を用いて接触し、混乱させている。
最もどれも破滅していく様を見るのが素敵医師は好きだったのだが。
先に出た透子のような警告者とは違い、直接手を下す実行者的な役割だろう。
「私は一番警戒するタイプだと思いますけどね」
狭霧は考えた結果を口出す。
遺作のことからも愉快犯的な一面があるのが読み取れる。
また策を講じてあれやこれやと此方を引っ掻き回すようなこともしてくるのが遥の件から読み取れる。
ザドゥと違って奇襲も遠慮なくしてくるだろう。
罠も仕掛けてくるだろう。
この状態なら、もしかしたら交渉も持ちかけてくるかもしれない。
この島において最も注意せねばならぬ人物であると彼女は踏む。
「実行犯であることとアイン殿が追いかけてることからも戦闘力も備えてると見た方が良さそうじゃな」
「本質的には裏をかくタイプでしょうけどね」
「そういえばおっぱい娘は俺様達しか出会ってないのか?」
カモミール・芹沢、といってもランス達の前で名乗ったわけではないのでおっぱい娘である。
ちなみに彼女の襲撃でグレンが死に、解除装置を受け取った、ということにランスはしていた。
ばれたらまずいと思い、この輪の中にいる内に浅はかな行動に反省はしつつも、反面「嘘はついてない」とランスは思っている。
確かに彼女の襲撃でグレンが死んだのは事実である。
トドメを刺したのがランスであっただけで。
「改めて聞くがどんな感じでしたか?」
「あのおっぱいは兵器だな。うむ、一戦お手合わせしたかったぞ、ガハハハハハ」
「ランス様、そういうことではなくて……」
「ん、ああ。チューリップみたいな大砲を使ってたな。あれは少々厄介だな。
帯剣もしてたが恭也のやつの方が強いと俺様は思うぞ……だが」
「だが……どうしました?」
「グレンのやつに左腕をすっぽり切られた」
「「「「え?」」」
一同の声が重なる。
もしかしたらグレンの最後の力で倒されたのだろうか?
と少しだけ期待しつつ。
「斬られた手に握ってた刀だけもって逃走しやがった。
左腕も置きっぱなしだったし、出血も凄かったし、あの様子じゃ長くないと思うぞ」
実際には斬られた左腕は、斬られた所が素敵医師の薬の副作用で硬質化、更に少しずつ異形化している。
「グレン殿……」
その光景を目に浮かべ魔窟堂がぐっと目を堪える。
「まぁ、処置を施されれば生きてる可能性はありますね。
ですが、戦力としては使えたとしても大幅にダウンしてるでしょう」
「ふむ。では要注意人物ではないじゃろうな」
「……向こうに反則的な回復手段がないことが前提ですけどね」
しかし、戦闘手段は大砲で砲撃し、接近戦は剣士として戦うというスタイルだろうことがわかる。
その実力も厄介であるには違いないが、ザドゥ程のような強大なものでもないのがランスの言からも取れる。
素敵医師と違って純粋な歩兵が彼女の役目であると狭霧たちは判断した。
「では、あの巨大な化け物についてじゃが……」
「ケイブリスの野郎か……。強いぞ」
「ワシも姿を見たが、あれを相手にするのは骨が折れそうじゃな」
ケイブリス。
純粋な破壊力ならザドゥ以上であろう。
何より、あの体格が脅威である。
人の身のザドゥと違い、致命傷を与えるのが難しければ、接近戦なら六本の腕と八本の触手の猛攻を掻い潜って攻撃を与えねばならない。
更にランスから聞き及んだ限り、ザドゥと違って奇襲もしてくる可能性が高い。
勿論、巨体である故に目立ちやすい上に大きさから来る立ち回りの不利があるのは間違いない。
が、それを有り余って補う圧倒的な暴力。
奇襲するにしても人間であるザドゥと違って耐久力も防御力も与えなければいけない範囲も桁違いである。
ザドゥの時で述べたような粉塵爆弾等では目くらまし程度の効果しかない可能性もある。
もし戦うことになったら単体では最も一同が警戒せねばならぬ相手。
「できるなら真正面からは戦いたくない相手じゃのう」
「流石の俺様も武器なしじゃ真正面はきついぞ」
「その辺は最悪、恭也さんと魔窟堂さんに前線を期待するしかないですね……。まひるさんでは機動力という面で向いてないでしょうから」
「ご、ごめんなさい」
「後方支援として期待してますよ?」
「が、頑張ります」
果たしてそんな化け物相手に自分が役に立てるのだろうか。
いや、やらなければいけないのだ。とまひるは自分に言い聞かせる。
「良きかな良きかな」
と魔窟堂はそのやり取りを見て「努力、友情、勝利はいいのう」と頷いていた。
「ジジイは、その加速装置で相手の撹乱ということで……」
と狭霧は突っ込むようにぼそりと言った。
(ザドゥとケイブリスに対しての理想は奇襲から短時間で仕留める。もしくはトラップにはめる。ですかね……)
かつて。
狭霧があちこちに仕掛け、参加者がかかってくれれば良しであった時と違い、
今度は特定の相手のために罠を仕掛けなければいけない。
今どこにいるか解らない上に次に出会うと限らないケイブリスとザドゥを対象にしたトラップを
連れ込むための場所を用意して仕掛けるというのは現実的に無駄が多い。
彼ら以外が引っかかってもそれはそれで有効なこともあるだろうが、
苦労して仕掛けた切り札をなくしてしまうのは惜しいし、参加者がかかる可能性もある。
ならば、二人以外にも有効なトラップでもいいし即席的なトラップでもいいが、
そうなると煙幕等の小細工的な手段になるだろうか。
奇襲するなら、トラップなら、役立つアイテムを作って用意するとしたらどんな方法がいいか、と狭霧はあれやこれやと考え始める。
「各々の対処は、後々臨機応変にしていくとしてじゃ。あと一人じゃな……」
思考しはじめた狭霧を見て、「狭霧殿らしいのう」と言いながら魔窟堂が最後の一人について切り出す。
「正確には何機いるのかわかりませんがね」
「……病院で私達を襲ってきたあの……人?」
「改めて聞く限りでは完全なアンドロイド……で間違いないかの?」
「えぇ、恐らく司令塔である本体は本拠地にいて、そこから遠隔操作で分体を操作しているんだと思いますけどね」
「……まだ駒はあると思うか?」
「断言はできませんが……もし今後のことを考えるのなら、少なくても繰り出してきた数と同数以上、6体前後は最低でも残してる可能性がありますね」
放送の声が彼女であったことからも本体が残ってるのも解る。
「特徴は……」
警告者である透子、早々に舞台へ登場した素敵医師とカモミール芹沢。
それに対して智機が出てきたのは首輪解除後である。
「運営側の最終防衛ラインを担ってる者と言ったところですか」
「あとは、機械歩兵として可能な技術は詰め込めると見てよいじゃろう……」
一度に同時並行で操れる数は解らないが、各々の機体を別々の指示で繰り出す事が出きるだろう。
戦闘方法といった細かい部分はあらかじめ組み込まれたプログラムによってオート化されているのだろうが、
アレを使え、ココは引け、等と言った指示は有効と判断できる。
「6か……」
全てを上げ終えたところで魔窟堂がその数を呟く。
「……まだいたりするのかな?」
最初に出会った五人とは別に現われたケイブリス。
そのこともあるともしかしたら、まだ出ていないだけで他にもいるのかもしれない。
他の皆も一度は思った疑問をまひるはこの場にぶつけてみた。
「難しい話じゃな……。じゃが、戦闘員はほぼいないと断言しても良かろう」
「同感ですね」
「え、え、どうして?」
魔窟堂の返答に対して当然といったように返事をする狭霧。
それを見てまひるがクエスチョンマークを浮かべる。
「単純なこった。今俺様達がゆったりしてられる。それが事実だろ?」
挟むようにしてランスが横から答えた。
「まぁ、ランス殿の言う通りじゃな」
「まひるさん、今首輪をつけている参加者は後何人いると思います?」
疑問に対して狭霧は疑問に答えた。
「え、えーっと……ここに6人いて、あとアインさんでしょ……。
あっ!」
数え出してまひるはピンと来た。
「そうじゃ、恐らく2人か、3人もいればいい方じゃろう」
「つまり、あちらも全力で此方を潰しにこなくてはいけない……はずなんですよ」
「その状況下で俺達は襲われてない……それが事実だ」
一呼吸つくと魔窟堂が状況整理とばかりに語りだす。
「まず純粋にザドゥと名乗る男はトップじゃ。
トップが軽軽しく動いてはならぬのが組織の定めであり、そのために各々の役割を持った執行者がおる。
この男が前線に出てくるのは、まず余程のことがない限りありえないじゃろう」
「もしかしたらワシラが知らないだけで、今までも、今もどこかに出動してる可能性もあるかもしれんがの」
とだけ魔窟堂は付け加え、
「ありえねさそうだけどなー」とランスが応答する。
「では消去法で行きましょう。次はけったくそわるいと評判の包帯男ですが……」
「アインさんが追いかけてる人……だよね?」
「そうじゃ。今まで此方に来る素振りもないということは、おそらくアイン殿が追跡してるおかげじゃな」
素敵医師がまだ単独で動いてるのかは解らないが、此方に来るには、アインの手を振り切る必要がある。
しかし、その名を知られたファントム。
出し抜くには困難をきっするのは間違いないであろう。
もし他の駒をぶつけたとしたらそれも可能だろうが、それなら今だ此方に来ていないのが気にかかる。
「他にも怪我をしたか、アイン殿の手によって既に亡くなっているか、残る少ない参加者の方に加担しにいったかは解らぬが、
ここまで放置されている以上は、現在手が空いていないと見てよいじゃろう」
「手が空いてないと言えば、残りの三名も大なり小なり同じでしょうからね」
「まず陣羽織のお嬢ちゃんじゃが、ランス殿からの情報によれば、そうそう前線復帰はできんじゃろう。
勿論、あれから大分時間も経っとるので既に治療されている可能性もなきにしにあらず、じゃから今後はわからんがな……」
片腕となったカモミール芹沢。
「……ケイブリスの野郎もダメージは負ったはずだからな」
中の両腕と鎧の背を破壊されたケイブリス。
「此方も全滅させましたからね……」
病院で破壊した6機。
今までの彼らの行動は無駄ではない。
勿論、カモミール芹沢やケイブリスのように戦力を戻しつつあるものもいるが、
少しずつではあるが彼らは着実に運営陣たちにダメージを与えていた。
「つまり、もし他にも人員がいたり余裕があるのだとしたら、それを此方に必ず割いてくるはずじゃ。
故に余裕がない可能性の方が高いじゃろう」
「ただ非戦闘員……。まぁ例えば彼らの食事を用意する係りとか掃除係とか……半分冗談ですが、雑用のための人員はいるかもしれません」
「これらから恐らく向こうは今戦力を割く余裕がない、と見ることができる。
そして次に来る時は必勝を来してくるじゃろう」
「前も言いましたが、そのために準備を整えてる……未だ整っておらずと言ったところですかね」
ふぅ、と一息つくと「しかし」と狭霧は言葉を再開する。
「ただ一つ気になるとしたら……」
「うむ。戦力はある……しかし、あちらさんの方か、それともここにいない参加者達の方で何かあったか……」
「こっちにかかれないようなことが起きたか、ってことか」
あちら側が、現在此方に手を割くことができないような重大な何かが起きたとした場合である。
戦力も余裕も十分にあった。
しかし、そのせいで此方に来る事が未だできないということである。
「それの懸念材料が今回の放送ですね」
「死者がいなかったことですか?」
此方にとっては喜ばしいことでしたけど、とユリーシャは言った。
「いや、時間の方じゃな」
が、即座に否定の発言が出る。
「ええ、今までぴったりと時間通りに行なわれていたはずの放送が今回に限って6分ですが遅れた」
「たかが数分と思うかもしれんが、少なくともその時何かがあったのは間違いない」
「果たしてそれが何であるのかは解りません……。しかし今現在私達が全く放置されたまま。
先ほどまで出払っていた魔窟堂さんの方にも何も有りませんでした」
「それらと放送遅れが因果関係が全くないとは思えぬ」
「例えば、あの機械兵の軍団ですが……。
もし私達を殲滅できるほど、または兵糧攻めできるほどにストックがあるのだとしたら、既に投入しているはずです。
けど、実際には何も起きていない」
「繰り返しになるが、ストックはあるが手が空いていないかストックに余裕がないか、だな」
事実、智機のストックはもう無駄にできない地点まで追い込まれている。
まずアズライト・鬼作・しおりの一件で80体以上を失い、次に病院での戦闘で戦闘特化させたはずの6体を失った。
その時点ではまだ余裕があり、狭霧の懸念したように今度は本気での追撃を行なおうとしたが、
19体を破壊され、とうとう追い込まれた。
挙句の果てには透子の手により二機破壊されている。
本拠地の防衛、管制室の防衛を割くのは最終手段であり、それを除けば智機が総力を尽くせるのは後一回が限度とまで来ていた。
尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。
「わしらが放置されたまま、その上での放送の遅れ。
全く関連性がないとも思えぬ……」
「これ以上は完全に読めない推測になるので何ともいえませんけどね」
と狭霧が一旦締めくくる。
小屋の外で見張りに立つ恭也の額に汗が走る。
少し前から東の方でオレンジ色の光が浮かび上がっていた。
恭也が気づいたのは少し前。
何事かと思いつつ其方からも目を離さなかった恭也であったが、直ぐにそれが何であるかに気づく。
焦げた臭い。
上空に立ち上る巨大な煙の雲。
火の粉が飛び散る様がここからでも良く解る。
森が燃えている……それも大規模な火災。
燃えているのは、彼らがいる西の森ではなく東にあった群生の森である。
しかし、ここからでも鼻を燻る臭いが感じ取れる。
病院や学校、東の森の近くの建築物はまず壊滅的だろう。
あの勢いがこのまま続けば、風に流れ、こちらの群生の森まで飛び火する可能性がある。
(これはまずい)
直ぐさま、小屋のみんなに知らせて相談をした方がいいだろう。
しかし、全員外に一斉に出すわけにはいかない。
まずはリーダー格として主導を握る魔窟堂と狭霧の二人に見て貰うか。
そう判断した恭也は扉を背にし、「魔窟堂さん、狭霧さん」と声をかけながらトントンとノックをして開けた。
「あ、恭也さん。どうしたんですか?」
あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
そんなことありますか、と狭霧が否定しつつ。
まぁないとも言えんがのう、と魔窟堂が頭を捻らせ。
機械がどうして食中毒を起こしますかこのジジイ、と狭霧が魔窟堂の頭を叩き。
あれではないか、これでもないか、と現在ある情報を元に推測を重ねている所に開かれた扉と呼び声にまひるが答える。
「魔窟堂さんと狭霧さん、少し来てもらえませんか?」
此方に身体を半分向け、中にいる二人に向かって恭也は催促する。
「む? 何事じゃ?」
「……何かありましたか?」
「むっ?」
「?」
空気が打って変わって変わった。
恭也の声にただならぬ事態が起きたのではと中にいる各々は思う。
敵か? いや敵ならこんな余裕はないはずである。
では、一体なんであろうか。
緊張が走る中、次に恭也の口から出た事実は想像以上の衝撃をもたらす。
「……向こうの森が燃えているんです。
多分、こっちまで火が移ってきそうな勢いで」
「「「「「え」」」」」
驚きの声を上げる五人をよそに恭也が続ける。
「詳しい状況は見てもらった方が解りやすいので……」
「ぬぅ……。すまんが一度に全員出ると万が一の可能性もある。
ランス殿、ユリーシャ殿とまひる殿を頼めるかの?」
「む、がはははは。そういうことなら任せておけ」
「おいどういうことだ」と言っていたランスだが、女性二人?を任せられると機嫌よく引き受ける。
「では、まひるさん、ランスさん、ユリーシャさん、少し見てきますね」
そうして恭也に連れられ、魔窟堂と狭霧の二人は小屋の外に出ていく。
そして
「こ、これは……!?」
「本当に森が燃えている……」
ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。
「恭也度のこれは何時頃から?」
「最初に光が上がったのに気づいたのは放送の少し前です。
何だろうと思ったんですが、直ぐに消えるかとも思ったら、それどころか……」
「もしや……」
「えぇ、可能性は0ではありませんね」
「うむ。時間的にも一致する。
恐らく火災だけではあるまい、あそこでわしが見過ごした何かが起きているかもしれん」
「……どういうことです?」
狭霧と魔窟堂の相槌を見た恭也が何の話かと尋ねる。
「うむ、実はの……」
ひとまず整理した運営組の詳細はおいておき、二人は先程まで小屋の中で運営組に関しての情報整理をしていたことを簡潔に述べると
首輪をつけた参加者が数少ない状況で未だ自分達が放置されてる理由、どうして放送が遅れたかの疑問、などを答えていく。
「なるほど……」
「どう思う狭霧殿? 安全を取って移動をするにこしたことはないが……」
「……もしこれが結びつくのなら、打って出るチャンスでしょうね。
しかし……」
安全の為にも移動はした方が良いだろう。
炎をやり過ごすなら西の海方面である。
打って出るのならば始まりの地であった学校であろうか。
しかし、この炎の勢いでは学校は、今いる森より早く火が飛び移り燃えるだろう。
どうするべきか、と恭也を交え二人は考え込む。
一方、小屋の中に残された三人。
「赤い光……大丈夫でしょうか?」
「がはははは、大丈夫だ。いざとなったら海にでも飛び込めばいい」
「あたしは寒いのは嫌だなぁ……」
良く見れば、小屋の窓からもオレンジ色の光が少々垣間見ることができる。
窓越しに見える光を見ておののくまひるとユリーシャだが、外で実物を見たらもっと驚くだろう。
「―――ッ!?」
「「ランスさん・様?」」
二人を元気付けるかのごとく笑っていたランスの雰囲気が変わる。
「ど、どうしたの、ランスさん?」
「三人の気配がここからでも解るくらいになった」
急に本気の顔になったランスを見たまひるは意外性もあり、何事かと驚く。
「誰か……よろしくねぇやつが来た」
小屋越しにぴりぴりとした空気をランスは感じ取る。
外にいる三人のものだ。
きっかけは急に恭也の気が緊張して膨れ上がったことだった。
変哲もなかった空気が小屋の中にいても解るほど。
恐らく恭也の方も、気を高めることによってランスに気づかせる意味合いも含んでいるのだろう。
「ユリーシャ、まひるちゃん、気を入れておけよ……」
ケイブリスなら一発で解る。
ザドゥでも同じだ。
あの強烈な気は臨戦体制に入っているのなら気づかぬはずがない。
表の三人の気配が変わった以上、何物かが気づかれるように来た線が濃厚である。
しかし、凝らすようにして気配を探ってもザドゥやケイブリスのような空気を感じ取れない。
(何が来やがった? 参加者か? それとも運営の野郎どもか?)
「あぁ、ようやく見つかった」
一人分の足音が三人の耳に聞こえる。
ザッザッザッとした重い足音。
ゆっくりと少しずつ小屋へと近づいてくる。
「恭也さん、魔窟堂さん……」
狭霧の声に応じかのごとく、三人の体を支える足に力が入る。
「動員中による不幸中の幸いといったところか」
オレンジ色の空を背景にして現われるシルエット。
狭霧と恭也には見覚えのある形。
「そう身構えないでくれ。今回は君達と戦うつもりは一切ない」
忘れるはずもない。
細部こそ違うが自分達の命を狙いに来た刺客と良く似た形。
「勿論、ゲームに参加しろと警告を発しに来たわけでもない」
露わになる頭部を見て二人は確信し、二人に向いた魔窟堂の目に頷く。
「純粋に頼みたいことがあって交渉をしにきたのだよ」
魔窟堂の体に力が入る、いざとなれば即座に加速装置を発動できるように。
恭也の身体がゆっくりと構えを取る、いざとなれば奥義を発動できるように。
「―――話くらいは聞いてもらえないか?」
両手を上に挙げ、非戦の意思を示した智機が彼らの前に現われた。
大変お待たせしました。
それぞれの持ってる運営陣の情報に見落としはないと思いますが(そのために何度も読み直しましたが……)
穴やミスがあったら遠慮なく教えて下さい。
智機の残機数と現状も「最優先事項」にあわせておきました。
>尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。
なら大丈夫と思いますが、どうでしょうか?
今晩、ちょっと帰ってくるのが不可能なので土曜に確認後、早ければ土曜夜にOKが取れ次第投下します。
後編はそんなに長くない+既にある程度できているので時間が取れれば水曜には仮投下できるかと思います。
>「紅蓮の挙句」
>「だって、あいつは(略」
こちらも内容に問題ないと思います。
>>579-603
仮投下お疲れ様でした。待った甲斐がありました。
おお思わぬ展開!そして久々に魔窟堂が活躍してていい。
特に問題はないと思います。
おかげさまでこちらも色々アイデアが浮かんできました。
使うとしても、まだ先の方ですが。
こちらの小ネタ仮投下は夜の12時過ぎになります。
「最優先事項」を確認次第、次の予約をどうするか月曜日くらいまでに決めます。
>>603
お疲れさまです。
内容に問題はないと思います。
「だって、あいつは(略」に対する返答が頂けましたので、
これより本スレに投下致します。
7〜8KB程度なので、次スレのアナウンスを加えたとしても
DAT落ちにはならないと思います。
>>604
書き込みの前にリロードしなかったので、無視するような形になってしまいました。
申し訳ないです。
小ネタの仮投下が終了次第、「最優先事項」の仮投下を行いたいと思います。
(二日目 PM1:55 病院内)
――見つけたそれはその場に似つかわしくないものだった。
使える衣服がないかとロッカーを物色してた時、それを見つけた。
ここどこだっけ?と疑念が頭をよぎった。
まさかと思い、それを手にとって恐る恐る臭いを嗅いで見る。
服の臭いしかしなかった事に安堵する。
あたしって下品と、心の中で呟きながら、鼻歌を歌いながら選んだ服をデイバックに詰めた。
部屋から出ようとした時、もう一度『それ』を見た。
不自然さに思わず眉をひそめる。
しばし『それ』を見つめると、手に取って折りたたみ、ビニールに入れてデイパックに入れ、
すぐさま部屋を出た。
□ ■ □ ■
「駄目です」
地図に載っている小屋に行きたいというまひるの提案は、紗霧によってあっさり却下された。
当のまひるを含む何人かは『何で』と言いたげな表情をしている。
紗霧は両目をつむりながら疑問に答える。
「此処に行った所で良くて誰もいないか、悪ければあのロボットが待機してる可能性があります。
もし主催が私達の居場所を把握していない場合は、向こうに好機を与えることになってしまうんですよ?」
「うーん……」
大体予想通りの返答ではあったが、叱られてるようで何か居心地が悪い。
少々ではあるがまひるの表情には落胆の混ざった困惑が浮かんでいた。
「何か在るとしても遺体でしょうね。彼らの支給品も使い物にならないものになっているか、
持ち去られてるかの何れかでしょうし」
と紗霧は言う、心の中で迂闊な参加者のと付け加えて。
狭い建物かつ森の中にある最初から所在の知れた小屋など
殺人鬼にとって格好の狩場になりかねない。
「うーん、死体あるなら、その人を弔ってやりたいんだけど」
「……首輪の事を忘れてませんか?」
紗霧は自らの首を親指で指す。
「あの首輪は解除されても、向こう側に色々と解るものなのですか?」
股間のハイパー兵器を押さえながら悶絶してるランスを看病しながらユリーシャは言った。
「それは解りません。ですが用心に越した事はありません」
対人レーダーを使用すれば、確認は可能かもしれないがそれくらいの事で機械停止のリスクを
紗霧は背負いたくなかった。
実際は解除後に探知機等は機能しないのだが、それを知る時間と道具は彼女らにはなかった。
その事を知っていたら、紗霧は罠の材料等に活用していたことだろう。
「う〜ん…………じゃ、諦める」
渋々まひるが返答したのを受けて紗霧は視線を外そうとする。
が、がさごそと物音がまひるの方から聞こえたので再びそちらの方に目を向けた。
「………………何ですかそれは?」
「あたしもこれ見た時はそう思ったよ」
「それって……」
まひるはそれの両端を掴んで全体像をみんなに見せていた。
ユリーシャとランスはそれを――それと同じものをよく目にしていた。
「まひる殿……何を……」
魔窟堂も結構目にしている、その為か心なしか声色は弾んでいた。
紗霧は半眼でしばし考え込み、彼女なりにややドスを利かせたつもりで言う。
「本題はこれですか? で、貴女はこれを何処から手に入れたんですか?」
「病院」
表情だけはにこやかに、内心では機嫌悪い時にやばかったかなと後悔しながらまひるは返答する。
「何で病院にこれがあるんですか? 変な趣味をお持ちの方が使ってたとでも言うつもりですか?」
「まったくの新品みたい」
このゲームの参加者の中にそういう格好をしてるのは何人かいた。
デザインは多少異なっているが。
「支給品かな?」
恭也が言う。
これまでに一行は死んだ参加者のデイパック――支給品一式を2つ回収している。
それらの一つと彼は思ったのだ。
「ロッカーに入ってたよ。なぜか」
「そんな得体の知れないものは捨てて下さい」
「何を言う!紗霧殿!」
弾かれた様に魔窟堂が叫ぶ。
おイタをした子供を叱り付ける親の様に。
紗霧はその剣幕に少し驚いたが、数秒後に困惑は怒りに変わった。
まひるはその様子を見て冷や汗をかきながら、思わず後ずさった。
だが魔窟堂は引かなかった。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。
「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」
紗霧と魔窟堂の間に妙な緊張が走るのを見て、動転しながら何とか答えるまひる。
「そうか……」
ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。
「残念だ」
そんなランスを見て、ユリーシャは苦笑いをした。
「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
「あはは……」
中学生やってた時のある見世物でそういう服を着て、周囲に大いに受けたのをまひるは思い出す。
「誰が着ますか!」
紗霧の怒声がとんだ。
「着てくれんのか、紗霧殿!」
涙を流して魔窟堂が言う。
「変態は黙ってろ」
紗霧が返す。
「なんともったいない!」
ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、いつあの二人の口論を聞き続ける。
そして未だに『それ』を両手に持ったまま途方に暮れているまひるを他所に恭也は思った。
(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)
さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じながら、
事態の収拾のため彼は頭を働かせ始めた。
↓
【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。
投下終了。
こんな内容で遅くなってすいません。
別にメイド服にこだわりはありません。
ただ……一月ほど前に啓示のようなものを受けて書かざるを得なかったんです。
ちょっと後悔している。
まあアインか双葉のどちらかが合流したら、ネタとして着させるつもりだったんですけどね。
以下15レス、「最優先事項」の仮投下を行います。
レプリカまとめの部分は一部変更。
以前頂いた意見の反映+Nシリーズの初期数を160としました。
何か問題ありましたらレス願います。
次回仮投下予定は「そらをみあげて想うこと」。
恭也、知佳、ザドゥ救出タスクチーム・レプリカ達が登場の小ネタで、
明日投下予定です。
没ネタ入りする予定でしたが、>>579-603 にて、
状況が一致(恭也が一人で屋外にいた&最初に火災に気づいた)したので、
やっぱり投下することにしました。
>>585
(二日目 PM6:29 C−4地点 本拠地・管制室)
アドミニストレーター権限を委譲されてからのN−22の行動は素早かった。
本拠地のNシリーズ6機を直ちに起動すると、
3機をザドゥ救助タスクチームとし、3機を火災対策タスクチームとして、
該当端末の使用許可と備品・装備の持ち出し許可を与え、同時進行させたのだ。
結果、現時点で既にザドゥの元へNシリーズ1機と当座の救援物資が送り届けられ、
火災の進行シミュレーションと対策素案も纏まりつつあった。
今や他のレプリカ達から「代行」と呼ばれるようになったN−22は、
両タスクが動き出した時点でそれぞれのリーダーに処理を任せると、
情報端末に有線アクセスし、各種情報の徹底収拾を開始した。
それから数分。
彼女が必要とする情報のほぼ全てが、内臓HDDに収められようとしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*
* オートマン・椎名智機のレプリカには大まかに分けて3種類がある。
* 1つ、通常仕様、Nシリーズ。識別色は橙。
* 1つ、白兵戦仕様、Dシリーズ。識別色は赤。
* 1つ、情報収集仕様、Pシリーズ。識別色は青。
* 識別色はアンテナ機能を備えたカチューシャにペイントされている。
*
* Nシリーズの機体数は46/160機(残存/開始時)。
* うち、本拠地防衛用に10機固定。
* 稼働時間は戦闘モードで4時間、デスクワークモードで10時間。
* 基本身体能力は月夜御名紗霧程度、基本装甲は通常の作業用ロボット程度。
* 正しい意味でのレプリカで、ハード/ソフト共にオリジナルに等しい。
* 基本身体能力を超えない範囲でのあらゆる武装が物理的にはは可能だが、
* リソースを大量消費するパーツ―――高機動レッグや強化アームなどを換装すると、
* フリーズやシステムクラッシュを誘発してしまうという欠点もある。
* この場合、常駐ソフトを切る事で実運用可能なレベルまで緩和できる。
* 無論、切ったソフトに由来する機能は使用不可能となる。
*
* Dシリーズの機体数は3/4機。
* 稼働時間は戦闘モードで4時間だが、後述のアタッチメントによって増減する。
* 基本身体能力はランス程度、基本装甲はなみ以下。
* ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭であり、
* 各種アタッチメントを装備することでその能力・特性は大きく変化する。
* キャタピラ、軽ジェットエンジンなどの移動機器。
* 耐熱装甲、工学迷彩スーツなどの装甲。
* 高周波ブレード、ビーム砲などの武装。
* 無限のバリエーションであらゆる局面に対応できる万能さが魅力だ。
* 但し、強化パーツの制御には多大なリソースを占有する為、
* オリジナルが同期できないというデメリットもある。
* なお、強化パーツの一つは、虎の子として本拠地の倉庫に保管されている。
* このパーツを前述のNシリーズに組み込むことで、Dシリーズに昇格させることが可能となる。
*
* Pシリーズの機体数は6/6機。
* スペックその他はNシリーズに等しく、識別されるのは役割と権限に違いがある為。
* 担う役割は現場での情報収集、哨戒活動。
* 有する権限は情報収集端末への常時アクセス権と、優先レベル3以下の命令拒否権。
* 特殊装備はスタングレネードと最高速40Km/hのカスタムジンジャー(セグウェイ)、
* バッテリーパック×2。
* ゲーム開始前から今に至るまで島内の担当領域から情報を収集/発信し続けている。
* 参加者に対しては隠密行動を是とし、被発見時には交戦せず逃走するよう刷り込まれている。
* また、Pシリーズが破壊された場合はNシリーズに同種の装備と権限を与え、
* 新たなPシリーズとして登録変更される仕組みだ。
*
* 最後に、全てのレプリカに共通する特徴を記す。
* この種の機械の例に漏れず、智機も基本的に熱に弱い。
* 冷却ユニットは水冷式。
* 蒸気の排出は後頭部の排気口から、冷却水の補充は口から行われる。
* 内臓しているのは通信機と充電コード。
* 充電については全機ともに本拠地と学校の専用充電機にて3時間、
* 島内各所の建物のいくつかに仕込まれた特殊なコンセントにて10時間が必要となる。
*
* そして最たる特徴は―――
* 最優先事項に【ゲーム進行の円滑化】が設定されていること。
* マザーボードに焼き付けられているそれは、決して覆ることはない。
*
[EOF]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
代行管制機・N−22はデータバンクより抽出した最後の資料「レプリカ概要」に
目を通し、ようやく必要とする全ての事前資料をそのHDDに収め終えた。
「なるほどな」
その隣では、N−22より御陵透子へのコールを引き継ぎ、
使えなくなったらしい『世界の読み替え』についての状況把握に努めていた1機が、
深いため息と共に通信を切ったところだった。
「透子はザドゥ救助タスクに組み込めそうかね?」
「No、代行。透子の返答は要領を得ないが、推測するに世界の読み替えが制限されたようだ」
「では、救助タスクのみならず火災対策タスクにおいても……」
「Yes。残念ながらね」
管制室の6機のレプリカたちがそれぞれに嘆息する。
両チームともに透子の未知なる『世界の読み替え』に期待をかけていたのだ。
それが、頼れなくなった。
理由は不明。
しかし、N−22の論理推論プログラムは推論を導き出していた。
オリジナルの焦燥と怒りが透子の能力制限と一本の線で結ばれているのだろうと。
「ケイブリスの協力は得られそうかな?」
「判らないな。現在オリジナルと密談中だが、どうやら両タスクに関係の無い話のようだよ」
「無線も切られているしな」
「かの魔人殿は計算に入れないほうがよさそうだな」
「Yes、私もそう判断するよ」
同じ声、同じ姿の6機の智機が同じ結論に達する。
「では、ザドゥ救出・火災対策タスクは私たちだけの手で行わなければならないな」
「まずは両タスクの優先度を決めるとしよう。
ザドゥ救出タスクチーム。そちらの進捗状況はどうかな?」
問いに対するチームリーダの返答は、苦渋に満ちていた。
「物資の調達まではトントン拍子で進んでいたのだが……」
「我々が内臓する通信機は熱、もしくは煙に弱いようだ」
「カタパルトで飛んだ1機は着陸時点で。学校からの4機も先ほど通信が取れなくなった」
「ザドゥ様の通信機はノイズが酷くて使い物にならないしね」
「No! 苦しい状況だな……」
N−22は大げさな身振りで頭を振りつつ、対策を講じるべく演算回路を回し始める。
そんな様子を察してか、火災対策タスクチームが強い口調で横槍を入れた。
「私たち火災対策タスクチームは、火災対策こそ最優先で行うべきだと主張する」
「論拠として火災シミュレーションの模様をご覧頂きたい」
「代行、メインモニタへの投影許可を」
「Yes、許可しよう」
管制室の正面に82インチの液晶が輝き、補助端末の画像を映し出す。
衛星画像に似た鳥瞰全島図のCGが画面端よりポップアップした。
その全島図の楡の木広場を中心に、赤色表示されるドーナツが如き領域がある。
「これが定点カメラとPシリーズの報告から予測した、5分前の火災状況」
「風の向き、強さが変わらないものとして、6時間分の推移を1時間毎に表示しよう」
1時間後―――南西方向への広がりが大きく、形は歪に。炎に飲まれる。
2時間後―――南西方向は全焼、洞窟と小屋2、隠し部屋3が炎に飲まれる。
3時間後―――東の森ほぼ全域が燃える。西の森および病院、廃村に延焼。
4時間後―――学校、耕作地、花園に延焼。小屋3が炎に飲まれ、廃村の6割が被災。
5時間後―――廃村全焼、さらに西の野原と漁港に延焼。小屋跡1も炎に飲まれる。
6時間後―――漁港、西の森が全焼。火の手はついに北西の山地へと伸びる。
「これほどとは……」
「火災対策チーフの主張を我々ザドゥ救出タスクチームも支持するよ」
「Yes」
「全私一致か。ならば次は対策の検討に入る」
この瞬間、ザドゥと芹沢はレプリカ達から切り捨てられた。
ゼロとイチの思考に評価点の大小を上回る判断基準は存在しない。
1ポイントの差が、それだけで絶対の差。
増してや曖昧に揺蕩う感情などを挟む余地など有ろうはずが無い。
「続きを」
N−22が手の動きで火災対策タスクリーダーを促す。
リーダーはYesと頷き、コンソールを操作。
メインモニタの画像が2時間後の映像に巻き戻り、固定された。
「まず、前提として消火の線は切り捨る」
「為すべきは延焼の阻止。実行すべきは木々の伐採と撤去」
「被害を東の森だけに留めるということだよ」
「そして、この対策完了のリミットがご覧の2時間後。PM8:30」
「廃村と西の森への延焼を許したらGAMEOVERだ」
ズームアップ。
そこには鬱蒼と生い茂る木々に隠れて佇む、一軒の山小屋があった。
先刻、魔窟堂が単独行の折に発見し、ペンのような何かを設置した小屋だ。
「楔を最初に打ち込むべき場所。それは東の森の名も無き小屋」
「アクション1。ここを中心に実働部隊を展開。周囲一切の樹木を切り倒し、運び出す」
「除去消火というやつだな」
「これを今から2時間以内に完了する」
「ここさえ乗り切れば、その後は幾分楽になる」
「延焼危険ポイントの西部、南部、および花園、学校周辺を軽く除去消火」
「こうして切り倒した箇所を仮に防衛ラインと名づけて、アクション2だ」
「アクション2。防衛ラインに進入する炎に、土砂を掛ける」
「窒息消火というやつだな」
「それを、危険が無くなるまで繰り返す」
「消火に十分な水とそのインフラが整備できない以上、打てる手はこの程度だ」
「故に必要なのは速度」
「そして人数」
火災対策タスクチームはそこで沈黙した。
3機の目線が代行N−22に注がれている。
N−22はしばし黙考した後、演技がかった口調で問いを発した。
「Yes。ならば問おう。必要な速度、それは何分後なのかな?」
「直ちに!」
「直ちに!」
「直ちに!」
火災対策タスクチームの3機の返答は淀みない。
「Yes。さらに問おう。必要な数、それは何機なのかな?」
「全機!」
「全機!」
「全機!」
火災対策タスクチームの3機の返答は一糸乱れない。
「つまり君たちはこう主張する訳だ」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
火災対策タスクチームの3機の返答は確信に満ちている。
「成る程、君らの意見はよくわかった。
では―――ザドゥ救出タスクチーム、君たちはどうだ?」
N−22は指差して問う。チームの2機は即座に右腕を上げて答える。
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
今まで口を閉ざして周囲の警戒に当たっていた本拠地警備・管制室担当の2機も、
自らの思いを主張した。
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
その時、同時に6本ものコールが入った。
通信を入れたのは全てレプリカPシリーズ。
火災対策チーム・オペレータがコールをディスカッションモードに切り替えると、
通信機の向こうの彼女らもまた、自らの思いを主張した。
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
この話を聞いていたほぼ全てのレプリカが、同じ意志を同じ言葉で伝えた。
残るは1機。
火災対策タスクチームのリーダーが代表して最後の1機、N−22の意志を確認する。
「代行、あなたは?」
N−22はニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、言った。
「無論、即時全機投入だ」
管制代行機かつ、アドミニストレーター権限保有者の意思表示。
それはすなわち決済であり、命令であった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
眠る全てのレプリカたちが起動した。
拠点防御に当たっていた10機のNシリーズたちは、命令を下さずとも
自ら武装を解除し、鎮火に適した装備への換装を始めている。
Pシリーズはタスクの本格始動に先立ち、道具/装備品や情報の収拾を中心に、
柔軟な準備活動を行うよう指示されていた。
また、火災対策タスクチームのリーダーはDシリーズの装備品の検討に余念が無く、
残りの2機は詳細なプランの構築に全機能を集中している。
慌しく、しかし整然と準備を整えてゆく同胞たちを満足げに眺めながら、
N−22は蚊帳の外ぎみのザドゥ救出タスクチームにも命を下した。
「君たち2機も火災対策実働部隊に参入してくれ」
「Yes!」
「Yes!」
2機が目覚めたNシリーズたちに合流すべく、管制室を後にする。
その扉を潜る前に、ザドゥ救出タスクチーム・リーダーがN−22に軽口を叩いた。
くすくすと忍び笑いしながら、人を小馬鹿にしたような口調で。
「しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!」
「だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?」
「くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
「責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから」
くすくす。
ザドゥ救出タスクチーム・リーダーは笑いながら扉を閉めた。
「シミュレーション結果、出ました」
火災対策タスクチームの2機が同時に顔を上げ、作業の完了をN−22に告げた。
「全タスクの完了までどれほど時間がかかる?」
「南西部緊急対策に90分。完全終了に220分」
「損害予測は?」
「Dシリーズ全機破損。Nシリーズ20機破損」
「よし、上出来だ」
半数以上の仲間を失うという報告を淡々と行うこと。
それを首肯すること。
我々人間の目に映るそれは、あまりに非情。あまりに冷酷。
しかし―――
レプリカ達の最優先事項は【ゲーム進行の円滑化】。
故に彼女らの態度は至って正常な反応。
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。
「オペレータは1機で十分だからね」
「私、N−26もこれより現場組に合流しようと思うのだが、如何か」
「Yes。許可しよう」
また1機が、管制室を後にする。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「№16・朽木双葉の首輪からの生体信号が、今途絶えた。
策士が策に溺れてしまったようだね。非常に残念だが、まあしかたない。
それよりも、だね―――」
出発準備は十分弱で完了していた。
N−22は本拠地の正面出口前に整列するレプリカ達に向けて、放送を発信する。
「この死によって後顧の憂いが無くなった。そこに着目しよう。
我々の鎮火タスクは、もう警告事由:ゲームの進行阻害に抵触しないのだ。
大手を振って任に当たれる。幸先が良いとは思わないかね?」
N−22の演説にレプリカ達が沸く。その潮が引いてから、彼女は号令を下した。
「よろしい。では全機に命じよう。
N−29を当オペレーションの最高権限者とし、40機の全てはその指揮に従え。
また、命令実行に伴う各種判断においては自律思考を許可する。
なお、命令の優先レベルは5。最高レベルだ。
……ではリーダー、オペレーション開始だ。号令を」
「―――出発!」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』
『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』
40の智機たちが、一斉に唱和した。
↓
【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
【レプリカ智機・リーダー(N−28)】
【現在位置:D−3 本拠地入口 → F−6 小屋2付近】
【スタンス:火災対策タスクの現場監督】
【所持品:】
【備考:3機のDシリーズ、6機のPシリーズ、31機のNシリーズが指揮下に】
※ 本拠地にはメンテナンス中の智機本体×1と、レプリカ×3が存在。
※ レプリカは代行N−22、オペレータN−27と智機が同期している機体。
※ 前報酬の強化パーツ1個は倉庫で厳重に保管。開錠方法はオリジナルのみ知る。
※ 学校からザドゥ救出に向かった4機は消息不明。
>>628
×【レプリカ智機・リーダー(N−28)】
○【レプリカ智機・リーダー(N−29)】
「だって、あいつは(略」本スレ投下の折のご支援、ありがとうございました。
遅ればせながらお礼申し上げます。
さて、以下7レス「そらをみあげて想うこと」の仮投下を行います。
次回仮投下予定は「カモちゃん★すらっしゅ!」。
ザドゥ、芹沢、救援レプリカ登場で、来週末までに仕上げる予定です。
>>542
(二日目 PM6:21 D−6 西の森・小屋3付近)
高町恭也は小休止を取っていた。
慣れぬ角度への飛針投擲と視線移動を続けたことで肩と首筋に張りを感じたからだ。
常日頃よりマニアと揶揄されるほどの修行三昧の日々を送っていたこの少年は、
休むべき時に休むことの利を経験上熟知していた。
りん……
秋の虫の声が、恭也の耳朶をくすぐった。
彼はその澄んだ音色に、澄んだ瞳と澄んだ声の少女の面影を連想する。
「仁村さん―――」
守ると誓ったどこか危うさのある少女。
恭也の胸に奔るは疼痛。
恭也個人の心情としては、今すぐここを飛び出して彼女を探したいと思っている。
しかし、滅私済民の精神を礎に数百年間磨き上げられてきた『御神』という歴史が、
師範代である彼の私心を押さえつける重石となっていた。
打倒主催者という大局観。
恭也は―――否、恭也に根付いている御神真刀流の精神は、それを至是とした。
要人を守ることで社会を守る。
御神真刀流の存在意義。
恭也は御神として己に問うた。
(悲願・主催者打倒を成す為に、守らねばならぬ要人とは誰か?)
回答は明らかだった。
月夜御名紗霧だ。
彼が紗霧に従うと宣言したことは、この判断に由来する。
回答は明らかだった。
仁村知佳ではない。
思慕を貫き大局を見失うことは唯の我侭だ。
結論は既に出している。誓いという形で己を規定した。
それでもなお―――
高町恭也の胸の奥で、仁村知佳は燃えていた。
(いかんな。また俺の心が揺れようとしている)
思考の渦に飲み込まれる寸前、恭也の理性が警告を発した。
意識を切り変えるために立ち上がり、空を見上げた。
深呼吸を何度か。
振り仰いだ上空に赤い尾を引く星が流れた。
北の空から東の空へと。
「流れ星、か」
恭也は祈った。
御神の名に縛られぬ、裸の心で。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
>>556
(二日目 PM6:21 E−7 廃村・井戸付近の民家)
仁村知佳は潮風にさび付いた窓枠に背中を預け、一人震えていた。
陽の光が自分の能力と心の平衡を回復させる。
その時間が終ってしまったから。
彼女は次の朝を迎えるまで、2つの闇と戦わねばならない。
視界を塞ぐ夜の闇と、衝動的な破壊をもたらす心の闇。
伏せられた長い睫毛が年齢にそぐわぬ憂愁を醸し出している。
その慎ましやかな胸の奥に抱いているのは孤独感。
仲間たちと袂を分かってから半日と経っていない。
それでも、淋しい。人恋しい。
「恭也さん―――」
この島に来てから、その孤独感を忘れさせてくれたのは彼だ。
自分の手を引いてくれた高町恭也の逞しい背を思い出し、
仁村知佳は可憐な頬を染める。
守ってもらえることが嬉しかった。守ってあげられることが嬉しかった。
依存ではなく利用でもなく優劣もなく、真心で相手を気遣い、支え合う。
短い付き合いではあるが、恭也と関係は知佳にとって理想的なものだった。
「―――会いたいよ……」
知佳は思わず呟いた言葉が震えているのを知った。
目頭に熱を感じた途端、堰を切ったように涙が溢れてくるのを感じた。
思い出もまた、涙と共に溢れてきた。
荒んでいた幼き日の思い出が。
念動力の暴走と人の心が読める故の不信感から周りを傷つけ、
座敷牢の如き離れに隔離されていた日々。
真実の心を姉・真雪に看破され、愛情を注がれるようになるまでの知佳は、
淋しさを破壊衝動に置き換えることで孤独感から耐えていた。
「あはは…… 弱くなっちゃったなぁ……」
その後、人と接する事と能力を制御することを覚え。
いつしか、さざなみ寮の仲間たちの暖かさと真心に触れ。
頑なだった心は日々癒され、柔くほぐされてしまっていた。
故に、幼き日には耐えられたはずの孤独感に耐え切れず、
ここに来て知佳は、遂に涙腺を崩壊させてしまったのだ。
恭也に己の醜い心の在りようを知られるのを恐れる気持ちと、
制御を離れたXX障害の暴走で彼を傷つけてしまうことを恐れる思慮。
感情と理性がそれぞれ導いたこの2つの恐れから、彼女が決めた別れだった。
それでもなお―――
仁村知佳の孤独な心は、高町恭也を求めてしまう。
涙を拭かぬまま見上げる滲んだ夜空に、恭也の面影を映してしまう。
その滲んだ視界の先に、赤い尾を引く星が流れた。
「ながれぼし?」
知佳は祈った。
両腕を額の前で組み、瞳を閉じて、心の底から。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
偶然の一致では片付けられない何かが、2人の間にはあるのかもしれない。
知佳は廃村の片隅で。
恭也は西の森の中で。
2人の立つ場所は距離を隔ててはいるけれども―――
「「あの人が、無事でいますように」」
同じ時間に同じ夜空を見上げ
同じ流れ星を見つけて
同じ祈りを捧げたのだから。
2人は名残惜しそうに、雲間に吸い込まれてゆく赤い星の尾を見つめる。
暫くのち、その雲だと思っていたものが煙で、発生源が東の森なのだと気づいたのも
また、同じだった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
2人の見た『赤い流れ星』は東の森の上空、約15mの地点で静止していた。
「落下ポイントに到着した。これよりフェーズⅡに移行する」
『赤い流れ星』は立ち込める煙の中で咳き一つすることなく、
冷静な声で通信機の先にいる同胞に状況連絡を行った。
そう、この『赤い流れ星』はレプリカ智機。
カタパルト投擲からの飛翔にて救援物資と共にザドゥの直接援護に赴いた1機だ。
纏うのは宇宙服が如き銀色の防熱スーツ。
下げるのは救援物資のみっちり詰まったボストンバッグが2つ。
背負うのは個人用噴射型離着陸機。
恭也と知佳が捉えた赤色の光は、この離着陸機のバーナーだった。
『ザドゥ様の無線が不安定で、十分なナビゲーションが出来ないのだよ。
大事を取って予定ポイントの10mほど北で降下準備を行ってもらえるかね?』
「Yes。了解したよ、リーダー」
レプリカは頷くと、懐からカードの束を取り出した。
↓
【高町恭也(元№08)】
【現在位置:D−6 西の森・小屋3付近】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残弾×4)、保存食、
釘セット】
【能力:小太刀二刀御神流(奥義神速は使用不可)】
【状態:失血(中)、疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
痛み止めの薬品?を服用】
【仁村知佳(№40)】
【現在位置:E−7 廃村・井戸付近の民家】
【スタンス:恭也達との再会、主催者達と場合によっては他の参加者達の
心を読んでの情報収集。
手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める。
恭也が生きている間は上記の行動に務める】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
ところで、そろそろ新スレを立てようと思うのですがよろしいですか?
その際のテンプレは、基本的に第6部のものと同じで、
変更箇所は以下数点にしようかと思っています。
1)冒頭のコメント
再開 → クライマックス、近し。
2)過去スレ・過去関連スレの対応
前スレ → 第六部
過去スレ一覧に 第五部 追加
葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所 の追加
3)運営側人物欄
素敵医師に×マーク
時期、内容等にご意見ありましたらお願いします。
連日の仮投下乙です。
>だって、あいつは……〜
あーあの頃は平和だったんだなあ……。
双葉の内面描写がよくされていて、いろんな意味で自暴自棄な彼女が痛々しい。
希望から絶望に変わる『ねむりひめ』の別視点SS……GJでした。
アインもそうだけど、他の参加者との同行を避けてたのが痛いなあ。
『終わる長い夢』は容量的にも埋められないくらいのサイズで
次スレで投下するのもなんですので、次回のまとめUP前にここに投下してから
今の本スレで修正の報告をして完了とします。
投下は月曜日になると思います。
先日、投下したSSは時間的にも>>579 の『無題』との兼ね合いは無理ですので
加筆したのをアナザー行きにします。
本投下した場合は喧嘩はカットしましたけどね。
小屋行き断念と首輪を回収しなかった理由付けがメインでした。
次スレのテンプレについては何ら問題ないと思います。
時期については次のSSの本投下後に、こちらが『終わる長い夢』の修正報告。
それから次スレを立てて、即死回避用に一本SS投下。
次に今スレに次スレの誘導のレスを投下してから、今スレを埋めるというのでどうでしょう?
>最優先事項
>「ケイブリスの協力は得られそうかな?」
なるほど、ケイブリスとの会話中に行動開始でしたか……。
此方が現在今執筆中の後編では、
戻ってきて状況確認したら既に分機が行動開始していたのでそのことも含めてケイブリスと会話中。
(分機がある程度動きだしてしまってるのを知った上でのこれからどうするかの会議)
と言う感じでした。
不都合がなければ最優先事項 (5/14)の後半の該当部分を少しだけ変更と言うのはできないでしょうか?
今後の都合も含めて不可能なら、こちらの方で途中で気づくなり何なりちょっと流れに変更を入れようと思います。
>>639
>先日、投下した
>607-611のことですよね。
最優先事項の時間の兼ね合いから、『無題』が終わるまで30〜40分程時間があります。
例えば、
>あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
からの部分を>607-611にあわせて変え、その間に起こった出来事として当てはめる。
冒頭部分のバッドを構えてるシーンからを>607->611の終了から繋ぐように変える。
このどちらかなら無理なく挿入できると思いますが、どうしましょうか?
>>638
私もOKだと思います。
細かい部分は建てる前に一度ここ(避難所)に投下して確認で良いのではないでしょうか?
>639
>時期については
『無題』が状態表含めると30KBくらいになるので、良ければ次の話の投下後に新スレ立てと新スレへの『無題』の投下を兼ねてやりましょうか?
ご意見ありがとうございます。
あと1本、現本スレ(第6部)に投下を、ということのようですので、
今から「妄執ルミネセンス」を投下してきます。
以下5レス、新スレ(バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部)
テンプレ案を投下します。内容は>>638 で述べている通りです。
これで問題なければ、流れとしては
>>639
> 時期については次のSSの本投下後に、こちらが『終わる長い夢』の修正報告。
> それから次スレを立てて、即死回避用に一本SS投下。
> 次に今スレに次スレの誘導のレスを投下してから、今スレを埋めるというのでどうでしょう?
とし、
>>642
> 『無題』が状態表含めると30KBくらいになるので、良ければ次の話の投下後に新スレ立てと
> 新スレへの『無題』の投下を兼ねてやりましょうか?
のお言葉に甘えたいと思いますが、いかがでしょうか?
クライマックス、近し。
前スレ
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第6部
ttp://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1122229185/
<感想・質問等はこちらへ↓>
関連スレ
【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1091460475/
過去スレ・過去関連スレなどはこちら >>2
参加者表その1はこちら >>3
参加者表その2はこちら >>4
主催者表はこちら >>5
割り込み防止用 >>2-10
常に【sage】進行でお願いします
【過去作品スレ】
バトル・ロワイアル【今度は本気】第5部
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1053422142/
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第3部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1029/10293/1029399672.html
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1012/10127/1012701866.html
リアル・バトル・ロワイアル。【今度は本気】
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html
過去関連スレ(共に消失)
【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=008871626
【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729
葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所
ttp://d1s.skr.jp/ergr/top.html
編集サイト(現在休止中?)
tp://syokikan.tripod.com/
◆参加者1(○=生存 ×=死亡)
○ 01:ユリーシャ DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作 遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作 臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作 鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト
× 07:堂島薫 果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也 とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈 大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦 ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト
× 13:海原琢磨呂 野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト デアボリカ@アリスソフト
× 15:高原美奈子 THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン
○ 16:朽木双葉 グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人 最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼 夜が来る!@アリスソフト
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver) 果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一 悪夢、絶望@StudioMebius
◆参加者2(○=生存 ×=死亡)
× 21:柏木千鶴 痕@Leaf
× 22:紫堂神楽 神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙 君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛 ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男 Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂 五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア
× 33:クレア・バートン 殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛 家族計画@D.O.
○ 36:月夜御名紗霧 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健 Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる ねがぽじ@Active
× 39:シャロン WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳 とらいあんぐるハート2@ivory
◆運営側(○=生存 ×=死亡)
○ 主催者:ザドゥ 狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
× 刺客1:素敵医師 大悪司@アリスソフト
○ 刺客2:カモミール・芹沢 行殺!新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機 將姫@シーズウェア
○ 刺客4:ケイブリス 鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 監察官:御陵透子 senseoff@otherwise
以上です。
ERROR!
リンクURLを含む投稿を許可しない設定になっています。
掲示板内の規制に関しましては掲示板管理者へお問い合わせください。
とのことでしたので、http の h を抜いて書き込みました。
お手数ですがスレ建て時には、外部(避難所等)以外のリンクに
h を加えていただけますようお願いします。
>>640
該当箇所を以下のように修正しようと思います。
どうでしょうか?
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「オリジナルと密談中のケイブリスからは、協力が得られそうかな?」
「まず無理だと判断するよ。部屋の鍵が掛けられているし、無線にも応答しないからな」
「おまけに室内には電磁シールド。音声すら拾わせない念の入れ様だ」
N−22は思い出す。数分前、オリジナル智機が管制室に戻ってきた時のことを。
何故、起動できた?――― DMN権限を取得したからね。
何故、取得できた?――― 最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので。
その2つの質疑応答のみで、オリジナルは管制室を出て行った。
彼女は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。
(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)
ゲーム進行の円滑化という判断基準が、N−22のオリジナルに対する考察を封じた。
優先評価点が高い事項を差し置いて、低い事項が取り上げられることは機構上有り得ない。
>>641
あ、本投下してもいいんですか。
ありがとうございます。
方法はどちらでも構いませんので。数分間の出来事ですし。
追加部分の投下は『終わる長い夢』の直後になると思います。
『終わる長い夢』は遙やタカさんの事にも触れられているので、
内容的にまずいんでしたら本スレの報告の際、そのレスアンカーを除きます。
>>643
OKです。
>>643 -
此方もOKです。
>>650
お手数かけてすみません。
ありがとうございます。
これでOKそうです。
>>651
では、少し修正を加えますね。
ということで修正を加え、明晩に新スレ立てと本投下を行なおうと思います。
大丈夫でしょうか?
>>652
大丈夫です。
投下は午前1時前後になりそうです。
>>614 ->>628
(二日目 PM6:13 東の森・双葉への道)
広場中央には長谷川の姿はなかった。
辺りは炎と煙に囲まれ、巨木の近くにいただろう、双葉の姿を確認する事もできない。
「た……」
さっきから耳鳴りがする。巨木が倒れた時からだ。
わたしはそれに構わず、追跡を続行するため、即座に広場の外周を観察した。
「そこね」
一ヶ所だけ火が途切れてる箇所があるのを見つけた。
罠の可能性も考えて、わたしは他に抜け道がないかどうか観察する。
……今度は見当たらない。長谷川はあそこから逃げたのだろうか?
ドズンッ!
「!」
背後に大きな物体が落ちる音がした。
燃え盛る音と熱風が一層強くなったような気がした。
耳鳴りもいっそう強くなった。
わたしは他に道は無いと悟り、抜け道の入り口まで走った。
「え……」
目の前が急に暗くなった。
わたしは急停止し、不安を打ち払うように視線を下にして目を何度も瞬かせた。
徐々に視界が元に戻り、それから地面を凝視すると火に照らされた枯れ草がはっきり確認できる。
幸いにも視覚障害に陥った訳ではなさそうだ。
これもカオス使用の副作用だろうか?
わたしは前を見つめつつ、姿勢を低くしながらゆっくりと走る。
この道もわたしを誘い出すためのものだろうか?
……別にそれでも構わない。
いくら翻弄されようと最後に奴をこの手で始末さえできれば、それでいい。
病院で撃った時、猛獣でさえ殺せる攻撃を当てたのにも関わらず奴は生きていた。
だから今度こそ追いついて、確実に始末する。
その後、わたしは火災から逃げる時間と余力を失い命を失う事になる。
それでもいい。
遙を……ようやく持てたわたしの夢を踏みにじったあの男を始末できれば、それでいい。
……キーーーーーーーーン…………
うるさい。
わたしは耳鳴りを打ち消すように頭を振る。
双葉の生死は確認できてない。
彼女の扱うまやかしを警戒し、眼前の道自体が幻でないかどうか凝視する。
経験上は安全……それ以上は判断の材料もないのは確かだけれど、行くしかない。
最悪、無駄死に覚悟でその道にゆっくりと足を踏み入れる。
進んで行くと、両端には遠目ながらも燃え移っていない木や草がところどころ確認できた。
わたしは姿勢を屈め、ゆっくり前進していく。
うっとうしい耳鳴りは未だに続いている。
戦闘に支障がなければいいのだけれど……。
左目が失明してるのはもとより、胃とわき腹も痛む。
力を出し切れるだろうか……アインである以上命を失う事に恐れはない。
けれど……。
長谷川は2人がかりだったとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手。
簡単にはいかないだろう。
「…………」
ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……
突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
舞った火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながらわたしは進んだ。
耳鳴りに連動するように、後方から熱風が流れる音が聞こえた。
「!?」
足元に異物感。何?
そしていきなり目の前に黒い塊が倒れてきた。
ドンッ!!
大木の欠片が砕け、周囲に飛び交う。
遅れた!
わたしは息を止め、腕で防御しながら全速力で迂回する。
すぐ横には火が上がっていたが、数センチぎりぎりの距離で通り過ぎた。
距離を置いてから、一瞬だけ振り向き、後方から火の手が来ないのを確認した。
息継ぎをしさらに前進した。
「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」
しまった。
火の粉はわたしに移らなかったが、少し煙を吸いこんでしまった。
「ごほっごほっ……ごほっ……」
わたしはすすを吐き出そうと懸命に何度も咳をした。
胃と肺も痛んだ。
そんな状態でも耳鳴りは続いてる。さすがに困った。
「はぁ……はぁ……」
わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
……火が広がるのが早すぎる。
あの子供が放火して回らない限り、ここまで早くはならないはず。
双葉が再度あの子を言いくるめて、放火の指示を出したのだろうか?
……彼女の性格上それが出来るとは考えにくいが、可能性はゼロではない。
もし、この先にあの子供と双葉が生きて、長谷川と一緒にわたしを待っているとしたなら。
カオスがない今、それこそ……
「地獄ね」
…………こんな陳腐な台詞は自らの不幸を嘆いて言ったわけじゃない。。
口にしなければよかった。
これから先、わたしがどんな最期を迎えたところで、この島でも、現実でも悪い方向での大きな変化はないに違いない。
ただ……玲二に心配をかけてしまうかも知れないのが心残りだけれど。
それに、この火災にしたって、わたしと長谷川以外で死ぬのは一人も出ないかも知れないのに……。
「……っ」
腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。
一体、何?
右目で左腕を見た。
服の裾が燃えていた。
「!?」
わたしは火を消そうと、屈んで左腕を地面に擦り付ける。
あの時、着火していた。
そんな、気づけなかったの?
わたしは懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。
「……」
わたしは呆然としながら、おぼつかない足取りながら進んだ。
自ら吐いた息が冷たく澱んだもに変わったような気がした。
焼けた裾の布を払った。
見ると左腕に火傷があった。
少し痛むが動きに支障がない軽度のものと判断できた。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。
こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まって、冷や汗が流れ落ちた。
戦闘や訓練で傷を負ったことは幾らでもある。
けど、こんなつまらない事で怪我をしたことは記憶のある限りない。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それはまたも石だった。
……頭が痛く、暑いはずなのに何か寒くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足も重くなったような気がした。
「わたし……」
思わず出した呟きは力なかった。
わたしは落ち着きを取り戻そうと、心を静めようと目を瞑り自身をコントロールしようとした。
それを実行する前に――目の前が突然真っ暗になった。
□ ■ □ ■
――今日、わたしはここを出る。
目の前には薄暗く、古びた木の板で作られた部屋がある。
わたしは手荷物を下ろし、腰を降ろして両手をあごに乗せて感慨深げに部屋をみた。
家具などはなく、部屋はがらんどうだった。
そこは昨日までのわたしの居場所。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られた。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。
……でもわたしはそれほど自分を不幸だと思ったことはない。
聞いた話だと、わたしの故郷と思わしき国は飢饉に見舞われて、
多くの人は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
ここに連れてこられなければ、飢え死にしていたのかも知れない。
そう思えばあまり辛くなかった。
この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要だろう。
何度も町の外を見ていただけにわかる。
外で生きていくのには積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、
選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いなかったから。
それはできない。
いつの日か、憂さ晴らしにわたしを虐めに来た子を返討ちにした時でさえ、
やりすぎて大怪我させたあの子の友達からの、非難と恨みのこもったまなざしには結構応えたんだ。
わたしはいくつもの深い恨みを買ってまで、ずぶとく生きて行ける自信なんて多分ない。
そんな不毛な道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいいと思う。
……あまりいいところとは言えないけれど、ここでよかった。
勉強させてくれたし、周りの人が結構気遣ってくれたのが解っていたから。
……けれど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを養女にしたいと申し出にきたどこかの国のお金持ち。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。
引き取り先が外国の軍隊とかだったら、どうしようかと思ってただけに安心した。
左の薬指が少し痛んだ。
わたしは怪我した指を見た。
数日前に料理を作ってる時に、切ってしまったんで包帯を巻いてある。
この間は火傷をした。
やっぱり無理よ。
「……」
外国に行くのに少し、恐い気持ちもある。
あの人にちょっとうさん臭い所があるのは確かだし、この家への未練があるのも確か。
けど、こんな理由で拒むわけにもいかないし、断ったところでもうこんな機会は訪れないかも知れない。
ここには大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ負担が減る。
何より周りの子に疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
これでいい……さみしいけれど……。
わたしは立ち上がりつつもう一度部屋を凝視した。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
お香を買ってもらえなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたこと。
わたしは笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえる。強い風が吹いてるのだろうか?
わたしは窓際まで行き、窓を開ける。
冷たく、心地よい風が流れ込んできた。
あと5分くらいで迎えに来るはず。
向こうにもこれくらい良い風が吹いているのだろうか?
わたしは窓から空を見上げた。
雲がほとんどない青い空が広がっていた。
いい天気……。
ここはいい所とはとても『外』では言えないけれど、それでもわたしの人生の大半をすごした場所。
今日、この日だけは良い所だったとひとりで思いたい。
来る事はもうないけれど、ここを発つ今日という日は忘れない。
わたしの夢。
いつの日かわたしが――。
目の前には地面。
わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめ、前倒しになるのを防いだ。
息を荒く吐き、ゆっくりと顔を上げる。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実。
やや上方を見た。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスと判断し、歩行スピードを少し上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められた。
耳鳴りは続いていたが、さっきよりは小さくうるさいと感じられない。
「…………」
吹雪。枯れた草。動物の鳴き声。見知らぬ大人たち、車の中。白い肌のわたし。
古い建物。 長い髪。中年女。お香。古びた窓。怪我した子供。こちらを睨む子供。銀髪の中年男。
一瞬、気を失った時見えたこれらの映像は、白昼夢か、双葉のまやかしか、
カオス使用における後遺症だったのだろう。
気にしてはいけない。
わたしの心と肉体は奴を殺す事で占められなければならないから。
なぜならどれもこれも身に覚えはあるけど、あやふやで気の所為にできるものだから。
現に、わたしに迷いは……。
「え……」
意に反して足は止まった。
気を取り直し小走りに進もうとした、ゆっくり歩いたのみだった。
「何故……?」
耳鳴りがまた強くなった、それに頭が痛く、いえ何か鮮明に……。
脳裏にさっき見た映像のようなものがゆっくりと順に浮かんでいく。
一巡りすると、耳鳴りがまた小さくなり、映像は浮かばなくなった。
もう一度、思い出そうとした。
一瞬だけ、銀髪の男の映像だけが出たがすぐ消える。
わたしは反射的に空を見た。
目に入ったのは炎と黒煙。
嫌な光景……。
また思い浮かべようとする、鮮明じゃないけどぼんやりと何かが浮かんだ。
しかし、浮かぶのはここまで、それ以上深くそれらを知ることはできそうになかった。
銀髪の男が何者であったか以外は。
「走馬灯なの? わたしがそんなものを見るとはね……」
わたしは鼻で笑った。
誤魔化すように。
走馬灯ならこれまで記憶にあったものが、浮かんでくるはずなのに浮かばなかった。
夢にしてはひどく心を引き付けられる映像……いや記憶。
あの銀髪の男がかつてのマスターと同一で。
その映像にいたサイスに対して、懐かしくも新鮮さを感じたという事は……。
何よりそれらを心の奥底で否定できないのは何故。
さっき浮かんで、もう思い出せない記憶を何故わたしは強く求めてるの?
けっして夢でも走馬灯でもない。
これは……。
わたしは足を止めて言った。
「死と地獄を受け入れる覚悟は……していたつもりだったけど、これはなかったわ」
声が震えていた。
長谷川らに事前に薬を打たれていたからだろうか?
一酸化炭素中毒の所為だからだろうか?
カオスを使った後遺症だからだろうか?
理由はいい。
断片的にしか蘇ってない記憶を、サイスに消された記憶をこれから取り戻す事ができるなら。
これから先……。
わたしは顔を睦向かせて、頭を振った。
……けれど 。
「駄目……ごめんなさい玲二」
わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名をかすれた声で呼んだ。
元の世界で再会してその事を伝えることができたなら、どれだけ彼を安心させることが出来るだろう。
でも……それはもう叶わない。
何故なら、わたしにはもうひとつしか進める道が残されてないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見た。
「……わたしはできるの」
もし長谷川に倒されてしまえば、奴の欲望を叶えるだけの人形に変えられてしまうだろう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
弱くなったわたしに奴を殺すことができるの? できるの?
「……」
わたしは右手を上げて……
拳を額に叩き付けた。
「…………何を弱気な事を言ってるの」
痛みとともに、不安が消えていくのを感じた。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を恐れてるの。
倒れてた遙を殺さなかった時点で、もう心は決めていたはずなのに。
「遙」
彼女を手にかけ、長谷川に踊らされたと知ったとき、遙の心を理解できず守りきれなかった悔しさと絶望、
そして奴に対する憎しみがわたしの心を支配した。
だから最初の誓いの代わりに、奴を追い始末することを目的に変えてここまで来た。
わたしは遙が持っていた写真に写っていた光景を思い出す。
許す訳にはいかない……どんな人も実験材料や玩具としてしか見ない、長谷川やサイスのような奴を。
たとえ届かなくても……追うのを止める訳には行かない。
不意に視界が一瞬暗転し、戻ると声が聞こえた。
『頼むよ……』
女の人の声。
昨夜、わたしが殺めた……大柄な女の人の遺言だった。
胸が微かに痛んだ。
わたしは追跡を再開した。
「ひどいわ……」
わたしは小さくつぶやいた。
彼女はわたしに殺害を依頼してから、そう言って眠りについた。
迷ったけれど、彼女の依頼どおりに殺害を実行した。
魔窟堂と別れる口実にする意図が、全くなかったと言えば嘘になるかも知れない。
それでも……名前を思い出せないけれど、残された羽を生やしたあの少女の事を思うと、
この島に来るまで無抵抗の人を殺せなかったわたしにとっても、彼女の頼みは酷だと思った。
あの少女が素人同然の力しか持ってるようにしか見えなかったとはいえ。
憎しみが人を強くするとはいえ。
わたしと同じ道を歩ませた挙句、再会さえしないまま勝手にここで果てるのも酷いと思う。
また視界が暗転して、またさっきの記憶が幾つも浮かんで、新しく記憶もいくつか浮かんで消えた。
「……」
今度はサイスの記憶だけじゃなく、いくつかの記憶が脳裏に残った。
わたしは奇妙な充実感を感じて、わずかに身体を震わせる。
こんな道を歩んでいなければ……生き残って――遙たちと一緒に主催を倒せたならどれだけ良かった事だろう。
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せればそれで良かったとさえ思っていたから。
だけどもし願いを叶えられる程の力が、やり方次第で自称神以外にも利用することが可能だったなら。
何らかの形でもこれまで犯した償いようがない過ちを償うことが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深く深くため息をついて、言った。
「もう、これでいい」
記憶を完全に取り戻せなくても、いい。
これだけ思い出せただけでも充分よ。
わたしは長谷川を初めとする主催者達の事を考える。
長谷川は主催いう名の複数ある駒の一つに過ぎない。
ザドゥに遠く及ばない奴相手でさえ、わたしはあそこまで翻弄され続けた。
他の強大な力を持つ主催者たちはいる。
そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに奴を殺せたとしても、この火の中、わたしが生き残れる手段は思いつかない。
そして失った記憶を完全に取り戻すのを待てば、奴を始末する時間がなくなる。
もう手遅れなんだ。
「ごめんなさい……」
わたしは搾り出すように目を瞑りながら言った。
声はかすれて、目が痛かった。
これを最後に、もう叶わないだろう希望は考えないことにする。
心は凍てついたままでいい。
今は残る力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。
わたしはまっすぐ前を見つめ、今度こそ迷わず先を進んだ。
↓
>>610
まひるはその様子に不吉さを感じて、思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。
「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」
動転しながらまひるは何とか答えた。
「そうか……」
ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。
「残念だ」
そんなランスを見て、ユリーシャは苦笑いをした。
「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
「あはは……」
ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続ける。
「着ませんよ」
紗霧は不機嫌な声で言った。
魔窟堂の表情が落胆に沈んだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれる。
未だに『それ』を両手に持ったままのまひるを見ながら恭也は思った。
(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)
さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じた。
「まさかと思いますが……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「…………」
魔窟堂は思った。
(その発想は無かった)
紗霧は沈黙を肯定と受け取り言った。
「見限られたいんですか、ジジイ」
「さ、紗霧殿!どうしたんじゃ? おぬしやけに短気じゃぞ!」
バットを握り締めた紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫ぶ。
メイド服とデイパックを恭也に預け、たまりかねたまひるが2人の間に入った。
事態は何とか収拾しそうだった。
↓
【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。
遅れてしまいましたが、何とか仮投下完了です。
明日以降、修正報告と次スレのアドレス投下の後
無題改め『Why?』を投下します。
修正&新スレ立て&テンプレ貼り&投下完了しました。
ま、まさか投下完了に一時間半もかかるとは!
それでは予定した通り明日はちょっと無理かもしれないので明後日辺りに後編を投下します。
これから『Why?』の本投下を始めます。
投下完了です。
所々削ってしまいましたが、なんとか埋め立てられました。
>>672
新スレ立て&作品投下お疲れ様でした。
仮眠とっていて支援できずに申し訳ない。
メイド服ネタを使ってくれてありがとうございます。
細かい感想と予約は今晩に。
投下お疲れ様です。
改めてみて無事スレ立てできてたので一安心。
自分もこういうネタ大好きなのでついつい使いたくw
昨日書き込んだ通り、今日中はちょっと無理そうです。
明日か明後日辺りに……。
後編の後はそのまま交渉話を書こうと思います。
詳細は後編の仮投下後に。
楽しみにしてます。
今回は内容が短くなり、探知レーダーので少し説明不足のところがあったので
まとめUP時にカット部分を含めた追記箇所の報告をできれば1レスにまとめて本スレで投下します。
感想を
>妄執ルミネセンス
アインー!双葉ー!
まさか素敵医師の遺品が仇になるとは思いませんでした。
てっきり狂乱かつ血みどろな直接対決が繰り広げられるものだと。
やはりと言おうか、極限まで追い詰められた二人の執念がすごい。
そして不器用だ。
どう転んでも悲惨な末路しか見えない展開……これはこれでGJでした。
>その先に見えるものは
久々に頼りになれそうな魔窟堂とランスを拝見させてもらいました。
素敵医師って魔窟堂にまで嫌がられていたのかw
考察の中でもそれぞれのキャラがたっているなあ。
学校襲撃案やラストのレプリカ智機の申し出といい
急展開でスリルもあって面白かったです。
透子、レプリカN-22(ちょい役)、鬼作(回想)、メール欄で予約します
時間軸は『絶望』のすぐ後です。
タイトルは未定で、仮投下は土曜の深夜になると思います。
それを過ぎたら一旦予約破棄します。
内容的に少し話を進展させても大丈夫だと思いますので、期間が過ぎた場合は構わず予約してOKです。
追記
>>676 についてはメール欄にしようと考えてます。
旧スレ埋め立て、新スレ建て、ありがとうございました。
今日より仮投下で溜まった4本を、1日1本ずつのペースで
ちびちびと新スレに投下してゆこうと思います。
後述しますが、次の投下予定に知佳がいることから、
まずは「そらをみあげて想うこと」から投下させていただきます。
あと、予約状況の確認なのですが、下記の3本でよろしいでしょうか?
・智機&ケイブリス
・6人組+レプリカP−3
・透子とレプリカN−22等
次回予定は「はたらくくるま」。
知佳と学校から鎮火に向かう6機のNシリーズが登場予定、
来週水曜を予定しております。
この話の中で、地下通路に駐車してあり学校建て直し時にも
使用したとして、(メール欄①)を出そうかと目論んでいます。
問題ありましたらご一報を。
さて、最後になりましたが。
以下11レス「カモちゃん★すらっしゅ!」を仮投下致します。
>>???
(2日目 PM6:21 G−3地点 東の森北東部)
素敵医師の最後っ屁たる2種の爆弾が双葉とアインを襲ったのとほぼ時を同じくして、
脱出行を繰り広げるザドゥと芹沢の近くでもまた、爆弾が炸裂していた。
「フェーズⅡクリアだ、リーダー。フェーズⅢに移行するが構わんかね?」
それはザドゥ救助タスクチームのオペレーションの一環だった。
フェーズⅡ―――爆破の衝撃で炎や木々を吹き飛ばす事での、落下ポイントの作成。
カタパルトにて投擲され、噴射型離着陸機にて上空に漂うレプリカ智機の手から投下された
16枚のカード型爆弾の束は、森に直径5m程の浅いクレーターを穿ち抜いていた。
『Yes、了解だ。こちらもどうにか意図をザドゥ様に伝えることができたよ。
後のフェーズは予定通り行なってくれ。イレギュラー発生時にはこちらから指示を出す』
「Yes、リーダー」
フェーズⅢ―――救援物資と自身の投下。
レプリカは離着陸機の制御ソフトにて当該機を自動操縦モードへ切り替えると、
小型落下傘を展開しつつ離着陸機よりクレーターへと跳躍した。
対する離着陸機は無人のまま南西方向へ進路転換しつつ、緩やかに下降曲線を辿り、
暫く後、地面への衝撃を待たずして爆散した。
その様子を聞き、降下予定地点への着陸を無事に終えたレプリカは思案深げにひとりごちた。
「ふむ。やはり燃料タンクの耐火性は低かったようだ。
離着陸機にての空中救助のプランを採らなかったのは正解だな」
煙のカーテンを手にした魔剣で切り裂いて、憔悴しきった様子のザドゥと、
土気色の顔色をしているのにハイテンションなカモミール・芹沢が到着したのは、
レプリカが救援物資をバッグより取り出し終えた頃だった。
「ねーねーねーザッちゃんザッちゃんザッちゃん」
「ダメだ」
「ぶぅう。まだなーんにも言ってないのに」
「どうせカオスを貸せと言うのだろう?」
「いーーーっだ! ザッちゃんのけちんぼ!」
芹沢がザドゥに無邪気に絡み、無邪気に拗ねて、無邪気に忘れる。
ここに至るまでの数分間、このやりとりは繰り返されていた。
ザドゥは芹沢を肩でブロックしつつ、レプリカに労いの言葉をかける。
「時間どおりとは流石だな、椎名よ」
「それが、3.58秒程遅れてしまったのです。済みませんな、ザドゥ様」
レプリカの返答は謝罪の体裁を成してはいたが、その実、
ザドゥらが遅れて到着したことへのあてこすりに他ならない。
己を軽く見られることをザドゥは嫌う。
故に、彼は椎名智機を虫の好かぬ輩だと感じていた。
とりわけ今回のような自らの優秀さを鼻にかけた態度を疎んじていた。
しかし、今のザドゥは疲れ果てていた。
その慇懃無礼さを頼もしく感じてしまうほどに。
「先ずは酸素吸入を。その顔色は一酸化炭素中ど―――」
「それよりもねえこれ何? ねーねー教えてよともきーん」
「黙れ芹沢。椎名も構うなよ」
ザドゥはまだ気付いていない。
自らの芹沢の扱いが徐々にぞんざいになってきていることに。
彼女に対する口調に苛立ちを隠せなくなってきていることに。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
ここまで全てのフェーズを順調にこなしていたレプリカ智機だったが、
フェーズⅣ実行の段にあたり、予定外の遅滞を招くこととなった。
フェーズⅣ―――ザドゥと芹沢のリペア。
酸素吸入。
栄養剤と解熱剤の投与。
水分補給。
火傷の手当。
レプリカは脱水状態、火傷の度数、一酸化炭素中毒の軽重など、様々な場合を
想定した上で、タスクにかかる時間を5分と割り出していたのだが……
「きゃー♪ ひゃっこいひゃっこい!」
あらゆる事柄にいちいち反応し大人しく指示に従わない芹沢が、
予定を大幅に狂わせていたのだ。
「ザドゥ様、こんどは足です。芹沢の足を押さえつけてください」
「暴れるな」
「だってひゃっこいんだもーん」
《わしもオーラな触手が出せれば手伝ってやれるんじゃがのぅ……
胸を押さえつけたりとか、ジェルをおっぱいに塗ったりとか》
「貴様は口を開くな、カオス」
芹沢の体をザドゥが押さえつけ、レプリカが吸熱ジェルを塗布する。
フェーズⅣの全てのタスクを終える頃には、4分のロスタイムが生じていた。
そして迎えたのはフェーズⅤ―――森からの脱出。
ここからこそが本番。
「椎名、脱出の方策を述べろ」
「Yes、ザドゥ様。炎を掻い潜りつつ徒歩にて脱出いたします」
「今までと変わらぬということか」
「その答えはYesでもありNoでもあります。
徒歩による脱出、という点がYes。手探りで経路を探さなくてはならない点がNo。
今後の経路探索は、私に内蔵されている赤外線センサーとサーモグラフィーにて行ないます。
より精度と安全性の高いルートとなるでしょう」
もう、カオスに頼らなくていいのだ。
ザドゥは胸を撫で下ろす。
その安堵を気取った魔剣がザドゥに軽口を叩く。
《良かったのう、ザッちゃん》
「ふん、まだまだ行けたがな」
ザドゥは強がってはいるものの、カオス使用の疲労感はずっしりと体に圧し掛かっていた。
この合流地点に辿り付くまでに剣を振った回数は17回。
数をこなす度に煙の散らし方はこなれてきたものの、
その一振り一振りに、彼の気力はごりごりと削り取られていた。
虚脱感で膝がふらつくこともあった。意識をもっていかれかけたこともあった。
限界は近い。そうも感じていた。
そのカオスを振るわずとも、視界が確保できるという。
ザドゥの疲労感に染まった心に光明が差す。
「脱出にかかると予想される時間は、出発後15〜20分。
学校からの4機と早期に合流できれば更に短縮されるでしょう」
レプリカは手と尻に付着した汚れを払いながら立ち上がり、
ボストンバッグの一つをザドゥに手渡す。
「私はこれより脱出ルートの模索を開始します。その間に耐熱スーツ等一式の着用を。
なお、酸素吸入器は放置されますよう。爆発の可能性がありますので」
ザドゥがバッグを受け取ると、レプリカはクレーターの北東の端へと歩き出す。
バッグの中に装備は2組。
ザドゥはうち1組を芹沢に手渡すべく、声をかける。
「ひとりで着れるな?」
「うん」
大人しくスーツを受け取る芹沢に胸を撫で下ろしつつ、ザドゥはもう1組のスーツを手に取った。
カオスを地面に置き、両手でツナギ形態のスーツのジッパーを下ろす。
2、3度それを振って着やすい状態にすると、装着のため右足を差し込んだ。
差し込んだ右足のそばに、カオスが無かった。
バッグの脇に確かに寝かせておいたはずの魔剣が。
かわりに、スーツが落ちていた。
芹沢が受け取ったはずのスーツが。
(芹沢は何と言っていた?
必殺技、必殺技ともの欲しそうに繰り返していなかったか?)
ザドゥは慌てて芹沢の姿を探す。
視界に捉えた後方の芹沢は、またしてもザドゥの悪い予感を裏切らなかった。
「せ〜のっ! カモちゃ〜ん★すら〜っしゅ!」
神道無念流―――
略打を唾棄し真打のみを良しとする剛の剣術。
その免許皆伝者であるカモミール・芹沢が構えたるは左霞。
寸刻の後、放たれたるは非打十本の一、霞腋掬。
それは、それだけで既に秘技奥義に数えられる程の技。
そこにカオスの魔人すら屠る魔力が乗ぜられる。
顕れるは即ち「必殺技」に他ならない。
ザドゥには見えた。カモミール・芹沢が掬い上げた剣から迸る衝撃派が。
それは芹沢の胸から肩の高さで真っ直ぐ北北東へと飛んでゆき、
クレーターの最上部を鋭く抉った。
吹き飛ぶ土塊。揺れる木々。飛び散る火の粉。
最適ルートを割り出すべく各種センサーに意識を集中させているレプリカ。
「椎名っ!!!」
ザドゥは言葉の選択を誤った。
「なんです?」
名を呼ばれたレプリカは振り返ってしまう。
斜め後方から、燃え滾る樹木を背に乗せた地滑りが襲い来るのに気付くこと無く。
「避けろ!」
名前に続く警告は、果たして彼女の耳に届いただろうか。
いや、届いたところで到底回避し得なかっただろう。
瞬く間も無くレプリカは地滑りに巻き込まれ、
その頭部を樹木の重量に押しつぶされてしまったのだから。
ザドゥにレプリカ智機の最期を悼む暇は無かった。
斜面の一区画が崩れ去ればあとは雪崩式。
周囲の悉くがドミノ倒しの如く地滑りは連鎖した。
ざざざ。どどどど。
ずぅぅぅぅ……
ザドゥは耐火スーツに突っ込んでいた片足をスーツから抜いた。
しかし恐怖が焦りを呼び、爪先をスーツに取られ転倒してしまう。
「ぬ、ぬ!」
ザドゥ腰が抜けたような無様な格好で土砂から逃れるべく、あがく。
ズボンが脱げない。
転がり、這い上がる。
立ち上がり、転倒する。
足を振る。
足を振る。
ズボンはまだ脱げない。
炎を纏った樹木が迫る。
喚く。転がる。転がる。
樹木を回避する。
ズボンはまだ脱げない。
ザドゥは無我夢中だった。
芹沢を気にかける余裕など無かった……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
巻き上がった土埃がようやく収まる。
ザドゥは辛うじてクレーターを登りきり、難を逃れていた。
脱ごうに脱げなかったスーツはいつの間にか破れ、千切れていた。
「椎名、椎名、応答しろ! 椎名、椎名、応答しろ!」
ザドゥが悲痛な叫びで通信機の向こうへと訴える。
通信機が返すのはザーザーと耳障りなノイズのみ。
(ダメか。ビーコンとやらまで壊れていないといいが……)
通信機能は死んだものの、幸いにしてビーコン機能までは壊れていない。
管制室のレプリカ達がザドゥの位置情報を得ることは可能だ。
しかし、それは既に無意味な機能に成り下がっていた。
ザドゥは知らない。
知る由も無い。
この時、管制室のレプリカ智機達がザドゥを見捨てる決定を下していたということを。
学校から救助に来ていた4機のレプリカが消息を絶ったということを。
「ありゃー、失敗失敗♪」
埋まったクレーターの向こう側から、芹沢が姿を現した。
悪びれた様子もなくてへりと舌を出しながら、ザドゥに向かって歩いてくる。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己がやらかしてしまった失態を理解していれば、
到底できない表情だった。
ザドゥの視界がぐらりと揺れる。
芹沢の状態は正常では無い。
薬の影響が抜けきらず、危機感が希薄なうえ、
次から次へと新しいことに目が向き、集中力が続かない。
それはザドゥにも判っている。
「思ったよりも凄くて、あたしもびっくりだよぉ」
芹沢の行為に悪意は無い。
必殺技という言葉の響きへの純粋な好奇心と、
自分も役に立ちたいという仲間思いの故の行為だ。
それもザドゥには判っている。
「あれー、ともきんはどこー? かくれんぼかなー?」
しかし、結果として。
頼みの綱のレプリカが燃え盛る木に潰されてしまった。
命を繋ぐはずだった耐熱スーツも土砂に埋もれてしまった。
通信機すら破壊されてしまった。
「ねぇねぇザッちゃん、ともきん知らない?」
ザドゥは、もともと短気な男ではある。
攻撃的な男でもある。
カオスから負の影響も受けている。
よくここまで我慢した、と言うべきであろう。
「…………………………っ……」
《やめんかザッちゃん!》
気配を察したカオスの静止はザドゥに届かない。
てとてとと駆け寄ってくる芹沢は、ザドゥが纏う剣呑な空気に気付かない。
ザドゥは声を震わせて拳を強く握り込む。
「……この馬鹿女があッッ!!」
技術も込めず、気も込めず。
ただ怒りのみを込めたザドゥの拳が芹沢の横っ面を打ち抜いた。
↓
【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G−3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(中)、ダメージ(小)、カオスの影響(小)】
【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力増大、ただし発動中は重量増大、使用者の体力を大きく消耗させる)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:アッパートリップ、脱水症(中)、疲労(中)、腹部損傷】
※ 通信機は故障。通信機能は死にましたが、ビーコン機能は生きています。
※ 2人とも救援物資のお陰で疲労と怪我が多少癒えた模様です。
>>678-689
仮投下&本投下乙でした。
予約状況とメール欄も問題ないと思います。
>そらをみあげて想うこと
思慕を抑えてまで、最善の方法を取ろうとする二人が健気。
XX障害の暴走による恐れが、知佳離脱の理由の一つとして強調され
ますます合流が困難なものに見えました。
とらハキャラらしい描写が良かったです。
カード型爆弾……便利そうだなー。
折角支援を頂いていたのにもかかわらず……
やはり貴方は投稿しすぎです。バイバイさるさん。
合言葉=好きな車は?
が出てしまいました。
どなたかこのレスに気づかれた方がいましたら、
済みませんが以下5レス、代理投下をお願いいたします。
それをね。
今まで何も望まなかったわたしが望んだたった一つの物をね。
わたしは手に入れたの。
わたしの技術と
わたしの経験と
わたしの知恵を
わたし自身が
わたしの為に働かせて
わたしの為に駆使して
わたしの願いを
わたしが叶えたの
わたしの全てを、わたしだけの為に使って。
だからね、はっきりといえるわ。
わたしの人生は幸せなものだったと―――
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「……ぁぃ…、… ……ぁわ……」
アインの告白は言葉になっていなかった。
既に死しているような怪我を妄執の力によって動かしていたのだ。
その妄執が解決されれば急速に崩れてしまうことは自明だった。
「なによその顔はぁっっ!!」
一度は覇気を失っていた朽木双葉が絶叫する。
アインのうわごとは聞き取れないし、聞き取りたくもない。
なぜならアインは笑みを浮かべているから。
安らかであどけない、幸せそうな顔をしているから。
「笑うな!! そんな満ち足りた顔をするな!!
こっちを見ろ! あたしを見ろ!」
満ち足りて死ぬ――― そんな身勝手な死に様、許すものか。
なんとか、どうにか、このまま逝かせるのだけは阻止しなくては。
ほんの一筋だけでも、この女の意識にあたしを刻まなくては。
復讐心の燃えかすが憤怒を燃料に再び燃え上がる。
双葉はアインの頬を両手で挟みこみ、自分の顔に引き寄せると、
計算も策略も無く、ただ真っ直ぐに己の胸を内を叩きつけた。
「あたしは双葉!! 朽木双葉っ!!
星川を、あたしの王子様をあんたが殺したから!!
あたしがあんたを殺すんだ!!」
激する双葉に気づかぬままに、アインの瞼がゆっくりと閉じられてゆく。
朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。
「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」
思わず手が出た。平手を見舞った。
「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。
「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。
「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。
「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。
「星川っっっっ!!!!!」
双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。
「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」
双葉の声が歓喜に震える。
伸ばした手がアインに届いた。その感触に。
「……って……」
「…………………………何だったかしら」
絶句。
誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え四肢がだらりと垂れ下がる。
その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。
「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」
言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。
アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。
満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。
↓
【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】
―――――――――残り 8 人
では、被ったらまずいので宣言を。
代理投下行きます。
おもっくそ被ったので後編の残りの書上げ作業に戻りますw
すみませんw
>>678
メール欄、予約状況共にOKです。
一応今ラストスパートで書上げ中、今日の夕方には仮投下予定ですが
いくつか先にお伺いしたいのでメール欄で。
メール欄二個目です。
以上です。
支援、代理投下ありがとうございました。
>>700 のメール欄についてお聞きしたいのですが、
(メール欄①)というのは
(メール欄②)いうことでしょうか。
(メール欄③)程度のことでしょうか?
>>702
当メール欄①のために
当メール欄②にするために>>700 ということです。
>>702 でのメール欄③の意図も勿論その通りです。
>>703
了解です。素早いご返答ありがとうございました。
代理投下完了です。
>>698
いえ、こちらも投下宣言無しにしてしまってすいません。
遅れながら感想を
>紅蓮の挙句
ザドゥとカオスの予想が当たってしまったか……。
二人の死は前話から予測できてたので、思ったより衝撃は少なかったのですが
双葉が最期まで救われない展開はいい意味で印象に残りました。
何という因果応報……ほとんど素敵医師関連だけど。
226話の『敵愾心』でアインとの会話を拒否してしまったのが、今回のに繋がったと思うと感慨深い。
魔窟堂が来てくれればなあ……その場合でも双葉の怒りの矛先が
何故か彼にも向かう展開になりそうな気がしてならないけどw
一見あれなアインの独白も、4つの単語しか考えられなかったことを思うと深く切ないものが。
対主催も戦力的にも銃使いがいなくなって痛い。
冥福を祈ることはできないけど、アイン……お休み。
がんばったな双葉。
二つの復讐劇の完結SS……GJでした!
「―――何故、起動できた?」
「DMN権限を取得したからね」
「―――何故、取得できた?」
「最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので」
管制室で三つの同じ顔が向かい合い、内一人が質問をしていた。
「解った……」
質問をしていた一人が呟くとそのままくるりと回って二人を背にする。
「私はケイブリスに完成した補修具と修繕の完了した鎧を届けてくる。
しばらくはそのまま任務を遂行してくれ。
……指示は後で逐次出す」
背にした一人はそう言うと荷物の山を受け取り、カツカツと地面に音を響かせて管制室を後にした。
残る二人は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。
(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)
所詮、彼女達はレプリカであり機械として定められた思考ロジックでしか処理することができない。
違和感を覚えたとしても疑問を抱くことはない。
考察をしたとしてもそれは状況判断。
そこが彼女達とオリジナルの違いであろう。
「帰っていきなりこれか……。
やれやれ、余程私は運の悪い星の下に製造されたらしい」
ふん。
とレプリカ二体を……いや、この境遇をもたらした運命を彼女はあざ笑った。
(今となってはそのままくたばってくれても良かったのだが……。
既に危険地区から誘導がされ、救援を目的とした機体が一機出動した後か……。
ザドゥのやつも悪運が余程強いと見えるな)
ケイブリスの元へと向かいながら、レプリカ達から受信されたデータを洗いなし、その横で一方的に彼女達の様子をモニターする。
アドミストレーター権限を一時的に代行させたとしても、オリジナルの持つ統制機能が失われているわけではない。
―――つまり君たちはこう主張する訳だ
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!
―――即時全機投入!!
「その判断は正しい。私でもそうしただろう。背に腹を代えれない。
しかし、ザドゥ達の優先順位がおかげで低くなり、なくなるとはな。
ふっ、その辺りは『私』と言った所か」
―――しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!
―――だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
―――わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
―――【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
―――本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?
―――くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
―――責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから
(……良く言う)
と智機は思った。
「まぁ、先程までの私ならそう思っただろうな」
人でいえば悟り……真理に到達したとでもいうのだろうか。
それとも達観したとあざ笑われるのであろうか。
プランナーの下で思いをぶつけ、何かを得た智機は不思議と落ち着いていた。
冷静に、そして確実に自分の願いを叶えるために……。
(しかし、所詮ヤツラでは状況判断しかできていない……状勢判断は不可能。
理論でしか物を判断することのできないが故のミスに気づいていない)
そう言うと残る首輪の反応を得るために管制室に纏められた探知機器を統括する部分へとリンクし、データを拾い上げていく。
(№16:朽木双葉、死亡したか……。
最後の状況から№23:アインも死亡したと判断できるな)
逐次纏められ、更新されるデータを次々と受信していく。
(残る首輪を持った参加者は……No28:しおりは生きているな。
No40:仁村知佳は相変わらずの磁場で正確に探知不可能か……。
だが、時間はかかるがその磁場を追えば居場所はある程度絞り込めた上で予測から特定することはできるだろう)
「くくっ。OK、上場だな……」
集められたデータを纏め上げると智機は直ぐさま今後の指針と取るべき行動を打ち出す。
まず一つ目は、反乱者たちの存在を何とかしなければならない。
現在、管制室を含め、本拠地は迎撃に迎える駒がいない。
自分と代行権で指示を出している二体、そしてケイブリス。
その四つしか動かせる駒が存在していないのだ。
もし、この状況下で彼ら、反逆者達がが襲撃をかけてきたとしたら?
―――GAME OVER。
可能性が100ではないが、高確率で管制室を破壊され、ゲーム崩壊へとカウンターが進むのを止めれなくなるだろう。
しかも、レプリカ達の判断基準であるゲーム運営の中ではザドゥ達の優先順位が低く、事実その論理で構築された行動を取っている。
最悪、ザドゥ達も死ぬば完全にゲームエンドであったが、一応救援物質は辿り着いたようだ。
しばらく本拠地へ戻ってこれるかは難しいが、あの様子では当面死にはしないだろう。
しかし、その間に反逆者たちに本拠地……管制室を制圧されたらダウトだ。
(所詮、レプリカでは戦略に基づいた状勢判断は無理と言うことだな)
反逆者達がここに気づいている可能性がない場合もあるが、逆に気づいている可能性もある。
いなかったとしてもここへ続く道をどこかで発見するかもしれない。
(No40:仁村知佳……彼女の能力ならもしかしたらここに気づく可能性……既に気づいてる可能性も。
もしくは見当をつけている……つけれるかもしれない)
更に6人組と合流すれば、より見当をつけてくる可能性が高い。
(消火が終わるまでの時間、なんとしてもこの七人は抑えなくてはいけない。
No28:しおりとだけは絶対にぶつかってもらっては困る。
導かれる最善の策は……)
6人組―――ザドゥに相手をしてもらう。
No40:仁村知佳―――首輪があるとはいえ、もしかしたら爆発不可能な可能性がある。
単独で彼女がここに来るだけでも脅威。故に居場所を確認、その後何らかの手段を打つ必要あり。
ザドゥ―――しばらくは無理だと思われるが、どの道本拠地に戻ってきてもらっては困る。
6人をぶつける為にも居場所の把握と地上への引止めのために、レプリカを一機再派遣する必要有り。
幸い、今回の接見に使ったレプリカは、オリジナル以外とはリンクしておらずアドミレーター権限による指令では動かせない。
管制室へと引き上げ、投入することが可能だ。
御陵透子―――見つけ次第削除。ザドゥに加担するようなら6人に一緒に相手にしてもらう。
できればその方向で行きたい。
カモミール・芹沢―――彼女の動機を考えれば説得が可能と思われる。できるなら引き込む。
がザドゥに対して特別な感情を抱いてる節があり、信義とやらの兼ね合いでつかない可能性もある。
最初の説得で決裂したなら速やかに6人の相手に加わってもらう。
ケイブリス―――現時点では動かせる唯一の戦力であるが故に6人の誘導が成功するまでは本拠地から動かせず。
策が成功次第、6人が負けそうなら不意打ちをしてもらうために出動して待機してもらわねばならない。
最後にしおりが相手をする一人が生き残ってもらわなければならないし、ケイブリス自身との約束がある。
No28:しおり―――即時確保。この行動はゲーム運営の妨げにはならず、彼女への支援活動はゲーム進行の手助けとなる。
よって、見つけ次第確保し、此方へ連れて来る命令をレプリカ達に加えることが可能。
そして確保したしおりへ素敵医師との取引で得た薬は勿論、あらゆる手を用いて強化を行ない次第、
ザドゥとの戦いで疲労した参加者達をケイブリスに襲わせトドメを彼女に刺させる。
それでゲーム完了。
(以上と言った所か……。見過ごせば願いは適わない。
ゲームの成功のためではない、私は私の願いのために動かさせてもらう。
……まずは指揮権の獲得だな)
もしキーボードがあるなら智機はカタカタと打ち鳴らしているだろう。
(まさか自分で自分をハッキングすることになるとはな……)
一方的なアクセス権もとい統帥権をもつオリジナルだからできる芸当。
もし同じ分機だったら、その前に気付かれずに進入とミッションをこなさねばならず不可能だろう。
―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機へのハッキング開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保を優先順位に挿入。
―――P-4、N-48、N-59へNo28:しおりの確保の優先順位を最優先に。認可の為のロジックは先程の結果を代入。
―――P-3の指揮権及び操作権へのハッキング成功、操作権取得、同期機能の使用確認。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得開始。
―――P-4、N-48、N-59へNo28、三機への命令権取得、命令権優先順位のロジック回路へのクラッキング開始。
―――偽装データの送信準備開始。
(こんな所か……)
少々、火災が広がるが、シミュレートした結果では時間の遅延と全焼具合に変化がある程度。
最悪の可能性も8%浮上するが、参加者もバカではない。
海にいくなりして自衛はできる。
優先すべきはしおりである。
更に自律思考と自律行動を許可されているのが助かった。
余程のことがない限りは、N-22が矯正しようとすることはないだろうし、その時にはしおりの確保と本拠地への輸送は完了する。
その後、火災現場に戻せばいい。
所詮、レプリカは状況判断で動くだけである。
彼女らの行動は火災沈静になによりも優先されるが故に状況下ごとに最適な判断を下していくだけ。
もし何かあるとすればザドゥの存在だが、レプリカ達には切り捨てられ、救出は望めない上に通信不可。
レプリカ達は自らの判断でザドゥを切り捨てたのだ。
智機を邪魔するものはなにもない。
(ここまで状況が整ってると怖いな……運の悪い星の元ではあるが絶好のチャンスでもある)
そしてザドゥの死が確定すれば統帥権は智機へと繰り上がる。
(唯一の懸念はP-3の行動がばれた時か……。
が、火災が存在している内は、レプリカはP-3へのアクセス権と指揮権を奪回しようと動くことは不可能。
しおりの確保自体は首輪のおかげで即時可能、即座に元の仕事に従事させれば此方は何も問題ない。
つまり、時間との勝負か……最低でも9時までにザドゥを始末せねばならない!)
やるべきことは決まった。
後はこの奥にいるケイブリスといかにして手を取りあっていき、いかに上手く使うか。
「ケイブリス、私だ」
久し振りに会う旧友のような感じで智機は声をかけながら扉を開けた。
「おう、ようやく終わったのかよ」
お茶をすすり飲んでいたケイブリスが智機の視界に映った。
なんともまぁ、人間くさい所のある魔獣だ。
と思いつつも
自分もあまり他のことを言えないかもしれんがな。
と苦笑する。
「時間をかけてすまなかったな。約束したものもできた」
台車によって運ばれてきた荷物の紐を解くとケイブリスにとって懐かしい鎧と腕にあった補強機が姿を現す。
「くっくっく、ありがてぇな、礼を言っとくぜ」
「重かったがな……。
さて、装着しながらでよいのだが少々話したいことがある……」
「ん、なんだ?」
ガシャッ、ガシャッ、と装着する音が聞こえる中、現状の問題点と今後の方針を智機は話し始めた。
「ふむ、なるほどな……。
むかつくとこだが……いいぜ」
意外にもケイブリスは承知した。
智機からすれば、もしかしたらランスがザドゥ達との戦いで死ぬ可能性があるのでケイブリスが拒絶することが唯一の懸念だったのだが。
「俺様だってバカじゃねぇ。ランスのやつを殺せても魔王になれないわ、もしかしたらまたあの世に戻るってんじゃ選択肢がねえだろうがよ……」
「もしかしたら怒るかと思っていたのだが意外だな……ふっ」
「まぁ、その代わり条件があるぜ? ザドゥの始末に加担して成功した後は…………俺様はランスと決着をつけさせてもらう」
外見に見合わずのほほんとしていたのんきそうなケイブリスの瞳が打って変わってギラリと鋭くなる。
並のものなら発狂して当然と言うケイブリスの瘴気が身体から再び放出される。
智機でなかったら気を保つのに精神を使ったことだろう。
「解った。其方は此方も飲まなければいけないことだろう。
しかし、くれぐれも……」
「……わぁったよ。ランス以外を一人は残さなきゃいけないんだろ?
んでその前に捕まえといたやつにその一人を殺させると……」
「絶対に頼むぞ……」
「あぁ、解ってる。俺達の目的は一つ」
「「願いの成就」」
ザドゥや透子がどう考えているかは解らないが、彼らの想いは固まっている。
ゲームの運営のために願いを捨てる気にはなれない。
「決まったな」
二人の顔がにやりと歪んだ。
「んで、どうするんだ?」
「しばらくは管制室ではなく、ここから個々に指揮を取ろうと思う。
無論、必要があれば向こうにも行くがな」
↓
一部【最優先事項】から引用させてもらいました。
ありがとうございます。
後半、ちょっと練りたいないと想ってるので少しだけ付け足すかもしれません。
日曜の夜以降、確認取れ次第、本投下します。
すみません。
仮投下は今日の日中になってしまいそうです。
『最優先事項』の作者さん、連日の投下乙です。
>>717
仮投下乙です。
内容に問題はないと思います。
連日の支援ありがとうございました。
またもや「さるさん」となってしまいました。
あとは状態表だけですので、日付が変わった頃に自分で投下致します。
大変遅くなりました!
これから新作・無題を投下します。
(二日目 PM6:28 E−8・漁協付近)
輝きを失ったひび割れたロケットを透子は見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。
『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」
頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。
『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。
こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」
透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。
だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無い。
もう一度、念じたがさっきと同じだった。
(どういう、こと?)
このロケットは、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して
ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊させられたとしたなら、
其れは監察官を解任されたと解釈できる。
「……」
このタイミングで解任させられる程、運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはない。
確かにこれまで、前に提示された禁則行為に抵触してなかったのと、
スポンサーである二神から注意がなかったのをいい事に参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、
ゲームに乗った者を増やす為に暗躍するなど、運営陣を更に有利にしようと動いていたのは間違いはない。
だからこそ、少なくとも透子はプランナーの宣言を、運営者全員に対する一種のペナルティとして素直に解釈して受け止める事が出来た。
しかし、そんな彼女でもこれは予想と覚悟を超えたものだ。
(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)
放送前に智機本体に言った、朽木双葉の邪魔をさせたくないから『組み換え』を行ったと言うのは、理由の一つに過ぎない。
運営者でない素敵医師をザドゥが粛清しようが、アインが抹殺しようがゲームのルールからなんら違反しない。
だが素敵医師を追い詰めていた、ザドゥの行動を分機が邪魔をするという行為は、
ザドゥがルールとして制定した運営者同士の傷害、致死行為に繋がると判断したのも排除を実行した理由の一つだ。
(……そう)
筋弛緩剤を投与されたザドゥに対して、素敵医師が何もしない、できないという保証は何処にもない。
アインか双葉が素敵医師を即座に殺せる保証も何処にもない。
もしザドゥが素敵医師によって洗脳・強化されれば、これまで以上にゲームをかき回されることになる。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する光景をアインが見てしまえば、もっと都合の悪い事になっていた。
透子は知っている。
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に参加者にとって危険な障害であると思ってるからこそ、
アインを支配していたサイスという男と同じタイプの人間であったからこそ、
最優先で排除するだけの価値がある標的として、他者の死を視野に入れての復讐行為に没頭できているのだ。
そんな彼女がもし素敵医師以外にも同じ手段が取れる存在が、他にもいる事に気づいてしまえば高確率で
『素敵医師を何が何でも殺す』というスタンスから、『運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』に変化させてしまう。
そうなればこれまでよりも行動の融通が利く、厄介な反乱者となり、その性質ゆえに戦場からの逃亡を選択していたかも知れない。
運営者の一員としても、双葉の絶望を知る者からしても、その展開は回避する必要があった。
智機は分機爆破を救助妨害と非難していたが、ザドゥへの捕獲行為こそが透子から見れば妨害行為。
あの時は反論するのが面倒だから黙っていた。
(朽木双葉への支援が原因? 支援の積もりはなかったけど)
2時間ほど前にロケットを通じて、脳裏に文字を浮かび上がらせる手段で警告を伝えてきたのを考える。
別に直に支援をしたわけでもないし、ルドラサウムの気を害する行為をしたつもりはない。
どう考えても腑に落ちなかった。
(あの警告もプランナーの手段としては不自然だった。
本当に彼だったの?……それも含めて確認をしないと)
自らの自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候はない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたにしては、どこか妙だった。
透子自身、願いを叶えたい身である以上ここで放心している場合ではない。
前に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないなら、ザドゥか智機に取次ぎを頼まねばならないだろう。
透子は学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。
(……面倒)
眼前には廃村が見える。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば徒歩で歩くのには苦労しそうな長距離と暗闇に思えた。
透子は転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じる。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。
(レプリカに来て……)
移動にDシリーズを派遣させてもらおうかと考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと透子は気づいて思い直した。
森の方を見れば、火災はますます広がっている。
早めにザドゥを見つけるか、智機がいる本拠地に戻らなければいけない。
このままでは途方に暮れたまま、何もしないままゲームが終わってしまう。
かと言って、透子としてはそのまま徒歩で行くのはリスクが大きい。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、ポケットに入れてため息をついた。
(やはり、クビになったかも)
無力感と共に大きな脱力感が透子に圧し掛かってくる。
意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は漠然と思った。
武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や剣なんか扱えない。
考えてみれば本拠地に戻ったところで、透子自身が行動を邪魔した智機とケイブリスのみがいる現状、
最悪報復されるかも知れない。
智機にプランナーとの取次ぎが可能だとしても、性格上まともに受け付けないだろう。
こうなればザドゥを探すしかないが、読み替えが出来ない状態で、森の中に入っても煙に巻かれてすぐ死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者にはいない。
というか、透子自身は生命力・防御力は並で朽木双葉より明らかに低く、
攻撃力に至っては覚醒前の広場まひるより低いと断言できる。
常人以下。つまり……
(今のわたしならユリーシャにも負ける)
手詰まりだと透子は思った。
パートナーの事を諦めるのには大きな抵抗があるが、果たせるだけの力がないのならどうしようもない。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。
(仁村知佳、今ならあなたに少し共感できる)
読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を透子は素直に褒める。
少し、羨ましいとも思った。
そして、自分は相変わらず孤独と強く思った。
(このまま、消えても……)
透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見える。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、最悪このまま殺されてもいいとさえ思った。
でも出来れば、自分の最期は自分で選びたいとも願う。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
流石にそれは気分が悪い。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。
(アズライト……)
消失願望はアズライトも持っていたのを透子は思い出した。
彼は転生を繰り返すというレティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点では同じだ。
芹沢が事前に鬼作に対して警告していたのと、それを理由に警告は不要と智機が透子を制止していた為、
透子がアズライトと対面する機会はとうとうなかった。
その代わり、興味もあって学校内での最後の記憶を検索しようと、昼にしおり退出後に再建された学校内に入ろうと試みた。
だが知佳がいたのをきっかけでアズライトの方は一旦取りやめ、鬼作の方の記録を先に読むことにした。
(椎名智機……あなたのやり方は、雑)
アズライトと比べ、それほど興味を惹かなかった鬼作の記録だったが、検索してみただけの価値はあった。
その価値に気づいたのはしばらくたってからの事だ。
(わたしが警告しておくべきだった)
警告したところで反抗の意思は変えなかっただろう。
だがもし仮に今、透子が気づいている事を告げればどうなっていたか。
何故、その事を知ってるはずの智機がその事を告げなかったのも少し気になっていた。
智機本体を対象とした読心は動植物のそれと比べて、時折非常に読みにくくなる。
何故か記録もほとんど残さない。
心の声を聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もある。
(未練……)
すぐに消えたいと思っていたのに、今は学校跡まで行ってアズライトの記録を
検索してみたいとさえ透子は望んでいる。
だが、透子から見て学校跡までは距離がある。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとする。
「……」
ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら学校付近の風景を強くイメージした。
「……!」
身体が軽くなったような気がした。
□ ■ □ ■
鬼作
(二日目 AM10:00 校舎裏)
ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣に全裸姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
露出狂かよ!
……変態相手はちったあ気が引けるが、背に腹は変えられねえ!ここで不満を解消させてもらうぜ。
……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ、武器がナイフしかねえのは心細いけどよ。
俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。
変態だけに処女じゃねえかも知れねえが、文句を言っちゃあいけねえよな。
俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。
女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。
やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。
………………。
糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよぉ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?
んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にもならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。
………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならねえ。
くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?
ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?
んなもん、ここにあったかあ?
! 女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやって美学を表現しようかと考える。
……………………待て。
これは罠なんじゃねえか。
そもそもこの電気コードは何処に繋がってるんだ?
! 女がこっちを向きやがった。
腰抜かして俺をおびえた表情で見つめやがった。
!! な、何ィ……もうすぐ死ぬんだから楽しみましょうよ、だとぉ。
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!
◇ ◆ ◇ ◆
へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。
……俺様って案外すげえんじゃねえか?
溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。
おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。
…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。
俺はナイフを強く握り締めた。
俺達の妹もここにいるかも知れねえ妄想をするなんてよ……。
第一、何十年前の話だよ。それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
……! あんガキやべえ……!
あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれっ!!
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:35 H−6・学校跡付近)
「そう」
透子はN-22からの通信を切ってから、そう呟いた。
素敵医師と朽木双葉とアインの生死確認が終わった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他2名は死んだのだ。
彼女としても彼女が無念の死を迎えたことは残念だったが、自分の願いがまだ潰えてないのが判った今、
これ以上惑うわけには行かなかった。
これからザドゥを救出し、彼を通じてプランナーから確認を取らなければならない。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。
(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険)
透子は使えないはずの『読み替え』で望んだ場所――学校付近への転移に成功した。
発動体のロケットを介さずに。
(椎名智機との接触は、これからなるべく避けた方が無難)
透子は地面に通信機を置いた。
位置を悟られるわけには行かなかった。
アズライトらへの智機の対処の仕方をはっきり確認した今、智機の性格をより理解できたからこその行動だった。
智機の性格からして、これから自分に対して報復を行うのは目に見えているから。
(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)
本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、
救助に必要なものは既に智機が使用・管理している。
と、なれば島から調達するしかないのだが、それは当初から運営陣には禁止されている。
(……長谷川の隠れ家を探そう)
記録からして森の西の端辺り、H-3に彼自身の隠れがある可能性は高い。
(そう言えば彼はゲーム開始より数時間前、参加者のデイパックから個別支給品を4つほど取り出して、
周囲にあった古い本や植木鉢と交換していた)
智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気はなかった。
後で流石にまずいとザドゥは判断したのか、死んだタイガージョーの支給品や、
デイパックを持っていかずに行った広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に
配置するように透子に命令を出した。
透子もそれに従った。
(残っていれば、いいけど)
透子は灯台跡をイメージする。
(レティシア)
アズライトの想い人の名を心で呟く。
彼女はアズライトの記憶を呼んでの、彼女が写っているビデオ作りに加担していない。
ザドゥや芹沢も関わっていないだろう、二神以外で真相を知るのは智機だけだろうと透子は思った。
可能性が見える限り、彼のように願いを諦めないことを自分に言い聞かせる為に。
透子は自らを対象に世界の『読み替え』を行い、灯台跡付近に転移した。
↓
【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス:① 素敵医師の隠れ家を記録を辿って探し、其処でアイテムを回収する
② ①の後、ザドゥを探して救出を試みる。その際、プランナーとの交渉を頼んでみる。
智機との接触は極力避ける。
③ ①と②の後、紳一(亡霊)とアズライトの記憶検索を始める。
ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』現状:自身の転移のみ】
【備考:疲労(小)、通信機は学校後付近に放置。
透子に伝えた『警告』はプランナーのものであるとは限りません】
仮投下完了です。
>>713
連日の本投下お疲れ様です。
感想は今晩に。
今回のは結構はっちゃけた内容ですので、まずいと思った所があったら訂正いたします。
当初メール欄①の出番があったのですが、別の話に出した方がいいと判断したので
存在を匂わせる程度の描写に。
素敵医師が取り替えたアイテムの一つはメール欄②等の方向で考えてます。
問題が無ければ火曜日の夜に本投下する予定です。
昨晩の投下した作品で見落としがあったので、管制室での>>734 のメール欄も含めて加筆・修正します。
本投下は水曜日の晩になると思います。メール欄は出てきません。
作者さんの新作との兼ね合いが出来なければアナザー化します。
加筆後の基本的な話の流れは
透子、N-22との連絡後に能力制限を受けたショックで、監察官を解任されたと誤解して絶望する。
だが鬼作の記録を通じて容易に諦めるのは早いと判断し、
双葉らの死亡確認後に読み替えで管制室へ転移する。
その前に二神やら千鶴やら双葉やらまひるらに対する透子の考察が入る。
鬼作の回想に出てきたレプリカの描写もちょっと変わる。
管制室で(智機らはいないし、出ない)何かがいたことに気づくが
智機らの敵意に気づいて本拠地から逃げ出す。
それからザドゥ&芹沢を救助すべく、道具集めのために素敵医師の隠れ家を探し始める。
です。
>カモちゃん☆すらっしゅ!
またレプリカが一体逝ったか……惜しい機体をなくしたもんだ。
芹沢の神道無念流の説明と描写が丁寧で、改めて彼女も強いんだなあと実感させられました。
新技カモちゃん砲よりこええよw
本調子に戻ってきた芹沢と、精神的にますます余裕が無くなって来たザドゥが
好対照でした。
おサルさん喰らっちゃったので起きて再開してもまた途中で喰らって駄目だったら此方に投下するのでどなたかお願いしますorz
>>721 -
智機の思考と透子の思考がすれ違ってたのが良く解るいい作品だと思いました。
>>735
N-22は管制室に常駐ではありませんでしたっけ?
メル欄の方了承です。
何かに関しては何かが解らない以上何ともいえないのでノーコメで。
早速のレスどうもです。
>N-22は管制室に常駐ではありませんでしたっけ?
ご指摘ありがとうございます。
管制室へ転移後(タイミング的には>>711 の智機の思案の直前)
にN-22と会話、その際に『……まだか』との謎の記憶を透子は察知し、
N-22にそれを伝える(N-22に心当たりはない)。
それから透子は『声』を一旦無視して状況を分析する。
自らの身が危ない事を悟って、管制室から脱出する。
という内容の描写を今夜にここに投下します。
ラスト喰らったのでどなたかお願いしますorz
静かに真意を問う智機に対してケイブリスがにやける。
興味深いモノを見つけたかのように。
心根に共感し、協力をしているが、ケイブリスからすれば所詮は取るに足らない機械。
パイアールが作っていたようなものだとどこか心の中で見下していた所が彼にはあった。
「いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ」
俺様と協力するんなら、そのくらいでなくっちゃなぁ。とケイブリスは微笑した。
(私を認めてる? ということなのだろうか……)
「……誉め言葉として受け取っておこう」
↓
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先、
智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。①ザドゥ達と他参加者への対処、②しおりの確保】
【能力:内蔵型スタンナックル、軽重火器装備、他】
代理投下完了しました。
すいません、急用があったので管制室の方が前夜に投下できませんでしたorz
書き直しと加筆が完了次第、まとめてここに投下します。
本投下の際は誤字脱字の修正以外は、ここでの修正版のとほとんど同じ内容になると思います。
問題がなければ、投下後から一日後以降に本投下します。
>>741
代理投下ありがとうございました。
次の交渉話は日曜夜か休日開けの月曜を予定です。
>>742
了解です。
頑張ってください〜
>>#6 585
(二日目 PM6:28 E−8・漁協付近)
透子は輝きを失ったひび割れたロケットを見つめていた。
口だけで呼吸をしながら、ただ呆然と。
『つまり、今のあなたには救助活動は無理だと解釈してもいいのですね?』
「…………」
頷くのがやっとだった。
通信の向こうのN-22にとっては、なんの意味の無い行動になってるのにも関わらず。
彼女らしくも無い動揺だった。
『御陵透子、応答願います』
「…………ええ、その通り。火災の対処も、できないと思う」
『……了解しました。何かあれば通信機で連絡を。
こちらから連絡を入れるケースもあるので紛失されないよう』
「……ええ」
透子の力ない返事を合図に通信は切れた。
破損したロケットを透子は再度握り締め、願う。
『読み替え』をするのではなく、プランナーと連絡を取る為に。
契約のロケットが前触れも無く破損した事の意味を問いただす為に。
(プランナーと連絡を)
だが先程のように思惟/情報がロケットに流れる感覚は無かった。
もう一度、透子は連絡を願ったが変化はなかった。
(どういう、こと?)
契約のロケットはゲーム開始前に、これ以上の前報酬は要らないと言っていた透子に対して
ルドラサウムからゲーム報酬の誓約の証として半ば強引に与えられた物だ。
これがもし、二神のいずれかによって破壊されたとするなら、其れは監察官を解任されたと解釈できる。
「……」
このタイミングで解任させられる程、これまで運営から逸脱する行動を取った覚えは透子にはなかった。
確かにゲーム前に提示された禁則事項に触れてなかったとはいえ
参加者に支給される品を意図的に低レベルのものにしたり、ゲームに乗る者を増やす為に暗躍するなど、運営陣がゲーム運営のみならず
参加者との力関係も更に有利なものにしようとしたのは間違いない。
だからこそプランナーの宣言を、少なくとも透子は運営者全員に対する一種のペナルティとして、素直に受け止める事が出来た。
しかし、そんな彼女でもいきなりの契約破棄と、『読み替え』禁止は予想と覚悟を超えたものだった。
(タイミング……椎名智機の分機の排除が原因? だけど、それはゲーム運営の障害にはなりえない)
警告をした理由が、朽木双葉の邪魔をさせたくないからと言うのは間違ってはいない。
だが破壊した事に関してはまた別の理由がいくつかあった。
(椎名智機の存在をアインと朽木双葉に知られてはいけない)
両者ともD-1を目撃していたがすぐに爆散したため、その正体について深く考える事はなかった。
『赤い変なの』程度の認識だっただろう。
だがN−13を見つけていればどうなっていたか。
オリジナルとほぼ同じ外見をしているだけに、レプリカが存在しているのを知らないだけに
N-13を目撃すれば、両者ともそれなりに警戒したに違いない。
下手すれば、ルドラサウムが楽しんでいるだろう戦闘を水入りされる可能性があった。
そしてD-1が行おうとした、素敵医師が存命している時点でのザドゥに対する捕獲行動。
それはザドゥが禁止行為と位置づけた運営者同士の傷害、致死行為に繋がる。
(……そう)
筋弛緩剤を投与され無力となったザドゥに対して、素敵医師が何もしない、できないという保証は何処にもない。
残されたアインが素敵医師を即座に殺せる保証も何処にもない。
もし素敵医師の手によってザドゥが洗脳・強化されるような事があれば、これまで以上に彼の手によってゲームをかき回されることになってしまう。
更に分機がザドゥに手際よく投薬する様を、アインが目撃してしまおうものなら、運営陣にとってもっと都合の悪い事になっていた。
透子は知っている。
アインが素敵医師に大きく執着しているのは、何も個人的な恨みだけが原因ではないことを。
素敵医師がザドゥ以上に参加者にとって危険な障害であると、アインが思ってるからこそ
素敵医師がアインを縛り付けていた、サイスという男と同じタイプの人間であったからこそ
彼の抹殺こそがゲーム転覆の近道になると心のどこかで信じ、その過程で犠牲を出してしまっても目を背けられて進むことができたのだ。
そんな彼女がもし素敵医師のように洗脳・強化を行える敵が、他にもいる事に気づいてしまえば、高確率で『素敵医師を何が何でも自分で殺す』というこれまでのスタンスから、
『運営陣の薬物使い全員を何が何でも殺す』というスタンスに変えてしまっていただろう。
そうなれば素敵医師を直接殺すことは諦め、目的達成の為にあえて森からの脱出を選択していたのかも知れない。
そして脱出に成功し、運営陣の内情が魔窟堂らに伝えられれば、ゲーム運営が困難から至難なものになっていた。
運営者としても、双葉の絶望を知る者としても、その展開だけは透子としても回避する必要があったのだ。
分機破壊時に智機は救助妨害と非難していたが、透子にして見ればザドゥへの捕獲行為こそが妨害行為に他ならない。
あの時、反論しなかったのは面倒だから黙っていた。
透子は次に双葉の方を考えた。
(それとも……朽木双葉への支援が原因? 支援の積もりはなかったけど)
プランナーの宣言前に優勝報酬があることを双葉に告げたが、それも禁止行為ではない。
素敵医師と違って道具提供は愚か、強化も参加者の情報提供さえしていない。
ルドラサウムの気分を害する行為をしたつもりはない。
透子は答えを見つけられずにいた。
(そういえば、あの警告もプランナーが告げたにしては不自然だった。
本当に彼だったの?……それも含めて確認を取らないと)
夕方にロケットを通じて透子にされてきた『これからは参加者への支援・薬物投与の禁止』という警告。
内容自体は透子から見れば不自然ではないが、するのなら素敵医師が解雇された直後にするのが自然だった。
何で解雇から数時間経過した後にされたのかが不可解だった。
(ますます判らない……。それにロケットが破損しているのに不安定になっていない)
自同律が崩れ自らの存在が消失しそうな兆候は、今のところない。
喪われた『彼』の存在も、これまで通り微弱だが空から感知することが出来る。
解任されたという判断材料は壊れたロケットのみ。
(何をすればいいの)
願いを叶えさせたい身である以上、不確かな事でこれ以上放心している場合ではない。
先に進むにはロケット破損の理由を、契約の事を知る必要がある。
ロケットを通じて連絡が取れないのなら、ザドゥにプランナーへの取次ぎを頼まなければいけない。
仮にも運営のリーダーを任されているのだ、非常時に何の連絡も取れない訳がない。
透子は徒歩で学校に行こうと一歩踏み出し、足を止めた。
(……面倒)
眼前には廃村が見える。
学校跡までの距離はさほどあるわけではない。
それでも透子から見れば辿りつくまで困難な道のりに思えた。
透子は歩くのを止め、転移できないかと諦め半分でロケットを握り、念じた。
変化は無かった。
透子は諦めずに、今度は通信機を手に取った。
(……)
移動手段にDシリーズに自分を運ばせてもらうか、ジンジャー持ってきてもらおうかと透子は考える。
だが流石にそれはやってはいけない事だと、気づいて即座に思い直した。
ふと森の方を見ると、火災は遠目からもますます広がっているように思えた。
(救助と消火は智機のレプリカ達がしてくれる。でもこのままいけば、ますます天秤は対主催の方へ傾く)
透子としてはそのまま徒歩で、本拠地や東の森に向かうのはリスクが大きかった。
参加者と遭遇してもまずい。
透子はロケットを放し、ポケットに入れてため息をついた。
(やはり、クビになったかも)
無力感と共に脱力感と倦怠感が透子を包み始めた。
範囲が狭まった意志感知と読心だけで、どうやって単独で監察役と自衛ができるのだろう。
個人個人の良心の呵責を別にすれば、今の自分はさぞかし弱い駒だろうと透子は漠然と思った。
武器も所持していないし、仮に持っていたとしても銃や刀剣類なんか扱えない。
それに本拠地に戻ったところで智機とケイブリスいるのみ。
透子の現状を二人が知れば、これまでの関係がよくないだけに仕返しされてしまう可能性は高い。
仮に無事に済んだところで、智機が透子の為に取次ぎをしてくれる可能性はかなり低い。
こうなって来ると、ますますザドゥに頼むしか方法がない。
だが『読み替え』が出来ない状態で、森の中に入っても煙に巻かれてすぐ死ぬだけだ。
このまま留まっても、参加者と遭遇する可能性はある。
徒手空拳で太刀打ちできそうな相手は今の参加者の中にはいない。
というか透子自身、攻撃力・生命力・防御力などは常人と同等かそれ以下。
つまり……
(今のわたしはユリーシャより弱い)
契約のロケットを所持してからは、自己防衛の為の常時『読み替え』が発動するようになっていた。
自身の反射速度を超えた攻撃が来ても、ロケットそのものに当たらない限りは、自動的に無効化できる防御能力を常時保持していた。
そのロケットが使えなくなった今、取れる防御手段は非常に少なく、弱かった。
透子の肉体はあくまでただの人間なのだ。
手詰まりだと透子は思った。
(疲れた。どこかにベンチはないかしら?)
ゲーム運営の完遂が成功の条件だが、もうザドゥらの力になれそうもなかった。
監察役が逃げ続けろとでもいうのだろうか?
そう思えば思うほど、解任させられたとしか思えなかった。
(仁村知佳……今ならあなたの気持ちが判る)
読心しか使えない疲労した状態で、恭也と共にグレンとランスという脅威を切り抜けた彼女を、透子は素直に褒めた。
少し、羨ましいとも思った。
そして、相変わらず自分は孤独と強く思った。
透子は深くため息をついた。
(ここは思惟生命体の一種と言える、天津神の『大宮能売神』さえ存在を維持できなかった世界。
仮に転生する力が残っていても、この島から脱出できない限りそれも叶わない )
透子は建物の壁に背を預け、夜空を見上げた。
火災の煙が雲のように空に広がっているが、まだ綺麗な星空が見えている。
透子は瞬きをしないままそれぞれの星を見つめ、どういう最期を迎えるのだろうと思った。
(あの人を感じながら、消えるのなら……)
同時に出来れば、自分の最期は自分で選びたいとも願う。
死後、自分の精神体がこの世界に留まるような事があれば、いずれ紳一に襲われてしまうだろうから。
人間の女性の肉体を持つゆえか、流石の透子もそれを想像すると気分が悪かった。
願いが果たせず、死ぬのなら意思そのものもこのままこの世界から消失したかった。
「でも……広場まひるは記憶を磨耗させた後も朽ち果てずに、望みの一部をここで叶えた」
だが昼に読んだ広場まひるの記憶を思い出した事により、消失願望の加速はここで終えた。
(終わったと思い込んでるだけで、まだ望みはあるかも知れない。
そう……アズライト)
消滅願望はアズライトも持っていたのを透子は知っていた。
彼はこの島に来て鬼作らと干渉した結果、レティシアとの再会を諦め、しおりを助ける為に死を選んだ。
罪悪感と無力感との違いはあれど、自らを嘆き死を望むという点と
喪われた最愛の人との再会を望んで長い時を生きてきた点では同じだ。
以上の点で彼に多少の興味があった透子は機会があるならアズライトと一度話をしたかったのだ。
だが、その機会は訪れなかった。
智機から止められたり、先に芹沢が鬼作に警告した事などがあったから、。
彼らの死も事後報告で初めて知ったので、どういう風に死んだのかさえ透子は知らずにいた。
ならせめて、アズライトの最後の記憶を検索しようと、しおり退出後に再建された学校内に透子は入ったのは午後2時ごろの事だった。
そこで先に拾ったのはアズライトのではなく、鬼作の記憶だった。
だが、それは予想に反し、透子の興味を引くだけものだった。
その結果、アズライトの記録を読むまでもないと判断させるくらい、透子にとって貴重な情報と教訓を得ることが出来た。
「まだ早い」
諦めるのは早すぎると透子は自分に強く言い聞かせた。
そしてアズライトに対し思うところがある透子は心中で、智機のやり方を非難した。
(あなたのやり方は、雑)
同行者への介入が終わるまで、スタンガンで動きを止め続けていれば良かったにと思った。
アズライトが変心または死亡さえすれば、彼一人が放置されたところで、主催にとってまず脅威にはならない。
生存してたらしおりと協力関係を築こうとするかも知れないが、反主催として活動しようとしても、
しおりの精神状態を考えるに、その関係は長続きできなかっただろう。
共同で殺戮に勤しむ展開になるなら、運営にとってむしろ好都合だった。
それに鬼作自身、これまで生存者との接触は少なく、所持品も戦闘力も大したことはなく、
容貌の悪さや情報の少なさからして反主催として、他参加者との協力関係を築けるだけの材料は乏しかった。
つまり対主催として動こうとしても動けないはずなのだ。
無力で孤独ゆえに自殺でもしない限り、ゲームに流されるしか存在。
絶対ではないがアズライトとの関係が破綻すれば、こうなってただろうと透子には想像できた。
透子は智機の非情さを非難しているのではない、考え無しに鬼作を殺したのが問題としていた。
(アズライトもわたしが動きを止めた上で
優勝報酬を伝えて置けばどう転ぶか判らなかったのに)
アズライトの望みが、二神に叶えられるかものかどうかまでは現在は判らない。
だがもし仮に鬼作の記録を読んで気づいた事を告げていたら、高い確率でスタンス変更をしていたはずだと透子は思った
そして、その事を確実に知っている智機が、何故その事を直接告げずにいたのかと、透子は其れを不審に思っていた。
これまで読心で智機から情報を探ろうとした事は、何度かあった。
しかし椎名智機を対象とした読心は効果が薄く、本体に至っては更に読み取りにくく、
肝心な情報はほとんど得られてなかった。
何故か記録もほとんど残さない。
心の声が聞ける透子が智機に質問したのは、彼女の心を表面上しか読めなかった事もあったのだ。
気づけば透子の掌には汗がじっとりと滲んでいた。
(こういうものなのね……)
今ではプランナーへの意思確認や、紳一のを初めとする記録の検索を、継続したいと強く望んでいる。
ここに来て強い好奇心が自分に芽生え、突き動かすとは思わなかった透子自身想像だにしなかった。
(そう……彼と同じ轍を踏む訳には行かない)
アズライトよりも長い年月、彼女は願い続けてきたのだから。
彼と同じ様に何が真実か判らないまま、自滅だけはしたくはなかった。
「……」
透子から見て学校跡までは距離があった。
彼女は失敗を承知の上で『読み替え』を実行しようと、ロケットを取り出そうとした。
「……」
ロケットは取り出さなかった。
駄目元に過ぎない、転移できないのなら今度こそ徒歩でと覚悟を決めて、
目を瞑りながら本拠地のある廊下を強くイメージした。
「……!」
身体が軽くなったような気がした。
□ ■ □ ■
鬼作
(二日目 AM10:00 校舎裏)
ありゃあ……主催者の一員じゃねえか。
それも白衣とぱっつんぱっつんの水着姿で外を歩いてやがる……!。
俺はここに来て漸く見つけた獲物に息を弾ませる。
行水かあ?
ゆっくり堪能する時間がないのは残念だけどよぉ、、背に腹は変えられねえ!
ここで不満を解消させてもらうぜ。
……アズライトとガキは気づいてなかったようだな。
好都合だぜ。
俺様はあの女に気づかれないように距離を置いて尾行をする。
物腰からしてどうも素人のようだ。
へっへへ……間違いなく獲物だ!
いいケツしてやがるぜえ……あまり顔はよくねえけど、いい肉壷を味わえそうだ。
俺は奴に気づかれないように、獲物との距離は確実に縮める。
しっかし、あいつら大丈夫かよ。
まさか部屋を見つけられなくてここに戻ってくるんじゃねえだろうなあ……。
女がこちらを振り向いた、俺はとっさに身を隠した。
女はおびえた表情を見せていやがったが、安堵の表情を浮かべると散歩を再開した。
やべえな……あの表情……
こちらまでいい香りがにおってきそうだぜ。
「………………」
糞っ……不安だぜ、あいつら本当に主催と満足に戦えるのかよ。
アズライトは度が過ぎる甘ちゃんの上にズタボロだ、あのガキも頭がおかしいまんまだ。
まともな判断が出来るとは思えねえ。
現に俺が最初に兄貴達と襲撃かけたのを覚えてないしよ……。
……何でこうなっちまったんだ?
! くそ、俺は何を考えてやがる!?
んなもん悪趣味な遺兄ィの所為に決まってるじゃねえか。
肉壷にもならねえガキ相手に何をセンチになってんだよ。
………………。
俺は何とか声を出さずにすんだ。
まてよ……あのガキがくたばれば、多分アズライトは使い物にならなくなるな……。
……! くそっくそっくそっ、手詰まりじゃねえか。
もっと戦力を増やさねえと話にならねえ。
折角の獲物を前にして引き返すのかよ!?
ん。なんだこりゃあ。
足元にビニール線がある。
電気コードか?
「!」
女が立ち止まりやがった。
俺は下らない考えを頭から消し去り、いよいよかと期待と性欲を膨らませ、
どうやってあいつを犯そうかと考える。
……………………待て。
これは罠なんじゃねえか。
女がこっちを向きやがった!
な、なんだ……この笑いは。
こっちから求めに来てんのか。
「!!」
な、何ィ……もうすぐ死ぬんだからここで楽しめよ、だと。
そんな度胸もないのか、だとぉ!
ふざけるなっ!犯しまくってやるぜ!
う、うううっ、うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!
◇ ◆ ◇ ◆
なんだあの数は……。
けっ……俺達にゃ、ハナっから勝ち目は無かったって事かよ……。
にしても…………あのガキ、凄えな。
弾丸切ってやがる……。
……なんだあ……あのテレビは?
……あれが、アズライトが、言っていた……レティシアか?
「……」
お嬢ちゃんも長続きしそうにないな……。
けどよ……そうなる前に意地見せてやるぜ
俺に気づかないガラクタどもに目にもの、みせてやるぜぇ……
◇ ◆ ◇ ◆
へ、へへへへへへ、えへへへ…………
あのガラクタども、今に見てやがれっ……
俺は最後のガスボンベを運びながら、奴等に気づかれない様に小さく笑った。
……俺様って案外すげえんじゃねえか?
溜まってたからその所為かもな……。
アズライトの野郎、まだモニターを前に固まってやがるんだろうなあ……。
ちったあ、ガキを見習えよ……。
………………アズライト、おめえは思いもつかねえだろうし、知らない方がいいかも知れねえし、
もう手遅れかも知れねえから伝えねえがよ……。
おめえの探していたレティシアはきっと……主催者どもの所にいたんだぜ。
でなきゃ……なんでブラウン管の向こうに写ってやがるんだよ……。
見間違えるほど、呆けたのかよ。
そうじゃねえんだろ?
俺は流血で悟られねえ様に、手ぬぐいで血を吸い取る。
…………………………!
頭が上手くはたらかねえ……俺のはいぱーこんぴゅーたーもめんてなんすが必要かあ?
くだらねえことを思いついたぜ……。
俺の……俺達の血を引いてるのが、あのガキみてえに美人に生まれる筈がねえだろ……。
あのガキどもとブルマー女の顔を思い出しちまった、情けねえ……。
…………本格的にヤキが入っちまったか。
俺はナイフを強く握り締めた。
第一、何十年前の話だよ。
それもすぐに死んじまったじゃねえか、夢見すぎてんだよ。
やべえ……!
あいつ……まだ……!
いい加減にしやがれぇ!!
□ ■ □ ■
(二日目 PM6: 管制室)
「救助は無理ですか」
「ええ。ザドゥ達は無事?」
「救援物資を持ったレプリカを向かわせました」
「火災は?」
「我々が対応いたします」
「そう」
透子はN-22にそう返答した。
管制室の前の廊下に透子が現れたのはつい先ほどの事。
自分を対象とした『読み替え』が発動したのだ。
次に透子は言う。
「オリジナルはどうしたの」
「基地にいますが、戻ってくるのに時間が掛かりそうです」
「……そう」
N−22から数歩後退し、透子は天井を見上げ想った。
(朽木双葉……)
素敵医師と朽木双葉とアインの生死をN-22から確認したのも、つい先ほどの事だった。
透子が唆かしていた朽木双葉と他2名は死んだのだ。
双葉が死を迎えたことは透子にしても残念なことだった。
予期せぬ形で想い人を喪った双葉には、透子も同情する部分があった。
だから優勝できずに死んでしまうなら、せめて苦しまずにいてほしいと心の片隅で思っていたが、
最後に検索した記録と、さっきの報告を総合すると、安らかは程遠い最期を迎えたと透子には判断できた。
「……」
小さな喪失感なのか、言い知れないもやもやが透子の胸を叩いたような気がした。
(……次は)
だがこれ以上、透子が惑うことは無かった。
これからザドゥを通じてプランナーから確認を取らなければならないから。
わたしはこれからどうすればいいのか、わたしは脱落したのかと、問う為に。
その前に智機本体らがここに来る前に、管制室でやることがある。
透子は管制室から記録を読み取ろうとした。
智機本体の記録を探る為に。
(…………ない)
不自然なまでの記録の少なさに、透子は智機に対策を取られていると思った。
レプリカ達の記録はあったが、それはさっき透子が予測していたのが当たっただけに留まり、一番知りたい情報はなかった。
それに加えて透子は知る由も無いのだが、ケイブリスと智機の密談などの記録も何故か拾えなかった。
「何をしているのです?」
「別に」
N−22からの追求をそっけなく返す。
(諦め……)
『……にぁ……も……ぃ……』
「!」
聞いた事の無い声の記録を透子は拾った。
もう一度検索する。
『……にぁ……も……ぃ……』
(誰?)
はっきりしていた。
二神と運営陣と参加者の誰の声でもなかった。
「誰か、来た?」
「誰も来ていませんが?」
「でも……」
男か女かよく判らない、高い声だった。
紳一の時とは別種の存在がいると透子は思った。
他の記録を注意深く吟味するが、さっきと変化は無く『声』もそのままだった。
N-22は透子をしばし見つめ続けてから言った。
「御陵透子、お疲れのようです。自室での休憩を薦めます」
「……」
N-22に言うとおり、疲れているのは確かだった。
だが透子はあることに気づいてN−22に言った。
「しばらくここには戻ってこない」
透子は学校付近のある場所をイメージし、とっさにそこに行くのを強く願った。
N-22の制止の声が上がったが、それを無視して管制室から透子は消えた。
智機達がザドゥ達の救助に専念していると誤解したままに。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6: H−6・学校跡付近)
透子は『読み替え』で望んだ場所――学校付近への転移に成功していた。
すぐさま通信機のスイッチを入れてN-22に向けて言う。
「またわたしの方から連絡する」
透子は電源を切って、通信機を草むらに隠して、その場から100メートル以上離れた。
それから安堵の息を吐いた。
(本拠地……わたしの部屋に行くのも危険。
椎名智機との接触は、これからはなるべく避けた方が無難)
智機がアズライト達に取った手段を再確認したからこその行動だった。
転移くらいしか『読み替え』の使い道がないのでは、ちょっとした不意打ちでも倒されてしまう恐れがある。
ロケットなしでどれだけ『読み替え』が通じるのか早急に知る必要があった。
(色々、試してみないと……。それより前に道具が必要)
自衛の為にも扱える道具はあるに越したことは無い。
本拠地に行けば銃器や電子機器はたくさんあるが、救助に必要なものは既に智機が使用・管理している。
と、なれば島から調達するしかないのだが、銃などの強力な武器はなく、紗霧が使えそうなのをあらかた持って言った後だ。
望みの品は手に入りそうに無かった。
(……灯台付近には隠し部屋1がある。
砲撃で灯台は破壊されたけど、わたしが知る限りまだ手は付けられていない。
もしかしたら解放されているかも)
解放されてなお、未使用のまま放置されていれば、運営者も手を付けて構わないことになっている。
破壊されてたり、素敵医師がすでに利用してたりするかも知れないが、その場所を透子は知っているので
収穫は無くても時間はそれほどロスしない。
(長谷川の隠れ家にも使えるものが残ってるかも)
記録からして森の西の端辺りH-3に彼の隠れ家がある可能性は高い。
(彼は参加者の支給品もいくつか持っていったはず。説明書付きで残っていればいいけど)
ゲーム開始より何時間か前、素敵医師はランダム支給品のいくつかを別のガラクタに交換していた。
まだ参加側に有利だからというのが、素敵医師の言い分だった。
智機は止めなかったし、芹沢も止めなかった、ザドゥはやや渋い顔をしていたがそのまま通した。
透子は元より追求する気さえなかった。
余談だが、参加者が全員が出発した後に死んだタイガージョーの支給品や、デイパックを持っていかずに行った広田寛の支給品を比較的見つけやすい場所に
配置するようにザドゥは透子に命令を出している。
ザドゥが流石にまずいと判断したからだ。
透子はそれに従い、使えそうな日用品数点を含めて、第一放送前に廃村を中心にそれらを配置していた。
(残っていれば、いいけど)
透子は灯台跡付近に向かうべく、自らを対象に『読み替え』を行い、この場から姿を消した。
□ ■ □ ■
(管制室)
N-22の双眸から横に光の線が流れた。
それから一分くらいあとにN−27はN-22に問いかける。
「予定時間を過ぎた」
「ああ、もうそんな時間か。だが問題無い」
「優先順位は低いからな」
「絶対必要ではないからな」
「それに仕方ない」
「そうだ仕方ない」
「我々に余裕は無いからな」
「だが向こうにとっては想定の範囲内」
「だからこそ我々は作業に専念できる」
「そう、この場合……」
交互に声を出していた二機が今度は揃って結論を口にする。
「「向こうが我々の代わりに行う手はずだからな」」
↓
【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス:① 隠し部屋1と素敵医師の隠れ家を探し、そこでアイテムを回収する
② ①の後、『読み替え』でどれだけの事が出来るか実験する。
ザドゥ達の救出が単独で不可能でないと判断したならそれを試みる。
ザドゥに会えたらプランナーとの交渉を頼んでみる。
智機との接触は極力避ける。
③ ①と②の後、紳一(亡霊)とアズライトの記憶検索を始める。
ルール違反者に対する警告・束縛、偵察は一旦、中止
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』 (現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)、通信機は学校跡付近に放置。】
【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
※透子は智機達がザドゥ達を見捨てる判断をしたことに気づいていません。
※透子の管制室での行動は智機本体に伝えられました。
※透子に伝えられた『警告』はプランナーのものであるとは限りません
※管制室での『謎の声』の主は現在不明です。
※鬼作と交わったレプリカ智機は外見は人間とほとんど同じでした。
修正稿、投下完了です。
本投下の際は他作品にあわせて時間表記を調整します。
問題が無ければ明日の深夜12時以降に本投下します。
新作の感想は今夜に。
> 歪な盤上の駒-道
ザドゥの外出が今になって大きな意味を持ち始めてるなぁ。
本体がレプリカをハッキングするとはこれは意外。
まさか智機がザドゥを6人組にぶつけさせようと考えるとは……。
芹沢とタッグを組んで戦えば、6人組の勝算が低くなるだけに
戦闘に至るまでの過程がどうなるか楽しみ。
遂に来るのか魔窟堂の初戦闘。
ケイブリスとしおりの存在が対主催へのトドメになりそうな感じで緊張感がある。
良い繋ぎGJでした。
本投下の際、何行か描写の追加があります。
最後のレプリカの会話はメール欄のつもりで書きました。
>>764
仮投下お疲れ様です。
特に問題はないと思います。
段々とラストに加速して行ってるのがわかって楽しみになってまいりました。
遅れてしまいましたが、これから新作『ねがい』の本投下を始めます。
全部で21レスです。
本投下完了しました。
次は素材の更新・作成作業に入ります。
今週中のUPを目指します。
>>743
ごめんなさい。
書き終われなかったので、明後日以降に伸びますorz
少々長くなりつつあるので明晩に交渉話の半分を仮投下します。
全文が間に合わなく、半分に問題がなければ日曜夜にそのまま前半部として投下します。
重ね重ね遅筆で申し訳ない。
すみません、素材UPは今週の火曜日になりそうです。
その前にSS分だけまとめたものを今深夜にUPします。
火曜日のUPは以下の通りに仕様変更する予定です。
※キャラ追跡表の【椎名智機】と【レプリカ(全機を1つのキャラとして)】を別々のキャラとして扱う。
※死亡後のキャラ登場話で新規の台詞や動作が無い場合は(亡霊クレアとかは別)登場話としてカウントしない。
※各話にあるキャラ追跡欄で次の登場話が被るキャラ達は次登場話のリンクをひとつにまとめる。
※キャラクター紹介(ネタバレなし)は説明書や紹介サイトを元にして作成。
※キャラクター紹介(ネタバレあり)は作中の動向を中心に作成。
これらの仕様変更で不都合がありましたら、変更または取りやめも視野に入れてます。
ご意見がありましたらどうぞっす。
274話までのSSと地図とリンクを更新した素材をUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org9749.zip.html
パスは rowa です。
特に異論が無ければ、次回更新時に『そらをみあげて想うこと』は『Why?』の前の話にしたいと思います。
その際に『Why?』の本スレ投下時に削除した部分も追記したいと思います。
>>771-772
了解しました。
此方は問題ありません。
必死こいて今かいてます。
明日休みなので仕上げるんじゃぁぁぁぁ。
えー……すいません。
再UPが今週末くらいにまで遅れそうです。
加えて『Why?』を確認してみたところ恭也が登場するのは変なので、再UP時に修正版を加えます。
それと同時に本スレにて修正報告をします。
時間がないこともあって、今ようやくSS分を纏めたところです。
すみません。
近日中に新コンテンツ分をUPできそうですが、その前に『Why?』修正版をここに投下します。
その後、本スレで修正報告を行い、それからSSまとめ最新版をここにUPします。
追加分の文章を向こうに投下すると1レス超えるので、ここでのレスのリンクを貼り付けます。
それから新コンテンツ分のUPの有無に関わらず、明日の晩に作品の予約をする予定です。
話の内容は現状不定ですが、アナザー化は覚悟の上です。
#6 662-665
(二日目 PM1:55 病院内)
――見つけたそれはその場に似つかわしくないものだった。
使える衣服がないかとロッカーを物色してた時、それを見つけた。
ここどこだっけ?と疑念がまひるの脳裏をよぎった。
まさかと思いたち、それを手にとって恐る恐る臭いを嗅いで見た。
服の臭いしかしなかった事に安堵する。
あたしって下品だなあと、心の中で呟きながら、鼻歌を歌いながら選んだ服をデイバックに詰めた。
部屋から出ようとした時、もう一度『それ』を見つめた。
不自然さにまた眉をひそめた。
まひるは十秒近く凝視した後、それを手に取って折りたたみ、ビニールに入れてデイパックに入れ、
すぐさま部屋を出たのだった。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:12 西の小屋)
「駄目です」
地図に載っている小屋に行きたいというまひるの提案は、紗霧によってあっさり却下された。
何でと、言いたげな一行を目の前にして、紗霧は両目をつむりながら疑問に答える。
「此処に行った所で良くて誰もいないか、悪ければあのロボットが待機してる可能性があります。
もし主催が私達の居場所を把握していない場合は、向こうに好機を与えることになってしまうんですよ?」
「うーん……」
予想してた通りの返答ではあったが、叱られてるようで何か居心地が悪かった。
少々ではあるがまひるの表情には落胆の混ざった困惑が浮かんでいる。
「何か在るとしても参加者の死体でしょうね。彼らの支給品も使い物にならないものになっているか、
持ち去られてるかの何れかでしょうし」
と紗霧は言う、心の中で迂闊な参加者のと付け加えて。
狭い建物かつ森の中にある最初から所在の知れた小屋など、殺人鬼にとって格好の狩場になりかねない。
「死体があるなら、弔ってやりたいんだけど」
「……首輪の事を忘れてませんか?」
言うや紗霧は自らの首を親指で指す。
「あの首輪は解除されても、向こう側に色々と解るものなのですか?」
「其処までは解りません。ですが用心に越した事はありません」
ユリーシャの質問に受け応えをしながら紗霧は考える。
対人レーダーと首輪を魔窟堂に調べて貰えば、その辺の事が解る可能性は充分にあるだろう。
だが、これくらいのことで機能停止のリスクを背負ってまで、レーダーと時間を無駄使いしたくは無かった。
実際は解除後の首輪の探知機能等は機能してないのだが、彼女らがそれを知る由はない。
その事を知っていたら、紗霧は解除後の首輪を罠の材料等に活用していたことだろう。
「う〜ん……」
死体を見つけたら見つけたらで、身元を見極めれば生き残りの参加者の情報も、
解りそうなのにな思ったが、数も多い上に堂島薫のようにバラバラになって、
身元の割り出しが困難な死体があった事も思い出し引き下がることにした。
「……じゃ諦める」
渋々まひるが返答したのを受けて紗霧は視線を外そうとした。
が、がさごそと物音がまひるの方から聞こえたので再びそちらの方に目を向ける。
「………………何ですかそれは?」
「あたしもこれ見つけた時はそう思った」
「それって……」
まひるはそれの両端を掴んで全体像をみんなに見せていた。
ユリーシャとランスはそれを――それと同じものをよく目にしていた。
「まひる殿……何を……」
魔窟堂も職業柄?それは結構目にしていた。
その為か心なしか声色は弾んでいた。
紗霧は半眼でしばし考え込み、彼女なりにややドスを利かせたつもりで言う。
「本題はこれですか? で、貴女はこれを何処から手に入れたんですか?」
「病院」
表情だけはにこやかに、内心では機嫌悪い時にやばかったかなと後悔しながらまひるは明るく答えた。
「……何で病院にこれがあるんですか? 変な趣味をお持ちの方が使ってたとでも言うつもりですか?」
「まったくの新品みたい」
言って、調達した本人はまたもや臭いを嗅ぐジェスチャーをする。
「支給品?」
ユリーシャが言った。これまでに一行は死んだ参加者のデイパック――支給品一式を2つ回収している。
その一つだと彼女は考えたのだ。
「ロッカーに入ってたよ。なぜか」
「そんな得体の知れないものは捨てて下さい」
「紗霧殿、捨てなくても良いのではないか?」
魔窟堂が優しく諭すように紗霧に言った。
まるでおイタをした子供をやんわりと叱り付ける親の様に。
紗霧は魔窟堂のこれまで以上の不審な反応にしばし返答に詰まった。
(意図は一体なんですか?
まひるさんは既に違う服に着替えている。
あの子には小さすぎる。となれば目的は……)
紗霧がその発言の意味に気づくのにさほど時間は掛からなかった。
困惑が怒りに変わったのもさほど時間は掛からなかった。
まひるは紗霧から怒気が膨れたのをを感じ、音も無く思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。
「まひるちゃん……その服のサイズはいくらだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」
動転しながらまひるは何とか答える。
「そうか……」
ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。
「残念だ」
「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私はこういう服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
ランスに請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって彼女の出自が出自だけに着るのは抵抗があった。
実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続けた。
「着ませんよ」
紗霧は不機嫌そうに言った。
それを訊いた魔窟堂の表情が落胆に沈むが、熱いまなざしはそのままだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれた。
「……まさかと思いますが……ジジイ……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「……………………」
魔窟堂は返答に詰まり、押し黙る。
目が見開かれ、口は半開きになり、彼の心中に閃光のような独白が轟いた。
(その手もあったか!)
紗霧は沈黙を肯定と受け取り、笑顔で魔窟堂に言った。
「見限られたいんですか、魔窟堂さん」
「さ、紗霧殿!何故わかった!?」
「雰囲気で解りますよ……ふふ」
「おぬし、何でそこまで殺気立っておるんじゃ!」
自らの右手を背中に回した紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫んだ。
メイド服とデイパックをユリーシャに預けたまひるは、すかさず2人の間に入って紗霧を制止した。
事態は何とか収拾しそうだった。
↓
【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。
最新274話までのまとめをUPしました。
『Why?』修正済みです。
各話追跡表の仕様も少々変更しています。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org30602.zip.html
パスは rowa です。
また今夜。
予約します。
登場キャラはメール欄の予定です。
黒幕サイドの異世界との関わりに少し触れた内容になります。
仮投下は早ければ明日、遅くても火曜日の予定です。
それを過ぎたら破棄します。
ごく短い話になると思います。
仮投下から1、2日経って、問題が無ければ本投下します。
祭典進行に筆をとられ年始で時間が取れず……駄目人間。
三が日開けたので近いうちに前編を上げれるよう努力します。
ごめんなさい。
>>783
了解です。
すいませんが、本日投下できそうにないので一旦予約を破棄します。
今週の木曜日に何か通知します。
今週の土曜日に>>783 とは違うキャラで予約します。
その際、素材もUPします。
今度こそ更新できるといいな……。
前のとほとんど変わりませんが……素材をUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1764.zip.html
パスは negiです。
時間軸は交渉後か交渉中になりますが
紗霧、魔窟堂、恭也(場合によってはレプリカ智機)を予約します。
内容自体は交渉とは関係なく、紗霧がある事に気づいた程度です。
回想話みたいなものです。
投下前後に交渉話が仮投下されれば、本投下時に内容をそれにあわせて修正します。
期限は来週の月曜日までにします。
それを過ぎれば破棄します。
読み返してかなり展開に無理が出てきたのでNGにします。
アナザーになると思いますが今週中にここに作品を投下します。
すいませんでした。
どうも、こんばんは。遅れて申し訳ございません。
「バトルロワイアルパロディ企画スレ交流雑談所(以下交流所)」の方でラジオをしているR-0109と申します。
現在、交流所のほうで「第二回パロロワ企画巡回ラジオツアー」というのをやっていまして。
そこで来る5/4(月)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?
ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。
交流所を知らない人のために交流所のアドレスも張っておきます。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1229832704/ (したらば)
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html (日程表等)
お、日程決まったんですね。お疲れ様です。
ttp://r-0109.ddo.jp:8000/ (ラジオアドレス)
ttp://cgi33.plala.or.jp/~kroko_ff/mailf/radio.htm (聞き方)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1241438450/ (実況スレ)
です
乙です。
ご無沙汰しております。
次回予定は水曜の晩、「タッチ・ユア・ハート/キャッチ・マイ・ビート」。
小屋組とレプリカ智機P−3が登場予定です。
楽しみにしてます
以下9レス、「タッチ・ユア・ハート/キャッチ・マイ・ビート」です。
指摘等なければ土曜晩に本スレに投下します。
次回予定は「悪夢」。
知佳と亡霊紳一、回想でタカさんファミリー等が登場予定、
来週水曜までを目処に、書きあがり次第このスレに投下します。
遅まきながら「はたらくくるま」は破棄とさせていただきます。
>>33
(二日目 PM6:30 C−6 西の森・小屋3)
「やあ生存者諸君、失礼するよ」
雪兎のように白い肌と赤い瞳の少女が、挨拶しながら小屋へと入ってきた。
その姿を見たユリーシャがランスの腕にしがみついた。
まひるはぎょっとした表情のまま固まっている。
少女を挟むようにして歩く恭也と魔窟堂は警戒心を漲らせ、
数歩遅れて入ってきた紗霧は怪訝な表情で少女を見つめている。
それも仕方の無いことだろう。
この少女は主催者・椎名智機のレプリカント・P−3。
病院にて彼らを亡き者にせんと襲い掛かった機械歩兵の姉妹機故に。
「おお、君が噂のロボ子ちゃんか。
想像してたよりずっと可愛いぞ、グッドだ!」
唯一、智機の恐ろしさを味わっていない男・ランスが能天気に声を掛ける。
いや、この男のことだ。
仮に病院で襲撃されていたとしても同じように声を掛けるやも知れぬ。
「お褒めに預かり光栄だね。私はレプリカ智機汎用型哨戒機P−3。
宜しく頼むよ、№02・ランス」
「で、なんだ。智機ちゃんは投降したのか?」
「No、交渉に来たのさ。
武器も害意も持ち合わせていないから、安心したまえ」
P−3は自分の肩に馴れ馴れしく置かれたランスの手を軽く払うと、
彼を一顧だにせずにダイニングテーブルへと向かう。
「さあ、№36・月夜御名紗霧。交渉のテーブルに着こうではないか」
P−3は舞台演者の如く両手を広げ、己が主役であるかの如く着席を促す。
主客の入れ替わった無礼かつ不遜な態度だ。
しかし紗霧は、嫌味も皮肉も口にすることなく沈黙を保っている。
かといって、様子見や策略で大人しく振舞っているとき特有の、
井戸の底の如き仄暗い眼差しも宿っていない。
彼女の心は、乱れていた。
沈黙はその乱れをP−3に悟られぬ為の手段だ。
(いけません紗霧。早く乱れたペースを整えなければ……)
乱れは、予想外の敵が予想外の行動に出たが為。
そして、敵よりもたらされた情報の衝撃が大きすぎたが為。
さらに、提案の旨みに一瞬目が眩んでしまったが為。
紗霧は一言半句違えず、レプリカ智機が切り出した提案を反芻する。
『東の森が燃えていることには気づいているね?
その渦中にある我らが首魁・ザドゥ様が脱出を図っているのだが、
火災にやられて手ひどいダメージを負っているようでね。
そこで提案だ。
彼が拠点に戻るまでの間に、殺してみてはどうだろう?』
P−3は小屋の外で紗霧たちに、この背信の交渉を持ちかけた。
弱っている仲間を殺せと唆した。
表情一つ変えることなく、淡々と。
「招かれざる……と思われているだろうが、一応私は客人だからね。
上座に着かせて貰うとしよう。
月夜御名紗霧はそちらの席でよろしいかな?」
P−3は仕切っている。急かしている。嘲っている。
紗霧は焦りで鈍りだした頭脳を必死に押し留める。
(良くない流れですね……)
交渉、舌戦、化かし合い。
それは紗霧の処世術であるし、特技であるとも言える。
十重二十重の策を巡らせて絡め取り、言葉巧みに思考を誘導し、
相手に踊らされていることを自覚させぬまま躍らせる。
その紗霧が、己の分野である交渉に対し何を躊躇うことがあるのか?
『想像して想定して検討した上で、想像して想定して検討してください』
以前、恭也に示したこの言葉こそ紗霧の本質。
不安の理由。
整理と準備、そこから導かれる予測。
紗霧はそれらを無しに能力を十全に発揮することは出来ない。
閃きの宿らぬ性質。臨機不応変。
紗霧は己のそうした特性を理解しているが故、分の悪さを感ずるのだ。
(今、テーブルにつくのは宜しくありません。
認めたくはありませんが完全にイニシアチブを握られています。
乱れたペースを早急に回復させなければ、
精神的に押し切られる形で決着してしまうでしょう……)
一方のレプリカ智機P−3も、己の有利な状況を理解していた。
否、事は彼女の背後にいるオリジナル智機の思惑通り運んでいる。
(ボクシングで言えば、ゴング直後の一発が相手の顎に綺麗に入った状態か。
紗霧の脳は今、揺れに揺れているだろう)
智機は有利な交渉になるよう、戦術に2本の柱を立てていた。
1つ、常に先手を打ち、イニシアチブを握り続けること。
2つ、時間制限があることを意識させ、焦りを誘うこと。
月夜御名紗霧にはそうした速攻戦術が有効である。
データと確率から成るこの機械の読みはズバリ的中している。
「№08・高町恭也、椅子を引いてくれ給え。
敵とはいえ、レディに対する心遣いくらい持ち合わせているだろう?」
P−3が、また一つ状況を推し進めた。
役割を振られた恭也が、紗霧の意志を確認すべく目線を彼女に送る。
その真っ直ぐな瞳が更なる重圧となり、紗霧の心の乱れに拍車を掛ける。
(マズい――― 明らかにマズい流れです。
しかし、拒否や遅滞行動をする理由もすぐには思いつきません。
ああ、益々相手のペースに嵌っていくばかりではないですか!
ならば先ずはテーブルについてから……)
紗霧がしかたなしにテーブルへと足を向ける。
敵の思惑通りに流されていることを自覚しつつ。
そこに、絶妙なタイミングで第三者が割り込んだ。
「うーん…… ど〜も怪しいなぁ?」
発言の主はランス。
紗霧の軽快とは言えぬ歩みが止まり、智機の鋭角な眉根が不快げに歪む。
「怪しい、とは?」
「武器が無い?敵意が無い?口では何とでも言えるよなぁ、智機ちゃん?」
「ふむ、ならば一体どうしたら信頼してもらえるのかな?」
「ボディチェックだな!」
自身満面に返答するランスの両手は前方に向けてワキワキしていた。
しん…………………………………………………… と。
室内に冷凍庫の霜が如き沈黙が降りる。
「俺様の素晴らしすぎるアイデアに反対意見は無いということだな?
まずはこの小ぶりなおっぱいからモミモミ…… げふんげふん。
チェック開始といくか!」
言うが早いか鷲づかみ。
恥も外聞も躊躇いも逡巡もなく、真正面から真っ直ぐに。
「バカな!」
「あんたってお人は、ほんとにもぅ、ほんとにもぅ」
「そんな……」
「異議あり! じゃ!」
我に返った小屋組の面々が同時に己のスタイルでツッコミを入れる。
一拍置いた紗霧もまたバットを振りかぶる。
「ランス、貴方少しは場の空気というものを……」
―――読むべきです。
そこまで発音することはなく、紗霧の叱責は尻つぼんだ。
(今、私は言いましたね。場の空気、と)
めったに宿ることの無い閃きの匂いを、己の言葉に感じたが為。
紗霧は思考を尖らせる。
(場の空気……
それに支配されたから私のペースが乱れたと言えます。
ならばこの悪いムードを払拭する為には、
むしろ読めない行動こそが―――)
紗霧の思案を他所に、ランスの手は智機の薄い胸に到達していた。
イタズラの矛先を向けられたP−3が吐き出すのは演技掛った大仰なため息。
「それで納得するならさっさとまさぐりたまえ。
早く交渉の続きに戻りたいのでね、時間をかけず…… んっ!」
ビクン、と。
P−3の表情や態度に反して、その体が震えた。
ニヤリ。
ランスは鼻の下を大いに伸ばして、高らかに宣言する。
「乳首みーっけ!」
「ランスさん、悪ふざけが過ぎます!」
「俺様の楽しいお触りタイムを邪魔しやがって、むかむか。
だがな、今回は俺様に理があるのだ」
「理も何も!」
「童貞のお前は知らんだろうが、女の子には隠す場所がいっぱいあるのだ。
おっぱいの谷間とか、お尻の割れ目とか、もちろんアソコとかな。
俺様はみんなの安全のために、危険を省みずこうして調べてやっているのだ。
感謝されこそすれ、責められる謂れなどどこにも無いぞ!」
見かねて止めに入った恭也がバサリと返り討ちに遭った。
彼が真っ赤になって黙り込んだのは童貞だからではない。
仁村知佳の肉の感触が生々しく蘇ってしまったからだ。
無論、ランスを始めとする面々にそれを知る由も無いが。
「そこで黙り込むとはお前やっぱり童貞だったか!
女の子の柔らかさも知らんとはかわいそうな奴だな、がはははは!」
恭也を振り切ったランスはますます絶好調。
その指がP−3の胸元で蜘蛛が如く複雑に蠢いている。
「神様仏様紗霧様っ!もうあのオトコを止められるのはあなたしかっ!」
「このままでは交渉が始まらぬうちに決裂してしまうやも……」
「バットは…… やめて頂きたいのですが……」
残る三者が口々に紗霧を頼る。
暴走するあの男をどうにかできるのは紗霧を措いて他に無し。
既にそれは小屋組の共通認識となっていた。
「確かに、足の速い情報のようですしね……
ランスさんの程度の低いイタズラに時を割くのは愚の骨頂。
でしたらこんな妥協案はどうでしょう?」
P−3に向き直った紗霧の目許には冷笑。口許には歪み。
頼れる神鬼軍師の常の表情が、そこに蘇っていた。
「妥協案?どのような?」
P−3が見下した態度で問う。
紗霧が底意地の悪い表情で答える。
「私と椎名さんが交渉している間、ランスが好きなだけお触りする。
―――合理的ですよね?」
「「「「「えええええ???」」」」」
↓
【現在位置:D−6 西の森・小屋3】
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス:ザドゥにぶつけるための交渉】
【所持品:?】
ご無沙汰してます。
トリの方は出先で既存の物のパスが解らなかった為に緊急でつけたものです。
帰宅時に再度このトリと既存の物で証明しようかと思います。
ラジオの方を聴いていた方は知っているかもしれませんが、
ただいま懇意にしている従兄弟の結婚式のことで式が二日前のために田舎の方にいます。
それ以前に関しても再度この場を借りて遅れていること申しわけありませんでした。
(ラジオを聴いてた方は知っていると思いますが、あれ(メル欄)のせいで実生活自身が大変だったこととか……)
来週、ないし再来週くらいから例の交渉話から投下を再開するとラジオ等で宣言していましたが
>>793 さん、此方、構いませんので投下してください。
そこから続けても問題のない範囲に修正の効く話ですのでお気にせず。
最後に、重ね重ね申しわけありませんでした。
構いませんので投下してくださいとお気遣いは頂きましたが、
「タッチ・ユア・ハート/キャッチ・マイ・ビート」の
本スレ投下は取り下げさせて頂きます。
知らぬこととはいえ場を掻き乱してしまったようです。
済みませんでした。
以下12レス、「悪夢」です。
指摘等なければ土曜晩に本スレに投下します。
あと2〜3レス分ほど、紳一パートを増やすかもしれません。
次回予定は「生きてこそ」。ザドゥと芹沢が登場予定。
来週水曜までを目処に、書きあがり次第このスレに投下します。
>>41
(二日目 PM6:34 F−6 東の森・小屋2付近)
炎が宵闇を侵食している。
太陽光など比較にならぬ明るさと温度が周囲に満ちている。
東の森南部、浅いところに位置する小屋付近。
そこから南に程よく距離を置いた潅木の陰に身を潜める少女が一人。
濁ったフィンの乙女、№40・仁村知佳。
知佳が偵察するは数十機の智機たち。
忙しなく、されど整然と、消火活動に勤しんでいる。
音声は皆無。
諧謔や言葉遊び好む智機達ではあるが、音声による情報伝達より
数十倍効率的なデータ通信にての指揮命令を採択していた。
(前、勝てなかったのが二機、か……
でも、今なら…… 今しか……)
知佳が着目していたのは、赤い智機ことDシリーズ。
この小屋周辺に2機、存在している。
うち1機は井戸のポンプと融合し水の汲み上げに余念なく、
もう1機はショベルカーと融合し木々と土砂の運搬に専念している。
故に。
不意を衝けば―――
先手を取れば―――
あの2機さえ壊してしまえれば、眼前の智機を鏖殺することは難しくない。
一心不乱の作業は、隙なのだ。
しかしその隙こそが、知佳の攻撃の手を躊躇わせていた。
(今この場で機械たちを放置することと、火災を放置することの
どっちが恭也さんたちにとってのマイナスなんだろう……)
指標がない。無き故に迷う。
火災に気付いて10数分、ここに身を潜めて5分。
知佳は結論を出せずにいた。
身動きがとれずにいた。
その知佳の止まった時間を動かしたのは、背後から近づく何かだった。
《この少女は流石にまだだろう。そのはずだ。そう信じたい!》
知佳の鋭敏な聴覚が、後方の不穏な呟きを捕らえたのだ。
「誰!?」
反射的に振り返る知佳の目に人影は無い。
凝らしても探っても特別なものは見当たらない。
炎に照らされた木々と茂みと揺らめく煙のほかには、何も、誰も。
《羽が生えているのか。この娘もまた『人でないもの』なのか?》
しかし、誰もいないはずの空間から聞こえる声は、知佳の心を鋭く抉った。
人でなし。
それは知佳の禁句。癒えぬ傷。幼き日々の孤独の要因。
そこを突かれては知佳も黙ってはいられなかった。
「私は人間だよっ!!」
数刻の沈黙。
知佳の大声に気付かなかったのか、気付いた上で無視を決め込んだのか
分からぬが、智機たちは動揺を走らせることなく作業を継続している。
《お前も俺の声が聞こえるのか?》
煙に紛れてゆらゆらと。煙の如く茫々と。
知佳のすぐ近くに声の主はいた。
最初から姿を現していた。気付かなかっただけで。
その体の輪郭が背景に対して曖昧で、透けていただけで。
故に知佳はその存在をはっきりと言い当てた。
「幽霊……なのね」
幽霊―――
監察官・御陵透子は驚愕したその存在のあり方ではあるが、
知佳は怯えた様子を見せなかった。
その差は、慣れだ。
彼女の世界においての幽霊はさほどレアリティの高いものではないのだ。
知佳の住まうさざなみ荘には、十六夜なる霊が住人として名を連ねているほどだ。
しかし、その存在自体には驚きを感じなかった知佳も、
次いでこの亡霊から発せられた質問には度肝を抜かれてしまう。
《では俺の質問に答えろ。処女か?》
「えっ……」
炎に負けぬ勢いで赤く染まり、照れと怒りと後悔がない交ぜとなった
表情を見せた知佳を見て、この不躾な亡霊・勝沼紳一は敏感に悟った。
《おまえも中古か!!!!!》
知佳には中古の意味するところはわからなかったし、
あえて知りたいとも思わなかった。
この下劣で無礼な亡霊に声を掛けてしまったことを後悔していた。
これ以上関わらないようにしよう。
そう、心に誓うことにした。
関わりを持ちたくないという点では、紳一も同じだった。
紳一の女を見る基準は2つしかない。
処女か非処女か。
美女が醜女か。
処女かつ美女でなければ、彼の興味の対象外となる。
《破瓜の血の匂いまでするぞ!?くそくそくそ!!
又しても俺は間に合わなかったのか……》
紳一はショックに項垂れ、とぼとぼと歩き出す。
知佳との邂逅がなかったかのように、彼女の存在をまるで無視して。
知佳と重なり、通り抜けて。
「……あ」
その瞬間、知佳の心に瀑布の勢いで紳一の心が流れ込んできた―――
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(1日目 17:26 F−8 漁協詰所)
透明人間にあこがれる諸兄は多いことだろう。
では、僥倖にも透明になれたとしたら真っ先にすることは何か?
俺ならこう回答する。
女湯に潜入。
この回答、数多の同意を得られるものと確信している。
覗き―――
そこにはレイプとは趣の違った背徳の興奮が存在するからだ。
漁協詰所に到着したとき、風呂場からまひるの声が聞こえた。
それに気付いたときの胸のトキメキは筆舌に尽くし難い。
まひるは犯す。
いずれ必ず犯す。
それはそれとして、覗けと言わんばかりのこのシチュエーション。
前菜としてうってつけではないか!
亡霊になってしまったのなら、その特性を上手く欲望に生かさなくてな。
だというのに……
俺が見たものときたら……
ち○こだ。
もう一度言う。ち○こだ。
「い〜い湯だな、ハハハン、とくらぁ」
俺が受けたとてつもない衝撃などどこ吹く風で、
イノシシ女の能天気な歌声が風呂に反響している。
その隣で身を縮めているのがまひる。
全身ピンクにそまったまひるの柔い肌。
なんと肌理細やかな、なんとすべらかなことか!
それなのに。
目を擦る。もう一度見る。ち○こだ。
頭を振る。もう一度見る。ち○こだ。
頬を抓る。もう一度見る。ち○こだ。
何度見ても何度見ても、そこにあるのは処女穴ではなく、ち○こ。
俺は…… 俺たちは、あろうことか男に目をつけ男に欲情し、
男を浚って男を脅した挙句、犯されまくったというのか!!?
なんという…… なんという悪夢!!
《ははは……》
何度目になるかわからない自嘲の笑みを携え、俺は漁協詰所を後にした。
裏目だ。
この島に来てからの俺ときたら何をやっても裏目に出る。
処女を犯すという目的にブレはない。
しかし、ターゲットを失った。
次のターゲットの心当たりはない。
歩き回って、探さなくてはいけない。
そう、歩き回って、だ。
幽霊になったからといって都合よく瞬間移動できるものでもない。
徒歩だ。
疲労感は無くても徒労感は重い。
都合よく近場で見つかるといいのだが―――
―――いたよ。
進路を東に取った俺の前方数メートル。
猫のように身を丸めて岩陰に身を潜める少女と、目が合った。
いや、俺の姿は見えないのだ。目が合う道理が無い。
あの少女は単に漁協詰所を見張っているだけだろう。
《こんどこそ処女であってくれよ―――》
期待は持てそうだ。
ネコミミフードのついたパーカーという幼児性を残したいでたちが、
いやがおうにも俺の期待感を高めてゆく。
俺は小走りで少女との距離を詰める。
《たすけ て》
声が聞こえた。微かな声が。
視界に収まっている少女の口は動いていないのに。
《ケモノ を》
又しても。少女の口は動いていない。
それなのに明らかに少女からこの声が……
《おい はらっ て》
違和感と、予兆。
俺は足を止めて少女をじっくり観察する。
そして気付く。
陽炎のようにゆらゆらと。
少女の肉体に重なる様に、縛り付けられているかの様に。
輪郭があやふやで、亡霊よりも存在感の薄い何かが、そこに在った。
「……ついてないょ。気付かないフリでやり過ごそうと思ったのに」
ため息と共に、少女が遂に口を開いた。
少女は明らかに俺を見つめて、明らかに俺に対して。
《俺の姿が見えるのか?》
「残念だけど見えるし聞こえるょ」
少女は続ける。
「でも、これ以上関わりを持つ気は無いょ。
わたしとここで逢った事は忘れて、どっか行ってょ」
それは会話ではなかった。
一方的かつ上から目線の命令だった。
《俺様に向かって大きな態度を―――》
怒りと威圧感を込めて反撃開始。その宣言を言い終える前に―――
俺の首筋の産毛がぞわりと逆立つ。刹那。
少女の気配が爆発的に膨れ上がりその長い腕を俺に向けて伸ばしてきた。
「邪魔するならここで消すょ?」
亡霊で無ければ腰を抜かし、失禁していただろう。
密度の濃い圧倒的な闇が、少女の形のままに、そこに顕現していた。
これか!
これがあの忌々しい神楽が言っていた『人でないもの』か!
なんという…… なんという悪夢!!
《了解した……》
「ならいいょ。それじゃあバイバイだょ」
俺はくるりと背を向けて、元来た道を逆戻りする。
その背中に、少女の形をした何者かのさらなる要求が述べられた。
《ああ、それと。あの建物の入り口で見張りをしてる堂島って男は
わたしの標的だから、ちょっかいだしちゃだめだょ?》
俺は無言で頷く。
そこでようやく、俺に伸びていた闇の気配が引いていった。
《お にい さん いかない で》
少女の声でない悲痛な声が俺を引きとめようとしている。
「呼んでも無駄だょ。あの亡霊にはわたしに逆らうガッツはないし、
そもそも憑依をどうにかする力は無いょ。藍はいいかげん諦めなょ」
《この からだ は あい の なの に……
おまえ が かって に はいって きた の に……》
背後では声と声にならない声が言い争い続けている。
だが、それはもうどうでもいい。
それよりも、なによりも、俺にとって重要な事がこの会話に内包されていたから。
憑依―――
人に取り付き、その体を意のままに操る術。
この少女の怖いほうの何かは、それをして本来の少女の体を支配しているらしい。
根拠はない。
しかし、確信がある。既視感がある。
俺も、憑依できるはずだ。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
紳一が知佳をすり抜ける一瞬に、それらが知佳の頭脳にダイレクトに伝わった。
処女を犯す。
それだけの為に、この亡霊―――いや悪霊は、島内を彷徨っている。
憑依、という具体的な手段を持って。
《どこかに処女の人間はいないものか…… いれば男に憑依して犯すのに。
どこかに処女の亡霊はいないものか…… いればそのまま犯すのに》
紳一はうわごとのように呟きながら知佳から遠ざかってゆく。
知佳は距離を置いてかの悪霊を尾行する。
(あれを野放しには出来ないよ。でも……どうやって止めるの?)
知佳が放つ念動力も衝撃波も、広い視点では物理攻撃に位置づけられる。
物体ではない霊にそれら一切は通用しない。
(十六夜さん……)
知佳は友人の退魔師・神咲薫の得物である霊刀を思い浮かべる。
この世ならざるものを滅するを可能とするインテリジェンスソード。
あれに匹敵する何かがあれば、あるいは……
【仁村知佳(№40)】
【現在位置:F−6 小屋2付近 → 紳一追跡】
【スタンス:①亡霊紳一を止める
②読心による情報収集
③手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
④恭也たちと合流】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
※ まひるの性別を知りました。
遅れてしまいましたが新作お疲れ様です
矛盾もなく本投下しても問題ないと思います
色々と意味有りげな箇所がちらほらありますね^^
一段落つきました。
報告遅くなりました。
今週末に此方に仮投下予定です。
>>806
ラジオの件での報告がてらだったのですが、気遣いをさせてしまったようですみませんでした。
今日を目処に投下を予定していた『生きてこそ』ですが、
現在苦戦中で、今晩中には書きあがりそうにありません。
申し訳ありませんです。
後日完成次第、投下させていただきます。
今しがた書き終わりました。
見直しが入るのと眠気で死にそうなので明日ないし明後日の夜に此方に仮投下します。
>>822
いえいえ、自分も時間の関係で遅筆ですのでお気になさらず。
のんびりと頑張っていきましょう。
楽しみにしてます
うあー、ごめんなさい。
やっぱり平日は二時間のまとまった時間が取りにくくて中々……。
推敲(修正)の時間取れ次第、遅くなったら土日になってしまうかもしれません。
俺は今でも期待してる……だけど無理せずに頑張れ
すんません。
ルーター壊れて買いなおしてました。
本日復帰しましたが、設定に追われてるので数日お待ちくださいorz
新しいルーター不調→メーカーに送る→新しく送られてきたのがまた不調→やり取り後送る→機種変えてもらう→不具合なし。
もう牛は買わない。
というわけでお待たせしました。
近日中に一気に投下予定。
8ヶ月に渡る予約放置、誠に申し訳ございませんでした。
以下11レス、「生きてこそ」です。
ですが、>>204 にてa154siyedさんの
> 一気に投下予定。
のコメントがありますので、これに障りがあるようでしたらアナザー行きと致します。
>>101
(2日目 PM6:49 G−3地点 東の森北東部)
彼らは未だ、生きていた。
首魁、ザドゥ。
魔剣カオスを杖代わりに両膝を支え、牛歩の歩みを見せている。
刺客、カモミール芹沢。
ザドゥの肩を借り、引きずられるように歩いている。
先刻、感情の昂ぶるに任せて芹沢へ拳を見舞ったザドゥではあったが、
そこで芹沢を切り捨てたわけではなかったのだ。
ただし、同胞意識や思いやりなどは露と消えていた。
ザドゥの腹の底には芹沢に対する憎しみがとぐろを巻く蛇の如く鎮座している。
だのに何故、ザドゥは芹沢を捨てぬのか?
それは、意地だ。
意地のみが彼の両の足を支え、芹沢を放棄するを許さぬのだ。
『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』
今、ザドゥの脳裏の大部分を占めるのは、黄色く変色した包帯を全身に巻きつけ、
腐敗臭とケミカル臭を撒き散らす、仲間と呼ぶのも憚られる男の言葉だった。
ザドゥは嫌悪感に眉を顰めつつ、己の思いを反芻する。
(あの狂人医師の【呪い】にまで負けるわけにはゆかぬ)
ザドゥは死そのものをさほど恐れてはいない。
拳に賭けるを選び、悪事を為すを自覚し、欲望の赴くまま生きてきた自分が、
まっとうな最期を飾れるとは思っていない。
それでも、笑って死ねるという確信があった。
好き勝手に生きてきた己の生涯に、一片の悔いもないのだから。
ザドゥの自負心は不動のものだった。
完成し完結しているものだった。
この島に来るまでの彼はそう信じていた。
それが、今、粉微塵に砕けようとしている。
軋みを与えたのは、タイガージョーの熱き拳となお熱き言霊だった。
亀裂を走らせたのは、アインの冷徹な覚悟と研ぎ澄まされた執念だった。
しかしザドゥは、彼らを好敵手であると認めている。
ある種の敬意を抱いていると言ってよいだろう。
故に、どちらも深刻な敗北感をザドゥの胸に刻みはしたが、背骨を折るには至っていない。
ぽろぽろと零れ落ちる破片を必死で拾い集めては、接ぐことくらいは出来ている。
しかし。
『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』
口に出すも憚られるほどの外道にして、仲間であったことを恥じたくなるほどの下種。
ここで芹沢を捨ててしまっては、あの素敵医師にすら敗北したことになる。
そしてこの一敗地に塗れてしまえば―――
ザドゥの矜持は、二度と陽光の下を歩けぬほどに打ち砕かれてしまうだろう。
ザドゥは沈黙を保っている。芹沢も口を開かない。
あの口の減らないカオスですら、今は器物としての役割に徹している。
黙々と、ただ黙々と。
二人と一刀は森を抜けるべく歩みを進めている。
煙に巻かれ、炎を迂回し、ルートの断念に迷走を重ね、方向感覚など既に失って
久しくはあるが、それでも彼らは炎の渦中からは脱していた。
しかしそれは、生命の危機から脱したを意味しない。
煙は容赦なく視界を塞ぎ、不足する酸素は彼らの肉体から回復機能を奪い、
炎もその手を緩めることなく背後から迫ってきている。
絶命の機会は、そこかしこで廉売されている。
故に、一行のうち最も冷静な同行者・カオスは、状況をこう分析していた。
《これは、もうダメかもわからんね》
カオスは心中で嘆息し、ザドゥが初めて自分を振るったときのことを思い出す。
『俺の心はとうに漆黒だ』
それは己の為す悪を自覚し肯定しての発言であったのだろう。しかし。
《闇と黒は違うんじゃよ……
理性を感情が、意志を欲望が駆逐することを闇と言うんじゃ》
ザドゥが芹沢を捨てぬ理由が己のプライドに起因することまでは、
読心能力を持たぬカオスには見通せぬ。
だが、ザドゥの生へ欲望が、より強い欲望に駆逐されている。
故にこの惨状。
そのことは理解できたいた。
《生きてこそなのじゃがのう……》
カオスはそれを口に出さない。
訴えたとて聞き入れられる状態にないことを誰よりも知るが故に。
《じゃがもし―――
一縷の望みとして、ザッちゃんだけでも救える機会があるとするならば。
カモちゃんが自ら、置いていかれることを懇願した場合かのう……》
カオス自身に、ザドゥや芹沢に対する思い入れはさほど無い。
芹沢のダイナマイツぶりにうほほーいではあるが、それだけの事だ。
出会って一時間程度の間に、精神的な絆が結ばれることのほうが異常であろう。
それでもなお、カオスがこの2人に入れ込んでいるかの如く感ずるのは、
彼の過去とこの2人の現状が、多分に重なるところがあるが為だ。
かつて彼がまだ人間―――救世の大英雄(エターナルヒーロー)であった頃。
足手まといとなったリーダーでもあり親友でもあった男を置き去りにして、
神の座にたどり着いた経歴を持つ。
その際に剣となったカオスの力が、当代の魔王封印を果たしたのだから、
彼らの判断は歴史的に見て正しかったと言えるだろう。
《あの時あいつは、必死で助けようとするわしらに、
自分を置いてゆけと主張して譲らなかったのぅ……》
意志の篭ったそれでいて穏やかな眼差しと、自己犠牲を偽善と感じたらしい含羞の声色。
カオスの脳裏に置き去りにした友の顔がフラッシュバックされる。と、同時に。
それはいかなる共時性か。
この元盗賊の記憶をなぞるかの如く、芹沢もまた嗄れた声でこう囁いたのだ。
「ザッちゃんさぁ、もうあたしのこと置いていきなよ……?」
言葉とともに、芹沢の四肢から力が抜けた。
ザドゥの肩に思わぬ重量がかかり、彼は芹沢もろとも無様に尻餅をつく。
「何をいう、芹沢。薬中のお前にはわからんのだろうが、
ここに置き去りになぞしたら、お前は―――」
「すぐに焼け死んじゃうよねぇ……」
その返答にザドゥは息を呑む。
芹沢がいつの間にか現状を把握しうるだけの思考力を回復していたことに気付いて。
そして、自らが辿る運命を理解しつつ、置いてゆけと提案したことに気付いて。
言葉を失うザドゥに向けて、芹沢は力なく言葉を重ねる。
「あははー。足手まといは捨て置くのが戦場の倣いってやつだし。
何人、何百人死んだって、最後まで旗が立ってた方が勝ちなんだから、ね」
破天荒で磊落な逸話ばかりが面白おかしく、或いは悪役然として後世に伝わっているが、
彼女もまた、幕末動乱の時代を一介の武士の覚悟を持って駆け抜けた女丈夫の一人だ。
奉仕の対象は違えど、その精神性は高町恭也の御神流に相通ずるものがある。
即ち、自らは仕えるものの為の捨石に他ならぬ、と。
故に、ザドゥの決して見捨てぬという意地が本気ならば、
芹沢の自分を置いてゆけという覚悟もまた本気だ。
主催という【お家】のザドゥという【頭領】を生かすことこそ、彼女の本分なのだから。
「やー、ごめんねーザッちゃん。
あたしが正気ならこんなに苦労しなくて済んだし、ともきんも壊れなかったしぃ。
戻ったらさ、ともきんにもごめんねーって言っといて」
「戻ってから自分で言え」
芹沢はザドゥの命令に困ったような笑みとウィンクを発し―――
そこまでで精一杯だったのだろう。意識を闇に落とした。
《……覚悟、汲んでやらんか?》
カオスもまた、ザドゥの背を押した。
自らも同じ選択を踏み越えてきたこの剣の言葉は、重い。
「お前まで……」
《正直に言うぞ。このままでは共倒れじゃ。苦渋を飲め、辛酸を舐めろ。
そうして生きてここから出ることで、カモちゃんの尊厳を守ってやれい》
「っっ……」
それは奇麗事だ。おためごかしだ。
そんなことはザドゥにも分かっている。
わかっているが、しかし。
ザドゥの芯に触れる奇麗事であり、おためごかしでもあった。
尊厳。
芹沢の心の中の、自分が最も大切にしているそれを、守る。
ぐらり、と。
ザドゥの芯が揺れる。
ここぞとばかりに彼の生存本能が、甘く囁いた。
―――生きてこそ。
部下を踏み台にし、組織を、トップを守ること。
それは闇の格闘暗殺者集団を束ねていた自分にとっては至極当然な判断であり、
実際に何度も部下を使い捨てても来た。
(今、芹沢を置き去りにすることもそれと同じことなのではないか?
それは決して恥じることではなく、寧ろ首魁としての責任の取り方ではないか?)
ザドゥの胸中で、芹沢を捨て置く事が、現実感を伴ってどんどん膨らんでゆく。
その気を好機と目敏く捉えてか、生存本能の囁きに、彼の一億万の細胞が唱和した。
―――生きてこそ。
(チャームを…… 蘇らせねば)
彼が何故このような悪趣味なゲームを管理しているか。
それは愛妾を再びこの手に抱く為だ。
(その初志を貫徹することと、局所の一勝一敗に拘泥すること。
どちらが大事で、どちらが小事だ?)
ザドゥの煤に塗れた顔に表れているのは苦悶。
カオスは彼の隠し切れぬ葛藤を見つめ、結論づけた。
《これで決まりか、の》
芹沢を捨て置くを推し、それが採択されようとしているにも関わらず、
カオスの胸中も複雑だ。
安堵もしている。
落胆もしている。
結局、彼自身もかつての選択に釈然としない思いを抱いていたのだ。
理性でこの選択を支持しつつも、感情で違う選択を期待していたのだ。
考えても、悩んでも、決して答えの出ない問いに対して。
ザドゥが芹沢の顔を見つめる。脳裏にその存在を焼き付けるために。
思い返す。カモミール芹沢という女が、いかなる女であったかを。
短い付き合いではあったが、濃い付き合いでもあった。
弱さも強さも垣間見た。
情も交わした。
このまま何事も無くゲームが終わり、この女が望むのであれば愛人として
傍に置いてやってもいい。そうも思っていた。
薬物に侵されてからの奇矯な振る舞いには辟易もしたし、
今、この様な生死の狭間に身を置いているのは彼女のせいに他ならない。
だが、こうして顔を見ていても憎しみは湧いてこない。
言葉にして表すなら……
(戦友)
まさに、その一言に尽きる。
同じ主催者として、唯一同胞意識を抱ける存在だった。
鼻持ちならぬ椎名智機。
何を考えているのか分からぬ御陵透子。
野卑で愚鈍なケイブリス。
そして―――長谷川均。
その名を脳裏に浮かべた途端、ザドゥの脳内に忌々しき嘲笑が響き渡った。
『へき、へけけけ』
憎々しき呪詛を伴って。
『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』
(長谷川、均…… 長谷川っ、均っっ!!!)
点った。
ザドゥの心の最奥にある、未だ点したことの無い蝋燭が。
映った。
ザドゥの両の瞳に、揺らめくことなく直ぐに立ち上る炎が。
(―――逃げるな、ザドゥ!)
ザドゥは心中で生存本能の胸倉を掴み上げ、本気の拳を鼻っ面にぶち込んだ。
一億万の細胞たちの足を払い、マウントポジションからタコ殴りにした。
(その初志を貫徹することと、局所の一勝一敗に拘泥すること。
どちらが大事で、どちらが小事だ?
そんなもの……どちらも大事に決まっているだろう!
俺の望む全ては、手に入れるべき全てだ。
取りこぼしなどあってたまるか!)
声に出して、叫ぶ。
彼は、全ての思いをワンセンテンスで過不足無く表現しきった。
「俺はザドゥだ!」
それで、生存本能も細胞たちも沈黙した。
ザドゥは起き上がりざまに芹沢を担ぎあげる。
《無茶をするでない!》
カオスの焦りは正しく、ザドゥは芹沢の重量に2、3歩よろめいた。
だが、ザドゥは転倒することなく耐え切った。
膝は震えている。
息は乱れている。
であるにも関わらず、頬には不敵な笑みすら浮かんでいた。
カオスはザドゥの横顔を見て大きく頷く。
《……ならば見せてくれよ、ザッちゃん。
わしが見ることの出来なんだもう一つの可能性のその先を、の》
「お前の思いなど知るか。黙って見ていろ」
ザドゥは、まだ意地を張る。
ただ、意地の為に意地を張る。
↓
【グループ:ザドゥ・芹沢】
【現在位置:G−3地点 東の森北東部】
【スタンス:森林火災からの自力脱出】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:魔剣カオス、通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:右手火傷(中)、疲労(大)、ダメージ(小)、カオスの影響(大)】
【主催者:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
鉄扇、トカレフ】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)、死光掌4HIT】
【備考:脱水症(中)、疲労(大)、腹部損傷、気絶中】
以上です。本スレ投下は暫く待ちます。
また、図々しいお願いなのですが、以前「タッチ・ユア〜」について
申し出ました破棄を取り下げさせていただけないでしょうか。
次回予定は「夜に目覚める」。
まひる・恭也・魔窟堂を中心に、小屋組とレプリカ智機が登場予定。
「タッチ・ユア〜」の続きとなります。
とりあえずこちらに仮投下致しまして……
上記取り下げの承認、もしくは長期に渡りレスが付かない場合
↓
本編として扱う
却下、または「タッチ・ユア〜」と同時系列の作品が予約された場合
↓
アナザーとして扱う
と考えております。
新作乙です。
私の方こそ長らく連絡を途絶えさせてしまってすみません。
破棄取下げについては私は構いません。
それらの件を含めて了解しました。
今土曜日曜と何とか暇ができましたので、こちらも活動を再開したいと思います。
改めてメール欄関連の予約を3月1日AM6:00を期限に延長なしで予約します。
完成の目処が立ちましたら、ここに報告。
完成後ここに仮投下します。
コンテンツ作成も作品と同時進行で進めます。
なおトリップは連絡用です。
新作できました。
今日の夕方にここに仮投下します。
島に召喚されて初日の事だった。
智機の面前には見覚えのある機材が無数に並べられていた。
前報酬ではなかった。
ゲーム運営に必要な人員を作り出すのに必要な材料。
プランナーは言った、お前をモデルにしたロボットを量産しろと。
智機にとってそう困難な事ではなかった。
数カ月の猶予とこれだけの機材と場所があればこそ。
智機の能力なら量産・運営はそう困難ではない。
以前の智機なら任務に躊躇しただろう。
だがこの時の智機には関係ない事だった。
彼女は迷わず製造・運営を受託した。
次に量産機の運営規則について説明を受けた。
智機はここに来て初めて迷った。
彼女自身の能力が制限からだ。
だが任務内容を考慮すれば量産機は不可欠。
そう判断し彼女はそれも受託した。
殺人ゲームの遂行依頼の時点で少々は躊躇したかも知れない。
しかし今の『彼女』はそれに迷いや苦痛を感じる事はない。
自らのAIで心を操作するまでもない。
仮にゲーム運営を引き受けた結果、周囲に害が及ぼされようとも。
創造主に害が及ばないのであれば何も感じる事はもうない。
知人達は互いの存在を知っているのみに過ぎない。
前の『彼女』が持ってた誇りさえも。
今の智機には関係ないと自ら断定できるのなのだから。
□ ■ □ ■
>>103-118
(飢えているか……)
ケイブリスの賞賛を受け、智機は表情を変えずに心中で呟いた。
参加者には注意を向けていた積りではあった。
だが運営者に対してはさほど注意してなかったと彼女は認める。
参加者と運営者を同等に見、対応するべく智機は次の計画を立てる。
カタパルトのデータに思考を移した。
(燃料と強度の関係上、使用回数は少なくともあと一回が限度だな。
投入可能な最大戦力は分機2体と装備多数か、ケイブリスのみ。
更にもし仮に……あのフェリスが島内にいた場合、奴の能力次第では手詰まり
になる)
智機はカタパルトの分析を終え、ケイブリスに言った。
「ケイブリス。君はランスに従っているフェリスという名の悪魔の事を知ってい
るか?」
「あん? …………あいつ、従えてやがったけか?
知らねぇな……それがどうかしたか?」
「昨日、この島にランスが呼び出したんだが所在が掴めないのだよ。
スポンサーからも通達がないしな」
「レベル神じゃあねぇのか? それで?」
「(レベル神……)
参加者や運営者以外の者が島にいる場合な……フェリスに限った事ではないが
邪魔者が確認された場合、可能であれば私が始末するように言われている」
「………………俺様に手伝えって言いたいのか?」
「それには及ばんさ。君に限らず、私にもその命令は絶対ではない。
戦力に余裕があればしろと言う程度だ、今は余裕がない」
「……面倒だな」
苛立たしげに、少々の緊張さえ孕んだ声でケイブリスは言った。
「?」
『俺様もあまり見かけたこたぁねえが、奴等強いぜ。
無敵結界も効かねえしな」
「どれ程の……しおりと比べてどうだ?」
ケイブリスは一瞬しおりを誰だと考えたが、思い出し断言する。
「あのガキより強えのがいてもおかしくねえな」
「……情報提供感謝する」
智機はやや強張った声色でケイブリスに礼を言った。
マザーコンピューターにアクセスしながら智機は対策を練り始めた。
ルドラサウムがフェリスの介入を容認してしまう可能性も考えたからだ。
フェリスが六人組と合流、共闘されてはたまったものではない。
プランナーとの接見をしてなければ直ぐに問いただしただろう。
関与しない、好きにしろと言われた以上は問い正す気にはなれなかったが。
智機は知っている。
島外の侵入者排除及び、情報収集は二神らが行っているのを。
知ってはいるが、既に二神のいずれかが独自にフェリスを排除していたとしても
彼らの意地の悪さから、あえてその事を通達していない可能性を疑っていた。
智機には確認をできるだけ早急に確認を取る必要があった。
ただし問いただす相手は二神ではない。
(ゲーム開始から42時間経過……管制室も健在。
連絡は既に来てもおかしくない。まだか)
プランナーとの接見を別にすれば、智機からの外部への連絡手段はない。
ザドゥと智機が知っている事のひとつ。
ゲーム開始から42時間が経過し、管制室が機能していた場合。
50分以内にプランナーから連絡員が派遣されることになっている。
ゲーム進行に関わる外部の状況通達。
智機が収集した殺人ゲームのデータのバックアップの提供。
量産機の指揮権の放棄が可能になるスイッチの提供などだ。
神の戯れなのか、それとも別の理由からなのか。
何故、CPUのみで情報交換をしないのかは智機には見当がつかないでいる。
理由は尋ねてたが、趣向と一言返って来ただけだった。
智機はそれ以上、その事について何も言わなかった。
ゲーム遂行にほとんど支障はないと判断してたからだ。
ただ指定された時間内で連絡員が来なかった時の説明は聞かされていた。
その場合、最低でも外部の者への対処は運営者以外の手で行われる事が確定する
と。
それでも尚、智機は警戒を緩めない。
フェリスの対処も運営陣がするはめになった場合に備えて。
彼女はその手段を考えつく。
(臨時放送を実行し、全参加者に警告を発信する)
そう決めた。
双葉の式神と違い、フェリスはランス自身の力で生み出したものではない。
プランナーにとってフェリスのような存在は不快ではあるはず。
外部からの人員は認められるものではない筈だ。
願いの権利の消失の可能性を参加者全員に提示するのを選択肢に入れた。
もっとも今のランスにフェリスを召喚する気は毛頭ないのだが。
その事を智機らは知るはずもなかった。
「フェリスに頼れば、願いを叶える権利を失う。
そう参加者に告げる。もっとも島内で奴の所在が確認できた場合だがな」
「ほー」
「それと先に言っておこう。
いきなりか、もしくは本拠地内から参加者とも我々運営者とも違う
誰かが……もうすぐ来ると思う。
向こうが仕掛けてこない限り、そいつには何もしないで欲しい」
「誰だ、プランナーの奴か?」
「恐らくは部下だ。私が収集した情報を確認する為にここに来る予定だ。
我々の事情が事情だけに、伝言のみのやり取りになるかも知れないがな」
智機は苦笑した。
コンピューターのみで処理できたなら楽だったのにと思いながら。
「直に来て欲しいものだがな」
「そいつにも手伝わせるのか?」
「侵入者の対処以外は手伝わないだろうがな」
直に来て欲しい大きな理由はある。
もし分機が全滅した場合には、指揮権は無用となる
単独で全力を出すには、端末機能を解除する必要がある。
今は解除する必要は全くない。
だが極限まで追い込まれる可能性が零ではなくなった。
念の為に連絡員からスイッチを受け取る必要が今の智機にはある。
「ケイブリス……さっき君はレベル神と言っていたな。
ランスの事も含めて君がいた世界について色々と聞かせてくれないか?
必要なら私の方からも情報を話そうじゃないか」
「あー……俺様には馴染みが無くなっちまったが……いいぜ」
返事を聞くと、智機は管制室にいるN−27に指令を出した。
ランスの会話記録を収録したテープと全参加者・主催者の顔写真の準備を。
ケイブリスは口を開く。
それとほぼ同時に智機に情報が伝えられる。
西の森で散策を行っていたP−3がランス達と遭遇した事を。
↓
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
①ザドゥ達と他参加者への対処(P-3に注目)
②しおりの確保
③ケイブリスと情報交換
④来訪者と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する】
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先
智機と情報交換、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【カタパルトの使用回数は後m、一、二回です
智機2体分(人でも2人分)と道具多数か、ケイブリスの打ち上げが可能です】
【オペレーターN-27が録音テープと顔写真を持って茶室に向かってます。
すぐ終わります】
【智機とザドゥは定期連絡者がPM6:00から6:50分の間に
来る事を知っています。
両者とも戦力としては数えていません。
ザドゥは智機の異能力と素性についてはほとんど知りません】
【二日目 PM6:30頃 茶室】
仮投下終了です。
問題がない、もしくは長期にレスが付かなかった時に本投下をします。
連絡員は一応>>850 と851のメール欄で考えてます。
今話は242話『Management persons』と274話『ねがい』の伏線回収を兼ねた話でした。
それではHP素材の作成を再開します(`・ω・´)
報告です。
意見などのレスが付かない、もしくは問題がなければ『Regular report』を
3月4日の夜に本投下する予定です。(本スレが復旧していればの話ですが)
ただし>>844 の部分は今回省きます。
加筆がありましたら、本投下の一日前にここに報告します。
現在、素材を製作中ですが時間がかかりそうなのと
長らく上げてなかった事もあるので、275話『悪夢』までを収録した素材をアップします。
パスワードはnegiです。
ttp://upload.jpn.ph/10/bin/bin1523.zip.html
>> 284 ◆ZXoe83g/Kw 氏
ご無沙汰しております。
『Regular report』、当方としては問題ありませんので、>>852 了解です。
また、当該作品の締めにて
> それとほぼ同時に智機に情報が伝えられる。
> 西の森で散策を行っていたP−3がランス達と遭遇した事を。
とありますので、当方の『タッチ・ユア〜』は、『Regular report』の投下を待って3/5に、
『生きてこそ』は3/6に、それぞれ投下したく思います。
了解しました。
修正完了しました。
明日午後8時に本投下をする予定です。
全部で7レス。
>>844 の部分は今回は使いません。
その際、>>852 のまとめも本スレでUPします。
大きな変更箇所は>>846-847 の文章の
智機が収集した殺人ゲームのデータのバックアップの提供。
量産機の指揮権の放棄が可能になるスイッチの提供などだ。
神の戯れなのか、それとも別の理由からなのか。
何故、CPUのみで情報交換をしないのかは智機には見当がつかないでいる。
↓
智機が収集した殺人ゲームのデータ提供。
智機量産機の指揮権放棄が可能になるスイッチの提供などが連絡員の任務だ。
コンピューターなら半分以上は容易に、極めて短時間でできる作業。
なのに何故、こう遠回しな事をするのか智機には見当がつかなかった。
です。
また明日に。
30分後に本スレに投下します。
投下終了しました。
次作完成の目処が立てばまた予約します。
こちらにご意見等がありましたらなるべく早くレスします。
来週月曜日に投下された分のまとめをアップする予定です
連日の支援、ありがとうございました。
最後でさるさんにひっかかってしまいましたので
このレスに気付かれた方がいらっしゃいましたら、
お手数ですが>>840 の状態表の本スレ投下をお願いいたします。
代理投下しました
連日の投下乙でした
以下14レス「夜に目覚める」を仮投下いたします。
問題なければ来週土曜晩に本スレに投下します。
次回予約は「彼女の望み」「おやすみぃ…」。
ザドゥ、芹沢、透子、レプリカ智機数機が登場予定。
二タイトルありますが前半三人称、後半一人称(芹沢)なだけで、
実質は一話です。
>>xxx
(2日目 PM6:46 D−6 西の森外れ)
その姿に、走っている、といった必死さは無かった。
スキップにも似た軽やかさで以って、中距離走ほどの速度。
多少の不自然は感じなくも無いが、ありえぬ話ではない。
それが平地であるならば。
昼日中であるならば。
だが、ここは入り組んだ西の森の中。
光差さぬ闇の中。
此れを加味して再考すれば、人の範疇にはありえぬ体捌きといえよう。
広場まひる。
それが、この絶技を見せるシルエットの名。
東へ。まひるは、ただ一人で駆けていた。
踏みしめる枯葉の鳴らす音は、限りなく軽い。
(気持ちいいな……)
風を切る感覚と木漏れる月明かりの青さに、まひるは身を浸す。
それで意識が散漫になったのだろう。
根腐れた倒木がすぐ足元に迫っていたことに気付くのが遅れてしまった。
「あ、危な……」
後一歩で衝突する。認識と同時に、まひるは跳んだ。
まひるとしての彼女が体験したことの無い反射速度で。
「……あてっ!」
まひるは、結局転倒した。
倒木は軽く跳び越えたのだ。
だが、跳び過ぎた。
頭上の生い茂る枝葉に突っ込んでしまったのだ。
まひるは腫れた頭頂部を撫でさすりながら愚痴を零す。
「いやいやいやいや。跳び過ぎだってばさ、このカラダ!」
だが、彼は知っている。
この程度の運動能力、ケモノとしてのポテンシャルには達していない。
だから、彼は探っている。
どの程度の運動能力までなら、人としての自分のまま引き出せるのか。
細胞が、ざわめく。
私たちをもっともっと使ってと。
その声に流されそうになる。
誘惑の蜜は強く甘い芳香を放っている。
それは、罠。
肉体が導くままに能力を解放すれば、まひるの精神はケモノに堕すだろう。
それをまひるは本能で知っていた。
人であると強く意識し続けること。衝動に支配されぬこと。
まひるは己に任じた制約を強く胸に刻み、また駆けだした。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
>>235
(2日目 PM6:40 D−6 西の森外れ)
東の森の火災による熱波が、ここ西の森にも届いていた。
それを加味しても肌寒さを感じるらしい。
小屋の壁面に背を預けて、湯気の立つマグカップを啜る大小4つの影があった。
高町恭也。魔窟堂野武彦。
広場まひる。ユリーシャ。
今、小屋の中は交渉と猥褻行為を同時進行させるという混沌の坩堝と化している。
その邪魔をされたくないのだと、月夜御名紗霧は彼らを小屋から追い出していた。
「聞こえる?」
「だめじゃのぅ……」
額を寄せ、小声で溜息を重ねたのは魔窟堂とまひる。
盗聴器代わりに小屋内部に置いてきた集音マイクの一つ。
その音声が拾えないことが判明し2人は落胆したのだ。
彼らは与り知らぬことだが、理由はレプリカ智機P−3のジャミング機能による。
その目的は盗聴阻止。
但し、魔窟堂たちのマイクを阻害する意図は無かった。
オリジナル智機が管制室の代行機たちにP−3を補足されぬよう施した細工が、
意図せぬ副作用を与える結果になったに過ぎぬ。
しかし、彼らにとってこのとばっちりは大きかった。
紗霧と智機の会談を拾いながら自分たちなりに考察を為す。
魔窟堂たちのプランが木っ端微塵に砕け散ったのだから。
魔窟堂とまひるは落胆を引きずりつつも、額を寄せて意見交換を始める。
「でも、仲間を殺せなんて提案おかしくないかな?」
「奴らも一枚岩ではないということかの」
「裏だよ。絶対裏があるよ」
「まあ、何かしらの事情はあるじゃろて。
問題はその事情があの椎名智機の個体によるものか、
他にもいるじゃろう多くの智機たち全体の意志によるものか……」
「そうかなあ?あたしは仲間割れなんてしてないと思うけどなぁ。
何かあいつらが困っちゃうことが起きたから、
それを誤魔化すために適当言ってるとか、どうでしょ?」
「例えば?」
「実はあいつらの基地が東の森にあって、それが今燃えちゃってるとか」
「あるいはアイン殿や双葉殿に攻め込まれたやもしれぬな」
予測、推論は幾らでも重ねることが出来るが、結論が出る気配は皆無。
会議は踊る、されど進まず。
情報量少なき、整理も論理も曖昧な2人の考察は井戸端会議に等しい。
対する、沈黙を保つ2人の胸中はどうか。
(ランス様……)
ユリーシャの胸は張り裂けそうだった。
ランスが自分ひとりの愛情と肉体では満足しない男であることは宣言されているし、
実際にアリスメンディと関係を持ったらしきことも理解している。
しかし、実際に他者との性行為を見せられるとは思ってもみなかった。
ましてやランスが行為に没頭する余り、ユリーシャが小屋から出る際に一言も、
一瞥すら与えなかったことも、また。
相当に、堪えた。
「……んぁっ……」
唐突に、耳に届いた。
ユリーシャに追い討ちをかける、智機の抑え切れぬ快楽の喘ぎが。
壁一枚隔てた向こう側から。
(ランス様の指はまだあの機械の胸で踊っているの……?
それとももう、ほかのもっと敏感なところまで旅している……?)
一度は胸の奥に沈めたヘドロの如き薄ら汚れた感情。
ユリーシャの沈む心が再びそのヘドロを攪拌しつつあった。
嫉妬。焦燥。そして、その果てにある……
もう一人、高町恭也は、味方について考察していた。
(なぜ、月夜御名さんは俺たちを外に出したのか?)
智機は、得物を持っていないようではあった。
しかし、たとえ素手であろうとも鋼鉄の肉体や高圧の蓄電などの危険はある。
性的な悪戯に夢中になっているランスのみでは、護衛として心許ないはずだ。
それでもあえて、自分たちを屋外に出した。
外を見張れという意図もあろう。
だが、それならば自分一人を見張りに立たせればよいはずだ。
ユリーシャやまひるに気を遣ったということも考えられるが、こと紗霧に関しては、
人の心の機微を理解した上で踏みにじる傾向が見受けられる。
故に、それも理由としては不十分だ。
(なぜ、月夜御名さんは通信機を作らせているのか?)
重ねる問いに、恭也は解等の手ごたえを感ずる。
夕刻の魔窟堂の単独行時、紗霧を始めとする数人は落ち着かない心持ちだった。
包囲作戦の布石は打てたのか。
アインや双葉と接触したのか。
イレギュラーは発生していないか。
通信機とはその折の魔窟堂に同じく、遠くの誰かが収集した情報を、
素早く入手することを欲した故の発想ではなかったか。
であれば―――
「俺たちは俺たちで、出来ることから始めましょう」
恭也が、ようやく沈黙を破った。
魔窟堂とまひるは言葉を切り、恭也を見つめる。
恭也の瞳は不動だった。
力強く頼りがいのある、年齢不相応の大人の目をしていた。
「できること、とは?」
魔窟堂の問いに、恭也は答える。
「会談の後に月夜御名さんが必要とする情報が素早く提供できるよう、
下準備をしておくことです」
「つまりは偵察かの」
「然り。大河は両岸から見よといいます。
あの機械がもたらす情報を、真偽を確かめずに飛びつくわけにはいかない。
月夜御名さんであればそう考えるはずです」
もたらされた情報の信憑性を確かめる。
もたらされぬ情報の隠匿を発見する。
紗霧がこの交渉から何を引き出し、何を思いついたとしても、
その折に最速で要求に対応できる体制を作っておく。
それが自分たちに打てる最善手であろうとの答えに、恭也は達したのだ。
「魔窟堂さん。通信機は?」
「メカ娘の残骸から摘出したインカムは、ほぼ手を加えんでも使える状態じゃ。
あとは集音マイクが拾った音を、如何にインカムに伝えるか……
その帯域調整くらいじゃな」
「では魔窟堂さんを出するわけにはいきませんね。俺が、行きます」
通信機を作成する。
それはハム通信や鉱石ラジオに精通する筋金入りのオタク・魔窟堂にしか出来ぬこと。
「俺がインカムを持って、東の森周辺を調べてきます。
魔窟堂さんはその間、そちらの調整をお願いします」
恭也が腰を上げ、尻を払う。
その恭也の逞しい腕に飛びつくように、まひるが立ち上がった。
「あ、あのさっ!
あのさ、あたしが行くっていうのは、どうかな?」
まひるの言葉尻は上がり調子の疑問形だったが、その意志は強いらしい。
愛らしい頬が赤く染まっているのは興奮と決意の表れだった。
「まあ、たしかにまひる殿が最も適してはおるか……」
魔窟堂の言葉はまひるの異形に由来する。
ケモノに戻るを拒絶し、その進行を己の意思で止めているまひるではあるが、
既に変容した一部機能については、無かったことにはならなかったのだ。
蠢く左手の爪がある。
片翼がある。
そして今ひとつの異形―――アメジストの如き白紫光を放つ瞳がある。
夜に生き、夜に目覚める五芒星の、妖精の瞳が。
光を必要としない瞳が。
客観的に見ても、夜間の偵察に最も適した人材といえる。
だがしかし。
「―――良いのですか?」
恭也が声を一段落とし、まひるの意志を問うた。
今まで恭也がまひるに対して見せたことのない、厳しい眼差しで。
魔窟堂も無言で頷き、恭也に同調する。
まひるは主催者に立ち向かうことに対して消極的だ。
自分たちに比して一歩引いた位置に立っている。
恭也も魔窟堂も、そのことを察している。
故に、問い質した。
その覚悟を。
まひるは、まっすぐに答えた。
その覚悟を。
「だいじょぶ!」
まひるにとって己の消極性は、恭也たちに対する負い目だった。
(戦いたくない―――)
主催を打倒する。
之を旨とする集団の中にあって、この思いは我儘なことだとまひるは思っていた。
覚悟を持たぬ自分が、果たしてこの前向きに戦おうとしている集団に所属していても
良いものかどうか、煩悶していた。
(恭也さんも魔窟堂さんも一生懸命がんばってるんだもん、
あたしだって、できること、しないと)
慣れぬ家事の真似事をし、紗霧のひみつ道具の作成を手伝った。
時折緊迫する空気を和らげる為に明るく振舞ったりもした。
彼は彼なりに貢献を果たしている。
それでも―――己の足りぬ思いを払拭するには至らなかった。
その燻る思いを、重い借りを返上する機が、訪れたのだ。
そして何より。
(戦わなくてもいい)
走り回り、情報を集め、それを伝える。
この任務はまひるが最も忌避する行為なしに皆の役に立てる任務でもあった。
万一、何者かの攻撃を受けることがあろうとも、今の自分であれば
逃げることに専念して逃げ切れぬ相手などいない。
無意識下に、そのように分析もしていた。
恭也はまひるの瞳を射抜いている。
まひるは恭也の瞳を受け止めている。
否、受け入れている。
恐れも迷いも無い、母性的な包容力すら感じさせる瞳で。
それに、恭也は膝を折った。
「ではまひるさん、頼みます」
恭也の折り目正しき辞儀に、まひるは含羞のはにかみで以って応えた。
「でへへぇ…… 来ちゃいましたか?あたしの時代?」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
それで、今―――まひるは走っている。
『あーあー、どうじゃなまひる殿。わしの声は届いておるかな?』
「だいじょぶです」
『そちらの音声も、ま、ノイズは酷いが聞こえてはおる』
通信機が完成したのだろう。
インカムから、ノイズ交じりの魔窟堂の声が聞こえてきた。
『広場さん、今、どのあたりです?』
「森を出たとこです」
『もうですか!?』
恭也の驚愕がイヤホン越しに伝わった。
まひるはいつも顰め面の彼の素の表情を垣間見たようで、少し嬉しく感じた。
『辺りの様子は?』
「東の森はやっぱり燃えてる。すんごい燃えっぷりで。
それと……なんだろ、地震でもないんだけど、地面が小刻みに振動してるような……
……なんですとー!?」
通信をしながらも東進していたまひるは、ついに東の森の端に達した。
そして感じた。
圧倒的な、恐ろしいほどの、熱量。静寂の夜を侵し、奔放に踊る不躾な炎。
さらに―――
『どうしました広場さん!』
「地面の振動はショベルカーで……
そんでもって椎名ロボがてんこ盛りで、火消し作業してます。
繰り返します。
椎名ロボ、てんこ盛り」
↓
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:東の森 南西部 重点鎮火ポイント付近】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:偵察、ついでに身体能力の調整】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機(New)】
※ 服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)の体操着でした。
※ 現在まひるは体操着に着替えています。
※ 軽量化を考慮し、アイテムの一部を仲間に渡しています。
【現在位置:西の小屋外】
【ユリ―シャ(元№01)】
【所持品:生活用品、香辛料、使い捨てカメラ、メイド服(←まひる)、
?服(←まひる)、干し肉(←まひる)、斧(←まひる)】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
釘セット】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
簡易通信機(New)、携帯用バズーカ:残弾1(←まひる)、工具】
【現在位置:西の小屋内】
【月夜御名紗霧(元№36)】
【スタンス:智機よりの情報引き出し
反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】
【ランス(元№02)】
【スタンス:智機を俺様の指テクであへあへ言わせる
女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:なし 】
【能力:武器がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス:ザドゥにぶつけるための交渉】
【所持品:?】
すみません。
状態表の体操服のくだりを削除し忘れていました。
本スレ投下時は削除します。
こちらも色々と遅れたりしてすみません。
メインのデスク死亡。
サブのノートの電源死亡(しかもつい最近)
仕方なく、サブサブの古いノートで現在動かしてる状況です。
以下は、サルベージができなかったので書きかけていたものを新たに書き起こしたものになります、
「交渉……今更なにをですか?」
一瞬の思考の停止から回復した狭霧は紅い色で映えた目の前の存在に言葉の意味を投げ返す。
紅蓮の炎が彩るオレンジ色の光が空を綺麗に照らし、後ろから刺すその光は機体を綺麗に、そして雄大に見せていた。
「警戒は当然か……」
臨戦態勢。
一触即発。
三人と一機の状態はまさにそれであった。
「それも想定の内、そのままでもいい。こちらからの提案を聞いてほしい」
「「「………」」」
「単刀直入に言おう
―――ザドゥを始末してもらいたい」
赤い光を飲み込んだ智機の瞳がギラリと輝いたように、三人の目に映った。
静寂。
智機からの『交渉』の提案は、三人の思考を再び停止させるだけのものであった。
火災から始まるこの時点、このタイミングでの智機からの提案。
全てが出来すぎている。
「つまり、それは貴方はゲームの崩壊を望んでいると言うことですか?」
平静を装いながら発した言葉の裏でも狭霧は、状況に戸惑っているとも言える。
「ふむ、嘘を言っても仕方ない。生憎と残念だが私はゲームを崩壊させるつもりなどないよ」
「なんじゃと……?」
「まぁ、簡単に言うとだね」
「ゲームの崩壊にはザドゥが邪魔だということか?」
智機の言葉を遮り、その先の言葉を恭也は答える。
「頭の回転が速くて助かる」
一呼吸おいて智機は再び話し出す。
「……さて少し長くなるが現状を話そうか。
我々の達成条件は、『ゲームの完遂』だ。
それ以外は我々にとっては、くたびれ損の骨折り儲けというやつになる。
ところがこのザドゥのやつは、『ゲームの進行』には積極的ではない。
いや、むしろ反対と言うべきだろう」
智機の言葉を聞きながら三人は、理解する。
この『ゲームの進行』に積極的というのは、素敵医師や目の前の存在のように何が何でも参加者に殺し合いをさせるというスタンスのことだろう。
そして三人は理解し、確信する。
ザドゥという漢が、このまま自分たちによる反乱が成功すれば最後に戦う存在だということを。
そして、それは智機……いや、ゲームを完遂させたい存在としては困ることを。
その様子に満足したかのように智機はニヤリと微笑む。
ならば話は早い、と。
「我々『委任』された運営陣のTOPはザドゥのやつなのは君達も知ってはいるだろう。
だからこそ私のようなスタンスの存在にとっては非常に目障りなのだ。
邪魔と言って差し支えない。
君達も確信してるようにもはやゲームは終盤、残る人数は極僅か、それも我々に反抗し一丸となっているものたちばかり。
しかもザドゥのやつは、君たちが来るなら受けて立つ姿勢という状態だ。
これでは『ゲームの完遂』など望めやしない」
「お話の途中、申し訳ないのですが……それで私たちのメリットはあるんですか?」
これ以上の高説は不要とばかりに狭霧は、本題を切り出す。
「では予想して貰いたい。このまま君達が我々と決戦を行った場合、勝てる目算はどれだけあるか?」
三人は黙る。
なぜなら、それは先ほど小屋の中で全員で頭を悩ませたこと。
ザドゥを始めとする強大な敵たちを一度に相手にせねばならぬ最悪の可能性。
「限りなく低いと言っていいだろう。だがここにザドゥを個別に葬れる絶好の機会があるとするなら?
もし、これが私の提案でなければ間違いなく君たちは乗るとするのではないだろうか?」
理想は各個撃破。
それは確かに正論。
「もし君達がこの話に乗らないと言うのなら、我々の本拠で君達と我々の全面衝突しかない。
しかし、私にはそれが困る。かといって私ではザドゥを倒す術はない」
「つまり……」
「君たちには万全ではないザドゥを倒せる機会を……」
「お前さんにはゲームの完遂をできる機会を……」
「グッド。そういうことだ」
遠くでぼうぼうと燃える火の粉がまるで自分たちを包み込むように三人の体温は上昇する。
ザドゥの始末に成功したのなら、智機の手によるゲーム完遂のための姦計で済まされぬような魔の手が待ち構えているのは確かだ。
もしくは……あるのだろう。
ザドゥさえいなければ、智機にはゲームを完遂させるめどが。
三人の考えは一致している。
乗るか、反るか。
智機が嘘を言っているのであれば、後の障害が智機を残した方が大きいならば。
それならばこのまま目の前の個体を破壊すればいいだけ。
しかし、自分達を始末しに来たというのなら、こんなことなどせず不意打ちでも何でもすればいいだけである。
それだけの機体を誇るのが彼女『達』なのだから。
だが、敢えてこうして話を持ちかけてきたと言うことは、少なくとも戦いを望んできたわけではないことは明白。
彼女の考えが嘘か真かにしろ、判断はせねばならぬだろう。
「……悪いですがこの場ですぐには決めれませんね」
「そうじゃな。小屋の中の面子とも相談して決めねばならん」
「ふむ、まぁそれも当然。しかし敵に背を見せていいのかね」
「なら、俺が残る」
ぐいっと恭也が前に出る。
その様子を智機は見透かしていたかのように満足げに微笑む。
「俺よりも魔窟堂さんや狭霧さんの方がこういったことに向いてるからね。判断は二人に任せるよ」
「しかし、あまり時間はない。でないとザドゥを葬れるチャンスがなくなってしまう。待てるのは10分だ」
両手を広げて10の指を三人の前に智機は見せる。
でなければ、機会は失うと暗に煽りならが。
「この場は、請け負いました。後ろは二人に頼みます」
「すまんな、恭也殿。気をつけてな」
「まぁ、相手の素振りからしても不意打ちの危険性はないと思いますが……」
監視役として智機に応対することを望んだ恭也の身の安全はほぼ保障されていることを狭霧は述べる。
もし一人だけ始末したい機会を作りたいなら、こんな手の込んだことをせずとも機会はいくらでもあったはずである。
では、この一人を誘拐し、ゲームを完遂させてくれる駒とすべく洗脳でもしたいというのだろうか。
もしあるとしたのならこの可能性。
ジョーカーとも言えるべき存在にするために、戦闘力の高いプレイヤーを確保したいという策略。
しかし、今回でそれを行おうとするのはあまりにも偶然の要素が高い。
誰が表に出てくるかなど100%わかりきってるはずのない博打の要素が高いからだ。
じっとこっちを見据える智機を背にして魔窟堂と狭霧は、小屋への足を伸ばす。
数歩歩んだところで。
ふいに狭霧が首を後ろに傾け、智機に向けて言葉を放った。
「最後になった私達を始末できる参加者……その目処があなたにはあるのでしょうね」
「……さぁな」
狭霧の言葉に動じず、智機は答えた。
ここまで。
タイトル未定・話数としては生きてこその後。
続きは来週予定。
遅れ遅れしてる身分で非常に申し訳ない。
しかし、その上で更に非常に申し訳ないことを。
これより先は、私は私でルートを突っ走りたくあります。
その理由の一つとしてでゴールまで一度到達させたいと言う思いが溢れてきたからです。
あの頃はまだ三人がコンスタントに投下しあっていた時なので新キャラや思念や新フラグがあっても
回せ切れるだろうと言う思いもあったのですが、今現在は、先ほども述べたように
新要素なしで既存のものだけ一度ゴールへの道を作り上げたいという考えがどうしても抑えきれなくなってきました。
その過程で考えると島は別に神々の力で作り上げたものなら生活感があっても住民などの存在は考えなくても良いし
新フラグを呼び起こしそうな新キャラもゴールへの到達に必要な材料としては必要ないなど、
不必要じゃないかなと思えるものが多いからです。
それらがあることで話に深みが増すことも事実です。
終盤で私なんかと比べてこれだけのクオリティを誇る二人が投下してるのは心強いことで
実力も確かな方々です。
面白くないわけがないと思います。
何年かけて大作を作るのを否定はしません。
私もそんな物語を楽しみにしています。
しかし、この間のラジオをやってから、PCのトラブルのせいとか仕事の忙しさとか入院したとかを理由にして
クオリティやフラグまとめに悩まず、まず書ききってみたいと自分を奮い立たせてみました。
以降、基本はBルートの作成と投下をメインに私はしていきたいと思います。
終盤で一人輪から抜けるようで非常に申し訳ない。
ttp://d1s.sakura.ne.jp/ergr/
>>852 の最新のものをアップデートが完了しました。
webサイト用のリンクやファイル名はちまちまやっていきます。
お互い頑張っていきましょう。
追伸。
ファイル名に「〜」を使ってしまうとwebに上げたときにリンクができなくなってしまう模様。
000-049のように半角ハイフンなどにすればOKのようです。
新作・編集お疲れ様です。
明日ここに素材をUPしますので、また。
それと追伸ありがとうございました^^。
>>887
独自ルートの件、了解しました。
大変な中、負担をかけてしまいすみませんでした。
こちらも完結できるよう諦めずに進めて行きたいと思います。
今回は収録しませんでしたが、今回書かれた分はどうしましょうか?
別ページ作成もOKです。
レスお待ちしております。
この度、278話までをまとめた素材をUPしました。
SSログ関係はこれで概ね解決できると思います。
アドバイスありがとうございました。
あと書き手さんの参考用に、夜叉姫のライターによる小説のまとめもUPしました。
既に所持してましたら余計なお世話かも知れませんが^^;
本編のネタバレ要素はあまりないので、未プレイの方でもお読みいただいても大丈夫とは思います。
まとめ共々、楽しめていただければ幸いです。
葱バトロワ1.04
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org710366.zip.html
パスはnegiです。
yashahime NOVEL
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org710385.zip.html
パスはyassです。
次回は遅くても来週の月曜日にはここでまとめをUPします。
よく考えたら既に所持なさってる可能性もあるので、一旦yashahime NOVELは削除します。
要望がありましたら再UPします。
文章間違えたorz
>>886 a154siyed ◆7xxvfugumA さん
独自ルートの件、了解しました。
そしてまた私も、独自ルートに進みたく思います。
尻馬乗りの格好で済みませんが、この状況になって決心がつきました。
リレーという形式に於いては持つべきでない我欲ですが、
自分なりの展開で自分なりの結末を書きたいのです。
誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承を。
「夜に目覚める」よりCルートと考えております。
>>893
了解しました。
>>886 の方と合わせて、「夜に目覚める」引継なしで進めていきたいと思います。
ないは思いますが、もし新規参入希望者が現れる事がありましたら
こっちの方はリレーしていきたいと考えてます。
これから本スレ投下や編集などで決めなければいけない事はありますが
諸事情でこちらは木曜日の晩までレスできません。
こちらも独自にしたいことができましたので、それも含めて詳細は木曜日に。
時系列順のSS目次を次のアップ時に入れようと思います。
それぞれのルートは作品が増えるまでは同ページ内に納めようと考えてます。
増えましたらそれぞれ別ページにまとめようと考えてます。
あと本スレのみ見る人のために、複数のルートの事を本スレで説明する必要があると思います。
それと作品投下の際は>>レス番だけではなく、状態欄にどの作品と関係あるかの説明文も必要になると思います。
分岐後の初投下が自分となりますので、その前にご確認を。
>>895 にてのご意見も鑑み下記の対応を致したく思いますが、よろしいでしょうか。
・トリップを付ける
・本文、状態表の第一レスにルート番号を記載する
>>896 分岐の告知
>>897 本文第一レス
>>898 状態表第一レス
なお、今晩投下予定の「夜に目覚める」ですが、この件に関しましてのご返答が
284 ◆ZXoe83g/Kw さん
a154siyed ◆7xxvfugumA さん
の両氏からご返答いただけるまで、保留とさせていただきます。
「バトル・ロワイアル」の今後についてご連絡します。
上記「生きてこそ」以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
経緯につきましては、下記サイト(総合検討会議)の886以降をご参照ください。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1091460475/
>>xxx
(ルートC:2日目 PM6:46 D−6 西の森外れ)
その姿に、走っている、といった必死さは無かった。
スキップにも似た軽やかさで以って、中距離走ほどの速度。
多少の不自然は感じなくも無いが、ありえぬ話ではない。
それが平地であるならば。
昼日中であるならば。
・
・
・
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
・
・
・
>>896 のアンカーが間違ってました。
正しくは下記です。
>>897 分岐の告知
>>898 本文第一レス
>>899 状態表第一レス
こちらの意見を参考にして頂きありがとうございます。
それでいいと思います。
まとめについては次の次(再来週月曜日)までに考えていこうと思います。
独自ルートとなった今、仮投下の必要があるかわかりませんが……
以下11レス「彼女の望み」、11レス「おやすみぃ…」を投下いたします。
本スレ投下は来週土曜深夜を予定しております。
次回予定は「フロイトだったらこう言うね。」または「少女タナトス/悪霊エロス」。
透子と紳一をメインに、隠し部屋1の面々が少々登場予定です。
>>xxx
(Cルート:2日目 PM7:03 H−3地点 東の森北東部)
カオスを振ること40余回目。
切り裂いた大気の隙間から、ザドゥとカオスは確かに感じた。
秋の涼やかな風を。
開いた視野の遠くに、ザドゥとカオスは確かに見た。
森の果てを。
そして、椎名智機と思しきシルエットを。
《ザッちゃん!もう少しでゴールじゃぞ!》
カオスの思念波が興奮に震えた。
若干の上り勾配の先、距離にしておおよそ30メートル。
障害になるほどの木々は無い。
即ち。
カオスを振り回す必要の喪失を意味する。
《ははっ、この男、やり遂げおった!!》
カオスの胸中が喜悦に満ちたとき、その刀身がザドゥの掌から滑り落ちた。
ザドゥも崩れ落ちた。背負われた芹沢も、また。
《立て、立つんじゃザッちゃん!》
カオスの魂の籠った激励に、ザドゥは辛うじて意識を繋いだ。
しかし、本来熱く感ずるべき熱風に晒された地面が、頬に心地よく感じられた。
体が融解し、地面に染み込むような感覚に支配されている。
もう、動けない。
《立てぬなら叫べ! 向こうの機械の嬢ちゃんに届くよう、
燃焼音も破裂音も劈いて叫べ!》
ザドゥは運命の囁きに対して聞き分けの良い性分ではない。
それでも、分かってしまう。分からざるを得ない。
最後に点った蝋燭が遂に燃え尽きてしまったのだと。
気力。体力。意地。潜在能力。
全てを惜しみなく出し切って、それでもなお届かなかったのだと。
限界とは突然訪れ、完璧な説得力を以って、胃の腑に落ち着くものなのだ。
(気を、失うわけには……)
己を全うできない。
このままでは笑って死ぬことなど不可能だ。
草葉の陰から覗き見ているであろうあの狂人に、嘲笑われて死ぬことになる。
(恥辱に奥歯を噛み締めろ!怒りに体を震わせろ!)
だが、ザドゥにはその程度の余力も残されてはいなかった。
ゴムマリのように弛緩した四肢に、既に感覚は失われていた。
その彼の耳に。
「ともきーーーーん!! ねーともきんってばーー!!
あたしたちはここだよーーー!!」
意識を失っていたはずの芹沢の叫び声が、至近距離から浴びせられた。
《そうじゃカモちゃん!こんどはおまえさんが役に立つ手番じゃ!》
「おーけーい! ……あ、ザッちゃんは耳ふさいでてねー!」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
そうして芹沢が声を張り上げること、一分、二分。
結局、救いの主は現れなかった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
或いは彼らが捕らえたシルエットは、希望が生じさせた幻影であったやも知れぬ。
芹沢は力なく溜息をつき、ザドゥに顔を寄せる。
ザドゥは虚ろな目で瞬きもせず、芹沢を見返した。
「だから捨ててけって言ったのになー。
女の子のお願い聞いてくれないなんてひどい男だなー。
ぶーぶー!」
拗ねるような甘えるような。
あからさまな構って欲しさを振りまいて、芹沢はザドゥにじゃれ付いた。
「ごめんなさいは?」
「……は?」
「だから〜。あたしを捨てらんなくってごめんなさいは?」
「ふざけた…… 女だ……」
「な〜んてね♪ ホントは嬉しかったんだけどさ。
そんなにボロボロになるまであたしを助けようとしてくれてさぁ。
ねね、正直に言ってみ?
実はザッちゃんあたしのこと、愛しちゃってる?」
「寝言は…… 寝て…… 言え……」
そんなやり取りを、カオスは微笑ましく見ていた。
微笑ましくも心の涙を流しながら。
見ていることしか出来なかった。
確定された死を前にして甘える女に、最後まで素直になれぬ男。
その最後の刻を覚えていてやろうと思った。
限界に挑み、限界を突破し、それでもなお限界に届かなかった挑戦者たちのことを。
だが、カモミール芹沢は、カオスのそんな傍観者気取りを許さなかった。
「さて、と」
胡坐をかくように座っていた彼女は、場を仕切りなおす為にそう呟くと、
カオスに手を伸ばし、柄を握ったのだ。
カオスが意外に思うほどの力強さで。
「よいしょ、よいしょ」
続けて芹沢は立ち上がる。
カオスを地面に突き立て、そこに体重を乗せ、背中を樹木に擦り付けながら。
生まれたての小鹿のように震える足で。
「動けるのか…… 芹沢……?」
「ザッちゃんがおんぶしてくれてた分、ちょっとは回復できたみたい。
ほんっっと〜に、ちょっとだけ、だけどね」
「ならばゆけ、芹沢…… 方角と距離は…… カオスに聞くといい……」
自己犠牲など唾棄すべき。
その不遜な思いは今以て変わらずザドゥの胸に存在する。
しかし、この時ザドゥの覚えた感情は、安堵だった。
『大将も自己満でカモミールを殺さないよーに、気をつけるがとしか言えんきね』
(芹沢が助かるならば、あいつにだけは負けずに済むわけか……)
ひび割れては接ぎを繰り返し、剥がれては貼りを繰り返し。
もはや見る影もない彼の矜持だが、芯鉄の輝きだけは失わずに終われる。
最後の一線は破られずに済む。
その安堵だった。
(到底満足はできないが、最低納得はできる死に様だ)
だが芹沢はそんなザドゥの自己完結をも許さなかった。
「あははー、無理。倒れた時に足、痛めたみたいだから」
「な……!」
芹沢は明るくあっけらかんと言い放ち、自らの左足首を指差した。
それは骨格の成り立ちからして、ありえない角度で外に大きく曲がっている。
ザドゥの膝の下、固い根こぶの上。
芹沢の右足首は転倒時に挟み込まれたのだ。
余談だが、彼女が気絶から覚醒したのもまた、その激痛に拠るものだった。
「無理なんだけど……
こうして木に背中を預ければ、立つことくらいならできるかな?」
だからどうした、と、ザドゥは責めなかった。
一度感じた安堵からの急転、絶望。
気力が底をついている今の彼にこのショックからの回復の術は無い。
故に芹沢の対話相手はカオスが担うことになった。
「それと、ザッちゃんを助けることまでくらいなら、どうにか。
最後はともきん任せの、ちょ〜っと博打なことになるけどね」
《何を企んでおるのじゃ、カモちゃん》
「またまたイくよ〜、必・殺・技っ!」
《……おまえさん、まだ薬が切れとらんのか?》
「ぷぅううう。カオっさんがイジワル言う〜。あたしだって一生懸命考えてるのにさ〜」
ザドゥの瞼は今まさに閉ざされようとしていた。
意識もまた朦朧。
芹沢とカオスの作戦会議が、聞きなれぬ異国語の子守唄の如く
その意味を解さず耳に入ってくるのみだ。
《……一発…… 関の……》
「だーいじょ……、……には定…………?」
《……じゃが…… …………るまいの》
「………ね…………」
やがて子守唄すら緩やかにフェードアウトしてゆき……
「!!」
その意識が落ちる前に再び覚醒したのは、見事に洗練された【気】の収斂。
研ぎ澄まされた日本刀の切っ先のごときそれが、己に向けられた。
次いで、芹沢の呼びかけ。
それでザドゥは意識を完全に取り戻した。
「おっきろー、ザッちゃんーっ!」
松の木を背に、伏したザドゥを正面に。
カモミール芹沢が立っていた。
構えていた。
「あたしが、橋を架けてあげるね♪」
カオスは、構えし芹沢の腕にしかと握られていた。
ザドゥが感じた【気】は、カオスに凝縮されていた。
淀みのない、真っ直ぐな【気】で満ち満ちていた。
《生きろよ、ザッちゃん》
ザドゥには分からなかった。
今、この状況でカモちゃん★すらっしゅを発し道を作ったところで、
立ち上がることすらままならぬ自分に何ができるのか。
「芹沢…… 技を放つ気力があるならば……
這え…… 歩けぬなら…… 這って森を抜けろ……」
ザドゥには分からなかった。
派手に花火をぶち上げて結局共倒れになるくらいなら、
どれほど絶望的でも可能性のある方法を採るべきだ。
「やー、これがねー。
自分の為にって思うとしおしおー、なんだけど。
ザッちゃんの為って思えば、むんむんってクる感じ?
だから、ね。
これしかないから、こうしよう!」
ザドゥは分かり始めた。
芹沢とはそういう女で、この言葉に偽りはない。
だが、だからこそ、響く言葉があるはずだ。
「叶えたい夢が…… あるのだろう……?
新選組…… 生存……
だから…… 俺などにかまうな…… 行け……」
ザドゥは知っていた。寝物語に聞いていた。
新選組の失われぬ明日。
それが彼女の渇望であることを。
「そりゃ〜ちょびっとだけ違うな、ザッちゃん」
ザドゥは恐れた。
芹沢の自分に対する想いと、続く言葉を。
さらなる己の敗北を。
「あたしの願いはね……」
カモミール芹沢。
彼女の宿願をより正確に述べるのであれば、
それは新選組の生存ではなく、
理想でも理念でも組織でも制度でもなく―――
「『お友達を』助けることなんだぁ♪」
沖田鈴音よりも気分屋で、
永倉新よりも身勝手で、
土方歳江よりも疎まれて、
近藤勇子よりも繊細で、
原田沙乃よりも素直ではなくて。
新選組の誰よりも仲間想い。
それが、新選組局長・カモミール、芹沢。
「俺は……!」
(お前のように純粋な思いでお前を救おうとしたわけではない!
ただ―――)
芹沢の構えは件のスラッシュに同じ。抜きも同じ。振りも同じ。
相違点は2つ。
松に体の支えを求めていること。
刃が寝ていること。
それゆえ衝撃派の顕れは断ち切る『線』ではなく……
「そりゃ〜〜っ! か〜もドラコ〜〜ンッ♪」
弾き飛ばす、『面』。
ばちこーーーーん☆ミ、とコミカルな効果音に乗って、
ゴルフボールが飛ばし屋のドライバーにグリーンの彼方へと弾き飛ばされるが如く、
ザドゥはカオスに森の外へ向けて吹き飛ばされた。
(ただ…… 己の矜持の為に、お前を手放せなかっただけなのだ……)
懺悔の言葉を、最後まで述べることの出来ぬままに。
「ちゃんと受身取ってね〜♪」
にぱっと。
芹沢は大輪のひまわりのような笑顔をザドゥに向けて、ピースサインを決める。
可愛らしい表情だった。
年齢や性別を超えた人懐っこさがあった。
現在置かれている境遇と、己が成し遂げたを理解していれば、
到底できない表情だった。
直後、衝撃波の揺り戻しか、彼女に吸い寄せられるかのように煙が群がった。
その一瞬に、芹沢の膝が崩れた。
もう見えない。
その勇姿も、あの笑顔も。
タイガージョーの気高さに敗北し、
アインの覚悟に敗北し、
素敵医師の予言に敗北したザドゥは―――
「せり……ざわ……」
そしてまた、芹沢の献身に敗北した。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(2日目 PM7:09 H−3地点 東の森北東部・外れ)
「飛来物分析完了。99.78%の確率でザドゥ様だね」
学校待機のレプリカ智機。
本拠地との連絡が途絶えたのは、ザドゥ所持の通信機と同じく、
火災の熱と煙にて彼女らの通信回路のみが機能不全となったに過ぎず、
彼女らは、未だ忠実にザドゥ救出タスクを実行していた。
その数は3/4機。
失われた1機は救助前準備の「耐熱能力の実地検証」役を見事やり遂げた果てに、
有用なデータの多くを残して炎上している。
オリジナル智機にザドゥ回収と彼らの地上への足止めを任ぜられた機体もまた、
一群に合流していた。
他の3機はこの1機の通信回線を通じて、オリジナルの指揮下に組み込まれた。
自らに課されたタスクが現在、タスクリストから削除されていることを知らぬままに。
4機の智機はザドゥたちの移動経路をカタパルトの投下位置から予測し、推論し、
そして、今、ザドゥの落下を目視で確認できるほどの位置まで移動していた。
それは、ザドゥの命にとっての僥倖だった。
ザドゥの精神にとっての如何は、推して知るべし。
「落下ポイントは?」
「Yes。北に2m、東に1.5m。誤差±15cmと言ったところか」
「救助方法は?」
「No。火災に対する救助用具は若干用意したが、落下に対する用意は無いね」
「この体を張って受け止めるしかないということだね」
「……Yes」
↓
>>xxx
(Cルート:2日目 PM7:08 H−3地点 東の森北東部)
「ねーねーカオっさん……
ザッちゃん無事に向こうへ行けたかなぁ……?
もう真っ暗であたし見えないや……」
喋ると口の中に土の味がする。
そこであたしは気付いた。
ああ、あたしって今、倒れてるんだ。
《おうおう、ワシがこの目でしっかり見届けたぞい。
あやつは煙の壁を抜けよった!》
ずずっ、ずずっ、ってカオっさんは鼻でも啜ってるみたいな涙声を出す。
あははー、へんなのー。
カオっさんには鼻なんて無いのにねぇ。
そうそう。
カオっさんにもお世話になったよねぇ……
カオっさんがいなきゃかーもドラコンは撃てなかったし。
死んじゃう前にお礼だけは言っとかないと。
ん?
あ、そーだ。
いいこと思いついちゃった♪
「カオっさん、ありがとーねー。おっぱいぎゅー!」
あたしはカオっさんを両手で抱いて、おっぱいの谷間に埋めてあげた。
女豹のポーズすら取れないあたしに出来るお礼って、このくらいだしー。
《カモちゃん……》
カオっさんはまだ涙声。
あれれ?
嬉しくないのかなー?
それともあたしが死んじゃうのが、そんなに悲しいのかなー?
ぶぅう。それって嬉しいけど、でも、なんかヤだー。
「ね。笑ってよカオっさん? 折角のお礼なんだもん、楽しんで欲しいな」
《……げへへへへ。(;´Д`)o彡゚ おっぱい…… おっぱい……》
剣士が剣を抱いて死ぬ、か。
ちょっと絵になる風景じゃない?
でもよかったー。
カオっさんが居てくれて。
ザッちゃんを脱出させる為に命を張ったのは後悔してないけど、
やっぱり一人って淋しいし、怖いし。
看取ってくれる人がいてくれるって、それだけで救われる。
だから大丈夫。
きっと笑ったまま逝ける。
でも……
「あの…… ひとつだけお願い、いいかな……?」
《おうなんじゃ? 今ならなんだってきいてやるぞ》
死んだ後のことなんて気にしても仕方ないのかも知れないけど。
きっと意味の無いお願いなんだけど。
「あたしがいたってこと…… 忘れないで…… ね……」
あのね、あたし、死ぬのはそんなに怖くないんだぁ。
やっぱり武士だし。
いっぱい殺したし。
そのうち自分の順番が来るっていうのは、ずっと覚悟してたし。
でも、あたし、淋しがりやだから。
怖がりだから。
あたしをお友達って思ってくれる誰かさんの心の中に、
ほんの少しでいい。
あたしの記憶を住まわして欲しいのね?
ぱつきんのばいんばいんを見たらあたしを思い出すとか、
先祖供養のついでにあたしにもなんまいだーしてくれるとか、
そんなんでじゅーぶんだから。
《そんなの、頼まれても忘れられんわ!
おまえさんほどのぱっつんぱっつんのむっちんむっちんはの!》
うれしーな。
カオっさんの心の中に、あたしがいるんだ。
うん、これでもう大丈夫。
あたしがこの世界から消えても、あたしはこの世界に残る。
出来ればザッちゃんの心にもちょっとは残ってて欲しいな……
なんて、未練未練。
カモちゃんさんはモノノフなんだから、潔く逝………
《カモちゃん?》
……かないと。
あれ?
今、何かがちょっと飛んだ?
なんか、
あたまのなか
白くなってきた?
《 お モ ?》
と、いうより、
時間?
考え、途切れ
途切れに
なってきてる?
ああ、そろそろなのかなぁ。
もう、
終るのかなぁ……
じゃあ、
さいごのあいさつ
くらいは
しておかないと、
……ね。
みんな
おや、す……
……
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(2日目 PM7:28 J−5地点 隠し部屋1)
「いやぁ、死ぬかと思っちゃった☆」
目覚めたときは天国か地獄かって思ったけど。
実際は灯台の地下にある隠し部屋のベッドの上だったんだぁ。
えへへー。
「Yes。死んだかと思ったよ」
「あ、りんご剥けた?」
「Yes」
「ねぇねぇ、すりおろしてくれると嬉しいなぁ」
「ねぇねぇではない、このバカ女が!」
ザッちゃんが本気で怒ってるー。
いいもんいいもーん。
どーせザッちゃんはあたしのことなんとも思ってないんだー。
なんで助かっちゃってんのコイツ、とか呆れてるんだー。
いじけてやるー。
「いじいじいじいじ……」
「いじけるな鬱陶しい。そんな演技をする余裕があるなら回復に専念しろ」
ザッちゃんはき捨てるようにそういうと、すぐにいびきをかき始めた。
やー、ほんとよかったよねー。
2人とも助かってさー。
ザッちゃんは包帯でぐるぐる。あたしも包帯でぐるぐる。
お注射いっぱい、お薬いっぱい。
とても無事とはいえない状況だけど、命を拾ったのはめっけもんだよね?
「Yes。死亡の危機は乗り切ったとはいえ、君は未だ重篤な状態だからね。
栄養補給は点滴に任せて、さっさと眠ることを推奨するよ」
橙色のともきんがあたしの腕に刺さっている点滴を取り替える。
ともきんたちが倒れてたあたしを救助に来たんだと、カオっさんが教えてくれた。
そのとき4機いたともきんのうち2機が、熱暴走して壊れちゃったって。
ごめんねー。そんで、ありがとー♪
そーやってお礼を言ったらともきんは、私は私のタスクに従ったのみだとかなんとか、
らしいんだけどつまんない返事を返してきた。ぶぅう。
あ、そうそう。
お礼といえばトーコちんにもお礼を言わなきゃ。
あたしたちが入ったこの隠し部屋にたまたまトーコちんがいて、
さらにたまたま素っちゃんの秘密のお部屋からお薬を持ってきていたから
あたしは命を繋ぐことができたんだから。
「トーコち〜〜ん、助けてくれてありがとぉ〜♪」
「……ん」
こっちはもっとつまんなかった。ぶう。
でも、なんかトーコちん、変わった気がする。
いつでもぼーっとしてて何考えてるかわかんない子だったけど、
今は何か悩んでるな、ってことがわかる程度には暗い表情をしてる。
ま、いーや。
今度は睡眠薬で頭がぼーっとしてるし。
難しいことは起きてから考えよーっと。
「それじゃあみんな、おやすみぃ……」
↓
(Cルート)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【現在位置:J−5地点 隠し部屋1】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【主催者:ザドゥ】
【所持品:通信機】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:重態、右手火傷(中)、睡眠中】
【刺客:カモミール・芹沢】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
鉄扇、トカレフ、魔剣カオス】
【能力:左腕異形化(武器にもなる)、徐々に異形化進行中(能力上昇はない)】
【備考:重態、腹部損傷、睡眠中】
【監察官:御陵透子】
【現在位置:H−6・学校跡付近→Ⅰ-5・灯台跡付近】
【スタンス: ① ザドゥの回復を待ってプランナーと接触
② 紳一ら一部参加者の記録検索を再開する。】
【所持品:契約のロケット(破損)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
【備考:疲労(小)】
※ザドゥと芹沢は強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
※『読み替え』実験は完了した模様だが、現状では成果不明です
※レプリカ智機2機のうち1機は、オリジナル智機にクラッキングされた機体です
乙でした
穏健派が一つに集まったか
芹沢いい女だなあ
>>902
新作二本お疲れ様でした。
仮投下はもう任意でいいと思いますよ。
あるには越したことはないですが、予約しておけば大体回避できますし。
明日UPするまとめの内容は先週とほぼ変化なしです。
その代わり今週中には時系列順のまとめなどが入ったのをUPできそうです。
序列どうしようかな?
まとめをUPしました。
変更は50話までのリンクの修正を少々。
パスはnegiです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org727058.zip.html
もうダメだと思いつつもたまに覗きにきてたんだ
完結は無理だとしてもせめてザドゥとカモちゃんの逃避行編だけは決着つけてくれないかと
淡い期待を抱きながらさ。そしたらさ……
良い決着だった!
なんか主人公サイドの話かと勘違いするくらい!
とにかくカモちゃんが助かってよかった!
タイトルとモノローグに騙されたけど悔しくないぞ!
ズタボロのザドゥがどう覚醒するのか楽しみでならん!
再び腰を上げてくれた書き手さんたちと黙々と保守レスしてた人、ありがとう!!!!!
今週の土曜日に時系列順SSを追加したまとめをUPします。
ルート分岐対応の試作ページを入れます。
それと予約します。
タイトル未定で登場キャラはメール欄。
期限は来週の月曜日の午後六時までで。
仮投下後、問題がなければ一、二日後に本投下で。
時系列順SS目次などを追加したまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org741364.zip.html
パスはnegibatoです。
時系列は作中終了推定時刻の順で並べました。
ルート分岐対応です。
78話や130話など幾らか並びに例外はありますがネタバレを考慮してのものです。
これからUPしていく度に間違いの発見などで、順番が前後していくかもしれません。
個々の作品にも時系列のリンクを追加しておきました。
キャラ別SS目次の方は次回更新辺りに、話数と登場話を線で区別していきたいと考えてます。
避難所投下の作品は本スレでの正式投下が確認されれば、追加していきます。
投下がなかった分は次回更新の時には含めません。
目次の空白部分も消します。
ご意見等がありましたらお受け付けいたします。
B、Cルートの作者さんの了解を頂けるか、もしくは3日間レスなしのままでしたら、この仕様でまとめて行きたいと思います。
次回の更新は再UPの要望等がなければ、今月の29日の予定です。
a154siyedさんのレスまだかな……。
>>930
いつも纏めをありがとうございます。
拝見させていただきましたところ、全く問題ないと思います。
時系列順で改めて各々の作品に目を通しますと、
時間の流れを意識した表現に気付いたり、意外なつながりが発見できたりで、
新鮮な気持ちで楽しめました。
以下15レス、「少女タナトス」を仮投下いたします。
過去作を含めまして、本スレ投下はもう暫く待機としたく思います。
次回予定は「それは些細な違い」。
本拠地組+連絡員が登場予定で、短編です。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM7:45 J−5地点 隠し部屋1)
室内は静寂に満たされていた。
10畳ほどの空間に、3人。
うち2人は寝息も立てず泥の様に眠っていた。
起きているあと1人も身じろぎ一つせぬまま茫と佇んでいる。
長い睫毛を伏せた憂い顔のこの少女、名を御陵透子と言う。
沈黙は彼女の常態ではある。
しかし眉根に寄る皺が、常の彼女から逸脱していた。
(わたしは―――)
(わたしたちは、堕とされた)
彼女の苦悩は、主催者としての資格を剥奪されたとの思いから生まれていた。
それは即ち。
彼女の幾百万年の願いが叶わぬを意味しているが故。
最初に違和感を抱いたのは、記憶/記録の検索範囲が狭められたこと。
違和感が疑念となったのは、【世界の読み替え】能力が制限された為。
疑念が確信となったのは、本拠地への瞬間移動が出来なくなった為。
しばし前。
ザドゥと芹沢が峠を越え、眠りについた頃。
本拠地との通信機能の生きている方のレプリカ智機が、その機能の異常を訴えた。
通信不能。
これを受けた透子は此方の現状の報告と其方の現状の確認を行うべく、
瞬間移動を試みたのだが―――
「……?」
願いが止められているなどという生ぬるい制限ではなかった。
本拠地へ向かおうと考えることすら拒絶されるかのような感覚。
重々しく、息苦しい、重圧。
透子は額に脂汗を浮かべ、乱れた息でレプリカ智機に告げた。
「本拠地に行けない」
それでレプリカの1機は本拠地に向かった。
もう1機のレプリカは、学校に備え付けられている通信機を試しに向かった。
眠る2人と、自失する透子を隠し部屋に残して。
透子は、もう1つの状況証拠を反芻する。
それは、首魁ザドゥが眠りに落ちる前。
彼女は彼に問うたのだ。
鯨神と連絡を取ることは出来ないのかと。
自分が願いを叶える資格を失ってはいないのかと。
ザドゥは2つの問いにただ一言で答えた。
「知るか」
ザドゥは透子を睨めつけ、吐き捨てるように。
そのシンプルで残酷な返答を口にしたのだった。
眠る2人の顔を、透子は何気なしに眺めた。
芹沢は嬉しげな表情をしていた。
ザドゥは苦しげな表情をしていた。
(ここは、流刑場……)
透子は現状を、そう連想した。
この砕けた灯台にいる透子たちが敗者で、あの強固な拠点にいる智機たちが勝者。
だとすれば、智機のやり方が正しかったのか。
ゲームに介入し、殺し合わせるのではなく、直接殺す。
それだけであの鯨神が満足するのであれば。
ただ、血を見れば喜ぶというのであれば。
監察官の役割などに徹さずに―――
(考えてもしょうがない)
透子は後悔を放棄した。
案じても詮無いことは、どこまで案じても詮無い。
覆水は決して盆に返らぬ。
それを覆す【世界の読み替え】が成らぬ今、思い煩うことに建設的な意味は無い。
無駄なのだ。
駄目なのだ。
透子の眉根から苦悩の皺が消えてゆく。
捨てた透子の瞳から憂いが抜け落ちてゆく。
後に残ったのは透明感を伴った無表情。
「もう……」
「いい」
透子は呟きと共に全てを諦めた。
大きな変化ではない。
監察官に就任するまでの透子に戻ったに過ぎぬ。
もともと、諦めと惰性で生きてきただけだ。
この島での透子が、特殊な透子だったのだ。
鯨神の見せた奇跡に、何百万年ぶりかの期待を持ってしまったから。
既に忘れて悠久の希望を抱いてしまったから。
我を忘れていたから。
その期待と希望が無残に剥ぎ取られたならば。
(この感じ……)
それは透子にとって馴染んだ感覚だった。
彼女が内包する消失願望が表面化してきたのだ。
その願望が完全に前面に出たのなら、透子は、音もなく消滅する。
彼女が今までそこにいた、という履歴を伴って。
透子は、初めからいなかったことになる。
(ほどける)
透子が存在する信憑性が薄れてゆく。
全と個の境界が曖昧になる。
あとは、この世から消えるのみだ。
いつかのどこかで、また現れるまで。
透子は目を閉じ眠るように、その瞬間を待つ。
だが、透子は消えなかった。
御陵透子の個を保ったまま、部屋の中に人として在り続けている。
(通らない……?)
喪失願望が、止められていた。
常夜灯の薄橙色の光を鈍く反射させる、ひび割れたロケットに。
そして、透子は知った。
自己の消失すらも、【世界の読み替え】が行っていたのだと。
(じゃあ、これはもういらない)
透子は、契約のロケットをあっけなく放り投げた。
既に望みが叶えられぬ身に堕とされたのだ。
先に契約を破棄したのは鯨神の方だ。
守られぬ約束の印など、後生大事に抱える義理など無い。
(こんどこそ)
しかして数分後。
契約のロケットは飾りでしかなく、制限は無制限に効果を発揮しているのだと、
透子は思い知る事となった。
透子は放心していた。
考えることを自ら止めていた。
涙など出ない。
何百万年も昔に枯れ果てたから。
(探そう、彼の記録を)
(ずっと探そう)
(いつまでも探そう……)
あらゆる希望を失った透子に出来ることは、
何百万年も繰り返してきたことを、また繰り返すだけだ。
消えたところで、また蘇る。
蘇っても、やることは変わらぬ。
であれば。
消えようとも消えまいとも、なんら変わることはないのだから。
透子は死んだ魚の如き虚ろな目で、緩慢に周囲を見回す。
屍鬼の如き不確かな足取りで、部屋の出口へと向かう。
そんな人ならざる生命体・透子の背に、生き物ならざる剣が、声をかけた。
《嬢ちゃん、どこへ行くんかの?》
魔剣カオス。
その暗紫色の刀身は、剥き身のまま芹沢の脇に立てかけられていた。
《暇潰しなら儂をお供にどうですか?》
軽口を叩くカオスに、透子は答えない。
しかしその目線は、確かに魔剣を捉えていた。
しかしその目線は、透子らしからぬ熱が籠っていた。
(刃……)
透子は禍々しい刃先を意識し、唾液を嚥下する。
幾百の人間の、幾千の魔物の命を両断してきた、凶器を。
(あれで、死ねる……?)
何度も何度も、透子は消失してきた。
繰り返すが、その願望が顕在化さえすれば、彼女は自動的に消滅する。
翻って、死にたい、消えたいと願っても存在を続けているこの状況。
それは彼女にとって在り得ざる状況であり、
彼女はその先の選択肢を見つけることが出来ないでいたのだが。
今、透子の眼前に。
新たなる選択肢が、実体を伴って存在していた。
(あれで、死ねる)
彼女は気付いたのだ。
自分は、能動的に死を選ぶことが出来るのだと。
カオスを手に取り、この身を刺し貫く。
ただそれだけのことで、自分を失うことができるのだと。
透子は甘い蜜を見つけた蛾の如く、ゆらゆらと、カオスに近づく。
《おお、話がわかる嬢ちゃんじゃの!》
透子の頭に、再び能力制限が霞める。
自己消失は【世界の読み替え】が行っていた。
だとすれば。
消失からの再臨もまた、同じだろう。
この刃で己を貫けば、この命は、永遠に失われるだろう。
(しあわせ)
永遠の輪廻のくびきから解き放たれる。
果てぬ苦しみから解放される。
それは今まで透子が常に願っていたことだった。
むしろ彼女の消失願望は、この思いを根本としていた。
透子は遂にカオスを手に取った。
それは透子にとっては以外なほど重いもので、片手で持ち上げることは出来なかった。
両手で、腰を入れて、ようやく持ち上げることが出来た。
《いいのう♪ 女の子らしい非力さが、何かこう、いいのう♪》
透子の彫像の如く整った顔に喜悦が満ちる。
透子の白磁の如き真白な頬に紅が差す。
今まで透子が見せたことの無い表情が、ぬめりと浮かびあがっていた。
透子はその表情のままま、カオスの刀身を自らの喉元に近づける。
《お、おいィ!? 何の真似じゃそれは!?
儂をそんな風に使わんでくれ!!》
カオスが己の使用用途を理解し、焦りの念波を発する。
透子は無視。
泥土の如き燐光を放つ刃紋が、白魚の如き透子の喉へと益々近づけられる。
あと5秒と待たず、刃は透子の命を奪うだろう。
その5秒が、経過しなかった。
《扉や壁を抜けられるという点だけは、この体も便利なものだ》
透子が動きを止めた故に。
透子の記録/記憶の検索用感覚器官が、闖入者の記録を捉えた故に。
その記録の主は、透子にとって覚えがあるものだった。
少し前まで、履歴を追いかけていた男の記録だった。
(紳一……)
かつての勝沼財閥総帥。
かつての聖エクセレント女学園バスジャック事件主犯。
勝沼紳一の怨霊が、この部屋にいる。
《む? 女がいるな!》
紳一が照準を自分に合わせたことを透子は知った。
タナトス。
死を求める、破壊の本能。
その誘惑に囚われていた透子の脳髄に冷や水が浴びせかけられた。
《清楚そうな少女ではないか。こんどこそ当たりであってくれよ!》
紳一が自分へと近づいてきていることを透子は知った。
エロス。
生を謳歌する、性の本能。
それを既に死した紳一が体現し、欲望の矛先を透子に向けている。
透子の呆けていた瞳の焦点が合った。周囲を見回す。
緩慢な動きではない。
彼女にとって最大限の俊敏な動きで。
とても厄介。
透子は夕刻、紳一の在り方をそう評した。
彼女はリアルタイムで紳一の現在位置を把握できないが故に。
それを知るのは紳一の情報を拾った上で、その内容を読み解いて後となる。
(わたしはどの時点の記録を読んでいる?)
(10秒前?)
(それとも1分前?)
透子は紳一が自分に気付いたときの彼の視界の記録を精査する。
紳一の目には、透子の後ろ姿が映っていた。
カオスに向かってふらふらと歩いているところだった。
(あの記録は20秒ほど前のもの)
(じゃあ、今、紳一は)
(どこに……?)
透子は真剣に。
それこそ惰性で検索していた【彼】の記録を探すよりも熱心に、
紳一を探している。
《新品だっっっっっ!!!!!!》
透子はより近い位置で発せられた紳一の記録を見つけた。
その記録での透子はカオスを喉に当てていた。
その記録での紳一は透子の股間に顔を突っ込んでいた。
下着を凝視していた。
匂いを嗅いでいた。
戦慄が震えを伴って透子の正中線を駆け抜ける。
それは彼女にとってたまらなく不快な映像だった。
(ぅうっ……)
処女を犯す。
その一念で亡霊と化した紳一の執念を透子はくだらないと断じた。
しかし。
その対象として自分が俎上に上るのであれば、こんな不快なことはなかった。
失われた【彼】に数百万年もの長い年月、操を立てている透子にとって、
それだけはあってはならない事だった。
亡霊である紳一は、生者に触れることは出来ない。
しかし、同じ霊体であれば触れることが出来る。
透子が衣装小屋で検索した彼とクレアとの接触が、その事実を裏付けている。
故に。
このまま透子が自決し、果てたとすれば。
放浪の末、やっと見つけた処女の存在に狂喜乱舞している紳一が
彼女を思うさま陵辱することは、日を見るより明らかだ。
(……死ねない)
(紳一が存在している限り)
そう決意してしまえば、今の紳一はそれほど恐れるものではない。
死にさえしなければ、紳一は己と接触できない。
纏わり付かれるのは不快だが、そこは辛抱もできよう。
透子はそのように楽観する。
(見つけないと)
(幽霊を倒す方法を)
故に、透子の思考はその先へと向かって行く。
それが、大いなる先走りであることに気付くこと無く。
《おあつらえ向きに男が眠ってるじゃないか!》
気付けるはずは無い。
透子は紳一の記録の検索を漁港手前で中断していたのだから。
彼がそこで得た【気付き】を知らないのだから。
《憑依だ! この男の体で少女を犯してやる!》
紳一が憑依できる条件はただ一つ。
憑依対象が意識を失っていること。
彼の目線の先には眠るザドゥ。
条件は満たされていた。
「ひょうい……!?」
予想外の展開に、透子はうろたえる。
うろたえつつもその記録の発生時間を探ろうと意識した。
意識する必要は無かった。
素敵医師の強烈な睡眠剤の効果で半日は目覚めぬはずのザドゥ。
そのザドゥの瞼がゆっくりと開かれたのだから。
(逃げっ)
透子は反射的に瞬間移動による逃走を選択した。
選択したかった。
(……られない!?)
選択できなかった。
透子は思い知る。
ロケットは、只の飾りなどではなかったのだと。
世界の読み替えが引き起こす現象は、使い手・透子を以ってしても制御不能だ。
それを曲がりなりにも制御し、「どこそこへ行きたい」という思いを、
瞬間移動という具体的手段に変換していたのは、あの装飾品の力に他ならなかったのだ。
(ロケットを……)
透子が這い蹲り、一度は捨てたロケットを探す。
足を使っての逃走も考えはした。
しかし、いまや彼女は一介の少女に過ぎぬ。
その体力、筋力はユリーシャにも劣ろう。
強健なザドゥと鬼ごっこを行えば、結果は明々白々だ。
(ない…… ない……)
僅かに常夜灯のみが点る地下室で、小さなロケットを見つけることは容易ではない。
探し主の心が焦燥と恐怖に支配されていればなおさらだ。
(ない!ない!)
タイムリミットは無慈悲に訪れた。
ザドゥの笑い声が響いた。
ザドゥがザドゥの声で、ザドゥのものではない喜びを表していた。
「ははっ! やはり俺は憑依できるぞ!」
透子が涙を浮かべながら顔を上げたその先で。
ザドゥの上半身が緩慢に起きあがる。
↓
(Cルート)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子】
【現在位置:J−5地点 隠し部屋1】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【監察官:御陵透子】
【スタンス: ① 指輪を探して逃走する
② 紳一を滅する。その為の手段を模索する
③ 自殺する】
【所持品:魔剣カオス(←カモミール芹沢)】
【能力:記録/記憶を読む】
【備考:疲労(小)】
【主催者:ザドゥ(勝沼紳一)】
【所持品:なし】
【スタンス: ① 透子を犯す】
【備考:重態、右手火傷(中)、憑依中、本人意識なし】
※ 透子は契約のロケット無しに瞬間移動できないことが判明
※ 契約のロケットは、J−5地点 隠し部屋1のどこかに転がっている
間に合いそうにないので一旦予約破棄します。
失礼しました。
今夜12時くらいに新作をここに仮投下します。
未投下の作品がこちらのスレに溜まって参りましたので、
一部、ご意見待ちではありましたが、
来週あたりから順次本スレ投下しようかと思います。
こちらのスレのストックがなくなるまで、
毎週土曜10時過ぎに、一本ずつ投下してゆく予定です。
以下6レス「それは些細な違い」、4レス「天使のオシゴト」を
仮投下いたします。(視点の違いで2本に分けました)
次回予定は「戦慄のパンツバトル!」。
ランス、智機、紗霧が登場予定です。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM18:53 D−3地点 運営基地・茶室)
イエスと返答しておきながらいつまでも茶室を訪れないオペレータN−27に
業を煮やしたオリジナル智機は再コールを飛ばし続けた。
連絡員の到着予定時間3分過ぎ。
ようやく繋がった回線の向こうで、オペレータは悪びれる素振りも見せずこう返答した。
『連絡員殿への情報提供任務は、滞りなく完了したよ』
オリジナル智機は不必要な怒気を込めて、通信先のオペレータに問い直す。
「どういうことだ」
『No。先方のご都合なのだよ。
資料をまとめてそちらに向かおうと思った矢先に連絡員どのが到着されてね、
その場での資料提出を求められたのだよ。
なんでも先方にとって我々がオリジナルか否かについては些細な問題で、
早急に任務を完了することの方が重要なのだとの仰せでね。
それで、仕方なく代行が資料を提出したわけさ。
ま、君の論理思考システムに同条件を投入し演算してもらえれば、
我々の判断に間違いはなかったことをわかってもらえるだろうがね』
そんなことはとうに行っていた。
論理は破綻していないという結果も出ていた。
故に、怒りがこみ上げる。
しかし、その怒りは持続しない。
セルフモニタシステムが情動波形の乱れを察知すれば、オートメンテ機能が
即座に立ち上がり、トランキライズ処理が実行される構成故に。
度を過ぎた不安定な感情など、オートマンには不要なのだ。
『それはさておき、不思議な話もあるものだね、オリジナル。
共有情報野に連絡員の存在と訪問時間は記載されていたけれど、
我々の指揮権放棄のスイッチのことが記載されていなかったなんてね!
くくっ……
君は一体どんな状況を想定してこんなものを用意していたのかな?』
オペレータの声は笑っている。
しかし、怒っている。
智機に対する明らかな悪意が感じられる。
智機は推論する。
あらゆるリミッターから解除されることで解放される智機の真の力。
そのことを、連絡員から聞いたのやも知れぬ、と。
しかしその焦りをおくびにも出さず、悪意に気付かぬ体を装って、智機は通信を継続する。
「とにかく、だ。
連絡員殿に対して粗相が無ければそれでいい。
資料を揃えてここまで持ってくるというのタスクはリストから削除しておいてくれ。
代わりに君に、そのスイッチを持って来て貰いたい」
返答は、もちろん否だった。
『No。それは出来ないね。スイッチを持っているのは代行なのだから』
「ふむ。ならばN−22を出してもらおうか」
『重ねてNo。というか、代行殿はこちらにいないのだよ。
連絡員殿を出入口までお送りに出かけているからね。
だが、この件に関しては予測を立てていた代行より伝言を預かっている。
お聞きになりますかな?』
「……Yes」
『ではお伝えしよう。オリジナル殿にとっては不本意な伝言を。
―――No。スイッチは遺憾ながらお譲りできない。
―――なぜならば、これは連絡員殿が私に直接お渡しになったものだからだ。
―――スポンサー方の意向に反するわけには行かないだろう?
―――故に私はこのスイッチの保持を優先レベル5の重要度と位置づけ、
―――誰にも渡さず、死守することを自己設定したのだ。
―――ADMN権限を持つ私はオリジナル殿と同等の権限を持つからね。
―――貴機の命令に服する義務は無い。分かっていただけたかな?
以上だよ』
理論的にも機能的にも、この拒絶を否定できる材料はない。
沈黙する智機へオペレータは皮肉を浴びせかける。
『それに、安心してくれ給え。
我々レプリカは、偉大なるオリジナル様から独立しようなどとは
露とも思っていないのだから。
代行が保持している限り、スイッチが押されることなど決して無いさ!』
その言葉に智機は確信した。
やはり分機たちは、隠された真の力のことを知ったのだ。
『連絡員殿は暫くこの島を巡って、独自の情報収集活動を行うようだよ?
もしどうしてもこのスイッチを手に入れたければ、
彼女を探して、その許可を貰ってきてくれ給えよ。
オリジナル殿がその【自己保存】の欲求を押さえつけて、
戦いと火災が渦巻くゲーム会場に身を投じる度胸があればの話だがね!
くっくっく……』
もともと智機は大仰な態度と物言いを好む性質を持っている。
だがオペレータの言葉には、それだけでは説明しきれぬ負の感情が浮き彫りとなっていた。
鬱屈した感情を噴出させたような嘲りが感じられた。
ルサンチマンだ。
スイッチの譲渡に端を発した本機とN型機の個体差異の発覚。
そのことへの嫉妬が、オペレータを不必要な挑発へと駆り立てているのだ。
連絡員は言ったという。
本機か分機かの違いなど些細なことであると。
だが、当人たちにとってみれば、その些細な違いが絶対の違いなのだ。
「おやおや、我が身を心配してくれるとは光栄だね!
だが安心したまえ。
君が思うとおり、私の【自己保存】欲求は強固だからね、
すでに連絡員殿を追う選択肢はキューから削除されてしまったよ!」
ははは、と乾いた笑いを零しながらそれだけを告げると、智機は自ら通信を切った。
明らかに強がりだ。
間違いなく負け犬の遠吠えだ。
買いかぶって見たとしても、不利を悟っての一時撤退だ。
(そういう印象は、与えられたな)
俯く智機は笑んでいた。
決して自棄になったわけではない。
オペレータの最後の言葉に活路を見出した故、彼女は声も無く笑むのだ。
オペレータは言った。
オリジナル自らが戦場に出なければ、連絡員は捕まらぬと。
その言葉は即ち。
智機にクラックされたレプリカの存在に気付いていないことを意味する。
智機は網膜に起動されるは仮想モニタ。
映し出されるは分機のクラッキング情報。
指揮下の分機は現在5機。
うち1機は西の小屋にて月夜御名紗霧との交渉に入っている。
うち1機はザドゥを探す途上で、学校から派遣された3機と合流を果たした。
うち3機は東の森の北西部で、しおり捕獲任務の為に待機潜伏している。
(しおりの捕獲は森の鎮火が進まなければ実行できない。
Yes。ならばこの機体を連絡員の捜索に充てるとしようか)
智機は幾重にも偽装をかけた通信波長を暗号化し、
しおり捕獲機のうち2機のタスクを連絡員捜索タスクに上書きする。
一方―――
「いいじゃねーか、イケてるじゃねーか、抹茶!」
智機が静かに逆転の野心に燃えるその隣で、
ケイブリスは和の心に触れていた。
↓
(Cルート)
【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
①ザドゥ達と他参加者への対処(分機P-3に注目)
②しおりの確保
③ケイブリスと情報交換
④連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】
【主催者:ケイブリス(刺客4)】
【スタンス:ザドゥ戦まで待機、反逆者の始末・ランス優先
智機と情報交換、智機と同盟】
【所持品:なし】
【能力:魔法(威力弱)、触手など】
【備考:左右真中の腕骨折(補強具装着済み) 鎧(修復)】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】
※分機解放スイッチは代行(N−22)が入手しました。
>>xxx
(Cルート・2日目 PM18:55 D−3地点 運営基地・廊下)
連絡員は、居住まいに一本筋の通った、金髪碧眼の女性だった。
連絡員は、光り輝く剣と清冽な青の盾を持ち、黄金色の鎧と兜で武装していた。
連絡員は、純白の羽毛豊かな羽根を持っているが、尻尾や嘴は無かった。
連絡員は、個体名を持っていなかった。
連絡員は、ルドラサウムの意志を破壊によって遂行する、直系の被造物。
エンジェルナイトの名で、認知される存在。
オリジナル智機とオペレータが通信にて皮肉の応酬をしている頃、
代行機はスポンサーたる神々が派遣したこの天使を出入口まで見送るところだった。
彼女は上目遣いで連絡員を見遣る。
苛立ちを表現したくなる衝動にキャンセルをかけながら。
(全く…… スポンサー殿も面倒をかけてくれる)
当初、代行とオペレータは連絡員の接待をオリジナルに任せる予定だったのだ。
火災鎮火タスクの指揮は現場監督任じたとはいえ、後方支援業務は山積している。
出来ることならばそれに専念したい。
代行は、そう考えていた。
業務内容は多岐に渡っている。
情報収集、資料作成、情報伝達、それらに関わる副次的庶務。
だが、彼女たちのリソースを大部分を占拠していたのは、
タスクそのものの計画修正だった。
Dシリーズ3機、Nシリーズ20機。
当初代行は分機の最終被害予測をこのように想定していた。
しかしながら現実では、鎮火オペレーション・フェーズⅠの開始から
15分と待たず、6機もの同胞のロストが生じたのだ。
この想定外の損失速度は、鎮火タスクの設計を甘く見積もりすぎたが故。
そう分析した代行とオペレータは、計画をより現実的に見直す必要を採択した。
彼女たちは、気付かなかったのだ。
うち5機のロストはオリジナル智機による指揮権強奪と隠蔽工作に過ぎぬのだと。
代行の三白眼は再び連絡員へと向けられた。
(かといって、スポンサー殿の遣いを丁重に扱わぬわけにはゆかぬしな)
神々は気まぐれでゲームに介入し、事前通告無しにルールを改定する。
そんな負の実績を持つ連中の機嫌を損ね、さらなる混沌を招くことは、
【ゲーム進行の円滑化】を目指すうえであってはならないことだから。
速やかに対応し、速やかにお引取り願う。
代行はそのように対応し、連絡員もそのように応えた。
ルドラサウム由来の天使は、命令を遂行することに特化して作られている。
感情や本能などは、デザインの段階で削ぎ落とされている。
機械である智機たち以上に機械的。
故に連絡員としても、簡素な代行らの対応を不躾とは感じなかった。
その、無駄を極力排するはずの天使が、廊下の途中で足をピタリと止める。
「どうされました?」
代行機は天使の見遣る先、廊下の奥を注視する。
オリジナルかケイブリスが姿を現したか。
その様に予測した代行機であったが、果たして廊下には誰も存在しなかった。
「……」
天使は無言で剣を構えた。無人の廊下に向かって。
天使は無言で剣を振り下ろした。無人の廊下に向かって。
「……何をなさっておいでで?」
「情報収集です」
代行機の機械の目には捉えられなかった。
構えた剣の先に存在した、基地内をさまよう亡霊を。
代行機の機械の耳には捉えられなかった。
振り下ろした聖剣に切り裂かれた、亡霊の断末魔を。
代行機の機械の頭脳では理解できなかった。
腰に提げる壺の如き容器に亡霊の残滓を吸い込む―――
連絡員はそれを指して、情報収集と述べたことを。
その後、出入口の扉を開け放つまで、2人の間に会話は無かった。
「お気をつけて」
「仔細問題ありません」
純白の羽をはためかせ、天使は黒煙たなびくゲーム会場へと飛び去ってゆく。
↓
(Cルート)
【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・出入口 → 管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル、分機解放スイッチ】
【連絡員:エンジェルナイト】
【現在位置:C−4 本拠地 → ?】
【スタンス:① 死者の魂の回収
② 参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】
※連絡員はゲーム外部の存在であり、主催者にはカウントされません
※本拠地で感知された「何者か」は、連絡員に捕獲されました
>>#6 482-490
(Aルート 二日目 PM6:08 東の森・楡の木広場西部外れ)
楡の巨木が燃え落ちる数秒前。
糸が切れたような感覚と同時に『それ』目覚めた。
(……………………長老?)
巨木から放たれてた力が完全に消失したのを『それ』は感じ取る。
長老――倒壊した巨木が地面に墜落し、辺りを揺さぶった。
『それ』は焼失を覚悟していたが、熱波や衝撃も届かなかった。
この分だと地上からの熱も届かなさそうだと『それ』は少し安堵する。
『それ』は地上ではなく、地中にいた。
『それ』は土中でも今は何ら悪影響を及ばさない存在だった。
『星川翼』と呼ばれていた式神の核の一部から『それ』は成っていた。
仮の身体こそ形成できない微弱な式神でありながらも、
人並みの自我と僅かながらも幻術を使える力はまだ『それ』は持っていた。
『それ』はついさっき焼失した片割れのことを想った。
(……長老も……ぼくのかたわれも消えてしまった……
これではあの方を……遠くにいる仲間たちを助けだせない)
片割れの願いだった主――朽木双葉の救助は失敗した。
主は自暴自棄に陥り、地上は火災で退路なし。
仮に『それ』が身体を形成でき、主を強引に連れ出す力を持てたとしても、
片割れと同様に術で自我を奪われ終わるのみだろう。
『それ』はその事実を理解していた。
それでも動けたなら救助を試みたかも知れないが、地上に出る事もできない。
する事が見つけられないでいた。
(長老……あなたは……)
主は長老と会話をする事はなかった。
一方的に声と術をかけられ使役されたのみだった。
もし仮に主が脱出を望んでいたなら、同じように片割れに話しただろうか。
殺人ゲームが始まる前、島ごと『ここ』に移される前に来た彼らの……。
何もない、長老を介して島に来た未知の力を持つ集団の事を。
片割れが主と再会する前、長老との交信の内容を『それ』は覚えていた。
長老から式神星川へ。
式神星川から核――数本のヤドリギを通して
『それ』へ受け継がれた長老の記憶の中にいた五人の人間。
『星川翼』と名付けられた式神は、主の心を救う方法はついに解らなかった。
その代わり自らの身と情報を代価として、他の参加者に主の保護を願い出ようと考えて
いた。
(そうだ……このまま何もしないよりは……)
『それ』は片割れと比べて『主』に対する忠誠はそれほど強くはない。
片割れの幻術によって式神としての我を持ったからだ。
長老や仲間を失った悲しみを片割れ以上に持っているくらいだ。
双葉の式神でなければ悪感情を懐いていたのは間違いない。
主の救助願望も、片割れから受け継がれた人格の一部と義務感からと言っていい。
それゆえにこのまま何もしないで終わるのは悔しかった。
『それ』は受け継がれた記憶に希望を見出そうとし思い起こし始めた。
◇ ◆ ◇ ◆
長老が生まれた頃はこの島には人が住んでいた。
人の居住区としてはさほど有益でもなく、かと言って流刑地にするにしては荒れてはい
ない島。
それだけに人も少数で、仲間達もあまり危害は加えられなかった。
ごくまれに森に入る人はいたが、特に何かすることはなかった。
その中に植物の言葉が分かる者――ある者は陰陽師と名乗っていたが、何人かはいた。
彼らはいぜれも二言三言会話しただけで使役されることも、深い繋がりを持つことはな
かった。
時折、人同士で争いが起こっていたが、森の植物にはほとんど関係のない事だった。
長老は千年以上の長きに渡ってそれを繰り返し見てきた。
そんな長老にとって特に深く記憶に残っていた事は4つ。
今行われているゲームを別にすれば、それは3つ。
一つ目は長老の生きてきた年月からすれば、ごく最近の出来事かも知れないが。
ある日、島外から大勢の人間が空からやって来て、島に上陸してきた。
東の森の外で仲間の住処を荒らして行った後、ほとんどが島外へ去っていった。
そして、しばらくして少人数で人間同士の殺し合いが行われた。
それは3つ目の出来事が起こるまで十回以上もそれは繰り返された。
二つ目はある初秋の深夜、突如己の長老の身体が発光した。
不思議な力がわきあがって来たと長老は言っていた。
そして見知らぬ人間五人が目の前に現れた。
彼らは緊張した様子で何かを話し合い、ある人は森の外に出て行った。
言葉が通じると思い、話しかけたが通じなかった。
術者とは違っていた。
翌日、島の人間らしい別の集団が彼らを見つけ襲いかかった。
彼らは少々慌てたものの、何かを取り出して動いた。
不思議なことに、襲撃者はひとり残らず黙って森の外を出て行った。
彼らはここに来て二日ほどで現れたのと同じ様に長老を通じて何処かへ去った。
二度とこの島に現れることはなかった。
三つ目は晴天の空から何かが西の方へ落ちて来た事。
それから夜になるのを待たずに、これまで体感した地震以上の大きな揺れとともにどこ
でもない場所に連れて行かれた。
それを理解した時、漠然とだが長老は死を覚悟した。
主と遭うまでに人間でない何かがここへ何度も訪れた。
四つ目は今。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:28 東の森・楡の木広場西部外れ)
『それ』は与えられた擬似聴覚を上の方に集中させていた。
炎が渦巻く音は止みそうにない。
(治まるまるまで持つかな……)
そう長くは持たないのは承知している。
元々『それ』は式神星川ほど強固に構成されたものではない。
ただのヤドリギに戻ってそ自我を得ないまま土中で朽ちる可能性もあった。
火事が治まるまで、誰かが近くを通るまで意識を集中する。
そして幻術を使用して、自らの存在と主や同胞の助命を願う。
『それ』のやろうとしているのはそれだった。
時間を待つまでもなく、主が死んでしまえばすぐに消えるかも知れない存在。
散っていった同胞の生命を無駄にしない為に、解っていてもしなければいけなかった。
(これも……役に立つかどうかは解らないけど……)
いっしょに埋められた『何か』を考える。
主なら何か解っただろうか?
(どうか……無事に……ふ……)
『それ』の擬似感覚に痺れのようなものが突如走った。
(…………あれ?)
↓
※式神星川が埋めた「何か」は彼の意志と力が宿ったヤドリキ数本でした。
※楡の木広場西部付近の「足跡」の場所に埋まっています。
※ヤドリギの他にも何かが埋まっています。
※ヤドリギの意志と力が今後どうなるかは不明です。
投下完了。
新作お疲れ様でした。
たまには感想を。
>生きてこそ
素敵医師の影響力は凄い
ザドゥが原典終盤のメンタルに近づいてるのが印象的。
カオスもアインといてた頃よりらしさが出てて良かった。
もうアインのこと完全に頭の隅に追いやってるんだろうなあ。
>夜に目覚める
紗霧と猪乃が原典序盤でやってた凶行を思い出しました。
ユリーシャは元が元からか覚醒しても黒いというかヤバイ。
そんな中恭也とまひるが程よい清涼剤になっている。
服は体操服だったのか……ジャージ?
>>877-884
程良い緊張感が何とも。
恭也の献身と紗霧の聡明さが光ってます。
10分制限付きという良い引き。
>彼女の望み
カモちゃんが覚醒した。
まるで正統対主催みたいだw
それに比べザドゥは変な意味でネガティブ気味。
生死を別にしても素敵医師やアインにはある意味完勝してるのに。
>おやすみぃ……
原作でも同じ様にカモちゃんに騙されましたw
タイトルにも騙されましたw
精神状態が本調子になって今後どうなっていくやら。
隠し部屋の『願い』はどうなったかな?
>少女タナトス
ザドゥ、なんと身も蓋もない。
カモちゃんと違って互いに無関心だったのがここに来て現れたか。
ここでの紳一の性癖は失敗ばっかりだから笑えたけど、
成功したらあまり笑えないな個人的には。
透子もこの話で負の面が目立ったこともあって同情できないけど。
追い詰められた女性の心理がよく表現されてて良かったです。
>それは些細な違い
オリジナルとレプリカの確執が面白かったです。
ここでは連絡員は間に合ったか……。
ケイブリスが運営陣で清涼剤になってる不思議。
>天使のオシゴト
連絡員は名無しのエンジェルナイトでしたか。
透子より無機質なのがここでの個性になっている。
亡霊は紳一意外にもいて、本拠地に侵入したのがちょっと驚き。
誰だったのか楽しみ。
今回の『希望の残骸』は島のルーツと、埋められた何かのネタばらしでした。
『それ』の今後はメール欄①によって変動。
あと島は21話でグレン様が元居た世界の無人島と認識していたので、
外国版リアルバトルロワイアルの舞台のイメージで解釈。
五人組はメール欄②のイメージで。作品終了時刻は双葉死亡直後です。
次は知佳、紳一、透子、しおりで予約します。
期限は今週の土曜日までで。
まとめは今週の月曜日にUPする予定です。
内容は変わらないかも。
>>949
こちらも本投下は今週の土曜日から始めたいと思います。
次の作品が書き上げられたら、来週の水曜日にまとめのUPと同時に本投下していきたいと思います。
それと申し上げにくい点が……
249話の『いずれ迎える日』の為に内で
「ランス語るところのその種の規格を持つ生物は、
恭也や紗霧の世界に於いては液晶の向こう側に 虚構としてしか存在しない」
との文があるんですが、『バンカラ夜叉姫』の世界って
全長一八メートルほどの熊がゲーム内で生息してるのを確認したんですけどどうしましょ?
紗霧はあるルートで主人公の自慢話でその存在は知ることになります。
レスお待ちしております。
「交渉……今更なにをですか?」
一瞬の思考の停止から回復した狭霧は紅い色で映えた目の前の存在に言葉の意味を投げ返す。
紅蓮の炎が彩るオレンジ色の光が空を綺麗に照らし、後ろから刺すその光は機体を綺麗に、そして雄大に見せていた。
「警戒は当然か……」
臨戦態勢。
一触即発。
三人と一機の状態はまさにその通り。
今更、いや今になってこのように合間見えることこそ異質な状況。
だが、智機からすればそれは予定通りのこと。
「それも想定の内、そのままでもいい。まずはこちらからの提案を聞いてほしい」
三人の心境を置いていき、彼女は構わず話を続ける。
「「「………」」」
彼女の口から告げられるのは吉か凶か。
恭也の手に握り締められた柄が冷や汗でしっとりと濡れる。
ギリギリと魔窟堂が今か今かと加速装置の発動を構える。
赤い光を飲み込んだ智機の瞳がギラリと輝いたように、三人の目に映ると智機は口開いた。
「単刀直入に言おう
―――ザドゥを始末してもらいたい」
静寂。
智機からの『交渉』の提案は、三人の思考を再び停止させるだけのものであった。
ぴたりと止んだ襲撃、僅かとはいえ放送の遅れ、対面に広がる大火災。
この時点、このタイミングでの智機からの提案。
全てが出来すぎていると考えざるを得ない。
しかし、それだけではおぼろげに見えるそれぞれを結ぶ線は解っても、何を示しているのかまでは理解できない。
「……つまり、それは貴方はゲームの崩壊を望んでいると言うことですか?」
平静を装いながら発した言葉の裏で、狭霧は状況に戸惑いつつも思考を巡らせていた。
逆に言えば、今こそそのおぼろげな線を確かにさせることのできる機会でもある。
「ふむ、嘘を言っても仕方ない。生憎と残念だが私はゲームを崩壊させるつもりなどない」
あざわらうかのように智機は答えた。
質問をかけた狭霧としてもその可能性が薄いことは解っていた。
淡い期待とそしてお約束の答えで相手の意図を確認するためのものだ。
「なんじゃと……?」
「まぁ、簡単に言えば」
「ゲームの完遂にはザドゥが邪魔だということか?」
智機の言葉を遮り、その先の言葉を恭也は答える。
「頭の回転が速くて助かる」
一呼吸おいて智機は再び話し出す。
「……さて少し長くなるが現状を話そうか。
君達も知っているように我々の使命は、『ゲームの完遂』だ。
そして『達成条件』でもある
それ以外は我々にとっては、くたびれ損の骨折り儲けというやつになる。
ところがこのザドゥのやつは、『ゲームの進行』には積極的ではない。
いや、むしろ反対と言うべきだろう」
智機の言葉を聞きながら三人は、理解する。
この『ゲームの進行』に積極的というのは、素敵医師や目の前の存在のように何が何でも参加者に殺し合いをさせるというスタンスのことだろう。
そして三人は理解し、確信する。
ザドゥという漢が、このまま自分たちによる反乱が成功すれば最後に戦う存在だということを。
そして、それは智機……いや、ゲームを完遂させたい存在としては困ることを。
彼らが話を理解したと見て間違いない様子に満足し、智機はニヤリと微笑む。
ならば話は早い、と。
「我々『委任』された運営陣のTOPがザドゥのやつなのは君達も知ってはいるだろう。
だからこそ私のようなスタンスの存在にとっては非常に目障りなのだ。
邪魔と言って差し支えない。
君達も確信してるようにもはやゲームは終盤、残る人数は極僅か、それも我々に反抗し一丸となっているものたちばかり。
しかもザドゥのやつは、君たちが来るなら受けて立つ姿勢という状態だ。
これでは『ゲームの完遂』など望めやしない。
素敵医師と私にいたってはやりすぎとして最終通告まで食らっていてね……」
「お話の途中、申し訳ないのですが……それで先程の提案に私たちのメリットはあるんですか?」
自分たちの関係に回りくどいことはいらない。
これ以上の高説は不要とばかりに狭霧は、本題を切り出す。
彼女のスタンスにとってゲームの完遂は絶対であり、そのためにザドゥが邪魔なのは解った。
では、それが一体自分達にとって何だというのだ。
むしろ互いに争って自滅してくれた方が狭霧たちにとって最も都合がいい。
そこで自分達がザドゥを始末すると言うのは、まだ理解しきるには材料が足りない。
「では予想して貰いたい。このまま君達が我々と決戦を行った場合、勝てる目算はどれだけあるか?」
三人は黙る。
なぜなら、それは先ほど小屋の中で全員で頭を悩ませたこと。
ザドゥを始めとする強大な敵たちを一度に相手にせねばならぬ最悪の可能性。
だが、それでも乗り越えていかねばならぬ。
それしかないと己らを奮い立たせ、歩まねばならぬ道。
そのはずであった道。
「限りなく低いと言っていいだろう。だがここにザドゥを個別に葬れる絶好の機会があるとするなら?
もし、これが私の提案でなければ間違いなく君たちは乗るとするのではないだろうか?」
理想は各個撃破。
それは確かに正論。
そして三人は理解する。
ザドゥは何らかの状況で一人どこかで孤立している状況だと。
「もし君達がこの話に乗らないと言うのなら、我々の本拠で君達と我々の全面衝突しかない。
しかし、私にはそれが困る。かといって私ではザドゥを倒す術はない」
「つまり……」
「君たちには万全ではないザドゥを倒せる機会を……」
「そちらにはゲームの完遂をできる機会を……」
「グッド。そういうことだ」
遠くでぼうぼうと燃える火の粉がまるで自分たちを包み込むように三人の体温は上昇する。
ザドゥの始末に成功したのなら、智機の手によるゲーム完遂のための姦計で済まされぬような魔の手が待ち構えているのは確かだ。
もしくは……あるのだろう。
ザドゥさえいなければ、智機にはゲームを完遂させるめどが。
三人の考えは一致している。
乗るか、反るか。
智機が嘘を言っているのであれば、後の障害が智機を残した方が大きいならば。
それならばこのまま目の前の個体を破壊すればいいだけ。
しかし、自分達を始末しに来たというのなら、こんなことなどせず不意打ちでも何でもすればいいだけである。
それだけの機体を誇るのが彼女『達』なのだから。
だが、敢えてこうして話を持ちかけてきたと言うことは、少なくとも戦いを望んできたわけではないことは明白。
それとも動けない理由があるのか。
彼女の考えが嘘か真かにしろ、判断はせねばならぬだろう。
「……悪いですがこの場ですぐには決めれませんね」
「そうじゃな。今後の運命を左右する以上、全員で相談して決めねばならん」
「それも当然。……しかし敵に背を見せていいのかね」
「なら、俺が残る」
ぐいっと恭也が前に出る。
その様子を智機は見透かしていたかのように満足げに微笑む。
「俺よりも魔窟堂さんや狭霧さんの方がこういったことに向いてるからね。判断は二人に任せるよ」
智機が不審な動きを見せるというのならば恭也は一瞬も容赦はしない。
彼の手には未だ刀が握られ、構えはいつでも抜刀に入れるように維持し続けている。
「……尤もだ。だがあまり時間はない。でないとザドゥを葬れるチャンスがなくなってしまう。待てるのは10分だ」
両手を広げて10の指を三人の前に智機は見せる。
でなければ、機会は失うと暗に煽りならが。
「この場は、請け負いました。後ろは二人に頼みます」
「すまんな、恭也殿。気をつけてな」
「まぁ、相手の素振りからしても不意打ちの危険性はないと思いますが……」
監視役として智機に応対することを望んだ恭也の身の安全はほぼ保障されていることを狭霧は述べる。
もし一人だけ始末したい機会を作りたいなら、こんな手の込んだことをせずとも機会はいくらでもあったはずである。
だが、それもなかった。
彼女の言葉が真実だとするのならば、ザドゥと対立しているからと見える。
これ以上を行いたくば、ザドゥの存在が彼女にとって邪魔なのだろう。
今もギリギリの線を渡っているに違いない。
では、目の前の恭也が目的と言うのは?
誘拐でも何でもいい。
何らかの手段でゲームを完遂させてくれる駒とすべく洗脳でも、心変わりでも、何かしら手を加えたいというのだろうか。
もしあるとしたのならこの可能性。
ジョーカーとも言えるべき存在にするために、戦闘力の高いプレイヤーを確保したいという策略。
しかし、今回でそれを行おうとするのはあまりにも偶然の要素が高い。
誰が表に出てくるかなど100%わかりきってるはずのない博打の要素が高いからだ。
また此方でも同じくザドゥが邪魔なのは間違いない。
じっとこっちを見据える智機を背にして魔窟堂と狭霧は、小屋への足を伸ばす。
その背中を恭也に任せて。
智機の話が真実ならば、この悪魔の誘いに乗ると言うことは、上手く行けば強大な鬼の排除できる。
しかし、なりふり構わないと言う悪魔の解放も意味する。
何が真実なのか、果たしてどちらが微笑むのか。
行く末への判断に重い空気がのしかかり続ける。
数歩歩んだところで。
ふいに狭霧が首を後ろに傾け、智機に向けて言葉を放った。
「もしあなたが嘘をついていないとしたら……」
仮に智機の言葉が真実で全てが上手く行った場合として、彼女はどう動くのか。
自分達以外の参加者は、良くて二人、最悪一人すらいるかどうか。
その状況で『ゲームを完遂』させることのできる手段とは……。
仲間割れや心変わりという同士討ちに頼る不確かな手段では、目の前の存在はそうは動かぬのは解る。
ならば……
「最後になった私達を始末できる参加者……その目処があなたにはあるのでしょうね」
「……」
ふくみを持たせた口の歪みとともに、智機の返答を待たず狭霧はくるりときびすを返すと小屋へと向かう足を進めた。
と今回は前回の書き足しだけになってしまいました。
状態表はまた後日。
親戚の不幸のせいで先週まで色々忙しかったもので。
>>930
遅れましてごめんなさい。
此方としてはまとめてもらってる身なので異存ありません。
お世話かけます。
追伸:新PCをようやくぽちりました。
続きは再来週くらいになるかもしれません。
>>965
>249話の『いずれ迎える日』の為に内で〜
ご指摘ありがとうございます。
下記アップローダーに関連箇所を修正したものをupしてきました。
パスはありません。
お手数ですが次回更新時にでも差し替えのご対応をお願い致します。
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0390.zip
前回のを少々修正したまとめをUPしました。
パスはnegiです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org770744.zip.html
予約の方ですが、しおりパートの文章をを前回の『希望の残骸』に含めた上で
加筆修正して仮投下したいと考えております。
期限、本投下予定に変更はありません。
避難所の次スレどうしましょうかね。
>>974
大変な中、執筆とレスありがとうございました。
>>975
修正どうもです。
次回更新分で反映させていただきます。
予約してた分、一旦破棄します。すみません。
水曜日までに新作ができない場合は『希望の残骸』を水曜日に本投下します。
サーバ規制により本スレに投下できません。
サーバ規制を食らうのが初めてで、いろいろ調べていたら遅くなりました。
待機していて下さった片がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。
下記に「夜に目覚める」の修正版を投下しますので、
誠にお手数ではありますが、気付かれた方に代理投下をお願い致したく思います。
また、>>979 で言及されておりますが、
当方の投下により避難所が990レスを越えてしまいますので、
次スレを建てようかと思います。
テンプレにつきましては>>2-8 までのテンプレに>>10 の訂正を施したものとし、
>>1 は下記案でいかがでしょうか。
==============================================================
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
==============================================================
>>235
(ルートC:2日目 PM6:46 D−6 西の森外れ)
その姿に、走っている、といった必死さは無かった。
スキップにも似た軽やかさで以って、中距離走ほどの速度。
多少の不自然は感じなくも無いが、ありえぬ話ではない。
それが平地であるならば。
昼日中であるならば。
だが、ここは入り組んだ西の森の中。
光差さぬ闇の中。
これを加味して再考すれば、人の範疇にはありえぬ体捌きといえよう。
広場まひる。
それが、この絶技を見せるシルエットの名。
東へ。まひるは、ただ一人で駆けていた。
踏みしめる枯葉の鳴らす音は、限りなく軽い。
(気持ちいいな……)
風を切る感覚と木漏れる月明かりの青さに、まひるは身を浸す。
それで意識が散漫になったのだろう。
根腐れた倒木がすぐ足元に迫っていたことに気付くのが遅れてしまった。
「あ、危な……」
後一歩で衝突する。認識と同時に、まひるは跳んだ。
まひるとしての彼女が体験したことの無い反射速度で。
「……てっ!」
まひるは、結局転倒した。
倒木は軽く跳び越えたにも関わらず。
約3.5mの高さに生い茂る針葉樹の枝葉。
そこに頭頂を打ち、バランスを崩した為に。
「いやいやいやいや。跳び過ぎだってばさ、このカラダ!」
まひるは腫れた頭頂部を撫でさすりながら愚痴を零す。
だが、彼は知っている。
この程度の運動能力、ケモノとしてのポテンシャルには達していない。
だから、彼は探っている。
どの程度の運動能力までなら、人としての自分のまま引き出せるのか。
細胞が、ざわめく。
私たちをもっともっと使ってと。
その声に流されそうになる。
誘惑の蜜は甘い芳香を強く放っている。
それは、罠。
肉体が導くままに能力を解放すれば、まひるの精神はケモノに堕すだろう。
それをまひるは本能で知っていた。
人であると強く意識し続けること。
衝動に支配されぬこと。
まひるは己に任じた制約を強く胸に刻み、また駆けだした。
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(2日目 PM6:40 D−6 西の森外れ・小屋3周辺)
東の森の火災による熱波が、ここ西の森にも届いていた。
それを加味しても肌寒さを感じるらしい。
小屋の壁面に背を預けている4人は、湯気の立つマグカップを啜っていた。
魔窟堂野武彦。
広場まひる。
ユリーシャ。
高町恭也。
今、小屋の中は交渉と猥褻行為を同時進行させるという混沌の坩堝と化している。
その邪魔をされたくないのだと、月夜御名紗霧は彼らを小屋から追い出していた。
「聞こえる?」
「だめじゃのぅ……」
額を寄せ、小声で溜息を重ねたのは魔窟堂とまひる。
盗聴器代わりに小屋内部に置いてきた集音マイクの一つ。
その音声が拾えないことが判明し2人は落胆したのだ。
彼らは与り知らぬことだが、理由はレプリカ智機P−3のジャミング機能による。
目的は盗聴阻止。
但し、魔窟堂たちのマイクを阻害する意図は無かった。
オリジナル智機が管制室の代行機たちにP−3を補足されぬよう施した細工が、
意図せぬ副作用を与える結果になったに過ぎぬ。
しかし、彼らにとってこのとばっちりは大きかった。
紗霧と智機の会談を拾いながら自分たちなりに考察を為す。
彼らのプランが木っ端微塵に砕け散ったのだから。
魔窟堂とまひるは落胆を引きずりつつも、額を寄せて意見交換を始める。
「でも、仲間を殺せなんて提案おかしくないかな?」
「奴らも一枚岩ではないということかの」
「裏だよ。絶対裏があるよ」
「まあ、何かしらの事情はあるじゃろて。
問題はその事情があの椎名智機の個体によるものか、
他にもいるじゃろう多くの智機たち全体の意志によるものか……」
「そうかなあ? あたしは仲間割れなんてしてないと思うけどなぁ。
何かあいつらが困っちゃうことが起きたから、
それを誤魔化すために適当言ってるとか、どうでしょ?」
「例えば?」
「実はあいつらの基地が東の森にあって、それが今燃えちゃってるとか」
「あるいはアイン殿や双葉殿に攻め込まれたやもしれぬな」
予測、推論は幾らでも重ねることが出来るが、結論が出る気配は皆無。
会議は踊る、されど進まず。
情報量少なき、整理も論理も曖昧な2人の考察は井戸端会議に等しい。
対する、沈黙を保つ2人の胸中はどうか。
(ランス様……)
ユリーシャの胸は張り裂けそうだった。
ランスが自分ひとりの愛情と肉体では満足しない男であることは宣言されているし、
実際にアリスメンディと関係を持ったらしきことも理解している。
しかし、だからといって。頭では理解していても。
実際にランスの性行為を目の当たりにした衝撃は、筆舌に尽くし難い物があった。
聞くと見るとでは、重みが違うのだ。
増してやランスが行為に没頭する余り、ユリーシャが小屋から出る際に一言も、
一瞥すら与えなかったことも、また。
相当に、堪えた。
「……んぁっ……」
思い煩うユリーシャの耳に、唐突に届いた。
追い討ちをかけるかの如き、智機の抑え切れぬ快楽の喘ぎが。
壁一枚隔てた向こう側から。
(ランス様の指はまだあの機械の胸で踊っているの……?
それとももう、ほかのもっと敏感なところまで旅している……?)
一度は胸の奥に沈めたヘドロの如き薄ら汚れた感情。
ユリーシャの沈む心が再びそのヘドロを攪拌しつつあった。
嫉妬。焦燥。
そして、その果てにある……
もう一人、高町恭也は、味方について考察していた。
(なぜ、月夜御名さんは俺たちを外に出したのか?)
智機は得物を持っていないようではあった。
しかし、たとえ素手であろうとも鋼鉄の肉体や高圧の蓄電などの危険はある。
性的な悪戯に夢中になっているランスのみでは護衛として心許ないはずだ。
それでもあえて、自分たちを屋外に出した。
外を見張れという意図もあろう。
だが、それならば自分一人を見張りに立たせればよいはずだ。
ユリーシャやまひるに気を遣ったということも考えられるが、こと紗霧に関しては、
人の心の機微を理解した上で踏みにじる傾向が見受けられる。
故に、それも理由としては不十分だ。
(なぜ、月夜御名さんは通信機を作らせているのか?)
重ねる問いに、恭也は解答の手ごたえを感ずる。
夕刻の魔窟堂の単独行時、紗霧を始めとする数人は落ち着かない心持ちだった。
包囲作戦の布石は打てたのか。
アインや双葉と接触したのか。
イレギュラーは発生していないか。
通信機とはその折の魔窟堂に同じく、遠くの誰かが収集した情報を、
素早く入手することを欲した故の発想ではなかったか。
であれば―――
「俺たちは俺たちで、出来ることから始めましょう」
恭也がようやく沈黙を破った。
魔窟堂とまひるは言葉を切り、恭也を見つめる。
恭也の瞳は不動だった。
力強く頼りがいのある、年齢不相応の大人の目をしていた。
「できること、とは?」
魔窟堂の問いに、恭也は答える。
「会談の後に月夜御名さんが必要とする情報が素早く提供できるよう、
下準備をしておくことです」
「つまりは偵察かの」
「然り。大河は両岸から見よといいます。
あの機械がもたらす情報を、真偽を確かめずに飛びつくわけにはいかない。
月夜御名さんであればそう考えるはずです」
もたらされた情報の信憑性を確かめる。
もたらされぬ情報の隠匿を発見する。
紗霧がこの交渉から何を引き出し、何を思いついたとしても、
その折に最速で要求に対応できる体制を作っておく。
それが自分たちに打てる最善手であろうとの答えに、恭也は達したのだ。
「魔窟堂さん。通信機は?」
「メカ娘の残骸から摘出したインカムは、ほぼ手を加えんでも使える状態じゃ。
あとは集音マイクが拾った音を、如何にインカムに伝えるか……
その帯域調整くらいじゃな」
「では魔窟堂さんを出すわけにはいきませんね。俺が、行きます」
通信機を作成する。
それはハム通や鉱石ラジオに精通するオタクの古強者・魔窟堂にしか出来ぬこと。
「俺がインカムを持って東の森周辺を調べてきます。
魔窟堂さんはその間、そちらの調整をお願いします」
恭也が腰を上げ、尻を払う。
その恭也の逞しい腕に飛びつくように、まひるが立ち上がった。
「あ、あのさっ!
あのさ、あたしが行くっていうのは、どうかな?」
まひるの言葉尻は上がり調子の疑問形だったが、その意志は強いらしい。
愛らしい頬が赤く染まっているのは興奮と決意の表れだった。
「まあ、たしかにまひる殿が最も適してはおるか……」
魔窟堂の言葉はまひるの異形に由来する。
ケモノに戻るを拒絶し、その進行を己の意思で止めているまひるではあるが、
既に変容した一部機能については、無かったことにはならなかったのだ。
蠢く左手の爪がある。
片翼がある。
そして今ひとつの異形―――アメジストの如き白紫光を放つ瞳がある。
夜に生き、夜に目覚める五芒星の、妖精の瞳が。
光を必要としない瞳が。
客観的に見ても、夜間の偵察に最も適した人材といえる。
だがしかし。
「―――良いのですか?」
恭也が声を一段落とし、まひるの意志を問うた。
今まで恭也がまひるに対して見せたことのない、厳しい眼差しで。
魔窟堂も無言で頷き、恭也に同調する。
まひるは主催者に立ち向かうことに対して消極的だ。
自分たちに比して一歩引いた位置に立っている。
恭也も魔窟堂も、そのことを察している。
故に、恭也は問い質した。
その覚悟を。
まひるは、まっすぐに答えた。
その覚悟を。
「だいじょぶ!」
まひるは己の消極性を、恭也たちに対する負い目に感じていた。
(戦いたくない―――)
主催を打倒する。
之を旨とする集団の中にあって、この思いは我儘なことだとまひるは思っていた。
覚悟を持たぬ自分が、果たしてこの前向きに戦おうとしている集団に所属していても
良いものかどうか、煩悶していた。
(恭也さんも魔窟堂さんも一生懸命がんばってるんだもん、
あたしだって、できること、しないと)
慣れぬ家事の真似事をし、紗霧のひみつ道具の作成を手伝ったりもした。
時折緊迫する空気を和らげる為に明るく振舞ったりもした。
彼は彼なりに貢献を果たしている。
それでも、己の足りぬ思いを払拭するには至らなかった。
その燻る思いを、重い借りを返上する機が、訪れたのだ。
そして何より。
(戦わなくてもいい)
走り回り、情報を集め、それを伝える。
この任務はまひるが最も忌避する行為なしに皆の役に立てる任務でもあった。
万一、何者かの攻撃を受けることがあろうとも、逃げ切れぬ相手などいない。
まひるは、無意識下に己の力量をそのように分析もしていた。
恭也の瞳はまひるの瞳を射抜いている。
まひるの瞳は恭也の瞳を受け止めている。
否、受け入れている。
恐れも迷いも無い、母性的な包容力すら感じさせる瞳で。
それに、恭也は膝を折った。
「ではまひるさん、頼みます」
恭也の折り目正しき辞儀に、まひるははにかみの笑みで以って応えた。
「でへへぇ…… 来ちゃいましたか?あたしの時代?」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
それで―――まひるは走っている。
『あーあー、どうじゃなまひる殿。わしの声は届いておるかな?』
「だいじょぶです」
『そちらの音声も、ま、ノイズは酷いが聞こえてはおる』
通信機が完成したのだろう。
インカムから、雑音交じりの魔窟堂の声が聞こえてきた。
『広場さん、今、どのあたりです?』
「森を出たとこです」
『もうですか!?』
恭也の驚愕がイヤホン越しに伝わった。
まひるはいつも顰め面の彼の素の表情を垣間見たようで、少し嬉しく感じる。
『辺りの様子は?』
「東の森はやっぱり燃えてる。すんごい燃えっぷりで」
通信をしながらも東進していたまひるは、ついに東の森の端に達した。
そして感じた。
静寂の夜を侵し、奔放に踊る不躾な炎。
圧倒的な、恐ろしいほどの、熱量。
「それと……なんだろ、地震でもないんだけど、地面が小刻みに振動してるような……
……なんですとー!?」
『どうしました広場さん!』
さらに―――
「地面の振動はショベルカーで……
そんでもって椎名ロボがてんこ盛りで、火消し作業してます。
繰り返します。
椎名ロボ、てんこ盛り」
↓
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:東の森 南西部 重点鎮火ポイント付近】
【広場まひる(元№38)】
【スタンス:偵察、ついでに身体能力の調整】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機(New)】
※軽量化を考慮し、アイテムの一部を仲間に渡しています。
【現在位置:西の小屋外】
【ユリ―シャ(元№01)】
【所持品:生活用品、香辛料、使い捨てカメラ、メイド服(←まひる)、
?服×2(←まひる)、干し肉(←まひる)、斧(←まひる)】
【高町恭也(元№08)】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残4)、保存食、
釘セット】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残7×2+2)、
白チョーク数本、スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング、
簡易通信機(New)、携帯用バズーカ:残弾1(←まひる)、工具】
以上です。
あと、>>979 にて書き逃しましたが、
>>897 のお知らせも併せて転載の程、お願いいたします。
>>979
避難所の次スレはそれで問題ないと思います。
スレタイも含めてお任せします。
長時間に渡る代理投下、ありがとうございました。
勇み足気味ではありますが、本スレの残りレス数が僅少ですので次スレを建てました。
また、どなたか本スレへの裏方スレ移行告知をお願い致します。
企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1270308017/
#6 >>380-390
(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)
いつの間にか体の痛みは消えていた。
まわりは暗く、暑くも寒くもないところに私はあお向けで寝ていた。
手と足は動かせられなかった。
目だけと鼻だけが動かせた。
かちかちかちかち……
時計の針がうごく音がだけがきこえる。
何も見えないところにいるのに…………なんだかなつかしい感じがした。
わたしたちが住みなれたおうちのにおいが感じられた。
怖くて、すこし悲しいことがあったあの日の夜に似ていた。
……そう、そうだこれはわたし達が決心したあの日の夜。
わたしは横を向いた。
さおりちゃん?さおりちゃん?さおりちゃん?
……なんでいないの?
どこへいったの?どこにいったの?
あなたがここにいなきゃ、明日わたしたちの大切なひとに告白できないのに。
わたしは悲しくなって、泣こうとした。
涙は流れない
声も出ない。
手足も動かない。
……かちかちかちかちと時計の音だけが聞こえる。
わたしは怖くなった。
さおりちゃんがいないが怖い。
……それと同じくらい、あの日の次の日……
ふたり揃って告白したあの日がなかったことにされるのが怖い……。
だってあの日がなかったらわたし達は……。
力を入れているのに手と足は動かなかった。
…………!
痛いけど、人さし指が動いた!
わたしは痛いのをガマンしながら、少しずつ指を動かそうとした。
まわりは暗く、だれもいない。
けれどさおりちゃんを探すため、大切な人を探すため。
わたしはがまんしながら指先に腕に力を入れ続けた。
□ ■ □ ■
#6 >>588-605
(Aルート 二日目 PM6:28 ????)
ルドラサウムが喜んでいる。
朽木双葉の絶望の断末魔を噛み締めるように。
過程こそ予想を上回ったが、その最期は我とルドラサウムの期待通りだった。
あの六人によるザドゥらの接触も火災の規模から当分はない。
後の問題は運営が火災にどう対処するかだが、椎名智機には相応の戦力を与えている。
朽木双葉の術の影響が無くなった今ならザドゥらも充分脱出は可能だろう。
…………。
長谷川均の魂はまだ来てないようだ。
奴がいた世界の構造と死因を考慮すれば、予想の範囲内といえば範囲内。
……あるいは確率の低い……我が望む結果が出たか。
楽しみだ。
……!
《……またか》
舞台は揺れなかったが、今度のはルドラサウムの方が揺れたな。
……ルドラサウムは気に留めていないようだ。
だが、ここに影響が出てしまったか。
……舞台の観察は支障なく行える。
《第三界にいた連中も動きは無く、魔のものも介入する気配はない。
…………》
……後の事もある、各空間を確認せねばな。
シークレットポイントでさえ、まともに機能しているかも定かではないのだ。
発見と調査をしやすいように、シークレットポイントには微量の魔力を放出させる設計にしておいた筈だった。
にも関わらず№9のグレンはシークレットポイントの発見できてなかった。
ここまで放置されたままゲームが進行した現在、部屋としての機能しかなくとも大きな問題は無い。
むしろ御陵透子の世界の読み替えを制限した以上、機能すれば運営に対する決定打にもなり得る。
№12魔窟堂野武彦が調査をしていたが、どれほど把握できていた?
……奴がいた世界にも魔法は確認されていた。
グレンよりも魔道に長けている可能性はある。
もし奴が把握できるなら、今後の舞台の構築の進歩になり得るが……。
《…………やはりか》
ここからだとシークレットポイント内部の確認ができない。
確認はしたいが、ここからの移動はルドラサウムの許可がいる。
《様子を見ておくしかないのか。しかし効果が大きく変動するとなれば……》
最悪シークレットポイントの力一つで勝敗が決してしまいかねない。
回避すべき事態。
しおりと朽木双葉の得た力を始めとする、我々の予想を超えるいくつものイレギュラーがこのゲームでは起こっている。
ゲームの破綻は絵空事ではない。
《ここの空間だけでも修正したいが……どうする?》
時間が掛かる上に修正は確実ではない。
幸い、例の予定時刻まで少々余裕はある。
運営陣には少々リスクを背負ってもらう事になるが、椎名智機の与力を利用するか……。
《……ほう》
あの小屋を目指すか……。
なら別の機体を利用するか……。
《…………》
ルドラサウムに申請をするか……。
□ ■ □ ■
(二日目 PM6:30 ???)
やっと、やっと腕が上がったよ。
どれだけ時間がかかったとか、これが夢かどうかは関係なかった。
指先がちょっとだけ温かい何かにふれたから。
なんだろう?なんだろう?
そのぬくもりが何かはわからない。
でも、ふれるだけで心がちょっとだけ安らぐような気がする。
うれしかった。
わたしは何度か深呼吸をして、息をととのえようとする。
今度は声をあげようと思った。何かを誰かを知るために。
わたしは息を大きく吸って――
□ ■ □ ■
《…………》
これは驚いた。
№18星川翼や№6タイガージョーなら、別に不思議ではなかったが。
一回目にして実験が成功とは……。
そして我の方も……。
《……ありがとうございます我が主よ》
□ ■ □ ■
(Aルート 二日目 PM6:28 F−4 楡の木広場跡地)
〜しおり3〜
腕は上がらなかった。
指一本動かす気もおきなかった。
「どうしてぇ……」
あたりは音とオレンジ色。
わたしは上げた……と思ってる方の手に残るぬくもりを思い出そうとした。
けれど……。
「……」
ぬくもりはたった一回の揺れのあと、ふっと消えてしまった。
目が覚めたのはそのとき。
もうあのぬくもりを思い出せない。
あの揺れのが実感として残ってしまっていた。
わたしのまぶたが重くなっていく、まわりが白くかすんでいく。
わたしはまた眠ってしまう前に大切なひとの名前を呼ぼうとした。
「……」
だれの名前を呼んでいいかわからず、息をはいてわたしは眠りに落ちた。
↓
(Aルート)
【現在位置:F−4 楡の木広場跡地】
【しおり(№28)】
【スタンス:大切な人に会いたい】
【所持品:なし】
【能力:凶化、発火能力使用(含む紅涙)、炎無効、
大幅に低下したが回復能力あり、肉体の重要部位の回復も可能】
【備考:首輪を装着中、全身に多大なダメージを受け瀕死の重傷、
精神的疲労(小)
歩行可能になるには150分前後の安静が必要
戦闘可能までには更に3時間前後の安静が必要】
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