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ちょっと短めのSS投下スレ

1KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>:2004/03/19(金) 23:49
ちょっと短めのエロなしSSの投下スレです。

54苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:39
   「Can't help myself」

 デービーバックファイトが終わって、あっという間の出来事だった。
 海軍大将? 最高戦力? んなもん知るか。
 理解したのは、あの女がエネルと対峙した時よりも怯えていたこと。
 実感したのは、俺がエネルと対峙した時のように敵わなかったこと。

 ふたりの心臓が動いたと、チョッパーから聞いたとき、これ以上はないというくらい安堵した。
 諸手を挙げて喜び叫ぶウソップやコックの姿に、やっと現実が戻ってきたと感じた。
「…あんな強ぇのがこの先…俺たちを追ってくるのかな」
 ウソップの独り言ともとれる呟きが、俺の耳に木霊した。
「…俺はただ…バタバタ騒いで終わったよ…」
 疲れてるんだ、こいつも。いや、ウソップだけじゃない、全員だ。
 騒ぐどころか、何もできなかった俺。
 あの女が凍らされていくのを眺めるしかできなかった俺。
 一騎討ちだというルフィに従うことしかできなかった俺。
 最強を、と願った。世界一に、と望んだ。敗けない、と誓った。
 だが、俺の様は。
 神を名乗る雷を斬れず。凍らせた剣すら、受け止めることしかできず。
 最後は結局、ルフィに頼ることしかできずに。

55苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:40

 ラウンジで、皆で寝ようと言い出したのは誰だったか。
 こんな日くらい、そういうのもいいかもしれないと、壁に寄りかかって座った。
 けれど寝られない。頭の中で回る考えと、浮かんでくる思いと。
 机に突っ伏すウソップとコック。床に寝転ぶチョッパーと、それを枕にするナミ。
 さっきまで凍っていたくせに、酷え寝相でいびきをたてるルフィ。
 その隣で眠る女は、とても静かだ。
 寝てんのか、起きてんのか、それすらもわからねえ。
 ふいに、女が動いた。ゆっくりとその身を起き上がらせる。
 慌てて目を閉じて、寝たふりをする。
 しばらく動かないでいたが、やがて立ち上がり、のろのろとラウンジを出て行ったようだ。
 毛布はそのままに、薄着のままで。
 軽く舌打ちして、毛布を掴んで、後を追った。

 静かにラウンジの扉を閉めて、見回せば、舳先のところに女が座って海を見つめていた。
「…冷えるだろ」
 近づいて、毛布を身体にかけた。振り返って女は笑った。
「ありがとう…起こしてしまった? ごめんなさい」
「いや」
 女はまた海を見る。ひどく遠い眼をしている。
「…まさか、船を降りるとか、くだらねえこと考えてねえよな?」
 女は何も言わない。俺を見ようともしない。
「迷惑になるとかいう、くだらねえ理由で降りようとするなら、あいつら全員死ぬ気で引き留めるぞ」
「あなたは?」
 急に俺の目を見た。焦って、鼓動が跳ねた。
「あなたは、私が降りると言ったら?」
「……」
 何も言えなかった。降りるな、という言葉は喉まで出かかっていたのにも関わらず。
「それとも、信用していない私は、降りてくれたほうが厄介払いになるかしら?」
「信用? そんなもん、とっくに…」
 言って気づいた。いつから俺はこの女を仲間として認めていたんだろう。

56苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:41
「…隠れ家じゃないだろ? ここはお前の家なんだろ?」
 女は俺の目を見たまま、何も言わない。少しだけ口角が上がったような気がした。
「違うのか? だから、いつもひとりで向かっていくのか?」
 仲間と思っていないのは、お前のほうなのか?
 だから、エネルにも、海軍にも、俺が傍に居るのにひとりで抗おうとしたのか?
 首をゆっくりと振る。どっちの意味だよ、わからねえよ。
“私はもう…”
 あの時、女が何を言おうとしたかはわからない。その続きが答えなのかもしれない。
 だが、あんな悲痛な叫びは、俺はもう聞きたくない。
 そう思うのは、仲間だからか? 違う。俺はそう思う理由を知っている。
 こいつが雷に打たれて、頽れた時、仲間だからではなく、女だから抱きとめた。
 エネルは女だからといって容赦はしないと、ゲリラの女がやられて知っていたはずなのに。
 つい馬鹿なことを言った。気がつけば、動いた体と、出た言葉。
 エネルに背を向けて。それもわからぬほどに、必死に女の身体を掴んだ。
 海軍が現れて、こいつが怯えて腰が抜けた瞬間、手はすでに刀に触れていた。
 女に氷の剣が迫った時も、自然と俺の刀はそれを受け止めていた。
 正直、大将と言われても、敗けない自信があったのかもしれない。
 だが、女が目の前で凍らされていく瞬間に、心臓が鷲掴みにされたかと思った。
 恐怖を感じた。自然の力と、女を失くすかもしれないということに。
 仲間だからという言葉で片づけられれば楽なのだろう。
 しかし、それだけではない。この女に俺が担う感情は。
 けれど、俺は何も言えない。
 女に手を伸ばす。頬を撫でれば、冷たかった。
 顔がところどころ赤くなっていて痛々しい。雷に打たれたときも、こいつの顔は黒くなって。
 綺麗な顔なのに。俺が気に入っている顔なのに。
 女の身体を毛布ごと抱き寄せる。細い身体だ。空島で抱きかかえた時にも思った。
 崩れ落ちる女の身体を抱きとめた俺は、凍っていく女に何もできなかった。

57苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:41
 黒い柔らかい髪をそっと撫でる。
「なぜ…抱くの?」
 小さな声が俺を咎めるかのように聞こえた。びくりと、髪を掬った手を止める。
「あなたの両手は塞がっているのに」
 呆然として、女を胸に抱いたまま、両の掌を見てしまった。
 女の手が俺の脇腹を辿って、腰の刀に触れる。
 この両手には剣しか、野望と約束に関わることしか、掴めないと?
“ナミさんは俺が守る!”
 なんで今、クソコックの口癖を思い出す?
 ウソップから聞いただけだが、実際あいつはナミを守ったらしい。
 わかっている。それは、コックにとってナミが至上だからだ。
 俺はコックのように生きられない。
 圧倒的な力にも立ち向かわなければ、その瞬間に俺は俺ではなくなる。
 剣しかこの手に持てない俺は、女を支える時でさえ、剣を握ったままだった。
 俺は、この女を守れない。俺は、守ろうとしても傷つけてしまうかもしれない。
「でも…剣を持たないあなたは、あなたじゃないわね」
 女の言葉に目を眇めた。それは理解か、それとも拒絶か。
「いっそのこと、その剣で傷つけてくれたら、私が居る理由になるかしら?」
 女が嘲けるように笑った。
「馬鹿やろ…」

58苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:42
 ゆるゆると唇を、女のそれに近づける。
 軽く触れ合って離すと、女の眼が俺を見ていた。眼を閉じてはいなかったのか。
「ロビン…」
 腕の中の女は何も言わない。
「俺は…」
 この手には剣しか持てない。そのくせ、お前を傷つける圧倒的な自然の力を、何ひとつ、斬れないまま。
「お前が…」
 その続きは言えない。
 俺がまだ最強ではないから。俺はルフィではないから。俺が俺であるから。
 何も言えない。言えるわけがない。
 何も言えやしねえんだ。
「眼を閉じてくれ」
 無様な懇願。
 ゆっくりと閉じられる瞼に安心して唇を落とす。
 この女は瞳の印象が強すぎる。
 ただ、見られているだけなのに、責められているような気分になる。
 顔中に唇を降らせる、極力、柔らかく。
 剣を捨てられないくせに、傷つけることのできない俺を、お前は笑うか?
「…卑怯ね」
 おざなりな罵りを放つ口を塞いで、そっと身体を抱き続ける。
 そうだ、俺はこの口にもすでに野望と約束を咥えていた。
 それでも。
 どうしていいかが、わからないから。
 俺は口づけと抱擁をやめることはできない。
 腕にいる女は何も言わない、動かない。黙って俺の行為を受け入れる。
 やがて、空が白み始めるまで、俺たちはひたすらに、そのまま口づけていた。

59苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:42

 新しい島に着いた。ウォーターセブンというらしい。
 ルフィとウソップとナミが、張り切って出かけた後、女が近づいてきた。
「…何だ? その格好は」
 ひどく挑発的な格好をしている。胸なんか半分見えてるじゃねえか。
「あら、似合わない?」
 眉根を寄せて問うから、一瞬、言葉に詰まった。
 こんな短えスカート、こいつ今まで履いたことがあっただろうか?
 見たことは、ある気がする…どこでだ、かなり以前の…ああ。
 敵だった頃の服に近いんだな。理解した。
 だから、どうしたと言われればそれまでだが。ただ、少しだけ心に引っかかる。
「いや…コックが喜びそうな服だと思っただけだ」
「ふふ、そうかしら。私、船医さんと、買物に行ってくるわね…あなたは?」
 女の声音に、何か言外の意味がほのめかされているように思える。
 俺に期待をしないでくれ。
 卑怯者だと、言ったのはお前だろう。
「…俺は、いい」
「そう」
 眼が伏せられたように思ったのは、気のせいだろうか。
 行ってくるだけだよな、帰ってくるんだろ?
 ただの俺の希望だけどな。
「気をつけて、行ってこい」
「…ではね」
 それが、別れの言葉に聞こえた。女が俺に背を向ける。

60苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>:2004/06/15(火) 22:43
 今、何か言えば、女は立ち止まるだろうか。
 今、その身体を抱きしめれば、女は出かけるのをやめるだろうか。
 愚かな考えだ。この船に乗るのも、降りるのも、女が決めることであるのに。
 女が俺に、何かを望んでいたとしても。
 俺は、それに応えることはない。いや、応えられない。
 抱擁だけなら、いくらでも。口づけだけなら、何度でも。
 あの夜から重ねた触れ合いは、俺たちを繋ぐものではなかった。
 では何だ、と問われれば答えることはできないが。
 慰めにも似た、酷く憂鬱な幸せではなかっただろうか。

 しかし女は何も言わない。だから俺は何も言えない。
 決して女は振り返らない。だから俺は何もできない。

 剣を捨てることも。
 自然を斬ることも。
 傷つけて、所有の証を刻むことも。
 行かないでくれと、引き留めることも。
 この心のうちを、見せることさえも。

 何もできやしねえんだ。


   ━終━


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